関西弁は間違い。上方語、上方言葉といおう!

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654名無し象は鼻がウナギだ!
ちょうど200年前の『浮世風呂』(1809年)の上方女と江戸女の会話を現代風の表記にして書いてみよう。

上方「お山さん。えろう寒いな。何じゃととともう此間(こないだ)はお腹(なか)の具合が悪うて、
   夜(よ)さりごとに腹痛(はらいた)でずずないわいな。それじゃさかい、風呂になと入(い)って、
   暖めてこまそと思うて、なあんぼも入(い)ってじゃわいな。お山さんあれ見い。お家(え)さんの傍(ねき)に
   立っていなます嬰児(いと)さんを見いな。ありゃ何色じゃしらん。」
江戸「あれかえ。あれは紅かけ花色と云うのさ。」
上方「いっこう良(よ)う染めてじゃなあ。」
江戸「薄紫と云うようなあんばいで粋(いき)だねえ。」
上方「いっこう粋(すい)じゃ。こちゃ江戸むらさきなら大好き好き。こちゃあないな着物(きりもの)がしてほしいわえ。
   お山さんあっちゃ向きんか。」
江戸「流しておくれか。それはおはばかりだね。」
上方「なんのいな。ても良(よ)う肥えてじゃな。」
江戸「いやよ。太っちゃうはしみじみ嫌だ。酢でも呑んで痩せたいよ。」
上方「なんのまあ。肥えたが良(え)えじゃないかいな。」
江戸「ほっそりすうわり柳腰(やなぎごし)とさえ云うじゃあねえか。」
655名無し象は鼻がウナギだ!:2009/04/08(水) 00:26:08 0
上方「かいな。こちゃまた、風(かざ)負けせいで良(え)えかと思うた。わしなど走競(はしりこくら)しょうなら、
   横にねて転(こけ)るほうが、やっと速いじゃ。」
江戸「はははははは。もう四(よ)つを打ったかね。」
上方「何いいじゃいな。つうっと最前(さいぜん)打ってじゃ。もうやんがて昼じゃがな。」
江戸「そうかえ日は短いねえ。」
上方「さいな。これから住(い)んだら、わし所(とこ)へお出(い)でて飯(まま)食いんか。上(かみ)の風に丸(まる)を
   料理して食(く)てみたいと、千度云うても、とともう内(こち)のが耳潰してじゃったが、今日はどうしてやら
   丸焚いて食わそと、こないに云うてじゃさかい、昼は丸じゃ。」
江戸「丸とは何だえ。」
上方「ご当地で云う鼈(すっぽん)じゃがな。おまえも食(く)てみい。」
江戸「おや嫌よおっかねえ。鼈なんざあ見るもいや。丸を焚くと云いなはるから、麦飯かと思ったら鼈かえ。
   おお気味のわりい。江戸じゃあね、鼈をしやれて蓋と云いやすよ。」
上方「何じゃ。蓋。あほらしい。蓋とはまあ何のこっちゃいな。」
江戸「蓋のようだから蓋さ。上方の丸とはなぜだねえ。」
上方「甲が丸いさかい、丸じゃわいな。」
江戸「そんならどっちらも五分五分のこじつけだね。」
656名無し象は鼻がウナギだ!:2009/04/08(水) 00:28:17 0
上方「さいな。ご当地の鼈煮鼈煮と云うはな、どないな仕方じゃと思うたら、あほらしいまあ、吸い物じゃ無(の)うて
   上で云う転熬(ころいり)じゃさかい。塩が辛(かろ)うてととやくたいじゃ。上の拵(こしら)え方はあないな
   もみないもんじゃない。第一が薄下地で吸い物じゃさかい。酒の下酒(あいて)になとしょうものなら、
   いっこう良(え)えじゃ。こちゃもう大好き好き。鰻などもご当地のは和(やらこ)いばかりでもみないがな。
   上の鰻と云うたらまあ、どないなもんじゃい。名高い所がまあ、京で上の生洲(いけす)な。大阪(おさか)で大正(だいしょう)な。
   そのほかに川魚屋(かわうおや)もまだまあ多(やっ)とあれどな、玉と云うたら的等(てきら)じゃ。何じゃろとまあ、金串に刺して
   焼くじゃ。は、その焼いた跡で良(え)え程ずつに切ってな、平(ひら)に入れてぎっしりと蓋して出すさかいに、
   なんぼでも冷めるという案じがないわいな。」
江戸「江戸じゃあ、そんなけちな事は流行らねえのさ。江戸前(えどめえ)の樺焼きは、ぽっぽと湯気の立つのを皿へ並べて出す。
   食べるうちに冷めたらそのまま置いて、お代わりの焼き立てを食べるが江戸っ子さ。冷めると猫に持ってってやろうと、
   竹の皮へ包んで帰る人は、よっぽど勘定高な人さ。」
上方「でおますか。それがまあ、何で江戸子(えどこ)じゃな。物の廃(すたり)にならんようにしてこそ、
   自慢したが良(え)えわいな。いしこらしゅう江戸子(えどこ)じゃ何たらかたら云うても、
   上(かみ)の目から見ては、ととやくたいじゃがな。自慢らしゅう云うことが皆へこたこじゃ。
   じゃによって、江戸子(えどこ)はへげたれじゃというわいな。」
江戸「へげたれでも良(い)いのさ。江戸っ子のありがたさには、生まれ落ちから死ぬまで、生まれた土地を
   一寸(いっすん)も離れねえよ、あい。おめえがたのように京で生まれて大阪に住(す)まったり、
   様々にまごつき回っても、あげくの果てはありがたいお江戸だから、今日まで暮らしているじゃあねえかな。
   それだから、おめえがたの事を上方ぜえろくと云うわな。
657名無し象は鼻がウナギだ!:2009/04/08(水) 00:31:49 0
上方「ぜえろくとは何のこっちゃえ。」
江戸「さいろくと。」
上方「さいろくとは何のこっちゃえ。」
江戸「知れずはいいわな。」
上方「へへ、関東(くゎんと)べいが。さいろくをぜえろくとけたいな言葉つきじゃなあ。
   お慮外(りょぐゎい)も、おりょげえ。観音(くゎんおん)さまも、かんのんさま。
   なんのこっちゃろな。そうだからこうだからと。あのまあ、からとはなんじゃえ。」
江戸「『から』だから『から』さ。故(ゆえ)と云うことよ。そしてまた上方の『さかい』とはなんだえ。
上方「『さかい』とはな、物の境目じゃ。は。物の限る所が境じゃによって、そうじゃさかいに、こうしたさかいと云うのじゃわいな。
江戸「そんなら云おうかえ。江戸言葉の『から』を笑いなはるが、百人一首(ひゃくにんし)の歌に何とあるえ。」
上方「それそれ。もう百人一首(ひゃくにんし)じゃ。あれは首(し)じゃない百人一(ひゃくにん)、首(しゅ)じゃわいな。
   まだまあ『しゃくにんし』と云わいで頼もしいな。」
江戸「そりゃあ、わたしが言い損(ぞこ)ねえにもしろさ。」
上方「ぞこねえ、じゃない。言い損(そこ)ないじゃ。えろう聞きづらいな。芝居など見るに、今が最後(せえご)だ、
   観念(かんねん)何たら云うたり、大願成就(でえがんじょうじゅ)忝(かたじけ)ねえ何のかの云うて、
   万歳(まんぜえ)の、才蔵(せえぞう)のと、ぎっぱな男が云うてじゃが、ひかり人(て)のないさかい、
   よう済んである。」
658名無し象は鼻がウナギだ!:2009/04/08(水) 00:33:21 0
江戸「そりゃそりゃ。上方も悪い悪い。ひかり人(て)っさ。ひかるとは稲妻かえ。おつだねえ。江戸では叱(しか)ると云うのさ。
   あい、そんな片言は申しません。」
上方「ぎっぱひかる。なるほど。こりゃ私が誤った。そしたらその、百人一首(ひゃくにんしゅ)は何のこっちゃえ。」
江戸「からという言葉のわけさ。よくお聞きよ。百人一首(ひゃくにんしゅ)の歌に、文屋康秀(ふんやのやすひで)、
   吹くからに、秋の草木の萎(しを)るればとあるよ。それ吹くからに、ね、よしかえ、吹くゆえにと云うことを、吹くからにさ。
   なんぼ上方でさかいさかいといっても、吹くさかい秋の草木の萎(しを)るればとは詠みはいたしやせん。」
上方「なるほどそう聞きゃお前のがほんまに尤(もっと)もらしいが、はて云や何(なんぼ)でも云われるわいな。」
江戸「大願成就(でえがんじょうじゅ)でもなんでも、利口をじこうと言ったり、立派をぎっぱ、狐をけつねと云うよりいいのさ。
   五音相通(ごいんそうつう)とか、何とかがかなっているから、無理じゃあねえと、この中(じゅう)も博識(ものしり)な人が
   お話しだっけ。延引(えんにん)だの観音(くゎんのん)だのと、あいうえおの上へ、むの字が乗れば、
   五音相通で、恩愛(おんない)、観音(くゎんのん)、延引(えんにん)、善悪(ぜんなく)など云うものだと、
   よく教えなすったから、今度おめえが江戸言葉を笑ったら一番しめてやろうと思って、待っていたわな。」
上方「そうかいな。そんならまあ、かんのんも良(え)えわと。さてまた関東(くゎんと)べいじゃ。どうしべい、こうしべい、行くべい、
   帰(けえ)るべいとは、さて見とうむないなあ。」
江戸「それもね、万葉集とやらそのほか神さまの時分の本にね、べいべい言葉があるとさ。可(べい)とは可(べし)ということで、
   行くべい帰(けえ)るべいは、可行(ゆくべし)可帰(かえるべし)という言葉で、今でも万葉とやらの歌よみは、べい言葉を
   使うそうさ。この事も一緒に聞いておいて、内(うち)へ書き付けておいたから、その歌や言葉を来て見なせえ。田舎言葉の、
   何ちゅうことだの、かんちゅうことだのいうのも、ちゅうとは「という」という言葉を詰めたもで、古い言葉だから頼もしいとお言いだよ。」
659名無し象は鼻がウナギだ!:2009/04/08(水) 00:36:00 0
上方「なんのいな。べいべい言葉が何で訳(わけ)があろぞいな。」
江戸「訳がなくってさ。嘘ならわっちが内(うち)へ来て書付(かきつけ)を見なせえ。」
上方「はあ。ちと見よかいな。何なと賭けにしょうかい。私(わし)がまけたらな、甘酒なと、大福餅なと立ちよわいな。
   おまえまた何なと立てさんせ。」
江戸「立てるとはえ。」
上方「振舞(ふれまい)のこっちゃ。」
江戸「おごるのか。」
上方「さいな。」
江戸「むむ、わっちが負けたら鰻を二朱(にしゅ)はずもう。
上方「こりゃ良(え)えわいな。」
江戸「あ、いたたたたたたた。おお痛いよ。おめえはまあ、調子に乗って背中を痛くおこすりだよ。もうよいよ。」
上方「ははははははは。拍子にかかっておおしんど。」
江戸「さあお前の背中をお出し。」
上方「また遺趣(いしゅ)返しに、えらいことすまいぞや。こりゃどうじゃいなお山さん。あいた。あいた。あ毒性(どくしょう)なお方なあ。
   いっこ面倒(めんど)いなら放(ほ)っておかんせ。あいた。あいた。何しいじゃいな。痛さがたまらんわいな。灸(やいと)があるさかい。
   味(あんぢ)良(よ)うながしいな。あいた。あいたたたたたたたたたたた。」