ホワイトアウトの写真から変わって、「とっておきを。これが最後ですが」と
編集長が紹介する中、過去のコンサート時の写真がスクリーンに投影。
「これ、場所どこだかわかります?」と問いかける織田さんに
会場中から「大阪城ホール!」との返答が。
編集長も織田さんも「何でわかるんだろう?」とかなり不思議だった模様。
織田さんは「この記憶力が僕にあれば」と笑いつつ
「大阪城で今は亡きいかりやさんとツーショット」と解説スタート。
「いかりやさんが来てくださったときは本当に嬉しかった…」と懐かしむ様子なのを見てか、
編集長が「いかりやさん話をひとくさり」とリクエスト。本の中でもすごく感動的だったから。と。
それに同意して「なんてことはないんですよ?」と織田さんが話し始めます。
ある撮影をしていたときに、監督がいかりやさんに「ここで“だめだこりゃ”と言って下さい」
と頼み、それを聞いていた織田さんは「え?」と思ったそうです。
いかりやさんはそのとき役者として来ていて“和久”というちゃんとした役名もあった。
それに『踊る』は“和久”と“青島”という凸凹な年齢ギャップのある刑事コンビの話。
それなのに、そこから先は“いかりやさん”と“青島”になるんですか?
するとドラマがコメディじゃなくてパロディになるんじゃ?と。
それで、「ちょっと待ったちょっと待った、そんなん言わなくて良いッスよ」となったそうです。
織田さんはそれをいかりやさんと監督の両方に言ったそうです。
「それを言われたら“青島”はどんなリアクションすれば良いんですか?
これはパロディじゃない。楽しい作品にはしたいけど、
そういう意味での楽しさは要らない。お客さんも求めてない。
何回も続くドラマの中だけど、そこだけでも緩んじゃうと、
作品としてダメって事になるのでは?
最初から映画化にしたいってずっと思ってきたけど、
そんなところで躓いてたら、映画陣に、なんですかそれ。パロディを映画化に使うって。
それでお金取ってお客さん来てくれるんですか?と言われる」と。
それに何よりも、いかりやさんが“嫌だ”って顔をしたそうです。
一瞬だけど「…え?」と。
「でも」と織田さん。「あの位の年齢でベテランな方。
特に最初から役者だけでやってきたわけじゃない人たちは皆、
若くて、自分の子どもみたいな監督に優しいから…」と。
じゃあ織田さんがいなければやっちゃったんだ?という尋ねる編集長に、
織田さんは「やっちゃうんです。絶対やっちゃう」と強調。
「だけど、そのときいかりやさんは、きっとものすごくがっかりして帰る。
“なんだ…”と。結局は“いかりや長介”が欲しいのか、って。
でも、俺は“いかりや長介”を捨てて、“和久”として一生懸命
ぶきっちょながらやってるつもりだったんだ、って。
そうなるといかりやさんの心意気はしぼんでしまって、
エネルギーとして出てこなくなると思った。
それまでにも感じていた、いかりやさんの“芝居”が面白いんだっていう感情は、
こっちにも感じられるものだから」
いかりやさんは織田さんが演技の先生だ、みたいなことを本で書かれてましたね?
じゃああれはそういうことがあったから?という編集長に、
しかし織田さんは「それだけですよ」と。
そして「あとは話が長いのを僕が打ち切ってたくらいかな?」と一気に雰囲気を転換させます。
いかりやさんは朝必ず「おはようございます」と入ってきたあと
関係のない話を十五分くらいする。でも、誰もそれを止められない。
僕がいないとみんなずっと黙って聞いてる。
でも、“関係ないだろ、今時間足りないのに!”ってときは、「ハイっ、いかりやさん。
じゃあ“和久さん”で!」と切らないと話し終わらない。と笑。
いかりやさんには、多分僕らは子どもくらいにしか見えてなかった。
実際には厳しい方だけど、その厳しい顔を一切見せずに。何かを伝えたかったんでしょう。
もういい年だったので“死”が近くにあって、その中で自分が教えられることは教えたいし、
実は俺も役者としては何年もやってない。だから学ばせてくれよ。って部分もあった。
じゃあ終わりの頃には、ご自分の病気のことをわかって演技をやってらしたんですか?と編集長。
その問いに「えっと」としばらく記憶を手繰り、
「2の後か、舞台挨拶の時かな?その時お会いしたときはちょっとおかしかった」と織田さん。
撮影の途中で顔が腫れたということもあったそうです。
でも、絶対仰らなかったから、こっちもそれ以上は聞かなかった。と。
「織田さんは、いかりやさんから何を学ばれたんですか?」という質問には
「何を学んだんでしょうねぇ」と溜息と淋しい笑いが混じったような声で返答。
そしてやや長めに間を置いてから
「今すぐ言葉にはできないですけど」
「僕はあの一瞬は嬉しかった」
「今考えるとあの年で、もちろん身体も鍛えてらっしゃったけど、
あのきつい撮影に嫌な顔もされずに参加してくださったなと」
「もっとこっちが気を遣ってあげなきゃいけなかったなと思います」
ということを、ぽつぽつと探るように話していました。
それから「ちょっとしんみりしますね…」と苦笑し、
まあ、死んじゃったからしょうがないんだけど!と声を張り上げてみるものの、
「でもやっぱり寂しいですよ」と。良い出会いというか、良い人と出会えたので
それを無駄にしないようにしなきゃとは思います。と締めくくってました。