1 :
名無しさん:
現まとめサイト
ttp://geininstone.nobody.jp/ ・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってま
す
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
<トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。
2 :
名無しさん:2006/08/25(金) 14:46:59
以下はスルーしても構わない設定です。
・一度封印された石でも本人の(悪意の無い)強い意志があれば能力復活可能。
暴走する「汚れた石」は黒っぽい色になっていて、拾った持ち主の悪意を増幅する。
封印されると元の色に戻って(「汚れ」が消えて)使っても暴走しなくなる。
どっかに石を汚れさせる本体があって、最終目標はそこ。
・石の中でも、特に価値の高い(宿る力が高い)輝石には、魂が宿っている
(ルビーやサファイヤ、ダイヤモンド、エメラルドなど)
それは、古くは戦前からお笑いの歴史を築いてきた去る芸人達の魂の欠片が集まって作られた
かりそめの魂であり、石の暴走をなくす為にお笑い芸人達を導く。
・石の力は、かつてない程に高まった芸人達の笑いへの追求、情熱が生み出したもの。
持ち主にしか使えず、持ち主と一生を共にする(子孫まで受け継がれる事はない)。
・石の暴走を食い止め、封印しようとする芸人たちを「白いユニット」と呼ぶ。
逆に、奇妙な黒い欠片に操られて暴走している芸人たちを「黒いユニット」と呼ぶ。
(黒い欠片が破壊されると正気に戻る。操られている時の記憶はなし。)
前スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1137670906/
3 :
名無しさん:2006/08/25(金) 14:47:52
これで大丈夫ですかね。
落ちていたようですが
誰も立てないので立てました。
4 :
名無しさん:2006/08/25(金) 15:05:06
>>1 乙です!
今はホスト規制が厳しくなってるみたいだ
書き手さんたちの投下期待してます!
乙です
ありがとう。ここ数ヶ月1度もスレ立てれてないや。
6 :
名無しさん:2006/08/25(金) 15:58:26
7 :
名無しさん:2006/08/25(金) 16:25:38
8 :
名無しさん:2006/08/25(金) 18:20:03
9 :
名無しさん:2006/08/25(金) 23:29:45
10 :
名無しさん:2006/08/26(土) 10:01:11
昨日ここにたどり着いて今日初カキコ。初めまして。
あー渡部と上田と柴田が活躍してると嬉しいね(ゲバルトファン)
書いてる人みんな想像力豊かだな、文章上手いし
うおー続きが気になる!イイ!
即死回避
>>1さん乙です!
新スレ保守がてら東MAXの話投下。
男が一人、走っていた。
何かに追われているような顔で、ちらちらと後ろを振り返る。
実際には、男を追って走る影はない。…ように思えるのだが。
夜更けの繁華街は、独特のネオンや雰囲気が五感に刺す。
行き交う人々は男のことなど気にも留めずに、時折ただ不審げに一瞥した。
そのことに憤る余裕もなく、とにかく男は走っていた。
大通りを横切り、路地裏に入って、やっと一息つく。
手近な外壁にもたれ、乱れた息を整えて、不意に夜空を仰いだ。
「…あーあ。」
嫌気の差したような呟きに、心底からの重い重いため息が続く。
ビルの陰となっている筈なのに、男…東貴博の周囲には、確かに淡い光があった。
なぜ自分が夜の街をこうも全力疾走しなければならなかったのか、東は思い返していた。
時計を見る。たしか、20分ほど前。
仕事が終わって、さて夕食でもと思いテレビ局を出た、途端。
目の前に唐突に若い男が現れた。
あれいつのまに、と思うのと同時ぐらいに、男が動いた。
指からペンライトのように細く青い光が飛んできて、左肩に当たる。
肩自体は何ともなかったが、一瞬で体が氷水でも浴びたように冷えた。
え、今、真夏だろ?
「おとなしく、石を渡してください」
妙に平坦な発音で言われた。寒さと不安で膝が震える。
男が更に迫ってくる。じゃり、という足音に、反射的に体が動いた。
とにかく叫びながら、死にものぐるいで走ったら、どうやら逃げられたらしい。
以上、回想終わり。…って、何の手がかりにもならないじゃないか。
一人で思考に突っ込むと、またため息をつく。
あの光が何だったのか…実はわざわざ推理しなくてもいいほどに明白だった。
ただ、信じたくなかっただけで。
幸い今は特に肩に異常はない。痛くもなく、服すら破れていない。
走ったおかげで体もあたたまった。しかし我ながらよく逃げ切れたものだ、と思う。
こんなに動いたのも久々で、急に明日の体が心配になってきた。筋肉痛は確実だろう。
「…あーもうやだやだ」
とひとりごちて、そろそろ帰っても大丈夫だろうかと外壁から身を起こしたとき、
『…にげて』
そんな微かな声と共に、突然ポケットから警告のように光があふれる。背中がぞくりと粟立った。
不格好ながら飛び退くと、地面を伝って帯状の青い光が来た。
ちょうど、先ほど立っていた辺りに薄く広がって、消える。
振り返ると、さっきの男がいた。
「…反射神経いいんすね」
無表情で言う。さっきと同じように指を差す格好をしていた。
ごくりと唾を飲む。人気のない路地裏は、かすかに生ゴミのような臭いがした。
誰かが颯爽と助けに来てくれる訳のない以上、火の粉は自分で払わなくてはいけない。
「ねえ、穏便にお金で解決とかさ、そういうわけにはいかない?」
我ながら脱力する提案をしてみたところ、相手も少しは気が抜けたようだった。
というより、呆れた、か。
「個人的には魅力的ですけど、バレたらやばいんで」
「…君も結構な返事するねえ。」
「お互い様っすよ」
「俺、戦う気ないんだけど」
「俺は、戦わない気はないです。」
言いながらも、もう片方の拳から青い光がのぞく。微妙に黒がかっていて、薄ら寒かった。
好戦的とも言い難い白くぼーっとした顔に、物騒な色はない、が。
たぶん今の自分は、嫌悪に近い目をしているだろう。
しかし目の前の男は、目に光がない。どっちもどっちだ。
「ああ、嫌だ嫌だ。」
もう一度言ってから、拳を握る。
上手く笑えていないのは分かっていた。
戦いたくないから、頑張って逃げたのに。
何で終わってくれないんだろう。
「…うわっ!」
前触れもなく、青い光が飛ぶ。
避ける。また飛んでくる。また避ける。
低い姿勢を取っていたものだから、半ば転がるようになった。
ちょっとやめてよ、この服気に入ってんのに。
そう言う余裕も与えずまた光が飛ぶ。短い悲鳴をあげてぎりぎりで避ける。
ああ、ちょっと無様かも。
そう思いながらも、続けて撃たれた際どいコースを避ける頃には、こちらももう開き直っていた。
ちっ、と舌打ちをして、男が手を開く。
さっきよりも広範囲の光を何とか避けて、這いつくばるように地面に手を突いた。
ちょうどそこは、さっき光の当たった所だったらしい。駆け上る冷たさに、ばっと身を起こす。
すぐさま汚れた手と服を払って、呼吸を整えた。
「よく避けれますね」
「…いくら夏とはいえ、凍りづけにされるのは正直遠慮したいからね。」
向こうも息を乱している。手がパーだとそう乱発はできないらしい、いいことを知った。
「…何で能力出さないんですか」
「何で戦わなきゃいけないの」
言うと、男の眉間に皺が寄った。
その目に、ぐっとこみあげてくる思いがあった。
「何で、芸人が戦わなきゃいけないのさ」
冗談じゃない、勘弁してくれ、もうごめんだ。
そう遠くない昔に強く強くそう思ったことがあった気がする。
おぼろげな感覚しか残っていないけど、でも、覚えがある。
何とか浮かばせようとするとずきずきと頭が痛んで、思い出そうとするのをやめた。
額を片手で押さえて、大きく息を吸い込んだ。
ああ、何でか今の俺には何にもわかんないけど、
確かにそう喉が嗄れるぐらい叫んだことがあったんだ。
一瞬だけ瞼の裏に投影された静止画は、次の瞬間にはもう何だったかもわからなかった。
ただ、誰かが黙って泣いてる気がした。
だから俺は、静かに構えて、人を笑わせるための言葉を言った。
「…東MAX!!」
突き抜けていくX型の光線は、人を泣かすかもしれない奴に届いた。
「…大丈夫?」
「なんとか…」
目が眩んでつぶっていた瞼を開くと、男は仰向けに倒れていた。
おかしいな、俺のはそう強くないはずなのに。
怖々歩み寄って声をかける。あまり顔色がよくなかった。
「俺の能力…使いすぎると熱出るんすよ」
なるほど。道理で弱い衝撃波でも倒れる筈…って、
「敵にそんなの教えちゃっていーの?」
「…東さん、『白』じゃないでしょう」
だから、とあんまり返答になっていないようなことを言うと、男はよろよろと起きあがった。
咄嗟に身構えると、苦笑いを浮かべて手をひらひら振る。
「もうそんな気力ないっすよ。
また誰か来るかもしれませんから、せいぜい気ぃつけといてください。」
じゃ、と言うとおぼつかない足取りで男は立ち去る。
しばらくはあっけに取られていたが、はっと我に返る。
黒には珍しい人種じゃないか、あれ。
路地裏から出ると、ネオンの強い光が眩しかった。
手を洗いたいなと思う。できれば風呂にもゆっくり浸かりたい。
ゴミの臭いが移っていないか心配になって袖を嗅ぐ。薄汚れてはいたが、普通に洗剤の匂いがした。
時計を見ると局を出てから一時間近く経っていた。
空腹だったことに気付いて、辺りを見回す。
生憎その通りには飲み屋ぐらいしかなかったが、馴染みの店が近い筈だ。
何を食べようかと考えながらふとポケットに手を入れると、でこぼこした固い感触があった。
久々にその力を使った乳白色の石を、労るように指先で撫でる。
スティルバイト、とか言ったっけ?
和名は束沸石。白、黄色、ピンク、褐色などが多い。
束ねてぎゅっと絞ったように独特な形をしている。高度はあまり高くなく、脆い。
去年の秋頃この石を拾ってから無意味に増えた石の雑学を引っ張り出してくる。
急に頭の中で声が聞こえたりし始めた時には何事かと思ったけど、もう慣れた。
使い方は少しずつ、それこそ週一で戦ってるような人なんか呆れそうなペースで覚えてる。
今日みたいに襲われるのは珍しいけど、最近なんか激しくなってるらしいし。
やっぱり誰かと一緒に帰ろうかなあ?
そんなことを暢気に考えながら、ゆっくり歩いて店へと向かう。
その横顔はきっといつもの自分に戻っている筈だ。
それでいい。この顔のまま過ごせる日が続けば。
数えるほどしか戦っていない男の腕は、他の誰かより確かに弱いだろうけど、
少なくとも道ばたに倒れる気はないからね、と心中で誰へともなくうそぶいてみせた。
この顔のまま過ごせる日を、守るために。
「…でもほんと、戦うのやなんだけどなあ」
小さな声でぼやくと、同意するようにくすくすと笑う声が聞こえた。
東貴博(Take2)
石:スティルバイト(人格形成の基盤・富んだ思考)
能力:目の前にX型の光線?を放つ。
障害物はすり抜けるが、放たれてから50〜100m程で消える。
当たっても対して痛くないため、気づいたときにはダメージが蓄積していることも。
また、気合いの入れ方によって燃える光線を打ち出すこともできる。
条件:両腕を胸の前でクロスさせ、大声で「東MAX!」と叫ぶ事。
本人のやる気がないとき、気合いが足りないとき等は
威力が落ち、最悪の場合発動できなくなる。
以上です。
能力は提案スレ180さんのを使わせてもらいました。
あ、もうスティルバイト使われてましたね…。
確認しとけばよかったorz
申し訳ありません、これは番外編扱いでお願いします。
乙です!
こんな名作で番外編はもったいないので、
したらばにでも石の別候補を上げて本編化キボン
既出のスティルバイトはアイボリー(象牙色)、今出てきたのは乳白色。
気になって調べたら違う色だったんで、〜スティルバイトと
頭に色名をつければ大丈夫でないかと言ってみる。
自分も、これが番外はもったいないと思う。
>>21>>22 優しいお言葉ありがとうございます。
では「ホワイトスティルバイト」ということで大丈夫でしょうか。
無理なら代わりになる石を探してきます。
襲ってきた男
能力:石の光を冷気として放出する。
条件:温度を下げるほど、また対象の範囲が広がるほど負担がかかる。
また、使いすぎると体温が上昇し、風邪に似た症状が出る。
保守sage
>23
いいとオモ
26 :
名無しさん:2006/08/29(火) 12:13:02
age
乙です。
とても面白かったです。
確かに番外編はもったいないと思います。
パソが見事にデータを吹っ飛ばしまして、書き直してましたが、
ようやく投下できる状況まで復旧できました。
前回から半年近く経ってしまいましたが、南キャン編の続きです。
幕間〜夢〜
――誰だって自分の無力さを知りたくはない、のに。
耳を叩く微かな風の音に、山里は重い瞼を開いた。
薄暗い白に染まった視界に一瞬混乱した後、
自分が雪の中に半分埋もれているのだと気付く。
随分と長い間倒れたままだったのか、冷たさも痛みも通り越し、
痺れたような感覚が全身を支配していた。
身体は鉛のように重く、起き上がる気力さえ湧かない。
寒さのせいなのか、頭の回転も酷く鈍かった。
ここがどこなのか、自分が何をしていたのか思い出そうとするのだが、
自分自身でも苛々してくる程に何も浮かばない――
まるで、頭の中までこの重苦しい白に、塗り潰されたような。
ただ朧げに、ここに来た覚えがあるという事だけを思い出す。
記憶を辿る事を早々と放棄した山里は、視界を覆う白から
少しでも逃れようと、ほとんど感覚のない右手を
のろのろと動かし、レンズに張り付いた雪片を払う。
だが、目に映る風景は少しも変わらなかった。
恐らく夜なのだろう、辺りが酷く薄暗い中、微かな光を反射して
鈍く光る、一面の白。
(――――)
なぜだか、ぞわりと背筋を悪寒が伝った。酷い圧迫感を感じ、
冷え固まった足や腕を半ば無理矢理動かして、身体を丸める。
遠慮なく心の奥に踏み込まれる事に比べれば、一人で居る事の方が
ずっと楽なタイプだと、そう思っていたけれど――この場所は。
誰も居ない。何もない。ただ、ひたすらに、白いだけの空間。
どうして恐れるのだろう。そんな必要は、ないはずだ。
この場所を、望んだのは自分自身なのだから。
――あぁ、そうだ。望んだのは自分だ。
空白に近い記憶の中に、それだけが余りに唐突に浮かび上がった。
けれどその不自然さには気付かずに、山里はぼんやりと考えを巡らしていく。
全てから逃げ出したくて。そう思う自分自身が酷く嫌で。
いっその事全て閉じ込めて、凍らせてしまえば。
――傷付かずに済む、ような気がして。
白い粉雪は音もなく、腕に、足に、頬に降り積もっていく。
ほんの少しの蟠りが、まだ残っていた。
けれど、自分を埋めようとする雪に抗おうという気は起きない。
もう、疲れた。
『――――!』
不意に、ノイズのように続いていた風の音が薄れ、代わりに耳に届いた
微かな声に、山里は閉じ掛けていた瞼を再び開いた。
何を言っているのかまでは、聞き取れない。けれど、呼ばれているような気がした。
聞き覚えがある。この声を、確かに自分は知っている。
ちらちらと脳裏を掠める、ぼんやりとしたイメージ。
誰かの首元、ひらひらと揺れている、あれは――。
「…………」
無意識に口に出そうとした言葉が、喉に詰まる。
なぜだろう、今まで何度もこの言葉を叫び掛けたような気がする。
――言ってはいけない。決して言ってはいけない。
その言葉だけは。己の弱さを認めるような、そんな言葉は。
既視感に似た感覚と同時に、理由もなくそんな思いが湧き上がる。
けれど、浮かび上がった言葉はそれ以上の強さで心を占めていく。
ぼんやりとしていたイメージを、やっと捉える事が出来た。
首元で揺れるスカーフを押さえて、空から舞い降りてくる鳥に、手を差し伸べているのは。
「…………しず……ちゃ…………」
――言ってはいけない。言っては――。
「…………た、す……け…………て…………」
再び聞こえ始めた風の音に掻き消されながらも、今度ははっきりと届いた。
自分を呼ぶ、声。
『――山ちゃん!』
その瞬間――何かが軋んで割れるような微かな音が、聞こえた。
あぁ――この場所には、もう、来ない。
すいません、短いですが、今日はここまでです。
予定通りならあと2回、のはずですが……よろしければお付き合いください。
よく見たらトリップミスしまくりですねorz
>>29と
>>32はもちろん私です。ご迷惑おかけしました。
ほかの書き手さん達の作品も楽しみにしてます。
でっかい天使キター!!
乙です!
キタ━━━━━━ !!!!
南キャン編、マジでずっと楽しみにしてました!
続きwktkしながら待ってます
はじめまして。
麒麟の川島と次長課長の井上の話を投下させていただきます。
君に捧げる青い春
「…井上さん」
「しゃべっとらんと手ぇ動かしぃ」
「いや、あのすいません、これ途中で終わらせてくれませんかね?」
川島の手にはゲーム機のコントローラー
目の前にあるテレビの画面には2次元のキャラクターが肉弾戦を繰り広げている。
たまに、手から炎が出たり竜巻が起こったりするのは
ここ数ヶ月間自分の目の前で似たようなことが起こってるなというのをどこかでぼんやり思った。
「そうやな、お前が俺を超えたら終わらせたるわ」
「無理です、井上さん強すぎます。」
「何やの、お前最近付き合い悪いから絶対自宅でゲーム特訓しとるもんやと思ってたのに…
むしろ前より弱くなっとるやん」
「まぁ、最近別件で忙しくって…ろくにゲームも触れてなかったんで」
「だから、俺が今ここでその弛んだゲーム根性叩きなおしたる」
「それって叩きなおすものですか?」
苦笑を浮かべながら川島は先ほど井上から課せられた対コンピューター100人抜きの37人目の対戦相手に必殺技をくらわせた。
「そういや、河本もぼやいとったわ。『最近みんな付き合い悪ぅなって飲み会誘っても誰ものってこん』て」
「そう、ですか」
「何なん?そういうの最近流行ってるん?」
その質問に対して川島は曖昧に笑ってかえすしかできなかった。
復旧おめでとうございます。ほんとに乙でした!
8Yさんの南キャン、やっぱり最高です。次回も楽しみにしております。
次長課長の井上は彼らがまだ大阪にいた頃大変世話になった人物である。
相方である田村の次に川島に声をかけてくれて極度の人見知りであった川島を変えてくれた大きな要因だ。
以前は仕事で東京に来た際には、ほぼ毎回といっていい程井上とこういったゲームで遊んでいた。
しかし、黒水晶を手にして以来、黒ユニットの芸人に幾度となく襲われ
否が応にも戦いに巻き込まれる事となって彼らの周りの環境は一変した。
どうやら思っていた以上に「石」は芸人の間に広がっているらしいが
幸いにもこの先輩はまだ石を持っていないらしい。
こんな無意味な戦いに自分にとって大切な人達を巻き込みたくない。
だからしばらく相方である田村にも「石」の事は語らなかった。
しかし、その相方も石の力に目覚め「一緒に戦う」と力強く言ったのはつい最近の事だ。
だが、一方で川島は考えていた。
田村の石が完全に覚醒した今ならその力を封印できるのではないかと。
今からでも遅くない、戦うのだけは自分だけでいい。
あまつさえ田村の石を覚醒させるに至ってしまった自分に少し憤りさえ感じていた。
そんな中東京での仕事を終えた麒麟の楽屋前に突然現れた井上に驚いていると
「川島、ちょっと来い」の一言を投げかけられた
ついていった先は久々に訪れた井上の自宅。
そして自分もまだ購入していないゲームでいきなり100人抜きという課題を与えられ現在に至るという。
いくら突拍子な言動をする井上の事とはいえ、いきなりすぎないか…
そんな事を思い返しながら、慣れないキャラを動かしていると急に目の前の画面が一時停止した。
ゲームを停止させた張本人、井上は頭をかきながら目を泳がしながら何かぶつぶつ呟いた後川島の方に向き直った。
「川島お前や、昔っから厄介ごと一人で抱え込むんクセやな」
「えっ?」
「別にそれが絶対にアカンって言っとる訳やないけどや…
お前が思っとる以上にお前の事心配してる奴おるんやから…」
「心配…俺なんかの…ですか?」
「なんかとか言うなや。お前いっつもそうやって自分卑下して…今後そういう態度禁止!これは先輩命令や」
「いや、これはまぁ、性格上の問題なんで…まぁ極力改善していくようにはしていきますよ」
「じゃあ、今ここでお前が何を抱え込んで悩んでるんかをさぁ、言え、今すぐ言え」
「今すぐって、何ですか?刑事と犯人のコントやないんですから」
笑いながらも内心川島は焦っていた。
妙な所で勘のいい井上に誤魔化しがきくだろうか。
だからといって正直に全てを話すという事もできるはずがない。
川島が思考の海に沈みかけた時だった。
「石…の事?」
井上の口からその単語が飛び出た瞬間川島は自分の心臓が一際はねたのを感じた。
心臓の脈打つ音が耳元で大きく聞こえる。
石の噂が芸人の間で広まっているならそれが井上の耳に入っていてもおかしくはない。
だが、川島に対して石の事を切り出すという事はすなわち少なからずとも川島の現状を把握した上での事。
川島はポケットに忍ばせている黒水晶を握る。
だが黒水晶は共鳴すらもせずひたすら沈黙を守っている。
石をもっていない、しかし黒い欠片に操られている気配すらない。
「どうして、いきなりそんな事聞いてきはるんですか?」
一気に乾いた喉から出る声は弱冠かすれてはいたが、極力平静を川島は装った。
「どうしてって、どうしても川島が何もいわんかったらこう言えって田村が…」
「は?田村?」
「あー、そういや俺の名前は出さんで下さいーみたいな事言うとったな…
でも、もう言うてもうたし…別にえぇか」
井上の口から飛び出た田村の名前に先ほどまでの井上の行動に合点がいき
一気に緊張感がとけ笑いがもれてしまう。
「ははっ、はははっ…あー、そういう事ですか…アイツに頼まれたんですか?」
「まぁ…川島が元気ないから励ましたってくれって…」
「やっぱりな…すいません井上さん。いらん迷惑かけて。」
「迷惑とかこっちは思ってへんよ。俺かて最近お前の様子おかしいとは思っとったし…
何とかしたいとも思ってたんはあったし」
「ほんま下らん事先輩に頼むなやアイツ」
ぼそっとつぶやいた川島の一言に井上は叫んだ。
「下らん事ちゃうわ。田村はお前の事本気で心配しとったんやで!」
突然の剣幕に川島は言葉を失う。
「なぁ、相方ってのは何でも話せて、心から信頼しあって、
どんな時でもお互いの事を気遣って支えあう存在ちゃうん?
俺にとってはそれは河本で、川島にとってのそういった存在が田村やろ?」
そんな井上の言葉にいつだか田村のいった言葉が蘇る。
『俺ら二人で麒麟やろ!』
「信頼…」
川島の脳裏に二人で戦った時の記憶が蘇る。
何も言わなかったのにお互いわかりあえて、
ただ側にいただけなのにどこか心強かった。
一人の時には感じなかった安心感。
どこかでわかっていたはずなのに気づこうとしなかった。
それを気づかせてくれたのは目の前の先輩の言葉。
川島は改めて井上の何気ない偉大さを思い知った。
「とにかく俺が言いたいんは、もっと田村とか俺とかbaseの奴らとか、
そういった人らを頼っても全然構わへんねんで」
「いいんですか?頼ったりして」
「おう、いつでも大歓迎や」
「ありがとうございます。」
川島のそのセリフは目の前にいる先輩に対してそして、
おせっかいにも余計な気を回してくれた相方に対しても
心の中で同様の言葉を投げかけた。
そう言っただけで川島は自分の中の渇いていたものが急速に潤っていくのを感じた。
「井上さん」
「ん?」
「今はまだ、何も言えません…でも、全部終わったら必ずなんもかも話します」
「それって、いつになるん?」
「そうですね…ちょっと前まではまだかなりの時間がかかる思ってましたけどでもこれからは相方を、
田村の事を頼るんでそんな遠い事やありません。」
今までは先の見えない戦いだったはずなのにどこかそんな事を思えるようになった。
「ほっか…川島、お前さっきよりえー顔しとるで」
「井上さんのおかげです。いつか、全部終わったら話しますからそれまで待っててください」
いつか全部、黒や白の争いがなくなりこの戦いが終わった後
全てが笑い話で話せる時が来ることを信じているから、その時に全て。
「ところで井上さん、俺明日、朝一番の新幹線で大阪帰らなあかんのですよ。
やからもう帰ってええですかね?」
「川島、お前下段の攻撃に甘いねん、ほら」
「えっ?途中乱入?!てか終わらせてくれないんですか?」
しかし戦いの波は容赦なく全てを飲み込んでいく。
その波が井上を巻き込んでいく事をこの時の川島はまだ知らない。
以上です。
時期的には麒麟の田村が石の力に目覚めた直後
まだ井上が石を手にしていない頃の話です。
45 :
名無しさん:2006/08/30(水) 12:19:50
井上 川島編 乙です!
田村優しい、井上も偉大な変人っぷりで・・・
乙です!
天然井上最強ですねw
井上カッコヨスw
でも途中乱入ヒドスww
乙です!
この先戦いでどう絡んで行くか楽しみですね
下がりすぎなのでage
50 :
49:2006/08/31(木) 17:13:49
メ欄消すの忘れた…
今度こそage
なんでageる必要があるんだよ
下がりすぎると何か大変なことが起こるの?
>>52 テンプレにsage必須書いてあるじゃん
散々既出だが1レス/24hあれば700前後でも落ちる事は少ない
祭りでスレ乱立でもすれば話は別だが
ageなくて良かったのか
まだageなくて良かったね
やるとしても人のいない時間帯が良い
まだというか普通にageなくて良かったんだろ
乱立しても???バカか。
乱立してませんよ
63 :
名無しさん:2006/09/01(金) 22:16:29
。゚(゚*´Д⊂グスン
保守
前スレ
>>878-883 の続き
【23:35 渋谷・某病院】
記憶を反芻するかのようにぽつりぽつりと村田が語るその最中で、それに最初に気がついたのは、赤岡だった。
「………っ!」
にわかにロビーの椅子から立ち上がり声にならない声を上げる、その視線の先には、三人の人の姿。
そのうち二人は点滴台と仲良しのようで、残り一人…彫りの深い顔立ちの長身の男が、不安げに彼らに付き添っているようだ。
「おぅ、終わったか。」
赤岡につられるように顔の向きを変え、三人の姿を捉えて。村田は一度喋るのを止め、安堵の溜息と共にぼそりと声をかける。
「……何、どないしたん、これ。」
点滴台を引きずりながら、三人の内の一人…松丘が素っ頓狂な声を上げた。
腕に繋がっている点滴の管はもちろん、手当てのためとはいえ腕や顔を覆う包帯やらガーゼやらが何とも痛々しい。
「わかりやすく言えば人気者やっちゅー事やな。お前らが、と言うよりもお前らが逢ぉた奴が、やけど。」
以前は頻繁に、しかし今は久々に見る顔が並んでいる事に、驚いたように目を見開く松丘に村田は告げる。
「…『白い悪意』、ですか。」
点滴台に体重を掛けながら、もう一人の怪我人…平井がおそるおそる村田に訊ねた。
そういう事、と頷いて返す村田に、平井は改めてこの場にいる面々の顔を見やり、ふぅと息を吐いた。
ずっと一人で戦っていたから、そんな実感はなかったと言えばそれまでだろうが。
こんなにも多くの芸人の手に力のある石は渡っていて。
そして彼らは突如として現れた『白い悪意』に対して脅威を感じ、何とかしようと考えているのだ。
…それができるなら、何故『白』と『黒』はずっと争っているのだろう。
それこそ何とかして、戦いを終わらせる事は、できなかったのだろうか?
その態度を頼もしいと思うのと同時に、そんな疑問が平井の内側でわき起こる。
確かに、多くの者が石に関われば、その分ややこしくなるだろう事は容易に想像できるけれど。
それでも。
「そういう事。 で…その格好からすると、お前ら、今夜は泊まりか?」
「あ、はい。点滴もありますし、運良くベッドが空いてるそうで、そこで泊まってけと。」
村田の問いかけに、彫りの深い顔の男…平井負傷の報に慌ててシアターDまで引き返してきたイヌがニャーと泣いた日の
わかやまZこと中岸 幸雄が答えた。
目の前のそうそうたる面子に少し身が引けているような中岸の口振りに村田は幾らか微笑ましげに目を細めて。
「じゃ…さっきお前らが教えてくれた事、代わりにしゃべっといてやってるから。さっさと休んでこい。」
「でも……。」
「エェから、行け。」
せっかく久々に顔を合わせたのだ。少しぐらい懐かしあったりしてもいいじゃないか。
そう言いたげな表情をにわかに浮かべる松丘に、村田はぴしゃりと言い放つ。
その口振りが、相方に向けると言うよりも、かつての後輩に向けるような高圧的なそれであった事に、
口に出してから気づいたか、反省するように村田は小さく舌打ちをして。
「別に意地悪で言うてる訳やないんだ。回復魔法かけられた…言うても、その傷、やろ?」
フォローするかのように言葉を続ける。
「……………。」
「そうだな。少しでも休んだ方が良い。」
村田の言う事はもっともであろうが、それでも不服げな目で見返す松丘に、不意に低い声が、かけられた。
声の主は、土田だった。
ホリプロコム勢の中に気配を消して混じり込んでいた部外者の突然の発言に、松丘達のみならず
回りの井戸田達も思わず彼の長身を見上げてしまう。
「…ただの怪我じゃ、ないんだからな。」
ぼそりと告げるその言葉に、小沢は思い出す。『白い悪意』と交戦した石の使い手達がその後どうなっていったかを。
今は、運良くも意識を保てているようだったけれど、ここで無理して彼らのようになってしまってはならないはずで。
「…だな。今は休むべきだ。そこののっぽ。二人を頼む。」
土田に続いて設楽も口を開いた。同時に微かに、彼の周囲で石の気配がわき上がる。
彼のソーダライトが秘めているのは『説得』の力。
かなり失礼な呼ばれ方をしたにもかかわらず、中岸はこくりと頷くと、傍らの怪我人二人を促しだした。
「…あ、赤岡っ!」
まだ残念に思う気持ちはあるけれど、そこまで言われるなら…と渋々歩き出して、数歩。
不意に松丘は立ち止まると、集団の中にいる一人へと、呼びかけた。
「………っ」
その声に弾かれたようにビクリと反応する赤岡に、松丘はブレスレットの揺れる右手を掲げ、
包帯やらガーゼやらで覆われた顔に柔和な笑みを浮かべて、告げた。
「…石、預かっててくれて、ありがとうな。」
「………はいっ!」
一言そう告げれば、あとはずるずると廊下の方へと引っ張られていくばかりだったけれど。
その松丘の背中を、もしかしたらその一言が聞きたいが為にここまで着いてきたのではないかと思わせるほどの
心からの安堵の表情で、赤岡は見送る。
やがて今夜の殊勲者の気配は辺りから消えて。
一度『白い悪意』に関する話が途切れた事を良い事に、周囲の視線は自然と赤岡へと集中した。
「…預かってるって、何の事だよ。」
「そのままの意味です。」
問いかける井戸田に赤岡はぼそりと答えて、設楽の方へ彼にしては露骨に冷ややかな視線を向ける。
「去年の秋…誰かさんが、満身創痍なあの人の石すら奪わせようとしたから。」
きっぱりと言い切る赤岡の言葉に、土田がぷっと吹き出し、設楽はにわかに渋い表情を浮かべた。
「……一応、止めとけとは言っといたんだけどなぁ。追いつめられた奴は何するかわからないから。」
そのまま口振りだけは他人事のように設楽は呟き、肩を竦める。
「それで知らない誰かに奪われるぐらいなら、僕にやる。その代わりまた強く光りだしたら必ず返せと…そう言って
虫入り琥珀と一緒にあの人の石を…サーペンティンを預かったんです。」
やっぱりですか、と言わんばかりに設楽を見やりながらも説明する赤岡の脳裏に浮かぶのは、風の強い夜の出来事。
『テンションを上げて』
『もっとテンションを上げて』
『最高にテンションを上げて』
『石を、暴走させろ』
普段は他者へ向ける石の力を己に向けて用い、あの秋の初めの出来事から日々輝きを失っていく石を無理矢理に煌めかせて。
黒く汚染された輝きを放つ石の持ち主達に立ち向かっていく、松丘の背中を。
まだ自分の石である黒珊瑚の力を使いこなせていなかった赤岡にはただ見ている事しかできなかった。
――力が、欲しい。 誰かを…それ以前にまず自分達を守るために強い力を持つ石が欲しい。
その時の強い焦燥感が、しばらく赤岡と島田を誤った道に踏み込ませたりも、した。
結果、小沢達のお陰で目が覚めて。虫入り琥珀や色々収集した石は手放した、けれど。
それでも彼に必ず返すと約束した、旅人を守ると言われる緑色の石だけは、こっそりと手元に置き続けていたのだ。
「それで、約束通りあの人に返して…こんな事になって。
まだ渡すには早すぎたのか、それとも良いタイミングだったのか。僕にはわかりませんけれど。」
そう説明を取りまとめて、赤岡はふぅと息を吐いた。
「それよりも今は『白い悪意』です。それで…どうなったんですか?」
そのまま設楽に向けていた視線を村田の方へ向け、問う赤岡に。ようやく話題が元に戻ったかと村田は小さく頷いて、おもむろに口を開いた。
【22:08 渋谷・センター街】
非常階段を一段一段上り詰め、一番石の気配が濃く漂う最上階の踊り場に出て。
白いパーカーを羽織った男…『白い悪意』は、そこに先ほど見た芸人の姿がない事に気づく。
あるのは、階段にバランスを取って置かれてあるもはや卓上カレンダーほどのサイズになったスケッチブックのみ。
『お疲れさま!』
これ見よがしに書き付けられた、かろうじて読み取れるその文章は、わざわざ非常階段を昇ってきた彼に対してのモノか、
それとも相棒として長年付き添ってくれたスケッチブックに対してのモノか。
「……………。」
不意に外で石の気配が発されるのを感じ、『白い悪意』はビルの外の路上に目を向ける。
そこには自分が追いかけていたはずの、二人の芸人の姿。
石によって呼び出されたモノだけあってそれ自体が石の気配を色濃く放つスケッチブックの紙…松丘言うところの『撒き餌』につられて
『白い悪意』が非常階段を上ってくるのに合わせ、彼らはタイミング良くエレベーターで一気に地上へと逃げたのだ。
チッと舌打ちすると同時に、『白い悪意』は右手を取り残されたスケッチブックの方へ向ける。
掌に白い光が生まれると同時に、スケッチブックはその場から弾き飛ばされて壁にぶつかり、緑色の光の欠片になると『白い悪意』を包み込んだ。
『ねぇ、……さん、……さん、見てください!』
完膚無きまでにスケッチブックを破壊して、ようやくわずかに満悦げな表情をフードの下に覗く口元に浮かべる
『白い悪意の』耳に、不意に弾むような声が届く。
『ようやく俺らにも石、回ってきたんですよ!』
『えー、ずりぃ! 何で俺じゃなくてお前らなんだよ!』
『何やろなぁ…年齢分補正が掛かったンちゃうん?』
『でもずりぃよー。年功序列なんて聞いてねーしー!』
『…ふて腐れない。……くんは若いんだし、きっと次ぐらいに格好良い力の石が回ってくるでしょう。』
『そうかなぁ? うん、そうだな。そうに決まってる!』
何だろう、この声は。
そう思うと同時に、次々と様々な、そしてどれも聞き覚えのある声が『白い悪意』の耳に飛び込んでくる。
『…相変わらず……は単純やなぁ。』
『それよりも…お前ら、その石にどんな力があるかはわかってるのか?』
『いや、まだ…とりあえず拾ったばかりやけど報告しとこ思て。』
『そう。ちなみに……さん達には?』
『あの人達にはこれから報告しに行きます。』
『ま、多分あの人達も言わはると思うけど…みんなを守る事以外に石を使って戦ったらあかんぞ。』
『……はいっ!』
「これは………僕は…一体……。」
『白い悪意』の口から、独特の語尾を跳ね上げるイントネーションを含んだ呟きが漏れた。
――あぁ、覚えている。
この頃、僕らはお笑いバブルのただ中で。
いつバブルが弾けるかという不安はあったけれど、それでも仕事はあったし、僕らなら昨日よりも今日、今日よりも明日を
何とかちょっとずつ良いモノにしていけると漠然と思っていた。
まさか、やがて道を分かち、道に迷い、道を踏み外し、道半ばに倒れながらもまた歩き出す未来が来るだなんて、
予想だにしていなかったんだ。
今となっては甘酸っぱい…いや、しょっぱい昔の思い出。しかし、何故、こんな事を思い出してしまうのだ………?
僕は……僕は………僕は………………
「…………芸人を、滅ぼす。」
ズキズキと痛み出すのか頭を両手で押さえ、ぽつりぽつりと呟きを漏らす『白い悪意』の口振りから
不意にイントネーションが消え、流暢な標準語が紡がれる。
同時に彼の周囲から強い石の力が放出され、それは路上にいる二人の元へも届いた。
「…ちょっと怒らせてもーたかな。」
引きつるような笑みと共に松丘が呟く声を傍らで聞きながら、平井は胸元の首飾りに手をやる。
これから始まるのは自分達の居場所…『城』の防衛戦。
けれど意外と、今の彼に恐怖はなかった。
ただ、『白い悪意』のいる雑居ビルの最上階の踊り場を、じっと見据えていた。
すると。
白いパーカーを着た男が踊り場の所に姿を現したかと思うと、ひょいと塀を乗り越えてくる。
もちろん、塀の外側に足場などあるはずもなく、男の身体は重力に引かれて真っ逆さまに落ちていく。
どう見ても自殺です。本当にありがとうございました。
「………っ!」
違う。
落下しながらも『白い悪意』は石の力を急速に発動させていき、それに比例するかのように、落下速度が減少していく。
身構える事も忘れて見入る二人の目前で、白いパーカーの男は…『白い悪意』は軽やかにアスファルトに着地した。
「……舐めた真似を。」
してくれたな。
そう告げ終えるよりも早く、『白い悪意』の周囲から放たれた白い光が路上を走り。
松丘の身体をそれまで立っていた場所から数mほど後方へと弾き飛ばしていた。
今回はここまで。
なお、この話は2005年8月を舞台に設定された物です。
そして今回で松丘さんの旧式の能力は登場しなくなるので、一応まとめておきます。
松丘 慎吾 (坂道コロンブスVer.)
石:サーペンティン (蛇紋石。黄色がかった緑の石。「旅人を守る石」)
能力:石の力で呼び出したスケッチブックに指示を書き、相手に見せる事で相手を指示に従わせる。
相手が従う時間は数秒ほどなので、難しい内容の指示は不可。
また、呼び出したスケッチブックは石の力で出来ているので、ちょっと頑丈。
条件:相手の目に指示が見えていないと効果は発揮できない。
乙乙です!
乙!
でも真面目なシーンで笑かすなww
乙です!
「どう見ても〜」ワロスwww
バトロワスレ(したらば)で麒麟が見てるってテレビでいってたって書き込みがあったから
このスレも見られてるかも知れぬな。
乙です。続きが今から待ち遠しいよ
>>71普通にびっくりしたじゃないかw
乙です!
>>76 いや普通に2・3人くらいには見られてると思うぞ。
テレビに出る度に2ch見に来る芸人もいるって聞いたことあるし。
乙です
81 :
名無しさん:2006/09/07(木) 23:42:07
下がり過ぎage
hosyu
保守
84 :
名無しさん:2006/09/09(土) 17:04:04
age
圧縮について説明。
スレッドの総数がサーバーの圧縮規定値に近づくと(お笑い芸人板は800)
圧縮が行われスレ総数が700程度になります。
その際dat落ちになる基準ですが、最後に書き込みがされたのが古い順
最下部でも関係ありません。保守するためにageてもsageても一緒です。
毎日書き込みがあればまぁ落ちることはないでしょう
>>85 そうなんですね。情報ありがとうございます。
87 :
名無しさん:2006/09/10(日) 00:20:36
必死だな
88 :
名無しさん:2006/09/11(月) 09:32:54
age
保守
保守
91 :
名無しさん:2006/09/12(火) 21:35:35
age
hosyu
保守
ほしゅ
95 :
名無しさん:2006/09/14(木) 23:15:11
殺伐ぎみなのでage
hosyu
保守
本スレは小説投下だけでいいのですか?
保守ばかりで気になったので書き込んでみました。
続けて書き込みます。
現在、したらばには
廃棄小説投下
ゲーム化計画
新登場芸人キボン!!
小説練習
新しい石の能力を考る
芸人AA・顔文字で物語を作る
石スレ、感想・要望
小説作成依頼
小説時間・時期確認
白&黒ユニット編進行会議
のスレがあります。
では本スレに何が出来るのでしょうか。
それはこの話の完結です。
本スレではこのことについて話し合ってはどうでしょうか。
長文スマソ
お前鬱陶しい
でもまあ確かに、
何書き込んでもしたらばへどうぞと言われ、
保守だけしててもいらないと叩かれ、
月に2、3度の投下だけが唯一認められるってどういうことだとは思うぞ
投下もしたらばでやれば、ここに保守しかないようなムダなスレ立てる必要ない
せっかくここでやってんだから、雑談しながら投下待った方が
書き手さんも気が楽なんじゃないか
完結の話こそしらたらばですべきでは
今更何言ってんの?
今まで通りでいいじゃん
>101
なるほど、確かに。保守書き込みしか認められないから過疎ってるように見えるのもあるしね。
したらばで雑談やるとすぐ止まっちゃうけど、ここなら続きそうだし。
まあ、この過疎ってる感が隠れ蓑になって嵐が少ないんじゃないかって気もするけど。
>嵐が少ないんじゃないかって気もするけど。
そーですね。
今更スイマセン。
それにしても、投下ペース遅くなったよな
ちょっと不安
バトロワの方に流れてるのかもね
あの投下ペースは凄い
もともと投下ペース遅かったじゃん
最近特に、って意味だよ
良くも悪くも、イチゲンさんが減ったんじゃないかな。
10カラメンバーの導入部だけ書き逃げが一時期ワッとあったけど、ああいうのが無くなった。
あの辺りも、できれば完結まで読ませてもらいたかったけどね。
111 :
名無しさん:2006/09/20(水) 02:39:17
自分も手伝いたいけど、文才ないから・・・orz
オリラジ編にオジオズ編にバッド編か。
続き書く気はあったのかなあ
オリラジ編は個人的に気になってたので
できれば戻ってきてほしい。
不思議スレ、バトロワスレに比べて本編書くのが難しいと思う。
かなり文章書き慣れてないと面白い話作れないような。
だから書き手が流れるんじゃないかと。
[絶対に有得ないこと]だもんね。
保守
117 :
名無しさん:2006/09/23(土) 20:50:52
あげ
保守
そろそろhage
ホント、できれば今ある話だけでも完結してほしい。
個人的にはチュートリアルとブラックマヨネーズの続きが見たい。
最悪、8Yさんの南キャン編最終回さえ見れれば思い残す事は無いよ。
保守しに来ました。
オパール編は完結させて欲しい
続きが気になって仕方が無いよ
現存する話の完結も楽しみだけど、新規の書き手さんも増えて欲しい
と、読み専の自分が言ってみる
テスト中なので補習しに来ました。
126 :
名無しさん:2006/09/29(金) 17:49:25
あげ
保守
128 :
名無しさん:2006/09/30(土) 22:49:41
55 :名無しさん :2006/09/30(土) 22:43:07
後は不思議スレを追い出すだけか
保守
130 :
名無しさん:2006/10/02(月) 23:07:45
age
保守
132 :
名無しさん:2006/10/05(木) 17:46:29
あげ
hosyu
保守
135 :
名無しさん:2006/10/07(土) 22:24:31
全然賑わんないなここ。
チュートVSブラマヨ編の続きが気になる。
また賑わう事を祈って
Hosyu
ルミネの話の続きも気になる。
ピース大活躍
前回の投下からだいぶ時間が経ちました。すみません。
チュート&ブラマヨの「Last Saturday」の続きです。
徳井の言葉に、ブラックマヨネーズの二人は瞬時に反応した。自分の手に握られたナイフを見つめ、唖然としている。唇が少し震えているようにも見えた。
突然変わった状況が飲み込めない福田は、徳井とともに立ち上がって彼に尋ねた。
「なあ、お前何したん? あの二人――」
「しっ、もうちょっと黙っててみ」
徳井が口に人差し指を当てて、ブラックマヨネーズの二人を見るよう福田に促した。
小杉も吉田も、信じられないといった様子でナイフを見つめている。少しして、やっと吉田が口を開いた。
「な、なんやねんこれ……こんな使えへんモン、何で持ってきてん!」
傍らの小杉に怒鳴っている。小杉もきっと吉田を睨み、怒鳴り返した。
「俺かて知らんわ! 今日買ってきたばっかりやねんぞ!?」
二人とも福田には新品にしか見えないナイフを手に、言い争いを始めた。福田はますます訳が分からなくなり、再び徳井に尋ねた。
「なあ、ほんまにどうなってるん? あのナイフ新品やのに、使えへんとか……」
「ああ、それはな」
徳井はにっと笑って、言葉を続けた。
「俺の能力で、ちょっと二人に細工したってん。つまりやな、二人にはあの新品のナイフが、さびてて使いもんにならへんナイフに見えてるわけや」
「はあ……ようわからんけど」
まだ完璧に理解できていない様子の福田に、徳井はさらに説明を続けた。
徳井の能力は“情報操作”。記憶をいじるだけでなく、この世に溢れる情報の全てを操作し、書き換えることができる。
徳井は先程の言葉を発することによって、ブラックマヨネーズの二人の、あのナイフに対する認識を変えてしまったのだ。
ナイフそのものは変わっていないので、今でもあれが心臓に刺されたら即死するだろう。また、決してあのナイフがさびている状態として二人の目に映っているわけではない。
それでは、何が変わったのか。
つまり、他の人があのナイフを見れば“新品同然で切れ味が良い”状態に思えるのに、二人にはあの新品同然の状態が“さびてて使いものにならない”状態に思えているわけだ。
だから二人はハナから使えないと決めつけて、ナイフを使おうともしない。現に二人はこうして、チュートリアルの二人の前で言い争いをしているではないか。
「な、分かった?」
福田は話を整理するように天を仰いだが、それからしばらくして、徳井に向かって頷いた。
「あー、なるほどな。お前の能力、めっちゃすごいやんか」
「やろ? といっても、俺もほんまに効くかどうか不安やったけどな。ばっちり効いたみたいで良かったわ」
そこで、しばらく言い争いをしていたブラックマヨネーズの二人が、悔しそうにチュートリアルの二人の方を向いた。
「く、くそ。こうなったら……」
「逃げるぞ、小杉!」
最後の吉田の言葉によって、ブラックマヨネーズの二人は行動に移った。つまりは公園から逃げ出そうとしたのである。
呼び出しておいた本人が逃げ出すなんて格好悪いこと極まりないが、そんなことを気にしている場合ではないのだろう。石は使えない、おまけに用意してきた凶器も使えないと思いこんでいるのだから。
「あっ、ちょ待てっ!」
福田が叫んで足を出し、それに反応して徳井も彼らを追おうと走り出した。
その時、四人の間を再び風が走り抜けた。先程のよりも強い風だ。四人の髪の毛は舞い上がり、乱れていく。
徳井が突然足を止めた。福田は立ち止まって徳井の方を向き、苛々とした様子で、徳井に尋ねた。
「お前何やってんねん! 早よ追いかけな、あいつら逃げてまうやろ!?」
しかしその心配は杞憂に終わった。なんとブラックマヨネーズの二人まで走るのを止め、その場に立ち止まったのだ。
徳井は福田の問いに答えるべく、二人が走っていった場所に落ちていたものを指差して言った。
「あれ、見てみ。全部小杉の髪の毛と吉田の顔の辺りから落ちたもんや」
福田が目をやると、そこには点々とではあるが、黒い何かがあった。無論毛ではない。石のような、ガラスのようなものだ。月のぼんやりとした光に照らされて、微かに反射している。
「何やねん、あれ……」
福田が呟くように言った時、立ち止まっていた二人がこちらを向いた。虚ろな目で、チュートリアルの二人を見つめている。その視線に気づき、徳井が二人に尋ねた。
「何や、まだ何か用があるんか」
徳井の鋭い口調とは対照的に、返ってきた答えは気の抜けたものだった。
「お前ら……なんでこんなとこにおんねん?」
空気が、変わったような気がした。
今までの彼らの威勢はどこへ行ったというのだろうか。人が変わってしまったような小杉と吉田を前に、チュートリアルの二人はしばらく何も言えずにいた。
少しして、やっと徳井が呟くように尋ねた。
「小杉も吉田も、どないしたんや?」
小杉はその問いにきょとんとして言った。
「いや、どうしたって……俺の方が聞きたいくらいやわ」
「はぁ? 二人が呼び出したんやないか」
福田は怪訝そうな顔つきで言った。そうしてしばらく、気まずい沈黙が四人の中を流れる。お互いがお互いの状況を全く把握できていなかった。
徳井と福田はちらちらと視線を交わし合い、小杉と吉田はぽかんとして周りを見回すばかりである。
それから少し経って、その沈黙を破ったのは吉田だった。
「なあ、お前ら。さっき俺らがここに呼び出したって、そう言うた?」
「そうやで。何言うてんねんな、自分が送ったメールのことも忘れたん?」
徳井は答えるやいなや、ポケットから携帯電話を取り出して操作し始めた。すぐにメール画面に辿り着くと、徳井はほら、と言ってブラックマヨネーズの二人に画面を見せた。
「これ、お前らが送ってきたんやろ? 送信先が吉田、て書いてあるんやから」
ブラックマヨネーズの二人は一斉に画面を食い入るように見つめた。送信元のアドレスは確かに吉田のものであり、メール本文の最後に記載された署名も小杉、吉田となっている。
メール画面から顔を離し、吉田は首を傾げた。
「変やなあ、そんな覚え全然ないねんけど……」
「なんでやねん、ほんまに今日のことなんやで? 一週間前のこととかならともかく……」
続けて福田は「お前ボケが始まったんとちゃうか」と言おうとしたが、この場で言うのは不謹慎のような気がして、黙っていた。
それにチュートリアルの二人には、彼らが演技でぼけ始めたようには感じられなかった。今の彼らの様子は、先程の殺気立った雰囲気や目とは全く違う、彼らのいつもの――先程のように変わる前の話だが――様子であるように思えたからだ。
チュートリアルと共演することの多いブラックマヨネーズの二人だが、初めて二人に襲われたあの土曜日から仕事で一回も会っていないような気がする。
それでも、以前の彼らの様子はよく覚えている。彼らは確かに、人を簡単に襲ったり殺したりできるような人間ではなかった。口は悪いが良い奴ら、その印象だけははっきりと二人の頭の中に残っている。
だからこそ彼らがこうなったことが信じられなかったし、元に戻せるなら元に戻そうと努めたのだ。それがあっさりと、元の彼らに戻ってしまったようである。一体何故なのだろうか。
チュートリアルの二人は再びその疑問にたどり着いて、お互い顔を見合わせた。
「話が見えへんねんけど、何があったんか話してくれへんか」
突然、小杉がチュートリアルの二人に向かってそう言った。
徳井と福田は再び顔を見合わせる。どうする、とでも言いたげな福田に対し、徳井は頷いて、ブラックマヨネーズの二人の方を向いた。
「そうやな、先週の土曜日やったな、あれは」
「そうそう。『せやねん!』の収録が終わった後や」
徳井の横から福田が口を出す。ブラックマヨネーズの二人は少し考え、その後で明らかに納得していない表情を見せた。
「先週の土曜日? 何があったっけ、覚えてへんな」
「俺もやわ」
小杉、吉田と続いた言葉に、徳井は目を見開く。そして慌てた様子で、二人に尋ねた。
「嘘やろ、つい最近のことやのに。さっきのことといい、ほんまに何にも覚えてへんのか?」
小杉が頷きながら、首を捻る。
「変やなあ。なんでかしらんけど、先週の土曜日と今日の記憶が全くないわ」
「俺ら、もしかして記憶喪失とか?」
「記憶喪失か」
吉田の発したその言葉を聞きとがめ、福田がぽつりと呟く。
「俺らと戦ったちょうどその時の記憶がないなんて、いくらなんでも都合が良すぎるというか、おかしいというか……」
「戦った?」
今度は小杉が福田の言葉に反応した。それで徳井が思い出したように口を開く。
「とにかく、話すわ。先週の土曜日と今日のこと」
話し終わった途端、場はなんともいえない沈黙に包まれた。ブラックマヨネーズの二人は考え込むような仕草をそれぞれ見せ、チュートリアルの二人は相手が理解してくれるのを待つように黙り込んでいた。
少しして、やっと吉田が口を開いた。
「なんか、信じられへんな。俺らとお前らが戦ってたとか……」
「石のことは知ってたけど、まさかそれで戦うことになるなんてな」
続いて小杉が吉田の言ったことに同意するように、頷きながら言った。そのことに関しては、チュートリアルの二人も同感であった。
その後再び、場に沈黙が舞い降りる。
「なあ、ちょっとそのメールよう見せて」
沈黙を破り、吉田が自分の携帯を見ながら呟くようにそう言った。ん、と徳井は俯き加減だった顔を上げ、吉田は徳井の方に近づいてくる。徳井はそのまま吉田に携帯を渡そうとした。
その時、吉田の足が地面に下ろされると同時に、小さな音が徳井の耳を掠めた。徳井ははっとし、吉田の足元に目をやる。
「これ、ガラスなんか?」
そう呟き、徳井はしゃがみこんだ。そして吉田の足元にいくつか落ちている黒いガラスの破片のようなものを、ゆっくりと手に取る。残った三人もそれに気づき、次々にしゃがみこんで同じようにそれを手に取った。
「でもさっきまで、こんなんなかったはずやのに」
福田が首を傾げながらそう言った。同じくブラックマヨネーズの二人も、不思議そうな表情でそれを見つめている。
その時、徳井が思い出したような表情になり、ブラックマヨネーズの二人を見ながら言った。
「そうや。これ、さっき風でお前らの肌とか髪の毛から落ちたもんや」
「俺らの?」
「なんやろう、とは思ったんやけど。見覚えないか?」
徳井の問いに、二人とも首を振った。
「全くないな。そもそも、なんでこんなもんが俺らの肌と髪の毛に……」
「そういや――」
福田がそう言いかけ、三人ともが福田の方に視線を注いだ。福田は少し戸惑ったような表情をしながら、言葉を続けた。
「確か、小杉のは髪の毛から、吉田のは肌から落ちてきたんやと思ったんやけど」
「でも、それが分かったところでどうしようもないな」
徳井は立ち上がり、うーん、と腕組みをして考える仕草をした。それにつられて三人も立ち上がる。それぞれに疑問の表情を浮かべながら。
夜の風が再び四人の前に現れ、それぞれの肌や髪を撫でながら去っていく。
極めて穏やかなものではあったが、何故か四人にはそれが心地よいと思えなかった。逆に心を波立たせ、何かを予感させる風のように感じていた。
「そうやな、俺これ持って帰ろかな」
徳井が再びしゃがみこみ、破片を全て手に取った。そして福田の方を向き、ほい、と福田にもそのうちの半分ほどを手渡す。福田は戸惑いながら、それを受け取った。
「こんなもん、どうすんねん」
「なんか分かるかもしれへんし、とりあえず持っとこう」
「あ、じゃあ俺らも……」
吉田が徳井の方に手を伸ばすと、徳井は厳しい表情で首を振った。
「あかん。お前らにまたなんかあったらあかんからな。さっきの状況見る限り、お前らはこれが原因でなんかなったとしか思えへん。どういう理由でそうなったんかとかはまだわからへんけど、わからへんからこそ、渡すわけにはいかへんな」
「ああ、確かにそうやな。でも俺らにもその影響が来たらどうすんねん?」
福田が心配そうな表情でそう尋ねると、徳井はにっと笑った。
「そん時はそん時や。この黒いガラスが原因に決まっとるんやから、なんとかなるやろ。な?」
そう言って、徳井はブラックマヨネーズの二人の方に視線を向けた。ブラックマヨネーズの二人はその言葉の意味を悟り、同時に驚きの表情を見せる。
「え、もしかして俺らになんとかせえ、と?」
「お前らしか動けるもんがおらんやろうから、必然的にそうなるんちゃう?」
「分かったわ」
徳井の満面の笑みに押されたように、二人とも小さく頷いた。徳井はそれを聞いて満足そうに笑い声をもらし、福田に声をかける。
「ほんなら行こか。もう疲れた」
「あぁ、そうやな。んじゃまた」
徳井と福田は少し疲れた表情を見せながら、ブラックマヨネーズの二人に軽く手を振った。ブラックマヨネーズの二人は手を振り返すこともせず、黙って去っていく二人の後ろ姿を見つめていた。
二人が公園から出て行き、見えなくなったところで吉田は小杉の方を向いた。小杉も吉田の方を向き、なんや、とでも言うように視線を送った。
「あいつらだけに任せとくわけにはいかへんやろ?」
「俺もそれは思ってた。でも、まさかあいつらからあれを盗むとかいうわけにはいかんしなぁ」
小杉が困ったような表情でそう言うと、今度は吉田が得意そうににっと笑った。
「そんなことする必要ない。ここにあんねんから」
「え?」
吉田は片方の足を上げ、靴を脱いだ。怪訝そうな表情で見つめる小杉の視線を受けながら、吉田はその靴から何かを抜き出した。それはまぎれもなく、あの黒いガラスのようなものだった。小杉ははっと驚く。
「な、なんで? 全部徳井らが持って行ったんと――」
「多分、徳井の方に寄ろうとしてあれを踏んだ時に刺さったんや。なんか変な感覚がずっとするなあと思ててんけど、やっぱり刺さってたんやな」
小杉はその破片から目を移し、笑みを見せている吉田の方に顔を向ける。
「俺らがやるしかない、やな」
「そうや。で、どっちがやる?」
吉田が訊くと、愚問だとでも言うように小杉が小さく鼻を鳴らした。
「俺に決まってるやろ。俺やったら例え暴走したとしても、石による被害は少ないんやし」
「せやけどお前の場合、腕力がちょっとなぁ……」
「んなもん、お前の能力かなんかで俺を動けへんようにしたらええねやないけ。そやろ?」
自信満々にそう言われ、吉田は少し考え込んでいたが、しばらくして顔を上げた。そして小杉の顔を真っ直ぐに見つめ、こくりと頷いた。
「ええわ。それで行こう。お前がどうにかなっても、俺が絶対止めたるから」
「はは、気持ち悪いこと言うなや。そんなガラやないやろ」
「うるさいわ。こういう時ぐらい決めさしてくれや」
少しすねたように口を尖らせる吉田を見て、小杉は大きな声を響かせて笑った。そして、ぱんぱんと彼の肩を叩く。
「大丈夫やって。頼りにしてるで、相方」
「……おう」
吉田も小杉の方を向いて、ふっと笑みを見せた。
今回はここまでです。
チュート編キター!乙です!
乙!+ほっっっしゅ!!
チュートキタ――――!!!
ずっとずっと待ってたよ!乙!
乙です!
チュート編待ってました!!
ブラックマヨネーズの二人が正気に戻ったのにびっくりです。
肌と髪の毛って…w
151 :
名無しさん:2006/10/11(水) 15:04:10
あげ
ハロバイ編がすきだったなー。あのあとが気になる。
保守age
保守
報酬
155 :
名無しさん:2006/10/15(日) 13:09:50
あげ
個人的にはライセンスとランディーズの続きが気になる
個人的にはビーム編。ビームは黒なんだろうか白なんだろうか?
保守ついでに
個人的にはロザン編がすごく気になる
やっぱりオパール編だな〜。個人的には。
登場人物も多くて盛り上がったし、ぜひぜひ完結編が読みたいです。
160 :
名無しさん:2006/10/18(水) 19:10:06
あげ
あべさくの続きが気になる
このスレの繁栄を願って願掛け保守
書き手さん、頑張ってください
保守
ほシュルルルルルルッ!
166 :
名無しさん:2006/10/24(火) 19:34:39
あげ
保守
保守
木金が空いてる(゚Д゚)
とりあえず補習。
170 :
名無しさん:2006/10/29(日) 18:19:44
あげ
保守
hosyu
ほしゅ
174 :
名無しさん:2006/11/04(土) 09:08:02
ほしゅ
ほしゅ〜
保守
過疎ってる 補修工事
主要な話し合いはしたらばで出来るから、作品のみのこっちは
どうしても過疎るな。
だがしたらばも過疎っている
ほしゅ
深夜に補修
募集
183 :
cAmErA ◆hNSBMrrUeA :2006/11/12(日) 03:27:34
保守
村田……
今知ってリアルに泣きそうになってる自分がいるorz
元フォークダンスのな
うわぁぁぁ。
マジかよぉぉ
ご冥福をお祈りします。
火曜の分も補習
渚さん…
でも◆ekt663D/rEさんには投下続けてほしいな
保守
ほすぅー
ほしょ
195 :
名無しさん:2006/11/22(水) 12:18:59
あげ
196 :
名無しさん:2006/11/22(水) 12:21:45
ごめん、ネタがありません。
出直してきます。
保守
198 :
名無しさん:2006/11/23(木) 23:54:10
うん、読みたいねあべさくの続き。
オリラジも完結まで書いてほしい。
オパール編・・・
200 :
名無しさん:2006/11/25(土) 22:05:14
今だ!200番ゲットォォォォ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
∧_∧
``) ( ´∀`)
`)⌒`) ⊂ ⊂ )
≡≡≡;;;⌒`)≡≡≡〈 〈\ \
;;⌒`)⌒`) (__)(__)
ズザーーーッ
ほんと、あべさくの続きは見たい
ほす
ほす
>>196 気長に待つよ(*´∀`)ノシ
頑張れ。
そしてほしゅ。
昼休みに干す
保守
207 :
名無しさん:2006/11/30(木) 19:23:11
あげ
捕手
没収
革新
みなさんに質問です。
完結している話の中で、一番好きなものはなんですか?
FLASH動画を作ってみたいのでお願いします。
ekさんの「Violet Sapphire」だなー。
ケツァルコアトルとの戦闘シーンも派手だし、動画にし甲斐あるとオモ
Sparrowさんの「陰と陽」ですね。
話の雰囲気が好きです。見所も多いし、動画にも良さそうだと思う
◆yPCidWtUuMさんのバカルディシリーズ。
断然オパール編。
完成してないのに完成度高え。
◆2dC8hbcvNAさんのいつここ編とラーメンズ編です。
自分はekt663D/rE さんの「Black Coral & White Coral」。
赤岡が消えかける前後のあたりが特に好きだ。
新参者さんの作品全部と、お試し期間中さんのアメザリ編が好きです。
◆8Y4t9xw7Nw 氏の「Blaze&Freeze」に一票
見事に皆バラバラwどれも面白いから頷けるが。
>>211 激しく期待
改めてこのスレの面白さを認識できるね。
今ちょっと過疎ってるけど、こうして保守され続けてるからファンもある程度居るみたいだし、
完結まで持ってってホスィ
まとめスレにも時折ネタの投下などあるので
もっと人が増えればいいなあ
初の二票目
◆2dC8hbcvNA さんの、いつここ・ラーメンズ編
◆2dC8hbcvNAさん人気ですね
確かにいいと思うけど動画にするのが大変そうだ
たくさんの意見、有り難う御座います。
ただ完成するのはいつか分からないけど、頑張ってみます。
ちなみに、過去に動画を作った人っていらっしゃるんですか?
15秒位の、劇場版予告みたいなノリのは作った事あるよ。
アニメーションの大変さにそれ以上は無理と判断した15の夜。
動画じゃなくてflaだけど。
2分間のオパール編のPVを作った。
完成した直後にPCがウイルスにやられた。
二度と取り出せなくなったデータのことを考えると今でも死にたくなる。
>>221亀だけどピース・ハロバイ編。
又吉と関の能力が本人にあってて好きなんだよね。
干す
保守
231 :
名無しさん:2006/12/09(土) 18:49:24
そろそろage
野手
boss
保守
wash
236 :
名無しさん:2006/12/15(金) 18:57:24
hosyu
ほしゆ
保守
渚さんに続いて中島さんまで…
中島さん…
来年には復帰すると聞いてたからショックです。ご冥福をお祈りします…。
中島さん・・・もうめっちゃショックですよ。
竹山さんと「カンニング」として再び活動する時を楽しみにしていたのに・・・。
と言いつつ保守・・・。
ついこの前「来春には活動再開」とか言ってたのに…
なんかぽっかり穴が開いた気分だ。ご冥福をお祈りします。
竹山大丈夫かな…
誰がルビーの炎から竹山さんを守るんだよ…
本当に何なんだよ今年は…
お願いだ、嘘だって言ってくれ。
渚さんも、中島さんも・・・・何で今年はこんなに死ぬんだ
悪い夢なら覚めてくれ。
空気壊すような発言しますが、カンニングの能力は…どうします?カンニングの中島さん…ご冥福をお祈りします。いつかテレビに出られる事を楽しみに待っていた矢先の事でしたね…。今の時代では早すぎる旅立ち…。
これを期に、しばらく竹山はテレビ出ないかもしれないですね…。竹山頑張れ!死の悲しみを乗り越えて、中島の魂ともにお笑い戦国時代を生き抜いて下さい!
…「冬も終わりに近づき、突然闇に落とした悪夢のような電話。何でもないような事が幸せだったと思う。何でもないような事、二度とは戻れない夜。」
…ロード1章。
復帰するって聞いて楽しみにしてたのに。中島さん…
個人的にはカンニング編好きだから置いたままにしててほしいんですけど、
皆さんどうですか?
自分も置いたままにしといて欲しい。
2人の絆を書いた話なんだし、いいんじゃないかと思うんだ。
自分もノシ
そして菊
そろそろage
保守
保 守 ! !
あげ
保守
保守
よいお年を。
お年玉、にはならないかもしれませんが、南キャン編の続き投下します。
書き手さん方読み手さん方にとって今年も良い年でありますように。
第十一章――こおりのぱずるがとけるとき――
「――!」
微かに、聞き覚えのある声が聞こえる。呼ばれているような気がする。
その声に引き上げられるように、ゆっくりと、夢と現実の間から浮上していく感覚。
「――の、アホッ!」
「だっ!?」
苛立ちを含んだその声がやっとはっきり聞こえたと思った途端、後頭部に走った鈍い痛みに、山里は思わず奇声を上げて跳ね起きた。
「っつ……」
次の瞬間襲ってきた右目の強烈な違和感と、鳩尾から左の脇腹に掛けて走る軋むような痛みに、
山里は反射的に身体を丸め、涙目になりながら右目を掌で覆った。その右手の手首にも、微かな鈍痛が蟠っている。
大きくずり落ちていた眼鏡が、その拍子に外れてアスファルトの地面に転がった。どうやら、路地裏のど真ん中にうつ伏せで倒れていたらしい。
しかし、自分はこんなところで一体何をやっているのだろう?
ぽっかりと穴が開いたように欠けた記憶を疑問に思いながらも、右目を押さえたまま、とりあえず顔を上げる。
そこでようやく、すぐ傍に座り込んでいる山崎の姿に気付いた山里は、思わず左目を見開いた。
「……しずちゃん?」
どうして彼女までここに居る?
「えっと――」
どうしてここに、と言い掛けたところで、山里は凍り付いたように言葉を止めた。
眼鏡のないせいで酷くぼやけた視界でも、相方が泣きそうに顔を歪めているのが分かったからだ。
いや、視界の悪さと薄暗さのせいでよく見えないが、もしかしたら本当に泣いているのかもしれない。
ただ確かなのは、彼女がその顔に明らかな怒りを浮かべ、手を振り上げている事で。
一瞬呆然としていた山里は、彼女の平手打ち――というより、掌底と言った方が正しいかもしれない――をこめかみにまともに食らう事になった。
「っ!?」
派手な音がしない代わりに、一瞬とはいえ意識が飛ぶ程重い、本気の一撃だ。
「あんたってやつはホンマ、前から思っとたけど女々しいし腹黒いしドMやし顔は変質者やし大馬鹿野郎の腐れなすびのコンコンチキやこのドアホッ!」
拳を振り上げながら叫ぶ彼女の、いつもの朴訥とした雰囲気からは想像も付かないような捲し立てるような口調に、思わず気圧される。
山里は呆気に取られた表情のまま、かざした左手で振り下ろされる拳をなんとか受け止めるしか出来なかった。
「ついでに言うならろくでなしで人でなしでっ――」
そこで罵る言葉のバリエーションが尽きたのか、悔しそうに呻いて、山崎は乱暴に手を下ろす。
こちらに背を向けてしまった彼女の背中を数秒呆然と見つめたあと、ふと違和感を感じて山里は目を細めた。
よく見てみると、彼女が着ているパーカーの腕や脇腹には、なぜか鋭い刃物で切り裂いたような傷が幾つもあった。
その切り口に付いている、淡い色合いの生地に目立つ黒ずんだ染みは、もしかして――血、だろうか。
――ろ――る……
「……!」
不意に浮かび上がった感情の断片に息を詰まらせ、山里は背筋に走った悪寒に微かに身を震わせた。
肌を刺すような空気の寒さとは違う、身体の内側から凍えていくような感覚。
右目を押さえていたその手が、微かに震え出す。
――殺してやる……
靄が掛かったように曖昧な記憶の中、やけに鮮やかに浮き上がった、殺意。
山里は震える右手を顔から引き剥がすようにして、左手で手首を押さえた。
押さえ付けられ痛みを増したその手首には、人の手の形に、くっきりと痣が刻まれていた。
頭の中は真っ白になっていて、その癖どこかで冷静に蘇り始めた記憶を手繰っている自分が居る。それが酷く不快だった。
自分の無力さと嫉妬に押し潰されそうになりながら、それでも。
自分は、男だから。年上だから。コンビを組もうと、彼女を誘った側だから。
せめて隣に居る間だけは、守ってやるべきだと。
ずっと、そう思っていた――はず、なのに。
――殺してやる……!
自分自身の憎しみに圧倒されて、上手く呼吸が出来ない。
目の前に座り込んでいる相方は、自分に背を向けたまま、ただ黙っている。
何か言わなければいけない。何か――何を?
「――しず、ちゃん」
自分でも驚く程に掠れ震え切った、みっともない声ではあったが、何度目かの挑戦でようやく声を絞り出す事が出来た。
しかし、混乱した頭ではそのあとに続く言葉は全く纏まらず、咽喉に引っ掛かって出てこない。
「……なぁ」
不意に掛けられた低い声に、山里は思わずびくりと肩を震わせる。
右手首を押さえたままの左手に一層力が込もり、鈍い痛みが更に増した。
今は、彼女の言葉を聞くのが、怖い。
「『ごめん』なんて今更な事言うたら、もっかいしばくよ?」
けれど、続いて発せられた言葉は、予想よりも遥かに穏やかなものだった。
内容こそ突き放したものだったが、その声からは怒りも嫌悪も消え、ただ呆れたような響きだけがあった。
「……別に、何も言わんでええから」
そこで言葉を探すように数秒黙り込み――頭を掻きながら一つ深い溜息をつくと、山崎は自分の右隣の地面をぽんぽんと手で軽く叩き、呟くようにぽつりと言った。
「――せやから、ここにおれ」
オブラートに包むという言葉を知らない彼女にしては、随分と抽象的な表現。
けれどその意味に気付いた瞬間、最後まで心の奥で凍っていた何かが、大きく軋みを上げた。
「――っ」
きつく歯を食い縛り、零れ掛けた嗚咽を押し殺す。
麻痺した感覚では疼きにしか感じられなかったものが今、胸を刺す痛みに変わっていた。
どんなに抑えようとしても、溢れ出す涙を止める事が出来ない。
山崎がこちらを振り返ろうとしない事が、何よりの救いだった。
この期に及んでまだ意地を張る自分の心が忌々しい。
けれど、子供のように声を上げて泣く事も、ぐちゃぐちゃの顔を見られて構わないと思う事も、どうしても出来そうになかった。
そして、その右目――既に細かく罅の入っていた黒い欠片は、その涙に溶けるようにして少しづつ流れ落ち、アスファルトの上で結晶に戻って硬質な音を立てた。
あ……orz
すいません、次からトリップ変えます。
やっぱ勢いで投下するもんじゃないなぁorz
新年早々乙です!
南キャン編ktkr!!11!
新年最初のお年玉乙です!
職人さん乙です。
南キャン編キター!!
263 :
名無しさん:2007/01/02(火) 20:36:04
乙ですッッ!
8Yさん乙です。
南キャン編楽しみにしてました
乙です!素晴らしいお年玉ありがとうございます。
乙です。南キャン編待ってました。
保守
保守
269 :
名無しさん:2007/01/08(月) 13:18:13
売れるようになる
270
base編の続き未だに楽しみに奴がいますよー。
補習
273 :
名無しさん:2007/01/12(金) 09:37:34
干す
274 :
名無しさん:2007/01/12(金) 11:06:23
難波横山がM‐1優勝
2ch再来週には閉鎖らしいですね…
そうだね、したらばで続けていければ。
これだけの大作になったのに、中途半端な終り方じゃ勿体ない。
どんな形になっても、きっちり最終回が読みたいよ。
乗り遅れて申し訳ないですが、南海編キテタ――――!!
密かにずっと楽しみにしてました
新年早々ありがとうございます
携帯からじゃまとめサイト見れないな
保守だよ
282 :
名無しさん:2007/01/16(火) 17:16:08
下がりすぎてたのでageます
保守
保 守 ! !
保守
保守(´・ω・`)
287 :
名無しさん:2007/01/22(月) 18:38:39
保守。
>>65-72 の続き
【22:10 渋谷・センター街】
重めの体躯が宙に浮き、続いてアスファルトに叩きつけられて。松丘の口からごほ、と空気が漏れる。
「………っ!」
大丈夫ですか、と思わず半身を後方に向けて呼びかけようとする平井の傍らを、
間髪入れずに『白い悪意』が文字通り風のように駆け抜けていく。
人の動きとは思えないその素早さは、先ほど雑居ビルから飛び降りた際に減速したのと同じ要領で
今度は逆に石の力で加速した為のモノだろう。
先ほどは行わなかった移動方法。それは彼が、『白い悪意』が本気になったという表れで。
「くっ……」
急速な視界の変化と痛みで自分の状況を把握しきれていない中、それでも何とか身体を起こそうとする松丘の目前に
『白い悪意』が立ちはだかるようにして出現…そう表現するのが妥当なほど唐突に姿を現して。
「まずは……お前からだ。」
告げながら『白い悪意』は右手を伸ばして松丘の襟首を捉え、そのままぐいと強引に引っ張り上げようとした。
普通ならシャツの襟の部分が引き延ばされて終わりだろうが、やはり石の力が微妙に働いているのか、
松丘の鈍重げな体躯が僅かに持ち上がる。
「松丘さん!」
前方にいたはずの『白い悪意』がいつの間にか背後に回り込んでいた事で、しばしあっけにとられていた平井が
ハッと我に返ったか、声を張り上げた。
「そいつ、柔道使います!」
「…………っ!!」
ほんのついさっき、猛烈な足払いを仕掛けられ、アスファルトに叩きつけられた事を思い出したか
端的に発された平井の忠告に、松丘は思わず右手で己の襟首を掴む『白い悪意』の手首をふり解こうと掴み返した。
「…やめ、ろっ!」
わざわざ自ら起きあがらせてやり、そこでまたアスファルトに叩きつけるという算段…そう察しての松丘の抵抗に
無駄だよとでも言いたげにパーカーのフードの下から僅かに覗く『白い悪意』の口元に歪んだ笑みが形作られる、けれど。
その瞬間、松丘の右手首で揺れるブレスレットの石がパッと鮮やかに発光した。
例えその身が踏まれ土にまみれようとも、それが為により力強く蘇る麦の若芽のような緑の輝きが、
石から松丘の右手に走り、そして右手から『白い悪意』の手首を介してその全身へと走り抜けていく。
光は一瞬で『白い悪意』の全身をスキャンするかのように巡ると元の松丘の手へと収束し、石に吸い込まれていって。
ピリッと痺れるような痛みを松丘が感じると同時に、『白い悪意』は松丘の襟から手を離した。
「痛っ……」
僅かに浮き上がっていた体躯が路上に落とされ、どさりと尻餅をつくような格好になるけれど。
それでも掴んでいた『白い悪意』の手を離し、松丘の「止めろ」の言葉に従うかのように
『白い悪意』がぴくりとも動かないのを良い事に、半ば這うようにしながらも一旦間合いを取り直す事は出来る。
駆け寄ってくる平井の傍らで起きあがり、喉元と左腕と臀部を順番にさすって松丘ははぁと一つ息をついた。
「松丘さん、今の……」
突如輝いたサーペンティン、そして不可解な硬直を見せた『白い悪意』。
おそるおそる問いかけてくる平井に、松丘は戸惑うように動きを取り戻しつつある『白い悪意』から
視線を逸らさぬまま小さくコクリと意味深げに頷いてみせた。
「何となくわかった…こいつの『今』の力。」
「だから、何だ!」
緊迫した状況にもかかわらず…いや、その緊張の故かも知れないけれど。
どこか薄く笑っているようにも見える表情で松丘は小さく口にして、右手を前に突き出すように身構えた。
ブレスレットにあしらわれた石から淡い緑色の輝きが立ち上がり、その煌めきに苛立つように『白い悪意』は吼える。
「目障りなクズ石…目障りな奴ら……消えろ!」
衝撃波を放ったり、何かをぶつけたりしてくるような攻撃的な石を相手にしている訳でもないのに
なかなか相手を屈させる事の出来ない己への怒りを直接周りに転嫁でもしたかのような
強い悪意のこもった白い光球を『白い悪意』は両手の間に作り出す。
帯にして放っても、光球のままぶつけてもかなりの威力になりそうであるけれど。
「…ヤだね!」
「……その通りや。」
街灯の明かりを上回るかのようなギラギラとした白い輝きにも臆する事なく2人は言い返し、
根拠のない微笑み…いや、それは根拠がない為のモノではない。自分達の背中にある居場所、
そしてそこにいる石持たぬ者を守り抜くのだという意志と誇りからくる歴とした決意の微笑だ…を浮かべてみせる。
そして特に合図を交わしてはいなかったけども、その場から『白い悪意』を左右から挟み込もうと
彼らはバラバラの方向へと動き出した。
一箇所に集まっていると、平井のダルメシアンジャスパーを使いにくいからと言うのもあるし
『白い悪意』に隙を作るためにもここは分かれておくのが上策というモノだろう。
しかし。
「…馬鹿がっ!」
その程度は前もって予測していたのか。
いくらか嘲りの色も混じりつつの声色で『白い悪意』は吼えると、指先で光球を強引に2分割して、
平井と松丘それぞれの方向へと悪意と共に放ったのだった。
※ この話は2005年8月を舞台に想定して書かれた物です。
すみません、お久しぶりです。
ちんたらしている間に2005年の夏の一夜の話が2007年にまで突入してしまいました。
その間色々あり過ぎましたし、諸々不適切なようでしたら以降はしたらばの方に投下します。
乙乙乙!待ってました!
またしても次回が楽しみな展開!
乙です!待ってました!
保守
保守
297 :
名無しさん@板分割議論中:2007/01/28(日) 22:00:17
age
hosyuy
覇者
300(・ω・)
保守
干し柿
hosyu
最近テレビつけるといつでも見るんですよね…荒削りですがこんな話は如何でしょうか。
「さぁ、これでおしまいだ」 「白いユニットを舐めんなよ?」
名前は売れていなくても、芸人であれば石は持てるし能力も使える。
駆け出しの若手ともなればそれぞれの勢力に入り少しでも先輩芸人達に媚を売るのも、出世へのちいさな第一歩だ。
名も無い下っ端若手芸人たちは少しでも上の人たちに認められようと日々争いを続けている。
白いユニットと黒いユニットの争いは、日常的に人気の無いところで起きていた。
「くそっ…あの石を持って帰らなきゃ、また怒られる」
不利な状況に立たされた黒いユニットの若手芸人が呟いた。
「それだけは勘弁して欲しいけど…この状況じゃぁ…」
二人とももう戦える状態ではなかった。
対峙した二組は無言のまま睨み合っている。
真夜中の人気の無い廃ビルに静かな時間が流れた。
その均衡を破るかのごとく、廃ビルの残り少ない窓ガラスを豪快に突き破って何かが勢い良く飛び込んできた。
それは白いユニットのコンビの足元に着地してコロンと転がった。ちいさな白い…ゴルフボールだった。
突然のことに呆気にとられた白いユニットの若手たちは次の瞬間意識を失うことになる。
二人の顎に強烈なアッパーが入ったのだ。
「ほらほら〜。先走るからこうなるんでしょ?」
両手を痛そうにプラプラと振りながら、立ち上がったのは坊主頭が印象的な事務所の先輩芸人だった。
ゴルフボールがあった場所に人間が突然現れた。そんなありえない状況に唖然とする若手の頭をポンと軽く叩く。
「いくら石を奪えといわれたからって、無理しちゃ駄目。逆に石を取られたら迷惑になっちゃうからね」
助かったという安堵感に気が抜けてへたり込んだ若手コンビは、
気を失った白いユニットのコンビの手元から淡々と石を回収する先輩をぼーっと見ているしかなかった。
「終わった?」 「結構あっけなかったよ。やっぱ若手は勢いだけだね」
遅れてやってきた相方に石を投げ渡し、若干痺れの残る両手をズボンのポケットにねじ込む。
「コントロールはばっちりだったろ?」
無駄に誇らしげに言う相方に、坊主頭は眉を顰めた。
「おまえなぁ…いつも言ってんだろ。必要以上に強く叩くなって」
「良い音がするからつい…」
きつい口調で言われたにもかかわらず、相方の男は悪びれする様子も無く飄々とした態度で答える。
「んじゃ、後はこっちで上手くやっておくから。お前ら自分たちで帰れるな?」
立ち上がってズボンの埃を掃っていた後輩芸人に坊主頭が声をかける。
「はい」 「大丈夫です。ありがとう御座いました」
ピンチを助けてもらった上に、家にまで送ってもらうなんてとんでもない。
二人は短い返事をして急いでその場から立ち去った。
ビルから離れ、街中へと戻ってきた若手コンビ。
駅へと向かう途中、片方がポツリと呟いた。
「黒には見えないのにな…」
それを聞いた相方は相槌を打つ。
「優しい感じなのにね…トシさん」
「タカさんだって大人しそうなのに…な」
トシ
能力…丸いものに変身する。タコ・壷・○○ボール・卵・etc
変身中はその物のサイズや性質もちゃんと持ち合わせている。
例)タコの場合→軟体を活かして狭い所に入れる。
壷→硬い&重いので敵の上に落ちて攻撃
戻るタイミングは本人の意思一つなのでいつでも戻れる。
例)壷で敵の上に落ちる。ダメージを与えた後地面に落下する寸前に戻れば割れないですむ。
条件…石を持っていない(身に着けていない)タカにツッコんでもらわなければいけない。
(持っているとタカの能力が発動してしまうので)
使用後の大きな体へのダメージや変化がない代わりに、相方がいなければ無力。
能力はしたらばから引用させていただきました。
>>306 肝心の石を書き加えるのを忘れていました…
ジェムシリカ(意味:自己表現/色:青)
乙です!タカトシ個性的で面白いな。
優しそうなのに黒、がすごくいい。
保守
干す。
干し芋
補習。
予習
316 :
名無しさん@板分割議論中:2007/02/08(木) 21:53:11
保守のためage。
タカトシが黒!
確かに見えませんね〜
ホス。
タカトシ篇、台詞だけで誰かわかった。うまいな〜。
続きに期待大。
ほしゅ
はす
wash
<貴方の悩み解決いたします>
当社は浮気調査、別れさせ工作、離婚工作、復縁工作、縁結び工作、
電話代行、ストーカー撃退、債権回収、特殊調査などを専門に行っている探偵会社です。
以下のような点でお悩みの方はご相談ください。
(1)浮気調査
パートナーが浮気をしているのではないかとご心配の方はご相談ください。
(2)別れさせ、離婚工作
パートナーとの別れ、離婚をお手伝いいたします。
(3)復縁工作、縁結び工作
過去に別れたお相手との復縁や好意ある方との縁結びをお手伝いいたします。
(4)電話代行、ストーカー撃退、債権回収
貴方に代わり電話代行やストーカー撃退を行います。また知人にお金を貸したのに
返してくれないなどの場合は貴方に代わり債権回収を行います。
(5)特殊調査
携帯番号、携帯メールアドレスから住所の調査をいたします。
当社は以上のお仕事において多数の成功実績がございます。
また料金は国内最安値とさせていただきますので、
他社では考えられない激安料金でお仕事をお受けいたします。
[email protected] 全国どこでも出張可能。
まずはメ−ルにてお悩み内容をご相談ください。
まだ残っててよかった。
ほす
保守。
「なぁ、宇治原。」
「何や?」
宇治原はカタカタとパソコンを打ち鳴らしながら、耳をかたむけた。
「次にコッチに入れる人やねんけどさ。」
「あぁ。」
「・・・・この人、どお?」
菅に差し出された写真の人物を見て宇治原はニヤリと笑った。
「・・・・ええな。」
♪〜
「ん?・・・・久馬?」
コンビを解散し、仕事でも全く会わなくなった元相方からの突然の電話に後藤は首をかしげた。
「はい。もしもし、何?」
ーお前、変な石渡されてへんか?ー
そう後藤に聞く久馬の声にはどこか緊迫感があった。
「へ?石って何?どういう石?」
ー持ってないんやったら、ええわ。ー
「何の事?話がわからんのやけど?」
疑問を発する後藤に久馬は念を押すように言った。
ーええか?誰かに石
コンコン
「ごめん。誰かきたみたいや。その・・・石の話はまた今度な。」
ーあ、ちょっと、ごと。ー
このときの久馬の慌てように後藤は気付かなかった。そして電話をきり、ドアを開けた。
「・・・・なんや、ロザンか。どないしてん?」
「はい。実は後藤さんにお話があって。」
「入ってもええですか?」
「あぁ、別にかまへんよ。」
彼はロザンを部屋に入れた。・・・・それが大きな誤算とも知らず。
すいません。挨拶抜けました。したらばからやってきました。
◆LsTzc7SPd2さんのザ・プラン9編・ロザン編をベースにさせてもらった話です。
「後藤さんに渡したいものがあって。」
「何?」
「これです。」
後藤に差し出されたのは黄色い石。だが少し、くすんでいる。
「石?」
後藤の頭には疑問ばかりが浮かんでいた。
「はい」
「そういえば、さっき電話で久馬が石がどうのって言うてたなぁ。これ何の石?」
「「え・・・?」」
二人は先をこされたか。と唇をかんだ。
しかし、こんなことで宇治原はひるまない。
「なんていってました?」
「いや、なんか変な石もらわんかったか?って聞かれたわ。」
ならば。と宇治原は薄く笑った。まだきちんとした存在を知らないのであれば・・・・いける。
「これ。お守りなんですよ、きっと久馬さんもこれを後藤さんに薦めようとして・・・。」
「そんな感じやなかったけどなぁ。」
しぶとい後藤に宇治原は最終手段を使った。
「実はですね・・・・」
宇治原は今起きているこの石の騒動を簡潔に後藤に話した。もちろん、自分たちに都合の良いように。
「じゃあ、久馬は・・・・。」
「はい。後藤さんをそっちに引き込もうとしてるんですよ。」
「そんな・・・久馬が・・・。」
後藤は困惑の表情を浮かべた。そして宇治原は成功を確信して言葉を放った。
「ですから、この石を持って僕らと一緒に戦いましょう。」
「・・・せやな。」
後藤はまだ状況が飲み込めないようで心許ない返事だったが宇治原が引き込むのに成功したのには変わりなかった。
「よろしく、お願いしますね。」
菅が後藤に石を手渡した。
「あぁ。頑張るわ。それで久馬が救えるなら・・・。」
後藤は強くその石を握り締めた。
「急にすいませんでした。」
「あぁ、ええよ。なんかお前ら二人じゃ大変そうやしな。」
「では、失礼します。」
「あぁ。」
そして二人は部屋を出た。
「こんなに簡単にひっかかるとは・・・予想外やな。」
「俺は予想通りや。あの二人が今でも仲ええのは有名やからな。」
菅は楽しそうに笑った。
「ありがとな。」
「何言うてんねん。後藤さんなんて単なる通過点、やろ?」
「せやな。」
今度は二人でこれから起きる出来事を想像しながら、より一層楽しそうにわらった。
♪〜
「ん?」
菅の携帯に電話がかかってきた。
「誰?」
「後藤さんや。・・・はい、もしもし。」
ーあぁ、菅か?どないしよ!久馬からさっき電話があったんや!−
「え?久馬さんから?」
その言葉に宇治原は動きを止めた。
「なんやと・・・?」
「久馬さんはなんて?」
ーそれが・・・さっきの続きやってんけど・・・ごめん・・・整理がつかん・・・。−
「あかんなぁ・・・。後藤さんもう混乱してもうてる。今能力使われても困るし・・・。」
菅は電話口を遠ざけ宇治原に助けを求めた。すると宇治原は何かを思いついたようで菅にこう言った。
「・・・・ええ考えがある。電話貸せ。」
菅は宇治原に電話を渡した
「もしもし。俺です。宇治原です。」
ーあぁ・・・。宇治原か・・・。なぁ、どないしよ・・・。ー
後藤は頭を抱えているのがわかるような悩ましげな声を発していた。
「落ち着いて聞いてくださいね。いいですか?取りあえず、久馬さんと二人で会う約束してもらえますか?」
ーあ、あぁ・・・。それで・・・?ー
「それだけです。あとは何とかなりますから。」
ー・・・・わかった。じゃあな。ー
それだけという言葉に、後藤は疑問を感じていたようだったが、電話は切れた。
「・・・・そういうつもりなら、こっちにだって考えがあんねや。」
「何?教えてや。」
「見てればわかる。さ、行こか。」
「なんや楽しみやな〜。」
そして後藤は久馬を呼び出していた。
「どないしたん?急に呼び出したりして?」
「あぁ。ちょっと用があるんや。」
「そうか。なぁ・・・後藤。」
「ん?」
「お前、石持ってるやろ?」
一瞬、後藤は硬直した。
「え。何の事や?」
「黒い石、持ってるやろ?」
「持ってへんって、そういえばこの間もそんな話しとったなぁ。」
「ごまかしたって無駄や。」
鋭い眼光が後藤に向けられた。
「・・・さすがやな。そうや、石は持っとる。」
そして、そこから少し離れた場所に二人はいた。
「え?ばらしてええんか?だって久馬さんは・・・・。」
「計画通りや。もっと久馬さんには後藤さん追い詰めてもらわな。」
菅は反論しなかったが宇治原の考えてる事がわからないらしく、不満げな顔をした。
「なんや。見てわからんの?」
「うん。」
「せやからな・・・」
宇治原は菅に耳打ちした。
「・・・そういう事かいな。」
「この間の浅越さんの事で敏感になっている上に相手が後藤さんと来たら・・・・そうなるのが筋やろ?」
菅は改めて相方の頭の良さに感服し、少し恐ろしく思った。
一方後藤と久馬は緊迫した会話を続けていた。
「久馬、お前が持ってるんは悪の石や。誰にもらったんか知らんけどすぐに捨てた方がええ。」
「それは出来ひんな。」
後藤は必死に久馬を説得した。しかし、それはいとも簡単にかわされてしまった。
「なんでや?」
「俺が持ってるのは悪の石とちゃう。お前が持ってるんが悪の石や。」
「何を言うてんの?」
突然投げつけられた、事実とは異なる話に後藤は苦悶の表情を浮かべた。
「お前その石、宇治原にもらったやろ?」
「だったらなんや。」
「あいつはその石に操られてんねん。」
「・・・何、言うてん?訳わからん・・・。」
またも後藤は混乱し始めた。頭を抱え、その頭の中では必死で自分を正当化していた。
「もう少しや・・・もう少しで・・・・。」
その会話を聞き、宇治原はほくそ笑んだ。
「その石は絶対に使ったらあかん!その石は人間の意識を・・・。」
「待って・・・・頭痛い・・・頭・・・おかしなりそうや・・・。」
後藤は苦しそうにうずくまってしまった。
「後藤・・・!?うっ!!」
辺り一面に黄色い光が放たれると、後藤はふらりと立ち上がった。
「・・・しい。」
「え?」
後藤は久馬を睨みつけ、呟いた。
「俺は・・・正しい。」
そして、後藤は久馬に攻撃をしかけた。
「成功や。」
宇治原は嬉々とした表情で呟いた。
「さすが、宇治原やんな。」
「あぁ。あとは、久馬さんを倒してもらうだけや。」
「残酷やなぁ、お前は。」
菅はクスクスと笑った。
「・・・・褒め言葉か?」
「当たり前やん。」
そして二人で笑った。
「じゃあ、俺らは高みの見物といこか。」
「せやな。」
「後藤!やめろ!」
「うるさい。・・・お前は敵や。正しいんは、俺らや。」
「後藤!」
久馬が必死で叫ぶと久馬の石が光を放った。
「俺、知ってんねんぞ。お前のその石、単体やと何の意味もないんやってなぁ?」
「くっ・・・・。」
「さぁ、おとなしく観念せぇや。」
後藤はニヤリと笑うと、雷をおこした
そしてそれを久馬に放り投げた
「ぐぁ!」
「痛いやろなぁ・・・。どうや?元仲間から受ける攻撃は?」
「っく・・・。」
久馬は見たこともない後藤の表情を見ながら衝撃に耐える事しかできなかった。
「もう一発いくで〜。」
次々に後藤は久馬の身体に雷を放り投げ、その光景を宇治原たちは楽しそうに見つめた。
しかし、10発目で雷が落とされようとした時。
「・・・・っあ!!」
「・・・あ〜ぁ。よけてもうたか。もうちょっとで黒焦げやったのに。」
後藤は至極残念そうな顔をした。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ。」
「もー終わりか?久馬?」
後藤は久馬を見下ろして言った。
「ごと・・・っ。」
久馬は立ち上がろうとするが力が入らないようで再び地面に伏した。
「・・・弱いな、こんなもんかいな。」
そして、最後に蹴りをかますと、後藤は宇治原を呼んだ。
「さ、行くで。」
三人はその場を去った。
「ごとーさん。ぴったりみたいですね。その石。」
「あぁ。」
「その調子でほかの人もお願いしますね。こっちは人数増やしときますんで。」
「あぁ、次に襲うんは・・・」
後藤は膝から崩れた。
「え〜。気ぃ失ってもうた。」
「初めてやったからだいぶ精神力使ってもうたんちゃうん?」
「そっか。でもどうすんの?」
宇治原は久馬の倒れている場所を指して言った。
「あそこに放っておいたら?多分今の事覚えてないやろ。」
「せやね。」
後藤を運ぶと、二人はその場を去った。
「う・・・。あれ、俺?」
目が覚めた後藤は久馬を探した。
「久馬!」
後藤は倒れている久馬に駆け寄った。
そしてその久馬の姿を見て悟った、自分がやったのだと。
しかし、何をしたかは覚えていなかった。
「ごめんな、でもお前を助ける為や。」
後藤の言葉に久馬はうっすらと目を開け、掠れた声で話した。
「ちが・・・おまえ・・・・。」
しかし、その声は後藤に届かない。
「きっとほかの仲間も持ってんのやろ?」
「ごと・・・・やめろ・・・・。」
「お前の石は俺が持ってる。」
後藤は久馬の手から石を取り出した。その石は何故か火傷してしまいそうな程酷く熱い。
「・・・俺が救ったるから。」
こうして、後藤は間違った正義へ一歩を進めた。
終
終了です。
後藤秀樹
アラゴナイト(霰石)
心にたまった負担による心と体の不調を取り去り、心を穏やかにする。
力:混乱を治め、自分に対しての悪に攻撃をしかける。
自分が正しいと思えば思うほどその力は強くなる。
条件:何が正しいのかわからなくなり、混乱した時。
混乱が最大要因なので、使いすぎると頭と心の整理が付かなくなり、所持者が狂う。
そして、混乱の原因は戦いの後にすぐ忘れる。戦いにおいて、それが混乱をよぶから。
入り切る文字数がわからなかったので極端に改行ない・数が多くなってしまいました。
読みにくかったらすいません。
337 :
名無しさん@板分割議論中:2007/02/18(日) 17:45:28
あげ
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
面白かったです!
後藤混乱してますね〜。かき回してくれそうなので期待です。
ロザンもますます冷徹で今後どうなるのかちょっと気になりますね。
次回はもう少し落ち着いて投下して下さいね。
GJでした!またお願いします!
新作投下乙です!
新作キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
投下乙です!待ってました!
後藤さんもプランもロザンも好きなのでワクワクしました。
以前◆LsTzc7SPd2さんが書いて下さったプラン編ロザン編も読み返してしまいました。
続き楽しみにさせていただきます。
てゆーか、したらばの不思議スレがなくなりましたよね?
ありますよ
したらばの不思議スレページはあるんだけど、スレが全部消えてる?
344 :
343:2007/02/21(水) 00:18:56
連投スマソ
PC番版はちゃんと残ってる。携帯版のスレが消えてるぽい
私もスレだけ消えてます…。
検索だけが表示されてそこにスレ名いれると、スレ出るんだけど″1-″を押しても1以降の書き込みが見れない…
携帯から見れないの、なんでだろうね?
ほしゅ
>>288-290 の続き
【22:13 渋谷・センター街】
不意に視界が白く染まり、続いて何か巨大な物がぶち当たったかのような衝撃が全身に走って。
平井と松丘はそろって抗う事もできずに、それぞれ路上にはね飛ばされた。
「………。」
身体を起こせば、すぐそばに威圧感のあるビルの姿がそびえているのが分かる。
あと1mほど飛ばされていたら、このビルの壁面に激突していただろうか。
「…危なかった。」
声に出さずに呟いて、松丘は痛みを誤魔化すかのように薄く苦笑いを浮かべた。
――『今』は盾になるモノはないンやから、あちらさんの攻撃を受ける時は慎重にやらなアカンな。
スケッチブックを携えていた『昔』の時の癖か、無意識のうちに腕を前につきだそうとしていた
己のとっさの行動に呆れたようにはぁと息を吐いて。よろりと彼は立ち上がる。
向かいでは平井も起き上がっており、胸元の石を握り締めながら身構えて、
じり、と間合いをつめようとしているようだ。
「………っ!」
しかし、そうはたやすく体勢を整えさせじと『白い悪意』はまた光の帯を左右の両方向に放つ。
タメが少ないながらも煌々ときらめき迫るその悪意に、松丘はまた避ける余裕などないと判断すれば、
今度は忘れずに両腕で胸や顔をガードしつつ光を受け止めようとする。
けれども。
「…ウィー、ガシャン。」
その一方で真っ直ぐに光と『白い悪意』を見据える平井の口から不意に小さな言葉が紡がれたかと思うと、
光の軌跡を見切ったかのように、彼は最小限の動きで『白い悪意』の一撃を避けてみせた。
標的を失った光の帯はビルの壁に弾けとび、振動する空気が風になって平井の髪を揺らす。
「ちっ…片方は仕留め損なったか。」
立て続けに光の衝撃を受けた松丘がゆっくりと崩れるように倒れる様をちらと横目で確認し、『白い悪意』は
平井の方を向いて吐き捨てるように呟く。
「まぁ、といっても少しだけ先伸ばしになっただけか。」
「…何が先延ばしになったって?」
こちらも口元を歪ませる『白い悪意』ごしに松丘の姿をみやり、軽く息を吐いて。
平井は凛々とした鋭い眼差しと共に問い掛ける。
「わかっている癖に。」
嘲るような一言と同時に『白い悪意』は両手を平井の方に向け、光を放った。
「お前が地面にのたうち回る、だよ!」
「……ウィー、ガシャン。」
咆哮するような『白い悪意』の裂帛。
彼の破壊衝動そのままに襲い来る白い光を前に、平井の唇が再び微かに上下したかと思うと、
彼の足はアスファルトを蹴りあげて、小柄な体躯が路上を跳ねた。
「…ウィー、ウィー、ガシャン。」
普段ならネタ中にて紡がれる、彼らが口にするこの異音には、実は機械が発する音という意味合いがある。
その音を発している内は自分達は機械。機械だから互いに合体し、新しい意味と力を得る。
そう己の右脳に言い聞かせ、一歩間違えば大惨事にもなるだろう自分らのパフォーマンスを成功させるべく
集中力を高める自己暗示を施すための一種の儀式。
平井の中で、目の前の威圧感と悪意、そして光がもたらす痛みに対する恐怖は消え去ってはいない。
けれどもいつもの言葉を繰り返し口にしている内に、いくらかは冷静さが戻ってくる。
「随分単調だな。ビルから落ちる時に力を使い果たしたかい?」
さすがにそんな挑発の言葉を発する余裕はなかったけれど、迫り来るのはそう口にしたくもなるぐらい、真っ直ぐに放たれる光。
再び周囲に白い輝きが弾けて満ちる。
しかしそれが夜の闇の前に薄れ、クリアになった『白い悪意』の視界に平井の姿はなかった。
「………っ?!」
「もぉらったぁっ!」
どこへ消えた? 思わずフードの下で『白い悪意』が目を見張ると同時に、平井の声が高らかに響く。
その声が発されたのは…『白い悪意』の背後。
光が視界を覆っている隙をついて回り込み、振り向く『白い悪意』の懐に今にも潜り込まんとばかりに
接近していた平井が石を握り締めていた手を放せば、気配を殺していた鬱憤を晴らすかのごとく、
首飾りにあしらわれたダルメシアンジャスパーは眩い光を放つ。
「……………。」
間近で迸る石の気迫に当てられたか、『白い悪意』の動きが止まったほんの数秒。
けれどもその間に平井は石から放した手で『白い悪意』の腕を掴まえ、素早くしかし正確に『白い悪意』の
太股を踏み台にして肩口へとよじ登る。
そのまま流れるように両手両足を『白い悪意』に絡め、『白い悪意』にしがみつく平井自身の体勢を安定させれば、
そこにはいつものイヌがニャーと泣いた日のコントで見るような人体オブジェが完成していた。
しかし、このオブジェはいつもの合体技とは少し…いや、だいぶ違う。
絡みつく平井の腕は『白い悪意』の喉を締め上げ、彼のフードの下から覗く下頬や首の皮膚が徐々に変色していくのだ。
ネタで魅せる合体技を、他人の身体に組み付く技術を磨く最中でどうしても避けられないのが失敗。
これまで一体何度平井は宿野部や山内、そして中岸を絞め落としかけたことだろうか。
あるいは逆に関節を決められ悶絶させられたことだろうか。
「……禁じ手だけど…四の五の言ってられねーし、な!」
つまり。そうどこか自己弁護のように声にならない呟きを漏らしつつ平井が現在行っているのは、
身体と記憶に染み付いている『やってはならない合体技』。
総合格闘技やプロレスでのそれに比べれば、絞め技としては無駄な動作が多いけれども。
それでもこのまま体勢を維持し続ければ、さすがに『白い悪意』といえども失神するに違いない。
後はそこまで数秒か、数十秒か平井が我慢するだけ…だったのだけれども。
『……馬鹿にしては考えたよう、だが。』
呼吸もままならないはずの『白い悪意』の声が平井の耳に届く。
「………っ!?」
『一つだけお前は勘違いをしている。』
気のせいにしてははっきりと聞こえた声に、思わず目を見張る平井に続けて『白い悪意』は口にすると
無造作にそして強引に身体を揺すってみせた。
「………なっ!」
ギリギリの所で辛うじてバランスを保っていたところでの唐突な『白い悪意』の動きに、平井は体勢を崩し、
アスファルトの上に投げ出される。
叩きつけられ、むき出しになった腕を擦る痛みよりも何故…という驚きの方が勝り、平井はくっと『白い悪意』を見上げた。
そして彼は息を呑む。
『この芸人を失神させれば勝てると思ったのだろうが…私を忘れて貰っては困る。』
そう平井に告げる『白い悪意』の口からは泡状のモノが漏れており、禁じ手は通用していたのだと伺えた。
けれども顔色を変色させながらも『白い悪意』は平然とその場に佇んでおり、右手を自身の胸にやると
白い光がパッと放たれる。
ドクンと空気が震える気配と同時に『白い悪意』はごほ、と泡混じりの空気の固まりを吐き出した。
『この通り、私の力だけでもこいつを動かすことはたやすいのだよ。』
失神すれすれから解放され、ごほごほと無様にむせ返る『白い悪意』に対し、平然と告げられる声の響き。
「……………。」
まるで『白い悪意』が二人存在するかのような妙な違和感に、平井の喉仏が上下に揺れた。
いや、実際に二つ『白い悪意』は存在するのだ。目の前のパーカーの男と、彼の持つ石と。
だとすれば二度目の禁じ手は通じそうもない。ダルメシアンジャスパーの力で衰弱させる戦法も難しいだろう。
それなのに。平井の表情に、凛々と輝く瞳に絶望の色は浮かんでいない。
ゆっくりと、さもそうする事が当然のように立ち上がる平井に、パーカーの男の奥歯がギリと鳴った。
『全てはこいつの願いを叶えるため、私の願いを果たすため…さぁ、今度こそ絶望し消え失せろ、芸に……
己の身体の呼吸が落ち着くのを待つのももどかしいか、そう言い放って『白い悪意』が平井に向けて
両手を突き出そうとした、その時。
「…そこまでや。」
彼の右の足首が何かに掴まれ、そんな声が地面から聞こえてきたかと思うと
パーカーの男の身体の動きは不可視の何かに阻害され、持ち上げようとした腕は中途半端な位置に止まる。
「これでエエんよな、サーペンティン……『無駄な抵抗は止めて、大人しくせぇ!』」
再び足元から声が…先ほど地面に倒れ、ノーマークになっていた松丘の声が上がった瞬間、
足首を掴む彼の手を通じてパーカーの男の全身をサーペンティンの緑色の輝きが駆け抜けた。
※ この話は2005年8月を舞台に想定して書かれた物です。
ようやく延々続いてた小競り合いも終わりが見えてきた感じです。
飛び道具でバトルシーンを誤魔化す癖はなかなか直らないものですね…。
ekt氏キタ――(゚∀゚)――!!
超乙です!クライマックスにwktk
来た来た来た!乙です!
板移転してたのか。落ちたかと思ってドキッとした。
乙。
hosyu
続き、投下します。今度はプラン9がメインです。
「え・・・?」
信じられない話に鈴木は驚く事しかできなかった。
「もう一度言ってもらえませんか?」
半ば冷静を失った浅越が問う。
「・・・あいつらは、後藤を仲間に引き込みよったんや。」
怒気を含めた口調で久馬は答えた。
「僕が・・・僕が宇治原に、渡しさえしなけば・・・。」
「お前のせいとちゃう。あの石の力に魅了されたあいつらがやった事や。」
浅越を励ますようになだぎが言った。
「でもその原因は・・・」
「言わんでええ。」
浅越の言葉を久馬が遮った。
「石に操られたあいつらを止める事ができんかった俺にも責任がある。」
「・・・・・」
「でも、一つ厄介な事があってな・・・。」
久馬はさらに険しい顔をした。
「なんですか?」
「後藤は、この事実を知らん。」
久馬の意味不明な発言に4人は首をかしげた。
「・・・どういう事や?」
「後藤は・・・誤った知識を植え付けられたんです。・・・宇治原たちに。」
「この今の出来事を誤って・・・まさか!」
「そうです。あいつらやのうて俺達が悪やって、思うてるんです。」
4人は絶句した。同時にこれから起こる出来事を嫌でも想像してしまった。
「俺の石は、後藤に取られてもうて力になれないですけど・・・。」
「平気や。」
なだぎが力強く答えた。
「俺らはお前の仲間や。お前が駄目でも俺らが何とかする!」
なだぎの言葉に3人が頷いた。
「ありがとうござ・・・」
「その言葉は後にとっとけ。」
「・・・はい。」
早速4人は作戦を立て始めた。
「しょーもな。」
誰かが彼らのいる建物の外で呟いた。耳には小型のイヤホンをしている。
「アホやなぁ。先輩方は。」
そこにいたのは菅だった。どうやら中の声を盗聴しているらしい。
「こっちには仲間がおるちゅーの。」
どうやら仲間というのは宇治原と後藤だけではないらしい。
「発動まではまだ時間ある・・・な。楽しみやわ〜。さて、帰るか。」
謎の言葉を残して菅はその場を去った。
その頃、一番年下のギブソンはある事に悩んでいた。
それは、時折ぼーっとしてるのか、はっと気がつくとそれまでの事を覚えていないのだ。
まさか、と思い心配になった。しかし、今は後藤の事が優先。
これは自分で何とかしようと誰にも言わなかった。
「・・・おーい?ギブソン?」
鈴木が心配気に尋ねる。
「・・・あっ、すいません!」
「どないしたん?最近なんかおかしいで?」
「何でもないです。・・・っ!」
ギブソンの体に鋭い物が走った。そしてギブソンは鈴木を突き飛ばした。
「うわっ!・・・っにすんねん!」
そして彼らしくない表情で口元を歪めながら言った。
「愚かな奴らだ。正義は我々だと言うのに・・・。」
その言葉に全員が凍りついた。この言葉の意味は、今の状況からしてただ一つだからだ。
「お前・・・まさか・・・!」
彼はふっ、とまた口元を歪めると力無く倒れた。
「ギブソン!」
「・・・あれ、俺・・・今・・・?」
駆け寄った鈴木がギブソンのポケットを探った。するとなぜか2つの感触がある。
「・・・これは!」
取り出してみて、鈴木は落胆した。最も出て欲しくないものがそこにあったからだ。
「どないしたんや?」
鈴木は久馬に苦々しい声で答えた。
「石が・・・黒い石があるんです・・・。」
「・・・発動したみたいやな。」
菅はイヤホンから聞こえた朗報ににやついた。
「そうか。これで一人は消えたも同然。」
「どういう事や・・・?消えたも・・・同然?」
欝陶しかったがまた発動されても迷惑なので、宇治原は後藤に話した。
「喜んで下さい。ギブソンがまもなくこっちにきます。」
「そうなん?」
「ええ。」
「よかった・・・。これで・・・。」
後藤は満面の笑顔を浮かべた。それにつられて宇治原も笑った。
もちろん、それはこれから徐々に割れていく彼らを想像して、だが。
「・・・なんで持ってるん?」
鈴木は静かに怒りを燃やしながら聞いた。
「・・・え?」
「何でこれがここにあるんか聞いてんねん!」
目の前に突き出されたものにギブソンは言葉を失った。
「・・・なぁ、なんでなん?」
「わからないです・・・。」
その言葉で鈴木は怒りを増幅させた。
「知らん訳ないやろ?」
「本当に知らないんです!何でこんな所にあるのか・・・」
「そうか、わかったわ・・・・。」
鈴木は少し自嘲的に笑った。
「裏切ったんか。」
その声の冷酷さにギブソンは凍りついた。
「おい、鈴木!何言うてんねん、落ち着け!」
「なだぎさん。・・・落ち着いとって、こいつがほんまに裏切り者やったらどないするんですか?」
なだぎは何も返す言葉が出なかった。
「今すぐ出てけ・・・裏切り者。」
鈴木がそう言い放つとギブソンは鈴木の手から黒い石を奪い去り出ていってしまった。止める声も聞かずに。
「・・・お前何してんねん?」
「何って裏・・・っ!!」
鈍い音が部屋に響いた。
「・・・何するんですか。」
「こんな時に何してんねんて言うとんのや、ボケ!!」
普段温厚な久馬が怒りをあらわにした。
こうして、5人の関係は宇治原たちの思惑通り、崩れ始めた。
終了です。
なんで持ってるかはまた後ほど書きますので。
第十二章――てんしがまいおりるとき――
すぐ後ろに座り込んでいる相方が泣き止んだ事を気配で感じ取ると、山崎は振り向かずに立ち上がった。
「……荷物取ってくるわ。あんたも上に置きっ放しやろ? ついでに持ってきたるから」
それだけを告げると、返事を待たずに、背中に生み出した翼を使って飛び上がる。
屋上まで往復できる程度の力はなんとか残っていたし、もう一度非常階段を上るのは流石に遠慮したかった。
着地でふらつきはしたものの、無事に屋上に着くと、隅の方に放ってあった二つの鞄を手に取る。
ふと山里の鞄に目をやり、その端からはみ出している見慣れた携帯電話のストラップに気付いた山崎は、ほんの僅かな苦笑を口元に浮かべた。
この石の力を使えばもっと有利に事を運べただろうに、彼はそうしなかった。
口では色々言いつつも妙な騎士道精神を発揮したのか、それとも、心の奥にあった迷いのせいか。
紐の先でゆらゆらと揺れている青い石を掌の上に乗せると、青空の色をした石はまるで礼を言うかのようにキラリと光った。
その、濁りのない輝きに、思わず安堵の溜息が漏れた。
念の為に浄化の能力者に見せた方がいいだろうが、恐らく今日のところは大丈夫だ。
ストラップから手を離した山崎は、腕時計に目をやる。
特に終電の時間などを気にする必要はない。ただでさえ人並み以上の身長のせいで目立つ上に、この破れ目だらけの服では、電車に乗れるはずもないのだから。
ただ、少し時間を潰してから下に戻った方がいいだろう。
相方も、泣き止んだばかりでくちゃぐちゃの顔は見られたくはないだろうし、こちらの精神衛生にも良くない。
待っている間煙草でも吸おうかとパーカーを探ってみると、左のポケットに突っ込んでいた煙草の箱はポケットごと見事に真っ二つに切り裂かれていて、山崎は眉を顰めてその残骸を握り潰した。
先程まで感じていたのとは違う、もうすっかり慣れてしまった微かな苛立ちが、心の奥を占めていく。
自分が山里に対して感じている不快感に、ある種の同属嫌悪が含まれている事は、とっくに理解していた。
面と向かって指摘した事はないが、自分達は、ほんの少し似た部分を持っている。
少々一般的な人間とは違う外見の事ではなくて――心の奥底に抱え込んだ、濃密な闇の気配が。
自分に似ているから――だからこそ、彼が心を閉ざす事が許せない。
もちろん、それがこちらの勝手な思いだという事は理解している。
きっとこれからも、相方は変わらず本心を隠そうとするだろう。抱え込んだものに、押し潰されるまで。
腹立たしいとは思うけれど、それはそれで構わないとも思う。
いざとなったら彼の心の扉など問答無用で蹴り破って、その手を掴んで引き摺り出してみせる。
――少なくともまだ、見捨てるつもりにはなれないようだから。
そんな自分自身の思考に、次の瞬間酷い胸焼けを起こしたような気分になって、山崎は眉間に皺を寄せた。
手持ち無沙汰になって、再び腕時計に目をやる。自分が屋上に上がってから、およそ五分。
そろそろ戻っても大丈夫だろう。これだけ経ってもまだめそめそしているようなら、もう一度ぶん殴られても文句は言えないはずだ。
目を眇めて雲の多い空を見上げた山崎は、その背中に生み出した翼を羽ばたかせ、コンクリートの床を軽く蹴った。
なかなか戻ってこない相方を待ちながら、山里はぼんやりと雲の流れを眺めていた。
流石にもう涙は止まっているが、目の辺りが腫れぼったい。
どうしようもない瞼の重さと脇腹の鈍い痛みに辟易しながら、屋上のフェンスの辺りに視線を移す。
相方が屋上へ向かってから、もう五分は経っているだろう。鞄二つ持ってくるだけにしては、時間が掛かり過ぎている。
もしかして、気を使ってくれているのだろうか。
ちくりと胸を刺す痛みに、眉を寄せる。
全てを許すと言外に告げた彼女の言葉に、救われたのは確かだ。けれど、自分自身を許し切る事は、まだ出来そうにない。
「…………」
息苦しさに目を伏せようとした、その瞬間――視界の隅に、大きな影が浮かんだ。
深い藍色を含んだ空に、細く欠けた月が淡い光を放っている。
その弱い光にぼんやりと浮かぶ、身の丈程もある翼を広げ舞い降りてくる影。
月光を浴びて微かに輝くその白さに、少しの眩しさを感じて、目を細める。
――けれど、あの胸を焦がすような痛みや苛立ちは、不思議と感じなかった。
終章――はるのあしおと――
「――てっ!」
数秒、絵画じみた光景に思わず見入っていた山里は、目の前に降り立った彼女にぱちんと額を叩かれて、ようやく我に返った。
「アホ面」
いつもどおりのぶっきらぼうな口調でぼそりと言いながら、相方は押し付けるように鞄を渡してくる。
「……そこで殴る意味が分かんない……」
「あんな、あんまこっち向かんといて」
思わず漏れたぼやきをあっさり無視した相方の言葉に、山里はぽかんと口を開けた。
「……は?」
山崎ほんの数ミリ、口の端を上げた。
その表情は、呆れる程に今までと変わらない。
「目の辺り、腫れてていつも以上にキモい」
決して近付く事はない。けれど、離れる事もない。
そんな平行線のように、もうしばらくはこのままでいられると。
数秒、なんとも間抜けな表情で固まっていた山里は、一瞬、真っ赤に泣き腫らした目に何やらごちゃごちゃとした感情を浮かべ――。
「……だからさ、『言葉は凶器だ』って常々言ってるでしょ?」
すっかりセットの乱れた髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、泣き笑いのような表情を浮かべた。
――こうして、もとのやさしいおとこのこにもどったカイは――
「――アホらし……」
昨日、一瞬でも御伽話に自分を重ねた事が、今は馬鹿らしく思えた。
お話のように、都合良く誰かが全てを解決してくれたりはしない。
童話に出てきそうな不可思議な力だけは、自分たちの周りに確かに存在しているけれど――あくまで結末は、それぞれの手に委ねられているのだ。
「……なんか言うた?」
「あ、いや、こっちの話」
一瞬訝しげに眉を寄せたあと、山崎はいかにも面倒そうに軽く溜息をつく。
「もう帰るけど」
「あ……あぁ。それじゃ」
「――また明日」
さっさとこちらに背を向けた相方が、何気なく放ったその一言。
その言葉自体は、ごくごく当たり前なものなのだけど。
「……うん。また、明日」
なぜだかまた泣き出したくなってくるのを必死で堪えながら、山里は精一杯の笑顔でその一言を返した。
全ては夜空に浮かぶ欠けた月だけが見つめていた、物語の終わり。
こうして冬は終わり、雪が解け。
そして、いずれは――春が、来る。
前回トリップ変えるといいましたが、とりあえず今回まではこのままで。
そして、作中時間から丸二年(書き始めてから約一年半)経過して、
ようやく最後まで辿りつく事が出来ました。
本当はおしずさんの誕生日の翌日辺りに投下したかったんですが
(作中時期がしずちゃんの誕生日の翌日〜1週間以内なので)
とりあえず冬が終わるまでに完結できてほっとしています。
一回目辺りを今読み直すと凄まじく恥ずかしいんですけどねorz
この長いお話を最後まで読んでくださった方に、心から感謝します。
プラン編、南キャン編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
◆8Y4t9xw7Nwさん、完結お疲れ様でした!
◆8Y4t9xw7Nwさんお疲れ様でした!
いいわぁ(ノД`)
お疲れさんでした。
◆8Y4t9xw7Nwさん、完結お疲れ様でした。
この話を読んでいると春が待ち遠しくなりますね。
◆UD94TzLZIIさん、◆8Y4t9xw7Nwさん乙です!
>>◆UD94TzLZIIさん
ロザンの黒さがよかです!
続き楽しみにしてます!
>>◆8Y4t9xw7Nwさん
完結おめでとうございます。
男前なしずさんが好きです!
◆8Y4t9xw7Nwさんが書く南キャン編心理描写がうますぎ。
毎回楽しみにしてました。お疲れ様です
>>◆8Y4t9xw7Nw
完結乙です。
すごく良かったです。ほんのり感動しました。
初投下から読ませていただいてたので感慨ひとしおです。
ありがとうございました。
>>◆UD94TzLZII
乙です。ん〜面白くなってきましたね。
どうなるんでしょうか。続き楽しみです。
お待ちしております!
保守
したらばに書き込みが出来ないよーな。。。
保守
保守
ほす
380 :
名無しさん:2007/03/03(土) 22:56:25
保守あげ
乗り遅れたけど南海編完結お疲れ様です!
ずっと楽しみに待ってました
◆8Y4t9xw7Nwさんのおかげで、ますます南海が好きになりました
保守。
ほしゅ
…ほしゅ
保守
ほす。
……ほしゅ
保守
保守。
保守
391 :
名無しさん:2007/03/12(月) 22:14:48
今更ながらこの小説、タイトルついてなかったですよね。
私なりに考えたんですが、巡る石という感じで「STONE OF SPIRAL」というのはどうでしょうか?
私が勝手に言っている事ですので、気に入らなければスルーして下さっても結構です。
ん?まとめで「後藤秀樹編」てなってる話のこと?
393 :
名無しさん:2007/03/13(火) 00:06:37
後藤編に限らず、「もし芸人に不思議な力があったら」そのもののタイトルのことです。
>>391 言いたいことは何となく分かる!
ただ、まだ話を完結させる体制ではないので、もう少し待ってくれ!
396 :
名無しさん:2007/03/13(火) 22:28:00
分かりました。ありがとうございます
あと、今度からメールアドレス欄に必ず半角英字で「sage」と入れてね。
ほしゅ
ほす。
4 0 0
保守
続き投下します。
「はぁっ、はぁっ・・・」
ギブソンは無我夢中で走ってきた。もちろん、その手には黒い石が握られていた。
「・・・なんで、こんなもの・・・」
ギブソンは悔しさと怒りでいっぱいだった。勝手に裏切り者にされた事、
話しを聞いてくれなかった事。・・・この石を捨てられない事。
砕こうとすればいつでも砕けるはずなのにその気が起きない事。
「くそ・・・っ。こんなもの・・・!」
腕を振り上げ地面に叩きつけようとした瞬間。
「・・・っ!」
ギブソンの頭に鋭い痛みが走った。
「・・・っんや、これ・・・っ」
「大丈夫?」
突然聞こえた声に驚きながらもギブソンは返事を返した。
「あ・・・大丈夫です・・・」
声のする方を向くとそこにいたのは・・・。
「・・・後藤さん?」
にっこりと笑った後藤だった。その笑顔にギブソンは警戒する事を忘れてしまった。
「大丈夫か?」
「はい・・・」
まだ痛みは残るがさっきよりはましになった頭を持ち上げ、ギブソンは後藤の顔を見た。
「・・・なんでここに?」
「・・・まぁね。いろいろ」
その時、ギブソンの手の中にある石が熱くなった。
「熱・・・っ」
「・・・熱いか?」
熱い、と感じながらもギブソンはその石を手放せなかった。
「どんどん熱くなって・・・うわ・・・っ!」
ニヤリと後藤は笑った。
「くそ・・・っ、なん・・・で、俺は・・・」
「・・・我慢は良くないで?はよ楽になりたいやろ?」
ギブソンの目の前にいたのは彼の知ってる後藤ではなく、石の力に操られた後藤だった。
「・・・っ、うっ・・・ぐ・・・」
「苦しいやろ?この力に身をまかせればええんや」
息も絶え絶えに言葉を続けるギブソンを後藤は可哀想にという目で見つめた。
「はぁっ・・・あ・・・」
ギブソンの目から闘志が消え始めた。
「ええ子や。そう・・・そのまま・・・」
後藤はそっとギブソンのポケットに手をのばした。ギブソンの持つ石を捻り潰すために。
「よし・・・っ!」
間一髪のところでギブソンの攻撃を避けた。
「あちゃぁ・・・失敗、してもうた・・・」
「石の力に抗う気か?大層なもんやな」
「ええ・・・僕、らは・・・貴方、を救わ・・・なきゃ、いけないん・・・でね」
ギブソンははぁ・・・っと辛そうに息を吐きながら、その目に再び闘志を燃え上がらせた。
「・・・ほんまに、可哀相な奴や」
そして後藤は雷をおこした。
「お前が仲間になるって聞いてうれしかったのに・・・こんなところでさよならするなんて・・・っ」
ギブソンが後藤に蹴りを入れた。
「無駄な講釈たれんと、はよ攻撃したらどうです?」
いつの間にかギブソンは回復していた。
「・・・まさか!」
「ええ、壊す前に使わせてもらいました」
ギブソンは後藤に黒い石を見せつけ、捻り潰した。
「・・・ふん、一度使ったら終わりや。嫌でも石の力に飲み込まれるぞ」
「僕の事、軽く見すぎとちゃいますか?そんなの勝って見せますよ」
そして、ギブソンの石が光を放った。
「若いってのはええなぁ。無茶できて」
後藤は肩をすくめた。
「っらぁ!!」
後藤はギブソンに突っ込んでいった。
「・・・さすが、久馬さんを負かしただけの事はありますね」
ギブソンの挑発に後藤は薄く笑った。
「その石防御しかでけへんのやろ?ずっと守りっぱなしか?」
「まぁ、そうですけどね」
「じゃあ精々防御しぃや」
「・・・僕は、久馬さんみたいに優しないですよ?」
「それは良かった。あいつはつまらんかったからな」
後藤はニヤリと笑った。
「楽しませてくれや」
後藤が攻撃をしかければギブソンの石の力で防御され、跳ね返される。
かと言ってギブソンの攻撃は微力なものでさほどのダメージにはならない。
戦いは進展を見せない・・・かに見えたのだが・・・。
「ぐぁっ・・・!」
突然、後藤が膝をついた。
「どないしはったんですか?・・・急に」
「何って・・・お前・・・!」
後藤はギブソンの周りにある濁ったものに顔を顰めた。
「あぁ・・・。なんででしょうね?なんか力が湧いてくるんですわ」
「飲み込まれ始めたか・・・」
「・・・楽しませてくれないんですか?後藤さん」
頭でわかっていても、ギブソンの笑みに後藤はわずかだが、恐怖を感じた。
「ギブソン!!」
「え・・・?」
その声にギブソンの動きが止まる。
「お仲間さんの登場って訳かい・・・」
「なんで・・・?僕の事・・・追ってくるんですか?」
ギブソンは目の前にある光景が信じられなかった。
裏切り者と言われて追い出されたのに、目の前には・・・。
「久馬がな、鈴木にがつーんと怒ったったんや」
「え・・・久馬さんが?」
「せや。こんな大事な時に何してんねん!ってな」
その話は普段の久馬から想像するに、到底信じられるものではなかった。
「・・・・・」
「大丈夫や、もう鈴木も許してくれる。お前が自ら黒い石を持ってるなんて思うてない」
優しく久馬が語りかけるとギブソンの周りの濁ったものが消え失せ、同時にギブソンは安心して、張り詰めていた力が抜け、
腰を抜かしたように膝から崩れた。
「素晴らしきユニット愛、か。・・・なぁ?久馬」
後藤が久馬を睨みつける。
「そうや。・・・後藤」
久馬も後藤を睨みつける。
「これから覚悟するんやな」
「はん。何にもでけへん奴が」
後藤は久馬を鼻で笑った。
「俺だけとちゃう。全員の力を結集してお前に攻撃をしかけんで」
「・・・勝つのは俺や」
後藤はニヤリと笑った。
「・・・お前を救ったるからな。待っとけよ」
久馬は後藤とすれ違いざまに小さい声でそう言い、去っていった。
「・・・やれるもんならやってみぃ」
そして後藤もその場を去った。
「どうでした?ギブソンの様子?」
結果を待ちきれなかった菅が瞳を輝かせて聞いた。
「どうもこうも途中で久馬達が来て台なしや」
がっくりと肩を落とす菅。その横で宇治原がうんざりしたように言った。
「・・・しぶとい人やなぁ。ほんまにもう」
「なぁ・・・説明してもらわなあかん事が一個あんねん」
後藤の冷たい声に一瞬、宇治原は身を固くしたがすぐに切り換え、答えた。
「何ですか?言ってみて下さい」
「ギブソンに何持たせた?あの雰囲気、あの感じは尋常やなかった」
「僕らと同じ石ですよ」
宇治原はやんわりと答えた。
「嘘つけ!!」
机を叩き、後藤が叫んだ。
「あの感じは・・・あいつは、俺の知ってるあいつとちゃうかった!」
「悪の石の力に決まっとるやないですか」
先ほどの後藤の声に劣らぬ冷たい声で宇治原は言った。
「はぁ?なんでお前がそれ持ってんねん?」
「あ〜もう、欝陶しいなぁ!」
黙っていた菅が苛立しげに声を張り上げた。
「なんやねん、その言い方は!」
後藤が菅を睨みつけた。
「こんなに役に立たへんとは思わなかったわ。そら俺が紹介した人や、あの人ら
潰すにはええかも知らんと思うたよ、でもな、いちいち質問するわ、すぐ混乱す
るわで欝陶しいったらないねん、もう!!」
菅は後藤への不満を言い切るとはぁと息をついた。
「菅」
宇治原が静かな声でそう言ったあと、鈍い音がした。
「え・・・?」
菅は自分におきた事が判らず、呆然とした。
「戦いに個人的な感情を挟むな。わかったか?」
「あぁ・・・ごめん。感情的になりすぎたわ」
菅はしゅんとして謝った。
「ええねん。そういううっといんはな・・・無くせばええねん」
「どういう事?」
菅が首を傾げた。
「完全に黒に染めたんねん。俺らの完全なる駒にすれば、余計な事も考えんで済
む」
宇治原はにこっと笑った。
「さすが、宇治原や。・・・でもどうやって?」
「簡単なこっちゃ」
宇治原は先ほどとは違う、背筋が寒くなるような笑顔で言った。
「限界まで混乱さすねん。頭がイカれてまうくらいに。そうすればもう戻ってく
るのは不可能や」
「楽しみやなぁ。で、どんな事でさすん?」
「俺とちゃう。混乱させるのは・・・あの人達や」
残酷な方法に菅は思わず生唾を飲んだ。
「自分らのせいで守ろうとした人が狂ってゆく・・・か」
「せや。これで立ち直れない程のダメージを与えたんねん」
菅は最近の宇治原は久馬達を倒すのに躍起になっていて、本来の目的を忘れかけ
ているのではないかと気になっていた。
「宇治原、俺らの目的忘れてへんよな?」
「もちろん。一番になるには邪魔な物は消していかなあかん。せやから、まず久
馬さん達を消さなな」
「う、うん・・・」
何故か納得のできないもやもやしたものが菅の内に湧いていた。
終了です。
少々宇治原が残酷すぎるでしょうか・・・?
>>408 乙です!
言われてみれば宇治原は酷い奴ですが、小説の中くらいは良いのでは?と思ってしまいました。
ロザンが仲間割れしてしまうのではないか、と不安だけど楽しみ。
410 :
名無しさん:2007/03/20(火) 02:40:06
↑マジで?
>>402-408乙です。
やっぱプラン編面白い。久馬さんGJ。
ロザン側に対してプランのメンバーがこれからどう出るか期待してます。
保守
保守
保守
…保守
保守。
…保守
卒アルとか、別れてしまう友人とか、また将来の話が持ち上がった時に、
「ギャグ面白かったよ!面白い芸人になってね!」とかよく言われるけど
まずそのギャグや返しやらの6割方は様々な芸人のネタのパクリであること。
さらにそう言われて「ならないよ!そもそも女なんて不利だし」なんて答えてるけど、
ヲタ芸人の、女だから不利ということはないという発言を信じ
本気でなりたいと思っているということ。
誤爆した
人には言ったことのない秘密スレに書き込もうとしたんだ
スレ汚しごめん。もう一回書き直してくるノシ
422 :
名無しさん:2007/03/30(金) 22:38:20
保守age
保守
うまいこと言うね〜 ホシュ!
保守
保守。
ほ
し
☆
431 :
名無しさん:2007/04/06(金) 11:22:44
エレジョンを面白くして!
森枝と加藤は入れ替わる事が出来る。
それに気付いたのはチャンピオン大会の日だった…
ネタ終了後、いつもよりウケないなと思ったら
そういう意味があったのさ。
だが、森枝が加藤に話を切り出す
森「俺とお前を一生ずっと入れ替えないか?」
加「いいよー受けるんならな」
そして今年のチャンピオン大会は見事優勝を勝ち取ったのだ
めでたしめでたし
432 :
名無しさん:2007/04/06(金) 12:19:22
ワロタ
保守
保守
保守
436 :
名無しさん:2007/04/13(金) 01:25:13
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8830/1174996953/ 吉本芸人@801
49 :風と木の名無しさん:2007/04/11(水) 03:14:49 ID:XHm1yGAsO
今日のムゲソ、徳井が福田を襲ってて萌えたわ。
雰囲気で持っていこうとする下りをやる時、椅子を寄せたら「また?も〜」といいつつ
許す福田に萌えた。
50 :風と木の名無しさん:2007/04/11(水) 03:27:10 ID:fNBktkMcO
>>49!?くくkwsk!
51 :風と木の名無しさん:2007/04/11(水) 04:15:45 ID:XHm1yGAsO
>>50 女の子とエッチする時、「エッチしよ」とか言う?って話の流れで、徳井は何にも言わずに
雰囲気だけでその状況にもってく、と言ったら福田はそんなんうまくいくか?
どんな風にやんねん。と、言って、徳井が椅子を福田に寄せたら、福田は「また?」
(先週も福田を女の子に見立てて、やったから)
といいつつ、彼女役をやる。ソファーに座ってる二人という感じで、
寄り添ってテレビを見ながら会話。そして、突然抱き着いて
襲おうとするが、福には「そんなんじゃいけへんよ!」て言われてたww
56 :風と木の名無しさん:2007/04/11(水) 17:14:43 ID:fNBktkMcO
>>51dd!
そうか、「また?」ってのは彼女役の事だったのか。
てっきり「またこの流れでHするの?」って意味かとw
いくらなんでも簡単すぎだと思わず突っ込んでしまったが
やっぱり福田も「これは無い」と判断したかw徳井ガンガレ!
懲りてねぇなこいつら
437 :
名無しさん:2007/04/13(金) 02:05:14
いいじゃんいいじゃん豆板醤
ほしゅ
439 :
名無しさん:2007/04/16(月) 01:15:28
EじゃんGジャン最高じゃん
腐なんかほっといてやれよ。
そんなことより保守。
へぇ…イカしたフレーズだな
保守
こいつら100%伝説か
なんでこれが、りぼんに載ってたんだろうなぁ
443 :
名無しさん:2007/04/18(水) 05:42:44
444 :
名無しさん:2007/04/18(水) 13:13:07
444
よかった、落ちてなくて。
保守
保守
…私しか保守してないorz
ほしゅ
まとめサイトが見れない
保守。
ホシュ
保守age
ぽしゅ
補佐
ほしゅ
ほしゅ
ほっす
砲手
さっきスマスマで江原さんが、石には念が入りやすいって言ってた!
最近絵板の回転はやいよね><
同じようにお話も期待!
本編投下を期待しつつ保守
保守
保守age
hosu
東MAXのラジオで映画作るからネタ募集してるって
と言ってみるテスト
>>347-350 の続き
【22:17 渋谷・センター街】
「……………。」
サーペンティンから放たれた緑色の輝きが『白い悪意』の全身をスキャンするように走り、
隅々まで行き届いたと同時に今度は逆送して元の石に収まると同時に『白い悪意』の動きは劇的にぴたりと止まった。
中途半端な位置に両腕をもたげたままで、辛うじて何故己が動けずにいるのがわからないとでも言いたげに
小刻みに身体を震わせるぐらい。
しかしそれが、『今』のサーペンティンの能力。
蛇の石の名の通り、かつてパラダイスたるエデンの園に於いてイヴをそそのかし、禁断の果実を食させた蛇のように
手で触れた相手に己の望む行動を一つ取るよう促し、強要させる事が出来るというモノだった。
もっとも松丘自身は覚えてはいないけれど、『昔』の能力もスケッチブックに記した指示を相手に見せ、
その指示に従わせる能力だったため、本質的な所では大きく変わってはいないのだろうけれど。
「たいがぁー、今や!」
『白い悪意』を掴む手は離さぬまま、松丘はゆっくりと身体を起こしながら平井に鋭く呼びかけた。
「俺が動き止めてる間に、石を!」
「…はいっ!」
暴れる石の使い手を止める方法は二つ。石の使い手自身を行動不能にさせるか、使い手から石を奪うかである。
今までは前者の戦い方をしてきた平井だったけれど、失神を狙う攻撃が不発に終わった以上は
後者の石を奪う作戦に切り替えるのは当然であろう。
身体はこれまでの戦いによるダメージで悲鳴を上げているけれど、弾むような声で返答して
平井は『白い悪意』へと近づいた。
両手は白い光を放つのに用いていたからまさか石を握り込んでいるなんて事はないだろう。
ならば自分達のようにアクセサリーにして所持しているのか、あるいはポケットに収まっているか、だろうか。
プロレスの試合前にレフェリーがボディチェックをするかのように、平井はぺたぺたと『白い悪意』に触れ、
石の在処を調べていく。
松丘とサーペンティンによる『白い悪意』の行動の停止もいつまで続けられるかわからない…そう思えば、平井は
急いで『白い悪意』の石を見つけ出さねばならないのだけれど、胸元から腰回り、そしてボトムのケツポケットと
順繰りに調べても、石らしい固形物の感触は感じられなかった。
もう一度ぺたぺたと白いパーカーのポケットや胸元をチェックして、やはり石の気配はない…そう判断した所で。
平井はやおら目の前の『白い悪意』のフードで隠された顔を見上げた。
「…まさか、なぁ。」
思わずそう口にしてはしまったが、ピアスの石が実は…という可能性もある。
意を決し、平井は『白い悪意』のフードに手を掛け、それを一気にまくり上げた。
「……………。」
不思議な力が発揮されているとはいえ、決してまだまだ本調子ではないだろうサーペンティンを何とか煌めかせ、
『白い悪意』の動きを押さえ込んでいる松丘の目の前で『白い悪意』の後頭部、フードの下に隠されていた
サラサラとした茶髪が街灯の明かりの下に露わになる。
…その髪型、その色合い。何だかどこかで見た事があるような。
目に入る光景に、松丘が不意に既視感を覚えた、その瞬間。
「嘘…でしょう?」
ぼそりと漏れ落ちる平井の声が、松丘の耳に届いた。
そうやって驚くだけならともかく、続けて『彼』の名を口にしない方が良かったのかも知れない。
けれど、平井は目の前の人物の名を思わず口にしてしまう。
それにより、石の能力を維持させようとする松丘の集中が見事に途切れる事になったとしても。
その結果、またもや自分達が窮地に陥る事になったとしても。
「あなたは…つぶやき…シロー…さん?」
そう。
もちろんそれは所有者の美的センスの結果ではなく、意思持つ石に寄生されているという現れであるのだろうが、
平井の目の前に立っていた…正確には平井と松丘に挟まれるようにして立っていた『白い悪意』は、
眉間の部分に淡く輝く石を埋め込ませた男、つぶやきシローこと永塚 勤その人だったのだ。
【23:43 渋谷・某病院(ロビー)】
そこまで淡々と語った所で黒髪の語り部は一度口を閉ざす。
酒と煙草と『笑い』という議題さえあれば、喜んで一晩中喋り続けているだろう彼にしては…もっとも内容が内容だけに
仕方がないのだろうけども、らしくない重い口ぶりが続いており、多少滅入る所もあるのかも知れない。
「…ちょっと待ってください。」
俄に沈黙が訪れるロビーの陰鬱な空気を払うかのように、小沢が小さく手を挙げてから口を開いた。
「最初に言いましたよね。『白い悪意』は標準語を喋る男だった、って。
もし『白い悪意』がつぶやきさんってわかってたら、最初っからそうだって言いますよね?」
そんなちょっとした朝まで生テレビ的な仕草を見せる小沢に、語り部たるその人は一瞬驚いたように
その大粒の目を見開き、続いてその目を愛おしむように細めてみせた。
「エエ所に気がついたな。実はあいつらは『白い悪意』がつぶやきやって一言も言ってへん。
せやけど…渡部くんがあいつらの思考と同調しててくれたお陰で、あいつらが伏せてた出来事も拾い起こせたんや。」
口には出さずとも、過去を思い出そうとする時にどうしても脳裏をよぎるイメージ、リフレインする声。
今立の回復魔法による治療を受けつつ状況を語る松丘ら二人の様子を一歩下がって聞いている…様子を装いながら
渡部は密かにその石の力を用いて語られざる出来事、記憶の断片を探っていたのだ。
「単純に信じられれへんかったのか、あるいは『白い悪意』やって明らかにする事でこの一件が片付いた後も
あいつが孤立してしまうのを恐れたか。さすがにそこまでは渡部くんも拾えへんかったみたいやけど、
伏せてたんはその辺りの理由なんちゃうンかな。」
「……甘い、な。」
ボソッと設楽の口から言葉が漏れる。
黒の幹部として物事にあたっている彼からすれば、この対応は甘く生温い事この上ない事だろう。
下手に正体を伏せ続けて現状を続けるよりも、広く公開して警戒を強めつつ、攻撃的な能力の石の持ち主を集め、
彼の自宅や良く立ち寄る場所に送り込んで反撃に打って出た方がよほど良いではないか。
全く、と憮然とする設楽の横で、土田は曖昧に口元に笑みを浮かべて肩をすくめた
「ま、向こうもそう思ってるからこそ、視えたモンをワザワザ教えてくれてるっつー訳だし。」
「…だから、敢えて当事者のあの人に喋らせなかった、という事ですか。」
また、シアターDの時と同じように重要な情報を伏せられる可能性があったから。
半ば強引に怪我人達を追いやった目の前の人の判断にようやく納得がいった、と言った様子で赤岡は呟く。
「……そういう事や。じゃ、ここからは渡部くんの視た情報も混じるけど…話を続けるな。」
まだどこか納得していない様子の井戸田とその隣の重要な情報を聞き漏らすまいと集中している小沢を見やり、
語り部は一つ息を吐いて間をおくと、それからまた淡々と言葉を紡ぎ出した。
【23:43 渋谷・某病院(病室)】
場合によっては、後に運ばれてくる急患を優先してどいて貰うからね、という前置きもありつつ
ここで一晩過ごすようにと指示された病室で。
平井と松丘は各々倒れ込むように寝台に横たわると、寝心地の悪い中で両手両足を伸ばした。
こうやって一息ついてみると、幾ら回復魔法のお世話になったとはいえ身体の節々が痛んでいて
あぁ、自分らは激しく闘ったんだな、と言う実感がわいてくる。
喉が渇いたから、とここまで付き添ってきた中岸に金を持たせて自販機でジュースを買いに行かせれば、
病室は俄に静寂に包まれるけれど。
「…松丘さん?」
「んぁ…?」
白い天井をぼんやり見上げ、視界の隅に脱水症状対策の点滴のパックを捉えながら、平井は隣の松丘に話しかけた。
「良かったんですか? あの人の事、喋らなくて。」
平井が不安げに問いかけるのは、ちょうどロビーで話題になっている人物について。
お願いしてしまうけど…と頼み込んでくる松丘に口裏を合わせる形で渡部達の前では黙ってしまった平井だったが、
それがベストな判断とはやはり思えない。
「…意味、無いと思たから。」
そんな内心が滲む不安げな平井の問いに、松丘はぼそりと短く答えた。
「どうせ伝えても…他の石を持ってるみんなが対策取る頃には…あの石はとっくに宿主を変えてる筈や。」
やったら…黙ってても問題ない。
疲労からかまぶたを中程まで降ろし、しかし天井というよりもどこか虚空を見やりながら松丘は平井に答える。
その口ぶりは重く、先ほどのロビーで見せた態度とは別人のよう。
「確かにそうではありますけどね……」
でも、Dまで駆けつけた渡部達、そして病院に現れた面々の存在と行動力を思えばもう少し周りを信じて良いような気もしますけど。
口に出掛かった後半部分は強引に呑み込んで、平井ははぁと溜息をついた。
先ほどまで二人が戦っていた『白い悪意』の本性は永塚などではなく、主を主と思わない、あまりに万能なる力を
己の復讐のためだけに用いようとする石そのものだったのだから。
※ この話は2005年8月を舞台に想定して書かれた物です。
松丘 慎吾 (鼻エンジンVer.)
石:サーペンティン (蛇紋石。黄色がかった緑の石。「旅人を守る石」)
能力:相手の疲労や肉体的ダメージを自分の身に引き受ける代わりに、相手に一つ思い通りの行動をとらせる。
慢性的な疾患や毒、精神的ダメージは範囲外。
行わせる行動の複雑さや継続時間は引き受けるダメージの量に比例する。
条件:相手の身体に触れていないと能力が発動しない。
当然、自分の限界以上のダメージを引き受ける事は出来ない。
もしかしたら次はしたらば投下になるかも知れません。
それと、当初の予定より展開を色々弄ったせいでタイムテーブルが機能しなくなっているので、
後で全体的に修正するかなかった事にします。
ミンナのテレビ組に一報が入る時刻までバトってるなんてありえないしorz
乙です!ホワイトファントム編待ってました。
ついに白い悪意の正体が周りにバレてしまいましたか。
続きがすごく気になります。
保守
保守
本スレもしたらばも見事に過疎ってるorz
とりあえず今日も保守
保守。
久しぶりに来たら小説が投下されていた!
マジで乙です!&保守
続きが気になる作品がたくさんあるのになー
保守
保守
後藤秀樹編作者です。
新作投下が非常に遅れてしまいすいません。
近日、投下しますので、もう少しお待ち下さい。
487 :
名無しさん:2007/05/22(火) 21:52:45
楽しみにしてます!期待age!
やったー
お待ちしております
保守
>>486後藤編好きなので嬉しいです。楽しみに待ってます。
と言いつつ保守。
こんばんは。
最初の方だけ投下します。
後は後ほど。
「後藤さん」
「ん?」
後藤に話し掛ける宇治原の手には石が握られていた。
「あのですね。今度後藤さんに向こうに行って欲しいんです」
「・・・久馬のところか?」
「えぇ」
「何でや」
後藤は宇治原を睨みつけた。
「そんな怖い顔しないで下さいよ。僕に考えがあってそうするんです」
「そうか・・・」
「あ、これどうぞ」
宇治原が後藤に自分の持っていた石を渡す。
「あぁ。・・・え」
後藤はその石を持った瞬間、酷い倦怠感に襲われ、床にへたりと座り込んでしまった。
「なんや・・・これ・・・?」
「大丈夫です」
「そうか・・・?」
酷い倦怠感でぼーっとしている後藤の目を見つめ、宇治原は言った。
「全て忘れて下さい。今までの事を全て忘れて下さい。しかし貴方はある現象を目にすると頭が痛くてたまらなくなりますそして・・・」
宇治原は最後に後藤の耳元で小さく囁くと、その手から先程の石をとった。
「後藤さん」
「・・・あれ、俺なんでお前と・・・?」
「僕が呼んだんです。もう用事済みましたから」
「あ、そう・・・」
後藤は状況がわからず、首を傾げながら、部屋を出ていった。
「出てったけど・・・ええの?」
遅れてすいません。続き投下です。
「あぁ。そのまま久馬さんのところに行くやろ」
「あれで・・・大丈夫なん?」
「あぁ。そんなに不安か?」
「いや、別に・・・」
「・・・ここは」
気がつくと、後藤は久馬たちの楽屋に歩みを進めていた。
「なんで・・・?」
別に用もないのに後藤の体はここに来た。そして今、中に入ろうとしている。
コンコン
後藤がドアを叩くと中からはなだぎが出てきた。
「・・・何しに来たんや」
出てくるなり怖い顔のなだぎに後藤は驚いた。
「な、何ですか・・・そんな顔しはって・・・」
「何しに来たって聞いてるんや!」
「誰か来たんですか?」
奥から聞こえた久馬の声に後藤は反応した。
「久馬!俺や」
「・・・後藤?」
どよめいていた室内が久馬の一言で静かになった事に後藤は首を傾げた。
「なんで・・・ここに・・・」
「俺も何やら・・・。気ぃついたらここ来てた」
「・・・どういうつもりなんですか?」
静かに響く鈴木の声。彼もまた後藤に対しての怒りをその声に含んでいた。
「宇治原たちの差し金ですか?」
「差し金・・・?何のや・・・?」
「とぼけんのもええ加減にせぇ!」
なだぎは後藤の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっ・・・止めて下さいよ。お、俺が何したって言うんですか!」
「・・・っんやと!」
埒のあかない会話に鈴木がしびれを切らして言った。
「まだとぼける気ですか。そんなとぼけるんやっら教えてあげますよ!」
鈴木の石が光を放つ。その光を見るなり、後藤はガクガクと震え、頭を抱えた。
先日までの後藤とは違う様子になだぎは後藤から手を離す。
「後藤・・・?」
「痛い・・・痛いよ・・・」
「後藤!」
「止めて・・・頭・・・が・・・」
「鈴木!止めろ!」
「え・・・?」
「早く!!」
凄い剣幕の久馬に圧倒され、鈴木は光を止めた。光が無くなると後藤は力なく倒れた。
「後藤!何があったんや・・・?」
「俺・・・一体、どないしたんやろ・・・。俺にも・・・わからへん・・・」
「石や・・・」
そのギブソンの言葉に全員が沈黙した。
「石ですよ。石の力で・・・宇治原たちに・・・」
「石・・・・・・」
ぽつりと言うと後藤は立ち上がり、ニヤリと笑った。
「石、かぁ・・・」
「後藤?」
「やっぱり後藤さんは・・・」
「・・・躊躇わんと攻撃すれば?」
後藤は先程攻撃を踏みとどめた鈴木を挑発するように言った。
「なだぎさん・・・!」
「あぁ」
二人は同時に後藤に攻撃を仕掛けた。
「え・・・?」
二人は驚いた。いとも簡単に後藤に攻撃が決まり、まるで避ける気配もなかった。
「どういう・・・?」
「・・・たい、よ。なんで・・・っ・・・」
か細い声に5人は驚愕した。何故なら、その声は後藤から発せられていたからだ。
「なんで・・・俺、に・・・攻撃・・・を・・・」
久馬が後藤に駆け寄る。すると今までの後藤が嘘のように、久馬に攻撃をくらわせた。
「久馬!?」
そしてなぜか、攻撃をした本人が一番驚いていた。
「俺今・・・久馬に・・・」
「っらぁっ!」
なだぎの攻撃にまた後藤は攻撃を打ち返し、また自らした事に驚いていた。
「なだぎさん!?」
「どういう事なんですか?」
ギブソンは浅越に問うた。おそらくこの今の状況に答を出してくれるであろう人物に。
「後藤さん・・・」
「・・・やっぱり、差し金やったんですね」
そしてまた、鈴木が攻撃する。・・・見事に後藤は攻撃を返し、そして頭を抱えた。
「何で・・・何で、俺は・・・」
後藤は半狂乱になっていた。
「俺が・・・攻撃・・・した?」
「後藤さん!」
浅越は後藤に話し掛けるが、後藤は頭を抱えてぶつぶつと何かを言っていて反応しない。
「後藤さん!駄目です!」
「俺が・・・俺、が・・・俺・・・」
そこで後藤はぴたっと口を止めた。
そして突然、狂ったように笑い出した。
「・・・後藤、さん?」
「・・・そうや、俺や。俺がやったんや・・・ははっ。滑稽やわ・・・」
そしてギロリと浅越たちを見た。
「俺に近付くなよー。ははっ・・・。久馬達みたいにするでー。俺は今、別人や・・・。きゃははっ・・・」
ギブソンははっと気付いたように浅越に言った。
「この感じ・・・浅越さんと同じや・・・」
「え・・・?」
ギブソンは苦虫をかみつぶしたように言った。
「浅越さんが、黒い石に完全に飲み込まれてもうた時と・・・同じなんです」
「じゃあ、後藤さんは・・・」
「たぶん・・・」
「だったら・・・・!?」
何故か浅越の背筋にひやりとした感覚が通った。
「おーばーひーと」
ぽつりと後藤が言うと5人の体は熱くなり始めた。
「うわ・・・っつい・・・」
「なんや・・・これ・・・」
焼けるような体の熱さに5人はもがき苦しむ。
何とかそれを我慢しながら、浅越は原因を探した。皆、体の一部分が酷く熱い。と言う。
そこで浅越は自分の熱いところを見てみた。そこには・・・。
「・・・石・・・?」
そう、自ら持ち合わせている石が酷い熱を持っていたのだ。
「そのとーり!やっぱ浅越は頭ええわ。うん」
ニコニコと笑いながら、後藤は手を叩いていた。
「・・・後藤さん・・・」
「うん?」
「どうして・・・。黒い力に身を委ねるんですか!」
一瞬、後藤から笑顔が消えた。
「・・・・・・」
「いい事なんてないんですよ?その石は・・・人の心を狂わせる・・・悪魔の石なんですよ?」
そう浅越がまくし立てると、また後藤はニッコリと笑った。
「浅越。お前やったらわかると思うんやけどなぁ・・・」
「僕だってわかってる上で言ってるんです!僕はその石のせいで仲間を傷つけました・・・。僕がその石を宇治原たちに渡したから・・・貴方は今・・・ぁっ」
さらに酷い熱さが浅越を襲う。
「うるさいわぁ・・・。もう石割ったろかな」
浅越が小さく悲鳴を上げたと同時にパリンという音がして、浅越の体の熱は引いていった。
「さぁてと、次は誰の石にしようかな〜?」
後藤はニヤニヤとイヤらしく笑った。
「待て、後藤・・・」
「・・・きゅーまやん。まだ立ち上がれるんか・・・」
ふらりと立ち上がる久馬。
「戻ってくるんや・・・後藤・・・」
「うるさい・・・」
「戻ってこい、後藤!」
「う、うる、さい!」
後藤は物に当たり散らした。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ」
後藤は苦しげに息をつく。
「お前の体でそんな無理したらあかん!もう・・・限界なんやろ・・・?」
「・・・ふっ。たしかに俺は体が弱い。せやけどなぁ・・・」
後藤はふらりとゆれた。
「後藤・・・!」
「人一人、殺る体力は残ってんねん・・・!」
後藤は雷を起こすと、久馬に一直線に落とした・・・はずだった。
「っはぁ・・・間に合い・・・ました・・・ね・・・」
「菅・・・!?」
雷の直撃を受けたのは、久馬ではなく・・・菅だった。
終了です。携帯からですいません。
後藤秀樹・新能力
完全に石に飲み込まれた時に使える。
「おーばーひーと」の一言で自分の周辺の石を持つ者の石を高温で発熱させる。そして、その石を破壊する事も可能。
かなりの体力を要する為、一回の発動につき一度しか使えない。二回以上は、死を招く恐れがある。
おお、乙です!
最後に菅が止めに入ったのは意外でした。
これからどうなるのか、楽しみです。
500 :
名無しさん:2007/05/27(日) 19:49:15
500
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
石を破壊できるってかなりの能力ですね。
おもしろいです!
菅が変わりに雷を受けたり、後藤がどうなるか、プラン9は?先がすごく楽しみです。
乙です!いつもありがd
hosyu
保守
ほしゅっ
ナナイロで書いてみたくなったので書きました。
都合が悪い場合は番外にして下さいm(__)m
「…コンビ名にかけてあんのかな」
簡素な照明に照らされ、石がキラリと赤く光った。
金子がぎゅっと握ると、石は青に変わる。
「その石、ナナイロって名前なのか?」
斎藤が尋ねる。
「ううん。…エマイユって云うんだって。」
金子は微笑んだ後にやんわり否定した。握って開くと今度は藍色。
「エマイユの日本名?が七宝って云って、七つの石が混ざってるんだよ。だからナナイロって事かなーなんて。」
「ふーん…。」
斎藤はさして興味も無さそうに相槌をうった。
しかしそれはあくまで興味がない『フリ』で、実際は気になって仕方がない。
――何故相方の金子には石が来たのに、自分には来ないのか――
「金子は…どっちに入る?」
邪な考えを断ち切るべく、以前も聞いた事を聞いた。
答えも以前と同じ。
「どっちにも要らないよ…こんな能力。」
自嘲気味に金子が言った。
石が紫色の光を強く放つ。次は赤。橙、黄…次々と変化していく。
「光を出すだけで、他に何も出来ないんだもん。…役に立たないでしょ。」
金子の返事はいつもこうだった。
斎藤はそのときの金子を見ながら苛立ちを抑える――石があるだけ良いじゃないか――
「てつさん…てつさんは、おかしくならないでね。」
質問の後、決まって金子はこう言った。
「…わかってる」
「なら、良いけど…」
――金子のポケットに隠されているもう一つの石に、斎藤は気付いていない。
保守
てか水曜の書き込み自分だしorz
509 :
名無しさん:2007/06/11(月) 02:35:50
さがりすぎあげ
ほす
新作投下期待
釣られた
茄子
保守
保守しときましょかぁー。
保守保守保守
保守
ほしゅっ
519 :
名無しさん:2007/06/23(土) 11:36:42
モッシュ
じゃぁ保守。
521 :
名無しさん:2007/06/25(月) 17:32:22
保守
ほしゅー
補償
ぽしゅ
保守
投下できるほどまだ書き進められてないので、保守がてら裏話。
元々最初の江戸むら編(Violet Sapphire)の次は、
SPW&江戸むらVS坂コロ&号泣という流れにする予定でした。
(真相はユニットとは関係なく、SPWの無茶を心配した×-GUNが
SPWと戦って戦いの厳しさを叩き込んで欲しいと坂コロに依頼したため)
結局現実のあれこれでその案はぽしゃってしまい、
SPW&江戸むらVS号泣では…という事で急遽号泣側の強化策に
虫入り琥珀を持ち出したのも、今では良い思い出です。
ほしゅー
>>526 おぉー。苦労話・後日談ってのもいいですなぁ。
続き投下します。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ・・・っ」
「菅・・・お前、何で・・・?」
「とにかく・・・こいつを!」
久馬は石の能力で、菅の傷を癒した。
「・・・裏切ったんか?」
後藤の冷たい声が響く。
「なぁ、どうなん?菅」
後藤は菅に近づき、顎をつかみ上げた。
「・・・俺には、もう無理です」
「へぇ・・・」
その瞬間、苦しむ4人の声が無くなる。
「・・・熱く、なくなった?」
「どうして・・・」
「・・・裏切り者から始末せんとなぁ」
後藤はぽつりと呟き、石から光を放つ。
「・・・おーばーひ」
「やめるんや!後藤!」
久馬の声に後藤の光が陰る。
「・・・何や」
「そんなぼろぼろの体で・・・戦う気か?」
「何や、心配してくれんの?」
軽々しく言う後藤に久馬が静かに言う。
「・・・お前、死ぬぞ」
「え?何?」
話は、すこし前に遡る。「せやからやりすぎちゃうかって、言うてんの」「何でよ?」
若干怒った調子で喋る菅に宇治原は首を傾げた。
「ほんまに、久馬さん達・・・プラン9を始末せなあかんのか?」
「・・・この間言うたやろ?邪魔者は始末や」
「せやけど!」
「ん?」
「ほんまに・・・ほんまにそれは正しい事なんか?」
菅の言葉に宇治原の顔が一瞬険しくなる。
「菅ちゃん、何言うてんねん」
「茶化すなや」
「茶化してへんわ。そっちこそ何やねん、急に」
宇治原は刺すように菅を睨んだ。
「最近のお前はおかしい」
「俺には・・・わからへんねん。何が正しくて何が間違ってるんか・・・わからへんねん」
菅は落胆するように呟いた。
「俺らは間違ってない。安心せぇ」
「・・・正しいんか?」
「あぁ。でも、それには・・・多少の犠牲は仕方ない」
「犠牲・・・やと?」
「下剋上、なんて言うとまるで戦国時代みたいやけど、俺達は頂上に上っていく。一番を目指して」
菅は宇治原の言葉に行き場のない怒りを感じていた。
「・・・浅越さんにこの石をもらった時から俺達はそう決めたやろ?せやから、これはその目的を果たす為の第一関門にしか過ぎひん」
「目的を与えてくれた人さえも・・・?」
「あぁ。一番は俺ら2人だけ。ほかの人は・・・いらん」
菅には宇治原が得体の知れない物にとりつかれて自分を失っているようにしか見えなかった。
「・・・宇治原、それ貸して?」
菅が指したのは石が詰まった箱。
「あぁ、ええよ」
「サンキュー・・・っう!」
箱を受け取ろうと宇治原に近寄った菅の腹に一発のパンチが入る。
「今のお前に俺が渡すと思うたん?」
「くそ・・・っ」
「大方、この石を割ろうとしたんやろうけど・・・」
「・・・・・・」
「どないしてんや?まさか・・・裏切ったりせぇへんよな?」
宇治原の言葉が発する冷たさに菅はみじろぐ。
「まさか・・・なぁ?菅ちゃん」
そう宇治原が言うと、菅は部屋を飛び出した。
そして話は元に戻る。
「何を。俺は死んだりせぇへん」
「やめてくれ、後藤・・・」
棘のあった久馬の声が震える。
「・・・やめたってもええよ」
「後藤!」
「でも、条件があんねん」
「何や」
「・・・降伏を宣言して、その石をここで割れ」
「何やと!」
後藤の攻撃から回復したなだぎが叫んだ。
「できひんのやったら・・・」
石が再び光を放つ。
「菅は・・・な?」
後藤はニッコリと微笑んむ。
「・・・っ」
「さぁ、どうすんねん。久馬」
「久馬、後藤に乗ったらあかん!」
暫くの沈黙の後、久馬は口を開いた。
「・・・俺は、お前を救う為にこの石を持ってるんや」
「そういう事なら、交渉決裂や」
後藤の石から再び光が放たれる。
「・・・さようなら、菅ちゃん」
「後藤!」
「おーばーひーと」
久馬の叫びも空しく、後藤は再び、技を発動した。
「・・・っあ!っ・・・、うぁっ!」
菅は石から発せられる熱にもがき苦しむ。
「ついでに・・・石も・・・」
しかし、後藤はそう言うとその場に崩れ落ちた。
533 :
名無しさん:2007/07/05(木) 17:37:16
「後藤!」
「後藤さん!?」
回復した4人とともに久馬は後藤に駆け寄った。
「後藤!」
しかし、後藤は全く反応しない。
「久馬さん!菅はどうするんですか!」
菅を心配した、浅越が叫ぶ。
「あ、僕は・・・大丈夫、です・・・」
「本当か?」
「はい・・・後藤、さんが・・・倒れたから・・・ですかね?」
「・・・後藤・・・」
久馬の声が震える。
「後藤!」
「久馬・・・」
後藤の顔からは、どんどん血の気が失せていく。
「今は、後藤さんの心配してる場合ちゃいますよ・・・」
「せやけど、鈴木!」
「久さん!」
鈴木は握った拳を震わせながら言った。
「俺かて後藤さんの事は心配です。でも今俺達がせなあかんのは・・・後藤さんをこうした大元を倒す事なんですよ!」
「それはちょっと違うやろ」
なだぎが間に入る。
「え?」
「後藤もそうやけど、菅も宇治原も・・・この石から救わなあかんねん」
「・・・・・・」
「せやろ?鈴木」
鈴木はなだぎに無言の肯定を示した。
「・・・気絶してる間に後藤さんの石割っちゃいましょうか?」
ぽつりとギブソンが言う。
「それはあかん!」
菅がいきなり叫ぶ。
「何でですか?」
「そんなしたら、この事が・・・宇治原にバレてまう」
「・・・そうですか」
「あの、疑問に思った事があるんやけど」
「何ですか、浅越さん」
「菅の石って・・・今どうなるん?」
その言葉に4人ははっとした。石を持っている以上、彼は石の力に・・・。
「・・・あ〜ぁ。バレてもうた」
菅は気だるそうに体を起こして言った。
「何やと?」
「あんたら騙して取り入るんが作戦やったのに・・・」
「・・・嘘や」
「はい?」
「嘘やろ?菅」
「嘘とちゃいますよ、久馬さん。これが作戦やったんです」
そう言って菅は笑う。
「・・・俺の作戦勝ちですね」
「菅・・・お前・・・!」
突然、菅の石が光を放つ。
「一番は俺たち。ほかのやつらは・・・いらんねん」
「・・・なだぎさん、あんな事言ってる場合やないみたいです」
鈴木が攻撃態勢に入る。「せやけど・・・!」
「あんたは甘いわ」
菅が笑って言う。
「いや、それとも・・・怖い?」
血描写あり、注意。
「何やと?」
「もう仲間を傷つけるんが怖いんでしょ?せやから平和的な方法を提案した・・・」
「・・・・・・」
「最も、あんたらは俺の仲間とちゃうけど」
くくっと菅は笑う。
「さぁ、どうします?」
「・・・なだぎさん、諦めて下さい」
「・・・しゃあないか」
ゆっくりとなだぎは攻撃態勢に入った。
「そうこなくちゃ」
菅も攻撃態勢に入った。「っらあ!」
なだぎが攻撃を仕掛けた。
「そんなもんで俺に勝てると思ってるんですか?っら・・・!あ・・・っ」
攻撃をしようとした菅は、突然血を吐いた。
「菅・・・?」
「はぁっ・・・何突っ立ってるんです?いきますよ!かは・・・っ」
菅の周りには赤い水たまりが出来た。
「はぁ・・・っ、あ・・・」
「何で・・・急に?」
「・・・あ、たま・・・ふらふらしてきたなぁ・・・」
それでも尚も菅はふらりと攻撃体勢をとる。
「菅、お前何で・・・」
その痛々しい菅を見ていられないとばかりに久馬が呟く。
「・・・ふふっ」
「何やねん、不気味な笑い方しよって」
「石の代償ですわ・・・」
ぺっ、と血を吐き出すとポケットから石を取り出す。その石は見た事もない輝きを放っていた。
「それが・・・お前の石・・・」
「正確には・・・宇治原の持っていた中で一番強い石。この石で・・・この戦いを終結させるんです」
「・・・例え己の命を削っても、か?」
「あぁ」
5人の内、誰のものでもない声に菅は答えた。
その声の主は、宇治原。
終了です。
いかがでしょうか?
>>529-536乙です!
プラン9編kttr。以前にも増して波乱の展開になってきましたね。今後の続編がさらに楽しみです。
乙&保守
乙です!毎回楽しみにしてる作品なんで、続きもwktkして待ってます!!
初めまして。したらばから来ました。
千原兄弟の話を投下させて頂きます。
「ほんま、迷惑な奴らやな」
完全に気を失い倒れている二人の若手芸人たちを見ながら、一人の男がつぶやいた。
不思議な力を秘めた石なんて、自分には縁の無い話だ。
以前はそのように考えていた千原ジュニアこと千原浩史だったが、
ほんの一月ほど前に石を手にしてから、あっという間に石による争いに巻き込まれてしまった。
それからは、名前も知らない若手芸人達に襲撃される事が多くなった。
彼らは、突然襲撃してきた事から、全員黒側の芸人だったと思う。
幸い浩史の石―チューライトは戦闘に適したものだったので、その都度、返り討ちにしていた。
今も、彼の石を奪おうとした若手芸人を倒したところである。
「あー…しんど」
石を使ったことによる疲労を覚えつつ、浩史は家路に着いた。
数日後、ルミネtheよしもとの楽屋にて。
楽屋には、浩史の他に、相方であり兄である千原靖史がいた。
浩史はふと靖史のほうへ目をやった。
靖史は、何やら熱心な様子でコンパクトミラーを覗き込んでいる。
「靖史お前、なに鏡なんか見とんねん。ブサイクな顔しとるくせに」
「ブサイクは余計や!…別にええがな」
浩史は「ふーん」と生返事をし、特に気に留めない事にした。
舞台が終わった後、浩史はいきなり誰かに呼び止められた。
見ると、プライベートでも仲の良い後輩がそこにいた。
「これからジュニアさんの家に行ってもいいですか?」
「ええけど…どないしたん?急に」
「ちょっと相談したい事がありまして…」
その後、浩史は、その後輩を連れて、自宅へと向かった。
相手の緊張をほぐそうと、酒を振る舞ったりもしたが、
相手は、なかなか話を切り出そうとしない。
「なんか今日のお前、おかしいで。何かあったん?」
すると、後輩は、ようやく話し出した。
「石を……貸してくれませんか?」
浩史は嫌な予感がした。以前も、このような事があったのだ。
「何でお前に石貸さなあかんねん」
浩史は後輩の申し出を断ったが、後輩はなお「本当に少しだけでいいんです!」と、しつこく頼んでくる。
これには浩史もさすがにイライラした。そして、とうとうブチ切れてしまった。
「あーー!もう、何やねん!お前もう帰れ!!」
すると後輩は黙り込んだ。そして、
「ジュニアさん……。…すいません!」
後輩は、いきなり浩史に襲いかかってきた。
(…こいつも黒側かいな。うっとうしいわー)
浩史は舌打ちをしつつも、精神を集中し始めた。ポケットの中のチューライトが光り出す。
そして、後輩の攻撃をぎりぎりで交わし、逆に相手の顎にパンチを喰らわせたのだった。
殴られた後輩は、そのまま床に尻餅をついた。
その拍子に、彼の懐から黒いガラス片のようなものがこぼれ落ちた。
「黒い…欠片?」
以前噂で聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
「これは…えーと、ある人が貸してくれて…それで、えっと」
後輩は、かなりしどろもどろな様子で答えた。
「それでそいつが『俺の石奪って来い』って言うたんか?」
「……」
「誰の指示でやったんや!言うてみい!」
後輩は、ほとんど泣きそうな表情を浮かべ、こう答えたのだった。
「…せ、靖史さんです……」
浩史は、ひとまず後輩を帰らせた。黒い欠片は、ゴミ箱に捨てた。
後輩の前では平静を装っていた浩史だったが、内心、かなり動揺していた。
(…まさか靖史が、俺を襲わせただなんて。ひょっとしたら、あいつ……)
その時、浩史の携帯電話が鳴った。番号を確認したが、見たことの無いものだった。
「はい」
『おージュニアか!俺や!』
「靖史!?お前、何で俺の番号…」
彼らは、プライベートではお互いの携帯番号さえ知らなかったのだ。
『マネージャーから聞いといたわ。それより、さっき家で後輩に襲われたやろ?』
「!」
『今から劇場近くのファミレスに来い。そこで色々と話がある』
じゃー後でな、と言うと、靖史は一方的に電話を切った。
ひょっとしたらワナかも知れない。しかし、今あった事を靖史から聞き出さなければならない。
(…まあ、襲われそうになったら石の力使えばええか)
浩史は、ファミレスへと向かった。
ファミレスには、既に靖史の姿があった。
浩史は、靖史の向かいの席へ座った。
「…一体何のつもりや。後輩使って俺を襲わして。あと何でお前、俺の様子知っとんねん」
浩史は、靖史を睨みつけながら言った。
「とりあえず落ち着け。順番に説明するわ。
まず理由やけど、単純にお前の石が欲しかっただけや。
あの後輩使ったのは、仲のええ芸人のほうがお前が油断するかと思ったけど、失敗してもうたわ」
「な…!?」
浩史は耳を疑った。やはり、靖史は……
「……黒側の人間か」
「おう」
「…何で、黒に入ったりしたんや!」
浩史は興奮して声を荒げた。
「…まあ、黒のほうが色々と面白そうやったからな」
浩史は、靖史がほんの少し悲しそうな表情を浮かべた事に気付いた。
今の質問は、聞いてはいけない事だったかもしれない。
浩史はひとまず落ち着いて、次の質問をした。
「じゃあ、俺の様子知っとったのは…」
「ああ、それな、俺の石の力や。
俺の石な、『こいつの様子が見たい』って思った奴を、鏡で見れんねん。
普段は黒の若手の様子とか見とるけど、今日はお前の事を見とったわけや」
「そーいう事か」
浩史は、ルミネにいた時の靖史の行動を思い出していた。
他にも、靖史は黒ユニットについてを事細かに説明した。
「ところでお前…黒に入る気無いんか?」
いきなり、靖史が尋ねてきた。
「入るわけないやろ」
浩史は、うんざりしながら答えた。
「しゃーない。今日のところは見逃したるわ。お前の石もいらん。
もし黒に入りたくなったら、いつでも俺に言え」
「…誰が言うか。ボケ」
「じゃー俺は帰るわ」
そう言うと、靖史は立ち上がった。
「待て。最後に、もう一つ聞きたい事があるわ」
「ん?何や?」
「…何で俺に黒の事色々と説明したんや」
「お前、白に付くつもりも無いやろ。だからや」
図星であった。実際、白と黒のユニットの争いには興味が無かったのだ。
(さすが昔から俺の事見とるだけあるわ…)
浩史は、若干呆れてしまった。
「せいぜい、他の黒の芸人には気ぃ付けや」
そして靖史は、ファミレスを後にした。
翌日、浩史は家で煙草を吸っていた。
昨日あった様々な事を、ぼんやりと思い返しながら。
浩史にとって、最も身近な人間が黒だった。
もう今までと同じようにはいられないだろう。靖史が、吉本の後輩をけしかける事がまたあるかもしれない。
(…ったく、しょーもない兄貴やな)
それでも、白側に付いて戦うつもりは全く無い。
靖史の事は、必ず自分でケリを付ける。相方として。弟として。
そんな事を思いながら、浩史は、二本目の煙草に火を点けた。
千原せいじ
石:ブロンザイト(偏見の無い公正な洞察力)
能力:持ち主が今様子を見たい物(人・動物・物)の様子を鏡に映す。
その物が居る(ある)場所までは分からないが、近くだと鮮明に、遠くだと
ぼやけて映る。
条件:持ち主が鏡の近くにいて、「○○の様子を見たい」と念じなければならず、
念じる力が大きければ広範囲が見れるが、疲労も大きくなる。
千原ジュニア
石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)
2人の石の能力は、したらばの能力スレの323と333から持ってきました。
この話は以上です。
乙!千原キタコレ
保守
陰干し
このスレってやっぱりすごく面白いなぁ
>>◆UD94TzLZII
激しく乙です
終結に近づいてるんですねー。石は悲しいっすね。
wktkです。
>>◆wftYYG5GqE
千原兄弟キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
すごく楽しみです。
職人さんありがとう
ほす
556 :
名無しさん:2007/07/14(土) 18:46:30
干す
保守がてら。
短編が書きたくなってきた。
キンコメ高橋逮捕orz
まとめの小説どうなるんだろう
いやそれより本人どうなるんだろう
>>560 一旦降ろしてもらった方がいいか
話はどれもおもしろいから残念なんだけど
このスレ見て事件を知った。
パーケン……orz
>>560 話の冒頭とかに「これは〜年頃に書かれたものです」
みたいな注意書き入れて、そのまま置いとくんじゃだめかな?
にしてもパーケンなにやってんのさ・・・orz
565 :
564:2007/07/17(火) 21:22:58
投下期待
mixiでキンコメコミュ参照。
冤罪の模様。
まとめの方、人いる?
聞きたいことがある
一応いるが ノ
570 :
名無しさん:2007/07/21(土) 11:34:45
下がりすぎage
571 :
名無しさん:2007/07/22(日) 02:32:31
何かあると志村がすぐに飛んでかけつけてくれる
ほssssっしゅ
573 :
名無しさん:2007/07/23(月) 08:13:39
はまぐちぇと不死鳥の騎士団 あらすじ
はまぐちぇがステッキを振ると緑が息吹き、枯れ果てた大地に
果たしてはまぐちぇは地球温暖化を防ぐことができるのか!?
574 :
名無しさん:2007/07/23(月) 08:21:19
bigな芸人にテレビから魔法をかけられ
そんなことなど知らない俺が朝起きてみると外にはどこまでも続く赤いじゅうたんが
着の身着のまま玄関から生えているカーペットにおそるおそる乗ってみると爆笑の渦
山陽自動車を通り、関西で一休み
ゴールは27時間テレビエンディング
保守
ノブコブ編書いてる者ですが…
USBのデータが全て吹っ飛ぶという大惨事に見舞われました。
最初から書き直しかよと言う悲しさを呟きついでに保守。
朝から保守
ほす
保守age
ほしゅ
保守
…誰も居ないorz
自分にアンカーつけてどうすんだ…orz
>>584の間違いです
ぽしゅ
洗濯物を
干す
バーローwww
591 :
名無しさん:2007/08/08(水) 03:34:50
要所要所で枕元に高木ブー降臨
592 :
名無しさん:2007/08/08(水) 03:48:55
枕元康としてものまね王座決定戦に出れるよう魔法をかけてくれる
593 :
名無しさん:2007/08/08(水) 03:49:52
594 :
名無しさん:2007/08/08(水) 03:57:47
2chの全スレッドの名前の欄を一瞬で縮められる
595 :
名無しさん:2007/08/08(水) 04:10:35
>592
ステッキに付いた石で
ほしゅっちゃお
ほっほっほっほっほしゅ〜
補修工事
ほしゅーーーーーー
ほしゅしつつ600ゲト―――
hoshu
602 :
名無しさん:2007/08/17(金) 01:13:27
保守age
ほしゅ
干す
605 :
名無しさん:2007/08/23(木) 02:59:29
自分書き手になろうかな…保守age
606 :
名無しさん:2007/08/23(木) 04:35:56
もし自分に不思議な力があったら真っ先に品川を消す
攻撃は全部見切られちゃうよ。
ほしゅー
はじめまして
アンジャファンな自分はオパール編がすごく気になります
逆にアンジャの小説書きたくなってきました
オパール編とは無関係の話ですよ念のため
万が一出来たらうpしたいんですがよろしいでしょうか…
あと保守
一応まとめサイトから行けるしたらばBBSに落として、
反応伺ってからの方が間違いがないかもね。期待。
611 :
名無しさん:2007/08/29(水) 00:17:09
期待保守age
保守
保守
保守
とりあえず投下。序章的な感じで。
続きます。
右手を掲げ、ふと手首にぶら下がっている石を見つめる。
ライラック色の美しい石には陽の光が差し込み、高佐は思わず目を細めた。
美しくも、どこかに魔力を感じる、そんな石。
『常時身に着けてなくてはいけない』そんな気持ちにさせる力が、この石にはある。
最初は気味が悪かったし、何度も捨てた。だが、気がついたら鞄に入っていたりと、自分のもとへ戻ってくるのだ。
それが彼にはこれから起こる不幸の予兆のような気がしてならなかったのだが、
折角こんな綺麗な石がタダで手に入ったのだからと思い直し、業者に頼んでブレスレットにしてもらったのだ。
その業者によるとこの石はクリーダイトと言い、ライラック色はその中でも人気が高いものなのだそうだ。
高佐はそれを聞いて尚更手放す気はなくなった。
「(…そういえば、オジェは?)」
尾関は、石を持っていないのだろうか?そんな疑問が高佐の頭に浮かぶ。
気がついたら高佐は枕元に置いてあった携帯電話を開いていた。
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
『んーどしたー?』
「あのさ、オジェ。ちょっと聞きたいことあるんだけど。」
『ネタのこと?』
「いや、違う。最近、誰かから石貰ったりしなかった?」
『石ぃ?何でまたそんなこと』
「いいから!」
『あぁ、貰ったよ。石…つーかブレスレット。ファンの人から貰ったんだけどさー、超綺麗なの。』
「…そう、そうか。うん。わかった。有り難う。明日、ネタ合わせ遅れないでね。」
『こっちのセリフだっつの。じゃあな〜』
プツッ
―−偶、然?いやそれにしちゃ出来すぎてないか?
誰かが仕組んだ?いや、そんなの、無理だろ。そこまでして単なる石を持たせる必要性って?
「…単なる、石じゃなかったら?」
ボソリと呟く。石になんか不思議な力でも、あるっていうのか。
「(そういえば)」
そんな話、聞いたことある気がする。
不思議な石の力を使って先輩の芸人さん達が、戦っているとかいないとか。
御伽噺や嘘話の類かと思い聞き流していたが…。
「(いよいよ、信じなきゃいけない感じかな)」
薄暗い部屋で、数人の男が話していた。
一人は知的な雰囲気を漂わせ、ノートにペンを奔らせている。
「調子はどう?『シナリオライター』。」
「…」
「あぁ、そうだ、力を使っている間は話しかけても夢中だったんだっけ。」
クスクスといやらしい笑い声をあげる男。
それを無愛想な顔で見つめるガタイの良い男性。
先程までペンを奔らせていた男は、ピタリと書くのをやめ、ペンを置いた。
「おっ、終わった?」
「えぇ。まぁ、とりあえず、は。」
「どうよ?出来のほうは。」
そう問われ、男はふっと笑う。
ノートをパタンと閉じ、
「なかなかの出来じゃないでしょうかね。」
それを聞いて安心したように男は良かったと呟く。
「…ちゃんと彼らを引き込めるんだろうね、『こちら側』に。」
「えぇ。…設楽さん、土田さん。」
以上で。
一応続きは書き進めていますのでちょくちょく投下しにきます。
ギースktkr!
乙です!
オツ アンド ホシュ
保守
ほしゅ
保守age
保守
626 :
581:2007/09/09(日) 00:18:49
名前に反して
>>609です。添削スレで許可をもらえたので、アンジャ話投下していきます
無駄に長いのでだらだら小出しにですが、よろしくお願いします
627 :
581:2007/09/09(日) 22:57:30
しまった、と思う時には、すでに遅すぎる。
何でもっと早くに気付けないんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれないけれど。
とある日。児嶋は、楽屋の椅子に腰掛けて一人紫煙を燻らせていた。
タバコを咥えたまま、ジーパンのポケットから銀色のゴツいブレスレットを取り出す。
トップに埋め込まれているのは、綺麗な宝石。名前は知らない。
「…怪しいよな、やっぱ」
ぼそりと独りごちる。右手でチャラチャラ弄んでみるも、意味は無かった。
先日、差出人不明の小包が届いた。中身は、この高そうなブレスレット。
熱狂的なファンからのプレゼント?なんだか悪いなあ。
送り返そうにも宛先は謎だけど。
母親からのプレゼント?宛名ぐらい書けっての。
電話で確認してみたが、違った。謎かよ。
じゃあ悪徳商法か、何かか?クーリングオフとか効くのかな。
いや会社の住所は謎なんだけどさ。
628 :
581:2007/09/09(日) 22:59:26
(…渡部、遅いな)
とりあえず思考を逸らした。考え続けたところで、どうせ答えは出ないだろうから。
壁時計を見上げ、自分が早く来すぎていることにやっと気付く。
手元の灰皿にねじ込まれた吸殻が多すぎることにも気付き、目を見開く。それ程の量だった。
児嶋は一旦タバコを置き、再びブレスレットを摘み上げた。
トップの石が白い輝きを放ちながら揺れている。
角度を変えると、何色もの色が輝いた。虹色。やっぱ高そうだな、と思う。
じいっとそれを見つめていると、児嶋は、なんだか自身が透けていくような錯覚に襲われた。
途端、すうっと雑音が消えていく。静寂。
背景に溶け込んだ自分を、かき消すように紫煙が通り抜けて――
そこまでイメージした所で、思い出したように瞬きをした。
石は、相変わらず澄ました顔でぶら下がっている。無視されている気分になり、少し苛立つ。
(…渡部なら訪問販売のバイトとかやってたらしいから、何か分かるかもしれないな)
しっかり者の相方が、しかし時間にはルーズであったことを思い出す。
早く来てしまった分、待ち時間は相当長くなりそうだ。大げさに肩を落として。
ともあれ気を紛らわそうと、さっきのタバコを咥えた。
不安混じりの溜め息は長くて、白かった。
629 :
581:2007/09/09(日) 23:01:27
楽屋へと向かう渡部の足取りは、軽やかだった。
Tシャツの中に隠しているが、細身のシルバーペンダントはそこに存在している。
トップには水晶。透明な光は、すべてを浄化してくれるような気さえした。
不思議な「石」については、聞いたことがあった。
芸人たちの滾る情熱が結晶として具現化されたものだ、といっても過言ではない、それ。
最近若手芸人の間で出回り始めたらしいが、まさか自分の元にも来ようとは。
「どんな能力なんだろう…」
わくわくして独りごちる。服の上から胸をなでると、石の存在が実感できた。
渡部はその性格上、こんなに夢のある話を黙っていたくなかった。
(言いふらしたい。先輩、後輩、同期。いや、素人の友達でも、いっそ犬でもいいや)
だがもちろん、それが利口な行動でないことは知っている。
自分の石の情報を知る者が増えると、それだけ危険も高まる。
知られた自分も、場合によっては、知った相手にも害が及ぶかもしれない。
本能、というより、冷静な”もう一人の自分”が、そう理解していた。
故になんとか気を紛らわせるべく、親指の爪を、噛んだ。
630 :
581:2007/09/09(日) 23:05:45
おっす。後ろから声を掛けられ、渡部は振り向いた。設楽だ。
そういえば、今日はバナナマンと同じ番組に出るんだった。そう思い出す。
渡部も挨拶を返し、二人は並んで歩き出した。
「あれ、なんか嬉しそうじゃない?」と設楽。
何だ、ばればれなのか?ともあれ口から爪を離して。
「そうでもねえよ。あ、統は…、」思わず石のことを尋ねそうになり、しかし口をつぐんだ。
「ん、何?」
いや、こいつなら仲良いから別にいいかな。いいよな。
「その…聞いたことあるか、『石』のこと」
とはいえ当たり障りのない質問にした。自分が石を持っていることは漏らすべきではない。
…と思う。多分。
「あー、芸人の間に出回ってるってやつね」
都市伝説じゃねえの、と軽く笑われる。当然かもしれない。
渡部は、ところがどっこい、という台詞を必死に飲み込んで、続けた。
「いやさ、もし本当だったらカッコイイなーと思って」
「ああ確かにね。めちゃくちゃ欲しいもん、俺」
「お、マジで?」
「そりゃーそうでしょ。こう…”選ばれし者”みたいな?」
「ははは、漫画読みすぎだって!」
「そっちがフッたんじゃなかった?」
他愛無いやり取り。こいつは持ってないんだな、と何故か安心する。
くだらないことで笑い合ううちに、目的地の目の前まで来ていた。
番組は同じでも、それぞれ楽屋は違った。渡部は左、設楽は右の部屋へ。
ありふれた日常の、ほんの1ページ。
…と思う。多分。
631 :
581:2007/09/09(日) 23:07:15
楽屋のドアが開き、児嶋は、待ってましたとばかりに顔を上げた。
目線の先には、はたして渡部の姿があった。親指の爪を噛んでいる。
相方のいつもの癖だったが、今日は、なんだかいい事でもあったかのように見えた。
尋ねてみると、渡部はすぐに口から爪を離した。
…まあともかく、相談するには良いタイミングだろう。
「あのさ、ちょっといいか」児嶋は、思い切って話を切り出した。
渡部は、何だ改まって、と荷物を降ろしている。やっぱり機嫌は良さそうだ。ラッキー。
そうして児嶋の向かいの椅子に座ったところに、例のブレスレットを見せてやった。
「…要らねえよ、気持ちわりいな」
「お前にじゃねえよ」
あからさまに嫌悪を示されたので、ツッコミを入れる。
「で、何よそれ」渡部はまだ眉をひそめたままだ。
「送られてきたんだよ、こないだ」
「マザコンめ」
「いや、差出人不明なんだって」
そう言うと、渡部の顔つきが急に真剣みを帯びた。
「ちょっと貸して」
言われたとおりそれを手渡す。ああ、やはり心当たりがあるのか。
まさか、その筋では有名な詐欺だったりするのだろうか。
児嶋は緊張しながら、いまや鑑定士となった相方を不安げに見つめた。
632 :
581:2007/09/09(日) 23:09:46
ブレスレットのトップにある綺麗な宝石を見て、渡部は確信した。
これは「石」だ。都市伝説なんかじゃない、あの「石」だ。違いない。
「…オパールだな」
渡部は、それだけ呟いてブレスレットを返した。
「やっぱ高そう?」おそるおそる、児嶋。
「ああ、本物っぽいからなあ。大事にしろよ」
「って、大丈夫なのか、そのなんていうか、法的に…」
「心配ねーよ、…っていうか、お前も芸人だったんだな。忘れてた」
「はああ!?」
さっぱり分からない、という様子で聞き返される。
(フツーに何にも知らなさそうだな、こいつ)
溜め息をつくと、渡部は説明を始めた。
「『石』って聞いたことあるか?」
簡単な説明を受けた児嶋は、怪訝そうな表情を浮かべ腕組みしていた。
「つまり…俺とお前は”選ばれし者”ってことか?」
そう言って自身のオパールと渡部の手元に置かれた水晶を交互に指差している。
「うーん…じゃ、そういうことでもいいか」
適当に頷く。こいつも漫画の読みすぎだな、と苦笑が漏れる。
「どんな能力なんだろう…」
心配そうに独りごちて石を覗き込む児嶋。渡部と正反対のリアクションだった。
633 :
581:2007/09/09(日) 23:16:25
渡部が自分の能力に気づいたのは、その日の収録終わりだった。
自販機前の長椅子に座り、右手の缶コーヒーを一口。熱くて苦い。
そこに「お疲れさん」と呼びかけてきたのは、上田だった。
その右手には缶ジュース。見たことのない派手な柄だった。何味なんだろう。
「お疲れ様です…最近忙しそうっすねえ」
苦笑混じりに、渡部。皮肉ではなく、心からの労いだった。
おかげさんでな、と笑んで、上田は缶の封を切った。シパッ、と清々しい音。
「あの、上田さん」
隣に腰掛けた先輩に再び口を開く。何か話さなくては。ええと。
「何だ」
「…あー、どうです最近」
「アバウトだな」
円周率か、と呟きジュースに口を付けている。それにしてもカラフルな缶だ、と思った。
「もうちょい具体的に聞いてくれよ」
「そうっすね、じゃあ…味とか?」
「うは、何じゃそりゃ!中身吹き出すとこだったぞ、はは」
「何だちょろいな…」
冗談めかして呟くと、くしゃくしゃの笑顔に額をはたかれた。
634 :
581:2007/09/09(日) 23:17:43
「…で、どうなんです?味」
再び問う。適当に質問したことだったが、一応答えは得ておきたかった。
「おう、果物だってのは分かんだけどなあ」
そう呟き、上田は首をひねりながらもう一口含んだ。しかしますます眉を寄せて。
「…あれー?何の味だっけこれ!分かりそうで分かんねえぞ」
「缶には書いてないんすか?」
「『トロピカル』…って広いな!結局何味だよ!」缶にまでツッコむ先輩に感心。
じゃなくて。うわ、気になる。どんな味なんだろう。当ててやりたい。
俺も、飲んで味わってみたい。
そう考え、渡部は冗談半分に目を閉じ、念じてみた。気分は超能力者。
すると。
途端、口いっぱいに甘酸っぱい感覚が広がる。
閉じたはずの目の前には、カラフルな缶。「トロピカル味」と書かれている。
その缶を握る右手には、確かに冷たい感触。缶コーヒーはどこへ消えた?
これじゃあまるで、
俺が上田さんになってしまったみたいじゃ、ないか?
635 :
581:2007/09/09(日) 23:19:20
581です。まだ半分以上残っているので、続きは今度投下します
既に長々とすみません…
ほしゅう
637 :
名無しさん:2007/09/12(水) 23:28:10
フットボールアワーの話が読んで見たいです!
自分は文才ないので…(T_T)
>>637 脇役だけどオパール編という話の8以降にフットが出ている。
>>1のまとめサイトに行くと読めるよ。
ただ話は中断していて
最終投下から2年以上経過しているので続きが書かれる可能性は薄いと思う。
それと、したらばには要望を書くスレがあるから今度からはリクエストはそっちで頼む。
まとめサイトから行けるから。
639 :
581:2007/09/13(木) 11:29:33
お久しぶりです、一応続き投下していきます
640 :
581:2007/09/13(木) 11:37:24
「この状況で寝たフリってあるかいっ」
豪快な笑い声と共に頭をはたかれ、渡部はハッと目を開けた。
自分の感覚が戻ってくる。コーヒーの苦い後味。右手に握っている硬い熱。
瞬きを繰り返す。辺りを見回す。視力は正常だった。
どうした、と不思議そうに自分を見つめる上田に向き直って。
「パインと、…マンゴーあたりっすかね」
自信はあった。
上田は少し考えて、「それだ!」と顔を輝かせた。「お前すげえな」、と。
結局少し会話を楽しんだ後、上田は次の仕事のため立ち上がった。
「じゃ体に気をつけろよ」と言って去ろうとする先輩に、
「むしろそちらが」、と笑った。
仕事の量は、圧倒的に上田のほうが多いに決まっているので。
残された渡部は、缶コーヒーを一気に飲み干した。ぬるくて苦い。
甘酸っぱい後味は、もう無かった。
641 :
581:2007/09/13(木) 11:39:10
その日を境に、渡部は石の能力を小出しに使用し、実験するようになった。
そうして分かったのが、自分は目を閉じて念じることで他人と「同調」できるらしいこと。
対象人物一人の見るもの、聞くもの、味わうものなどを共有できるらしいこと。
つまり、相手の五感を探る事ができる、ということ。しかも、本人に気付かれずに、だ。
あと、どうやらそれは自分の目の前にいない人物でも可能だということ。
また、同調している最中は自分の体が全くのお留守状態になってしまうという、こと。
「…なあって!」
不意の大声に驚き、「同調」を解く。
目を開けると、児嶋がバックミラー越しに自分を睨んでいた。
今は、児嶋が運転する車で仕事に向かう最中だった。
一人後部座席に揺られる退屈を紛らわすべく、さっきまで山崎に「同調」していたのだ。
居酒屋らしきところで仲間と飲んでいた後輩は、相変わらず大きな声で喋り散らしていた。
店の熱気と喧騒から帰ってきた今も、耳に違和感。相方のせいではない。
「寝るなよ、人が話してる時に」苛立った様子で、児嶋。
「寝かせろよ、退屈なんだから」
「退屈ってあるかい、相方が喋ってんだぞ」
「わりいわりい」魂を込めずに謝ると、渡部は窓から遠くを眺めた。
何でさっさと焼き鳥食わねえんだよ、と山崎のおしゃべりな性格を、恨んだ。
642 :
581:2007/09/13(木) 11:41:29
児嶋は、局内の喫煙コーナーに足を踏み入れた。
濁った独特の空気の中、タバコを咥え、一人思考する。
(渡部の様子が、おかしい)
最近相方が頻繁に居眠りをすることには、とっくに気付いていた。
ほぼ毎日。しかも、時にはこちらが話している最中にさえも、目を閉じている。
おかしい。一体どうしたのだろう。極度の疲労なのか?
そういえば、顔色も悪くなった気がする。気のせいだと思いたいけれど。
…いや、実は、心当たりがあった。
「石」だ。
俺は馬鹿だけど、頭が悪いわけじゃあない。
あいつは何も言わないけど、もしかして何か能力が目覚めたんじゃないか?
その能力を使った反動で、疲れが出ているんじゃないか?
……。
「…って、漫画の読みすぎかなあ」
ぼそりと呟く。もちろん独り言だ。
左手を掲げると、チャラ、とチェーンの擦れる音がした。白と虹色が揺れている。
本当に選ばれたのか、俺は。
そう石に問う。
返事が無いのは、もちろん独り言だ。
溜め息が白くないことで、ようやく火をつけ忘れていたことに、気付いた。
643 :
581:2007/09/13(木) 11:43:37
局の外に出ると、渡部は深呼吸した。禁煙中なので、タバコは見たくもなかった。
都会独特の空気の中、空を見上げ、一人思考する。曇り空。
(近頃、体がだるい)
渡部は、首に下げていた石を手に取った。相変わらず透明だな、と思う。
疲労の原因は分かっていた。能力の多用だ。タダで使える力なんてこの世には無い。
程度こそあれ、物事はいつだって何かと引き換えなんだ。知ってんだ、俺。
渡部が毎日のように石を試すのには、目的があった。
一つは、自分の能力をよく知るため。
使い慣れていないと、いざというときに困るだろうから。
すっと自然に「同調」できるようにしておくことは、今後役立つだろうから。
一つは、能力を磨くため。
何度も力を使ううちに、精度が上がるかもしれないから。
今は五感だけだが、いつか精神さえも共有できるようになるかもしれないから。
(…できるようになって、どうするんだ?)
自分の不安な心が干渉してくる。うるさいな、なっといた方がいいんだよ。
(何に使うんだ、その力を)
悪いことには使わない。他人の心まで覗かなきゃいけない日が、いつか来る。
(「いつか」って、いつのことだ?)
「…一生来て欲しくない日のことだろ」
声に出す。何故か、全ては”もう一人の自分”が理解していた。知ってんだ、俺。
644 :
581:2007/09/13(木) 11:47:43
とある日。渡部は楽屋のソファに腰掛け、台本を確認していた。
児嶋は、他の芸人の楽屋に遊びに行っている。暢気なやつだな、と思う。
一通り確認した台本を閉じる。そろそろ、「練習」しなくては。
今日のターゲットは、設楽に決めた。理由なんて無い。なんとなく。いつもの事。
渡部はおもむろに目を閉じた。「同調」の体勢だ。
普段の練習のおかげで、「同調」に至るまでの作業は幾分スムーズかつ精確になっていた。
気分はコンピュータ。遠くの対象に素早くアクセスし、情報を読み取る。
真っ先に得たのは、視覚。漫画を読んでいるようだった。不気味な絵だな、と思う。
続いて、触覚。左手で頬杖を付き、右手はページを掴む。肌と紙の感触。
「で、そっちはどう?」
そして聴覚。設楽の、気の入っていない、緩い声が届く。
いわゆる骨伝導のせいか、普段の声より少しくぐもっている気がした。
「…いえ、全然。設楽さんみたいに大胆には聞き出せませんよ」
穏やかな声。聞き覚えがある。誰だっけ、ええと。
「はは、俺そんな大胆かなあ」
軽く笑い、右手がページを一枚繰る。本当に独特の絵柄だ、と思う。
「大体、聞いたところでそう簡単に教えてくれますかね」
「そりゃーもう。お前誠実そうだし、大丈夫だろ」
「っていうか、話聞いてます?」
相手の一言に、視点がゆるゆると漫画から人物に移る。
ああ、そうだ、こいつの声だったか。
「大事な話なんですよ」諌めるような口調で、ラーメンズ・小林はそう続けた。
645 :
581:2007/09/13(木) 11:50:52
「わーかってるよ。先公かっての、もう」設楽の右手が、渋々漫画を閉じて。
(大事な話だからこそ、漫画読みながらでも聞けるのにさ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中ではなかった。
ということは。
今一瞬、設楽の精神に同調できたのでは、ないか?
逸る気持ちを抑え、渡部は再び感覚を研ぎ澄ました。
読み取ってやる、もう一度。来い。
「いいか、」とのんびりした声は、設楽。
「人間っていうのはな、誰だって不安なんだよ」
はい、と真剣な声は、小林。
「誰だって、最初っから自分のことペラペラしゃべらねえよ。分かるだろ?」
「…はい」
「でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部」
「いや、だからそこが難しいんですって、」真面目な声が頭を掻いた。
「設楽さんと違って、人を誘うのに向いてないんですよ、”僕の”は。」
”僕の”が修飾しているであろう名詞は、省略されていた。何だろう、顔か?
「それ、『シナリオ』に頼りすぎ。俺だって、毎回『説得』するわけじゃねえもん」
(…それにしても、随分真剣にナンパ論を語るんだなあ)
心で呟く。これは、しかし渡部の心中であった。
646 :
581:2007/09/13(木) 11:54:43
(やっぱり、変だ)
児嶋は、ソファに座ったまま動かない相方を、ドアの隙間越しに観察していた。
実は、他の芸人の楽屋に遊びに行くフリをして、楽屋の入り口にじっと潜んでいたのだ。
もちろん、渡部の挙動を探るためだった。
一人になれば、「石」を使うかもしれないから。
渡部が台本を閉じたとき、いよいよか、と身構えた。
が、期待に反し、どうやらそのまま眠ってしまったようで。肩を落とす。
…でも。
居眠りなら、普通身じろぎの一つぐらいしていいんじゃあ、ないか?
そうして観察を始めてから5分が経過しようとした時。
渡部の胸の辺りから、微かに透明の光が漏れていることに、やっと気が付いた。
(…いつから光っていた?最初からだったか?一体何が光っている?)
そうだ。「石」の疲労で居眠りが増えたんじゃあない。
多分、「石」の使用が居眠りに見えていたんだ。
そんな頻度で石を使っていたならば、そりゃあ体調だって悪くなる、はずだ。
答えが分かった瞬間、児嶋は勢いよく相方の元へ駆け出していた。
力を使うのを、やめさせるために。
647 :
581:2007/09/13(木) 11:56:30
渡部は、急に「同調」の精度が落ち始めたのを感じた。
かろうじて視覚は残っているが、いまや触覚と聴覚が完全に奪われつつある。
接続した自分の意識が、設楽の中から徐々に追い出されていくような、感覚。
必死に視覚だけでも保とうとしたが、それも上手くいかない。
(そういえば、設楽の中に入ってから、どれぐらい経った?)
普段は、安全のために3分程度に留めていた。
しかし今日は、とっくに5分ぐらい経っていそうで。
(限界か、くそ)
両肩を掴まれているのを感じた。触覚。
次いで聴覚。何度も名前を呼ばれている。聞こえてるっての。
ゆっくり目を開ける。うろたえまくった表情は、相方だった。視覚。
割と何度も両肩を揺さぶられていたのだろうか、前後の方向に眩暈を感じた。
「…何だ、居たのかよ…」
平静を装うも、内心は焦りに満ちていた。自分の能力については、隠していたので。
やられた。いつから見られていた?ばれただろうな、さすがに。
だがここで、急に瞼が鉛のようになった。とても目を開けていられない。
しまった、と思った時には、すでに遅すぎた。
何でもっと早くに気付けなかったんだろう。
今となっては、それも無意味な思考かもしれなかったけれど。
児嶋の顔や声が一気に遠のき、渡部の意識は、ついに途切れた。
気分はコンピュータ。強制終了。
648 :
581:2007/09/13(木) 13:00:01
(――今、何時だろう)
目を覚ました渡部の、最初の思考だった。
重い瞼を無理やりこじ開ける。頭が痛い。
どうやらベッドで眠っていたようだ。自分のベッドでないことは分かった。
布団にくるまれている感覚を再認すると、また意識が遠のきそうになった。まだ眠い。
目だけで辺りを見回す。もちろん、自分の部屋でないことも、分かった。
なぜここに居るのかは把握できなかったが、場所には見覚えがあった。確かここは…
「お、いけるか渡部」
ドアから、声が近づいてくる。苦労してそちらに目をやると、眠気が飛んだ。
「…有田さん?」
そうだ、昔よく遊びに来たっけ。
渡部が上半身を起こそうとするのを、しかし有田は冷静に制した。「無理すんな」、と。
言葉に甘え、再び枕に頭を落とす。確かに、まだ体は本調子ではない。
「あの、」と渡部。「何で僕、寝てんすか、有田さん家で」
覚えがなかった。最後の記憶を必死に辿ってみる。台本しか思い出せない。
「そうそう、それね。楽屋で倒れたんだよ、お前」
さらりと言ってのけると、有田はドアの向こうに呼びかけた。
「おーい、やっと起きたぞ」
えっ、という弾んだ声の後、どたどたと騒がしくやってきたのは、山崎だった。
「ああよかった、大丈夫ですか?」渡部を覗き込み、満面の笑みだ。
渡部はというと、与えられた情報を消化しきれずに、呆然と頷くだけだった。
649 :
581:2007/09/13(木) 13:06:37
山崎から水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
その渇きの具合から、気を失っていた時間が長かったことを、悟った。
「…どれぐらい寝てました、僕」疑問を口にしてみる。
有田は腕時計を見やり、今は1時前だなあ、と噛み合わない返答。
「1時…ってことは…?」
「ああ、夜中のですよ」
山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
「冗談冗談。11時間ちょっとだよ。仕事の方は田中がなんとかしてくれたから」
当たり前のような口ぶりで有田。しかし、どうしても意味が飲み込めない。
「…田中…?」
「ああ、アンガールズのですよ」山崎が補足する。いや、うん、そこじゃなくてさ。
改めて有田に問う。「っていうか、田中が何をしてくれたんすか?」
「収録を来月に延期するよう、プロデューサーさんに頼んでくれたんだよ」
「ほら、石ですよ。田中さんの能力、相手を納得させるやつなんです」
山崎の補足。今度はありがたかった。
(…って、石、だって?)
目を見開く。田中が石を持っていること以上に、有田と山崎がその能力を把握している
ことに驚いた。
「あれ、石、知りません?渡部さんだって持ってるじゃないすかあ」
「っていうか、力の使いすぎでダウンしたんだろ、お前」
「いや、その…」どう答えていいか分からない。
「聞いたぞ、児嶋から。何で隠すんだよ」不機嫌そうに、有田。
「そうですよ、水臭いなあ、」山崎も、軽く笑って便乗する。「仲間でしょ、俺ら」
――『仲間』。
月並みな単語だが、その一言で幾分心が軽くなった気が、した。
650 :
581:2007/09/13(木) 13:09:12
直後、携帯の電子音が鳴り響く。急な物音に心臓が跳ね上がった。
「あ。わりい、俺だわ」と有田。のそのそと応答して。
何やら親しげに会話を交わしたあと、それを渡部に差し出してきた。
「…え、」
「上田。替われってさ」
よく分からないまま携帯を受け取り、もしもし、と呼びかけてみる。
『おう、どうだ、よく寝られたか?』
「…はは、おかげさまで」受話器越しのジョークに、力なく笑んだ。
『ったくよー、自販機前で忠告しただろ?”体に気をつけろ”ってさ』
叱られた。何だ、そういう意味だったのか、あれは。
「って上田さんも知ってたんですか、石のこと」
『まあな。大体あれだ、お前が寝たフリしてた時、光ってたぞ、石』
「……」
『児嶋からお前が倒れたって聞いたときは、まあピンときたね』
「…すみません」
『病院に担ぎこむのも、ややこしいしな。
それにその症状じゃ周期性傾眠症とか言われるのがオチだろうから、
とりあえず児嶋には、車で有田ん家に運ぶよう指示しといたってわけだ。この俺が』
「あー…」倒れるまでの記憶が蘇ってくる。
石。設楽。同調。以降闇のち現在。
『うお、じゃあな、後で柴田にも礼言っとけよ!』
そう言い残すと、上田は慌ただしく電話を切った。
仕事の合間に、わざわざ電話をくれたのだろう。その心遣いが嬉しい。
渡部は、やっぱりこの人のほうが忙しそうだな、と改めて思った。
651 :
581:2007/09/13(木) 13:11:34
「柴田の石はですね、」と突然口を開いたのは、山崎。
「回復とか手助けに役立つ能力なんです」
渡部と有田は同時に声の主を見つめた。
「…ああ、そうそう。柴田が介抱してくれたおかげなんだぞ、今お前が動けるの。
仕事があったから、もう帰ったんだけどな。心配してたぞ、あいつ」
思い出したように有田が説明する。
それによって渡部は、先刻の上田の台詞を理解した。
山崎が続ける。
「僕の能力は召喚で、有田さんの能力は、ええと…弱点エグリです」
「もっと言い方ってあるだろ」
有田は苦笑し、あとの台詞を引き継いで。
「上田はサイコメトラーだ。いちいち薀蓄言わないと駄目とかで、うっとおしいけど」
「ほんと、なんか偉そうで腹立つんですよねえ」
「な、生理的にきもいよな」
そう言い合って、からからと二人笑っている。
渡部は、終始ぽかんとしていた。
652 :
581:2007/09/13(木) 13:15:07
「ほら、渡部さんも。教えてくださいって、能力」
「そうそう、秘密はみんなで持った方が、楽だろ。荷物は軽いに限るんだって」
脳が、だんだん巡り始めてくる。
確かに一人よりも、『仲間』同士で助け合った方が、楽だ。
だがその結果、その大切な『仲間』まで危険に巻き込んでしまうと、したら?
また、”自分”の声。そんな事分かってる。
…だけど、その時は。
(――その時は、俺が責任を取れば、良いから)
そうして慎重な”自分”を押さえ込んで。
覚悟を決めると、渡部は自分の能力について、ゆっくりと話し出した。
『でもさ、相手がすげえ気の合う奴だったり、頼れる奴だったらさ、ほら。
自分から喋りたくなっちゃうんだよ。共有してもらいたくなるんだ、全部』
心の中で”自分”に言い訳。
設楽のナンパ論も的を射ているな、と自嘲気味に笑んだ。
653 :
581:2007/09/13(木) 13:30:08
それから二日後。児嶋は、自分の楽屋に向かう途中だった。が。
「おざーっす!」と元気の良い挨拶に背中をぴしゃりとぶたれ足を止めた。
びっくりして振り返る。にこにこテンションの高いのは、柴田だ。
「いてえな、もう…」叩かれた箇所をさすりながら苦情を漏らす。
「今日は、ネタ番組ですか?」
って先輩殴っといてスルーかい。せめてイジれよ。
頷いてやると、「よかったですね」、と返される。どうも柴田との会話は、ちぐはぐだ。
「…ほらあ、渡部さんですよ。もう元気になったんですよね?」
「あー、昨日会ったらピンピンしてた。人騒がせな奴だよ、まったく」
これも上田の機転と、柴田の石、そして有田・山崎のフォローのおかげだろう。
あと、半日弱もの睡眠といったところか。羨ましい。自分だってたっぷり寝たい。
児嶋はというと、渡部を有田の家に運んだ後は、離れた地で田中と飲んでいた。
だって、仕事の件のお礼に奢ってやりたかったし。
大体、別にあの場に居たって自分じゃ何の役にも立てなかったろうし。
「で、やっと教えてもらったんでしょ、渡部さんの能力」
「…っつうかさ、あいつ慎重すぎだよな。偉そうなくせに、てんでビビリなの。
もし俺だったら、自分の能力分かったら、まず皆に自慢して回るって、はは」
「ってまだ分かってないんすか、自分の能力!?」
「そこかい」
何だ、やはり間の抜けたことなのか。恥ずかしくなり、自分の頭を乱暴に掻く。
「でも大丈夫ですよ、いつかは分かるもんですから」
「『いつか』っていつだよ?」
「そりゃあ、一刻も早く来て欲しい日でしょうよ」
そう言うと、柴田は満足げに去っていった。
何じゃそりゃ。後輩の適当な返しに、呆れ顔になった。
654 :
581:2007/09/13(木) 13:31:57
児嶋は楽屋のドアノブを捻った。
正面の壁時計を見て、また早く来すぎたことに気づく。
どうせ今日も、渡部は遅いんだろうな。
どうせ今日も、タバコ吸いまくる羽目になるんだろうな。
そう考え、苦笑を浮かべた。
児嶋の期待する『いつか』は、これから三週間後の、とある日。
渡部の危惧する『いつか』は、既に動き始めている。
655 :
581:2007/09/13(木) 13:35:51
ようやく終了です
長々と占領してしまってすみませんでした
分かりにくい表現があったらごめんなさい…
では失礼します
面白かったです!
渡部さんが黒の話し合いを聞いてるんだけどナンパだと思ってるシーンが
読んでて緊張しました。
追いかけてくる
何かが
恐ろしいほどに禍々しい
何かが
俺は必死に逃げていた。何かからかは分からない。
ただ恐ろしい"何か"。必死に、必死に、逃げていた。
それに手首を掴まれ、俺は振りほどこうとする。だが、手首を掴む恐ろしい力は離れない。
せめてそれの正体を見てやろうと俺は振り返る。そこにいたのは―−
『何で逃げるんだよ、俺?』
間違いなく、そこにいたのは自分だった。
そこでプツリと何かが途切れた。
高佐は夢から醒めた。シャツは汗でぐっしょりと濡れ、先程の夢を思い出させた。
起き上がり、自分の頭をくしゃりと撫ぜた。
「(今の、は)」
こんな恐ろしく奇妙な夢を見たのは初めてだった。
二度とあんな夢はみたくない。そう思いながら今は何時かと携帯電話を開いた。
「…はぁ。」
早朝五時十五分。眠りについてからおよそ三時間であった。
ふと右手首にぶら下がる美しいそれを見る。ぴん、と左手で弾く。
「…お前のせいか?」
もう一つ溜息を吐き、高佐は初めて無機物を恨めしく思った。
今日は尾関とネタ合わせ。自分が遅れるな、と言ったので遅れるわけにはいかない。
高佐はしかたなくそのまま起きていることにした。とりあえずぐっしょりと濡れた寝巻きを何とかしよう。
「(汗かいてるし風呂はいろ)」
妹を起こさぬように息を潜め、こっそりと風呂に向かったのは余談である。
風呂に入りながら、高佐は考えていた。
ネタの事、妹のこと、アルバイトのこと。そして、石のこと。
あの美しい色の石にはどんな力があって、自分達にどんな運命をもたらすのか―−。
少し前に聞いた御伽噺としか思えない話を思い出した。
石は持ち主を選び、その石を手にした人間は必然的に戦いに巻き込まれていく
持ち主は芸人が殆どで、芸人達は各々の信念で『白』になるか『黒』になるか、『灰』になるかを決める
なかには無理やり引き込まれる人間もいる
もし、自分がどこかに入らなくちゃいけなくなったら?
「…だとしたら、迷わず」
灰を選ぶだろう。正義でもなく、悪でもない『中立』。
だがそれはあくまで誰にも干渉されなかった場合の意見。もし、尾関や妹を人質にとられたら
「(でもそこまでするのか?)」
いや、するのか、という疑問は大したことじゃない。する可能性はなくはないのだ。
(尾関がいなくなったら俺は、多分、コントを出来なくなる。)
(俺は書けないわけじゃない)
(でも、アイツの台本で演じたい)
(どこまでのしあがれるのか、そう考えただけでワクワクする)
(――この厳しい世界で)
右手をグッと握る。先程までとは違う。もう、迷いはない。
「(アイツがどうしたいのかちゃんと聞こう)」
「(それで俺の意見も言って、それから二人で考えればいい)」
――俺達はコンビなのだから
昨日、彼の様子がおかしかった。
俺が言うのも何なのだが、本当におかしかったのだ。
声は微かに震えていて、ネタに関する質問なのかと思えば最近石をもらったか、だとさ。
正直言って彼がおかしくなると困るのだ。ストッパーがいなくなる。
「…(まぁ、いいや、そんなこと。)」
しっかりとした、アイツのことだ。すぐにペースを戻すだろう。
尾関はそう考える。話題にあがった石を見つめた。光が綺麗に透き通る石。
ふとこの石はなんと言う名前なんだろう。そんなことを考えた。
「高佐に調べてもらお」
携帯電話で写真をとり、メールを作成。
「(ちょ っと な ま え し ら べて お い て !)」
送信ボタンを押して携帯電話を閉じる。
やや乱雑に携帯電話を放って、尾関は布団に倒れこんだ。
「(そういえば)」
何であんなに必死だったんだ?
疑問が一つ浮かび上がる。見たところただの綺麗な石。何か変な噂でもあるのか。
…まぁいい、気に留めるほどのことでもないだろう。
今日はネタ合わせだ。あんなに必死になった理由と、石の名前を教えてもらおう。
待ち合わせの時間まであと四時間。尾関はアラームをセットして、眠りについた。
ひとまずこれまで。
現在続きを執筆中です。
あ
ほっしゅ
保守age
ほっしゃん
とっしゃん
とっつぁん
ほしゅ
ビッキーズ解散、木部ちゃん引退
と聞いて悲しむよりも先に「(舐めると回復する)飴ちゃんがなくなるのか。
ますます白ピンチだな」と思ってしまった自分を誰か殴ってくれ
700ゲトズサー
 ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧
⊂(゚Д゚⊂⌒^つ≡3
保守
いつの間にか金曜orz
そして保守
関係ないですけれどスピードワゴンさんM−1出場するみたいですね
楽しみです
さりげなくスピードワゴンファンです
THE GEESEのほうは今ちょっとずつ書き進めてます
も少しで700ゲトズサー
 ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧
⊂(゚Д゚⊂⌒^つ≡3
保守
とりま保守
過疎化…ほっしゅ
いやいや保守!!
朝から保守
昼間にも保守
夜にも
保守
保守。
初保守
今、黒幹部編書いてる
何とか今月中にしたらばに落としたいな保守
693 :
名無しさん:2007/10/29(月) 21:42:40
保守
今月中に書き上げるのちょっと無理そうだorz
スマソ保守
トイレから保守
保守
保守☆
今度こそ700ゲトズサー
 ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧ ∧
⊂(゚Д゚⊂⌒^つ≡3
(・∀・)ヤッタネ!!
>>700 偽者だお(´;ω;`)
今まで漏れがやってきたのに…
…小説書いてくるノシ 保守
700取った物です。
…本当にごめんなさいorz
物→者
orz 本当にスマソ。逝ってくる
708 :
名無しさん:2007/11/13(火) 12:01:50
おもろいやん
これを徳井が書き込んだとバドヲタは言ってる。
91 :名無しさん@恐縮です:2007/11/13(火) 12:52:48 ID:59QdJb4UO
オグラーはともかく潮田は最高!
国内女子アスリートとしては最高の美女だと思います!
保守
保守
保守
保守
アンジャッシュの話が読みたい…
保守
717 :
名無しさん:2007/11/30(金) 14:57:20
下がりすぎ
もう12月か…
保守
初めて来たけどかなりおもろいね、コレ
ほしゅー
数カ月ぶりに来たらアンジャッシュ話増えてるー!
自分が昔書いた地味なアンジャ設定を使ってもらえてて嬉しかった。
また書きたくなった。保守。
くりナンのN-1観てたら何だか感慨深くなって来たよ
保守
722 :
名無しさん:2007/12/04(火) 17:15:05
ほしゅしゅ
保守じゃい!!!!!
お絵かきBBSがスパムだらけになってる…
まとめ更新お疲れ様です。
ついでに保守。
芸人板落ちてるけども保守
新しく増えたアンジャ編の2が呪いみたいだ…
それともあれは仕様だったり?
保守
呪いみたい??
Macだと普通だけど、なんか崩れてる?
自分
>>728さんじゃないけど、文章が終わるたびに「・」が付いてる。
ちなみにwindows。
ちょっと書きたくなって来た保守
添削スレでOKもらえたので投下します。
そういえば、石。
自分達とバイト店員以外はいないモスバーガーで大水が何の気なしに呟いたのは、
ちょうどネタをつくっている最中のことだった。
それが今までネタの案を挙げていた口調と全く同じに呟かれたものだったので
反射的に「石」と書いてしまった飛永はその一文字に取り消し線を引きながら顔を上げた。
「石?」
「とうとう来ちゃったよ」
そう言いながらゴソゴソと取り出した大水は、石をテーブルにコロンと転がす。
テーブル上を落ち着きなく転がりまわる球体の石は紺色の絵の具に白を混ぜたような深い青で、
透き通ってはいないかわりにしっかりと磨かれ、キラキラと輝いていた。
石の様子を目で追う飛永に、アベンチュリンっていうらしいよ、と大水は告げる。
「アベ…なに?」
「アベンチュリン。別名はインド翡翠。あ、でも翡翠では無いんだって。
翡翠に似てるからそう呼ばれているだけで。
似てるって言われるだけあって大抵は緑のものが多く出回っているんだけど、
こういう風に青いのは珍しいんだって。それで…」
「ちょ、ちょっと待って」
止めなければいくらでも話し続けそうな大水を一度制して、飛永はノートを閉じた。
こういう話はついで感覚でするものじゃないし、何より聞きたいことがたくさんあったからだ。
飛永は石をつまみあげると大水に渡してしまうよう促し、きちんとしまったところで口を開いた。
「なんで種類とか知ってるわけ?」
「調べてもわからなかったから、持って行って聞いた」
しれっと答える大水に、飛永は驚きと呆れを隠せなかった。
ひくりと顔がひきつったのが自分でもわかる。
大水の口ぶりから石を手に入れたのはここ数日の出来事なのだと勝手に解釈していたが、
もっとずっと以前から大水は既に石を手に入れていて自分に黙っていたのではないか。
嫌な予感を否定してくれるようにと、飛永は祈るような思いで言葉を続ける。
「ちなみにその石で何が出来るかわかってるとか言わないよね」
「いや、もうわかってるけど」
頼みの綱も簡単に切られ、飛永は頬杖をつくと大きなため息を吐きだした。
噂を聞く限り、石を手に入れた者が能力に目覚めるのは個人差があるという。
石を手に入れた瞬間反射的に能力に目覚める人もいれば、
何かの拍子に発動して初めて能力を知る人もいる。
大水のことだから手に入れてすぐに能力を…という仮定も出来ないことはなかったが、
そういう人はごく少数だそうなので、多分石を手にしてからある程度経っている可能性の方が高い。
別に自分に言わなければならないという決まりごとはなかったが、
石については散々二人で話していたことだったのだから
手に入れていたのならすぐにでも教えてくれたっていいだろう。
飛永は恨めしげに大水を睨むと、もう一度深いため息を吐いた。
彼らにとって、石の話は決してまことしやかに語られる噂話などではなかった。
厳密に言えば「身近な話だが蚊帳の外」といった具合だろうか。
他の事務所や他の芸人はどうだかわからないが、
彼らにとっての石とはそういう存在だった。
その点は人力舎という事務所柄が少なからずに関与している。
大っぴらに石を使って行動する先輩やら、突如奇怪な行動をとったと噂される先輩やら、
白のユニットや黒のユニットと呼ばれる者達の攻防やら。
人数が少なく厳しい上下関係があまり存在しない人力舎内において、
不思議な石とそれを持つ人々の能力、そして彼らの戦いは後輩達に筒抜けだった。
中には実際に石を使っている現場を目撃した者までいる始末だ。
ただし、話を耳にした後輩達の感想は様々である。
ある者は芸人たる証である石を手にしたいと望んだし、
ある者は面倒事に巻き込まれたくないと感じた。
そして、ラバーガールの場合は二人とも間違いなく後者であった。
そんな二人が仮定の話で、と石についての方針を決めたのはもうずっと前のことである。
方針、といってもそんなに大そうなものではない。
あくまで「もしも」の話を、ぼんやりと話し合ったにすぎない。
能力が開花する時期はともかく、一方にだけとても早く石が渡ることはないだろうし、
一方が勝手に動いても絶対互いの関係がギクシャクする。
石のために石を手に入れるきっかけとなった芸事を疎かにするのもどうかと思うし。
石にまつわる噂話が徐々に熱を帯びて飛び交い始めた頃二人が話し合って決めた方針は、
「石が実際に手に入ってから改めて話し合うが、手に入るまでは無関心・無知を装う」というものだった。
それから二人は何年もの間、興味の無いふりを徹底した。
実物を持っていなかったから特に意識をせずにできたし、
石についての話を持ちかけられても何度か敬遠してやれば、
次第に話し相手に選ばれることはなくなった。
けれどそれはあくまで「装う」だけであって、
耳に入って来た情報や石・能力に関しての知識は徹底的に収集した。
いつかやってくるかもしれないその時、身の振り方を決めやすいように。
これを続け、今。
とうとう自分達の元にも石がやってきてしまった。
他人事だったものが自分達にも関わりのある話になってしまう恐ろしさ。
これからのことを考えると、二人はただただ憂鬱で仕方ない。
「一か月前、起きたら枕元にあってさ」
「そんなに前からかよ。少しは言ってくれてもよかったんじゃないの」
「…うまいこと、なかったことに出来ればいいのにって思ってたから」
面倒、と言いながら大水は紙ナプキンに手を伸ばす。
そしてグラスなど周囲のものをどかしナプキンを広げると、
飛永のノートに挟んであるペンを抜きだし何かを書き始めた。
2本の縦線で区切られた3つの空間に、少しずつ文字が書き込まれていく。
飛永は眉を寄せながら字を見つめ、どうにか書かれている内容を理解した。
本来書く用途に使われる紙でないこと、飛永から見ると逆さに見えることを差し引いても大水の字は汚く読みづらい。
例えばそれが見慣れた名前でなかったから読むことなど出来なかっただろうと、飛永は心の中で苦笑する。
大水が書き込んでいたのは芸人達の名前だった。
3つに分けられているのは「白」「中立」「黒」なのだろう。
事務所の先輩、ライブや番組で見知っている芸人、舞台上以外でも親交のある芸人、様々な名前が書き込まれていく。
少しの時間を要し書き終えた大水は満足げに息をつくと、右手で氷が溶けきって水だらけになったグラスをあおり
左手でナプキンを反転させ、飛永に見せた。
飛永はもう既に大体の内容を把握している紙を律儀にもう一度確認すると、へえ、と声をあげる。
相方ながら、よくぞここまで調べ上げたものだ。
飛永は感心しながら字を追い、ふとした疑問が浮かんだ。
それは、お互い公私ともに親交のあるコンビのこと。
「ギースは?」
「ギース?わかんない。まだ持ってないんじゃない?この前もそういう素振りなかったし」
「まーね」
最近、この2組は合同ライブを行っていた。
その時は稽古・楽屋・本番・打ち上げ等、相当な時間を共に過ごしたが、
彼らの石の目撃もしなければ特に話題としてのぼることもなかった。
元々石への関心が無いように装っていたので気を遣って話をしなかっただけかもしれないが。
疑問がいったんの解決を見せたところで、大水は本題とばかりに指でナプキンを叩く。
下のテーブルがコンコンと音を立てたのに反応して、飛永は視線を再びナプキンへと戻した。
「知ってるのはこれだけだけど、大体は白に偏ってる」
「そうだなぁ…人力内の情報がほとんど、ってのが原因だと思うけどな」
「っていうか黒の情報が少ない」
「黒は簡単に尻尾出さないだろ。それに人力内で黒側って相当勇気必要じゃない?」
「確かにね」
皮肉るように笑いながら、大水はペンで真ん中の空間を指した。
「出来れば、希望はここなんだよ」
「あくまで出来れば、な…難しそうだよ」
「そう。おぎやはぎさんならともかく、下っぱの俺らがずっと中立でいられるかって言うと微妙だし」
「協力しろって言われたらしなくちゃいけないだろうし、もしもが無いとも言い切れない」
「矢作さんのこともあったし。どんなに抵抗したって、やられる時はやられるよ」
「となるとやっぱり白かぁ」
戦うの嫌だなーと頬杖をついていた方の手で頭を掻く飛永を見て、大水が声を抑えて笑う。
それに気づいた飛永がわけがわからないといった表情で見てくるので、
大水はからかい交じりに飛永に腹のうちを告げた。
「まだ石持ってないのに、って思って」
「どうせそのうち来るでしょ」
「万が一の時のために使える力だと良いね」
「…そうだ、力だ力。どんなことできるの、それ」
出来れば自分達を守るのに少しでも有利な力の方が良い。
飛永の問いかけに、大水は少し考えてから、実際にやってみようか、と言った。
「え、できるの?」
「まー攻撃じゃないからね、人もいないし…大丈夫かな」
「でも店員いるよ。見られちゃヤバいんじゃねーの?」
「大丈夫大丈夫。見えるようなものじゃないから」
「は?」
大水はさっきと同じように石を取り出すと、指を組み石を両手で強く握りしめた。
手と手のすき間から一瞬青く淡い光が漏れる。
それを確認すると、大水は特に何をするでもなく、石を元の場所へ戻した。
けれどもいっこうに変化は訪れない。
いつもは冷静なツッコミを返せる飛永も、こればかりは冷静でいられなかった。
「え?え?どういうこと?」
「これでオシマイだけど」
「何にも変わってねえじゃん」
「そういうわけでもないんだけどね…」
言葉を濁しながら、大水はちらりと店員を見る。
と、その瞬間、ジリジリジリジリとけたたましい音が鳴り響く。
慌てた様子で店員は奥へ入っていく。
よくドラマや避難訓練で耳にするような火災報知ベルの音だ。
驚いて立ち上がる飛永とは対照的に、大水はどこか楽しげに奥を見続けている。
その様子を見て、飛永はピンときた。
これが、大水の能力なのだと。
え、でも…火災報知ベルを鳴らすことが?
飛永は席に着くと、大水の説明を待った。
やがてベルの音がやみ、疲れた表情で出てきた店員が、誤作動でしたと申し訳なさそうに告げた。
大水は相変わらず楽しげである。
「説明しろ。さっぱり飲み込めないんだけど」
「簡単に言うと、この石の能力は危機回避」
「危機回避?」
「隠れているのを見つけられないようにしたり、逃げるチャンスを与えてくれたり」
「で、今のは?」
「この石は、自分に敵意を持っている人に作用する。あ、そこは例えば飛永に使う場合も一緒ね」
「ってことは、あの店員は敵意を持ってた、と」
「やっぱりたったこれだけの注文で入り浸られるのは迷惑だったんだなー」
「…あれは逃げるチャンスをくれた、ってことになるんだろうなぁ」
他人事のように話す大水を横目に、飛永は聞かせるでもなく呟きながら残っている烏龍茶に口をつける。
変に緊張して、喉が渇いていしまった。
こちらも同じようにあらかた氷が溶けてしまった烏龍茶には、もう一個氷が沈んでいるだけである。
薄いな。そう思ったと同時に、突然飛永の頭の中に別の思考が飛び込んだ。
こんなに大きな氷があるだろうか、これだけなぜ残っているのだろうか、氷は沈むのだろうか。
飛永は急いで全て飲み干すと、ずっと氷だと思っていた塊をグラスの中から引き上げた。
塊の正体は、氷でもなかったし恐らくガラスでもない。
これは、石だ。
大水は、おー、とまるでちょっとしたマジックでも見た時のようなのん気な声を上げる。
実際はだいぶ驚いているのだが、元々緊張感が少ないためのん気に聞こえる。
飛永はそのことに特に触れるでもなく、まじまじと石を眺めた。
茶色い液体のせいで色がしっかりわからなかったその石は
ピンクと緑の2色がグラデーションのように混ざる不思議な石だったが、
どうしてかそれが自分のものであることは最初から決まっているように思われたし、
この石が持っている能力も、石が自分の手と同じ温度で馴染む頃にはすっかり理解しきっていた。
どうしてと言われれば答えられない。
強いて言うなら自分の分身のようなものだから、だろうか。
随分すぐに追いついたな、飛永は大水を見ながら人の悪い笑みを浮かべた。
「この石カウンター効くって」
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
先ほどと立場が逆転し、大水はやれやれと苦笑した。
実のところ大水が石の能力を理解したのはつい1週間前のことだ。
あの時だって、面倒事があったのでちょっと念じてみた…ときっかけがあってのこと。
けれど飛永はそうしたきっかけもなしに、石を手に入れた瞬間に能力に目覚めた。
人によって個人差があるというがここまでとは…というのが大水の正直な感想である。
飛永は、使ってみるか、と呟いた。
大水はもちろんとばかりに頷く。
カウンターと言われてイメージしてみたが、いまいちどういうものかつかめない。
それに今後を決める上でも、互いの能力を知ることは絶対に必要だ。
飛永は石を握り、少し迷うように天井を仰ぎながら一言短く呟いた。
「黒のユニットの誰かが、何かしている」
飛永はすぐに行動に出た。
まずは携帯電話を取り出し、そこから名前を探し出す。
誰の名前を探しているのかは、飛永自身にもわからない。
大水は不審に思いながら、恐る恐る尋ねた。
「何やってるの?」
「今、黒のユニットに所属している誰かの行動をトレースしてるの。
トレースっていう言い方もあんまり正しいとは言えないけど。
あー、やっぱり駄目か。『誰か』とか『何か』とかだと曖昧すぎるみたい。
『わかりました、もう結構です』」
「結構?何が?」
「力を解除したんだよ。…ごめん、あんまり参考にならなかったな」
「…飛永の力は『誰かの動きを複写する』ってことでいいの?」
「複写するんじゃなく、奪うって方が正しい」
「奪う?」
「今、黒のユニットの誰かが、電話かけようとしてたみたい。
電話かける寸前で解除したから、電話をかける行動自体は奪ってないし。
少し動けなくなる時間が続くだろうけど…きちんとかけられるんじゃないかな?」
ついでに黒のユニットの誰かの正体がわかればよかったのに、と愚痴る飛永は
口調とは裏腹に満足げな表情をしており、よほど石が使えて楽しいのだろうと容易に想像できたし
その感情は大水にも十分理解できた。
二人とも、争いに参加したり面倒事に巻き込まれない分にはこういうのが嫌いでないのだ。
飛永は石を握り、少し迷うように天井を仰ぎながら一言短く呟いた。
「黒のユニットの誰かが、何かしている」
呟くやいなやすぐに行動に出る。
まずは携帯電話を取り出し、そこから名前を探し出す。
誰の名前を探しているのかは、飛永自身にもまだわからない。
大水は不審に思いながら、恐る恐る尋ねた。
「何やってるの?」
「今、黒のユニットに所属している誰かの行動をトレースしてるの。
トレースっていう言い方もあんまり正しいとは言えないけど。
あー、やっぱり駄目か。『誰か』とか『何か』とかだと曖昧すぎるみたい。
『わかりました、もう結構です』」
「結構?何が?」
「力を解除したんだよ。…ごめん、あんまり参考にならなかったな」
「…飛永の力は『誰かの動きを複写する』ってことでいいの?」
「複写するんじゃなく、奪うって方が正しい」
「奪う?」
「今、黒のユニットの誰かが、電話かけようとしてたみたい。
電話かける寸前で解除したから、電話をかける行動自体は奪ってないし。
少し動けなくなる時間が続くだろうけど…きちんとかけられるんじゃないかな?」
ついでに黒のユニットの誰かの正体がわかればよかったのに、と愚痴る飛永は
口調とは裏腹に満足げな表情をしており、よほど石が使えて楽しいのだろうと容易に想像できたし
その感情は大水にも十分理解できた。
二人とも、争いに参加したり面倒事に巻き込まれない分にはこういうのが嫌いでないのだ。
「誰にかけようとしてたの?」
「ホラ」
放り出された携帯電話にうつるのは、「大水洋介」の文字。
「俺?」
「…相方にでもかけるつもりだったんじゃないの?」
「あー、なるほど」
「相方のいる芸人なんて…多過ぎて人物特定が出来ないよ…あ」
小さい呟きと共に、飛永が嫌そうな表情を浮かべる。
どうかした?大水がそう聞いても、飛永は嫌そうな表情を深くするだけである。
表情を変えず、飛永は口を開いた。
「まずいな、対象が曖昧なのにはりきちゃったから相当力使ったみたいだ。
これから俺、1時間くらい耳が聞こえない状態になるから。
もし何か話があるんだったら筆談にして…そうだ、できるだけ綺麗な字で書けよ」
言い終わるや否や、飛永はテーブルに伏せる。
代償とは関係なしに、少し疲れてしまったようだ。
大体、いきなり大技を使いすぎではないだろうか。
カウンターとは言われれば確かにそうもとれるが、さっきの場合は明らかにその域を出てしまっている。
大水は、飛永を見ながらぽつりと漏らす。
「聞こえなくなる、かー」
石を使うことで代償が生じてしまうのはとっくに知っている。
自分の能力を軽く小出しにしか使ったことの無い大水は、まだ自分が食らう代償を知らないが。
本当に聞こえないのか確かめてやろうかと身を乗り出したが、やっぱり何もしないでおこうと思いなおす。
「どうしようかな」
とりあえず回復したようならきちんと話し合わなければ。
筆談にしろ、とは言われたものの相手がこの状態では話のしようがない。
希望は中立、でも無理ならば白。
何も無いのに自ら黒に進もうとするなんて、考えられないし。
ぼんやりと色々なことを考えていると、突然大水の携帯電話が音をたてた。
相手は、コンビ揃っていつもよくしてもらっている先輩。
ふとさっきのことがよぎったが、まさか、とためらうことなく大水は通話ボタンを押した。
「今野さん?どうしたんですか?…いえ、まだ…」
彼らはまだ知らない。
この電話から自分達が避けていた道へ大きく踏み出してしまったことを。
まだ、知らないでいる。
まずここまで、続きは現在執筆中です。
ところで今野だけなら出しても問題ないですかね…?
大水洋介
石:ブルーアベンチュリン(インド翡翠)
ギャンブルストーンとも呼ばれ、チャンスを与える石。
記憶力・発想力・洞察力を高めるが、ブルーは特に知覚に優れる。
能力:@一定距離内で、自分or自分が守りたいと念じた人への敵意を察知、相手が発見するのを阻止できる。
A逃げ場のない場所、同空間上では予想外の事象が発生、回避の機会が与えられる。
条件:発動条件は石を握り、強く念じること。
Aの場合、機会は与えられるが回避できるかは本人次第。
自分以外に発動させる場合、その人が自分に危険が迫っていることを自覚しているか、
不安・苛々・恐怖・疲労いずれかの感情を有していなくてはならない。
回数制限は無いが、発動時間や力を使う相手との距離によってにより
発動中は身体能力が、解除後は洞察力が著しく低下し、ぼーっとする。
飛永翼
石:パーティ・カラード・トルマリン
宝石言葉は「再現」。静けさと落ち着き、深く考える力を与えてくれるパワーを秘めている。
1つの石に混在する2色は過去・未来を表し、過去の辛い思い出を捨て未来へ向かうサポートをする。
能力:相手が仕掛けようとしている攻撃を見切れば、逆にその攻撃を仕掛けられる。
見切って口に出した分の攻撃を相手から奪うので、相手の動きを封じることが出来る。
攻撃に限らず、ごく普通の行動の場合も応用は可能。
条件:発動条件は相手がしようとしている攻撃について攻撃より先に口に出すこと。
(あくまでカウンターに限ったもので、相手の攻撃・行動を予知できる力はない。)
一度口に出したものの取り消しは丁寧な相槌(ツッコミ?)を打つことで可能となるが体力を消費しやすい。
相手との距離はどのくらい開いていても構わない。(極端に言えばその場にいなくても構わない)
より詳しく述べて威力が、早く述べてスピードが増し、冷静に述べて攻撃時の自分へのダメージが減る。
回数制限は無し。対大勢の場合は力が分散されるため弱くなる。
解除後は消費体力が回復するまで聴力が失われる(1時間程度)。
乙!名作ですね!今後の展開も楽しみです。
耳が聞こえなくなるというのは地味にきつい代償ですねー。
今野さんは人力舎主催ライブに頻繁に出て活動してますし、登場しても問題ないと思います。
乙です。
ところで、まとめのラバガ小説を開こうとすると、アンジャ編が開いてしまう。
自分だけだろうか?
>750
直ったみたい
本当だ!
管理人様乙
753 :
名無しさん:2007/12/26(水) 15:11:00
期待あげ
添削スレにて許可を戴いたので、投下します。
今日は何の日かと聞かれれば、天皇誕生日だと答える気で居たが、誰とも遭わなかったし電話もかかって来なかった。
午後三時だというのに部屋は薄暗くて、かといって照明を付ける気にもならずに、窓際に立ち尽くす押見は力無くカーテンを揺さぶった。
恨めしかったのだ。
誰が? もしくは、何が? 答えを出すつもりはなかった。ただ、敗者復活戦が行われる大井競馬場へ赴くだけの強靭な精神力を押見は持ち合わせていない。
野外会場では、音が篭らないという事を分かっていたからである。
自分を破った強者達を笑う声が、か弱く虚空に掻き消えるのを聞きたくなかった。
M-1だけがお笑いじゃないとか、公正さを疑って喜んでみたりとか、酸っぱい葡萄を引き合いに出すまでもない。
受動的にうな垂れると冷たい床が見えた。靴下を履こうかと考えた。
もういい加減、子どもじゃないんだから、誰に要請まれた事でもないのに、そんな嘲笑が頭の中で反響した。
意味も無く裸足でいるのは自尊心のためだと、皆にからかわれる度にいじらしい気持ちになる。
その瞬間、ああ、俺を翻弄したあいつも、俺より大分歳を下回るあいつも、今西日を背に受けて戦っているんだという悪い考えがよぎった。
嵐のような不快感。押見は大股で部屋を横切ると、小さくて赤色の、古ぼけたテレビを蹴飛ばした。
精密機器であるはずのその箱は思いのほか軽く、床にぶつかって鈍い音を立て、あっけなく横倒しになった。
しかし押見はテレビには目もくれず、さっきまでテレビが置いてあった黒色の台を見下ろした。
表面には細かい埃が溜まっていた。蹴打の衝撃で舞い上がった塵の粒子が、目線の高さまで上がってくる。
聖夜を控えたというのに、孤独で、負け犬で、何もかもが腹立たしい。押見はもう一度、今度はテレビ台の側面を、力いっぱい蹴たぐった。
ガサ、と重いものが擦れ合う音と共に、一層の埃が宙に繰り出した。
吸い込まないよう、息を止めた押見の目に、飛び込んでくるものがあった。
乳白色の三角形。
はじめは、取るに足らないゴミだろうと思った。ソファーの下や物置の隅などに、見覚えの無いゴミが落ちているのは珍しい事ではない。
だからこれも、いつか知らぬ間にテレビと台の隙間に潜り込んだ、正体の不明瞭なゴミだろうと、推測したのである。
触りたくなかった。箒とちり取りを持ってこよう、と思ったその時、掃き溜めと化したテレビ台の上でその三角が一つ二つ輝いている事に気が付いたのである。
半ば混濁する意識の中、押見はしゃがみこみ、ためらわずにそれを手にとった。
重量感が噂と直結する。
「石だ」
自分自身でも意外な事に、事実と直面してからも押見は冷静だった。取り乱したり大きな声を出したりしなかった。
そのかわり、非常に高い熱を持った何かが頭の中を猛スピードで侵食していき、同時に、自分の中のもう一人の自分がそれを俯瞰し始めた。
押見はしゃがんだまま、埃の中で呼吸していた。
石を巡る戦いについては、知らないという訳ではなかった。
先輩に可愛がられるタイプでないから直接話を聞いたことは皆無だし、周囲の芸人らもそういう事とは無縁な奴ばかりだった。
それでも、吉本という入り組んだ組織に属する以上、情報はそこここから入ってくる。
そして押見は、それら情報に関して、人一倍敏感だった。
持ち前のプライドの高さから、人前でその好奇心を発揮する事は伏せていたが、本当は知りたくて知りたくて仕方がなかった。
誰と誰が戦っているんだろう、石の力ってどんなものだろう、この戦いはいつから始まったのか、そもそも石の正体とは何なのか……
だが非関係者でしかない押見に伝わってくる情報といったらどれもこれも断片的なものと不明瞭なものばかりで、彼の底知れない知識欲を満たすには不足だった。
せいぜい、白や黒といった勢力の名前と、石を持つ芸人の名前をいくつか聞く程度。
それが今や、この手の中に石があるのだ。押見は石を持った右手を閉じ、少し力を込めた。上を向いた口角がさらに大きく吊り上がる。
俺は当事者になったのだ。今はまだ希望しかないが、これからどんどん現実が押し寄せてくるに違いない。
そして優越感――石を持つものと、持たないものの間に生まれる圧倒的な格差が、自分にとって有利なものに転換したのだ。
次第に鼓動が早くなっていく。
と、その時不意に、あの俯瞰的な自分が高揚感に水をさした。
馬鹿みたい、石ころに振り回されて、惨めなくらいに迷妄的だ。
『うるさいうるさいうるさい丸くなって踵をかえせば?』
いつもの癖で無意識に、意味の無いうたが脳内を反響した。
すると、にわかに手の中の石が熱をもって、ほんのりと赤く光り出した。
押見は手を開き、吸い寄せられるように石を見つめた。
重たい耳鳴りがし、軽い目眩で体勢が崩れる。押見はどっ、と腰を落とした。
石の事が分かる自分がいた。
全部ではない、まだ名前すら教えてくれないが、力量を確信するには十分すぎる程の情報量だ。
石の力や発動条件といった未知の知識が、押見の脳へとおぼろげに流れ込んでくる。
押見は立ち上がり、いける、と小さく呟いた。
押見は石をローテーブルの上に置いて、その前に座って観察を始めた。
石は既に光るのをやめており、はじめ見たときと同じように、ひどく不透明な乳白色をまとっていた。
片手で握れる位だからあまり大きくない。しかし不恰好にごつごつしていて、牙のように尖っている。
押見は腕を背後に投げ出すと、ぼんやりと、これからどうするかについて思案した。
黒に入るのは嫌だった。否、怖かった。
善悪の問題ではなく、伝え聞いた噂から判断し、目的のためには手段を選ばない団体に属するのはリスクが大きすぎると考えたのだ。
切り捨てられ、石だけ盗られてポイ捨て、なんて事になったら目も当てられない。
かといって、白に入る気にもならなかった。
ひねくれ者の性格が鎌首をもたげ、正義の味方を気取るなんて、と否定的な事をいうのだ。
それに黒にせよ白にせよ、自分が先輩との関わりが薄い事を考慮すれば、飛び込むのには勇気が要った。
と、すれば、無所属。
しかし――静観するのは心が許さない。
何故だろう。大して積極的でもない自分が、こんな気持ちになるのは久しぶりだ。
押見は首を折り、天井へ視線を移した。
戦いに関与したい。
目的の下で動きたい。
そして何より、石の力を使いたい。
俯瞰的な自分によれば、押見は暴走していた。まさしく力に振り回されようとしていた。
それを踏まえた上で、押見は、石を巡るこの戦いをめちゃくちゃにしてやりたいと望んだ。
自分を散々置き去りにしておいて、今更歯車になれなどと言われても、従えるはずがなかった。
暴走しよう。迷妄しよう。
そして押見は、この石にならそれが出来ると確信していた。
池谷はどうしよう?
この疑問が、今の今まで浮かんでこなかった事の方が不思議なのかもしれないが、それはある意味仕方がなかった。
押見から見て、相方であるこの男は、どうしようもなく能天気で、平和ボケで、戦いや諍いには結びつかない存在だったからだ。
石についても、池谷は押見と違って、さほど関心を示さないでいた。実物も、恐らくまだ持っていないだろう。
自分が石を手に入れた事については黙っておいて、この計画には相方を巻き込むべきでないのかもしれない。
そういう正常な意見を、押見は否定した。
合理的に考えて、異能者だらけのこの戦いをかき回そうと思うなら、池谷に協力させない道理はない。
体力、身の軽さ、意志の強さ……いつか池谷の元へ来るであろう石の力を度外視しても、計画に池谷を巻き込む価値はあった。
反射的に携帯電話を探る右手を意識しながら、押見は、相方を数値化する自分の合理性を嘆いた。
感情的な自分と理知的な自分が争っていた。心地よさに任せて暴走などしなければよかったと後悔した。
それでも、身体は自然に立ち上がるし、指はぎこちなく携帯のボタンを探る。左手は石をポケットにしまう。
家を出ようとしていたが部屋を片付けるつもりはなかった。
「――あ、もしもし池谷? 今どこよ? ふーん、バイト中か……ちょっと、話したい事あるからさ、そっち行っていい?」
倒れたままのテレビが、押見の背中をじっと見ていた。
駅前に馬鹿でかいクリスマスツリーが輝いていて遠くの景色が見えなかった。
時刻は五時前、そろそろ日が傾いていく頃だ。ツリーの電飾が一つずつ灯っていく。
押見は広場の隅の方を通った。若々しい中高生や足を弾ませて歩く人々の中で、
真っ黒なコートに身を包んで眉間にしわを寄せる押見はほんの少し浮いていた。
電車の中で隣に座った二人組がM-1の下馬評をするのを聞いてしまったのだ。
せっかく石を得た恍惚のおかげで忘れかけていたというのに、甲高い声で喋る彼女らのせいで、色々と思い出してしまったのである。
悔しさや恥ずかしさで胸が一杯になった。
それでも、頭の中はまだ幸せだった。
石を操って、これから自分がどう振る舞うか、という予想図が次から次へ浮かんでくる。
それらは全て――「犬の心」の予想図でもあった。
空が白い。気温が下がってきた。
店の前の舗道を掃除していた店員に事情を説明すると裏口から入れてくれた。
厨房は細長く、騒がしく、暖かかった。料理人が二、三人いた。池谷は部屋の一番奥におり、熱心に魚をさばいていた。
「池谷」
戸の後ろに隠れるようにして押見は呼ぶと、右手を挙げて手招きをした。
それに気付くと、池谷は包丁を扱う手を止め、早足で押見の方へ近づいてきた。
料理人らしい真っ白な服を着ていて、押見は自分の格好とのコントラストを覚えた。
そして、どうか池谷に石があれば、それは黒色であってほしいと唐突に願った。
「どうしたの、押見さん」
「何作ってんの? まだお客さん来てないみたいだけど」
押見は質問に答えなかった。腕組みをして、さっきまで池谷が立っていた辺りを眺めた。
「仕込みだよ。今日はクリスマス直前だから、忙しくなると思うんだよ」
「ふーん……」
「聞いてくれよ。今日はいい鰆が入ってさあ」
「またその話? 言っとくけど、お前が思ってるほど魚って面白くないから」
「それは押見さんが鰆の事を知らないからだって! それにそれだけじゃなくて。クリスマスは鶏肉ばっかりちやほやされるけど、魚料理もまた乙なんだよ」
「別にちやほやはしてないでしょ」
押見は自分の脈の音を聞いた。それはだんだん大きくなってくる。
押見の目は料理人としての池谷を見た。押見の耳はクリスマスという単語を聞いた。
その時、押見は、世界は途方もなく広がっているという事――つまり、芸人どうしの世界、
さらに言えば、石を巡る戦いの周りにある世界なんて、吹けば飛ぶような小さい世界ではないかと思えてきたのだ。
そして次に浮かんできたのが、羞恥心――M-1の結果に落ち込んだ自分や、反動ででもあるかのように石を歓喜した自分、
静止のきかない妄想の末、練り上げた計画――それら全てをもう一人の自分が俯瞰し、あざけった。
押見は前を向けなかった。じっとりと汗をかいてうつむくと、床が鏡のように反射して赤くなった顔が見えた。
「押見さん? 具合、悪いの?」
前触れもなく黙った押見を案じて、池谷が声をかける。
また押見は返事をしない。深呼吸をして、池谷と目を合わせた。
「頭冷やしてくる。邪魔して、ごめん」
引き止めて何か言おうとする池谷を放り出すと、押見は店を駆け出た。
気が付くと人気の無い川べりまで来ていた。精一杯走ったものだから息が上がっていた。
川は東から西に向かって流れていて、下流を見やると黄金色に輝く夕日が映った。
押見は泣き出したかった。何もかもが虚しいものに思えた。
自分が笑いに対して抱く感情や、石を使う事に関する憧れ、果ては存在意義まで、明瞭なものは一つもなかった。
乱れた呼吸を押しとどめようともせずに、押見はコートのポケットをまさぐった。
尖った石の先が、押見の指を傷つけた。構わなかった。
震える手で乱暴に引っ張り出して、その姿を一瞬だけ確認する。
石は朱を注いだように光っていた。
左目の端から涙が零れた。押見は石を持ったまま、水面を見据え、右腕を大きく振りかぶった。
手首を冷たい感触が襲う。
「捨てる位なら譲って下さい」
押見の背筋が凍りついた。横目で見ると、何物かが自分の手首を掴んでいた。来訪者の姿は見えなかった。
恐ろしくなって振りほどこうとしたが、強く握り締められていてなかなか自由にならない。
「いぃっ! 嫌だあっっ!」
絶叫し、身体を大きくよじって身をかわした。とっさにあいた方の手で突き飛ばすと、不意をつかれた男は尻餅をうった。
押見の奥歯がカチカチうち合わさった。男は自分より若く見えたが、目は空ろで、倒れた時も、立ち上がる時も、視線を押見から離さなかった。
さては黒のユニットの手先か。
本能的な恐怖にあてられた押見はようやく、自分が巻き込まれた戦いの壮大さを悟った。
男が一歩、また一歩、押見の傍へ近寄ってくる。
その時間は、押見にとって、尋常ではない長さに感じられた。
「来るな、来るな、来るなあっ!」
押見は石を体の前にかざし、身を守るように振り回した。
だが、男がダメージを受けた様子はまるでない。
心臓が爆発したように感じられて、気が遠くなっていく。もう駄目だ、と、焦る気持ちの中絶望した。
馬鹿だなあ、意味の無いうたを唱えないと。
そう、くすぐるように呟いたのは、分析的な自分だった。
突然の忠告に押見は当惑したが、すがるとすればこの言葉しかなかった。
「分かってるけど困っちゃうなあ、いつかは仔猫が帰ってくるさ」
適当に思いついた言葉を、呼吸音と勘違いしそうなほど小さな声で囁きながら、
押見は牙のような石を持ち、切り裂くつもりで振り払った。
男が歩みを止め、苦しそうに頭をかかえたのが見えた。
だが、押見はもう限界だった。
深い呼吸が出来ない。頭の片側が割れるように痛む。警報音のような高い音が聞こえて、今にも鼓膜が破れそうだ。
全部吐きたい。目の前が真っ暗になる。どうして、ここに立っているのか分からない。
思わず後ずさりすると、背後が土手になっていた。
息が苦しい。この川に飛び込んでやろうか。今の押見には、主観的で愚かな自分しか残っていなかった。
力の抜けた手から石を落とすと、少し気が楽になった。
情緒不安定な押見の様子が気になって、あの後池谷は店を出た。
勘と聞き込みを頼りにようやく探し当てた押見は、しゃがんで憔悴した男を背にして川べりに立ち、淀んだ目で水面を見ていた。
ぱっと見ではよく分からない状況だったが、押見が正気で無い事だけは誰が見ても確かだった。
池谷は押見の元へ走った。
そして、持てる力の全てを込めて、押見のコートの首根っこを掴むと、思いっきり引き落とした。
ほぼ惰性で立っていた押見は簡単に倒れると、そのまま意識を失った。
次に池谷は男の傍へ駆け寄った。
そして、手に持った、黒地に白い星が散りばめられた蜻蛉玉を指先で撫でると、男の両目を力強く覗き込んだ。
しばらくすると男は生気を取り戻し、きょとんとして、何気なく横になったままの押見を見た。
少しの沈黙の後、男は池谷を振り払って立ち上がり、一目散に走り去った。
「じゃあ、帰ろうか、押見さん」
池谷は暖かい溜息を一つつくと、安らかに呼吸する押見の身体を持ち上げ、来た道を引き返していった。
とりあえずここまでで一区切りです。
M-1の行われていた23日の出来事という設定です。
押見泰憲(犬の心)
ドッグトゥースカルサイト(犬歯型のカルサイト、サイキックな手術に使われる強力な石)
能力 石を手に持って切り裂くような動作をすることによって相手の精神力を削り取り、神経不安を呼び起こす。相手の精神を大きく傷つけることがあり、不安定な能力。
条件 使用している間は、意味の無いうたを唱え続けなければならない。また、能力の反動で自分自身が混乱することもある。
池谷賢二(犬の心)
星柄の蜻蛉玉(依存心を払う・多種多様)
能力 不安や混乱で判断力を失った相手を立ち直らせ、冷静な状態に戻す。また鎮静効果もあり、激情した相手や号泣している相手を鎮めることもできる。
条件 相手が池谷と三秒以上目を合わせること。
乙です。
押見の心理描写が深くて、面白いです。
今年最初の保守
あけましておめでとうございます。
さっそくですが、今年一発目の投下、させていただきます。
犬の心編の第二話です。
その劇場は、こじんまりとしていながらも清潔で、外から見る分には快適そうだった。
しかし、一歩奥まった箇所に踏み入ると、人が集う場所特有の乱雑さを跳ね除けられないのが分かった。
犬の心の二人が『石』について話し合う事を決めたのは、そんな劇場の隅に設けられた一室だった。
くずかごには握りつぶされたセブンスターの空き箱が横たわっている。
池谷が最後の一本に火を点け、灰色をした煙をくゆらせ始めた。
押見は何も言わなかったが、煙を避けるかのように、少しだけ、身を斜めにずらした。
切れ掛かった蛍光灯に照らされて、鏡に映る二人の姿がおぼろになった。
椅子に座ったまま振向いた池谷が息を吹きかけると、鏡は曇る。
部屋は凍てつくように寒かった。
しかし、部屋の気温など、二人にとっては最早取るに足らないことだったのだ。
「暖房、借りる?」
何気ない感じで、押見が切り出した。
「いや、いいよ。長引かせたい話じゃないし」
「そっか」
テーブルを挟んだ二人は顔を合わせる事なく、互いの姿を視界の端で捉えるようにして会話していた。
静寂と静かな緊張が、彼らの間を取り持っていた。
「あのさ。石の……事なんだけど」
机の上で行われる自分の手遊びをぼんやりと見つめていた押見が、口ごもるように話す。
池谷は灰皿を手元に引き寄せ、短くなった煙草の火をもみ消した。
「何か、考えでもあるの?」
「この問題については、それぞれの意見の中間点を取るのがいいと思うんだ」
話題が石の事になると途端に饒舌になる。
そんな自分をやや嫌悪しながら、押見は話し続けた。
「長い戦いになると思う。だからこそ、先々まで異論の無いようにあらゆる事柄はここで決めておきたい。
ひずみが大きくなるのは困るから。意見の相違があるならいまここで……」
「ちょっと待ってくれよ、押見さん」
下を向いたまま息継ぎもせずに言葉を連ねる押見を遮って、池谷が言った。
「何だよ」
「戦い、って言ったろ」
「そうだよ」
「俺たちまだ、戦うのかどうかさえ決めてないぜ」
そこから、か。押見は今はじめて、顔を上げて池谷の目を見た。
「本気かよ。お前、石を手に入れといて、今更知らんぷりが出来るとでも思ってんの?」
「石を持ってます、って、誰にも言わなかったらいいんじゃないの?」
「手に入れて半日も経たない俺のところにまで、刺客が来たんだ。理屈は分からないけど、いずれはばれると思う」
「ばれるって、誰に」
池谷がおどけるような口調で尋ねる。
相方の無知を嘆くような、悲しそうな目をして、押見が答える。
「黒のユニット……そして、白の方にも」
「困る事でもあるのか?」
「仲間になって下さい、と言われる。そして、命令に従って動く日々が始まるんじゃないのか。断れば石を取り上げられる」
神経質な動作で押見が腕を組んだ。
「俺は、どちらも、嫌だ」
押見は一語一語区切って発話した。
その言葉には、どこかしら決意のようなものがこもっているようだった。
「わあーった、分かったから、とりあえずは一旦、原点に戻ってから話を進めようぜ」
「茶化すなよ。それに、何だよ原点って」
「まずは、石を使うのか使わないのか」
「まだその段階なの? だからさあ……」
「俺は使いたくない。というか、使ってほしくない」
呆れ気味だった押見の目つきが、一転して険しくなった。
「は……? 使ってほしくないって、誰に」
「だから、あなたにだよ」
あなた、という言葉に含まれる重みに、一瞬押見は言葉を詰まらせた。
池谷がその隙をつく。
「俺は押見さんが壊れるのだけはやだよ」
子どものようだ。
池谷の語勢はまるで、子どもがだだをこねている時のようだ。
そう受け取りつつも、押見は、池谷の純粋で濁りの無い主張に戸惑い、意識が揺らいだ。
そして、自らの言動を顧みた。
俺は――ここまでの純度を以ってして、池谷に接した事があっただろうか?
必要を感じなかった。ことさら、この、石の事に関しては、俺はどこまでも自己中心的であったように思う。
それは、自分の展望をより一層確実なものにするために、相方を一種のデータとして認識しなければならなかったからだ。
石を巡る戦いの中で、自分の地位を少しでも安定したものにするために。
そして俺は、今自分の中に特別背徳の念が流れていない事に気付いている。
俺は冷血な人間なのかな?
絶望的な考えを否定しようとして、押見は言葉を吐き出した。
「俺だって……俺だって、お前が怪我するのは嫌だよ」
池谷は答えなかった。代わりに、自分の意見を続けた。
「だって押見さんの石、かなり危ないみたいだから」
指摘されて、押見は反射的に、右手に出来た傷をかばった。
「押見さん、まだ石を制御出来てないんでしょ」
池谷に図星を付かれて、押見は押し殺したような声を出した。
池谷の言うとおり、押見の石は、指先で触れただけで思考と反応してしまうような、過敏で、気性の激しい石だった。
23日の顛末も、石を携帯し続けた押見が精神の安定を保ちきれずに
一時的な鬱状態に陥って起こしたようなものだった。
事実、あの日の二の舞を恐れた押見は、自分の石を何重にも布にくるんで持ち運んでいた。
「だったら……なんだよ」
「そんな危ない石を使い続けたら、押見さんいつか壊れちゃうんじゃないかって思って」
押見は言い返そうとしたが、何も思いつかなかった。
ただセブンスターの残り香を嗅いで、午後に潜る煙かしらんなどとまたもや意味の無い呪文を思い浮かべるばかりであった。
表現しがたい奇妙な沈黙を眺めながら、押見は反駁を練っていた。
そして、
「お前が戦えば?」
と、屁理屈とも言える身勝手な言葉を取り出したのだが、すぐに、自分の振る舞いを後悔した。
「まいったな〜、そう来られちゃかなわないな」
ところが池谷の反応は緩やかだった。意外な反応にびっくりして、押見は疑問符を放った。
「え……? 戦ってくれるの? 何それ?」
「だって押見さん止めても聞かなさそうだもん、それだったら俺が頑張って、押見さんに石を使わせないようにしないと」
大丈夫、まだ鼓動は正常だ。当たり前だ、石を使っていないのだから。
予想外の展開に焦り、押見の呼吸は次第に乱れていく。
「ちょっと待ってよ、あんた、死ぬよ? 攻撃系じゃないんでしょ、石」
「殺されるこたぁないでしょう、いくらなんでも」
「お前はこの戦いをなめてるんだ」
「押見さんは自分を過信してるよ」
手のひらを返す厳しい言葉に、押見は目を見開く。
「俺は押見さんの事は認めてるけど、強い人だとは思ってない。
このまま何も考えず石を使い続ければ、きっと、押見さんは壊れる」
「お前は……」
池谷の目を見るのがつらくなった押見は後ろを振向いた。
そして、この部屋の戸に鍵が付いていない事を知った。
「お前は、どうして戦うの?」
「どうしてって……押見さんの代わりに。だから押見さんが戦う理由が、俺の戦う理由だよ」
「お前みたいな馬鹿、今まで見たことない」
押見はゆっくりと立ち上がって、戸へ近づき、ドアノブを強く握って戸を閉めなおした。
そして、もしこの会話が一言でも外に漏れ出ていたら、どんなに恐ろしい事だろうと想像した。
「俺は、石を守るために戦いたい」
「石を? 押見さん、それは、どういう……」
「だれかさんの言うとおり、俺は石に振り回されてると思う。だけど俺は、石を持っているこの状況を維持するために戦うんだ」
ここで言うだれかさん、とは、押見の中の内省的な部分の事だった。
しかしその事には本人さえも気付いておらず、押見は喋り続けた。
「石を持っていることで生じる情報的な優越、精神的な優越、俺にとってはそういうものが、手放すにはあまりに惜しいんだ。
そして石を持っていることで束縛されたくない。黒にも白にも入りたくない。それは何か違う気がする……
とにかく俺は、石を持っていい気分になりたいから戦うんだと思う」
押見は椅子の隣まで歩いてきたが、座らず、立ったままか細い声で息を切らせた。
「つまらない理由で本当に悪いと思う。だけど、これが俺の誠意だ。
恥ずかしくても、格好悪くても、本心を伝えるのが今の俺に出来る精一杯の誠意だ」
そこまで言い切ると、押見は、がっくりと力なくうなだれて、池谷の反応を待った。
池谷は不安と希望が同居したような顔をして、押見を励ました。
「押見さん、いいんだよ、無理しなくて」
「ん?」
「押見さんが素直じゃないのは、相方の俺が一番よく知ってるから。今の言葉だって、押見さんの本当の気持ちじゃないと思うよ。
押見さんは、自分で言うような自己中な人じゃないよ」
「でも」
「とにかく、もういいじゃない。でも、そんな理由だったら積極的に戦わなくていいんじゃない?」
「そこだよ」
押見は偉そうな口ぶりに戻ると、どっかりと椅子に座って足を組んだ。
「防戦をするなら自分から仕掛けなければいい、なんてのは素人のあさはかさ。
何事も相手のペースに任せれば不利になって、危険が増えるの。
逆にこっちからちょちょいと攻撃すれば、向こうは警戒して手を出してこない」
「そんな上手くいくかなあ」
「上手くやるんだよ、そうでなくちゃ意味が無い」
その言葉の後、二人はまた押黙った。
手持ちぶさたになった池谷はずっと、ポケットの中の蜻蛉玉を指でくるくる回していた。
時計の無い閉ざされた部屋の中で、二人は時間と空間から切り離されたような感覚になった。
「先手を打って二三人潰すべきだと思うね。そうすれば向こうも様子を見るから、時間稼ぎができる」
「仕返しされるかもよ」
「それなんだよなあ……忘却術でも使えたらなんだけど。まさかね。魔法使いじゃあるまいし」
『俺は押見さんが壊れるのだけはやだよ』
言いながら、押見は池谷の言葉を反芻した。
聞きなれた明るい声がドラマみたいな事を言っているので違和感があった。
しかしこれは現実なのだから……俺達の身の回りで今、作り物を遥かに超える程のドラマティックな現象が起ころうとしているのだから、
池谷の態度に重みが含まれるのは至極当然なのである。
押見は、頭の中で池谷の言葉を繰り返しながら、自分の事を案じてくれる人間的な温もりを愉しむと同時に、
自分の中に「情」と呼ばれるものが欠如している事を浮き彫りにする相対的な残酷さに惑わされた。
舌先に若干の苦味を感じたとき、誰かが部屋の戸を叩くのが聞こえた。
「失礼します」
ノックをした人物は、入室を促す返事を待たずに戸を開けた。
戸が傾いて相手の姿が見えるようになるまでの数秒間、二人は言い知れぬ緊張感に息を止めた。
「……大輔?」
「すみません、盗み聞きをするつもりはなかったんですが」
それはグランジの遠山だった。
いつも高身長の二人に挟まれて立っているから小さく見えるものの、実は平均より大柄な身体を
小刻みに折り曲げるようにして、遠山は押見に、それから池谷にお辞儀をした。
それでも、彼は押見に傾倒していたものだから、視線が注がれる向きは偏っていた。
「聞いてたんだ……俺らの話」
「たまたま通りすがったらドアの隙間からお二人の姿が見えたんです。普通に挨拶をしようと思って覗き込んだんですけど、
深刻な顔をしてたんで入りづらくて。様子を窺ってからにしようと思って、それで……」
「いいよ。もう分かった」
「押見さん、あのっ」
「違うから。別に怒ってない」
そう言うと押見は席を立ち、部屋の隅に立てかけられた幾つかのパイプ椅子の中から一脚取り出して隣に置いた。
手でそれを指し示し、遠山の方を見やって、そこに座るようジェスチャーした。
「ドアをちゃんと閉めてなかった俺たちも悪いんだし。で、どこから聞いてたの?」
「はい。石を使うか、使わないかでもめてるところからです」
遠山は椅子に座りながら答えた。
「序盤じゃん」
「ちょっと待ってよ、遠山、お前石の事知ってるのか?」
池谷が割り込んで尋ねた。それを受けて遠山は伏せ目がちになり、それから小さく一度だけうなずいた。
「一応、僕も持ってます。それから大も、五明も」
「ふーん……。で、どっちなの?」
押見は質問を続けた。本当は、いつから持ってるのかとか、どんな石をもっているのかとか、
色々聞きたい事があったのだが、場の空気を考えて詮索はやめておく事にした。
それに話を聞いていれば自分から言い出すかもしれない。
「どういう事です?」
「だから、白なの? 黒なの? ま、どちらにせよ一緒だけど。話聞いてたでしょ? 俺どっちにも入る気ないから」
「それなんですけど」
遠山が椅子が揺れ動き、床にぶつかって大きな音を立てた。遠山の凄い剣幕に、押見は思わず目をそむけそうになった。
「僕、まだどちらにも入ってないんです」
「ん? それで、どうするつもりなの?」
「相方は二人とも白がいいって言ってるんですが……正直、それぞれのユニットが具体的にどんなんなのかって、
よく聞いたことないじゃないですか。だから、まだ決めかねてて」
「そうなんだ」
「そこで、僕の石の能力の話なんです」
「何っ」
遠山の言葉を聞いて、押見はぐっと身を乗り出した。
そして、間を置かずに池谷が立ち上がり、二人の脇をすり抜けて部屋を出て行ったが、
遠山の言葉に熱中している押見には気付く由も無かった。
遠山はポケットから深紅色をした楕円の石を取り出すと、机の上に転がした。
「バラ輝石、という名前らしいです」
「石の名前か……俺はまだ知らないや」
「それで、この石の力なんですけど」
そこで一旦言葉を停めると、押見の方を向きなおして、はっきりと言い放った。
「人の記憶を奪う。という能力なんです」
押見は息を呑んだ。
「……ね。これだったら痕跡を残さずに牽制が出来ますよ」
「で、お前は何の目的でそれを今言う訳?」
「協力させて欲しいんです」
そう言うと、遠山はミュージカルでもするかのような大げさな動作で立ち上がり、
片手を開いて片手を拳に……終演の際押見が好んでとるポーズをしてみせた。
「あなたは僕の目標なんです」
「そ。じゃ、超えてみせる?」
「そんなおこがましい」
「俺本気なんだけど。ちょっと考えたら俺の言ってる事、完膚なきまでに間違ってるのが分かると思うんだけどな」
「……何を言ってるんです?」
「無いの? 論破する気」
押見はゆっくりと席を立った。
「あのさあ、よく考えてみて? 牽制の効果を発揮するには、
『こいつらに手を出すのはやめとこう』って相手に思わせなくちゃ駄目なんだよ?
俺と戦った事を忘れてしまった相手は、多分懲りずにもう一度向かってくるだろうね。
結局、身を守るために牽制する事と、身を守るために記憶を奪う事は、両立しないんだよ。
どうしても石を使いたいから池谷を言いくるめようと思ったんだけどさ。
自分で言いながらパラドックスを感じてたけど、まさかお前が気付いてなかったとは……」
「押見さん……」
ぶつぶつ呟きながらうつむいた遠山に、押見は話しかけた。
「どうしたの?」
「協力、させてもらえないんですか」
押見は溜息をつくと、遠山の肩に優しく手を置いた。
「白に入りな。五明と大がかわいそうだ」
「――」
「遠山?」
遠山は震えていた。押見がその目を覗き込もうとすると、それよりも数コンマ早く遠山が顔をあげ、
先程とは比べ物にならないくらい鬼気迫る表情で、押見の両肩を持った。
驚きと少しの恐怖を感じた押見は、後ろに飛びのき、思わず声を裏返らせた。
「遠山? 何だよ、怖いよ」
「押見さん、石を見せてください」
「――遠山?」
「僕も見せたじゃないですか。名前も、能力も全部さらけ出しましたよ。
だったら今度は押見さんの番でしょ、ねえ、そうでしょう?」
押見は返事をするかわりに、冷酷で重たい瞳を向けて、遠山に告げた。
「悪い。お前とは――組めない」
遠山の絶望を捉えた押見の視界がひっくり返った。
交渉が断裂し、やけになった遠山が力任せに押しかかってきたのだ。
後頭部を強打した押見は、いつの間にか遠山の左手にバラ輝石が握られている事に気付いた。
それはほのかに輝きを放っている。
打ち付けた頭に押見は痛みこそ覚えたものの、記憶が消えていくような感覚は一切なかった。
「嘘つき!」
取っ組み合いは熾烈なものだった。遠山が殴りかかったかと思えば、押さえつけられた押見が蹴り返す。
石を使えない事による不利を察知した押見は、必死で抵抗しながらも意識を石の方へ持っていき、
少しずつ鞄のある場所へ接近するのだった。
「最低だ、この野郎! よくも騙しやがって……さては、お前、黒だな!
都合のいい事ばっかり言っておいて、よくも、よくも!」
「だって――!」
「うるさい、ふざけんな!」
「だって、あんたのせいじゃないですか!」
予想外の言葉に動転した隙に、遠山は押見の頬を強打した。
だが、無我夢中の内に押見が放った膝蹴りが遠山の鳩尾に命中し、遠山が大きく倒れた。
すかさず押見が遠山を払いのけ、急ぎ足で鞄を取り、石の包まれたハンカチを引っ張り出した。
「俺のせい……? いいかげんな事を言うな」
「いいえ、僕は間違ってません。全部、全部押見さんが悪いんだ」
痛みを堪えながら立ち上がる遠山を見据えつつ、押見は赤いハンカチを取り去った。
ついに来たね。
押見はぎょっとした。石の表面が歪み、笑っているように見えたのだ。そして声が聞こえてくる。
使うの?
「怖い……」
これを使う事で、遠山が、そして自分が崩壊に近づく事が――
ここにきて、今更、恐怖。
「押見さん、今ならまだ間に合う!」
「嫌だ、聞きたくない!」
そうして石が振るわれた。しかし、何も起こらない。発動条件をクリアしていないからだ。
しかし構うことなく、押見は何度も何度も石を振り回した。
それでも石は沈黙を守る。
その時押見は、遠山の石もまだ何もしていない事に気が付いた。
「……石使わないの?」
対立して向き合った二人は足を止め、動かなくなる。
「……黒じゃないの?」
遠山は押見の目を見なかった。
「どうしてだよ……」
「石を渡してください……そうしたら全てお話します」
「……嫌だ」
「……だからあんたが悪いって!」
そのわめき声を合図に、再び遠山が襲い掛かる。
押見は言葉を思いついたが、それを唱えるだけの勇気がなかった。
石を持ったまま突き出した右の拳が遠山の顔に突き刺さり、一筋の傷を作った。
「何なんだよ……」
「押見さん、あなたは……」
「どうして、どうしてみんな俺から石を取り上げようとするんだよ!」
その時押見が振り下ろした石が、思考と反応して赤い光を放った。
その波動にあてられ遠山は、全身に熱風のような衝撃を感じて、力尽きた。
「うっ……」
崩れ落ちる遠山。押見は石を放り捨てると、一目散にその隣へと駆け寄った。
「遠山」
「押見さん、これを……」
遠山は最後の力を振り絞ると、左手を押見の鼻先へ突きつけ、指を開いて石をさしだした。
「これを使ってください……」
「お前、どういう意味だよ」
「激しい石じゃありませんから……ね? だから、お願いします……」
それまで言うと、遠山は緩慢に目を閉じ、気を失った。左腕は床に叩きつけられ、石は転がっていく。
事態を処理しきれずに、押見は混乱した。泣き出したかった。
自分が何をしたのか、そして遠山は何がしたかったのか、まるで分かる気がしなかった。
「入るよ」
もう一度ノックの音。
池谷だった。散乱した椅子や小物が、憔悴しきった押見と昏倒した遠山を囲んでいる
この異様な状況を見て、池谷は大きな声を出した。
「押見さん……! これは一体どういう」
「遠山に、石を、使ってやって。俺も、その後で、頼むわ」
押見は全身の力を抜き、ばったりと横たわった。
ぼんやりとした視界の端に、遠山が自分に差し出したあのバラ輝石を見つける。
それは手の届く距離にあり、なおかつ池谷は自分の方を見ていなかった。
押見は石を取ると、それをポケットに隠し、逃げるような眠りについた。
以上です。長々と失礼しました。
まだもうちょっと続く予定なので、出来上がり次第投下したいと思っています。
進行の都合上、グランジを出してしまいましたが大丈夫でしょうか…?
それでは、ご一読ありがとうございました。
お久しぶりです。base編ラスト投下します。
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「…何なん、西澤」
様子のおかしい西澤に気付いて哲夫が訝しんだ視線を向けると、
西澤はこめかみを軽く掻いて少し間を置いた後、口を開く。
「いや、もうね、そろそろええんちゃいますか。哲夫さんらも、大悟さんも」
誰と目を合わせる事もなく、聞き取り辛い低音で呟いた言葉に、
一瞬その空間が音を失くしたかの様な静寂が訪れる。
「水を打ったよう」という言葉がこれ以上ないほど相応しいその状況を、
静かに、けれど確実に破ったのは、先程までとは随分質の違う、拍子抜けしたノブの声だった。
「え…なに西澤、何?何の話?」
訳が分からないと言いたげな調子で何度も同じような事を繰り返すノブと、
状況についていけず、間の抜けた表情で目を瞬かせて呆然とする津田を置き去りに、
笑い飯両名と大悟は俯いて肩を震わせている。
音の少ない空間には潜めた笑い声の様な物が聞き取れ、
俯いているせいで影に隠れ、はっきりとは窺い知れなかった3人の表情は、角度が変わった事で光に照らされて。
それによって、つい今しがたまで一触即発だった筈の空気は、完全に打ち消される事となった。
「ほれ見ぃ、せやから西澤は無理や言いましたやん」
大悟が冗談まじりの非難を、真剣という言葉とは程遠い色の声で口にする。
呼びかけた先の哲夫と西田の表情も彼と同じく、今までの緊迫していた雰囲気とは全くもってそぐわない。
持ち上げられた口角も面白そうに細まった目も、今は底の見えない空恐ろしさを覗かせる事はなくなり、
いつも彼らが特有の悪乗りをした時によく見られる、見慣れた顔の見慣れた表情であった。
何故か一瞬にして和やかになった空気に暫く目を白黒させていたノブは、
やがて気付いた様に「あ!」と声を上げ、苦々しい表情で眉間を押さえた。
「ちょ、ま…マジか、うーわ、完っ全にやられた…」
「え?ちょ、ちょ、どないなってんすかちょっと」
津田より早く現状を理解したノブが、いかにも芸人らしい少々大袈裟なリアクションを
取りながら舞台上を右往左往するのを指差し、哲夫が茶化すような声をあげる。
「うーわ、むっちゃマジやったやんけコイツ!寒いわぁ」
「そら本気になるやろ普通!てか、大悟、おい!お前も知っとったんか!」
「いやー…ワシもまさかなあ、ここまで気付かんとは思わなんだわ」
「気付くかあんなもん!お前ら、ちょ、もう…やめろやこういうの、シャレならんぞ!」
満面の笑みで、しかし喉からこみ上げてくる笑い声は何とかせき止めようと言葉を震わせる大悟や、
ダイアン両名を除いた面子を叱咤するノブに対して、
反省の色も表さず「どうしたんなー哲夫さんー」などと
先程までの緊迫していたノブの真似事をして茶々を入れる笑い飯の姿は、
西澤の目には、彼の憤りに拍車をかける事に楽しみを見出しているようにしか映らなかった。
一方、ひとり現状から取り残されていた津田は、4人のやり取りを見てようやく事態を把握したらしく。
「うっわマジで?え、てか何で俺が捕まらなあかんの?関係あらへんがな」
額に皺を寄せ、彼らに漸く届く程の声量で、無意識に誰に対するでもない文句を垂れる。
「まあ、ほんまは別に誰でも良かったんやけどね、たまたま津田おったから使わしてもろただけ。あ、一旦解散」
ダイアンをこのような面倒な事態に巻き込んだ張本人であるにも関わらず、
悪びれる様子もなく無情な言葉を投げ掛ける。
あたかも物のついででしかない風に、津田を縛り付けていた変形した石の塊を解く哲夫に
反論する気も失せたのか、津田は心底疲れ切った顔で項垂れた。
「俺何っもしてへんのに。最悪やホンマ」
一番損な役回りを押し付けられた津田の、至極真っ当な愚痴。
それは哲夫から返された石を首に掛け直している西澤の耳にだけ辛うじて届いていたが、
彼が、憔悴しきった相方へ向けて優しい言葉やささやかな気遣いを示すような事は、特にはなかった。
「あ、でも西澤、どこらへんで気付いたん」
そろそろノブをからかう事にも飽きたのか、会話の途切れた隙間を狙って、今気付いたかのように哲夫が問いかける。
西田も大悟もそれについては詳しい話を知りたいのか、哲夫に倣って、興味の色を宿した視線を西澤へと向けた。
つられて目線を寄越したノブと津田も含め、5人の人間の関心に満ちた空気を一斉に向けられた当の本人は、
大して畏縮する素振りも臆した様子も見せずに、右手の人差し指で胸元の薄青い石を数回弾いた。
「ああ…なんかね、この石、相手の欲しいもん足元に置くと、その人の動き止めれるっぽいですよ」
「あー、ほいでか。石放しても力使えるんかお前」
「まあ、ほんの少しの間だけなら」
「へぇ」
要点だけを簡潔に呟いた西澤に、合点がいったように頷いたのは哲夫。
いまいち理解しきれていないのはやはり津田とノブで、
詳しい説明もなく、なんとなく終わってしまいそうな会話を繋ぎとめる為に、ノブが2人に割って入った。
「いや、西澤、哲夫さん、もう少し詳しく」
「せやからな、俺の足元に石置いたやんかコイツ。あれがつまりお供えもんで、力使こてたいう事やろ。
ほんで俺が普通に動いたって事は、俺ほんまは石なんか欲しがってないって事」
筋道を立てた、明瞭な解説の後、せやんな?と確認を向けてくる哲夫に、西澤は黙って肯定の意を示した。
「はーあ、便利やな…全然知らんかったわ」
「うん、まあ言うてへんし」
感心したように洩らした津田に、一拍置いて、温度の感じられない西澤の言葉。
「何やねんお前それ!言えやそんぐらい!だいたいお前」
「しっかしお前勝負出たなぁ。俺らがほんまに黒やったらどないすんねん」
不機嫌を露にした津田がまくし立てようとするのをやんわりと遮り、哲夫が口を挟む。
行き場を失った怒りは宙を彷徨い、それを持て余してどうしようもなくなってしまった津田は、
もはや気概もない表情で成人男性にしては小さな体をいっそう縮こめて黙りこくった。
「黒だったらそれはそれで、まあええわって。実際石なんか持ってないほうが、面倒なくて良いんで」
西澤のある意味怖いもの知らずな言動に、西田と哲夫は揃って可笑しそうに鼻を鳴らし、
どちらかと言えば好意的な笑みを向ける。
「まあ、そらそうや」
「すんませんね、なんか。お楽しみのところ」
「別にええけど。なあ?」
「あー別に、結局こんなん遊びやしな」
西澤と笑い飯の間で交わされる、フワフワとしたいまいち掴み難い言葉のやりとり。
責任やら反省やら、そういったものの影も形も見当たらない光景を黙って見届けていたノブの細い目の間に、
もう一度何本かの皺が刻まれる。
「けど、いくら何でもあんな色んな芸人寄越してやらんでも」
「あー、あれはワシもびびったわ。あんなん用意しとるんなら言うてくれればええのに」
半ばぼやくような口調のノブと、ふざけた調子で楽しげに話す大悟の言葉を受けて、
哲夫と西田は顔を一瞬見合わせ、彼らに向き直って何度か瞬く。
その様子に、今度は西澤の眉間に、僅かな皺が寄せられた。
予感がする。それも、良くない方の。
「何、色んな芸人て」
「俺らそんな大それた事でけへんで」
十数分ぶりの静寂を呼んだ哲夫や西田の言葉は、ともすれば、またいつもの調子で知らばっくれているとも取れなくはない。
しかしそう結論づけるにも、どうも彼らの顔には、馴染んだ悪ふざけの色が見て取れなかった。
今のふたりの顔の上に存在するのは、ただ純粋な疑問のみ。
予感が的中しそうな兆しに、西澤は表面では読み取れないぐらいの苦い顔をして顎を擦った。
一方のノブは戸惑ったように言葉を詰まらせ、少し前の複数人の芸人たちの行動を思い起こしている。
「え、でも、俺ら西澤が若手の奴らに襲われてんの助けて…えぇ?」
「…あれ、哲夫さんらが仕向けたんじゃなかったんすか」
この作戦に加担していたものの、あの芸人たちの事に関しては本当に何も知らなかったようで、大悟が問いを投げ掛ける。
それまで笑みの形を崩さなかった表情が、微かに翳っていた。
質問を受け取った本人たちはすぐにその問いに答える事はなく、
訝しげに表情を曇らせるばかりの様は不信感をいたずらに増幅させる。
あれが笑い飯二人の差し金でなかったとしたら?
浮かぶ疑問に相応しい回答は思いつく限り一つであって、
けれどその思考を裏切られる、思いもよらぬ答えをどこかで期待するものの。
「そんなん知らんで、俺ら」
少し見せた考える素振りの後の短い返事。
それは西澤以外の中にも蠢いていた不確かな不安を確実な形に変え、
まだ解決していない問題を否応なしに負わされた芸人たちは、
暫しの間顔を見合わせる事もなく、押し黙る他なかった。
「…関係ねーわ、あんなもん」
大悟が抑揚のない声で、不意に呟く。
石を巡る争いには興味がないという心の底が過ぎるほどに感じ取れる、そんな質を含んで。
そんな大悟の心の内に頷きたいのは、その場に居た人間全てであった。
けれども、今までの経験と照らし合わせて、この先起こり得る厄介事をそれなりに鮮明に脳裏に浮かべてしまった彼らは、
大悟へ対して同調のリアクションを起こす事も何だか憚られて、沈黙を守る。
代わりのように、哲夫が、少しばかりうんざりとした調子の声を発した。
「白とか黒とか、何やねん、芸人が。アホらし」
吐き捨てられた哲夫の科白が、重たくなった空気の中を転がる。
そちらを見やる事も頷く事もせず宙を見据える西澤には、
何故かそれがとても力強くて、そして同時に、とても頼りないもののように感じられた。
ある男が一人、薄暗い部屋の中で眠りこけている若手芸人数人の中に立ち、辺りを見回していた。
「はー、これはこれは…またおもろい力やな」
興味なさげに足元の人間を一瞥した男は、ジーンズのポケットから携帯電話を取り出すと、
メール送信画面を開き、手馴れた手つきで簡潔なメッセージを打ち始めた。
"ダイアン西澤の他、千鳥両名、笑い飯両名、石所有。詳細は追って報告。"
打ち終えた文章を推敲する事もなく送信ボタンに指をかけ、そのまま躊躇いもなく力を込める。
「送信完了っと」
メッセージが相手へ向かった事を確認して、やや乱暴な手つきで携帯電話を閉じる。
どこか面倒そうに頭を掻いた男の表情は、楽しげでもなく、物憂げでもなく、憤りや苛立ちも見て取る事は出来ない。
光の灯っていない、感情を持ち得ていないかのようなふたつの眼が、薄い闇の中でどんよりと存在しており、
彼の双方と同様に鈍い色を放つ石が、美しく輝く事をせずに彼の手の中で濁った光を持っていた。
「早いとこbase片付けんとな。あーあしんどいわぁ」
低く呟いた声はその場の誰にも届く事はなく、浮かんですぐ、余韻すら残す事もなく灰色の空間へ消えていった。
■西澤裕介(ダイアン)
石・・・・ヒデナイト(石言葉:しばしの憩い)
能力・・・・相手の体の自由を奪い、その場に制止させる事が出来る。
条件・・・・動きを止めるには相手の欲しがっている物を、対象の半径1m以内に置かなければならない。
(少しでも相手が欲しいと思うものであれば可)
投げれば数秒、ただ置くだけなら1〜2分、
お地蔵様へお供え物をするように、全ての動作を丁寧にすると5分近く相手を制止出来る。
力は3回使うと一旦使用停止なり、カレーの入った物を食べる事で再び使用可能になる。
(※地蔵菩薩は元はインドの王であったという説話より)
■津田篤弘(ダイアン)
石・・・・天眼石(別名チャロアイト。邪悪なものを跳ね返す護符として用いられたと伝えられる。)
能力・・・・一定時間、相手を極度のビビリにさせる事が出来る。
条件・・・・特定の相手に対し、恐怖や身の危険を感じた際に、
必死に相手の嫌なところを突っ込む事で力が発動。
「嫌なところ」は外見・内面は問わない。ただし津田が本当に嫌だと思っている事に限る。
津田の恐怖心が強いほど効果は増大する。
突っ込む際は噛んではいけない。噛んだら無効となり、そこから半日はその相手に力は使えない。
base編は以上で完結です。長い事かかってすみませんでした。
ラストで出てきた黒の芸人に関しては、こちらでは誰にするか定めていないので、
今後base書く方におまかせします。
本編には出せませんでしたが、一応考えていた津田の能力も書いておきます。
それでは、読んで下さってありがとうございました。
書き手さん達、乙です!
やはり良い作品が投稿されると板が活気付きます
794 :
名無しさん:2008/01/07(月) 22:13:58
キモスレage
乙です!
>>786-792 乙!ずっと待ってたよ
西澤はてっきり三沢っぽい能力かと思ってたけど、そうか地蔵かw
おじゃまします。新参者です。
片っ端からランダムに読ませていただいている最中なのですが、
最近のアンジャ話(581さん)の2だけスレの投稿者とか日時が残ってませんか…?
ごめんなさい、なんか気になってしまって…
もし作者さんの意向なら、しゃしゃり出たりしてすみません><
こんにちは、犬の心編の書き手です。
現時点で書けた所まで投下させていただきます。
それと、797さんの質問には、私がシステムに関しよく分かっていないため
不用意な返答を控えさせていただきます。申し訳ありません。
あれから二週間が過ぎた。
遠山は何事もなかったかのように接してくる。
戦いを挑んでくる奴は現れなかった。
池谷はいつもどおり快活で。
でも、俺の手元には“遠山の石”があって。
池谷はそのことを、知らなくて。
長い二週間が過ぎた。
俺はこれから、どうしたらいいんだろう?
この憂鬱も石の仕業なのか?
今日、押見は仕事場まで歩いて向かう事にした。
時間に余裕があったから、散歩がてらいつも通らない道を選んで。
猫背。吐く息が眼鏡を淡く曇らせる。街からは正月気分が抜けきらない。
雪でも降り出しそうな灰色の空を見上げもせず、押見はぼんやりと景色を確かめた。
そのポケットの中には、未だに使用法の分からないバラ輝石が収まっていた。
あれから色々考えて、押見は石を遠山に返す事に決めた。
かすかにしか聞き取れなかったあの意味深な言葉を繰り返し噛み締めたが、
どうしても答えが見つからない。
自分から石を取り上げようとした強引な一連の行動と、
全ての力を振り絞ってまで捧げられた献身的な発言が、押見を混乱させた。
簡単に言えば、繋がらなかったのだ。
歩きながら押見は考える。
そして、自分の石を思い出す。
皆、それを使わないように言うのだ。
池谷にしろ、遠山にしろ。
放っておいてくれればいいのに、と押見は思う。
彼らを焚きつける感情が同情なのか正義感なのかは知らないが、
押見にとってははっきり言って迷惑だった。
それとも庇護欲か? だとしたら――鬱陶しいことこの上ない。
踏みしめた砂利が鈍い音を立てる。
だいたい石を巡って大の大人が勝った負けたのと騒ぐ原因は一つ、
虚栄心、さらには現実世界からの逸脱願望だろう。それが押見の持論だった。
そして俺は素直に踊らされる事を選んだのだから、石については放っておいてほしいのだ。
この力で狂おうと壊れようと所詮一過性、騒ぎが終わればそれらはすべて霧散するだろう。
だったらせめてひと時の夢くらい、自分の好きに見させてくれ。
押見の足が止まった。気が付けば関係者入口の前に、見知った巨人の後ろ姿。
「おはようございます」
「大じゃん」
佐藤大。ご存知グランジの突っ込み。
それにしてもでかい。近くに立つと自動的に、こちらが見上げる図式になる。
名前どおりにすくすく成長しやがって。そんな事を思って、押見は一人にやけた。
しかし、対する佐藤は深刻な表情をして、話しかけてくる。
「押見さん、少し話があるんですけど。いいですか」
「ん? 何さ」
「ここではちょっと……とりあえず中に入りましょう」
「石の話?」
空気が凍りついた。
押見の発言を受けた佐藤は苦虫を噛み潰したような酷い表情になり、
そしてそんな佐藤を眺める押見は眉間に皺を寄せて苛付いた顔。
北風が冷酷にのしかかる。
「図星? ああそう。ごめんねデリカシーなくて。悪いけど、俺さあ、この件に関してはもう空気とか読みたくないんだ。
でもいいよ。最低限のマナーだけは守る。まずはひとまず楽屋に入ろうか」
「随分ビジネスライクですね」
「アメリカンナイズとも言うんじゃない?」
そうそう。みんな人の気持ちなんか窺わなくていいから、
もっとドライになればいいのに。
二人が歩を進めるとセンサーが反応して自動ドアがスライドした。
押見が点けた煙草が鼠色の煙を立ち昇らせる。
口角を上げて話しやすい状況を演出するが、上手くいっていない。
若干張り詰めたムードに戸惑いつつも、佐藤は押見に話しかけた。
「えーっと……押見さん、石、持ってるんですよね」
「そうだよ。誰から聞いた?」
「大輔からです」
「遠山は誰からその事を聞いたか分かる?」
「それは、分かんないです。本人に聞いてみないと」
「そっか……」
佐藤は収まりが悪そうな仕草できょろきょろ辺りを窺いながら喋る。
押見はそんな佐藤をかすめ見て笑い、背もたれを軋ませた。
廊下からは他の芸人たちの楽しそうな声が漏れ出てきて、
これから訪れるかもしれない苦境に身を強張らせる押見をセンチメンタルな気分にする。
苦境――そうだ、佐藤は多かれ少なかれユニットに属している立場、
何事か面倒を持ちかけるつもりなのだろう、と押見は身構える。
白にも黒にも入るものか、と今一度決意を固め、生唾を飲み込んだ。
押見が点けた煙草が鼠色の煙を立ち昇らせる。
口角を上げて話しやすい状況を演出するが、上手くいっていない。
若干張り詰めたムードに戸惑いつつも、佐藤は押見に話しかけた。
「えーっと……押見さん、石、持ってるんですよね」
「そうだよ。誰から聞いた?」
「大輔からです」
「遠山は誰からその事を聞いたか分かる?」
「それは、分かんないです。本人に聞いてみないと」
「そっか……」
佐藤は収まりが悪そうな仕草できょろきょろ辺りを窺いながら喋る。
押見はそんな佐藤をかすめ見て笑い、背もたれを軋ませた。
廊下からは他の芸人たちの楽しそうな声が漏れ出てきて、
これから訪れるかもしれない苦境に身を強張らせる押見をセンチメンタルな気分にする。
苦境――そうだ、佐藤は多かれ少なかれユニットに属している立場、
何事か面倒を持ちかけるつもりなのだろう、と押見は身構える。
白にも黒にも入るものか、と今一度決意を固め、生唾を飲み込んだ。
「で、本題は?」
「……大輔の石を預かってるそうじゃないですか」
「……誰から聞いたの? それも遠山?」
「そういう事になりますかね。まあ、いいじゃないですか、そんな事は。
率直に言いますけど、グランジとしてはそれをこちらに返して欲しいんです」
駆け足で一気に言い切った佐藤は膝に手を置いて睨みつけるように押見を凝視する。
それを睨み返す押見はいぶかしげな態度。
「別に……いいけど。でも、何でそれをお前に言われなくちゃいけないのさ」
「そりゃあ、相方として、僕としても考えるところがあったんですよ。
大体どうして押見さんが大輔の石を持ってるんですか」
「貰ったんだよ」
「本当ですか? ……こんな言い方はしたくないですけど、俺、それについては疑わずにはいられないんですけど」
「いや、本当だってば。何? 俺が力ずくで取り上げたとでも思ってんの?」
押見の口調が厳しくなる。と、同時に佐藤の側にも苛立ちが見て取れるようになる。
「そういうつもりじゃないですけど……」
「じゃあ何? ああ、もうやだ。俺さ、正直言うと、今日遠山にこの石返そうと思ってたんだよね。
でももうやめた。お前にそんな言われ方したら、俺にだってプライドあるよ」
「ちょっと、何言ってるんですか」
「そもそも、俺が遠山の石を持ってたらお前ら困る訳?」
「それは、押見さんが白に入っていないから……」
白、という単語がボディブローのように押見に突き刺さる。
「ああ、そう……先に言っとくけど、俺は白にも黒にも入らないからね。石も返さない」
「でもそんなの危ないですよ。管理下にないところに二つも石があるなんて……」
「管理されてたら安全だとも? 言わせてもらえば、黒白のレッテル付けこそが、
争いを引き起こす一番の原因だと思うけどね。まさかお前、俺の石まで取り上げる気じゃないよな」
「……話の流れ如何によっては」
突発的に押見は椅子から立ち上がり、煙草を投げ捨てた。
湿った靴底に踏みつけられ煙が細くなっていく。
佐藤も渋々といった顔つきで椅子から退き、出口を塞ぐように位置を取る。
互いに口にすべき言葉を見つけることが出来ずに沈黙した。
佐藤が扉に、押見が片隅に投げ捨てられた鞄ににじり寄っていくから、次第に間合いが広がっていく。
しかし、何かきっかけがあれば爆発しそうな程に、緊迫した雰囲気だった。
あの危険な石を使う。押見の緊張が高まっていく。
鼓動に混じって石の声が聞こえてくる――
「おはようございまーす」
直後、ドン、という低い音とともに、佐藤の巨漢がぐらついた。
はっとして見上げれば、その背後で佐藤以上の大男がドアを開け閉めして弄んでいた。
「あ、押見さんに、大。何してんの?」
「五明……」
「五明、悪いけど邪魔しないでくれ。俺押見さんと話があるんだ」
「それにしては険悪そうだけど……とりあえず、出番が終わってからにしたら?
それに、大。支配人さんが、今すぐ来いって呼んでたよ」
「……分かった」
そう言うと、佐藤は早足で五明の横をすり抜け、重苦しい空気に支配された部屋を出て行った。
佐藤の背中をしっかり見届けてから、五明は押見を振向いた。
「すみませんね。あいつ、思い込んだら強情なもんで」
「……聞こえてたのか?」
「いや、まあ、これのおかげです」
五明は照れくさそうにはにかみながら、バックポケットをがさごそやり、
ネイビーと白の薄い縞が走った石を目の前にかざした。
「自分に関係することが分かる、と言いますか。とにかく、この石で大と押見さんがぶつかってるのを知ったんです」
「そっか……俺と大の言い争いは、お前にも関わってたのかな?」
「どうでしょうかねえ。でも、一緒に仕事することも多いですし。喧嘩したら、やりづらいですからね」
五明はドアを閉めると、先ごろまで佐藤が座っていた椅子に腰掛けた。
それにならって、押見も自分の席に着いて、ほっと一息ついた。
「……ありがとう。お前は、石を取り戻さなくていいのか?」
「遠山さんだって自分で考えてやったんでしょう。僕が口出しする事じゃありませんよ。
返してもらえるなら、それに越した事はありませんが」
「……お前も、白なんだよな?」
「……そうですねえ」
「どうして、白に入ろうと思ったんだ?」
「成り行き……ですかね。一人は苦になりませんけど、今回に限っては、ちょっと心細かったんで」
「……不安になってきた」
押見はうつむいて、組み締めた腕を強く引っかいた。
「俺、大丈夫かな……黒にも、白にも、入らないで。一人でやっていけるかな」
「駄目だったら、こちらはいつでも歓迎体勢ですんで。多分黒もそうでしょうけど」
「死なないように、頑張るしか」
「でも、池谷さんもいることですし」
五明のその言葉に、押見の目が焦点を見失った。
「何とかなりますよ、お二人で協力していくんでしょう? きっと大丈夫ですよ。
じゃあ、僕は大のとこに行ってきます。支配人、本当は大の事なんて探してませんからね」
「う、うん。分かった。バイバイ」
そうして部屋に一人残された押見は、力なく携帯電話を操った。
あいつ、今何してるんだろう?
耳に押し当てた通話口が妙に柔らかく、生暖かい。どうしようもない戦いの予感がしていた。
五明拓弥(グランジ)
石 ブルーオニキス(よき知らせ)
能力 別の地点で起こっている、自分に関係ある出来事を知ることができる。
条件 自分に関係ない事は知ることができない。その出来事が五明に関係あるかどうかは、石の判断で決める。
また、「知らせ」の到来は受動的で、自分の欲しいタイミングで情報を受け取る事ができない。
(遠山大輔・グランジ)
石 バラ輝石(秘めた情熱)
能力 誰かの感情を三十分間「固定」することができる。
例えば、喧嘩している人の怒りを固定したなら、たとえ話の流れで和解しそうになっても
それを阻止して怒り続けたままにする事ができる。
また、自分の感情を固定することもでき、感情をエネルギーにして
近くにあるものを瞬間的に発火させることも可能。
条件 「固定」した瞬間にしか体力を消費しないが、自分の意志でそれを解除できない。
さらに、連続しての発火には相当の体力を使い、使用後は全身に強い疲労があらわれる。
佐藤大(グランジ)
石 イエローアパタイト(欺く、惑わす、たわむれ)
能力 自分の残像を残すことができる。実体は無いが、誰の目にもはっきり見え、本人と区別はほとんどつかない。
持続時間は最高で五分程度。
条件 攻撃を加えると残像は消える。三体までしか出す事ができない。
以上です。ご一読ありがとうございました。
トリップ間違い・二重投稿などミスをしてしまいすみません。
(トリップはA4〜の方で統一です)
次回はこのような事のないよう気をつけたいと思います。
なお、バラ輝石と大さんの石はまだ本編に能力が登場していないのですが、
他の人とかぶっていたらいけないので
確認のため、ここに明記させていただきます。
では、お付き合いありがとうございました。
A4vkhzVPCMさん投下乙です。
押見と佐藤のやりとりは緊迫感があって引き込まれました。
押見がこのまま無所属を貫いていけるのか
どちらかに頼らざるをえなくなるのか
彼の状態が不安定なだけにこの先の展開がとても気になります。
次回作楽しみにしています。
813 :
名無しさん:2008/01/16(水) 20:54:38
キモスレage
最近はこのスレも盛り上がってきて、嬉しい限り
保守
こんばんは、A4vkhzVPCMです。
毎回タイトルに使う漢字が変換で出ません。
感覚器縛りなんてしなければよかったと後悔しています。
では、書けた地点まで投下いたします。
押見のかけた電話は、あっという間に繋がった。
時の頃は五時を回ったくらいだったろうか。
狭い小部屋だから押見一人でも暖かい。
それでも、押見は五明との会話の後強く感じた
孤独から来る不安、震えるような感覚に怯え、
逃れたくて最後の希望、相方とのリンクを求めたのである。
「もしもし、池谷?」
「押見さんか」
「今何してる?」
「特に、何も。どうしたの?」
「いや……ちょっと、話しときたくて」
池谷の声を聞いて、押見はちょっとだけ楽になった。
そうだ、自分がどんなに孤立しても、
池谷だけは隣に居てくれる、なんだかそんな気がしたのだ。
「そうかー。珍しいね。押見さんがそんな事言うなんて」
この安心はどこから来るのだろう?
能天気な性格? 今までの経験?
それとも――相方だから? 俺たちが二人で犬の心なんだから、こんな無根拠に安心できるのか?
コンビというのは、世間一般に認知されているより
随分と奇妙な関係なのである。
「でもなあ。別段、話す事がある訳じゃないんだけど」
「それなのに電話したの? 押見さん、変だなあ」
「うるせえ」
なんだ。
五明の言うとおりじゃないか。
気恥ずかしい思いもするけど、
俺にはきちんと相方がいるんじゃないか。
一人しかいないけど、
こんな鬱陶しい道連れは一人だけでも多すぎるくらいだ。
「そういえばさっき、大と五明と喋ってさあ。あいつら白なんだよな」
「なー。偉いよなー」
「確かにな。俺には出来ないや。面倒だし」
「でも、出来る事なら俺だって白がよかったんだぜ」
「それは駄目。犬の心は無所属で行こうって。
そんな事より、今どこにいるんだよ。もうすぐ出番だぞ」
押見の言うとおり、二人の出演するライブの開場まであと三十分もなかった。
押見としては、現在池谷は移動中なのだと思い込んでいたのだが、
声の大きさから考えれば少なくとも電車内ではあるまい。
「そこどこだ? 駅……にしては静かだな。もしかしてもう劇場前か?」
「……いや、まだ」
「はあ? だとしたら、もしかして家?」
「ねえ、押見さん」
「何だよ」
「まだ、ちゃんと石は持ってる?」
押見の頭に血が昇った。
この男、一体全体何を考えているのか。
こうなったらもう、コンビがどうとか、不安とか寂寥だとかはどうでもよくなる。
押見は早口でまくし立てた。
「そんな事今関係ないだろ。いいから早く来いよ」
「石は持ってるの? それだけ確認させて」
「……鞄の中だよ。心配しなくても、むやみやたらに使ったりしてないから」
「そうかあ」
煮え切らない返事に押見はまた腹を立てた。
自分が置かれている状況を、分かっていないとしか思えない。
「本当になにしてんの。遅刻とか、まずいって」
「……」
「池谷?」
次の瞬間、全方向から響くような轟音と共に部屋の電気がかき消えた。
予想外の出来事に押見が驚くのも構わずに、窓の無い部屋は真っ暗になる。
電話の向こうでは池谷も黙りこくっているしで、
音も光も無い空間、不信と恐怖で押見は縮こまった。
「池谷? ああ、ちょっと聞こえた? 今の音。
よく分かんないけど、停電かな、変な感じ」
「ん?」
「だから、停電だよ、ていでん。ああ、これ、ライブできんのかなあ」
「じゃあ、来れるよね」
「は?」
その時押見が感じたのは、芯からの悪寒だった。
つじつまの合わない池谷の言葉に、底知れない不安を感じた。
「……何言ってるんだよ」
「大事な話があるんだ。ライブが無いんだったら、今から言う場所に来てくれる?」
「……お前、知ってたのかよ」
「……」
「今日この場所この時間に停電が起こるの、前もって知ってたとでも言うのかよ」
「……」
今は言えない、か。
暗闇の中で目をつぶり、押見は深々と呼吸した。
池谷は今、笑ってるのかな。沈んでるのかな。
どちらもありえるから、想像するのはよすことにした。
「分かったよ。行けばいいんだろ。今どこだよ」
何かが動き出している。
待ち望んでいた戦いの予感。それなのに、押見は、ちっとも嬉しくなかった。
都内にある、結構有名なビルの37階を指定された。
そんなところをコンビ間の話し合いに使えるなんて、
知らない間に、池谷も出世したもんだ。
劇場からは黙って抜け出してきたのだが、よかっただろうか。
肩から提げた鞄の中には布にくるんだカルサイトを入れて、
ポケットに突っ込んだ右手の中にはバラ輝石のひんやりとした温度を感じ、
押見は水色に輝く摩天楼を見上げた。
空は薄暮に染まりきり、七割程度が雲に隠されている。
地面を踏みしめるたびに靴底が石畳と打ち合って高い音を立て、
押見の緊張感を際限なくあおった。
溜息が白いもやになる。
ガラス張りのエレベーターでぐんぐん地上から離れていく。
押見は外を見下ろして、軽い眩暈を覚え、側壁に寄りかかった。
池谷と戦いたくなかった。
あんなに平和惚けしておいて、いつもニコニコ笑っておいて、
夢みたいなことばっかり言って、安堵の気持ちをかっさらっておいて。
いきなり何を言い出すのだ。
「話って何だよ……」
池谷が、とても遠くに行ってしまったような気がした。
これから会って話をする池谷は、
自分の知っている池谷とは違うのだ。
一人の人格が連続していないというだけでこれほどまでに恐怖するなんて。
そこから戻ってくるのでも、同じところへ連れて行ってくれるのでも、
どちらでもいいから、今はこの不安をなんとかしてほしかった。
35、36、37。
数字の点滅する間隔が、とてつもなく長く思えた。
静かに扉が開くと、そこには、いつもと同じように愛想良い笑顔を振りまく池谷が立っていた。
「いらっしゃい、押見さん」
「池谷……」
「来てくれて嬉しいよ」
「ライブ、抜け出してきたけど。よかったかな」
「多分大丈夫。そう計らってもらったから」
「計らう……?」
話しながら二人はエレベーターを離れた。
37階は巨大なホールになっていて、そこには二人以外誰もいなかった。
部屋の中心に観葉植物が据えられていて、
全面が窓になった壁からは東京の街並みを一望できる。
その一隅に置いてあった黒色の長椅子に池谷は座って、押見はその近くの柱にもたれた。
「話って、何よ」
音の無い部屋に、押見の水っぽい声が響き渡る。
「率直に言うよ」
池谷は両手を固く組んで大きく前傾すると、両目をしっかり瞑った。
「黒に入ってほしいんだ」
押見は一瞬硬直したが、覚悟を決め、池谷の後頭部を睨むように見据えた。
「聞くぜ」
「……」
二人は動かなかった。池谷は押見の顔を見ることができなかったし、
押見は池谷から目を逸らす事ができなかった。
押見の頭の中にはある種諦めにも似た感情が充満しており、
池谷の口から発せられる言葉の全てを冷静に受け止める準備が完了していた。
「いいよ、遠慮すんなよ。お前が、ノーテンキで平和惚けなこのお前が、
白じゃなくまさか黒に入れっていうんだ。よっぽどの理由があるんだろ。聞きたいさ」
それに加えて――押見の想像力は不足していた。
伝え聞く話から、黒が行うという悪事の噂から、悪という性質を認識するための想像力。
それは必ずしも必要というわけではなく、この場合では、その欠如が押見を落ち着かせるのに一役買った。
「押見さん……」
「いいから。話せよ」
「……無所属じゃやっていけない。そして、白でも」
池谷らしくない消極的な発言に、押見は目を伏せた。
「白のユニットなら、敵対勢力の黒にも手荒な事はしてこない」
「ああ。正義を担ってる負い目があるからな」
「だけど、黒は……」
「……何をされるか分からない、か……」
「これで押見さんの石が弱かったならよかったんだ。
だけど、そうじゃない。そしてそれは黒にばれてる」
それはお前が漏らしたんじゃないのか、と押見は言いたくなったが、
危ういところで言葉を呑み込むことができた。
そんなことを言っても何の解決にもならないし、
二人の間が気まずくなるだけだ。
それに恐らく、その推測は間違っている。押見はそう直感していた。
そして、それ以外にもう一つ、押見には憂鬱な疑問があった。
「池谷……」
「押見さん?」
「それはもしかして、俺のせいで黒に入らないといけないってことなのか?」
「……っ!」
「俺の石は強い。おかしいくらいに強いよ。そして多分、俺にしか使えない。
それだから……俺が居るから、犬の心は黒に入らないといけないって言ってるのか?」
「……違うよ」
「嘘つくなよ」
それでもまだ、押見は冷静でいられた。
「本当の事を教えてくれ。黒に入るならそれからだ」
「だから違うって!」
だが、それも長くなかった。
「嘘はいいよ!」
後手で壁を叩き、声を荒げる。
「おい、池谷、俺達コンビだろ? 気なんて使うなよ。
あのラーメンズとさえ真っ向勝負をしたいなんて言った無鉄砲なお前が、
何の理由もなしに黒に入るわけないだろうが!」
「嘘じゃないんだ!」
「じゃあ何でだよ!」
「そこまでです!」
頭が痛くなるような高い声が、唐突に割り込んできた。
聞こえた方向を振り返った二人は、息を呑んだ。
そこは階段で――出てきたのは遠山、次いで五明、佐藤だった。
よほど急いで駆け上がってきたのか、すっかり息を切らしている。
白のユニットが現れたのだ。
「お二人とも、動かないで。もうしばらくすれば、このビルに僕らの仲間が来ます。
ですから、お二人とも、動かないで下さい」
「遠山。邪魔すんじゃねえ」
「……僕はそうしたいんですがね。白のユニットとしては、どうも」
「石も持ってないくせに、正義人ぶってんじゃねえって言ってんだよ!」
押見は絶叫し、目にも留まらぬ素早さで鞄から石を引っ張り出した。
ちょうど夕日が沈む時間で、鬼気迫る表情の押見に茜色の後光が差す。
構えられた危険な石に、グランジの三人が動けなくなっている隙を利用して、
池谷は周囲を見計らい、押見に小声で話しかけた。
「それじゃ、押見さん。また後で」
その言葉に、押見は慌てて振り返った。
見ると池谷は部屋を離れようとしている。
「でも、池谷、お前」
「大丈夫。押見さん、大丈夫だよ」
「嫌だ、行くな」
「すぐに会えるから」
そう言うと池谷は押見を突き飛ばし、
警戒する遠山らをよそにさっさと逃げ出し、対面のエレベーターで部屋を去った。
どっ、と尻餅をついた押見は三人に取り押さえられながら、
ああ、俺今白に掴まってるんだと悟り、絶望した。
以上で第四話は終了です。
あと少ししたら完結する予定ですので、
もうちょっとだけ、お付き合いをお願いいたします。
ご一読感謝します。
お疲れさまです
乙です!
こんばんは、ラバーガール編の書き手です。年末に出すつもりがいつの間に1月に orz
タイトルを変更しました。
読者様まとめサイト管理人様にはご迷惑おかけしますが変更お願いします。
「最悪」
息を殺して潜む最中、飛永はそれだけを呟いた。
今遂行すべきは愚痴を零すことでなく、とにかく逃げ切ることだ。
息も絶え絶えでもう走る気にはなれないし楽屋に置いてきた荷だって隙を見つけ取りに戻らないといけない。
だから、ここで息を潜めてやり過ごす。
路地裏は大通りと異なり閑散としていて、微音ひとつでも響いてしまいそうだ。
きっと普段であれば、平易に相手が近づいてきた事を知れるだろう。
ところが今はそれが可能な状態にない。
何しろ完全に聴力が失われた状態にあるのだ。
音も声も耳に入らない現在の彼にとって、視覚にない敵は普段より数割増しで恐怖を煽る。
視覚に無いとは言うが、頼りになる筈の目にしても
楽屋に眼鏡を置いてきてしまったせいであまり意味を持たないと言っていい。
余裕の無い飛永は一先ず心を落ち着けるため、今に至るまでの経緯を振り返ることにした。
「そういえば、お前ら石持ってるんだって?」
今野が口を開いたのはライブ終わり、共にゲームをしていた豊本や加藤が帰った後だった。
この楽屋には数人分の荷物だけ残して、今野と飛永を除き今は誰もいない。
言葉の意味を理解する前の飛永は、一瞬デジャブかと錯覚する。
というのも今野の口調が先日大水が石の話題に触れた際のそれと酷似していたからだった。
ようやく言葉の意味を認識すると、次に彼はハッとする。
どこから漏れた。
けれど考えるまでもなく、すぐに愚問だったと思い直す。
飛永はそんな一通りの思料を表情に出すことなく、幾らかの警戒を残しながら首を縦に振った。
「大水君ですか?」
今野が頷くのを見て、今度こそ露骨に眉を顰めるのを禁じえない。
力を調子に乗って荒く使い、少し休むつもりがしっかりと休んでしまったあの後。
現段階ではお互い、石を手に入れたことは伏せておこうと決めたのに。
どこか呆けた様子で話を聞いていたが、まさか本当に聞いていなかったんじゃないだろうな。
後で改めて言っておかなければと自分自身へ言い聞かせながら、ちらと今野を窺う。
バレてしまっているものは仕方ない、今野さんなら大丈夫でしょ。
飛永は残りの警戒もすっかり解いて、誰にも言わないで下さいよと苦笑しながら告げた。
「聞いてるかもしれませんけど、まだ伏せておきたいんです」
「聞いてる」
「えーと、どういう石かは聞きました?」
「…」
「今野さん?」
おかしい。
無言のままこちらに近づいてくる今野の様子が明らかにいつもと様子が異なる。
そのただならぬ雰囲気に圧倒され後ずさると手に壁が当たった。
扉は今野の背後にある。
逃げ場は、無い。
今野は立ち止まると焦点の定まらない目で飛永を見つめる。
「中立でいるつもり、とは聞いたけど」
「はい、そのつもりです」
「白のユニットに入るかもしれないとも」
「そんなことまで聞いてるんですか」
一体いつそんなことを話すタイミングがあったのだろう。
これは石の能力まで細かく話されてる可能性がある。
意図の掴めない相手を目前に緊張しつつも一方でいやに冷静な自分が面白い。
さながらゲームのようだと感じながら、飛永は今野の反応を待った。
しかし今野は口を閉ざし一言も話そうとしない。
よくよく観察を試みると、おかしいと感じたその表情にはどこか迷いが透けて見える。
参ったな。これはもしかするともしかする。
飛永にとってその予感は今この状況と重ね合わせなくても嬉しいことにはならない。
自然と手をポケットの中の石へと伸ばしながら、恐る恐る飛永は尋ねる。
「今野さんって、もしかして『黒』なんですか」
先ほどと同じように今野が頷く。
半ば回答の見えていた質問ではあったが、本人に肯定されるのと衝撃はまた違う。
飛永は無意識に瞬きを繰り返すことしか出来なかった。
「嘘でしょ…今野さん」
「嘘ついても仕方ねーだろ」
今野はようやくいつもの調子で話し始めたが、相変わらず逃げる隙を与えず近づいて来る。
誰かが戻ってくるか、今野が隙を見せるかを願いつつ飛永はのべつに話し続けた。
「よく今まで気づかれませんでしたね。俺らもマークしてませんでした、ずっと白だと思って」
大水が先日書いた表の中でも、飛永自身が集めた情報でも、ずっと今野は「白」だった。
「人力=『白』って構図が出来てるし、疑いもしないんだろーな」
「なんていうか、度胸がありますよね」
皮肉まじりの言葉にも淡々と返す今野の様は飛永にしてみれば恐怖でしかなく、
緩慢な動作で迫って来る彼がようやく足を止めたのにも最早安堵は感じない。
飛永は思考を巡らす。
今野が石を持っていることは知っている、但し、どのような能力なのかはわからない。
自分の能力でカウンターしきれるかどうか、ましてやまだ完全に使いこなせてないというのに。
そして重要視すべきは自分の能力が既に相手に知られている可能性だ。
その場合、自分に対して何らかの対策を立ててきていることは想像に難くない。
となると相当厄介だ、完全に俺が不利だ。
「これって石を渡せってこと…ですよね?」
「あっちにつくつもりなら」
「でも俺の石、そんなに力のある石じゃないかもしれませんよ?」
「カウンターは、十分力があるうちじゃね?」
「はは…」
飛永はここにいない相方を思って空笑いを浮かべる。
否、空笑いを浮かべるのが精一杯だった。
中立・非公表のため現在唯一の味方は相方だけとも言える状態でありながら、
その味方のせいで己が苦境に立たされている怒りがふつふつと沸き起こる。
こういう時こそあの石の使い時だっていうのに、どこにいったんだか。
彼に情報を漏らしてしまった責任を是非とも取って欲しいものだ。
石は貰う、と言いながら今野が足を蹴りあげ自分を狙ってくるのがわかった。
狙ってきているのは腹か、腕か、足か。
時間が無いからそんな細かいところまで言っている余裕は無い、ついでに冷静でもいられない。
やられる覚悟で、飛永は今野に突っ込んでいった。
「今野さんが、俺を、蹴ろうとしてる!」
叫ぶと自然と飛永の左足が浮かび上がり、今野目がけて放たれる。
追いつかない頭で辛うじて「左足で」も付けた方が良かったかなどと考えながら、
自分の蹴りを食らったらしい今野が左腿を押さえているのを確認した。
逃げるなら今しかない。
そう思い急いで扉に向かって走るも、狭い楽屋内だ、すぐに今野に腕を捕まれる。
掴みかかって離さない今野へのカウンターを必死になって考えるが、
掴みかかろうとしてくること自体は攻撃では無い。
これを飛永がやったところで今野にダメージを与えることは不可能だし逃げられもしない。
飛永自身が自力で攻撃してもダメージは見込めないし先輩だから自ら攻撃するのはこういう状況でも気兼ねする。
自分の非力さについては日常的に、あるいは最近始めたジムでのトレーニングで痛感している、
せめて石の力で威力なりスピードなりを上げないことにはどうしようもないだろう。
壁に抑え込まれ何度もぶつかったために、正直今野からのダメージよりも壁からの攻撃が苦しい。
それから数分経過しても、二人は攻防を続けていた。
取っ組み合いをしているうちに場所が変わっていつの間にか扉に近づいているも、
扉がいくら近くにあったところで開けて逃げなければ意味が無い。
数分の攻防にお互い疲弊していたが、
ここで力を弱めてしまったら最後待っているのは最悪のケースなのは目に見えている。
これを打破する方法は。
決意した飛永はごめんなさい、と心の中で謝罪しながら足を掬おうと狙う。
すると今野がそれを咄嗟に交わし背後に回りこむ。
かかった。
↑すいません、ミスです。
「俺達は多分中立でいますよ、それで見逃してくれません?」
「『白』に入る可能性も無いとは言わないんだろ」
「ま、そうですね」
「その可能性がある限り、見逃すわけにはいかない。いっそ『黒』に入れば?」
「絶対嫌です」
「黙って『黒』に入ってくれれば手荒なことはしない。お前らは勘違いしてるんだよ、『白』と『黒』に対して」
「勘違いしてるとは思いませんし、『黒』に入るのも手荒なこともどちらも嫌です」
「じゃ、しょうがねーけど」
石は貰う、と言いながら今野が足を蹴りあげ自分を狙ってくるのがわかった。
狙ってきているのは腹か、腕か、足か。
時間が無いからそんな細かいところまで言っている余裕は無い、ついでに冷静でもいられない。
やられる覚悟で、飛永は今野に突っ込んでいった。
「今野さんが、俺を、蹴ろうとしてる!」
叫ぶと自然と飛永の左足が浮かび上がり、今野目がけて放たれる。
追いつかない頭で辛うじて「左足で」も付けた方が良かったかなどと考えながら、
自分の蹴りを食らったらしい今野が左腿を押さえているのを確認した。
逃げるなら今しかない。
そう思い急いで扉に向かって走るも、狭い楽屋内だ、すぐに今野に腕を捕まれる。
掴みかかって離さない今野へのカウンターを必死になって考えるが、
掴みかかろうとしてくること自体は攻撃では無い。
これを飛永がやったところで今野にダメージを与えることは不可能だし逃げられもしない。
飛永自身が自力で攻撃してもダメージは見込めないし先輩だから自ら攻撃するのはこういう状況でも気兼ねする。
自分の非力さについては日常的に、あるいは最近始めたジムでのトレーニングで痛感している、
せめて石の力で威力なりスピードなりを上げないことにはどうしようもないだろう。
壁に抑え込まれ何度もぶつかったために、正直今野からのダメージよりも壁からの攻撃が苦しい。
それから数分経過しても、二人は攻防を続けていた。
取っ組み合いをしているうちに場所が変わっていつの間にか扉に近づいているも、
扉がいくら近くにあったところで開けて逃げなければ意味が無い。
数分の攻防にお互い疲弊していたが、
ここで力を弱めてしまったら最後待っているのは最悪のケースなのは目に見えている。
これを打破する方法は。
決意した飛永はごめんなさい、と心の中で謝罪しながら足を掬おうと狙う。
すると今野がそれを咄嗟に交わし背後に回りこむ。
かかった。
飛永は体全体を使い、出来る限りの力で今野を突き飛ばすと急いで扉を開け廊下に出た。
だが助かったと思ったのは一瞬だけで、すぐに肩をがっくりと落とす。
飛永は縋るような思いで目の前にいる人物、キングオブコメディ・高橋に話し掛けた。
「逃がしてくれませんか」
「ダメ」
「じゃー聞き方変えます。俺より、中の今野さんの方心配じゃないですか?」
丁度良いタイミングで楽屋の中からはげほげほと今野のせきごみが聞こえる。
それを聞き幾らか動揺した様子を見せた高橋を見て、飛永は一目散に走り出した。
少し走ったところで、トンネル内のようなキーンとした音が耳を刺す。
その音が過ぎ去った世界は同じ場所でも飛永にだけ大きく異なった世界となって現れる。
即ち、無音の空間。
石は一度しか使っていない、こんなにすぐに代償が来るわけがないのに。
そうは思うが確かに音は聞こえない。
「まだ石の使用に慣れてないから?体力の消費とかも影響してんの?
限度は日によりけりとかはないだろうし…いーや、考えてる暇ない!」
考えるのは後回しに走り続けながら振り返ると、
足音は聞こえないだけで高橋も楽屋から出てきた今野も自分を追ってきていた。
しかも、その差はすぐに詰まってしまいそうだ。
飛永は外へ抜け、ただひたすら走る。
大通りを二つ越え、路地裏へ。と、そこに見覚えのある影を見つけた。大水だ。
彼は飛永を見つけると小走りで近寄り、ごく普通に口を開いて喋り始めた。
勿論、飛永には全く聞こえないのも知らずに。
「 、 」
「大水君!」
「 、 、 」
「ごめん、今聞こえない」
「 、 ?」
「だ、か、ら」
「 」
「聞こえないんだって」
「 」
飛永は聞こえない中から、最後の一文、「頑張ってね」という言葉だけを口の動きから読み取った。
まさか、とは思うものの、飛永が止めるのも聞かず元来た方へと戻っていく大水を見てしまえば否定も出来ず。
「『頑張って』じゃねえよ…」
適当に走って逃げたため、見つけられるまでにはまだ時間を稼げるだろう。
出来ることならばもう少し逃げたいが、走ったことで体力が底を突いた上に
大水に逃げられてしまったショックもトドメを刺す。
仕方なく大通りから死角になる場所に体を潜め座り込み、今に至るわけだ。
「 、 」
大通りから強い風が吹く。
舞う砂埃に目を細めて飛永が風上を見ると、そこに立っていたのはキングオブコメディの二人だった。
以上です、投稿ミスすいません。
キングオブコメディ設定はまとめサイト通り、
二人の扱い、とりわけ今野の扱いは「愛犬元気」「愛犬元気+」を踏襲するつもりです。
キンコメ復活めでたい。
読んで頂きありがとうございました。
お疲れさまです
水を差すようですが聞こえなくてもはっきり喋れるもんなんですね…
慢性的じゃなくて一時的に聞こえなくなっただけだから大丈夫なんじゃね?
喋れますよ
>>842 聞こえないのは一時的で、喋ることは可能だと考えています。
尤も、それが本人にも聞こえているかはまた別問題ですが。
飛永自身のセリフは3人称視点からということにしてます。
かと思えば大水のセリフは全く聞こえないことになっている
1人称3人称ごった返しの文章ではありますが…
別に気になりませんでしたよ。読みやすかったです
847 :
名無しさん:2008/01/31(木) 11:04:23
うん、保守で
ほす
こんにちは、犬の心編の書き手です。
これが最後の投稿になります。
時系列的には第四話の直後という設定です。
それでは、宜しくお願いいたします。
「上に行ったぞ!」
佐藤が叫ぶ。
遠山と五明に組み付かれた不便な体勢で押見が振り返ると、
池谷が乗ったエレベーターが上階へ昇っていくのが見えた。
あの馬鹿、どうせなら逃げ道のある方へ行けばいいのに。
心の中で毒づきながら押見は言った。
「人のこと、いつまで押さえてるつもり?」
かなり不機嫌なその言勢を受けて、二人はほとんど反射的に力を緩めた。
押見はそれを押しのけて立ち上がり、片手で膝を軽く払うと、また憎憎しげに言い放つ。
「あのさあ……何してくれた訳? お前らのせいで、池谷、行っちゃったじゃん」
「……大事な話があったんです」
「俺だってそうだけど。それとも、あれか? お前らの言う大事な話ってのは、
俺と池谷の話し合いを割いてまでしなきゃいけないくらいのものだったのか?」
遠山は唇を噛んで、動かなくなった。
かわりに五明が進み出て、押見に話しかけた。
「確かに軽率な行動でした。それについては謝ります」
「……うん」
「最初はそんなつもりはなかったんです。ですが、話がどんどんヒートアップするから……
あのまま放っておいたらお二人が衝突する可能性がありました。
ですから、それだけは避けたくて……」
「停めに入った、ってことか」
「はい。それに、まがりなりにも池谷さんが黒だと聞いたら、
万が一の事態が頭に思い浮かんで」
「……だとしたら、白っていうのは相当のおせっかいなんだな」
押見が、三人を威嚇するかのように視線を鋭くする。
「衝突? する訳ないじゃん。確かに口調は激しくなってたけどさ。
俺が池谷に石を使うはずないし、池谷が俺に攻撃するだなんて、
なおさら無い話だろ。黒だろうと何だろうと、池谷は池谷なんだから。
お前らが割り込まなけりゃ全部上手くいってたんだよ」
「……すみません」
「がっかりだよ。……白に感化されたせいで、こんなことになったんじゃないのかな」
「へ? それ、どういう意味です?」
そう尋ねたのは佐藤。
「……もうお前らは、俺らの事を『犬の心』として見れない。
これからは俺らを、『黒のユニット』として扱う気だろ?」
「そんな事ないです」
「そうなるんだよ。嫌でもね」
「だとしたら、押見さん……黒に入るんですか」
遠山が急いで発言する。押見はめんどくさそうにそれを見やった。
「違う。まだ、決めてない」
「じゃあ、入るかもしれない、ってことですか」
「……俺、今から池谷と話をする。二人だけで。
黒に入るか、白に入るか。決めてくる」
押見のその言葉を合図にして、橙に輝くフロアを沈黙が包んだ。
一触即発のムードの中で、皆が何を発言すべきか迷っていた。
「……なんだよ。まあ、そりゃあ、困るよな。
お前ら、きっと、俺が黒に入るよう、池谷に無理矢理説得されるんじゃないかと心配してるんだろ?
大丈夫だよ。いくら相方とはいえ、その辺のけじめはつける。
自分の意志で決める。言いくるめられたりしないさ」
「でも……」
「話が終わったら、絶対にここに戻ってくる。
どんな結果になっても、逃げたり騙したりはしない。約束する」
「……分かりました。では、僕らはここで待ってます。
その代わり、僕の石を返して貰えますか?」
遠山が一歩前に進み出た。
押見は間合いを取るように数歩引き、空笑いしながら返答する。
「石を置いていけ……か。悪い、それは、無理だ」
「……」
押見はズボンのポケットから、美しい赤色に輝く遠山の石を取り出した。
夕日に照らされ幾重にも光を反射させる。
「黒も、白も、まだ俺にはよく分からない。それには池谷の話を聞かなくちゃだめだ。
黒は悪くないと思ったら池谷に、白のほうがいいと思ったらお前に返す。
この石は、信用できる方に渡す」
緊張が辺りを漂った。押見はそれを振り払うように振向くと、
エレベーターに向かって歩いていく。
右手には自分の石を、左手には遠山の石を持っていた。
グランジの三人は硬直していた。
開いた扉の中に押見が吸い込まれる。
引き寄せられて、遠山が駆け寄った。
「あ……押見さん。最後に一ついいですか」
「うん。何?」
「……白のユニットの人間による調査で、
このビルが今夜黒の会合に使われる、という情報があがってきたんです。
ですから、もうしばらくしたら僕らの仲間がこの辺りに来ます。ごく何人かですけど」
「……それで?」
「いい返事を期待してます」
「俺もそうなる事を願うよ」
それじゃあね、と押見が言い残し、ガラスの扉が音も立てず閉まった。
独りになった瞬間、そうか、逃げ道はどこにもないのかと情けないような気持ちになる。
エレベーターは最上階へ昇っていく。
広々とした屋上フロアには透明な柵が張り巡らされていて、
それを通して街の全てが見渡せるようになっていた。
出てきたのはいいものの、池谷の姿がない。
押見は臆病になって不安げに辺りを見回した。
すると、背後から、
「わっ!」
肩をすくませて押見が振り返ると、そこには、
見慣れた顔でニコニコ笑う池谷がいた。
押見は呆れたように頭を掻いたが、口元は微笑んでいる。
「子どもっぽい事するなよ」
「ごめんごめん」
「急ごう、時間が無い。下の階でグランジが待ってるんだ」
「……うん」
「話が聞きたい。黒って何なのか。お前がそこで何をしてきたのか」
話しながら二人はゆっくりと歩いていく。
お互いを追い越しあったり、時に並んだりしながら。
その歩みはやがて、屋上の縁まで来て、そこで止まった。
「二週間前……俺のところに、遠山が仕掛けてきた事があっただろ?」
押見が溜息混じりに尋ねる。
「あったねえ」
「あれ……ってさ。もしかして、お前? けしかけてきたの」
どこからか、金属が打ち合うような高い音が聞こえてきた。
その音が二人の静寂を増長させる。
「そうだよ」
「――どうしてそんな事したの? それも――黒のため?」
「それは――違う。あの時は、遠山が、押見さんから石を取り上げてくれると思ったんだ」
「――よく分かんないけど」
池谷が深く息を吸い込み、押見の顔をきっと見据える。
低い響きを持った声で話し出した。
「黒のユニットは、人の心を操る事ができる。石の力でもあるし――それ以外にも方法がある。
押見さんの石は、強い割に制御が利かないでしょう?」
「……」
「もし黒が押見さんを使うのなら、押見さんを人形みたいに洗脳するのが
一番手っ取り早い。実際、そうするところまで行きかけたんだ。黒は強い力を集めてるから。
押見さんとその石を手に入れるために、作戦が立てられた」
「……そうか」
「俺、その時思ったんだ。押見さんの石が白に流れれば、手の出しようがないんじゃないかって。
だから、押見さんの事を一番心配してる遠山に、押見さんの石が危ないって漏らして、
ああなるように仕向けたんだ。でも上手く行かなかった」
「それで、お前……それならなおさらどうして、俺が黒に入らないといけないんだよ。
ますます危険なんじゃないか? それ」
「今押見さんが黒に入ったら! ……俺の手引きで、黒に入ったら。
少なくとも、押見さんの身に危険な事が起きないかどうか、
俺が見張っておく事ができる」
押見はうつむいた。指の爪で太ももを引っかき、感情をこらえる。
「やっぱり……嘘だな」
「どういう事?」
「お前が黒に入ったのは、やっぱり俺のせいなんだろ? そう訊いてんだよ。
力ずくなんてお前の柄じゃない。それでも黒に従ってんのは、
そうでもしないと知らない間に、俺が黒に操られるから。
相方が使い物にならなくなるから。そうなんだろ?」
「……違うよ」
「……っ! じゃあ何なんだよ!
俺のせいじゃなかったら、どうしてこんな……」
「俺が弱いから」
池谷は呟くように、その言葉を吐き出した。
「……弱い?」
「そうだよ。俺が弱いから。俺の石が戦いに使えなくて、
押見さんの事を守る事ができないから、俺は黒に入ったんだ」
「池谷?」
「いくら黒が何でもするとはいえ、身内には手を出してこない。
俺が自分たちを守るためにできることといったら、それくらいしかなかったんだ」
「……ごめんな」
押見は柵に身を投げ出した。
「ごめんな、今まで、無理させて。なあ……俺たち、これからどうしたらいいと思う?」
「……難しいね」
「俺、一つ知ってるぜ」
「え?」
「白に入ろう。二人で、一緒に」
池谷は目を見開き、驚いたように押見の顔を見た。
押見は不敵に笑うと、池谷に向かって何かを投げつける。
とっさに池谷が手を伸ばす。
「ナイスキャッチ」
「何これ?」
「それで、お前も戦えるよ」
池谷が恐る恐る手を開くと、そこには、鮮やかな光を放つバラ輝石が収まっていた。
「勘違いするなよ。白に入って戦うんじゃない。
白には俺たちの事を守ってもらうんだよ。
あいつら、来るものは拒まずだからな」
「押見さん……それでいいの?」
「……お前が俺の事守る気なら、俺だってそれなりの事をしないと。
お前のしたくない事をさせなきゃいいんだろ」
そう言って、押見は自分の石を握り締めた。
「逃げよう。黒から」
きっと大変だけど。上手く行く保証なんて、どこにも無い。
「結局、長いものには巻かれなくちゃやっていけないんだよなあ」
池谷が笑いながら、諦めに溢れたぼやきで場を茶化した。
それを見て押見も笑う。
太陽が沈み、気温が下がり始めていた。
以上です。今まで本当にお付き合いありがとうございました。
正直に告白して、第三話くらいから自分の中でのビジョンが曖昧になり、
まったく満足のいく出来にはなりませんでした。
しかし書き始めた以上、きちんと完結させるのが義務だと思ったので、
以上の文章を最終話として提示させていただきます。
完成度の低い作品で板の水準を貶めてしまう事を申し訳なく思います。
それでは、ご一読まことにありがとうございました。
乙です。面白かったですよ。
自分を責めるのもほどほどに。
861 :
名無しさん:2008/02/05(火) 15:13:45
ああああああああああああああああ?
862 :
名無しさん:2008/02/05(火) 15:16:45
ここは腐女子の住処か?
>>786-792 もう忘れてしまったのかもと思い込んで
このスレも覗かなくなったんだけど
base編の続きが来てた!本当に嬉しかった!
西澤の地蔵っぷりと津田のへたれっぷりが石で表現出来て
面白かったよ。
非常に遅くなってしまったけど完結させてくれてありがとう!
ほっしゅー
保守
HOSHU!!!!!
保守
868 :
名無しさん:2008/02/20(水) 18:59:42
hosyu
870 :
野原:2008/02/24(日) 20:21:08
とりあえずほしゅ。
871 :
名無しさん:2008/02/25(月) 20:23:43
腐女子
はい!
873 :
名無しさん:2008/02/26(火) 15:23:37
腐女子キモイ
874 :
名無しさん:2008/02/26(火) 15:26:09
不思議な力があったなら西のをどうにかしたい
875 :
名無しさん:2008/02/26(火) 16:12:19
西野を食べたりしたい
876 :
名無しさん:2008/02/26(火) 16:40:27
井上を面白くしてくれ
877 :
名無しさん:2008/02/26(火) 16:42:55
だが断る
878 :
名無しさん:2008/02/26(火) 20:54:52
なぜ?
879 :
名無しさん:2008/02/28(木) 15:38:55
ぬっこおおおおおおお!
保守
881 :
名無しさん:2008/03/03(月) 00:09:03
保守してる人少ないなぁ
>>881 一応いますノシ 保守。
また小説書きたいな
遅ればせながらラバー編乙です!
他の人力若手メンバーの登場も秘かに期待していたりいなかったり
あべさく編とトラスト・ミーの続きが気になって夜も眠れない
同じく
じゃあ、あべさく編行きます。
あれ?打ち込めない?
「すげーあべさん、すげー格好いい!正義の司令官みたい!」
「はーいはい佐久間隊員、ちゃんと任務を全うして!」
ヒャー!とはしゃぐ佐久間の頭を水鉄砲で軽く叩く。
「このまま松田のやつを捕まえて黒のこと全部吐かせてやろうぜはっはっはっはぁ!」
「あべさん、外道ー!」
佐久間はノリでツッコミつつ、引きつった笑いを浮かべた。
阿部は本気かどうか定かではないが、端から見れば世間で言うところの「ええ声」も手伝って余計に怖い。
「くっそー!何が正義だ!あの人絶対鬼だろ!」
先程と立場が完全に逆転して、松田は逃げ回る。
まさか子供を使ってくるとは思わなかった。
いくら手段を選ばない黒でも、何も知らないいたいけな少年少女を傷つけるほど人間は腐っていない。
この場合手段を選んでないのはあべさくの二人だが。
このまま夜になるのを待つのが良い策だ。
だが相手はかくれんぼ鬼ごっこ大好きな子供10人+いい歳の大人2人。
初めはブロック塀や倉庫が並んだこの場所も、サンドストーンの力によって壊され、格段に辺りが見渡しやすくなっている。つまり、夜までに見つけられる確率が高い。
ついでにあの水鉄砲で一度でも撃たれたらお終いだ。
冗談じゃない。
のほほんとしたあの二人にのほほんとやられるのは何か嫌だ!凄く不満だ!
「松兄…松田さん!」
何処かから声がした。
「綾部か?」
高いコンクリートの塀が途切れ、代わりに有刺鉄線のフェンスが張り巡らされている。
そのフェンスの向こう側から、綾部と又吉が頭上で大きく手を振っていた。
「どうなってんだ!あべさん来ちまったじゃねーか!」
フェンスにしがみつきたい気持ちを抑えて、松田が叫んだ。
「ああーコレには深いドラマチックな訳がありまして…」
「もうね、映画みたいな話ッスよ!こんなことってマジであるんですね!」
何故か妙に興奮している綾部に、ドラゴンを出すお前が言うな、と又吉が項垂れる。
「本当ありえないよ、あべさん子供10人くらい引き連れてんだよ!?」
「鬼ですねあの人。だからここは引き上げましょう。分が悪すぎる。とりあえず佐久間さんの件は白紙に戻します」
「じゃあ、鈴木さんには何もしないんだな」
松田はすかさず何も知らない鈴木の名前を出す。
今逃げて、後になって「任務失敗したから」といちゃもんを付けられて鈴木を黒に奪われるかも知れないと思ったからだ。
「えっ……。…あ、はい…今回は、仕方ないと言うことにします」
一瞬驚いた後、又吉は少し考え、苦虫を噛み潰したような表情で渋々了承した。
そして、そっぽを向いて小さく舌打ちをした。
松田は頭がよく回る。
都合の良い怪しい話には容易く引っかからないようだ。
「じゃあ、龍でこのフェンス突き破ります」
綾部が石をかざした。
幸いここには十分すぎるほどの土があった。
これなら有刺鉄線を破ることが出来るくらいの龍を作り出せる。目を瞑って精神を集中させ、頭の中に龍の姿を鮮明に思い浮かべる。
ふっ、と石(エレスチャル)が輝き始めた瞬間だった。
「見つけたぞ!!」
阿部と佐久間が砂埃を上げて駆け込んできた。
「やばい」と松田が振り向く。
いきなりのことに精神が乱されて綾部の石の輝きが一瞬だけ怯んだ。
阿部は綾部と又吉の姿を見て、ぎゅっと眉を寄せた。
「やっぱりお前ら…」
その声には怒りが含まれている。無理もない。
阿部と佐久間を陥れたのはこの二人だったからだ。
全てを察した阿部が、隣でまだ「?」を浮かべている鈍い佐久間に仕方なしに状況を説明する。
話を一つずつ理解していくにつれて、佐久間の周りの雰囲気が次第に変わっていく。
明らかに、怒っていた。
説明を聞き終わったのか、佐久間は阿部から一歩離れてふうと溜息を吐いた。
両手を腰に当てて、考え込むように眉を顰める。そして、
「ああー何か急にお腹空いてきたなー」
佐久間は何を思ったのか、そんなことを口走った。
「え?」
松田と綾部と又吉はぽかんと口を開ける。
「等身大のでっかい人形焼きが食べたいなー」
聞こえよがしに佐久間は再び、さっきよりも大きな声で(説明付きで)言った。
「………あの」
三人の顔がみるみる青くなる。
「あれれ?ちょうどこんな所にいい材料が!」
芝居がかった口調で態とらしく人差し指をピースの二人に向ける。
「まさか」
「…人形焼きにされたくなかったらどっか行け!!」
次の瞬間、佐久間は見たこともない形相で怒鳴った。
いつだったか、彼の前で下ネタをうっかり口走ってしまったときにキレられた事がある。
その3倍は迫力があった。
ここまで大声が出る物なのか、と綾部はたじろいだ。
だが落ち着け。
あいてはあの平和主義の佐久間だ。
いくら怒っているからといって、石の能力は所詮攻撃系でも強化系でもない弱小の物の筈。
綾部は怯えるフリをしつつ背中にこっそり回した手に持った石を握り、意識を集中させる。
石が淡く光る。
ゴゴゴ、と地響きを立てて佐久間の背後に土の龍が姿を現した。
びきびきと岩の肌をくねらせ、龍が佐久間めがけて襲いかかる。
佐久間は逃げるどころか人差し指をチョイと龍に向けて翳す。
―――つたわれ。
静かな声と共に指先から発した光が龍を包み込む。
龍の雄叫びが小さくなり、綾部が「嘘お!」と驚愕する頃にはその巨体は一匹のトカゲに姿を変えていた。
ちょろちょろと逃げ回るトカゲは、あっというまに草むらの影に隠れてしまった。
「こっちもつたわれ!」
間髪入れず佐久間はいきなり綾部と又吉に向き直ってキーワードを唱えた。
有無を言わせず掌からポンと発射される光。
―――人形焼きにされる!
佐久間の目は本気だ。
本気で人形焼きに変えて頭からむしゃむしゃ食べる気だ。
さすがに命が惜しいのか綾部と又吉は転がるようにばたばたとその場から逃げ出した。
放たれた光はフェンスに当たって消えた。
「……!」
松田は目を丸くしてその場にへたりこんだ。
「松田。もう観念しろ、さっくんマジで怒ってるからさ、抵抗しない方が身のためだぞ」
一部始終を見ていた阿部が松田に近寄る。
「あれ?子供は…」
「帰したよ。一般のちびっ子を巻き込むわけにはいかないだろ。……つーか黒の目的とか、マジでなんなの?」
阿部がしゃがみ込んで目線を合わせてくる。
本格的に取り調べる気か。
松田は視線をあちこちに動かし、どうするべきか悩んだ。
ピースの二人を追い返すほどの力があるのなら、この人達に頼っても良いかもしれない。鈴木の事も何とかしてくれると、そう思い始めた。
「あべさん」
「何?」
「…俺と鈴木さんを助けてください!」
「…ん?ん?ん?」
いきなり地面に手を突いて土下座してきた松田に、阿部は目をぱちぱち瞬かせた。
物分かりは良い方だと自分でも思うが、如何せん唐突すぎる。
「俺ひとりじゃこれ以上鈴木さんを庇いきれません。力を貸してください」
必死なその声は演技では無いと直ぐに理解した。
戸惑いながら阿部が「わかった」と言うと、松田は少し安堵を含んだ表情で顔を上げた。
「俺、なんとか黒から抜けてみます。その時には黒のこと…少ししか分かりませんが、また話します」
「ああ、そう…。うん、取りあえず良かった!」
何だかよく分からないが、松田が心変わりしてくれたことは確からしい。
阿部と佐久間は顔を見合わせて笑い合った。
「あーのぉー…松田さん?」
頭上から声が振ってくる。
見上げると、気持ち悪い顔と長い髪が見えた。
鈴木が申し訳なさそうに立っている。
「あれ?Qさん!」と佐久間が言った。
「全然帰ってこないから心配で…ちょっと来てみました。いや〜俺にナビ能力があって良かった!」
鈴木は場違いに明るい声を出して笑った。
あ、このフェンス邪魔ですね。と鈴木が指先で押しただけで、固い筈のそれは脆くパキパキと崩れる。
同時に広がる甘い匂い。
粉になったフェンスの一部が髪や指に糸状になってまとわりつく。
微かに漂う甘い匂いはその糸からするものだった。
「あ、なにこれ、美味しい!」
思わず指先を舐めてみた鈴木が歓喜の声を上げる。
佐久間の石の光を受けた有刺鉄線の危険なフェンスは黄金に輝く飴細工になっていた。
「何で美味しいの!?何コレ!すげえ!ええ!?」
鬱陶しく騒ぎ立てる鈴木を見て、三人は一斉に吹き出して笑った。
あべさく編はこれで終了です。
2年越しの最終回。
なんかほんわか
お疲れさま
あべさく編がまた読めて嬉しいです。
本当に乙です!
佐久間さんがなにげに怖いw
あと、まとめの管理人様も乙です!
乙です!
続きが気になっていたので嬉しい。
もう900か
保守
おはようございます。ラバー編の者です。
続き投下します。
世間は常に予想外に満ちている。
どれだけ策を練り満足した形で手をこまねいて待っていても、平気で予想は裏切られる。
計画を練った者が若く経験が未熟であった際には特に。
大水の場合は、結果的に3つの予想外が生じた。
実は先日今野から電話がかかってきた際、2人の間でこんな会話がなされていた。
『ところでさ、お前石の話とか聞いたことある?』
「石の話、ですか」
今までまるで関係の無い話をしていたところから一転、この一言。
「知らない」と答えるとすぐにその話題は終了したが、大水の心にはいささか懐疑した。
会話を続けながら、さっき自分が情報を書き連ねた紙ナプキンを手繰り寄せて考える。
キングオブコメディは、今野は「白」だ。
目の前で眠っている飛永もこれを見て異を唱えたりはしなかった。
ただもし、起こりうる最悪の可能性があったとして。
ただ後輩を心配してくれる優しい先輩の気づかいだと考えられないことはなかったが
大水は持ち前の勘から探りを入れる必要があると判断し、タイミングを見計らってあえて自分から話題を戻した。
「今野さん。実はさっきの石のことですけど…」
大水はさしさわりない情報を今野に流した。
完全な嘘をついても良かったが、それではもし本当に後輩を心配しただけだった場合に申し訳が立たない。
だから彼は「今のところ」自分だけが石を持っているという前提での情報を流した。
万が一今野が「黒」で自分達の敵となっても、まずは自分が標的となるように。
何かあってもこの石さえあれば逃げきれるという過信が、彼にはあったのだ。
ところが、ここで1つめの予想外が生じる。
大水の話を聴く一方であった今野が突然、口を開いたのである。
『それ嘘でしょ?』
「嘘じゃないですよ」
『お前だけじゃないだろ、持ってるの』
「俺だけですって」
『ほら、絶対嘘じゃん』
つとめて冷静に返したつもりだが、相手には見抜かれてしまっているらしい。
どれだけ否定しても引き下がらない今野に、とうとう大水が折れた。
こんなことなら喋らなければ良かったと自分の浅はかさを後悔しながら結局飛永の分まで喋らされてしまった。
一度バレたのにもめげず、ほとんどの部分を「知らない」「聞いてない」で通したが
訝しく思っても聞きだすのは難しいと考えたのかそれとも今度こそ信じたのか、
今野が彼にまた問いただすことは無かった。
結果、与えるつもりの無かった情報まで聞かれてしまった。
しかし大水は確信していた。
もし今野が「黒のユニット」だったとしても、まず狙われるのは自分だろうと。
飛永の石の情報を与えるミスをしてしまったものの、それでも情報量は自分の石の方が圧倒的に多い。
だから、と。これが2つめの予想外である。
今野の標的は大水でなく、飛永になってしまったのだから。
大水自身も標的にはなったものの、これも全く予想外の方法によってであった。
勿論、今野自身の手によってでは無い。
ライブ終わり、帰ろうとした矢先に声を掛けられた。
振り返ると、数人の後輩と思しき芸人達。
何も言われなくても只ならぬ雰囲気を察した大水は一気に駆け出す。
勿論、石の発動を忘れずに。
「石のこと話したのは1人だから、やっぱ…」
どうせなら飛永がどこかで口を滑らせたという結末の方がよっぽどマシだ。
あ。飛永君にも念のために石の力使っておくか。
そう思いながら大水は人波をすり抜けるように走る。
なぜだか足が重かったが、それは気のせいということにした。
力を2人に分けて使っている割には、走った後信号が青から赤に変わりすぐに車が曲がってきたり、
店から人が飛び出してきたりと様々な幸運に恵まれ、大水はなんとか彼らを巻くことに成功した。
あまり面識の無い者だらけであったから、おそらく「欠片」とか言うのを飲まされたのだろう。
ところで、今野さんはどうしたのだろうか。後輩に任せて、高みの見物?
いやまさか、それはない。となると…
走るのをやめ、どこかから出て来はしないだろうかと警戒していると、走る飛永が見えた。
それを追って近寄ると、必死と困惑の形相をした彼が息を切らしている。
予感が確信…まではいかないものの、信憑性が高まる。
「あー、やっぱ飛永君の方か」
「大水君!」
「来るなら俺からだな、と思ってたけど、そっち行ったんだ」
「ごめん、今聞こえない」
「でも俺の石、きちんと使えてたでしょ?」
「だ、か、ら」
「助け呼んでくるから少しだけ」
「聞こえないんだって」
「待ってて」
まさか飛永が聴力を失った状態で、しかも自分の言葉を誤解釈して絶望しているとは思わないまま
大水は急いで元来た道を引き返し、誰か共に戦ってくれそうな人を探した。
そして見つけたのが東京03の飯塚だった。
帰ろうとしている飯塚に事情も説明しないままに「とにかく来て下さい」と告げ、
再びかち合ってしまった後輩達には石の力で見つからないようにしながら、飛永の元へと急いでいるわけだが。
先程からなぜか思考も動きも鈍い。
思えば石を使っている最中は常に行動が遅くなっている気がする、と回らない頭で大水は考える。
「もしかして、こういう能力…?」
「何か言った?っていうかさー、大通りどんどん外れてんだけど!どこ行く気なの!」
「もう少しですから!」
飛永に会った場所へ向かうとそこには丁度キングオブコメディの2人と、倒れている飛永がいた。
高橋さんもか。大水が何かを口にするより早く、飯塚が言葉の口火を切った。
「パーケン。これ、どういうことだよ、なあ」
「…どうもこうも、見たとおりです」
「『黒のユニット』として、『白』から石を集めなきゃいけないんですよ」
大水が両者の睨み合いが続くのを横切って飛永の元へ向かう。
ぐっと握られた拳からは丁度石が力を失う瞬間の光が淡く残って見えたため、
まだ石は奪われていないことがわかった。
飛永は支えられてようやく起き上がると顔についた砂利を乱暴に拭い、
大水を見て心底驚いた様子で、「来たんだ」と呟いた。
「『頑張って』なんて言うから、逃げたんだと思ってた」
「そんなこと言ってない」
「あーあ、まだ聞こえない。ったく、いつになったら聞こえるんだか」
「え、聞こえないの?」
「だから聞こえないんだって」
全く噛み合わない会話を小声で繰り返した後支えを解いて自力で立ち上がると、
飛永は大水に殊更小さく低い声で告げる。
「今野さんに気を付けて。まだ高橋さんは何の力を持っているかわからないけど、あの人はすごい。
風で壁に叩きつけられたし、近くに雷落とされた。あれが当たってたらどうなってたことか」
彼に指さされた地面を見ると、なるほど何か焦げ跡がある。
「こうやってここにいるってことは、あいつらが失敗したってことだよな」
「今野さん…」
今野が大水を見て舌打ちをする。
あれをけしかけてきたのは今野だということは大水の中でほぼ間違いの無いことだったので
まるで驚きはしなかったが、少し辛かった。
普段から仲良くさせてもらっている先輩が、敵として自分達と相対している。
今野は大水と飛永から目を逸らし、高橋を睨みつける飯塚を見た。
「…こうなったのは予想外だけど、ま、手に入る石が2つから3つになるって考えればいっか」
軽い口調でそう言われ、飯塚・大水は唾を飲みながら石を手に取る。
飛永も言葉は聞こえないが、2人に習うようにしてさっと構える。
その様子を薄い笑みで流して、「パーケン」と今野が高橋を促すと、
高橋は鞄の中から何かを取り出す。
それは、1本のビールだった。
プルトップをなぜかゆっくりと開け一口喉を鳴らして飲むと、高橋はそれを飯塚に向ける。
「飲みます?」
「誰が飲むかよ…そんな、見るからに怪しいやつ!」
「でも、うまいですよ」
「…飲まねえって」
「飯塚さん、ビール好きでしょ?」
「飲ーまーなーい」
「おいしいですよ」
「…少しだけだからな」
「飯塚さん、もしかしてそれ飲む気じゃないですよね?」
「飯塚さん!絶対それ飲んじゃ駄目ですって!」
ラバーガールの2人が制止するにもかかわらず、飯塚は差し出されたビールを一気に飲む。
走ってきて喉が渇いていたというのもあって、飲み干さんばかりの勢いだ。
それを見た高橋が「かかった!」と叫んだ拍子に口を離したが、時すでに遅し。
飯塚はストンと地面に崩れ落ちると、へらへらと笑いだした。
「体にかかるどころか、飲んじゃったよこの人」
愉快そうに高橋が飯塚の元へ近寄るが、飯塚は笑ったまま高橋に手を伸ばそうとする。
それをさっとかわしてごろんと横に寝せてやっても、飯塚の表情は変わらないままだった。
「飯塚さん、どうなってんの?」
「さあ…俺もわかんない」
「飯塚さんは、今0歳なの。見た目はこうでもね」
「ねー?」と2人の疑問に答えるように高橋が飯塚に語りかけても、キャッキャと笑うばかりでまるで話にならない。
せっかく連れてきた味方も、この状況では使い物にならない。
「まず1人」と今野が呟いた。
「次は…ようやくお前らだ」
「飯塚さん!飯塚さん!」
「飛永君飯塚さんもう駄目だって」
「駄目とかじゃないって、なんとかなるって!」
「あの人今0歳なんだから…って、あれ、聞こえてるの?」
「あ、本当だ。なんてタイミング悪い…」
「いや、むしろ絶好のタイミングだよ」
「っていうか0歳って何?」
「わかんないけど、高橋さんの力で0歳になってるらしい」
「どんなだよ、それ!」
「…あのー、俺の話聞いてる?」
心細そうな声に2人がハッとすると、今野が寂しそうにこちらをじっと見ている。
それを見て、2人は顔を合わせる。
この場にそぐわない、場違いな空気が彼らの間に流れた。
「なんか俺今ホッとした」
「飛永君も?俺も」
「さっきから恐がってばっかりだったけど、これが今野さんだよね」
「よく考えれば、今まで随分仲良くさせてもらってた時から既に『黒』だったんだよね」
「でもさすがに、毎日こうやって追いかけられるのは嫌だしな」
「そこはまー、どうにかするしかないんじゃないの?」
することが、決まった。
2人は石を握りしめると、今野へ向き直る。
強張ってばかりの表情だったが、ようやくいつものペースを取り戻せたように笑うことが出来た。
「どうにかしてみろよ、出来ないと思うけど」
「やってみますよ。耳も聞こえるようになったことだし」
「…どうかな」
今野は一歩引くと、不敵に佇まいでまっすぐに2人を見た。
そんな今野への視線はそのままに、飛永はそっと大水に話し掛ける。
「大水君、あまりでかい声出さないで答えて。風と雷どっちが良い?」
「え?」
「早く!」
「えっと、じゃあ風」
今野が石を持ち2人の方向へ向け、「んっ!」と声を出す。
その瞬間を見計らい飛永が口を開く。
「今野さんが強風を吹かせて俺らを壁にぶつけようとしている」
冷静な口調の言葉が早口で告げられると、強風が勢い良く今野の指した方向とは逆方向に吹きつける。
自分の放った風に襲われた今野は懸命に踏ん張るも、結局壁にうちつけられてしまう。
「なるほど、風か雷ってこういうことか」
「そういうこと。さすが強運」
今野がのほほんと喋り合う彼らに暇を与えないように急いで立ち上がる。
壁に当たってすぐに立ったせいで僅かにふらついているが、怒りの前にはそのようなことは気にならないようだった。
「畜生…」
「また来るよ!どっち?」
「今度は雷」
「んっ!」
「今野さんが雷を俺らに当てようとしている」
同じように言葉を口に出すも、残念なことに風が襲いかかってくる。
それだけではない、風は2人を持ち上げてくるくると回転し、一番高く上がったところで2人を落とす。
壁より強い落下の痛みは、確実に2人へダメージを与えた。
動けないでいる2人に、今野が会心とばかりに近づく。
「風を吹かせるだけだと思うなよ。雨だって、竜巻だって出来る」
「良いんですか?そんなに教えちゃって」
「どうせもう少ししたら、お前らも『黒のユニット』になる」
「だから、ならないですって」
余裕ぶって生意気な言葉を吐きながらも、
落下した衝撃で手から零れた石を取り戻そうともがく2人を横目に、
今野が少し離れた場所に落ちた石のところまで歩き、しゃがみこむ。
あと少しで、2つの石が手に入る。
…そうすればきっと2人も自分達が間違ったことに気がつくだろう。
その時だった。
?
乙!
乙です!アクションやそれぞれのキャラクターのリアルさなど、
個人的にバカ爆ファンなのを差し引いても面白かったです。次回も楽しみにしてます。
ラバー編の続き投下。
実はこれ3の後編なのだが、制限かかったせいで書き込めなかった。
再びの制限がこわいのでここから話を始めます。
「うっ、うっ、うえっ、うえっ、うわーん!」
泣き声によって作り出された凄まじい衝撃波が、全員を襲った。
石をつかむことなく、今野は地面に倒れこむしか出来ない。
衝撃波は延々と続いて止む気配を見せない。
何事かと死に物狂いで振り返ると、そこには必至に飯塚をあやす高橋と、泣きやまない飯塚がいた。
「パーケン!」
「飲みたがるから鞄の中のビール、ずっと飲ませてたんだけど…無くなった瞬間こうなった!」
「わあーーーーーーーーーーん!」
より激しい衝撃波が、一帯を覆う。
するとその地響きにような揺れに大水の石がこつんこつんと地面を蹴るようにと転がり、やがて手元に収まった。
これは、チャンスだ。
大水は渾身の力で石を握り強く念じると手元が青く光る。
そしてそれに興味を示した飯塚がよたよたと歩いてきた。
まだ半泣きながら衝撃波を出して近づいてくるので衝撃は更に酷いものになるが、それに耐えて立ち上がり、
大水は飯塚を今野・高橋の方向へ向けるかたちで背負いこむ。
体勢こそきついが、これで逃走用の簡易人間兵器の出来上がりだ。
飛永も遅れて何とか立ち上がれば、意外と近くにあった自分の石を拾い、ふふんと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「じゃーすみません。お先失礼します!大水君走れる?」
「なんとか。じゃー、お二人とも、また明日。襲ってきさえしなければ、いつもどおりに対応しますから」
「「待て!」」
彼らの言葉を聞かないうちに、飛永が「ごめんなさい」と言いながら飯塚の手を抓る。
すると少し落ち着いてきた飯塚が再びしゃくり声を上げて、一際大きな泣き声をあげた。
再びの衝撃波。
動けなくなったキングオブコメディの2人を確認すると、飯塚の口に手を当て2人は逃げ出した。
「しっかし…まさかパーケンと今野君がなあ」
髪や衣服に付いた土埃を払おうともせずに、逃げ切った後、ようやく元に戻った飯塚が呆けた様子で呟いた。
ラバーガールの2人が代償をとっくに受け終わった後のことである。
何しろ飯塚はビールを相当な量飲んでいたため、元に戻るのに時間がかかってしまった。
かすれた声でそう呟いた後、どういった感情の表れなのかフンと鼻を鳴らしたが、
背中を向けられてしまったラバーガールはその表情を伺い知れなかった。
数秒後ようやく気付いたように後ろを振り返った飯塚の表情は、いつもの彼の表情だったが。
「持ってたんだ、石」
何と答えれば良いのかわからずに、2人ともとりあえず頷いて返す。
飯塚はそれを確認すると、言葉を選ぶようにしながら口を開いた。
「自主的に黒のユニットには入る気が無いってだけでもまずは十分なんだけどさ、」
「『白のユニット』に、入ります」
窺うような飯塚に、すぐにそう告げたのは大水だった。
「おい、待てよ」と突然の独断に驚きを隠せない飛永が止めるが、逆に説得しかえされてしまう。
2人だけでは多分、今頃こうなっていなかった。
キングオブコメディの2人を、『黒』から奪い返したい。
それは大水のみならず飛永も感じていたことで、どうやら反対の余地はなさそうだった。
黙って頷いて、口を開く。
「…入ります」
「うん、そうしてくれると助かるわ。
入るとは言っても、特に何かあるわけでもないから安心して。みんな好き勝手やってるらしいし」
「一応、上の…児嶋さん渡部さんには言っておいた方が良いですか?」
大水がそう尋ねると飯塚は腕を組み考える仕草をした後、飯塚が言い放つ。
その言葉は、2人にはおよそ想像のつくものでは無かった。
「…別に知らせる必要は無いんじゃない?」
「「え」」
「なんていうの、スパイ?エージェント?諜報員?うん、とにかくそういうのやりゃいいじゃん」
「「は」」
生返事を繰り返す2人に「だーかーらー」とかすれ声ながら語気を強め、飯塚は話を続けた。
「知られてないから出来ることがたくさんあるってこと。
幸い二人が石を持ってることは、ほとんど知られてない。
だからどちらのユニットにもあまり警戒されずに調べることが出来る。
まーあいつらにバレたから『黒』には伝わるかもしれないけど…
そこは襲ってきたら『黒』ってことで却って判別が楽で良いよね。
誰が『白』で誰が『黒』だっていうまとまった情報は、いい加減そろそろ必要になるだろうしさ。
そういうわけだから、じゃ、よろしく。
あ、でも一応アンジャッシュの2人には後で適当に言っとくわ」
まさにマシンガントーク。
話し終わって満足したのか、えらく機嫌の良い様子でその場を後にする彼を見送りながら、
一気に言葉を並べたてられた挙句何も言えないままにさっさと帰られてしまった2人は
挨拶も出来ずにその場に立っていた。
やがて我に返った大水が、頭をかきながら呟く。
「これってさ、最初から素直に『持ってました』って言うよりややこしいことになってない?」
「なってる。…まーやるけど」
どうせ今までやってきたこととそう変わらない、自分達も渦中に巻き込まれただけで。
「そっちは?」顔を上げて飛永は大水にそう尋ねようとしたが、すぐにやめた。
聞かなくても表情を見ただけで、それが愚問だということがわかってしまったからだ。
わからないでもない、かく言う自分も少しだけ楽しい。
あくまで、少しだけだが。
いつもやってることに新しい「目的」が加わったな。
明日からちょっと面倒臭くなるな。
路地裏から大通りへ戻りながら、2人はそれぞれそんなことを考えた。
お疲れさまです
ところで、話は残されたキングオブコメディーの2人へと戻る。
大水の計画は、3つの予想外が生じていた。
相手に自分達の情報を多めに漏らしてしまったこと。
主に標的とされる人物を予想しきれなかったこと。
そして、最後に1つ。
衝撃波による不自由さから解放されてもその場にいた今野と高橋は、近づいて来る人影に身構えた。
しかしそれが自分達の味方だと知るとその手をおろし、かわりにばつの悪そうな笑みを浮かべる。
それを無視して人影こと田上よしえは周囲を見回し、「馬鹿じゃないの」と毒づく。
「あーあ、何やってんのさもう。失敗するわバレるわで」
「だってあれはあまりにも不利…!」
不平を口にした高橋だったが、田上に睨まれては何も言えない。
言葉を詰まらせたまま、視線を落とす。
今野は表面上は普段通りの顔のままだったが、よほど悔しいらしく拳が強く握られており、
空には戦う相手などいないのに今野を中心にしてどす黒い不穏な雲が立ち込めていた。
石を発動しているわけでは無いから、さしずめ持ち主の衝動に石が反応して無意識のうちに引き寄せているといったところか。
これも黒い欠片の力かねぇと考えながら空を仰ぎ見た田上は目を細めた。
「フォローしたじゃんか。あっちの力は格段に消耗が早くなってたはずだけど。違う?」
「違わ、ない」
高橋が悔しそうに言葉を吐き出すと同時にゴロゴロと音が鳴った。
集まってきた雲が、針のような霧雨をつくって落とす。
それは細い路地裏である彼らの居る道にも容赦なく降ってきた。
僅かな量でも雨に濡れた2人は、ますます不格好に見える。
「いいよ、アタシがやる」
鞄から取り出した折り畳み傘を広げた田上は二人にそう告げると、
「雨はやく止ませてよね」と捨て台詞を残して足早にその場を後にした。
彼らが「黒」であることは近いうちに知れ渡るだろう。
となると、現段階で人力舎内を警戒されずに動ける「黒」は彼女しかいない。
彼女の能力は効果の縮小化とパワー消耗を早めること。
能力を圧縮してしまうと言った方がわかりやすいだろうか。
大水の危機回避が、発動条件を満たすほどには不安な状態であった飛永に機能していなかったこと、
飛永が今野と数分争っただけで早々に代償を食らってしまったことは、いずれも彼女の力によるものである。
直接攻撃不可能なこの石での戦いは、キングオブコメディ以上に有利な戦いではない。
しかし、わかっているがやらなければならない戦いはあるのだ。
田上は誰に聞かせるともなしに傘に隠れて呟いた。
「同期の尻ぬぐいは、同期がしなきゃーね。
あっちにはあっちの都合があるように、こっちにはこっちの都合ってもんがある」
女は度胸だって言うじゃない。愛嬌だったっけ?
強がりか自然に出たものか、笑みを浮かべると傘を上げて空を見る。
急に降りだした通り雨は、まだまだやみそうになかった。
再びの制限にやられ日をまたいでの投稿になりましたが、これで4は完結となります。
田上の石や能力については次回。
対田上編が終わったら、そのまま人力内でうろちょろか完売劇場に手を出すか思案中。
その前に書いても良いのかどうか。数回に及ぶ制限は書くなってことか?
とにかく、もう少しだけお付き合いください。
あべさく編乙です、続きが気になっていたので完結して嬉しかったです。
まとめ管理人様変更・掲載ありがとうございます。
前回前々回と感想もありがとうございます。一つ一つ返せず申し訳ないです。
最後に、読んで下さりありがとうございました。
乙です!
田上さんは黒だったのか。結構驚きましたw
続編、楽しみにしてます!
乙です!
お疲れさまです
お疲れ様です!
保守
ほ
し
ゃ
ん
っ
て
ば
このまま保守で1000までいくかな?
個人的には佐川?さんの爆笑問題の話が好きです
保守
自分はトータルテンボスの「ロシアン・シュー」が好き
読んでて切なくなる
ほしょ
942 :
名無しさん:2008/03/30(日) 21:30:56
保守
保守
保守
本スレもしたらばも過疎ってるなあ…
1000行く前に一話投下。
したらば廃棄スレに投下したものですが、題名を変えました。
品庄次課長話です。
「しながわあああぁーっ!」
思わずビクッと全身が震えて、品川祐は楽屋のドアノブを掴み損なった。
顔を向ければ、駆けて来るのは次長課長、河本準一。
何ですかと歳下の先輩に訊ねれば、にんまりと丸い顔を更に丸めて見上げて来る。
同じ様に品川も顔を丸めて、今度こそドアノブを握った。
「時間あるなら、上がります?」
「そっちも時間あるならそうさせて貰うわ」
ドアを開け、どうぞと品川が促すと、いやに嬉しそうな様子で中に入る。
すぐに河本は、テーブルの向こうで寝そべっている庄司を見付けた。
「あ、庄司寝てるんか。俺らの楽屋にする?」
「いや良いですよ。こいつちょっとやそっとじゃ起きないすから」
やっぱこいつ、石使ってやがったな…
品川は大口を開けて眠りこけている庄司を見ながら、ひっそり息をついた。
庄司の石は闘争本能を飛躍的に増大させる代わりに、発動している間自身で力を制御出来ない。おまけに発動後は猛烈な睡魔に襲われるという厄介極まりないものだ。
朝会った時から欠伸を連発し、しきりに目を擦っていたからまさかとは思っていたが。
少し楽屋を空けた隙にはもう爆睡ぶっこいている相方を見て、品川のまさかは確信となった。
まあ石使わないでケガされるよりはマシっちゃマシか。
そう前向きに捉える事にして、河本に向き直った。
その表情を見て、品川は思わず苦笑を漏らす。
「めちゃめちゃ嬉しそうですね。何かあったんですか?」
「何かあったも何も。お前ら見てほんっっま安心したわ。今ホラ、あるやん。あの…」
「ああ、石…ですか?」
例の、と言うと、河本はそれ、と顔を顰めながら頷いた。
「周り誰見ても敵ちゃうんか思えて来て。俺もう人間不信なりそうや。
 品川は白やろ? もう何か、ほんま安心したわ」
白の傍にいたって襲われる時は襲われますけどね、とは思ったが言わず、代わりに小さく愛想笑いで返しておいた。
周りが全て敵の様に思えてしまうその感覚は良く解ったから。今安心し切っている先輩をわざわざ不安がらせる事もないだろう。
暫く他愛のない事を二人で喋っていたが、やがて楽屋の奥の影がむっくりと、身を起こした。
庄司は暫くしかめっ面で二人を見ていたが、それが河本と品川だと解ると、目元だけは眠そうに、緩く笑ってみせた。
まだ寝てても良いぞ、と品川が言ってやる。
しかし庄司は畳をぼーっと眺めた後、何かに気付いた様に顔を上げ、緩慢な動作で立ち上がり、壁にぶつかりながらよろよろと楽屋を後にした。
その背を、二人揃って見送る。
「…何やあいつ。大丈夫なん?」
「……大丈夫でしょ。顔でも洗いに行ったんじゃないですか」
ふーん、と河本は返したが、閉じたドアを見る品川の視線が、いつもより僅かに厳しくなっている事に気付いた。
同時に、一人置いて来た相方を思い出す。
そんな河本を見透かす様に、品川は河本さん、とやはり厳しい面持ちで訊ねた。
「井上さん。今一人なんですか」
「解らん。俺がこっち来る時は楽屋に一人やった。けど、今はどうやろ。あんま他の芸人とこ遊びに行く様な奴でもないけど…」
沈黙が二人を包む。
見に行きますか、と品川が切り出すと、河本は一も二もなく頷いた。
「しょおおぉぉーじっ!」
どっかと背中からタックルを喰らい、庄司は目の前の自動販売機にへばり付いた。
振り返れば、目の前には次長課長、井上聡。
どうしたんですかと同い歳の先輩に訊ねれば、目をキラキラさせて見上げて来る。
「庄司おるなあー思って。それだけ」
「それだけですか」
苦笑を漏らしながら、自動販売機に小銭を入れ、ボタンを押す。
ガコンと音がしてから、缶コーヒーを取り出した。
「何や眠そうやなあ。あんま寝てないん?」
「俺寝起きなんです。だからコレで、目覚ましです」
屈託なく笑う庄司に釣られて、井上もそっか、と笑って返した。
プルタブを開け、缶に口を付ける。コーヒーを飲みながら、庄司は右に左にと視線を彷徨わせていた。
しかし右の方を暫くじーっと見てから、口元を僅かに持ち上げた。
それを井上は、缶の向こうに見付けた。
「ええもんあった?」
「え? …いや、何でです?」
「今めっちゃ楽しそうやったで。一瞬やけど」
そうですか? と目を細めて笑う。
やっぱり右の方を見て、飲み干した缶を脇のゴミ箱に放り込んだ。
「…そう言えば、河本さん俺らの楽屋いましたよ」
「あ、ほんま? そーなんやー。品川と?」
「そうですよ。二人で座って、何か話してました」
「へえー」
「はい…」
困った様に笑いながら口元に手を添える庄司を、井上はやっぱりにこにこと機嫌良く見上げていた。
うーん、と庄司は辺りをきょろきょろと、時に井上をちらちらと窺っていたが、やがて右の方へと足を踏み出した。
井上も、それに続く。
二、三歩進んで、庄司は付いて来る井上の方を振り返った。
「あのーすいません、いのう…」
「すいません」
『えさん』、と庄司が言い切るより先に、二人に声が掛かる。
井上と庄司、二人揃って顔を上げた。
「すいません…あの、井上さんと、庄司さんですか」
うん、と同時に頷く。
井上は庄司の横に並び、知ってる? と男を見ながら小声で訊ねた。庄司の答えは、さあ。
ひょろっと背の高い優男は二人を交互に見た。
「お二人共、石…持ってますよね。大人しく渡せば、何もしません」
石…!
うわ来たわ、と井上は庄司を見上げた。
一方の庄司は面倒臭そうに腕を掻いている。
何でこいつこんな普通なん、と井上は思ったが、男からしてみれば表情に起伏のない井上も充分平静に見えただろう。
「ちょぉ、庄司」
「はい?」
「石言うてるで、あの人」
「多いですよね最近」
「うん。どうする?」
「俺は石手放す気ないですよ。井上さん、渡すんですか?」
井上はぶんぶんと首を横に振った。
それを見て男は半分諦めた様に溜息を落とした。
「俺も本当、穏便にしたいんですよ。お二人はテレビにも沢山出てますし、もう良いでしょう?」
瞬間、庄司は弾ける様に視線を上げて目だけで男を見た。が、井上は気付かない。
井上は自身の石、金の入っているポケットを、ぎゅっと押さえた。
「しょーじ、どうすんの。お前の石、何なん?」
「俺の石は一応攻撃系ですよ。向こうも一人で二人に来るんだから、攻撃系じゃないですか?
 でも俺のはここで使うのはちょっと…うーん。井上さんは?」
「俺? 俺のんは…」
「いつまで話してるんですか…!」
業を煮やしたらしく、男は素早く上着のポケットから石を取り出した。
ヤバい、と井上も石を取り出す。同時に床を蹴った。
「しょーじっ、後頼んだでっ!!!」
「えっ、ちょっ、井上さん、待っ………!!」
井上の能力は、石の凍結。
俺があいつの能力止めてまえばそれで終わりや、と井上は石を握り締めた。
井上の石から光が放たれる。
井上は両手を頭上で合わせ、ピーンと全身を直立に保ったまま、勢いを殺さず床を滑った。
この時、庄司がその場にいない筈の河本の、威勢の良い競りの声を思い出していた事などはどうでも良い。
床を滑った井上の、行き着いた先は―――
しん、と静寂が落ちる。
庄司は手を前に突き出したまま、視線だけは自身の真下に向いていた。
男の目は、庄司の足下へ…
築地のマグロとなった井上は、庄司の元へと辿り着いていた。
だがしかし、井上の能力を知らない二人には何が起こったのか解らない。
庄司と男と。ゆっくりと、視線がかち合う。
ごくりと互いが生唾を飲み込む音さえ聞こえそうだ。
「お前、何かなった?」
「いや、別に…」
「俺も別に…」
「「……………」」
足下で固まったままの井上を見ながら、庄司はあーあと目を閉じた。
目覚めた瞬間、戦闘の気配を感じた。いや、気配を感じて、目を覚ました。
だから眠い目を擦って楽屋を後にしたし、眠い身体を叩き起こす為にコーヒーを飲んだ。
井上が来た時は正直、どうしようかと思った。
単純に巻き込みたくなかったし、何より戦うのなら、なるべく一人が良かった。
河本が自分達の楽屋にいると言えば井上はそっちへ行くかと思ったがそうも行かず、足を踏み出せば付いて来た。
だからはっきり、付いて来て欲しくないと言おうとした。
だけど言い切るより先にこの男が現れて。…で、今、これ。
庄司はズボンの右ポケットに手を入れ、モルダヴァイドを手の中でころころと転がした。
全く異常はない様に思う。男も何ともない、と言っていた。
井上さんの能力って何なんだろ。まさか戦意を削ぐとか、そういう系? と頭を捻りながら、庄司は男に向き直った。
ぐちゃぐちゃ考えたって仕方ない。起こった事はもう起こった事だし。
「お前さあ」
「…はい」
「何石使おうとしてんだよ。今誰もいないから良いけどさ、人が来るかも知れないじゃん。普通考えるでしょ」
「だから、です。お二人が、困ると思って…」
あー成程それ狙いかあ、と逆に納得してしまった。
まあそれでも石を渡す気はなかったし、それは井上も一緒だろう。
だからこそ今こうして、井上は直立不動のまま固まってる訳で。
少しイラついた風の庄司に、男は怯んでる様だった。
石に手を掛けようかどうか迷っている。ただ、庄司もまたポケットに手を入れているから、動けない。
庄司はそんな男に気付いているのかいないのか、まあ良いや、と歯を見せた。
それは、男が度々テレビで目にする笑顔そのままだった。
「取り敢えず、場所変えよ。ここ人来るし、派手に出来ないでしょ」
バタバタバタ、とスタッフよりも慌しく、二つの足音が廊下中に響き渡る。
品川と河本は、忙しなく左右に目と顔を動かしながらスタジオを駆け回っていた。
次長課長の楽屋に、井上の姿はなかった。
その後井上と仲の良い芸人達の楽屋を訪ねたが、何処にもいなかった。誰一人、井上の所在を知る者はなかった。
芸人達は井上を捜す手伝いを申し出たが、別に何かあったと決まった訳でもないし、大事にしたくないので断った。
通り掛かるスタッフ達に訊ねるも、皆さあ、と曖昧な答えを返すだけ。
仕方なく、手当たり次第のローラー作戦に出た。
トイレ、楽屋、階段、非常口。ありとあらゆる扉を開けて、ありとあらゆる通路を抜けて、井上の姿を捜す。
と、品川が突然足を止めた。
「ちょっ、河本さん河本さん!」
「何や、おったか!?」
「あれ、多分…井上さん? …っすよね?」
真っ直ぐに伸びた廊下を少し逸れると、僅かに広いスペースがある。
そのスペースのソファの上。品川の位置から、ピンと伸ばされた手と頭が、僅かに見えた。
「聡!」
河本が慌てて駆け寄る。
ソファの背もたれに顔を向ける形で横たわっている為、傍目には変なポーズで寝ている様に…見えなくもない。
「河本さん、井上さん動かないすけど…大丈夫なんすか?」
「良かった、大丈夫や。これ、聡の能力やから」
「どーゆー事っすか。井上さん、めちゃめちゃ冷たいですよ」
「マグロや。マグロんなって、相手の石の能力、凍らせるんや」
「凍らせるって…そりゃまた凄いっすね。無敵じゃないすか」
「その代わりこいつはこれ。起きたら、暫く寒さでガッチガチや」
ふーん、と品川は井上に掛けられていた上着を掴み上げた。
ふらっと楽屋を後にした、庄司が着ていたものだ。
「…河本さん、これ。井上さん、庄司といたみたいっすね」
「ほんまか。でも、そしたら庄司は? 聡と一緒におったんやろ?」
「…さあ。井上さんと別れてどっかふら付いてんじゃないですか?」
「でも聡石使ってるんやで。何かあったんちゃうかって」
「井上さんに聞くのが早いと思いますけど。いつ元に戻るんです?」
品川の言葉を聞くと、あっ、と声を上げ、河本はゆるゆると顔を上げた。
「聡元に戻るんな…その戦闘が終わったら…やねん」
「『戦闘が終わったら』?」
河本の言葉を繰り返す。
それが何を意味するかなど、考えなくても解る。
「井上さんが凍らせたらもう終わるでしょう、普通。まだ終わってないってどういう事です?」
「解らん。でも、聡が封じ込めれるんは一度に石一個やから。相手が何人もおったり、何個も持ってたりしたら……」
「でもこんな建物の中であいつが使ったら俺すぐ解りますよ! 派手な石の力なんか感じませんよ!?
 終わるって、どう終わったら井上さん起きるんすか!?」
「そんなん俺に言われても知らへん! 聡の石が感じるんやろ、『何か』が終わったって!
 それ以上、俺には何も言えへん」
河本が言い終わる前に品川は立ち上がっていた。
掴んでいた上着を、河本に押し付ける。
「すいません河本さん、井上さん頼みます。俺、…捜して来ます」
河本の返事も待たず走り出す。
止める事も出来ず、河本は呆然とそちらを見ていたが。
やがて押し付けられた上着を井上に被せると、ソファを背にして座り込んだ。
それから数分後。
ビクリと身震いすると同時に、井上の瞳に生気が宿り始めた。
―――あのバカ、何処にいんだよ!
ほぼ毎日一緒にいる相方だ。庄司の持つ石の放つ空気は知っている。
その空気を必死に手繰りながら、品川は階段を駆け上がっていた。
何階上ったか解らない。が、品川は廊下に飛び出し、精神を研ぎ澄ませた。
この階で間違いない。きっとこの階にいる筈だ。
庄司の石は爆発的な力を生み、しかも自制する事は出来ないから、解放されればその力はほぼ垂れ流しの状態となる。
こんな建物の中で発動させれば、品川でなくとも気付くだろう。
だが今、集中しなければ存在を感じ取れない。という事はまだ大丈夫だ、少なくとも、石は使っていない。
取り敢えずその事には安心しながら、品川は廊下を進んで行く。
二個、三個と角を曲がる。
四個目の角を曲がったその時。
「庄司………!」
いた。
背の高い優男と二人、こちらに歩いて来ている。
「あれ、品川じゃん」
何やってんの、と続きそうなその調子に拍子抜けする。
庄司が若い男に、じゃあこれで、と告げると、男は会釈し、そそくさと二人の脇をすり抜けて行ってしまった。
その男を見送ってから、庄司は品川を横目で見た。
そして、言ったのは―――
「何やってんの」
あんまり予想通りのセリフに脱力して、ずるずると背中が壁を伝った。
そんな品川を、庄司は相変わらずきょとんとした表情で見る。
「何って…お前いねぇから。井上さんあんなだし」
「えっ、あんなって、まだあのままなの? あの、」
「築地のマグロな。石の凍結とかすげーけど、あの格好のままフリーズはちょっと勘弁だわ」
「確かに。俺もヤかも」
薄く笑って、庄司は両手をポケットに突っ込んだ。
だが不意に、何かに気付いた様に左手を見る。
どした、と品川が訊くも、何でもないと返された。
「で、あいつ誰よ。見た事ないけど」
「あいつ?」
「さっきの若いの」
「ああ。何か、最近来たばっかの若手だってさ。何かあんまここ知らないらしいから、社内見学してた」
「お前何ともねえの?」
「何も」
「あそ」
何の為に走り回ったんだと、品川は息を落としながら床を見た。
まあ何かあったと決まった訳でもないのに、少し姿が見えないからと勝手に慌てたのは自分だ。
いやむしろ、何もなくて良かったじゃないか。
井上さんの解凍にタイムラグがあっただけかと、そう思う事にした。
「もしかして、」
頭上から掛けられた声に顔を上げる。
目の前に立つ歳下の相方は、酷く穏やかで柔らかい、大人びた笑顔を見せていた。
「捜してくれてた? 品川さん、汗だくじゃないですか」
「うるせぇ!」
キャラを作ってそう言うと、くしゃっと子供の様に相好を崩す。
よいしょと品川が立ち上がると、それを見て、庄司は伸びをしながら歩き出した。
「…ありがとな」
品川の数歩先を行きながら、聞こえるか聞こえないかの声量で落とされた、庄司の声。
滅多に言われないその言葉と、普段は高めで張っている相方にしては稀に聞く、低くて落ち着いた声色に、何だからしくねぇなと思ってしまう。
そしたら何だか照れ臭くなって、うん、もどうも、も返すタイミングを失ってしまった。
そんな自分がまた恥ずかしかったから、品川はもう相方からの謝意は聞こえなかった事にして、ただ無言のまま、庄司から数歩の距離を保つ事にした。
焦点の合わない目で床を睨んでいた。
待ち人はまだ来ない。
男はポケットの中の石を弄びながら、スタジオの喧騒を遠くに聞いていた。
ついさっき交わしたばかりの会話が、頭の中をぐるぐると巡る。
男が石を拾ったのは、五日前か六日前か。とにかくもうすぐ、一週間になろうとしていた。
拾ってから、見も知らない奴に声を掛けられる事が多くなった。危ない目にも遭った。
襲って来る奴は皆自分と同じくらいの若い男。
その男達が口々に言うには、
【石を寄越せ。それさえあれば、この世界で頂点へ行ける】
危険な目に遭い、必死に襲って来る奴等を目の当たりにした男が、その言葉を信じない理由はなかった。
石さえあれば、集めれば、頂点へ行けるんだと。信じた。だから欲した。
石の使い方も把握して、手に馴染んで、慣れて来た。
今初めて『そっち側』の人間になっている男は、緊張を振り払う様に、一度大きくかぶりを振った。
言われるままに連れられた場所はしんと静まり返っていて、いつも慌しいスタジオとは別世界の様に思えた。
足音も、呼吸音さえも、グレーのカーペットに吸い込まれて行く心地がした。確かにここならば、多少の事では人は来ないだろう。
男は、これから起こる筈の戦闘に身を震わせた。
目の前を歩く庄司の背は無防備で、攻撃を仕掛けようと思えばいつでも仕掛けられた。
だがもし、井上の使った石の効果が…何が起こったかは解らないが、それが今出たりしたら? 戦闘経験は相手の方が圧倒的に上だろう。すぐさま反撃され、終わりだ。
下手は打たない方が良いと、男は小さく深呼吸した。
やがてぴたりと足を止め、庄司が振り返る。
男は自分の心臓が、まるで映画のクライマックスの様に徐々に高鳴って行くのを感じた。
「お前、石拾ったのいつ?」
が、開口一番に、これ。
いつ石に手を伸ばそうかばかり考えていた男は、突然の質問に面喰らった。
「結構最近でしょ。三日四日前とか、一週間か。二週間はー…経ってないんじゃないかなあ?」
「そ、そんなのどうだって良いじゃないですか! 石戴けないなら俺………その為にここに来たんじゃないんですか!?」
思わず怒鳴るが、庄司は当たり? と笑うばかり。
こっちは攻撃の意を示しているというのに、この落ち着き様は何だろう。何か勝算でもあるのかと訝ってしまう。
これからの自分達の為に、目の前の男の持つ石が欲しい。だけど、迂闊に動けない。
どうしようかと目を泳がせている男とは対照的に、庄司は飄々と続ける。
「これ欲しいんでしょ? 俺の石、モルダヴァイドって言うんだってさ。俺石の事全然知らないけど、品川が調べて、教えてくれた」
ころんと丸いそれを簡単にポケットから取り出した。
一見するとアメ玉か、ビー玉か。鮮やかだが深い緑が庄司の瞳に映し出される。
「お前さ、俺と井上さんが石持ってるって誰から聞いたの」
「…多分庄司さんの知らない若手の奴です。俺がどうやって知ったかとか、どうでも良いでしょう?」
「そっか。どうでも良い、か」
庄司は目を伏しがちに緩く笑むと、モルダヴァイドをポケットに直した。
暫く、あー、だの、んー、だの唸っていたが、考え込んだ様子で口元に手を当て、男に目を戻した。
「白とか黒とか、まだ知らないんだ?」
「は? 白? 黒って…?」
「最近だもんなー、拾ったの。まだ知らなくて当然だよな。俺も脇田さんに聞いて初めて知ったし…
 じゃあ俺と井上さん所来たのも、誰かに言われて、とかじゃなくて自分で来たんだ」
「そうですよ。だったら何なんですか。何が言いたいんですか」
要領を得ない会話に、男は焦りと苛立ちを覚えた。
だがその焦りも苛立ちも、庄司の一言によって打ち砕かれる。
「あのー、お前には残念なお報せになるけど…言いにくいんだけどね。
 あの、知ってる? 俺とか井上さんとかの石奪ったって、お前が売れる様になるとかそういうの、ないから」
言いにくいと言う割にはあっさりと告げられた言葉に、男の口はあんぐりと開いたままになった。
その口から思わず零れたのは、ウソだ、の三文字。
「ウソじゃないんだよ。お前を諦めさせようとか思って言ってるんでもないし。
 お前さっき、俺と井上さんに『一杯テレビ出てるし』みたいな事言ったよな。だからそーじゃねーかなーと思ったんだよ。
 そういうウワサ真に受ける奴いるけど、ほんと、この石そーゆーんじゃないから。だって俺この石拾ってから別に仕事増えてねーもん」
膝の力が抜ける気がした。
ポケットの中の小さな石が、とてつもなく重く感じた。
「じゃあ何でこんな石を…? 俺が危ない目に遭って来たのは…?」
「危ない目に遭うのは石持ってたらしょうがないんじゃないかな」
「しょうがないって…」
「でも実際、欲しがる人はいるからね。売れる訳じゃなくても、何かすげー力でもあるんでしょ、きっと」
売れる訳でもないのに、自分を危険に晒してまで、他人を危険に巻き込んでまで手に入れたくなる何かがこんな石に詰まってるのだろうか。
男はふと、顔を上げた。
もう笑ってはいない庄司の真っ直ぐな目を見ると、この人も自分を襲って来た奴等と同類なのではと思えて来て、思わずポケットを強く押さえた。
だから、俺が勘違いをしていると気付きながらも、ここに連れて来たんじゃ……?
また心臓が、早鐘を打ち出した。
「庄司さん…も、俺から、石、奪いますか………?」
「お前の?」
庄司の視線が、男のポケットへ。
だがすぐに、んー、と眉根を寄せて男を見た。
「お前がどうしても俺のを欲しいって言うなら、良いよ俺は、戦っても。でも…俺は、ヤかな。
 面白くなさそーじゃん」
……………は?
「おも、しろく、…ない―――?」
ともすれば聞き流してしまいそうな程自然に紡がれた不自然な言葉。
一瞬、耳がバカになったのかと思った。思わず、庄司の言葉を繰り返していた。
だが庄司は、だってそうでしょ、とあっけらかんと笑ってみせた。
「試しに戦ってみる? お前が良いなら良いけども。悪いけど、後悔すると思うよ。
 お前石見付けてすぐじゃん。白も黒も知らないんでしょ。目的も間違ってたっつって今テンション下がってるし。
 そんな相手とやり合って石奪っても…ねえ、つまんねーでしょ」
何を、言っているんだろう。
難しい単語は一切ない。非常に解り易く単純な筈なのに、何故か頭が付いて行かなかった。
男の口が、再びあんぐりと開けられた。
「テンション下がってんのお前だけじゃないよ。俺だって今低いよ。
 せっかく眠い身体叩き起こしてお前ん所行ったのにさ、何だよこれ。
 今度こそは絶っっ対面白くなるって俺ん中で決定してたのに。すげー損した気分。寝てれば良かったー」
「ちょっ、ちょっと良いですか」
何、と欠伸しながら庄司が訊ねる。
訊きたい事は沢山あるが、多過ぎて何から訊けば良いのか解らない。
まず、今耳に引っ掛かった単語について、訊く事にした。
「『俺の所に来た』って、どういう事ですか。俺が石持ってる人捜してた事を、知ってたんですか?」
「知ってー…た、訳じゃないけど、」
ニッと、庄司が口を持ち上げる。
一見すれば打算的なイヤらしい笑みなのだろうが、男には単純に、とても楽しそうだと映った。
「解ったよ。誰かが、あの場所で、何て言うかこう、何かをしようとしてるっていうのは」
「それが、庄司さんの石の能力?」
「ううん、俺のは全然違う。何て言うんだろうなこれ。能力っていうか……性格、じゃないかなあ?」
性格、と男が口の中で呟く。庄司はうん、と頷いた。
「聞いた話だけどさ、石にもあるんだって、性格が」
視線を上げた庄司と、目が合う。
真ん丸い瞳に己が映ったその瞬間、ぞくりと全身が粟立った。
「俺の石、そういうの大好きな奴なんだよ。
 お前の石はどうか知らないけど、俺のはそういう性格だから、何か見付けたら訊いてもないのにすぐ俺に教えてくれんの。
 ……あのーほら、何て言うか、同じ石でも持つ人によって、性格とかでさ、使い方とかそういうの、変わって来るでしょ。
 それと一緒で、同じ人が違う石持ったら、その石によってその人の使い方とかそういうのも変わるんじゃないかな。
 これは俺が勝手にそう思ってるだけだけど、多分そういう事じゃねーかな」
「い、石に人が、使われるって事ですか?」
「言い方は悪いけど、俺はそうだと思ってる。俺達だって石、使う訳だし」
「じゃあ、庄司さんは石をどう使って…石は、庄司さんを、どう、使ってるんですか?」
「さあ」
言い様のない、得体の知れない気持ち悪さが全身を這い回る。
つ、と背中に冷たいものが伝った。
庄司の口調は優しく、一つ一つの単語もとても柔らかいのに。思わず一歩、退いてしまいそうになる。だけど耳は庄司の言葉を忠実に待った。
そんな男の気持ちなど何処吹く風とばかりに、明るい口調で庄司は続ける。
「お前今までただ石振り回してただけだと思うけど、これからは考えてみて、お前の石の事。
 こいつは何考えてんのかなとか、今何したいのかなとか。その内自分の事考えるみたいに、自然になるから」
「石の事を、自分の事みたいに」
「うん、多分大丈夫。お前の事選んでくれた石なんだから。
 こっちがこいつの気持ち汲んだら、その分こいつもこっちの気持ち汲んでくれるから。ほんとだって。
 こいつと一緒に今まで戦って、乗り越えて来たんだろ? こいつもお前の相方みたいなもんじゃん」
「……………」
いつの間にかポケットから石を取り出し、男は手の中のそれをまじまじと見ていた。
次いで庄司を見ると、な? と柔らかい笑顔を向けられた。
思わずこちらも笑んでしまいそうな表情だが、今はとても笑い返す気になれなかった。
自分の気持ちと、石の気持ちと―――考えた結果が、庄司の今の行動なのだろうか。
「石の気持ちと、庄司さんの気持ちを汲んだ答えが、『俺と今戦うのは面白くない』って事ですか」
「そうなる、かな」
「何か、…変、じゃないですか?」
「何処が」
「だって、俺が石持ってまだ日が浅いとか、俺のテンションが下がってるとか、だから奪ってもつまらないとか。
 石を奪うのが目的って言うより、ただ戦うのが楽しいって事じゃないですか、それじゃ庄司さんも石も、ただの戦闘―――」
じ、と真っ直ぐ見返す庄司の瞳を見ている内、あれ、と男は思った。
この人の眼、こんなに色素が薄かっただろうか。
黒でもない。茶色でもない。少しくすんだその色は………
「な…!! ……んでも、ない、です」
先に見たアメ玉の様な、ビー玉の様な石ころを思い出して、いよいよ額から汗が滲み出た。
一方の庄司は、途中で言葉を切られて不満そうに眉間に皺を寄せていた。
まるで見えない何かに見られている様な、奇妙で怖ろしい感覚。
その正体が、解った気がした。
庄司は首を捻ったが、まあ良いや、ともう一度欠伸した。
「俺が言えるのはそんくらいかなあ。まあほとんど受売りに近いけど」
「誰の………?」
うーん、と唸って、答えない。
口元は笑っていたが、俯いていた為に表情までは見えなかった。
「あ、後、白と黒の事は知っといた方が良いよ。入る入らないは別にしても、知るだけで相当楽しくなるし」
何が楽しいのか、とはもう訊く気力も起きなかった。
ただ、『入る』『入らない』と言うからには、白と黒は何かの団体の事なんだろうなと思った。
「俺が黒に入ったらどうなるんですか」
「え、どうなんだろ」
「庄司さん、どっちですか」
「俺ー…は、白。けど、ごめん俺実は良く知らないんだよ。黒とか白とか。だから本当は上から言える立場じゃないんだけど」
苦笑する庄司に、男はやっと小さく笑い返す事が出来た。
その瞳はもう黒くころころと動いていて、男の恐怖心も気持ち悪さも、波の様に消えて失せた。同時に堰を切った様に汗が滲み出す。安堵の余りその場にへたり込んでしまいそうだ。
だがやはりそんな男には気付く様子もなく、庄司は携帯で時間を確認した。
本格的に眠そうに欠伸して、男の方へ足を進めて来る。
思わず身構えたが、庄司はそのまま男の横を通り過ぎて行く。この話はこれで終わりという事だろうか。
男は庄司の後ろを付いて歩いた。
「大人しそう、お前の石」
前を向いたまま突然言われ、男は、は、と咽喉から間抜けに空気を漏らした。
「俺の石と逆だ」
「そうなんですか。気性が荒い感じなんですか?」
「うーん。…って言うか、めちゃくちゃなんだよ。寝てても叩き起こすし、すぐはしゃぐし。図体だけでかいガキみたいな感じ」
「はあ」
「何かごめんな、変な話ばっかして。意味解んないでしょ」
「いえ…別に」
「ほんと? 俺ずっと、あー解んねーだろーなーって思いながら喋ってたんだけど、解る?」
「わか…りはしなかったですけど、何となくは」
「何となくでも良いよ。ごめんな」
『戦闘狂』―――と、あの時言い掛けた。
誰もが避けたがる戦いに、楽しいだのつまらないだのそんな価値判断を持ち出すなんて、ただのイカれた戦闘狂だと。
今でもそう思っている。もう汗は流れていないけど、シャツの背中はひんやりと冷たかった。
なのに、今その戦闘狂と横に並んで歩き、交わしているこの会話は何なんだろう。
声も口調も喋り方も全く変わっていないのに、纏う空気一つで、今目の前にいるこの人と、さっき目の前にいたあの人と、同じヒトなのだろうかとさえ思える。
だけど、
「今度また会ったら、そん時は思いっ切り出来たら良いな」
無邪気に弾んだその言葉に、やはり同じヒトなのだと、実感した。
どうしようかと、やはり床を睨みながら男は考えていた。
そこへ、バタバタとガサツな足音が響く。
ごめん遅くなったと頭を掻きながら、待ち人がこちらへやって来た。
待ち人、男の相方はきょろきょろと辺りを窺うと、小声でそっと言う。
「で、どうだった? 行って来たんだろ?」
その目は純粋で、期待に輝いていた。
きっと無事に男が帰って来たから、何か収獲があったと思っているんだろう。
無理もない、この相方はまだ石があれば頂点へ行けると思っている。そして彼は石を持っていない。
男が自分の分の石を奪って来てくれたと思って疑わない。
「俺がさっき聞いた事、そっくり話す。これからどうするかは、お前が決めてくれ」
男の相方はどういう事かとぽかんと口を開けていた。
ああこいつ、何にも知らないんだなあ。そんな相方が少し羨ましくなった。
あんな奇妙な、狂気に近いものを見せられるくらいなら、何も知らないまま、石があれば頂点へ行けると信じていたかった。
そう言えば、と男は自分とは違う男の相方を思い出した。
ついさっきまで喋っていた男の相方。
酷く慌てた様子で、坊主頭のてっぺんまで汗を掻きながら、自分と彼の目の前に現れた。
あの人も彼と同じなのだろうか。それとも自分の相方と同じ様に、何も知らないでいるんだろうか。
知らなければ、その方が良いのかも知れない。
……いや、二人の事を考えるのは止めよう。
男は目の前の相方にどう説明するか。それだけに集中する事にした。
ソファの上で、井上はぶるぶると震えていた。
唇は紫色に染まり、歯はかちかちと鳴っている。
その背を、河本は乾布摩擦の様に激しくさすってやっていた。
それに合わせて井上の全身もガクガク揺れる。
「あいつら何処まで行ったんやろ。これで入れ違いとか面倒臭い事なってなかったらええけど」
心配しているのか文句を言っているのか、微妙なラインの声色で河本は言った。
その河本の目を、井上は見れないでいた。
どういう事なんやろ。井上は揺さ振られながら必死に考えた。
庄司と二人でいた時、現れた男は一人だった。
だから井上は石を使った。相手の石さえ封じてしまえばもう相手は何も出来ない。戦闘終結、ハッピーエンド。
ところが目を覚ましてみれば、一緒にいた筈の庄司はいないし、時計は妙に進んでいた。
敵が複数いたり、石が複数あったのかも知れない。そう考えれば何も不自然な事はない。
だが何より引っ掛かるのは、井上が石を発動させた瞬間だ。
井上は庄司に背を向け、若い男の方へ突進した。
だがマグロとなって床を滑る正にその瞬間、凍り付く直前の井上の足は、進行方向とは逆の床を蹴っていた…気がする。
見てはいない。自信も確証もない。ただこの身体が、足が、逆を蹴ったと言っている。
逆を蹴って行き着く先は、同い歳の後輩の所。
どういう事なんやろ。井上はもう一度心の中で呟いた。
井上の唇にやっと赤みが差して来た頃、井上さん戻ったんすか、と声が聞こえた。
品川と、庄司だ。
二人揃っているのを確認すると、河本は安堵して眉尻を垂れ下げた。
いやー参った、と言いながら品川はソファの背もたれに手を突いた。
「別に何もなかったっすよ。多分井上さんが元に戻るのに時間掛かってただけじゃないですか?」
「…ふーん? まあまだ聡の石よぉ解らん所多いしなあ。何もなかったんならええわ。
 それにしてもおもろかったでー、俺が庄司何かあるんちゃうかって言った後の品川!
 もうめっちゃ慌てまくって俺に質問攻めでうっっっざいの何の!
 しまいには立ち上がって、『河本さん、井上さん頼みます。俺…』、」
「ちょちょちょ、…それ本気で恥ずかしいんで、止めて貰って良いすか?」
二人のやり取りを見ながら、庄司は手を叩いてケラケラと笑っていた。
が、井上の視線を感じて向き直る。
どうしたんですかと言われても、何と答えて良いか解らなかった。
その井上の肩に掛かってる物を見て、庄司は、あ、と声を上げた。
「良いですよ俺の上着。まだ着てても」
「…え? あ、いや、ええわ、もう大丈夫やから。返すわ。庄司のやったんやな、これ」
羽織っていた上着を脱ぎ、庄司に渡そうと手を伸ばす。
「庄司何ともないん」
「はい全然」
「石も? 普通?」
「はい、何もないですよ」
「あいつどうしたん」
「帰りました」
そう、と井上が言うと、庄司は一瞬不思議そうに瞬いたが、何も言わず井上から上着を受け取った。
「おい庄司、そろそろ」
「あ、もう?」
品川が声を掛けると、庄司は顔を上げて品川の横に立った。
品川が携帯の時計を見せると、ほんとだと言って上着を着た。
「俺らそろそろ打ち合わせあるんで、行きますね」
「そか、じゃあな。お疲れさん」
「はい、お疲れ様です」
会釈して、二人は河本と井上に背を向けた。
無言のまま、それを見送る。
「あの二人…偉いなあ」
はあと息を落として河本は呟いた。
「狙われるん解ってんのに白やてはっきり言い切って、そんで何かでっかい相手と戦ってるんやもんなあ」
俺にはムリや、と河本は井上に言うでもなく一人ごちた。
井上がソファから立ち上がる。
河本の後頭部をじっと見詰めた。
確かに自分達にはムリかも知れない。だけどそれは、偉い…んだろうか。
「俺らは、このままでええんちゃうかな」
いつもはぼんやりと抜けた事ばかり言っている井上にしては珍しい、まともかつ真面目な言葉。
振り向いた河本は、井上の眼が自分の遥か向こうを見据えているのを見て、ただ、そうかな、と返すより外なかった。
仲の良い後輩だけれど、彼等と自分達は酷く遠く、離れてしまったのかも知れない。
仕方がない事だ、と井上は思う。
彼等には彼等の信念が、自分達には自分達のやり方がある。
河本はムリだと、自分にではないが言った。そう思うのなら、ムリに飛び込む必要はない筈だ。
もどかしいな、と河本は思う。
別に正義に目覚めている訳ではない。出来るなら何もなく、平穏に過ごしたい。
だが、黒を許している訳ではないのに、戦うでもなくこそこそと怯える生活を続けていて良いのだろうか。
後輩はあんなにも堂々と立ち向かっているのに。
ただ共通して思うのは、相方に危険な目に遭って欲しくはないという事。
だから井上は飛び込む必要はないと思うし、飛び込んで欲しくないとも思う。
だから河本はもどかしいと感じるし、立ち向かって行く事をしない。
じゃあ、と、疑問が湧いた。じゃあどうしてあの二人はあの派閥に属しているんだろう。
考えても、答えが出るものではない。
「俺らも、戻ろか」
「ん」
もう寒ないん、と河本が訊ねると、へーき、と井上は答えた。
二人並んで、楽屋へ向かう。
井上はポケットに手を入れ、金に触れた。
―――ほんまに俺が元に戻るんが遅かっただけなんやろか。俺が凍らせた石は何やったんやろ。
だがこの石に封じ込められた能力を知る術は、ない。
「すげー、ほんとに凍ってんじゃん」
一人きりの楽屋。
左のポケットから取り出したごつごつと角張った石を目の高さまで掲げ、庄司智春は白く曇ったそれを己の瞳に映していた。
良く見ればその石は、ほのかに黒ずんでいる様に見える。
今朝戦って引っぺがした石。少し物足りない戦闘だったなあと思い出す。奪った相手は、知らない奴だった。
井上の能力は全く知らなかったし、発動した後も解らなかった。
だけど―――『石の凍結とかすげーけど』。この品川の言葉で、井上の能力を知った。直後、ポケットに突っ込んだ左手が触れたひんやりと凍った感触に、その意味を理解した。
ずっと温いポケットに入れていたのに未だ冷凍庫から取り出した直後の様な冷気を放つ石に、普通の方法じゃ溶けないんだろうなと推測する。
凍った石と顎をテーブルに乗せて、じぃっと眺めた。
それと同時に、自分の存在を主張する様に、右のポケットが微かに熱を帯びた。
誰に言ったのか、確かになー、という庄司の声が、彼以外誰もいない筈の楽屋に響く。
井上の能力が石の凍結、封印だという事は解った。
だけど、男の持っていた石と、やんちゃくれの丸っこい石と、奪ったばかりのこの石と。その中でどうしてこの石が選ばれたんだろう。
井上は自分の方に滑って来たんだから、『敵』の石を凍らせる訳じゃなさそうだ。
黒い欠片を見付けてそっちに向かう…とか? うーん、と庄司は頭を捻った。
井上はあの男が黒い欠片の影響を受けているかどうかは知らなかった筈だ。仮に井上の石が黒い欠片を持つ石を凍らせるなら、自分がこの石を持ってない時点で井上の特攻は不発に終わる事となる。
良く、解らない。何に反応するんだろうな、あの石。
暫く考えたけど、もともと頭を使う事が苦手な庄司は、まあでも井上さんの事だし、敵=黒い欠片って思っちゃったのかもなあ、と結論付けた。
しかし別れ際、石は何ともなかったかと井上に問われ、見上げられたのが引っ掛かる。
どういう事なんだろ、と庄司は井上同様心の中で呟いた。
実際は、井上の金が、緊張の余り多少躊躇いを含んだ男の敵意よりも、黒い欠片に冒された石の放つ波動を『害』とみなして向かって行ったというのが真実だが、庄司には知る由もない。
やはり庄司は、まあ良いか、何かあれば向こうから訊いて来るかと、それで済ませただけだった。
「それよりどーしよ、これ」
ほわ、と欠伸する。
「凍っちゃったらもうダメじゃん。使い道ないでしょこれ」
投げて当てるくらいしか、と言いながら、凍った石を手に取り、キャッチボール程度の力で壁に放り投げた。
ゴツ、と鈍い音を響かせて、畳に転がる。
涙が目に浮かんで、石がぼやけた。
「脇田さんなら溶かせるのかなあ。でもそしたら多分脇田さんが処分しちゃうしー。
 溶けるまで俺が持ってるか、それかこのままいつか溶けますよーっつってもうあげちゃう? それはねーか」
一人でくつくつと声を殺して笑う。
そう言えばこの凍った石、このまま溶けないという事は有り得るのだろうか。だとしたら井上の石はかなり厄介な事になるが。
でもまあ自分の石じゃないし、と、庄司は今度こそ井上の石について考えるのを止めた。元来物事への頓着は薄い方だ。
「まあ良いや。脇田さんでも誰でも、最初に気付いた人にあげるって事で」
立ち上がって石を拾って、左のポケットに戻す。
欠伸の所為で零れる涙をぐいと拭うが、しかしその間も欠伸と涙は止まらない。
あーこの後も仕事あるのになあ。他の人に会って、泣いてたとか思われたら最悪だ。
庄司は楽屋を出てトイレへ向かい、眠気覚ましと涙を洗い流す為に顔を洗った。
少しはすっきりしたかと廊下を歩いてスタジオへ向かう。
その途中、庄司は厳しく眉をひそめ、小さく首を振った。
「…ダメだって今は。行けないって。いや行きたいの解るけどさ、これから仕事なんだから。皆に迷惑掛かるだろ」
そのまま暫く歩いていたが、はあーと溜息をついてポケットに手を突っ込んだ。
ダメだって、と子供に言い聞かせる様な口調で何度も言う。
「大人しくしてろよ」
最後にそう言って、庄司はスタジオに入った。
漏れそうな欠伸を、噛み殺しながら。
以上です。
次課長の立ち位置をかなり浮ついたものにしてしまいました。
乙!
976 :
名無しさん:2008/04/06(日) 20:19:14
乙です!
977 :
名無しさん:2008/04/07(月) 10:39:59
きもいです
978 :
◆/q6QoBIcmo :2008/04/07(月) 13:41:59
h
979 :
名無しさん:2008/04/07(月) 14:36:58
キモッ
乙です!
携帯から読ませて頂いています
アンジャッシュと次課長・品庄の話が特に好きです
ここだけでなく、したらばの方へも行きたいのですが、色々キーワードを変えて検索しても見つかりません
教えてチャンで申し訳ないですが、どなたかヒントを教えて下さい…
>>982さん
まとめとは、
>>1に載っているサイトですよね?
アクセスしたんですけど、「ページが存在しません」と出てしまいました
携帯だから見られないのでしょうか?
>>983 >>982です。
自分は普通に携帯で見れるんだが…。
詳しいことは良く分からない。スマソ
>>984 そうですか〜じゃあPCでアクセスしてみようかな…
丁寧にありがとうございました!
986 :
交差のそくど <交差点0> ◆I4R7vnLM4w :
はじめまして。物語は初投下です。
基本軸はチュート・ピースとなる予定。
新参ですがよろしくお願いいたします。