もし芸人に不思議な力があったら4

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1名無しさん
現まとめサイト
ttp://geininstone.nobody.jp/


・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってま


・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドル・トリップを使用する事を推奨
 <トリップの付け方→名前欄に#(半角)好きな文字(全角でも半角でもOK)>
・既に使用されている石、登場芸人やその他の設定今までの作品などは全てまとめサイトにあります。
書く前に一度目を通しておいてください。
2名無しさん:2006/01/19(木) 20:42:37
前スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1122401090/

以下はスルーしても構わない設定です。
・一度封印された石でも本人の(悪意の無い)強い意志があれば能力復活可能。
 暴走する「汚れた石」は黒っぽい色になっていて、拾った持ち主の悪意を増幅する。
 封印されると元の色に戻って(「汚れ」が消えて)使っても暴走しなくなる。
 どっかに石を汚れさせる本体があって、最終目標はそこ。

・石の中でも、特に価値の高い(宿る力が高い)輝石には、魂が宿っている
 (ルビーやサファイヤ、ダイヤモンド、エメラルドなど)
 それは、古くは戦前からお笑いの歴史を築いてきた去る芸人達の魂の欠片が集まって作られた
 かりそめの魂であり、石の暴走をなくす為にお笑い芸人達を導く。

・石の力は、かつてない程に高まった芸人達の笑いへの追求、情熱が生み出したもの。
 持ち主にしか使えず、持ち主と一生を共にする(子孫まで受け継がれる事はない)。

・石の暴走を食い止め、封印しようとする芸人たちを「白いユニット」と呼ぶ。
 逆に、奇妙な黒い欠片に操られて暴走している芸人たちを「黒いユニット」と呼ぶ。
 (黒い欠片が破壊されると正気に戻る。操られている時の記憶はなし。)
31:2006/01/19(木) 20:43:35
落ちてたようなので、たてときました。
ここに書き込んだの初めてだww
4名無しさん:2006/01/19(木) 20:48:59
あ、ホントだ落ちてる。
>>1GJ!
5 ◆ekt663D/rE :2006/01/19(木) 22:20:57
乙です!
6名無しさん:2006/01/19(木) 23:11:04
>>1乙です。
よし、話書くか。
もしセンター試験受ける書き手いたらがんがれよー。
7名無しさん:2006/01/19(木) 23:15:22
最近本当に投下無いなー。
受験シーズンだからかな、やっぱり。
8名無しさん:2006/01/19(木) 23:16:02
>>1乙です!
9名無しさん:2006/01/20(金) 00:40:48
乙です!
話楽しみにしてます!
10名無しさん:2006/01/20(金) 02:01:56
よかった、誰も気づいてないのかと思った。
>>1本当にありがとう。
11名無しさん:2006/01/21(土) 11:10:26
>>1さん乙。
このスレ好きなんだよ。
12 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 13:56:01
また私です。
今けっこう暇な時期なんでつらつらと書いてます。
前スレ、あべさく編の続きいきます。
13 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 13:58:29

「おかしい、おかしい、絶対にお・か・し・い!」
携帯の液晶画面をこれでもかとガン見しながら、阿部は頬杖をついた手を反対側に変えた。
約束を破って帰ったと思いこんでしまった阿部は腹を立てて楽屋の椅子に座っていた。
だが暫くするとさすがに頭のほとぼりも冷めてきたのか、冷静に思考を巡らせ始めた。
あの彼が何も言わずに勝手に帰るなんて、そんな不躾な真似をするだろうか?今までも「ザリガニの子が生まれそうで〜」とか「子どもたちの餌買わなきゃ〜」とか、(言っちゃ悪いが)どうでもいい理由までいちいち言ってきていたものだ。
第一、待ち合わせの約束を持ちかけてきたのは佐久間の方だ。

まさか…。阿部は携帯を取り出し、佐久間の携帯へ電話を掛けた。20回ほどコールを鳴らしても一向に出ない。
今度は家へ掛けた。だが、こちらもやはり出る様子はなかった。
嫌な予感が振り払えない。
14 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:00:10
「分かるか…?」
携帯に簡単に取り付けた自らの石を撫でるように摘み、静かに呟いた。
透き通るように青く美しい石は主人の語りかけに反応し、淡く瞬いた。

「………さっくんのピンチ!」
そう思った。思わずにはいられなかった。椅子を倒す勢いで立ち上がる。
根拠は無い。妙な胸騒ぎだけがただ一つの理由だった。それでも、頭の中には確信にも似た何かがあった。
阿部は何とか佐久間の居場所を突き止めようと、楽屋を飛び出した。


意外にもその方法は直ぐに見つかった。
「え?人捜しっすか?ならあいつに頼めば良いと思いますよ」
「あいつって?」
「あ、知らねえっすか。ハイキングのQ太郎がそういう能力なんですよ」
そう言うや否や、藤田は隣の楽屋へ鈴木を呼びに行った。
ああ、あいつね。と阿部は心の中で呟いた。
(意外と多いんだ、石の能力者って。黒も白も入り乱れてるらしいし…となると、この闘いもまだまだ続くなあ…)
「あべさん、誰か探してるんですか」
いつの間にか目の前には鈴木が立っていた。先程まで寝ていたのか、髪の毛先がまた何ともおかしな方向へ向いていた。
相変わらず濃い顔だ、と思いながら阿部が口を開いた。
「ん、ちょっと佐久間さんをね」
心の内を悟られないように軽く笑みを作る。僅かだが俳優としての仕事もしていた事もあってか、本当に何でもないような上手い作り笑顔だった。
鈴木は疑いを掛けることなく「良いですよ〜」と承諾し、目を閉じて佐久間の石の気配を探知し始めた。
彼の服と同じピンク色の小さな石が不規則にチカチカと光ると、鈴木の頭の中に地図のようなものが広がる。

「あっ、見つけました」
ふっと目を開け、得意げに笑う。そして、佐久間の居場所を阿部に伝えた。
「佐久間さんは、………」

15 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:02:12


綾部はトイレに行こうと廊下を歩いていた。丁度曲がり角へ差し掛かった所で、人とぶつかりそうになった。
咄嗟に身を捻って避けたものの、突っ込んできた相手は謝りもせず…と言うよりも、一切見向きもせず走り抜けて行ってしまった。
綾部は顔をムッと顰め、怒鳴りつけてやろうとその人物の後ろ姿を睨み付けた。
「んっ…?」
途端、綾部はキョトンとした。既に階段を降りていったが、それは間違いなく阿部の姿だった。
あの阿部があんなにも慌てているなんて、珍しい。
と思ったが、深く考えず首を小さく傾げると再び歩き出した。


「あっ」「お?」トイレの中には鈴木がいた。お互い軽く会釈する。
少し間をおいて、鈴木が話しかけてきた。
「さっきあべさんとぶつかりそうになったでしょ。ね、当たってる?」
「アタリです…それも能力で?何か監視されてるみたいで怖、…嫌だな」
鏡越しに会話する。ワックスを取り出して少し疲れた髪型を整えた。
やはり鈴木が白に入るような事があると、黒にとっては分が悪い。何しろ彼がその気になれば黒の動きなんて筒抜けなのだから。
いつだったか自分が松田を黒に誘ったとき、彼はこう言った。「相方に何も言わなければ、手伝ってやる」と。
嫌だと言えば即こてんぱんに叩きのめされそうだったから、その時は思わずハイと答えてしまったが―――。

(…でも、いつか『白』に取られるくらいなら…、今…)
横目で鈴木を見、恨まれるのを覚悟で、思い切って向き直った。
16 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:03:39
「あの、Qさ…」
「あべさんも大変だよねぇ」
思いっきり声が被さってしまった。綾部は出かかった言葉を飲み込んだ。
「はあ、何かあったんですかね。あんなに急いで、…知ってるんすか?」
「ああ、人捜しの手伝いしたんだよ。かくれんぼ以外で力使うの初めてだったなー」
鈴木は嬉しそうに言った。

―――人捜し………。『人捜し』?
はっ、と息を呑むと身体から血の気が引いていった。
一瞬にして身体が石化したように感じた。

「誰ですか」
「え?」
「誰を捜してたんですか!?」
今にも掴み掛かってきそうなその剣幕に、一瞬戸惑う。
「誰って……佐久間、さん…」
綾部は驚愕の表情を浮かべた。そして弾かれたように廊下へ飛び出していった。
名前を呼ぶ鈴木の声が小さく聞こえた。
(…手、洗わねえのかよ…)
一人残された鈴木は、綾部の不振な行動に気付きもしなかった。

綾部は走りながら、考えていた。
何で分かったんだ?友達だから?そんなドラマみたいな展開、あり得ないだろ。
阿部のこの動きは、きっと綾部も、又吉も、誰もが予想できなかった出来事。
楽屋のドアを乱暴に開け、息を切らしながら叫んだ。
「ま、またきち!またきちーっ!!」
「何やねん、便所にゴキブリでもおったんか?」
「万に一つも起こらないようなことが起こった!」
「……は?」
17 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:05:43


何度目になるだろう。隕石の如く飛ばされてくる岩石のつぶてを、フワフワのシュークリームに変化させる。
変化させきれなかったものは頬をギリギリで掠め、鉄筋やコンクリートに衝突し、砕けた。
ピン芸人佐久間一行、HP:そこそこ。MP:ピンチ。絶体絶命だ。

「逃げてばかりじゃ意味無いでしょ。もう諦めたら?」
対する松田はまだまだ余裕だ。確かに、運動能力に自信があると言っても、猛スピードで向かってくる岩を避け、また能力を使い続けるのには限界があった。
かといって、攻撃系の能力…しかもその中で最も強いとされる四大元素の力の内の一つ、『土』を操る石とあっては、まともに突っ込んで勝てる訳がない。
佐久間の心の動揺に反応し、エンジェライトの光も段々と弱くなる。
「ああ〜もぉ頼むよ…まだ消えるなって…」
小さな声で呟き、石を握りしめる。
「噂には聞いてたけど、随分面白い力だなあ…。微妙に精神的にもダメージ来るかも」
松田が独り言を言いつつそこら中に散乱している大きなシュークリーム(元々は岩だったが)をもったいなさそうに眺め、脚で蹴った。
「あ、あべさんが助けに…っ」
「来ないと思う。綾部がちょっとしたイジワルしてるから」
目を伏せる。
「佐久間さんさぁ、あべさんが帰った、って聞かされたでしょ?」
「うんうん。……もしかして…」

「嘘吐いたんです。ホントは帰ってなんかない。…多分、あべさんにもあなたと同じような事言ったと…」
と、言うことはだ。阿部は自分を置いて帰ったのではなく、それは綾部の吐いた嘘だということ。
佐久間は腕を組み、空を見上げて頭の中を整理した。

――――じゃあ何だ。俺が綾部の言葉を鵜呑みにしただけだったのか。なんだ、あー良かった。

…いや、良くはなかった。同じ事を阿部にに言ったということは、きっと向こうも佐久間が帰ったと思いこんでいる筈。
18 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:08:51
これはもう、助けを期待しない方が良さそうだ。
頼る人は此処には居ない。自分だけの力で何とか切り抜けなくてはいけない。
いつも遊んでいるヒーローごっこと同じシチュエーション。まさかこんな所で実体験出来ようとは…。
(…俺の石で、何とか松田さんの石浄化できねーかな)
ふと、そんなことを思いついた。
相手は石を手に持っているし、思い切って突っ込めば案外上手くいくかもしれない。

松田の一瞬の隙を突いて、飛び込んだ。今まで逃げていた佐久間がいきなり向かってきた事に驚き、今度は松田が尻餅を着いた。
慌てて石を反対の手に持ち替え、片手に砂で固めた刀を瞬時に作り出す。
佐久間が手を伸ばすとほぼ同時に喉元に切っ先を突きだした。
「ひゃあっ!!」
刀を見た佐久間は短い悲鳴を上げ思いきりブレーキをかけると、
「たは〜、無理だコレ」
ぐるりと180度向きを変えて逃げ出した。
―――しっかりしろ、どういうつもりで逃げてんだよ。
―――逃げろ逃げろ。捕まったら殺されるよ。
頭の中で二つの、正反対の声がする。コレが俗に言う天使と悪魔の声。
どちらが天使なのかは分からないが。

さっとコンクリートの壁に隠れ、そのまま背を預け力なく座り込んだ。少しだけ顔を覗かせる。
松田が立ち上がっているところだった。手には砂剣を持っている。目が合う前に頭を引っ込めた。
―――昨日と同じように、助けに来てくれるだろうか?あのカッコつけ男は。
「どう、思う?」
すっかり頼りなく弱々しい輝きになってしまった石に語りかける。
もし完全に光が消えてしまうと、自分を守るものは何もなくなってしまう。
擦り剥いた膝を抱え、今度は誰に向かってでもなく呟いた。
19 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:15:02
「本当は約束破って帰るような人じゃないんだよ…あの人は…俺、知ってた筈なのに」
人を疑う事を知らない佐久間にとっては、あまりにも厳しい現実だったのかも知れない。
土埃や泥で汚れてしまった服や顔からは、既に『潔癖性』の欠片も感じられなかった。

―――(此処にいたら危ない!)
頭の中で妙な声が聞こえた途端、考えるより先に身体が動いた。トランポリンのように地面が大きく揺れる。
もたれかかっていた壁に亀裂が入り、真ん中から崩れ落ちた。巻き上がる砂に咳き込む。
いち早く危機を察知できる力を持つエンジェライトのおかげで、間一髪でコンクリートの下敷きになることだけは免れたが――。
地面の波紋が此処まで届いたということは、松田が近くにいるということだ。
岩の影できっとまだ自分の姿を見つけられていないのだろうが、一つひとつ石壁を、それこそ積み木を崩していくように壊していって、何もない平面の広場にすれば良いだけだ。
ちょー怖え!どうしよう。どうしたら此処から出られる?


「わっ」
逃げなければ、と立ち上がろうとした瞬間、足がもつれた。
何か細い糸の様なものが足首に引っ掛かかった感触。そして、ヒュッ、と空気を掠める音がしたのを確認する間もなく、高速で飛んできた何かが、佐久間の頬をギリギリで掠め、ブロックの壁に突き刺さった。
20 ◆8zwe.JH0k. :2006/01/21(土) 14:17:48
中途半端だがここまで。
21名無しさん:2006/01/21(土) 15:01:51
乙。
これから忙しい時期が終わってスレが賑わえばいいね。
22名無しさん:2006/01/21(土) 18:57:54
乙です!
あべさく編、おもしろくなってきましたね〜。続き楽しみにしてます。
23名無しさん:2006/01/21(土) 23:00:29
オパール偏が見たいよ
見たいよ
24名無しさん:2006/01/22(日) 11:11:45
保守
25名無しさん:2006/01/22(日) 20:32:00
◆8zwe.JH0k.以外の書き手が来ないなあ・・。
飽きたのか?
26歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/22(日) 20:55:14
忙しくてパソに触れてなかった…。
飽きてないですよ。
ちゃんと書いとります。
27 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:10:57
添削スレの方で投下してもいいのではという意見をいただいたのですが、
今こちらに投下させていただいてもよろしいでしょうか?
チュートリアルの二人の短編です。他の芸人さんは名指しでは登場してません。
28名無しさん:2006/01/22(日) 21:11:59
>>27
おk
29 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:19:44
ありがとうございます。それでは、投下させていただきます。


 徳井義実は今、まさに仕事を終えて帰路につくところだった。
 今から飲みに行くからお前も来いよ、と言った相方の福田の誘いを断り、徳井は夜の街を一人で歩いていた。時折人にぶつかりそうになるが、上手くそれを避けながら歩く。
 道沿いのとある店の前で、徳井はきらりと光る石の存在にふと気が付いた。
 店の中の明るさのせいで、その石は特に目立って輝いている。徳井はそれに興味が湧き、拾い上げて手の中で転がした。
「きれいな石やな」
 ぽつんともらした、石に対する感想。
 石は透き通ったグリーンで、その色はマスカットを連想させる色であった。女性が身につけるアクセサリーとしてもよく見かけるような、少し大きめの石である。
 道端に転がっていたのだが、この石の運が良かったのか一つも傷がついていなかった。
「まあ、持っといても悪うないやろ」
 徳井はそう呟いて、石についたほこりを息で飛ばした。
 その瞬間、微量についていた砂のようなものを吸い込んでしまったが、全く気にかけずそれをさっとジーンズのポケットに入れた。
 太股に石が入っている感覚があるなあ、と当たり前のことをぼんやりと思い、徳井は再び自宅に向かって歩き始めた。
30 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:20:44
「昨日な、きれいな石見つけてん」
 徳井は次の日に早速、相方の福田に昨日拾った石を見せた。福田はふうん、と言い、それをしげしげと見つめていた。
「ほんまにきれいやなぁ。どっかで買うたん?」
「いや、道に落ちてたから拾っただけやねんけどな」
 そう言うと、福田は苦笑した。
「なんや、ほんなら汚いやん。さっさと捨ててまえよ」
「え。昨日、家帰ってからちゃんと洗ろたんやけど」
「そういう問題やないやろ。たかが落ちてた石に執着心持つやなんて、変な奴やなぁ」
「うるさいわ」
 いちいち突っ込んでくる福田をかわし、徳井はそれを再びポケットにしまった。しまう時、その石が不思議と熱を帯びているように感じられたが、特に気を留めることもなかった。


 その後、楽屋で髪型を整えていると、そうや、と思い出したように福田が呟いた。
「石ゆうたら、昨日俺ももらったわ。ファンの子のプレゼントの中に、一つてごろな大きさの石があってん。まあ相手は小っちゃい子なんやろな、『きれいだったからあげます。がんばってください。』なんて手紙が一緒に入ってて」
 福田はそう言うと、自分の持ってきたバッグの中を探し、徳井の目の前に出した。徳井はそれをしげしげと見つめ、ふうん、と言った。
「お前のも緑色やな。それにしてもグレーのふが入ってたりして、なかなかセンスええやん」
「そやろ? 俺あんまりアクセサリーとかつけへんけど、これはなんかお守りとかになりそうやから、袋に入れて持ち歩くことにしてん」
「ほう」
 どういう風の吹き回しなのやら、と徳井が笑いながら呟くと、福田は拳を振り上げて叩くような仕草をしたが、彼も徳井同様笑いをこらえきれない様子だった。
 そこで改めて福田の持っている石を見つめる徳井。福田の石はまろやかな緑色で、先程徳井も自分で言ったとおり、グレーのふが入っている。
 形も質感も違うが、同じ緑っぽい色の石ということで、徳井は不思議な親近感を持った。
 徳井はしばらく眺めてから福田に石を返し、再び鏡の前に立って自分のみだしなみを整えることに集中した。
 ――自分の“石”がますます熱を帯びていることに、全く気づかぬまま。
31 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:22:06
「はいっ、どうもチュートリアルです」
「よろしくお願いしまーす」
 いつもの挨拶で始まった漫才。二人の登場で観客が沸き、二人はいつもの調子でネタを始める。
 そう、最後までいつもの調子でできていたはずだったのだ。
 徳井がズボンのポケットの中に、何か熱いものを感じるまでは。
 ――ん?
 一瞬顔をしかめる徳井。その後、そういえば拾った石を入れたままだったなあと思ったが、何故それが熱く感じるのかまでは説明できず、徳井は一瞬ネタを続けることを忘れた。
「なんや、どないしたん徳井くん?」
 相方の福田にツッコまれ、徳井ははっと我に返る。福田は苦笑しながら、続けてツッコんできた。
「また変な妄想でもしてたんちゃうやろな?」
「いや、ちゃうねん。だからお前がな――」
 相方のフォローに感謝しつつ、徳井はネタを続ける。観客はそれもネタの内なのだろうと思っているようで、気に留めることもなく二人のやりとりに笑っていた。
 自分たちの出番中、徳井はずっと石の熱さを感じたままだった。
 ネタが終わってから石がどうなっているのか確かめよう、と思いながらネタを終わらせ、舞台のすそに引っ込んだ。
32 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:23:08
 出番が終わってから、徳井は案の定福田に先程のことを訊かれた。
「ほんまにどないしたん? 急に喋んのやめたから、びっくりしたで」
「いや……」
 徳井はそう言いながら、ズボンのポケットに入れていた石を出した。手のひらに載ったその石はやはり熱を帯びていて、徳井は首を傾げた。ずっとポケットの中に入っていたから熱い、というような熱さではない。石自身が熱を発しているようである。
 福田は不思議そうに石を見ている徳井を覗き込んだ。
「なんやお前、こんなもん入れてたん? さっきの石やないか」
「うん……なんかこれな、熱持ってるような気がすんねんけど」
「え、熱? お前のズボンの中で温められてたんちゃうん?」
「いや、そういう熱さやないねん」
 そう言って徳井は石を福田の方に向けたが、福田はまだ信じられないといった様子だった。
「どれ、ちょっと貸してみ」
 福田がそう言うので、徳井は福田に石を渡した。福田は石を受け取って手のひらで転がしていたが、すぐに首を傾げて徳井に石を返した。
「俺は別に、なんも感じひんねんけど……」
「えぇ? 俺の手の感覚がおかしいんかな」
 徳井に返されたその石は、確かに今も熱を帯びている。徳井の手の中では熱く感じるのに、福田はそれを感じないとは。全く訳が分からない。
「まあ、その石のことは後にしよ。考えて分かるようなことちゃうみたいやし」
 福田がそう言うので、まあそうやな、と徳井も同意し、二人は楽屋へ戻ることにした。
33 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:23:58
「なぁ。その石、まだ熱い?」
「ん、ああ、まだ熱持ってる。焼け石ほど熱くはないけど……まあ、カイロぐらいの熱さやな」
 楽屋に帰るなり、福田はその石のことを話題に出した。徳井の手に握られた石は、まだ熱を保ったままだ。少しも冷たくなるような気配を見せない。
 徳井の返事を聞いて、福田はふうん、と言いながら、どこか腑に落ちないといった顔を見せた。
「なんか変な石やなぁ。やっぱり捨てた方がええんちゃう?」
「そうかなぁ。でもな、なんか捨てたらあかんような気がすんねん……」
 徳井がそう言うと、福田は再び苦笑した。
「変な奴やな。別にそんな石、持ってたって何の得にもならへんやん。お前の場合、誰かからプレゼントされたとか、自分で買ったとかでもないし」
「うーん……」
 福田の説得は確かにそうだと納得させられたのだが、徳井はまだこの石を捨てる気にはなれなかった。勿体ないからとか、そういう理由ではない。何故か、これは自分の手元に置いておくべきものだという気がしたのである。
 座ったまま考え込む徳井、その隣で徳井の反応を窺う福田。そうして二人の間に、沈黙が流れた時だった。
34 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:25:25
 コツコツと、楽屋の扉がノックされ、二人は同時に扉の方を振り返った。
「どなたですか?」
 福田がそう答えると、相手はくぐもった声でこう言ってきた。
「すいません、ちょっと中に入ってもいいですか?」
「はあ、別にいいですけど」
 いきなり何やろう、と徳井にだけ聞こえるよう呟き、首を傾げながら、福田は立ち上がって扉を開けた。外には見たことのない男が立っていて、顔を隠すようにうつむいていた。
「僕らに何か用ですか?」
 福田が訊くと、相手の男はうつむいたまま言った。
「石、貸してくれませんか?」
 徳井と福田は一斉に顔を見合わせた。石と言われて思い当たるのは、徳井が今手にしている透き通ったグリーンの石である。二人は怪訝そうな顔をし、福田は男に再び問いかけた。
「石なんて、何に使うんですか?」
「いいから、早く貸してください。説明は後です」
 男は苛立ちを隠せない口調だった。名も名乗らない人物からそんなふうに言われ、福田もさすがにカチンときたようだ。
 不機嫌そうな顔をしながら、同じく苛立ちのこもった口調で返した。
「もう何なんですか、いきなり石を貸してくれなんて。理由もないのに、そんなもん貸せませんよ」
 そう言った瞬間、男がガバッと顔を上げた。あまりにも突然のことだったので、福田は「うわっ」と声を出して二、三歩後ずさった。
 男は二十代後半といった感じの顔立ちで、表情を見れば明らかに怒っているようである。二人が知っている若手芸人にも、スタッフの中にもこんな人はいない。
 誰やねん、という疑問を口から発する前に、男の方が二人の方を向いて口を開いた。
35 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:26:41
「この二人はお人好しやから、すぐに石渡してくれるって聞いたのに……話が違うやないか」
「な、なんやねん、いきなり」
 福田が多少驚きつつそう言うと、男はふんと鼻を鳴らした。
「まあええわ。こうなったら、力ずくでも石を渡してもらわな、な」
 そう言うなり、男は一番近くにいた福田の方に飛びかかってきた。福田はなんとかそれを食い止めたが、徳井は慌てて立ち上がり、福田の方にかけよった。
「福田! ……お前、何すんねん!」
「ちっ、こいつ石持ってへんみたいやな……ほんならお前からや!」
 男は福田に乗りかかりながら一人でそう吐き捨てた。その後今度は福田から離れて立ち上がり、徳井の方を睨んだ。
 徳井は今、手にあの石を持っている。力一杯握りしめているせいか、石にこもっている熱がより一層増して感じられた。
「福田、お前も石、出しとけ」
 横で倒れている相方にそう囁き、福田が頷いたのを確認して、徳井は立ち上がって男を睨み返した。男は徳井を睨んだまま動かない。
 自分の隙を窺っているのかもしれないと、徳井は用心しながら後ずさりした。福田が自分の鞄から石を取り出す時間稼ぎをするつもりだった。
 男の後ろにいる福田は、ゆっくりと自分の鞄に向かって動いていた。徳井はそれでいいと小さく頷き、男に視線を戻した。
「なんや。いきなり俺らの楽屋に入ってきて、挨拶もなしにこれか」
 我ながら冷たい口調だ、と思いながら、徳井は改めてキッと男を睨む。男はそれでも動かない。
 視界の端で、福田が鞄からそろりそろりと石の入った袋を出すのが見え、徳井は再び声を発した。

「どこの誰か知らんけど、『人の楽屋に挨拶もなしに入ってくんな!』」

 その瞬間だった。
36 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:27:17
 バン、と何かが破裂したような音が響き、徳井を睨み付けていた男は楽屋の外に吹っ飛ばされた。徳井も一瞬、何が起こったのか分からずぽかんと口を開けていた。
 男はくそっ、と言いながら立ち上がり、再び二人の楽屋の中に入ろうとしたが、何故か楽屋の中に一歩踏み出すだけで外に吹っ飛ばされていた。
 徳井は慌てて自分の手の中にある石を見ると、石からは光がこぼれていた。相変わらずじんじんと熱さは伝わってくる。まさかと思いながら、徳井は石をじっと見つめていた。
 相方の福田も自分の石を持ったまま立ち上がり、徳井の方を信じられないという目つきで見ていた。
「なんや……何が起こってん?」
「俺にも、さっぱり分からへんねんけど」
 徳井は首を横に振った。その間にも男は何度も楽屋の中に入ろうとしていたが、その度に何かに吹っ飛ばされていた。まるで扉に、何かの結界が張ってあるかのようだった。
 二人が首を傾げて男を見つめている間に、男はここに入るのは無駄だと悟ったのか立ち上がり、
「く、くそっ、覚えてろよ!」
 お決まりの捨てぜりふを吐いて、その場を立ち去っていった。
「な、なんやったんや、一体……」
 二人が同時にそう発した時、外から他の芸人の声がした。
「おっす! なんかあったんか?」
 その芸人はきょとんとした顔で二人を見つめ、二人が驚きで固まっているのを見て、苦笑した。
「なんや二人とも固まって。お化けでも見たような顔してるぞ?」
 そう言い、二人の楽屋に足を踏み入れる。
「あ、入ったら――」
 あの男のように見えない結界のようなものにはじかれるのではないかと思い、徳井は咄嗟に声を出したが、その芸人は難なく二人の楽屋に入ってきた。
 二人はきょとんとし、顔を見合わせる。さっきのは一体何だったのだろう、と。
 とにかく、楽屋に入ってきたその芸人を何でもないと言って追い返し、二人は楽屋の扉を閉め、一気にため息をついた。
「な、なんか知らんけど、疲れたな」
「ほんまに何やったんや、あれ」
 二人はそう言いながら、手の中にある石を見つめる。徳井の石は先程までの熱が失せ、すっかり冷たくなっていた。福田の石は以前と全く変わりがない様子である。
37 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:29:09
 石の確認が終わったところで、徳井がぽつんと呟いた。
「俺が『挨拶もなしに人の楽屋に入ってくるな』って言うた途端、あいつ吹っ飛ばされたよな?」
 そうやな、と福田は頷く。それを確認してから、徳井は続けた。
「でもさっきのあの人は難なくここに入ってこられた……なんでや?」
「うーん……ようわからんなぁ」
 福田が首を横に振って分からないという顔をしたので、徳井もがくりとうなだれたが、その後すぐにがばっと顔を上げ、そうや、と叫んでいた。
「あいつ、挨拶したよな? 『おっす!』って、ちゃんと」
「あ、ああ、してたけど……まさか、挨拶したからここに入ってこられたって言うんとちゃうやろな?」
「まあ、とりあえず試してみたらすぐ分かるやろ」
 そう言うなり、「おい!」と叫ぶ福田を無視して、徳井は楽屋を出て後輩の芸人を連れてきた。連れてこられた後輩芸人は怪訝そうな顔をして、徳井を見つめていた。
「とりあえず、何も言わんとここに入ってみ?」
 徳井は後輩芸人にそう命じた。後輩芸人は相変わらず不思議そうな顔をしながら、言われたとおりに楽屋に足を踏み入れた。
 その途端、後輩芸人は後ろに吹っ飛び、ちょうどそこにいた徳井に受け止められた。
38 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:30:03
「な、なんなんですか、これ」
 後輩芸人は驚いている。徳井はははっと笑うと、今度は挨拶をしてから楽屋に入るよう命じた。後輩芸人は頷き、「失礼します」、と言ってから、おそるおそる楽屋に足を踏み入れた。
「あ、あれ? 入れる……」
「ほんまや、入れるやん」
 後輩芸人と福田が同時に言葉を発し、徳井はまたははっと笑った。
「やっぱりな。……あぁ、時間とって悪かったな、もうええで」
「は、はあ」
 後輩芸人は何が何だか分からないという顔をしながら、徳井に言われたようにその場から立ち去った。徳井は楽屋に再び入り、福田に向かって得意そうな笑顔を見せた。
「やっぱりそうやったな。多分俺の言ったことに反応して、ここに挨拶せん奴は入ってこられへんよう、結界でも張られたんちゃうか?」
「まあ、そうみたいやけど、なんでや? この石がそうしたんか?」
 福田の問いに、徳井は頷いた。
「多分そうやと思う。その後、この石光ってたし、後で熱も冷めてきたし……この石、なんか不思議な力があるみたいやな」
 ふうん、と福田が納得したようなしてないような表情を見せ、頷いた。
 徳井はその石をズボンのポケットに大事そうにしまうと、立ち上がって福田の方を向いた。
「まあ、とにかく一件落着や。後で飲みに行くか?」
「おっ、ええな。昨日みたいにつれないこと言うなよ?」
「もちろんや」
 福田も鞄の中に石の入った袋を大事にしまい、二人はいそいそと帰る準備を始めた。
 福田の石がじとりと熱を持ち始めていたのを、二人は知るよしもなかった。


なんだか歯切れの悪い終わり方ですが、一応これで終了です。
39 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:33:32
徳井 義実
石:プリナイト
効能:「真実を見抜く石」と呼ばれる。また、しっかりとした意志と強い信念をもつことができる。
能力:情報操作ができる。
世の理や常識、そして人の記憶の中にまで入り込み、自分の思うように書き換えることができる。
また、持っているだけで精神的な干渉を持つ能力に対しての耐性が少し上がる。
条件:目の前にいる物・人に対してしか能力を発揮できない(理・常識に関してはこの限りではない)。
また、10秒間念じなければ能力を発動させることはできない。一日に使える回数も五回までと少ない。
40 ◆TCAnOk2vJU :2006/01/22(日) 21:36:26
あ… >>39の徳井さんの能力に若干間違いがorz
条件のところ、正しくは

条件:目の前にいる物・人に対してしか能力を発揮できない(理・常識に関してはこの限りではない)。
一日に使える回数も五回までと少ない。
一定時間経つと、書き換えた情報が徐々に元通りになっていく。

です。何度もすみません。
41名無しさん:2006/01/22(日) 21:54:55
◆8zwe.JH0k、◆TCAnOk2vJU
乙です。徳井の能力面白いなー。
42 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:24:47
ちょっと前にしたらばでカラテカの話書いたのでそれを投下します。

43 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:27:37
今日は晴れ。絶好の釣り日和だ。白も黒も、石のことは今日は忘れて、楽しもう。
と言うことで。
「矢部くーん、釣れたぁ?」
「うーん、まだ」
何人かの芸人仲間を誘って、釣り堀にやって来たカラテカ矢部と相方の入江。
二人以外にも石の能力者は何人かいるが、誰も「石」なんて単語を出してこない。
くだらない日常会話に笑いあいながら、幸せな時間を過ごす。
浮きはぷかぷかとゆったり上下しているだけで、魚は一向に掛からない。
餌が悪いんだ、きっと。などと思ってたが、周りの芸人たちは、次々と魚を釣り上げて大漁のようだ。
「えー、嘘でしょー…?」
情けなく眉をハの字に顰めて、もう一度竿を握り直した。坊主頭には紫外線が痛くて堪らない。
すこしでも暑さから逃れようと鞄から帽子を取り出し、きゅっと深く被る。
「えっ、矢部くん、今時麦わら帽子って…え〜…?」
入江が笑いを含んだ口調で矢部の隣にしゃがみ込む。矢部はむっとした表情で帽子のつばを上げた。太陽の光が目に入ったのか、何度も瞬きをしている。
「麦わらを馬鹿にしないでよ。凄いよコレ、涼しいんだから」
「まあ、もやしっ子にはそれくらい無いとなぁ」
その言葉に、矢部は黙り込む。当たっているから何も言い返せないのだ。
体重39キロの、アンガールズにも劣らない細い身体は、長い間外に放っておくと、あっという間に蒸発してしまいそうだ。
入江が、これも使えと日傘をクーラーボックスに立て掛けた。
「……掛かれよぉ」
いつの間にか真上に昇り、さんさんと照りつける太陽が眩しくて堪らない。
44 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:29:20
「…お客さんのハートを釣ってるみたいだな…」
「はは、言えてら」
どこかで聞いたような台詞に入江が乾いた笑い声を上げる。そのまま、何も起こることはなく、穏やかな時間だけが過ぎていく。
暇つぶしにお菓子をつまんだり、ネタ合わせしてみたり、ツバメの巣作りを観察したり。
「矢部さん、そんなにツバメが珍しい?」
じっとツバメを見つめたままの矢部に一人の後輩が声を掛けると、矢部は首を縦に振り、笑って言った。
「うん、“子供が生まれるのが楽しみ”だって」
後輩は、ふーん?と首を傾げた。
そして一時間ほど経った、その時…

「あっ、矢部さん!引いてる、引いてる!」
誰かが慌ただしい声を上げ、手招きをすると、一本の釣り竿の前に何人もの人が集まってくる。
「よぉし…絶対釣るぞ〜…!」
矢部は麦わら帽子を脱ぎ、腕捲りをして釣り竿を掴んだ。力を込めるが、一向に魚の姿は見えない。隣から後輩たちや入江が手伝うように竿に手を添える。
一瞬だった。どんな大物かと思いきや、釣れたのは一匹の小魚。

「う…うっそでしょ〜矢部く〜ん…!」
あまりの非力さにすっかり脱力する入江。
ああ、そう言えばこいつは、ワカサギ釣りに行った時も、満足に氷に穴すら開けられなかったなあ。
「ご、ごめんごめん。でもさ、やっと釣れたから、バケツ持ってきて…よ…、…?」
突然矢部の表情が強ばる。その視線は今釣ったばかりの小魚へ…。


45 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:31:12
『助けて、助けてよ〜…殺さないでよぉ〜』


矢部にだけ聞こえる声で、小魚は言う。
「こっ…!殺すなって…言われても…」
「…ヤベタロー、どうした?」
周りの後輩たちが珍しいものでも見るかのような目で矢部を見つめた。
その時、入江が魚のたくさん入ったバケツを抱えてやってくる。それを矢部の目の前にどん、と置いた。
矢部の顔が少し引きつった。魚の声が、耳に響く。
46 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:32:47

『後生だから、逃がしてくれー!』

『私のお腹には赤ちゃんが居るのよ…子供を産ませてよ…』

『畜生、彼女に手を出すな、俺から先に殺せ!』

『うう、済まない、父さんを許してくれ…』

『いたい、いたいよう…』

『お母さ〜ん…』


「うわーっ!!こんなの生き地獄だぁあーっ!!」
急に頭を抱えて騒ぎ出す矢部に、周りはぎょっと目を見開いた。
「入江くん、逃がしてやってよ〜!!」
「逃がすったって、ここ釣り堀だぞ!?てゆうか何で泣いてんの?」
それでも矢部は「逃がして」と懇願し続けた。入江は訳が分からなかったが、泣かれてしまっては仕方がない。
渋々魚を池に戻した。散り散りになって泳いでいく魚を、あ〜ぁ、といった顔で見送る芸人たち。

只一人、矢部太郎だけは笑いながら手を振っていたが。
「お礼なんて、いいよぉ〜、へへへ…」
あー、ちょっとイタい人だなあ、矢部さんて。
という声が聞こえたけれど気にはしなかった。


この日から、矢部が暫く魚料理を食べられなくなったのは、言うまでも無いかも知れない。

47 ◆LHkv7KNmOw :2006/01/23(月) 10:36:57
矢部 太郎(カラテカ)
石 …パープルジルコン【石言葉は”おしゃべり”】
能力…知性を持つ生物(外国人はもちろん動物や鳥、虫など)と会話ができる。
 ただ、相手が日本語を喋り出したり矢部が相手側の言語を用いだすのではなく
 石が言葉や仕草を翻訳して互いの意識に伝達する形になっているので、
 まわりからは危険な人に見えるw
条件…人間以外の相手に能力を使った場合、後遺症で十分〜二十分ほど
 相手の性質が移って抜けなくなる。
(犬だったら臭いをやたら気にしだし、蛇なら寒い所で動けなくなる)


以上です。本編と殆ど関係ないので番外編と言うことで…
48名無しさん:2006/01/23(月) 13:03:27
いったん保守age
49名無しさん:2006/01/24(火) 00:00:05
保守
50名無しさん:2006/01/25(水) 00:10:08
保守
51名無しさん:2006/01/25(水) 01:28:25
乙です!
◆8zwe.JH0kさん
阿部さんナイス!それに比べてQ太郎はなぜ気づかない…
ピースの掛け合いは面白かったです!
佐久間さん…全部を理解して初めに考えることが「あ〜良かった」って…どこまで純粋なんですかw

◆TCAnOk2vJU  さん
徳井さんの能力は面白いですね〜そういう風に使うんですね。
福田さんの能力はどんななのか楽しみですw

◆LHkv7KNmOw さん 
魚からしたらそうですよね〜…
しかし傍から見たら近づきたくない人ですねw
52 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:23:27
もう終わってしまった某番組で番外編投下させていただきます
メインはチュートリアルです
53 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:26:07

ONE for エロス ALL for エロス

某有明のスタジオの楽屋にて
集合時間は11時。
大阪から毎度通う2人はいつも早めに到着し楽屋でおもいおもいの時間を過ごしていた。
「極上のエロスやぁ〜」
そう呟く徳井が見てるのはエロ本でも何でもなくTVのニュースでやっているどこかの祭りの風景。
「はぁ〜」
ちらっと横目で徳井を見てため息をつく福田。
「お前な?最近やたらとエロスエロスって真昼間から勘弁してや。」
「お前かて巨乳巨乳真昼間から言うとるやんけ!」
「アホ!巨乳好きは常識じゃ!」
ついていけへんとさっき東京駅で買ったおはぎを福田は口に押し込めた。
54 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:26:48
「ん?ええこと思いついた。」
「常識」「おはぎ」という言葉で何かひらめきニヤリとする徳井。
そしておもむろにポケットから石を出した。
瞬間嫌な予感がする福田。これから徳井がやろうとしていることは幼馴染の勘・・・
・・・否この流れからいってだいたい察しがつく。
「ちょっやめぇ!なに考えとんねん。」
時すでに遅く石は光を放ち始めた。
「よっしゃ!いくでぇ!『おはぎはエロスです!!!』」
チャチャーーーーーーン!!
少なくとも福田にはいつもの効果音が聞こえた。
55 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:27:20
おはぎ自体の見た目は全く変わっていない。
ただ何かが違う・・・
そう、おはぎを見てると何故かムラムラしてきた。
「うわっやってもうたぁ」
甘いものは苦手なのにたまたま気分でおはぎを買ってしまった自分を軽く恨んだ。
慣れないことはするものではない。
「おはようございます!・・・てあれ?」
そろそろ11時。人が集まりだす頃だ。真っ先に楽屋にきたのは綾部。
「先生!今日も気合入ってますね!エロスの台頭『おはぎ』をわざわざもってきて
 本番前に眺めるなんて!いやぁ〜さすがおはぎ!もうオーラが違いますよねぇ。」
おはぎを見て興奮する綾部。
徳井は満足そうに微笑み、福田はあきれ返った。
56 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:27:55
「でも油断するのはまだ早いでぇ。綾部はあれは素かもしれんやろ。
 又吉来んとホントにおはぎはエロスなものになったのか証明できひん。」
興奮している綾部を尻目にひそひそと2人で話していた。
するとタイミング良く又吉も到着した。
あの又吉がどんな反応をするのか期待に満ちた目で徳井は見ている。
福田もなんだかんだ言って少し興味があるのか又吉を気にしていた。
しかし又吉は挨拶して特におはぎのことは触れずに着替え始めた。
「なんや、もう効果が終わってしまったんか。」と安心やら残念やら思っていた時、福田は見てしまった。
又吉の頬が赤く染まっていることに・・・
そんなこんなで打ち合わせも終わり本番が始まって今日も有明に「エロスです!!」の声が響き渡る。
ただエロスなものとなったおはぎは誰も手をつけずに楽屋でエロスオーラを放っていた・・・

そうして1日5回のリミットをすべてしょうもないものをエロスな物にかえることに
消費していく徳井だった。
57 ◆mXWwZ7DNEI :2006/01/25(水) 17:29:15
以上です
改行をきにしすぎてやたら細かく分けてしまったのは勘弁してくださいorz
58名無しさん:2006/01/25(水) 18:19:27
>>57
乙!

徳井ww
59名無しさん:2006/01/25(水) 18:38:01
◆mXWwZ7DNEI
乙です!
徳井さんらしい能力の使い方ですね。面白かったですw
60名無しさん:2006/01/25(水) 18:42:55
>>57
乙です!
題名がイイw
61Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:15:04
前スレ >>415-419 の続き

【21:35 都内・某TV局(美術倉庫)】

不意に緑色の亀裂から腕が伸びてきたかと思うと、その手は川元の襟首を掴む。
川元に抱えられた小沢は相変わらず身動きを取る事が出来ず、腕が川元ごと己を亀裂の方へと引き込んでいくのを止める術がない。
もちろん、この墓地のどこかにいるだろう井戸田や他の芸人達に、助けを求める事も叶いようがなく。
「………っ。」
能力を使ったせいで顔色の悪い川元が亀裂に飲み込まれる間際にぎゅっと目を閉じた、次の瞬間。
小沢達は赤い亀裂から墓地とは異なる空間に引っ張り出されていた。

その視界の急激な変化に戸惑っている最中にも川元を掴んでいた手が離されたようで、ごとりと二人は床に落ちる。
ここは屋内だろうか。何やら木製の物体が多数収められており、少し木材と埃っぽい匂いがするけれど。
「ご苦労。」
痛ぇ、と思わず小さく呟く川元に、頭上から彼を掴んだ腕の主の短い声が掛けられた。
「ついでで悪いけど、早速此処も閉ざしてくれるかな? 鬱陶しいバッタが居るんでね。」
「……僕の役目はこの人を捕まえる事、だけじゃないんですか?」
続いて投げかけられる言葉に、川元は床に座り込んだままいつものような抑揚のない口調で返答する。
一度チラリと小沢の方を向き、そして見上げられた川元の目線の先にいるのは、土田。
川元が携帯で送った合図に応じ、墓地とこの場所とを結ぶゲートを開んで彼らを呼び寄せた、張本人である。

「だから悪いけど、と言っているだろ。石を使えるほど心の力がないのだったら、黒の欠片を飲めばいい。幾らでもくれてやる。」
何故この二人が? というよりも何故自分がこんな目に? 床に転がされたままそんな考えで頭がいっぱいになる小沢の存在を無視するように
土田は近くにあった背もたれのない椅子まで歩いていきながら、川元に対し少し苛立ちの混じった口ぶりで告げ
それとも、と付け加えた。
「お前の大事なオトモダチ連中が揃って『白』の連中への鉄砲玉に使われても良いんだな?」
62Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:18:17
「……それは脅迫、ですか。」
緩慢な仕草で立ち上がり、ボトムに付いた埃を手で払いながら川元は土田に答える。
ボソボソとした口調の彼にして珍しく、露骨にトゲのある口ぶりで。
「…そう捉えて貰っても構わねぇ。」
そんな川元の態度には構わず、椅子に腰掛けて大仰に足を組んで。少なくとも、こちらにはその権限があるからな、と土田は薄く笑った。
しかし目だけは笑っていない、土田のその表情に川元はしょうがないですねと言わんばかりに軽く肩を竦める。

「……まぁ、僕としてはあいつらが無下に扱われようが別にどうでもいいんですけどね。」
逆にそっちの方が、この『白』と『黒』のくだらない争いから離脱できるんだから。
続きはさすがに口には出さないながらも、そうぼそっと呟きながら川元は右腕を目線の高さまでもたげた。
その指先には彼の石、ウンバライトと同じ赤い輝きが点っており、その光は腕の動きに従って虚空にスクエアを描く。
「……この空間を、閉ざせ。」
川元がそう命じると同時に空中に描かれたスクエアはストンと床に落ち、小沢の動きを封じた時と同じように拡大していけば
一辺が5mほどになった所で今度はそれぞれの角から床から垂直に紅い光が伸びはじめた。
やがて天井近くでも赤い柱の先端を繋ぐように正方形が描かれ、またたく間に倉庫の中に三人を内側に包む立方体が出現する。

「……これで良いんでしょう?」
「…済まない。」
赤い立方体が作られたのを目で確認し、ぼそりと呟く川元に今度は先ほどとはうってかわった穏やかな口調で土田は声を投げかける。
その変貌ぶりにフン、と川元は苦しげながらも小さく鼻で笑った。
「……それじゃ小沢さんの方を解きますんで、後はどうぞご自由に。」
そう告げ、力尽きるように川元が膝から崩れ落ちるのと同時に。
川元のウンバライトの力によって閉ざされていた小沢の全身の感覚が急速に取り戻されていった。
63Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:20:07

「一体全体、これは…どういう事ですか。」
感覚が戻った、と察すると同時に両手を床について小沢は身を起こし、立ち上がる。
「石は、渡しませんよ。」
土田に問いかけながらも無意識に付け加えられる言葉は、『白のユニット』の人間として石を狙われ続けた末の口癖みたいな物だろうか。
ボトムのポケットからアパタイトを取り出し、握りこむ小沢のその動作に、土田はふっと苦笑を浮かべた。
「…安心しろ、そのつもりで呼んだンじゃない。」
椅子に腰掛けた何様だと言わんばかりの体勢のまま、土田は小沢へ落ち着くよう手で仕草して。
「今日は…個人的に。そう、土田 晃之一個人としてお前…君に…小沢 一敬くんに頼みたい事があるんだよ。」
「その割には随分と乱暴な手を使いますね?」
妙に改まった口ぶりで告げる土田に、小沢はすかさず言葉を返した。
それも当然だろう。今さっきの土田と川元のやり取りを聞く限り、明らかに二人は何かしらの上下関係こそあれ手を組んでいるようだったし、
そうして考えると、川元が墓地の通路から外れるよう小沢に促したのも、そもそも川元が小沢と組もうと話しかけてきた事も。
全て何かの策略に則っての事に思えてならない。

「不作法なのは承知の上だ…それに、しかたねぇだろう。『黒』のやり方に馴染んだ身じゃ、『黒』の流儀でしか物事を運べない。
 人に手助けを頼もうにも、何せ回りには『黒』の連中しか居ないんだしな。」
ふぅ、と一つ息をつき、土田は余りにもあっさりと己の所属する組織…小沢のそれであるそれと相反する『黒』の名を口にする。
そのさりげなさに思わず息を呑む小沢に構わず、更に、なぁ? と付け加えるように土田に同意を求めるがごとくに呼びかけられ、
うずくまっていた川元は顔をもたげると、余計な事を、とでも言いたげに土田をにらみ返した。
64Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:21:41
つまりは川元もまた『黒』の側の人間だと言外に告げながら、土田は返ってくる視線には構わずにフフと笑い、
小沢の方へ向き直すとそのまま言葉を続ける。
「それに、これは俺達『黒』のみならずお前達『白』にも関係のある事だからさ。わかって貰えると信じてるんだけどな。」
「……………。」
柄にもない真剣な話を切り出そうとしているからか、それとも他の要因からか。どこか芝居ががった印象がない事もないけれど。
一応は敵対するつもりがない事を示す、土田の言葉。
その一方で小沢の手の中からは解けるどころかいっそう増す彼の警戒心を反映するかのように、アパタイトの淡い輝きが周囲にこぼれおちる。

「今更信じてる、だなんて随分勝手な物言いです事で。」
いつもそっちが何をしているのかわかっていて言っているんですか? それは。
眉をひそめ、石から光を放たせながら。小沢は土田にそう言った。
「そもそも、僕に頼みがあるなら堂々とすればいいじゃないですか。」
土田を見据える小沢の視線が、一瞬彼らを包む深紅の立方体に向けられる。
「こんな真似までされて、素直に話を聞けると思いますか?」
聞ける筈がない、とくぐもった声が徐々に力強さを帯び、それに比例するようにアパタイトの青緑の輝きも強まっていく。

「だから僕の答えはこうです。『そんな事よりパーティ抜け出さない?』」

土田の返答を待たず、小沢は言霊を紡いで、パチリと指を鳴らした。
アパタイトの放つ光が小沢の身体を包み、ここではない場所へと小沢を運ぶべく、秘めた力を発揮する……
……筈だったのだけど。
65Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:24:32
「……っ!」
いつもの感覚と異なり、不意に全身に衝撃が走って、小沢は思わず声にならない呻き声を上げた。
まるで壁に叩きつけられたかのような痛みに続き、固い床に投げ出されるような感覚を覚え。
間もなく青緑の輝きが視界から晴れれば、彼の倒れている場所は石を使う直前に立っていた場所から数mも離れてはいない。

「なに…これ…」
「逃げようとしても無駄だよ。」
再び床に転がる羽目になり呆然としたように呟く小沢に、さっきより少し遠くに見える土田が声を掛けてきた。
「この立方体の中は今、川元くんが外界から『閉ざして』いるからね。外から中に入れないし、中から外に出る事もできない。」
傍らの川元の方にまた視線をやり、土田は小沢に説明する。
その言葉を耳にしながら何とか再度立ち上がり、姿勢を整えると小沢はふぅと一つ息を吐いた。
そういえば、先ほど川元が石を使った際に彼は『身体の感覚を、閉ざせ』と命じていた。
そしてこの自分達を包む立方体を作り出す時も『閉ざす』よう、川元は口にしていたはずで。
……彼のウンバライトは何かを閉ざす力を秘めている、という事か。
まだテレポートに失敗した時の痛みが引かず、幾らか頭がぼんやりする中で小沢は何とかそう判断する。

「って事だから、君は否応なしに用件を聞かないといけない訳だ。」
まぁ、こっち2人を倒すって選択肢もあるけど。好きじゃないだろう? そういうのは。
土田は小沢にそう言うと、組んでいた足を解いて自分の方へ近づくように手招きをした。
確かに川元が石を用いた反動で疲労してはいても、この場にいるのは『黒』が2人に『白』が1人。
戦いになれば2対1となるのは自明の事。どちらが勝つにせよ、小沢も無事ではいられないだろう。
66Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:26:10
それでも先制するべきか、否か。
考えながら一歩土田の方へと足を進める小沢の耳に、彼の内心に気づいているのかいないのか。土田の言葉が届く。
「来いよ。警戒するのは勝手だし、手荒な真似をした事は素直に謝る。でもこれ以上は何もしない。
 今夜は『白も黒も関係ない』って設楽さんと約束してンだろ?
 だから今夜、俺も『白も黒も関係なく』お前に頼みがしたいってだけなんだから。」
「………っ?」

「つまりはさ、俺と一緒に『白い悪意』…奴のホワイトファントムの弱点になるような石を探して欲しい。そういう事。」
重ねて届いた言葉に、小沢はハッとして土田の方を見やり、彼の手より相変わらず漏れるアパタイトの輝きからもスッと警戒の色が、消えた。

67Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/01/25(水) 22:28:18
今回はここまで。
真冬に真夏の話を書くのは何とも妙な感じw
68名無しさん:2006/01/25(水) 23:23:13
乙です。
いつもながらクオリティ高いですね。続き楽しみにしています。
69名無しさん:2006/01/26(木) 01:38:16
◆ekt氏キタ―(゚∀゚)―!!
70名無しさん:2006/01/26(木) 09:26:23
◆ekt氏 GJ!!
71名無しさん:2006/01/26(木) 23:04:28
◆ekt氏
乙でした!
72名無しさん:2006/01/27(金) 15:35:39
下がっているのでageますよ
73歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:41:20
前スレの続き〜

夜風が強いな。と川島は思った。
風に乗って、ぎすぎすとした気配も摩天楼という狭い空間に舞っている。
掃除されていないこの場所には枯れ葉が散乱している。
それが吹き荒れる風の不規則な動きを明らかにした。上空に一気に舞上げられたかと思えば、
くるくると小さな竜巻のように回転し、力なく元の場所に落ちてくる。
気分が悪い。一刻も早く此処から立ち去ってしまいたい、そんな感じだ。
「終わりにするぞ…。今度こそ。全部、や」
目はしっかりと目の前の人物を見据えたまま、後ろで顔に飛んでくるゴミと格闘している田村に告げる。

何でこうなったんだ。と田村は思った。
目も開けていられないほどの突風に、思わず身体を庇うように俯く。
細く目を開き、空を見上げると、厚い雲が見たこともない早さで渦を巻いて移動している。
(俺、まだ死にたないんやけど)
不吉極まりない。それでも何故が、田村の中には妙な安心感があった。
威嚇する凛とした態度で、向かってくる風にも憶さないその背中を風除けにしつつ、思った。
自分よりもずっと前から、幾つもの修羅場を抜けてきたのだと聞いた。
川島が本気モードで「終わりにする」と言っているのだから、絶対大丈夫なんだ。

74歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:45:42
ふと、川島の表情が僅かに変化した。予想外な二人の姿が飛び込んできたからだ。
蹲るように膝を着いている男と、それを心配そうに見詰めている男。
―――あの二人…!
「何でやられてんねん」
と、不思議そうに田村が言った。

向こうもこちらに気付いたのか、吉田が顔を上げ、「あっ」と声を漏らした(ように見えた)。
少し遅れて阿部もこちらに目線を向けた。何か伝えようとしている。
大変やーみたいな事を言っている気がするも、
離れている所為で、上手く聞き取れない。

「石に呑まれかけてる、早く止めないと…」
阿部がそこまで言いかけた途端、
「うるさい、余計なこと言うなっ!」
バシッ、と音がするくらいに、陣内の平手が飛んできた。
阿部は二、三歩よろけて地面に倒れ込む。

「ちょっと、何てことしてるんですか!」
一歩前に踏み出し、勇猛果敢に田村が怒号を飛ばす。正義感だけは人一倍あるだけに、今の行動を許すわけには行かない。
「あの人、前よりおかしなっとるな。ここは少し様子見て…」
川島が言い終わらない内に、真っ直ぐ駆けだした。
「…って言うてる側からオーイ!」
待て!と川島が珍しく、酷く慌てた声を出した。
「猪突猛進とかお前らしいな!」
陣内が手を振り上げた瞬間。
田村の石が独りでに光った。四方八方に広がった光はやがて一点に集まり一本の光の束になる。
主を護るための一種の「防御反射」というものだろうか。
75歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:47:02
光は振り上げられた腕に貫通するように当たった。
「あ…っ!?」
陣内の腕は時間が止まったかのように空中で止まった。ぐいぐいと引っ張ってみても動くことは無かった。

「こっちや」
自分を守ってくれた白水晶に感謝しつつ、その間に吉田と阿部に駆け寄り、力任せに二人の身体を引っ張り起こす。
初めは助けに来た事に若干戸惑っていたのか、二人は不可解な顔をして、田村に手を引かれるままに走っていたのだが、
何時しか警戒も解け自分たちの意志で走り出していた。
そして田村は見事、二人を救出し、川島の元へ戻ってきたのだった。

「はっ…やるやないか」
率直な感想が川島の口から漏れる。
「…この間は、よくもやってくれましたね」
まだ痛むのか、腕を押さえ俯いたまま、吉田が言った。
この間、というのは。いつだったか、さくらんぼブービーの二人を黒に入れる入れないで乱闘していた所を、
いきなり乱入してきた川島が止めた、というやつだろう。
「おい、今は争ってる場合や無い…」
呆れたように言う田村の言葉に被さるようにすかさず「分かってます」と吉田。

「手を組むのは、今回だけですから」
「上等」
少々の間を置くと、薄く笑って川島が返した。
「………」
その後ろで、ちらり、と田村と阿部はお互い神妙な顔を見合わせ、また目線を戻した。

76歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:48:53
「遊びにきてくれたん?あははは…」
ようやく自由になった腕をくるくる回しながら黄色い目玉を向け、狂気とはまた違った、無邪気とも取れる笑い声を上げる。
ボン、とくぐもった音と共に、近くのフェンスの網が千切れ大きな穴が空く。

「遊ぼう、遊ぼう」なんて、彼が何時も言ってくる台詞じゃないか。
散々誘っておいて、自分が飽きたら、いけしゃあしゃあと「帰っていいよ」言い放つのがいつもの陣内だ。
それなのに妙に何処かおかしいのは、何故だろう。恐怖に似たものを感じるのは。
目の前に居るのは良く見知った先輩。何かやらかしても「天然だから仕方ない」と許されていたあの先輩の姿だ。
「…まあ少なくとも、俺は許しません」

黒水晶を握り、影に潜る。
遠くにいても何も始まらない。多少の怪我は覚悟しなければ。
「…!」
陣内は舌打ちをして辺りを見渡す。夜ということもあって、川島の移動できる範囲は限りない。
(離れているとねらい打ちされるなら…)
もう一度捕まえるまで!
最初、あの公園で陣内を落ち着かせた時のように、背後からぬっと身体を出現させる。

「止めろ、触んな!」
振り向きざまに睨みを利かせ、陣内は二重人格のように口調を一変させて叫ぶ。
その声は副音声のように別の声も重なって聞こえた。
77歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:50:25
公園の時とは比べものにならないくらい大きな負の力。
瞬間的に、空気が大きく震える。
磁石の同極が近づいた時と同じ要素で、川島の身体は引っ張られるように後ろに飛ばされた。
がしゃあん、とフェンスに押し付けられる。バネに衝撃を吸収され、痛みこそ感じなかったが。
ギギ、ギ、と嫌な音を立て針金が軋む。支えていた柱が根本から折れた。身体がぐらりと傾き、フェンスと共に屋上からゆっくりと傾いていく。
はっ、と気が付いた時に見えたのは、雲や排気ガスによる澱みが無くなった、満天の星空。
“落ちている”事を理解した瞬間、身体は重力に引かれ急速に落下速度を速めた。
「っ!」
咄嗟に田村が駆け出し、届く訳のない手を伸ばす。叫び声が出ないほど驚いたのか、目の前で起こった事が理解できていないのか。

「俺は大丈夫や!心配するなー!!」
既に視界から外れてしまった相方に向けて川島も渾身の力で叫ぶ。聞こえただろうか?と思う間もなく。
川島の身体は夜の闇の中へすうっと消えていった。

耳をつんざく派手な音を立てて地面へ叩きつけられた大きなフェンス。
意地悪く吹き荒れる風に流された声。
そして、少しの沈黙。
その場にいる全員が息を呑んだ。
78歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:52:00
「か…川島…えっ、嘘やろ!?」
混乱のスイッチが入り、田村は慌てふためいた。すると、
「待って」
と、抑揚の無い口調でそう言われ、吉田に腕を掴まれる。
この短い単語の中には「うるさい黙れ」という意味も含まれているのだが。
何が待てやねん。俺の相方が落ちたんやぞ。と、田村は一向に落ち着きを取り戻さない。
まあ、それが妥当なのだろうけど。心の端で、うざいなあ、と思いつつ吉田が続ける。
「聞こえない」
彼の台詞はいつも端的だ。それほど見知った仲でもない田村には何の事だかさっぱり分からない。
「何が!」
「人間がこの高さから落ちたんなら、潰れた音が聞こえる筈でしょ」
「あーそれ分かる。“グシャー”とか“ベチャ”とかねえ」
「怖いこと言わんといて!」
こんな状況でも淡々と会話を広げる吉田と、口を開けば妙な言葉しか出てこない阿部に多少の不謹慎さを覚えるも…。
ん?待てよ?と首を傾げ、考えること数秒。一つの確信的な答えが舞い降りる。
「…音、聞こえへん…。ちゅうことはー…」

川島が落下した場所へもう一度、三人が同時に顔を向ける。
そこだけぽっかりとフェンスが引っこ抜かれたように無くなっていて。
陣内が隣のフェンスの端を掴み、屋上の端に足を掛けて下を見詰めているのが見えた。
「何処行った…」
真下には、バラバラになったフェンスのみ。
何だ何だ、とごく僅かな通行人が一度立ち止まって、避けるようにして足早に立ち去っていくだけだ。期待していた光景ではない。
川島の姿は、無かった。
79歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:53:42

あーもう。
苛々する。
イライライライラ。


『宿主さま、あなたの嫌いな物は、みんな私が消してみせます』

「え?………ううっ…!」
“声”が聞こえた瞬間、息が止まった感覚に襲われ、心臓付近を押さえて蹲る。
ムーンストーンを握っていた方の手が、自分の意志とは反して血が滲むくらいに固く握られていた。
力の入れすぎで白くなった指の間から微かに光が漏れている。
開こうにも何か強い力で押さえられているようで。
ざあっ、と下から吹き付けるつむじ風が起こると、足下のコンクリートに僅かな亀裂が入った。
片方の手で閉じられた指をこじ開ける。
「何…?」
手の平を見た瞬間、驚愕の表情を浮かべた。
石が、手の平に根を張り、半分ほどめり込んでいた。
それはどんどん手の中へと沈んでいき、ついには完全に身体の中へスッと入り込んでいった。
手の平には傷一つ無く、何事も無かったかのようだ。
陣内は目を見開いて、手の平を凝視した。

80歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:54:50
身体の中で起こった異変には、直ぐに気付いた。
一つひとつの機関の感覚がなくなり、頭の中が真っ白になっていく。

その様子のおかしさに田村たちも感づき、一歩たじろいだ。
「…俺らさあ…、止められるんかなぁ…この人」
「さあ」
「嘘でもええから“はい”て言うてくれや…」
絶え間なくビリビリ震える空気に、もはや背を向けて逃げ出したい気分だった。



――今まで生きてきて、階段がこんなに憎く思えたことはない。
「あいつ、天然やからって何しても許して貰える思うなよ!殴ってでも謝らせたる!」
「あっ、礼二…ちょお待て。昨日の酒戻しそう…」
「うおーもう何やねーん!」

剛と礼二、屋上まであと二階。
81歌唄い ◆4.Or.2D2Hw :2006/01/27(金) 19:57:25
今回はここまで。
最初の予定と比べて、随分たらたらと長くなってしまった。
82名無しさん:2006/01/27(金) 21:55:18
歌唄い氏もキタ――(゚∀゚)――!!
83名無しさん:2006/01/27(金) 23:01:41
歌唄い氏乙です!
陣さんどんどんえらい事になってますねー今回もハラハラさせて頂きました!
 
84名無しさん:2006/01/28(土) 22:47:15
保守&書き手さん乙
85名無しさん:2006/01/28(土) 23:19:26
乙です!
陣内の体内に入っていきましたね…急げ中川家!
川島も気になります。頑張ってください!
86名無しさん:2006/01/29(日) 22:23:17
保守
87名無しさん:2006/01/30(月) 11:43:29
保守
88名無しさん:2006/01/31(火) 01:50:13
さまぁーずに人の心が読める能力があったら
芸人やめちゃう
89名無しさん:2006/01/31(火) 15:52:30
保守age
90名無しさん:2006/01/31(火) 17:36:33
うふ
91名無しさん:2006/02/01(水) 07:14:37
保守age
92名無しさん:2006/02/01(水) 14:39:18
<<88 どん・マイケル。「If」話だから気にするな。
伝われ〜。
93名無しさん:2006/02/02(木) 11:19:53
保守
94名無しさん:2006/02/02(木) 15:51:57
hosyu
95 ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 16:59:22
関西ローカル番組「せやねん!」の出演者が登場する
長編を書きましたので、今からプロローグ部分のみですが投下させていただきます。
メインはチュートリアルです。
96Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:01:57
 とある土曜日、チュートリアルの二人は関西ローカル番組「せやねん!」の収録のた
め、朝早く、収録の二時間前から楽屋入りしていた。
 何故二時間も前に来たかというと、この間の土曜日の収録で二人揃って遅刻してしま
い、他の出演者たちに怒られたためである。もちろん、この時間に楽屋入りというのは普
通の感覚で言えば早すぎるので、他のメンバーはまだ一人も来ていない。
 自分たちの楽屋でめいめい好きなことをしてくつろぎながら、二人は同時にあくびをし
た。
「やっぱり、いくらなんでも早すぎたかなぁ」
「そやな。まだ誰もおらへんしな」
 福田のため息混じりの言葉に答えながら、徳井はいつものようにズボンのポケットに入
れている自分の石を取り出した。
 徳井の持つ石はプリナイトと呼ばれるもの。その透き通ったグリーンの色は、果物のマ
スカットを連想させる。つい先日徳井はこの石を手に入れ、能力に目覚めたのであった。
 部屋の光に透かして石を眺めている徳井を見て、福田は再びあきれたようにため息をつ
いた。
「ほんまに好きやな、その石」
「はは、そう見えるか」
 徳井は笑いながらそう返し、手に持った石をもてあそび始めた。
 福田はそれをしばらく見つめていたが、自分の鞄の中をごそごそとやりだし、自分も徳
井が持つのと同じような石を取り出した。色は徳井と同じグリーンだが、白いふが入って
いてまろやかな肌触りを持つ石である。
97Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:03:42
 徳井は福田が石を取り出したのを見て、お、と言った。
「お前の石な、どんな石かわかったで」
 え、と言う福田に、徳井は言葉を続けた。徳井はインターネットを駆使して、自分の石
や福田の石のことも調べてきたらしい。
「名前はヴァリサイト。物事を冷静に見つめる助けを促すて書いてあった。まあお前には
ピッタリの石なんちゃうか?」
「どういう意味やねん。俺、そんなに冷静でないように見えるんか」
「たまにテンパってる。ツッコミやのにな」
 徳井がそう言って笑うと、福田はうるさいなぁ、と言いながら、さほど不快ではない様
子だった。こういうやりとりは二人の間では日常のことである。幼なじみだから、遠慮な
くこういうことが言い合えるというのもある。そんなやりとりを終えた後、福田は自分の
石に視線を落とした。
「そやけど、まだようわからへんなぁ。お前の能力のことも、俺のこの石のことも」
「まあな。俺も自分の能力は把握したけど、この石が一体何なのかまでは掴めてへん」
 石はある日突然、二人の元へやってきた。徳井は道端に落ちていたのを拾い、福田は
ファンからのプレゼントとしてもらったのである。そこから徳井は、二人の楽屋に突然
襲ってきた男を撃退するのに石の能力を使ったことで、能力に目覚めたのであった。
 無論、二人とも最初は石を気味悪がった。あの能力を使えたのは現実的に考えて有り得
ないことであったし、目の前で起きたこととはいえ、とても信じられる話ではなかったか
らだ。
 しかし捨てる気だけはしないという、二つの異なる気分に挟まれた末、二人は今もなお
石を手元に置き続けている。徳井はズボンのポケットに、福田は小さな袋の中に入れて常
に鞄の中に。徳井はそのせいで、ズボンのポケットの中に手を入れて石を触る癖がついて
しまったらしい。
98Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:04:41
 石の能力に目覚めてから、徳井は自分の石のことについて調べ、また自分で使ってみる
ことで能力を把握した。彼はどうやら、人の記憶や何かの定義、常識などを自分の思うと
おりに書き換える力があるようだった。
 いつだったか飲み会で、とある芸人に冗談を言われ、ズボンのポケットにある石を握り
締めながら「お前俺のこと、なんも知らんのとちゃうか」と言った瞬間、その芸人は徳井
に向かって「誰?」と言い出し、他の芸人が徳井のことをどれだけ話しても、全く思い出
さないという異常な事態が発生したことがある。
 徳井はこれは石の能力だと思い、もしかしたら彼は一生自分のことを思い出さないので
はないか、と危惧したが、何時間かするとだんだんと記憶が戻ってきていた。効果はいつ
までも持続するわけではないということも、ここで分かった。
 一方相方の福田は、石を持ってはいるものの能力の類を発揮できたことがない。福田は
それでもいい、と常に言っていた。それにこれはファンからもらったものなのだから、そ
んな変な魔力が封じ込められているわけがないと。そう何度も何度も語る様子は、まるで
福田が自分自身に言い聞かせているかのようにも見えた。
「まあ、別にええんちゃうか。知っても知らんでも、生活に支障はなさそうやし」
「まあな。今んとこ何も起きてへんしな」
 それは事実だった。徳井が能力に目覚めたあの時以来、二人の身の回りで変わった事件
などは起こっていなかった。二人がそう言って、安心するのも当然といえた。
「……おっと、もうそろそろスタンバイする時間ちゃうか」
「ほんまやな。ほんなら行こか」
 いつの間にか時間が過ぎていたことに気づき、二人は腰を上げて楽屋を出て行った。
99Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:06:19
 「せやねん!」の収録は無事に終わった。前回の遅刻に突っ込まれることもなかった。
 二人はそのことに胸をなで下ろしながら、自分たちの楽屋へ戻ろうと廊下を歩いていた
時だった。
 共演者の一人・ブラックマヨネーズの小杉が二人の前に現れたのだ。とても慌てている
様子だったので、気になって徳井は声をかけた。
「小杉、そんな慌ててどうしたんや?」
 小杉は徳井と福田に気づき、おう、と言ってから、心配そうな表情を見せた。
「いや、ちょっと……俺の持ち物がなくなったんや」
 言葉を濁すような言い方だったので、福田は首を傾げた。
「持ち物って、何なくしてん?」
「いや、それがな」
 とても言いにくそうにしている。いつもの彼からは考えられない態度だったので、徳井
は少し笑いながら言った。
「そんなに言いにくいモンて何やねん」
「ほんまや。お前キョドりすぎやぞ」
 福田もつられて笑う。小杉はまだ迷っている様子だったが、ついに観念したように言っ
た。
「……実はな、育毛剤やねん」
 その答えを聞いた瞬間、二人は笑いをこらえきれず、ぶっと言って笑い出してしまっ
た。二人の反応を見て、小杉はやっぱりなと言わんばかりに顔をしかめている。ひとしき
り笑った後、福田は言った。
「お前、そんなもんなくすて……やばいんちゃうんか」
「いや、ほんま冗談やなくてマジでやばいんやって。お前ら知らんか?」
 そう言って、小杉はとあるメーカーの育毛剤の名前を挙げた。二人はさあ、と首を横に
振り、小杉はそうか、と肩を落とした。
「実は吉田も肌に塗るクリームなくしたって言うてんねん。なんかおかしいわ」
「二人ともなくしたんか? しかもめっちゃ大事なモンやのに」
 福田が訊くと、ああ、と小杉は頷いた。チュートリアルの二人もさすがに笑うのを止
め、一緒に探したろか、と申し出た。小杉は助かるわ、と頷き、二人を自分たちの楽屋に
連れて行った。
100Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:07:53
 部屋の中には小杉の相方である吉田がいて、必死な様子で部屋の中をかきまわしてい
た。小杉が呼びかけると三人の方を振り向き、おう、と手を上げた。
「どうや吉田、見つかったか?」
「いや、全然や。鞄の中とか、全部見たんやけど」
 そうか、と言って小杉は軽くため息をついた。そんな二人の様子を見ていた徳井があっ
と思い出したように言った。
「もしかしたら盗まれたんちゃうか?」
 他の三人はその発言にはっとしたようだったが、すぐに福田がそれはないやろ、と否定
した。
「第一、盗む理由が分からへん。財布とかやったらまだしも、育毛剤と肌のクリームやで?」
「そこなんやけどな。でも、二人とも他の場所に持っていった記憶とかないんやろ?」
 徳井が訊くと、ブラックマヨネーズの二人は同時に頷いた。
「ずっと鞄の中に入れてたはずやねん。やから部屋の中を必死に探してたんやけど」
 ふむ、と徳井だけは納得したような表情を見せる。他の三人はまだ腑に落ちないといった様子で、首を傾げていた。
 その時、突然外から声がかかった。
「おい、小杉、吉田! これお前らのとちゃうんか?」
 四人はその声に反応し、びくっと楽屋の外の方に振り向いた。そこには共演者の一人で
あるたむらけんじ、通称たむけんがいつものにやにやとした顔で立っていた。徳井はため
息をつき、たむらに咎めるような視線を送った。
「もう、驚かさんといてくださいよたむらさん」
 たむらはあはは、と気にも留めていない様子で笑った。
「悪い悪い。それよりこれ、小杉と吉田のモンとちゃうか?」
 たむらがそう言って手に持ったものを差し出してきた。四人が一斉に注目し、一瞬の後
にブラマヨの二人はあっと声を上げる。
101Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:08:40
「それ! それですわ、俺の!」
「やっと見つかった、良かったわ……」
 二人は安堵したようにため息をついて、たむらからそれぞれの持ち物を受け取った。
「なんか本番が終わってから楽屋に帰ったら、机の上に置いてあってん。こんなん持って
るのは小杉と吉田やろうなあと思って、ここに持ってきたんやけど」
「いやぁ、ありがとうございます」
 こんな物を持っている、とさりげなくからかわれたにも関わらず、小杉と吉田は本当に
たむらに感謝したような顔をしていた。そのからかいに気づいた徳井と福田は、今更突っ
込むわけにもいかず傍らで苦笑していた。
 たむらは二人の嬉しそうな様子を見て、うんうんと頷いた。
「良かった良かった。ほんならまたな。今日はお疲れさん」
「あ、はい! ありがとうございました!」
 慌てたように小杉がそう言って、吉田と同時に頭を下げた。
「まあ、これで一件落着、か?」
 福田が言うと、傍らの徳井がそうみたいやな、と頷いた。
「良かったな二人とも。ほんなら俺らもこれで」
「おう、ありがとう」
 吉田が礼を言い、小杉も軽く頷いた。徳井と福田は手を振ってそれに応えた後、ふうと
ため息をついて、自分たちの楽屋に帰っていった。


 これが全ての始まり。
 とある、土曜日の出来事だった。
102 ◆TCAnOk2vJU :2006/02/02(木) 17:10:02
今回はここまでです。
103名無しさん:2006/02/04(土) 01:15:28
乙です!
104名無しさん:2006/02/05(日) 00:49:05
保守
105名無しさん:2006/02/05(日) 13:26:52
保守
106名無しさん:2006/02/05(日) 22:52:52
保守。

102さん、乙です。
107名無しさん:2006/02/06(月) 16:28:23
hosyu
108名無しさん:2006/02/06(月) 19:09:39
保守です。
このスレ、本当に面白い!!
109 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:40:43
したらばで書いた話途中まで投下します。
110 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:45:29

一匹のネズミが排水溝から飛び出してくる。
ピタリと立ち止まり、赤い目を光らせながら頻りに鼻の頭を動かす。
小さな耳は敏感に人間の気配を感じ取り、ネズミは再び排水溝の中へ、枯れ草を蹴散らしながら戻っていった。
カビ臭く湿った路地裏は、街の電光も月明かりも届かない。
唯一の明かりと言えば、大通りを忙しく通り抜けていく自動車のライトのみだろう。
それでも、車が一台通り過ぎる度に、また一瞬だけ真っ暗になる。

そんな塀に囲まれた寂しい場所に小さく響いた、鈍い打撃音。
それと同時に、どさっ、と人が倒れた音が重なる。


派手に倒れたのは未だ若々しさの残る印象の男だった。
衝撃に体を丸めて転がっていたが、殴られた頬を押さえようともせず、
がばっと体を起こすと目の前の男を見上げた。
そんな若者の様子が気に食わなかったのか、殴った方の男はあからさまに眉を顰めた。
「お願いします。」
倒れたときに切ったのか、口の端にうっすらではあるが血が滲んでいる。
それでもはっきりした強い声で、若者…オリエンタルラジオの中田敦彦は自分を見下ろす男に縋るように懇願した。
男はそんな中田を嘲り冷たく笑う。
111 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:47:05
「お前ら、石持ってんだって?大した経験もネタも積んで無い駆け出しの癖に何でだろうなあ。」
ああ、流石“売れっ子”は違うな。と皮肉たっぷりの言葉を浴びせられると、中田の表情が一瞬だけ曇った。
異例の速さで世間に出るようになったことは、確かに喜ばしい事でもあったが、また逆に不安な事でもあったのだ。
中田は怒り出すような真似はせず、再び強い視線を向ける。
クソ面白くない。男は少しむっとした顔を造り、何だよ、とそっぽを向いて口を尖らせた。
「お願いします、慎吾を返してください。」
黒っぽいコケや泥水の散乱する地面に膝と両手を付いて、しっかりと相手を見据えたままもう一度言う。
中田の相方である藤森は、自らの持つ石に妙な力があることを知った途端、
キラキラと眼鏡の奥の瞳を輝かせ何度も「凄え!」と言って喜んだ。
特別な能力を授かった事が嬉しくて堪らないようだった。
有名大学を出ているのに、と言えば偏見になってしまうが、魔法みたいな力を目の当たりにすれば誰でも舞い上がってしまうのだろうか。
とにかく石を使いたくて仕方がない様子の藤森を、中田は何度となく諭してきた。
慎吾、という名指しに男は一瞬首を傾げたが、直ぐに眼鏡を掛けた青年の顔が思い出される。
暫く考え込んだ後、男は意地悪く微笑んでみせた。
112 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:48:29
「“ガラクタ”一人でも立派な戦力だからな。」
黒に入ったばかりの、盾代わりにしか使われない下っ端や石を持たない者たちは“ガラクタ”と呼ばれている。
知らないうちに黒の誘惑に負けてしまった藤森もその内の一人に過ぎない。
居ても居なくても関係ないが、居ないよりは居る方が良いに決まってる。と男は言った。
中田からしてみればそんな事が納得できる筈もなく。
男の進路を塞いだまま尚も引き下がろうとしない。

「お願いします。」
「口で言って分かんねえなら…、」
男がポケットから取り出した濁った石がボンヤリと光り始める。
中田は俯き、固く目を閉じた。
その瞬間。

短く潰れた声を漏らし、男が蹲った。

薄く目を開くと、男がしゃがみ込んでいるその後ろに、人影が見えた。
逆光の暗闇でも見間違えるはずもない、見事なまでのアフロヘア。
「早く逃げろって。」
「…藤田さん?」
腕をコンビニの袋に通し、その両手をポケットに突っ込んだまま、片足を上げて立っていた。
男の背中には土が足跡の形にスタンプされている。見たところ、どうやら背中から蹴り飛ばしたようだ。
石の能力でも何でもない、何とも野蛮な攻撃方法ではあったが。
背後からの不意打ちキックというものは意外と効くらしく、男は苦しげに咳をする。
「うちの大事な後輩いじめてんじゃねえよ。」
藤田は太い眉をぐっと眉間に寄せ、男を威圧した。
喧嘩はそれ程強くはないが目力だけはある彼に凝視されると、
普通の人間なら蛇に睨まれた蛙のように一瞬で戦意を失ってしまうだろう。

113 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:50:14
男は無言で素早く起きあがると、中田と藤田に目を向けることも無く、早歩きで去っていった。

「誰だあいつ…?おい、大丈夫かよ。」
自分の記憶にない男の姿が消えるのを見届けると、向き直り藤田が口を開き手を差し出す。
「え?…あっ、はい。」
尊敬する“藤田兄さん”が現れた事で呆然としていた中田はその声にハッ、と目が覚めたように顔を上げ、差し出された手を取った。
「あの、いつからそこに?」
「さっきの奴が石取り出した所から。俺が偶然気付かなかったら危ねえとこだったぞ?」

ということは、男との会話は聞かれていないと考えて良いだろう。
中田はホッと息を吐いた。
「危ない所をありがとうございます。」
「お前の方が道路側だったろ。何で逃げないのかねぇ。」
「ち…ちょっと腰が抜けてて…。」
冗談めいた口調でぎこちない笑みを作る。変な奴だな、と藤田は白い歯を見せて笑った。

路地から一歩外に出ると、打って変わってイルミネーションの眩しい景色が目に飛び込んできた。
いきなり明るいところへ出た事で黒目が急速に小さくなるのを感じ、ぱちぱちと瞬きする。
泥が付いた手や服が少しみすぼらしく感じた。
「そうだ。これ、これやるよ。」
突然藤田が声を上げる。
ガサガサとビニール袋の中をかき回し、取り出したのは一本のチューハイだった。
「これから大村と二人で遊ぶんだけどよ。買いすぎちまって。」
返事もろくに聞かず、半ば強引に手に握らせる。
急ぎなのか時計を気にしだし「じゃあな」と手を挙げると早々に踵を返した。
「あ、あのっ。」
つい反射的に呼び止める。
藤田が振り返る。藤森の事を話した方が良いだろうか、と思ったが。
頭の中で必死に選んで出てきたのは「お酒…、どうも。」という言葉だけだった。

114 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:51:50

結局、先程の男は何処かへ行ってしまい、藤森を取り返す方法も見失ってしまった。
二年ほど前までは普通の大学生であり芸歴も極端に短い上、石を手に入れて間もない自分たちが知っているのは、
まだ先輩から聞かされた「白」「黒」という二つのキーワードのみだ。
所々取り付けられている電灯が道を照らしているだけの住宅街を歩きながらチューハイの缶を取り出した。
「いい人だなあ。」
小さく笑ってポツリと言葉を漏らす。
いつの間にか、その顔からぎこちない笑みは消えていた。


「―――ホントにね。」
背後から聞こえた高い声に、表情筋が引きつった。
目を向けた方向には、相方である藤森が電柱にもたれかかり立っていた。
「敦彦、ケガ大丈夫?」
「慎吾…。」
目敏く口元の傷を発見した藤森が心配そうに顔を覗き込んでくるのに対し、中田は一歩退く。
いささかショックを受けたのか、藤森は引き留めようとした手をゆっくり降ろし、それ以上近づかなかった。
「…あのさ、俺相方をこんな形でケガさせたくないのね。だからさ…。」
「黒には入らねえ。」
「何でだよ、あっちゃーん!」
言い切らない内に拒絶され、ネタ中と同じ大げさな口調と仕草で不満の声を上げる。
藤森にビシッと言い聞かせるチャンス。中田は身体ごと向き直った。
「何でも、だ。お前もいい加減…、」
目ぇ覚ませ。そう続けようとしたが。
115 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:56:12
不意に、ゾクッと背中に寒気が走り、腕に鳥肌が立った。
背後で妙な違和感を感じたのだ。この違和感の正体が、石の共鳴だというのに中田が気付くのはもう少し後の話だ。
後ろを振り向こうとした途端、何者かに背中をぐっ、と押される。
そこを中心として、吐き気にも似た感覚と激痛が走る。
その直後、中田は地面に崩れ落ちた。
「敦彦、敦彦!」
驚いた藤森が慌ててその背中を揺さぶるも、気絶しているのか、中田が返事をすることは無かった。
「死んでへんから、やいやい言うな。」
藤森の真上から声が降ってくる。
その声色は落ち着いていて、いかにこのような状況に慣れているのかを理解させる。

そんな“大人の魅力”漂う2丁拳銃・川谷修士は「どっこいせ」と中田の上体を持ち上げる。
意識がある時と比べ、気絶した人間の身体はその何倍も重く感じる。
成人男性の全体重がのしかかってくるものだから、壁にもたれかかせるだけでもさすがに骨が折れた。
「お前相方に嫌われたいんか。頭ええんやったら能ミソ使え。」
再び中田の身体に触れ、一度狂わせた血液の流れが正常に戻っているかを調べる。
能力の代償として、手がビリビリと痺れだしたが、後輩の手前、顔には出さなかった。
バツの悪そうな顔をして目線を下にやる藤森に、何でもない事のように尋ねる。
「こいつと敵対したないんやろ。」
パッと顔を上げ、もちろん、と藤森が素直に即答する。
116 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 21:58:22
頭を掻きながら一息吐き、川谷が小さな黒い破片を取り出した。
「これ使い。そしたらこいつはずっとお前の味方や。」
「本当ですか?やった!」
嬉々として破片を受け取る。
お子様のように笑う藤森に対し、川谷の表情は相変わらず複雑なままで。
さっそく藤森はなんとか頑張って中田の口に破片を押し込む。
固形から液体へ変わった破片は勝手に喉の奥へ入り込んでいった。
喉がゆっくり上下するのを見届け、顔を綻ばせる。
相方を操ることに抵抗は無いのか?と半ばあきれ顔で川谷が眉を顰めるも、口には出さなかった。
取りあえず、よかったな、とだけ言ってやった。

特に藤森は悪いことをしようとは思っていない。
面白そうだからという単純な理由で黒に入っただけだ。
彼らの若さ故の過ちとでも思っておこう。川谷は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
それよりも一つ、言っておきたい事があったのだ。

「藤森、お前、自分の力過信しすぎんなよ?」

「…はい?」
「あー、何もないわ。…またな。」
二回言うのも面倒くさい。
川谷は欠伸をしながら適当にはぐらかし、さり気なく藤森から離れていった。


117 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 22:02:30

「おう、修士。」
「おったんか。」
道路の反対側で小堀が手を振っている。信号が青になるのを待って横断歩道を渡った。
「可哀想になあ、“あの子”。」
「……?どっちが。」
「どっちも。」
小堀は気のない返事をした。
「…さ、帰るか。」
「藤森は置いてけぼりに?」
「ああ、放っとくわ。」
欠伸をかみ殺しながら、川谷は大きく背伸びをした。




―――「二人の様子がおかしい?」
番組共演者の若手たちは中田と藤森に目を向けた。
「おかしくなんか無いですよ。ねえ敦彦。」
「ああ…そうだな。」


118 ◆uAyClGawAw :2006/02/06(月) 22:04:05
今回はここまでです。
後半、登場人物をしたらばの時と変えてみました。
119名無しさん:2006/02/07(火) 15:41:17
◆uAyClGawAw氏
乙です!  
120名無しさん:2006/02/08(水) 20:45:58
hosyu
121名無しさん:2006/02/08(水) 22:09:58
乙です。面白かったです!続編キボン。
122名無しさん:2006/02/09(木) 14:08:15
本でないかなぁ。これの。
123名無しさん:2006/02/09(木) 16:50:53
自分は映像化してほしいw
お笑いブームが去った後に
CGとか駆使して凝りに凝ってDVDに、とかw
124名無しさん:2006/02/09(木) 17:44:32
>>123
禿胴。まっすぐいこーぜみたいに映画にならねぇかなあと思ってるよ。
125名無しさん:2006/02/09(木) 20:11:21
映像化いいな〜、小沢分身とかも完全に再現希望ww
あと龍とかスケッチブックとか
126名無しさん:2006/02/09(木) 20:19:13
>>123
CG、予算が多ければ良い感じに完成するだろうけど、
少なかったら物凄く安っぽい仕上がりになりそうな悪寒w
127名無しさん:2006/02/09(木) 20:33:54
>>123 そこはもう、出演芸人全員の事務所から取れば予算そこそこ行くだろ。
個々にだす金が少ないとしても。
128名無しさん:2006/02/09(木) 20:39:42
RPGツクールでゲーム化がリアルな落とし所ではw
129名無しさん:2006/02/09(木) 22:10:11
本なら実現できそうですよね。
作者さんの許可とって(本人にも取らなきゃいけないのか・・・orz
でもホモってる訳でも生生しいわけでもないし
案外いけ・・・るといいな
130名無しさん:2006/02/09(木) 22:18:57
>>128
ちょwww
それやろうと思ってたけど
諸々のグラフィックで諦めたとこwwwwww
131名無しさん:2006/02/09(木) 22:29:22
>>130
ちょwww自分もだwwww
自分の場合は格ゲーやろうとして、ポリゴンいじってる段階で諦めたwww
132名無しさん:2006/02/09(木) 22:33:38
自分もツクールでやろうとして、諦めた経験アリ。
ちなみに、おのおの仲間にするには条件があって
条件を満たせば仲間になれる云々だった。
(例えばある芸人を仲間にするには別の芸人を仲間にしてて、しかも気絶状態じゃなきゃダメとか)
133名無しさん:2006/02/09(木) 22:55:16
PRGみたいにストーリー性のあるものだと、スレである程度話が
完結してないと作れないもんね。
ビジュアルノベルなら文章そのまま使えるけど、グラフィックがなぁ。
134名無しさん:2006/02/09(木) 23:01:22
女神転生やMOTHERみたいな背景が作れればいいけど
RPGツクールだとどうしてもDQ・FF風味になってしまう
そういう世界に飛ばされた、という事にしてもなぁ…
135名無しさん:2006/02/09(木) 23:07:23
>>134
フリーで学校の素材なら手に入るけど、学校じゃな…。
大正時代っぽいのならまだしも。
136名無しさん:2006/02/09(木) 23:08:17
大正時代っぽい世界や学校なら手に入るって意味ね。
137名無しさん:2006/02/10(金) 01:39:28
そういう世界観にしたら、つまんなくなるし。
…と、個人的見解。
138名無しさん:2006/02/10(金) 02:04:47
現代風のチップセットとか背景作ってる人いそうだけどね。
ツクール関連で調べてみる。
139名無しさん:2006/02/10(金) 02:22:27
盛り上がっているところ悪いけど、そろそろツクール関連話は
したらばにゲーム化スレ立てて移動した方が良いかも。
140名無しさん:2006/02/10(金) 17:26:50
でもさ、ここ何かしらで盛り上がってないとすぐ落ちるし、
なにか雑談しながら投下を待つって雰囲気だと、
書き手さんへのプレッシャー的なものが和らぐような気がする。
(そんなの無いよって言われたらそれまでだが)
だから、盛り上がり過ぎたらしたらばに専用スレ立てるって事で、
話ぐらいはしてもいい事にしないか?長々とスマンコ
141名無しさん:2006/02/10(金) 17:27:06
映像化でここまでレスが伸びるとはなw
そういう署名サイト作っちゃえば良いんじゃネイノー?
142名無しさん:2006/02/10(金) 17:32:03
いや、正直そこまでは……ここだけで完結させておいたほうがいいと思う
本人関わってくると批判増えるだろうし
143名無しさん:2006/02/10(金) 17:59:51
批判も賛成もどっちも増えるだろ。
>>140の盛り上がり過ぎたらしたらばに専用スレ立てるって案に賛成。
ちょっと様子みようや。
144名無しさん:2006/02/10(金) 18:02:00
むしろ技術ある人でチーム作って製作してみれば?
145名無しさん:2006/02/10(金) 20:08:14
スレ立ったね。自分は>>144でいいと思うよ。
146名無しさん:2006/02/10(金) 22:06:20
>>145
どこ
147名無しさん:2006/02/10(金) 22:25:34
>>146 したらばだよ。
148名無しさん:2006/02/11(土) 01:37:41
ゲームより漫画のが実現しやすそうだ

とは思いつつもめちゃくちゃ楽しみだー
職人さん頑張れ
149名無しさん:2006/02/11(土) 20:28:30
ゲーム化wktk!

保守
150名無しさん:2006/02/11(土) 21:11:52
漫画化もいいな。
151名無しさん:2006/02/11(土) 21:15:42
アニメも悪くないかと。
152 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 22:50:03
雨上がり決死隊中心の話。
途中まで投下します。
153 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 22:54:39
故意の空騒ぎ
T・はじまりはおだやかに



「…どうする?」
「聞かんといてくださいよ。」
周りを見渡せばざっと20人。
一体何なんだ。黒ユニットは人間のクローンでも作ってるのか?
悪態を吐きながら、咥えていた煙草をプッ、と地面に落とす。苛つきを露わにし、
吸い殻を強く踏みつけた後、これでもかというくらいぐりぐりと擦りつける。
「こうなったんも全部…。」
目の下に隈のある、やや影を背負った男が呟く。
そして、隣に突っ立っている男を横目で睨みつけ、良く通る声で叫んだ。
「お前が石を無くしたんが悪い!」

「そ、そんなんゆうても仕方ないやん。」
カメラが回っていないところでは滅多に大声を出さない筈の相方に少なからず動揺する。
電光につやつや反射する髪の毛を掻きながら、雨上がり決死隊・蛍原が困ったように言った。

154 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:00:05
さかのぼること数時間前。

「あ、携帯がない。」
と、気付いた時にはすっかり夜も更けてしまっていた。
何気なく携帯を取り出そうとポケットに手を突っ込んだ瞬間、いつもはあるはずのそれが無いことが分かった。
鞄の中や内ポケットを探りながら記憶を掘り返す。
確か、最後に使ったのは控え室の中だった筈だ。
踵を返し、もう一度建物の中に入る。
自動ドアを通り抜けた所から歩みは段々早くなり、何時しか走り出す程になっていた。
その顔には少なからず焦りの色が見える。
それは、電話が掛けたいからとか、早く帰りたいからとかそういう理由ではなく。
彼は携帯にストラップとして自らの石、モスアゲートを取り付けていたのだ。
万が一例の、最近噂になっている『黒』とかいう奴らに拾われてしまっては、という考えが頭を過ぎる。
その嫌な予感を打ち消すように、頭を振る。
それに合わせて自慢のさらさらの髪の毛が宙を踊るが、決して乱れることは無かった。

控え室の扉を勢いよく開けた。
膝に手を置き、前屈みになって二、三度大きく呼吸し、唾を飲み込む。

中では相方である宮迫が本日何本目になるのか分からない煙草を吹かしながら雑誌を黙々と読んでいた。
ドアの音に少しだけ反応し、顔を上げるも、ちらりと蛍原に目線を向けただけで、再び雑誌を捲り始めた。

155 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:04:21
宮迫の後ろの方でガサゴソ、ガタン、と耳障りな音が小さな控え室の壁に反射し、響く。
「あれ〜……?」
と、蛍原の困ったような声が時折聞こえた。
宮迫は読み終わった雑誌をテーブルの上にぽん、と投げ置き、
「どないしたん。」
と、酷く面倒くさそうな口調ではあったが、やっと口を開いた。

「いや、俺の携帯知らん?」
「え〜…?見てへんで。」
欠伸をしつつ、宮迫は答える。
なんだ、そんなことか。とでも言いたそうだ。
__あんな、あの携帯には…。
という言葉が喉まで出かかったが、まだ思い当たる場所はある。
少しでも騒ぎにしたくない事と、ついでに(あくまで“ついで”だ)相方に心配かけたくないといった理由で
この時は言わなかった。

ところが、だ。何処を探せど、携帯は見つからない。
蛍原は苛ついて髪の毛をがしがしと掻く。
これはいよいよやばくなってきた。
石を無くしてしまった、という焦りと共に、心臓も早鐘の如く鼓動する。
うわーヤバイ。怒られる。相方に殺される。
再び控え室の近くに戻ってきてしまった。
足取りは重い。




156 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:06:21
今度は静かにドアを開けた。
宮迫は未だ煙草を吸いつつ、別の本を読みふけっている。
「なあ、ホンマに見てない?」
「しつこいぞ。」
極端なほど落胆した蛍原はドアの前で、身体を丸めてしゃがみ込んだ。
その尋常ではない落ち込みようにさすがに違和感を覚えたのか、宮迫が声を掛ける。
「そんなに携帯が必要なんか。やったら俺に言えばそんくらい…。」
「宮迫、俺の携帯な…。」
貸してやるのに、と言いかけた宮迫の声を遮るように、蛍原が口を開いた。


157 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:08:59

「…お前何してんねん。」
相方に事情を説明すると、酷く小さな声、且つ無表情でこう言われた。
少しだけ、背中に寒気が走った。
これなら怒鳴られてビンタされた方がまだマシかも知れない、とまで思えた。
はあ、と深い溜息をと共に宮迫の口から乳白色の煙が吐き出される。
煙たさに咳が出そうになるも、妙な緊張感から、それさえも許されないような錯覚に陥る。
宮迫は灰皿に吸い始めたばかりの煙草をぐりぐりと押し付けた。
溢れかえった灰皿から二、三本の吸い殻がテーブルに転げ落ちる。
ゆっくり椅子から重い腰を上げ、宮迫はジャケットを羽織る。
何故か無言のままの宮迫に声を掛けることが出来ず、蛍原はその様子をじっと見詰めた。

そして宮迫は蛍原とすれ違う瞬間に、「おい、行くぞ。」と一言だけ言った。
「はは…、頼もし。」
予想外だったのだろう。
早歩きで楽屋を出る宮迫に、蛍原は嬉しさからか、にやつきを隠せなかった。
158 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:12:18
続いて二話目も。


U・てんかいはきゅうげきに

ついカッコつけて廊下に飛び出したものの…。
さて、何処に行けば良いのか。
宮迫は楽屋の前で腕を組んだ。
後ろでは蛍原が「どうするの?」と期待に満ちた表情で立っている。
(まずは、人に聞くのが妥当か)
とりあえず頭の中に浮かんだのは、今日同じ番組で共演した芸人達。
その中でも真っ先に浮かんだ男に会いに行くため、歩みを早めた。


「蛍原さんの携帯ですか?」
丁度着替えている途中だったのかDonDokoDon山口は随分素っ頓狂な格好をしていた。

「あ、持ってますよ」
意外な返答。
にこやかに言う山口と対照的に、雨上がりの二人は目を丸くした。
山口はテーブルの上に置いてあった小さな携帯をヒョイと持ち上げ、差し出した。
蛍原は山口と携帯を交互に見比べると、やっと口を開いた。
「え、え?何でぐっさん持っとんの。まさか…」
盗人扱いされると感づいたのか、慌てて山口が「違いますよ!」と手を振った。
「置き忘れてたんじゃないですか、蛍原さんが!」
159 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:14:25
一瞬の沈黙。
「置き忘れた〜?はぁ、なーんやアホらし。」
不謹慎だが、ちょっとした“事件”を期待していなかったと言えば嘘になる。
宮迫はどこか残念そうに頭を掻きながら肩を落とした。
溜息を吐き、時折肩越しに蛍原に厳しい視線を向ける。
ちくちくと刺さるような錯覚を頭を揺らして振り払い、
携帯を受け取ろうと手を伸ばした。
その時、

「ぁあー!無い!」
蛍原の金切り声が廊下中に響き渡った。
宮迫と山口もそのいきなりの大音量にビクッと肩を竦め、耳を塞いだ。
能力を使ったわけでもないのに、耳の奥できーん、と音がする。
「これ、これ見て!」
宮迫の眼前に携帯を突き出す。
その携帯に付けられているストラップ用の細い紐。
その先に取り付けられていた筈の石が、無かった。
よく見ると紐は途中で引きちぎられたような跡がある。
視線が、今度は山口に向けられた。
あ〜あ、と山口は再び眉を下げる。

「ぐっさーん。」
と、蛍原が詰め寄る。
「だから、違いますって!」
山口はうんざりした様子で手を挙げ、後ろに下がる。
その後ろで何処ぞの探偵のように顎に手を当て、宮迫が神妙な顔をする。
「ぐっさん、ちょっとその携帯…何処で見つけたん?」



160 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:15:53
「一階のトイレですよ」
「ちょお待てって。俺今日一階のトイレ行ってへんぞ?」
「おーおー怪しいな。…何かおもろい事になりそうや」
にやり、と宮迫は口端をつり上げる。

石を手に入れたのは良いが、自分たちの周りではまだ何も起こっていない。
毎日戦っていて生傷の絶えない者すら居るというのに、
自分には特に生活で変わったことがないのだ。
せっかく石を拾ったんだ。
ちょっと位この平和が乱れないものか、と今思えば何とも馬鹿な事を考えていた。
誰かが蛍原の携帯を盗み、石だけを引きちぎって携帯の本体はトイレに置いていった。
と思って良いだろう。

「じゃあ蛍原、この近くに自分の石の気配は感じんか?」
その言葉に応えるため蛍原は固く目を閉じ、う〜ん、と集中し始める。
宮迫も山口も息を殺して、瞬きもせずに目を凝らした。
不意に、蛍原が「んっ?」と上ずった声を上げた。
目を閉じたままキョロキョロと小動物のように辺りを見渡す。
その動きに合わせて二人の目も動く。
「…ん〜?」
眉を寄せて、ゆっくりとした歩調で歩き出した。

「宮迫さ…」「しっ、」
静かに、と口元に人差し指を当てる。
身体は微動だにせず、首から上を動かして目線で蛍原を追った。
相変わらず蛍原は唸りながら少しだけ上体を屈めて歩いている。
目を瞑っているからゴミ箱に足を引っ掛け、壁に頭をぶつけたりしていた。
その度に宮迫と山口は目を細めた。



161 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:18:00
蛍原が曲がり角に差し掛かり、二人の視界から消えた。
顔を見合わし無言の合図をする。
慌ててその後を追いかけた。

どんっ

「うおっ」「あだっ」「わあっ」
丁度曲がりきった所で、三者三様の短い悲鳴が上がった。
角を曲がって直ぐの所で立ち止まっていた蛍原の背中に、勢いよく走ってきた宮迫が、
更にその後ろに芸人にしてはがっしりした体型の山口が立て続けにぶつかったものだから、
一番前の蛍原は吹っ飛ばされるように前方に転んだ。
その上に宮迫が重なって倒れ込む。
下で「うぐっ」、とくぐもった声が聞こえた。

「痛ったい!何すんねん!」
「や、やかましいわ。もっと前におる思ったんや!」
蛍原の頭に強かに打ち付けた顎をさすりながら、宮迫が怒鳴る。
「どうしてこんな所で?」
全くダメージのない山口は二人の前にしゃがみ込み、冷静に尋ねた。
その言葉にはっと我に返り、蛍原が言った。
「そ、そう。向こう!向こうの方から俺の石の気配が…!」
未だ宮迫の下敷きになったまま、前方を指差す。
三人の視線が同じ方に向けられた。
廊下の向こう側で、スタッフと思われる男が歩いているのが見えた。

その懐で、自らの石のものと思われる光が、きらりと漏れたのを、
蛍原は見逃さなかった。
「あ、あいつ!俺の石持っとる!」
声を張り上げると、そのスタッフは蛍原に気付いたのか、
顔を見るなり血相を変えて逃げ出した。
162 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:21:46
「決定的、やな。」
「追いかけましょう!」
いつの間にか立ち上がっている宮迫と、山口が走り出す。
待たんかーい!とお約束の一声。
蛍原もようやく起きあがり、ばたばたと後を追っていった。

距離は一向に縮まらない。
自分たちよりはるかに若いスタッフは、軽い身のこなしで廊下を駆け抜けていった。
三十代後半に差し掛かった雨上がりの二人や、体の大きな山口はなかなか追いつくことが出来ない。
(やばっ、逃げられる…!)
そんな思いが頭を過ぎった、その時―――

あっ、とスタッフが声を上げた。
前から歩いてきたのは、ガレッジセールのゴリこと照屋年之と、相方の川田広樹。
こちらも山口と同じコント用の派手な服とメイクだった。
全速力とも言えるスピードで走ってくる宮迫たちに驚いた二人は立ち止まり、
何だ何だ?と壁際に避けた。
163 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:24:39
「ゴリ、川田!そいつっ、そいつ捕まえろ!」
宮迫は二人に向け大声で叫んだ。
「はい?」
「そいつ通すな言うてんねん!」
そいつ、とは。
今こっちに走ってきているスタッフの事だろうか。
訳が分からないが、先程の必死な声を聞くとただ事ではなさそうだ。

「……おりゃあっ!」
本能的だろうか。
すっかりお馴染みとなったピンクのひらひらのミニスカートをなびかせながら照屋が助走を付け、飛んだ。
照屋の華麗なドロップキックを正面から見事に食らった男は、
廊下を二メートルほど転げ、動かなくなった。
164 ◆LHkv7KNmOw :2006/02/11(土) 23:27:24
ここまでです。スレ大量消費スマソ。
165名無しさん:2006/02/12(日) 01:33:30
大作キタ―(゚∀゚)―!!
166名無しさん:2006/02/12(日) 11:27:23
乙。すごい面白い。
…スタッフ少し可哀想w
167 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:30:00
天才ビット君メンバーの話。
したらば投下分+α。
168 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:32:23
収録の合間の楽屋、男が一人と女が二人、座って弁当を食べていた。
全員この教育番組内での役柄の衣装をつけたままなので、少々異様である。
「もうそろそろ再開っすねえ」
時計を見上げながらくだけた調子で話すのは北陽虻川。
「…いつもながら、お弁当食べるの早いわね。」
その虻川の食欲に呆れているのは、相方の伊藤である。
「だってしょーがないじゃん、腹減ってんだもん」
虻川があっさり返すと、伊藤はため息を一つついてペットボトルのお茶に手を伸ばした。
ありふれた楽屋の光景である。…彼女たちの足首で密かに光る石を除いては。
「そーだお前ら、…ここ最近、黒はどうだ?」
世間話をするように、しかしそれよりは幾分周囲を気にするように声を潜めて、男…上田が言った。
「あたしらは大丈夫っす、石もちゃんとありますし。」
その存在を示すように太ももをぽん、と叩いて虻川が答える。
「若手の間じゃちょくちょく聞きますけど、わたしたちは別に…」
声を落とせ、と虻川に身振りで指示しながら、伊藤が小声で続く。
今、楽屋には彼らしかいないのだが、習慣づいてしまったのか…それとも「どこに敵がいるか分からない」という警戒のためか。どのみち関係する人間にしか分からない、隠語のような会話だが。
「そうか。…でも用心しろよ。最近は若手の中でも病院送りになってる奴もいるらしいからな。やっこさんたち、白を引き込んだり何だりに躍起になってっから…ちょいと手荒になってるみてえだ。」
「上田さーん、その台詞全然カッコに似合ってないっすよお」
と虻川がにやにや笑って茶化す。
二人を気遣っての台詞に水を差されて、上田はほっとけ、と渋い顔で茶を飲んだ。
そんなやりとりを見て、伊藤が楽しげに笑っている。
と、その時。ばたん、とドアが開いて、三人は一瞬体をこわばらせた。
169 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:33:12
「どうもー。」
軽く挨拶をして入ってきたのは、江戸むらさきの二人。
三人は仲間と分かっている連中だと、ほっと緊張を解いた。
「もー、おどかさないでよ。」
「ああびっくりしたあ、噂をすればかと思ったじゃーん。」
「すいませーん」
北陽の二人が笑って言うのを聞いて、野村が苦笑して謝る。
「どこもピリピリしてっからな。そのうち楽屋は合い言葉制になるかもしれねえぞ」
と笑うと、上田は江戸むらさきにも同じ質問をした。
「俺らも最近は別に。」
「なあ。…あ、でも」
何だ、と上田が聞くと、磯山が辺りをはばかるようにそっと言った。
「…ちょっと、気になる人が。」
「誰、だれ?」
虻川が言う。
「……俺の勘違いかもしれないんすけど…」
磯山が言ったその名前の主は一人、一体いつからいたのか、隣の部屋で壁にコップを押しつけ、彼らの会話を盗み聞いていた。
滑稽な行動に似合わずその顔は厳しく、そしてどこかもの悲しさがあった。

「………、です。」

その聞き慣れすぎた響きを聞き届け、彼はそっと立ち去る。
それと入れ違いのようにスタッフが上田たちを呼びに来た。
この会話がその後どれだけの騒動を招くことになるかは、彼らは想像もしていなかった。
170 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:34:13
収録も終わり、上田と江戸むらさき、そして北陽の五人は帰途についていた。
白の芸人は用心のため、なるべく大人数で行動することにしているからだ。
駅までの道を並んで歩いていくと、料理店の多い通りにさしかかる。
「上田さん、ご飯おごってくださーい!」
「俺ら金ないんすよお」
「今日、俺がんばったじゃないすかー」
「あたしもがんばりましたよー!」
ここぞとばかりに「飯をおごれ」の要求がうるさいぐらいに重なる。がんばった、というのは番組中のゲームの内容だろう。
根負けしたのか、上田は渋々、といった風情で頷いた。
「わーったわーった。…で、何がいいんだ。」
「やった、お寿司!」
「肉!」
「牛の肉!ぶあついの!」
「しゃぶしゃぶー!」
途端に四人の目が輝く。好き勝手な注文に、現金な奴らだ、と上田は呆れた。
「ぜーたく言うな。ここ近くにファミレスあったろ、そこにすんぞ。」
「ケチー!」
「上田さんの守銭奴!」
たちまちブーイングが飛び交う。寿司ステーキしゃぶしゃぶ、の合唱が始まった。
その光景に、道行く人々がときどき振り返りくすりと笑う。
171 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:35:49
「おごってもらう分際で文句言うな、ったく…ん?」
「どーしたんすか?」
上田は眉根を寄せ、声を低く落とした。
「…誰か尾けてきてんな、一人だ。」
「えっ…」
場数を踏んだためか、上田はいつしか芸人には不必要なほど気配に鋭くなっていた。
うろたえる後輩たちに、落ち着いた様子で言葉を重ねた。
「騒ぐな、一旦さっきみたいに馬鹿話してろ。さすがにここじゃ仕掛けてこねえだろ、どっかで巻くぞ。」
「…分かりました。」
野村はそう言うと声の調子を素早く切り替え、明るく振る舞う。磯山や北陽の二人もそれに続いた。
「あ、財布忘れたとかなしっすよお?」
「そんなせこい真似したら、番組で言いふらしちゃいますからねー。」
「観念して、お寿司!お寿司!」
「上田さんは可愛い後輩に肉もおごってくんないって奥さんにチクってやるーっ」
「るっせえよお前ら、ぐだぐだ言うとコンビニ飯にすんぞ。」
「あーそれ嫌だ!」
「もう食い飽きました!」
演技にしては自然な会話をしながら、曲がり角で上田は不意に目配せをした。
「(行くぞ!)」
五人は追跡者を振り切るため走りだす。
後方で電柱の陰に身を潜めていた男は、慌てて追いかけた。
角を曲がり、路地を走り、次の角へさしかかる――
「うわあっ!」
男の腹に、勢いよく何かがぶつかっていく。衝撃で後ろへ倒れた体へ、そいつが唸り声と共にのしかかる…ように男は感じた。
「うわ、何だっ、なに、わあああっ!」
男はパニックを起こし、振り払おうとめちゃくちゃに暴れる。が、それはびくともせず、男の肩口に噛みついた。
痛みにもだえわめく男の姿を、五人の目が冷静に見つめていた。
「…やっぱアンタだったんだ。」
虻川が悲しそうな顔で呟く。その目には涙さえたまっていた。
「きくりん」
彼は何も言わず、ただ眼鏡越しに虻川を睨み付けた。
172 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:37:09
「戻っておいで」
虻川が指示すると、秋田犬の亡霊がきくりんこと菊池の上から退いた。
半透明の体を揺らしながら、虻川の元へ行き座る。ご苦労だったね、と頭を撫でてやると、わん、と一つ鳴いて姿を消した。
菊池は予想外だった犬の襲来に、噛まれた肩を押さえて呆然としていたが、五人の視線を感じたのかやがて静かに口を開いた。
局を出たときには夕方だったのに、もう既に日も暮れとっぷり暗くなっていた。
人気のない路地裏、ビルの窓から漏れる光だけがかすかに闇を照らす。
「…気付いていたんですか」
「ああ、巻こうかとも思ったんだがな。気が変わった」
「相手がアンタなら、改心してもらわないと。」
上田の台詞の後半部を、まだ悲しげな顔の虻川が引き受ける。
「…おとなしく石を出しなさい。」
「痛い目見ねえうちにさっさと降参しろよ。」
「五対一じゃ勝ち目ねえだろ、ほら。」
後輩たちの声に、どっちが黒だかわかんねえな、と上田は苦笑する。
まあちゃっちゃと浄化しねえとなあ、と呟き、石を取り出したその時だった。
「…くっ…はは、ははははは」
余裕ありげな五人を座り込んだまま見上げ、何を思ったか…菊池は笑い出した。
「面白い、本当に面白いですねあなた方は…」
「はあ?何言ってんだ。
 ほらさっさとしろ、あんま怪我させたくねえんだよ…」
一番戦闘向きではない能力を持っているにも関わらず、上田が言う。
「ですが、もう楽しんではいられませんよ。」
しかしそれすらも遮り、菊池が立ち上がる。声は小さく、半ば独り言のように思えるほどだ。その目はうつろで、しかし物騒な光をたたえていた。
ズボンのポケットに手を入れ、何かを取り出す。途端に発せられる黒みがかった青色の輝きから、それが石であることは五人には明らかだった。
そしてそれが、汚れた悪しき石であることも。
「この…僕の能力の前に、あなたがたは屈服するのだから」
不敵な台詞とは裏腹に、菊池の体は小刻みに震えている。だがその表情は楽しげに歪んでいて、上田は眉をひそめた。
…ヤバいな、こいつ…
その呟きは口に出る前に消えた。
石がひときわ強く、まばゆく輝いたからだ。
173 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:38:53
その光は目潰しとなり、五人はうわ、と叫んで腕で目を覆った。
そして次に目を開けた時、菊池の手には白い…スケッチブックがあった。
「何だよ、今この状況でネタでもやんのか?お前。」
言葉だけは余裕ありげに、上田が笑う。
光の強い衝撃にまだ痛む目をしばたかせる。頬に冷や汗がつたって落ちた。
首もとのホワイトカルサイトが警告で小さく瞬くのをなだめるように押さえて、思考を巡らせる。
相手の能力は不明、仕掛けてくるのを待つか…いや、強力なものだった場合…。
こちらの即戦力は磯山と虻川のみ、野村と伊藤は補助、自分は戦闘では役に立たない…。
他の四人の間にも緊張が走る。かすかに笑ったままこちらを凝視する菊池だけが異様だった。
「磯山、虻川、とりあえず先手必勝だ!」
上田が叫ぶと同時に、虻川の傍らに犬が二匹現れ、磯山が紫の光を腕にまとい菊池に飛びかかる。
「おりゃあっ!」
腕力強化済みの突きは、しかし菊池の体には当たらず空をかすめた。
菊池がその姿からは想像もできない軽い身のこなしで磯山の後ろをとる。
スケッチブックがひとりでにめくれ、得意の漫画的な絵が浮かび上がった。
自動筆記のようにさらさらと描かれていくそれは、デフォルメされた磯山だった。
「今までのあなたは白でした…」
菊池の抑揚のない声が響く。
磯山は横手に飛び退り、間合いを詰めてもう一度殴りかかった。だがまたも空振りに終わる。
風に揺れる柳のように磯山を翻弄しながら、また一枚、勝手に紙がめくれる。
「そこでこれからは私の手先になってもらいましょう」
言うか言わないかの内に、藍色の光が磯山を捕らえる。
「磯山!」
野村が叫ぶも、もう遅かった。
光が消え、磯山の表情が消える。紙の中の姿と同じように生気がない。
「…邪魔だ!」
そのまま虻川の召還したポメラニアンを蹴りあげる。半透明の体に足は突き抜け地面をかすめるだけだったが、太ももへ噛みつくのを振り払い、もう一匹、愛らしいパグの頭へもかかとを振り落とした。
174 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:39:28
「磯山、やめろ!」
上田の制止の声も聞こえていない。亡霊を相手にしてもらちがあかぬと考えたか、今度は伊藤へ向かい拳を振り上げた。
「きゃああっ!」
悲鳴とともに、伊藤の足首からピンクの光が吹き出る。
「いや、やめて磯山くん!わたしよ、さおりよ!」
その声にすんでの所で磯山の動きが止まる。二つの力がせめぎあっているようだ。
びくりと体が跳ね、耐えられなくなったのか、やがてゆっくりと倒れた。
「磯山くん!」
彼の恋人になりきっている伊藤が、磯山の体を膝の上へ抱き起こす。
慌てて野村が駆け寄り、急いで二人がかりでビルの陰へと磯山を運ぶ。
これで今戦えるのは、上田と虻川の二人のみとなった。
「おや、まあ…いいですよ。いくらでも手はありますから。
 …それに、そちらにとっても大きなダメージでしょう?」
菊池が微笑んだ。白い紙がうっすらと藍色に点滅する。ぐしゃぐしゃと殴り書きが見え、また消える。
「…まずいな、あんな能力だったとは…」
上田の表情に焦りが出る。人数的にはこちらが圧倒していたのに、戦力が一挙に三人も消えたとなってはまずい。残る頼りは虻川の犬だけだ。
夜気と寒風と、ビルの空調熱がまじりあった空気が、やけに重い。
「…てっきりただの偵察役かと、よほど弱いだろうと踏んでたのになあ」
挑発するように上田が言う。それが気に障ったか、菊池は眉を顰めた。
「あなたは戦闘向きじゃないことは分かってるんですよ、上田さん。さっさと石を渡してもらえませんか。そうすれば…そうすれば…」
後半は壊れたラジオのようになって、そしてまた薄ら笑いを浮かべる。
「ふん、言ってろ。どういういきさつで黒に入ったかは知らねえが…つけあがんなよ、所詮お前は弱いまんまだよ。」
余程癪に障ったと見える。上田の言葉に、菊池が豹変した。
「うるさい、黙れ、だまれェェェ!!!」
ありえないほどに激高し、武器であるスケッチブックも放り出して上田につかみかかる。
目の色が赤く変わっているように見えるのは石の作用か、怒りによる充血か。
「が、はっ…」
身長はそう変わらないはずなのに足が浮くほどに高く、強く締め上げられ、上田が苦しげに顔を歪める。息が詰まり、肺が痛む。更に強い力がかかり、首がぎりぎりと言った。
175 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:40:38
「こらあ、上田さんを離せー!!」
虻川の叫び声に合わせて、きくりんの背中にドーベルマンが飛びかかる。
「うわっ…」
大型犬に体当たりされ、菊池は上田を下敷きにし、転げる。
上田はどうにかそこから這い出すと、激しく咳き込みぜえぜえと荒い呼吸を繰り返した。
「おいこら…俺まで殺す気か…」
解放された喉元をさすりながら、力なく呟く。
虻川はすいません、と短く謝ると、悲しみに顔を歪め、更に犬を呼んだ。
「わたしは負けるわけにはいかない…あなたたちに…お前らなんかに負けるわけには…」
菊池は立ち上がるとぶつぶつとそう繰り返し、焦点の定まらない目で虻川を見ていた。
ズボンのポケットを探ると、何かをつかんで口に放り込んだ。二、三回咳き込んだが、顔を上げると引きつった顔で笑う。
虻川はその行為に不審そうに眉を顰め、数匹の犬を従えて、無言のまま菊池を睨み付けた。
「いっけーお前らー!」
様々な犬種の犬が、一斉に駆けた。
菊池の石が光り、また新たなスケッチブックを出す。
「今までの犬は獰猛でした…そこでこれからは、全員おとなしくしてしまいましょう!」
藍色の光が犬たちを包む。
途端に、ごろりと寝転がる者、欠伸をする者、仲良くじゃれあう者…。
虻川は舌打ちをしてすべての犬を消した。新しく二匹ほど呼ぶも、それもまたやる気がなくなっている。
「ちくしょ…」
犬を封じられ、為す術がなくなった。
176 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:41:28
上田は未だ倒れ伏したままで、必死に考える。
「これで終わりですよ。」
勝ち誇ったような菊池の声がどこか遠くに聞こえる。
「今まであなたがたは石を持っていました」
どうすれば、どうすれば…
「しかし、たった今からは」
頭が巡らない。首が痛む。くそ、絶体絶命だ――。
「その石は僕の手に、」

「困ったときのっ、」
菊池の言葉を無遠慮に遮り、突然に声が響いた。

「スーパーボール!!」

淡い紫の光が辺りを包み、弾け、大量の小さな球体となって落下する。
「うわ、あ、ああああああッッ!!」
どどどどどどどどどどどどどどっ……!
狙うはきくりんただ一人だ。
意趣返しとばかりに、無情にも容赦なく雪崩れ落ちていく。
ぎゃあああああ、と断末魔が響き、そして無数のボールが立てる音にかき消された。
上田と虻川は、突如現れたスーパーボールの大群を見て呆然としていた。
「やった、成功!」
「よっしゃあ、名誉ばんかーいっ!」
その声に二人が振り返ると、医者の格好をした野村と、立ち直ったらしい磯山が立っていた。
「上田さーん、お寿司おごってくれますよね?」
それに、笑顔の伊藤も。
上田はあまりにもあっけないと言えばあっけない結末に肩をすくめると、
「…まわる奴で勘弁しろ。」
と言って、気が抜けたように笑った。
177 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:44:40


…さて、それからはというと。
気絶した菊池の石を浄化し、さすがにこの季節放置しておくのはまずいと家まで送り届け(誰も菊池の自宅を知らなかったので、上田が能力を使った)、
いくら待っても目が覚めなかったので後日たっぷり話を聞くことにし(一応野村が診察し、大きな怪我がないことは確かめた)、
作業を終えると既に深夜となっていたので、上田が朝まで営業しているラーメン屋に五人を連れて行き、遅めの夕食をおごった。
(さんざんブーイングが飛んだものの、全員しっかりチャーシュー麺をたいらげたのは言うまでもない。中にはおかわりする者までいた。)
それからどさくさに紛れて飲み会となり、五人ともしっかり二日酔いとなった。(もちろん代金は上田持ちである。)


そしてその翌々日のこと。
「上田さん、この前はすみませんでした」
上田の楽屋に菊池が訪れた。なんと菓子折まで持参している。
この番組は菊池の出演しないものだったので、わざわざ謝罪に来たのだと知れた。
「いや、いいよ。こっちこそ随分荒っぽくなっちまって、すまなかったな。」
予想外の低姿勢に驚きつつ、上田が返す。
「いえ、一日寝込むだけで済みましたから。」
「…お前根に持ってんだろ、つーか皮肉言いてえのはこっちだよ。」
「あ、いえそんなつもりでは…」
慌てて菊池が訂正するのを尻目に、煙草に火を点ける。
絞められた首はすぐに冷やしたためか痣にならずに済んだが、打ち付けた背中はまだ痛む。
「なーに、何の話?」
そこに有田が首を突っ込んだ。
178 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:45:17
「ああ、こないだ菊池と乱闘してな。」
上田が適当に説明するのを聞いて、有田が菊池に視線を滑らせる。
菊池の肩がびくっと跳ねた。見るからに怯えている。
「ナニ、お前黒?」
「いっいえ、もう脱けました。上田さんたちのお陰で…」
首を素早く横に振る。
石が浄化されたため己の行動を記憶していなくとも、前の事件はよほど骨身に染みたのだろう。菊池はすっかり前のように大人しくなっていた。というより、前よりも、か。
「それであの、虫のいい話なんですが、是非白に入らせていただきたいと」
「ああ、いーよ。」
あっさりと上田が答える。
「人手不足だしな。」
「黒と違って少ねえんだよなー、せっせと浄化して引き込んでっけど」
「…それ、あんまり黒と変わらなくないですか。」
言いかけた菊池は上田のひと睨みで黙る。
「まあまあそんなに怯えさせなくてもさあ上田さーん。」
と有田がさも楽しそうに言いながら、にやにや笑って菊池の肩に手をかける。
その行動に、またも菊池が大きく震えた。
「面白がってんじゃねえよ。」
上田が呆れて有田の頭をはたく。
「んじゃきくりん、これからよろしく頼むな。」
と上田が言い、悪いなそろそろ収録始まるから、とくりぃむの二人は足早に去っていった。
菊池も楽屋を退出し、廊下を歩きだす。
とそのとき、携帯の着メロが鳴った。
「…ああもしもし、…はい、はい。」
電話を取ると、菊池はにやりと笑みを浮かべて応対しだした。
「ええ、計画は…はい。大幅な変更は強いられましたが、結果オーライということで」
歩きながら通話を続ける。誰もいない廊下に、菊池の靴音が響く。
浄化された筈の石は、菊池の声に呼応するように黒ずんだ光を発していた。
ポケットの中で、じゃらじゃらと石とそれ以外の何かが音を立てる。
「ちょろいもんですよ、…ええ、成功しました。
 また追って報告しますね…はい、では失礼します。」
ピ、と電話が切られ…それからはもう、菊池の顔に表情はなかった。
179 ◆vGygSyUEuw :2006/02/12(日) 11:47:40
スレ大量消費すみません。予想外に長かった…。

きくりん
石:花崗斑岩
能力:「今までは○○はこうでした」「そこでこれからは××にしてみましょう」
と言う一連のネタの流れをやる事により、ネタを見せた相手の考えを一定時間変えることが出来る。
例:「今まではずっと手を抜いていたから勝てなかった」
「そこでこれからは本気でやってみよう!」
→ネタを見た人が本気で勝負するようになる、とか。
条件:今までとこれからのイラストを事前に用意し、それを相手が見ること。
考えを変えるだけなので、本当にその通り行動するかは別。

+黒の欠片で能力増幅、みたいな感じで。
180名無しさん:2006/02/12(日) 12:17:52
◆LHkv7KNmOwさん
題名がイカスw続き楽しみです。

◆vGygSyUEuwさん
戦闘シーンカコイイ!これには続きあるんですか?
181名無しさん:2006/02/13(月) 00:05:47
乙です!
きくりん手ごわいですね・・・がっちり黒に洗脳されてるじゃないですか
182名無しさん:2006/02/14(火) 01:05:12
馬場園を抱く
183名無しさん:2006/02/14(火) 23:41:14
hosyu
184Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:05:47
>>96-101の続きを投下します。

 今日も「せやねん!」の収録は無事終わった。何故なのかは分からないが、先週の収録
に比べてブラマヨの二人のテンションは異様に高いようだった。
 そして収録後、出演者たちやスタッフが集まって打ち上げをやることになった。とある
広い飲食店の片隅を陣取り、全員が酒に、つまみに、話にと盛り上がる。
 チュートリアルの福田は、隣に座っていたブラックマヨネーズの小杉と話していた。
「小杉、今日えらいテンション高かったやんけ。どうしたんや?」
「いやあ、この間買った育毛剤、めっちゃ効き目あるみたいやねん! ほらここ、ちょっ
とだけやけど生えてきたと思わへん?」
 そう言って小杉は、毎年少しずつ減ってきている頭を福田の方に見せた。福田がよくよ
く見ると、肌の部分に少しだけだが黒い毛が生えているようにも思えたので、うんうんと
頷いておいた。
「やろ!? やんな、やっぱり。今までの育毛剤はあかんわ。この間買ったやつ、最高や」
 小杉は酒の効果もあってか、かなりご機嫌である。福田はふうんと頷きながら、小杉に
尋ねた。
「その育毛剤買ったのいつなん? そんなに早く効果が出るもんかな」
「それが俺も驚いてんねん。買ったの、先週の土曜なんやもん」
「先週の土曜日……って、そういや楽屋でなくしたって騒いでた時か?」
 福田は先日起こった、事件というほどでもない事件を思い出していた。先週の収録が終
わった後、ブラマヨ二人の大切な――彼らにとっては死活問題に関わる――持ち物がなく
なったと騒いでいたことだ。結局共演者の一人であるたむらけんじの楽屋で見つかったら
しく、その場で落ち着いたのですっかり忘れていた。
 小杉もそれを思い出したらしく、そうそう、と頷いた。
「収録前に買ってきたモンやったんや。なくなった時は焦ったけど、ほんまに見つかって
良かった。見つからんかったら、俺の髪の毛もこうなってなかったわけやし」
 よっぽど気に入っているらしい。福田は苦笑しながら良かったな、と頷いておいた。小
杉は相変わらず上機嫌で、まだジョッキに残っていたビールを飲み干した。
185Last Saturday?@ ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:08:16
 その石は真珠のような白色を持った石だった。ブレスレットとして既に加工されてい
る。小杉はへへ、と笑いながら、石の説明をした。
「これはな、ドロマイトっちゅう石らしいわ。白色で、なかなか綺麗やろ?」
「あー、ほんまやな」
 無難な答えを返しておく。そやろ、と小杉は得意そうに笑った。その後、乗り出すよう
にして福田の顔を覗き込んできた。
「福田、お前の石どんなん? 見せてぇな」
 期待したように笑っている小杉の顔を見て、福田は出さないわけにはいかなくなった。
別に小杉にならいいだろうと判断し、福田はポケットの中に入れてある石を手のひらに載
せて、小杉の方に見せてやった。
「ほら、これや」
「へえ。お前の石は緑色か」
 小杉は福田の石を手に取り、しげしげと見つめている。石に興味でもあるのかなと思い
ながら、福田は小杉の様子を横目で見つつつまみを口にしていた。しかしなかなか小杉が
石を返そうしないので、福田はついに口を開いた。
「おい小杉。いつまで持っとんねん。返してくれ」
「なあ福田、これもらったらあかんか?」
 突然の小杉の問いに、福田は目を丸くした。
「はぁ? お前、こんなもん欲しいんけ?」
「ええ石やんか。なあ、もろたらあかんか?」
 どうやら小杉は真剣な様子だった。酒が入っているせいかもしれない。そこまで石に執
着を持っていなかった福田は別にいい、と言おうとして思い直し、小杉の手から石をひっ
たくった。
186Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:09:40
「あかんあかん。ファンからもらったモンやからな。大切に持っとかんと」
「えー。ケチやなぁお前」
 小杉が口を尖らせた。福田は手をひらひらと振って、あかんよ、ともう一度言った。
「ケチとかそういう問題やないて。とにかくこれは俺の私物なんやから」
「ちぇっ」
 小杉が軽く舌打ちし、福田はそれを笑おうとして小杉の方を向くと、小杉は本当に悔し
そうな顔をしていた。何かの勝負に負けた時のような、思い詰めた表情だ。その表情にど
きりとして、福田は呆けたようにしばらくその横顔を見つめていた。


 一方、福田と小杉のそれぞれの相方である徳井と吉田は、これまた隣同士になって一緒
に飲んでいた。
 吉田も相方の小杉同様、かなり上機嫌であった。徳井も彼のテンションについていこう
とするが、どうも彼のテンションには一歩及ばないのだった。
「なんでそんなにテンション高いねんお前。なんかあったんか?」
 徳井があきれたようにため息をつきながらそう訊くと、よくぞ訊いてくれましたと言わ
んばかりに吉田が体を乗り出してきた。
「そやねん徳井! 聞いてくれ! ついに俺の悩みが晴れる瞬間がやって来たんや!」
「な、なんや?」
 吉田があまりにも嬉しそうに叫ぶので、徳井はやや押され気味である。そんな中発した
徳井の問いに、吉田は頷いてから答えた。
「このブツブツや。新しいクリームにしてから、だいぶ治ってきたと思うねんけど、どや?」
187Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:10:30
 そう言って、吉田は徳井の方に顔を向けてきた。徳井は吉田の顔をまじまじと見つめた
が、相変わらずブツブツはたくさんあり、治ってきているのかどうかよく分からないの
で、曖昧に笑いながら頷いておいた。
 すると吉田はそやろ、とうんうん頷いた。
「その新しいクリーム、この間の収録の時に買ったヤツやねん。小杉も調子ええみたいや
し、なんか俺らに運気が回ってきてんのかもしれへんな」
 ははは、と笑い、吉田はジョッキを傾けた。徳井はそうか、と彼の話を消化できないま
ま頷いておいた。先程の吉田の口調では、小杉のハイテンションにも吉田と同じような理
由があるようだった。今小杉は自分の相方の福田と話している。後で福田に、小杉とどん
な話をしたのか聞こうと思いながら、徳井はつまみに手を伸ばした。
 そうしてしばらく酒につまみにと興じていると、吉田が首の辺りをまさぐり、チョー
カーについた石を取り出して徳井に見せた。
「これ、綺麗な石やろ。アクアオーラっちゅう名前らしいわ。ちょっと特別な能力を持っ
てる石やねん」
 特別な能力、のところで、徳井ははっとした。まさかこれは、と彼に問う前に、吉田が
にやにやと笑いながら徳井に尋ねた。
「お前も持ってるんやろ? 特別な能力を持った石。ちょっと見せてえな」
 徳井はピンときた。今ズボンのポケットに入っているプリナイトのことだ――。
 単刀直入に言われた徳井は彼の前に出すかどうか迷ったが、別に迷うほどのことでもな
いだろうと思い直し、ズボンから石を出して見せた。
「ほら、俺のはこれや」
「ほう。綺麗な石やないか。マスカットみたいやな」
 吉田はその石を手にとってじろじろと眺め回した。よっぽど気に入ったらしく、何度も
光に透かして見ている。その顔は初めて科学実験をした時の少年のような輝きを持っていた。
 徳井はそれを微笑ましく見つめていたが、おもむろに立ち上がった。どこ行くねん、と
言う吉田に、トイレや、と返し、徳井は用を足しに行った。
 徳井がトイレから帰ってきた時、既に打ち上げは終わろうとしているようで、ぱらぱら
と帰り出すスタッフの姿が見受けられた。あまりに長居しすぎてもしょうがない。俺らも
そろそろ帰るか、と相方の福田に声をかけ、徳井は店を出た。
188Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:11:30
「……あ」
 店を出てしばらく歩いたところで、徳井は突然歩みを止めた。一歩進んだ福田が、徳井
が立ち止まったのを見て後ろを振り返る。
「どうしたんや? 急に止まって」
「俺、あの石吉田に取られたままや」
 徳井は思い出した。そうだ、あの石を吉田に取られたまま、トイレに行ってそのまま店
を出てしまったのだった。徳井の背中を冷たい汗が伝う。
「あの石て……もしかしてあの、プリナイトっちゅう石か?」
 大変やないか、と福田は少し心配そうな顔で言った。徳井は焦っていた。あの石の能力
を吉田が知っているはずはないと思うが、万が一使われでもしたら大変なことになる。今
すぐ店に引き返そうかとも思ったが、自分たちが店を出たのと同じくらいの時間にブラマ
ヨの二人も店を出たはずだ。もう既に帰路についているだろう。
「どうしよう。今更戻っても無駄やろうし……」
 徳井が迷っている様子を見せると、福田は腕組みをして言った。
「うーん、そやなぁ。まああいつら石持ってても何もせんやろうし、分かったらお前に返
してくれるやろ」
「そやな。そう信じるしかないか」
 徳井は福田の意見に頷き、まあ今度にでも返してもらおう、と呟いた。少し酔っている
のでこれ以上頭が働かないというのもあったが、とにかくそこで考えるのはやめた。
 ブラマヨの二人とはよく共演するので、会う機会は多くある。その時に返してもらえれ
ば問題ないはずだった。
 納得した二人が再び歩き出した、その時だった。

「……お探しの石、ここにあんで」

 背後から聞こえた声に反応し、徳井と福田は足を止めて後ろを振り向く。
 そこには店で別れたはずの、小杉と吉田が微笑を浮かべて立っていた。
 普段と変わりないと思われた二人の表情に何かおぞましいものを感じた二人は、同時に
声を発していた。

「お前ら……どないしてん?」
189Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:12:41
 呟くように発せられた、徳井と福田の同時の問い。
 その問いに、小杉は笑い声をもらしながら答えた。
「どないしたて、そんな警戒すんなや。こうしてここに徳井の石を持ってきてやっただけやねんから」
 徳井はああ、と気が抜けたように声を出し、小杉と吉田の方に歩み寄った。
「おう、それやったら返してくれ。ちょうど良かった」
 徳井がそう言って手を差し出すと、今度は吉田が笑いながら、ぞっとするほど低い声を
出した。
「残念ながら、返すわけにはいかんねん。石は取ったモン勝ちやからな」
 その瞬間、徳井と福田は見た。小杉と吉田の笑顔が、不自然に歪んでいくのを。
 二人の突然の表情と言動の変化に驚きながら、徳井は震える唇を必死に動かして声を出
した。
「な、何言うねん。返すためにここに持って来てくれたんとちゃうんか」
「返したるなんて、一言も言うてへんけどな?」
 二人は笑ってはいるが、冗談を言っているような口ぶりでもないし、何より目が笑って
いない。唇も不自然に歪んでいる。
 徳井と福田は咄嗟に思った――これはヤバイんちゃうか、と。その瞬間、酔いが一気に
醒めた。
 しかしどうすることもできずにその場に立ち止まったままでいると、吉田は首からかけ
たチョーカーに手をかけて石を外に出し、再び口を開いた。
「とりあえず、や。一つは取ったし……あともう一つ、福田の石やな。お前持っとるんやろ?」
 福田に投げかけられた問いに対し、福田は咄嗟に嘘を付いた。
「も、持っとらんわ。そんな変な石なんか」
「嘘ついてもあかんで。お前俺に見せてくれたやないか、あの緑色の石」
 今度は小杉がそう発言し、福田はぴくりと肩を震わせた。確かについ先程、小杉と喋っ
ている時に石を見せた記憶がある。あっさりと嘘を見破られ、福田は悔しさに唇を噛みし
めた。
「だ、だから何やねん。なんでお前ら、そんなに石に執着するんや。こんなもんただの石
やないか」
190Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:13:57
 嘘を見破られた焦りと悔しさの混じった頼りない口調であったが、福田は必死にそう言
い返した。すると、小杉がちゃうちゃう、と首を軽く横に振った。
「ただの石やないから、俺らもこうしてその石に執着しとるんやないか。その石にも何か
の能力が宿ってるはずや。その上お前がこうして持っとるっちゅうことは、お前の使える
石ってことで間違いないやろ」
 その言葉を受けて隣の吉田はそうそう、と頷き、口を開いた。
「お前に使われたら困るからなぁ。その前にさっさと回収しとこうっちゅう話や。分かっ
たか?」
 分かったかと問われても、二人の話が見えないので徳井と福田は反応することができな
かった。ただむっと口をつぐみ、福田は自分の石をぎゅっと握ったまま二人を睨み付けて
いるが、徳井はまだ驚いた表情を残したままである。
「まあ、これ以上話してもしゃあないか」
 話が分かっていそうにない二人を見ながら、吉田がそう呟くように言った。吉田は小杉
と視線を合わせ、頷くと、チョーカーの紐を握って石をきらりと太陽の光に反射させた。
 そしてすう、と息を吸い込み、口をぱかりと開けた。

『徳井! もしお前の相方が死んだらどないすんねん!』

 その瞬間、福田の隣に立っていた徳井がはっとしたような顔になった。
191Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:16:29
「徳井くん!」
 福田が慌てて徳井の名を呼ぶが、彼は全く反応しない。その代わり、怯えたような顔つ
きになり、その場に崩れ落ちた。
「福田、お前……死んだんか? な、なんでや……なんでやねん!」
「ち、ちょっと徳井くん! 俺はここにおるやないか!」
 頭を振ってかなり動揺している様子の徳井の肩を揺すり、福田はそう叫んだが、徳井は
福田の言葉など耳に届いていないかのように、ただただ唇をわななかせるだけであった。
 ――これが、吉田の能力か!?
 福田ははっとして吉田の方を向くと、吉田はにやにやと笑っていた。
「成功やな。見事なもんやで」
「吉田、お前徳井くんに何してん!」
 福田が叫ぶと、吉田はその問いに答えた。
「幻影を見せてるんや。今徳井は俺がさっき言ったように、徳井の相方――つまり福田、
お前が死んだっちゅう幻影を見てる。面白い能力やろ?」
 吉田は満足そうに笑みを深め、己の石をちらちらとかざす。そうして話す、心底面白
がっているような、ふざけたような吉田の口調が、福田の癇に障った。

「な、何がおもろいねん! ふざけんのはいい加減にせえ!」

 怒りの表情を顕わにしながら、そう叫んだ途端。
 福田の握っている石が、急に熱くなったように感じた。
192Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 00:18:09
ブラックマヨネーズ・吉田敬
石:アクアオーラ(潜在能力を引き出し、空想やイメージを活性化)/チョーカー
能力…「もし○○になったらどうすんねん!」とありえない状況を提示する事により、相手に対してその状況下に陥った幻影を見せ、それによって相手を混乱させる。
   それによって相手を無防備にする事が可能。
代償…相手に対しての効果が切れた後、自分も同じ状況に置かれている幻影を見る。
   よって自分も全くの無防備になってしまう。


今回はここまでということで。
193名無しさん:2006/02/15(水) 01:15:07
◆TCAnOj2vJU氏 乙!
ブラマヨキタ――(゚∀゚)――!!
194名無しさん:2006/02/15(水) 01:21:39
トリップ間違えた…スマソ ちょっと逝ってくるorz
改めて◆TCAnOk2vJU氏 乙!
195 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:21:42
長い間空けてしまってすいません、南キャン編の続きです。



第十章〜あべこべかがみのむこうがわ〜



視界の悪さを研ぎ澄ました勘で補ってはいるが、視覚に頼らず相手の攻撃を正確に見切るのはかなり難しい。
「ぃっ…!」
手刀を弾いた時に手を浅く斬られたのも構わず、隙の出来た相手の懐に飛び込もうと一歩踏み込んだ山崎は、不意に膝に走った痛みに、ほんの一瞬思わず動きを止めた。
元々余り丈夫ではない上、昨日階段から落ちた時に打撲を負っていた右の膝が、悲鳴を上げたのだ。その事で逆に隙が生まれてしまい、降り下ろされた手を咄嗟に右手で掴んで山崎は歯を軋らせた。
上から押し込んでくるその力は、一般的な男女の力差を考慮に入れても尋常ではないと思える程に強く、手首を掴んでそれを押し止めている右手が、じりじりと下がっていく。
(んの、馬鹿力……!)
このままでは間違いなく押し切られるだろう。かといってただ攻撃を逸らしただけでは、大きな隙が生まれてしまう。
ここ数ヶ月の間にすっかり――不本意なのだが――喧嘩慣れしてしまった思考回路でそう判断した山崎は、相手の手を無理矢理振り払うと同時に右足を上げ、壁を蹴るような無造作な蹴りを繰り出した。
余り見栄えがいいとは言えなかったが、一切の手加減を忘れたその蹴りには、加速度と重さは十二分にある。油断があったのかまともに蹴りを食らった山里が数メートル吹き飛んだのを見れば、自ずとその威力が分かるだろう。
196 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:23:21
――ガシャン!

「っ……!」
勢い余ってフェンスに叩き付けられた山里が、初めてはっきりと苦痛の表情を浮かべた。
それを見ながら、攻撃を防ぎ切ったはずの山崎も眉を顰める。
蹴り飛ばした瞬間、微かに骨の軋む嫌な感触があったのだ。下手すれば肋骨に皹でも入れてしまったかもしれない。
あくまで自分の目的は相方を元に戻す――事が出来る人間のところまで引き摺ってでも連れていく――事だ。
半ば操られた状態の山里に余り酷い怪我を負わせるわけにはいかないのだが、咄嗟の事で加減が出来なかった。
手加減なしの蹴りはかなり効いたのだろう、山里はフェンスに凭れたまま動けないようだが、こちらも急激な運動量の増加に酸素の供給が追い付いていないのか、頭がくらくらして足元が覚束ない。
睨み合ったまま、一秒二秒と時間だけが過ぎる中、相方にここまで剥き出しの敵意を向けられたのは始めてだ、とふと思った。
猫を被っていると言えばそれまでだが、相方は――少なくとも自分とコンビを組んでからは――楽屋でも舞台でも滅多に怒らなかったから。
「――気に入らんな……今のあんたの目は」
呟いた声音は自分自身でも驚く程低く、雷を落とす寸前の雷雲のようで。
あぁ、やっぱり苛々してるらしい、と相変わらず他人事のように思う。
いや、苛々している、というよりは怒っているのかもしれない。それも、かなり強く。
(もしあたしがサイヤ人だったらスーパーサイヤ人になれるな、きっと)
わざとふざけた例えを持ち出して、怒りを鎮める。冷静さを欠けば、きっとそれは大きな隙となるだろう。
(そういえば、一度も言った事なかったな……)
腹黒いところも、女々しいところも、臆病で狡いところも、嫌いだけれど――それでも頼りにはしていたのだと、そう告げたら、どんな顔をするだろう。
自分勝手だと嗤うだろうか。
197 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:23:52
いつも、相方が愛想笑いばかり浮かべてなかなか本心を見せていない事は、気付いていたけれど許していた。
近所で有名な嘘吐き少年だったという相方が吐く見え透いた下手な嘘も、気付いていたし。
本番前、緊張している自分に「大丈夫」と声を掛けながら、相方も緊張で掌にびっしょりと汗をかいている事も、ちゃんと、分かっていたから。
だから、別に彼の本心を全て知りたいわけではないし、知りたくもない。
けれど――相方として信じて貰えなかった事が、頼って貰えなかった事が、酷く悔しかった。

『しずちゃん俺の事嫌いでしょ』

(あぁ、ったく――)
「――――――――――――――――」
偽りのない本音に、誰かの心に楔を穿つ程の力があるとしたら、この時の言葉がまさにそれだったのだろうが――。
「―――――――――――――――」
自分の耳にさえ届かないような小さな声で、半ば無意識に零れ落ちた言葉は、強いビル風に攫われて誰の耳にも届かない。
けれど、今の間になんとか動けるまでに回復したらしい山里は、まるでその言葉が届いたかのように、ほんの一瞬だけ――まるで泣き出しそうな子供のように――顔を歪め、その目に一段と強い殺気を込めて地面を蹴った。
ただ、脇腹に食らった蹴りがまだ効いているのか、その動きは先程までより僅かに遅い。
今の十数秒の間に僅かながら呼吸を整えた山崎は振り下ろされた手を避けると、追撃をかわす為に、砂塗れになるのも構わず咄嗟に地面を転がった。
一回転し跳ね起きると同時に身構えるが、山里の姿は既に視界から消えている。転がっている間に背後側に回った気配に山崎は気付いていた。
目に映る景色から、後ろが屋上の端である事が分かる。端である以上背後にそれ程空間はなく、距離も離れていないだろう。すぐ後ろに居るはずだ。
瞬き一つの間にそう判断を下し、耳を澄まして足音から仕掛けてくる方向を探ろうとする。

――聴こえた。

(右――!)
全力で石の力を開放出来る時間は残り僅かだ。次の一撃が勝負を決するかもしれない。
山崎は強く拳を握り締め、振り返り様に――
198 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:24:23

『確かにしずちゃんの勘は凄いけど、それに頼り過ぎると裏かかれた時に辛いよ?』

いつかの山里の言葉が、その瞬間鮮やかに蘇った。
拳を握ったまま、姿勢を低くし一歩後ろに下がる。自分の勘と感覚だけに頼らず、視界を確保する事を優先したのだ。
山崎が勘に任せてすぐさま反撃してくると思ったのだろう、守りを固めてから確実に迎撃しようとしていた山里が動くまでに、ほんの一瞬、隙があった。
彼女の戦い方を知り尽くしていたからこそ、判断を誤ったのだ。
その隙を見逃さず、一気に踏み込む。
渾身の力を込め、階段から突き落とされた時に出来た青痣が残る右膝を、その鳩尾目掛け思い切り叩き込んだ。
「……!」
鈍い音が響き、その膝蹴りをまともに食らった山里は衝撃に目を見開き、声にならない呻きを漏らして背中を丸めた。
(――あ)
山里の背後――そこに丁度大きなフェンスの破れ目がある事に、山崎がようやく気付いたのは、その時だ。
地面スレスレにあった破れ目の端に、衝撃で後ろに下がった左足が引っ掛かったらしい。山里の身体が、バランスを崩して大きく後ろに傾ぐ。
確認するまでもなく、その先に待っているのは――底の見えない闇。
「っ!」
一瞬息を呑んだ後、咄嗟に山里の腕を掴もうとしたのは、完全に無意識の行動だった。
片足を上げた直後でバランスが崩れている今、無理に山里を支えようとすれば、巻き込まれるのはほぼ確実だ。
だが、その時の山崎はそんな事は考えもしなかった。彼が自分を殺そうとしている事さえも、完全に頭から消えていたのだ。けれど――
目を細め、山里は差し伸べられた手を振り払った――まるで山崎を庇うかのように。
月を隠していた雲が流れ、細く欠けた月から降り注いだ淡い月光がその場を僅かに明るくする。山崎はその時確かに見た――山里の右目の虹彩を覆う黒い欠片に、縦に一筋、大きく罅が入っているのを。
それでも尚、その目は痛々しい程に全てを諦めていて。
その姿が、視界から消える。
(――ちくしょ……!)
普段の相方が聞いていたら「嫁入り前の娘さんが使う言葉じゃないよ」とでも突っ込みそうな、そんな言葉を無意識に心の中で叫びながら、山崎は石の能力を使う事も忘れ、迷わず底の見えない闇へ足を踏み出した。
199 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:25:24



鳩尾に叩き込まれた重い一撃は、苦痛を感じるよりも先に意識を遠退かせた。
視界が俄かに暗くなる中、腕を掴もうと伸ばされた手を目にし、そして振り払う――無意識に。
次の瞬間、自分自身の行動に山里は一瞬呆然とした。直後肺が引き攣ったような感覚がしたのは笑いの発作だったのかもしれないが、すぐに収まる。
耳ではないところで聞いた言葉が、心に深々と楔を打ち込んだ。真っ直ぐで、正直で、事実を的確に表した言葉。

『あんたならすぐに分かるはずやんか』
『好き嫌いの問題や、ないやろ?』

最初から、選択肢は二つしかなかった。
自分を苦しめるものを壊すか、それとも自分が壊れるか。
そして――自分に、彼女は殺せない。その事に、山里は気付いていた――今更。
そうだ、勝てやしない。勝つ気もない――本当ならば勝ち負けなんて概念すら必要ないのだけれど――。
踏み止まろうとした右足は上手く力が入らず、屋上の縁を踏み外す。ぐるりと視界が逆さまになった。
視界が暗転する。
なぜだか酷く笑いたい気分になり、山里はほんの少し、本人以外分からない程微かに笑みを浮かべた。
200 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:26:22



耳元でごうごうと風が唸っている。時間が間延びしたような奇妙な感覚に、鳥肌が立った。重力も身体の感覚も見失いそうな不快感に、思わず気絶してしまいたくなる。
歯を食い縛ってその誘惑を振り払うと、山崎は上――位置的には下なのだが――を見上げた。
山里は頭から真っ逆さまに落ちているというのに、身じろぎ一つしない。どうやらあっさり気を失ったらしい。
思わず心の中で罵詈雑言を叫びそうになるが、時間がない事に思い当たり慌てて頭の外に追い出す。
地上十五階からのフリーフォールだ。恐らくは地上まで五秒掛かるか掛からないかだろうし、このまま地面に叩きつければ即死は免れられない。
死の予感に悲鳴を上げる三半規管を強引に捻じ伏せ――少なくとも相方よりは度胸があるが、それでも山崎は普通の女性なのだ――壁を蹴り、僅かではあるが加速する。不快な感覚が更に強くなったが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
その努力が身を結び、精一杯伸ばした右手の指先が、なんとか山里の服の右袖に触れた。
そのまま手繰り寄せるようにして距離を詰めると、左手も伸ばし両手でしっかりと手首を掴む。
あっさり意識を投げ捨てた山里に軽く殺意を覚えながら――それでも見殺しにする気が起きない自分自身の馬鹿さ加減にうんざりもしつつ――山崎は胸元の石に意識を集中させようとする。
力をセーブすれば、二・三分飛べるだけの余力は残っている。落下を止めるには充分だろう。だが、この高さから落ちながら意識を集中させるのはかなり難しい。力が発動するのが先か、地面に叩き付けられるのが先か――。
(――こんなアホと心中して堪るか!)
不吉な考えを打ち消すように、本音半分、強がり半分の叫びを心の中で発し、山崎は砕けんばかりの力を込めて――急ブレーキの衝撃で手を離してしまわないように――相方の手首を握り締めた。

いつの間にか服の襟元から零れ落ちていた、天使の翼を模したペンダントヘッド――その中央に填め込まれた赤褐色の石が、一際強い光を放つ。
そして、その背に鮮やかな白い光が溢れ――
201 ◆8Y4t9xw7Nw :2006/02/15(水) 03:27:27
長くなってしまいましたが、あと2〜3回で終わる予定です。
もしよければ最後までお付き合いください。
202Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/15(水) 11:14:49
>>184-185のところ、数行文章が抜けてる…orz

 そこで福田もしばらくつまみを食べたり、酒を飲んでいると、小杉がそうや、と思いがけない話を切り出してきた。
「福田、お前石持ってるやろ?」
 福田の表情が一瞬固まった。突然の話に、どういう反応をすれば良いか分からなかったのだ。
 それを見て、小杉はやっぱりな、と言って笑いながら頷いた。
「実は俺も持ってんねん。ほら、これやねんけど」
 そう言って小杉が腕をまくって見せてきたブレスレットを、福田は食い入るように見つめた。

を挿入しておいてください。
スレ無駄消費申し訳ない…
203名無しさん:2006/02/15(水) 12:12:22
◆8Y4t9xw7Nwさん
 乙です
 続きメッチャ気になります〜
204Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:55:13
>>61-66 の続き

【22:28 都内・某TV局】

収録が一旦止まり、休憩となっているスタジオの片隅で。
仕事疲れとは明らかに異なるタイプの疲労をその面に浮かべた男達がパイプ椅子に腰掛けてそれぞれなりに佇みつつ、
スタッフの動きをぼんやりと目で追っていた。
「……………。」
「……でも、よ。」
その内の一人、上田が深く溜息をつけば、傍らの有田が続く沈黙に耐えきれなくなったのか、唐突に口を開く。
「何でアイツ…あんな真似しようって考えたんだろうな。」
「……………。」
アイツ、と有田が口にするのは土田の事。あんな真似というのは先ほど上田が石の能力で読み取った美術倉庫での出来事。
どこか別の場所にいたのだろう小沢を強引に呼び寄せ、話を持ちかけようとする彼の行動は余りにも奇怪だった。
『白い悪意』によって『黒』の側の芸人にも被害が及んでいるのだろう事は想像できる。
それを防ごうと躍起になろうという考え自体は有田達にも理解は出来なくもないが。

――『白も黒も関係なく』お前に頼みがしたい。
そう言い放ち、本来敵対しているはずの『白』の側の芸人である小沢と手を組もうとしてまで、彼が動く必要が何処にあるのだろう。
「今のところ、アイツが出しゃばらなきゃなんねーほど、『黒』は危機に瀕してるわけじゃねーんだろ?」
「一応は、ね。『白い悪意』が混乱を起こしてくれてるんでラッキー♪ みたいな考えの奴もまだ多いし。」
有田に問われ、堀内は腕を組んだままぼそりとそう返答した。
「…って言うよりも、俺が知ってる限り『黒』ン中でもあんなに『白い悪意』について詳しく知ってる奴って居ないぜ?」
もしかしたら幹部連中にだけ回ってる情報なのかも知れねーけどさ、と付け加えて堀内は言葉を続け、
本当に何考えてるんだろう、とでも言いたげに肩を竦めて見せる。
「何て言うか…まるで、いっぺんどっかでやりあった事があるみてーだ。」
205Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:56:03
「確かにそんな感じの詳しさだったよな…。」
堀内の呟きに、読み取った記憶の中での土田の振るまいが思い出され、上田は力なくそう口にする。
「まぁ、土田の方はそっちで見張るなり何なり頼むわ。こっちも次の機会にでもそれとなく小沢に聞いてみるから。」
「…ん、任せといて。」
本来は歓迎されない盗み見に似た真似で得た情報だ。さすがに直接当人にぶつける訳にはいかない。
どう行動するにせよ、まずは遠回しに本人の意思を確認してからだろう。上田に視線を向けられ、堀内は胸を張って頷いてみせる。
「でもよ、いつも言ってっけどさ、無茶だけはすんなよ。」
「わかってる。」
重ねて有田から掛けられる言葉に、堀内はにぱっと年齢にそぐわない少年のような笑みを浮かべた。
しかしその笑みは、心配されている事に照れると言うような物だったり、相手に心配をさせまいとするそれというよりも
危険を前にしてドキドキワクワクしている冒険好きの笑顔に見えなくもなく。上田はふっと苦笑いを浮かべるけれど。
案外そんな気構えでいた方が、何とかなるモノなのかも知れない。

「お待たせしましたー、スタンバイ、お願いします!」
スタジオの中央に組まれたセットの方から、スタッフの声が周囲に響き渡る。
「……じゃ、俺はこの辺で退散するわ。」
「おう、今日はわざわざ教えてくれてありがとうな。」
椅子からのそりと立ち上がる堀内に上田は告げ、自身も椅子から立ち上がった。

石の事を考えるのはここまで。ここからはまた仕事の方に意識を集中させなければ。
そう頭では理解できていたけれど。
「『白い悪意』…ホワイトファントム、か。」
セットの方へと歩き出しながら、石が読み取った記憶の中で土田が口にしていた単語をそっと上田も口にしてみた。
「確かにアイツが執着するんだ。そんだけの何かがあったんだろうけど、なぁ…。」
喉元のホワイトカルサイトに手を伸ばし、握りこんでみる。
206Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:56:35
……なぁ、お前も何か、記憶していないのか?
口に出さずに石に問いかける上田に応えるかのようにホワイトカルサイトが淡く瞬き、途端に上田のこめかみにズキっと強い痛みが走った。


 瞬間的に網膜に浮かぶは、何もかもが曖昧な、遠い風景。
 地面に転がる、幾人もの人影。その中には有田の姿も含まれている。ぽっちゃりした体型の男も、肩に掛かるほど長い髪の男も。
 その中で膝をつき、何とか起きあがろうとする上田の前には、彼らを護るように仁王立ちする、背の高い男。
 怒っている。本心をはぐらかすことの多い彼が、本気で怒っている。
 その視線の先には、フードの付いた白い長袖のパーカーを纏った小柄な男。
 八重歯を口元から覗かせて、こっちの男は笑っている。全身傷だらけなのに、それでも彼は笑っている。
 大柄な男の怒りなど軽く受け流し、笑いながらもたげられた小柄な男の右手から白い光の帯が放たれる。
 強い悪意と暴力性を秘めたその光を、大柄な男は目の前に作り出した緑色の輝きで吸い込んで。
 緑の輝きが消えると同時に現れた赤い輝きから、Uターンでもさせるかのように放ち返す。  
 今にも泣き出しそうな笑顔のまま、小柄な男は白い輝きに飲み込まれていった。


「………くっ。」
「…どうしたぁ?」
意図せずフラッシュバックされた記憶が起こす頭痛に思わず顔を歪めた上田に、心配の欠片も見あたらない口調ながら有田が呼びかけてくる。
ホワイトカルサイトに触れていた手をこめかみにやり、上田は首を横に振った。
「……いや、何でもない。」
一体今のが何だったのか思い出そうとするけれど。今度はホワイトカルサイトは何も答えなくて。
多分さっき石を使った反動かな…と眉をしかめながら上田が答えたりしている、ちょうどその頃。
くりぃむしちゅーの2人の楽屋にて、上田の携帯電話が一件の留守番メッセージを受け取っていた。
事態の進展を知らせるそのメッセージに彼らが気づくのは、もうしばらく先の事になるだろうか。
207Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:57:09
【21:54 渋谷・センター街】

ダルメシアンジャスパーの輝きに呼応するかのように、平井を中心にしてアスファルトの上に光の輪ができる。
平井がアスファルトを力強く踏みしめるとその輪は急速に広がっていき、彼の前に立つ白いパーカーの男をもその内側に飲み込むだろう。
「………っ!」
輪の広がりを視界の隅で確認し、平井はダルメシアンジャスパーを握る手に力を込めた。
再び石が強く瞬いて、光の輪の内側の空気の質が、変容する。
ただでさえ湿気を含んだ蒸し暑い空気がなおも重さと熱を増して、露わになった肌やその空気を吸い込んだ肺をジリっと焼く。

「…………。」
さすがに違和感に気づいたのだろう。白いパーカーの男の肩がピクリと動く。
今まで走っていたために滲むそれとは異なる汗を額や背中に感じながら、平井はようやく首飾りから手を離し、軽く身構えた。
その身体を、白いパーカーの男をも、ゆらめく陽炎が包み込む。
男の顎から、ぽとりと汗が流れて落ちた。
「…ふぅん。」
日中並の…いや、それ以上の暑さに包まれながら、白いパーカーの男は小さく呟く。
「所詮、その程度か。」
どこかで聞き覚えのあるような声で呟いたかと思うと、男は平井の方へと飛び込んできた。
一気に詰められる間合い。しかし平井の方も俊敏に後方へと跳び、差し伸ばされる男の腕は空を切った。

「この暑さでも動きが鈍らない…さすがは、噂になるだけあるって事か。」
ひゅう、と口笛に似た息を吐き、平井も呟く。
彼の首元で輝くダルメシアンジャスパーの秘めた能力は、持ち主である平井を中心として周囲の温度を上昇させる物。
直接的に攻撃できる能力ではないけれど、相手の動きを緩慢にさせ体力もじりじりと奪う、戒めの石という異名通りの力。
「大切な居場所を、そこにいるみんなを、お前に荒させはしない!」
滲む汗でシャツが身体に張り付く厭な感覚を覚えながら平井が吠えれば、石もそれに呼応して辺りの温度が更に上昇した。
動く事はもちろん、物事を考えるのも億劫になりそうな熱が2人を取り囲む。
208Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:57:55
それでも。
「身の程知らずが。」
ぼそりと言葉が漏れ落ちたかと思うと、白いパーカーの男は左の手のひらを平井の足元へと向ける。
刹那、石が持つ悪意の力がパッと強まったかと思うと、左手から出現したのは白い光の帯。
「……くっ!」
足を狙われたかと平井が飛び退くのと白い光がアスファルトを強烈に叩くのはほぼ同時。
弾けた光が衝撃と共に熱を持つ空気と混ざり合い、一瞬だけ平井の視界を塞ぐ。

けれど、その一瞬で。男は身体を焼く熱など微塵も感じさせない素早さで平井の方へ踏み込む。
目の前の光の膜を突き破るかのように伸ばされくる男の右手が、平井のシャツの襟首を掴んだ。
「………死ね。」
「…………っ!」
しまった、か。それとも嘘だ、か。
間合いが封じられ、白いパーカーの男の手を振り解こうと身をよじりながら、思わず何かを言いかける平井の視界が急転する。
感じるのは足に掛かる鋭い痛み。一度の足払いで簡単に崩れる身体のバランス。
シャツの襟首を掴む男の手に強い力が掛かり、平井の軽い肢体はアスファルトに叩きつけられた。

「ぐ…っ…!」
もしこれが柔道の試合なら、これ以上ない一本勝ちとなるだろう男の投げ技。
イヌがニャーと泣いた日のコントの見せ場である合体技の為に積み重ねた練習のお陰で、無意識のうちに受け身を取れたため
平井は後頭部を打ち付けて昏倒する最悪の事態だけは回避する。
けれど、アスファルトと激突した身体が受けたダメージは大きく、起きあがろうとするための力が入らない。
209Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:58:34
「どうしたの? 僕をここで止めるんじゃなかったの?」
力を発揮するための集中が解け、ダルメシアンジャスパーはしばし輝きを失う。
呼吸と共に上下する平井の胸元で揺れる、その石があしらわれた首飾りを踏みにじるかのように。男は平井に右足を乗せ、笑った。
「口ほどにもない…お前のような邪魔な芸人が居るから…………そう、芸人はみんな消えてしまえばいい。」
平井の顔面に向けた白いパーカーの男の右手の平に、強い悪意と共に白い輝きが集い始めた。
これを喰らえばひとたまりもない事ぐらい、平井にも敢えて考えずともわかる。
しかしこの至近距離かつ回避を封じられた状況で、どうすれば良い?
まさに絶体絶命。そう言わざるを得なかった、その時。



「お前ら、何やっとんねんっ!」
不意に、周囲に素っ頓狂な叫び声が響き渡った。
その声色に平井は聞き覚えがあり、その良く張った声量とも相まって通りすがりの一般人でない事は明らかで。
「……逃げろ!」
平井がそう叫び返すのと、白いパーカーの男が平井に向けていた右手を声の発された方へ向け、白い光の帯を放つのと。
殆ど同時の出来事だった。


210Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 17:59:56
【22:03 都内・某墓地】

赤い亀裂から足を踏み出し、靴越しに土の感触を確かめて。そこで小沢はふぅと深く息を吐いた。
身体を取り囲むのは蒸し暑い夏の空気。遠くから聞こえるのは、はしゃぐ芸人達の声と、蝉の鳴き声。
……帰って、来れた。
ここが最初の墓地である事を確認するように小さく口にして、小沢は彼と同じように亀裂から吐き出された川元の方を向く。
ポーカーフェイスであるためにその真意は容易に察せる物ではないが、疲労の色が濃さげなのは相変わらずのようで。

「……すみませんでした。」
その彼の口がわずかに動き、抑揚のないぼそりとした言葉が漏れる。
「ん?」
「……騙したりしてた事。」
シャツに引っかけていたネクタイピンを外し、無造作にボトムのポケットにねじ込みながら。川元は足元の土に視線を落とし、告げる。
「確かに不意打ちは勘弁して欲しいけど。ま…今回に関しては気にしてない、から。」
ここで川元を責める事は簡単だろう。しかし小沢はもう一度深く息を吐いて顔に笑みを作り、そう答えた。
「え……っ?」
「土田さんが喋ってた時、後ろでこっそり石をスタンバイさせてたでしょ?」
まさかそこで小沢が笑うとは思わなかったのか、ハッと驚いたように川元は小沢の方を向く。
「何かあったら、止められるように。」
「……別に…約束が破られると、色々面倒な事になりますから。僕、面倒事は嫌いですし。」
さすがは石に対して特に鋭い感覚を持つと『黒』に恐れられている人物。
口には出さずにそう呟き、川元は微笑む小沢から視線を逸らし、つっけんどんにそう告げた。
211Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 18:00:41
「ありがとう。」
「…………。」
詫びたつもりが何故感謝の言葉を貰っているのだろう、と困惑するように川元は頭を掻く。
その様子がおかしくて、小沢はくすりと小さく笑って。
「あ……。」
耳に入ってくる慌てたような足音と石の気配に、それが近づいてくる方向を向いた。


「おざーさぁんっ!」
「小沢! ……と川元!」
殆ど同時に発せられる声に川元も小沢が見やる先へと視線を向ける。
そこには、声の発生源である井戸田と設楽がいて。それぞれ心配と安堵をない交ぜにしたような表情を浮かべながら、
夜の闇をかいくぐって一歩一歩2人の方へと駆け寄ってきているようだった。
212Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/15(水) 18:10:40
たいがぁー(イヌがニャーと泣いた日)

石:ダルメシアンジャスパー(名前通りダルメシアンの毛皮に似た白黒模様のジャスパーの一種。「戒めの石」)
能力:ネタの終わりに語るような「熱い台詞」を言い放つ事で、自分を中心に半径5mの空間の温度を上昇させる。
 上限はその時の本人の体力と気力にも寄るが50〜60℃ほど。
条件:領域の中心が常に本人なので、一度使う度にかなりの体力を消耗する。


今回はここまで。
最初に「全体からすると番外編」と書いた通り、今回の上田さんの奴のように
ボキャ天時代も石の戦いがあった設定での回想がこれから何度か割り込んできます。
その点どうぞ御了承ください。
213名無しさん:2006/02/15(水) 22:26:06
もう素晴らしい文章能力にGJの嵐!
214名無しさん:2006/02/15(水) 22:35:02
GJ!読んでて燃えてくるw
続きをwktkしながら待っております
215名無しさん:2006/02/16(木) 12:27:15
保守
書き手の皆様乙です。
216名無しさん:2006/02/16(木) 20:01:25
たいがぁー!GJGJGJ
217名無しさん:2006/02/17(金) 07:57:58
保守age
最近になってここに気づきましたよ!
皆様GJ!
218名無しさん:2006/02/18(土) 01:01:50
保守
219名無しさん:2006/02/18(土) 17:09:45
保守&乙!!!
220名無しさん:2006/02/18(土) 18:55:20
保守
221Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:43:30
前回投稿からの時間が短すぎないかなと心配しつつ。第3話投下します。

 福田が怒りを顕わにして叫んだ瞬間、石が熱を持ったように感じられた。
 しかし、そのすぐ後に福田がはっとして指の隙間から石を覗いた時は、既にその熱さは
消え去っていた。気のせいか、と思い直し、福田は再び吉田を睨み付ける。
「言うとくけど、全然ふざけてなんかおらんで。大まじめや」
 吉田は福田の行動にも気づかないまま、福田の叫びに対し言葉を返した。
 その後さてと、と言って再び石を光に透かす。
「跳ね返ってくる前に、決着つけとかんとな」
 その言葉で、確実に次の行動に移るのだと悟った福田は思わず身構える。構えたところ
でどうにもなりそうにない、厄介な能力を使う奴だとは思ったが、そうする以外に自分の
取るべき行動が思いつかなかった。
 対する吉田はふう、と一息ついた後、がっと口を開けて再び大声で叫んだ。

『福田! もしお前のいる場所に、ちょうど隕石が落ちてきたらどうすんねん!』

 うわっ、と声を上げて、福田は思わず顔を手で防ぐ姿勢をとっていた。
 目を閉じながら、福田はぼんやりと思っていた。自分も吉田の妄想に飲み込まれ、徳井
のような無防備な姿になってしまうのか。そして、石は奪われるのか――。
 しかし福田に、その瞬間はいつまで経っても訪れなかった。
 あれ、と手を下ろし、向かい合う吉田と小杉を見つめる。吉田と小杉にとっても予想外
の出来事だったようで、二人とも焦っている様子だった。
「な、なんでや?」
「お前、何ともないんか?」
 小杉と吉田がかなり焦った様子で福田に尋ねてきた。
「ああ。別に、なんともないけど」
 なんと緊張感のないやりとりだろうと思いながら、福田は首を傾げた。徳井はあんなに
も動揺していたのに、自分には全くそんなことがなかった。
 ふと、福田は手の中にある自分の石を握り返す。すると、今まで冷たかったはずの石が
じんじんと熱さを帯びていた。
 そこで福田は先日、徳井が石の能力に目覚めた時のことを思い出す。あの時確か徳井
は、石が熱を持っているのだとしきりに訴えていた。
222Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:44:54
 ――まさか、これが俺の能力?
 吉田の能力が福田に効かなかったことと、関係があるのかもしれない。
 現に吉田は、福田の目の前で石を握ってかなり動揺していた。
「なんでや!? これ、ちっとも反応せえへん!」
 そう叫ぶ吉田は、どうやら石の能力が使えないことを嘆いているらしかった。隣にいる
小杉が必死になだめているが、一向に興奮が収まる様子がない。
 彼の動揺した顔は、今までの歪んだ顔からは想像できないほど、素に近いものだった。
いつもロケや無茶な企画をやらされて、危険な状況に置かれた時の彼の顔、そのままである。
 その顔を見て、やっぱり吉田は吉田や、と呑気なことを一瞬思ってしまった福田は、首
を振ってその思いを振り払った。
 それからしばらく二人の話が終わるのを待ってみるが、終わる気配すら見せないので、
やっと福田は不服そうに声を上げた。
「ちょっと! 話はまだ終わってへんやろが。騒ぐんは勝手やけどなぁ、徳井の石返してからにせえ!」
 そこでようやく、吉田は騒ぐのを止めて小杉と共に福田の方に向き直った。
「それはあかん。そんなん言われて、はい分かりましたって返す奴がおると思うんか」
 そらそうか、と福田はため息をつく。だからといって、そのまま彼らを見逃すわけには
いかない。福田は石を握りしめたまま、じり、と足を後ろにずらした。
「おい。どうしても返してくれへんのやったら、力ずくでも取り返すで」
 福田は挑戦的な態度に出た。特に腕っ節に自信があるわけでもないが、最終手段として
はやむを得ないだろう。
223Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:46:16
 すると先程まで笑みを浮かべていた二人の顔から、急に表情が失せた。冷めた目つき
で、吉田は福田を睨み付けてくる。
「そんなに言うんやったら、取り返してみいや。石は小杉が持っとるわ」
 そう言われて福田が小杉の方に視線を移すと、小杉は手に持った石を福田の方に見せて
きた。それはまぎれもなく徳井の石。福田はすぐに小杉の方に行って石を取り返そうと
思ったが、小杉が挑戦的な目つきで睨んでくるのを見て、躊躇してしまった。
 何しろ小杉は体育会系だ。福田よりは鍛えられた頑丈な肉体を持っている。力ずくでは
勝てないかもしれない。
 その一瞬の躊躇が、福田の隙を生んだ。
「迷ってる暇なんかないでぇ!」
 小杉に物凄い勢いで突進され、福田はバランスを崩してその場に倒れ込んだ。覆い被さ
れ、石を取られそうになるが、福田は強く石を握ったまま決して渡そうとしなかった。そ
れが今の福田にできる、唯一の抵抗だった。
 しかし、やはり小杉の力は強い。腕を掴まれたり、地面に叩きつけられたりしているう
ちに、福田の体力は徐々に失われていった。
「早よ放した方が、身のためやと思うけどな」
 苦しさに喘いでいる福田の耳に入ってきた、小杉の冷たい声。その声と同時に、福田の
腕はより強い力で押され、福田は思わず石を放してしまいそうになる。しかし危ういとこ
ろで、なんとか手のひらに力を入れて石を落とすまいとした。
 おそらく小杉は、福田が石から手を放すその瞬間を狙っていたのだろう。ちっと舌打ち
するのが聞こえ、小杉はそのまま言葉を続けた。
「ほんまにしぶとい奴やな……あんまり手荒なことはしたくなかったけど、こうなったら
しゃあないか」
 そう言い終わった瞬間、小杉の拳が福田の顔の真上に上げられた。福田は顔が引きつ
り、体が固まった。この後の彼の行動は容易に想像できる。福田は恐怖を覚えていた。
「石を渡さへんかったこと、後悔するんやな!」
 小杉の鋭い声が響き、拳が一直線に福田の顔面に落ちてくる。
 福田はぐっと目を閉じて歯を食いしばり、その後の瞬間を覚悟した。
 

 ドカッ、という鈍い音が、空に響き渡った――。
224Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:48:08
「……おい小杉。それはやりすぎとちゃうか」
 相方の落ち着いた声が聞こえた気がして、福田ははっと目を開けた。
 自分の体が押さえつけられている感覚がなくなっていたので、慌てて起きあがり、自身
の体を見回した。
 先程まで小杉に押さえつけられていた痛さは少々残っていたが、どうやら直接小杉に殴
られたわけではなかったらしい。じゃあさっきの音は、と福田は小杉を見て、あっと声を
上げた。
 小杉は福田の目の前で、痛そうに頭を押さえていたのだ。
 そしてその傍らには、怒りを顕わにした相方・徳井の姿。拳を胸の前にかざし、小杉を
睨んでいる。
「ちょ、徳井くん、なんで……」
 福田が起きあがったのに気づいたらしく、徳井は安心したように軽く息を吐いた。
「危ないとこやった。福田、怪我ないか?」
 徳井の問いに、再び体を見回して大丈夫や、と頷く福田。
「でも、なんで小杉が――」
「何すんねん、徳井!」
 福田が再び徳井に問いかけようとした時、頭を押さえていた小杉が立ち上がり、徳井の
方に凄い剣幕で詰め寄った。一方徳井はあくまでも冷静なようで、詰め寄られても表情を
一切崩さない。
 徳井がやばい、と思って福田が立ち上がった時、小杉は徳井に向かって脅すような口調
で言った。
「おい、ほんまに容赦せえへんで。それでええんか? あ?」
「小杉。俺に構ってる場合か。お前の相方、大変なことになっとるぞ」
 徳井は冷めた口調でそう言い、吉田のいる方を指差した。つられて小杉、福田がそちら
を振り向く。
 するとそこには、すっかり取り乱してしまっている吉田の姿があった。先程まで暗示に
かけられていた徳井と同じ顔をして、何か言っている。福田が小杉の方を振り向くと、小
杉は悔しそうな顔をしていた。
225Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:49:01
「くそ、もう切れたんか……間に合わへんかったか」
「何がどうなってんのかは知らんけどな。早よ行ってやった方がええんとちゃうか?」
 小杉にそう言う徳井。小杉はくそっ、と舌打ちし、相方の方へ駆けていこうとした。し
かしその片腕を、今度は福田が強く握った。
 小杉は驚いたように福田の方を向き、ふりほどこうとするが、福田と一緒に徳井もその
腕を握り、絶対に振りほどかれないようにした。
「おい。それは後の話や。徳井くんの石返すのが先やてさっきから言うてるやろ」
 福田がそう言うと、小杉は不機嫌そうにふん、と鼻を鳴らして叫んだ。
「何を偉そうに言うとんねん!」
 その瞬間、徳井と福田は小杉の強い腕力に引っ張られ、バランスを崩して倒れていた。
二人がかりで押さえかかっても、やはり小杉の鍛えられた腕力には敵わない。
 苦渋に顔を歪める立場が逆転し、チュートリアルの二人は体を起こして同時に小杉を睨
み付けた。先程振り回されて倒された時の痛さで、すぐに立ち上がれるような状態ではない。
 小杉は二人の視線を受け、再び鼻を鳴らす。
「しばらくそのまま座っとけ」
 そう言い捨て、小杉は未だに動揺し続けている吉田の方へ行き、腕につけたブレスレッ
トの石を握った。
「ほんまに、これがあるからお前の能力はちょっと厄介なんや――」
 呆れたようにそう呟いたかと思うと、すう、と息を吸い込み、小杉は吉田に向かって思
いっきり叫んだ。
『吉田、お前考えすぎやねん!』
 その途端、吉田がはっとして動きを停止させた。きょろきょろと辺りを見回し、隣に小
杉が立っているのを見て、お、おう、と言いながら手を挙げる。
「なんや、もう跳ね返ってきとったんか……」
「ほんまに、手間かけさすな。それより早よ、あいつらにもう一回暗示かけたってくれ」
 小杉は顎で、そろそろと立ち上がり始めたチュートリアルの二人を指す。吉田も素早く
立ち上がり、分かった、と小杉に向かって頷いた。
226Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:50:48
 一方チュートリアルの二人は、痛みに耐えながら立ち上がり、同時に頷いてブラックマ
ヨネーズの二人の方へと駆けだしていた。
 二人でぶつかっていき、一気に徳井の石を奪い返す作戦である。単純ではあるが、何も
武器を持たない彼らにはこうするしか対抗手段が残されていなかった。
 それに気づいた様子の吉田と小杉は素早く反応し、吉田が叫んだ。
『お前ら、地面が突然崩れて落ちてったらどうすんねん!』
 その瞬間、チュートリアルの二人は動きを止め、あっという間に崩れ落ちた。二人とも
首を振り、息も荒く何かを呟いている。
 暗示にかけられた状態というのは、例えどんなに精神が強靱な者であろうともただ無防
備になるしかないという恐ろしい状態である。ちょうど海で溺れる夢を見て、はっと起き
たら、まるで水の中でもがいていたように息が荒くなっていた――そんな状態なのだ。
 無防備になった二人の姿を見てにやりと笑い合い、ブラックマヨネーズの二人は福田の
方に近づいていった。この状態でも石を握りしめている福田に、ある意味感心するけどな――
と吉田は笑い、福田の拳をほどき、彼の石をやすやすと手に入れた。
「これで終わりか。なんや呆気なかったなぁ」
「はは、ほんまや。小杉、後で俺に跳ね返ってきたら、頼むぞ」
「了解や」
 二人は再び笑い合い、動揺したままのチュートリアルの二人を置いてその場を立ち去ろ
うとした。

「――そこのブラックマヨネーズの二人」

 自分たちのことを呼ばれたような気がして、吉田と小杉は周囲を見回す。
 しかし声の主は見つからず、二人がそのまま帰ろうとした時だった。
「吉田も小杉も、どっちも大怪我して倒れとけ!」
 声がその場に響き渡った途端、吉田と小杉は声を上げる間もなく、何か強い力を受けて
その場に倒れ込んだ。あまりに強い力だったのか、二人は倒れたまま動かなくなった。
227Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:51:59
 一方、早くに暗示が解けた福田は徳井を揺すり、徳井に我を取り戻させた。二人は立ち
上がり、その後福田があっと声を上げた。
「やばっ、俺の石なくなってる!」
「えっ、嘘! 取られたんか?」
「かもしれん……くそっ」
 福田が悔しそうにそう吐き捨て、ふと周りに視線を動かした時だった。自分たちがいる
場所の近くで、完全にノックアウトされているブラックマヨネーズの二人を発見したので
ある。
 福田は慌てて徳井にもそれを気づかせ、二人はブラックマヨネーズの二人の倒れている
方に駆け寄った。
「おい、どうなってんねん。こいつら倒れてるやんか」
「そんなん、俺にもわからん」
 徳井の問いに、福田も首を振る。自分たちに暗示をかけ、有利になっていたはずの彼ら
が何故こんな場所で倒れているのか、見当もつかなかった。
「よう、徳井に福田」
 二人が首を傾げてその場に立ちつくしていると、突然前の方から一人の男が手を挙げて
歩いてくるのが見えた。その男の姿を確認した途端、福田と徳井は同時に声を上げた。
「たむらさん!」
「なんとか、助かったみたいやな」
 そこには、「せやねん!」での共演者の一人・たむらけんじが、にっと笑いながら立っ
ていた。
228Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/19(日) 00:07:48
チュートリアル・福田 充徳
石:ヴァリサイト
効能:物事を冷静に見つめる助けを促す。
能力:相手の能力を一時的に使えなくする。
   また、使い方次第で相手の興奮や精神ダメージを癒すように持っていくことも可能だが、
   直接働きかけることはできず、その手助けをするのみ。
条件:ツッコミ台詞において能力発動。
   一度の発動で抑えていられる時間はその時によって様々で、1分〜5分間。
   これを福田自身が決めることはできない。
   また、抑えていられる時間を超えてなお抑えようとすると大量に体力を消費する。

ブラックマヨネーズ・小杉竜一
石:ドロマイト(弱気を払い、積極的で大胆な行動ができる)/ブレスレット
能力:「考えすぎやねん!」と一喝することにより他人の抱く迷いをかき消す事ができる。
   ちなみに、アクアオーラ使用者が代償として見ている幻影に対しても効果はある。
   また迷いを消した後「○○したらええんちゃう?」とアドバイスすることにより、
   相手を実際そのアドバイス通りに行動させる。
条件:アドバイスは悩みに見合った適切なものでなくてはならない。(朝早く起きたい→目覚ましセットしたら? 等)
   故に、小杉が相手の悩みを把握していなければならない。
   また、アドバイスした人物が目的を達成した時点でその暗示はとける。

たむらけんじ
石:ロックルビー
効能:感情の解放。心の痛みを癒す効果がある。
能力:「○○死ね!」等と芸人の悪口を名指しで言うことで、その芸人に
   自分の今の気分の高まりをそのまま物理的ダメージとして与えることができる。
条件:必ず名指しで悪口を言わなければならない。
   また、相手にぶつけられた感情エネルギーは消費するため、発動するとしばらくローテンションになる。
   その間に再び能力を発動しても、気分が高まっていないために大したダメージにはならない。


今回はここまでです。一応三人の能力を出してみました。
229名無しさん:2006/02/19(日) 00:24:44
TCAnOk2vJU氏乙!!!!
福田って小杉のことさん付けしてたような・・・
自分の勘違いだったらスルーして
230名無しさん:2006/02/19(日) 15:11:10
たむけん、ちょっとだけカッコイイw
231名無しさん:2006/02/19(日) 19:09:45
ゲーム化の話が止まってて(´・ω・`)
232名無しさん:2006/02/20(月) 12:31:17
乙です!
ブラマヨが強いのかチュートが弱いのか・・・鍛えとけよw
たむけん、いいところで登場したな〜
233名無しさん:2006/02/20(月) 14:12:53
保守age
234 ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:08:41
こんばんは。よゐこメインの短い話を投下させていただきます。
のんびりというかゆるい感じになりました。
235Where,here ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:10:11

 あるバラエティー番組が収録されている某テレビ局のスタジオ。
 各自がそれぞれの仕事をこなし、順調に進んでいたはずのその進行に異変が起きたのは、ちょうど撮影スケジュールを半分ほど過ぎたころだった。

 「…で、その辺有野さんは…。……えっ?」
 「…………」
 「……、一旦止めます!」

 司会を務める女子アナウンサーの声が戸惑いを残して中途半端に消え、場に不自然な空白が空いた。
 スタッフが慌てたように指示を飛ばす。芸人のやりとりに笑いが起きていた舞台裏が、急にどたばたしはじめた。
 それというのも番組に出演していたよゐこの大きい方こと有野晋哉が、なぜかその場から消えていたからだ。さっきまでは確かに(積極的に前に出ているわけではなかったが)何度か発言もしていたというのに。
 「有野さんは?有野さんどこ行っちゃったんだ!?」
 大勢の目が集まる収録中に姿を消すことなど普通に考えればできるはずがないのだが、現に有野の姿は見当たらない。予想外の事態に混乱するスタッフをちらっと見て、ぽつんと取り残された格好の有野の相方・濱口優は困ったように頭を掻き、ふと自分の左側へ顔を向けた。

 「…やっぱりおかしなことになってるで」
 「……うん…」

 彼の言葉に返事をしたのは今目下捜索されているはずの、有野だった。
236Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:13:39
 
 状況を説明するには数時間前までさかのぼる必要がある。
 “黒側の連中に襲われたので、石を使って撃退した”
 話はそれだけなのだが、「石を使った」こと自体が有野にとっては誤算だった。本当はそんなもん使わんで逃げたらよかった、というのが本音だ。
 数で攻められ、濱口の能力だけでは対応しきれなかったというやむを得ない事情からだったが−ともかく有野は自分の能力を使い、襲ってきた人々にすみやかにご退場を願った。
 最後の1人が気を失うのを確認し、ふう、と息をついた有野は、すでに身体を覆う不快な倦怠感に嫌な予感をつのらせながら、念のために濱口にこう尋ねた。

 「………どう?」
 「…うん、薄い」
 「………」

 有野の能力は影を操ること。
 そしてエネルギーの消費による負荷は、文字通り「影が薄くなる」ことだった。


 時間を現在に戻そう。

 つまりはじめからイスに座ったまま一歩も動いていない有野は、存在感の極端な欠如によって、いなくなった、と周りに思い込まれているのだった。
 途中まではなんとか目立たない程度で済んでいたものの、微妙に収録が長引いたせいで気力がさらに減少したのか、彼の気配は今、それはもう見事に消えていた。何度か「ここにいますけどー」と呼び掛けてみたが、その声もどうやら認知されていないらしい。
 濱口は有野の石のことをよく知っていたし、それになにより相方であるから本当はそこにいるのだと正しく認識できていたが、さすがにこの妙な状況を解決する手段までは持っていなかった。
 有野が「見つからない」こともあり(この知らせを聞いて有野の両肩がガクンと下がったのを濱口は見た)収録はそのままなし崩し的に休憩時間に入った。
 共演者の1人が事情を飲み込めない顔のまま濱口に「相方どうしちゃったんだろうねえ」などと声を掛けてくる。濱口はねえ、と曖昧に笑い、傍らの有野にこっそり合図を送ってスタジオを抜け出した。

237Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:15:42
 
 「…アカンな、完っ全にお前の気配消えとるわ」
 「もぉ…腹立つわー、人の目の前で『有野さん?有野さん!?』て…俺ここにおるっちゅうねん!」
 「ははは」
 「いや、笑わんといてよ…どうしよかなぁ」

 行った先はスタジオ前にある廊下の突き当たり。相方の心底困った声とぐったりした横顔に、濱口はようやく笑いを飲み込んだ。
 確かに何の断りもなく番組中に「いなくなった」と思われているのはあまり歓迎すべき状況ではなかった。番組の進行云々だけでなく責任が問われる話にもなる。
 有野の目の前で有野がいなくなったことに関して自分だけが怒られている情景が頭に浮かび、濱口はややこしくなってきたな、と眉を寄せて呟いた。

 「どうしたらええの?それ」
 「うーん、もうちょっと気力戻ったら多分、みんなに気付いてもらえるぐらいにはなると思うねんけど」
 有野は自分の言葉に自分で傷付いたような表情を浮かべる。
 と、揃ってため息をついた彼らに声を掛ける者がいた。

 「おう、何やってんだ?2人して」
 「カトさん…」

 2人の目の前には深夜からゴールデンに至るまでずっと共演してきた仲間であり付き合いの長い男、極楽とんぼの加藤浩次が立っていた。
238Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:19:45
 「そっか、お前らこっちで収録やってんのな」
 聞けば加藤は隣のスタジオで別番組の収録に参加しており、偶然そちらも休憩に入ったところらしい。
 相変わらず慌ただしいスタッフの出入りを不思議そうに眺める彼に、濱口がここまでの状況を簡単に説明する。

 「…あー、石か。有野のあれ、そういう意味じゃ一番きっつい副作用だよなあ」
 冗談じゃねえよな正当防衛だっつうのに。
 乱暴だが気遣うように声をかけてくれる加藤の目がちゃんと自分の姿を見ていることに安堵しながら、有野は僕どうしたらいいっすかね、と途方に暮れた声を出した。

 「このまんまやったら絶対2人とも怒られるんですよね」
 「えー、おかしいって!有野ここおるやんけ!」
 「そりゃ納得いかねえわ…よし、ちょっと待っとけ」

 加藤はバタバタとスタジオの方へ駆け出していき、ほどなくして手に紙コップを持って戻ってきた。
 「気力が戻りゃいいんだろ?ちょっと強引だけど、多分これで元気は出るから」
 そう言ってポケットから何かを掴み出すと、目を閉じて意識を集中する。
 すると加藤の手の中で濃淡のある灰色の光が輝いた。2人の持つそれぞれの石に独特の波動が伝わる。
 「「あ」」
 濱口が目を丸くし、有野がカトさんも持ってたんや、と呟く。
光が収まると加藤はコップの中身を確かめ、よし、と頷いてそれを有野に差し出した。

 
239Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:21:30
 「…何すか?これ」
 「俺の石な、液体なら何でも酒にできんだ。で、飲みゃ気力も体力も回復すんの。飲んどけ」

 収録中に酒入れるのはあれだけど、この状況なら仕方ねえだろ。加藤はそう続ける。
 有野はおそるおそる中の液体を少しだけ飲み、「わっ、ほんまに酒や」と驚いて目を見張った。
 「マジで?すごいやん、カトさん!有野ちょっと俺にも飲まして!」
 「バカ、やめとけ!お前酒弱えだろ、飲めない奴には逆効果なんだよ!」
 それにお前は十分元気だろうが−あわてて止められた濱口が不服そうな表情を浮かべる中、有野はコップに入った分をすべて飲み干し、はあ、とひとつ息を吐いた。
 身体の中を液体が通っていく感じに続いて、そこからエネルギーが全身へ浸透していくような感覚が広がる。
面白い味やけどけっこううまいな、などとのんきなことを考えているうちに、まとわりついていた独特の疲労感は次第に薄まり、やがて消えていった。

 「あ…なんか効いてきた。ありがとう、カトさん」
 「おう。多少存在感出てきたぞ」
 「マジっすか。早いなあ」

 有野が苦笑するのと同時に、「あーー!!」と大声がその廊下に響き、3人は思わずビクっと身を固くする。
 何事かと振り返ってみれば、スタッフの1人が有野の方を指差してわたわたと叫んでいた。
240Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:22:35
 「あ、有野さん!!どこ行ってたんですか!?探したんすよお!」
 「え、いや、俺どこにも行ってへんよ?」
 「うわーよかったあ!有野さん見つかりましたー!確保しましたーー!!」

 有野の声など耳に入っていない様子のその若いADは、興奮した声で報告しながらスタジオへ走っていく。

 「…確保されてもうたな」
 「まあ、これで大丈夫だな」
 「俺犯人ちゃうわぁ…」

 うんざりした顔で呟く有野を横目に、濱口と加藤は思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
 「再開しまーす!」
活気に満ちた声がスタジオ内から聞こえる。3人はじゃあ、と挨拶を交わし、それぞれの仕事場へと戻っていった。


 共演者やスタッフに適当な理由を説明して頭を下げ(しかし濱口にだけ聞こえる声で有野は「理不尽や」と呟いた)その後は何のトラブルも起きることなく、収録は終了した。
 余談だがその番組が放送されたころ、それまでいつも以上に地味だった有野がある地点から急に目立ち始め、いつになく積極的に発言も重ねていたので、笑いつつも「珍しいこともあるもんだ」と首を傾げた視聴者も多かったという噂だ。
 最も彼がなぜ唐突にそんな存在感を発揮したのか−アルコールが入ると有野はたまにとても活発になるのだが−その理由は本人たちと加藤しか、知り得ないことなのだけれど。
241Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:23:37

有野晋哉(よゐこ)
 石:テクタイト(隕石の衝突によって生じた黒色の天然ガラス。石言葉は霊性)
能力:自分の影を実体化(多少なら変形も可)させて操る。または影と同化して移動する(※気力を大幅に消費する)。
条件:自分に影ができていること。影の濃さは強さと比例し、その時の影の長さで伸ばせる限度が変わる。同化しての移動はあくまで平面的なものに限られ(空間は移動できない)他の大きな影に入ったりすると解除される。同化と同時に影の操作は不可能。
自分の完全な同意者であれば、他者の影を使用したり一緒に影と同化することができる。
気力が減ると吐き気・頭痛など体調が悪化するほか、存在感が薄れ他人に認知されなくなる(いてもいないと思われるので、無視されたような状態になる)。ただし有野と近しい人物はその影響を受けにくい。

加藤浩次(極楽とんぼ)
 石:デンドライト(体外のエネルギーやチャクラのエネルギーを動かし、足から頭まで肉体的なレベルに調和をもたらし、悪い部分を癒す)
能力:水その他の液体を、治癒力を持つ酒に変える。
条件:あくまで元々ある液体を変化させるので、液体が何もない状態では不可能。
液体であれば、それがジュースであろうと泥水であろうと薬液であろうと酒に変えられる。
作り出された酒は肉体疲労・精神疲労に効果をもたらす。軽い怪我程度ならば治せる。
自分にも他人にも効果はあるが、酒を飲めない人に飲ませると治癒効果は発揮されず泥酔させてしまう。
代償:適量以上を摂取した場合、逆に疲労感や強い酩酊感を感じ、眠りに誘われる。
自分が飲める限度までの量の酒を作ることができるが、作れば作るだけ次の日の二日酔いがひどくなる。
242Where,here. ◆1En86u0G2k :2006/02/21(火) 00:27:53
以上になります。濱口さんの能力が出てこなかった…
彼らはなんとなく争いを静観(または回避)していそうな気がしたので、
とりあえず中立のつもりで書いてみました。
それでは、失礼しました!
243名無しさん:2006/02/21(火) 00:29:10
◆1En86u0G2k さん乙です!
なんとも有野らしい力…w
244名無しさん:2006/02/21(火) 00:35:23
乙です!
こっそり楽しみにしてました。
245Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 00:56:56
篠宮は息を吐いた。右手に持つ緑の石が、低く唸る。中心には黒い筋。
「やってもうた」脳裏によぎる言葉が空しく響いた。
息を吸うたびにじわじわと毒素が回るようにその石に眼を奪われ、それに比例するように脈拍は乱れた。
───これが…黒の破片の力か。


数日前、東京の撮影の合間。現場に光る石を見つけた篠宮は、導かれるようにそれを手にしていた。
相方の高松に見せれば、「きれいな石やなぁ」なんてノンネイティブな発音で微笑まれた。
手にしたときに、なんとなくわかっていたのだ。これが噂に聞く、『力を持つ石』なのだと。
先輩や周りから噂は耳にしていて、それなりの情報は得ていたつもりだった。だったのだ。
手にした自分の石が、黒に飲まれる前までは。
246Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 00:58:03
きっかけは単純すぎて笑えないもの。「もっと露出を」ただ、それだけだったのだ。若手だったら、だれにでもあるような、そんな些細なもの。
しかしとれすらも、黒の破片の動力になるには充分すぎるものだったのだろう。
触れれば崩れてしまうような脆さをもつ石─フィロモープライトというらしい─は、その自ら放つ緑の中に、闇色の光を見せ付けていた。
気づいたのが遅かった。
情報はいくらでも頭にあったのに。
いや、むしろ。
自分が思い描いたように、自分の憧れのあの戦隊物のヒーローのようになれるのだと、
無意識に信じて疑わなかったのに。


「ちっく、しょ…」
フィロモープライトを持つ手は、まるで金縛りにあったかのように開くことはできず、握りこんだその石に、だんだんと思考を侵されていく。
─奪え。
──壊せ。
───…殺せ。
考えたくない思考に篠宮は激しく頭を振ると、その手を離す事に意識を移した。
左手で押さえ、指をはずそうとする。しかしまるでもともとの形であったかのように、その指は動くことはなく、逆にかざした左手からも生気を奪われる感覚に恐ろしくなり、勢いよく手を引いた。
その刹那、ふいに視界が明るくなる。石の光だと気付いたその時、意識は遠のいた。
247Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 00:59:10
+++++++++++++


「篠宮?」
聞きなれた声に眼を開けると、心配そうに覗き込む高松が立っていた。
「こんなところで何してん。風邪でも引いたらしゃれにならんで」
ほら、と差し出された右手に、自分の右手を出す。
「ん」
「何や」
「篠宮、そんな指輪、しとった?」
言われてから自分の右手の人差し指にはめられた指輪を眺めた。緑の石に、それを覆うように装飾された、黒のリング。
その造りのよさになんだか笑いそうになるのを堪えながら、篠宮は立ち上がった。
「してたわ。つか、そないなとこいちいちチェックすんなや」
「見えたから言うただけやろ」
苦笑する相手を見ながら、妙にはっきりする意識を張り巡らせた。…なかなか、悪くない。
「せや」
部屋を出て行こうとした高松が振り返り、まるで悪戯をしかけた子供のような笑顔で篠宮を見た。一度辺りを見回し、そそくさと相手に近づくと、耳元で囁く。
「俺、聞いてもうたんやけど…どうやら、アメザリさん達、『白』らしいで」
『白』という言葉に体の神経が張り付くのがわかった。そして同時に噴出すような闇色の憎悪。
「おまえの石も、なんや正義っぽいような意味やったやん?せやからな、多分、俺のもそっち寄りちゃうかなーて」
へらへらと石を見せ笑う相方にあわせ愛想笑いをすれば、自身の指に光る緑の石が鈍く光るのを感じた。
(壊せ)
(奪え)
(白などすべて)
口に出してしまいたい衝動にかられながら篠宮は笑った。
「せやな。俺らも『白』として頑張れるようにならんと」
嘲笑するように光る指輪を押さえながら、出来るだけ丁寧に、出来るだけ正確に『白』の自分を演じてみせた。
『黒』の中で押さえ込まれた自我に、誰も気づかないうちに、すべてを『壊す』そのときまで、今は、あの憧れ『だった』ヒーローを演じればいい。

明確な意識の中、篠宮は「自分の中の正義」に黒く微笑んだ。
────己の正義に、忠実であれ、と。
248Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 01:02:09
篠宮暁
石:フィロモープライト
(緑色で高度が低く、脆い石だが心の強さを表す。未来に焦点を合わせることで、トラブルや辛いことを乗り越える強さを得る)
能力:一時的に正義感が強くなり、ヒーローになったつもりになる。発動中は身体能力が上昇し(運動神経が良くなる程度)、自分が持っている力を最大限まで引き出すことが可能。あくまで"つもり"になるだけなので外見や肉体的には変化がない。
相手の悪の力が大きい程、石の力は強くなる。
条件:周りに誰もいない状態でヒーローの変身ポーズをとる(ヒーローっぽいものであればどんなものでもOK)
発動後は言動や行動が幼くなり、精神的に脆くなる。




初投下です。
オジンオズボーン篠宮メインで10カラットメンバーとのお話になります。
今回は序章として。
249名無しさん:2006/02/21(火) 08:27:08
乙です!
ヒーローなのに黒ってところがイイですねw
10カラ編楽しみにしてます!
250名無しさん:2006/02/21(火) 16:34:44
乙です!
10カラ、ずっと待ってました。頑張ってください
251名無しさん:2006/02/22(水) 08:44:03
保守
252名無しさん:2006/02/23(木) 09:50:01
オリラジ編、二話分連続投下します。
253 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 09:53:05
あ、>>252は私です。

中田の様子がおかしくなったのを藤田が初めて認めたのは、彼を助けてから三日後の事だった。
久々に同じ番組での共演で、中田の姿を見つけると早速駆け寄って雑談を持ちかけようとする。
だが、話しかけても帰ってくる返事は酷く無感情で。
どうしたんだ、と肩に手を置くと、放っておいてくださいと言わんばかりに払いのけられた。
その顔には明らかに以前までの陽気さが無く、どことなく生気がない風にも感じ取れる。
だがそんなことに全く気付かなかった藤田は何だよ、と戸惑いつつも癇癪を起こす。
その声もまるで聞こえていないのか、興味を失ったようにまどろんだ黒い瞳をフッと逸らし、何処かへと去っていってしまった。
呼び止めたくても何と声を掛けたら良いのか分からず、彼を指差した腕は力なくゆっくりと降ろされ地面を向いた。
首を傾げながら後ろに振り返ると、瞳の中にに大村の顔のアップが映り込み、身体のバランスが崩れそうなった。
何すんだ、と怒鳴ると、大村は両手に持っていた二つの紙コップの内、片方を差し出し、これで許してやれ。と言った。
どちらにせよ最初からそれは藤田の為に買ってきた物だったのだが、藤田は一言、もごもごと口籠もった返事をし、立ち上がった。


ソファに腰掛け、ゆらゆらと湯気の出るコーヒーの水面を口を細くしてヒュウ、と息を吹きかける。
ずずっと一口だけ吸い、全身に染み渡る温もりを感じながら深い息を吐き出し、
幸せだ〜、と大村はいつものように爺くさい言葉を口にする。



254 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 09:55:18

「何だあいつ!」
藤田は先程の中田の態度に未だ怒りが収まらないのか、コーヒーを熱いまま飲んでしまい舌を火傷し、足をばたつかせて鬱陶しく騒いでいる。
自業自得なのだろうが、あーもう!と不愉快さを露わにしてアフロを掻きむしっている様を見ながら、
このまま一緒にいるとこっちまで意味無く苛ついてしまう、と大村は悟る。
だがそこは親友。へそを曲げた藤田の扱い方ならよく知っている。
大村はコップを持ち替えて相方の肩を叩いた。

「藤田よ、俺思ったんだけど。」
となるべく落ち着いた口調で言うと、「何だよ。」と刺々しい返事を返された。
身を乗り出して突っかかってくる藤田の肩を押し返し、何とか椅子に座らせる。
「あいつ“黒”なんじゃねえかと思うんだ。」
「どういう事だよ。」
怒り疲れたのか藤田の声は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
大村はぐいっと丁度良い温度になったコーヒーを飲み、一息間を置いて続けた。

「それも、欠片で操られてるタイプの。」
藤田より少し前に、大村も中田に声を掛けていたが、同じように全く相手にされなかった。
目も合わさない彼の行動は、まるで自分たちとの接触を恐れているかのようで。
普段とあまりにも違いすぎるそれに、ただ事ではない悪寒を感じたのだ。
それは、時たま会う黒の人間と全く同じ気配だった。
255 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 09:59:02

「それでか。あいつ、どうもおかしいと思ったんだよ!」
やっと中田の異変の原因に納得し、藤田は立ち上がって大声を出した。
廊下を歩く若手やADが神妙な顔をして立ち止まり、二人に視線を向ける。
だがそれよりも一番驚いたのは大村の方だ。しーっ!と口に手をあてがい、ズボンを引っ張って無理矢理座らせる。
一瞬止まっていた時間は緩やかに動き出し、周りの人間たちはいそいそと自分たちの仕事に戻っていき、再び穏やかな午後の風景に変わった。
緩やかに流れる川の水のように目の前を行き交う人をボンヤリと見詰めていたが、暫くして、
どうする?と、にやりと笑みを作った態とらしい口調で大村が尋ねた。
その顔は、一つの答えを期待しているようで。
「どうするってお前…、」
藤田もその期待に応えるべく、同じように口元を緩めた。
そしてコップの中身を最後の一滴まで飲み干し、言った。
「決まってんだろ。」
二人はソファから腰を上げた。
黒が何をしようが勝手だと思っていたが、後輩のあんな姿を黙って見過ごすわけにはいかなかったのだ。


頭の中で何度も二人の先輩に向けて謝る。
中田は自分の意志を僅かながら保っていた。気を抜くと黒い破片にその意志すらも乗っ取られてしまう。
その回数と時間は日に日に増し続けていた。
隣には何時も藤森が居て、その手には幾つもの石を持っていた。
藤森が何かを言って自分に笑いかけると、何だか可笑しくなって笑い返す。
そんな記憶の映像が頭の中でビデオテープのように途切れながら再生される。

相手が白でなくとも石を持っている芸人は誰それ構わず襲ってしまいそうな恐怖に、中田は悩んでいた。
と、不意に後ろから良く知った高い声が聞こえた。藤森だ。
256 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:02:34
「敦彦。」
「あっち行け。」
「まだ何も言ってないよ。」
相方に対して随分酷な態度だ、と自分でも思う。
眼を瞑って顔を藤森から思い切り反らし、またあの黒い石で俺を連れてく気だろ。と言うと、
藤森は特徴的な形の眼鏡を両側の端からくいっと押し上げ、ふざけたように笑った。

「凄い苦しんでる。かわいそう。」
「誰の所為だと思って…、」
「うん、きっと欠片の力が弱いせいだ。…俺が助けてあげる。」
藤森の手にはビー玉と同じくらいの大きさの、真っ黒な石があった。
本来それは―――赤珊瑚は、こんな黒色ではなく深い朱色の艶のある鮮やかで美しい宝石の筈だったが。
僅かに残った理性をかき集め、中田は悟った―――また操る気か、と。
助けてやる。そう藤森は言った。
それは中途半端に黒い欠片の影響を受けた相方を楽にさせたいという気持ちからの優しさなのか。
完全に自分の…“黒”の味方につける為の上辺だけの台詞なのか。中田にとっては、どちらにせよ余計なお世話でしかない。
まだ中田の石は完全には黒くなっていない。今目の前にいる藤森を何とかすれば、突破口は開けるかも知れない。

ボツワナアゲートが、弱々しくも確実に、光った。
「あっ。」
まだ石の力が残っていたことが意外だったのか。藤森の表情が強ばり、驚いた声を上げる。
だが、サッと後ろに飛び退き、一定の距離をとった。
そして、赤珊瑚のリングを通した指を中田に向けた。

「いや〜勇敢だね、さすがあっちゃん。かぁっこいい!」

いつもネタ中で飽きるほど連発している台詞。
ツッコミで叩かれるのが嫌だという理由で中田が半ば強制的に言わせていたフレーズだった。
藤森が言い終わるや否や、赤珊瑚から一直線に光が放たれ中田の身体にパシッと当たった。
257 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:04:56
痛みはない。ただそのかわりに、
「………!?」
ボツワナアゲートの輝きが、かき消されるように引っ込んでしまった。
先程まで力を溜めていた手の感覚も消え失せ、中田は両手を凝視した。
そんな、と落胆に満ちた声が震える息と共に無意識に漏れる。
「あれ、失敗しちゃった?せっかく発動できたのに残念だったな。」
藤森は笑っていた。
何をしたんだ、と聞く間もなく、“黒い赤珊瑚”がボンヤリと光り始めた。
まるで黒い殻が赤珊瑚本来の輝きを覆い隠し遮断しているかのように見えた。
次いで、自らのボツワナアゲートも赤珊瑚につられて黒い光を発する。
それは欠片によって強制的に引き出された負の感情なのかも知れない。

突然、自分の中に深い憎悪が生まれてくるのが分かった。
決して心地よいものではなく、むしろ吐き気がする程のそのもやもやとした感情は、みるみるうちに身体中に根を張っていき、
ついには頭の中にまで浸食し始めた。

中田は動かなかった足を何とかその場から引きはがし、藤森に背を向けて走り出した。
藤森は追いかけては来なかったが、身体中の不快感は一向に取り除かれる事はなく、
石の黒ずみも、むしろどんどん酷いものになっていく。

――――距離感の掴めない不可思議な空間の中、一人取り残された気がした。
浸食から逃れるため、中田は咄嗟に思いついた一つの行動をとった。
258 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:08:28
こっから三話目です。↓


「中田はどこ行った?」
と、すれ違うスタッフやタレントに尋ねるが、首を傾げるばかりで、彼の姿を先程から見ていないようだった。
外に出たのか、という考えが頭を過ぎり、楽屋に走ったものの、荷物は部屋の片隅に雑にほっぽり出されたままで、何も持たずに出かけるのはまずあり得なかった。

「あれ…そういや藤森もいないな。」
「まさかあいつも…?」
「いやあ、でもあいつは普通だったぞ。」
朝、藤森と会ったときに向こうから元気に挨拶してきた事を思い出したが、それだけでは藤森が確実に無事とは言い切れなかった。
二人の石についても、ましてや白なのか黒なのかさえ知らず(どちらかというと白であることを願いたいが)、
正直彼らのことは何も分かっていない事実に頭を抱えた。

そんなこんなをしている内に、いつの間にか休憩時間の終わりを迎えていたのか、
トータルテンボスを探しに来たスタッフに早く戻って、と叱られる。渋々と戻り、
スタジオに設置された椅子に腰掛け、和やかなムードの中、撮影は再び始められた。
運良く中田たちの出演しない所だったので、藤田、大村を除きその場にいた者は誰一人疑問に思わなかった。

259 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:10:18

藤田はそういった危機感には無頓着な方であったが、大村は僅かながら感じ取っていた。
撮影も終わりを迎えようとした、その瞬間。
大村はスタジオの後ろの壁の向こうから、何かどんよりとした空気を感じたのだ。
思わず振り向き、奥の暗闇を凝視してしまう。
そして、出演者の一人の声に引き戻された。
「…大村さーん、どこ見てるんすか。話聞いてくださいよ!」
「えっ?あ、はぁーい。」
ははは、とスタッフの笑い声が起こる。
しまった、と大村は思った。仕事中に他のことに気をとられるのはあってはならない事だ。
たとえそれが石に関することであっても。だが今の気配は多分…。
大村はもう一度振り向きたい気持ちを押し殺した。

「お疲れ様でした!」、と大きな声を合図に、出演者はこの後飲みに行く約束をしたり、談笑を交えながらぞろぞろとスタジオを後にした。
「藤田さんも飲み行きませんか?美味しい店見つけたんです。」
「あ〜…悪りぃ、今日はパス。」
大変魅力的なお誘いに思わず乗りそうになるが、ふと視線を感じ前を見ると、
その後輩の後ろで大村が両腕で大きなバッテンをつくり、ぶんぶんと首を横に振っていた。
藤田は「ゴメンな」と手を合わせて軽く謝るとそそくさと人集りの輪から抜け出てくる。
260 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:11:59

「何だよ。」
出来るだけ他人に聞こえないようセットの裏へ回り、小声で話す。
「中田がいる。」
「え、マジかよ!」
「多分…きっとあいつだ。ほら、俺一番後ろの隅の席だったろ?この向こう側から感じたんだ。」
そう言って厚い防音壁を叩く。
この壁の向こう側は、普段あまり使われないような物置とされている。
壁を通して時折威圧的な空気が混じり込んできて、大村はピクリと眉を歪ませ、壁から手を離した。

「…行くか?」
黒い気配は撮影中に感じたときのものより酷くなっていた。行ってどうしようと言うのか。
もしかしたら間に合わないかも知れないし、攻撃も防御も出来ない自分たちの石では、暴走した石には太刀打ち出来ないかも知れないが。
藤田は一言、行く。とだけ言った。



「中田、いんだろ!ここ開けろよ!」
中に人が居るかどうかもろくに確認もしないで、扉を乱暴に叩き続ける。
すかさず「待ちたまえ」、と大村がうんざりしたようにドアと藤田の間に入り制止に入る。
それでも尚ドアを叩こうとする藤田を押さえつけ口を手で防いでいるうちに、藤田もジタバタと抵抗して髪を引っ張ったりと、
何故か意味のない取っ組み合いにまで発展してしまった。
261 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:17:12

――――――………。

「………え?」
「あ……。」
お互いの頬をつねっていた手を離すと、
二人は我先にとドアに顔を近づけ、聞き耳を立てる。確かに今、中田の声が聞こえたのだ。
ぎゅっと眼を細め、ドアの隙間から中の様子を覗うと、黒い人影が動いたのが見えた。

…暗い部屋から一歩も出ようとしない彼の姿は、まるで奇病に侵され隔離された患者のようだが。
開けないでください。そう言った彼の声ははっきりとしたものだった。

「俺は、誰にも会わずに此処に居ることでギリギリ意志を保っているんですが、もう駄目みたいです。此処を一歩でも出たら、俺は…。だから、どうか此処を開けないでください。」
随分とかしこまった口調に少なからず違和感を覚える。
淡々と一定のボリュームで無感情に話し続ける彼を、哀れみの眼で見詰める。
むしろ、もう見ていられない、と言った方が正しいだろうか。
開けるなと言われても、このままずっとこの狭い倉庫に閉じこめておくわけにはいかない。

「俺は開けるぞ。…大村。」
藤田の呼びかけに大村は無言で頷き、自らの石を光らせ“鍵の掛かったドアを開けられる”成功率を上げる。
ガチャガチャとドアノブを回す度に、振動で古いロックが段々とずれていくのが確認された。
262 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:18:26

ガチン。
ついに、扉のロックが外れ、ゆっくりと外への出口が開かれた。
暗い部屋に廊下からの明かりが一筋入り込む。

今日初めて彼の顔をまともに見た。
一点の光も写さない、マジックで塗りつぶしたように底のない黒色の眼が藤田を捉えた。一歩ずつ、中田が近づいてくる。

「ああ、あれ程、開けるなっ…て…言った…の、に……。」

言葉は途切れ途切れになり、唇は硬直したように動かなくなる。
黒い靄のようなオーラに身を包まれた中田の姿を、怯むことなく藤田は見詰める。
ただ、後輩を救いたいという気持ちだけが、身体を突き動かし。
固く握った拳を振りかぶった。
263 ◆uAyClGawAw :2006/02/23(木) 10:24:42

藤森慎吾
石…赤珊瑚【石言葉は『幼な心』】
能力…指差した相手の石の能力・アクションが失敗しやすくなる。
   言霊系の能力は、一度言ってしまった言葉の効果を次の日まで失う。
条件…「○○かっこいい!」と褒めること。


ここまでです。二話分はやっぱ長いな…。
264名無しさん:2006/02/23(木) 15:05:30
>>253さん
乙です。大村と慎吾の能力が正反対なので、やりあったらどっちに軍配が上がるのかわくわくしますたw
265名無しさん:2006/02/23(木) 15:33:14
乙です!
気になるところで終わってますね〜
どうなるのかすごく楽しみです!
266名無しさん:2006/02/23(木) 21:05:32
hosyu
267名無しさん:2006/02/24(金) 18:36:21
保守
268名無しさん:2006/02/25(土) 13:53:23
保守
269名無しさん:2006/02/25(土) 20:09:54
hosyu
270名無しさん:2006/02/26(日) 01:28:58
補習
271名無しさん:2006/02/26(日) 11:39:56
↑ちょww補習てwwww
272名無しさん:2006/02/26(日) 18:04:56
ほす7
273名無しさん:2006/02/26(日) 18:43:10
没収
274名無しさん:2006/02/26(日) 21:04:54
本州
275名無しさん:2006/02/26(日) 21:40:10
四国
276名無しさん:2006/02/26(日) 22:32:40
九州
277名無しさん:2006/02/26(日) 22:47:01
北海道
278Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:45:35
>>204-211 の続き

【21:41 都内・某TV局(美術倉庫)】

「『白い悪意』の弱点……。」
土田の口をついた言葉は、小沢の予想だにしない物だった。
主の意識の揺れを反映して、警戒を続けていたアパタイトの輝きも一瞬弱まる。
「で、でも…それを見つけ出してどうするつもりなんですか。『白い悪意』を『黒』の支配下に置くつもりですか?」
しかしその輝きはすぐさま回復し、小沢は眉を寄せて土田へと問いかけた。
いくらか挑発的な響きを含んだ小沢のその問いに対し、土田は表情一つ変えずに、答える。
「…破壊する。完膚無きまでに。」
「………!」
「『白い悪意』の持つ石…いや、『白い悪意』そのものであるあの元凶を。」
椅子に座ったまま、上半身をわずかに前に倒して。土田はきっぱりとそう言い切って見せた。
「もちろんこれは『黒』全体の意向じゃねぇ。あの野郎に借りのある、俺個人の考えだ。
 もっとも…そんな事言っても信じちゃもらえない事ぐらいは、わかっちゃいるけどな。」
そうだよな、と確認するように川元に問えば、川元は「……その通りです」と土田にぶっきらぼうに答える。
確かにそのやりとりだけで土田の言葉を、そして提案を信じられるかと言えばそうではない。
けれど、小沢の表情、そしてアパタイトの輝きは先ほどよりも穏やかな物へと変わっていた。

――ったくよ、まどろっこしい事するな、お前もよ。
その一方で土田の耳だけに不意に響く、声。
声の発生源は彼の指で輝く漆黒の宝石、ブラックオパール。
――ちょっと言ってくれればさ、俺があの石ごとあいつの心を黒く染めてやるってのに。
「…それじゃ、意味がないんだ。」
一般的な力を持つ石に比べれば自我が強く、相性も良いためか、通常の状態で主との会話まで叶うブラックオパールの
いかにも面白くないとでも言いたげなぼやきに、土田は小さく囁き返す。
――あんたがどんだけホワイトファントムを憎んでいるか、一番知ってるのは俺なんだぜ?
「それでも、だ。」
余り長い間ブラックオパールと会話をしていると、小沢や川元が怪しく思うだろう。
それの説明で更に時間を割くのは面倒くさい。故に、土田は手で石の填ったリングを覆うように押さえつけた。
279Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:46:16
チッ、と舌打ちをするようなノイズが聞こえたような気もするが、気にせずに土田は改めて小沢の方を見る。
「で、どうよ。乗るか? 降りるか?」
「……乗る、事にします。」
問いかけた土田の言葉に、数秒ほど考えるような素振りを見せ、それから小沢はそう答えた。
少なくともこの男は、土田はさっき『白い悪意』の石の名を口にしたように、自分達よりも『白い悪意』についての知識がある。
単純に情報不足という理由もあるだろうが、相手の弱点を看破する能力を秘めた石を持つ有田が幾度試しても
思うように結果を導き出せなかった『白い悪意』への対策方法を、彼の手を借りれば見つけ出すことも可能かも知れない。
そして。
今の土田からは『黒』独特の後ろ暗い気配が感じられないように小沢には思えたから。
そんな彼の言葉なら、信じられるかも知れない。そうした判断が、小沢の背中を押していた。

「ありがとう。」
小沢の返事に礼の言葉を口にし、土田は椅子から立ち上がる。妙に素直なその態度に、逆に小沢は少し戸惑うけれど。
「それじゃ余り長話してるとお互いややこしい事になるからな。ここからは手早く行くぞ。」
「…はい。」
1歩2歩と歩み寄ってきつつ、いつもの…小沢の知る彼らしい口振りで笑ってみせる土田に、
相手が自分達『白』と敵対する『黒』の人間である事など構わず、小沢は完全に警戒心を解いて彼からも足を進めていた。





280Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:47:18
【22:38 都内・居酒屋】

「……さん。……さん?」
「…………。」
「おざぁーさん?」
「…あ、あぁ。」
何度目になるだろう。真正面からの呼びかけに、ようやく小沢は気のない言葉で反応した。
「ったく、大丈夫か? さっきからボーっとしっ放しで。」
眉を寄せてそう告げるのは、テーブル越しに身を乗り出してくる井戸田。その手にはビールの入ったジョッキが握られている。
「ん、何でもない。」
へらりと笑って小沢はそう答え、更に山盛りにされた枝豆に手を伸ばした。
思考から現実に引き戻された途端に小沢の目に飛び込んでくるのは、小洒落た飲み屋の風景。
耳に飛び込んでくるのは、若者達のはしゃぐ声。所々呂律が回っていないように思えるのは、早くも酒が回ってきたからか。
「だったら良いんだけどさ。」
小沢の答えに小さく肩を竦め、井戸田は席に座り直すとジョッキに口を付ける。

小沢と川元が土田の元に引き寄せられていた頃、彼らが行方不明になっていた事を回りに伏せるため
墓地では肝試しにしては異例の『2周目』が行われていた。
人を驚かすポイントがばれている上での2周目は、芸人のサガも手伝って本来の肝試しの意図と大いに異なる
笑わせあいになっていたとかいなかったとか。
そんな墓地での肝試しは小沢達が発見された事で終わりとなり、島田の浄化の光によってお払いをした後は
参加者に店長の知り合いが居た関係で、とある居酒屋を丸々貸し切りにしての打ち上げに移っていた。
他の客に気兼ねする事なくはしゃげるのは元気盛りの若若手達にはちょうど良いようで。
元々注文していたコース料理に加え、ひっきりなくテーブルに運ばれてくる、自他とも認める料理好きの磯山と
料理人としてのスキルを石の力で入手した野村による特製料理の数々に舌鼓を打ちながら
アルコールが飲める者はビールやサワー、飲めない者はノンアルコールのジュースをぐいぐいと流し込んでいる。
「うーっし、お待たせ!」
「おぉー、待ってました!」
厨房から料理が盛られた大皿を両手で抱えながら磯山が姿を現すと、また今仁辺りを筆頭に野太い歓声が上がった。
その響きに、日村がのそりと席から立ち上がろうとする。
281Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:49:11
「やっぱり俺も鍋作るわー。」
一回石を使う毎に一度作った鍋が美味しくなるという、不思議な副作用を持つスモーキークォーツの持ち主である日村としては
折角のこの機会に己の鍋を振る舞ってみたいと思うのも当然の流れかも知れないが。
如何せん今の時期は鍋のシーズンの真逆である夏。たとえ確実に美味しいとわかっていても遠慮しておきたいし
この一部アルコール入りまくりの状況では、下手すれば具材を顔に当てたり背中に放り込まれたりという
画家でもある某大御所芸人に熱いおでんを振る舞う「お約束」のような大惨事になりかねない。

そのため。
「及川、ズドン、日村さんを止めろ!」
何度目になるかわからない日村のその宣言に対して鋭い声が井戸田から上がり、それに素早く反応した2人の小柄な若者が
日村を席に押さえつけようとした。
今まではそれで日村も落ち着いていたのだけれどさすがに今回はそれでは収まらず、日村は輝きを帯び始めた石を手に握りしめる。
「…えっ…ちょ…日村さんっ!」
「あどでー、ぼぐでー、パパみだいだ力士に……」
既に一日一度が限度である力士化の能力を使用しているにも関わらず、再びキーワードを口にしようとする日村。
しかしその口はキーワードを唱え終わる前に強張り、言葉はプツンと途切れた。
「…………。」
何か変な線が切れたのでは、と逆に心配になるぐらい唐突に訪れた日村の沈黙により不意に静寂が辺りを包む中、
ごくり、と喉が上下する音があがる。
その発生源は日村達の隣のテーブルの隅でウーロン茶のグラスを傾ける赤岡。
日村をじっと見据える彼の首元で、黒珊瑚が淡く暗い輝きを放っていた。
「お…サンキュ。」
金縛りという強引な手ではあるが、日村の暴走を押さえ込んだ赤岡に苦笑いを浮かべて井戸田が目線と短い礼の言葉を送れば
ふ、と赤岡の口元にも笑みが浮かぶ。
282Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:50:30
「まったく、しょうがないな。」
再び辺りに騒々しい声が戻っていく中で、こちらもすっかり呆れ果てた、しかしその中にも相方を微笑ましげに
温かく見守ろうとする笑顔を浮かべながら、小沢の方へと歩み寄ってきた設楽が彼の隣の椅子に腰掛け、小沢に囁いた。
「…貸し切りだから出来る事ですよね、これ。」
まさか他の客が居る前で、現実離れした能力を秘めた石を使うなんて真似は出来ない。
小沢が呟いたように、目の前で繰り広げられる騒ぎはここにいるのがほぼ芸人だけという条件があるからだろう。
「こういうのを見ていると…本来石って言うのはこういう感じで使われるべき物なんじゃないかって思いますよ。」
「かも、知れないな。」
戦うためではなく、楽しむために。小沢の言葉に設楽はうんうんと頷いて、短く答える。
「楽しいって事を知らないと…人を楽しませる事は難しいからな。」
その答えに、小沢は一度瞬きをし、それから設楽の方を凝視した。
「…どうした?」
「いえ、別に……。」
まさか己の言葉にこうも同意されるとは思わず、明らかに驚いた仕草を見せる小沢に設楽が問いかければ
小沢は首を横に振る。
そのままグラスへと視線を落とす小沢に、設楽は言葉を紡いだ。
「本当に今夜は良い物を見られた。『黒』も『白』も敵対しないって言うのも結構悪くないな。」
「…なら、設楽さんが『黒』を抑え込んでください。『黒』がなければ『白』も戦わなくてすみますから。」
わずかに口を尖らせる小沢に、設楽は浮かべた笑みを苦笑いに変える。
「『白』とその周りの連中がみんな抵抗をやめて『黒』に加われば戦う事もなくなるさ。」
「そもそも『黒』が馬鹿な事しなければ、抵抗もしませんよ。」
「みんな『黒』の方針に従ってくれりゃ、馬鹿な事もしなくてすむさ。」
「……………。」
テーブルの上のグラスを見据える小沢とその横顔を見やる設楽。
それぞれの立場からボソボソと交わされる言葉は接点を見つける事も出来ず。

「…平行線、かな。」
「……ですね。」
これからの事を思えば簡単に引き下がってはならないのだろうけれど、どちらともなく諦めるように言葉が漏れれば
2人は同時に肩を竦める。
283Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:51:44
「…近い内にこういう光景が日常な物になると良いですね。」
「……………。」
最後に付け加えるように小沢が口にした言葉に、設楽は答えなかった。
それが意図された物なのかどうか、小沢には知る術はない。
ちょうど小沢が言葉を言い終えたその瞬間、井戸田の携帯がけたたましい音を奏でだし、店中にいた芸人達の中で
深く酔っぱらっている者、そして酔いや疲れから早くも眠りに落ちている者以外の面々が一斉に井戸田の方を凝視したのだから。

「ったく、何だよこんな時によぉ……。」
折角の盛り上がりに水を差すかのような着信に愚痴りながら、手早く井戸田が取りだした携帯の開いた液晶に
映っていた発信者の名は『渡部 建』。
回りの視線から逃れるかのように一旦井戸田はテーブルから離れ、店の入口近くに向かってから携帯を耳に当てた。
「はい井戸田ぁ。今夜は用事入ってるから飲みの誘いならすんなっつったろ?」
相手は同じ『白』である以上に気心の知れた間柄とあり、砕けた口調で問いかける、井戸田。
しかし携帯の向こうから話しかけてくる渡部の声は井戸田のそれとは対称的に重く、そして切羽詰まっていて。
「……どうした?」
瞬時にただ事ではないと察し、声を落とす井戸田の表情が、告げられる言葉によって変わる。

「わかった。場所は? ……了解。毎回毎回ありがとうな。」
渡部から告げられる情報の数々に最初のトーンが嘘のように暗い面持ちになりながら井戸田は電話を切ると、
一つ深呼吸をしてからテーブルの方を向いた。
「…小沢さん、あと設楽さん。悪いけどちょっとこっちに顔貸してくんねーかな。」
不安げな心音を、内面の動揺をまわりに悟られないように。井戸田はテーブルを離れる前のテンションを演じながら、
ちょうど隣り合うようにテーブルに座っていた二人に向けて声を掛け、手招きした。
284Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:52:19
「………?」
井戸田からの呼びかけに一度顔を見合わせ、設楽と小沢は席を立つ。
招かれるままに冷房のさほど効いていない店の入り口に向かった2人に、井戸田は一瞬だけ演じた道化のテンションを捨て
真剣な表情を浮かべ、告げた。
「さっき、Dの近くに『白い悪意』が出た。抵抗した芸人が病院に送られたってよ。」
井戸田の言う『さっき』とは、肝試しではしゃいでいたり、『白い悪意』について土田と話したりしていた、ちょうどその時だろうか。
思わず両手で両頬を押さえる小沢に対し、設楽はふぅと息を吐いて、井戸田に問う。
「抵抗したって事は石持ちか。そいつは誰だ? 『白』寄りか『黒』寄りか…?」
「それが……。」
仮にも『黒』を束ねる幹部の一人とでも言うべきか。冷静さを失わない設楽の問いに、井戸田は少し困ったような表情を浮かべた。
その表情は、しばしの間をおいて井戸田が続けた言葉により設楽と小沢にも伝染される事になる。




285Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/02/26(日) 23:58:31
>>274-277の流れにワロタしつつ今回はここまで。
286名無しさん:2006/02/27(月) 00:06:58
>>285
うおー!続きが楽しみ過ぎる展開!いつもながら乙です。
287名無しさん:2006/02/27(月) 01:00:39
>>285
乙!
相変わらず魅力的な文を書かれる。
288名無しさん:2006/02/27(月) 13:42:22
hosyu
289名無しさん:2006/02/27(月) 23:44:00
募集
290名無しさん:2006/02/28(火) 00:36:33
補充
291名無しさん:2006/02/28(火) 00:43:00
怪獣
292名無しさん:2006/02/28(火) 02:31:02
一日に何度も保守いらない
保守でスレ埋める気か
293名無しさん:2006/02/28(火) 23:09:04
すいませんでした。
294Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:41:48
>>221-227の続きを投下します。

 ブラックマヨネーズの二人が倒れている場所にやって来たのは、なんとたむらけんじだった。思わぬ人物の登場に、チュートリアルの二人はただ驚くばかりである。
「どうしたんですか、こんなとこで」
 徳井がそう尋ねると、ああ、とたむらは笑いながら答えた。
「たまたまや、たまたま。俺さっき店から出てきたばっかりでな。帰ろうと思って歩いてたら、なんかお前らがやばそうやったから」
「え、でもたむらさんの家って、こっちとは反対側の方じゃないですか?」
 福田がすかさず疑問を口にしたが、たむらは笑顔を崩さずに答える。
「ちょっと向こうに寄る所があってん。でも良かったわ、ほんまに間に合って」
 そう言われて、やっとチュートリアルの二人は石を持ち逃げされるところだったと気づいた。はっとして倒れているブラックマヨネーズの二人に目をやると、それぞれの手には徳井と福田の石が握られていた。やはり小杉と吉田はこのまま石を持ち逃げするつもりだったらしい。
「そうそう、石やんな」
 二人の視線の先に気づいたらしく、たむらはゆっくりとしゃがみ、小杉と吉田の手のひらから石を奪った。そして立ち上がり、二人にそれぞれ石を返す。
「えっと、こっちの石が徳井ので、こっちのが福田のやっけ?」
「あー、そうです。ありがとうございます」
 徳井と福田は礼を言いながら、たむらから自身の石を受け取った。たむらはぱんぱんと手をはたき、よっしゃ、と言って笑った。
「これで一件落着やな。うん、だんだんテンション上がってきた」
 最後関係なさそうな言葉を呟いたことにチュートリアルの二人は首を傾げたが、敢えて突っ込まずに別のことをたむらに尋ねた。
「あの、もしかしてこの二人が倒れてるのって、たむらさんがやらはったんですか?」
 たむらはその問いに、おう、と頷いて肯定した。
「能力使ってん。ほら、この石で」
 たむらはそう言って、ポケットから石を取り出した。その石は淡いワインレッドで、決して綺麗とは言えなかったが、石の歩んできた年月を反映しているような、そんな石だった。
 たむらが石を持っていたことも驚いたが、何より二人を一瞬でノックアウトしてしまうような能力を持っていることにも驚いた。
295Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:42:36
「俺のテンションに合わせて、悪口言った芸人に衝撃を与えるっていう能力やねん。どや、面白いやろ?」
 そうは言われたものの、徳井も福田も今は笑える気分ではなかった。だが一応先輩なので愛想笑いをしておき、そして同時に自分の石に目をやる。
 自分の石は今は冷たくなっており、熱は微塵も感じなかった。石を見て、福田は自分の石が熱くなった時のことを思い出し、徳井にそれを伝えた。その時徳井は吉田の暗示にかかっており、とても福田に構っていられる状態ではなかったからだ。
 徳井はそれを聞き、へえ、と言って軽く首を縦に振った。納得したようなしていないような微妙な反応だったが、今の福田はそれに突っ込む気力もなかった。
 すると、二人の話を聞いていたたむらが、納得したように頷きながら言った。
「へえ、そうか。ほんならお前らも、もう能力使えるようになってんねんな」
「はあ、そうみたいですね。何がどうなって、能力が使えるようになったんかは知りませんけど」
 まだ能力を一回しか使っておらず、能力を把握できていない福田が呟くように言った。それを聞いてからたむらはうんうんと頷き、そういえば、と急に話題を変えた。
「お前ら、この石が一体何なんか知っとるか?」
 たむらの問いに、いえ、と二人とも首を横に振る。この反応は予想通りだったらしく、さほど驚くこともないまま、たむらは納得したように頷いた。
「そらそうやろなぁ。まあ、ええわ。ほんなら……そうやな、近くに知り合いがやってる喫茶店あるから、そこ行こう。俺が説明したるわ」
 そう言って、たむらは二人を連れて行こうとしたが、動かずにその場にいる二人に気づき、なんやねん、と尋ねた。
「いや、この二人、このままここに置いといていいんですか?」
 徳井はそう言って、倒れているブラックマヨネーズの二人を指差した。たむらはああそれか、と言って、顔の前で手を振った。
「心配ないて。さっきの俺のテンションはそんなに高くなかった。すぐ起きてくるやろ」
 チュートリアルの二人はその説明でも納得いかないような様子だったが、たむらは無理やり二人を喫茶店へと連れて行った。
296Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:45:09
 たむらは喫茶店に着き注文をするなり、石にまつわる話をし始めた。
 最近、お笑い芸人の間でこういった能力を持つ石がばらまかれていること。そしてその石を巡った二組の芸人たちの存在。
 熱心に話に聞き入る二人に、たむらも話しがいがあるようで、少しテンションの高い状態でそれらのことを話し続けた。
 既に注文した人数分のコーヒーは持ってきてあり、話が終わった頃にはほとんど冷めてしまっていた。
「――そういうわけで、今まででもいろんな奴が石の能力を使って戦ってんねん。これからお前らの石かて、さっきのブラマヨの二人みたいに狙ってくる奴が出てくるやろな」
「そんなん……」
 自分たちが軽い気持ちで持ち始めた石が、そんなに大変な代物だったとは。徳井と福田はため息をついた。訳の分からない戦いに巻き込まれるのは、もうごめんだった。
 しばらくして、ふと気になることがあったというように、福田がたむらに質問した。
「そういえば、黒のユニットの連中は俺らのような芸人の石狙ってるんですよね? そやったらさっきのブラマヨの二人も、黒のユニットにいるってことですか?」
「うーん、そやなぁ」
 たむらは難しそうな顔をして、言葉を続けた。
「確かに自分らの意志で、黒のユニットに行ったんかもしれん。けどもしかしたら、誰かに黒い欠片を与えられて、操られてるだけかもしれんな」
「黒い欠片?」
 徳井が聞き返したので、たむらは黒い欠片についての説明をした。
 たむらはあくまでも彼らが自身の意志で黒ユニットにいるかもしれないとは言ったが、チュートリアルの二人としては、その黒い欠片とやらに操られているに違いない、と思いたかった。
 口は悪いが人の良い二人が、彼らの意志で自分たちを襲うとはどうしても思えなかった。
297Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:46:17
 はあ、と大きなため息をついた後、福田は再びたむらに尋ねた。
「ねえたむらさん。なんとかして、俺らがその戦いを避けることはできひんのですかね」
 たむらは顔をしかめた。
「石を持ってる限りは、いや、石の能力に目覚めてしまったんやったら、もう無理やろな。連中はしつこいぞ。きっとお前らが石を持ってて、能力使えるって知ったら、どこまででも追いかけてくるやろな」
「うわっ、最悪やな……」
 徳井がため息をつきながらそう呟く。それは福田も同感であった。石を持っただけでも二人の生活は一変したのに、まさかそれがこれからも続いていくとは。悪夢のようである。
「まあ、俺からはこれからも頑張れとしか言いようがないな」
 あっさりと返したたむらに、福田は少し不満げに唇を尖らせる。
「ちょっと、そんなん他人事みたいに……」
「他人事やない。俺かて石持って能力使こてんねんから、お前らと状況は一緒や。俺も毎回毎回お前らを助けるわけにもいかんし、その辺りはお前らでなんとかしてもらわなあかんからな。そういう意味を込めて、頑張れよって言うたんや」
 たむらは厳しい口調でそう言った。これには、さすがにチュートリアルの二人も黙ってしまった。
 黙っている二人を前に、沈黙に耐えられなくなったのかたむらは突然席を立った。
「さて、ちょっと話しすぎたか。ほんなら俺、もう帰るわ。またな」
 一方的にそう行って、二人が呆然としている間にさっさと店を出て行ってしまった。
 それからしばらくして、福田がテーブルの上に載っているものに気づき、声を上げる。
「うわっ、コーヒー冷めてるやん。しかもたむらさん、自分の分も払わんと帰ったし」
「ほんまや。ちょっと、これこそ最悪ちゃうか……」
 徳井も気づき、二人は同時に肩を落とした。今更冷めたコーヒーを飲むわけにもいかない上、たむらの分のコーヒー代まで払わなくてはいけなくなった。
 たかがコーヒー代くらいと二人は自分自身を納得させることにして、さっさとレジで会計を済ませ、店を出た。
298Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:49:53
 ブラックマヨネーズの二人とやり合った、その次の週の金曜日。
 毎週レギュラー出演している某番組の収録があって、チュートリアルの二人はスタジオにやって来ていた。
 あれから約一週間経っているが、徳井と福田の間に流れる緊張感はなかなかほぐれようとしなかった。番組中にはそれを出さないようにしていたが、もしかしたら少しはぎこちない感じがしていたかもしれないと思い、収録語の楽屋で二人は顔をしかめていた。
 そうしてしばらく二人が楽屋でぼうっとしていると、突然テーブルの上に置いてあった徳井の携帯が震えだし、その場で踊り出した。徳井はおもむろに手を伸ばし、すぐにバイブ音が止まった携帯を見てメールかなと呟きながら、携帯を操作し始めた。
 そうしてしばらく携帯の画面を眺めていたかと思うと、徳井は突然、反対側に座る福田の方に勢いよく身を乗り出してきた。
「ちょ、福田、これ読んでみ」
「え? 何やねん」
 福田は徳井から携帯を受け取り、画面に目を走らせたかと思うと、たちまち目の色を変えて徳井の顔を見つめた。ほらな、と言いたそうな顔をして、徳井も福田を見つめる。
「あいつら、何考えとんねん……」
 その徳井宛てのメールには、こう書いてあった。

『今日の午後十時、以下の場所に来い。 吉田 小杉』

 その下に呼び出し場所の公園の名前と、ご丁寧に周辺地図まで添付されていた。二人ともが知らない場所だったので周辺地図が載っていたのは幸いだったが、そんなことで喜んでいる場合ではない。
「おい、どうすんねんこれ。行くんか?」
「いや……ほんま、あいつらの考えてる事全然分からへんな」
 福田の問いに、徳井は首を振って明確な答えを避けた。福田はうーんと唸り、腕を組んで考え込むような仕草をする。
 徳井は福田から携帯を受け取り、再びメールをまじまじと見つめた。やはりそこに書いてあることは変わりなく、向こうのメールアドレスも携帯に登録してある吉田のものになっている。
「つまりや、もう一回俺らを呼び出して、のこのこ呼び出した場所にやってきた俺らから石を奪う……っていう作戦なんか?」
 話を整理しようとしているかのように、福田が上を向いて呟くように言った。徳井は同意するようにゆっくりと頷く。
299Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:51:35
「まあ、向こうもそういう意図で送ってきたんやろうな。それで、ほんまにどうする? 福田くん」
 突然意見を聞かれ、福田は少し戸惑いながら言った。
「いや、どうするって……そら、のこのことあいつらの罠にはまりに行くのはアホやと思うけど、でも行かんわけにもいかんやろ。お前はどうなん?」
「うん、俺もお前の言うとおり行くべきちゃうかなと思う。あいつらがもし操られてるんやったら助けてやらなあかんし、自分らで黒に行ったとしてもなんとか説得せなあかんやろ」
 徳井のもっともな意見に、福田は深く頷いて賛成した。
「そうやな。ほんなら行くか。戦いはできるだけ避けたいけど」
「あー、それは同感やな。まあ説得の間、お前が吉田の能力と小杉の能力封じといたらええやろ」
 徳井の提案に、福田は戸惑ったような表情を見せる。
「えっ、けどどうやったら能力が発動するんかまだよう分からへんし……」
 徳井は呆れたようにため息をつく。
「お前、この一週間のことやったのにもう忘れたんか? 一回うめだの舞台で間違って俺の能力封じてしもたやないか」
「あ、ああ、そういえばそんなこともあったなぁ」
 福田はようやく思い出したような顔で、うんうんと頷いた。
 この一週間のうちに一度舞台でネタをやった時、福田は能力を発動させてしまい、徳井の石の能力を何分か封じてしまったのだ。
 ちょうど先日ブラックマヨネーズに襲われて、石を常に持ち歩いていなければ気が済まなくなっていた頃だったので、福田は誤ってポケットの石を握ったまま普通通り徳井にツッコんだのである。
 ネタが終わって楽屋に戻ると、徳井は石が反応しないと嘆き出し、福田は焦りながら舞台で一度石を触ってしまったことを告白した。
 幸いなことにすぐに徳井の石は反応するようになったらしいので事なきを得たが、あのまま徳井の石が使えなくなっていたらどうしよう、とその時は真剣に悩んだのであった。
 その経験で、どうやら福田の石はツッコミ台詞に反応するらしいという結論に至ったので、結果的には良かったのかもしれない。
「ほんなら、とりあえずあいつらにツッコんどけばええんやな?」
 福田が確認すると、徳井は頷いた。
「そういうことや。石握っとくの、忘れんなよ」
「分かってるわ」
 福田は軽く頷きながら、顔の前で手をひらひらと振った。
300Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:53:26
「それにしても知らん場所やなぁ。こんなとこ、来たことないわ」
 その日の午後九時半頃、二人は呼び出し場所の公園の近くだと思われる住宅街を歩いていた。
 道の脇に建っている家々からは光がこぼれているものの、外には人の姿が全く見えない。二人は何度も送られてきた地図を確認しながら、道を歩いていた。
「ほんまにここでええんかな。もうちょっと早よ出とくべきやったか」
 徳井が少し悔しそうな、不安そうな顔をしてそう言った。その言葉に反応して、徳井の前を歩く福田が振り返った。
「ちょっと、もう一回地図見せてくれへん?」
 徳井は頷いて、福田に自分の携帯を渡した。福田はそれを受け取り、携帯をいじってしばらく画面を見つめながら、ぶつぶつと呟いていた。
「――で、これがここで……あれ? これ、地図の下スクロールできるやん」
 福田の何気ない発言に、徳井は驚きの色を顔に出した。
「えっ? まだメッセージがあるってことか?」
「うん、そうみたい。……えーとな」
 福田は改まった様子で、こほんと咳払いをしてから読み上げた。
「“レギュラーは俺らのもんや”って。訳分からんねんけど」
 福田はそう言って、携帯を徳井に差し出した。徳井はそれを受け取って、画面を見つめた。
 地図の下には確かに文字があり、そこには先程福田が読み上げたように“レギュラーは俺らのもんや”と意味深な一言が書いてあった。福田が言うとおり、全く訳が分からない。徳井は携帯の画面から顔を上げ、福田に尋ねた。
「なあ福田、これどういう意味やと思う? レギュラーって何やろ?」
 福田は難しい顔をして、うーんと考え込む仕草をした。
「そうは言われてもなぁ。まあレギュラーで思いつくんは……『あるある探検隊』のレギュラー?」
「もしそうやったら、この文はレギュラーの二人を人質にとってるっていう意味か?」
 徳井の思いつきに、福田はうーん、ともう一度唸った。
「いや、けど腑に落ちひんな。もし人質いるんやったら、もっとでっかく書いて脅しそうなもんやけど」
「ほんならレギュラーて何やねん。まさかガソリンのこととちゃうやろしなぁ……」
 そこで二人は歩みを止め、首を傾げて同時に唸った。
301Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:55:02
 しかしいくら考えても、その答えは出ない。おまけに時計を見てみれば、約束時間がすぐそこまで迫っていた。二人は慌てて歩き出し、地図を確認しながらもまだ頭の中で“レギュラー”の意味を考えていた。
 地図でいえばもうそろそろ公園につくかというところで、福田が突然大きな声で長々と独り言を言い出した。
「あーあ、それよりあいつら、こんな遅い時間に呼び出しよって。明日番組の収録入ってんのに、ちょっとはそのへん考えてくれたかてええやろ。ほんまにもう、あいつらは明日出えへんからって……」
 その独り言で思い出したかのように、徳井がああ、と頷いた。
「そういえばそうやったな。何の番組やったっけ?」
「あれや、“せやねん!”や。ほんまに、自分のレギュラー番組くらい覚えとけよ」
 福田が呆れたように徳井の問いに答えた途端、福田と徳井ははっとして立ち止まり、同時に顔を見合わせた。今の自分たちの会話の中に、重要な単語が混じっていたではないか。
 まさに先程、その単語を発した福田がおそるおそるといった様子で口を開いた。
「なあ、レギュラーってまさか……」
「ちょっと福田くん、もしかしてドンピシャちゃうかこれ」
 徳井は再び歩き始めながら慌てて携帯を操作し、地図の所より下にスクロールさせて例のメッセージを出す。それを見つめながら、徳井は納得したような顔つきで頷いていた。
302Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/28(火) 23:56:25
「一応意味は通るな。番組のレギュラーは俺らのもんや、っていう意味やろ?」
「おいそれ……わざわざ俺らへのメールに書いてきたってことは、まさかあいつら、俺らのレギュラー番組を奪うつもりなんか?」
 徳井は一度唸ってから、首を横に振った。
「いやいや、そんな簡単には無理やろ。プロデューサーとかとコネがあるんやったらまだしも、あいつらそんなんあるわけないやろ?」
「まあ、そらそうや」
 けど、と福田は言って、真剣な表情を見せた。
「こんなに自信満々に書いてきてるんやったら、ただ俺らをビビらすための嘘、っていう感じはせえへんよな……?」
 ごくり、と唾を飲み込む音が、ひんやりとした夜の空気に伝わって響いた。
 レギュラーを正当な――といっても、コネを利用するのは正当とは言えないが――やり方で奪えるならいいが、ブラックマヨネーズの二人にはそんなことはできない。ならば最後に残された手段は一つ、強引に奪うしかないだろう。
 つまり、チュートリアルの二人がいなくなればそれでいい――あの二人がそう考えていたとしたら。
 その考えに至った瞬間、二人の背中に冷や汗が伝った。
「……嫌な予感がするのは俺だけか?」
「いや、俺もやねんけど」
 その時、ちょうど住宅街の外れに、木の生い茂る公園があるのが見えた。地図と現在地を見比べながら、二人は慌てたように公園の方に走り出した。


 現在時刻、午後九時五十五分。


今回はここまでです。
303名無しさん:2006/03/01(水) 12:38:05
乙!
続きが気になります。
304名無しさん:2006/03/02(木) 01:14:15
捕手
305名無しさん:2006/03/02(木) 12:22:41
乙です!
二度目のバトルですね。楽しみです。
306名無しさん:2006/03/02(木) 13:18:58
hosyu
307名無しさん:2006/03/03(金) 01:44:16
保守
308 ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:03:56
97年末の話を落としに参りました。
まだ白のバカルディの話です。
★バカルディ・ホワイトラム<1>(side: 三村)


「すいませ〜ん!」


どさ回りの営業の帰り道、声をかけてきたのは女二人組。

大きな胸に大きな目。そろって小柄な童顔の女が目の前で笑っている。
見てくれはちょっと可愛い。通りで「普通に」声をかけられたら悪くないかもしれない。

…まあ、俺にはカミさんがいるし、どう考えても「普通」の状況じゃねぇわけだ、今は。

三村は頭の中で状況を整理している…のだが。
正直、それより何よりものすごく気になってしまう部分があったりする。

…こいつらもやっぱり芸人ってくくりだったのか。

三村マサカズ30歳。職業、お笑い芸人。
もうすぐ芸歴も10年という長さになるのに仕事のお寒い我が身のせちがらさよ。
目の前にはグラビアから芸人の領域に身体一つ、いや乳四つで殴り込みに来た女が二人。
寄せた胸だけで一気にスターダムへと駆け上がるパイレーツを遠い目で見る今日この頃。



そんな女たちの明るい笑顔とうらはらに、胸元の鮮やかな赤い石には黒い影がさしている。
それを見ただけでむこうの用事も想像がつくというものだ。


「石、渡してもらいに来ましたぁ」
「…逆ナンってわけじゃねぇんだ、やっぱり」


甘ったるい声が耳に響く、全く最悪だ、女にも襲われるんだからやってられない。


「あー…女と闘うとか、俺、ねぇわ…」
「俺もねぇな、100ねぇ」


ぼそりと嫌そうに呟いた大竹に、三村も同調する。
今をときめくパイレーツの胸の谷間にはそんなに興味ねぇから、おとなしく帰って欲しい。
何でこんな目にあわなきゃなんねーんだ、いい加減にしてくれ。


「「…せーの!」」


そんな我が身の不幸を嘆いている間に、女たちが攻勢に転じてしまった。
赤黒い石は次第に光り始め、二人揃ってあのポーズをとる…ああ、猛烈に嫌な予感。


「「だっちゅーの光線!」」


声があたりに響くとともに、強烈な赤色の光線が放たれる。
だが凄まじい勢いで襲ってきたその光は、透明な壁に当たって霧散した。
よく見ればブラックスターが大竹のジャケットの左ポケットで光っている。
どうやら状況を見て素早く石を使っていたらしい。

勢いに乗った女たちは光線をさらにもう1発、連発してきた。
それはどちらも大竹の「世界」の前に散ったが、大竹と三村の頭には一抹の不安がよぎる。


「…大竹、どんくらいもちそうだ?」
「そんなに長くねぇぞ、俺いま疲れてるし」
「だよな、俺もだ」
「どうすっかな」
「どうすっかってお前…どうしょうもねぇよ」


男二人の会話からは解決策の生まれる気配もない。
しかしこちらからも攻撃をしないことにはどうにもならないと気づき、互いに呼吸を合わせる。
大竹が三村の顔をちらりと見て言うのはおなじみのあの台詞。


「お前ってよく見るとブタみてぇな顔してんな」
「ブタかよ!」


これまたおなじみのツッコミとともに、ピンク色の生きたブタがビュッと飛んでいく。
非常に間抜けな光景ではあるが、当たったら本当に痛いし怪我も免れない技だ。ブタは重い。
パイレーツ二人は慌てて「だっちゅーの光線」で応戦し、ブタと光線が正面衝突して相殺される。
「ブヒィーーー!」と断末魔の叫びが悲しく響き、どこから呼び出されたのか謎なブタは姿を消した。

三村は次のボケを促すように大竹を見たが、大竹は視線を返すだけで言葉をつむがない。
相方が「世界」の維持にかなり疲れているのを見てとった三村は、何かツッこめる物をと探しだす。
しかし、あいにくアスファルトの上には小石一つ見当たらず、徒労に終わった。

その間に、パイレーツも新しい動きを見せる。
好未が肩に下げたカバンの中をさぐり、透明な中に虹色の光のまたたく石をとりだした。

襲撃にむかうにあたって、黒の上層部がこの石を「補助に」と二人に与えたのだ。
『この石を使えば少しなら体力や怪我の回復ができるし、小さな願い事ならかなう』
…そんな風に彼女たちに石を渡した男は話していた。


「…はるか、これ使うよ!」


声とともに、七色の光が石を握ったその手からあふれ出すように広がって、はるかの身体を包んだ。
光線発射に体力を使ったのか肩で息をしていたはるかは、活力を取り戻したように背筋を伸ばす。
それを見た好未ははるかに石を渡し、今度は逆に自らの回復をしてくれるよう頼んだ。


「すごい、効くねこれ」


呟きながらはるかは透明な石を握りこみ、精神を集中させる。
好未のときよりは弱かったが、はるかの手の上の石から放たれた光は、好未の身体を包んだ。
元気を取り戻した女二人は、またも攻勢に回る。


「えーいもう一回…「「だっちゅーの光線!」」


明らかにマズい状況だ。この調子で連発されては確実にブラックスターの限界が遠からずやってくる。
三村の隣で、大竹は光線が発射される度に必死に精神を集中させて「世界」を保っているけれど。


…これは長期戦になりそうだ、最高に分が悪い。
そう思った瞬間、はるかが今度は別の台詞を叫んだ。


「だっちゅーの超音波!」


…何だそれ、もしかして新ネタか?

言葉とともに赤い環状の音波らしきものが飛んでくる。
聞き覚えのないネタに集中力を削られたのか、それとも石の効力が薄れてきたのか。
「世界」を守る透明な壁は完全には機能せず、衝撃が部分的に伝わって耳がキィンと痛んだ。


「くっそ、痛ぇ…」
「…すまん三村、無理、もうぜってぇ無理…ボケとかする暇ねぇ」
「マジかよ!」


だっちゅーの光線…いや超音波恐るべし。この威力をなめてはいけなかった。ここまでとは予想外。
…しっかしホントどうかと思う戦闘風景だな、間抜けなのに追い込まれてるなんて…。
三村は鬱々としてくる気持ちをどうにかおさえようと身体に力を入れる。


とはいえこのままでは何一つ解決しない、何か打開策を考えなければ…。

そんな気持ちで大竹の方を見やれば、額には大粒の汗が浮いている。
少しでも防御するために最大限集中しているんだろう、確かにこの状況でボケを望むのは酷だ。

しかもこういうときに限って道ばたに物は落ちてねぇし。
さすがに電信柱なんて飛ばせねぇぞ、何か小さいもんないのか。


「あーくそ、何か落ちてねぇかな…」
「…おい、アレ」
「あっ!」


大竹の指差した先、道の端のくぼみには、見覚えのある缶が。



★バカルディ・ホワイトラム<2>(side: 大竹)



アスファルトのくぼみに隠れるように転がっていた空き缶。
三村がビシッ! と指差して全力で叫べば、立派な飛び道具になる。


「むらさきっ!」


飛んでいったおなじみのファンタグレープの缶は、好未の額にガッコーンと当たった。
もはや容赦する気もないらしい三村の高速ツッコミは結構な衝撃だったらしく、好未はぐらりと身体を傾がせる。
それを見ていたはるかが、「負けない!」と石を握り込んだ。


「だっちゅーの光線!」


はるかが三村を見据えて叫ぶ。胸元では黒い影の走る赤い石がきらめいた。
サァッ、とその石の真っ赤な光が三村に襲いかかってくる。

咄嗟に大竹は自分の石で「世界」を作り出し、相方を守ろうとした。
しかしもはや戦闘の中で力を使いすぎたためにその光は三村まで届かない。
もろに石の力を受けた三村は、「うあっ!」と叫びをあげた。


両手で眼を覆ってその場に倒れ込む三村に、さらに追い討ちをかけるようにはるかが叫ぶ。
それはもう限界をこえている身体からむりやりに絞り出すような声だった。


「だっちゅーの…超音波っ!」


その声を聞いても、もう大竹の石は微弱にしか反応しない。
耳にさすような痛みを感じたが、何の防御もできていなかった三村はもっとひどい状態なのだろう。
耳をおさえて転げ回る相方の姿。唇をゆがめて笑う豊かな胸の持ち主に対して強い怒りを覚えた。
けれども、怒りのせいで逆に冷静になってしまえば、あの胸から出てくる光線やら超音波で
苦しむ自分たちの滑稽さに気づいてしまって少し悲しくなる。

…くっそ、なんつー嫌な感じの戦闘風景だ。

だが、三村にはバッチリ効いてしまったし、これじゃあ攻撃もできない。
さらに好未が息を吹き返し、例の透明な石を手にはるかの体力を回復しようとする。
ブラックスターはもはやうんともすんとも言わない、根性ねぇ石だチクショウ。

…絶体絶命。

もう切り札のあの石を使うしかない。
ここのところ明らかに使いすぎだとわかってはいたが、目の前の危険を回避するにはこれしかなかった。


「…めんどくせっ!」


疲れた声で吐き捨てながら、とりだしたのは虫入り琥珀。
ありったけの集中力を動員して、蜂蜜色の石に力を注ぎ込む。
放たれた強力な衝撃波は、襲撃者パイレーツを完全に打ち倒していた。


三村から視覚と聴覚を奪ったはるかは、すっかり意識を手放している。
好未が、みぞおちあたりを押さえながらひとりこちらを暗い目で見上げてくるのでにらみ返した。
土をなめた女の憎しみの籠った目にも、もう動じることもない。


「あっ、大竹! お前虫入り琥珀使っただろ!」


はるかが気絶したせいか、わずかずつ感覚が戻ってきたらしい三村が薄目で状況を見て叫ぶ。
が、大竹の方はまだ耳が聞こえにくくなっており、三村が何と言ったのかいまいちわかっていない。
おそらく虫入り琥珀を使ったことを責めているのだろうが、今回はああするしかなかった。


…今回はああするしか、って何回言ったかもう覚えてねぇけどな。
そんなふうに心の中でつけ加えて、石の代償の重さに頭を抱える日々。


毎日毎日毎日…じゃねえこともあるか。

けど、とにかくもういい加減にしろ、と言いたくなる。
あまりの黒からの襲撃の多さに、そろそろ頭がプツッといきそうだ。

何でか知らないが、最近黒の奴らに俺らの石は大人気。
特に俺のブラックスターは妙に人気があるらしく、やたらに狙ってくる奴が多い。
確かにこいつは防御には相当有効だけど、そんなに人のもんばっかり欲しがることもねぇだろうよ。

うんざりしながら、その場を後にしようとして三村を見やる。
目蓋やら耳やらを引っぱっている相方に、多分それ意味ねぇと思うぞ、と心の中でツッコミを入れた。
石の影響は一生モンじゃないんだし、ほっとけば数時間で元に戻るだろう。

それよりむしろ今は、自分の石の反動のものすっごい倦怠感が問題だ。
もう即帰宅。ガンガンに引きこもっていく。けど腹減った。けど寝たい。どれをとれっつーんだ。


「三村ぁ、とにかく帰ろうぜ!」


多分まだあまり聞こえていないだろう三村の耳もとで怒鳴る。
三村がこちらを向いて頷き、向きを変える。
そのつま先がこつん、と何かを蹴り、俺の足下までそれは飛んできた。


「何だ…石じゃねえか」


疲れた身体にむち打って拾い上げればそれは、好未が使っていたあの石で。
体力を回復させられるなんて便利だし一応もらっとくか、とポケットにしまいこむ。

それを三村は一瞬見とがめたようだったが、耳と眼が不自由な状態で会話するのも面倒だからか、さらりと流した。


「アレだっ、飯でも食ってくかぁ?!」


結局空腹をとることにした俺の怒鳴り声にもう一度三村が頷いて、二人で夕暮れの道を歩いていく。
オレンジの光の中、ひきずる二つの影が長くアスファルトに伸びた。



321 ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:24:43
パイレーツ(西本はるか/浅田好未)

石:クロコイト(紅鉛鉱)二人で一つの石をわけあい、ペンダントヘッドにしている。
性的な苦手意識を癒す。創造性や生殖に関連した生命力そのものを示すチャクラを活性化させる。
性的なトラウマを持つ人、創造性が欠乏した人に有効。
能力:
二人で胸を寄せる決めポーズとともに「だっちゅーの光線!」と叫ぶと胸元から赤い光線が出る。
また、「だっちゅーの超音波!」と叫ぶと胸元から赤い環状の目に見える音波が出る。
ちなみに、光線を浴びると目に激しい痛みを感じて一時的に盲目の状態になり、
超音波を浴びると耳に激しい痛みを感じて一時的に耳が聞こえなくなる。
条件:
二人で使用した場合、一度に打てる回数は三発が限度。
はるか一人でもこの技は可能だが、回数は同じでも威力が弱くなる。
代償:
一発打つごとにネタを後ろから忘れていく。また、体力が削られるため疲労感を覚える。
322 ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:25:35
好未のとりだした石:
レインボークォーツ(七つの光が願いを叶える)
能力:
持ち主の、他人に関する害意のない望みを叶える。ただしもとの状態以上に他人の能力を引き上げたり、
存在しないものを作り出して他人に与えるような力はなく、使用者自身に関する望みも一定のこと以外叶わない。
つまり「仲間の怪我を治したい」「遠くにいる仲間に自分の持っている傘を武器として与えたい」は叶うが、
「自分の怪我を治したい」「仲間の力を限界より強くしたい」「仲間にバズーカ砲を作り出して与えたい」は叶わない。
また「他人の持っている自分の傘を自分に返させる」ことは可能だが「他人の傘をとりあげて自分のものにする」ことは不可能。
条件/代償:
他人に害を与えることを望む場合には、同等の害が使用者自身にももたらされるため注意を要する。
「敵に動けなくなるほどの怪我を負わせたい」という願いは叶うが、同時に自分も動けなくなるほどの怪我を負う。
叶えられる望みの大きさは「使う人間の実力」「石とどの程度波長が合うか」に左右される。
また、石を使用した際、その石に関することを中心に、使用者とその場にいたものの記憶が曖昧になる。
望みの害意のあるなしに関わらず、石が叶えた望みが大きければ大きいほど、記憶の損傷は激しい。

[東京花火]の設定と同じです。
323 ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:26:40
大竹一樹(バカルディ)
石:ブラックスター(星形の輝きが浮かぶ黒色のダイオプサイト(透輝石))
理性や知性を表し、冷静で理性的でいられるよう導く。
能力:
自分ひとり、もしくは自分と許可された人間数人だけが入れる「大竹ワールド」を出現させる。
相方の三村はこの空間に出入り自由で許可も必要としないが、それ以外の人間は大竹本人による許可が必要。
ある種のバリアーのようなもので、外部からの攻撃はこの空間内に届かない。
条件:
三村以外の人間は大竹の許可を得た上、「やってんの?」という
のれんをもちあげる仕種とともに空間内に入らねばならない。
入る人数が多ければ多いほど持続は困難。極端に使える時間が短くなる。
三村と2人の場合、もっとも長い時間持続させることができる。
また、内部からの攻撃には防御不可能なため、許可を与えた人間が内部で攻撃を開始すると弱い。
使いすぎると代償として、極度の倦怠感と疲労感に襲われる。

三村マサカズ(バカルディorさまぁ〜ず)
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める
能力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、
人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。
324 ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:30:01
バカルディからさまぁ〜ずにいたる三部作の(1)として書きました。
一応この話は完結しています。

タイトルは「バカルディ」社のラム酒の名前より。
ホワイトラムとブラックラムがあるという都合の良さに惹かれましたw
325名無しさん:2006/03/04(土) 13:43:48
>>324
乙です。さまぁ〜ずっぽさが自然に出ててすげー良かったです。
続きをwktkしながら待ってます。
326Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:53:42
ハローさんの話。
話自体は短編ですが、ビット編2に繋がる感じ。


手の中に、つるりとした固形状の感触がある。
なめらかで冷たくて無機質なような有機質なような、そういう触感だ。
つい先日手に入れたものだ。欲しくもなかったが。
それが高価なのも、最近知った。
そして、何かしらの力を秘めていること…は、大体勘付いていたか。
ともかく、どちらかといわずとも歓迎できない部類の贈り物だ。
もっとも突っ返そうにも送り主は不明なのだが。
ため息をつきかけて、ふと頭に浮かんだ迷信にそれを躊躇し、結局飲み込んだ。
信じてはいない。けれど、皆不意に出て来ることはあるだろう。
北に枕を置くと駄目だとか、夕暮れ時は魔物が出る、だとか。
方便としての活用だけで、毒にも薬にもならない、いわゆるそういうものだ。
右手を開く。待ち構える左手にすとんと収まる。自然な落下だ。
どうやらこういう不可思議な石も引力や重力に逆らうことはないらしい。
白、というかごく薄いクリーム色の、硬質なもの。
石にも大きめの飴玉のようにも見えるが、これは象の牙だ。
つまり、今この手中にあるものの後ろには、一頭の象の死がある。
それだけならまだしも、と思い、一呼吸置く。
「…厄介な。」
それだけ一言つぶやく。後を追うように息が出て行き、はたと苦笑する。
ため息は幸せを一口分連れて逃げ、うっすらと白く消えた。
327Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:54:53
しかし、この寒い中屋外で人を待つのも辛いものだ。
電柱に寄り添うようにして往来に突っ立っていると不審人物に間違われないかと心配なのだが、幸い人通りも少ない。
二十分ほどここにいるが、その間犬を連れた爺さんが一人通っただけだ。
見回すとすぐそばに喫茶店が見えたが、そこでぬくぬく待っていたら怒られそうな気がした。
待ち合わせるならもっと時節も考えてほしい、とひとりごちる。
見上げると、不安定になるぐらい青い空がどこまでも広がっていた。
そんなことでいちいち心がぐらつくような年でもない。だが、これから自分の行うことを考えると、青空のせいだけではなく気落ちした。
ふと手持ち無沙汰になり、何の気なしに象牙をつまみあげて観察する。
簡素な白は、ただ磨かれただけで少々寂しい。
判子にでもしてしまうか、と思ったが、ふと考える。これは戦闘用だ。
ハンコ片手に戦う。…滑稽だ。
いや、芸人たるもの面白くないよりは面白い方がいいのだが、下手を打てば死ぬような場面で無理して笑いを取るのもどうかと思う。
「山崎」と彫ろうと「ハロー」と彫ろうと、馬鹿馬鹿しいことにあまり変わりはない。
第一、割と芸風と違う。
…そもそも誰が笑ってくれるというのだ。敵か?
敵も芸人だ。敵も命がけだ。ツッコんでもくれないだろうと容易に予想出来る。
嘲り笑いならいただけるかもしれないが、それは多分腹が立つだろう。
結論、判子は却下。
そう寒さのせいで薄ぼんやりとしたとりとめのない思考が結論づいたあたりで、丁度待ち人がやってきた。
とはいえ、色気のあるものではない。石をポケットに突っ込む。
「どうも。」
軽く会釈すると、よ、という短い返事が返る。
「今日も寒いな。」
「そうですね。」
会話とも呼べないような薄っぺらい受け答えをしてから、男が鞄を開けた。
328Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:55:35
「ほい、今回の分。」
「…どうも。」
表情のない男が差し出すのは、いつも通り中くらいの大きさをした黒い紙袋。
もっと違うものであればいいのに。
ぼんやりと思うが、具体的に何がいいとも浮かばない。
熊のぬいぐるみでも、腕時計でも、何でもいい。
要はこれでさえなければいいのだ。
そうであれば…言い換えよう、「これは嫌だ。」
浮かんだ言葉も思考の波に流れて飲み込まれ、声に出すこともないまま何事もなかったように消えていく。
ずしりとした黒い袋を受け取る。どうせ中身もいつもの黒いものだ。
黒に黒、というのはいかがなものかと思う。別に外見が何色であってもそのものの本質は変わらないのだが、人間はごまかしが好きなものだ。
袋を渡して、名前も知らないいつもの男は去っていった。
いや、毎回違うのかもしれないが、そんなことお互い気にも留めないので分からない。
どこかのスタッフなのかもしれないし、見知らぬ芸人かもしれない。
揃って表情のない顔は、よほど元のつくりが個性的でない限り見分けるのが難しい。
しかし待たせておいて、あっさりとしたものだ。…いや付き合わされても困るので別にいいのだが。
わざわざコレを下っ端に運ばせるのは、顔見知り達に自分たちの素性を知られないようにという用心か。
下っ端はどうでも補充がきく。使い捨て、切り捨て、上だけは生き残れる。
蜥蜴の尻尾切り。ふとそんな言葉を思い出す。
いくら分析したところで、それは邪推というものだ。どうせ反抗もできないし、する気もさほどない。
心の奥に諦めが染みついている。本当に嫌気が差す、とまた深い息が洩れた。
329Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:56:29
袋がじゃらりと、小さく硬いものがいくつもぶつかる音を立てて揺れた。
中身をそっと確認する。いつものように、といっても未だ慣れない禍々しい黒が、ビニール袋に小分けされていくつも入っていた。
麻薬みたいだな、と思った。ドラマや映画によく出る、白い粉が入った小さな紙袋。
見た目はだいぶ違うが、なぜかそう感じる。中毒性があると聞いていたからだろうか。
袋を鞄に突っ込むとさっさとその場を離れる。
これがまた誰かを狂わせるのだろう。触れた手や鞄まで汚れたような気がした。
いや実際汚れている。使ったことはないにせよ、今こうして関わっているのだ。
けれど、どうすることもできないではないか。
知っている親しい誰かが苦しむかも、死ぬかもしれなくても。
己には何もできない。痛いほど分かっている。弱いから従っている。駄目な自分だ。
割に広い道は人とすれ違うこともない。平日の午後一時、町はどうにも力が抜けていた。
ふと、ポケットで揺れる軽い重さに、布越しに手を触れる。
こいつはまだ白いままだ。いつか黒ずむのかもしれないが、まだ何も言われていない。
…そういえば、まだあの黒いもの―正式な名前も知らないが、あれはどうやって使うのだろう。
袋の中に石を入れる。白地にじわりとまわりの黒が広がっていく。
想像をしただけで寒気がして、今すぐ象牙を乱暴に磨き上げたくなった。
拒否反応が出るということはまだ迷っているのだろう。
黒に。いや、そもそも石に。
戸惑いがあった。善良とは言えないにせよ、ただの一市民だ。
…少々自分勝手ではあるにせよ、ただ人を笑わせるのが好きな男だ。
330Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:57:03

黒いものの欠片を指定されたテレビ局の楽屋へそれぞれ届けて、トイレへ行って手だけ洗って出て来た。
迷信と同じく、意味はない。まじないのようなものだ。
弁当の紙袋の隣に放ってきたアレは、きっとスタッフが上手く分配するのだろう。
我も我もとたかってくるのだろうか。それとも自分のように迷いがあるのだろうか。
あってほしいと思う。まだ引き返せると。
可能動詞と実際にできうることは別物だと知っていて、それでも。
つい他人事のように見てしまうのは、そう切羽詰まっていないからだろうか。
断って危害を加えられるのが怖いから、黒に入っただけだ。大それた野心も欲望もない。
完全に長い物に巻かれている。情けなくはあるが、怪我をしたくはなかった。
あのおぞましい欠片もまだ直接もらってはいない。それもそうか、運び屋が薬漬けになっては困る。許されればずっと運び屋でいたい気分だ。
象牙を取り出して握りしめると、少し落ち着いた。
手が震えていたことに気付く。それほどあの欠片が嫌なのか。
…お前は、どうだ。いつか真の意味で「黒」になる時が来たら…受け入れてくれるか。
もちろん石が答えてくれるはずもなく、ただしんと白くそこにあるだけだった。
俺は嫌だ、と思う。
きっと流れには抗えないけれど。

トイレの前で十分近く固まっていたのは、幸い誰にも見られていなかったようだ。
前は大丈夫だったのに。…今回は特に量が多かったからだろうか。
額から汗が一筋垂れるのを袖で拭うと、さっさと歩き出す。
今はただ帰りたかった。忘れたかった。どうせ逃れられないのだから。
局の正面玄関を出て、駅への道を行きかけ…ふと立ち止まる。
石の気配を感じた。少々不穏な、でも攻撃的ではない。
さっと振り向くと、テレビの中で見慣れた人が立っていた。
若干広い額にしゃくれた顎に目の下の隈、人を食ったようなにやにや笑い。
そんな顔立ちの、三十代半ばぐらいの男。
事務所も違うし交流もないし仕事を一緒にしたことはない。
だけど、違う方面での噂はよく聞いている。
…嘘だろ。
331Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 16:58:28
「…くりぃむしちゅー、の…有田…さん?」
唖然となって呟いた。
そんなような表現が正しいように思える。
「やー、どうも。ハローくん、だっけ?」
ひらひら手を振ると、にこにこ笑って近づいてきた。
焦って思わず身構える。攻撃には適さないことを忘れて、掴んだ石をかざす。
「おっとっと、ちょい待ちちょい待ち。
 別に手荒な真似はしないって。今日はお話…っていうかお取引に来たから」
「…取引?」
「そそ、悪い話じゃない。俺も仕事あるし、手短にすますけど」
ますます怪しい。白の幹部が、黒の下っ端に何の用だというのか。
有田が話を続ける。顔中ににやにや笑いが広がっている。
「実はさあ、ちょっと手伝ってほしいことがあんのよ。
 ちょっと前つかまえた黒の奴から聞いたんだけどさ、君の能力」
眉をしかめ、舌打ちする。怒るでもなく、しまった、と思う。
下っ端同士で自己紹介程度に能力を教えていた奴はそこそこいた。
迂闊だった。面倒なことになるかもしれない。
「や、引き抜きとかそんなんじゃなくて。
 ただ、ちょーっとボランティアにご協力。」
「…具体的に、どんなことについて?」
知らず声が固くなる。そんなことを言われて、信じられるはずがなかった。
にや、と大きく相手の口が歪む。
332Elephant  ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 17:02:11
「目には目を大作戦。」
「…は?」
皮肉ではなく、純粋に問い返す。
「あ、この呼び方じゃわかんないか」
わかるはずがない。復讐、としか目星もつけられなかった。 こっちに話を持ってきたということは、自分の能力が何かしら役立つ部類のものか。
「んー、ちょっと話すと長いんだけど…」
そう前置きされた話の内容にも、嘘臭い点は見あたらなかった。(ただ、話し方は冗談のようだったが)
象牙を見ても、警戒の光はなかった。どうやら信じられるらしい。
「どう、協力してくれる?」
「…わかりました。
 ……その、代わりといっては何ですが、俺も白に入れてくれませんか。」
続けて自然とこぼれた言葉に耳を疑った。いや、この場合は口か?
何を言っているんだ、正気か。我ながら思う。
だがもう溢れ出た言葉は喉には戻らない。
そして、本心であった。ずっと願っていたことが向こうから来たのだ。
逃げたかった、心の底から。
無駄だと自分に言い聞かせていた。痛い目には遭いたくないと。
だが、どうやらどうしてもここには耐えられなかったらしい。石も俺も。
そんなに心根のいい人間ではないけど、悪事をずっと見て見ぬふりできるほど鈍感でもない。よく罪悪感に押しつぶされずに我慢できた方だと思う。
誰かがきっかけを作ってくれれば、と知らず思っていた。
どうせ白に協力したと知れたらただではすまないだろう。引き抜き目当てではないと言いながら、この人も確信犯かもしれない。
自分が黒の活動に乗り気ではないと聞いたのだろうか。
…まあ、そんなことはどうでもいい。やっと踏ん切りが付いたのだ。
やけくそのように、覚悟を決めた。惰性で悪役に回っていてはいけない。
ヒーローとは言わずとも、地球防衛軍の下っ端ぐらいにならなれるはずだ。
戦おう。待っていても、もう元の日常には帰れないんだから。
俺の言葉を聞いて事務所違いの先輩は満足げに微笑み、
「んじゃ、一応石浄化しとかないと。」
と象牙に手を伸ばし、曇り一つないその姿に驚いて、
「…本当に黒?」
ときょとんとした目で聞いてきて、俺を久々に笑わせたのだった。
333 ◆vGygSyUEuw :2006/03/04(土) 17:05:21
ここまで。
ハローさんの石は能力スレにあるやつですが、一応次の話の後に。
334名無しさん:2006/03/05(日) 03:15:05
乙です。
最近投下のペースが上がってきましたねw
335名無しさん:2006/03/05(日) 14:55:15
乙!
したらばが閑古鳥なのでそっちもよろしく
336名無しさん:2006/03/05(日) 23:29:32
書き手さん、乙です。+保守
337名無しさん:2006/03/06(月) 14:08:39
hosyu
338名無しさん:2006/03/07(火) 14:16:29
あげ
339名無しさん:2006/03/08(水) 16:07:12
キャッチャー
340名無しさん:2006/03/09(木) 10:14:49
イン・ザ・ライ
341名無しさん:2006/03/10(金) 08:31:10
保守。
書き手さんガンガレ
342名無しさん:2006/03/10(金) 22:36:23
保守。
343名無しさん:2006/03/11(土) 18:45:09
ほしゅ。
344名無しさん:2006/03/11(土) 21:00:36
もう少しで1話投下できたのに、PCの電源が落ちた拍子にファイルが消えた…orz。
345名無しさん:2006/03/11(土) 23:36:08
>>344
おぉ、落ち込まないで、としか言えない。
ゆっくり待ってまつ。
346名無しさん:2006/03/11(土) 23:41:45
>>344
ドンマイ!めげないでゆっくり書き直してくださいな
楽しみにしています。
347名無しさん:2006/03/12(日) 22:43:59
保守
348 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:08:11
>>19の続き。

ブロック塀に小さな亀裂を入れて深々と突き刺さるのは、丁度弓道用の矢と同じくらいの太さに精錬された、棒状の細い岩。
一瞬何が起こったか佐久間には分からなかった。
再び、空気を斬って矢が飛んできた。一本や二本ではない、かなりの数。
人間というのは、こういうとき本当に身体が動かないもので。
思わず目を瞑った。カカカカンッ、とリズミカルに石矢が刺さっていくのが分かった。

矢が飛んでこなくなったのを確認し、佐久間はゆっくりと目を開けた。
身体には、傷ひとつ無い。
(―――なんか知んないけど、助かった)

ホッと一息吐いて腰を下ろそうとしたが、服がピンと引っ張られた為に出来なかった。
何だ?と肩口を見ると、矢が服の肩口の布を貫通したまま石肌に刺さっている。
よく見ると、矢はズボンもTシャツの裾も見事に射抜き、壁に釘で打ち付けたかの如く体を貼り付けていた。
佐久間はぐいぐいと体を起こそうとするが、服を破りでもしない限り、動けそうにない。
(これはもしかして、もしかしなくても…“捕まった”?)
やばい、と悟ったが時既に遅く。


「見つけた」
何とかこの張り付けから脱出しようと奮戦している内に、前方から松田が歩いてくるのを見た。
少し疲れているのか、浅い息を繰り返し吐いている。
四大元素の力は殺傷能力が高いせいで他人を捕まえるには大怪我をさせて捕まえるしかないが。
火や水と違い、最初から個体である土は精錬すればどんな形の物でも創ることが出来る。例えばこの、戦場で使われるようなトラップであったり。
近づいてくる黒い欠片の禍々しい空気に激しい嫌悪感を覚え、眉を顰める。
349 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:10:25
「ひっ、い、嫌だ…。助けてっ……!」
叫んだつもりの声は小さく引きつっていて、砂と共に風に攫われた。
暴れても逃げられない状況に、自分でも顔が青ざめていくのが分かる。
その時だ。

「よしきた」

と酷く場違いに明るい声が頭上から降ってきたのは。
…それはずっと望んでいた声で。
佐久間はゆっくりと閉じた目を開いた。
声の主は佐久間の身体が貼り付けられているブロック塀に足を掛け、そのままの勢いで大きくジャンプし松田との間に立ちふさがるように着地する。

「スタイリッシュなお気遣い芸人あべこうじが助けに来たぜい!」


余計とも思われる前置詞はともかく、予想外の乱入者の登場に松田は目を丸くした。
「ほ、本当に来た……」
松田がほぼ無意識にそう呟く。
「そりゃー来るよ。ピンチにはお助けマンが表れるのが世の仕組みってね」
聞こえていたのか、きゃっきゃっと佐久間と対面した喜びを分かち合っていた阿部が顔を向ける。

阿部は笑ったときと怒ったときの目つきが別人のように違う。
その“怒ったとき”と同じ鋭い視線に射抜かれ、一歩たじろいだ。

松田がサッと手を上に翳すと、細かい砂が舞い上がって手の中にに集まり刀が作り出される。
「お前か…松田」
阿部が懐から取り出したのは、二本の短い折りたたみ傘。
水玉模様とチェック柄のよく見かけるビニール傘で、特にこれと言った強そうな要素はない。
松田の振り下ろした刀を二本の傘を交差して受け止め、体格の差を利用して何とか押し返したものの、この一撃で傘の布は破れ、骨は何本も折れ曲がっていた。
350 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:13:08
口元を尖らせ、使い物にならなくなった傘をじっと見渡す。

「“何すぐに壊れてんの、もっと強いはずでしょ?”」
頑張れ、と何やら傘に妙な激励の言葉を掛けたと思った瞬間。ぼろぼろの傘が光を放つ。
光が収まった頃には、傘は完璧に元通りになっていて、加えて薄いベールが周りを包み込んでいる。
一度抜けた歯が生え替わるときに、より固いものとなって生えてくるのと同じように、壊れた傘は、今度は二度と壊れないような丈夫な造りとなって復元されたのだ。

余裕の表れからか、自信満々の意地悪い笑みとおちゃらけた態度は一向に崩れない。
二本の傘を両手剣よろしく逆手に持ち換え、体勢を低くとって構える。
傘術という武芸があることは知っていたが、時代劇や映画、テレビで見たポーズをそのまま真似ているだけで、武術の心得は何も無かった。
しかしそれを十分補う程、手に持っている“強く生まれ変わった”傘の強度は岩石を弾くほど凄まじいものだ。
先程とは打って変わって、今度は阿部が傘を振り下ろしてきた。

ガンッ
という、太刀音とはほど遠い、重い物同士がぶつかる音が響いた。
阿部の傘を松田が砂剣で受け止めている鍔迫り合いに近い状態で、お互いに止まっている。
「佐久間さんを泣かした罪は、重いよ?」
阿部が顔を近づけ、低い声で小さく言った。顔を見ると明らかに目が笑っていない。
体重を掛けて踏み込むと、松田が僅かに片膝を着いた。
「くっ…!」
腕力では敵わないと悟った松田が念じると、地面から浮き出た尖った岩が空中に出現し、ミサイルの要領で阿部に発射される。
運動神経の良さが幸いし、槍のように降ってくる岩を後ろに飛び退きながら避けるが。
「あ!」
そのうちの一つが、身動きの取れない佐久間に向かって飛んでいったのを目の端で捉えた。

351 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:14:39
能力を使おうにも腕を伸ばせない状態にある佐久間はどうすることも出来ない。
すぐさま阿部が佐久間を庇うように立ちふさがり、片方の手に持った傘をパッと開き盾代わりにする。
鮮やかな水玉模様が殺伐とした敷地によく映えていた。
ゴン、ゴン、ゴン、と岩は立て続けにぶつかっては砕け散って地面に落ちた。
「怪我はない?」
パチンと傘を閉じると、いつもの芝居がかった口調と仕草で、子どもに話しかけるときのようにゆっくりと言った。
馬鹿にされた、と思ったのか、恥ずかしいやら情けないやらの感情が入り乱れ、佐久間は顔が熱くなるのを感じて顔を下げた。

「あべさん、何でここが…」
動揺を隠しきれず絞り出すような松田の声に阿部が振り向いた。
「今さあ…岩、本気でぶつけるつもりだったろ、さっくんに」
ふざけんなよ、と睨みを利かせる。
「誰にこの場所を聞いたんですか?」
「…教えてやってもいいよ。でも、俺に勝てるかな?」
鉄のような強度と破壊力を備えた傘を、宣戦布告の意味を兼ねて突き出す。
教えて欲しければまず俺を倒すがいい!というやつか。
本当にどこまでが冗談でどこからが本気なんだろう、と松田は顔を顰める。
兎に角。阿部が佐久間を助けた事で二人の距離は再び広がった。
遠距離の戦闘になれば地面の土を操作する事が出来る。
ゆっくり念じながらサンドストーンを光らせた。


352 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:16:51


能力の規模が違いすぎる。さすがに、人一人守りながら短い傘二本でどうにかなる筈もなく。
傘の柄に岩肌が引っ掛かり、思わず手を離すと、傘は高く舞上げられ倉庫の屋根の上に。
阿部は擦り剥いた肘をさすりながら苦笑いを浮かべて言った。

「あ〜ぁ、やられちゃった。何なん?今日やけに張り切ってんじゃん」
「教えてくれるっていうのは」
「そんな約束忘れた〜」

残った一本の傘で何気なく肩をトントンと叩いた後、「おりゃっ」と一声。
佐久間を押さえつけていた石矢を叩き割り、悪足掻きで最後の傘を槍投げのように松田に投げつけた。
石飛礫を飛ばすと相打ちになって、回りながら落ちていった傘はストン、と柔らかい泥の地面に刺さった。
それに気をとられている間に、阿部は佐久間の腕を引いて、スタコラと敷地の奥へと入っていった。


「―――そうか、あいつだな…」
頭の中に何も知ずに(と言っても自分が何も話していないだけなのだが)えへへ、と笑う呑気な相方の顔が思い浮かべられ、松田は苦虫を噛みしめたような顔つきで舌打ちをした。
憎むとかそういうのでは無いが、ただ妙に腹立たしかった。

とにかく、この敷地内から出るには自分の横を素通っていくしか道はない。
松田は追いかけることもせず、ただ壁に背を預けたまま二人が出てくるのを待つことにした。

―――『ぶつけるつもりだったろ。さっくんに』
阿部の言葉が脳内で蘇る。もちろん殺してやろうとまでは思っていない。
仕方ないんだ。阿部の弱点である佐久間を狙わない限りきっと負けていたから。
命令を失敗するわけにはいかないから。
あの時は仕方なかったんだ…。
「ははは…はぁ…」
小学生のような言い訳じみた自己弁護に苦笑した。
353 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:19:05


「追いかけてこない…か。余裕のつもりか?」
小さな物置小屋の錆び付いた引き戸を、足で蹴り上げながら無理矢理こじ開ける。
カビの臭いが酷く一歩踏み入るだけで埃が立ち上がる。
一応椅子が置いてあったがとてもその上に腰掛ける気にもなれず。
なるべく壁や柱に身体が触れないように佐久間はそろそろと身体を丸め込むようにしゃがみ込む。

「川の泥水はどれだけ浴びても平気なのにね」
そんな彼を見て阿部が呆れた溜息を吐きつつ、小屋奥のガラクタを物色する。

「これ使えそうじゃない?」
ガラクタの山――阿部の石からすれば宝の山だろうか。
そこから見つけてきたオモチャの水鉄砲を二つ差し出す。
引き金のポンプが外れていて、ヒビが入っている姿から、いかに安物のオモチャだったかが伺える。
佐久間は首を傾げながらもそれを受け取り、片方ずつ両手でつまみ上げて地面にトン、と置き、小刻みに揺らす。

「えーと…“どうもー二丁拳銃でーす”…?なんちゃってアハハー」
「こら」
違うだろ、と水鉄砲を取り上げる。
そして、石の力で水鉄砲を復元させる。
今度はきっとポンプを引くと水がジェット噴射の如く飛び出すんだろう。
気絶する程までは行かないが、小さな石くらいなら水圧で弾き飛ばせられるし、身体に当てればそれなりに痛い。
行こう、と早々に阿部が立ち上がる。
どのみち松田と戦わなければ此処から出られない。


354 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:22:15

「完っ璧、足手まといだ、俺。邪魔?」
と、佐久間が言った。阿部は振り返らず答える。
「そうだね。超が付く邪魔だよ。……それでも俺は、さっくんを見捨てない」
急に向けられたその真剣な目に、佐久間は顔を強ばらせる。
何も返すことが出来なかった。

暫く間を置いて阿部はにやりと笑った。
「だぁってさ、あんなでかい石が頭にゴーンていったら、さっくん今以上にパーになっちゃう」
「また馬鹿にして〜…」
心配して損した。と、頭の上で人差し指をくるくる回している阿部の腕を掴む。
阿部はそんな雰囲気を誤魔化すように口調を一変させ笑い飛ばすと、「怖くても泣かないでよ?」と佐久間の背中を叩き、小屋から出た。
後に続いて立ち上がり、その背中に向けて佐久間は叫ぶ。

「―――別に!怖くなんかありませんよ。別に!別にっ!」


355 ◆8zwe.JH0k. :2006/03/13(月) 00:27:21

あべこうじ
石…ブルークォーツ(コミュニケーションの活性化)
能力…使えなくなった物や壊れた物を、前よりも強くさせて復活させる。
   例えば、空の炭酸飲料だと、蓋を開ける前まで復元できるが、ついでに炭酸の力も強くなっている。
   ちなみに気絶した人間も復活させる事も出来るが、ただ起こすだけ。(僅かに体力回復)
条件…「まだ出来るでしょ?」などの無理強い系の言葉がキーワード。
    また、対象の物が“使えなくなった物”なので、少しでも動ける物には使えない。


今日はここまで。最近スランプ気味だったが何とか書けた。
あと二、三話で終わると思います。
356名無しさん:2006/03/13(月) 00:29:33
あべさく編待ってました!!!
禿しくGJ!!
357名無しさん:2006/03/13(月) 01:35:05
元々不思議な力持ってる
358名無しさん:2006/03/13(月) 15:17:06
乙!すっごく面白いです。
あべさんカコイイ!
359 ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 19:57:26
97年末のバカルディの話落としにきました。
前に落とした「バカルディ・ホワイトラム」の数日後の設定。
バカルディからさまぁ〜ずにいたる3部作の2つめとして書いてます。
[バカルディ・151プルーフ<1>(side:三村)]


あの襲撃から数日後。
久々に入った早朝ロケのあと、自宅に帰って愕然とした。

おいてあった靴が踏みつけられ、不自然に散らばった玄関。
明らかに土足で荒らされた跡のある床。

こんな金のねぇ家に泥棒か?
背筋を冷たいものが駆け上がる。
まず浮かんだのは妻と娘の顔。

…そうだ、落ち着け。
今日彼女は、幼い娘をつれて自分の実家に行っていたはず。
母の得意料理を習ってくると笑っていた。
大丈夫、二人は大丈夫。


少しだけ安心して、人の気配がないことを確認し、家の中へ踏み込んだ。
侵入者の靴跡は居間に続く扉の前で止まっている。
はやる気持ちを抑えつつ、半開きで放置されていた扉を開けはなつ。
やはり居間には誰もおらず、ただフローリングの床にところどころ土がついている。
まわりを見回して、テーブルの上に置いてある紙切れに気付く。それを乱暴に引っ掴んだ。


「…『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡してください』…?!」


思わず声をあげて読んでしまった文面は石に関するもので、俺はやっと事態を理解した。
[バカルディ・151プルーフ<2>(side:三村)]


これは明らかに黒の連中の仕業だ。

けど、ブラックスターはいいとして、もう一つのレインボークォーツって何だ。
もしかしてあれか、大竹がこないだ拾った石の名前か?

それにしても何で俺のところに奴らは来たんだ?
『大竹さんへ』って何だそりゃ。俺は三村だ。
しかもブラックスターがあいつのだってことは知ってるはずなのに。
…っていうか俺のフローライトに用はねえってか。それはそれで腹立つな何か。

いやそれどころじゃない、大竹だ。
俺のとこに何もないってわかったら大竹が危ないじゃねえか!


自分のものでない石のことで家に押し入られた理不尽さに一瞬苛立った。
が、石がこれに絡んでいるのだとすればそれよりも何よりも相方の身が心配だ。
こうしている間に、あいつが黒の奴らに襲われていたりしたら…!

駅で別れた大竹は早朝ロケにかなり疲れた様子だった。
まだ昼過ぎなのに帰って寝るなどと言っていたから、無事なら自宅にいるはず。
ひどく震える指を電話器のボタンに伸ばす。
そらで言えるほどかけ慣れた番号なのに、焦りと不安でなかなかうまく押せなかった。



よく考えてみれば石を持っている相方はなおさら危ない立場だ。
石をめぐって戦闘にでもなっていたら大変なことになる。
ブラックスターは防御用だし、レインボークォーツはあの戦闘後、大竹が回復に使おうと試して失敗していた。
持ち出した虫入り琥珀は攻撃用だが、仕事が減った今使うにはリスクが大きすぎる。

どうか無事でいてくれと祈りながら、通話口に親友で相方の男が立つのを待つ。
ほどなくして受話器からは緊張感のない大竹の声が聞こえた。


「もしも〜し」
「…タケ!」
「あ?何だ、お前か。どうしたよ?」
「タケちゃん、いやアレだ、大竹お前、お前無事だな?」
「…無事だけどよ、おい三村、何があった?」
「あの、アレだ、その、黒だよ!」
「落ち着けバカ、アレとか黒とか意味わかんねぇだろ、ツッコミじゃねんだからよ」
「家に紙があって、お前の石がアレだ、いやお前のだけじゃね〜けどあの、アレ…」


…くそ、何も言葉出てこねぇ…。
[バカルディ・151プルーフ<3>(side:大竹)]


「…あーもうわかった、今からお前んち行くから大人しく待っとけ、な」


要領を得ない三村の言葉から辛うじて「三村の家」「自分の石」「黒いユニット」というキーワードをつかみ、
鞄にしまいこんでいた三つの石を持って家を出る。

あの三村という男は昔から、興奮すると混乱して話ができなくなるのだ。
いい加減付き合いも長いが、そういう所はまるで変わらない。
全く困ったもんだ、と溜息をつきつつ、三村家へと道を急ぐ。
電車代も馬鹿にならないし、黒の連中に交通費でも支給してもらいたいもんだ。
小さく一人ごちて、最寄りの駅の券売機のボタンを押す。


電車を降りて数分後、マンションにつくと、わざわざ下まで降りて入口で待つ三村の姿があった。


「三村」
「あー大竹、こっちこっち!」



声をかけると相方は早くついて来いと目でうながしてくる。
それに誘われるように小走りであとを追って、辿りついた三村家の玄関と床はひどい有様だった。


「…なんだこりゃ」


呟いた後絶句した俺に三村は言う。


「帰ってきたらこうなってて…居間にこれが」


手渡された走り書きの置き手紙に目を見開く。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』 
…おいおいおいおい。探偵の真似事でもしろってか、コンチクショウ。
365 ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 20:06:06
一端ここまで。今夜もう一度落としにきます。
[バカルディ・151プルーフ<4>(side:大竹)]


…とにかくだ、どう考えてもおかしい。

何よりまず、三村の家に置かれたこの手紙が『大竹さんへ』で始まってることがおかしい。
もしこれが『三村さんへ』の書き間違いだとしたら、今度は石の選択がおかしい。

黒の奴らはブラックスターが俺の石だと確実に知っている。
レインボークォーツがこの間拾った好未の石のことだとすれば、あれを俺が持っていることも知っている。
意識があった好未は、俺があれを拾ったのをしっかり見ていたはずだ。

だが、この状況には明らかにもっと根本的なおかしさがある。

大体、家を襲う事自体がおかしいんだ。
だってそうだろう。普通みんな、石は肌身離さず持ってる。
それなのに何で三村の家にあがり込まなきゃならないんだ。直接本人を襲えばいいのに。


…本人を、襲えばいいのに?


「おい、三村…」
「うん?」
「確か今日は嫁さんと子供、お前の実家に行ってるってロケん時話してたよな」
「ああ、そうだけど…」


…なんてこった。

最悪の事態に気づいてしまって頭を抱える。
どうしたらいいんだ、この状況。


「なあ、どーしたんだよ、大竹…?」


眉をハの字にした戸惑い顔の相方がこちらをのぞき込んできた。
…相変わらずよく見るとブタみてぇなツラしてんな。
この間の戦闘の時も使ったフレーズが頭に浮かぶ。
口に出したらまた、すぐさま三村お得意のツッコミが入りそうだ。


「あー…、まあアレだ、とりあえず床の土、拭いとくか?」


わりぃ、今はまだ、俺が完全に整理するための時間が必要だ。
[バカルディ・151プルーフ<5>(side:三村)]


…床の土拭いとくかって。

まあそりゃ拭いとくけどよ。
嫁さん帰ってくる前に綺麗にしとかないと、警察とか呼ばれたら困るし。
でも大竹お前、そういうんじゃないだろ? 何でそんな辛そうなツラすんだよ。

雑巾をとりだして水に浸しながら、もう一度相方に問いかけてみる。


「なあ、アレか、お前何かわかったとか?」
「…」
「おい、大竹…」
「とにかくコレ拭き終わるまで待っとけよ」
「…」
「めんどくせぇけど、頭ん中まとめってから、今」


少し苦い笑顔で大竹は雑巾を受けとり、床を拭きだす。
こいつがそう言うなら、俺は待つだけだ。

黙ってフローリングに散った土を拭きとっていく。
自分が被害者なのに、犯人の残した証拠を消しているように感じて、少し気が滅入った。
それでも自分の家族の平穏のためには、侵入者の形跡を残しておくわけにはいかないのだ。


守るべき大切なものを持って闘いに身を投じるのは結構辛い。
それでもこの世界からトンズラする気がないなら、やるしかない。
キュッと唇をひき結んで作った真剣な顔は多分、大竹には見えていないだろう。

汚れた床をこする手に、知らず知らず力が入る。
おろしてからそう日も経っていない雑巾はまだ白かったが、土がそれを黒く染めていった。

玄関まで全て綺麗にして、洗った雑巾を干す。
すえた匂いの移ってしまった手をゆすぎながら、大竹が話すのを待った。


「なあ三村」


俺に何かを伝えるための言葉が、大竹の口からやっと出る。
無言で続きを促すと、予想外の言葉が耳に飛び込んできて、唖然とした。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」
[バカルディ・151プルーフ<6>(side:大竹)]


掃除ってのは実のところ、単純作業だ。

安いフローリングの木目を眼で追って、土を拭きとる。
その作業を無心にくり返しながら頭の中を片付けていく。

…三村にきちんと説明できるように、整理していかねぇと。

俺の言葉を、黙って三村は待っている。
だから、めんどうだと思っても考えることを放棄したりはしない。
絡まった糸をほどくように、ひとつひとつ状況を確認して答えを出そうとする。

まず、何よりも誰よりも、自分自身を落ち着かせる必要がある。
冷静に、冷静に。三村にできないことは、イコールで俺がやるしかねえことだ。


誰もいない三村家に、土足で上がり込んで置き手紙を残した連中。

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』

この一見不自然に見える文面は、一言で言うなら「脅し」だ。
それも、見事に俺たちの弱点を突いた、これ以上ない方法の。

三村自身はまだ気づいていない。というよりこれでは気づけないだろう。
それでいいんだ。三村に気づかせることが目的じゃない。奴らの本当の目的は俺に気づかせること。
そう、俺は気づいてしまった。今、本当に危ないのは三村じゃない。俺でもない。

…三村の家族、だ。


ロケのとき、三村は皆の前で家族の話をした。
今日彼女たちが家をあけていると知っている人物は、あのロケに参加したほぼ全員だ。
その中に一人や二人、黒の奴がまぎれてたっておかしくはない。

誰もいないことを知っていて、わざと三村家に入り込んだのは、デモンストレーション。
「お前の家に入り込むのなんて雑作もない」、そう伝えるための。
最初から家族のいるときに押し入ったらそれこそ警察沙汰だ。
「でもいざとなったら自分たちにはそれができる」、そうはっきり脅しにかかってきている。

『三村さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こう書けばわかりやすかったのにそうしなかったのは、目的の石が三村のものでなかったから。

『三村さんへ 大竹さんの石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』
こうしなかったってことは、こいつの性格をよくわかってる奴が黒にいるってことだ。


三村の性格からいって、どう考えても自分の家族のために俺の石を黒に渡せなんて言いだせるはずがない。
かといってそのままにもできないから、俺に石を自分が預かろうとか言うだけ言ってみるんだろう。
多分三村のことだから適当な理由なんて思いつかなくて、俺は応じない。

そのうちこいつがなんでそんなことを言いだしたのかわかれば、俺は今の状況と同じ選択を迫られる。
でもそれじゃ余計な時間がかかってしまう。てっとり早いやり方が他にあるのにそんなことする必要はない。

こうやって三村の家に押し入っておいて、俺宛に手紙を書けば話はもっと簡単だ。
『大竹さんへ 石を渡して下さい』
これはそのまま、
『大竹さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の相方の家族を襲うだけの力があります』
っていう意味だとしか思えない。


「なあ三村」


…最悪だ。何もかもこれを書いたやつの思惑通り。


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」


気づいてしまった以上、俺はこの脅しを決して無視できないんだから。
[バカルディ・151プルーフ<7>(side:三村)]


「な…に言ってんだよ、お前…」


『黒に入った方がいいかもしれない』?
何でお前がそんなこと言うんだよ。わけわかんねぇよ。
っていうかホント意味わかんねえ、何で?何でだよ!

俺の頭はすっかりパニックを起こし、言葉も何も出てこなくなった。
そんな姿を動じることなく眺めながら、静かに大竹は言う。


「白にいるより、安全かもしれねぇ、多分」
「ふざけんなよ! 俺は絶対嫌だぞ、こんなことする奴ら!」
「じゃあコレやった奴探して復讐でもすっか?」
「いや、そこまですんのは…ああでも目の前に現れたらやるけど、でも…!」


大竹の言葉に一瞬激さずにはいられなかった。
しかし、「復讐」などという言葉は自分の性にあうものではなくて。
かといって大竹の言う通り、すんなり黒に鞍替えするというのも腹に据えかねる。
自分の気持ちを伝える言葉を見つけることができずに、ただ悲痛な思いで大竹を見た。
そんな俺を知ってか知らずか、大竹は諭すように言葉を続ける。



「あのな三村、例えば犯人が目の前に現れて、倒したとすんだろ」
「…おう」
「それで終わりじゃねーんだぞ、コレ」
「え?」
「この先ずっとこーいうの、いや、もっとひでぇこと続くかもわかんねえぞ、白にいる限り」
「…」
「嫁さんとか、ちっちぇーのとか、嫌な目にあうかもしんねえ」
「それは…!」
「お前がそれ、嫌だったら、黒入るしかねぇだろ」


大竹の滅多に見られない真摯な表情に、何も言えなくなる。
こいつが黒に入ることを勧めた理由が、俺の家族にあったなんて。

…愛しい妻と娘。この先彼女たちを危険にさらすような真似は、とても自分にはできない。

だが、本当にそれでいいのだろうか。
この男を、自分の家族のために黒に屈させていいのか。
自分の都合だけで、大竹の進む道を勝手に曲げてしまっていいのか。
何か、大竹に言うべき正しい言葉を探そうと俺は必死になる。
その努力は実を結ぶことなく、何一つ言えないままうつむくしかなかった。

視界に入る足先を見つめていると、大竹はぽつりとこぼす。


「俺は嫌だぞ、お前がそーいうめんどくせぇことになんの」


…バッカ、大竹。そんなくっせぇ台詞、お前アレだろ、言う奴じゃねぇだろ。

心の中でそんなツッコミを入れながら、相方の方をちろりと見てみれば。
言っておいて恥ずかしかったのか、大竹はこちらを見ずにあらぬ方向を向いている。
そんな大竹の姿に少し笑いながらも、呟いた言葉には苦みが走った。


「俺がめんどくせぇ真似、お前にさせちまうじゃねーかよ…」
「…うるっせ!うるっせお前!『させちまう』っとか、言ってんじゃ、ねぇ!言ってんじゃ、ねぇ!」


重くなりそうな俺の言葉を無理矢理切り落とすように、大竹はふざけて言う。


「…二度言うのかよ!しつっこい!」


それにいつものツッコミを入れながら、三村は相方のひねくれ気味の優しさに心から感謝した。

[バカルディ・151プルーフ<8>(side:大竹)]


十字の光が入った黒い石。透明で虹色の光がちらつく石。
ポケットからとりだしてテーブルの上ではじく。


「『ブラックスターとレインボークォーツを渡せ』、ね」


居間で相方と顔を突き合わせつつ石を眺めてみる。
確かにこの2つがあれば、使い方と相性次第でそれなりに誰でも身を守れるんだろう。
まあ、俺にはレインボークォーツは使えないんだが。

…渡せ、って言われておとなしく渡すつもりはなかったんだけどよ。

ちょっと心の中で呟いてみる。でも三村にそんなことは言わない。
結構真に受けるところのある相方に、よけいな心配をさせる必要もないだろう。
要は優先順位の問題だ。今は俺のプライドより三村の家族の方が重い。



「でもあれだろ、俺らが黒に入るんならお前の石、わざわざ渡すことねぇだろ」
「まあな、ブラックスターは現状維持だろうけどよ」
「レインボークォーツは黒の上の奴に渡すとかか?」
「かもな、コレ使えたら結構強力だし、持っていきてぇだろ」
「けど使うと記憶消えるんだよなあ」
「あ、そうか、お前こないだコレ試したもんな」
「おう、お前はダメだったけどな」
「ああ、ダメだったなー…つうかアレだな、琥珀はいらねぇんだなアイツら」
「リスキーすぎんだろ、アレは…もう事務所に返してこいよマジで」


そんなふうにぽつりぽつりと会話を続けていると、玄関のチャイムが鳴る。
嫁さんか? と三村に視線で尋ねると、軽く首を傾げて出ていった。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』
「…誰だ、お前」


玄関から聞こえてきたやりとりに嫌な予感がして顔を出す。
三村が剣呑な表情で扉の向こうと会話していた。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その台詞を聞いて扉を開けようとした三村を見て、とっさに石を握り込む。
ぐっと手に力をこめると、無色透明の「世界」が広がって、三村ごと周囲を包んだ。
次の瞬間に玄関扉が開き、立っていた人物の姿がはっきりと目にうつる。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


扉の向こう、悪びれない様子で話しかけてきたのは見知った顔。


「…土田」


U-turnの土田晃之が、そこには立っていた。

[バカルディ・151プルーフ<9>(side:三村)]


大竹と話している最中に、玄関のチャイムが鳴った。
妻と娘が帰宅したのかと一瞬思ったが、もう少し遅くなると言っていた気がする。
いったい誰だ? といぶかしみながら応対に向かう。


「はい、どちらさんっすか?」
『どうも、三村さん』


聞いた覚えのある声。でも、確証が持てない。
ただ、どう考えてもコイツは今、招かざる客だ。


「…誰だ、お前」



少し低くした声で問うと、扉の向こうで少し迷うような気配があった。
しかし結局名乗る気はないらしく、返答は微妙なものだった。


『黒のモンです、開けて下さればわかりますよ』


その言葉に覚悟を決めて扉を開こうと手を伸ばす。
後ろで大竹の石の気配がして、ああ、使ったな、とぼんやり思った。


「どうもこんばんは、お久しぶりです」


…そうか、お前も黒だったんだな。


「…土田」


ここのところよくTVで目にするU-turnのボケ担当がそこにいて、なぜか少し悲しくなった。
[バカルディ・151プルーフ<10>(side:大竹)]


「すいませんね、いきなりお邪魔して」


意外と礼儀正しい大柄な男は、軽く会釈をする。
襲ってくるような気づかいもないので、石を使うのもやめにした。


「お前、黒なんだな?」


三村が割に落ち着いた態度で尋ねる。


「そうです」
「俺んちに押し入ったの、お前か」
「…半分ハイで半分イイエ、ですね」
「どういう意味だよ」
「お二人の現場のスタッフに黒の奴がいましてね…」


…ああ、やっぱりな。
予想通りの展開だ、と胸の内で呟く。
ロケの時の三村の言葉、聞いてやがったんだ、畜生。


「そいつから連絡受けて俺が家の中に入れるようにお膳立てしました、実際入ったのはもっと若手の奴らです」
「…何でそんなマネしやがった?」
「俺にも守るものがあるんです、って言ったら猾いですか」
「…」
「本意じゃなかったんですよ、信じてもらえるかわかりませんけど」


相変わらず、どこかしらけた態度で話す土田の言葉からはそれでも、嘘は感じられなかった。
三村は静かに土田の言葉を聞いている。俺はその背中が小さく震えるのをじっと見ていた。


「土田」



三村の背中越しに、客人に声をかける。
土田は視線を少しだけ上げてこちらを見た。


「あの文面考えたの、お前か?」
「…すいません」
「ありゃ完璧だな、今二人で黒入る相談してたとこだ」
「…」
「入ったら石は渡さなくても構わねぇか?」
「『黒に入る』って聞いた場合はレインボークォーツだけ回収するように言われましたけどね」
「そーか、んじゃやるよ」


ポイッと投げて渡すと、慌てたように土田はそれをキャッチする。


「ちょっ…何、いきなり投げないで下さいよ」
「持ってけよ、さっさと」
「えっ?」
「さっさと行け、三村が…」


「切れる前に」、と続ける前に、三村の怒りが爆発した。

[バカルディ・151プルーフ<11>(side:大竹)]


…これは間に合わない。御愁傷様。

早くも諦めが入り、その場で土田にむかって手をあわせる。
三村のポケットに中にあったらしい石が強烈な光を放ち始めていた。
その光の眩しさに思わず目をつむると、三村の怒号が響く。


「土田お前…お前、この、『駄馬がっ!』」


そう三村が叫んだとたんに土田は、凄まじいスピードで三村家の玄関から吹っ飛ばされた。


「『駄馬が!』 ?!」


…『駄馬が!』って三村、それ土田へのツッコミなのか?!
フローライト、お前の解釈ではツッコミだったんだな? お前三村かよ!

駄馬がピューッと空を飛んでいくならまだしも、土田が空を飛ぶということはそうとしか思えない。
一般的には絶対ツッコミに分類されないだろう言葉に一瞬状況を忘れて逆にツッこんでしまった。
…本当にうちの相方は、ツッこみどころの多いツッコミだ。

その間に、土田はマンションの外に面した廊下の柵を越えてすっ飛び、空中に投げ出された。
大柄な土田の身体は、重力に逆らわず急速に落下をはじめる。

…そう上階から落ちているわけではないが、このままでは骨折程度は免れない。
慌てて駆け出して、土田を追って階段を降りようと手すりに手をかける。


「土田っ…!」


叫び声が響くマンションの前、地面すれすれで土田の身体は突如現れた赤いゲートに呑み込まれ。
そして緑のゲートでもう一度現れると、玄関前の廊下に背中から落ちてきた。


「いっ…てぇ…」


腰をしこたま打ちつけたらしい土田はコンクリの上でうずくまる。
これがあの場所から普通に落下していたら、と思うとぞっとした。
三村の力は一見間が抜けているが、使いようによってはかなり強力で、恐ろしいものだ。
普段は意識していないが、こうした爆発的な力を見ると嫌が応にも気づかされてしまう。


「おい三村、気ぃすんだか」
「…」


自分よりもだいぶ大柄な男を吹っ飛ばした相方のほうを見やれば、放心状態だ。
凄まじい勢いでツッこんだせいでかなり体力を消耗したらしく、その場に座り込んで呆然としていた。


「三村」
「あ…」


二度目にかけた声でやっと正気に戻ったらしい三村の目に光が戻る。
きょろきょろとあたりを見回し、うずくまる土田に気づくと近よって言った。


「土田、怪我ねぇか?」


…それお前が聞くのってちょっとアレじゃねぇ?
またも微妙にツッコミを入れてしまいつつ、とりあえず土田を家に上げてやるよう三村に促した。

[バカルディ・151プルーフ<12>(side:三村)]


腰を痛めたらしい土田を家に上げてやる。
あの手紙が置かれていた居間のテーブルに、三人でこしかけた。

さっきはつい怒りのあまり石の力で土田を吹っ飛ばしてしまったらしい。
頭が真っ白になっていたので細かい記憶がない。

犯人と言うべき相手を目の前にしてみたら、やっぱりビックリするほど腹が立った。
ただ、一度ガーッと怒りが発散されたからか、今はもう正直、少し落ち着いてしまったところだ。
多分、土田にも黒を選ぶ理由がそれなりにあるのだろう。自分たちがこうなったのと同じように。
何となくそう感じてしまったので、これ以上責める気にもなれなかった。


「なあ、黒入ったからって今日からいきなり何かすっげえ変わるとかじゃねぇんだろ?」


大竹が問うと、土田は首を縦に振る。


「ええ、まあたまに指令が来たりして面倒ですけど…毎日のように戦闘とか、そういうのは逆にないですから」
「俺らを襲ってきてたのも、もっと若手の奴らが多かったもんな…ある意味、今までより楽ってことか」
「そうなりますね…自分の意志で黒を選ぶなら、そう嫌なことばかりでもないと思いますよ、俺はね」



する前までは禁忌だと思っていた変わり身が、やってみれば意外に大したことでないのだと知る。
むしろ面倒が減るのだと思えば、それはそれで悪くはないのかもしれなかった。
ただ、胸に残るわだかまりと妙な後ろめたさだけが、白から黒へと鞍替えした自分をちくりと責める。


「これでとにかく、お前を通じて黒の連中に俺らが主旨替えしたことは伝わるんだな?」
「はい、俺が伝えときますんで…明日からは襲われるようなこと、なくなりますよ」
「…そうか」


少し安堵したように大竹が小さく息を吐いた。

そうだな、少し疲れていたかもしれない。毎日のように襲撃を受ける生活には。
大竹の石の力や俺の石の力、それに虫入り琥珀の力でどうにかここまで怪我もなくすごしてきたけれど。

…正直に言えば、結構限界が近かったのかもしれない。
フローライトを指先でもてあそびながら、そんな風に思った。



「そういえばお前の力って何なの?何か赤と緑の出ただろ、さっき」
「ああ、俺のは空間移動なんですよ、あれは空間のゲートで…赤ゲートから緑ゲートに移動できるんです」
「じゃあ空中でゲート出して移動したってことか?」
「まあそうなります、ただ咄嗟のことだったんで体勢をとりなおせなくて背中から落ちましたけど」


…なるほど、それで俺の家入れたんだな。
今の大竹と土田の話から、やっと自分の家への侵入経路が理解できた。

そういう力の石もあるってことか、あんまり見たことなかったな、襲ってきた奴はみんな攻撃系ばっかりだったから。
直接襲撃するなら別にそういう力の奴にやらせる必要ねえもんな。まあ全くその通りの話だ。

石の力の代償でぐったりと疲れた身体を椅子に沈めて黙ったまま、そんな風に二人の客人の会話を聞いていると。
突然電話が大きな音で鳴って、急いで受話器をとった。


「はい、三村です」


電話の相手は最愛の妻で、ほっと溜息をつく。
もうすぐ帰るから、という言葉になぜかとても胸が温かくなって、笑顔で受話器を置いた。

[バカルディ・151プルーフ<13>(side:三村)]


電話を機に、大竹と土田を送り出す。
どうせなら妻と娘を迎えに行ってやろうと俺も一緒に家を出た。
ずいぶんと時間が経っていたようで、西の空がすっかり赤に染まっている。
夕暮れの街の景色はあの襲撃の日と何も変わらなかった。

土田は方向が違うので、大竹と俺が使うのとは別の駅へと向かい、別れる。
相方と二人、駅への道すがら話すのはこれからのこと。


「大竹」
「あん?」
「変わんねぇんだよな、結局、この先も」
「同じだろ、ちょっと立場が違うだけでよ」
「…そうだよな」


…そうだ、何も変わらない。

大竹と二人、この世界でやっていくのだから。
立場が変わっても、大事なところだけは曲げないでいればいい。


「まあ、襲撃がなくなんのはありがてぇな」
「それはホント、助かるな」
「アレだな、もういいな、虫入り琥珀」
「そうだよ、いらねぇだろ、早く事務所返してこいよ」
「そーするわ」


ポケットから出した蜂蜜色の石を、大竹が夕陽に透かす。
隣からのぞき込んだそれは、小さな羽虫を呑み込んでとろりと固まっている。
この柔らかな光をたたえた石は、長い長い時の流れの中で、一体どれだけのものを見てきたのだろう。

この石がなければ切り抜けられなかった闘いもたくさんあったけれど。
もう俺たちには必要ないし、この先に続く道では邪魔になるだけだ。

白でも黒でも、どのみち闘っていくしかないけれど。
こっちが襲撃者になるなら、これを使うような背水の陣じみた闘い方はしなくてすむ。
たとえそれで良心が痛んでも、もう立ち止まるつもりもない。
ここからは俺の石と、大竹の石があれば、それで進んで行けるはず。


「そんでアレだ、大竹」
「何だよ」
「もう一回売れて、俺ら、…とれるよな?」


…何を、とは口にしなかった。
でも多分、伝わったんじゃねぇかと思う。


「…バーカ」


大竹は笑いながら答えて、虫入り琥珀をもう一度しまう。
ふざけたように言った「バーカ」の後ろに、きっと隠されている言葉。


『とれるに決まってんだろ、“天下”』


自分だけに聞こえる声を聞いた気がして、白っぽい駅舎を染めるオレンジ色の光の中、小さく笑った。

393 ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 22:02:05
大竹一樹(バカルディ)
石:ブラックスター(星形の輝きが浮かぶ黒色のダイオプサイト(透輝石))
理性や知性を表し、冷静で理性的でいられるよう導く。
能力:自分ひとり、もしくは自分と許可された人間数人だけが入れる「大竹ワールド」を出現させる。
相方の三村はこの空間に出入り自由で許可も必要としないが、それ以外の人間は大竹本人による許可が必要。
ある種のバリアーのようなもので、外部からの攻撃はこの空間内に届かない。
条件:三村以外の人間は大竹の許可を得た上、「やってんの?」という
のれんをもちあげる仕種とともに空間内に入らねばならない。
入る人数が多ければ多いほど持続は困難。極端に使える時間が短くなる。
三村と2人の場合、もっとも長い時間持続させることができる。
また、内部からの攻撃には防御不可能なため、許可を与えた人間が内部で攻撃を開始すると弱い。
使いすぎると代償として、極度の倦怠感と疲労感に襲われる。

三村マサカズ(バカルディ)
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める
能力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、
人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。
394 ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 22:05:27
土田晃之(U-turn)
石:ブラックオパール
「威嚇・幸福」 黒の地色に、赤・緑・青などの色を持つ [左手のシルバーリング]
能力:空間に緑と赤のゲートを作り出し、その間を自由に行き来する。
言葉によって石に宿る悪意を操り、相手の精神を攻撃することも可能。
条件/代償他:ゲートの移動距離に比例して消費されるパワーも変わる。
言葉による攻撃の後は暫く口を開くことが出来なくなる。
石に潜んでいた意思が元々強く、波長の合う土田と行動を共にしている。
石は持ち主から負のパワーを貰い、見返りとして能力を与える。
395 ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 22:16:07
以上、これでこの話自体は完結しています。
スレを一気に大量消費しまして申し訳ありません。

さまぁ〜ずが黒に属している理由を考えてみたいと思って書きました。
タイトルはまた「バカルディ」社のラム酒より。
「火気注意」の但し書きがあるほどアルコール度の高い酒です。

レインボークォーツが名前だけ出てきていますが、実際に使われていないので能力は割愛します。
この石の設定は以前と同じで、変更部分はありません。
396名無しさん:2006/03/14(火) 20:34:13
乙でした!
◆yP氏の作品は、シリアスの間に挟みこまれるギャグがたまらんww
397名無しさん:2006/03/14(火) 23:44:42
乙です。
さまぁ〜ずが黒だと、この先が凄く面白い展開になりそう。
次回作も期待して待ってて良いですか?w
398名無しさん:2006/03/15(水) 21:25:00
乙です!
フローライトの解釈が持ち主に似てきてますねw
399名無しさん:2006/03/17(金) 15:04:15
保守
400名無しさん:2006/03/17(金) 20:33:55
ホシュ
401名無しさん:2006/03/17(金) 20:36:16
なんか
登場芸人だけやたら増えて、話がぜんぜん進んでないような。
結末はあるの?
402名無しさん:2006/03/17(金) 21:00:37
じゃあお前が書いてみたらどうだ
403名無しさん:2006/03/17(金) 23:31:57
進めようと思えばいつでも進められるから、今は
書きたい話を好きなだけ書いてたらいいとオモ
404名無しさん:2006/03/17(金) 23:59:33
その結果、後出の若手がやたらと強い能力を持ってるのに
負荷が軽かったり「ご都合主義的」な展開だったりするんだよな。
仕方がないといえば仕方ないが。
405名無しさん:2006/03/18(土) 00:10:18
先日ここ見つけたけどはまってしまったww
406名無しさん:2006/03/18(土) 00:34:43
>>404
だからお前がry
407名無しさん:2006/03/18(土) 09:25:43
まあ、書いてる人もプロじゃないんだし。
楽しく読めればそれでいい。
408名無しさん:2006/03/19(日) 08:47:54
保守
409 ◆ksdkDoE4AQ :2006/03/19(日) 23:01:39
書き手がバラバラで書いてるんだから、しょうがない部分もあるとオモ。
と、書き手の一人として言ってみる。。

ホリプロコムのビームの話、落としてみます。
同事務所のオキシジェンも出しています。
箸休め的に。
「情けねぇよ俺は」

 ビル群特有の風に、白いシャツの裾が大きくはためく。それを気にも留めず、今仁は屋上の
手すりから身を半ば乗り出して、自分が居るビルと隣のビルとの谷間を見下ろしている。だか
ら彼の声は風に千切れていて、少し離れた吉野の耳には切れ切れにしか届かない。

「え?何?」

 単なる問い返しに過ぎない吉野の言葉がやる気のないそれに聞こえたのだろう、今仁は軽く
眉をひそめて振り返り、「情けねぇ!」と声を荒げた。しかし吉野は、今仁の尖った声に動じ
る様子もなく、「ふーん」と相槌にもならない声を漏らしただけで、星も月も見えない暗い夜
空を見上げたまま。
「…どうした?とか、何が?とかねぇのかよ!リアクションほとんどナシか!」
 今仁はあっという間に焦れる。そういう今仁の分かりやすい所が、美点でもあり欠点でもあ
ると吉野は思う。
「…どうかした?」
 自分で振らせておいて話し始めるのって楽しいのかな、とちらりと思ったが、今仁には云わ
ない。吉野が言葉を飲み込んだことなど、今仁は知るよしもない。

「おまえの石、戦うのに全然使えねぇのな。俺の石も戦闘力ねぇし。俺ら二人ともすげぇ情け
ねぇなと思ってさ!」
 磯山さんのとかすげぇぜ?と続けて、肉体強化に石を使った磯山がいかに強いかを語る今仁
の表情を見ながら、吉野は無表情に頷く。
 聞き流してはいない。きちんと聞いてはいる。けれど彼の思いは今、別のところにある。

(こんなに、いつも通りの表情に見えんのにな)

 吉野の心の声を打ち払うように、今仁は磯山の様子をジェスチャー付きで解説する。
「磯山さんがこうやって殴ったらさ、敵が3mくらいブッ飛ぶの!マンガか!って俺叫びそう
になったわ」
 拳を架空の敵に向けて振り切る。その今仁の右手首には、白いリストバンド。手首側、ワン
ポイントのように黄色いガラスのようなものが付いていて、ふいにキラリと吉野の目を射た。

(サルファー、だっけ)

 それが、今仁の石の名だ。より耳なじみのある言葉に云い代えれば、“硫黄”。鮮やかな黄
色をしていて、最初にそれを見た瞬間、今仁が「何か美味そうな石だな」と云ったのが、元々
食の細い吉野には理解不能で驚いた。

「おい、聞いてんのかよ?」
「うん…聞いてる聞いてる」

 曖昧に頷いて、吉野は屋上の端に立つ今仁へと近付いていく。

「それより、そろそろ時間」
「…あー」
 彼らがここでこうして、ビル風になぶられながら話しているのにも理由がある。
「俺らの石はあんま今仁好みじゃないかもしれないけど、でもまぁこうやって設楽さんからの
命令も受けてんだしさ、捨てたもんじゃないと思うよ」
「…まぁな」

 吉野が今仁の隣に並んで立ったところで、タイミングよくこの屋上への扉がキィ…と軋んで
開いた。
「来た」
 今仁が明らかに目にキラキラしたものを宿して呟く。

 ドアの影からひょこりと顔を出したのは、眼鏡をかけた小柄な男と、茶色い髪をした中肉中
背の男。きょろきょろと屋上を見渡し、並んで立っているビームを見つけると、両方が軽く首
をかしげてから顔を見合わせた。
「…今仁さんと吉野さん」
「だな」

 見るからに不審がっている彼ら二人に声を掛けたのは今仁。
「オキシジェンのお二人ー、いらっしゃーい」
 陽気なその声に、眼鏡の男…オキシジェン三好と、茶髪の男…オキシジェン田中は、見合わ
せていた顔を再び事務所の先輩へと向ける。
「え?俺ら呼び出したのって…ビームさんなんですか?」
「うん」

 人影のないビルの屋上。しかも時間は夜。こんな所にこんな時間に呼び出されて不審がらな
いわけもなく。
 特に、昨今は石を巡る戦いとやらで事務所内のみならず芸人の世界全体に緊張が満ちている
ことを、若手といえどオキシジェンの二人も知っている。

「…何の、御用でしょう」
 三好は、警戒心を隠しもせずに尋ねる。
「うん、まぁ小手調べっていうかさ」
「は?」
 あくまでも明日の天気でもするかのような気楽さで吉野が応じる。身にまとったジャージの
影、手首の辺りでキラリと何かが光ったことに三好も田中も気付いてはいない。
「オキシジェンって、石持ってるんでしょ?」
「…誰に聞いたんですか?」
「誰だっていいじゃん」
「や、よくないですし」

 ドアの影から一歩も動こうとしないオキシジェンの二人に、今仁と吉野は一歩ずつ近寄って
いく。二組の間にピシリと緊張が走る。

 先手を打ったのはオキシジェンだった。
 彼らは若い。特に、舞台上では三好がプロレス技を繰り出しては田中を振り回す、アクロバ
ティックなコントを見せている。つまり身体能力には自信があるのだ。…それは裏を返せば力
に頼り過ぎているということにもなる。
 お互い石の能力が分からないこの状態ならば、できるだけ自分の能力を隠しておくことが肝
要だと吉野は思っていたし、今仁にもそれは伝えてある。
 猛然と吉野の方へと走り寄ってきた三好が、目前でタァン!と屋上の床を蹴って飛び上がっ
た。
 つられて吉野の視線も上がるが、数瞬後には飛び上がった三好の足が自分の身体に絡んでく
るのだろうとほとんど本能的に察知した。そういうプロレス技があることは、オキシジェンの
コントを見ていて知っている。確か…三好が田中の首を両足で挟むようにしてそこを軸にぐる
りと回り、遠心力で田中を床に引き倒すのだ。

 三好の足の動きを見ながら、吉野はその痩身をかわす。

 …はずだった。

 次の瞬間、何が起こったのか咄嗟に吉野には分からなかった。「視界」が変わった。まるで
スタジオのカメラを、スイッチして切り替えたように。
 三好を正面から捉えていたはずが、一瞬後には飛び上がる三好を後ろから見ており、そのま
た次の瞬間には元の視点…いや、そこから三好の足技によって地面に引き倒された視界となっ
たのだ。

「吉野!」
 今仁の声が聞こえる。夜空を見上げたまま、「何があったんだろう?」と吉野は考える。背
中が痛い。三好はヒットアンドアウェイとばかりにすぐにまた離れていったらしい。
「吉野、おい、大丈夫か」
「…まぁなんとか」
「くっそー、俺ならかわしてやんのによう」
 プロレス好きの今仁が少しわくわくしているらしいので、冷めた目線を投げかけるに留めて
おいて。
 吉野は上半身を起こしながら考え込む。

(さっきの角度…)

 切り替わった角度の時、三好の後ろ姿が見えた。それだけではない。その先に見えたのは…。

(…俺?)

 そうだ。飛び上がった三好の向こうにいたのは、吉野自身。

 更に、見間違いでなければ吉野の顔は、吉野の視点と目を合わせてニヤリと笑った。ややこ
しいことだが、「吉野の目」がどこかに移り、「吉野の顔をした何か」と目が合った…と云う
べきだろうか。
 立ち上がって辺りを見渡し、位置関係を確かめる。間違いない。

 吉野。吉野の隣に今仁。少し離れてこちらを睨む三好。更に向こうにいる…田中。
 三好の背中を見られるのは、田中だけだ。

(田中と俺が入れ替わった?)

 そこまで考えた時に、吉野と目が合った田中がニヤリと笑った。それはまさしく、「吉野の
顔をした何か」と同じ表情。

「大体、おまえ、三好の足技ぐらい避けろよ。ぼーっと立ち尽くしちゃって」
 今仁の台詞も、吉野の考えたことを証明している。間違いない。

「今仁。俺、分かった」
「あ?」
「田中の石の能力が分かった」

 じりじりとオキシジェンから後退りながらも、吉野はにやにやとした笑いを失わない。怪訝
そうに眉を寄せる今仁のシャツの背中をひっぱり、吉野が口早に耳打ちする。

「俺と田中の体の中味が入れ替わった。一瞬だけ、田中と視界が入れ替わったんだよ。体の感
覚も、田中のもんだった。そういう能力」

 吉野の考えた通り、田中の石の能力は、誰かと体の中味を入れ替える、というものだ。ネタ
の中で何度も三好の技に対する受け身を練習している田中ならば、三好の技を効果的に受ける
術も分かっているということ。避けようとする人物の体を田中が一瞬乗っ取ることで、確実に
三好が技を仕掛けられる…そういうコンビネーション。

 吉野の説明で理解できたらしい今仁は、少し考えて「あぁ」と声を漏らす。

「吉野。それなら、お前の石使えば一発じゃん」
416 ◆ksdkDoE4AQ :2006/03/19(日) 23:12:38
分数合わなかった…
ここで前編は終わりです。


田中和史(オキシジェン)
石:スティルバイト(束沸石)(ペンダント型で身に着けている)
 アイボリー色の結晶。本能の感覚が鋭くなり、物事の本質に気付かせてくれる。
能力:視界にいる任意の対象一人の体を乗っ取り、相手と自分の体の感覚を入れ替える。
 感覚を入れ替えるだけで、外見の変化はない。一瞬、中味だけ入れ替わるという感じ。
 対象は一人だけ、しかも最長で3秒程度しかもたないが、
 その代わり、狙えばほぼ確実に相手を捕捉できる。
417名無しさん:2006/03/20(月) 15:57:15
乙です!
プロレスは楽しいですね!
418名無しさん:2006/03/21(火) 21:04:54
乙&保守
419 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:34:46
バッドボーイズ編投下します。

ちなみにバッドボーイズ、オジンオズボーン共に
メインは10カラットになってます。
420青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:37:35
轟音と閃光が響く。「石」を持つもの同士の戦いというのは、こういう物なのだろうか。
佐田はため息をつき石を握りこんだ。
「相手の能力を掴めんと無駄死にすんぞ」
「わーっとる!」
後方から響く大溝の声ににやりと笑うと、走っていた足を止め真っ向から轟音の元を睨みつけた。
「おまえの力はそんなもんか!遊びにもならんわ!」
相手を挑発しながらそっと自分の石を握りこむ。相手が挑発に乗ってきたらこっちのもの。
案の定顔を赤くした相手が自分をめがけ突進してくるのを確認すると、握りこんだ石に念を送る。
シベライトと呼ばれる彼の石が低く唸ると、赤紫の光が彼の右手を覆う。
近づく相手が間合いを取り石の力を発動させようとしたその時、佐田の右手が相手を手招く。
「ふざけるのもいい加減に―…!」
「ちょっと来て―」
妙に軽いのに威嚇まじりのその言葉が聞こえると、バランスを崩しながら佐田に引き寄せられた。
「な…!」
まるで絡め取られるように力任せに引き寄せられ、状況を把握し逃れようと顔をあげた瞬間。
「遅いんじゃ」
佐田の右手が相手に向かい振り下ろされた。
421青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:39:28
「喧嘩なれしとらん奴がそげん危ないもんもっとったらいかんよー」
たった一撃で相手を気絶させながら、少し上機嫌に鼻歌交じりにしゃがみ込むと、倒れた相手から黒く光る石を発見した。同じように自分のジーンズのポケットからお守り袋のようなものを取り出すと、今手にした石も放り込む。
「さすがは元総長、やな」
のんびりした口調で草陰から出てきた大溝に、佐田は明らかなしかめっ面で答えた。
「なんね、たまにはお前も働きや」
「戦闘用じゃないけん、怪我ばせんよう見張るしかできんもん」
立ち上がり袋を見せると、じゃらり、と低く鳴る。今みたいに、暴走している相手を見つけては、
力ずくでその石を奪い、そしてどうする事もできずに持ち歩いていた。石は増える一方。その分、
襲われる回数が減るのかと言えばそうではない。減らないのだ。一向に。
中には石を持たず、破片のようなものしか持っていないものもいて、佐田は相手を殴るたび、頭を悩ませていた。

「黒い石はよくないもの。黒い石は浄化しなければならない」
まるで子供が教科書を音読するように、佐田は呟いた。芸人の中で囁かれている力を持つ石の噂。
その話はしっていたし、自分にも持っていたし、意外と身近に感じていた。
しかし、簡単に「浄化してー」と頼めるような相手もいなければ、「お前浄化できるか?」と簡単に口にしてはいけない気がした。
相手が白ならそれでいい。しかし、黒なら、せっかく集めていた『悪いもの』をあっさり相手に渡してしまうようになるのだ。
とはいえ、人の気持ちを汚染し、操るこの石たちを、いつまでも持っているわけにもいかないだろう。
そんなつもりはなくても、自分はおろか周りに毒素を撒き散らしているのだろうから。
422青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:40:33
「だれか…いないもんかね…」
袋をポケットにねじ込むと大きなため息をついてバイクに跨った。
「じゃあ気ぃつけて帰りや」
「おう」
軽く手をあげエンジンをふかし、バックミラー越しに相方の背中を見送る。
ふと進行方向に視線を移すと、ヘルメット越しに見覚えのある姿が見えヘルメットをはずした。
「よー、そんな所おったら引くぞ?」
冗談交じりに笑いかけ、手でどけるよう指示するが、目前の相手は一向に動く様子がない。
少しだけ感じる違和感に眉をしかめながら、佐田はもう一度声をあげた。
「聞こえとらんか?どけっって言いよーと!」
「できません」
端的に答えると相手は手をあげ指先を佐田に向ける。
「吉田…?」
POISON GIRL BANDの吉田。知っている顔なのにその眼に含む恐ろしさに気づくと、佐田はバイクから飛び降りる。
その瞬間吉田の指先から「何か」がバイクに向けて飛んできた。当たり所が悪く、骨に響く低音をあげバイクが炎上する。
「な…!」
急な出来事に普段使いなれない頭をフル回転させる。あいつは間違いなく吉田。でも、違う。あれは。
「石の力…!?」
気づいて顔をあげると吉田は手に鋭くとがった物を持って佇んでいた。
それは禍禍しい赤に黒光りし、今にも飲み込まれそうなそれが、「血」であることを理解するのに時間はかからない。
423青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:41:50
「佐田さん…それ、持ってても邪魔ならくださいよ」
すっと指を指し佐田のジーンズをさす。思わず隠すようにポケットを押さえながらゆっくりと立ち上がった。
「わかるんすよ…同じ波長だから」
にやりと口角をあげ微笑む姿に佐田は背筋が凍るのを感じる。現役の時はそれこそ刺し違えれば死ぬような喧嘩もしてきた。
だが、今回ばかりはケタが違う。
本能が「あいつはヤバイ」と危険信号を打ち鳴らす。震える口をようやく開き、言葉を発した。
「お前……黒、か」
「そうです」
返事を聞くか聞かないか、その瞬間走り出す吉田を目で捉えると佐田は本能的に攻撃をかわす。
吉田が振り上げた刃が髪をかすり、はらりとリーゼントが崩れた。
「あっぶね…」
「ちゃんとよけないと、総長の名が汚れますよ!」
挑発交じりの言葉に小さく舌打ちすると体勢を立て直し間合いを取るように後ろへ飛んだ。
乾いた土を踏みつけながら、呼吸を整え相手を見据える。相手の武器はあの刀だろう。
とすると自分の石の力を使えたとして、それを回避できるか…。頭の中で、今までの経験と照らし合わせながら行動を予測する。
喧嘩なれとはこういう事だ、と自負しながら、じりじりと相手の隙を伺う。しかし吉田は何をするでもなく、ふいに血を体内へと戻した。
今だ。
そう思い相手の懐に飛び込んだその瞬間。
424青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:45:06
「甘いんですよ」
言葉が聞こえ眼を見開くと、背中に鈍い痛みが走る。
「…ぁ!」
鞭のようなものを手中に収めながら、吉田はおかしそうに笑った。
攻撃を受けた佐田は背中に走る焼けたような引き裂かれたような痛みに、自分のうけた傷が酷いものであると察する。
その場に崩れ膝をつき、ぜぇぜぇと息を吐く。
「もう、やめましょ。負けるのは眼に見えてるじゃないですか」
動けない相手を確認すると、草陰から阿部が姿を見せた。
「石、ください。持ってても苦しいでしょ」
「あほか…そんなん、聞けんわ!」
無防備に近づく阿部に勝機を見出し、シベライトを握り込み阿部を見つめにやりと笑う。
「あ、ばか!」
「ちょっときてー」
吉田が気づくより先に、佐田が動く。ちちち、とネコでも呼ぶように手招きすると、重力に逆らうように阿部の体が浮いた。
「わ!」
油断した体は簡単に浮き上がり、佐田の下へ引きずられる。それをヘッドロックで押さえ込み、佐田は吉田を睨みつけた。
「おら、相方がどうなってもええんか!」
阿部の左腕を掴み、逆側へ引く。怒りのあまり手加減が出来ないのか、それだけで阿部は小さく悲鳴をあげた。
「ちょ、それ、どっちが悪役だよ!」
「先にやったんはお前じゃボケ!」
啖呵を切るも、佐田の背からじわじわと流れ出す血が、意識を朦朧とさせる。
ここに大溝がいなくてよかった、と、今更ながら心配し、苦しげに息を吐く。
「はよ選べ、このまま阿部の腕を折るんは簡単っちゃけん」
「くそ…!」
425青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:47:06
相手に隙を見せないよう、佐田はできるだけ悪づいた。少しの沈黙のあと、吉田は腕を組みながら鞭をしまい、ため息をつく。
「離してください」
「吉田!」
「離して…攻撃しようもんなら…」
「わかってます、今日は引きますよ」
はらはらと苦しそうに顔をあげる阿部に対し、吉田は淡々と答える。
武器がないこと、相手が本当に戦意を失ったことを確認すると、乱暴に阿部を離し、吉田の方へ投げ返した。
「石は渡さんぞ」
「次に狙われても…そう言えればいいですね」
確認するように睨み付ける佐田に対し、吉田は小さく笑いながら阿部の手を引いた。阿部が立ち上がるのを確認すると、唐突に襲うめまいに膝を落とす。
「吉田!」
慌てて支える阿部を見ながら、大きなため息をつき佐田は背を向けた。
じりじりと痛む傷。自身の持つ石が静かなのに対し、浄化もしていない黒い石たちが、二人の持つ石に反応して共鳴を繰り返す。
その怨念がましい、まるで細い悲鳴のような音に耳を貸すことなく、ゆっくりとその場を離れた。


これを狙いやってくる相手はまだまだいるだろう。
そしてそれらに対抗するのに自分ひとりでは厳しいことぐらい、佐田自身が気づいていた。
まずは情報を集めないと。
倒れそうになる体を引きずりながら、ようやく進むべき道を見出した気がした。
中空に輝く月が、その影を濃く映し出す――――。
426青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:49:27
佐田正樹(バッドボーイズ)
石…シベライト
石の特徴…赤紫系(トルマリンの一種)。
     勇気を生み、意思力を強める。活気を与える。
能力…舌を二回鳴らし、手招きしながら「ちょっと来てー」と
  相手を呼ぶことで、自分のすぐそばにその人物を引き寄せる。
条件…佐田が見える範囲に相手が居ること。
  対象者の芸歴が佐田より上の場合は使えない(年齢は関係無し)
  回数は無制限だが、石の力を使う間は無防備になり、
  また、対象は一人のみなので挟みうちに合ったときには使えない。
427名無しさん:2006/03/22(水) 14:33:33
乙!面白かったです。
続きが気になる…。
428名無しさん:2006/03/22(水) 22:04:44
乙です!
429名無しさん:2006/03/23(木) 08:29:36
乙です!
430名無しさん:2006/03/23(木) 23:04:44
ほしゅ
431名無しさん:2006/03/24(金) 00:16:12
磁石を予約してる方います?
いなければ、磁鉄鉱と共に書きたいのですが。
432名無しさん:2006/03/24(金) 00:26:22
石?芸人?>磁石
とりあえずしたらばでどうぞ。
433名無しさん:2006/03/24(金) 16:05:30
保守
434名無しさん:2006/03/25(土) 08:11:38
保守
435 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 11:59:21
>>262から

静かな廊下。
まるで行方不明になったペットを探すように、囁くような声色で名前を呼びながら、慎重に相方を捜す藤森が居た。
そんな彼にある人物が後ろから近づき、その肩をポンと叩いた。



―――思い切り顔面を狙ったストレートパンチを繰り出す。
近頃はしょっちゅうテレビに出ている彼の顔に青あざなどを作らせたくはなかったが、一撃で気絶させておかなければ危ないと思ったのだろう。
闇雲に出した拳は、部屋が薄暗いこともあり簡単に避けられ、宙を斬った。
その勢いで前のめりに倒れそうになる。
「踏ん張れ、藤田!」
咄嗟に大村が叫ぶと石から黄色い光線が真っ直ぐに藤田に向かっていき、その身体にパン、と当たる。
普通なら絶対に床に倒れてしまうはずの体勢から、右足をグッと前に押しだし顔が床に叩きつけられる寸前にピタリと静止する。
ふんっ、と気合いを入れ直し、腹筋の力で上半身を持ち上げ体勢を立て直した。
「焦んなよ、俺がサポートするから。」
「悪いな。じゃあ頼む。」
信頼の証として、お互いに冗談じみた笑顔を造る。
「存分に戦いたまえ。俺はお前の後ろでさりげな〜く、補助してやるから。」
「お、…おう…?任せろ。」
藤田は何だか上手く乗せられているような気がして、首を捻った。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
今の言葉の真意はまた明日たっぷり聞かせて貰う事にしよう、と頭の中でなんとか区切りをつけ、目の前の中田に向けて拳を構える……が。
436 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 12:00:47
中田はボンヤリと突っ立っているだけで攻撃してくる様子はない。
「……あ…れ?」
藤田は神妙な顔をしてまた首を傾げた。
黒い靄のようなオーラが身体を取り巻いているものの、目は下に向けられ焦点は合っておらず、ゆらゆらと立っているだけで、本当に魂のないただの人形のようだ。
確かに先程はパンチを避ける動きは見せたが、それは本能的だったのだろうか。
藤田が構えを解いても、顔の前で手をひらひらと動かしてみても、中田からは向かって来ない。
「なあ、こいつ…」
どうなってんだ?と中田から視線を反らした、瞬間。
大村が息を呑んだ。
中田の腕がゆっくりと持ち上げられ、藤田に向かって振り下ろされようとしていたのだ。

「危ないっ!」
弾かれたように、石も光る。悲鳴に近い叫び声が部屋に響いた。

びゅっ
と空気を裂く音がする。藤田の髪の毛がふわりと揺れ、僅かに乱れた。
中田の視界に、何故か藤田は映っていなかった。すると、
「やっべ、びっくりした〜。」
斜め下の方から緊張感のない藤田の声が。どうやら大村の石の手助けもあり、真横に避けることに成功したようだ。
「何だよ、不意打ちとか男らしくねえ!あーマジで心臓飛び出るかと思った!」
藤田は相変わらずやかましく叫び続ける。
ふと、中田の手に何かが握られている事に気付いた。
(…武器?いや…あれは…。)
437 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 12:02:08
その手に握られているのは映画などで良く目にする柄の部分が1メートル以上もある長斧。
先程までは何も持っていなかったし、こんな場所に長斧なんて洒落た武器があるはずもない。
それよりも、藤田は床に振り下ろされた斧の先が気になった。
直前に身を捻ってかわしたことで斧は小道具が無造作に詰め込まれている木箱を派手に叩き割った、筈だったのだが。
木が割れる音も無く、やけに静かだった。
中田が力を入れるわけでもなく、すうっと斧を持ち上げる。木箱には傷一つ付いていなかった。
その時また新たな事実に気付く。
視界を横切った筈の斧の広い面を通して、向こう側の大村の顔が見えたのだ。
大村も同じように斧の向こう側にいる相方の顔が見えたのか、目を頻りに擦っている。
「透けてる…。」
凶器の持つ独特の禍々しい気配もない、ボンヤリと半透明の斧はまるでこの世に“存在しない物”のように思えた。
―――幻か?
まず最初にそう思った。
それなら今度こそ、顔面パンチを食らわせてやろうではないか。
再び構えるよりも先に、あの半透明の斧が真横に一閃された。
ハイテクのCG画像のように、斧は藤田の腹筋をサッとすり抜けた。
「何だよこんなもん……、っ…!?」
突然、藤田が腹を押さえてくの字に身体を曲げた。
「藤田!?」
「痛てぇ!!」
訳が分からず目を白黒させている藤田の額には汗がびっしり浮かんでいる。
まるで本当に腹を斧で切られたかのような痛がりようだった。
痛みだけ伝える“幻”だと、大村は即座に理解する。勿論、藤田の身体には外傷の一つもないし、血が出ているわけでもない。
だがこれだけ盛大に痛がっているところを見ると、どうやら本物の斧で腹を切り裂かれたよりも幾分か威力は低いようだ。
痛みが治まってきたのか、半分涙目になりながらも壁沿いに藤田が立ち上がる。
438 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 12:03:28
ちょっと急ぎの用事出来たんで、また夕方に投下しに来ます。
439名無しさん:2006/03/25(土) 12:42:08
>>438
乙!楽しみにしてます
440 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:18:55
ただいまー。>>437の続き投下します。
441 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:24:26
目の前に、スッと半透明の長斧の先が突き付けられる。
反射的に後ろに下がろうとしたが壁に身体が密着して余計に身動きが取れない体勢になる。
「大村、頼む!」
と、腹を押さえながら縋る気持ちで叫ぶと、中田の脇を力ずくで通り抜けようと身体をさっと屈める。
普通なら逃げれるはずがない体勢だが、大村の石があればこれくらいの軽いアクションはほぼ100%の確率で成功する。

だが、次の瞬間聞こえてきた声と、どこからか伸びてきた大村の石とは違った赤い光線に、その望みはかき消された。
「―――藤田さん、かーっこいい。」
パン。と赤と黄色の光がぶつかり合った小さな火花が一瞬だけ辺りを照らすと。
ぐんと伸びてきた中田の手が、後ろへ通り抜けようとした藤田の襟首を掴んだ。
勢いで首が絞まり、バランスを失って真後ろに倒れ込む。
逃げられなかった。つまり、成功できなかった、ということになる。
大村の目は廊下の向かい側から声を上げる後輩の姿を捉えていた。

「何やってんすか、もう!あっちゃんから離れてください!離れて!」

大股の強い足取りに早歩きで割り込んでくる。その手の指には、ほんのり赤く光る指輪が。
大村はハッとした。自分たちは何とか中田を正気に戻そうと奮闘しているだけなのだが、端から見れば、それは(ルックスも手伝って)柄の悪い先輩二人が、後輩を狭い底の中で殴ろうとしている。
なんて、とんでもない構図に見えてしまうのだ。
藤森がこれ以上ないくらいの剣幕で怒鳴っているのも仕方がない。

「いや、これは違うって。実はな、中田のやつ…、」
表情を見たところどうやら藤森は正気のようだ。
相方の異変を知らないのかと思い、弁解も兼ねて、中田が“黒”の連中に手駒にされている事を伝えようとする。
だが、それよりも先に、せっかちな藤森が口を開いた。
442 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:26:04
「なにしてんの敦彦、敵だよ!」
「えっ?え?いや違うって!」
勘違いしている藤森を何とか落ち着かせようとした次の瞬間。とてつもなく嫌な台詞を聞いた。

「“黒”の敵って事なら、いくら先輩でも容赦しません。俺と敦彦でやっつけてやる!」

「なんだって?」
その言葉には藤田も大村もあっけにとられるばかりだった。
ただ一つこれだけは言える。
今の藤森と中田は完全に自分たちの“敵”になっているのだ。
「いくよ!」藤森が呼びかけると、中田が顔を上げる。

「マジもう、わっけわかんねー…。」
仰向けに倒れたまま、胸で息をしながら藤田がぼやいた。真後ろに引き倒されたときに脳震盪でも起こしていたのか、身体が上手く動かせないようだ。
中田は床に転がっている藤田を跨ぐと、廊下側の大村に向けて長斧を振り上げる。
息を呑んだまま、大村は固まってしまう。
逃げろ、と未だクラクラする頭を振りながら藤田が声を絞り出した。小さな声量だったが、大村が我に返るには十分だった。

黄翡翠と赤珊瑚。黄と赤の二つの原色光が再びぶつかり合った。
大村と藤森の石の能力は全くの間逆であり、お互い同時に発動すれば相打ちになって終わるのだが。
既に何回も力を使っている大村の石は赤珊瑚のきつい光に飲み込まれ当たり負けしてしまい、結果的に“避けられる”確率が下がってしまう。
「やったー、俺の勝ちっ。」
愕然とする大村とは逆に、誇らしげに藤森が笑う。
足を滑らせ、気をとられたその時、斧の刃が首と胴体を真っ二つに断ち切るように通り抜けた。
―――あーこんな気持ちなんだろうな。ギロチン処刑される人って。
一呼吸置いて、首全体に鋭い痛みが走ると、耐えきれずに倒れ込む。
筋肉の付かない首は大の大人でも攻撃されると気絶を伴う程の痛みと衝撃が突き抜ける。もろに攻撃を受けた大村は倒れたまま動かなくなった。
443 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:28:50
「お、大村!?くそ、一発KOとか無しだっつーの!」
ようやく全身に頭の命令が行き届くようになり、気合いを入れ直して起きあがる。
ここで自分までやられてしまっては、今目の前にいる中田と同じ運命を辿ることになるだろう。もちろん、相方もろとも。
腹をさする。もう痛みはなかった。斬られた、と感じる痛みは一時的な物で、暫くすると完全に消えるようだ。
となると、大村が目を覚ますのも時間の問題だろう。

「おーむ、しっかりしろ。」
ああ良かった、首はくっついてる。と呑気な事を考えつつペチペチと頬を叩く。
時折唸るような反応は返すが、それ以上はない。
中田が再び向かってくる。戦闘向きではない藤森はさっと柱に隠れた。
大村からなるべく離れるように、藤田も負けずに突進する。
長い柄の部分を掴もうとするが、案の定握った感触もなく手をすり抜けてしまう。半透明の武器を操れるのはやはり中田だけのようだ。

「言っときますけど今の俺たちは、藤田さんより強いんですからねっ。」
「俺がお前らなんかに負けるか!!」
「……っ!」

相方が戦闘不能になり、サポートしてくれる人間が居なくなった癖に未だ闘争心は潰えていない。
なかなか倒せないことと、そのことが藤森を余計に苛立たせていた。

藤田の中で怒りにも似た何かが血をたぎらせ、早鐘のように打つ鼓動は力となって全身を駆けめぐる。
―――さあここからだ。身体を張って後輩を助け、藤森に自らの強さを見せつけるのだ!
隙を突いて両手を伸ばし掴んだのは、手首。
「…!」
がくんと身体ごと引っ張られる力強い衝撃に、中田の表情が少しだけ変わった。
渾身の握力で捻り上げると、長斧はすうっと消えていった。
「っし、捕まえたぞこら!」
その細い見た目と同じく、中田は年相応の体力も腕力もあまり無い。一度押さえつけてしまえばこの埋めようのない腕力差だ。絶対に勝負は付く筈だ。
どれだけ無理な体勢になろうと、どんなに身を捩っても藤田がの手が離れることは無かった。
444 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:31:02
「聞こえるか!?おい、何か言えよ!!」
黒いオーラが自分にも絡みついてくることも構わずに、身体を羽交い締めにして“中田”へ向け呼びかけ続ける。
「くそ、二人とも目ぇ覚ませ!ああ、やっぱりあの時に気付いてやればよかった、俺が…!!」
あの夜、何があったかは知らないが、別れ際の中田の目が何かに気付いてほしそうに訴えかけていたように見えなかった事もなかった。
…かもしれない。

藤森の表情から笑みが消え、次第に強ばったものになる。
「お、おかしいよ…なんで諦めてくれないの…。」
柱の影に小さくしゃがみ込んで、顔を覗かせて様子を覗っていた藤森がこっそり、人差し指を藤田の背に向ける。
「しかたないなぁ。」
キーワードを発しようと息を吸ったそのとき、いきなり目の前にどすんと大きく足を踏み込まれた。
「ひっ…!」
躊躇して手を引っ込ませ、後ろへ飛び退く。
顔を上へ向けると、通せんぼして立ち塞がった人物、大村と視線が合った。

「おやおや、後ろから攻撃なんて穏やかじゃないねえ。…っとっと、と。」
多少足下のふらつきがあるものの、いつもの不敵な笑みを浮かべている。
ムッと顔を顰める藤森。背後で取っ組み合い中の二人を一瞥し、大村は
「お前の相手は俺だ!……あはっ、これ一度言ってみたかったんだよ。」
と笑いを含めた口調で言った。

445 ◆uAyClGawAw :2006/03/25(土) 19:35:48

中田敦彦
石…ボツワナアゲート(新しい自分の発見や人間的成長を助ける。)
能力…武器(半透明・基本的に刃物)を造り出す。
   武器は中田以外は触れず、相手を攻撃してもすり抜けるが、その箇所に痛みを与える。
   痛みは本来その武器で与えられた痛みよりは軽く、時間と共に引いていく。
条件…大型の武器(チェーンソー)とかだと一日一度しか造り出せない。
   武器は中田の手を離れると消えてしまう。よって飛び道具も造れない。

ここまでです。次で最後になる予定。
446名無しさん:2006/03/25(土) 22:28:01
>>445
乙!!続きが楽しみです
447名無しさん:2006/03/25(土) 22:47:15
乙です!
戦いが激しくなってきましたね〜続きが楽しみです!
首斬られる痛みって尋常じゃないんでしょうね…
448名無しさん:2006/03/26(日) 10:08:05
乙!すごい面白い。
449Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:40:57
>>278-284 の続き

【22:47 都内・居酒屋】

「…本当に彼も被害にあったのなら、災難としか言い様がないが。」
一つ、大きく息を吐いて。設楽は独り言のような調子で言葉を紡ぐと、で、と井戸田の方を向いて言葉を続ける。
「彼らはやはり、あれなのか?」
設楽があれ、と言ったのは『白い悪意』と鉢合わせ、抵抗した石を持つ芸人達に揃って起こった謎の症状。
彼らの持つ石は皆輝きを失い、芸人達は原因不明の意識不明に陥ってしまうのだ。
そのせいで、『白い悪意』に関しての情報が手に入りにくく、そして櫛の歯がこぼれ落ちるかのように
徐々に石の持ち主が排除され、戦線に復帰できない状況にされていく事で、攻撃的な能力を持つ石の持ち主を揃えて
『白い悪意』に備える作戦を『白』にも『黒』にもとりづらくさせていた。

『あの石は…芸人を憎んでいる。芸人だけじゃねぇ。芸人に力を貸す他の石も憎んでいる。』
だから、他の石を見つけると強引に封印を施そうとしちまうんだ。
小沢の脳裏に、先ほど土田に告げられた言葉が蘇る。
「…………。」
思わず目を伏せ、両の拳をぎゅっと握りしめる小沢だったけれど。

「それが……渡部さんが言うには、救急車に押し込んだ時点で、まだ意識はあったって。」
井戸田が答える言葉に、床に落ちた小沢の視線は跳ね上がり、井戸田の方へ向けられた。
「本当なの!?」
不意に上がる小沢の声は店の中の方にも響いたようで、何人かの芸人が怪訝そうに3人の方へ視線を向ける。
その目線に何でもない、と苦笑いと共にジェスチャーをして一旦彼らの関心を失わせてから、
設楽も興味深そうに井戸田の方を見やった。
「最初にダメージを負って気を失う前に、治癒魔法掛けられたのがデカイんじゃねーかって言ってたけど。」
「何処の病院に搬送されたかは、わかっているのか?」
「一応は。」
設楽の問いに井戸田は素直に頷いて、渡部が教えてくれた都内の病院の名を告げる。
それは全く知らない固有名詞ではあるが、設楽はふぅむと呻るように呟いて。
「あれを使えば行って行けない事も、ないか。」
ポツリとそう漏らす。
450Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:42:47
「じゃあ、行きましょう。」
すかさず、小沢が口を開いた。
「『白い悪意』に対抗するために何かわかる事があるかも知れない。」
きっぱりと言い切るその態度に、2人はそれぞれ小沢の方を見る。
井戸田は、石が絡む事になると本業の笑いの事に負けないぐらい積極的に関わろうとする小沢の態度に
しょうがないなとでも言いたげに。
設楽は、立場こそ違えど『白い悪意』に手を焼いている同士である彼の判断に、その通りだと言いたげに。
2つの眼差しに同意が得られたとわかれば、小沢はようやく小さく嬉しそうな表情を浮かべた。


「…っと、お前ら。悪い。」
ふ、と小沢につられるように口元に笑みを浮かべ、設楽は店内の芸人達の方を向くと呼びかけの声を発する。
「ヤボ用ができたんで、俺達ちょっと出かけてくるわ。」
すぐに戻ってくるから、そこまで俺らに気にせず続けててくれ。
突然の展開にキョトンとする芸人達にそう付け加えて、身を翻して店から出て行こうとした設楽に。
「…俺は?」
日村が椅子から腰を浮かし、幾らか慌てたような声を上げる。
スピードワゴンの2人に設楽に用事が出来て、設楽の相方である自分が無関係というのもおかしな話であろう。
しかし、設楽は日村へ首を横に振ってみせて。
「日村さんは関係ない。俺も付き添いみたいなモンだし…だから、ハメ外さないようにこいつらの事見張っててよ。」
「でもよ……。」
「大丈夫だから。」
軽い調子で告げる設楽に、それでも不安げに日村が問い返そうとするけれど。
一言そう言い残すと、彼は店の扉を開けると小沢と井戸田を連れて外へと歩き出していった。
カランコロンカラン、とどこのコントの喫茶店だと言わんばかりに扉に付けられていたベルが虚しく音を響かせる。
451Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:44:40
「……日村さん。」
扉の向こうに3人の姿が消え、どさりと椅子に腰を下ろす日村に島田が声を掛けた。
日村のその柔和そうな顔に浮かんでいるのはどこか寂しげな表情で、設楽が言うところの「ヤボ用」に関われなかった事を
少なからず残念に思っているだろう事は明らかで。
「日村さんの事、信じてるからあぁ言ったんだと思いますよ。」
「わかってる。けど、なぁ……。」
フォローのつもりかそう告げて、グラスにビールをつぎ足す島田に日村はぼそりとそう答える。
電話に出た井戸田が小沢と設楽を呼んだ時点…つまりはそこで日村を呼ばなかった時点で、この件に関しては
自分はお呼びではないのだと言外に告げられていたのだろうけども。
今回のみならず、随分と前から自分だけ置いてきぼりにされるような事柄が多いような気がして、それが何とも面白くなくて。
島田につがれたビールを日村はぐいと流し込んだ。モヤモヤを一緒に流し去ろうとでもするかのように。





夜になり日中よりは気温も下がっているとは言え、冷房の効いた店内に居た身には酷く蒸し暑く感じられる。
居酒屋から少し離れた人気のない路地で立ち止まり、設楽は暑ぃと気怠そうにぼやいた。
「日村さん、納得いかないって顔してましたね。」
設楽について歩いていた小沢も立ち止まり、変に誤解されてないと良いんだけど、と店を出る前にチラリと見えた光景を
思い出して小さく呟く。
「仕方ないさ。誤解されたらその時はその時だし、それはこっちの問題だからお前らが気に病む必要はない。」
心配げな小沢の言葉の響きに、設楽は小さく肩を竦めて苦笑を浮かべた。
誤解になるかも知れないとわかっていつつも、相方に対してソーダライトを使わないのは設楽なりの誇り。
今まで自分達で築き上げてきた物が、そう簡単には崩れないという過信に似た信頼。
「でもよぉ…。」
やっぱり気になるじゃん? とでも言いたげな井戸田の肩に手を伸ばし、宥めるように軽く叩いて。
設楽は携帯を取り出すと手慣れた動きでメモリーを操作し、電話を掛ける。
452Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:46:01
「…『スィーパー』か。四の五の言わずに今すぐこっちに来い。」
数コールで電話は繋がったらしい。クッと顔をもたげて設楽が告げた、その次の瞬間。辺りに石の力の気配が広がる。
それは小沢のアパタイトでも井戸田のシトリンでも設楽のソーダライトでもなく。
「………っ!」
何もない空間を引き裂くように現れた緑色のゲート。
そこからのそりと現れたのは、指のリングのブラックオパールを輝かせた土田だった。


「な…何だよこれっ!」
アスファルトの上に両足を付き、スッと手を振ってゲートを消去して。設楽の方を半ば睨み付けるかのように見やる
土田の姿に井戸田が素っ頓狂な声を上げる。
『黒』の同僚としてその能力をこれ以上なく知っている設楽、そしてついさっきその能力を目の当たりにしたばかりの
小沢と違って彼にとっては初見なのだから、驚くのも当然だろうか。
「…何の用だ、『プロデューサー』さんよ。」
しかしそんな井戸田などあっさりと無視して土田は設楽に問うた。
「こっちは『白』なんぞとキャッキャと遊んでたそっちと違って、仕事上がりで家に帰る所だったんだけど?」
「本当に仕事だけしてたのか? うちの小沢に手を出しといて、良くそんな事が言えたモンだな。」
不機嫌げに眉を寄せての土田の言葉にも構わず設楽はさらりと言い返し、先ほど井戸田に聞いたばかりの病院の名前を口にした。
「ここに『白い悪意』の被害者が運び込まれた。今夜のお前の越権行為は黙っててやるから、今すぐ俺らを連れて行け。」
『黒』の幹部同士のやりとりに、路地の頼りない街灯の明かりも手伝って彼らの回りにはうっすらと闇が集っているように見える。

小沢の名が出されて思わず舌打ちをする土田の表情が、続いて告げられた『白い悪意』という単語で劇的に変わった。
「…本当なのか?」
設楽に、そして傍らの小沢へ問えば、返ってくるのはそれぞれ無言での頷き。
土田の表情から機嫌悪げな色が一気に薄れ、真剣な面持ちで彼はリングに手を翳し、ブラックオパールを煌めかせる。
「それならそうと先に言え……ゲート、開くぞ。」
強い石の魔力…それは先ほど墓地で小沢の気配が消える直前に感じたそれと同じモノだ…が周囲に広がり、
しばしの間の後に、空間が赤い輝きをもって人一人が通れるほどの大きさに引き裂かれた。
453Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:47:36
「本当に『白い悪意』の話になると目の色が変わるな、お前は。」
幾らか呆れたように呟いた、設楽の腕を井戸田が肘でつつく。
何事かと傍らを見やれば、井戸田は不安げに視線をゲートと設楽の顔を往復させていて。
「…これに、入るんスか?」
「そうだ。こいつはどこでもドアみたいなモンで…そういやこないだの無観客試合もこれで覗きに行ったんだって?」
警戒心が見え隠れする井戸田に設楽は説明し、ふと思い出したかのようにそのまま土田に訊ねた。
「あン時は見つからねーようにって色々大変だったけどな。ま、そんぐらいの力はあるから、安心して飛び込んでくれ。」
まさかこのシチュエーションで土田達が井戸田達を騙そうとする事はないだろうけども。
それでも未体験の能力を目前にして、不安に思う気持ちもわからなくはない。
井戸田の警戒を解くべく笑う土田の様子につられるよう、小沢も小さく微笑んだけれど。
その笑みは長くは続かず、彼は不意にハッとしたように背後へと振り返る。

「……………。」
打ち上げ会場だった居酒屋から小沢達が歩いてきた道。そこに、一つの人影があった。
細身の長身。走ってきたのだろうか、呼吸を乱れさせたままそこに立っていた男は。

「…赤岡くん…どうしたの?」
「僕も、連れてってください。」
視界を遮る漆黒の前髪をそのままに、戸惑うような小沢の問いかけに男は…赤岡は答える。
「今さっき携帯に電話があって…多分同じ用件…『白い悪意』の…だから石の気配を追いかけて……。」
一歩二歩と歩み寄ってきつつ、もしここにグラスに入った水があれば飲ませてあげたくなるような口振りで赤岡は続けた。

「…赤岡くん。」
あまりに急いできたのだろう、土田がいる事にもゲートが開いている事にも気づく余裕のない赤岡の様子に
思わず小沢は呟いて、そばの三人の顔をそれぞれ見やった。
本来はドの付くほどのマイペース人間である彼をここまで駆り立てる理由も、小沢には決してわからない訳でもない。
だからといって、自分の権限でさぁどうぞという訳にもいかなくて。
454Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:48:19
「どうせ厭だといっても付いてくるんだろう。だったら勝手にすればいい。」
答えに困り、口を閉ざす小沢の傍らで。肩を竦めて設楽が赤岡へとそう告げた。
「そうだな。一人増えても問題ねぇし、それよりもゲートを維持し続ける方が疲れるんでね。さっさとしてくれた方が助かる。」
設楽の言葉に同意するように続けて土田も口を開けば、赤岡は苦しげながらも表情を綻ばせる。

「ありがとう御座います。」
彼にしては珍しい、殊勝な礼の言葉を紡いで。赤岡はようやく顔に掛かる前髪を指で書き上げた。
「…良かったな。んじゃ、行くとすっか。」
確かに土田の言うように、あまり長い時間ゲートを開けっ放しにしておく訳にもいかないだろう。
赤岡の他にもまた誰かが居酒屋から追いかけてくる可能性もない訳ではない。
ゆっくりと残りの距離を詰めてくる赤岡の腕を取って、井戸田は赤く輝くゲートの方へ向き直り、
半ばその中に飛び込むような気概でそのまま足を進めていった。

目の前の現象に疑問を持つ間もなく、井戸田に引っ張られるように赤岡の姿が光の中に消える。
一々改めて説明する手間が省けたかな、などと軽口を漏らし、設楽は落ち着いた様子でその後を追った。
続いて小沢。最後に土田。
五人の姿がゲートの向こうに消えれば、ゲートの赤い輝きは瞬く間に薄れていって。
辺りには元の静寂と、ブラックオパールが残した石の気配が漂うばかりとなるだろう。
まるで真夏の夜の幽霊か何かのように。




455Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:49:30
【23:09 渋谷・某病院】

真夜中のロビーは、夜の闇を、そしてそれが連想させるモノを払いのけんとするかのような輝い明かりに包まれていた。
その隅の方で俯いて椅子に浅く腰掛けていた男が、不意に耳に入る物音にビクリと肩を震わせ、頭を上げる。
医者が来たのだろうか。それとも。
思わず足元に転がした三つの荷物に足を取られながら彼は立ち上がり、物音のした方を向いた。

「…………!」
けれど、彼の視線の先にあったのは、虚空に輝く緑色の亀裂。
しかもそこから吐き出されるように、若い男達が次々とロビーに転がり出てきて。
その現象そのものにはもちろんのこと、男達のそれぞれ見覚えのある顔に、男はハッと息をのむ。

それは男達…小沢達にとっても同じ事で。
薄暗かった路上に慣れていた目がロビーの目映さに慣れるまで数秒ほどタイムラグが生じたけれど。
やがて見えてくる自分達の方を見つめる見覚えのある男の顔に、深い闇を思わせる彼の大粒の瞳に、言葉が詰まる。

「お前ら……」
やがて、頭に白いタオルを巻いた30代半ばの男はおもむろに口を開き、短いながらも西のイントネーションを帯びた
小さな呟きが辺りに響いた。
「こんな所まで何しに来た。」
「あんたを笑いに来た。…そう言えばあんたの気は済みますか?」
突然の訪問者への警戒を露わにしつつの彼の声に、他の四人よりも早く、わかってる癖にと付け加えて土田は言葉を続ける。
「『白い悪意』に対抗する為の、折角の情報源に接触しない手がどこにあるって言うんですか。」
「俺からもお願いします。そちらで…松丘さんに何があったのか…教えてください。」
土田に続いて赤岡も言葉を紡ぎ、男へと呼びかけた。

「……渚さん!」
名を呼ばれ、男…村田 渚はピクリと眉を動かす。
強張った表情を解きほぐそうとせんばかりに、彼はそのままゆっくりと息を吐き出した。
「お前ら此処を何処だと思ってる? 病院で大声出したら怒られるぞ。」
456Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/03/26(日) 23:56:33
今回はここまで。
更に登場人物が増えてきてますが、話は収束し始めているはずだ…多分。
457名無しさん:2006/03/27(月) 02:08:47
キタキタキタ―――(゚∀゚)―――!!
乙!超乙!
458名無しさん:2006/03/27(月) 04:57:04
相変わらず素晴らしいなぁ。乙。
459名無しさん:2006/03/27(月) 13:22:39
スゴス!乙!
460Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:45:00
>>294-302の続きを投下します。

 それから走ること約一分、二人は例の公園に到着した。
 周辺地図を何度も見返してみるが、この場所で間違いなさそうだ。
 住宅街から少し離れたこの公園は、さすがに夜とあって人通りも少ない。時折仕事帰りと見られるサラリーマンや、ちらほらと車が通りすぎるのを見かける程度である。
 時計を見てみると、針は九時五十八分を指していた。まだブラックマヨネーズの二人の姿は公園内にはない。
「呼び出した奴が先に到着するのは常識とちゃうんか」
 福田が呆れたようにため息をついたその時、背後から人の気配がし、二人は一斉に振り返った。そこには思った通り、ブラックマヨネーズの二人が立っていた。
 先に吉田が一歩前に出て、にやにやと笑いながら言った。
「待たしたな。今でちょうど、約束の時間ぴったりや」
 二人がそれぞれ腕の時計を見ると、確かに針は九時ちょうどを指していた。
 それから二人が顔を上げるのを待って、小杉が口を開いた。
「一週間ぶりやなあ、二人とも。元気しとったか」
 徳井はむっとしたような顔で言葉を返した。
「当たり前や。それより、こんなとこに呼び出して何の用やねん。早よ済ませて帰らしてくれ」
 それを言った途端、ブラックマヨネーズの二人は吹きだした。
「何やねん徳井、お前すぐに帰れると本気で思てるんか?」
 小杉が馬鹿にしたように笑い、隣の吉田は小杉と同じく笑いながら、例のチョーカーを首から取り出してきた。福田と徳井は小さく舌打ちする。吉田は即行で勝負を仕掛けるつもりらしい。
 徳井は横にいる福田に、小さい声で喋りかけた。
(福田、早よせえ! 使われたらどうにもならへんぞ!)
(そんなこと言うたかて、どこにツッコんだらええんや!)
 先程の小杉の言葉の中には、特にツッコめそうな目立った箇所は見つからなかった。
 福田はポケットの中に手を突っ込んで石を握ったまま、一瞬の隙を逃さないといった様子で吉田と小杉を睨み付けている。しかし二人はまるで福田の意図が分かっているかのように、口をつぐんだままだ。
 仕方ない、俺が、と徳井がズボンのポケットに手を入れて石を握ったその時、その行為に素早く反応するかのように、吉田が口を開いた。
「……悪夢、見せたるわ」
461Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:46:54
 チュートリアルの二人の背筋に冷たいものが走り、吉田が先程より大きく口を開けた。福田は何か言わなければ、と焦り、思わず一歩前に出ていた。
 ――しっかりせえ俺、こんなんやったらツッコミ失格やぞ!
 そんな福田の焦りをあざ笑うかのように、ついに吉田はその喉から大声を発した。
『もしお前らの上に、大岩が落ちてきたらどうす――』
 その瞬間だった。

「何が大岩やねん! そんなもんお前の勝手な想像やんけ!」

 吉田の言葉を遮り、福田は咄嗟に怒りの混じったツッコミ台詞を発動していた。
 その途端吉田の石の光は失われ、言葉の効力もなくなってしまった。
 吉田は怒った様子で、チョーカーの石をぐらぐらと激しく揺らす。
「またか……何やねんこれは!」
「能力使われたら困んねん。しばらく大人しくしといてくれるか」
 福田が言うべきであろう台詞を傍らの徳井が代弁し、睨み付けてきたブラックマヨネーズの二人に向かって言葉を続けた。
「お前らほんまに正気なんか? 俺らから石を奪ってどうにかしようやなんて、俺らからしたら考えられへん。何のために俺らの石を奪うんや?」
「それは……」
 なあ、と言って、小杉は傍らの吉田に同意を求めるかのように振り向いた。
 吉田は未だに能力を封じられたことを根に持っているらしく、不機嫌そうな顔をしていたが、小杉の声にああ、と頷いた。
「そうや。ある人に頼まれたんや」
「ある人?」
 すかさず、福田が吉田の発言の中で気になるワードを見つけて問い返した。
 するとその瞬間、ブラックマヨネーズの二人の表情が変わった。吉田がしまったという顔をして口を開け、その傍らの小杉はちっと舌打ちをして、吉田に向かって怒ったように叫んだ。
「アホかお前! 何バラしてんねん!」
 どうやら吉田の失言だったらしい。第三者の存在を明かしてしまったのだから、当然と言えば当然だろう。その上先程の二人の行動を見れば、自分たち以外の第三者が絡んでいるのは本当のことだと言っているようなものだ。
「ほんで、そのある人って誰やねん」
 徳井が何気なく尋ねる。もちろんあっさりと教えてくれるわけはないから、あまり真剣には訊いていない。案の定二人は黙ったまま、何も答えなかった。
462Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:48:39
 さらりと、涼しい夜の風が四人の間を吹き抜ける。少し勢いを持った風である。普段触れるなら心地よいものだが、今のこの状況の中ではちっとも心地よいと思えない。
 その風がどこかへ行ってしまった後、徳井は再び横の福田に小さな声で問いかけた。
「おい。やっぱりあいつら、操られてるっぽいな。バックに誰かいる」
「そやな。気になるけど、やっぱ黒のユニットとかいう――」
 そこで、軽く徳井の方を向いていた福田はブラックマヨネーズの方を振り向き、言葉を失った。何かによって、月の光がきらりとこちらに反射してきたからだ。
 徳井もすぐ後にそれに気づき、その“モノ”を確認してうっと唸ったまま唇を噛む。
 ブラックマヨネーズの小杉がジャケットのポケットから取り出してきたのは、刃渡り十五センチほどのナイフだった。
 石の能力ではなく本物の凶器が彼から出てきたことで、チュートリアルの優位はあっという間に崩れてしまった。二人はごくりと唾を飲み、身構える。
 二人が怯えていると思ったのか、ナイフを持った小杉が唇の端に笑みを滲ませた。
「持って来といて良かったわ。能力なんか使わんでも、十分脅す材料になる」
「な、何しとんねん! それ、使うつもりとちゃうやろな?」
「アホか、使うに決まっとるやないか。まあ、あんまり使いたくないとは思ってたけどな」
 福田の必死な言葉に対し本心なのかどうか定かではない言葉を吐いて、小杉はナイフをもう一度構え直した。ナイフの先にいる者は――無論、チュートリアルの二人。チュートリアルの二人は再びごくりと唾を飲み込む。
 正直、彼らが本物の凶器を持ってくるという可能性など頭になかったから、この状況は二人にとってすこぶる悪い状況であった。
 ブラックマヨネーズの二人にも言えることだが、チュートリアルの二人に関しても、石の能力自体に殺傷能力はない。その逆で、その攻撃を防ぐ能力もないのである。
463Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:49:45
「ほんなら、とりあえず先に脅させてもらおか」
 チュートリアルの二人が次の行動に迷っていると、吉田が口を開いてそう言った。その後、吉田の言葉を受けて小杉が発言した。
「お前らが俺らに素直に石を渡してくれたら、俺らは何もせんと引き上げる。けど渡さへんつもりなんやったら、場合によっては命がなくなる可能性もある。どうや」
 ブラックマヨネーズの二人を睨んだまま、徳井も福田も答えるべき言葉を探していた。
 二人の石がたむらに教わった黒のユニットとやらに悪用されるのであれば、彼らに素直に石を渡すことなどできない。
 だが相手は本物の刃物を持っている。その攻撃を完全に防ぐ術がない以上、小杉の言うようにもしかしたら刺されて死ぬこともあり得る。
 ――そうか、だからあんな言葉を……
 二人は徳井に送られたメールの最後に書いてあった、“レギュラーは俺らのもんや”という意味深な言葉を思い出していた。嫌な予感は嘘ではなかったと言うことだ。
「どうしたんや。早よ答えてくれへんのやったら、悪いけど次の行動に移らせてもらうで」
 吉田が急かすように言い、チュートリアルの二人は軽くそれぞれの相方の方を向いた。福田がどうすんねや、と徳井に目で訊くと、徳井は渡さへん、と小さく首を振ってきた。
 これで決まった。二人はブラックマヨネーズの方を向き、石を握りしめながら答える。
「渡すわけにはいかへん」
「ほう。ほんなら遠慮なくやらせてもらうわな」
 小杉はますます笑みを深め、その表情は隣の吉田にも伝染した。来る、と戦慄を覚えた二人は、思わずナイフを凝視していた。
464Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:50:43
「うらぁぁ!」
 小杉が大声で叫びながら、ナイフを振りかざして二人の方に突進してきた。二人は咄嗟のところで避けたが、小杉の目は血走っており、ナイフを振る手つきも冗談の時のそれではなかった。
 本気だ、と二人は悟った。本当に殺されるかもしれない。
 やがて小杉は、福田にターゲットを絞ったようだった。福田を執拗に追いかけ、ナイフを容赦なく振ってくる。
 福田はなんとか避け、徐々に後ずさりしていく。ここで背中を見せるわけにもいかないのだろう。それに、背中を見せる余裕すらないほど、小杉の手の動きは速かった。
 徳井は何もできぬまま焦っていると、突然背後に人の気配がして思わず振り返った。そこには吉田がいて、なんと彼まで小杉と同じようなナイフを手にしていたのだ。
 ぞくりと背中に冷たいものが走り、徳井は慌ててうわっと叫びながら吉田のナイフを避けた。
「油断してたら、痛い目に遭うで」
 吉田は呟くようにそう言い、続けてナイフを振ってきた。小杉ほど手際よくはないものの、それでもナイフを手にしているというだけで何とも言えない怖さがある。
 徳井は福田の様子を見ることなどできるはずもなく、そのまま自分までもが追い込まれていった。
 ――どうにかならへんか、どうにか……
 体を動かしながら必死に頭を回転させてみるが、いい考えは浮かばない。迫っていってナイフを奪うというやり方も考えたが、ナイフに近づくというだけで危険すぎる。
 これがドラマや映画の中なら上手く間を詰めて相手を倒すところなのだろうが、これは現実だ。今の徳井や福田にそんな芸当ができるわけがない。
 ふと、その瞬間吉田の手から伸びたナイフが徳井の脇を掠めた。あまりに突然だったので徳井は後ずさるのが遅れ、足がもつれて転んでしまった。
 するとそのすぐ後、同じように倒れ込んで地面を掠る音が響いた。はっと横を見るとそこには尻餅をついた福田の姿。
 二人は全く同じ体勢になり、そして同時にブラックマヨネーズの二人からナイフを突きつけられた。
465Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/03/27(月) 20:51:51
「さあ、早よ石出せ。もう逃げられへんで」
 吉田がそう言ってチュートリアルの二人の行動を促した。福田も徳井も身動きが取れず、黙って吉田と小杉を睨み付ける。
「そんな怖い顔しても、俺らは退かへんで。威嚇にもなってない」
 この場にいる誰もが分かりきった台詞を小杉が吐き、チュートリアルの二人はいよいよ追いつめられることとなった。
 すぐに考えて次の行動に移らなければ、このままやられてしまう。こんなところで死ぬわけにはいかない。だからといって、ここまで守り続けた石をあっさりと差し出すわけにもいかない。
 ――あのナイフさえなかったら!
 徳井は悔しさに唇を噛みしめ、石を一層強く握った時だった。
 突然、頭の中に一つの考えが浮かんだ。はっとしてズボンにある石をもう一度握り返す。石はそれに反応し、じんじんと熱くなり始めた。
 ――これや、これやったらいける!
 徳井は笑みを見せる余裕は既になくなっていたが、ぎこちない笑みを作り、石を握ったままブラックマヨネーズの二人に問いかけた。
「なあ、ほんまにそのナイフ使えると思てんの?」
 訳が分からない、という表情で、徳井以外の三人が徳井の顔をまじまじと見つめた。それから少しして、吉田が嘲るように笑いながら言う。
「は、何言うてんねん! 当たり前やないか、こんなによう切れそうな刃やのに」
「そうか、でもな、それ間違ってんで」
 不可解な言葉を続ける徳井に、今度は小杉がキレたように怒鳴り返した。
「何が間違うてんねん! お前頭おかしなったんか!」
 小杉の言葉の後、徳井は今の自分にできる最大限の笑みを唇いっぱいに広げ、石を固く握りしめた。
 そして口を開き、言葉を発する。

『そのナイフ、どっちともさびてて全然使いもんにならへんやないか』


今回はここまでです。
466名無しさん:2006/03/27(月) 22:12:22
乙です!!すごい緊迫感だ
続き楽しみにしてます
467名無しさん:2006/03/27(月) 22:25:34
うおお!新作が2つも…
いつもながら乙です!
468名無しさん:2006/03/28(火) 08:53:34
乙です!
469名無しさん:2006/03/29(水) 10:25:24
保守age
470眠り犬:2006/03/29(水) 16:22:29
本スレでは大変お久しぶりです。
『ゆびきりげんまん』第三話投下します。
471眠り犬:2006/03/29(水) 16:26:18
僅か数秒の間に、松田は高野の隣へと戻って来た。その顔は汗一つ掻いていない。能力の代償である身体の疲労や痛みも、一度使ったくらいではまだまだ大したことの無い様だ。松田は、漸く上から降りてきた、これから仲間になるであろう男女コンビをビッと親指で差した。
「何で敬語使ったの?」
 高野はその芸名と同じ色の髪を掻きながら、当たり前の様に答える。
「そりゃあ、敬語使う方が悪者っぽいじゃん。て言うかお前も使ってただろ」
「えー、だってさァ」
 相方の首に腕を絡ませた松田は、いつもの様に顔をクシャクシャにして、笑った。
「敬語使う方が悪者っぽいじゃん」
472眠り犬:2006/03/29(水) 16:27:38
「お、やばっ」
「へ?」
 突然高野が駆け出した。というより、逃げ出したらしい。
 何がやばいのかと正面を向く。靴の裏が見えた。
「うおォッ!?」
 女性のそれとは思えない、大きな足が鼻先を掠める。反射的に背を反らし、地面に両手を付いて身体を支えた。つまりブリッジの体制だ。
「クッ……危ね……」
 飛び蹴りを躱された山崎は、翼を広げ跳躍した。ある程度の高さに到達すると、右足を空に向かって真っ直ぐ伸ばす。鎖骨の辺りに熱を感じて、それは石が発しているモノだと瞬時に理解した。膝からつま先に掛けてを、淡い紅の光が包み込む。
「よっしゃあー!しずちゃん行けー!」
 スポーツ観戦の様なこの応援が、若干山崎をイラつかせていた……そんなこととは露知らず、山里は彼女の為(と思い込み)歓声を上げ続ける。
「踵落としだー!!」
473眠り犬:2006/03/29(水) 16:34:03
 踵落とし?ソレ喰らうのはちょっとマズイなァ。
 女性である山崎と戦闘を行うことに、少なからず抵抗を感じている松田は、一度くらいなら
攻撃を受けても良いかと考えていた。だが、上から得た情報によると、ファイアアゲートは翼
での飛行を可能にするだけではなく、運動能力を普段の数倍上げるらしい。それが本当ならば、
高所からの踵落としを受けたら相当の――動けなくなる程のダメージを負う破目になるだろう。
 さて、どうする?

”紅き光を私が排撃する。然すれば女に外傷を負わせず、体力を削ることが可能だ”
474眠り犬:2006/03/29(水) 16:35:35
 常に松田の元に在る声が、頭の中で反響した。彼にしか聞こえないそれが聞こえるのは、別段珍しいことではない。
 しかし、今日は声が聞こえるだけでは無かった。
 どっちが上で下か判らない、体がフワフワ浮かんでいる様な、不思議な感覚。眼に映るのは、初夏の若葉をそのまま切り取ったような新緑だけ。松田が空間に呼び込まれたのは、これで二度目だ。
”ヘェー、そんなコトも出来ンのかァ”
 初めてでは無いとは云え、異観に動揺せず、声の助言に感心していられるのは、彼の楽観的な性格故か。
”私にとっては容易いな。他の同族や、別種族のことまでは知らぬ”
 声が素っ気無く問いに答えると、松田は右の手首――正しくは、『あの日』以来の光を発するデマントイド・ガーネットを横目で見た。そして、口元を緩める。

”『あの日』みてーに気付いたら惨劇、なんてのはゴメンだからな?”
475眠り犬:2006/03/29(水) 16:37:15
”案ずるな。大を『借りる』のは一瞬だけだ”

 ダイヤの輝きを有する石は、主の意思に呼応し、力を与える――。

「うわっ!」
 山崎が驚きで声を上げた。
 松田は人間の域を遥かに超えた速度で、地面を蹴り上げた。翠色の閃光が、バチバチと凄まじい音を立て、弧の軌道を描く。紅と翠の光が衝突し、そして……。
476眠り犬:2006/03/29(水) 16:38:37
「よッ」
 逆立ちの状態から、軽やかに立ち上がる松田。一方、足を弾かれ、バランスを崩した山崎は、片膝を付いて何とか着地した。
「はぁ、はっ……」

 この人達は、今までの『黒』の芸人と、格が違う。

 不意打ちに失敗したことで、山崎はそれを悟った。山里が逃げようと言った時、その通りにすれば良かったと、心の底から後悔した。倒せると思ったからこそ、戦おうと言ったのだから。
 しかも、石の力を弾き返されたせいで、相当体力を消耗してしまっている。無理をしてでも能力を使いたいのだが、山崎の場合、無理をすることが出来ない。
477眠り犬:2006/03/29(水) 16:42:18
 大阪で一度、絶体絶命まで『黒』に追い込まれたことがある。その時、山崎は限界だったファイアアゲートの力を、無理矢理開放させた。そ
こから先、数分間の記憶は全く無い。気が付くと『黒』の連中と山里がボロボロになって気絶していて、彼女はゴミ溜めの中に頭を突っ込んで
いた。
 訳が分からない状況を説明してもらう為、山里を文字通り叩き起こし「何がどうなって、こんなことになってん?」と訊いてみたところ、
「しずちゃんが野生動物みたいに、大暴れしたからだよ!!覚えてないの!?」と半泣きでキレられたのだった。

「……はあー……どないしよ?」
 山崎は肩で呼吸をしながら、汗で額に貼り付いた前髪を掻き上げた。
478眠り犬:2006/03/29(水) 16:46:31
「…………」
 山里は少し離れた場所で、息を切らし、苦しそうにしている山崎を見ていた。
 否、見ていることしか出来なかった。ハウライトトルコは、戦闘で役に立つ力を有してはいない。だから、『黒』に襲われた時は山崎が一人
で戦って、山里のことを必死で護ってくれていた。そして山里は、どうしたら戦いから逃げることが出来るのか、必死に考えていた。

 今日も、ほんとは逃げ出したかった。
 でも、しずちゃんが戦うって言ったから。
 二人を、助けようと言ったから。

 …そうだね。俺、バカだなあ。

 『黒の欠片』のせいで、俺に殺されそうになった時も、しずちゃんはたった一人で戦ってたんだぜ?ほんとに、スゴイ根性だよ。女の子だっ
てのにさ。男の俺が、何やってんだって話だよなあ。

 俺、バカだなあ。

「――ほんとに」

 発汗が尋常じゃない手を、強く強く、握り締める。体が震えているのは、恐怖を感じているからでは無い。
 全然怖くないと言ったら、それは嘘になるけれど。
 人より少し強気な相方に、「意外と根性あんねんなあ」と言わせる為、人より少し臆病者の足は、動き出す。
479眠り犬:2006/03/29(水) 17:08:36
今回はここまでです。第二話投下から十ヶ月経ってしまいましたorz

トリップについてですが。
現在鳥を付けて、さらにそれを統一出来るようにする為に
他板でROMったり質問をしていますが、なかなか解決出来ません。
ですので、もうしばらくの間は『眠り犬』の固定ハンドルのみで
書き手としてやって行くつもりです。
本当に申し訳ありません。
480名無しさん:2006/03/29(水) 19:37:54
眠り犬さん乙!待ってました
山ちゃん、あんたカッコいいよ…!
481名無しさん:2006/03/29(水) 20:28:59
乙!面白かったです。
山ちゃんカコイイ!
482名無しさん:2006/03/30(木) 12:24:47
失礼します…
まとめサイトは携帯からじゃ見れないんでしょうか?
483名無しさん:2006/03/30(木) 12:48:29
PCサイトだよ
484名無しさん:2006/03/30(木) 13:04:02
そうですか。
ありがとうございます。
485名無しさん:2006/03/30(木) 23:05:59
保守&乙
486名無しさん:2006/03/31(金) 16:26:59
私も携帯だけどこれ使えば見れるよ、一応。
http://fileseek.net/proxy.html
書き手さん全部の話楽しみに待っています、GJ
487名無しさん:2006/03/32(土) 00:45:34
記念保守
488482:2006/03/32(土) 12:33:36
>>486
ありがとうございます!
489名無しさん:2006/03/32(土) 13:43:05
タイトルはつけないんだな。総称の。
490名無しさん:2006/04/02(日) 00:28:15
保守
491名無しさん:2006/04/02(日) 03:46:34
石の種類とかまとめで確認したけどその芸人がすでに使ってる石と自分のイメージの石(他の芸人が使ってる)が違うんだが
この場合は自分のイメージの石で設定をつけて勝手に書いていいのか?
492名無しさん:2006/04/02(日) 04:43:35
したらばへドゾー
493名無しさん:2006/04/02(日) 20:56:27
>>492
まとめサイトよく読んでなかった、ごめん。
494名無しさん:2006/04/03(月) 00:03:56
したらばの携帯版ってあった気がするんだけど勘違い?
495名無しさん:2006/04/03(月) 14:03:19
まとめサイトから行けるよ。
496名無しさん:2006/04/03(月) 19:17:14
497名無しさん:2006/04/04(火) 13:18:51
>>495-496
ありがとう
498名無しさん:2006/04/05(水) 17:10:51
保守
499名無しさん:2006/04/06(木) 10:41:20
HOSYU
500名無しさん:2006/04/07(金) 16:24:09
保守ついでに500ゲト。
501名無しさん:2006/04/08(土) 01:39:49
保守
そしてあげます
502名無しさん:2006/04/09(日) 03:04:21
ほす
503 ◆yPCidWtUuM :2006/04/09(日) 23:29:03
おひさしぶりです。バカルディ→さまぁ〜ずの3部作、最後を落としにきました。
一応2000年末、さまぁ〜ずブレイク直前の設定です。
[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)]


「冬なのにっ「「さまぁ〜ず!」」


間抜けな感じの決めポーズ。名前も変わって気持ちも新たに仕事仕事。
やっと来はじめた波は小さくても逃すな。全て丁寧に乗っていけ。
これを乗り切って画面に定着しなけりゃなんねぇ。同じ轍は二度踏まないと決めている。

あれからやっと3年だ。
三村と話した「アレ」をとる日はまだまだ遠い。
それでもあの頃から比べれば、少しは近くまで来たんだろう。

今一つ目の収録を終えて、次に向かう最中だ。
正月特番の撮りだめは気力と体力がいる。
斜め前の席からは三村のいびき、アイツの方がピンも多いし、相当疲れてる。

…そういえばさっき、後輩からもらった飴があったな。元気が出るとかいう。
思い出して口に放り込んでみる。効いたらあとで三村にもやるか。

ロケバスに揺られながら目をつぶる。
だが俺は眠りに入れず、むしろ精神がきゅうっと集中していった。
まぶたの裏、暗い世界でちらりと光る十字の星。
じわり、と響く声に耳を傾けた。


 …よう、お疲れさん
 『お疲れさん、じゃねえよ』


笑い含みの声に頭の中でだけ、答えを返す。
我ながらこれは人には知られたくない習慣だ。
脳内の会話の相手は、俺のポケットの中の無機物。
少し前からたまにこうして話しかけてくるようになったのだ。
ブラックスターに意志があるなんて、思いもよらなかった。


 思いもよらない、ねえ…お前の相方の石も多分こんなんだと思うぞ
 『…ぜってぇフローライト、三村似だろ』
 さあな、けど何だかんだで持ち主と似てるとこあんだよ、俺らは
 『…めんどくせぇ』
 ああ俺もめんどくせぇ、気ぃ合うじゃねえか
 『そうだな、こうやって話しかけてくるくせにお前、特にアレだろ、俺に希望とかねぇしな』
 んなもんねぇよ、めんどくせぇだろ
 『そうだな、めんどくせぇわ、大体のことは』
 でも全部めんどくさいわけじゃねぇよな、俺と違って
 『…』


…そうだな、全部じゃねぇよ、俺は。
お前は全部めんどくせぇのか、んじゃ何で俺に話しかけてんだ?
わざわざ話しかけるとか、かなりめんどくせぇだろ。


 お前は全部じゃねぇから、余計めんどくせぇ…でもちっと手ぇかしてやるかっつー気になった
 『へぇ、そうかよ』
 んで、今話しかけたのは、だ…お前、後輩からもらったその飴あんだろ
 『ああ、何か疲れとれるとかいう黒いヤツな、うまくねぇなこれ』
 俺はそれ、生まれつき効かねぇけど…あんまいいもんじゃねぇからやめとけ
 『どういうことだ?』
 相方にやったりすんのもやめろよ、そいつは「黒い欠片」だ、わかるだろ
 『…これが?』


舌の上で転がしていた塊に意識をやる。
飴、のはずのそれは、早くも形態をほとんど失っており、どろりと液状に変形していた。
「黒い欠片」の存在は知っているが、あまり関わらずにきたのでよく知らないのだ。
黒に入って回ってきた仕事で、この欠片を自分たちが扱う機会は一切なかった。
…そう、まるで故意にそれから遠ざけられているかのように。

途端に気味が悪くなってペッ、とちり紙に吐き出す。
それは薄い紙の上でさらさらとした小さな結晶のあつまりに姿を変えた。


 お前を操りてぇって奴がいるのさ、昔もこんなことあっただろ
 『そういや、黒い粉薬みてぇのもらったこともあんな…気味悪ぃから捨てたけど』
 これが効かねぇからお前、昔襲われまくったってのに…まだ渡す奴がいるんだな
 『なんだそりゃ、そうだったのか?』
 そうだよ、欠片が効かねぇ石はあんまりねぇからな…俺の意志とお前が使う力のせいだ
 『…攻撃は効かねぇし、許可がなきゃ中には入れねぇ、ってことか』
 そういうこと、俺は欠片の侵入なんざ許可しねぇ、だから連中は一旦諦めて、お前を仲間に引き込んだ


…それはまた、すっっげぇ、めんどくせぇ話だな。
あんだけ毎日のように襲われてた理由が今になってわかるっつーのも皮肉なもんだ。


 俺たちは黒にとっちゃ、厄介なんだ…敵でも味方でも、どっちにしろ支配できねぇ
 『何だ、俺らがめんどくせぇヤツってことか』
 その通り、自分の立場ってヤツをよく覚えとけ、そんで使え…お前がめんどくさくねぇモンのために
 『…りょーかい』


ブラックスターの声が、遠くなり薄れていく。
この石と俺はうまくやっている。これからも多分そうだろう。
ポケットから飴に模した黒い欠片をひっぱりだして、全部捨てた。

白でも黒でも、めんどくせぇことはそれなりにある。
みんな、めんどくさくねぇモンのために、めんどくせぇ日常を送るのだ。
うっすらと開いた目の端っこで、三村は相変わらずだらしねぇツラで爆睡している。


…まあ、そういう、めんどくせぇ日常。



[バカルディ・ブラックラム(side:三村)]


「あー、背中痛ぇ…」


寝ぼけ眼をこすりながら伸びをして起き上がる。
ロケバスのシートは身体をゆったり沈めるにはあまりにも小さい。
ばりばり言う身体をほぐすついでに少し後ろを振り向けば、大竹がうつむいて舟をこいでいた。
ああ、大竹も疲れてる。俺も疲れてるけど。

次の収録は何だったっけ、聞こうかと思ったが何となくやめる。
少し離れて座るマネージャーにスケジュールを問うには、結構な大声を出さねばならない。
眠っている相方を起こすのはどうにも忍びなかった。


窓の外の、流れる風景に目をやる。見覚えのある看板がひとつふたつあった。
ここから収録をおこなうスタジオまであと恐らく15分というところだろう。
何だか退屈してしまって、横の座席に置いてあったペットボトルに手をのばす。
雑誌も待ち時間にほとんど目を通してしまったし、やることがない。

何とはなしにポケットの中で石に触れて、握りこんでみる。
手のひらから何か、流れこんでくるような感覚。
最近よく感じるけれど、うまく核心を捉えることができないままでいる。
何かが伝わってきそうになるのだけれど、それをどうとり込めばいいのかがまだわからない。
いい加減この石とのつきあいも長いけれど、全てはまだ理解していないんだろう。


そっと手の中に包み込んだ石をのぞきこんでみた。
緑、紫、白。色の流れが混じりあい、透明な部分と半透明な部分がまだらになって光る。
いわゆる宝石のような輝きはないけれど、やわらかく落ち着く淡い光。
この石の光は何一つ変わらない、あの頃からずっと。


正月特番に呼んでもらえて、しかも撮りだめするだけの仕事があって。
少し前まではそんなことありえなかった。徐々に状況は好転し始めている。
あれからたったの3年で、俺と大竹をとりまくものは随分と変化した。


「冬なのにっ、「「さまぁ〜ず!」」


このつかみの台詞とポーズ、一体この冬、何度使っただろう。
とっくに三十代に突入して、芸歴も若手とは言いきれなくなってきたってのに、この調子だ。
まあでも、それはそれで悪くない。そう思えるようになってきた。

長年親しんできたコンビ名が変わってしまって、それを定着させるのに今は必死だ。
ピンでの仕事も多いけれど、少しずつ俺の後ろに控えている大竹が見えるようになればいい。
わずかずつでも、上へ昇るための細い糸をたぐり寄せられるなら、それでいいから。


あのとき、黒を選んで、虫入り琥珀を手放した。
それは決して間違った選択ではなかったと今なら思える。

ここまで来る間に、同業者を襲撃するようなめんどくさいことも何度かやったけれど。
それでもきっと、自分たちの本来の力を純粋に評価される場所に立ち得たことは幸せなことなのだ。

大竹がいて、フローライトがあって、それでこの世界に生きている。
それに不満はひとつもない。ただ、まだ上があると思う。

「アレ」をとる日はまだ遠い。一生来ないかもしれない。それでもひとつひとつ昇っていく。
そんなのも悪くない…、と誰にも聞こえぬように呟いて、もう一度目をつむった。


視界が暗くなり、ぼんやりとした意識がどこかへ連れていかれる。

 …おい、聞こえるか?
 おいお前、コラッ!
 あ、寝やがったチクショウ…

…遠くから何か声が聞こえるような気がしたけれど、捉える前に意識を失った。



三村 マサカズ
フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める

ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。
その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。
 

大竹 一樹
ブラックスター:星形の輝きが浮かぶ黒色のダイオプサイト(透輝石)
理性や知性を表し、冷静で理性的でいられるよう導く。

自分ひとり、もしくは自分と許可された人間数人だけが入れる「大竹ワールド」を出現させる。
相方の三村はこの空間に出入り自由で許可も必要としないが、それ以外の人間は大竹本人による許可が必要。
ある種のバリアーのようなもので、外部からの攻撃はこの空間内に届かない。
三村以外の人間は大竹の許可を得た上、「やってんの?」という言葉とのれんをもちあげる仕種とともに空間内に入らなければならない。
入る人数が多ければ多いほど持続は困難。極端に使える時間が短くなる。 三村と2人の場合、もっとも長い時間持続させることができる。
また、内部からの攻撃には防御不可能なため、許可を与えた人間が内部で攻撃を開始すると弱い。
使いすぎると代償として、極度の倦怠感と疲労感に襲われる。
512 ◆yPCidWtUuM :2006/04/09(日) 23:41:14
これで終わりです。タイトルはまたもバカルディ社のラム酒より。
ブラック・ラムは3年熟成だそうなので、丁度3年後の設定で書いてみました。
3年間にあった話もそのうち、ちょっと書いてみたいなーとか思ってます。
513名無しさん:2006/04/10(月) 23:54:27
>>512
乙です。さまぁ〜ずっぽさが物凄く出てて、非常に面白かったです。
3年の間の話も是非書いてください!
514名無しさん:2006/04/11(火) 14:49:23
保守
515名無しさん:2006/04/13(木) 07:46:12
保守
516名無しさん:2006/04/14(金) 01:47:31
ホシュ
517名無しさん:2006/04/14(金) 02:29:13
な〜かた〜♪な〜かた〜♪たっぷり♪中田〜♪な〜かた中田〜♪な〜かた〜がやってくる♪
(キューピーたらこのCM)
518名無しさん:2006/04/14(金) 23:28:48
>>517
なぜタラコw
519名無しさん:2006/04/16(日) 11:34:24
保守
520名無しさん:2006/04/18(火) 00:06:50
hosyu
521名無しさん:2006/04/19(水) 03:05:47
このスレいるか?w
522名無しさん:2006/04/19(水) 12:49:50
(゚ж゚)イルネ
書き手さん応援age
523書き手:2006/04/19(水) 17:27:30
四月は忙しい時期だから仕方ない。
ちゃんと書いてます。
524名無しさん:2006/04/20(木) 23:03:29
スレが停泊するのは今に始まった事じゃないし、気長に待つさ。
525名無しさん:2006/04/22(土) 02:01:54
保守
526 ◆LHkv7KNmOw :2006/04/22(土) 21:05:52
>>163の続き

V・はしれいいとしこいたおとなたち

「殺したのか?」
「ま、まさか。」
川田のとぼけた声に我に返ったのか、照屋は“しまった”と頭を抱えた。
「あのー、何かすみません!大丈夫っすか?」
一歩一歩歩く度に、大きな飴玉のような飾りの付いたゴムで纏めた金色の髪(ヅラ)が
フワフワと揺れる。対して、カメラの前でキャラに成りきっているときよりも1オクターブ低い地声が
滑稽さをより醸し出している。
そんな照屋の格好の所為でこの場に緊張感というものは漂っていない。
死んだように動かない男を見て、照屋は少し心配になった。
「そんな、ちょっと蹴っただけで大げさな…」
「(“ちょっと”って…)」
川田が心の中で小さく毒づいた。
野生児のようなキャラクターゆえ、普段から身体を張った仕事が多い彼にとって、
頸椎を直撃する跳び蹴りがどれだけ身体に応えるものであるか分かる筈なのだが…。
「あの、ちょっと」
527 ◆LHkv7KNmOw :2006/04/22(土) 21:07:23
しゃがみ込んで揺り起こそうとすると、目の前に宮迫、蛍原、山口の足下が見えた。
三者三様に肩で息をし、呼吸を整えながら顔を上げる。
蛍原が安堵の溜息を漏らした。
気絶したスタッフのベストのポケットに手を突っ込み、何かを漁っているようだ。
そんな様子をぽかんと見つめ、
「……?」
照屋と川田は顔を見合わせて首を捻った。

「何やってんすか」と川田が声を掛けようとしたその時、
今までピクリとも動かなかったスタッフが、起きあがった。
蛍原が「わっ!」と叫び、後ろへ飛び退いた。
その拍子にせっかく取り戻した石を落としてしまった。
丸い石はカラカラと床を転がっていく。

一同は目を丸くして男を見た。
照屋の蹴りを食らった直後にあそこまで動けることはまず考えられない。
男の顔からは先程まであった“必死さ”が感じられなかった。
その目の色が先程と違っていることを考慮すると、多分その男は一度気を失ったものの、
黒い欠片に身体の運動神経のみ操られているのだろう。
つまりまあ、こういうことだ。黒い欠片は、使い道様々な万能薬で、とっても厄介なやつなのだ。
528 ◆LHkv7KNmOw :2006/04/22(土) 21:08:21
無機質な声で彼は言った。
「………あとはたのむ………」
と、周りの“空気”が変わったのが分かった。
気付いた時には先程まで普通に仕事をしていたADも、重そうな書類を抱えていたスタッフも、
あっという間に彼らの周りを取り囲むまでに集まっていたのだ。

じりじりと壁の隅に追いつめられる。
「え?え?何何何!?」
「まさか、こいつら全員…」
「えーと…?1,2,3,4,5,…、うわ、むっちゃおるやん」
「蛍原、石は?」
「どこ?」
「あ、あそこや!」

スタッフ達の足の間から微かに見える、床に転がっている青い石を指差す。
と、一人がそれをさっと拾い上げ、非常ドアから外へと出て行ってしまった。
「待てえ!」

「蛍原さん、俺に任せてください!」
言うが速く、照屋は踵を返した。
大した事情も知らないが、どうやら先輩達が困っている、ということは理解できたようだ。
ダンスで身につけたしなやかな身のこなしで人の波を軽くかわし、追いかけていく。
川田も照屋の後に続いて走っていった。
529 ◆LHkv7KNmOw :2006/04/22(土) 21:09:51
「二人ともあのカッコで外出て行きよったで。…絵的にアカンやろ?」
「そんなんどうでもええから。それよりも…」
宮迫はくるりと辺りを見渡した。明るい廊下に妙な静けさと緊張感が漂う。
ゾンビのような生気のないスタッフ達が次々と歩み寄ってくる。
(怖ぁ…)
キョロキョロと辺りを見渡しても“ボスキャラ”らしき者は見あたらない。

「ご、ごめんな?二人とも」
蛍原が小さく手を合わせる。

「いやいや、僕は平気ですよ」
「俺も」
白い歯を見せニコリと笑う山口と対照的に、宮迫は面倒くさそうな表情を露わにする。
そしてポケットから煙草を取り出して火を付け、
「こんな即席戦闘員仕向けよって。鬱陶しいったらないわなぁ」
と、呟くのだった。
「さて、と。ぐっさん、俺らの“仕事”を楽しくさせてくれるか?」
「任しといてください!ぐっさんオンステージの始まり始まり〜っ」
山口は煌びやかなラメが散りばめられた衣装をピッと整えると足を交差させてお辞儀した。
周りが暗転し、一筋のスポットライトが小さなステージの上に立った山口の姿を照らし出す。
一体どこから出てくるのか、バラエティ番組用の大量の紙吹雪が視界を覆った。
530名無しさん:2006/04/23(日) 22:01:10
下がりすぎage
531名無しさん:2006/04/24(月) 16:46:20
>>526
乙です!ぐっさんの能力キター!
戦闘楽しみです。
532名無しさん:2006/04/26(水) 00:57:07
保守age
533名無しさん:2006/04/26(水) 09:21:38
保守
534名無しさん:2006/04/26(水) 17:16:51
hosyu

停泊する度毎回思うんだが
書き手が全員同じタイミングで更新休憩するなw
535名無しさん:2006/04/26(水) 21:46:09
次はGWで余裕が出来た書き手達がGW明けに一斉に投下、かなw
536名無しさん:2006/04/26(水) 22:16:34
いや、5月半ば位じゃないかと予想。
まとめサイトも人いなくてサミシス。
537名無しさん:2006/04/28(金) 00:34:25
少しづつ投下されてるのにまとめサイトは全然更新されてないな…
管理人さん生きてる?
538名無しさん:2006/04/29(土) 22:18:56


539 ◆vGygSyUEuw :2006/04/30(日) 17:51:16
保守ついでに短編投下。スピワ小沢目線。

-----------------

何だか、かれこれ五分ほど路地裏を走っている。
それを追うのは、誰とも知らぬ女芸人コンビ。
「待てーっ!」
「逃がさないわよ!」
威勢のいい声をあげて走る彼女たちは、そこそこ若くそれなりに可愛い。
もったいないなあ。
芸人なのも、黒なのも。
…うーん、我ながら関係各方面に怒られそうな独り言。
そんなことを考えている間にも着実にその差が縮まっていて、慌てて足を速める。
ああ、知らない道に入ってる。そんなこと気にしてる場合じゃないけど。
見慣れた背の高い建物が遠ざかっていくのが、ビルの谷間からわずかに見えた。
「もう、なんでよりによって女の子よこすかなあ…」
「こっちが弱いってわかっててやってるよねえ、全く黒は意地が悪いんだから…」
なかなかしぶとい追跡者にうんざりしている相方に、多少の皮肉をまじえて返す。
振り向きざまの推測ではあるものの、恐らくまだ20代半ばぐらいであろう相手に対し、こっちは三十路も過ぎたヤロー二人。
しかも一人は肉体年齢おじいさん。っていうかオレなんだけどね。
早々に膝が泣き言を言っている。しかも呼吸もヤバげ。
石の力も使って騙し騙し走ってるけど、もうそろそろ限界が近づいている。
「どーする?」
「うーん、お引き取り願いたいけど…」
「無理っぽいね」
ちらりと振り返る。二人ともさすがに疲れてきたのか、それともこのチャンスを逃すと何かまずいことでもあるのか、結構な形相だ。
石はまだ持ってないのか攻撃してこないけど、持久戦となるとこっちの方が当然不利。
「とにかく、このまま逃げててもらちあかないし、ちょっと軽く…」
煌めくアパタイトを胸ポケットから引き出し、一言。
540 ◆vGygSyUEuw :2006/04/30(日) 17:57:20

「太ったっていいよ、だって大好きな君の量が増えるんだからっ!」

「……きゃあああああ―――っ!!」
指を鳴らしてすぐ二重音声で聞こえる、絹を裂くような悲鳴。
「…何やった」
我が相方が呆れ顔で呟く。
「いや、ちょっと『自分が急激に太った』って幻覚をね。
 女の子には効果テキメン」
「あんた甘くねえよ」
声を絞り出しての説明に、即座にツッコミが入った。
いいなあ、まだまだ元気で。
同じ距離を走ってた筈なのに、倍以上の疲労を抱えてる気がする。
ああ、やっぱりもうちょっと体力つけた方がいいかな。
「鬼かアンタは」
「もー何でもいいよ…あの猛攻から解放されれば」
切れた息が整う前に、スタジオまで飛ぶ。
直前に視界の端に入るのは、呆然と座り込む二人の姿。
ごめんね、でも…ダイヤモンドは傷つかないだろ?


超小ネタでした。終わりです。
541名無しさん:2006/04/30(日) 21:05:35
うわー、仕方なかったんだろうけど、女性には大ダメージだねw
こういう、ちょっと笑える諍いもありだな。
しかし、石も持ってない芸人をけしかけたりするのは設楽ではないと思いたい。
542名無しさん:2006/05/02(火) 04:03:19
ほしゅ
543名無しさん:2006/05/03(水) 01:16:30
保守
544名無しさん:2006/05/04(木) 12:12:36
hosyu
545名無しさん:2006/05/05(金) 08:16:45
下がりすぎのためage
546名無しさん:2006/05/06(土) 22:08:59
保守
547名無しさん:2006/05/08(月) 00:13:19
保守
548書き手:2006/05/08(月) 18:54:09
今高速で文章打ってるから。
549名無しさん:2006/05/08(月) 19:03:50
>>548
ガンガレ!
過疎気味の砂漠に水を!
550名無しさん:2006/05/08(月) 21:44:07
しかし、本当にまとめサイトが更新されないよな。
管理人さん、大丈夫か?
551名無しさん:2006/05/08(月) 22:03:09
恐らくもういないのでは?
552名無しさん:2006/05/08(月) 22:11:31
ネット出来ない状況なのかも
553名無しさん:2006/05/08(月) 23:14:04
何かあったならせめてここで一言書いて欲しい…
554名無しさん:2006/05/08(月) 23:14:23
>>551
怖い事を仰る・・・・・・ガクガク(((( ;゚Д゚))))ブルブル
555名無しさん:2006/05/08(月) 23:15:17
何かあったならせめてここで一言書いて欲しい…
556名無しさん:2006/05/08(月) 23:16:13
二重カキコスマソ
557名無しさん:2006/05/10(水) 23:34:26
いや…でもさ、ここまで更新されないと…やっぱどっかに埋まってるとか
558名無しさん:2006/05/12(金) 01:57:45
…おいおい勝手に人を埋めるなよw

ちょっと前に4つくらいあったしたらばのエロ系広告のスレがまとめて消えたから、
一応見には来てくれているのかなと思ってたんだけど。
とはいえまた今ひとつエロ広告のスレが立ってるわけだけどさ。
559名無しさん:2006/05/12(金) 22:45:15
下がりすぎなのでちょっとageますよ
560名無しさん:2006/05/13(土) 00:46:26
貴重なスレだな。
561名無しさん:2006/05/13(土) 16:16:16
>>560
何が?
562 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 22:55:21
>>355の続き
563 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 22:56:51

阿部と佐久間は再び松田と対峙していた。
ご丁寧にさっきの場所で待っていてくれたようだ。
「俺に勝てそうですか?」
と、松田が尋ねた。
「うん、秘密兵器があるから。じゃーん」
「…水鉄砲?」
「お前の石、水に弱いんだろ」
阿部が持っているのは拳銃型の水鉄砲だった。
少し大きめだが、紫色のスケルトンで、子どもが遊んだ後捨てていった物だと思われる。
「そんなオモチャで…ふざけないでください!」
地響きが起こる。
だが慣れてしまったのか、もともと運動神経が良かったことも幸いし佐久間達は今度は簡単には転ばなかった。
松田が地面を足で蹴ると、周りの崩れた塀が洗練され、野球ボールほどの大きさの石飛礫になった。

「背中は任せて」
佐久間と背中合わせになり、水鉄砲を構える。
石の飛礫が襲いかかった。
564 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 22:58:03
余裕綽々だと言うことをわざとアピールしているのか、「ばあーんっ」と擬音を口ずさみながらジェット水鉄砲を発射させる。
水圧に押し負け、飛礫は悉く跳ね返された。

「いっ…!?」
決まった、と胸を張った瞬間、後頭部に衝撃が走った。
阿部は声にならないうめき声を上げ、苦痛に眉を顰めてしゃがみ込み、ズキズキと痛む頭を両手で押さえ込んだ。
涙目で「何やってんの!?」と振り向くと、自分と同じように佐久間も頭を抱えて座り込んでいる。
彼の場合は、向かってきた飛礫から頭を守ろうとして咄嗟に体勢を低くしてしまっただけなのだが。
「何で避けてんの!?」
「すいませ〜ん、水鉄砲当たらなかったもんで…」
確かに佐久間が水鉄砲を撃った形跡として近くの塀が濡れている。だがそれはどれも見当違いの方向であった。

「ば…っ、…だあ〜っ!一旦退散!」
馬鹿、と叫びたいのを必死に堪えると、大げさなアクションで佐久間の腕を引っ掴み、脱兎の如く逃げ出した。
565 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 22:59:03
岩を貫通する水鉄砲。
その奇妙な武器に松田は目を丸くさせた。だがそれよりも、
「喧嘩してる場合かよ…」
呆れたように呟く。今の射撃の下手さを見ると、どうやら佐久間は本当に足手まといでしか無いようだ。
一方的に怒る阿部と緊張感のない佐久間。
一人だとそこそこ強い筈なのに、二人セットになるととんだ凸凹コンビだな、と思いつつ、この二人相手なら力づくで黒に入れられることが出来るだろうと思い始めた。


----たったったったった……どさっ。
小さな地割れに足を突っかけ、派手に転倒した。
砂埃が舞い、目の中に入る。
口の中は細かい砂利でザラザラし、吐きそうなくらい気分が悪い。
「まずいな…」
佐久間を引っ張り起こしながら、阿部はそう思った。
566 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 23:00:35
いくら能力で噴射力を強化復活させたとはいえ、もとはオモチャの水鉄砲だ。
水を溜めておくタンクはすぐに空になる。無駄な乱射は出来ないと言うことだった。
それよりも気になったのが松田の力が殆ど衰えていない事実だ。
阿部が来る前から佐久間と松田はお互い派手に石の力をぶっ放していた。
あまり走ったり移動したりしていない事を差し引いてもそろそろ疲れが見えてもおかしくないはずだが、これではとんだ計算外だ。
コレが黒い破片の補助能力という訳か。畜生。

ズズン、と地雷でも爆発したのかと思うほどの衝撃で地面が縦に揺れる。
水鉄砲を落としそうになり、慌てて空中でキャッチしたところをバランスを崩して、二人はまた倒れ込んだ。

「随分リアルな戦隊ごっこじゃねえの…無事ですか?佐久間隊員」
下らないジョークを言う元気は残っているようだ。
昔の漫画のように交差するように佐久間にのし掛かられ、阿部はしゃがれた声で悪態を吐いた。
走り疲れたのか起きあがろうともせず、ふにゃりと力を抜いたまま地面にうつ伏せのまま転がっていた。

ひやり、と夕方の涼しい風が吹き、頬を撫でた。
途端、ずっと背中にのし掛かっていた佐久間が、むくっと起きあがった。
背中の上で膝を立てられたものだから、溜まらず阿部も「ぐっ」と変な声を出す。
どけっつーの!と叱り付けようと顔を振り返る。
「…さっくん?何見てんの」
ジト目で睨み付けるが、佐久間はこちらに目を向けることなく言った。
567 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 23:01:36
「あべ隊長。もしかしたら出来るかもしれない」
「何が」
「ハッピーに平和解決」

何かを見つけたのか、向こう一点を見詰めている。
佐久間がスッと指差した方向を見た。眉間に皺が寄っていた阿部の表情は一瞬で間抜けたものに変わる。
少々の間の後。
佐久間がパッと笑顔を造り見下ろしてくると、阿部も困ったように口元を上げて笑い返した。



「逃げるのだけは天下一品だな」
こんなとき鈴木に電話で聞けばすぐに見つけられるのだが、松田はそれをしようとしなかった。
相方だけは、白や黒の事情にちょっとだけでも関わらせることをしたくなかったのだ。
キョロキョロと辺りを見渡していると、
後ろから甲高い声が聞こえた。佐久間の声だった。
振り返ると、後ろの建物と塀の間を緑色のジャージの男がサッと通り抜けたのが分かった。
追いかけると、佐久間が振り向いた。そして、グン、とスピードを上げていく。
追う方も思わず本気になった。

ふと気付いた。
阿部の姿が見えない。その上、まるで何処かに誘われているようで…。
おかしい、と思うのが遅すぎた。

568 ◆8zwe.JH0k. :2006/05/14(日) 23:03:41
ピタリと佐久間が立ち止まる。振り返ったその顔は少年のような無邪気な笑顔だった。

「さて、ここなら〜思いっきり遊べるかな〜♪ねえ、あべさん」
「ナイスさっくん!焼き肉奢ってやるよ」
倉庫の影から阿部が軽いステップで歩いてくる。
―――わざわざ自分たちに不利な広い場所に誘い込んで、一体何をする気だ?
松田のその疑問はすぐに解決される事になる。
「みんな、集まれ〜!」
佐久間がチョイチョイと手招きすると、小さな子どもたちが10人から湧いてきたのだから。
これには松田も呆気にとられた。
「な、何を…?」
「戦隊ごっこ」
意味が分からなそうな顔の松田を一瞥し、阿部はふふん、と笑うと水鉄砲を構えてこう言った。

「いい?これをあのお兄さんに向かって撃つんだよ!」
「なっ…!ちょ、ちょっと待っ…」
「「はーい!」」
無垢な子どもたちの可愛らしい返事が響く。
高々と上げられたその小さな手には、あのジェット噴射の水鉄砲が握られていた。
「悪者を捕まえろ!」
“あべ隊長”の声が高らかに響いた。

569名無しさん:2006/05/15(月) 02:07:37
新作キタ――(゚∀゚)――!!
待ってました!超乙です!!
570名無しさん:2006/05/15(月) 13:35:31
ちょww一般人(しかも子ども達)巻き込むとはヒドスww

乙です!
571名無しさん:2006/05/15(月) 13:55:44
超平和的解決の予感ww
乙です!
572Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 15:58:31
>>449-455 の続き

【21:58 渋谷・センター街】

「……っ?」
彼の目の前にあったのは、地面に横たわったまま首をもたげて逃げろと叫ぶ平井と、彼に右足を掛けて立つ男。
その男が翳した右手には煌々と白い光が輝いていて。
逃げる事はもちろん何が起こっているのかを彼が把握する間もなく、光は帯状に放たれて彼を飲み込まんとばかりに襲いかかってくる。
眩しさに目をぎゅっと細めて、何が何だかわからないなりに彼にできる事と言えば、顔をガードするべく右手をもたげる事ぐらい。
「…止めろぉっ!」
己に足を乗せる白いパーカーを着た男…『白い悪意』に下から平井は制止の叫びを上げるものの。
破壊の悪意を露わにした光の帯は、目標を前に逸れる事はない。

けれど。
白い光とそれが発するプレッシャーに、アカンと思わず身を強張らせつつも。彼は、目の前の光景に妙な既視感を覚えていた。
己を飲み込もうと、そして破壊し尽くそうと迫りくる光の帯。それは非現実そのものと言った現象。
まともにそれを受け止められるほど頑丈な身体は有していないし、避けるにはもう時間はない。
それでも。
こういった場合、どうすればいいか。何を信じればいいのか。

――そうだ、僕は覚えている。

その瞬間。
平井の持つダルメシアンジャスパーとも『白い悪意』の持つホワイトファントムとも違う、もう一つの石が力を解きはなった。
白い輝きに負けじと周囲を照らす淡い緑色の色彩を帯びた光の奔流の源は、
彼の右手首でチタンブレスレットと一緒に揺れていた、麻紐のブレスレット。
その銀のプレートにあしらわれた蛍光のグリーンにも似た淡い緑色を帯びた石、サーペンティンである。
ちょうど身を庇おうと右腕を掲げたその姿勢が、そのままサーペンティンが白い光に立ち向かう形になって。

「……来ぃや!」
目に入る懐かしくそして頼もしくも見覚えのない色彩に、彼が…鼻エンジンの松丘 慎吾が無意識のまま石に命ずれば、
サーペンティンの放つ淡い緑色の光は彼の目の前に四角い形を以て凝縮し、盾となって白い光を迎え撃った。
573Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:00:25

解き放たれた力と光の帯が衝突し、衝撃が起こす微かな風と共に周囲は今が夜だというのが嘘に思えるほどの眩い光で埋め尽くされる。
「……………。」
数秒の間をおいて、閃光で目を焼かぬよう目の前を覆っていた左腕を白いパーカーの男は降ろした。
視界に入るのは、今まで通りの路地の風景ではあったけれど。
本来なら光の帯で吹っ飛ばされ、路上に倒れているべきだった男が変わりなくその場に立ち続けていて。
彼の1m程手前の空間に、まるで彼を守ろうとしたかのように石と同じ淡い緑色の表紙をした
F8ほどのサイズの一冊のスケッチブックが重力を無視して浮かんでいた。
白い光を受け止めた事でなのか、それとも前からなのか。ボロボロに痛んだ表紙のそれを松丘は手を伸ばして掴み、引き寄せて身構える。
「……えっ?」
その動作も身構える姿勢も、初めての経験にしては余りにも自然で。誰よりもまず松丘自身が戸惑いを覚えるけれど。

「お前も石の加護を受けた、芸人か。」
白いパーカーの男はぼそりと呟くと、ならば消えろとでも言わんばかりに再び右手を松丘の方へと向けた。
またもや白いパーカーの男の手に白い輝きが集いだす。
「芸人も…芸人ごときに力を貸す愚かな石どもも…全てなくなってしまえ。」
「させないっ!」
けれど、その光が帯となって放たれる事はなかった。
路上に倒されたままの平井が、渾身の咆哮と共に己の胸に乗った白いパーカーの男の足を退かし、男のバランスを崩させたのだ。

「……くっ!」
不意の、それも意識を向けていなかった方向からのアプローチに、転倒を防ぐべく姿勢を立て直そうとする男の足元で
平井は素早く上体を起こし、立ち上がるのももどかしく半ば転がるようにして松丘の方へ駆け寄ろうとする。
「逃がすかっ!」
しかしそれは松丘と平井が同一線上に並ぶという事で。姿勢を立て直した白いパーカーの男は光を帯びた両手を突き出して吠えた。
その気迫に呼応するかのように、強い悪意を帯びた白い光が2人の方へと放たれる。
574Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:01:08
「何が何だか良ぉわからへんけど……っ!」
再び襲い来る光の帯に対し、こういう時はこうすればいい筈…ほとんど直感に近い判断で松丘は手にしていたスケッチブックを
フリスビーの要領で男の方へと投げつけた。
スケッチブックは回転しながらアスファルトを這うようにして移動する平井の頭上を通り抜け、
投擲主の狙いと言うよりも、スケッチブック自身の意思が働いたかのようなコースを描き、迫りくる白い光と衝突する。
再び石の力が…ホワイトファントムとサーペンティンの力がぶつかり合い、辺りは光に包まれた。


「…………!」
光源が背後という事もあり、先ほどよりは光から眼を守られていた平井だったけれど。それでも目の前は白く染まる。
ぼやける視界のその中に松丘から差し伸ばされる手を見て取って、懸命に這い寄りながら腕を伸ばし手を取り返せば
ぐいと平井の身体は引っ張り上げられた。
「逃げるで!」
この閃光が目つぶしになっている間に。
ようやく両の足で地に立つ平井にすかさず松丘は告げると、彼の手を引いたまま走り出した。
「でも、奴が……」
まだ追い返せていない…そう言い返そうとする平井だったけれど、何故かそれ以上松丘に反抗する気になれなくて、
手を引かれるまま彼もまた、走り出す。

結果。
白い光と淡い緑色の光の残滓が闇に解け、すっかり路地から消え失せた時。白いパーカーの男の目の前には誰の姿も存在しなかった。
けれど、獲物を失った彼に焦りの色はなく、その口元には薄い笑みが浮かんでいる。
たとえ持ち主の姿は見えなくなっても、力を秘めた石が放つ独特の気配までは簡単にかき消す事は出来ない。
まだあの二人は近くにいる……辺りに漂う石の気配からそう判断し、白いパーカーの男はその気配を辿るようにゆっくりと歩き出した。
…誰も自分から逃げ延びさせはしない。自分以外の芸人を滅ぼし尽くすまでは。
そう小さく紡がれる言葉が、無人の路地に響いていた。




575Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:03:13
【23:11 渋谷・某病院】

小沢達と彼…鼻エンジンの村田 渚との間に横たわるのは、数mほどの距離。
けれど数歩も歩けば届くはずのこの距離がやけに遠いモノに思えるのは、やむを得ない判断とはいえ袂を分かつ事となった
互いの状況が無意識のうちに気まずさとして影響しているからだろうか。

「…………。」
お久しぶりです。お変わりないですか。そんな他愛もない挨拶すら拒むかのように、ロビーに静寂が広がっているのも
その妙な空気を増幅させていて。
辺りに漂うそれらの流れを整えようとふぅとまた深く息を吐く、その呼吸音すら耳に届きそうな、変に張りつめた状況。
それを打開するべく村田はおもむろに口を開く。
「あいつらは今、治療を受けてる。今立くん達が救急車が来る前に処置してくれたから…致命傷はないと思う。」
今の所は、やけど。そう小さく付け加えて村田は一度相手の反応を待った。

「意識は、あるんですね?」
恐る恐るといった様子で問いかける赤岡に、村田は軽く頷いて見せて。
「しっかし吃驚したわ。あいつらがボロッボロになってDに戻ってきたかと思えば、渡部くん達がやってきて…。」
「それだけ、アレがみんなにとっての脅威になってるんです。僕らが何とかしなきゃいけないんです。」
誰に言うでもなく呟く彼の言葉を、さえぎるようにして小沢は告げた、
微妙に掠れるいつもの声ではっきりと言い切る小沢に、村田はす、と黒目がちの目を細める。
それは小沢の決意を頼もしげに見やっているようでもあったけれど、どこかその漆黒に哀れみの色が浮かんでいるようにも思え、
井戸田の眉がピクリと動き、土田の口元に薄く笑みが浮かぶ。
576Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:03:45
数秒ほど、再び沈黙が周囲に流れたけれど。
「もう少ししたらあいつらの手当ても終わるやろ。
 あいつらの話は渡部くん達が居る時にいっぺん聞いてるから、戻ってくるまで代わりに喋ったるわ。」
お前らまで話を聞きに来たとなれば、アレも調子に乗って余計な事言いかねへんからな。
当然の事ではあろうがトーンの低い口ぶりながらも、村田はまわりの気を楽にさせるためか軽口めいた言葉を発して
一同にとりあえず適当に座るといいよ、と目線で周囲の椅子を示してみせる。

「あいつらが見た『白い悪意』は…身長は170cmほどの、標準語を喋る…男だったそうや。」
ばらばらと訪問者達が椅子に座ったのを見届けて、己も先ほどと同じ椅子に腰掛けると村田はゆっくりと喋りだした。
記憶を辿るように俯きながらぽつぽつと紡がれる言葉は、今まで得ようとして得られなかった『白い悪意』の情報。
一言も聞き漏らすまいと村田を凝視する小沢を横目で見やり、続いて何か言いたげにニヤニヤ笑いを浮かべたままの土田を見て。
設楽は小さく誰にも悟られぬようなため息をついた。




577Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:06:11
【22:01 渋谷・センター街】

まだ夜は始まったばかりと言わんばかりの人があふれる渋谷の町並みの中、『白い悪意』から逃れた松丘達が駆け込んだのは、
フロアごとに居酒屋が入居している一軒の雑居ビルだった。
エレベーターで最上階まで昇り、しかし店には入らずに。非常階段の踊り場に出て、ようやく2人は息をつく。

「…助かったぁ。」
へたりと床に座り込んで、松丘は溜息交じりの声を発した。
運動とは無縁の三十代半ば。いくら逃げるためという火事場の何とやらが発動するような状況だったとはいえ
息は完全に上がり、体中からは汗が滲んでいる。
「でも…あいつが……。」
そんな安堵の色を素直に見せる松丘に対し、平井は壁にもたれかかった姿勢で悔しそうな呟きを漏らした。
こちらは常日頃からネタの練習と称して身体を動かしているせいか、疲弊はそれほどでもないようだ。
けれど、己の持つ石の能力で高温に晒された後遺症か、シャツは汗でべったりと身体に張り付いていて
傍目から見れば、二人とも一体何をしてきたのだといわんばかりの光景である。

「『白い悪意』を追い返す事が出来なかった…。」
ぐっと拳を握り締めてなおも平井は呟きを漏らし、ふと松丘の方へと視線を向ける。
するとその先では、A4ほどの緑色の表紙のスケッチブックを扇代わりにパタパタと扇いでいる松丘の姿があって。
その緊張感の欠片もない姿に何ともいえない脱力感に襲われ、平井は肩を落とした。

「何やってるんですか…というよりも、その石…どうやって手に入れたんです?」
もちろん、松丘の手にあるスケッチブックは、彼の右の手首で揺れるブレスレットに煌くサーペンティンが
先ほどと同じように作り出したモノだろう。
「んぁ…これ? こないだ人から貰った…っていうか、押しつけられてん。あなたのだから持っとき、って。」
呆れた口調ながらも問いかけてくる平井を見上げ、松丘は扇ぐ手を止めずにそう答えて。
そこでふと何かを思い出したかのように首をかしげ、「いや、違うか?」と口にするものの。
結局まぁそんな所、とはぐらかすように付け加えて笑った。
578Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:08:59
「せやけど…ホンマにおってんな。『白い悪意』って奴は。」
「…居ましたよ。何人も、奴の被害に遭ってるんです。」
平井の方も扇いでやりつつポツリと松丘が漏らす今更ながらな呟きに、平井は頷いて言葉を絞り出す。
石を持つ芸人でさえ、石が実際に現実離れした力を見せてくれるからかろうじて納得する事が出来るだけで
冷静に常識に即して考えれば、石が不思議な力を与えてくれるという事などあり得ない事なのだから。
力を持つ石を持っていない人間からすれば、石の力も、それを悪用して無差別に芸人に被害をもたらす存在が居ると聞いても
無条件で信じる事は出来ないだろう。
「Dにはまだ人が居るし、あそこを奴に狙われたら大変な事になる…そう思って、食い止めようと思ったんだけど。」
「…どうして?」
「石を…俺が力のある石を持っているからです。」
何故そんな無茶な真似をする必要がある? そう不思議そうに問う松丘に平井はさも当然のように答え、
首元で揺れるダルメシアンジャスパーに指で触れた。
「ネタ見せの時、ライブの時…他に誰か石を持っていないかずっとみんなを見てたけど、俺しか石を持っていないような感じだった。
 だったら俺が石を以てみんなにちょっかい掛けてくる奴を石の力で追い払う…当然でしょう?」
主に応えるかのように淡く光を放つウズラ模様の石に感謝するかのように平井は目を細め、松丘に告げる。
「それに、そのぐらいしか、俺がみんなの為にできる事はなさそうだったから。」

「…そんな事はないて。」
自己陶酔している感もなきにしもあらずだったけれど。決意を含んだ平井の言葉に松丘は反論しようと口を開く。
けれど平井は首を横に振り、駄目なんですよと松丘の言葉を遮った。
「今まで俺、ずっとフリーでやってきたから…事務所って所でどう振る舞って良いのかわからないんですよ。
 後輩になる連中にどう接して良いのかわからない。ライブの後にメシに誘ったり…どう場を取りまとめて良いかもわからない。
 だから、せめて陰からで良いからみんなを…俺を含めたみんなの居場所を守りたい。そう思ってるんです。」
579Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:09:46
「……………。」
それはたいがぁーの考え過ぎやろと松丘は口にしかけて、止める。
事務所内で後輩として可愛がられる事も、先輩として引っ張っていく立場も存分に経験してきた松丘とすれば
深く考える事なくこれまでこなしてきた事柄に対し悩む、平井の言葉はにわかに信じがたい気もしたが。
それを言い訳と呼ぶには彼の口調はあまりに真面目そのもので。そういうモノなのだろうか、と何とか納得する事にした。
そもそも、自分達が属する事になったのは産声を上げたばかりの事務所。
手当たり次第にかき集めたといっていい勢いで次々と若い芸人達が集まってくる上に
ランク分けされたライブのお陰で流動も激しいその中で、自分の立ち位置を探すだけでも本来一苦労する事だろう。

「誰も知らない所で戦ぉとるやなんて…隠密みたいやね。」
故に。柔和な表情で松丘は平井に告げ、「今度響達を誘う所、お手本に見せたるわ」と付け加えた。
「えぇ、赤い装束を身に纏った忍者って心意気で。」
その折には宜しくお願いします、と軽く頭を下げて平井は答え、ぐっと拳を握りしめる。
その返答にまったく忍べていない派手な格好の忍者を想像して松丘は一度フフと軽やかに笑い、急に肩を竦めた。
「せやけど酷いなぁ、たいがぁーは。」
「………?」
「そんな話聞いてしもたら、一人僕だけ先に帰るなんてできひんやないか。」
延々スケッチブックで扇いでいたお陰か、そろそろ汗も少しは引いてきたようだ。
それでもB5の下敷きぐらいのスケッチブックで顔面や胸元に風を送り続けながら、松丘は平井を見上げて唇を尖らせる。

「あ…すみません。」
「えぇよ。一人より二人で…アイツを何とかせな、ね。」
思わず詫びの言葉を漏らした平井に松丘は告げて、手にしているスケッチブックに視線を向けた。
とりあえず右手首のブレスレットにあしらわれた石の力でこれを呼び出す事ができる、のはわかる。
呼び出されたスケッチブックにはそこそこの強度があり、『白い悪意』の攻撃を多少防ぐ事ぐらいはできるのも、わかる。
しかし、スケッチブックで一体何ができるのか。そもそも何故スケッチブックなのか。
まったく意味がわからなければ、思い出せるような記憶もない。
580Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:10:42
中に何かヒントがあるだろうか、と松丘がおもむろに表紙をめくってみようとすると。
「松丘さん…それ、最初からそんな小さかったでしたっけ。」
そんな平井の声が耳に届いて、松丘は表紙に触れようとした手を止める。

…そういえば、確かにさっきはもうちょっと大きかったような。
平井の指摘に改めてスケッチブックを見やり、松丘がそう思考を紡いだ、その時。
淡い緑色をした表紙のスケッチブックはA5ほどのサイズに縮小し、松丘の手からこぼれてぱさりと床に落ちた。



581Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/05/15(月) 16:12:58
今回はここまで。
先週のオンバトに間に合わせたかった…。
582名無しさん:2006/05/16(火) 14:15:51
乙です!
白い悪意楽しみにしてました!
583名無しさん:2006/05/16(火) 19:07:50
白い悪意キタキタキター!
乙です!
584名無しさん:2006/05/18(木) 01:28:38
保守
585名無しさん:2006/05/20(土) 01:44:17
hosyu
586 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:48:58
したらばからの転載です。
山本軍団の番外編っぽい話。
587 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:49:56
 [最弱同盟]

 仕事帰りの会社員で賑わい始めた居酒屋の、その一番奥の個室で、二人の男が酒を飲み交わしていた。一人はひょろりと背が高く、もう一人は黒縁の眼鏡を掛けている。
 共通するのは痩せて貧弱な体型であること、そして芸人であるということ。
 先に口を開いたのは黒縁眼鏡の方、ドランクドラゴンの鈴木だった。
「そっか、じゃあアンガールズの二人も持ってるんだ、あの石」
「はい」
 頷いたアンガールズの田中は、いつになく真剣な表情をしている。
 彼が自分の石に宿る奇妙な力に気付いたのは、つい先日のことだった。
 どうやら他の芸人たちも同じように力の宿った石を手にしているらしいこと、そしてその石を巡って争う者までいるらしいことは、たまたま耳に入ってきた情報から知ることが出来た。
 しかしそれ以上の話を聞き出そうとすることは、自らその争いに首を突っ込むことになりそうで、気が引けた。そこにタイミングよく、芸人の中でも親しい間柄である鈴木から、飲みに行こうとの誘いがあったのだ。
 もう一人、ロバートの山本もこの場にいるはずだったのだが、つい先程仕事で遅れるという内容のメールが来た。少し手持ち無沙汰になったところで、田中は思い切って鈴木に相談を持ち掛けた。
「どうすればいいんですかねー、これから。ていうか、鈴木さんはどっちなんですか?」
「どっちって……白か黒か、ってこと?」
「そうです」
 その質問に、鈴木は少し考える素振りを見せた。
「特にどっちって意識したことないんだけど……まあ、どっちかって言ったら白なんじゃねえの? 事務所の先輩に白の人が多いから、その人たちに言われて協力したりもしてるからさ」
 実際のところ、白につくか黒につくかという問題は、鈴木にしてみればどうでもいいことだった。今白側にいるのは、その方が面倒がないと考えたからであって、要は、戦いを避けられればそれでいいのだ。
「それにさー、黒なんて相当強い人じゃなきゃ無理そうじゃん。ほら、俺なんて、あいつにも反抗出来ないくらいだからさ」
「……ああ」
 “あいつ”という言葉が指しているであろう人物を頭に思い浮かべて、田中は納得する。それはつまり、もうすぐここを訪れるはずの人物のことなのだが。
 噂をすればなんとやらで、それから五分もしない内に彼は姿を現した。
588 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:50:40
「どうもお待たせしましたー」
 少しテンションの高い山本に曖昧に返事をしながら、田中は視線を彼の足元に移す。ジーンズの裾に隠れて少し見えにくいが、確かに鈴木と同じ場所にそれはあった。芸人に不思議な力を与えるパワーストーン。
「あの、山本さん――」
 彼にも同じような相談をしようとした田中の言葉を山本が遮った。
「ねえ二人ともこの後時間あるんでしょ? 折角だから、もっと静かな店で飲みましょうよ。俺、いい店教えてもらったんですよ」
「え」
 遅れて来ておいて何言ってるんだ、という思いが二人の胸中を過ぎる。しかし、それをストレートに口に出したりはしなかった。代わりに鈴木が、かなり遠回しな表現でその申し出を断ろうとする。
「あ、あのさ、山本君仕事長引いて疲れてるでしょ? 俺達も腰を落ち着けたところだしさ、このまま――」
「何言ってんすか、どうせ飲むならいい所の方が疲れ取れるに決まってるじゃないですか」
 ああやっぱり。
 三人の中で一番の年下でありながら、何故か一番の傍若無人っぷりを発揮する山本に、田中も鈴木も逆らうことが出来ないのだ。この三人組が「山本軍団」と呼ばれる所以である。
 そこでふと、何かを思いついたように鈴木が田中に視線を送る。田中も鈴木の言わんとするところをすぐに理解した。こんなことに力を使うのは気が引けるが、確かにそれが一番手っ取り早い。
 左手にこっそり握り締めた石に意識を集中しながら、右手で山本の肩をポンポンと叩く。
「まあまあまあまあ、そのいい店には今度行けばいいでしょう?」
「だーかーらー、行きたい時に行かないと意味ないんだって!」
 山本はバシッと田中の手をはたき落とした。
「……あれ?」
 おかしい、力の使い方は間違っていなかったはず……ということはまさか、自分の力は山本にすら効かないってことでは!?
 力の反動も相俟って、田中の気分は一瞬にしてどん底にまで落ちた。
「わかってくれた?」
「あー、はい」
 どうでもよくなってしまった田中は、項垂れながらそう答える。
「田中君は納得してくれましたよ。鈴木さんはどうなんですか」
 勝ち誇った様子の山本に仕方なく頷きながら、鈴木は声に出さずに「使えねー」と呟いた。
589 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:51:28
 都会の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。前を歩く山本の足取りに迷いは見えないが、あまりに人通りのない場所へ進んでいることに、田中と鈴木は不安を覚えていた。
「本当にこの道で合ってる?」
 堪り兼ねたように鈴木が訊ねたが、山本は自信満々に「合ってますよ」と答えるだけだった。
「でも、いくらなんでも人がいなさ過ぎじゃないですか?」
 先程の失敗からどうにか回復した田中も山本に問うが、
「静かな所だって言っただろ。ほら、隠れ家的な名店っていうの? そういう感じの所」
 やはり取り合ってはもらえなかった。
 実際のところ、二人が懸念しているのは店に辿り着けるかどうかということではない。この状況は、明らかに危険なのだ。石を狙われている人間にとっては。
 薄暗く、静まり返った通りの向こうから、少しずつ近付いてくる気配を感じる。ただの通行人ではあり得ない、明らかにこちらに敵意を持った気配。
 それはゆっくりと速度を上げ、3人が彼らを視認出来た時には、既に全員が全力で疾走していた。
「逃げろ!」
 誰かの号令で一斉に走り出す。しかし黒い欠片の影響か、限界を無視した速度で走り続ける集団に、三人はあっという間に追いつかれてしまう。
 どうやらこの場を乗り切るには、力を使うしかないらしい。
 そう判断した鈴木は、足首に微かに触れている石へと意識を集中する。それは少しずつ熱量を増し、鈴木の精神力を己の力へと変換していく。
 そして集団の先頭を駆ける若者の手が鈴木に触れた瞬間、彼とその周囲の空間は、重力から解放された。
 先頭の若者は、地面を踏み締められずに前のめりになり、そのままふわりと浮き上がる。鈴木が彼を後方へと軽く押すと、若者は“領域”の外へと弾き出されて尻餅を着いた。
「鈴木さーん! びっくりしたじゃないですか、力使うなら先に言ってくださいよ」
 山本の文句に、咄嗟のことだから仕方ないと思いつつも「ゴメン」と謝る。
590 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:53:19
「とりあえず、このまま逃げよう」
 鈴木は手近な電柱に手を掛けると後方へ押しやるようにした。反動で体は前方へと進む。
 田中と山本もそれに倣うことにしたが、この空間にある程度馴れている鈴木と違い、彼らの空中遊泳はかなり危なっかしい。障害物に気をつけるのは勿論、力に巻き込まれて浮かび上がった小石にも気を遣わないと怪我をする羽目になるのだ。
 それでもどうにか、走るより若干速いくらいの速度を出すことが出来た。
 追手の集団はどうやら下っ端らしく、特殊な能力は使わずに直接掴み掛かってくる。しかし無重力空間では、徒手空拳はほとんどその威力を発揮しない。前列の若者達を軽くあしらっているうちに、少しずつ黒の集団との距離は開いていく。
「このまま振り切れれば……」
 鈴木は、普段ならばほとんどかかない汗を拭い、力の源にもう一度意識を集中した。
 意識的に広げた“領域”は、その分だけ体力の消耗を早めている。限界に達するまで、持ってあと一分。力を解けばあとは自分の足で逃げるしかないのだが、力を使い果たした鈴木に、果たしてそれだけの体力が残っているのか。
 幸いなことに、集団は既に闇へ紛れる程度まで後退していた。今なら力を解いても大丈夫だろう、そう思ったその時、消耗しきったはずの集団から飛び出してくる者がいた。
 疲れを見せない、どころか短距離選手並の速度で、再び三人との距離を詰めてくる。
「まさかあれ、石の力なんじゃ」
 下っ端ばかりの集団だと思っていたが、中には能力者が紛れ込んでいたのだ。その若手は無重力の“領域”相手に自分の能力で戦う方法を編み出していた。
 身体能力の強化、それもかなりの下位クラスではあるが、今は彼らに追いつけるだけの脚力があればいい。そして彼の石はその目的を充分に果たした。
 彼は3人と着かず離れずの距離を保ちながら、冷静に“領域”の範囲を見極める。そしてそのぎりぎり、体にまだ重力の残る地点で、彼は思いっ切り地面を踏み切った。
 重力加速度の消えた“領域”内で、その男は前方斜め上へとそのままの速度で上昇する。その前方には、不慣れな無重力空間で不自由そうな山本がいた。
 鈴木自身を“領域”の外へ出す事は出来ない、だからこそ必死に“領域”内へ留まろうとしているはずの山本を、そこから引き摺り出そうとしたのだ。
591 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:54:42
 振り向いた山本は、慌てた様子で逃げようとする。しかし踏ん張りの利かない無重力空間では、高速で接近する物体を避けるのは難しい。男は山本の腕を掴み、“領域”の外側へ向け、強制的に加速させた。
 しかし彼のこの目論見は、思わぬ展開を呼ぶ。
「山本さん! 後ろ!」
 田中が悲鳴のような裏返った声を上げた。後方に振り向いた山本の後ろ、つまり進行方向には、電柱がひっそりと聳え立っている。田中と鈴木は咄嗟に手を伸ばすが、山本と電柱の接近速度はそれを超えていた。
 田中は思わず目を覆う。石を巡る争いによって、数少ない友人の一人が犠牲になるかもしれないことが、田中には耐えられなかった。
 しかしそこに、閉じた瞼を透かすように、光が差し込んできた。薄目を開けて見ると、淡く黄色味がかった光が山本の腕を覆っている。その腕は電柱に激突する手前で、山本の体を支えていた。
「山本君」
「山本さん……」
 田中と鈴木は揃って安堵の声を上げた。
 山本は無重力空間でためていた“重力に逆らって立つ力”を腕力として放出し、激突の衝撃を吸収したのだった。
 鈴木は小さく息を吐くと、限界の迫っていた能力を解いた。体がストンと地面に落ち、慣れ親しんだ重力の感覚が戻ってくる。
「うわ、は、離せって!」
 山本の声にそちらを向くと、黒の若手が尚も諦めずに山本に掴み掛かっていた。今こそ自分の出番と察した田中は、ポケットから自らの石を取り出し握り締める。今度こそ失敗しないよう、いつもより余計に集中して。
「まあまあ、もう諦めようよ。仲間もみんなついてきてないみたいだしさ」
 田中の言葉に、若手の男は攻撃をやめて大人しくなった。山本に全力の一撃を止められたことで、既に心が折れ掛けていたのかもしれない。しかし力がちゃんと使えたという事実に、田中は深く安堵していた。
592 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/20(土) 16:56:09
 山本の言葉に嘘はなかったようで、その後すぐに三人は目的の店に辿り着くことが出来た。隠れ家の名に相応しく、普通ならなかなか立ち寄らないような場所にひっそりと立っている店だ。
 それぞれの席に腰を落ち着け、注文した料理と酒が運ばれてきたところで、鈴木が小言を言い始めた。
「山本君が無茶苦茶言ったせいで襲われる羽目になったんだからなー、ちょっとは反省してよ」
「いいじゃないですか、体動かした後の酒は美味いって言うでしょう」
「そういう問題じゃないだろー」
 鈴木と山本の間に不穏な空気が流れる。田中はほんの少し逡巡したが、結局石はポケットに収めたままにした。この後の展開を、田中は知っているからだ。
「まあ……確かに美味しいけどね、ここの店」
 仕方ないな、という表情で折れる鈴木。しかし、眼鏡の奥の瞳は少しだけ笑っていて、それが決して不快ではないことを示していた。
 それから三人は、共通の趣味などについて、お開きの時間が来るまで取り留めもなく話した。石についての話は誰もしようとしなかったし、田中も敢えて口に出そうとは思わなかった。
 自分達のような脇役が、白につくか黒につくかなんて、この争い全体から見れば、とても些細なことなのだろう。
 もしも自分に果たすべき役割があるとしたら、それは争いを厭うこと。戦いたくないと思い続けること。
 それはきっと、最弱の人間だけに許された特権なのだから。
593名無しさん:2006/05/21(日) 00:24:07
あげ
594名無しさん:2006/05/24(水) 20:24:52
hosyu
595名無しさん:2006/05/25(木) 07:17:06
ほっしゅ
596名無しさん:2006/05/26(金) 14:31:57
保守
597名無しさん:2006/05/26(金) 14:39:57
【8頭身】坂下千里子ファンスレpart45【カワイイ三十路】
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geino/1148136541/
598 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:12:14
カンニング竹山と土田の短編投下します。
599 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:13:07
 真夜中の闇の空間に、一筋の亀裂が走っていた。
 ――目の前に現れた男について竹山は考える。
 仲間、だったはずだ。
 同じようなポジションにいて。
 同じ先輩を慕っていて。
 番組で共演した時は、二人で協力して場を盛り上げた事さえある。
 しかし今、緑色のゲートの向こうから現れた彼は。
 左手に宿る黒い光を、まるで見せつけているようで。
「……土田、さん」
 その名を呟いた声は、微かに震えている。
 対する土田は、まるでテレビ局の廊下で擦れ違ったかのような気安さで、片手を挙げて「よう」と言った。
 しかし彼の出現は偶然ではあり得ない。何故なら彼は、石の力を使ったのだから。
 竹山は挨拶を返さず、ただ、短く問う。
「どういう事……ですか」
「どういう、って?」
 土田は口角を僅かに持ち上げ、笑みを作って答える。
「理由を訊かれても困るよ。……黒だから、じゃ駄目なの?」
 竹山は息を呑む。脳裏に蘇るのは、黒の欠片に憎しみを増幅させられ、自分に襲い掛かってきた相方の姿。
 “黒”は土田まで巻き込んだのか――その思いは怒りとなり、胸元の石が熱を帯び始める。
 止めなくては、と思う。それは、彼と近しい自分の役目なのだと。
600 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:14:22
 眼前に出現した炎が、夜の闇を紅く切り裂きながら土田へと飛ぶ。しかしその炎が体を焦がす前に、土田は自らの作り出したゲートの向こうへと消えた。目標を失った炎が、空間へと拡散する。
「どこやっ!」
 焦りで思わず敬語を忘れ、竹山は叫ぶ。
 答える声は、背後から聞こえた。
「――こういう何もない空間には、その力は向いてないよね」
 振り返っても土田の姿は見えない。ただ、闇の向こうから、少しずつ近付く足音がする。
「かといって狭い場所で使うのも危険だ。炎が燃え広がったりしたら、敵どころか自分まで、命を失う危険性がある」
 ゆったりとした足取りで迫る土田。僅かな石の光に照らされたその姿は、まるで闇から浮かび上がるかのように見えた。
「ルビーが本来の力を発揮するには、サファイアの補助が不可欠なんだ。でも、そのサファイアの使い手は今はいない。という事は――この状況で狙われたら、竹山君は圧倒的に不利って事だ」
 こつ、と最後の足音を響かせて、土田は竹山から三歩の距離で足を止める。
「黒に入らないかい、竹山君」
 笑みを浮かべたまま、土田は言った。そして拒絶の暇すら与えずに続ける。
「なにも竹山君一人のためにそう言ってるんじゃない。俺は、この石を巡る争いを止めるために言ってるんだ」
 訝しむ表情の竹山。しかし土田は、そうなる事を予測して台詞を用意している。
「“白”と“黒”っていう二つの勢力があって、しかもその二つは、ほぼ均衡している――だから戦いが起こってるんだ、とは思わない?」
 竹山は答えなかった。満足そうにひとつ頷いて、土田は続ける。
「ここで強力な石を持った竹山君が黒に入る。するとこのバランスは大きく黒に傾く。黒が有利と見て、白を離れて黒に入る芸人もいるだろう。そうすれば更に黒の勢力が大きくなる。同じ事が続いていけば――ほら、戦う事なく争いが収まるじゃないか」
601 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:15:24
 竹山は、どこか力のない視線で土田を見詰めていた。ややあって、普段の彼らしくもない掠れた口調で呟く。
「全ての芸人が……黒に?」
「そう」
「皆、あの黒い欠片を植えつけられるって事ですか?」
「そうなるだろうね」
 土田は当然のように言い切った。あの黒い欠片がどのような影響を及ぼすか、知らないはずがないのに――その表情には、迷いも恐れも見えない。
 竹山は目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。この石を手に入れてから起こった様々な出来事――仲間だった者や敵だった者、それから何より大切な相方の事を思う。
 しばらくして竹山は顔を上げた。その視線はある決意を込めて、土田を見据えている。
「俺は……黒の力が、許せん」
 別段驚いた様子もなく、土田は視線を返す。
「中島を苦しめたあの欠片が許せん……」
 怒りに呼応して、ルビーが眩い光を放った。迷いを振り切るように握り締めた拳を、炎の熱が覆っていく。
「土田さんにそんな事言わす、黒の欠片が許せないんや!」
 竹山は地面を蹴り、拳を振り上げた。ゲートが開いてから閉じるまで、数瞬のタイムラグがある。そこに一撃を捻じ込むのは、不可能ではないはずだ。
 対する土田は――動かない。ただ、シルバーリングをはめた左の拳を、竹山の拳に合わせるように持ち上げただけだ。
 二つの拳が激突する。硬い衝撃と共に、火の粉が飛び散り空気を焦がした。
 立ち込めた熱気を、風がゆっくりと吹き散らしていく。竹山は、戸惑いの表情で土田を見ながら拳を下ろし――そして目を見開いた。
602 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:16:40
「残念だけど――ルビーの力でも、浄化は無理だよ」
 土田の左手に輝くブラックオパール。その黒い光に衰えはない。
「そもそも俺は操られているんじゃない。協力してるんだ、自らの意志で」
 その言葉に同意するかのように、ブラックオパールは小さく瞬いた。それがまるで闇に潜む魔物の眼のように見えて、竹山は怯んだように一歩後退する。
 しかし土田は、竹山を追撃せずに拳を解いた。
「だから“俺の意志”で、今日の所は矛を納めておく。別に倒しに来た訳じゃないからね」
 土田は左手を、ちら、と一瞥して下ろす。その視線を追った竹山が小さく声を上げた。ブラックオパールには全く通用しなかった竹山の炎だが、生身である土田の拳には、はっきりと火傷の痕を残していた。
 敵であるはずの自分を気遣うような竹山の表情に、土田は苦笑する。 
「俺の心配はいらないよ、いざとなったら回復の能力者に頼むから。それより、自分の心配したら?」
 強すぎる己の力によって、竹山もまた火傷を負っていた。余り戦闘向きの能力ではない土田との戦いですらこうなのだ。弱点を突かれたり、不利な状況での戦いとなれば、このダメージは少なからず響く事になるだろう。
「これは警告だよ。その内黒の組織としても、本気でルビーを狙ってくるだろうからね」
 土田は個人的な理由としても、非常にルビーの力を欲しているのだけど、それは口には出さない。出来れば竹山に、自身で黒に入る事を決めて欲しいと思っているからだ。
 “土田の意志”は、今でも派閥とは関係なく、竹山を仲間だと思っている。だから、無理強いはしたくない。
「じゃあ……お大事に」
 土田は再び片手を挙げて、軽い別れの言葉を告げる。同時に土田の背後の空間が裂け、赤色のゲートが出現する。
「今度会うときは、味方になっている事を願っておくよ」 
 最後まで飄々とした笑みを崩さないまま、土田はゲートの向こう側へと去っていった。
603 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:17:40
 竹山は暫くの間、呆然と土田の消えた空間を見詰めていた。信じられない、という思いが頭の中に渦巻いていて、思考がそこから先へと進まない。
 しかし一方で、全て事実なのだと認めている自分もいる。あの石を手に入れた時から、緩やかに変化してきた日常の、これが一つの到達点なのだろう。
 何もない所では無力な火種も、一度火薬庫の中に放り込めば、たちまち全てを焼き尽くす炎となる。そう――火種を落とした者すら巻き込む程の。
 浅い痛みを発し続ける右手を左手でそっと覆いながら、何かで冷やさなくてはな、と思う。
 彼の中の火種を消してくれるはずの中島は、しかし今、彼の隣にはいないのだった。
604 ◆PUfWk5Q3u6 :2006/05/26(金) 17:19:00
以上です。勝手な設定も混じっていますが、番外編ということで。
605名無しさん:2006/05/26(金) 21:54:29
おお!救世主キタ━━━━(*゚∀゚)っ゚∀゚)っ゚∀゚)っ━━━━!
606名無しさん:2006/05/29(月) 00:57:49
保守
607名無しさん:2006/05/30(火) 21:56:51
hosyu
608名無しさん:2006/05/31(水) 09:21:55
乙です!
中島のニュース良かったですね!
609名無しさん:2006/06/02(金) 00:36:18
hosyu
610名無しさん:2006/06/04(日) 01:05:26
hosyu
611名無しさん:2006/06/05(月) 14:51:36
保守
612名無しさん:2006/06/06(火) 16:59:38
まとめサイトぜんぜん更新されないorz
613名無しさん:2006/06/08(木) 01:06:51
またしたらばのアダルトスパム削除されてたけどね。
614名無しさん:2006/06/10(土) 00:58:53
保守
615名無しさん:2006/06/11(日) 16:20:22
保守
616名無しさん:2006/06/11(日) 16:32:49
股間にモザイクバリヤーを貼れる能力があったら生放送でチンポ出せる
617名無しさん:2006/06/11(日) 23:24:47
しかしモザイクバリアの張られたチンポはもはやチンポとは呼べぬ。
618名無しさん:2006/06/13(火) 22:25:49
保守
近い内に投下できれば…。
619名無しさん:2006/06/15(木) 13:30:00
保守
620名無しさん:2006/06/16(金) 05:04:27
保守
621名無しさん:2006/06/17(土) 17:49:21
ほしゅ
622名無しさん:2006/06/18(日) 11:37:22
hosyu
623名無しさん:2006/06/19(月) 11:01:07
保守
624名無しさん:2006/06/20(火) 00:06:55
まとめの登場芸人&能力が見れなくなった・・・。
625名無しさん:2006/06/20(火) 00:25:02
>>624 見られるぞ?ついでに保守
626名無しさん:2006/06/20(火) 18:26:56
嘘…自分だけかorz
627名無しさん:2006/06/21(水) 23:07:50
自分も見れたよ

あげ
628名無しさん:2006/06/21(水) 23:52:35
能力というか
世界の法律の縛りから
田代と江頭は解放してほしい。エロい人お願いします
629名無しさん:2006/06/22(木) 18:36:29
どんなことをされても死なない、怪我をしない丈夫な身体
630名無しさん:2006/06/23(金) 15:59:27
>>629芸人以外でも充分世の中で通用する
631名無しさん:2006/06/25(日) 23:18:41
絵板が酷い荒らされようだな・・・
632名無しさん:2006/06/26(月) 00:27:35
まとめの管理人さんが長いこと不在みたいだからね。
元々絵板は本スレのおまけ的な感じだったから、本スレが廃れれば
あそこも駄目になっちゃうのは当然だけど。
633名無しさん:2006/06/26(月) 00:32:01
つーか本当に管理人さんは何処に行ったんだろう?
まとめサイトが止まってから投下率が低くなったような気がする。
なんか入院とかしてしまったんだろうか・・・。
634名無しさん:2006/06/26(月) 00:40:47
最終更新が4月の頭だからねぇ…もう3ヶ月近く居ないのか。
あと3ヶ月管理人さんが戻らなかった場合、新しくまとめサイト作ろうか。
せっかく投下してくれた小説のログを残しておきたいし。
635名無しさん:2006/06/26(月) 00:45:31
あと三ヶ月ってのはちょっと・・・待ちすぎじゃないか?
あと一ヶ月ぐらいでもいいと思う。
636名無しさん:2006/06/26(月) 00:50:45
年くらいは待った方がいいのかなと思ったんだけど、長いか。
じゃあ7月中に復活しなかったらまとめサイトオープンさせるよ。

なんだかんだでこのスレ好きだし、書き手さんたちが戻ってきてくれると嬉しいんだけどね。
637636:2006/06/26(月) 00:51:37
年じゃない…半年の間違いです。
638名無しさん:2006/06/26(月) 01:00:14
>>636
よろしくお願いします。
臨時だから軽ーいので良いと思うよ。
639名無しさん:2006/06/26(月) 01:21:25
桶。
元々スキルが無いからシンプルなのしか作れないけど
仮だからいいよね。
あと、絵板のログも流れそうだから避難させておくよ。

完成したらまとめの方に案内出しときます。
640名無しさん:2006/06/27(火) 02:32:32
携帯からでもファイルシーク無しで見れたらいいのにな。
641名無しさん:2006/06/29(木) 05:09:07
ホシュ
642名無しさん:2006/06/30(金) 22:11:31
保守
643名無しさん:2006/07/01(土) 07:34:50
保守しますね。
644名無しさん:2006/07/02(日) 20:15:58
復活しなかったね。
オープンおkですよー。
645176@まとめサイト”管理”人:2006/07/02(日) 22:45:40
いろいろご迷惑やらご心配やらおかけしてしまってすみません、
まとめサイト管理人です。こちらにご報告などもできず、ご面倒をおかけしてしまいました。
したらばと絵BBSは他の方が管理されているので、こちらでは荒らし等の削除は出来ないのですが、
まとめの方は今後埋まることもなく、定期的に更新できるようにいたします。
よろしくお願いいたします。
646名無しさん:2006/07/02(日) 22:55:34
管理人さん、お帰りなさい!
びっくりした〜…。
もう少しで新まとめサイトできるところだったよ。
647636:2006/07/02(日) 23:37:52
>>645
管理人さん戻られましたか!良かったです。
まとめサイトの運営も大変でしょうが頑張ってください。
648名無しさん:2006/07/02(日) 23:53:32
管理人さんキタコレくぁwせdrftgyふじこlp;@:

>>646
お疲れ様です・・・。
649名無しさん:2006/07/02(日) 23:54:07
おー管理人さん心配してました!お帰りなさい
650名無しさん:2006/07/03(月) 00:47:37
管理人さん帰ってキタ――(�∀�)――!!!!
どっかに埋まってるんじゃないかとか変な憶測立ってましたよw
そして>>636さん乙でした。
651名無しさん:2006/07/03(月) 18:16:32
おかえりー管理人殿!
652名無しさん:2006/07/04(火) 03:32:50
まとめサイト行ってみたけど過疎ってるなー
最後の書き込みが4月とかいうスレもある
結構楽しみにしてるんだけどなー
653名無しさん:2006/07/04(火) 13:16:24
お帰りなさい!管理人さん
654名無しさん:2006/07/05(水) 02:12:56
あれ?まとめサイト更新したのかな?
655名無しさん:2006/07/05(水) 21:16:37
下がりすぎなのでage
656名無しさん:2006/07/06(木) 13:07:43
保守
657名無しさん:2006/07/06(木) 20:40:50
まとめサイト様、復活されてまそ〜。
658名無しさん:2006/07/07(金) 23:16:07
保守
659名無しさん:2006/07/08(土) 21:24:37
hosyu
660名無しさん:2006/07/09(日) 00:35:02
af
661名無しさん:2006/07/09(日) 20:18:02
ここを未だに見ている人というのはせいぜい5人くらいだとおもうんだけれどもどうだろう
662名無しさん:2006/07/09(日) 20:43:55
一人目ノシ
663名無しさん:2006/07/09(日) 21:02:00
保守ついでに二人目ノシ
664名無しさん:2006/07/09(日) 21:11:37
三人目ノシ
665名無しさん:2006/07/09(日) 21:16:05
四人目ノシ
666名無しさん:2006/07/09(日) 21:39:11
五人目ノシ。意外といるな
667名無しさん:2006/07/09(日) 21:43:02
六人目ノシ
したらばも閑散としてるね〜
668名無しさん:2006/07/09(日) 21:50:43
七人目ノシ
書き手さんを応援します
669名無しさん:2006/07/09(日) 21:57:10
八人目ノシ
したらば、絵板も無くなって寂しい・・・
670名無しさん:2006/07/09(日) 22:00:09
九人目ノシ
次で十人!
671名無しさん:2006/07/09(日) 22:15:35
十人目ノシ
672名無しさん:2006/07/09(日) 22:27:21
11人目ノシ
書き手です…遅くてスマソ…
673名無しさん:2006/07/09(日) 23:22:54
12人目 ノシ
自分は書き手候補生です。
もっといい話が書きたい…orz
674名無しさん:2006/07/10(月) 00:20:12
13人目ノシ
書き手さんガンガレ。
675名無しさん:2006/07/10(月) 02:08:58
あげ
676名無しさん:2006/07/10(月) 02:46:20
14人目ノシ
応援してます
677名無しさん:2006/07/10(月) 17:03:48
15人目ノシ
書き手さんお疲れ様です、頑張って下さい
678名無しさん:2006/07/10(月) 17:14:17
16人目ノシ
書き手さん頑張れー。
679名無しさん:2006/07/10(月) 17:16:19
17人目ノシ
680名無しさん:2006/07/10(月) 19:14:01
18人目ノシ
書き手です、今晩御飯食べながら文章打ってます。
681名無しさん:2006/07/10(月) 20:02:33
19人目ノシ
682名無しさん:2006/07/10(月) 20:38:25
20人目ノシ
書き手さん頑張ってください、新作投下楽しみにしてますので。
683 ◆yPCidWtUuM :2006/07/10(月) 23:22:04
どうもこんばんは。新作投下してみます。

…とはいえ中身はまったく新しくない、98年夏頃の話であります。
古い話ばっか書いてて申し訳ありません。
なかなか2006年にたどりつきませんが、とりあえず今回は、バカルディと猿岩石。


…新年あけましておめでとうございます、1998年がやってまいりました。

とはいえ新しい年だから明るい話題、とそうそう上手いこといくもんでもない。
虫入り琥珀は手放したものの、すぐさまもう一度階段を上れるわけでもなく。
年初はあまり仕事もなかったが、時がすぎるとともに少しずつ状況はいい方へ。
大竹の出た連ドラが放送されてみたり、俺が感謝祭で優勝してみたり。
それでもテレビでの露出はまだまだ多くない、本日はちょいと営業へ。
少しずつ上がってゆく気温とともに、ゆっくりゆっくりと雪解けの季節を迎えている気分。

そんな風にひとつひとつ、積み重ねる途中で入ったのが黒の仕事だった。
大竹と別れて家路についた俺の前に、緑のゲートが開いてのそりと現れた目つきの悪い男。
俺たちが黒に寝返ってから、最初の指令は土田を通じて伝えられた。


「どうも、面倒なこと頼みにきてすいませんね」
「おう、すーっげぇめんどくせぇぞ」


思いっきりめんどくささを前面に押し出す俺に、土田は眉をひそめる。


「…そういわれても俺の責任じゃないんですけどね」


まあそうだ、土田が襲撃を決めたわけじゃないんだろう。
とはいえ前のこともある、こいつが面倒事を運んでくる使者のように見えてくるのも仕方ない。
少々うんざりしつつ、土田から話を聞いていく。


「まず、ターゲットは猿岩石」
「ああ、あの電波少年の」
「それです、ま、あいつらうちの後輩なんですけども…」
「じゃあお前が行けよ」
「ダメなんですよ、顔も人となりも知れてるもんで」
「なんだそりゃ?知られてるとなんかあんのか?」
「有吉は他人の石の能力を知ることができるんです、特に知ってる相手は暴かれやすい」
「…石の力知られるってマズいか?」


知られたからといって何も変わらない気がする、俺の場合。
大竹だって知られても結局、力が使えなくなるわけじゃないし。
そう思っていると土田がうっとおしそうに言った。


「有吉の力で能力の判明した石を森脇が一時的に封印できるんです」
「…それ、すげえめんどくせぇじゃねえか」
「めんどくさいですよねえ」
「俺らがやんなきゃなんねえのか?」
「やんなきゃならないんですよねえ」


…めんどくせぇ。


なんでそうよく知ってもいない、恨みもない相手をわざわざ襲わなきゃなんねーんだろう。
まあ前みてーに毎日襲われるよりはマシなのかもしれねえけど。
やっぱりめんどくせぇよな、黒でも白でも結局…でもやんなきゃなんねーなら、しょうがねえか。


「じゃあそいつらの石を貰ってくりゃいいのか? それとも黒に勧誘すんの?」
「どっちでも、お好きなように」
「まあいいや、とりあえずどうにかするわ」
「ええ、大竹さんにも話して下さい、それじゃあ失礼します」
「…おう」


そう言ってきびすを返したはいいものの、少しばかり困ってしまう。
今、大竹はライブのためにネタを書いている真っ最中なのだ。
今日だって営業のあと、寄り道もせずにさっさと家に帰っていったのはそのためだった。
おそらく後日、それを見ながら二人で練っていく手はずになる。

もちろん自分だって一緒にネタを練るわけだが、ベースを書く大竹の方が負担は多い。
特に今回は少し趣向を変えたから、いつも以上に面倒な作業が続くはず。
こんな時に後輩を襲撃するなんていう面倒はごめんこうむりたいだろう。

まあ確かにこっちだってそれなりに忙しいし、ピンでの仕事は自分の方が多かったりもする。
それでも「バカルディ」の屋台骨、ライブのために頭をフル回転させる大竹を邪魔したくはなかった。

余計なことで煩わせたくない、という俺の考えは多分本人に言えば否定されるんだろう。
それでも何となく、大竹に言い出さないままに時が過ぎたのには多少の理由がなくもない。

半年ほど前、「バカルディ」は俺の都合で、白から黒へと鞍替えした。
大竹はそのことを決して責めなかったし、むしろ俺よりも先に俺の家族のことを思いやってくれた。
照れくさいからそれについて礼を言うつもりはないし、この先触れるつもりもない。
それでもまだ、小さな罪悪感が自分の中にあるのは確かだった。
自分勝手な都合だとわかってはいても、けじめをつけておきたい思いがあるのは否めない。

数日後に俺が出した答えは、一人でできることは一人でやっちまおう、というものだった。




「いきなり悪ぃな、邪魔しちまって」
「いえ、そんな…」


広島での仕事から新幹線で帰ってきた俺らの前に現れたのは、バカルディの三村さんだった。
事務所も違うし、ほとんど話したこともない人ではあるが、俺らにとってはかなり上の先輩だ。
芸人になる以前にテレビで見たことだってあるような相手を前に、ちょっと緊張してしまう。

…まあ、緊張したのはそれだけが理由じゃない。

プライベートで、単なる帰り道でこんな風に、先輩とはいえよく知らない人に声をかけられる。
それが何を意味するかなんて、石を持っている人間ならある程度予想のつくことだ。
しかもちょっと便利なこの石は、結構魅力的らしくて敵を呼びがちなのだった。


「それで、お話っていうのは?」
「あー…すげえめんどくせえんだけどさ、」


そう言ってぽりぽりと頭をかいた三村さんは、まるで何でもないことのようにこう続けた。


「…お前らの石をとってくるか、黒に勧誘するかしろって言われてんだよ、どっちがいい?」


傍らの森脇の、ごくりと唾をのみこむ音が聞こえた気がする。
背筋に流れる冷たい汗を感じて、俺も急激に気が引き締まった。

…そんなの、どっちもよくないに決まってる。




…どっちがいい、なんて聞いたって、どっちもよくないって答えることくらいわかってる。

猿岩石は白でも黒でもないらしいが、どっちかと言えば白寄りなのだと聞いた。
それだからこそ黒が襲撃をかけないといけないんだろうが、こちらとしては一応戦闘を避けたいのだ。
基本的にめんどくせぇから闘いたくないし、闘う理由なんて本当はなかった。


「…やっぱ、どっちも嫌だよな」
「「嫌に決まってるじゃないっすか!」」


呟くと猿岩石の二人がユニゾンで答え、ぎっ、とこっちをにらんできた。
ああ、こういう目をむけられるような人間になっちまったんだなあとちょっと寂しくなる。
でももう後戻りなんてできないから、悪役も演じきらなけりゃならない。


「んじゃ、悪いけど貰うわ、お前らの石」


台詞とともにとりだした石は、静かな顔で手におさまっている。瞬間、有吉が叫んだ。


「くそ、三村さんは攻撃系ってのしか100円じゃわかんねえ、森脇500円ねえか?」
「ねえよ、漱石1枚と100円と10円しかねえ」
「札どっかで替えてもらってきてくれ」
「何でだよ、お前の使え!」
「アホ、俺は札なんか持ってねえよ!」
「…威張んなよ…しゃあない、行ってくる!」


そう言って森脇はダッとその場から走り出す。

500円、ね。そういえば土田に聞いたら言ってたな、小銭で能力がわかるんだっけか。
金額が大きくねえと細かいことはわからねえんだっけ?はは、めんどくせえな。


「いいのか?相方行かせて」
「…アイツが帰ってくるまでくらい、どうにかするっすよ」
「そっか、ならいいや」


…心おきなく、石使えるじゃねーか。




三村さんのことはほとんど知らない、おかげで100円使ってもこのざまだ。
この程度の情報じゃ森脇に力を使ってもらうこともできない。
アイツが500円を持って帰ってくるまで、せめてこの場を逃げ切らなければ。
そう思って空を見る、ありがたいことに夜空には雲がぽかりと浮かんでいた。


「とう!」


勢いをつけてその場で飛び上がる、足の下には雲が滑り込んできた。
キント雲に乗った孫悟空気分。如意棒もあれば楽なのに。
そのまま雲を走らせ、三村さんにぶつかっていく。


「うおっ!あっぶねえ…」
「くそっ!」


三村さんは器用に地面に座り込み、俺の雲の突撃を避けた。
どうするかと一瞬迷っているうちに、三村さんの握っていた石からふわりと光が漏れる。


「フレーッシュ!」


その言葉とともにざわざわと木々が揺れた。
冬の、葉を落とした枯れ木にすさまじい勢いで緑の葉がついていく。
呆然とそれを見ていると、三村さんが叫んだ。


「おし行けっ!」


椿のような厚い大きな葉が巻き上がり、一本の帯のようになって襲いかかってくる。
慌てて雲でその場を離れようとするが、葉の帯に足をとられ、ぐらりと身体が揺れた。


「うわっ!」


落ちる、そう思った瞬間、あたりに響いた森脇の声。


『落ちんな、耐えろ!』


その声で俺の身体はバランス感覚を取り戻し、真っ直ぐに雲の上に立ち直る。
力を込めて雲を森脇のもとへと走らせれば、緑の葉の帯はざざっと下へと落ちて、枯れ葉の山になった。


「おら、500円!」


森脇はひょいっと硬貨を投げ、すぐに俺の後ろに飛び乗る。
その左手には煙草の箱が握られており、どうやら煙草の自販機で札を崩したらしいと予測がついた。


「おし!」


500円をポケットに入れ、三村さんを見つめる。
その手に握られた石の情報が頭に流れ込んでくると、すぐに俺は声を上げた。


「…木の葉の化石!枯れ木に葉をつけてそれを動かして防御と攻撃をする、使えるのは3回程度!」
「おっしゃあ、『木の葉の化石』、封印!」


森脇が鈍く光るの鉱物をとりだし叫ぶと、三村さんの石から光が消える。
とたんに地面に落ちていた枯れ葉の山も姿を消し、その石の気配は跡形もなくなった。


「諦めて下さい、もうその石しばらく使えないっすから」


そう森脇が言うと、三村さんは自分の手の中の石を見やってコン、と指先ではじいた。
そんなことをしても意味はないのだが、石の様子を確かめているようだ。


「へえ、ホントに使えなくなるんだな」


これで攻め手がなくなったはずの三村さんは、なぜかちょっと笑ったように見えた。





砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。

攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。


--猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ
--大竹さんは?
--いいんだよ、今回は俺一人で行くから
--…まあ、いいですけどね


襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。


「ホントの石は、こっちなんだけど」


…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。


『キント雲かよっ!』


ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。

ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。


『黒い!』


ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。


「ぎゃーーー!」
『ニャーーー!』
「うわーーー!」


有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。


「い、痛い…」


赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。


『っ、雲かよっ!』


さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。


『たてじまっ!』


有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。


『…灰色っ』


有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。


「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。






たたきつけられた背中と引っ掻かれた顔が痛い。
手から自分の石がすり抜けていったのは気づいてた。
でももう、雲に乗りすぎたのもあって足が動かない。


「森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」


そう三村さんが言うのも聞こえてた。
それでももう、これ以上何もする気にはなれない。俺は力つきた。すまん、森脇。


「すんません、渡せません」


…っておい、森脇お前まだ抵抗するのかよ、俺、もう石持ってねえのに。
しかもまだあの化石を封印したままで、三村さんの石のことも不明だから、お前の真鍮も使えないのに。
何でだ、抵抗したってもう何にもかわんねーじゃねえか。


「森脇、もう無理だ」
「おう無理だ…おし、もう10分経ったな」


そう言った森脇は自分の石をとりだして、呟いた。


「…『イーグルアイ』、封印!」
「な…森脇お前!」


三村さんの手の中で、俺のイーグルアイが、静かに光をなくす。
俺の石を封印した森脇は、少し笑って三村さんに自分の持つ鉱物、真鍮を見せた。


「この封印、俺の意志がないとずっと解けませんから」
「…」
「俺が望まない限り、これもイーグルアイも、もう使えません」


言い切った森脇の目には何か、強い決意の光があふれていて。
前に相方のそんな姿を見たのは一体いつだったろうなんてつまらないことを考えた。
ぼんやりとその横顔を見つめていると、また森脇は口を開く。


「…三村さん、俺はもう嫌なんですよ」
「何がだよ?」
「この石をめぐる闘いが」
「気ぃあうな、俺も嫌だぞ」
「でも三村さんはその石で闘えるでしょう、俺はダメだ」
「…」
「自分じゃ何も変えられない、それなら俺はこんな石なんていらない」


そう吐き捨てた相方が、ギリ、と歯を食いしばるのを俺はただ見ていた。
数々の襲撃を退けてきた裏で、森脇はそんなふうに考えていたのか。

なあ森脇、確かに真鍮はそれだけじゃ闘えない代物だ。
でもいつもお前の助けがあったからどうにか乗り越えてきたんじゃねえか。
そんなことも伝わらないほど、俺たちは遠かっただろうか。

すまん森脇。お前がもう闘いたくないって知っても、俺は。


「俺は、石を手放すなんてしたくねえ…!」


絞り出すような俺の声に、森脇がふりむく。
右頬の下のアスファルトは、まだ夏を迎える気配も見せずに冷たかった。
悲しそうに俺を見る相方、それでも俺は執着を捨てられない。
この闘いへの、この石への、そしてこの世界への。
這いつくばったままの俺に視線を向けて、森脇が静かに口を開く。


「なら有吉、お前、黒に行け…俺の真鍮が手土産なら、邪険にはされねえだろ」
「そりゃ、俺一人で行けってことか」
「…10分たったらイーグルアイの封印を解く」
「おい森脇、」
「そしたら黒に行けよ、このままでいるよりマシだ」
「っ、だから!お前はどーすんだよ!」
「…もう俺はこの闘いに意味なんか見つけられねえ」
「それは…俺一人で闘えってことか」
「お前は、闘える」
「…」
「闘えるじゃねーか」


…ああ、きっと俺の言葉はもう、森脇には届かない。

森脇を殴ってやりたい気持ちにかられて、立ち上がろうとした足はやっぱり言うことをきかなかった。
そのまま地面にぐしゃりと崩れる自分の身体に、いらだちばかりが募る。
それでも地面に突っ伏したままでいるうちに、頭が少しずつ冷えてきた。

そうだな、きっと俺は一人でも闘える。森脇がいなくても。
負けるときもあるかもしれない、それでも、俺が無抵抗でやられることはないだろう。
相手の力がわかるならどうにか反撃はできるだろうし、雲に乗って逃げることだってできる。
そうだな、多分、闘えてしまう。お前にはできないことができてしまう。

…だけど、お前のいない闘いなんて考えたこともなかった。


「有吉」
「…はい」


俺たちの会話を静かに聞いていた三村さんに名前を呼ばれる。
声の方へ向きなおって返事をしようにも身体が動かずに、首だけ回して答えた。
どうやらもう三村さんも疲れているらしく、地べたに座り込んだままの格好で俺を見ている。


「お前、どーすんの?」
「…どーしたらいいんすかね」
「真鍮とイーグルアイ持ってお前が黒に来るんなら、こっちは文句ねーよ」
「俺、何かもう、わけわかんないんすよ」
「…俺も疲れてわっけわかんねえ感じになってきてるけどな」
「『わっけわかんねえ』ままいったん退いてもらうとか無理っすかね」
「あー、それはできねーわ、俺も色々あんの」
「色々ですか」
「おう、色々な」


強引に事を進めようとはしないが、退く気もなさそうな三村さんに溜息をつく。
どうしても俺はここで身の振り方を考えなければならないらしい。
森脇をちらりと見れば、奴は奴で疲れ切った顔でアスファルトにだらしなく胡座をかいていた。
そうだな、もう答えなんか出てるんだろう。俺は一人で闘うんだ、これから。


「…俺、やっぱ石手放したくないっすわ」
「来るか、黒」
「よろしくお願いします」

「…何だ、一件落着しちまってんじゃねーか」


突如として今までその場になかった声が耳に響く。
驚いて声の方に首をむけると、そこにはバカルディの大竹さんがいた。
そしてその後ろにのそりと立つ大きな影。
よくよく見ればそれは、事務所の先輩である土田さんだった。






「お、大竹っ?!」


突然現れた相方の姿に混乱する、なんでこんなところにこいつが?!
パニックを起こしていると、大竹は憮然とした表情で続けた。


「せっかく来てやったっつーのに無駄足じゃねーか」
「や、つーか、何でお前ここにいんの?」
「土田に聞いたんだよ、ここんとこお前様子おかしかったし」
「…」
「まー、なーんか挙動不審でよー、わっけわかんねえ」
「いや、その、だから…」


しどろもどろになる俺を不満げに見て、大竹はふっと溜息を一つつく。
しょうがねぇな、とでも言いたげな表情がこちらにむけられた。


「お前アレだろ、何か変な気ぃ使っただろ」
「…」
「バーカ!バーカ!カバみてぇな顔しやがって!」
「カバ!?」
「コラ、お前石…!」
「あ」


石を持っているのを忘れて思わずツッこんでしまったせいで、ポンッと空中にカバが現れて飛んでいく。
ただ、そのカバは疲れのせいか、本物ではなくとても小さなぬいぐるみのような姿をしていた。
スピードもほとんどなく、弓なりに飛んでいったそのカバは、大竹の手におさまって消える。


「…ちっちぇーの出たな」
「…ちっちぇーの出ちゃったな」


ミニサイズなカバを見たら、何かホントにバカみてぇだと思った。
こんなん出るまで頑張っちまったぞ、俺。


「ま、あれだ…次から俺も呼んどけ、じゃねえとちっちぇーの出ちゃうから」
「おう、ちっちぇーの出ちゃうからな…」


…そうだな、ちっちぇーの出ちゃうもんな。
大竹いるんだから、んで大竹は闘うつってんだから、いいんだよな。
別にいいんだ、二人で。それでいいんだ、俺らは。
何だか本当に下らないことにこだわっていた自分に気づいて、ちょっと笑った。
それを見ていた大竹も、何だか少し笑っているように見える。

そんなおりに、急にガサッとむこうから聞こえてきた音にびくっと肩が動く。
音がした方を見ると、ちょうど土田が有吉に手を貸して助け起こしているところだった。


「土田さん、黒だったんですか…」
「まあね」


少しだけ身体を起こした有吉が土田を見上げながらぼそりとこぼす。
問われた土田は、顔色一つ変えずに短く答を返した。


「…俺は、黒でいいんすかね」
「こっちは来てもらう方が都合いいけど」
「黒、楽しいっすか?」
「俺はそれなりに楽しんでるとこもあるよ、俺の石は黒の方がしっくり来るみたいだし」
「石が?」
「…まあ、それはおいおいな」


有吉は土田の肩を借りてどうにか立ち上がる。
土田は有吉を支えつつ、空いたもう一方の手を森脇に差し出した。


「おら、お前も疲れただろ」


森脇は土田を見上げて、少し泣きそうな顔で言う。


「…そうっすね、疲れました」


その言葉と、俺の手の中で光を取り戻した有吉の石が多分、この闘いの終わりの合図だった。






疲れた体をかたい駅のベンチに沈めた。
横には黙ったままの相方がいる。
俺の手の中では、イーグルアイが灰色の光を放っていた。
真鍮はとりあえず土田さんに預けてある。
黒に誰か使える奴がいるのか、それとも誰もいないのかはわからない。

土田さんの石の力で、駅の近くまで送ってもらった。
ギリギリ足りた金で買った切符を指先でいじくり回す。
お互いそう近くに住んでいるわけではないが、使う路線は同じだ。
終電に近い電車を待ちながら、森脇に声をかける。


「なあ」


森脇は無言で、俺の方を見た。
それを返答の代わりにして、俺は続ける。


「お前が石を捨てても、まだ俺らは猿岩石なんだよな」


その言葉に、森脇は少し笑って答える。


「おう、まだ猿岩石だよ」


その返事に満足して、軽くうなずいた俺を強烈な睡魔が襲ってきた。
ふぁ、と大きなあくびをしたところで、森脇に電車が来たら起こしてくれるよう頼んで眠りにつく。



…それから数十分後、森脇まで寝たせいで終電を逃すはめになったのはまた、別の話。



猿岩石(有吉弘行)
石:イーグルアイ
インターナショナル(世界を見る目)
能力:
空に雲の浮かんでいる状態でジャンプすると白い雲が足の下に現れ、これに乗って移動できる。
また、ポケットに小銭の入っている状態で石を使うと、自分の頭に浮かべた人物の持つ石が
どんな能力を持っているか、小銭の数だけ知ることができる。
条件:
空に雲のない日や、雨の日には雲に乗れない。雲の基本速度は有吉の全力疾走時のスピード程度。
自分の意志でこれ以上速くはできないが、遅くはできる。意外と固い。
この雲に乗ったりさわったりできるのは有吉と森脇のみ。
小銭1枚につき石ひとつの能力がわかるが、金額によってわかる度合いが違う。
500円玉ならば石の能力全てを知ることができるが、1円玉でわかるのは攻撃系か防御系か程度。
名前と顔が一致しなかったり、ほとんど人となりを知らない相手の力は500円以外ではほぼ不明。
逆によく知っている相手は少ない額でも能力を暴くことができる。
代償:
雲に乗る力を使いすぎると、足の筋肉が極度に疲労して歩けなくなる。
能力を知るために使った小銭はなくなる。また、ポケットに小銭が入っていない状態では使えない。
猿岩石(森脇和成)
石:真鍮
どの石とも調和し、石の効果を増す
能力:
完全に名前と能力が判明している石を一度にひとつだけ封印できる。
封印を解くタイミングは森脇の意志次第だが、ひとつ封印したら最低10分経たないと解けない。
ひとつの石の封印が解けるまで、次の石の封印はできない。1日に封印できるのは石2個まで。
また、有吉に応援や忠告の声をかけることで、有吉の行動を少しだけサポートできる。
条件/代償:
ほとんどが有吉がいないと使えない能力で、一人では攻撃も守備もできない。
また、石の名と能力を知らないと封印の力は使えず、一度封じた石は二度と封じられない。
他人の石を封印した時間だけ、その後自分の石がまったく使えなくなる。
さらに、石を限界まで使用すると、極度の疲労感に襲われる。


木の葉の化石
先祖の守り、説明のできない事柄から身を守る力
能力:
枯れ木に葉をつけてそれを動かし、防御・攻撃をする。
条件/代償:
使えるのは1日に3回程度。近くに枯れ木がない場合、石が使えない。
枯れ木に葉がつくところを想像し、葉を動かす際にも形を想像しなければならないため、
限界まで使うと想像力に支障をきたし、物事の状況や言葉の意味が想像できなくなる。
713 ◆yPCidWtUuM :2006/07/11(火) 00:01:34
またもスレを大量消費してしまいまして申し訳ありません。

猿岩石はそろそろ電波少年の威光が薄れて仕事のなくなりつつある時期。
バカルディは三村ツッコミが一部でフューチャーされだす時期です。
木の葉の化石に関しては、三村が一時的に持ってるだけで、戦闘後に黒に返してると思われます。
タイトルはまたバカルディ社のラムからとってみました。
714名無しさん:2006/07/11(火) 14:34:51
21人目ノシ
715名無しさん:2006/07/12(水) 14:30:40
22人目ノシ
716名無しさん:2006/07/12(水) 18:41:01
久々の新作乙!
猿岩石の決断が微妙に未来を暗示してて切ないなぁ…。
717名無しさん:2006/07/14(金) 00:51:17
新作乙ー
あったなぁ、バカルディ時代の三村ツッコミが一部で好評だった時期。
爆笑田中さんが番組でマネして、誰からも同意を得られてなかったりした。
718 ◆yPCidWtUuM :2006/07/14(金) 12:18:39
>>716-717
読んで下さってありがとうございます。
三村ツッコミが一部で受けてた頃ってナイナイのラジオとかで
やたらに盛り上がったりしてたんですよねw

そして>>713での自分の間違いに気づきました…
フューチャー→フィーチャーです。
フューチャーじゃ未来になっちゃうから! orz
719名無しさん:2006/07/15(土) 14:38:04
新作乙。
ナイナイのANNでコーナー化されてたなー、三村ツッコミw
720名無しさん:2006/07/16(日) 02:09:11
すいません、したらばのアドレス教えていただけないでしょうか…
何気に初期にテンプレ一部作った者なんですけど、2ch自体一年してないので超浦島っす
なんか2ch的文体も忘れてしまった(´・ω・`)

でも話も進んでいるみたいだし、スレもジワジワ進んでて嬉しい。
見覚えのあるトリップも嬉しい。
721720:2006/07/16(日) 02:13:39
ごめんなさい。まとめサイトにありましたねorz
722名無しさん:2006/07/17(月) 20:28:39
ほす
723名無しさん:2006/07/18(火) 13:36:00
hosyu
724名無しさん:2006/07/18(火) 17:17:09
>>720に萌え
725名無しさん:2006/07/19(水) 09:06:05
保守
726名無しさん:2006/07/19(水) 17:20:24
落ちそうなのでage
727名無しさん:2006/07/20(木) 19:05:44
保守
728名無しさん:2006/07/20(木) 23:14:09
age
729名無しさん:2006/07/20(木) 23:23:03
全然読んでないけど
不思議な力のない芸人なんて
ピクルスのないハンバーガーみたいなもんだ
730名無しさん:2006/07/22(土) 06:59:13
ハンバーガーにピクルスなど要らん
731名無しさん:2006/07/22(土) 21:21:00
ハンバーガーにピクルスはいらないが
他人に影響を与えない芸人なんて
存在価値なんてないとおもうね

今の自分で芸人と言ってる奴等は
視聴者のペットになってて、おいらからすると
ちょっとかわいそうにおもってしまうね
732名無しさん:2006/07/22(土) 21:51:21
ハンバーガーに挟まずとも
そのままでおいしい
そんなピクルスに僕はなりたいのです
733名無しさん:2006/07/22(土) 23:03:30
一瞬ここがなんのスレだか分からなくなったww
734名無しさん:2006/07/23(日) 02:42:40
このスレはピクルスと一緒に漬け込まれました
735名無しさん:2006/07/23(日) 04:06:16
ピクルスレ
736名無しさん:2006/07/23(日) 23:36:53
ピクルスが
たべられるように
なりますように
737 ◆vGygSyUEuw :2006/07/24(月) 09:54:13
大分間が空いてしまいましたが「Elephant」続き投下です。

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石も点検し、信用できると踏んだらしい。
「じゃあ正式に白ってことな」
と子供が友達を遊びに加えたような軽い調子で言って、象牙を投げ返す。
慌てて受け止めた瞬間、朗らかに携帯の着メロが鳴った。
「もしもし?…あ!
 上田上田、やった、釣れた!」
有田は嬉々として通話口に叫んでいる。 やっぱり確信犯だったか…いや別にいいんだけれども。
…しかし、そういうことを迂闊に本人の前で言って、「やっぱりやめときます」と踵を返されたらどうするんだろう。
まあ、「コイツは俺たちについてくる以外どうしようもない」と分かっていての行動なんだろうしそれは事実だ。
『…うるせえよ。』
微かに漏れ聞こえる返事は呆れ気味で簡潔。
携帯をかける有田の隣、自分は先ほどから手持ち無沙汰だ。
「んでさあ、どうすんの?やっぱあの作戦やっちゃう?
 いつだっけ、来週の…あ、火曜ね。」
ごそごそと片手で手帳を出してめくり出す。
「…あ、やっぱ火曜はやめて。ちょっと野暮用が…」
『……おっまえは…合コンと石、どっちが大事だ!?』
「いや、そうじゃないって…たださあ、申し訳なくもないけどそこは一人で」
『できるかあ!』
「できるできないよりやるやらないだろー!?」
『結果できなかったら意味ねえんだよお前若手差し向けて拉致るぞ!?』
「じゃあその際はこっちも全力でやらせていただきますよ?」
『仲間割れする気満々か!』
だんだん会話の声が大きくなり、否応もなくこちらの耳にも入る。
…この人たちは普段からこんな漫才みたいな感じなんだろうか。
「ん…ああ、わかった。んじゃ替わるわ」
やがて、怒鳴ったら落ち着いたらしい上田が本来の用件を思い出したようで、こっちに水が向いた。
はい、と無造作に渡された携帯を慌てて掴む。
738 ◆vGygSyUEuw :2006/07/24(月) 10:04:26
「…もしもし」
『ああ、…えーっと…』
「ハローケイスケです」
『そうそう、ハローな。ま、お前のことを誰々から聞いたー、
 とか言うのは後にするけど。協力してくれんだって?』
「…まあ。」
『あんがと、恩に着る。』
何だか不思議な気分だった。年は近いぐらいかもしれないが、あっちは売れっ子でこっちは……まあ、それは置いといて。 とにかく、テレビの中で聞くような声が俺に感謝している。
『んでまあ、もう大筋は有田から聞いたと思うけど』
野太い声が逡巡するように途切れる。
『お前、ホントの戦闘で石使ったことあるか』
「ないです」
芸人同士でホントの戦闘、というのもおかしなものだなとぼんやり思う。 そんなおかしなことがいつからあっていつまで続くんだろう。俺は中途半端に巻き込まれただけで何も知らない。
ただ一つ分かるのは、この人たちはそれを終わらせようとしている人だというだけだ。
『危険だぞ』
「わかってます」
『…そっか。』
なら何も言うことはない、とばかりに、「有田に代われ」と言う。携帯を返すと、今度は打ち合わせを始めたようだった。
もう会話は聞こえなくなっていて、手持ち無沙汰になって石を撫でる。ふと見た横顔は、まぎれもなく真剣だった。
それから5分ほどして電話は終わった。なんだかもっと長いような気がしたが、それは退屈だったからだろう。
「これ、決まったから」
短い言葉と共に、日時と場所、己の役割を書いたメモを渡される。
んじゃ俺は用があるから、と手を振って有田は去っていく。なぜかその背に頭を下げる自分がいた。
顔を上げると、メモをポケットへ突っ込んだ。その拍子にふと固いものに手が触れ、ああコイツを入れていた、と撫でてみた。
表面が不思議と温かく、体温が移ったのかと思う。 しかし仄白い光が漏れていたから、お前も乗り気なんだなと合点する。なだめるように布の上からぽんぽんと叩いてやった。
そして歩き出す。 白い息を吐いて背を少し丸め、それでも目だけはまっすぐ前へ向けて。

--------------

「Elephant」はこれで終わりです。次からビット2に。
739名無しさん:2006/07/24(月) 16:48:17
◆vGygSyUEuw さん新作投下乙です!
書き手さんが少しずつ戻ってきてるようで嬉しいです。
740名無しさん:2006/07/25(火) 18:29:19
◆vGygSyUEuw さん乙です!!

密かにファンです
741名無しさん:2006/07/25(火) 20:04:37
保守
742名無しさん:2006/07/26(水) 13:55:47
ピクルスの流れはなんだったんだ保守
743名無しさん:2006/07/27(木) 23:49:07
保守
744名無しさん:2006/07/28(金) 01:15:53
保守
745名無しさん:2006/07/28(金) 14:28:22
rt
746名無しさん:2006/07/28(金) 17:16:36
ピクルス保守
747名無しさん:2006/07/28(金) 20:07:51
>>742
初代スレあたりのSPW・中川家の話にピクルスが出て来たが…
748名無しさん:2006/07/28(金) 22:51:49
あー、暴走機関車ダンディの続き読みてえ……
他の書き手さんでもいいから続編書いてくれないだろうか
749名無しさん:2006/07/29(土) 01:02:49
>>748
同じ事考えてた奴がここに一人ノシノシ
続きが気になってしかたない…。
750名無しさん:2006/07/29(土) 03:09:09
自分少数派かも知れんが
よゐこと加藤さんの話がほのぼのしてて凄い好きだ。
751名無しさん:2006/07/29(土) 03:40:35
つーかダンディに限らず全体を通して、全く更新されなくなったまま放置状態の話多すぎ。
飽きたのかな?
752名無しさん:2006/07/29(土) 04:49:06
完結したのっていつこことラーメンズの話くらい?
753名無しさん:2006/07/29(土) 10:28:01
私ははねる編が見たい…。
754名無しさん:2006/07/29(土) 11:02:54
前からそんな話題出てたし、したらばで話したほうがいいんじゃないか?
755名無しさん:2006/07/29(土) 21:26:48
それもそうね。反省…。
756某書き手:2006/07/30(日) 15:58:47
投下直前にデータが逝ってしまったのでもう少し待ってください、と一応ご報告orz
757名無しさん:2006/07/30(日) 17:34:23
>>756
どんまい!
758名無しさん:2006/07/30(日) 19:37:53
期待wktk
759名無しさん:2006/07/31(月) 15:07:44
760名無しさん:2006/07/31(月) 15:10:20
761名無しさん:2006/07/31(月) 15:11:11
762名無しさん:2006/07/31(月) 15:12:28
763名無しさん:2006/07/31(月) 15:13:46
764名無しさん:2006/07/31(月) 15:14:26
765名無しさん:2006/07/31(月) 15:15:10

766名無しさん:2006/07/31(月) 15:32:07
767名無しさん:2006/07/31(月) 15:33:08
768名無しさん:2006/07/31(月) 15:33:59
769名無しさん:2006/07/31(月) 15:53:43
770名無しさん:2006/07/31(月) 16:38:54
 
771名無しさん:2006/07/31(月) 16:42:56
 
772名無しさん:2006/07/31(月) 16:50:42
 
773名無しさん:2006/07/31(月) 17:00:58
 
774名無しさん:2006/07/31(月) 17:17:54
 
775名無しさん:2006/07/31(月) 17:21:25
 
776名無しさん:2006/07/31(月) 17:28:29
 
777名無しさん:2006/07/31(月) 18:07:09
空白荒らしがスレの保守を手伝ってるな
778名無しさん:2006/07/31(月) 18:56:14
>>777
通報対象な訳だが
779名無しさん:2006/07/31(月) 19:08:47
あ、やっぱりこれ荒らしなんだ
780 ◆ekt663D/rE :2006/07/31(月) 22:58:22
イヌニャー……orz

聞いた話ではメンバー減(平井さんは残留?)という事らしいのだが
公式が妙に沈黙してるからいろいろ心配になってくる。
つか去年の8月の一夜の話がここまで長引いてしまってすみません。
781名無しさん:2006/08/01(火) 00:15:06
問題ナッスィンですよ
イヌニャー…
782名無しさん:2006/08/01(火) 01:28:59
>>780
自分は某芸人の話を考えていたので凹んでるよ…
もはやどう考えても絶対出せん…orz
783名無しさん:2006/08/02(水) 00:24:30
gkrktnb?
784名無しさん:2006/08/02(水) 00:51:35
>>783
gkrktnb。
785名無しさん:2006/08/02(水) 00:52:04
もし本当にgkrktnbだったんなら、是非読みたかったな……(・ω・`)
786名無しさん:2006/08/02(水) 00:55:02
と。本当にそうだったのか。
…ジケンヲウラムゼ('A`)
787名無しさん:2006/08/02(水) 01:25:38
>784
当たったw
イキロ

つーか、無念だー…読みたかった。物語映えしそうだしなぁ
無罪になったらキボンヌだけど、厳しそうだなぁ。
788名無しさん:2006/08/02(水) 23:39:01
絵板復活おめでdage(�∀�)
789784:2006/08/03(木) 00:18:05
>>785-787
最初の場面、合コンやってお持ち帰りした話から入ってんだよ…。
マジですごくいろんな意味で二度と出せない orz

先に別の話書いちゃったから投下が遅くなったんだよなー。
諦めて他の話書くよ…(・ω・`) ガンバル
790名無しさん:2006/08/03(木) 01:00:44
出来上がっているなら、廃棄スレに投下とか。
余りにも勿体無い…orz
791名無しさん:2006/08/03(木) 01:42:33
加藤好きだから読みたいなー…とか言ってみるテスト
書き手様頑張ってください!
792名無しさん:2006/08/03(木) 10:13:59
793名無しさん:2006/08/03(木) 14:21:43
>>791
書き手が恐縮するので様とか言わないほうが良い
794名無しさん:2006/08/03(木) 16:59:51
>>793
書き手さん、ならおk?
795名無しさん:2006/08/03(木) 17:03:18
>>794
おk
796名無しさん:2006/08/03(木) 19:08:32
>>795
親切な指摘thx
797名無しさん:2006/08/05(土) 22:35:09
保守age
798名無しさん:2006/08/06(日) 23:20:32
保守+age
799名無しさん:2006/08/08(火) 02:02:44
age
800名無しさん:2006/08/08(火) 11:32:15
800ほっしゅ
801名無しさん:2006/08/08(火) 23:28:09
保守?
802名無しさん:2006/08/09(水) 15:31:50
最近此処の存在を知りました!
めちゃくちゃ面白い!!ドラマとかにならないものか。
803名無しさん:2006/08/09(水) 15:46:07
>>802
ただでさえ腐女子の溜まり場だと思われてるんだ
厨臭い発言+ageるのは勘弁してくれ
ここ、自分みたいな男の住民は珍しいんだろうな…
804名無しさん:2006/08/09(水) 16:21:41
いや、一応いる
805名無しさん:2006/08/09(水) 16:37:41
>>803
軽はずみな発言すいませんでした。
806名無しさん:2006/08/09(水) 17:15:54
>>804
おおwちょっと安心したww

>>805
自分も少し言い過ぎた、スマソ
807名無しさん:2006/08/09(水) 17:16:41
最近過疎だなぁ
808名無しさん:2006/08/09(水) 18:15:29
過疎ったり盛り上がったりの、長いスパンの波を繰り返して続いてるスレだからね。
まあゆっくり構えましょう
809名無しさん:2006/08/09(水) 19:11:09
保守、あとsage
810名無しさん:2006/08/09(水) 23:03:18
 sage
811名無しさん:2006/08/10(木) 16:54:49
保守
812 ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:37:31
こんにちは!
暑い日が続く中、ぬるい話を投下させてください。
よゐこ濱口さんがメインです。
813here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:38:46
 
 「−そっち行ったぞ!囲め!」
 「とりあえず出口押さえろって!」

 木々の隙間から聞こえる、怒声。眠っていた鳥が慌てた羽音を残して飛び立ってゆく。
 深夜1時をまわった公園。小さなブランコやすべり台で遊ぶ者はいない。
 それに甘えているのか単なる偶然か、公園を照らすはずの街灯が今にも消えそうに点滅している。
 声の原因である男たちの数は10人前後。
 20代そこそこの若さに見える彼らは一様に、焦点の微妙に曇った目で必死に何かを探していた。

 さて、色鮮やかに塗られたジャングルジムの奥には、背の低い木々が植えられている。
 そこにいたのは何事かと怪訝な顔で男たちを見つめる野良猫と、1人の芸人。

 「うわ、めっちゃ数おるやん…どうしよ………」

 彼らのターゲット、よゐこの濱口優だった。
814here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:40:03
 仕事を終えた帰り道、不意に迎えた大ピンチ。
 何かと物騒な噂を耳にしていたから、事情を説明してもらえずとも相手の目的に検討はつく。
 咄嗟に公園に逃げ込んだ濱口はついさっき別れたばかりの男に大急ぎでメールを打った。
 この状況をすんなり理解できて頼りになる者。迷いなく浮かんだのが少々悔しい気もする。
 自分を追う声は確実に包囲網を狭めていた。
 このままだと見つかるのは時間の問題なのだが、こう人数が多いと不用意に動けない。
 東京の夏としては珍しく涼しい夜なのに、緊張と焦燥のせいで背中を嫌な汗が流れていく。
 と、手の中で携帯電話が低く振動した。できるだけ音をたてないように注意して、画面を覗きこむと−

 『なんとかならへんの?』
 暗闇に浮かんだのは呑気な返事。
 思わず力が抜け、電話を落としそうになる。
 『ならへんから言うてんねん#』
 いつもの癖でつい絵文字を入れてしまった。怒りを示す赤いマークがひどく間抜けだ。
 『絵文字打てるぐらいやったら大丈夫なんちゃう?』
 わあ、やっぱり指摘されるか。
 そういうとこばっか鋭いねん、体勢を低くしてそろそろと移動しながら最後のメッセージを打つ。
 『たすけて!』

 なぜそれが最後になるのかというと、数秒後に追っ手の一人が彼を見つけてしまうからで。
 携帯電話の液晶は律儀に送信が完了したことを報告していたが、濱口にそれを確認する余裕はなかった。
815here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:40:54
 「−殺さない程度にやれよ!」

 仲間らしい別の男の、物騒な指示が聞こえる。
 隣にいた猫が走っていく。座り込んだ地面の砂の感触。振りかぶる拳がスローモーションで見えた。
 当たれば殺されずとも気絶は間違いなさそうだ。そしてこの距離では避けられない。
 取れる策はひとつだった。その軌跡をしっかり見据え、意を決してキーワードを叫ぶ。

 「『獲った』…けど、返すわっ!!」

 言い終わった瞬間、濱口の首元で白い輝きが弾ける。
 次いで鈍い、何かがめりこむような重たい音が響いた。

 「…っ、………!?」

 フラッシュに似た光が収まった時、困惑と苦痛を混ぜたような表情を浮かべていたのは
濱口ではなく彼に攻撃を仕掛けたはずの男の方。
 倒れこみ動かなくなる仲間の姿に、集まってきた面々は事態を把握できずに硬直する。
 濱口はその隙に体勢を立て直し、地面を蹴った。
816here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:42:06

 追われてるし、捕まりたくないし、暗いし、しんどいし。
 様々な事象が恐怖に直結し、喉元に込み上げてきて吐きそうになる。

 濱口の石が最初に光ってから10分。
 人数差の不利はあまりにも大きく、公園からの脱出は果たされぬまま
絶望的にユーモアの欠けた真夜中の鬼ごっこは続いていた。
 現在数は7対1。既に2人には先程と同じくカウンターで自らの攻撃に沈んでいただいたのだが、
そろそろその代償すらも濱口を追い詰めはじめている。
 心臓が痛い。激しくなるばかりの動悸が容赦なく脳を叩き、息を継ぐのもままならない。
 単に運動不足のせいだけではなかった。
 石を使えば使うほど臆病になる−限界値を越えるまではそうきつい制約でないはずの副作用はしかし、
こうして激しい動作に絡まると途端に厄介な足枷と化す。
 タイミングの悪いことに、弱々しくも頑張っていた公園内の街灯がバチっと音を立てたきり沈黙し
ほぼ完全な暗闇の中で駆け回らなくてはならなくなった。
 ぼんやり浮かぶ遊具や木々。環境すべてが恐ろしいイメージを呼び起こす。
 「嘘ぉ、」
 思わず漏らした嘆きは完璧に震えていた。
 背中にぶつかる相手の忌々しげな文句にも必要以上に臆してしまう不本意な現状に加え
頭の中では昼間聞いた稲川淳二印の怪談が流れはじめる始末。

 だからこれ使いたくないねん。首元で慌てたように揺れるセレナイトを恨みつつ
いじめられっ子の代名詞「のび太」にも勝る切羽詰まった顔で、
濱口は必死に黒の追っ手御一行と暗闇と脳内の稲川淳二から逃げ回った。
 ジャイアンがいっぱいおったらこんな感じになんねや。感心する余裕もすでにない。
 あかん、涙出てきた−
 いよいよ体力より先に精神がくじける頃。視界の先、路地の明るみから聞き覚えのある声が響く。
817here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:44:09

 「…飛んで!」

 鋭い声。彼の「ドラえもん」が何を意図したのか考える暇もなく、濱口はその指示に従った。
 目減りする精神力は一旦踏み止まってくれたらしい。こういう時単純な性格でよかったと思う。
 出口を塞ごうと車止めの方へ回りこむ数人の動きを横目にそのまままっすぐ走り、
大きく息を吸い込んでもつれかけた両足を跳ね上げ、公園と道路を隔てた垣根を飛び越える。
 左足がわずかに葉を掠った。
 「あだっ、!」
 着地でバランスを崩し、中途半端な飛び込み前転のような格好で地面に転がる。
 ぬるいアスファルトの感触にどうやら成功したことはわかったものの
急な動作で無理に伸びた腰や膝から、早くも痛覚が駆け上がってきた。
 (え、言われた通り、道に出たけど…、それからどうにもならへんのとちゃうか!?)
 背後に追いすがる人の気配はしっかり残っているし、こちらは気力を使い果たしたらしく動けない。
 痛みと街灯の眩しさ、それからこの後の悲惨な展開を予想して思わず固く目を閉じた。
 (…なんやねん!意味ないやんけ俺の大ジャンプ!)

 声に出さなかった文句がどうやって彼まで届いたのか、どこからか穏やかな声が応じた。
 「いやいや。ちゃんと意味あるから、そこに居って」

 次の瞬間、街灯の光の下に伸びた濱口の影がだしぬけに膨らんだ。
 大きさは子どもの背丈ほど、ゆらりと揺らいだ黒い物体が、追っ手と濱口の間に立ち塞がる。
 男たちは垣根を乗り越えて我先にと濱口に手を伸ばすところだった。
 うちの一人が奇妙な気配と理由に気付いたらしく、慌てて周辺に視線をめぐらせる。
 大通につながる道の先。手の中で瞬く石を握る者。
 目の合ったそれが−−有野が、笑う。

 「待っ…!」
 男が仲間に何か告げようとしたが、神経伝達より速く飛んできた影の一閃−
横薙ぎの重いボディブローが集団ごと、彼の意思と意識を黙らせた。
818here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:45:51

 再び公園周辺に戻った、穏やかな夜。
 どこかに避難していたらしい野良犬が(やれやれ)と言いたげな表情で2人の前を横切っていく。

 「大丈夫か?立てる?」
 「うー…大丈夫やけど、もうちょい待って…」

 疲労と安堵、それから石を使ったことによる倦怠感。濱口はその場にへたりこんだままだ。
 役目を終えた影は地面におとなしく張り付いている。
 「やっぱり焦ってると加減がうまくいかへんなあ」
 有野は足でちょいちょいっと倒れた男たちをつつき、
大して心配していないような声で生きてるか〜、と問うた。うめき声が聞こえたので恐らく大丈夫だろう。
 強風で飛ばされた洗濯物のごとく植え込み廻りに散らばっていた男たちのシャツを
片っ端から中途半端にめくってやった。

 「腹冷やしてもうたらええねん、なあ。…あれ、濱口くん?」
 「…なんか俺腰抜けたみたい…」
 「ぇえー」

 世話焼けるわあ。ぼやきながら有野が脇に屈みこむ。
 その肩を借りてどうにか立ち上がりながらふと(こいつよく間に合ったな)と思った。
 濱口の影を使った分少しはましなのだろうが、よく見れば結構しんどそうな顔をしている。
 もしかしたらメールの文面とは裏腹に、急いで駆け付けてくれたのかもしれなかった。
819here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:46:39

 「…たすけつ、って何?」
 「へ?………あっ」
 「メールでも噛むねんなあ」
 「ええやんけ、伝わってんから」

 感謝の言葉はそれでうやむやにしてしまったけれど、こっそり濱口は心中で誓う。

 (いつかお前がピンチになったら、颯爽と助けに行ったるわ)

 そして、うまいこと逃げ出してみせるのだ。手に手を取って一目散に。
 格好よく事が運べばありがたいけれど、まあ。
 それはこの際二の次でも。

820here,there. ◆1En86u0G2k :2006/08/11(金) 13:49:16

濱口優(よゐこ)
 石:セレナイト(透石膏、無色透明。石言葉は洞察力、直感力)
能力:向けられた攻撃を無効化させる。
条件:攻撃が自分に影響を及ぼすと想定できること(他者への攻撃を止めるには間に割り込む必要がある)。
攻撃に対し「獲った」と言うと攻撃に含まれるエネルギーを石で吸収し、ダメージを受けずに済む。ただし体力や気力には変換できない。一定量を超えるとそれまで止めた分が周囲に炸裂する。
精神攻撃にも有効だが、基本的に耐性が低い(ドッキリに弱い実績から)。また消耗は大きくなるものの「逃した」「返す」「いらん」等の言葉を続けるとその攻撃を相手に反射できる。
気力を消耗するほど勇気や度胸が減ってへたれてしまい(特に野外での)無茶な行動が苦手になる。最終的には行動不能に。
笑うことで攻撃の意思自体を削ぐこともできるが、自分も相手もしばらく笑いが止まらなくなる。


以上です。
750さん、ありがとうございました。すごく嬉しかったです!
それでは!
821名無しさん:2006/08/11(金) 15:04:11
書き手さん乙です!
822名無しさん:2006/08/11(金) 17:20:29
乙です!
とても面白かったです。
823名無しさん:2006/08/12(土) 00:32:36
投下thx!&乙です!
(・∀・)イイ!!
たすけつワラタw
824名無しさん:2006/08/12(土) 16:28:12
ほっしゅ&乙
825名無しさん:2006/08/12(土) 17:09:53
このスレ・・・何なんだ!!!
826名無しさん:2006/08/12(土) 17:47:03
ageんなよ…
827名無しさん:2006/08/12(土) 19:01:50
夏ですね…
828名無しさん:2006/08/12(土) 19:23:47
>>825
テンプレと空気嫁
829名無しさん:2006/08/12(土) 22:37:23
保守
830名無しさん:2006/08/13(日) 00:19:49
絵板だれか描いてくんねーかな
831名無しさん:2006/08/13(日) 08:27:24
保守だなぁ
832名無しさん:2006/08/14(月) 00:49:15
まったり保守
833名無しさん:2006/08/15(火) 16:43:45
保守
834名無しさん:2006/08/15(火) 20:18:11
ぶっちゃけこのスレいらんな
保守がほとんどじゃねぇか
835名無しさん:2006/08/16(水) 10:35:44
>保守がほとんど
確かにw
836名無しさん:2006/08/16(水) 10:51:19
トス
837名無しさん:2006/08/16(水) 22:03:54
落ちそうなのであげ
838初心者:2006/08/17(木) 17:38:47
 ここに書くのは初めてなのですが、私のようなものでも、物語に参加してもいいのでしょうか…?
839名無しさん:2006/08/17(木) 18:04:03
>>838
とりあえずsageてね
840名無しさん:2006/08/17(木) 20:24:07
>>838
自信が無い人にはお勧めしない
フォローがないどころか下手すると叩かれるから
841名無しさん:2006/08/17(木) 20:39:28
a
842初心者:2006/08/17(木) 20:40:46
…一応、賞とか入ってます…。
843名無しさん:2006/08/17(木) 20:40:50
a?
844初心者:2006/08/17(木) 20:41:20
え、ご、ごめんなさい。
845名無しさん:2006/08/17(木) 20:43:50
なんだ…嵐か…
846名無しさん:2006/08/17(木) 20:50:33
荒らしというか真性DQNだな
847名無しさん:2006/08/17(木) 20:56:37
まぁちょっと面白かった
848初心者:2006/08/17(木) 21:16:16
うにー・・・
849初心者:2006/08/17(木) 21:20:33
どうしようかな・・・
850名無しさん:2006/08/17(木) 21:37:37
やめとけ。
>>1も読まない、人のアドバイス(>>839)も聞かないやつが
まとめサイトの膨大なログを読み
他の作品との整合性を考えた作品が書けるとは思えん。
851名無しさん:2006/08/17(木) 21:44:34
初心者のおじょうちゃん
もうおうちにかえりな
852初心者:2006/08/17(木) 21:46:22
はぁい・・・
853名無しさん:2006/08/17(木) 21:49:11
初心者向けの山本さんのセックス指導を受けて下さい
854名無しさん:2006/08/17(木) 21:51:10
やっと収まったか('A`)
ここまで精神的に幼稚な子が来たのは初めてじゃないか?
本当、諦めてくれなかったらどうしようかと…
855名無しさん:2006/08/17(木) 22:11:56
夏休みさえ終ればこんなのも来なくなると思う。
856名無しさん:2006/08/17(木) 22:18:47
ネット上であんな書き方したって可愛くないのにな
857名無しさん:2006/08/17(木) 22:21:17
半年ロムって欲しかった
もう来なくて良いよ
858名無しさん:2006/08/17(木) 22:25:40
ラーメンズのあれを思い出した

「いろんな意味でカンチガイ上等の女は?」「面白い!」
859名無しさん:2006/08/17(木) 22:29:30
>>858
うおおびびった
今ちょうど見てたとこだよ
860名無しさん:2006/08/17(木) 22:29:54
自分>>840だ。まさか「賞とった」と言い出すとは思わなかった

ひとつ気になったんだが、小説で多用される言葉使いをそのまま
ネットで使う人間もいるんだな
861名無しさん:2006/08/17(木) 22:31:30
作文コンクールとかかなw

まあ、夏休みも後少しだ。気長に職人さんを待とう。
862名無しさん:2006/08/17(木) 22:32:05
うにー、にはワラタw
863名無しさん:2006/08/17(木) 22:32:58
久しぶりにスレが伸びたw
そろそろ容量が気になるところ。
864名無しさん:2006/08/17(木) 22:35:03
>>862
そのうち『ほえー』とか『はにゃーん』とか言い出すんじゃないかと思っていた俺
865名無しさん:2006/08/17(木) 23:06:12
いつこことラーの話よんだ。面白かったー

ほかに完結してる話はないのかな?
866名無しさん:2006/08/17(木) 23:08:34
>>865
簡単な感想はしたらばでどうぞ
867名無しさん:2006/08/17(木) 23:28:15
>>866
ごめん
868名無しさん:2006/08/18(金) 00:34:37
>>865
短編て書いてあるのは完結してるんじゃない?
長編だとさまぁ〜ずの話は確か完結してたよ。
爆笑問題も完結してたような…。
869名無しさん:2006/08/18(金) 12:52:35
でもそれにしたって完結してる話少なすぎるだろ・・・。
投下してくれんのは嬉しいんだけどさ、飽きたんなら飽きたとか一言言いに来いよ無責任だな。

したらばでもちょっと出てたけどさ、こうなったらもう最終投下から半年くらい経った奴は他の人が続き書けるようにしようぜ。
どうせ半年も放置してその後何の音沙汰も無いような奴が今更戻ってくるとも考えにくい・・・つーかほぼありえねー訳だし。
870名無しさん:2006/08/18(金) 17:34:54
最初の方さまぁ〜ずが使ってた「虫入りナントカ」ってどんな石なんですか?
なんか事務所とか仕事とかリスキーとかなんとか…。
871名無しさん:2006/08/18(金) 17:44:26
>>869
飽きた
872名無しさん:2006/08/18(金) 18:30:20
>>869
進学・就職した、仕事が今まで以上に忙しくなったとかで
書きたくても書けなくなった人が多いんじゃないか?
873名無しさん:2006/08/18(金) 18:39:25
>>870
sageれないならくるな
874某書き手(756):2006/08/18(金) 18:57:27
>>869
すまない、パソのデータが吹っ飛んで書き直し中なので、もう少し待ってはくれないか。
875名無しさん:2006/08/18(金) 22:26:36
>>874
乙です。投下楽しみにしております。
876名無しさん:2006/08/18(金) 22:34:17
>>869
自分は書き手だけど、いつも話が完結してから一気に投下してるよ。
でも正直、それだと長編のときすごくレス数が増えてスレを占拠してるみたいな気分になるから、
ホントは小出しに投下した方がいいんじゃないかとか思ったりもするんだよね。
そのへんのとこは皆さんどうですか、一気に長編来ると読みづらいとか、うっとおしいとか、ないですかね?

あとさ、完結してない話の書き手のすべてが、飽きたからって理由で書いてないわけではないと思う。
とはいえ、多分ホントにもう帰ってこないだろう書き手さんもいるにはいると思う。

だからどれもこれも誰でも続き書けるようにするってのはちょっとマズいと思うけど、
したらばの方で1年とか、相当な期間放置されてる話を挙げてみて、これは続きを書いてもOK、
これはもう少し待つっていうのをある程度話し合って決めることはできないかな?
そうしたら自分を含め今いる書き手で続きを書ける話も出てくると思うんだけど。
877名無しさん:2006/08/18(金) 23:07:34
はいはい
878Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:13:54
【22:43 新橋・某居酒屋】

個室を隔てるのれんがまくれ上がり、その向こうから渡部達の顔が見えると
テーブルの上に並ぶ料理を退屈げに見張っていた谷井の表情に色が戻る。
「お疲れ〜」
ひらひらと手を振って三人を招き入れ、どーだった? と早速問う谷井に渡部は曖昧な表情を返した。
「…もしかして、間に合わなかったのか?」
「いや、その逆。」
シアターDに運び込まれた『白い悪意』の被害者の手当てに向かう…その目的を考えれば、
この個室を出て行った時よりも3人がそれぞれ疲弊して戻ってくるのは当たり前かも知れない。
しかし、それにしては重い空気を漂わせている彼らに谷井が問えば、児嶋が首を横に振って答える。
「予想以上の収穫だったよ。」
「へぇー。」
そうは見えなかったと素直に谷井が感想を述べれば、「だろうな。」と児嶋は応じ、
さきほどまで腰掛けていた椅子にドサリと座り込んだ。

「まさか、あの人が『白い悪意』の正体だったとは…ね。」
同じく椅子に腰掛けるなり、早くも携帯のアプリにエラーでも生じたのかゲームがプレイできない事に
彼の石の能力の副作用とはいえ、毎度ながらうぁああああと呪詛めいた呻き声を上げ、
この世が終わったかのような深い絶望っぷりを見せる今立の様子を横目でチラリと見やり、
ようやく苦笑いめいた表情を口元に浮かべて、渡部は小さく呟く。
「何、ついに正体わかっちゃったの? 」
「あぁ。あいつらは何も言わなかったけど…渡部が見たんだ。そいつの顔を。」
いつもならスゲーじゃん、などと弾む口調になるだろうが、今は重い渡部達のテンションに沿わせるように
愉しげな色の消えた声色で谷井が問えば、児嶋は深く頷いた。
渡部が見た、という言い回しは、相手の心や思考と同調できる彼の石…水晶の能力が行使された故だろう。
何が原因でそうしたのかは谷井にはわからないが…そもそも被害者が誰かすら知らないのだから当然かも知れないが
…被害者達が己の見た『白い悪意』の正体を伏せようとしても、脳裏に過ぎったそのビジョンを渡部は見逃さなかった。
つまりはそういう事なのだろう。
879Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:16:02
「上田さん達に連絡は?」
「…した。と言っても収録中なのかなかなか出なかったから、携帯の留守電に入れといたけど。
 ついでに他にも何人かに連絡を回しておいたし、明日から…今からもそいつに対して警戒は、できると思う。」
ついさっきまで、どう手を打てばいいのかわからない。そんな状態だったのが、一気に状況が進展したように思え、
谷井の表情に、目に、再び明るい力が浮かぶ。

「けど、本当に大変なのは…これからだよ。彼の力は半端じゃない。」
谷井のそのプラス方向の力に影響されたか、フとようやく明瞭な笑みを浮かべて渡部は谷井に言い、回りを見渡して。
「ま、ちょっと遅くなったけど…コレ食べてしっかり休んで、俺らも明日に備えよう。な?」
相変わらず携帯を握りしめたまま半死半生といった様子の今立を除く2人に、告げた。
そのまま彼は随分結露が付いた上に泡の量が目減りしているビールのジョッキを手に取る。
同じくジョッキを手に取った2人と目線を合せ、渡部達はジョッキを掲げた。

「……乾杯。」




880Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:17:27
【22:04 渋谷・センター街】

「おっかしいなぁ……。」
床に落ちたスケッチブックを拾い上げて松丘は思わず呟きを漏らした。
確かに平井が指摘したように、手の中のそれは石の力で呼び出した時に比べると縮小してしまっているように見える。
これではどう考えても白いパーカーの男…『白い悪意』の放つ光の帯を防げるとは思えない。
「時間が経つ事に小っちゃくなってくシステムなんやろか。」
疑問の呟きと共に松丘は石に働きかけ、一旦拾い上げたスケッチブックを消す。
そして再び石に意識を集中させ、スケッチブックを呼び出すけれど、
新たに現れたそれも、片手で扱えるほどのさほど大きいサイズとは言えないモノだった。

だとしたら、さっき最初に呼び出したスケッチブックがやたら大きかったのは、火事場の何とやら効果という事なんだろうか。
何とも釈然としないまま、とりあえずそう結論づける事にして。
新たに呼び出したスケッチブックで胸元を扇ごうとしつつふと傍らの平井を見やった松丘は、彼の複雑げな表情に目を留めた。
「…どないしたん?」
「あ、いえ…ね。」
問いかければ、返ってくるのは曖昧な表情と曖昧な言葉。
「何や、思い当たる事があるンやったら言うてよ。」
小さく微笑んで、松丘は告げる。
ついさっき、石が光り出したばかりで。何か記憶の奥底でもやが掛かっている部分があるような気はするけれども、
今のところはこの不思議な力を持つ石について殆ど知識がないのだ。
前々から石を使いこなしていた平井の考えが、何かしらのプラスになるかも知れない。そう思っての言葉だろうけれど。
881Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:18:42
「……………。」
平井は何かを言いかけ、軽く首を横に振る。
それはまだ平井の思いつきの仮説でしかないけれど。口に出す事で、松丘が自覚する事で真実になってしまう可能性は高い、そう思えてならなくて。
まだ完全に追い払えていない『白い悪意』の事を思うと、無闇に藪をつつくような真似はしない方が良いに決まっているのだろうけども。
「何よ、言うてって。」
いよいよ好奇心を煽られたか先ほどより少しだけ強い口調で告げ、真っ直ぐ見つめてくる松丘に、平井はふぅと息を吐いた。
諦めたように一度床に視線を落とし、松丘の方を向き返して。
「……今、使わないでしょう。スケッチブック。」
短く告げられた平井のその言葉に、松丘の大粒の目がさらに見開かれ、彼の手首で揺れるブレスレットで淡い緑色の石が瞬いた。


そうだ。
あまりに自然に手の中に収まったから違和感を覚えなかったけれど。
『今』の松丘はネタを演る上でスケッチブックを必要としない。
リストバンドといった小物を決して使わない訳ではないが、鼻エンジンに主に必要なのはセンターマイク。
「多分『昔』の力が…持ち主の危険を察知して一時的に発動してるんじゃないかなって。」
だから、石に蓄積されていた力が消費されていけば、スケッチブックも自然と小さくなるだろう…そういう事なのではないか。
平井は続く言葉を紡いで、もう一度ふぅと息を吐いた。
「……………。」
松丘は淡く輝きを発するサーペンティンにちらりと目を向け、そして改めてスケッチブックの表紙をめくる。
『土下座』『あっち向いてホイ』『1UP』。
1ページ毎に何やら単語が書き付けられており、所々に血なのだろうか。黒ずんだ汚れもが付着しているように見えた。
どんな意図があって書かれたモノかはわからないけれど、それは紛れもない松丘の字であったし、
そしてそれは、かつて坂道コロンブスのコントで松丘が指示を出すべくカンペとして掲げていたスケッチブックを彷彿とさせるモノだった。
882Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:19:42
「前から…戦っていたんですね。」
脇からスケッチブックを覗き込んでいた平井が、ポツリと漏らす声が聞こえる。
確かに平和な時期に、仲間内で楽しむために石を用いていたのなら、ページに血が付着している事などあり得ないだろう。
「………………。」
平井の言葉に同意するでも反論するでもなく、松丘はパラパラとページをたぐっていく。
やがて辿り着いたのは、『テンションを上げて』 『もっとテンションを上げて』 『最高にテンションを上げて』 『石を、暴走させろ』
ひときわ血で汚れているページに歪んだ字で書き付けられたその一連の文言を最後に、スケッチブックは白紙が続くばかりになっていた。

「確かに。」
白紙のページを尚も惰性でめくっていきつつ松丘は小さく呟く。
「これは、『今』の僕やない。」
せやけど、と今度は声に出さずに言葉を続け、松丘はパタリとスケッチブックを閉じた。

――せやけど、だとしたら『今』の僕に…石は『今』の僕に何の力を貸してくれる?

今の松丘は、芸人としての経験こそ豊富かもしれないけども、漫才師としては実績もない駆け出しのひよっこである。
もしかしたら、このオマケの力が失せてしまったら、もう石は反応しなくなってしまうかも知れない。
別に石の力が使えなくなっても、ついさっきまで石と関係ない生活を送っていたのだし、特に問題はないだろうけども。
この状況…何とかして『白い悪意』を追い払わなければならないという所で石が使えなくなるという事で
平井への負担が一気に増えてしまうのは、さすがに心苦しく避けたい事態である。

せめて今夜中は何とかならない物だろうか。
どこか縋るように腕をもたげ、松丘はブレスレットのサーペンティンを目線の位置まで持ち上げた。
スケッチブックはもうノートと見紛うぐらいに縮小してしまっているけれど、蛇の図案が彫り込まれた銀のプレートにあしらわれた石は
非常階段の緩い照明の下でもそれとわかるぐらいに光を自ら発している。
…それは大丈夫だという証なのか、それとも。
石に問おうと口を開きかける松丘だったけれど、結局言葉は紡がれなかった。
代わりに彼はもたげた腕を降ろし、ハッとした表情を浮かべて傍らの平井を見上げる。
883Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:20:51
「たいがぁー……。」
「……ついに来た、みたいですね。」
もちろん松丘が感じたそれは、禍々しい石の気配は平井にも感じ取れたのだろう。
松丘からの問いかけに答えるかのように、ぼそりと平井は口にして。ぎゅっと拳を握りしめた。
「…『白い悪意』っ!」
吐き捨てるかのような平井の言葉とその気迫に呼応するかのように、胸元で揺れるラテン系の民族工芸品めいた首飾りに
組み込まれた彼の石、ダルメシアンジャスパーが雄々しく煌めく。
一瞬だけ平井の石が発動したか、じわっと肌を焼く熱気を頬に感じながら、松丘はゆらりと立ち上がった。
非常階段の踊り場から下を覗けば、白いパーカーを着た男が危うげな足取りで路地を歩き、2人が潜んでいるこの雑居ビルへ
近づいてきているのがぼんやりと見えた。

「…どこかに隠れてても、良いですよ。」
「ンな事、できひん。」
背後から聞こえる平井の提案を、松丘は首を横に振って拒否する。
「そんな事したら、結果はどうあれ後で絶対後悔する。同じ後悔するなら、やって後悔した方が、ずっとエエ。」
再び始まるだろう戦いを思ってか、どこか引きつったような笑みを顔に浮かべながら。
松丘は一度エレベーターの方へ目をやり、それからスケッチブックの白い紙を数枚ほど一気に引きちぎると、
非常階段の上から下へはらりと撒いた。
「……何を?」
「撒き餌、や。」
いきなり何を始めるのだと怪訝げな目を向ける平井に松丘は告げ、再びスケッチブックの紙を千切ると階下へと撒く。
「それより…エレベーター呼んで。まさかここでこのまま追いつめられるつもり、ないやろ?」
サーペンティンの淡い緑色の燐光を纏いながら、紙はゆらゆらと舞い落ちて非常階段に積もっていく。
それに惹かれるように非常階段を上り始めた『白い悪意』の姿に、平井は松丘の意図がうっすらと把握できたか、
こくりと頷いて返したのだった。
884Phantom in August  ◆ekt663D/rE :2006/08/18(金) 23:34:48
最初に入れ忘れてしまいましたが、>>572-580の続きです。
なお、この話は2005年8月時点の設定となっています。

>>870
「虫入り琥珀」は特定の持ち主を持たず、ホリプロの事務所で保管されている石…という設定の石です。
石を使った代償が「自分の知名度が下がる」と言うものなので、芸人としてはリスキーな石な訳です。
詳しくはまとめサイトのほうにあると思いますので、そちらをご覧になってください。
885名無しさん:2006/08/18(金) 23:52:20
>>884
乙!いつもながら文章に引き込まれる…そして続きが待ち遠しい。
登場人物1人1人の行動や意思が気になります。
886870:2006/08/19(土) 00:28:24
>>884すみません、ありがとう御座いますm(_ _)m
887名無しさん:2006/08/19(土) 00:32:43
>>886
sageれねーならくんなよ
888名無しさん:2006/08/19(土) 00:41:06
半年2ちゃんをロムって下さい。
マジで。
889名無しさん:2006/08/19(土) 00:44:43
>>886
テンプレも読めない人には書いてもらいたくないし逆に迷惑です
890名無しさん:2006/08/19(土) 00:49:43
糞スレ
891名無しさん:2006/08/19(土) 00:53:53
これだから夏は嫌なんだ
892名無しさん:2006/08/19(土) 00:55:26
何でもかんでも夏のせいwww
893名無しさん:2006/08/19(土) 00:56:45
自演は見苦しいよ?
894名無しさん:2006/08/19(土) 00:56:52
あ、荒らしに変わった。
わかりやすいなぁ。拒絶しといて良かった
895名無しさん:2006/08/19(土) 01:02:37
896かつての書き手:2006/08/19(土) 01:16:06
前スレ・前々スレでライセンスの話を書いていた者ですが、今更投下しようとしてもアウトですかね?
897名無しさん:2006/08/19(土) 01:23:16
>>869
もしかしてジークさん?
898名無しさん:2006/08/19(土) 01:25:31
>>896
アウトです
899名無しさん:2006/08/19(土) 01:31:45
ぜひ投下してください!
900名無しさん:2006/08/19(土) 01:34:23
>>896
あぁ待っていました。
ばっちこーいです
でも容量493kbだから次スレが良いかも
901かつての書き手:2006/08/19(土) 01:40:58
>>897
そうです。
安価ミスはドンマイ!w

>>899
すぐにでもしたいところなんですが、今現在の石の持ち主等を調べて改めて修正しなければならないので時間が掛かると思います。

予告するとしたらばに以前投下した分+αになると思います。
902かつての書き手:2006/08/19(土) 01:43:34
と言う事で、おやすみなさい
903かつて書き手 ◆Zw4Un748XA :2006/08/19(土) 01:58:13
>>900
では次スレにて投下しようと思います。
それまで頑張って修正すっか・・・
904900:2006/08/19(土) 02:06:38
しつこいな
寝たんじゃなかったのかよ
うp待ってるお
905名無しさん:2006/08/19(土) 02:07:02
がんばー
気長に待ちますんで気にしないでねー
906名無しさん:2006/08/19(土) 02:09:50
904はスルーで頼みます。
私が900=905です。904は偽者ですよ〜。
907名無しさん:2006/08/19(土) 02:22:53
そんなに必死になってどうした?
908名無しさん:2006/08/19(土) 11:17:27
>>884
乙です!やっぱり臨場感があっていいなあ。
909かつての書き手:2006/08/19(土) 13:44:40
私も投下していいですか?
910名無しさん:2006/08/19(土) 14:54:34
>>909
>896の人ですか?
911名無しさん:2006/08/19(土) 18:52:41
そういう話はしたらばでしろよ
912名無しさん:2006/08/19(土) 21:07:31
>>911の言い分はもっとも
だがかつて書き手だった人は遠慮無くどんどん投下してくれ
913名無しさん:2006/08/19(土) 23:31:45
このスレは埋めて次スレから投下したほうがいいかも
914名無しさん:2006/08/20(日) 02:04:08
埋め

したらば見てない人も多いだろうからネタバレ以外ならここでもよいかと
保守リレーになるよりはマシでしょ
915名無しさん:2006/08/20(日) 13:47:13
やっと追いついた
916名無しさん:2006/08/20(日) 19:32:40
埋め梅♪
917名無しさん:2006/08/20(日) 19:44:22
淫行しても捕まらない能力
918名無しさん:2006/08/20(日) 19:46:05
ume

埋めてる間に書かれた話はしたらば投下?
919名無しさん:2006/08/21(月) 09:49:17
ume

それか待つかだと。結構すぐ埋まるかもしれないし。
920名無しさん:2006/08/21(月) 11:37:49
そんなすぐ埋まらんだろ、というか埋めたい。
続きが気になる。
921名無しさん:2006/08/21(月) 11:39:10
ここを落として新スレを立てるに一票
922名無しさん:2006/08/21(月) 14:59:50
そんな簡単に落ちるかなぁ。
埋めたほうが早い気がする。
923名無しさん:2006/08/21(月) 15:06:18
924名無しさん:2006/08/21(月) 15:17:08
埋めマスオ
925:2006/08/21(月) 15:17:59
http://bbs.04/zin%20or%20kame/%20@dfghea
まわすす前にこの↑の画像をみてください!3回まわしたあとみると…☆すごい画像に♪見るPCによって画像がちがうよ♪仁君とかオレンジレンジなど!!
私はちょっとHな画像だったよ♪
そしてマリーちゃんの画像が出た人は好きな人に24時間以内に告白されます♪私は次の日に告白された★
まわさなかったら36時間以内に呪いの咲子に手足もしくは首をもがれます!!んじゃ夜露死苦
926名無しさん:2006/08/21(月) 17:30:58
うめーる
927名無しさん:2006/08/21(月) 17:42:33
暇だし埋まるまでリレーで話を書くとかどうですか?
928名無しさん:2006/08/21(月) 18:29:11
>>927
どうだろ。
普通に埋めるよりは速く埋まると思うけど。
929名無しさん:2006/08/22(火) 00:48:53
>>925
コピペにレスするのもなんだが、「仁君」を素で片桐仁だと思ってしまった…

赤西ね、赤西。
930名無しさん:2006/08/22(火) 02:12:05
>>929
え、違うの!?

な、俺ガイル。
931名無しさん:2006/08/22(火) 12:38:09
奇面組かと思った埋め。
932名無しさん:2006/08/23(水) 00:19:42
なかなか埋まらないな
933名無しさん:2006/08/23(水) 01:08:08
バトロワスレが復活したので、ますます過疎してしまいそうな予感
934名無しさん:2006/08/23(水) 01:10:52
したらばってどこか教えてくださいませんか
935名無しさん:2006/08/23(水) 01:13:10
どうして分からないのか教えてくださいませんか
936名無しさん:2006/08/23(水) 01:30:04
バトロワはやること決まってるし、やっぱ死んだらイヤンなので不思議スレが好きです。
自分はずっとこっちのファンで居続けますよ〜
何たって殺人事件スレの時からいるんだから。
埋めがてらに呟きました。
937名無しさん:2006/08/23(水) 01:31:30
殺人事件スレからこんな設定になったのは凄いよね
938名無しさん:2006/08/23(水) 01:47:52
ume
939名無しさん:2006/08/23(水) 02:20:21
殺人事件スレ懐かしいw
>>937
確かに
940名無しさん:2006/08/23(水) 02:45:29
>>935
したらばへ行く方法がわからないのです
941名無しさん:2006/08/23(水) 03:01:07
分かりにくいですが、まとめスレにちゃんとあります。
あと935は皮肉で言っていると思いますので、自力で探索してみてください。
942名無しさん:2006/08/23(水) 03:24:10
>>941さんありがとうございました
あと>>935さんもありがとうございました
943名無しさん:2006/08/23(水) 04:14:56
梅 梅
944名無しさん:2006/08/23(水) 10:53:33
殺人事件スレ懐かしい。
死にネタ苦手な人は不思議スレ、好きな人はバトロワスレと
いい感じに住み分けできてるよな。
945名無しさん:2006/08/23(水) 16:40:24
もうちょっとだ埋め。
946名無しさん:2006/08/23(水) 16:42:09
いつもよりちょっと早めの梅酒飲みながら埋め
947名無しさん:2006/08/23(水) 16:43:23
埋め。
殺人事件スレ…懐かしいw
948名無しさん:2006/08/23(水) 17:52:09
次スレで新作大量投下を願いつつ埋め
949名無しさん:2006/08/23(水) 21:03:16
埋める前に落ちるか?
950名無しさん:2006/08/23(水) 22:38:03
950^^
951名無しさん:2006/08/23(水) 22:42:54
埋め。
殺人事件スレか〜もう一回読んでみたい
952名無しさん:2006/08/23(水) 22:57:02
うーーーーーーーめっ
953名無しさん:2006/08/23(水) 23:32:45
きっと投下あるさ。
つか、みんな適当に書いちゃいなよ。
954名無しさん:2006/08/23(水) 23:43:25
baseの話好きでした
955名無しさん:2006/08/24(木) 01:29:42
梅梅

スピワは今、劣化してるけどこのスレでは活躍するから嬉しい
956名無しさん:2006/08/24(木) 02:02:18
スレの活性化を祈りつつ埋め
957名無しさん:2006/08/24(木) 02:13:58
南海の話もクールで好き。

ってことで梅
958名無しさん
聞いてみたところ512kbで書けなくなるそうですよ。
もうちょいあるね。

あんまり興味無かった芸人でも、このスレで取り上げられててちょっと注目した人とか結構いる。
江戸むらさきとか、「スゥパーボール」って言ってるwwwとか思った
いつここはネタ以外の話を見てみて、あーホントに変わった人なんだなぁとか。

で、梅