847 :
846:2005/09/20(火) 12:36:58
すいません。ありました。本当にすいませんorz
「失礼します!五味さん、到着しました。」
五味一男プロデューサーの元に一人のスタッフがかけこんできた。
そのスタッフの言葉に首を傾げる福澤朗と白石美帆。
「誰が来たんですか?」
福澤の問いに椅子を回す五味。
「残り40組をきったお祝いにちょっとしたイベントですよ」
「イベント…ですか」
五味の説明に口元に笑みを浮かべる白石。
その笑みはまるで状況を楽しんでいるかのようだ。
「どんなイベントですか?」
「大型新人を投入してみようかと思っています」
そういうと五味は一台のテレビに近付いていった。
画面を見て福澤も白石も納得するように頷いた。
「オリエンタルラジオ…ですね」
そこに映ったのはあっちゃんこと中田敦彦。そして、相方の藤森慎吾。
「あっちゃん、どうする?」
「決まってんじゃねぇか…」
二人に慌てる様子はなかった。むしろ落ち着いていた。
まるでそれが当たり前のように。
中田の視線の先には二人に背を向けて歩く摩邪。
「あっちゃんいつものやったげる?」
クスクス笑う藤森の手には鎖のついた鎌が握られている。
オリエンタルラジオの参戦により
【残り40組】
>車さん
乙です。ついに途中参戦コンビが出ましたね。これからの活躍が楽しみです。
ところで、そろそろ次スレの事とか考えた方がいい?
>>713から
大きい吉田を背負っていると、どうしても息が続かない。
レギュラーの二人は偶然見つけた灯台のような建物に入っていった。
「どっこいせ…っと。」
手が塞がっている為、足で器用にドアノブを開ける。
「重かったぁあ〜!」
吉田をちょうど置いてあったソファの上にゆっくりと寝かせる。
頭に押し当てていたタオルに付いた血は乾いて赤黒く変色していたが、出血はどうやら止まっているようだ。
ほっと息を吐き、すっかり堅くなってしまった肩をポキポキと鳴らした。
未だ吉田が目を覚ます気配は感じられない。
「さってと…なあこれからどうする?…松本君?まつもとくーん?」
いつの間にか自分の隣から松本が居なくなっていることに気付いた。
「西川くーん、来て来て!」
西川はドアを開けた。すると、二つ隣の部屋から松本の声がした。
出て行く直前にちらりと後ろを向き、吉田が寝ているのを確認してドアを閉めた。
「どないしたん?」
さっきまで居た所と比べると随分狭い部屋に入ると、西川はあっ、と声を上げた。
ごちゃごちゃと訳の分からないボタンやランプがあり、足下にはコードが伸びている。
大きなガラス窓の側にある机のような物からは細いマイクが伸びていた。
「ここ、放送室?」
西川は松本を振り向いて言った。
「なあ、コレでみんなに呼びかけてみん?」
その松本の声に少し戸惑う西川。
放送なんかしたら確実に自分たちの居場所がばれてしまう。
この呼びかけでみんなが集まってくれれば吉。逆に運が悪ければ…。
一種のギャンブルのようだな、と西川は思った。
「西川君、嫌か?やっぱ止める…?」
少し考えて、西川は言った。
「…いや、やろう!何もせんよりかは百万倍マシや。俺は可能性のある方に賭けるで。」
「よかった!」
満面の笑みで笑う松本を見て、つられて笑った。
そして、置いてあったパイプ椅子に腰掛ける。
「帰ったら、何したい?」
「う〜ん、ネタやりたいかな、やっぱ。舞台に立って。」
「俺はゆっくり寝たいわ。」
「ええー何でぇ〜!」
ひとしきり笑った後、真剣な表情で二人はマイクを見つめた。
>>572 乃さんの話に繋がってます。
だいたひかる編引き継がせていただきます。
>>245-247から
『封印エピソード』
田上よしえは、ナップザックから取り出した自らの武器を、僅かな月明かりの中で眺めた。
「これ、ピストル? ……うっわ、本物じゃん。弾入ってんじゃん」
他人に見付かってはまずいはずなのに、わざわざ声に出して確認してしまう。その声も口を噤んだ途端暗闇に溶けて消えて行き、残ったのは寒々しいまでの孤独だった。もう随分長い間ピンでやってきたけれど、相方のいない不安をこれほどまでに感じたのは初めてだ。
首筋に張り付いた機械にそっと触れる。この首輪の存在は、ピン芸人とそれ以外を、はっきりと線引きしていた。
自分が生き残るために必死で相方を守る。相方を死なせたくないから、自分も必死で生きる。自分を繋ぎとめてくれる存在――それが、ピン芸人にはない。
だから、自殺する? あるいは、殺人鬼になる?
「そんなんどっちも嫌だっつーの」
田上は立ち上がった。小型の拳銃を、お守りのように握り締める。
「あたし、諦めねーかんな……」
手探りしながら進むしかないのは、いつだって同じだった。それでも女一人で、ここまでやってきたのだ。
「絶対諦めねー」
男勝りの口調で決意し、田上は戦場を歩き始めた。
だいたひかるは歩いていた。少しずつ深くなる夜を、その肌で感じながら。
風が吹くたび、木の葉の揺れる音が響いて、体の奥がぞくりとした。
お願いだから、誰もこないで――このまま、何もないまま、終わらせて。
叶わぬ願いを抱きながら、曖昧な恐怖から逃げるように、一歩、一歩と歩いていく。
また、物音が聞こえた。
近くから? 遠くから? 風の音? 違うもの?
いくつもの疑問符が、頭の奥で、ゆっくりと舞って――本当は、答えを知ってるはずなのに。
がさり、と、足音が。
「……だれ……?」
振り向こうとして足がもつれ、思わず木の幹に縋った。後ろに傾いた重心で、背中にあるナップザックを思い出す。
あれを……使う?
私が、あれで、人を殺すの?
また、足音が聞こえる。震える指が、ナップザックをあけて、その中身を取り出す。
それは、ずしりと重くて、そして冷たかった。まるで、だいた自身すら拒絶しているように――味方なんて誰一人いないのだと、教えているように。
「来ないで……」
両手で握った銃を、ゆっくりと持ち上げる。銃口は、小刻みに震えていた。力を込めようとすればするほど、それは酷くなっていく。
「こっちに来たら、撃ちます……!」
喉の奥の微かな震動が、脅迫にもならない、か細い声を絞り出す。
「――そんな震えた手で、ほんまに当てられる思うとるん?」
関西訛りの甲高い声が聞こえた。
「撃てるもんなら撃ってみぃや。でも、あたしには絶対当たらんと思うでー」
恐怖など欠片も混じっていないような、のんびりした声。再び足音が近付いてくる。殺し合いにすら微塵も動じていないこの態度が、だいたひかるを震撼させる。
来ないで。殺したくないから。殺したくないのに。どうして。こっちに。そんな――
声の主が――山田花子が、姿を現す。ボウガンが、だいたひかるを狙っている。
「……いや……!」
意識のすべてが、右手に集中するような、感覚。
銃声と同時に、だいたは後方へ弾き飛ばされた。反動を支えきれず手放した銃が、宙を舞っているのが見える。銃弾は狙いから大きくそれたのだろう、高い梢の奥で、がつっという音がした。
「ほーら、当たらんかったやないの」
からかうような調子で言いながら、山田はボウガンを発射した。だいたの右の太腿に、矢が深々と突き刺さる。激痛に言葉をなくしながら、だいたは木の幹で背中を擦るように、その場へ座り込んだ。
山田が近付いてくる。
「体も張らんと売れるからこんな風になんねんで」
テレビで見た時と同じ明るい声で、楽しげな表情で、うずくまるだいたを見下ろす山田。
逃げ出したい――けれど、体を動かせない。
「痛いやろ? もっと痛がりや。それとも――痛がり方もわからんの?」
迫ってくる山田の顔を見ても、悲鳴すら上げられなかった。怖い――傷の熱など掻き消すくらいの、冷たい恐怖に体が震える。
「あたし、最近の子のそういうとこ、大っ嫌いやわ。ブームかなんかに乗っかって、ぽっと出のくせに売れよって。せやから――」
山田はちらりと後ろを見た。
「靖さん、この子、二度とテレビに出れんようにしたってや」
山田の視線の先で、石田靖が立ち上がる。彼の手の中では、月の光を浴びたナイフが無慈悲な輝きを放っていた。
「ほんまにええの? 俺が思ってる通りにしたら、俺も花子も鬼畜やで」
言葉とは裏腹に、石田の眼は、これから起こる出来事への期待にぎらついている。
「何言うてんの。バトルロワイアルなんて、鬼畜のためのゲームやで。――あたしらが勝者になるためのゲームや」
山田の言葉に、石田は満足そうに頷く。
「おし、花子がその気なら、俺も思う存分やらしてもらうわ」
石田がだいたに歩み寄り、ナイフを眼前に突きつけた。だいたは立ち上がろうとしたが、右足の痛みがそれを妨げた。
「ほら、逃げても無駄やで」
屈み込んだ石田は、ナイフをだいたの首筋に沿わせた。すう、と、背筋の寒くなる感触。浅く破れた皮膚が、外気に触れてひりひりと痛む。
「……あなたたちには、プライドとか、ないんですか?」
指先で地面に触れながらだいたは問うた。石田はその問いを、鼻で笑う。
「プライドがなんぼのもんや。んなもんが、生き残るための役に立つんか」
「そんなもん、一番先に捨てたもんの勝ちやねん――芸能界でも、バトロワでもな」
一歩離れて見守る山田の言葉が、石田の答えに重なった。
その答えに、だいたは笑う。絶体絶命の状況だというのに、笑う。
「言い訳ですか? そうする事でしか、自分を保てない事への」
だいたの手が、動きを止めた。
「あなたたちは――こんなゲームで若手芸人に殺されるのが、怖いだけだと思う」
ぐっ、と左手を、握り締めて――
「やかましいわ」
腕を持ち上げようとした瞬間、左肩にナイフが突き刺さった。力の抜けた左手から銃が滑り落ち、ガシャン、と音を立てる。
「アホやなぁ、油断してる思うたんか?」
石田はだいたの肩を踏みつけ、ナイフを引き抜いた。痛みで体が引き攣り、後頭部が幹にぶつかる。
「ナメんのもたいがいにしぃや」
石田の足が傷を蹴り付ける。堪え切れず涙を流すだいたを見て、石田と山田は声を上げて笑う。
「もう強がりは終わりか?」
ナイフが左の頬を切り裂く。熱い液体がどろりと溢れて顎を伝った。
「ほら、テレビに映れん顔になるでぇ!」
右頬にも同様の傷が付けられる。
「やっ……、やめて」
やっとの思いで搾り出した叫びを、石田は鼻で笑い飛ばす。
「やめるかい。こっから先が最高のショーや」
だいたの鳩尾に向けてナイフが振り下ろされた。しかしそれは、だいたの皮膚を切り裂く事はなく、その紙一重の位置を滑り降りる。
切り開かれた衣服が大きくはだけ、だいたの素肌が晒された。
「ハハッ……わかっとるやろ? このバトルロワイアル、テレビ中継されとんのや。今、日本全国のお茶の間に、お前の裸が映されとるんやで?」
だいたは言葉にならない悲鳴を上げた。残った右手で衣服を掻き合わせ、大きく首を振る。唇だけがうわ言のように、もう、許してと繰り返していた。
「なんでやねん。ここまで来たら、もう最後までいったって同じやろ……なあ?」
石田の手は、ゆっくりとだいたの腰へと伸びていく。
だいたはきつく瞳を閉じ、全身の力を抜いた。抵抗なんて無駄なのだと、そう悟ってしまったから。
どこかでパン、と乾いた音が響いた。そして、石田の動く気配。
「なんやおま――」
「そっから離れなさい! 今すぐ!!」
この場にいなかったはずの誰かの声に、だいたは目を開いた。視界に入ったのは、体だけ振り向いた石田と、ボウガンを構えた山田、そして――
田上は震える右手に左手を添えるようにして、銃を構えていた。
一発目の衝撃がまだ残っている。当てるつもりはなく、警告のために真上に向けて撃っただけなのに――あれが人を殺せる武器だと認識した瞬間、恐怖が神経を伝って全身に巡った。
でも、逃げるわけにはいかない。見過ごすなんて出来ない。
田上はだいたに視線を送る。座り込んで震えているだいたは傷だらけで、切り裂かれた顔は、まるで血の涙が流れているようだった。
「あ、あんた、この子と同じになりたいんか!?」
山田はボウガンを田上に向けようとした。しかしそれよりも早く、銃弾が山田の右腕を抉る。
「あ、痛ぁっ!」
山田は悲鳴を上げてうずくまった。
「花子――てめっ!」
石田が立ち上がり、ナイフを振りかざして迫ってくる。
田上は迷わず引き金を引いた。石田がだいたにした事など、一目見ればわかる。石田の脇腹から鮮血が散った。しかし石田は、何事か喚きながらさらに突進を続ける。
紅く染まったナイフと石田の形相の恐ろしさに、思わず上げそうになった悲鳴を、田上は歯を食いしばるようにして耐えた。こんな所で「女」の自分を見せるわけにはいかない。
連続で引き金を引く。2度の銃声と、石田の叫び声。一呼吸置いて恐る恐る目を開けると、石田は胸から血を流し、仰向けに倒れていた。
「や、靖さん! 嘘やろ!?」
山田は既に動かなくなった石田に縋りつく。首輪は電子音を発していたが、山田はそれに構う事もなく、石田の名を呼び続けていた。
「靖さん……嫌や、こんなところで――」
首輪が爆発し、山田は石田の上に倒れ伏した。
「だいた!」
田上はだいたに駆け寄る。
「良かった、間に合って――」
「近寄らないで!」
突然、だいたが叫んだ。田上も、他の誰でも見たことのない、すさまじい剣幕だった。
「こっちに、来ないで……」
だいたの右腕が持ち上がる。
その手に握られた銃の、その先は、田上に向けられている。
「……どうして」
途惑いながらも、田上は足を止める。
「あ、あなたも……田上さんだって、同じでしょう?」
立ち尽くす田上にぶつけられた、ネタ中の口調からは想像も出来ない、高く、震えた声。
「私が、売れたから……エンタで有名になったから、妬んでるんだ」
「ちが――」
田上は否定しようとして、止めた。
震えて狙いが定まらない銃口と、涙すら枯れ果てたかのような真っ赤な眼。
今のだいたには、きっと誤魔化しは通用しない。
「――そうだね。そうかもしれない」
だいたが息を呑むのがわかった。
オンエアバトルで言えば、だいたは田上の後輩に当たる。だいたがテレビに出始めた頃の田上は、既に女ピン芸人でありながら何度もオンエアを獲得していた。
しかし、他でもないエンタによって、二人の立場は逆転した。だいたや青木、摩邪らエンタに推された芸人たちに、田上はあっという間に追い抜かされてしまった。
その事について、何も感じなかったと言えば嘘になる。
「だけど、一人で戦わなくちゃいけないピン芸人の気持ちはわかるよ。失敗して落ち込んだ時も、成功して妬まれる時も――いつだって孤独なのは、アタシも同じ」
田上は一歩だけ、だいたに近付く。
「だからさ、こうやって銃向け合うのは、やっぱおかしいって。こんな時こそ、一緒に戦わなきゃ――協力しなきゃ、生き残れないじゃない」
出会った人間全てを殺す事が、ピン芸人が生き残るための正しい方法だろうか?
田上にはそうは思えない。周りの人間全てを敵に回して、勝ち抜けるはずがないではないか。それに――田上は知っている。最大の敵は、孤独なのだと。
誰かと一緒に生き延びる事など出来ないのかもしれない。だけど、信頼できる仲間がいるなら――ほんの少しだけ、「この先」に希望が持てる。
「……田上さんは、怖くないんですか? 裏切られる事が」
「そりゃ怖いよ。でも――仲間がいないって事の方が、ずっと怖いね」
田上はだいたに背を向けたかと思うと、いきなり芝居がかった様子で振り向いた。
「あれっ、こんな所にいるじゃんちょうどいいのが! 良かったー、これでもう怖くない!」
田上の言葉に、だいたは微かに笑った。
「嬉しいです……そんな風に言ってもらえるなんて」
こんなに穏やかな気持ちになれたのは、久々のような気がする。
「私、ずっと一人でやってきたから……仲間だなんて言ってくれたのは、田上さんが初めてでした」
だいたは静かに、銃を握った右手を引き寄せる。
そして、自分のこめかみに当てた。
「ちょっ、何して――」
「でもやっぱり、あんな姿を日本中の人に見られて、生きている事なんて出来ない。たとえこのゲームで生き残ったって……顔の傷も、あんな事をされたって過去も、消す事は出来ないでしょう?」
ぽたり、と、紅い雫が顎から落ちる。赤黒く染まった頬の上に、鮮やかな紅色が一筋走っている。
あるいは――それは本当に、だいたの流した血の涙だったのかもしれない。
「だいた……」
田上は、両手を握り締めて俯く。
悔しかった。結局自分も無力なのだと、思い知らされたようだった。
けれど、どうすることも出来ない。一度起きてしまった事は、なかった事になど出来ないのだ。
このゲームで死んだ人間が、二度と生き返らないように。
田上はだいたに背を向ける。
「あたし、また、一人ぼっちだ」
だいたを責めるつもりはないけれど、呟かずにはいられなかった。
その言葉を、だいたがどう受け止めたのかはわからない。ただ、だいたの最期の言葉は、田上の耳にも届いていた。
「弱い人間で、ごめんなさい」
銃声が響くと同時に、田上は再び歩き始めた。
「残念だなあ、実に残念だ」
無数のモニターが並べられた本部の一室で、プロデューサーの五味はそう口に出した。
彼の視線は一つの画面に向けられている。何故かそこには何も映し出されておらず、灰色の砂嵐が延々と流れているだけだった。
「あれがきちんと映っていれば、高視聴率間違いなしだったのになあ」
その画面には、だいたひかると靖&花子、そして田上よしえの戦いをベストアングルで撮影したカメラの映像が映るはずだった。
しかし、五味の期待は思わぬ形で裏切られる。だいたが山田花子に向けて放った銃弾、反動のせいで大きく狙いからはずれたその弾が、隠しカメラに当たってしまったのだ。
そこから先は、当然映像を見る事は出来なかった。しかし、首輪には盗聴器が仕掛けられているから、音声を聞けばそこで起こっている出来事くらい容易に想像が付く。
普段のエンタならば当然放送出来ない内容である。しかし、バトルロワイアルをしている今なら――最大の禁忌であるはずの殺人ですら放送している今なら、あの出来事も視聴率上昇に一役買ってくれたに違いない。
いっそ音声だけでも流そうと提案したスタッフもいた。しかしその方法は、テレビの良さを最大限活かすという五味の信条に反していた。自分の信念を曲げる事は、五味にとって一番許せない事だったのだ。
「まあ仕方ないさ、生放送にハプニングは付き物だからな」
エンタ芸人の中でもわりあい知名度の高いだいたが、かなり早い段階で死んでしまったのは残念だが、視聴率を上げてくれそうな芸人はまだまだたくさんいる。プロデューサーが芸人一人の死をいちいち惜しんでいるわけにはいかないのだ。
「だいた抜きでも視聴率の上昇はすごいしなあ。どこまで行くか楽しみだ」
スタッフの一人に呼ばれ、プロデューサーはモニタールームを出て行った。
田上よしえは歩いていた。ただひたすら歩いていた。
右手には、残り一発になってしまった拳銃。
あたしはまた誰かを殺すのだろうか。今度は誰かを救えるだろうか。
武器がこれだけでは、生き残るのは難しいかもしれない。
どうせ残り少ない命なら、誰かのために生きて、誰かのために死のう――田上はそう決意する。
そして――出来る事なら、自分と同じピン芸人に、教えてあげたい。あなたは、独りじゃないってことを。
滲んだ視界を左手で擦る。
泣いてちゃ駄目だ、笑顔じゃなきゃ。明るく強気が田上よしえの良さなんだから。
「あたしは、諦めねーかんな」
空の彼方に向けるように、顔を上げて、田上は呟く。
「だから……出来れば、見守っててよ」
たった一人の仲間に向けて。
【靖&花子――死亡】
【だいたひかる――死亡】
【残り38組】
>>423-427に続く。
むちゃくちゃ長くなってしまいましたが、どうしても一気に投下したかったので…。
読んでくださった方、お疲れ様でした。
音さん、乙です!
一気に夢中で読んじゃいました
もう一度田上さんの話を読み返し、感動して泣いてしまいました…
今日何故かまとめサイトにログインしようとしてもできず、結局うpできませんでしたorz
現段階で103話です。100話超え、作者の皆さん乙です。
オリラジも名簿に加えとく予定です。残り40組もきったし(でもこれから途中参戦が3組ほどくkるかも)
完結目指してこれからもがんがりましょう。
「今思ったんだけどさ。」
ジャイがタバコの煙を吐き出しながら言った。
「一寸、耳貸して。」
ジャイは高橋の耳元に顔を寄せた。
「もしもの話だよ。もしプロデューサーの奴らがそこ迄考えていなかったら、このゲームを盛り上げるいいヒントをあげる事になっちゃうから。」
ジャイは、ここにも仕掛けられているだろうマイクやカメラに、声を拾われない様に、唇の動きを読み取られない様に、ひそひそ声で、口元を手で隠しながら言った。
「最後の一組迄殺し合えって奴ら、言ってたけどさ、最後の一組になったら、何が待っているんだろう?」
「え?」
「その最後の一組は、無事に家に帰してやるなんて、奴ら一言も言ってないよね。」
「...」
「最後の一組になったら、今度は最後の一人になる迄殺し合いをさせるとかさ、ピン芸人だったら、それはそれで別に新たな殺戮の場を設けるとかさ。公開処刑とかね。俺の、聞かれたらマズイ話は此処迄。」
今度は高橋が、ジャイの耳元に顔を寄せ、口元を手で隠し、ひそひそ声で話し始めた。
今野の承諾無しにこの話をするのは一寸躊躇ったが、思い切って話す事にした。
「俺と今野で最初に話したんだけど、このゲームをぶっ潰そうって。でもやり方がわからなくて、仲間を探してて。ジャイさん、この話、乗らない?俺も、聞かれたらマズイ話は此処迄。」
「いいのかよ、俺なんかが...俺、もう何人か殺して、番組にある意味貢献しちゃってるのにさ。」
もう此処から先はマイクで声を拾われても意味がわからないだろうと、普通に...と言っても小声で、何時もの笑顔を浮かべて言った。
だけど、その眼からは、闇しか見えない。だからこそ...高橋は力強く、でも小声で、
「だからだよ。それに死ぬのはジャイさんだけじゃないよ。」
「...そうだったな。俺も、今の所いい案は思い付かないけど。続きは、あいつらと今野君と合流してから、アジトで話そう。あの緑の家の中には、マイクもカメラも仕掛けられてないみたいだしな。」
三人も俺達も無事、生きて合流出来たら...二人共、そう思った。
「それにしてもジャイさんさあ...息がヤニ臭い。」
「悪かったよ。」
ジャイは又タバコに火を付け、不貞腐れ気味に言った。
今野、スギ、ゆうぞうは用心深く、緑の家に戻った。
用心しながら、ドアを開けた。家の中には、誰も居なかった。壁には、マシンガンの弾丸が食い込んでいたが。
「取り敢えず、二人を探さないと。」
今野が言った。
「ああ、俺達が生きている以上、二人共生きている事は間違いないんだけどな。何か手掛かりがあるといいんだけど。」
ゆうぞうが言った。
「此処の茂み、掻き壊されてるね。確か、高橋さんとジャイ、こっちの方へ走って行ったし。」
スギが見つけた。
三人は、茂みを抜け、道に出た。
が、道の左右、どっちの方向へ走っていったか、わからない。
「せめて、足跡でもあったら...」
とゆうぞうが言った。
「取り敢えず、こっちの方へ行ってみる?」
と言う今野に、スギが、
「否、こっちだ。多分これ、ジャイの血だ。あいつ、手怪我してたから。」
と、道にこびり付いている血痕を指した。
「もしかすると、はなわさん、この跡を着けて行ったかもしれない。」
三人は、無言で、でも襲撃に遭わない様気を付けながら、走り出した。
「そう言えば、顔の傷、綺麗に跡形もなく治ったね。」
高橋は右頬を撫でた。確かに、傷の凹凸もなく、何時もの肌だった。
「いやー、良かったね、せっかくの男前がねえ。」
「だーれーが、やったと思ってるんすか。」
「俺。」
「全く。それに相方がああだから、男前に見えるだけ。実際もてないし。タバコ、一本貰ってもいい?」
「あれ、タバコ吸わないんじゃなかったっけ?」
「うん...何となく吸ってみたくなってね。」
三人の事、それからさっきのジャイが言った事。高橋は不安感を紛らわせたくて、吸えないタバコを吸ってみたくなった。
中学の時以来だな、と高橋は思った。
ヤンキーになったり、暴走族に入ったり、シンナー吸ったりする程ではないが、一寸悪い事をしてみたくなる年代だ。
と言っても、仲間内で缶ビール一本位で盛り上がったり、拾って来たエロ本を見てわーわー言ったりと、大人になった今となっては、他愛の無い事だが。
その時も、試しにタバコ吸ってみて、思い切りむせて、吐き気がして、それ以来吸ってなかった。
そう言えば夜中こっそり家を抜け出して、白ポストの中を漁った事もあったな。そう思いながら、タバコに火を着けた。ゴミしか入っていなかったけど。
吐き気こそしなかったが、思い切りむせた。
「無理矢理タバコ吸ってる、中坊みたい。タバコなんて、おぼえない方がいいよ。」
むせながら高橋は、
「上から物言うね。」
咳が治まると、高橋が、
「この十年か二十年位で、白ポストって、見なくなったよね。」
「白ポストかあ...」
ジャイは遠い眼をした。
「あれでしょ、未成年に有害な書物・雑誌類は此処に捨てて下さいとか何とか書いてあるポストでしょ?で、漁ってみるとゴミしか入ってないの。」
「あ、ジャイさんもやったんだ。」
「大人になった今考えると、ゴミ箱代わりにされるの、当たり前なんだけどね。だからだろうね、白ポストなくなっちゃったの。」
それをきっかけに、二人は猥談を始めた。
白ポストで、何かコント出来ないかな...今の若い子にはわからないか。
ジャイはそう思った瞬間、はっとした。
俺...まだコントやりたいって思っているのか...あれだけ、人を殺しておいて。
否、今は考えるのをよそう。ジャイは気を紛らわす様に、敢えて猥談に意識を向けた。
高橋さんだって、不安で、走り出しそうな気持ちを紛らわす様に、猥談に意識を向けているんだから、と。
「あれ、あっちから走って来るの、今野君じゃない?」
今野、スギ、ゆうぞうが駆け寄って来るのが、見えた。
「本当だ。」
高橋は今野に駆け寄った。ジャイは涼しい顔をして座っていたが。
「良かった、無事で、本当に。」
喜ぶ高橋に今野はむっとした様な顔で、
「こっちは必死に探してたのに、何楽しげに話してたんだよ。」
スギは座っているジャイに駆け寄った。
「おせーよ。」
と言うジャイに、スギはツッコミを入れる時の様に頭を叩いた。
「お前の方からも歩み寄れよ。」
「ひでーな、怪我人に。」
「あ、そっか、怪我、大丈夫か?」
「今の、スギのツッコミの方が痛てえよ。」
今野は、高橋が持っているサブマシンガンに気が付いた。
「パーケン...」
「ん?」
「否、何でもない。」
何でそれを持っているの?誰か...多分はなわさんを、殺したの?その言葉を飲み込んだ。
五人は、緑の家に向かって、歩き始めた。
ジャイは今野の服の袖を引っ張って、他の三人に聞こえない様に声をひそめて言った。
「高橋さんは命がけで俺を守ってくれた。で、俺がはなわさんを殺した。」
それだけ言うと、ジャイは又涼しい顔をした。
それだけだと状況はわからない。でも、ジャイが何を伝えたかったのかは、わかった。だから今野はただ、こくん、と頷いた。でも、
「それにしてもジャイさんさあ...息がヤニ臭い。」
「悪かったよ。」
ジャイは不貞腐れ気味に言った。
>>853-
>>863 田上姐さん・・・。
音さん、乙です。
蛙さん乙です。
話の前に、前の話のアンカーをつけてくれたら嬉しいです。
どこからの続きか分かりやすいし…
音さん乙です。
田上さんやっぱ好きだー。
文章が普通にうまいです。
長文乙です。今後も頑張ってください。
蛙さん乙です。
続きが読めなくていいです。
今後も頑張ってください。
873 :
872:2005/09/24(土) 18:43:28
あ、勘違いしてたらごめんなさい。
>>蛙さん
先が読めない、ってことです。
874 :
アんガールズ:2005/09/24(土) 19:53:23
ジャンガジャンガジャンガジャンガ
875 :
IQ30:2005/09/24(土) 22:07:12
お笑いブームのさなか、お笑い芸人さんの名前と顔が一致し無いどころか
名前を聞いても顔を見ても判りません。
どうしたらよいのかアドヴァイスおねがいします。
>871さん
ありがとうございます。確かに、アンカーつけないと読みにくいですね。
次回から、そうします。
>873さん
勘違いしてませんでしたので、大丈夫です。
ありがとうございます。
>乃さん
まとめサイト更新、乙です。
何時もありがとうございます。
乙!
皆さん相変わらずいい文章書かれててとても読み応えがあります。
>>824から
「殺す前に、いっこ聞いときたいのがあんだけど。」
淡々とした口調で、阿部が言った。田中は、目の前の光景とその現実に頭が混乱し、阿倍の声は耳に入らなかった。
山根も、身動き一つとらずに堅く目を瞑っている。
「…吉田を連れて行ったのはあんたら?」
その言葉に少しだけ田中が反応し、顔を上げた。
よく見ると襲撃してきたのは阿部一人のようで、普通なら、ましてやこのゲームなら尚更隣に居るべきはずの相方の姿が無かった。
はぐれたのだろうか?“連れて行った”と言っていることからもしかしたら誰かに拐われたのかもしれない。
ただ、知っていると答えても、知らないと答えても、目の前の小鬼はためらいなく引き金を引いてしまうだろう。
…今の彼は、そんな奴だ。
(あー、もう駄目だ…!短い人生だったよ…)
「何だ、知らないんだ。…じゃあもう死んでいいよ。」
阿部が引き金に指を掛けた、その時、
「あ…わ、私っ……!」
友近が声を上げた。多少上ずっているものの、いつもの凛々しいはっきりとした声だ。
その声に阿部の指がぎりぎりで止まり、山根は恐る恐る眼を開けた。
息を整え、友近は続ける。
「私…知っとるよ。あんたの相方さんの居場所。…探してんのやろ?あの〜…吉田君を。」
「本当ですか…?」
僅かながら、阿部の目の色が変わった。彼も意外だったようだ。
「うん、だから、そこに連れて行ってあげるから、この子たちは見逃したってくれんかな…?」
田中と山根の視線が友近に向けられる。
「友近さ…」「えいから黙っとき」
ネタ中の極妻のようにぴしゃりと田中を叱咤する。
阿部は暫く眼を伏せて考え込んだ。そして、山根の頭からゆっくりと銃口の硬い感触が消えた。
それを見た田中は、阿部の気が変わらない内にと、山根の手をグイッと引っ張り、自分の後ろに隠した。
「…いいですよ。どうせこの人たち、ほっといても途中で死ぬのが眼に見えてるし。」
「良かった…助けてもらえるんやね…」
友近がほっとした表情を浮かべる。そして、立ち上がると、抱きかかえていた猫を山根の膝に乗せる。
猫は煩く鳴くこともなく、大人しかった。
「この子の事、宜しくね」
田中は、はっと息を呑んだ。自分たちは、彼女の機転のおかげで生き長らえることが出来た。しかし、彼女の方はどうなる…?
「待って…、待ってください!友近さん!」
友近はもう一度しゃがみ込んで「大丈夫」と手を振ると、外に出ようとしている阿部の目を盗んで、置いてあったサブマシンガンをこっそりナップザックの中へ忍ばせた。
「田中君、これ借りるで。あと、こっからはもう離れた方がええ」
そう言うと、友近は踵を返して阿部の元へ向かった。
森の奥へ消えていく阿部と友近の姿が点になって見えなくなるまで、田中と山根は声を上げる事もなく、力なく座っていた。
「みゃあ」
と、猫が一声鳴くと、山根はその小さな頭を撫でながら言った。
「女の子に助けられてしもうたなぁ…」
「言うな、それを。」
田中も、やっと言葉を紡ぐ。
「はあ〜……情けねぇ〜……」
二人の姿がこの建物から消えるのは、これから一時間も後のことだった。
保守age
>回さん
友近、男前やねぇ、いい意味で。
今後の展開が楽しみです。
書き手さん乙です!
ドキドキしながら読んでます。
個人的には次課長の続きが気になる…
>>793-795の続き。
再び島に静寂が訪れた。昼間だというのに少し薄暗い。
曇り空はまるで参加者達の心を映しているかのようだった。
無機質な金属の小さな小屋。
その扉が開き、中から姿を現した男の服は血で染まっていた。
マシンガンを片手に持ち、辺りを見回す。
あの放送に釣られてここへ来た者はどうやらいないようだ。
Diceは自分のナップザックから地図を取り出し広げた。
ここは放送室。ここから近くて人が密集していそうな場所は――。
次の計画を考えるDiceは、
たった今、レギュラーの2人をマシンガンで撃ち殺した罪悪感など微塵も感じていなかった。
むしろ久しぶりの殺人に快楽を感じ、次の獲物を求め人が溜まっていそうな場所を探していた。
優勝。
ただそれだけが彼の揺ぎ無い目標であった。
「!?」
地を踏むような物音に、素早く体を回転させマシンガンを構え引き金を引いた。
ぱらららららっ とリズミカルな音を発し、マシンガンが火を噴く。
もうこの衝撃にも慣れてきたところだった。
これくらいでいいだろう――。
そう思い発射を止めた銃口の先には蜂の巣になった塩コショーの2人が転がっていた。
「よし!次行くか!!」
撃ち殺したのは誰なのかの確認すらせず、Diceは立ち上がり動きだした。
――塩コショー死亡
【残り37組】
>>884 訂正。レギュラーも死んでたので
――レギュラー死亡 【残り36組】
でした。スマソ
>>883 次回は次課長らを書くのでお楽しみに。
といっても結構先になる予感。事情により、PCに触れる時間が激減するので。
でも今後も執筆は続けていくんでよろしくお願いします。
乃さん乙カレー!
レギュラーらしい死に方でした。
文才ありますね、読みやすいし、国語力があるなぁ…と関心です。
次回次課長楽しみに待ってます!!
>>885さん
えっと、ポイズン吉田くんは運よくDiceに気付かれることなくソファーに寝たままなのかな?
だとしたらその後の吉田クンの展開が面白くなりそう ワクワク
とりあえず乙です。
29スピードワゴン
9アンタッチャブル
14インパルス
26次長課長
42ドランクドラゴン
アメリカザリガニ
7アンガールズ
21キングオブコメディ
67ライセンス
4あべこうじ
8アンジャッシュ
47波田陽区
13インスタントジョンソン
61マギー審司
63南野やじ
51ハローケイスケ
62魔邪
69レム色
11いとうあさこ
2.赤いプルトニウム
3アップダウン
5アホマイルド
15エレキコミック
17ガリットチュウ
20キャン×キャン
31Dice
39テツandトモ
40東京ダイナマイト
41どーよ
43友近
45ななめ45゚
52ハローバイバイ
58POISON GIRL BAND
*南海キャンディーズ
*オリエンタルラジオ
計35組
うはwwww人数アワナサスwww
途中参加予定者:18KIN,くりぃむしちゅー,U字工事
上記3組足したら38(39?)
なんでエンタの神様なのにくりぃむが出るの?なんでもあり?
>>890 エンタ以外からの途中参加者もありなんだって
最初の方のレス読んだら多分あったはず
でも途中参加者なんていらないと思うけどね
結局書き手の自己満足なんだし
だったらエンタって囲わなくても良いんだし
892 :
名無しさん:2005/10/07(金) 12:34:52
くりぃむはエンタじゃないからここには書くなよ
エンタで囲う意味ないじゃん
>>892 禿しく同意。
くりぃむはエンタとはカテゴリ違う。
最終的には書き手同士の話し合いだってしなきゃいけないのに、これ以上に増やしたら(ry
894 :
プロデューサー ◆NejRXmXc5Y :2005/10/07(金) 18:01:01
2での番組特別ルール
「エンタに出演してない芸人も書き手がどうしてもというときに限り、
後から送り込まれてきた設定で登場可能」(無駄に人数を増やさない為)
エンタに送り込まれてくるのはエンタ芸人レベルの知名度の芸人。以上。
>>884 吉田サイド
耳をつんざくようなマシンガンの轟音に、吉田はハッと目を覚ました。
しかし怠さから身体を起こすことが出来ない。目をきょろきょろさせ、ようやく此処が建物の中だということに気付いた。
段々と五感がはっきりしてくると、硝煙の臭いが漂ってきた。それと同時に、ゆっくりとした革靴の足音も聞こえた。
足音は段々と近くなり、部屋のドアの前でぴたりと止まった。
……さっきマシンガンを撃った人物が、目と鼻の先に居る。
吉田がゆっくりと上体を起こした、その時――。
ガチャガチャと部屋のドアノブが乱暴に回された。だが鍵が掛かってあるのか、ドアは開かなかった。
それでもドアの向こうの人物は執拗に、先程より激しく、苛ついたようにドアノブを回し続ける。
吉田は恐怖からうっかり声が出ないように、慌てて手で口を押さえ息を潜める。
気付かれたら最後、助からない。
――ドンッ!
「………っ!」
今度は大きな打撃音と共に、ドアが大きく軋んだ。思わず立ち上がり後ずさりをすると、ソファの腕に躓き尻餅を着いた。
その状態のまま尚も後ろに下がると、壁に背中が当たった。扉の向こうから足で蹴っているのだろう。
何度も、何度も蹴られたドアは、次第にヒビが入り、木屑が散り、白いペンキの塗装が振動に合わせて剥がれていく。
メキメキ、と音を立て壊れていくドア。多分もう二、三発蹴りを入れれば、完全に壊されてしまうだろう。
ドアが壊れていく音に、吉田は目を瞑り耳を塞いだ。心臓が今まで経験したことが無いくらいに大きく響く。
すると突然、ドアを蹴る音がぴたりと止んだ。
ちっ、という舌打ちと共に、再び足音がし、階段を下りる音が聞こえ、段々遠ざかっていった。
どうやらあと少しの所で諦めたらしい。
助かった―――?
静寂が訪れた部屋の中で、吉田は乱れた息を整えながら何とか精神を落ち着かせようとした。
ふと、二つ隣の部屋から物音が聞こえた気がした。
脱水症状で一時的に弱った身体を何とか支えながら部屋を出ると、そこには血の足跡があった。
吉田はその足跡をゆっくり目で追う。一つの小さな部屋からその足跡が始まっていた。
その部屋のドアは開けっ放しで、生臭い血の臭いが廊下中に広がっていた。
手で壁を伝いながらよろける足を引っ張り、部屋の中を覗いた。そこには、二人の人間が椅子に座っていた。
「あ……松本さん、西川さん!」
椅子に座ったままぐったりとしている二人に駆け寄り、身体を揺する。
「松本さ、……っ!」
ぬるりとした感触が手を伝い、驚いて自分の手の平を見る。
そこには、赤黒い血がべっとりと付いていた。
吉田は息を呑み、ゆっくり手から視線をずらしその光景を見つめた。
身体に無数の穴を開けられ、机に突っ伏しているレギュラーの二人。自分を此処まで運んできてくれた人たちだ。
床には大きな赤い水溜まりが出来ており、机の端からピチャン、ピチャンと血が滴り落ちている。
壁やガラス窓には血の手形がいくつも付けられ、苦しんで死んだであろう形跡が残っていた。
そして、ようやく吉田は二人が「死んでいる」事に気付いた。