お笑いバトルロワイアル〜No.10〜

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368佐木ビデ男 ◇9Ce54OonTI

 心に残る小さな棘のような痛みと、静かに気持ちが湧き立つようなキスの思い出。そのふたつを抱えて、あたしは新しい制服に身を包んだ。
 朝のラッシュは相変わらずで、乗る路線が変わっても、いい勝負の混雑加減。痴漢に遭遇する機会もそれなりに。

 タン、タタン、ガタタン、ガタン。
 密着する車内。息苦しいほどの人いきれ。既視感がふつふつと湧いてくる。
 さわっ。
 スカートの端に手がかかる気配。強引なやり方に眉をひそめ、嫌悪すら感じてしまう。
 そんな簡単にあたしに触れてはダメなの。嫌っ。
 沸きあがる怒りと忌避感で頭が沸騰していく。ぎりっ。スカートに伸びた手の甲を軽くつねった。それでも怯まず進んでくる指に脅えながら、誰だかわからない手に、爪の先をきりきりと食いこませる。諦めたように去っていく指に、ほっと小さく吐息を漏らした。
 身動きするのもままならない空間で、あたしが体を開く相手はこの世界のどこかにいるんだろうかと夢想する。きっとどこかに。
 母が好んで聞いていた歌の一節を思い出す。