【石の力】もし芸人に不思議な力があったら【開放】

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1名無しさん
前スレ
http://tv6.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1080226867/

まとめサイト
http://risus.ifdef.jp/index.htm

・芸人にもしもこんな力があったら、というのを軸にした小説投稿スレです
・設定だけを書きたい人も、文章だけ書きたい人もщ(゚Д゚щ)カモォン!!
・一応本編は「芸人たちの間にばら撒かれている石を中心にした話(@日常)」ということになってます
・力を使うには石が必要となります(石の種類は何でもOK)
・死ネタは禁止
・やおい禁止、しかるべき板でどうぞ
・sage必須でお願いします
・職人さんはコテハン(トリップ推奨)
・長編になる場合は、このスレのみの固定ハンドルを使用する事を推奨
2名無しさん:04/11/04 02:29:43
(書き手さん用)
・石や能力はなるべく被らない様に(番外編ならば多少被ってもOK)
・文中で新たな能力が出た場合は、必ず最後に記すこと
・文の最初にレス番号をつけて、何処からの続きなのか明記すること
・微妙な表現(痛々しい場面など)が出る場合は、前もって表記してください
・初投下の人はまとめサイトなど参考にして雰囲気とか掴んでみたらいいかも
・設定は強すぎたりとかは無しで。条件などを付けてバランス良く
・これどうよ?とか思ったりしたら、聞いてみたりしてください
(書きたい芸人さんや力などが既出かとか。)
・設定の形式は↓な感じで
例)
井戸田潤(スピードワゴン)
石・・・・シトリン←宝石言葉が「勇気」や「陽気さ」など太陽っぽい
能力・・・・自分が納得できないことが起こったとき(例えば仲間が自分を庇って倒れるなど)「アタシ認めないよ!」でそれが起こる前まで時間を戻せる。
    体力が満タン状態なら「無かったこと」にもできる(庇って倒れても傷を負っていないとか)くらい強力。
条件・・・・ものすごくパワーを使うので一日に何度も使えない。数回が限度。
    パワーが尽きる(使いすぎる)と発動しない。または戻る時間が極端に短くなる。
    そして自分が本当に納得していない事ではないと力が発動できない。
    (例えばトランプで自分の手札が悪くて負ける→敗因を納得しているので発動しない
     こっちが勝ってるはずなのにイカサマで負ける→納得できないので発動して勝負の前に時間が戻せる)
3名無しさん:04/11/04 02:30:30
以下はスルーしても構わない設定です。
・一度封印された石でも本人の(悪意の無い)強い意志があれば能力復活可能。
 暴走する「汚れた石」は黒っぽい色になっていて、拾った持ち主の悪意を増幅する。
 封印されると元の色に戻って(「汚れ」が消えて)使っても暴走しなくなる。
 どっかに石を汚れさせる本体があって、最終目標はそこ。
・石の中でも、特に価値の高い(宿る力が高い)輝石には、魂が宿っている(ルビーやサファイヤ、ダイヤモンド、エメラルドなど)
 それは、古くは戦前からお笑いの歴史を築いてきた去る芸人達の魂の欠片が集まって作られたかりそめの魂であり、
 石の暴走をなくす為にお笑い芸人達を導く。
・石の力は、かつてない程に高まった芸人達の笑いへの追求、情熱が生み出したもの。
 持ち主にしか使えず、持ち主と一生を共にする(子孫まで受け継がれる事はない)。
・石の暴走を食い止め、封印しようとする芸人たちを「白いユニット」と呼ぶ。
 逆に、奇妙な黒い欠片に操られて暴走している芸人たちを「黒いユニット」と呼ぶ。
 (黒い欠片が破壊されると正気に戻る。操られている時の記憶はなし。) 
4名無しさん:04/11/04 02:31:03
以下はスルーしても構わない設定です。
・一度封印された石でも本人の(悪意の無い)強い意志があれば能力復活可能。
 暴走する「汚れた石」は黒っぽい色になっていて、拾った持ち主の悪意を増幅する。
 封印されると元の色に戻って(「汚れ」が消えて)使っても暴走しなくなる。
 どっかに石を汚れさせる本体があって、最終目標はそこ。
・石の中でも、特に価値の高い(宿る力が高い)輝石には、魂が宿っている(ルビーやサファイヤ、ダイヤモンド、エメラルドなど)
 それは、古くは戦前からお笑いの歴史を築いてきた去る芸人達の魂の欠片が集まって作られたかりそめの魂であり、
 石の暴走をなくす為にお笑い芸人達を導く。
・石の力は、かつてない程に高まった芸人達の笑いへの追求、情熱が生み出したもの。
 持ち主にしか使えず、持ち主と一生を共にする(子孫まで受け継がれる事はない)。
・石の暴走を食い止め、封印しようとする芸人たちを「白いユニット」と呼ぶ。
 逆に、奇妙な黒い欠片に操られて暴走している芸人たちを「黒いユニット」と呼ぶ。
 (黒い欠片が破壊されると正気に戻る。操られている時の記憶はなし。) 
5名無しさん:04/11/04 02:33:39
現在の書き手さん ()内は出演中の芸人、?は名前未登場芸人、「」は登場予定
本編
オデンヌ ◆RpN7JISHH. さん(ダンディ坂野、スピードワゴン、中川家、「長井秀和」、「劇団ひとり」)
じゃあちょっとためしに ◆dRwnnMDWyQ さん(CUBE)
619 ◆QiI3kW9CIA さん(品川庄司)
カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw さん(カンニング)
156=421 ◆SparrowTBE さん(麒麟、いつもここから、友近)

番外編
現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 さん(ダンディ坂野、あばれヌンチャク、ビッキーズ、スピードワゴン、おぎやはぎ、ダウンタウン浜田)
ピン芸人@692 ◆LlJv4hNCJI さん(長井秀和、劇団ひとり、波田陽区)
6名無しさん:04/11/04 02:34:44
登場芸人  番外編登場芸人、本編の芸人の能力等の詳細はまとめサイトで
()内は石
本編
・あばれヌンチャク 斉藤(タンザナイト)/竹内(ブルーゴールドストーン)
・アンガールズ 田中(ハウライト)/山根(アベンチュリン)
・アンジャッシュ 児島(オパール)/渡部(水晶(透明))
・アンタッチャブル 山崎(シェルオパール)/柴田(ファイアオパール)
・いつもここから 山田(グリーンフローライト)/菊地(ツァボライト、アイオライト)
・江戸むらさき 野村(バイオレット・サファイア(甲))/磯山(バイオレット・サファイア(乙))
・エレキコミック 今立(ウレクサイト)/谷井(ピンクトルマリン)
・おぎやはぎ 小木(トルマリン)/矢作(ラリマー)
・カンニング 竹山(ルビー)/中島(サファイヤ) 
・CUBE 石川(ウォーターメロン・トルマリン)/和田(?)
・麒麟 川島(黒水晶)/田村(白水晶)
・くりぃむしちゅー 有田(パイライト)/上田(ホワイトカルサイト)
・号泣 赤岡(黒珊瑚)/島田(白珊瑚、虫入り琥珀)
・さくらんぼブービー 鍛冶(オキニス)/木村(カーネリアン)
・品川庄司 品川(ラブラドライト)/庄司(モルダヴァイド)
・スピードワゴン 井戸田(シトリン)/小沢(アパタイト)
・ダンディ坂野(花崗岩)
・友近(レッドベリル)
・中川家 剛(キャッツアイ)/礼二(アレキサンドライト)
・ドランクドラゴン 塚地(ヘマタイト)/鈴木(ジャスパー) 
・南野やじ(クリソプレース)
・?("Violet Sapphire")(インカローズ)
・?(エレキ短編)(モルダバイト)
7名無しさん:04/11/04 02:35:53
設定のみ投下済みの芸人、石(スルー可)
()内は石
・三拍子 高倉(アポフィライト)
・テツandトモ テツ(トパーズ)/トモ(アクアマリン)
・東京03 飯塚(アウイナイト)/豊本(ブルータイガーアイ)/角田(ラピスラズリ)
・バナナマン 設楽(ソーダライト)/日村(スモーキークォーツ)
・ヒロシ(カンラン石)
・ラーメンズ 片桐(カオリナイト)/小林(トルコ石)

以上です。これら以外は以前の(<<808、809)で。
ちなみにあばれヌンチャクと南野やじは「やっくんを止めろ!」より、です。
8名無しさん:04/11/04 02:44:42
以上、テンプレ作成&修正した方お疲れ様でした。
何とか立ててみたのですが、初だったもので一箇所ミスってしまいました。

これでも良かったら使って下さい。
9名無しさん:04/11/04 04:04:08
乙です!全然大丈夫ですよ!
初スレ立ておめ
10名無しさん:04/11/04 15:49:31
一乙カレー
11名無しさん:04/11/04 17:17:03
乙!
12名無しさん:04/11/04 18:15:32
乙です!
13名無しさん:04/11/04 18:34:39
リアルタイムで乙って言ってもらえて感動…
書き手の皆さんガンガです狽пi・∞・)
読み手の方も応援頑張って下さいなw

ちょっと思ったのですが…
向こう幾つまで埋めてからこっちに移動するか決めた方が良いのでは?
14名無しさん:04/11/04 22:36:55
お疲れ様です!!
ありがとうございます
15名無しさん:04/11/05 19:35:43
>>13
微妙ですね。何気に埋めは↓と禁止されているし、
かと言って落ちるのを待つのも何となく怖いような…。前スレはもうだいぶ下の方にあるんで、
新スレに書くように決めれば自然に落ちるんじゃないかなぁ、と思ったりしますが…。

http://www.2ch.net/accuse2.html
6 荒しの定義  何を以って荒しと認定するかについての問い合わせには基本的にお答えしません。
ただし自動的にスクリプトで判断しているわけではありません。
くれぐれもコピー&ペーストを執拗に繰り返したり、同内容の繰り返しを執拗に張りつけたり、
可読性を損なうことを目的に書き込みを繰り返したりしないように注意してください。次項にもありますが、
容赦なく対処します。保守荒らしや埋め立て、1000取りも無駄にサーバリソースを消費する行為なので、禁止します。
16名無しさん:04/11/06 12:17:47
保守
17名無しさん:04/11/06 12:37:50
前スレ
関西vs関東若手漫才対決勃発殺人事件前編予告編
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1080226867/
18名無しさん:04/11/06 12:39:37
>13
>15
★ 倉庫格納 ★ 
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/saku/1047244816/
ここに依頼するのも手だと思います。
19名無しさん:04/11/06 12:59:30
さっき初めてこのスレを見つけたけど、すごく面白くてびっくり。
何だか読んでてわくわくするね
20名無しさん:04/11/07 11:25:26
とりあえず、前スレよりはあげておきます。
21お試し期間中。:04/11/07 16:56:11
アンジャッシュ渡部→今までの能力+相手の精神に直接入り込んで語りかけることが出来る。
ただし、相当な精神力を要する為使用後回復に丸一日かかる。
インジョンは黒い石の効果で前レス915・916の効果ということにしておいてください。
アンタッチャブル・アンガールズは今までに出ている設定でお送りします…




男は先程から楽屋の前で聞き耳を立て、室内の様子を窺っていた。
中からは撮影本番前の緊張感の中、最後のネタ合わせをしている芸人達の声が聞こえてくる。
スタッフとしてこのスタジオに送り込まれた男の使命は、
ある石に眠る悪意を目覚めさせる切欠を作る事。
事前に黒い欠片の影響を受けた石を持たせた芸人は既に楽屋に潜り込ませてある。
後は自分がいつ合図を送るか、それだけだ…


本番前の騒々しい楽屋の彼方此方で芸人達はネタ合わせをしている。
「…いい加減にしろっ!」「「ありがとう御座いましたー…」」
「よっし。時間はピッタリだから、これで本番もいけるだろ」
「此処もう少し直した方が良いんじゃね?」
まだ駆け出しの若手芸人達が最後の最後まで念入りに打ち合わせをしている中、
部屋の隅のほうに腰掛けて室内をじっと観察しているトリオが居た。
社交的なイメージの芸人なだけに、彼らを知っている者は少なからず違和を覚えていたが、
もしかしたら腹の調子が悪いだけかもしれないと、特に声を掛ける様な事もしなかった。
22お試し期間中。:04/11/07 16:56:48
「あいつらどうしたのかな。三人揃って何か暗そうだけど…」
部屋の隅の三人組が気になる様子のアンジャッシュ児嶋が相方にポツリと言った。
「さあな。何か悪いモンでも食ったんじゃねーの?」
俺に訊かれてもな、と言った様子で渡部は適当に返事をする。
「それよりも俺が気になるのはあっちだよ…」
渡部の視線の先には傍から見て一目で判るほどキレかけているアンタッチャブル柴田と、
申し訳無さそうに縮こまりながらネタ合わせをしている相方山崎の姿があった。
「また山崎やっちゃった?有田さん…かな」「…だろうね。」
山崎がくりぃむしちゅーの有田と仲が良いのは有名な話。
酷い時には仕事よりも有田との約束を優先させたこともあったらしい。
本番が迫っている為に、遅刻した山崎への柴田からのお叱りは後回しにされたようだ。
営業でやり慣れているネタを、番組用に時間調整している。
その近くで後輩のCUBEがネタ合わせしているのも見えた。
久しぶりのTV出演に張り切っている様だった。
「俺らもちゃんとやっておかないとな」
ああ、と児嶋は短い返事をし、ネタ帳を広げている渡部の方へ向き直った。

ドアがノックされ、芸人達は一斉に其方へ視線を向ける。
ガチャリと楽屋のドアが開けられ、スタッフらしき男が顔を覗かせた。
「本番20分前でーす」
静まり返った楽屋に響いた声に、芸人達が了解の返事をしようと口を開きかけた瞬間、
突如床がグラリと揺れた。地震のようにグラグラと大きな揺れが続く。
(石が…反応している…?)最近芸人の間で出回っている不思議な能力を持った石。
渡部はペンダントにして持ち歩いている自分の石に手をやった。
触れてみるとそれは自分が能力を発動させていないにも拘らず、
じわりじわりと厭な波動を発していた。
(この揺れは…誰かが能力を使っているのか…)渡部は室内の芸人達の動きに目を凝らした。
それが普通の地震ではなかったと気づいた者は自分以外にも居たようだ。
揺れが収まった後、児嶋をはじめ渡部が知っている石の能力者達が室内を厳しい目で見回していた。
23お試し期間中。:04/11/07 16:57:49
先程の男が部屋の入り口で叫んでいる。
「スタジオのセットが崩れて作業していたスタッフが足を挟まれました!!人手が足りないんです…
手を貸して頂ける方は来て下さい!!次の揺れが来る前にどうにかしないと危ないんです!!」
こうすれば力を感じた者は能力者を止める為にこの部屋に残るだろう…
その為に能力を使う時にワザと他の石へ働き掛けるように仕向けたのだから。
男は我ながら素晴らしい作戦だと、心の中でほくそ笑んだ。
駆け出していく若手芸人達を追いかける振りをして、室内から見えない位置に隠れる。
そっと中を窺うと、残ったのはアンジャッシュ、アンタッチャブル、アンガールズの3組。
能力者である彼等は一斉に部屋の隅の方を睨み付けていた。

「あんた達が…やったのか?」柴田が恐る恐る問いかける。
其処にはニヤリと不敵な笑みを浮かべているインスタントジョンソンの三人が立っていた。
渡辺の右手には黒と緑の混ざる濁った光を放つアマゾナイト。
暫く沈黙が続いた。
(何故この三人が黒いユニットに?)渡部は突然のことに困惑する。
「スギ、ゆーぞー。この石すごいっしょ?もっかい地震創ろうか?」
沈黙を破ったのは渡辺の自慢げで、無邪気そうな言葉。
「別に良いけどさ、それやっちゃうとスタッフの人が危ないんじゃなかったっけ?」
杉山が、冗談でもツッコミとは言えないような返事をした。
「そっかー…関係ない人やっちゃうと怒られるからね。止めとくよ」
残念そうに言うと石を持った右手をぎゅっと握る。
24お試し期間中。:04/11/07 16:58:31
あまりにも普通な調子で繰り広げられる普通じゃない会話に、6人は呆気に取られていた。
「あんまりのんびりしてる暇ないよ。ほら、早く早く」佐藤が後ろから渡辺を急かす。
「わかってるって、全員倒しちゃえばいいんでしょ?スギ、準備できたよ」
渡辺の言葉に杉山が無言のまま一歩前へ出る。
胸元に下げた石からは紅色と黒の混じった光が放たれ、杉山の全身を包んでいた。
その手には渡辺の能力で創り出した金属バットが握られている。
「やる気ならこっちも無抵抗って訳にはいかないな…」
三人に最も近い位置に居た児嶋は、渡部に目で合図を送ると袖を捲って臨戦態勢をとった。
「金属バットだなんて、ベタな凶器だなぁオイ」
完全に自分の問いかけを無視された柴田が、つまらなそうに呟いた。

「なんか、ヤル気みたいですね」 「やるしかないみたいですよ、皆さん」
コントのときの空手の構えをしているアンガールズの二人に、渡部が後ろから声を潜めて言った。
「彼らの能力がまだ良く判らないから、慎重に行きたい。
君達の能力は彼らを傷つけずに石を奪うのに必要だから、ちょっと下がっていて欲しいんだ」
成る程、と納得した二人は構えを解いて一歩後ろに下がる。
渡部はあの計算しつくされたコントを創り出す頭脳をフル回転させ、この非常事態を
どう切り抜けるかを考える。(先ずは三人の能力を知るのが先決だ…児嶋、頼んだぞ)
「あんまり考えてる暇なんてないんじゃないの〜?」
佐藤の声とともに、杉山が一番近い位置に居る児嶋に向かって駆け出した。
「「児嶋さん危ない!!」」アンタッチャブルの二人が揃って叫んだのとほぼ同時に、
杉山のバットが児嶋目掛けて振り下ろされる。
「…え?」児嶋は何故かその攻撃を避けようともせず、後ろを振り向いた。
25お試し期間中。:04/11/07 17:00:14
メキ、と妙な音がした。確かに自分の攻撃は当たったと杉山は確信していた。
だが手応えがなかった。目の前には殴った筈の児嶋が突っ立っている。
児嶋の立っていた床にバットがめり込んでいるだけで、本人には全くダメージが無い。
「そーいや、児嶋さんの石って…」山崎が思い出したように手を叩く。
「なんか、無駄に叫んじゃったみたい」柴田は安心して苦笑いを浮かべた。
「馬鹿にしやがって…くそっ!」拉げたバットを床に残し、杉山が児嶋に殴りかかる。
「え?」再び驚いた表情をした児嶋の腹をすり抜けた杉山の拳は、近くにあった机にめり込んだ。
「なにアレ!お化けみたい!!」後ろから見ていた渡辺が驚きの声を上げる。
「キャラが薄いからって、やりすぎじゃ〜ん」
児嶋がムッとした表情で佐藤を見遣りほっとけ、と呟いた。
(スギは肉体強化…成る程ね。後はゆーぞーだけか。一体どんな能力を…)
そのやり取りを見ていた渡部は、打開策を必死に考える。

「このっ!」児嶋は隙を突いて杉山のわき腹を殴りつけたが、
「いっ…てぇ」強化された体にはダメージを与えられず逆に腕を痛めてしまった。
机から拳を引き抜いた杉山が、躍起になって次々と児嶋に殴り掛かる。
石の能力で避け続けてはいるものの、攻撃向きな能力ではないため児嶋は反撃が出来ない。
「ったく…どうすりゃいいんだよ!殴っても全然効いてねーみたいだし
…避けてばっかじゃ何も出来ねーよっ!」傍から見ても児嶋の著しい体力消費は明らかだった。
杉山の方は疲れも見せず、まるで無限にエネルギーが湧き出ているかのような動きを見せる。
「児嶋さんっ!!俺も手伝います!!」見兼ねて柴田が石を掲げた。
「悪ぃな柴田、助かるよ」
柴田の石から放たれた赤い光は児嶋の体を包み、児嶋のパワーを回復させる。
「何の目的で俺らを襲ってるわけ!!?黒いユニットなんかに操られて情けないとか思わないの!!?」
正気に戻せるかもしれないと、石の能力を上げていつも以上のテンションで噛み付くように吼えた。
「…別に?」帰ってきた杉山の返答は、呆気なくその可能性を打ち消した。
26お試し期間中。:04/11/07 17:01:21
(やはり石を奪うしかない。このままじゃ埒が明かないな…あの二人に仕掛けてみるか)
渡部は山崎に歩み寄ると小声で耳打ちした。
「児嶋達がスギをひきつけている間に、ジャイとゆーぞーの上に何か出してみて」
小さく頷いた山崎は息を吸い込み、二人に向かって大声で叫んだ。
「一万円からのおつりです!」途端に二人の頭上に大量の小銭と桜えびが出現した。
「うっわ、生臭っ!」渡辺が慌てて石を掲げ何かを作り出そうとするも突然のことに形にならず、
それらは二人に一気に降りかかった。
「ありがとちゃ〜ん」佐藤のお決まりの言葉が何故このタイミングで…
渡部のそんな疑問は直ぐに解決されることとなった。
山崎の能力で召喚された大量の小銭と桜えびはその言葉を合図に、
青い光に包まれたかと思うと一瞬で佐藤の持っている石に吸い込まれていった。
「エネルギー吸収…これまた厄介な能力だな」渡部は忌々しそうに舌打ちをした。
(一人一人止めていくしかないか…)渡部が田中に声を掛けようと三人から目をそらしたとき、
「よそ見してる余裕は無いんじゃな〜い?」青いレーザー状の光が渡部目掛けて発せられた。

「渡部さん!!」山根が声を張り上げたのと、ゴッと鈍い音が響いたのはほぼ同時だった。
佐藤が放ったレーザーは渡部を傷つけることはなかった。攻撃が体を「すれ違って」いたのだ。
自分を通り過ぎた青い光、そして同時に響いた鈍い音。
「まさか…」渡部の嫌な予感は的中した。
音をした方を見ると、杉山の拳が児嶋の腹に思いっきり食い込んでいた。
「っ…ぐ、ぁ」児嶋は呻き声を上げ、ズルリとその場に崩れ落ちる。
「児嶋さんっ…くそっ!」慌てて駆け寄ろうとした柴田であったが、数歩前に出たところで
自分の能力では太刀打ち出来る筈が無いと、踏みとどまり悔しそうに杉山を睨み付けた。
「あんた今自分がなにやってるか分かってやってるわけ!?」
喉が嗄れんばかりの大声で怒鳴りつける柴田。
「…っ」一瞬、黒い光にのまれている杉山の石本来の紅の輝きが増した気がした。
心なしか杉山が苦しそうな表情を浮かべている様にも見える。しかし直ぐにまた元の無表情に戻り、
「手間掛けさせやがって」床に蹲る児嶋の身体を蹴飛ばした。
27お試し期間中。:04/11/07 17:03:00
「レーザーなんて反則でしょ…」呆然とした山崎が呟いた。
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ!!次来たらどうするんだよ!ボケッとしてんじゃねぇ!!」
柴田は佐藤を睨みながら弱気な相方を一喝した。
「ゆーぞーもう一発行けそう?」渡辺は佐藤の手元にある青黒い光を放つジルコンを覗き込んだ。
「んー…今ので全部みたい」もう出ないねー…またエネルギー吸わせなきゃ、と
緊張感のない会話をする二人。冷静にその場を見ていた田中が口を開いた。
「大丈夫みたいですよ柴田さん。どうやらあの光線は自分達だけじゃ出せないみたいです」
「さっきの光線は山崎さんのエビと小銭だったって事?」山根は不思議そうに田中に訊ねる。
「まぁ…そういうことになるね」田中がめんどくさそうに答える。
「ちょっとそのあたり詳しく聞かせ…」「あ゛――もう!」
下らない山根とのやり取りにヒステリックになった田中は、
「どうしてお前はそうどうでもいいところで食いついてくるのっ!!」
いつものコントの調子で山根の頭をバシバシと叩いた。

「児嶋…おまえ俺の為なんかに何やってんだよ…」怒りを露にした渡部の声に田中は動きを止めた。
渡部の拳は力を込め過ぎて指が白くなっている。俯く渡部に掛ける言葉も無く周りの4人は黙り込む。
「次は誰だ?時間がないんだ…そろそろ、行かせてもらうぞ」
痺れを切らした杉山が石の力を発動させる。

「何とかあの石を奪いさえすれば終わるのに…」
柴田は悔しそうに呟いて、自分の石に視線を落とした。
先程の児嶋への加勢で、自分の体力もかなり消費されている。
どっちにしろ、自分の石の能力がこの状況でそれほど役に立つとは思えなかった。
以前、黒いユニットに操られて襲ってきた連中をこの石の力で解放した事があったが、
先程怒鳴り付けたときの反応から今回は通用しないことは分かっていた。
それでも、近づいたときは確かに反応があったことを思い出し、
直接触ったら…もしかしたら、という気持ちが柴田にはあった。
28お試し期間中。:04/11/07 17:04:03
「山崎…ちょっといいか?」柴田は相方に、
この状況を突破するために今自分が出来る最良と思われる作戦を耳打ちした。
「そんなの、危ないから止めた方が良いって…早まらないでよ」
あまりに強引で無茶な作戦に、流石の山崎も慌てて止めようとする。
「上手くいけば敵が一人減るんだからいいだろ?失敗しても役立たずが一人減るだけだ」
柴田は既に覚悟を決めたようだった。俯く渡部に声を掛ける。
「渡部さん…俺の力、もう他の石回復させるのも無理っぽいんで、後はお願いします」
「柴田、それってどういう意味?」渡部が顔を上げる。柴田は答えずに背を向けた。
「失敗したらヤバイって!やめなよ柴田!」
日ごろから無茶なことを言う相方を、この時ばかりは無理やりにでも止めようと、その肩に手を伸ばす。
山崎の手が触れる前に柴田は走り出していた。その先には禍々しい赤黒い光を纏った杉山の姿。

「おいっ!何のつもりだよ柴田!!?」突然のことに声を荒げる渡部。
「無茶だ!!」「柴田さんっ!?」アンガールズの二人もこの柴田の行動には驚き、叫び声を上げた。
「気でも狂ったか?…まあいい、来るなら来い!」ニヤリと口元を歪め、拳を掌にバシッと打ち付ける。
「ケリつけてやらぁ!!覚悟しろっ!!!」普段以上にテンションの高い柴田の、気迫のこもった叫び声。
あっという間に二人の距離は縮まり、杉山の拳が柴田目掛けて振り下ろされる
柴田は飛んできた拳を寸でのところで交わし、杉山の懐に潜り込む。
目の前に揺れるのは杉山の首から下げられたアゲート。
黒く染まった石の嫌な感覚を振り切り、覚悟を決めて両手で掴み握り締めた。
「っの…離れろ!」グッと襟元を掴まれ足が床を離れる。
「…うぁ…」悪に染まった力が、石を握り締めた手から全身へと広がる。
こみ上げてくる吐き気と頭痛を抑え、最後の力を振り絞り思い切り叫んだ。
「いい加減に…しやがれぇっ!!」
その瞬間辺りをファイアオパールの赤い光が包み、
電気がショートしたような火花が散った。咄嗟に周りの6人は目を閉じる。
29お試し期間中。:04/11/07 17:04:49
暫くして辺りの空気が静まりかえると、山崎は恐る恐る目を開けた。
そこには気を失って倒れている杉山と柴田の姿。
そして真っ二つに砕けた黒いガラスの様な欠片と、本来の紅色を取り戻したアゲートの輝きがあった。

「まだ4人も残ってるのぉ?お疲れちゃんにはまだ早いじゃな〜い」
「あーあ。スギやられちゃったね…でも、まだこれからだよ」
めんどくさそうに立ち上がった渡辺の右隣には、床に倒れている杉山とは別の杉山が立っていた。
「…まじかよ」まさか人間まで複製するなんて…やっと敵が二人に減り、
なんとか反撃の手立てを思いついていた渡部は、予想以上の「黒い欠片」の力に呆然となった。
「ずっと一緒にやってきたんだからさ、これくらい出来ても変じゃないよね?」
渡辺が得意そうにニッと笑顔を浮かべた。
「スギ、頑張ってね」渡辺が自分の創りだした杉山の肩をポンと叩くと、
無表情のままの杉山のコピーは猛然と渡部に襲い掛かってきた。

「んな人形にやられてたまるかよっ…」
渡部は山根に目で合図を送り、突如杉山に背を向けて走り出した。
「あれ?逃げちゃうの?みっともないなぁ」
クスクスと笑いながら渡辺は渡部達の方へと歩み寄ってくる。
いつの間にか渡部は部屋の隅に追いやられていた。じりじりと近づいてくる杉山。
「ほら、君達も手助けしなきゃ。後ろからぶん殴るチャンスじゃない?
最も、そんなことやられたって全然効かないのは分ってるんだろうけどね」
山根はへらへらと笑っている渡辺を警戒しつつ、ゆっくりと杉山の背中に忍び寄った。
感情も感覚も存在しないらしい彼には、後ろに近づいてきた山根の存在にすら気がつかないようだ。
自分の能力が効かなかったら…そんな心配を抱きつつ、意を決して杉山の肩に手を伸ばした。
「先輩先輩…」4人の間に緊張が走る。ゆっくりと振り向いた杉山の口が、微かに開いた。
30お試し期間中。:04/11/07 17:06:37
「どうしたの山根?」そこから聞こえてきたのは、能力が成功した合図。
3人は安堵の溜息を吐き、山根は能力どおりにお馴染みのコントを始めた。
「何やってんのスギ?どうしたの急に…そんな、制御できないなんて」
一方慌てたのは渡辺である。自分の能力で作り出した武器が、思うように操作できない。
「どうして…何でっ?」渡部は渡辺の心の動揺を感じ取り、
いつの間にか渡辺との間合いを詰めていた田中に合図を送る。
「まあまあまあまあまあ。彼等が楽しそうなんだから、良いじゃないですか。」軽く渡辺の肩を叩きつつ、
実際にはやっている本人達は全然楽しそうにも無いコントを見て笑顔を浮かべる。
「そう、かな?」田中の能力の影響を受けた渡辺が顔を上げた。
右手に持った石の黒い光が揺らいでいる。
「そうですよ。だから、そんな物騒な物は早くしまって一緒に楽しみましょうよ」
「うん、そうだね」短い返事とともに、渡辺が石を握った腕を下ろそうとしたそのとき、
「ジャイ!!そんなキモイやつに騙されちゃ駄目じゃ〜ん!」佐藤が部屋中に響くほどの大声を張り上げた。
ビクリとその声に反応し、暗示が解けかける渡辺。
そこにキモイという言葉を聴いた田中の心の動揺が重なった。
「御免ゆーぞー。もう少しでこいつらにやられるところだったよ」
頭を掻きながら渡辺は佐藤の方を振り返った。

「あーあ。もうやってらんないね」田中は完全に気力を喪失し、
フラフラと何かに取り付かれたように部屋の隅へ行くと座り込んでしまった。
山根もそろそろ限界に近かった。少しでも長く時間を稼ごうと普通のコントにしたのが裏目に出ていた。
だんだんとオチが近づいてくる。きっとこの力を解いてしまえば、強力な力を持つ杉山のコピーを
足止めする術はもう残されていないだろう。自分にしか出来ないんだ。
その責任感だけが山根の気力を支えていた。
「今のうちにどうにかしないと…山崎、ちょっと聞いて」
アンガールズが時間を稼いでいる間に、渡辺は山崎に駆け寄った。
「俺がゆーぞーを抑えるから、ジャイの上に何かでっかいのを食らわせてやって欲しいんだ」
一発でアイツがのびそうなやつを、と続けると渡部は佐藤にとの間合いを慎重に詰めて行った。
31お試し期間中。:04/11/07 17:08:35
山崎は後ろを向いて油断している渡辺を見据える。
大きく息を吸い込むと巨大な何かを想像し、思いついた言葉を叫んだ。
「オレンジジュースのでっけぇ入りまーす!!」シェルオパールから白みがかった光が放たれる。
渡辺の頭上に現れたそれは本当にでかかった。
大人が一人入ってしまいそうな巨大なマッ●の紙コップ。
ご丁寧に子供の腕ほどのサイズのストローまで刺さっている。
佐藤は再び石を掲げ、エネルギーを吸収する言葉を言う為に口を開いた。

「同じ手が通用すると思うなよ!!」一気に駆け寄った渡部が、佐藤の額に掌で衝撃を与えた。
「ありがとちゃ…ぐっ」佐藤は堪らず後ろへ仰け反り、反動で石が床へと転げ落ちた。
「ゆーぞー…うわっ!!」頭上に現れた紙コップが渡辺の頭に強烈な一撃を加えた。
次いで背中の辺りに二打目を加えると、前のめりになる形で渡辺を床に押しつぶした。
巨大なそれにはたっぷりと液体が満たされているのだから相当の重さだったのだろう。
うつ伏せに倒れ、横倒しになったそれの下敷きになっている渡辺はピクリとも動かない。
右手付近に転がっていたアマゾナイトの緑の輝きは、持ち主の意識とともにゆっくりと消えた。
それとほぼ同時に、山根とコントをしていた杉山のコピーが緑の光に包まれて消え去った。
山根はパワーを使い果たしそれが消えたのを確認すると、
安心したように崩れ落ちて眠りについてしまった。
山崎が近づいて様子を窺うと、渡辺は完全に気を失っているようだった。
近くには黒い欠片が落ちている。

「気、失っちゃったのかな…渡部さん!とり合えずやりましたぁ!」パワーを大量に消費した山崎は、
へたりと床に座り込むと首だけを動かして渡部の姿を探した。
渡部は佐藤の額に手を当てたまま動かなくなっていた。
それと同様に佐藤もまたそのままの体勢で動こうとしない。
其処だけ時間が止まっているかのようだった。
近くには黒と青の光を半々に放っている石が転がっていた。
渡部の胸の辺りからは、ペンダントにつけられている水晶の透明な光が放たれていた。
32お試し期間中。:04/11/07 17:10:09
渡部は何もない真っ白な空間に佇んでいた。
「ゆーぞー…一体君らに何があった?望んで黒いユニットに入ったわけじゃないんだろ?」
誰もいない空間に向かって、優しげな声で語りかける。
「渡部?何の話をしてるの?」其処にいつもの調子の佐藤が現れた。
「あの黒い石、何処で手に入れたか教えて欲しいんだ…」操られていただけらしいと感じた渡部は、
つい先程に彼らのやっていたことについては触れないでおくことにした。
「何日か前に…ライブの後の楽屋に届いていたんだよ。
ファンだっていう子からのプレゼントだったかな。
最近流行ってるらしいじゃない?パワーストーンって言うのが」嬉しそうに話していた佐藤の背後に、
突然黒い靄が広がった。それはあっという間に辺りを暗闇にし、佐藤の姿はかき消された。
ある人物が渡部の前に現れた。

「…まさか、お前が黒いユニットを?」渡部はその人物に見覚えがあった。
「全く、俺の野望を邪魔してくれている白いユニットのメンバーに、
こんなに早く姿を見られてしまうとはね」
普段の姿からは想像もつかないような冷たい微笑。
渡部は背筋が凍りつくような感覚に思わず地に膝を付いた。
「安心しろ。今の俺じゃお前をどうこうできるような力はない。
こんな欠片では弱い人間の心を操るのが精一杯…」
空間にガラス片のような黒い欠片が浮かび上がる。
「これもお前達の所為でじきに力を失う…やはりあの男には荷が重かったようだ」
「あの男?」
「お前達を呼びにきたスタッフさ。知らなかったのか?
別に黒いユニットは芸人だけの集団というわけではないぞ?」
その人物はクツクツと楽しそうに喉を鳴らす。
「何でそんなことを今俺に言うんだ?黒いユニットを潰そうとしているこの俺に…」
今の渡部に武器になりそうなものはない。
「大体こんな石の力を利用して、一体何をしようって言うんだ!!」
この空間では何が起こるかは全く想像できない。
自棄だとばかりに渡部はその人物に食って掛かった。
33お試し期間中。:04/11/07 17:11:51
「之さえなければ、この黒い石さえなければ俺達は無駄な争いをしなくて済むって言うのに…っ!?」
突然その人物は渡部の目の前に現れる。一瞬で空間を移動したようだ。
「人間とは愚かな生き物だな…もしさっきの戦いでお前達以外のコンビが死んだとしよう。
そうすればライバルは減り、お前達のコンビには仕事が入る。
芸人として一番望ましいことが起こるんだぞ?人気も出るだろう…
内心ではお前もそれを願っていたんじゃないのか?」馬鹿にしたような口調で渡部に迫る。
「そんなので人気を手に入れたって全然嬉しくないな。俺達は実力で、正々堂々と戦っているんだ!!」
渡部の言うことなど全く耳に入らないかのように、その人物は語り続ける。
「…人間は今まで長い間、力を欲することで発達してきた生き物。
その心には常に闘争心というものが備わっている」
だからお前達は競い合うのだろう?とからかう様に続ける。
渡部はだんだんと自分の力が薄れてゆくのを感じた。
「脆く弱い心を持っているのも人間だ。それによって、信じていた者や愛するものを裏切ったりする」
だから如何した…反論するつもりがもう声すらも出ない。
渡部の様子はお構いなしに、その人物は語り続ける。
「精々裏切られないように頑張るんだな。
裏切り者は意外と近くにいるものだぞ?キリストを裏切ったユダのように…」
その人物の声が遠くなると同時に、渡部の力に限界が来た。
目の前が真っ白になり、突然現実に引き戻される。

重い瞼を開けた視界には、倒れている佐藤の姿。山崎の持っている青いジルコンの輝き。
終わった…そう呟けたかどうかは定かではないが、渡部は安心すると深い眠りへと落ちていった。



今回は一応ここまで。
34名無しさん:04/11/07 17:16:10
乙!読み応えがあって面白かった〜。
黒いユニットの男が気になる・・・。
35名無しさん:04/11/07 17:18:14
リアタイ乙!やる気がなくなる田中ワロタ。
36名無しさん:04/11/07 23:47:17
乙モシャ━━━━━━n:,:' ´∀`';n━━━━━━ !!
知的な渡部と謎の男の会話の展開にドキドキしました!
続きも楽しみです!!!
乙です!ハラハラする展開で面白かったです。動きがちゃんと書ける文章力は凄いと思います。
是非、こちらも見習いたい・・・。


黒ユニット編続き投下してみます!前に書いたCUBE石川編の続きで、
お試し期間中。さんの事件の後の展開です。
「お疲れ様でしたー。・・・ん?」
 石川が、楽屋を出るとドアのすぐ脇に、うずくまっている何かのカタマリを見つけた。
「・・・・・・。」
 石川はうんざりしながら、無言でそのカタマリを軽く蹴ると「ぐわ!イテッ!」という叫び声をあげ、
むっくりと起き出した。
「ひでえよ!石川、何で蹴るの?」
「和田?なにやってるの?ゴミだと間違えちゃったよ。」

 和田は蹴られた部分を大袈裟にさすりながら、当然だと言うような口調で石川に言う。
「はあ?なに言ってんの?一緒に帰るんじゃねえの?だからわざわざ待ってたんだけど?」
 今度は、石川が叫び声をあげる番だった。
「え?一緒に帰る?バカじゃないの・・・っ?」

 石川は呆然とした表情を隠すかのように、わざとクネクネとしながらふざけたような女口調になって言う。
「やだわぁ・・・和田君と帰ったりして、変な噂立てられちゃったらアタシ嫌だし・・・バカがうつっちゃうじゃないって・・・、あ。」
 石川は何かを思い出したかのように和田の頭上を見上げた。―そうか。そうだったけな。
「ああ、そうだったね。一緒に帰る?まあ、用事あるから途中までだけど。」
 和田は当然のように石川の先を歩きながら言った。
「当然だろ。だからわざわざ待ってたんだってば。」
「なあ・・・今日の地震、凄かったよなー・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「スタッフの人にケガなくて良かったな。」
「・・・・・・・・・。」
「インジョン、調子悪そうだったけどどうしたの?渡部さんとかアンガールズとかもキツそうだったよな。飲みすぎかね?」
「・・・・・・・・・。」
「なあ・・・石川、なんか言えば?」
「・・・・・・は?聞いてるよ。和田があそこでセリフとちったりしなきゃ、もうちょっとうまくいったのにって話でしょ?」
「・・・・・・・・・。」
 今度は和田が無言になる番だった。

 並んで帰ってはいるが、常に無言か、口を開けばイヤミばかりの石川に和田はため息をつく。
―こんな状態で、なんで一緒に帰りたがるんだろう・・・。

 元々、仲がいい方ではない二人である。(もはやそれがウリにもなっている位だったが)
石川から急に「一緒に帰ろう」と言われた時は、その有無を言わせぬ口調の強さと、タイミングの脈絡のなさに、
さすがの和田も驚きを隠せなかった。でも、何となく悪い気はしないようで、ついつい言われなくても石川を待ってしまう
自分に気が付くまで、時間はかからなかった。それに・・・。

「石川さー、最近また体調悪いの?」
「なんで?」
「ん、何か具合悪くなる時多くない?元々身体弱いけどさー。」
「・・・・・・・・・。あっ!」
「どうした?」

 その瞬間、石川のポケットの石が勝手に反応した。光を和田に見られないように、手で必死に隠す。
―ヤバイ。またいつもの「脅し」だ。・・・和田!
 みるみる直観力と精神力が増していく石川が和田の頭上を見上げるとそこには、黒いローブを着た、まるで漫画にでも出てくるような死神の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
「えー?石川、どうしたの?顔青くね?」
 急に青ざめた石川を心配しているのか、和田は石川に少しだけ顔を近づけて聞く。頭上の死神にはまるで気が付かないようだ。
「な、なあ和田。この道やめにしない?角曲がった方がいいんじゃない?」
「えー?何でだよ。こっちの方が近いじゃん。それに向こう遠周りになっちゃうよ?」
「いいから!オレ、あの角曲がったとこのファミマ行きたいのよ〜。和田く〜ん、お願い〜」
「お前そのキモイ口調やめろよ・・・。わかったよ。ファミマ行くからさ。」

 和田が呆れつつも道を引き返した瞬間だった。ガシャン!「うわぁっっ!!!!」
「看板が・・・看板が落ちた・・・!」
 誰もいない歩道に、なぜかクリーニング店の看板が落ちる音が響き、二人は叫び声をあげた。静かな住宅街に急に電気がつき、激しく吠える犬の鳴き声が聞こえる。落ちた「○○クリーニング」と書かれた看板は、かなり大きなもので、
もし巻き込まれていたら大怪我か、打ち所が悪ければ最悪の事態も考えられるものだった。
 和田の血の気が一斉に引いた。フラフラとその場にへたり込む。
「もし・・・あの時そのままここ歩いてたら・・・。」
「うん、お前多分下敷きになって死んでたかもね。」
 恐ろしい事を平然という、石川の様子に気づきもせずに和田はただ荒い息を吐くだけだった。
 石川は冷静に和田の頭上を見上げると、役目を終えたのだろう、もう死神の姿はそこにはなかった。
―今日の所は一安心か・・・それともインジョンの件で役に立てなかった自分への叱責のつもりだろうか。

 代わりに襲い来る、石の能力の代償である、激しい頭痛や吐き気に顔をしかめながらも周囲を見回した。
この死神を操っている本体の奴がどこかにいるはずである・・・が、彼には見つけることはできなかった。
ひょっとしたら遠隔操作できる能力なのかも知れないが、今の石川には知る術がなかった。
これ以上の能力の使用や下手な詮索は、石川自身の体調やひょっとしたら生命に関わるかも知れない。
それに、もしまた和田に死神の能力である「不幸なアクシデント」が起こったら・・・。

石川は和田を人質に取られているのも同然だった。
そしてそれが石川が「黒いユニット」に参加しなくてはならなくなった理由の一つであった。

―何となく腹が立つ。和田が死のうが生きようが関係ないのにな。
ここまで和田の為に動いている自分自身が面白くなかった。

和田は突然のアクシデントにビックリしているのか反面嬉しいのか、電話を誰かにかけまくっていた。
「おい、ちょっとスゲーよ!今さあ・・・石川と歩いてたらさー・・・」
和田の暢気さに呆れると同時に、ほんの少しだけ救われたような気分になった。
和田は興奮しては誰かに電話をかけ、激昂して喋ってはいるが、石川の耳にはまるで届かなかった。
ふいに地下鉄の駅の前で立ち止まる。ため息をついた。黒いユニットの集会・・・先ほどの和田に対する仕打ちといい、
インジョンの不手際で自分と、黒いユニットの手の内にあるスタッフには何か罰があるのかもしれない、
逃げ出したいがそうもいかないだろう。
体調の悪さを欠片を飲んでごまかす。手に触れた時のガラスのような感触と口に入れた瞬間のまるで
ゼリーのようなツルリとした喉越しへの変化。揺らめく黒い影の存在といい、憂鬱そのものである。

「和田、もう大丈夫でしょ。俺、用事があるからここでね。」
「・・・ん。ちょっと待って。うん、じゃあまたな。おやすみ。」
「ん。おやすみ。」
 振り向かずに地下鉄の階段を降りようとした石川の背後から、呼び止めるような叫び声が聞こえた。
「おーい!今日、お前のおかげで助かったよー。ありがとうなー!」
 石川は返事はしなかったが、思わず噴き出す。馬鹿馬鹿しさに顔がニヤケた。
これから気の重い集まりの前に、なんだか心が少し晴れたかのような気がしていた。
43お試し期間中。:04/11/08 01:38:35
じゃあちょっとためしに さんリアタイ乙です!!
私の文に自然に繋いで頂いて…とても嬉しいです。

そして感想を下さった方有難う御座いました。
之からの展開ですが、CUBE石川さんにもちょっと悪役手伝って頂く予定ですので…
近日中に続きを上げようと思います。楽しみに…して頂けたら嬉しいです。
とりあえずここまでです。次の黒いユニットの集会でバナナマン設楽さんを出す予定です。

和田に取り付いていた死神の石はまだちょっと後から明かしますんで・・・。
すいません。こういう小説とか書くのって初めてなもんで、他の作家さん達に随分劣ると思いますが、
もうすこしだけお付き合いしていただけたらと・・・。

>>43
いえいえ。こちらこそ楽しみです。お試し期間中さんの続きを楽しみにしています!
45名無しさん:04/11/08 01:59:42
リアタイ乙!!のんきな和田が(・∀・)イイ!!
お試し期間中さんとのコラボも楽しみだね。

お試し期間中さんはトリップ付けてみてはどうでしょう?
生意気ながらトリップつけさせてもらいます。
もはやお試し期間じゃないだろうと言うツッコミもお待ちして居ります。

続きは大体出来上がっているのですが、
石川さんが黒いユニットの集会終わった後の設定です。
その集会で指令っぽいのを受けたということになってしまっているので、
もしお話に影響無いようでしたら其方のお話の導入部を過去語りっぽくして頂ければ
先に指令内容をネタばれしておけるので、矛盾が減らせるかと思うのですが…
じゃあちょっとためしにさん如何でしょう?勿論スルーも可ですので+
>>46
了解です。指令を受けるシーンを時間軸に矛盾がないように、追加しておきますんで。

時間軸がだんだん繋がってきてドキドキします(・∀・)イイ!!
>>47
初書きで此処までドキドキするとは思ってませんでした。(・∀・)=3
では、これから続きの方上げたいと思います。

また長いですが、飽きずに読んで頂けると嬉しいです。
渡部は事務所で数日前のあの出来事を思い出していた。

机は割れて床に穴が開き、数名が倒れていた楽屋に戻ってきた芸人達を、
山崎が咄嗟の機転を利かせて
叩き起こした田中の能力で全て地震の所為だと無理やり納得させたらしい。
幸いにもスタッフの怪我もかすり傷程度で済んだそうだ。

スタジオの復旧に数時間待たされたがそれが幸いしてインスタントジョンソンの三人や
山根、柴田も撮影前に目を覚ました。
柴田は黒い欠片の影響を受けた所為か頭痛が止まらなかったが、
本番は何とかから元気でいつもどおりのテンションで乗り切ることが出来た。
回復した柴田と佐藤の能力で何とか動けるまでになったアンジャッシュの二人は、
ビッキーズの須知から貰ったというアメのお陰で更に回復し、撮影本番には完璧な演技を見せた。

撮影が終了しようとしていた頃には、全て丸く収まったかのように思えた。
撮影終了後の楽屋で柴田が激しい頭痛に襲われたことを除いては。
突然頭を押さえて座り込み、立ち上がることさえも困難な状態だった。
佐藤の能力も全く効かず、柴田自身の石も全く輝こうとしなかった。
周りで不思議がる芸人達には風邪だと言って誤魔化した。
まだ体力の残っていた山崎が、タクシーで何とか家まで送り届けたそうだ。
一晩寝て少しは治まったらしいが、数日経った今でもまだ本調子ではないようだ。

「…」「おい、渡部…聞いてんの?」おーい、と渡部の目の前で手をひらひらと動かす児嶋。
あの日以来渡部は物思いに耽ってボーっとすることが多くなった。
「あ、悪ぃ…でもどうしても思い出せなくてさ。聞いた内容ははっきりと思い出せるのに…」
渡部は精神空間の暗闇で出会った人物との出来事を覚えてはいたが、
その人物の顔自体がマジックで塗りつぶされたように全く思い出すことが出来ずにいた。
「また…仕方ないか」再び黙り込んでしまった渡部に呆れながらも、児嶋は諦める様に肩を竦めた。
「あ゛ー!!もう…だからそこはそうじゃねぇんだって!!」
「だからって怒鳴ることないじゃな〜い」
平穏な事務所内に突如響いた怒鳴り声と、それを宥めようとする緩い声。
事務所一のハイテンションコンビ、アンタッチャブルが何やら揉めていた。
どうせネタ合わせで何かあったんだろうと、そこに居合わせた大半の者はさして気にも留めず
大声によって中断された自分達の会話を再開した。

「どうしたの柴田?何か最近イライラし過ぎてるんじゃない?」
自分のちょっとした冗談にものすごい剣幕でつっこんで来る相方に、山崎は心配そうに訊ねる。
「なんでもねぇよ!…ただ、ちょっと風邪気味なだけ!!」
それだけだよ、と柴田は視線を背けながら吐き捨てるように答えた。
まだあの時のが残ってるんじゃ…と、山崎が更に問い掛けようとしたとき、
「おはようございま〜す」 「おはよう御座います…」
事務所のドアが開き、挨拶と共に入ってきたのはCUBEの二人。
タイミングを外した山崎は仕方なしに、入ってきた二人にお決まりの胡散臭い笑顔で挨拶をした。
「あれ〜?山崎さんまた柴田さん怒らせちゃったんスか?」
見るからに機嫌が悪そうな柴田の様子に気づいた和田が山崎に訊ねた。
「そうなんだよー…さっきからこの調子で参っちゃってさぁ」
柴田の方へ視線を戻すと、相変わらず機嫌悪そうに机の端を指で小刻みに叩いている。
石川は和田の後ろからその様子を窺った。

「柴田さん、まだ頭痛治まらないんスか?」
心配そうに訊ねる石川に顔を上げた柴田はああ、と短めの返事をした。
「あんまり酷いようでしたら、またあの頭痛薬飲みますか?」
カバンから小さなカプセルの入ったピルケースを取り出した。
数日前にも柴田はその薬の世話になっている。
とあるTV収録の前に石を使った戦いに巻き込まれた後、
黒い欠片の影響をもろに受けて数日間酷い頭痛に悩まされていたときに、偶々石川から貰ったものだ。
気休めにでもなればと飲んだところ、それまでの痛みが嘘のように消えた。
石川が石の事を知らないと思っている柴田は、随分良く効く薬だな、と位しか思っていなかった。
柴田は薬を受け取りつつすまなそうな表情で石川に言った。
「二度も悪いな…これなんて薬?今度自分で買いに行きたいんだけど…」
石川は申し訳無さそうに頭を掻きながら、
「いやー…これちょっと前に地方ライブで何処かの田舎っぽいとこ行った時に買ったやつなんで、
名前とか忘れちゃったんですよねぇ」箱もとって置いてないんです、と自然な言い訳をサラリと述べた。
「そっか、じゃ自分でなんか良さそうの探すしかねぇわな」ありがとな、と短く礼を言うと
テーブルに置いてあったペットボトル入りの緑茶で受け取った薬を飲み込んだ。

…この行動が事務所の先輩を陥れることに繋がるのは、自分でも良く分かっている。
石川は前回の失態を払拭するために、黒いユニットから与えられた使命を果たそうとしていた。
「もし良かったら…これ全部あげましょうか?最近柴田さん調子悪そうで、
後輩として黙って見ていられませんよ…仕事にも影響ありそうですし」
傍から見れば先輩思いの後輩としか思えないだろう…
そのカプセルが数粒残っているピルケースをそのまま差し出した。

「流石にそれはできねぇよ…」断ろうとする柴田の手に強引に握らせてこう言った。
「今度何か奢ってくれればチャラですから」ね?と、条件をつけて納得させる。
「まあ、せっかくの好意を無駄にするわけにもいかねぇしな…有り難く貰うとするよ。
じゃあ今度な。何でも良いから遠慮なく言ってくれよ?」
柴田は渋々了解し、ズボンのポケットにケースを押し込んだ。
「はい。楽しみにしてます」石川はニコリと自然な笑顔を作って言った。
「それじゃ…これで」軽く会釈をすると、柴田たちのいる机から離れ、
和田の待っている方へと歩いていった。
背後からは、元の調子に戻った柴田の軽快なツッコミが聞こえてきた。
それから数日後のネタ合わせ中、和田は上の空な石川に何度も大丈夫かと声を掛けた。
そのたびに素っ気無い返事をされ、それでも猶、しつこく訊ね続けた。
ガタンと不機嫌そうに椅子を鳴らして立ち上がる石川。
「どうし…」「トイレ」和田の問いが終わる前に短く答えると、石川はその場を立ち去った。
「そういやさっき柴田さんもトイレ行ってたな…最近急に冷えたからかな…」
一人残された和田はポツリと独り言を呟いた。

石川は洗面所の鏡の前で、鏡に移った自分の顔を見つめていた。
見るからに顔色が悪いのは、きっと黒い欠片の影響だろう。
溜息をつくと、自分のしたことを思い返していた。

柴田に渡したカプセルの中身はあの黒い欠片の粉だった。
ほんの僅か、3センチ程もある欠片の十分の一の量。
どれほどの効果があるのかは想像しても分からない。
只自分はあの集会で与えられた使命を完遂した。それだけは事実だった。
(大体、何でこんな回りくどい事を…直接欠片で操ってしまえば楽なのに。
悪意が目覚めるって訳わかんねーよ…石の意思ってか?くだらねぇギャグだな…
とりあえず言われた事はこれで済ませた。後は放って置けば良いんだったよな)

数日前とは打って変わって、柴田は薬の力で一時的にではあったが元気になっていた。
山崎もそんな相方の様子に、一安心した様子だった。
児嶋にも、事情を知らなかった同事務所の後輩の目にも、
どうみてもいつもどおりのハイテンションな柴田が映っていた。

だが渡部は知っていた。薬を飲んでいないときの柴田の様子が微妙に違うことを。
一度だけ、薬の効果が切れた後の柴田の感覚に、内緒で同調したときがあった。
普段なら5分が限界の筈なのに、多量のエネルギーが吸い取られる感覚に襲われ
3分と持たずに慌てて解除する羽目になった。
同調している間、更におかしなことに気づいた。柴田の気持ちが沈んだときに頭痛がしたのだ。
彼が無理にでもテンションを上げるとなぜかその痛みは弱まった。
まるで、常にハイテンションで居ることを強要しているような、そんな感じさえした。
渡部が心配してそのことを話題に上げると、柴田は上手い具合にはぐらかして逃げてしまう。
先程もそのことを言おうとして、トイレに行ってくると逃げられたばかりだった。

「…っ、くそっ」柴田は洗面台にダンッと手を突いた。
少々強くやりすぎたらしい。当たったところがジンジンと痛む。
だが、今の柴田には少しでもこの不快な吐き気と頭痛を紛らわせる何かが欲しかった。
あまり長い間居ると渡部に感づかれてしまう…
否、もう気づかれているのかもしれないがそれを言うのが何故か辛かった。
言ったところでまた、渡部があの能力で精神的ダメージを受けることが厭だった。
顔を冷水で洗い、気合を入れ直すと洗面所のドアを開けた。
目の前には、後輩石川の姿。よう、と軽く手を上げて挨拶をし、一歩外に踏み出したそのとき、
床に付いたはずの足元がぐらりと揺らいだような気がした。

気が付くと柴田は辺り一面真っ赤な空間に居た。
この感覚は、石の能力を使っているときに何度か感じたことがあった。
重力を感じない、自分の足元には地面が無かった。
なんとなくでは有ったが、そこが肉体とは隔離された空間だと想像できた。
―よう…いつも一緒に居るけど…話しかけるのは初めましてだな…
『お前は誰だ?』突如脳内に直接語りかけるような声が響いた声に返事をする。
―石さ。お前の持っているファイアオパールだ…
『石が…喋るのか?初耳だな』感じたことのある波動に
疑っているつもりは無かったが、突然のことにその言葉を鵜呑みにする訳にもいかなかった。
―なに、俺みたいに意思があるのは極僅かだがな。強い思いに晒された石はたまにこうなるんだよ。
『…強い思い?』
―例えば、大勢の人間に…強い信仰の対象にされたり、逆に恐ろしいまでに毛嫌いされたりしたってことだ。
『へぇ…んで、その石が俺に何の用?』
―お前は未だ俺の能力を使いこなせてないんだよ…
俺の正しい能力をわざわざ教える為にこうして話しかけてるんだぜ?あまり冷たくなるなよ。
『何言ってんの?俺は別に戦いたいわけじゃ…』
―力が欲しいんだろ?
『要らない…下らない石の争いなんかで、誰も傷つけたくないんでね』
力なんて必要ないね、と鼻で笑って答える。
―目の前で先輩が倒れたとき、お前は何も出来なかったな?
『っ…それは…』心が強く動揺する。
―あの時のお前の悔しそうな顔…適を睨み殺さんばかりの表情!!
『あの時は…確かに、力が欲しいと思った…けどっ!』咄嗟に反論しようと声を荒げる。
―けど?けど何だよ。いつ何時お前の知り合いがあんな目にあうか分からないんだぜ?
『…それは、確かにそうだけど…』実際にもう事件は起きていた。またあんなことが起きたら…
そう思うと、もっともなことを言う相手に対し返す言葉が無かった。
―お前は大切な人間を守る為に敵を憎めばいいのさ。実際憎かったんだろ?敵が…
『…』何も答えることが出来なかった。声が言っているのは紛れもない事実。柴田は俯き黙り込んだ。
―大丈夫。別にお前を乗っ取ろうとしているわけじゃないさ。
『…信じても、良いのか?』顔を上げた柴田の目は、
いつか敵であった杉山に向かって行った時の目と同じ目をしていた。
―お前は俺の持ち主…云わば主君というわけだ。戦いの道具である俺が、主君を守るのは当然だろ?
『…欲しい。力が欲しい。渡部さん達の役に立てる、強力な力が!!』柴田は力強く叫んだ。
―…お前達の敵が憎いか?殺したいほど憎いと断言できるか!!
『出来る…あいつ等は俺の大事な人たちを傷つける!!憎い…消すべき敵なんだ!!』
散々煽られた柴田の感情は、只操られていただけの三人にも向けられた。
―クククク…言ったな?「憎い」と…その言葉を言ったなぁ!?
『っ…これは、一体…』突然辺りが赤黒い靄に覆われた。柴田はつい数秒前に言った言葉を後悔した。
―それで良い…その気持ちだ!!
『…止めろっ!!…これ以上、踏み込んでくるな!!』次第にその靄は柴田の意識を蝕んでいく。
―憎しみこそが最大の凶器!俺が身勝手な人間達に抱いたこの感情!!仲良くやろうぜ宿主さんよ!!
『…ぅ…あぁああああっ!!』その感覚の気持ち悪さに、頭を抱えて叫び声を上げる。
―ひゃははははは!!ありがとよ!!お前の激しい感情は俺の良い栄養になったぜ?
『…くっ…』力無く頭を垂れ、赤黒い靄に捕らわれた体がまるで自分の物ではないような感覚に陥る。
―あいつらにも礼を言わなきゃなぁ…長年封じられていた俺の意思を目覚めさせるのに相当役に立ってくれた…
『あいつら…だと?』僅かに残った気力で、何とか声を発する。
―おっと、まだ意思が残っていたか…最後に教えておいてやるよ。俺が封印を解けたのは、
お前があいつらの黒い力をわざわざ飲み込んでくれていたからさ…これでやっと復讐出来る!!
『一体…何の事だか…』柴田には分からなかった。
あの後輩の親切が、まさかこんな事態を引き起こす原因になるとは予想も出来なかった。
―身勝手な人間どもにこの恨みの深さ、思い知らせてやる!!!
『……っ…』空間が一際強く赤い光を発したのと同じタイミングで、
柴田の意識は赤黒い靄に完全に飲み込まれていった。

「やっとお目覚めですか?」
数分前、石川は洗面所から戻る途中の廊下で誰かが歩いてくるのに気づき咄嗟に近くの部屋に隠れた。
ドアの隙間から様子を窺うと、それは見るからに調子の悪そうな柴田だった。
なんとなく声を掛けようと思いドアの前で待っていると、出てきた柴田と目が合った。
軽く手を上げていつもの調子で挨拶してきた柴田に、挨拶し返そうとした時、
目の前の彼が突然前のめりになるようにして倒れた。
自分が組織の命令で陥れた先輩を見下ろして、暫くその場で立ち尽くしていた。
彼がムクリと起き上がって自分にニヤと笑いかけてきたときに勘付いた。それで今に至る訳だ。

「お陰様でな…」答えるのは柴田の声。だが明らかに口調が違う。
「白いユニットを潰して欲しいんですよ」淡々と黒いユニットから言われた言葉を伝える。
「仕方ない。やってやるよ…それが、約束だからな」もう後戻りは出来ない…
「それじゃ、宜しくお願いしますね」軽く頷いて了解の意を示した柴田は、踵を返すとその場から立ち去った。
その後ろ姿を見送りつつ石川は、自分の所為で変貌した先輩に何の感情も持てない自分の神経が、
やはり黒い欠片に完全に犯されてしまっているんだなと、そう思っていた。


渡部は事務所内に悪い石の波動を感じた気がしてフと顔を上げる。
だが、黒い欠片の気配はまるで感じることが出来なかった。
戻ってきた柴田は、普段に比べてテンションが低かったが、
特に辛そうな様子も見せずにいつも通りの他愛のない話をしてきた。
その元気そうな様子に、態々嫌がることを聞き出すのも気が退けてこの日はそのまま解散した。

このとき何故彼の異変に気づけなかったのかと渡部が後悔するのは、これからずっと後のことである。


今回は此処までです。
57名無しさん:04/11/08 12:49:56
新作ラッシュキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
58名無しさん:04/11/08 17:46:55
じゃあちょっとためしにさんもお試し期間中さんも面白いです!
59名無しさん:04/11/08 18:12:14
>>◆dRwnnMDWyQ
単なる悪に終わらない黒ユニット編もおもしろいね!
続きも楽しみにしてるよ〜。

>>◆cLGv3nh2eA
イイ奴な柴田が黒になるのかぁ〜。ああハラハラする…。
今後、他のメンバーとの絡みが激しく気になる!

お2人とも乙です!
60名無しさん:04/11/08 20:35:01
乙です!!
どんどんストーリーが進んでいきますね!すごく楽しいです!
何気に相方守ってる石川さんがいい味出してます。

頑張ってください!
61名無しさん:04/11/08 21:12:21
お二人とも乙です。どんどん複雑且つ面白くなっていって楽しみすぎる…。


実は以前アンジャ短編を書いたので、少しだけ反映されていてすごく嬉しいです。渡部さん、背負っちゃいそうだなぁ…
62名無しさん:04/11/08 23:14:50
柴田さんが「渡部さんの役に立てる力が欲しい」と思ったことから考えたこと。

いつここ・山田さんの力って、自然を味方につける代わりに自然に左右されるんだよね。
そういう意味では制約のない菊地さんに守られることが増えたりしたら、
それに負い目を感じて無意識にそれ以上を求めてしまうんじゃないかな〜・・・。
63名無しさん:04/11/09 22:24:24
新スレ&新展開乙です。

関東では黒ユニに流れが向きつつあるみたいですが
関西の戦況はどうなんでしょう・・・こっそり投下キボンヌ。
64名無しさん:04/11/10 00:08:32
何となく捕手
そろそろ続きが書きあがるので近いうちに投下させて頂きます。

改めて他の方の作品を読ませて頂いたのですが…
皆さん心理描写とか人間関係を描くのが上手くて自分の文章が恥ずかしいです。
どうしても「戦い」をメインに考えてしまうのでなかなか思うように表現できなくて。
説明くさい文体もどうにかしたいものです。だらだらと長くなってしまいますからね。

>>63
勝手に関東を盛り上げちゃってますけど、関西の方読んでみたいですね。
吉本とか松竹系書ける方の降臨待ってます。
66前スレ518 ◆IpnDfUNcJo :04/11/10 20:56:32
書き手の皆さん乙です。何だか最近盛り上がってますね。

ところで、baseの芸人何組かで書きたい話があるんですが
投下よろしいでしょうか?(麒麟は出てきません)
67名無しさん:04/11/10 21:11:18
カモォォン!
68名無しさん:04/11/10 21:33:15
ぜ、是非お願いします。
69名無しさん:04/11/10 21:57:11
お願いします!
前スレ692のピン芸人書きです。今更ながら新スレ乙!
しょっぱなから面白過ぎる展開にドキドキしながら読ませて頂いてます!

だいぶ間が空いてしまったのですが続きを投下しようと思います。
とりあえずこれで最後になります。どうもありがとうございました。

ゾッとして、ドアを見た。そんな気配は微塵もしない。
「川島殿と拙者を探しているのでしょう。拙者が合図したら扉を開けて頂きたい。」
静かにドアを見据える波田。ピックを握る指が絃にかけられ、途端に空気がピリッと張り詰めたのがわかった。
俯いたまま流れるように指を動かし、波田はギターを鳴らす。
ギター侍お馴染みのあの曲だ。こんな時にネタ見せでもするんだろうか…。
川島の頭に一抹の不安がよぎり、どうしようかと思った瞬間、波田が叫んだ。
「今だ川島殿!!!」
一瞬呆けてしまったため反応は遅れたが、慌ててドアを開ける。
薄暗い部屋の中、ドアの隙間から漏れ出す桃色の光が川島の目を奪った。

「……!!!」
視界が開けてまず飛び込んだ光景に川島は声にならない声を上げる。
背筋が凍るような迫力。開け放たれたドアの向こうで、真っ赤な目をギラギラ光らせた長井が自分たちを待ち構えていた。
「うぉおおおーーーーーーー!!!!」
長井は、目当ての獲物を見つけた獣のごとく、波田に飛び掛っていく。
「残念!!」
波田が叫んだのと同時、川島は振り返り、そして息を飲んだ。
そこに立っていたのは『ギター侍』では無かった。本物の『侍』の姿があった。
波田の腕の中にあったいかついギターはスラリと艶かしい刀に姿を変え、その切っ先は真っ直ぐ長井を捕らえている。


長井の懐から、波田の首元から、眩い光が弾け飛ぶ。

「長井秀和…ッ!斬り!!」

勢い良く振り下ろされた刀は正確に長井の胸を貫いた。
長井の断末魔が部屋にこだまする。目を潰さんばかりの光の中、川島はよろめいてあとずさった。

光が消え、再び静まり返った楽屋内。川島は混乱する頭を抱えて短く息を吐いた。
斬りつけられ倒れ込んだ長井はぴくりともせず床に伏せ、波田はぬらぬらと液体の光る刀を振り下ろしたままの姿勢で動かない。
川島は震える手足で長井に駆け寄り、その体を揺すった。足元に広がる血溜まりに波紋が起きる。
「…長井さん!まさか…死んでねぇよな!?長井さん!!」
「生きてますよ。」
振り返って見ると、波田が自分の体に似合わないいかついギターを肩からかけ直している所だった。
能力が切れたのだ。口調も戻っている。ふと見ると血溜まりも消えていた。
川島は長井を仰向けに起こしてみた。斬られたはずの傷も無くなっている。
ふと思い出し、川島は長井のスーツの内ポケットに手を突っ込むと、さきほど光を発していたそれを引っ張り出した。
淡紅色に光るそれは、さっきの長井の瞳と同じ、毒々しい色をしていた。
「それが石です。俺が斬ったから、もう害は無いと思いますが。」
波田は、川島の手から石を取ると、首にかけた自分の石と照らし合わせ、そしてそれをおもむろに懐へしまう。
「…どんな形であれ、石を使うとすごく体力消耗しちゃうんですよ。長井さん、今は気絶…して…」
ぐらり…ッ、
そこまで言った時、波田は突然支えを失ったかのように後ろに倒れ込んでしまった。
「え!波田さん、おーい!」
慌てて揺すぶっても反応は無い。
そのうち、すぅすぅ、と規則正しい寝息が聞こえ出した。どうやら眠ってしまったようだ。
思わず安堵のため息をつきそうになる川島だったが。

「か、川島さん、何があったんですか…?」
突然上から降ってきた声にハッとして顔を上げると、開け放たれたドアの前に野次馬が殺到していた。
好奇の眼差しが川島に、そして倒れている二人に注がれている。
「二人、ケンカでもしたんですか?なんだか最近みんなピリピリしてますし…。」
後輩の若手が青い顔をしてそう問いかけてきたので、川島は苦笑いを浮かべて言う。
「違う違う、ちょっとネタ見せしてたらさー、テンション上がっちゃって…」
嘘の得意な川島だが、とっさの状況では上手く舌も回らない。苦しい言い訳に冷や汗が浮かぶ。
「誰か呼んで来ましょうか?救急車…!」
別の若手がそう言う。なるべくなら事を荒げたくは無い。
「いいって!大丈夫だって!ほらみんな早く戻って戻って…」
大声でそう言う川島の頬に、不意に大粒の涙が伝った。
突然の出来事に、野次馬は息を飲み、騒がしかった廊下は水を打ったように静かになった。
―――あれ、俺こんなに涙腺弱いっけ?
実際一番驚いていたのは川島本人だ。
グイッ、と袖で拭ってはみるが、涙は止まる様子も無い。
目頭が熱くなり、喉が焼けるように痛い。発する声も歪んでいく。
「…大丈夫だって…、言ってんじゃないかぁ…!みんな早く戻れよ…!」
ここまで苦しいのに嘘泣きなわけがなかったが、マジ泣きにしては実感が無い。
俯いてがむしゃらに涙を拭う。すると突然、ザァと目の前から人の波が引いていく気配がした。
顔を上げて見ると、野次馬たちは皆虚ろな眼差しで、各自の部屋または廊下の奥へと退散していく所だった。
やがて廊下から人影は完全に消え、川島はわけがわからず首をかしげる。
そんな川島の後方、気絶している波田の懐の中で、藍色の光が今まさに消えようとしている事など、川島は知る由も無かった。

涙はもう、止まっていた。


それから30分後、目覚めたのは波田の方が先だった。
ガバッ!と飛び上がる勢いで上半身を起こした波田に、川島は「おわぁ!」と驚きの声を上げる。
「おっどろいた…。大丈夫ですか波田さん。」
そう尋ねると、波田はきょろきょろと辺りを見回して納得したようにため息をついた。
「…すみません、ご迷惑をおかけしました。俺の能力のリスクは、使った後に猛烈に眠くなる事なんです。」
眉間にしわを寄せて不機嫌そうに長井を見る。
「長井さんはまだ起きないんですか。まぁいつかは起きると思いますけど…」
「あ、あの、」
そんな波田の言葉を途中で止め、割り込み入る。どうしても聞きたい事があった。
「波田さんの能力って、あれなんなんですか…?」
刀。血。斬りつけられたのに傷一つ無い長井。あれの全てが波田の能力なのだろうか?
「…俺も良くわかんないんですけど、多分相手の悪い部分を斬りおとす事が出来るんだと思います。」
首から胸にかけて下がる半透明なその石を、波田は目を細めて眺めた。
「良い石ですよ。長井さんの石とは違ってね。…まぁ、だからこそ長井さんは石に抵抗したんですけど。
 恐ろしい精神力ですよ。並の人間じゃ出来ない事です。」
呆れたようにして首をすくめると、波田は小さく笑って見せる。
あまりに現実離れした話についていけない。混乱する頭で問う。
「長井さんに、波田さんに、…他にもまだいるんですよね。石を持ってる人。」
波田は小さく頷いた。
「俺も何人かは知ってますし、かなりいると思います。ただ…魔力を封じ込めた石です。
 欲に目が眩んだ人間も、俺は何人か知ってますよ。そういう人間はまず他の芸人の石を奪おうとします。
 …用心してください。お二人とも、これからはいつ襲われるかわかりませんから。」
しっかり川島の目を見据え、真剣な口調でそういう波田の台詞には真実味があった。重苦しい空気が部屋を包む。
「…でも、俺たちは石を持っていない。」
押し殺したような声でそう言うと、波田は小さく首を振った。
「長井さんは、遅かれ早かれいつかは石を手に入れてしまうと思いますよ。こんな良い人材あまりいませんから。それと…、」
波田はそこで一度区切ると、懐から小さな巾着袋を取り出した。


口を開けて逆さにする。じゃらっ、と音がして、キラキラと光る石がいくつも床に散らばった。
一つ一つに不気味で妖しい魅力があり、川島はそのあまりの美しさに息を飲んだ。
キラキラ眩い石の中。そこには、さきほど長井を苦しめていた桃色の石もある。
波田は、その中から真っ黒で角ばった石を一つ選ぶと、それを摘み上げ川島に突きつけた。
「川島さんの石は、ここにあります。」
呆然と、目の前に差し出されたその石を見上げる。波田が何を言ってるのか川島はすぐには理解が出来なかった。
なかなか受け取らない川島に業を煮やしたのか、波田は無理やり川島の手を開かせると石を握らせた。
その途端、黒い石の中から透き通った青色の光があふれ出す。
「…ほら、やっぱり。これであなたも石の持ち主ですよ。」
波田は楽しそうにそう言うと、散らばった石を巾着へ戻し始めた。
手の上の黒い粒を見つめながら川島は小さな声で言った。
「波田さん、こんなにたくさん、石どうしたんすか。」
波田は答えない。無言のまま作業を続けている。

「…波田さんが、石をバラまいてんですか…?」

川島のその言葉にぴたりと手を止めると、波田は小さく首を横に振った。
「違いますよ。俺じゃありません。俺はただ、石を回収しているだけです。」
「石を…回収?」
最後の一つを丁寧に石を袋に詰め込みながら、俯いて波田は言った。
「…さっき言いましたけど、石を持った芸人の中にはね、悪用する人間もいれば、石を封印しようとする人間もいるらしいんです。
 でも俺はそれはもったいないと思うんですよ。…俺は悪用するほどずる賢くは無いし、封印するほどの勇気も無いですから。」
じゃり。小石が袋の中で音を立てる。
「…善にも悪にも興味は無いんです。俺は全部の石の能力が知りたいんです。それも、すごく強力なやつを。
 どうもこの石は、笑いの才能がある人間ほど強い力を授けてくれるようです。
 才能の無い芸人に渡った石を回収し、才能のある芸人に渡す。それが俺の今の生きがいなんですよ。」

淡々とそう話す波田の表情は虚ろで、何を考えているかはうかがえない。
「川島さんがどんな能力を持っているのか、期待しています。」
巾着袋を再び懐へ戻し、波田は立ち上がった。その足はドアの方へ向かっている。
「波田さん!」
黒い結晶を握りしめたまま、川島は叫んだ。
「俺はこんな石、いらない。長井さんも巻き込ませたくない。あんたのやってる事は…おかしい。」
顔を上げて波田を見上げる。背中を向けているため表情まではわからない。が、

「…何言ってんですか。…もう遅いですよ。」

波田は薄っすらと笑っているようだった。
ざりっ、と草鞋が床をこすり、足早に部屋を立ち去る波田の背中を、川島は無言で見送った。何も言う事が出来なかった。
彼は何を考えているんだろうか。善にも悪にも興味は無いと言ったが、果たして本当だろうか。
キラキラと光り輝く黒い石を見つめる。魔力を含むと言われるその石は皮肉にも美しかった。
こんなちっぽけな石コロなんかに今芸人たちが踊らされていると思うと憎くて仕方が無くなる。
川島は石を握り締めたままの拳を思い切り床にたたきつけた。

こんな石を世に出回してはいけない。
きっと何か恐ろしい事が起きる。もしかしたら、もう始まっているのかもしれないが―――

「石を封印している人たち…」
その人達に会わなくては。
川島はそう決心し、長井の目覚めるのを待った。
【波田陽区】
石…ヘミモルファイト←悪霊を払い、浄化する働きがある
能力…悪意に満ちた石に呑まれた人間を正気に戻す事が出来る。
   石が力を発すると、ギターが一時的に刀に変形し、相手の病んだ部分を斬り落とす。
   相手の力に悪意があろうと無かろうと、斬られると能力や動きを封じられる。
   相手の力が自分の力より強力な場合、能力は無効になる。ただし、一時的に能力・動きを封じる事は可能。
条件…「残念!」「〜斬り!」の一連の流れをやらなくてはいけない。その間は完全に無防備。
   斬った分の魔力・悪意は自分に返ってくるため、能力が切れた後は10〜30分程度気絶する。
   ギターを持っていないと発動出来ない。

【劇団ひとり】
石…ネプチュナイト←優れた統率力
能力…劇団ひとり・座長川島省吾が持つ事により能力が発揮される。
   川島省吾から劇団員の中の誰かに変身する事が出来る。
   (外見・性格・記憶全て切り替わり川島省吾とは全く別の人格に変わる。)
   能力が解けた後は元の姿に戻るが、その間の記憶は消えている。
   ↑らとは別に座長のみが使える、自在に涙を操り相手の戦意を喪失させる能力もある。(オプション的能力)
条件…人格はランダムで選ばれるため、出てくる人格を自分で選ぶ事が出来ない。
   そのため、全く役に立たなかったりする事もある。
   変身も涙もどちらもかなりの体力を消耗する。

劇団ひとりの能力、こんなのを一応考えてみました。
ただ今回の話の中で何も生かせなかったので、あんまり意味が無いのですが…。
以上です。前スレでコメント頂き、本当に嬉しかったです。
だらだらと引き延ばしてしまいましたが、楽しく書かせて頂きました。
名無しに戻りたいと思います。本当にありがとうございました!
79名無しさん:04/11/11 17:20:01
リアタイ乙━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
次回作も是非読みたいです!とにかく乙でした!
80名無しさん:04/11/11 21:01:25
乙です!
劇団ひとりの能力あってますね〜劇団員の誰かが見てみたいです(笑)
波田陽区は本当に善も悪もない存在で・・・リアルですね。
「俺は悪用するほどずる賢くは無いし、封印するほどの勇気も無いですから」
一番現実に近い考え方のように思います。
とにかく楽しかったです!!ありがとうございました!!
81名無しさん:04/11/11 21:21:47
とにかく乙です!
待ってて良かった!
>>◆LlJv4hNCJI さん。
続きが気になってたのでとても楽しく読ませていただきました。
劇団ひとりの能力も、波田陽区の台詞もらしくて思わず引き込まれました。
お疲れ様でした。
>>56の続きになります。

山崎は最近急に柴田のツッコミが厳しくなったと思っていた。
向こうの要望に合わせて何とかボケを考えるのだが、そこは違う・面白くないと散々ダメ出しをされ、
終いには一方的に向こうがキレ気味になって会話が止まる。
それでも山崎は気にしないようにしていた。
きっと疲れてイライラしているだけなんだろうと、彼が元の調子に戻るのを気長に待とうと思っていた。

あるコント番組収録中の楽屋。
楽屋といっても各コンビにそれぞれ与えられているものではなく、数組共同で使う大きめの部屋だった。
他のコンビがコントを収録している中、偶々出番の無かったアンタッチャブルの二人だけが室内に残っていた。

山崎が言ったちょっとした冗談がきっかけで、また機嫌の悪くなっていた柴田が唐突にこう切り出して来た。
「お前なんでこんなに我侭言われてキレないわけ?」
あれ?やっぱ自分でも我侭って自覚してたんだ…
思わず出そうになった言葉を飲み込み、出来るだけ温厚に話を進めようとする。
「何でって…いつもこんな感じじゃない?」そうでしょ?と同意を求めるような調子で答えた。
「…嘘吐くなよ…本当はムカついてんだろ?相手の都合に振り回されりゃイライラすんじゃねーの?」
「ほら、俺だって遅刻して柴田のこと待たせたりしてるから…お互い様じゃない」
柴田の表情が少し強張った気がした。
「やっぱな…一方的だったらムカつくんだろ?」
「そりゃ…まあ一方的だったらちょっと困るねぇ…」山崎は頭を掻きながら答えた。

ドアが遠慮がちにノックされた。
「誰?」山崎が振り返り、訪問者に声を掛ける。
入ってきたのは矢作だった。
「そろそろ山崎の出番だってスタッフさんが言ってたから…」
「あ、そう?じゃあ…俺行ってくるね?」
相方の妙な質問に心配になりながらも、皆を待たせる訳にはいかないと山崎は楽屋から出て行った。
「それじゃ俺はこれで…」それを見送った矢作は楽屋から立ち去ろうとした。
「…ちょっと聞きたいことあるんだけど」柴田は声を掛けて矢作を楽屋内に呼び止める。
「何?」ドアにかけた手を下ろし、話を聞こうと矢作は柴田のほうへ向き直った。

「矢作さんは白と黒どっち?」椅子に座ったまま、柴田は矢作に訊ねた。
柴田が言っているのは石を巡るユニットの事だろう…
「どっちって…別にどっちでもないけど…」突然の質問に戸惑い、矢作は曖昧な答えを返した。
「へぇ…。俺ね、白い連中を潰そうかと思ってるんだ」
どっちでもないなら矢作さんには関係ないね。柴田は笑いながらそう続けた。

「白って…渡部さん達の、白いユニットのことを言ってるのかい?」
驚いた矢作の声が思わず裏返る。
「そ。それ以外に何かある?」当たり前だとでも言うように柴田はさらりと答えた。
「彼等の敵にまわるって言うのかい?」どうか冗談であって欲しい…そう願いつつ矢作は訊ねる。
「そー言う事になるかなぁ…」矢作の願いも虚しく、あっさりと柴田は肯定してしまった。

「そんな…」これは渡部達へ宣戦布告してると取らねばならないのか。
矢作はこの状況をどうしていいか分からなかった。
柴田が話したことは只のカミングアウトではない。石を巡る争いの中では命に関わる事もある。
事務所の先輩が同事務所の先輩を攻撃すると宣言しているのだから、
止めなければならないのは確実だった。
「…どうしたの?黙り込んじゃって」柴田が立ち上がり矢作に一歩近づいた。
「や、それは結構まずい事なんじゃねぇかと思って…」矢作の頬を冷や汗が伝う。
どうすれば止められる?柴田は何故そんな事を自分に言い出したのか…
矢作には分からない事だらけだった。
「まずいと思うなら、その石の便利な能力で俺を止めちゃえばいいんじゃない?」
出来るならね…柴田は普段通りの、他人よりちょっと高めのテンションで茶化す様に言い足した。
矢作は慌ててズボンのポケットに手を突っ込み、唯一の武器である石の存在を確かめる。
そうしている間にも柴田はどんどん間合いを詰めてくる。
彼の石は燃えるような禍々しいまでの紅に輝いていた。
(力を使うつもりか…)能力者である矢作には簡単に予想がついた。

「何もしなくていいの?やらなきゃやられちゃうよ?」
彼の能力がどのようなものか詳しく聞いたことはない。もし攻撃用の危険なものだったら…
明らかにいつもと様子の違う年下の先輩の目を覚まさせる為、矢作は覚悟を決めた。
ポケットから取り出した石を強く握り締め、大きく息を吸い込んだ。

「金縛りにあって動けなくなるんやぁ〜!」
なんとも気の抜けるような、しかし彼にとっては大事な武器を発動させる為の鍵となる言葉を叫ぶ。
矢作の石、ラリマーからは目を開けていられない程のな強力な閃光が発せられた。
通常ならばこの光が収まった後、力の影響を受けた相手に何らかの変化が起きる筈…だった。
光が完全に消え視界が元に戻ったとき、
地面に倒れ伏していたのは能力を発動させた張本人である矢作。
金縛りにあっているはずの柴田は平然とした…
否、かなりのテンションの高さで倒れた矢作を見て哂っていた。
その胸元には彼の石「ファイアオパール」が赤黒い光に包まれながら、
微かに本来の赤い光を放っていた。
柴田は石のパワーが大きすぎて感情のコントロールが難しいのか、
散々爆笑した後苦しそうに肩で息をしながら床に転がる矢作の元へ歩み寄った。
「残念だったねぇ…矢作さん。どんな気持ちなの?自分の能力にやられた気分ってぇのは」
倒れて身動きの取れない矢作の顔をしゃがんで覗き込む。
「矢作さんの石ってやっぱ強力なんだね…ちょっと力送っただけでこんなに強化できるなんて、
黒いユニットの連中が欲しがるのも分かる気がするなぁ…」
突然の事で状況把握に少し手間取った矢作であったが、
どうやら自分の能力を跳ね返されたらしいと言う事は柴田が笑っている間に理解することが出来た。

「あ、でも別に俺は石を奪うためにやってるわけじゃないから、安心してね?」
(あ〜…どうすっかなぁ…この状況はやべぇよ…)
敵が同事務所の、つい数十分前まで親しげに話していた柴田と言うこともあってか
いつもマイペースな矢作も内心相当焦っていた。
「この石って全然攻撃向きじゃねーんだよなぁ…」
柴田は溜息を吐きながら自分の石を眺めている。
(…んな説明どうでもいいって。それよりこの状況…どうすりゃいいんだよぉ)
何とか体を動かそうとするものの、指一本動かすことが出来ない。
「せいぜい今みたいに相手の能力を跳ね返す程度。
矢作さんが脅しに乗ってくれてホント助かったよ」
彼の言っていることは耳に入ってくるが、もはや矢作にはその内容など関係なかった。
(一体どうしたんだよ柴っちょ…黒いユニットなんかに説得されちまったのか?)
この状態ではそれを訊ねる術も無い。

「それじゃ、やることやって早く消えるとするかな」
柴田は矢作の石の上にファイアオパールを翳した。石は赤黒い光を放つ。
(あれ?なんか変な感覚が…)言いようのない不安が矢作の意識に靄をかける。
「先ずは一人目…」
薄水色の石に赤黒い光が吸収されていくにつれ、持ち主の矢作に影響が出始めたのだ。
「石取られるだけの方が良かったって思いをするかも知れないけど…」
赤い光を放つ石を持った手はそのままに、動けずにいる矢作にニヤリと笑いかける。
突如作業を続けていた柴田の表情から笑みが消えた。
「…あと少しなのに」ボソリと呟き顔を上げ、忌々しそうに舌打ちをする。
「やっぱり楽屋なんかでやるんじゃなかったな」
柴田は何かの気配に気づいたのか、酷く慌てた様子でドアから駆け出して行く。

十数秒後、小木と中川家の3人がコント撮影を終えて楽屋に戻ってきた。
跳ね返された金縛りと、石に送り込まれた謎の光によって
意識を失いかけていた矢作の視界に3人の姿が映る。
安堵の溜息を吐こうとしたがそれすらも出来ない。口を動かすことすら出来なさそうだ。
(どうやってこの状況を説明すればいいんだろ…)

慌てて駆け寄って来た小木が矢作を抱き起こして顔を覗き込む。
「矢作っ!何があったの?一体誰がこんなこと…」
真っ青な顔で呼びかける小木を、中川家の2人が宥めようとしているのが矢作の目に映った。
(おーい小木…とりあえず死んでねぇから、そんな顔すんなって)
自分は大丈夫だと伝えようとするが、身体は鉛のように重く意識も遠退きつつある。
「あんま動かさん方がええって!!小木君!!」礼二の怒鳴り声が遠く聞こえる。
(あ、やべぇ…ちょっと眠くなって……)
目の前に有った筈の小木の顔が見えなくなると同時に、矢作の意識は完全にブラックアウトした。

石の能力者である3人は倒れている矢作を発見すると、
一目で同じ能力者の仕業だと言う事に気づいた。
素人目にはどう見ても眠っているようにしか見えなかったが、
どんな能力に攻撃されたのか想像もつかない。
念のために小木が自らの石の力で「変身」した。
意識を失っている矢作をソファに寝かせると、意識確認や瞳孔、脈などを的確に診断していく。
「うん、大丈夫。寝てるだけだね」
全ての診断が終わった後、小木は額の脂汗を拭いながら言った。
「なんや、心配掛けよって…」礼二は溜息をつき、安堵の表情を浮かべた。
「小木君しんどそうやけど大丈夫?」能力を解除し、疲れた様子の小木に剛が訊ねる。
矢作の力無しに能力を発動させたため相当の負担が掛かったらしい。
「ちょっと休憩します…もし他の人が戻ってきたら状況説明はお願いしますね」
小木はソファの空いているスペースに座りって目を閉じた。

後から撮影を終えて戻ってきたくりぃむしちゅーの二人に
中川家の二人は矢作が倒れていた事と、それが能力者の仕業であるらしいと言う事伝えた。
説明の最中にアンタッチャブルの二人も各々楽屋へと戻ってきた。

上田は室内にあったテーブルに手を当てた。
「犯人はまだ近くに居るかもしれないな…」その場に居るメンバーを見回しながら上田は言った。
(楽屋に入れたなら関係者かもしれない…)考えたくないがそう疑うのが妥当だろう。
上田は手に握った石に意識を集中させる。
「あんまり無理すんなよ?」
相方の石の能力の便利さの裏にある代償を知っている有田は心配そうに見守った。

「…テーブルと机のニュアンスの違い、皆さんはどうお考えでしょうか。
一般的にテーブルは机の外来語表現だと思われている場合が多いそうです。
ですが実際は机を英語で表現するとデスク。つまり机とテーブルというのは別物なんですね。
使い分けとしましては、引き出しがなく食事・休息・娯楽に使われるものをテーブル。
それに引き替えデスクというのは、引き出しがあり仕事・勉強に使われるものを指しているそうです」

(この際質なんてどうでも良い…)
取り敢えず現場を見ていたであろうテーブルについての蘊蓄を言い
最後の決めポーズまで決めると、能力が発動した証である透き通った光が放たれた。
つい十数分前の出来事。一体ここで何があった?誰もが上田に注目していた。
その為楽屋内でもう一人、石を使っている者が居ることには気付く者は居なかった。
段々と記憶の時間が遡られ、遂に上田は矢作の姿を見つけだした。
矢作と対峙する誰かの姿が浮かび上がる。
後姿だけがぼんやりと浮かび上がり、ハッキリとは分からない。
もうすこし…あと少し記憶を遡れば正体が分かる、上田がそう思った瞬間。
突如全身を切り刻まれるような激痛が襲った。
普段以上に激しいそれに思わず両手で身体を押さえる。
「…っ、ぐ…ぁ…」突然苦しみだした上田に、その場に居た誰もが上田の身の危険を感じた。
「上田っ!!もういいから、早く止めろ!!」有田は石を払い落とし、肩を掴んで揺さ振った。
「上田さん!!」「大丈夫かいな!?」
力なく床に座り込んだ上田の様子を、皆が心配そうに窺う。

「すまない…姿は確かに見えたんだが、誰だかは…はっきり確認できなかった」
途切れ途切れにそう言った上田の目は、ある人物の足元を捕らえていた。
自信も確証も無い。顔を見ることは出来なかったが、もしかすると…
だが違っていたら大切な後輩を酷く傷つけることになる。
そう思うと今この場では何も言うことが出来なかった。

―二人目
自分の足元を睨みつける上田を見下して、柴田は微笑を浮かべた。
いつも明るく、よく笑う印象の彼からは想像も付かないような冷たい表情。
上田の異変に気をとられ、誰一人として柴田の表情に気付く事は無かった。
そのとき偶然柴田の感覚と「同調」していた渡部を除いては…
「矢作…気がついた?」
先に目を覚ました小木が呼びかけるが反応が薄い。
まだ石の能力の所為で意識がはっきりしていないのだろう。
「誰にやられたか、覚えてる?」
矢作は無言でゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ、喋れそう?」
再び首を横に振る。肉体的ではなく精神的なダメージが大きかったらしい。
矢作の表情は暗く、目は虚ろだった。

(この状態が長引かなければ良いんだけど…)
小木は憔悴しきった相方の様子に、何故肝心なときに一緒に居なかったのかと後悔していた。
実際彼はそのとき収録中だった為、それは仕方の無いことだったのだが。
「ちょっと無理みたい。ゆっくり休ませたほうが…」

有田は頷くとその場に居る皆を見回して言った。
「そういうことだから…今日はこのまま解散しよう。ここにいても犯人が分かるわけじゃないし、
矢作も上田もかなり参ってるみたいだから、無理させるわけにもいかない」
皆はただその言葉に頷くしかなかった。

「矢作君…大丈夫なん?」帰り支度の済んだ礼二が小木に声を掛けた。
「もう少し此処で様子見ます。もしダメっぽかったら俺が送りますんで」
「大したこと無いとええんやけど…」剛は矢作の顔を見て心配そうに呟いた。
「もしかしたらまだ犯人がそこら辺にいるかもしれないんで、礼二さんたちも気をつけて」
「おう。そっちも気ぃつけてな。じゃ、お先に」礼二は皆に挨拶をしドアノブに手を掛ける。
「役に立てん能力で、申し訳ないなぁ…」剛は最後にポツリと漏らし、二人は楽屋を後にした。

「大丈夫スか?きつかったら柴田に石で回復してもらっても…」
山崎は心配そうに上田に声を掛ける。
「いや、そこまで酷くは無い…一瞬だったからな」上田は気丈にも笑ってみせた。
「もう全然痛みもないし、俺よりも矢作の方を心配しろよ」
だが…上田は数日後にあの痛みの本当の恐ろしさを知ることになる。
「じゃあ、俺達も帰ろっか。明日も仕事有るし」
「そうだな…それじゃ、皆さんお疲れ様でした」二人は挨拶をし、楽屋を出て行こうとする。
その後ろ姿を見ていた上田は、無意識のうちに柴田を呼び止めていた。

「何です?上田さん」声を掛けられ柴田は振り向いた。
「…いや、気をつけてな」自分でもどうしてだか分からない、
あの時の人物が彼だという確証はないのだ。
あまり疑いすぎて信頼を無くしてもいけないだろう。
彼は自分達と同じ白いユニット側の人間の筈…
「上田さんたちも気をつけてくださいね。いつ何処で狙われるか分かりませんから…」
柴田は真剣な表情でそう言うと、待っていた相方と共に廊下へと消えていった。

「それじゃ、俺達も帰ります。上田さんもお大事に…」
矢作は小木に肩を借りて何とか立ち上がることは出来たが、
まだ喋ることは出来ないようだった。
無表情のまま、小さく会釈すると小木に支えられながら楽屋を出て行った。
「同じ芸人同士なのに…酷いことするやつがいるんだな…」
矢作の姿を見送った有田が呟いた言葉に、
「全くだな…」上田は胸が締め付けられるような思いがした。

その後自宅に戻った上田の元に、小木から矢作を家に送ったとの連絡があった。
別れ際まで口を開こうとしなかった相方の事を、心底心配している様子だった。
ファイアオパールが目覚めた後の能力
・相手の能力を強化・反射する。
・相手の能力のマイナス面だけを増幅させて苦しめる。
・負の感情を送り込むことによって、不信感を抱かせ相手の精神を追い詰める。


今回も無駄に長くなってしまいました…
某コント番組の設定だったのに、劇団ひとりと森三中が書けませんでした。
登場人物が多いと訳分からなくなりますね(w

あと2話位で一応完結すると思いますので、それまでお付き合いいただけたら幸いです。
93名無しさん:04/11/11 22:10:52
リアルタイムキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
そして乙です!
94名無しさん:04/11/11 22:20:36
リアタイぃょ━━(=゚ω゚)ノ━( =゚ω)━( =゚)━( )━(゚= ノ )━(ω゚=ノ)━(=゚ω゚)ノ━━ぅ
全くもって素晴らしいです!こんな新作投下が楽しみなスレは
一番盛り上がってた時以来のバトロワスレ以来だ・・・。
95名無しさん:04/11/11 22:43:08
乙!大変な目に合ってるのにどっか呑気な矢作と、上田さんがイイ!
96名無しさん:04/11/11 23:45:11
リアルタイムでキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
誰が柴田さんを救ってくれるのか・・・。号泣か?
ともあれ楽しみにしてます!

自分もがんがって書き上げよう。
97灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:03:00
肩で息をしながら、西澤は、どうしてこんな事態になったのかとつい今まで
起こっていた事を思い返していた。


出演する舞台のために通い慣れた劇場に足を運べば、まず感じたのは纏わりつくように
全身を覆う、不快としか言えない空気。
すれ違う人々に普段と変わったところはなく、ただ空気だけがいつものそれと違っていて、
その奇妙な事象に無意識のうちに石を強く握り締めた。
簡単なリハーサルを終え、舞台を終え、何事もなく一日が無事に終わりそうな事に安堵して
(今思えばそれがいけなかったのだが)ネタを書くために楽屋でネタ帳と睨めっこしていると
突然、背筋を何かが這うような感覚が走った。
98灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:04:18
朝感じたのと同じ質を持つその感じに、じわり、と嫌な予感が再び胸の奥からこみ上げてきて、
おそるおそる顔を上げれば楽屋内に居る5,6人の芸人たちが皆自分の方を見ている。
何かした訳でもない以上それだけでも充分おかしいのに、彼らの目は揃いも揃って
光のない虚ろなもので、西澤は今朝のあの奇妙な違和感の原因、そして危惧を曖昧なものから
完全に確信に変えた。


──もしかして、っつーか、もしかせんでもやばいやろ、これ。


直感的に危険を察して西澤が荷物もそのままに楽屋から飛び出すと、
楽屋内に居た芸人たちはまるで導かれるかのように彼の後を追いかけていく。
そして、目の前の非常事態に狼狽していた西澤には、一気に人口密度の下がった
楽屋の隅で一人不気味な笑みを浮かべていた人物の存在になど、気付ける筈もなかった。
99灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:05:09
西澤は普段の姿からは想像出来ない程必死に走りながら、とりあえず一時的に
この状況を凌ぐための場所を探し、目に飛び込んできた倉庫に急いで身を隠す。
まるでTVアニメの如くその部屋の前を先程の芸人たちが走り去っていくのを足音で確認し、
西澤は扉の前に座り込んで大きく息を吐いた。

…そして今に至る。
彼らが石の力によって操られているのは、ほぼ間違いないだろう。
ただ問題なのは、力の出所が分からない事。
誰が示唆しているのかも分からないのでは頭を潰すにしても叩きようがない、と思案に暮れた時。
100灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:06:13
「……っ!?」

突然背後から羽交い絞めにされ、一瞬抵抗する事も忘れて振り返れば
いつの間にか扉は開いていて、見知った芸人たちがぞろぞろと周りを取り囲んでいた。
自分を羽交い絞めしているのが誰なのかは確認出来なかったが、西澤にとってはもう
そんなのはどうでもいい事で、どうすればこの危機的状況を脱する事が出来るかと
頭をフル回転させる。しかしどう足掻いたって自分の力ひとつでこの大人数から逃れられるとは
思えないし、仮に石を使ったとしてもこの状況下で自分のそれは大して役に立つ訳でもない。
かと言って自身の力でここに居る全員を張り倒して逃げるんなんていうのはもっと無理な話で。
まさしく四面楚歌、もうどこにも逃げ場なんて残されていない最悪の状況に、
西澤は思わず項垂れて目を閉じた。

──うわー、アカン…もう終わった…

正面に立った男が西澤の首にかかっている、煌きを失くしたごく薄い青色の石に手を伸ばす。
西澤がもう何もかも諦めた直後、閉じられた瞼の向こうで、何か固い物が壁にぶつかる様な音がした。
101灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:08:06
「……ん?」
恐る恐る目を開くと足元にはつい今まで目の前に立っていた男が床に突っ伏している。
そしてそのすぐ脇にはまるでチンピラの様な風貌の、見慣れた芸人。
「あれ…大悟、さん?」
まるで正義のヒーローさながらな登場をした、何故か裸足の大悟は「よお西澤。危なかったのう」と
笑うと一瞬後には表情を真剣なものにすり替え、突然の事に戸惑っている芸人たちを見渡した。
「たくよ…誰だか知らんけど趣味悪いのー。こんな大勢使って一人を追い回すんが楽しいか?」
大悟が呟くと、また一人誰かが入り口の前に立っていた芸人たちを押し退けて彼を呼びながら
部屋に入ってくるのを確認し、西澤はふとそちらに目を向けた。
「大悟、お前いきなり走ってくなや!お前が力使ったら追いつけんわ!」
「やー、そんなん言うても力使わんと間に合わんかったし。ええやんけ別に」
西澤の存在を無視して大悟と言い合っているのは彼の相方のノブ。その両手の先にはおそらく
大悟の物であろうスニーカーがぶら下がっていた。
102灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:09:15
「あの、大悟さん、ノブさん」
とりあえず喧嘩より先にこの状況をどうにかしてほしいと思って口を挟むと、二つの視線が
同時にこちらを見て思い出したような表情に変わる。
「あー、悪い西澤。今片付けるから待っとってな。つー事でよ、ノブ、頼むわ」
「え?何で俺なん?お前は」
ノブが訊くと大悟は首を横に振って辺りを見回した後、足元に転がっている芸人を一瞥する。
「こいつら石持っとらんし、操られとるだけなんやろ。そんな奴らにあんま危害加えたないしや」
さっきのは不可抗力だったけどな、と付け加えられると、ノブはしばらく考えるそぶりを見せた後
「まあええわ」と言って赤く透き通る、ぱっと見ただけなら多分ルビーと見間違うのではと思う程の
美しい石を取り出すとそれを力強く握り締めて大きく息を吸った。
その様子を真剣に見つめているとノブの動きがぴたりと止まる。

「俺と大悟と西澤以外全員徹夜で寝とらんくて今すぐ寝たい気分!」
103灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:12:28
ノブが声を張り上げてそう発すると、彼の石が強く輝きを放ち、そしてそれはすぐ消える。
あまりの訳の分からなさに西澤が周囲をぐるりと見回すと、何故か皆が皆、気だるそうに
頭を擡げたり目を擦っていて、しまいには座り込んだり寝そべる者まで居た。
そしてそれは西澤を拘束していた男も同じで、掴んでいた腕を解くと頼りない足取りで
壁まで歩いてそのままずるずると座り込み瞼を閉じる。西澤はようやく解放された、
少し痛む体を気にする事も忘れてその一連の動作をぼんやり眺めた。
あまりに突然の事態に疑問符ばかりが頭の中を駆け巡り言葉も出ない。
104灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:13:16
「おお!うまく行ったわー」
ノブが満足そうな声を上げ、大悟は確認するように眠り込んでしまった芸人たちの頬を軽く叩いたり
名前を呼んだりしているその状況と今までの情報とを一つずつ整理し、思考はある結論に辿り着く。
「あ…もしかして今の、ノブさんの」
「そうそう、俺な、嘘が本当になんねん」
投げかけた疑問に返ってきた、余計な言葉を省いた至ってシンプルな説明でようやく合点がいった。
それならさっきの意図の読めなかった台詞も今のこの状態も納得出来る。

「ところでよ西澤、津田はおらんの?」
スニーカーの紐を結び直しながら訊ねる大悟を不思議そうに見遣った西澤が「知りませんけど」と
簡潔に言うと、大悟は怪訝そうに眉を顰めて立ち上がり「何で?」と続けて訊く。
105灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:14:27
「相方やろ?」
「いや、相方ゆーても行動とか全部把握してる訳ちゃいますし」
「津田は石持ってるんか?」
「持ってます、確か」
「危ないやんか、それじゃあ」
「ああ…そうですね」
「まー、ワシもお前らがそう仲良うないのは知っとるけえの。でもこういう時ぐらいは心配したれや」
然して問題ではないと言う感じの西澤を大悟は呆れた様子で諭し、ノブの方へ視線を移すと
「とりあえず津田捜さんとな」と言ってさっさと部屋を出て行く。ノブは特に何も言わずそれに続き、
西澤は何となくもやもやしたものを抱えながらも黙って二人の後を追いかけた。
106灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/12 00:23:05
とりあえずこの辺で一旦切ります。

大悟(千鳥)

石・・・・アンダルサイト(耐久性に優れた石。別名「貧乏人のアレキサンドライト」)
能力・・・・脚力を高める事が出来る。
条件・・・・裸足になる事。靴を履いたままだと力がその中に留まってしまい、足全体まで行き渡らない。
うまく使えば軽い疲労程度で済むが、無理をしたり力を加減したりしないとひどい筋肉痛になる。


ノブ(千鳥)

石・・・・スピネル(世界中のルビーの王冠の多くがスピネルであった事から「詐称者」とも呼ばれる。)
能力・・・・口から出任せを言うと、その内容が事実になる。
条件・・・・現実に出来るのはあくまでも身の周りで起こり得る程度の事象なので、
あまり大きな規模の物事は現実にならない。使い過ぎると、暫くはどんな些細な事でも嘘がつけなくなる。


お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eAさん乙です!
凄くドキドキしながら読ませて頂きました。続きも楽しみにしてます。
107名無しさん:04/11/12 01:11:00
base編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
新作ラッシュ!!関西シーンの石の攻防戦も楽しみです
108名無しさん:04/11/12 01:17:30
お二方とも乙です!GJ!!
109現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 02:53:41
どうも。ご無沙汰しております、前スレで番外編のバトロワ書いていた者です。
遅ればせながら新スレ乙でした!
書き手の皆様も乙かれ様です。
連載終了なさった方々乙でした、とても楽しかったです。

ではローペースではありますが、また番外編ちょっと投下しますね。
110現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 02:55:04
―ドガンッ!!

小木の背中とドラム缶が激突するけたたましい音が工場内に響く。
「小木さん!?」
工場内で休んでいた小沢と井戸田が、突然吹き飛んできた小木に驚き
小木の下へ駆け寄った。
「大丈夫ですか!?しっかりして!」
小沢が仰向けに倒れている小木を起こす。
外傷は無いようだが、腹の内部に相当なダメージを負っているだろう。
その証拠に小木の口の端から、血が零れているのが見える。
「…小木!!」
矢作も工場内に入り、駆け寄る。
「…く…あの野郎…。」
小木は立ち上がると、工場の入り口を見た。

「…木部の恨み…。」
そう言いながら、須知が工場の入り口に姿を現す。
その須知の様子は、尋常ではなかった。
怒りに捕われ、我を忘れているように思える。
「お前らまとめて殺してやるわ!かかってこい!!」
須知はそう言うと、飴を再びばら撒く。
飴は光弾となって、四方八方に飛び回り、誰に当たるかわからない状況だ。
「俺は…このゲームで勝ち残る。お前らをぶっ殺してなぁ!!」
そう言った瞬間、須知の石の光が強さを増す。
先程まで手が痛み続けていたが、もう何も感じない。
在るのは、憎悪や、闘うことによって生まれた高揚感
それだけが、須知を支配していた、その感情だけが、須知を動かしていた。
「痛ッ!掠った…。」
誰かが、微かな苦痛の声を漏らした
とりあえず4人は避けてはいるが、素早い光弾は4人の手や足など掠めていた。
「須知さんを取り押さえないと…!」
小沢がそう呟くと徐々に須知に向かって近づいていく。
111現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 02:57:52
その小沢の行動に気付いた須知は
「お前…何時かの飴泥棒やな…そんなに飴が欲しいなら、くれてやるわ!!」
小沢を睨み付けて叫び、飴を大量に小沢に向けて投げつけた。
飴は光弾となり、小沢に襲い掛かる。
キラッ、と光る閃光が小沢の前に迫る。
「―――しまった…逃げ切れない!?」
気付いた時には、遅かった。気付いた時には、物事が今までより物凄く遅く感じられた。
スローモーションのように遅く、光の弾は工場内を照らして近づいてくる
小沢は避けようとした、だが自分の身体もスローモーションのようにしか動かない。
そして、数弾の光が、小沢を直撃した。

―ドンッ…

当たってからは、まるで物事が今までの2倍速で進んでいるような感じだった。
あっという間に身体が光弾に押され、鋭い痛みが電流の如く身体を駆け巡る
「…がはっ…」
そして、光弾は破裂した。
小沢の身体の節々から光が溢れ、風が起きる、まるで紙のように小沢は飛んだ。
吹き飛んだ身体は、空に舞い、地へと勢い良く叩きつけられた。
叩きつけられた拍子に、物凄い痛みが小沢に襲い掛かる。
「ぐ…っはっ…げほっ…ごほっ…」
腹部の損傷が一番酷いらしく、小沢は血を吐いた。
地面に真紅の血の跡を残していく。
「小沢!!」
井戸田が叫んだ。
「だい…じょぶ…」
小沢はそう呟くと、口の周りの血を、服の袖で拭った。
だが、身体は酷いダメージを受けていて、少し動かすくらいでも痛むほどだった。
112現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 03:01:17
あまりの痛みに、小沢は顔を顰め、蹲る。
だが、立ち上がらなければ須知に狙い撃ちされるのは眼に見えている。

そう思った小沢が痛みを堪えて立ち上がったとき。

―ピッ。ピッ。ピッ。

何かの電子音が、工場内に響いた。
「…何だこの音…。」
井戸田が、辺りを見回した。
辺りにはそんな電子音を発する物は何も無い。
在るとすれば―――首輪。
そう思った井戸田は、急いで自分の首輪が鳴っているのか確認するが
どうやら自分の物では無いらしい。
それに、須知でも、小木でも、矢作の物でも無かった。
「…まさか…。」
井戸田は恐る恐る小沢を見る。
「…お…れ…の首…わ?」
小沢が自分の首輪を掴み、途切れ途切れにそう言った。
小沢の首には、紅い光が点滅する首輪…
113現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 03:02:19
ダウンタウン浜田サイド3.

「おい!どういうことや!?」
浜田の怒鳴り声が、基地内に響き渡った。
「何でアイツの首輪が発動してんねん!
 発動条件を満たしてへんやろ!」
浜田は机を叩き、兵士に言った。
「…申し訳御座いません…先程あの方が受けた衝撃のせいで
 首輪が…無理矢理外そうとしたと察知してしまったらしいのです・・・。」
兵士は暗い顔でそう言った。
「何なら今止めろ!アイツは…「呪われし石の所有者」や!
 アイツが死んだら石はまた次の奴に乗り移る!死なせたらアカン!」
浜田は必死に兵士に訴えかけた。
「それが…あの衝撃のせいで止める事が出来なくなってしまって…
 必死に止めようとはしているのですが…。」
兵士は浜田に気圧されながらも必死に今の状況を説明する。

「…あの首輪を止める方法…アイツの能力の発動しかない…。
 だが、発動させた瞬間あいつの意識は無くなる…暴走するのは時間の問題や…。」
浜田は、必死に首輪を止めようとする兵士の声を聞きながら
心配そうな面持ちで、モニターを見つめるのであった。
114現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 03:04:05
―ピッピッピッピッ。

徐々に首輪の電子音が早まっていく。
須知も小木も矢作も、そして井戸田も、小沢を見ていた。
「…何で…俺…何も・・してないよね?」
小沢は自分の首輪に手を掛けて言った。
何故首輪から電子音が聞こえてくるのか。
自分は、何もしていないはずだ。首輪が発動する理由等、何処にもないのに―――。

小沢は、首輪を引っ張ってみるが首輪はびくともせず、取れない。
「小沢…!!」
思わず井戸田が、小沢に駆け寄ろうとする。
「来るな!」
「――!?」
井戸田が近づいてくるのを、小沢は鋭く叫んで制止した。
近づこうとする井戸田の身体がピクリと震え、その場に止まる。
このまま近寄られたら、首輪の爆発に井戸田も巻き込んでしまうだろう。
そう小沢は考え、自分に近づこうとした井戸田を制止したのだ。

―ピピピピピピピピピ
そうしている間にも、徐々に電子音が早くなっていく

『ああ、俺、死ぬんだ…。』
電子音を聞きながら、小沢はそう思った。
その時、小沢のポケットに入っていた石が光った。
光ると共に、空間が崩れ、目の前は闇に包まれた。
そこでまた蒼い光が、小沢の目の前に現れる。
『…また…お前か…。』
小沢は、蒼い光に向かって言った。
蒼い光は、小沢に語りかけてくる。
115現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 03:04:43
―ホラ、「チカラ」ヲ使エ。

―今絶対絶命ダロウ?
『嫌だ…また、さっきみたいに皆を殺す気だろ!?…潤から全部聞いた…それなら
死んだほうがマシだ!』

―…貴様ガ拒モウトモ、我ハ貴様ニ死ナレテハ困ルノデナ。
―ソレニ、感ジタ。貴様ノ「絶望」「苦シミ」「憎シミ」
―死ヲ前ニシタ。「恐怖」モナ!!

蒼い光が辺り一面に広がる。
その光は闇をも飲み込む勢いで小沢に襲い掛かる。
『嫌だ!嫌だ…ッ』
小沢はそれを拒んだ。

―ソレラハ全テ我ノ糧ニナル。
―貴様ガ幾ラ拒モウトモ、貴様ノ「負ノ感情」ハ我ノ「チカラ」トナル
―サァ、全テ我ニ捧ゲヨ。
―全部任セレバイイ。

蒼い光は、徐々に増して、小沢を包んでいく
『嫌…だ…誰かっ…助け…』
小沢の視界に、蒼い闇が広がった。
まるで蒼い闇に溶け込んでいくかのように、意識が無くなっていく。
自分が自分では無くなって行く。別の何かが「自分」になっていく。
そんなモノを感じながら、小沢の意識は無限の蒼い闇に飲み込まれていった。
116現在執筆中 ◆n28wRDMeV2 :04/11/12 03:06:30
あと3回前後で全部終わると思います。
長くなってしまい、非常に申し訳がありませんでした。

そしてまたメル欄入れ忘れ…ボケてるんだろうか自分…申し訳ないorz
これも世に蔓延する不況のあおりの一つなのだろうか。
解体されるでも改装されるでもなく、ただひたすらに放置された廃工場。
入口は封鎖されていても、脇の塀には穴が空いており、真っ昼間から軽々と敷地に足を踏み入れる事ができて。
薄暗い内部は地元の若い連中の溜まり場にでもなっているのか、壁面は鮮やかなアートや
昔懐かしい○○参上! などのペイント文字で彩られている。

その中で、所々に空いた天井の穴から工場内に差しこむ光が人影を浮かび上がらせた。
見るからに長身のそれは光源から考えると不自然な闇を身に纏いながら、どこか険しい表情を浮かべている。

――もしも、人が。100%の善人と100%の悪人の2種類しかいなかったなら。
僕らはもっと楽に生きられただろうか。




「・・・赤岡くん。」
背後から呼び掛けられ、男・・・赤岡は声のした方へゆっくりと振り返る。
「一体何を考えてるのかな。話があるからちょっと付いてきて下さいって言ったちょっとにしては、
 随分事務所から歩かされた気がするけど。」
憮然とした様子で赤岡に告げるのは、小沢。わざとらしく両太股を手で叩いたりしているが、
行き先も聞かされないままいきなり十数分ほど歩かされれば、こんな態度になるのも当然だろうか。
「そう・・・ですかね。」
小沢の感情が明らかに表情に出ているにもかかわらず、赤岡はそれをサラリと受け流すとフゥと息を付いた。
「まぁ、ここまで来れば、さすがにまわりを気にする事なく話もできるかと思いまして。」
「・・・話?」
「そうですね・・・例えば、さっき小沢さんが事務所で調べようとしてた事、とか?」
淡々と言葉を紡ぐ赤岡に、小沢の表情がピクッと変化する。

午前中に一本取材を片付けた後、小沢が・・・いや、小沢と井戸田、スピードワゴンが
事務所に現れたのは、別にイレギュラーな事でもなく、スケジュール通りの行動であった。
後々の仕事についての軽い打ち合わせを終え、夕方のライブまで自由の身となった井戸田は
稽古場にいるという野村にちょっかいを出すべくそちらに向かったのだったけれど。
小沢は稽古場に顔を出さずにあるマネージャーと会えないかどうか、近くのスタッフに訊ねて
話を付けようとしていたのだ。

そのマネージャーとは、彼らスピードワゴンに虫入り琥珀を見せに来たあの人物。
力ある石について知っている彼なら、何故琥珀が号泣の手にあるのかを聞く事もできるかもしれない。
そう思っての小沢の行動だったのだけれど。
彼がつかまるより早く、赤岡が小沢を呼び出して、こうして今に至ると言う次第だった訳で。
「何で今更・・・あの琥珀なんかに興味を持ったんです?」
「別に。ただ・・・あれは危険な石だからね。ちゃんと管理されてるのか、気になったから。」
いきなり内角ストレートというのも何だろう、と小沢は一旦アウトコース寄りに言葉を返す。
とはいえ、決してそれは出任せではなかった。
あの夜、芝公園で向かい合った彼ら・・・島田が持っていたあの虫入り琥珀が、
事務所で保管されていた虫入り琥珀とは別のルートから彼らの元にまわってきた石で無いとも言い切れない。
そこの辺りの確認もしておきたかったのは、小沢の本心である。

「・・・余所の石の事まで気に掛けるなんて、良い人なんですね。小沢さんは。」
赤岡の首に掛かるネックレスのヘッドで、黒珊瑚が微かに揺れている。
「二つも三つもあんな石がゴロゴロしてたら・・・厭だからね。」
「・・・・・・・・・・・・。」
小沢の言葉を受けて、赤岡の表情に僅かな陰りが生じた。
・・・そろそろ勘づいたか。ポケットの中のアパタイトを確認するように生地の上から触れて小沢は言う。

「悪いけど、僕は忘れてないよ。君達が、あの晩・・・僕らに何をしたかを。」
穏やかに告げる小沢の言葉は、水面の波紋が広がるが如く周囲へと拡がっていく。
鼓膜を振るわす声に、赤岡は一瞬だけ苦々しげな眼差しを小沢に向けたが、すぐに諦めたように吐息をついた。

「初めてですね。あの琥珀の力が作用しなかった人は。」
何かしら立ち向かってくるかと予想して身構えた小沢からすれば、拍子抜けするぐらいにあっさりした態度で
赤岡は小沢に言うと、煙草を取り出して一本口にくわえる。
ライターを取り出す代わりに指先を先端に近づければ黒珊瑚が瞬いて、
赤岡の指先に生じた小さな青い火の玉が煙草に火を灯した。

「あの晩の続きになるけれど・・・あの琥珀やその石を使って、赤岡くん達は何がしたいんだ?」
数歩、赤岡の方へと歩み寄って小沢は問う。
「他の関係ない人達も巻き込んで・・・心は痛まないの?」
「・・・・・・痛い、ですよ。」
紫煙を吐き出し、赤岡はボソリと小沢に答えた。
「だったら、何で!」
「強く、なりたいんです。ならなきゃ、いけないんです!」
飄々とした普段の彼にしては珍しい、感情を押し殺したような調子で言い放つ赤岡の首元で。
黒珊瑚は所有者とは逆に感情を爆発させるかのように漆黒の光を散らし、
赤岡の長身を照らす日の光を一瞬だけ遮った。
石は所有者の感情や精神状況を反映する傾向がある。赤岡の本心は黒珊瑚が示した通りなのだろう。

「小沢さんもわかりますよね。力ある石を持ってしまったが為に・・・毎日追い回されたり狙われたり。
 本当は、そんな事している場合じゃないのに。戦いたくなんかないのに。」
「・・・・・・・・・・・・。」
そんな自らの内なる激昂に気付いたのか、平静さを見せるようにゆっくりと赤岡は言葉を続ける。
「だからといって・・・僕の石と島田の石を一緒に封じてもらえるかといえば、それは難しい、でしょう?」
確かに力持つ石を巡る戦いが起こるのは、自分が石を持っているから。
石を封じてその記憶を捨てれば、運悪く巻き込まれさえしなければもう石の戦いと鉢合う事はないだろう。
無理に力を求める必要もない。けれど。
「僕の石はともかく・・・あいつの石を封じるほど、『白』が馬鹿だとは思えませんからね。」
普段よりもずっと饒舌な赤岡を見上げながら、小沢は島田が持つ白珊瑚の力を思い出す。
負の感情に濁った石を浄化する光を放つ、石。もしその光が『黒』に汚染された石にも有効ならば。
白のユニット側からすればそれをむざむざ封じる訳には行かないのは道理だろう。
「何で、こんな面倒くさい石とぶつかってしまったんでしょうね。僕らは。」
深く溜息を付き、赤岡はくわえていた煙草をその中程までしか吸っていないにも関わらず、捨てた。

確かに赤岡の言いたい事は小沢にもわからなくもない。
黒のユニット側に付くのは論外としても、白のユニット側に入った所で、二人は戦いから逃れられないのだ。
むしろ白のユニット側に与する事で、戦いの最前線に駆り出されてしまう可能性だってあるだろう。
それならば、どちらにも属さず己の力だけで最低限の戦いを潜り抜けていくしかなさそうで。
その為には、どうしても強い力が必要になる。
「だからといって・・・関係ない芸人に石を渡して暴走させたりするなんて・・・それはやりすぎだと思う。」
「・・・でしょう、ね。」
小沢が絞り出した言葉に、赤岡は否定はしませんし、だからといって止めるつもりもないですが、と静かに応じた。
「でも、あいつに小沢さん達を襲うように言ったのは、二人なら・・・スピードワゴンさんなら
 あいつの事も何とかしてくれる、悪いようにはしないだろうって信じてたから。なんですよ。」
「そんな信頼、してくれなくて良い。」
その言葉のどこまでが本気でどこからが冗談なのかが瞬時に判断できず、ムスッと言い返す小沢に
赤岡のポーカーフェイスが崩れて苦笑じみた笑みが僅かに浮かんだ。

あの芝公園の時と同じ、石にまつわる話をしているにもかかわらず。
赤岡の纏う雰囲気はあの時よりも和らいでいて、言葉や態度に悪役めいた調子は感じられない。
小沢に琥珀の副作用が通用しない事から開き直ったのか、他に何か理由があるのかは
さすがに小沢にもわからないけれど。
「しかし・・・随分と今日は素直だね。」
「・・・でしょうか。」
まだ唇を尖らせながらではあったが、ふと小沢の口からこぼれた言葉に赤岡は不思議そうに小首を傾げる。
「もしかしたら、ここのせいかも知れませんね。」
「この、工場の?」
「ええ。色々と縁のある場所なんですよ。」
良くも、悪くもね・・・そう付け加えるように呟いた、赤岡の目がにわかに見開かれた。
彼の目線は小沢ではなく、その背後へと向けられている。

「初めて自分の石を使ったのも、島田くんの石が目覚めてしまったのも、ここだった。・・・そうでしょ?」

ザリ、とコンクリートの破片を踏む音が聞こえ、続いて響く声に小沢の表情も変わる。
石の事を口にしているというならば、彼の背後にいるのは力を持つ石に関わっている人間なのであろう。
けれど、石やその所有者の気配を敏感に感じ取れる筈の小沢にも関わらず、
声がするまでまったく相手に気付く事ができなかった。その事への驚きよりも。

「・・・設楽、さん?」
呆然と赤岡が口にした、固有名詞。
聞き慣れたバナナマン設楽の声が聞こえた事に、小沢はまず驚かされていた。
前の話を書き終わって2週間でまた投下し始めている辺り、
本当にこらえ性のない駄目人間丸出しですが。
コードネームは030!な感じで今度もどうぞ宜しくお願いします。

えぇと、時間軸はVSの続きという以外特に定めていないので、
ラストに出てきた設楽さんは ちょっとためしに さんの話の
設楽さんとはまだ別モノだと考えてて下さいませ。
黒寄りでソーダライト使いなので、繋がりそうなら繋げてみますけれど・・・。
123名無しさん:04/11/12 15:04:09
新作ラッシュだ!皆さん乙です。

>>現在執筆中 さん
待ってました!続き楽しみです。

>>◆ekt663D/rE さん
カコイイ文章大好きです。
黒寄り設楽に期待。

じゃあちょっとためしに さんの黒ユニも楽しみにしてます。
書き手さんたちGJ!!
124名無しさん:04/11/12 17:37:35
本当に新作続々ですね。
皆さん、乙です!
125名無しさん:04/11/12 18:35:07
同じ芸人小説スレのバトロワスレに習って
こっちもお絵かき掲示板置いてみるのはどうでしょう?
126名無しさん:04/11/12 19:37:30
>>125
良いと思うぞ。
置いてみる?
127名無しさん:04/11/12 20:12:59
>>124−125
sage進行よろしく
128125:04/11/12 20:58:36
>>127すみません;;

ttp://cat.oekakist.com/Gpos/bbsnote.cgi
一応作ってみました。良かったら使って下さい。
129名無しさん:04/11/12 22:57:37
とうとう前スレ落ちたみたいですね。
130名無しさん:04/11/12 23:06:02
>129
>18の倉庫格納はIP?晒さなきゃならないみたいで頼めなかったんだよねorz
131名無しさん:04/11/12 23:21:32
CUBE編とかエレキ編とか号泣編とかまとめ化されてないのはどうなるのかなあ・・・。
live2chのログだったら残ってるけど。
132カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/12 23:28:37
今更ながら新スレ乙です。
そして他の書き手の皆様も乙かれ様です。
間が空いてしまいましたが(そしてかなりローペースになりそうですが)、前回の続きを投下します。
133名無しさん:04/11/12 23:50:00
>>131
一応誰かとっておいた方がいいかもしれませんね。
無くなってからでは遅いので…
134カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/12 23:50:22
発露〜或いは動き始めた歯車〜

2人の元へ石が転がり込んでから数日後。
カンニングは地方の小さなホールでのイベントに呼ばれていた。
控え室で出番を待ちながら、2人は求人情報誌に目を通している。
――――その日は、今にも雨が降り出しそうな暗い雲が空を覆っていた――――

竹山は、食い入るような眼差しで記事を見ていた。
仕事は大分増えたが、それでもバイトは欠かせない。こういう時に情報を仕入れていざという時に備えるのが、もう半ば習慣のようになっていた。
外からは見えないが、その胸元には細い革紐に括られたあの紅い石が揺れている。
きちんとペンダントに仕立てる事も出来たのだが、削ってしまうのが惜く感じたので上部に小さな穴を開けるだけに留め、そこに革紐を通した。
角の無い楕円形にカットされた石は、光にかざせばキラキラと光を反射して輝く。
加工費の出費は痛かったが、石の輝きを見ているとそんな些細な事は許せる気がした。
その輝きに秘められたものは、まだ誰も知らない。

真剣に求人広告に目を通していた竹山は、ふと向かいに座る相方へ視線を向けた。
ボーっとした表情で手にした求人情報誌をパラパラと捲るその様子は、心底疲れているようで。
記事の内容がしっかり頭に入っているとは到底思えない。
まぁ、中島はその料理の腕を活かして長い間総菜屋のバイトを続けているのだから、それ程緊急に新しいバイトを探す必要も無いだろう。真剣に目を通す必要も無い。
「幸せボケか?」とからかってやろうかとも思ったが、本当に疲れた様子の中島の邪魔をするのは良くないだろうと思い直し、竹山は再び自分の求人情報誌に視線を戻した。
135カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/12 23:51:30



ページを捲る手を止めた中島は、ゆっくりと顔を上げた。
ここ数日身体が重くなったような倦怠感に悩まされているせいか、いつもなら気にならない廊下からの物音がやけに耳につく。
イライラしたように眉を顰めて扉へ視線を向けると、中島は吐き捨てるように呟いた。
「せからしか・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・いや、何でもない・・・・・・」
幼い頃から慣れ親しんだ博多弁。
だが、東京に来てから長い年月が経ち、訛りはともかく帰郷した時以外に方言を使う事などほとんどなくなっていた。
無意識とはいえそれが出てくるという事は、自分の思っている以上に疲れが溜まっているという事なのかもしれない。
中島は、小さく溜息をついた。

彼の上着の胸ポケットには、あの蒼い石が無造作に放り込まれていた。
僅かに黒ずみながらも美しい輝きを放つ石。
その石に魅入られている事に、中島本人もまだ気付いていない。
もちろん、この石に隠された危険性にも。
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
家族にも仕事にも恵まれ幸せなはずの彼がつく溜息は、どこまでも沈んでいきそうな程重かった。



いつもと殆ど変わらない、控え室の風景。
だがそのいつもの光景の中、本人すら気付かない程密やかに、そして確実に、何かが始まっていた。
――――石に秘められた力は、解放を待っている――――
136カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/12 23:53:08



それから数時間後。
2人は、舞台の上に居た。ひたすら怒鳴り散らし笑いを取る、いつもの姿。
淀み無くネタは進み、お決まりの給料ネタに差し掛かる。何度と無く繰り返してきたやり取りだ。
「――――誰でも、ホント誰でもいい、五千円貸してください!」
その言葉に、いつものようにツッコミを入れようと口を開いた瞬間。
『――――!』
「!」
どこからともなく聞こえてきた声に、中島は一瞬ギクリと身を竦ませた。
それはあの日、石を拾った日に聞いた声。
そしてその直後――――ガラスの砕ける音と鈍い衝撃音が響き、ステージが微かに揺れた。



2人の足の数十センチ先、ステージの床を大きくへこませ転がった黒い塊――――天井に吊り下げられていた筈の照明の1つを見て、竹山は顔を青くした。
あと少しマイクの位置が違っていれば、この照明は自分達に直撃していたかもしれないのだ。
ホール全体が、一瞬の間にざわめき出す。
「――――」
隣の相方に視線を向け声を掛けようとした竹山は、そのままの姿勢で凍り付いた。
まるで恐ろしいものでも見たような表情で立ち竦む中島の顔は異常な程に蒼白く、光の加減か、それとも気のせいか――――その目は、表情とは正反対の冷たい光を帯びているように見えたのだ。
今まで見た事も無い、相方の冷たい目。
今は知る芳も無いが、数時間後、竹山は再びその視線を目の当たりにする事になる。

――――まだ、気付く者は居ない。中島の上着の胸ポケットに入っていた蒼い石が、ほんの微かに光を放った事に。
137名無しさん:04/11/13 00:37:49
カンニング乙です!
みなさん、力作乙です!やっぱり自分とは文章力とか全然優れてるなーと。
初書きの自分が恥ずかしいやら・・・。

とりあえず黒ユニット集会編お付き合いして頂けたら嬉しいです。
 石川は指定された店に入ろうとして、急に流れてきた携帯のメールを覗いた。
 店は神楽坂の一等地にある、かなり高級な料亭を貸しきっているようだ。改めて黒のユニットの財源に思いを寄せる。

 携帯には和田からの、「無事に家に着いた」との旨がきらびやかな絵文字をちりばめたような、
石川にはかなり馬鹿馬鹿しいと思える文体で書かれていた。

 安堵しつつ店のドアを開けると、背後から、生気の全く感じられない仲居の声がした。
「いらっしゃいませ・・・石川様ですね?皆様が奥のお座敷でお待ちかねです。」
 店の仲居も操られているんだろうか・・・。その能面のような表情を見て思わず寒気がした。
 例のインジョンの失態の件を思い起こしつつも、恐る恐る襖を開けた。そこに広がっていた光景は・・・。
「すいません!仕事で遅れまして!」
「やあ、今日の主役がお出ましだねえ。」

 襖を開けると、ゆうに30人を超えているだろうか。そこには、石川の知らなかった世界があるようだった。
 今をときめく売れっ子の芸人やら、一度は仕事を頼みたいと思わせるような構成作家、
石川のようなまだまだ駆け出しの芸人には、会話どころか仕事で共演することすら叶わないような、
まるで自分が生まれる前から芸人をやっていたかのような大物芸人が、生気のない目でぼんやりと座っていた。

 人形のような顔で酌をして回る見覚えのある美しい女性達は、普段元気な笑顔を振りまいているモデルだろうか。
 来ている皆は、正面の開いている席にだけ目を注ぐだけで。出てくる豪華な料理や酒には皆、それほど手も付けずにただ座っていた。たった一人。この場の空気になんら、呑まれることもなく平然と料理や酒を口にする男以外は。

「設楽さん・・・。」
「まあ、座りなよ。石川君。まだまだ始まったばかりなんだからさ。」
 バナナマンの設楽は悠々と上座で寛いでいるようだった。うながされてそのまま、開いている下座の席に座る。
 周囲からの目が一斉に注がれ、まるで裁判を受けているかのような気になる。
 人形のように生気のなく、美しいグラビアモデルの美少女が酒を注ぎに石川の横に立っても、手が振るえ、うまく注がせることさえ出来なかった。

「みんな食べればいいのに。こんな豪華な料理なのにさ。」
 設楽が勧めるものの、最初から操られ意識をなくしている人間は動く事はなく、石川のように自分の意識をかろうじて残している者も恐る恐る口に運ぶことで精一杯だった。
 石川も設楽の勧めるままに料理を口に運んだが、普段石川の口に入る事はないような高級な料理すら、何の味も感じさせる事はない。自分の動きに熱心に目を注ぐ設楽の目線に何故か、震え上がるような恐怖を感じた。

――ひょっとしたらここで自分は殺されてしまうかもしれない・・・。
 石川が軽く目を閉じたその時、襖が開き、はっきりとした男の声がした。
「すいません、遅れまして。」
 
 その男の姿を見た瞬間、石川の表情が一気に凍りついた。
――まさかこの人も黒ユニットにいたなんて・・・。
 石川も直接会ったことはないが、ビデオも持っている憧れの芸人の一人である。
彼はアンガールズにも劣らないが、どこか颯爽として優雅な長身をひるがえし、上座にいる設楽の横に姿勢良く座った。
 設楽が彼に酒を勧める。
「酒飲む?」
「いいえ、話が終わるまでは結構です」

 下座にぽっかりと一つだけ空いてある席を見て設楽がニヤリと笑う。

「来れる人達はみんな揃ったみたいだね。じゃあ、始めようか?」
 一人づつ立ち上がり順番に、石や黒い欠片をを使った活動やその成果を話していく過程で、さすがの石川も震えが止まらなかった。

――自分は一体どんな罰を食らうんだろうか。
 インジョンの件では、彼は監視と共にインジョンが白ユニット面々を撃破するサポートをしなくてはならないという使命を帯びていたが、彼がその時、運悪く収録前であったが為に使命を果たす事が出来なかった。

 ある意味では仕方がないことであるが、収録までまだ時間が多少あったはずである。
何よりも優先させなくてはならない黒ユニットとしての、使命を放棄した石川自身が、無事で済むとは思えない。
 しかも、和田にまとわりつく死神が巻き起こしたアクシデントに遭遇したばかりである。

「次は・・・CUBEの石川君だね。前に出て。」 
 設楽の声がした瞬間、心臓が止まるような恐怖感を覚えながら、恐る恐る前へ出ると設楽と、上座にいる男の前にひざまずいた。
「何か、お通夜みたいな顔してるね。」
 設楽が石川の表情をみてケラケラと笑った。
「笑ってる場合じゃないですよ。設楽さん。彼のことなんですが・・・。」
 男の言葉を設楽がさえぎる。
「あ、石川君。あの、例の現場のスタッフの子いたでしょ?」
 思わずぽっかりと開いた空席の部分に目をやった。確かに、皆揃ったはずなのにそこには誰もいない。
欠席の理由を考える間もなく、次の設楽の平然とした言葉に凍りついた。
「彼ね、バイクでここに向かう途中に事故っちゃったんだってさ。」

「え・・・・・・。」
「怖いよね。まあ、腕を折ったぐらいで済んだらしいけど。うわごとで「死神が見えた」とか言ってたらしいよ。」
――死神!!!和田を襲った死神と同じ能力だろうか?一気に血の気が引く。思わず尻餅をついた。
「あ・・・うぁ・・・。そんな・・・。」
 設楽がケラケラと笑う。楽しげな笑みだが石川は悪魔のような微笑だった。
「ん?何でそんな顔してるの?石川君。別に君や相方の子には今は何にもしないよ。今日の出来事だって『シナリオライターさん』がちゃんと予想しててくれたんだよ。ね、『シナリオライター』さん。」
 設楽は横にいる長身の男の肩をポンと叩いた。シナリオライターと呼ばれた男は笑いもせずに設楽を、石川をじっと見つめていた。
 男の憮然とした様子を見て、設楽は「シナリオライター」と呼んでいる男に話かけた。
「ん?どうしたの?何か腑に落ちない事でもあるみたいだね?」
「設楽さん、今日の彼の失態なんですが、僕の「シナリオ」では今日、彼はインジョンをサポートして、その場にいる白ユニットの面々の一人を『説得』し、一人を再起不能・・・計2個の石をこちらの手に出来る予定だったんですよ。」
「ふうん。で?」

 設楽の平然とした様子に男は相当苛立ちを隠せないようだった。設楽ではラチが開かないと石川の方を向いて直接言った。
「どうして君は、インジョンのサポートを怠ったんだ?」
「え・・・それは・・・。」
 石川には答えることが出来なかった。自分でも何故かはわからずにいた。
「君のせいでインジョンの石は、浄化されたんだよ?」
「え・・・あ・・・申し訳ありま・・・。」
「君の使命はわかってたハズだよね?」
 石川には何も答えることはできなかった。自分にもなぜ黒いユニットの命令に背いたのかわからなかったからだ。
ただ、プライドも何もかも捨てて地面に頭をこすり付けるようにして土下座することで精一杯だった。
――もし、和田に何かするつもりなら、この場で刺し違えてでも・・・。
 何故か、嫌いなはずの相方の為に土下座しつつも剣呑な覚悟を決め、石川をその場を収めようとした。その時だった。空間を切り裂く様な設楽の声が響いた。

「そんなに彼責めたってもうどうにもなんないじゃん。つうかさあ・・・君のシナリオ自体に狂いがあったわけでしょ?実際うまくいかなかったのはさ。人のせいにするのはどうかなあ?」
 今度は『シナリオライター』が赤面する番だった。
「そ、それは・・・!」
「あれでしょ?多分さ、渡部さんいるじゃん?アンジャッシュの。彼が君の予想よりすげえ頭良くて力強かったってことじゃない?それにさあ、石川君だって完全に操られてるわけじゃないんだしさ。ね?そうでしょ?」
「え・・・!あ・・・!」

 操られたフリが完全にバレていた!石川は青ざめたままでポケットにそっと手を入れ、石を握り締めた。
――どうにかこの場さえ逃げられれば・・・!
そうして設楽を睨みつけた瞬間だった。
「あ・・・え・・・?」
 石川はまるで金縛りにでもあったかのように、石の力を発動させるどころか、身動きすらできなくなっていた。
 設楽は悠々と自分の目の前のお膳を踏み越えると、石川に近づき、ポケットからスッと石を引き抜いた。
「これが君の石ね・・・。スイカみたいだね。」
「え?うわ・・・。」
 ポケットの中を探られたのに石川は抵抗どころかひざまづいたまま身動き一つ、声をあげることすらできなかった。
「設楽さん・・・?」
 男が設楽をたしなめようとした瞬間だった。設楽は石に爪を立て、石川に見せ付けるように強く力を入れた。
「ぐ!ぐわっ!うわああああ!」
 石川になぜか激しい痛みが襲った。心臓を押さえながらその場に転がるようにのた打ち回る。
その様子を生気のない他のユニットメンバーがぼんやりと見つめていた。(何人かの操作が完璧ではないメンバーは怯える様子を見せてはいたが)驚く「シナリオライター」と楽しげに笑う設楽以外は。
 設楽が力をを緩めると、石川の胸の痛みが嘘のように消えた。荒い息遣いの石川に石をポンと投げる。
「はあはあはあ・・・。」
「びっくりした?ふうん。やっぱりそうなんだね。」
 設楽は呆然とした石川や『シナリオライター』など気にせずに一人で納得しているようだった。 
「いやさ、君が石の持ち主だと自分で思ってるでしょ?それと同じようにさ、石自体が君の持ち主だって事だよ。」
「・・・・・・?設楽さん、どう言う事ですか?」
「そのままだよ。例えば石の持ち主が死ねば石の効果はなくなっちゃうしさ、逆に石が壊れれば石の持ち主は死んじゃうってわけよ。封印されない限りはね。ってことは・・・石に直接「念」を送り込むとどうなるかな・・・?」
 設楽は楽しげに笑った。まるで新しい玩具をみつけた子供のようだった。

「『シナリオライター』君、一個面白い劇を考えてくれないかなあ・・・。今すぐで悪いけどね。それから、石川君にも協力してもらわなきゃね。汚名返上って言葉あるでしょ?ね?やってくれるよね?」
「シナリオライター」がその能力を駆使して作り上げたシナリオを見て設楽は満足げに笑った。
「うん、いいシナリオだね。」
 そう言うと石川にもそのシナリオをポンと投げた。
「読んでみてよ・・・。」

 石川はおそるおそるそのシナリオを読んだ。
「こ、これは・・・?!」
「この順番で、完璧にやってもらいます。こうすれば今現在、関東における白ユニットの戦力、もしくはそれに与する者の戦力に75%以上・・・相当な影響を与えられるはずです。」

 冷静に解説する『シナリオライター』に設楽は笑いながら、でも冷たい声で呼びかけた。
「今度はヘマしないよね?」
『シナリオライター』は思わず赤面した。
「・・・・・・大丈夫です。渡部さんの知能や能力のデータは取れましたから。」
「ふうん。俺、渡部さん欲しいなー。頭いい人好きだもん。」
「貴方の好き嫌いは関係ないと思いますが?」
「そうだね、彼が「説得」で動くとは思えないもんね。で、矢作さんにケガはないの?一応仲いいしさ、ケガさせるのはちょっとね。精神的なケガならいいけどさ。矢作さんがパニクるの見るの好きだから。」  
「大丈夫です。どうせなら小木さんも加えますか?」
「ああー、矢作さんさえこっちに引き込めばどうにでもなるんじゃない?」
 
冷静な会議に石川は呆然とするのみだった。今からの自分の役割を思うと気が重くなる。
――いくらなんでも、自分の先輩を売るなんて・・・。
 設楽が石川の方に気が付いた。
「石川クン。手、出して。」
「は?」
 石川が手を出すとどこから出したのだろう。パラパラとカプセルを落とした。
「これ、柴田さんに飲ませてよ。柴田さんにやってもらおうと思うんだよね『ユダ』役をさ。」
「どうして・・・柴田さんなんですか?」

「ねえ、石川さん、シェークスピアって知ってますか?」
「はあ・・・。『ロミオとジュリエットとか』・・・『リア王とか』・・・。」
『シナリオライター』は淡々と話していく。
「シェークスピアの劇でオパールっていう石は『不幸を呼ぶ石』と言われて使われたんですよね。」
 設楽が言葉を継いだ
「柴田さんの石は?」

「あ!!」
――柴田の石、それは
「ファイアーオパール・・・。」
 設楽はまるで悪魔のような笑みを浮かべた。
「そう、面白いと思わない?これって偶然かなあ?『石の意思』が働いてると思わない?ねえ?」
 しばしの宴の中、石川は料理や酒を満足に口に運ぶ事はできなかった。
――二度と失敗は許されない。今度失敗した時は、彼と、そして死神に取り付かれた相方の破滅を意味していた。
 皆、はしゃいではいたが、今の自分にはどこか機械的で操られたわざとらしさを感じずにはいられなかった。
この宴の支払いに何故か考えをめぐらせることで、場をなんとかやりすごそうとした。

――きっとこの宴はあの大御所の芸人が支払うんだろうな。そして店を出た頃には催眠も解け、
「若手やスタッフを連れて料亭を楽しく豪遊した」という記憶しか残らないんだろう。
まあ、石川には関係のない事であったが。

何故か設楽の視線を感じていた。設楽と視線が合った瞬間だった。石がけたたましいほどに反応し研ぎ澄まされた石川の精神に、設楽の声を感じた。目の前が急に暗くなる。その瞬間、青い光が見えた気がした。

「ネエ、俺ノ声ガ聞コエルデショ?君ノ精神ト直接話ガシタクテサ。」
「・・・エエ、ワカリマス。」
「石川クン、コレダケハ言イタインダケド?中途半端ナ悪ホド、ツマンナイモンハナイト思ウヨ。」
「エ?」
「考エテゴラン?君ハ和田クンの為ニ動イテルト思ッテルヨネ?デモ、ドウシテコッチニ、黒ユニットニ来タノ?」
「ソ、ソレハ・・・。」
「白ユニットニ、助ケヲ求メル事ダッテデキタノニネ。君ノ中ニ、呼応スル心ガアッタカラ、コッチに来タンジャナイ?」
「・・・・・・。」
「悪ニ徹スルナラ徹シナイトネ・・・。賢イ君ナラワカルハズダヨネ。」

――ああそうだ、自分は和田の事よりも本当は悪に染まりたかったんだ・・・。
石川は生まれ変わった様な気がした。今までの罪悪感が剥がれ落ちていく。
石川は礼を言うと、来た時とは別人のような足取りで宴の場から颯爽と去っていった。

「シナリオライター」が設楽をいぶかしげに睨みつける。
「彼に何をしたんですか・・・?」
 設楽は平然と答えた。
「ああ、『説得』して彼の迷いを取り去ってあげただけだよ。」
「貴方は・・・。」
「多分彼はうまくやってくれると思うよ。俺さ、彼みたいな人嫌いじゃないんだよね。」
「え?」
「相方の事守ってあげたいとか泣かせるじゃん。ね?俺や君みたいだよね。」
 設楽はわざとらしく、シナリオライターの名前を呼んだ。
「ね、小林君。」
バナナマン 設楽 統
石…
ソーダライト(ソーダ石)←正しい判断力、直観力、理性的な行動。自己意識の強化、会話能力の向上。
能力…
言葉の説得力とカリスマ性を上げることにより説得により相手を味方に引き入れたり、かく乱させたりすることができる。説得に気づかせずに結果的に自分の思い通りになるように相手を行動させることも出来る。
「洗脳」とは違いあくまで「説得」なので第三者が解除させることはできない。

条件…
相手が迷いを心に持っていたり、話を聞ける状態ではないと発動できない。
(心に迷いが全くなかったり、操られて思考を停止していると発動しない。)
単純な人間か、心の迷いが大きい人間ほど効果が高く、複雑で迷いが少ない人間ほどパワーを消費し、効果が少ない。
説得された人の解除は第三者は基本的にできないが、「さらに上をいく説得力」か「説得を超える熱い思い」がある場合には解除させることができる。
パワーの消費により説得力が落ちていく。

(ラーメンズ)小林 賢太郎
石…
トルコ石(石言葉、成功を保障する・命中)
能力…
現状を分析し、その状況から勝利、または回避できる最良のシナリオを物凄いスピードで自動筆記することができる。
この能力を使っている間は他人は干渉することができず、例え失神したり仮に本人が死亡しても自動筆記が止まることはない。
仮に勝利が不可能な状態の場合、自動的に回避や退避、死なないようにするためなど目的を自動で変更して書き上げることができる。

条件…
ペンとノートやPCなど筆記できるものがないと発動できない。
この能力を使用している間、本人は精神集中している状態になっていて呼びかけたり話しかけても答えることはできない。
完成したシナリオはある程度の不確定要素には対応してはいるが、例えば未知の人物が乱入してきた場合など
アクシデントが発生するとシナリオ通りにはいかなくなってしまう。

もの凄く長くなってすいません・・・。これでお試し期間中さんの話と繋がればいいなと・・・。
一応、未確定で出ていた小林賢太郎を黒ユニットに入れてしまいました・・・。
もし使いたい方はご自由にスルーしていただいても結構なんで・・・。
154名無しさん:04/11/13 04:19:48
何気に投下されるごとに読んでました!
シナリオライター小林だという事を忘れてたので、最後あっと思いました。
黒ユニット頭良さそうな人ばかりで手ごわそうですね。しかも悪い…。
かなりワクワクしてます。乙です!
155名無しさん:04/11/13 04:25:17
乙です!
展開にドキドキします。続きがもう読みたい…!
口調もリアルで(・∀・)イイ!!
156名無しさん:04/11/13 04:42:32
そうか小林さんを忘れてた…!
これ黒ユニットかなり強そうですよね
白勝てるのか w
どうなるのやらおそろしくもあり楽しみです
乙でした!
じゃあちょっとためしにさんお疲れ様です!
上手い具合にこちらの設定を取り込んで頂いて良い感じに繋がっていると思います。

この後の展開をどうしようか思案中なのですが、
精神的に追い詰められた矢作さんを「説得」しようとする設楽さんと
それを阻止しようとする小木さんのお話に繋がるように書いても良いですか?

確か前スレの方でそんなお話が出ていた気がしたので…
158名無しさん:04/11/13 05:11:53
>>157
(・∀・)イイ!!是非読みたいです!
159名無しさん:04/11/13 09:04:50
皆さんお疲れ様です!すごい展開!

>「シェークスピアの劇でオパールっていう石は『不幸を呼ぶ石』と言われて使われたんですよね。

勉強になるなぁ…あ、たしか児嶋さんも持ってたような>オパール
160名無しさん:04/11/13 13:15:23
>>159
十二夜という小説の中で「宝石の女王」と称えるのと同時に、「あなたの心はオパールのようだ。」と
心変わりのシンボルとして使われたみたいですよ。

それとイギリスのウォルター・スコットという人が書いた小説の「ガイエルスタインのアン」という話の中で、
生き物のような不思議な石でオパールが「不幸の石」として使われています。
主人公の女性が持っているのがファイアオパールだったような・・・。

みんな博識だなあ・・・。
161名無しさん:04/11/13 13:37:37
カンニング新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
162名無しさん:04/11/13 15:48:39
投稿ラッシュキタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━!!
感想が追いつかないのも何か嬉しかったり…

>>◆cLGv3nh2eA
乙です!ボリュームスゴー(゚Д゚)
石がまだ輝きをかすかに保ってるって事は、柴田は完全に操られているわけでもないのかなぁ…。
我侭を自覚してるのもそうだからなのかなぁ、と独り言してみますが気にしないで下さい。
仲間内に黒の人がいるとかなり影響力あるね。面白かった!続き楽しみにしてます!

>>◆IpnDfUNcJo
能力とお話の作成乙です!千鳥の事はあまり知りませんが面白かったです!
関西の方も始まってワクワクしてます。続き楽しみにしてます!

>>◆n28wRDMeV2
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
バトロワ番外編も殺伐とした緊張感があって面白いですね!
乙です!続き待ってます!
163カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/13 16:37:41
どうしようもないぐらい今更ですが補足。
>>135で中島が呟いた「せからしか」という言葉は博多弁で「うるさい」という意味です。
以上役に立たないマメ知識でした(何
164名無しさん:04/11/13 18:07:00
今までの話(番外編以外)を相関図にまとめられないだろうか?あったら面白そう&分かりやすそうというだけなんだけど。

とはいえ今自分で紙に書いてみたら結構難しいoTL
165 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:52:40
お久しぶりです。
短いですが童話調の短編を投下いたします。

>>164
私も欲しいです!
166願いの叶う石 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:54:12
「願いが叶う石をあげよう」
飛石連休の岩見くんは、こう言われておばあさんから宝石のような石を貰ったのです。
しかしとてもその言葉を信じられなかった岩見くんは、
「じゃあ、あしたになったら藤井くんみたいに大きくしてくれへん? なんて」
石に向かって呟いてみました。

次の日の朝のことです。
岩見くんは目が覚めました。
変な感じがします。
何故だか周りが小さくなったような…
「って、ぼくが大きくなってるやん!」
岩見くんは身長180cmのニキビでマッシュルームという、トンでもない容姿になっていたのです!

慌てながらも昨日自分が言った言葉を思い出します。
岩見くんは願いが叶うのならば、元に戻ることを願えばそれもまた叶うのだろうと考えました。
「おねがい! 今すぐもとにもどしてぇ!」
石がチカッと光りました。
167願いの叶う石 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:55:30
そして周囲を見渡すと、そこはいつも通りの世界でした。
岩見くんは、またああなったら怖いなぁと思いながらお仕事へ向かいました。

そしてここはとあるライブ会場。
岩見くんはジッと石を見つめて先ほどのことを考えています。
「岩見〜!」
相方の藤井くんに呼ばれ、岩見くんはその場を去りました。

ところが何という事でしょう!
石をその場に置き忘れてしまったのです。

「ん、何コレ?」
岩見くんが残した石を手に取ったのは、18KINの今泉くんでした。
その時、楽屋のテレビに映画が流れていました。
「あんなダンディな声出してみたいなぁ」
石が光ったことに今泉くんは気づきませんでした。
168願いの叶う石 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:56:23
「今泉さん、何ボーっとしてるんですか?」
「え?」

その声はとてつもなくダンディになっていました。

「い、今泉さん、風邪でも引いてるんですか?」
「引いてない! 引いてない! あー、あー!」
今泉くんも驚きましたが、声を掛けた後輩芸人さんもビックリして呆気に取られています。

「あ〜! その石!!」
すると、その光景を見つけた岩見くんが叫びました。
「え? 何? 何?」
今泉くんがダンディな声で慌てているのは、何とも滑稽な光景です。
「いいから、その石にむかってもとにもどりたいって言ってよ!」
「も、もももも元に戻してぇ!」
石がピカッと光りました。
今泉くんは「あ〜あ〜」と声を確かめて、
「元に戻ってる!」
と元の声高い声で嬉しそうに叫びました。
169願いの叶う石 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:57:13
するといきなり、
「もう、こんな石!」
岩見くんが窓から石を投げ捨ててしまったのです。
「なんだよ〜、元に戻れるならもう一回声変えたかったのに」
「えぇ? なんかかこわいやん」
今泉くんは文句を言っていますが、岩見くんはこれでもう終わりだと思っていました。

「おやおや、昨日の今日じゃないか。今回の子は上手く使えなかったんだねぇ」
ライブ会場を見上げながらおばあさんが呟きました。
たった二回かい、と言いながらおばあさんは石を拾いました。
「これじゃあ『返り』が少ないねぇ、つまらないものよ」

次の日岩見くんは小人になり、今泉くんは超音波を発するようになったのは、また別のお話。
170願いの叶う石 ◆8uJZWGzz3U :04/11/13 18:59:07
石…ホワイトファントム(願望や夢をかなえるといわれてる水晶)

以上です。
最初に間違って上げてしまいすみませんでした。
171名無しさん:04/11/13 19:05:18
かわいい短編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
こういうほのぼの展開も(・∀・)イイ!!
オパール編とは別に、気分転換に劇団ひとり川島さんの短編を。


「いい加減にしろよっ!!戦いたくないって…何回言ったら分かるんだよぉ!!」

涙声に近い叫びと共に路地裏に藍色の光が広がった。

暫くして若い男が路地裏から出てきた。
その目は虚ろで、何かに取り憑かれているかのような覚束無い足取りで夜の街に消えていく。

「こんなに乱用してたら、そのうち俺の涙腺どうにかなっちまうんじゃ…」
路地裏に独り残された劇団ひとり・川島省吾は涙を拭いながら呟いた。
自分がこうして襲われるようになったのはつい最近。
別に喧嘩を売られた訳でもカツアゲされた訳でもない。
原因はギター侍波田陽区から渡された不思議な石。
彼から聞いた話によれば、欲に目がくらみ他の芸人の石を奪おうと襲っている者が居るらしい。
今さっき襲ってきた若者も石の力に取り憑かれていたのだろう。
(名前も知らないような若手にまで石が出回っているなんて…)
彼は自分の石を狙って襲ってくる連中を、やっと使い方を覚えた石の力で追い返してきた。
(早く石を封印している人達に出会わなければ…)
石を巡る争いの中で作られた芸人集団があると風の噂に聞いた。
こうしていつまでも襲われっぱなしと言う訳にも行かない。
こんな争いに巻き込まれたくなかったが、石を持ってしまった以上何かするべき事が有る筈だ。
(誰かわかんないのに…どーすりゃ良いんだよ…)
石のことを知っている人物がいないかと、楽屋で自分の石をさり気無く見せたりもした。
結果、さっきの男につけられ襲われることになった。

「あー…面倒くせぇ…」
思わず口を吐いて出た呟きは、望まず石を手に入れてしまった自分の不運への嘆き。
ポケットに両手を突っ込むと足早に家路へと急ぐ。
またいつ背後から襲われるか分からない不安を振り切ろうとするかのように。

…また一人、いつ終わるとも知れない戦いへと巻き込まれていった。


ピン芸人@前692 ◆LlJv4hNCJI さんの書かれたお話の続きみたいな感じで書きました。
川島さんの能力は面白いので、それを生かした話を読んでみたい気もします。
皆さん新作乙でした!

じゃあちょっとためしに さんの話を参考にした感じだと、
こっちの話の設楽さんは黒のユニットの集会とは関係なく
個人的な興味で動いてる(遊んでる?)設定になりそうです。

しかし黒ユニットの布陣は凶悪だな・・・
上のレスにもあったけど、白ユニットは勝てるのかw
175名無しさん:04/11/13 23:35:23
感想続き書かせてもらいます。
書きたくて書いてるだけなんで他の皆さんは気になさらないで下さいね。

>>◆ekt663D/rE
新作キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
最初の影は設楽?がもぅイワク有りげで、かなり過去とか気になりますね。
どうしてあんなに悩んでるんでしょう…。
続き楽しみ過ぎです!乙です!

>>◆8Y4t9xw7Nw
乙です!中島の石は何か悪いモノが篭ってるんですよね。何なんでしょう。
そういうのに惹かれてしまった中島も何か…。
このお話で竹山の素っぽい部分を何となく確認してます。すごく大人しいですよねw
続き待ってます!

>>◆dRwnnMDWyQ
乙です!ドキドキしますね。
「相方の事守ってあげたい」と言っててもする事は悪いんですよね。黒ユニットは。
また設楽はどうして悪くなってしまったんでしょう。知的なだけに怖いですね。
しかもオパールの話が絡んでかなり深みが…。
続き楽しみです!

皆さん乙です!
176名無しさん:04/11/14 08:54:31
>>164
相関図やってみていいですか?
本家まとめサイトではないんですが、個人的に作品群とか登場人物を
整理したサイト持ってまして、そこでやろうかなと。
177名無しさん:04/11/14 09:13:37
164では無いですが…。
とても見てみたいです!お願いします。
178名無しさん:04/11/14 10:10:36
>>176さん

164です。是非お願い致します。私は挫折しましたので…。
179名無しさん:04/11/14 13:15:24
ピン芸人さんとお試し期間中さんの劇団ひとりの話は
オデンヌさんが帰って来ないようならぜひ本編に加えて欲しいんだけど…やっぱりダメかな。
すごい面白くて続きが気になる。
180名無しさん:04/11/14 14:42:04
職人さんたち、凄すぎ!
181名無しさん:04/11/14 19:01:39
コバケンが黒についたことに驚いた。どちらでもない人だと勝手に
思ってたからなー。
仁さんはどうなんだろう。相方が黒側だと知ったら黙ってなさそうだ。

白にも、いろんな意味で強い人がいてくれるといいなあ。
182名無しさん:04/11/14 19:07:21
物語的には白がちょっと不利なくらいが盛り上がるんだけどね。
強力な黒いメンバーに力を合わせて立ち向かうってのが話し書きやすかったり…

でも実際白に居たら強力そうな人って誰かな…
183名無しさん:04/11/14 19:15:33
実はコヴァだけが意外とリアクションがまともなのが伏線だと予想してみたり・・・。
184名無しさん:04/11/14 19:23:11
こっそりどっちが正義かわからないくらいに話が難しくなっても別に良いかなぁと思ったり
185名無しさん:04/11/14 19:27:45
自分現在話を進めてる誰かなのですが、黒いユニットの
本当の目的がはっきりしてないのでどう進めていいものかと悩んでおります。
186名無しさん:04/11/14 19:56:41
乙です。取り敢えずの目的でも書いてもらったら書きやすいかもね。
187名無しさん:04/11/14 20:01:24
ネタバレになると鬱なんで、進行スレ建てるかしたらば借りるのはどうでしょう?
今の所良スレだけど、荒らしとか来たら怖いし・・・。
188名無しさん:04/11/14 20:06:22
進行スレはバトロワの時に失敗してるからなあ・・・。
AA長編板のスタンドスレみたいに
したらば借りて進行会議と、練習や添削、石の能力兼ねてやった方がいいかも。

こういう感じ
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/9551/
189名無しさん:04/11/14 22:31:39
>>188
それいいと思います。スタンドスレほどカチカチにならなくても、あった方が便利でしょうし、
話が進んで書き手さんも増えるにつれツジツマのチェックなど大変でしょうから。
190カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/15 03:53:03
ローペースになりますと言いつつ中2日で投稿という無茶を・・・・・・
これはいい事なのか悪い事なのか、とりあえず謝ります。すいません(ニガワラ
今回中島の能力の片鱗が現れますが、とりあえず紹介はあとまわしにしておきます(2人纏めて紹介したいですし)
191カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/15 03:55:21
始まりを告げる声〜或いは慟哭〜

バタン!
背後で扉が閉まる音がやけに大きく聞こえて、竹山は眉を顰めた。
あの後、照明落下事故を理由にイベントは中止され、2人はスタッフに言われとりあえず控え室に戻ってきていた。
観客への説明や事後処理に追われているのか、控え室の周辺には人気が無い。
眼鏡を押し上げて溜息をついた竹山は、先に室内に入っていた中島が頭を抱えて屈みこむのを視界の端に捉え、慌てて駆け寄った。
きつく耳を塞いでしゃがみ込むその姿は、明らかに普通ではない。
「おい、大丈――――」
「来るな!」
その声の強さに思わず足を止めたその瞬間。
・・・・・・何かが冷たい風と共に竹山の手を掠めた。
「!?」
鋭い痛みに驚き視線を向けると、手の甲にまるで鋭い刃物で切ったような傷が出来ている。
幸い皮一枚程度の軽い傷だったが、それはまるで紅い線を引いたように手の甲を横断していた。
「・・・・・・っ!?」
再び視線を前に向けた竹山は、驚愕に目を見開いた。
傷に気を取られた一瞬の間に、きら星のように中島の周りに舞い散った何か――――それは、冷気を漂わせる小さくも鋭い氷の刃。
目の前の信じられない光景に、嫌な汗が背中を伝う。
だが、そんな状況でもこれが自分目掛けて一斉に飛んでくれば確実に命に危険が及ぶという事は容易に理解出来た。
さっき自分の手を掠めたのも、これなのだろうか。
「・・・・・・」
ピンと張り詰めた空気に、声さえ上手く出てこない。
どこかで、氷の刃が微かにぴきんと音を立てた。
192カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/15 03:58:48



先程から、中島の上着の胸ポケットに入っている石は淡い光を放ち続けていた。
黒ずんだ、冷たい光。だが、今の彼にそれに気付く余裕は無い。
『――――!』
照明が落下した直後から止む事無く聞こえ続ける声は、確実に中島を追い詰めていた。
鈍い頭痛も感じ、立っている事さえままならない。まるで頭の中を直接かき回されているような、言い様の無い不快感。
『――――――――』
周りの音を掻き消す程に響き、耳を塞いでも聞こえてくる声。それなのに、何を言っているのか聞き取る事が出来ない。
『―――――――――!』
いや、違う。聞き取れなかったのではない。聞きたくなかったのだ。

あの時、舞台に照明が落下する直前。
再びあの声を聞いた瞬間、気付いた・・・・・・気付いてしまった。
あまりに聞き慣れているせいで気付けなかったその声の主に。

――――間違いない、これは・・・・・・これは、俺の声だ。

少しづつ、声が明瞭さを増していく。
聞きたくない思いを、突き付けてくる。

『――――――――あのまま板前でも続けてれば―――――――家族にだってもっと楽を――――こんな―――――』

「・・・・・・やめろ・・・・・・」
違う・・・・・・そんな事思ってない!

『――――――こんな仕事、ずっと辞めたいって思ってたんだよ!』

「――――やめろぉぉ!!」
その声に呼応するように、胸ポケットに入っていたサファイアが、眩い程の蒼い光を放った。
193カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/15 04:00:52



「・・・・・・」
まるで自分を狙っているかのように冷たく煌く氷の刃に動く事も出来ず、竹山はただ強く拳を握り締めていた。
爪が食い込んで手が痛むのも、構わない。
自分を傷付けた相方よりも、彼がそこまで追い詰められている事に気付かなかった自分自身に酷くイライラしていた。
腐れ縁でも、10年以上の付き合いでそれなりに相方の事は理解していた。
・・・・・・理解していた、つもりだった。
自分の不甲斐なさに、怒りが込み上げてくる。
中島の叫びを合図とするように、自分目掛けて飛んできた無数の氷の刃。
それを目にした瞬間、灰の下の熾火のように燻っていたその怒りが、一気に燃え上がった。

「――――!!」

言葉になどならない、ただ抑え切れない激情だけを込めた叫び。
その声と同時に、その首に掛けられていたルビーが鮮やかな紅い光を放った。
194名無しさん:04/11/15 07:11:34
かっこいい…乙でした!!
中島さんが氷で竹山さんは炎でしょうか。
続きが凄く楽しみです。
195名無しさん:04/11/15 13:15:30
カンニング編乙!面白いよー!
196灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 20:49:15
>>105続き

『誰かー!誰か助けてくれませんか!』

部屋を出た瞬間突然頭の中に響き渡った、某大ヒット映画のワンシーンを連想させるような
叫び声を発しているあまりにも聞き覚えのある声には緊迫感が滲み出ていて、
西澤は思わず動きを止めた。
「津田…?」
『おお!その声西澤!?ちょっ、頼むわお前、助けてくれ!』
「え?え?何?」
超能力者ではないはずの相方の声が脳に直接響いているというおかしな事態に
見舞われながらも津田の言葉の意図するところをどうにか聞き出そうとすると、
次に聞こえてきたのは彼のそれではない、けれど、またしても聞き覚えのある声だった。
『西澤?聞こえとるか。俺や俺』
それを聞いた瞬間、西澤や千鳥両名の脳裏に、数多の芸人の中でもかなり「特徴的」な
容姿をしているであろう人物の姿が浮かび上がる。
伸ばしっぱなしで汚らしいように見えて実はシャンプーの香り漂う長髪に、蓄えられた口髭。
やや猫背な立ち姿はどことなくおじいちゃんを彷彿とさせる『あの人』。
西澤がふと気付いて視線を動かすと、大悟とノブが戸惑ったような表情を浮かべている。
千鳥はダイアンの二人より前、それこそインディーズの頃から『彼ら』とは交流があるのだから、
その分、ショックやそれに近い感情が西澤より大きいのも無理はなかった。
197灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 20:51:19
「…え?何で、何でアンタがこんな、アホみたいな事しはるんですか?」
低く呟いた大悟の声が震えている。
それは動揺のせいなのか、それとも怒りのせいなのか、西澤には判別がつかなかった。
大悟の隣でノブが苦しそうに顔を歪める。
『ん?大悟もおるんか?まーまー、そう怒んなやー』
なだめるような、それでいて馬鹿にするような落ち着き払った言い方。それが
大悟の神経を逆撫でするのか、その表情はより一層険しいものへと変わった。
「……あんまフザケんで下さいよ」
『フザケてへんがな』
「じゃあ……じゃあ何で!こんな事してんのじゃ!!」
そう言うと同時に壁に拳を叩き付ける。ノブの肩がわずかにびくっと揺れ、
大悟は拳を震わせ、西澤は黙って二人を見つめるだけ。辺りが静寂に包まれた。
198灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 20:53:18
『そんなに知りたいんやったら、直接訊きに来たらええがな』
「……は?」
相手の言葉に、大悟だけでなくノブや西澤も怪訝な表情を浮かべるが、向こうは
その様子など気にも留めず続けた。
『こっち来たら』
「何すかそれ」とノブが訊ねると聞こえてきたのは、何で分からんの?とでも言いたげな口調。
『だからあ、俺んとこ来い言うとんねん。どのみち津田もこっちにおるし』
「あの、すいません。あんな天パなんか捕まえてどないするんですか」
話の腰を折る事になると分かりながらも、ふと浮かんだ疑問が西澤の口を吐いた。
津田が「誰があんな天パやねんお前!関係ないやろ!」と叫んでいる姿がありありと浮かぶ。
『ん?津田には別に何も用ないで。あんのは石だけ』
聞き流してしまいそうな程ごく自然に発せられた、ある程度は予想していたものの
出来ればそれを裏切ってほしかったと思う内容の返答に西澤は、
「そうですか」と小さく呟き返すだけだった。
199灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 20:57:08
『何や、やっぱ相方の事は心配か』
「いや、別に…」
西澤の言葉に津田は不満を露にした声で喚き、『あの人』は可笑しそうに笑う。
そしてその直後、何故か声の調子を焦ったようなものに変えて呼びかけてきた。
『ほんじゃあ待っとるから、頑張り。あっヒントやるわ。とりあえずbaseん中にはおるから』
それだけまくし立てると今まで響いていた声がぷっつりと途絶える。どんなに呼んでみても
再びあの声が聞こえてくる事はなく、三人は怪訝そうに目配せをした。
そして数秒の沈黙の後、最初に口を開いたのは大悟で。
「…ほんなら、とりあえず行くか」
「え、お前、場所分かるんか?」
驚いた様子でノブが瞬くと、大悟は鋭い目線で正面を見据えて。
「芸人が勝負つける場所言うたらひとつやろ」
200灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 21:01:10
決して広いとは言えない、静まり返った劇場の客席に座っている人物は、
舞台に現れた男に気付き石の力を静めた。
舞台上の短髪の男はひょいとそこから飛び降りると、2つほど席を空けた右隣に
乱暴に座り背もたれに体を預ける。長髪の男の「多分、もうすぐ千鳥と西澤来る」
という言葉に「あっそ」と素っ気ない返事をすると面白そうに、けれどどこか冷めた風に笑った。
長髪の男のすぐ左の座席に、ロープなどではない、岩石のような物質で体を括り付けられた
津田は黙って二人のやり取りを眺めていたが、やがて痺れを切らしたかのように口を開く。
「何でこんな事しはるんですか?」
津田の問いにちらりと目線を向けたのは短髪の方で、ふう、と息を吐くと立ち上がり、
座席の背もたれに腰を降ろした。
「お前今まで石取られそうになった事ないんか?」
「いや、そういう事じゃなくて…こんな回りくどい事せんでも、普通に取ったらええやないですか」
「そんなんつまらんやんか。それにこーした方が効率ええねん」
鼻を鳴らして笑んだ男に津田は直感にも似た何かを感じ、思わず目を見開いた。
決して有り得ない事ではない、最悪の事態の想定。
「……まさか、千鳥さんと西澤の石も」
「うん、もらうよ」
嫌な予感でしかなかったそれを事実に変えるたった6文字の──けれど、
『たった』という言葉だけで片付けるにはあまりにも重すぎる、事態を津田や今ここへ
向かっている者たちが望まない方向へ導こうとしている短髪の男…笑い飯・哲夫の言葉が、
どこか乾ききった質を含んで小さな劇場に響いた。
201名無しさん:04/11/15 21:07:26
乙です!いよいよって感じですね!
しかしまさかこうなるとは思いもしませんでした・・・
続き楽しみにしてます!!
202灰色 ◆IpnDfUNcJo :04/11/15 21:15:18
西田(笑い飯)

石・・・・銀(受動的な性質。感受性を豊かにし、人の気持ちを察する力を与える。)
能力・・・・石を持つ人間の精神に直接話しかけられ、相手の言葉も受信出来る。近くにいる
人間に同じ作用をもたらす事も可能。
条件・・・・相手がどこにいても声は届くが、距離が遠ければ遠い程聞こえ辛くなる。相手の脳に
直接訴えかけ、また相手の声も直接脳で受け取るため、長時間使うとひどい頭痛に襲われる。


これで一応登場人物は一通り揃いました…
関西弁がよく分からないのでおかしかったらすみません。
あと、今後のシーンでちょっと痛い描写とか入る予定なので、苦手な方はお気を付け下さい。
203名無しさん:04/11/16 03:34:11
176です。なんとか相関図やってみました。見やすく出来てるかどうか不安ですが...
http://geininstone.nobody.jp/
ここの左フレーム内「本編相関図」からご覧下さい。
>>203
凄いですね。乙でした!!

一つだけ気になるところがあったので…
私の書いているオパール編と繋がっている黒ユニット集会編なのですが、
◆dRwnnMDWyQ さんが書かれたと題名のところに一言添えていただけないでしょうか。
あの表記だとちょっと誤解されてしまうかもしれないので…他はほぼ完璧だと思います。
205名無しさん:04/11/16 10:22:51
>>196-200
笑い飯キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
「実はシャンプーの香り漂う」ワラタ
続き楽しみにしてます。乙です!
206176:04/11/16 19:06:53
>>204
失礼しました...
「黒ユニット集会編」置き場所を間違えてしまってました。訂正します。
207名無しさん:04/11/16 19:47:48
>>◆8Y4t9xw7Nw
乙です!あの声は中島の内の声だったんですか〜。
声の正体がはっきりしなかったのは自覚したくなかったからみたいな。
石の作用が怖いですね。続き楽しみにしてます!

>>◆IpnDfUNcJo
bace編乙です!
笑い飯悪役すかー。登場人物が増えてきてワクワクしますね。
面白かったです。かなり続き楽しみです!

>>203
とてもキレイで見やすいですね。
乙カレー!
208名無しさん:04/11/17 16:02:41
まとめサイトを作ったものです。
書き手さん方、203さん、1さん、皆さん、お疲れ様です。

しばらく確認していなかったので、沢山の文章を
一気に読んでお腹いっぱいです。
203さんのサイトの方がよくまとまっているので
こっちはいらないかな…なんて思ったり。

唐突なお願いがあるのですが、前スレ924以降のログを
持っている方がいたら頂けないでしょうか。
前スレはdat落ちしているみたいで、もう見られないのです。
924までは専用ブラウザのログに残っていたのですが…。
209名無しさん:04/11/17 16:20:30
>>208
たしか前スレは924でdat落ちしたようですよ。
210名無しさん:04/11/17 16:38:26
>209
教えてくれてありがとうございます。
1000まで行かなかったんですねー。

今見たら表示だけ(?)924で、実際には851までしか
取得できていませんでした。
なので、851以降のログを頂けないでしょうか。
たびたび申し訳ないのですが、よろしくお願いします。
211名無しさん:04/11/17 18:28:40
>>210
ttp://fun.kz/test/read.cgi/geinin/1080226867/
209では無いですが。ここは最後までちゃんと見れましたよ。
212名無しさん:04/11/18 00:17:38
一旦age
213カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/18 01:59:58
まやもや中2日での投下です(ニガワラ
ちょっと(かなり?)痛い場面があるので、苦手な方は注意してください。
214カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/18 02:01:14
激突〜或いは命懸けの闘い〜

目を開けていられない程の眩しさに、竹山は思わず目を閉じて腕を前にかざした。
黒ずんだ蒼い光と、鮮やかな紅い光の激突。

――――ジュウ!
熱した鉄板に水滴を落とした時のような、水の蒸発する音が聞こえ、同時に光も収まった。
「・・・・・・!?」
既に、事態の異常性は竹山の理解を遥かに超えている。
恐る恐る目を開いた竹山の視界に映ったのは――――燃え盛る、炎の壁だった。
肌に感じる熱さが、これが夢や幻ではない事を物語っている。
そして、首に掛けているルビーが光と異様な熱気を放っている事が服越しにも分かった。
慌てて、シャツの中からそれを引っ張り出す。深紅のルビーは、いつも以上に輝きを増し澄んだ光を放っていた。
「まさか、この石が・・・・・・?」

やがて炎は風に流されるように消え、遮られていたその向こう側が視界に入る。
さっきまで蹲っていたはずの中島は、立ち上がってこちらをじっと見ていた。
能面のような無表情と、舞台照明が落ちたあの時のような、冷たい目。
それは普段の中島なら決して見せる事の無い、氷のような目だった。
射抜くような視線に竹山が後ずさるより早く、中島が地面を強く地面を蹴って距離を詰める。
215カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/18 02:02:19
――――びきん!
その拳が瞬く間に氷に覆われ、鋭く太い杭と化した。
「っ!」
その危険さを本能的に感じ取り、竹山は横に飛び退いた。中島の上着の胸ポケットで何かが蒼く光っているのに気付き、眉を顰める。
空振った氷の拳が、木製の机を二つに叩き割った。まともに食らえば身体に大穴が開きかねないだろう。
それを見ながらも、手が凍傷になったりしないのだろうかと呑気な事を一瞬考えた自分に、心の中で苦笑する。
どこからどう見ても異常な事態の中、自分でも驚く程あっさりとこの現実を認めている自分が居た。
この様子だと、恐らく普通の攻撃では歯が立たない。
相方を傷付けるのは気が進まないが、命の危険に晒されてそんな事は言っていられなかった。
背筋に悪寒が走るのを感じながら、竹山は胸元のルビーに手を触れる。
普通ではない力を持っているであろう、深紅の宝石。そして、恐らくは中島の異変の原因と、同質のもの。
この石に宿った力も、今は自然に受け入れられる気がした。いや、受け入れなければいけない状況なのだ、今は。
その瞬間、唐突に何かを理解出来た気がした。
言葉では言い表せない何か・・・・・・きっとそれは、与えられた力を自分の意思で操る方法。
脳裏に炎のイメージを描きながら、何かを振り払うように右腕を動かす。
不思議と、「何も起こらない」という可能性は思い浮かばなかった。

ゴォッ
鮮やかな紅い炎が、周りの空気を熱しながら一直線に飛ぶ。
緩慢な動きで振り向いた中島は、それを避けるでもなく左手を前にかざした。
凍り付いた空気中の水分が一箇所に集まって瞬時に氷の塊となり、紅く燃える炎を迎え撃つ。
ジュウッ!
再び水分が蒸発していく音が響くとともに、氷も炎も掻き消えた。
(相打ち、か?)
次の瞬間、煙幕のように広かる蒸気を切り裂くように飛び出してきた中島は、相変わらずの無表情で氷の拳を振りかぶった。
その拳を、後ろに跳んで間一髪で避ける。
だが、体勢を整えて着地しようとした竹山を待ち構えていたのは、投げ付けられた氷の刃だった。
216カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/18 02:03:39
「!」
咄嗟に身体を捻ってかわしたが、そのせいで体勢が崩れた竹山はろくに受身も取れず床に叩き付けられる。
「ぐっ・・・・・・!」
本当なら痛みにのた打ち回りたいところだが、今の状況はそれを許してくれない。
痛みを堪えて立ち上がった竹山は、続けざまに襲ってきた中島の拳をかわすと、その足を思い切り蹴り飛ばした。
「っ!」
微かに顔を歪め、中島がよろめく。
その隙に何とか距離を離すと、竹山は肩で息をしながらずり落ちた眼鏡を上げた。
足を押さえたもののそれ程ダメージを受けた様子が無い中島に、軽く舌打ちをする。
炎を飛ばしても、氷の壁で相打ちにされてしまうだろう。それに、こちらの体力の限界もある。このまま、ただ攻撃を避け続けているわけにもいかない。
しかし、唯一思い付いた対抗手段はかなりの危険を伴っていた。

(でも・・・・・・それしかない)
一瞬の逡巡の後覚悟を決め、竹山は右手を握り締めた。その拳を、一瞬にして炎が包み込む。
間近で炎に炙られた肌が熱湯に浸けたように熱かったが、泣き言は言っていられない。
普通ならば腕が焼け落ちても不思議ではない状態でその程度の熱さで済んでいるのは、ルビーの持つ力のおかげなのだから。
竹山は自分の方へ向かってくる中島を迎え撃つように、渾身の力を込めて拳を繰り出した。
氷の杭と化した拳と、炎に包まれた拳が、真正面から激突する。

――――その瞬間、蒸気の白に染まった風が狭い控え室の中を吹き荒れ、2人の姿を掻き消した。
217カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/18 02:18:32
竹山隆範(カンニング)
石・・・ルビー
能力・・・炎を操る(作り出す事も出来る)。自分の作り出した炎でなくてもある程度は操作する事が可能。
条件・・・炎を作り出すにはかなりのパワーが必要なので多用は出来ない(既にある炎を利用する場合はパワーの消費が少ない)
加えて、当たり前だがあまり近くで炎を使うと竹山自身も火傷を負うのであまり巨大な炎を生み出したりはできない(それでも能力使用中は炎に対して耐性があり、大抵は軽めの火傷で済む)
ちなみに、本人のテンションに応じて威力が上がったり下がったりする。

中島忠幸(カンニング)
石・・・サファイア
能力・・・水や空気中の水分を凍結させて氷を作り出し、操る。
条件・・・水も無く乾燥した場所では氷を作り出すことが出来ない。
また、水の状態のままで操る事も出来なくはないが、かなりのパワーを必要とする(1秒が限界)
氷を解かしたり蒸発させる事は不可能だが、自分の生み出した氷を元の状態に戻す事なら出来る。
ちなみに、理由を問わず本人が困っている時は若干威力が上がる。

2人揃った場合、炎に氷を放り込むと急激に蒸気が発生するのを利用して、煙幕代わりに使う事も可能。
かなり強力な能力だが、その分常に火傷や凍傷と隣り合わせであり、使った後の反動も大きい。

2人の能力の設定です。
条件も一生懸命考えたんですが、強力すぎると思ったらどんどん言ってください。
カンニング編、お疲れ様です!続きが凄く楽しみです。

石の能力についてはルビー・サファイア自体が確か何か特別な石と言う事になっていたので、
多少強くても秘められた特別な何かがある…という感じで伏線として匂わせておけば
良いのではないでしょうか。

自分もお話投下させて頂きます。登場人物がガラリと変わりますが、
時間的にはオパール編の最後の話の後ということになります。
とあるライブの帰り、駅に向かう途中。アメリカザリガニ・平井は後ろの方をつけてきている男に気がついた。
「なぁ…柳」隣を歩く相方に声を掛ける。
「わかっとる。最近多くてかなわんなぁ」声を掛けられた柳原は、面倒くさそうに欠伸をした。
気づかれないように自然に別れ、平井は近くのコンビニに入る振りをした。
柳原は男を路地裏へと誘い込み、後から来た平井が路地を塞いで挟み撃ちにした。
二人は逃げ場を失いうろたえる男と距離を置いて、どうしたものかとその様子を観察する。

「何だお前ら!!俺は何もしてないだろうが!!」
2対1では分が悪いと思ったのか、前後を囲まれて焦ったのか、男は急に一般人の振りを始めたのだった。
「やー…どうしよっか」その下手な芝居に呆れながら、平井は柳原に言った。
「どうするも何も…俺らをつけてきたってのは間違いないんやし」
名も無い若手か、スタッフか。どっちにしろ大した手練ではないだろう。
黒いユニットに無理やり使われているのが見て取れる男に、二人は哀れみさえ感じた。
「相手が悪かったなぁ。一人っきりで俺らに勝てるとは思ってへんのやろ?」
「別に命までとったりせぇへんから。隠してる石をちょっと見せてくれへんかな」
そう言いながら手を差し出した平井が一歩近付くと、男はじりじりと後ずさる。
「一体何のことだか…俺にはわかんねぇな」男は引き笑いを浮かべつつ、必死に逃げ道を探している。
「しらばっくれるのもいい加減にせぇ。俺にはちゃーんと見えとるんやで?
そのポケットの中の真っ黒い石が」男のズボンのポケットを指し、柳原が笑いを含んだ声で指摘した。
「隠し事しても無駄ってこと。折角のお芝居やったのに、残念やなぁ」つられて平井がケラケラと笑う。
「…っく…クソオォォッ!!」これ以上やっても無駄だと、自棄を起こした男が石を取り出した。
「そないな抵抗しても無駄やで」
平井は手に持っていた水の入ったペットボトルを地面に空け、小さな小瓶に入った石を翳した。
「大人できひんのやったら…仕方ないなぁ」
石が深緑に輝き、平井の手元には何とも奇妙な木の根のような物体が出現した。
「っの野郎!これでも食らいやがれぇえええっ!!」男は大声を上げながら、手にした石に力を込める。
「ダメダメ、そんなに遅かったら。簡単にやられてまうで?」
「なにっ!?」男は驚きの声をあげた。手元からは力を発動させようとしていた石が消えている。
平井の手元に出現した木の根が、目にも留まらぬ速さで男の石を奪い取ったのだ。
「ハイご苦労さん。本当はええ石なのにこんなに汚しもうて…」
平井の手元で木の根に包まれたままの石を柳原は見ていた。
男は突然のことに唖然とし、身動き一つとれないでいる。
「取り敢えず元に戻しとこか」
石の黒い光は、あっというまに平井の石の入っている小瓶の中へと吸い込まれていく。
「俺らも封印できたらええのにな」邪気の無くなった石を見て、平井がポツリと呟いた。
「石がたまる一方じゃ、場所とり過ぎてかなわんわ」
柳原は黒い欠片の邪気から開放されて呆然としている男を通り過ぎ、平井と共に路地の出口へと向かう。
「これで何個目やったかな?」平井は手元の石をポケットに突っ込んで相方に声を掛けた。
「数えるのも飽きたわ…」考えたくも無い、と柳原は首を振る。
「もう黒いユニットなんかに近づかんほうがええで〜」
去り際に、振り返った平井が手を振って男にのんびりとした口調で言った。

二人が立ち去った後、路地裏を更に横道に反れた狭い道から二人の男が姿を現す。
「やっぱ1人じゃ無理だったみたいだね」「俺達でやるしかないんだ…」
男の石を取り上げた後、路地裏から出てきた二人は無言のまま歩いていた。
駅まではもう少し掛かりそうだ。
暫くの沈黙の後、早口に柳原が話し出した。
「そういやアンジャッシュの渡部さんから、黒かどうかは分からんが悪い石の力が
あちこちから感じられるようになったから気をつけるよーにって連絡もろたわ。
白いユニットのメンバーも何人か襲われたらしいで」
またいつ襲われるか分からない緊張感を和らげる為、話している方が気が楽だったのだろう。
「物騒やなぁ」平井は普段の調子でのんびりと言う。
「まったくや。こないな石の力を悪用して一体何企んどるのかは知らんが、どーせろくな事やないやろな」
柳原は更に続けた。
「ああ」平井も同じ調子で返事を続ける。
「一つ分かっとるんは、奴等が同業の芸人にまで手をあげるようなしょーもない連中っちゅーことや」
「せやな」
「今のとこ石と無関係な人には被害無いみたいやけど、
いつ危険な石が暴走して一般の人が危険に晒されるか分からんからな。
石を持ってしまった人間として、責任がないとは今更言えんやろ」
まるで俺らヒーローみたいやな…平井がそう言い掛けたその時。

「凄い責任感だね。正義のヒーローごっこかな?」
二人の進行方向に長髪の男と、それよりも幾分か背の高い男短髪の男が立ちはだかった。
「なんや、また石取られに来たんか?」道を塞がれ渋々足を止めた柳原が不機嫌そうに言う。
「どっかで見た顔やな。前見たんやけどなぁ…ダメや、思い出せん」
平井は頭に手をやり考える素振りをするが、諦めた様に首を振った。
「どうせ駆け出しの若手さんやろ?こないな事やっとる暇あるんやったら、ネタ作りでもした方がええんやない?」
「せやから全然売れんと、いつまでたってもパッとしないんやで?」
また黒いユニットの連中かと、いい加減苛ついてきた二人の声に毒が混じる。
「僕らも頑張ってるんですけどね…」
「あなた方に言われる筋合いは無いですよ」二人の男はぼそぼそと聞き取り辛い声で言った。
「あーしんど。たまにはヤナが戦ったらええんに」平井は面倒臭そうに伸びをする。
「出来るんやったらとうにやっとるわ!石が交換出来るもんなら喜んでしたるで!!」
柳原はお決まりの高音ボイスで捲くし立て、平井の石を指さした。
「その石をね、返して欲しいんですよ…」
柳原の声を遮る様に、俯いたまま沈んだ声で長髪の男が言った。
肩まで伸びた髪が両側から顔を覆っている。
「何や…そない大切な石なん?」平井が先程の男から取り上げた石をちらつかせて尋ねる。
「あなた方には関係の無いことです」答えた短髪の男の手にはナイフが握られていた。
「随分物騒なモン持ってるなぁ。悪いけど、はいそうですかと返すわけにも行かんねや」
都合よく近くに水溜りがあった為、平井はそれを利用して再び木の根を出現させた。

「へぇ…結構良い石持ってるみたいだね」何も無かったはずの空間に現れた物体を見て短髪の男が呟く。
「うん、凄そうだね。でもお前の石の方が凄いんじゃないの?」
長髪の男は、自分より背の高い短髪の男の顔を見上げるようにして言った。
「どうだろ…でもリスクが大きい分負けてない気もするかな」そう言いつつ彼は己の掌にナイフを押し付ける。
「いきなり何しとるんやアイツ!!自分で自分を傷つけよった…」突然の行動に柳原は思わず声を上げる。
ポタリポタリと短髪の足元に血溜まりが作られた。
「これが、俺の石の力…」ボソリと呟くとまだ血の溢れ出る傷口に取り出した石を押し付け、力強く握り締める。
瞬間、真紅の光がその拳から溢れ出た。
その光はあっという間に細長い形を形成し、光が退くと彼の手には細身の剣が握られていた。

「血液…操作?」柳原はその痛々しい能力を顔色一つ変えずに使う男に、少なからず恐怖を覚えた。
「痛そ…」平井はといえば、相も変わらずマイペースに思いついた感想をポツリと呟くのであった。
既に書かれている話の中で、
白いユニットとしてアメザリが挙がっていたので書いてみました。
訛りがどうしても上手く表現できないのですが、大目に見てやってください。
直した方が良いとアドバイスを下さる方大歓迎ですので…
平井 善之(アメリカザリガニ)
石…オパライズウッド 「そのままでいることを讃え、優しく導く」濃い緑。 
   空気中では壊れやすい為、ガラスの小瓶に入った水に浸されている。

能力…石の原料である植物を操ることが出来る。
     本来の姿・意志とは変わってしまったものの状態を、正しい姿へと導く。
     黒い欠片や本人の心の穢れの所為で暴走している石を元の姿へ戻す。
     浄化した邪気は石の周りの聖水により完全に無害化される。

条件…空気中で瞬時に木を成長させて物理的攻撃を加えることが出来るが、
     その質量に応じた水分が必要。
自分のパワーを消費して植物の成長に使う為、使った後は休養が必要。   


柳原 哲也(アメリカザリガニ)
石…ホワイトオパール 「神の守護」白色、乳白色などの白色を主体とする淡い色調。

能力…別名「聖なる石」。神様が子供の目で創った石といわれ、澄んだ瞳でものを見ることが出来る。
    どんなに相手が巧妙に隠そうとしている嘘でも見破る。
     相手の隠された本心を見通すことも可能。

条件…標的が本人に見えていることが条件。
     隠そうとする意志が関与していないものは見えない。
     無意識的なものや偶然隠れてしまっているものは無理。
短髪の男
石…ガーネット 「血液を活性化させ、エネルギーを高める」 赤
能力…血液を操り高質化して攻撃する。
    鞭状にしたり、液体のまま攻撃したり、形は術者の意志で変えられる。

条件…血液は致死量ギリギリまで出すことが出来るが、当然それを超えれば死に至る。
     術者の体重が60キロの場合6?が限界。
     限界に近づかなくとも使用後は貧血気味になり、輸血が必要となる場合もある。

能力についての添削もお願いします。
アメザリは白いユニットとして戦うときのバランスを考えてみました。

敵の短髪長髪コンビは現時点では伏せて置きます。
この文だけで分かったら…凄いと思います。ハイ
>術者の体重が60キロの場合6?が限界。
6?じゃ無いですね…文字化けしてます。リットルです。
227203=176:04/11/18 03:57:27
>>208
いえいえ、なんだか勝手なことをしてしまったようで、
まとめサイト管理人さんに申し訳ないなと思っていました。
でも、もしお忙しかったりで、今後まとめサイトさんの更新が難しいようでしたら、
よろしければまとめを引き継がせて頂きたいと思っているのですが、いかがでしょうか?
228名無しさん:04/11/18 12:52:39
>227
こちらこそ申し訳ないのですが、引継ぎをお願いできますか?
これから都合でまとめが追いつかなくなると思うので…。

自分からやるって言っておいて、責任感なさ杉です。すみません。
229名無しさん:04/11/18 19:34:36
書き手さん方、乙です!
松竹ヲタなのでアメザリ登場が嬉しいです。能力がすごく彼等の内面キャラを捕えてらっしゃいますね〜。
230名無しさん:04/11/18 19:52:35
「見上げるほどの身長差があって長髪のほうが小柄」つうたら、
漫才がぽやんとしてて名前が長いコンビしか思いつきませんが。
231名無しさん:04/11/18 20:41:29
乙です!
アメザリ最高っ!です!待ってたかいがありました!(アメザリファンです)
設定もすごくいいですね〜
232名無しさん:04/11/18 22:02:18
>230 名前が3つの単語に分かれるコンビ?

アメザリ、口調もそれっぽくて良いです、楽しみにしてます〜
233名無しさん:04/11/18 22:40:43
>>◆8Y4t9xw7Nw
乙です!イイヨー
ハラハラします。続き楽しみです!

>>◆cLGv3nh2eA
能力面白いですね。短髪の男気になります
続き待ってます!乙です!
234203=176:04/11/18 22:51:20
>>228
ありがとうございます、今後まとめの方引き継ぎさせていただきますね。
235名無しさん:04/11/18 23:12:11
皆のヒントで誰だかわかったw

確かに黒の方がハマるかも。
(ファンの方すみません)
236名無しさん:04/11/18 23:52:45
>>231
sageよろ
昨日の今日で、懲りずに続きを投下させて頂きます。
もう感づいてる方もいらっしゃるようですが…彼らの正体も分かるようになってます。
今回の話には流血シーンが本当に多く含まれますので、苦手な方はご注意下さい。
>>219-222の続きです。

両者は数メートルの距離を置いて対峙していた。
平井も短髪の男も、お互い武器を構えて相手の出方を窺っている。

「って、こないなとこで堂々と…お互い目立つ能力やないか!誰かに見つかっても知らんぞ」
柳原は肝心なことを思い出し、慌てて辺りを見回した。
幸いなことに、そこは人通りの少ない道だったため周りに一般人の姿は見当たらない。
だが駅の近くということもあり近くには大通りも通っている。
長居すればそれだけ目撃される危険が高い。
「誰かに見られたら面倒なことになるで!!さっさと蹴り付けて逃げたほうがええ!!」
柳原は邪魔にならないように数歩平井から離れ、急ぐように促した。
長髪の男の方も、数歩下がって二人の様子を見ている。
「言われなくとも、さっさと終わらせてあげますよ」先に動いたのは短髪の男の方だった。
手にした紅の剣を振り上げ、平井に向かって思い切り振り下ろす。
「お…っと」平井は後ろへ飛び退きその切っ先を避ける。風圧を感じたが、完全に避けきった筈であった。
「そう簡単にやられるようじゃヒーローにはなれへんで」
にいっと不敵な笑みを浮かべた平井は、頬を伝う生暖かい感触に気づいた。
「…って、あれ?何やこれ」
頬に手をやり指についた液体を舐めると、それが自分の血であることに気づいた。
「ぼけっと突っ立っているだけだと、あっという間に血塗れになっちゃいますよ?」
短髪の男は血の気のない青白い顔で言った。右手には変わらず紅い剣が握られている。
「平井ぃ!そいつの剣、よう分からんけど伸び縮みするみたいや。舐めて掛かると痛い目みるで!!」
少し下がったところでその様子を窺っていた柳原の目には見えていた。
剣は鞭のように撓り平井の右頬を薄っすらと傷つけていたのだった。
「そう言う大事なことは早く言って欲しいわ…」平井はそうぼやくとぐいと袖で血を拭い、
改めて手元の植物に力を送る。
植物の根らしきものはまるで意志を持っているかのようにうねり、長い鞭のような形を作り出した。
「目には目を…そっちが血の鞭ならこっちは蔓の鞭や。ほんなら今度はこっちから行かせてもらうで!!」
平井が手を動かすと鞭の先が鎌首を擡げた。
「さぁ、これをどう避けるんや?」
蔓は獲物に襲い掛かる蛇のごとく、短髪の男目掛けて襲い掛かる。
鞭の先が男目掛けて振り下ろされた。
男は無表情のまま鞭を剣で受け流し、勢い余って鞭は地面へと叩きつけられる。
「どうしました?こんなんじゃ俺に勝てませんよ?」
男は剣を垂直に構えると、地面に横たわる蔓に思い切り突き立てた。
蔓に刺さった剣は地面へと貫通し、アスファルトに鞭を縫い付けてしまっている。
「やばっ…抜けへん」
植物の強度を上げる為、鞭状に編みこんだのが仇となってしまった。
引きちぎろうにもその強度は人間の手で切れるほど弱くはない。
「そんなん次ぎ作ったらええやないか!!よそ見しとる暇ないで!!」
相方の鋭い檄に顔を上げると、男が新たに作り出した剣で切り掛かって来る所だった。
「何をよそ見してるんです?」男は無情に剣を振り下ろす。
「っの…アホが!!」柳原が見兼ねて飛び出そうとした瞬間、
ガッと鈍い音が響き男の剣が止まった。
「ふー…危ない危ない。もう少しで開きになるところだったわぁ」
寸でのところで植物を盾状にして出現させることに成功し、男の剣を受け止めていた。
こんなときでも暢気な相方の台詞に柳原は思わずツッコミを入れる。
「何や心配させよって!!命かかっとるんやで!?もっと真剣にせぇ!!」
背後で喚く相方をよそに、平井は男に話しかけた。
「悲しいモンやなぁ…笑いを追及してる芸人の俺らが、こないな真剣勝負せなあかんのは何でやろ」
平井の手元の植物の塊は、男の剣をずぶずぶと飲み込んで行く。
「なぁ?お前ら黒いユニットは芸人にとって…いや、
人間にとっても一番大切なモンを忘れてしもたんかいな?」
「大事なもの…」言われて男は微かな反応を見せる。
武器を止められては男も離れることは出来ず、
平井にあまり戦う気がないのを感じ取りその問いかけに答えた。
「俺にはそんなことはわかりません…ただ、之だけは言えます」
無表情だった男の顔に辛そうな表情が浮かべられ、
一瞬斜め後ろに佇む長髪の男を見遣ったのを平井は見逃さなかった。
「ほんまはお前ら…」こないなことやりたくないんやろ?
…そう言い掛けた平井の言葉を遮り、
「俺はやらなきゃいけない。命令に逆らうわけには行かないんだ…っ!!」
男は決意のこもった声で叫んだ。
次の瞬間、メキと木の裂ける音が聞こえた。
次いで男の腕が左斜め下へと振り切られたのが平井の目に映った。
肩から腰に掛けて、斜めに鋭い痛みを感じる。
「はは…やってもうた」平井は自分の甘さに苦笑した。
流れ出す血液と共に、力が抜けていく感じがする。
全身の力が抜けて、ガクンとその場に崩れ落ちた。
地面に倒れこむ瞬間平井は、男の口が『ゴメンナサイ』と動いたのを見た。

「平井ぃ―――っ!!」
目の前で起こった事の現実味のなさに、一瞬呆然としていた柳原が絶叫する。

「っの…お前ら自分で何したか分かっとるんか!!」
逆上した柳原は、自らの危険も顧みずに男に殴りかかろうと駆け出した。
「少し黙ってもらいます…」
足元に崩れ落ちた平井を見つめていた短髪の男は、手にした紅い剣を一振りする。
「か…はっ」それは一瞬で柄の部分が長いハンマーへと形を変え、柳原の腹部に強烈な一撃を加えた。
かなりの衝撃だったのだろう。柳原はがくりと膝を付くと、悔しそうに短髪の男を睨みつける。
「大丈夫です…平井さんもあなたも、命はとったりしませんから…」
聞き取り難いぼそぼそとした喋り方で、短髪の男は柳原に告げた。
「っ…」その声を聞きながら、痛みに耐えかねた柳原は前のめりに倒れこんだ。
「ご苦労さん…取り敢えず、石は貰ったよ」平井のズボンのポケットから
浄化されてしまった石を回収した長髪の男は、短髪の男の顔を見上げて言った。
「それじゃ、お前の石で早く平井さんを…」
「うん」今まで黙って事の次第を見ていた長髪の男は、ポケットから濃緑色の石を取り出した。
地溜りの中にうつ伏せに倒れている平井を仰向けにすると、微かに息をしているものの
出血量の多さからその傷はかなり深いことが素人目にも分かる。
傷による痛みからか、出血のショックからか、平井は完全に意識を失っているようだった。
「ちょっとやりすぎたんじゃない?」「ごめん。つい感情的になっちゃって…」
そんな会話をしながら、長髪の男は平井の胸の傷口に石を翳す。
濃緑の石はよく見れば中に赤い斑点が幾つも存在していた。
その赤い斑点が歪んだように見えた瞬間、
石から赤い霧が流れ出て平井の胸の傷を覆い隠した。
長髪の男は完全に傷が覆われたのを確認すると立ち上がり、
短髪の男の手の傷にも同じ行為を施す。
赤い霧が晴れた後の男の右手からは、自分でつけた筈の切り傷が消えていた。

柳原はその様子を、腹部の痛みと戦いながら窺っていた。
辛うじて意識は保っているものの、気を抜けば痛みで気を失ってしまいそうだ。
「それじゃ、用も済んだし…行くか」
短髪の男は傷の消えた右手を慣らすように動かしながら歩き始める。
「平井さんの傷は全部元通りに治したから…それじゃ」
長髪の男は去り際に、地面に倒れている柳原にそう言い残し、
足早に短髪の男の後を追って行った。

「何や…わけ、分からんわ…」二人組みの男の意味不明な行為にツッコミをいれつつ、
ついに柳原は襲い来る痛みに負け、意識を手放した。
「…おい、ヤナ…大丈夫か?」
遠く相方の声が聞こえる。
(あれ?平井…なんや自分、あれだけで死んでしもうたんかいな…短い人生やったなぁ)
あの時の平井の傷は明らかに致命傷に見えた。
まさかこんなにすぐに回復できる筈がないと思い、自分が居る場所が死後の世界かと錯覚する。
「おいっ…生きとんのやろ?返事くらいせぇって!!」
ガクガクと体を揺さ振られ、現実世界へと引き戻された。
「ん…何や平井。生きとったんか…てっきり死んだのかと思ってたわ」
一体自分はどれほどの時間意識を失っていたのか、ぼんやりとした意識のなかそんなことを考える。
「あれ?平井!?…無事だったんか!!」状況を思い出した柳原の目は一気に覚めた。
目の前でバッサリと袈裟懸けに切り倒された筈の相方の元気そうな顔がある。
裂けたシャツは血が乾いて真っ黒になっていたが、そこから覗く平井の身体からは傷が消えていた。
「…傷はどうしたん?」あれだけ見事に切られておいて、
自分が気を失ってた短い時間に再生していたと言うのなら、
二人の共通の趣味であるアニメの世界の話である。
「や、なんや切られた辺りまでは覚えとんのやけど…その後目ぇ覚ましてみたらこんなんなっとって」
俺にもよう分からんわ、と頭を掻きながら平井は答えた。
『平井さんの傷は全部元通りにしたから…』
柳原の頭にあの長髪の男の台詞が思い出される。
「突然現れて、襲ってきて、怪我させたと思ったら元に戻して…何やったんやろ、あいつらは」
柳原は全く分からないといった様子で首を捻った。
「俺にもようわからんけども…あいつら悪い奴やないと思う。きっと誰かにやらされとるんや」
間違いあらへん、ときっぱり平井は言い切った。
「はぁ?」(あれだけ見事にやられて置いて…よう言いよるわコイツ)
一人納得したようにうんうんと頷く相方を見て、柳原は呆れたように溜息をついた。
「っ…う」胸を押さえて苦しむ長髪の男に肩を貸しながら、短髪の男は申し訳無さそうに言った。
「悪いな…阿部。俺の石がこんなだから…」
「気にすんなって。吉田の所為じゃないよ…俺のこの石が無かったらお前、死じゃいそうだしさ」
阿部はいつもの気の抜けたような笑顔でヘラリと笑って見せた。
その額には石の能力の反動で先程から受け続けている痛みの為、薄っすらと汗が浮かんでいる。
「俺があの時やりすぎなきゃ…お前もこんなことには」
平井に言われた事に、つい感情的になりコントロールを忘れてしまっていた。
その事によって、守るべき相手が苦しんでいるとは…吉田は己の非力を呪った。
「お前の所為じゃない…全部石の所為さ」
無意識に拳に力を込めた吉田の様子に、阿部は何とか気を紛らわせようと話しかける。
「俺達の力じゃどうしようもなかった。それだけだよ」
「そっか…調子はどうなの?」納得したように小さく頷き、幾分か調子の戻ってきた阿部に訊ねる。
「うん、大分よくなったよ。もう大丈夫」
「無理しちゃだめだよ。身体的にはダメージがなくても、かなりキツイんだろ?それ」
あの傷を癒すことの出来る石の能力は凄いと思っている。
この石がなければ自分の石は、恐ろしい殺傷能力を持っただけの石となっていただろう。
組織に命じられただけで、人殺しをしなければならないのは絶対に嫌だった。
吉田は相方の石の能力に、心底感謝をしていた。
しかし、あれ程の力を持った石ともなれば反動も当然大きい。
前に阿部本人から、治療した怪我による痛みをそのまま受けてしまうのだと聞いた。
それを聞かされる前までは、自分の能力で阿部が苦しんでいたということになる。
何故教えなかったのかと訊ねたら、忘れてただけと笑って誤魔化された。
自分が平井に与えてしまった痛みを、阿部がそのまま受けていると思うと辛かった。
「まぁ、痛くないかといわれれば痛いけど…自分で手を切る方が痛そうだから」
同じくらいじゃない?と笑いながら返されて、吉田は何も言えなくなる。
「あー…腹減ったなぁ」
たまたま歩いていて通りかかった24時間営業のファミレスの看板を見て、
阿部は沈んだ顔をしていた吉田に言った。
「じゃ、今日は俺が奢ってやるよ」
先程の出来事が嘘だったかのようにのんびりとしている相方の様子に、
吉田はフッと表情を緩めた。

店内に入り、案内された席で適当に注文したものを待っている間、
阿部は石を取り出して退屈そうに掌で転がしていた。
「何で俺らこんなんなっちゃったんだろうね…」
吉田がポツリとそう漏らすと、阿部は遊んでいた石を光に透かして答える。
「何でだろうね。こうしてみると普通の石なのに…変だよね」
「うん…」吉田は短い返事をすると、こんなことに巻き込まれてしまった経緯を思い出していた。
前に阿部本人から、治療した怪我による痛みをそのまま受けてしまうのだと聞いた。
それを聞かされる前までは、自分の能力で阿部が苦しんでいたということになる。
何故教えなかったのかと訊ねたら、忘れてただけと笑って誤魔化された。
自分が平井に与えてしまった痛みを、阿部がそのまま受けていると思うと辛かった。
「まぁ、痛くないかといわれれば痛いけど…自分で手を切る方が痛そうだから」
同じくらいじゃない?と笑いながら返されて、吉田は何も言えなくなる。
「あー…腹減ったなぁ」
たまたま歩いていて通りかかった24時間営業のファミレスの看板を見て、
阿部は沈んだ顔をしていた吉田に言った。
「じゃ、今日は俺が奢ってやるよ」
先程の出来事が嘘だったかのようにのんびりとしている相方の様子に、
吉田はフッと表情を緩めた。

店内に入り、案内された席で適当に注文したものを待っている間、
阿部は石を取り出して退屈そうに掌で転がしていた。
「何で俺らこんなんなっちゃったんだろうね…」
吉田がポツリとそう漏らすと、阿部は遊んでいた石を光に透かして答える。
「何でだろうね。こうしてみると普通の石なのに…変だよね」
「うん…」吉田は短い返事をすると、こんなことに巻き込まれてしまった経緯を思い出していた。
2重投稿…orz
スルーしてください。
ある日偶然吉田が拾った石。それは血の塊のような赤黒い色をしていた。
楽屋でその石を眺めていたら、阿部が興味を持ったのか、話しかけて来た。
「どしたの?この石」
「ん?此処に来る途中に踏んでこけちゃってさ。綺麗だから拾ったんだ」
吉田の掌には地面に手を突いたときに擦り剥いたのか、薄っすらと血が滲んでいた。
見る?と石を差し出すと、阿部は手を出してそれを受け取った。
「へぇ…なんか綺麗だけど、ちょっと怖い色してるね」
阿部はその石をいろいろな角度から見ると、短い感想と共に吉田の手に石を返した。

石が擦り剥いた傷口に触れた途端、石に吸い取られる様に血が流れ出した。
「あれ?どうしたんだろ…急に血が」
大した傷ではないのだが、まるで深い切り傷を負ったかのように流血が止まらない。
「どしたのこれ…」「分かんない」
普段どおりのローテンションな会話をしている間も血は流れ続けた。
取り敢えずハンカチで押さえて止血しようとするが、全く効果はなかった。
「これって、やばいんじゃない?」

阿部のこの台詞を境に、吉田の記憶は一時的に中断される。

「あれ?俺今何してた?」吉田は目を覚ますと、キョトンとした様子で辺りを見回した。
「吉田、気づいたんだ!よかった…」
その後阿部が自分が気を失っていた間にあったことを話してくれはしたが、
なぞの老婆が現れて自分にも魔法の石を渡してくれたなどと真顔で説明されて、
信じられるはずもなかった。
「だから…この石が光ってそれで血が止まったんだって」
今さっき自分の身に起こった出来事をオーバーに話してくる阿部。
「そんな話信じられるわけないだろ?」
だが吉田からしてみれば、突然謎の大量出血で意識を失い、
目を覚ましてみれば魔法の石に助けられたと言う
そんな笑い話にもならないようなファンシーな話信じたくなかった。
自分としては全てが夢であって欲しかった。
だが無情にもその望みは床に広がる血溜りに呆気無く打ち砕かれた。

二人がネタあわせそっちのけで言い争いをしていると、突然楽屋のドアが開かれた。
吉田がマズイと思ったときはもう遅かった。
「これは一体、どうしたんだ?」真っ赤な血が広がっている床を指して先輩は訊ねる。
「や、その…」「これは…」二人とも自分でも何が起こったかは分かっていなかった。
魔法の石などという冗談が通じるような先輩ではなかった。
どう説明したら良いのかと自分達が間誤付いていると、
その焦った様子に先輩芸人は顔を見合わせてニヤリと笑った。
「ちょっと話がある…」二人は楽屋内に入ってくると、後ろ手でガチャリと鍵を閉めた。

先輩は二人にいろいろなことを話して聞かせた。
妙な力を持った石が芸人達の間に出回っていること。
そしてそれを巡る二つのユニットの存在。
阿部に石を与えた老婆は、先輩コンビの所属している黒いユニットの者だと言うこと。

それを聞いたときの、阿部のどうだと言わんばかりのしたり顔を吉田は今でもよく覚えている。
「そんな…こんな危ない力を使った争いなんて、俺達興味ありませんよ」
阿部は全てを聞いた後、二人に石を返そうと差し出した。
「いや、それはお前の石だ。他のヤツには使えないから持っていろよ」
先輩は笑いながらその手を押し戻した。
「俺も無理です。確かに凄い石ですが、同じ芸人同士で戦うなんて…そんなこと出来ません」
そんな物騒な争いに巻き込まれるのは吉田もごめんだった。
「俺達も無理にとは言わないさ。嫌なら嫌で良いんだ」
じゃあな、と先輩は手をあげ、楽屋から出て行こうとした。
吉田がほっと胸をなでおろしたとき、
「ああそうだ、大事なことを忘れていたよ」
何かを思い出したように先輩が吉田に耳打ちしてきた。

このとき先輩が言った言葉の所為で、自分達はこんな面倒な戦いに引きずり込まれてしまったのだ。

『お前らの石を奪って他の連中に使わせることも可能だが、
そうなれば確実にその能力で人が死ぬ。流石に俺らもそれは嫌なんでね、
もし嫌ならお前の相方をこっちの能力で操って、無理にでもお前にこっちのユニットに入ってもらうぞ?』

「…待って下さい!」表情を変えた吉田が振り向き、その後姿を呼び止めた。
立ち止まった先輩芸人はニヤリと笑った。
「どうした?嫌なんじゃなかったのか?」振り向かず、先輩は意地悪そうに訊ねてきた。
「やっぱり…協力します。させて下さい」状況はよく飲み込めていなかったが、
人が死ぬだの相方を操るだの、
自分が断れば確実に良くない事が起きるということだけは理解できた。

「いきなりどうしたの吉田?俺そんなの嫌だよ。おかしいじゃん」
突然態度を変えた自分に阿部は抗議してきた。
「石を持ってしまった以上、何もしないわけにはいかないんだ…
阿部、分かってくれるよな?」お前の為でもあるんだ…出掛かったその言葉は、
言ってしまうと阿部の負担になると思って飲み込んだ。
「ぅ…ん」自分の真剣さが伝わったのか、阿部は渋々頷いてくれた。
あの時の行動が自分で間違っていたかどうかは分からない。
だが、あそこで断ってしまえば先程戦っていたアメザリの二人は
この能力を持った他の誰かに殺されていただろうし、
相方である阿部もいつかの集会で見た者達と同じ目に合わされていたかもしれないのだ。
組織に操られた者達の姿は悲惨なものだった。
目は虚ろで本人の意思が働いているのかさえ分からない。
ただユニットの幹部から命じられることを淡々とこなす、まるで人形そのものだった。
相方をあんな状態にされるわけにはいかない。
二重の足枷が吉田を黒いユニットに繋ぎ止めていた。

「ごめんな、こんなことに巻き込んで…」
「ん?どうしたの急に」
相方の頼みとはいえ、あんな恐ろしい事に阿部が付き合ってくれるのが不思議でたまらなかった。
もしかしたら阿部も何か連中から脅されているのかもしれない。
「何で、お前は俺に付き合ってくれているの?」
あいつらに脅されたんじゃないのか?直接言えば良いのに、それを言うのが何故か怖かった。
「何でって…俺が居なかったら吉田、出血多量で死んじゃうじゃん」
冗談なのか、本気なのか。言っていることは事実なのだが、彼の本心は良く分からない。
「また…俺に何か、隠してる?」石の副作用をすぐに言ってくれなかったときのように。
「別に?…あれ、もしかしてまだあのこと根に持ってるの?
あれはホントに忘れてただけだって」阿部は困ったように頭を掻いた。

「じゃあ…」組織に何か言われたの?意を決してそう訊ねようと思ったとき、
ウェイトレスが注文したメニューを運んできてしまった。
「ほら、今はそんなこと忘れて。美味しい物も美味しく無くなっちゃうよ?」
あんなことがあった後なのに。能天気に笑う相方に、悩んでいる自分が馬鹿馬鹿しくなった。
「そうだね、それじゃ…」今この時位は、忘れてみても良いのかもしれない。

「「いただきます」」
吉田は数週間振りに味のある食事をした気がした。
組織から命じられて黒い欠片を飲み始めて以来、何を食べてもまともに味を感じることがなかった。
阿部の下らない冗談にも思い切り笑えた。
他の芸人を傷つけて、毎日のように血を見て過ごしていたら、
芸人だというのにあまり笑うことが出来なくなっていた。

『なぁ?お前ら黒いユニットは芸人にとって…いや、
人間にとっても一番大切なモンを忘れてしもたんかいな?』

平井に言われた言葉が思い出される。
(いや、違うよ平井さん…俺は人間として大切なものを手放したくないからこうしているんです…)
自分が切り掛かる前に、平井が何か言いかけようとしていたのにも気づいていた。

『ほんまはお前ら…』

(ええ、あなたが察したとおりですよ…平井さん)
自分がつい数十分前に酷い目に遭わせてしまった先輩に、
何故かもう一度会ってちゃんと話してみたいと吉田に思わせたのは、
平井が持つ石「オパライズウッド」のもう一つの能力のお陰だったのかも知れない。
黒いユニットの陰謀に捕らわれ鎖されてしまっていた後輩の心を、
平井は瀕死の重傷を負わされながらも本来の姿へと開放しようとしたのかも知れない。

真実は、張本人である平井以外は分からない。


「ックシ!!…あーやってもうた」
「うわっ、汚っ。上着貸したってるんやから汚さんといてやー」
ズルズルと鼻を啜る平井に、柳原が嫌そうに言った。
「俺に文句言うなや。文句があるなら、俺の噂しとる奴に文句言ってきたらええねん」
自分は悪くないと胸を張る平井に、柳原はこうツッコまずには居られなかった。
「んなベタなことがあるかい!」
人の殆ど居ない終電に、柳原の軽快な高音ツッコミが響いていた。
…やっと〆ることが出来ました。
思いついたままに書きなぐっていたらいつの間にかこんな長さに…
途中お見苦しいところもありましたが、アメザリ編は一応完結です。

意外に早く彼らがばれてしまったが少々驚きました。
あまりTV露出が少ないので、気づいてもらえないと思っていましたので。
吉田 大吾(POISON GIRL BAND)
石…ガーネット 「血液を活性化させ、エネルギーを高める」 赤
能力…血液を操り高質化して攻撃する。
    鞭状にしたり、液体のまま攻撃したり、形は術者の意志で変えられる。

条件…血液は致死量ギリギリまで出すことが出来るが、当然それを超えれば死に至る。
     術者の体重が60キロの場合6?が限界。
     限界に近づかなくとも使用後は貧血気味になり、輸血が必要となる場合もある。


阿部 智則(POISON GIRL BAND)
石…ブラッドストーン 「傷を癒す効果があると言われている」濃緑色のものに赤色の斑点

能力…裂傷などの傷を癒す治療石。 失われた血液を再生させることも出来る。
    相手の体に石を触れさせることが出来れば、逆に吸血することも可能。
     毒の影響を受けてしまっている者の血液を吸い、浄化して輸血しなおすことも出来る。

条件…血液の再生は対象の心臓が動いていることが条件。死者には効果なし。
     使用後一時的に貧血になるが、休めば元に戻る。
     瀕死の重傷でも治せるが、治した傷の痛みをそのまま体に受けてしまう。
     痛みは程度によりすぐに退くこともあれば数分間続くこともある。
254名無しさん:04/11/19 08:47:55
ポイズンをあまり知らなかったけど泣きそうになった…白も黒も、それぞれに悲しいんですよね。

アメザリが東京白ユニットに合流する話が読んでみたいです。白には貴重な攻撃性のある能力だし…
255名無しさん:04/11/19 21:56:16
ポイガだったんですね、やっぱ。
吉田さんが抱える矛盾が悲しすぎます。
同じような矛盾を抱えた黒がいるんでしょうか。
256名無しさん:04/11/20 13:40:05
一旦age
>>117-121 の続き

「な・・・何で、あなたが・・・っ」
勢い良く振り向いて、小沢は掠れた声を上げる。
確かに赤岡が口にしたように、小沢の目の前に立っているのは、設楽。
その姿はいつも通りのたたずまいにも見えるけれど、ただアパタイトは小沢に警戒を促すように
微かに瞬いて、発せられる熱がジリジリと伝わってくる。

「んー・・・? 別に・・・強いて言うなら、珍しい組み合わせが歩いてるなって思って?」
思わずついて来ちゃっただけ。へらっと他意無く笑って設楽は小沢に応じた。
「そっちこそどうしたの? 何かピリピリしてて怖いったらありゃしない。」
・・・何だ、本当に付いて来ちゃっただけか。
場を茶化すように軽い調子で話を振ってくる設楽につられるように、小沢は思わずふぅと深い息を吐く。
けれど。

「・・・・・・・・・。」
赤岡は静かに右腕を上げ、人差し指と中指を揃えて設楽の顔面に向けた
首から下がった黒珊瑚がキラリと輝き、赤岡の指先の虚空に青白い火の玉が出現する。
「・・・うわぁ、それ何の手品? 凄いじゃない。」
「何故、あなたが僕と島田の『石』について御存知で?」
石によって熾されたその火は小さく、マッチに灯ったそれぐらいのモノであるが、
興味津々といった様子で問う設楽に構わず、赤岡は静かに告げる。
「・・・石? そんな事何も言ってないよ?」
「そんな事は・・・今、確かにあなたはそう言っ・・・・・・」
軽い調子の設楽に反論しようとする、赤岡の言葉が止まった。
いや、言葉を止めただけではない。
指先に灯った火こそかき消えたけれど、赤岡はそのまま微動だにしなくなってしまう。

「・・・赤岡くん?」
上着を掴み、軽く揺さぶってみても赤岡は小沢に何も反応しない。
「どうした? 石の・・・代償か?」
問いかけは工場の中に虚しく響くのみで。
なおも赤岡を揺さぶれば、小沢の目の前で黒珊瑚があしらわれたネックレスが揺れる。
その球状の深い漆黒に、淡い青い輝きがヴェールのようにまとわりついているのが、見えた。
この輝きは、力を持つ石独特の物である。例えば小沢のアパタイトの輝きは青緑で赤岡の黒珊瑚は漆黒。
だと、すれば。
「・・・・・・・・・っ!」
赤岡の上着を掴んだまま、小沢は設楽の方を向く。
今度は視えた。
設楽から放たれ、広がっていく淡い青い光。
これが、アパタイトが警告を発していた原因なのだろうか。

「・・・何で、あなたが。」
表情を引き締め、改めて小沢は問いかけた。
見知った先輩芸人相手としてではなく石を持つ相手として設楽を認識し、発せられたその口調は重い。
「赤岡くんに、何をしたんです?」
明らかに見て取れる後輩の態度の変化に、設楽は面白くなさそうに肩を竦めた。
「別に何もしてねェよ。ただ、ちょっとじっとしててもらっただけだし。」
何もしてなくないじゃないですか、と小沢が口にしかける前に、設楽は更に言葉を続ける。
「つかさ、今日はそっちの・・・赤岡くんの方に用事があるんだよね。」
「何の、用事ですか。」
これが設楽の石の力なのだろうか。発する言葉の一つ一つが、ダイレクトで届いてくるような・・・
そしてそれを無条件で受け入ればければならないような圧迫感に、小沢は抵抗するために意識を集中させる。
自然と険しい表情になる小沢とは対照的に、あくまでいつも通りの態度で設楽は彼に問うた。
「別にいちいちお前に言うほどの事じゃねぇって。
 それとも何だ? お前に話を通さないと、あいつに何一つ話しかけちゃ駄目なワケ?」

「それは・・・・・・。」
不気味な圧力とは関係なしに、もっともな設楽の言葉に小沢は一瞬口ごもる。
僅かに逸れた視線が、設楽の口元に浮かんだ歪んだ笑みに気付く事はなかった。
「・・・・・・・・・・・・。」
「だーいじょうぶ、ちょっと話をしてくるだけだから。」
じゃ、行くよ。
目線で赤岡へ一つ促し、設楽は小沢に背を向けると工場の更に奥へと歩き出していく。
促された赤岡の方も、設楽に従うように動き出した。

「赤岡くんっ!」
上着を掴む手を強引に振り解かれ、思わず小沢は声を張り上げる。
己を呼ぶ声に、赤岡はチラリと小沢の方を向いたけれど、それも僅かな間の事。
すぐにまた、設楽の後を追って去っていった。

「・・・・・・・・・っ。」
やがて錆びた鉄骨の向こうに、背の高い影が二つ消えていく。
赤岡に振り解かれた手を胸にやり、小沢は眉を顰めた。
・・・厭な、胸騒ぎがする。
追いかけなければと足を踏み出そうとする小沢だったが、その両脚は意志と反してピクリとも動こうとしない。
その感覚に、小沢は覚えがあった。赤岡の黒珊瑚の力の一つ、金縛り。
ギュッと眉をしかめると小沢は携帯を取り出し、ジッと二人の向かった方向を睨み付けながら
メモリーを弄って、数秒。

「潤? 何も聞かないで、今すぐ来て! あと、そこに江戸むらがいるんだったら・・・一緒に連れてきて!」
『・・・・・・・・・っ?!』
通話が繋がった瞬間、畳みかけるように喋り掛ける小沢に、通話相手はさぞかし驚いた事だろう。





 
「・・・ここならもう、いいかな。」
その一方で、工場の一番奥に辿り着いた設楽は小さく呟くと立ち止まり、くるりと振り向いた。
微かに射し込む光に照らされたその姿とたたずまいは、彼の石・・・ソーダライトの力を借りずとも
十分なほどに威厳とカリスマ性を帯びているように見える。

「で、話・・・とは?」
何でしょうか、と設楽に続いて立ち止まり、一つ息を吐いて赤岡は問うた。
「まさか・・・『黒のユニット』に入れとかいう下らない話でしたら、お断り・・・ですよ。」
「その、まさかなんだけどな。」
一瞬赤岡の言葉に驚いたように目を見開いたが、ククッと笑って設楽は答える。
「どちらの側にも属さずにいるのは、お前らも辛いだろ? 苦しいだろ?」
だったら、こっち側に来いよ。僕が、悪いようにはしない。
告げながらスッと差し出された設楽の手を赤岡は無視する。

「確かにあなたは・・・親切ですし、悪い人だとは僕も思ってはいませんけれど。」
その頼みは受け入れられません。
そう静かに答える赤岡の黒珊瑚から漆黒が湧き出してくる。
「おやおや・・・。」
いきなり石を大きく発動させる赤岡の態度に、呆れたように設楽は苦笑を浮かべた。
「ずいぶん嫌われちゃったものだね。」
「当然です。」
差しだした手を引っ込めて頭を掻く設楽に赤岡は明らかに敵意を帯びた眼差しを向け、告げる。

「ここで『黒のユニット』が余計な事をしなければ・・・僕らの石は目覚めずに済んだんですからね。」
それを知っているあなたは『黒のユニット』か、それに近い人間。
・・・ならば、例え相手が誰であったとしても。

漠然と発生した漆黒が、ゆっくりと意志を持つかのように赤岡を中心にして渦巻いていく。
「・・・戦うの? 面倒くさいんだけどなぁ。」
あーあ、と口にしている以上に心底面倒くさそうに設楽は一度視線を伏せた。
しかし、次にもたげた設楽の眼差しは淡い青みを帯びていて。
設楽を見据える赤岡の目線と衝突した瞬間、赤岡の脳に直接言葉が叩き込まれる。
先ほど小沢と共にいた時も何度か聞こえた、威圧感のある声で。

 『本当にそのまま攻撃して良いの? 後悔、しない?』

それはほんの一言だったけれど。
赤岡の葛藤を引き起こし、動きを止めるには十分すぎるほどであった。
目を伏せた時に目星をつけていた手頃な廃材を拾い上げ、設楽は赤岡に殴りかかる。
「・・・・・・・・・っ!」
無防備の腹部を横殴りに叩かれ、赤岡はぐらりとよろめくとそのまま床へと倒れ落ちた。

「もう一度言うけど、こっちに来なよ。このままじゃいつか・・・取り返しの付かない事になるよ?」
赤岡を見下ろし、投げかける設楽の言葉は優しいけれど、その裏側に従わざるを得ない何かを秘めている。
「じゃ、僕ももう一度言いましょうか。その誘い・・・断ります。」
床に這い苦痛に顔を歪ませながらも、それでも赤岡はソーダライトの力に抗うように設楽に答えた。
「僕もあいつもショッカーの怪人になるつもりは・・・させるつもりは、ありませんから。」

「ったく、良いねぇ・・・若いって奴は。」
赤岡の瞳はまだ、彼の持つ黒珊瑚のように凛とした光を湛えている。
見上げてくる真っ直ぐな眼差しにスゥッと冷たく目を細め、設楽は思わず呟いていた。
「・・・・・・反吐が出る。」
262名無しさん:04/11/21 21:44:53
アメザリ&ポイズン編乙です!
ポイズンのほうがそんな事情を抱えていたとは・・・
基本的にはいい人たちなんですよね・・・
相方を守りたいがために堕ちざるをえなかった吉田さんと
そんな相方にふわりとした笑顔でついていく阿部さん・・・
どうかこの二人にはいい結末があってほしいです。

赤岡&小沢&設楽編乙です!
設楽さん強い!説得がこんなにも厄介なものだとは・・・
なまじ意識があるだけに逆らえないですよね・・・
赤岡さんほんとに頑張ってください!
スピワ&江戸むら(出ますかね?)一刻も早く!
263名無しさん:04/11/21 21:53:27
白でも黒でもなく、ただ自分の為に戦う立場って貴重かも。
赤岡さん、飲み込まれないでくれ。
264名無しさん:04/11/21 23:51:57
設楽さん怖い…強い…。

赤岡さん負けないで、SPW&江戸間に合って。
あ、そーいや日村さんだけ蚊帳の外?w
265名無しさん:04/11/22 00:01:18
>>◆ekt663D/rE
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
悪役良いですね〜。もぅ負のオーラがプンプンと…
話し方も「ぽい」ので、何かリアルっぽくて凄みがありますね
乙です!面白かったです!
気になるだけですが、その間日村はどうしてるんでしょうかね
266カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 03:35:37
急な話なんですが、カンニング編に黒ユニット(というか設楽さん)を登場させてもらうわけにはいかないでしょうか。
始めはそんなに意識してなかったんですが、書いてるうちにどんどん黒ユニの影が(ニガワラ
明確な時間は出てないので時間軸的には大丈夫かとは思うのですが・・・・・・書き手さんのお返事を待ってます。
自分も後々登場させる予定ですし、全然問題無いと思いますよ?
カンニング編の続きが凄く楽しみなので即レスしてみましたw
頑張ってください!!
268カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 04:05:08
歯には歯を、即レスには(ry
という事で実はもう書きあがってたりしました(え
いや、なんというか、手が勝手に(スライディングで走りこみつつ土下座
・・・・・・というわけで、カンニング編第5話楽しんでいただけたら幸いです。
269カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 04:05:49
ささやかな絆の勝利〜或いは謀略〜

「――――ごほっ、ごほっ・・・・・・死ぬかと思った・・・・・・」
氷と炎が激突したせいで立ち込めた真っ白な蒸気の中、竹山はむせ返りながらも壁に左手をついて立ち上がった。自らの炎によりに右手に火傷を負った姿は、かなり痛々しい。火傷の程度が比較的軽いのが唯一の救いだろうか。
すっかりずり落ち曇ってしまった眼鏡を外すと、立ち込める蒸気を手で振り払う。
数秒経って徐々に視界が晴れてくると、竹山は曇りの取れた眼鏡を掛け直して部屋の内を見回し、床に倒れ込んでいる中島の姿を見つけて駆け寄った。
右手は真っ赤な霜焼けになっていたが、中島はただ気を失っているだけのようだ。
その事に、竹山はホッと安堵の溜息をつく。
中島の能力が氷を操る事であった炎を相殺出来たのだろう。
そうでなければ2人ともほぼ無傷では済まなかっただろうし、荒れ狂う炎によって控え室は無残な焼け跡になっていたに違いない。
「!」
中島の傍に転がっている黒ずんだ蒼い石――――サファイアを見つけ、竹山は一瞬の逡巡の後、そっとその石に手を伸ばした。
ぼぉっ!
「うわっ!?」
掌から急に噴き出した炎が石を包み込み、竹山は驚いて手を引く。
床に転がっているサファイアは、その一瞬の内に黒ずんだ色ではなく澄んだ蒼い色に変わっていた。
先程までの禍々しい気配は全く無く・・・・・・それどころか、どこか高貴なオーラすら放っていて。
竹山は咄嗟にそれを拾い、自分の上着のポケットへ放り込んだ。
270カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 04:09:59



――――同時刻、とある場所の、一室にて。
イスに座っているバナナマンの設楽は、閉じていた目をゆっくり開けると溜息をついた。
横に立っていたもう1人の男に「もう戻っていいよ」と声を掛ける。
能力の反動なのかフラフラと去っていく後ろ姿には目もくれず、設楽はポツリと呟いた。
「念には念を入れて、黒い欠片を媒体にするんじゃなく時間を掛けて石本体を『汚れ』させたんだけどな・・・・・・
『シナリオ』を破った上にあれを清めるなんて、さすがは数ある石の中でも高位に位置するだけの事はある」
単体では力を発揮しない石を手に入れるには、選ばれた持ち主をこちら側に引き込むしかない。
先程去っていった男の石の力によって、設楽はあのホールの控え室で起きた出来事の全て、そして計画の失敗を見ていた。
「人の心は弱くも強くもある、か・・・・・・」
その目に、一瞬嘲るような冷たい光がよぎる。
「麗しい話だね、全く」
『汚れ』を纏った石は、照明の落下による中島の僅かな動揺を切欠として力を増し、その心の奥底にほんの少しだけ潜んでいた不安を幾重にも増長させて彼を完全に操るはずだった。
だが中島は必死でそれに抗い、結果的には打ち勝ったのだ。
全てを見ていた設楽は、あの瞬間――――2人の拳が激突したその時、支配に抗った中島の意思が一瞬だけその足を止めさせた事に気付いていた。
そのせいで、中島は勢いのついた竹山の拳に耐え切れず跳ね飛ばされて意識を失ったのだ。
「あの石を手に入れらんなかったのは痛いけど、仕方ないな。火傷の言い訳も大変そうだし、2人のお手伝いでもしてあげるとしますか」
ポケットから携帯を取り出すと、設楽はどこかへ電話を掛け始めた。
その口元に、微かに笑みが浮かぶ。

「穏やかな日常にはアクシデントが付き物・・・・・・なんてね」
271カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 04:12:01



再び場所は戻り、カンニングの控え室。
石をポケットに放り込んだ竹山は、眉を寄せて部屋の惨状を見渡した。
真っ二つに割れた机、氷の刃が当たったせいなのかあちこちの壁紙に空いた穴、自分の右手の火傷。
(さて・・・・・・どうするかな、この状況)
竹山は深く溜息をつくと偽装工作は諦め、とりあえずスタッフを呼ぶ為に立ち上がろうとした。
だが――――
「っ・・・・・・」
ぐらりと地面が揺らぐような感覚に、竹山は思わず膝をついた。
徹夜明けの疲労感を何倍にも増したような、強烈な倦怠感。
胸元で光と熱を放っていたルビーが、力を使い果たしたのか冷えていくのが感じられた。
身体に思うように力が入らない。
身体と共に思考も鉛のように重くなり、抗おうという意思さえ、押し流されていく。

――――意識を失う直前、誰かの足音が聞こえた気がした。
272カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/22 04:13:20
少し短いですが今日はここまで。
とりあえず次回でカンニング編は終わる予定です。
毎回ドキドキしますねぇ…続きが楽しみで仕方ありませんよ!!
ネタが浮かんだときは止まりませんよね。手が勝手に…のお気持ちは良く分かりますw
寝る前に良いモン読ませていただきました。続きが気になって眠れないかも…(ナンチャッテ
274名無しさん:04/11/22 18:05:04
やっとこのスレ見つけられました。やっぱり進んでたなあ…。
てか、本当に設楽さん恐すぎます。。

あと、ポイズンが出てたのが嬉しかった…。
いっぱい読んで疲れたけど、やっぱり続きが気になりますね。
書き手の皆さん、頑張ってくらさい!!!
275名無しさん:04/11/22 21:18:39
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/17788

前の方で出ていた進行会議・石能力添削・練習用したらば掲示板を試作してみました。
ダメ出し、んなもんイラネ等ご意見がありましたらお願いします。
276オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/22 21:37:12
‖・ω・`)そー
お久しぶりです。店のPCでこっそり全部読みました。
いやホントすごい…すごすぎる。
まとめサイトも(゚д゚)ウマーなつくりになってるしバトロワ並に盛り上がってますね。
自分もそろそろ動き出せそうです。というかちまちま書き出してます。
あれから半年ぐらい経ってしまって、他のお話との時間軸が訳わかめですが(;´Д`)
続きをちょっと投下してもよろしいでしょうか?
(これこそしたらばの方で聞いた方が良かったかな…)
277名無しさん:04/11/22 22:06:18
カンニング編乙です!
なんかもうある意味この二人に渡ってよかったですよ。
あぁ・・・もう何でもかんでも見てますね設楽さんは!さすがです(笑)
続き楽しみにしてます!
278名無しさん:04/11/22 23:10:49
>>277
sageよろ
>>275
GJ!
スレが立ったら自分も使わせて貰います。


日村さんにはちゃんこ鍋を作(らされ)るという重要な仕事がありますからw
280名無しさん:04/11/23 00:44:55
>>◆8Y4t9xw7Nw
上手く行ってない様に見えて実は石に抗える程の絆があったんですね…カンニング。
(石が高貴だったこともありますが)
転んでもタダじゃ起きない設楽が何するか気になりますね
次回楽しみにしてます!乙です!

>>オデンヌ ◆RpN7JISHH.
お久しぶりです。
時間軸の方は読み手からしてみれば各々で補間していけるのではないかと思います
書き手さん側の事はちょっと分かりませんが、それほど問題は無いような…
よく分からなくてスミマセン
どうかご無理なさらずマイペースで
281275:04/11/23 01:34:04
とりあえず必要そうなスレと思いついたスレは立ててみました。
他に感想スレなどは必要ならば立てますが…様子見てみたいと思います。
282名無しさん:04/11/24 01:04:15
昨日のさんま御殿で虫嫌いを公言していたチャブ柴田さん。
蝶々使いの友近さんと対決したら、どんな騒ぎになっただろうw
28322:04/11/24 11:31:20
鈴木は鼻歌交じりに、その作業にいそしんでいた。
誰も居ない楽屋、夕べ拾った緑色の石に異様に親近感が沸き、
その石とシルバーのチョーカーなどを作ってみたりしている。
普段なら道端に落ちている石を拾ったりはしないのに、
なぜかその石だけは特別な気がした。自分が呼ばれているような感覚。
「できた!」
我ながらいい出来、そう自画自賛し、早速そのチョーカーを首からかけた。
(あなたを待っていました。)
「え?」
突然聞こえたその声に驚く鈴木。
しかしもちろん、楽屋には鈴木以外には誰も居ない。
「気のせいか・・・」
誰も居ない楽屋で、自分以外の人間の声が聞こえるなんてありえない。
それで片付けてしまった。

(あなたを待っていました。)
28422:04/11/24 11:50:04
「おはようございまーす。」
雑誌を読みながらタバコを吸っていると、次に現れたのは浅越。今日は本公演の稽古とあって、ラフな格好で来たようだ。
「あれ、鈴木さんが一番ですか?」
荷物を置いて鈴木のそばに来た浅越は、一瞬眉間にしわを寄せる。そして数歩距離を置くと、首をかしげながらも腰を下ろす。
鈴木のそばに行った瞬間、頭痛が起こった気がした。まるで自分が近寄ることを拒むような、激しい痛み。
「どないした?」
「いえ。」
鈴木に聞かれたが、こんな事を話しても訝しがられるだけだ。そう思い、愛想笑いで流して台本に目を落とす。
「そんなことよりや、これ見て。」
台本と浅越の目線の間に、鈴木が勢いよく何かを差し出す。
(っ!また?)
再び浅越を襲う頭痛。そして、差し出されたのは緑の石のチョーカー。
「さっき作ったった。ええやろ?」
「へぇ、ネフライトですか。いいですね。」
「ネフラ・・・?何それ?」
「ネフライト。翡翠のことですよ。」
「ふぅん。それってすごいんか?これ、道で拾ってんけど。」
「そうですねぇ。本物なら、ちょっとした価値はあると思いますよ。」
穏やかに答えながら、浅越は頭の中に乱立する疑問符と戦う。さっきと違って、頭痛は治まらない。
それどころか、痛みは増しているような気がする。
「すいません、ちょっとお手洗いに行ってきます。」
あまりにもひどい頭痛に、堪らなくなった浅越は立ち上がった。

トイレの鏡の前で、浅越はやはり疑問符を乱立させる。
「鈴木さんから離れたら、治まった?」
しかし、鈴木に近付いただけで頭痛がする理由は思いつかない。昨日までは、何ともなかった。
すると、浅越の携帯が鳴る。
「はい、もしもし。・・・・・あ、昨日はお疲れ様でした。」
浅越がポケットから出した携帯電話には、青い石と黒い石のストラップが付いていた。
28522:04/11/24 12:00:48
友人からもらった困った贈り物をポケットに押し込んだまま、次に来たのはヤナギブソン。台本をすでに憶えてしまったのだろう。手ぶらである。
「おはようございまーす。あ、まだ鈴木さんだけですか?」
「おー、ゴエが来とんで。トイレ行ってるわ。」
「そんなことより、そのチョーカーどうしたんですか?めっさいいですやん。」
「やろ?俺が作ったった。」
「マジですか?珍しいですね、石でチョーカー作らはるなんて。」
「昨日たまたま拾ってん。エエ感じやったから作ってみた。」
「へぇ。何の石ですか?」
「ネフ・・・翡翠とか言うとったで、ゴエが。」
「・・・あ、じゃあこの石もチョーカーにできます?」
ヤナギブソンは、上着のポケットから友人からの困った贈り物を差し出す。それは赤黒い石で、透明感はない。
「赤花菊花石っていうらしいんですけどね、昨日ツレにもらったんですよ。なんか特別天然記念物とか言うてましたけど、石だけもらっても困るなぁって思ってたんです。」
「へぇ。ええやん。チョーカーでええんか?」
「はい。お願いできます?」
「ええよ。まだ時間あるし。」
鈴木はヤナギブソンから石を受け取ると、さっそく工具を手にした。
28622:04/11/24 12:07:27
電話を終えて楽屋に戻ろうとした浅越の頭の中で、何度も同じ言葉が繰り返されていた。
(あの石を壊せ!)
聞き覚えのない声。あの石とは、もしかして鈴木の持っていたネフライトのことを言っているのだろうか。けれど、たかが石でなぜ?というか、どうしてこんな声が聞こえるのだろう。
石といえば、自分の携帯にも石の埋め込まれたストラップが付いている。昨日、仕事が一緒になった知り合いからもらったものだ。
「石と縁でもあんのかな。」
とりあえず楽屋に戻ろうとドアに手をかけた瞬間、あの頭痛が襲い、浅越の意識は遠のいた。
28722:04/11/24 12:18:51
「おはよーさん。」
楽屋のドアに手をかけて立ち止まっている浅越に声をかけたのは灘儀。けれど浅越の返事はない。
「おい、浅越?」
もう一度声をかけるが返事はない。
「朝っぱらからシカトって何やねん!」
そう言って浅越の肩に手をかけようとすると、ものすごい力で突き飛ばされる。何が起こったのかわからない。
「何すんねん!」
灘儀は思わず怒鳴ったが、それにも何も答えず、浅越は勢いよく走り去ってしまう。今までにこんなことなど一度もなかった。思い切り戸惑いながら、灘儀はようやく立ち上がる。
そしてふと気づく。
「あいつって、あんなに力あったか?」

とんでもない勢いで走ってきた浅越に入り口でぶつかったのが久馬。
「おいおい、どないしてん。」
突然のことにそう聞くが、浅越は何も答えず走り去ってしまう。なんだかよく分からないが、とりあえず楽屋に下りることにした。
今日はみんなに見せたいものがある。本公演で鈴木がぜぎやりたいといっていた、灘儀と自分の衣装に使うための石が見つかったのだ。この石で鈴木は喜んでくれるだろう。久馬の意識は、浅越の態度に対する疑問より、そちらに重きがあった。

28822:04/11/24 12:29:51
プラン9編です。よろしくお願いします。

 鈴木・・・ネフライト(翡翠)
      能力・・人が自分の元で結束する。人を惹きつけ、味方にすることが出来る。
      条件・・石の声を自分の意思で聞き届けたときに発動。だが、鈴木自身は何も出来ない。集まってきた人間が鈴木のために行動を起こしてくれるのを見ているだけ。
          
 ヤナギブソン・・・赤花菊花石
      能力・・非常に硬い石で、防御力が爆発的に上がる。
      条件・・逃げたい、傷付けられたくないと強く念じると発動。一瞬でもその意志が弱まると、効果はすぐになくなる。長時間の発動は可能だが、ずっと逃げたい、傷付けられたくないと強く思っていなければならないので、その継続は困難。

 灘儀・・・サンストーン(日長石)
      能力・・炎を使えばそれを増幅することが出来る。炎というだけに、水に弱い。
      条件・・至近距離に火気があれば発動。自分の精神力でその炎の勢いや動きをコントロールしなくてはならないため、長時間の発動は難しいと思われる。が、どんなに小さな火気でも感知し、発動させることが可能。

28922:04/11/24 12:40:52
>>288
  
 久馬・・・ゴールドストーン(茶金石)
      能力・・灘儀の石の力のサポートが出来る。ただし、灘儀が自分の目の届く範囲に居なければならない。炎や光の属性の石にリンクし、助けることが出来る。
      条件・・リンクする属性の石が近くにあれば発動。その石自体には何も攻撃、防御などの機能はない。光属性の石で、種類によっては癒し効果あり。効果は瞬発的で、その力を長時間継続することは出来ない。癒しの力を使うと、しばらくは石を使えなくなる。

 浅越・・・天青石(空の青の石)
      能力・・癒し。ただし、精神的ダメージは癒せない。
      条件・・スーツとネクタイ着用で発動。雨の日は使えない。
   
以上です。浅越を黒にしてみました。5人居るので長くなるかもしれませんが、がんばって書いていきたいと思います。
290名無しさん :04/11/24 20:05:09
プランキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

所有した石の色はスーツの色ですね。
しかも浅越が黒…楽しみです。

291オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:41:12
ども、ちょっくらあの続きを投下してみますです。
ここに至るまでの経緯は…まとめサイトをご覧下さい。
292オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:43:51
その光の強さもさることながら、あれだけ暴れまくっていたダンディを一言で封じた威力に礼二は目を丸くしていた。
「おぉー止めよった」
「小沢さんならやると思ってたよ。オイシイとこ全部持ってっちゃって悔しいけど」
「何が悔しいねん、お笑いみたいに言うな」
妙にテンションが上がっている井戸田と礼二の傍で、剛は眉をクッとひそめ、前方を睨んでいた。
その視線の先で、小沢は指揮者が演奏を止めさせる時のような手つきで石を握り直すと、光はスッと収まり、楽屋は元の明るさに戻った。
床には、紐が切れたペンダントが持ち主と共に転がっていた。
「……!」
石を凝視する内に何か閃いた剛は、それを拾おうと小沢が足を踏み出すよりも一瞬早く跳び出した。
「何を慌てて……っておい何してん」
「小沢さん封印出来た?……え!?」
先ほど突き飛ばしたり怒鳴ったりした事でやいのやいの言い合っていた礼二と井戸田だったが、
チラリと視界に入った剛をそのまま目で追い、ようやく異変に気がついた。
「小沢くん!しっかりせえ!」
年に5回出すかと言われる程の大声を張り上げる剛の腕には、
魂でも抜かれたかのようにぐったりと動かない小沢の身体が抱かれていた。
293オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:44:51
>>292続き

「兄貴お前、何かしたんか!」
すぐさま礼二が鬼のような表情で剛に詰め寄った。
「違うわ!俺にこんなん出来る訳ないやろ!」
剛も強気に返しているようだが言っている内容は若干弱気だ。
「どういうこと…」
怒号が飛び交う中、頬を叩かれても反応がない相棒を前に、井戸田は茫然と立ちすくんでいた。
しかしおもむろにズボンのポケットをまさぐり、自分の石があることを確かめた。そして…
(小沢がダンディさん止めたのまではいいよ。凄いよ…っていうか何でそれだけで倒れる!?
もうちょい体力つけろ!いいもん食え!いっそデブキャラになっちまえ!
…その前に起きろ!!)
強く念じると、いつしか石はオーラを放ち始めた。
(来た!)
そのオーラに包まれた右腕を振り上げ、大きく息を吸う。
「今度こそアタシみ…」
「すぐに逃げえ!!」
「ぅえ?」
剛の緊迫した声に驚き、思わず力の発動を中止してしまった。
「礼二、2人連れて9階行っとれ。」
「ちょ待てえ、コレ封印しに来とんのやろが。置いて行け言うんかい」
足元のペンダントを指す礼二を横目で流し、井戸田の顔をしばらく見つめると、厳しい顔で口を開いた。
「……無理や。今やっても同じ目に遭うで。」
294オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:45:41
>>293続き

30年以上共に生きた弟から見て、剛の様子は本気だと感づき始めてはいるが、どうにも腑に落ちない。
「お前さっきから何を…今の力見て頭おかしなったか」
能力を邪魔されて呆気にとられていた井戸田も我に返って反論した。
「同じ目に…ってどういう意味っすか、僕等だってこの石で今まで色々やって来てるんですよ!」
「せやから逃げえ言うとんねん。コイツの狙いは君らや。力を使うて来るんを待っててん。」
「僕等が狙い?」
「そうや。俺も気付くんが遅かったわ。もうちょい早よ気付いとったら…」
剛が目を落とした先で、小柄な体格に似合わぬ太い腕に抱かれた小沢は依然目を覚ましていなかった。
「兄貴…」
忠告を無視してダンディの石に手をかけることは可能だろう。しかし、それでもし新たな犠牲が出たら…
兄は制止出来なかった自分を責める余り、心身にも悪影響を及ぼすに違いない。
「ここで全部言うんめんどくさいねん、早よ行けって!」
剛は楽屋のドアを開けて小沢の身体を引きずり出し、困惑顔の礼二と井戸田も力いっぱい外へ押しやると、ドアを閉め、鍵をかけた。
「……」
久し振りに出た廊下は、まるで何物かの力が働いているかのように静まり返っていた。
295オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:48:28
>>294続き

剛の豹変ぶりに当惑していたのは井戸田だけではなかった。
「アホかあいつは…何で俺まで叩き出しよんねん…」
礼二もまた、ムッスリした表情で鍵の掛かったドアを見上げ、向こう側に居る剛に聞こえるか聞こえないかの声でぶつくさと文句を言っていた。
足元に横たわる小沢は微かに胸元が動いており、辛うじて息はあるようだが、
冷たい蛍光灯の光に照らされているせいかその横顔は青ざめて見える。
井戸田はロッカーに頭をぶつけた時のように軽く揺すってみたが、やはり目を覚ます気配はない。
苛立ちから堪らず床を殴りつけた。
「クソ…ッ!」
その声に一瞬驚いた礼二だったが、急に表情をフッと緩め、小沢と傍にうずくまる井戸田を見下ろした。
「…行こか。いつまでもンな硬い床に寝かしとったら可哀相や」
「えっ…いいんですか!?剛さん置いてって…」
「ええねんええねん、どうせ何も出来ひんまんま隅っこで震えとるだけやから。
そんなもん相手にするより小沢くん回復さすんが先や。ほら、背負わんかい」
(あんたそれでも相方ですか)と突っ込もうとしたが、突然背中に乗せられた小沢の体重にバランスを崩しかける。
「ウっ、何で俺なんすか」
いくら小沢が細いとはいえ身長差もあり、何より意識を失っているので余計重く感じる。まだ礼二の方が安定するだろうに…
「何もしてやれんやった思うんはまだ早いで。後で自慢したれ『俺が運んだったんやぞ!』言うて」
「……」
少し考えた後「やっ」と気合いを入れて立ち上がると、少しふらつきながらもエレベーターに乗り込んだ。
9Fのボタンを押し、エレベーターのドアが完全に閉まるまでの間、礼二は兄を残した楽屋の方をずっと見続けていた。
296オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/11/24 20:53:30
とりあえずここまで。
この後はどっちかっつーと中川家寄りの話になる予定です。
SPWのコント「実は…」みたいな展開になりそう…
ではまた。
>>83-91の続きです。
アメザリの話を挟みましたが、オパール編の続きになります。

「ぁああっ!!もう…何処行っちまったんだよ」
テレビ収録終了後の楽屋。自分の荷物をごそごそと漁っていた有田が突然奇声を上げた。
「んだよいきなり…どうかしたのか?」支度を終えた上田が煩わしそうに声を掛ける。
「なぁ…俺の携帯何処行ったか知らねぇ?」
酷く焦った様子の有田が、自分の鞄の中身を畳の上に引っ繰り返しながら情けない声で言った。
「んだよ、失くしたのか?しょうがないヤツだな…」呆れながら上田はしゃがみ込んでいる有田に歩み寄った。
「なぁ、ちょっとだけアレで探してくんねぇかな?」顔を上げた有田は、上田を見上げて両手を合わせる。
「お前の今日のコンパの大事な連絡手段を探し出すのと、
俺がそれによって受ける痛みって言ったらどっちがアレなんだろうなぁ?」
腕を組んでその様子を見下ろしていた上田は、ワザと嫌味ったらしく言った。
「あ、やっぱりばれてた?」有田は悪戯のばれた子供のように舌を出してみせる。
「んなことしても可愛くねぇよ…」呆れた様子で上田は首を振った。
「どーしても必要なんだよ、可愛い子居たら後で上田にも紹介してやるからさぁ」
「別に興味ねぇよ…店やら時間やら、大事な情報がつまった携帯だもんなぁ?」
完全にテンションのダウンしている相方をからかう様な口調で上田は言った。
「そこをなんとか、頼むよぉ…」縋るような目付きで見上げてくる相方に、諦めたように上田は溜息をつく。
「そうだな…お前が絶対にあの能力を俺に使わないって約束すんならやってやるよ」
以前有田と喧嘩したとき、あの能力で散々な目に合わされたことがあった。
相方らしい…恐ろしく質の悪い能力だと痛感させられたのを、今でもよく覚えている。
「約束するから!頼むっ」何が何でも探し出してもらわなければと必死な有田は、
約束の内容も耳に入っていない様子で頭を下げている。相方に甘い自分に苦笑いを浮かべつつ、
「しかたねぇな。ちょっとまってろよ」石に手を当て神経を集中させる。
ターゲットである携帯に関する薀蓄を選び出し、能力発動の鍵となるそれを口にしようとしたとき。

一瞬、上田の視界が真っ赤に染まった。
それと同時に脳内に恐ろしい記憶が流れ込んで来る。
数日前矢作が襲われた楽屋にあった机の記憶を読み取ろうとしたときの、
あの全身を切り刻まれるような恐ろしい痛みの記憶…
身体が小刻みに震え出し、胃の辺りから何かが込み上げる様な感覚がする。
「っ…う」思わず口元を押さえる。足に力が入らなくなり、倒れそうになる。
慌てて立ち上がった有田がその身体を支えるように肩を掴んだ。
「上田、どうした?」顔を覗きこむが反応はなく、何かを凝視しているかのように瞬き一つしない。
「おい……どうしたんだって」目の前で手を振ってみても、全く反応しない相方に有田は焦り始めた。
まだ能力を発動させていないのだから、当然その代償の痛みであるはずが無い。
「上田?何かあったのか?無理にとは…」だが実際石を使おうとする前はこんな状態ではなかった。
石を使ってくれと頼んだ自分に責任が無いとは言えないだろう。
(一体どうすれば…てか、何があったんだ?俺はどーすりゃいいんだよ…)
有田は只焦るばかりの自分に苛立ちを覚える。

「おかしい…」上田がかすれた声で呟いた。
「え?」良く聞き取れなかった有田は耳を傾ける。
「使えないんだ…」掴んだ上田の肩が微かに震えているのが分かった。
「いきなり、どうしたんだよ」あまり刺激しないように、小さな声で語りかける。
「石の能力が…体が拒否しているみたいなんだ」
上田は自分の手を見つめたままうわ言のように繰り返す。
「それで、もう今は大丈夫なのか?」この状態になった相方を、有田は一度だけ見たことがあった。
ある番組の収録後の楽屋で、同じ石の能力者である矢作を襲った犯人を捜そうとしたとき。
「今はもう大丈夫だ…けど」あの時上田は恐ろしい痛みを感じたと話していた。
「けど何だよ」(今思えば、あの時の痛みの原因は何だったんだ?)
有田の脳裏にある可能性が思い浮かぶ。
「石が…」上田は何かを言いたそうに口を開いた。
(今まで上田が石を使って、あそこまで辛そうな状態になったことは無かった筈だ)
「良いから、今は休んどけって。石なんか今はどーでもいいから」
上田の肩を軽く叩き、有田は出来るだけ明るく振舞う。
(あと少しで犯人が分かりそうだったと、上田は言っていた)
「でも…」それでも上田の表情は曇ったまま。
(アレはまるで…犯人の顔を見せないようにする為だったとしか…)
有田の頭の中で、一つの仮説が立てられた。
「なあ、俺思ったんだけどさ」

有田のその声を中断するかのように、携帯の着信音が鳴り響いた。
「あ、俺のじゃん…上田悪ぃな、面倒かけちまって」
慌てて音のした所から携帯を見つけ出し、上田に見せた。
「なぁ、今何か言おうとしなかったか?」
「なんでもないよ。ホラ、携帯も見つかったしさ。もう大丈夫だから、石のことは少し忘れろって、な?」
見るからに体調の悪そうな相方に、今こんなことを話しても迷惑なだけだろう。
有田は笑いながら誤魔化した。
「あ、ああ…」突然の着信音に気が抜けたのか、上田の表情が僅かながら緩んだ気がした。
「きっと疲れが出たんだって、ゆっくり休んだ方が良いよ」
有田は上田に帰り支度を促した。
上田が帰り支度をしている間、着信履歴に表示されている後輩に断りのメールを入れる。
そして、白いユニットの中でも最も頼りになりそうな人物にメールを送った。
「それじゃ、行くか」
「ああ」短いやり取りをし、二人は楽屋を後にした。

局を出たところで有田の携帯にメールの着信があった。
その画面には『渡部 建』の文字が表示されていた。



同時刻、とあるライブ会場の楽屋で携帯を見ていた山崎は溜息を吐いた。
「有田さん、合コン来れないって…どうしちゃったんだろ」
「さぁ、何か別に用事でも出来たんじゃねーの?」
背を向けたまま返事をした柴田の顔には、
いつか上田を見下ろしていた時と同じ冷たい嘲笑を浮かべられていた。


今回は此処までです。
301名無しさん:04/11/24 22:44:03
新作沢山キタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!

22さん、オデンヌさん、お試し期間中。さん乙です!!
302名無しさん:04/11/24 22:58:18
お試し期間中さん、激しくGJです!(・∀・)p

個人的にもそのコソビ、かなり嬉しい。次回作、頑張ってくださいませ。楽しみです!
303カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:02:49
終幕〜或いは始まり〜

竹山が次に目を覚ましたのは、控え室前の廊下だった。
「?」
なぜこんな所に居るのか一瞬自問した後、視界を埋め尽くす煙に慌てて重い身体を起こす。
後ろを振り向くと、半分開いた扉からもうもうと煙が流れ出していた。表示を見れば、それは自分達の控え室に間違い無い。
その直後、けたたましい音を立てて非常ベルが鳴った。
「大丈夫ですか!?」
慌てた様子でスタッフの服を着た青年が走ってきた。その手には消火器が握られている。
「あの――――」
竹山が事情を聞こうとした瞬間、近くで誰かが咳き込む声がした。
視界の悪い廊下を見回してみると、煙の中に膝をつく見慣れた影が見える。
急いでその影に歩み寄ると、それは中島だった。
むせながらもこちらを見るその目に冷たさはなく、いつもの中島の目だ。
「大丈夫ですか?」
フラフラと立ち上がろうとするその肩を、先程のスタッフが支える。
「早く向こうへ避難してください!」
非常ベルに驚いて顔を出した他の出演者と共にスタッフに促され、2人は重い足取りで廊下を歩き出した。
304カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:06:00

結局、2人の控え室のコンセントがショートしてボヤが起こった、という事だったらしい。
観客への説明を終えて戻ってきたあのスタッフが煙に気付いて非常ベルを押し、2人の元へやってきたという。
あの後すぐさま他のスタッフと共に消火器で消火したが、2人の荷物こそ無事だったもののコンセント近くの壁際にあった机は黒焦げになり、壁紙も大分焼け落ちてしまったという話だった。

案内された部屋のソファに座り去って行く後ろ姿を見送りながらも、竹山はどこか釈然としない思いを抱えていた。
あの時、控え室で意識を失う直前微かに聞こえた足音は、一体何だったのか。
ただの勘違いで片付ける事も出来ただろう。だが、自分の第六感とも呼べるべきものが、激しく警鐘を鳴らしているのだ。
誰かが気を失った自分達を廊下に移動させ、火を点けたのではないか?
・・・・・・でも、だとしたら何故?
唯一分かるのは、あのボヤの火と混乱のおかげで、荒れた控え室や右手に負った火傷の理由を上手くごまかせたという事だけだ。
中島が勢い余って壁を殴り付けたりせず――――机は叩き割ったが――――竹山だけを狙った事と2人の控え室が角部屋で隣は空調の故障で空き部屋になっていた事のおかげで、あの乱闘の物音は他の出演者に気付かれずに済んだ。
つまり、部屋の痕跡さえごまかしてしまえばいくらでもごまかせる状況だったのだ。
ひたすら平謝りしていたスタッフには気の毒だが、本当の事は言えるわけが無い。もっとも、言ったとしても信じてはもらえないだろうが。
竹山は、窓の外に見える夕陽を見ながら溜息をついた。
305カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:07:11



「――――そう、上手くごまかせたんだ。じゃあ大丈夫だね。消防の方もただの火事で片付けてんでしょ?・・・・・・うん、じゃあ今度の集会で。それじゃ」
通話を切った設楽は、いつの間にか隣に立っていた長身の影に気付いて目を丸くした。
「あれ、来てたんだ?」
「ええ、ちょっと時間が空いたんで・・・・・・誰と話してたんです?」
「スタッフの子からの報告。話は君も聞いてるよね?」
「・・・・・・ちょっとやり過ぎじゃありませんか?」
男の言葉に、設楽はその口元に笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ、【どうしてショートしたか】はともかく、火事の原因はコンセントのショートでしょ? それにあのホール古くてかなりガタが来てたからね、建て直しの案も出てるんだってさ」
「でも――――」
「それとも自分以外の脚本が不安かな、小林君?」
男――――小林は眉を寄せて黙り込む。それを見て更に笑みを深めると、設楽は小林から視線を外してポツリと呟いた。
「これも全てアクシデント、日常の中で起こり得る予想外の出来事だ」
306カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:08:41



ソファに座り、竹山はぐったりと机に顔を伏せていた。
まだ身体中に倦怠感が残っている。普通ではありえない力を使った代償、というやつなのだろうか。
チラリと正面に座る相方を見ると自分と同じく異様に疲れている様子で、意識が無かったとはいえ力を使った影響が出ているようだった。
「なぁ」
ポツリと投げ掛けられた言葉に、竹山は顔を上げた。
「ん?」
「・・・・・・ごめん」
唐突な謝罪の言葉に、目を丸くする。謝罪される心当たりなど全く無い。
「・・・・・・何で?」
「俺さ、控え室に入ってから非常ベルで起きるまで何やってたか記憶が無いんだけど・・・・・・身体が憶えてる、っていうのかな。何となく分かるんだよ」
「!」
「お前を・・・・・・殺そうとした事」
予想外の言葉に思わず絶句した竹山だったが、酷く追い詰められた様子の中島を見て眉を寄せた。人のこういう顔は、見ている方が辛くなる。
「だから――――」
「もう言わんでいい」
ごめん、と言いかけた中島の言葉を遮ると、竹山は大真面目な顔で付け足した。
「そんな事言うぐらいなら携帯料金一か月分立て替えてくれ」
一瞬の内に真面目な顔を崩して、竹山がニヤリと笑う。そんな事気にすんなよ、とでも言うように。
それが、中島の謝罪に対する答えだった。
・・・・・・ほんの少しの、沈黙の後。
「相方にたかるな!」
何とも言えない泣き笑いの顔で、中島は竹山の頭をぱしんと叩いた。
307カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:09:18



強い力を手に入れたからといって、劇的に生活が変化するとは限らない。
この2人の場合もそうだった。収録前の控え室で暇潰しを兼ねて求人情報誌に目を通す、いつもと変わらない光景。

包帯を巻いた右手でぎこちなくページを捲りながら、竹山は溜息をついた。
火傷の程度は軽いが、範囲が手の甲全体に渡っている為動かすのが辛い。
石を手に入れたことによって、最近異常な程に頻発している芸人同士のトラブルの原因が、ようやく理解出来た。
他の若手との間に年齢の壁があるせいかまだ襲われるような事は無いが、これから先そういう事も起こってくるだろう。
随分厄介な事に巻き込まれたみたいだな、と心の中で呟く。
こういう面倒事は出来れば避けたいのだが・・・・・・けれど、心のどこかに真っ向から立ち向かうとする気持ちがある事も確かで。
どうせ、逃げようとしてもこのルビーが許してはくれないのだろう。
溜息をつくと幸せが逃げる、そんな言葉を頭に思い浮かべながらも、竹山は再び深い溜息をついた。



さっきから溜息ばかりついている相方にチラリと視線を向けて、中島は苦笑いを浮かべた。
その右手首には、細い革紐のブレスレットに通されたサファイアが揺れている。
上部に穴を開けただけのシンプルな加工。ちゃんとしたものに仕立てなかった理由を聞かれて「削るのが勿体無かったから」と言った時の相方の間抜けな顔は、しばらく忘れられそうに無い。
形は竹山の持つルビーと同じ丸っこいもので、大きさも同じぐらいだろう。
砂利道などに転がっている石ころよりは少し小さめだが、宝石店で見る宝石の価値と照らし合わせればかなりの額になるに違いない。
・・・・・・分かりやすく例えるなら億万長者が持っている指輪にはまっていそうな大きさなのだ。
よく売る事を思いつかなかったなと、自分を誉めてやりたい。この石が持つ強大な力を知った今では、売る気などとてもではないが起きないのだが。
さて、これから色々と慌しくなりそうだな。
苦笑の度合いを深めると、中島は手にした求人情報誌に視線を戻してページを捲った。
308カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:11:57



石を巡る騒動を知って、この石が自分達の元に転がり込んできた理由が、何となく分かった気がした。
特に凄まじい力を秘めたこの石が、無謀な程の野心と希望に満ち溢れている若い芸人達の手に渡ったら・・・・・・考えるだけでも恐ろしい。
だからこそ、この石は自分達を選んだのだろう。
良い意味でも悪い意味でも現実の厳しさをよく知り、それでも何とか現実と夢との折り合いをつけてやっている自分達を。

いつも通りの時間を過ごしながらも、2人は確信に近い嫌な予感を感じていた。
自分達の元へやってきた2つの石が、訴え掛けている気がするのだ。
――――何も終わってなどいない、まだ始まったばかりに過ぎないのだ、と――――

                                       ――――Fin

309カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw :04/11/25 04:15:42
前回の短さとは打って変わって異様に長くなってしまいましたが、カンニング編は一応これにて終了です。
気が向いたら彼らのちょっと短いお話を書いてみたいとは思いますが・・・・・・
別の芸人さんの話もちょこちょこ書き進めたりしてますので、機会があったら発表したいと思います。
それでは。
310名無しさん:04/11/25 11:39:45
ラッシュキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

>>22
乙です!プラン9のことはあまり分かりませんが、人数が多いしメンバーの中に黒がいるので、
色々人間関係も面白くなりそうですね。
続き楽しみにしてます!

>>オデンヌ ◆RpN7JISHH.
ハラハラしますね!
一人だけ事情を知る剛、人情深い礼二カコイイ。先が気になります。
何気に「いっそデブキャラに…」笑いました。続き乙です!

31122:04/11/25 12:29:43
プラン9編続きを投下します

 梅田駅の雑踏の中、浅越は我に返った。
 (なんで駅?っていうかタバコ吸ってる!!)
 手にしていたタバコに咳き込み、慌ててもみ消す。が、足元には大量の吸殻が散乱している。記憶が完全に飛んでいたらしい。どうしてこういう状態になったのか、なぜここに居るのか、全く検討が付かない。ただ、さっき感じた頭痛はないようだ。
 (とりあえず戻ろう・・・)
 こんなところで考え込んでいても、なにも打開されることはないはず。浅越はとりあえず劇場に戻ろうとして、ポケットのふくらみに気づく。
 ポケットに手を突っ込むと、中から出てきたのは小さな箱。タバコの箱ではない。どちらにしろ見覚えがないのは確かだ。
 少し躊躇しながらその箱を開けると、中には大量の黒い石が入っている。石が勝手に箱に入ってポケットに飛び込んでくるはずがない。浅越自身が収集し、箱に入れてポケットに入れたと考えるのが妥当だろうか。
 (あの石を早く壊せ。さもないと・・・)
 石をジャラジャラと手でかき回していると、さっきと同じ声が聞こえてくる。周囲を見回すが、誰も自分に話し掛けている様子はない。そしてその声は、浅越にしか聞こえていない様子。
 (早く壊してしまうのだ。さもないとお前が・・・)
 思考をまとめようとしている間にも、声は繰り返し聞こえる。
 (さもないと、何だ?)
 (あの石を壊せ。一分でも早く。)
 浅越の疑問に答えるように、声が反応してくる。
 (早く壊せ。とにかく早くだ。)
 (壊すにしても、どの石を壊せばええんや?鈴木さんの翡翠か?)
 (あの石がある限り、お前が・・・・)
 そこで声はぷつりと途切れた。
 (あの石ってどの石や!俺が何やねん!)
 しかし、もう声は聞こえてはこない。ただ、さっきよりも箱の中の石が増えている気がする。
 (何やねん、一体。)
 苛立ち、無造作に石をつかむと、また意識が遠のいた。

 浅越はタバコに火をつけると、劇場に向かって歩き出した。その表情は、さっきとはうって変わって、冷たいという他に表現の仕様のないものだった。
31222:04/11/25 12:49:51
「サンストーンとゴールドストーン。へぇ、いいっすね。」
「やろ?それやったら衣装に使えると思って。」
楽屋では、浅越をのぞくメンバーが、久馬の持ってきた石を物色していた。
「こんなん、どっから調達してきたんや。」
「あー、昨日芝田の方の露店で。」
「芝田の露店?あんなところに露店なんか出てましたっけ?」
「いや。昨日だけ。めっさちっさい露店で、めっちゃちっさい男の子が売ってた。」
「怪し!大丈夫なんすか?」
「大丈夫やって。値段も安かったし、ただの石やし。」
「やったらイイっすけど・・・」
いまいち納得がいかない表情でヤナギブソンは再び石に視線を戻す。たしかに、言われてみれば「たかが石」だが。
「サンストーンねぇ。」
灘儀は、自分の衣装に宛がわれる予定の石を、手のひらの上で弄んでいる。
すると、ドアが開き、トイレに行くと言って長い時間席を外していた浅越が戻ってきた。途端灘儀が立ち上がり、浅越に詰め寄る。
「おい!お前、さっきの何やねん。」
しかし、浅越はそのさっきと同じ強い力で灘儀を突き飛ばした。
「ちょぉ待てや。急に何・・・」
そう言って浅越の元へ行こうとした鈴木に、あの声が聞こえた。
(あなたを待っていました。)
「え?」
声と同時に、鈴木が首からかけていたチョーカーが大きく光を放つ。それに呼応するように、灘儀が持っていたサンストーンも光りだした。
313名無しさん:04/11/25 16:45:07
22さん乙!
でもsageてほしいかも。
31422:04/11/25 17:09:13
すみません。続きを投下しようとしてパソコンがトラぶってしまいました。
続きを投下します。

 (あなたを待っていました。)
 あの声が鈴木に聞こえる。
 「さっきから、待ってた待ってたって何やねん!」
 (声に出さずとも、会話は出来ます。我々の声はあなたにしか聞こえていません。)
 言われて周囲を見ると、他のメンバーはこの事態に右往左往している。
 (で、これはどういうことや?俺を待ってたって?)
 (我々はずっと、王の帰還を待っていたのです。)
 (はぁ?)
 (あなたが我々の声に答えてくださるのなら、この状況は回避できるでしょう。)
 (・・・・・ホンマか?絶対か?)
 (王に嘘など申しません。)
 (・・・・・分かった。お前らの声に答える。)
 (御意!)
 声と同時に、鈴木のチョーカーの光はいっそう増す。そして灘儀の手の中のサンストーンも同じように。
 途端、灘儀が吸いかけて灰皿に置いていたタバコから、大きな炎が浅越に向かって放たれる。あまりの勢いに、浅越は面食らって倒れこんだ。
 (おい!どういうことや!)
 (我々はあなたが呼べば答えます。ですからどうか、救いを。)
 (ちょぉ待て!俺は・・・・)
 言いかけて、鈴木の意識はメンバーが浅越の身を案じて駆け寄る声に移る。同時に、声も、石の光も消えた。
315名無しさん:04/11/25 17:36:41
常夏のサンシャインベイベ☆
31622:04/11/25 17:43:09
さっき起こったことが嘘のように、楽屋はいつも通りだった。大きな炎が出たという痕跡は一切残っていない。突き飛ばされたときにぶつけた灘儀の腰は痛いし、浅越は気を失ったままだが。
「どうなっとんねん。なんやねん。」
灘儀は必死に首をかしげ、自分の手の中にある石を物色する。しかし石は光らないし、炎も出ない。
「確かに火ぃ、出ましたよね?」
「出てたな。」
「でもどこも焼けてない。」
「変ですね。」
3人の話を黙って聞いていた鈴木は、これ以上隠しておいても良くないと思い、思い切って切り出す。
「・・・俺、変な声聞いてもたかも。」
鈴木の言葉に、全員の視線は集中した。

317名無しさん:04/11/25 17:43:38
22さん。続きが楽しみなのですが、E-mail欄にsageと記入していただけませんか?
31822:04/11/25 17:44:07
「王の帰還、ねぇ。」
鈴木の話に、久馬が訝しげな顔で、取っていたメモを読み直す。本公演のネタになりそうな話だが、現実に起こってしまうと物騒で仕方ない。理解できない点も多かった。
「鈴木さんが王様なんすか?」
「知らんがな。」
「でも鈴木さんだけに声は聞こえたんでしょ?」
「そうやけど、今日になって急にやぞ。何やねん、この石。キモいわー。」
「俺に持ってた石も光っとったし、処分した方がええんと違うか?」
「でもなぁ・・・」
突然現れた厄介な石に、4人は苦悩の表情を浮かべる。浅越の豹変振りも、石の力も、謎ばかりだ。
「翡翠は中国では、王の石と呼ばれています。」
4人の会話に、急に浅越が加わり、4人は身構える。しかしなにも起こらないし、鈴木に例の声は聞こえない。
「大丈夫か?」
「はい。記憶は、ありませんけど。」
「記憶が、無い?」
「トイレに行ったときに記憶が途切れて、気付いたら梅田の駅に居ました。そこですぐに又記憶が途切れて、気付けばこの有様です。」
「お前も何か、石持ってるんか?」
「・・・とにかく、石のこと、詳しく調べなきゃダメですね。」
言いながら起き上がると、浅越は立ち上がり、メガネと荷物を取る。
「俺が居ると危なそうなんで、今日は帰ります。石の事、調べておきますね。」
弱々しい笑顔で言うと、浅越は出て行こうとする。
「おい、大丈夫か?」
久馬の問いかけに、浅越は振り向かずに言った。
「すみませんでした。」
その声は本当に消え入りそうで、けれどさっき起こったことを考えると、誰も浅越に近寄ることができなかった。

今日は以上です。
急に途切れてすいませんでした。
31922:04/11/25 17:46:43
あ、sageです。
320名無しさん:04/11/25 17:49:54
名前を記入する欄の右側に E-mail (省略可) :  という欄はありませんか?
そこにsageと入れて頂ければいいのですが…
321名無しさん:04/11/25 18:24:04
638 :名無しさん :04/11/25 17:48:26
最近同板の石スレを見てるんだけど、プランヲタっぽい子が乱入してるんだよね…
sageれない上に文章はまるで厨房。
同じファンとしては何か言ってあげたいんだけど、どうしよう。
322名無しさん:04/11/25 19:03:05
常夏の楽園ベイベ☆
323名無しさん:04/11/25 19:04:50
手前ぇらのド肝抜いてやんよ
324名無しさん:04/11/25 19:34:26
22さん。文章は面白いし、展開が楽しみですが
一応、したらばに練習帳スレがあるので
そちらで意見を仰いで見るといいかもしれません・・・。
325名無しさん:04/11/25 19:48:52
22さん、楽しく拝見させていただいてますが、
トリップをつけた方が、万が一荒らしが出た際に
「本人」と証明しやすくなりますよ。
326名無しさん:04/11/25 21:40:23
まとめスレの書き手さん用のところにトリップのつけ方書いたほうがいいかもしれませんね…
調べれば出ますが、自分も最初ちょっと迷いましたしorz
327名無しさん:04/11/26 02:47:28
感想続き書かせてもらいます

>>◆cLGv3nh2eA
登場人物の関係が複雑に絡んできそうですね。ワクワクします。
何かに気付いた有田、上田、黒になってしまった柴田、そして山崎、アンジャッシュ…。
また「(石を?)身体が拒否してる」とはどういう事なのか気になりますね。
かなり続き楽しみです!

>>◆8Y4t9xw7Nw
身の丈主義のカンニングが石の話全体の中でとても良い存在になってるような気がします。
味わいがありますね…。2人の様子が目に浮かびました。
何気に小林が何考えてるか分からない感じで怖いですね〜。
面白かった!お疲れ様です!次回作も楽しみにしてます。

>>22
お互いの石が呼応するなどアイディアが良いですね。
話も面白いと思います。
続きも気になるので、色々ルールとかありますが、良ければまた投下して下さいね。

皆さん乙です!
32822:04/11/26 16:14:06
みなさまいろいろとありがとうございました。
続きはトリップをつけて投下したいと思います。
えーと、今回からバトルに入りますのでしばらく微妙な表現が出てくるかと思います。
苦手な方はどうか気を付けて下さい。
・・・そんなにグロくはないので大丈夫だとは思いますが。
>>257-261 の続き

それは、夏の始めの激しい雨が降っていた日の事だった。
屋根を叩く雨粒の音を聞きながら、赤岡はぼんやりと床に横たわり、天井を眺めていた。
いや、ぼんやりしていたと言うよりも、彼の意識は朦朧としており
そうせざるを得なかった・・・と言ったところだろうか。

「・・・・・・・・・。」
ぼやける赤岡の視界に、ひょこっと二つの人の顔が入ってくる。
赤岡を覗き込み、その様子を探ろうとしているのは、後輩の芸人達。
相談があると赤岡を事務所から連れだし、ここに誘い込んだ張本人であった。
「えぇと・・・これ、死んで・・・ないよな。」
「当たり前だろ?」
すぐ側の仲間から不安げに問いかけられ、リーダー格とおぼしい男は即座に言い返す。
「それより、まずは石だ・・・っておい、お前もいつまでも木抱えて突っ立ってないで!」
オドオドとした彼とは対照的に落ち着いて指示を出しつつ、リーダー格の男はその流れでもう一人、
ポツンと近くにたたずんでいた仲間に声を掛けた。
彼の向けた視線の先には、彼の言葉の通りに角材を手にしている体格の良い男がいる。
その角材は、数分前に赤岡の後頭部に叩き付けられた物。
赤岡の意識が相談を持ちかけてくる二人に向けられている隙の、一瞬の出来事だった。

「・・・見張りだよ、見張り。」
面倒くさそうに角材を持つ男はリーダー格の男に答える。
「だからそっちはさっさと石奪ってさ、例の奴飲ませといてよ。」
「・・・・・・あぁ。」
彼の態度が尊大なのは、今に始まった事ではない。
リーダー格の男はそれ以上指示を出すのを止め、もう一人の仲間の方へ視線を戻した。
彼は赤岡の衣服のポケットに躊躇いもなく手を伸ばし、持ち物を漁っているようである。
「そっちはどうだ?」
「いや・・・もしかしたら財布とか、変な所に隠してるのかな。ポケットとかにはないみたい。」
もしかしたら家にあったりする可能性もありますね、この人の場合。
そんな会話が頭上で交わされているのを、赤岡はただ聞いている事しかできない。
いっそ意識が飛んでくれれば。追い剥ぎ行為をする後輩の姿など逐次見物しなくても済むというのに。

「・・・しょうがないか。石は後回しにしよう。」
思うように状況が運んでいないのか。渋々とリーダー格の男が決断の言葉を口にすると。
彼はそのまま、己のボトムのポケットから何かを取り出した。
赤岡からはそれを見る事ができなかったけれど、男の手にあるのは黒い石の欠片。
「口、開けさせて。」
「わかった。」
赤岡の傍らにしゃがみ込みながら男が告げると、仲間は赤岡の頭を僅かにもたげて
その口を強引に開けようとする。
抵抗する事もできずに僅かな隙間が生まれた赤岡の口内に、男は手にした欠片をサラサラと流し込んだ。
見た目では硬そうな印象のあるその欠片は赤岡の舌に触れた瞬間にどろりと融ける。
猛烈な苦みと違和感にピクリと赤岡の身体は強張るけれど、欠片だった物は
そのまま喉へ、そしてその奥へと流れていく。
ごくりと赤岡の喉仏が上下したのを確認し、リーダー格の男は傍らの仲間の顔を見た。
大丈夫だよ、上手くいったねとでも言いたげに頷く彼のその仕草に、男はその表情を緩める。
「よし、これで・・・俺達も・・・・・・」
あの人に石を分けて貰える・・・そう彼が呟き掛けた、瞬間。

ドクン。

「・・・・・・・・・っ!」
何かの脈動に湿った空気は震え、三人をそれぞれ激しい悪寒が襲う。
皮膚が一斉に粟立ち、全身の力が失われるような感覚に、彼らは悲鳴を上げる事もできなかった。

黒い力を受けて不本意な形で目覚めた石と、ただ黒いユニット側にいるだけの石を持たぬ人間。
もしもそのままぶつかり合ったならば、その結果は推して知るべしであろうか。





時は流れ、慌ただしかった秋も終わりに近づいて。
埃っぽくもひんやりした空気が廃工場に漂う中、緋色の液体がぽたりぽたりと滴って床に落ちる。

液体の発生源は赤岡の右腕。
錆びた鉄骨に寄りかかりながら喘ぐように呼吸を整える彼の腕に、ザックリと裂傷ができていた。
それは、設楽の振り回す廃材から身を守ろうと腕でガードした時に負った傷。
逆に赤岡が少しでも攻撃の姿勢を見せれば、その時は即座に彼の思考や集中をかき乱すように
設楽の声が頭に響き、何度も次の行動を妨害されてしまっていた。
「次は・・・そろそろ手加減なく、顔面を狙うよ?」
赤岡の寄りかかる鉄骨から幾らか離れた箇所に立ち、血の付着した廃材を無造作に弄びながら、設楽は笑う。

「それは・・・困りますねぇ。」
何とか一度は設楽の間合いから逃げたは良いが、まさか止血の処置を施すための時間を貰えるはずもなく。
近づいてくる設楽を牽制するように睨みながら赤岡は設楽に答えた。
「多少慣れたとはいえ・・・痛いのはやっぱり厭ですから。」
「だったら、君がこっち側にくれば良い。」
ボソリと漏れる赤岡の素直な言葉に苦笑を浮かべ、設楽は告げる。
「・・・お断りしますと言ったはずです。」
すかさず赤岡もそう言い返し、それに、と言葉を続けた。
「あなたの石が何かはわかりませんが・・・能力は大体見させて貰いました。」
あなたが調子に乗っていられるのも、これまでですよ。
赤岡は静かに言いきると、失血からか力の入らない腕で鉄骨から身を引き剥がして両の足で身体を支え、立つ。
赤く濡れた指先で黒珊瑚に触れれば、石も所有者に応じるように淡い輝きを放ちだした。

明らかに劣勢にありながらも、妙に自信ありげな赤岡の態度に設楽の表情は楽しげに歪む。
「ふぅん・・・随分と強いああいあ゙・・・・・・・・・あ゙あ゙っ!?」
しかし、随分と強気じゃないか・・・赤岡を鼻で笑い、そう言おうとしたのだろう、設楽の言葉が。
不意に本人の意図と外れ、だらしなく崩れて意味を成さない物へと変わった。
驚きに思わず目を見開く設楽に、赤岡はそっと告げる。
「舌を金縛りさせて貰いました。これでもうあなたの声は・・・僕を悩ませませんよね。」
金縛りといえば、本来なら全身まるっと動きを封じてこそのモノだろうが、
その場の霊力により威力が左右される黒珊瑚の性質上、普通の街中ではそこまでの発動を望むのは難しく
身体の一部の動きを封じられればそれで御の字といった所であった。
しかし、先日の指を鳴らなくなり石が使えなくなった小沢の例を挙げるまでもなく、
ピンポイントで一部分を縛るだけでも、十分戦況を変える事はできるという話で。

「人を待たせてますし・・・貧血で倒れるのも厭ですからね。手早く・・・終わらせましょうか。」
さすがにくぐもったうなり声にしかならない今の設楽の言葉には、説得力の欠片も感じられない。
赤岡は黒珊瑚の力を維持したまま、上着の内ポケットへと左手を滑り込ませた。
そのまま彼が引っぱり出してきたのは、蜂蜜色の輝きを帯びた大粒の鉱石・・・・・・虫入り琥珀。

「ゔゔ・・・ゔゔっ・・・。」
外気に触れ、輝きを増す琥珀の表面を親指で強く擦れば、石は小さく火花を散らす。
それも単発的な物ではない。連続して起こる火花は瞬く間に繋がっていき、バリッと音を立てながら
不規則な光の軌跡を赤岡の左手の周囲で作り出した。

琥珀はギリシャ語でelectronと言い、かつて静電気の発見に一役買った石であった。
赤岡が告げるそのイメージを維持したまま琥珀の力を開放していけば、それは立派な電撃の石となる。
一秒ごとに眩さを増してゆく虫入り琥珀を握りしめた左手を、赤岡は設楽の方へ突きだした。
琥珀から轟音と共に一筋の蜂蜜色の稲妻が放出され、避ける間もなくそれは設楽が武器にしていた廃材を
彼の手から叩き飛ばす。
「・・・・・・・・・っ!」
己の手の平に痺れるような痛みが広がり、設楽は一瞬だけ顔を顰めた。
石が作り出した雷であるそれが、自然に存在するそれとまるっきり同じかはさすがにわからないけれど。
仮に設楽が金属片を握りしめていたら、痛いなんてレベルではないダメージを負っていた事だろう。
「次・・・行きますよ。」
律儀に宣言する赤岡の左手では、琥珀が再び眩い輝きと火花を帯び始めている。
しかし。


「・・・・・・・・・・・・。」
端からすれば、窮地にいるようにしか見えない設楽の口元が、ゆっくりと笑みを形作った。
(・・・今ので僕も、君の癖を見抜かせて貰いましたよ。)
そう、設楽が口に出して告げる事ができなかったのは、赤岡が設楽の笑みに気付かなかったのは。
果たしてどちらに幸いだったのだろうか。
ともあれ、一旦胴の方へと引いた赤岡の左手が、設楽に向けて琥珀を突き付ける。
「・・・貫けっ!」
所有者の想いに応じて琥珀は一撃目よりも太く、強い威力を思わせる稲妻を吐き出した。
けれど、設楽は驚きも、畏れも、身を守るための動作すらも何一つ行おうとしない。
何故なら、この雷が己に害のない物と彼は気付いていたのだから。

(・・・これは、フェイク。)
設楽が抱いた確信を裏付けるように、蜂蜜色の稲妻は設楽の目前で進路を変えた。
さながら高めのボールから低めのボールへと急降下する名投手のフォークボールの軌道のように、
稲妻は設楽ではなく、彼の側の床を叩き付ける。
その衝撃で、廃工場全体はもちろん周囲の家々にも伝わるだろう程の震動が広がり、砂塵がまき上がった。

(・・・やっぱりか。じゃあ・・・本命は。)
今度は軽く身構え、粉塵の向こうから来るだろう攻撃に、設楽は備える。
すると狙い澄ましたかのように空気が揺れ、何か・・・それは決してエネルギー状の物ではなく、
実体を持った物のように設楽には感じられる・・・が設楽の目の前に飛び込んできた。
「・・・・・・んっ!」
迫ってくる気配に反応し、避けながら手を伸ばせば。そこに伸びてくるのは赤岡の右脚。
(・・・ライダーキックでも気取ったか? 馬鹿馬鹿しい。)
しっかりと脛を取って相手の動きを止めると、設楽は身体を捻り回転させながら、逆に赤岡を投げ倒した。
設楽がもたらした回転に赤岡の膝は付いていけず、締め上げられて関節が悲鳴を上げる。
「っ・・・ぐうぅっ!」
若手芸人らしい大仰なリアクションを滅多に見せない彼が、苦悶のうなり声を漏らすのだから
よほどの激痛が走ったのだろう。
さすがは足殺しのドラゴン・スクリューであろうか。

 『フェイントを混ぜてくるとは・・・よく考えた物だけど。詰めが甘かったね。』
赤岡の右脚をなおも掴んだまま、設楽はソーダライトの力を強目に発動させた。
相手の意識に直接説得を試みる時の要領で、そう赤岡に語りかける。
「・・・・・・・・・?!」
当然のように舌を封じているにも関わらず、明瞭に聞こえる声に赤岡は戸惑いは隠せないようだけれど。
構わず設楽は言葉を続ける。
 『どうやら君は石を使う時、目標を凝視する癖がある。それさえ押さえておけば、何も惑わされないよ。』
少し驚かされもしたが、お遊びはもうお終い。
このまま今度はこちらの番として、本格的に説得に入らせて貰おうか・・・設楽の内心でそんな算段が
組み上がろうとしていた、その時。

「自分の癖ぐらい・・・そんなの・・・とっくにわかってますよ。」
赤岡は腕の傷と今も締め上げられる膝の関節の痛みをこらえながら、設楽にそう告げた。
「まさか・・・設楽さんは今の僕のキックが本命だとでも?」
眉はきつく寄せられ、脂汗もじんわりと滲んでいる、その中で。
赤岡は無理矢理にでも笑おうと、口元を歪ませて不気味な表情を形づくる。

何を負け惜しみを・・・そう言い返そうとした、設楽の目の前で。
赤岡はゆっくりと左腕をもたげ、設楽へと突きだしてみせた。
「この距離なら・・・あなたがどう小細工しようとも、外しようがありません・・・ですよね?」
確かに今の赤岡と設楽との距離はほとんどないと言っていい。
虫入り琥珀を発動させた瞬間に、設楽は稲妻に貫かれている事だろう。
けれど。

 『できるものなら、やってみればいい。いや・・・何をしてくれるんだい? その腕で。』

設楽は余裕綽々と赤岡に告げた。そして、その言葉に赤岡はハッとする。 

彼が設楽に向けて突きだしている左腕の。肘の辺りからずっと虫入り琥珀を握りしめていた筈の
指先までが、跡形もなく消えていた。
今回はここまで。

それと投下してから気付いたのですが、>>334
>赤岡が告げるそのイメージを維持したまま琥珀の力を開放していけば、それは立派な電撃の石となる。←誤

>そのイメージを維持したまま琥珀の力を開放していけば、それは立派な電撃の石となる。 ←正
に変換しておいてください。
アカオカサンナニモツゲテネェヨ orz
338名無しさん:04/11/26 22:02:42
コーラルさん、凄いです!
おざーさん達、間に合ってくれ〜〜。
339名無しさん:04/11/26 22:49:00
赤岡さーん!!吹っ飛んでますよ!
頼むから勝ってほしいです
340名無しさん:04/11/27 02:16:21
あーもうすげーカコイイ
赤岡に勝って欲しいけど設楽さんにも負けて欲しくないね
頭の良い悪役イイ!!
筋肉の 活性化 

薬漬けの日々…

甦る、デビルズドラッグの恐怖
342名無しさん:04/11/29 00:52:17
ほしゅ
343名無しさん:04/11/29 13:10:50
捕手
34422:04/11/29 13:20:22
プラン9編続編、投下です。

「翡翠は西大后が愛してやまない石。だから中国では王の石、もしくは王家の石と呼ばれてるんや。
 他にもネパール産のジェダイドという種類があるけど、鈴木さんのは簡単に加工することが出来た。その柔らかさからネフライトだと考えられる。正真正銘の、王の石。」
「へぇ。じゃあ鈴木さんは王なんですか。」
「あの石にとってはな。」
「すごいですねぇ。」
人気のない喫茶店で、浅越はヤナギブソンと2人きりで話をしていた。浅越の方から、大事な話があると呼び出してきたのだ。
「ところで、なんでみんなでなく俺だけ呼んで話したんですか?」
「そりゃ、なぁ。あんなことがあった後じゃ、顔合わせづらいから。」
「そんなことないですよ。みんな心配してましたもん。やから今から・・・浅越さん?」
一緒にみんなに話しに行こう。ヤナギブソンがそう言おうとした瞬間、浅越の様子が変わった。魂が抜けたように、定まらない宙の一転を見つめている。
「浅越さん!どうしたんですか?浅越さん!」
慌てたヤナギブソンが肩を強く揺すぶると、浅越はものすごい力でその手を振り払う。表情が、変わった。この間、灘儀を突き飛ばした時と、同じ表情に。
「今は王だ。けれど、暫定のな。王なんて下らない。あの石を叩き壊し、全てをこの手で叩き壊してやる!」
「あ、浅越さん?」
「黒の力の前に、己の無力さを思い知るがいい。」
浅越は邪に笑みを浮かべ、喫茶店を出て行く。
異常だ。このまま行かせてはいけない。そう思い、勘定を済ませて急いで後を追いかけたが、外に出たヤナギブソンの視界に、浅越の姿は確認できなかった。
34522:04/11/29 13:22:56
一転→一点の間違いです。すみません
34622:04/11/29 13:42:08
ヤナギブソンとの電話を切った鈴木は、険しい表情を浮かべる。
「ギブソン、何やて?」
「久さんも灘儀さんも、早く帰った方がいいかもしれないですよ。」
「どういうことや?」
「俺の言った通り、この石に他の石が呼応するならここにいたら危険です。多分今から、ゴエが来ますから。」
それを聞いて、久馬と灘儀の表情も険しくなる。この間のことが、鮮明に記憶に残っている。
「どうしてゴエがああなってるのかは分かりませんけど、危険と分かっていて巻き込めませんからね。」
「じゃあ俺は残ろうっと。」
「久さん!」
「だって俺のゴールドストーンにどんな力があるか分からんけど、鈴木を助けられるかもしれんやん。」
「あきません!危ないって分かってるのに残るなんて。」
「俺も残るわ。」
「灘儀さん!」
「俺の力でお前を助けられるなら、残るのが当たり前や。」
「けど・・・・」
「それに、ゴエを元に戻す方法も考えなやしな。」
「だめです。危険すぎます。」
「5人でプラン9やのに?」
「5人そろって危ない橋を渡る?やめてください。そういうのは、俺一人でもできます。」
「・・・・分かった。じゃあ俺も灘儀さんもここに残る。」
「久さんっ!」
「これはリーダーの決定。異議は?」
「卑怯です!俺は2人には危ない目に遭うてほしくないから・・・」
「それは俺と久馬も同じや。」
「・・・・・・・。」
2人の言い分に、鈴木はそれ以上言い返せなかった。確実に危険は近づいてくるのに。
347名無しさん:04/11/29 21:51:13
乙です!
いよいよ盛り上がってきましたね〜プラン編!
浅越さんはどうなってしまうのでしょう・・・
34822:04/11/30 11:39:52
プラン9編です。
よろしくお願いします。

双方譲らないまま、楽屋は長い沈黙。浅越が来るという焦りに、鈴木はドアばかり見てしまう。
こんな石さえ拾わなければ。やはり捨ててしまおう。そう思い、チョーカーを外そうとした時、ゆっくりとドアが開く。
現れたのはもちろん、浅越。
「来たな。」
灘儀がいち早く、浅越の前に立つ。
「ちょっ、灘儀さん!」
「おいゴエよ。鈴木の石を壊すんやて?その目的は何や?」
「邪魔なものは排除する。それ以外に何か理由が必要ですか?」
「なんで邪魔なんや?お前も何か、石持っとるんか?」
「一つだけ言えることは、あなたが目障りだということです!」
浅越は声を荒げ、片手で灘儀の胸倉を掴んだ。ゆっくりと、灘儀の足が床から離れる。それに抗おうと灘儀は必死にもがくが、浅越の異様なまでの強い力がそれを許さない。
「やめろ!」
久馬が止めに入ろうとするが、空いたもう片方の手で、浅越は簡単に振り払う。
(おい、石!なんとかせぇ!俺の声に応えろ!)
(御意)
鈴木の声に石が応え、ネフライトと、灘儀のサンストーンが光を放った。
34922:04/11/30 12:02:22
ジーパンのポケットに入れていたライターから大きな炎が出る。一瞬怯んだ浅越から、何とか灘儀は開放される。
浅越は真正面から食らった炎に包まれている。しかし平然と立ち、声も上げない。
「おい水!このままやったらゴエが・・・」
「ほぅ、敵の心配をするなんて余裕ですね。」
灘儀が鈴木に叫ぶが、浅越を包んでいた炎は見る見るうちに消え、浅越自身も無傷。携帯のストラップが光を放っている。
「やっぱりお前も何かの石、持ってるんやな。」
「持っていますよ。一瞬にして俺を癒してくれる、便利な石です。」
言いながら、浅越は鈴木に歩み寄る。間に入ろうとした灘儀を軽く突き飛ばして。灘儀は突き飛ばされた勢いで激しく机に激突し、額から血を流して倒れる。
すると、久馬の持っていた石が光り始めた。その光が灘儀に向けられようとした時、浅越の言葉がそれを遮る。
「いいんですか?ゴールドストーンの癒しの力は、一度使うと次に使うまでに少し時間がかかります。今が本当に使いどころですか?」
言われて久馬が戸惑うと、石から光は消えた。
「不便な石に当たりましたね。俺の石なら、何度でも自由に癒すことができたのに。」
浅越は勝ち誇ったように笑って、さらに鈴木に迫る。
「大丈夫や。」
灘儀はゆっくりと立ち上がり、2人に笑って見せる。
(おい、石!何とかせぇよ。攻撃とかないんか!)
(王は自ら動きません。我らにできるのは、兵を呼び集めることのみです。)
(じゃあ早よ呼び集めろや!)
(この近くに、石を持つ人間はあの2人しかおりません。)
灘儀の石はまだ光っているが、浅越の持っている石がある限り、意味はなさそうだ。
浅越の手が鈴木の石に伸びる。鈴木は石を握りこんだが、浅越はその手を開こうとする。力では、勝てない。
35022:04/11/30 12:25:32
灘儀と久馬が全力で止めに入り、浅越がそれを振り払う。そうやってバタバタともみ合っていると、再び楽屋のドアが開いた。
「浅越さん!」
息を切らせながら、駆けつけたのはヤナギブソン。入ってくるなり鈴木作のチョーカーが光り始め、鈴木のチョーカーを奪おうとしていた手に触れると、浅越の手がはじかれた。
「ちっ、赤花菊花石か。厄介な石を持っている人間が現れたものだ。」
一旦距離を置き、ヤナギブソンを睨み付ける浅越。それにかまわず、ギブソンは鈴木を案じる。
「大丈夫でした?」
「ああ、何とかな。」
「浅越さん、もうやめましょう!元の浅越さんに戻ってください!」
「うるさい!」
「何があったんかは知りませんけど、こんなんイヤですわ!」
「・・・・・今日はここまでにしておきましょう。でも、次でおしまいです。」
ヤナギブソンの石の存在がよほど面倒だったのか、浅越は身なりを整え、4人に背を向ける。
「浅越さん!」
「この世で絶対なのは、黒の力のみだ。すべての石を破壊し・・・・」
「?ゴエ?」
そこまで言いかけて、浅越は言葉につまり、うずくまる。
「黒の力は・・・お前たちには・・・絶対にっ・・・敗れない・・・くそっ!」
思い切り自分の頭を叩き、浅越は意識を保とうとしている。けれど何かがそれを邪魔しているらしい。
「浅越さん!聞こえてるんですか!戻ってきてください!浅越さん!」
すかさず駆け寄り、ヤナギブソンが浅越の体を揺さぶる。
「ギブ、ソン?みんな・・・・うるさい!」
普段の浅越の人格を振り払うように大声を出し、浅越は急に立ち上がり、楽屋を飛び出した。ヤナギブソンがそれを追う。
「なんやねん。2重人格になっとるんか?」
残された3人も、慌てて2人の後を追った。とにかく、浅越を、元に戻さなければならない。
原因も方法も分からない。それでも、浅越はひどく苦しんでいるように見えたから。


351名無しさん:04/11/30 15:47:32
乙です。
何気に鈴木さんの石が面白いと思いました(笑)
喋りがなんかいいです。
352名無しさん:04/11/30 20:03:44
乙です。面白かったです!
出来れば最後の行にでも「以上です」とか入れて欲しいです。
353 ◆QiI3kW9CIA :04/11/30 20:50:27

決して彼自身が欲しいと思ったものではない手中の石は、
ぼんやりと周囲を薄い光で覆っていた。彼はそれをずっと眺めている。
その光が映す映像に、彼はただ見入っている。
映し出されているのは、乱暴に人を殴り続ける男。
何人も、何人もの倒れた男達は皆一様に動けず、
それを見て逃げ出す奴にさえ、追い討ちをかける。
顔を照らせば目が血走っていた。
本当に異常なのだなぁと彼は関心していた。
この光景にただ見入っていた、
彼もまた、異常だった。


354 ◆QiI3kW9CIA :04/11/30 20:51:06
やがて誰も動かなくなった。
動かない男達を尻目に、庄司は逃げるように走り去った。
沸き立つ闘志は完全に冷め切り、残ったのは罪悪感と優越感だけ。
その優越感は罪悪感以上で、自然に笑い声がでる。
これが楽しいものだと考えてしまう事が異常だというのはわかっているのに。

炭酸飲料を片手に帰路を歩く。
辺りはもう暗くなっていた。それがどれだけ長い時間殴り合いをしていたかを示す。
血はついていないが汗臭くなった服をどうしようか、というような事を考えていると、
突然、人にぶつかった。
「おい」
そう呼びかけられ、うざったそうに顔をあげると
「庄司」
「脇田さん?」
ペナルティの脇田が立っていた。真剣な顔をして。
「ちょっと話がある」
そう言うと、付いて来いと庄司を引っ張った。
「俺の家でですか?」

355 ◆QiI3kW9CIA :04/11/30 20:52:33

ドアの鍵を開けて、中に入る。中の空気が冷たい。
脇田は足早に靴を脱ぎ、勝手知ったる様子でリビングに入っていった。
何の話だろう。庄司は廊下を歩きながら考えた。
しかし大体内容はわかっていた。多分それしかなかった。
既に対話の準備は出来ているらしい脇田の向かい側に、庄司は座った。
「何の話ですか?」
真面目そうな顔をして尋ねる。
「お前、最近何してるんだ?」

予想どうりだ。

「何って、別に何も・・・」
「お前、本当に何もしてないか?」
脇田は疑り深く聞く。庄司は本当に何もないですと答える。
「関がひどい怪我してるって金成から聞いた。
 殴られた痕が腹に集中してて、痛くて動けないって。
 誰にやられたかって聞いたら、庄司にやられた。って。」
「本当に俺は何もしてないです。
 関が勘違いしてるんじゃないですか?俺と、誰かを。」
庄司がきっぱりと言い返した。脇田はそれを聞いて、下を向く。
「そうか。じゃあ、
やっぱりお前からそれを預からなくちゃならない。」
脇田のペンダントが、赤く燃えるように輝いた。
「それはお前にとって危険な物だ。俺が持っておくから、渡してくれ。」
少しずつ、脇田が庄司の方に近づく。
手中の石がゆっくりと熱くなるのを、庄司は感じていた。
356 ◆QiI3kW9CIA :04/11/30 21:06:36
前スレで品庄話を書いていた者です。
長く続くかもしれませんが、よろしくお願いします。

皆さん新作乙です!
いつも楽しく読ませてもらっています。
357名無しさん:04/11/30 21:20:25
おおっ、ワッキー登場。

石を預かろうとするワッキ−に
庄司の石がどう反応するかが楽しみです。
続き楽しみにしています。
358名無しさん:04/12/01 19:22:54
>>356
乙です!緊張感があってドキドキします。
冒頭はワッキーですかね。先がまだ読めないので楽しみにしてます。
359名無しさん:04/12/02 01:20:14
一旦age
360名無しさん:04/12/02 16:33:09
乙です!
ワッキーと(ちょこっとだけど)ハロバイ出ましたね!!
次はバトルですね・・・!楽しみにしてます。
したらば掲示板の方で、ちょこっと希望が出ていた
青木さやかさん絡みの話を思いついたので投下します。




「一体どうしたって言うのよ!!」
「どうもしてないわ!…只アンタが前々からウザいと思っていただけや!!」
青木さやかは自分の身に起こっていることを必死に理解しようとしていた。

ある地方ライブ終了後、
打ち上げにでも行こうかと芸人仲間で友達でもある友近と一緒に会場を後にした。
こっちの方が近道だったはずだからと人気の無い通りを進む友近の後を、
青木は何の疑いも無く付いて歩いていた。
道の途中で青木の携帯が鳴り、会場で別れた他の女芸人からのメールに
返信したところまでは普通の日常の光景だった。

携帯から顔を上げた青木の目の前に、光の蝶の群れが襲い掛かってくるまでは…

「いい加減にして…こんなことしてただで済むと思ってんの!?」
青木は次々に襲いかかってくる光の蝶の群れを避けながら、
友人である筈の友近に呼びかけた。
「ただで済まなかったらお幾らくらいならよろしいんでしょうなぁ?」
青木を馬鹿にしたように笑いながら、友近は攻撃の手を緩めようとはしない。
(あの様子は明らかにおかしい。きっと石の力にのまれたのね…)
同じような状態になった芸人に襲われたことの合った青木は
直感的にそのことを思い出していた。
敵意剥き出しに襲い掛かって来る友近をどうにか元に戻そうと、
自分の石マラカイトへ精神を集中させる。
(何があったか知らないけど、アンタと芸や人気でならともかく…
こんな石の力で戦わなきゃいけないなんてね)
青木は友近をキッと睨み付け、ひと呼吸置くと大声で叫んだ。
「何処見てんのよぉっ!!」
青木の叫び声とともにエメラルドグリーンの淡い光が放たれ、
その場から彼女の姿は消え去った。

「っ…面白い能力やないか。自意識過剰な誰かさんにはお似合いやな!!」
視界から突然姿を消した青木に友近は驚いたような顔をしたが、
その表情はすぐに不敵な笑みへと変わっていた。
(いちいち癪に障ること言うわね。元に戻ったら覚悟してなさいよ、友近)
突然の友人の変わり様に青木自身相当動揺していたが、
友近のその一言が青木に元の調子を取り戻させた。

姿の見えない相手を探し、辺りをキョロキョロと窺っている友近の背後に回るのは、
姿を消している青木にとっては容易い事だった。
「…隠れても無駄やで?」
友近は誰も居ない空間を睨みつけ、隙の無い様に自分の周りに光の蝶を大量に出現させる。
(私の姿は見えていないはず…今のうちにあの石を取り上げれば…)
友近の左腕手首に光る細身のチェーンブレスレット。
そこにあしらわれている小さめのレッドベリルが事の元凶であろうと感じた青木は、
ひらひらと舞う蝶を避けながらそれに狙いを定める。

友近の周りを飛び交っていた蝶がいつの間にか辺り一面に広がり、しきりに羽根をバタつかせている。
(蝶が離れた…今なら行けるわね)
青木は友近の背後から素早く駆け寄り、ブレスレットに手を伸ばそうとした。
「…そろそろ、限界が来てもおかしくないんやけどなぁ」
友近がのんびりとした口調でそう呟く。
(限界?一体何の…っ!!?)
もう少しで手が届くと思ったとき、青木は身体が鉛のように重くなったのを感じた。
ひらひらと舞う光の蝶が撒き散らしていたのは毒を含んだリ燐粉だった。
(これ、は…蝶の毒?)
全身から力が抜け、その場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「な?隠れても無駄って言ったやろ?」

意識を失った為に石の能力が解けて姿を現した青木を見て、友近は冷たく微笑んだ。
「さて、そろそろ消えてもらうとしましょうか。ライバルは少ないに限…」

「私だけでしょうか…」

自分の独り言を遮る聞き慣れた声に、
友近は青木の周りを飛び交っていた光の蝶を自分の元へと舞い戻らせた。

声のした方を見遣ると、そこにはつい先刻まで同じライブに出演していただいたひかるが立っていた。
「アンタは…」
どうしてここに、友近がそう言いかけた言葉を遮るようにだいたは、
「白とか黒とか、同じ芸人なのに真剣に戦わなきゃいけないなんて馬鹿げていると思うのは…」
友近の足元に倒れている青木をじっと見つめながら、御馴染みの台詞を淡々と呟いた。

「…何か用?邪魔しないで欲しいんやけど。それともアンタもやられたいんか?」
光の蝶を嗾けようと、ブレスレットを嵌めた手をだいたに向ける。
「私だけ…青木さんの能力でも、友近さんには十分対抗できたと、思う」
友近の威嚇を全く気にしない様子で、だいたは続けた。
「何言ってるん?出来んかったから此処にこうして転がってるんやないか」
友近はフンと鼻で笑い、足元に倒れる青木をあざけ笑うように見下ろした。
「私だけ…青木さんは、友近さんを助けたいと思っていたと、思う」
「っ…」それを聞いて、地面に倒れ付した青木を見ていた友近の表情に迷いが出た。
だいたはそれを見逃さなかった。

「…気分が乗ってきたので、歌を歌いたいと思います」
だいたはそっと目を瞑り、小指に嵌めたシンプルなデザインリングにはめ込んである
ブルートパーズに手を添えた。
「嘘や…青木だって内心私のこと潰したいと思ってるって…アイツが」
友近は頭を両手で押さえ、ボソボソと呟いている。
「どうでも良い歌。聞いてください…」

「そんな、私はただ芸人として青木に負けたくなかっただけなんに…」
友近は両手で肩を押さえ、倒れた青木を見てガクガクと震えだす。
「ど〜でもいいですよ…」
「何よ、どうでもいいわけないやない!!アンタだって、ホントは仕事が入った方が嬉しいんやろ!!」
逆上した友近のその一言に、だいたは瞑っていた目をそっと開く。
友近は恐ろしい目付きでだいたを睨みつけて、光の蝶を一斉に放った。
「女芸人同士の、潰し合い…」
だいたは鋭い目つきで友近を見据え、一歩前へと踏み出した。
「…っ、何で、何で当たらんの!!?」
友近が次々に嗾ける光の蝶は、だいたを避けるように飛んでいく。

だいたは歩みを止めずに一歩一歩確実に近付いてくる。
その視線は真っ直ぐ友近を見ていた。
芸人の世界でも、女芸人という更に厳しい世界の中で、いつ人気や仕事を奪われるかと、
同業者に怯えずには居られない辛さはだいた自身も良く分かっていた。
そんな心の弱みに付け込まれてしまったのであろう友近を、
哀れむような目でだいたは見つめていた。
「…どーでもいいですよ」
(私は、あの黒いユニットの支配からは開放してあげることは出来ないけど…
これは貴女自身の問題でもある…)
指に嵌めたリングの、ブルートパーズの光がいっそう強くなる。
(白とか、黒とか言うけど…結局は全て自分の意志次第。
迷いを払う手助けだけはしてあげる…)

「石を巡る…争い」
だいたがその言葉を言い終わった瞬間、辺りを紺碧の輝きが包み込んだ。
「何っ、きゃぁっ!!」
友近の短い悲鳴と共に、あたり一面に広がっていた光の蝶はかき消された。

「…黒も白も関係ないんですけどね」光が引いた後、
その場に呆然と立ち尽くしている友近と、
地面から身体を起こして頭を振っている青木を見ながらだいたはポツリと呟いた。


「青木さん?大丈夫ですか?」
青木の方に歩み寄り、肩を軽く叩いてだいたは訊ねた。
「あれ?私なんでこんな床に座って…」
「もう、いやですねぇ。今自分で転んじゃったんじゃないですか」
苦笑いを浮かべながら、だいたは手を差し伸べる。

「友近さんも、ボーっとしちゃって…どうしたんです?」
手を貸して青木を立たせながら、友近の方へと向き直る。
友近という名を聞いて、青木の手が一瞬強張ったことにだいたは気づいた。
「え?あ、その…いま私何してはった?」
目を瞬かせる友近を見て、だいたは能力の成功を確信する。
「さあ、仕事終わったんで気が抜けちゃったんじゃないですか?」
不思議そうな顔をする友近に、だいたはにこやかな表情で答えた。
「早く打ち上げ行きましょうよ。皆さん待ってますよ?」
「ねぇ、ホントに何もなかったの?」
「最近物忘れ激しくなってるんかな…」
未だ納得のいかなそうな二人を急かし、だいたは歩き始めた。
「仕事で疲れてるんかなぁ…」
「きっとそうよ、早く行きましょ。遅れると皆煩いから」
青木はそんな友近の様子を見て、安心したように小さく溜息を吐くとだいたの後に続いた。

「助けてくれて…ありがとね」
青木が小声で礼を言うと、だいたは振り返ることなく素っ気無く答えた。
「下らない争いの所為で、友情を壊されるのが嫌だっただけですよ…
私は私のやり方で、私の正しいと思ったことをしただけですから」

「ちょっとぉ!二人で何こそこそ話してるん?」
後から追いついてきた友近の慌てた様子に、二人は思わず噴出した。
「あ、また私の悪口でも行ってたんやな…もーええ加減にしてほしいわぁ」

青木も友近も、相方も連れずたった一人でお笑いの世界で戦っているライバル。
女ピン芸人として商売敵ではあるけど、
それ以前に女友達同士としてこうして笑い合えている時間が一番心地良い。
だいた本人にしてみれば、下らない石の力を巡る争いなんて…

二人とのやり取りに、楽しそうに笑いながらだいたは呟いた。

「どーでもいいですよ」
青木 さやか
石…マラカイト 「危険を察知し、不思議な力で身を守る」濃いめのエメラルドグリーン

能力…「どこみてんのよ!!」と相手を睨みながら叫ぶことで、自分の姿を消すことが出来る。
    自分の石によって姿を見えなくするだけだったり、物理的にも存在を消したりと調節可能。
     ちょっとした物理攻撃ならば衝撃や裂傷から身を守ってくれる。

条件…言葉を発しなければ能力は発動しない。
     姿を消す度合いにより、パワーの消費量が変わり眩暈がしたりする。
    

 

だいた ひかる
石…ブルートパーズ 「冷静さや判断力が増す。直感や洞察力、分析能力の象徴」

能力…「どうでもいいですよ」「私だけでしょうか」等ネタ中の台詞で人の思考や現象を変える。
    攻撃的な能力ではない為、能力発動時は全身を守るように青い光のヴェールが発生。

条件…言葉を発しなければ能力は発動しない。
     上手い具合に否定したいことや考えさせたいことをネタの台詞に当てはめる必要がある。
     大掛かりな記憶操作の場合、一連のネタの台詞を言いきらなけらばならない。
    
     ピン芸人は比較的強めの能力で… 
368名無しさん:04/12/02 20:48:24
リアタイキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
女芸人の友情といいライバル関係が(・∀・)イイ!!
何かグダグダになってしまいました…orz

とりあえず青木さんの設定を見て書きたくなってしまったので、
友近さんの関西系の喋りとか滅茶苦茶ですが見逃してください。
此処での友近さんはまあ、黒いユニットに自分から属してたのかな〜…くらいの設定で書いてみました。
まあ、結局は弱みに付け込まれてただけとなっていますが。
設定が合わないようでしたら短編のとして扱っていただいて構いません。

元のオパール編もぼちぼち書き進めていますが、
また浮気して何か投下するかもしれません…懲りないやつでスミマセン。
リアタイ感想キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
有難う御座います。本当に有り難いお言葉です(つДと)++
感想頂けるだけでもう…いつもPCの前で小躍りして喜んでますから!

切腹!!(×
371名無しさん:04/12/02 20:57:16
いいなー、すごくだいたさんらしい石の使い方だなー。
372名無しさん:04/12/02 22:05:13
言葉遣いが巧み。グッジョブ!!>お試し期間中さん
>>330-336 の続き

「・・・・・・・・・っ!」
今から三ヶ月ほど前の梅雨には良く耳にしていた轟音と、空気どころか工場全体を振るわせるような、震
動。
金縛りのせいか上手く踏ん張ることのできない足ながら、小沢は何とか堪えて目の前をジッと見据える。
音も震えも発生源は小沢の前方、工場の奥。つい先ほど設楽と赤岡が消えた箇所であった。
「何が起こってるんだ・・・。」
鉄骨や闇に遮られ、肉眼では覗き見る事のできない場所で。彼らは何を話し、何をしているというのだろ
う。
考えれば考えるほど厭な予感ばかりが小沢の胸にわいてきて、アパタイトを握る手には自然と力がこもっ
ていく。
「・・・・・・・・・。」
実はこっそり金縛りが解けていないかと、何度か足を踏み出そうとしたりもしたけれど。
その度に、小沢の足は彼の思う通りには動こうとしない。
やはりここは向こうの話が終わるのを、もしくは井戸田達が来るのをおとなしく待つしかないのだろうか。

何度目になるか、もうわからなくなってしまっているが、深く息を吐いて。
小沢はふと視線を周囲へと巡らせる。
随分と前にここの工場としての機能は失われてしまったのだろう。
建物を構築する鉄骨の塗料は剥げ、すっかり錆びていた。
捨て置かれた廃材や、どこからか吹き込んできたのだろう落ち葉や古新聞紙が何とももの悲しい。
「・・・これ・・・は?」
しかし、その中で。
散らかったスナック菓子の包装紙に、ジュースの缶やペットボトルといった物の色彩が小沢の目に留まる。
煙草の吸い殻が散見される中に幾つか転がっているジュースの缶は、どれも妙な形にへしゃげているよう
だった。
廃材で殴りつけたり、エアガンで撃ったのとも異なる、例えばそれは熱で溶かされたような・・・。
「ちょっと待って・・・これ・・・もしかして・・・?」
そう気付くなり、小沢は今度は意識して周囲を見回してみた。
明かりがないためにしっかりと見る事はできないけれど、錆びた鉄骨の一部がこれもまた熱で
溶かされたように歪んでいたり、埃や砂に覆われた床に焦げたような跡がうっすらと残されている。
「石の力・・・? でも、これは戦いの痕跡じゃない。」
むしろ、誰かがここで石を使う練習をしたかのような・・・・・・
そこまで思考が紡がれた所で、ハッと小沢は工場の奥を見やる。

「赤岡くん、まさか・・・君は・・・・・・。」






設楽に掴まれていた右脚を放されても、しばらくの間赤岡は身動き一つ取る事ができなかった。

「・・・・・・・・・っ!」
左の指先までの感覚は、あった。
けれど、視線をやれば左の肘の付近から彼の腕は失われていて。
ただ目を見開いたまま、これは何なのか、設楽の石の能力なのか、赤岡には何も判断できずにいる。

 『本当に惜しかったね。あと一息の所だったのに。』
まぁ、君らしいと言えば君らしいけど。
そんな設楽の声が脳に直接響き、彼の気配のする方へと赤岡が向けば、
いつの間にか赤岡の背後に回っていた設楽が床に転がる虫入り琥珀を拾い上げようとしていた。

「・・・やめ・・・ろぉっ」
あの石を奪われる訳には、と赤岡も何とか設楽に飛びつこうとするけれど、
身体中に負ったダメージは正直で、彼の動きを阻害する。
結局無様に床に這うしかない赤岡の様子に、設楽は僅かに失笑を浮かべて見せ、
 『君は・・・この石がどんな石か、もちろん知っているんだよね?』
大粒の虫入り琥珀を手の平に収めると、設楽はそう赤岡に問いかけた。

普通に肉声で呼び掛けるよりも、意識に語りかける方が彼の石の能力である説得の威力も上がる。
その点では、実は赤岡は自ら己の首を締めた形になるのだが・・・ともかく、赤岡はその問いに頷いて返した。
この虫入り琥珀は特定の所有者を持たず、誰が用いても強力なエネルギーを発する反面、
人々から石の使い手に関する記憶を奪い去る、諸刃の刃とも言うべき石。
その説明は赤岡も島田と共にマネージャーから聞いたし、琥珀を持つようになっても何度か
それとおぼしい現象に出くわしている。
改めて設楽に問われるほどの物ではない。けれど。

 『これは僕の勝手な予想だけど。君は必要以上にこの石を多用していたんじゃないかな。』
例えば、上手く使いこなせるように特訓なんかしてみちゃったり、ね?
付け加えつつ告げる設楽の言葉に、赤岡は何かを言い返す代わりに唇の端をギュッと噛みしめた。
相方である島田の白珊瑚に比べれば使える石ではあろうけれど、戦う事を前提とすれば
赤岡の黒珊瑚の力は不安定な上に微力で、身を守るにはまだまだ物足りなく思えてならない。
それ故に、赤岡は大して力もない石を持った芸人相手であっても容赦なく琥珀を使ってきたし、
設楽が言った通りに、島田に内緒で琥珀を使いこなせるよう試みてみたりもしていた。
小沢が目にしていた歪んだ鉄骨やジュース缶などはその時の名残である訳で。

 『どうやら、図星か。』
ふふ、とソーダライトの影響なのか、芝居がかった様子で笑う設楽の仕草が何とも小憎たらしい。
 『まぁ、努力するのも悪い事ではないんだろうけど・・・ひとつ君に判断ミスがあるとすれば
  この石を使いこなすには、君達の知名度は余りにも低すぎた。』
しかし苦痛をこらえながら設楽を睨み付けても、彼が口を用いずに語りかけてくる以上、
赤岡にはどこを金縛りにすればこの声から逃れることが出来るのか、まったく見当が付かない。
もっとも、新たに黒珊瑚の力を引き出すために精神を集中させる余裕など赤岡にはなかった。

「・・・・・・・・・っ!」
設楽の手に収まっている虫入り琥珀が不意にチカッと瞬いたかと思うと、蜂蜜色の淡い光の固まりが
赤岡へと襲いかかってくる。
避ける間もなく真正面からエネルギーを受けた赤岡は、弾かれたように3mほど後方へと跳ね飛んだ。
もしも目を凝らす余裕があれば、設楽の手から放たれた光は虎を象っているように見えたかも知れない。
「くぅっ・・・・・・」
背中から床に叩き付けられ、バウンドする赤岡の口から呻き声が漏れる。

 『誰からも忘れ去られた人間は・・・存在しないも同じなんだよ。』
設楽との距離が結果的に遠ざかったにもかかわらず、相変わらず設楽の言葉は明瞭に赤岡の脳裏に響いた。
確証はないが、赤岡の腕が突然消えたのは彼の記憶を持つ人間が残り少なくなってきている事の警告だろう。
それでもこのまま赤岡が琥珀を使い続けていけば、腕どころでなく全身までもが
いつかその記憶と共に消失しまうに違いない。
そう考えればこの虫入り琥珀とは恐ろしい石であるが、安易に力だけを得ようとする代償には
このぐらいでちょうど良いのかも知れないが。

 『このまま琥珀に喰われたくなかったら・・・力が欲しいなら、こっち側にくると良い。』
動揺を与えるのはもう十分だろう。こうなれば後は赤岡が気を失う前に堕とすのみ。
一歩二歩と赤岡の方へ歩み寄りながら、設楽はソーダライトの力を更に強め、呼び掛けた。
 『結構僕は黒の中では口の利く方でね・・・何なら頼んで深夜番組のレギュラーをまわしてあげよう。
  もしライブに重点を置きたいなら、定期的に何か出来るよう便宜を図ってあげても良い。』
「・・・・・・・・・・・・。」
 『君が思っている以上にこっち側の仲間は多いんだよ。さまぁ〜ずさん達も協力してくれてるし、ね。
  だから君も・・・正しい選択をして欲しい。結構僕も気に掛けてるんだよ、君達の事は。』
「・・・・・・・・・・・・。」
 『別に気に病む事はない。どんな手を使っても、のし上がって笑った者の勝ち・・・それがこの世界だろ。
  君は・・・君達はこんな所でつまらない意地を張って消えるべきじゃない。そう・・・』
「・・・・・・・・・・・・。」
終いには赤岡の傍らに立ち止まるとしゃがみ込み、赤岡の肩を掴んで上体を起こさせる。
間近で見る赤岡の顔は、いつものポーカーフェイスが嘘のように同様と不安の色に満ちていた。

 『             ?』

とどめにそっと耳元で囁いてやれば、赤岡の目に滲んでいた敵意は瞬く間に薄れてゆき、
虚ろな瞳がただ設楽を捉えるばかりとなる。
・・・堕ちた、か。
この瞬間が、強情な人間が説得の言葉によって見る見るうちに懐柔され、従うようになる
その征服感が設楽にとっては楽しみであり、快感でもあった。
・・・たまにはシナリオに頼らないのも悪くない。
そういう石の能力とはいえ、毎回苦心してシナリオを制作してくれる小林には悪いかもしれないが、
ふとそんな事を思ったりするのもご愛敬と言ったところだろうか。

しかしこうなれば、赤岡に舌へ施した金縛りを解かせるのは、もう難しい事ではなかった。
ただ黒の欠片を取り出して手に握らせると、こちらには僅かに赤岡は拒絶の表情を滲ませる。
・・・確か、報告によればこの男は一度黒に陥落してからも立ち直った経緯があったはず。
その時の記憶が脳裏を過ぎったのかも知れないと判断し、設楽は新たに欠片を己の手に乗せると
赤岡に見せつけるようにそれを一気に口に流し込んだ。
どろりとした欠片だった物が喉を通りすぎると、自然と奥底から何か得体の知れない物が
不快感と共に沸き上がってくるような感覚がするけれど。
「・・・大丈夫、だっただろう?」
そこら辺の物は胸に押し込み、ニコリと微笑むと設楽は赤岡に告げる。
「君の石は闇の中にあってこそ本領を発揮するんだ。さぁ、勇気を出して。」
優しく掛けられる言葉に赤岡は一度設楽を見やり、それからゆっくりと手を口元へと持っていった。





「・・・・・・空気が、変わった?」
先ほどまでの騒音はどこへやら、すっかりと静寂を取り戻した・・・しかし、石の気配は
まだ微かに感じており、二人はまだ工場内にいるのだろう事は伺える・・・中。
小沢は奥の方をジッと見やったまま、不安げに小さく呟いていた。
「設楽さんも赤岡くんも、一体何を・・・。」
もしも足が自由になるのなら、急いで駆けつけるのに。
このままここで小沢が足止めを喰っている間にどちらか・・・いや、両方に危害が及ぶような事があれば。
それを施したのは赤岡であるが、小沢としては悔やんでも悔やみきれない結末となるだろう。


けれど。
「おーいっ!」
「小沢さーんっ!」
ようやく、なのか早くも、なのかはわからないけれど。聞き慣れた声が、背後から響いてきて。
「・・・・・・みんなっ!。」
腰から上を必至に捻って振り向いた、小沢の視界には駆け寄ってくる三つの人影が映っていた。
苦しい姿勢ながらも自然と小沢の顔は綻んでくる。

「一体・・・何があったんスか?」
汗を滲ませ、呼吸も荒いままに磯山が訊ねてきた。
「設楽さんと赤岡くんがこの奥にいて・・・ちょっと不味い雰囲気なんだ。」
「・・・・・・・・・!」
手早く説明しようと一旦工場の奥を目で示し、改めて三人の方を向いた小沢の表情が、変わる。
そのまま三人の内の一人をじぃっと見つめ、小沢は問うた。


「・・・磯、野村くん。いつから潤は身長183cmのぜんじろう似になっちゃったの?」
とりあえず今回はここまで。

設楽さんの空白の殺し文句は、各自好きな言葉をあてはめて下さい。
381176:04/12/03 07:42:15
まさかお試し期間中さんの青木さんが読めるなんて(つДと)三人とも格好良いです!
382オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/12/03 16:09:16
皆さん方乙です。ちょっとばかり続き投下するとです。

>>295続き

エレベーターが9階に着いた所で礼二はスタッフに話をつけると言って、井戸田と一旦別れた。

【中川家 剛様 礼二様】の紙が貼られた控室に入った井戸田は、2人掛けのソファを見つけると、
そこに小沢をそっと寝かせ、自分もパイプ椅子を持ってきて側に座った。
「……はぁ〜〜〜っ…」
慣れない姿勢を強いられた為に、能力を使った時とは異なる疲れがどっと押し寄せる。
「俺も眠りてぇよ!全く…」
誰へ訴える訳でもなく、半ば自棄ぎみに叫んでみるが、それに応える者は誰も居ない。
「…何か言えよ…」
4階からここまで担がれ、隣で大声を上げても眉一つ動かさない小沢のこの状態が、
ただのパワー消費から来るるものではない事には薄々気付いていた。
何か怪しいものはなかったか、あの楽屋で起きた事を一つ一つ思い返す。
混乱と動揺に埋もれた記憶を掘り起こしながら、チラリと横目で小沢の様子を見た瞬間、
不意に剛の言葉が甦った。
「……同じ目に、遭う…
 俺達が狙い…
……何で分かんだよ。」
当然と言えば当然の疑問だが、
それが井戸田の中で「疑惑」へと変わるまでに、そう時間はかからなかった。
383オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/12/03 16:10:14
>>382続き

「何のこっちゃ…」
カンフーが食中毒で病院へ運ばれたので、今日のラジオ収録は翌日に延期
とスタッフから告げられた礼二はボヤきながら控室へ向かっていた。
(ま、ラッキーやったか)
スピードワゴンをゲストとして連れて来た、ということにしても小沢が目を覚ますのを待つしかない。
それどころかメインパーソナリティを一人下に置いて来ている。正直どう言い訳しようか迷っていた矢先の事だった。
「しかしエライ事なったな…」
途中立ち寄ったトイレで手を洗い、濡れた手で髪を整えながら次に何をすべきか考えた。
小沢を回復させる事が先だとは言ったものの、
あくまでそれは井戸田を立ち上がらせる為の方便であり、実際のところ解決策は見出だせていない。
(アイツの言うたことがホンマやったら、
こっちがどうこうしても元に戻らんのとちゃうか…全く何が原因や…)
先ほどの兄の様子を思い出す内、手洗いの鏡に映る礼二の表情は険しさを増す。
あの時、小沢の身体を抱き抱えながら井戸田を睨んだ剛の指輪が
本物の猫の目のように鋭く煌めいていたのを礼二は見逃していなかった。
「あれだけ使うな言うとったのに、どアホが…」
一言吐き捨てて再び控室へ歩き出した。
384オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/12/03 16:11:51
>>383続き

一方で、だだ広くなった楽屋に残った剛は壁に寄り掛かり、フーッと大きな溜息をついた。
(何も言うて来んな…もしかして気付いとんのやろか)
つまみ出した3人の事が少しだけ気になったが、わざわざ壁を透視してまで見ようとは思わなかった。
理由は簡単である。
「…ヴォゥエェエッ!」
力の代償は、普段から何かと病気がちな剛にも容赦なく襲い掛かっていた。
幾度となく痛めた消化器系から絞り上げるような不快感が込み上げ、内臓ごと吐き出しそうな勢いでえづく。
激しい吐き気は数回で治まったが、今度は酸素不足で頭がくらくらしてきた。
(…しばらく力使えんな…)
指輪をポケットにしまい、ぜぇぜぇと息を整えながらダンディのペンダントを拾い上げた。
(コイツがアカンのは分かってんけど…)
手にとってよく見ると、革の紐には花崗岩のトップの他に7〜8_程の黒い珠がしっかりと繋がれていた。
その漆黒の珠は、小さくとも不用意に見詰めると吸い込まれてしまいそうな妖しい輝きを放っており、
「力」を込められた代物であると一目で判った。
(気持ち悪…とりあえず外した方がええな)
しかし黒珠を結び付けている紐は指ではとても解けそうになく、引き千切る事も不可能だった。
385オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/12/03 16:12:25
>>384続き

こんな禍々しい石が簡単に外れてどこかへ転がって行ったら大変だ。
(ハサミとかないか…)
部屋をうろつく内、テーブルの上にあるガラス製の灰皿に目が留まった。
傍らには誰のものか分からないライターも転がっている。
「…」
吸い寄せられるようにソファに浅く腰掛け、灰皿の上でペンダントを持つと、もう片方の手でライターを点火し恐る恐る近付けた。
「熱っ」
革紐だけを焼き切るつもりだったが手元が震え、黒珠まで炙ってしまった。
「うわっ、わ、わ、わ…!!」
なんと黒珠は革紐と一緒に燃え始め、剛は慌ててペンダントを灰皿に放り込むと思いっ切り息を吹きかけた。
幸い火はすぐに消えたが、剛の心拍数は計測不可能なレベルまで一気に跳ね上がる。
「何やコレ!石やのに火着きよって!」
まだ細い煙が立ち上る灰皿から革と炭が燃えた独特の臭いが漂うと、
子供の頃の忌まわしい記憶がフラッシュバックした剛は反射的にソファから跳び退き、
ようやく目を覚まして呻き声を上げるダンディに気付かぬまま一目散にドアを開け、
激しく咳込みながら外の空気を貧った。
何度か深呼吸を繰り返して少し落ち着いた剛に、
廊下の向こうから長身の男が駆け寄り、声を掛けた。
386オデンヌ ◆RpN7JISHH. :04/12/03 16:13:26
今日はこのへんまで。何か来ました。ではでは。
387名無しさん:04/12/03 16:19:23
乙。設楽カコイイ!!
183cmのぜんじろう似?w続きが気になる。

にしても黒ユニいいな。
悪役(・∀・)イイ!!
388名無しさん:04/12/03 16:21:23
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
リロードしてなかった!スマソ
オデンヌさん乙です!
389名無しさん:04/12/03 20:18:53
赤岡さんが飲み込まれてしまっても、島田さんの黒珊瑚が助けてくれる・・・
と願ってみる。
390名無しさん:04/12/04 00:32:28
感想書かせてもらいます〜。

>>◆QiI3kW9CIA
乙です!2人は石に魅入られてしまったんでしょうか・・・。
また庄司とワッキーの顛末が禿しく気になります。
ハラハラしますね!続き楽しみにしてます!

>>◆cLGv3nh2eA
とても爽やかで後味が良く面白かったです!
何となく殺伐してしまいそうな友近青木に、柔らかなだいたの存在が良いですね。
女芸人編乙です!オパール編執筆乙です。
‖・ω・`)浮気作品も楽しみにしてます。

>>◆ekt663D/rE
乙です!設楽は不利になったはずなのに、石に頼るだけでなく冷静さがある分強いですね。
>誰からも忘れ去られた人間は・・・存在しないも同じ
琥珀の力は恐ろしい((;゚Д゚)。
白vs黒が実現するんでしょうか…続き楽しみにしてます!

>>オデンヌ ◆RpN7JISHH.
乙です!何かを知ってる中川家剛に対して、井戸田のような視線で見てしまいますね。
過去に何があったんでしょう。
また長身の男…敵なのか味方なのか気になりますね…。
続き楽しみにしてます!

皆さん乙で〜す
391名無しさん:04/12/04 04:54:33
もしはなわに不思議な力があったら…『地獄のスナフキン』襲名!!
392名無しさん:04/12/04 05:04:58
天然素材の念力でSNOBに冠番組を持たせ続ける。
393 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 15:39:04
品庄編を書いている者です。
続きを投下しようと思っているんですが、
表現の中に軽い仮死表現的なものがあります。大丈夫でしょうか。
痛々しかったら削除しますので、宜しくお願いします。
394名無しさん:04/12/04 15:56:26
冒頭かどこかに注意書きがあれば大丈夫だと思いますよ
待ってますщ(゚Д゚щ)
395 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:15:39

>>394さんありがとうございます。
続き投下させてもらいます。

軽い精神的な表現があるので、苦手・嫌いな方は読まれないほうが
良いと思います。
396 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:16:26
体が、燃えるようだ。
庄司は今までになほどのい強い力が迫ってくる事に軽い戸惑いを感じていた。
そしてここまで自分の意識が薄れる事も、今までにないことだった。
霞んでゆく目で、必死で自分を説得しようとする脇田の顔をしっかりと見据えた。
石を手放したい、という気持ちは庄司の中にも少なからずあったものだ。
けれどそれと反対の、石の力に魅了された部分が自分の中にあることも知っていた。
そこに、庄司はつけこまれた。少しでも油断や慢心があればすぐに石に引きずられる。
それなのに、どうしてあんなに自分の意思をもっているのだろうと脇田に尊敬の念を抱いた。
「庄司、渡してくれないか?」ゆっくりと差し出された手に、呼応するようにして右手が動く。
瞬間、昼間のように眩い光が石から放たれた。反射的に思わず脇田は目を瞑る。
その光に包まれながら、庄司は自分の意識がだんだんと無くなっていると分かった。
すみません。そう脇田に無言で伝える事が、彼の最後の力だった。
ゆっくりと目を開ける。
ゆらりと立ち上がり自分を見つめる男に、脇田はこれから始まる闘争の始まりと
もうそこに庄司がいないという悲しさを感じた。
397 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:17:08
振り上げられる拳を、避けられずにまた一発体に受ける。もう自分の体はボロボロだ。
石に喰われた庄司の目には既に理性がなく、石の思念の塊になっていた。
ぎゅっと、自らの石を握り締めチャンスをうかがう。
ペンダントに埋め込まれた石を手にした時から、脇田のやるべきことは決まっていた。
暴走する石を破壊する事。それがこの馬鹿げた戦いを止められなかった自分のたったひとつの使命だった。

また一発脇田の体に拳が入る。
一方的な戦いの様子を、男は眺めている。
石は既に彼の一部分になっていた。彼の目にその力は宿った。
それは同時に彼はもう人間ではなく、化物になったという事だ。
ソファに腰掛け、化物になった男はゆっくりと目を閉じた。
398 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:18:50
石の力に体が対応しきれなくなってきたのだろう。顔が辛そうに引きつっている。
攻撃の手も緩まってゆく。だが脇田は今まで以上に切迫した。
体が弱ると、石が完全に庄司を取り込んでしまう可能性があるからだ。
それはあの化物をまた作ってしまうという事だ。あの可哀想な化物を。
ふらり、と庄司の体が床に崩れた。握り締めた手がゆるりと開かれ、石がこぼれ落ちる。
脇田は眩く光る石を構え、真っ赤な光の束をどす黒くなった元凶に放つ。
すると石はまるで生物のように意識のない庄司の掌にべたりと張り付いた。
まずい、と脇田は石を握る手に力を込める。完全に体の中に入れば、もう取り返しがつかない。

だんだんと庄司の動きが鈍ってきた。

一面に広がるプール。
そこにぷかぷかと庄司は浮いていた。
ここはどこだろう。そう思って泳ぎ回るが、何も手がかりはつかめない。
それ以前に俺は家にいたのに。
意識を手放した瞬間にはもう、ここにいた。
いわゆる幽体離脱とかそこらへんの話なんだろうか、とよくわからない憶測を働かせながら
庄司はただ変に心地よい水に身を任せていた。
突然、急に流れが速くなった。緩やかな流れは大きく荒れ、自分よりも大きなウェーブが襲う。
必死に逃げようともがくが体が思うように動かない。やがて津波は自分を飲み込んだ。
奥深くに体が沈む。もう体に宿っていない意識がうすれてゆく。
ふと、底を見ると人がこちらへ手招きしている。
あの人は___
顔を見た瞬間、真っ赤な光が体を包んだ。体が急浮上する。
水底のあの人の顔が、どんどんと小さくなってゆく。
399 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:19:23
「・・・じ、庄司、庄司!」
声だ。呼んでいる声。
庄司はゆっくりと目を開けた。もうそこはあのプールではなかった。
「脇田さん」
「よかった、もう気がつかないかと思ったよ。」心底ほっとしたような声で、脇田は言った。
庄司は立ち上がろうと体を起こす。が、また床に戻ってしまう。
「今日は多分もう動けないだろうから、無理しないほうがいい」
改めて部屋を見渡すとソファやテーブルが変なところに飛んでいったり壊れたりしている。
俺は何をしたんですか、と脇田に聞いた。返事は「気にするな」だった。
その後、遠慮したのだが部屋を片付けている脇田に、庄司は話しかけた。
「脇田さん」
「何ー?」
「ヒデさん、元気ですか?」
脇田の作業している手が止まった。
「いつも通りだよ」
「そうですか」
脇田は再び手を動かし始めた。
庄司もそれきり中川の話をする事はなくなった。
今の彼にとっては水底の人の顔が中川に似ていた事を考えるより、
強烈に襲ってくる睡魔に対応するほうが庄司には優先されるべきものだったのである。

400 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:27:33
ペナルティ 脇田寧人

石 カルセドニー

能力 暴走した石を破壊or浄化する事ができる。

条件 石がある程度見える状態でなければならない。
   (箱の中や手の中などでは効き目がない。)
   石がどれほど持ち主を蝕んでいるか、その度合いによって
   疲労度が変わる。  
   体の中に入ってしまった石は、破壊する事が出来ない。
   
401 ◆QiI3kW9CIA :04/12/04 16:31:44
以上で品庄話の庄司編は終わりです。
これからは品川編かペナルティの話を書いていこうと思っています。

訂正
「だんだんと庄司の動きが鈍ってきた」はスルーして下さい。
402名無しさん:04/12/04 17:54:20
◆QiI3kW9CIA さん乙です!
ワッキー、頼りがいがある感じで格好良いですね。
品川編orペナルティ編楽しみにしています。
403名無しさん:04/12/05 16:45:53
乙です!
ヒデさーん!!嘘でしょう!?続きがすごく気になります・・・
本気で待ち望んでいます。頑張ってください!!
404名無しさん:04/12/06 17:42:34
>>◆QiI3kW9CIA
乙です!とても色鮮やかでどこか暗い雰囲気漂う感じが(・∀・)イイ!!
ペナルティも品庄もかなりわけありっぽくて気になりますね。
次回作楽しみにしてます!
405名無しさん:04/12/06 21:22:00
ペナルティ…何があったんだろう…
406名無しさん:04/12/08 00:10:33
ほしゅ
407名無しさん:04/12/08 09:04:20
一旦あげ
408名無しさん:04/12/10 17:26:58
ほす
>>373-379 の続き

「・・・いきなり随分な物言いですね。」
ポツリと漏れた小沢の問いに、苦笑を浮かべつつ応じたのは、島田。
こちらもうっすらと汗をかいており、急いできたのだろう事が伺える。
「井戸田さんは後からちゃんと来てくれますよ。」
「どういう事?」
「いや、小沢さんから電話があって・・・急いで駆けつけようとしたんですけど、事務所の中で
 潤さんが偉い人に捕まっちゃってさ。」
・・・話が長引きそうだったし、それじゃ俺達だけでまずは向かおうって。
な、と傍らの磯山に確認するように付け加えつつ、野村が小沢に説明する。
その野村の言葉に同意しつつ、磯山は更に説明を引き継ぎ、小沢に告げた。
「そうそう。それで、事務所出たら路上でこいつがボーっとつっ立っててさ。」
「赤岡の事を待ってたんですが、なかなか戻ってこないので・・・野村くん達の話を聞いて
 厭な予感がして、僕も・・・つい。」
最後に磯山の言葉を島田が継いで、スミマセンとぺこっと頭を下げつつ付け足した所で
ようやく小沢も状況が把握できたようだった。
さすがに井戸田と言えども、お偉いさんの呼びかけを無視して駆けつける訳にも行かないだろう。
こうなれば彼が少しでも早く開放される事を願うばかりであるが。

「ところで・・・小沢さん、何変な体勢してるンすか?」
一つ疑問が解けたところで、また新しい疑問が降りかかってくる。
野村からの問いかけに、小沢は困ったように口を閉ざした。
赤岡に両足の動きを封じられた為に、今の小沢の姿勢は上半身だけで三人の方へ振り向いているという
なかなか珍妙なそれである。不思議に思われても仕方がないだろう。

「これは・・・ちょっと・・・」
「・・・赤岡、ですか?」
目の前に島田がいる手前、素直に話して良いモノかと戸惑う小沢に対し、島田は逆に素直に小沢に問う。
「あいつ、何を・・・・・・今、僕が解きます。」
そして小沢が島田に言葉を返すより早く、島田はポケットから小さな白い球状のモノを取り出した。
暖かい乳白色の輝きを発する白珊瑚を手に、彼は小沢の足元に屈み込むと
光が小沢の足元に掛かるよう、そっと手を翳す。
数秒も経たない内に何かの手応えを感じたのか、島田の表情はにわかに険しさを帯びた。
「やっぱりあいつか・・・」
呟く声は小さく、小沢の耳に辛うじて届くぐらいだっただろう。
しかし石から放たれる輝きは力強さを増し、小沢の脚に施された束縛は、みるみるうちに解けていく。

「どうしたんだよ、島秀・・・。」
「お前、いつの間に石を?」
江戸むらさきの二人の口からそれぞれ漏れる疑問に、そういえば彼らは島田が石を持っている事、
そして島田の石の能力が何であるかを忘れているのだと改めて小沢に思い出させた。
「・・・・・・・・・。」
その彼の白珊瑚の力は浄化。
「これで、大丈夫ですか?」
小沢の顔を見上げて島田が問う頃には、すっかり元通りに脚を動かせるようになっていた。

「・・・ありがとう。」
短く礼を言うと、早速小沢は廃工場の奥へと一歩足を踏み出す。
「磯、野村くん・・・そして島田くん。今の状況を詳しく説明してる暇はないし、
 この先がどうなってるかも正直僕にもわからないけれど・・・ちょっとだけで良い。」
しばらくの間・・・僕に力を貸して欲しい。
アパタイトを握る手に力を込めながら、小沢は静かにそう告げた。
今も尚、工場の奥からは不穏な空気が漂ってきているように思えてならない。
その厭な予感は、島田もうっすらと感じているのだろう。ゆっくりと立ち上がり、頷いて返す。

「何か良くわかんねーけど・・・元よりそのつもりで来たンだし、な。」
「おう、潤さんが来る前に片付けちまおーぜ!」
一方で強気な言葉を返すのは、磯山と野村。
心強いその笑顔につられるように、小沢の表情は僅かに和らいだ。
島田の横顔は、どこか曇ったままだったけれど。


それは、夏の始めの激しい雨が降っていた日の事だった。
屋根を叩く雨粒の音を聞きながら、島田はぼんやりと床に座り込み、目の前の光景を眺めていた。
いや、ぼんやりしていたと言うよりも、彼の目の前で繰り広げられているモノが
まったく彼の理解の範疇から逸していたから故に、そうせざるを得なかった・・・と言ったところだろうか。

島田の傍らには、三人の後輩芸人達が横たわっていた。
それぞれ気を失っているようで、程度は違えど血を流しているようにも見える。
そして彼の目の前には、向き合う二人の人の姿。
一人は、闇を全身にまとう幼なじみ、赤岡。
もう一人は、島田に背を向けて赤岡との間に立つ、いつもここからの菊地。
赤岡が闇をコントロールできておらず、黒珊瑚から吐き出すままにしている所と菊地の立ち位置から、
傍目には、菊地が赤岡から島田を守ろうとしているように見えるけれど。

「ったく参ったなぁ・・・こんな予定外ってないですよねぇ・・・。」
口に出さずに呟く菊地の表情には、幾分引きつった苦笑が浮かんでいた。

事がシナリオ通りに進んでいれば。
彼が島田を呼びだして引きつけている間に赤岡に黒の欠片を飲ませ、黒の側に引き込んで。
後に赤岡から島田を説得させ、仲間を増やせているはずだったのだけれど。
拒絶か過剰反応かはわからないが、黒の欠片を服用した赤岡が急に暴れ出したという電話を受けて
駆けつけてみればこれである。

赤岡を中心として空気を伴って渦巻く闇は禍禍しく。
菊地と島田を敵と認識したのか、周辺の瓦礫や鉄骨がビリビリと震え、重力を無視して浮き上がりだした。
これを黒珊瑚が引き起こしたポルターガイスト現象と呼ぶには、少々物騒すぎる気もしなくもないが。

「とりあえず・・・ここは恩を売っておいた方が良いんでしょうねぇ。」
ふぅと溜息を付き、菊地は右脚のつま先で床に四角を描く。
そして己の石・・・ツァボライトの緑を思い浮かべ、彼にしては鋭い声で喚んだ。
「おいで・・・っ!」
「消エロ・・・。」
同時に赤岡の口も微かに上下して、漏れ落ちた無機質な呟きが指示となり、
闇が突風や瓦礫達を引き連れてて二人の方へと襲いかかる。
これをぶつけられたら、菊地達も倒れた三人組と同じ道を辿ってしまうことだろう。
しかし、幸運にも間一髪の所で床に描かれた四角の図が緑色の輝きを帯びたかと思うと、
菊地の目前に一枚の巨大な鉄板が姿を現した。
これがツァボライトの能力、イメージの具現化。
菊地の身体を隠して余りある鉄板に、闇と風、そして瓦礫などが激突したけれど。
鉄板はそれらを全て受けてもなお歪む事なく、菊地達を守る。

「・・・菊地くん?」
「大丈夫、君の事は守るし・・・彼の事も、助けてみせるよ。」
「違う・・・見て、この石・・・。」
床にペタリと座り込んだまま島田が恐る恐る菊地に向けて差し出した手には、
闇にも負けない強い輝きを帯び始めた白珊瑚が乗せられていた。



「おや・・・・・・。」
工場の入口の方を見やり、設楽は小さな呟きを漏らした。
「どうやら・・・向こうにお友達が見えたようですねぇ。」
ふふ、と小さく笑みを漏らして設楽は傍らの人間の方を向く。

「僕らはもう帰る所だし・・・ちょっと遅かったかも知れないけど。」
「いえ、ちょうど良いタイミングだと思いますけどね。」
設楽の視線の先に立っていたのは、赤岡。
相変わらず彼の左腕の肘の先は消えていたけれど、右腕の傷は
黒い破片の力からかすっかり塞がっていた。
裂けた衣服と付着した血が、ただそこに傷を負っていた事を証明している。
「・・・・・・ん?」
「何だか良くわからないのですが・・・今、凄く気持ちが良いんです。
 ですから・・・わざわざ貴方の手を煩わせたお詫びに・・・ここは僕が受け持ちますよ。」
鬱陶しい白の連中を蹴散らしてご覧に入れましょう。
静かに告げる赤岡の言葉に、設楽は興味深そうに口元に笑みを浮かべた。
「・・・それじゃあ、お言葉に甘えようか。」
元々そうして貰うつもりだったけどね・・・そんな喉まで出かかった言葉を封じ、
設楽はいかにも感謝してると言いたげな口調で赤岡に告げると背を向けた。
もちろん、そのまま来た道を戻れば小沢達と鉢合うのは当然の流れ。
彼が向かうのは工場の裏口である。

「でも多人数が相手になりそうだし・・・ね。これは君に返しておこう。」
去り際にそう言いながら設楽が赤岡に手渡したのは、元は赤岡が所持していた虫入り琥珀。
しかし、ただでさえ彼の左腕を消し去った曰く有りの石に、うっすらと濁りが生じている事に
果たして赤岡は気付けていただろうか。


赤錆びた鉄骨の作る長いトンネルを潜り抜けると、もうそこが工場の一番奥。
近づいてくる石の気配に、磯山と野村もそれぞれバイオレット・サファイアの指輪をはめて臨戦態勢を取る。

「そういえば・・・小沢さん?」
「・・・・・・ん?」
何らかの覚悟を決めたような険しい表情のまま、野村がふと小沢を見やり、問いかける。
「小沢さんがさっき持ってこいって言ってた奴・・・潤さんから預かってきたんですけど。」
・・・これ、何か役に立つんですか?
上着のポケットをゴソゴソとやりながらの野村の言葉に、小沢はあぁ・・・と小さく声を漏らした。
「ホントは役に立たないに越した事はなかったんだけど・・・ありがとう。」
野村が取りだしたモノを受け取り、自分のズボンのポケットに無理矢理に押し込めば。
小沢達の目の前は拓け、差し込んでくるのは光・・・ではなく、闇。

「・・・赤岡ぁっ!」
間近に迫る石の気配、そして滲み出てくる漆黒に覚えがあるのだろう。
叫びながらパアァっと白珊瑚を輝かせ、闇を払おうと島田が先頭を切って踏み込んでいこうとする。

「島田くんっ!」
「島田っ!」
「な・・・おいっ!」

突然の島田の行動に、残された三人がそれぞれ声を上げた、その瞬間。


ガツン。
まるでカウンターのように不可視の闇の中から飛び出てきた大振りな木材が、島田の頭部に命中した。
顎が跳ね上がり、数秒と保たずに島田は膝から崩れ落ちる。

「・・・・・・・・・っ!!」

白目をむいて横たわる華奢な長身に、さすがの三人もリアクションに戸惑ったようで。
しばしの間を挟んで、ヤムチャ・・・? そんな磯山の小さな呟きが微かに辺りに響いていた。
今回はここまで。
ちょっと場面があっちこっちに移動していてわかりづらかったかも。

ちなみに黒寄りという事で登場させてみた、いつもここからの菊地さんの石と能力は
既出のツァボライト&アイオライトです。
416名無しさん:04/12/11 11:49:28
◆ekt663D/rEさんGJです。緊迫感あふれる
文章を毎回楽しみにしてます。そしていつここヲタ
の自分としては菊地さんの登場が非常に嬉しいです。
417名無しさん:04/12/12 01:08:36
ヤムチャワラタ
418名無しさん:04/12/13 00:00:51
乙です!!
赤岡さんがとんでもないことになってますね・・・
そして島田さんもピンチだし・・・
続き気になります!!
419名無しさん:04/12/13 16:43:11
>>409-415
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
号泣対決が実現?と思いきや、ヤムチャで微妙にホッとしてしまいましたw
虫入り琥珀の濁りも気になりますね…。赤岡さんはどうなってしまうのか…。
乙です!続き楽しみです!
420名無しさん:04/12/16 00:35:52
保守。
421名無しさん:04/12/16 01:12:46
一旦AGE
422ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 18:58:50
どうも、こんばんは。
まとめサイトにてロンブー編書くと言った者です。
とりあえず、淳さん編だけ出来たので、今から投下しようと思います。
423ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 19:00:52
〜淳の場合〜



淳は、まいったな、と誰もいない部屋で呟いた。



つい3日前だったか、淳が家へ帰ろうと車から降りたその時だった。
「・・・誰だよ」
彼の眼の前に見覚えのない、黒いフードを被った男が1人。
もしかすると、自分が田村淳だと知っていてついて来て、あわよくば会話でもしようなんて考えているのか?
「何・・・?サイン?写真?握手??
・・・ちょっと、今はプライベートなんだからさぁ、ほっといてくれても・・・」
いいじゃないか、と言おうとした瞬間、
「田村・・・淳さんですよね?」
男が話しかけてきたではないか。
この後に及んで、まさか自分の名前を確認されるとは。
「・・・そうだよ。ロンブーの淳。本人じゃん?
それで、なんの用?サインとかじゃないみたいだし」
淳は言いながら、再び男を見据える。黒いフードを被り、口元しか確認できない。
そして、その両手には紙もペンもカメラの類もない。
「貴方は・・・石の話を知っていますか?」
唐突に男が言う。
「・・・・・・石?」淳の表情が変わる。
「そうです、石ですよ。不可思議な現象を起こす、力を持った石。
それが、今芸人の間で爆発的に流行している。そして・・・・・・」
「そして?」次の言葉を催促する。
ふいに、男の目線が淳を貫いた。
「そしてその石で芸人の人生が狂わされている。」
424ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 19:01:40
どう言う意味だ?と一瞬言いかかって、止めた。
この男をどこまで信用していいか分からないし、第一、見知らぬ人間の話を全部信じるなんて到底不可能だ。
しかも唐突過ぎるし、詳細も分からない。
「本当なら存在してはいけない存在。それがこの石達。
貴方の知っている芸人さんも、何人ももう既に巻きこまれていますよ?」
石を所持せず、しかもこの話を知らない芸人を探す方が難しいですよ、と男が言った。
「・・・・・・信じられねぇな。そんな作り話で、俺が釣れるとでも思ってんのか?」
淳が吐き捨てるように返す。
「信じられないのならば、使うのが一番手っ取り早いですよ」
「・・・は?」
「ちょうど、今持ち主を探している石を一つ、持っていたんですよ。
もし貴方の石ならば何らかの力を発揮できるはずですよ・・・」
男はフードの内側から唐突に、金色に輝いている石を取り出す。
「い、いらねぇよ!だって・・・」
淳は、両手を前に出して拒否するような動作を見せる。
「信じる事を恐れるのですか?或いは、私を避けようとしている?
しかし・・・、今我々は人手が足りないんです」
ざっ、と乾いた音が響く。男が、靴をコンクリートの上でやや引きずるように動かしたからだろう。
「どう言うことだ・・・?あんたの話はさっきっから先が見えてこねぇ・・・」
「先を考える必要などありますか?
・・・ともかく、一刻を争う闘いがまさに始まろうとしている。
その為に、『白』に対抗しうる能力を秘めた人材が必要なんですよ」
ざっ、と乾いた音。良く見れば、相手は少しずつ距離を縮め始めている。
425ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 19:03:03
淳は、やや眉を潜めて、男の言動に注意を働かせている。
「『白』・・・?一体なんの話だよ・・・?俺と、石と、芸人と、そして『白』に一体なんの関連性があるってんだよ?」
「『白』は我々にとってもっとも邪魔な存在。
『白いユニット』・・・それは我々を潰そうと企んでいるのです・・・」
気がつけば、更に2人の距離は縮まっている。
淳はやや後ろに下がろうとして・・・後ろに車があることを思い出した。動けない。
「石を持っている芸人の中でも、こんなに素晴らしい石を全て使いものにならなくしようとしている、それが『白いユニット』です。
貴方も聞いた事のある名前が軒並みを連ねていますよ?
スピードワゴン、アンジャッシュ、くりぃむしちゅー・・・」
「くりぃむ?」
まさか、と淳が目を見開いた。この間番組で一緒になった時は何も話していなかったはずなのに・・・。
「ま、まさか。あの2人に限って・・・」
「現実はそうはいきませんよ、淳さん」
淳さん、と男に呼ばれて、淳はふいにびくっとした。
男の周りを漂う雰囲気は、先ほどばったり出くわした時とは随分変わっている。
どくん、どくん、と脈打つ音が何故だかいつもよりも大きく感じる。
「・・・そうだ、淳さん?」と男がまくし立てるように言う。
「貴方にとっても、我々にとってもあの2人は邪魔な存在であるはずです」
「いや・・・、そんな、俺は別にそんなこと思って・・・」
「でも彼等は、貴方達の事を裏切るかのように裏で番組を始めた、そうでしょう?」
「でも俺達がそんなこと言ってどうにかなるレベルじゃないんですよ!?」
ざっ、と乾いた音がした。おそらく、また男が動いたのだろう。
「・・・どうだろう?少なからずも、貴方は嫌悪感を抱いた。そうでしょう?
それに・・・、この石を使えば・・・あわよくば彼等の存在を消す事くらい簡単に出来てしまう」
存在を消す事くらい簡単に出来る・・・・・・・・・それが意味するのは、つまり、死。
そんなことを望んだ覚えもなければ、恨んだり怒ったりした事もなかった。
男は焦っているみたいで、どんな事でもいいから淳を味方につけようと躍起になっている。
426ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 19:03:52
「どうです、考えても御覧なさい?いいんですかこのままで?」
「・・・・・・」
「貴方には今、何も出来ない。けれど、もし他の芸人があなたの事を消しに来たら・・・
それに、もし貴方が唐突に石を拾ってしまったら・・・正しい使い方は、貴方自身知らないはずですよね?」
「・・・・・・石なんて拾わない」
「拾わない保証はない」
「拾わないし、使わない!俺は他の奴とは違う!」
淳はふいに、怒りに任せて大声で叫んでいた。
ざっ、と乾いた音がした。もう2人の距離はそう遠くない。腕を伸ばせば掴める。
「本当ですか?
・・・第一、石の存在を知った以上、貴方はこの闘いから逃げる事は許されないんですよ。
そして、巻きこまれた以上、石の力で応戦するしかないのです・・・」
「石の存在を知ったのはあんたのせいだろ!
・・・っ、どうすんだよ・・・俺はともかく・・・亮は・・・亮はこの事を・・・」
悔しそうに下を向いた淳に、男が勝ち誇った声で、宣告した。
「残念ながら、亮君はこの闘いに既に巻き込まれていますよ。」
「・・・・・・え・・・・・・?う・・・嘘だろ・・・?嘘って言えよ・・・言えよ!」
淳が狼狽している。男は更に続ける。
「亮君は、貴方を見捨てたんですよ!
自らの為に・・・、この闘いに飛びこんでしまった代償としてね・・・。
だから、何も話さなかった。あの2人だって、何も知らない貴方に何も話せやしないですよね?」
「亮は・・・あいつは・・・、そんな・・・こんな闘いは望まないはずだ」
もはや、彼の口調は先ほどまでの話を信じきったかのようだった。
ざっ、と乾いた音がした。動けば触れてしまいそうな、そんな距離まで近づいていた。
427ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/17 19:05:10
なんか物凄く長くなったので一応今日はここまでで。
始めて書いたんですが・・・、どうでしょう?感想とかお願いします。
428名無しさん:04/12/17 19:47:06
>>423-427
新作オツです!!
黒いフードの男は黒いユニットの手先ですね?
したらばの方で出ていた「黒を正しいと思い込んで〜」という設定が入ってくるのでしょうか…
之からが楽しみです。初めてとは思えないくらいお上手ですね。
次回も頑張ってください。
429名無しさん:04/12/17 22:16:23
乙です!
今までにない展開ですごくドキドキしてます。
430名無しさん:04/12/17 23:42:54
石を拾って欲しいような欲しくないような…
わーとにかく黒に行かないでほしい!
そんな淳好きの心境w

おつです!
亮もどうなっていくのかなー
続き楽しみに待ってます
43122:04/12/18 14:51:18
プラン9編久しぶりの投下です

浅越をそう長距離に渡って追いかけることは無かった。狭い、奥で行き止まりになった路地。そこで浅越は4人が来るのを待っていたように、タバコをふかしていた。
「お疲れさま。」
息を切らせながら次々に自分を追ってきたメンバーに、そんな労いの言葉をかけ、タバコを靴でもみ消す。
「今は、浅越さんじゃないんですね。」
「あはは、面白いことを言う。俺はどうなろうと浅越ゴエだろう。」
「違います。浅越さんはタバコは吸わないし、そんな澱んだ目はしてません。」
「黒の力とかいうヤツに、惑わされてるだけや。」
「それでも俺は浅越ゴエに違いない。」
「やったら、浅越の中の黒い部分を消すだけや。」
鈴木の言葉に、浅越は不敵に笑い、携帯電話のストラップを差し出した。
「俺に勝てるものなら、ご自由に。」
確かに、4人に浅越の黒い部分を消す方法なんて思い当たらなかった。けれど、それを消して元に戻したいという気持ちは変わらない。何か方法があると信じて、追いかけてきたのだから。
43222:04/12/18 15:04:14
「親切な俺は、今からこの石について話そう。」
浅越は余裕綽々で次のタバコに火をつける。
「この黒い石、この石こそが近い未来、この世界のすべてになる絶対的存在。そしてこの青い石、これは俺を守ってくれる石だ。」
「この世に絶対なんてない。その黒い石にもなにか欠陥があるんと違うんか。」
「ある。が、それ以上にこの石には力がある。欠陥なんて取るに足らない。その証拠に、この石の前ではみんな無力だった。」
「ギブソンの石は?お前ちょっと苦手そうやったやないか。」
「面倒な石であることには違いない。が、それがどうした?それも黒の力が増大すればかき消される。」
「その石に、お前自身が飲み込まれることは怖くないんか?」
「ないな。俺は俺で、この石の力を利用しているに過ぎない。」
「ホンマか?絶対か?」
「俺にとっての障害があるとしたら、それはお前たちを・・・お前たちを・・・」
「浅越?」
話の途中で、浅越は急に顔をしかめる。
「浅越!浅越なんやろ?出て来い!そんな訳の分からんのに負けんな!」
鈴木の叫び声に、浅越はさらに顔をしかめ、その場に座り込んだ。
43322:04/12/18 15:11:33
「鈴木さん・・・早く、花月に戻って・・・・」
「浅越っ!」
「早く・・・戻って石を・・・・」
「大丈夫か!出て来い!黒い力なんてねじ伏せてまえ!」
「早く・・・戻ってください。でないと・・・」
「戻るから!やからお前も一緒に・・・」
「俺よりもっ、早く戻って石を・・・・・ハイ、時間切れー。」
「浅越!」
そこで黒の浅越が戻ってくる。すこし額に汗をかいている。黒と元来の浅越の人格が入れ替わることは、浅越自身への負担が激しいようだ。
「まったく邪魔な存在だ。早く消えて欲しいものだね。」
浅越は鬱陶しそうに言いながら、メガネをはずし、身構える。
「消えるのはお前や!」
その言葉にはじかれたように、ギブソンが浅越に向かって突っ込んでいった。
43422:04/12/18 15:28:03
ギブソンが浅越に体当たりをし、それを浅越が真正面から受け止める。やはりギブソンの力とは相性が悪いらしく、浅越はそれまで見せていた圧倒的な力でギブソンを軽くかわせないでいる。
「硬化の石、まったく面倒だ。」
「浅越さんの中から出て行け。」
「出て行くのはお前たちだ。」
「お前や!」
もみ合う2人を見て、鈴木が石に呼びかけ、鈴木の石と、久馬の石が光りだす。
「浅越さんを元に戻せ!」
久馬の石の力に後押しされ、ギブソンが押し始める。しかし浅越は全身に力をこめ、ギブソンを押し返す。
「うざい!」
そのあまりの力に、弾き飛ばされるギブソン。それでも間髪入れずに立ち上がり、再び浅越に組みかかる。
「お前が俺らをうざくても、浅越さんは違う!」
「ギブソン・・・花月に、戻れ。俺よりも・・・早く・・・・・うるさい!黙れ!」
「浅越、戻って来い!」
灘儀の石が光り、大きな炎が浅越にぶつかる。すると浅越は後ろに飛びのけ、距離を置き、言った。
「まず先に、邪魔なものは、排除する。」
同時に黒い光が浅越を包み込んだ。そのとき、ギブソンには浅越の声が聞こえた。
「早く、戻れ」
しかし次の瞬間に4人の前に立っていた浅越は、今まで以上にずっと、冷徹な表情をしていた。
43522:04/12/18 15:58:50
「馴れ合いはおしまいだ。」
浅越はそう言い、ものすごいスピードでギブソンの懐に飛び込んだかと思うと、ギブソンの石を握りつぶした。
「まず一つ。」
それは一瞬の出来事。石を握りつぶした浅越は、ギブソンの首を締め上げる。
「邪魔をするなよ。強い力には巻き込まれていればすむ話だろう。」
「浅・・ごえさ・・・」
「ギブソン!」
久馬が石の力を加え、灘儀が炎を放つが、
「うるさい!」
浅越はそれをいとも簡単に片手で弾く。
「お前っ!誰の首しめてるか分かってんのか!」
「分かってるさ。俺の邪魔をする、愚民の首だ。」
「離せや!仲間やろう!」
鈴木が石の力などそっちのけで浅越に向かっていく。同時に灘儀も久馬の石の力を借りて炎を放ち、防御に回る浅越はギブソンを壁に投げつけ、それを防ぐ。
「がはっ・・・」
ギブソンはそのあまりの勢いに、ぐったりと倒れこんだ。
43622:04/12/18 16:04:44
「ギブソン!」
久馬の声にも、返事すらしない。
「次は誰だ?誰からそうなりたい?」
「・・・・んか?」
「ん?」
「黒い石が、そんなに偉いんかぁ!!」
叫んだ久馬の石が、今までに無いほどに強く光る。灘儀の手からは膨大な炎が放たれ、浅越の石が青く光る。周囲は炎に包まれ、浅越はの青い光をもかき消してしまいそうな勢いだ。
「久馬さん、やめてください!」
鈴木が思わず叫ぶが、その炎は勢いを弱めない。
「なんで黒い力になんか加担するんや!目ぇ覚ませ!アホ!」
どんどん勢いを増す炎の中で久馬が叫ぶと、それまで防戦の構えを見せていた浅越がにやりと笑った。
「アホは、どっちかな。」
瞬く間に炎は黒い光に吸い込まれ、久馬や灘儀、鈴木に向かって跳ね返された。
「危ない!」
その矢面に立つ鈴木。炎を全身に受け、跳ね飛ばされ、いやな煙を上げながら倒れる。
「鈴木!」
「余所見をするな!」
浅越はどこかの店が勝手口の外に置いていたであろう一斗缶を手に取り、それで久馬の頭を思い切り殴り飛ばす。
「うっ・・・」
痛みに膝を着いた久馬を、浅越は何度も殴り、久馬は血だまりの中に倒れた。痙攣するようにかすかに動いていた指先も、すぐに力なく落ちた。
「久馬!」
「焦るな、すぐに会える。」
その一斗缶を久馬を見て叫び声を上げた灘儀に投げつけ、浅越は一斗缶を力いっぱいぶつけられたみぞおちを押さえ込んでうずくまる灘儀を見下ろすように立つ。
「弱者は静観していればいいものを。」
「あさ・・ごえ・・・」
「自分の無力さを思い知れ。」
希うように上目遣いで浅越を見た灘儀を、浅越は動かなくなるまで何度も、何度も殴り続けた。
そしてほんの数分で、4人の人間が丸太のように無機質に、その路地に転がることになった。
43722:04/12/18 16:10:43
浅越は身なりを整え、その路地を後にしようとする。
「さっきの言葉、そのまま返しますよ。アホはどっちかな。」
その背中に、声が聞こえた。
「騙されたー。アホですねぇ。」
声の主は、握りつぶされたはずの石を元の形で手にした、ギブソンだった。
「浅越さんが壊したのは、ダミーです。さぁ、始めましょうか。」
「ちっ、本当にうざいな。」
浅越は再びギブソンと向き合う。互いの石が、強く光を放ち始めた。
「まぁいい。たった一人くらい、他愛も無いことだ。」
「本当に他愛ないと思ってるんですか?」
「思ってるね。」
「俺はめっさ怒ってます。大切な人たちを浅越さんは本気で傷つけた。もう、遠慮はしません。」
「面白い。最後の足掻きを見せて貰おうじゃないか。」
2人は同時に地面を蹴り、激しく組み合った。


今日はここまでです。
438ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:30:42
>>431-437
乙です!!ドキドキの展開で毎回楽しみにしておりました。
黒ゴエさん・・・、どうなるんでしょう?

それに続けてロンブー淳編投下しようと思いますー。
439ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:32:33
ならいいんですけど、と男の呟いた声が淳の耳に聞こえる。
そして淳は、これ以上彼の声を聞いているのが何故か、辛い。
亮が、相方がなんだか遠い存在のような気がした。背負っていたはずなのに、何時の間にか一人歩きしていく・・・。
「・・・・・・もう一度聞こうか?俺に何の用だ」強気に、だが心なしか淳の声は上ずっている。
ふいに、眼前に黒い欠片が入ってきた。
「これは・・・・・・?」
男が音を立てず、くすっと笑う動作をする。
「我々と手を組むための、証みたいな物ですよ」と男が説明する。
男は淳の前で、右の手に金に見える石、左手に黒い欠片を弄ぶ。
「この石のどこにそんな不思議な力があるんだよ・・・」
「そんな話をしている暇はないのです」
2人はにらみ合う。冷たい風が2人をつつんでいた。もう、空は暗い。
「これを飲めば、貴方はきっと、この闘いで生き残れるでしょう。
こちらに来れば、きっと貴方は輝く。もちろん、この石も。
そうなれば、その能力を簡単に引き出す事が出来るのです・・・」
「騙されないぞ」
「騙しているように見えますか?」
「もちろんだ」
2人のやりとりは短かった。
440ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:33:28
暫くの沈黙が辺りを包んでいる。隣に、亮がいれば良いのに。
「何故だ?何故そんなに俺を欲しがる?
俺じゃなくても芸人なんてごまんといるだろ?」
男はそれを聞いてふぅ、とため息をついている。
もう此方の質問に答えるつもりはないってか・・・?淳は更に相手を睨む。
「お願いしますよ、淳さん?こちらとて、暴力を振るいたくない」
「・・・」
淳とて、話を完全に飲みこんだ訳ではない。
まだ頭に疑問符が山積なのに、どうしてこいつはそう焦っている?
――――貴方さえ手に入れば、俺の手柄が・・・。
そんな独り言が聞こえたような気がして。だが、眼前の男は表情を見せない。
やれやれ、仕方がありませんね。と男が言ったのと同時に、男の両脇に同じ黒いフードを着こんだ男たちが音もなくぬっと現れた。
そして、淳の両腕を掴んで、その場から移動させる。車からやや離れた場所に来る。
「・・・んだよっ、離せっ、離せよぉっ!」
「大声出しても無駄です。」
その声を聞いた次の瞬間、淳は物凄い衝撃を腹部にもろに受けて、目の前が歪んだ。
「・・・っはっ・・げほっ・・・」
どうやら、殴られたようだ。それも、手加減なしだ。
「話し合いでは埒があかないようですね・・・ならば仕方がありません、
無理にでもこちらの仲間になっていただきましょう」
441ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:34:13
再び強い衝撃が淳を襲う。先程よりも、更に力がこめられているようだった。
「・・・げほっ・・・はぁっはぁっ・・・」男の姿が霞む。
淳がぐったりしたのをみて、両脇にいた男達が淳の口をこじ開けている。
一体何が起こるのか。それは本人には分かりえなかった。
気がついたときには、喉に不可思議な物体が流れこんでいるのと、意識が遠退き始めていて。
そして、何かを自分のジャケットに捻じ込まれた気がした。人が捌けて行く・・・。



それから、3日だ。
442ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:34:48
その3日間、彼は先日の男から頻繁に電話を受けている。会話の内容は・・・始めは脅しだった。
『此方の命令を聞かなければ、殺す。』
それを聞いてから、仕方なく自らの力を男の為に使うことになっていた。
石はあの日中に輝き始めて、その力を開花させていた。
その石の名はトパゾライト。「確実な吉報」と言う、この石の能力に似合った石言葉を持つ。
淡黄色透明なその石の美しさは、淳の心を奪う。
この石をなくさない為、淳は友人に頼んでストラップに加工してもらったのだった。
皮の細く黒い紐に一粒だけ通された、黄色く光る丸い石・・・。
と、その時携帯がぶるっと振るえて、持ち主が開くのを待っている。
淳はすぐに折りたたみのその携帯をぱちん、と開く。メール1通。
件名は・・・「田村亮」になっているが、宛先はない。
そしてその本文には、亮がこれから10分間、考える事がずらっと文章になっていた。
これが、淳の石の能力。そして、唯一の対抗手段。
まだ、3日しか経っていないから、襲われたことはない。だがもし、誰かが自分を殺しにかかったら――――。
淳は、ふいに自分のいる場所を確かめた。
ここは・・・、そうだ、テレビ局の楽屋だ。
メールの一番最初には「淳、もういるかな?」とかいてある。
俺の事ばっか考えやがって・・・。そんな事を思う場合ではなかった。
もう、亮は入り口のノブに手をかけているようだ。
淳は慌てて携帯をしまい、「亮君遅いよ・・・」と冗談交じりで言って見た。
がちゃっと音がして「淳、今日早くない?」と亮が入り口に現れた。
443ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/18 16:36:49
田村淳 能力
石:トパゾライト(石言葉は確実な吉報、淡黄色透明)
能力:ケータイで件名部分に名前を入れて空メールすると、その名前の人間の考えてる事がメール本文に書かれて戻ってくる。
着信時の時間から10分以内の事が分かる。
ただし、本人の知っている人間に限る。
返信すると考えてる事を変える事も出来るが、難しい。
条件:ケータイなしでは無意味。また、バッテリーが消耗しやすくなる。
電源が切れているケータイも不可。
力を使いすぎると、ケータイが持てなくなる。

一応これで淳編一区切りです。次は亮さんのおはなしを投下予定です。
プラン9編直後に長文失礼致しました。
444名無しさん:04/12/19 17:26:38
淳の能力面白いですね!次回が楽しみです。
445名無しさん:04/12/21 14:06:08
新作乙です。
446名無しさん:04/12/22 00:41:48
麒麟編続編キボンage
447名無しさん:04/12/23 00:46:19
上の発言で思い出したんだけど、まとめサイトの麒麟編よく見たら話欠けてない?
[2]だか[3]だかの間。
448名無しさん:04/12/23 00:50:34
う〜ん
449名無しさん:04/12/24 18:35:18
もし専ブラ使いだったなら、
何かのNGワードでレスを弾いたまま保存してしまったのかも。
45022:04/12/25 18:12:05
プラン9編を投下します。


完全に黒になった浅越は力のセーブをすることもなく、勢いとその場の感情で立ちふさがったヤナギブソンは完全に押され気味だった。
黒の力を自分のものにしている浅越に対して、石の力の情報に乏しいヤナギブソン。明らかにどちらが有利かは分かりきっている。
それでも、何度倒れてもヤナギブソンはあきらめず、浅越は苛立ちを感じ始める。
「俺はウザイ人間は大嫌いなんだ。」
「だから、どうした?」
「お前なんて死ねばいいと思ってる。」
「だから?」
「次で終わり、殺すことにする。」
「へぇ、それはそれは。」
言いながら、自分でも分かっている。もう限界だ。足元はおぼつかないし、この石、使うほどに自分自身も消耗する。確かに、次が最後かもしれない。
「石を手にしてしまった自分の運命を呪いながら死ぬがいい。」
浅越の黒い石が光り始める。ヤナギブソンも石の力を最大限に引き出そうと構えた。
45122:04/12/25 18:23:15
「死ね!」
その力を、ヤナギブソンは咄嗟に防ぎきれないと感じた。防御の体制を取りながらもぎゅっと目を閉じる。
(俺にもっと力があれば!)
そう心の中で叫んだとき、
「うわぁぁぁーっ!」
悲鳴に近い声をあげたのは、浅越。ゆっくりと目を開けると、目の前には壁まで吹っ飛ばされて倒れこむ浅越の姿。
自分の石が、さっきよりも強く光っている。そして、鈴木の石と久馬の石も。
「な、なんで・・・」
2人は確かに倒れていて、動く気配さえも見せない。それなのに石は光を放っていて、ヤナギブソンを助けてくれている。
「くそっ・・・まだそんな力が・・・」
さすがにダメージが大きかったのか、初めて浅越が立ち上がろうとした瞬間に体制を崩した。
(今なら勝てる!)
ヤナギブソンは地面を蹴り、浅越に向かって猛ダッシュする。
「黒の力なんて、必要ないんやぁっ!」
ありったけの力で、浅越に繰り出す一撃。
「ぐあぁぁぁっ!」
浅越の絶叫が響き、光を放っていた黒い石が割れてはじけ飛んだ。それを見届けると同時に、ヤナギブソンの意識は遠退いていった。
45222:04/12/25 18:34:40
静まり返った路地。倒れている5人の男。
その5人の男のうち、一人がゆっくりと起き上がる。鈴木だ。
「んっ・・・」
頭を左右に激しく振り、起き上がり、倒れた4人の仲間の姿を見て、慌てて駆け寄る。
「久馬さん!灘儀さん!ゴエ!ギブソン!」
そして思い出す。何が起こっていたのか。あの忌まわしい光景を。
「嘘やろ?みんなあのまま・・・」
あのまま、黒い力に飲み込まれてしまった浅越によって倒されてしまったのだろうか。そして浅越自身も・・・
「誰か、頼むから誰か目ぇ開けてくれ!」
路地いっぱいに響き渡る悲痛な叫び声。
「うっ・・・鈴木?」
その声に答えるように、起き上がったのは久馬。そしてゆらりと、灘儀も起き上がる。
「どうなったんや?」
「確か浅越が訳分からん力で暴走して、それで・・・え?あれ?」
「なんで俺ら無傷なんやろ?」
3人とも、ひどく傷を負って力尽きたはずだった。けれど気づけば、無傷で体におかしな所は感じられない。
張本人の浅越の方に視線を送ると、倒れている浅越の傍らで、黒い石が粉々になっていた。
45322:04/12/25 18:44:45
「ギブソンが、浅越に勝ったみたいやな。」
灘儀がその石の破片に触れようとすると、石はさらさらと砂のようになり、消えてしまった。
「勝ったって、じゃあ・・・」
「黒い石がなくなったから、その石によって負わされた俺たちの傷は消えた。そして、浅越も・・・」
「そんなん勝ったって言わないでしょ!ナンボ自分が無事でも、全然良くないです!」
鈴木は言い放ち、浅越に駆け寄る。
「おい、ゴエ!終わったんやったら起きろ!みんなで帰るんや!ゴエ!」
激しく体を揺さぶるが、返事は無い。
「帰って稽古せな、本公演近いねんぞ!あの役はお前以外にはできへんねん!ギブソンも!早よ起きろ!」
何度も、鈴木は交互に2人に声をかける。けれど返事はなく、優しく鈴木の肩を叩いた灘儀が、左右に首を振った。
「こんな結末っ、こんな結末のために俺らは戦ったんやない!」
「けど、現実はこうなってしまった。」
鈴木の言葉に、久馬が残酷な答えを添える。3人は、次の言葉が見つからなかった。
45422:04/12/25 18:56:37
呆然。
それ以外に、言いようが無い。3人はその場に立ち尽くし、無言。
けれどいつまでもこうしているわけには行かない。久馬がそっとヤナギブソンを抱き起こし、灘儀が浅越を抱き起こす。
服に着いた汚れを払い、抱えようとすると、
「なんで俺がマヨネーズだけなんすか・・・」
ぼそりと、ヤナギブソンが呟く。
「ギブソン!おい!しっかりせぇ!俺の声が聞こえるか!」
「ドラムで十分でしょ・・・」
「もしかして・・・寝言なんじゃ。」
「はぁ?」
言われて顔を覗き込むと、もぞもぞと口元が動いて、やがて穏やかな寝息に変わった。
「じゃあ浅越も・・・」
同じように灘儀が見た浅越は、どうやら気持ちよく寝ている様子。思わず、鈴木がへたり込む。
「よかったぁ・・・」
それは心からの言葉で、久馬も灘儀も、笑顔になって鈴木に手を差し伸べる。
「帰ろうか、5人で。」
3人はこの悪夢のような数日が終わったことに、心から歓喜した。そして、また5人で舞台に立てることに。
45522:04/12/25 19:08:51
帰り道、思い出したように鈴木が一つの疑問を口にした。
「何か大事なこと忘れてるような気ぃするんすよねぇ。」
「大事なこと?」
長身の浅越をおぶって歩く灘儀が、しんどそうに聞き返す。
「本公演の稽古。」
久馬が答えるが、鈴木は首をかしげる。
「いや、なんかもっと大事なことのような・・・」
「お前なぁ、本公演の稽古より大事なことって何やねん。」
おどけた様に突っかかってくる久馬に、ヤナギブソンを背負ったいるせいでよろめきながら、鈴木はさらに首をかしげる。
「何か、絶対に何かあったんすよ。大事なこと。」
「そんな大事なことなんやったら、そのうち思い出すんと違うか。」
「ですかねぇ。」
灘儀に言われて、そうかもしれないと思ったが、鈴木にはその何かが引っかかって仕方なかった。

そのころうめだ花月では、その何かが訪れようとしていた。
「これ浅越にもろてんけど、何やねんやろ?」
小さな箱の中にいっぱいに詰め込まれた黒い石を見つめ、考え込むロザンの宇治原。
「ガラクタちゃうん?嫌がらせとか。」
茶化すように箱の中の黒い石を引っ掻き回す、同じくロザンの菅。
「でもアイツ、ごっつ真剣に「これを、あなたに守って欲しいんです。」とか言うとったぞ。」
「ふぅん。って何から?」
「さぁ?」
黒の力は途絶えることなく、次の主となる人物の手に繋がれていた。浅越に真剣に託された物を宇治原が簡単に手放すはずはなく、
次の舞台の開幕ベルは鳴っていたのだ。
45622:04/12/25 19:11:15
プラン9編は一応以上です。
そして黒い石をロザンにつないでみました。
少しプラン9も絡めながら、ロザン編を書いていけたらと思います。
よろしくお願いします。
457名無しさん:04/12/25 22:52:57
>450-456
クリスマスに新作乙です。
ハラハラしつつ、一気に読んでしまいました。
さらにロザンはどうなるんでしょうか?
次の展開を楽しみにしてます。
458名無しさん:04/12/26 19:51:45
念のため保守AGE
459名無しさん:04/12/26 21:12:01
プラン9編乙です!
途中最悪の事態を考えてしまいましたが、無事終わってよかったです!
そして次へのつなぎもばっちりですね!
楽しみにしてます!
460ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/26 21:29:28
こんばんは。今年も後五日ほどですね。
今年中にロンブー編、一応両方の能力を出しておきたいので、亮編投下します。


〜亮の場合〜


亮はどないしよ、と呟いていた。
彼の自慢のジーパンは、所々擦ったような跡があり、泥と血がついている。
同じく上着にも傷がいくつもあり、血痕が残っている。
はぁはぁはぁと息を荒げて、そして壁に背をつけ、誰かが後から来ないかを確認している。
ふいに、足音が幾つも此方に向かってくるのを亮は聞いた。
空は暗く、重く、そして寂しく彼を包んでいた。
「しゃあないなぁ・・・」
ここにいては、見つかるのがオチだ。走るしかない。
疲れた体を奮い立たせて、亮は走り出す。
この壁のすぐ隣の曲がり角から誰か見えないように。
461ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/26 21:30:07
気付いた時には、闇の中で再び囲まれていた。
気配だけ、しかしその気配も殺気立ち、自分を狙っているのが分かる。
「なんやねん・・・ったく、俺に手ぇ出してどんなんなっても知らんぞ!」
亮は、この現実に幻滅しつつも叫ぶ。
その彼を取り巻くようにして生気を失った目をした男が3人、姿をあらわす。
手には・・・金属バット。
すかさず、睨む。
「これまた、あんた等全く懲りへんようやな?」
前もあかんかったやん・・・、と呟いたその真意は相手に届いたのか。
その言葉を合図にするように男達が一斉に殴りかかってくる。
仕方なく亮は、横飛びで攻撃を避ける。紙一重でかわし切る。
かきぃんっ。金属同士がぶつかり合う、限りなく無機質な高音。
囲んでいた3人の振りきった金属バットが、互いにぶつかった。
「もう殴られるのも、殴んのもごめんや・・・」
そうぼやきながらも、亮はその内の1人の背後に回っていた。
「ご免、めっちゃご免、ほんまご免」
と謝りながら、亮はその男に向かって回し蹴りをかましていた。
462ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/26 21:31:05
蹴られた男のほうは、後ろから頭に向かって思わぬ一撃を食らい、対応が遅れていた。
受身など取れる訳もなく、亮の視界の左側に消えていく。
どさっと男が倒れるのと同時に、他の2人がこちらを向いた。
「・・・・・・っ!」
残った2人の内の、金色の髪を立てている男が此方に向かって走り出す。
その勢いを殺さず、しかし邪魔にならないようにくんっとバットを振りかざす。
あの速さの攻撃をかわすことは出来ないだろう。
亮は自らの右手首にかかっている、蒼い革のベルトで結ばれた腕輪の銀のプレートに埋まる石を見やる。
石はトルコ石にも似た蒼を称え、丸く加工されている。彼が先日自分で頑張って加工した一品だ。
確か先日見た本には、パワーストーンの性質について
「左手は力を受け取り、右手は力を放出する」と書かれていた。
それに従い、亮は石の力をゆっくりと、しかし急激に解放できるようにと右腕に腕輪をはめた。
そして今まさに――――その蒼い石がゆっくりと光を開放し始める。
トルコブルーが亮と、そして自分に向かってきた男の視界を遮ろうとする。
ごっ。鈍い音が響く。亮の脇腹に重い一撃が当たったのだろう。それを両者とも、認識している。
だが、亮は倒れることなくやや顔を引きつらせるに留まっている。
彼の見やっていた石、オドントライトは急激に蒼い光で所有者を包んでいく。
男は目が眩み、思わず仰け反った。次の瞬間。

――――ごっ。

鈍い音が再び闇の中に響いた。
攻撃を仕掛けた張本人が、その場に崩れ落ちていた。何故?と言ったように目を見張ったまま。
463ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/26 21:31:40
「俺ん石・・・オドントライトって言うねん・・・」
くっと、痛みに耐えつつも亮は続ける。
「石言葉は・・・『攻撃と防御』・・・、カウンター系って訳やな・・・」
その場に残っていたもう1人は、その光景を目の当たりにして、徐々に徐々に後ろに下がっていく所だ。
「もうあんたから攻撃でけへんやろ・・・?・・・・・・さっさと消えてくれへん?」
亮が闇に溶け込み始めた男に対して言う。その言葉を聞くと同時に、男の姿は消えていく。
そして彼自身の意識も闇にフェードアウトしていく・・・・・・。




暫くその場で倒れこんでいた。ああ、もう空は白み始めている。
亮は一瞬、家に帰ろうか迷った。
自分のせいで、愛すべき大切なものに危害を加えられては困る。
――――でもなぁ・・・、家帰って、どうしたの?なんて心配されて見たくて。
それは、男として、父として、一度は味わってみたい優越感。
しかし、護るべきものに心配などさせるわけには行かなかった。
それに相方にはもうなにも言えなさそうで・・・・・・。
石の話を淳にしてみようかと、亮は一度思ったのだが、それは良くないだろうと思い踏みとどまっていた。
「知らないほうが良い事もある・・・って訳か・・・」
ゆっくりと、目を閉じる。淳・・・、ごめん、俺・・・。
それは、淳が石を手にする前日の、相方を思う男の孤独な闘い。
464ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/26 21:33:12
投下完了。なんか続けざまに投下しつづけてますね、自分。
来年も宜しくお願いします。
465ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/27 20:44:39
1日たって気付いた、亮さんの能力かいてないじゃん・・・orz
それとまとめサイトいけないんですが・・・、何かあったのでしょうか?

田村亮  能力
石:オドントライト(石言葉は攻撃と防御、別名歯玉石。トルコブルー)
能力:自分の受けたダメージを、攻撃した本人にも負わせる事が出来る。
その際、もちろん亮のダメージが癒える事はないし、仮にその一撃で亮が気絶した場合、その攻撃を行った本人も気絶する。仮に死亡した場合も同じ。
条件:本人がやり返してやりたいと願わなければ発動しない。
また、攻撃を受けた時に既に気絶していた際にも使えない(当たり前)
466ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/27 20:48:00
・・・と思ったら行けました。ナンデダロウ?
467名無しさん:04/12/27 21:52:05
乙!亮いいやつだ…

>まとめサイト
サーバーがメンテ中だったんじゃ?
468名無しさん:04/12/29 01:55:20
乙です!
亮さんはいい人ですね・・・
たとえ内面は葛藤していても引き込むまいとしているところなんか良いです。
面白かったです!
随分間が開きましたが、オパール編の続きを投下させていただきます。



「今、時間大丈夫?」
「これから収録なんですけど、少しくらいなら…何か用っスか?」
数日前、自分の石の能力で後輩のおかしな行動に気付いてしまった渡部は、
事務所の廊下ですれ違った柴田を呼び止めた。

「ちょっとあの石を見せて欲しいんだ」
「何すかいきなり。…別にいいですけど」
突然のことに戸惑いつつも、石を差し出す柴田。
渡部の掌に乗せられたファイアオパールは赤く力強い輝きを放っており、
どう見ても黒い欠片の気配など感じられる様子はなかった。

黒い欠片の所為だとばかり疑っていた渡部は拍子抜けしてしまう。
柴田は不思議そうにその様子を見ていた。
その視線に気づいたのか、渡部は慌てて柴田の手に石を返し、
「ちょっと最近変な事件が多いからさ…そう、急に石が暴走したりするらしいんだよ。
黒いユニットが動いてるんじゃないかって噂でさ、皆の石の点検をして回ってるわけ」
咄嗟に思いついた言葉で誤魔化そうとした。
「大変そうっスね。俺に出来ることがあったら何でも言ってくださいね?」
そう言って浮かべたいつもどおりの笑顔の下で、

―普段は他人を騙すの上手いのにな…今日は調子が悪ぃのか?
誤魔化してるのがバレバレだぜ?

柴田本人とは全く違う意識が蠢いている事に渡部は気づく事が出来なかった。
柴田が立ち去った後、渡部は思考を必死に働かせる。
(あの石からは黒い欠片の波動は感じ取れなかった。それならあの時の嘲笑は何だったんだ?)
現に矢作が何者かに襲われたのは事実。
先輩である上田が苦しんでいるときに心配もせず、薄ら笑いを浮かべていた彼…
上田はあの時感じた痛みがフラッシュバックしてしまい、能力を使うことが出来なくなったらしい。
有田が深刻そうに渡部に相談してきたのはつい先日。
自分の周りの白いユニットのメンバーが次々とトラブルに巻き込まれている。
その事件の痕跡からは、黒いユニットとの繋がりを示す手がかりは全く発見されていないが、
そんな事をするのは彼ら以外に考えようが無かった。

(柴田が自分自身の意志で?…まさか、な。
あいつはそういうやつじゃないってのは分かりきってることじゃないか。何考えてんだろ…)
頭を過ぎった嫌な仮説を振り払うように軽く頬を叩く。
「中途半端に見え過ぎるのも良い事ばかりじゃないな…」
渡部は苦笑し壁に寄りかかり、窓の外の空を見上げた。

窓ガラスに微かに映った自分の顔が、心なしかやつれて見えた。
其れもその筈、身体に負担の掛かる能力を限界ギリギリまで使い、
毎日のように黒いユニットの動きを探っているのだから、
倒れないのが自分でも不思議なくらいだった。

(俺は俺の出来ることをやるしかないんだ)
生まれつきの体質からか、石についての知識は一般の能力者よりも詳しい。
今となっては完全に白いユニットの中心人物となってしまった
自分の立場に複雑な思いを抱きつつ、精神空間で対峙した
未だ顔の思い出せぬ人物のシルエットをぼんやりと頭に思い浮かべてみる。
突然頭の中にあの時の男の言葉が響いてきた。

『裏切り者は意外と近くにいるものだぞ?キリストを裏切ったユダのように…』

「ユダ…か。何もしなきゃ何も解決できないもんな…」
渡部は何かを決心したように呟き、携帯を取り出しメールを打ち始めた。
バラエティ番組の収録の為、アンタッチャブルの二人は事務所からテレビ局に移動していた。
案内された楽屋で番組のユニフォームである白いつなぎに着替える。
携帯でメールのやりとりをしている山崎を横目に、柴田は胸元の石を握り締めていた。
この石を手にして以来、常識からかけ離れた現象を体験してきた。
理不尽な理由で襲ってくる黒いユニットのメンバーと直接戦わなければならない事もあった。
それ故に多少の現実離れしたことには動じなくなっていたのだが、
今自分に起きていることは流石に気にしないわけにもいかないだろう。
ここ数日間の記憶が曖昧なのだ。まるで編集でカットされたように、
数分間、時には数時間の記憶が無くなっている事もある。

「なぁ、山崎…最近何か変わったことなかった?」
仕事詰めで最近一緒に居る時間の多かった相方に声を掛けてみる。
「どうしたの急に?」
よほど重要な内容なのか、山崎は真剣な表情で画面を見ていて携帯から目を離そうとしない。
柴田の手の中の石が鈍い輝きを放つ。
「…いや、ちょっと聞いてみただけ」
山崎に言ったらきっと無駄に心配をかけるだけだろうと思い直し、適当に誤魔化した。
それすらも彼の意志ではなかったのだが…
石の意志は柴田の思考に深く入り込み、彼の行動や記憶、
思考に至るまでほぼ全てを意のままに操っていた。

―勘付いたところでオマエに抗う術は無いんだよ。
そろそろアイツも限界だろう。楽にしてやるとするか…

柴田の中に巣食う石の悪意は、
今日の収録に一緒に出ることになっているある人物を思い浮かべていた。
「矢作…今日は大丈夫?」
「ああ」小木の問いかけに返ってきたのは短い返事。
あの事件以来、矢作はずっとこんな調子だった。
ライブや収録のときは仕事だと割り切っているかのように今までと変わりない様子なのだが、
楽屋やプライベートでは殆ど口を聞こうとしなかった。
まだ心に受けたダメージが残っているのか、
いろいろな人に相談してみたものの未だに解決する術は見つからない。
「収録、頑張ろうね…」
返事が返ってこないのを承知で、小木は寂しく呟いた。

柴田との一件以来、矢作は常に言い様の無い不信感に襲われるようになった。
話しかけてくる誰もが、内心では自分を馬鹿にしているのではと疑ってしまうのだ。
相手が例え相方である小木であったとしても。
それ故あのとき楽屋で何があったかについて訊かれても、
『言ったら馬鹿にされる』『誰も信じるな』と
強く頭の中に響く何者かの声が答えさせてくれないのだ。
明らかに根拠の無い理由なのにそれに抗うことが出来ないのは、
矢作自身の石の能力に掛かった者の心理状態そのものだった。

「おぎやはぎさん。収録始めます」
「あ、はい。直ぐに行きますんで…」
スタッフの呼びかけに答える矢作は「仕事の顔」になっていた。


今回は此処までです。
だらだらと話が延びてしまって終わりが見えません…
長い上に話が迷走中ですが、生暖かく見守っていただけると幸いです;;
473名無しさん:04/12/29 15:26:58
乙です!
続き来ましたね〜やっぱり文章が読みやすいです。
ちょっとずつ自体が動き出してきてますね!
楽しみにしてます!
474名無しさん:04/12/29 16:29:58
新作お疲れさまでございます。
新年間近に物凄くはらはらさせていただきました。
早くも続き気になります。
475名無しさん:04/12/29 17:39:39
乙です!なにか動きだしていますね…どきどきする。
渡部さんも大変そうですね。児嶋さんも出てきて欲しいです。
476ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/30 15:26:25
年末にこんにちは。年の瀬も迫っています。
暇を持て余していたもので、続きを書いていたら物凄く長くなってしまい、最初の方だけ
投下してしまおうと言う次第です。
ストーリーが異常に長い為、このストーリーには一応「God bless you」と言うタイトルがついてます。
何度も投稿してウザイかも知れませんが、お付き合いください。


〜密会〜


「最近うちの相方がおかしい」
そんな芸人達が増えていた。それは、嵐の前の予兆なのか?
ある種慢性的な職業病だよな・・・、と誰かが呟く。
「ならうちの相方も、職業病なんかなぁ」
全く覚えはないのに、なんだか冷たい。特に、昨日は・・・。

うちの相方、とはもちろん淳のことである。そして、それを考えていたのは亮。
なんと言っても亮のことが好きとテレビでも言うくらいの相方である。
自分を何時も大切にしてくれる、かけがえのない相方である。
自分のことを今までも、これからも背負ってくれる優しい相方である。
その相方が、昨日だけはいつもより冷たい瞳を翳していた。
それは、自分の持つ魔性の石・オドントライトの蒼よりも、深く暗い冷たさ。
嫌な予感が頭からずっと離れなかった。
彼が仄かに見せた、新しめの携帯電話と、それに付けられた石のストラップ。
石が光った所をみていたわけではない。しかし、石を見ただけでもう恐怖は迫っている。
もしも、石を狙って黒の刺客が現れたら。もしも、淳が石の力に気付いていなかったら。
淳に何かあったら・・・。どうしよう。思考錯誤。
477ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/30 15:27:15
なんでこんな物と出会ってしまったんだろうか。
亮はたびたび思うようになっていた。
もしこんな物を手にしていなかったら、今でも自分はきっと平穏の中に暮らしていたはずだ。
しかしそれも偽りの平穏か・・・。あるいは、知らないほうが良かった世界。
こんな恐ろしい闘いには、さっさと終わってほしくて。それで、亮はずっと考えこんでいた。
そんな時だった。

『亮、明日空いてる?』

彼が信頼すべきであろう人間からの接触。
それが、この日の昼過ぎ、とあるカフェテリアで落ち合う事になった約束。
亮は早く来すぎていた。まだ10分はある。
窓際の席に1人佇み、珈琲を飲みつづけていた。
空いてますけど、なんですか?と言うか、なんで番号知ってるんですか?
そんな突っ込みは届かない。
・・・・・・それからしばらくして。
――――カラン。
「いらっしゃいませ」
小洒落たカフェに、強面の男。全く似合わないな。そうぼやきながら、男が2人入店してきたのが分かる。
「・・・ったくよ、なんでこんなとこで落ち合う事にしたんだお前は?」
何を考えたらこうなるんだろう、とでも言いたげに、1人はむくれつつ。
「まぁまぁいいじゃん?俺今度ここでちょっと・・・さ、んんん?」
もう1人はややにやけている。
どうせまた女絡みだろう?もうやめてくれよ、と言う悲鳴にも似た突っ込みが聞こえた。
478ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/30 15:28:42
「・・・・・・あ」
「なんだ?もう来てたのか?」
「・・・・えぇ、まぁちょっと前から・・・」
男3人で、カフェテリアで密会。一体どうやったらこんなシチュエーションが成立しようか。
わりぃな、また仕事が立て込んでて、なんて言葉が交わされている。
ずっと珈琲を啜っていた亮の前に、2人の男。
片方は不機嫌そうに髪を掻いていて、もう片方はまだにやけている。
その廻りに漂うのは『白』には似合わぬ、疲れが見える黒いオーラ。
流石邪悪な・・・、と亮は思った。その風貌は一見すればまさしく今だ海砂利水魚であろう。
改め、くりぃむしちゅーの2人が、ようやく到着した所だった。

「ホラ、さっさと座ってコーヒーでも頼もうぜ?俺疲れたし・・・」
有田が上田を急かして座らせた。
全く落ち着きのない、との呟きが聞こえたのを、亮は聞こえない振りをする。
「わーかったっての!はぁ・・・俺も疲れてんだぞ・・・」
彼も苦労人のような気がする。

2人とも座り、コーヒーを2杯、ウェイトレスに注文している。
一通り終わり、落ち着きを取り戻した所で、やっと話が始まるのかと思えば
「なぁ・・・上田?」
「・・・んだよ」
「あの子、かわいくねぇー?」
「・・・あのなぁ、俺達なんのために来たと思ってんだ?」
「分かってるってぇ!・・・でもさ、かわいかっただろ?」
「お前分かってねぇよな。」
以上のような会話がなされており、亮はただ聞きながら笑っているだけ。
一体、この組み合わせが何の為に集ったんだか・・・。と誰かが突っ込みたくなるような状態だった。
と、不意に上田が顔を上げる。「亮」と、短く呼びかける。
479ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/30 15:31:46
ハイ、と言う返事を確認して、密かになにかを囁く。――――見張られているかもしれない、と。
不用意には話を進められない、と理解し、亮が頷く。
全てを確認した上で、溜息を軽くついてから有田が話し出す。
「やっぱ、さっきの子かわいかったって」
「・・・・・・俺は最初の子の方が好みだな」
こんな会話で、果たして本当にカムフラージュになるのであろうか。

――――カラン。
「いらっしゃいませ・・・?」
現れたのは、何処かで見た事のある2人組だ。
「あっ・・・、握手してください!」と思わず店員が話しかけるも、それをスルーして2人は歩き出す。
ゆっくりだが、辺りを見まわしながら歩きつづけている。
――――何かを探すように。
徐々にその気配は近づいてくる。石を持つものに対する、殺意のような気配。
「・・・つけられてたのか・・・?」
上田がやや悔しそうに呟く。
元からこの店になにかいる気配を感じていたのに。それは違ったのか?と。
「やばいかも?」
「あぁ、準備しといた方が良いんじゃねぇか?」
暢気なように2人が会話する。亮は目が泳いでいる。
そして見つけたような気がした。見覚えのある、昨日と同じ冷たい瞳を。
男達はそろそろとこちらに向かってきている。通路の方から仄かに赤い光が放たれ始める。
「来るぞ」
しかし、その忠告は遅すぎた。
言葉が耳に入った瞬間には既に、目の前に赤い影が飛びこんでいたのだから。
480ブレス ◆bZF5eVqJ9w :04/12/30 15:33:15
派手に吹き飛ぶ窓硝子。これまたど派手な衝撃音。
走りこんできた赤い影の一撃は、どうやら亮の頭上を超えて外れ、硝子を突き破ったようだった。
刹那に飛び交う厳しい視線。
店内には幸い客もおらず、先までいたはずの店員達も消えている。
「誰もいない・・・?」
「まぁいいじゃねーか?誰にもこの事ばれないしよっ」
「・・・こう言うときだけ前向きに考えても意味ねぇんだよ」
3人はそんな会話をしながら椅子から立ちあがり、通路に残ったもう一人を見つけた。
「久しぶりじゃねーか?」
との有田の問いかけに短く「そうですね」と答えたのは、テツアンドトモのトモこと、石澤。
しかしその目はいつもとは違い、酷く感情がない。
「一体、なんの用だよ?お前等何しに来た」
「答える必要はありませんよ、これから、身をもってそれを知るんですから!」
石澤がいつもよりも勢いの良い声で3人を脅している。
「でも、その格好で何ができるってんだよ?」
と、適確に有田が指摘する。
見れば、彼はいつものジャージにいつものギターを抱えていた。
「それは今から分かりますよ・・・」
「へぇ?ってことは・・・、自信あるのか・・・」
恐らくは、戦闘向けの能力使い・・・、或いは強化系か?
ざっと先輩二人が身構えたのを見て、亮も覚悟を決める。
次の瞬間、目の前の景色が凄い勢いでずれていくのを、亮は見た。
そして視覚より後についてきた腹部の痛み――――。
「り、亮っ??!」
視界の外に消えていた先の赤い影、テツこと中本に脇腹を蹴られていたようだ。
そして、その中で亮は、赤い光を浴びている中本を睨んでいた。


・・・テツトモ出しちゃいました。毎度長々とごめんなさい。
481名無しさん:04/12/30 23:27:00
乙です!
まさかテツトモが出るとは思いませんでした。意外な展開です。
でもとても楽しいです!!
続き頑張ってください!
482 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/01 21:08:14
あけましておめでとう、というわけで今年もよろしくお願いします。
ほしゅがてらちょっとバナナマンの短編を投下したいと思います。



鬼唄

その日、レギュラー番組の収録でテレビ局にやってきた日村は、すこぶる機嫌が悪かった。
カメラの前ではいつも通りだったのだが、休憩中はスタッフが近付くのを躊躇う程にイライラとした様子で、日村の周りだけピリピリとした空気が漂っている。
収録は無事終わったが、それでもまだ日村のイライラは収まっていないようだった。

彼がここまで苛立っているその理由。それは、今芸人達の間でばら撒かれている物・・・・・・特別な力を持った石だった。
昨日、疲労困憊の様子でやってきた後輩――――誰かはあえて言うまい――――に意味無く能力を使わされ、おまけに材料費まで払ってちゃんこ鍋を作ってやったばかりなのだ。
しかも、今までは2人だったのが4人に増えて。
(自分の体力回復の為に人を使うなこのバカ!)
何かとてつもないものと戦っているらしい後輩達には言えなかった愚痴を、心の中だけで吐き出す。
今まで数回彼の元を訪ねてきた2人がなぜいつも疲れきった様子なのか、なぜ傷だらけなのか、日村は1度も聞いた事が無い。
自分を巻き込まないように気を使って黙っているのだと、分かっていたから。
それでも、能力の代償である疲労感に悩まされていると苛立ちが募ってくる。
(それに・・・・・・)
帰り支度をしながら目の前にチラリと視線を向け、日村は小さく溜息をついた。

石を持っていると、自然と石を持った芸人達に関する情報が集まってくる。
ただ、今自分の目の前に座っている相方――――設楽に関する事は、全く謎のままだった。一番近い位置に居る自分ですら、石を持っているのかさえ見当がつかないのだ。
急激に付き合いが悪くなり、ここしばらく相方にも関わらず仕事の話と簡単な世間話しかしていない。
その世間話にしても、「血液型がO型同士は相性悪いらしい」だとか「今週の星占い、双子座運勢最悪だった」だとか微妙にケンカを売るような内容ばかりで、余りの態度の変化に作為的なものさえ感じていた。
483 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/01 21:10:23

「――――村?・・・・・・お〜い、日村さ〜ん?」
呼びかける大きな声ではっと我に返った日村は、一瞬声の主を探して視線を彷徨わせた。
「・・・・・・何キョロキョロしてんの?」
次の瞬間目の前から聞こえたその声でようやく相方に声を掛けられたのだと認識し、目を丸くする。
「・・・・・・何で驚いてんだよ」
「あ、いや、別に・・・・・・何?」
向こうから話し掛けてきたのが随分久しぶりだから驚いたのだが・・・・・・訝しげな目で見てくる相方に、日村は思わずごまかして視線を逸らした。
「これ、やろうと思ってさ」
そう言って設楽が差し出してきたもの・・・・・・それは、少し厚みのある雫型の木の葉だった。
「・・・・・・葉っぱ?」
「そう、トベラって木の葉っぱ。昔は、これを家の扉に挟んで『鬼払い』に使ってたんだと。・・・・・・やるよ。鬼が近付かないように」
「・・・・・・はぁ!?」
一瞬ぽかんとした表情で目の前の相方を見つめた日村は、一瞬の沈黙の後その言葉の意味を理解すると、素っ頓狂な声を上げた。
「鬼ってお前」
んなもん本気で信じてんじゃねぇだろうな? そう言いかけて、なぜか言葉が喉に引っ掛かる。
理由は自分でも分からなかった。
・・・・・・もしかしたら、やけに真剣な設楽の表情のせいだったのかもしれない。
「ま、お守り代わりに財布にでも入れとけよ。じゃあ、お先に」
一足先に帰り支度を終え横を通り抜けて歩いていく設楽の背中を、日村は思わず呆然と見送った。
パタン、と殊更静かに閉まるドア。

『鬼が近付かないように』

「・・・・・・ワケ分かんねぇよ」
呟いた日村の髪を、換気のために開けられていた窓から不意に吹き込んだ強い風が揺らしていく。
一瞬の間の後、日村は鞄から財布を取り出すとその中にトベラの葉を入れた。
484 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/01 21:11:50




大昔の人間は、毒見役の事を【鬼食い】と称したらしい。この場合の【鬼】とは、毒見役そのものを指す。
安全かどうか分からないものを一番最初に口にし、毒の有無を確かめる者。
そういう意味では、彼もまた【鬼】なのかもしれない。
だが、それならばなぜ彼は相方に【鬼払いの葉】を渡したのだろうか。

「満月、か・・・・・・?」
テレビ局から外へ出た設楽は足を止め、夜空を見上げた。
闇の中輝く丸い月が一瞬相方の丸い顔と重なって、思わず苦笑する。
だがその苦笑は一瞬だけで、直ぐに元の表情に戻った。
(気付かれたらいけないな・・・・・・絶対に)
眩しそうに目を細めて視線を戻すと、再び歩き出す。吹き付ける風が、少し冷たかった。

『そんな顔ばかりしていると、心まで冷たく固まってしまいますよ?』

いつだったか書きあがった「シナリオ」を読んでいた自分に、いつもの感情が見えにくい表情ではなく、精一杯の心配を込めた顔でシナリオライターが言った言葉を思い出す。
あの時は笑ってごまかしたけれど、その言葉はなぜか強く印象に残っていた。
「――――」
ふっと口元に笑みを浮かべ、微かに何かを呟く。
いっそ冷たく固まってしまえたら――――誰にも聞こえない程小さな声で、そう呟いたようだった。
歩みは止めずに、ポケットから携帯を取り出す。やらなければいけない事は、まだあるのだ。

――――設楽が見せた酷く寂しそうな笑みを、夜空に輝く丸い月だけが見ていた。
485 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/01 21:13:48
新年一番乗りしようとか無茶な事を考えてしまったんで荒削り、というか設楽さんがちょっといい人になってしまったんですが、都合が悪ければスルーしてださい(ニガワラ
486ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/01 22:02:51
乙です!
バナナマン短編はなんか新鮮に感じますね。
ちゃんこ鍋で笑かしてもらいました。
487ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:25:27
あけましておめでとうございますを前回言いそびれたブレスです。
かなり速いペースですが、続き投下しちゃいます。
(まぁ、この話は今メインの話の過去で進んでるんでどんどん進んだ方が良いかな、と
思っているところもあるのですが・・・。)
関西弁やトモさんのテツさんの呼び方とか曖昧ですが、どうぞ。

〜戦闘〜



その一撃で、亮は物凄い衝撃と共に吹っ飛んでいた。
自分に一撃を与えた本人、中本はと言えば、加速が早すぎたのか、亮と一緒に店内へ滑りこんでいく。
ちょうど着地点付近にあったテーブルに、2人が叩き付けられていた。
「・・・っ!」
「亮!大丈夫かっ!?」
心配そうに叫ぶ上田。
亮は一瞬、意識を無くしかけたが、その一言に目を覚ます。
――――敵がいる。倒れている場合では無いんだ・・・。
「頼むで、ほんま・・・」
自分の右腕に収まる腕輪に願をかける。
急激に石から蒼い光が零れだして、所有者である亮の体を包み込む。
再び場を襲う、強い衝撃。自分の隣で中本がその衝撃をもろに受けた事が分かった。
「てっちゃん?!」
今度は石澤が叫ぶ番だった。
488ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:26:02
「・・・亮、お前・・・、そんな力が有るなんてな・・・」
知らされていなかった亮の能力を目の当たりにして放たれた、驚き。
「心配せんと大丈夫ですよ」
先輩達の不安もよそに、痛みに耐えながら亮が立ちあがる。
中本は、半ば気絶しかかっていて、かなりのダメージを負っている。
「・・・てっちゃんが・・・てっちゃんをよくも・・・よくも・・・っ」
石澤は怒りに満ち溢れた目線を亮に放っていた。
「トモ、先に仕掛けたのはお前等だろーが。」
それを冷静に上田がいなす。
「五月蝿いぃっ!てっちゃんに傷負わせやがって!
お前ら・・・お前ら許さないからな!!」
かなりの気迫を込めた言葉を、石澤は返してきた。
そして・・・、何を思ったか、おもむろに肩にかけたギターに手を伸ばす。
「どんな能力かしらねぇけど、なんか厄介な気がするんだよねぇ」
「どっちにしろ、それかたすのは俺じゃなくてお前だからな」
上田も有田も、緊張感がなさそうに見える・・・、いや、もっと凄い光景に出くわした事があるのだろうか?
――――ポロン。
不意に、あのギターの音が辺りの静寂を掻き切って聞こえてきた。
「・・・何だ?トモお前ここでソロライブでも始めるつもりじゃあ」
ねぇだろうな?と冗談交じりに上田が問い掛けようとしていたが、それは叶わなかった。
「上田さん〜貴方少し黙っててくださいね〜♪」
物凄く緊張感がなさそうだ。もはや、緊張感がどうという話では無いとは思うが。
だが、その一言がこの状況にもたらした変化は、素晴らしい物だった。
石澤愛用のギターピックが、ジャージより少し薄そうな蒼に光った途端に、上田が黙りこんでしまったのだ。
489ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:26:59
「「・・・?」」
有田が眉を潜める。石の力・・・?とはいえ、相手を黙らせるだけなら特に戦闘向けでは無い。
亮はと言うと、上田の顔をそっと見つめている。
「うちの相方の顔凝視すんなよぉ・・・、面白い?」
「そうじゃないですよ!なんか・・・目が、とろんとしてる様に見えません?」
「・・・目?」
「そう、まるで――――」
「――――操られてるみたいだよな」
亮と有田は、そこまで言った後お互いに顔を見合わせ、そして石澤を睨んだ。
「お前まさか?」
「・・・そうですよ、そこまで言ったんならばれたも同然ですもんね・・・」
2人の推測が正しい事を、石澤はあっさりと認めた。相当の自信があるのだろう。

操る力・・・これ以上、厄介な能力もそうないだろう。
仲間同士を相討ちにする事も可能な、かなり悪質な能力である。
「ちっ、ムカツクな、お前さ」
有田がかなり険しい顔をしていた。相当やり辛いのだろう。
相方に目を向けて、そっと合図を送ってみる・・・。何の反応もない。
「このまま貴方達は〜上田さんにやられちゃってくださいな♪」
かっと光る蒼い閃光。そして、相方に一撃を与えようと、上田が有田に向かって走りこむ。
「有田さんっ!避けて!」
「うぇっ?!」
亮が有田をかばい、その一撃をまたも腹部に受けていた。
流石、高校時代ラグビーをやっていた人間である。
その勢いから放たれたタックルは、歳相応とは思えないほどに重かった。
490ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:27:37
「・・・っ!」
「亮!上田!!」
彼ほどの意思の強い人間も、隙を作ったが最後。そう思い知らされた。
「お前・・・、やめろよっ!」
強く呼びかける静止の声。
「無駄ですよ!今上田さんは僕の操り人形も同然ですからね」
「・・・そんな・・・」
そして、傍らの中本もようやく立ち上がろうと言うところだった。
「・・・テツ」
厄介な事になっていた。
亮は上田に再び追われていたし、有田はたった今中本に狙われているところだ。
そして、その光景を遠巻きに、1人の男が眺めていたが、それは誰も気付かなかった。

「もう止めてくださいよ上田さん!」
そう言いながらも、亮はこの状況をどうしようか悩んでいた。
『上田さんを操っているのはトモさん・・・つまり、トモさんをやっつければ!』
以上のような結論に達し、亮はすかさず
「ちょっと上田さんをなんとかしてくださいよー!!」
と相方・有田に叫んでいた。
その有田と言えば、赤ジャージを少し汚した中本と対峙している。
中本が、自分の腕にはめたややごつめの腕輪にゆっくりと精神を集中する。
そこにおさまる紅い石・トパーズがジャージに似た赤を放ち始めていた。
「さっきの一撃で分かってる・・・、強化系だろ?お前」
「まぁ、そういう事になりますかね?身体能力を上げるだけなんですけどね」
紅い光が、ゆっくりと中本を包んでいく。
――――マズイな・・・、このままじゃ勝てない・・・
有田は、自分のズボンのポケットにしまってある石を取りだし、そっと力を込める。
「頼むぜ、パイライトさん・・・」
が、しかし。
目の前に対峙する、この赤いジャージの方が行動は先だった。
491ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:28:15
――――速い。避ける事も、受身も不可能だろう・・・。
その時だった。
「有田さぁぁあん!そこどいったってくださいっ!!」
「・・・・・・・・・は???」
その声がした方向を向けば、亮が深い蒼の光に包まれながら有田と中本の間に割って入るところだった。
後ろから追うは上田。
どちらもかなり走り回っていた様で、疲れが如実に表れている。
かっ、と一瞬全ての視界を遮る蒼い閃光。
そして――――中本が有田に放ったはずの攻撃は亮が防ぎ、中本は再びカウンターを受けていた。
更に後ろから飛び掛ってきていた上田の存在を忘れていたが、彼もまたカウンターで後ろに吹き飛んでいた。
がしゃあん。どさっ。とあちらこちらから衝撃音。
「なんで上田まで・・・」有田が密かに呟いていた。
今まで何度か攻撃を防ぎ、亮の力には限界が近づき始めている。
それは、客観的に見ても明らかだった。額に汗が滲む。
「・・・大丈夫か?亮」
「まだ・・・まだ大丈夫です・・・後1回位なら・・・」
と言いながらも、亮がその場に崩れ落ちかける。それを有田が支える。
「ぜんっぜん大丈夫じゃねぇじゃんか!」
「・・・まだ・・・、まだ倒れるわけには・・・!」
「亮っ・・・!!」
亮の気力にも限界が来ていた。
そんな時。

――――亮君・・・・・・。

「・・・淳・・・?」
――――亮君・・・、亮君・・・!
「淳・・・淳が・・・どっかにおる・・・?」
何処かから、相方の声が聞こえてきた。幻聴で無ければ良いのに。
そして、その場に居る筈の無いその姿を、亮と有田は見つけた。
「淳・・・」「なんでお前が・・・」
そこにいたのは、まさしく田村淳その人。2人は、淳の方へと一度向き直った。
492ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/02 16:29:31
以上、「God bless you」[2]投下完了!
かなりのハイペースで落して、すいません。
493名無しさん:05/01/02 20:48:38
まとめて感想書きます。

: ◆8Y4t9xw7Nw さん
乙です!
良いですよいい人に書いたって!
というかそれが救いですよ。ホント。
他は冷酷なんですから(笑)ここぐらいは!

ブレス ◆bZF5eVqJ9w さん
乙です!
まさかあそこで淳が出てくるとは思いませんでした・・・!
今一番続きが楽しみです!
>>409-414 の続き

廃工場の裏門から敷地を出た設楽は、外界の目映さに思わず目を細めた。
別に夏場のような燦々とした日光が降り注いでいる訳ではなかったが、今まで薄暗い工場の中にいた事と
赤岡の石の放つ光が漆黒だったのとが手伝って、余計眩しく見えるのだろうか。
「・・・さぁて、と。」
しばし目が明るさに慣れるまでその場に佇み、チラリと今まさに後にしてきたばかりの工場の方を
振り向いて見やると設楽は小さく呟いた。
「これから、どうなる事だろうねェ・・・。」
鬱陶しい白の連中が消えるか、それとも彼が先に消滅するか。
これから廃工場の中で繰り広げられるのであろう茶番劇を想像すると、
どうしてもニヤニヤ笑いが設楽の口元に浮かんできてしまう。

小沢の性格を考え、もし彼が虫入り琥珀が赤岡を喰っている事に気付くならば、
これ以上赤岡が虫入り琥珀に己の存在を喰い尽くされるのを防ごうとするだろう。
それは小沢の同行者と予想される江戸むらさきにとっても同じ事。
ほぼ同期で付き合いも長い相手が消えようとするのを放っておけるほど、冷淡な振る舞いはできない筈。
しかしそんな彼らの気遣いも、今の赤岡にとってはただ手加減をしているだけに過ぎない。

赤岡が石を扱う事に慣れているのは、黒のユニットの下っ端の石の使い手が彼らに石を狩られたという
報告が幾つか舞い込んでいる事、そして設楽自身が実際に相対してみた事から十分に確認済みである。
その上で芸人として消えたくないが為に、自身の存在と知名度を犠牲にしてきた男は
今や黒の勢力こそがその不安を解消し、彼と相方を救う存在と信じて全てをなげうってでも戦う闘士。
そう易々と屈する事は、ないだろう。

「これは是非とも見物したい所なんだけどねぇ・・・。」
工場から視線を外し、愚痴めいた呟きを漏らした設楽の言葉に嘘はない。
けれど生憎と黒のユニットの幹部である以前に多忙な芸人である設楽には、のんびり彼らの戦いを
鑑賞していられるほどの時間は余っていなかった。
それに、日村に。黒の石使いとしての姿を隠し、あくまで何事もなく向かい合っている相方に
あまり余計な心配を掛けさせないためにも、ここは深入りするべき時ではないだろう。
とはいえ好奇心はそう簡単には押さえきれず、元来た方向・・・事務所の方へと歩き出しながら
設楽は携帯を取りだした。
そのまま無造作にメモリーを操作し耳元へ持っていって、十数秒。
通話に応じた相手に、そっと設楽は呼び掛ける。
「・・・やぁ、淳くん? 元気?」

『何の、用っスか?』
この挨拶で話を切りだされた時はロクな事にならない。
そんな経験則からか、携帯から聞こえてくるのは憮然とした、声。
「いやいや別に・・・ただちょっと、頼まれ事をして欲しいだけだよ。」
相手の苦々しげな対応に思わず苦笑を口元に浮かべ、設楽は軽い口調で告げた。
『・・・・・・今、ロケの真っ最中なんですけどね。』
「でも携帯に出られるって事は、休憩してるんだろう?
 今すぐ誰かの石を奪ってこいとかそう言う話じゃねぇから、ちょっと頼まれてちょうだいって。」
そっとソーダライトの力を開放しながら呼び掛ければ、相手・・・ロンドンブーツ1号2号の田村 淳も
渋々と言った様子で頼み事って何ですかと言い返してくる。
これは設楽の石の能力という以上に黒のユニットの一人であるからは、いくら嫌であっても
設楽に逆らい続ける事は決して上策ではないという彼なりの計算からだろうか。

「ん、君の石の力で・・・今から言う人間の思考を読んで欲しいだけだよ。」
そう。淳の持つ石はトパゾライト。狙った人間の思考をメールの形で得る事が出来る能力を秘めている。
設楽の言葉に、どうやら今回は仕事を長い間中断せずに済みそうと察し、淳は安堵の吐息を漏らした。
『別にそれなら構わねぇけどさ。それを使って・・・またこっちに来いって強請るンでしょ?』
ったく、どんだけ人を集めたら気が済むんですか。
けれど、続けて発せられる呆れたような呟きを付け加えつつの淳の言葉には、
どこかげんなりとした響きがこもっている。
『集団が大きくなりすぎると・・・どこかで歪みが生まれていつか分裂しちまうんだぜ?
 まさかそんな事がわからねぇあんたじゃねぇと思うけど・・・。』
「もしかして、心配してくれているのか?」
『・・・んな訳ねーよ。』
もしも携帯抜きで向かい合っていたのなら、フンとそっぽを向いただろう淳の素っ気ない反応に
設楽はフフ、と小さく笑った。
「まぁ・・・今回は単に彼が10分後にどんな状況でどんな思考をしているかを知りたいだけだから。」
罪悪感とかそう言うのは抜きにして、サクッとやってくれ。
相手が納得したかどうかはわからぬままに設楽はただそう言うと、淳が石を使うために必要な条件である
思考を読む相手・・・赤岡の名前を彼に告げた。
ここで小沢の名を告げなかったのは、設楽に無意識ながら小沢が自分に対しどう思っているかを
知る事への怖れがあったのかもしれないけれど。
『アカオカノリアキ・・・ねぇ。誰っスか? こいつ。』
告げられた固有名詞を反芻し、淳はすかさず設楽に問い返す。
元々接点が少なく面識がないだろう事を差し引いても、スタッフ? と普通に淳に言われている辺り
赤岡の存在とそれを維持する記憶はかなり薄れてきてしまっているのだろうか。

『相手の事がわからねぇと力が上手く働かないの、あんたも知ってンだろ?』
「・・・例の欠片の力でそこら辺は補えるだろう。」
『そりゃそうだけどよ・・・。』
欠片を口にした時の不快感を思いだしたのか、淳の口調に苦い物が混じる。
「まぁともかく・・・変に詮索すると、アレだからな?」
『あー、はいはい。わかりましたよ。わかりました!』
単に説明するのが面倒だったという所も多少あっただろうが、僅かに声に凄みを潜ませる設楽に
やりゃいいんでしょ、やりゃあ。と淳は慌てて言い返し、そのまま通話を切ったようだった。
ツーツーツーと聞こえる電子音に設楽は小さく肩を竦めると、携帯を一旦上着の胸ポケットにねじ込む。

淳と会話をしている間に、いつの間にか設楽は大通りに出てきたようだった。
昼間ではあるが通りを行き交う車の量は多く、騒音とうっすら臭う排気ガスが
しばし石の力のコントロールと淳の方へと向けられていた設楽の意識を刺激する。
「・・・・・・・・・・・・。」
にわかにこみ上げてくるのは、強い不快感。
酒に悪酔いした時とも異なる、何か自分の体内に蠢く物が存在しているのではと思いたくなるような感覚に
設楽は眩暈すら覚え、蹌踉めくように間近の街路樹へと歩み寄ると、その幹に左手を付いたまま
ズルズルとその場にしゃがみ込んだ。
「う゛・・・・・・くぅっ・・・」
この不快感から開放されるには、ただそれが収まるまで耐えるか、それとも原因を取り除くか。
設楽は口を開くと躊躇なく右手の中指をその中・・・いや、その奥の喉の方へと突き入れた。
指先によって刺激された喉の筋肉はピクリと痙攣し、胃の方から流動的な物が逆流してくる。
口から指を抜き、設楽が吐き出すのはどろりとした黒い物体。
先ほど赤岡の目の前で彼が飲み込んで見せた黒い欠片だった物であった。

「はぁっ・・・はぁっ・・・・・・・・・」
口元を手の甲で拭い、ゴホゴホとむせかえりながら己の胃液混じりの黒い物体を
設楽は焦点の合いきらない目で見やる。
最初こそどろりと粘性を保っていた物体も、外気に触れると最初のガラスのような堅さを取り戻したらしい。
まったくもって謎の多いこの欠片であるけれど。黒のユニットの幹部として黒い欠片を幾人もの芸人や
それに関わる人物に渡し、飲ませてきた故にこの欠片がどのような力を持っているのか、
設楽も完全にではないながらも把握できていた。
その効力の一つが、服用者の思考停止。
物事を成すために他人を操る分には役に立つ力ではあるだろうが、だからといって彼自身までもが
自我を失う羽目になる事は設楽としてもどうしても避けたい所であった。
この、自分にとっても是とは言えない黒の欠片を他の人間に大量にばらまき飲ませるという
矛盾した行為を自分勝手と言われれば、確かにそうかもしれない。
けれど。
いずれ来るだろう本当に重要な局面で、誠に自分の意志からなる選択をするためにも。
黒い欠片に、黒に染まった石に、今はまだ己を飲まれるわけにはいかないのだ。

ともあれ黒い欠片を吐き出した事で、設楽の抱える不快感や眩暈は一気に和らいでいく。
事務所の辺りまで戻り付く頃には、もう何事もなかったかのようにしていられるだろう。
ゆっくりと設楽が立ち上がり、視線を目の前の街路樹の幹から進むべき方向へ向けた、その時。

「・・・イト・・・リ?」
彼の視界のど真ん中に、見慣れた男の・・・井戸田の姿が映っていた。
498 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/03 16:00:43
ブレスさんお疲れ様です。といいつつここで1つツッコミを・・・・・・
アクアマリンで作っちゃったのかよ!!(ギターピック)

そして、テツトモの本を持ってる身としてちょっとした補足を・・・・・・
補足1・そういえば、トモさんはネタではピック使わずに手で弾いてるようですね(そのせいで手から血が出た事もあるとか)
補足2・トモさんのテツさんに対する呼び方は「てっちゃん」でいいはずですよ。
・・・・・・なんか文句みたいに見えちゃったらすいません。それでは。
>>497

「あっれー、設楽さんじゃないですか。どうしたんスか、こんな所で!」
小沢からの電話を受けて廃工場へ駆けつけようとした面々の中で、本人に責任はないとは言え
一人だけ出発が遅れたそのタイムラグを取り戻そうと彼なりに一生懸命なのだろうか。
呼吸を荒げ、汗も額に滲ませたままで井戸田は設楽に問いかける。
「もしかして・・・今、何か吐いてませんでした?」

「・・・・・・あぁ。」
先ほど工場の中で感じた駆けつけてくる石の気配は4つだった。
設楽はそれをスピードワゴンと江戸むらさきのそれぞれの石だろうと判断していたのだけれど。
ならば、何故ここに彼の姿があるのだろうか。
・・・いや、そんな事は後で考えればいい。今は、この状況を何事もなく乗り切る事だけを考えなければ。
心配げな表情を浮かべる井戸田の方を向き、設楽は即座に思考を組み立てる。

一つだけ設楽にとって運が良かったのは、目の前にいる者は石の力を使うまでもなく
口先だけでやり過ごす事ができるぐらい素直で単純な男。
「いやさ、昨日貰ったロケ弁を寝る前に喰ったらよ、何か揚げ物に古い油使ってたみてーで・・・。」
今日は朝からこんな感じな訳よ。
念のためにソーダライトをこっそり発動させながら苦笑いを浮かべつつ設楽が言うと。
「・・・・・・マジっすか?」
案の定、井戸田は素っ頓狂な声を上げて、少しだけホッとしたような溜息を付いた。
「ホント身体には気を付けて下さいよ?」
「・・・ありがとう。イトリも気を付けろよ? お前らも忙しいんだから。」
井戸田に気付かれないよう足元の黒い物体を靴の裏で踏みつけ、すりつぶして隠蔽しながら
設楽は口先だけで相手を気遣う振りをする。
「あはは、わかりました。じゃ・・・俺急いでますんで! すいません!」
発した側の思惑は何であれ、設楽の言葉を井戸田は素直に受け取ると本来の用件を思いだしたのだろうか。
ペコッと軽く頭を下げて、設楽に背を向けるとまた走り出していった。
もちろん向かう先は、設楽が立ち去ってきたばかりの・・・そして、小沢達が居る廃工場の方。

一旦走り出せば後ろなど振り向きもしない、井戸田の背中を見送って。
設楽は安堵と石を使用した事から来る疲労の吐息を漏らす。
「ったく、ヒヤヒヤさせやがって・・・。」
こぼれ落ちる呟きは、彼の心からの本心なのだろう。

その場に佇んだまま、もう一度設楽が深く息を付こうとすると。
今度は彼の上着のポケットで携帯が震え出した。
「・・・・・・・・・・・・。」
携帯を取りだして液晶を見やれば、送信者は田村 淳。題名はFw:Re:赤岡 典明。
一度目を閉じ、心を落ち着けてから設楽はメールを開封し、文面に・・・赤岡の思考の流れに目を通しだした。
このメールが設楽にとって吉報となるか凶報となるか。まだ、誰にもわからない。
ちょっぴり遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。
今回はここまでで、次からはまたバトル展開に入っていくものと思われますが
どうぞ今年も宜しくお願いします。

そしてこっそり500ゲットズザーw
502 ◆8Y4t9xw7Nw :05/01/03 17:37:16
号泣編乙です!
割り込んじゃってすいません(タイミングが悪かった・・・・・・)
淳のメールには一体何が書いてあったのか・・・・・・続きが楽しみです。
503ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/03 21:23:04
まとめて感想。
>ekt663D/rE様
号泣編乙です!
淳さんが出てきたんでいつもよりドキドキしながら読みました。
メールには一体何が・・・?
続き期待しています。

>8Y4txw7Nw様
突っ込みありがとうございます。
ギターピックに埋め込まれた石・・・の予定だったんですが
今見直したら書いてないですね(滝汗)
次で修正とかできたらします。
504名無しさん:05/01/04 10:49:31
保守
505名無しさん:05/01/04 21:50:34
保守
506名無しさん:05/01/04 22:31:08
今日のTBSのドリームマッチで
淳が出川とのコンビで
淳がネタ合わせで大遅刻して
「ヤボ用」って誤魔化してたシーンがあったけど
「設楽さんに呼ばれてたのか?」
と想像してしまった。
影響されまくりだw
507名無しさん:05/01/05 01:11:06
ttp://cat.oekakist.com/Gpos/bbsnote.cgi
絵師さんこっちもヨロage
508名無しさん:05/01/05 01:47:17
>>507
ここに貼るなよ。余計に描き込みづらくなる。
509ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/07 22:31:23
こんばんは、ブレスです。
今日は笑金面白かったよ記念?って事で「God bless you」[3]落します。
>>476-480が[1] >>487-491が[2]ってホントにハイペースで申し訳ない)
自分のやりたかった事が出来ましたが、クオリティ的に自信ないです。
とりあえず暇つぶし程度にどうぞ。


〜God bless you〜



淳と亮と、そして有田は、互いに向き合いながら、そして睨み合っていた。
先程までとは違う、静寂が辺りに漂っている。
「お前まさかと思うけど、『黒』のメンバーなんかじゃ無い・・・よな?」
唐突に有田が聞いた。
ここにいるという事は、即ちこの闘いに関係があると言うこと。
自分達は、淳の存在が有ったことを知らなかった。つまり・・・。
「だとしたら・・・、どうしますか?」
「・・・しゃあねぇけど、やるしかねーわな」
有田は、目の前の後輩に、その相方を支えながら勝負する気があることを伝える。
「・・・・・・・・・っ」
淳の顔が一瞬だけ歪んだ。別に本人は、戦う気は一切無い様で。
その時、突然。
「・・・んです」
「え?」
「・・・いいんですよ、有田さん。」
亮が、微かに自己主張する。
「いいって、何がいいってんだよ?」
「別に、淳が『黒』でも『白』でも、いいんです、俺は。
淳は、自分が助かる為に、頑張ってくれればええんです。」
その一言を、淳は何も言わずに黙って聞いている。
510ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/07 22:32:44
「でも――――」
「でも?」
亮がまだ何か言おうとしだす。
「でも、もしその事で淳が困っているんだったら・・・。
淳が、『黒』の人に操られているんだったら・・・」
「・・・亮君・・・」
そんなボロボロになって、まだ俺のこと考えてるのかよ?
淳が、そう言おうとして、不意に自分の頬に手をやる。
――――暖かい。
「淳・・・、どうなんや?」
「・・・っ、亮君!俺は・・・っ!」
はっとする。
もし、このまま黒の言うことに忠実に従い続けなければ、自分も相方も危ないかもしれない。
それでも自分は、自分の命のことしか考えていなかった。
でも、亮は?その、何時も背負っていた相方は?
ずっと、自分の事よりも、何時でもこの相方の事を考えてくれていた。
こんな相方の事を考えてくれていた。
亮――――、何時も大切な、ずっと一緒に頑張った相方!
「亮君!!俺・・・!!」
「わかっとる!」
亮が突然、大声で叫んでいた。
511ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/07 22:33:23
有田も困惑しているようすである。
「・・・・・・亮?」
「お前、きっと『黒』かなんかに脅されて困っとるんやろ!」
「・・・亮君・・・」
亮は、淳のことをずっと見つめながら、喉が枯れるほどの大声で叫んでいた。
「淳ぃぃぃ――――っ!!ええか!?
・・・もし!お前が!・・・『黒』とか、『白』とかっ!そんな事で困っとるんやったら!!」
「・・・・・・・・・亮・・・・君・・・?」
「淳ぃっ!!!
・・・・・・お前を困らせとる奴とか!泣かす奴とか!そういう奴は、俺が許さへんから!」
「・・・・・・りょー・・・くん・・・・・・??」
「別にお前は『黒』でも『白』でも構わへんっ!!自分の為に!頑張ればええねん!
もし!お前が!俺に何かせなあかんかったら!殺したって構わへんからっ!!」
「・・・・りょーぐん・・・・・・っ!」
「もしっ!お前が!困ってるんやったら!!
・・・・・・お前を!お前を俺が助けてやるからっ!!」
「・・・りょーぉお・・・ぐん・・・・・・!!」
「お前をぉっ!俺が!!今度は背負うから!!!背負ってやるからっ!!!」
「りょぉぉおおおおぐぅんっっ!!!」
2人とも、ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、泣いていた。
512ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/07 22:33:59
「そんな友情ごっこはもう終わりですよ!」
不意に聞こえてきた、その言葉。
ぐっと体を締め上げるような音が響いた気がした。
「ぐあっ・・・」
「?!」
驚いて、有田と亮とがその声の方を向いてみると、取り残されていた石澤が、倒れていた上田の首を絞めていた。
「う、上田・・・!」
「大切な相方でしょ?有田さん?ほおって置いたら駄目ですよ」
そう言いながらも、なおも石澤が力を込めて上田の首を締め上げている。
「・・・有田さん、任しといてください・・・、ここは俺が」
と、涙を拭きながら亮が申し出たのを、有田は
「いやいいや。俺も・・・、大事な事思い出したから。」
「・・・大事な、事ですか・・・?」
「だってアイツさっ」
有田が満面の笑みを零して、亮に心配をかけまいとしていた。
「俺の大切な相方で、一番の友達じゃんか!」
そう言い残して、掌に残したパイライトに意識を集中する。
「・・・トモ、俺の相方に手ぇ出したらどうなるか、覚悟しろよ」
不適にも、笑いながら。
全ての意識を眩ませる、強い光が辺りを一瞬包み、それが収まる頃には。
「「・・・・・・消えた!?」」
二人の声がだぶった。
そう、有田の姿が眼前より消えたのである。
513ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/07 22:36:11
「・・・何処に消えたっ?!一体何を・・・?」
自然と、石澤の力が緩んでいる。
その時、ふと、亮は石澤の後ろに何か、大きい気配を感じた。

――――がしゃん。

「・・・はっ?」
気がついた瞬間には、既に時遅し。
何時の間にか、石澤の後ろには大きなレールのような物が天高く建っていた。
そして、それに取りつけられている座席に石澤が固定されている。
亮が思い出す、これは確か――――「スペースショット!」
そう、よく遊園地で見かけるアトラクションの一つで、座席がレールを猛烈な勢いで上昇する、絶叫マシンだ。
けほけほと上田が咳き込んでいる後ろで、石澤が青ざめた顔をする。
「ちょ・・・っ!ちょっと待って・・・!!俺高所恐怖症なんだよっ・・・」
それを見ながら
「・・・・・・ったく・・・、こんな・・・物にまでなれるんだな・・・、お前・・・」
と、ポツリと残された相方が呟いたのを、有田は聞いただろうか?
そして、暫くしてその機械が動き出したのを、亮と上田は、フェードアウトしかける意識で確認した。
その場には既に、淳はいなくなっていた。
上田は、最後の意識で見つけた、何処かへ去っていく影へと一言。
「god bless you・・・」
そう伝え残して、そして大きな音に感覚を遮られていった。

その後、3人が密かに手を結んだことを、淳は自分の能力で知ることになるのだった。
「でも・・・、それでも俺は、俺のために頑張るよ・・・、亮君。」
それが運命の呪縛ならば、彼は何時解き放たれるのだろうか。それは、誰にも分からない。


上田氏美化?一応これで「God bless you」全編投下完了です。
お付き合いありがとうございました。
・・・とか言いつつも、この後に書いたおまけもついでに落します。
ただし、なんか以上に長い会話のみのおまけです。
ここだけスルー可でお願いします。

追記。その翌日のくりぃむしちゅーの会話。
「・・・なぁ、有田よ」
「ん?どうした上田?」
「お前、テツトモの石どうした?」
「・・・・・・・・・・・・あっ」
「・・・・・・まさかお前・・・はぁ・・・」
「持ってくるの忘れた。」
「わーすーれーたーじゃーねぇんだよぉ!」
「しかも、封印とかも一切してません!(断言)」
「あ゛ーーーーもおぉっ!お前そういう事はできないのな!」
「ごぉめんごめんって・・・」
「ごめんで済んだら『白』はいらねぇんだよ!!」
「まぁまぁそお怒るなって」
「これが怒らずにいられるかっつぅの!」
「でもさぁ、結構ダメージ負わせたよ?俺」
「まぁな。怖いからな、高いところは。」
「だからもう俺等には手ぇださないっしょ!」
「・・・あのな、お前根拠のない自信多すぎだよ、マジ」
「あ、それよりさぁ」
「それより、じゃねぇよ!話を逸らすなよ!おい!」
(つづく)
「お前さぁ『God bless you』って言ってたけど、あれ何?」
「お前、あれ聞いてたの?!うっわ、恥ずかし・・・・・・」
「まぁ、結構小声だったけどな、上田の言いたいことくらい分かるって」
「そこだけ分かってどうすんだよ!」
「で、あれ何?」
「辞書引いて調べれば良いだろうがよ、お前!」
「めんどくせぇじゃん?」
「大学入る時にページが破けるほど辞書引いただろうがよ!」
「・・・・・・分かったよ、引くよ、轢くよ」
「2回目の『ひく』は別の意味だ!あぁあーもぉ。」
「(ぱらぱら・・・)あ、出た」
「な?」
「・・・・・・え?『お幸せに、お元気で』って出たぞ」
「・・・そう言うことだよ。」
「・・・・・・・・・つうかふらふらなのにこんな事言う元気あるなんてね」
「凄いだろ、俺」
「そういう力別の所に使えよ」
「合コンばっかり頑張ってるお前に言われたかねーよ!」
「っていうか上田、またなんも力使ってないしさ」
「どーせ俺は調べ物担当だよ・・・」

会話はイメージてことで。それでは、お付き合いありがとうございました。
516 ◆uVMM0Pi.Co :05/01/07 23:21:43
ブレスさん
お疲れさまでした。トモさんが邪悪…(涙)。God bress youの意味は知ってたんですが、「お大事に」の方でしたか。(「神のご加護を」という意味あいもあります)
弱点に変身のところで、絶叫マシンに有田さんが変身しましたけど、お店の屋根、大丈夫だったんでしょうか?
517名無しさん:05/01/07 23:36:19
お店の屋根だけじゃなくって、お店全体無事だったのかな。
それにお店の外にまで被害が及んでなければいいんですが。

そしてトモさん。
「友情ごっこ」なんてロンブーとくりいむ馬鹿にしてるけど、あなただって
相方傷つけられてキレたじゃんかと。
黒でも白でも、守る人がいるのは一緒なんですよね。
518名無しさん:05/01/08 00:05:51
>>516-517
そこで上田さんの「20分以内に起こった事を元通り」能力ですよ。
そうすれば多少役に立ってる感が出るかも…と思ってみたりして。

でも対象が大きすぎて無理か。
519名無しさん:05/01/08 20:43:38
乙です!
ロンブーのところが泣けました!
泣いてしまいましたよ、本気で。
どうにか良い方向に行ってほしいです!
よかったです。ありがとうございました!
520名無しさん:05/01/11 00:31:05
age
521名無しさん:05/01/11 18:29:40
乙。ロンブーの絆にちょっと泣けた。淳も白に行ってほしいな。
つか有田の能力って結構強いんだな。最初使いづらそうな感じがしたけど。
上田は攻撃タイプじゃない割によく戦ってるのなw
522名無しさん:05/01/12 17:52:25
乙です。ロンブーの二人って仲良さそうなんで
ユニットに引き裂かれずに一緒に居てほしいと思いました。

有田さんの能力が強い割に反動少なくてちょっと気になりましたが…
523名無しさん:05/01/12 17:55:10
       , -‐''''"´ ̄``ヽ、              ____
       /     _     ヽ        //´   __,,>、
     /        ̄ ̄   {        /::/ / ̄:::::::::::::::\
      l _ィニニア二二二ニヽ、j._      /::::l/::::::::::::::::::::::::::::::::l
     | 0Lj/-‐-レノ ノ_ヽ:::`ヽ     l:::::::::::/l/lノノ/_イ:::::l
     レ:r、/ イ゚テ   ピト`|::|      l:::::::::/ rtテ、  .ィtq l::::::|
      l:lヘ  '"   ,j  '"/ノ      |::lヘ!j  ´  ,j   !;:::/
     ヽヽ、   r‐-,   /'         レリー 、    ,....,  lノ/    「ワロス!!」
        lヽ、  ̄ /         `ヽ、lヽ 、  ̄ /´
     _,r┴‐-`v´-‐j-、__   , -‐-、_r┴─'ー‐チト
  / ̄/:.:.:.:| ̄ ̄`T ̄´|:.:.:.:l´ `ヽ /    ヽ ̄`ー-‐'´`''''⌒ヽ         
/   ,':.:.:.:.:.l    l   l:.:.:.l    \  _r‐、-、-、r,    、   ',
     |:.:.:.:.:.:.!     !   !:.:.l   ,. -‐ゝ/// 〉 〉 〉 〉 〉    !   ',
    l:.:.:.:.:.:.l     |   l:.:.:l  /  人〈〈〈〈 ' ' ' /っ   l    l
    l:.:.:.:.:.:.!     !   l:.:.:.ト/   /  ```´-ァ‐'''"     /   l
、__/:.:.:.:.:.:l     |    |:.:.:ヽヘ  l    //         / _ ィノ
>>494-497 >>499-500 の続き

少しだけ時間は遡り、廃工場の中では多少間の抜けた形ではあるが島田が戦線離脱をした事で
なし崩し的に戦いの幕は切って落とされる。
「くっ・・・・・・この、馬鹿野郎っ!」
島田に代わって先陣を切るのは、バイオレット・サファイアで身体能力を跳ね上げた、磯山。
己の石が放つ紫の輝きで闇を照らしながら、その奥にいるのだろう赤岡へ立ち向かっていった。
「磯、向こうは飛び道具もある、気を付けて!」
「わかってる!」
背後からの小沢の呼びかけに、答えるさなかにも磯山の顔面には大振りの石が迫り来る。
落ち着いて手の平でそれを受け止め、投げ捨てて事なきを得るけれど、手首から伝わる衝動は重い。

「本気で闘るってンなら・・・」
こっちも容赦しねぇ。
また一歩一歩と前へ突き進み、目標との間合いを縮めながら磯山の固めた右の拳が、右の腕の筋肉が、
光を纏ってぶくぶくと膨れ上がっていく。
「・・・喰らえ、Mr.ユニバース日本代表ただし右腕のみっ!」
幼い頃の愛読書が何か伺い知れる気迫のこもった掛け声と共に、磯山はひときわ闇の濃い・・・つまりは
相手の居るだろう箇所へと殴りかかった。
鋭い振り。普段よりも密度の濃い豪腕。与える威力は並のパンチでは済まないだろう。

しかし。
磯山の右腕は濃い闇に命中こそすれ、空を切る。

「・・・・・・・・・っ!」
まったく感じない手応えに磯山が声にならない声を漏らした、その頭上で。
「・・・動きが一直線で単純すぎる。肉体強化系にありがちな愚行ですね。」
ボソッと呟きが漏れ落ちる。
抑揚のない、しかし聞き慣れた声に磯山が上を見上げれば、薄暗い闇の中に浮かび上がるのは赤岡の長身。
「・・・お前・・・何で・・・」
そこに居るんだ。俺達と戦うんだ。その左肩から先はどうしたんだ。
磯山が脳裏に浮かんだ言葉をすべて口にするよりも早く、赤岡の冷ややかな眼差しで一瞥されれば。
背筋から全身に本当に身体が凍てついたかと錯覚するほどの悪寒が走り、磯山の声は途中で途切れてしまう。
同時に気勢もが一瞬途切れた、その刹那。
赤岡の虫入り琥珀を握り込んだ右拳が躊躇なくハンマーパンチとなって打ち下ろされてきた。
ただの拳よりも何かを握り込んだ拳の方が威力があるのは周知の事実。
その上、赤岡の右手にあるのは稲妻を放つ力ある石である。
ガードを構える時間も与えず磯山の頭に命中する一撃は、彼を戦闘不能に陥らせるには
十分なほどの威力を秘めていただろう。

とはいえ、そこまで無防備で相手の攻撃を受ける磯山でもない。
「・・・くそっ、何だよお前曙かシウバか?」
瞬時に石の力を頭部に集中させて防御力を高めたか、痛みを堪えながらも彼は赤岡を睨み上げた。
「・・・・・・・・・・・・。」
逆に一撃で磯山を倒せなかった事で、今度は二人の間合いが数十p足らずという
磯山にとって都合の良い位置関係となってしまい、赤岡はすかさず彼から投げかけられる問いに答えず
大幅に飛び退いて、間の距離を広げようとする。

「逃がすかっ!」
「・・・悪いけど、目障りだから。そこでじっとしてて貰うよ。」
まさか磯山もそれを許すほどぼんやりしてはいない。
赤岡を追って石の力を脚に込め、跳ぶならば一旦離れた距離もすぐさま埋められよう。
しかしそれよりも早く、赤岡は再び磯山へ目線を向けた。
「・・・・・・・・・!」
その首元で黒珊瑚が瞬き、眼光に射抜かれる磯山の脚は不可視の何かに縛られて。
主の意志を反映しない重い物体へと変わったそれでは、跳躍など出来る筈もない。


「・・・・・・磯山っ?!」
その結果、不自然に両脚を強張らせたまま床に倒れ込む磯山に、野村は驚愕の声を上げた。
「この・・・てンめぇ・・・・・・!」
驚きは間もなく怒りへと変わり、指輪の周囲に紫の輝きを放ちながら弾かれるように飛びだしていく。
「野村くんっ!」
一瞬にして渦巻く闇の中へと消える野村の背中に、小沢は叫んだ。
相方である以上に、野村にとって磯山は物心がつく前からの付き合いの大切な親友。
その彼が易々と戦闘不能に追い込まれて黙っていられるほど野村の気質も冷淡ではない。
それはわかってはいるけれども、磯山と野村が持つのは共に同じバイオレット・サファイアであっても
特性は微妙に異なっており、肉体を変容させる磯山の石ならともかく、知識や技術を一時的に習得させる
野村の石は戦闘に不向きで、迂闊に飛びだせばそれだけでかなりの危険が伴うに違いないのだ。
しかし、呼び掛けた所で野村がおとなしく立ち止まってくれるはずもない。
アパタイトを輝かせながら、小沢は先ほどズボンのポケットにねじ込んだ物を取り出すべく手を伸ばした。

「・・・まったく、非戦闘系はおとなしく後方支援にだけ徹していれば良いのに。」
一方で近づいてくる石と所有者の気配に、赤岡の唇が僅かに上下して呆れ果てたような呟きが漏れ落ちる。
「しかも感情で己を見失ってる。こんなの・・・殺してくれと言ってるような物だ。」
馬鹿馬鹿しい。そう付け加えるなり赤岡は淡く見え隠れする紫の光の方へ目を向けた。
黒珊瑚の光に惹かれるように、赤岡の周囲に転がる幾つもの廃材がふわりと重力を無視して浮き上がっていく。
「・・・行け。」
指示が下されれば、廃材は赤岡の見据える先に向かって猛スピードで突っ込んでいった。
「・・・・・・ヤバ・・・っ!」
虫入り琥珀のようなエネルギー放出系の石を持つ者のように廃材を撃墜する事も、かといって
磯山のように己の反応速度を上げて対処する事も野村にはできない。
あと数秒すれば廃材が命中する鈍い音と手応えが伝わってくるのだろうか。

いや、違う。
「・・・やあぁっ!」
小沢が発する、くぐもっていながらも力のこもった声が不意に周囲に響き渡った。
女投げに近いぎこちないフォームからではあるが、渾身の力を込めて闇の中へと小沢が投げ込んだブツが
野村を襲う廃材に命中し、破裂する。
「・・・・・・・・・っ?」
破裂の衝撃で細かい粒子状の物が周囲へと散らばったかと思うと、それに触れた廃材は
ことごとく赤岡の支配から外れ、万物の法則に従って床へと転がり落ちた。
よほど軽い物質なのか、その粒子状の物は磯山の付近にも飛来して、彼の金縛りを解く。
それだけではない。赤岡の黒珊瑚が生みだした闇が、心ばかり薄くなったようでもある。

「野村くん、落ち着いて。この相手は・・・赤岡くんは、君達よりも力ある石の戦いに慣れている。」
不用意な行動は、それだけで命取り。冷静さを失っちゃ駄目。
足早に野村の元に駆け寄り、小沢は告げた。
「・・・悪ぃ。マジ助かった。」
視界の端に立ち上がろうとする磯山の姿が見え、ホッとしたからか。
野村は素直に小沢に謝り、跳ね上がったテンションを落ち着けるかのようにフゥと吐息を吐いた。

しかし小沢は一体今何をしたのだろうか。
赤岡に対し警戒しながらも、小沢が投げ、床に散らばった物の方へ野村はそれとなく目を向けてみる。
床には外界から流れ込んできたのだろう埃や砂に混じって、アパタイトの青緑の輝きを帯びた
細かな粒が散らばっているようだった。
そして廃材が転がっている辺りには、破れた小さなビニールの包み。
包みに印刷された図案に、野村の口から思わず言葉が漏れる。
「小沢さん・・・・・・。」
「赤岡くんの石の力は心霊現象系のようだからね。予想通り効果があって・・・良かった。」
その包みは、つい先ほど野村が井戸田から預かったとして小沢に渡した物だった。
確かに、小沢の言う通りに赤岡の石が心霊現象を司る物だとすれば、これは効果を生じるだろう。

「・・・普通、幾らお祓いっていっても、塩ごとは投げないと思いますよ。」
まぁ、結果オーライですけどね。野村が力無く呟くのは、そう付け加えたところまで。
視線を改めて薄れた闇の中に立つ赤岡に向ければ、その眼差しはキリッと力強く。
指輪のバイオレット・サファイアが輝きを帯びれば、紫の光の粒子が野村を包み込んで
彼に技術と知識、そしてそれに相応しい装いとを与えるだろう。
「・・・させませんっ!」
変身中の攻撃は、彼の愛する仮面ライダーシリーズに限らず特撮物ではタブーであろうけども。
赤岡は容赦なく再び黒珊瑚を瞬かせると廃材を野村と傍らの小沢へと襲いかからせる。
「そっちこそ、させねぇよっ!」
けれど威勢の良い野村の声が上がると彼を包む紫の輝きは弾け散り、その内側から姿を見せるのは機動隊員の装備。
すかさず掲げる盾によって、放った廃材は全て防がれた。


「・・・面白い。やはりこうでなければ、ね。」
普通なら悔しがるような反応の一つも見せる所なのだろうが、赤岡は逆に口元に笑みを浮かべると小さく呟いた。
「潰し甲斐がない・・・という物ですよ。」
赤岡の気分が乗ってきた証拠という訳でもないのだろうが、彼の首元のネックレスにて黒珊瑚が漆黒の光をこぼす。
しかしその輝きはどことなしに苦しげで、助けを求めているようにも見えるのは、果たして気のせいだろうか。







『・・・じ・・・の・・・・・・じ・・・どの。』
ほど近くから囁かれる声に導かれるように、島田はゆっくりと瞼を開けた。
床に倒れ落ちた割には全身がふわふわとした何かにくるまれているような感覚を覚え、
ほんのりと暖かい周囲の温度とも相まって、どこか不思議に思いつつではあるけれど。

「・・・・・・・・・っ?!」
その不思議な感覚は決して島田の気のせいではなかったようだ。
今まで彼は廃工場にいた筈なのに、見える光景は360゚一面の乳白色。
そして、目の前には。
『主殿、どうしたんですか?』
毎日鏡越しに見かける見慣れた顔が、不安げに島田の顔を覗き込んでいて。
慌てて身を翻して逃げようとする島田の腕を、先にいた島田はすかさず細い腕を伸ばして掴まえ、捕らえた。
『何故、逃げようとするんです。』

「普通逃げるよ。・・・っていうか何これ。どうなってるの? それにお前、誰?」
少しでも力が抜ければいつでも逃げられるように藻掻きながら、島田は目の前の島田に問う。
そんな慌てふためく島田の様子に、先にいた島田は何か思うところがあったのだろうか。
あぁ、と声にならない声を漏らしてそのまま島田に向けて言葉を続けた。
『・・・そう言えばそうでした。僕はあなたの石、白珊瑚。この姿では初めまして。主殿。』
「白・・・珊瑚?」
『はい。そして前々から主殿とは一度話をしてみたかったので、
 あなたが気を失ったのを幸いに主殿の意識を僕の方へ呼び込ませて貰いました。』

鏡に映ったように左右反対になってはいるけれど自分と同じ姿、同じ顔で悪意なく微笑み
自分と同じ声でカツゼツ悪く告げる自称白珊瑚に、島田は逃げようと藻掻くのも忘れてしばし言葉を失った。
こんな事、あるはずがない。
島田とすればそう思いたいけれど、今まで白珊瑚を手にしてから色々現実離れした目に遭ってきた以上
こういう事も別にあり得るのかも知れない・・・そんな考えが彼の脳裏を過ぎる。
そんな、ただでさえ混乱している島田に更に追い打ちを掛けるつもりではないのだろうが
島田の姿をした白珊瑚は島田の腕を掴んだまま、問いかけた。

『主殿は・・・力が欲しいですか?』
今回はここまで。

メモ帳で書いている時は今回はちょっと長目かな、と思ってたけど
案外投下してみると普段と変わらないレス数でしたね・・・。
531名無しさん:05/01/13 02:39:48
>>530
小沢さん、塩をごと投げたんですねw漫才を思い出しました。
続き、楽しみにしてます!!
532名無しさん:05/01/14 14:45:59
乙です!
小沢さんの攻撃が意外すぎて笑えました(笑)
ぴったりだけどあの場面でそうなるか〜と。
楽しかったです!
533名無しさん:05/01/16 19:31:23
乙です!
島田さんがどう出るか見ものですね
楽しみにしてます。
534ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:16:11
こんばんはー、ブレスです。
だらだらと色々書いてみたら何故か「ロンブー編」なのに「God―」の続きみたいになりました。
今回は一応その淳編です。文章変かもしれませんが、お付き合いください。


〜回想・願い〜


淳は数日前の出来事を思い出していた。
色々な事があった。
彼はゆっくりと携帯を開く。暗い部屋に画面のライトが光る。
「めんどくせー・・・・・・」
口を突くのはまたそんな一言。
――――使命は果たしてるさ、そうだろ?現に俺は・・・・・・。
ゆっくりと目を閉じると、あの日の事が頭をよぎる。


淳は、はじめその一言に戸惑っていた。
『命令を聞かなければ殺す』。
それは、彼にとって脅威となる言葉であったはずである。
淳の最初の任務は『相方の亮の心を読み続ける事』だった。
それほど力を使う能力でない事は確かである。
だが、一度に読めるのは『着信した時間から10分間』である。
つまり、淳はほぼ断続的に力を使い続けなければならなかった。
――――3日の間は。
軽い指や腕への負担は黒い欠片で誤魔化して、ずっと携帯電話を握っていた。
さすがに、仕事中や睡眠中くらいは抜いたとしても、かなりの疲労が溜まっていた筈である。
それすらも、『死にたくないから』と言う決断と、『もう戻れない』と言う現状から誤魔化し続けた。
そして――――。
535ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:18:03
ある日の楽屋。
亮が、淳の真新しい携帯電話と石のついたストラップを見たのと同時に、流行の着メロが響く。
「淳、なんなん?メール?」
「・・・・・・うん」
言葉少なげに、淳が返しつつ。そのメールを読んでみると、数分後の時間と
『なんで上田さんから電話きたんやろ・・・・・・?』
との一言。
『白』からの接触か・・・。ふと唇だけで淳が呟く。

『そっか・・・、亮君白の人に会うんだぁ・・・』
「はい」
淳が密かに何処かへと電話をかけていた。
『・・・じゃあさあ、そっちにテツトモさん送るから、君の力でコントロールしてよ』
「・・・出来ますかね」
『出来ると思うよ?君の事だから。』
淳の能力で、彼の元へ届いたメール。
それに、彼が返信を出す事によって思考を変える事も可能である。
だが、それが成功した所は本人も拝んではいない。
『出来るでしょ?それとも・・・・・・』
「いえ、やります、やります、やらせてください」
『だよね、だよね、だよね??』
だって、もしここでやらないって言って見ろ。どうなる事か――――。
ったくめんどくせぇな、と呟く。
536ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:19:21
『落ち合う場所と時間は分かってるよね?
それよりも早く、その店に行って待っててくれないかな?』
「・・・はい」
『暫くして3人そろったらさ、テツトモさん行かせるから。
2人にはファン装ったこっちの人から、石のついたブレスレットとギターピック渡してあるから』
「・・・はい」
『そんで、メールで命令出しながらその闘いを見届けてくれない?』
勿論、ミスをすれば自分には罰が下るだろう。
「・・・・・・そんな面倒な事しなくてもいいんじゃねぇの?」
『いや、これは君にやってもらう価値があるから』
「・・・・・・そうですか」
『で、上手く行ったら・・・そうだな・・・亮君は見逃してもいいよ』
「・・・え?」
『つまり、こっちに入れなくてもいいよ、って事ですよ。』
「・・・・・・くりぃむさんは」
『捕まえて欲しいかなぁ・・・、出来れば』
「・・・・・・」
『敵は少ない方がいいからね、それに囮とかに出来そうだし』
「そうですね」
『俺さぁ、頭いい人好きだからさ。欲しいかな?
2人とも大学中退らしいし、頭良さそうじゃん』
「・・・・・・ならいいんだけどさぁ、あんまし頭よくないと思うよ?」
一瞬の沈黙。
本人達がいたら、うるせぇと一喝されている所だろうか。
『・・・まーいいや。とりあえず頑張ってね』
「はい」
ぷちっと一方的に電話は切れる。
ふーっと深く溜息をついて、淳は天井を見つめた。
「・・・・・・すんげーめんどくせー・・・・・・」
537ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:19:51
そして、運命のその日。
淳は亮が来る予定になっている時間より30分は早く来て、場所を確保していた。
亮が何処に座るのか、くりぃむしちゅーが何時来るのか、テツアンドトモの能力はなんなのか。
それが、全て淳の頭に叩き込まれていた。
それゆえに、窓側の席が見えるが、亮があまり見なさそうな位置に構えていた。
石澤には、店員や客の安全を確保する為に、先に能力で皆避難させた。
相手を牽制する為に中川にすぐ攻撃するよう店内で指示を出し続けて。
亮と有田に見つかった時は、正直どうしようかと思った。
相方を見つけた時に、自分を思う亮の気持ちが暖かくて。
亮の言葉は淳の重荷を全て押しのけてくれる。
『お前をぉっ!俺が!!今度は背負うから!!!背負ってやるからっ!!!』
言いたい事が思いつかない。
変わりに溢れ出るのは、止めど無く流れ続ける美しい涙。
それなのに、自分の意思と裏腹に動く石澤。亮や、それに関わる人を苦しめたくないのに。
『だってアイツさっ、俺の大切な相方で、一番の友達じゃんか!』
――――有田さん・・・。貴方の相方を苦しめてしまった・・・。
それは、俺のせいなんですよ。俺がトモさんに指示を出したから。だから。
でも、あの人はこのタイミングで笑って見せていた。心の繋がりって強いんだな。
淳は、有田の姿が消えたのを確認すると
「今回は上手くいかない予定だったんだよ、亮君・・・」
そうぼやいて、ゆっくりと気付かれないように、硝子の割れている店の窓から外へ出た。
そう、それがメールを読んでいて気付いた事。
それが『彼』がはじめから知っていた、敗走のシナリオ。
538ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:23:08


『お疲れー。』
その店から離れて暫くしてから、いまだ目が潤んでいる淳に一本の電話。
「・・・・・・すいません」
『いいんだ、初めから分かってた』
「・・・・・・・・・」
『まー、テツトモじゃ駄目だったかー。強いから行けると思ったんだけどな』
「・・・・・・・・・」
『そうそう、淳君さ、これから暫く僕から電話するまであんま力使わないでね』
「・・・・・・はい」
『お願いだよ?そんなに使われると必要な時に使えないから』
「・・・・・・・・・」
『・・・それとさ、君って意外と相方に好かれてるんだね』
「・・・・・意外とってなんスか」
『君等、見た目仲悪そうだからさぁ』
「どっかから見てたのかよ?」
『ふふ・・・それはないしょだよ。それよりさぁ』
「・・・・・・なんすか」
539ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/16 21:27:42
『相方可哀想とか、そういう事考えるのやめてね。』
冷酷な宣告。歩いていた淳の足が不意に止まる。
「・・・・・・・・・」
『これからさ、そういう事あると困るんだ』
「・・・・・・・・・」
『相方の事を考えてたら、何も出来ないからさぁ』
「・・・・・・そうですけど・・・・・・」
『何?君には無理?・・・そうだよね、普通は無理だよね』
「・・・はい」
『・・・僕も最初は辛かったよ』
「え・・・・・・?」
『いや、なんでもない』
「・・・今・・・貴方・・・・」
『・・・・・・君は僕に似てるよ、全く。』
「・・・・・・」
『本当に似ている。
いらない事ばっかり考えてるんだよねぇ・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・何が言いたいか分かってるよね?』
「いいえ」
『ふふっ、そういうと思ったよ』
電話は、いつもよりも長く続いた。
今は、その内容を思い出すことが何故かできなかったけれど。


――――過去から戻った暗い部屋に、煙草の煙が充満する。



『彼』は多分設楽さん・・・だと思います。もしくは淳さんを脅してた人。
以上、お付き合いありがとうございました。
540名無しさん:05/01/18 23:55:11
乙です!
淳さんの裏がわが見れて、よかったです。
とても楽しかったです!
541名無しさん:05/01/20 02:24:41
ほすあげ
542名無しさん:05/01/20 12:32:31
遅ればせながら皆さん乙です!

>>◆ekt663D/rEさん
続き気になります!
いつもドキドキするような展開で凄いです。
まさか塩とは(笑

>>ブレスさん
淳視点良いですね!裏側を覗けた感じで嬉しいです。
これからも楽しみにしてます。
543名無しさん:05/01/20 20:20:19
ブレスさんのを読んで、改めて思いましたが
黒側の人は皆何かしらを背負ってるんですよね。
だから余計悲しい。
544名無しさん:05/01/21 06:36:32
また〜りいこうぜw
545名無しさん:05/01/21 20:13:13
>>543
やり方はアレだけど、黒は必要な存在だろう、と誤解して脅しなしで自発的に参加している人はともかく、
実は石や黒の欠片による干渉なしでも、石を使って他の芸人を傷付けるのが楽しいので
黒にいますって人が多数派とは流石に思いたくもないですしね・・・。
546ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/21 22:04:57
皆様、いかがお過ごしでしょうか。ブレスです。
皆様何時も感想ありがとうございます。
えーとですね、ちょっとこちらで聞きたい事がありまして。

ロンブー編が一時落ちついてから、新しいシリーズを書こうと思うのですが、
1・ガレッジセール編(タイトル未定)と
2・はねるのトびら編(Jamping?)のどちらかにしようと思います。
まとめサイトでもちらほら話題になったのですが、なんか反応が薄いのでこっちでも聞いてみました。
どちらがいいと思いますか?って話です。
荒れる可能性があるのあらば2は即刻お蔵入りします。
そこらへんも含めて意見お願いします。
547名無しさん:05/01/21 23:32:25
2.が読みたいけど…100%荒れそうだよね
避難所投下とかも無理かなぁ
548名無しさん:05/01/22 00:38:37
はねトびって荒れるんですか?バトロワでは問題なく進んでた気がしますが。

私はどちらも読んでみたいです。
549名無しさん:05/01/22 00:52:22
バトロワの辺は良く知らないけど、最近のはねトび出演者関連のスレを見るとそう思う。
読みたいのは読みたいけど。
550名無しさん:05/01/22 04:23:37
読みたいのは2だけど・・・。
荒れると思う。
551ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/22 11:18:19
>>547-550
皆様ご意見ありがとうございます。
はねる編はまとめサイトからいけるまとめスレのほうで2話分投下済みです。
(オープニング・1のみ)
しかし、まとめサイトを御覧になっていない方もいらっしゃるかと思い、ご意見を伺った次第です。

・・・ところで、インパルスの堤下さんの呼ばれ方って「敦君」で良いんでしょうか?
552名無しさん:05/01/22 13:25:28
「つっつん」じゃない?
553名無しさん:05/01/22 18:23:01
>>551
相方からは普通に「堤下」、他のはねトびメンバーからは「つっつん」って呼ばれてたと思う。
554名無しさん:05/01/22 22:05:29
最近他の書き手さん出て来てくれませんね。
色々と続きが気になる話はあるのになぁ。
555名無しさん:05/01/23 16:58:32
>>554
そればっかりはしょうがないんですよね。
催促するわけには行かないですし。
556名無しさん:05/01/24 15:16:19
ガレッジセール編見てみたいです。
どちらになっても頑張ってください!
557名無しさん:05/01/24 19:01:06
個人的にははねとびに一票。まとめスレの方読みましたが、荒れる事ないと思いますよ。
万が一変な書き込みがあったら住人が無視すればいいだけの事だと自分は思いますけどね。
ブレスさんの文章好きなので是非これからも頑張ってください。
558名無しさん:05/01/24 22:42:12
私もまとめスレの方見させていただきました。
>557の方と同じで荒れないと思います。
頑張って下さい!
559名無しさん:05/01/26 01:18:04
落ちそうなんでageときます
560名無しさん:05/01/26 03:34:28
,
561名無しさん:05/01/28 10:50:21
『カンフーハッスル』の大家さん夫妻を見て
東京03飯塚が活躍する話読みたいなーとオモタ
562名無しさん:05/01/28 23:44:26
563名無しさん:05/01/29 01:46:26
東京03書いてみたいですが
どなたかすでに書いてるよって方いらっしゃいますか?
564名無しさん:05/01/29 02:52:02
>>563
エレキ編最終話(まとめサイト参照)に少しだけ出てます。
能力や条件等もまとめサイトに載ってますよ。
いきなりですが、書きます。
キングオブコメディ短編です。


「あーあ」
そういいながら今野は恨めしそうな顔で窓の外を見た。
朝は雲ひとつなく晴れていたのにぽつぽつと雨が降り始めている。
今日は雑誌の人力舎特集で二人にも取材があったが、
皆が先に取材や写真撮影を受けていたのでその順番を待ってた。
「なんだよせっかくおろしたのに」
高橋はその言葉を聞いてなんとなく今野の足元を見た。
シンプルだかいかにも高そうな靴。
何でも行きつけの服屋でわざわざ予約までして買った5万近くする物らしい。
朝の天気で判断して買ったばかりのその靴をおろしたらしい。
「止まねえかなー雨」
ひどいしかめっ面だ。
「力で止めたら?」
高橋が今野の足元から読んでいた雑誌に目を移してから言った。
「でも、明日も仕事あんじゃん」
「そのつもりだったのかよ。止むだろ、取材終わる頃には。
 夜は晴れだってさ」
「そう」
そっけなくも聞こえる言い方だったが機嫌は直ったようだ。
高橋がもう一度今野に視線を戻すと、今野は携帯をいじっていた。
きれいな紫の買ったピンクの医師のついたストラップ。
高橋は無意識にTシャツの下のお守りを触った。
静かな部屋の中で、雨足の強くなっていく音だけが聞こえている。
−あの時雨降ってたよな
高橋は一週間前の夜のことを思い起こした。
上に続けて書くの忘れました。
短編ですがまだ続きます。
また来週書きます。
568名無しさん:05/01/30 20:55:54
乙です!
キンコメ来ましたねー!!この二人の雰囲気好きですv
続き楽しみにしてますv頑張ってください!
569ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/30 21:43:03
>565-566
ナカーマ増えたー!
書き手さんが増えるのは大変嬉しい限りです。
増えれば増えるほど話が広がりますからね。
続き期待してます。



あ、それと。
明日あたり、出来たらロンブー編投下予告します。
それと皆様ご意見ありがとうございます。
ロンブー編終わったら、はねるとガレッジ交互に投下予定ですが・・・。
こういうの大丈夫だろうか・・・。
570名無しさん:05/01/30 21:44:46
>565-567
乙です!久々の新作投下、ワクワクしながら読まさせて頂きました。
次も楽しみにしてます。
571名無しさん:05/01/30 22:35:51
ちょっと分からないところがあるのですが…

>きれいな紫の買ったピンクの医師のついたストラップ。
↑ココ。
572ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/01/30 22:44:27
多分タイプミスかと。
きれいなピンクの石のついたストラップ、かなぁ?
573名無しさん:05/01/30 23:09:41
きれいな紫がかったピンクの石のついたストラップ
煤cあまり来れなかったうちにキンコメ話が。
CUBEと一緒に働いてもらおうかと思っていたのですが…
これからの展開を見て考え直すことにします。皆さんのお話、続きが楽しみですねぇ。

自分は3月頃までかかりそうです_| ̄|●もう少しお待ちください…
待っていて下さっている方が居ればのお話ですが(切腹
575名無しさん:05/01/31 23:53:31
>>574
ものすごく待ってます!でもご無理なさらず。
576名無しさん:05/02/02 10:27:49
age
577ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:17:17
こんにちは、いかがお過ごしですか?ブレスですー。
さて今回は、ロンブー編回想・亮さんバージョンです。
これが終われば時間枠は追い付くのかな?
そして先行して、はねる編1話も一緒に投下してみる次第です。
しばし駄目文にお付き合いください。


〜回想・欺く手口〜


亮は風呂場で数日前の出来事を思い出していた。
湯気が彼の体を包み、視界を奪った。その隙に彼の脳裏にその出来事が蘇る。
色々な事があった。そして、時は戻り――――。
あの日の時に、亮は戻っていた。


どないしよ、とこれで何度目になるか分からない言葉を亮が言った。
その近くには床に倒れて眠る4人の男。
1人は亮の反撃にあい気絶し。
1人は安堵感と蓄積した疲労で眠りに落ち。
1人ははるか高い空に飛ばされて気絶し。
もう1人は石の力から来た反動で眠りにつき。
そして、亮は取り残されていた。

「あぁ・・・どないしよ」
何度目かの同じ台詞を、亮が言った。
彼らがいるその場所は、最早ぼろぼろになっていた。
天井に大きな穴、窓ガラスは一枚割れて、そして倒れている椅子と机。
578ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:19:07
――――からん。
「どないしよ、どないしよ、どないしよ・・・・・・」
完璧に混乱に陥る一人の男の元に、1人の女性が来た。
「あの・・・・・・」
「どないし・・・」
「あの・・・?」
「はい・・・?」
人が来る事を想像していなかった亮は、面食らっていた。
その女性が、彼に向かって追い討ちをかけた。
「・・・収録、終わりましたか?」
「はぁぁーーー??」
「え?」
確実に、彼らの思考はすれ違っていた。
亮は、一瞬女性の言葉を飲みこめずに佇んだ。

話によれば、この店は昨日閉店したばかりで、そこへテレビ局のスタッフを名乗る人間から
『この店を1日だけ、テレビの収録で使いたい』
そう電話がかかってきたという。
そして、自分は――――この女性は、この店の元の店主で、様子を見に来たらしい。
なるほど、昨日閉店したと言うことは上田や有田が知らない可能性はありうる。
それで、この店を選んだのか・・・。だが、それならば何故?
「・・・くりぃむしちゅーだ・・・」
彼女は、その倒れている男たちを見てボソッとそれだけ言った。
「・・・俺は?」
と亮は言いかけて、止めた。
元店主は店の荒れようについて聞かなかった。むしろ、
「良いバラエティ番組、期待してます」
とか言ってきた。
怪しい、とも思ったが、彼女は芸人ではないし、石の事も知らないだろう。
579ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:19:58
――call――
『・・・あ、電話を切る前に、ひとつ』
「なんスか?」
『今回の件に関する疑問とかは無い?』
「え・・・・・・?」
『・・・ふふ、なんであの店に?って思ったでしょ?』
「何で分かったんスか」
『大体分かるよ、君の考えてる事は』
「・・・おー、こえぇーなぁ?」
『実はね、知り合いの若手に、スタッフって偽って電話かけさせてあったんだ』
「へぇ・・・?」
『それで、こっちの若手とか配置して、あたかも店が開店してるように見せた』
「電話をしたその日にそこが潰れたと知らなかった上田さんは・・・」
『そう、そこを選んでしまった』
「・・・だとしたら引っかかるな?
なんで、こんな風に遠まわしにやる必要があるんだよ?
それに、なんで思惑通りにあの店を選んだのか・・・」
『それはね、淳君』
「・・・・・・?」
『彼の性格を見て、だよ』
「・・・・・・どう言うことっすか?」
『ああ見えて裏をかいたり、頭を働かせたりするの上手いからね、あの人。
その前に、事前に相方を通じて<芸人が行かなさそうな場所>として覚えさせておく』
「有田さんに・・・?」
『それは簡単だろ?コンパが好きな彼だ、洒落たカフェのひとつやふたつ、知らない訳が無い』
「でもやっぱり範囲が広すぎるんじゃあ・・・」
『実は、あの店今日は何時もならサービスデーなんだよ』
「そ、そこまで読んでここを・・・?」
『ふふ・・・、欺く手口くらい知っておかなきゃね』
「閉店はラッキーでしょ?」
『そこは僕はノータッチだよ、そこまではできない』
580ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:22:18
「そうですよね」
『で、元店主にはかなりアクション性が多いバラエティ番組になるって言っといた』
「・・・・・・・・・」
『店壊れるかも?って言ったら、テレビ撮影に使うならって快諾してくれたそうだよ』
「でも、それでもそんなすぐには・・・・・・」
『・・・彼女、くりぃむしちゅー大好きなんだよ』
「・・・・・・・・・」
『どうだい?淳君?』
「むちゃくちゃですね・・・でも、物凄く成り立ってる・・・、欺く手口・・・・・・」
『淳君、これが僕等のやり方だよ。
一般の方を傷付けずに、僕等は僕等の闘いを終わらせなくちゃね。』
「でも店主って一般の方じゃ・・・?」
『・・・彼女、今芸人志望さ』
「・・・・・・・・・」
――――そんな会話を、彼は知っているだろうか。


「・・・・・・いいんですか?」
「いいですよ、お店は次のマスターに渡った後ですし」
「いやでも、直さないと・・・・・・」
「これから改装工事が入ります。この収録の事は言ってありますから、大丈夫です」
「・・・・・・そうですか」
亮は、罪悪感に押されつつも、4人の男を担いでその店を出た。
また、日が暮れかけていた。
そして彼はまだ知らない。
――――彼女が、今は友人と芸人を目差している事を。



以上、かなりこじつけ(苦笑)編でした。
続けてはねる編ドゾー。
581ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:25:22
荒れたら即終了。どきどきのはねる編フライング投下です。



<<Jamping?>>--01/a promise

板倉は、先日拾った石を珍しそうに眺めていた。
「へぇー、綺麗な石だねぇ?何処で買ったの?」
その一言を聞いて、不意に板倉が顔をあげる。
「え?・・・あぁ、これ?拾ったんだ」
「ふうん・・・あんまり見ない石だもんね」
彼に近づいてきたのは伊藤。物珍しそうに彼の手元の石を見ている。
「これなんて名前の石なんだろうなぁ・・・・・・」
板倉はそう言いながらも、遠くからのスタッフの声に反応していた。


翌日、携帯に入電。
「・・・って今なんて言ったの?」
『だからさぁ、皆でちょっと、行きたいところがあるの!
はねトびのメンバー皆来てるから、早く板さんもおいでよ!』
相手は再び伊藤。元気良く話しているのが分かる。
「分かった分かった!で、何処に行けばいいの?」
582ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:27:29
――――しばらくして。
都内某所に、彼らは皆集まっていた。
よく都合良くあったなぁ、スケジュール。と誰かが呟く。
「じゃーんっ」
伊藤が皆に何かを見せつけている。それは、珍しいピンクの石。
「わぁ・・・っ、いいなぁ・・・」
そう言ったのは虻川。
「それに比べて・・・」
目線を自分の手元に落す。手の中には銀色の石が入っている。
「虻ちゃんのも綺麗だよ?」
数名にそうフォローされて、虻川の顔がちょっと嬉しそうに輝いた。
「でさぁ、今日の用件、ちゃちゃっと済まさねぇ??」
めんどくせぇ、と漏らしたのが堤下。
「せやな、何の用やったっけ?」
と続けたのは西野。
伊藤が、そうそうと言いながら今日の目的を話す。
「皆、こう言う感じの石を持ってるって聞いたから、お揃いでアクセサリー作らない?」
この提案に開口一番
「せやかて、俺もうチョーカーに加工してもうたし」
と、西野が一言、自分の首もとの黒紐を引っ張りながら言う。
「あぁ、俺もだ」
堤下も腕にはめている革の腕輪についている石を見ながら言った。
それに続いて「ごめん俺も」と馬場。
彼のケータイにはストラップの形で石が付けられていた。
「あぁ、俺もやったわ」さらに続くは塚地。
石の姿はキーホルダーに変わっている。
「えぇーっ?!いいなぁと思ったんだけどなー」
「まま、残りの皆で合わせればよくない?ね?伊藤ちゃん」
山本がすかさず伊藤に言った。
「・・・っ、そうだけどさー」
ぶつぶつ言い続ける伊藤を、山本がなんとか宥める。
583ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/02 18:28:38
「なぁ?」
不意に、梶原が声をあげる。
「・・・どうしたの?梶原君」
「・・・・・・あんな、もしアクセサリー作るんやったら、普通のじゃないのにせぇへん?」
「え?」
「いやな、皆で合わせるんやろ?したら、普通のアクセやったら他のと被るやろう?
せやたら変わったアクセにしようや」
変わったって・・・、と皆が声を合わせて悩み始めた。
「・・・アンクレットとかは?」
西野が横から突っ込んできた。
「アンクレット、か・・・。なにそれ?」数名から同じような言葉が聞こえてくる。
「アンクレット言うんは、足につける飾りの事やねん。
そんで、皆同じ足の足首につけたったらええやろ?」
同じ事をする事に、絆を感じる。それが、きっと仲間だと思う。
そこにあった「石の加工所みたいなところ」と伊藤が案内した場所で石を加工する。
それから数分。
「これいいなぁ、うん、新しい感じがする」
出来あがったチェーンで結んだアンクレットを、秋山が誉めた。
皆同じで右の足首に、石しか違わないアンクレットをつけている。
「これからは皆、これつけてよ?」
そう伊藤が言った。
「うん」
「分かってるよ」
「もちろん」
口をそろえて皆がそう返した。
虻川がそれを見て「やっぱ皆仲良いよねぇ」と漏らした。
その仲が、引き裂かれる事も知らずに。


連続投下真に申し訳ないです。。。
駄目文だらだらと失礼致しました。それでは。
584鹿島田:05/02/02 23:27:38
初めまして。2丁拳銃書きたいんですが、書きたい人いますか?
585名無しさん:05/02/03 19:27:37
>>577
乙です!
芸人志望の女性の今後が気になるところです。

>>はねる編
いい感じですね。心配した荒らしも来ないようですし。
これからの展開が気になります。
次回作も期待してますね!

>>584
したらばで相談してみたらいかかがでしょう?
586名無しさん:05/02/03 19:49:04
とかいいながら覗いてみたら
>>524-529の続きが、したらばに投下されてましたね。
アクセス規制のためらしいですが。
一応コピペします。



39 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:21:48

本スレに投下しようと思ったら、ホスト規制が掛かっていたのでこちらに投下します。
お手数ですが、どなたか本スレの方に誘導またはコピペしていただければ何よりです。
587名無しさん:05/02/03 19:49:45
40 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:23:11

本スレ2 >>524-529 の続き

「はぁあああっ!」
塩をごと投げた小沢の行為により周囲の闇は薄れ、赤岡の力も多少抑制された・・・己の両脚の束縛が解け、
自由な動きを取り戻した磯山はそう判断し、赤岡へと飛びかかる。
動きが直線的云々と馬鹿にされた、そのお返しとばかりに敢えて一直線に突っ込む磯山の動きは素早く力強い。

「・・・・・・馬鹿が。」
瓦礫で磯山を迎撃するには、瓦礫に石の力を通わせ、浮き上がらせるまでの時間がない。
しかし赤岡は体勢を整えながら吐き捨てるように呟き、磯山が突っ込んでくるだろう空間を凝視する。
黒珊瑚が輝き、その空間に青白い炎の球・・・鬼火が出現した。

「・・・ナ、メ、ン、なっ!」
「・・・・・・・・・っ!」
先ほど煙草に火をつけたように、可燃物に触れれば発火させる事も十分に可能なそれは、ただの進路妨害なんかではない。
けれど、磯山から発された裂帛に、紫の光を纏った拳で鬼火を粉砕するその行為に、
一瞬でも磯山が鬼火に怯んで動きを止めればそこを攻撃する腹づもりだったのだろう、赤岡の表情が変わる。
なおも距離を縮める磯山を止めようと輝いた石は、黒珊瑚ではなく虫入り琥珀だった。

「ちっ・・・・・・」
赤岡の舌打ちとほぼ同時に琥珀から放たれた漆黒の稲妻が、遠慮も容赦もなく磯山を貫く。
「・・・ぅわあ゙あああ゙あっ!」
全身に弾けるような激痛を覚え、次の一歩を踏み出す事ができずに磯山は床に転がった。
「磯山ぁ!」
「・・・磯っ!」
闇の向こうから響く悲鳴に、野村と小沢が口々に呼び掛けるが、返ってくるのは闇の力を帯びた瓦礫。
これは機動隊員の装備を纏った野村が透き通った盾で防ぐ。
588名無しさん:05/02/03 19:51:34
41 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:24:58

「ぐぅっ・・・・・・」
瓦礫が盾にぶつかる度に、盾を支える野村の手首に重い衝撃が伝わり、野村の口からうめき声が漏れた。
野村の持つバイオレット・サファイアでは衣装や装備、知識といった物を得る事はできても、
それを使いこなすための肉体までもを得る事はできない。
華奢な部類に入る体躯の野村に、果たしてどれだけ連続して瓦礫を受け止め続けるだけのスタミナがあるかどうか。
眉を寄せて盾を掲げる野村の腕が、少しずつ降りてきているのに気付き、小沢はアパタイトを輝かせた。

 「君を手に入れる事によって一生分の運を使ってしまったんだから!」

パチリと指が鳴れば青緑の輝きが周囲に散り、横たわる磯山の体躯が小沢の傍らに出現する。
目立った外傷はないものの、全身を貫いた激痛が信じられねぇとでも言いたげに
磯山は目を見開いてゼェゼェと荒い呼吸を繰り返している。
その一撃を放った虫入り琥珀が赤岡の右手で煌めくのが見え、小沢はなおも指を鳴らした。

 「そんな事より・・・これからパーティ抜けださない・・・っ!」

瓦礫の連打にジリジリとガードを下げられていた野村では、これを防ぐのは難しい・・・そんな小沢の判断から
言霊と共にアパタイトを行使すれば、3人の姿はその場からかき消え、漆黒の稲妻はあいた空間を通過する。


(長すぎると言われたので一旦切ります)
589名無しさん:05/02/03 19:52:55
(続き)


「・・・悪ぃ、助かった。」
アパタイトの短距離テレポートで3人が跳んだ先は、赤岡の放つ闇の外側。
ダメージはまだ残っているだろうが、呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がりながら磯山が小沢に囁いた。
「ったく、無茶するから。」
その磯山の頭を軽く小突きつつも、野村が告げる言葉はどこか安堵の色に満ちている。
頭を押さえ、痛ぇと苦笑する磯山につられるように表情をしばし緩め、小沢はポケットをまさぐると
飴玉を一つ、取り出した。

「それにしても・・・彼は、本当に戦い慣れてる。」
ビッキーズの木部が石の力で作り出した飴ちゃん。精神力と体力を少し回復させる力を秘めたその飴玉を
磯山に手渡し、小沢は闇の向こうの赤岡を見やって呟いた。
「力を行使する事に・・・怖れがない。」
「・・・赤岡の奴、ネタに煮詰まると、よくここで模擬戦やってストレス発散してたらしいですから。」
「なるほど道理で・・・って、島田くん、いつの間に?」
ふと背後から聞こえた声に3人が振り向けば、そこには島田の顔。
真っ先に赤岡の攻撃で気絶し、戦線離脱していた男の真摯な表情がそこにあった。
590名無しさん:05/02/03 19:53:37
42 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:26:32

「つい、今さっき。・・・迷惑掛けて済みませんでした。」
「いや良いケドよ・・・で、どうすんだ? この状況。」
律儀にぺこりと頭を下げる島田に、野村は調子が狂ったのか少し戸惑いつつ、問う。
その言葉に島田は一度上へ目をやった。天井までは10m近くあるだろうか。
「小沢さん、確か・・・ジャンプ力を上げる言霊を持ってましたよね?」
野村と磯山は虫入り琥珀の影響で忘れているが、号泣の2人は以前小沢達の戦いを見物していた事があった。
それ故、小沢がアパタイトでどんな現象を起こす事ができるか、多少は知っている訳で。
「・・・・・・あぁ。」
「それで僕を天井まで跳ばせて下さい。」
頷いて返す小沢に、島田は真顔でそう告げた。

「・・・どういう事だよ。」
「あいつは石を使う対象をしっかり目視しないと・・・アバウトな位置認識だけじゃまだ能力を引き出せない。」
だから、僕が跳べばどうしても赤岡は天井と地上とのどちらかに意識を向けなきゃいけなくなる。
・・・そうすれば、必ずつけ込むだけの隙が生まれる。
島田の発言の真意がわからず、思わず問いかける磯山に彼は静かに応じる。
「・・・要は赤岡くんの意識を分散させるための囮になるって事? できるの?」
「やります。もしあいつが僕を無視するなら、僕があいつを・・・黒珊瑚を止めます。」
訊ねた小沢の言葉の中には、相手が相方でも、幼なじみでも躊躇しないかという響きが籠もっていたけれど。
キッパリと言い切る島田の目には、迷いの欠片はどこにもなかった。

「んじゃ、俺らはちょっとだけあいつの気を引くから・・・頼むぜ、島秀。」
一瞬だけ驚いたように息を呑み、それから島田の背中をバシッと手の平で叩いて。
野村が投げかけた言葉に島田は小さく微笑んで返す。
「・・・ありがとう。」
591名無しさん:05/02/03 19:55:35
43 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:27:34

「アレ、やるぞ。良司。」
「でも、そうしたら俺ら・・・・・・」
そのまま島田から磯山の方へ向き直り、野村が告げる言葉に磯山は一瞬戸惑った。
「・・・ぶっ倒れる前に仙豆舐めときゃお前だけは動けるだろ?」
俺ら2人とも動けなくなるぞ、と続けようとする前に野村が即座に言い放った一言
そして磯山の手にある飴玉に向けられた視線から、彼の考えはうっすらと伝わっては来るけれど。
「変身さえ解けなければ、俺の盾はまだ使える。」
それを掴んで突っ込んで、お前がワンパン決めればこっちの勝ちだ。
重ねて告げる野村に、磯山は今度は頷いて返す。
「・・・・・・わかった。」

小沢と島田を庇うように前に歩みでて、差し出された野村の手に磯山が己の手を重ねると、
2つのバイオレット・サファイアが触れ合い、光と高音を発して共鳴する。
もちろん、石の力を発動させて何かを成そうという2人を赤岡が放って置くはずもない。
闇の中でチカッと黒珊瑚が輝けば廃材が4つ5つと4人の方へ飛びだしてくる。

しかし。

 「スーパーボールっ!」

今は防御の事など何も考えず、磯山と野村は声を重ねた。
2つの石から眩い光が放たれたかと思うと、赤岡の頭上数mの辺りに紫色の淡い幕が掛かる。
いや、それは幕ではない。
592名無しさん:05/02/03 19:56:17
(続き)


それは、紫色の光を纏った無数の小さな球状の物体。
それらが一斉に重力に引かれる以上のスピードで赤岡目掛けて降り注ぐ様は流星雨か、はたまた何かの
バラエティ番組での罰ゲームか。
「・・・・・・くっ!」
紫の光を纏ったスーパーボールが一つ二つ命中するだけなら、さほど痛くも痒くもない。
けれど、それが何十個、いや、何百個というレベルで降り注いでくるとなれば
さすがに赤岡も顔面に直撃しないよう腕で庇いながら、その右手に握りしめられている虫入り琥珀を煌めかせる。
途端に漆黒の稲光が赤岡を護るようにバリア状に展開し、石の力と石の力が激突して眩い火花が周囲に散った。

「・・・・・・・・・・・・。」
井戸田が到着しない以上、今、この現状を打破するには島田の考えに乗るしかないのだろうか。
他の選択肢がないかどうか、なおも小沢は考えるけれど。
黒珊瑚と虫入り琥珀を操る赤岡を相手に、消極的な策を取っている余裕もなければ
こうして赤岡の意識を引きつけている江戸むらさきの2人の努力を無駄にしたくなくて。

 「君はもともと大空にいたんだろ・・・飛ぶ事を忘れた僕の天使!」

小沢はアパタイトを輝かせ、指を鳴らす。
593名無しさん:05/02/03 19:58:14
44 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:28:25

「・・・・・・・・・っ!」
小沢のアパタイトが放つ青緑の光が己の身に変化を及ぼした事を実感すると同時に、島田は表情を引き締め、跳躍した。
未体験の視界の動きと全身に伝わる感覚がしばし島田を戸惑わせるけれど、中学生の頃にやっていた
バスケのお陰か空中で大きくバランスを崩す事はない。
間もなく目前に迫る鉄骨に細い腕でしがみ付き、両足をしっかりと絡ませて。
蝙蝠のように逆さ吊りになると、島田は腕を解いて眼下を・・・降り注ぐ紫の光を防ぐ男を睨み付けた。
人差し指と中指の根元に白珊瑚を挟み込んだ状態で硬く握りしめた左手を、そのまま相手の方へ伸ばす。

『力は余所から貰う物じゃない。誰かから奪う物でもない。』
先ほど、白珊瑚の領域にて島田の姿を模した白珊瑚が告げた言葉が島田の脳裏にリフレインする。
力が欲しい、と素直に応じた島田に対し、白珊瑚は静かにそう言い放ったのだ。
「力は・・・自分の内側から自ら導き出す物。」
島田の唇が小さく動き、微かにこぼれた声は自らに言い聞かせる反復の言葉。
体勢が体勢なだけに、それ以上に状況が状況なだけに長い時間は掛けられない。
頭に血が逆流してか、ぼんやりする思考ながらも島田は左手の白珊瑚に意識を集中させる。

ずっと、この石はただ光るだけの石と・・・何かを清める事しかできない、戦いには不向きなクズ石だと思っていた。
でも。
『主殿がそう望むなら、願うなら・・・僕は幾らでも主殿の力になる。何故なら、僕は主殿自身でもあるのだから。』
・・・白珊瑚よ、その言葉が真の物であるのなら。僕は望む。だから、ここにその力を示せ。

祈るように命じた、刹那。
島田の左手を中心に漠然と湧き出していた白い光が眩さを増し、その姿を変える。
光は島田のイメージに添う形へと集束していき、その手応えに島田自身も驚きを隠せない。
光に手を加える事などできないという思い込みが、石の可能性を潰していくのなら。
これは役に立たない石だという決め付けが、石の力を弱らせていくのなら。

一体、今まで自分はどれだけの力を出し惜しみしてきた事になるのだろうか。
594名無しさん:05/02/03 19:59:32
(続き)


「島田くん・・・・・・。」
不安げに呟く小沢からは、島田の姿をはっきり見る事は出来ない。
島田の左手を中心に放たれる純白の光は、いつしか弓矢を象るようになっていて。
お年を召した女優さんの為に照明が運び込んでくる強力なライトもかくや、と言わんばかりの
天井から降り注ぐ輝きに、確か赤岡とかいった男の発する闇は徐々に押されていく。

「くっ・・・・・・!」
野村と磯山が放った無数のスーパーボールを耐えぬくも、周囲の闇を払われて。
歯を喰いしばり頭上の島田を見上げる男の姿は、左腕の消滅箇所が左胸にまで及び、それ以外の箇所も
何かのホログラフかといわんばかりに全身の色彩が薄れているようだった。

・・・俺達は、あんな奴を相手にしていたっていうのか?
頼んだと言い残して昏倒し、床に倒れ込んだ野村の隣でビッキーズの飴ちゃんを頬張り、
何とかあと1撃2撃分ぐらいの精神力は確保して、隙あらば殴りかかる心づもりだった磯山も。
男の異形の姿を見て一瞬心怯む。

その動揺を察してか、それとも磯山よりも島田から発される力に意識が向けられたのか。
男は右手を・・・虫入り琥珀を天に掲げた。
「邪魔を・・・するなっ!」
「・・・貴様こそ・・・これ以上みんなを傷付けるな! 目を覚ませ!」
気迫と共に、互いの石から光が解き放たれたのは、ほぼ同時。
剛弓から放たれた島田の光の矢は一直線に走り、男の発した漆黒の稲妻を飲み込み、かき消して床に突き刺さる。
595名無しさん:05/02/03 20:01:02
45 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:29:26

「凄ぇ・・・・・・。」
閃光弾よろしく破裂する圧縮された光とそれが巻き起こす風に思わず目を細め、手で影を作りながら磯山は呟く。
「島田くん・・・まさか・・・君も・・・・・・。」
同じく光に目を痛めないよう手を翳しながら小沢も呟くけれど、それは磯山の物とは異なり
心配の色合いを帯びているようで。どうしたのだろう、と磯山はチラッと小沢の方を見やった。

「外した・・・?」
その小沢の視線の先、天井の鉄骨に両足でしがみ付いている島田は狙いが外れた事が信じられないとでも
言いたげに眉をしかめ、再び左手を敵へと向ける。
「次こそは・・・仕留めてみせる。」
みんなのためにと口に出さずに続け、白珊瑚の力を開放していく島田の視界が。不意にぐらりとずれた。

「・・・島田くん、跳んで!」
その耳に、不意に小沢の滅多に聞く事のできないプレミア物の掠れた叫び声が届く。
「足場が、崩れる!」
596名無しさん:05/02/03 20:01:48
(続き)



「・・・・・・・・・っ!」
また島田の視界が意図しない方向へずれるのと同時に、今度はギシリと何かが軋む感覚が足から伝わってきた。
念入りに狙いを付けた一射目が外れたのも、島田の足場である鉄骨が微妙に動いたからだろうか。
いや、そんな事は今更どうでも良い。
元々放置されて長い上に、これまで石を使った模擬戦や特訓の舞台にされていたこの廃工場の骨組みが。
いつしかボロボロに脆くなっていたのは事実であって。
「くっ・・・・・・」
磯山や小沢を信じて島田は鉄骨から飛び降りようとした、けれど。

「やべぇ、間に合わねぇ!」
磯山が悲鳴に似た叫び声を上げる。

「・・・・・・・・・!」
しがみ付いていた島田もろとも鉄骨が外れ、回りの鉄骨を伴って天井からゆっくりと落下を始めていた。
真下の、漆黒の髪の男目掛けて。
597名無しさん:05/02/03 20:03:31
46 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:30:32

今、アパタイトの力で2人を同時に避難させる事は可能だろうか。
悩むよりも早く、小沢は祈るように言霊を紡ごうとする。
「・・・・・・君を手に入れる事によって一生分の・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
噛まないように、しかし、間に合うように。
どんなネタよりも慎重に言葉を発する小沢に対し、男はその髪と同じ漆黒の穏やかな眼差しを向ける。
向こう側が透けて見える相手の、敵意のないその視線に小沢の口が一瞬止まった、その時。

男は視線を頭上に迫る島田へ向けたかと思うと、右手の虫入り琥珀が蜂蜜色の稲光を放ち、
渾身の輝きに貫かれた華奢な長身は小沢達の方へと弾き飛ばされた。

「あ・・・赤岡くんっ!!」
島田をキャッチするべく走り出した磯山の動きを視界の端で捉えながら、小沢は叫ぶ。
その目前で。
廃工場の天井を支えていた鉄骨が、床に激突した。









轟音。そして巻き起こる砂塵。
全てが収まった時、コトリと音を立てて黒珊瑚があしらわれたネックレスと虫入り珊瑚が
どこからともなく床に転げ落ちた。
598名無しさん:05/02/03 20:04:48
47 名前: “Black Coral & White Coral” (t663D/rE) 投稿日: 2005/02/02(水) 03:37:24

以上、今回はここまで。
赤岡さんが何だか凄い事になってますが、本スレのルールである
「死にネタ禁止」に引っかからないよう次以降の話でフォローを入れますので
その点はどうぞ御了承下さい。
599名無しさん:05/02/03 20:59:59
初めてここにきました〜
皆さんすごいですねぇ!とっても面白いです。

ペナルティがあのあとどうなったのか、すっごい気になるんですが・・・
600鹿島田:05/02/04 16:25:03
どうやら、いらっしゃらないようなので書かせていただきます^^
黙々と製作中です…
601名無しさん:05/02/04 16:46:29
ペナ編、したらばにも投下してる方がいらっしゃいますね…
602鹿島田:05/02/04 17:52:45
早速投下。

此れも、ありえないことではなかった。―寧ろ、ありそうなことやったんだけど。
驚くに、きまっとる。関係なさそうな面してやがったあの二人が。夢や、そう、思いたかった。
GOOD NIGHT―良い夜を―#1
田村が『力』に目覚めてから早数ヶ月。俺らは様々な敵を倒してきた。
だが、その敵たちもRPGでいやぁ、スライムみたいなもんやった。
俺らは確信した。そろそろ"ボスキャラ"が登場する頃や、そうやって。
俺らは間違うておらんかった。殺気を感じる。…劇場を出た頃から。
「―田村。」「わかっとるっちゅーねん。」
俺と田村はそういって、走り出した。街灯がある、細い人気の無い路地に向かって。

「はよでてきぃな。男二人のケツ追っかけまわして何が楽しいねん?」
俺がそういうと、疎らな拍手が聞こえてくる。
パチ、パチ、パチ…。
「さすがやねぇ、嬉しいわぁ、頭のええ後輩がおって。」「けど、【敵】やっちゅーんが悲しいなぁ。」
「そやねぇ、悲しいなぁ、こんな若い芽を摘むなんて。」対照的で、特徴のある喋り方。
―おもろいな。そういって、田村と舞台袖できいとった記憶がある。
「―、まさか、小堀さんに、修士さん…!?」
月明かりに照らされ、電柱にたっとった二人の正体が明らかになる。…俺の予想は、外れてなかった。
「っ、ホンマに、何でっ!」動揺しているのだろう、田村は何をしゃべっとんのかわからへんかった。
「おー、正体まで当てよった。」そう言って修士さんは地面に飛び降りる。
「ん、さすがやわ、やっぱ。川島君はエエ子やね。」同じように小堀さんも飛び降りた。
「…おおきに。」ギロッと俺は二人を睨んだ。「何で、俺らを追い掛け回したんですか!」
「んー、何でやって?」「それはな、俺らがお前らの敵やからやねん。」
敵。即ち―。
「【黒】の人間、っちゅーことか。」
603鹿島田:05/02/04 17:54:15
続き。

「その通り。」「うん、欲しがるのわかるなぁ。」
「確かにな、賢い人、好きやもんな、【あの方】は。」にやにやと妖しい笑みを浮かべる。
「誰やねん、【あの方】って。」俺が問うと二人は困った顔をする。
「どないしましょか、小堀さん。」「どないしましょか、修士さん。」
「そう易々教えられんなぁ。」「仲間になったら教えたるよ。」
にっこりと二人は微笑んだ。
―見損なったで、二人とも。俺はそっと呟いた。
「川島…。」「仲間になるはず、ないやろ。」
やっぱりな、そんな顔をしながら小堀さんが言うた。
「そか、じゃあ…。」
続けて修士さんが言う。

「力ずくで、ならせたる。」

二人の目は冷酷で、何処と無く寂しそうだった。
604鹿島田:05/02/04 19:31:09
>>602-603の続き
「…そうですか。」俺はそう言い、走ってくる二人を見据えた。
―可哀想に。田村がそう呟いた。

GOOD NIGHT―良い夜を―#2

修士さんの姿が消えた。
「田村!」「おう!」
そう確認しあうと、田村の石――、白水晶が光った。同時に、強烈な光が一面に広がる。
「ぐ!」「っち!」「…ナイス、田村。」俺は呟き、影の中に入った。
「!?川島は何処や!?」「ホンマや、おらへん!」影から素早く体を出し、修士さんの手を掴もうとした。
その時。「…なーんてな。」「しまっ…!」修士さんは後ろ向きのまま俺の手を掴む。
鈍く、石が光った。「っぐあ…!」ミシミシ、ミシ…。「川島ァ!!」
「血の流れを、変えたんよ。…おもろいやろ?」くくっと修士さんは妖艶に微笑んだ。
「川島ぁ!!」「田村君、ごめんなぁ?」そういって小堀さんは田村の両手首を掴んだ。

怖い、怖い、怖い。父親が出て行ったこと母親がいなくなったこと。
様々な恐怖が、俺を襲った。
「っは、うわぁぁぁぁぁぁぁあぁ…!!」

「田村っは、っち…!!!」掴まれた右手がビリビリと痺れている。
「俺の石の力は、『悪夢を魅せる』こと。…さぁ、川島君はどんな悪夢をみるんやろな?」
田村のほうを見る。田村はガチガチ震えていた。
605鹿島田:05/02/04 19:32:23
川谷修士(二丁拳銃)
石:黒真珠(←宝石言葉は静かな力強さ)[ブレスレット]
【能力】:液状物質の「流れ」を操ることが出来る。
【条件】:勿論、液状のものでないものは操れない。
     発動時に黒真珠を握る手に多大な負荷がかかる。
     流れているもの、あるいは入れ物に触れなくてはならない。

小堀裕之(二丁拳銃)
石:マーカサイト(←宝石言葉は思い出、情景)[ネックレス]
【能力】:触れた相手の厭な思い出、情景を鮮明に呼び起こす。
【条件】:相手の身に着けているものでも可。身につけていたものは駄目。
     だが、身に着けていたものから予測していたこと等を見ることが出来る。
     長時間使用すると頭が割れるような頭痛に襲われる。
606ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/04 20:26:12
>602-605
新作またまた来た!!
いやぁ、最近の新作はどれも読みやすい。
続き期待していますね。



ってマーカサイト使われちまいましたか・・・。
(ガレッジ編で使う予定だったんすけどね
まとめサイトも見て頂きたいなぁ)
607鹿島田:05/02/04 20:29:57
有難う御座います。続き執筆中です。

え!?まじですか!すいません…まとめサイト見とくべきでしたね。
すいませんでした!!
608名無しさん:05/02/04 20:38:32
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
面白くなりそうですね!乙です!楽しみにしてます!

あ、メール欄に半角でsageと入れた方が良さげですよ
609鹿島田:05/02/04 20:49:05
有難う御座います。

あ、有難う御座います!!早速いれました!
610鹿島田:05/02/04 21:08:34
駄目や…これ以上田村に戦わせるわけにはあかん…。街灯もあるし、なんとかいけるか…。
ビリビリと痺れる右手を睨み、石を発動させた。
「又か…学習能力、あんのかい?」「あるやろ。…ま、無駄な足掻きっちゅーやっちゃな。」
ズズズ…。ブロック塀の影からでる。
バキッ!「てっ!」「小堀!…てめぇ!」
修士さんが殴りかかってきた。
―好都合や。俺は瞬時に修士さんの手首を掴み、石を発動させた。
修士さんだけが地面に叩きつけられた。「っぐあ!」「修士!…ドジが。」
小堀さんは俺の落としたガムを握った。がしっ!「しまっ…!」「…捕まえた。」
611鹿島田:05/02/04 21:11:19
>>604,610続き
様々な恐ろしい光景が鮮明に思い出された。
そのなかに、低い、恐ろしい声が聞こえた。
―あいつらが、憎いでしょう。
誰や、お前は。
―私ですか?…黒水晶ですよ。我がマスターよ。
俺の、石?
―さぁ、力が欲しいでしょう?総てを、私にお預け下さい?私に総てを。
ぐらり。意識が途切れかけた。
っち、呑まれて…たまるか!!

「ああああああああああああああああああっ!!」ばしん、と小堀さんの手を払う。
「な!」「っはぁ、はぁ…た、むら…大丈夫、か…?」
「…あ、あ、悪い、な。」そういってはいるが、まだ小刻みに震えている。
「川島ぁ!」修士さんがこっちに向かって走ってきた。
ヤバイ!!動け、動け、動け!!動けや、俺!!!!嫌な汗が頬を伝った。
「グ、グアアアアアアアアアア!!!!!」いきなり小堀さんが叫んだ。
「、小堀!っち、もうか……。…ふん、今日は終いや。またな、川島。」
最後の意識で、小堀さんを担ぎ、修士さんは去ってったところが見えた。
「GOOD NIGHT、良い夢、を…。…田、村…。」
そして何か濁った感情とともに意識は遮られた。

この戦いで聞こえた黒水晶の声を又聞くことになるとは、思わなかった。

happy end…?
612鹿島田:05/02/04 21:46:24
長短篇番外編投下したいと思います。

あんときおとした、ミント味のガム。――確か、設楽さんに貰ったんよな。

ミ ン ト

「あ、川島君だよね。」「…はい、そうですけど。」
東京のテレビ局で会ったのだ、確か。
「スピードワゴンの二人から何時も聞いてるよ。」「有難う御座います。」
「…あ、そうそう。お近づきの証に此れ、あげる。」「…あ、どうも。」
ミント味のガムだった。先輩に貰ったものだし、帰って暇なときにでも食おうと思った。
「川島ー、行くで。」「おー、…じゃあ、失礼します。」
すると手首を掴まれた。「…何ですか?」「僕、賢い人、好きだからね。」
そういって設楽さんは手首を離した。俺は気味が悪くなり、走って逃げた。
設楽さんはにやりと妖しく微笑んだ。
「待ってるよ。川島君。…君は、こっち側の人間なんだよ。」
end
613名無しさん:05/02/05 00:36:24
乙です!
にちょけんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
面白かったです

614新参者:05/02/05 00:58:18
さくらんぼブービーとポイズンが出てくる番外編が書きたいんですが、
ここに投下してもいいでしょうか?
宜しければ明日か明後日にアップしに来ます
それと、長めなのでHTMLにして晒したいのですが、それって許されてますか?
皆さんの意見お待ちしています。
質問ばかりですいません。
615名無しさん:05/02/05 02:02:28
>>614
いくつかに分けて投下すれば、HTMLでなくても大丈夫だと思いますよ。
さくらんぼブービーとPOISON…一見接点のなさそうな二組ですが、
どんなお話か楽しみにしてます!
616鹿島田:05/02/05 03:16:09
明日、にちょけんが何で黒に入ったかエピソードを投下したいと思います。
617新参者:05/02/05 12:59:39
皆さんに比べると大した量にならなかったので、そのまま書き込みたいと思います。
615さん、意見有り難うございました。
次から投下します、流血シーンがあるので苦手な方は注意してください。
では……。
618新参者:05/02/05 13:00:42
芸人の中で石が流通してから随分経った。
わりと初期から手にしていたか、それとも遅かったのか。
周りと比べたことはもちろん無いので比較も出来ない。
同時に、石の持つ能力が高い方なのか、低い方なのか。
どうも、石に魅せられていない人は情報を隠したがる。
協力してくれと言ったなら、ある程度の情報を送るのが普通じゃないのか。
普段は前向きすぎるのを短所としている木村にとっても、
現在の状況をまあまあで終わらせることは出来なかった。
幸い人が死んだという噂はなかったが、いつ耳に入ってくるか分からない。
ニュース番組で沢山のファンに囲まれ、
棺桶の船で空へ向かう芸人仲間の姿など想像したくなかったし、
自分がそうなっているのはもっと考えたくなかった。
ノアの方舟とは違って先に希望はない。
さくらんぼブービーとして活動を共にする鍛冶の石と対になっている木村の石は、
正直使いにくいものだった。
木村だけで戦うのは難しく鍛冶の力を使っても負担が大きすぎる。
鍛冶が直立不動のまま動けなくなったのも記憶に新しい。
「どうしろってんだよ、なあ?」
返事を期待しないまま声を空中に投げた。
壁で跳ねて鍛冶の耳に届くが、主語が無かったので内容を理解出来ない。
うそぶく鍛冶の顔はどこかひょうひょうとしていて、それがまた木村の苛々をせき立てた。
無言のまま鍛冶の頭を殴り、文句を並べられる前に楽屋の外へ。
何も無かったころに比べると廊下にも寂寥感が流れていた。
619新参者:05/02/05 13:01:39
同じ事務所の芸人がいれば少しは場が和らぐかもしれないが、あいにくスタッフ以外の姿は見えない。
全国ネットの番組に出られる芸人などごく一部だ、
うじゃうじゃといたらいたで圧迫されてしまうだろう。
ため息をつきながら頭を掻き、ポケットに入れっぱなしだった煙草の箱を取り出した。
外に出るまで耐えられず歩きながら火を点ける。他の人は仕事中だ、どうせ人は来ない。
煙草の煙は体に纏わり付いてから逃げた。
空気に混ざっては消えて、息を吐いて継ぎ足してを繰り返す。
何回肺が汚染されたころだっただろうか。急に体が重くなり、思わず目を細めた。
木村特有の鋭い眼光の先、
姿形が映し出された鏡に映る自身の影が大きく膨らんだかと思うと、
影を背負ったままの長身の男がゆっくりと姿を現した。
影に適う黒いスーツの肩が上下に揺れている。
お互いに顔ぐらいは知っている、その程度の関係。
もっとも、彼のコンビは敗者復活戦を通り抜けて大舞台へ上っていったので、
見向きもされていないかもしれないが。
「さくらんぼブービーの」
ある程度知名度はあったらしい。
木村の顔を見るなり、影から出てきた男――川島明、は細い目を見開いて呟いた。
木村も軽く会釈で返し、ふと気づいて点いたままの煙草を隠す。
「石のことは知ってるみたいですね」
有り得ない状況に驚かないのが証拠だ。それを分かっている川島が切り出す。
面倒なことになる予感はあった、聞かなかったふりをして歩み出そうとする。
「お願いです、これ、持っててください」
620新参者:05/02/05 13:02:29
無理やり腕を掴まれて逃げられずに、されるがままに何かを握らされた。
見なくても中身は分かる、すぐに突っ返そうとしても遅い。
川島はまた影にもぐって姿を消してしまう。
白黒どっちの人間だろうか。失礼かもしれないが、黒の可能性が強い気がしてしまう。
川島の発する独特の空気は木村ですら飲まれてしまうものだったし、
影に潜る彼の動作は随分と手慣れていた。
踏まえて、手にした石をどうするべきか。
見た目は確認しないままポケット内のある場所に隠した。
誰にも言わなければ引き取りに来るだろう、楽観視して隠していた煙草を吹かす。
短所だと再確認してからすぐにこれだ、第三者はあまりの不用心に頭を抱えるはず。
そしてそれは案の定、危害に変化して帰ってくるもので。
後一つの角を曲がれば出口だった。
逆に建物の中に入ってきた二人組と目線がぶつかる。
あのコンビも確か決勝戦へ進んだはずだ、英語の長ったらしいコンビ名の……忘れた。
木村が思いだそうとする前に質問が飛んでくる。
「麒麟の川島見ませんでしたか?」
小さい長髪の方が軽く笑みを浮かべた。
不自然な笑みでは無かったが、何か特別な事情があるのは分かる。
どちらが善人? 情報不足が響く。
「見てねえっすよ」
触らぬ神に祟り無しだ。結局は何も知らないふりをして通り過ぎようとした。
ポケットに入った石も忘れた演技で自分をごまかす。
621新参者:05/02/05 13:03:20
「嘘ですね」
丁度互いの体が一直線に並んだ瞬間に、長髪の方が呟いた。
同時に背の高い方が、手の平に貼ってあるガーゼの絆創膏を剥がす。
鮮明に写った赤い傷跡から液体が滲み出して、重力に逆らったまま空中に留まった。
明らかに血液だ、あれも石の力?
身を翻して逃げようとしたが遅い。手の平を顔に押しつけられ、血液が呼吸手段を奪う。
辛うじて隠れていない視界が掠れるのも時間の問題だ。
初めて感じる命の危険の中、後ろで傍観する長髪が口を開いた。
「ちょっと黙っててくれると有難いんですが」
この状況でどうやって話せっていうんだ。悪態も睨むだけで終わる。
息が続かない、遠くなる意識の中、ヒーローのように出てこない鍛冶を呪った。

すっきりしない目覚め、ぼんやりと捉えられるのは大量のダンボールと割と広い空間。
どこかの倉庫に連れ込まれたようだ。頭を数回振ってから誰もいない空間に耳を澄ませる。
「ああいう方法なら被害が少なくてすむな」
「鼻の穴にも血を突っこんだの?」
「まあ、そうだけどな。うん、出来るだけそういうのはスルーしてくれよ」
「わかった。じゃあ口の方は」
「それも駄目だ。お前、俺が何を言いたいか分かってないだろ」
気の抜けた会話に肩透かしを食らう。
漫才中と同じような調子で続いたが、木村と目を合わせることで止まった。
ご丁寧に目覚めるまで待っていてくれたらしい。
622新参者:05/02/05 13:04:03
端にある掛け時計を確認する。気絶していたのは数分だけだ。
とりあえず仕事に差し支えがなさそうなことに安心してから、現状況をどう乗り切るか考えた。
「気分はどうですか?」
長髪が尋ねてくる。どうもこの男には見当外れなことを聞く癖があるらしい。
やる気無さそうに目を緩めて木村の顔を覗き込む。
「悪いんですけど、勝手に色々調べさせてもらいました」
予想はしていた。しかし相手二人がいなくなっていないところから見ると、
預かり物も木村自身の石も見つかっていないようだ。
煙草の箱の中なんて誰も想像出来ないだろう。
「川島はどこへ?」
聞きたいのは一つだけか。ここで正直に言えば帰れるか?
多分無理だ、この二人が良い側の人間とは思えないから、
口止めと銘打ってぼこぼこにされる可能性がある。いっそ石が取られていればよかった?
「知らねえっす」
「嘘は体に悪いですよ」
「だから本当のこと言ってるんじゃないすか」
立ち上がっても何も出来ない。だったら座って体力を温存したほうがましだ。
喧嘩だけなら勝てそうな相手だから、石の力さえなんとかなれば逃げ出せる。
「川島は、影から影に移動することが出来るんです。
 ここである程度検討付けておかないと、遠くに逃げられたまま終わっちゃうんですよ。
 別に放っておいてもいいんですけど、石を取られたままでして……」
ゆっくりと事情を説明されていくうちに木村の顔が引きつっていく。
標的は石、やはり渡してしまうべきだ。無理やり取られたことにすれば分かってもらえる。
着信音が鳴り響く。後ろに突っ立っていた長身の携帯電話だった。
623新参者:05/02/05 13:04:51
真顔で電話相手と話しているが内容は分からない。長髪の尋問も一時停止されていた。
「……分かりました」
酷く辛そうな声だ。
会話を終えた長身が俺ら二人のそばに立つ。長髪と顔を見合わせて、眉を寄せた。
「こっち側に引き込めって」
「この人を?」
「いや、コンビごと」
「何で?」
「面白そうだからって言ってた」
内容は理解できないがまずい状況になったのは分かる。この状況を楽しめる人間がいるらしい。
目を見開いた木村は、とっさに立ち上がって一つしかないドアに向かおうとしたが、
首もとの生温い感触に体を固めた。
「逃げられるとまずいんですよ」
木村の首に巻かれた血液の持ち主が決して明るくはない声色を使う。
ゆっくりと振り返ると、無表情のまま手を伸ばす相手。
血液がピアノ線のように鋭くなった、頸動脈を切るくらいは出来そうだ。
諦めて手を上げると糸は解いてくれた。けどこのあとどうする?
せめて鍛冶がいてくれれば方法はある。
いつまで出番をじらすつもりだ、あの馬鹿!
短気な性格が単純に現れ、木村の表情に怒りが浮かんだ。
「そんなに怖い顔しないでくださいよ。言う事に同意してくれれば、何もしないですから」
困り顔の長髪が手を振って苦笑いをする。それですら木村の神経を逆撫でするだけだ。
更に眉を吊り上げて拳に力を込める。
無防備な長髪をカバーするように、長身の方が血液を変形させた。
624新参者:05/02/05 13:05:48
赤くて鋭利な日本刀が木村の首もとに留まる。
「あの、俺らはですね……」
たどたどしい長髪の説明は荒っぽくまとめるとこうなった。
石は黒派と白派に分かれていて、黒は白がうざったい。
だから黒に協力して、白の人間をぶっつぶせ。もちろん木村が承知するわけもなく。
「んなこと誰がするかよ」
礼儀である敬語も忘れて睨み付けた。ため息をつくのは相手二人、何故か悲しそうな顔をして。
「そう思っても断れないんだよ」
血の刀を持った長身が、独り言のように呟いた。
相手にどんな理由があろうが今の木村にとっては知った事ではない。
苛々は最高潮、石を託した川島に対してでは無く、
今だに現れない鍛冶に対してだけ向けられている。
昔からの仲であるからこそ、矛盾した責任をぶつけてしまうのは当然だ。
「オラこのクソ鍛冶! 何してんだこんなときに!」
人目を憚らず喚く木村に驚き、二人組が数歩下がった。
瞬間、木村の石が光り、倉庫の明かりと混ざる。あまりの眩しさに三人揃って目を閉じた。
光が段々弱くなる。その場には何も変化はない。
しかし微かながら石は光ったままで、ポケット越しでも光が確認できた。
驚いたのは相手の二人組だ、無いはずだった石が存在して、
意味の分からない効果を発しているのだから。
「何したんですか」
初めて長髪に怒りが浮かんだ。木村自身分かっていないので説明も出来ない。
625新参者:05/02/05 13:06:35
長身の血液がもう一度木村の顔を覆おうとして、
二回目のブラックアウトを予想した木村は目を見開いた。
「木村? どうした? 何してんの?」
ドアのノックと一緒に届く、気の抜けた、けれど聞き慣れた声。
ようやく二人目の登場か、どうしてこうなったか分からないが苛々が勝った。
「どうしたのじゃねえよ、来るのが遅えんだ馬鹿! こっちは絶体絶命だっつーの!」
「えぇ? なんでそんなことになってんのー!?」
「俺だってわかんねえよ!」
相手が独特の間なら、こっちはいつも通りの騒がしさ。
ぎゃあぎゃあと表記するのが一番適したこの状況で、呆気に取られているのは二人組。
しかしすぐに我に返り、慣れた方法で口を塞がれた。
もがいて指を噛もうとしても血液のクッションで押さえ込まれる。
鉄の臭いが頭に充満する中で必至に拘束から逃れようとした。
口が使えないと鍛冶に指示が出来ない。呼吸は可能なので考える時間はある、
数秒動きを止めてから近くにあった足を思いきり踏みつけた。
長身の方が小さく痛みを訴え、そのおかげで血液の拘束が少し緩くなる。
ジェル状になったそれを引きはがしてから、ドアの方に走って鍵を開けた。
「うわあ!」
向こうも向こうでドアを突き飛ばそうとしていたらしい。
木村と鍛冶の体がぶつかって共倒れになる。大げさな効果音は密封された倉庫内でよく響いた。
「このクソ野郎……」
息が切れているせいで木村の声量は小さい。
苦く笑う鍛冶は気まずそうに頭を掻いてから、近くで立っている二人組を確認した。
626新参者:05/02/05 13:07:51
「あ、POISON GIRL BANDだ」
そうだ、そんな名前だった。喉につっかえていたコンビ名が表に出て少しだけすっきりする。
鍛冶も流石に一人一人の名前は分からないらしく、呼ぼうとして数回躊躇っていた。
「すんません、名前なんでしたっけ?」
挙げ句の果てには面と向かって尋ねる始末。殺気立ってていたはずの空気が一気に軽くなる。
しかも相手はご丁寧に質問に答えてくれた。長髪は阿部、長身血液操作は吉田。
「面白いってこのことだったのかなあ……」
吉田が呆れながら呟いた。阿部も同様苦笑している。
このまま場が治まってくれればよかったのだがそうはいかない。
「二人ともって予定だから好都合は好都合だけど」
「好都合じゃないよ、多分、石使ってくるだろうし」
「攻撃型だったらまずいか」
「うん、まずいな」
「大丈夫?」
「まあ、なんとかするよ。阿部は見ててくれればいいから」
吉田が再度血液で日本刀を作り出す。
「何あれ?」
騒々しく慌てるのはもちろん鍛冶だ。木村がうるせえと注意し、少し疲れた体で指示を出す。
「あれやるぞ」
「あれって?」
「前やったろ、楽屋荒らしたやつ」
「動けなくなっちゃうよ」
「半殺しにされるよりましだ」
627新参者:05/02/05 13:08:39
最後の単語にやられたらしい、観念した鍛冶が俯いた。
木村だって作動すれば疲れるのだからお構い様だ。
会話している最中にも隙が出来る。
木村が気づいたときには吉田が血液を振り上げている最中だった。
何とか避けたが高かった服が破れてしまう。舌打ちする間もなく次の攻撃が放たれていた。
「鍛冶! そっち捕まえろ!」
もちろんキーワードを発していないので、鍛冶は正気を保ったままだ。
指示されるまま後ろで傍観していた阿部の元へ走った。吉田も身を翻して後を追う。
言葉を言うくらいの間は出来た。大きく息を吸った木村の声が辺りに響く。
「あれ? 鍛冶くんじゃない?」
「うん!」
顔は合わさないまま、鍛冶も綺麗な返事をした。
動作が獣臭くなり、人間とは思えない呻き声が辺りに木霊する。
石を持たずに鈍く光る目に捉えられた阿部は言葉を失って身を固めた。
野性の肉食動物に狙われたようなものだから当然だ。
襲われる阿部と襲う鍛冶の間に血液の壁が出来る。
弾力で跳ね返った鍛冶は上手に着地し、腰を落とした前傾姿勢で相手を見上げた。
吉田は無表情だが動揺しているのは分かる。
「鍛冶! 殺すな!」
とりあえずの指示を出すと鍛冶の動作が一瞬止まった。
すぐに襲いかかるが野性の習性で、殺す以外の攻撃方法は苦手らしい。
取っ組み合いで肩を握り、相手の体を利用してジャンプしてから腹を両足で蹴り飛ばした。
派手に転げる吉田の血液が床に散らばる。
628新参者:05/02/05 13:09:19
阿部が吉田の元へ向かった。咳き込んでしゃがみ込む相手は放った鍛冶が、
回りに比べると小さい阿部に目を付ける。
目の光が強くなり歯を剥き出して男にしてはせまい肩を両側から掴んだ。
「鍛冶! やめろ!」
肩に噛み付く寸前。無抵抗だった相手は必至で腕を払って鍛冶の脛を蹴りあげる。
鍛冶は数秒間怯み、それからもう一度阿部に襲いかかる。
流石に耐性の出来た阿部は、今だ蹲る吉田の元に向かって石を取り出した。
赤い靄が膨らんだかと思うと、散乱していた血液が吉田の元に戻る。
一部始終を見た木村は悟った。攻撃系は吉田の血液操作だけで、
阿部は何らかの補助系の能力持ち。吉田の様子が戻ったのなら、
さくらんぼブービーと同じで対になっているのか。
見当がついても対策は無い。鍛冶が吉田を捉えようとしているが、
相手も相当な理由があるらしくなかなか降参してこない。
吉田の顔には明らかな疲れが浮かんでいるのだ。
血液をどうやって防ぐかが問題だった。
変幻自在の武器は本気になればあっさり木村達を殺せるだろう。
吉田の中にある躊躇いがいつ壊れるか分からない。
考えていたせいで注意力が散漫になっていた。
見境が無くなった鍛冶が木村の方へ向かってくる。敵味方が分からないのだ、
相手二人は放って自らの身の安全を確保する必要がある。
「鍛冶、俺は襲うな」
張り上げていたはずの声がか細くなっていた。
木村自身気づかない内に体力を消耗していたらしい。
629新参者:05/02/05 13:10:36
霞む目線の中、背中に隠れていた姿も捕らえられなかった。
血液が木村の左肩目掛けて伸びる。
障害物になった獣の体のせいで、避けるための余裕も阻まれた。
スローモーションになった世界の中で、先の尖った細い直線が肩を貫通したのは白昼夢ではない。
「痛ってえ!」
遠慮なく叫ぶ声は辛辣さに塗れ、肩も木村自身の血液で塗れる。
涙目になって肩を抱え荒い息を繰り返したが痛覚の線グラフは上昇する一方で、
怒り狂う鍛冶が吉田に襲いかかっているのにも気づかなかった。
呻き声。鍛冶の背中が切られたらしい。動きが鈍くなっていたのを見透かされていたわけだ。
あまり長い時間野生化出来ないのも悟られているのかもしれない。
これこそ本当の絶体絶命だ。さっきの状況など比べ物にならない。
肩は痛みを通り越して麻痺してきた、左手の握力は無い。
それに、どんなことをされるか想像するくらいの頭しか残っていない。
止まらない血液を止めるために、傷の周りを強く握りしめた。
血液の川がせき止められて少しだけ緩やかになる。止血する、そうか、防ぐんじゃなくて止めれば。
「鍛冶! 相手の右腕掴め!」
最後の気力を振り絞り、鍛冶が命令通りに動いた。
人間では有り得ない位の力で血管が浮いている。
吉田が操っていた血液が通常の液体になり、重力に従って床に落ちた。
止血すれば血液の流れが悪くなる、ここまで効果があるとは思わなかった。
相手が疲れていたのも影響していたのかもしれない。
「鍛冶、そのままけっ飛ばせ」
これが最後の指示になるだろう、体力も精神力も限界だった。
630新参者:05/02/05 13:11:44
先は真っ暗で予測不能だ、二つしか結果がないロシアンルーレット。
白か黒か、少なくとも目線は灰色に近い。しゃがんでいるのも辛くなって床に倒れ込み、
横向きで見た結果は残酷なものだった。

そこで勝利を掴みかけていたのは鍛冶でも吉田でもない。
後ろで見ていたはずの、何も攻撃できないはずだった阿部だ。
どこからか持ってきた金属性のバケツを鍛冶の頭に振り下ろそうとしている瞬間。

諦めて目を瞑ろうとした時だった。遠い昔に感じる、
けれどついさっき見たのと同じように鍛冶の影が肥大化したかと思うと、
影から闇を背負った黒いスーツが浮かびだす。
男は一瞬にして阿部の持っていたバケツを弾き飛ばし、
吉田の肩を掴んでまた床の影に消えた。
吉田だけが影に混ざらずに床に衝突する。決して重傷になるほどの衝撃では無かったが、
疲れ果てていたせいで致命傷になったようだ。とうとう起き上がらずに、
あおむけになったまま天井に顔を向けている。
石を取り出して吉田に駆け寄る阿部の影がまた肥大した。中から姿を表した川島が、
後ろから腕で阿倍の首を締めるようにする。抵抗できなくなった阿部は大人しく石をしまった。
「石、返してもらいに来ました」
阿部が何もしてこないのを確認し、腕を離してからの第一声。
木村は横になって目線だけ向け、引きつる痛みの中で苦笑する。
石に慣れるのと比例してこんな状況ですら慣れてしまったのか。
631新参者:05/02/05 13:12:53
特有の呻き声がしなかった。鍛冶も、木村と同じく倒れ込んでしまっているようだ。
命令しなくても元に戻っているのは単なるスタミナ切れで、意識はしっかりとあるらしい。
記憶は無いが戦っていたのは分かるらしく、質問攻めに合うことは無かった。
「……交渉の時間です」
川島が阿部と目を合わせる。大きな男と小さな男のやりとりは、
情けないながらさくらんぼブービー二人とも横になって傍観するしかない。
それよりも早く医者を呼んでくれ、願望も口に出なければ伝わらない。
「ここは見逃すんで、この二人の傷を元通りにしてくれませんか?」
正直意外だった。今までの流れで、自分の目的だけに突き進むと思っていたから。
木村は肩を握りながら、鍛冶は強制的な金縛りから逃れようとしながら、
二人とも同じ驚愕の表情を浮かべた。
阿部が何も言わないまま頷く。取り出した石を鍛冶に向けた。
赤い霧が背中を隠したかと思うと、うつ伏せの上にはっきり浮かんでいた切り傷が消えて、
服が破れただけになる。
しかし同時に阿部が顔を歪めていた。それは木村の肩の穴をふさぐときに大きくなる。
傷を直すために同じ傷の痛みを譲り受けているらしい。
そこまでして黒にこだわる理由が分からない。弱みを握られているとしか。
それを白は知っているのか?
怪我が治癒した吉田が、逆に阿部を支えて立ち上がる。決して二人とも晴れた顔はしていない。
木村達を一瞥してから、酷く疲れた様子で倉庫を後にした。取り残された三人の反応は別々だ。
木村は相変わらず苛々を募らせていたし、鍛冶は動けない歯がゆさで戸惑う。
唯一立てている川島も随分疲れているらしかった。
「あの、石……」
632新参者:05/02/05 13:13:38
言われてからやっと気づき、木村が石を取り出す。
結局何も起こらなかった石のせいでこんな目にあったのだ。投げつけたくなったが耐えて、
出来るだけ穏やかに川島に渡した。
「有り難うございました。あの……」
「何?」
「怒らないんですか?」
首を縦に振るだけで答えた。こんな馬鹿馬鹿しいことに怒るつもりにもなれないのが本音だ。
川島は一瞬だけ目を伏せて、影ではない暗い雰囲気を背負った。
「すいませんでした」
心底からくる謝礼の意にまた木村は驚くが、今度は表情にすら出せない。
辛うじて動かせるようになった左手を空元気で振るだけだ。
合図を得た川島がまた軽く会釈して、今度は正式にドアから廊下へ出て行った。
取り残された中、二人とも同じ天井を眺める。
長い間使われたせいで作られた染みに何か形を当てはめようとしたが、
影にしか見えないので止めた。木村にとっては今でも、川島がいい人がどうか分からない。
考えないようにしてからもう一つの疑問を浮かべる。こっちはすぐに解決できそうだ。
「なあ」
「何?」
「何でここがわかった?」
鍛冶は少し間を開けてから、不思議そうに答えた。
「いきなり石が光って、何となく分かった」
「なんだそれ」
鍛冶の笑い声。木村も軽く笑う。
対になっている石同士が共鳴したのだろうか。結論は分からないが、
二人が持っている石でないと怒り得なかった出来事のはずだ。
633新参者:05/02/05 13:17:32
使えない石だと思っていたがそれなりにメリットはあるらしい。
無意識の内に石を握りしめた木村の手は少々汗ばんでいた。
「なあ」
「何?」
「いつになったら終わるんだろうな」
今度は返答が無い。お互い無意識に合わせて途方に暮れる。
こうなると白にも関わらないほうがいいかもしれないと、何となくそんな風に思って。

木村にはPOISON GIRL BANDと川島の関係は分からなかったし、
お互いが辛そうな顔をしている理由も分からなかった。
顔見知り程度では心配も出来ないのが本音だ。少なくとも自分の身の安全が保証されないと、
周りに回す余裕は無くなってしまう。
同期かどうかも分からなくて戸惑った人を慰められるわけがない。
敵も味方も第三者も、あやふやに境界線の上に立っているだけか。

白にも黒にも答えられないだろう様々な質問は、少なくとも二人の思考能力を奪う。
仕事があるにも関わらず、倉庫内に響く時計の音だけを感じていた。

End.
634新参者:05/02/05 13:22:40
>>632
× 二人が持っている石でないと怒り得なかった
○ 二人が持っている石でないと起こり得なかった

誤字の上に一人でずらずらと書いて申しわけありません。
つたない文章ですが楽しんで頂ければ有り難いです。
出てくる人たちの上下関係が分からなかったので、とりあえず敬語を使わせました。
おかしいところがあったら指摘してもらえると有り難いです。

失礼します。
635鹿島田:05/02/05 13:43:17
それでは、予告通り2丁拳銃が『黒』に入った理由のお話を。
636鹿島田:05/02/05 14:04:01
ひゅ…、ぱし。ひゅ…、ぱし。先程白の名も知らぬ若手から奪った石を弄ぶ。
「楽勝やったな。」修士がそういうと小堀は俯き、そやな…と悲しそうに答えた。
「…どないしたん?今日はそんなに石、つかっとらへんやろ?」「川島君のこと、思い出してん。」
川島明。田村も勿論強かったが、川島にはもっと、強い意志が感じられた。
「んで?川島が、どないしたん?」「お前に似てる思て。」「何?男前な所が?」
修士が冗談っぽく言うと小堀はちゃうよ、と苦笑しつつ言った。
「優しすぎる所やな。あん時、俺がドジんなきゃお前は今頃きっと【白】の人間やったのに。」
「…阿呆、いらん事いうな。」修士は軽く小堀の頭を叩いた。

― 運命 ―

麒麟の二人が石を拾う、一週間ほど前。修士と小堀は既に力に目覚めていた。
彼らは襲ってきた悪意のこもった石――つまり、黒の石を封印したりしていた。
丁度その日も、石を封印した帰りであった。
「…やぁ、小堀君、修士君。」「設楽さんやないですか。」小堀が言う。
「あのね、ちょっと用があるんだけど。」「…何ですか?」
「【黒】に、入らない?」小堀、修士には設楽の言っている意味が理解できなかった。
「はっ!?嫌にきまっとるでしょう!」修士に続き、小堀も言った。「断固拒否。」
   「…僕、頭の良い人が好きなんだ。だから、ね?」 にっこりと設楽は微笑む。
    「自分の運命を受け入れようとしない馬鹿は、嫌いなんだ。」
ぞくっ。嫌な汗が、流れた。
「もう一度、聞くよ?仲間になる気はない?」
637鹿島田:05/02/05 14:22:43
続き
「ある訳、ないでしょう。」「断固拒否、っちゅー文字の意味辞書で引いたらどうです?」
「…そう。でも、僕らは君たちが欲しいからね。力ずくで、なってもらおうかな?」また設楽は微笑んだ。
「上等やっちゅーねん。」小堀、設楽が構えると同時に設楽は姿を消した。
ズン。小堀に、強大なプレッシャーとは違う、威圧感のある言葉が圧し掛かる。
『君らは、弱い。そのまま攻撃すれば必ず君らは力を失う。そのまま、じっとしてなよ?』
ガクン。小堀はその場に座り込むしかなかった。「小、堀?」修士が呟いた。
設楽はポケットからダイヴァーズナイフと黒い欠片を二つ取り出し、1つを小堀に飲ませる。
そしてナイフを小堀の首元辺りにやった。
「さぁ、どうする?」修士に選ばれた道は、1つだけだった。

「…ほんま、ゴメンな。」「せやから、気にすんなて!俺とお前はコンビやろ。運命共同体っちゅーやつやろ。」
「…さんきゅ、な。」
この運命から、逃れることは出来ないのだろうか。

エンド
638名無しさん:05/02/05 16:52:06
今時間無くて全部は読めてないけどパッと流し読みで新参者、文章の書き方よいね。

(なんか名前のせいで自分が上司になってる気がするのは気のせいかだろうか)
639名無しさん:05/02/05 17:45:07
新参者さん、一発でファンになりました
応援してます
640名無しさん:05/02/05 18:28:51
新参者さん、ポイズンかっこ良かったです。また次も読んでみたいです。
641名無しさん:05/02/05 21:59:41
ポイズンかっこいい〜。
かっこいいけど、指示されたことを果たせなかった二人は
いつぞやのスタッフみたいに戒めを受けることになるのかな。
642名無しさん:05/02/05 23:00:21
保守age
643名無しさん:05/02/05 23:09:19
638さんと被るんですが、ざーっと読んだだけでも面白そうな匂いがプンプンしますね
楽しみです
644名無しさん:05/02/05 23:33:08
新参者さん、面白かったです!!今度投稿なさる時はトリップを付けると良いですよ。
645名無しさん:05/02/06 01:32:34
うん
新参者さん乙です。文章が読みやすくて良かったです。
短編なんかじゃなく是非本編に入れて欲しいくらいですよ。

川島さんが持って行った石がポイズンがアメザリから取り返した石ということに出来れば、
此方の話で上手く繋げられるのですが…如何でしょうか。
もし其方で番外編の続きがあるならばスルーしていただいて構いません。
647新参者 ◆2dC8hbcvNA :05/02/06 14:08:22
こんにちは、皆さん感想有り難うございます。
反響がすごいので戸惑ってしまいました。

番外編をどうするかですが、ここで話し合うとまずいので
したらばネタバレスレにまとめることにします。見てくだされば有り難いです。

それでは、諸連絡だけで申しわけありません。
皆さんの新作楽しみにしています。
今頃すいませんが、遅れてきた青年はタイトルです。
まとめサイトさんを見て気づきました。
何も入れないと全然分からないですよね。すいません。
名前兼タイトルということでお願いします。

感想を下さった方ありがとうございました。
そして、ピンクの医師は石の間違いです。
重ね重ねすいません。
以下566のキング短編続きです。


高橋は、冷蔵庫の中から糠床の入ったタッパーを取り出した。
外からは、雨だれの音が聞こえてくる。
糠床をかき混ぜるのは、高橋の夜の日課だ。
糠を丹精込めてかき混ぜていると指先に何か硬い感触のものが当たった。
小石のようだ。
勝手に釘を入れるのをやめろといったから父はこんなものを入れたのだろうか。
高橋にとって、糠床は大事な一人娘、その中の茄子やきゅうりは目に入れても
痛くない孫のようなものだ。そんなところにこんなどこの馬の骨ともわからない
石をいれるなんて。
全くガキじゃあるまいしと腹を立てる。
窓から捨ててやろうと思いその前に手を洗うついでに石も洗った。
黒っぽい小さな丸っこい石。
その辺に落ちていたにしては、表面が磨きこまれたようにつるつるしている。
ひょっとしたら、父が釘のお詫びにと糠漬にいいからわざと入れた糠漬グッズ
の一種なのかもしれない
そう思って高橋はその小石を取っておいた。
翌日父に聞くと自分が入れたものではないといった。
−ひょっとしたら、あれなのかもしれない。
高橋は、その日石を持って出かけた。
649名無しさん:05/02/06 18:56:32
>>648
「遅れてきた青年」さん待ってました〜。
去年、バナナマンとキングオブコメディのトークライブで聞いた話が
入ってて嬉しくなりました。続き待ってます!
その日はアンジャッシュの番組に呼ばれていた。
番組の収録までの待ち時間に高橋は今野に何気ない風を装い声をかけた。
「トイレ一緒にいこうよ」
「なんでだよ」
そういいながらも今野は素直についてきた。
トイレに着くと今野は、こっち来てといいながらトイレの隅へと高橋を呼んだ。
今野は、あたりをうかがってからポケットから石を取り出した。
「これ」
「お前もかよ」
そういいながら高橋もポケットから石を取り出す。
「犬の散歩してたときに拾ったんだよ」
「犬がウンコしたところに落ちてたんだろ」
「離れてたよ」
「それはいいけど、これってあれだよなあ」
「あの話って本当なのかよ?嘘くせえ」
二人も以前聞いたことがある芸人の間で出回っているという石の話。
高橋が口を開こうとしたとき、水を流す音がして二つあるうちの一つの
個室のドアが開いた。
児嶋だ。
思わず石を隠そうとする二人にいいからいいからと言いながら、顔の前で
手を振っている。うんざりしたという表情だ。
「お前らのところにも回ってきてたのかよ。JCA生まで全員持ってんじゃ
 ねえの」
また、水を流す音がした。
「おい、冗談になってねえぞ」
もう一つの個室からため息をつきながら渡部が出てきた。
一体いつから二人は個室の中にいたのか、そう聞こうと高橋がまた口を
開きかけると渡部が洗った手をペーパータオルで拭きながら話し出した。
「お前ら石の噂はきいたことあるよな?」
そして手短にこの不思議な石をめぐる話をした。
もちろん矢作の話も。
「どうして今まで話してくれなかったんですか」
しかし、高橋も今野も事務所内を包む不穏な空気には気づいていた。
そして皆がなぜか二人を避けるような態度をとっている事にも。
普通に接してくれたのはCUBEの二人ぐらいだ。
渡部と児嶋は二人に協力を求めていた。
白ユニットに入って石の封印に協力しろというのではない、ただ矢作の事
だけには協力して欲しいと。
二人とも矢作の異変には気づいていた。
仕事の疲れがたまっているのだろうかと心配してはいたのだが。
「もちろん協力しますよ」
空気を読まない現代っ子キャラが売りの今野も神妙な顔でうなずいている。
「ところでお前ら自分の石の力がなにかわかったのか」
渡部が真剣な表情を崩さないまま聞く。
「まだです。だって昨日手に入れたばかりですよ」
「まあ、児嶋も時間かかったしな」
渡部はちらっと児嶋を見た。
「人によるんだよ。ちょっとしたきっかけで使えるようになったりするよ。
 まあ、コントをやってみるのもいいかもしれないな。
 アンガールズの山根君なんかコントをやると使えるんだよな」
その夜高橋は、自室の整理ダンス相手に不毛なツッコミをつづけていた。
自分の馬鹿馬鹿しい行動に嫌気がさし、ごろんと布団の上に寝転がった。
―やっぱりライオンに噛み殺されたい人、はまずいよな
そう思いながらもう一度タンス相手にコントを開始しようとすると机の上
に置いた携帯が鳴り出した。
今野からだった。
今野は興奮した声で話しだした。


「ぼーっとしてんじゃねえよ」
そういいながら、今野は高橋に缶コーヒーを差し出した。
いつのまにか、部屋の中に皆が戻ってきていた。
雨ももう止んだようだ。
「これ、おごり?」
「さっさと飲めよ。そろそろ俺らの番だぞ」
「・・・サンキュー」
高橋は、まだぼんやりとした頭の中で石の事を考えなが缶を開けた。
―結局俺の力って
缶を口に持っていこうとすると後ろから急に肩をたたかれた。
びっくりして、コーヒーをこぼしそうになる。
「がんばれよ、遅れてきた青年」
児嶋がにやっと笑って言った。
今回はここまでです。長いですが次で終わります。
リアルタイムの感想うれしかったです。

お試し期間中。さんすいません。私もお試しさんのキングの方が読みたいです。
キングが黒というのが、高橋はともかく今野が意外ですね。
でもすごく面白そうです。
上の方で、白に協力みたいな感じに書いてしまいましたが、話が全く進んで
いないので、黒につかせるという流れにも持っていけるのではないでしょうか。
無責任ですいません。
それとお試し期間中。さんの考えてらっしゃるキングの力も知りたいです。
お話しの方も私も気長に待ちます。
>>648-653
リアタイ更新乙でした!
此方の話はまだ手直しするところが沢山あるので、話を書き換えるのは
◆5X5G3Ls6lgさんのお話を全て拝見してからにしたいと思います。
続きがとても楽しみです。

最近新作が一気に増えて嬉しい限りです。
皆さんのお話、どれも続きが気になって仕方ありません。
自分も早く続きを上げられるように努力しようと思います…;では。
655ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/06 22:33:33
>648-653
またまた新作来たぁっ!!
いやぁ、続き気になって寝れなくなりそうです。
私も遅れてきた青年さんだと思ってた;
これからも頑張ってください。

しかし最近流れ早いですね。
新しい書き手さん、皆書くの早すぎ・・・orz
凄いうらやましいっす。
656名無しさん:05/02/07 00:56:18
御三人さんとも、すごく文章がお上手ですね!続きが読みたいです。

◆5X5G3Ls6lgさんのお話でキング高橋さんの意外な面を知りましたwお試しさんとうまく繋がるといいなぁ。
657名無しさん:05/02/07 01:14:29
このスレ長いレスが読み応えありますな。
658名無しさん:05/02/08 00:28:53
新作乙です!
アンジャッシュの二人の登場の仕方が面白かったですw
いきなりだったんでこっちもびっくりしましたよ(笑)
659名無しさん:05/02/08 00:35:33
「遅れてきた青年」といいつつ、よく考えたらアンジャより年上なのがワロタ。
660名無しさん:05/02/08 00:59:27
age
661名無しさん:05/02/08 01:36:26
>>659
どちらかと言うと「遅れてきたオッサン」か…w
662名無しさん:05/02/09 02:50:35
そろそろ次スレage
663シャロン:05/02/10 00:19:47
「enemy or friend?」

冬の夜風は、身を切るように冷たかった。

「わーきーたーさんっ!」
テレビの収録を終え、テレビ局から出てきた脇田の背後から、明るい声が響いてきた。
振り向いて立ち止まった脇田の目に入ってきたのは、同じ事務所の後輩の顔だった。
「品川・・・」
「今からちょっと飲みにいきません?」
インドア派の品川が自分から飲みに誘うなんてめったにないことだ。
最近、沈みがちの自分を励まそうとしてるんだろうな・・・脇田はそう気づいた。
後輩に気を使わせて申し訳ないと思う反面、そうやって気を使ってくれる後輩の存在がうれしかった。

しかし、今は到底飲みに行く気分になどなれない。

「いや・・・いいよ、俺どうせそんなに飲めないしさ。」
「そうですか・・・」
「・・・」
「・・・」
二人を気まずい沈黙が包む。

「・・・庄司、どうしてる?」
先に沈黙を破ったのは脇田だった。
「いつも通りですよ・・・ただ、石が暴走してた間のことは全然覚えてないみたいですけどね。」
「そうか・・・」
「庄司の石は脇田さんが持ってるんですよね?」
「ああ・・・肌身はなさず。」
脇田がポケットを軽くたたきながら答えた。
「どうもこの石の力は、持ってる本人がコントロールできないらしい。浄化してあるけど、今の庄司に持たせるのは危険だし、それに・・・」
「・・・そうですね。」
脇田の言葉は途切れたが、二人の思いは同じだった。
664シャロン:05/02/10 00:22:03
無駄な争いに、相方を、大切な後輩を、巻き込みたくはない・・・

「ま、いつか、折を見て庄司に返すよ。・・・!」
脇田の目が鋭く光った。
それと同時に、胸元のカルセドニーが赤く光る。
「来ましたね・・・こんな人通りの多いところで。」
品川も気づいたようだ。
ポケットに右手を突っ込んで、淡く白く光を発し始めたラブラドライトを握り締めた。
「とにかく早く、どこか人のいないところまで行きましょう。」
品川の言葉に脇田はうなずき、足早に歩き始めた。

数分後、彼らは人気のない倉庫の中で対峙していた。
月明かりに照らされて、四人の顔がぼんやりと浮かび上がる。
「林・・・家城・・・」
そこにいたのは、二人の事務所の後輩、カリカの二人だった。
林の口がゆっくりと動いた。
「こんばんは、脇田さん、品川さん・・・」
「お前ら・・・黒だったのか・・・」
品川は二人を睨みつけながら言った。
林はこともなげに答える。
「ええ・・・ある人が俺たちに正しい道を教えてくれたので・・・」
「誰だよある人って?」
「さぁ・・・お二人も良く知ってる人ですよ・・・。」
続いて家城が口を開く。
「お二人が、おとなしく石を置いていってもらえれば、危害は加えません。」
「ふざけるな!」
665シャロン:05/02/10 00:22:54
まずいな・・・
やりとりを聞きながら、脇田は必死に考えていた。
(自分たちの石は、戦闘向きじゃない。
口ぶりからして、カリカの石は攻撃の能力を持っているんだろう。
このままじゃ、不利だ。どうすれば・・・)

「脇田さん、伏せて!」
品川のつんざくような声に、脇田は我に帰った。
あわててその場にしゃがみこむと、背後でガツン!と大きな音がした。
振り向けば、ドラム缶がつぶれている。
「なんだよこれ・・・」
「脇田さん、こっちです!」
品川は近くのドアに向けて走り出した。
脇田もそれに続く。
走る途中、庄司のモルダヴァイドが脇田のポケットから落ちたが、それに気づくものは誰もいない。
「させるか!」
さらにその後ろから、林の放った白い塊が追いかける。

品川が、続いて脇田が転がり込むように部屋に入り、鉄の扉をしっかり閉めた瞬間、ドアの向こうで大きな衝撃音がした。
「おやおや、先輩、逃げてばっかりじゃないですか・・・」
ドアの向こうから、家城の嘲笑する声が聞こえる。
「何だよ今の・・・」
脇田がドアにもたれかかったままつぶやいた。
「林の力みたいですね。風を操ってるみたいです。」
「あの塊が風だってか・・・ドラム缶潰したぞ。」
「家城はどんな力を持ってるんですかね。」
「知らねーよ・・・眉毛がなくなるとかじゃねーの?」
666シャロン:05/02/10 00:24:44
ガン!

扉の向こうで、再び衝撃音がした。
「早く出てきたほうがいいですよ・・・俺の力を使えば、このドアをぶち破るくらい簡単ですから・・・」
まるで、笑いをかみ殺しているかのような林の声。
確かに、このドアを破られれば、この小部屋に追い詰められた格好になってしまう。
それは明らかに不利だ・・・。
「どうする、品川・・・」
「・・・俺がおとりになりますから、その間に脇田さん逃げてください。」

しばしの沈黙。

「そんな分の悪い賭けができるかよ。」
脇田の声は低く厳しかった。
「でも、少なくとも俺の力で、二人の気を引きつけることはできます。」
「その間に、俺の石を使ってあいつらの石を浄化できれば・・・」
二人はしばらく黙って見詰め合った。
部の悪い賭けであることに変わりはない。
しかし、他に手段はなかった。

「じゃあ・・・」
品川がドアのノブに手をかけた。
「行きます!」
667シャロン:05/02/10 00:25:36
ドアを開けると同時に、品川は石に意識を集中させ、目を閉じた。
まぶたの裏に、風に乗って飛んでくるドラム缶が見える。
反射的に右によけた品川の横を、大きな物体が通り過ぎていく感覚、そして背後の衝撃音。
目を開けると、ドアの向こうの林と目が合った。
「・・・あれを避けるなんて・・・さすがですね。」
「あれくらいじゃ、俺は倒せねぇよ。」
林の息がやや上がっている。
(力の使いすぎか・・・)
林に力を使わせれば使わせるほど、こちらのチャンスは広がる。
「でも、逃がしませんよ・・・」
林の髪の毛が風の力で揺れる。
品川は再び目を閉じた。
飛んでくる風の塊・・・今度は軽くかがんでかわす。
「だから、あれくらいじゃ俺は倒せねぇって言ってるだろ。」
林の目も、その後ろにいる家城の目も、明らかに狼狽している。
(今だ脇田さん・・・)

「わぁぁっ?!」
林の背後で家城の叫び声がした。
二人の背後に回りこんでいた脇田が、家城に飛び掛ったのだ。
「家城!目を覚ませ!!」
脇田は家城の握り締めている石を奪おうとしながら叫ぶ。

「家城!」
家城のほうに体を向けた林に、品川が飛び掛る。
「お前の相手は俺だ!」
風の塊が頬をかすめるが、気にしない。
668シャロン:05/02/10 00:27:51
もう少し、もう少しで家城から石を奪える・・・!
「家城!お前も力を使え!!」
林の叫び声に、家城は「あ・・・」と思い出したようにつぶやいた。
そして、家城の表情が媚を売るように変わった。
「わ〜き〜た〜さぁん」
「え?」
急にオカマ声になった家城に驚き、脇田は家城の顔を見た。
家城はにこりと笑って、ウィンクをした。

その途端、脇田は力が抜けたかのようにずるずるとしゃがみこんだ。

「脇田さん!」
「これでこの人はしばらく動けないよ。」
「家城、お前脇田さんに・・・っ!!!」
脇田に気を取られていた品川を、風の塊が吹き飛ばす。
品川は壁にぶつかって、うっ・・・と声をあげた。
「形勢逆転ですね・・・品川さん。」
相変わらず息は上がったままだが、林は怪しい笑顔を浮かべて言った。
余裕の笑顔にも見える。
「っ・・・!」
体を動かそうにも、体の痛みが邪魔をする。
(このまま、やられちまうのか・・・)

彼らとは遠く離れた床の上で、モルダヴァイドが強く輝いていることに気づく者は誰もいない。
669シャロン:05/02/10 00:29:50
林 克治
石:ユーディアライト (自然のエネルギーが理解できるようになる・赤)
能力:風を操る。風に乗せて大きなものを持ち上げて運んだり飛ばしたりできる。
風の塊によって直接攻撃もできる。
条件:ただ風を操るより、物を持ち上げるほうがエネルギーの消耗度は高い。
風をカーブさせることはできない。直線移動のみ。
何度も使うと、風のスピードが落ちたり操ることのできる風の量が減ったりする。

家城 啓之
石:ストロベリークォーツ (好意を伝える石・ピンク)
能力:オカマキャラを演じてウィンクをすることによって、相手の戦闘意欲を奪う。
効果は1回のウィンクで5分ほど。
条件:女装やメイクをすることによって効果が上がる。
また、必ずお互いに目を合わせていなければならない。
男性にしか通用しない。
何度も使用すると、効果の持続時間が短くなる。
670シャロン:05/02/10 00:31:25
突然投下してすいません。

ワッキーは以前にも出てきたことがあったので、それに少しでもつながればと思い書きました。
東京吉本の先輩・後輩の戦いです。
671名無しさん:05/02/10 01:15:45
乙です。林さんのキャラをあまり知らないのですが、なぜ風なのですか?
672名無しさん:05/02/10 01:46:19
>>670
読みやすいのに臨場感満載で、楽しませて頂きました!
ヤシ子の能力が緊張を削いでてw
続きも楽しみにしています。
673名無しさん:05/02/10 01:55:33
ストロベリークォーツが此処で来ましたかw
石を調べてるときにやたら女性向けな石で使い難そうな石だと思っていたら…
ヤシ子が居ましたね。ナイス発想です。
続きが気になる終わり方ですね。
674ブレス ◆bZF5eVqJ9w :05/02/10 07:30:12
新作乙でした。
戦闘中にカマ言葉されたら、力抜ける前に笑ってしまいそうだ(笑)
しかし次が楽しみ。
期待させていただきますね。
675名無しさん:05/02/10 10:39:55
乙ですー
ヤシ子の能力面白いですね
続き待ってます〜
676名無しさん:05/02/10 18:38:51
容量が…499。500KBまでなのでヤバイです。
次の人スレ立てヨロ。自分はホスト規制かかってた_| ̄|●
677名無しさん:05/02/10 19:30:43
678名無しさん:05/02/11 00:10:09
>>670 自演乙 晒しage
679名無しさん:05/02/11 15:15:07
とりあえずシャロンはトリップつけれ
名前欄にHN#適当な文字列な
そして次スレへ
680名無しさん:05/02/16 12:29:39
681名無しさん:05/02/20 22:14:28
危険なのであげ
682名無しさん:05/02/20 22:15:55
>>681
氏ね
683名無しさん
>>681
新スレとっくに立ってますよ。