208 :
見てただけの人:
「ふぅ・・・」
ようやっと一人の男は山の中腹に足を踏み入れたと感じ一息をついた。
山の中は静かだ、島といわれて、小さいものを想像していたが、あれだけの数の芸人を吐き出した後もまだ
静寂を保てる場所があることに驚いていた。
男の名は山本吉貴 チャイルドマシーンというコンビの片割れである。
山本はあの教室でたけしの言葉を聞いてしごく当然に驚き、かつ怯えた。
そして、思わず相方の樅野に視線を送ると樅野もこっちを見返して
「あの林」
と一言だけ告げた。
その言葉を信じて殺し合いの隙間を縫ってただ、進んだ。この状況が、とか、
自分の行く末とか、別にどうでもよかった。ひどくゆがんだ現実の中で、
ただ、相方という言葉にすがっていただけなのかもしれない。
そんな内心の激しい思考とは裏腹に耳に響くくらい静かな林の中で山本は
待ちつづけていた。ここにたどり着く間に、見知った何人もの顔が狂気に走った眼であがいているのを
時には眺め、時には身をひるがえし、時には隠れどうにかたどり着いた。
そして、これからの自分はどうなっていくのかを考えながら樅野を待っていた