校門から、部活を終えたらしい生徒たちがぞろぞろと出てくる。
あたしも数年前は、あの制服を着て、ここに通っていた。
ちづや、爽子たちと一緒に。
北幌の桜は咲くのが少し遅いから、ゴールデンウィーク前の今頃が、ちょうど満開。
校門から少し離れたこの場所に車を停めたのは、校庭脇の桜の木が、ここからだとよく見えるから。
あたしは、窓を少し開けるとタバコに火をつけた。
夕暮れの中、桜が散っていく。
高校生のころの自分は、自意識とか劣等感で、がんじがらめの、ぐちゃぐちゃだったと思う。
でも、振り返ってみると、切なさで胸が痛くなる。
決してあの頃の自分に戻りたいわけじゃないけど、時々堪らないほど、懐かしい。
煙をくゆらしながらそんなことを考えていると、校門からあいつが出てくるのが見えた。
「悪りい!待たせたな」
あいかわらず、デカい声。
助手席に乗り込むと、ぽんぽんと頭をたたかれた。
「何すんのよっ」
「挨拶だ! 運転、代わるか?」
「別に、近くだし、いいわよ」
「まだ始まるまで少し時間あるだろうが。そのへん少し走って、時間つぶそうぜ」
今日は、ちづと龍の結婚の簡単な前祝い。
あたしはなぜか、ピンをピックアップして、約束の店に行くことになっていた。
ピンは半ば強引に運転席を奪い、あたしたちは、短いドライブをすることになった。
「お前、大学行ってから、こっち帰ってくるの久しぶりなんじゃねーの」
「・・・それほどでも、ないけど。実家にはたまに、戻ってるし」
「ふーん。たまに帰ってんなら、連絡くらいよこせよな」
「は?なんであたしがあんたに連絡するのよ」
強く言い返した。でもなぜか、少し顔が赤くなる。
「懐かしい恩師に会いたくねーのかよ。あんなに世話してやったのに」
ピンは前方を見たまま、ガハガハ笑ってる。
よかった、気づかれてない。
いつのまにか、車は、海沿いに出た。
「あー この辺、懐かしい」
いつか、ちづがずる休みして、埠頭に来てたことがあったっけ。
爽子と二人で、様子を見に来たことを、思い出した。
ふと、エンジン音が、停まった。
ピンがこっちを見てる。
「な・・・・なによ」
「何があったのかしらねーけどよ。おめーはもうちっと人に頼ることを学ぶべきだな」
「は?」
「ひでー顔してんだよ」
「!!」
「ぶさいくとかそいういうことじゃなくってなー。ツライことがありましたって顔に描いてあんの」
「何テキトーなこと言ってんの!」
「おめえ、教師なめんなよ。俺様が何年お前の面見てきたと思ってんだよ」
「そんなの、もう何年も前のことでしょ」
「関係ねーよ。お前はいつまでも俺の生徒だ」
「・・・・・・・」
ばかじゃないの。
ピンのバカ。
でも、当たってる。
正直、今、ある出来事のせいで、つらくてしょうがない。
でも、誰のせいでもない、自分のせいなんだからと、胸のうちを誰にも打ち明けずにいた。
ちづや爽子が側にいたら、違ったのかもしれないけど、意外と人見知りのあたしは、札幌での新生活で、心を打ち明けられるほど親しいひとをまだ見つけられていない。
「うん・・・・」
いつになく、素直な気持ちで、答えた。
「そろそろ時間だな。戻るか」
車はUターンして、もと来た道を戻っていく。
いつの間にか日は沈んでいて、ヘッドライトが、懐かしい故郷の道を照らしている。
約束の店まであと15分くらいだから、そのころには涙も乾いてるに違いない。
あたしは化粧を直すために、ハンドバックからコンパクトを取り出した。