YOU表紙:赤ジャージ久美子
表紙:着物を着た、姐さん風久美子
翌日、慎は黒田を訪ねる。
「エリート大学生が何しに来た?ひやかしか?」と
若松・てつ・ミノルに睨まれ、つーんと冷たくされる慎。小学生みたいな態度に戸惑う。
そして「この糞ガキャア!よくここに面出せたな!!」と京さんに掴み掛かられ締め上げられる。
「男としてのケジメのつけ方くらい知ってんだろうな!」刀を取り出す京さん。
ワケが分からない慎だったが、聞くところによると
昨夜、久美子が泣き腫らした目で身も心もボロボロ状態で帰宅したらしい。
慎の安否を聞かれた久美子は、慎が無事に見つかったことを告げた上で
「でももう二度とその名前を口にするな」「沢田とは二度と会わない」
「一生嫁にも行かない、出家する」と話したという。
どう見ても襲われた上に捨てられた女の姿だった!と京さんは慎に怒り狂う。
「よく考えようよ、あいつを襲って俺がこうして無事なわけないだろ!?」と言うと
”確かに…”と思い直す京さん。改めて、何があったんだ?と問われ
「分からないけど、携帯繋がらないし…ただ、一人で突っ走ってるのは分かる」と慎は答える。
そして久美子の居場所を尋ねると、こういう乙女心の問題は男所帯じゃどうしようもないから
分家の姐さん達にお任せしたと若松から教えられるが、場所を聞こうとすると
京さんから「この俺様でも怖い所だから行くな」と止められてしまう。
「一体お嬢はどうしたってんだ。お前を助けに行く前まではめちゃくちゃ元気だったのに…」
その京さんの言葉を聞いて、ようやく慎は救出された時に警察が来たことに思い当たる。
京さんに通報したのかと訊ねるともちろん否定され
「明日学校に行ってみるよ」と、今日のところは帰ることにする。
帰ろうとする慎の前に龍一郎が現れ、慎が挨拶をすると
先ほどと同じように「エリート大学生さんがひやかしですかい?」とつーんとされる。
沢田邸。郷と向き合う慎。
昨日久美子がここに来て、慎とは二度と会わないと約束したことを聞かされる。
「バカじゃねぇの」
「いや、彼女はお前の将来を考えて…」
「バカってのはあんたのことだよ」慎は言い放つ。
「もともと俺が弁護士になろうなんて思ったのは、あいつの好きな男が弁護士だったからだ。
ただそれだけのことで別になーんも高い志とかねぇんだ。
あいつがいないなら、そんなめんどくせーもんになるかっての」
「そういうわけで約束は守れないから」と踵を返す慎を、郷は引き止める。
「確かに黒田のことは、あんたの立場考えたら色々言われるだろうし出世に響くかも知れないけど
そんなことで凹んだりするほどヤワな男じゃねーだろ?かえってやる気出るんじゃね?お・や・じ」
そのまま部屋を後にした慎。
勝手なこと言って…と呆れる郷だったが、笑みが込み上げ、笑い出した。
天海組。
「極道の孫娘と警察幹部の息子、まるでロミオとジュリエットじゃないか!」と天海の姐さん。
「まったく、今まで男っ気の欠片もなくて心配したけどエライのに惚れたねぇ」
「よりによってサツの息子とはね」
「親父さえ亡き者にすれば済むじゃないか!お嬢のためならあたしゃ一肌も二肌も脱ぐよ」
いつもの姐さん達が酒を飲みながら盛り上がる。
「姐さんにやらせるわけにいきません。親父殺るんはあてぇの仕事じゃき!」
康絵姐さんが豹変する。康絵姐さんどうしちゃったの!?と青ざめる久美子。
「親父がどうこうっていうんじゃないんだ…私は、沢田の将来の邪魔はしたくないんだ。
あいつには誰よりも輝く真っ直ぐの道を歩いてってほしいんだよ」
泣きながら言う久美子。貰い泣きする康絵姐さん。
「ちくしょう!お嬢をこんなに泣かせやがって!沢田引っ張ってこいや!
ちゃんとキャンタマついてるかどうか調べてやるぁあああ!!」とまた盛り上がる姐さん。
白金。
2年4組の教室で、クラスは騒がしいのに一人ずーんと沈んでいる久美子。
チャイムが鳴っても生徒達が何を言っても、ケンカが始まっても反応が悪く
おかしな様子の久美子に、雑賀達は顔を見合わせる。
放課後、雑賀達4人は学校を出たところで慎に遭遇する。
「山口先生来てる?」「まだ教室にいると思いますけど」
「今日一日ヤンクミ死人のように暗かったんスよ。何かあったんスか?」
「さぁ?二日酔いじゃね?」
ちょっと頬を染め、校舎に向かう慎を見送る雑賀達。
久美子の背後に野球ボールが飛んでくる。素手でキャッチする久美子。
「誰だコラァァ!!」振り返った久美子の視界に
昔、自分の席だった場所に着席している慎の姿が飛び込んでくる。
「……またやられたのか」
久美子の顔には、昔と同じようにマジックでホクロや髭がイタズラ書きされていた。
「初めて会ったの、ここだったよな?」
「さ…さて、どうだったかな」慎に背中を向ける久美子。
「考えてみりゃあれからずっと、お前を追いかけて来たんだよな、俺」
席を立ち、久美子に近づいていく。
「この距離縮めるのに、結構苦労したんだ。
やっと捕まえたのにくだらねぇことで逃げんなよ」久美子の手を握り、頬に手を当てる。
「くだらねぇってお前の将来だぞ」真っ赤になる久美子。
「俺の将来は、お前がいりゃいいんだよ」顔を近づける。
「もう聞いちゃったから。『宇宙一好き』ってやつ」
唇が触れる直前、何かを感じ取った久美子は「ちょっとそのまま待ってろ」と寸止めし
「何覗いてんだコルァァア!」と、教室の様子を覗き見していた雑賀達を追いかけ出した。
「とっとと帰れ!」「鏡見て驚くなよバーーーカ!!」
「そのまま待てってオイッ………まぁ待ちますけどね」呆れる慎。
俺、白金に来て良かった。
そして多分、あいつらも、お前と出会ったやつら皆思うだろう
このクズ学校もそんなに悪くねーじゃん…って
『白金学院高校』の表札に「白金上等(草かんむり)」と書かれた白金の風景。(終)