【早売りゲッター】総合スレ・十二冊目【ネタバレ】
1月上旬、千葉の海辺の合宿所。
朱雀から発売される清涼飲料水パリエコンガスCM第2弾「INVOCATION(祈り)」録音と撮影のために
レコーディング合宿が始まった。
広告代理店の担当者、木村女史が、塩、蘭丸、萌の三人を、CM撮影のスタッフ達や朱雀社の重役達に紹介。
初日の午後は、衣装合わせ。
薄い布の簡素なドレスだけなので、塩は、衣装担当の女性スタッフ達に向かって
「これを着て外で撮影ですか、1月の海で…」と、思わず不安を口にしてしまう。
萌は「相変わらずお嬢様なんですね、確かめもせずに引き受けてから文句言うなんて」と高飛車な発言。
うろたえるスタッフを見て、さらに萌は
「スタッフいじめじゃないですか、発言には気をつけてほしい」と言いだす。
その場は塩が反論をしなかったので事無きを得る。
その晩。居酒屋での、親睦の飲み会。
萌は、朱雀社の重役達やスタッフ達の席を回ったりして、銀座時代のように気を使う立ち居振る舞いで、
一同から好感を持たれはじめている。
蘭もスタッフと打ち解けている。
塩は、周囲の喧騒になじめずひとりで浮いている。そんな姿を気にかける蘭。
録音スタッフのイタリア人、アレックスが、萌に話しかけてきた。
萌は、自分のイタリア語の発音がなまっているかを訊く。
「そういえばそうだね、たいしたことないけど。最初にちゃんと教えてもらう方が上達するよ」と言われ
萌は(そうなんだ〜)という表情。
飲み会終了後、店の外へ出たとき、
塩は、衣装スタッフ達に、昼間は失礼な態度を取ってしまってすみませんでした、と、謝る。
スタッフ達は、気にするなという態度で塩を見送った後、
「結構素直じゃない」「ああいうところもお嬢様らしい」と語り合う。
その様子を眺めていた欄は、喜んでいる表情。
翌朝。合宿所のベランダ。
早起きして合宿所のベランダにいた塩に、蘭丸が声をかけてきた。
「昨日思ったんだけど、苦手なのに人との関わりをちゃんとしようとしてるんだね」
蘭が細かいところも見ていてくれたと、内心感激する、塩。
二人きりになる時間があるとは思わなかったのでうれしさも大きい。
「ルディ先生に教えられて、演じる楽しみが少しだけ分かってきたの」と近況を語る塩。
「ありがとう蘭ちゃん。あんなひどい事言って別れたのに、
私と普通に接してくれて。
私きょうは今までで一番うまく歌えるわ ずっと気にしてたことがやっと果たせるから」
塩が去った後、
欄は、菜都子ママに電話して、問いただす。
「俺がベティに誘われてたって、塩クンに話したのは、ママだね?」
「話してません。今更知っても時間は取り戻せないのよ」
電話後、蘭は、萌が暴力を振るう直前までは、自分と塩がうまくいってたことを考え、やがて思い当たる。
(神野氏ならベティの誘いがあったことを知ってたはず。神野氏が、塩クンに話したんだな)
合宿所内の録音スタジオで、録音開始。
「INVOCATION(祈り)」の録音が始まった。
蘭は(今は気にしちゃいけない、この仕事が終わるまで波風立てるな」と自分言い聞かせている。
塩(演じるように歌おう)、萌(私は上達してるのよ)、
それぞれに気合いの入った三人のハーモニーで、
レコーディングは、一発で決まる上出来の結果だった。
お互いの修行の成果を褒め称え合う、塩、萌、蘭。
録音スタジオ室を出た塩が
(萌さんが前よりバランスよくなってくれたから
私も安心して歌えた、気持ちいいんだろう)と満足感に浸ってるとき、
蘭が話しかけてきた。
「演じてたよね、塩クン。「INVOCATION(祈り)」では何の役のつもり?」
塩が答える。
「時…。萌さんがさまよえる魂で、私が残酷なほど冷酷に時間を刻むんです。
過去にも戻さず未来も見せず、でも誰にでも平等だし、いい時を過ごせるよう応援もするんです」
蘭の頭の中には、今朝ママから言われた「時間は取り戻せない」のひと言がよみがえり
{今だけはこうして、二人の時が合ってる…留まろうとしているのか、さまよってしまうのか…)
複雑な心境らしい。
その後は、CM映像の撮影開始。
波打ち際に、白いグランドピアノ。砂浜の側に鍵盤と椅子。開かれたフタのすき間からも水平線が見える。
毛布にくるまっていた三人が、次々に薄衣で登場、
長髪のかつらの女装蘭に続いて、登場した塩は、(お嬢様だからと言われないように)と頑張る。
白いピアノを弾く蘭、その脇でうなごやかに微笑む塩と萌、というシーンも撮り終え、
塩がピアノから離れて少し沖に出て、波しぶきをバックに、塩が両手を天にかざす、というショット。
そのシーンの撮影が終わった途端、大波が、塩を襲った。
蘭が「逃げろ! 早く陸に!」叫んだ直後、塩の姿は波に呑まれてしまう。
蘭が、薄衣のまま、駆けつけようとするが・・・(次号に続く)