1 :
桐谷瑛督:
あれは2ヶ月前のことだった。
目の前は鮮やかな緑の芝生が生い茂る原っぱが広がり、
どこまでも続いているように見えた。
久々に夢だと判る夢で、こういう原っぱにたたずむ夢は
何度か見たことがあった。しかし、今回の夢は少し違った。
僕の目の前には、一人の女の子らしき姿が見えたのだ。
「君は・・・誰?」
おそるおそるその後ろ姿に近づき、声をかけてみる。
だが、反応はない。
「ねぇ、聞いてる?」
彼女は綺麗なロングストレートの黒髪を、時折、
吹き寄せる風になびかせた状態で、僕に背を向けたままである。
「なぁ・・・せめてこっち向いてくれないか?」
なおも無言で動く気配なし。
「わざと無視してるのか?」
思い切って僕は彼女の肩を掴む。すると・・・
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3 :
桐谷瑛督:
思い切って肩を掴む。すると、
『触んな!!』
正直、度肝を抜かれた。さっきまで、儚げで美しいたたずまいの少女が
僕の想像の遥か斜め上を行く話し方をしたのだ。僕の夢なのに。
「あ・・・ごめん。」
とっさに謝る僕。
『ぁあ!?なんだよ、弱々しいやつだな!!』
相変わらず、後ろ姿を見せた状態で僕に一括する少女。
「そっちだって、聞いてたならそれなりに反応してくれればよかったじゃないか!」
『うるせぇよ!なんでてめえの名前も名乗らねぇヤツから名前聞かれなくちゃならねんだよ!!
はっきり言ってムカつくんだよ!!』
ぐっ、全くもって反論できない。口調のことで突っ込んだらまた余計に罵られる。
ここは・・・仕方ない、相手のペースで話すしかないだろう。
「・・・さっきは失礼な聞き方をしてすみません。僕は荒嶋 恭二と言います。」
『ふん、荒嶋恭二か。一応覚えておく。』
あれ?そっちの自己紹介は?
『で、俺に何の用だ?』
「え?」
『だから、一体どんな用で俺を訪ねて来たのかってことだよ。』
彼女は何を言っているんだろう。そもそも僕の夢の中だから、
僕がいるのは当たり前だし、僕がここを選んで来れるような
起用に夢を見られる人間ではないのに。
「あの、僕は勝手にここに来てしまったんですよ。」
『はぁ?!勝手に?』
まるで手が勝手に動いて盗んでしまったと言い訳する万引き犯
に呆れるような声で僕に聞き返した。
「ええ、そうなんです。何かおかしいですかね?」
『おかしいも何もお前、どうかしてるんじゃないのか?』
そこまで言われるのは心外だ。これで、夢の中と言えば、
きっともう相手にされないと思うので黙っておこう。
『お前、何者なんだ?』
「だから、名前ならとっくに名乗りましたよ。」
『ちげぇよ、どっから来たのか聞いてんだよ。』
「・・・日本からですが。」
『ニホン?なんだそれ?馬鹿にしてんのか?』
相変わらず顔は見ていないが、
背中から怒りが滲み出ている気がする・・・。
『これ以上、俺を怒らせたらどうなるか・・・解っててやってんのか・・・?』
「いや、別に嘘をつくつもりはなくて、正直に話したつもりなんですが・・・」
『うっせえ!!ナメるのも大概にしやがれ!!!!』
次の瞬間、彼女がやっと振り向いたかと思えば、
振り向きざまに右ストレートをモロに顔面にくらってしまい、
意識が遠くなっていった・・・。