>>146 ベニテス…リバプールの指揮官が自ら俺の自宅を訪れたのはリーグも終わってすぐだった。
たった一年で金も名誉も失った惨めな俺を嘲笑いに来たのか…そう思っていた俺には意外な言葉が発せられたため、一瞬理解出来ずにいた。
「もう一度、スタンリーパークに戻ってこないか?」
…聞けば、昨年の補強に失敗し、獲得した選手達はみな活躍出来ず、ジェラードやアロンソ、トーレスも相次いで負傷による長期の離脱を強いられたことにより、サポーターの批判をもろにフロントが受けることとなったのだという。
それゆえに、今年の補強での失敗は許されない。そこで俺は選ばれた。俺ならば例え活躍出来ずとも、裏切り者には当然とばかりに個人への攻撃が始まるからだ。怒りの矛先がフロントへの批判ではなく俺個人へ向けられ、叩かれ晒し上げられる。
活躍出来れば、前例のないキャリアを持ったニューヒーローとなるだろう。さながら潜入スパイを成功させたジェームズボンドのように。失敗すれば…二度と故郷リバプールの街に戻ることはかなわない。
時間をくれとだけ伝え、指揮官を帰した。窓の外を眺めると、母親とボール遊びをするこどもの姿が見える。初めから気持ちが決まっていたことに気がついた。
スタンリーパークに立てばまたブーイングを浴びるだろう。しかし、いつの日か、俺にもうたを歌って迎えてくれる日がくることを願っている。
幼い頃、母とリバプールの勝利を願って口ずさんだ、“You'll never walk alone”を――
fin
苦情は受け付けない