テイルズ オブ バトルロワイアル Part18

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301名無しさん@お腹いっぱい。
保守
302名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 22:29:55.53 ID:qQuqN+GJ0
スキット投下します。
303SKIT「ぎょくおん!」 1:2011/06/19(日) 22:30:44.97 ID:qQuqN+GJ0
「何故、こんなことに……」
「【誤殺なう】と……ぷ、ぶひゃひゃひゃ……失敬。うぷ、ププププ……幼女を殺して、出た感想が『あぅ』って……
 生娘じゃないんですから……い、今思いだしただけで……くっひゃ、ハハハハハ……」
圧倒的不利の中で希求した最善を完膚なきまでに踏み躙られて頭を抱えるグリューネの前で、サイグローグは爆笑していた。
ドッキリに成功したのと同レベルの笑いを浮かべながら嘲るこの道化に、グリューネは最善を踏み躙られたのだ。
ならば、眼の前の仮面に対して抱く感情など、一つしかない。
「その下卑た笑いを止めなさい。下郎が……ッ!!」
「フハハ……重ねて失敬……しかしグリューネ様のお顔も、一度“鏡で”見た方がよろしいかと思いますよ……
 私の手が余程気に入らなかったご様子ですが……一体何処がお気に召さぬと……?」
「全部に決まっているでしょう? 
 何の事前宣言も無く死者の召喚し、全滅させたはずの兵隊の数を後から変更し、
 主催戦力同士で殺し合わせ、自分で殺しておきながら都合よくリバースドールで生かし、
 無理矢理、剣士が親友の妹を殺す状況を作っておきながら何をいうのですか!」
浴びせるようにグリューネはサイグローグの非を責め立てる。
騎士道斯くやと正々堂々、正面から戦ってきたグリューネにとって許すべからざるものだった。
裏を突くだけならベルセリオスも行ってきたが、これは次元が違う。
言ってみればジャンケンで相手がグー、キー、パーどれを出すか読んでいたら、影絵の『犬』を出されたようなものだ。
「犬もかなり強力だと思いますが……いずれにせよ全て応手済みでございます……
 バトルロワイアル開始時に生きた死者の存在は確認済み……故に、王による死者蘇生の可能性は提示されております……
 狂剣の人数については……そもそも百体全滅したとは申しましたが……“雑魚を追加しないなんて一言も言っておりません”ので……♪
 主催戦力の同士討ちについても既に解答済み……このゲームでは同陣営の仲違いは禁止されておりません……
 リバースドールについても同様……主催戦力がアイテムを持ってはいけない、などとは言っていませんので……」
予め用意してあったとしか思えない流暢さでサイグローグはグリューネの攻撃をブロッキングしていく。
1つ1つは否定し切れぬ灰色の罠。しかし、それを積み重ねればここまで黒く卑劣になるのか。
「ですが! 最後の1つだけは見逃せません!! 死者を蘇らせることを百歩譲って認めたとしても、
 12体も同時に存在できる訳がないでしょう!? しかも、死体は未だ残っているというのに!!」
サイグローグが攻撃を捌き終えた僅かな隙を突き、グリューネのアクアレイザーがサイグローグを狙い撃つ。
狙うのは、サイグローグがまだ防御をしていない箇所。
だが、それさえも待ち構えていたと道化は笑みを浮かべ、それと同時に絶妙なタイミングで翠の光が周囲を包む。

『結審、基本的王権の尊重・第二項【プリティラリア】。王が複数の同一人物を盤上に同時配置する権利を保障します』
304SKIT「ぎょくおん!」 2:2011/06/19(日) 22:31:12.89 ID:qQuqN+GJ0
ノルンの頭上から射出された二つの光条がサイグローグの死角をカバーするように降り注ぎ、グリューネの術は蒸発さえも許さず分解される。
『この盤に於いては【王国客員剣士】と【仮面の剣士】が駒として同時に配置されています。
 グリューネ……この状況で、複数の同一人物が同時に存在することは果たして許されぬ罪でしょうか?』
「ぐ……それは、そうですが……!!」
淡々と述べられるノルンの問いに、グリューネは押し黙るしかなかった。
勿論、その問いにはいそうですねと言える訳が無い。鏡合わせの裏切り者達と今眼前で増殖した妹達では背景が根本的に異なる。
だが、言葉にしてしまうと―――確かに『同一人物の同時存在』としか表現のしようがないのだ。
しかし、どうしてもここで引き下がってはいけないように思い、グリューネはなんとか喰い下がろうとする。

「ならば……せめて、説明をするべきではありませんか!?
 この自分の行いを是と、正義と謳うのであれば……己が身の潔白を、審らかに示すべきでしょう!?」
「成程……つまり私が紳士であることを示すために、全裸になって『受け止めて……僕のエクスカリバー……』と
 グリューネ様に不敵に申せと……いやはや……想像していた以上の変態淑女っぷりでございます……」
「どこをどう聞けばそのような解釈になるのですか……!!」
「了解しました……つまり、私に対して『受け止めて……私のエクスカリバー……』と申したいと……」
「貴様という道化はどこまで……!」

グリューネが盤をバンと叩いた所で、サイグローグはやれやれと頭を振る。
「冗談はここまでとして……グリューネ様の申請、お受けいたしました……
 確かに、ここまでの状況……何も分からぬグリューネ様にとっては頭の痛い問題でありましょう……
 死者が簡単に蘇ったり……実に“ふしぎ、ふしぎ”……更には……何人にもふえたり……まっこと“ふしぎ、ふしぎ”……でございます……」
うんうん、とサイグローグはワザとらしく首を縦に振って言葉を続ける。
「今のグリューネ様はさながら砂漠に放り出された旅人……何処に向かえば良いのかの目印も無く……
 彷徨えば彷徨うだけ喉の渇きが自身を苛む……それが……『疑問』……その渇きを潤すためには……水を飲むよりありません……」
そう言いながら暑がって舌をだらしなく垂らした犬の真似をするサイグローグに、グリューネの感情が高ぶったのは言うまでも無い。
「王が如何にしてこの状況を作りだしたのか…………気になって仕様の無いグリューネ様の渇き……
 砂漠で迷う者に水を差し伸べるも紳士の務め……グリューネ様の苦しみを……取り除いて差し上げましょう……」
だが、この時のグリューネの耳は今までのどの時よりも研ぎ澄まされていた。
人を小馬鹿にすることに長けた道化が吐くであろうこれ見よがしなヒントを逃すまいと、サイグローグの一言一句に耳を傾けていた。
サイグローグが喉をいからせて重低音を作り、コホンと咳払う。果たして、王が何をしたのか――――――――――











「なに、気にすることはない」









305SKIT「ぎょくおん!」 3:2011/06/19(日) 22:31:49.49 ID:qQuqN+GJ0
そのとき――――――――――確かに空気<セカイ>が、反転した。
「ふざけるな!!」
「ふざけてなどおりませぬ……疑問が気になって仕様無いというのなら気にしなければ良い……
 所詮地を這う民衆に偉大なる王の御業・御心を理解するなど無理なこと……不遜なことは考えずに、ただ誰が行ったかだけを知っていればよい……
 いやはや、流石はかの賢王……実に含蓄のある御言葉を歴史に残したものです……」
「誤魔化すな。それの何処が答えだと言うのか。これまでの異形の奇手に、納得できるとお思いですか!?」
道化師のあまりの浅薄さに、グリューネは堪らず盤に身を乗り出し、道化の胸倉を掴もうとする。
「渇きを取り除く、とは言いましたが……水を与えるとは一言も言っておりませんよ……?
 それに……答える必要のないものをわざわざ答えて差し上げる必要も……ありませんので……ねえ、ノルン様…?」
サイグローグはノルンへと視線を写し、グリューネも釣られて彼女へと目を動かしてしまう。
まさか、まさか“そんなことは絶対にありえないですよね”と懇願するように。


『―――――終審、希望側の請求を棄却。絶望側のバトルロワイアル開催に伴う『開催方法』の説明義務を免除します【サテライトスォーム】』


その懇願を見据えた上で、審判の女神の重き一言が月の光となってグリューネに降り注ぐ。
痛みはない。だが、肌から筋肉を経由して骨に達して光が透過していく度に、細胞一つ、末梢神経の先まで停止させられていくのが彼女にも分かった。
本当に美しいものを見たとき人が理由なく静止してしまうように、ノルンの真言の前に、グリューネの肉体は平伏する。
『……仮に、サイグローグが……絶望側が貴女の要求に応じ【王によって死者が再び存在させられた理由】を説明したとしましょう』
瞼ひとつ動かせなくなったグリューネの中にある意思を見て取ったか、ノルンがゆっくりと口を開く。
サイグローグは何事か、と口を挟もうとしたが少し考えてから聞く体勢へと移行した。
『死者が蘇ることを善しとしない貴女は、当然それを納得しないでしょう。
 何とかその論理に矛盾を見出し、それはあり得ないと主張する。聡明な貴女です、おそらくそれは認められるでしょう』
ノルンはゆっくりと、稚児をあやすように語った。本来この後行われるべき攻防を、筋道を立てて進めていく。
『当然、この現象を通すべきサイグローグは再び否定を行うか、代替案を提示しなければなりません。
 ですが、もしそこでサイグローグが再否定出来なかった、あるいは理由の代替案を持っていなかったとすれば?
 その時―――――【王によって死者が再び存在させられることはない】という論理が成立してしまう』

問いと共に、ノルンの強い視線が突き刺さり、グリューネはノルンの言わんとすることを察してしまった。
“問題はそこだ。そこに矛盾が生じる”。

『しかし、このバトルロワイアルでは初手―――王による他駒への開幕宣言の時点で、死者が再び存在しているという事実が決定しています。
 そもそも……貴女がこれを否定しようと思ったのはこの世界を“貴女が正しいと思う世界”に戻すためでしょう。
 ですが、それを否定すれば世界が成立しない。つまり、貴女がこれを否定する理由も存在しなくなるのです』
バトルロワイアルの中で起きた結果であるならば、その過程を否定し、その結果をなかったことにできるだろう。
だが、始まりだけは否定できない。
“きのうころんだじぶんをちゅういすることはできない”――――バトルロワイアルの中で、バトルロワイアルそのものを否定する行為は“許されない”のだ。
『故に、絶望側は王が如何にして盤を作り上げたかを語る義務を負いません。
 ただ【王の力】と知っていればよい。語るに落ちるよりは、語らぬが賢者の在り方です』
説明しなければ、破綻することはない。そう言い切りながらノルンはグリューネの戒めを解く。
体を動かせるようになったことを確かめながら、グリューネは悔しそうに言った。
「だから……認めろと? 一度最初に死者を辱め、弄び、穢したのだから……“今更気にするな”と……それに納得しろというのですか……!」
『ええ、たとえ貴女が納得出来ようが出来まいが……“決定されている結果を覆すことは出来ません”。
 仮にも世界を調停する神を名乗るのであれば、弁えなさい』
306SKIT「ぎょくおん!」 4:2011/06/19(日) 22:32:25.45 ID:qQuqN+GJ0
奥歯をかみ締めながら項垂れるグリューネを、ノルンは少しだけ表情を曇らせながら見ていた。
「ありがとうございます……私、ベルセリオス様ほど口が上手くないので、まともに説明していたら勝てなかったでしょうから……」
『別に、貴方の為に行ったわけではありません』
一部始終をニタニタと見守っていたサイグローグが心無いねぎらいの言葉をかけ、ノルンがそれに無機質に応じる。
どうみても味方同士とは思えないのに、今のグリューネには二人がつるんでいるようにしか見えなかった。
なぜこちらの手が悉く否定され、サイグローグの非道が許されるのか。
あのスカートの中に何万ガルドを差し込めばここまで卑劣な判定が許されるのか。

「結構です……貴方達がいくら私を巧言令色で煙に巻こうと、卑劣非道を重ねようと、私の道は揺るぎません。さあ、次を始めましょう!」
自分を奮い立たせるように、グリューネは目を絞りながら盤面へと目を向ける。
確かに今回はサイグローグとノルンの反則寸前の策略に落ちてしまったが“そういう奴等なのだ”と分かってしまえばやりようもある。
こんな卑劣な相手に屈し、敗北を認めるなどあってはならない。矢でも鉄砲でも光跡翼でも、全て叩き斬ってしまえばよいのだ。

『随分と勝利に拘っているようですが……“何故、そこまで拘るのですか?”』
「え……?」
『何のために勝とうとするのですか?』
(私は、勝って……何を……?)

突如放たれたその問いに、グリューネは思わず口を噤んだ。
何故自分がこうも苛立っているのか、そして“勝ってどうしたいのか”を、上手く言葉に出来なかった。

『どうやら……貴女は一度、己の貌を見たほうがよいのでしょう……』
そういって、ノルンは杖を振り空間の中に光の渦を作り出す。
「……次は、一体何を……!!」
『貴女は今、とても酷い顔をしています。人も、神も……自分の姿を自分の眼で見ることはできない……
 グリューネ。貴女は知るべきです。貴方が何を許せないのか……貴方が何をしたいのか……』
光の奔流が、やがてひとつの形を作る。それは家具ほどの大きさを持った鏡だった。

『これは「うつらないかがみ」。虚像でも、実像でもない……真実を映し出す魔法の鏡です……サイグローグ』
「……まあ、いいでしょう……手を借りてしまいましたからね……次はお任せしますよ」
「クッ……また新手ですか? 誰が来ようと関係ありません……! 来なさい!!」

グリューネがキッと眼力を集めて鏡へと向く。だが、鏡はグリューネに背を向けたままカタカタと何かをしながら独り言を呟いている。

『追伸。何か、変なタンスがしつこくてさぁー。うぇ〜〜〜ん。泣きたいよ〜〜〜―――――――ほい、送信っと』
そういうと、鏡の影から鳥型のホログラムがふよふよと虚空へ飛び立ち、何処かへと消えてしまう。
『うわぁっちゃあ!? あぁ〜〜〜またいつもの癖で“弟君”って書いちゃったよ……怒るだろうな〜〜』
鏡は後ろを向きながらぶるぶると左右に身体を揺らしながら飛んでいった鳥を惜しむように見ていた。
能天気そうな声は何処までも清々しく場違いで、それが何よりも空恐ろしい。
『ま、いっかー……って、あれ? うわわ、もしかしてカーテン上がっちゃってる!? 出番!?』

自分の在る状況に漸く気付いた鏡が彼らの盤へと向かい合う。
それは真実だけを映す鏡。虚飾無く、容赦なく正解に辿り着く天才装置。

『えー、コホン。ほいほ〜〜〜〜い! 魔法の鏡だよ〜〜〜〜〜ん!!』

衒いなく笑い抜く鏡の向こうで、きっとグリューネは吃驚仰天な貌をしていたろう。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 22:33:19.59 ID:qQuqN+GJ0
投下終了です。次話は今週中に投下の予定です。
308名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/19(日) 22:45:08.87 ID:LKEifc8s0
投下乙!
後何回俺は腹筋をガードブレイクされればいいんだ……
309名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/20(月) 22:35:23.63 ID:H4ZEkIr0O
投下乙!
うーんタイムパラドックス…
310名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/21(火) 02:19:24.36 ID:qgNGM557O
なりダン1知ってる奴は数々のオマージュにニヨニヨ出来るなw
311名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/22(水) 21:07:48.25 ID:FfLfb0L/0
投下します。
312End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 1:2011/06/22(水) 21:08:42.40 ID:FfLfb0L/0
雨が降っていた。
押さえきれない悲しみを表すように、苛烈に。
けれど雨は重たい水滴で身体を濡らすだけで、更に気持ちを募らせ鈍らせる。
決して、その穢れを洗い流すような真似はしてくれない。

逃げる背中に追い打ちをかけるように雨は降っていた。
惨めな自分を責める雨は、細かく細かく、目を凝らさねばよく見えないほどの量だった。
当然、洞窟に雨が降る訳が無い。白妙に目が眩むほどの、攻撃術の雨だった。
雨垂れにしては大きすぎる炎の滴、霧雨にしては白く輝きすぎている光の粒。
過剰纖滅の雨は、防がれることなく、少年と抱えられた少女の死体を掠める。
決して自然の音ではない、けたたましい半鐘<サイレン>の音。時折、無数の視覚センサーが赤い光を覗かせる。
雨は優しくなどなかった。
雨は、侵入者を排除するためのプログラム――望むならば、大量の同胞を殺された憎しみに過ぎなかった。
先程まではいくら束になって数で襲おうとも雑魚でしかなかったが、今は違う。
戦意を喪失した、逃走しか能のない奴に躊躇する理由はない。高らかにサイレンを鳴らし、天上万歳、天上王万歳と人を殺す機械は行進するのみ。
幼い怪物の泣声が雨音に混じる。雲霞む軍列の中に、不規則な重量感ある足音が響く。
それだけで、彼の剣は怯懦に震えた。その両腕は、か細い亡骸を包むことしかできなかった。
雨は外側より鳴りて、彼の身を紅く濡らす。死ねと、死ぬべきだと。
雨は内側より鳴いて、彼の心を黒く塗らす。どうして、どうして生きているのと。
強い雨足で降り注ぐ音の中で、少年の弾むような息はかき消されてしまって聞こえてこない。凍えた吐息も、白くは色つかない。
ただ重さに平伏し、ただ跪いて息絶えろと、雨は背中を追い立てる。

やがて背を押していた雨は、向かい風が吹き、身体の表側を傷付けていく。
顔を上げると、天上の機械モンスターが大群割拠として、波のように広がっていた。
ひとりに向けるには幾ら何でも多すぎる量だ。絶望以上のものを与えようとしているのか。
前から後ろから、過去から未来から耳から頭から半鐘の音が交差する。
重なり合い、追随し、ぐわんぐわんと響き渡る不協和音は、もはやどこから聞こえるのかも分からない。
ただ、あの日の憎悪と悲痛が蘇るようで。脇に抱える少女の体は、半分なのにいやに重くて。
ああ、煩い。黙れ。何も聞こえないくらいに煩すぎる。
何も聞こえない無音に終ぞ耐えかね、少年は大口を開けて向かい風に牙を剥いた。
耳の周りを飛ぶ蠅を払う様に、握った時の剣を振るう。白い雨の中に、黒に近い暗すぎる蒼が光を放つ。
彼の感情を物語るかのように、蒼い光は音速を越えて忌まわしき鐘の音を呑み込んでいった。
切り裂かれた雨を、彼――クレス=アルベインは駆け抜ける。更に彼の身体が傷付かれようとも。


313End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 2:2011/06/22(水) 21:09:27.64 ID:FfLfb0L/0
◇◆◇


あの鏡は何だ。
いきなりどこからか声が聞こえたかと思えば、作り物の短い足が生えた鏡が遠くから迂回しながら走ってきた。
盤のそばまで来たかと思えばピョンと跳ねて立ち止まる。登場にしてもダイナミック過ぎないだろうか?
対岸の椅子に腰掛ける女神が唖然とする。
それを差し置き、鏡はまるで胸を張っているかのように身体を仰け反らせて女神の方を見る。
一体なにをそんなに誇らしげにする必要があるのか。だが、誇らしげになる理由も分かる。
鏡には女神の表情が映っていた。状況に追いつけてないのがありありと分かる、何とも間抜け面だった。
対面する道化師サイグローグはこれは愉快と、ほの暗い笑い声を上げ、目を細めて微笑を被る。

『どったの? お腹冷えたとか〜?』
いきなり現れたかと思えば、いきなり言葉で責めてきた。
なんと無礼にも程がある鏡だろうか。結果として反発心が表に出る。
女神が握り拳を作り上げ、卓上へ向かってどしんと拳を叩きつける。柔和な顔つきに似つかわしくないほど、表面を歪めさせていた。
そんな怒気など通じない、いや、そもそも怒りを向けられていることさえ理解せず、鏡は人懐こそうにグリューネをマジマジと見つめる。
その瞳に、一瞬でも醜く浮かび上がった感情を見逃すことはしない。また愚かしい表情が銀盤の上に映る。
「何の趣向ですか」
「さあ……私は何も……聞くのであれば、あちらの精霊にお聞き下さいませ……ほう、次は綺羅星ですか……私も勉強しなければ……」
眼を鏡から背けるように道化に問うが、サイグローグは女神の詰問もするりと抜けてわざとらしく書物を読んでいた。
ひょいと手を捻らした途端、手の中には虫眼鏡が現れる。
仮面越しに虫眼鏡を使って、老人のように書物の文字を見ている。読んではいない。あくまで、見ているだけだ。
何も言わない女神に、サイグローグは手の虫眼鏡をぐうっと相手の方へと伸ばす。届いてさえいれば押しつけてしまうほどに。
「グリューネ様……まぁた顔が歪んでおりますよ……」
にたにたと笑うサイグローグに、女神グリューネは苦虫を噛み潰したような顔をした。
当然だろう。虫眼鏡越しに見れば顔が歪んで見えて当たり前だ。
しかし、グリューネの方から虫眼鏡を覗いてもサイグローグの瞳は見通せない。
仮面の奥に隠れた目はどこを見ているのか、見当すらつかない。見当も付けたくなかった。
これ以上、いたちごっこをしていても仕方がない。グリューネは顎を持ち上げ、道化師の後方で空に漂う精霊を見つめた。
鷲のように大きな翼と、翡翠を思わせる緑色の長髪。
髪を留める、花のつぼみと枝葉を模した簪の飾りが女性らしさを更に引き立てていた。何よりも、彼女が大樹に纏わる者であることの証左になる。
本来ならば、敵対すべき存在ではない筈なのだが――目尻を引き絞り、大樹の守護者を見据えた。
「ノルン、この鏡は一体?」
『先ほど述べた通りですよ……あの時の紡ぎ手ともあろう者が、とても酷い顔をしていたものですから。
 一度ご覧になった方が良いのではないかと思い、こうして呼んだのです。日曜大工程度の拵えとはいえ、使う分には役に立ちますから』
ノルンの答えに、随分と楽しそうな家具がいたものですね、とグリューネは呆れがちに息をついた。
当の鏡はというと皮肉が通じないのか、頭(と思しき鏡の上部)に手を当てながら盤面の裏側をマジマジと見つめている。
『ふんふん、凄っご。こーなってるのか〜〜……ってあれれ? いつのまにか置いてけぼりでお話〜? こら〜無視するな〜!』
と思えば急に諸手を上げ、地団太を踏んでぷんすかと怒り出すものだから、こっちの方が愉快なのではないかと思ってしまう。
「顔なら見ました。私としたことが、随分と取り乱してしまったようですね。少しはポーカーフェイスというものも学ばないといけませんね」
目を閉じ、テーブルの上で手を重ねるグリューネ。鏡の方へは、もう見向きもしなかった。
もう用済みだから引っ込みなさいと言わんばかりの態度に、鏡は怒ったままだ。
そうだ、そのまま無視してしまえばいい。このようなもの、道化師と審判者の単なる幻惑、戯れだ。

『――――1つだけ、忠告をしましょう』
314End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 3:2011/06/22(水) 21:10:09.00 ID:FfLfb0L/0
耳の鼓膜が、後ろ側から撫でられた。もちろん直接ではない。静かな女性の声音が冷水のように浴びせられる。
良く言えば冷静で客観的な、悪く言えば冷徹で感情の乏しい声に、ぶるりと身体が震えた。
『ポーカーフェイスは“表面だけを隠すもの”です。確かに心の内を悟られぬようにするのは、有効かもしれません……ですが』
いつの間にか、前方にいた筈のノルンがグリューネの後ろへと立っていた。
振り返って確かめるまでもない。否、振り返ることができないのだ。
いつの間にか目前のテーブルと盤は消え、代わりに先程の鏡が立っていたのである。
そして、鏡に映る自分の顔が、
『それは、悟られるだけの心の内を自分が知る時のみ。真実を知らなければ、嘘はつけません。
 真実のみを純粋に求めるこの鏡の前には、真の無い偽りなど無意味―――――さあ、見えるでしょう?
 貴方の心がざわつき、荒れているのが。そう、嵐の日の時化のように』
平静をまるで隠さず、ひどく怒り狂ったものだった。
あまりに自分とは似ても似つかぬ姿に、とても目を逸らすことなどできなかったのだ。
「一体、何を。こんなもの、ただの“まやかし”でしょう」
『まやかしかどうかは、鏡に問えば分かること……鏡よ、この場で一番醜いのは誰ですか?』
『えっとねー、グリューネって人が現在世界ナンバーワンだってさ』
痛烈な皮肉に、ぎこちない笑みを浮かべるグリューネとは反対に、魔法の鏡は楽しげにくるりと一回転してみせた。
回転したところで鏡の向こうにいる自分の表情は変わらない。
「サイグローグを差し置いて私が? 冗談も大概に……」
『まちがーいごーざいませ〜ん。嘘だと思うなら何か聞いてみてよ、質問してくれれば何でも答えてあげるよ〜!』
「〜〜〜ッ! 何も問うことなどありません。すぐに去りなさい!」
勢いよく手を払うも、魔法の鏡は天を仰いで考え込むような素振りを見せる。
何て空気が読めない鏡だ。ここは場の空気を汲むところだろう。
空気を読まなければ、まるで、見てはいけないものを。
『あり、つまんないな〜。じゃ、ちょ〜っと意向を変えて、あたしが質問しちゃおーかな!』
――敢えて。
この鏡は、敢えて空気を読んでいない。珍妙な行動に出るかと思えば、裏側ではかなりの頭脳を働かせている。それすらも自然体というのか。
先程の白銀の騎士のように、サイグローグやノルンの仲間なのか、それとも操られているのかも分からない。
だが、どちらにせよ。この鏡は、確かに女神を追い込むべく動いていた。女神がそれに気付いたときには手遅れだった。

『さっきから酷い酷いってむくれてるけどさ、何がどう酷いのさ?』

先ほどまでと変わらない音調、しかし確かに真剣な声色で鏡は眼前の女神に問う。
『死んじゃった人がいきなり生き返ったこと? 確かに普通は生き返らないよねー。
 けど、バトルロワイアルが始まった時だって、死んじゃった人は生き返ってたんだしさ〜。
 別におかしくないんじゃないかな? 悲しいことだけど、あの子だって死んでた筈だよね』
グリューネは下唇を噛んで溢れ出しそうな言葉を堪えた。
確かに、この遊戯の駒は、元いた世界では既に死んでいる筈の者が大量にいる。
かつて時空剣士と刃を交えた魔王も、人を唆して愉しむ蛇も、実験の果てに壊れてしまった狂人も。
王に弄ばれていた幼き客員剣士でさえ、命は零れ落ちてしまっていた筈だ。
何より王は、勝ち抜いた者への褒美として“死者蘇生”ということも吹き込んでいた。
嘘だと考える者もいた。だが、初めから死んだ者が生き返っているのだから、王は死者蘇生が可能だという点も否定できない。
「ですが、これだけ大掛かりな現象を犯したのです! 王とて、何度も蘇生が出来る訳がありません!!」
『出来ないなんて、誰が言ったの? 【蘇生の為に用いられる術】は使えないよ? 制限されてるからねぇ。
 でもさー、制限する側の王様が出来ることは、そんなに不思議? ねえ?』
「そ、それは……!」
315End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 4:2011/06/22(水) 21:10:42.38 ID:FfLfb0L/0
最初の一回だけしか出来ないだろう。出来るのであればマーダーを蘇生させているだろう。何度も繰り返した考察だ。
だが出来ないとは、しないとは明示されていない。穴熊に籠った王様のことなど、誰も知らないのだ。確証のない推理など、妄想にも劣る。
正体不明のヴェールに隠れた王様を否定することはできない。それは、例え1パーセントであろうと肯定も在り得るということなのだ。
『あ〜っ! それとも、さっき戦ってた剣士くんとあの子が知り合いなのに、戦い合ってたのがダメ?
 そうだよねー。知り合いとなんて戦いたくないもんね〜。あたしもまた教官とかと戦うことになったらイヤだな〜』
うんうんと頷く鏡に、グリューネの表情が一瞬和らぐ。
たった少しの呼吸の間は、か細い希望は、後に訪れる絶望のためにのみ存在する。
『けど、それはグリューネやあたしの都合だよ。
 もしかしたら、ピピピ〜って操られてたのかもしれないよ。お薬とか、魔法とかね。
 もしかしたら、誰かを人質に取られてたのかもしれないよ。大切な人の為なら、仕方ないよ。
 もしかしたら、混乱して相手が誰かも分かってなかったのかもしれないよ。暗いしね。
 もしかしたら、本当に殺そうとしていたのかもしれないよ。優勝して叶えたい願いがあったかも。
 整合する可能性は幾らでもあるよ。なのにさ〜“ただ知り合いをぶつけた”ってだけで酷いって言うのは、ちょ〜っとイジワルじゃないかなぁ』
悪意も諧謔も無く、純粋に不思議そうに自分を見つめる魔法の鏡に、グリューネは漸くその本質を理解し始めた。
この鏡は論理に真実を求めている。感情面で同調することはあれど、理に沿っていなければ女神に味方することなどないのだ。
サイグローグよりも、ノルンよりも、むしろその在り方はベルセリオスのそれに近い。
グリューネの白磁のような顔に、さっと赤味が差す。決して照れや恥といった類の感情ではない。
膝の上で丸められた手が、僅かに震えていた。
「この状況が認められないことを、ただの意地悪だと言うのですか?」
『ほら、あたし、一応研究者だからさ。目の前の現象をただ納得できないからって否定されたら、堪ったものじゃないよ〜
 100回同じ実験をして99回同じ結果が出て1回だけ違う結果が出てさ、その1回をただの偶然とか間違いだって切り捨ててたら実験にならないよ』
がたん、と椅子が倒れる。
「それとこれは話が違います! 王が蘇生できたとして、戦わせることが出来たとして、何故、あの少女である必要があったのです!」
勢いよく立ち上がったグリューネは、もはや目の前の鏡像と同じ表情をしていた。
暢気にふらふらと揺れる鏡に、できることなら椅子を投げ付け割ってしまいたい。
止めていたのは椅子を放り投げるはしたなさとまだ少し残る理性、そして白銀の騎士の末路だった。
『事実は事実。こういうことを出来るかもしれない王様のお城で、こういうことが起きた。それだけだよ』
またしても自信たっぷりに胸を張る魔法の鏡に、苛立ちしか覚えられない。
理不尽に対して湧いて出る不快感は本物だ。だが、理不尽が論理によって主張され、道理となる以上、反論することはできない。
『魔法の鏡、マフラーが曲がってますよ』
『あ、ゴメンゴメンお姉さ……よっととい。それじゃ、いきますか〜〜〜?』
鏡がもぞもぞと動き、表面がぼこぼこと波打っている。
……そもそも。今まで疑問にも思わなかったが、あの鏡、自分のことを研究者だと言っていなかったか?
ただの鏡が手もないのに、一体どうやって何を研究するというのか。そして鏡の内側から聞こえる、不自然な衣ずれの音。
――あの鏡、ただの着ぐるみか!
ならば怒り狂った表情も、単なる作りものに過ぎないということではないか。所詮は幻だ。
『って、ほらほら! よそ見していいの? もうかなりピンチだよ?』
今気付いたと叫ぶ鏡の声につられて盤を見て、グリューネはようやく平静を取り戻した。
気付けば、目の前にいた鏡は消え去り、テーブルと盤が戻っている。
だが、事態は少しだけ動いていた。対面している道化師が、剣士の周りへと無数の駒を“詰め終えていた”。
ピンナップマグを読みながら、サイグローグは足で駒を動かしていたのだ。
「……しまった……!」
身体を前のめりにさせ、グリューネは厳しい目で詰問する。
しかし後方に大樹の精霊を侍らせる道化師は、足の指を開閉しながらいつものように卑しく嗤うだけだ。

「隙だらけでございますよ、グリュゥネさまぁ?」

316End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 5:2011/06/22(水) 21:11:21.26 ID:FfLfb0L/0
◇◆◇

気づけば、少し広々とした空洞へと出ていたらしい。おかげで、敵の総量がおぼろげに把握できる。
「虚空蒼破斬」を放った後でも、まだ機械兵士は残っていた。
流石に、蒼破斬の衝撃波に合わせて駆け抜けても、一発だけでは完全に喰らい切れなかったらしい。
いや、喰い尽くすことができなかった。あの機械の中に埋もれた少女の残骸までも喰うことを躊躇った。
前方を蹴散らすことはできたが、生き延びた兵士たちが後続する。
片やエネルギー量はあろうとも疲れを知らない機械、片や少女の亡骸を抱えた手負いの魔王。
物量で考えても、やがて体力を切らして追いつかれ、無慈悲に命を奪われる羽目になるだろう。死に様はあえて想像しないことにする。
遠くからのデルタレイやバーンストライクといった術が、じわじわと血を奪っていく。
動揺が心を支配し、息に混じり嗚咽にも似た声が漏れるが、少女だけは落とすまいと必死に抱えていた。
むしろ落ち着きのない心理が、手に込める力を強めていたとも言えなくもない。
だが冷静さの欠如が仇となったか。それとも前へ逃げていれば何とかなると思ったのか。
“完全に逃れ切るには、時間が必要”なのだ。
逃げるための時間が足りない内は、敵の攻撃を受けることも厭わない。
逃走には相応の覚悟が必要なのだ。時間を止めている訳でもあるまいし。
終わりなき道に、クレスの体力は刻一刻と削られていく。
そして――誰が一体想像するだろうか。
何と情けない。数多の命を屠ってきた魔王は、あろうことか、石に躓いたのだ。
そして、その拍子に一番手放してはならない欠けた躯を手離してしまう。

<あっちゃー。勝負の邪魔をする気はなかったんだよ、ごめんね〜。でもコレ私のせいだよね。う〜ん、責任感じちゃうな〜〜〜>

すぐさま拾いに立ち上がろうとするが、穿たれる雨がそれを阻む。
前方へ突き動かす力は消え、倒れ伏せたまま、その場に留まる。
顔のない機械兵士たちがニタァと笑ったように見えた。獲物を仕留め、我らが勝利する時を今か今かと待ち望んで楽しんで笑っている。
あるモノは手のサーベルを振りあげ、あるモノは一斉に晶術を唱え始める。

<よっし、じゃあ“ここは私が助けてあげるよ”! カチャカチャ〜〜ポンっと!!>

不味い、躯を失ったその手で剣を握り直したとき。
そのときには、既に遅かった。


【我が友が吹かせるは祝福<zelhes>の風、夜天の再会を祝して力を貸して<リィンフォース>!!】

“機械兵士”には、遅かった。
――振り上げたサーベルを落とす前に、本体であろう鎧の胴を矢が貫いたのだ。

クレスがはっと顔を上げようとすると、すぐ横を目にも止まらぬ速さで矢が飛び進んでいった。
頬を掠める炎は目が眩むほどに熱い。だが、その後に感じるのは背筋を凍て付かせるほどの憎悪だ。
我を無くしたかのような乱れ撃ちは、決して出鱈目に放たれているのではない。どれもが機械兵士たちの身体の要所を狙っているのである。
矢羽の一部を毟りて曲射。親指を除く四指の関節に矢を挟みて三射。射法八節全てを無視して狙われるは太股、手首、目、首、心臓、眉間。
弄んだり、確実に殺しにかかり。じわりじわりと、確実に。残される傷にはは憎しみしか残らない。
クレスが今見た、そして“かつて見た”その光景は―――――正しく、狩りとしか言いようがなかった。

連続で矢を放ち、時には同時に矢をつがえ、気付けば機械兵士も化物もみな沈黙していた。
クレスは矢の主の方へと振り返る。疲れ切った顔には、それを忘れさせるほどの笑顔さえ浮かんでいた。
数々の技、矢を放出するリズム、どことなく感じる“匂い”。
それらは、決して悪い結果をもたらさないと予感させるものがあった。
見覚えのある、ひとつに束ねられた銀髪。切れ長の瞳。油断のない、正に獲物を狙う豹のような佇まい。
よく彼が戦場で用いていた弓も一緒だ。矢がつがえられ、引き絞られようとしている。
クレスの笑みが凍りつく。
鳴弦の音がいやに大きく聞こえた。

「……チェスター」
317End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 6:2011/06/22(水) 21:12:31.77 ID:FfLfb0L/0
親友は黙ったままクレスを通り過ぎて死んでしまった少女の亡骸へと近付き……座り込んだまま、妹を抱え上げる。
下半身を失った躯を深く、深く抱きしめるその背中から迸る感情が、まるでそれ自体が矢のようにクレスに突き刺さる。
そして感情はすぐさま鉄へと変性し、親友――――チェスター=バークライトの鋭鏃がクレスへと向けられていた。
なぜ。それを問う前に、冷たく矢は放たれた。
無意識に避けようとした本能と乱れた理性がせめぎ合うが、鏃に微かに輝く無色の液体を見た瞬間大きく矢を避ける。

噛み締められた唇は強さのあまり血の気が引き、今にも血がぷつりと現れそうだ。
既に息絶えた妹の死に顔を見つめる相貌には、音さえ聞こえてきそうなほど眉間が寄っている。
瞳孔が開いている。青みがかった眼の黒目から、どす黒い憎しみに満ちた冷気が溢れる。
思わず後ずさりし、刺々しい気を放つ親友から遠ざかった。気付かずに湿った洞窟の壁へと肩が触れる。
壁の低熱でさえ、今ここに立っている目の前の彼が作ったのではないかと錯覚してしまう。
こんな姿見たこともない、と言うつもりはない。
クレスには、この表情にどことなく見覚えがあった。全てが終わって始まったあの日も、こんな顔をしていた。
だが何よりも違うのは、身が凍えてしまいそうな視線――――殺意が、明らかに自分へ向けられていることだ。
「何の冗談だよ、チェスター」
張り付けられたような笑みで顔面を固めさせたまま、クレスはうわ言のように呟く。
もしかしたら、殺しという名の薬でキメてしまったせいで幻覚でも見ているのではないか、とさえクレスは思った。
しかし、この予想でさえ理性的な判断の下に弾き出したものである以上、嘘に違いなかった。

<ピンチに駆けつける親友! ロマンだねえ、お約束だねえ。絶望にはそれに見合った希望を――――物語はこうでなくっちゃねえ>

むしろ幻ならどんなに良いだろうか。
チェスターはクレスの言葉に耳を傾けることなく、手で血に固まった妹の髪を解いた。
「こんなにめちゃくちゃに、酷い有様にされて……可哀想に……」
少女の手足は原型を留めていないほどグチャグチャにされており、指も掌も足の甲も記憶の中にある姿を思い出せない。
言ってしまえば少女の体は飾りのついた一本の棒にしか過ぎず、まるで子どもの乱暴で綿を千切り取られた人形のようだった。
そこには人間の尊厳はなく、正に単なる“遊び相手”の姿だ。

<でも“ここは違うよ”。さーって、借金もチャラリらったことだし、あたしに出来ることをやろっかな〜!!>

「許さねえ……絶対に……」
チェスターは妹を地面に横たわらせ、幽遠として立ち上がる。
ゆっくりと持ち上げられた腕は、矢を番え、弓を構えて弦を絞る。
身体から指先へ、そして弓へと伝播した憎悪は、鳴弦を首を絞めるかのような音に変化させる。
三日月型にしなった弓の体は美しく、ゆえに冷たくて孤独だ。決して届くことのない、遠い存在。
「俺は絶対……テメェを殺す……!!」


【ほいさ、流れて転ベ紅蓮の螺旋<ファーストアタック>!!】

チェスターの双眸がクレスを捉える。既にクレスは矢で括り付けられたかのように、身動きを取ることができなかった。
暗闇の中に浮かぶふたつの眼は、相手に狙いを研ぎ澄ましているようで、まるで何も見ていないようだったからだ。
空虚に満ちる殺意だけが、今の彼を動かしている。
“殺したい人間”という存在が、的を射止めるためだけに、矢の精度を確かなものとさせる。
放たれた弓は避けてさえいなければ、確実にクレスの心臓を抉り一瞬で命を終わらせていた。
だが、さっきの機械兵士たちのときのように、矢は一本で終わらず霰として降り注ぐ。
太股、手首、目、首、心臓、眉間。チェスターにとって、目の前の殺人鬼は狩りの対象でしかないのである。
「止めろ! 止めてくれ、チェスター!」
抵抗することなく、回避と戦斧による防御を繰り返してクレスは呼びかける。
しかしチェスターが手を緩めることはない。
318End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 7:2011/06/22(水) 21:13:13.33 ID:FfLfb0L/0
「テメェがアミィを殺したんだろう! なんだよ、あの傷。逃げるあいつを、甚振るように、楽しそうに!!」
ざわり、と背筋に悪寒が走る。
殺した。確かに――殺したのは僕だ。剣を突き立てたのは僕だ。反論のしようのない事実に喉の奥が渇く。
けれども、甚振ったのは僕じゃない。僕の姿をした、僕じゃない別人だ。
それともあれも僕なのか? 目を逸らしてはいけない、もうひとりの僕なのか?
確かに、あれも僕だ。全力で反吐を吐きたいくらいに僕だ。けど、だけど。
自分と、自分じゃない自分、けれども自分自身。どちらも違く、どちらも正しい。
何を肯定していいのかも分からない感覚に、クレスの頭は混迷し、いっそのこと煩わしい全てを斬り捨てろと心が囁く。
「……違う! あれは、僕じゃない!!」
「そんな物騒な得物を振り回しておきながらよく言うぜ! 全く、大した快楽殺人者だな?」
必死に内側の疼きと、それが齎しただろう惨事を否定するも、チェスターには届かない。
ただ目前の殺人鬼を殺すために指先が弾かれる。せめて荘厳に逝けと音色を奏でるかのように。
「あんな無残な姿になるまで痛めつけるなんて、テメェは人間か?」
「違うんだ! あれは」
キッとチェスターの目付きが鋭くなると、矢に赤い光が集う。
「黙れよ、この気狂い!!」
クレスの身体が跳ね、動きを止める。
矢が首元を掠めていったが、気にする余裕など奪い取られていた。

――――気狂い、だって。僕はもう狂人でしかないのか、チェスター。

血のように赤い光を帯びた矢は……否、矢の形をした光は、幾重にも分岐し無数の矢を形成する。
洞穴を照らす冴えた光は、憎悪に満ちたチェスターの表情と、今にも張り裂けそうなクレスの心を曝け出させる。


【夜鷹の爪跡、円環を描き龍を屠る<ホークネイル>!!】

「殺す……絶対ェ殺してやるっ!! 地獄の果てまで、どこまでだろうと、追いかけてやるッ!!」
背中から数本の矢を掴んで、チェスターは懐の瓶へとその鏃を浸す。
その様からクレスは容易に確信した。先ほどの矢の輝きは、やはり毒か。
だが、クレスの気づきなど知ったことかとチェスターは毒矢を掴んで射撃を放つ。
チェスターの最終弓技・屠龍が、それぞれが歪な曲線を描いてクレスの下へと収束する。
親友の弓の腕は誰よりも知っている。紙一重ならともかく、毒を食らわぬよう完全回避するのがどれほど困難なのかも。
クレスは襲い来る毒爪を防ぐことなく――「不味い」と警鐘を鳴らした無意識が、ひとりでに身体を動かし、前へ進みながら矢を避けさせた。
情けない面貌のまま、無駄のない身のこなしで回避する姿は奇妙にすら見える。
そして意識の制御を離れた肉体は、剣を携え、笑い、何気なく親友の肉を抉ろうと
(だめだ)
剣を握る左手の首を右手で押さえ込む。笑いかけた口の端を必死に歯で食い縛る。
無意識は、もうひとりの僕だ。
理性で御し、意識で抑えなければ、浅ましく血を啜ろうとする欲望が露わになる。
たとえ既知の人間であろうと、幼い頃から一緒だった幼なじみであろうとも。
だが、攻撃を止めて敵に接近するなど痴愚の極みでしかしかない。絶好にして絶体絶命の隙が生じていた。

319End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 8:2011/06/22(水) 21:13:46.63 ID:FfLfb0L/0
【前触れの無い悲劇、それは突然の衝撃<サドンインパクト>!!】

そしてこの少女が、阿呆な隙を狙わない理由がない。

「隙だらけです……五月雨ッ!」
クレスは、平静な声が聞こえてやっと後ろに誰かがいることを知った。
ぎりぎりのところまで気配に気づかなかったのは当然である。クレスの背後に立つ少女は忍者だからだ。
悟ったときには、既にクレスの首筋には赤黒く変色した血のような色の刃が添えられ、静かに、
「――――ッ!!」
刃は空を咲いた。
空間翔転移でとっさに移動したクレスは、逆に少女の後ろを取る。
まだ背が低く幼い体躯でも、纏った経験と冷酷さは隠し切れない。大きく束ねられた栗色の髪が目に留まる。
少女は静かに振り返る。横顔が髪の奥から覗く。あどけない面差しに、色のない眼光が宿る。
「すず、ちゃん……どう、して……!」
親友と同じく、ここにはいない筈の少女の姿に、クレスはおののく。
幼き頭領、藤林すずもまた死んだ筈なのだ。そう放送で言っていたではないか。
死者とは思えぬ大きく円らな瞳は悲しみに満たされ、クレスの顔を映していた。
だが、きゅうと半秒目を瞑り、再び開かれた“まなこ”には静湖の如き静謐な覚悟―――忍びの境地が映る。
「その振る舞い……ダオスに洗脳された方とお見受けしますが、私の使命は道半ばで潰える訳にはいかない……御覚悟を!」
立ちはだかる者の命を奪おうと、すずは忍刀を構え、空いた手で複数の苦無を備える。
有り得ない光景に、クレスは胃のむかつきさえ覚えた。
状況はワン・オン・ツー。こちらは剣を振るうことを躊躇し、相手方は仲間と同じ姿のくせに殺る気満々だ。
戦わなければならないのか。仲間を殺さねばならないのか。
悲しみは雨のように降り注ぐ。


【終焉の宣告にはまだ早いよ〜〜! グルーヴィな音階で運命を導け<フラックスフォーム>!!】

雨を、クレスは剣を翳して除けた。
逆さに突き立てた剣から、方陣が天に刻まれ、青い守護の傘を作り出す。
全ての機械兵士が矢に貫かれたはずが、術の雨は未だ止んではいなかった。
否―――クレスだけを狙って降り注ぐこれは“魔術の雨”だ。
傘越しにクレスが見上げれば、上空では箒に跨った魔女が飛んでいる。
指先にマナを集中させ、銃弾を放つような気軽さで低コストの魔術を連発する。
ファイアボール、アイスニードル、ストーンブラスト、ウィンドカッター。根幹たる四元精霊の基本術を、それこそ雨粒のように降らせている。
「アーチェ……!?」
「チェスター! あたし、チェスターと一緒だよ! 一緒にいるよ! チェスター!!」
桃色の魔女アーチェ・クラインは楽しそうに笑い声を上げながら、クレスを殺そうとしていた。
傘はやがて雨粒の威力に耐え切れず霧散し、やむを得ず虚空蒼破斬の闘気の網で無理矢理にでも術を掻き消す。
それでもなお詠唱を紡ぎ、クレスを誅殺せんと、さながら戦闘機械のように魔術を繰り出していく。
その箒の先につけられた神秘の紋章が、彼女の狂気に呼応するように詠唱を加速させる。
「うるせえぞアーチェ! 喋ってる暇があったらアミィを殺したあいつをそのまま貼り付けてろ!!」
「う〜〜〜〜でも、いいよチェスター! それでアンタが喜んでくれるなら、私は誰だってブチのめしちゃえるんだから!!」
魔術と弓術による遠隔攻撃のタッグを、ひたすらクレスは往なしていく。
隙を突いて必殺を狙うすずの一撃を、かろうじて防いでいく。
息が絶え絶えに切れる。何故だ、とクレスは頭の中で何度も何度も問うた。

何故、こちらを攻撃してくる。何故、戦わねばならない。

320End of the Game −禽獣層・鏡の中の自由な真実− 9:2011/06/22(水) 21:15:13.28 ID:FfLfb0L/0
【……ホントにこれやっていいのかな〜〜〜? ま、いっか! 四連携完了・4倍速詠唱!!
 具現せよ新たなる原罪。その罪贖うは我が振う灰燼の剛腕<ドリームファンダム&フラドブランム>ッ!!】

決まっている――――――戦わなければならないからだ。お前が産み落とした罪を、購う為に。

「なっ……!!?」
突如、噎せ返るような熱波が洞窟内に巻き起こる。
肌を刺す熱が意識を一瞬でも空白にし、強烈な風が髪とマントを煽り立てる。
洞窟が強く赤く照らされた。光源は、洞窟の地面が融解したことによって現れた、活力に溢れたマグマだった。
クレスは絶句する。――どうして。どうして“貴方”がいるのか、と、呻きすらしなかった。
熱気に包まれ、人影はおぼろげにしか見えない。黒い影があるだけで、輪郭すらはっきりとしない。
本当に“貴方”がいるのか、一目見ただけでは分からなかった。
「援護、感謝します! このまま一気に押し切りましょう!!」
『試練でもなく、精霊王を敵に回すとはな……実に業腹であるが、この世界では主の契約に従うよりないか…!!』
だが、すずがイフリートの主と会話しているのを見ては、クレスにとってはそうとしか考えられなかった。
いきり立つマグマの中で聳えるは、火の精霊イフリート。召喚術を使え、そしてすずの仲間なのは、ただひとりだけ。
なぜここにいるのか、という問いさえ最早口に出来なかった。生と死をぐちゃぐちゃにされたこの地獄で、いるいないを問うことも徒労だ。
クレスの疑問に答えることなく、イフリートはゆっくりと炎で燃え盛る腕を掲げる。
「クラ―スさんも、敵だっていうのか……!!」
その光景にはやはり見覚えがあった。
世界の元素を司る高位存在、精霊。召喚術は彼ら彼女らと契約を結びて呼び出す。その威力は計り知れない。
クレスはもはや本能的に、召喚術を阻止しようと動いていた。
アミィのときは、狂気に身を任せずとも何とかすることはできた。
しかし、かつての仲間たちを複数同時に相手にするなど、今の“僕”にできるのだろうか?
否、“温過ぎる”。仲間だからといって剣を振るうこともできないなど、温過ぎる。ただの魔王には荷が重過ぎるのだ。
跳躍し、時空の剣に蒼い光を纏わせる。光は刀身の形を作り、本来の刃よりも数倍大きいものとなる。
時空剣技・次元斬が、精霊の腕から生まれる火球を切り裂かんと、

【すかさず回避! 我を守れ限りなく絶対たる騎士の円楯<アクセルモード・ラウンドシールド>ッ!!】

洞窟を駆け抜ける影が、跳躍し、剣を振り上げる。
クレスの目の前に現れた影もまた、同じように蒼い光を剣に纏わせていた。
長大した光の刃は、クレスの次元斬に酷似していた。ゆえに、それらが鍔迫り合いをすれば、打ち消し合うのも必然と言える。
蒼刃が消え、イフリートの赤光によって影が照らされる。姿が曝け出される。
時空剣技を真っ向から打ち破れるのは時空の剣しかない。
あの機械の群れに“自分”を混ぜてこなかったのはこのタイミングで隙を突くためかと、クレスは驚きを納得しようとした。
しかし、向かい合った自分の眼を見て、クレスはその気持ちを霧散させてしまう。そこにいたのは狂人ではなかった。
傷の付いた年季の入った鎧、赤いマント、赤いバンダナに……濁りのない、茶色の瞳。
クレスは思い出す。そうだ、チェスターが弓を射る隙を守ってきたのは、すずちゃんの忍術と共に前線を守ったのは、
アーチェの、そしてクラ―スさんの詠唱時間を作ってきたのは、いつだって君だった。
それはきっと、魔王が失ってしまった昔日の楯。誰かを失うことなく、その背中に守るべきものをもった青年。

(今更―――――俺に騎士の真似ごとなんて、見せるなよ!!)

剣の魔王は嗤った。自らの狂気に―――“嫉妬”に身を委ね、目の前の“光”を一瞬で惨殺した。

◇◆◇


グリューネは、指先で掴んでいた白い駒をそっと静かに置く。
表情は晴れやかなものではなく、口唇の先は僅かに震えてさえいた。
今は、やむを得ず魔王に敵の一駒を斬り伏せさせたが、本当ならば手を出したくはなかった。
「……こんなオカルト、あり得る訳が……」
【コドクナタタカイヲツヅケタダオスヘノ……】
『セメテモノタムケダ〜〜ってね。よくできてるでしょ? 名付けて「メカボ中年2号」!』
真正面を見据え、グリューネは鷹揚すら見せずに吐き捨てた。
対面に配置されたのは4つの黒駒。いずれも、明らかにこちらの駒に対応して選出されている。
いくら王の下へ行かせるのを阻むためとはいえ、死んでいった仲間たちと戦わせるなど、鬼畜人外の行いとしか思えない。
道化師の後ろに控えていたノルンは、背の翼でふわりと盤の上空へと浮遊する。
「どうやって作った? いや、それより、何故プレイヤーでもない貴女が指せる?」
『どうやってって言われてもな〜〜〜こう、ドデスカ〜コン!ってね!!
 それにこれくらい、このオジサンじゃなくたってルールさえ分かれば誰だってできるよ?』
「…………これも、王の権利行使ですか? ノルン」
『そうです。死者の存在も、異なる世界の人間の召喚も、王は初手にて行っている。全ては合法、故に真実として受理される』
「そうでございます……勿論、ジャッジ……いや、元ジャッジ(仮)である私の目から見ても……これは“通し”でございます……」
無言でグリューネは歯を噛み締めた。
こんなことがあってたまるか! そう叫びたくなったが、法の、ルールの下で成立している以上、何も返すことはできない。
どんなに理不尽で、許しがたくとも、現実として受け入れるしかない。
(ですが……ですが……死者をいくらでも蘇らせることができ、かつ幾らでも追加で駒を召喚でき、
 挙句理由も無く自分の思い通りに動かすことができるというのが絶望側の、王の権力だと云うのなら……それでは……)
『自分に勝ち目がないなんて“酷過ぎる”?』
それが鏡の言った言葉だったのか、自分の心から出た言葉なのか、グリューネは理解するのしばしの時を要した。
自分の顔はさっきの鏡に映ったような醜い顔をしているに違いなかった。思い出す度に戒めねばという気持ちに駆られる。
その鏡はというと、ついに正解を解き明かしたという陽気さで部屋の中でくるくると回って遊んでいた。
ノルンが目配せすると、魔法の鏡は数十秒考え込んだあと、どこかにある手をポンと打った。
「そっかそっか。やっぱりそう思ってたのかあ。なるほどねー。ほんじゃ“いきますか”〜〜〜?」
訳の分からないコンタクトに、グリューネは頭部に電流が走るのを感じた。
何か、何か――嫌な予感がする。
ノルンは手に持っていた杖を魔法の鏡の方へと放り投げる。そして、鏡はどこからか腕をにゅっと伸ばした。
全身が映るほどの鏡に、腕と足だけが付いた、なんて不格好な姿。だが、魔法の鏡はその怪しい外見とは真逆の、厳かな姿を見せる。
精神集中によって杖はくるくると自転する。
敵の連携は全て揃った。陣容が整った以上、向こうがやることは一つしかない。
間違いない。これは、詠唱だ。例えその文句が、どれだけふざけていようとも。
◇◆◇

びちゃり、と空から地面に死体が落ちた。
イフリートの振り落とした炎の腕が、灼熱の衝撃波を生み、死体は数秒で灰となった。
魔王クレスは転移によって後方へと陣取る。けれども、地面に着地した時には既に、次なる一手が訪れようとしていた。

【開け過去の扉。砕けたカケラ、一網打尽にみんな集まれ〜〜〜〜〜〜〜〜♪】

これまでの闇と打って変わって煌々と燃える地獄の底で、処刑人達が処刑道具を輝かせる。
弓は何本も矢を束ねて構えられている。
魔術は詠唱待機にされ、すぐにでも発動できる状態だ。
姿なき召喚術士は新たな術を紡がんとし、精霊と対話をしている。
そして、それらを庇うかのように、小さな忍者は忍刀を携え構えている。
誰もが、今ここで燃え尽きたクレスを見ていない。その眼は、殺すべき者だけを見据えている。
剣士というものは、例え複数が相手であろうと、攻撃の順序がそれぞれ違っていれば対処ができる。
だが一説によれば……3人同時に襲いかかった場合、世界で1番強い剣豪であろうと、命を散らしてしまうという。
これからクレスに襲いかかろうとするのは、正に“一斉砲火”だ。
仲間たちは、確実にクレスを殺そうとしているのだ。

<両者、布陣を確認……審議を開始します。グリューネ……願わくば、これが結審となることを祈ります>

弓の弦が鳴る。マナが爆発しようとしている。忍んで、静かに命を奪おうとしている。
決断せねばなるまい。ここで死ぬか、それとも――――

【そんじゃお待たせしました! 希望が勝って当たり前、絶望が負けて当り前。
 ―――――まだこれが“そんな物語”だと思ってるそこのカミサマに。アタシが勝利より重き敗北を具現するッ!!】

鏡の国に迷い込んだクレスに向けられるのは、自由な彼女が招きし時を越えた戦士達。
自由に楽しそうに、真実が物語を破壊する。

【いくぜみんな、レッツラゴー! 誰もが夢見た大進撃<ドリームストライカーズ>!! ぅいやっほ―――――いッ!】

悪夢が現へと突撃し、終焉の訪れを告げる銃杖の撃鉄が引かれた。




チェックメイト。



クレス=アルベインは、ここで死ぬ。
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP10% TP50% 第四放送を聞いていない 疲労 眼前の状況に重度困惑
   狂気抜刀<【善意及び判断能力の喪失】【薬物中毒】【戦闘狂】【殺人狂】の4要素が限定的に発露しました>
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷多数 背中に複数穴
所持品:エターナルソードver.A,C,4354 ガイアグリーヴァ オーガアクス メンタルバングル
    サンダーマント 大いなる実り 漆黒の翼バッジ×2 コレットのバンダナ装備@少し血に汚れている
基本行動方針:剣を振るい、全部を終わらせる
第一行動方針:君達も斬れと――――――?
第二行動方針:ミクトランを斬る。敵がいれば斬って、少しでもコレット達の敵を減らす。
現在位置:中央山岳地帯地下




【Chester Barklight? 存在確認】

状態:HP100% TP100% アミィを殺した者への深い憎悪 BOSS
所持品:クレインクィン@TOP(残り矢数:100%) 毒(液体) ???? アミィの上半身
基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。
現在位置:中央山岳地帯地下


【Arche Klaine? 存在確認】

状態:HP100% TP100% チェスターへの狂おしいまでの愛情 BOSS
所持品:ミスティブルーム ミスティシンボル ????
基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。
現在位置:中央山岳地帯地下


【Fujibayashi Suzu? 存在確認】

状態:HP100% TP100% 忍としての冷徹な覚悟 BOSS
所持品:忍刀・血桜 苦無(20/20本) ????
基本行動方針:号令・お前に任せる発令中。キャラクター固有の思考にて行動します。
現在位置:中央山岳地帯地下


【イフリート 存在確認】

状態:HP100% TP100% 召喚状態 BOSS
所持品:無し
基本行動方針:契約者の指示に従い、敵を焦滅する。
現在位置:中央山岳地帯地下


【Cless Alvein? 死亡確認】
*支給品(1〜3。一つは剣型の武器)が周囲に落ちています。
代理投下終了。
乙でした! 読んでくるので感想はまた後ほど。
325名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/22(水) 22:33:29.07 ID:mjTs0VGC0
前回の鏡の口ぶりからパスカルだとは思ってたが、今回は隠す素振りもなく全開だったなw
投下乙〜
スーパーファンタジア大戦勃発!
まだ出てきてないあの人達は出てくるのか!?
あとあちこちに散りばめられた小ネタに吹いた

……しかしほんと、パスカルの言い分じゃないけど
希望が勝って当たり前展開だと死者は主人公らの味方をするのがお約束なんだが、それを徹底的に反転させられてるなー
326名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/22(水) 22:46:28.83 ID:Vvq55Wfi0
投下乙!
アミィの次は仲間たちか……しかもまだあの人は出てきてない、と。
はたしてクレスにこのチェックメイトを回避する手立てはあるのやら。
327名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/23(木) 15:34:39.34 ID:2T+seu/10
投下乙。

能々考えてみれば、バトルロワイアルという主催完全支配下の領域である以上
どこまでも対主催側には無理ゲーが課せられるのは自然である訳で
サイグローグがやっているのは勝利条件を満たす為の定石でしかないという話。
完全に人の心情や道徳倫理を無視してるけど、向こうはバトルロワイアルを開催した絶望側だから
寧ろとことん蛇蝎魔蝎に徹する必要がある。代指しのサイグロとしては最低限負けないようにした上で
希望側を好き勝手蹂躙したいだけなんだろうけど「ルール上は」問題無い。
サイグロをぶっ飛ばしたけりゃ「ルールに則って」壺を調達して叩き付ける他無い。

あと何人か控えてそうだし、クレスが保つのか心配だなぁ。
328名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/24(金) 08:52:25.25 ID:ssU5EoeXO
不謹慎だが、めちゃテンション上がる回でした投下乙&執筆乙です!

魔王討伐メンバー怖すぎるぜ
329名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/30(木) 02:31:11.04 ID:ijoWx6hIO
保守
330名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/02(土) 02:38:54.13 ID:zJpws+5O0
かなり間が空いてしまいましたが、各話元ネタ解説風コメント 10話分です。
>>247さん、指摘ありがとうございます。今のところまとめに乗るほどのものでもないので、
お手数ですが各自脳内修正していただけたらと思います…面目ないです。

97:ふられストーカーマン
ロニの称号「ふられマン」。女性を口説けば百発零中でおなじみのロニだが、ストーカーとはどういうことか。
そりゃあ首輪探索機械を持って歩いているし、女性とあれば大体口説くが、ストーカーはないだろう。
ただ声を掛けただけじゃないか。それなのに獣のように取り乱して逃げるなんて。
まったく、大体ストーカーと言ったら俺達の中じゃジューダスのことj(フラグが立ちました

98:暗転入滅
暗転:舞台を暗くして場面を転換すること。入滅:煩悩、迷いから解放されること。
サムライスピリッツのボス・天草四郎時貞の必殺技「汝暗転入滅せよ」や、
るろうに剣心第208幕「暗転入滅」で単語を見たことがある人もいるかもしれない。
眼の前を暗幕で覆われ、光の見えぬ迷い道に入ったポプラおばさんはリオンの手で入滅する。
尚、仏教に於いて煩悩・迷いから完全に解放されるには肉体を棄てなければならない。

99:祈りがもたらすは
齎す(もたら―):1.持ってくる。2.(主に悪いものを)引き起こす。
名も知らない死者の読み上げに祈るヴェイグ。それはまだ彼の中に一抹の良心が残っていた証か。
齎されるのは幸運。この島で数少ない安息できる拠点に辿り着けたことか。
齎したのは不運。手を伸ばせばポプラおばさんを助けられたことを知ることができないことか。

100:それは儚い夢の始まり
儚い(はかな―):空しく消える様子、不確実で見込みが無い。人の夢と書いて儚いと言えば物悲しくなる人もいるだろう。
ジョニーと出会えたものの塔、そしてC3村に辿り着くまでに誰にも会えなかったファラの焦燥は募るばかり。(しかも、迂回した森にはリッド達がいた)
その間にも殺し合いは進み、それを何とかしたいともがくファラにとって村にあった拡声器は最高のアイデアに見えただろう。
しかしそれは『儚い』夢。無駄であり、取るに足りず、思慮分別の足りない、粗末な夢。人はそれをフラグという。

101:今するべきこと
to do。昨今の社会人はするべきことをリスト化したTODOリストを作ると良いらしい。
ジューダスのTODO:1・カイルや仲間達を探す、2・リオンのことをどうにかする、3・ミクトランを倒す
ロイドのTODO:1・飯を食う、2・ジューダスの嫌いな食べ物を聞く、3・笑う
バトルロワイアル参加者として、人間としてどちらのリストが正しいのやら。
331名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/02(土) 02:39:45.97 ID:zJpws+5O0
102:赤と黒と青と
黒い夜に浮かぶ赤い星と青い月の下で、赤い髪の貴族が黒髪のメイドと青(紫?)髪の軍人に癒される話。
赤星と青月は夜空の描写にしばしば出てくる二つの月(シルヴァラントとテセアラ)のことだろうか。
そんな星の名前などよりも、今マリアンに必要なのは眼の前の仲間を癒すことだ。
ゼロスに通じる、自分が良く知るエミリオをその力で癒す時は来るのだろうかと思いながら。

103:邪の風、移動
邪の風=サレの移動開始。しいなが死んだとはいえ、ティトレイが逃げ出した以上サレも動かざるを得ない。
血を出し続けるコレット、そしてそれを看病するクレスでまだまだ遊ぶためにもティトレイの謀殺とコレットの治療は必要だ。
パーティの中に隠れ、同時に思う様に動けなかった嵐がついに動く。ある者に病を与えに、ある者の病を癒すために。
にしてもクレス、処置の為とはいえコレットの服を脱がすのはいかがなものか。
肌寒い夜に服を脱がせば、風邪をひいてしまうかもしれないのに。

104:目
光を受容する感覚器。空の色も海の色も陸の色も、目で光を受けなければ分からない。
だとするならば、光を集める目玉は世界そのものなのかもしれない。
カイルのアホ面も、遠く分かれたナナリーの姿ももう見えない。目玉を失くしたロニにとってそれは世界を失くしたに等しい。
世界ごと爆散するロニを見つめるリオンの瞳に光は無い。当然だ。彼は今、マリアンという光を取り戻す為に戦っているのだから。

105:空っぽのココロ
フォルスが心の力で使われるものならば、感情は燃料とも考えられる。
当然、燃料以上の火力で怒りを燃やし続ければ枯渇するのは必然だ。
全てを吸い尽くしてしまった油田には何が残るか。役目を終えた機械と、干乾びた砂漠が残る。
今更海の水を吸ったところで、枯れた緑が蘇るはずが無い。

106:人形劇
人形を介して表現される演劇。敢えて人形で演じることに、人形劇の趣はある。
人が直接演じるのと違い、人形劇は誰かが操っていることが明白だからだ。
どれだけ自分の意思で戦っているように見えても、、闇夜の中でどれほど熱い戦いをしようとも、何か感傷めいた感情を見せても、
遥かな高みで操る蛇と天上王の糸がくっきり見える限り、それはただの滑稽な喜劇でしかない。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/03(日) 11:55:44.48 ID:NC0VYNjiO
おおぉ乙!今から読んでくるわ
333名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/04(月) 22:47:16.68 ID:jAkijAar0
なんだかパーティメンバーが集結しつつある1stのTOP勢をみてると
2ndですっかりぼっちになってるクラースさんがますますかわいそうだw
334名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/04(月) 23:33:23.38 ID:BU1zupuR0
>>333
2ndはもともと参加者の時点で時空戦士6人中3人参加してないから仕方ないw
クレスにしてみればこんな集結のしかたはかわいそうってレベルじゃなんだろうけどな……
335名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/08(金) 14:23:15.03 ID:BOxMT+R/0
読んでてアタマがクラクラしてきた…
なんというカオス、なんという狂劇…
336名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/10(日) 01:40:30.96 ID:4qasCoCG0
>>330 解説風コメント良いな〜読み返したくなってくるw

最近いっきに読んで本編見て絶望して、アナザーではらはらして・・・
ハッピーエンドを望むのがスレの総意だと思ってたんだけど意外とそうじゃないんだね

人気投票があったらしくて過去スレとか覗いて探してるんだけど見つからない・・・
誰か順位覚えてないですか??
337名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/16(土) 21:45:07.29 ID:ZapMmCDi0
解説風コメント続きです

107:抽象の現
抽象:ある1つのものから注目したい部分を切りとり、それ以外を無視すること。その対義語は具体、つまり現実。
現実に存在するティトレイから、怒りを無視し、悲しみを無視し、喜びを無視し、楽しさを無視した。
デミテルが出会った人形は正に抽象化されたティトレイだった。しかし、ティトレイは確かに自分から「俺」と言った。
抽象とは全てを無くすことではない。感情を切り取った先には、それでもこびりついた本質が残っている。

108:残骸
戦場や災害跡に残された死体。原型を留めない程に破壊された状態で残ったもの。
ここではロイドとジューダスが発見したチェスターとヒアデスの死体のことか。
しかし、バトルロワイアルを戦場とみても、一方的に巻き込まれた災害とみても、ここで死んだ者は皆残骸だ。
一々気にしていては、夜を歩くことさえできなくなる。

109:dear.
親愛なる。大切な人へ贈る手紙の書き出しにもなる。
親愛なる貴方へ。私は大丈夫。とっても頼りになる天使のように素敵なオジサマと一緒なの。
親愛なる息子へ。私は大丈夫だ。生まれてまだ間もない少女と共に行動している。
カイル「リアラ! 知らないおじさんについてっちゃだめだー!!」
ロイド「父さん……幾ら母さんが死んだからって……ロリコンは駄目だろ!!」

110:Get Marionette
丈夫でしなやかな最高級の木材を使った木彫りの人形。
「帰りたい」という唯一の願いで編まれた光の糸は絶対に千切れない。
デミテル は にんぎょう を てにいれた。後は操者の腕の見せどころである。

111:天才のひらめき
発明王エジソン曰く「天才は1%のひらめきと99%の汗」。
これを閃きが大事だと見るか、それとも努力が大事なのだと見るかは自由だが、
閃きのままに洞窟のあちらこちらを駆けまわるハロルドにしてみればどちらも同じなのだろう。
そしてそれに巻き込まれる田舎者達にとっては、どっちにしても迷惑だ。
338名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/16(土) 21:47:30.94 ID:ZapMmCDi0
112:悪夢は近い
嫌な夢のことを悪夢という。だが、眠ってみる夢に近いも遠いも無い。
だからここでは「夢としか思えない程恐ろしい現実」のことを指しているのだろう。
ソーディアンによって引き起こされたであろう悪夢を打ち破るのもまたソーディアン。
だが、1つはジョーカーの手に、もう1つは蛇の手に。彼女達が望んだ夢は、最悪の形で叶おうとしている。

113:エンカウント
遭遇。エンカウントは和製英語であり、本当の英語は「encounter」。
夜の森で誰に出会うかを選ぶのは難しいが、せめて不慮の事故には逢いたくないものだ。
闇討ちが出来るほどの手練にも、マグニス達のような野蛮なのにも出会いたくは無い。
そう願うサレは二人組に遭遇する。野蛮ではないが手練であるクラトスに出会ってしまったのは、果たして事故か不幸か。

114:漆黒の翼・グリッド
漆黒の翼のナンバー1。音速の貴公子グリッド。
忘れがちなことだが、参加者の中で本来の漆黒の翼は彼ただ一人である。
たった一人だけになった団長が、闇の中で生きてきた組織のリーダーに覚悟を問われる。
その問いに震えてながら答えた時、彼は本当の意味で再び団長となった。ただし決意は股から出る。

115:螺旋の邂逅
機動戦士ガンダムSEED PHASE-44「螺旋の邂逅」? ここでは遺伝子の二重螺旋ではなく蛇の螺旋か。
首輪レーダーを逆手に取られ、リオンは闇を駆ける蛇の采配で、寝ている間にマリアンを奪われたゼロスと遭遇する。
ディムロス、アトワイト、シャルティエ。会場内に存在する全てのソーディアンの邂逅は間近。
そして、蛇さえ知らぬリオンとマリアンの邂逅もまた、確実に近付いていた。

116:安息、それとも
自分以外の全てが敵となりえるバトルロワイアルでは、メルディの様に1人逃げて隠れ続けるのが安息を得る一番の方法だろう。
だが、それではいつか誰かに襲われるかもという恐怖からは逃げられない。それでは完全な安息とは言えない。
自分を纏う闇を裂いて抱きしめてくれた温かい腕にメルディは思い出す。支えてくれる誰かと共にあることこそ、安息なのだと。
だからこそ、彼女はこの安息を厭う。初めて得たのは安息か、それともいずれ来る別離の哀しみか、彼女には分からなかったから。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/24(日) 14:26:01.98 ID:OOVoJ3M00
109吹いたww
340名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/30(土) 11:24:09.96 ID:6Nt7pX7IO
カイルとロイドの絶妙なユニゾンアタックwww
341名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/01(月) 02:08:18.68 ID:BidyfXRQ0
戦闘描写ぱねぇなーおもしろかった
フォルスとか明らか原作もっと有効活用しろよって感じだから読んでて感心したわ
342名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/08(月) 05:38:58.53 ID:RowlxVCC0
・・・ふぅ
343名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/13(土) 16:49:29.36 ID:X78L9Cq7O
このスレ的にあまり関係ないけどセネセネの中のひと結婚おめでとう!

ということで……ふぅ、保守だ。
344 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2011/08/20(土) 06:22:53.53 ID:sVgcRUP30
保守
345名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 22:51:56.07 ID:N5o+5D/c0
ほしゅ
346 忍法帖【Lv=7,xxxP】 :2011/09/01(木) 22:13:48.17 ID:f5a5Md0t0
ホシュ
347名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/07(水) 16:31:05.41 ID:/pVSYvZxO
ほしゅ
348 忍法帖【Lv=10,xxxPT】 :2011/09/12(月) 18:44:17.54 ID:5pxqgnIZ0
ほしゆ
349 忍法帖【Lv=13,xxxPT】 :2011/09/18(日) 19:36:15.49 ID:ILDIqw860
期待保守
350名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 00:25:24.37 ID:w6t/+XDQ0
投下します
351End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 1:2011/09/24(土) 00:26:15.83 ID:w6t/+XDQ0
クレスは斃れていた。膝を付き、重力にかしづく様に斃れていた。
拡がって全身を覆う黄土色のマントは、眠りにつく1人の剣士にそっとかけられた毛布のようだ。
事実、クレスは眠りたかった。指一本、筋一本たりとも己が意のままには動かない。
疲れていた。身も心も疲れ果てていた。
怒り、戦い、迷い、戦い、狂い、戦い、痛み、それでも戦ってきた彼が半生。
立ちはだかる壁を、立ち塞がる敵を、押し寄せる困難を、その剣で切り拓いてきた。

このまま永遠に眠ることになろうとも、無理もない。
いや、無理しかなかった。それほどまでに彼は傷ついていた。

いつかは、こうなるのだ。
どれほどの高き壁を登ろうとも、登った先にはより高い壁が待っているだけだ。
いつか現れるであろう超えられない壁に屈するまで登り続ける。
クレスにはもう、そんな修練に費やすだけの力など一滴も残っていない。

『何立ち止まってんだよ、クレス』

震えるだけの力も無い鼓膜に、懐かしい記憶が響いた。
僕が君を追い越せば、君は夜を惜しんで僕の背を追い、僕は既に追い越された君を追う。
力強く伝わる友の声が、心に届く。そうだ、共に強くなろうと約束した。

『なーにやってんのさクレス、だらしないったらないじゃない!』

蓮っ葉な声に、心臓の音が重なる。夏の青空のように突き抜けた少女の声が、神経に通る。
誰も彼もが時の狭間に去っていく、僕なんかとは比べ物にならない孤独を背負いながら、君は笑っていた。
太陽のように眩しかった君よ。君の輝きは、僕の心に惑う雲を払ってくれる。

『年長者よりも先に疲弊してどうする、クレス。お前の力はこんなものではないだろう?』

落ち着いた言葉に、筋肉の間にこびり付いた熱が払われていく。
一番大人でありながら、誰よりも純粋に道を追い求めた貴方よ。
ありがとう。貴方に出会えたからこそ、僕はここまで辿り着くことができました。

『クレスさん、貴方は誰よりも優しく……だからこそ、強い。ここで立ち止まる貴方ではないはずです』

幼くも凛とした音が、僕の中に力を宿す。
宿命を前にしても涙を見せなかった君よ。君が忍者だからじゃない、君は君だから強かった。
その強さが揺らぐ僕を奮い立たせる。君の小さな背中に、僕は宿命を背負う覚悟を見た。


僅かに湧き上がった力を使って、クレスは首を動かし顔を上げた。
仲間達の4つの手が、倒れ伏した僕に差し伸べられている。
ああ、とクレスの奥底から息が漏れる。そうだ、僕は独りで壁に向かってたわけじゃない。
そこにはいつも仲間がいた。肩を貸し合える、道を共に歩める、苦難を一緒に笑い合える仲間がいた。
クレスの膝に、掌に、脚に、腕に微かに、しかし確かに力が漲ってくる。それは自分から生まれたものではない、仲間がくれたもの。
一人では越えられない壁も……みんなとなら、越えられる。

立ち上がり、重ねられた掌にその手を伸ばす。そうだ、未だ戦える。僕はまだ立ち上がれる。
立て、立って、そして



「「「「無様に死ね」」」」


352End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 2:2011/09/24(土) 00:27:48.14 ID:w6t/+XDQ0
立ちあがったその正面に聳えた巨大な牙を前にして、クレスは泣くように笑うしかない。
「何、寝てるんだよ。クソ野郎が……」
2つの斧を咄嗟にかち上げてクレスは眼前の矢を弾く。しかし唯の矢ではないそれを前に、クレスは斧を吹き飛ばされてしまう。
「手前が眠らせたアミィの分にゃ、まだまだ足りないんだよ! ブチ抜け、大牙ッ!!」
弦が千切れるか否かその限界線まで引き絞られた弓から、殺意を乗せた矢が再び射出される。
憎い。許さない。殺す。およそ考え得る全ての負の想念が弦を絞る指より矢へと伝わり、
禍々しい程に巨大な牙となって仇たるクレスに噛み付こうとする。
その意思を込めた矢の前では、銃弾を斬ることさえできるだろうクレスも、魔剣で矢を弾くことすらままならない。
チェスターが矢に乗せた思いを殺しきることが出来ず、クレスはバックステップで意を逃がしながら飛ぶ。

「なんでだ、僕だ、クレスだ! 分からないのか、チェスター!!」
『戦の最中に談笑か。随分と傲慢だな!!』

しかし背後に聳え立つ紅蓮の腕が、友の矢に気を取られたクレスを捕まえる。
サンダ―マント越しでも伝わるその灼熱が、クレスには地獄の窯の温度に思えた。
「クラースさん……クレスです! クレス=アルベインです!! 話を……」
『――――――残念だったな。我が主にとって“お前など知ったことではない”』
誰よりも冷静に、一歩退いた視点から客観視できるクラースならば、剣を用いずとも通じるのではないか。
炎朧の向こうにいるはずの知己に向けた甘い夢もまた、炎に焼かれて消え果てる。
火の精霊は誰かの感情に同調するように、その義憤をさらに燃やしてクレスを掴む右手を輝かせた。
『重ねて言えば……“その剣は、我が仲間のモノ。お前が持って良い剣ではない”ともな!! 
 消し炭にしてくれる、“バーニング・ブレイク”ッ!!』
握り潰すと同時に、イフリートの拳が大爆発を起こす。
その爆炎の煙に放り出されるようにして、クレスが落下していた。
髪の何房かは焦げ目をつけ、皮膚のあちらこちらに火傷を負っていたが、明らかに威力に見合った分量ではない。
僅かに残っていた蒼い輝き―――虚空蒼破斬の鎧が、身動きのとれぬクレスを最後の砦として守っていた。
だが、それも尽きた。嘘を付かぬ精霊の言葉に、ある納得をしてしまった為だった。

「だからって、何で……」
「今更命乞いなど、聞けるとお思いですか」

落下するクレス目掛けて小さな影が飛翔する。
獄炎に彩られた世界の中にあってなお影さえ追い切れぬその速度は、紛うことなく忍の証に他ならない。
「すずちゃん……君もなのか、君も、俺を!!」
「如何にダオスの下僕に惑わされているとはいえ、貴方の剣は血を吸い過ぎました……」
中空を堕ちるクレスが剣を構える。地面を蹴ってすずが跳ぶ。
相手が若くして忍の頭領を務めるほどの才媛といえど、年端もいかぬ少女相手に剣を構える恥を知らぬクレスではない。
だが、剣に生きたその醜い醜い本能がクレスに半自動的に剣による反撃を選択させる。
「“俺をクレスと認めてくれないのか”!?」
「その剣はあの人の剣……決して血に濡れて良いモノではない!
 故にその魔剣、ここで封じさせて戴きます―――――忍法・不知火ッ!!」
燃え盛る地獄の底の少し上で、剣士と忍者が交差する。2人が地面に着地し、鮮血の散る音がする。
「クッ……!」
「すずちゃん……! ご、ゴメン、僕……」
クレスに傷は無かった。剣も、装備も、肉体も、一切欠けることなくすずへと顔を向ける。
裂けた装束の肩口から、紅い血に塗れた少女の柔肌が覗く。
少女の傷よりも重傷を負ったような蒼い顔で、クレスがすずに手を伸ばす。
しかし、惰性的な良心から差し伸べられた掌に投げかけられたのは、幾本もの苦無だった。
「敵に情けを乞うほど、落ちぶれてはいません。もとより、忍者は非情でなければならないのです」
ハッキリと言われてしまったその言葉は、頬を掠めた苦無の傷よりも万倍心に沁みた。
かける情の無い、敵。そう、彼らにとって、彼女らにとって、僕は――――

「で、何時までアタシを無視しちゃってくれてんのさぁ?」
「ア―チェ……グはッ!」
353End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 3:2011/09/24(土) 00:28:52.02 ID:w6t/+XDQ0
陽気な声と共に、レイの光条が垂直にまっすぐクレス目掛けて降り注ぐ。
すずに気を取られていたクレスは、亜光速で直進する光の行軍を回避しきれなかった。
「ほらほらぁ、こっち見ないと3秒かからず黒こげだよ? 
 見なよ、アタシを、この天才美少女魔女の、ア―チェ様を。
 聞きなよ、明るい薔薇の様なアタシの華麗な詠唱を!」
クレスの両側を挟みこむようにして、2枚のサンダーブレードがクレスに斬りかかる。
それを飛んで回避しながら、クレスは箒に跨る桃色の彼女を眇める。
「ア―チェ、話を…!」
「やっとこっち見た! でもゴッメーン。“あたしが見てほしいのはあんたじゃないの”。
 やっぱあんたのキモ黒い視線は要らないから――――――――チェスターの為にブッ潰れてよ」
虚空に投げかけるように胡乱な、しかし確かに存在する意思が呪文を紡ぐ。
狂気に彩られても、彼女は確かに魔術のスペシャリストだった。
果ての未来に棲む魔女の背後から、時空と宇宙の理を捻じ曲げて無数の隕石がクレスを急襲する。
会話も通じず、キャッチボールの代わりに投げられた隕石群。クレスは言葉以外の方法で撃ち返すより術が無い。

「蒼破…! 何、出ない!?」

クレスが闘気の鎧を鋳造しようとするが、常にクレスに寄り添ってきた蒼はこの時閃かなかった。
迫る隕石を前にして、クレスは縋るものを失ったかのようにあたりを見回す。
そして見まわしたその先に、冷酷な瞳で推移を見守るすずが居た。
「言ったはずです。貴方のその偽りの剣技、奪わせていただきました」
ぞくり、とクレスが悪寒を走らせた時、熱風がクレスの外套をはためかせる。
顕わになったクレスの背中には、1つの札が貼られていた。
戦士達が欲する『経験』を多く積める対価に、同時に守りと技を剥奪する契約書―――――其は悪魔の札<デモンズシール>也。

「しま…っ!」

クレスが背中に手を伸ばす。しかし、隕石は容赦なくクレスの周囲を炎ごと踏み潰した。
圧倒的暴威の中で微かな意識が諦観する。
グチャグチャな心の中から掻き集めた仲間達の儚い声なんて、所詮唯の妄想。
この耳を侵す現実の呪言の前に容易く掻き消されてしまう。
どんなに高い壁も、仲間と一緒なら越えられる。それはきっと間違いじゃない。

でも、だったら、仲間だと思ってたものが壁だったとき、僕はどうすればいいのだろう。


―――――・―――――・――――――
354名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 00:32:06.07 ID:3QxNTDeR0
支援
355End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 4:2011/09/24(土) 00:32:15.36 ID:w6t/+XDQ0
『ほいさ、これでまた4枚。アタシのカルタはナリヒラも吃驚の“ちはやっぶり”、そう簡単には負けないよ〜?』

ホクホク顔で楽しそうに駒を指す魔法の鏡。だが、その盤面は凄惨と言っていい程一方的な状況だった。
親友たる射手。召喚術士が喚びし紅蓮の精霊。桃色の魔女。幼き忍者頭。
剣士にまつわる4人の戦士が剣士を徹底的に攻め続けている。剣士は、これで既に5回は地面を舐めさせられている。
ノルンの法によって保障された『語る必要のない王の力』によって出現した黒駒を前にして、
その否定を許されていないグリューネは耐え忍ぶより手が無かった。
敵の駒とはいえ、相手は剣士の仲間達。如何に襲われようと、全力で反撃することはできない。
だが、耐える為に仲間達の声を用い剣士の回復を行おうとすれば、記憶の仲間が上の句を告げた瞬間に敵陣の駒が下の句を奪って妨害する。
親友の妹だけだった時とは異なり、戦う術を持った彼ら相手では攻めることはおろか守ることすらもままならない。
結果、女流カルターとずぶの素人の札取り―――成す術無く札を半数近く取られたかのような窮地へと女神は追いつめられた。

「ベルセリオスや、サイグローグでもない、ただの鏡に……!!」
認め難い現実の狭間で、グリューネの目が血走ったように盤に魅入られる。どれほど目を凝らせど、その窮地が変じることは無い。
だがそれを行っているのがベルセリオスでも、サイグローグですらもない何処の馬の骨とも分からぬ存在だという事実を認めるには、
この絶望しかない世界からか細い希望を掴み取ろうとするグリューネにとって辛すぎた。
「何故、貴方が指すのです? ノルンの家具と億歩譲って認めたとして、貴方には理由が無い!」
『理由って言ってもな〜。あるにはあるけどさ〜〜〜見て、手が思いついたから。それだけじゃ駄目?』
「ダメという問題ではないでしょう!? この戦いに私が敗れれば、世界が――――――」
『救われなきゃ、ダメ? 世界を滅ぼそうとしてたら、それだけで負けなきゃいけないの?』
鏡の言葉に、グリューネが喉を詰まらせる。今まで楽天的に喋っていた鏡は、僅かに目を細めながら言葉をつづけた。
『生きたい、生きたいって願っても、ただそれだけで誰かが傷つくこともあるよ。
 星を守りたかっただけなのに、それだけで人類を消そうとした星の意思もいるよ。
 そんな人たちは、どんなに願っても叶っちゃいけないの? それが世界を脅かすから?』
世界を滅ぼすのは悪いことで、世界を守ろうとすることは良いことだろうか。
悪いことなのだろう。それを阻もうとすることは、きっと良いことなのだろう。
だが―――世界が滅ぶから、その願いが叶ってはいけないというのか。
どれだけ努力しても叶ってはいけないのか。本気を出してはいけないのか。そもそも願うことすら許されないのか。
『そんな考えじゃ勝てないよ。これは結末の決まった物語じゃない――――結末を勝ち取る戦いなんだよ』
ここには善も悪も無い。故に結末は決まっていない。
だから戦うのだ。自分の望む可能性を掴み取るために、他者の望む可能性を殺す。
その為に全力を尽くすのだ。持てる手札を全て使い、死力で、全力で結末まで戦い抜くのだ。

『物語なら“やらないほうがいいこと”があるけど……ゲームは“やっちゃいけないこと”しかないんだよ?
 物語に拘る限り、完璧な物語を求めて自分を縛っているうちは――――――絶対に、勝てない』
356End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 5:2011/09/24(土) 00:33:37.48 ID:w6t/+XDQ0
そう、それがグリューネの致命的な弱点。
ブルーはレッドの引き立て役。殻臣の悪巧みが栄えた試しはなく、弱きは助けられ、
ビーチの平和はサンオイルスターに守られる―――――物語ならば存在する“約束”がここには無いのだ。
自分が完璧な物語を綴ろうと“約束”を守っても、相手がその“約束”を守るとは限らない。
“約束”は互いの合意があって初めて成り立つ。片方が想い込むだけの約束など、ただの枷でしかない。

グリューネはありったけの言葉を集めて抗弁しようとしたが、眼の前に繰り広げられた盤面を見ては何も言えなかった。
物語の中で「無い」と思った手も、法に照らし合わせれば「有る」。
物語という『枷』に囚われたグリューネの指し手と、限りなく自由に盤面を泳ぐ魔法の鏡の指し手。
どちらがより優勢になるかなど言うまでも無い。

「己が非道を、よくぞそこまで正当化する…!」
『……分っかんないかな〜〜少し――――――――――頭冷やそっかッ!?』

何かを決したような鏡の前に、光が集う。虚空に拡がる無数の星、そのうちの4つの星の光が鏡に向けて放たれていた。
光を受けた鏡は星の力を収束し、圧縮する。
かつて世界を救いし戦士4人分の力を集め尽くしたその暴威が――――砕けかけた屑星を破壊する。


―――――・―――――・――――――


身も、心も抉られて指一本動かせない程に摩耗し切ったクレスが大地に沈められている。
間一髪で剥がされたデモンズシールが燃えカスとなって散るが、クレスの防御は完全には間に合わなかった。
内側は枯渇し、骨を揺らすことすら儘ならない。
そして、手を差し伸べてくれたはずの仲間達は立ち上がる力ではなく、二度と起き上がれなくするための力を再びクレスに向ける。

「手前なんかにゃ勿体無ェ取っておきだ……こいつを、喰らって……地獄に落ちな!!」
飛翔したチェスターがクレスに向かって衝破を放つ。
そして、それが着弾するよりも先に着地し、五指に体内全ての殺意を蓄えた必殺の大牙を構える。
高威力の双技を重ね合わせたその魔弾は、射抜かれた者の命を許さない。

『……承知した。徒に苦しめるは我が主の本意ではない。この一撃に焦滅せよ…!!』
イフリートが地面に諸手を尽き、焔で地面に紅き魔陣を描いていく。
それはイフリートが相手を全力で争覇するべき敵と認めた時のみ用いる極炎の一撃。
その使用を許可された。それはつまり、対象を塵も残さぬと決めたということ。

「……さて、お立会い。手前ここに呼び出したるは、ジャポン古来に詠われる――――藤林は四六の“がま”にござい!!」
藤林すずが高速で印字を結んでいくと、たちどころにもうもうと煙が湧き、そこから巨大な影が起き上がる。
ぎょろりと辺りを見回して鏡で己を見たかのように醜い汗をだらだらと掻き絞る大蟇蛙に、すずが飛び乗った。
これこそが忍の頭領たる藤林すずの大忍法・口寄之術。そこから繰り出される奥義が、必殺で無い訳が無い。

「終わらせちゃうんだね、チェスター? オッケィ! こいつで、ぶっ飛んじゃいなよ! 出でよ、創生の輝きッ!!」
ア―チェの歌うような詠唱と共に、次元が歪んでいく。地獄の中に形成された亜空の中で、1つの力が誕生する。
それは宇宙を創った真白き力。宇宙が誕生する瞬間の、超高音・超高密のエネルギィ体。
世界を創る力にて世界に徒なす敵を滅ぼす禁呪文。世界創造の瞬間に、それ以外の生命の存在など許されない。
357End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 6:2011/09/24(土) 00:35:09.29 ID:w6t/+XDQ0
4つの力がうねりて混ざり、1つの光となってクレスに向けられる。
その光景を前に、クレスは動けなかった。その力にではない、その力を自分に向ける彼らの目に動けなかった。
怒りに満ちた瞳、陽炎の奥に存在する信念の瞳、玉散る氷刃のように冷たい瞳、楽しそうに歪んだ瞳。
熱も、彩光も、瞼の重さも、何もかもが異なる瞳は、そのどれもが、仲間であるクレスに向けられるべき力ではなかった。
だからこそ、クレスは理解してしまった。彼らの瞳には、クレス=アルベインが映っていないことを。

(最後に会ったのは……ああ、この島に集められて……ミクトランの、説明を……)

魔法陣に導かれて別れたのだったか。その時、自分は彼らを殺してでも優勝するつもりだったのか。
数日前のことのはずなのに、思い返すことも難しいほどの記憶。
だが1つだけ確信できる。そこにいた僕はきっと、クレス=アルベインだったのだろう。
優しく、礼儀正しく、義憤を持ち、強気を挫き弱きを助ける剣士の模範だったのだろう。

この島で再び出会うことの叶わなかった彼らにとって、その瞳に映るクレスとは今も“それ”なのだ。
彼らの中には、未だあのクレス=アルベインが息づいているのだ。
だから、その姿はただ人の形をしているだけで、その声はどこかも知らない異世界の言葉で。
故に彼らにとって今地面に這い蹲る人間は――――クレス以外の誰か、どこかの気狂いでしか、ない。

<これで終わり! 其は星光をも砕く破滅の輝き! 四連携・秘奥義一斉集束砲火【ブレイクシュート】ッッ!!!>

「死ねぇっ、神威!」
『インフェルノ・リミテッド!』
「これで終わりです!忍法、児雷也!来い!!」
「ビッグバン!」

必殺の一矢は放たれ、魔陣は轟き燃えて大爆発し、蝦蟇の大口より蒼いブレスが放たれ、天地開闢の光が破滅を生む。
それは死だった。死ねと、殺されろと、ただの敵に向けて送られた、至極当然の意思だった。

今まさに放たれんとする殺意の中で、クレスは力無く笑う。
分かっていたのに、彼らの傍で燃え尽きた死体を見たら、それだけで笑いを抑えられなかった。
遠くに、思えば遠くに来たものだ。遠くに来過ぎて、もうただいまと言える場所も無くなってたなんて。
彼らの中のクレス=アルベインはとうの昔に死んでいたなんて。
此処にいる俺は、とうの昔にクレスでは無くなっていたなんて。

もうクレスなんて、どこにもいなくて。

―――――・―――――・――――――
358End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 7:2011/09/24(土) 00:36:38.16 ID:w6t/+XDQ0
鏡が発動させた全力全開の極大集束砲撃を前にグリューネには打つ手が無かった。
物理属性・魔法属性を均等に混ぜられたその威力は、例え守護方陣と虚空蒼破斬の二重防壁でさえ余裕で貫通するだろう。
光の速さで加速する粒子は、翔転移で逃げるだけの間も無く剣士の肉体を透過して破壊し尽くす。
仮にここを何かの奇跡で凌いだとしても、その後が無い。剣士では敵を討つことが出来ない故に。
(ここ、までですか…!)
どれほど盤を眼で凝らしても光一筋すら見えぬ状況に、グリューネは喉を詰まらせるしかない。
問答無用の詰みだった。策も駆け引きもへちまもない、湯水と湧き上がる王の勢力が強引に決めた必殺だった。
とてもではないが、許容できるものではない。
だが、許容できないものが巌と存在する以上、グリューネが取れる術は一つしかなかった。

(奇跡の構築はほぼ済んでいます。これならば確実に、七駒を敵本陣まで飛ばせるでしょう……)

降参<リザイン>。剣士の敗北を認め、次の局面へ移ることである。
グリューネにとってはここでの勝負は所詮サブイベント、奇跡を発動させるまでの前座に過ぎない。
これまでの絶望側の手から、少なくともこの地下を下りて行った先に『王』本人がいないことは既に確定している。
あるとすれば、首を折られたパルマコスタの男性の死体だけ。剣が王の命に届かないのは分かっていたことなのだ。
『剣士』の役目は勝つことではなく、あくまで可能な限りこの舞台の奥深くまで斬り込んで王の作り上げた世界の情報を得ること。
その情報を踏まえて、奇跡によって王城へ送り込んだ七駒で王を討ち取る―――――それがグリューネの戦略である。

(ここであの者たちに魔剣を奪われる訳にはいきません。その為には……駒を残す訳にはいかない)

グリューネはそう言って、剣士の駒をそっと指で倒そうとする。
ノルンの法さえも破れるだろうその奇跡を発動させる前に、どうしてもしておかなければならないことがあった。
それは、剣士の死。七駒を隠した扉を閉じたのが剣士とエターナルソードである以上、
その魔剣と契約者を敵に利用されることだけは避けなければならなかった。

(勝てなかったのは悔まれますが、幾つかの王の真実に触れることはできました。これなら――――)

故に、確実に墓地へと送る。剣士よ、貴方の献身が、必ずや王を――――――――倒せる道理が、無い。


剣士の駒を倒そうとしたグリューネの手が止まり、その小さな顎をつうと汗が垂れる。
ここまでの戦いで得られた情報は何だ?
王は無数の機械兵士を使役し、
王は剣士の分身を大量に複製し、
王は死者を何度でも蘇らせ、さらに複製し、
王は思い通りにアイテムを駒に装備させ、
王は呼び出されていない者までも追加で召喚する。

(これを、どうしろというのです?)

あまりに邪知暴虐な王の力。グリューネが得られたのはたったそれだけの、しかし眼を逸らすには巨き過ぎる真実だった。
いかな天上の王が相手といえど、ここまでの死線をくぐり抜けてきた駒達を全てぶつければ戦力で勝りこそすれ劣ることは無いと、そう思っていた。
だが、この力の前では6人だろうが、7人だろうが、55人だろうが駒の数など意味が無い。
グリューネは眼を細めてノルン、そして魔法の鏡を見る。
この地で死した強大な戦士を、英知に長けた術師を盤の外から招聘するという最悪な外法も“どうせ”ノルンは許すのだろう。
まさか蘇らせて呼び寄せることのできるのが、剣士の世界の者達だけと考えるのは甘過ぎる。
恐らくはこの地で死んだ彼らの仲間達、帰りを待つであろう仲間達をぶつけてくる。それがもっとも効果的な王の力の遣い方だからだ。
1度や2度なら凌げるかもしれない。だが、今のように何度も何度も悪夢のような地獄を繰り返されたら、勝ち目が無い。
359End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 8:2011/09/24(土) 00:38:38.57 ID:w6t/+XDQ0
「これは……ベルセリオス様が戻ってくる前に決まってしまうかもしれませんね……?
 少し遅くなりましたが、予約していた品でも買いに行きましょうか、ククク……」

グリューネの心の裏を嬲るように、サイグローグが目を眇める。
いきなり出てきた鏡の奥でニヤつく道化に焦燥を見透かされたようで、ことさら不愉快だった。
「しかし……ベルセリオス様もヒトが悪い……このような素晴らしい力を使わずに置くなんて
 これを使えばもっと“素敵な”こともできるというのに……余程手加減して遊んでいたのでショウか……?」
だが、その虚の空いたような瞳の更に底にある汚物に気付いて、グリューネは総身を粟立たせる。
(ここで、剣士が死ねば……まさか“それさえも蘇らせる”つもりか!)
そう、グリューネがこの地下で起きた現象を知ってしまった以上、最早剣士を墓地へ送ることなど何の意味もないのだ。
丁寧に埋葬した所で、即座に墓を暴かれるのがオチだ。
グリューネならば考えることさえおぞましいと思うその手でさえ、道化は仮借なく行ってくるだろう。

「どうしますか……グリューネ様? 負けを認めて次にいきますか……?」

サイグローグの邪な言葉がグリューネの中の大切なものに触れた時だった。
落としかけた剣士の駒を強く強く握らせる。ともすれば、砕けてしまいかねないほどに。

そして、なにより。

【――ュ――さん!】【×××××さん】【あ△さん!】【グ○○○ネさん!】

何の咎もなくこの世界に巻き込まれ、死んでいった彼らを――――“再びこの場所に立たせるなど”。

【グリ□□□さん】【●ー●さん!】【▼▼ュー▼さん】

何の罪もない、まだ世界に残された者達を――――“お前達の都合で呼び出すなど”。

「……貴様達だけには、負ける訳にはいきません」

させるわけにはいかない。この力は、ここで滅ぼさなければならない。
ガキリ、と鈍く軋む音が盤に木霊する。決して繕えぬ罅を想起させた、黒い悲鳴だった。


―――――・―――――・――――――

360End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 9:2011/09/24(土) 00:40:47.83 ID:w6t/+XDQ0
爆音が止み、濛々と煙る熱が湧き上がる中、敵を屠った4人はその煙が晴れるのを待っていた。
これだけの熱量、直撃していない床でさえ砕くほどの破壊の前では、驕りでも過信でもなくこの中で生きていられる人間などいようはずもなかった。
「殺ったかッ!」
「―――――いえ、まだです!」
アミィを殺した死体をいち早く拝がみたいのか、前に出ようとするチェスターをすずが制する。
忍者だからとしか言いようのない漠然、しかし幼い肌を刺す確信がすずに警告を与えていた。“まだ、終わっていないと”。
「嘘……あれだけの攻撃を受けて、死んでないなんて、ど、どーやってさ!」
『煙が晴れるぞ!』
多勢特有の余裕を失ってア―チェが狼狽する中、焔の中でイフリートと召喚主が晴れる煙の向こうに全神経を尖らせる。

晴れた煙の向こう、4人が見つめたその先には何も無かった。
炎の熱に歪んだ洞窟の闇があるだけ。そのはずだった。
「違う! あれ、陽炎なんかじゃじゃない! あれは……時空の歪み!」
4人の視線の集う場所が大きく歪む。
斬られた傷が自然に癒着し塞がって行くように、無理矢理曲げた物質が元の形状に戻ろうとするように、
本来あるべき形へと収束していく空間の中に、1つの人影が映る。

端を焦がしながらも熱風にたなびく外套を纏い、クレスが片膝をついて上体を起こしていた。
その手に握られた白銀の魔剣は、斬撃の軌跡をなぞるようにして空間に傷を創っていた。
「あの空間の曲がり方……ありゃあ、ダオス城の……!」
『時の狭間に、身を隠したというのか!!』
チェスターとイフリートが驚愕したのも無理からぬことだった。
今彼らとクレスの間に隔たっていたのは、形こそ違えど、かつて時空戦士達が目にしたものだった。
アーリィの鉱山跡、その深い深い道をくぐり抜けた先にある黒雲の空。
そこにあるはずの巨大な城を誰からの眼からも欺き続けた、時の狭間に己が身を隠す魔王の秘術。
そして、それを破ったのもまた、時空剣士のエターナルソードだった。

「開けるのならば、閉じられるのも道理ですが……その魔剣で、ダオスの技まで使うと言うのですか……!」

魔剣の一閃で時の狭間を創り、一度空間と空間を隔絶すればどれだけの力であろうが“たかだか単次元の力”など塵一つ通さない次元の断層。
その絶対障壁を見ながらすずが悔しそうに眼を細めて苦無を構える中、クレスがゆっくりと立ち上がる。
<……貴様達の戯言に付き合ってきましたが……ここまでです……>
クレスが呟いた言葉が4人の耳に掠れて入る。だが、炎の熱で大気が歪む中で全てを聞くことはできなかった。
だが、その代わりに4人は、その眼でクレスから伝うものを見た。
<……貴様達にだけ都合のよい法も、私が何を分かっていないかなど、どうでもいい……>
<?? お〜い、もしもし〜〜〜?>
熱気で息を吸うたびにヒリつく喉で、クレスは乾いた言葉を途切れ途切れに吐いていく。
「は、ははは、だったら、いいのかな……?」
問う様に嗤い、笑う様に問うクレスの表情は、枝垂れた前髪に隠れて分からない。
だが、遠間からでさえも明瞭と分かるほど、隠れたクレスの顔から顎に滴が伝っていた。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 00:49:35.84 ID:3QxNTDeR0
支援
362End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 10:2011/09/24(土) 01:02:09.97 ID:w6t/+XDQ0
<ノルン……貴方は私に問いましたね。勝って何がしたいのかと、何の為に勝つのかと>
涙だった。瞳の奥から止め処なく滴が零れ落ちていく。

<勝って何がしたいかなど……私にはありません。世界に害なすものを倒すことが、私の目的にして存在意義>
水気を全て失ってしまった枯木のように、クレスは立ち上がって行く。

弱くか細い、しかし確かに線と繋がった雫が、頬を伝って地面へと落ちる。
クレスはそれをすくおうと、右手を頬に当てて雫を留めようとする。それは、きっと手離しては、零してはならない雫だった。
親友を認める優しさ。仲間を想う慈しみ。人間が人間らしくあるために希うひとしずく。


この夢の雫は、きっと人の心の光だ。無限の闇の中でクレスが取り戻した、二度と手離してはいけない輝きなのだ。
<そなたらが紡ぐ滅びの結末など、認めない。世界は、守られなければならない>


それが零れ落ちる。不要だと、邪魔だと言わんばかりに身体の、心の外に吐き出される。
堰き止めようと留めようとしても、“片手で覆う”指の隙間から雫は零れ落ちる。
両の手で杯を作ればまだすくえたかもしれないものも零れ落ちる。
残された左手には、魔剣がしっかりと握られていた。

<って、また無視かー! こっちを向け〜〜〜〜風よ疾け、天よ震えよ――――弓雨百華咲くが如く!!>

「エターナルソードで、ダオスの術……? どこまで、何処まで俺達をバカにすりゃ気が済むんだ!」
圧倒的な障壁で彼らの最大級の技を全て受けきった畏怖と、受けきっておきながら滂沱の如く零される涙への嫌悪を払拭するように、
チェスターは背中に負った矢のほぼ全てを矢筒から抜き出して、瓶の毒を鏃に撒き散らした。
「またダオスかよ! アミィは、何度、何度お前達に殺されなきゃならないんだよ! 
 アイツが、アイツが何をしたって言うんだ!! なんで死んでもこんな事に巻き込まれなきゃいけないんだよ!!」
腹の底に淀んだ全てを吐きだす様にして、透明な殺傷力に浸された矢が無数に放たれる。
震天の射撃はクレスの頭上よりも高い全ての中空から生ける場所を消失させ、
疾風の飛箭は地面を這って、大地に存在する全ての場所を死地とした。

「許さねえ、お前らは絶対に許さねえ! アミィを殺して笑いやがるお前達だけは、絶対にッ!!」

<その道を阻むと言うのなら、進むべきは最早1つと知るのみ――――>

無数の殺意が限られた空と地を覆うなかで、クレスはそれを見ることなく涙を流し続けた。
所詮は付け焼刃の障壁。次元の断層は修復され、クレスを守るものは無くなった。
363End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 11:2011/09/24(土) 01:04:02.39 ID:w6t/+XDQ0
だが、それは守ることが出来なくなったのではなかった。“守るものが、無くなった”のだった。
どれだけ心を尽くしても、喉を枯らして叫んでも、彼らに届くことは無い。
君は彼らを仲間だと思っているかもしれないけど、彼らにとって君は仲間ではない。
君は彼らを殺すことを躊躇っているけど、彼らは君を殺すことを躊躇わない。
彼らにとって、君はクレス=アルベインでは“ない”のだから。
君は彼らにとって、ただの殺戮者<マーダー>に過ぎないのだから。

――――――――――だったら、君もまた彼らを仲間だと“思ってやる”義理が、どこにある?

垂れる涙の線が細くなっていく。殺意は風の速さでクレスに迫る。
酒の無くなったボトル。それでもまだ呑み足りないと逆さにされて、涙が絞り取られていく。
涙に濡れた掌でクレスは頬を拭った。顔が血と泥で汚れただけだった。

最後の一滴が指の間を滑って落ちる。

きれいなものなど、もうのこってなかった。

クレス=アルベインはもういない。ここにいるのは薄汚れた獣だけ。だったら、だったら。

全てを捨てても、守りたいものがあるのなら。
全てを斬って、今度こそ守ると誓ったのなら。

<我が力の全てを以て、そなたらを討ち滅ぼそう>
「―――――――じゅう、しょう、らい」

ケダモノらしく、噛み千斬ってやる。


その一言を喉から鼓膜に徹した時、クレスの眼前の壁は崩れ落ちた。閉ざされていた壁の向こうに拡がる世界を見る。
全てが枯れて開き切ったその瞳孔は、まるで死者のように暗く冥い闇だった。


364名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 01:04:33.50 ID:3QxNTDeR0
支援
365End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 12:2011/09/24(土) 01:04:48.21 ID:w6t/+XDQ0
「なっ!?」『何ッ!?』「うぇえ?」「―――っ!」
その状景に、四者は驚愕で眼を見開いた。
無数に降り注ぎ数多狙う鏃をクレスが撃墜していく。しかも、それは大雑把に『全部』ではなかった。
炎に照らされた洞窟を埋め尽くす箭列、その中で自分に当たるものだけを魔剣の切先で撃ち落としていた。
大技でまとめて吹き飛した所で、残った矢が技の隙に当たってしまう恐れがある。
最小限の動作で必要最低限の弾くべき矢だけを弾くのは確かに戦理に適っている。
だが、音速で飛翔する無数の動体を、掠っただけで絶命至らしむる黒矢を前にして実行するなどとは。

およそ人間には出来ぬ所業。それを可能にしたのは、集気法によって極限までに圧縮された柔招来の集中力強化。
本来ならば集中することで技の精度を高める内気功がクレスの認識力と反応速度、その限界を超越する。
「そんなことをすれば、処理に耐えきれずに心を壊すのに…!」
特殊な印や呪文にて自己催眠の術を知る忍者すずには、眼の前の剣士が行ったことを理解できた。
同時に、それが絶対に行ってはいけないことだとも。
普通の人間は、十人の言葉を同時に効くことはできない。夜空の星を同時に全て見ることはできない。
人間が焦点を合わせて見るモノを選んでいるのは、そうしなければ脳の処理能力が追い付かないからだ。
それを無理にすれば、限界以上の機能を求めれば――――――――

<う、うそぉ〜〜〜!?>
<その為ならば、最早手段は選びません。そなたらが手段を選ばぬように>

最後の一本を弾き終えたクレスが、豪雨に打たれたような槍畑の中で滞空した“親友だった誰か”を見つめる。
今更、心の一つや二つ、狂ったところで何になる。獣たれと望んだのは、お前らじゃないか。

「舐めやがって、俺を雑魚のように見るな! アミィの仇が、その技を使うな! 俺は、アミィは!!」
突きの構えで剣を溜める獣を前に、チェスターは残った矢を振り絞る。
あの獣が何を放とうとしているかは分からない。だが、あの場所から動かず構えたということはそこから当てられる技ということだ。
だが、あれほどの力の溜めである以上その終わりには必ず隙が生じるだろう。少なくとも、乱発は有り得ない。
チェスターが弓を極限まで引き絞る。この一撃で筋が途切れても構わないとばかりに強く絞った。

一閃。獣から放たれた紫の神槍がチェスターの眉間を寸分違わず狙い撃つ。
誰もが怯んでしまいそうな威圧の中で、チェスターは弓への力を緩めることなく、この指に番った弦のように槍の穂先を見つめる。
まだだ、まだ引きつけろ。絞り、閉じ、研ぎ澄ませるように殺意と集中力を練り上げる。
神槍が眉間の皮膚に触れた瞬間、溜めに溜めた全てが解き放たれた。
穂先が眼球に触れるか触れないかの紙一重で、獣が放った槍を回避する。
「これで、止めだ!」
あまりの安堵に緩んでしまいそうな心を振り絞って、チェスターは大牙を構えた。
奴はもう動けない。これで、やっと、アミィの仇を――――――
そう思ってチェスターが再び見据えたその先には、既に突きの構えを終えた獣が居た。


「第三段階。秋“時”雨」

366End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 13:2011/09/24(土) 01:05:50.86 ID:w6t/+XDQ0
チェスターの眼の前に現出した九つの神槍が、全てを奪い尽くす。
腕を動かす両手の腱を、獣を追う両足の腿を、左右の脇腹を、喉と胸を、そして――――弓使いの命である、弦を。
復讐に駆られた弓使いは、最後の最後でその瞳を曇らせた。
遥か遠くの敵を狙い撃つ神の槍を振うだけならば、ケモノでも出来るだろう。
だが、眼前のこれは唯の獣にあらず。狂い狂って尚、その身体に刻まれた武錬を損なわぬ、究極の狂戦士。
次元斬による長距離斬突の十連撃を以てすれば、矢など届く前に刺し殺せる。

「その、沙雨、なん、で―――――」

次元の槍が消えて、穴のあいた喉から血と空気を洩らしながらチェスターは地面にたたきつけられる。
獣と括った時点で――――――この剣を彼のものと信じられなかった時点で、その敗北は必定だった。

「チェスターぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

血液と共に落下していくチェスターを追い、ア―チェが身を厭わず箒で下降する。
それは既にクレスに背中を見せる格好であったが、彼女はそんなことなど眼もくれずチェスターを追い落ちる。
『何をしている、小娘! ぐっ、狙わせんぞッ!!』
隙だらけのア―チェをあの槍の贄にさせじとイフリートがクレスに肉薄して炎の正拳を叩きこむと、
クレスはまるで毬を蹴られたかのように軽く吹き飛んだ。あまりの軽さに、枯葉を殴ったかと錯覚するほどに。
『今のうちに、早く態勢を整え……ッ』
「真空“蒼”破斬」
イフリートが、そして精霊の背中にいる主が地面に落ちた2人へ意識を向けた時、
燃えた死体の上で今まさに居合を抜刀せんとするクレスがいた。
『主、我が背に!』
そういって召喚主の盾と動いた刹那、蒼の一閃がイフリートを襲う。
神槍<グーングニル>よりも短いとはいえ、それでも長く鋭い闘気の怒涛が死神の鎌の如く地面を撫で斬りにする。

<……その力……っ! 我を護れ赤の三色、命令変更・今は耐えろ【トリニティビット】!!> 

『疾いッ! だが、徹さいでかァッ!!』
後ろの主やその仲間達まで衝撃が届かぬよう、イフリートは腕に火のマナを集中させて受け止める。
重い一撃だった。精霊一の力自慢であるイフリートでさえ受け止めきれず自分の身体が宙に浮いてしまうほど、その神剣は重く、速かった。
もてる火力をすべてつぎ込んで、浮かされながらもイフリートは強引に腕を開いて蒼を弾き飛ばす。
『この威力ッ。時空の剣といえど、ここまでの力があるはずが――――』
真空破斬による虚空蒼破斬の薙ぎ払い。ただでさえ強力な虚空蒼破斬が居合いの如き溜めから放たれることでその威力を倍化させる。
次元斬の威力ではない。真空破斬のそれでもない。
古より存在する精霊でさえまったく知らぬ一撃は、イフリートの驚きを得るに十分だった。

<これで、なんとかなったかな? って、ちょっとちょっと神様、その力―――――>
そして、クレスがその懐に入るのにも十分なほど。
『!?』
<この程度の守りで、どうにかなるとでも?>
367End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 14:2011/09/24(土) 01:06:45.68 ID:w6t/+XDQ0
浮いたイフリートが地面を見ると、その真下に獣がいた。
おそらく、蒼破斬を放った瞬間からこちらに詰めていたのだ。
転移か、それとも脚力による跳躍か。蒼き怒涛に気を奪われていたイフリートには判別する術もない。
かろうじて分かったのは、3つ。
主も跳躍し、自分を挟んでこの獣から退避し終えていたこと。
自分たちを見上げる獣の闇の淵が、自分も主も捉えきっていたこと。
そして、既に次の攻撃が放たれていたこと。

<この程度の城塞。私の力の前では、無いに等しい>
「守護方陣」

空いた両腕のガードの隙間を縫う様にしてクレスが投げた刃がイフリートの胸に突き刺さり、その刺さった剣を中心として光陣が形成される。
僅かな間隙を完璧に貫く圧倒的な技量。人生を剣に捧げた者だけが至る御業が、精霊に瑕を創る。
あの居合の威力、この速力。数段跳ね上がった敵の能力にイフリートは驚きを禁じ得なかった。
一体、何故これほど急激に強くなったのか。だが、時空剣技を交えない人の技だけならば耐えられぬ程ではない。
この身は炎。人の剣で斬ること叶わぬ、自然の力なのだから。
『グウゥッ! だが仕損じたな、魔剣を手放すなどとは!!』
「―――!? 違います、それはエターナルソードでは……」
チェスター達の方へ駆け寄ろうとしていたすずが、イフリート達が気付かなかったことに気付く。
剣を投げてなお、あの狂人は魔剣をその左手に握っていたのだ。
斧はともかく、剣はあのエターナルソードのみのはず。ならば、あの剣は何処から湧いたのか。
狂人が吹き飛ばされた場所、そこで焼け焦げた死体を見て、すずは答えを理解した。

<不明の武具を使えるのは、そなたらだけではない。宣言・不明状態開示【ルーンボトル】―――――対象『SOWRD?』>

クレスは吹き飛ばされたのではなく、その位置まで移動しただけだった。
最初にクレスの攻撃から自分達を守ってくれた剣士、その得物を手にするために。“イフリートを確実に斬るために”。
イフリートに投げつけられた刃が魔力を放ち、方陣の光を蒼に染める。だが、その色は時の力ではなかった。
全ての熱を静める、蒼き氷の力、アイスコフィンの魔力だ。

<えぇ!? アイスコフィン!? ありなの?>
<――いいえ、合法です……“アイスコフィンならば”>
『あの一瞬の攻防で、得物を見抜いていたというか!! だが、セルシウスの眷属とはいえ、刀一本、押し返してくれるッ!!』

そう言ってイフリートは自身を構成する炎を更に高め、突き刺さった氷剣を弾き抜こうとする。
成程、イフリートを倒すために死体から武器を漁ると言う着眼点は良し。それが氷の剣であるなら尚のこと文句もない。
だが、炎の精霊と氷の剣では属性の相性は合っても存在の位が違う。遠からず剣ごと蒸発させることができるだろう。
これを破れば、後は奴の肉を燃え散らかすのみと、イフリートは倒すべき敵を今一度見据えようとする。

だが、そこにいたのはイフリートから顔を背けた狂獣だった。
視線を外したという次元ではない。完全に“そっぽ”を向いている。
炎を司る精霊と死闘を行っている最中に、唇を潰して顔を顰めながら全く別のものをみていたのだ。
『我を前にして尚、見くびるかァッ!!』
イフリートの怒りに呼応してその炎熱が最大限にまで高まる。
その熱は洞窟の床を融解してしまいかねない程、さながら恒星の様に燃えた。
あれだけ追いつめられておきながら、あれだけ無様に負けておきながら、この獣の放つ余裕は度し難い。
氷の守護方陣の力が弱まり、アイスコフィンに罅が入る。これが砕け切った時が、狂人の最後だ。
人の身でありながら、その驕り。その肉と剣ごと燃え散らす!

―――――――なら、その前に殺すまで。
<……所詮は、籠の中で縛られた未成熟な精霊。取るに足りません>
368End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 15:2011/09/24(土) 01:07:20.97 ID:w6t/+XDQ0
「守護“氷/槍/方”陣ッ」
狂人の冥い視線がイフリートを捉え、次元斬の神槍がその胸に突き刺さったアイスコフィンの柄を穿つ。
刀身の軸を寸分違わず捉えた一撃は氷剣を楔として炎の精霊を穿ち、守護方陣ごと上空へその巨体を更に持ち上げる。
イフリートの身体を貫けずとも、上へ上へと押しやっていく。
気を緩めてしまえば即座に貫通しかねず、成す術なく耐えるしかなかった。
だが、耐えられる。イフリートは自分を押しやる威力を踏まえたうえでそう確信した。
氷の楔を用いた二重方陣をもってしても、火の概念そのものである精霊を倒しきることは不可能だ。
精々表面を霜で凍らせて、動かす程度。これを耐え凌げばイフリート最大の超新星爆発で、今度こそ滅そう。
イフリートを狂人は見据える。だが、狂人に見据えられていたのは、イフリートの奥だった。
いや、捉えていたのはその奥に隠れた召喚主だ。狂人―――否、獣は最初から喰らうべき肉しか見ていない。
<召喚者ごと、撃ち抜きます>
『まさか、我が主ごと――――――――――――ッ!』
その意図に気付いた時には手遅れだった。左右に逸れるなり、炎に還って存在を解けば主が死ぬ。そして“このまま主ごと押され続けても―――――”。
イフリートなど獣にとっては透明なガラス程度。最初から、獣のその眼は喰い殺すべき人間だけを見据えていた。
殺すべき人間。たった二人で飛ばされた、自分達を誰も知らない過去で初めて道を示してくれた賢者。
風変りではあってもその心は情熱に溢れ、その瞳は夢に輝いていた。誰よりも大人であり子供であった大切な仲間。

それを、喰う。
時空剣技とアルベイン流の複合剣術。神の剣を人の技で振うと言う、どう足掻いても殺すことしか出来ない剣撃で。

『ぬおおおおおおお!!!!!!!』
「AアAガアアァァァAAッッ!!!!!!!」

押しやる。イフリートごと、炎の向こう側にいる者を押しやる。
凍りかけた精霊の巨躯に覆われた者の姿を、吠え猛る獣は視ることが出来なかった。あるいは、見たくなかったのかもしれない。
殺すことしか出来ない獣の僅かに滲み出た惰弱が映したのは、最後までイフリートの姿とその後ろ、岩肌の天井だった。

ぐちゃり。脂が糸を引く音と共に、イフリートが洞窟の天井へと叩きつけられる。
じゅわり。岩肌に突き刺さるアイスコフィン。次元の槍刃越しに、獣の掌に肉を穿つ感覚が伝わる。
じゅじゅじゅ。イフリートの絶叫と共に、脂の乗った血肉が焼け焦げる音が闇に木霊する。
如何にイフリートが自分の熱量を調整しようと思っても、密着した状態で如何程できようか。凍る剣に張り付けられたこの主を。

『おのれ、おのれ。おのれェェェェェッッ!!!!』

自分の主を“炙る”という事実に、四大の一角とは思えぬ程の有らん限りの慙鬼と共に火の精霊はその身を唯の火に還していく。
元の世界ならば、まだ自律的にクレスを滅ぼすことも出来ただろう。だが、この世界では叶わない。
オリジンやゼクンドゥスですら自発的に顕現出来ないこの箱庭では、召喚術者の力無くば形を維持することもできない。
そして、その身は再び唯のマナに、エレメントに還っていくということは―――――術者の意思が絶たれたことを意味していた。


―――――・―――――・――――――Knock Down,『Summoner』is Dead.

369End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 16:2011/09/24(土) 01:08:20.03 ID:w6t/+XDQ0
『うぇ……こんなのって……』
「―――――――“あり”なのでしょう? まさか、通らないとでも?」
盤面の展開に絶句する魔法の鏡に対し、鷹揚ない女神の言葉が響く。
その切れ上がった目尻は、凛としているというよりは冷酷と言った方がしっくりくる。
まるで心を凍らせたかのような虚無。その想いを写したように、盤面で凍った炎が砕けて消える。
『……合法です。ここまでの工程、確かに違反はありません』
ノルンは告げる。圧倒的劣勢を一瞬で覆した女神の鬼手を是と認める。

何故、いきなりこうも変わってしまったのか。優勢だったはずなのに、いつの間にか命を脅かされてしまったのか。
秘奥義を使えぬ剣士の持つ最強の切札、時空剣技とアルベイン流の複合剣術。
ここまで彼らに使っていなかった虎の子を解禁したことは確かに彼らを圧倒するに十分な理由だろう。
だが、理由の本質はそれではない。本質はその前段階“その虎の子を使える状態にしたこと”だ。

そもそも、何故黒駒達があの剣士に圧倒出来たのか。
優れた弓の技量? 矢に仕込んだ毒? 世界を司る大精霊? 根幹たる四大の一角? 
伊賀栗の秘術? 小柄を活かした機動力? 禁術までも修めた才能? 空中を飛べる利?
ここまでの流れを知っていれば誰でも理解できるだろう。“今更そんな瑣末で、狂剣<コレ>に勝てる訳があるか”。

『心があるから、躊躇う。躊躇えば勝てない。ならば―――――“心が無ければ、勝てる”。確かに、理は成り立っています』

単純なステータスで見ればその差は歴然なのだ。アイテムが2,3個あった所で埋められぬ程の差が。
とどのつまり、彼らがコレと勝負の形を維持できたのは“彼らが剣士の仲間だった”ことの一点に尽きる。
彼らが親しかったから、剣士は手を緩めた。
彼らが一緒に旅をしたから、剣士は戦い以外の道を探った。
彼らが共に苦難を乗り越えたから、剣士は最後まで有りもしない可能性を縋ったのだ。

彼らは圧倒していたのではない。剣士が、一生懸命彼らを“圧倒しないでいてやった”のだ。
鏡が女神を翻弄していたのではない。“女神が、翻弄されるくらい手加減してやっていた”のだ。

「そなたらの理不尽、蛮行。少々……野放しにし過ぎました」

なら、それを取ったらどうなるか。
剣士との“繋がり”が無くなれば、どうなるか。
神が本気を出せば、その力を本気で用いればどうなるか。

「最早、世界に絶望など不要です。ここから先は、希望だけで良い」

ただの弓使い? ただの召喚術士? ただの忍者? ただの魔術使い? ただのヒト?
―――――――――――――違う。これの前では、神の前では、人などただの餌だ。

「それでも尚立ちはだかるというのなら構いません――――絶望も、法も、全てを無へと還します!」

覚悟を定めた女神の宣言が、断頭台の如く聞くもの全ての心を縛る。
傍から見れば滑稽だろう。彼らは、唯一の勝機を自分から捨てたのだ。
だから今彼らは等しく圧倒的な神の力に晒され、肉のように死ぬ。
神の物語に逆らうということは、そういうこと。

「それで、いいと思ってるの?」

だからこそ、トリックスターは物語に逆らいたくなるのだ。

―――――・―――――・――――――
370End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 17:2011/09/24(土) 01:09:41.49 ID:w6t/+XDQ0
炎が消え去った後に残ったのは天井に突き刺さった氷剣と“人の形に張りついた燐の焦跡”だけだった。
イフリートが消滅したことで弱まりつつある火の中で、コツン、と小石が跳ねるような音が2つ響く。
血を吸ったように紅く輝く柘榴ともう一つの装飾品が肩に当たり、地面に落ちても、
ア―チェはそれに目もくれず伏せるチェスターを抱きかかえ声をかけ続ける。
「いや……いや……チェスター! チェスター! 返事しなさいよ!! ねぇ、ねぇってば!!!」
腕、足、腹。人体が駆動する為のありとあらゆる継ぎ目に穴が空き、そこから血が染み出ている男は女の叫びに反応を見せない。見せられない。
ただただ生物的な痙攣だけ縁に、ア―チェは泣きそうな表情で、懸命にチェスターに呼びかける。
だが、その叫びが呼び寄せるのは大切な命ではなく、獲物を求めて彷徨う死神だけだ。
岩の削れる音に終ぞア―チェがその音源へ首を向けると、炎の向こうに2つの斧を地面から引き抜いた獣がいた。
熱風でマントをたなびかせ、しかしべっとりと血に濡れた前髪で顔を覆われた獣が血に飢えている。
口元が歪んでいた。笑おうとしているのか、泣こうとしているのか、最早それすらも分からない程に歪んでいた。
そのぐちゃぐちゃになった口元をそのままに、獣がのそりと彼女に向かって歩み始める。

<私は道化とノルンに話しています。ただの紛い物に、最早出る幕はありません。慎みなさい>
<勝てばそれでいい? 幸せの為なら何してもいい? それで、本当にいいの?>
「ア―チェさん。逃げてください」

だが、その耐え難い殺意に抗う者が1人いた。
藤林すず。落ちた2つの宝石を拾った一人の少女がア―チェとチェスター、そして獣の間に立った。
だが、ア―チェは腰が抜けているのか脚を動かすことが出来ず、ただチェスターを抱きしめるだけだった。
すずはそれを見てとったのか、すずは後ろを二度と振り返ることなく右手のガーネットと左手の血桜を強く握り前へ進む。
少女の中に秘められた覚悟を見てとったのか、獣が歩みを止める。すずもまた歩みを止め、およそ30mの距離を隔てて2人は対峙する。

<弁えなさい、器物。死者を辱め、外側から罪なき者を呼び寄せておいて、戯言を吐くなど>
<や〜〜だ〜〜〜! ワー、ワー、ワー! 黙らないもんね!!
 心を壊して、それで勝ち? 相手が何を考えてても勝てば、それでOK?>

「……どうして……」
観念したような、縋るような声がすずから漏れる。辛いものを我慢して食べるような、受け入れがたい事実を嚥下する嗚咽を吐く。
獣はそれを聞いて、何を思ったのだろうか。あるいは何も思わなかったのか。不動のまま、相手の出方を伺う様に佇んでいる。
獣の胸ほどしかない少女が光を潰す様に強く目を瞑る。
あるいはこのまま対峙し続けられればよかったのかもしれない。だが、そうするには彼女らの間に存在するありとあらゆるものが隔たり過ぎた。
そして、彼女の背にはまだ生きた彼女の仲間がいる。そして、彼女の前には。
「……いえ……全ては、遅い……貴方が、貴方の意思で殺すのなら。
 我が同胞を殺し、そして今また仲間を殺すというのなら―――――私が、貴方を討ちます。イガグリの党首ではなく、ただの“すず”としてッ!」
すずはガーネットを懐に仕舞い、もう一つの宝石を手の甲に装着し、忍刀を口に銜え印を組む。
「臨める兵、闘う者、皆陣列べて前に在り――――――――伊賀栗流忍術・分身之術ッ!!」
刀印を四縦五横に切る九字護身の法を以て精神を集中させたすずが、前後左右4体に分身する。
これぞ忍者の忍者たる秘技であり、そして、すずにとってはそれ以上の因縁だった。
「これを、貴方に使わねばならないとは……ですがッ!!」
そして、4人のすずは更に呪印を結び忍術を発動させ、その身を更に二つに別けた。
写身の術。分身によって己の写し身を創りだす忍法。
己が身を4つに分けて更に2つに写し、現れたるは8人の藤林すず。

<そんなの、幸せって、言えるか――――!!>
「私とて、この場で何も学ばなかった訳ではありません。
 出会いに依って編み出したこの術も、例え誰であろうとも殺さねばならぬ時があるということも!」
371名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 01:10:17.55 ID:3QxNTDeR0
支援
372End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 18:2011/09/24(土) 01:11:01.49 ID:w6t/+XDQ0
伊賀栗流の頭首として、ダオスに操られた父母を討つ為に練り上げた忍術の結晶を更に昇華させた八分身。
その全てが同一の意思を以て刃を獣に向ける。あの日、あの日の恩に報いる為に。

<来たれ数多の決意、光を越えた八つの闇よ、歪んだ光をぶちのめせッ! 八体完全非同期連携攻撃【エイトセレスティアル】!!>
「「「「「「「「非奥義・雷迅八獣連撃―――――――――御覚悟をッ!!」」」」」」」」

瞬間、8つの影が八方に散りて獣を取り囲む。
「鎌鼬!」「重ね斬り!」
そのうち2人のすずが獣に向かって真正面から懐に切り込み、その忍刀で無数の斬撃を繰り出す。
魔剣や斧に比べればリーチなど無いに等しい忍刀であるが、懐に一度入ってしまえばその一撃の回転率は大剣のそれを凌駕する。
獣は魔剣で斬り払う暇もなく、剣を楯にして守勢に徹するしかなかった。しかし、少女の矮躯も相まって一撃の重みは薄い。
とてもではないが、正面から獣の守りを割ることなど―――――
「飯綱落としッ!」
掛け声と共に、獣の真上に出現したすずの重力を味方につけた回転斬りが獣の頭蓋の頂点目掛けて繰り出される。
獣はそれを片手の斧で咄嗟にそれを受け止め、同時に強引に正面の2人を薙ぎ払う。
片手を上に廻した以上、残る片手で2倍の連撃を受け止めることは難しいと判断したからだろう。
だが、たかが3人の攻撃で手が回らなくなるようでは忍者相手に、話にならない。
「「「曼珠沙華!」」」
正面の2人が退いたと見るや、3人のすずが獣の三方を取り囲み炎を纏わせた苦無を放つ。
ガーネットの加護を得た彼岸花は、死体に捧げられるようにその全てが獣の守りにくい箇所を狙い放たれていた。
全く異なる死角を三か所も同時に狙われていては、柔招来の効果でも凌ぎきれるものではない。
獣は蒼破の鎧でそれを凌ぐが、その間隙を更なるすずの雷電が狙い撃つ。
時空剣の硬直時間を完全に見切り、過つことなく頸を狙ったその刀に、獣は首を逸らせて皮一枚で避ける。
そして剣の落ちた場所に雷が落ち、獣はそれをサンダ―マントで防御する。
完全な連携、全包囲から死角を縫う所作で、すずは獣の鎧を一枚一枚丁寧に削いでいた。

<押し切る! これで<“人の紛い物”よ――――――――>

一にして八、八にして一。真偽の区別なく8体全てが藤林すずという1人の忍者。
8人の得た情報が、1人の意識に集約されて再び8人を最適に動かしていく。
無論、そのような術に何の反動もない訳が無い。人間1人の脳は1人を動かす為にあるのだから。
それを完全に個別に動かそうというのであれば、その負荷は単純計算で8倍。それを、未だ成長途中の幼い脳に強いる。
その上で、8人に今まで通りの性能を発揮させる。鍛錬を積んだとはいえ、写身をしつつ他の忍術も使いながら。
それは、彼女が備えた宝石の力で自身の能力を最大限に引き上げたとしても手に余るものだった。
使い続ければ、きっと今傷ついている獣のようになるだろう。
「これで、止め! 忍法・五月雨ッ!!」
雷から己が身を守るためマントで自らの視界を塞いだ獣の腹を目掛けて、最後のすずが怒濤の連撃を仕掛ける。
蹴り、斬り、掌底。無数の斬撃打撃で獣を打ち抜いていく。
時を超えて編まれた伊賀栗の絶技。使いこなすには自らがまだ幼すぎる事も承知。
だが、それでも。使わねば斃せないというのなら、使おう。他でもない、貴方の為に。
「やあ―――――ッ!!!」
最後の蹴りが炸裂し、獣は大きくクの字になって後ずさった。
そして、8人のすずが再び結集する。まだ斃れてはいないが、獣はすずの忍術に対応し切れていない。次で勝負は決まるだろう。
如何な強大なケモノであっても、所詮は人間。髪で覆われていようとも眼は二つしかないし、腕は二本しかない。
膂力の差はあれど8倍もの眼と腕の数。その事実は覆すことなど出来はしない。

そう、思っていたのだ。幾ら心が離れていても、私達はそれでも人間なのだと。

<――――――――――“わきまえろ”と言いました>
「――――――ァ、――A―――――、――Su――――」
373名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 01:12:29.98 ID:3QxNTDeR0
支援
374End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 19:2011/09/24(土) 01:12:41.93 ID:w6t/+XDQ0
だがその前提ですらも、狂気は忽ちに捻じ曲げる。
上体を起こした獣が2本の斧を上空へ投げ飛ばすと、1本ですずほどもあろう重斧は直ぐに地面へ落下しようとする。
それを獣は魔剣でさらに打ち上げて上空へ戻し、再び落下してきた斧を叩き上げる。
まるでお手玉かジャグリングのように、剣一本で2つの斧を周囲で回転させ続ける。
8人のすずは何事かと警戒しながら、その回転を見つめ続ける。
クルクルと、回々と、狂々と。獣の周囲を回る2つの斧は、やがて回転する斧そのものが獣の周囲で回転するようになる。
それは、それはまるで。
<ぬごっ!>
「「「「「「「「!!」」」」」」」」
直後十分に回転の乗った二つの斧が獣の斬撃によって弾かれ、高速で飛来する凶器となってすずたちを襲う。
それを散開してすず達は回避する。あの重量に、高速回転する刃。すずの華奢な肉体に直撃すれば、胴体が泣き別れることになる。
(一か八か当てに来ましたか。ですが、楯を失くした今なら!!)
だが、忍者たる藤林の者にとって鈍重な手裏剣など当たるものではない。
ましてや、二刀で凌げなかったすず達の連携攻撃を魔剣とはいえたった一振りで処そうなどとは。
すず達はその機を逃がさぬべく、およそ考え得る全ての死角・急所を突くべく八方から攻撃を仕掛けようとする。
だが、獣の爪はその甘えを逃がさなかった。
<ぎゃ〜っす!>
「ガッ」「う”あ”あ”っ」「「「「「「しまったッ!」」」」」」
6人のすずが驚愕にその脚を止めた時、2人のすずがその背中を鮮血で濡らし、死に至る。
別魅を維持できずどろん煙と消える彼女らの背中から襲いかかり、生娘の腹を内側から裂いたのは旋回して獣の下へ還ろうとした二つの斧。
6人の誰か一人でも、2人の後ろを知覚していれば気付けただろう。だが6人、否、8人の視線が眼前の獣へと集約してしまっていた。
そしてその視線が失われた自分、そして回向する二つの刃に気を取られた時、獣はその牙を柔肌へ向けた。
<ちょ、ちょっと、タイ、これはないって……!>
(丙と戊を解除! 丁から辛までで、一斉に苦無全弾投躑!!)
また1人のすずが獣の魔剣で両断され、煙と消える中で藤林すずの総意と呼ぶべきものは、すぐさま牽制打を撃った。
飛ばした斧をブーメランのように回帰させて背後を狙うとは何たる奇策。
一度限りの大道芸とはいえこの威力、やはり近付くのは危険だ。
(ここは、全方位から攻め立ててあの蒼鎧を引き出して―――――――っ!!)
その隙を狙えれば、と言おうとして彼女達はそうすることが出来なかった。
回帰する斧を獣は更に斬りつけると、斧達はその軌道を変えて獣の周囲を回転したまま旋回し始めたのだ。
回転そのものが刃風を生み出す程の斧が、獣の周囲を旋回する。その嵐の中では、如何な精密さを以て投げられた苦無も枯葉に等しい。
その周囲を回る斧に気を取られた隙に、既に飛ばされたもう一方の斧がすずの頭蓋を叩き割って分身をまた一つ煙へと還す。
その斧を纏いながら、獣は獅子戦吼でまた1人の臓器を貫く。前髪の別け目から僅かに覗く瞳らしきものは、殺意に溢れ過ぎて光彩の色さえ分からない。
攻防において中空を無軌道に暴れまわる斧。複数の分身を操るだけでも限界だったすずにとってそれはもう対応しきれるものではなかった。
酷使された脳の悲鳴と獣が自分を殺し続ける情景に抗いながら、すずは胸を締め付けられる想いを感じた。
過去でも、現在でも、未来でも。アセリアを廻り続けるテセアラとシルヴァラントのように。
獣の周囲を回り続ける二つの衛星。それは、それはまるで、あの魔王を護った2つの星。

<っ……ほんと、わっかんないなあ……>
「デリス、スター……貴方は……そこまで堕ちて、何を望むというのですか……」
ぐしゃり。2人のすずが縦に裂かれて消えた時、最後に残った“藤林すず”は思った。
この獣は―――否。器用に剣を操り、二つの斧を衛星のように漂わせた“魔王”は、一体何を抱えて堕ちたのだろうかと。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 01:19:15.71 ID:3QxNTDeR0
支援
376End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 21:2011/09/24(土) 02:06:42.44 ID:w6t/+XDQ0
<なんで、そんだけ強いのに、そんだけ紡げるのに―――――>
「――――、―――――、――――――」
「はあああああああああ!!!!!!!!!」

魔王の一閃と忍者の一閃が交錯する。
小さな胸に迸る鮮血。煙と消えないその赤色、生きるものの鼓動が炎に彩られる。
血と共に力が失われ、刃を落とす。だが、すずはそれでも二本の足で立っていた。誰に立たされるわけでもなく、自分の足で立っていた。
つう、と口から血が漏れる。それを拭うことなく、ゆっくりと後ろを向いた。
汚れ汚れたマントに覆われた背中に、震える手を差し伸べる。
血の泡を飛ばしながら、青く震えたその小さな唇で、すずは言った。

<全部守るって、言えないのさ……>
「われ、と、きて……あ……」

詠うような音色だった。
僅か十と少しの年しか経たぬ人生、それでも走り抜けようとした少女の純真。
落ちかける瞼を懸命に見開いたその瞳で見据えたものを、優しく、怖がらせぬように伸ばされた小さな手。
だが、その手が伸びきるよりも残酷に弱く、言い終わるよりも無情に速く、子供の小さな命が尽きる。
倒れ伏す音。鼓動のない心臓。幼い雀のさえずりは、彼に届いたのだろうか。


―――――・―――――・――――――


377End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 22:2011/09/24(土) 02:07:45.76 ID:w6t/+XDQ0
勝敗は決した。
前方へ翳されたグリューネの掌が白く輝き、同じ輝きを放つエネルギーフィールドに囚われた魔法の鏡が宙吊りになっている。
苦悶を浮かべる鏡面は罅割れて、写し取るべきグリューネの表情を照らさない。
先ほどまで劣勢に立たされていたなどと誰も信じられなくなるほど、女神の圧勝だった。
まるでベルセリオスを撃ち抜いたときのような、否、それ以上の人と神の本質の差だった。

「これで気が済みましたか? 最早、言い訳のしようもないでしょう」

グリューネが無機質な問いを鏡に投げかける。答えを期待した問いではなかった。
「何のつもりでちょっかいを出したのかは分かりませんが、紡がれるべき物語は既に決まっている。
 失せよ、外界の器物。ここはお前のいるべき場所ではありません」
死刑宣告と共にグリューネの掌がゆっくりと拳を作ると同時にフィールドはゆっくりと収束し、魔法の鏡を圧迫する。
バキバキと破片が崩れ落ちる。その終わりの中で、鏡は観念したように小さく溜息をついた。
『ここまでかあ……ごめん、お姉さま。あたしじゃ伝わらないみたい。後、任せちゃっていい?』
『…………ええ。ありがとう……後は、私が……貴方達の想いは、いつか未来に届けます……』
苦しげな表情の中で作られた笑顔に、ノルンに厳かに頭を浅く垂れた。
それが如何に惨い戦いであろうとも、法に則る限り運命を見定めるノルンに差し伸べられる手はない。

『いいって、いいって。ん〜やっぱ全部を守るって、難しいね〜〜』

死者が、生者を殺すことなどできない。
招かれぬ者が、招かれた者に抗うことなどできない。
人は、神には勝てない。

故に紡がれるのは神の勝利だけ。これは正当な結果、自然の運命だった。

『そんじゃ、後はお願い。さて、と…………さっき聞いた、よね……鏡の私が……戦った……理由……』

知識ある鏡が、その身を砕かれながら最後とばかり神に向かう。
法則には逆らえないなど、科学の道を目指すものなら誰よりもよく知っている。
だけど、それでも、せめて僅かにでも変われと湖に小石を投ずる。

『……あなたと、おなじだよ……同じなんだって……鏡なんだから……』
「――――――私と、貴方が同じ? 絶望を撒き散らすお前達と? 戯るな」
『絶望……うん、そう見えるだろうね……見えちゃうよね……実際そうなんだし……』

ボロボロとその身を散らせ、鏡は憐れむように、割れ欠けた視界で女神を視る。

『でもさ、それでも同じなんだよ。この絶』
「“人の子よ”。もう、喋るな」

その言葉が終わるよりも早く。陶片の割れるような小気味よい音と共に、鏡が粉と散る。
雪のようにキラキラと舞い落ちる鏡の中で、審判者は僅かに顔をしかめ、道化は目を楽しそうに歪ませ、
女神の顔に映ったその表情をずっと見つめていた。

「もう、喋らないで」


―――――・―――――・――――――


378End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 23:2011/09/24(土) 02:08:25.90 ID:w6t/+XDQ0
それを確かめる暇もなく、匂いを辿るようにそれは残された命へと歩んだ。
その小さなお尻を石床にへたり込ませたア―チェ=クラインが炎の前に彩られたソレがどう映っただろうか。
「い、いやっ……う、うあぁ……」
かつて彼女はダオスの所業について、彼らの仲間内の中ではかなり早期の段階で疑惑を持っていた。
リアの故郷ハーメルだけを滅ぼす攻撃対象の明確さ、
大国アルヴァニスタについては王子を人質に取っての無力化で済ませ、擁したモンスターの大軍をミッドガルズに集中する魔王の動きは、
彼女には人々が盲目的に畏怖する恐怖の侵略者ダオスとはどうしても一致しなかったのだ。
ア―チェの疑問自体は、現実問題としてダオスの所業で家族を失った若者達との意見の違い、
そして彼らの知らぬ場所で悪逆非道の軍略を展開するデミテル、子供を人質にとって自害を迫るジェストーナなど、
ダオスの配下が人々の期待に応えるように『恐怖の侵略者』像に沿った結果を積み上げたことで無に帰した。
だが、それだけをとって見ても彼女は永きを生きるエルフの血脈に相応しい、真実を見抜く天秤の担い手であっただろう。

「あっ、あああっあ”あ”あ”」

そして彼女の天秤はその瞳に映るソレを見て、完膚なきまでに打ち砕かれた。
炎風に煽られた襤褸切れの外套はそれ自体が命を草のように毟り取ろうと逆上がり、
その手に握る剣をみれば死神の鎌でさえ喜んでその頸を自ら宛がいたくもなる。
最早その瞳に、無邪気に残忍な魔女の面影など無かった。
チェスターしか映らぬはずの彼女の瞳の中は、目を逸らすことのできない狂気に包まれていた。
ア―チェの本能が死を受け入れた。今から、私もこれに食われて死んじゃうのだと全細胞が降伏した。
炎を背に影と塗れたこの獣は、それほどに死そのものだったのだ。
死ぬ。今直ぐに、1秒後に、1分前に、斬られて、摺り潰されて、砕かれて、虫のように、屑のように殺される。
ダオスなどと『次元』が違う。ダオスにはまだ『何故か』『何か』を滅ぼすという意思があった。
だが、今彼女眼の前に立つモノにそんな高尚なものはない。『何故か』はあっても『何か』が無い。
殺す。ただ殺す。何の区別もなく、剣が届く位置ならば殺す。殺せるなら殺す。
魔界の瘴気のように存在自体が人を殺す装置。獣のように、鬼のように、死神のように、人でない死を纏った魔剣の王。

ゆっくりと時の剣が持ち上がり、天辺で静止する。
理由のない厄災。そこにはダオスにはあった何かが欠落し、それ故にダオスよりも完成した『魔王』がいた。

その眼前で血を滴らせた魔剣を振り下ろさんとする魔王を前に、彼女がとれる行為は殆ど無かった。
この距離では状況を打開できる魔術を唱えることも出来ず、そもそもどんな魔術ならば打開できるのか見当もつかない。
立ち上がる前に死ぬ。横に転がる前に殺される。箒を手に取る前に切断される。泣き叫ぶ前に喉が無くなる。
奇跡が舞い降りるよりも早く斬撃が届く彼女に生を模索する道は何処にもない。

「――――っうぅっ。うっ……、うあ……」

今この場で誰よりも死に近い少女は、ゆっくりと魔王の前で手を広げた。
降伏の垂直ではない。大地に平行に、左右の中指の直線に心臓を合わせるように小さな胸を開いた。
ただそれだけでは、ただでさえ捩子の外れた頭蓋が爆ぜたのだとも思えただろう。
だがその瞳に狂気以外の何かが宿っているのを見た時、彼女の傍に何があるかに気付いた時、それは聖人の証と化した。

彼女は護っていたのだ。その背中に沈む、一人の男を。


379End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 24:2011/09/24(土) 02:08:59.35 ID:w6t/+XDQ0
その倒れ伏す男の鼓動は、肉眼では判別できなかった。既に孔から流れた血は河となり、男の身体から失われて幾時が経っている。
死んでいるのか、生きているのか、それは最も間近にいたア―チェにしか分からない。彼女もまた既に狂っていたのか、それさえも。
1つだけ確かのは、彼女がチェスターを護っていたことだけだった。
腰の抜けた動けない身体で、何も出来ぬ魔術師が、己が身1つで魔王に立ちはだかっていた。
上半身だけでも反り返り、手を広げ続けた。鏡合わせのの自分でさえ発狂するほどの狂気を間近に受けて尚護り続けた。

死んでもいい。死ぬしかない。だけど、この命だけは護ってみせる。
もう、失わないと。他の全てを見失っても、これだけは喪えぬと。その意思だけで女は立ちはだかった。
消えかける炎に彩られた魔王の身体が震えたような気がした。歯を軋ませるような音が静寂に響く。
最早その瞳に、無邪気に残忍な魔女の面影など無かった。
生存本能さえもかなぐり捨てて、たった一つの変態を“よすが”に、命を掬おうとした一人の莫迦がいただけだった。

その覆われた瞳は、狂気に耐える彼女の瞳をどう受け止めたのだろうか。
振り下ろされるはずの剣は落ちることなく、その代わりに小刻みに震える。
ア―チェは見上げたその目で、自分を見下ろす魔王が唇を震わせていたことに気付いた。
言葉にさえならない何かがそのまま吐き出されてしまうのを堪えるように、魔王の顔は歪んでいる。
枝垂れた前髪が僅かに揺れ、その隙間がア―チェと重なる。

「ぅえ……、あんた……?」

その瞬間、確かにア―チェの恐怖は無くなった。夢と現が切り替わるように彼女の感じていたものが消える。
だが、それは一瞬だった。彼女の声に呼びとめられるようにして魔王から再び滲み出た狂気は、そんな一瞬などただの気のせいと思わせるには十分だった。
振り上げた剣を降ろし、まるでこれ以上顔を見られたくないかのように右手で顔を覆った魔王が彼女達の横を抜けていく。
何事もなく斧を払い回収し、魔王はすたすたと闇の奥へ歩いていく。

その背中に顔を向ける余裕すらなく、ア―チェは茫然と前を向き続けていた。
殆どの火が消えて、少し遠くに朽ちる少女の死体も闇の中で曖昧になろうとする光景の中で、彼女は辛うじてたった一つの事実を呑みこんだ。
生きた。生き延びた。長らえたのだ。あのどうしようもないほどの死の中で、彼女達2人は生き抜いたのだ。
台風が通過したとしてもそこにいる人間の全員が死なないように、魔王に気まぐれに見逃されただけかもしれない。
それは彼女が努力した結果とは言えぬ、ただの偶然かもしれない。それを彼女が誇るのはおこがましいだろう。
だが、生きた。彼女の心臓は不整に脈動することなく今も鼓動している。これを勝利と言わずしてなんというのか。
生きている。それが、どれだけ価値あることか。

その価値を示す様に高鳴り続ける心臓は、今更に怯え始めたからか。
彼女はその高鳴る胸を撫でて宥め、すう、と大きく空気を肺にいれた。
そして、彼女は顔を下に向ける。彼女が護り抜いた、その意味を確かめるために。
そこには、目を開けて彼女を見つめる青髪の弓使いがいた。

<見逃す……? 忘れたのですか? 『BOSS戦におけるバトルフィールドからの逃走は――――――>

「チェす だ?」
“その身体に、青い刃を突き立てられながら”。


380End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 24:2011/09/24(土) 02:10:46.81 ID:w6t/+XDQ0
冷たい。まず彼女が感じたのはそれだった。
残された僅かな火光を受けた彼女の瞳が映したのは、男の臓腑に突き立てられた剣に滴る赤色だった。
服から滲む男の血。そして、剣を伝い諾々と垂れるのは女の血。
雌雄混じり合う体液に、彼女はその半分が自分の命であると感覚的に理解していた。
次いで、氷に触れたような冷たさと共に燃えるような痛みが体内を焦がす。
足音はなかった。刃が誰かに握られている感覚も無かった。
だから彼女の耳は骨を貫いて破れた臓腑が鼓動の度にびりびりと解れていく音を聞き、
彼女の身体は自分の左肩から貫く冷たい剣の姿をありありと体験することが出来た。


「……うん、そっか。そう、だよね」


激痛の中で全てを了解し、受け入れた一言が彼女から漏れる。
肺を傷つけたか、流れ落ちる命の中で言った言葉の中には酷く乾いた空気が混じっていた。
掴んだはずの命は錯覚だった。生きたい、死にたくない、もうこの命は私だけのものじゃないとしがみ付いてきた執着の終わり。
天井から抜け落ちた氷の剣によってその衝動はここに凍る。
だがありとあらゆる未練の中で、彼女は穏やかに笑っていた。
未練を断ち切るための無理矢理な妥協ではない。心の底から“これでいい”と認めていた。

「う……」
呻き声をこらえながら、彼女は剣が刺さったまま男の身体へと自身を滑らせて身を這わせた。
それは小さな彼女がもし彼に抱きしめられたら丁度腕に頭がすっぽりと収まる素敵な位置だった。
その顔を見つめる。切れ長の眼はしっかりと見開かれている。
その口に耳をすませる。彼女の名前を囁く声を聞く。
胸に顔を埋める。鼻先に、彼の鼓動を感じる。

「こ、れで……」

それで十分だった。
彼女のこれまでの未練、そしてこれからの未練。それらを棄ててもいいと思うには、これで十分だった。


「―――――――ずっと。ずっーと、一緒だよ。チェスター……」


最後の火が消え、彼らの亡骸が闇に包まれる。

人を翻弄し、世界に翻弄された一人の魔女はこうして静かに狩人と眠る。
ヒトとハーフエルフ。生き続ける限りいずれは別れなければならなかった恋人達よ。
せめて死の国ヘルで、永遠に共にあらんことを。



『生』が二人を分かつまで。


381End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 25:2011/09/24(土) 02:11:14.02 ID:w6t/+XDQ0
―――――・―――――・――――――


「……これで、文句はないでしょう?」
ブラックホールの中に鏡の欠片全てを吸い終えたグリューネが、流すようにノルンとサイグローグを見る。
そこにはもう、鏡がいた証は何一つ残っていない。あるのはただ屍の上を歩く剣士の駒だけだ。
「クククク……えぇ、それはもう……最早戦えぬ小娘までキッチリカッキリ潰して作り上げた死体の群れ……
 これに文句などつけられましょうや……いえ……つけられませんですとも……!! ねえ、ノルン様……?」
『―――――合法。ただ、それだけです』
満面の喜悦で拍手を叩くサイグローグと、努めて無表情のまま言葉を紡ぐノルン。
その2人に向けられるグリューネの瞳は、セルシウスの如く冷たく痛々しいものだった。。
「ごたくは結構。次の敵を用意しなさい。“どうせ、彼らもまた蘇らせる”のでしょう?」
「オフクォゥス。とはいえ……いやはや、グリューネ様がまさかこの様な手に踏み切るとは思っておりませんでした……
 絆を盾にした程度では勝ち目無し……こうなってはこちらが仕掛けられる手も限られると言うもの……」
おどけるように手をせわしなく動かしながら、困ったような態度を取る道化にグリューネは吐き捨てて言う。
「まだ茶番を続けるつもりですか? 最早誰が対面に立とうが同じこと、私の力で滅します」
「おぉこわいこわい……ご安心を……先程のガラクタ、玩具の鏡のようなものはもう使いませぬ……
 やはり、私が直裁しなければ戦いにもなりません……それも、後出来て『2戦』というところでしょうか……?」
サイグローグは中指と人差し指をVの字に立ててグリューネに突きつける。
かつての仲間の友愛で絆すような真似が女神に効かない以上、あの魔王相手に使える駒は限られてくる。
その駒をフルに用いて、後2戦で終わらせるということか。

「……いいでしょう。それで自分の無力を認められるというのならば、かかってきなさい」
「了解いたしました……それではそろそろ勝てそうな駒を用いましょうか……
 “魔王を殺すに、相応しい”群れを……さあ、ノルン様……次なる演目の宣言を……!」

サイグローグが諸手を挙げて、盤が再び鼓動を始める。それは生と死が再び逆転し、内側と外側が崩れさる合図。
その中で、ノルンとグリューネの視線が交錯する。

『貴女は、本当にこれで良かったと思っているのですか?』
「……自分で玩具を嗾けておいてよくぞ言いますね。何人であろうと、立ちはだかるならば、無に還します。
 それを望まないのであれば、退がることを勧めますが?」
『無に還すかどうかを、貴女が決めると? 未来を貴女が決めると? 手が紅く濡れていることにも気付かない貴女が?』

ノルンの一言に、グリューネは自分の手を見やる。散った鏡の破片がその白魚のような爪先を傷付け、紅く濡らしていた。
それを胸元によせて隠そうとするが、ノルンはもう遅いとグリューネ以上の冷酷さで宣言する。

『退くのは貴女の方です、グリューネ。ここが分水嶺、これ以上その血塗れた手で進むのであれば私が引導を渡しましょう』
「何故ですか…! 私が紡ぐは、光り輝く世界の未来。貴女もそれを望んでいるのではないのですか!?」
『私は審判を告げる者。希望を望まず、絶望を望まず、ただ見定めるだけです――――――“貴女が『第零条』を侵すのかどうかを”』

グリューネはノルンの言葉に息を呑んだ。第零条、法の騎士をしてその命を用い護らせた“何か”。
それを今グリューネが侵そうとしているという。だが、法を守っているはずのグリューネにはそれが何かが分からない。
かといって、ノルンはそれが何かを教えるつもりがない。ならば。

「煙に巻くだけの言葉ならば不要です。私は希望を紡ぐ。決して折れぬ光の道を、この手で切り拓く。邪魔立ては、させません!」

戦い、滅し、無へと還すだけだ。
そうでなければ、そうしなければ、もう救えないのだから。


―――――・―――――・――――――


382End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 26:2011/09/24(土) 02:11:47.16 ID:w6t/+XDQ0
全てが闇に還った中、一人の男は立ち尽くしていた。
既に彼が戦っていた場所からは大分離れていた。
だが、それでも彼は微かに洞に残響する刃が肉を斬る音を聞いていた。

覆った右手をそっと顔から離す。厚手のグローブに包まれた手では、その手に濡れているのが血なのかどうかも分からなかった。
だが、そんなことはどうでもいいというように男はその手の魔剣を握り締める。
濡れていようが、濡れていまいが、剣がひっこ抜けなければそれでよかった。

斧を収め、剣をと共に彼は進む。闇を纏い更なる闇へと沈んでいく。
闇の中を魔剣と共に進む彼をもしも見ることができたなら、きっと誰もが口を揃えて言うだろう―――



『魔王』と。


―――――――――――――――――――――――――――――Cless Win !  Go To Next Stage!!




生きることは、選ぶことの繰り返しだ。その中で何度か大きな選択をすることがある。
一度決定した結果は変えられない。こぼれ落ちた時の雫は、もう戻らない。


それが誤りだったとき、お前達はどうする? 

それが世界を破滅させたとき、どうする?


<――――頑是なり、愚かなる神よ。貴女に相応しき刑罰は1つしかないのでしょうか>


破滅の未来を変えるべき時空剣士のいない、この世界を。


383End of the Game −禽獣層・さよなら時空剣士− 27:2011/09/24(土) 02:12:49.03 ID:w6t/+XDQ0
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:HP5% TP20% 第四放送を聞いていない 疲労 眼前の状況に重度困惑
   狂気抜刀+2<【善意及び判断能力の喪失】【薬物中毒】【戦闘狂】【殺人狂】の4要素が悪化しました>
   背部大裂傷+ 全身装甲無し 全身に裂傷多数 背中に複数穴
所持品:エターナルソードver.A,C,4354 ガイアグリーヴァ オーガアクス メンタルバングル
    サンダーマント 大いなる実り 漆黒の翼バッジ×2 コレットのバンダナ装備@かなり血に汚れている
基本行動方針:剣を振るい、全部を終わらせる
第一行動方針:……『敵』は全て殺す
第二行動方針:ミクトランを斬る。敵がいれば斬って、少しでもコレット達の敵を減らす。
現在位置:中央山岳地帯地下


【Chester Barklight? 死亡確認】
*クレインクィンは破壊され、毒、全ての矢も使い物にならなくなっています。他に支給品はありませんでした。

【Arche Klaine? 死亡確認】
*アイスコフィンが遺体の背中に刺さっています。ミスティブルーム、ミスティシンボルが遺体のそばにあります。他に支給品はありませんでした。

【Fujibayashi Suzu? 死亡確認】
*忍刀・血桜、苦無×20本は全て地面に散乱しています。デモンズシールはクレスに破壊されました。

【イフリート 消滅確認】
*ガーネットはア―チェの遺体の傍に落ちています。


【Notice】

新しいスキットが出現しました

Select:『放送後ティータイム−ベルセリオスの場合−』


384名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 02:14:05.81 ID:w6t/+XDQ0
規制が解除されたので投下しました。支援してくれた方、ありがとうございました。

20番が欠番していますが、21〜24までが順に20〜23になります。
(24は二回目のものが正です)
385名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 02:41:42.56 ID:qZaRKG9+0
>>384乙!
ついにクレスは再魔王化してしまったか…
386名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 02:43:15.90 ID:qZaRKG9+0
あとgj!
スキットも楽しみにしています
387 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2011/09/24(土) 07:02:06.07 ID:PmfM+tFcO
>>384
GJ!
388名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/24(土) 16:50:20.23 ID:3QxNTDeR0
支援が飛び飛びになってしまった
投下乙
クレスはついにまた禁断症状?魔王化?してしまったか……
しかし恐ろしい強さだ
そしてグー姉さんも遂に腹を決めたか
とはいえ心を無くさせてまで勝ちたいとは、相手が相手だから分かるが
389名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/26(月) 01:20:20.29 ID:miRyEmvri
投下乙!
たしかにクレスは死んでしまったな……。
どう言っていいのかわからん。可哀想とも違うし。
390!ninja:2011/09/26(月) 13:53:58.36 ID:BiaeM/md0
断空剣!?♪。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/27(火) 23:27:57.55 ID:xnJofv9+0
投下乙!
クラースさんは最後まではぶられてたあ!
でも本編に参加してたTOP軍団は、活躍出来なかったノーマルを返上するかのように、エキストラとはいえ、心情とかも書かれてて何だか嬉しい
そっか、クレスをクレスと判別されなかったのは、クレスが既にクレスじゃなかったからか…
重ねられる皮肉な技がまた切ない
そして次回、楽しみだ
ようやく引きこもってたベルセリオスが! 
392名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 00:22:55.98 ID:WeZcaaIii
今まで引きこもってたベルセリオスは一体どれだけ食料や飲料を消費してるんだろうな
そして床には…
393名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/03(月) 21:31:27.36 ID:EIWuk3Qz0
クレスが・・・ティトレイのように復活とか無いのだろうか・・・
今年終わるまでにもう一回くらいは読みたいな〜書き手さんもTOXプレイ中だろうか?
ヒーローズが出たら絶対ロワでハマッたコンビ使うわ、クレスティトレイとかヴェイグカイルとか
394名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/13(木) 02:30:32.36 ID:2hil23QAO
保守
395名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/22(土) 10:49:56.26 ID:SqRfIelmO
ほしゅ
396名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/23(日) 07:39:01.06 ID:bWBH2h+UO
397名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/29(土) 04:23:18.16 ID:bW4pr+HPO
398 忍法帖【Lv=24,xxxPT】 :2011/10/29(土) 07:49:20.99 ID:elIWb0u+0
399名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/04(金) 22:25:46.43 ID:6jcim3Cq0
400 忍法帖【Lv=27,xxxPT】 :2011/11/12(土) 00:10:40.98 ID:LKgNJ6/B0