外伝8:
男は目がさめると、隣で安らかな寝息をたてる少女の存在にきづきました。
彼の心の中に、昨夜のできごとがまるで夢の世界のように、思い浮かんできます。
それは夢の中よりも、夢のようでいて、そして男が生きてきた中で、一番幸せなことでした。
男は少女の寝顔をみつめ、頭をなでながら、ささやきました。
「驚いたよ。君は寝顔もかわいいんだな」
すると、寝ていたはずの少女が突然、クスリと息をもらしました。
そしてがまんできず、笑顔になって、鈴がなるような綺麗な声で笑いだしました。
「そういうあなたは、お寝ぼうさんな、かわいい人だわ!」
少女は笑いながら、半分声にならない声でいいました。
「?」
彼は意味がわからず、それを見つめました。
「もう、わからないの? 先に起きていたのは私よ。あなたが起きそうになったから、寝たふりしてたの」
少女は種あかしをしました。男は、恥ずかしさに顔を真っ赤にしてしまいました。
「あなたの寝顔、本当にかわいかったわよ!」
そういうと、背伸びをして起き上がり、愛おしそうな目で彼をみつめました。
「こんなにすがすがしい朝は、生まれてはじめて。・・・あなたは、どうなの?」
「もちろん、オレもだよ」
男も笑顔になり、答えました。
そうして、新しい一日がはじまりました。
・・・それは、男の人生の中でもっとも幸せなはじまりをした一日であり、
同時に、もっとも辛く悲しい終わり方をする、一日だったのです。