【P4】 Persona4 -ペルソナ4- Part346
花村の指が、千枝の触れないところまで、触れてくる。
心と身体が一致する。もっと、と。
長い間、自分はこの手を求めていた。自分の全てに触ってほしい。この行為が怖いものではなく、素晴らしいものだと教えてほしい。
身体が熱く、悦んでいる。心から湧き上がるこの気持ちを、どうやって伝えよう。
「花村、好き」
そういう度に、キスをされ、愛撫は激しさを増していく。
雪子の言うことは、本当だった。好きなら、受け入れられる。大丈夫。怖くない。
「里中、良いか?」
千枝はうなずいた。
既に身体は受け入れる準備が出来ている。千枝は花村の背中に手を回し、彼を待つ。
「……どうしたの?」
「いや、なかなか、難しい」
「難しいって?」
花村は少し赤くなる。
「さっきからちょっと思っていたんだけど、お前さ、初めてだったりする?」
千枝は思わず、花村の両頬を片手でつかんだ。
「それがどーしたの? 何か文句ある?」
「ありましぇん。いや、そうか。うんうん、なるほど」
「何がなるほどなの?」
加賀美翔子の言っていた通り、男は嬉しいものなのだろうか。
「んー、多分、けっこう痛いかもしれないけど、我慢しろよ」
「痛いの!? やっぱり!」
「しかも俺、かなり余裕ないから、優しくは無理かも。ごめん」
「なにその宣言!」
「じゃ、行くぞ」
千枝は固く目をつむっていると、ぽんぽんと叩かれた。
「そんな緊張すると、余計入らないって」
「だって、あんたが痛いって言うから!」
「そのうち、良くなる。多分。って、あっ!」
「何があっ! なの?」
「あれ、忘れた。っていうか、最近してないからあれがない」
「あれ? って、あれ?」
「そう、あれ」
二人はしばらく呆然と見つめ合った。なるほど、行為の先には結果が伴うものだ。
千枝は考え込んでいる花村に、そっと口を付けた。
「責任取ってくれるなら、良いよ」
「取ります。家族が多いのは万歳です」
即答してくれたので、千枝は笑顔でうなずく。
「よろしい」
それでは失礼致します、と花村が入ろうとしてきた。千枝は思わず笑ってしまう。
「何がおかしいんだよ」
「だって、普通、そんな入り方って。失礼しますって。ちょっと、みんなこんな感じなの? もっとすごくシリアスにやっているもんじゃないの?」
「いや、どうだろう。っていうかさ、お前、もっとムード作りに協力しろよ! こうもガハハ笑われると、やりにくいっつーの!!」
「だって、あんたが笑わせるから!」
「もー怒った。お仕置きだ」
「え、その言い方って、やらしい」
花村は千枝を起き上がらせ、腰を持ち上げる。
「ちょっと、待っ……」
「多分、これが、一番スムーズだ」
千枝の少ない性行為の知識の中では、大抵、初めての場合は正常位である。だが、今の場合は座る花村の上に、千枝が降ろされる形になっている。
「ちょ、それ、怖っ、って、いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! 痛い痛い痛い!!」
「ふう、やっと入った。イデッ!」
「何でこんな体勢なの! 最初は違うでしょー! いたたたたた」
「万有引力。デッ。ごんごん殴るなよ! だって、最初は本当に入りにくいんだよ! しかもお前の中、すげー狭い!
多分、普通通りじゃ入らねー! っていうか、その、あの、締め付け、すごいから、うっ、すみません、出そう」
「何であやまるの?! 出るって?!」
千枝にとっては、とにかく痛くて苦しくて、狭くて仕方がない。
しかも花村が動かすので、その度になんともいえない感触が身体に走る。
「いやっ、花村、動かさないでっ!」
痛みの先に、快感がある。
「無理! それに俺、早いから安心しろ!」
「早いの!?」
その方がありがたい。
「早くない!」
「どっち!?」
「だから、今日だけの話だ。久しぶりだし、その、相手がお前だから早いと言うだけで、いつもじゃないからな! 本当だ! 次は絶対に寝かさないくらい、遅い!」
言っている意味がよく分からないが、花村は真剣だった。
千枝としては、早かろうが遅かろうが、どうでも良かった。痛い。痛いが、気持ちが良い。花村が、今、中にいる。
「花村……っ」
腰から下が溶けそうになる。ただ熱く、花村の感触しか、既にない。
「やだ、何、もうっ」
今まで味わったことのない、感覚。千枝は花村にしがみついた。
時々、痛い。でも、やめてほしくない。
「千枝、愛してる」
いきなり名前で呼ばないでほしい。ぞくりとする。
「俺の名前も、呼んでくれ」
「陽介?」
「訊くなよ」
今までずっと名字で呼んでいたのに、今更名前でなんて、恥ずかしい。
「だって……っ」
それに、ものも言えないくらい、切羽詰って来ている。
下から突き上げられ、千枝の中で花村の存在が大きくなっているのだ。
(いろいろあった)
本当に、今まで、あった。
優しくて、運が悪くて、報われない、この人のことを、言葉に言えないくらい、愛している。
「千枝、俺より先に、死なないでくれ」
暗い声だった。花村は千枝の胸に顔をうずめている。千枝はそっと抱き締めた。
「うん。約束するよ」
分かっている。今まで花村がどんなに傷つき、苦しんで来たかを。
もう、離れない。もう、この手を決して離さない。
先に死なない。約束する。
(あたしが哀しみから、守ってあげる)
「好きだよ、陽介」
「俺もだよ、千枝」
後は何も考えられなかった。快感が体中を貫いていく。もう痛みはなく、ただひたすらに気持ち良い。
「陽介、もう、何か……っ無理、かも。すごく、変な感じ……」
ふわっと意識が遠のいていく。熱いものが満ちて、千枝は意識を保つことができなかった。
「大丈夫か?」
まだ花村が中にいるような感触がある。
シーツには、痕が残っている。
「あー、ごめん、洗濯しなきゃね」
「気にするなよ。アラブの世界では、花嫁のこれを親族に見せるらしい」
「そんな無駄知識の披露、しなくて良いから」
千枝はぐったりと目をつむる。
「今日は、よく仕事から帰れたな」
「うん、調子が悪そうだから、堂島さんが早く家に帰れって」
でも家に帰らず、こんなことをしてしまったので、かえって疲れてしまった。
「じゃあ、泊まって行けよ」
「着替え持ってないから、帰るよ。同じ服じゃ嫌だし」
そう言いつつも、当分、動けそうになかった。
「よし、こうしよう。明日朝早く帰れば良い。送って行くしさ」
「そうするー」
とにかく眠くて仕方がない。こうして話している間にも、花村の声が向こうの方で聞こえてくるような感じがする。
「あ、そうだ。言うの忘れてた。里中さん、俺と付き合って下さい」
千枝は大きく瞬きをした。
「順番、逆じゃない?」
「そうかもな。ま、そういうことで」
「うん、よろしく」
隣に花村がいる。この状況は、何て幸せなことなのだろう。手を伸ばせば、触れられる。握り返してくれる。花村が他の部分にも触ろうとしてくるのは困ったが、もう悪夢を見なくてすみそうだった。
もし見たとしても、花村がいる。大丈夫だ。