【P4】 Persona4 -ペルソナ4- Part346
其の日の陽介の機嫌はすこぶる悪かった。
今日は修学旅行の振替で休み。旅館も落ち着いてるという事で、差し入れと一緒にジュネスまで来たのだ。
突然行くなんて事は今までなかった為、喜んでくれるかと思ったが、そんな事はなくて。
腕を引かれるがままに彼の部屋まで連れて行かれた。
「バイト…大丈夫なの?」
「今日は人足りてっからへーき。ただの暇潰しだし。」
「そっか。偉いね。」
雪子が笑うが、陽介は見向きもしない。
明らかに怒っている様子の陽介に、雪子は泣きそうになりながらも差し入れのケーキを差し出す。
「これ、買ってきたの。ご家族で食べて?」
「あー…」
「………私、何かしたかな?」
雪子がぎゅっと下唇を噛み締めて答えると陽介は横目で雪子を見て、其の隣に座った。
雪子からケーキの入った箱を受け取って机の上に置くと、雪子に口付けた。
突然の事に驚いた雪子はきつく目をつむって時間が経つのに耐える。
唇が離れたと思ったら陽介の唇は雪子の首筋をなぞり、背筋がぞくりと反応した。
「っ…花、村、くんっ…!」
「何?」
「どしたのっ…いきなり……」
泣き出してしまいそうな雪子の声に、陽介は顔を上げて其の瞼に口付けた。
「…天城さ、ほんとに一昨日の夜の事覚えてないのか?」
「皆でクラブ行った時、だっけ…?」
「うん。」
「はー………天城の事マジで好きなのになー…」
「私、何しちゃったの?」
皆のよそよそしい反応で、何かしてしまった事は何となく分かっていた。
だが、其れが何なのかは分かっていない。誰も口を開こうとしないのだ。
雪子は其の“何か”によって陽介の機嫌を損ねてしまったのなら、ちゃんと話を聞きたいと思った。
「膝…」
「え?」
「王様ゲームで、遠野の膝に乗っかってたんだよ。めっちゃ距離近くて……ってあー!!!思い出しただけでまたムカついてきたっ!!!」
自分がそんな事をしただなんて到底思えないが、陽介がこの場に及んで嘘を付くとは思えなかった。
これは確かに言えない。千枝が言わないのにも同意できた。
目の前の彼も、嫉妬してくれたのだろう。
雪子はごめんね、の気持ちを加えながら身を乗り出して頬に口付ける。そしてそのまま陽介を抱き締めた。
「…ごめんね?」
「俺も…悪い。折角天城が来てくれたのにな。」
「ううん。いいの。…もう陽介くんの膝の上しか座らないからね?」
そう言って雪子は陽介の上に跨がった。細くて華奢な腰を掴んで、陽介は其の腰を擦る。
「じゃあ、今日は天城に頑張ってもらうか。」
「え?」
「腰を使って、さ。」
「!!!」
この後、雪子は立てなくなって今度は雪子がヘソを曲げてしまうのだった。
そんな言葉は認めないから。
お願いだから。
ずっと傍に居て。
「っ…ぅんっ…!」
「あまっ…ぎっ……!俺、もうっ…!」
「っ…きてっ…!」
律動を早めて其のまま達すると、其の衝撃で中がきつく締まり、天城も達したのだと頭の片隅で理解した。
暫くの間、お互い動けなくて俺は天城を抱き締めたままベッドの上でぼんやりとしていた。
「大丈夫か?天城…」
「う、ん…大丈夫。でも、なんか…その………いつもと違ったね。」
「や、場所が場所だし…なんか、燃えた。」
「…ばか。」
普段は俺の部屋とかばっかりで見慣れた景色の中だったが、今日は何故か二人でラブホテルと呼ばれる場所まで来ていた。
別に来たかった訳でもないし、行きたかった訳でもないが、興味本位というやつだ。
たまたま前を通って、泊まってみるか、なんて軽い気持ちで言ったら天城も真っ赤な顔で頷いてくれた。
修学旅行で泊まった時は驚きはしたものの、どきどき感はなかった。(たぶん周りにいたのがムサイ奴ばかりだったから。)
でも、恋人と二人で来たら一気に止まらなくなって強引に天城を押し倒した。
「あーまじ最高だった…」
「そういうの、恥ずかしい。どう反応していいか分からなくなる…」
「そういう所が好きなんだよなー。」
「っ…もう知らない。花村くんのばか。…1週間触るの禁止。」
「わーっ!!!まじそれは勘弁してくれっ…!ぜってー無理だから!」
そんな事されればどうすれば良いのか分からなくなる。
今も隣で寝てるだけで疼いてきているというのに。(どうやら俺は性欲がかなり強いらしい。)
「じゃあ、さっきみたいなの禁止だよ。」
「はーい。」
「良かった。ところで、ちょっと眠くない…?」
「寝る?」
「んー…話してたい気持ちもある、よ。」
「じゃあもう1回スるか。」
「え!?」
「なんか天城見てたらまたシたくなってきた。いただきます。」
「ちょっとまっ……んっ!」
結局、天城をもう一度食べた後、天城は意識を飛ばしてしまった。
朝になると痛みやらで俺は激怒を食らい、1週間お触り禁止となってしまった。
「花村くん」
自分の席で仲村君と話している花村くんに声をかける。ふたりいっせいに振り返り、私は少し怯んだ。
「一緒に帰ろう」
「お?おう」
わりーな、俺モテモテだからさぁ、などと軽口を叩きながら仲村君に片手で謝る。
いけしゃあしゃあと。仲村君は笑って、じゃあな、と言った。
「お前さ、ちょっとは考えろよな」
校舎から出たとたん花村くんは文句を言う。もちろん仲村君には悪かったと思っている。私たちが付き合っていることがみんなに内緒だってこともちゃんとわかっている。
「…花村くんと帰りたかったから」
私は仏頂面のまま言った。花村くんは目を伏せ、はは、と乾いた笑い声をたてた。
「嘘つくなよ」
嘘つきはどっちだと思っているのだろう。私は般若にでもなったような気持ちで思う。今日は、綺麗な夕焼けだ。
花村くんにはその昔、大好きな先輩がいた。
同じバイト先の一年上の先輩で、ベージュ色に染められパーマがかかった髪にきつい一重瞼が印象的なひとだった。
わかりやすい花村くんはその先輩の話をする時顔をぱあっと輝かせ、その頃の私はそんな花村くんを微笑ましく眺めていた。
応援してあげたい、と思っていた。
しかししばらくして、その先輩は亡くなってしまう。
その時の花村くんの落胆ぶりは尋常じゃなかった、と今になって思う。
表面上は普通だが、なんというかまとう空気が花村のまわりだけ重いのだ。
私は花村くんが気の毒になり、不謹慎なことだが愛しい、と思った。
「今日花村くんの家行きたい」
少し後ろを歩いていた花村の方を振り返って言った。
花村くんは、勘弁しろよ、と眉をすこし持ち上げてみせたが、
「まぁ、別にいいけどさ」
と言った。
あとはもう、お決まりのパターンだった。私たちはもつれ合いながらベッドに倒れこむ。
「ん…」
今日の花村くんは少し強引だ。私の小ぶりな乳房を手ですくいとり口付ける。
膝に、硬くなった花村くんの熱を感じた。
「雪子…」
ふたりきりの時だけ、花村くんは私のことを名前で呼ぶ。
ぼんやりとうつろな気持ちのまま行為を終える。きっと花村くんも同じ気持ちだったのだろう。
私が花村くんにシンパシーを覚えるのはこういう時だけだ。
私から告白したのだからある程度は仕方ないとは思うけれど、それでも様子を見ていると、花村くんはまだ先輩のことを忘れられてないみたいだった。
私を通して、先輩を見ている。
私の中に先輩のような部分を探している。
私と先輩を、比べている。
もちろん花村くんが口に出したわけじゃないけど、そのくらいのことは私にだってわかる。
そこまで考えて私は少し笑った。
あんまりうまくいかなくて、こうやってぐずぐずと仲直りのセックスをして、それで私たちは一体どうするつもりなのだろう。
裸で横たわったまま私はカチャカチャと制服のズボンをはいている花村くんを見た。
鮮やかなオレンジ色の下着。それは花村くんにすごく似合っていた。
「ねえ、花村くん」
花村くんは振り返った。
そのままぼんやりと私を見つめる。
これだ、この目だ。
花村が、先輩を見ているときの目。
「別れようか」
うすく微笑みながら私は言った。
花村くんは、何笑ってんだよ、と呟く。
窓の外はオレンジに藍を流し込んだようになっていて、綺麗だった夕焼けは面影もなかった。
直斗きもいな