テイルズオブバトルロワイアル2nd Part4

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1名無しさん@お腹いっぱい。
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、
というテーマの参加型リレー小説スレッドの2周目です。
参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、ナムコとは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【前スレ】
テイルズオブバトルロワイアル2nd Part3
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1220805590/

【過去スレ】
テイルズオブバトルロワイアル2nd 感想議論用スレ
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1217252638/
テイルズオブバトルロワイアル2nd Part2
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1220284765/

【避難所】
PC ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
携帯 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【2ndまとめサイト】
PC・携帯両用 http://www.symphonic-net.com/tobr2/mobile/index.html

【1周目のスレ(現在アナザールート進行中)】
テイルズ オブ バトルロワイアル Part14
http://game14.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1213507180/

【1stまとめサイト】
PC http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/
携帯 http://www.geocities.jp/tobr_1/index.html
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:16:04 ID:B+DBJZAq0
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
 開催場所は異次元世界であり、海上に逃れようと一定以上先は禁止エリアになっている。

----放送について----
 放送は12時間ごとに行われる。放送は各エリアに設置された拡声器により島中に伝達される。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:16:56 ID:B+DBJZAq0
----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。       
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」、「マスコットキャラ」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 エクスフィアを出す場合は要の紋つきで支給するようお願いします。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。

----マスコットキャラの扱い----
 マスコットは「支給品」一つ分相当とカウント。
 なお、ロワでの戦いにおいて全く役に立たないマスコットキャラは、この限りではなく、「支給品」一つ分とは見なさない。
 ミュウを支給する場合はソーサラーリングを剥奪した状態で支給すること。コーダ、ノイシュ、タルロウXの支給は不可。
 マスコットキャラはプレイヤーではありません。あくまでも主役はプレイヤーという事を念頭に置いて支給しましょう。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:17:45 ID:B+DBJZAq0
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法、即死術は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。 (短距離のテレポート程度なら可)
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内(半径100mほど)ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。

----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要なので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェルシーの死天滅殺弓のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェルシーの弓術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:18:36 ID:B+DBJZAq0
----魔法の使用に関して----
 ロワ会場ではマナが特殊な位相をとっており、魔法使用者の記憶によって指向性を持ち、様々な形態となる。
 すなわち魔法の内容が術者の記憶にあるのならば、
 周囲のマナが晶術・フォルス・爪術など各々に最適な位相を勝手にとってくれる、ということである。
 それゆえ術者は元の世界のものと寸分違わぬ魔法を再現できる。
 召喚術や爪術など、厳密に言えばマナをパワーソースとしないタイプの魔法でも、
 会場のマナが変異して精霊や滄我の代役を務めてくれるため、発動に支障はない。
 ただしこの位相をとったマナは回復魔法とは極めて相性が悪く、回復魔法はもとの一割ほどしか効果がない。
 気功術などによる回復さえマナに妨害されるため、会場内では傷の回復は至難。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 使用する前提条件として、「精神集中が可能」「正しい発声が可能」の条件を満たしていること。
 舌を切り取られているなどして、これらの条件を満たせていない場合、使用は不可能。
 仮に使えても、詠唱時間の延長や威力の低下などのペナルティを負う。
 「サイレンス」などで魔法を封じられた場合、無条件で魔法は使えなくなる。
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。
 術者が目標の位置をきちんと確認できない場合、当てずっぽうでも魔法を撃つことはできるが、命中精度は低い。
 また広範囲攻撃魔法は、範囲内の目標を選別出来ないため、敵味方を無差別に巻き込む。

----時間停止魔法について----
 ミトスのタイムストップ、アワーグラスなどによる時間停止は、通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。
 ただし、広範囲攻撃魔法と同じく目標の選別は不可であり、発動者自身以外は動くことが出来ない。
 TOLキャラのクライマックスモードも、この裁定に準拠するものとする。
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:19:26 ID:B+DBJZAq0
----秘奥義について----
 秘奥義は一度だけ使用可能。その際、発動したキャラが持つ未使用の秘奥義も使用不可となる。
 使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 また基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。
 秘奥義に類する強力な術技は秘奥義扱いとする。
 該当するのはシゼルのE・ファイナリティ、レイスの極光、TOLキャラのクライマックスモードなど。
 Iの覚醒はSB・OLと同じ扱い(何度でも使用可)だが、前世の姿に戻ることは秘奥義扱いとする。
 SRの追加秘奥義は2つ合わせて一つの秘奥義とする。TP消費は普通の秘奥義より増える。
 またリヒターのカウンターは秘奥義扱いとする。その前に普通の秘奥義を使っていたならば、当然カウンターは発動不可能である。

----TPの自然回復----
 会場内では、TPは戦闘ではなく時間経過で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。
 なお、休息せずに活動している状態でも、TPは微量ながら徐々に回復する。
 回復したTPをすぐさま回復魔法にあてれば、ある程度ダメージの回復は見込める。
 しかし、かなりの集中力を割くためこの作業中は不意打ちに弱くなる。事前に鳴子を張っておくなどの対策は可能。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:20:19 ID:B+DBJZAq0
----合体技の再現(SのU・アタック、R仕様秘奥義など)----
 ロワを通して仲良くなったキャラや、同作品から来た仲間同士であれば、協力して合体技を使うことも出来る。
 合体技を編み出せる仲間、ならびに魔法・特技の組み合わせは各原作に準拠するが、
 このロワ中では次の条件を満たしている場合でも合体技の発動が可能。

  例1:異なるキャラ同士で、同名の魔法・特技を組み合わせた場合。
   例えばSの複合特技である「プリズミックスターズ」は、リフィルの「レイ」とジーニアスの「グランドダッシャー」などで発動するが、
   同名の魔法を習得しているので、フィリアの「レイ」とシャーリィの「グランドダッシャー」でも、「プリズミックスターズ」は発動する。

  例2:「それっぽい」魔法・特技を組み合わせた場合。
   例えばSの複合特技である「襲爪雷斬」は、本来ロイドの「虎牙破斬」とジーニアスの「サンダーブレード」などで発動するが、
   ジーニアスの「サンダーブレード」をジェイドの「天雷槍」などで代用することも可能。
   また常識の範囲内で考えて、それなら合体技が成立しそうだと考えられるなら、まったく新規の組み合わせも可能。
   例えばシャーリィの「タイダルウェーブ」で発生させた水を、ルビアの「イラプション」で加熱し、高温の蒸気を発生させて、
   もともとはジーニアスの魔法である、高温の蒸気で敵をあぶる魔法「レイジングミスト」を合体技として編み出すことも出来る。

  補則1:なおクレスなどは単体で「襲爪雷斬」を放つことは出来るが、同名の技でも合体技の方が威力は上である。
  補則2:新規のキャラ同士の新規の魔法・特技の組み合わせは自由に考えて構わないが、
       それにより成立する合体技は必ずシリーズのどこかから「本歌取り」すること。
       世界観の維持の観点から、まったく新規の合体技を編み出すことは禁止する。
  補則3:もちろん合体技を繰り出す当事者達は、ある程度以上気心が知れあっている必要がある。
       小説中で「仲良くする」ような描写を予め挟んでおくこと。
  補則4:合体技は当然大技であるため、発動させるためには上手く隙を作らねばならない。
       同じく小説中で「隙を作る」ような描写を予め挟んでおくこと。
  補則5:AのゲームシステムであるFOFを用いた、術技のFOF変化も上記のルールに準拠するものとする。
       FOFの属性と変化する術技の組み合わせは原作に準拠するが、上記のルールに違反しない限り、
       書き手は全く新規の組み合わせを考案してもよい。下記も参照のこと。

ケースバイケース、流れに合った面白い展開でお願いします。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:21:11 ID:B+DBJZAq0
----ゲームシステムのクロスオーバー----
 ロワ参加者は、デフォルトの状態では原作世界の知識しか持たないものの、
 ロワで他世界のキャラと交流を持ったり、何らかの方法で他の世界の知識や技術を得た場合、
 その世界特有のシステムを使いこなすことが出来るようになる。
 例えばリオンが事前にジェイドから説明を受けていれば、ジェイドの「タービュランス」で発生した風属性FOFで、
 自身の「双牙斬」をFOF変化させ、「襲爪雷斬」を放つことも可能。上項も参照のこと。
 ただしRのフォルスやTの獣人化など、その世界の住人の特異体質によるシステムのクロスオーバーは、
 原則として不可とする。
 ただしSのハイエクスフィアを用いた輝石による憑依などで、
 R世界やT世界の出身者の肉体を奪うなどした場合は、この限りではない。

----状態異常、変化の設定について----
 状態異常並びに変化追加系は発生確率を無視すると有利すぎる効果なので禁止とする。
 Rの潜在能力やフォルスキューブ(マオ)、Dのソーディアンデバイス、D2のスロット、一部のエンチャントが該当する。
 D2のFOEも禁止。ただし術技にデフォルトで付加されている能力は有効とする。例として
●ヴェイグの絶・霧氷装
●ミトスのイノセント・ゼロ
●ダオスのテトラアサルト
●ジルバのシェイドムーン・リベリオン
 等が挙げられる。

----シリーズ特有の強化スキルやシステムについて----
シリーズのシステムに関わらず、特技・奥義は単独で発動可能とする。ただし連携の順番は原作に倣うこと。

P・・・なし。
D・・・ソーディアンデバイス、リライズは全面禁止とする。
E・・・潜在晶霊術は禁止とする。
D2・・・スロットは全面禁止とする。エンチャントは追加晶術、連携発動、リカバー(D2にはリカバーを使えるキャラがいないため)、
     特技連携、晶術追撃、秘奥義、追加特技、通常技連携、空中発動のみ有効とする。
S・・・EXスキルの「一定確率で」系、ガードステータス、ゲットウェル、スーパーガード、ライフスティル、メンタルスティル、
   グレイス、ステータスキープ、エンジェルコール、レジストマジック、 メンタルサプライ、コンセントレート、オートメディスン、
   スペルコンデンス、サプレスダッシュ、サプレスロウアー、MCディフェンド、ラッシングラン、パフォーマー、グローリー、
   HPリバース、レストアピール、アーマードブロウ、ガードアウェイは禁止とする。
R・・・フォルスキューブのドレインは禁止。潜在能力も禁止とする。
L・・・我流奥義は使用可。ただし副極意による追加効果の付与は禁止とする。
A・・・ペインリフレクト、アクシデンタル、ライフリバース、エンジェルコール、ピコハンリベンジ、オートメディスン、グローリー、グレイス、
    ADスキルの「一定確率で」系は禁止とする。
T・・・なし。
I・・・武器カスタマイズ、アビリティは全面禁止とする。
   (リジェネ、リラックス、悟り、グミの達人、踏ん張り1〜4、封印防御等を除けば能力アップなどしか残らないため)
SR・・・スキルはアビリティのみ有効。例外としてエミルが支給品のコアを入手した場合、アトリビュートの特技変化系を使える。
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:22:08 ID:B+DBJZAq0
----TOAの設定について----
 会場の音素量が少ないため、ルークの音素乖離は参戦時期に関わらず行われない。
 ただしルークが無茶をして第七音素を大量に使ったときはその範疇に属さないものとする。
 コンタミネーション現象は禁止とする。これはビッグバンの議論を防ぐためである。
 超振動は秘奥義扱いとするが、会場の音素が少ないため威力は半減される。
 それでも一撃必殺級の上、他の物を巻き込んでしまうのでよく考えてリレーしましょう。
 ティアの譜歌ナイトメアは、声に魔力が宿っている訳ではないため拡声器を使っても効果範囲は変わらない。
 また敵がある程度弱ってないと無効とする。
 カースロットは原則有りとする。ただし同じエリアに居ないと使えない、一人しか操れないといった制限を課す。
 勿論操られた者が憎しみを抱いている対象がいなければ効果は現れない。
 また導師の力のためレプリカのイオン、シンクには相応の疲労が襲うものとする。
 第七音素注入で怪物化はロワのバランスを崩してしまう為禁止とする。譜術式レプリカ製造も同様である。
 アンチフォンスロットは有り。ただし効果は一日。
 

----その他----
 *作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、 初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
  断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。
 *クラースは精霊(の力)を呼び出せるが、精霊自体は召喚できない仕様とする。
  理由はSのオリジンとロイド等との設定の兼ね合いが複雑なため。
 *Pのディストーションやカメレオン、Dエクステンションはあまりにも強力なため使用不可能な設定とする。
 *スタンの空中魔法変化技は下級は特技、中級と上級は奥義の扱いとする。
 *キールにはフリンジ済みのインフェリア晶霊が入ったCケイジを最初から与える。勿論これは支給品枠の一つとして考える。
 *Rの聖獣の力は参戦時期に関わらず有効とする。
 *アニー、ジルバの陣術は厳密に言うと魔術ではない為詠唱を必要としない。地面に方陣を描くことで発動させる事。その方法は問わない。
 *ジルバの月のフォルスは、対象が限りなく弱っていないと使用できない仕様とする。
  また乗り移っている間は一切のダメージを受けないため確かに無敵だが、
  逆に言うと本体は実に隙だらけ(同時に二人操るのは無理があり、こっちは操られている方が入っている)なため制限対象には入らない。
 *エミルはコア化をもって死亡扱いとする。このコアには莫大な量のマナが含まれている。破壊も可能。
 *リバイブは危険になったら自動でHP回復大の扱いとする。
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:23:12 ID:B+DBJZAq0
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)

〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:24:53 ID:B+DBJZAq0
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。(CTRL+F、Macならコマンド+F)
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。
※同パートの24時間以内の投下は禁止されています。24時間空けた後に投下するよう、お願いします。
※投下宣言は「○○分後に投下します」など時間を指定するのではなく、宣言後すぐに投下するよう心がけて下さい。

※基本的なロワスレ用語集
 マーダー:ゲームに乗って『積極的』に殺人を犯す人物。
 ステルスマーダー:ゲームに乗ってない振りをして仲間になり、隙を突く謀略系マーダー。
 扇動マーダー:自らは手を下さず他者の間に不協和音を振りまく。ステルスマーダーの派生系。
 ジョーカー:ゲームの円滑的進行のために主催者側が用意、もしくは参加者の中からスカウトしたマーダー。
 リピーター:前回のロワに参加していたという設定の人。
 配給品:ゲーム開始時に主催者側から参加者に配られる基本的な配給品。地図や食料など。
 支給品:強力な武器から使えない物までその差は大きい。   
      またデフォルトで武器を持っているキャラはまず没収される。
 放送:主催者側から毎日定時に行われるアナウンス。  
     その間に死んだ参加者や禁止エリアの発表など、ゲーム中に参加者が得られる唯一の情報源。
 禁止エリア:立ち入ると首輪が爆発する主催者側が定めた区域。     
         生存者の減少、時間の経過と共に拡大していくケースが多い。
 主催者:文字通りゲームの主催者。二次ロワの場合、強力な力を持つ場合が多い。
 首輪:首輪ではない場合もある。これがあるから皆逆らえない
 恋愛:死亡フラグ。
 見せしめ:お約束。最初のルール説明の時に主催者に反抗して殺される人。
 拡声器:お約束。主に脱出の為に仲間を募るのに使われるが、大抵はマーダーを呼び寄せて失敗する。
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:27:32 ID:B+DBJZAq0
【参加者一覧】 
TOP(ファンタジア)  :4/4名→○クレス・アルベイン/○クラース・F・レスター/○藤林すず/○ダオス
TOD(デスティニー)  :7/7名→○スタン・エルロン/○ルーティ・カトレット/○フィリア・フィリス/○ウッドロウ・ケルヴィン/○チェルシー・トーン/○イレーヌ・レンブラント/○ミクトラン
TOE(エターニア)   :5/6名→●リッド・ハーシェル/○キール・ツァイベル/○チャット/○フォッグ/○レイス(レイシス・フォーマルハウト)/○シゼル                  
TOD2(デスティニー2) :8/8名→○カイル・デュナミス/○リアラ/○ロニ・デュナミス/○ジューダス/○ハロルド・ベルセリオス/○ナナリー・フレッチ/○バルバトス・ゲーティア/○エルレイン   
TOS(シンフォニア)  :7/7名→○ロイド・アーヴィング/○クラトス・アウリオン/○リフィル・セイジ/●リーガル・ブライアン/●プレセア・コンバティール/●マグニス/○ミトス・ユグドラシル
TOR(リバース)   :7/8名→○ヴェイグ・リュングベル/●クレア・ベネット/○マオ/●ユージーン・ガラルド/○アニー・バース/○サレ/○ジルバ・マディガン/○アガーテ・リンドブロム
TOL(レジェンディア) :6/6名→○セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/○クロエ・ヴァレンス/○ノーマ・ビアッティ/○ワルター・デルクェス/●ステラ・テルメス
TOA(アビス) :8/8名→○ルーク・フォン・ファブレ/○ティア・グランツ/○ジェイド・カーティス/○アッシュ/●イオン/○シンク/○ディスト/○アリエッタ
TOT(テンペスト) :2/2名→○カイウス・クオールズ/○ルビア・ナトウィック
TOI(イノセンス)   :4/5名→○ルカ・ミルダ/●イリア・アニーミ/○スパーダ・ベルフォルマ/●リカルド・ソルダート/○ハスタ・エクステルミ
TOSR(ラタトスクの騎士):5/5名→○エミル・キャスタニエ/○マルタ・ルアルディ/○リヒター・アーベント/○アリス/○デクス

●=死亡 ○=生存 合計56/66

禁止エリア

15:00:B1
18:00:F5
21:00:G7
24:00:C3

現在までのもの
無し

【地図】
http://www.symphonic-net.com/tobr2/img/map.JPG
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 14:32:21 ID:B+DBJZAq0
テンプレは以上です。24時間ルールについて追加しました。

と、微妙に修正。
Sの残り人数は4/7人。
Rの残り人数は6/8人。
Lの残り人数は5/6人。
Iの残り人数は3/5人、です。
変更するのを忘れてました。申し訳ない。
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 15:14:40 ID:Tf6hXEZe0
あれから時間も経ったし、ハスタの心配はしなくていいだろう。それに、……>>1を乙してやろう
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 16:58:57 ID:92VrvvIO0
テンプレありがとうございます。新スレなんで最新版地図
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org0572.jpg.html

南西のマーダー率異常ワロタ
逆に対主催が固まってきてるところはマーダーが全然いませんね。
北はどう見ても安全地帯です本当にありがとうございました
個人的にはシャーリィをある意味女王としたマーダー集団に期待
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 18:00:59 ID:9rq80JI7O
>>1も地図の人も乙です。
南真っ赤すぎw
17名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 18:29:29 ID:kMePB44pO
>>1&地図とテンプレまとめて乙るんるん!!
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 18:34:24 ID:EDoQQYWj0
テンプレも地図も乙!
地図見てたらワクワクしてきた。
南キャラマジでやばいな。対主催は魔術チームがかなり強力なのがせめてもの救いか
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:51:36 ID:ddVYCvYlO
>>1
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 19:57:01 ID:fxfRL4SR0
>>1と地図さん乙。
地図の北がすさまじいですねぇ。どうなるかwktk
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:34:57 ID:mG3wwEC6O
スレタテ乙です!
早速投下します。

コンピュータ規制かかってたんで、急遽携帯から投下。
若干時間かかるかも。
支援頼みます。
22狂った者と狂った者達 1:2008/09/18(木) 20:39:13 ID:mG3wwEC6O

眼前の女性の表情が、不安げに曇り、歪む。
守らなければならない女性の様子がおかしいことに気付いたスタンは、彼女の視線を追った。
視界に入ったのは、気味の悪い“もの”。
“それ”は血に濡れているが、表情は夢心地の一人の少年だった。
彼は虚ろな目を虚空に向けて、時折半開きの口元から笑い声を漏らす。
さらにちらりとこちらを見て、また笑う。
それを見て、イレーヌが息を飲んだ。
スタンは無表情になると、音もなく立ち上がる。
いつの間にか二人の周りにいたはずの蝶々が、すっかり姿を消していた。

「イレーヌさん、ちょっとだけ向こうを見ていて下さい」

イレーヌはちら、と少年を見た後、素直にスタンに従った。

23狂った者と狂った者達 2:2008/09/18(木) 20:44:23 ID:mG3wwEC6O


イレーヌを不快にさせるものは、排除しなければ……
どうみても“あれ”はおかしい。壊れている。何をしでかすかわかったものではない。
そんな風な事を考えていたスタンは、そこで少し動きを止めた。

壊れているのは、一体誰だ?

自嘲めいた笑みを小さく浮かべ、スタンは再び足を進めた。
とにかく、イレーヌの苦しそうな顔を見るのは嫌だった。
それに奴は先程からこちらも見ている。
危険は早めに取り除くべきだ。
スタンは少年の傍らまで行くと、静かに魔剣を構えた。
彼を見上げた少年の顔は未だに夢心地で、襲ってくる様子もない。

「君には悪いが…消えてもらうよ」
「…あは」

小さく呟いた声が聞こえたのか、否か。
少年は真紅に染まった笑みを絶やすことはなかった。

24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:44:35 ID:xJoYT8InO
支援
25狂った者と狂った者達 3:2008/09/18(木) 20:46:02 ID:mG3wwEC6O


何、この人?
お伽話の王子様みたいに優雅に食事してたはずだよね?
あ、そっか。夢なんだもの。展開が急変することはよくあるよね。
うん、あるある。
でも、ちょっと待って。なんで剣なんか構えてるのかな?
………ん?
もしかして僕、悪役?
お伽話で意味不明な力でお姫様さらっておいて、呆気なくやられちゃう悪者役なの?
僕お姫様さらってないですけど?
あれ?問答無用みたいだな。剣振りかぶろうとしてる。


……やられちゃうなんて面白くないなぁ。
僕の夢なんだから、僕が主役じゃないとさ。
よし、じゃあ主役交代。
僕が王子様だよ。
絶体絶命のピンチから、起死回生の大逆転を起こしちゃう、ご都合主義の王子様。
うん、決まり。じゃあ早く剣を振り下ろしてきてよ。
かっこよく、ギリギリの所で必殺の一撃を放ってみせるから。
大丈夫、失敗しても夢なんだから痛くない。
というか、僕の夢なんだから失敗しない。以上。

26狂った者と狂った者達 4:2008/09/18(木) 20:47:01 ID:mG3wwEC6O


最上段に剣を振りかぶっても、目の前の少年は身動き一つしなかった。
相当壊れているのだろう。やはり生かしておくのは危ない。
スタンは息を止めた。そして……



一気に剣を振り下ろす――



はずだった。

極限まで集中していた彼の目に、いきなり飛び込んできたデッキブラシの柄。
予想外の出来事に怯んで、腕を止めてしまった自分が悪いのか。
突如、そのデッキブラシが見えなくなった。
否、見ることができなくなった。

(あ)

右の瞼が閉じない。
どうして?……何かにつっかえてるから
何かって?……デッキブラシの柄に

「あ…あぁあ゛……」

右目が―――

「うがああ゛ああぁあ゛あぁあああ!!!」

押さえた手の指の間からぼたぼた落ちる、紅くて熱いもの。
スタンの右目は、デッキブラシの柄によって見事に潰された。

27狂った者と狂った者達 5:2008/09/18(木) 20:49:05 ID:mG3wwEC6O


「あ…」

スタンが悲鳴を上げたのとほぼ同時に、夢心地だったルカに走る閃光。

「あ……あぁ…」

スタンの目から流れ出す、大量の鮮血。

フラッシュバック。

鮮血。吹き飛ぶ少女の腕。鮮血。歌うようなピエロの声。鮮血。仲間の死。鮮血。
まっかにそまったぼくのしかい。

「ひぁあ゛あああああぁあぁあ!!!」

夢と現実が交錯する。
夢心地で、ふわふわしていた体に攻め入る、重く冷たいリアリティ。

自分で、自分の額に突き付けられた銃の引き金を引いたルカ。
彼の幼さの残る甲高い悲鳴と、地獄から響く阿鼻叫喚のようなスタンの悲鳴がハーモニーを奏でる。
さすがに異変を感じたイレーヌは、ついに振り返ってしまった。

「……――っ」

そして始まる悲鳴の三重奏。

28狂った者と狂った者達 6:2008/09/18(木) 20:51:23 ID:mG3wwEC6O


熱い。熱い、熱い、熱い!
右目がスースーする。痛い。熱い。
もがくスタンの体の奥から燃え上がってくる、怒りの炎。

「お、まえ……よぐもぉ!」
「スタンくん!」

イレーヌが、スタンに縋るように駆け寄った。
顔の右半分を赤く染めた彼を見て、イレーヌは吐き気を覚えた。

「よくも…よくもスタンくんを!」

鬼の形相のイレーヌとスタンにも気付かず、ルカは脳内を走る記憶から逃れようと、頭を無我夢中で振っていた。

「いやだいやだ嫌だっ!!」

知らぬ間に、ルカは駆け出していた。背後に見えた小さな森へ、死に物狂いで。

「あの子だけは生かしておけない!追いかけましょう!」

スタンの腕をきつく握り、イレーヌは叫ぶ。

「許さない……許さない……」

スタンの怒りの炎は、収まることを知らないように勢いを増す。
その矛先は、自分の目を潰した少年。
流れる血も気に止めず、スタンは走り出した。

29狂った者と狂った者達 7:2008/09/18(木) 20:53:08 ID:mG3wwEC6O


「今の悲鳴……凄かった。」

ルカの捜索を続けていたリアラが、誰にとでもなく呟く。

「何だったんだろうね…。」

ナナリーも不安げに口を開いた。その時だ。

「――あれ!あそこに走っていくの、ルカじゃないか!?」

ナナリーが声を張り上げ、リアラとシンクはその方へ顔を向ける。
確かに森へ一直線に向かう姿は、小さくて見づらいが、ルカのものであった。

「……あの二人は?」

シンクが、ルカを追う二人組の姿を目に留める。

「あれは!」
「あれは!」

同時に声を上げるナナリーとリアラ。シンクは眉をひそめる。

「追いかけましょう!様子がおかしいわ!」

リアラが先頭を切って走り出し、その後をナナリーとシンクが追っていく。

今のルカが、どういう状態なのかも知らずに……

30狂った者と狂った者達 8:2008/09/18(木) 20:54:20 ID:mG3wwEC6O

【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP95%、TP95% シンクを信頼? イリアとリカルドの死に大きなショック   両手の皮がずる剥け(出血) フラッシュバックにより精神不安定
所持品:アビス女性陣の水着セット、デッキブラシ
基本行動方針:ああああああ
第一行動方針:助けて助けて助けて
現在位置:D6南→E5森へ

【イレーヌ・レンブラント 生存確認】
状態:精神不安定 頬に傷 魔剣の声が聞こえる エクスフィア装備 ルカに対する激しい怒り
所持品:魔槍ブラッドペイン スターダストリング 要の紋付きエクスフィア
    マグニスのサック(内容不明支給品一個)
基本行動方針:スタンと共に答えを探す
第一行動方針:ルカを追う
第二行動方針:魔剣の指示を遂行するか考える
現在位置:D6南→E5森へ

【スタン・エルロン 生存確認】
状態:右目損失 現実への絶望 精神不安定 理想崩壊 エクスフィア装備 ルークに妙な感情
   精神へ僅かにイグニスの影響 ルカに対する激しい怒り
所持品:魔剣ネビリム 要の紋付きエクスフィア ネクロノミコン センチュリオン・イグニス
    アンチフォンスロット ヒールバングル サファイア
基本行動方針:イレーヌを最後まで守る。イレーヌを許容しない世界を許さない
第一行動方針:ルカを殺す
第二行動方針:障害は斬る
現在位置:D6南→E5森へ

31狂った者と狂った者達 9:2008/09/18(木) 20:55:40 ID:mG3wwEC6O

【リアラ 生存確認】
状態:HP100%、TP85%、
所持品:南国の蝶(ナタリア水着)、レンタルビューティー(ティア水着)
基本行動方針:みんなで力を合わせて帰りたい。
第一行動方針:ルカを追う。
第二行動方針:カイル他仲間を探す。
現在位置:D7 湖付近→E5森へ

【シンク 生存確認】
状態:HP、TP100%
支給品:すず 未完のローレライの鍵、??? 聖剣ロストセレスティ
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ
第一行動方針:面倒だが、ルカを追う。
第二行動方針:とりあえず周りを信頼させて、利用する。
第三行動方針:F6レムの塔が気になる。
現在位置:D7 湖付近→E5森へ

【ナナリー・フレッチ 生存確認】
状態:HP60%、TP100%、両腕に斬り傷&顔と体に打撲傷(処置済み)
所持品:タガーナイフ、
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
第一行動方針:ルカを追う。
第一行動方針:リアラ達と行動し、仲間を探す。
現在位置:D7 湖付近→E5森へ
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:55:54 ID:92VrvvIO0
支援
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:57:48 ID:mG3wwEC6O
投下終了。
携帯めんどくせえええぇ!!
なんでパソコン規制かかってんだよorz

さて、スタンとルカはどうなるのかね
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 20:59:47 ID:fxfRL4SR0
投下乙。
三つ巴が今回のロワは多い気がするぜ。わくわくせざるを得ない。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:00:47 ID:C8OnpYSG0
投下乙
ちょwルカww純粋な対主催のリアラとナナリーかわいそうです
そして被ったw
36名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:03:25 ID:92VrvvIO0
乙です。夢から醒めないほうが良かったなルカ…
アレなスタンにリアラとナナリーがどんな反応するか楽しみ

>>35
避難所で楽しみにしてる
37名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:06:21 ID:fxfRL4SR0
投下します。
38《貧》弱者な彼ら1:2008/09/18(木) 21:07:29 ID:fxfRL4SR0
「……待て待て、すぐに出るなんて僕は言ってないぞ。」

決意を固めるように頷いて腰を浮かせかけた、まるで少年のような体躯の少女を――マルタを、
別な意味で痩せぎすのキールが呼び止める。

「どうして? すぐに行くんじゃないの?」

定めた心にいきなり待てを掛けられたのが不満だったらしい。
首を傾げつつもぶうと頬を膨らすマルタ。
そんな少女へキールは首をもたげ、言葉を紡ぐ。

「リスクは出来る限り減らすべきなんだよ。暑さだけじゃない、砂漠は視界も効きすぎるしな。
だからせめて日が落ちるまで待つぞ。幸いここは禁止エリアに入らないし、それに」
「えっ、まだ何かあるの?」

言いながら口調を早めるキールに何か妙な苦手意識でも覚えたらしく、半ば無理矢理に口を挟む。
青年はそんなマルタへ、呆れたような視線と口調で、
「言っただろう。その体で出ていくのかって。
傷、診せてみろ。大丈夫だ、この戻り具合なら日が落ちる頃には万全になって「だったら」
続いたキールの言葉に得心した様子のマルタだが、何故か再び彼の言葉を遮ると、
青年が手の中で弄んでいたままだったそれに目を落とし、求めた。

「……『ソレ』返して。私も治癒術、使えるから」

39《貧》弱者な彼ら2:2008/09/18(木) 21:08:54 ID:fxfRL4SR0
   ◇


結局。三十枚あったそれらは一枚だけを残してマルタの手へ戻ることとなった。
残った一枚は無論キールの手の裡である。
術の媒介はなったもののそれが何かは判らないと告げたマルタへ、
レンズと短く答えたキールは、興味深げにそれを透かし見つつ続ける。

「もっとも、僕の知るレンズにはこんな効用はなかったけどな。
――ところでマルタ」
見知った蒐集品そっくりなそれを前に、一瞬の沈黙を挟むと、
術の使用から来る倦怠感を少しでも早く癒そうと自分同様座り込む少女へ呼びかけた。

「何?」
「術は……あ、いや戦闘で何が出来るか聞かせてくれ」
「戦いで? いろいろ出来るよ、回復だけじゃなくて援護も攻撃も……
まあ、レンズだとラタトスク・コアみたいには上手くいかないけど。
あとは、格闘術もそれなり、かな?」
「ラタトスクとは?」
「エミルのことだよ。エミルは精霊なの。……キールは精霊、知らない?」
「聞いたことがないな。聞かせてくれるか?」
「OK。私もたくさん知ってるわけじゃないから許してね。精霊ってのは――」
青年の求めに、ことわりを挟むと少女は語り始めた。
自身がもっともよく知る精霊、すなわち想い人のエミルであるラタトスクのことを。
初めこそマルタへ相槌を打つことへ終始していた青年も、彼女に連られたのだろう。
片道切符気味だった彼女の言葉がやがて会話と成り代わり、
二人の名簿のそこやらここに、より密度を上げた新しい筆跡がどんどんと書き加えられ始める。

40《貧》弱者な彼ら3:2008/09/18(木) 21:09:23 ID:fxfRL4SR0
   ◇


そして、二つ目の禁止エリアが海岸を覆う刻限よりさらに一刻(二時間)。

「いいか、何度も言うけれど肝心なのは勝つことじゃない」

「うん。死なないこと、だよね」

「そうだ。……おしゃべりはここまで、行こう」

急に秘やかになった青年の声へ、素直に黙り込んで首肯すると少女は歩き始めた。
ともすれば飲まれそうになる闇の中、震えてるのは寒さのせいだと心の裡で強がりながら。


【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP100%、TP100% マルタにメルディを重ねている。
マルタと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。レンズに興味。
精霊についての知識(マルタフィルター透過済み)を得ました。
所持品:クレーメルケイジ、レンズ×1、グランドセプター、マルタと交換した情報入り名簿
基本行動方針:殺される気はなく、脱出の道を探す。サイグローグの言葉を信じかけている。
第一行動方針:リスクは避けつつ、ユージーン殺害現場へ向かう。
襲われた場合は交戦せず全力で逃げる(可能ならばエアリアルボードを使用する)。
第二行動方針:首輪解除の方法を探し、仲間を集いたい。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。東南方向へ移動開始。

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、怪我は治癒済。片袖なし。
キールと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。闇への恐怖と強がり。
所持品:エミルのマフラー 、血塗れた鬼包丁、レンズ×29、キールと交換した情報入り名簿
基本行動方針:エミルと再会したい。襲われた場合はとにかく生き残ることへ専念。
第一行動方針:エミルを探す。キールに協力する。
第二行動方針:エミルと再会してからどうするか考えてみる。
第一行動方針:エミルに会えたら、マフラーの件を謝りたい。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。東南方向へ移動中。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:11:29 ID:fxfRL4SR0
投下了。
42名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:13:56 ID:92VrvvIO0
乙です。キルマルはもう18:00以降ってことでいいのかな?
あとマルタフィルター吹いた
43《貧》弱者な彼ら状態欄修正:2008/09/18(木) 21:20:05 ID:fxfRL4SR0
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP100%、TP100% マルタにメルディを重ねている。
マルタと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。レンズに興味。
精霊についての知識(マルタフィルター透過済み)を得ました。
所持品:クレーメルケイジ、レンズ×1、グランドセプター、マルタと交換した情報入り名簿
基本行動方針:殺される気はなく、脱出の道を探す。サイグローグの言葉を信じかけている。
第一行動方針:リスクは避けつつ、ユージーン殺害現場へ向かう。
襲われた場合は交戦せず全力で逃げる(可能ならばエアリアルボードを使用する)。
第二行動方針:首輪解除の方法を探し、仲間を集いたい。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。西南方向へ移動開始。

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、怪我は治癒済。片袖なし。
キールと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。闇への恐怖と強がり。
所持品:エミルのマフラー 、血塗れた鬼包丁、レンズ×29、キールと交換した情報入り名簿
基本行動方針:エミルと再会したい。襲われた場合はとにかく生き残ることへ専念。
第一行動方針:エミルを探す。キールに協力する。
第二行動方針:エミルと再会してからどうするか考えてみる。
第一行動方針:エミルに会えたら、マフラーの件を謝りたい。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。西南方向へ移動中。


方角まちがえるとかってorz
まとめ氏さん、こちらでお願いします。

>>42
18時だと暗いと確証がもてないと思いさらに一刻なんで、20時〜です。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:33:45 ID:EDoQQYWj0
投下乙です
ちょっと気になったんだけど、Eってイフリートとかシルフとか、精霊出てこなかったっけ?
それともキールが得たのはエミルっていう精霊の知識って事?
自分の勘違いだったらすみませんorz
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:34:08 ID:hb+TCWOL0
Eは晶霊
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 21:36:07 ID:EDoQQYWj0
あっそうか!!
大変失礼しました。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/18(木) 23:57:18 ID:azxoHCm+O
不幸の連鎖の作者です。
指摘があったのでワルターの服装を水の民のものへと後日修正します。
パソコンが今使えないのですぐ修正できないので、取り敢えずここに
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 01:15:02 ID:utvcW7YHO
>>46
まぁ外伝ネタOKなら
キール リフィル クラースは
なり3で精霊と晶霊について情報交換してるんだがな
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 03:06:18 ID:jTu+u5/kO
そういやアトワイトって軍医だったな
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 03:29:43 ID:OnTC1Ph10
wikiにもクレメンテの主治医って書いてあるね
ジェイドも医学学んでるし、テイルズキャラは医師系が結構多いね
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 06:06:06 ID:kf4NJiJr0
前スレにも書いたんだがオリDだとクレメンテは元生物学者
案外貴重な人材のようなそうでないような
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 09:18:26 ID:EB4rnHPQO
>>43
投下乙なんだけど
キルマル20時までそこで引き込もり確定って長すぎじゃね?w
ちょっと他の書き手さんにも制限かかりすぎる気がした
53名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 12:56:36 ID:Ss1vOsyJ0
>>43
自分も長すぎだと思うな…他のチームの動き制限しかねないし。

関係ないエリアですが投下します
54死海に沈む 1:2008/09/19(金) 12:58:18 ID:Ss1vOsyJ0
「――ステラさんをもう一度助ける。そう決めたからには、他の参加者のいる場所へ行かなければ」
知りえる限りの情報をジルバが喋り終え、最後に紡いだのはその言葉だった。
満身創痍のセネルとワルターにシャーリィは迷いながらもキュアを与えた。これから彼らがどうなってしまうのか、本当にここで回復していいのか。怖かった。怖かったのに兄に優しい瞳で乞われれば、彼女にはどうすることもできなかった。
「南は海。選択肢は3通りだ、セネル。西か北か東……幸いにもメルネスの支給品は探知機のようだ。北に参加者を確認できる」
ワルターはセネルをじいと見ながら反応を待つ。
「……北の動き、慌しいな。光点が細かくだが動いてる」
「……きっと戦闘中……なのでしょう」
セネルの疑問の答えを出したのはジルバだった。髪に隠れた獣の耳をぴくぴくと動かし欹てている。
「私の――ガジュマの聴力はあなた方より僅かですが優れています。北の方向から、微かに聞こえる程度ですが、何か爆発するような、術が発動するような音が。
 ――ステラさんを襲った、襲撃者……かもしれません。あの時も北の森の方から不意打ちを受けて――」
再び瞳を潤ませたジルバにシャーリィは肩を抱き心を寄せる。セネルは唇を噛み締めた。
「――俺たちの武器は貧弱だ。あの自動人形も悔しいがもう俺の力では動かせそうにない。このダガーと……その鎌くらいか」
ステラの支給品だったという鎌をジルバは皆に差し出した。僅かだが血が付着している。これで応戦したのだろうか、それとも抵抗の果てに鎌を奪われ首を刈られたのか。
「……ステラがここまでやられるなんて、相手は並みの使い手じゃない。ジルバを襲ったって事はこっちの存在にも気付く可能性があるな」
「なら西の街に行くか」
セネルは地図を見る。西に指を滑らせれば辿りつくのは海沿いの街。――チャットに「逃げろ」と叫んだ場所。彼女は無事ならば、もうとっくに街に着いているだろう。
「――西よりも」
西へ行きたくない。
ようやく見せてくれた小さな子どもの笑顔を思い出しながら、セネルは反対方向を指差した。
「東。川と海がある。――参加している水の民はシャーリィと、ワルター、お前だけだ。それに俺もマリントルーパー。海は俺たちに圧倒的有利をもたらす」
「なるほど。海の中で戦えば俺たちが一方的に相手の命を奪うことができる。考えたなセネル」
「で、でもっ!」
殺しの計画を着々と立てていく兄とワルターに、シャーリィが震えた声をあげる。
「ジルバさんもいるんだよ?! 水の民でもないし、背中に酷い火傷してるのに」
「私は大丈夫です」
遮ったのはもちろん獣人の女。眉を下げながらも微笑んでいる。
「先程もお話しましたが……こんな身体ですので、あなた方よりは身体は頑丈に出来ているのですよ。私を助けてくれたステラさんの苦しみに比べれば、海の中だろうがどこだろうが、耐えて見せます。それで、償いとなるならば……」
ちらり、とセネルの方を伺えば、こくりと首を縦に振っている。
「メルネスの盾となる気概があるならばその程度の覚悟はしてもらわねばな」
ワルターも言う。シャーリィは再び、口を閉ざすことしかできなかった。
「ならば東に――」
55死海に沈む 2:2008/09/19(金) 13:00:00 ID:Ss1vOsyJ0

しっかりと砂を踏みしめていく3人の背中をシャーリィは後ろから見ていた。そうるしかできなかった。
『私の支給品は……このよくわからない二枚貝だけで』
そう言ってジルバが差し出したのは何の皮肉だろう。淡く輝く薄桃色の二枚貝、ジェミニシェル。遺跡船で出会ったモフモフ族の家族がセネルとシャーリィにくれたもの。
『――シャーリィは俺たちがなんとしてでも守る。万が一、はぐれたり危険な目にあったらこれで呼んでくれ。必ず助けに行く。もう間に合わないなんてごめんだからな』
掌で輝く貝殻の光。眩しすぎて目が眩みそうになった。探知機をセネルに渡してしまったシャーリィの掌に残されたのはたった一枚の貝殻のみ。
遺跡船にいたときはこれのお陰で何度も兄と心を通わし、兄に助けられることがあったのに。
縁結びの象徴と聞いたとき、兄と2人で持てることが本当に嬉しかった。
(なのに今はどうしてだろう。全然嬉しくないよ、お姉ちゃん)
海辺に埋葬されたステラの墓を見ながら、シャーリィは一粒涙を零す。海の飛沫にそれはかききえて、3人の決意が1人の少女の口を固く閉ざしてしまった。

岩場の見える海岸からセネルたちが海に入ったのはそれからすぐ後のことだった。
ワルターは言わなかった。夜のうちにセネルの仲間達をその海の先へ逃がしたことを。
(万が一セネルが仲間殺しを迷えば? 決まっている。俺がセネルを殺す。奴らも殺す。――決意を確かめてやるぞ、セネル・クーリッジ)
探知機を片手に泳ぐセネル。どうやら探知機は精密機械のようで、しかし防水加工は完璧だったようだ。
蒼く輝く髪を水に靡かせるメルネスの姿をワルターは視界に捉えた。隣に泳ぐのは獣人の女。水の民でない彼女の傷に海水は確かに毒だろう。だが何一つ言わず耐えている。泳ぎもなかなかだ。決意の定まらぬだろうセネルよりは使える。ワルターはそう感じた。
ふとセネルを見ると、ワルターを呼ぶようにくいと掌を引いていた。セネルに誘われ泳ぐと、彼の手にした探知機に光点が増えていた。中心の4つは自分たちのもの。それに加えて上からひとつ、点が流れてくる。
(川を下っている参加者だろう――このペースだとすぐに激突する。好機だセネル、お前が殺れ)
海を介して脳に伝わったワルターの言葉にセネルは目を見開く。ついでに口から空気の泡が漏れごぼりと音を立てた。動揺が見て取れる。
(決めたのだろう? メルネスを共に守ると。ステラ・テルメスの命を蘇らせると。全員を殺すと。ならばこれほどの好機、無駄にするわけにはいかないのは貴様も分かっているはずだ)
鋭い眼光を以ってセネルを睨みつける。セネルはシャーリィの方を見た。彼女はこちらを見ていない。息が長く続かないジルバのことを心配している。視線を遮るようにワルターが僅かに浮上する。
セネルは僅かに眉を顰め――そして最後には首を縦に振った。
(メルネス)
ワルターはすぐにシャーリィの元へ向かい泳ぐ。
(ワルターさん?)
(その女もそろそろ限界だろう。海面へ出て呼吸をさせてやってくれ。海中は俺が見張る――外に危険を感じたらすぐに中へ戻れ)
シャーリィの隣の女は隠そうとしながらもそれでも苦しんでいるのは明白だった。シャーリィは彼女の様子を確認して、頷き、ともに浮上していく。
(――さあ安心しろ。メルネスは見ていない)
ワルターのお膳立てに僅かに感謝しつつ、セネルは手にした鎌を握り締めた。
56死海に沈む 3:2008/09/19(金) 13:01:53 ID:Ss1vOsyJ0

傷を負った身体で、少女が川の流れに逆らうことは酷だった。
流れに身を任せながらもあのクレスを思い出させる少年から離れたくて必死に泳ぐ。どれほど泳いだかなんてもう分からない。
(クレスさん……っ)
すずは水の中で首を振る。重なっていく、あの少年とクレスの真っ直ぐな瞳。
旅の中で交わしたクレスたちとの絆。クレスとクラースは、私が皆を殺して2人を優勝させたとして、喜ぶ?
(迷ってはいけない……あのサイグローグに抵抗したとして、私たちの力では到底勝てると思えない)
忍らしく冷静に考えれば効率的でないことは分かりきっているのだ。
(でも……でも……)
思い出してしまった。あの鉢巻をした人形よりも強く。あの少年の瞳から、クレスの瞳を。
(私は忍……失格です……)
冷静でいられない忍などなんの役にたとうか。それでもはやる心臓の鼓動は収まってくれない。
決意をしたというのに未だ誰1人として殺せていない。誰かを殺して、武器を奪って、決意を固めなければ。壊れてしまう。なんて脆い自分。
(……そう、どこか、どこか陸に上がらなければ)
そう思って顔を上げた瞬間、すずは水中に引きずり込まれた。

銀髪のマリントルーパーの正体は隠密経験のある軍人だった。
十分に気配を消し、流れに紛れ見つけた小さな身体。後ろから羽交い絞めにしてしまえば驚くほど簡単に少女の逃げ道を封じることができた。
腕の中でもがく身体は驚くほど小さい。あの少女――チャットもこのくらいの大きさだったろうか。遠くでワルターが厳しい目をして成り行きを見ているのがセネルには分かった。
左手で少女の口をこじ開ける。きつく指を噛まれたが、構うことなくセネルは続ける。ごぽりと大きな空気の泡が水面へ向かって浮上していく。少女の表情が伺えないのがせめてもの救いだった。
そうして右手の鎌をゆっくりと首筋に添えてやる。銀に輝く首輪が邪魔かと思えたが、それはセネルを助けるように不思議と鎌の刃に当たることはなかった。
肉に食い込む感触は水の浮力で相殺されあまり手に伝わってこない。思い切り引く。
血が溢れ出す。
水に混ざっていく血は夥しい量だったが、セネルの身体を汚しはしなかった。触れる瞬間洗い流されていくのだ。
だらりと力をなくす身体を確認して、セネルは少女の身体を解放した。沈んでいく小さな身体。
セネルは鎌を取り落としそうになって、慌ててきつく握り締めた。赤が海を汚していく。けれど大いなる海はそんな赤などすぐにかき消してしまう。
滅多に笑みを浮かべることのないワルターが、こちらへ向かって満足気に笑っているのが見えた。
鎌は再びその刃に染みた血を海によって浄化される。
少女の血以前に鎌についていた血がステラのものだったなんて、セネルは知らなかったのだ。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
数時間前、ワルターが敵を逃した岩場に上がり、シャーリィが兄を心配する。
「長い間、どこか行ってたみたいだけど……なにかあったの?」
不安に顔を曇らせる妹に、セネルは微笑んでみせる。
「ん……なんでもない。何か流れてきたと思って、見に行ってただけだ」
そうしてセネルが差し出したのは誰かのザック。中に入っていたのは一般的な支給品と不思議な人形だけだった。
「そう……なら、よかった。本当によかった……」
海の香りに紛れた血の匂いに、シャーリィは気付かなかった。気付きたくなかった。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 13:03:10 ID:Ss1vOsyJ0

【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP85% TP100%  身体中に裂傷、背中に軽度のやけど
所持品:睡眠薬 遅効性の毒薬(回りきるまで3時間?4時間程度) ステラのザック シャーリィのベスト
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。セネル達を利用。上手く立ち回る。
第一行動方針:シャーリィを利用し、外敵から守ってもらう。同時に参加者排除へと誘導する。
現在位置:G6岩場

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP100% TP80% 姉の死によるショック 精神的に疲労大 ベストなし 大きな迷いと混乱
所持品:ジェミニシェル
基本行動方針:お兄ちゃんたちを止めたいけど、どうすればいいの?
第一行動方針:セネルについていく。止めたいけど……?
現在位置:G6岩場

【ワルター・デルクェス 生存確認】
状態:HP60%、TP40%、強い決意 服に焦げ
所持品:黒髭ダガー、支給品1個(本人確認済み)
基本行動方針:メルネスの護衛をする。メルネスを優勝させる。
第一行動方針:シャーリィを守る。
第二行動方針:セネルが目標を違えたら殺す。シャーリィを守るなら殺さないで利用(協力)する。
現在位置:G6岩場

【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP60% 全身に擦り傷、切り傷 ステラの死へのショック 僅かに迷いだが強い決意(混同) もう戻れない?
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、首輪探知機、本人確認済み支給品2個
基本行動方針:シャーリィを優勝させて皆生き返りを願う。
第一行動方針:シャーリィを守りながらシャーリィを優勝させるために動く。
現在位置:G6岩場

【藤林すず 死亡】

【残り55人】
58死海に沈む 4@修正:2008/09/19(金) 13:04:44 ID:Ss1vOsyJ0
【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP85% TP100%  身体中に裂傷、背中に軽度のやけど
所持品:睡眠薬 遅効性の毒薬(回りきるまで3時間?4時間程度) ステラのザック シャーリィのベスト
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。セネル達を利用。上手く立ち回る。
第一行動方針:シャーリィを利用し、外敵から守ってもらう。同時に参加者排除へと誘導する。
現在位置:G6岩場

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP100% TP80% 姉の死によるショック 精神的に疲労大 ベストなし 大きな迷いと混乱
所持品:ジェミニシェル
基本行動方針:お兄ちゃんたちを止めたいけど、どうすればいいの?
第一行動方針:セネルについていく。止めたいけど……?
現在位置:G6岩場

【ワルター・デルクェス 生存確認】
状態:HP60%、TP40%、強い決意 服に焦げ
所持品:黒髭ダガー、支給品1個(本人確認済み)
基本行動方針:メルネスの護衛をする。メルネスを優勝させる。
第一行動方針:シャーリィを守る。
第二行動方針:セネルが目標を違えたら殺す。シャーリィを守るなら殺さないで利用(協力)する。
現在位置:G6岩場

【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP60% 全身に擦り傷、切り傷 ステラの死へのショック 僅かに迷いだが強い決意(混同) もう戻れない?
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、首輪探知機、時を駆ける少年の人形、本人確認済み支給品2個、すずのザック
基本行動方針:シャーリィを優勝させて皆生き返りを願う。
第一行動方針:シャーリィを守りながらシャーリィを優勝させるために動く。
現在位置:G6岩場

【藤林すず 死亡】

【残り55人】
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 13:05:41 ID:Ss1vOsyJ0
以上です。タイトルと状態表の修正、すみませんでしたorz
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 13:08:00 ID:UeFV6/D4O
乙。嗚呼…すずちゃん…
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 13:37:20 ID:ioPfu+NpO
乙。すずちゃん合掌…
忍びとして躊躇した時点でアウトだったんだな。
セネルがすずを殺すというのに何か因縁めいたものを感じる
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 13:50:58 ID:V5GHufoM0
乙。セネルが手を下したあたりに因縁を感じるなぁ。


で、キールパートの作者です。
修正を今行ってますので、もうちょいお待ちくださいませです。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 14:02:30 ID:ooEYrd3BO
乙です

今更ながら、時かけ人形ってAでは頭部だけだった気がするんだが、
このロワではどうなってるんだっけ
頭部だけか、トクナガボディか、全身タイツに赤マント?
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 14:08:41 ID:UeFV6/D4O
トクナガじゃないか?時を駆ける少年の「人形」だし。頭だけとかグロいw



個人的には全身タイツに赤マントを推すがな!!
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 14:24:40 ID:SOTowCHYO
投下乙です
すずちゃーん!…迷ってしまったのが間違いだったのか…
水の民&マリントルーパーは恐いな…シャーリィ奴らを止めてー!
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 15:45:58 ID:cL6Vy/uS0
投下乙
すずちゃんとセネルは因縁を感じる・・・
あと普通に仕切ってるジルバ様に吹いたwなんという指揮官w

キールの人の時間変更はどうだろ……?
他の人の意見も聞いてみた方がいいと思うよ。
投下時に指摘がほとんどなかったからそのままでいいんじゃ…わからんw
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 15:50:38 ID:V5GHufoM0
キールの人です。
最初に指摘がなかったのに正直びっくりしたんで、
修正版は書き上げたもののどうしようか迷ってます。
とりあえず、ラスト違いな両パターンを避難所へ落とすので意見をください。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 16:12:55 ID:y9Cc8hT2O
すずちゃん乙
海グループ強力すぎだろwwwジルバ様の存在感がすごいwwww

北の安全地帯が目立つせいかマーダー少なめだと思ってたけど、そうでもなかったな
スタイレやルカもマーダー寄りみたいだし
ダオスやヴェイグの身の振りが気になるところだ
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 16:16:46 ID:0+VJl2RvO
そういえば聖霊マーテルいないってことは誰も樹を守ってないんだよね…
70名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 16:18:38 ID:e5Eu1GVK0
もう一人の大樹の守人が(ry
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:13:38 ID:xHgQLLlE0
ユグドラシルってエミルの隠し子じゃなかったっけ
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:28:38 ID:C7p6KDebO
乙です。
1stからの参加者が死んだのは初かな…新規の参加者ばっかり死んでたし。



マグニス?それご飯にかけたらおいしいの?
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:32:19 ID:MSWDtOVzO
マグニスさまだ、豚が
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 17:32:28 ID:UUfW1a21O
焼いて食べるとジューシーだよ
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:04:50 ID:Y2m9BPyzO
すず改心フラグとかあったのにこんなに簡単に殺していいの?もったいなさすぎる
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:12:26 ID:b/cFvjYbO
対主催は十分間に合ってるし
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:17:54 ID:iJSWfQStO
そんな事言ってたら誰も死なんぞ
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:19:43 ID:oKa78VQgO
海中って禁止エリアじゃないの?
1stでは禁止だったけど。
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:21:03 ID:MSWDtOVzO
バトロワだし、フラグは折られるもんだからね。

しかし空気悪いな。
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:22:35 ID:MSWDtOVzO
地図内の海域なら平気だったのでは?
81名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 18:24:51 ID:1nkSslFP0
>>78
そんなこと言ったらバルバトスやらすけべ組はどうなる
あいつら結構前に入ってたろ
82名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 19:35:55 ID:Cx37XAdI0
>>78
1stでは飛ぶの禁止(というか飛べなくしていた)だったけど、2ndでは普通に飛んでるしなぁ
「1stではこうだった」はあんまり考えない方がいいんじゃね?
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:17:55 ID:EAEOp8Ed0
キールパートの作者です。修正版投下します。
84《貧》弱者な彼ら@修正1:2008/09/19(金) 20:19:14 ID:EAEOp8Ed0
「……待て待て、すぐに出るなんて僕は言ってないぞ」

決意を固めるように頷いて腰を浮かせかけた、まるで少年のような体躯の娘を――マルタを、
別な意味で痩せぎすのキールが呼び止める。

「どうして? すぐに行くんじゃないの?」

定めた心にいきなり待てを掛けられたのが不満だったらしい。
首を傾げつつもぶうと頬を膨らすマルタ。
そんな少女へキールは首をもたげ、言葉を紡ぐ。

「リスクは出来る限り減らすべきなんだよ。暑さだけじゃない、砂漠は視界も効きすぎるしな。
だからまだ待つんだ。幸いここは禁止エリアに入らないし、それに」
「えっ、まだ何かあるの?」

言いながら口調を早めるキールに何か妙な苦手意識でも覚えたらしく、半ば無理矢理に口を挟む。
青年はそんなマルタへ、呆れたような視線と口調で、
「言っただろう。その体で出ていくのかって。
傷、診せてみろ。大丈夫だ、この戻り具合なら日が落ちる頃には万全になって「だったら」
続いたキールの言葉に得心した様子のマルタだが、何故か再び彼の言葉を遮ると、
青年が手の中で弄んでいたままだったそれに目を落とし、求めた。

「……『ソレ』返して。私も治癒術、使えるから」


   ◇
85《貧》弱者な彼ら@修正2:2008/09/19(金) 20:19:52 ID:EAEOp8Ed0


結局。三十枚あったそれらは一枚だけを残してマルタの手へ戻ることとなった。
残った一枚は無論キールの手の裡である。
術の媒介はなったもののそれが何かは判らないと告げたマルタへ、
レンズと短く答えたキールは、興味深げにそれを透かし見つつ続ける。

「もっとも、僕の知るレンズにはこんな効用はなかったけどな。
――ところでマルタ」
見知った蒐集品そっくりなそれを前に、一瞬の沈黙を挟むと、
術の使用から来る倦怠感を少しでも早く癒そうと自分同様座り込む少女へ呼びかけた。

「何?」
「術は……あ、いや戦闘で何が出来るか聞かせてくれ」
「戦いで? いろいろ出来るよ、回復だけじゃなくて援護も攻撃も……。
まあ、レンズだとラタトスク・コアみたいには上手くいかないけど。
あとは、格闘術もそれなり、かな?」
「ラタトスクとは?」
「エミルのことだよ。エミルは精霊なの。……キールは精霊、知らない?」
「聞いたことがないな。聞かせてくれるか?」
「OK。私もたくさん知ってるわけじゃないから許してね。精霊ってのは――」
青年の求めに、ことわりを挟むと少女は語り始めた。
自身がもっともよく知る精霊、すなわち想い人のエミルであるラタトスクのことを。
初めこそマルタへ相槌を打つことへ終始していた青年も、彼女に連られたのだろう。
片道切符気味だった彼女の言葉がやがて会話へとシフトしはじめる。


   ◇
86《貧》弱者な彼ら@修正3:2008/09/19(金) 20:23:00 ID:UsnVn3wM0


「そういえばさ、メルディって人がそうなんだよね?」

「? へうで……メルディがなんだって?」

「だからその……恋人ってメルディさん、なんでしょう?」

いつの間にか尽きてしまった話の変わりに、味気ないパンを口に満たしていたはずの少女から飛び出した言葉。
言い直すために飲み込んでいなければ、きっとキールは『噴パン』してしまっただろう。
実際、彼はパンを噴く代わりにものすごく咳き込んでしまったのだから。
一方、マルタはそんな青年の様子に驚くと同時に反省もしたらしい。慌てて謝罪の言葉を口にしながら、背中を叩いてやる。
幸いにして、彼を苦しめた衝撃の余韻はほとんど一瞬で過ぎ去り、
ただの名残となった涙を拭うと彼はマルタに向かって理解できないという顔で尋ね返す。

「どうしてそれを?」

「だって、キールの話す感じが全然違うんだもん」

「そうか?」

「うん、そうだよ。ねえ、メルディさんってどんな人なの?」

「どんなって――って、こら。そんな顔したって何も出ないぞ、僕は」

目を輝かせた少女の言葉。思わず中空に視線を彷徨わせかけ、我に返る。
音がするほど慌てて明後日の方角へと首を投げた。
が、もう遅いのかもしれない。たぶんきっと、熱くなったしまった耳の端は少女にも気づかれているに違いない。
うなじをチクチクとやってくる、恋する乙女の好奇心と言う矢の攻勢に、そんなことを想像する。
どう考えても、何も答えないで済みそうにはなかった。
しかし、何を言えと。マルタと同じように発育不良の――ってそれはないだろう!
脳裏に最初に浮かんだのは、ずっと一緒に生きるんだと叫んで背中越しに抱きしめた少女の華奢な肢体。
それは確かに今ここにいる少女にも共通してはいるし、メルディだって確かにそうではあるが、さすがにそうとは言えるわけがない。
流石にそれが失礼な言い方だというのはキールにだって容易に想像できる。
そうやって考えあぐねたキールのもとへ、
87《貧》弱者な彼ら@修正4:2008/09/19(金) 20:23:42 ID:UsnVn3wM0

「ねえ、キール」

救いは向こうからやってきた。
予想外の事態へ頭が切り替わらない一瞬のタイムラグ。
それに気づいているのかいないのか、マルタはキールが振り向くのも待たず喋りはじめる。

「エミルと会ってどうするかって聞いたよね? それはまだよく分からないけれど、でも私はやっぱりエミルに会いたいな」

「僕の記憶が正しければ、君は先ほど協力すると言ったはずだけどな? まさか、」

キールの眉間にたちまち険が寄る。けれど少女はかぶりを振ってそれを否定し、続けた。

「違うの、そうじゃなくて……キールもメルディさんに会いたいんでしょ。
だからさ、私たちは死ぬわけにはいかないよね。だからその、」

「要領を得ないな。つまりどうしたいんだ?」

「私ばっかりに話させておいてキールは何も教えてくれないなんて無いと思うな。
協力するならリスクは減らさないと、でしょ?」

そう言って、少女はしまい込んでいた名簿を再びサックから引っ張り出す。

「メルディさんのことももっと聞きたいけど――まずはキールも何が出来るか教えてよ。ね?」

自分がカードを伏せていたことを指摘され、内心舌を巻くキール。
どうやら今度は、少女がペンを走らせるターンらしかった。


  ◇
88《貧》弱者な彼ら@修正5:2008/09/19(金) 20:24:23 ID:UsnVn3wM0


そして、二つ目の禁止エリアが海岸を覆う刻限。

「思った以上に暗いな」

「そうだね。なんかラッキーかも?」

「茶化すなよ。いいか、マルタ。何度も言うけれど肝心なのは勝つことじゃない」

「分かってる。大切なのは死なないこと、襲われたらとにかく逃げろ、だよね?」

「そうだ。……さ、もう黙るんだ。行こう」

急に秘やかになった青年の声へ、素直に黙り込んで首肯すると少女は歩き始めた。
ともすれば飲まれそうになる闇の中、震えてるのは寒さのせいだと心の裡で強がりながら。



【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP100%、TP100%
マルタと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。レンズに興味。
精霊についての知識(マルタフィルター透過済み)を得ました。
所持品:クレーメルケイジ、レンズ×1、グランドセプター、マルタと交換した情報入り名簿
基本行動方針:殺される気はなく、脱出の道を探す。サイグローグの言葉を信じかけている。
第一行動方針:リスクは避けつつ、ユージーン殺害現場へ向かう。
襲われた場合は応戦よりも全力で逃げる(可能ならばエアリアルボードを使用する)。
第二行動方針:首輪解除の方法を探し、マルタと協力する。
第三行動方針:仲間と情報を集める。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。D2ガオラキアの森へ移動開始。

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、怪我は治癒済。片袖なし。
キールと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。闇への恐怖と強がり。
所持品:エミルのマフラー 、血塗れた鬼包丁、レンズ×29、キールと交換した情報入り名簿
基本行動方針:エミルと再会したい。襲われた場合はとにかく生き残ることへ専念。
第一行動方針:エミルを探す。キールに協力する。
第二行動方針:エミルと再会してからどうするか考えてみる。
第一行動方針:エミルに会えたら、マフラーの件を謝りたい。
現在位置:B4ファロース教会付近の山中。D2ガオラキアの森へ移動開始。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:27:07 ID:UsnVn3wM0
投下終了。というわけで、18時です。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:33:34 ID:2XtRv6dc0
修正乙です。
とりあえずキールが失礼すぎるぜ。
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:33:36 ID:cL6Vy/uS0
投下乙。ずっとマルタのターンw

で、投下します。長い?かもしれないので支援お願いします。
92涙の理由 1:2008/09/19(金) 20:34:27 ID:cL6Vy/uS0
逃げる!逃げる!逃げる!
誰かが何かを叫んで追ってくる。怖い。怖い。怖い!
ルカはみっともない悲鳴をあげながら足を動かす。瞳からは生理的なものか涙がこぼれ、顔はぐしゃぐしゃだ。
もう訳が分からない!
イリアが死んで、混乱して、殺される夢を見た。
死にたくないから剣を振るった。でも、怖くなって逃げて現実を否定した。夢に逃げた。
だけど夢の世界はルカを上手く受け入れてくれなくて、すぐに現実世界へと戻された。
そして、気がついたらこれだ。
血塗れの男が、怒号と共に追いかけてくる。なんて悪夢だ!夢はどこまでもルカに安息を与えてくれない。
追ってくる金髪の男は時折、平衡感覚が狂ったように倒れながらも歩みを止めない。
傍らに控えるアメジストの髪を持つ美しい女は、その男を気遣うようにしながらもルカを見据える視線は厳しかった。
森を抜け、どこまで続くか分からない追いかけっこ。
しかし、それもどんどん離れていく。前述の通り、ルカと二人組では速度が違いすぎるのだ。

◇  ◇  ◇

銀髪の少年が小さくなっていく。スタンは唇を噛みながら己の不覚を自覚した。
―――油断した。それがこの無様な結果だ。
心配そうな視線を寄せてくるイレーヌを不安にさせないように笑ってもみたが、感情の抑制がうまくいかない。
痛みは、我慢できないこともない。右目は狂ったように熱を帯びているが、こう見えても怪我には慣れている。
だが、片目が喪失は大きい。
視界の悪さの経験などあるはずがないスタンは、恵まれた戦闘センスを持ちながらもすぐに対応することができない。
全速力で逃げる少年は、完全に見えなくなってしまった。
未だスタンとイレーヌは追跡を諦める気はなかったが、第三者がそれを阻む。

「―――スタンさん!」

はっきりと己の名前を呼ぶ声に、スタンは反応するしかなかった。

◇  ◇  ◇
93涙の理由 2:2008/09/19(金) 20:35:56 ID:cL6Vy/uS0
その姿を見たとき、まさか、とリアラは思った。
ルカを追いかけている男には見覚えがあった。輝くような金髪、その背丈。
(……カイル?)
と自分の想い人を浮かべて否定する。似ているが、細部が所々異なっている。
(違う)
リアラは二度と自分の英雄を間違えない。
状況が理解できない。
分かるのはスタンと誰かが剣を振り上げ、リアラの仲間であるルカを追っているという事実だけ。
止めないと!とリアラは叫ぶと、スタンの元へと走る。ナナリーも後に続き、シンクも―――
「―――っ!」
どすん、と何かに足を取られてシンクは転んだ。リアラとナナリーは慌てて振り向くが、
「早くルカのところへ!僕は大丈夫だからさ」
「でも、」
「僕はいいからルカを……!」
うつ伏せに倒れたままシンクが叫ぶと、リアラ達は小さく頷き走り始める。
シンクはしばらく起き上がらなかった。視線の先、相当めんどうな事態が起こっている予感がするのだ。
直感というもので、わざわざ付き合っていられない。
イオンを思い浮かべて演技してみたのだが、さすが同じレプリカといったところだろうか。
真実味を出すために思いっきり転んだフリをしたので、多少ぶつけた体が痛い。
(何が起こってるのやら)
シンクは離れていくリアラとナナリーの背中を見据えた。


「―――スタンさん!」

ルカの姿はない。リアラは呼びかけに対して振り向いたスタンを見て絶句した。
(血、が……)
右目からおびただしい程の血を見て、リアラは一瞬頭が真っ白になった。
君は、と名前を呼ばれたことに対してスタンが不審そうに顔を上げる。
(まずは、……話をしないと)
リアラとスタンに直接の面識はない。ナナリーも同様だ。
カイルやロニ、ジューダスから話を聞いたぐらいの関係だ。どうすれば信用してもらえるだろうとリアラは考えた。
息をつく。考える。眼前には彼女の英雄に似た血塗れの男と、知らない女。
「わ、私はカイル・デュナミスの仲間のリアラです!」
「カイル?」
そこで、不思議そうな顔をしたスタンにリアラが気がつけばよかったのかもしれない。
死んだはずのスタンが生きているのだから、時間軸が違う可能性を考慮せねばならなかった。
だが、同じ世界のナナリーと出会った。
ルカやシンクが異なる世界の人間だということに気がつかなかった。そこまで話すことはしなかった。
そういうことを考える間もなく、ここまで来てしまった。
そして、一番彼女の冷静さを奪ったのは傷を負ったスタンの影に―――カイルを見たことだ。
どこかで聞き覚えのあるようなないような名前を出されて、スタンは右目を押さえながら思考した。
「カイル・デュミナス?」
イレーヌはスタンに寄り添いながらも、現れた少女に疑問を投げかける。
スタンの知り合いなのだろうか、と当然のように発せられた知らない名前にイレーヌは首を傾げる。
「はい。スタンさんの子供の、カイルです」
「子供……?」
イレーヌの唇が震える。スタンが驚愕に目を見開く。
誰の、とイレーヌの口から零れた音は思いの外大きくて、リアラにしっかりと届いてしまう。
リアラはスタンとルーティの関係を不動のものだと信じている。だって、それでカイルが誕生したのだから。
スタンとイレーヌの雰囲気を見ればその関係を察することができるのだろうけど、リアラにはフィルター越しにしか見ることができなかった。
聞こえなかったのだろうか、とリアラはイレーヌの問いに素直に答える。早く信用してもらい、ルカのことも聞かなければならない。
「? スタンさんとルーティさんの、」
「―――黙れ!」
「え?」

叫びとともに、リアラに魔剣が迫ってきて、―――リアラは状況が理解できなかった。

◇  ◇  ◇
94名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:36:01 ID:UsnVn3wM0
支援
95涙の理由 3:2008/09/19(金) 20:39:36 ID:cL6Vy/uS0
『アトワイト、なのか?』
『そうよ、ディムロス!』

剣同士が出会い、再会に喜びの声を上げる。
そのおかげか、二組の間の空気は和らいだようでルビアとロイドはゆっくりと視線を合わせた。

「俺はロイド・ア、」

剣の所持者である二組が、互いを見極めようと自己紹介を始めようとした所で異変は起きる。
空を切り裂くような甲高い悲鳴がどこからか聞こえてきたのだ。
「な、なんだ?」
クロエは辺りを見回すが、その悲鳴の主は見当たらない。と思ったところでノーマがあ、と声を上げた。
がさがさと森を進む音がする。悲鳴の悲痛さにロイド達は警戒をするが、現れたのは幼さを残す銀髪の少年。
ロイド達はやや拍子抜けした形だった。少年が手に持っているのはデッキブラシ。なんというか、迫力がない。
だが、背後にいたルビア達には少年の姿は正反対な意味を持つ。ひゅ、とルビアが息を呑んだ。
ディストもやや嫌そうに後ずさる。
『いかん!―――アトワイト、離れろ!』
『ディムロス?』
「うわあああああぁぁぁあああああぁぁああああああ」

ディムロスが言い終わる前に、ルカはデッキブラシを振り上げてロイドへと向かっていった。
奇襲のような形だが、ロイドは自身のオブシディアンでその攻勢を防いだ。
よく見れば、デッキブラシにはいくらかの血痕が付着していた。
そして、遠くからは先ほどの悲鳴程ではないが断続的に尋常でない声が響いてくる。

「クロエ、ノーマ!ここは俺に任せて向こうを頼む!すぐ行く!」

ロイドと悲鳴の方向を交互に眺めていた二人はロイドの言葉に考えた後、頷いた。
襲ってきた少年は気掛かりであるが、実際少年はとても弱そうだった。
がむしゃらにデッキブラシを振り、そのすべてを軽々とロイドに防がれている。
あと、気がついてしまったのだ。少年の瞳から涙が大量に溢れ出したことに。
少年の戦い方はとても訓練を受けているもののそれとは思えない。何かこの先であって、錯乱してしまっているのだろう。
そう結論をつけた。ロイドの戦いは安定していて、心配をする必要がなかったことも理由だ。

「分かった」
「ロイどん、早く来てね!」
「……分かってる」
『ディムロス!今は、……また後で、』
『アトワイト!』

クロエとノーマが離れていく。ディムロスは不安が芽生えるのを感じた。
(一体、何が起こっている?)
銀髪の少年の武器には見覚えのない血痕。むこうで何か起こっているのは確実なのだが、動くことができない。
「私たちが行って何ができると思います?」
「あ……、ああぁぁ」
ディストはそう冷たく言い放ち、ルビアは失った左腕を庇うように呆然としている。
ディストに死ぬ気はない。わざわざ争いごとに首をつっこむ気にはならない。
常ならルビアがディストを引っ張っていくのだが、ルビアはルカの姿を見て震えている。
「それに、彼女を放っておく気ですか?」
『…………』
気丈にふるまって見せていても、まだ子供なのだ。恐怖は簡単には拭えない。
96涙の理由 4:2008/09/19(金) 20:40:54 ID:cL6Vy/uS0



ガキィン!とロイドがデッキブラシと共にルカを弾く。
冷静な剣さばき、がむしゃらなデッキブラシ。勝敗は明らかだ。
「おい、落ち着けって!」
うわごとを叫びながら、敵わない相手に挑み続ける姿は酷く哀れだ。
ロイドは何度も呼びかけているのだけど、涙を零すばかりで効果はない。
一端、気絶させてしまおうかと試みても攻撃は全然なのに守りに関しては目の前の少年はなかなか手ごわい。
嫌な感じだ、とロイドは思った。倒れても、倒れても、少年は向かってくる。
手から血を流し、顔から涙を流し、服は多少の血が染みついている。ボロボロの少年は痛々しい。
ロイドはそう思いながら、何度目になるかは分からないが少年の体を吹き飛ばした。

◇  ◇  ◇

「リアラ、危ない―――!」

スタンの魔の手からリアラを守ったのはナナリーだった。
リアラの後ろで、客観的に状況を見守っていたナナリーはスタンの異変に先に気がついたのだ。
といっても、攻撃から逃れたのはリアラだけでナナリーの背中に焼けるような痛みが襲う。
ナナリーが悲鳴をあげると、リアラも信じられないといったように絶叫を上げる。
ナナリーも、スタンがカイルの親ということで反応が遅れたのだ。カイルによく似た青年は、それだけで信頼を抱いてしまう相手だった。
ヒール、とナナリーに応急措置だけ済ませてリアラはナナリーを庇うように立ちふさがる。

「スタンさん、どうして!」
ありえない現実にリアラは動揺を隠せない。
カイルのことだけではない。リアラは英雄を探していた時に、スタンの話をたくさん聞いた。
街の人や文献に残る話からは、英雄に相応しい偉大な人物像が見えてくる。それが、どうして!
「イレーヌさんを傷つけることは俺が許さない」
イレーヌと呼ばれた女性は、呆然としたように宙を見つめたままだった。
イレーヌ。リアラはその名前に聞き覚えがあった。
あの美しい場所を思い出す。オベロン社廃坑のメッセージ。でも、そのイレーヌは亡くなっているはずだ。
スタンといい死んだはずの人間が生きていることにリアラは戸惑いを隠せない。
スタンはそっと目を伏せ、訂正しろ、とだけ呟いた。
「……訂正?」
「さっきの、子供がどうとか……俺に子供なんかいない」
リアラはその言葉にスタンをじっくり見た。
右目の喪失によりどこか厳かな雰囲気を感じさせていたスタンだが、よく見ると顔は年若い――リアラと同年代に見える少年だった。
その事実にリアラは驚く。どういうことなのだろう、と。
「カイル・デュナミスなんか、いない」
スタンの口から否定の言葉が出て、リアラの胸を激しく揺さぶった。

リアラに、カイルを否定しろ、と―――?

◇  ◇  ◇
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:40:58 ID:RSa355s/0
支援
98涙の理由 5:2008/09/19(金) 20:41:54 ID:cL6Vy/uS0
「――ファイアウォール!」
「――魔神剣!」

魔剣が突き付けられたリアラを救ったのは、突如天から降ってきた二つの声だった。
反射的に自身に向けられた攻撃を避けたスタンは、咄嗟にイレーヌを抱え彼女に向けられた攻撃までをも避ける。
アトワイトが何事かを呟いた気がするが、クロエ達の声の前に掻き消される。
「大丈夫か!」
「あたし達が来たからにはもう安心だよー」
数的には四対二。実質的には三対二なのだろうが、……この状況では圧倒的に不利だ。
スタンは冷静に分析した。
障害は斬る。だが、イレーヌを守ることを第一に置かないといけない。
イレーヌに傷一つつけるつもりはなかった。
「イレーヌさん、俺にしっかり捕まって」
「え?」
そう囁くや否や、スタンはくるりと踵を返す。
右目を喪失してからある程度の時間は経った。もう無様に転ぶこともしない。
大切な宝物を抱えているのだ。転ぶはずがない。
「あー……!」
「待て、深追いするな!」
スタン達を追おうとしたノーマをクロエが止める。今はこの少女たちを助けることが先決だとの判断だ。
茶色の髪の少女は服が泥だらけなだけで、怪我はなさそうだった。精神の方は分からないが、それはクロエにはどうしようもできない。
問題は、鮮やかな髪色の少女だ。あの睨み合いの中でできる、精一杯の処置だったのだろう。
だけど、それだけでは流れ出す血は止まっていなかった。傷は、深い。

「ノーマ頼む!」
今、治癒の術を使えるのはノーマしかいない。クロエがそう頼むとノーマは慌てて治療に取り掛かった。
「――ナナリー、しっかりして、ナナリー!」
リアラもその声に我を取り戻し、必死にヒールを唱え始める。アップルグミはもうない。
ヒールの回復量が微々たるものなのが悔しい。ハロルドのように回復効果の強い晶術が使えればよかったのに!
ノーマもレイズデッドを唱えながら、一向に顔色の回復しないナナリーを見て表情に焦りを浮かべる。
スタンは歴戦の戦士だ。そのスタンが狙う急所は、正確で確実で……ナナリーが前に傷を負っていなければまだ助かったかもしれない。
「リアラ……、もう、…いいよ」
リアラが首を振る。ナナリーの知らない二人の女が諦めるなとかそんなことを叫んでいる。
だが、ナナリーにはもう分かっている。自分の体なのだ。
『クロエ、私を使って!三人がかりなら、なんとか…!』
しばらくスタンの去った方へと心を奪われていたアトワイトだったが、持ち主の身を切るような声に意識を戻される。
(スタン、本当にあなたがやったの?)
怪我人がいるというのに、アトワイトはスタンに囚われている。何をしているのかと自分を叱咤してみても動揺は大きい。
スタンはアトワイトの本来の持ち主であるルーティが大きな信頼を置いていた相手である。
アトワイト自身もスタンを好いていた。なのに、この事態は信じられない。
「ど、どうすればいいんだ?」
晶術の経験がないクロエはどうしていいか分からない。時間が足りない。
クロエはそもそも晶術がなにかさえ分からない。一から説明していては、間に合わないだろう。
といっても、クロエは剣士だ。術を行う下地がある訳でもない。どうしてこうもうまくいかない!
「リアラ、あんたは……生きるんだよ」
「嫌!お願いだから、ナナリー、死なないで!」
「今度は……ちゃんと救えた、から……あたし、は」
「―――ナナリー!!」
ナナリーの体から力が抜ける。
リアラの瞳から涙がこぼれてナナリーの遺体に落ちた。底がないように涙はあふれ続ける。
立て続けにいろんなことが起こりすぎて、リアラは困惑と悲しみと悔しさで泣き続けるしかなかった。

◇  ◇  ◇
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:42:13 ID:UsnVn3wM0
支援
100涙の理由 5:2008/09/19(金) 20:43:44 ID:cL6Vy/uS0
「スタン君、目、治療しないとね」
「イレーヌさん……」

いわゆるお姫様だっこという形で運ばれていたイレーヌはふふ、と小さな笑い声を洩らす。
リアラと呼ばれていた子の言葉が、何故かとてもショックだった。目の前が真っ暗になるほどに。
でも、今スタンの胸の中、彼の心臓の音を聞いていると途端にその気持ちは消えている。
昔、スタンと腕を絡ませデートした時と同じような感覚だ。あのデートは、本当に楽しかった。
疲れたイレーヌの心を一時的にとはいえ、癒してくれた。
あの時はもう心を決めていたけど、まだ理想を語れていた。現実に完全に打ちのめされる直前。スタン達に敗れる少し前。
再び笑い声をあげてイレーヌが問うととスタンは誓うように呟いた。
「……ずっと、私の傍に居てくれる?」
「約束します、絶対に」
僅かな時間しか共に在れなかったあの時とは違う。今のスタンには旅立たなければならない理由などない。
あの時、素直に涙を流すことができれば、理想に疲れ切った心に何かを与えることができただろう。
もし、イレーヌが想いを打ち明け傍に居て欲しいと願ったなら彼女の結末は変わったかもしれない。
でも、今は。
「イレーヌさん……?」
「ううん、違うの。嬉しいの、かな?」
透明な涙を静かに零しながら、イレーヌは微笑んだ。
101涙の理由 6:2008/09/19(金) 20:44:38 ID:cL6Vy/uS0
【ルビア・ナトウィック 生存確認】
状態:HP60% TP18% 左腕切断(血はほぼ止まっています)恐怖がフラッシュバック中
所持品:旋風、ポイズンパウダー、フリーズリング、アビシオンのフィギュア 左腕
基本行動方針:死にたくない。殺し合いには乗らない。
第一行動方針:???
第二行動方針:カイウスを探す
第三行動方針:F6レムの塔に向かい探索。
現在位置:E7 森 南西端

【ディスト 生存確認】
状態:HP、TP100% 疲労(大)
所持品:ソーディアン・ディムロス 考察メモ 工具箱(基地から持ち出した)
基本行動方針:とりあえず、死ぬ気はない。
第一行動方針:どうしましょう……。
第二行動方針:F6レムの塔に向かい探索。
第三行動方針:ジェイドよりも先に、首輪の解除方法を探す。
現在位置:E7 森 南西端

【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:HP95%、TP100%、生乾き、すけべ大魔王 これからに対する強い決意
所持品:オブシディアン、本人確認済み支給品1個、エリクシール、ソーサラーリング、ピコピコハンマー
基本行動方針:打倒サイグローグ。死んだ仲間のためにも、ゲームには乗らない意志を貫く。
第一行動方針:ルカに対処。
第二行動方針:ノーマ・クロエと人を探す
第三行動方針:すずと会い、説得する
現在位置:E7 森 南西端

【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP75%、TP95% シンクを信頼? イリアとリカルドの死に大きなショック 両手の皮がずる剥け(出血) フラッシュバックにより精神不安定
所持品:アビス女性陣の水着セット、デッキブラシ
基本行動方針:ああああああ
第一行動方針:助けて助けて助けて
現在位置:E7 森 南西端


【ノーマ・ビアッティ 生存確認】
状態:HP95%、TP60%、左肩に軽症、生乾き 現実に対する不安
所持品:ホイッスル、本人確認済み支給品1?2個
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。死にたくない
第一行動方針:リアラと話をする。
第二行動方針:すずと会い、説得する
第三行動方針:セネル達と合流する
現在位置:E6

【クロエ・ヴァレンス 生存確認】
状態:HP100%、TP95%、帽子紛失、生乾き 現実に対する不安
 所持品:ソーディアン・アトワイト、安全ヘルメット
基本行動方針:打倒サイグローグ
第一行動方針:リアラと話をする。
第二行動方針:すずと会い、説得する
第三行動方針:セネル達と合流する、セネルが心配
現在位置:E6
 
【リアラ 生存確認】
状態:HP90%、TP50%、様々な出来事にショック。茫然自失。
所持品:南国の蝶(ナタリア水着)、レンタルビューティー(ティア水着)
基本行動方針:みんなで力を合わせて帰りたい。
第一行動方針:ナナリー…?スタンさん…?イレーヌさん…?
第二行動方針:カイル他仲間を探す。
現在位置:E6 
102涙の理由 7:2008/09/19(金) 20:45:07 ID:cL6Vy/uS0
【シンク 生存確認】
状態:HP、TP100%
支給品:すず 未完のローレライの鍵、??? 聖剣ロストセレスティ
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ
第一行動方針:騒ぎが収まった頃合いを見計らって合流する?
第二行動方針:とりあえず周りを信頼させて、利用する。
第三行動方針:F6レムの塔が気になる。
現在位置:D7 湖付近

【イレーヌ・レンブラント 生存確認】
状態:精神不安定 頬に傷 魔剣の声が聞こえる エクスフィア装備 リアラの言葉にショック ルカに怒り
所持品:魔槍ブラッドペイン スターダストリング 要の紋付きエクスフィア
    マグニスのサック(内容不明支給品一個)
基本行動方針:スタンと共に答えを探す
第一行動方針:スタンに運ばれるまま。
第二行動方針:魔剣の指示を遂行するか考える
現在位置:D5

【スタン・エルロン 生存確認】
状態:右目損失 現実への絶望 精神不安定 理想崩壊 エクスフィア装備 ルークに妙な感情
   精神へ僅かにイグニスの影響 ルカに怒り
所持品:魔剣ネビリム 要の紋付きエクスフィア ネクロノミコン センチュリオン・イグニス
    アンチフォンスロット ヒールバングル サファイア
基本行動方針:イレーヌを最後まで守る。イレーヌを許容しない世界を許さない
第一行動方針:イレーヌと休める場所を探す。治療もしたい。
第二行動方針:障害は斬る
現在位置:D5

【ナナリー・フレッチ 死亡】

【残り54人】
103名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:47:07 ID:cL6Vy/uS0
投下終了です。支援ありがとうございました。
状況表がすごく長いだけで、本文はそこまで長くなかったorzすみません
人数が多いのでおかしいところがあったら指摘お願いします。
何度も読み返したんですが、わからなくなってきた・・
104名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:56:01 ID:O8HnAtHvO
投下乙!
ナナリー…合掌
尊敬するスタンが彼女をやったことを知ったらロニはどうするんだろうな…
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 20:56:26 ID:RSa355s/0
投下乙です。ナナリィィィィィ!
リアラが一気に情緒不安定に…クロエやノーマと上手く話ができればいいけど
ルビアはいきなりトラウマ対象に出会ってカワイソス。ルカvsロイドはどうなることやら…
そしてシンク、近くにお前の本性を知ってる奴がいるぞ、注意しろ!
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 21:03:24 ID:UsnVn3wM0
ナナリー……
不幸が続くのはしかたないけど、やっぱり泣けてくる。
ロイドがエリクシール持っているあたりがもうなんというか切ない。
そして何より投下乙。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 21:24:25 ID:JLXBdruMO
乙です。姐御…安らかに…

うおぉ急激にロニやカイルの先行きが気になってきたあぁぁ!!
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/19(金) 22:57:52 ID:8eU/pvobO
投下乙でーす!
ナ、ナナリーーーーーー
うっうっ、これがロワの現実か…orz そして野郎共がなかなか死なない罠
Dシリーズ陣に大波乱の悪寒がしますね
この場にいないカイルとロニも実は果てしなく可哀想…なんてこったい!
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 00:28:28 ID:Wp5QGJc3O
投下乙。すずちゃん…ナナリー…合掌。
カイル、さっさとアホ親父の目を覚まさせてやれ!でもカイルは今マーダー包囲網中だし、期待出来ないか?
セネル達もかなり凶悪だな。シャーリィ超頑張れ!
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 01:58:40 ID:evzNf4+KO
では投下します
111焔と罪はどこへ行く -voyager- 1:2008/09/20(土) 02:02:56 ID:evzNf4+KO

「…………ッ、…んー……」

赤に塗れた青年ルークは、産声とは程遠い呻き声を上げ、目を覚ました。

(ここ、何処だ……俺は……?)

寝起き特有の混濁した思考が、現実を遮断する。
不思議な浮遊感が纏わり付き、体が自らの覚醒を拒んでいた。
まるで昔屋敷の自室で「またつまらない一日が始まるのか」と起床を渋っていた時のようだった。

(もう、ちょっと……もうちょっとだけ、寝かせてくれ……)

そんな霞みがかった淡い願いは、ルークとは違う男性の声によって断ち切られた。

「起きたか」
「……っ?!」

声より少し遅れて、がばっと起き上がる。
目の前には、獣の頭蓋骨を被った黒ずくめの男。
急に体を起こしたせいか、或いはあまりに非現実的かつ怪しい服装の人間を見たからか定かではなかったが、目眩がした。
その自分を支えんとする手を、背中に感じる。

「大丈夫ですか?」

だが、その感触に、思い出したくない“何か”を思い出させられそうで。
〈彼を探しがむしゃらに伸ばされた黒焦げの手を〉
〈彼の首に伸びた殺意ある黒焦げの手を〉
〈──かつて崩落させた街の人々の助けを求める手を〉
自分を気遣う声にも構わずルークはその手を振り払った。

「ッ、うわあぁぁっ!!」
「きゃ……!」

女性の小さな悲鳴にはっとした。
そこにいたのは、長い緑髪を三つ編みのおさげにし、白の法衣を身に纏った女性だった。
仮面の男は溜め息を吐くと、両手を上げて暗に戦意がないことを告げる。

「落ち着け。僕らは何もしない」
「あ……、」

すうっと頭の血が下がった気がした。
数度の深呼吸。
頭蓋骨を被った男が口を開く。

「……落ち着いたか?」
「あ、ああ」
「なら此方の質問に幾つか答えてもらおう。悪く思わないでくれ」

男の険しさ、否、警戒を幾ばくか含んだ瞳の迫力にルークは身を竦ませた。
一体何を訊かれるのだろうかと身構える。

「おまえが目覚めるまでに何があった」


……目覚める?
俺、今起きたばっかだぞ?
何があったって言われても…………あれ?
自分の記憶に違和感を覚えた。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 02:03:27 ID:qm2YpgyU0
支援
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 02:04:11 ID:/KTgnc770
支援
114焔と罪はどこへ行く -voyager- 2:2008/09/20(土) 02:04:59 ID:evzNf4+KO
押し黙ったルークを見て、男が再度問い掛ける。

「──言い方を変えよう。おまえが意識を失う前に、ここで何があった?」
「意識を失う前……ここで、何が……」

(確か……女の人、助けようとして……)

自分が経験した出来事をゆっくりと海馬から引っ張り出し始めた。

(そしたら、ドレッドヘアーのヤツと戦闘になって……、)

未だ不明瞭の意識を引き摺り、それでも脳内に存在する経験という名の道を歩く。

(金髪の……スタンって人が、助けてくれて…………それで)

そこで、短期記憶の旅の足は止まった。
もう分かっているのに。
そういえば前にもこんなことがあった気がする。
現実逃避と責任回避。
見事なデジャ・ヴ。
立ち止まるな、目を逸らすな、という声が頭の中に響く。

「俺……俺、は…………あ、ああ……」

そうだ、自分の犯した“罪”を認めろ。
分かってるんだろ?
そんなことじゃ、またティア達に見放されちまうぞ。
でも……こいつらは?
こいつらがそんな俺を受け入れてくれる保証なんてどこにもない。
もしかしたら──殺されるかもしれない。
どうする?
どうする??
どうする……?!

「俺は……」

ごくりと唾を呑み込む。




「…………お……俺が、殺した……」




ルークは選んだ。
犯した罪と向き合い、その業から逃げないことを。
俯いて目を瞑り、拳を固く握り締めて、二人の視線に耐える。
やがて聞こえる溜め息。

「そうか」
「……俺を殺さないのか?」

たった一言で済まされたことに拍子抜けし、思わずご丁寧に訊く。
そんなルークに、男はもし、と答えた。
115焔と罪はどこへ行く -voyager- 3:2008/09/20(土) 02:06:47 ID:evzNf4+KO

「おまえが『殺していない』と答えていたなら、僕はおまえをこの場で斬り捨てていた」

そう言って男は鞘に剣を収める。
キン、と鞘に収める音がして初めてルークは男が剣を抜いていたらしいことに気付いた。
その事実にぞっとした。
返答次第では自分は今この時、もう死んでいたかもしれないのだから。

「だからと言って完全におまえを信用した訳じゃないが」
「ジューダスさん!」

男を諫めるような口調で女性が呼ぶ。

「生憎僕はおまえのような善人じゃないんでな」

ジューダスと呼ばれた男は女性に向かって言い放つと、自嘲に近い笑みを浮かべた。
そしてジューダスは再びルークに向き直ると、

「おまえ、ルークだったな。まだ訊きたいことがある」

と言った。

「な、何だ?」
「これを殺ったのがおまえだというのはわかった。だがこれを黒焦げにしたのはおまえじゃないな? 誰の仕業だ」

ジューダスはルークに斬り掛かられて、黒焦げにした人物と殺した人物が別人だと確信していた。
止めを刺したのがルークだということは彼の様子から察せられた。
ルークが気を失っている間黒焦げ死体を調べたところ、斬撃──血塗れの剣によるものだろう──は炎の後に付けられた物だと判った。
傷口から覗いた骨や臓物はあまり焼けていなかったためだ。
また、炎を見たのは一度だけ。
たった一回でここまで黒焦げにできるということは、あの炎には明確な殺意があったということだ。
あれほど重度の火傷を負わせられるなら、炎だけで止めを刺せたはず。剣を血で汚す必要はなかっただろう。
仮にルークが黒焦げにしたとしても、その確たる殺意の炎と、自分に向けた迷いある剣はジューダスの中でどうにも一致しなかった。
最後の方は些かこじつけのような気もするが。
もしかすると心のどこかでルークを信じたかったのかもしれない。

(フ……僕も相当カイルに毒されたな)

再び、だが先程とは違い己を卑下する意味合いは含まれていない自嘲の笑みを浮かべる。
ジューダスが急に笑ったのを二人は訝しげに見ていたが、ルークがはっとしてサックをまさぐり始めた。
サックから引き抜いた手にあったのは参加者名簿だった。
ページを捲るルークの手元を二人は覗き込む。
その手が指差したある参加者は。

「この、スタンって人」
「「!!!」」

「この人が……こいつに殺されそうになってた俺を助けてくれて、で…………」

最後まで言われずとも判る。
スタンが炎の使い手であることは承知済みだ。

「知り合い、なんだな……」

ジューダス達の間に流れる重い空気から、ルークがスタンと彼らの関係性を察する。
正直本当にこれをスタンがやったのか、信じ難かった。
だが、ルークが嘘を言っているとも思えない。
116名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 02:07:05 ID:dtUYueas0
支援
117焔と罪はどこへ行く -voyager- 4:2008/09/20(土) 02:08:42 ID:evzNf4+KO

「どうしましょう、ジューダスさん……」
「……」

まさか、スタンは殺し合いに乗ったのだろうか?
その可能性も0ではないだろう。
『スタンが殺し合いに乗っていない』という事象を確実に証明できる要素がない以上たとえどのような事象であっても、安易に可能性を否定する訳にはいかない。

「ルークさん、スタンさん以外にはどなたかいらっしゃいましたか?」

フィリアのルークに問う声が聞こえて、思考の波から意識を引き戻す。

「綺麗な女の人がいた。何かすげー冷たい目してた……」

(まるで師匠やリグレット達六神将みたいな目……けど、冷たいだけじゃない、不思議な目)

その女とスタンの目を思い返し、身震いする。
それが純然たる恐怖から来るものなのか、或いは畏怖から来るものなのかは、ルークにも判らなかった。
しかし、ルーク達とは異質な空気を纏っていたことだけは確かだった。

「……その女というのは」

ジューダスの呟きに顔を上げる。
ルークはその後を引き継ぐようにして、先程同様該当者の写真を指差した。

「そうだ、この人だよ!」

「イレーヌ、さん……?」

フィリアが口に手を当て愕然とする。彼女の生来から色白な顔が、衝撃からか更に白くなっていた。
死者が生きているから、等という理由ではない。
問題は道を違えたはずの二人が行動を共にしていること。
イレーヌが改心したか、若しくは──。

「おい、ルーク。スタン達がどこへ行ったかわかるか?」

今まで冷静な印象しか受けなかったジューダスが初めて焦りの色を見せた。
フィリアに至っては懇願するような目をして、ルークを見ている。

「悪い、そこまでは分からねぇ」

ルークはそんな彼らに申し訳なく思いながらも、スタン達の行き先を知らないことを言うしかなかった。
やはり、フィリアもジューダスさえも落胆の色は隠せない。

「そうですか……」
「……」

前者──イレーヌが改心したのであればよいが、もし後者であるならば。
そして、イレーヌの理想が此処でもヒューゴのやり方と同じ方法で実現されるとしたなら(スタンにはそれだけの力があるだろう)。
悪い想像しか思い付かないのだ。
元よりネガティブ思考の傾向があることに加えて、状況が状況だ。
楽観視は決して許されない、とジューダスは更にそのネガティブ思考を展開する。
ルークは勿論フィリアも知らぬことだが、ジューダスの仲間・カイルはスタンの息子であり、ロニもスタンを養い親としている。
そのスタンと万が一カイル達が対立することになれば……最悪の場合、殺されるかもしれない。
それはルーティにもウッドロウを初めとする他の参加者にも言えることだ。
殺し合いの場で他者を心配するのもなんだが、純粋に殺し合いを楽しむ者・目的の為に敢えて殺戮者となる者もいれば、この殺し合いを良しとしない者も必ずいるはずなのだから。
カイル達を含むそういう者達──カイル達は必ずこの殺し合いに乗らないと信じている──のことを考えれば、スタン達を追うべきなのかもしれない。
118名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 02:12:20 ID:qm2YpgyU0
支援
119焔と罪はどこへ行く -voyager- 5:2008/09/20(土) 02:13:05 ID:evzNf4+KO

しかし。

「……フィリア」
「は、はいっ!」
「スタン達のことは今は放っておくぞ」

予想していなかった言葉にフィリアは我が耳を疑った。
これにはルークも驚いたようだった。

「なんでだよっ?! スタンって人はおまえ……ジューダスの仲間なんだろ?!」
「いや……僕は二人を知っているだけで仲間じゃない。スタンの仲間はフィリアだ」
「おまえ! 自分の仲間じゃないからどうなっても構わないって言うのかよ! フィリアさんの気持ちも考えろよ!!」

淡々とスタンの件の放置を言ったジューダスに、ルークは胸ぐらを掴んで詰め寄る。
仲間でないにしても、目の前にその仲間がいるのにも構わず言う無神経さが、昔の自分が思い出されるようで許せなかったのだ。
だが、それは見当違いであることがすぐにわかった。

「スタン達を追って、もし説得出来なかったらどうする? ……僕達の戦力を見てみろ。僕一人しかまともな戦力になりそうな人間がいないのが現状だ。万が一僕達がスタン達に殺されたら元も子もない」

そう言ってジューダスはルークの手を振り払った。
実に的確且つもっともな意見。ジューダスの言う通りだった。
フィリアはどうか知らないが、自分は正直体を動かすのも辛い程の満身創痍なのだ。
足手纏いになるのは明白だった。

「とりあえず、もし生きて仲間に会いたいのなら、僕達はこのまま情報収集に徹するべきだ……『これ』をどうにかする為にもな」

ジューダスが己の首輪を指でとんとんと叩く。
「あ」と間抜けな声が重なった。
首輪の存在を忘却していた二人に呆れ大きく溜め息を吐くが、ジューダスとて解除法がわからない以上偉そうなことは言えなかった。
ジューダスの意見を聞いてしばし考え込んでいた様子だったフィリアが顔を上げルークに提案する。

「ルークさん、私達と一緒に行動しませんか?」
「え」
「一人でいるのは危険です。ルークさんもどなたか探していらっしゃるのではないですか?」

フィリアの言い分はもっともだった。
だが。

「いい、のか? 俺が一緒に行っても」

経緯はどうあれ、自分は……人殺し、なのだ。
そしてジューダスはルークの言わんとすることを正しく理解していた。

「ボロボロの奴に易々殺されてやるほど僕は優しくない。それに、おまえを見張るには丁度いいだろうからな」

そう言って破れたマントを翻し、背を向ける。
その背中を見て、そうだ、とルークが声を上げ、

「マント、ありがとう。二人がしてくれたんだよな?」
「フン……ありがたいと思うのなら足手纏いにならないよう努力するんだな」
「ふふ」
「もう少し休んだら出発するぞ」
120焔と罪はどこへ行く -voyager- 6:2008/09/20(土) 02:15:01 ID:evzNf4+KO


そうして、まさに一息ついた時だった。







『──レプリカ、聞こえるか!』
「アッシュ!」


二度目の、応答願う通信が入ったのは。





【ジューダス 生存確認】
状態:緊張
所持品:ロイドの仮面セット、レーザーブレード
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:ルークの様子を見る
第二行動方針:スタン達は放置して、南下する
第三行動方針:フィリアを守る
第四行動方針:上手く素性を隠す方法を考える
現在位置:A7
 
【フィリア・フィリス 生存確認】
状態:緊張、悲しみ、スタンが心配
所持品:マジックミスト、本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:ルークの様子を見る
第二行動方針:ジューダス・ルークと共に行く
第三行動方針:スタン達は放置。でも気になる
第四行動方針:ジューダスに既視感
現在位置:A7
 
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP40%、TP95%、緊張、強い決意、放送を聞いていない
   全身に傷・打撲・痣、イレーヌとスタンに不思議な感情
所持品:メロメロコウ、ミスティシンボル
基本行動方針:今自分にできることをする
第一行動方針:アッシュとの通信に対応
第二行動方針:ジューダス・フィリアと共に行く
第三行動方針:ティア達と合流する
現在位置:A7
 
 
※ソウルブラストはジューダス達から数メートル離れたところに放置されています
 
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 02:16:51 ID:evzNf4+KO
投下終了です。
支援ありがとうございました。
タイトル後半は某バンドの某曲から。
この3人孤立しすぎだw
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 03:22:02 ID:DzAaEbpoO
投下乙!
連続で立てられるスタンフラグw
ジューダスの言動がらしくてよかった。
そして主人公が墜ちる中、ルークかっこいいよルーク
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 05:00:31 ID:a7+FPLPC0
アッシュからの通信か…これは期待
怖い仮面のお兄さんを前によく頑張ったよルークw
ナナリーはまさかここで死ぬとは…!
色んな人間が集まってきて混沌としてきたね。今後が楽しみです。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 05:02:24 ID:stpXceJh0

ようやくこの組にも動きが
マップ見ると西は山脈、南はいるけど遠いで孤立っぷり凄かったもんなあw
コーヒーブレイクという単語が頭をよぎって仕方なかった
125名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 10:57:43 ID:QCKZ69zRO
質問なんだけど、
シャーリィって海水あるいは海水の混ざった水を浴びる?と
体調を崩す描写があったよね?
(真水で体調回復?)
あれって本編中に治ったっけ?
メインクエストしかクリアしてないから
うろ覚えなんだ。
126名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 11:23:28 ID:zF0wWvAA0
>>125
メルネスになった時点で治ったはず
127名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 11:48:42 ID:Wp5QGJc3O
投下乙。ルーク、その仮面の兄ちゃんはツンデレなだけだから安心しろww
ルークはまだティア達が生きているから若干余裕があるか?なにはともあれ、早くカイティア組と合流出来ると良いなw
128名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 11:55:39 ID:zF0wWvAA0
ルークは放送を聴いてないから、イオンが死んだことも知らないしな
てか投下乙…忘れててスマン
129名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 12:14:50 ID:yWqII6Iw0
ルカが前回のシャーリィみたいになる予感・・・
130名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 13:26:51 ID:yFB5WWd80
 質問なんですが、スタンの精神がイグニスの影響を受けてるってことはイグニスはコアの状態なんですか?
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 14:31:48 ID:evzNf4+KO
>>130
そうだと思うよ。
というか確かセンチュリオンはコアの状態でしか出したらいけないってルールだったような。
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 15:07:53 ID:0kW+NDuTO
皆さん投下乙です
住人のルークに対する反応が赤ん坊扱いで吹いたw
ナナリー空気のまま逝ったか…
スタンが初めて殺したのがD2キャラとはカイルカワイソス
シンクは何にも出来てないまま色々巻き込まれちゃったなw
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 15:16:22 ID:DzAaEbpoO
首輪探知機って死んだキャラの首輪にも反応するんだっけ?
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 15:26:21 ID:mk+pNPHjO
ルールに言及なかったかと。
気になるなら書いて投下してから反応見たらどう?
135名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 15:47:24 ID:AJvoOEx9O
>>131
確認だけどセンチュリオン・コアって、
共通するのが
・所有者の精神汚染
・手放すと中毒症状
・魔術仕様可、属性付与
・周囲への環境被害(コア時のみ)で、
変身能力はソルムのコア固有能力でいいんだよな?
136名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:02:11 ID:YdK8Sceh0
>>129
クレスにレベルうpは流石にしないか。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:14:26 ID:9E07fWmCO
投下します
138心の行方 1:2008/09/20(土) 16:17:12 ID:9E07fWmCO
『ああーっほらほら、あっち見て下さいよ!』
殺人鬼の手にした剣、シャルティエはとにかく必死だった。
ようやく出会った彼の知人、カイル・デュナミスをこのネジが765本は軽く飛んでいるであろう男はスキップで追いかけ殺そうとしているのだ。
「うるさい剣くんだね何? 俺を満たす欲求は殺人欲。甘酸っぱいハイビスカスティータイムを邪魔されると流石の兎ちゃんのハートを持つ俺でも思わず真っ二つに折りたくなるわけですよ」
『後ろですよ、う・し・ろ! あれ何だろう、砂漠なのにすっごく吹雪いてる! 砂嵐じゃなくて吹雪ですよ、雪ですよ、ゆ・き!!
 面白いと思いませんか! だって真昼で真夏の寒中我慢大会ポロリもあるよとかできるんですよ絶対!』
まくし立てるシャルティエにハスタはようやく後ろを振り返り……そして「ピュウ」と口笛を吹いた。
「ワーオ、エクセレント」
『ね、あっちの方が面白そうでしょ? だから追いかけるのやめましょうって……ほら、向こうの方、何か爆発とかしてるし……あんな術撃たれたら僕、壊れるかも……』
トドメに涙ぐむような演技をしてみる。
情に訴える作戦が通じるとは思えないが、身の危険を感じることくらいこの男にも出来るだろう。
いや、出来なくては困る。
ハスタは焦点の定まらぬ瞳で前後左右を確認し、おもむろに靴を脱いだ。
「真昼で真夏の海水浴にお出かけするかティータイムを優雅に楽しむかはお天気で決めましょうそうしましょう」
ぽーん、と飛んでいく靴。
(ああ神様仏様、どうかお願い彼らからこいつを離して下さいそしたら一生ついていくよ!!)
シャルティエは両手を合わせアタモニ神に祈る思いだった。
ぽとん。
砂の上に落ちた靴は裏返し。
「お天気は嵐ところにより雪。血の雨を混ぜたらもっと素敵な天気予報になると思うわけだよ俺としましては」
靴を拾いゆっくりと履きながら、シャルティエの切っ先が突きつけられたのは砂漠の向こうの異常気象。
(イヤッホーーーーゥ!!! ありがとうお天気の神様一生ついていくよ!!)
「そうと決まればここは夕日の海岸、オトモダチ同士で殴り合い斬り合い肉の捌き合いするには格好のシチュエーションッッ!!
 嗚呼、いいねー青春って。俺にもあったよ確か……俺の青春はそう、あのガラムの山の中で故・リカルド氏と……俺が……出会った……そして銃でいきなり撃たれた……」
意味もなく感慨に浸りながら、ハスタは元来た道を逆走する。
シャルティエはない胸を撫で下ろしつつ、同時に吹雪の発生源に申し訳ないことをしたと思う。
しかし、彼には僅かな期待もあったのだ。
(あの吹雪――晶力を感じる。もしかしてアトワイトがいるかもしれない)
話の通じる仲間との再会を期待しつつ、不安も未だ濃くその意思に残しながら、シャルティエは運ばれた。
139心の行方 2:2008/09/20(土) 16:20:27 ID:9E07fWmCO
もともと気の長い方ではないサレは現状に満足していなかった。
「剣の言うことはアテにならないね」
『……すぐに後悔することになるぞ』
無愛想な剣の相手をしながらもうかなりの時間歩き続けているというのに、誰もこの吹雪に引っ掛かってくれないのだ。
「視界が悪すぎたかなぁ?」
辺りを見回しサレは隣の男に話しかける。
――しかしヴェイグは見えない誰かと会話しているようでサレの言葉に答えちゃくれない。
もう何度目か分からない一方的な問いかけになったのに、予想はしていたとはいえサレは大きな溜め息を吐く。
城に残してきたあの3人くらいは追いついてきてもいい頃合だとは思う。
思いっきり痛めつけてやったのが悪いのか、それとも城に現れた新たな侵入者によって全員殺されでもしたのか。
「はぁ。疲れた疲れた。グミあるけど食べるかい? 生憎ラズベリーグミでもピーチグミでもないけど」
見たことのない色をしたグミを摘んでサレは言う。
「……黙れ五月蝿い一人で食べていろ」
小さく動く口からこぼれた言葉が可笑しくて、退屈がほんの少し紛れた気がした。
仕方なく自分だけグミを摘んで食べながら、もうひとつはザックに戻した。
グミの味はサレの舌を満足させた。
「おや、ようやく誰か来たようだ」
吹雪の先に揺れる人影。
細長いそれは間違いなく得物を持ち、そして獲物を探しているシルエット。


「えー誰だっけ? あー見たことあるよ確か――ウッドロウ・ケルヴィンさんとデクスさんでしたっけ?」
聞いたことのある別人の名を言いながら、男は血濡れの曲刀を突きつけてきた。
『シャルティエ!?』
『えっ、イクティノス!? なんで? じゃあこの吹雪は一体……それに凍ってるし』
「おやお友達がまた一人。俺も仲間に入れてよ武器同士さ」
イクティノスと同じく喋る剣であるシャルティエとの会話に、別に剣でもないハスタが混じる。
サレはようやく現れた参加者を前に、ヴェイグの身体を正面を向かせるようにぐいと肩を引っ張った。
「ほらヴェイグ、誰かの血で汚れてる人が来たよ。クレアちゃんを殺した犯人かもね」
「……クレアを、殺した……?」
すう、とヴェイグが纏う空気が一瞬にして研ぎ澄まされたものに変化する。
「クレア、クレア、クレアねえー……んーああ、お花ちゃんのことかなもしかして。なかなかいい色してましたよ。
 ちょうどここら辺の地面に残ってるんじゃないかなー今は見えないけど。赤いお花ちゃんは残念次回のハスタ先生の活躍をお楽しみください!」
ぴくり、とヴェイグの肩が震える。
そういえばクレアちゃんも髪に可愛らしいお花、つけてたっけ。
ついでにかわいい赤のワンピース着てたっけ。
ハスタが殺したのは誰であれ、絶妙にクレアを連想させる言葉にサレは可笑しくなった。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:24:58 ID:DzAaEbpoO
支援
141心の行方 3:2008/09/20(土) 16:25:12 ID:9E07fWmCO

「さーて来週のハスタさんは?
 ――ハスタです。真夏の海岸で海水浴を満たそうと思ったら外は猛吹雪。うっかり財布も忘れて出かけてしまいました。
 さあ目の前には2人の男。丁度いい解決策は……?
 次回、もちろん皆殺し、もっと皆殺し、更に皆殺し、の3本です。お楽しみに!」
『ひええぇぇイクティノスごめん、同室のよしみで許してよ!!』
『お前が連れてきたのかシャルティエ……! ダメだ、こっちの持ち主も錯乱している!』
「お相手するかどうかは君に任せるよ。殺さないと殺されちゃうって言っただろう? 君のだああぁぁい好きなクレアちゃんを殺した犯人かもしれないよ?」
「違う、駄目だ、五月蝿い、殺す、絶対、殺しちゃ駄目だ」

3人と2本の噛みあわない会話が終わるのはほぼ同時。
そして同時に雪に上書きされた砂を蹴って、ハスタが飛んでくる。
切っ先は頭を抱え呻くヴェイグ。
見守るのは意地悪く笑うサレと、どうしようもない2本の剣。

「ハスタキーック!!」

眼前に迫る血塗れた銀の切っ先。

フラッシュバックする。
目の前で貫かれたリカルド。
重なる。
心臓を貫かれているのはリカルドじゃない。
だらりと力なく垂れた腕。
細い指先。
赤いワンピースの色が、更に濃くなる。
崩れ落ちる身体。
それは全て、大切な、大切な、守りたかった、守れなかった――

「――――クレアアアアァァァァァァァ!!!!」

瞬間に薙ぎ払ったイクティノスがシャルティエの切っ先を逸らした。
がつんと当たったのは彼の胸甲。
ぴしりと微かにヒビが入るが彼の身体に傷をつけるに至らない。
轟、と青い光が爆発し、吹雪が勢いを増す。
「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
吹き飛ばされたハスタの身体を切り刻んでいくのは鋭い氷の結晶。
アイスニードルよりも、アイシクルよりも、それにエアスラストの鋭さが加わったように研ぎ澄まされた。
「駄目だっ、駄目だっ、駄目だぁっ!!」
僅かに残った理性が口から否定の意思を紡ぎだす。
けれどヴェイグの身体は止まらない。
完全に暴走したフォルス能力者は己の身の危機には敏感に反応を返す。
己の身を傷つけようものならば、力の矛先を全てそちらに向けて全力で排除にかかるのだ。

「心の力、ねえ。なんて不安定で脆い力なんだろうね?」

特等席で観戦しながら、サレは腹を抱えて嘲笑う。
ヴェイグの頭上で狂ったように回転するフォルスキューブの勢いは止まらない。
2本の剣が交差し、血が飛び交い、そのうちそれは一方的になる。
「あれーへんだにょー」
身体が思うように動かなくなっているのにハスタはようやく気がついた。
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:25:19 ID:evzNf4+KO
支援支援
143心の行方 4:2008/09/20(土) 16:28:41 ID:9E07fWmCO
凍り付いているのだ、己の身体が。
ヴェイグが無意識に発動させていた絶・霧氷装。
それがハスタの足を氷で覆い固めていたのだ。
バランスを崩してハスタは柔らかい雪と砂が混じった地面に尻をつく。
見下ろす鋭い眼光は青く凍てついていた。
ぶすり、ぶすりと鈍い音がして、氷ごと足が鋭い剣に貫かれる。
一心不乱に剣を突きたて続ける男に触れる血飛沫は、触れた傍から氷になってぱらぱらと零れ赤い雪と化す。
「……あーねえ、参った参った、俺の負け。だからもう許してお願いシマス」
ハスタはシャルティエを握りながら、ザックを漁り名簿を取り出す。
「ほらよく見たらやっぱり違ったでしょうお兄さん?
 俺はこのクレアさんを見たことがありません。俺が殺ったのはこの黒猫ちゃん。殺り損ねたお花ちゃんはこっち――」
「――――っ!!!!」
ハスタの命乞いは逆効果だった。
成り行きを見ていたサレは「ぷっ」と声を上げて吹き出す。
ハスタが指差したのはそう、ヴェイグがクレアと同じくらいに大切な仲間の姿だったのだ。
「ああああああああぁぁぁぁッッッ!!!」
また爆発。
ヴェイグの瞳は最早何を映しているのだろうか。
ハスタが差し出した名簿が、ハスタの身体ごと貫かれていく。
鈍い音。水の跳ねる音。風の唸り。
そのハーモニーに加わった男の絶叫。
花を求めた快楽殺人者は、蜜を求める蜂の巣になっていた。

「はい、よく出来ました!」

サレはもう笑いが止まらないといった様子で拍手とばかりに凍った右腕を左手で叩いた。
ようやく手を止めたヴェイグは何も言わず、ただ肩を揺らして荒い息を繰り返している。
「楽しかったかい? 気持ちよかったかい? 人の命を奪う瞬間はさ?」
ようやくヴェイグの脳に、サレの声が意味を持った言葉として届いた。
――人の命を、奪う瞬間?
「……ぁ」
足元を見る。
赤く染まった雪がそこには積もっていた。
全身に穴を空けた男が一人、その隙間から覗いていて。
「…………あぁぁ」
手にした剣は、リカルドのものとは違う血で真っ赤に染まって。
「………………ああぁぁ」
自分の血とは違う血が、氷となって身体中に付着していた。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
中途半端に残った理性ははっきりと覚えていた。
自分が何をしたのかを。

正当防衛? 向こうが先に襲ってきた?
だからといって殺す必要はなかっただろうヴェイグ・リュングベル。
相手は負けを認めて命乞いまでしていたんだぞ。
なのにそれを無視して俺は一方的に殺した?

(ユージーンの仇はとれたじゃないか。その調子でクレアの仇も見つけ出して殺せばいい)
(殺してしまった、殺し合いに乗ってしまった? いいや未だ戻れる、生きて、罪を受け止めて、償うんだ)

心が真っ二つに割れてせめぎあう。

「さあおめでとうヴェイグ! もう後には戻れないよ。君は殺したんだから。君の心の力、フォルスの力で殺したんだよ!」

がくり、と両膝が地についた。
144心の行方 5:2008/09/20(土) 16:32:21 ID:9E07fWmCO
殺した男の虚ろな目が、ひび割れた心を貫いていく。
目を逸らしたのに、何処からか手が伸びてきて顔を動かしてそれを許してくれなかった。
「暴走状態のフォルス能力者は本能のみで行動する。君もよく分かってるじゃないか。君の本能は、心は、選んだんだよ! 『殺す』ことをね」
「違う……違わない……俺は……ただ……ただ、守り、殺し、たかった、だけなんだ……」

何を? 誰を?
――分からない。分かりたくない。
何かが音を立てて、身体の奥で崩れていくような気がした。
ゆっくりと静まっていく、吹雪。
深々と青年の身体に積もっていく雪は溶けない。

壊れたように動かないヴェイグの表情がたまらないといった様子で、サレは心の底から楽しそうな笑みを浮かべた。
「最高だよヴェイグ。今の君の顔! 是非クレアちゃんに見せてあげ――」

『――――ッ!!』
「――――っ!!」

静寂を保っていた二振りの血濡れの剣が、打たれたように共鳴し震えた。
静かになった雪と入れ替わりで溢れる狂気と殺気と威圧が複雑に絡み合った気配にサレは本能的にフォルスを発動させ、遥か上空へと逃げた。
(何だ、あれは)
渦巻く風を足場に、サレは動かぬはずの右腕もが震えるのを感じた。
(ヴェイグを置いてきちゃったのは残念だけど……ま、もう戻れないだろうね。せいぜい死なないように頑張って、応援しておくよ、トモダチとしてさ)
サレは未だ残る暗雲に紛れ、どこかを目指して飛んだ。



静かに降り落ちる雪の中に、血塗れの王は立っていた。
空に逃げた何者かに向けていた視線を地面に戻す。
「よもやこんな場所で再会するとはな。ソーディアンどもよ」
『ミクトラン――どうしてお前が!!』
『やはりお前もいたのか――!!』
「再会の挨拶はここまでにしておこう。――さて」
ミクトランの視線の先にいるのは一人の生きた男と一人の死んだ男。
案外簡単に首輪の提供者が見つかったことにミクトランは唇を吊り上げる。
散々視界やら足やらを妨害してくれた溶けない雪は、生きている男が発生源なのだろう。
晶術やレンズの力、神の眼の力とも異なる力。
それを発する炎の剣に触れれば雪は溶けたが、雪と炎の剣はどうも異なる力を源としているように感じられた。
ミクトランは顎を撫でる。
王たる者に必要なものは何か。
至高の能力、頭脳、力、居城、支配すべき土地……そして統制すべき人民。
己に課した問い番外編はあまりにも簡単だった。
(王たる私が自らの足で歩き回る屈辱、二度と味わってなるものか)
茫然自失で跪く男の首に剣を添える。
じゅっ、と音がして、青年の首まで侵食していた氷がじわじわと溶けていく。
制限時間は首が焼き切れるまで。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:35:07 ID:dtUYueas0
支援
146心の行方 6:2008/09/20(土) 16:35:19 ID:9E07fWmCO

「問四だ。語呂のいい数字だ。簡潔に行こう。
 ――今死ぬか後で死ぬか。どちらが良い? "協力者"」

降りしきる雪と同じ色の髪を持つ青年は、ミクトランの方を見なかった。
ゆっくりと溶けていく氷。
なかなかしぶとい、とミクトランは嗤う。

「……俺は……」

青年はたった一粒だけ涙を零した。
頬を伝わり終える前に、それは青年の纏う青い光に触れて凍り、頬に氷となって貼りついた。

――生きて、皆殺して、仇を討つんだ、クレアの。
――生きて、クレアの遺志を継いで、殺し合いに乗らずに帰る道を探すんだ。

どちらの自分が正しいのか、分からない。
血塗れの剣、血塗れの手。
首をゆっくりと襲う熱。
凍りついた身体を、心を、溶かしてくれる。

「…………生きたい…………」

ふたつの心がたったひとつだけ共通する目的。
生きること。
それがきっと自分の本当の、心から思っていること。
『死んで自分だけ楽しようなんて許さない』
大切な誰かが言っていた台詞が、頭の中に響いた。
都合のいい選択だと分かっている。
生きたいと乞った誰かを今さっき問答無用で殺したばかりじゃないか。
それでも悲しいほど、彼の心は不安定ながらも強かったから、答えてしまった。
彼の心は、ただそれだけを強く願った。

王は笑い、剣を退ける。
青年の首に残されたのは一筋の焼印。
さながらそれは、支配者に忠誠を誓い項垂れる民の構図だった。
147名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:37:07 ID:5m2o7d060
支援
148心の行方 7:2008/09/20(土) 16:37:29 ID:9E07fWmCO



【サレ 生存確認】
状態:HP80% TP95% 胸部に痛み(傷はない) 右腕に凍傷(肘上まで完全に凍結) 左足に裂傷
所持品:ペイルドラグ ガーネット ミックスグミ×1 イオンに支給された水、食料
基本行動方針:ゲームに乗り、ヒトの心を否定する
第一行動方針:とりあえずこの場から離れる
第二行動方針:ヴェイグらへの復讐
第三行動方針:アリスは殺さない。
現在位置:D3上空→?

【ヴェイグ・リュングベル 生存確認】
状態:HP70% TP50%(暴走による) 右手に切り傷、身体じゅうに切り傷(暴走の効果で凍結済)
   クレアの死とハスタを惨殺したことへのショック フォルス半暴走 微かに理性有?
所持品:金のフォーク ソーディアン・イクティノス(俺マジオワタ/(^o^)\ )
基本行動方針:生きたい
第一行動方針:???
現在位置:D3

【ミクトラン 生存確認】
状態:HPTP100% 血塗れ 雪塗れ 雪の中歩き回ったことによる多少の疲労 頬にかすり傷(銃弾による)
所持品:フランヴェルジュ ブルーキャンドル
    イリアのサック(デザートイーグル 銃弾×20 ??? ???)
基本行動方針:ピエロ含め皆殺し
第一行動方針:塔を登り、周囲の状況の確認
第二行動方針:首輪を確保し協力者を利用する
第三行動方針:サイグローグとの腹の探り合いを楽しむ
第四行動方針:あの森(ガオラキアの森)には二度と足を踏み入れたくない
現在位置:D3

※ハスタの死体(首輪つき)、ソーディアン・シャルティエ(僕モオワタ/(^o^)\ ) はD3のヴェイグの傍に放置されています。

【ハスタ・エクステルミ 死亡】

【残り53人】
149名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:38:43 ID:9E07fWmCO
終了です。支援ありがとうございました。
一辺避難所通した方が良かったかもしれない…
150名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:43:49 ID:zok1NM9/0
投下乙!
ヴェイグ人形マーダー化……か?
にしてもマーダーが死んでくぞナンテコッタイ/(^o^)\
そしてシャルティエに噴いた
151名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:44:08 ID:mk+pNPHjO
投下乙です。
皆よく飛ぶなあ。いやはや。
フラグ折られたからって泣かないよ。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:52:08 ID:DeMmCCMA0
投下乙、自分もハスタは好きだったけど、
書き手さんが散々書きにくい言ってるから停滞するよりはましだと思われ
主人公があれで、I勢がとうとう残り2人になって、1stのL勢を見てるようだw
153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:52:34 ID:QI1dzZy30
投下乙です!
ハスタ…orz ミクトランの第四行動方針ちょっとワラタ
そしてシャルティエとイクティノス/(^o^)\

>>135
上二つとソルムに関してはいいと思う
・魔術仕様可、属性付与
は断言はできないけど
魔術→人間であるブルートが魔術を使っていたのはソルムのコアを持っていたためと推測できる
属性付与→ソルムを所持していたデクス、ブルートが共に地属性なのに加え
リヒターの属性変化(普段水属性→ラストでは火属性)がアクアの影響と考えられる
が根拠でいいのかな?
あと周囲への環境被害はS世界限定だと思ったんだが・・・
154名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:53:10 ID:dtUYueas0
投下乙です。ああ窓辺のマーガレットさんが…!
ユージーン殺害暴露が痛かったな…イノセンスがどんどん死んでくorz
ヴェイグはみっくんの臣下兼人形マーダー?
そしてソーディアン共自重しろw
155名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:53:17 ID:k0k2blRlO

銀髪主人公みんなオワタwww

それにしてもハスタが死ぬとは意外だった
ヴェイグがマーダー化したし、マーダーはまぁ足りてる……かな?
156名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:53:41 ID:9sQ7+smk0
投下乙です!
なんか1stのティトレイ思い出すなぁ、ヴェイグ…
ソーディアンのやり取りになぜか和んだ
157名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 16:55:56 ID:stpXceJh0
投下乙
1st優勝者が1st主催者の人形マーダー化っていうのは構図的に面白いかも
マーダー一人減っちゃったけど
あとソーディアンども自重www
158名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 17:00:37 ID:rdnIS5I80
ヴェイグとミクトランってのも、なかなか因果なモノを感じるなあ
面白かった、GJ!
159名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 18:16:06 ID:/kthPtUnO
乙!前半小ネタ満載で笑ったwサレの台詞も秀逸だしすごく面白かった!
だがハスタさん瀕死→なんか覚醒という流れを期待しなかったこともないw
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:29:04 ID:qm2YpgyU0
投下乙!小ネタが秀逸すぎるww
こんな面白い作品の後だと投下しづらいんですがw投下します。
161わかれみち 1:2008/09/20(土) 19:30:01 ID:qm2YpgyU0
館に戻ってきた二人を待っていたのは、テーブルの上に地図を広げて何かを話し合っている四人の姿だった。
マオ、と皆が心配そうな視線を向けるがマオは笑顔でそれに応える。
一人でもマオなら大丈夫だったけれど、エルレインはマオのことを抱きしめてくれた。
頭を優しく撫でてくれて、会話はなかったけれど慰めてくれているのは分かった。

(僕はまだ、大丈夫)

母である聖獣フェニア、父のようなユージーン。その二つをも併せ持つような包容力を持つエルレイン。
初めは変なおばさんだと思っていたけれど、マオの支えの一つとなってくれている。
館に戻るまで繋いでいた手を離し、マオとエルレインはその話し合いに参加することした。
まとめ役はクラトスだ。彼が掲げるのはこの島からの脱出。サイクローグの打倒。
成し遂げるには、多くの参加者の協力が必須だ。
純粋な戦力、情報、首輪の解除。やらなければならないことはたくさんある。

「この館を、その拠点として使いたい」

地図を広げてクラトスは説明を始める。クルシスの中枢にいたこともあって、こういうことには慣れていた。

「ここは海と山脈に囲まれ一見不便なように見えるが、それは敵にとっても同じことだ」

ここでの敵とは殺し合いに乗っている人物のことを指す。こんな不便な場所に、好き好んでやってくる人間などいないだろう。
人を殺し、優勝したいなら尚更だ。より人が集まりそうな場所に向かうに違いない。クラトスだったらそうする。
それを利用するべきだ。情報や仲間を集め、落ち着いて考えることができる場所。ここは広さも、設備も十分だ。
さすがに精密な機械やそれに準ずるものは置いていないが、そこは臨機応変だ。
まずは人を集めなければならない。志を同じくする者、技術者、争いを止めるために協力は必須だ。

「誰かはこの場所に残ったほうがいいのだが、」

拠点が無人なんて普通は考えられない。
ちらり、とクラトスは仲間の姿を見た。進んでこの場所に残りたい人間などいないだろう。
誰もが仲間の身を案じてすぐにでも駆け出したいに決まっているのだ。

「私はウッドロウ様を探しに行きたいです!」
「俺もルビアが心配です!」

放送を聞いてからじっとしていられないように落ち着かなかった二人は真っ先に名乗り出た。
この必死の懇願を無下にできるはずがない。カイウスとチェルシーの仲間は幸いなことに放送で呼ばれることはなかった。
だからこそ気が焦るのだろう。今ならまだみんな無事だと分かったのだから。
次に動いたのはマオだ。立ち上がったマオにエルレインも続く。

「ヴェイグやアニーが心配だからネ。僕は行くよ」
「私もここで為さなければならないことがあります。それに、」

エルレインの視線がマオを捉えて、彼女は表情を緩めた。
みんな僕がいないとだめだめなんだから!とカイウス達に親指を立て笑うマオの傍にはエルレインがいる。
次々と役割が決まっていく。残ったのはクラトスとフォッグのみ。クラトスはどうするのかとフォッグの顔を見た。
ん?と首を傾げたフォッグはクラトスの答えを待っているようだ。
クラトスとしてはロイドが心配である。そして、ミトスの存在も気になる。
だが、フォッグも仲間がいて同じような気持ちではないだろうか?
そう思い再び視線を合わせると「おう!」と力強い声が返ってきた。

「心配すんな!アレだ。俺さまに任せろ」
「……?」
162わかれみち 2:2008/09/20(土) 19:32:11 ID:qm2YpgyU0
これは、任せて行ってこい、という意味に捉えていいのだろうか?とクラトスは視線を細める。
フォッグは自由軍「シエルシカ」のリーダーであった。一つの場所でどっしりと構えるのは得意というか慣れている。
それに、フォッグはキールとチャットを信頼している。心配ではあるのだが、彼らは殺し合いなんかに乗らないだろう。
だから多分大丈夫。誰かがここに残らなければならないなら自分が残ろう。
そうリーダーである器の広さで思っているのだが、言葉にはならなかった。フォックは語彙力が少ないのだ。
一人で残ることにも不安はない。彼は『不死身』とまで呼ばれるほどに頑丈な男だ。使い慣れた武器もある。

「任せても、構わないのか?」
「おう!任せとけ!」

不安はあったが、豪快な笑顔にその気持ちは掻き消されてしまう。

「サイクローグをぶっつぶせー!」

フォッグが腕を掲げる。おー、といくつかの声が続いた。方針は、決まった。


出発する前に、六人は互いに武器になりそうなものを交換した。
これから先、争いが避けられないことがあるかもしれないからだ。
ゆっくりなどしていられない。今、この時にも島のどこかで殺し合いが行われているかもしれないのだから。
一部を除いて六人の殺し合いを止めたいという思いは共通だ。

「では、私たちは南下しよう」

クラトスはチェルシーとカイウスを見ながらそう告げる。
組み分けはカイウス・チェルシー・クラトス組とマオ・エルレイン組となった。
子供二人では心配だったクラトスがカイウス達に付き添う形だ。

「じゃあ、僕たちは東に行くネ」

その言葉を受けてマオは答える。東からそのまま南下して東の大陸を中心に捜索する。
クラトス達は西の大陸を、という形だ。
主な目的は仲間の捜索と情報収集。信頼できそうな人物に会えたらこの屋敷のことを教え、仲間を集めていく。
拠点の情報を伝える相手には十分に注意しなければならない。そのことをよく確認したあと、二組は分かれた。
残ることになるフォッグに無理はするな、とだけ言ってから無事に再開することを誓い合う。

五人が館を離れて幾ばくかの時間が経った頃、ちょうど行き違うように四つの影が館の前に立っていた。

「でっかい家ねー」
「静かに」
「誰かいるかな……」
「警戒は怠るな。……行くぞ」

リヒターの声と共に室内に足を踏み入れた四人が見たのは、

「おおう!?………誰だ?」

銃を構えてこちらを見据える金髪の大柄な男だった。
163わかれみち 2:2008/09/20(土) 19:32:57 ID:qm2YpgyU0
【クラトス・アウリオン 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:エクスカリバー、マジカルポット バスケット(中:ストロベリークレープ リンゴ) フォーク 模造刀
基本行動方針:仲間達に会う。争いを極力避けつつゲームを止める
第一行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
第二行動方針:仲間を増やす、首輪を解除する、脱出方法を探す。
現在位置:B5

【チェルシー・トーン 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:包丁 レッドランタン 手作りの弓 手作りの矢×30 チェスターの矢
基本行動方針:仲間に会う・ウッドロウ様を守る。これ以上の人死は許さない。
第一行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
現在位置:B5

【カイウス・クオールズ 生存確認】
状態:HP100% TP90%
所持品:サック一式(ランタンなし)、ファルステヴェルン、スタンドファーム、マゴノテ
基本行動方針:サイグローグを倒す。他人を助けられる強さが欲しい
第一行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
第二行動方針:ルビアを探したい。
現在位置:B5

【マオ 生存確認】
状態:HP100% TP95%
所持品:忍刀・東風、 ピクルスストーン
基本行動方針:ヴェイグたちと合流してサイグローグと戦う
第一行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
第ニ行動方針:ヴェイク達とカイル・デュナミスが気になる
現在位置:B6

【エルレイン 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:聖杖ユニコーンホーン、エルレイン不明支給品(武器ではない) 
基本行動方針:カイル・デュナミスの死 罪無き弱きヒトを幸福へと導く。
第一行動方針:カイルとその仲間達の抹殺
第ニ行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
現在位置:B6

【フォッグ 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:パナシーアボトル、メガグランチャー
基本行動方針:リッドの仇を取る。キールやチャットが心配
第一行動方針:拠点で待機。訪れた人物に対応。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)
164わかれみち 2:2008/09/20(土) 19:34:07 ID:qm2YpgyU0
【エミル・キャスタニエ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、マナの希薄さに困惑、マフラーなし、マルタと封印の件で焦り気味(現在は非顕在)。
    リーガル、プレセアの死に衝撃。クラースの行動へやや尊敬の念。
所持品:クィッキー、紫電、???
基本行動方針:マルタ、リヒター、イグニスとともに一刻も早く元の世界へ帰還する。
第一行動方針:フォッグに対応。
第二行動方針:マルタがとても心配。
第三行動方針:イグニスが気になる。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【リヒター・アーベント 生存確認】
状態:TP50%、健康
支給品:ストライクアクス、エバーライト、鎮魂錠
基本行動方針:ゲームに乗る気はない。ギンヌンガ・ガップの封印に戻りたい。
第一行動方針:フォッグに対応。クラースの言う転移術について調べる。
第二行動方針:元の世界に帰る方法を探す
第三行動方針:イグニスはどうにかしなければまずいな……。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【ルーティ・カトレット 生存確認】
状態:HP100% TP100% 半乾き 真剣
所持品:強力グミセット BCロッド
基本行動方針:死にたくはないがゲームは乗りたくない。
第一行動方針:フォッグに対応。
第二行動方針:3人とともに行動する。
第三行動方針:スタン、アトワイト達を探す。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【クラース・F・レスター 生存確認】
状態:HP100% TP100% 徹夜での野外活動によりお疲れ
所持品:ピヨノン 破魔の弓 グミセット
基本行動方針:ゲームには乗らず仲間を集め打開策を図る
第一行動方針:フォッグに対応。モリスン邸にある転移術の研究文献を探す。
第二行動方針:すずのためにも自分に出来ることをする。
第三行動方針:3人と行動を共にする。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:35:57 ID:qm2YpgyU0
投下終了です。六人の武器の分け方がおかしかったら指摘お願いします。
均等にしたつもりなんですが・・
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:51:21 ID:6Gndd+pt0
投下乙。かぶったけれど、やらんとしてることはだいたい同じだしGJ!
4人と遭遇しないって事はマオ組は真東に向かったでおk?
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:53:53 ID:+kjqapRy0
投下乙だけどシエルシカじゃなくてシルエシカなんだぜ
フォッグに説明が出来るのかどうかすごく…不安です
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 19:58:02 ID:DzAaEbpoO
投下乙
エルレインだけ行動方針w
フォッグが残るとかww
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:11:17 ID:ozZYbnjy0
冷静な大人が2人いるから大丈夫だと思いたい
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 20:31:26 ID:a7+FPLPC0
おお…ルーティとチェルシーがニアミスか!
ゾクゾクしたきたwww
エルレインは行動方針がアレだが、マオへの母親っぷりが萌えるw
フォッグとクラトスも頼りになるな
投下乙でした!
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:19:01 ID:QREJRHIoO
超乙。
フォッグはクイッキーと再会か、うまく会話できるのか不安だな…
これほどの人間がいても回復役がクラトスくらいなのが不安だぜ
172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:29:29 ID:dtUYueas0
回復役はエルレインさまもできそうかな?
とはいえ、東にはD2メンバーが多いから不安……
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 21:45:48 ID:HHxyk+hC0
なりダンや敵データでも回復術は使えないけど、設定上は多くの人々を癒してきたからなあ…
とにかく投下乙。マオレインが東ってことはジューダス組と会う可能性もあるのか?
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 22:22:49 ID:77rkgYuZO
テイルズ主人公、民度低すぎワロタww
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 22:26:56 ID:DdNXIyvtO
ジューダス様殺したら スレ埋めるから^^
気をつけてね

ジュゥゥダスゥサマァァァ
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 00:07:21 ID:6+5M1KJv0
そういえばクイッキーなんていたなwww
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 00:11:31 ID:9319VpxMO
何やかんやで東も大変になってきたな。
まあこれがロワの神髄か。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 00:42:11 ID:V7R53S9n0
あちこちでキャラが動き出して、どんどん面白くなってきたな
楽しみ過ぎてしょっちゅうこのスレリロードしてるよw
書き手の皆さん、本当にいつも乙です
179名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 10:14:49 ID:zlru4PLa0
今更だけど今回の話でHP100%の奴多すぎワロタ。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 10:38:40 ID:OwslvrD50
まあ激戦区の奴等と違って飯食ってのんびりしてるチームだからな。
マオの5%も服乾かしたりにしか使ってないし…。
それでもエミルの回復力は異常だけど…もしかしてリヒターずっと治癒術使ってたのかw
181名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 10:50:24 ID:ZeHBRTsIO
エミルHP100%!? いくらなんでも贔屓すぎやしねーか? すずにあれだけやられたのに。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:00:00 ID:297knjg9O
今さらじゃないか?
エミルは107話ですでに回復しきってるよ。
描写は途中までしかないけど、時間的には無理はないっしょ。
183名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:01:41 ID:fRcIxIJsO
状況表のHPとTPって結構曖昧だよなw
ルビアなんか残りTP18になってるのにHP60だったりするしw
リヒターはTP50でエミルHP100だ
書き手さんの感覚に任せる所があるからバラバラだ
休んでるはずなのにTP回復してないキャラもいるしさ
でもHP100でも死ぬときは死ぬし目安に過ぎないからいいかなとも思う
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:02:49 ID:Dmxj9UBWO
確かに…第1クールの最後では治癒術受けても『HP80%、TP95%』なのに…<エミル
第2クールに突入したらいきなり全快してる…気付かなかった。
これじゃ贔屓してると言われても仕方ないだろうな。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:17:56 ID:fRcIxIJsO
状況表は改めて比べるとおかしい奴がたくさんいるぞw
テイルズロワの特色でもあるけど、別に無くしてもいいと思うんだよなー今更だが
状況表の残りTP10が邪魔して展開に必要な術が撃てなくなったりすると嫌だし
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:24:19 ID:W7TnMz5a0
いや、それも展開のうちだろ<TP10云々
それに状態表は割合だから絶対値と違うぞ。
状況表からHPTPをのぞくのは自分は反対だな。

エミルについては、パラ修正か描写追加を求めればいいんじゃないか?
無くてもいい気もするけど。
187名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:25:42 ID:5bjED5zSO
時間経過を考慮に入れてない。
HPを回復させても休憩したらTPは回復するんだから、差分を考えれば相応でしょ。
第一、HP100%なだけで贔屓とか細か過ぎる。あくまで目安なんだからさ。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:35:05 ID:fRcIxIJsO
ごめん。
第一放送も終わってるし、本気で無くそうって気はなかった。

所詮は目安だからな。
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:45:10 ID:VSHE8Ij6O
マルタも回復力すごいがな 贔屓にしたかったけど言うわ
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:47:07 ID:ZeHBRTsIO
エミルはまぁ納得出来たけどマルタはちょっとやりすぎじゃあないだろうか………ズタズタ血だらけの瀕死からHP100……。
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:47:27 ID:MhIGqKNTO
ルークなんかはずっと寝てたけどライフボトル分しか回復してないな
192名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:48:53 ID:ZeHBRTsIO
HPは休憩で回復しないよ。TPだけ。だからルークのが正しいと俺は思う。
193名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:51:34 ID:fRcIxIJsO
殺し合いっていう緊迫状態だからなぁ
ルークはあんな夢見て、人殺した後の精神状態じゃ休めないだろ
マルタは…6時間引きこもってるからなw
エミルはすぐ移動して休んでないけどさ
194名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:53:59 ID:tRPACJpoO
贔屓ってか深く考えてなかっただけだと思うけど確かに回復しすぎな気がするな
今回回復アイテムや術師多いね
195名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 11:55:59 ID:fRcIxIJsO
違和感あると思ったらそれか!<HPは回復しない
196名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:00:38 ID:297knjg9O
まあいくら回復したって死ぬときは死ぬしな。
マルタのとこはアレだろ、二人とも回復手段ありだし、ひきこもってたし。



つうか皆もうちい落ち着け。
持ちキャラ死んだから他人の贔屓キャラが目につくとか匂わせたらダメだ。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:03:10 ID:R82vFv4n0
流石に肩貫通の怪我が完全回復してるのはどうかと思うんだが>マルタ
HP100%はともかく。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:05:29 ID:ogMuCIxj0
治癒術って制限されてるんじゃなかったっけ?
199名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:07:45 ID:Dmxj9UBWO
そ、そうだな、落ち着こう…クールになれ、クールになるんだ
キールが丸太を切ーる!
……よしっ、ということで。
とどのつまり、「ある程度は空気読んで状態表書こうぜ」って結論でいいんだよな?
200名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:08:21 ID:V2aX8TvJ0
されてるはず。あちこちのSSで本文描写もあるし。
でも、たまにつっこみたくはあるんだぜ。
だからこそナナリーとか思い出すとほんとにもう……。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:09:48 ID:V2aX8TvJ0
>>196
もっともな事言うなら、まずはsageをだな(ry
202名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:15:42 ID:R82vFv4n0
治癒術の制限は効果が10%以下に落ち込むのとレイズデッドで死者蘇生ができないってとこ。
マルタのHP変化は
74話(キールに回収された時点):HP35%、TP60%
95話(キールに回復してもらった):HP70%、TP60%  キールはHP100%、TP65%
115話(放送後):HP70%、TP85% キールはTP90%
119話(夜6時):キルマルともにHP全快

74-95の時点で、キールがエアリアルボードに使用したTP+マルタのHP35%を回復させるために
使用したTPが40%だけっておかしくない?
35%回復させるには50%回復のヒールを7回かけなきゃいけないんだよね?

ナナリーにヒールかけたリアラはHP30%をTP30%使って回復してるってのを参考にすると
……ごめん、おかしくないや。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:16:14 ID:K/6tJXDn0
肩貫通完治はおkなのか・・・・
204名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:18:16 ID:K/6tJXDn0
>>202
いやべつにそれはいいんだ。細かい計算とかめんどいしさ。
問題は体力じゃなくて傷が完治してる事だと思うんだが
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:18:46 ID:R82vFv4n0
あ、あとスタイレだけかな? HPTPの百分率がないの気になった。
マグニス焼死未遂させてるし右目潰されてるから減っててもおかしくないと思ったんだけど、
次の人は書いてくれると助かる
206名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:21:37 ID:ZeHBRTsIO
スタンは休憩しまくりだからTPは問題ない
207名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 12:52:35 ID:BnW3FXQuO
書き手さんが投下しづらくなるからやめようぜ
208名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:01:16 ID:VSHE8Ij6O
ジューダス様殺したら…分かってるよね^^
HP50パー以下にしたら荒れるよ このスレ
209名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:14:37 ID:166DYQNIO
回復術は十分の一以下の効果しかでないはず
今更だがエミルのHP100は回復しすぎかもしれないな
マルタは6時間引きこもりだからいいかもしれないけど
210名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:15:08 ID:AthhWv6H0
なぜまた蒸し返すかね
211名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:39:34 ID:P9UE+Pvg0
HP(エミル)TP(リヒター)経過はこんな感じだな。
ヒール(60%回復)のみ使用と仮定して、
回収時:エミル:55%、リヒター:95%
83話:エミル:80%、リヒター:45%
ここまででHP35%回復するために、TP50%使用
107話:エミル:全快、リヒター:50%
83話と同率ならHP20%回復に必要なTPは約29%、
かつ休憩と移動の間にリヒターのTPは2割程度回復ということか?
リヒターの最大TPがさりげなく低そうだなぁ。

ここまで書いてみたが蒸し返すのはよそうよ。
次はリヒターのTP低すぎとかいう輩が出てこないとも限らない。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:41:13 ID:P9UE+Pvg0
間違えた、多くてもTP回復は3割だな。
213名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:43:33 ID:eOb7SjuOO
また論点ズレてない?
マルタの肩貫通の怪我が1日経たずに完治してるのが問題なんじゃ?
214名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 13:51:04 ID:QOevZtRF0
別にズレてない。論点はSRの二人の回復が多すぎるってことだろ?
ゲーム中では治癒術もアイテムも回復させるのはHPであって傷そのものが
どうなるかって詳述がないから書き手さん次第になるのはしようがないのでは。
それこそHPと傷は別だって人もいるだろうし、連動させて考える人だっているって違いだろ。
もうほんとにいい加減にして欲しい。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 14:03:24 ID:Dmxj9UBWO
そうだぜ、もういいじゃないか。
これ以上話しても空気が悪くなるだけだ。
問題点が判明したんだから、それを踏まえて以降のSSを書いていけばいいだけのことだと思うぜ。
各々の主観が入るのは仕方ないことだし、後は各自が空気読むしかないだろう
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 14:06:12 ID:7BymXpVKO
とりあえず暇なのでまとめさんに乙しておく。
いつもありがとう。アイテム説明とか面白いです。
217名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 14:35:38 ID:AthhWv6H0
質問なんだけど1エリアってどれくらいの広さ?
218名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 15:17:49 ID:fRcIxIJsO
正確には決まってなかったような
それなりとしか言えん
219名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 15:26:40 ID:AthhWv6H0
そうか…
ありがとう適当にどうにかするよ
220名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 15:37:23 ID:5bjED5zSO
1マスなら近い。2マスなら移動すれば会える。3マスならそれなりに時間かけないと会えない。
自分の認識はこんな感じ。
221名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 18:29:30 ID:xewBkCEy0
キャラがまた動きまくってるから場所が混乱するなww
222名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 18:43:03 ID:ZeHBRTsIO
そんな貴方に
つまとめサイト

…そう言えばサイグロのセリフが更新されてたな。
223179:2008/09/21(日) 19:29:03 ID:zlru4PLa0
俺の話した一言で空気悪くなったな、スマン。
224名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:34:19 ID:QOevZtRF0
投下します。
225走れ!1:2008/09/21(日) 19:35:15 ID:QOevZtRF0
銃を構えた男を前に、4人の反応は見事にばらばらだった。
眼鏡の青年は警戒もあらわに得物を構え、黒髪の少女は思わず後ずさる。
青い衣の少年は青年に一拍遅れでカタナの鞘に手をやり、
奇妙な出で立ちの男はしんがりから彼らと戸口の向こうにいる男を俯瞰する。
そしてそのまま向き合うこと、一・二・三・四・五秒。

「坊主達、ひょっとしてアレか?」

(『アレ』?)

銃口の向こうから届いた男の声に、浮かぶ複数の疑問符。
いちはやく結論を出したのは、男が先に呼びかけた少年ではなく、その知己たる青年だった。
「見ての通りだ、俺たちは『乗って』いない」
ちゃき、とあえて鍔を鳴らして武器を退く。傍らの少年に目配せして、同じように刃を仕舞わせた。
それを見た大男の反応は早く、そして簡潔だった。
「おう、そうか。俺もアレだ」
銃口を下ろし、半身を退く。どうやら入って構わぬと言うことらしい。


  ◇
226走れ!2:2008/09/21(日) 19:37:22 ID:QOevZtRF0


『俺たちはクラースを手伝う。お前はここでフォッグから話を聞け』

そう言い残したリヒターがエミルを引き連れ、部屋を出て言ってからしばし。
ひどくもどかしい遣り取りの末、捕まえたソレを少女が逸った口調で確かめる。

「つまり、チェルシーは南へ向かったのね?」

「おう、そうだぜ。嬢ちゃん」

玄関先の柱に身を預けたまま鷹揚に頷く男。
それを確かめるや否や、ルーティが踵を返して屋敷の奥へと向かう。
227走れ!3:2008/09/21(日) 19:38:00 ID:QOevZtRF0



すっかりクラースの助手の態で本を繰るリヒターと慣れない手つきのエミルが、
飛び込んできた騒がしさに行の波間に落としていた視線を上げる。
そこにいたのは予想的中、顔一杯にもどかしいと書かれた少女だった。
顔を上げた二人には目もくれず、クラースの荷物から弓を手にする彼女へ、リヒターが短く一言。

「行くのか?」

「仲間が南へ言ったらしいの。おっさん、弓借りるわよ」

手元から視線を向けず、答える少女。
本に没頭しているのか答えないクラースを待たず、自分のサックへと弓を仕舞う。
一方、そんな少女を気に掛けてすっかり指と目が止まってしまったらしい淡い金髪の少年。
聞こえないようにため息を吐くと、リヒターは彼に助け船を出してやることにした。

「エミル、ルーティと一緒に行ってやれ」

「いいんですか?」

「ここにお前がいてもいなくても大して変わらん。構わないから行って来い」

本からは目を上げず、淡々と告げる。マルタという単語は口にはしない。
与えるのは、ルーティを名目に外で出ることを認める言葉だけだ。
それだというのに、上げない視線の向こうでは、矢張り頭を下げるような気配がした。

「ありがとうございます、リヒターさん」

「別にいい。エミル、無茶はするな。
――ルーティ、こっちへ来い」

窘める言葉を掛け、顔を上げる。ただし頷いた少年ではなく、少女へとだ。

「何よ、急いでるのに」

「いいから来い」

「あー、はいはい……これは?」

口を尖らせ渋る娘を強い視線で招き寄せ、上着の中のそれを袋ごと握らせる。

「説明は中だ、持っていけ。エミルを頼んだぞ」

「不親切ね。ま、いいわ。エミル、行くわよ」

本当に寸暇が惜しいのだろう。
潜めた声とともに渡されたモノを二度は質さず、少女は護衛役の少年を振り返った。
228走れ!4:2008/09/21(日) 19:38:46 ID:QOevZtRF0



ふたりの足音が途絶えてから、しばし。
それまでとんと会話に参加していなかった青年が帽子ごと頭を上げた。
エミルが心地よいと評した一音と彼の声が書物だらけの空間を静かに震わせる。

「エミル君達が心配かい?」

「当然だ。だが、俺がやらなければならないのはこちらなのだろう?
ここの書物、貴方には紐解けはしても扱えまい」

青年が自分に回してきた書物――悉くが魔術書だ――から顔を上げ、言う。
言葉にどうしても棘が出てしまうのは致し方ないことだ。
ハーフエルフが差別され迫害される世界で育った彼にとって、自分がそうであると言及することは容易ではないのだ。
たとい目の前の青年が、ハーフエルフを蔑視しない先の世の存在だとしても。
けれど、その常識はクラースにとって何の意味も持たないのだ。その証拠に、彼はとても飄々と言ってのける。

「私はエルフでもハーフエルフでもないからね。だけど適材適所というじゃないか。
もしここに転移術の使い方があったって私では宝の持ち腐れにしかならないんだ。
正直ね、君がいてくれて本当に心強いよ」

「そうか。ならば俺は期待に応えないといけない、ということだな」

「ああ、期待しているよ。さ、次はこっちもだ」

そう言って、クラースが片手で器用に押し示したのは新たな本の塔。
どうやら、出ていってしまったエミルのことで気を病んでいる暇はないようだった。


  ◇
229名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:40:45 ID:HQXkdtu10
支援
230走れ!5:2008/09/21(日) 19:43:01 ID:QOevZtRF0


「なんだ、もういっちまうのか?」

「ええ。仲間を追わなきゃ」

「僕は違うんですけど、ルーティ一人じゃ危険ですから」

「そうか。まあ、アレだ。気を付けろ」

「ありがとうございます。フォッグさんも気を付けて」

「奥にいる二人のこと、頼むわね」

「おう、任せとけ。行って来い」




そして、少しずつ長くなり始めた影を引き連れて、少年と少女は走る。

「チェルシー! いるなら、返事しなさいチェルシー!」

「チェルシーさーん!」

彼らを取り囲み、彼らの声を乗せ、風が吹く。島中央部に向かって吹き寄せる。
その先にたった一人の少年がいることなんて、一体誰が予想できようか。
少なくても走り始めたばかりの今の彼らには、どだい無理な相談だ。
231走れ!6:2008/09/21(日) 19:43:30 ID:QOevZtRF0
【フォッグ 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:パナシーアボトル、メガグランチャー
基本行動方針:リッドの仇を取る。キールやチャットが心配
第一行動方針:拠点で待機。
第二行動方針:奥くに籠もった二人を気に掛ける。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【エミル・キャスタニエ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、マナの希薄さに困惑、マフラーなし、マルタと封印の件で焦り気味(現在は非顕在)。
リーガル、プレセアの死に衝撃。クラースの行動へやや尊敬の念。
所持品:クィッキー、紫電、???
基本行動方針:マルタ、リヒター、イグニスとともに一刻も早く元の世界へ帰還する。
第一行動方針:チェルシーを追うルーティの護衛
第二行動方針:マルタがとても心配。
第三行動方針:イグニスが気になる。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【リヒター・アーベント 生存確認】
状態:TP60%、健康
支給品:ストライクアクス、エバーライト
基本行動方針:ゲームに乗る気はない。ギンヌンガ・ガップの封印に戻りたい。
第一行動方針:クラースの言う転移術について調べ、実践する。
第二行動方針:元の世界に帰る方法を探す。
第三行動方針:イグニスはどうにかしなければまずいな……。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【ルーティ・カトレット 生存確認】
状態:HP100% TP100% 真剣
所持品:強力グミセット、BCロッド、鎮魂錠、破魔の弓
基本行動方針:死にたくはないがゲームは乗りたくない。
第一行動方針:チェルシーに追いついて武器を渡す。
第二行動方針:スタン、アトワイト達を探す。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【クラース・F・レスター 生存確認】
状態:HP100% TP100% 徹夜での野外活動によりお疲れ
所持品:ピヨノン、グミセット
基本行動方針:ゲームには乗らず仲間を集め打開策を図る
第一行動方針:リヒターとともにモリスン邸にある転移術の研究文献を探す。
第二行動方針:すずのためにも自分に出来ることをする。
第三行動方針:3人と行動を共にする。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)
232走れ!状態欄修正:2008/09/21(日) 19:47:14 ID:Wyfp9Jqd0
【フォッグ 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:パナシーアボトル、メガグランチャー
基本行動方針:リッドの仇を取る。キールやチャットが心配
第一行動方針:拠点で待機。
第二行動方針:奥くに籠もった二人を気に掛ける。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【リヒター・アーベント 生存確認】
状態:TP60%、健康
支給品:ストライクアクス、エバーライト
基本行動方針:ゲームに乗る気はない。ギンヌンガ・ガップの封印に戻りたい。
第一行動方針:クラースの言う転移術について調べ、実践する。
第二行動方針:元の世界に帰る方法を探す。
第三行動方針:イグニスはどうにかしなければまずいな……。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)から

【クラース・F・レスター 生存確認】
状態:HP100% TP100% 徹夜での野外活動によりお疲れ
所持品:ピヨノン、グミセット
基本行動方針:ゲームには乗らず仲間を集め打開策を図る
第一行動方針:リヒターとともにモリスン邸にある転移術の研究文献を探す。
第二行動方針:すずのためにも自分に出来ることをする。
第三行動方針:3人と行動を共にする。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)

【エミル・キャスタニエ 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、マナの希薄さに困惑、マフラーなし、マルタと封印の件で焦り気味(現在は非顕在)。
リーガル、プレセアの死に衝撃。クラースの行動へやや尊敬の念。
所持品:クィッキー、紫電、???
基本行動方針:マルタ、リヒター、イグニスとともに一刻も早く元の世界へ帰還する。
第一行動方針:チェルシーを追うルーティの護衛
第二行動方針:マルタがとても心配。
第三行動方針:イグニスが気になる。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)から南へ

【ルーティ・カトレット 生存確認】
状態:HP100% TP100% 真剣
所持品:強力グミセット、BCロッド、鎮魂錠、破魔の弓
基本行動方針:死にたくはないがゲームは乗りたくない。
第一行動方針:チェルシーに追いついて武器を渡す。
第二行動方針:スタン、アトワイト達を探す。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)から南へ
233名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:48:12 ID:Wyfp9Jqd0
最後の最後でコピペミス、失礼しました。
以上で投下終了です。ありがとうございました。
234名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 19:52:11 ID:166DYQNIO
投下乙です
ルーティは合流なるか…?でも南下したらスタンと会う可能性も!
転移術から考察が進みそうでwktk
そしてクラースさんの行動方針で泣いた。すずちゃん…
235名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 20:03:59 ID:ogMuCIxj0
乙です
ついにばらけたか……
この先の展開にbkbr
236名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 20:11:23 ID:xewBkCEy0
投下乙
似たようなことやろうとしてて吹いたwGJ
過疎中央に人が集まってきたな。
マーダーはミクトラン組とサレ、アリス、アリエッタぐらいかw
あとダオスがどう動くかが鍵だな
しかし、対主催の戦力強すぎるそw
237名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:22:07 ID:297knjg9O
投下乙。ダッシュ精霊再びw
リヒターの回復具合からして一時間くらいの時差か。追い付けるかgkbr
238名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:29:10 ID:6e644IFu0
久々に投下。
239絆 1:2008/09/21(日) 21:30:33 ID:6e644IFu0

木々の間に見える人影へと、アリエッタは迷いなく突き進む。
クレスは全力で追いかけ、それでも間に合わない。二人の差は僅かに縮まるのみ。
負傷がたたっていることもあるが、それ以上に、あの少女は意外なほど身軽だった。
目眩がしそうになった。いっそあの少女を囮に使えと、クレスの中の邪が囁きかける。
だが、そんな邪念を打ち払うようにクレスは愚鈍に追いかけ続けた。
ナイフ一本で魔人に立ち向かう、少女の無謀を引き留めるために。

アリエッタの双眸は、既に前方に立つ男の姿を捉えている。
赤き眼光に深き悲しみと怒りを孕ませ、ナイフを握り締める手に力を籠めた。
目の前の男は、先ほど襲撃してきた男と同じ、金色の長い髪をなびかせた大柄の男。
それだけで、アリエッタの目には敵に見えた。自分を傷つける悪い敵。イオン様の敵。
悲鳴のような絶叫を上げて、猛然と突っ込む。あたかも獣の時代に戻ったかのようだった。

ダオスは、少女の絶叫を聞いて歩みを止めていた。
周囲を見渡し、そして程なく、声の主だと思われる少女を視界に捉える。
手に持っているナイフ、そして雄叫び。隠しもしない視線と殺気の向けられる先は、己。
魔人は苦笑した。しかし同時に、戦闘準備に入る。
今の支配マナは水。周辺で変化した属性マナがこちらにまで入ってきている。
だが、大樹に近いお陰で純粋マナも十分に存在する。魔人にとっては正にホームグラウンドといえた。
少女が接近するまでの時間は、今のダオスの置かれた状態からすれば余りにも長かった。


魔力を籠めた彼の両腕は、伝説の武器にも匹敵する。
アリエッタの突き出したソードブレイカーは、ダオスの左手に容易く握り潰された。
鉄の刃を、まるで紙を丸めるかのようにグシャグシャと。金属の破損音すら響かなかった。
そのまま、ダオスの右手がアリエッタの胴に押し当てられる。
マナの光が少女を貫通しているように見えた。血反吐を吐くアリエッタ。
そのまま彼女の小さき身体も、まるで風に翻弄される紙屑の如く吹き飛ぶ。
後方に詰めていたクレスが受け止めていなかったら、間違いなく死んでいた。
前方の魔人は、間髪入れることなく必殺のレーザーを放っていたのだから。
240絆 2:2008/09/21(日) 21:31:35 ID:6e644IFu0

クレスの俊敏性は、重傷の影響を受けているとはいえ侮れるものでもなかった。
吹き飛ぶアリエッタを受け止められる位置まで詰めて、そのうえでレーザーの追撃を察知していた。
ダオスレーザー。魔人を象徴する必殺技。直撃すれば人の身は塵も残らない高エネルギー密度の光線。
それを、アリエッタを抱えながら避けた。剣士としての身体能力の高さが幸いした。
ダオスレーザーは、避けきれずにかすったアリエッタのサックを喰らって、じきに減衰して消えた。
支給品である鉱石が、破れたサックから零れ落ちた。それをダオスは、何の気も無く拾った。

その間、クレスは逃げられなかった。逃げる気も無かったが。
ダオスレーザーだけで、単純な逃走は確実に封じられる。
背中を向けて逃げるなど、レーザーで殺してくださいと言うようなものだ。
そのうえ、今のクレスは少女を抱えなければならない。レーザー抜きでも逃げられはしないだろう。
――それならば。
クレスは安全な木陰にアリエッタを休ませて、斧槍を取り出した。
デュナミスを振るい、ダオスを撃退する。出来なければ、アリエッタ諸共に死ぬ。
剣士は構えた。魔人は、拾った石を懐に入れて、クレスを見て……笑った。

ギリギリと、デュナミスの長い柄を握り締める音が聞こえる。
剣士は臨戦の構えだったが、魔人は余裕の表情を崩していない。
「……どうした、ダオス。あんな少女を殴り飛ばしておいて、僕とは戦わないのか!
 それとも……僕の知らない間に、無力な少女しか相手に出来ないほど落ちぶれたか?」
安い挑発をする剣士。構える魔人に攻め入るのも容易ではないが、構えないのも不気味で攻め難い。
だが、それに対するダオスの反応は、クレスを驚かせた。

「……あの娘が無力な少女? なるほど、貴様はマナを知らぬ只の人間だったか……
 その目には、私が一撃を加えるまでの駆け引きは捉えられなかった、ということか」
241絆 3:2008/09/21(日) 21:33:09 ID:6e644IFu0

ダオスの目には、彼女は無力とも無謀とも映らなかった。
アリエッタは、怒りと悲しみに支配されながらも、戦術は見誤っていなかった。
魔人の両腕の魔力集中を見るや、接近速度を落として譜術を詠唱。
周囲が水の属性であることを生かして発動したのは、アクアプロテクション。
強力な不可視の魔法障壁は、集中すればダオスレーザーすら拡散させていただろう。
ゆえに、ダオスは漫然とダオスレーザーを撃つわけにはいかなかった。
アリエッタの攻撃を受け止め、反撃し、隙を作らなければ仕留められなかった。

「あの娘が握っていた武器が……
 もしもあの様な脆弱な代物でなかったなら、手傷のひとつも負っていたやもしれぬな」
魔人は、そう言ってアリエッタ評を締め括った。
決してクレスを笑いものにするために語ったわけではないが、しかし剣士の自尊心は傷ついた。
「……つまり、アリエッタはお前が戦うに値した、と?」
翻せば、今のクレスはダオスにとって相手にする価値が無い。
今は手負いの身体だと言っても、かつて魔人を打ち倒したという自負がクレスにはあった。
そしてそんな卑小な自負心など、ダオスにとって気を払う道理など何処にも無かった。

「一度だけ言おう。私の邪魔をしないと誓うなら、この場は見逃してやっても構わぬぞ」

「ふざけるな!!」クレスは吼えた。
斧槍を両手に持ち、魔人との間合いを一気に詰める。
跳躍しながら振り上げ、そして振り下ろす。虎牙破斬がダオスを襲う。
しかしダオスは、軽やかに後方に動き、髪の毛一本の差でかわす。
その目は、眼前でむき出しの殺気を放つ剣士を、全く脅威として見てはいなかった。
流麗な動きで、着地したクレスに右腕を押し当てる。テトラアサルトの初段が、クレスに入った。
242絆 4:2008/09/21(日) 21:34:22 ID:6e644IFu0

初撃。
――ふざけるな!! お前が今までやってきたことを、後悔させてやるぜ!!
――ふはははは! 障害物があってはつまらぬからな! 全精力を振り絞って戦おうではないか!!

二撃。
――わ、私は放っておいてもすぐ死ぬ。だから……その前に聞いてくれ
―――教えてください。あなたが、何のために戦っていたのか……

三撃。
―――信じられますか? ダオスが、自分の星を救うために、戦っていたなんて……
――早とちりするな。奴だってさんざん人間を殺している
―――これから、ユグドラシルに、マナ流出を防ぐバリアーを張ります。
―――いつかきっと、大いなる実りが生まれてくるはずです

四撃。
――――この世に「悪」と呼べるものがあるとすれば。……それは人の心だ
――――そして。最も恐れるべきもの、勝たなければならぬもの。……それが自分の心だ


ダオスは叫んだ。
突如として脳裏に流れ込んだビジョン。そして想い。
それらがダオスの五体を縛り付け、迷いと混乱を生じさせた。
結果。クレスを吹き飛ばすには十分だったが、不完全な攻撃に終わってしまった。
243絆 5:2008/09/21(日) 21:35:53 ID:6e644IFu0

(――何の光景だ!? 私の敗北、そして……)
クレスを打ち据える度に垣間見えたビジョン。そこにあったのは、己の敗北と死。
だが、その先に見えたのは……母星の再生。そして、全ての罪過の清算の道筋。
それは遠くない未来なのか。それとも、忘れえぬ悲しき過去の記憶なのか。
ダオスは懐に仕舞った鉱石を取り出した。……それは、淡き赤色光を放っていた。

剣士は、半分死んでいた。
途中で力が雲散霧消したとはいえ、魔人の放つテトラアサルトをまともに受けたのだから。
並の体力では立ち上がれないだろう。だがそれでも立ち上がるのが、クレス・アルベインなのだが。
「……ハァ、ハァ」
ただ立っただけだ。斧槍は杖の役割しか果たせていない。
それでも、目は死んでいない。いや、むしろ眼光は力強くなってきている。
尤も、今のダオスにはクレスは視界に入ってすら居なかったのだが。

ダオスにとって、戦いは既に終わっていた。
テトラアサルトの真髄は、攻撃の威力と付随する魔力の二段構えにある。
立ち去る魔人を追おうとしたとき、クレスはそのことを思い出すこととなった。
剣士の足は、灰色の石と化していた。
後ろを見ると、先に一撃を喰らった少女は全身が灰色に包まれていた。
石化の魔力。それがクレスの身体を加速度的に蝕んでいく。
244名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:35:58 ID:/wqVDzjB0
支援
245名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:36:48 ID:R82vFv4n0
支援
246絆 6:2008/09/21(日) 21:36:49 ID:6e644IFu0

石化が進む。




――サックからパナシーアボトルを取り出す。



――封を開ける暇が無い!!



――駄目だ!! クソっ!!!




そして剣士は石化した。
247絆 7:2008/09/21(日) 21:37:38 ID:6e644IFu0

クレスが石化しきる寸前、ガシャンと音がした。
アリエッタの石像にパナシーアボトルがぶつかり、そして割れた音だ。
だが、魔人はそれを意にすることも無く、フラフラと森の奥へと消えていった。


【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:HP20% TP85% 失血による貧血 マント破損 疲労 石化
所持品:デュナミス パナシーアボトル×2 首輪 リーガルのサック(スコップ ???)
基本行動方針:ゲームを止めるため同志を募る。守る側の存在になる
第一行動方針:今、成すべき事を早く考える
第二行動方針:リーガルさんを殺したのは誰だ…!?
第三行動方針:放送の続きが知りたい
現在位置:E2北西
※ 第一回放送で最後に呼ばれた死者が誰だか知りません

【アリエッタ 生存確認】
状態:HP70% TP90% 腹に銃跡(×2 処置済み) 深い悲しみと怒り 石化(解除中)
所持品:ねこねここねこ ??? 空のビン
基本行動方針:???
現在位置:E2北西
※ 第一回放送でイオンより後に呼ばれた死者の情報を書き写していません。

【ダオス 生存確認】
状態:HP100% TP80% 混乱
所持品:聖弓ケルクアトール、矢30本 絆転生石
基本行動方針:D1にあるのがユクドラシルか確認する
第一行動方針:ユクドラシルの確認優先、邪魔しなければ殺しはしない
現在位置:D1南東(ガオラキアの森/TOS)
248名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:41:11 ID:6e644IFu0
投下終了。

絆転生石で1stとリンクしようとか思ったけど、それは止めておくことにした。
(一応それを狙って、初代2ndスレを立てるときにロワの2周目という表現をしたけど)

その代わり、参戦した時期では知りえない時点での記憶が呼び覚ませるというシステムにした。
249名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:45:18 ID:/wqVDzjB0
投下乙です
今後のダオスがどう動くかwktkだ
ところで、クレスのサックはクレスごと石化してるんかね?
250名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:50:25 ID:6e644IFu0
1stでもやったなあ。サックの中身議論。
とりあえず、クレスごと石化しちゃったよという方向でボトルは取り出し不可かな。

でもアリエッタは後衛補助タイプだから、やる気さえあればリカバー出来る子じゃないかなと思う。
肝心のクレスを助ける気があるのかどうかが、全く読みきれないんですけどねww
251名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:51:28 ID:297knjg9O
投下乙。
意外な展開に驚いた。
アリエッタとダオスのこれからが気になる。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 21:53:48 ID:clwr3o5m0
投下乙!
絆転生石…この発想はなかった。すごい。
ということはダオスは最終戦前なのか。さりげなくなりダン1らしきことも書かれてて嬉しいw

クレスは石化か…ある意味アリエッタを守ったんだろうか。
2人ともこれからどうなるか楽しみ。
253名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:26:38 ID:R82vFv4n0
投下します。長いんで支援お願いします。
254シトラスワルツ ―Presto―  1:2008/09/21(日) 22:28:44 ID:R82vFv4n0
「うそ……うそ、うそ、うそ――――」

悪い予感程的中する。昔からずっと、そう言われていた。
心地よいシトラスの香りが吹き飛ばされるのに、何が起きたか分からぬ小さな子どもは大切な帽子を押さえ蹲る。

「いやあああぁぁぁぁぁぁ―――――!!」

吹き荒れる風が彼女を、彼女の周囲を微塵に切り裂く。
不安と恐怖は漆黒の雨雲を生み出し、零れた涙は大粒の雨となって降り注ぐ。
煉瓦作りの壁が烈風で崩壊し、どう、と音を立てる。
瞬間放たれた極太の光線は不幸中の幸いか、その局所的な雨風によって相殺されたが、状況が芳しくないことは誰にでも理解できた。
「チィっっ!! 何してやがるっ!! おい、聴こえてるのか、女っ!! アニーっっ!!」
刃のように唸る風に頬の皮膚も、縫合したばかりの腕の傷をも切り裂かれながら、鮮血の色の髪を持つ男は彼女の肩を揺さぶった。






時は僅かに遡る。

見慣れたような真紅の長髪が見え隠れしたのと入れ替わりに、おぞましい雄たけびがジェイドの鼓膜を振るわせる。
「赤毛! 赤毛は何処だぁぁ!!」
水に濡れた青い長髪をしっとりと体に貼り付けた大男はとんでもない殺気を滾らせて、リフィルの後方数十メートルの場所に立っていた。
幸いにも入り組んだ路地の影にいた為、あちら側に姿を見取られることはなかったが、それでも莫大な殺気は至極冷静なリフィルとジェイドの背筋に悪寒を走らせるのに十分すぎた。
「……敵を倒すには先ず戦力分析が基本ですね」
「こちらから仕掛けるというの? 位置を気取られるのではなくて」
精神を集中させ始めるジェイドにクレメンテを抱えたリフィルが問う。
「……私達の方が先にこの街に入っている分、地理も把握している。万が一の場合はあそこの民家の玄関から入って裏口から出て……北へ向かうと見せかけ船に戻りましょう。迅速且つ冷静な行動をお願いします。走る準備をしておいて下さい」
そうしてジェイドは全身のフォンスロットを開き音素を取り込み始める。
異常な音素の均衡をとるこの地で正常に譜術が発動するかは不安もあったが、常時通りジェイドの足元には音素で描かれた譜陣が展開しつつあった。
「……唸れ烈風……大気の刃よ……――っ!!」
詠唱完了まで残り数文節。その瞬間、ジェイドは総毛立ち、ピジョンブラッドの瞳を見開いた。
「拙い、走れ! リフィル!!」
突然の音素の乱れと殺気の膨大。軍人としての経験で瞬時にそれを悟ったジェイドは詠唱を素早く破棄し、リフィルを促し件の民家へと駆け込む。
「殺戮の――イービルスフィアぁ!!!」
扉を閉める僅かな隙間から見えた、先程まで彼らがいた場所は漆黒の球体により拡散され、ズタズタに切り裂かれていた。
「あれは一体……!」
『バルバトス・ゲーティア……よもやこんなに早く奴に再会することになるとはのう』
255シトラスワルツ ―Presto―  2:2008/09/21(日) 22:30:55 ID:R82vFv4n0
爪を噛むリフィルの疑問に答えたのは彼女の抱える剣だった。
「老、あなたの仰ったとおり奴は殺し合いに乗っているのは間違いないでしょう。あれは――空間の音素――あなた方の世界ではマナ若しくは晶力でしたか。
 その流れの変化を瞬時に読み取り高速詠唱を以ってカウンターを加える……そういう能力を所持している。そう考えて宜しいですか?」
船へ向かい走りながらも冷静にジェイドは言う。
『一度で察するとはお主もなかなかの軍師じゃのう。地上軍に欲しかった人材じゃ』
「だとすると……私達には圧倒的に不利ですね。私も術士、あなたも術士。……接近戦を挑む選択もありえない」
ジェイドは脳を働かせた。幾度となく軍を率い戦場へ赴いてきたが、これほど勝機の見えぬ作戦を実行するのは初めてだ。
「……リフィル、確認しますが街に我々以外に人は」
「私が探索していた間には気配は感じられなかったわ」
「我々に都合の良い解釈をして、期待できる戦力を1人、街の中に確認済み。残り2名は不確定要素だが――全滅するよりはマシか」
男の殺気が十分に遠ざかったのを確認し、ジェイドは足を止める。
リフィルもそれに続き、アーチ丈の集合住宅の入り口の影に身を潜めた。
「……成功する確率も失敗する確率も五分五分。成功してもこちらに被害が出る可能性は限りなく大きい。5人による作戦になりますが、最悪のケースでは我々2人だけで実行せねばならないかも知れない。それでも……実行しますか?」
ジェイドは鋭い瞳でリフィルを見据えた。眼鏡のブリッジを持ち上げ呼吸を整える。
その間に、リフィルはきゅっと紅を引いた唇を結び、迷いなく肯いていた。
「なかなかの覚悟だ。老、あなたにも全力で働いて頂きます。――万が一のために我々の知りえる情報も全て交換しておきましょう。要点のみ簡潔に。作戦を指南します。一度船へ。苦手だろうが、我慢して下さいよ」
「それはなかなか、鬼畜な発言ね」
汗を滲ませながらリフィルが笑うのに、ジェイドも笑ってみせた。
ふと鼻腔をくすぐるのは女のフローラルの香水ではない、男ものの落ち着いた香り。
自分が今つけているのは何の香水だったか。どうでも良い疑問の種が頭に割り込んでくるのは、存外己が落ち着いているということの証だろうか。
「ええ。鬼畜眼鏡がキャッチフレーズですから」



青い屋根の家の玄関口に薔薇の一輪挿しを見つけたのはチャットだった。
白い一輪挿しの中の水は捨てられ変わりに折りたたまれた紙が挟み込まれていた。
「貸せっ!」
チャットから手荒く紙を奪い取ったアッシュは素早くそれを広げるとまた眉間に皺を寄せた。
「――北だ」
「え?」
「北へ戻るぞ、但し喋るな、気配は消せ、そして迅速にだ。俺の知ってる陰険眼鏡もここにいる。そいつらと協力して、あのワカメをぶっ潰す。お前らも強力しろ。攻撃術は使えるか、女」
「ボクは――」
「ガキには最初から期待してねぇ」
「1つ、だけですが、協力します!」
しゅんとするチャットを庇いながら、アニーは首を縦に振る。
「1つ使えりゃ十分だ――いいか、俺が詠唱を始めたら直ぐに走れ。すぐ追いつく」
そうしてアッシュは全身のフォンスロットを開く。集まる音素。同時に迸る殺気。
出来うる限りの素早いリズムで第五音素を集める。アレグレット、アレグロ? 否、プレスト!!
256シトラスワルツ ―Presto―  3:2008/09/21(日) 22:33:27 ID:R82vFv4n0
「――ェエェッックスプロォォードッッ!!!」
撃ちあがる炎の弾。巨大な爆発を引き起こすそれは何処かにいるであろう男に届いただろうか。
確認する猶予もなく、アッシュは素早くバックステップでその場を離れ、アニーとチャットを追う。
紅の爆炎の中心に、漆黒の球体が混じり灼熱が亀甲模様の石畳を焦がすのはアッシュがその場を離れた一瞬後のこと。



ジェイドの作戦は至極単純なものだった。
“相手はこちらの詠唱開始を瞬時に判断し高速詠唱を以ってカウンターを返してきます。
 音素の流れを読むのが異様なまでに早い。だからそれを利用し――
 ――全員が全員の囮になり、わざと詠唱を行い『釣り』ます。
 相手が別の術詠唱に反応している間に別の誰かの術が奴に炸裂する。
 そうしてじわじわ削っていきましょう。奴の精神力、体力共にね。
 相手に決して居場所を悟られぬよう。
 ――そして最後に確実に始末する方法は――”
アッシュに引きずり込まれた民家の2階で、アニーは支給された時計を確認する。
作戦開始、午前11時11分。
「大丈夫です……ワカメの人、ここからは見えません!」
机の上に身を乗せ見張り役を受け持ったのはチャット。
「無理しないで下さいね。チャット、アッシュさん!」
その隣の、窓の外から見えぬ位置に立ち杖を構えるのはアニー。
「誰にモノ言ってやがる! 自分の心配だけしておけ屑が!」
慣れぬ短剣を構え精神を集中させる、部屋の対角線上に立つのはアッシュ。
『参るぞ、リフィル』
「ええ。覚悟はできていてよ」
西の民家の影に隠れるは、クレメンテを杖代わりとしたリフィル。
「……さて、行きますか」
船を降り、作戦の最終地点を補則しつつ薄い笑みを浮かべるジェイド。
4人全てが、同時に詠唱を開始する。



街の最東端にかかる橋に立っていたバルバトスは、微かに大気の変化を感じていた。
詠唱が行われる際の空気の流れの変化。歴戦の戦士はそれを素早く感じ取り、それを上回るスピードを以って相手に必殺の晶術を叩き込むことを可能にしていた。
しかし距離が離れすぎているためか、具体的な場所を把握するには至らない。
術の詠唱中の無防備な輩を始末するのは彼には簡単すぎることだった。
ワカメなどと呼ばれているが、屈強で、漢の中の漢といった面持ちの男は、迷わず街の中へと足を踏み入れる。
殺気は一切削ぐことないまま、街の中央広場へと。


(――怖い。殺気を隠そうともしない。ううん。怖気づいちゃ駄目)
錬術のためのフォルスを高め、眼前でくるくると杖を回転させながらアニーは瞳を閉じていた。
緊迫した空気が部屋じゅう、家じゅう、否、街中を張り詰めている。
皆とカレギアを旅してこの街を訪れて、四星のミリッツァと戦ったときよりもっと強くて大きくて、押し潰されそうな緊張感。
それでも、やる、と決めたからにはやらなければいけない。
父の死にただ涙し、真実の追求から目を逸らしただ憎しみだけを見ていたあの頃とは、自分は違うのだから。
詠唱が完了する。
アッシュも完了したようだ。
チャットが不安気にこちらを見ている。
大丈夫、安心して、とばかりに微笑んでやれば、少女は恥ずかしそうに頬を赤らめこくりと頷いた。
「――ドラッグ・レーベン!」
「――サンダーブレード!!」
257名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:34:59 ID:maw21vYN0
支援
258シトラスワルツ ―Presto―  4:2008/09/21(日) 22:35:32 ID:R82vFv4n0
描かれる二つの陣。
矛先はここからは見えない、街の中心部、おぞましい殺気の源。
男の唸る声が、一撃目の成功を街中に伝えた。


一撃目はわざと受けたのだろう。
ジェイドはそう予測していた。瞳に刻まれた譜陣により高められた視力は遠く広場で仰け反る男の様子を鮮明に映し出している。
1発目。見たことのない陣。花が開くように男の横の空間に現れたそれは円形の衝撃波を幾重に放ち男の体を拘束する。
続いて2発目3発目は同時に放たれたサンダーブレード。頭上から交差するように降る2本の雷雲の刃が男の体を貫き地面に縫いとめる。足元に譜陣が描かれそれを這うように稲妻が奔る。
4発目。サンダーブレードの譜陣と入れ替わりに立ち上る水流。クレメンテが使えると言った晶術によるものだろう、タイダルウェイブ。ダメージ効率からするとこちらが2発目にきて欲しかったが文句は言うまい。
それら全てが男を飲み込む。しかし男の覇気は全くの衰えを見せない。
余裕の顕れか。
ジェイドは内心舌を撃ちつつ、再び足元に譜陣を展開した。
今度はいつ反撃が訪れてもいいように、詠唱破棄の心構えを十分に整えながら。


11時16分。
作戦第二段階移行。
再び4人が詠唱を開始したとき、バルバトスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
街のあらゆる方面から感じられる術詠唱による大気の流れ。
様々な要素――音素、フォルス、マナ、晶力――の混ざったそれはバルバトスに詠唱カウンターを躊躇わせた。
正確に場所が読めない。そのことは彼の腹を立たせるのには十分だった。
先程赤毛の男により海に突き落とされたことに加え、なかなかその男を見つけられない苛立ちが、バルバトスを短気にしていた。
場所が分からない? 家が邪魔で死角だらけ?
ならば、全て壊してしまえ!
それがバルバトスの出した結論。
「数撃ちゃ当たる……それもまたひとつの戦略だ……」
低く唸り、巨大な大砲を構え、バルバトスは闘気を漲らせる。
真っ直ぐに放たれたのは極太の光線。



「アッシュさんっ!!」
伸びてきた光の束の先端に触れ割れた窓ガラスの破片がアッシュの腕を切り裂いた。
ぱっくり割れた皮膚は痛々しく、裂けた布の隙間からその肉の色をはっきりと覗かせている。
「――焦るな女っ! 詠唱を続けろ……! クソ、あのワカメ……ヤケになりやがって」
言いながらも詠唱を続けるアッシュに、アニーは錬術ではなく陣術を唱える。
代謝を促進し傷の治癒を早める陣術、ライフ・マテリア。
アッシュの足元に展開されたそれは淡く優しい光で彼を包んだ。
「チャット、針と糸、家の中から探してきて! あったらお湯を沸かして、そこに入れて消毒して持ってきて、お願い!」
「は、はいっ分かりましたっ!」
少女が駆ける。台所は1階だ。危険だと誰もが知っている。
だけど勇敢な海賊の子孫は恐れずアニーの言葉に従った。
「何余計なことしてやがる……」
音素を集めることはやめず、アッシュは脂汗を滲ませながらもアニーを睨む。
「放置しておいたら、血がですぎます。化膿もします。できるだけ早く傷口だけでも塞がないと手遅れになります」
「この作戦に失敗したら何もかも手遅れだ」
「……成功させるんです。皆で無事に。そのためにも、アッシュさんの腕は必要だと思うから」
ペットボトルの水を遠慮なく使い傷口を洗い流すアニーをアッシュはどこか遠い目をしながら見ていた。
染みるだろうに、それを顔に全く表さない――いつも眉間に皺が寄っているから判別し難いだけで、本当は痛みに顔をゆがめているのかもしれない――アッシュに、アニーは彼と同じくいつもしかめっつらばかりしていた男を思い出す。
それでも時たま見せてくれる穏やかな表情はとても優しかったから。
きっとアッシュも彼と同じ類の人間なのだと分かった。
「――サンダーブレードッッ!!」
259名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:36:32 ID:q/xaD5w30
支援
260シトラスワルツ ―Presto―  5:2008/09/21(日) 22:37:39 ID:R82vFv4n0
2発目のサンダーブレード。譜陣の輝きがアニーごとアッシュを包む。
男に命中したかどうかは、街中を破壊せんとする轟音によってかき消されて分からない。
それでもこちらに詠唱カウンターがこなかったのは喜ぶべきか否か。
時計を確認する。第三段階。休む暇などない。
再び神経を集中させるアッシュに、アニーは涙を堪え唇を噛み締めた。


『大丈夫かリフィルよ』
服の裾を焦がしたリフィルはクレメンテの問いに笑ってみせた。
「ええ、なんとか。――恐ろしいものね。あと少し詠唱完了が遅かったら危なかったわ」
ぐずぐずに焼け焦げた地面はジェイドが最初に詠唱したときに扉の隙間から見たものと同じ術によるもの。
「……街全体を破壊する気かしら」
詠唱を開始しようとクレメンテを持ち上げるリフィルに、剣はアドバイスを捧げる。
『奴はわしと同じ世界の使い手。わしの術は判別され易いのかもしれん。お主の術を、わしを使って増幅するといい』
「進言感謝するわ、老」
リフィルは瞳を閉じ、己の光の魔術を唱え始める。刻一刻と迫る放送の時間。
どんな内容のものなのか、リフィルは知らない。
けれどもしそれを挟んでしまえば今より更に不確定要素が増加するのは分かりきっていた。
男のこの無差別破壊も計算外だった。
計算外の事象が重なれば、計画には必ずエラーが生じ完了時間が遅くなる。
一刻も早くと焦る気持ちは更なる動揺を生む。
そう分かっている筈なのに、逸る気持ちは抑えられない。


チャットが小さな体を精一杯に揺らして持ってきた鍋の中の糸を針に通し、アニーは医者の顔になった。
「麻酔もありません。かなりの痛みを伴います。それでも……」
「そんくらいで術の詠唱中断してたまるか。なめるなよ。女」
「……そう言ってくれると思ってました」
にっこりと笑うアニーに、アッシュは僅かに視線を逸らす。
それを不安げに見守るチャット。
まくり上げられた腕は、しっかりと筋肉がついて引き締まっていた。戦士の肉体。
(――お父さん。見守っていて。ユージーン。私、頑張るから)
怪我や病を治し、ヒトの命を救うのが医者の仕事。
若き女医は、躊躇いなく男の身体に針を入れた。


(……拙い)
頭上に掲げた腕から収束した音素を解放しながら、ジェイドはもう片方の手の時計を見た。
瓦礫と化していく街の中、なんとか死角に入り込み詠唱を続けるも、ダメージ効率は予想以上に悪すぎた。予想以上にあの男が頑丈だったのも原因に上げられるが、今はそれよりもうひとつの絶望的な不安要素が強かった。
(放送時間が近すぎる。不可能だ。それまでに奴を始末するのは)
己とアッシュは軍人。誰が死のうと冷静でいなくてはならない。アッシュはまあ、彼のご執心のお姫様は幸いにもこの舞台に招かれていないので心を乱すことはないだろう。
問題はリフィルと、不確定要素。名も顔も分からぬままのアッシュの連れてきた2人。
放送の内容を聞いて錯乱されてしまったら?
こちらの敵となって逆に襲い掛かってくる可能性もある。
(――悪い方にばかり考えるのは、悪い癖だ)
261名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:38:20 ID:fRcIxIJsO
支援
262名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:39:03 ID:q/xaD5w30
支援
263シトラスワルツ ―Presto―  6:2008/09/21(日) 22:39:21 ID:R82vFv4n0
ジェイドは自嘲気味に笑う。首を横に降り、さらりと流れる外跳ね気味の薄茶の髪の乱れを手櫛で整える。
きっと放送時間が訪れても、まともにその内容をメモしておくことはできないだろう。
覚悟を以って、死霊使いの名を持つ軍人は長針と短針が重なる時を待つ。



「――――ふぅ……終わりです。痛みはどうですか」
「あるに決まってるだろ、屑が」
「アニーさんが折角治療してくれたのに、屑ってなんですか屑って!」
「五月蝿い黙れ屑ガキ! 居場所悟られたら終わりだって言ってるだろう!」
そう言うアッシュが一番大きな声を出しつつ、縫われたばかりの腕を眼前に掲げアッシュは詠唱を再開する。
轟音。爆音。術発動の陣。もう何度目だろう。
ライフ・マテリアをもう一度床に描きながら、アニーは気が遠くなった。
「……ありがとな」
「え?」
詠唱の隙間に小さく呟かれた言葉に、アニーは目を丸くした。
「礼は言っておくと言ったんだ」
厳しい表情の中に照れが混じっているのが手に取るように分かって。
アニーは微笑み、チャットは2人の様子を不思議そうに見つめる。
「……拙いな。そろそろ放送時間だ」
舌を打ち、アッシュが再び眉間に皺を寄せる。もう皮膚にくっきりと刻まれて戻りそうにないほどに。
「ガキ。お前が名簿に内容を控えろ。間違えたら殺すぞ」
「そんな物騒なこと言わないで下さいよ」
びくりと震えた少女の肩をアニーが抱く。チャットは手にしたザックを握り締め、はっきりと答えた。
「そのくらい、ボクにもできます。あまりなめないでくださいよ!」
どこかで聞いた台詞に、僅かだが緊張が解けた気がした。
眉間の皺を数本なくしたアッシュが、息を吐いて、しかし鋭い眼光を持った瞳でアニーとチャットを見つめた。
「いいか。誰の名前が呼ばれようと、誰が死のうと、絶対にわめくんじゃねえぞ。あのピエロの声は、聞いてるだけでも気分が悪くなる――そんな甘ったれた理由で取り乱したりなんかしたら、許さねえからな」
それはアッシュが自分自身にも言い聞かせるような言葉だった。
チャットは頷く。アニーも同じく。
「私は――あのサイグローグに以前も会ったこと、ありますから。アッシュさんたちよりはあの声に慣れてますよ」
強がりだ、と言いながらアニーは思った。
でもここには、無愛想だけど強く頼もしいアッシュがいる。小さな身体で、それでも勇気を持って戦ってくれた、懐いてくれているチャットもいる。
泣き言を言うよりは、強がりを言ったほうが、マシだと思った。
そうして、長針と短針が重なる。
轟音さえも飛び越えて響く、道化師の声。
険しい表情をし短剣を握り締めるアッシュ。
名簿を見つめ、震える指先で鉛筆を握るチャット。

(初めに手にした杖を取り落としたのは、よりによって、私だった)
 
264名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:41:13 ID:maw21vYN0
支援
265シトラスワルツ ―Presto―  7:2008/09/21(日) 22:41:21 ID:R82vFv4n0
「うそ……うそ、うそ、うそ――――」

――お父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さん。
――あの日記の一頁を書いた日に、私の心は逆戻りしている。
――未だ鮮明に覚えている。突然に聞かされた、かけがいのない父親の死。
――あのときと同じ衝撃が頭からつま先までを瞬時に奔り抜ける。
――お父さんと同じくらい大切だった。大好きだった。大きな背中が。暖かい掌が。
――落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。心を乱せば、私は――!

悪い予感程的中する。昔からずっと、そう言われていた。
心地よいシトラスの香りが吹き飛ばされるのに、何が起きたか分からぬチャットは大切な帽子を押さえ蹲る。

――とどめを刺すように聴こえた、ほのかな憧れさえ抱いた青年の名前。
――彼はまだ死んでない? でも、どういうこと?
――だめ、だめ、落ち着かなきゃだめ!
――続いて聴こえる、強くて優しい、彼女の名前。
――いつも眉間に皺を寄せていた彼が唯一柔らかい表情を浮かべる相手。
――ほんの少しヤキモチをやいたこともあったっけ。
――だめ、お父さん、お父さん、ユージーン、クレアさん、ヴェイグさん!
――押し寄せる不安が風になって、私の心を簡単に飲み込んでいく。
――ごめんなさい。私、やっぱり、冷静なままでいられなかった――!

「いやあああぁぁぁぁぁぁ―――――!!」

吹き荒れる風がアニーを、アニーの周囲を微塵に切り裂く。
不安と恐怖は漆黒の雨雲を生み出し、零れた涙は大粒の雨となって降り注ぐ。
煉瓦作りの壁が烈風で崩壊し、どう、と音を立てる。
瞬間放たれた極太の光線は不幸中の幸いか、その局所的な雨風によって相殺されたが、状況が芳しくないことは誰にでも理解できた。
「チィっっ!! 何してやがるっ!! おい、聴こえてるのか、女っ!! アニーっっ!!」
刃のように唸る風に頬の皮膚も、縫合したばかりの腕の傷をも切り裂かれながら、アッシュはアニーの肩を揺さぶった。

溢れ出す風の力の奔流。
落日でフォルスが発現し暴走したときも、こんなにすごい雨は降らなかったとアニーは記憶していた。
あのときと今で違うのは?
白く光を放つ己の身体。切り刻む風はそう、風の聖獣ウォンティガの力。
聖獣の光は暴走と同時に己の身体を蝕むようにできている。
落ち着かなければいけないと分かっているのに。
このまま暴走が続けば皆を巻き込んで殺されてしまうと分かっているのに。
制御できない感情はあふれ出して涙雨を生み続ける。
おぞましいまでの殺気が少し近づいてきた気がした。
(怖い、怖い、怖い、怖い!!)
頼れる父は、頼れる父のようなユージーンは、もういない?
がくがくと身体が揺さぶられる原因もアニーには分からなかった。
溢れた涙が視界を埋め尽くして、もうなにも見えない。
感じるのは、身体を濡らす雨と、皮膚を切り裂く風の痛みだけ――――
266名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:42:55 ID:q/xaD5w30
支援
267名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:42:57 ID:/wqVDzjB0
支援
268シトラスワルツ ―Presto―  8:2008/09/21(日) 22:43:43 ID:R82vFv4n0


ぱあん!

「――――っっ!!」

乾いた音が鼓膜を劈く。
はっと息を呑んだアニーの瞳に映ったのは、身体中をその髪と同じ色で染めた男の姿。
ユージーンを、ヴェイグを、重ねた、強い男――アッシュ。

「しっかりしろ、アニー!!」

声が重なる。ユージーンのものに。ヴェイグのものに。
続いて感じた、頬の痛み。ひりひりと痺れるそれは、振りきったアッシュの腕の様子からして平手で打たれたのだろう。頬に手を当て、アニーは呟く。
「……酷いじゃないですか、女の子の顔をぶつなんて」
「……こんなことができるならさっさと言え、そしてやれ」
アッシュは責めなかった。アニーを打ったであろう手を握り締めて、詠唱に戻る。
雨も風も、未だ振り続けてはいたが小雨程度に落ち着いていた。
「アニーさんっ……!」
駆け寄るチャットを抱きしめ、アニーはぽろぽろと涙を零す。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
冷静でいなければいけなかったのに、僅かな間とはいえフォルスを暴走させてしまった自分。
正気を取り戻させてくれたアッシュ。
怖かっただろうに心配してくれたチャット。
ユージーンが、クレアさんが死んでしまったからといって、私が暴走してしまっては何にもならない。彼らは喜ばないし、むしろ悲しむだろうから。
彼らに会って恥ずかしくないように、彼らの分まで頑張らなくてはいけないのだ。
アニーはチャットを腕から放し、取り落とした杖を再び握り締めた。
「女。その雨、街中に降らせながら同時に術の詠唱はできるか?」
アッシュは背中越しに言う。大きな背中は、酷く頼もしかった。
「……やってみます。いえ――やります!」
決意を胸にアニーは立ち上がる。
ちらりと一瞬振り返ったアッシュの顔は、笑ってくれていた。
「その雨降らせてりゃ、余計ワカメを混乱させることできるだろ。視界も悪くなるし、サンダーブレードの伝導率も高まる。死ぬ気でやれ。――大切な誰かの分までな」
アニーは今度は己の心の力を以って、身体に白の風の力を纏わせた。
(お父さん。ユージーン。ウォンティガ。力を貸して――!!)
制御された雨雲が、またたくまに街中を覆う。雨はゆっくりと激しさを増し、外の水路の水かさを増やしていった。
269名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:44:47 ID:q/xaD5w30
支援
270シトラスワルツ ―Presto―  9:2008/09/21(日) 22:45:41 ID:R82vFv4n0



【バルバトス・ゲーティア 生存確認】
状態:HP50% TP50% 全身に火傷(感電による)
支給品:プラズマカノン ソウルイーター ???
基本行動方針:赤毛含め全員殺す
第一行動方針:街を破壊しつくす
現在位置:G2サニイタウン中央広場

【アッシュ 生存確認】
状態:HP40% TP50% 左腕に大裂傷(縫合済み) 全身に切り傷
支給品:クリスダガー ??? ??? ジェイドの作戦メモ二枚
基本行動方針:アニー、チャットを守る
第一行動方針:作戦を遂行する
第二行動方針:レプリカの野郎はどうしたんだ…?
現在位置:G2街北民家2階

【アニー・バース 生存確認】
状態:HP85% TP45%(暴走による)  全身に切り傷 頬に腫れ
支給品:ハヌマンシャフト ??? ???
基本行動方針:アッシュに守ってもらった恩を返す
第一行動方針:雨を降らしつつ、作戦を遂行する
現在位置:G2街北民家2階

【ジェイド・カーティス 生存確認】
状態:HP90% TP70% 僅かな不安
所持品:ヴォーパルソード セレスティアルマント ダーツセット 知り合いと死者についてのメモ等
基本行動方針:この島について調査、ゲームの打破。
第一行動方針:作戦を遂行する
第二行動方針:死者に対しては慎重に(アッシュが本物だと分かり多少緩和)。
現在位置:G2街南

【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP90% TP70%  服に焦げ
所持品:ソーディアン・クレメンテ ??? ???
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:作戦を遂行する
第二行動方針:死者に対しては慎重に接する。
第三行動方針:ロイド達が心配
現在位置:G2街西、民家の影

【チャット 生存確認】
状態:HP95%、TP95% 右頬にやや腫れ、首に絞められた痕跡あり、身体中に軽度の切り傷 アニーに母性を感じている
所持品:スタンダードマグ(残り装填5発) 銃弾50発 旗の形をした『何か』 タバサ
基本行動方針:勇気を持つ
第一行動方針:作戦に協力する
第二行動方針:セネルが心配
現在位置:G2街北民家2階
271名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 22:50:51 ID:clwr3o5m0
支援?
272シトラスワルツ−Presto−@代理:2008/09/21(日) 22:54:17 ID:ajg4Yklj0
さるさん遭遇とのことで、以下、避難所より

以上です。支援ありがとうございました。
前の話と流れがおかしい点ありましたら、指摘お願いします。
己の読解力の不足を嘆いてるところですorz
273名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 23:00:58 ID:fRcIxIJsO
投下乙です
バルバトスの詠唱妨害があったかwこれはウザいw
でも作戦がそれを逆手に取ってて頭良いなと思った。これは書き手さんが頭良いのか
アニイイイイイイイ!
どうなることかと思ったらアッシュかっこいいぞ!
続きが気になる展開でした。ここで切れるとかw
274名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 23:01:11 ID:297knjg9O
大作乙です。ぞくぞくしました。
アニーよく頑張った。


あ、生存ロック臭については何も言いませんよ。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 23:04:49 ID:V7R53S9n0
投下乙!
怒涛の展開で読んでいるうちにどんどん引き込まれてしまいました
術使い四人による総攻撃…ゾクゾクする!
キャラも皆凄く格好いいし、合間に挟んだ小ネタにも笑わせて貰いました
鬼畜眼鏡とかw
大作乙でした!
276名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 23:31:50 ID:tRPACJpoO
投下乙
4人で術隠れ打ちとかUZEEEEEEEEEw
しかも術を形成する要素が4つ共丁度いい具合に違うという
そら街破壊したくもなるわw
しかし同じ医者志望でもルカは腕を切りアニーは腕を縫合してるんだなw面白い
277名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 00:06:43 ID:AnjYtY3gO
投下乙
バルバトス涙目ww
アニーの心情が良かった
リバースのチビ組は頑張ってるのにヴェイグときたら……
アッシュもルークも端っこ同士輝いてるな
278名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 01:04:11 ID:XGAH9LZAO
投下乙!
うわあぁ泣ける…リバース大好きなんだよおぉ
アニー頑張ってくれ!

にしても慎重で嫌らしい作戦がすごくジェイドらしいwアッシュはカッコ良すぎて不安だ…しかしエェックス(ryでふいたw
279名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 01:20:50 ID:I3PdkC6k0
リバースは未プレイなんだが、俄然興味が沸いてきたよ!
エクスプロードは自分も吹いたが、物凄くアッシュっぽいwww
戦術も心情もすげーよマジで…投下乙!
280名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 04:28:25 ID:/pS56/yjO
もう本当にぞくぞくした…すごすぎる…
あまりの大作にそれしか言えない
投下乙でした!
アビスの野郎共はこのロワで輝いてますねw
281名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 14:50:01 ID:/pS56/yjO
質問なんですが、クレッス石化しちゃいましたよね。
石化したキャラクターは、どうなったら死亡扱いになるんでしたっけ?
一部破壊されても生きてるのかね? 生命維持に必要とされる器官が残っていればいいのか…
282名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 14:57:01 ID:kvqIgkNE0
投下します。
283鼠色の壁と鉄格子 1:2008/09/22(月) 14:58:30 ID:kvqIgkNE0
身体が自由に動けば、こんな場所からさっさと抜け出して一人でどこへでも行ってやるのに。
(俺は……意志を持って動ける人間で、道具に過ぎない剣とは違うのに)
スパーダは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、崩れかけの城の壁にもたれかかっていた。
未だ痺れの残る身体。掌をゆっくりと握り締めてみる。関節をひとつ動かす度に痛みが奔り、通常の3倍くらいは握り終えるのに時間がかかった。
心配そうな顔でこちらを見上げてくるブタザルは大変憎たらしい。蹴りのひとつでも加えてやりたくなったが、足を上げるのも億劫だった。
「アリスは……戻ってこねえのかよ……」
ウッドロウとロニは暫く何やら話し合っていたり、今後のためにとシーツやらなにやら引っぺがしている。
きっとそれほど長い時間を費やしているわけではないのだろうが、スパーダにはそれこそ、この城に入ってからアリスに手も足も出ず打ちのめされたまでと同じくらいの時間が経過しているように感じられた。
ウッドロウが何やら厳しい顔をして、こちらに向かってくる。
(畜生。お前がもっと、早く来てくれれば。武器庫なんかに行かないでこちらで戦ってくれていれば。ヴェイグを連れてこなければ。イオンも、リカルドも、死なずに済んだかもしれねえのに!)
怒りの矛先を向ける相手が間違っているとはスパーダも分かっている。
けれどそう思わずにはいられない、視界の隅で横たわったままの真っ赤なイオンを見てしまうと。
ウッドロウがスパーダのもとに跪いて、口を開いた内容は更に彼の神経を逆撫でするものだった。
「……スパーダくん。苦無をひとつ、貸してくれないか」
「……何に使うんだよ」
ウッドロウは瞼を閉じ、一呼吸置いて、青い瞳で真っ直ぐにスパーダを見据えた。
「……イオンくんの、首を落とす」
「はっ」
スパーダはもう笑いが込み上げてくるのを堪えられなかった。
「なんだよそれ……ふざけんなよっっ!!」
「ふざけてなどいない。この殺し合いを打破しサイグローグを倒す。私も君と考えていることは同じだ。だが……サイグローグに対し我々が圧倒的に不利な部分がある」
「――首輪、か」
「誰かの首輪を入手して、解析しなければならない。この呪縛から逃れるために」
「他人の首を落としてでも、か?」
皮肉を篭めたスパーダの視線に、ウッドロウは端正な顔を険しく歪め、それでも頷いた。
スパーダはポケットをまさぐり、小さな苦無をひとつ取り出す。
「こんなんで、骨とか切れるのかよ」
「風の術を使えるのだろう? 君は。酷だとは思うが……万一の場合は、協力してもらいたい。できれば、リカルドさんの分の首輪も欲しい」
「……人でなし」
「……否定できんな」
2人のやりとりを、ロニとミュウは何も言わずに見ていた。
静寂が、視線が痛い。怪我だらけの身体よりも、心が痛い。
スパーダは震える手に苦無を握り締め、舌打ちをひとつだけ吐いて、ゆっくりと立ち上がる。
「――俺がやる。リカルドも、イオンも。俺の大切な仲間だ」
言い捨てた声は震えていて。目の辺りが疼いて、痒いような気がした。
284鼠色の壁と鉄格子 2:2008/09/22(月) 15:00:36 ID:kvqIgkNE0





「外、かなり吹雪いてますね、ウッドロウさん」
2人の亡骸の元へ向かったスパーダとミュウを見送って、ロニは黙ったままのウッドロウを気遣うように声をかけた。
ロニの知る英雄王は目の前の彼よりも18歳も年上で、一国の主としての経験に裏打ちされた判断力と精神力を兼ね備えていたように見えた。
けれど今ロニの目の前にいる憧れの英雄は、ロニと同じ年しか生きていない。歴史上では、未だ即位したばかりのはずだ。
険しい表情の奥で悩み苦しんでいるであろう彼を、ロニはなんとか助けたかった。憧れの英雄が、苦しく膝をついている様子なんて見たくなかっただけかもしれない。
「……ヴェイグくんと、イクティノス――だろうな。ロニくんや、スパーダくんの傷には、外に出るには酷かもしれない」
「その……ヴェイグって、どんな奴なんですか」
ロニはヴェイグとすれ違ってしかいない。真っ青な顔で、信じられないほど冷たい風と一緒に外へ走り去って行った様子しか見ていない。
「……放送でも、サイグローグが名前呼んでましたよね?」
「……サイグローグの手下だったんじゃねえのかよ」
割り込んできた声は未だ新しい血で服と手を汚したスパーダのものだった。その手に輝いているのは2つの銀細工の首輪。ウッドロウにひとつだけそれを手渡し、残りのひとつはスパーダが握り締める。
「サイグローグのこと詳しかったじゃねえか、あいつ。きっと俺たちを邪魔するためにあのピエロが送り込んだ手先だったんだよ」
唇の端を吊り上げて言うスパーダの顔は、苦しそうに、悲しそうに、歪んでいた。
「その可能性もあるかもしれない。だが彼は……私達を、殺さなかった」
ウッドロウは大きな穴の空いた壁の外、元々この城のあったファンダリアのように白く染まった森の先を見ながら言う。
「私の旅の仲間と似ていると感じたよ。その仲間が、彼の大切な女性を人質にとられ私達と相対することになったとき……私は何もできなかった。
 スタンくんが――ああ、私の旅の仲間だが、彼だけはずっとその仲間を信じていた。だから私も、信じたいとは思っている。
 ヴェイグくんも、サイグローグに利用されただけなのかもしれない。クレアさんを失って――出会ったときから、彼はずっと、探していたからね。それでも」
「それでも?」
「……道を誤ったというのならば、討たなければならぬだろう。イクティノスもいる。できることなら、また協力したいものだが」
ウッドロウの言葉にスパーダは黙ってしまったが、ロニは彼の言葉の史実を全て知っていたから、複雑な気持ちになった。
スタンは、ジューダスは、カイルは、仲間達は。今どうしているだろう。
現状打破の具体案などひとつも持っていないロニは、それでも必死に頭を回転させた。
何か、気付けることはないのかと。

吹雪は止まない。
本来は穏やかで暖かかった、ハイデルベルグ城に流れる、冷たい空気も、緊張も、沈黙も。
285鼠色の壁と鉄格子 3:2008/09/22(月) 15:02:05 ID:kvqIgkNE0



【ウッドロウ・ケルヴィン生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:ねぎ さつまいも 木製の矢(9本) 尖った柵 リカルドの首輪
基本行動方針:同士を募り脱出への道を探す。障害となるものは討つ
第一行動方針:ロニとともにイクティノスを回収する。できればスパーダとも行動を共にしたい
第二行動方針:ヴェイグを止める、もし殺し合いに乗った場合は殺害も辞さない
第三行動方針:仲間との合流
現在位置:C2・ハイデルベルグ城

【ロニ・デュナミス 生存確認】
状態:HP70%、TP70%、脇腹に刺し傷(応急処置済み)
所持品:GD脱出用ロープ ??? ???
基本行動方針:スタン、カイル、他仲間と合流 現状をどうにかしたい(具体案なし)
第一行動方針:現状打破の具体案を考える
第二行動方針:ウッドロウと行動を共にする。
第三行動方針:仲間を探す。
現在位置:C2ハイデルベルグ城

【スパーダ・ベルフォルマ 生存確認】
状態:HP30% TP85%、身体中に裂傷、擦り傷、凍傷(全て応急処置済み) 若干の麻痺(ほぼ回復) ウッドロウとヴェイグに対する複雑な心境
所持品:苦無×29、ミスティブルーム とうもろこし ミュウ イオンの首輪
基本行動方針:打倒サイグローグ
第一行動方針:ルカを探す
第二行動方針:ルーク・フォン・ファブレを探す
第三行動方針:仕方ないのでもう少しウッドロウ達と行動を共にする
第四行動方針:アリス、サレは見つけたら必ず殺す
現在位置:C2・ハイデルベルグ城

【ミュウ】
基本行動方針:みんなと一緒に帰る
第一行動方針:今自分に出来る事をする
第二行動方針:ご主人様が心配ですの。
現在位置:C2ハイデルベルグ城
286名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:03:47 ID:kvqIgkNE0
以上です。
287名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:10:46 ID:53ya26LmO
投下乙です
スパーダ頑張れ、ホントに頑張れ…ルカがやばい今、お前が頼りだ
ウッドロウも凄く頼りがいがあるように見えるよ、元々いい大人だけど
288名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:14:27 ID:AnjYtY3gO
投下乙!
スパーダは仕方ないよなぁ…まだ子供だし割り切れないよね…
スパーダがらしくてよかった
比べて空気王はさすが一国の王になるだけはあるな

>>281
石なだけで特別なことはないと思うよ。
普通に致命傷であろう傷をくらったら石のまま死ぬだろうし
289名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:24:28 ID:LgzddNPbO
死者スレに石像が置かれるのか
290名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:28:23 ID:/pS56/yjO
ウヒョー投下乙っす!
スパーダカワイソス…仕方ないとはいえ、空気王もなかなか酷なことを言うなw
空気王・ロニ、そのスタンが大変なことになってますよー、と。
スパーダに期待するしかないぜ!wktk

>>288
そうか、わかったよ。感謝する
291名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:29:04 ID:NlDs9QzRO
投下乙、キャラが皆らしくてよかった。
ウッドロウの苦悩が特にグーです。

これで残るはアリスだけか。
292名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 15:33:33 ID:kvqIgkNE0
アリスだけと見せかけて、
ミトス&ハロルドが残っていることに誰も気付かないのだった…
293名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:13:20 ID:sMUJhsWgO

みんな人間味があっていいなぁ
ウッドロウはさつまいもで首を落とせば良かったんじゃ(ry
294名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:17:39 ID:/pS56/yjO
投下します
295白頭巾の少女 1:2008/09/22(月) 16:19:26 ID:/pS56/yjO


「んもぉ……何なのよっ」

ぷりぷりしながら少女は迷いの森を行く。

(これが、噂に聞くガオラキア)

単刀直入に言おう。
少女アリスは迷っていた。
──勿論、数時間前に天上王がアリス同様に迷っていたことを彼女は知らない。
同じような並びの木の間に見える道を歩き続けて早二時間。
何処まで行けどやはり変わらぬ景色にうんざりしたアリスはついに癇癪を起こした。

「ムカつくッ! アリスちゃんを馬鹿にしてるとしか思えない! この森といいイオン君といい」

ズキズキと痛む後頭部が彼女の苛立ちを増幅させていた。
本来なら太陽は南西に浮かんでいて、下僕達におやつの準備をさせていてもおかしくない時刻の筈である。
しかし彼女はつい数時間前、城で展開した戦闘中に不覚にも人質に不意を突かれて攻撃され、吹き飛ばされた先で頭を打ち付けてしまったのだ。
そこで一旦記憶は途切れ、気付くと草木が鬱蒼と生い茂り日光も碌に差し込まないこの森に横たわっていた、という訳だ。
それだけならまだしも、このガオラキアには方位を狂わせるというオマケが付いていた為に、彼女は延々と森を彷徨い続ける羽目になっていた。

(ツイてなぁい……よりにもよってガオラキアに迷い込んじゃったし、放送も聞けなかったし)

声には出さず頭の中で独り言ちていると、この惨めな状況に追いやられたことに対する怒りは更にヒートアップしていく。

(イオンくんとスパーダくん……次に会ったら今度こそ嬲り殺してあげるからねv)

密かに固くそう決意し、アリスは整った顔に悪魔の笑みを可愛らしく浮かべた。
だが、決意したところでこの森から出られなければそれを果たすことはできないし、何よりデクスと再会することも叶わない。
さてどうしたものか、と頭を抱える。

(こんな薄暗い森にずーっといたら、アリスちゃん可愛いからオオカミに襲われちゃうカモ……)

本気とも冗談ともつかないことを考えながら、イオンから奪ったグミを口に含んだ。
甘いフルーツの味が、戦いで幾らか消耗した体に染み渡って行く。
その甘さによって疲れが緩和された頭を再び働かせ、アリスは考える。
地図も磁石も、何の当てにもならない。最悪この森で餓死なんてこともあり得る。
それは困る。
己の強さを証明できなくなるではないか。

(そうよ……私の強さを証明するにはまずこの森から出なければならない。けど、それだけでも私の強さが一つ証明されることになるわ)

もしかするとアリスも不安だったのかもしれない(尤もその言葉は一番彼女に似合わないものの一つである)。
そして顔を上げたアリスは、確かな足取りで歩き始めた。

296白頭巾の少女 2:2008/09/22(月) 16:20:37 ID:/pS56/yjO

  *  *  *


「これって……あの大樹?」

突如視界が開けたかと思うと、目の前に力強く聳える大樹が現れたのだ。
ガオラキアに大樹がある等という話は聞いたことがなかった。
思わぬ事態に直面し、しばし呆然とする。

(けど、あのピエロは、死んだ筈の私達をこうして生き返らせることができるんだから、これぐらいできてもおかしくない……?)

それに自分には全く関係のないことか、と思考を切る。大樹の有無など大した問題ではなかった。
何処にいようと、強さの証を立て続けるだけのこと。
そう締め括り、森から脱出するべく踵を返そうとする。
しかし、ふと大樹の近くに目を遣ると、そこには若干盛り上がった土の上にぽつんと置かれた石と、大量の血痕があった。

(……墓?)

一瞬デクスのものかと悪い想像してしまうが、あの男は易々殺されたりしない、と思い直す(一度はデクスもアリスも殺されたという事実は完全無視だ)。
第一、デクスが死んだとしても彼を弔い悼む物好きが自分以外にいるだろうか?
否、決しているまい。
しかし、それとこれとは別だ。
ここで誰かが殺されたということには変わりはなく、その犯人がまだ近くにいるかもしれないのだから。

(慎重に行く必要があるわね……ま、誰がいてもこのアリスちゃんが殺すけどv)

術を詠唱してキープし、デクス愛用の剣を両手で持った。
そして気配を殺し、そのまま歩を進める。
しばらく進んだ先にあったのは。





「ふーん……よくできてるじゃない、この像?」


意地の悪い笑みを浮かべて、絶望の表情を浮かべる少年の石像をじろじろと眺める。
彼女には判った。
これが石化した人間だと。
現に、この顔や出立ちと全く同じ少年が名簿に載っていた。
石像の周りにも、パナシーアボトルだろう容器のボトルが砕け散っている。

(クレスくん、ね)

いい加減この森にうんざりしていたアリスは腹いせに石像を粉々に砕いてやろうか、と考える。
けれど、それでは面白くない。
にこっと邪悪な笑みを浮かべながら、アリスは石像に近付き、そして……。


297白頭巾の少女 3:2008/09/22(月) 16:23:02 ID:/pS56/yjO





アリスは振り下ろした。

趣味の悪い愛する人の大剣を。





──延ばされていた石像の、右腕に。








がしゃんと、右腕が音を立てて砕けた。
同時に右腕が生えていたその位置から石像に亀裂が入る。

(誰かがパナシーアボトルでも使ってくれるといいわね、クレスくん?)

瞳が再び光を取り戻した時、彼はその絶望の表情をどう歪めるだろう?
再び生気を取り戻した時、彼はどんな叫び声をあげるだろう?
再び血が体を流れ始めた時、彼はどんな想いでその色を見るだろう……?

(この目で見られないのはすっごく残念だけど……)

うふふ、と可愛く笑みを溢す。
せめてサックぐらいは土産代わりに取らないでいてやろう。





「ばいばい、クレスくんv」


どんな狼よりも恐ろしい白頭巾の少女は、まるでピクニックにでも来たかのような表情を浮かべて森へと姿を消した──。






【アリス 生存確認】
状態:HP55%、TP85%、頬に傷、靴に焦げ
所持品:暗黒邪神剣ゴールデンドーン、苦無×1
基本行動方針:ゲームに乗り、自分の強さを証明。デクスと共に元の世界へ帰る
第一行動方針:ガオラキアの森を抜ける
第二行動方針:イオン・スパーダを見つけたら嬲り殺す
第三行動方針:デクスを探す
第四行動方針:サレは殺さない
現在位置:E2北西(南へ)
298白頭巾の少女 4:2008/09/22(月) 16:24:07 ID:/pS56/yjO

【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:HP5%、TP85%、石化、右腕損失、失血による貧血、疲労、マント破損
所持品:デュナミス、パナシーアボトル×2、首輪、リーガルのサック(スコップ、???)
基本行動方針:ゲームを止めるため同志を募る。守る側の存在になる
第一行動方針:???
現在位置:E2北西

299名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:25:18 ID:/pS56/yjO
投下終了です
アリスちゃあぁぁぁああん!!!
300名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:31:39 ID:6z/owgzFO
アリエッタは消えたのか
301名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:32:19 ID:kvqIgkNE0
アリスちゃあああん乙!
さりげなくデクスに対して酷いこと言ってるアリスちゃんww
そしてクレス…最初からクライマックスすぎる。
ところでグミ食ったのにアリスちゃんの回復量少なくない?
グミは通常の効果通りに回復するんだよね?…ってまた回復量議論になるか
302名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:33:55 ID:VqkAy19jO
24時間制限は?
303名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:35:47 ID:/pS56/yjO
し ま っ た ! <24時間制限
というわけで破棄の方向で…
被らなかったら制限解除後に投下し直します…orz
すいませんでした吊ってきます…
304名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:36:16 ID:kvqIgkNE0
お、ほんとだ。クレスが24時間制限ひっかかるな
305名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:36:37 ID:EnLyXvBfO
24時間があるから残念ながら破棄だな
306名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 16:37:37 ID:/pS56/yjO
連レスすまない。
アイテムによる回復量はそのままだったのか…不覚!orz
被らな(中略)訂正して投下し直します…
307名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 18:42:29 ID:FDBQ6fE3O
アリス城から森に1エリアは吹っ飛びすぎじゃないか?
吹っ飛んだ後に歩いて森に行ったとかの方がいいかと
まぁ破棄されたけど
308名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:02:29 ID:r77TzmPFO
個人的に気に入ったから規制終わったら修正投下希望します
309名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:25:07 ID:6z/owgzFO
個人的に嫌いなのですいませんが破棄お願いします
310名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 19:26:00 ID:NlDs9QzRO
単に疑問なんだけど、アリスは大樹を知ってるのか?
まだ苗木だろ、あの時代だと。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:04:20 ID:dGDrxVMz0
投下します
312ろくでなしお兄ちゃん1:2008/09/22(月) 20:05:31 ID:dGDrxVMz0
「これからどうする?このあたりには人がいなさそうだぞ?」
そう発したセネルの手の中にある探知機にはここにいる四人の分の光のみが輝いているだけでそれ以外の反応はまったく見られなかった。
「場所を変えるしかないだろう。地の利が生かせないのは惜しいが………」
ワルターとセネル、そしてジルバが次の作戦を話し合っているのをシャーリィは他人事のように眺めていた。
水から上がってきた兄からも、滄我の恩恵が無いここの海からも、血の臭いが漂っていた。その臭いを知らぬほどシャーリィは綺麗な生活は送っていない。ヴァーツラフ軍にさらわれた時嫌というほど嗅いだ血の臭い。
『お兄ちゃんが、もって来たザックには持ち主も付いていた?』
自分の兄が犯してしまったであろう罪を再確認してシャーリィはぶるり、と身震いした。
『なんで、私はお兄ちゃんのしようとした事を止めなかったの?』
≪止められなかったの、みんな殺人を肯定するんだよ?≫
『嘘吐き。止めようと思えば止められたんじゃないの!?』
≪家族だから止められなかったの。≫
『ハッ、そんな言い訳が免罪符になると思ってる?家族だからこそ止めるべきなんでしょ!動け動け動け!今動かないでいつ動く!?』
無理矢理自分を奮い立たせシャーリィはセネルに歩み寄る。
「お、お兄ちゃん?」
シャーリィの恐る恐る出した声は自分の出したものとは思えないほど硬く、強
っていた。
「何だ、シャーリィ?次はここへ向かおうとと思うんだが………」
313ろくでなしお兄ちゃん2:2008/09/22(月) 20:09:30 ID:dGDrxVMz0
セネルの手は地図上のあるポイントを指していた。そこにあるのは塔。ここからでも見える、高い塔。
「ううん、お兄ちゃん。そんなことはどうでもいいの」
セネルが話しているのを遮りシャーリィは言った。
普段はそんなことはしないがしょうがない。このままセネルの話を続けさせると流れでそのまま出発してしまい落ち着いて話はできなくなるだろう。
セネルは訝しげな顔をしているが続ける。
「お願いだから、もうこんなことはやめよう?自分のためにこんなことしてる
て知ったらお姉ちゃん悲しむよ」
……お姉ちゃんだけじゃない。
「それに、私もお兄ちゃんにはそんなことして欲しくない、って思、ぅ……」
勇気を出して言ったその言葉は次第に声量が小さくなり、消えた。
一瞬の静寂。
シャーリィにとっては永遠に続くかと思われた。
当然その静寂は永遠には続かない
「………何で今更そんな事言うんだよ?」
自分の兄が発したと思えないほど冷たい声。
「え?」

314名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:13:37 ID:sxASksXc0
支援必要かな?
315ろくでなしお兄ちゃん2:2008/09/22(月) 20:14:18 ID:dGDrxVMz0
「そんな当たり前のこと俺だって全部全部全部分かってるよ!でもなもう俺は一人殺したんだよ!!引き返せるか!?無理だろ!?」
「一人殺した!?だからこそもうやめようって言ってるのよ!それじゃあお兄ちゃんに聞くよ?お兄ちゃんはクロエさんやノーマさんをそのために殺せるの!?傷つけることができるの?お兄ちゃんはそんなに身勝手でわがままなんだね!!お兄ちゃんの人でなし!!」
これは一つの賭けだった。
自分が散々お兄ちゃんを罵倒すれば自分のやっていることの愚かしさに気が付いてお兄ちゃんも考え直してくれるかもしれないと。
もしそれが逆効果なら。
「五月蠅いッ!そうしないとステラがッ!ステラが……」
痛いところを突かれ逆上したセネルから反射的に繰り出された平手がシャーリィの左頬を思いっきり打った。シャーリィはバランスを崩し倒れる。立ち上がったシャーリィの膝から血が垂れている。
316ろくでなしお兄ちゃん3:2008/09/22(月) 20:16:00 ID:dGDrxVMz0
―――逆効果だった……?
よくよく考えてみれば兄が自分に暴力を振るったのは初めてだった。
いつも兄はやさしく諭してくれて手を上げることなんて無かった。
それなのに。
「セネル貴様メルネスに……!」
ワルターが身構えるが、
「ワルターさんは黙ってて!!」
シャーリィは怒鳴りつけることで制した。
しぶしぶ黙るワルター。
これはシャーリィが自分で片付けるべき問題。と、判断していた。
それ以前にワルターが入ってきてもこじれる。
ジルバは空気を読んでか読まずか何も言ってはこなかったが。
とりあえず今のでよく思い知った。
この兄は兄ではない。兄はここに来て歪んでしまった……!
「今ので充分わかったよ、お兄ちゃん。ならお兄ちゃんと敵対するしか私にお
兄ちゃんを止める方法はないってことだね」
このままやっていても埒が明かない。この方法だけは取りたくなかったけど手段を選んじゃいられない。下手に手段を選んでいたらその間にさらに人が死ぬ。自分が止めるのを躊躇しているせいで人が死ぬなんて真っ平御免だ。
そう考えた上での結論だった。
「シャーリィ?」
「どうしてもお兄ちゃんが参加している人みんなを殺そうとするのなら私はお兄ちゃんを殺してでもやめさせる!!」
317ろくでなしお兄ちゃん5:2008/09/22(月) 20:19:13 ID:dGDrxVMz0
殺させないために殺す。なにかがおかしい。だがおかしいということがわかっていてもシャーリィは殺し合いが許せなかった。しかもそれが、家族のおこなおうとしていることなら尚更
「なっ、なっ!?」
セネルは全く予想していなかったシャーリィの発言に絶句する。
「じゃあまず、手始めに」
そういうや否やシャーリィは呆然と立ち尽くしているセネルの手から首輪探知
を引ったくる。シャーリィの予想以上にあっさりとひったくることができた。
それほどに兄は動揺している!!
「これ、私のだから返してもらうね」
「シャーリィ、何をッ……!?」
―――わかりきってるくせに。全部わかってるくせに訊くのか、それを。
「それはこっちの台詞だよ、お兄ちゃん。私の知ってるお兄ちゃんはそんな人じゃ無かった!」
さらにシャーリィはサックを漁り何かを取り出した。それを構えて。
「テルクェス!」
支給品の鉛筆によって描かれたそれがセネルに向かって飛び視界を塞ぐ。同様にワルターやジルバの視界もテルクェスによって塞がれた。
318ろくでなしお兄ちゃん5:2008/09/22(月) 20:20:29 ID:dGDrxVMz0
兄を攻撃することなど今まで過ごしてきた日常の中では遺跡船が空を飛ぶくらいありえないことのはずだったのに、何でこんなことをしているんだろう?
とりあえず、自分一人では兄を止めることなど不可能に近い。
頼りになる仲間を探すことを第一目標に。あ、いや第一目標はお兄ちゃんから離れることに訂正!
「ッ!?」
「じゃあ、また会うときまでに改心しておかないと私、困っちゃうから」
置き土産にとばかりにジェミニシェルを投げつけシャーリィは海に飛び込んだ。膝が少し滲みたがそんなことは些細なことだった。



「セネル!メルネスが行ってしまうぞ!」
ワルターが耳元で叫んでもセネルは俯いたまま動かなかった。
「セネル!」
「俺は……俺は……」
譫言の様にそう繰り返すだけで全くワルターの声にも反応しない。
「ワルターさん、シャーリィさんを追ってください」
今までシャーリィとセネルのやり取りを傍観していたジルバだった。
「私はこの怪我ですので出来ることなど高が知れていますし、私じゃシャー
ィさんに追いつけそうにありませんから」
そう言ってから申し訳なさそうに笑んだ。
『その言葉を待っていた!』
319ろくでなしお兄ちゃん7:2008/09/22(月) 20:21:46 ID:dGDrxVMz0
ジルバが言い切った瞬間ワルターは内心ほくそ笑んだがジルバは気付いた様子は無かった。メルネスはセネルを否定した。ならセネルと協力関係を結んでいる必要はもうない。だがセネルを殺すにしてはジルバは邪魔になる。だからジルバの方からそう切り出すのを待っていたのだ。
戻る気なんかさらさら無い。メルネスを連れてどこか安全なところにでも隠れてしまえばいい。

「では、セネルは任せた」
心にも無いことをジルバに言い残し、ワルターは自らのテルクェスを広げ飛び立った。そうしてワルターの姿が小さくなっていくのを見続けていたがジルバは動いた。
「セネルさん、どうか落ち着いてください。お水、飲みませんか?」
その手には自分のザックから取り出したボトルが握られていた。



【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP85% TP100%  身体中に裂傷、背中に軽度のやけど
所持品:睡眠薬 遅効性の毒薬(回りきるまで3時間?4時間程度) ステラのザッ
ク シャーリィのベスト
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。セネル達を利用。上手く立ち回る。
第一行動方針:セネルに水を飲ませる
現在位置:G6岩場

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP100% TP80% 姉の死によるショック 精神的に疲労大 ベストなし 
所持品:ジェミニシェル、首輪探知器
基本行動方針:お兄ちゃんたちを止めるために動く
第一行動方針:セネルを止めるために協力者を捜す。
現在位置:G7海上

【ワルター・デルクェス 生存確認】
状態:HP60%、TP40%、強い決意 服に焦げ
所持品:黒髭ダガー、支給品1個(本人確認済み)
基本行動方針:メルネスの護衛をする。メルネスを優勝させる。
第一行動方針:メルネスに追いつく。
現在位置:G7海上

【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP60% 全身に擦り傷、切り傷 ステラの死へのショック シャーリィに否定されたことでのショック?
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、時を駆ける少年の人形、本人確認済み支給品2個、すずのザック
基本行動方針:俺は……俺は……?
第一行動方針:????????
現在位置:G6岩場
320名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:22:59 ID:dGDrxVMz0
投下終了です
番号がすごいことになってたりするのは見逃してください
321名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:29:23 ID:NlDs9QzRO
投下乙、ソフトバンクすぎるよ妹さん。
しかし支給品、シャーリィはシェル置いていったのでは?
322名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:29:56 ID:sxASksXc0
投下乙です、シャーリィがいい方向にキレたw
そしてジルバさまがまた何か企んでる予感…
あとシャーリィがジェミニシェル投げつけたのに、持ち物欄にあるのは消し忘れ?
323名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:32:30 ID:kvqIgkNE0
投下乙。
ああマーダーパーティが…orz
ところで冒頭の描写、いままでの話を見ると位置的にロイドたちが探知機に
映っててもいいと思うんだけどどうかな?
324名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:34:10 ID:1fAPVBWZO
投下乙です
ジェミニシェルは基本2つセット
今までジェミニシェルが一つしか無い描写があったなら要修正だが
特に無いか2つある描写があれば片方だけ投げたって事になるのかな
その辺どうなってたっけ
325名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:43:38 ID:sMUJhsWgO
おおおお!これは良いシャーリィ!
パーティー解散は惜しいけど、この展開はすごく好きかもしれない
やっぱジルバ様カッケー
326名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:44:18 ID:AnjYtY3gO
マーダーばっかり減っていく予感w
327名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:51:58 ID:dGDrxVMz0
さっきの書いた奴です
ジェミニシェルはすいません消し忘れです
冒頭の探知機のは修正版を近いうちに避難所に投下します
328名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:52:13 ID:/uVqcAKy0
乙。ワルターは凄く頑張れ、いろいろな意味で。


そして、投下をします。
329幻想即興曲 1:2008/09/22(月) 20:53:27 ID:/uVqcAKy0
「無重力光線によって敵を空中に浮かべ地面に叩きつける……トラクタービーム、か。」
プライマル・エルブン・ロアーで記されている魔術書を片っ端から読み解くリヒター。
初歩の火炎魔術から果ては星を呼び寄せる禁術まで、ここにはあらゆる魔術書が保管されている。
ほとんどの術はリヒターにとって既知の代物であるが、全く知らない術も稀に混じっていた。
だが、彼は錆びかけていた知的好奇心を抑え、未知の魔術書をパタンと閉じた。
時間は有限だ。今はこのような術に心を躍らされている暇など無い。
「こちらには大した物はなかったぞ。そっちは何か見つかったか?」
そう思いクラースに声をかけるが。
「……なるほど、精霊の契約を応用した、魔物との属性マナを帯びた宝石による契約。
 精霊や精霊と契約を行った術師ならば、宝石を用いず契約を結ぶことも考えられる、か。
 むむ、魔物との契約には樹の精霊の力を借りるのが最も有効である、とも書いてあるな。
 こんなことなら、あの時に無理してでも精霊マーテルと契約を結ぶべきだったか……」
彼は大掃除中の小学生のような有様だった。


「いやいや、そう怒らなくてもいいじゃないか」
リヒターの冷たい視線に照れ笑いで答えるクラース。まるで反省の色はない。
「……人が手伝っているというのに、少しは真面目に取り組め」
辛辣な言葉を吐くが、リヒターにしてみればこれでも自制しているほうだ。
目の前の奇妙な出で立ちの人間が、かなりの知恵を持っていることは理解している。
しかしそれでも、いやそれゆえなのだろうか。
クラースは割と気分屋な性格をしており、根っから真面目なリヒターは苛立ちを感じていた。
「リヒター君。それは大きな誤解だ。私は真面目に調べながら己の知性を高めていたのだよ。
 その証拠に、これを見てくれ。……トリニクス殿が自ら記した時空間転移術の記録だ」

そこに記されていたのは、法術ディレイ、ヘイスト、タイムストップの理論解析式。
それを論拠とした時間移動の仮説。法術師でもあるトリニクス・D・モリスンのサインも入っている。

「…………」リヒターは顔をしかめる。
「そう悔しがるな。たまたま、私が調べた本にあっただけなのだから」
フォローするクラース。しかしリヒターが顔をしかめた理由は、そんなことではなかった。

「……法術師だと? トリニクスという男は魔術師ではないのか?」
330幻想即興曲 2:2008/09/22(月) 20:54:29 ID:/uVqcAKy0

そう言って、リヒターは一冊の本を引っ張り出す。
それもまたトリニクスの直筆のサインが書かれている、エルフ語の研究書だ。
「こちらでは、禁術メテオとディストーションの空間操作理論から始まって、
 空間転移と時間転移の相似性による時空転移の可能性が記されている……
 法術というのは俺は知らんが、これを読む限り、トリニクスは魔術師としか思えないのだが?」

リヒターの言葉に、クラースは狼狽した。
彼の知るトリニクス・D・モリスンは確かに魔術師だった。
法術の心得が無いというわけでもないが、それはあくまでも教養レベルである。
あのミントですら制御が難しい高度な法術を、これほど高度な理論で解析できるものだろうか。
「…………」考えこむクラース。この不一致に、彼は何かの鍵を感じていた。
天啓がクラースの脳内に訪れた。それはクラースでなければ分からない歴史の綻び。
「リヒター、少しその本を貸してくれ」
神妙な表情でリヒターに告げる。エルフ語で人間には読むところがほとんど無いというのに。
パラパラとページをめくる。気になったのは内容ではない。奥書に書かれた日付だ。
流石に数字だけは、クラースほどの学者なら判読できる。
同時にもうひとつのトリニクスの術書の奥書も開く。

二人のトリニクスが残した研究書。
記された日付は、同じ年の同じ月、そして同じ日だった……

「……こんなことが有り得るのか?」リヒターが問う。
「単なる書き間違えで済ませることも可能だが……恐らくそうではない。
 法術による時空転移をしたトリニクスと、魔術による時空転移をしたトリニクス。
 この二人は異なる時間軸を生きた別人、と考えるほうが納得がいく。
 一つ訊きたいが、君の目から見て……魔術による時間転移は可能だと思えたか?」
クラースはようやく、あの時間移動の旅で残った最大の謎の核心への道筋を得た。
それはリヒターの意見によって、確信へと変わる。

「……いや、恐らくは無理だ。魔術メテオスォームに用いるレベルの時空間転移では、
 奇跡でも起こらぬ限り人間の肉体は耐えられまい。実用するには対衝撃の改善が不可欠だろう。
 ……この時空転移にもしも肉体が耐えられるとしたら、それは人間ではない……魔王か、魔人だ」
331幻想即興曲 3:2008/09/22(月) 20:55:44 ID:/uVqcAKy0

「魔人、か。……確かにその通りだな。なるほど、ようやく謎が解けた。
 ……話を元に戻そう。我々がそうであるように、別の世界が入り混じっているということは――」
クラースは先ほどまで読んでいた契約術の研究書を取り出す。
そこに書かれている名前は……『フレイン・K・レスター』
「正直、私の名前を騙る不心得者が書いた偽書かとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
 アセリア暦4765年……この屋敷が存在する筈がない時間から紛れ込んできたか」
可能性の枝の先に、生まれ出でるかもしれぬ子孫が書いた本をめくる。
そこに記されたのは狂人の世迷言とも思える文面。

『超古代文明の遺跡にて発見した、人造の妖精。彼女(?)は僕を主人として旅についてきた。
 不思議な力を持っていて、時間を越えて人間を呼んでくることが出来るという。
 冗談だと思っていたが、彼女は実際にあの英雄クレス・アルベインを呼んで来てみせた。
 クレスさんは伝説に違わぬ凄い力を持っていた。彼の助力を借りて、僕は魔王討伐の旅を続けた』


その後も、二人は時空間転移に関係のありそうな書物を探し続けた。
すると出てくるのは、ありとあらゆる世界の記録。学者ならば、涎が止まらぬほどの希少な資料。

・空間言語と異空間の扉を開く生命の法
・第七音素の超振動による空間転移
・果てしなく続く、闘神が佇む水の迷宮
・遥か遠き地にあるといわれる時を越える門
・鏡面世界を構築するセイファートリング
・ダクトと呼ばれる元創王国時代の物質転送装置
・遺跡から発掘された二台の時空を越える船
・時を逆巻きにすることさえ出来る宝珠
・使用者を転移させる力を持つ翼を持つ靴
・デリスエンブレムを用いた転移トラップ
・時間と空間を支配する時の魔剣
・瞬時に人々の前に姿を見せて煙のように消えた聖女
・絵画を媒体として時を越えた少年少女
・黄金竜に頼まれて時間の歪みを修理する二人組

まだまだ探せばありそうだが、日も暮れかけてきたので二人は一休みすることにした。
332幻想即興曲 4:2008/09/22(月) 20:56:47 ID:/uVqcAKy0

「……しかし、多すぎないか?」
資料の山を見て呆れながらリヒターは言う。
幾らなんでも多すぎる。一つ一つ検証するなど無理な話だ。
「そうだな。だが……もしかしたらこの中の幾つかは、ほかの参加者の世界の技術なのかもしれん。
 上手く協力を仰げれば検証の手間は省けるだろう。尤も、どれも実現不可能という可能性もあるが……」
そう言って一息つくクラース。
彼の世界の転移技術の資料も幾つか散見したが、何れもすぐ実行できる代物ではなかった。
そしてそれは……リヒターとて同じことだった。


【リヒター・アーベント 生存確認】
状態:TP60%、健康
支給品:ストライクアクス、エバーライト
基本行動方針:ゲームに乗る気はない。ギンヌンガ・ガップの封印に戻りたい。
第一行動方針:転移術について更に調べる。
第二行動方針:元の世界に帰る方法を探す。
第三行動方針:イグニスはどうにかしなければまずいな……。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)から

【クラース・F・レスター 生存確認】
状態:HP100% TP100% 徹夜での野外活動と勉強によりかなりのお疲れ
所持品:ピヨノン、グミセット
基本行動方針:ゲームには乗らず仲間を集め打開策を図る
第一行動方針:しばらく休みたい
第二行動方針:すずのためにも自分に出来ることをする。
第三行動方針:3人と行動を共にする。
現在位置:A-4モリスン邸(現代)
333名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 20:58:58 ID:/uVqcAKy0
以上、投下終了。
どの脱出フラグが来ても大丈夫なようにしたが、フォローしきれてないかもなあ。


あの箇条書きのネタ元が全部分かったら(一部、テイルズに近い別の奴も混じってる)神。
334名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:24:03 ID:EnLyXvBfO
オリジナル要素が混ざり過ぎで無いだろうか。
俺は素直に乙と言えないな。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:25:59 ID:NlDs9QzRO
投下乙です。元ネタ半分くらいしかわからないぜ。
避難所とかに落としてくれるとありがたいw

そしてクラースさん、樹の精霊は何時間か前まですぐそこにいたんだぜwww
336名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:30:20 ID:/pS56/yjO
もうすぐ規制解けそうなので…。
先程のアリス話の作者です。
自分の書いた話がいろいろと物議を醸してしまったようなので、規制解除後にもし被っていなかったら、
皆さんが指摘してくださった部分を修正したものを避難所に投下しようと思いますので、よければご意見ください。
よろしくお願い致します。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:32:34 ID:LkQlm4wYO
投下乙。あああ元ネタが1つだけ分かんねぇー!orz
にしてもサイグローグさん凄すぎだろwwどんだけ色んな世界行ってるんだww
アタリもありそうだけとハズレもありそうだなあ…というよりは主催の混乱目的か?
338名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:35:13 ID:Tr2z6F2U0
>・使用者を転移させる力を持つ翼を持つ靴
これってドラクエか?
339名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:37:30 ID:kvqIgkNE0
テイルズロワなんだからダミーとはいえテイルズの設定オンリーにしてほしいな…
テイルズの設定だけでも半分ちかく曖昧にしかわかんないぜ!
340名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:42:13 ID:w1OBwHKj0
投下します
341禿<かむろ>奇譚 〜勇気・希望・正義・愛〜1:2008/09/22(月) 21:43:32 ID:w1OBwHKj0
アリエッタは、夢を見ていた。

―――イオン様…?
そこにいるのは、己が守ろうとした導師。守れなかった、大切な人。
法衣に身を包んだ緑髪の少年は、自分に向かってなにやら話しかける。その顔はとても穏やかだった。
―――なにを、言ってるの? 聞こえないよ、イオン様…
そう声を発したはずなのに、自らの声もまた、音としての力を持っていなかった。
少年は優しく微笑み、静かにアリエッタの背後の方向を指さす。
振り返って見てみると、そこには一本の道があった。
再び少年の方を見る。彼は静かに、しかしはっきりと頷くと、アリエッタの所へ歩み寄ってきた。
―――…イオン、様?
少女に待ち受けていたのは、抱擁。その意図を計りかね、困惑する。
数秒にも数時間にも感じられた抱擁の後、少年はアリエッタの顔を真っ直ぐ見ながら口を開いた。
―――つ・ぎ・は・あ・な・た・が・ま・も・る・ば・ん・で・す…?
声は聞こえない。しかし、口の動きが、ココロが、そう言っているのだと告げていた。
少年は再び微笑む。そして静かに、少女の中へとけ込んでいくかのように、すぅっと、消えていく。

そして、夢から目覚めるのだった。



「イ、オン…様」
アリエッタは悟った。理解してしまった。もう既に、自分の想い人はこの世界にはいないという事を。
涙が一筋、こぼれ落ちる。
(でも。アリエッタは、ひとりぼっちじゃない)
ゆっくりと瞳を閉じる。そこに浮かぶのは、穏やかな顔をした少年。こうすれば、いつだって会うことができる。

(あれ…?)
よく考えてみれば、自分はあの金髪の大男の攻撃によって石化していたのではないか?
痛みに悲鳴を上げる身体が、彼女に周囲の状況を確認するよう促す。
疑問の答えは、彼女のすぐ側にあった。割れた瓶の破片。石化が解けた理由。
(パナシーアボトル…)
そして。そこからほんの少し、視線を上に上げる。
(なにが…あったの?)
石像は何も語らない。

『アリエッタはあなたについてく。あなたに守ってもらう。
でも…もしも、もしもの時は…アリエッタは、ガマンなんてしないんだから』
『分かった。そしたらその時は…僕は全力で君を止めるよ』

放送が流れる前に交わした言葉。
金髪の大男の攻撃をくらった時、目の前の石と化した青年は木に叩きつけられそうだった自分を助けてくれた。
そして、石化した自分をパナシーアボトルで治してくれた。
(…守って、くれた?)
己の代わり、とでもいうように石化している青年を見ていて思い出すのは、大樹の側に墓を作り終えた時のこと。
342禿<かむろ>奇譚 〜勇気・希望・正義・愛〜2:2008/09/22(月) 21:44:27 ID:w1OBwHKj0

『リーガルさん…きっと、あなたは僕達の事を守ってくれたんですね』
『僕も、この子を…誰かの事を、守れる人間になりたいです。いえ、なってみせます』

青年の言葉と夢の中でのイオンの言葉が重なる。

(守る…)

本当なら彼の石化を治してあげたい。しかし少女はリカバーなどの状態異常を治す譜術を身につけておらず、
サックの中の支給品(穴が開いており、一つ無くなっていた)にも石化を解けるようなアイテムは入っていなかった。
青年のサックを調べようにも、彼ごと石化しているのでどうすることもできない。
(どうしたらいいんだろう…?)
思い悩む少女の脳裏に、ある人物が浮かんだ。
(ティア、だ)
憎きアニスと共に行動していた、神託の盾<オラクル>騎士団情報部に所属する第七音譜術士<セブンスフォニマー>。
名簿にも名前が載っている彼女なら、石化を解くことができるかもしれない。
「ティアを…探さなきゃ」
サックから地図を取り出す。
(ティアがいそうな場所、いそうな場所はどこ?)
先ほどまでいた場所には大きい樹があった。ということは、今自分達がいるのはD1なのだろうか?
(…街がある)
ここがD1ならば、ここから南に行けば街が見えるはず。街は人が沢山いる場所。ティアもそこにいるかもしれない。
地図をサックに片づけたとき、サックに穴が開いている事を思い出した。このままでは他の支給品まで落ちてしまうかもしれない。
土や泥で汚れてしまった着ぐるみをサックの中に戻し、着ぐるみを抱いていたようにサックを抱きしめる。
こうすれば物を落としたとしても、少しは気付きやすくなるだろう。
鬱蒼と生い茂る木々からの木漏れ日を見る。正午を過ぎているのだから、光は南から西にかけて差し込んでくるはず。
(南は、あっち…)

「…あなたは、アリエッタを守ってくれた」
この場を立ち去る前に、もう一度青年の所を向く。

「こんどは、アリエッタが…あなたを、守る」

それは守るべき仔を失った幼き母虎の、小さくとも確かな決意。



【アリエッタ 生存確認】
状態:HP70% TP90% 腹に銃跡(×2 処置済み) イオンの死による静かな悲しみ 決意
所持品:ねこねここねこ 空のビン ???(武器・状態異常回復アイテムではない)
基本行動方針:クレスを守る
第一行動方針:ティアを探し、クレスの石化を解いて貰う
第二行動方針:街に行く
第三行動方針:石化を解くアイテムを探す
現在位置:E2北西(ガオラキアの森/TOS) → G2(サニイタウン/TOR)
※ 第一回放送でイオンより後に呼ばれた死者の情報を書き写していません。

【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:HP20% TP85% 石化 失血による貧血 マント破損 疲労
所持品:デュナミス パナシーアボトル×2 首輪 リーガルのサック(スコップ ???)
基本行動方針:ゲームを止めるため同志を募る。守る側の存在になる
第一行動方針:今、成すべき事を早く考える
第二行動方針:リーガルさんを殺したのは誰だ…!?
第三行動方針:放送の続きが知りたい
現在位置:E2北西(ガオラキアの森/TOS)
※ 第一回放送で最後に呼ばれた死者が誰だか知りません
※クレスのサックはクレスごと石化しています
343名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:45:20 ID:w1OBwHKj0
投下終了です。
>>336氏、申し訳ない
344名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:49:30 ID:XqF6cqR/0
 しかし、主人公が四人連続で加害者とはびっくりですね。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:51:08 ID:kvqIgkNE0
投下乙。アリエッタ…だがティアはリカバーが使えない…
それでも頑張れ!
346名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:00:35 ID:/pS56/yjO
>>342
うわーすいませんすいません
投下乙です!

避難所の奴全部忘れてください…
お騒がせしましたorz
347名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:06:42 ID:sMUJhsWgO
投下乙
立ったー!フラグがいっぱい立ったー!
賛否両論ある内容でしょうが、単純に面白かったです
サモリネとか懐かしすぎて泣いた

アリエッタが健気可愛いよおぉぉ
これは完全に対主催化したってことでいいのか?
348名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:10:58 ID:I3PdkC6k0
アリエッタ強くなったな…頑張れ。超頑張れ
ティアはリカバーは使えないが、状態回復出来る術を一個だけ持ってるよ
投下乙でした
349名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 22:55:24 ID:QW4cy7ad0
投下乙
これは面白そうなフラグ
350名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 03:22:06 ID:q3PNmtpXO
皆、投下乙。

しかしリヒターのTPが全く回復してないのがちょっと気になった。
351名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 07:28:02 ID:mYisdmnAO
投下乙

アリスちゃああぁぁああんが来ちゃうフラグなのか?そうなのか?
352名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:24:52 ID:k/XqtQtEO
投下します。が、多分今までで投下された2ndSSで一番長いと思われるので支援必須です。
今から投下しても恐らく支援が得られないので、35分から投下しようと思います。支援お願いします。
353Sister 1:2008/09/23(火) 16:38:07 ID:k/XqtQtEO
艶やかな髪が優しく頬を撫でる。
少年は音も無く息を吸い込み、肺が新鮮な空気で満たされた事をしかと認めてから小さく嗤った。
幻想的な虹色の煌めきが現を、彼の世界を強く優しく抱擁する。
触れた刹那に溶けてしまいそうな儚い粉雪の様に、木目が細かい肌は橙に染まっていた。
それだけでは無い。柔らかく軽い色彩は目に入る限りの全てを見事なまでに染め上げている。
白銀である筈の砂も、喘ぐ少年も、側に居る女性をも。
無論、前述の通り天使の少年の世界以外だが。
「さて、如何する?」
斜陽が彼の前髪の奥を隠す。
少し冷たい微風は、前髪を揺らし、幾重にも重なった影はワルツに踊る。
心底耳障りなラプソディーが、軋む奥歯が奏でる狂った音楽が、鼓膜を揺らした。
ゆらりと、少年を押し倒している天使の足元から伸びた影が揺れる。
妙な方向に曲がった腕に喘ぐ少年は、残酷に微笑む天使の向こう側に黄昏を見た。
最初の星影が、確かにその景色の奥に悠然と輝く。
しかしそれは風前の灯の様に、儚く、脆くて。
反骨精神がすうと消える。緋色が紺碧に、剥かれた牙は唇に収まり。

嗚呼、美しくも残酷な光を反射する紫雷の名を冠する刃が、少年の首にゆっくりと降り下ろされ。

そして、真紅の薔薇が黄昏に染まる。



―――――――――――――



ミトスは激怒した。女のネジの飛び加減に我慢の限界を覚えたからだ。
「お前さ、天才だか何だか知らないけど、僕が珍しいからってあんまり勝手な事言ってると……殺すよ」
狂った様に上から降りる記憶粒子を目の端に認めながら、ミトスは呟いた。
穏やかな声色だが、胸裏ではとてもでは無いが穏やかとは程遠いものだ。
腰を降ろした少年の目線の先には、鼻歌まじりで何やらメモを取っているハロルド。
と、ハロルドが振り向く。一度うーんと上を見て唸り、そしうて漸く二秒後に口を開いた。
「まぁまぁ。大体こうなれば一蓮托生も同然っしょ? 怒っても仕方無い仕方無ぁーい。
 ほら。なら、たまには解剖くらいさせてくれてもいいと思わない? スペクタクルズだけじゃ飽きちゃうのよねぇ」
両手の指を交差させ上目遣いで天使を覗くハロルド。艶めかしい唇に目が滑る。
その周りにはキラキラと光が……いや、現れたりはしないが、どうやら冗談で無く本気な辺りが実に質が悪い。
354名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:39:25 ID:QzZa8WF9O
支援
355名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:40:27 ID:21yarC1L0
352に続いて投下したいですが、もう出かけないとならないため避難所に落とします。
かぶっていなかったらどなたか本スレ投下をお願いします。
356Sister 2:2008/09/23(火) 16:40:53 ID:k/XqtQtEO
やれやれ、とミトスは飽きれ顔と溜息。
怒りも何時しか収まり苦笑いしか浮かばない。
ミトスはハロルドに聞こえない様に小さく鼻で笑う。
恐らくはこれもハロルドの計算の内なのだろうと思うと、中々如何して底が知れない天才だ。
「……全く、調子が狂うね」
四千年もの時間を生きて来たが、自分のペースを赤の他人に盗まれる経験は初めてだとミトスは思う。
気を紛らわせる様に頬杖を突き、目線を下げる。
首輪についての考察も些か手詰まりの感覚を否めない事実。
ミトスは悪態を吐くと手中のペンをくるくると回した。
「幾ら天使が解剖されても死なないからって……悪趣味にも程があるよ、ハロルド・ベルセリオス“博士”」
ことりとペンを半透明な床に置き、そのまま左手でペーパークリップで括られた十枚程のメモをぺらぺらと捲る。
首が、忌々しい銀色の輪に少しずきりと痛んだ気がした。
温度を覚えぬ筈の身体に、首筋に。
少しだけひんやりとした感触を、確かに覚えた。
粒子が苦悩する己を笑うかの様にメモに溶ける。
ついでにこの難問も“解”いて欲しいものだとミトスは内心微笑んだ。
ふとハロルドが笑っている事に気付く―――相も変わらず品性の欠片も無いが、もう慣れた。
習慣とは中々恐ろしいものだと身に染みて深く感じる。
「ぐふふ。一応褒め言葉として受け取っておくわ―――って……?」
はっとした様に音叉型の装置の目の前に立つハロルドがミトスの方へと振り向く。
丁度真後ろの階段に腰を下ろすミトスは億劫そうに、何さ、と呟いた。
ハロルドが一瞬考える様な素振りを見せ、そして人差し指を天へと突き立てる。
丁度降ってきた記憶粒子が指先に溶け込んだ……ケミカルで些か笑える。
「ちょい待ち、ミトス。解剖されても死なない、ってどゆこと?
 年齢操作可能だから不死身ってのはOKだけど、天使ってのは肉体損傷にも堪えられるの?」
首を傾げてこちらを覗くハロルド。
何だそんな事か、やれやれとミトスは溜息を一つ。
サックから名簿を取り出しながら、少年はゆっくりと口を開いた。
金髪が、折り畳まれた名簿を開く風圧で若干ふわりと揺れる。
目障りな記憶粒子も動揺だ。
「ハロルド。天使ってのはね、何も年齢の操作だけが脳じゃないのさ。
 そんな低俗で陳腐な能力じゃあないよ」
ミトスはそう話しながらキュポン、と赤いマジックのキャップを取る。
357Sister 3:2008/09/23(火) 16:44:20 ID:k/XqtQtEO
油性マジック特有のシンナー類の臭いが風に乗り、ハロルドの鼻腔を突いた。
左手でくるくるとペンを回しつつ、ミトスは右手に持った名簿から目を離した。
メモの傍らに捨て置かれた名簿はかさりと音を立てる。
「例えば……そうだね、この羽が一番の特徴かな」
マジックを回したまま、少年の姿のミトス――ハロルドが急激な肉体成長の仮定を見たいと言ったから仕方無く変化した――は、
胸元の輝石をその名の通り輝く石と変化させた。
瞬間、彼の背中から結晶状の美しい羽が生える。
目を眩ます程の七色の光に、思わずハロルドは手を目前に翳した。本来眼服モノなのだが。
「さっきもコレ、見せたよね。まぁ、とどのつまり羽を出せればイコール天使って思ってくれればいいさ。
 で、天使になるにはこの……僕の胸元にある様なクルシスの輝石が必要って訳」
ミトスは淡白に言うとメモをぺらりと捲る。
ハロルドは黙って天使の話に耳を傾ける。話が終わる前に質問する事程無粋な事は無い。
加えて、彼女はミトスの性格を漠然とはしているものの把握しているつもりだった。

こう言ってしまうとかなり言い方が悪くなるのだが、気が向いている内に喋らせなければ、
何時ミトスが億劫になり口を閉ざすかは、正直な処分からない。
一応行動を共にしてはいるが、これは言わば同盟以下の陳腐な代物。
偶然に互いの利害と志が一致した。それ以上も以下も無い。
利用し利用される仲。効率が良いから行動を共にする、それだけだ。
だが無論、片方が居なくなれば困る訳でもあり、故に一蓮托生と云う表現。
ならば最大限の譲渡も当然必要となる訳だ。
いくらハロルド・ベルセリオス本人がミトス・ユグドラシルと天使に興味があるとて、逸る気持ちは毒だ。
「……で、その肝心な天使の力だけど」
天使の羽を消すと、ミトスはそう続けた。
ふと、メモに一瞥を投げる。
時間が勿体無く感じた為、余白に乱雑に綴られた禁止エリアと死亡者の名前。
少年は回していた赤ペンを止め、禁止エリアを地図に、脱落者を名簿に記す。
第一放送で紅のクロスが合計十。詰まり死亡者計十名。
ペースはミトスの予想を遥かに上回っていた。
そう多くない様に見えるが、されど五分の一。
プレセアとリーガル、マグニスが死んでいる事から油断は禁物だ。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:44:20 ID:6h21mikAO
支援
359Sister 4:2008/09/23(火) 16:47:39 ID:k/XqtQtEO
ミトスは首を傾ける。
転がる赤ペンを右手で押さえ、無いわと答えたハロルドからミトスは目を離した。
中途半端に開いたサックに適当に赤ペンを放り込む。
「でも、今ので“大分進んだ”わ」
「それは?」
再び下品に微笑むと共に、ハロルドはヒールで音を鳴らしつつミトスへと歩む。
距離にして5m。丁度五歩歩いて彼女は腰を曲げた。
「……あー、なんでも無いわ」
顔面に嫌らしい嗤いを貼り付けたハロルドは、そう言って膝を崩し、
転がっていたミトスの黒ペンを手に取る。
「ふうん」
そして左手に抱えた十数枚のメモの内の一枚をランダムに抜き取り、ミトスの目の前の床に置いた。
すらすらと黒いインクがアイボリーカラーの紙に染みて行く。
「めんごめんご。考えが纏まらない内に言っちゃうのはアレなのよ。
 ……と・こ・ろ・で」
キュッ、とペン先が音を立てた。
ミトスは口中で唸りを転がす。
驚くべきは、ハロルドがそれに気付いた事では無い。
いや、勿論そうでもあるのだが、向かい合うミトス側から見て文字になる様に、
つまり逆に文字を書いて見せる器用さにミトスは唸った。
(アンタ頭の回転早い癖に馬鹿ね。いいこと?
 あのサイグロあんぽんたんは死亡者の判断は如何やってやってると思う?
 私は首輪から感知する鼓動だと思ってた。けど、あんたは言ったわね。心臓が要らないって。
 つまり、判断基準は心臓じゃないって事)
サックの口を閉めようとしたミトスの小さい手がぴくり、と反応。
赤ペンを取り出し自らのメモを裏返す。
(勿体ぶらずに結論だけ述べてくれないかい)
「一つ提案があるんだけど、いいかしら?」
(ぐふふふふふ……だぁーめぇー。人の話は最後まで聴くうっ!
 過程を無しに結論だけなんて愚の極みよ。
 次そんな事言ったらその口切り取ってホルマリン漬け標本にするからヨロシク♪)
口から出ようとする本日何度目かの溜息を無理矢理飲み込み、ミトスはゆっくりと髪を耳に掛けた。
(はいはい。分かったから続けてくれよ……)
やれやれと言いたい処だが、それでは筆談の意味が無い。
変わりに露骨に嫌な顔をしてやる。尤も、ハロルドにはその効果は期待でき兼ねるだろうが。
ミトスは脚を組み直すと、瞼を閉じて口を開いた。
「僕の気のせいなのか如何かは知らないけどさ。
 ……その提案、悪い予感しかしないよ、全く」
360名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:49:03 ID:a6ZEat8Y0
 
361Sister 5:2008/09/23(火) 16:52:31 ID:k/XqtQtEO
ペンのインクは紙に吸い込まれる様な滑らかな動きで文字を記す。

瞬間、ミトスの脳内は穏やかでは無い暗雲により覆われた。

(つまりね、体温も鼓動も体液の動きも無いに等しい天使の生存を確認する方法は、首輪側に存在し得ないのよ。
 天使の首輪だけ特別製って訳でもないっしょ。多分だけど。
 故に、私達の生存を掴む術は恐らく)
そして目を潤わせてこちらを見るハロルドへと目線を上げる。
その先にある音叉型の巨大装置が眩しい。
(首輪で無く脳の内部にある、か。ぞっとしない話だね……出来れば気付きたくなかったよ)
ミトスは内心で、苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。
それは詰まり、脳内が操作されている可能性が高くなった事を示唆している。
思考操作―――それが可能ならば、この筆談と言う行為すらこのゲームのホストからすれば予定調和。
全てが掌握されているならば、全てが計算通りなら、己も参加者という枠組みの一つに過ぎない。
しかし奴は苦悩する姿や選択に興味を示している様だった。ならばそれは限り無く否になる。
……くそッ、何処までホストは干渉している。
「ミトス。あんた、外に偵察……つーか情報収集に行ってくんない?
 このままじゃこっちの装置の調査はお手上げよ。
 進むもんも進まないわ。だからこの装置知ってる奴連れて来てちょーだい」
適当にうんと相槌を打ちつつミトスは魅力的な袋小路思考に浸った。
考えても考えても活路は見えない。
無駄だと理解しているのに思考してしまうのは人の悪い癖だ。

不意に、ハロルドが立ち上がりこちらにメモを見せる。どうやら最後の筆談らしい。
(……思う処もあるだろうけど。つーかまぁ多分私と同じ事考えてんだろうけどさ。
 考えるだけ無駄よ、そんなの。答えを知っちゃったらつまんないでしょ?
 だからそれは一旦ヘヤノスミスに置いといて、私達は純粋に謎解きを楽しみましょ。
 んじゃ、いってらっしゃ〜い)
身を翻しひらひらと手を振るハロルド。
投げられたペンを左手でキャッチしながら、ミトスはそのメモに首を傾げた。
「いってらっしゃい?」
半ば自動的に口から単語が零れる。
初めて聞いた単語の意味を親に問う子の様な、そんな口調だった。
「そ」ハロルドは振り向いてとびきりの笑顔で言う。「いってらっしゃい」
362名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:53:03 ID:a6ZEat8Y0
 
363名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 16:56:51 ID:ZQZKX1AUO

364Sister 6:2008/09/23(火) 16:57:18 ID:k/XqtQtEO
繰り返す様に呟き、やたら上機嫌な顔を見せるハロルド。
ミトスは眉間に皺を寄せ記憶を辿り―――数秒後、凄まじい勢いで頭を抱えた。
懇願する様に見上げると、にやにやと嫌らしいしたり顔。
……最ッ高にムカつく。今直ぐにでも八つ裂きにして殺したい。
強張った天使の笑みは、正に心の表情そのものだった。
「で、でも……ほら、大体せこいと思わないのか?
 人が考えてる時に卑怯だよ」
鼻歌まじりで音叉型巨大装置の前の石を叩くハロルドにミトスは必死に言う。
業物の鈍器を叩いた時の様な小気味好い音を鼓膜に感じた。
「あのねぇ……でももヘチマもカルビリアトマトもティルマニック=ディアトンホーゼもなーい!
 ちゃんと聴いてないアンタが悪いの!
 分かったらはい、行った行った。どの道ずっとヒッキーな訳にはいかないわ。
 泥棒を見てから縄を綯っても遅いでしょ?」
唇を尖らせたミトスにしっしっ! と手で払うジェスチャーをすると、ハロルドはどかりと地べたに座る。
天使は今日で一番長く大きな溜息を一つだけ吐いた。



―――――――――――――



酷く小さな背中をした天使は、岩山の麓をとぼとぼと歩いていた。
ごつごつと岩から伸びた影が余計と天使を寂しく憐れに見せる。
約束の時間は第二回放送まで。
それまでに有能な人材もしくは情報を持ち帰る事がミッションだ。
「無理に決まってるだろあの女。常識的に考えろよ……」
悪態を吐きながら、手頃な岩に凭れ掛かり地図を開く。
現在地はB4。北上しA4の館に移動すれば恐らく人に会えるだろうとミトスは踏んでいた。
「ふう……何だって僕がこんな事……。これ以上人と関わるなんてごめんだよ……」
眉間を揉みながら、ミトスは重い腰を上げる。
落陽を見据えるその碧眼には新たな決意。
「見てろよあの女……次は絶対僕が嵌めてやるからな……!」
クルシスの指導者、天使ミトス・ユグドラシル。年齢4000以上。

精神年齢は………………10歳だ。



―――――――――――――



エミル・キャスタニエは我ながらに素晴らしい視力だと感心した。
落ち掛けの陽により黒と橙に染まった世界のずっとずっと向こうに―――それは居た。
ぽつんと、小さな少年がこちらに背を向けて立っていた。
圧倒的存在感だった。
空を仰ぐ少年は不思議と世界から乖離して見え。
その華奢で美しい身体はまるで世界から切り取られている様な印象さえ与えた。
365名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:00:09 ID:a6ZEat8Y0
 
366Sister 7:2008/09/23(火) 17:02:25 ID:k/XqtQtEO
ルーティさんがどうしたのよ、と自分の肩を揺らす。
じわりと目の前が赤くなり、ぐらりと視界が歪む。
そして……ぞくりと全身の毛が弥立った。
混沌とした黒い渦の中に落ちる様な、悪夢の様な錯覚。
何時の間にか景色は那由他の線で構成されていた。
唸る風、煌めく刃、視界が赤い。
目前の華奢な少年はずっと空を仰いだままだ。
縺れる脚に鞭を打つ。正に全力。正に疾走。
女の叫び声が遠く聞こえて。刃を握る手が、全身が、燃える様に熱い。

僕は、そうしてラタトスクの意識の外へと蕩ける。



―――――――――――――



轟然たる音、後に黄塵万丈。
斜陽の光を受けて煌めくそれの中心に、浩然として空を仰ぐ少年が居た。

「……だから、人に関わるのは嫌だって言ったのに。碌な事が無いよ」

ぽつりと、低いトーンのそれが呟かれる。
エミルの狂刃は―――空を仰いだままのミトスの二本の指の間に見事に収まっていた。
エミル……否、ラタトスクはその宝石の様な紅の眼球を見開く。
背後からの見事な一撃の筈だった。それをこちらを見ずに、片手の指だけでッ!?
「……ハロルドの奴、帰ったら半殺し決定だね」
ふぅ、とミトスは溜息を吐き……そしてラタトスクの目前から文字通り“消えた”。
瞬間的且つ超高速、更に劇的なマナの流動。
正に一刹那。その圧縮された体感時間の中で、しかしラタトスクは確かに感じ、覚える。
その激流はしかに瀞にも錯覚させる静寂さが存在する事、即ち、限界まで研ぎ澄まされたポテンシャル。
無駄が無い動き、僅かな余韻すら残さない完全な気配と殺気の喪失。

“好戦的、否。そのものが、違う、小知! 一寸先は終焉――――!”

ラタトスクはその場から一ミリも動く事無く、ミトスに背後を取られ、そして十メートル吹き飛ばされた。
派手な不協和音が雄勁に響く。
「……僕も易々と殺されるつもりは無いんでね」
幽邃な黄昏に抱かれた少年はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「悪いけど、邪魔だしさ、死んで貰うよ」
晴れる事が無い黄塵、ミトスは目を細める。
……妙だ。
四方を見渡すが先程の少年の姿は無い。
気配も同様だ。
逃走? 有り得ない。先程の凄まじい殺気から判断してその選択肢は無い。
ならば殺す気満々か。煙に乗じる気だろう。
だが、とミトスは鼻で嗤う。
冷静になっているつもりだろうが、恐らく敵の心中は焦躁が募っている筈。
367名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:03:57 ID:a6ZEat8Y0
 
368名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:08:16 ID:QzZa8WF9O
支援
369Sister 8:2008/09/23(火) 17:09:07 ID:k/XqtQtEO
なにせ背後に全力疾走で斬り掛かる雛型通りの馬鹿だ。
最早奇襲とは言えない憐れな戦法。
更に自慢の刃を二本指で白刃取り。さぞ腑が煮えている事だろう。
ならば、次の手も決まっている。大方アレか。

「今度こそ貰ったぜミトス……虎乱しゅ――――「嗚呼、思い出したよ」――――!?」
……矢張り、背後。馬鹿馬鹿しくて欠伸が出る。
お疲れ様、もう、お前は死ね。

ぱちん、と少年の指が軽い音を鳴らす。
凝縮されたマナが紫の光を帯び、虚空を電速で走り抜ける。
ばちん、と乾いた音が三つ。
砂塵を刃で切り裂いて見えた向こう側に、少年の顔が、三日月が見えた。
はっとする。状況を理解する前に、三つの球体が三角形を形造り。
「お前のマナ、どっかで感じた事があると思ってたんだよね。
 ……成程ね。真逆精霊“様”が参加者とは。これはこれは、最高の笑い種だね」
己の身体が、紫電に拘束される。
流れる電流に全身の筋肉が強張り、目の前が真っ暗になり星が飛ぶ。
「えーと、精霊ラタトスクだっけ? ……まぁ、どうでもいいや」
十数の弓矢が虚空を貫き現れる。
研ぎ澄まされ凝縮されたマナは、相図を待ち鋭利な紫電を静止させた。
天使の強大なマナに天候すらもが変化する。
空には黒雲が立ち込め、ばちりと蒼雷が走る。
「さよなら。さっさと死ね―――――――ヴォルトアロー」
天使の羽を開き、ミトスは胸元で十字を切る。
正に刹那。限界まで張られた弦がしなり、電速の裁きの弓矢が精霊へと降り注いだ。



―――――――――――――



ルーティからすればそれは正に発狂だった。
それは当然だろう。気弱そうな少年が突然剣を抜いて全力疾走をするのだ。
気を違えたと思わない方が、よっっっぽどおかしな話だ。
故にルーティは一瞬追うべきか迷った。
本の一瞬だけ見えた彼の目は驚く程に鋭く、僅かに覗けた好戦的な笑みは不気味だった。
此所で彼女が我に返りリヒターから貰い受けた薬を見なければ、彼女はエミルを見捨てた可能性も有る。
そうして彼女は自体を把握し、気配を消して彼を追った。
それが幸か不幸かは、誰も知らない訳なのだが。



―――――――――――――



罅に破壊された岩石、荒れた大地。
その中心に皮膚を焦がしても尚立ち上がる精霊・ラタトスク。
紅の目は獲物を見る鷹の様で、実に笑いを誘った。最高に分不相応だ。
天使は満面の笑みを見せる。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:09:42 ID:a6ZEat8Y0
 
371Sister 9:2008/09/23(火) 17:15:28 ID:k/XqtQtEO
「驚いた……流石精霊だ。まだ動けるなんてタフだね、ラタトスク。褒めてあげるよ」
「ッせぇな……黙りやがれ、よぉッ!」
血を含んだ唾を吐き、天使に斬り掛かる。
鋭い剣線。
筋は決して悪くない。且つ身体の痺れを考慮するなら素晴らしい……だが。
天使は頭を振り、やれやれと溜息を吐く。
山の頂上から吹き抜ける冷えた風を合図に、ミトスは身を翻し剣を素手で弾く。
「……なッ!?」
ゆらりと乱れた前髪を掻き上げ、天使は滑らかな動きでラタトスクの右手を触った。
ふわりと天使の羽が揺れ、虚空に蕩ける。
「やれやれ……お前さぁ、剣握ってまだ一年そこらかい?」
五メートル後方で金属音。空しく岩蔭の隙間に落ちる剣。
軟体動物の様にぬるりとした動きで、腕に両手が絡み付き、サブミッションの準備。
ラタトスクが腕を抜こうとするが動かない。
強大過ぎる天使の力の前に、彼は確も無力だった。
「甘く見るなよ餓鬼(精霊崩れ)。
 そんな子供の付け焼き刃のチャンバラで、一つでも僕に傷を付けられるとでも?
 はは……笑わせるね」
声を含み笑いで震わせる天使が一気に両手に力を入れる。
恐怖と何かが精神の中で騒ぐ。危険だと、手を抜けと、喚き散らす。


形容、し難い、鈍い、音が、した。


喉を焼き兼ねない悲痛な絶叫が、黄昏を抱擁した。
虚空を劈く様なそれに天使は眉間に皺を寄せる。
「五月蠅いな、精霊の癖にさ。我慢が足りないね」
折れた腕を無理矢理捩り、膝を曲げて呻くそれの腹を思い切り蹴飛ばし、
ミトスはラタトスクに背を向ける。
数歩歩き、そして少々大き過ぎる剣を取った。
落陽に掲げ剣を目線だけで見る―――固まった血が付着していた。
成程、死刑執行の斬首刀には相応じゃないかとミトスは嗤う。
「せめて……“僕を殺したアイツ”位まで強くなってから挑むんだったね」
ラタトスクは黄昏の世界を、落陽を背に携えた天使を見た。
逆光で全身が黒いその少年は正に悪魔―――。
ひゅう、と軋んだ歯の間から火照った息が漏れる。
右手の関節が燃える様に熱い。
ミトスにより無理矢理関節を捩られた所為だろうか、ぴくりとも腕が動かせない。
それどころか動かそうとする度に電流のな激痛が全身を疾走するのだ。
じわりじわりと毛穴から溢れる脂汗が全身を濡らす。
べたりと額に張り付いた前髪と、頬に付いた砂が不快だ。
視界が痛みで霞む。
近付くミトスの姿が、歪む。
372名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:16:32 ID:a6ZEat8Y0
 
373名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:21:28 ID:GL/+tp8hO

374Sister 10:2008/09/23(火) 17:21:42 ID:k/XqtQtEO
「さぁ、選べよ精霊様(ゴミ)」
ひんやりとした感触を首に覚える。
ラタトスクが目線を上げると、冷酷な瞳が己を見下していた。
「そのまま抵抗せず無力さと弱さに絶望して死ぬか。
 抵抗して格と器の差に絶望して死ぬか」

そして、漸く物語は最初の頁へと戻るのだ。



―――――――――――――



エミルが目を開けた時、そこは既に漆黒よりも濃い闇に抱かれていた。
満天の星が神聖さを醸し出す。
慌てて周りを見るが、ミトスの姿――記憶に殆ど無いのだが――は既に無い。
あるのはゆらゆらと揺れるランタンの妖艶な光と、木にもたれ掛かるルーティの姿だけだ。
「あ……起きたのね、エミル。良かったわ、そのまま死んだらシャレになんないとこだったわ……」
「あ、どうも―――ッいだあッぐ!!?」
身体に付いた土を払い、エミルは背筋と腕を伸ばそうとするが、そこで骨折に漸く気付く。
「……ッ、いっ……はぁ…はぁ…ふぅ……。
 ……だめだ。動かせないな、これは」
しっかりしろ、と思考に掛かった靄を吹き飛ばす様に頬を左手で叩く。
漸く落ち着き、エミルは静かに呟いた。
「あ、そうか……ラタトスクに変わって……。あれが英雄ミトスだったんだ……。
 それで……あれ? 記憶が無い……ルーティさん、ミトスはどうして?」
喋るのも億劫、と言う様にルーティはゆっくりと口を開いた。
「あんたが死にそうだったから……私が助けてやった訳よ……感謝、しなさいよ馬鹿。
 で、色々あってミトスはどっか行ったわ。気が、変わったって……勝手よねぇっ、あの餓鬼……!
 今度会ったら絶対………赦さないわ」
揺らめくランタンの光は微々たるもので、彼女の表情は覗けないが、それでも覇気が無く聞こえた。
僕は首を傾げるも眠いのかなと思う事にした。
有り難うございますルーティさん、と謝辞を述べるとルーティさんは笑ってくれた。

……如何やら僕はかなりの間寝て居たらしい。情けない話だけろど。
お影でもう夜だ。
不意にルーティさんが思い出した様にあ、そうだ、と口を開く。
「あんたが話してた子……マルタだっけ? さっき……見たわよ」
「えっ、マルタが!? ホントですか、一体何処にィ――――ッうぁ!!」
はっとしてエミルは骨折も忘れて粗暴に立ち上がる。
当然の如く、激痛が全身に走り、再び呻く羽目になった。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:23:14 ID:I9+Xst5c0
支援
376Sister 11:2008/09/23(火) 17:27:30 ID:k/XqtQtEO
脂汗を額に感じながら、苦しそうにエミルは自嘲を零す。
我ながら実に学習能力が無い。飽れを通り越して笑える程だ。
マルタの事になると何時もそう。……直さなくちゃ。
「そ。昼に居た館に居るって言ってたから、行ってあげなさい……。
 私はちょっと眠いし、チェルシーも見つけたからちょっとお別れね……」
え、と思わず口から音が零れる。
名残惜しいとも感じるが、けれども確かに、ルーティさんの言う事は尤もで。
確かにお互いの目的を達成した以上は、しかし――――。

そんな僕を見兼ねてか、ルーティさんは諭す様に口を開く。
「好きな女の子なんでしょ? 行ってあげなさい」
それはとても、優しい声だった。
達観した母親の様な、しかし刹那的な悲しみも何処か溢れていると感じる。
僕が何かを言おうと口を開くと、ルーティさんは遮る様に言った。
「それに……あんたが馬鹿みたいに無防備で気絶してるから仕方無あああぁぁく面倒見てやったのよ?
 全く、これ以上あんたの無茶に着いて行くなんて……ごめんよ。
 だから………ほら、さっさと……行きなさい……」
僕は瞼を下ろす。一期一会は大切にすべきだが、確かにお互いに道は違う。
これ以上は干渉過多になってしまうのかも知れない。
それなら僕は、好意に甘えるべきだろう。
「有り難うございます……ルーティさん、それじゃあ僕はこれで。
 ……どうか、元気で居てください」
僕が深々とお辞儀をして背を向けると、ルーティさんは再び思い出した様に口を開いた。
眠いのだろうか、矢張り声に元気が無いと少し思った。
けれど心配は要らない。
チェルシーさんを見つけたなら、ルーティさんはこれから合流する筈だ。
「待ってエミル……クラースとリヒターに伝言……頼めるかしら?」
「あ、はい……って、うわあっ!?」
振り向いた僕にルーティさんはサックを投げる。
……コントロールが激悪だ。
慌ててキャッチしたので腕が酷く痛んだ。
内心、少しだけルーティさんを恨んだのは僕だけの秘密だ。
「“あんたの鳴子……悪くなかったわよ”って、クラースに。
 リヒターには、“余計なモノ押しつけた事、一生恨むわよ”って……伝えといて。
 あとリヒターには、それを。私からの……ラブレターとかが入ってる。
 ……他のアイテムは私が持ってるから安心していいわ」
そうして、ルーティさんは力無く微笑みを零した。
377Sister 12:2008/09/23(火) 17:33:15 ID:k/XqtQtEO
僕は強く頷き、ルーティさんに再びお辞儀をする。
何故だろうか。背中に何時までも彼女の視線を感じた気がした。
けれど僕にはやらなきゃならない事があるから。だから振り向かなかった。
そうして、僕は岩山を全力とまではいかないが疾走して下る。
何故か虚覚えのミトスの顔と、優しいルーティさんの声が脳裏に焼き付いて、離れなかった。



―――――――――――――



ルーティは静かに星空を仰いだ。
膠状な液体が木の根にどろりと付着している。それも大量どころの話では無い。間違い無く致死量だ。
影に隠れたルーティの目は息を呑む程に乳白色だ。
視界は、正直、無い。……危ない所だった。
エミルが目を覚ますのが後数分遅かったならばと考えるだけでも目眩を覚える。
最早気力だけではどうにもならないレベルに達してしまった。
虚しさと寂しさに塗れた涙が、頬を伝って膠状な血液と混ざり掌を汚す。
あらゆる負の感情が交錯し、混沌とした思考は一人になるだけでここまで心を脆くする。
「やっと……一人になれた、わねぇ……」
自分の死に様を他の人に見せるなんて、ルーティは御免だった。
願い下げも願い下げ、有り得ない事だ。
「一人になると……何時も、寂しく……なるんだよね……………やってらんない、わ…ったく」
ずるりと、ルーティは岩肌に倒れ込む。
先程まで妙に温かかった筈の身体が、氷の様に冷たい。
「………はは……だめか……嫌だなぁ……死にたくないんだよねぇ……生きたいな……」
恐怖と寒さに身体を震わせ、ルーティは消え入りそうな声で呟いた。
弱々しい声は、側のランタンにさえ届かない。

死を待つ静寂は、こんなにも残酷だ。

「死にたく、ない、って……………………ねぇ、スタン……」
そうして彼女は醜く蠢動する。
横腹から溢れた血に塗れた身体で、未練がましく生へと足掻く。
それでも、そんな醜い匍匐前進は生命に満ち溢れているのだ。
消え入りそうな命を燃やし、彼女はそれでも進む。



―――――――――――――


あの時、ラタトスクを身を呈して守った女の目が、ミトスの網膜に焼き付いていた。
まるでマーテルの様な、そう、それは正に弟を想う姉の目。
その程度の事で人間を殺す気が失せるとは、己も丸くなったものだ。
378名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:33:35 ID:QzZa8WF9O
支援
379名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:33:42 ID:pTWhx/4Z0
支援
380名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:34:33 ID:I9+Xst5c0
支援
381Sister 13:2008/09/23(火) 17:39:35 ID:k/XqtQtEO
彼女は守った。その瞳に負け僕は逃げた。

それだけが、僕の、現実。

「……姉様」
月明りに焼かれた景色を見下ろしながら、天使は呟いた。
何を求める訳でも無く、何を捨てる訳でも無く、唯言葉を零した。
そうして天使は気付くのだ。背後から呻く様な声と布が擦れる様な音がする事に。
冷たい風が彼等の間を吹き抜ける。
ミトスはゆっくりと立ち上がり、ランタンに火を灯した。
てらてらと褐色の岩肌を照り付けるランタンを右手に、雷を纏った刀を左手に彼は振り向く。
ふわりと、髪が靡き、ミトスはその先の景色に言葉を失った。

「スタ……フィ…………ア、チェ…シ……ウ……ド、ロウ…………」

譫言の様に繰り返されるそれを、天使は確かに聴いた。
醜く、ニンゲンが、“人間”が蠢いている。
全身を夥しい量の血で濡らし、腸を腹から飛び出させ、それでも蠢いている。
憐憫の情を僅かに感じたミトスは一瞬息を飲んだ。
しかし直ぐに頭を振り、足を進める。

酷く、重く静かな足取りだった。

「……スタン……」
岩の隙間に生えた苔を踏み、ミトスは刀を振り上げる。
一瞬だけ瞼を閉じ、そして再び開くと同時に一気に。

「ごめんね……エミリオ。姉ちゃん……此所で、終わりだ……」

びくん、とミトスの全身が強く跳ねた。
ぴくりと脳天を振り下ろされた刀が寸前で止まる。
ランタンの炎が揺れる。澱んだ漆黒が光源により僅かに形を変えて行く。
ミトスは奥歯を軋ませて震える左手に力を込めた。
動け動けと念ずるが、ぴくりとも、切っ先は動かない。
「悪い……姉ち……………だった……ね」
すぅ、と意識が薄れて、一本の糸に成る。
今にも切れてしまいそうなそれに必死に手を伸ばす様に。
尚も生へと強く足掻く様に。
ルーティは唯々匍匐する。
ミトスは、脳天に突き立てた刀を刺さなかった。刺せなかった。
いっそ楽にしてやろうとも思ったが、何かが彼の腕に石化魔法を掛けるのだ。
確かに、この瞬間、ミトスは彼女に生命の輝きと尊さを見出した。


そうして、彼女は遂に見つける。遥か彼方に、殉ずる彼を。
満天に広がる数多の星と、神妙な面持ちで見下ろす天使だけが、彼女を見ていた。


382名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:42:38 ID:2cTgLp+xO
支援
383Sister 14:2008/09/23(火) 17:44:49 ID:k/XqtQtEO
【ミトス・ユグドラシル@ミトス 生存確認】
状態:HPTP100% 謎解きにちょっとやる気が出てきた ある重大な何かに気付いた?
   小さな罪悪感 エミリオという人物が気になる
支給品:ローレライの宝珠 ジェットブーツ エリクシール 紫電
基本行動方針:取り敢えず死ぬ気は無いけど生きる気も無い
第一行動方針:この島の舞台裏の解明
第二行動方針:???
第三行動方針:第二回放送までにハロルドの元へ帰る
現在地:B4

【ハロルド・ベルセリオス 生存確認】
状態:HPTP100%
支給品:天才ハロルドの杖 スペクタクルズ×96
基本行動方針:面白くないのでゲームに乗らない
第一行動方針:スペクタクルズで未知の種族のデータ採取! 首輪は取り敢えずミトスに任せた。
第二行動方針:目の前の装置を調査しつつミトスを待つ
第三行動方針:ああっミトスを解剖したいいいい!
現在地:B4地下、アブソーブゲートセフィロト内、パッセージリング前

【エミル・キャスタニエ 生存確認】
状態:HP40% TP100% マナの希薄さに困惑 マフラー無し マルタと封印の件で焦り気味(現在は非顕在)
   仲間の死に衝撃 クラースの行動へやや尊敬の念 右手骨折 軽度火傷
所持品:クィッキー ??? ルーティのサック(強力グミセット BCロッド
    鎮魂錠 破魔の弓 手紙)
基本行動方針:死にたくはない。ゲームは乗らない
基本行動方針:マルタ、リヒター、イグニスとともに一刻も早く元の世界へ帰還する。
第一行動方針:マルタに会いにモリスン邸へ
第二行動方針:マルタがとても心配
第三行動方針:イグニスが気になる
現在位置:B4→A4へ

※エミルはルーティのサックの内容を手紙と鎮魂錠だけだと思っています


【ルーティ・カトレット 死亡】


【残り 52人】
384名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:44:59 ID:gat9Vjj50
支援
385名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:47:04 ID:k/XqtQtEO
投下終了。さるさんになりなくなかったんでだらだら投下です。すみません。
支援感謝です。
386名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:50:31 ID:I9+Xst5c0
投下乙です
ルーティ…
今のスタンを知ることなく逝けたのは、皮肉にも幸せなのかもな
387名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:51:32 ID:ZleMN7cvO
投下乙
何でラタトスクはいきなり切りかかったんだ?
388名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:52:43 ID:gat9Vjj50
投下乙です。
精神年齢10歳にジャブを食らったと思ったら、ルーティ……っ!
389名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:53:23 ID:gat9Vjj50
代理投下行きます。
390名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:54:01 ID:xBzLjUwY0
投下乙
あああああルーティ……!
不覚にも涙腺が緩んだ…けどハロルドの第三方針でワロタ
391そして風は去る1:2008/09/23(火) 17:55:26 ID:gat9Vjj50
 轟!

唸りを上げた旋風が、駆けだした二人の前で、そして槍を構えた女王の目前で、満身創痍の青年をそのかいなへと抱き込んだ。
同時に興ったおびただしい数の砂つぶてが、三人の視界を奪い去る。
彼らが痛みをこらえて涙にゆがむ視界を開いたとき、もうそこに青年の姿はなかった。


  ◇


キョグエン様式の朱塗りの橋の上で、サレは青年の体を支えていた風を消した。
乾ききった誰のモノとも知れない血の上へ伝わる新たな緋色。
自身と同じ髪色の彼の唇へ、残り一つになったグミを押し込んでやる。

「じゃあね、アリスちゃんの3kさん」

呟いて、再び風。
今も逃避行の途上にあるであろう女王様と騎士然とした青年へと針路を取る。
口の端に三日月をはりつけて、サレは中空を駆け始めた。


  ◇


砂まみれになった髪よりもさらに軋んだ空気と混乱が、ティアの(否、恐らくはカイルのもだ)足を地面に縫いつけていた。
未だ現れないあの男と違って、撒き散らすような殺気を女は纏わない。
だというのに。

(背を向けることも怖いなんて……!)

逃げ出すことさえ躊躇いたくなるほどの気迫。少女の首筋を、冷たい汗がすうと伝った。
392そして風は去る2:2008/09/23(火) 17:56:21 ID:gat9Vjj50
【デクス 生存確認】
状態:HP60% TP90% 疲労。 血塗れ。 術によるダメージ 気絶中
所持品:拡声器、グレートアクス シーブズマント ネコ耳 サポートハンド プレセアのザック
基本行動方針:アリスを守る。
第一行動方針:アリスを探す。
第二行動方針:アリス以外の参加者は殺す。
第三行動方針:シゼルを殺す。
現在位置:D5橋の上

【サレ 生存確認】
状態:HP80% TP90% 胸部に痛み(傷はない) 右腕に凍傷(肘上まで完全に凍結) 左足に裂傷
所持品:ペイルドラグ ガーネット イオンに支給された水、食料
基本行動方針:ゲームに乗り、ヒトの心を否定する
第一行動方針:女王様と騎士のあとを追う。
第二行動方針:ヴェイグらへの復讐。
第三行動方針:アリスは殺さない。
現在位置:D5上空から西へ

【シゼル 生存確認】
状態:HP100% TP95%
所持品: ロンギヌス(TOA)本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:優勝してリッド含む皆を蘇生させる。
第一行動方針:優勝を目指す。
現在位置:F4西端

【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:HP100%、TP90%、緊張、焦燥感
所持品:アビスレッドのコスチューム(仮面は外してます)、他アビスマンのコスチューム、カイルの服
基本行動方針:殺し合いをやめさせる。仲間にもアビススーツを着させたい(強制はしない)
第一行動方針:目の前の女性への対処
第二行動方針:ハスタから逃げる
第三行動方針:シャルティエを取り戻す
現在位置:F4西端

【ティア・グランツ 生存確認】
状態:HP100%、TP95%、緊張、焦燥感
所持品:アビスピンクのコスチューム(仮面は外してます)、ロリポップ、メロン1個、ティアの服 ブリザードマグ
基本行動方針:ルーク達と殺し合いに乗っていない人を探す
第一行動方針:目の前の女性への対処
第二行動方針:ハスタから逃げる
第三行動方針:状況を見極める
現在位置:F4西端
393名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:58:28 ID:gat9Vjj50
代理投下終了です。
394名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 17:58:41 ID:QzZa8WF9O
投下乙
ルーティィイイイイ!
スタンやリオンの名前を呼ぶ最後が切ないぜ…
ラタ様は自重しろww
まあ恨みは相当深いから仕方ないけど…エミルはこのまま戻ってもマルタいないし放送だし鬱だ
バーロルドは実に良いコンビです。対等な感じがいいね
395名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 18:09:36 ID:Io9NJ/0IO
ロリカリーかわいいいい
396名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 18:12:21 ID:FtWuqJRBO
ラタトスク様が後悔に苛まれるフラグを嗅ぎ取り泣いた
ルーーーティーーーーーー!!!!!!!!
スタンの名を呼んでも、もはや悲しんでくれないと思うと…切なすぎる
まじで精霊自重しろよww(涙目)
ルーティ・アトワイトは1stに引き続き2ndでも碌なことにならない予感ですorz
投下乙でした…!
397名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 18:13:15 ID:v6fHALIL0
投下乙です。ルーティ…!もう言葉も出ないよ…。
ラタ様は相変わらず短気ですね。エミルもうちょっと止めてやれ。
デクスは一命をとりとめたか。マーダーに優しいサレに萌えたw
まさか解消されたと思われたドSコンビがこんな形で動いてくれるとは思わなんだ
398名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 18:25:01 ID:q3PNmtpXO
投下、代理投下乙です。
ボールを投げ返されたが、鮮やかすぎてぐうの音も出ないぜ。
ルーティ…!
そしてエミル、がんばれ耐えろ。

デクスは拡声器フラグ越えたのかな? いや、また立てる気がするけどw
399Sister@修正:2008/09/23(火) 19:32:57 ID:k/XqtQtEO
コピペミスです。3と4の間に以下を挿入します。





「……先ず天使はあらゆる余計な感覚を遮断出来る。痛覚、味覚、温度の感覚等をね。
 次に視覚と聴覚の強化が可能だ。200m程度離れていても足音を正確に捕捉可能な聴力持つ。
 そして最後に、これが内面的な一番の特徴かもしれないが、天使は血そのものとあらゆる行為を必要としない。
 睡眠、食事、排泄、呼吸等の必要性は尽く皆無だ。その為極端な話内蔵は必要無いと言える。
 血が必要無いのだから、心臓も要らない。脳さえ無事ならば半永久的に生き長らえる事が可能。……以上、説明終了」
何か質問ある? と参加者名簿と地図を折り畳みつつ





―――――

以上です。
400名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 20:03:03 ID:p5ZLdMM20
ルーティー!!
すげぇ心に響く死に様だった、泣けたぜ…。
エミルがこれを知った時どうなるか、託された手紙に何が書いてあるのか…楽しみだなぁ

デクスのほうも九死に一生を得た感じだな。サレは相変わらず場をかき回すねぇw
401名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 20:54:44 ID:hP7bkUnt0
投下します
402雨、上がり・・・・・:2008/09/23(火) 20:55:38 ID:hP7bkUnt0
ぐらり、と襲ってきた眩暈を頭を振ってやり過ごし、アッシュはもはや何回目になるか分からない詠唱に入った。
2時間近く同じ言の葉を紡ぐ事を強要された舌は動きが鈍り、何度も口の中を噛む羽目になった。
集中に使う短剣も、鉛で出来ているかの様に重く感じられる。神経が焼き切れてしまいそうだ。
「ッサンダーブレェェェド!!」
叩き付けるように譜力を放つ。足元に緑色に光る陣が広がり、倦怠感が少し和らいだ。
チャージ・ヴィントの陣を描き、息つく間も無く錬術の詠唱に入るアニーを横目で見る。
彼女の額にも汗が浮かんでいる。アッシュの譜力が心もとなくなってから、町を覆う雨雲を制御しつつ精神力を回復させる陣と攻撃術を交互に展開させているのだ。負担は自分よりも大きいはずだ。
術士と前衛の差があるとは言え、自分が先に折れる訳には行かない。そう自分を奮い立たせ、唇を一舐めする。
ワカメ男の放った閃光が、隣家を粉砕する。
「ガキ!移動の準備だ!!」
轟音に身を竦ませたチャットに言い捨てて、アッシュ自身は再び術の詠唱に入った。



バルバトスはこの上なく苛立っていた。
四方から絶えず術が飛んでくる所為で一向に術者の場所が分からない。
ある程度方向を突き止めて砲口を向けても別方向から放たれる術が集中をかき乱す。
死角を吹き飛ばしても別の民家に移動するのか、僅かばかりの間を置いてすぐに詠唱が再開される。
移動する姿を捉えようにも、降り続く雨が邪魔をするのだ。
またも稲妻の剣が降り、バルバトスは吼えた。濡れそぼった髪が一房、顔にかかる。
発案者の狡猾さがにじみ出る波状攻撃は、流石のバルバトスと言えどかなり堪えていた。
砲身に寄りかかり、身体を支える。その肩を、花開く衝撃波が抉る。
一つ、かぶりを降った。乱れた息を整える。
落ち着け。
目に頼るな。晶力の収束にも頼るな。どちらか一つで見ようとするからいけない。
術者は4人。それら全てに気を取られるからいけない。
誰か一人見つけ出し、仕留める事が出来ればこの戦術を崩せるはずだ。
術と砲撃で破壊され、己の周りの民家は両手なら数えられる程度まで数を減らしている。
2、3回攻撃の波を耐え忍べば、ある程度方角は読めるはずだ。後は、状況が術者の隠れている場所を教えてくれる。
雷撃が身体を貫き、花弁が体力を奪い、白光が肉を灼く。それらの痛みを意識から締め出し、男はただひたすらに待った。
そして男は、西側の民家に収束する晶力をとうとう捕らえた。


403雨、上がり・・・・・2:2008/09/23(火) 20:56:46 ID:hP7bkUnt0
(奴の動きが止まった・・・・)
ずれた眼鏡を押し上げながら、ジェイドは男の様子を必死に伺っていた。
放送直後に振り出した(タイミングの良さを考えると、アッシュの同行者の術なのだろう)雨は、バルバトスから自分達を隠しもしたが、逆にジェイドたちがバルバトスの様子を確認する事も困難にしていた。
それでも、先刻までは雨音に紛れて叫び声や砲撃音が聞こえていたと言うのに、今は自分達の繰り出す術の気配しか判らない。
(力尽きた?違う)
詠唱を続けながら壁に張り付き、肩越しに窓の外を窺う。ガラスを水滴が叩き、小さく波を作り出している。
雨に霞んでシルエットしか見えないが、男はやはり未だに立っている。
練り上げた譜力を解き放つ。具現した翠の剣が突き刺さっても男は微動だにせず、俯いたままだ。
観念した?まさか。動きを止めたとは言え、男の闘気は消えていない。
(まさか)
ふと、男がバネ仕掛けのように顔を上げた。
殺気が、突如として膨れ上がる。男の視線が向いているのは、西。
(拙い、リフィルに気付いた!)



「アッシュさん、アレ!」
男の様子を窺っていたチャットが窓の外を指差すのと、アッシュが異変に気付いたのはほぼ同時だった。
「アニー、術を止めろ!西のヤツが気付かれた!!」
窓の外で合図代わりの稲妻が弾ける。
本来の、止めを刺す為の合図ではない。止むを得ず、接近戦に持ち込む時の合図だ。
「いいか!これ以上は詠唱するな。念のためにすぐに移動しろ!!」
言い終えるよりも早く裏口から飛び出す。潜伏場所が発覚するのを防ぐ為、アッシュは一度別方向に走ってから広場に躍り出た。
男は大砲を肩に抱え上げ、そこに闘気を込めている。
話に聞いていたカウンターの術ではない。恐らくもっと大きな力で、確実に潰す気なのだ。
「させるか!」
短剣を構え一気に速度を上げる。そして逆方向から剣を腰だめに構えてジェイドが走る。
男は動かない。恐らく大技を繰り出すために動けないのだ。
技を放つ前に決める事が出来れば。しかし、
(拙い、ワカメの技の方が早い!)
このままでは術者と、自分とジェイドと、それぞれに倒されるだけだ。
焦りが浮かんだ瞬間、大気が歪み、譜力とは違う力が男の周りに収束する。
気付いていないのか、それとも豪胆なのか、西の術者は詠唱を続けていたのだ。
「遅い!ジェノサイドッブレイバァァァァ!!」
男が西へ向かって砲身から閃光を放つのと同時に、光の槍が具現し降り注ぐ。
術の余韻をかき集めながら二人が駆ける。駿速の剣が閃き、切っ先が雷を呼んだ。
「翔破、裂光閃!!」
「雷神、旋風槍!!」
技を放った後の隙に術が炸裂したのだ、動けるはずは無い。雷光が男を縛り、光を纏った突きが打ち倒す。そう思われた。しかし。
「「何っ!?」」
404雨、上がり・・・・・3:2008/09/23(火) 20:57:40 ID:hP7bkUnt0
男の両側から斬りかかった二人の驚愕が重なった。
男は未だに立っていた。慣れない剣から放たれた雷撃も、リーチの短い短剣から繰り出される突きも、男の命を奪うには至らなかったのだ。
バルバトスはジェイドの放った雷を背中で受け、アッシュの突きを片手を犠牲にして受け止めていた。
「ぶるあぁぁぁぁぁぁ!!」
男が、残った片手で大砲を振り回す。
たまらず二人とも弾き飛ばされる。アッシュの手から短剣が離れ、澄んだ音を立てて落ちた。
地面を這って、漸く剣を掴んだ瞬間、背中を踏みつけられる。
一度、二度。三度目は巨躯を以って踏みにじられる。
脇腹を蹴飛ばされて、濡れた石畳の上を転がった。受身を取る余裕もない。縫合されたばかりの左腕に血が滲んだ。ただ短剣だけは全精力をもって握ったままだ。手放してしまえば反撃の可能性は潰える。
「逃がさんぞぉ・・・・・」
男の足もふら付き、目は血走っている。あと一撃、一撃加える事が出来ればこの男を倒す事が出来る。
だと言うのに、ジェイドは男の向こうで倒れたまま、自分自身は最早身体が言う事を聞こうとしない!
男が抱えあげた砲身に、再び閃光が満ちる。
「死ねぇぇぇえぇぇ!!」


その時、雨が降った。
街を覆っていた雨とは違う。もっと濃密に力を含んだ雨だ。
それがアッシュの身体に降り注ぎ、男が放った閃光をかき消した。
自失から立ち直るのは、男の方が早かった。
「邪魔を、するな・・・」
男が、アッシュから視線を外す。その方向。雨。アッシュの中でようやくその二つが符合した。
背筋が凍った。今、他に詠唱している者は居ない。
「止めろ・・・・」
術を唱える男に言ったのか、既に術を放った女に言ったのか、それは彼自身にも分からなかった。
ただ彼は足掻いた。踏みつけられた身体を叱咤して。ともすれば短剣を取り落としそうな腕を罵って。

「止めろ――――――――!!」
男がカウンターで放ったエアプレッシャーが、つい先刻までアッシュも身を隠していた民家を押し潰した。
ようやく意識を取り戻したジェイドが、男の晶術とアニーのフラッシュ・レーゲンの力を借りて破砕の一撃を繰り出したのは、無常にもその後だった。


405雨、上がり・・・・・4:2008/09/23(火) 20:58:49 ID:hP7bkUnt0
どう、と倒れた男の向こうに現れたアッシュの姿に、ジェイドは安堵の溜め息をもらした。
「アッシュ、先刻の雨は」
一体・・・。とジェイドが言葉を続けるよりも早く、アッシュは這う様にして立ち上がり、何度か転びそうになりながら男が術で破壊した家屋へ駆け出した。
それを見送り、身体が訴える痛みを無視して、弾き飛ばされた眼鏡を拾い上げる。幸い譜眼の制御に問題ない事を確認し、それをかけなおした。
バルバトスの死体を一瞥する。首輪が目に付くが、今はそれの回収よりも自分達の被害を確認する事が先だ。
リフィルが身を隠していた民家に歩を進める。最悪の場合でも、彼女の首輪とクレメンテだけは回収しなければならない。
『ジェイド、ジェイドか?早く来てくれ』
声無き声が己を呼ぶ。駆け寄ると、瓦礫と化した民家の脇で、剣に縋って身を起こしているリフィルの姿があった。
「リフィル!無事でしたか・・・」
「無事・・・。とは言えないわね。横に飛べば直撃は避けられると思ったんだけど、甘かったわ」
リフィルの様子は酷いものだった。左足と頭部から出血があり、膝から下と、端正な顔も半分以上が赤く染まっている。
「どうなったの?バルバトスは?」
気丈に顔を上げてリフィルが訊ねる。しかしジェイドは即答を控えて、黙って彼女に手を差し出した。



瓦礫の山を這う様に越えたアッシュが見たものは、肩から下を瓦礫に覆われたアニーと、丁度彼女に突き飛ばされたチャットの姿だった。
「アニー・・・・・」
すぐに立ち上がり、アニーの腕を引っ張るチャットの泣き声が何故か遠い。
アニーはぎこちなく首を動かし、自分の姿を目に留めてあろう事か微笑んだ。
「・・・・・アッシュ、さん・・・・・・良かったぁ、無事で・・」
半壊した家屋は、今にも全壊した家屋に姿を変えようとしていた。アッシュの肩にも、土塊がハラハラと降り落ちる。
そして僅かに覗いたアニーの衣服は、桃色から深紅に色を変えつつある。
彼女を助けるには、あらゆる意味で時間も力も足りない事が明白だった。
「チャットを・・・・お願いします・・・・。急いで・・・・・」
「ああ」
転ばないのが不思議なほど頼りない足取りで近寄り、チャットの腕を取る。
悲鳴を上げてアニーから離れようとしない彼女の胸倉を掴み、衝動的にもう片方の手を振り上げる。
けれどその手は、結局チャットの頬に振り下ろされる事は無い。傷が痛んだ所為だと、彼は思う事にした。
「腕・・・・後で消毒し直して下さいね・・・・。ばい菌、入っちゃいますから・・・・」
「ああ」
泥と水にまみれた左腕に目を遣って、アニーは尚も微笑んで言葉を重ねた。
彼女の額に浮かぶ脂汗にも、不自然に詰まる声にも気付かない振りをする。
嫌がるチャットを無理やり肩に担ぎ、もう片方の肩に3人分のザックを背負う。
「・・・・仲間に。ヴェイグさんや、マオや、アガーテ様に会ったら・・・・、私の事は、気にしないでって・・・・伝えて下さい」
「ああ」
呼ばれた名を脳に叩き込む。
チャットは泣いてアニーを呼び続けている。
「もしっ・・・私、みたいに。取り乱しちゃったら。・・・・・平手・・・・・お願いしますね?」
「ああ」
「ありがとう、ございます・・・・」
優しい、いっそ残酷なほど優しい声。
耐え切れなくなり、アッシュは駆けた。瓦礫を飛び越え、しかしすぐに力尽きて膝を付く。
暴れるチャットを肩から下ろして覆いかぶさる。背中の向こうで、何かが大きく軋んだ。
瓦礫に背中を叩かれ、チャットの悲鳴と轟音に耳を裂かれながら、アッシュは己が聞いた言葉は願望が作り出した空耳で、本当にアニーが口にしたのが恨み言であれば良いと。
その方がよっぽど救われるのにと、そう思わずには居られなかった。




406雨、上がり・・・・・5:2008/09/23(火) 20:59:23 ID:hP7bkUnt0
【アッシュ 生存確認】
状態:HP10% TP5% 左腕に大裂傷(縫合済みだが再出血あり) 全身に切り傷  打撲 行き場の無い悔しさ
支給品:クリスダガー ??? ??? ジェイドの作戦メモ二枚 アニーのサック アニーの不明支給品2つ
基本行動方針:チャットを守る
第一行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える
第二行動方針:レプリカの野郎はどうしたんだ?
現在位置:G2街

【ジェイド・カーティス 生存確認】
状態:HP50% TP40% 緊張 僅かな安堵 打撲
所持品:ヴォーパルソード セレスティアルマント ダーツセット 知り合いと死者についてのメモ等
基本行動方針:この島について調査、ゲームの打破。
第一行動方針:現状確認
第二行動方針:死者に対しては慎重に(アッシュが本物だと分かり多少緩和)。
現在位置:G2街

【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP30% TP40%  服に焦げ 頭部と左足に裂傷 打撲、切り傷多数
所持品:ソーディアン・クレメンテ ??? ???
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:現状確認
第二行動方針:死者に対しては慎重に接する。
第三行動方針:ロイド達が心配
現在位置:G2街

【チャット 生存確認】
状態:HP80%、TP95% 右頬にやや腫れ、首に絞められた痕跡あり、身体中に軽度の切り傷 アニーの死にショック
所持品:スタンダードマグ(残り装填5発) 銃弾50発 旗の形をした『何か』 タバサ
基本行動方針:勇気を持つ
第一行動方針:アニーを置いていきたくない
第二行動方針:セネルが心配
現在位置:G2街


【バルバトス・ゲーティア 死亡】
【アニー・バース 死亡】

【残り50人】

※バルバトスの所持品は死体の側にあります。アニーのハヌマンシャフトは回収できませんでした。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:00:43 ID:hP7bkUnt0
終了です。
408名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:08:08 ID:v6fHALIL0
乙です。アニーィィィイ!!
アッシュとアニーのコンビ好きだったから、仕方ないとはいえ悲しい…
アビス陣のFOFバトルは燃える
409名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:12:19 ID:izu+7Rrw0
投下乙です
アニーーー!!!くそぉ、遺言もヴェイグの現状を考えると悲しいぜ
どいつもこいつも満身創痍だなぁ…とくにアッシュ、瀕死すぎる
バルバトスも強かったぜ、恐ろしかった…

あと自分の読解力がないせいですが、バルバトスの死因がよくわからない…
410名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:15:31 ID:FtWuqJRBO
投下乙でした!
アニー…orz
ユージーンと一緒にゆっくり休んでくれ…
アッシュを中心にG2村もクライマックスな感じに…アッシュがやばすぎる
そしてバルサンはマーダー枠の有望株にもかかわらず獲物数0という罠…現存マーダーのこれからに期待
411名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:23:22 ID:mf+PP2fW0
投下乙です
アニーーーー!!

ルーティはグミ食えよ! そんなに嫌か!

>>409
「破砕の一撃」とあるからジェイドの岩砕烈迅槍(掛け声が破砕の一撃〜)だと思う
412名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:25:40 ID:v6fHALIL0
フラッシュレーゲンは地属性だからね。
エアプレッシャーとフラッシュレーゲンで岩砕烈迅槍したんでしょ
書き手さんのゲームやりこみが嬉しい作品だ
413名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:31:37 ID:KRT6XQhd0
投下乙でした!
リアルに泣いた…アニーーーーーーー!!!!!!!
アッシュとアニーのやり取りが切なすぎる
アッシュとリフィルがやばいな。皆頑張れ、超頑張れ
戦闘シーンもスピード感があってリアルで、凄く面白かったです!!

バルバトスは瀕死の所をジェイドのFOF技で止めを刺されたんじゃないかな
違ったらすまん
414名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:45:12 ID:q3PNmtpXO
投下乙です。
アニー…orz
町を目指す陛下のオッズがだんだん上がっていくとはいえ、やはり悲しい。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:46:06 ID:FtWuqJRBO
投下します…
416白頭巾の少女 1:2008/09/23(火) 21:47:08 ID:FtWuqJRBO


「んもぉ……何なのよっ」

ぷりぷりしながら少女は迷いの森を行く。

(これが、噂に聞くガオラキア)

単刀直入に言おう。
少女アリスは迷っていた。
──無論、数時間前に天上王がアリス同様に迷っていたことを彼女は知らない。
同じような並びの木の間に見える道を歩き続けて早二時間。
何処まで行けどやはり変わらぬ景色に、アリスはついに癇癪を起こした。

「ムカつくッ! この森といいイオンくんといい、アリスちゃんを馬鹿にしてるとしか思えない!」

ズキズキと痛む後頭部が彼女の苛立ちを増幅させていた。
本来なら太陽は南西に浮かんでいて、下僕達におやつの準備をさせていてもおかしくない時刻の筈である。
だが彼女はつい数時間前、城での戦闘中に不覚にも人質に不意を突かれて攻撃され、吹き飛ばされた先で頭を思い切り打ち付けてしまったのだ。
そこで一旦記憶は途切れ、次に気付いた時には放送時間は疾うに過ぎていた。
一度は城へ戻るかと考えもした。
けれど時間も踏まえて、城から音が一切聞こえて来ないことを考慮すると、戦闘は既に終わっているとしか思えず、ならば城へ戻るだけ時間の無駄だと結論付けたアリスは、デクスを探して南へ行くことに決めた。
しかし、行き着いた先は草木が鬱蒼と生い茂り日光も碌に差し込まないガオラキアの森だった、という訳だ。
それだけならまだしも、このガオラキアには方向感覚を狂わせるというオマケが付いていた為に、彼女は延々と森を彷徨い続ける羽目になっていた。
森に足を踏み入れた時点でどうして方位磁石の異常に気付かなかったのか、と唇を噛む。

(ツイてなぁい……よりにもよってガオラキアに迷い込んじゃったし、放送も聞けなかったし)

声には出さず頭の中で独り言ちていると、この惨めな状況に追いやられたことに対する怒りは更にヒートアップしていく。
デクス以外は全員敵というこの状況下で、死者と禁止エリアの確認が出来なかったのは痛かった。
ずっと一人で生きてきた彼女にとって情報は力と同じぐらい重要なものなのだ。
イオンは恐らく死んでいるだろうが、この目でそれを確認していない以上万が一ということもある。
それに、もしもデクスに死なれていたら困る(勿論こんな短時間で死ぬほど柔な男でないことは重々承知している)。

(イオンくんとスパーダくん……次会うことがあったら、今度こそ嬲り殺してあげるからねv)

密かに固くそう決意し、アリスは整った顔に悪魔の笑みを可愛らしく浮かべた。
だが、決意したところでこの森から出られなければそれを果たすことはできないし、何よりデクスと再会することも叶わない。
さてどうしたものか、と頭を抱える。

(こんな薄暗い森にずーっといたら、アリスちゃん可愛いからオオカミに襲われちゃうカモ……)

本気とも冗談ともつかないことを考えながら、イオンから奪ったグミを口に含んだ。
甘いフルーツの味が、戦いで幾らか消耗した体に染み渡って行く。
その甘さによって疲れが緩和された頭を再び働かせ、アリスは考える。
地図も磁石も、何の当てにもならない。最悪この森で餓死なんてこともあり得る。
それは困る。
己の強さを証明できなくなるではないか。
迷子になって餓死というビジョンを回避するためには、まずこの森から脱出しなければならない。

(そうよ……強さの証明のためにこの森から抜け出せるだけでも、私の強さが一つ証明されることになるじゃない!)

餓死という最悪の結末の想定を頭から振り払う。
そんな最期、冗談じゃない。
もしかするとアリスも不安だったのかもしれない(尤もその言葉は一番彼女に似合わないものの一つである)。
そして顔を上げたアリスは、確かな足取りで歩き始めた。

417白頭巾の少女 2:2008/09/23(火) 21:48:18 ID:FtWuqJRBO

  *  *  *


「これ、まさかとは思うけど、伝説の大樹カーラーン……?」

アリスは、口をぽかんと開けて見上げた。
突如視界が開けたかと思うと、目の前に力強く聳える大樹が現れたのだ。
その樹は、昔読んだマーテル教の本に載っていた大樹カーラーンの絵にそっくりだった。
だがガオラキアに大樹がある等という話は聞いたこともなく、そもそも大樹カーラーンは遥か昔に枯れ滅びた筈だ。
かと言って、再生の神子コレット達が新たに誕生させたと言われる世界樹という訳でもなさそうだった。
しかし、目の前の大樹からマナが生み出されている事実が、マナを生む伝説の大樹の存在を如実に証明していた。
思わぬ現実に直面し、しばし呆然とする。

(でも、あのピエロは、死んだ筈の私達をこうして生き返らせることができるんだから、これぐらいできてもおかしくない……?)

それに私には関係のないことか、と思考を切る。大樹の有無やその正体など重要ではなかった。
何処にいようと、何があろうと、私は私の強さの証を立て続けるだけのこと。
そう締め括り、森から脱出するべく踵を返そうとする。
ふと大樹の近くに目を遣ると、そこには、若干盛り上がった土の上にぽつんと置かれた石と、乾き切った大量の血痕があった。

(……墓?)

一瞬デクスのものかと悪い想像してしまうが、デクスは易々殺されたりしない、と思い直す(一度はデクスもアリスも殺されたという事実は完全無視だ)。
第一、デクスが死んだとしても彼を弔い悼む物好きが自分以外にいるだろうか?
否、決しているまい。
しかし、それとこれとは別だ。
ここで誰かが殺されたということには変わりはなく、その犯人がまだ近くにいるかもしれないのだから。

(慎重に行く必要があるわね……ま、誰がいてもこのアリスちゃんが殺すけどv)

術を詠唱してキープし、デクス愛用の剣を両手で持った。
そして気配を殺し、そのまま歩を進める。
しばらく進んだ先にあったのは。





「ふーん……よくできてるじゃない、この像?」


意地悪く笑いながら、絶望の表情を浮かべる少年の石像をじろじろと眺める。
彼女には判った。
これが石化した人間だと。
現に、この顔や出立ちと全く同じ少年が名簿に載っていた。
石像の周りにも、パナシーアボトルだろう容器のボトルが砕けて散らばっている。

(クレスくん、ね)

いい加減この森にうんざりしていたアリスは腹いせに石像を跡形もなく粉々に砕いてやろうか、と考える。
けれど、それではあまりにつまらない。
にこっと残酷な笑みを浮かべながら、アリスは石像に近付き、そして……。

418白頭巾の少女 3:2008/09/23(火) 21:49:40 ID:FtWuqJRBO










アリスは振り下ろした。

愛する人の悪趣味な大剣を。






──伸ばされていた、石像の右腕に。









がしゃんと、右腕が音を立てて砕けた。
同時に右腕が生えていたその位置から石像に亀裂が入る。

(誰かがパナシーアボトルでも使ってくれるといいわね、クレスくん?)

瞳が再び光を取り戻した時、彼はその絶望の表情をどう歪めるだろう?
再び生気を取り戻した時、彼はどんな叫び声をあげるだろう?
再び血の脈動を取り戻した時、彼はどんな想いでその色を見るだろう……?

(この目でそれを見られないのはすっごく残念だけど……)

うふふ、と可愛く笑みを溢す。
どんなに足掻いても助からないという絶望の淵で、一瞬の余命(死へのカウントダウン)を思う存分楽しみ味わうといい。
自分の死の色を、網膜に焼き付けろ。
彼から噴き出すその赤は、彼女の己が強さの証の礎となるだろう。


419白頭巾の少女 4:2008/09/23(火) 21:52:03 ID:FtWuqJRBO


「ばいばい、クレスくんv」


どんな狼よりも恐ろしい白頭巾の少女は、まるでピクニックにでも来たかのような表情を浮かべ、森へと姿を消した──。






【アリス 生存確認】
状態:HP80%、TP100%、頬に傷、靴に焦げ、後頭部に若干の腫れ・痛み
   全身に擦り傷(小)、何かの攻撃魔術をスペルキープでキープ中、放送を聞いていない
所持品:暗黒邪神剣ゴールデンドーン、苦無×1
基本行動方針:ゲームに乗り、自分の強さを証明。デクスと共に元の世界へ帰る
第一行動方針:ガオラキアの森を抜ける
第二行動方針:イオン・スパーダを見つけたら嬲り殺す
第三行動方針:デクスを探す
第四行動方針:サレは殺さない
現在位置:E2北西→??
 
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:HP5%、TP85%、石化、右腕損失、失血による貧血、疲労、マント破損
所持品:デュナミス、パナシーアボトル×2、首輪、リーガルのサック(スコップ、???)
基本行動方針:ゲームを止めるため同志を募る。守る側の存在になる
第一行動方針:今、成すべきことを早く考える
第二行動方針:リーガルさんを殺したのは誰だ…!?
第三行動方針:放送の続きを知りたい
現在位置:E2北西
 
※クレスは、第一回放送で最後に呼ばれた死者が誰だか知りません
※クレスのサックはクレスごと石化しています
 
420名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:53:17 ID:FtWuqJRBO
投下終了です。
昨日お騒がせしたアリス話です。
本当にご迷惑お掛けしました
421名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:54:30 ID:v6fHALIL0
乙。これで放送後全員出揃ったな
ドSコンビの片割れがデクスを直ぐ傍に運んでくれたぞアリスちゃん、
急げば間に合う!
422名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:55:27 ID:xBzLjUwY0
乙。だが投下宣言の元気の無さに噴いてしまったw
アリスは根っからのSだな…恐ろしい子!
いっそのことクレスは石化解除されない方が幸せなんじゃないだろうかw
423名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:55:27 ID:bYacpJfvO
投下乙!
クレスは…どんまい
424名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 21:56:11 ID:k/XqtQtEO
投下乙っすー。
クレスが起きたらどうなることやら…
425名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:01:37 ID:q3PNmtpXO
投下乙。クレス、がんばれ超がんばれ。

>>421
状態表をよく見るといいよ、うん。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:02:05 ID:URBNKSHyO
>>422

同じ事思った。
だがロワに残った最後の一人が石化とか絵にならねえw
427名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:03:00 ID:v6fHALIL0
>>425
アッー橋は橋でも場所違った\(^o^)/
勘違いスマン、アリスちゃんに踏まれてくる
428名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:16:09 ID:GL/+tp8hO
乙。結局投下したのかww
クレスボロボロだなぁ……片腕損失も二人目か
確かクレスって両利きで片手剣使いだから、一応今後も戦えるんだよな
戦う体力無さそうだけどwww
429名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:23:37 ID:I9+Xst5c0
投下乙です
クレスはとことん最初からクライマックスを地で行ってるな…
利き手の左腕が残っててよかった。デュナミスは扱いきれるか分からんがw
430名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:26:08 ID:Y6Rl1Zbe0
>>428
いや、クレスのアルベイン流は右手で柄を握って左手で特殊なグリップ部分を握るスタイルですよ。
PS版ファンタジアのパケ絵を確認していただくと分かる。TOEでもグリップソードがあったか。

そこまで考慮して書くことはまずないし、今の武器は両手持ちの斧ですけど。
431名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:36:22 ID:nuMgNfii0
設定的には左利きだからまだ戦えそうだけど…デュナミス片手はきつそうだなぁ
432名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:39:38 ID:v6fHALIL0
ジェイドがデュナミス片手で振るえるんだから
クレスなら余裕だと思う自分は間違っているのだろうか
433名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 22:42:44 ID:EmAK9sKA0
元ネタがロニだからそっちの印象強いけど実際にはジェイドの武器か
勘違いしてた
ロニのは斧槍だけどジェイドのはどっちかというとハンドアックスだし片手でもいけそうだ
434名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 11:38:39 ID:EGYIHO5u0
以前1stのスレで支援MADを作った者です。
突然ですが、2ndの支援MADを作成しても大丈夫でしょうか?
作成OKでしたら1stのときと同じくニコニコ動画にアップする形になります。
何か問題ありましたらご意見ください
435名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 11:51:20 ID:LdtO36i6O
タグに余計なの入れたり検索避けすれば問題ないと思うけど…
がんばってください!楽しみにしています。
436名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 13:36:28 ID:6Ry030pyO
規制されたが気にすることはない
てことで携帯より投下します
437もう戻れないおにいちゃん1:2008/09/24(水) 13:46:27 ID:6Ry030pyO



――水を差し出したものの、目の前の少年は何の反応も示さなかった。
「セネルさん? 大丈夫……ですか?」
反応はなかった。俯いたままセネルは微動だにしない。
呼吸すら止まっているのではないかと思えた。
「セネルさん!しっかりしてくだ――」
声を荒げて肩をゆさぶってみる。
瞬間、右頬に衝撃が走ると同時にジルバの身体は宙を舞っていた。

(な――――!?)

地に落ちたボトルがコロコロと転がっていく。
岩に背を打ち付けられ、ドサリと崩れ落ちる。
無防備すぎたか、とジルバが内心舌打ちしながら顔を上げると

「ああ、悪い。黙ってろと言いたかったんだがつい手がでたみたいだ。
 俺、カッとなったらすぐ手が出るクセがまだあったんだな」
いまだ焦点の定まらない目をしたセネルがジルバを見下ろしていた。
どこか薄ら笑いまで浮かべている。ジルバは一瞬だが畏怖を覚えた。

「い、いえ、私も急に大声を上げたりしてしまって申し訳ありません」
ゆっくりとジルバは立ち上がって砂埃をはたく。

「言ってたとおり少しは頑丈なんだな」
「ええ、生憎とそれくらいしか取り柄がないもので……」
急なダメージに驚きはしたがどうにか平静を取り繕う。

「なぁに、気にすることなんかない」
セネルは相変わらず気味の悪い笑みを浮かべつつジルバを見ている。

「セネルさん? どう……なさいました?」
「タタキガイノアル砂袋ダナ、ってさ――」
438もう戻れないおにいちゃん2:2008/09/24(水) 13:49:19 ID:6Ry030pyO
――ふっ
ズシン、と腹部に突き刺さる正拳。
ヒューマに比べれば遥かに強靭なガジュマの体躯がいとも簡単にくの字に曲がった。

「が――!?」

続く二手。
――はっ
胸元を強打された。
背後の岩に阻まれたジルバは後退できぬまま三手を刻まれる。
――くらえ
顎を打ち上げられた。

「がっ……セ…ネルさん……?」
前を向いたジルバの視界に入ったのは止まらない二つの拳だった。
それは、一方的な私刑だった。
セネルは岩に背を打ち付けては跳ね返ってくるジルバに、
もはや耳にタコができた掛け声と共に拳を打ちつけていた。

「――あんたふっ!シャーリィを優勝させるためにはっ!
 死んでくれるってくらえっ!言ったよなぁ!?」
確かに、ジルバはそう告げていた。
セネルに――時が来れば自分を殺せ――と。

「いつか死ぬふっ!なら!ココで死んでも大差はないとはっ!思わないか!?
 シャーリィはワルターがついていったならくらえっ!
 大丈夫だからあああああああはァァァァく撃掌!」
突き出される拳は容赦なくジルバを削っていく。
ジルバは打たれながらも多少の期待はあった。
怒りをぶつけさえすれば男の狂気も治まるかも知れない、と。
が、そう思うにも限界があった。この少年は止まらなかった。

「あんたは、もういらないんだああああああAAAA――く撃掌!!」
「ク――!」
ジルバが即座に横っ飛びして回避するのと、
セネルの突き出した爆撃掌が岩を砕くのはまったくの同時だった。
その際、ジルバは身につけていたサックがいつの間にか落ちていた事を知る。
とても拾いにはいけそうにない。

「……硬いだけじゃないんだな」
「セ……セネルさん!こんな、こんな仲間割れをしている場合ではありません!
 今からでも遅くありませんからシャーリィさんを追って――」
「仲間? 仲間意識なんてサラサラない。俺はもう悟った。
 結局殺すんだからそんなもの持ってたって意味はない。
 それに、今更悔い改める気もカケラもない。
 マリントルーパーに“後退”の二文字はないんだ」
「何を言ってるんです!?」
「なぁに、気にすることなんかない。
 それにな、余計な荷物がなくなったほうが動きやすいだろ?
 シャーリィがいなくなってある意味良かった。
 まぁ、シャーリィはいいとしても、だ。
 ある事ない事を周りに吹き込みそうで困るからさ――」
セネルはゆっくりと歩み寄ってくる。
よほど高揚しているのか手をわきわきさせながら。

「消えてくれよあんたってヤツはー!」

439もう戻れないおにいちゃん3:2008/09/24(水) 13:50:58 ID:6Ry030pyO
――もう、この少年は使えぬな。
ジルバはそう結論付けるしかなかった。
――闘うべきか? だが……
先程のシャーリィやワルターが引き返してくる可能性もある。
自分が戦闘可能な人間だということは可能な限り秘しておくべきだ。
だが、このままだと確実に殺されてしまう。
所詮ヒューマなどと侮ってはいけない。
目の前の少年は今やその笑顔のまま誰をも殺せるだろう悪鬼となっている。
闘うとなると、丸腰である自分と自身そのものが必殺の武器であるセネル。
その差は明らかだ。当然悠長に術を使わせる暇など与えてはくれまい。
――撤退か?
自身の素性を知られるようなヘマはしてこなかったはずだ。
今ここで撤退すれば殺し合いに乗った者から逃げ延びてきた者として、
誰もが自分を疑わないだろう。実際殺されかけているのは事実なのだから。
――だが逃げた先にも“殺す者”がいればどうする?
むしろ殺し合いに乗っていない者だとしも、
シャーリィのように簡単に信頼を築ける者に会えるとは限らない。
――どうする? 闘うか? 撤退か?

後ずさりしつつ自問を繰り返すジルバに迫る銀髪の鬼。
生き延びるためジルバがとった行動は――――



【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP45% TP100%  身体中に裂傷、背中に軽度のやけど 全身打撲 ふっはっくらえに恐怖
所持品:ステラのサック シャーリィのベスト
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。上手く立ち回る。
第一行動方針:北へ逃げる…?セネルと闘う…?
現在位置:G6岩場

※ジルバのサックはセネルより少し後方におちています。
 水入りボトルはどこぞへ転がっていきました。(エリア内のどこか)
※共通支給品(名簿など)はステラのサックから使用可能?

【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP55% 全身に擦り傷、切り傷 ステラの死とシャーリィに否定されたことで悟る
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、
時を駆ける少年の人形、本人確認済み支給品2個、すずのザック
基本行動方針:シャーリィを優勝させる
第一行動方針:全員まとめてふっはっくらえ
第二行動方針:ジルバを殺す
第三行動方針:シャーリィはワルターに任せよう
現在位置:G6岩場
440名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 13:52:22 ID:6Ry030pyO
投下終了しました
441名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 14:55:04 ID:DX9YzzOBO
投下乙!
セネルの第一行動方針に噴いたw
これでマーダー確定主人公2号かな?ww銀髪オワタw
ジルバ様がんばれ…
wktkが止まらない
442名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 15:07:22 ID:EGYIHO5u0
乙です
ジルバ様ガンバレ超ガンバレ…!
セネルのセリフにさり気なくふっはっくらえが混じってるのに吹いてしまったぜ

>>441
マーダーやってる主人公ってセネルの他にいたっけ?
スタンはマーダーというより脳みそお花畑なだけな気がw
443名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 15:08:43 ID:LdtO36i6O

おまえら…マーダー同士が潰し合いしてどうするよ
セネル落ち着けw
444名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 15:32:18 ID:8RWdsvD7O
投下乙です
セネルオワタ\(^0^)/
順風満帆だったジルバ様もピンチだな
というか空気王の名言乱用するなw

>>434
MAD楽しみです頑張って下さい!
445名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 15:44:46 ID:NGR5NE7UO
全員まとめてふっはっくらえはツボったw
446名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 16:01:07 ID:DX9YzzOBO
>>442
そっかヴェイグはまだグレーか。
アニー死亡でとどめ刺されたかなと思ったんだ、すまない
447名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 16:05:03 ID:EGYIHO5u0
>>446
ヴェイグか。アニー死亡はトドメになり得るかもしれないけど
まだ放送まで遠いしその前に目の前のミックミクを
どうにかしなきゃ(orされなきゃ)いけないからな…
どっちにしてもなに、謝ることはない
448名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 16:44:29 ID:NnSpri6ZO
え、なに、今空気王流行ってんの?w
449名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 17:07:18 ID:inqQiXh7O

∩_∩
〃ノノノMハ
川´_ゝ`)<私は常に皆の側にいるのだよ
450名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 17:24:32 ID:uNpbNZBQO







451名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 18:41:53 ID:kknblz58O
ちょっと質問です。一日制限は「投下開始時間」から一日でしたっけ?
452名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 18:47:24 ID:YJ8dauJq0
終了からだよ
453名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 18:48:20 ID:2qDCMY/E0
大作になると投下開始から終了までにかなり時間が空くから終了の方がいいと思う
454名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 20:14:20 ID:nJJbaJ1dO
投下乙です。
ふっはっくらえ自重wwwwwセネルがネタキャラなのかマジなのかわからなくなった…
というか男に後退の二文字はねぇにも気付こうぜ?
455名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 20:46:02 ID:0DfL9IYT0
バルさん…あんたって人は
何故手を犠牲にしてまで剣を使わなかったッ!!w
それはそうと皆投下乙。
セネルがこのままではネタマーダーに…wでも決意はそれなりにあるんだな
456名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 20:50:27 ID:jmXGtwRMO
まかせてくれがないのが悔やまれる
457名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:00:17 ID:kknblz58O
投下します
【tale:AC-1】



ジェイド・カーティスとリフィル・セイジがバルバトス・ゲーティアの首輪を取っている頃。
青年は茫然と立ち尽くして居た。
騒がしい音が酷く耳に障って仕様が無い。
女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだと青年は眉間に皺を寄せる。
一人分でも姦しいと冠するには十が過ぎる程だった。
生温かい息が唇の隙間から漏れる。
酷く冷たい空気は、息の軌跡を白く変化させた。
青年は乾いた唇を唾で濡らし、少し肩幅を狭くする。
何故か、気温以上に肌寒く感じたからだ。
ふと視線を前方に投げると、少女は相も変わらず瓦礫に手を突っ込んでいた。
青年は些かうんざりして舌打ちをするが、重い腰を上げて何も言わずに足を進める。
……気のせいだろうか。足が、鉛の様だと青年は感じた。
乱れに乱れた前髪を掻き上げながら、青年は少女に言葉を投げる。
それは実に弱々しい声色で、青年は自分の口が発したにも関わらず少しだけ驚く。
とてもでは無いが己の喉から発声されたとはにわかに信じ難かったのだ。
「やめろ」
斜陽に照らされた少女の横顔には、酷く暗い影が落ちていた。
青年のその言葉に少女は一旦作業を止め、手をも止める。
鼻水を啜る音が二、三響き、十数秒間の完全な静寂が二人を抱擁した。
「…やめろ」
静寂に耐え兼ねたのか、青年は繰り返す様に呟いた。
青年の伸びた影が少女を隠す。
その円らな――尤も今は半円状だが――瞳で三回瞬きをしただけで、少女は何も応答しない。
青年を見ないまま、ゆっくりと少女は手を動かした。
そうして、黙々と瓦礫を退す作業を続けるのだ。
青年は目を細める。胸を抉られる様な激しい痛みを感じた。
「……やめろ、チャット」
青年の声色が僅かに変化する。
それに気付いているのか、気付かない振りをしているのか。
それは定かでは無いが、少女は帽子を一度深く被り唯々瓦礫を退ける。
吹き抜けた冷たい風が、橙に染まった帽子の羽をふわりと揺らした。
砂塵が血で濡れた広場へと流れて行く。
青年は埃から目を守る様に手を目前に翳した。
「………やめろって、言ってんだろうが、チャット」
碌に進んでいない作業に、否、その作業自体に青年は苛立ちにも似た何かを覚えた。
口を固く閉ざした少女へと視線を移動する。
何か、居た堪れない感情が青年の脳内を錯綜した。
「………嫌です」
酷く淡白に、少女の口から溢れたそれだけが空気を揺らす。
青年は深く被られた帽子から覗く少女の顎を見た。
本の僅かに、皺が寄っていた。
少女は下唇を強く噛み、幾重にも折り重なった木材を両手で退す。不意に飛び出た釘が手首を深く切る。
少女は黙したまま滴る鮮血をまじまじと見た。
少女も理解しているのだ。そこに大した意味は無いのだと。
けれど、と少女は目を細める。
少女の脳が命令を下すのだ。仕方が無い事だった。理屈では無いのだ。

「…………チャット」

不意に水を耳に打たれた様な感覚。
少女ははっと我に返り息を呑み、そして地に付けた右手でゆっくりと拳を作った。
じゃり、と瓦礫が音を立てる。
ぽたり、と水滴が落ちる音が、確かに左後ろ方向から聞こえた。
雨は、既に上がっている。
少女の視界がじわりと滲んだ。
強く噛み合わさった歯の隙間から漏れた、震える息が冷めた空気を揺らす。
「……チャット、やめろ。やめてくれ…………頼む……」
少女の耳に届いた頼りない声は、確かに震えていて。
それでも我慢しようと、時々言葉の間に挟まれる静寂が、少女の耳と心を強く痛めた。
地平線に、音も無く陽が沈んで行く。照り付ける光は、冷めている。
少女は何も言わず、何も言えず帽子の鍔を更に深く深く下げた。
じわり、と黒い帽子が塩水に滲んだ。
布が擦れる音。青年は身を翻し、ゆっくりと瓦礫の山を下る。
硝子の破片が踏まれて、ぴしりと音が上がる。
遠ざかる足音を耳に感じながら、少女は静かに謝った。謝り続けた。

ごめんなさい、と云う言葉は確かに青年の耳に届く。

朱に染まった陽光が、少女の弱い部分を強く強く、深く深く刺した。



【tale:A】



引いた暗雲。空は何時の間にか茜色に染まっている。
水嵩を増した水路の水は、まるで瀞の様で一向に流れる動きを見せない。
黄塵万丈とした空気は冷え、至る所に散った硝子片は幻想的な橙を反射していた。
死人含め人々は計六人。けれどもその荒れ果てた市街は、確かに幽邃境だ。
半壊した家屋に凭れる青年は唯々口を半開きにして空を仰ぐ。
綺麗な空は、しかし残酷でもあり。
この空を覗く事無く逝った少女を考えると、少し視界と色彩が滲んだ。
せめて黄昏に抱かれて、と思ったが少女は瓦礫の下で沈黙している。
埋葬する事さえ、己には赦されないのだ。
やり場の無い悲哀と怒りの念が、息苦しさを覚える程に胸を強く強く締め付けた。
茫漠とした後悔が、青年の背をとても小さく水面に映す。
青年は溜息を一つ零し、波状に歪んだ短剣を手に取った。
己は、何の為に剣を取るのだろうか。
守るべき存在さえ守れずにして、何が剣士、何が、アニーを守る。
どの莫迦の口がそんな愚かな言葉を吠える。
青年はくしゃくしゃの表情のまま肩を小刻みに揺らした。
くくく、と小さく自嘲が漏れた。
ゆっくりと不思議な金属で出来た短剣を傾ける。
茜色を妖艶に反射して存在感を放つ筈のそれが、酷く現実から乖離して見えた。
玩具にさえ見えるのだ。救い様が無い。笑える。
そして孰れは形が骸となるのだろうか。
いや、或いは既にそうなのか、と青年は零す。
ぎゅうと強く柄を握る。震える刃は、命を奪う為のキョウキは、かたかたと音を立てた。
「おい……アニー」
触れると崩れてしまいそうな程に不安定な表情で、青年は刃を見た。
「俺は、誰を憎めばいい? これから、如何すればいい?」
困憊し、破棄が磨り減った言葉を青年は漏らす。
もう、何もかもが嫌だった。
「何の為に、戦えばいい? どんな顔をして、如何やって生きればいい?」
なぁ、おい、と頭を項垂れたまま呟かれた言葉には、誰も応えない。応えられる筈も無い。
洗練されて煌めく刃が青年の顔を映す。
青年は乾いた笑いを零した。それは酷く歪で、やつれた表情だったのだから。
「教えろよ、屑ッ………なぁ、おい…………畜生……畜生ッ……!」
青年は瞼を強く閉じ、刃を勢い良く振り翳す。
このまま心臓を貫いてしまえば、どれだけ楽なのだろうか。
いっそ死んでしまえばこんな想いをしなくて済むのにと、青年は更に強く短剣の柄を握った。
だがその頭を強く振り、そして気付くのだ。
己は、こんなにも生きたがっている。醜く足掻いている。如何しようもなく。
他人の命を糧にして、愚かに生き長らえている。

「この俺がもっと、もっと強ければ……力があれば、てめェは死ななかったんだぞッ……!」

青年は、短剣をその呪わしい脈打つ心臓に刺す事が出来ない。

「ぅああ"ッ、あ"あ"ぁぁあ! う"あ"ぁぁぁあぁあああぁあぁッぐぅッ!
 ……畜生ォッ……畜生おおぉおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉォおぉぉォォぉおぉぉッ!!」

迫上がる感情が喉を焼き、容赦無く外気へと吐き出される。
泣き崩れる青年から発せられた、汚い咆哮が黄昏に抱擁された静寂を切り裂いた。
461名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:12:30 ID:kKNfyP8I0
支援
青年は振り上げた短剣を半壊した家屋の壁に全力で投げ付ける。
肩の関節が慣れぬ投擲で酷く軋んだ。
高い金属音が虚空に吸い込まれて空しく消えて行く。
刃を振動させながら短剣は回転する。
やがて、それは水路に吸い込まれる様に沈んだ。
とぽん、と水音が雄勁に響く。
青年は荒くなった息を飲み込む。
拳を少しだけ強く握って落陽に翳した。
流れる血潮が、怨めしい。
気を抜くと零れそうな、憎たらしい何かが気に障る。

青年は、だから空を仰いでいた。ずっとずっと、仰いでいた。



【tale:C】



少女は、瓦礫の上に大の字になって冷たい隙間風に実を委ねていた。
濡れた瓦礫が衣服を湿っぽくする。少し不快だ。
瓦礫により水路に閉じ込められた水が茜色を反射して目を眩ませる。
ふと空を仰ぐと、一番星が悠然と星影を見せていた。最早皮肉としか思えなかった。
ずきりと痛む両手を空に向かって掲げる。
あの一番星を丁度掴む様にぎゅうと拳を作る。
目前まで位置を下げて開くと、そこは全くの虚無だ。
少女は目を細めた。幻想的な黄昏も、あの一番星も落陽も剰え命さえも。
虚空以外には何も掴めない。
阿鼻し叫喚しても絶望したくなる程に、素敵な程に、自分は無力だった。
ぽたり、と血が手首から滴る。真紅のそれに僅かに吐気と眩暈を催した。
咎める青年を突き飛ばし、瓦礫を素手で必死に漁ったのは自分だ。
故に両手はズタズタだった。硝子片、瓦礫片。それらを無視して唯々退し続けた。
散々に敗れて役立たずな手袋を取り、己の小さな手を少女はじいと見る。
爪は割れ、皮膚は剥れ、じんじんと脈打つ様に激痛が走る。
けれど、腐ってもそれは己が生きている最大限の証で。
「僕は…………生きてる」
力無く少女は独り言を呟く。酷く無感動な声だった。
現実はまるで絵空事の出来事で、全て夢なのではと少しだけ少女は思った。
母親に似た暖かさを、確かに感じた。
柔らかい優しさを、甘い匂いを、確かに感じた!
この人は失いたくないと、いざとなったら守りたいと、しかと思ったッ!
「……その結果が、ごれでずよ……ッ」
わなわなと震える掌に、顔面を粗暴に覆わせた。
絶え間無く流れる涙を広大な茜空から隠す様に。
弱い自分を否定する様に。
それでも生きてるんだと実感する様に。
ぎり、と唇の端を噛む。鉄の味と香りが口内に広がった。
きっとこの不快この上無い味が、生と死の味なのだと感じた。
463名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:21:37 ID:jHllPzoo0
支援
鼻水と涙が溢れる。震える掌でそれを押さえ付け、水源を隠す。
「何も、出来ながっだのに……僕ば……まだ、ごんなに、……生ぎでる……ッ」
滲む景色。紅い掌の間から見える、空を駆ける茜雲が歪む。
絶え間なく虚しさが込み上げ、心の中に雨を零す。
横隔膜が小刻みに揺れる。持て余された感情は、瞳からの捌け口しか知らない。
「僕に゛……如何ぎろって、言ぐんでずば……ッ!」
生命を乗り越えて生きると云う、残酷で苦い毒。
それを地に這ってでも啜るという、地獄絵図の様な選択。
未熟で無力な少女には、その選択は荷が勝ち過ぎていた。

守られる側故の悲しみは、少女の前に強大な壁となり、聳えるのだ。



【tale:AC-2】



黴臭い埃を手で払う。舞い上がった埃は落陽の光を浴びて輝いた。
弱々しく立ち上がった青年は、去った彼女のサックの口を開く。
蝶々結びをするりと解き、サックの口を荒れた煉瓦道側に向けた。
当然重力に逆らえぬそれらは派手な音を上げて瓦礫に沈む。
空になったサックを青年は虚ろな目で一瞥する。
表情がわなわなと震え、下唇が強く噛まれた。
そしてサックをくしゃくしゃに握り瓦礫に叩き付けるのだ。
「……勝手な……真似、しやがって……」
崩れる様に座り込み、そして青年はそれに気付く。
瓦礫から浮いている様な、乖離している様な。
そんな不思議な感覚に目を細める。
同じく落ちていた紋章を懐に仕舞い、そして瓦礫の間に埋まるそれを手に取った。
土埃に汚れた表紙をズタズタな右手で丁寧に払う。
血で余計に汚れた気がして、青年は眉を顰めた。
中々の古書に思えた。そうして文字を指で追ってはっと息を呑む。
刹那が一分にも一時間にも感じた。
動悸と共に冷たい汗が全身を襲う。
真っ白になった頭に冷静さを取り戻す様に、青年は女性が遺したボトルを乱暴に手中へと取った。
ゆらりと揺れ、金色の光を屈折させる水に目を移す。
青年は一旦瞼を閉じ、キャップを緩める。
キャップがボトルの螺旋状の飲み口を滑る音。
青年は瞼をゆっくりと開いた。動揺により乾いた舌根と喉は、水分を欲している。
いや、肉体的だけでは無く精神的にも必要だったのだろう。
乱れた髪を耳に掛け、青年は鯨飲の如く一気に水を飲み干す。
冷水に喉がじわりと潤い、身体中に水分が行き渡る様な感覚。
465名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:25:24 ID:kKNfyP8I0
支援
466名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:25:38 ID:jHllPzoo0
支援
気分も心無しか幾分、落ち着いた気がした。
生命の根源とも言うべき真水。
それを最後の一滴まで余す事無くしっかりと飲み干し、青年はボトルを唇から離す。
空になったボトルを一瞥すると背後の瓦礫に投げ、漸く青年は目線を落とす。
背後で派手な音が響くが、青年にとっては完全に埒外だ。
茜色に染まったベージュ色のそれを、青年はがたがたと震える手で粗暴に捲った。
一頁、また一頁。捲る速さと鼓動の音が累乗的に増加する。
落ち着くんだと己に言い聞かせる様に、ゆっくりと空気を呑吐した。
「……………ん………………………だ……………」
暖かくて、優しい風が吹き抜けた気がした。
鮮血の様に紅い髪が、流される様にふわりと揺れる。
今と成っては懐古的な甘い柑橘系香水の匂いを、鼻腔に感じる錯覚。
癒しの術か身体を包む幻想。
ぱらぱらと無機質な音を上げながら、頁が風に運ばれる。
「…………………………なん……で、だ……………」
終わらない空を薄く伸びた雲が泳ぐ。
セピア色の頁が滴に濡れる。
ぽたり、ぽたりと落ちるそれに黒いインクは酷く汚く滲んだ。
「……………何で、全部終わってからッ…………こんな、こんなッ……下らねぇもんッ…………!」
悲痛な咆哮は、しかし虚空に消える。
消されてまった音には哄笑も、怒号も咆哮も叫喚も無い。
全てが等しく、唯虚しく響くだけだ。
左手で固く拳を作る。
瓦礫にその拳を全力で叩け付けても尚、混沌とした感情は収まらない。
ぼろぼろと零れ落ちる涙が拳を濡らした。

『――――久し振りの日記です。
 偶然にも私の支給品にこれが入ってるなんて、驚きました――――』

如何して今更、と青年は唸った。
遺された頁は、それでも何も語らないのだ。
「……何でだ馬鹿がッ……何で今なんだッ………なぁ……ッ……アニイイィィィィィッ!」
語るものは何も無い。
在るのは文字の軌跡だけ。けれども、そこには確かな生きた証。
切なくも確固たる、灯。
468名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:27:03 ID:7de6Q5GhO
支援
儚くも尊い、命の煌めき。

『――――それでね、そのアッシュさんって人が凄く優しくて。
 まるでユージーンみたいな人。本当は優しくて、でも不器用で。
 あ、今は街を迂回途中の休憩で……でも、私は本当は迂回したくないんです。
 街に誰か居るかもしれないのに。その人の命を見捨てるなんて、私には……。
 ……落ち着いたらアッシュさんに相談してみよう……きっと怒るだろうな――――』

止めど無く溢れる涙で文字が滲む。
感情を抑制し切れなくなり、青年は咳込む。
「…っ……ぐッ…ああ"ッ…………知っだ風ぐッ…ち、聞ぎやがッ…えぐッ…………!」
汚れた掌を顔を覆い、溢れる鼻を啜った。
そうしてまるで子供の様に喚き散らすのだ。

『――――そして、チャットと言う子が仲間に加わりました。
 アッシュさんは足手纏い扱いしてるけれど、私は妹が出来たみたいでとても嬉しいです。
 早く馴染んでくれればいいんだけれど、そうも行かないかな……。
 ………………………私が死ぬ前に、馴染んでくれると嬉しいな――――』

肩を揺らしつつ青年は声にならない声で泣く。
「…っく……ふっぐ…あ、こンの…馬鹿やろ……が…………………………ッ!」
馬鹿が、と繰り返す様に脳内で呟く。
がんがんと瓦礫に拳を叩き付けるが、痛みが重なるだけだ。
青年、アッシュは頁を涙と鼻水と血でぐちゃぐちゃになった手で捲る。
情けない顔が、更に情けなく歪んだ。
……とことんまでお人好しで、甘くて、救い様の無い馬鹿だ。
本当に、馬鹿で、飽きれを通り越して泣ける程の、馬鹿だ。
今すぐにでも瓦礫から引き摺りだしてビンタを食らわせてやりたい。
起きろ、と。その糞甘い根性を直してやるから早く起きやがれ、と。
けれど、それも悪くねぇぞ、と。
だから起きろ、と、言ってやりたい。
だから……だから、だからッ……!

『――――もし、私の言葉をアッシュさんが認めてくれたら……。
 …………そうですね、私は……私は、死ぬかもしれません。
 あの男の人はアッシュさんにこれだけの傷を負わせたんです。正直、怖い。
 でも、私は逃げません。逃げたくない。例え死ぬ羽目になろうと、私は行きます。
 ……最後の頁に、遺書を綴ります。
 ……………何時、私が死んでも大丈夫な様に――――』

はっとして、青年は汚れた顔を袖で拭き、鼻水を強く啜った。
髪が額の脂に張り付く。
青年は乱暴に傷だらけの左手で頁を捲る。
470名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:31:36 ID:XsLxzZheO
やべ…泣きそう(´;ω;`)
支援
471名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:32:46 ID:kKNfyP8I0
支援
472名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:33:33 ID:gyCPBCdb0
自分はもう泣いてる
支援
473名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:34:32 ID:xMVAQ2QNO
支援・・・
紙が汚れようが折れようがくしゃくしゃになろうが。
青年にとってそんな事は知った事では無かった。
焼ける様な茜がその頁を染め上げていた。裏返った声が喉の奥から溢れる。
そして、震える目に焼き付けるのだ。彼女が記した、最後の文章を。

『――――私は、死んだ事に後悔はありません。
 誰かを守れたなら(犬死にかもしれないけど……)満足ですから。
 ……アッシュさん、チャットをお願いしますね。
 あの子は本当にいい子なんですよ。
 私が死んだらきっと彼女は動揺すると思うので――――』

がらりと、青年の背後から瓦礫が崩れる音がした。
それでも気に止めず泣き喚く青年に、少女は近付く。
そうして少女も見るのだ。彼女の強く、固い意思を。
達観しつつも諦観はする事無く、最後まで彼女で在った彼女の純粋で無垢な結晶を。

『――――チャット、貴女はアッシュさんを頼みます。
 あの人は、ユージーンと似て一人で抱え込んで暴走し易いから。
 後は……ヴェイグさんとクレアさん、ユージーンをお願いします。
 それと、この日記はまだ頁が有るので……綴ってくれたら嬉しいです。
 うん……それじゃあ、最後にあと一つだけお願いがあります――――』

儚い、けれども何て尊いんだろうか、と青年は鼻水をだらしなく垂らしながら思う。
息が、全身が震える。
何も、言葉には出来ない。出来る筈が無い。
炎よりも強い意思が伝わる。
紙面を焦がし、心に炎を灯し兼ねない熱い何かが、確かにそこにあった。
文語と云う強大なハンディキャップを易々と飛び越え、それは心の鐘を鳴らす。
強く強く、芯から指先まで響く、尊い血潮の、脈打つ鼓動の音を。

『――――生きて下さい。貴方達が望む様に、生きて下さい。
 それが例え惨めでも構わないから。
 全てを取り払って、心が望む事を見つめて下さい。
 そうすれば、ほら、ね。
 幾ら挫けても、幾ら暗い闇の中に居ても、光は見える。
 心が決めた道なら、何度転んでも、歩けるんです。
 それは誰にも言える事。ヒトである以上は、決して揺るぎない現です。だって――――』

それでも、確かに迷う事もあるだろう。
それでも、悩み葛藤する事もあるだろう。
例えば、此所で子供の様に喚き散らす青年の様に。
例えば、茫然と立ち尽くして顔を海賊帽で隠して必死に堪える少女の様に。
あくまでも強者の戯言だと捉える者も居るだろう。
選択する強さすら持たない人間は、星の数程居る。
故に破って棄てても良し、消し炭にして存在を消すも良し。
選べなくても構わない。立ち止まって戻る事も同様だ。
必要ならば全てを破壊するのも一手だろう。
大切な事は、心を信じて生きる事だ。生き延びる事だ。
藁に縋ってでも、生に執着する事だ。
何度踏まれても太陽に背を伸ばす葦の様に。
雪を耐え忍び懸命に生命を咲かす花の様に。
だから、如何なる手法でもそれが本心ならば、きっと後悔は無い。
その地平線の先に待つ現実は、間違いじゃあ、無い。








『――――だって、ヒトの心に色は、無いんですから――――』








これが、道標になる事を、信じて。

          アニー=バース
476名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:41:35 ID:xMVAQ2QNO
泣いた。
支援
477名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:41:59 ID:EGYIHO5u0
支援
【アッシュ 生存確認】
状態:HP10% TP10% 左腕に大裂傷(縫合済みだが再出血あり)
   全身に切傷と打撲 行き場の無い悔しさ 無力さへの葛藤
支給品:??? ??? ジェイドの作戦メモ二枚
    イクストリーム アニーの日記
基本行動方針:チャットを守り生きる。日記を継ぐ
第一行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える
第二行動方針:レプリカの野郎はどうしたんだ?
現在位置:G2街西地区→中央地区へ

【チャット 生存確認】
状態:HP80%、TP100% 右頬に腫れ 首に絞められた痕跡 身体中に軽度の切り傷 アニーの死にショック
   守られる事と無力さへの葛藤
所持品:スタンダードマグ(残り装填5発) 銃弾50発 旗の形をした『何か』 タバサ
基本行動方針:勇気を持つ
第一行動方針:アニーの死を乗り越えて生きる
第二行動方針:セネルが心配
現在位置:G2街西地区→西地区へ

※クリスダガーは塞止められた水路の底に沈んでいます。流されていません。
479名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:43:27 ID:kknblz58O
投下終了
480名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:45:16 ID:rYjnGuhwO
>>479

良いモノ見させてもらいました
481名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:46:03 ID:EGYIHO5u0
投下乙!アニーの日記があああああまさか出てくるなんてええええ!!
全俺が泣いた…ルークの日記ならぬアッシュの日記になるのか…もうなんかだめだ、いろいろと。
ありがとうございました
482名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:47:29 ID:gyCPBCdb0
投下乙です
日記……その発想はなかった。
ホントに泣けました。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:48:06 ID:kKNfyP8I0
投下乙です
アニイィィィィ!!(涙)
遺書の最後の一文で涙腺崩壊したぜ
484名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:49:14 ID:2W0emAcp0
乙!
日記いぃぃぃぃいぃぃ!
「けれどそれも悪くねぇぞ」で何か目から汁が出た
485名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 21:52:00 ID:DX9YzzOBO
な、なんだこれは…!
そんじょそこらの映画や小説より泣けるじゃねーか…
アニーの想いの全部が日記に詰まってて、もう……ああ駄目だ悲しいのにめちゃくちゃ感動してる…立ち直れないよ……
投下乙でした……!
486名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:17:08 ID:LdtO36i6O
投下GJ……!
アニィイイイ…!
涙腺がやばい。泣いた。
あああ今はそれしか言えない…もう一回読んでくる
487名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:19:22 ID:uNpbNZBQO
乙。凄すぎて言葉が出ない
アッシュアニーコンビ大好きだったから、かなり涙腺にきた
この遺言が彼らの支えになるといいなぁ
488名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:20:41 ID:r++avfE40
ここまで感動モノを書いてくるとは、なんということでしょうか。
こんな後に投下するもんじゃねーと思いつつも投下。
489破壊の偶像 1:2008/09/24(水) 22:22:22 ID:r++avfE40

――銃身を己の身体の一部だと思え。常に己の骨格の延長線上に、銃口を向けて構えろ。
リグレット教官が少しだけ教えてくれた、譜銃の基本姿勢を取るティア。
その銃身の先に立つのは、褐色の肌に紫紺のドレスを纏う、妖艶な女性。
しかし、彼女の纏う殺気はティアにも、その脇に立つカイルにも、刺すような肌の痛みとして伝わる。
傍目には絶対的に優位な状態に立つように見えるティアでさえ、身の震えを隠すことで手一杯だった。
そんな姿に何を思ったのか、紫紺の妖花は嘲笑ともとれる笑みを浮かべた。

――銃声は無い。
冷気銃ブリザードマグから放たれるのは、氷の魔弾。
雹弾が目の前の女性、シゼルを襲った。
しかし、シゼルは瞬時に生み出したファイアボールで尽く相殺し、それ以上の火球量で攻めた。
反対に襲い掛かってくる赤色の飛び道具を、ティアは器用に雹弾と回避を使い分けたが――
「ぐあっ!」少年のうめきに、思わず注意が向く。被弾箇所はアビスレッドの右腕。
カイルの元へ駆け寄る。下級術ゆえに、それほどの被害は無い。
だが、目の前で悠然と槍を構える女性の全力は、この程度の火遊びでは無い。
ほんの一分にも満たない手合わせで、それは絶望と名前を変えてティアの胸中に去来していた。
「――カイル」
ゆっくりと、目の前の敵を刺激せぬ程度に後退しながら、ティアは声をかける。
右腕に向けていたカイルの視線が、アビスピンクに向けられた。
その視線を――平気だと言わんばかりのその視線を受けながら、ティアは努めて冷静に言った。
「逃げなさい……今すぐに」

逃げる。これが絶望的な今の状況を乗り切る最善の一手。
だが、眼前の強大な敵を前にしては、並みの覚悟では逃げ切れない。
必要なのは覚悟。……片方を生かすために、もう一方が犠牲となる覚悟。
ティアは言葉を続ける。カイルの反論を決して許さぬために。
「勘違いしないで。私はロクに知らないあなたの為に死ぬつもりはないわ。
 私一人なら、あの敵を上手く出し抜ける方法がある。ただ、それだけのことよ」
厳しく真摯に、そして隠し切れぬ情愛を持ってカイルに言葉をかける。
ティアは嘘も冗談も苦手だった。その生真面目さは、恐らく一生直らないだろう。
しかしそれゆえに、彼女が己を生かすことを最優先していることが、カイルにも感じられた。
ブリザードマグがカイルに渡される。
あの機知外男に再び襲われたら、今度はカイルは己の身一つで切り抜けなければならない。
ティアはそれを理解していたから、カイルに銃を渡した。そしてカイルもまた……
ジワジワと歩み寄るシゼル。時間稼ぎはもう限界だ。
「――走って!!」叫ぶようにティアは言い、カイルは走り出した。目頭に込み上がるものを振り切りながら。
490破壊の偶像 2:2008/09/24(水) 22:23:36 ID:r++avfE40

カイルとシゼルの間に立ち、ロリポップを構えるアビスピンク。
それは、さながら我が子を守る母親のようだ。
「あの少年のために……お前も命を捨てる、か」
シゼルは目を細める。その瞳の先にあるのは、過去の己そのもの。
我が子の友人のためだけに、他の全てを殺すことを躊躇う自分の声が聞こえた。
しかし、その声に易々と応じるほど、シゼルは軽い決意でこの場に居るわけではない。
「……私は、私は死なないわ」
ティアは声を捻り出す。そう自分に言い聞かせなければ、とても動けそうも無い。
自分に出来る最善の行動をする。それは軍人として当然のこと。
軍人だから、民間人のあの子は守らなければならない。
それは暗示だ。恐ろしく儚い自己啓発術。それでも、無いよりは幾分マシだ。
「あなたを殺して……私は生きるの!」
ティアは誓い、そして動き出す。それを見て、シゼルも動いた。

槍と杖。接近戦にもつれれば、確実に死ぬ。
ティアは距離を保つ。最も得意とする中距離レンジ。しかしそれはシゼルの得意レンジでもある。
シゼルは手のひらから光弾を放つ。それはティアの居た地面に命中し、爆発を起こした。
彼女にとってこれは術ですらない。ティアが近接戦闘で杖から放つ魔法弾と意味合いは変わらない。
しかしシゼルほどの術師ならば、その威力は下手な下級術よりも強力だ。
ティアの譜歌は、シゼルが爆発を起こす度に阻害された。
だが、それはティアにとっては予定調和の出来事である。
譜歌を構わずに、続きから歌った。詠唱を止め、光弾をよけて再度歌う。
全てを唱え終わるころには、ティアは円運動でシゼルの周囲を一周していた。

ティアの譜歌にとって詠唱の中断は、普通の歌で言うブレス(息継ぎ)程度の意味でしかない。
極小の歌唱時間でも、積み重なればそれは譜歌となる。
それは大譜歌という性質を帯びた、ユリアの譜歌が持つ特性。
「……ジャッジメント!!」
魔を灰燼となす激しき調べがひと繋ぎとなり、意味を帯びた譜歌となりシゼルを襲う。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:24:48 ID:KO54BCQj0
アニィィイイイ!
なんか目から汁出てきた・・・

すごい野暮なこと聞くんだけど8んとこマオ書き忘れてる?
492破壊の偶像 3:2008/09/24(水) 22:25:18 ID:r++avfE40

カイルは走っていた。涙を隠す必要は……ない。
バトルロワイアルが始まってから、ずっと行動を共にしていた仲間はもう居ない。
自分が 見捨てたのだ。彼女が死ぬつもりだなんてことは分かりきっている。
それでも、本気で自分を生かそうとした彼女の意思を前にして、止められなかった。
単なる自己弁護に過ぎない。カイルの中にも、生き残りたいと思う心はある。
それが悔しくて、情けなくて、少年は泣き走った。

アビスレッドを着たとき、カイルは英雄になれた気がした。
そんなのは誤謬だった。ただの思い込みに過ぎなくて、夢想以外の意味は無かった。
死地から逃げ出すカイルに突きつけられた真実は、少年には余りにも酷な現実だ。

(オレはこの殺し合いを止めたかった。なのに……)

本当の殺し合いを前にして、カイルに出来たのは逃げ出すことだけ。
そんなのは英雄のやることじゃない、ただの腰抜けだ。

(オレは……オレは――!!)
493破壊の偶像 4:2008/09/24(水) 22:26:40 ID:r++avfE40

浄化の炎雷はティアの動いた軌跡の内部を、焦熱地獄に変えた。
ティアの中では最強クラスの攻撃。奇襲に使うには余りにも上等な術だ。
(――殺った!?)
焦熱の収まりゆく様を警戒して注視するティア。
しかし、この焦熱のような中に立っていたシゼルは、オーロラの如き光に身を包んでいる。
「プリズムソード」
シゼルは唱える。光の剣がティアを貫かんと殺到する。
「――くっ」耐えることまでは予想できても、即座の反撃は想定の外だ。
何とか光剣の雨をよけるが、それを黙って見ているシゼルではない。
ティアとの間合いを一気に無にする。手に持つのは、聖者を貫く破壊槍。
槍の一撃が肩口を貫いた。仰向けに倒れこむティア。
――死!?
その一文字だけが、ティアの脳裡を掠める。
シゼルの槍は振り上げられ、そしてティアの脳髄へと――

「フレイム、ドライブ!!」

声がした。それはこの場にいるはずの無い少年の声。


カイルは逃げたくなかった。
英雄になりたいとか、アビスレッドがどうとか、そんなことが理由じゃない。
カイル・デュナミスであり続けるためには、殺し合いから逃げ続けるわけにはいかない。
それだけが、カイルの真実。だから……何も考えずに、戻ってきた。
彼は間違いなく馬鹿だが、しかしそれは、一つの譲れない意志を持つ馬鹿だ。


カイルの放つ三つの火炎弾に、シゼルは飛び退いた。
「燃えろ! バーンストライク!!!」
更にカイルの術が続く。ティアとシゼルの間に、最高のカタチで隙間が生まれた。

ティアは跳躍した。仰向けの状態からくるりと、バク宙のような軽やかな跳躍。
――それはまるで……物語の世界のスーパーヒロインのように。

美しきアビスピンクは体勢を立て直し、杖を地面に突き立てる。
「炎の刻印よ、フラムルージュ!!」
周囲に満ちた火の要素を糧にして、カイルらとシゼルを分かつ火柱が立った。
494破壊の偶像 5:2008/09/24(水) 22:29:33 ID:r++avfE40

ティアは駆けた。カイルの元へ。
「ゴメン!」一言だけで謝り、カイルは手を差し出す。
その手をティアはしっかりと握った。まるで生還へと続く蜘蛛糸のように優しく。
「ありがとう。最高の援護だったわ」
そう応えてティアは笑った。そこには気恥ずかしさも築き上げてきた体裁も無い。
二人は駆ける。生きるために。この死地から逃れるために。



しかし、悲劇的結末とは全てが済んだと思った瞬間にこそ訪れるものだ。

火柱の向こうで詠唱するシゼルの姿は、背を向けた二人には見えない。
詠唱も聞こえない。魔力の変動も火柱にかき消される。……ゆえに、察知しようが無い。
シゼルが唱えるのは、禁忌に近き召喚の術。それが呼び出すは魔界の悪鬼。

「……サモンデーモン」

呼び出された大悪魔は手を繋ぎ走る二人の背後に現れ、一瞬で二人を握り潰して消えた。
痕に残るは何も無く、シゼルの眼前で燃える炎だけが、送り火のように主の旅路を見届けた。



【シゼル 生存確認】
状態:HP99% TP55%
所持品: ロンギヌス(TOA)本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:優勝してリッド含む皆を蘇生させる。
第一行動方針:優勝を目指す。
現在位置:F4西端


【カイル・デュナミス 死亡】
【ティア・グランツ 死亡】

【残り48人】
495名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:31:59 ID:r++avfE40
投下終了。
全員に見せ場を作ろうと思ったら、何故かシゼルが二人抜きしてた。

攻略本で使用特技をチェックしてて、サモンデーモンを使うことを思い出したのがいけなかったのだと思う。
496名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:34:34 ID:ZSWXT/7s0
投下乙。
アニィィィィィ…日記ネタは考えてたけどここまでやるとは…。
アッシュに日記フラグが立ったのがいいな。

そして…アビスマァァァァァァァン!!orz
最後の最後に無情な鬱に落し込めやがって…でもこれがロワでもあり人生でもある、GJ。
シゼルママ強いなあ。
対照的な二作に改めて乙を送りたい。
497名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:37:44 ID:EGYIHO5u0
乙、だがHP99%はさすがになくね?
術どれだけ喰らってるんだよ、全部避けたの?
498名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:38:15 ID:KO54BCQj0
アビスマンうわあぁぁ
やはりバトロワで油断は禁物か・・・

あと投稿途中に割り込みレスとか野暮なことしてごめん
ほんとごめんorz
499名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:40:51 ID:r++avfE40
>>497
フレイムドライブ:普通に避け
バーンストライク:そもそも当てるつもりじゃない牽制
フラムルージュ:これも逃亡用で、カイルの牽制で空いたスペースに向かって発動

で、普通に喰らったのはジャッジメントだけで、これはシゼルの詠唱中無敵効果が有り無しが分からんかった。
普通の剛体と同じルール適用なら、多分HPは60%ぐらいになってるかなと思っている。
500名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:41:35 ID:SUDqJYKvO
シゼル、ネレイドでも憑依してるの?
単体でサモンデーモンとか使えたっけ?
501名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:44:09 ID:EGYIHO5u0
ボスの無敵効果はナシじゃなかったっけ?
502名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:45:13 ID:5BMQHE0/O
一撃で殺しちゃあまりに強すぎだろ
さすがにあっさりすぎだし HP99も無いわ
反則すぎる
503名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:47:52 ID:Vk1eR9TzO
デミテルのサモンデーモンですずとセネルズガン思い出した
504名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:49:36 ID:5BMQHE0/O
しかもHP100パーだったしね
これからシゼルに攻撃直撃されたキャラは問答無用に死ななきゃいけないし
強すぎる
505名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:53:45 ID:ZSWXT/7s0
HP100%だから死なない、ってこともないと思うけどね。
ぴんぴんした人間だって致命傷喰らえば死ぬでしょ?

まあ、シゼルのHPは少し直した方がいいかな。
506名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:58:07 ID:bXIrm7uUO
だね
あっさり死んじゃうのもまた面白いと思うよ
507名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 22:59:28 ID:EGYIHO5u0
細かいようだが気になったから言うぜ。
「鋼体」が正しいんだからな!「剛体」ってなんだよ!
…ごめん、ロワに限らずいろんなところで誤字気になってたから叫んでみた
508名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:07:17 ID:inqQiXh7O
ティアかっけえーとテンション上がってたらいきなり死んでふいてしまった…orz
だがロワではよくあることだし、サモンデーモンが矛盾してないなら問題ないと思うけどどうだろう?
とにかく投下乙!
509名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:23:39 ID:lJknG7lKO
投下乙なんだけど、流石にHP100%がサモンデーモンだけで全部削られるのはやり過ぎじゃね?
ティアはまだシゼルとの戦闘で消耗したっていうならわかるけどカイルは無傷でそんなに消耗もしてなかった筈なのに。
それとサモンデーモンが出るのPしかやってないが、サモンデーモンって確か召喚だったよな?サモンデーモンがありならクラースさんも精霊そのものを呼び出せても良いんじゃね?って思ってしまうw
…まぁクラースさんの場合は指輪とかが必要とか条件次になると思うが。
510名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:24:44 ID:jHllPzoo0
投下します。
511水舞・煌髪(否々、紅髪) >> 赤頭巾1:2008/09/24(水) 23:26:31 ID:jHllPzoo0
「戻れ、メルネス……!」

そんな声と共にすっと伸びてきた彼の手から、身を捩り逃れる。
口唇から鼻腔から、そして身に纏った衣から湧き起こるたくさんのあぶく。
上も下もないくらい逃げて逃げて、場所なんてもう分からない。
分かるのはあたりがすっかり暗いことと、大好きな兄が追ってきてはくれないというコトだけだ。
けれど、シャーリィにはそれを嘆く時間はなかった。
飽くこともせで自分を絡め取ろうとするワルターの手を掻い潜る。
知らぬ間に水面へ出ていた手のひらがばしゃんと飛沫を上げた。
ぬらぬらと暖かい水を切って、ドルフィンキックでぐいいと進む。
月を返した幾多の煌めきを浴びながら、シャーリィは彼へ向けて心の中で大きくあかんべえをする。

(絶対に捕まらないんだから……っ!)

今自分が捕まっては、お兄ちゃんを止められなくなってしまう。
それだけは絶対にいやだった。絶対に、絶対にいやだった。
だから、彼女はがむしゃらに水を掻く。
その手が、足が、何を突き飛ばし、何を蹴落しているのか、考える余裕は彼女になかった。

 ◆ ◇ ◇
512水舞・煌髪(否々、紅髪) >> 赤頭巾2:2008/09/24(水) 23:27:39 ID:jHllPzoo0
 ◆ ◇ ◇

忌々しき陸の民の衣を被って過ごした日々が、彼に再び歯ぎしりをあげさせる。
守らねばならぬ唯一無二の彼女を捜し求めて、母なる海から離れた歳月は、彼からも等しく水の中での力を奪い去っていた。
同じように海から長く離れていたはずの彼女へ、あと一掻のところで、またしくじった!
水面下で空を切った指の先から逃れていく、長く綺麗なたゆたう朱金の髪。
視界の橋をするりとすり抜けていくソレを追い、彼は大きく波間を蹴った。
滄我のいない海の欠片を視に浴びて、再び手を伸ばす。
けれど甲斐無し。即ち、再々再々再(中略)々度の失敗。
そうやって募った苛立ちに、もしも、もしもだ。もし、彼女が先刻セネルによって命を刈り取られたような陸の民の娘ならば。
ワルターは、そんな埒もなきことを思い浮かべかけ、

(馬鹿なことをッ。メルネスが陸の民であってたまるか!)

彼女を追い浮かび上がりながら、胸の内で不甲斐ない自分を叱咤する。
そもそも彼女がそうでないならば、己は此処でこんなことをしているはずがないのだ。

 ◆ ◆ ◇ 

傾ぎつつあった太陽のもと、二人が海に飛び込んでから、おおよそ三つの刻限が過ぎようとしていた。
彼らの舞を鼓舞するように真っ赤に染まっていた水面も、すっかり色を無くし、
今ではふたつの煌めきが月に照らされ波の合間へささやかな彩を添えるのみだ。

夕焼けの中、炎が揺らぐようだった彼らのダンスは新たな奏者<落日>のもと、
新たな局面へとゆたりと進む。

激しき舞は藻屑となりて、残ったのは終わらないダンスパーティにうんざりしきりの若人達。
疲れ故か、それとも否か、彼らのあいだに、言葉はない。
それでも、互いに心の中は相も変わらず頑固のままだ。

 ◆ ◆ ◆
513水舞・煌髪(否々、紅髪) >> 赤頭巾3:2008/09/24(水) 23:28:15 ID:jHllPzoo0

ほとんどたゆたうほどとなった速度とうらはらに、ワルターの心臓は破裂するのではないかというくらい、激しく波打っていた。
波濤の向こうに昏く沈む海岸が、したり顔で彼に危険を知らせてくる。
この小うるさいアラームにメルネスは果たして、

(気づいていない……?)

視覚をソースにした観測結果が、彼に絶望感をもたらす。
贔屓目からさらに百歩譲ってさえ、少女はこの事実に気がついているようには見えなかった。
そのあかしが、今になっても一向にこちらの動向しか気に掛けない彼女の目だ。
焦りが、彼の唇を割ってパロール顕現させる。

「戻れ、メルネス……!」

言葉と共に、伸ばす指。その寸での先をすり抜ける守るべき少女の煌髪。
けれど、まだ諦めない。文字通り水泡に帰した警告は無視して、
もう何度目かになるか分からない腕を伸ばす。その手が、藻掻く少女に弾かれる。
それでも、彼は彼女を守るため必死に手を、指を伸ばす。
514水舞・煌髪(否々、紅髪) >> 赤頭巾4:2008/09/24(水) 23:29:42 ID:jHllPzoo0







 <水鏡の輝きに煌髪が躍り、踊り、また躍る。
  盛んに興る飛沫だけは彼の一族の求婚儀式に似ている、かもしれない。
  けれど水の中で二人が身を預ける音楽は燃え上がる恋、ではない。
  波間に踊り狂うは金の髪の乙女と、麗しの美少年。
  激しく燃え上がり、されどいつか終わる、求愛のダンス。
  シアワセなふたりとは一分の狂いもない直径の先で、彼らは最後のいびつな円を描く。>






そして月下の海に、一輪の花が咲いた。






必死だっただけだ。
そう、ただ必死だっただけ。
お兄ちゃんから逃げたくて、……ワルターさんから、逃げたくて。
人殺しなんて、やめてほしくて。だから逃げてきたのに。
それなのに。
……どうして、と言う言葉は唇から現れてはくれなかった。
かわりに嗚咽だけが海へと落ちる。
暖かい海に抱かれているのに、寒くて寒くてたまらなかった。






【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP100% TP80% ワルターと姉の死による大きなショック 精神的に疲労大 ベストなし 泳ぎ疲れた
所持品:首輪探知器
基本行動方針:お兄ちゃんたちを止めるために動く
第一行動方針:セネルを止めるために協力者を捜す。
現在位置:G6海上 風と波のまま、北西へ。

【ワルター・デルクェス 死亡】

【残り47人】

※ワルターの遺体シャーリィはサックの浮力で漂流中です。
515名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:35:13 ID:jHllPzoo0
投下終了です。
516名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:36:51 ID:r++avfE40
>>509
うーん……そこの召喚だけが、書いてて自分で首を傾げてた場面なんですよね……
一応、召喚の一種だと思って書いているので、召喚ルールとのすり合わせは、半日ほど悩んでました。

決めた。
一旦破棄して、その辺も説明できるよう掘り下げてみます。
もしも誰かがリレーするまでに書きあがったら、改めて投下します。

どうもお騒がせしてすいませんでした。



そして投下乙。しかし密かに期待してたワルター……なんということだ。
517名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:39:39 ID:5BMQHE0/O
>>516
いい判断だ
このままだったら嫌いなキャラどんどん殺したからね俺
518名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:39:50 ID:2W0emAcp0
乙です
シャーリーが超カワイソスな事に。
彼女の不幸が何処まで続くのか期待大だ
519名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:43:35 ID:gyCPBCdb0
投下乙です。ワルター……
シャーリィのカワイソスは銀髪どもを超えてるな
どこまで落ちていくのやら
520名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:48:25 ID:inqQiXh7O
確認なんだけどアッシュがルークに連絡するのは夕方過ぎになるのか?
それともルーク側のみでの描写になるんだろうか?
521名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:49:42 ID:lJknG7lKO
投下乙。ワルター逝ったか。
てゆうか、このSSに限らずマーダー、マーダーに近い参加者死にすぎじゃね?
1stがまさかの優勝エンドになったから2ndでは脱出エンドを目指してるのかもしれないけど、マーダーにはマーダー補正で満身創痍でも生き残って、一人でも多くの参加者を減らして貰わないと困る気が。
SSの都合上、マーダーが死ななきゃ行けないのはしょうがないにしてもあっさり殺しすぎな気がする。
>>516。1stでもデミテルが使ってるし、問題ないかも知れないけど2ndにはクラースさんが参加してるからな。サモンデーモンはおkで精霊はダメだとクラースさん不利すぎるし。
とにかく、カイル、ティア、シゼルにそれぞれ見せ場あったし、俺は貴方のSSが嫌いな訳じゃない。次のSSに期待しています!
522名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:50:43 ID:2ylrh3cx0
いまいちわかりにくかったけど、ワルターはマップ外の海域に入ったことで
首輪が爆発して死亡でいいのか?
523名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:55:07 ID:N70OGcGvO
どちらかというとG7の禁止エリア発動じゃない?
夜になった描写あるし
若干時間の経過が早すぎる気もするが
524名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/24(水) 23:55:29 ID:jHllPzoo0
作者です。
ワルターが入った(というかシャーリィにタイミング悪く押し飛ばされた)先は、
発動した禁止エリアG7を念頭に置いています。
525名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 00:26:19 ID:cSs82FTAO
テイルズロワは酢飯に何か恨みでもってあるのかってくらい、酢飯を不幸にしていくな。
酢飯がんばれって思っちまう。
526水舞・煌髪(否々、紅髪) >> 赤頭巾@修正 :2008/09/25(木) 01:26:09 ID:F4x86vMA0
まとめ氏、お手数かけますが、以下についてお願いいたします。
P2初行(記号):削除
P3下6行:「パロール顕現」→「パロールを顕現」へ一字挿入
527名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 02:35:56 ID:zDM2Pk/9O
>>520
赤毛通信話を書いた者です。
最初は昼の2〜3時ぐらいのつもりで書きましたが、サニィタウン話の書き手さんを縛りそうで嫌だったので特にそういうものはありません。
なので夕方ということになりますかね、必然的に。
528名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 03:36:19 ID:eZG/4Q3UO
開始からノンストップで動き続ける連中もいる中、昼過ぎからだから結構寝てたんだな
悪夢見てたルークは休めてないかもしれんがジューダスやフィリアは結構休めたかな?
やることは要は見張りだから一人で十分だし

休息をしっかり取ってるのって誰がいるだろう?
館組、休憩しまくってるスタンとイレーヌ、
529名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 03:47:06 ID:HysB9ttJ0
B4の連中もだな
いまだに篭りっぱなしなハロルド、外に出たけど篭ってる時間は長かったミトスにキルマル
530名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 03:58:15 ID:agT0NVAtO
>>525
……まあ、キャラクエでやってくれた諸々の言動で、
発売当時に酢飯は2chじゃ散々叩かれたからなあ……。

歪んだ形での2ch補正が未だ残ってんじゃ?
531名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 05:47:59 ID:b7RIZifiO
>>527
把握したサンクス。つってもただの読み手だがw
532名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 07:31:02 ID:V/iPS7WZO
しかしティア…最期に俺がやろうとしていた
プリキュアネタをやってくれるとは…
ちょっと破棄がもったいないなぁ…

そしてワルターorz
533名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 09:44:28 ID:Dd4IXe9q0
破棄ネタは是非避難所に投下してくれ!
せっかく書いた作品なんだから読みたいぞ
534名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 15:26:49 ID:z8uDcmbCO
まとめを見るに一番登場回数多いのがワルターという意外性。
作品別に見てもLが一番書かれてるというね。不思議だ。
Lの印象はロワでも薄いんだが、何故だろうかw
535名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 18:42:36 ID:qulgU0h3O
ダオス生きてるのにいまだに登場回数三回て少なすぎない?
このままでは空気魔王に…
536名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 19:04:21 ID:deKIib8NO
∩_∩
〃ノノノMハ
川´_ゝ`)<空気も極めれば生存フラグなのだよ、ダオス君
537名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 20:03:58 ID:nPbVGDTwO
>>536が見えない件。
538虚像の城 1:2008/09/25(木) 21:49:52 ID:BCKw97B30
「セネルさん、落ち着いてください!」

ジルバがとった行動は説得だった。ここでセネルを葬るのは容易いが時期ではない。
シャーリィやワルターがもし戻ってきたら言い訳がめんどうだ。
あくまで自分は弱者でなくてはならない。
戦えないと印象付けて不意打ちを狙うためにも、戦力として計算されないためにも。
人を巧みな話術で誘導し、自身の目的を達成させるのがジルバのやり方である。それはここでも変わらない。

落ち着け?とかけられた言葉にセネルは自嘲の笑みを浮かべた。
落ち着いている。優勝を目指すのだから人を殺す。当たり前の行動だ。何もおかしくなんてない。
(結局、命乞いか)
セネルは冷めた瞳でジルバを見るが、ジルバは揺るがなかった。

「シャーリィさんの様子、おかしくありませんでしたか?あなたのことを『殺す』だなんて……」
「………」

何が言いたいのだろうか。セネルは少しだけ命乞いを聞いてやる気になった。
シャーリィ、という最愛の妹の名前はセネルの心を波立てる。

「シャーリィさんは、操られている可能性があります」
「はぁ?」

セネルは突拍子もない言葉に声を上げる。操られていた?誰が?
ジルバはセネルの反応を確認しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「……言い訳になってしまうので言いませんでしたが、実は先程の襲撃の際……私は自分の意に介さない行動をとりました。
 私はステラさんを置いて逃げました。でも、それは私の意思ではないのです!
 結局、私はステラさんを見捨てることが出来ず一度戻りました。しかし、何者かと戦っているステラさんの元に戻った後……記憶がないんです。
 気がついたらシャーリィさんが居て、ステラさんはいなかった。私は確かに、ステラさんの元に戻ったはずなのに」

震える体を抱きしめるようにジルバは続けた。
敵の見たことのない術の数々。もしかしたら人を操る術を相手も使えるのではないか、とジルバの推測は続く。

「シャーリィさんも、何らかの暗示や術がかけられている可能性があります」
「そんな訳、」
539虚像の城 2:2008/09/25(木) 21:50:46 ID:BCKw97B30
ありえない!と否定するセネルにジルバは言葉を畳みかける。

「襲撃される前のシャーリィさんは、あなたのことを本当に大切な人だと言っていました。
 『はやくお兄ちゃんに会いたい』としきりに言っていました。それが、今はどうです?」
―――「お兄ちゃんはそんなに身勝手でわがままなんだね!!」
―――「お兄ちゃんの人でなし!!」
―――「お兄ちゃんと敵対する」
―――「お兄ちゃんを殺す!」

「や、……めろ」
「本当にこれはシャーリィさんの本心だと思いますか?誰かに操られていたとは考えられませんか?」

セネルはついに膝をついた。シャーリィの否定の言葉は容赦なくセネルの心を抉っていた。
その傷口に、心地よいほどにジルバの言葉は染み込んでくる。
いかにシャーリィがセネルを愛しているか、それをジルバが熱弁する。
シャーリィと接したのは僅かな時間だが、この手の人間の思考はジルバには手に取るように分かる。
少し性質の違いもあるだろうが、シャーリィのそれは彼女の国の哀れな女王と似ているのだ。

「シャーリィさんは、望まない行動をとらされているんです」
「望まない……、」

地面へと視線を落としたセネルを、ジルバは見下ろす。
自らの操られていたという体験と巧みな話術がより話に真実味をもたらしていく。
なんと人の心は脆いのだろうか、と笑みを隠しながらジルバは膝を折った。

「シャーリィさんを助けてあげてください。今ならまだ近くにいるはずです」
「シャーリィを助ける?」
「はい。あなたにしかできないことです。私はすぐには追うことは出来ませんが……」

セネルは立ち上がる。そして視線を逸らしながら謝罪を述べた。
ジルバを殴ったときのことがよく思い出せない。頭に血が上っていたのかもしれない。

「分かった。…………殴って悪かった」
「いえ。このような事態を起こすことが敵の策略なのでしょう。敵は卑劣で狡猾です。
 私は、……少し疲れたので休んでいますが、」
「俺は、シャーリィを探してくる」

セネルは空を見上げた。
いつの間にか一番星が空に輝いている。辺りも薄暗くなっていて、広大な海を探すのは骨が折れそうだった。
否定していたジルバの言葉は、すっかりと真実としてセネルの心に染み込んでしまっている。
シャーリィがセネルを否定することなどあるはずがない!と第三者に貰った言葉はセネルに力を与えた。
ステラのため、シャーリィのためにセネルはこの茨の道を選んだのだ。
否定されるわけがない。……否定、させない。
シャーリィが本心ではなく別の要因でセネルを否定しているのだと教えられた時、ずいぶんと心が軽くなった。
疲れた心は疑いすら捨て去り、甘い毒を受け入れた。
余計なことを考えるのは疲れる。ジルバが与えてくれる答えはまるで麻薬のように心地よい。
海の中に入ると同時に、何かが波と一緒に流れてしまったような気がした。
セネルは一度水面から顔を上げて首を傾げるが、すぐに海底深くへと消えた。
540虚像の城 :2008/09/25(木) 21:51:17 ID:BCKw97B30
【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP45% TP100%  身体中に裂傷、背中に軽度のやけど 全身打撲
所持品:ステラのサック シャーリィのベスト ジルバのサック
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。上手く立ち回る。
第一行動方針:とりあえず休んでから考える。
現在位置:G6岩場

【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP55% 全身に擦り傷、切り傷 強い決意 ジルバをやや信頼 シャーリィの否定の否定 
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、
時を駆ける少年の人形、本人確認済み支給品2個、すずのザック
基本行動方針:シャーリィを優勝させる
第一行動方針:シャーリィを探す。シャーリィを術から助ける。
現在位置:G6
541名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 21:51:55 ID:BCKw97B30
投下終了です。セネル相当疲れてるな……
542名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 21:57:49 ID:zDM2Pk/9O
俺も投下します
543名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 21:57:51 ID:nPbVGDTwO
投下乙です。
セネル…。
544受け継いだもの -flyby- 1:2008/09/25(木) 22:01:39 ID:zDM2Pk/9O


「ハートレスサークル!」

リフィルの周りに、数度目の魔方陣が展開される。
その白く柔らかい癒しの光は、アッシュ達を等しく照らし包み込んだ。

「……っく、」

が、しかし、発動者であるリフィルは膝を付く。
効率はいいだろうが、傷ついた体で唱えるには負担が大きすぎたのだ。
勿論彼女も回復されているが、それでもやはり完全回復、とはいかない。

『大丈夫か、リフィルや』

クレメンテが彼女を気遣う。
ジェイドの作戦は目的達成という点に於いては成功だったが、標的一名に対して犠牲者一名、他の作戦参加者全員負傷という無様な結果に終わった。
尤も、一名とは言えあれほどの力量を持った凶戦士を葬れたのだから上出来なのかもしれないが。
リフィルはジェイドやアッシュのように軍事訓練を受けている訳でもなければ、ロイドやプレセアのように前衛で得物を振るう戦闘スタイルでもなかった。
体力も防御も優れている方ではないにもかかわらず、一撃必殺も同然の攻撃に耐えることができたのは、彼女が的確な判断を以て迅速に回避行動を取れたからに他ならない。
だが、彼女がもしあの時詠唱を中断していたなら。
アッシュは、バルバトスの前に姿を見せずに済んだかもしれない。
アニーは、陣術を展開せずに済んだかもしれない。
バルバトスの攻撃が、アニーやチャットを襲うことはなかったかもしれない。
アニーが、チャットを庇って死ぬことはなかったかもしれない──。
それ故か、努めて冷静に振る舞おうとしているものの、リフィルの目は少し潤んでいた。

「ええ……ありがとう、老」

気遣いに感謝の言葉を述べるその顔は、やはり哀しみに彩られていた。
先程まで降っていた雨はからりと晴れ、空気は澄み渡っているにもかかわらず、街に響くのはチャットの泣き声だけ。
生き残った喜びなど、何処にもない。
彼らがもし世界を旅する前だったのなら、少しは悲しんだだろうがこれほどの虚無感・無力感に襲われることはなかっただろう。
戦場で生き残るは強者、死に行くは弱者。
覆しようのない事実。
それでも、出会って間もない少女の死がどうしようもなく悲しいのは、彼らが少女の最期に場違いなまでの優しさを見たからなのだろうか。

「──この街を離れましょう」

啜り泣く声だけの沈黙をジェイドが破る。

「先程の戦闘の音が他の敵に聞こえたら厄介だ。そうなると此処は更に危険になる」

眼鏡のブリッジを上げながら言うジェイドに、リフィルが即座に答える。

「私もそれがいいと思うわ。治癒術を掛けたとは言っても、私達は全員怪我人よ。今奇襲を受けたら……」

その後に続く言葉は言わずとも分かる。

「ええ。もうだいぶ時間が経ってますからね。今を逃せば我々に撤退の機会はもうないかもしれません」

そう言って、ジェイドはアッシュとチャットを見た。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたチャットが、大人二人を仰ぐ。
久しく会っていなかった母を、アニーに見出してしまった。
いないはずの姉を、アニーに見出してしまった。
失いたくなかった。
失いたくなかった亡き彼女は、チャットにインクを通して頼んだ。
“アッシュを頼む”と。
なぜそれを無下にできようか。
545受け継いだもの -flyby- 2:2008/09/25(木) 22:02:57 ID:zDM2Pk/9O
チャットは見つけたのだ。
大切な繋がりを、決して消えぬ想いを、再び守るべきものを。
滲んだ丸文字に。
涙は止まらないけれど。
きっと、前へ進んでみせよう。

「分か、てますッ……ボク、は、大丈夫です」

まだ声は震えているが、それでも確りと答えた。
視線は全て、残るアッシュへ。
逆光ではっきりは見えないが、チャット同様顔が涙や鼻水に塗れているのがわかる。
オールドラントにいた頃には決して見たことのなかった、アッシュの泣き顔。
アッシュの影がゆらりと揺れた。

「……わかっている」

ぽつりと。
まるで一滴の雫が落ちたかのように。
水の流れる音に掻き消されそうな程に小さく答えた。
──人は、どうしようもなく無力だ。
剣術の技量があろうが、強い術を使えようが、肝心な時にそれを発揮できないのなら何の意味もない。
無力なのだ。
アニーも無力だったかもしれないが、しかしアッシュにとっては無力ではなかった。
“心に色はない”──アニーの遺した言葉。
戦力としては無力でも、心の力はアッシュより遥かに強かったのだから。
この夕焼けがあの日シェリダンでナタリアと眺めた夕空ならよかったのに、と心は未だ現実逃避を続けていた。
狂ってしまえたら、死んでしまえたら。
常のアッシュからは想像もつかないような弱気な思考が彼の脳裏を過る。
それでも、アニーから託された言葉を、想いを、守らないわけにはいかない。
今度こそ守らなければいけない──命に替えてでも。
自棄などではない。
守るべきものを守るために。
彼女のように「後悔はない」と胸を張って言えるように、生きる。

(俺の方がよっぽど屑だった)

拳を固く握り、もう一度だけアニーの最期の笑顔を思い出す。
そして詠師服が汚れるのも構わず顔を拭い顔を上げると、いつものように尊大な口調で返事をした。

「とっとと行くぞ」

そんな彼をからかうようなことは誰もしない。
しかし、

「……いや、待て」

号令を掛けた本人が突然出発を止めた。
今度こそジェイドは毒を吐く。

「何ですか、アッシュ。完全に日が暮れてしまう前に出発したいのですがね」
「……わかっている」

苦虫を噛み潰したような調子でアッシュが返す。

「レプリカともう一度連絡を試みる」

言うや否や、アッシュは目を閉じ通信を始める。
546受け継いだもの -flyby- 3:2008/09/25(木) 22:04:21 ID:zDM2Pk/9O
その様子をリフィルが興味深そうに眺めるのを見て、ジェイドはやれやれと溜め息を吐いた。


  *  *  *


『──レプリカ、聞こえるか!』
「アッシュ!」

オリジナルの声。
まだ一日も経っていないのに、もう何年も聞いていなかったような気がした。
ワカメやら何やら変な男に追われて云々かんぬん言っていたことを思い出し、無事だったんだな、と内心安堵する。
しかしアッシュはルークのそんな気持ちなどお構い無しに怒鳴り立ててきた。

『さっきはよくも勝手に切りやがったな、屑が!』
「しっ、仕方ねぇだろ?! こっちだっていろいろあったんだからさぁ……」
『ごちゃごちゃうるせぇっ! ……それより、今どこにいる』

連絡を寄越したのはもう半日以上も前のことだ、ルークも別の場所へ移動しているだろうと考えない方が不思議だった。
……が。

「…………………………」

沈黙。

『…………おい』

返事の催促が一言。
非常に、非常に言いにくいが、言うしかない。

「……………………………………ご………ごめん、まだ同じところ…………」

『…………』
「…………」

再度、今回は両者が沈黙する。
ルークは自分に振り掛かるだろうアッシュの罵声を想像して、意味もないのに耳を塞ぐ。
けれど、ルークの予想に反して、アッシュは静かに「そうか」と言っただけだった。
よくは分からないが、自分の発言がアッシュの怒りを買わずに済んだことは喜ばしいことだった。

「ア、アッシュは? アッシュは今どこなんだ?」
『……てめぇと同じだ。殆ど移動してねぇ。G2にある街にいる。今から移動を開始するつもりだがな』

チッ、と舌打ちしてアッシュが応える。
やはり合流は難しそうだと二人が互いに考えていた時。
547名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:07:47 ID:6VSo8+5R0
支援
548名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:07:49 ID:nPbVGDTwO
支援
549受け継いだもの -flyby- 4:2008/09/25(木) 22:08:16 ID:zDM2Pk/9O

「ルーク」

いきなり一人で話し始めたルークを不思議そうに見ていたジューダスが、ルークを呼ぶ。

「何だよジューダス」
「おまえはまさか何も使わずに他者と通信が出来るのか?」
「いや……」

訊ねるジューダス、そしてフィリアに、ルークは名簿を再び開いて自分のオリジナルの頁を指差す。

「ほら、この不機嫌そうな顔したアッシュっていう奴だけ」
『聞こえているぞレプリカ……』
「ゴメンナサイ……」
『……まぁいい。本題だ』

いつまで経っても話が進まないと言わんばかりに、アッシュが折れる。
本題と言われて、ルークは何事かと身構えた。

『レプリカ。そこにヴェイグ、クレア、マオという奴はいるか?』
「いや、いないけど……」

アッシュはその三人を探しているのだろうか?
それを訊ねようとしたが、その前にアッシュが「分かった」と話を切ってしまい訊ねられなくなる。

『とりあえず、何か分かったら連絡してやるから死ぬんじゃ』

ねぇぞ、と続けられるはずの言葉は不自然に切られた。

「……どうしたんだ? まさか、またワカメか?」

不審に思ったルークが心配して訊ねるも、

『チッ……一度回線を切るぞ』

という忌々しげな呟きと同時に一方的に通信は切られた。

「ちょっ、アッシュ!? アッシュ!! ……何なんだよ、もー……」

困惑の溜め息が彼のオリジナルに届くことはなかった。

550名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:12:14 ID:3b6J98tc0
支援
551受け継いだもの -flyby- 5:2008/09/25(木) 22:12:56 ID:zDM2Pk/9O

  *  *  *


「チッ……一度回線を切るぞ」

そう言い、アッシュは即座に回線を断つ。
今のアッシュに、回線を繋ぎながら緊急事態に対応出来る程の精神力は残っていなかったのだ。
アッシュを除く三人は全員臨戦態勢に入っていた。
その視線は全て北。
結局日はもう暮れ、辺りはすっかり暗くなっている。
闇に包まれようとしている廃墟と化した街に現れた一つの影。

「……そこにいるのは誰だ。いい加減出て来やがれ」

殺気こそないものの、油断は出来ない。気を抜くことなく気配の持ち主が姿を現すのを待つ。
聞こえてきた声は。


「────アッシュ……?」

「「!!」」

ジェイドとアッシュには聞き覚えのある、少女のものだった。
厄介ですね、とジェイドが呟く。
何故なら……。

「……アリエッタ」
「イオン様はどうしました?」

作戦中チャットが書き留めた死者情報の中には、彼女の最愛の人イオンも含まれていたのだから。
イオンにしろアリエッタにしろ、元の世界では両者とも既に死者だったが、再びイオンを喪った彼女がどのような行動に出るか……想像に難くない。
加えて、ジェイドは彼女の養母ライガクイーンの仇だ。
簡潔にだがジェイドから聞いたリフィルは勿論、事情をよく知らないチャットも察したのだろう、警戒を解きはしなかった。
しかし、アリエッタの反応は意外なものだった。

「今はそれどころじゃない! ティアは……ティアは何処にいる、です?」

思わぬ問いにジェイドは一瞬惚けるが、ヴォーパルソードを構え直しアリエッタの真意をはかる。
あれほど敬愛していたイオンの事を「それどころじゃない」の一言で片付けたのだ、何か企んでいると考えるのも無理はない。

「何故貴女がティアを探しているのですか?」
「ティアに、リカバー使って欲しい人、いるです……」

一呼吸置くと、アリエッタは続ける。

「……アリエッタ、襲ったのに、クレス、アリエッタのこと庇ってくれた……だから、今度はアリエッタがクレスのこと、守りたい……です」

それを聞いたジェイドは、言葉とは裏腹にさして残念そうでもなく吐き捨てた。

「残念ですが、ティアはいませんよ。第一、ティアはリカバーを使えませんしね」
「そん、な……」

アリエッタが俯き、眉を更に八の字に歪める。
552受け継いだもの -flyby- 6:2008/09/25(木) 22:15:13 ID:zDM2Pk/9O
彼女の言葉が真実か否か分からない以上、ティアが一つだけ状態異常の術を使えることは言っていない。
尤も、言ったところで、ティアがこの場にいないのだから支障はないのだろうが、ティアに危険が及ぶことも考えられる。

「どうするの?」

リフィルがジェイドに訊く。
アリエッタは妖獣使いであり、強力な譜術使いでもある。
しかし、この近くに獣らしき気配は感じられず、彼女が譜術を使うにしても詠唱の時間はない。
つまり、危険分子であるアリエッタを始末するならば今が最高のチャンスなのだ。
此方は手負いだが、それはアリエッタも同じようだった。
今なら確実に殺れる。
しかし、ここにいるのは非情になりきれる者ばかりではなかった。

「ま、待ってください!」

チャットが声を上げる。

「その人の言っていることが本当だったらどうするんですか!」
「どうもしません」
「でもッ!」

ジェイドは冷たく切り捨てたが、チャットはそれでも尚食い下がらない。
チャットの脳裏には、アニーの言葉。
“誰か居るかもしれないのに、その人の命を見捨てるなんて”
アニーならばきっと、助けたいと願った筈だ。
どうすれば説得できるだろうと必死に頭を悩ませるチャットだったが、助け船は思わぬところから出た。


「……ジェイド。不本意だが、俺もガキと同じ意見だ」

「アッシュさん!」
「アッシュ……?」

アッシュが一歩前に進み出る。

「アリエッタは嘘を吐ける程賢くねぇだろうよ。それぐらいてめぇにも分かるだろうが」

勿論、本心ではない……全くそう思っていない訳でもなかったが。
アッシュの言葉を真に受け、アリエッタは涙ぐみ言い返す。

「アリエッタ、馬鹿じゃないもん……! アッシュのばかぁ!!」
「てめぇは黙ってろ」
「ひっ……」

一睨みされ、アリエッタは小さく悲鳴を上げて黙る。アッシュはジェイドに向き直った。

「つまりだ、アリエッタは嘘を吐けるような奴じゃねぇ。それは教団でアリエッタを長く見ていた俺が知っている」

六神将は、互いの過去を詮索しないのが暗黙の了解だ。
しかしそれでも、仮にも同じ教団員、六神将として何年も共に生活していたのだ、アリエッタの性格ぐらいは分かる。

「納得出来ないなら……アリエッタが怪しい素振りを見せたら、俺がこいつを殺す──それでいいだろう」

ジェイドは微動だにせずアッシュを見、アッシュもジェイドの視線から逸らさず見返す。
553受け継いだもの -flyby- 7:2008/09/25(木) 22:18:03 ID:zDM2Pk/9O
それを見ていたリフィルは、世界再生の旅の途中に寄ったパルマコスタでのロイドの言葉を思い浮かべていた。

“目の前の人間も救えなくて、世界再生なんてやれるかよ!”

その言葉は真理を突いていた。
現にロイドは理想を実現し、世界を救ってみせたのだから。

「──おい、銀髪の女!」

アッシュの声に現実に引き戻される。

「治癒術士だろう。リカバーも使えるんじゃねぇのか」

一瞬渋るが、正直に答える。

「……ええ、使えるわね」
「リフィル!」

まさかリフィルが正直に本当のことを答えるとは思わなかったのだろう、ジェイドが諫めるようにリフィルの名を呼ぶ。
極め付けは。

『ジェイドや』

リフィルの手の中にある剣に填められたクリスタルが穏やかに明滅した。

『儂にもこの娘が嘘を吐いているようには見えん。仮に罠じゃったとしても、自分で始末を付けると言っとるんじゃ、それを信じて儂らも行ってやらんか?』

マクガヴァン元帥を思わせる声がジェイドを諭す。
もはや、反対する者はジェイドだけと言っても過言ではなかった。
ジェイドは深々と溜め息を吐き、アリエッタの方を向く。

「……分かりました。ですが、拘束はさせて頂きますよ」

ジェイドなりの譲歩だった。
アリエッタの顔に喜びの表情が浮かぶ。

「ここにいてこれ以上面倒事に巻き込まれるのは御免です」
「北の森に、クレスがいる……です!」

アリエッタの案内に従い、アッシュ達は街を後にした。





【アッシュ 生存確認】
状態:HP40% TP15% 左腕に大裂傷(縫合済みだが再出血あり)
   全身に切傷と打撲 行き場の無い悔しさ 無力さへの葛藤
支給品:???、???、ジェイドの作戦メモ二枚
    イクストリーム、アニーの日記、クリスダガー
基本行動方針:チャットを守り生きる。日記を継ぐ
第一行動方針:アニーの仲間に会ったら彼女の事を伝える
第二行動方針:とりあえずアリエッタの主張を信じて共に北へ
現在位置:G2→E2北西へ
 
554名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:20:24 ID:6VSo8+5R0
支援
555受け継いだもの -flyby- 8:2008/09/25(木) 22:22:25 ID:zDM2Pk/9O
【チャット 生存確認】
状態:HP100%、TP100% 右頬に腫れ 首に絞められた痕跡 身体中に軽度の切り傷 アニーの死にショック
   守られる事と無力さへの葛藤
所持品:スタンダードマグ(残り装填5発) 銃弾50発 旗の形をした『何か』 タバサ
基本行動方針:勇気を持つ
第一行動方針:アニーの死を乗り越えて生きる
第二行動方針:クレスなる人物を助けたい
第三行動方針:セネルが心配
現在位置:G2→E2北西へ

【ジェイド・カーティス 生存確認】
状態:HP80%、TP40%、緊張、僅かな安堵、打撲、アリエッタへの警戒
所持品:ヴォーパルソード、セレスティアルマント、ダーツセット、知り合いと死者についてのメモ等
基本行動方針:この島について調査、ゲームの打破
第一行動方針:とりあえずこの街を離れアリエッタと共に北へ(アリエッタへの警戒は解かない)
第二行動方針:死者に対しては慎重に(アッシュが本物だと分かり多少緩和)
現在位置:G2→E2北西へ

【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP60%、TP10%、頭部と左足に裂傷・打撲・切傷多数、服に焦げ、アリエッタへの警戒
所持品:ソーディアン・クレメンテ、???、???
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:とりあえずこの街を離れアリエッタと共に北へ(アリエッタへの警戒は解かない)
第二行動方針:死者に対しては慎重に接する
第三行動方針:ロイド達が心配
現在位置:G2街→E2北西へ
 
【アリエッタ 生存確認】
状態:HP70%、TP90%、腹に銃跡(×2、処置済み)、イオンの死による静かな悲しみ、決意
所持品:ねこねここねこ、空のビン、???(武器・状態異常回復アイテムでない)
基本行動方針:クレスを守る
第一行動方針:クレスの石化を解いて貰う
現在位置:G2街→E2北西へ
 
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP40%、TP95%、緊張、強い決意、放送を聞いていない
   全身に傷・打撲・痣、イレーヌとスタンに不思議な感情
所持品:メロメロコウ、ミスティシンボル
基本行動方針:今自分にできることをする
第一行動方針:現状把握
第二行動方針:ジューダス・フィリアと共に行く
第三行動方針:ティア達と合流する
現在位置:A7
556受け継いだもの -flyby- 9:2008/09/25(木) 22:23:07 ID:zDM2Pk/9O

【ジューダス 生存確認】
状態:緊張
所持品:ロイドの仮面セット、レーザーブレード
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:ルークの様子を見る
第二行動方針:スタン達は放置して、南下する
第三行動方針:フィリアを守る
第四行動方針:上手く素性を隠す方法を考える
現在位置:A7
 
【フィリア・フィリス 生存確認】
状態:緊張、悲しみ、スタンが心配
所持品:マジックミスト、本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:ルークの様子を見る
第二行動方針:ジューダス・ルークと共に行く
第三行動方針:スタン達は放置。でも気になる
第四行動方針:ジューダスに既視感
現在位置:A7
 
※アリエッタは、第一回放送でイオンより後に呼ばれた死者の情報を書き写していません
※ソウルブラストはジューダス達から数メートル離れたところに放置されています
 
557名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:24:15 ID:zDM2Pk/9O
投下終了です。
昨日のあの大作の後なので非常に不安だ…
558名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:25:50 ID:6VSo8+5R0
乙!面白かった。
しかし西にはアリスちゃぁぁぁぁんが・・・・・。
559名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:28:02 ID:zDM2Pk/9O
そうだ!
皆様、支援ありがとうございました。
560名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:31:24 ID:z8uDcmbCO
あの話の後をよく書いた…乙。チャットは船、レイスとニアミスか…
561名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 22:31:25 ID:nPbVGDTwO
投下乙。
アリエッタに図らずも萌えた。
街の回りはなんだか忙しそうだな…
562名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:05:49 ID:LResksOs0
皆様投下乙です。ジルバ様流石だ…そしてサニイタウン組の結束にwktkが止まらない

以前許可もらいにきましたMADができましたのでご報告にあがりました。
検索避けの不十分などありましたらご指摘ください
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm4739652
563名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:09:51 ID:b7RIZifiO
乙!アッシュを怒らせないようビクビクするルークにちょっとほっとしたw
クレアが放送で呼ばれたことをアッシュは知らないんだっけ?
564名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:14:17 ID:6VSo8+5R0
>>562
乙です。
すげぇ。今までの流れがきっちりまとめてある。
サニイタウン組みにまた泣かされた
565名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:22:10 ID:3b6J98tc0
>>562
乙です…最初のリッドでもう泣いた
サニイタウン組と城組でも泣いた…GJすぎる
566受け継いだもの -flyby- 4@修正:2008/09/25(木) 23:23:27 ID:zDM2Pk/9O

「ルーク」

いきなり一人で話し始めたルークを不思議そうに見ていたジューダスが、ルークを呼ぶ。

「何だよジューダス」
「おまえはまさか何も使わずに他者と通信が出来るのか?」
「いや……」

訊ねるジューダス、そしてフィリアに、ルークは名簿を再び開いて自分のオリジナルの頁を指差す。

「ほら、この不機嫌そうな顔したアッシュっていう奴だけ」
『聞こえているぞレプリカ……』
「ゴメンナサイ……」
『……まぁいい。本題だ』

いつまで経っても話が進まないと言わんばかりに、アッシュが折れる。
本題と言われて、ルークは何事かと身構えた。

『レプリカ。そこにヴェイグ、マオという奴はいるか?』
「いや、いないけど……」

アッシュはその二人を探しているのだろうか?
それを訊ねようとしたが、その前にアッシュが「分かった」と話を切ってしまい訊ねられなくなる。

『とりあえず、何か分かったら連絡してやるから死ぬんじゃ』

ねぇぞ、と続けられるはずの言葉は不自然に切られた。

「……どうしたんだ? まさか、またワカメか?」

不審に思ったルークが心配して訊ねるも、

『チッ……一度回線を切るぞ』

という忌々しげな呟きと同時に一方的に通信は切られた。

「ちょっ、アッシュ!? アッシュ!! ……何なんだよ、もー……」

困惑の溜め息が彼のオリジナルに届くことはなかった。

567受け継いだもの -flyby- 8:2008/09/25(木) 23:24:42 ID:zDM2Pk/9O
【チャット 生存確認】
状態:HP100%、TP100%、右頬に腫れ、首に絞められた痕跡、身体中に軽度の切り傷
   アニーの死にショック、守られる事と無力さへの葛藤
所持品:スタンダードマグ(残り装填5発)、銃弾50発、旗の形をした『何か』、タバサ
基本行動方針:勇気を持つ
第一行動方針:アニーの死を乗り越えて生きる
第二行動方針:クレスなる人物を助けたい
第三行動方針:セネルが心配
現在位置:G2→E2北西へ
 
【ジェイド・カーティス 生存確認】
状態:HP80%、TP45%、緊張、僅かな安堵、打撲、アリエッタへの警戒
所持品:ヴォーパルソード、セレスティアルマント、ダーツセット、知り合いと死者についてのメモ等
    バルバトスのサック(プラズマカノン、ソウルイーター、???)、バルバトスの首輪
基本行動方針:この島について調査。ゲームの打破
第一行動方針:とりあえずこの街を離れアリエッタと共に北へ(アリエッタへの警戒は解かない)
第二行動方針:死者に対しては慎重に(アッシュが本物だと分かり多少緩和)
現在位置:G2→E2北西へ
 
【リフィル・セイジ 生存確認】
状態:HP60%、TP10%、頭部と左足に裂傷・打撲・切傷多数、服に焦げ、アリエッタへの警戒
所持品:ソーディアン・クレメンテ、???、???
基本行動方針:殺し合いの打破
第一行動方針:とりあえずこの街を離れアリエッタと共に北へ(アリエッタへの警戒は解かない)
第二行動方針:死者に対しては慎重に接する
第三行動方針:ロイド達が心配
現在位置:G2街→E2北西へ
 
【アリエッタ 生存確認】
状態:HP70%、TP90%、腹に銃跡(×2、処置済み)、イオンの死による静かな悲しみ、決意
所持品:ねこねここねこ、空のビン、???(武器・状態異常回復アイテムでない)
基本行動方針:クレスを守る
第一行動方針:クレスの石化を解いて貰う
現在位置:G2街→E2北西へ
 
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP40%、TP95%、緊張、強い決意、放送を聞いていない
   全身に傷・打撲・痣、イレーヌとスタンに不思議な感情
所持品:メロメロコウ、ミスティシンボル
基本行動方針:今自分にできることをする
第一行動方針:現状把握
第二行動方針:ジューダス・フィリアと共に行く
第三行動方針:ティア達と合流する
現在位置:A7
568名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:25:54 ID:zDM2Pk/9O
ご指摘を頂いた箇所を訂正しました。
まとめ氏、お手数ですが該当部分はこちらの採用をお願い致します
569名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:29:47 ID:Dd4IXe9q0
投下乙です!面白かった!!
アッシュのギリギリHPも回復してホッとした…流石リフィル
ルークとのやり取りも和んだよ!乙でした!
570名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 23:41:06 ID:zDM2Pk/9O
>>562
MAD投下乙!
まじでリッドのとこだけでも泣けたわ…本当にGJ!
571名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 01:50:43 ID:pc199xYJO
投下乙です
ジルバうめえwセネルはとことん駄目だなw

端っこチームはゆっくり情報交換させてもらえないなー
チャットもバルエンティア号見れば少しは元気でるだろうに誰もチャットの船だって知らないからなぁ
そういやアッシュとルークやバルバトスとマグニスの対比に隠れてクレメンテと恐ろしく離れてるフィリアカワイソスw
572名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 02:54:49 ID:YmYMZ8lR0
そういえばそうだw
573名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 04:30:33 ID:vo7vVFrVO
投下乙
プッツンセネルを丸め込んだか、やるねぇジルバ。
セネルは1STとは違う意味で災難だな
石化解除できたらクレスはどうなるやら
574名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 07:37:31 ID:awLcm6afO
>>573
どんだけv好きなんだww
575名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 09:34:09 ID:cLUBJ8+TO
Vといえばヴェスペリアか
3rdがあればTOVのキャラも参加するんだろうか
ユーリの剣をクルクル回して戦うスタイルがどの程度強いのか想像出来ないわ
576名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 10:02:21 ID:n0yvgpWKO
>>562
乙!
アニーとアッシュが一緒にいる所で号泣だ…。
577名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 14:41:45 ID:3vI9Bjpa0
乙! フィリアとクレメンテの合流が可能性として出てきたか?
578名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 16:24:47 ID:rYbeCmyPO
遠すぎる気もするが、その可能性もなくはないな。
限りなく低いがw
579名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 16:39:59 ID:Zq4CUp8z0
そういえばソーディアンは全然元の持ち主の手元に辿り着けていないもんな〜
頑張れソーディアン!主にイクティノスとかw
580名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 19:24:24 ID:l2Wl+ipMO
ディムロスはニアミスまではしたんだけどな。アトワイトは…ご愁傷様
581名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 19:39:41 ID:OI96wL8BO
1stではミトスに尽くしていたのに、2ndではそのミトスにマスターを殺されるとか…良くも悪くも縁を感じるな。
アトワイト…なんか、頑張れ
582名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 19:53:35 ID:r5azPCJ50
投下します
583崩落 の ステージ 1:2008/09/26(金) 19:54:25 ID:r5azPCJ50
Aspect――Lurking mask



(……こっちからだ。確かに、争いらしき音が聞こえる)

だんだんと日が暮れつつある、薄暗い森。
シンクは気配を出来る限り消し、影に紛れるようにその中を進む。

リアラとナナリーが厄介事に巻き込まれている可能性の中、ただじっとそれが終わるのを待つつもりはなかった。
もし彼女達のどちらかが死にでもした場合『何故来なかった』と白い目で見られるのは癪だ。
出来る限り信用を失うようなマネは避けたい。
最悪の場合、二人とも死ぬ可能性だってある……出来るだけ、新しい『駒』を見つけて置きたいところだ。

(……いた)

木々の間から、二人の人間が斬り合う姿が見える。
斬り合う……という表現は少しおかしいかもしれない。片方の攻撃を、もう片方が一方的にいなしているだけだ。
優勢の立場にあるのは茶髪の青年、劣勢の立場にあるのは―――

(あれは……ルカ?)

ボロボロになり、土に汚れた顔を涙で濡らしながらデッキブラシを振るっているのは、まぎれもなくあのお人好しの少年。
自分達と別れた後何をしてきたのやら、服のいたる所に血が滲んですらいる。
もしかすると、仲間を生き返らせるために殺し合いに乗ったのだろうか?
せっかく作り上げた信用も、無駄になるとしたら厄介だ。
だが茶髪の青年よりも、パニック状態のルカよりも……さらにやっかいな存在が、シンクの目に映る。

おっかなびっくりの様子で似合わない重そうな剣を持ち、二人の戦いを見ている男。
今にも逃げ出しそうなその男は数少ない、彼の本質を知る人間―――!

(まさかお前がいるとはね、すっかり忘れていたよ……ディスト)



584崩落 の ステージ 2:2008/09/26(金) 19:55:55 ID:r5azPCJ50
Aspect――Striving Hero



ガツンと鈍い音が響き、続いてドサッと何かが地面を転がる音。

「あ、ぐ……っ……」

銀髪の少年が弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
ロイドは気絶させようと何度目かになる追い討ちをかけようとするが、鋭く突き出されたデッキブラシの柄にたたらを踏む。
デッキブラシの先には赤黒い血と―――ねっとりとした粘膜のような何かが、べっとりとこびりついている。
すぐさま起き上った少年の振り回すその得物から時折飛び散るソレに、言い表せない嫌悪感が背筋に走る。

「ッ……おいあんたら!見てないで協力してくれよ!」

膠着した状況に耐えきれず、ロイドは自分の後方で状況を傍観している眼鏡の男と片腕の少女に援護を求める。
先ほど少年が現れた時の反応からすると、あの二人はこの少年を知っているらしいが……

「……残念ですけど、私は戦いに関しては素人なんでね。期待されても困ります」

眼鏡の男―――ディストは嫌そうな顔をしながら断る。

『なら私を使えばいいだろう!初級の術ならお前でも十分使えるはずだ!』
「慣れない物はアテにしたくないんですよ、下手に使えば痛い目見るのは私なんですからね!」
『そんな事言ってる場合か!』

アトワイトと同種の喋る剣と屁理屈の言い合いを始めた男は、どうにも頼れそうにない。
かといって片腕の少女は、さっきから少年を見据えたまま震えているだけだ。
どうにも、援護を頼める様子ではない。

(くっそ……何とか、一人で乗り切るしかないのか?)

心の中で小さく舌打ちをし、再び突っ込んできた少年の得物をオブシディアンで受け止める。

ロイドは気付かない。目の前の少年を無力化し打破する事に集中している為に。
ディストは気付かない。何とかこの場を切り抜ける方法を考える事に精一杯な為に。
ディムロスは気付かない。ヘタレた今の持ち主を援護に向かわせ、早く自分の仲間と再会したいが為に。
585崩落 の ステージ 3:2008/09/26(金) 19:57:09 ID:r5azPCJ50
哀れな少年に片腕を切り落とされた少女の震えが、尋常ではない事に。
強すぎる恐怖は、簡単に人を狂わせる事に。




Aspect――Unhappy Hero



助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!助けて!
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!

目の前の真っ赤な服の男はいつまでも自分の目の前からどいてくれない。
早くどいてよ、そこをどいて。
じゃないと、あの金髪の男が来るんだ。
追いつかれたら、殺されるんだ。

何度も僕を突き飛ばす赤服の男は、僕に哀れみの様な視線を向けている。
どうして?どうして僕を通してくれないの?
ああ、そうか。
きっと、あの金髪の男とグルなんだ。
僕をここに足止めして、あの金髪の男が追い付いてくるまで時間を稼ごうとしてるんだ。
そうして、金髪の男と、紫の髪の女の人と一緒に、三人で僕を嬲り殺しにするんだ。

そうだ、きっとそうなんだ。
は、ははは、ははははははははははははははははははははははは。
僕はもう終わりなのかな。ここで殺されちゃうのかな。

何で、僕がこんなに苦しい思いをしなくちゃいけないんだろう。
僕は、死にたくなかっただけなのに。
みんなと一緒に、帰りたかっただけなのに。
586崩落 の ステージ 4:2008/09/26(金) 19:58:26 ID:r5azPCJ50
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして―――――
僕が、僕だけが―――――


ガキン!  ドザッ!


何度目か分からない衝撃。
体が地面に叩きつけられる。もう受け身も取れないや、はは、痛いな。

地面に倒れたままで視線を巡らせ……ふと、新たな存在が目に入る。
赤服の男の後ろに女の子が立っている。見覚えのある女の子だ。
ああ、思い出した。僕が腕を斬った女の子。あの子の仕業なんだな。
僕に向けられてる視線は、凄く冷たい。
赤服の男みたいな哀れみの瞳じゃない。金髪の男みたいな怒りの瞳じゃない。
あの子の目は、嫌悪の目だ。僕を、化け物でも見るかの様に見てるんだ。

この子も、僕を殺そうとするんだ。
そうだよね、腕を斬っちゃったんだもんね。忌み嫌われても、憎まれても、しかたないよね。
は、ははは、ははははははははははははははははははははははは。
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……………!!!



どうして僕だけ、殺されなくちゃいけないんだよ。




Aspect――Frightened Girl



足が動かない。
声が出ない。
目を閉じられない。
どうしよう、体が全然言う事を聞かない。
587崩落 の ステージ 5:2008/09/26(金) 19:59:40 ID:r5azPCJ50
戦ってるあの茶髪の男の子を助けなくちゃとか、あの銀髪の子が殺し合いに乗ってるなら止めなくちゃとか、そんな考えが体を動かそうとする。
でも、体は全然動かない。

あの銀髪の子を放っておいたら、また誰かが傷つくかもしれないのに。
もしかしたらカイウスを傷つけることだって、あるかもしれないのに。
止めなくちゃいけないって事は、よく分かってるのに。
でも、体は全然動かない。

左腕が―――ああ、もう腕はないんだっけ―――腕のあった付け根が、まだじわじわと痛み出す。
フラッシュバック。付け根から吹き出る真っ赤な血。ぼとりと地面に落ちる音。何か体が軽くなった喪失感。
よく考えれば当たり前よね?実際に体は腕の分だけ軽くなって、本当に体の一部が喪失してるんだから。
でも直後に訪れる、その当たり前が分からないくらいの激痛。


 ザリッ


あれ?ちょっとだけ足が動いた。後ろに。
もう一度動かそうとしたけど、今度は動かなかった。気のせいだったのかな。

ディストさんとディムロスさんは、隣で茶髪の男の子の戦いを傍観しながら何か言い合っている。
ああ、やっぱり肝心な時に頼りにならない人だなぁ。ディムロスさんも、怒鳴ってないでもう少し落ち着こうよ。
……そう言いたいのに、やっぱり声が出ない。この二人はあたしが引っ張ってかなきゃいけないのにな。


 ザリッ、ザリッ


あれれ?また足が動いた。今度も後ろに。
おかしいなぁ、どうして後ろに動くんだろう?


ガキン! ドザッ!

588崩落 の ステージ 6:2008/09/26(金) 20:01:13 ID:r5azPCJ50
あ、あの子がまた倒された。
強いなぁ、あの茶髪の男の子。カイウスより強いかもしれない。
でもまた起き上がって来る。何てしぶといんだろう。
どうして、あんなにすぐ立ち上が―――



目 が 合 っ た。



やだ、やだやだやだ、やだやだやだやだやだやだやだやだ!!!
コッチを見ないで、そんな血走った、そんな狂った、そんな目で。

―――どう……て……僕、だ……け……

口が、動いてる。何かの言葉を紡いでる。
何、を、言ってるの?あたしに、言ってるの?

―――殺さ、れ……な……きゃ……いけ、な……

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ
聞いちゃ駄目だ!!!
聞いたら、きっと、あたし、耐えられない。


―――それ、なら……


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
聞きたくない聞きたくない聞きたくない

「……や」




―――きみがしねばいいのに




いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!



589崩落 の ステージ 7:2008/09/26(金) 20:03:10 ID:r5azPCJ50
Aspect―――Talked Sword & Temporary Master



「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


突如響いた叫びに、その場の全員が凍りつく。
否、全員ではない。銀髪の狂った少年だけは変わらずに、赤服の少年にデッキブラシで殴りかかり続ける。
二度目の奇襲の様になりながらも、攻撃を剣とピコハンで受け止める赤服の少年の技量は大したものだろう。

だがディムロスにとって、銀髪の少年以上に早急に対処すべき事が発生した。

『ルビア!!!』

叫び声をあげ、ルビアが突然明後日の方向へ走りだしたのだ。
また、迂闊だった。
彼女があの銀髪の少年に抱く恐怖は、とてつもない物だと想像付いただろうに。
まだ子供の身では、腕を斬り落とされた相手と向き合って平静でいられる方がおかしいのだ。

『ッ……ルビアを早く追え!ディスト!』
「いいんですか?貴方のお仲間が正反対の方向に向かったばかりでしょう。
 それにあちらから聞こえたとんでもない悲鳴。この周辺で厄介事が多発している気がします。
 近くにそこの小僧の様な危険人物がいる可能性も――」
『――だったら!』

ディストの言葉を遮り、地上軍中将の一喝が再び響く。

『なおさら彼女を放っておくわけにはいかないだろう!私はこれ以上、仲間を傷つけさせるわけにはいかない!!!』
「……っ」
「俺からも頼むよ……早くあの子追っかけてやってくれ」

ディムロスの怒号に続き、赤服の少年がデッキブラシとの打ち合いを繰り広げたまま呟く。

「あの子、あんたの仲間だろ?だったら早く行ってやんなよ。
 俺だって、クロエ達が戻って来たら追っかける。そしたら、最初からやり直しで話し合おうぜ」
「……あんな小娘と仲間なんぞになった覚えはありませんが、勝手にどっか行かれるのは癪ですしね」
590崩落 の ステージ 8:2008/09/26(金) 20:04:25 ID:r5azPCJ50
小さく舌打ちをして、ディストは頑固な大剣を持ち直して走り出す。
打ち合いの鈍い音を背中に聞く中、後方から声がかかる

「俺はロイド!あんたらは!?」
「……ディストです!」
『ディムロスだ、アトワイトを頼むぞ!』




Aspect―――Thought mask



(やれやれ、陳腐なお芝居をどうも……あいつがあんなモノに参加するとは、ちょっと意外だね)

木陰に潜み、去りゆくかつての同僚の姿を見ながらシンクは考える。
自分の様にお人好しの集団に紛れて策略を練っている可能性はあったが、あれでは逆にお人好しに振り回されている。
邪魔をしないなら放っておいてもいいのだが……自分の本質を知っているという事は厄介だ。
なおかつ、ディストはあれでも譜業や機械技術にかけては一流だ。
自らの首に嵌められたこの戒め……これを外そうと考えているのなら、多少目ざわりではある。

(そろそろリアラ達の所へ戻らないと怪しまれるか……にしても、アレはどうしようね)

視線は、顔を歪めながらデッキブラシを振り回すルカと、それを奇妙な二刀流で受ける青年に移される。
正直、いつの間にやら狂ってしまったルカは放って起きたいが……リアラやナナリーの手前、遠からず対処しなければいけない。
それに、ルカの攻撃をいなし続ける赤い服の青年は利用できるかもしれない……先ほどの会話でわかったが、かなりのお人好しだろう。

(さぁて……厄介事は、できれば避けたかったんだけどね……)

策略を巡らせながら、シンクは小さく笑う。



591崩落 の ステージ 9:2008/09/26(金) 20:05:26 ID:r5azPCJ50
【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:HP95%、TP100%、生乾き、すけべ大魔王 これからに対する強い決意
所持品:オブシディアン、本人確認済み支給品1個、エリクシール、ソーサラーリング、ピコピコハンマー
基本行動方針:打倒サイグローグ。死んだ仲間のためにも、ゲームには乗らない意志を貫く。
第一行動方針:ルカに対処。
第二行動方針:ノーマ・クロエと合流後、ディスト達を追う
第三行動方針:すずと会い、説得する
現在位置:E7 森 南西端

【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP75%、TP95% シンクを信頼? イリアとリカルドの死に大きなショック 両手の皮がずる剥け(出血) 精神不安定 死への反骨心
所持品:アビス女性陣の水着セット、デッキブラシ
基本行動方針:ああああああ
第一行動方針:助けて助けて助けて
第二行動方針:何で僕だけ傷つかなくちゃいけないんだ
現在位置:E7 森 南西端

【シンク 生存確認】
状態:HP、TP100%
支給品:すず 未完のローレライの鍵、??? 聖剣ロストセレスティ
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ
第一行動方針:ルカ、ロイドに対処(放置もあり)
第二行動方針:ディストは邪魔になるようなら消す。
第三行動方針:とりあえず周りを信頼させて、利用する。
第四行動方針:F6レムの塔が気になる。
現在位置:E7 森

【ルビア・ナトウィック 生存確認】
状態:HP60% TP18% 左腕切断(血はほぼ止まっています)恐怖がフラッシュバック中、ルカへ強い恐怖、錯乱
所持品:旋風、ポイズンパウダー、フリーズリング、アビシオンのフィギュア 左腕
基本行動方針:死にたくない。殺し合いには乗らない。
第一行動方針:とにかく逃げる。
第二行動方針:カイウスを探す
第三行動方針:F6レムの塔に向かい探索。
現在位置:F7 森

【ディスト 生存確認】
状態:HP、TP100% 疲労(大)
所持品:ソーディアン・ディムロス 考察メモ 工具箱
基本行動方針:とりあえず、死ぬ気はない。
第一行動方針:癪だがルビアを追う。
第二行動方針:F6レムの塔に向かい探索。
第三行動方針:ジェイドよりも先に、首輪の解除方法を探す。
第四行動方針:疲れたのでいい加減休みたい。
現在位置:F7 森 北端
592名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 20:07:12 ID:r5azPCJ50
投下終了です
593名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 20:15:25 ID:DMa7w/zMO
投下乙です。
待ってたパートキター。
ルビアの行く手が不安すぎる。
594名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 20:21:13 ID:GKyhVjmyO
投下乙!
その先にはたしかジルバ様が……
ルビア逃げてー!
シンクのターンがやっとくるか……?ここまで来るのには長かったな!
先の展開が気になる
595名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 20:30:51 ID:OI96wL8BO
投下乙!
シンクとディストという難しい再会フラグで止まっていたこのパートも本格始動ですね。
シンクのこれからにwktk止まらないぜ!
そしてまさかの被り…挫けない!
596名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 20:37:49 ID:DMa7w/zMO
避難所でお待ちしてる。
597名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:09:21 ID:2YVbogwuO
投下乙
ルビアアアアアアア
ルカアアアアアアア
ルカの疫病神具合が良い感じです
卑屈な感じがルカっぽい
銀髪主人公頑張れ
598名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:13:44 ID:vSs4Vqfg0
銀髪主人公といや、セネルとルカは放送後ポンポン投下されてるのに
ヴェイグはぴったり止まったよな。こっちは放送前が凄かったけど
599名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:17:40 ID:jjsuEtK6O
金髪魔人ダオスは生存キャラ中登場回数最下位なんだぜ・・・
シゼルもそれについで出番無しだし・・・
600名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:23:54 ID:2YVbogwuO
ヴェイグは今難しい局面だからな。ミクトランとの出会いでこれからの方針とか決まるし
セネルは書き手の意思統一が出来てないから二転三転させられてる印象だw迷ってたり吹っ切れてたり今後が気になる
ルカは転落一直線だが…シンクの存在もあるし浮上は遠そうだ
ダオスとシゼルはラスボスで強いから扱いかねてる感じがするw
601名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:26:39 ID:vSs4Vqfg0
というかダオス様は何がしたいのかいまだによく分からないというw
602名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:36:51 ID:2YVbogwuO
ダオス様は次で大樹と会えるからやっと行動方針が決まりそうだが…どうするのか検討もつかない
書き手さんに期待する
603名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:40:16 ID:jjsuEtK6O
まずは大樹の確認して、実りが手に入ったら殺し合いを止める感じか?
ダオスとシゼルはボスで扱いにくい→ミクトランは?
そーいやミクトランはなりダンでも一人だけ省かれてたな。ボスとして認識されてないのか?
604名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:48:18 ID:juaD77DA0
とりあえず今後のダオスに期待
605名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 00:50:49 ID:h+KFoCulO
逆に考えるんだ。ラスボスなのにここまで萌えキャラに昇華された
ミクトランが凄いんだと。
606名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 01:12:02 ID:al7PASp3O
投下します。
607ヘヴィフール1:2008/09/27(土) 01:13:26 ID:al7PASp3O
墨色の帳の中、彼らは知らない。
灯火ひとつ、足音ひとつ溢すまいと努めることこそ彼らを愚者たらしめていることを。
それは彼らが知らないがゆえに、付近数里に渡り彼らの他には生者が在らざることを。

意義を持たないその振る舞いと引換に、零れていくものの重みを彼らは、まだ、知らない。



なだらかな曲線描くその肩を震わせるモノ。
其れが畏れでも寒さでもないことを彼女は疾うに気付いていた。

 ――何せ自分のことだし、ね。

心中で苦笑いしながら思い出すのは、砂と血にまみれ、それでも逃げ切ったはずのかの凶刃。
其れに与えられたのは治癒術により一度は追いやったはずの、痛みだ。
常ならば十分な手当のもと永遠に追放されるであろうソレは、
必要な治療を免れたゆえに彼女の柔らかな肉を少しずつ灼きそめているらしかった。

 ――出来れば、ランタンで傷を確かめたい。でも…、

浮かんだ望みは、頼りなげに揺らぎ消える。
冷たい闇に再来したおののきが、どちらかと言えば勇敢なはずの彼女にリカバーを唱えさせることすら躊躇わせていた。



彼は、知らない。
踏みしめた瞬間には靴底を流れ去る軽い軽い砂礫が、彼女にとって鉛に変わりつつあることを。
彼女が、いくつもの吐息を八重歯の向こうにまだ隠し通していることを。

居もしない危機を避けようと静けさを求め、それに心を傾けるゆえに、彼は知らない。
608ヘヴィフール2:2008/09/27(土) 01:14:39 ID:al7PASp3O
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP100%、TP100%
マルタと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。レンズに興味。
精霊についての知識(マルタフィルター透過済み)を得ました。
所持品:クレーメルケイジ、レンズ×1、グランドセプター、マルタと交換した情報入り名簿
基本行動方針:殺される気はなく、脱出の道を探す。サイグローグの言葉を信じかけている。
第一行動方針:リスクは避けつつ、ユージーン殺害現場へ向かう。
襲われた場合は応戦よりも全力で逃げる(可能ならばエアリアルボードを使用する)。
第二行動方針:首輪解除の方法を探し、マルタと協力する。
第三行動方針:仲間と情報を集める。
現在位置:C3砂漠。D2ガオラキアの森へ移動中。

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP90%、TP100%、完治していない肩の傷が悪化中。
キールと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。闇への恐怖が強がりに勝りつつある。
所持品:エミルのマフラー 、血塗れた鬼包丁、レンズ×29、キールと交換した情報入り名簿
基本行動方針:エミルと再会したい。襲われた場合はとにかく生き残ることへ専念。
第一行動方針:リカバーで毒素を浄化し、怪我の悪化を抑えたい。
第二行動方針:キールに協力しながらエミルを探す。エミルと再会してからどうするか考えてみる。
第一行動方針:エミルに会えたら、マフラーの件を謝りたい。
現在位置:C3砂漠。D2ガオラキアの森へ移動中。
609名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 01:15:21 ID:al7PASp3O
投下終了。
610名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 01:27:18 ID:al7PASp3O
申し訳ない。
マルタの状態欄に片袖無しを追加願います…!
611名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 02:12:15 ID:VcYpyPR4O
投下乙です。
マルタみたいな子が自分のペースをここまで押し込められると痛々しいな。キールはもう少し気遣え!
612名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 09:52:41 ID:2YVbogwuO
投下乙
ちょw悪化しとるw
キールもキールでいっぱいいっぱいだからなぁ…
6時間も引きこもってたのにw
613名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 10:03:05 ID:vSs4Vqfg0
投下乙
ところで1マスって何キロ四方くらいなんだっけ?
細かいとこをついて悪いんだが
>付近数里に渡り彼らの他には生者が在らざることを。
だと城とか砂漠の面子皆移動済みか死んだんかと思ってしまうw
614名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 11:39:30 ID:al7PASp3O
>>613
一マスのサイズはきちんとは決まってないはず。
で、数里なんだけど、とりあえず無駄な警戒乙くらいの意味合いなんで他の書き手氏の手を縛るつもりではないです。
言い訳くさくてスマソ。
615名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:05:38 ID:efbhnGOHO
投下します。支援お願いします。
616sinless couple -生きた花の庭-:2008/09/27(土) 15:08:07 ID:efbhnGOHO
――――Be frozen over.



俺が北に行こうと呟いたのは、蕾が開かぬ花畑を散歩してから暫く経った時だった。
南は平原、見渡しが良過ぎて落ち落ち休憩や治療も出来ない。
半ば蜻蛉返りに近い形となってしまうが、こればかりは仕様が無い。
南下すると言った時に、真逆後々右目を失う羽目になると誰が予想し得ただろうか。
否、誰にも出来得まい。
その現実がこれなのだ。
ならば不本意だが――いや、スタンとしての本意でもあるが――極力人を避けるべきだ。
バトルロワイアルと云う、最上級の非日常。
その渦中に居、更に右眼球喪失と云う圧倒的――今では慣れたが――ハンディキャップ。
それを負った以上、悠長に散歩をして居る訳には矢張りいかない。

瞼を下ろしてあの痛みを思い描く――――致命的な油断だった。
唯の気を違えた少年だと思う事自体が甘かった。
何と言う失態。普段のスタン=エルロンならばこの様な無様な失敗はしない。
だからこそ今まで五体満足で居られた訳なのだ。
ならば如何して、と問われれば言葉に詰まる訳なのだが。
百戦錬磨のスタン=エルロンからしてみれば、如何見ても思考が異常だった。

……本当は知っている。そう考えられる事自体が、異常で在る事を。
“スタン=エルロンの思考”を前提としている時点で、あの時の俺の思考は―――。

俺はこめかみを拳でこつりと叩いた。
横からの衝撃を頭に覚えたのは、未だスタン=エルロンの脳だ。
大丈夫、境界線はまだ引ける。
大丈夫、俺はまだ狂ってはいない。
大丈夫、彼女もまだ狂ってはいない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
617名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:09:01 ID:7k/agT03O
支援
618sinless couple -生きた花の庭- 2:2008/09/27(土) 15:09:35 ID:efbhnGOHO
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。
大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。大丈夫、俺はまだ狂ってない。






【あは。大丈夫、もう狂ってる】






大丈夫、大丈夫……ダイジョウブ。
自分を納得させる為の魔法の言葉を俺は呟く。
既に意義は形骸化していて、それは一種のまじないに近かった。
限り無く便宜的だが、気に掛けてはいけない。だから“大丈夫”なんだ。
*****さんも、言っていたじゃないか。何、気にする事は無い、って。
だから大丈夫。
それが誰か思い出せなくても、全然、全く、最高に、素敵に、ダイジョウブ。

あれ? 大丈夫って何だっけ。

「……“大丈夫”」
そう呟くと同時に、不意に現実へと引き戻される。
提案への返事が聞こえない事に漸く気付き、俺は固く結ばれた両手を開いた。
グローブの下は酷く冷たい汗でぐっしょりと濡れていた。
指輪に鎮られた蒼を一瞥し、周りを見渡す。
十メートル程離れた位置で、彼女は僕に背中を見せて腰を下ろしていた。
丸みを帯びた彼女の背中は、茜色に染まっている。
ええ、と彼女はそのまま静かに漸く応答した。こちらを向きはしなかった。
「ねぇ、スタン君」
何故か開かぬ蕾を優しく撫でながら、非常にゆっくりとした口調で彼女は続けた。
「地図上では花畑なのに、全然花が咲いてない。これって、如何してだと思う?」
宙を舞った質問を俺は必死に掴む。ゆっくりと噛み砕いて、漸く俺は質問の意図を理解した。
疑問にすら思わなかった自分の麻痺した思考が最高に笑えた。当然の疑問だと思った。
それなのに如何して意図を掴めなかったのかと問われると、非常に困る。
619名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:11:02 ID:5ebmtu0i0
支援
620sinless couple -生きた花の庭- 3:2008/09/27(土) 15:12:10 ID:efbhnGOHO
強いて言うなら銀髪の少年を殺す事しか考えてなかったからかも知れなかった。

如何でも善い事だった。

俺は何故か一瞬だけ身震いする身体を確認してから、落陽を見て呟く。
「分かりません」
彼女がゆっくりとこちらを向いた。
俺は笑ってみせた。笑顔の作り方は、多分間違っていなかった。
「月食の日にしか咲かない花とか、ですかね」
冗談っぽく俺が言うと、彼女はうーん、と首を傾げて唸ってみせた。
不思議とその深い色の瞳は、茜色を反射していない事を発見する。
言い様に依っては冷たい目とも言えるんじゃないか、等と考えてもみる。
思考は深く広がりそうだったが、俺は直ぐにやめた。

心底、如何でも善い事だった。

彼女は身を翻して、再び蹲う。草が優しく音を立てた。
「スタン君も中々面白い事言うのね。
 ロマンチックだと思うわ、本当にそうだったら」
そう言って彼女は蕾を一本折り、ポケットに入れた。
俺はその様子に目を細める。
彼女は再び静かに立ち上がった。今度は文字通り、本当に物音一つしなかった。
「じゃあ、行きましょうか」
そうして俺達は花畑を後にする。
その花がハリエットと云う名前で、明日が偶然月食だなんて事は、俺達は知らない。
如何でも善い事だ。



――――The water road.



夜になると、自然は途端に凶悪な罠へと変貌を遂げる。岩山であろうとそれは同様だ。
彼女はそれを知ってか知らずか、急ぎ足の俺に文句を垂れる事無く着いて来てくれた。
途中からは俺が背負う事になったのだが、俺自身の責任なので文句は言えない。
いや、逐一文句を垂れるつもりはさらさら無いのだが。
あくまでも責任を明確にする為の喩えだ。彼女は何も悪くはない。
ふと辺りを狭い視界で一瞥する。紫煙が立ち込めた様な色彩が幻想的だ。
ふと地平線を見やると、後ものの数分で太陽が沈む様な景色が覗けた。
数分後、彼女を背負ったまま漸く岩山を登り切る。
俺は彼女の調った尻を支える左手を離し、額の汗を拭く。
普段なら額に巻いたバンダナが汗を吸い取ってくれるのだが、と俺は苦笑を浮かべた。
生憎、今はバンダナは眼帯代わりにしている。
緑のバンダナは右耳の下を通っているので、不快な額の汗は流れるままだ。
思わず溜息が一つ漏れた。
「着きましたよイレーヌさん。ここなら就寝も安全ですし……片目での戦闘の修行も出来る」
621sinless couple -生きた花の庭- 5:2008/09/27(土) 15:13:47 ID:efbhnGOHO
彼女の温もりと豊満な胸の感触――意識しないようにしている――を背に感じつつ、俺は呟いた。
その言葉に彼女はええ、有り難うと返す。
……凄まじい水音が鼓膜を激しく叩いていた。
見晴らしが良い為目的地に滝の上を選んだのは失策だったか、と眉間を揉みながら思う。
お陰で彼女の言葉が少し聞き辛いが我慢しよう。
俺は再び溜息を吐くと彼女を優しく下ろし、ポケットを弄る。
ひんやりとした細い鎖の感覚を探り当て、それを取り出した。
一見すればロケットペンダントのそれを開く。
これは余談だが、縁に拵えられた銀の装飾は中々のものだと俺は思う。
「8時3分……まだ放送までかなり時間はある」
一息吐くには丁度良いかもしれない。
俺は適当な一枚岩に、銀色の蓋を開いたままの懐中時計を乗せた。
不意に喉の乾きと疲れが身体をどっと襲う。
かなり急いで来たのだ。
食事も休息も充分に摂ったが、未だに一睡もしていないのは少し厳しい。
ふとイレーヌさんを一瞥すると、先程の蕾をくるくると手で弄っていた。
己の表情が少しずつ和らいで行くのを感じた。
彼女が居ればそれでいいのに。
バトルロワイアルに毒されてしまっていたのは、どうやら俺の方だ。
俺は居た堪れなくなり、金髪をくしゃりと握った。
「やっと笑った」
不意に彼女が花を見つめたまま、言った。
「え?」
上擦った俺の声に、ゆっくりと彼女は立ち上がる。
フロント部分に縦にスリットが入ったスカートをふわりと揺らして、彼女はこちらを向く。
そのまま首を傾げて、花の様な微笑みを俺に見せた。
そうして、俺は漸く気付く。遅過ぎたディスカバリィだった。

彼女は笑顔を作ってるんじゃない。本心から笑っているのだ。

俺の乾いた微笑みとは、根本的に何かが違う。
それに気付いてしまった刹那、俺の甘ったれた自尊心は、その微笑みに傷を付けられた。
深く深く、抉る様に。……俺は胸が詰まって吐き気を覚えた。
彼女の真直ぐな目線が尚も俺を突き刺す。
氷の様な背徳感の結晶が冷や汗となり、首筋と背筋をつうと這った。
毒々しい芋虫に這われる感覚に酷似していた。
それすらも見据える様に、全てを見抜く様に。彼女は俺を唯々見つめる。
何時の間にだろうか。彼女の顔からは微笑みが消えていて、とびっきりの無表情。
白くて美しい顔がとても青白くて恐ろしく感じた。
622sinless couple -生きた花の庭- 5:2008/09/27(土) 15:15:53 ID:efbhnGOHO
彼女は今何を考えているのだろう。今何を、どんな風に感じているのだろう。
如何して、そんな目で見つめるのだろう。
脳内で黒いインクが渦を巻く。がんがんと脳内に何かが反響して、苦しい。
五月蠅い筈の滝の音は止まっていた。音も無く彼女が近付く。
彼女の色彩が無い、何処までも深い瞳が俺を刺す。眩暈がした。

「ね」

背伸びをした彼女が上目遣いで優しく微笑む。俺の肩がびくりと跳ねた。
「スタン君、ずっと表情硬かったわよ」
滝壺の音がまるで冷や水の様に耳を叩いた。激しい動悸に漸く気付く。
俺は乾いた唇を舌で湿らせて笑ってみせた。
そうでしたか、とその時のスタンはきっと呟いた。



――――Then,I arranged flower.



暫く彼女は俺の隣に座っていた。
色々と面倒なので俺は彼女の事を一旦考えない事にした。
それでも肩口を以て彼女の温もりは伝わる。不思議な感覚だった。
よく唄では温もりを愛とか心とかに例えるけれど。
彼女の温もりは“温もり”で、それ以上も以下も無かった。
死人、と云う言葉が脳裏に過ぎった。死にたくなった。

時折、意味を失ったかの様に思える言葉が宙を舞う。
何故か会話が思った以上に続かない。
何故か彼女が晶術を使える話題で盛り上がったが、それからは暫く静寂が漂っていた。
いや、語弊がある。滝の音がある為、完全な静寂とは言えないだろう。
しかし俺達にとって、その音は有って無い様なモノだった。
馴れとは恐ろしいもので、これだけ騒がしい音でも慣れてしまえば洒落たカフェのBGMと同等だ。
例えば人の肉を抉る音でも、内蔵を擂潰す音でも、頭蓋が割れる音でも、性交の音でも断末魔でも。
そう思うと寒気が全身に走るが、きっと全てが一緒なのだろう。
或いは俺は、俺達は既に――――。
……………。
……まぁ、故に現在も継続中のこの空気は、静寂にも等しいものだったと云う事だ。

「如何して、何時も私と話す時目を逸らすの」

不意に、思い出した様に彼女は言った。
何て事無い、挨拶をする様な、何気ない口調で言ってのけた。
けれども俺にとってその言葉はとてつもない殺傷能力を秘めた言葉だった。
気付かない様にしていた事をこのタイミングで聞かれるとは思いもしなかったのだ。
耳が痛い程の静寂が、俺達の間を走り抜ける。
623名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:18:38 ID:QJZk3qEu0
支援
624sinless couple -生きた花の庭- 6:2008/09/27(土) 15:20:01 ID:efbhnGOHO
彼女を見なくても、彼女がこちらを見ている事が分かった。
ずっとずっと横顔に鋭い視線を感じていたから。
俺の鮮魚が跳ねる時の様な鼓動は、きっと彼女の肌に伝わっていたのだろうと思われた。

「怖いからですかね」

気付けば口から言葉が滑っていた。俺は一人で驚く。
そんな事を吠えるのは何処の誰かと思った。
そうして漸くスタン=エルロンの所為だと気付く。俺は少し苛々した。
まただ。またスタン=エルロンがこうしてでしゃばる。もう此所まで来ると逆に笑える。
……こいつ、早く死ねばいいのにまだ居るのかよ。
いいからもう死ね。

「怖いから」
俺がそんな下らない事を考えていると、彼女が繰り返す様に呟いた。
興味に溢れた目が俺を覗く。俺は頷いた。
もう面倒なので、スタン=エルロンとか死ぬとか生きるとかは考えない事にした。
下らない事を思考して貴重な糖分を浪費するなんて、意味の無い事だ。
「……そう、そうですね。怖いからです、ね」
噛み締める様に口内で言葉を転がした後、俺の口が言葉を零した。
考える事を止めたとは言え、不思議な感覚だ。
湧水が視界に入った。異様に光っている気がしたが気のせいだろう。
「何が怖いの?」
彼女を見る。純粋に俺を見ていた。



――――否――――――――彼女が見ているのは――――――――――

―――――俺では無くて―――――――――――――――つまり―――――

――――――――そう言う事なのか―――――?

――――あは、ははは……――冗談言え、――――真逆―――

―――――――馬鹿みたいだ―――そんなの有り得ない――――――

――――ねぇ――――そんな訳ないですよねぇイレーヌさん―――――

―――――――――――――――――――もしそうなら、イレーぬさん、おれあなt。




「ん、そうですね、例えば……自分」
スタンはテレビの電源を切る様に、思考の糸を切った。
彼女は俺を相も変わらず見ている。
両手に握られた小さな蕾は少し元気を無くして萎びてしまっていた。
「自分?」
彼女は汚れた手で髪を耳に掛けながら俺に訊く。
625sinless couple -生きた花の庭- 7:2008/09/27(土) 15:23:49 ID:efbhnGOHO
「自分」
俺は繰り返す様に呟いた。
彼女は何だか難しい数式を見ている様な顔をしている。
眉間に少しだけ皺が寄っていた。
「如何して?」
頑なに彼女は疑問姿勢を崩さなかった。
憫察するような目で彼女は俺を上目遣いで覗く。

……なぁ、イレーヌさん。そんな目で見ないでくれよ。

居た堪れなくなり、俺は彼女の両手を取り、花を優しく受け取って立ち上がる。
開いた懐中時計の側の三つのサックを取る。
あの忌々しいドレッドヘアーの男のサックだ。
ふと懐中時計を見ると先程からものの15分足らずしか進んでいない事に驚かされた。
「自分の心ですかね。未だに掴めない。
 砂漠の砂みたいにね、掴もうとすると指の間を逃げてくんですよ。
 残るのは砂粒みたいな断片だけで、原型なんて分からないんです」
空になった硝子製ボトル――イレーヌさんと俺が飲んだからだ――を手に取り、俺は言った。
銀色のキャップを滑らせ、激しく水が湧くそこへと足を進めた。
「……私もそうよ。心なんて日々常に不安定なものなんじゃじゃないかしら?
 不定だから私達は思考して選択するのよ」
俺は目を細めて背後から響く彼女の言葉に耳を傾けた。
奥底に澱む蟠りが少しだけ薄れた気がした。
けれども、と俺はボトルを水源に近付けながら重い瞼を下ろす。
右手で萎びた花を弄った。余計に萎びた気がする。
「イレーヌさん。けれど人によって不安定さは異なります。そうでしょ。
 俺の場合……自分さえ見失い掛けている気がするんですよ。
 俺は俺を上手く見定められない。だから混乱してますし、怖いんです。
 いっそ心なんてなければいいと、最近思ってしまいます」
俺は重い瞼を上げてボトルを水面に通らせる。
瞬間、違和感。“ボトルに水が入る感覚が無い”。
俺は首を傾げてボトルを月に掲げた。水滴すら付着していない。
とうとう脳がやられたのかと思ったが、直ぐにそれは有り得ないと頭を振った。
少し流れが穏やかな所へ移動し、再び水にボトルを沈める。
中の気泡が音を立てて水面に弾けて虚空に消える。
透き通った水がボトルに満ちて行く。
如何やら先刻の現象は己の見間違えの様だった。
矢張り、疲れているのだろう。
「心は不完全なのよ」
不意に彼女が呟いた。
俺はゆっくりと腰を上げて振り返る。
こぷり、と手中のボトルが音を上げた。
626名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:28:14 ID:al7PASp3O
支援
627sinless couple -生きた花の庭- 8:2008/09/27(土) 15:29:06 ID:efbhnGOHO
「だから迷うの、けれど決めるのは心よ。
 心を喪えば、どこにも辿り着けないわ」
俺は一輪の花をボトルの飲み口に挿し、彼女を見た。
月明りが彼女の淡い紫の髪を照らす。綺麗だと思った。
「……自分にも?」
風が吹き抜ける。甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「そ」
彼女は応えた。
飛び切りの笑顔を浮かべ、繰り返す様に。
「自分にも」

そして、第三者のランタンの妖艶な灯が、彼女と俺の横顔を照らした。



――――The dirty flame & jet-black mind.



黒い玄武岩の岩肌を橙の炎が照らす。
てらてらと光るそれは少し滑っていて、黴臭さも鼻腔に感じた。
水滴が落ちる音と流れる水――――そう、此所はアラミス湧水胴。
ルークは少しだけ懐かしいと感じた。
しかし流れ落ちる水の影響だろうか、少し肌寒いなとも感じる。

「………おい、ルーク、フィリア」

不意に今まで黙り込んでいたジューダスの声が洞窟に反響した。
滝壺の音の所為で一瞬聞き流してしまう程の低い声だった。
ルークは背後を振り返る。隣のフィリアも同様だ。
「……少し用事を思い出した。お前らは先に行け。僕は後から追い着くから気にするな」
反響する音が二人の鼓膜を揺らした。
どう、と鳴る滝の音が矢張り五月蠅い。

ところでこう言ってはあれだが……何だ、あからさまに怪しだろとルークは思う。
だが、と目を細めてジューダスの目に一瞥を投げる。
それ程無茶をするとは思えないし、何より彼、ジューダスは頭も良く腕も立つ。
付き合いは短いが、ルークにはその程度の事は理解出来た。
フィリアが困惑した様子で顔を上げる。眼鏡が月光を反射した。
「え? でも―――」
「―――行こう、フィリア」
言葉を遮る様に、ルークはフィリアを急かした。
フィリアは動揺しているのだろう、黒衣の男と赤毛の男を交互に見返している。
が、暫くするとフィリアも渋々納得した様子で俯いた。
「ジューダス………待ってるからな」
足を出し掛けた赤毛の少年は顔だけで振り返り、言う。
背を向けた黒衣の少年は、小さく頷いた様に見えた。



――――He's floating dead smile.



ランタンを掲げたジューダスが振り返り、剣の柄に手を掛ける。
628名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:31:19 ID:al7PASp3O
支援。
629sinless couple -生きた花の庭- 9:2008/09/27(土) 15:34:11 ID:efbhnGOHO
「さて、これで厄介なお人好し共は居なくなった」
音も無く振り返り、そして目線が合う。
舞い上がる水滴を確かに肌に感じた。
「少し、話そうか……スタン」
漆黒に抱かれた金と黒が揺れる。
対峙した駒、それを番外から見る道化師。
揺れる金髪。隙間から覗く冷酷な瞳。
片方はバンダナで塞がれ、グロテスクな染みが嫌でも目に障る。
息を呑む黒衣の少年剣士。
優しくも、狂気を照らす月灯。
「お前……リオン、なのか」
朧と共に、背後で構えられた切っ先が闇に消える。
ゆらりと蠢く黒炎が、立ち上ぼった飛沫に消された気がした。


――――Let me see....Are you ready?




630sinless couple -生きた花の庭- 10@代理投下:2008/09/27(土) 15:40:28 ID:5ebmtu0i0
【ルーク・フォン・ファブレ 生存確認】
状態:HP40% TP95% 緊張 強い決意 放送を聞いていない
   全身に傷・打撲・痣 イレーヌとスタンに不思議な感情
所持品:メロメロコウ ミスティシンボル ソウルブラスト
基本行動方針:今自分にできることをする
第一行動方針:洞窟内部へ進行しつつジューダスを待つ
第三行動方針:ティア達と合流する
現在位置:C6(アラミス湧水胴/TOA)

【ジューダス 生存確認】
状態:HPTP100% 緊張 イレーヌが心配
所持品:ロイドの仮面セット レーザーブレード
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:スタンと話し出来れば説得を試みる。戦う気は無い。
第二行動方針:ルークの素性を隠す方法を考える
第三行動方針:イレーヌが居ない……?
現在位置:C6滝壺

【フィリア・フィリス 生存確認】
状態:HPTP100% 緊張 悲しみ スタンが心配 ジューダスに既視感
所持品:マジックミスト 本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:仲間を探しながら情報収集に徹する
第一行動方針:ルークの様子を見る
第二行動方針:洞窟内部へ進行しつつジューダスを待つ
第三行動方針:スタン達は放置。でも気になる
現在位置:C6(アラミス湧水胴/TOA)


631名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:41:10 ID:GddHTfceO
支援
632sinless couple -生きた花の庭- 11@代理投下:2008/09/27(土) 15:41:24 ID:5ebmtu0i0
【イレーヌ・レンブラント 生存確認】
状態:HPTP100% 精神不安定 頬に傷 魔剣の声が聞こえる エクスフィア装備 リアラの言葉にショック
   ルカに怒り 攻撃晶術発動待機中
所持品:魔槍ブラッドペイン スターダストリング 要の紋付きエクスフィア     マグニスのサック(内容不明支給品一個)
基本行動方針:スタンと共に答えを探す
第一行動方針:リオンの様子が気になるが隠れろと言われたのでそのまま。スタンの合図があれは晶術で援護する
第二行動方針:魔剣の指示を遂行するか考える
現在位置:C6滝の上

【スタン・エルロン 生存確認】
状態:HP95% TP100% 右目損失 現実への絶望 精神不安定 理想崩壊 エクスフィア装備
   精神へ僅かにイグニスの影響 ルカに怒り ルークに妙な感情 バンダナの眼帯装着
所持品:魔剣ネビリム 要の紋付きエクスフィア ネクロノミコン センチュリオン・イグニス
    アンチフォンスロット ヒールバングル サファイア
基本行動方針:イレーヌを最後まで守る。イレーヌを許容しない世界を許さない
第一行動方針:リオンらしき人物と話す。場合によっては交戦、殺害
第二行動方針:障害は斬る
第三行動方針:右目喪失を補う戦闘の修行をする
現在位置:C6滝の上
633名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:42:56 ID:5ebmtu0i0
代理ですが、投下終了です。
634名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:43:56 ID:SGx7iEJN0

リオンがんがれ
635名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 15:45:55 ID:al7PASp3O
投下、代理投下乙でした。なんというひき…。
しかし上手く理解できないので、読み直してくる。

あと胴ではなく、洞です。
636名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:03:54 ID:vSs4Vqfg0
投下乙です。眺めのいい場所キター
花畑それにしたかったんだ、ありがとう。あと空気王の台詞あちこちで濫用されてて吹くわ
あとイレーヌさんはいい胸ですね
637名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:22:19 ID:juaD77DA0
投下乙です。
ついにスタンは知り合いと出くわしたか・・・。
フィリアはどうするのか期待だ。
638名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:31:19 ID:FPLHai2/O
投下乙です。
まさかの早い展開にwktk
フィリアには長い間隠し通せたのにスタンには速攻でバレたジューダス吹いたw
でもジューダス達はナーオス基地を目指してたのに何で洞窟にいるのか説明が欲しいかも
あとジューダスの行動方針でルークの素性を隠すってのはミスかな?
それにしてもスタンもイレーヌもなかなか何を考えてるのか複雑だな
俺も読み返してきます。
639名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:40:57 ID:Y4ApMMLD0
なんでジューダスはスタンが来たってわかったんだ?
640名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:48:47 ID:7R3ZLeKD0
スルーしようって言ってたジューダスが、スタンに接触する理由がわからん。
そのへんの説明があると嬉しいと思った。
641名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:51:46 ID:efbhnGOHO
作者です。言葉足らずなとこが多々有ってすみません。修正作を近い内に投下します。
642名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 16:58:04 ID:al7PASp3O
確認したいんだけど、修正まちのパートと同パート投下はかまわないのだっけ?
や、スタイレパート被ったわけではないんだけど、今後の参考にしたいからさ。
それにしても400k超えはやいなァ。
643名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 17:27:58 ID:2YVbogwuO
難しいな
644名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 17:31:55 ID:vSs4Vqfg0
今修正待ちなのってカイティア+シゼル?
あそこならいったん破棄されてるから投下しても大丈夫だが
645名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 18:50:00 ID:1W2VyS9iO
カイティア書きたいが間に合いそうにないか…? 被りって怖いね
646名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 19:23:39 ID:FPLHai2/O
今後修正待ち作品と被って困る人がでるだろうし
修正待ちの同パート投下の話きっちり決めておきたいな
647名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 19:35:55 ID:al7PASp3O
では言い出しっぺなんで。
自分は修正待ちに被ったパートの投下はアリだと思う。ただし、あまりにアレな出来でなければだけど。
648名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 19:38:53 ID:K+XRbkFs0
1,2行程度の修正とか話の流れに変化が無い=投下不可
話の流れが変わる。場面が追加される。時間がかかる=投下可

って感じでいいんじゃないか?
もっともどう変わるかなんて書き手にしか分からんから、
一旦取り下げるか否かは書き手の方できちんと明言すべきだと思う。
649名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 19:42:20 ID:9vtWPWr90
時間がかかるかどうかによるね、一日以上かかればアリだと思う
650名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 20:54:17 ID:7k/agT03O
透過します
651策略開幕カウントダウン 1:2008/09/27(土) 20:57:21 ID:7k/agT03O

『彼は……』

未だしゃくりあげる少女の背を擦っているノーマと、ナナリーの埋葬を終えて戻ってきたクロエが、地に置かれたアトワイトを見る。
木々は、惨劇などなかったかのようにさわさわと心地好い音を立てて揺れていた。

『スタン・エルロンは、私のマスター──本来の持ち主ルーティ・カトレットを最も理解してくれる仲間の一人よ』

疲れたような声でアトワイトが先程の青年について話した。
自分の仲間があのような行動をしたのだ、精神的に参るのも仕方のないことと思われた。

『そして、一緒にいた女性はイレーヌ・レンブラント。スタンやルーティ達とは理想の違いから敵対関係にあったの。彼女はスタン達に敗れて……死んだ筈』

思わぬ共通点。
死者、それも自分達が止めを刺した筈の者がいるという。

『スタンは、とても思い遣りのある優しい人だったわ。あんな酷いことをするような人じゃなかったのに……』

クロエ達は、剣でしかない筈のアトワイトが悲しげに目を伏せたのを見た気がした。
重苦しい沈黙が、彼女達を支配する。
それに耐えかねたようにしてノーマが口を開き、事の経緯を知っていると思われる傍らの少女リアラに詳しく話を聞こうとした時。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


耳を劈かんばかりの悲鳴。
先程自分達がやって来た方向からだった。
あの場にいた紅い髪の少女のものと考えて間違いないだろう。
だがそれは、その近くにいる者達にも同様に危険が迫っているかもしれない、ということで。

「アーヴィング……!」
「行こう、クー!」

クロエとノーマはリアラを連れて東へ駆け出した。


  *  *  *


「獅子戦吼ッ!」

獅子の闘気を纏った一撃が銀髪の少年を襲った。
勿論急所は外している。
しかし、それがいけないのだろうか、少年は吹き飛ばされてもまた立ち上がり向かって来る。

(くそっ……何なんだよこいつ?!)

デッキブラシを大きく振りかぶったのを見て、ロイドは峰打ちを狙うが、少年の得物によって敢えなく弾かれてしまった。

(どうしろってんだよ!)

ロイドは、吹き飛ばす以外は防戦に徹していた。
このゲームにはどんなことがあっても乗らないと決めた以上、可能なら誰も傷つけたくないと考えていたのだ。
だが、一方の少年はと言えば、そんなロイドの気持ちなどお構い無しに攻撃を仕掛けてくる。
最初はロイドもデッキブラシを弾く勢いで吹き飛ばすだけに留めていたのだが、状況は一向に変わらず、やむなく技を繰り出すようになっていた。
内心舌打ちしながら、どうすればこの少年を止められるか、脳味噌をフル回転させて考える。
出来ることなら怪我させたくないのだが。
652策略開幕カウントダウン 2:2008/09/27(土) 20:58:53 ID:7k/agT03O

(仕方ねぇ!)

そして、ロイドなりに考えた。
一撃で駄目ならば二撃でどうだ、と。

「魔神剣」

地を這う斬撃が少年の足元目掛けて走る!
それを少年は横に避けるが……。

「──双牙ッ!」

二撃目は少年の行動を先読みし既に放たれていた。
避けた先に二撃目が到達する。
流石の少年も冷静さ、否、正気を欠いた今の状態では避けることは出来ず、右足から鮮血が吹き出しバランスを崩した。
それをロイドは見逃さず、一気に間を詰めてデッキブラシを弾き飛ばした……筈だった。
バキィンッ!と乾いた音が響き、デッキブラシの先が少年の後方に弾かれる。
もしロイドの剣がいつも使っている物のように、もう少し細身の剣だったなら。
もしもう片方の得物が巫山戯た玩具でなければ。
素早く防御体勢を取れたかもしれない。
しかし、現実はそう甘くはなかった。
大剣を振り抜いた遠心力に体を持っていかれるのは辛うじて阻止出来たが、それでも体勢を立て直し剣を構えることまでは出来ない。
デッキブラシの柄の、槍のように鋭く裂けた割れ目が、ロイドに向かって突き出された。
エクスフィアを装備していたことだけは、ロイドにとって皮肉にも幸運だったと言えるだろう。

(くっ……)

ロイドはその身体能力を生かし体を捩って回避を試みた。
けれど、槍状になったデッキブラシの柄は容赦なくロイドの左肩に突き刺さる。

「ぐぁああっ!!」

痛みに対する反射で、体は自然と仰け反り凶器から逃れんとする。
そのおかげで、柄は肩から抜けたが、激痛で踏ん張ることは出来ずにロイドはそのまま後方に転がった。

「ぐっ、う……!」
「うあああああああああああああああああああああ」

その間にも、少年は柄を振り回しながら此方へ駆けてくる。
もう手加減は出来ない。
もしあの時体を捩っていなければ肺を突き破られていたかもしれないのだ。
手加減していては此方の生命が危うくなってしまう。

「こう、なったら!」

痛みを堪えて起き上がり、少年の手元に狙いを定め──。

「お返しだ! 散散雨!」

何度も突きを繰り出す!
少年はそれも全て捌き切った。
だが。

「まだだ──驟雨! 双破斬ッ!!」
653策略開幕カウントダウン 3:2008/09/27(土) 21:00:14 ID:7k/agT03O

更に激しい突きから虎牙破斬へ繋げる。
その猛攻には流石の少年も防ぎ切ることは出来ず、遂に柄から手を放した。
少年のその手は血塗れだった。
両手を見つめた銀髪の少年は、涙を流しながら嫌々をするように首を振り、ロイドの存在を気に掛けることなく何処かへ走り去って行った。



「──ッ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

緊張が解け、その場に崩れ落ちるように座り込む。
汗と、肩から流れ出る血で、服が体に張り付いて気持ち悪い。

「ってぇ……」

荒くなった息で肩が大きく揺れ、呼吸の度に激痛が走る。
クロエとノーマを追い掛けねばと思うも、数十分にも及ぶチャンバラと左肩の傷は、ロイドにそれをしばらく許してくれそうにはなかった。
ロイドは草の上に大の字になって倒れ込むようにして寝転び、襲い来る睡魔に身を委ねたのだった。


  *  *  *


リアラの手を引きノーマはクロエと共に声の元へ走る。
──と、前方の茂みが揺れ、三人は立ち止まった。

「リアラ!」
「あ……シン、ク」

未だショックから立ち直れないでいるリアラが、突如茂みの中から現れた仮面の少年の名を呼んだ。
少年はリアラに何やら謝り、続いて知らぬ顔の少女二人を見遣る。

「遅れてごめん。転んだときに足捻っちゃって……君達は?」

リアラの仲間なのだろうと何となくは分かるのだが、トリプルカイツ・烈斬のスティングルを思わせる仮面が二人に警戒心を生む。

「……クロエ・ヴァレンスだ」
「あたしはノーマ・ビアッティ」
「そう……ボクはシンク」

「宜しくね」と短く答えると、シンクはリアラに向き直った。

「そういえば、ナナリーは? さっきから何回も悲鳴は聞こえて来るし……何かあったの?」

元から色白なリアラの顔が更に蒼白になったように感じた。
彼女の薄い唇からひゅっと音が漏れる。肩を小刻みに震わせて俯いた。

「私の、せいで、ナ……っナナリ…………ひぐっ、……ナナリーがぁっ」

やっとのことでそれだけ呟くと、リアラは再び声を押し殺して泣き始めた。
彼女の様子から悟ったのだろう、シンクが包み込むような優しい声で「リアラのせいじゃないよ」と励まし、

「ボクがもっと早くに追い付けていたら……」

と悔しげに唇を噛んだ。
しかしクロエが感傷に浸る二人を遠回しに急かす。

「すまない二人とも。辛いだろうが、今はアーヴィング達が……」
「仲間なんだね……わかったよ、急ごう」
654策略開幕カウントダウン 4:2008/09/27(土) 21:01:42 ID:7k/agT03O

クロエの申し訳なさそうな声にシンクは気にした風でもなく答え、再び走り出した。
それを見たクロエとノーマは、シンクが仮面とは裏腹に優しい少年であるとわかり、ほっとする。
そこから更にしばらく走ると、森の緑とは不釣り合いな赤が視界に映り込んだ。

「ロイどん!」
「アーヴィング!」

二人は直ぐ様横たわるロイドに駆け寄る。
もしやロイドまでも……と嫌な考えが頭を過るが、アトワイトの言葉で、それは杞憂だとすぐに分かった。

『大丈夫、寝ているだけみたい。怪我はしているけど、命に別状はないようね』

ほうっと溜め息が漏れる。
先程からぼんやりしていたリアラもこれには安心したようだ。

「もー……心臓に悪いじゃんロイどん!」
「全くだ」
「けど、よかった……」
『とりあえず今は彼の治療をしてあげましょう』
「そうだな、さっきの悲鳴やあの人達のことはロイドが目を覚ましてから訊こう」

アトワイトとクロエの言葉に頷くと、ノーマはロイドの肩に手を翳し治癒術を使うために精神統一を始めた。


  *  *  *


(さっきのこいつがロイド・アーヴィングか……やっぱりね)

無防備に眠るロイドを見て、シンクは確信する。
こいつはやはりなかなか使えそうだ。
参謀としての自分が“こいつで遊べ”と頭の中で笑いながら囁いていた。
ルカとの交戦中の戦い方から見ても、ロイドはイオンに匹敵する程の甘ちゃんであることが分かる。
しかも甘ちゃんなだけでなく、ルークやアッシュ並の莫迦と来た。
お人好しの熱血漢……実に扱いやすい。

(けど、こいつら……ロイドが起きたら直ぐに死神どもを追い掛けそうだな)

尤も戦闘能力から考えると、自分がディストを脅す、或いは殺すのに苦労はしない筈だ。
途中で何か理由を付けてロイド達と別れ、単独行動することも可能だろう。
そこは元六神将・参謀総長の腕の見せ所という奴だ。

(せいぜい、ボクの掌の上で踊っててよ──)





【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP65%、TP95%、シンクを信頼?、イリアとリカルドの死に大きなショック、精神不安定
   両手の皮がずる剥け・刺傷複数(出血中)、右足に裂傷(出血中)、死への反骨心
所持品:アビス女性陣の水着セット
基本行動方針:ああああああ
第一行動方針:助けて助けて助けて
第二行動方針:何で僕だけ傷つかなくちゃいけないんだ
現在位置:E7森・南西端→??
655策略開幕カウントダウン 5:2008/09/27(土) 21:04:28 ID:7k/agT03O

【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:HP90%、TP70%、疲労、左肩に刺傷(出血中)、これからに対する強い決意
所持品:オブシディアン、エリクシール、ソーサラーリング、ピコピコハンマー、本人確認済み支給品1個
基本行動方針:打倒サイグローグ。死んだ仲間のためにも、ゲームに乗らない意志を貫く
第一行動方針:眠る
第二行動方針:ノーマ達と合流後、ディスト達を追う
第三行動方針:すずと会い、説得する
現在位置:E7森・南西端

【ノーマ・ビアッティ 生存確認】
状態:HP95%、TP60%、左肩に軽傷、現実に対する不安
所持品:ホイッスル、本人確認済み支給品1〜2個
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。死にたくない
第一行動方針:ロイドが目覚め次第、ディスト達を追う
第二行動方針:すずと会い、説得する
第三行動方針:セネル達と合流する
現在位置:E7森・南西端

【クロエ・ヴァレンス 生存確認】
状態:HP100%、TP95%、帽子紛失、現実に対する不安
所持品:ソーディアン・アトワイト、安全ヘルメット
基本行動方針:打倒サイグローグ
第一行動方針:ロイドが目覚め次第、ディスト達を追う
第二行動方針:すずと会い、説得する
第三行動方針:セネル達と合流する。セネルが心配
現在位置:E7森・南西端

【リアラ 生存確認】
状態:HP90%、TP50%、様々な出来事にショック、茫然自失
所持品:南国の蝶、レンタルビューティー
基本行動方針:皆で力を合わせて帰りたい
第一行動方針:何も考えられない
第二行動方針:カイル他仲間を探す
現在位置:E7森・南西端

【シンク 生存確認】
状態:HP100%、TP100%
支給品:すず、未完のローレライの鍵、???、聖剣ロストセレスティ
基本行動方針:ルーク達を引っ掻き回して楽しむ
第一行動方針:とりあえずロイド達の様子を見る
第二行動方針:ディストは邪魔になるようなら消す
第三行動方針:周りを信頼させて利用する
第四行動方針:レムの塔が気になる
現在位置:E7森・南西端

※デッキブラシは柄が折れた状態でE7に放置されています
※ナナリーの遺体はE6に埋葬されました
 
656名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:04:53 ID:9vtWPWr90
支援
657名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:05:54 ID:7k/agT03O
投下終了…です
『透過』って何だよ俺!
すみませんでしたoyz
658名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:09:49 ID:al7PASp3O
投下乙。
エクスフィアは身体補強効果があるんだったな、忘れていたぜ。
ロイドが起きるまでは小休止できるかな?
いや、でも確かアイツも寝てるんだよなあ、不安だ。
659名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:10:10 ID:K+XRbkFs0
乙でした。
デッキブラシのくせになんて恐ろしい!!
シンクが漸く本領発揮できる。か?
ところでシンクって仮面外してなかったか?
660名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:13:59 ID:9vtWPWr90
投下乙です。
ロイドお疲れ様ゆっくり寝てくれ、起きたら大変だけど
シンク、そろそろ活躍できるかな?
そして暴走ルカはどこへ行く……
661名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:16:17 ID:7k/agT03O
な、なんてこった…!
シンク仮面のことを失念していた…ご指摘ありがとうございます
ただちに直してきますorz
本当に成長しねぇな、俺は!
662名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:18:17 ID:FPLHai2/O
乙です
折れたデッキブラシつえええw
ついにルカの所持品が女性用水着だけになってしまったw
上でもでてるけどシンクは仮面とってたよね
663策略開幕カウントダウン 3@修正:2008/09/27(土) 21:24:28 ID:7k/agT03O

更に激しい突きから虎牙破斬へ繋げる。
その猛攻には流石の少年も防ぎ切ることは出来ず、遂に柄から手を放した。
少年のその手は血塗れだった。
両手を見つめた銀髪の少年は、涙を流しながら嫌々をするように首を振り、ロイドの存在を気に掛けることなく何処かへ走り去って行った。



「──ッ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

緊張が解け、その場に崩れ落ちるように座り込む。
汗と、肩から流れ出る血で、服が体に張り付いて気持ち悪い。

「ってぇ……」

荒くなった息で肩が大きく揺れ、呼吸の度に激痛が走る。
クロエとノーマを追い掛けねばと思うも、数十分にも及ぶチャンバラと左肩の傷は、ロイドにそれをしばらく許してくれそうにはなかった。
ロイドは草の上に大の字になって倒れ込むようにして寝転び、襲い来る睡魔に身を委ねたのだった。


  *  *  *


リアラの手を引きノーマはクロエと共に声の元へ走る。
──と、前方の茂みが揺れ、三人は立ち止まった。

「リアラ!」
「あ……シン、ク」

未だショックから立ち直れないでいるリアラが、突如茂みの中から現れた仮面の少年の名を呼んだ。
少年はリアラに何やら謝り、続いて知らぬ顔の少女二人を見遣る。

「遅れてごめん。転んだときに足捻っちゃって……君達は?」

リアラの仲間と思しき少年の、突然の登場に驚きを隠せない二人は些か緊張しながら名乗った。

「……クロエ・ヴァレンスだ」
「あたしはノーマ・ビアッティ」
「そう……ボクはシンク」

「宜しくね」と短く答えると、シンクはリアラに向き直った。

「そういえば、ナナリーは? さっきから何回も悲鳴は聞こえて来るし……何かあったの?」

元から色白なリアラの顔が更に蒼白になったように感じた。
彼女の薄い唇からひゅっと音が漏れる。肩を小刻みに震わせて俯いた。

「私の、せいで、ナ……っナナリ…………ひぐっ、……ナナリーがぁっ」

やっとのことでそれだけ呟くと、リアラは再び声を押し殺して泣き始めた。
彼女の様子から悟ったのだろう、シンクが包み込むような優しい声で「リアラのせいじゃないよ」と励まし、

「ボクがもっと早くに追い付けていたら……」

と悔しげに唇を噛んだ。
しかしクロエが感傷に浸る二人を遠回しに急かす。

「すまない二人とも。辛いだろうが、今はアーヴィング達が……」
「仲間なんだね……わかったよ、急ごう」
664策略開幕カウントダウン 4@修正:2008/09/27(土) 21:25:43 ID:7k/agT03O

クロエの申し訳なさそうな声に、シンクは気にした風でもなく答えて走り出した。
それを見たクロエとノーマは、このタイミングでシンクという仲間想いの優しい少年に出会えたことに、ほっとする。
そこから更にしばらく走ると、森の緑とは不釣り合いな赤が視界に映り込んだ。

「ロイどん!」
「アーヴィング!」

二人は直ぐ様横たわるロイドに駆け寄る。
もしやロイドまでも……と嫌な考えが頭を過るが、アトワイトの言葉で、それは杞憂だとすぐに分かった。

『大丈夫、寝ているだけみたい。怪我はしているけど、命に別状はないようね』

ほうっと溜め息が漏れる。
先程からぼんやりしていたリアラもこれには安心したようだ。

「もー……心臓に悪いじゃんロイどん!」
「全くだ」
「けど、よかった……」
『とりあえず今は彼の治療をしてあげましょう』
「そうだな、さっきの悲鳴やあの人達のことはロイドが目を覚ましてから訊こう」

アトワイトとクロエの言葉に頷くと、ノーマはロイドの肩に手を翳し治癒術を使うために精神統一を始めた。


  *  *  *


(さっきのこいつがロイド・アーヴィングか……やっぱりね)

無防備に眠るロイドを見て、シンクは確信する。
こいつはやはりなかなか使えそうだ。
参謀としての自分が“こいつで遊べ”と頭の中で笑いながら囁いていた。
ルカとの交戦中の戦い方から見ても、ロイドはイオンに匹敵する程の甘ちゃんであることが分かる。
しかも甘ちゃんなだけでなく、ルークやアッシュ並の莫迦と来た。
お人好しの熱血漢……実に扱いやすい。

(けど、こいつら……ロイドが起きたら直ぐに死神どもを追い掛けそうだな)

尤も戦闘能力から考えると、自分がディストを脅す、或いは殺すのに苦労はしない筈だ。
途中で何か理由を付けてロイド達と別れ、単独行動することも可能だろう。
そこは六神将・参謀総長の腕の見せ所という奴だ。

(せいぜい、ボクの掌の上で踊っててよ──)





【ルカ・ミルダ 生存確認】
状態:HP65%、TP95%、シンクを信頼?、イリアとリカルドの死に大きなショック、精神不安定
   両手の皮がずる剥け・刺傷複数(出血中)、右足に裂傷(出血中)、死への反骨心
所持品:アビス女性陣の水着セット
基本行動方針:ああああああ
第一行動方針:助けて助けて助けて
第二行動方針:何で僕だけ傷つかなくちゃいけないんだ
現在位置:E7森→??
665名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:27:34 ID:rDVRrOMQ0
投下超乙。
ルカが持ってるのはアニス水着だけじゃないか!変態だー!
天術も落ち着かないと使えなさそうだし、こりゃ弱ったな…
ともかく、シンクがいつ動くかがこわくてたまらんね
666名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:28:01 ID:BWZDfInG0
投下乙!
シンクが輝いてきてくれてwktk
シンクうさんくせえww
ルカはどこに行くのやら 南にはエルレイン達ぐらいしかいないっけ?
667名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:31:50 ID:VcYpyPR4O
乙!
さあシンクかき回してくれよ!そしてうっかりな書き手さんに萌(ry
668名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:35:07 ID:2YlR/7xC0

なんというか流されてたシンクもようやく頑張ってくれそうでwktk

後、修正分の
>未だショックから立ち直れないでいるリアラが、突如茂みの中から現れた仮面の少年の名を呼んだ。
がまだ直ってないよ
669名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/27(土) 21:58:29 ID:7k/agT03O
俺、今ならこの羞恥心だけで死ねます…俺のバカス!道化にも程がある!
これからは俺のことをサイグローグとでも呼んでくれ…orz

というわけで、まとめ氏さん。
『策略開幕カウントダウン 3@修正』の

未だショックから立ち直れないでいるリアラが、突如茂みの中から現れた仮面の少年の名を呼んだ。

の部分を、以下の

未だショックから立ち直れないでいるリアラが、突如茂みの中から現れた少年の名を呼んだ。

に修正しておいて頂けないでしょうか…?
一応後でもう一度メールにて修正箇所を送るつもりではいますが…お願いしますoyz
ちょっと吊ってきます…
670名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 01:37:50 ID:htZZkycf0
投下します
671Freezing Atmosphere 1:2008/09/28(日) 01:40:34 ID:htZZkycf0
夜の砂漠は寒い、なんてことはキールに忠告されなくとも誰でも知っている。覚悟の上で、服の袖を失った腕をもう片方の腕で抱きしめながら歩いていた。
(……ちょっと、マズイ、かも)
いくらなんでもこの寒さは異常だと思った。肩が疼くせいだけじゃない。足元からじわじわと冷えていく感覚。
マルタはそれでも、歩みを止めなかった。ぐずぐずして24時を迎えれば、ここは禁止エリアになる。目の前で飛ばされた、キールの親友だという彼の首と飛び散った鮮血を思い出せば余計に寒くなった。ついでに吐き気まで込み上げる。
突然、目の前でキールがしゃがみこんだ。
「だ、大丈夫っ……!」
まさか何者かの襲撃にあったのか!?
警戒心が何よりも強かったマルタの心は最悪の事態しか想像できず、重い足を引きずりキールの肩を目指す。周囲への警戒も忘れない。凍てつく空気が肌を刺すのに、たらりと頬を汗が伝う。
「……静かにしろ」
肩を叩く前にキールは振り返り、人差し指でマルタの唇を塞いだ。きっと青くなっているだろう」唇に触れるか触れないかの位置で止まっている人差し指。そこに不着しているのは、砂ではなかった。
「何コレ……」
キールの指先についていたのは小さな氷の結晶。美しい六弁の氷の花が月明かりにきらりと輝いた。
「雪?」
「だろう。どうりで寒すぎるはずだ。地図上では砂漠のはずなのに見ろ、ここ一帯全部雪が積もっている」
やたらと白く月明かりを反射すると思っていた砂は、本当に雪だった。
闇に慣れてきた目で遠くまで見通せば、向こうに見える森の木々も、城の尖塔も、全て雪化粧が施されている。
「こんなの、朝はなかったのに」
「それ位僕にだって分かる」
キールは指先の氷晶を見つめながら、言う。
「ここまで雪が積もるような天候でもなかった。だとすればこれは誰かが降らせた――晶霊術か、お前の言う魔術かそれとも別の――? 否、いくらなんでも術で降らせた雪が、ここまで積もって溶けないなんてことはない」
キールの指先についた氷は、美しい形を保ったまま。
流石にマルタもその違和感には息を呑んだ。おかしいのだ。いくら寒いとはいえ、人間の皮膚に触れて小さな小さな氷の粒が全く溶けないなんて。
「まさか……センチュリオン・コアの影響、かも」
「センチュリオン・コア……」
ファロース教会でさわりの知識を教えたことを思い出しているのか、キールは顎を指で撫でた。
「魔物を統べるという?」
「そう……エミルと旅したとき、今と同じように、砂漠に、雪、積もってたことがあるの……。
センチュリオン・コアは孵化させないと、周囲のマナのバランスを崩して異常気象おこしちゃったり、持ってる人の心を蝕んじゃったりするの。
……もし、どこかにコアがあるなら孵化させないと危ないかも」
672Freezing Atmosphere 2:2008/09/28(日) 01:42:08 ID:htZZkycf0
「なるほど……その可能性は高いな」
頷くとキールは息を潜め再び歩きだす。マルタは不安を押し殺し、後に続く。
センチュリオン・イグニスが原因で引き起こされたトリエットの異常気象。それでも雪は、肌に触れれば溶けた気がした。
それと何よりも肝心なもうひとつ。
(ラタトスク・コアの加護のない私に、できるの? コアを孵化させること)
ラタトスクの加護がない今、レンズの力を借りなければ魔術を使うことすらできない。
だのにコアの孵化なんて、今の自分にできるのか。だが、「コアが存在する可能性」を考えてしまった以上、気にせずにはいられなかった。
(ギンヌンガガップの封印はどうなるの? リヒターも、ここにいるし。エミルも。もしかしたら、ラタトスクもいるのかもしれない)
ラタトスクがいれば、コアの孵化を行うことも可能かもしれない。でも分からない。ラタトスクがいるかもしれない、ということ自体、マルタの都合のいい想像なのだから。

元の世界では、魔物はどうなっているの?
誰かがコアを持っていたら?
パパみたいになってしまう人を、もう出したくないのに!
なのに、私は何もできない――?

マルタは不安で押しつぶされそうだった。
守られてばかりなのだ。
最初はエミルに。
次はユージーンに。
そして今は、キールに。
もう誰にも迷惑をかけたくない。そう心から願っているからこそ、マルタは己の腕の痛みと内側から染みる寒さに堪えることに決めたのだ。
ともすれば漏れそうになる息遣いを必死に堪えて。姿の見えぬ誰かよりも、キールに一番気付かれたくなかった。
(もう、足手まといとか、誰かに守られるのなんて、嫌、だから)
思い出すのは桃色の髪の、狂った男に追われ、ユージーンを殺され、肩に剣を突きたてられた感覚。
ふさがれたはずの傷口がじんじんと傷んだ。血が鉛のように固まって、肩から指先にかけて流れていくような感覚。
刺された瞬間よりも、鈍い痛みは強かったかもしれない。
「……できる限り早く雪原から離れるぞ。誰が何の罠をはっているか分からない」
「うん」
できる限りの明るい声色で、笑顔をつくって、マルタはキールの後に続く。
足が雪に、その下の砂に、からめとられて沈んでいく。
寒さと寂しさに耐えられるよう首に巻いた、黒いマフラーをきゅっと握り締める。まるで愛しい人の手をとるかのように。
(会いたいよ、エミル……)
白く染まった吐息の隙間に見える夜の月に、ただそれだけを祈った。
673Freezing Atmosphere 3:2008/09/28(日) 01:43:58 ID:htZZkycf0



【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:HP100%、TP100%
マルタと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。レンズに興味。
雪の原因は考察中(センチュリオン・コアの存在の可能性を認識)
精霊についての知識(マルタフィルター透過済み)を得ました。
所持品:クレーメルケイジ、レンズ×1、グランドセプター、マルタと交換した情報入り名簿
基本行動方針:殺される気はなく、脱出の道を探す。サイグローグの言葉を信じかけている。
第一行動方針:リスクは避けつつ、ユージーン殺害現場へ向かう。
襲われた場合は応戦よりも全力で逃げる(可能ならばエアリアルボードを使用する)。
第二行動方針:首輪解除の方法を探し、マルタと協力する。
第三行動方針:仲間と情報を集める。
現在位置:C3とD3の境

【マルタ・ルアルディ 生存確認】
状態:HP85%、TP100%、完治していない肩の傷が悪化中。 片袖無し
キールと旅の話や戦闘スタイルなど情報交換済み。闇への恐怖が強がりに勝りつつある。
センチュリオン・コアの存在への不安
所持品:エミルのマフラー 、血塗れた鬼包丁、レンズ×29、キールと交換した情報入り名簿
基本行動方針:エミルと再会したい。襲われた場合はとにかく生き残ることへ専念。
第一行動方針:リカバーで毒素を浄化し、怪我の悪化を抑えたい。
第二行動方針:足手まといになりたくない
第三行動方針:キールに協力しながらエミルを探す。エミルと再会してからどうするか考えてみる。
第四行動方針:エミルに会えたら、マフラーの件を謝りたい。
現在位置:C3とD3の境
674名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 01:44:29 ID:htZZkycf0
以上です。何か問題あったら指摘お願いします
675名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 02:39:08 ID:dZ52PTcTO
投下乙です。
ヴェイグが元気らしくなにより。
マルタは頑張れ。超頑張れ。
676名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 11:16:55 ID:zURLP6MrO

マルタ頑張れ…
677名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 11:39:34 ID:NJqzvcLd0
投下乙です
シンクはこれからどう動くのか楽しみだ。
キール、マルタの状態に気付いてあげてえぇぇぇ

そして自分も投下します
678Cogito, ergo sum 1:2008/09/28(日) 11:41:06 ID:NJqzvcLd0
―――どれくらいの時間が経ったのだろう?

クレス・アルベインは考えていた。
髪の毛一本動く事も許されず、見る事も、聞く事も、言の葉を紡ぐことも出来ない。しかし、『彼』は確かにそこに存在した。

―――…アリエッタの石化は解けただろうか

自身が石化する直前、彼女がいると思われる場所へ投げたパナシーアボトル。
瓶が割れる音は聞こえた記憶があるが、その中身が彼女に降りかかったかどうかまでは確認のしようが無かった。

―――もし、解けていなかったら…お手上げ、だな

石化を解いてあげよう、という(言葉は悪いが)自分のようなお人好しが自分達を見つける可能性は限りなく薄い。
もっとも、仮に少女の石化が解けていたとしても、彼女がどう動くのかを今の自分が知る術は無いのだが。

―――僕は、あの子を止めることが…守ることができただろうか?

自問する。しかし今の状況では答えはまだ出せそうになかった。


『……脳内の回路を経て……そしてどのような答えを出すか……それこそが……私の楽しみ…… 』


途切れ途切れながら、確かに聞いた道化師の言葉。それが頭から離れない。
皮肉にも、考える時間ならたっぷりある。『クレス』は思考の海へと深く潜っていった。

―――なぜ、ダオスは僕と戦おうとしなかった…?

浮かんでくる疑問。

―――今の僕に、力が無いから? …いや、違う。もし仮に(認めたくないけれど)そうだったとしても、それだけじゃないはずだ

確かに、自分はアリエッタの実力を見誤っていたのかもしれない…。そこは反省すべき点だろう。

―――…そういえば

あの旅の途中、大樹ユグドラシルの側でダオスと対峙した時。あの時も彼は戦おうとせず、その場から去っていった。
その理由を知ったのはそれから暫くした後。魔人を打ち倒した時、彼自身の口から聞いた言葉。
今いるこの場所も、あの大樹からそう遠くはない。

―――ユグドラシルを…マナを、守ろうとしている…?

マナの大樹が枯れ、滅びの道を辿っていたという彼の故郷、デリス・カーラーン。
その星を、民を救うためには膨大な量のマナ…ユグドラシルが生み出すその集合体、"大いなる実り"が必要だったという。
彼が魔人としてアセリアに牙を向けたのは、自分達人間が魔科学の名の下マナを大量に消費(彼の目には浪費に見えただろう)し、
果ては(そうなるとも知らず)大樹をも枯れさせようとしていたからだ。
679Cogito, ergo sum 1:2008/09/28(日) 11:42:55 ID:NJqzvcLd0

―――…まてよ

あの戦いが終わった後。
自分達は大いなる実りが無事にできるように、ミントの法術でマナが過剰に消費されないようにした。
大樹に宿る精霊・マーテルも、大いなる実りが生まれたら彼の亡骸と共にデリス・カーラーンへ送り届けようと約束してくれた。
そう。そもそも、ダオスは自分達の手によって死んだはずなのである。

―――サイグローグ…彼には死者を蘇生させることが出来るというのか?!

確かに主催者を名乗る道化師は、"優勝"の褒賞として死者の蘇生も可能だと話していた。
しかし、これは参加者をゲームに乗らせるための虚言かもしれない。

―――…いや、まさか

それだけではない。
あの始まりの場所に集められた面々の中には、見たこともない服装の者や肌の色が違う者、果ては獣人までいたではないか。

───サイグローグには時空転移能力がある?!

時を操る魔剣、エターナルソードの力を借りずに? と驚愕するが、もしそうだというのならば説明が付く。
先程出会ったダオスは、恐らく…遅くとも自分達に倒される前の時代(時間)から連れて来られたのだ。
自分達に倒された後で蘇生させられたのなら(その事を覚えているのが前提だが)、自分に恨み言の一つでも言った筈である。
しかし、彼はそうしなかった。つまり、今の彼は故郷を救うという当初通りの目的のために動いているのではないだろうか?

───だとすると、僕達の世界とリーガルさん達の世界が時間的に繋がっている、という可能性はますます高くなる。
   …いや、それだけじゃない。クラースさんやすずちゃんだって、僕を知っている時間から連れてこられているとは限らない

自分の導き出した考えに幾ばくかの孤独感を感じつつも、今は亡きリーガルとのやりとりを思い出す。

───リーガルさん…。彼を殺したのは、いったい誰なんだ?

思考のベクトルがシフトする。
『自分』が覚えている手がかりは、青い光と三つ編みにされた長い金髪。そして、血の臭い。

───少なくとも、ダオスではないな

あの魔人は金に輝く長髪を靡かせてはいるが、結っていない。それ以前に、彼は森の外から歩いてきているようだった。
そこまで考えたところで、ふと別の疑問が浮かび上がる。

───…以前石化した時、ここまで意識がはっきりしていただろうか?

旅の途中でバジリスクの鱗が必要になった時の事だ。バジリスクが発する光線を浴び、何度か石化した経験がある。

───資金不足でリキュールボトルが足りなくて、パナシーアボトルで対処療法、って作戦だったんだよなぁ…。
   前衛は僕だけだったから必然的に壁役だったし…て、そうじゃなくて!

脱線しかけた思考をあわてて元に戻し、思考の海をさらに深く潜っていく。

───あの時は誰かが必ず側にいたから、今のように長い間石化するような事はなかった。
   でも。それでも石化していた間、僕の意識は無かったといっても過言じゃない。
   その間のことを全くと言っていい程覚えていないんだから
680Cogito, ergo sum 3:2008/09/28(日) 11:44:04 ID:NJqzvcLd0
短い間ですらそうだったのだ。なら、何故今の自分の意識はこうもはっきりとしているのだ?
偶然? それだけでは説明しきれない"何か"がある。
奥へ、奥へ。その"何か"を知るために、『クレス・アルベイン』の奥深くへと潜っていく。

───何だ、あれは…?

そこで『彼』が"見た"ものは。

───ぬい、ぐるみ…?

それが持つ意味を考えようとした時だった。

───え?



不意に、右腕が"消え"た。

───!!

痛みはない。
正確に言えば、右腕の"存在"の消失。『彼』の意識は強制的に一定のラインまで引きずり上げられた。

───どうして僕はこの可能性を考えていなかった!?

今の"自分"はただの石像。一定以上の衝撃を与えられれば、その箇所は簡単に崩れてしまうだろう。

───このまま粉々に砕かれ、死んでしまうのか?

外界からの情報は一切入ってこない。そこに感じたのは『自分』が"消え"ていく、という恐怖。

───僕は、負けない…

ややもすれば、その恐怖が『自分』を押しつぶそうとしてくる。

───負けて、たまるか…ッ!

今の『自分』に出来ること。それは耐えることだけだった。



【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:HP5%、TP85%、石化、右腕損失、失血による貧血、疲労、マント破損
所持品:デュナミス、パナシーアボトル×2、首輪、リーガルのサック(スコップ、???)
基本行動方針:ゲームを止めるため同志を募る。守る側の存在になる
第一行動方針:耐える
第二行動方針:あのぬいぐるみはいったい…?
第三行動方針:放送の続きを知りたい
現在位置:E2北西(ガオラキアの森/TOS)

※第一回放送で最後に呼ばれた死者が誰だか知りません
※サイグローグは時空転移術が使えると仮定し、参加者はバラバラの時代(時間)から連れて来られたと考えています
※クレスのサックはクレスごと石化しています


<我思フ、故ニ我ハ在リ>
<而シテ、我ヲ我タラシムルモノハ何ゾヤ?>
681名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 11:45:47 ID:NJqzvcLd0
投下終了です

ナンバリングをミスってしまった…2レス目のは「2」です
682名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 11:49:34 ID:hvqlDGuu0
投下乙です。
頑張れクレス…アリエッタが助けを呼んで来てくれるぞ!
石になったままでも考察するとか、よく考えたら器用だな
683名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 11:59:56 ID:dZ52PTcTO
投下乙です。
これは予想外なクレス。
彼が考察かぁ。どうなるやら。
684名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 13:50:35 ID:hvqlDGuu0
投下します
685夜が降りてくる 〜 Evening Star 1:2008/09/28(日) 13:51:57 ID:hvqlDGuu0
「……全然いないな、人」

既に薄暗くなりつつある空を見上げながら、カイウスがぽつりと呟く。

「……誰にも会いませんねぇ」

頬をぷーっと膨らませ、チェルシーは不満の声を上げる。

「……そう簡単に人が見つかるとは思ってはいなかったが……こんな時間になるまで誰にも会わないとはな」

地図と地形を見比べながら言うクラトスの声にも、若干の焦りの色が混じっている。

情報収集の為に北の館を出た彼ら3人は、谷間を通り南下を続けていた。
言わずもがな、別の参加者と接触する事が目的なのだが……運が悪いのか、この周辺には誰もいないらしい。
すでに時間は、もうすぐ二つ目の禁止エリアが効果を表すほどになっている。

「うう……どこにいるんですかぁ……ウッドロウさまぁ……」
「ルビア……」

心労から疲れてぐったりしているチェルシーと、苛立ちを隠せない様子のカイウス。
二人の心労も、かなり溜まっている……かくいうクラトスも、未だ何も成果を得られない事を理解している。

「今、私達がいる場所はD5の辺りだろう……西に見えていた山脈が途切れている」

地図を広げ、現在位置を二人に示す。

「当初はこのまま川沿い南下し、水などを補給しにきた参加者を探すつもりだったが……こうも人に出会わないのは予想外だった」

そこで、とクラトスは言葉を一端途切らせる。

「積極的に参加者との接触を考え、目指すべき方角を変えるべきかもしれん……具体的には、ここだ」

そうしてクラトスが指さした、地図の場所は―――
686夜が降りてくる 〜 Evening Star 2:2008/09/28(日) 13:53:10 ID:hvqlDGuu0
「島の中央……」
「この砂漠の真ん中の塔。ですか?」
「ああ、日中は砂漠を移動するのは大変だろうが、夜になれば移動するのも楽になる。
 中央には参加者も必然的に集中しやすくなるだろう……だが同時に、殺し合いに積極的な相手にも会う可能性が大きくなる」

ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえる。

「安全な方法を取りたいのなら、このまま南下するという手もある。
 そろそろ川沿いのF5エリアが禁止エリアになるとしても、参加者と会う可能性も皆無では―――」
「……俺は、中央に行くべきだと思います」
「……私もです」

思ったよりも力強い、子供二人の声にクラトスは顔を上げる。

「危険かもしれないけど……それでも、こうしてる間にも誰かが傷ついてるかもしれないんです。
 俺たちだけのんびりしてるわけには行きません」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、です。ウッドロウさまのためなら、ちょっとぐらい危険でも平気です」
「……わかった。ここからは砂漠を横断し、中央部の塔を目指そう。次の放送までには十分辿り着けるはずだ。
 再度言っておくが、危険性も高くなる……二人とも、気を抜くな」

二人が頷くのを確認すると、クラトスは改めて西の方角を見やる。
途切れた山脈の向こうに見える砂漠の先にある目的地。

その進路を取った事は果たして、吉と出るか凶と出るか―――



【クラトス・アウリオン 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:エクスカリバー、マジカルポット バスケット(中:ストロベリークレープ リンゴ) フォーク 模造刀
基本行動方針:仲間達に会う。争いを極力避けつつゲームを止める
第一行動方針:D3の塔を目的地に、他の参加者を探す。
第二行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
第三行動方針:仲間を増やす、首輪を解除する、脱出方法を探す。
現在位置:D5、西

【チェルシー・トーン 生存確認】
状態:HP100% TP100%
所持品:包丁 レッドランタン 手作りの弓 手作りの矢×30 チェスターの矢
基本行動方針:仲間に会う・ウッドロウ様を守る。これ以上の人死は許さない。
第一行動方針:D3の塔を目的地に、他の参加者を探す。
第二行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
現在位置:D5、西

【カイウス・クオールズ 生存確認】
状態:HP100% TP90%
所持品:サック一式(ランタンなし)、ファルステヴェルン、スタンドファーム、マゴノテ
基本行動方針:サイグローグを倒す。他人を助けられる強さが欲しい
第一行動方針:D3の塔を目的地に、他の参加者を探す。
第二行動方針:情報収集。信頼できそうな人物には館のことを教える。
第三行動方針:ルビアを探したい。
現在位置:B5、西
687名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 13:55:11 ID:hvqlDGuu0
投下終了です。

早速ですが間違い発見。
カイウスの現在位置を「B5、西」から「D5、西」に修正お願いします…
688名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 14:01:56 ID:dZ52PTcTO
投下乙です。
おチビたちの健気さがすごくいいです。
しかしチェルシー、ちょっと位ではないかもしれないんだぜ…。
689名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 14:33:31 ID:T+SMVTEx0
投下します。
690兄と妹の歩く道 1:2008/09/28(日) 14:35:24 ID:T+SMVTEx0
静寂を乱さぬように優雅に海を泳ぐ銀髪の男が一人。
夜の海に明かりはない。月が漆黒のうねりの存在を報せてくれるだけ。
波飛沫煌めく夜の海は穏やかではあったが底知れない。
だが、マリントルーパーであったセネルには苦でもないことだ。

(……シャーリィ)

別れ際の最愛の妹はとても苦しそうだった。どうして気がついてやれなかったのだろう、とセネルは唇をかみしめる。
操られているというジルバの言葉が何度もセネルの脳裏に蘇った。
ジルバのような未知の生き物がいるのだ。そのような術があってもおかしくはない。
盲目的に彼は悪意を信じた。
ここに来てから彼女の笑顔を一度も見ていなかった。笑顔が見たい、とセネルは波に揺られながら思う。
そうすればどこか落ち着かない心は静まるに違いない。
シャーリィ、と水に音を乗せる。
広大な海を見渡し、未だ行方の知れぬ妹の姿を探してどれほど経っただろうか。
慣れているとはいってもセネルは陸の民である。疲労はそれ相当に襲ってくる。
だが、諦める訳にもいかない。腕と足に力を込めて、水の中を進んだ。

(……?)

地平線の向こうまで見据えるようにセネルが目を凝らしていると、ふと、水面に何かが浮かんでいることに気がつく。
遠目なのではっきりはしないが、明らかにシャーリィーではない。
無視も考えたが、今まで何の物体も浮いていなかったのだ。収穫のない探索に疲れを感じ始めていたセネルは少し考えた後、水を蹴った。
近づいていくとそれはボール程の大きさのものだと分かる。嫌な予感がしたがセネルは足を止めなかった。
暗がりの中で、それの正体がだんだんとはっきりしてくる。
セネルははっきりとそれを確認して―――息を呑んだ。
金色の髪が月明かりを受けて光っている。水に濡れて垂れるそれは、妹のものかと思った。
セネルは浮いていた肉片を掴む。だって、分からなかったから。震える手は寒さのせいだけではない。
掴んで、顔を隠していた髪をどかす。
心臓がうるさいぐらいに鳴っている。体がなかったから、どちらか分からなかった。
月明かりだけではすぐに同じ色の髪を持つ二人を区別することはできない。
現れたのは、見知った――男の顔だ。
力が抜けたように、セネルはその首を再び水面へと落とした。首しか、なかった。
691兄と妹の歩く道 2:2008/09/28(日) 14:36:21 ID:T+SMVTEx0
シャーリィではないことに安堵しながらも、セネルはすぐに相反する感情に襲われる。
ワルターはどうして死んだのか。シャーリィを追って行った男に何が起こったのか。
シャーリィに、何が起こっているのか。不安が急速に膨らんでいき破裂する。
ワルターの死に方は異常だ。首輪がなかった。見覚えのある死に方だった。
サイクローグにやられた?いや、その可能性は低い。サイクローグは主催者であり介入するなど考えたくもない。
じゃあ、何だ?ぐるりと思考を巡らせてたどり着いた可能性は禁止エリアだ。
しかしその可能性も俄かに信じがたい。あのワルターがそんな無様な失敗をするだろうか。
となると、誰かに嵌められた?誰に?水の中だったらワルターが引けをとるはずはないのに。
ひとつの可能性が浮かんでくるがセネルは否定する。しかし、同時に声も響く。
(シャーリィさんは、操られて……)
ワルターを孤立させて殺す算段だった?そう考えればシャーリィの行動に納得もいく。
ジルバは泳ぎが得意ではない。セネルもシャーリィの言葉にショックで動けなかった。
海に逃げたシャーリィを負うのは、必然的にワルター一人となる。
震えがセネルを襲った。純粋に恐ろしいと思った。最愛の妹をここまで狡猾に操ってしまう術が。

「シャーリィ! シャーリィ!」

水の中を進みながら、セネルは届かないと分かりながらも声をあげた。セネルのちっぽけな声など波と夜の闇に呑まれ掻き消されてしまう。
―――二度と、失うものか。
ステラの死体を抱き上げた感触は二度と忘れられないだろう。あんな思いなどもうしたくない。

「シャーリィ……!」

悲痛な声は波間に消える。

  *  *  *
692兄と妹の歩く道 3:2008/09/28(日) 14:37:08 ID:T+SMVTEx0
月明かりが照らす海の上に一人の少女が眠っていた。
美しい髪は波に同調するように揺れ、同じように衣服も浮かぶ。

もうなにもかもがどうでもよくなってしまった。
お兄ちゃんを止めたくて、人殺しをやめさせたくて、逃げた。逃げて、逃げて、逃げて、逃げた先にはきっと光があると思った。
良い人――誰でもいい、誰でもよかった。その人に頼んで、お兄ちゃんを止めてもらう手伝いをしてもらいたかった。
全部過去形だ。人殺しを止めたかった。本当に止めたかった。
そのために逃げたのに、まだ手の感触は記憶の中に埋まってくれない。
差しのべてくれた手を払った。何の遠慮もなく思いっきり。彼はきっと私のことを思ってそうしてくれたのに、私は自分のことばっかりだった。
彼を突き飛ばして、再び逃げようとしたら電流が走ったような……分からない。それ以上かもしれない。耳障りな音と妙な振動が私を襲った。
穏やかだった海が急に真っ赤に染まって、振り向いた私は見てしまった。
私のことを見つめるうつろな瞳と、首がとれてしまっても私に手を伸ばし続けるワルターさんの姿。
息ができなくなるかと思った。水の中なんだから、そんなことはあるはずがないのにそう思った。
首がどこかに流れていく。胴体も私に手を伸ばしたまま波に揺られて離れていく。私はショックで追いかけることすらできなかった。
また私は私のことばっかり。ワルターさんを私は私の都合で見捨ててしまった。
嗚咽を漏らす。私は泣くしかできなかった。頭がパンクしたように何も考えられない。
これはワルターさんの死を悲しんでの涙じゃない。自己愛の涙だ。私は私がかわいそうで泣いている。
ワルターさんのことまで頭がついていかない。涙の合間におにいちゃん、と呟いていた。
私は逃げてきたのに、お兄ちゃんを求めてる。矛盾ばっかりでさらに訳が分からなくなった。
また言葉が漏れた。止まらない。

「―――シャーリィ!」

幻聴まで聞こえてきて、私はもっと自分が惨めになった。でも聞こえてくる声は心地よい。
どこまでも波に身を任せていようと思ったら、突然私の体は激しく揺さぶられた。

「シャーリィ!」
「おにい、ちゃん?」

目を大きく見開いたままのお兄ちゃんが私を見下ろしている。目には涙、と思ったけどそれは海の水なのかもしれない。
よかった、とお兄ちゃんは呟いた。その顔はいつも私を探して、助けて、愛してくれたお兄ちゃんのままだ。
変わってしまったと思った。それなのに、ここにいるお兄ちゃんは私の大好きないつものお兄ちゃんだ。

「おにいちゃん……」

声が震えた。何を言えばいいのか分からなくて、それ以上言葉は続かない。言いたいことがたくさんあるはずなのに唇は動かない。
お兄ちゃんが先に話し出した。ワルター、そう空気が揺れたのを感じて私は目を伏せる。
お兄ちゃんにはそれだけで分かってしまったらしい。先にワルターさんの、…体を見てしまったのかもしれない。

「シャーリィのせいじゃない」

動こうとしない私を見て、お兄ちゃんは隣に並んだ。お兄ちゃんの言葉に私は首を振る。
そんな訳ない。私のせいに決まって―――

「シャーリィは操られていたんだ」

お兄ちゃんが語る事実に私は呆然と耳を傾けていた。
ジルバさんが体験した術のこと、その時の感覚。
ジルバさんが言うなら本当に私は操られていたのかもしれない。頭がぐちゃぐちゃで私は思考を放棄していた。今は何もかもが遠い。
メルネスへと覚醒した時とは違う。あの時は巨大な力に私は押しつぶされていて、みんなを攻撃したという実感は薄かった。
でもね、お兄ちゃん。ワルターさんを振り払ったときの私は、確かに私だった。いつ操られていたかなんてわからないけど、あの時の感情は私だけのものだ。
その「誰か」に罪を押し付けることは私にはできなかった。
もう大丈夫だ、とお兄ちゃんは言った。ジルバさんにかけられた術もそんなに多くのことを束縛するものではなかったから、と言葉は続く。
それでも顔色によくなかった私に、お兄ちゃんは困ったような顔をしながら言った。
693兄と妹の歩く道 4:2008/09/28(日) 14:38:24 ID:T+SMVTEx0
「俺も一人、殺した」
「……やめて、おにいちゃ」
「シャーリィだけじゃない」

おそろいだな、とお兄ちゃんは場を和ませるように笑って見せた。
全然慰めにもなっていないけど、私もお兄ちゃんも必死だったんだと思う。
いっぱいいっぱいになりながらお互いを繋ぎとめた。
しばらく海を漂った後、お兄ちゃんは私に手を差し出した。
陸に戻ろう、とお兄ちゃんは言う。陸に戻るということはまた殺し合いの舞台に戻るということだ。
人を殺す。私はそれを止めたくて、ここまで逃げてきたはずなのに。

『メルネス!』

手を差し出すお兄ちゃんの姿とワルターさんの姿が重なる。
振り払う。振り払え。振り払うべきだ。この先に待っているのは人殺しの道だけなのに!

「……うん、お兄ちゃん」

―――振り払えるはずがなかった。

その感触は未だ近く、目に焼きついたような光景は離れない。
お兄ちゃんがワルターさんみたいになるのが怖かった。
お兄ちゃんはお兄ちゃんのままだった。変わったのは誰だろう、―――私?
私だって人殺しだ。お兄ちゃんを止める権利なんて、とっくに失ってしまった。
お兄ちゃんはお姉ちゃんのため。ワルターさんは私のため。ジルバさんはお姉ちゃんのため。
私は私のために動いた。それがこの結果だ。
私は人を殺すお兄ちゃんを見たくない私のために逃げたんだ。

「お兄ちゃん、ごめんなさい」

お兄ちゃんは謝らなくていいと首を振った。

「違うの。ごめんなさい」

お兄ちゃんを止めなくてはいけないのに私はもう行動に移せなかった。
それでワルターさんを殺してしまったから。私はとても臆病になってしまった。
もう二度と自分の意思で体を動かせる気がしなかった。
お兄ちゃんが何か言っている。ワルターとステラが生き返る?優勝すれば?
お兄ちゃんが望むのなら優勝を目指すのもいいかなと私は思っていた。
だって、私は人を殺してしまったことで私のアイデンティティは崩壊してしまった。
お兄ちゃんにまで否定されてしまったら私はどこにもいなくなってしまう。

「大丈夫か?」

お兄ちゃんの手を取り、私は岩場に戻ってきた。きっと私の背後には海が広がっているはずだ。
海は私とお兄ちゃんを祝福してくれた。それは今も同じだろうか。
『私達、きっと一緒に歩いていけるわよね』
あの時の私の言葉はこんなにも歪んで姿を現すことになるとは思わなかった。
私は後ろを振り返ることはなかった。きっと、海は私たちを祝福してくれないと思ったから。
694兄と妹の歩く道 5:2008/09/28(日) 14:39:23 ID:T+SMVTEx0
【セネル・クーリッジ 生存確認】
状態:HP70%、TP55% 全身に擦り傷、切り傷 強い決意 ジルバをやや信頼 シャーリィの否定の否定 
所持品:シルバーガントレット(TOR)、草刈鎌、ジェミニシェル、
時を駆ける少年の人形、本人確認済み支給品2個、すずのザック
基本行動方針:シャーリィを優勝させる
第一行動方針:疲れたシャーリィを休ませてから行動する。
現在位置:G6 岩場

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:HP100% TP80% ワルターと姉の死による大きなショック 精神的に疲労大 ベストなし 罪の意識 自分の意思で行動することに躊躇
所持品:首輪探知器
基本行動方針:セネルの望むままに行動。
第一行動方針:お兄ちゃん……。
現在位置:G6 岩場
695名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 14:41:56 ID:T+SMVTEx0
投下終了です。指摘があったらぜひお願いします。
696名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 14:54:28 ID:XV4zCPTKO
乙です。うおーシャーリィの心情が痛々しい…
1stのアトワイトみたいな感じかな。ゾクゾクした!
697名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 15:03:29 ID:n287FCmoO
皆さん投下乙です。
ヴェイグはまだ吹雪中かwマルタ不穏だよマルタ
石化で考察wこれは新しいw考察はさすが時空剣士です。

中心激突フラグきたー最強武器対ソーディアンか…戦力は互角か

シャーリィ…ワルターの死が2人をくっつけたんだなある意味
698名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 16:32:40 ID:dZ52PTcTO
投下乙です。シャーリィ可哀想すぎる…!

で、一方その頃のジルバさんはと言えば、投下します。
699月下の花:2008/09/28(日) 16:35:13 ID:dZ52PTcTO
月明かりのもと、少女のつぶらな瞳に輝くいっぱいの涙。
疾走によって生み出された風に千切れゆくそれは、まるで彼女の頭上に浮かぶ星にも似ていた。
輝きを零しながら走る彼女の姿は見ように因っては幻想的であるやもしれない。
もっとも、欠かれてしまった彼女の肢体に気づかなければ、の話だが。

腕を失ったとは思えないほどの速さで、ルビアは遁走する。し続ける。
恐怖が彼女の脚へ信じがたいほどの力を与えていた。





「おやまあ、ゆっくり休ませても貰えないとはねぇ……」

呟きは誰に向けられたものでもない。近づいてくる軽い足音に、妙齢の女は腰を上げる。
まもなく姿を現したのは、血のニオイを存分に纏った隻腕の少女だった。
波に洗われる岩場に身を伏せながら、ジルバは少女の姿をじっと見据える。
北からまっすぐに駆けてきたらしいその娘は、現れた海岸に虚を衝かれたのか、これ以上の進行を躊躇っているようにも見えた。
たたらを踏んだきり、足を止めたその様を観察すること、十数秒。
口の端に乗せた嗤みを、ずっと穏やかな乳母のソレへと変じさせ、彼女は口を開く。
当たり前さ……一番肝心なのは、何せ此処なのだから。
700月下の花2:2008/09/28(日) 16:35:53 ID:dZ52PTcTO



「……怪我をされている、のですか?」

汀に逃走劇をくい止められたことで、いささかの落ち着きを取り戻した花のような少女。
その鼓膜をを突然ノックした、控えめな声に彼女の喉笛が小さく音を上げた。
けれどそれだけだ。戻りかけの理性とからからになった喉がそれ以上の悲鳴を気管の奥へと押し込める。

たっぷり数瞬分の間をおき、少女は姿の見えない相手へ返答する。
唇から流れた声は、恐ろしいくらいに乾いていて首の深いところがちくりと痛んだ。

「誰……? 出てきて……!」

おびえが滲んだ声が、潮騒と夜陰に支配された大気を震わせる。
返答はなかなか、ない。
けれど、躊躇する気配がよく見えない岩陰に興ったような気がした。
恐る恐る、その気配のもとへ摺りよりそうになる。
瞬間、

「……来ないで、来ないでください。私の姿はきっと貴方を恐がらせてしまいます……」

息を呑む音。それから一拍遅れの懇願するような、弱々しい声音。
自身のものよりも、もっとずっと顕著なおびえ混じりのその声に、恐ろしさが不思議なくらい退いていく。
気がつけば、先ほどまでの恐怖が嘘のように思えるくらいしっかりした声が、零れていた。

「だいじょぶ、恐がらないです」

「……え?」

信じれらない、といった風な見えない声。
ううん、違うわ。月明かりの下にもうシルエットは見えているんだもの。
そんなことを想いながら、岩陰に落ちた異形のそのヒトへ、ルビアは冷たい岩肌ごしに告げる。

「あたしの仲間にも、変わった姿になる男の子がいるんです。
悲鳴上げたりなんてしないですから――出てきてくれませんか?」


【ルビア・ナトウィック 生存確認】
状態:HP60% TP18% 左腕切断(血はほぼ止まっています) 怯えた女性を前に、当座の恐怖は息を潜めた模様
所持品:旋風、ポイズンパウダー、フリーズリング、アビシオンのフィギュア 左腕
基本行動方針:死にたくない。殺し合いには乗らない。
第一行動方針:隠れている怯えた女性に出てきて欲しい。
第二行動方針:カイウスを探す
第三行動方針:F6レムの塔に向かい探索。
現在位置:G6岩場


【ジルバ・マディガン 生存確認】
状態:HP45% TP100% 身体中に裂傷、背中に軽度のやけど 全身打撲
所持品:ステラのサック シャーリィのベスト ジルバのサック
基本行動方針:ステルスマーダーとして行動。上手く立ち回る。
第一行動方針:ルビアの呼びかけへの反応を取る。姿を現した後の行動も決定済。
第二行動方針:変わった姿になる男の子? 何だい、ソレは。
現在位置:G6岩場
701名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 16:37:14 ID:dZ52PTcTO
投下終了です。何かあれば指摘をお願いいたします。
702名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 17:02:50 ID:n287FCmoO
投下乙です!
ジルバ様きたー。どう立ち回るのか予想もつかないw
703名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 19:56:54 ID:V030lpe50
色々と粘った結果、こうなったよ投下
704破戒の偶像 1:2008/09/28(日) 19:58:21 ID:V030lpe50

――銃身を己の身体の一部だと思え。常に己の骨格の延長線上に、銃口を向けて構えろ。
リグレット教官の気まぐれで教わった、譜銃の基本姿勢を取るティア。
その銃身の先に立つのは、褐色の肌に紫紺のドレスを纏う、妖艶な女性。
しかし、彼女の纏う殺気はティアも、その脇に立つカイルにも、刺すような肌の痛みとして伝わる。
傍目には絶対的に優位な状態に立つように見えるティアでさえ、身の震えを隠すことで手一杯だった。
そんな姿に何を思ったのか、紫紺の妖花は嘲笑ともとれる笑みを浮かべた。

――銃声は無い。
冷気銃ブリザードマグから放たれるのは、氷の魔弾。
雹弾が目の前の女性、シゼルを襲った。
しかし、シゼルは瞬時に生み出したファイアボールで尽く相殺し、それ以上の火球量で攻めた。
反対に襲い掛かってくる赤色の飛び道具を、ティアは器用に雹弾と回避を使い分けたが――
「ぐあっ!」少年のうめきに、思わず注意が向く。被弾箇所はアビスレッドの右腕。
カイルの元へ駆け寄る。下級術ゆえに、それほどの被害は無い。
だが、目の前で悠然と槍を構える女性の全力は、この程度の火遊びでは無い。
ほんの一分にも満たない手合わせで、それは絶望と名前を変えてティアの胸中に去来していた。
「――カイル」
ゆっくりと、目の前の敵を刺激せぬ程度に後退しながら、ティアは声をかける。
右腕に向けていたカイルの視線が、アビスピンクに向けられた。
その視線を――平気だと言わんばかりのその視線を受けながら、ティアは努めて冷静に言った。
「逃げなさい……今すぐに」

逃げる。これが絶望的な今の状況を乗り切る最善の一手。
だが、眼前の強大な敵を前にしては、並みの覚悟では逃げ切れない。
必要なのは覚悟。……片方を生かすために、もう一方が犠牲となる覚悟。
ティアは言葉を続ける。カイルの反論を決して許さぬために。
「勘違いしないで。私はロクに知らないあなたの為に死ぬつもりはないわ。
 私一人なら、あの敵を上手く出し抜ける方法がある。ただ、それだけのことよ」
厳しく真摯に、そして隠し切れぬ情愛を持ってカイルに言葉をかける。
ティアは嘘も冗談も苦手だった。その生真面目さは、恐らく一生直らないだろう。
しかしそれゆえに、彼女が己を生かすことを最優先していることが、カイルにも感じられた。
ブリザードマグがカイルに渡される。
あのイカレ男に再び襲われたら、今度はカイルは己の身一つで切り抜けなければならない。
ティアはそれを理解していたから、カイルに銃を渡した。そしてカイルもまた……
ジワジワと歩み寄るシゼル。時間稼ぎはもう限界だ。
「――走って!!」叫ぶようにティアは言い、カイルは走り出した。目頭に込み上がるものを振り切りながら。
705破戒の偶像 2:2008/09/28(日) 19:59:33 ID:V030lpe50

カイルとシゼルの間に立ち、ロリポップを構えるアビスピンク。
それは、さながら我が子を守る母親のようだ。
「あの少年のために……お前も命を捨てる、か」
シゼルは目を細める。その瞳の先にあるのは、過去の己そのもの。
我が子の友人のためだけに、他の全てを殺すことを躊躇う自分の声が聞こえた。
しかし、その声に易々と応じるほど、シゼルは軽い決意でこの場に居るわけではない。
「……私は、私は死なないわ」
ティアは声を捻り出す。そう自分に言い聞かせなければ、とても動けそうも無い。
自分に出来る最善の行動をする。それは軍人として当然のこと。
軍人だから、民間人のあの子は守らなければならない。
それは暗示だ。恐ろしく儚い自己啓発術。それでも、無いよりは幾分マシだ。
「あなたを殺して……私は生きるの!」
ティアは誓い、そして動き出す。それを見て、シゼルも動いた。

槍と杖。接近戦にもつれれば、確実に死ぬ。
ティアは距離を保つ。最も得意とする中距離レンジ。しかしそれはシゼルの得意レンジでもある。
シゼルは手のひらから光弾を放つ。それはティアの居た地面に命中し、爆発を起こした。
彼女にとってこれは術ですらない。ティアが近接戦闘で杖から放つ魔法弾と意味合いは変わらない。
しかしシゼルほどの術師ならば、その威力は下手な下級術よりも強力だ。
ティアの譜歌は、シゼルが爆発を起こす度に阻害された。
だが、それはティアにとっては予定調和の出来事である。
譜歌を構わずに、続きから歌った。詠唱を止め、光弾をよけて再度歌う。
全てを唱え終わるころには、ティアは円運動でシゼルの周囲を一周していた。

ティアの譜歌にとって詠唱の中断は、普通の歌で言うブレス(息継ぎ)程度の意味でしかない。
極小の歌唱時間でも、積み重なればそれは譜歌となる。
それは大譜歌という性質を帯びた、ユリア・ジュエの譜歌が持つ特性。
「……ジャッジメント!!」
魔を灰燼となす激しき調べがひと繋ぎとなり、意味を帯びた譜歌となりシゼルを襲う。
706破戒の偶像 3:2008/09/28(日) 20:00:50 ID:V030lpe50

カイルは走っていた。涙を隠す必要は……ない。
バトルロワイアルが始まってから、ずっと行動を共にしていた仲間はもう居ない。
自分が 見捨てたのだ。彼女が死ぬつもりだなんてことは分かりきっている。
それでも、本気で自分を生かそうとした彼女の意思を前にして、止められなかった。
単なる自己弁護に過ぎない。カイルの中にも、生き残りたいと思う心はある。
それが悔しくて、情けなくて、少年は泣き走った。

アビスレッドを着たとき、カイルは英雄になれた気がした。
そんなのは誤謬だった。ただの思い込みに過ぎなく、夢想以上の意味は無かった。
死地から逃げ出すカイルに突きつけられた真実は、少年には余りにも酷な現実だ。

(オレはこの殺し合いを止めたかった。なのに……)

本当の殺し合いを前にして、カイルに出来たのは逃げ出すことだけ。
そんなのは英雄のやることじゃない、ただの腰抜けだ。

(オレは……オレは――!!)
707破戒の偶像 4:2008/09/28(日) 20:02:25 ID:V030lpe50

浄化の炎雷はティアの動いた軌跡の内部を、焦熱地獄に変えた。
ティアの中では最強クラスの攻撃。奇襲に使うには余りにも上等な術だ。
(――殺った!?)
焦熱の収まりゆく様を警戒して注視するティア。
しかし、この焦熱のような中に立っていたシゼルは、オーロラの如き光に身を包んでいる。
「スパークウェーブ」
シゼルは唱える。電磁の檻がティアの周囲に発生する。
「――!」耐えることまでは予想できても、即座の反撃は想定の外だ。
迸る電撃に身を焼かれるアビスピンク。
だが、回避不能なほど広範囲を攻撃しているぶん、威力は散漫になる。
それを知ってのうえか、シゼルは駆け寄り、ティアとの間合いを一気に無にする。
手に持つのは、聖者を貫く破戒槍。
槍の一撃が肩口を貫いた。仰向けに倒れこむティア。
――死!?
その一文字だけが、ティアの脳裡を掠める。
シゼルの槍は振り上げられ、そしてティアの脳髄へと――

「ウインドスラッシュ!!」

声がした。それはこの場にいるはずの無い少年の声。


カイルは逃げたくなかった。
英雄になりたいとか、アビスレッドがどうとか、そんなことが理由じゃない。
カイル・デュナミスであり続けるためには、殺し合いから逃げ続けるわけにはいかない。
それだけが、カイルの真実。だから……何も考えずに、戻ってきた。
彼は間違いなく馬鹿だが、しかしそれは、一つの譲れない意志を持つ馬鹿だ。


カイルの放つ二つの不可視の風に、シゼルは体勢を崩される。
「受けろ! スラストファング!!!」
更にカイルの術が続く。吹き荒れる風が襲い掛かる。
飛び退き、かわすシゼル。ティアとの間に、最高のカタチで隙間が生まれた。

ティアは跳躍した。仰向けの状態からくるりと、バク宙のような軽やかな跳躍。
――それはまるで……物語の世界のスーパーヒロインのように。

美しきアビスピンクは体勢を立て直し、中空で杖を三度振るう。
「――魔を討つ力となれ!」
杖より放たれた魔法弾が、シゼルの周囲にトライアングルを形作る。
「フェイタルサーキュラー!!!」
周囲に満ちた風の属性要素を糧にして、シゼルを拘束する光のフィールドが生じた。


拘束されたシゼルを見届けたティアは駆けた。カイルの元へ。
「ゴメン!」一言だけで謝り、カイルは手を差し出す。
その手をティアはしっかりと握った。優しく、そして力強く。
「ありがとう。最高の援護だったわ」
そう応えてティアは笑った。そこには気恥ずかしさも築き上げてきた体裁も無かった。
708破戒の偶像 5:2008/09/28(日) 20:03:53 ID:V030lpe50

「取り逃がした。……か」
二人は逃げることに成功し、後に残されたのは……シゼル。
光の拘束から開放された彼女は、周囲を不思議そうに見回した。
その目が見るのは、周囲に先ほどまで満ちていた風の活力。
周囲の晶霊力をそのままの状態で利用する。それはシゼルの世界には存在しない技術である。
ただ、この現象について一つ思い当たるものがある。
「まるで……フリンジのようだな」
二つのクレーメルケイジを干渉させて新たな晶霊術を生み出すフリンジと、ティアの用いたFOFは確かに似通っている。

(この技術は……私にも使えるのではないか?)

そう考え、薄れゆく風の活力を収束させる。
唱えたのは回復晶霊術のひとつ、キュア。それを風の活力と融合させる。
水の活力による癒しは風と結びつき、癒しの風『ヒールウインド』へと昇華された。
それは、フェイタルサーキュラーの拘束によって喰らった切傷を包み込み、傷痕を塞いでいった。



【カイル・デュナミス 生存確認】
状態:HP95%、TP80%、緊張、焦燥感
所持品:アビスレッドのコスチューム(仮面は外してます)、他アビスマンのコスチューム、カイルの服、ブリザードマグ
基本行動方針:殺し合いをやめさせる。仲間にもアビススーツを着させたい(強制はしない)
第一行動方針:安全な場所へ行く
第二行動方針:シャルティエを取り戻す
現在位置:F4西端

【ティア・グランツ 生存確認】
状態:HP80%、TP70%、緊張、焦燥感
所持品:アビスピンクのコスチューム(仮面は外してます)、ロリポップ、メロン1個、ティアの服
基本行動方針:ルーク達と殺し合いに乗っていない人を探す
第一行動方針:安全な場所まで逃げる
第二行動方針:状況を見極める
現在位置:F4西端

【シゼル 生存確認】
状態:HP70% TP75%
所持品: ロンギヌス(TOA)本人確認済み支給品0〜2個
基本行動方針:優勝してリッド含む皆を蘇生させる
第一行動方針:優勝を目指す
現在位置:F4西端
709名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 20:05:52 ID:V030lpe50
投下終了。

確認中に気がついたエクレールラルムの詠唱問題をフェイタルサーキュラーへの変更で解決したら、
より一層鮮やかな逃げっぷりになって、もうシゼルはFOFをラーニングするぐらいしかやることなくなっちゃったよ。
710名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 20:19:13 ID:cy+UxiWRO
投下乙です
ちゃっかりFOF習得しちゃったよシゼル
カイティアは無事に逃げ切れるかなw
711名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 20:24:57 ID:dZ52PTcTO
投下乙。
シゼルさんはまだ成長するのか。なんてけしからん…w

そして、次スレは以下な。
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1221714971/
712名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 21:15:41 ID:27xTJwloO
皆さん投下乙です。
ところで、自分も投下したいんだが、まだこっちでも大丈夫かな?
残り容量確認できないんだよね…
713名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 21:17:16 ID:27xTJwloO
ごめん、気にしないでくれ…orz
714名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 23:06:56 ID:TYgupMUp0
アイテム全然出てこないよなマジカルポット
715名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 23:10:26 ID:kexXoLoi0
どうやら結構出てきてるみたいなんだけど合図がないから全く分からないという
716名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 00:54:03 ID:VvTfc8RlO
ふと思ったんだが…シゼルってPKKみたいな事してどっち付かずの立ち位置だったよね?それが何事もなかったかのようにマーダー再開してるのが気になったんだが…俺の見落としか??
717名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 01:20:31 ID:+ud1xO+w0
シゼルは全員蘇生目的の優勝狙いで基本皆殺しだよ
アガーテ・レイスとデクスを前にしてむかついたからデクスに仕掛けただけ
718名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 06:43:48 ID:NOefCfKe0
1stと兼任しているスタイレの作者さんだと思うけど、
>もしそうなら、イレーぬさん、おれあなt

こういうブツ切りの書き方と、英字のまま載せるのをやめて頂きたい
上のだけなら可愛いものだが1stのアナザーは完全に文章として破綻しているし、2ndはああなって
欲しくないので畏れながら進言させて頂きます
どれだけ面白くても解読するのに疲れて先を読む気力が正直削がれる

それとあなたの筆力が卓越したものである事は大いに認めるが、もう少し他の書き手さんが
続きを書けるような終わり方にして頂きたい
スタイレやミトス・ハロルド組が故意ではなくとも独占状態なのは、あなたの話がどれも一話で
完結しすぎていて他の書き手さんが手を出しにくい空気があるからだと思う

最近では136話にあったジルバの決断を次回に委ねる、ああいった話こそがリレー小説の
醍醐味だと思うし面白い所だと思う
前後編に分割したいほど書きたいことが多いのは読む側にとっても有り難いことだが、
あなた含めて「この書き手さんがこのキャラを書いたら?」という可能性を見させて頂きたいのです

一読者でありながら失礼は承知の上だが、どうかご理解を頂きたい
文字量をもう少し減らして頂けるでも助かります
719名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 09:38:39 ID:VvTfc8RlO
>>717
そっか、俺の読解力不足だったかな… ありがとう
720名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 09:41:02 ID:bXhlXjaeO
>>718
書き手のスタイルにケチをつけるのは良くないと思うぞ。
英字もそういうの含めて表現力だと俺はおもう。
個人的にはそういうのを、読み取っていくのが好きだから今のままでいい。
長くなるのは、そのキャラの心情を掘り下げるのにやむを得ないと思うし。
721名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/29(月) 12:56:03 ID:rFi2DhBI0
>>718
それは貴方の趣味の押しつけでしょう。アナザーみたいなSSが嫌いなのはよく分かったけどさ。SSを短くしろとかめちゃくちゃだろう。
あとジューダスやエミルとか決断をしっかり次回に委ねてるんじゃないか?

一応言っておくが故意ではなくとも独占状態のパートは実はたくさんある。
ヴェイグ周辺とかもっと独占な訳で。
書き手の特定がしやすいからってなあ、それはちょっと。
722名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 00:03:15 ID:QjdCtaeA0
結構ギリギリな気がするけど、今回の梅は君に決めた。
723エキシビジョンマッチIII 1:2008/10/06(月) 00:04:29 ID:HPXlVTEs0
それは、見ようによっては『鬼ごっこ』のようにも見えた。
まだあどけなさも残る年若き少女と、それを追いかける男。
男にとってそれは、オモチャとじゃれあっているようなものなのかもしれない。
だが追いかけられる、青色の髪をツインテールにした少女にとって、それは決して遊びではなかった。

もしもあの男に捕まえられれば……

少女は走りながら、後ろをチラリと見た。
追いかける男は、笑っていた。それは、まるで猫が鼠を追う時のような酷く醜悪な笑い。
気力を振り絞り、懸命に走り続けた。
心臓はすでに早鐘のように鳴り、足も痛みを通り越して徐々に感覚が無くなり始めている。

男は、狂人だった。
サイグローグの手によって再び命は与えられたものの、壊れた彼の精神までは与えられなかった。
肉体はある。しかし、それを制御するココロは、遥か以前にどこかに落としてきたのだ。
それは、彼が生れ落ちたときから……いや、彼の人間としての肉体が生れ落ちる遥か以前から亡くしたモノ。
彼に心は無い。あるのはただ殺戮への志向のみ。ならば、何故に彼は少女を追いかけるのか?

彼は笑い、少女を追いかけながら呟きを洩らした。
「………ぴょろ〜ん」
少女の足が、とうとう主に逆らった。
地面を蹴り損ね、身体が前のめりに倒れる。
砂埃が舞い……顔は泥にまみれた。

すぐに起き上がろうとした少女が見たものは、視界を埋め尽くさんばかりに顔を寄せる追跡者の笑い。
むんづ、とその追跡者はツインテールの片方を掴み、まじまじと顔を見る。
泥と、涙と、絶望で化粧をした少女は、ふるふると力なく首を振った。
それが、少女の最後の意思表示だった。


***


男は少女のか細い首を、まるで真綿で包むかのように緩やかに絞めた。
始めはゆっくりと。少女の絶望の表情をじっくりと味わう。
涙に塗れた少女の頬を、犬がじゃれるかのように男は醜悪な舌でひと舐めする。
死の恐怖を超えるほどの生理的嫌悪感で、少女は全身が総毛立つ。
見開かれた、先ほどまで恐怖で閉じられていた瞳が見たものは――

――狂った人間の、狂った表情。

少女の首が、妙に小気味よい音を立てて……折れた。
724エキシビジョンマッチIII 2

折れたのは、少女の首……いや、違う。首は少女ではない。
狂人は己の壊れきった感覚器官を疑った。
彼の目の前に転がったのは、人形(ヒトガタ)――リバースドール。
この小さな人形が少女の代わりになった? 何故?
眼前に起きた唐突な変化に、思わず狂人と言えども小首をかしげる。

……それは、決定的な隙だった。

「――イガグリ流忍法、変り身の術」
男の真後ろから、高いソプラノの声が聞こえる。
振り向くその右手が、奇襲した声の主に掴まれる。
声の主は、先ほどまで追いかけていた幻影と大差ない、まだ幼さの残る少女だ。
しかし、その顔つきは比べ物にならない。その少女は『殺し』を知った顔をしていた。
闇に溶け込む茶色の忍装束を纏い、冷徹な表情で男の右腕を取る。
少女の叫び声が響いた。それは喝破の雄たけびにも似た、気迫の籠もった声。
声と共に、少女は男の右肘を肩に掛け、一本背負いの要領で全力で投げた。
忍びの八門が一つ、骨法術。その中でも柔術と呼ばれる忍びの業。
隙に乗じ、完全に投げが決まる。後は簡単な梃の問題で、少女の体躯というハンデは埋まる。
半分ほどの身の丈に見える少女の手によって、槍のように細い長身を持った男は、重力から一時開放された。

男は、土の地盤に頭蓋から叩きつけられた。
……鈍い音が響いた。

己の体重と少女が付けた運動量によるエネルギーを、全て頭蓋の一点に集約されたのだ。
忍びの少女は己の勝利を確信し、男の右腕を放す。
本来ならば右腕を折ることも可能な業だが、流石に少女の力では出来なかった。
もっとも……男の頭蓋が砕け散ってしまっては、それは些細な差でしかないが……
死合いを終え、仏となった男に背を向けて少女は立ち去る。

「――あー、そこの御嬢さん。宜しければ名前と住所……
 それと、お薦めのランチスポットなどお聞かせ願えませんか?」

少女は聞こえるはずの無い声に、驚愕して振り向いた。
……かの男は、頭蓋を地面にめり込ませたまま、刺さった槍のように直立不動の姿勢でこちらを向いていた。