「ただいま」
「はいな、おかえりな」
事務的な挨拶のやりとりだと彼は思った。秩序のように定められた「ただいま」と「おかえり」だった。
そこには何の面白みもなく、マニュアルに従うレストランの店員との一方的なやりとりに似ていた。
鋳造は精錬まで達し、今は金属の不純物を土の晶霊術を利用して取り除いているところだった。
(もともと完成品から作っているため不純物はないようなものなのだが、まあ無銘だから)
それに伴い、液体化していた金属は凝固を始めている。
こうしてくると刃の形がはっきりと分かってくる。ここまで来て失敗するわけにはいかない。
晶霊術を唱えつづけるメルディの横顔を見る。
テーピングの間はメルディに任せていたわけだが、特に精神状態に異常は見られないことにキールはほっとした。
彼女は集中して精錬に力を注いでいる。
「でも、メルディ思うよ。無理してるのは、キールも同じ。キールもつらい、怖いよ」
え、とキールは呟く。唐突な言葉を発した彼女は振り向かない。
「キールもみんなと同じ。だれも殺したくない。でも、ほかにできる人いないから」
誰に語っているのかも分からず、メルディは虚空に語りつづける。
「……メルディ?」
彼女に向かって声を出しても、
「だから自分がするって、無理してるよ」
気づいてくれさえしない。
「メルディ!」
突発的に肩を揺さぶり、無理やりにでも作業をやめさせこちらを向かせる。
やっとはっとしたような顔をし、紫の瞳をキールに向ける。
キー、ル、と小さく呟いた彼女は無表情だった。
「どうしたんだ! またネレイドに何か言われたのか!?」
ヒステリックに肩を揺らしながら問う彼に、メルディは首を横に振る。
そしてゆっくり足元へと視線をやる。
クィッキ、と小動物が存在を誇示するように鳴き、高速で彼女の体に登っていき肩に座りこんだ。
「クィッキーに話しかけてたよ」
唖然とするキールをよそに、メルディはクィッキーの耳をかいてやる。
気持ちよさそうな表情が見せつけに思えてなんだか今は憎たらしかった。
そうだ。もうネレイドはここにはいないのだ。
先程の「おかえり」はたまたま出かけていたクィッキーに対するものだったと思えば納得はいく。
それに時おり現れる躁病に似た症状――そうだ、さっきも何か物を作っているときだった。
鋳造に集中するばかりその症状が、いや症状が出たから自分の声も耳に入らなかった。
自分の存在が今メルディの中にはなかったのだ。
その現実がとてつもなく悲しかった。
「……聞いてた、か?」
申し訳なさげに、おずおずとメルディは尋ねる。
「……何で、お前ら2人とも同じこと言うんだ」
両肩に手を置いたまま頭を垂らす、彼の足元には悲哀の影が伸びていた。
長さの割にいやにちっぽけな姿に見させる影。
影も、声も少し震えていた。
「きっとバカだからだよ。ジューダスにも言われたし、ロイドも言ってた」
にこり、と彼女は少し笑って答えた。妥当な答えだな、と彼は少し笑った。
手を肩から取り払うも、すぐに後ろに振り向き顔を隠した。
世界がにじんでいることに気づいたからだった。
それを不思議と思いながらも、中途半端なままの刃を思い出してメルディは精錬を再開する。
土晶霊の力を借りて、液体となった刀は再度固体へと違う姿で生まれ変わろうとしていた。
「メルディ、キールがすること、止めないよ。キールが決めたこと。でも、無理する必要、ないよ」
後ろから聞こえた声にキールは身を震わせる。
どうしてそんなこと言うんだ、と彼は目を伏せる。それがどれだけ決心を鈍らせることか。
「すまない……でも僕は……。
ロイドにはロイドの約束があるように、僕には僕の約束があるんだ」
それは友人との最後の約束であり、己が己に唱えた約束。
――再逢。
彼はつかつかと彼女のもとへと近づく。
刃は赤を保ったまま、確かに1つの形となっている。
時は訪れた。一歩ずつ歩を進め、自分たちのもとへとやって来た。
詠唱を始める。隣のメルディも同じく。
自分の中で力が集束し高まっていくのを感じる。同時に何の操作もできない、体を乗っ取られた感覚。
頭だけがはっきりとしている。
何かが心を引っ張った。
「僕は僕の思いを曲げるつもりはない。僕の命は、皆を守るためにあるんだと、そう思ってる」
――ひときわ大きい蒸発音と熱気が二感を刺激した。
ぽす、と背に重量とぬくもりを感じる。
衣服ごしに伝わる体温が、メルディのやさしさと同じ温度だった。
「メルディ、やだよ。キールがすることは止めない。でも、キールが死ぬのは、やだよ」
ぎゅっ、とローブが掴まれているのが分かった。
畜生、甘い。甘すぎる。あまりに心地よくて僕まで泣けてくるじゃないか。
それでも。それでも。
いつかは、背を掴むこの手を振りほどく時が来るかもしれないのに。
「……生きられると思うか?」
彼は静かに問いかける、
「生きるよ。みんなで生きて帰るよ」
言葉の熱が、じんわりと、もう1つの鋼を熔かしていった。
体が打ち震えるのを必死に腕を押さえて隠そうとする。それでも腕が震える。
そして、キールは1つの可能性を再考する。
魔剣を取り戻し、おそらくミクトランをも倒さねば成せない、限りなく成功確率の低い可能性。
なぜ彼がマーダーを殺すということに固執するのか。
守れなかった希望の代わりに新たな希望を守るのとともに、マーダーとの痛み分けも辞さない――どこか死を願う彼。
全ては、友人との約束のためなのだ。
しかしその約束の手段を、彼は変える。高確率から低確率に、死から生へと移行する。
恐ろしく希望に満ちあふれていた。
「……そうだな。僕が死んだら、お前らとんでもない無茶しそうだからな」
彼は目をこすり、頬をぬぐった。手に少し湿った感触。
これが涙で、彼が本当に鬼なら、まさしく「鬼の目にも涙」なのだろうが、
――そこは今は気にしないでおこう。
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP40% 「鬼」になる覚悟 精神的肉体的疲労 気分高揚
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:休息をとりTP回復に努める
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
【メルディ 生存確認】
状態:TP40% 精神磨耗?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
所持品:スカウトオーブ・少ない C・ケイジ
ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア ムメイブレード
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下?)
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP40% TP30% 右肩・胸に裂傷(処置済み) 右手甲骨折(テーピング中) 決意
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ホーリィリング 忍刀・紫電 木材二本 クィッキー
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:調達した木材二本をウッドブレードに改造する
第二行動方針:治療は外科処置に留めて天使化・次元斬用のTP回復を優先
第三行動方針:回復後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
【キール・ツァイベル 生存確認】
状態:TP40% 「鬼」になる覚悟 精神的肉体的疲労 気分高揚
所持品:ベレット セイファートキー リバヴィウス鉱 BCロッド キールのレポート ジェイのメモ ダオスの遺書 ムメイブレード(ダブルセイバーに加工中)
基本行動方針:脱出法を探し出す。またマーダー排除のためならばどんな卑劣な手段も辞さない
第一行動方針:休息をとりTP回復に努める
第二行動方針:仲間の治療後、マーダーとの戦闘を可能な限り回避し、食料と水を集める
第三行動方針:共にマーダーを倒してくれる仲間を募る
第四行動方針:首輪の情報を更に解析し、解除を試みる
第五行動方針:暇を見てキールのレポートを増補改訂する
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
【メルディ 生存確認】
状態:TP40% 精神磨耗?(TP最大値が半減。上級術で廃人化?)
所持品:スカウトオーブ・少ない C・ケイジ
ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 クィッキー
基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下?)
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP40% TP30% 右肩・胸に裂傷(処置済み) 右手甲骨折(テーピング中) 決意
所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット ホーリィリング 忍刀・紫電 木材二本(ウッドブレードに加工中)
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:調達した木材二本をウッドブレードに改造する
第二行動方針:治療は外科処置に留めて天使化・次元斬用のTP回復を優先
第三行動方針:回復後はコレットの救出に向かう
現在位置:E2中央平原→E2城跡近防空壕
今をさかのぼることしばし。
この「バトル・ロワイアル」が始まったころより前。
時は、光跡翼の一件が終息し、猛りの滄我が鎮まりし頃。
******
猛りの滄我が鎮まったことを如実に表すかのごとくに、潮騒穏やかな夜のこと。
シャーリィ・フェンネスは、ドアの前でただただ固まっていた。
おりしも、水の民との和解の宴が行われた数日後。
マダム・ミュゼットの部屋の前で、シャーリィは足に釘でも打たれたかのように凍り付いていた。
「そんな…いくら何でも無茶過ぎますぞ、この条項は!!」
部屋の中から響く、老年の男の声。シャーリィは、それを聞き間違えるはずもない。
水の民の族長、マウリッツ・ウェルネス。悲痛な叫び声が喉からほとばしる。
「確かに、水の民の元創王国時代の建造物への無許可での進入禁止、メルネスのレクサリア側への引き渡し、
水の民の戸籍謄本のレクサリア側への完全提示、水の民の知りうる遺跡船関連の全情報の開示…
この辺りはまだ分かります。ですが、自衛戦力を含めた水の民の一切の武装の禁止、自衛目的を含めた軍事行為の禁止、
個人・集団のいかんを問わぬ一切の武具の売買の禁止…
これではまるで、我々に座して死を待てとでもおっしゃっているようなものではないですか!
確かに我々水の民の里は結界を張り、その力で隠れ里になってはおりますが、
これでは万一遺跡船の魔物の群れが里の結界を破りでもしたら、我らに残された道は犬死のみですぞ!?」
シャーリィは、息を潜めた。
確かに、今日の夜はどうしても用があるとき以外は自室で待っていなさい、とミュゼットから言いつけられた。
だから、たった今トイレで用を足してきた後は、すぐに部屋に戻ろうと考えていた。
けれども、今この部屋から漏れ聞こえてくる声は、それを許しはしなかった。
「あまつさえ、そちらの提示した交易の関税に年ごとの貢納…どの税率も法外です!
この上でもし凶作の秋が来たら、我ら水の民からは何人の餓死者が出ることか……!!」
シャーリィは、その会話で理解した。
今、この部屋の向こう側で行われている会話の意味を。
すなわち、光跡翼発動未遂の一件を落着させるための、講和条約締結の会議。
けれども、シャーリィはその会話から察してしまう。
ドアの向こうの「講和条約締結会議」は、詰まるところはレクサリア側からの一方的な賠償請求に等しいものがあると。
ここに外交術に関して知識のある人間がいたなら、
その中の様子を見て講和条約締結に不可欠のあるものが欠けている事に気付けていただろう。
仲立ちとなる第三者の不在。すなわち、双方の意見の調停役の不在に、気付けていたはずである。
そして、マウリッツに切り返す老年女性の声は、ただただ淡々としていた。
「……『法外』、とおっしゃいましたね、ウェルネス族長。
ですが、昨今の世界情勢を鑑みれば、私はこれでも最大限譲歩した上での条約提示をしたつもりですのよ。
本国が族長の擁する水の民を庇護した上で、更に水の民に自治権まで認めているのですから、これは破格の好条件ですわ」
アッシュグレイの髪の毛をまとめ、穏やかな瞳の中に苛烈な意思をも宿す老女。
彼女こそ、七聖連合をまとめ上げる宗主国、源聖レクサリア皇国にて統治の杓を振るう国家元首、マダム・ミュゼット。
そして、今後水の民と陸の民の橋渡したることを切に望んだシャーリィが師事する、外交官の大先輩でもある。
蝋燭の光の揺れる室内、ミュゼットは静かに膝の上で皺の寄る両の手を組み、マウリッツを諭すように言う。
「もちろん、あなた方水の民には自衛戦力・自衛活動を含めた一切の軍事活動・軍事教練を自粛していただく以上、
こちらからも譲歩はございますわ。本国の常備軍のいくばくかをあなた方水の民に無償貸与し、
彼らに自衛活動を代行してもらいます。もちろん、私が直轄する、忠実かつ強力な部隊を貸与致しますわ。
それに、高い税率を求める以上、万一飢饉のような事態が発生すれば、こちらからも救護の取り計らいを致します。
無償での食料の提供を行う準備も整えておりますわ。
いかがでして? 世界の列強国の筆頭である我らレクサリアからの、全面的な庇護を受けた上で
水の民は自治態勢を維持できる。これほど好都合なことはなかなかないのではなくて?」
だが、この条約の真意も分からぬほど、マウリッツは愚劣ではない。
「…よろしい。そちらの真意は薄々気付いております。
要するに…我ら水の民を、滄我砲の弾丸として『養殖』する、というのがそちらの狙いなのでしょう?
猪という野の獣から、反逆の牙を抜き去り豚になれと…我ら水の民を家畜扱いするつもりなのでしょう?」
「…………」
かちゃり。ミュゼットはコースターの上に乗せられたティーカップを手に取る。
紅茶の芳香が鼻をくすぐる。マウリッツの声が耳を叩く。
「現に、元創王国時代の記述にも、陸の民が我ら水の民を滄我砲の弾丸として『養殖』していたという節が散見されます。
滄我砲がある限り、我ら水の民が再びそのような悲劇に見舞われないとも限りませぬ。
これほどの条項をこちらに提示するからには、こちらからも条項の追記を求めます」
マウリッツは、汗で額に張り付く金の髪を撫でながら、その両手を組む。
「――我ら水の民立ち会いの下での、滄我砲の破壊。この条件なくして、我ら水の民に安寧の日は訪れませぬ――」
******
今頃になって、なぜあの日のことを思い出したのだろう。
水底にてその金の髪を青白く光らせる少女は自問した。
掲げる両手は、彼女の僕(しもべ)たる海色の蝶と結ばれている。滄我の力にて編まれた、不可視の糸で。
シャーリィ・フェンネスは、瞳に濁った光を宿らせながら、テルクェスの声に耳を傾ける。
そしてその傍ら、あの日の事を思い出し、黙考にふけることしばし。
今まで舞わせたテルクェスの数は総勢4体。
C3の村に1体。C6の城に1体。E2の城に1体。G3の洞窟に1体。
C3の村――反応あり。
C6の城――今のところ反応なし。
E2の城――つい先刻、テルクェスを不自然にロスト。
G3の洞窟――今のところ反応なし。
これが、現時点でシャーリィが得た情報のすべて。
このテルクェスを4体同時に放ち、そしてそれらから情報を得る。
これを常人離れした神業のように思う手合いもあるかもしれない。
だが、もとよりシャーリィはメルネスとしての生を受けた。水の民の中でも、特に滄我の愛を多く受ける巫女として。
ゆえにテルクェスを4体同時に飛ばすことは、精神さえ集中させればさほど困難というわけでもない。
かつて猛りの滄我に心を奪われた時は、同時に7体のテルクェスを放ったことだってある。
おまけに、それで7人の人間を同時に束縛するという芸当だってやってのけたのだ。
今はメルネスとしての力を解放している状態ではないが、それに比べれば4体程度、どうということはない。
けれども。
その上でも足りない。
この事態に必要なのは、テルクェスの複数同時展開など足元にも及ばぬような無理無茶苦茶なのだ。
この極限の戦い、それでなくとも既にシャーリィは体力も精神力も損耗している。
この状況下、体力も精神力も共に、わずかばかりの浪費も許されない。
すなわち、シャーリィに課せられた条件は――
テルクェスを4体同時に放ち、それらから情報を得つつ、同時進行で体力と精神力を回復させる。
それでもシャーリィはその無茶苦茶を、通した。通してみせた。
シャーリィはぶくぶくと泡を吹き続ける自身の傷口を見ながら、無理を通した確信を抱く。
体力と精神力の回復のためにシャーリィが捧げた代償は、時間。
本来ならばあちこちに動き回れていたはずの時間を、休息にあててシャーリィは力を取り戻しつつある。
そして。
更にこの休息とテルクェスによる偵察を同時進行させるために彼女が払った代償。
己の肉体(からだ)。
ぴしり。
あの不快な音が、再び体内で響く。
シャーリィはそれを確認するかのように、まとうワンピースの胸元をめくりそれを眺めた。
青緑色の結晶は、既に左腕はおろか彼女の胴体の左半分を完全に覆い尽くしている。
エクスフィギュアの超常の再生力を、今の今まで引き出し続けていたその代償が、これ。
シャーリィは本来知りえぬはずのその病…永続天使性無機結晶症は、すでにここまで進行している。
シルヴァラントやテセアラの医師がこれを見たなら、病の脅威的な進行速度に度肝を抜かれていただろう。
本来この病は、数週間単位、数ヶ月単位といった比較的長い時間をかけて進行する。
発症してから半日も経たずしてここまでの進行を見せるなど、空前絶後の事態。
シャーリィはエクスフィギュアの再生力を得るために、魔の結晶に己の肉体を食わせることを選んだのだ。
(…冷たい……)
まだ人間としての形質を保つ右手で、シャーリィは結晶化した左手を撫でた。
この岩室の水の冷たさだけでは説明できない、まさに石の冷たさがその左手に宿っていた。
時間。そして己の肉体。
この二つを代償にして、シャーリィは休息と情報という二つの利を得たのである。
そして幸か不幸か、エクスフィアにその身を食わせたことで、得られた情報も一つ。
おそらく、首から上が結晶化するのは、この病が末期に陥ってから。
シャーリィの左半身の結晶化は、何故か肩や鎖骨の辺りまでで止まっている。結晶は、首をいまだ蝕んでいない。
もし結晶が周囲に存在する健全な肉体の部位を無差別に呑み込むなら、すでに首や顔まで食われているはず。
左足、胴体右半分、右手、右足。おそらくこれらが食われてから、首から上が結晶に呑まれる。
その光景を脳裏に思い描き、シャーリィはぞくりと身を震わせた。
(…怖い……けれど………)
そんなものなどに、怯えている暇は彼女にはない。
自分の体が結晶に食われることなど、この「バトル・ロワイアル」に敗れる事に比べれば些事もいいところ。
両手両足を失おうと。
目玉を抉られ耳を潰されようと。
肌が焼かれ舌を斬られ鼻を削ぎ落とされようと。
そんなことなど、この戦いに負けて兄に二度と会えなくなることに比べれば、下らぬ瑣末事。
確かに、恐怖はある。自らの体が、人ならざる鉱物の体になるという恐怖は。
だが、この結晶は己の身を食わせれば、代償に力をくれる。
肉体の超再生力、エクスフィギュアの剛腕、テルクェスを弾丸として撃ち放つ力。
どの力も、この島の戦いを生き延びるのに不可欠な力。
その力のためになら、命の九分九厘までをこの結晶に食わせる。
全ての敵を屠り去り、血の池に沈めることさえ出来たなら、自らの命の最後の一かけらさえ残ればいい。
それが、シャーリィが下した結論。
この島では――
否。人の生きる社会は、力が正義だから。正義を語るために、力が必要だから。
(だからこそ、ミュゼットさんもあんなことを、あの日にマウリッツさんに言ったんだよね?)
******
交渉は、平行線を辿っていた。
「水の民の代表として、このままこの条項は呑めません! 滄我砲の破壊だけは、何としてでも譲るわけには…!」
「それはこちらとしても呑むわけには参りませんわ。
この遺跡船は、元創王国時代の生きた化石とでも言うべき船。
学術的にも軍事的にも、その価値は計り知れないと私の部下のウィル・レイナードも言っております。
よしんば実際に破壊作業を行うにしても、あれほどの巨大な施設を破壊するのであれば、
本国から工兵隊を呼び寄せたり工具を集めたりといった、かなり大掛かりな計画になりますわ。
そもそもあれほど巨大な施設…破壊するには一体破城鎚がいくつ必要になるのか…」
「ならば私の方も、部下を動員して遺跡船の施設を調査させます!
光跡翼の一件で私の腹心であるワルター・デルクェスは戦死しましたが、それでもまだ私には多くの部下がおります!
私が部下を使わせて遺跡船を調査させるのと並行して、そちらも滄我砲の破壊計画を立ち上げていただきたい!
無論、前項の『水の民の元創王国時代の建造物への無許可での進入禁止』のこともありますから、許可を頂いた上で!
我々水の民の調査部隊にそちらの部隊を同行させてくださっても結構ですぞ!
これならば、滄我砲の調査が終わり次第直ちに破壊作業に移っていただける!」
「その考えは早計ではなくて?
この遺跡船には、現在の我々の技術水準では解明できない仕掛けも多数存在することは、周知の事実です。
少なくとも、我々がこの遺跡船を完全に再現できるようになるまでは、遺跡船に学術的価値は残り続けますわよ」
「しかし…!」
かちゃり。再びミュゼットのティーカップが、室内に無機質な音を響かせる。
「どうしても、そちらが滄我砲の破壊を要求されるのであれば、そうですわね――」
紅茶で喉を潤したミュゼットの目元には、いつの間にやら深い影が落ちていた。
結ばれた口元は真一文字。俯くミュゼットは、己の太ももの上で両手を組む。
そしてその口が開かれた。
マウリッツは、稲妻に打たれたかのごとくに、恐怖と驚愕のない交ぜになった表情を浮かべ、そのまま凍りついた。
「――今回の光跡翼の一件の真相を、こちらも全世界に公表させていただく。
この条件を呑むのなら、考えても構いませんわ」
事情もろくに知らぬ者が聞けば、ミュゼットの発言を条約締結の交渉における譲歩と勘違いしたかも知れない。
だが、この言葉に込められた言外の意図は、それとは真逆。
鞭と飴の二択で言うなら、前者。
完全な、脅迫。
「……あなた方水の民は、先日猛りの滄我による教唆の下、メルネスを筆頭に光跡翼の発動を企てた。
光跡翼を発動させることがいかなる意味を持つか、あなた達水の民は十分理解した上で。
たとえ猛りの滄我の干渉により精神が錯乱していたとは言っても、
それを理由に責任を回避するには、企てた事態はあまりにも重大ですわよ」
「…………」
マウリッツは、ただただ沈黙していた。
「光跡翼が発動していたらどうなっていたか――ウィル・レイナードは今回の一件を仔細に報告してくれましたわ。
光跡翼の発動に伴う大沈下、つまり全世界の国土沈没でしたわね?
つまりあなた方水の民は、全世界の国家の潰滅を試みたわけです。事実上の、全世界への宣戦布告ですわね」
「…………」
マウリッツはもはや、とぼける事さえ許されない。
「そして現在、光跡翼及びメルネスが共に健在である以上、全世界の国家潰滅の脅威は消えていない。
そして、水の民が1人でも生き残っていれば、光跡翼という世界を破滅させる引き金はいつでも引かれる可能性がある。
この事実が発表されれば、水の民はどうなるか分かりますわね、マウリッツ・ウェルネス族長?」
「…! それだけは!!」
「全世界で、魔女狩りならぬ水の民狩りの嵐が吹き荒れることは想像に難くありませんわね。
そしてその事実を発表したなら、水の民に友好的な我々レクサリアもまた、
国際世論の圧力を受けて、水の民狩りを行わないわけには行かなくなりますわ。
全世界に散在する水の民を狩り尽くすにはどれほどの時間がかかるか分かりませんが、
遅かれ早かれあなた達水の民は殲滅(け)されることになりますのよ」
「…ッ!!」
「その際水の民の族長であるあなたとメルネスは、全世界を滅亡の危機に瀕させた凶悪な蛮族の首領として、
世界中の国家に引き回された上で、最後は衆人環視の中公開処刑……これが一番ありえそうな筋書きですわね。
まあ、メルネスにはセネル君を初めとする多くの仲間がいる以上、下手に公開処刑など行って彼らの反感を買えば、
最悪私を初めとするレクサリアの重鎮が、セネル君達に暗殺されるという事態にもなりかねないから、
メルネスには『事故死』してもらうことになるでしょうけれども。
さもなくばメルネス本人に、自ら首を断頭台(ギロチン)に差し出す決心を作ってもらうように諭して、
セネル君達を説得・懐柔させるという選択肢もありますわね」
「…何と悪辣な!」
「悪辣なのはどちらかしら? 全世界の国家潰滅を企んだ、世界の敵たる水の民の首魁…マウリッツ・ウェルネス」
マダム・ミュゼットは、言い切った。
マウリッツ・ウェルネスは、苦渋の表情を浮かべた。
一拍置いて。
ミュゼットは次の言葉を、マウリッツに投げかける。事実上の、最後通告。
「あなたには選択権がありますわ。マウリッツ・ウェルネス族長。
一つは水の民を代表して、我々源聖レクサリア皇国の滅び去るその日まで続く忠誠と恭順の意を示した上で、
光跡翼の件の真相を永遠に闇に葬り、レクサリアの保護の下生きるか……」
マウリッツの頬に、雫が伝う。塩辛そうな汗が、零れ落ちる。
「…はたまた、この一件の真相を表沙汰にした上で、
あなた方全ての水の民の命を、我ら七聖連合の築く平和なる世界の礎(いしずえ)に差し出して頂くか。
そのどちらかを選び取る権利が」
すなわち。
光跡翼による世界滅亡を企てたその罪の大赦を得るか。
それともレクサリアの正義の元、光跡翼発動未遂の大罪で裁かれたいか。
唇が、わなわなと震える。血色を失い、紫色になる。
マウリッツは、本来の齢に加え、更に何十歳も年をとったかのごとく、憔悴する。
そして、マウリッツに許された選択は、ただ一つきり。
がくりとマウリッツはうなだれ、辛うじて動くその口で、その旨を伝える。
「そちらの提示した条項を、全面的に承諾致します……」
マウリッツは、言うが早いかそのまま机にくずおれた。
「……ご賢明な判断、感謝いたしますわ」
ミュゼットは一つ、安堵したかのように息を吐いた。
******
両手に抱いた鉄塊をがしゃりと鳴らしながら、1人の少女は川面から顔をのぞかせた。
肺に満たした水を吐き出し、空気を呼吸する準備を整える。
現在時刻、午前9時を若干回ったところか。
シャーリィ・フェンネスは、ブレス系爪術の呪文を口ずさみながら、西の空に面(おもて)を向けた。
『ファイアボール』で発生させた火球が、彼女の周りをぐるぐると回りながら、その熱で服を乾かしてゆく。
紫色の熱が、たちまち着衣から水分を奪い去る。けれども、彼女の目の焦点はそれにはなかった。
(西に行くわ)
それが、彼女の選択。
シャーリィは右手を掲げながら、西の地平線を睨みつける。
そのうちに、右手に止まるは青き蝶。G3とC6に放っていたテルクェス。
蝶はたちまち身をほぐれさせ、彼女の右手に吸い込まれる。
けれども、西の2地点から反応があったのならもう他の箇所の反応はどうでもいい。
二箇所当たりがあったのなら、それで十分。
シャーリィはテルクェスを飛ばしながら、ひたすらにそのわけを推理していた。
何故、ここに至ってミクトランが島を分断するような暴挙に出たのか。
もちろん通常の戦いにおいてなら、敵勢力を分断してそれを各個撃破するのは極めて有効な戦法。
だが、異常な戦いの集大成とでも言うべきこの「バトル・ロワイアル」では、話が違う。
島を二つに分断したのなら、当然参加者は別れ別れになる危険が発生する。
最悪の場合、西に1人、東に1人ずつ分かれてしまったなら、その時点でこの戦いは終焉を迎える。
どちらかが自殺や事故などで死ななければ、あとは両者に残された道は例の「24時間ルール」による緩慢な死のみ。
ミクトランがじわじわと迫り来る死の恐怖に怯える参加者を見て、嗜虐心を満たしたいのであれば話は別だが、
そんな嗜虐心を満たしたいだけならば、この「バトル・ロワイアル」という舞台はあまりにも大仰過ぎる。
この殺戮劇自体が、何らかの大規模なブレス系爪術のための、生け贄の儀式なのか。
はたまたこの戦いは、ミクトランが有能な腹心を見つけるために参加者に課した「選抜試験」だとでも言うのか。
ミクトランの真意はまるで推理できないが、それでも参加者に殺し合いを続けてもらうのがミクトランの望みなら、
本来島の分断はあってはならない致命的な失態。
だとするなら、ミクトランがこんなことをする理由は一つしかない。
(今、この島の生き残りはどちらかに集結している、って可能性ね)
それならば、島の東西分断は致命的な失態どころか、非の打ち所のない賢明かつ当然の判断となる。
では、現在参加者が東西どちらかに偏在しているという仮定が正しいなら…
もちろん、参加者が集結しているのは西側で間違いない。
東側に飛ばしたテルクェスには反応はない。そして、西側のC3にてテルクェスの反応があった。
この事実から導き出される当然の帰結である。
そして、島の西側に参加者が集結しているというのであれば、今朝のミクトランのあの言葉も俄然符合してくる。
『諸君等が居るべき戦場は‘そちら’だ‘あちら’ではない』
この言葉は、おそらくは西側に居るであろう残り大多数の参加者に向けられた言葉である。
ミクトランは、参加者同士の殺し合いを望んでいる。
この仮定および既成事実をおけば……
おそらくこの言葉は、ミクトランが自身に直々に下した天声。
ミクトランは己にのみ分かる形で、己の殺人行為を後押ししてくれているのだ。
だからこそ、あえてここから一番近い東西の行き来の要点、D4を正午の禁止エリアに指定したのだ。
もしF5とD4を禁止エリアに指定する時刻が逆だったなら、かなりの強行軍を強いられていた。
ミクトランはシャーリィが休息する時間まで計算に入れて、禁止エリアの指定順を定めたのだ。
つまりミクトランのあの言葉は、
『今からシャーリィが貴様らを殺しに行くからそこで待っていろ。そしてシャーリィ、お前はそこで存分に死を撒き散らせ』
というニュアンスを、言外に込めて放たれたのだろう。
主催者までもが己に期待を寄せてくれているならば、やらないわけにはいくまい。
これから西に向かう。そこで、他の参加者を殺して殺して殺しまくる。
そして、この戦いに生き残り、愛しい兄と共に遺跡船に帰るのだ。
そのためには、まずどうするか。
一応、今後の進路は決めてある。
D4を越えたなら、砂漠沿いにE3を南下し、そのままE2を偵察。
E2の生存者を殺したら今度は北上してC3の生存者を殺す。
それでもまだ生き残っている奴がいたら、またテルクェスを放って最後の1人まで見つけ出して、殺し尽くす。
(これで決まり! これなら進む道のりにもあんまり無駄はないし、最高ね!)
シャーリィは一つ手を打ち、かわいらしく微笑む。その場で軽くスキップを踏んだ拍子に、腰布がふわりと宙を待った。
それに、E3には、どうしても調べておきたい所がある。
ここからE2にテルクェスを飛ばす際、その航路上で突然、テルクェスが異常な挙動を見せた箇所。
おそらく、E2の城東部の丘陵地帯。
テルクェスはもちろん、シャーリィ自身の操作のもとシャーリィ望んだ箇所に行く。
だがE3の丘陵地帯では、危うく操作を失いかねないほどに、テルクェスが迷走した。
おそらく、E3の丘陵地帯には何かある。滄我の力の異常なほどの乱れを感じた。
ひょっとしたら、それはテルクェスの性質を知っている誰かが、テルクェスの性質を逆手に取った「釣り」かも知れない。
例えば、今生きている連中では、ミトスあたりがその「釣り」をやっているかもしれない。
(あのクソガ…じゃなくて、あの子にはわたしのテルクェスの性質、初めて会ったときに少し教えちゃったわけだしね。
きっとあの子も、今頃お姉さんを殺されて、優勝するために殺しまくっているはずだし)
兄を殺された妹。姉を殺された弟。
同情やシンパシーとは、まるでかけ離れた、対極の感情。
けれども、シャーリィはそれで、真実を言い当てていた。ミトスの今の目指す先を。ミトスの今の心のありようを。
見る者によれば、彼らをまるで鏡映しの存在のようにさえ感じていたかもしれない。
聖なる焔の名を冠した青年。彼に真の名を奪われた、聖なる焔の灰たる青年。
かの2人の赤髪の青年のように。
それでも、シャーリィは同情などしない。する意志も、出来る余裕もない。
戦う。蹴落とす。踏みにじる。
E3に罠が待っていたとしても、その罠を、仕掛け人ごと力ずくで叩き潰せばいい。
死体の山の上に立つことが出来るのはただ1人のみ。
誰がどんなに大切な人のために戦っているのかは分からないけれども。
人の命がどれだけ大切なものかは知っているけれども。
それでも。
(お兄ちゃんの命に比べたら、他の人の命の価値なんて、ゴミ屑同然よ)
だから、戦うのだ。
蚤から見れば、猫はとてつもなく巨大な存在に見えるだろう。
けれども猫から見れば、山はとてつもなく巨大な存在に見えるだろう。
それと同じこと。兄以外の人間の命など、そもそも大切さの次元が違うのだから。
戦う。そして勝つ。遺跡船に、帰る。
(けれども…みんなにはどう説明すればいいのかしら?)
モーゼスとジェイはもう死んでいるけれども、クロエやノーマ達には何と事情を説明すればいいだろう。
モーゼスとジェイは自分の手で殺してはいないけれど、自分がこの島で行った所業をとがめられるだろうか。
もしとがめられたら…
(まあ、いいかな。その時はクロエもノーマもウィルも、みんな殺しちゃえば)
いっそのこと、遺跡船の住人と皆殺しにした上で光跡翼を発動させて、
今度こそ大沈下で世界を滅ぼしてしまうのもいいかも知れない。
そうすれば、世界は兄と2人きりの楽園になる。もちろん、他の目障りな水の民も虱潰しにみんな殺す。
兄と2人きりの世界は静寂で平和で、きっと素晴らしい桃源郷となるだろう。
他の人間なんて、みんな心は汚いんだから。
結局のところ、陸の民も水の民も、みんな自分のために生きて自分のために動いているんだから。
だから、正義なんて簡単に決まる。
力。
権力。財力。知力。種類は何でもいい。どんな形であれ、最終的には力を持つ者のみが正義を語れるのだから。
そして、この島において最も有効かつ汎用性が高い力。
暴力。
いつの間にやら、『ファイアボール』は消えていた。
服は、既に完全に乾いている。
こきりこきりと、シャーリィは指を鳴らした。
次に死の闇に沈むべきは、誰か。
(そんなの、誰でもいいけどね)
どの道、他の14人は死んでもらうわけなのだから。その順番が遅いか早いか。違いは、それだけ。
アーツ系爪術。
ブレス系爪術。
メガグランチャーによる小型滄我砲。
ウージーから放たれる、テルクェスの弾幕。
そして、エクスフィアに己の身を食わせることで引き出される、エクスフィギュアの怪力と再生力。
これら全ての武器を振るい、目指すは優勝ただ一点。
知力の限りを尽くして、聖コルネア王国の上級学校入学を果たしたノーマ・ビアッティのように。
権謀術数の限りを尽くして、レクサリアを七聖連合の宗主国に登り詰めさせたミュゼットのように。
暴力の限りを尽くして、これからシャーリィは優勝を目指すのだ。
兄に逢いに行くのだ。
ぶちぶち。
ぶちぶち。
シャーリィの念に応えるように、魔の結晶は彼女の肉体を蝕む。
命の九分九厘をエクスフィアに捧げてでも、兄の愛しい姿を見るために。
シャーリィは、西に向けて駆け出した。
ぶちぶち。
ぶちぶち。
輝石は、彼女の記憶も喰らっていくかのように。
彼女は忘れようとしている。
あの夜の、最後の記憶を。
マダム・ミュゼットがマウリッツを脅迫した、鉄面皮の奥底の素顔を。
マダム・ミュゼットの苦渋を。
******
「おいでなさい、シャーリィ。そこにいるのでしょう?」
会談の後。
マウリッツがフェロモン・ボンバーズのカーチスとイザベラに、ウェルテス外のダクトまで送られた後。
ただただ立ちすくんでいただけのシャーリィに、突然の声。
幸いマウリッツは、シャーリィのいた反対側のドアを潜り、退出していった。だから、今まで誰にも気付かれなかった。
それなのに。
シャーリィは、びくりと肩を震わせた。
どうしよう。立ち聞きしていたことが分かったら、きっと怒られる程度では済まされない。
さっきは、「『事故死』してもらう」なんて言葉も飛んでいた。
もしかして、このままカーチスやイザベラに…!
恐怖のあまり、シャーリィは顔面が蒼白になる。
普段は優しかったミュゼットさんが、実はこんなに怖い人だったなんて。
怖い。ヴァーツラフに捕まえられたあの時より怖い。
怖い。怖い。怖い。
しかと噛み合わない奥歯が、がちがちと鳴る。
このまま、殺されるのか。
せっかく、お兄ちゃんに逢えたのに……!
けれども。
「…大丈夫よ、怯えなくても」
その声は、先ほどまでマウリッツを恫喝していたあの女性と同一のものとは、まるで思えないほどに穏やかに響いた。
「ちょうど今日、本土から旬の紅茶が届いたのよ。あなたの分もあるから、怖がらずにおいでなさい」
「でも……!」
「ならね、シャーリィ…」
こほん、とミュゼットは一つ咳払い。
そして次の言葉は紡がれる。
「…シロギクの花言葉は何?」
「!」
この言葉。この問いかけ。
間違いない。
このウェルテスにて園芸とティータイムを愛する穏やかな老女、マダム・ミュゼットのそれ。
シャーリィは、そしてその問いに過たず答えてみせる。
「ええと…『あなたを支える』!」
「そう、正解よ」
柔らかで上品な笑い声が、ミュゼットの口から漏れる。
それにつられて、またシャーリィも同じく。
「それじゃあミュゼットさん…シロツメクサの花言葉は?」
シャーリィは、ひょこりとそこに顔を出す。
いつもと変わらぬ、ミュゼットの家。いつもと変わらぬ、高級な茶器。
そして、いつもと変わらぬミュゼットの姿。
ミュゼットは穏やかに目を細め、シャーリィの問いに答えてみせる。
「あら、簡単な問題なのね。答えは『あなたを信頼します』…そうでしょう?」
「正解!」
シャーリィは胸の前で小さく拍手をしながら、ミュゼットのもとに駆け寄る。
ミュゼットの近くにあった椅子を引き、そこに腰掛ける。
先ほどまで机の上に広がっていた書類の束は、いつの間にやら既に小さく束ねられ、所在なさげに机の上に佇んでいた。
ミュゼットが傍らの棚から、もう一つ茶器を持ち出す。ここに来てから、シャーリィが愛用しているものを。
ミュゼットがポットから、飴色に染まった湯を注ぐ。かぐわしい香りと共に、湯気が部屋の中に溶け込む。
注がれた紅茶は、シャーリィの目の前に。
素朴ながらに優雅で、春風の匂いさえ伴いそうな方向が、シャーリィの鼻を心地よくくすぐる。
けれども、シャーリィはただ所在なげに、茶器の取っ手を弄ぶのみ。
上目遣いで、どこか申し訳なさそうな雰囲気を漂わせながら、ミュゼットの方に視線をさ迷わせていた。
沈黙。
ミュゼットは、一口自身の紅茶を口に含む。口内でそれを転がすようにして香りをほぐれさせ、嚥下。
その残り香を静かに味わいながら、ミュゼットはようやくのことで口を開いてみせた。
「……まずはじめに、あなたには謝らなければならないわね…ごめんなさい」
右手の人差し指と中指をかけた茶器の中、静かに揺れる紅茶に、ミュゼットは目を落とした。
「本当は、私もこんな脅迫まがいのことはしたくはないの。
確かに滄我砲を残しておけば、マウリッツさんが自分の民をいつ弾丸にされるか分からないと、不安がるのも無理はないわ」
せっかく淹れてもらった紅茶だが、シャーリィはそれを飲む気にはなれなかった。
「私だって、あんな忌々しい兵器を残しておくことがどれだけ危険か、重々理解はしているわ。
先日の対クルザンド戦役で放たれた滄我砲は、ガドリアの空割山を粉微塵に破壊したことは覚えているわね?
その際の余波で、ガドリアは人的、物的にも甚大な被害を受けた。
その犯人がクルザンドのヴァーツラフであったことは、不幸中の幸いかしら。
あの件はクルザンドのヴァーツラフ派が主犯格だったことから、非難の矛先はクルザンドに向いてくれた。
幸い、あなたたち水の民は非難の矢面に立たされずに済んだわけね」
シャーリィは、ミュゼットの言葉を複雑な気持ちで聞き入れていた。
「けれども、今度はガドリアの左翼タカ派が、戦勝国としての権利を主張し、遺跡船の所有権を求めた。
…あなたのお友達の…フェニモールちゃんだったかしら? 彼女がガドリアの騎士に殺された、あの一件ね」
こくりと、シャーリィは頷いた。
あの時の憎しみに満ちた心は、今思い出しても怖気が走る。
それが原因で、己は猛りの滄我につけ込まれたのだ。
「…遺跡船発見の報を受けた15年前、いち早く私はこの島に調査隊を派遣した。
私は当初、この島を自国のものとする気はなかったし、一時期は元創王国時代の英知の賜物として、
陸の民も水の民もなく、人類の共有財産に出来たら、とさえ思ったの。
けれども、この遺跡船に搭載された滄我砲に光跡翼…これまでの事態を受けて、私は考え方を変えたのよ」
「だから…」
だから、普段のミュゼットからすればありえないほどの、恐ろしい脅迫をマウリッツにやってのけたのか。
シャーリィは、この話を始めたミュゼットの真意を、少しずつながら理解し始めていた。
再びミュゼットは、紅茶を一口飲み下した。静かに、陶磁器の音が部屋に響いた。
「強過ぎる力は人を狂わせる。これまでのクルザンドやガドリアの行いを見てきたあなたなら、それは分かるわね?
だからこそ、私はあえてこんなことをしているの。
もしこの遺跡船が、クルザンドのような野心的な国家の手中に収まったら、大変なことが起こるわ」
世界の軍事バランスの崩壊。それに次いで起こる、複数国家を交えた大戦争。
世界の秩序と平和は、たちまちの内に崩壊する。吹き荒れる血と悲嘆の嵐が、世界にあまねく災いをもたらす。
「だから、遺跡船はレクサリアが管理すると…そう決めたわけなんですね?」
「出来ることなら、遺跡船を『レクサリアと親しいけれども、どの国家にも属さない自治区』にすることが、
私の目標なのだけれどもね。遺跡船という大きな波紋を投げかけられた現在、
遺跡船を葬らずに世界の体制を維持するなら、世界有数の強国であるレクサリアが管理するほかないわ。
現在のところ、世界はレクサリアを基軸とした七聖連合という一極を屋台骨として成り立っている。
滄我砲という戦略級の大量破壊兵器を他の国が持てば、この屋台骨は崩壊するわ」
「…でもそれじゃあ……」
シャーリィは、まだ幼くも純粋な見習い外交官なりに、ミュゼットに反駁を試みる。
「どうしてミュゼットさんは、滄我砲や光跡翼だけを破壊するっていう選択をしなかったんですか?
もし遺跡船に搭載された兵器が、世界に戦争の火種を撒き散らしかけないって言うなら、
それだけを破壊すればいいと思うのに…」
その言葉を受けたミュゼットは、シャーリィの海色の瞳を覗き込む。
そして次の瞬間、表情を悲しげに崩して申し訳程度の笑みを顔に作ってみせた。
「そうね。確かに、それが一番いい選択肢ね。
でも、私がその選択肢を取らなかった理由はいくつかあるの。
一つ目は、この遺跡船の構造の問題よ。
私も博物学者のウィルや、考古学に明るいノーマさんからよく話を聞いたのだけれども、
この遺跡船には、現在の私達の知識や技術では解明できないような、不思議な仕組みがたくさんあるわ。
だからちゃんとした調査もなしに、下手に滄我砲や光跡翼の破壊作業を行えば、
ひょっとしたら誤って遺跡船にとって重要な機関を傷付けてしまうかも知れない。
ヴァーツラフは遺跡船の艦橋で、滄我砲を発射するという操作には成功していたけれど、
だからと言ってそれは遺跡船の仕組みや原理を完全に理解してやっていたわけではなかったようなの。
だから、下手に遺跡船の主要な設備に手は付けにくいのよ」
シャーリィは、両手で自分の茶器を包むようにして持ち、紅茶を口に含む。
ミュゼットは、そのうちにも話を続けていく。
「二つ目の理由。それはね、さっきも話していたけれども、手間や費用の問題ね。
遺跡船中を旅して回ったあなたなら良く分かると思うけど、滄我砲や光跡翼と言った施設は、あまりにも巨大だわ。
もしあれを完全に破壊しようと思ったら、それこそ本格的な城攻めに匹敵するほどの人員や道具が必要になる。
僻地であるこの地に対して、本国から船団を寄越してもらうなら、破壊工作隊を用意するだけでも一苦労。
おまけに、この遺跡船の中枢部は、まるで正体の分からない材質で出来ている。
これを破壊するとなると、その手間は生半可な城壁を打ち壊す以上に骨が折れる作業になるわね。
そして3つ目の理由は…」
ミュゼットは、言いかけて沈黙。
言うべきか、言わざるべきか。
逡巡の沈黙が、そこに降りる。
はらりと散るは、鉢植えのバラ。甘く麗しい香りと共に、部屋に舞う。
バラの花びら、ひとひら。
床に落ちたとき、ミュゼットは静かに口を開いた。
「…とても汚い大人の打算が理由よ。
この遺跡船には、学術的にも軍事的にも極めて重要な価値があると、先ほど私が言っていたのは聞こえていたかしら?」
「…はい」
シャーリィの瞳の奥で、ゆらゆらと想いが揺れる。
俯く。視界に、己の金髪がほぐれ落ちる。
ミュゼットの紅茶の湯気は、もういつの間にか消えていた。
「この遺跡船に用いられている技術は、現存するどの国家のそれよりも優れているわ。
私はね、近々本土の学士達をこの遺跡船に呼び、遺跡船の技術を解明する計画を立てているの。
この遺跡船から再現され、また生み出される技術はきっと、私達をより幸せにしてくれると思うわ」
「それが…どうして大人の汚い打算なんですか?」
「それはね、きっと再現されるであろう技術が、どれも人を幸せにするためのものばかりとは限らないからよ。
おそらく、月日が経てば私達は滄我砲や、ひょっとしたら光跡翼さえ再現出来るようになるかもしれないわ」
「!!」
シャーリィの喉が、吸気で鳴った。
ミュゼットの伝えた事実…
それは、無知ではあるけれども決して愚劣ではないシャーリィの脳裏に、その可能性を描かしめていた。
遺跡船の技術が解明されれば、滄我砲や光跡翼を量産出来る日が来るかもしれない。
もしも滄我砲が量産され、それが国家間の戦争に用いられるようになったなら、それはどれほどの悲劇と惨劇を生むだろう。
冗談抜きに、水の民が滄我砲の弾丸として「養殖」される日が来てしまうかも知れない。
もし、あれが何十発も乱れ飛ぶような事態にでもなれば。その破壊力は国家一つを丸ごと灰燼に帰するに足るだろう。
「ミュゼットさんは…レクサリア以外の全ての国を、滄我砲で滅ぼしたいんですか?」
「もちろん、そんなことはないわ」
目を細め、首を縦に振るミュゼットの声に、嘘の色彩はなかった。
「でもね、だからと言って滄我砲や光跡翼の技術は、捨て去ってしまうにはあまりにも惜しいものなのよ。
滄我砲や光跡翼の技術は、ないよりはあった方がいいに決まっているわ。
将来、滄我砲や光跡翼を用いなければならないほどの一大事件が、絶対に起きないとは言い切れないわ。
もしその時にその技術がなかったなら…あの時その技術を培っておけば、という後悔は、絶対に許されない」
「…………」
「私もレクサリアの聖皇として、そして世界の七聖連合体制を支える柱の一つとして、
そこまで見越して行動しなければならないの。
現在、そして未来において、世界の多くの人々に安寧のうちに暮らしてもらうためには…
将来見越される危機をしっかり見据えて、その危機の芽を可能な限り摘み取らねばならない。
もちろん滄我砲の技術を拾うことにより受け入れねばならない危険にだって、目を向けなければならないのだけれど。
それに可能ならば、もちろん水の民の命を弾丸にしなければならないような、非人道的な仕組みは改良したいわね。
……分かったかしら、シャーリィ? これが、汚い大人の打算よ」
「…………」
ただシャーリィは黙していた。
「そもそもね、シャーリィ。
あなたの選んだ外交官の道は、厳しい道よ。
自分の属する国や民族にとって譲れない一線を保ち、理想を言えば双方がなるべく最小限の損害を被りあいながら、
最大限に利益を引き出される道を見出さなければならない。
人間誰だって、富や利益は多く欲しいもの。その外交の際に、むき出しの欲望や人間の闇を見る覚悟も必要よ。
私もレクサリアの政(まつりごと)を行う時、見せつけられた人間のあまりの汚さに、何度も吐き気のする思いをしたわ。
たとえばね…」
今度は、ミュゼットが俯き語る番となった。
その目は、ただただ悲しみに満ちて。シャーリィに対する謝意をその瞳に込めて。
「私はこの光跡翼の一件の後、あなたが自ら外交官となり、水の民と陸の民の橋渡しとなりたいと志願してきた時、
心の底から嬉しかったわ。
だけれど、政治の文書の上では、あなたのその純粋な誠意から出た行動も、
『メルネスの身柄を拘束した』と書かなければ誰も信じてはくれないわ。
もちろん、あなたの誠意をそんな風に書き連ねるなんて、あなたに対するとてつもない侮辱だとは分かっている」
最後の紅茶が、ミュゼットの喉に滑り落ちた。
ことりと音を立て、茶器がコースターの上に鎮座する。
「もちろん、そんな汚さから目を逸らしたところで、誰もあなたのことを臆病者呼ばわりする権利はないわ。
外交官や貴族などといった高官は、けれどもそれを真正面から見据える覚悟がなければ務まらない。
そして、人間の闇の側面こそが人間の真の姿だと勘違いして、自らもその闇に染まることは許されない。
どんな光をも遮るような絶望的な闇の中でも、自ら光を放ち続ける意志が必要よ。
全ての想いを力に変えて、未来を見る力が」
ミュゼットは、明かりに照らされるシャーリィの顔を、しかと見つめ、そして問う。
「少し厳しい言い方になるけれども、あなたにもその覚悟が必要となるわ」
******
そう、その覚悟はある。
叩き潰す覚悟は。
捻じ伏せる覚悟は。
踏みにじり蹴落とし打ち払い突き進む覚悟は。
邪魔者を、全員ぶち殺す覚悟は。
野を駆けるシャーリィは、自らの力を試すかのごとくに、拳を一つ握り締めた。
力なき者に正義を語る口はない。
力ある者のみが、正義を語る権利を持つ。
ゆえに、力ある者こそ正義の主唱者。
力こそが、正義。
(そうでしょう、ミュゼットさん?)
ミュゼットの悲しみと苦しみを、理解する力を失いつつあるシャーリィは、心の中聞く。
(力が、正義なんでしょ?)
何だかんだ言ってもミュゼットさんも、国際平和だの世界秩序だの御託をほざいておきながら……
結局は遺跡船に搭載された滄我砲の、圧倒的な力に魅了されただけでしょ?
光跡翼とその発動のキーである私を飼い慣らして、敵対する国を脅迫する外交カードが欲しかっただけでしょ?
世界の全ての国をレクサリアの属国にして、従わない国は消すつもりだったんでしょ?
だって、そうよね?
それ以外、レクサリアの聖皇であるミュゼットさんが、遺跡船にいる理由が、ないもの。
どうせ耳に心地いい理想論を並べ立てたって、それは全部、周りの人間に対して善人ぶるための腹芸よね?
自分のどす黒い欲望を隠すための、偽善っていう仮面でしょ?
人間の闇の側面こそが人間の真の姿だと勘違い?
ミュゼットさんも、心にもないことをしゃあしゃあと言ってのけたわね。
闇の側面こそ……欲望むき出しの側面こそが、人間の真の姿よ。
ミュゼットさんは、心の中ではそう思っていたに違いないわ。
だって、そうでしょう? この島での戦いでは、人間は誰だって欲望むき出しなんだから。
誰かを蹴落としてでも生き延びたい。
誰かを殺してでも、自分にとって大切な誰かを守りたい。
誰かを殺したい。与えられた死神との社交ダンスの機会を、ただ楽しみたい。
ほら、欲望が渦巻いてる。
『殺したくない。殺したくないし、生きたい』?
そんな事を口にする偽善者は、何様のつもりなのかしら。
まったく、反吐が出るような考え。
人を殺したくないなら、さっさと自殺して終わらせればいいのに。
生きたいなら、容赦なく他の参加者を殺せばいいのに。
そいつ自身が誰も殺していなくても、例の24時間ルールがある。
ゲーム開始から24時間など遥かに過ぎている現時点でこの島で生きている以上、どう弁護してもその事実は変わらない。
偽善者どもの立つその足は、誰かの死体を踏みしめていることに。
誰かの死体を踏みしめて生きている事実に目を反らして、綺麗事をぬかすような奴らは最悪だ。
それなら、自らの行いをあっさり認めた方が、どれほど潔いか。
(わたしは、目を反らさない。わたしは、他の人間の命を踏みにじってでも――)
この島では、どんな考えや信念や欲望だって正義になる。
自分自身の掲げる理(ことわり)を正義にしたいなら、必要なものはただ一つ。
力。特に、その中でも暴力が最高。
わたしは、お兄ちゃんにまた逢いたい。
わたしは、お兄ちゃんの命こそ、全世界とそこに生きる全ての命を合わせた命よりも重い。
その信念を、わたしは正義として掲げる。
そのために、わたしは殺す。
ぶち殺す。わたし以外の、全ての参加者を。
昨日のハロルドみたいに、逆らう奴は皆殺しにしてゴミのように踏み潰す。
肉を裂き。
骨を砕き。
臓物を引きずり出し。
脳天を爆裂させ、みんな汚い花火にしてやる。
他の人間なんてお兄ちゃんに比べれば、みんなただの生きてる血と肉と骨の塊だ。
わたしのその正義を貫くためには、まだまだ力が足りないけど……
ううん、力はどれだけあっても足りない。
ここには、滄我砲もない。光跡翼もない。
滄我の力はあっても、猛りの滄我と交信できない以上、メルネスとしての力も借り受けられない。
力が欲しい。
わたしの正義を貫く力が。
お兄ちゃんの命を拾い上げる力が。
他の誰かの正義を否定する力が。
残る14人を葬る力が。
わたしは今、満身創痍。
だから、他の参加者を殺すためなら。
自分の正義を貫くためなら。
どんな卑劣な手だって使う。勝てば官軍。
わたしの足は、ひたすらに地面を蹴る。
西に向かうため。
わたしの正義を貫くため。
誰かの正義を否定するため。
待っててね、お兄ちゃん――。
今日は頬に当たる風が、すごく気持ちいいわ。
******
死の芳香に満ちた、闇の回廊の奥底で。
冥府の澱みの最深部に、彼らが直面する直前のこと。
片腕を間に合わせの包帯で巻いて固定した牛人間は、ひたすらにその動向をうかがっていた。
洞窟の中を舞う蝶。地獄蝶たるテルクェスを。
「くそ…やはりフォルスには反応しやがらねえか」
四星トーマは、洞窟を下りながら『磁』のフォルスを展開し、一つ舌打ち。
「さっきお前自身が話していただろう。あの蝶は、俺達のフォルスには反応しないと」
青髪のヒューマ、ヴェイグの声には若干の苛立ちが混じる。
この洞窟の異様なまでの圧迫感は、きりきりと心臓を締め付けるような不快感をもたらす。
トーマは、いまだ動く左手だけで、肩をすくめてヴェイグに答えた。
「念のため、だ。ヴェイグ、お前は『磁』のフォルス使いではないから分からんかも知れんが、
『磁』のフォルスにはヒトの方向感覚を狂わせる作用がある。
その作用があの蝶に聞いてくれればもっけの幸いと思ったんだがな。だが、やはり結果はこのザマだ」
このまま行けば、遅かれ早かれ後ろの蝶はプリムラの元にたどり着く。
手をこまねいているままでは、どの道「奴」にここを探知される。
「まったく、まるで背後にユリスでも付いているかのような、呆れるほどの執念だな」
ヴェイグは、もとよりらしくはない皮肉を口にして胸のざわめきを紛らわす。
トーマは、そのヴェイグの皮肉に応ずるかのように、ため息と共に漏らす。
「できることなら、さっさとこっからは退散してえところだな。この洞窟は石灰岩質…鉄分に乏しい。
この洞窟じゃ、俺の『磁』のフォルスの威力も半減する。
できりゃあ昨日の騒ぎの後に砂鉄を集めておくべきだったんだろうが、時間も余力もなかったしな」
「頼れるのは、俺の『氷』のフォルスか」
そう、この洞窟内には水分が多く存在する。そして水は冷却すればたちまちの内に氷に変わる。
『氷』のフォルスは、水と優れた相性を発揮するのだ。
フォルス使い同士の戦いの趨勢を決めるのは、フォルスの属性の相性もあるが、戦う地形もまた大きな要素なのである。
ゆえにヴェイグは洞窟の壁を氷結させ、道を氷で塞いでテルクェスを遮るという提案もしてみた。
提案した途端、トーマに制止を食らったが。
「洞窟の中で、氷なんかで道を塞ぐのは危険だ。空気がよどんで、俺たちが息を詰まらせちまう危険がある。
それに、あのテルクェスとやらは弾丸として飛ばすことも出来る。
どうやらこの島では、フォルスで作られたものを壊せるのはフォルスだけじゃねえみたいだし、
だからあの蝶が氷の壁をぶち抜いてこっちに来る危険だって0じゃねえ」
という判断のもとに。
「くそっ! ハロルドの奴が生きてりゃ、何とかなったかも知れねえものを…ん?」
突然、トーマの耳を叩く足音が二つから一つに減った。
ヴェイグが、立ち止まっている。ちょうど、洞窟の曲がり角のところ。今のトーマからは、テルクェスが死角に入っている。
ヴェイグは、呆けたようにその場で立ち止まったまま、洞窟の入り口方面を見続けている。
「どうしたんだ、ヴェイグ?」
「テルクェスが…」
ヴェイグは、怪訝そうに眉をひそめ、シャーリィの使い魔たる蝶を指差した。
トーマは、そのまま無造作にヴェイグに歩み寄り――
そして、ヴェイグ共々、眉をひそめた。
「テルクェスが…引き返してやがるのか?」
つい先ほどまで、執拗に洞窟の奥底まで一団を追っていた海色の蝶は、突如として転進。
洞窟の入り口の側に引き返している。それも、かなりの高速で。
テルクェスの放つ燐光はそのまま洞窟の闇に飲み込まれ、そして闇の中に埋もれ去るまで、さほど時間はかからなかった。
「…一体、どういうことだ?」
いぶかしむ2人は、しかし神ならざる身がゆえに、その真実を知ることはなかった。
少なくとも、今は。
死の芳香に酔い、己を忘れた1人の少女が、ついにその歩みを始めたその事実を。
彼らは、こうしてシャーリィの尚早な判断に、身を救われることと相成った。少なくとも、今は。
その救いが、彼らの更なる地獄への一歩となるか。
はたまた、これがシャーリィの妄執を砕くための、一筋入ったひびとなるか。
洞窟に澱む黒い臭気は、その問いに答えることなく、沈黙を守り抜いていた。
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:メガグランチャー
ネルフェス・エクスフィア(アーツ系爪術一部使用可)
フェアリィリング
UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
ハロルドの首輪
状態:HP50% TP50% 「力こそ正義」の信念 左手に刺し傷痕(エクスフィギュアの再生力で完治)
ハイエクスフィア強化 クライマックスモード使用不可
永続天使性無機結晶症(肉体が徐々にエクスフィア化。現在左腕+胴体左半分がエクスフィア化。
末期症状発症まではペナルティなし?)
基本行動方針:セネルと再会するべく、か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動し、優勝を目指す
第一行動方針:E3→E2→C3の順で島を巡り、参加者を殺しまくる
第二行動方針:索敵範囲内の参加者を殲滅したら、再び索敵を行う
第三行動方針:病気を回復させる方法・首輪を解除する方法を探す
現在地:D5の川辺→E3(魔杖ケイオスハートの存在地点?)
【トーマ 生存確認】
状態:TP75% 右腕使用不可能 軽い火傷 やや貧血気味 プリムラのサック所持
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪 スティレット ミラクルグミ
ミスティブルーム、ロープ数本 ウィングパック(食料が色々入っている) 金のフライパン
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:テルクェスとヴェイグの暴走に警戒しつつ状況を静観
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟・中央中継点前
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP55% 状況への理解不能 他人の死への拒絶
所持品:チンクエディア ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:カイルが殺した?何故ジューダスが此処にいる?何がどうなっている?
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟・中央中継点前
保守
156 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/06(土) 13:57:57 ID:urZmRBcdO
保守age
157 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/09(火) 11:07:18 ID:V5f7vbk+O
保守age
158 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/09(火) 12:10:50 ID:2i/COv79O
テイルズは好きだがこれは面白くない
ここで俺は保守する
161 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/16(火) 13:47:04 ID:rwUT2ZX5O
ほっしゅ
書き手は飽きたのか?頑張ってくれよぉ
163 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/01/20(土) 12:09:24 ID:Fl1ZM1HDO
保守age
書き手頑張れ
∬
つ旦
最強キャラ決定スレかと思ったらただの殺しあいリレー小説スレでしたか
博多華丸か
ほす
ほ
「昨日は聞きそびれちゃったんだけど、なんか好いことでもあったのかしら?」
町の一角にある極めて普通の宿屋、その二階の一室の扉に寄りかかった女性が声をかけた。
声を掛けられた男は応答せず、ただ窓から昼の月を眺めている。
「うわ、一丁前にシカトぶっこかれちゃったよ?ユアンのくせに」
女性は両手を上に上げておどけるジェスチャをとったが、一向にユアンは見向きもしない。
「ふふふ…カトリーヌはグリッドの嘘に引っかかったけどそうは問屋が卸さないわ!
でも、このミンツ大一の名・探・偵!!プリムラ様にかかればあんたらが
何をやっていたかなんて全部まるっとゴリっとお見通しだ!!」
もはやガン無視の状態である。ボケを殺されて少し血流が早くなったのか、プリムラの一本毛は小刻みに震えていた。
「推理の鍵はズバりあの箒。グリッドの状態とさっきのやり取りを見れば答えは一目瞭然。つまりは…」
腕組していたユアンの指が少しだけ痙攣した。
「…隠しても仕方ない、か。そうだ、あいつは…」
「放尿プレイね!」
ゴスン、と鈍い音がしてユアンが崩れ落ちた。
どう転べばここまで小気味良い音が出るのか不思議なくらいに壁に激突した。
「『いいこと思いついた、お前俺の中で放尿しろ(裏声)』とか、
『ユアンザーさんの箒(ブルーム)テクニックにグリッドもよがってるぜ!
アソコも箒もビチョビチョだ!!』とかやっちゃったんでしょ〜〜?
あんたらがそういう関係だったとは空気読めなくてごめんなさいね。
でもここ全年齢なんだから少しは節度ってものを持って…Noooooooooo!!!」
薄く鼻血か引かれた顔を怒気に染めてユアンは振りかぶっていた。彼の殺気を感じ、ようやくやり過ぎたことに気づいた
プリムラは無駄と知りつつも慌てて両腕で顔をガードする。
二つ縦に連なったユアンの拳がプリムラの顔面を通り過ぎた。彼女の前髪が風圧で靡く。
はっと自分の失態に気づいたユアンは改めて右手を彼女の顔面に近づけ、ゼロ距離で雷球を形成しようとするが、
「二人とも何してるんですか?」
物音に気づいた一人の女性がその場に現れた。
暫しの静寂、ようやく口を開いた彼女の第一声は、
「…すみません。空気を読めなくて…でも、あの、こういうところでそんな特殊(?)なプレイは…」
「いやいやいや何処を如何したらそういう発想になるのだ……というか何だこのループは」
「こ…これがラブコメ式連鎖的関係崩壊術…」
「で、結局何が聞きたいんだ」
椅子に座って気だるそうにユアンが聞いた。目の前のプリムラは大きな漫画的タンコブを一つ拵え、床に正座している。
「心配していたんですよ。グリッドさんと貴方のことを」
口ごもるプリムラの助け舟といわんばかりに、カトリーヌはテーブルにお茶を置いた。
「なによその眼、私が心配しちゃキャラに合わないってか!表に出ろ!!」
閉じたかどうか限界ギリギリの薄目で睨むユアンにささやかな口撃をするプリムラ。
しかしそんなもので彼我戦力差が変わる訳がない。
「ユアンさんが帰ってくるか、不安でしたから」
カトリーヌはプリムラにお茶を置き、自分の分をテーブルに用意して座った。
「随分軽薄に見られたものだな。まあ、実際そのつもりだったが」
ユアンは軽口を叩くように言った。その眼光は二人をもう一度品定めしているようにも見える。
「ですから、何かあったんだと思いまして。それに…言い難いんですが…」
「あそこまで臭いを漂わせては悪の道も何もないな。箒の主には悪いことをした」
カトリーヌは無言で首肯した。あんな嘘で自分の粗相を誤魔化そうと思うグリッドがどうかしている。
そんな人間に箒に載せた時点でもうこの箒には乗らないとユアンは決めていた。
「あの、静かにするから、頭の上のお茶、どかしてくんない?」
「奴のことを如何思う?深く考えなくていい」
ようやくプリムラへの責め苦が終わり、三人はテーブルに着く。
「「……」」
「深く考えるなといったろう。ここが禁止エリアになった以上、こうして話をする機会なぞもうないかも知れん」
ユアンはカップを眺め、少し考えてから口を付けた。
「その前に一個聞いていい?前から聞きたかったんだけどなんであんたがリーダーにならなかったの?」
プリムラは小さく手を垂直にあげた。
「お前ならこんな組織のリーダーになりたいか?私が接触したときの編成はこいつとあいつだけだぞ?」
「接触というより、弾着でしたけどね」
親指で指されたカトリーヌはにべもなく言い返した。
「でもさ、私たちを弾除けにするにしてもあんたの性格だとbQなんて柄じゃないでしょ?」
「最初は場の勢いに飲まれただけかと思っていたが、今なら多少は理解できる。
アレには指導者としての天性の才がある。私よりも、な」
女性二人は驚きに眼を合わせる。ユアンはカップに映る虚像に先ほどのグリッドの気迫を見ていた。
「……故に、恐ろしくもある。アレには指導者として絶対的な欠点がある」
「何よ?欠点しかあいつは持ってないでしょ」
プリムラはきっぱりと言った。実際、無能なのだから仕方がない。
「そんなはっきり言わなくても…至らない部分は私たちが補えばいいじゃないですか」
カトリーヌのフォローにユアンは相槌を打った。
「そうだ。そのために下部組織があり、参謀があり、機能が存在している。
指揮官に必要なのは、明確な指針と勘案された意見を聞くこと。
そして採用した意見を率先して遂行すること。大まかにはこれだけしかない」
「それだけなら一応満たしてるわね、あいつ」
少々納得がいかない部分もあるが、確かにコングマンとの戦いを見るに必要十分な条件は満たしている。
「私が不本意ではあるが参謀役をしているのもそこら辺も理由だ。今の私は前線に出ることが出来ん。
部下の前に立てぬ奴には誰もついては行かぬよ」
「前線って…あんた晶霊術士(クレーメルユーザー)でしょ?前線もヘチマもないじゃない」
プリムラは素朴に疑問を放った。箒に乗って、雷を放つ。女性なら典型的な魔女の王道だ。
「晶霊…?マジックユーザーのことか?私の本職は前衛寄りの魔法剣士だ。
レネゲードを作ってからは自前の得物を持つ機会も減ったからな…まったくバツが悪い」
眉間を抓んでうなるユアンを尻目にプリムラはカトリーヌに耳打ちした。
数度の往復を経て、もう一度彼に向き合った。固有名詞は聞き流すことにしたらしい。
何が久しく使ってない、だ。さっき私の前で両手が横切ったのは‘武器を持っているつもり’だったからだろうに。
「あのう、話を戻していいですか?」
カトリーヌはおずおずと手を上げた。
「ああ、すまない。脱線してしまったな…何処まで話したか…」
「グリッドの無能を差し引いても何か欠点があるって所まで」
プリムラは多少不快そうに言って、お茶に口を付けた。少し温くなっている。
「奴は、自分と漆黒の翼という組織の間に線を引くことが出来ない」
ユアンの発言を飲み込めない二人は、詰まった言葉をお茶で流し込んだ。
「俺が奴を殺そうとしたとき、グリッドは言ったよ」
「ぶはははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!」
詰まった言葉は大笑いで吹き抜けた。プリムラは片手でお腹を抱え、涙目を浮かべて笑っている。
カトリーヌは背中をさすりやんわりと諫めた。
「いや、だって、『俺は漆黒の翼を守る!!!! たとえユアン!!お前に殺されてもなっ!!!!!』ってアンタ、
死んだら守れないでしょ?!彼奴どんだけアホなのよ…ぶはははははっはあははっはあっはっは!!!!」
少々下品とも言える大笑いに1人は眠っているはずの笑われている本人が起きてこないかを心配し、
1人は動じることなく、というよりは心ここにあらずというような目でカップの中を見つめている。
「はははっは…まあ、私達のことを心配してくれたのは嬉しいけどね。
ふーん…まあ、少しは認めてあげても、いいんじゃない?」
少しばかり自分の行為にバツの悪さを感じたのか、プリムラは萎れたように言った。
「だからこそ、彼奴はガラクタだ。現時点では使い物にもならない、な」
ユアンに対面した2人は絶句した。沈黙と中で窓から差し込む陽光が嫌味に思える。
「……何処がよ」
沈黙が痛々しすぎて、プリムラは思わず口を付いた。
グリッドの弁護をする気は更々無かった彼女が、どうしてこんな事を口走ったのかは本人にも分かっていなかった。
「素質と実力は別物だ。今のままなら、未完のまま彼奴は死ぬ」
死ぬ。いつもなら一笑に付すその一言が、彼の口から、この場所で出てくるだけで妙な説得力を持っていた。
「あれから漆黒の翼を奪ったら、何が残ると思う?」
ユアンは窓辺に立って、石畳の街路を俯瞰しながら言った。
再び沈黙が流れる。しかし今回の沈黙には確かな拘束力があった。
グリッドから、彼奴から漆黒の翼を奪う?あり得るはずが無い。
プリムラにしてみれば、彼らと出会ったときから漆黒の翼は結成されていたし、
グリッドは最初から漆黒の翼のリーダーとして、全く不変の理のようにその座にいたのだ。
漆黒の翼を持たないグリッドなど‘想像する余地が無い’。
「1つ、考えていたことがあります。何故、私は彼に選ばれたんでしょうか?」
カトリーヌはカップを両の手で抱え込む様に持って、俯き加減でお茶を見ていた。
「……別に、確かぶつかって出会って向こうの方から強引に勧誘してきたんでしょ?
彼奴の性格なら普通にありそうな話じゃない?」
「でも、私は見ての通り足手まといで、それに方向音痴で、それに……」
カトリーヌの自虐が始まりそうになったのでユアンが顎で先を促す。矢張りその瞳は遙か遠くを覗いている。
「と、とにかく私は全然これっぽっちも役に立ちません。グリッドさんが私を仲間にする理由が無いんです」
清々しい朝にはどうにも不似合いな重々しい空気が三人にまとわりついた。
プリムラはもうこの場の三人の中でこの話の終点、その見当が一致していることを確信していた。
しかし、その弁護に立つ理由も手段も持ち合わせない彼女はこの2人の迂遠な話を唯聞くしかない。
「カトリーヌ、確かお前のグリッドから貰った称号は疾風だったな?」
示し合わせたように淀みなくカトリーヌは応じた。
「はい。そしてユアンさんは大食らいです。私はブーツを履いていたから通るにしても、ユアンさんは道理が通りません」
プリムラは一気に残りを飲み干し、音が鳴るほどにカップをテーブルに叩き付けた。
この感情は疎外感だろうか。プリムラと彼らに引かれた境界線はカップ程度で消せるほど柔くはない。
「で、私の称号が決まっていないことを加えると1つのくっだらない事実が出てくるわけだ?
あんたらの称号は本物の漆黒の翼の借り物って事実が」
「オリジナルは全部で3人。4人目がいれば、お前にその称号が当てられるはずだからな」
新しく注がれたカップから立ち上るほんの少しの湯気に2人と1人は隔たっていた。
「普通に考えて、幾らこの場所にその2人がいないからと言ってその称号を見ず知らず出会ったばかりの人間に差し出すか?
あの何よりも仲間に拘るグリッドの中でこれだけが‘理に沿わない’んだよ」
そう、グリッドには向こうの世界で待っている本当の漆黒の翼がある。
本当なら、逃げて、逃げて、元の世界にいる2人のためにもグリッドは生きなければならないのだ。
それを投げ出す様に急拵えに作られた仮初めの翼を守ろうとする。
「あんた、何を言ってるか分かってるの?」
「取り繕った所で、瑕が塞がるわけでもない」
ユアンの言葉は、既にプリムラも、カトリーヌも分かっている。言わなくても済む。
グリッドは、仲間を守りたかったんじゃない。
漆黒の翼という居場所を守りたかったんだ。
「漆黒の翼を失えば奴には何もないのだよ、多分。だから守るのだ」
孤独は厭だから、1人では立つことが出来ないから、リーダーという仮面がなければ虚勢の1つも張れないから。
だから直ぐに拵えた。誰でも良かった。危険を省みずに漆黒の翼のリーダーという自分を作り上げた。
ユアンは席を立ち、天井を仰いだ。
「無論、本人も自覚はないだろうな。元の世界でなら別にそれでも八方丸く収まった筈だ」
道化として生きるのも、小賢しく生きるのも、漆黒の翼の団長という鎧を纏ったグリッドなら上手くやるだろう。
「……4000年変わらなかったものも最後には少し変わったんだ。
このおままごとも、リーダーごっこも何時かは終わる。この場所なら尚更な」
2人はただ、ただ‘何もしないこと’しか出来なかった。
常に目減りしていく参加者、減らない死者。そして一点の曇りもなく理想を高らかと口にする彼らのリーダーは此処にはいない。
ユアンは、グリッドはズボンを乾かして動けないうちに私達を言葉巧みに洗脳し、
この組織をそっくりそのまま奪おうとしているのかとも、プリムラは少し考えた。
そうじゃないのは直ぐに分かった。こんな、グリッドの安寧を守る為だけに機能している組織なんて奪ったって意味がない。
ユアンは案じているのだ。あの情けない紛い物と、その末路を。
「私達がいなくなったとき、漆黒の翼が完全に失われたとき、彼奴はグリッドとして立っていられるのか?」
彼女は自身に問う。
必要のない4番目の彼女の、此処にいる意味を。
淡い光の向こうで、誰かが此方を見ている。
此方を見ている誰かは、両膝を付いて私に哀願している。
まるで、そう、まるで、
(デジャヴかしら?それともまだ走馬燈の続き?……あはは……私が其処にいるわ)
まるであの時の私のように情けない奴がいる。
一線を踏み越えたことに対する後悔と、自己嫌悪と、ほんの刹那の陶酔と、
それらを必死に体の中で処理しようとする健気さが入り交じった無力な子供が其処にいる。
何とも滑稽な姿だ。あの時の私もそうだったんだな、と思う。
本当になんて無様な子供…
(ん?私って金髪だっけ…?)
疑問と共に、淡い光が弱々しい現実の灯に変遷していく。
泣いているのは何とも別人だった。
たった1つコロリと横たわるカンテラの明かりに全員が照らされ、彼女の周りで影が蠢いていた。
灯りの一番傍でプリムラが仰け反っている。弱い光が彼女の前面の血を鈍く輝き鈍く照らされている。
前髪で表情から状態を察することが出来ない。
グリッドは彼女の前で両膝を折り呆然としている、手を彼女の血で真っ赤に塗らした彼に常の覇気が無い事は明瞭だった。
この2人を挟むようにして、2人と2人が対峙している。
中継点側にリオンとカイル、出口側にヴェイグとトーマがそれぞれの心中を揺らめかせていた。
リオンは掴んだカイルの腕を放しながら仮面の奥から正面を見据えた。
彼の目算はこの状況を六分で此方が有利だと判断している。
問題は山積しているが先ず安全の確保を優先すべきだろう。そう彼は考えたかった。
ディムロスは前方三歩、プリムラの真横。喋らないところを見ると取り敢えずは様子見するつもりか。
確か、名簿にあった名前は、カイル=‘デュナミス’だ。
プリムラの正面が派手に染まっているが、それにしては妙に地面の血が少ない。
急所さえ外れているなら、後回しにしてもいいだろう。何より、最終手段は此方の嚢中にある。
リオンは眉間に皺を寄せた。この道を行けばこうなることは、彼は了承していた。
しかし、真逆こうまで早いとは流石に想いもしなかった。
皮肉にも程がある、と悪態も付きたくなる。全くこれだから運命は馬鹿馬鹿しい。
問題はそこの銀髪、名簿の名前はヴェイグ=リュングベルだろう。確か奴と共にいた奴だ。
プリムラの話に従えば、彼女が行きかけの駄賃に刺した奴も銀髪じゃなかったか?
しかし状況はそこまで悲惨じゃない。奴の後ろにトーマが控えているし、
何より戦端を開くにはそこの2人が邪魔だ。これでは戦いは始められない。
とはいえ、悲惨でなくともプリムラの状態が即死から瀕死になっただけで、依然状況は予断を許す気がないらしい。
1つ動かせば確実に奴と斬り合いだという確信に従い、
正面の連中の死角になるようにリオンは腰の後ろの短剣に右手を添えた。
警戒さえしていれば少なくとも済し崩しにそこの男に斬り殺されるという無様な真似は曝さずに
(待て?何で僕は今更命を惜しんでいる?)
ふと脳裏を過ぎった疑問に、リオンは逡巡する。
(殺されても良いと思った。さっきカイルにそう言っただろう?何故だ?)
「絶……」
反応、遅れること一秒半。
「瞬影迅!!」
目の前の銀髪の動作にリオンは微動だにせず驚愕した。
男の行動の意味は分からないが、紛れもない殺気にリオンの全身が反応する。
(まさか、突進するつもりか?)
「トーマ、寄せろ!!」
叫ぶが先か、リオンはカイルを横に突き飛ばし加速の体勢に入る。どちらが狙われているにせよ、自分が止めるしかない。
リオンに言われるまでもなかったのか、トーマは左手を前に伸ばして扇ぐ様に左から右へ薙いだ。
トーマのフォルスによってグリッドとプリムラの体が不自然に横に動く。
(間に合うか……?)
警戒はしていたとはいえ、トーマは正気とは思えないヴェイグによる錬術加速からの突進に一瞬の虚を突かれた。
既に座標が定まらないヴェイグを抑えることを諦め、2人を避難させる方向へ判断を変えた。
しかしプリムラが手負いであることを考えると急な力を掛けるわけにも行かない。
「ヴェイグ!剣を…ッ!?」
間に合うか、間に合わぬかその限界の距離でトーマは全く望外の図面を見た。
ヴェイグは速度を殺さぬように跳躍し、リオンに向かって飛び込んだのだ。
横への推進力を重視した飛び込みによってヴェイグの靴がグリッドの髪を掠める。
中空でヴェイグは腕を引き、溜めるように‘短剣’を構えている。
(飛び込みからの突撃、スナイプロアと同質の?抜刀…遅いか!?)
リオンは桔梗に左手を寄せながら唸った。何故プリムラを置いて自分を狙うのか、
何故自分は生きたがっているのか、その理由も皆目見当付かない。
奴にとって僕はジューダスを殺した仇だ。
此処で殺されて仕舞えば、それで、全てが綺麗に片づく。
(スタンも死んだ、僕にはもう何も残っていない。何故僕はそれでも生きたがっている!?)
違う、とリオンの中で警報が鳴った。
短剣で切り込むには、スナイプロアを仕掛けるならば構えが早すぎる。間合いも若干遠い。
この警報は何処で鳴っている?
左よりも早く、右手が背中に隠したもう一振りを抜く。
(クロスレンジじゃない?ミドルレンジからの一撃…この技は!?)
「霧氷翔!!」「月閃光!!」
ヴェイグの短剣が冷気を纏い、剣槍へと変質しながらジューダスへ向かう。
右手が導くように生み出された三日月は氷の突きと相殺する。
グリッドを除く全ての視線が、冷えた空気に映えたその月と突きを見ていた。
カイルの視線だけがその光景に別の意味を見いだしている。
「どちらだ」
着地と同時に距離を詰めて、ヴェイグは剣を横に薙いだ。
リオンは二刀を重ねて斬撃を止める。
「お前が望まない方が正解だ」
「……そうか」
トーマはプリムラ達の無事を確認して、動きを止めたヴェイグに手を翳した。
「ヴェイグ。剣を下ろせ」
「止めろ、トーマ。こいつは正気だ」
リオンの言葉にトーマの左腕はびくりと動いて、直ぐに静止した。
洞窟の壁がじっとりと湿って、雫を一滴落とした。
「ああ、俺にも状況は理解できる。だが」
ヴェイグは呼吸を落ち着けて、剣を握る。
暴走するほどに血は上っていない。決して逆上して斬りかかった訳ではない。
自分を刺した相手とは言え、プリムラのことがどうでも良かったという訳でもない。
漆黒の翼の2人を盾と利用して、一瞬の虚を突いて、
慎重に、冷静に、確実に、目の前の死人を切り離そうとした。
リオンだろうと、ジューダスだろうと、この一瞬に関してはどうでも良かった。
死人が、カイルを連れて行く。
たった1つ、このイメージを忌避するために。
それがこの空間が醸し出した幻想か、
死んだはずのジューダスが甦ったことか、
殺人鬼であるリオンが居たことがもたらしたイメージなのかは分からないが、
最大の贖罪の対象であるカイルを失うことだけは許すわけにはいかない。
カイルがこの場所にいるという可能性を忘却していた彼が考えられたのはそれだけだった。
そしてその目的に対してヴェイグに採ることが出来た手段は、死人からカイルを切り離す事だけだった。
そしてその認識は剣を交えて死人が生きたリオン=マグナスであることを認識しても続いている。
氷の刀身をもう片方の手の腹で押し、ヴェイグはじりじりと剣と剣の交差位置をリオンに寄せていく。
「悪いが、俺にも俺の事情がある。ここは我を通させて貰う」
「仇か?少なくとも1人、お前には僕を殺す動機がある」
「違う」
一喝したヴェイグは体躯の差で強引にリオンを壁に押し飛ばした。
まだ体力的に完調していないリオンは受け身を取る間もなく壁に叩き付けられる。
ヴェイグは押し切った勢いのまま突進を仕掛け、水平に構えた氷剣をその素ッ首に打ち付けた。
リオンは右手を突き出し躊躇無く剣の根本、即ち氷剣の原型たる短剣の部分を掴む。
「……少し、話が長引きそうだな」
「お前が何も言わずこの手を離せばそれで終わる、この場で朽ちて在るべき場所に還れ」
氷剣は腕力の差に後押しされ、ゆっくりとリオンの喉元に近づいていく。
既にリオンの背中には塞がった壁の冷ややかな感触が伝わっていた。
リオンの背中から魔力が放たれる。ヴェイグは漸くリオンの左手が遊んでいることに気付いた。
二刀は既に、腰に収まっている。リオンは一瞬だけカイルの方を見た。
(この未練がましさの原因は、この少年に会ったからなのか?何にせよ……)
「悪いが、今の僕の命は僕だけがどうこうできるものじゃ無いんだ。まだ、死ぬわけにはいかん」
(亀裂は理解できた。この裏側の円柱状の鉄が邪魔だな。
いや、それよりも問題は、鉄心……いや、この鉄に括られている土塊だ……何が向こうに刺さっているのか……迷う時間は無いか)
「シャル!破砕しろ!!」
背中に隠した左手に握られたコアクリスタルが輝く。
ピシリ、ピシリという音が二回なって、一気に亀裂が‘向こう側からやってきた’。
晶力を通わされた岩々は踊るように崩れていく。
その一瞬の緩みに、リオンは作成した後方の空間に倒れ込むように飛び退いた。
飛び退いた先で今し方観測した鉄心、溜弾砲とその土塊を凝視した。
一気に砂煙が巻き上がりリオンとヴェイグを覆い隠す。トーマは慌ててプリムラの傷に障らないように粉塵を弾き飛ばした。
煙る視界の奥から聞こえた声は、壁に反射し段々細くなっていく。
「トーマ。こいつの相手は僕がしておく。その間に決めろ」
「逃がさんッ!」
トーマは歯を軋らせて唸りながら、手持ちのサック二つの口を握りしめた。
中にある切り札、グミの存在を強く確信する。
やがて粉塵は地面で湿り、不規則な運動を停止した。
「……どうしろってんだ」
トーマは事態を整理する。
ヒューマが三匹。女は物理的に死にかけ、小僧はいい塩梅に狼狽えて、最後の男は昨日見た気丈さの欠片もない抜け殻の様。
手持ちの回復手段はヴェイグ達とこの小僧が出し惜しみしていないという条件でプリムラのサックに入ったミラクルグミ1つ。
リオンやプリムラの話に因ればもう一つのパイングミでは精神力しか回復しないらしい。
このタイプのグミはカレギアには無かったが、グミそのものの性能はサレのこともあって疑う点はない。
使えば、プリムラは今直面している死から逃れることが出来る。
状況は厳しいがグミという超回復を前提にすればデッドラインまではまだ余裕がある。
最低此処までを前提にしなければ、まともに考えることも出来ない。
トーマは逡巡している。無論、たった2つしかないグミを惜しむ等という卑しさは
ミミー=ブレッドの熱に触れた彼には極々常識的な範囲でしか持ち合わせていなかった。
通常ならば何も気兼ねなく使っただろう。
しかし、プリムラの命を救う事で八方が丸く収まるとはトーマにはどうしても思えない。
もし、もしそれで丸く収まるなら‘プリムラが今こうなっている訳が無いのだ’。
突発的に斬られたプリムラ=ロッソ、突発的に斬ったのは小僧、そして斬られたプリムラと縁のあるグリッド。
(こいつは、何の冗談だ?)
予測外の死角から刺されたのはヴェイグ=リュングベル、狂気に当てられて咄嗟に刺したのはプリムラ=ロッソ、
斬られたヴェイグと同道していたのはハロルド=ベルセリオス。
(昨日の夜の再現か……?)
場所・役者・動機、構成している要素は全て違うがそれ以外はほぼ同じ構造だ。
そしてその2つともにトーマは傍観者という立ち位置にいる。
トーマは首を力強く2往復させた。そんな馬鹿げた話は無い。
唯の偶然に振り回されて、適当に似ているように見える要素だけを凝視して、同じだと思いこもうとしているだけだ。
(本来ヴェイグの治癒はグミを使って行われるはずだった)
しかしグリッドはどんな手品を使ったのか分からないが、グミも無しにヴェイグを救って見せた。
此方はリオンというイレギュラーを内包しつつもプリムラをここに引っ提げることに成功した。
そして先ほど洞窟の前で、生き返ったヴェイグを前にしてあの男はプリムラを許した。
完璧だ。完璧すぎる。考え得る最高の形だった筈だ。
最高の形は、状況を全く好転させていない。
最高の道を選んだ先に辿り着いたのは何一つ代わり映えしない元いた場所。
(有り得ねえ……有り得ねえが……昨日の夜と今日の朝、この二つが同じ構造になっているとしたら……)
プリムラを助けようと助けまいと状況はもう一周するだけなのではないか?
この小僧が昨日のプリムラと対応しているなら、‘プリムラを助けたとしてもこいつを助けられる保証が無い’。
昨日のハロルドのようにグリッドが憤怒し小僧を半殺しにするか?
昨日のプリムラのように逃げだし、小僧を基点として更なる状況の悪化を招くか?
死者の発生と生者の怨嗟が連鎖するこの島では、この手合いの事など別段珍しいことではない。これも良くある偶然の筈だ。
ならばなぜこうまで心が竦み怯えているのか?先ほど失せたテルクェスのせいか?
トーマは自分の心中すら計りかねていた。
トーマは渦中の連中を無視したくて、今し方開通した道を見る。
最初に辿り着いた南側の入り口と同じ厭な匂いがした。濁っているのに冷え切ったこの気配は気分を悪くさせるのに十分だった。
地面には、幾つもの岩から山ほどの石と礫に格下げされた石と、
それらを不自然に避けて血塗れの砲が一門とそのおまけが其処にあった。
(俺は、俺はどうしたら良い……教えてくれ……ミミー……)
此処は矢張り良くない場所だ。トーマは苦々しげに唸った。
【トーマ 生存確認】
状態:TP70% 右腕使用不可能 軽い火傷 やや貧血気味 既視感に対する恐怖 プリムラ・ヴェイグ・リオンのサック所持
所持品:イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり) パイングミ
ジェットブーツ 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 首輪 スティレット ミラクルグミ
ミスティブルーム、ロープ数本 ウィングパック(食料が色々入っている) 金のフライパン
ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
首輪 45ACP弾7発マガジン×3 ウグイスブエ(故障)
基本行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
第一行動方針:グミを使う?使わない?それとも?
第二行動方針:漆黒を生かす
第三行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
現在位置:G3洞窟・中央中継点
【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:意識回復中? 臨死 左下から右上にかけて前面に大規模裂傷
右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)切り傷多数(応急処置済み)
所持品:C・ケイジ@I ソーサラーリング ナイトメアブーツ
基本行動方針:???
第一行動方針:???
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:グリッドとヴェイグに謝る?
現在地:G3洞窟・中央中継点
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP40% TP50% 他人の死への拒絶 サック未所持
所持品:チンクエディア ミトスの手紙
基本行動方針:今まで犯した罪を償う(特にカイルへ)
第一行動方針:リオンを追い、倒す
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:キールとのコンビネーションプレイの練習を行う
第四行動方針:もしティトレイと再接触したなら、聖獣の力でティトレイを正気に戻せるか試みる
現在位置:G3洞窟・中央中継点→洞窟南側へ
【グリッド 生存確認】
状態:不明 (プリムラの死(という思いこみ)=漆黒の翼の完全崩壊によるアイデンティティの連鎖崩壊?)
所持品:マジックミスト 占いの本 ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:???
第一行動方針:???
第二行動方針:E3に残存していれば、魔杖ケイオスハートを回収する
第三行動方針:マーダー排除に協力する
現在位置:G3洞窟・中央中継点
【リオン=マグナス 生存確認】
状態:HP70% TP80% 右腕はまだ微妙に違和感がある コスチューム称号「ジューダス」 サック未所持
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗 レンズ片(晶術使用可能)
基本行動方針:ミクトランを倒しゲームを終わらせる 可能なら誰も殺さない
第一行動方針:ヴェイグを引きつける
第二行動方針:キールを探し、ハロルドメモの解読を行う
第三行動方針:協力してくれる者を集める
現在地:G3洞窟・中央中継点→洞窟南側へ
【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:HP45% TP75% 悲しみ 静かな反発 過失に対するショック 状況に対する混乱
所持品:鍋の蓋 フォースリング ウィス 忍刀血桜 クラトスの輝石 料理大全 要の紋
蝙蝠の首輪 レアガントレット(左手甲に穴)セレスティマント ロリポップ ミントの帽子
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:G3洞窟・中央中継点
【備考】S・Dはカイルから若干離れた位置にある
保守
182 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2007/02/07(水) 19:39:21 ID:3T3ybnvvO
保守
何このキモイスレ
こんなんがいるから俺みたいなテイルズスキーは肩身が狭いんだよ
>>183 心配しなくても周りの人間は普通2ちゃんねる見てないから大丈夫
俺もテイルズ好きなんだが流石にこれはひどいと思った
単に嗜好が違うだけ、合わないと思うなら見ないほうがいい。
別にここの存在を吹いて回ってるわけでなし、嫌なら見なきゃいい