テイルズ オブ バトルロワイアル Part6

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1名無しさん@お腹いっぱい。
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、ナムコとは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【過去スレ】
テイルズ オブ バトルロワイアル
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1129562230
テイルズ オブ バトルロワイアル Part2
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1132857754/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part3
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1137053297/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part4
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1138107750
テイルズ オブ バトルロワイアル Part5
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1140905943

【関連スレ】
テイルズオブバトルロワイアル 感想議論用スレ6
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1145759587/
※作品の感想、ルール議論等はこちらのスレでお願いします。

【したらば避難所】
〔PC〕http://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
〔携帯〕http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【まとめサイト】
http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/index.htm
2名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:28:59 ID:LtH/QYFU
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。

----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。       
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:29:30 ID:LtH/QYFU
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
*マウリッツのソウガとの融合、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。
 シャーリィやマウリッツも爪術は全て使用OK。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:30:10 ID:LtH/QYFU
----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要になので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェスターの屠龍のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェスターの弓術やモーゼスの爪術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。治癒功なども同じ。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。治癒功などに関しては制限を受けない格闘系なので問題なく使える。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。

----時間停止魔法について----
 ミントのタイムストップ、ミトスのイノセント・ゼロなどの時間停止魔法は通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。

----TPの自然回復----
 ロワ会場内では、競技の円滑化のために、休息によってTPがかなりの速度で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。

----その他----
*秘奥義はよっぽどのピンチのときのみ一度だけ使用可能。使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 ただし、基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。

*作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、
 初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
 断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:32:21 ID:LtH/QYFU
【参加者一覧】
TOP(ファンタジア)  :4/10名→○クレス・アルベイン/○ミント・アドネード/●チェスター・バークライト/●アーチェ・クライン/●藤林すず
                  ○デミテル/○ダオス/●エドワード・D・モリスン/●ジェストーナ/●アミィ・バークライト
TOD(デスティニー)  :3/8名→○スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/○リオン・マグナス/●マリー・エージェント/●マイティ・コングマン/●ジョニー・シデン
                  ●マリアン・フュステル/○グリッド
TOD2(デスティニー2) :3/6名→○カイル・デュナミス/○リアラ/●ロニ・デュナミス/●ジューダス/○ハロルド・ベルセリオス/●バルバトス・ゲーティア
TOE(エターニア)    :3/6名→○リッド・ハーシェル/●ファラ・エルステッド/○キール・ツァイベル/○メルディ/●ヒアデス/●カトリーヌ
TOS(シンフォニア) :3/11名→○ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/●ジーニアス・セイジ/●クラトス・アウリオン/●藤林しいな/●ゼロス・ワイルダー
                  ●ユアン/●マグニス/○ミトス/●マーテル/●パルマコスタの首コキャ男性
TOR(リバース)    :3/5名→○ヴェイグ・リュングベル/○ティトレイ・クロウ/●サレ/○トーマ/●ポプラおばさん
TOL(レジェンディア)  :2/8名→●セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/●モーゼス・シャンドル/○ジェイ/●ミミー
                  ●マウリッツ/●ソロン/●カッシェル
TOF(ファンダム)   :1/1名→○プリムラ・ロッソ

●=死亡 ○=生存 合計22/55

禁止エリア

現在までのもの
B4 E7 G1 H6

九時:F8
十二時(午後0時):B7
十五時(午後3時):G5
十八時(午後6時):B2

【地図】
〔PC〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/858.jpg
〔携帯〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/11769.jpg
6名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:33:07 ID:LtH/QYFU
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)


〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
7名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 19:35:17 ID:LtH/QYFU
━━━━━お願い━━━━━
※一旦死亡確認表示のなされた死者の復活はどんな形でも認めません。
※新参加キャラクターの追加は一切認めません。
※書き込みされる方はスレ内を検索し話の前後で混乱がないように配慮してください。(CTRL+F、Macならコマンド+F)
※参加者の死亡があればレス末に必ず【○○死亡】【残り○○人】の表示を行ってください。
※又、武器等の所持アイテム、編成変更、現在位置の表示も極力行ってください。
※具体的な時間表記は書く必要はありません。
※人物死亡等の場合アイテムは、基本的にその場に放置となります。
※本スレはレス数500KBを超えると書き込みできなります故。注意してください。
※その他詳細は、雑談スレでの判定で決定されていきます。
※放送を行う際は、雑談スレで宣言してから行うよう、お願いします。
※最低限のマナーは守るようお願いします。マナーは雑談スレでの内容により決定されていきます。
※主催者側がゲームに直接手を出すような話は極力避けるようにしましょう。

※基本的なロワスレ用語集
 マーダー:ゲームに乗って『積極的』に殺人を犯す人物。
 ステルスマーダー:ゲームに乗ってない振りをして仲間になり、隙を突く謀略系マーダー。
 扇動マーダー:自らは手を下さず他者の間に不協和音を振りまく。ステルスマーダーの派生系。
 ジョーカー:ゲームの円滑的進行のために主催者側が用意、もしくは参加者の中からスカウトしたマーダー。
 リピーター:前回のロワに参加していたという設定の人。
 配給品:ゲーム開始時に主催者側から参加者に配られる基本的な配給品。地図や食料など。
 支給品:強力な武器から使えない物までその差は大きい。    
      またデフォルトで武器を持っているキャラはまず没収される。
 放送:主催者側から毎日定時に行われるアナウンス。   
     その間に死んだ参加者や禁止エリアの発表など、ゲーム中に参加者が得られる唯一の情報源。
 禁止エリア:立ち入ると首輪が爆発する主催者側が定めた区域。      
         生存者の減少、時間の経過と共に拡大していくケースが多い。
 主催者:文字通りゲームの主催者。二次ロワの場合、強力な力を持つ場合が多い。
 首輪:首輪ではない場合もある。これがあるから皆逆らえない
 恋愛:死亡フラグ。
 見せしめ:お約束。最初のルール説明の時に主催者に反抗して殺される人。
 拡声器:お約束。主に脱出の為に仲間を募るのに使われるが、大抵はマーダーを呼び寄せて失敗する。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/11(木) 23:42:51 ID:iXzG/1md
乙・・・・・
9VS - Against The Inferior Species1:2006/05/12(金) 00:24:39 ID:HKEeVBHO
心を虚ろに帰した少女は、それを感じる。
殺意を。吹き付ける殺戮への意志を。
その意志の源は、分からない。そこまでは、空っぽの心の彼女には、判断できかねていた。
けれども、そいつは近い。近くにいる。
守らねば。自らが守ると決めた、黒髪の少女を。
紫の瞳の奥、コレット・ブルーネルはほとんど本能的に、彼女の守るべき存在に寄り添っていた。
寄り添う相手は、黒髪の少女リアラ。
リアラはコレットの様子を見て、「あらあら」と小声でこぼしながら、微かに笑う。
傍目には、仲のいい同性の友人同士として、この光景は映っていただろう。
だが、リアラに寄り添うコレットは、そんな目的でリアラに寄り添っているわけではない。
バルバトスの亡骸より手にした、長大な金属の筒。それを握る腕の中では、天使化に伴い強化された筋肉が臨戦態勢。
この近くに、敵がいる。濃密な殺意の臭いを感じる。守るべき対象、リアラの近くに渦巻く、殺意の臭いを。
敵がどこから来ようと、迎撃できるよう。敵の不意を討たれないよう。リアラにはしかと寄り添わねば。
たとえ心が虚ろであろうと、コレットはリアラを失うまいと、いじらしささえ感じるほどの献身を捧げる。
そして、その献身は無駄ではなかった。否。その献身あってこその、リアラの命であった。
だが、それを知る者はこの場にはただ1人。
コレットをして警戒せしめるほどの殺意をばら撒く少年、ミトス・ユグドラシル。
彼のみが、その事実を知っていたのだ。
10VS - Against The Inferior Species2:2006/05/12(金) 00:25:53 ID:HKEeVBHO
能面のように表情の変化に乏しい、あどけない少年の笑顔の下で。
ミトスは、般若の形相でもってコレットを睨みつけていた。
先ほどから、まるで「お前にリアラを殺させはしない」と、ミトスの悪意をあざ笑うかのように、リアラを守っているのだ。
情報戦で少しでも有利に立つべく、姉の命を再び掴み取る手助けを求めるべく。
あれから色々と話を聞いていたミトスは、リアラやミントの戦闘員としての素養を聞いていた。
その結果、ミトスが得た主なパズルのピースは以下の通り。
リアラは、ミトスの在りし世界で言うところの魔剣士。魔術の行使の方を得意とした魔剣士らしい。
そしてこの集団を形成する、もう1人の金髪の少女ミントは、法術師。治癒や補助を得意とする魔術の使い手だ。
つまり、剣の間合いの勝負に持ち込めれば、九分九厘ミトスが勝つ。
剣を一閃させ、肋骨の隙間から肺に穴でも開けてやれば、魔術師は脆い。
この時点で、魔術の行使に不可欠の呪文の詠唱を封じることが出来る。元来人間の声とは、呼気を声帯で加工し出されるもの。
そしてその呼気が肺から漏れれば、必然的に声は出せなくなる。すなわち、呪文の詠唱も出来なくなる、ということだ。
そもそも、首を狙って剣を一振りすれば、ただでさえ油断しきっているこの2人のこと。
自分達に同行する金髪の少年に殺されたのだ、ということに気付く間もなく、死んでもらえていただろう。
だが、それもコレットがいなければの話。
先ほども述べた通り、コレットは本能か、はたまた野生の勘か、ミトスがリアラ達を狙う隙を全て潰してくれる。
コレットは榴弾砲をリアラの近くで掲げ、その長大な砲身でミトスが切りかかれない死角を作る。
更にはコレットはあちこちをきょろきょろと見回しながら、ミトスの行動を牽制にかかる。
これでは、剣の柄に手をかけることすら困難を極める。
現在ミトスが手にしている圧倒的な優位性は、リアラとミントに、己の殺意を気付かれていないからこそ。
もし殺意に気付かれれば…無論、甘さの塊のような2人が、いきなり全力で抵抗にかかることはまずないだろうが…
さしものミトスも、コレットを傷付けないように2人を殺すには、切り札を切ることを強いられるかも分からない。
ユグドラシルの…クルシスの指導者としての肉体に転じることを。
だが、殺意さえ露呈しなければ、ミトスは最低限の労力のみで2人を仕留める隙を、虎視眈々と狙える。
機を見て策を弄し、最低限の力で相手を葬る。だが、その「機」が無いのであれば、策もまた打つことは出来ない。
結果、コレットの牽制が功を奏し、一同はとうとうG3の洞窟に到着していたのだ。
11VS - Against The Inferior Species3:2006/05/12(金) 00:26:36 ID:HKEeVBHO
松明。ランタン。あわせて4つの光が、昼夜を問わず暗黒に閉ざされた洞窟内に広がる。
「またここに戻って来たんですね、私は…」
ミントは呟き、幾多の戦いを経て惨憺たる状況になった洞窟を見やりながら、適当な岩に腰掛けていた。
「確かに、ここだったら物音もよく響きます。不意打ちを受ける心配は低そうね」
暗闇払う松明の光に、リアラは目を細めながら辺りを見回した。
「…………」
今や物言わぬコレットの鼻腔を、鍾乳洞独特の鉱物質な臭気がくすぐる。
「とにかく、今はここで休みましょう。スタンさん達を信じて」
心にも無いことを言うミトスの耳に、さらさらと流れる伏流水の川の音がささやく。
人心地付いたリアラとミント。コレットはやはり、リアラに寄り添っていた。
薄ぼんやりとした洞窟の中。互いの表情も読み取りにくい。ミトスはその影の中、怒りに表情を歪めていた。
アレが姉さまの器でなければ、今すぐにでも殺してやる所なのに。
リアラを経由した情報によると、自分の来た時点からの未来においても、この神子は自身の計画をひっくり返したらしい。
心を失ってもなお、ミトスの謀略を阻むその姿は、まさに真の世界再生を目指す神子の鑑と言えばその通り。
だがミトスにとって、そのコレットの妨害行為は目障りな障害以外の何物でもない。
それでも、ここでコレットを殺してしまっては本末転倒。
ミトスは怒りで脳が沸騰しそうになっていたが、その怒りを鎮められる程度には理性的な性格をしていた。
とにかく、何とかしてコレットを引き剥がし、リアラとミントを殺さねば。
現状下でリアラを殺すためには、そしてリアラの殺害後も現状を維持するには、ミントも同じくあの世に送る必要がある。
ミントのような手合いには、恐らく恫喝も通じまい。よって手駒に据えるという策は厳しい。
ならば、エターナルソードを手にするための人質になってもらうか。
それともリアラには悪意の第三者による「事故死」を遂げてもらって、リアラの死後も行動を共にしてもらうか。
だがそんな手の込んだ工作を施すに見合うほど、ミントという女に旨みはあるのか。
ミトスがあれこれ今後の展望を考え、思考の海に漕ぎ出そうとしたその時。
「……の…ラさん…」
「……それ…ね…」
ミトスの耳に、会話が飛び込む。問題のリアラと、ミントの話し声。
12VS - Against The Inferior Species4:2006/05/12(金) 00:27:18 ID:HKEeVBHO
ミトスはいぶかしげに、会話する2人を見る。
わずかな光で十分な視界を維持できるハーフエルフの瞳も手伝って、2人の表情は十分読み取れる。
ミントが何やら切り出した会話を、リアラが受ける。2人の頬は共に、恥じらいを帯びたように紅潮している。
時おり2人はミトスのほうへ視線を向ける。そしてミトスと一瞬目が合うと、気まずげに視線を反らし、仲良く沈黙する。
彼女らの視線は、ミトスと離れた直後に、横の地下の河川に向かう。
その瞳は、何やら物欲しげな輝きを帯びていると、言えなくもない。
遠回しな表現を用いれば、「花を摘み」にでも行きたくなったのだろうか。ミトスは一瞬思った。
最も、エクスフィアの作用で基礎的な聴覚も強化されたミトスには、小声での話を聞き取るなどわけもない。
少し神経を集中させれば、ことさら魔力を用いずとも、その内容は丸聞こえだ。
「…あの…リアラさん…」
「なんですか?」
「…こんな時に不謹慎な発言、申し訳ないんですが…」
黙り込んだミトスの耳に聞こえて来る、少女達の会話。
「…………?」
「…水浴び…したくありませんか?」
そのフレーズが耳に飛び込んできた時。
(!!!)
ミトスの脳裏がかっと明るくなった。にやにやとした不気味な笑みを、洞窟の闇の中浮かべた。
無論、それは劣情に駆られての反応ではない。ハーフエルフとしての代謝機能の多くを失った体では、欲情も起こらないのだ。
ミトスは、更に沈黙を維持する。
「…え?」
「私もこの島に来てから、まともに水浴びもしてないから…」
「それは私もですけれど…」
「ほら、今は殿方の皆様とも結果的に離れ離れになってしまったことですし…」
2人の会話が続くごとに、ミトスの脳裏にその策は編まれていく。冷徹で、かつ非道な策が。
「軽く汚れを落として、髪をすすぐだけでもしたいんです。…まずい…でしょうか…?」
「私は別にいいですけど…でもミトス君がいますし」
「ぼ…ボクなら気にしないで下さい!!」
ことさらに焦ったような声で、ミトスは上ずった声で言った。もちろん、演技で。
13VS - Against The Inferior Species5:2006/05/12(金) 00:27:48 ID:HKEeVBHO
「!!」
「!?」
そのミトスの声に、ミントとリアラはびくっと首を持ち上げた。一瞬遅れて、気恥ずかしげに頬を染める。
「…今の話、聞いてたんですか?」
「すっすいません! ボク、昔から耳がいいものですから…あは…あはははは…」
一応この言葉に、嘘はない。確かにミトスは「昔から耳がいい」。
それにしても正直なところ、こんな上っ面だけの純情さを装った茶番は、ミトス自身吐き気がする。
だがこれも、コレットを手に入れるため。ひいては、姉さまのため。
年頃の少女の会話を盗み聞きしてしまった、幼い少年の気まずさを、ミトスは演じて見せる。
4000年前の自分が、今ここで同じ状況に立たされたら、同じように反応していただろうか。
ミトスは4000年前に殺した、無垢で一途な少年の人格を、ほんの少しだけ想起していた。
「…やっぱり、こんな時にこんなことを考えては、不謹慎ですよね…」
ミントもやはり苦笑交じりに、ミトスにそうやって返答する。
ミトスは慌てた様子を崩さず、すぐさま続けた。
「ぼ…ボクのことなら気にしないで下さい。覗きに行ったりはしません!
…そんな恥ずかしい真似したら、天国の姉さまに怒られますから…」
そして、言葉の後ろになるにつれ、慌てた様子を悲しみにグラデーションさせる。
リアラとミントは、その悲しみを受け、眉を寄せた。
「嫌なこと…思い出させてしまいましたね」
「いえ、いいんです」
ミトスは首を横に振り、続ける。
「ボク、クラトスやユアンから教わった魔術が使えるんです。だから…」
ミトスは振り向きざま、近くの大きめの岩に飛び乗り、周囲を見渡す。
「…あそこに、ちょうどいい川のよどみがあります。ボク、ちょっと行ってきます!」
川のよどみを見つけたのは、嘘ではない。むしろこれら二者は、ミトスが待ち望んでいたパズルのピースの1つ。
ミトスは湿気を帯びた鍾乳洞の地面に足を取られないよう、クラトス直伝の軽足でもって、そこに駆け出した。
14VS - Against The Inferior Species6:2006/05/12(金) 00:28:33 ID:HKEeVBHO
そして、数分後。
「ほら、ちょうどいいお風呂がこれで出来ましたよ」
先ほどミトスが見つけた川のよどみ(よどみというよりは、川と繋がった大きな水溜りというべきか)は…
荒っぽい作りながらも、十分目隠しになる岩壁に囲まれて、ほかほかと湯気を上げていた。
あたり一体は、さながらサウナのように暖かい蒸気が立っている。
その湯気は、水溜りの周囲に出来た荒い作りの岩の壁により水溜り周囲に漂い、じんわりと温かみが伝わってくる。
つまりは、地下の川の水溜りを作り変えた、即席の蒸し風呂。この会場では本来望めなかったような、最高級の浴場だ。
「すごい…!」
ミントとリアラの第一声は、それを置いて他になかった。
「よく姉さまと一緒に旅をしていた頃、こうやって即席の露天風呂を作ってたんです」
ミトスはどこか誇らしげに、2人に胸を張った。
この洞窟風呂の作りは、以下の通り。
まず先ほどミトスが見つけた川の水溜りに近付いたところで、彼は呪文の詠唱を開始。
人目から隠すためと、湯気を閉じ込めるための岩壁を魔術「ロックブレイク」で作成。
一箇所だけ人の入れる隙間を作り、水溜りの周囲を岩の壁で囲う。
更に囲った水溜り目掛け、威力を絞って魔術「レイジングミスト」を発動。
本来この呪文は、高熱の蒸気を発生させて敵を蒸し殺す火と水の複合属性魔法であるが、手加減すればこんな使い方も出来る。
水溜りはこれで、入浴に適した暖かな湯に代わり、「レイジングミスト」の作用で岩壁の中はサウナになる。
ミトスはこうして、洞窟内に即席の浴場を作ったのだ。
「えっと…入るための隙間は向こう側にありますから、そこから中に入って下さい。
ボクは向こうにいますから、お風呂に入ってるところは見えませんよ。
あと、川の水が少しずつ隙間から入って来てぬるくなりますから、最初は少しお湯が熱くなってます。気を付けて下さい」
ミトスは2人にそう告げ、岩壁を指し示す。ミントの目は、明らかに喜ばしげな光に満ちている。
「…せっかくここまでしてもらったんですから…」
それはまた、リアラも同じこと。先ほどとは別の意味でも、頬を赤く染めている。
「入ります…?」
ミントは嬉しそうな光をそのままに目を横にやり、リアラとコレットを見る。
15VS - Against The Inferior Species7:2006/05/12(金) 00:29:12 ID:HKEeVBHO
「ボクもクラトスから聞いたことがあるんですけど、こういうところを流れる水は、美容や健康にもいいみたいですよ」
ミトスはそこで、クラトスの薀蓄を1つ、披露した。
いわゆる温泉とは、人間の健康に良いいくつかの薬効成分のうち、1つ以上を含み一定以上の温度を持つ水の湧出地点を指す。
そしてこのような鍾乳洞を流れる水には、薬効成分が普通の水より多く溶け込んでいる。
つまり、この即席の浴場はまさに温泉そのもの。
この殺戮の島で温泉に浸かれるなど、とある異世界のことわざで言えば「魔界でローレライに会う」ような幸運だ。
無論、E2の城では、今この瞬間にもスタンやカイルが命がけの死闘を繰り広げているかもしれない。
のうのうとこんなところで温泉につかるなど、不謹慎だと言い張る者もいるかも知れない。
だが、休める時に休んでおかないと、体ももたないのもまた事実。これは以降の戦いに備えた、気力の補完と考えればいい。
ミトスはそう続け、とうとうリアラとミントを説得した。
ミトスは川の上流の方に向かい「念のため出口方面を見張っています」とだけ言い残し、その場を去る。
これでここに残るはミント、リアラ、コレット。つまり女性のみ。もうこれで、異性の目を気にすることは無い。
岩壁の隙間から、3人は温泉と化した水溜りの中に顔を出す。
岩壁がいびつな円を描き囲う面積は、直径にして男の歩幅10歩分と言うところ。
そして岩壁の中の水溜りの大きさは男の歩幅で約7歩分。3歩分の余裕がある。そこを脱衣場代わりに使ってくれということか。
贅沢を言えば脱衣場は別に設けて欲しいところである。
だがそんな事をこの状況で言っては、ユニコーンやアタモニ神からバチが当たるだろう。
身にまとったサンダーマントを外し、きれいに畳んで皮袋に収納するミント。几帳面な性格が、そこに見て取れる。
大ぶりの珠をあしらった髪飾りを外し、髪を下ろすリアラ。まとめられたショートカットの髪が、はらりとほぐれる。
だがコレットばかりは、自分で服を脱ぐというわけにはいかない。
ミントがやると激しく抵抗するので、やむなくコレットの脱衣はリアラが手伝うことに。
コレットに「バンザイ」の姿勢を取らせたまま、リアラは彼女の神子装束に手をかける。
まずチャクラムを扱うためのグローブを外し、前で止めるタイプの装束を開く。脱いだ服はやはり、畳んで皮袋に入れることに。
何だか、赤ちゃんをお風呂に入れてあげる時みたいね、と苦笑するリアラ。
彼女の視界の向こう側で、金色の川が流れたのはその時だった。ブーツと靴下を外したミントが、乱れた金髪をかき上げたのだ。
16VS - Against The Inferior Species8:2006/05/12(金) 00:29:47 ID:HKEeVBHO
グローブを外し、法術師の帽子を脱ぎ、致命傷を避けるための金色の首当てを緩めるミント。
ためらいながらも、彼女は法術師のワンピースの裾に手をかけ、それをするりと首から抜く。
ワンピースの下に着ていた薄手の半袖を脱ぐと、彼女は早々と下着姿になっていた。
弾力に富む豊かな乳房が、下着の中で揺れる。白い薄布一枚に隠された、腰から太ももまでの悩ましい曲線を描く柔らかな臀部。
同性のものと知りながらも、リアラはそれを見て妙にどぎまぎするのを感じた。やがてミントは胸を覆う布を外し…
リアラはそこで、慌てて顔を伏せた。はたと我に帰る。
人が服を脱ぐところをあまりじろじろと見るのは、さすがに礼儀正しい真似とは言わないだろう。
とにかく、今はコレットの服も脱がせてやらなければ。コレットの神子装束に再び手をかけるリアラ。
そこではたと靴を脱がせることを忘れていたリアラは、先ほどに層倍する慌てぶりで、コレットの靴を脱がす。
神子装束を外したコレット。
ゆったりとした装束の上からではよく分からなかったが、こうして下着一枚になると、彼女にも一応胸の膨らみを見て取れる。
最も、ミントのそれとは比べようも無いほど、小ぶりのものではあるのだが…
リアラはコレットの胸を裸にし、脱がせた着衣はきれいに畳む。
下半身を覆う黒のタイツは、少し横着だが下着ごと外してしまうことにした。
これで、生まれたままの姿に戻った乙女はこれで二人目。
ミントの醸し出す清純な色香とは多少趣も違うが、それでもまるで天から降りてきた、無垢な天使を思わせる美しい肢体。
(…まあ、当たり前…よね…?)
リアラは誰に問うでもなく心中呟く。
コレットの冒険譚をわずかなりとも聞かせてもらった彼女なら、コレットの体のこともまたある程度は知っている。
最も、「天使のような」という比喩は、コレット自身やその仲間からしてみれば、無条件に微笑ましいとは言いがたいのだが。
最後に、靴を脱ぎ、自身のワンピースをまとめる腰帯をほどき、ワンピースをミントのようにするりと抜き去るリアラ。
胸と腰を覆う薄手の布を外し、彼女もまた一糸まとわぬ姿となって、畳んだ着衣を皮袋にしまい込んだ。
念のため、各人武器はすぐ手を伸ばせる位置においてある。
ミトスが向こう側で見張りに立っている以上、乙女のバスタイムに闖入する狼藉者がいるとは思えないが、念のため。
出来ることならバスタオルを体に巻いて湯に浸かりたかったが、あいにくバスタオルは一枚しかない。
体を拭くために、少し惜しいながらもリアラは何も持たぬまま、自然の浴場に体を委ねることにする。
17VS - Against The Inferior Species9:2006/05/12(金) 00:30:18 ID:HKEeVBHO
手桶も無いので、両手で湯をすくい、肩からそれを流す。確かに少しばかり熱めの湯だが、すぐに慣れるだろう。
何となく感じる気恥ずかしさゆえに、リアラは胸と、それから下腹部の辺りを両手でかばい気味にして、右足を浴槽に着ける。
(暖かい…!)
着けた右足から、今までの汚れと疲労が溶け消えてゆく心地よい感覚に、リアラの頬は緩む。
左足も湯に着け、それから腰。腹、胸と来て、最終的に肩まで浸かり、リアラは暖かい水溜りの底に、その腰を落ち着けた。
こんなところで、こんな風にお風呂に入れるなんて。リアラは改めて、ミトスの厚意に感謝を寄せた。
水は透明。ランタンや松明程度の灯りでは、維持できる視界はたかが知れている。
だがリアラは乙女の恥じらいとばかりに、両足を畳んでその場にたたずむ。膝を乳房の前に寄せ、腰の前で足首を交差させ。
たとえここには同性しかいないにせよ、リアラは自分の体を隠したい気持ちになる。
改めて見て実感した、ミントの肢体に気後れしたから、というのも原因の1つかも知れない。
小首をかしげ、長く伸びた金髪を一房手に取り、互いをこすり合わせるようにして、髪の汚れを落とすミント。
湯の中にふわふわと浮く彼女の膨らみは、やはり豊満という他無い。
腰周りの肉付きもよく、一目見て適わないな、とリアラは直感する。
きっとロニさんが彼女を見たら…もちろん裸を見るなんて許せないけど…きっと「ボインちゃん」なんて評するだろう。
この体つきを見たら、男の人はほとんど色気で参ってしまうのではないか。
カイルやロニさんはもちろんのこと、ジューダスでさえ慌てふためくかもしれない。そんな想像を巡らせるリアラ。
(私も…)
ミントさんくらいの体つきだったら、カイルは喜んでくれるだろうか。
より丸みを帯びた自分の胸や腰周りを見て、顔を赤くして目を背けるカイルを想像すると、それはそれで楽しいかもしれない…
と、そこに。
「…………」
それに真っ先に気付いたのは、コレットだった。エクスフィアで強化された知覚で、その音を捉える。
「…歌…?」
岩壁一枚隔てた向こう側で、川面もまた波の歌を歌っている。だが、この音は…この歌は、そんな無機質な響きとは断じて違う。
「…ミトス君の…?」
18VS - Against The Inferior Species9:2006/05/12(金) 00:31:18 ID:HKEeVBHO
Kick up! Break out! いざ立ち上がれよ
I won't give up! 僕の限界は
自分で決めるものだから まだまだ行けるさ Going NOW!!

「…………」
変声期を迎える前の少年の、緩やかな高音に乗り、洞窟に歌が響く。
バラードのようにたおやかに、オルゴールのように儚げに。
しかし、そのミトスの声に乗ってなお、その歌からにじみ出る力は隠れはしない。

私の気持ちなんて分からないと 壁を作り何も見えなくした
自分なんてと自信もなくなってく リタイア?

「そう言えば…」
聞く者の気持ちを高ぶらせ、挫けそうな心さえ奮い立たせる、力強い旋律。その中で、ミントは呟く。
「ミトスさんは…ハーフエルフでしたね」
そう。歌舞音曲を好む雅やかなる種族、エルフ。その血は確かに、ミトスの体に流れている。いや、流れていた、というべきか。

結果は付きもので僕の影 それが全て

「きっと、これもまた彼なりの気遣いなんだと思います」
そう判断するミントもまた、ミトスの歌声に聞き惚れる事にした。
この歌声が遠くに聞こえる間は、そちらに近付いてはいない。そうミント達に示すための歌声。
何もそこまで気を遣わなくとも、とミントは少しばかり心苦しく思わないではないが、その気持ちは受け取ることに。

Hey Girls! Hey Boys! 何もしないより
I try! All things! やって悔やめばいい
きっとその失敗が僕を強くしてくれる Going NOW!


ミトスのたおやかな歌声と、そしてこの島で望むべくも無いはずの、暖かな岩風呂。
それは、この島の中に、ほんのひと時だけ訪れた至福のときであった。
ミトス自身が、その天国を地獄に変える、惨劇の一瞬までは。
19VS - Against The Inferior Species10:2006/05/12(金) 00:31:49 ID:HKEeVBHO
(どうしてしまったの、ミトス? 急に歌なんて歌い出して…)
ソーディアン・アトワイトは、ミトスの突然の行為をいぶかしむ。
口から流れ出る旋律に一切の滞りを持たせずに、返答するミトスいわく。
(…これも作戦のうちさ。姉さまに教えてもらった歌と共に、劣悪種の女2人を葬る…ね)
口は歌うために使われている今。ミトスは本来アトワイトに応えようはないはず。
この奇妙な現象を可能としているのは、言うまでもなくクルシスの輝石。
ミトス自身の肉体には歌を歌わせたまま、意識は輝石に宿らせてあるミトス。血肉を持たぬ者同士の奇妙な会話が、始まった。
(ちゃんと、ボクの言いつけを守っているみたいだね。アトワイトは聞き分けのいい子だね)
(…………)
アトワイトはその横柄で傲慢な言い方に、思わず閉口した。好きでミトスの言葉に従っているわけではない。
従わないという選択がここに無いから。拒否権は無いから。止む無く従っているだけに過ぎないのに。
(じゃあ、そんないい子のアトワイトには、ボクの作戦を教えてあげよう。
幸いなことに、意識を輝石に転送すれば、あの器には殺気は気付かれないみたいだし、これで安心して話が出来るよ。
…まあ、これからの作戦を実行するには、意識をまた体に戻さなきゃいけないんだけれども、それも計算はしてある)
くつくつという陰鬱な嗤い声が、輝石の光の脈動と共にアトワイトに届く。まともな肉体を持っていたなら吐き気を催していた。
それくらい純粋で、かつ禍々しい意志が、輝石には宿っていた。
(それじゃあ、講釈を始めよう。僕がこれから行う作戦に必要な要素は三つ。いや、『利用する要素』とでも言うべきかな。
それは『エルフの技』、『川の水質』、そして『即席の風呂』さ。
まず、『エルフの技』から説明しようか)
ミトスの輝石がそう言い終えたとき、ちょうどミトスの体の歌う歌は、そこで一曲を終えていた。
矢継ぎ早に息を吸い、新たな曲を紡ぐミトスの体。
例え無機生命体と化し、呼吸の必要はもはや無いとはいえ、肺に空気を送り込まねば言葉を発することは出来ない。
ミトスの声が、再び洞窟の空気を揺らした。
ミクトランの用意したこの島に満ちるは、マナ。この島に招かれし者達、全てに応えるため生み出された、異常な位相のマナ。
それでも、否、それゆえに、ミトスの声にマナは応える。空気のみではなく、マナもまた震え出す。
(これは…)
20VS - Against The Inferior Species11:2006/05/12(金) 00:32:26 ID:HKEeVBHO
歌。ミトスの歌。ミトスが1つ言葉を紡げば、微かな光が生まれる。ミトスが1つ旋律を生めば、微かな光は身を躍らせる。
洞窟のマナは、蛍を思わせる光と動きをとる。まるで星空の只中を泳いでいるかのような、幻想的な光景。
(…『呪歌』さ)
(『呪歌』…?)
(そう。遥か昔、デリス・カーラーンからエルフ達がシルヴァラントとテセアラの元になった、ある星に降り立った時代。
エルフ達はデリス・カーラーンから送られるマナを、歌によって操ったとされる。
遥か星辰の彼方から、『その星』に降り立った『指輪の王』が、邪悪な魔力で『その星』の支配を試みたっていう、
そんな伝承も残る神話の時代さ。
『指輪の戦争』があったとされるその時代から、エルフ達はこの技を体得していたとされる)
マナの生み出した蛍は、ミトスを中心として飛び回る。まるで遊び回る子供のような、無垢で無邪気な輝き。
(この『呪歌』が現在、シルヴァラントとテセアラに広く伝わる『呪文』の元祖になったとされている。
ボクも4000年のうちに、暇だからこんな技も練習していたんだ。
『呪歌』って言うのは、まあありていに言えば、歌を歌うことで呪文の詠唱の代わりをする、特別な魔術の使い方なのさ。
最もこのやり方は、とんでもなく原始的で、通常の呪文詠唱の何十倍も時間がかかる。
今ボクが詠唱している魔法なら、発動までにかかる時間は…まああと数分てところかな。本来なら数秒で済む詠唱なんだけど。
まあ、講釈をするにはちょうどいい待ち時間さ)
蛍はあちらこちらを舞い、仲間を増やしてゆく。時おり虚空から、ぽつりぽつりと蛍は生まれる。
すでにその数は千の位に届こうか、というほどに洞窟に散るマナの星は生み落とされている。
(あえて『呪歌』で魔術を使うような回りくどいやり方をするのには、二つの意味がある。
ボクの体に意識を戻せば、こんなまどろっこしいやり方なんてしなくてもいいんだけど、そうするとあの器に殺気を気付かれる。
その点『呪歌』なら、僕の体に覚え込ませたメロディだけで、呪文の詠唱の代わりが出来る。
それに『呪歌』なんて、エルフかハーフエルフでもなきゃ、よほど教養のある人間でなければ、
ただのプライマル・エルヴン・ロアーの歌と聞き分けるなんて出来ない。
呪文の詠唱の声を聞かれたら警戒されるかもしれないけど、ただの『歌』を警戒する人間は、まずいないだろう?
更にボクが複数の意味のない歌を歌うことで、更に本命の『呪歌』への警戒心を薄れさせる。
『呪歌』の意味は、つまりは相手に一切の警戒をさせないまま、呪文を詠唱することにあるんだ。
まあ、呪文の結びの句を発して魔術を完成させるには、どの道意識を体の方に戻さなきゃいけないんだけどね。
でもさっきもその危険はすでに計算済みさ。
…さて、次の要素は『川の水質』だ。
アトワイト、さっきボクは、この川に何が溶け込んでいるって言ったか、覚えてるかな?)
21VS - Against The Inferior Species12:2006/05/12(金) 00:33:15 ID:HKEeVBHO
(人の体にいい薬効成分、ですか?)
(そう。昔ボクはクラトスに、バラクラフの大図書館で色々な学問を教わっていた時期もあった。
その時ボクは博物学も学んだんだけど、こういう風な鍾乳洞を流れる水には、ある成分が多く溶け込んでいるんだ)
(…と言うと?)
アトワイトは、ミトスを促した。ミトスの輝石は1つ輝き、意識をアトワイトに転送する。
(アトワイトも、だいぶボクの輝石と波長を合わせるのが上手くなったね。
それじゃあ、その成分を教えよう。
早い話、それは石灰岩さ。石灰岩は水に溶けた風のマナを受けることで、ほんのわずかに水に溶ける。
この風のマナは、失活したものでなければならないんだけどね。この失活した風のマナの別名は『死の空気』。
これのお陰で、ここの水にはわずかに石灰岩を溶かし込んでいるんだ)
マナの蛍は、その時瞬きを始めた。星の瞬きとも微妙に違う、不思議な光の鼓動。
アトワイトはそれを、どこかで見たような気がする。けれども、何故だか思い出せない。
(話を続けるよ。そしてその水に溶けた石灰岩は、特にある属性を持ったマナと相性がいい。
石灰岩は塩と同じく、水に溶けている状態では正、もしくは負の雷属性を帯びた『アイオン』っていう粒子に分離するからね。
そういう意味では、この川の水は、海水と同じだね。わずかに溶けてるだけでいい。
ただでさえ水は、その属性と強く引き合うんだけれども、石灰岩が溶けていればなおさらそうなるね)
(ミトス。一体どういう…)
(おっと、そろそろ時間が押してるから、最後の要素を解説しないとね。今3人が入浴している『即席の風呂』。
ボクは何も、あいつらに安らいでもらうために、あんな安っぽいサービスをしてやったわけじゃない。
隙を丸出しにしてもらうための布石さ。
アトワイト。今あの劣悪種達は、どんな気持ちだと思う?)
ミトスの放つ「劣悪種」という言葉を、しかしアトワイトは瞬時にリアラとミントのことだと理解する。
彼の言う「劣悪種」という言葉は、いわゆる通常の人間と捉えていいだろうことは、文脈から容易に察することが出来る。
アトワイトは応えていわく、
(きっと、喜んでるわね。こんな地獄のような島の中で、天然の岩風呂に浸かって体を洗えるんですもの)
とのこと。ミトスは満足げに、首を縦に振る。
22VS - Against The Inferior Species13:2006/05/12(金) 00:33:50 ID:HKEeVBHO
(そう。だってあいつらは女だからね。体をきれいにしておきたいって気持ちは強いだろう。
まあ手元に武器を置くぐらいの警戒はしていると思うけど、ボクの一手にそんな抵抗は無意味さ。
そもそもあいつらはボクのことを記憶障害だと信じて、おまけに今あいつらは望むべくもない上等な浴場に浸かっている。
果たしてその二重の気の緩みがあった上で、ボクを警戒するなんて出来ると思う?)
(…いいえ)
青。黄色。紫。時には桃色。マナの蛍は、続いては虹のようにさまざまな色を帯び、楽しげに舞い始める。
だが、マナの蛍が決して帯びない色もまた数色。
それは、「ある現象」が決して帯びることのない色と同じであると気付ければ。
この時点でミトスの目論見を見抜けた賢明な者も、またいただろう。
(そうだね。更に、ありがたいことに自動的に『保険』もかかる。現時点で、すでに『保険』はかかっている。
アトワイト。もとは女だったお前に聞こうか。もし入浴中に何者かに襲われたら、お前ならどうする?)
(決まっています。撃退します)
(そう。でもその時、ためらわずに動ける自信はあるかな? いや、正しくは『動けていた』自信はあるかな?
何せ、裸のままだよ?)
(!!!)
その時、アトワイトは言葉を失った。ミトスの意図の一部を、見抜いてしまっていた。
この男は、不埒にも乙女の入浴に闖入するつもりなのだ。
確かに、女ならば…ましてやそれが若い女であれば…襲ってきた闖入者が男でさえあれば、躊躇はするだろう。
何せ、全力で抵抗することになれば、ほぼ間違いなく闖入者に裸を晒すことになる。
よほど想う相手でなければ、異性には秘しておきたい裸体を。
すなわちミトスは、女の羞恥心を突き、ミントとリアラを襲う。そう公言しているのだ。
(…最低!!)
アトワイトは初めて、ミトスに心の底からの悪罵を投げかけた。
そんな下衆な目論見を立て、あまつさえ公言するとは。
もしアトワイトに手があったなら、有無を言わさずミトスの頬に、全力の平手打ちを見舞っていただろう。
先ほどは「覗きなんてしたら、天国の姉さまに怒られる」などとうそぶいていた少年と、目の前の彼が同一人物だとは思えない。
23VS - Against The Inferior Species14:2006/05/12(金) 00:34:31 ID:HKEeVBHO
(おやおや、ボクはシャーリィって女に、一度股間を蹴られたんだよ?
普通男同士なら、よほどの事がなきゃそんなことはしない。これで双方とも、おあいこさ。
…まあそんなお門違いなことはさておいても、女は男に裸を見られて恥ずかしがるなら、そこを利用しない手はないだろう?
ボクはそんな安っぽい羞恥心を持ったままの女が旅になんて出ること自体、随分馬鹿げた行為だと思うな)
そういうミトスの眉間には、微かばかり悲しみの皺が寄っていた。
ミトスは知っている。姉は必死で隠していた「そのこと」を。
クラトスやユアンと出会う前。ユグドラシル姉弟がエルフの集落から追い出され、明日をも知れぬ身にまで落ちた時。
姉は弟ともども糊口をしのぐため、夜な夜な繁華街に繰り出しては、娼館で自らの体を劣悪種の男に売っていたことを。
この行為をただ汚いだとか、自分はそんなことなんて恥ずかしくて出来ないだとか。
そんな寝言をほざくしか能のない女は、最初から旅などに出るべきではない。旅になど出る資格はない。
女は男に食い物にされるし、戦で負ければ女は男に犯される。そんな事実も受け入れられないような甘い女など。
姉はその屈辱に耐え、古代戦争の終結を成した、英雄の一角に座したのに、だ。
一瞬の回想にのみ浸ったミトスは、しかし我に返って言葉を紡ぐ。
(まあ、どうせそんなこと、『保険』だからいいけどね。最初の一手で、ボクの作戦は九分九厘成功する。
あいつらが裸であるってことは、羞恥心って枷を与えると同時に、武装を解いているってことにもなる。
そしてボクがこれから打つ一手においては、その要素の方が重要なのさ)
マナの蛍はミトスを中心に渦を巻く。目くるめく星々の輪舞。
星空の中心に立ち、時の流れを何十倍にも、何百倍にも早めれば、こんな光景を目にすることが出来るかもしれない。
(特に、ミントって女の着ていたサンダーマントは邪魔だった。あれがあったら、この作戦は成立していなかったかもしれない。指輪やイヤリングぐらいなら、入浴の時にも身にまとうことはあるかもしれないけれどもね。
でもまさか、マントをしたまま入浴するような人間は、普通いないさ。
つまりあの2人は警戒心が皆無な上に、身を守る防具も一切ない。この魔術は、まずあいつらを直撃する。
ボクはこのために、わざと岩壁から川の水が流れ込む隙間を残しておいたんだ。
さて、ここまで解説したら、もう時間だ。後はボクの実演を、黙ってみているといい。意識を、体の方に戻す)
刹那、虚ろな光を放つのみだったミトスの青い瞳に、生気のある光が舞い戻る。
今の今まで歌っていた『呪歌』の維持は放棄しなければならないが、ちょうど『呪歌』は全てのパートを終えた。
途絶えたとしても、不自然には思われまい。ミトスは両の手を、洞窟の中からは見えぬ天に向け、その言葉を紡ぐ。
24VS - Against The Inferior Species15:2006/05/12(金) 00:35:04 ID:HKEeVBHO
「天光満つる処に我は在り…! 黄泉の門開く処に汝在り…!!」
渦巻くマナの蛍は、ミトスの頭上に流れ込む。光り輝く星々の竜巻が、ミトスの両の手に流れ込む。
流れ込むマナのきらめきは、ミトスの手のひらで球体となり、その身を一気に膨らませる。弾けるは、紫電。
(!!!)
アトワイトは、息を呑んだ。この呪文は…雷属性の晶術…いや、魔術!
そうか、そういうことだったのか。気付いた時には、もう遅い。
確かに、今のリアラとミントを攻撃するのに、これ以上適した呪文はあるまい。気付くのが、遅れた。
入浴中…つまりは全身びしょ濡れの相手に、電撃を浴びせるのがどれほど効果的かは、アトワイトもよく知っている。
しかもそれが「ある意味海水と同じ」である、この地下河川の水とあれば。
炸裂する電撃のショックは、真水に濡れた時のそれを遥かに上回る。
天地戦争を共に戦い抜いた仲間、クレメンテの言葉を思い出すアトワイト。
「アイオンを含む水は、真水と比べると飛躍的に雷を通しやすい」、という言葉を。
だが、アトワイトの後悔はもはや先に立つことはない。ソーディアンの身では、この詠唱を阻むことも出来ない。
見やれば、岩風呂からは『器』と呼ばれていた少女が…コレットが駆け出している。
だが、例え彼女が飛び道具であるチャクラムを持っていたとしても、この間合いでは妨害は出来なかっただろう。
彼我の距離は、弓の間合い。チャクラムの射程を上回る。
そして先んじて詠唱を行っていたミトス相手では、天使術「エンジェルフェザー」による牽制でさえ間に合わない!
(ふふ…器だけが風呂から上がるところも、計算通り。殺(もら)った!!)
ミトスは輝石の中、勝利の快哉を上げた。ミトスは振り返りざま、両の手を川面に叩きつけ、結びの句を放つ。
「出でよ! 神の雷!! インディグネイション!!!」
紫電は、川面に放たれた。
ミトスの制御により指向性を持たされた超高電圧の奔流は、まっしぐらにリアラとミントの入浴する岩風呂に向かう。
一度雷の魔術は実体化すれば、音の速度さえ足元にも及ばぬ激烈な速度で標的に向かう。文字通り電光石火の一撃。
神雷の牙は、水の中を突き進み、その圧倒的破壊力の余波で以って、川の水面に水柱を連続で噴出させながら、突き進む。
エクスフィアで強化されようと、魔術で研ぎ澄まされようと、この一撃は人間の反射神経ではかわせない。
この世を成立させている理法自体が、この一撃を人間がかわすことを禁じている。そう言い切ってしまえるほどの、神速の一撃。
ミトスの目でさえ追えぬほどの超高速で、雷と水しぶきという破壊の権化は、岩風呂の中に突撃。全魔力をそこで解放。
25VS - Against The Inferior Species16:2006/05/12(金) 00:35:37 ID:HKEeVBHO
水と雷。二者が出会うことで成立した、凄絶な紫の爆光。電撃の作用で水は瞬時に沸騰し、蒸気の圧力を一気に解放。
水しぶきが岩壁の中で、天井にまでに吹き上がる。それを背筋が寒くなるほどの美しさで修飾する紫電。轟音が、洞窟を揺らす。
電撃による衝撃と、炸裂しもはや凶器と化した水しぶき。間違いなく直撃。何せ2人は、裸のまま。
五体満足でいられれば、まだ幸せな方だろう。ミトスは知っている。
「インディグネイション」の超高電圧を人間が受ければ、体内の体液さえも沸騰することを。
すなわち運が悪ければ、内側から粉微塵に肉体を爆砕されて、悲惨な死体が出来上がることを。
ミトスはもはや人間ではなく、ただの奇怪なオブジェと化したミントとリアラを想像し、思わず嗤い声がこぼれる。
再び洞窟に静寂が戻った時。
ただその場にたたずむは。
無言のまま、生まれたままの姿をさらす虚ろの天使と。
そして自らの策の成功に歓喜し、けらけらと笑う狂気の天使と。
ただその二者ばかりであった。
コレットが助かったのは、心を砕かれていたからこそ、とも言えるかも知れない。
裸を見られることを躊躇する気持ちもそこにはなく。
ただ自らの仕える主人を守ろうという…主人の近くで殺気を放つ者を排除しようという、半ば動物的な本能のみがあった。
もしもコレットの振る舞いをいぶかしみつつも、即座にコレットの後にミントとリアラが続いていれば。
ミトスのこの一撃を、あるいはかわせていたかも分からない。
だが、常に選ばれる時の道筋は、ただ1つきり。過去の「もしも」は、夢想するしか出来ないはかない虚構。
ミトスは考えたのだ。
コレットに対し己の殺気を隠せないのであれば。
逆にその殺気を使って、コレットのみを釣ろうと。
緩んだ警戒心と、裸を見られることへの羞恥心という、二つの足かせをリアラとミントのみに着ければ。
そこでコレットを2人と分断できると。
更にはこの洞窟の環境を即座に観察し、冷静に利用策を練ったからこそ、この一手は成立したのだ。
この一撃で恐らく2人の生存は絶望的。だが、念には念を入れ、死亡を確認するまでミトスは追撃を止めない。
ミトスは、邪剣ファフニールを抜き放ち、まだ霧状にしぶきの舞う、即席の風呂へと向かう。
26VS - Against The Inferior Species17:2006/05/12(金) 00:36:37 ID:HKEeVBHO
この剣に、2人の血を吸わせてやろう。ミトスは考える。
ミトスも闇の装備品についてはそれなりに知識もあるし、その内の1つは実際にクルシスが回収している。使い方は知っている。
かいつまんで言えば、これらの装備品は生き物の命を喰らうことで、無限にその刃を鋭くしてゆくという性質があるのだ。
最も、実用に足るほどにまで刃を研ぎ澄ますには、本来なら何千何百という生き物の血を、この剣に吸わせねばならない。
だが、この会場の異常なマナの位相下では、それも分からない。ましてや今回の生け贄は人間。
2人の命でどこまで剣が鋭くなるかは未知数だが、十分に試してみるだけの価値はあるだろう。
運が良ければ、切れ味が数倍に高まるかもしれない。
ミトスはたたずむコレットの前を通り過ぎ、岩風呂に向かう。ミトスが通り過ぎるとき、わずかに舞うコレットの髪。
絶望と後悔に打ちひしがれるアトワイト。だが、彼女のみがそれを見ていた。見てしまっていた。
コレットの目から流れる、透明な雫を。
泣いているのかも知れない。それ以外の理由もあるのかもしれない。
だが、アトワイトは、その光景を目に焼き付けていた。この島の絶対的な規則がまたも産み落とした、悲劇の果てを。
その悲劇に涙する、少女の無表情な顔を。
力なきソーディアンの身に、何故自分は身をやつしたのか。体を持ったまま、この島に来ることはできなかったのか。
アトワイトは、自問する。あまりの苦しみに、心が折れそうになる。
けれども、まだあの少女は幸せだ。悲しみを感じれば涙を流せる体を持つ。
しかしソーディアンの自分には、どれほど悲しみで心が押し潰されそうになっても、涙さえ流せないのだから。
アトワイトはただ、コアクリスタルに宿った心で、ひたすらに悲しみ抜いていた。
誰にも知られることのない悲しみに、アトワイトは打ち震えていた。
27VS - Against The Inferior Species18:2006/05/12(金) 00:37:17 ID:HKEeVBHO
【コレット 生存確認】
状態: 裸 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)  苦無(残り1)
基本行動方針:防衛本能(ただし混乱中)
現在位置:G3洞窟

【ミント 生存確認?】
状態:裸 「インディグネイション」による重度の電撃ダメージ?
所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント(皮袋に収納したので、インディグネイションは直撃)
行動方針:????
現在位置:G3洞窟

【リアラ 生存確認?】
状態:裸 「インディグネイション」による重度の電撃ダメージ? 
所持品:強化ロリポップ 料理大全
フルーツポンチ1/2人分 ピヨチェック 要の紋
行動方針:????
現在位置:G3洞窟  

【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP50% 左肩損傷(処置済み) 体力を若干消耗
   全身軽度損傷 天使能力制限(一時的) 
   記憶障害の振り(カイルとの戦いを覚えていない振り)
所持品:S・アトワイト(初級晶術使用可能)、大いなる実り、邪剣ファフニール
基本行動方針:マーテル復活
第一行動方針:リアラとミントの死亡の確認。可能ならば邪剣ファフニールに2人の命を吸わせる
第二行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用
第三行動方針:カイル・ロイドを復讐鬼に仕立てエターナルソードを探させる
第三行動方針:アトワイトが密告した可能性のある場合その人間を殺害
第四行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:G3洞窟

※ミントとリアラは現在生死不明。
28黒翼の旗の下に 1:2006/05/12(金) 23:44:08 ID:hmkVhak4
何をしなければいけなかったんだ…
そうだ、息をするのを忘れていた。
ヴェイグ、君はどうしたい?
…?何かが湧き上がってくるかのような…
悩んでいる時間は無いよヴェイグ、ちなみに選択肢もあまり無い。
…鉄、これは鉄の味か?
さあ、選ぼうよヴェイグ。
君の目の前にいる彼女を、同じヒトである君はいったいどうするんだい?
…涎…赤い涎…ああ、そうか、俺の血か。
倒すの?殺すの?死ぬの?君の望むように僕の力を使いなよ。
どんな答えでも、彼女は悲しそうにとびきりの笑顔を見せてくれるよ、きっと。
(彼女の名を口にしたが巧く口内の空気が振動しない)


後5秒欲しかった、とハロルドはその他人より膨張した下唇を噛みながら思った。
一時停止した空間で、3人。
なんて素人の斬り方。人間は果物じゃあ無いんだから。
果物よりもっと簡単に壊れるんだから。
既に詠唱を行っている自分に今更気づく。
私はもう彼女を諦める方向で未来を制限している。
なんて不自由。
私の頭脳も、突き出した私の手も、動かない。
手が動かない。別に手を動かさなくても晶術は撃てるものなのだが、驚いた。
手を見る。外的変化は無い。指を動かそうと意識してみる。動かない。
触ってみる。冷たい。振動していない。凍っている。
ゆっくりと前を向いた。私は笑っている。

プリムラの肩越しに突き出したヴェイグの右腕が青く輝いている。
差し伸べられた手が落ちると同時にヴェイグの膝が地面に着く。
固く結ばれた口元に紅線。歯周病でなければ多分腹の血液だろう。
崩れて散る銀髪の向こうに、彼の瞳を見た。
まるでウインクするかのように瞼が下りる。本当にウインクだったら死ぬほど似合わないだろう。
多分、「ミソチケット」か「ダメージ32倍」か「殺すな」のいずれかのサインだと思う。
意味が分からない。いや、分かるんけど、それ以外に意味はないだろうから
間違いないんだろうけど、
だからなんでよ?
あんたがそれを言いますか?
馬鹿馬鹿しい、と思う。
ヴェイグが、ではない。詠唱を中断していたことに今更気付いた自分自身が、だ。
29黒翼の旗の下に 2:2006/05/12(金) 23:44:53 ID:hmkVhak4
ヴェイグが膝を着いたと同時にプリムラは手で顔を覆おうとする。
「を」を含めて「お」が五回。そんなことを考える自分を残りのハロルドは責めた。
ナイフを持った方の手だけが紅い。
ヴェイグのサックを持った方の手だけは白い。
肌色じゃなくて本当に白だったら縁起が良かったかもしれない。と更に下らないことを考える自分を糾弾。
動かなかった手が活動を再開する。ヴェイグの意識が無くなったからだろう。
若干距離があるのだが、プリムラの周期の短い呼吸音の間にポツポツと単語が混じっているのが聞こえる。
ヴァリエーションは様々だったが一貫して犯行を否認しているだけの実の無い内容で聞く耳は無い。
手に熱を感じる。プリムラははハロルドに背を向け、一目散に走り出した。
速い、とハロルドは感じる。不満や文句の用途ではない。
一般的成人女性の速度限界としては異常であるが、術の射程に入る以上何の不満も無い。
「デルタレイ!!」
「待て!!」
光の球体が三つ、当たった。プリムラではなく、グリッドに。
グリットがかなりの距離を吹き飛んで、そのまま気絶した。
プリムラが移動した距離よりは遥かに短い。
こめかみに電流が流れる。その大きな眼を瞑ってハロルドは思った。
いつものように、最悪だと。
30黒翼の旗の下に 3:2006/05/12(金) 23:45:27 ID:hmkVhak4
『あらゆる状況をあらかじめ想定していれば、百のピンチからも必ず生還できるものなり』

悪くない、私は悪くない。
私は嵌められた。そう、嵌められたんだ。
周囲には私とカトリーヌの二人だけ、グリッドたちは遠くにいて他には誰もいない。
いきなりそこにいて私は生きていてカトリーヌは死んでいる。証人はいない。
状況証拠は非の打ち所も無く私を犯人だと責め立てる。
なんと、実に、まったくもって、ミステリィだ。

「名探偵はプロの犯罪者にも成り得るっていうでしょ。私に任せておけば大丈夫だって」

つまり誰かが私を嵌めようとしているのだ…
真犯人のトリック、悪意によって名探偵が犯人だと断定され、警察や仲間に疑われる。
なるほど、実に名探偵らしい、相応しい事件だ。
そして名探偵は警察に捕まらないように身を隠しながら一人で捜査を行い、真犯人を捕まえるのだ。
そう、それが、名探偵というものなのだ…
そういうことなのだ…そうに決まってる…だって、それがミステリィじゃないか。
名探偵が犯人なんて、在り得ない。在り得てはいけない。
勿論、さっきのは悪いことをしたとは思うのだ。刺した人にも…グリッドにも…
だが、ここで捕まる訳には行かない。それでは真犯人の思う壺ではないか。
捕まってはいけない。物語が終わってしまう。
正当防衛だ。いや、真犯人の犠牲者といっていい。
仇はとってあげよう。それが名探偵というものなのだ。
カトリーヌに首を絞められて頭に酸素が回っていなかった。
もっと上手なやり方があったかも知れない。
しかし、私には何よりも自衛のための武器と道具が必要なのだ。
誰も信じてはいけない。私は追われる側なのだ…反撃に転じるまでは…
誰が犯人なのか分かるまでは…逃げなくては、ならない。キールからも。
殺されてはいけない…それを回避するためなら…すのも仕方ない…

だって、それが、名探偵というものじゃない?
31黒翼の旗の下に 4:2006/05/12(金) 23:45:57 ID:hmkVhak4
グリッドは草の上で眼を覚ました。まだ眼の焦点が合わない。
意識がはっきりするまで何があったのか思い出そうとする。
ユアンが死んで…泣いて…泣いて…それから?
目の前に牛がいる。逃げるという考えは浮かんでこない。
そう、向こうで大声がして…その先にプリムラと男が抱き合っていて…
牛の向こう側に、誰かいる。多分二人。
その男に襲われているんだと思ったんだ…かなり下世話な方向性で…気付いたときにはもう走っていた。
意識が大分はっきりしてきた。小柄な女性と大柄な男性だ。
男が崩れ落ちて…プリムラが逃げたんだ…もう走っていた…
男性は寝ている。女性は何も言わずに男に回復晶術を繰り返している。
女がプリムラに何かしようとしているのが分かって…俺はもう仲間を失いたくなくて…
ようやく意識が覚醒した。牛の傍に、遺体が2つ。ユアンと
「カトリーヌ!!」
グリッドは気絶していたとは思えない軽快さで2人の元へ駆け寄った。
グリッドは泣かなかった。何が起こったかわからないという面構え。
多分自分の中にある悲しさを計るメーターが点検中なのだろう。
そんな嘘を思いつくほど、グリッドはとても悲しかった。

「リザレクション」
ハロルドは最後の回復晶術を唱え終え、ようやく立ち上がった。
もう2,3発かけてやりたい所だが、今後を考えればこれ以上は無理だ。
額の汗を拭って、大きく深呼吸。
想像以上に凄い。深々と刺された上に中で刃をかき回されたのだろう。
こちらが出来たのは精々消毒を施した上で袋のふたを布で無理矢理閉じただけの事。
もうやれることはない。感情を抑えなくては、と思う。
無理だ。
どうにも止まらず、声を掛けてきた男を、振り向き様殴ってやった。
実にいい音がしたと、喜ぶ自分をハロルドは袋叩きにしてやった。
32黒翼の旗の下に 5:2006/05/12(金) 23:46:40 ID:hmkVhak4
「おい…」
グリッドは目の前の女に話しかけた。一悶着あったもう一人よりは話しかけやすいと思ったのだ。
頬にジャストミート。実に痛い。立ち上がったばかりだったが再び尻で餅を突く。
「…なんで邪魔したの?」勤めて冷静に、且つ自分が威圧されている事を分かって貰える様に尋ねた。
「な、何のことだ?俺は―」言い終わる前に、頬に何か冷たいものが当たる。
ナイフだと分かったときには、彼女の顔が間近に迫っていた。
「あんた一つ嘘付いてるわよね?3度は聞かないわよ。
 なんであの子がその子を殺したと知っていて邪魔したの?」そこでようやく彼女の唇が厚い事が分かった。
そう・・・分かっていた。本当は、走っている途中に見てしまった。カトリーヌの顔を。
確認を取らなくてももう死んでいるのは分かった。
もし生きていたらあんな醜悪な顔を彼女は晒そうとしないだろう。それが尊厳というものだ。
「で、でももしかしたら俺たちが戦っている間に誰かがやってきて…
 そ、そうだ!超遠距離から魔法とかで…」
「死因は窒息死。多分絞殺」
分かってる。全部分かっているんだ。
「あの化け物がプリムラを操って…」
「彼女を操るメリットが無い」
漆黒の翼はもう折れてしまった。そういうことなんだ。
「もっと他に…何か…何か、凄いトリックとか、俺たちを嵌めようとしているとか…」
泣きそうな顔の男を見て溜息を一つ。
「…一度しか言わないからよく聞きなさい?アタシは、別にあんたのお仲間が何を考えていたのかには、
 これっぽっちも興味ないの。分かる?あんたのお仲間Cが戦っている間に
 お仲間Aがお仲間Bを殺して、その後に近づいたあたしの仲間を刺して、ザックを奪って逃げた。
 そんだけ、そんだけなの。難しい所一切無し。それで全部。今使うべきグミがなくなったことが全部。
 トリック?真犯人?馬鹿馬鹿しい。なんでわざわざ話をややこしくする必要があるのよ」
ハロルドはまくし立てた。そう、馬鹿馬鹿しいのだ。なんでこんな簡単な話を止められなかったのか。
グリッドは何も言えない。反論の糸口は見つからない。
ハロルドは黙りこくるグリッドを蹴飛ばした。こんな風に自分も蹴飛ばせたらと思う。
ハロルドは地面に落ちていたものを拾う。ライフボトルの瓶の飲み口を掴む。
横に割れた瓶の断面は実に痛々しい剣山になっていた。それを、グリッドの眼球へ運ぶ。
「あんたの彼女を助けたかった、というセンチメンタリズムを私が容認するとして」
グリッドは何も言わない。
「まあ、あんたに大義名分はあるわね。ただ、ヴェイグは不味かった。
あいつは借り物なの。預かってくれって、頼まれたの。割物注意天地無用」
実にマーダーっぽいと自己評価。
「ということは、あたしの監督不行き届きってことになるんだけど、まあ、責任は当然あんたにも発生するわけで」
唯の八つ当たりなのだ、詰まる所、この拷問紛いの尋問はそう言う意味しかない。
「あ、さて?何か弁明は?」
自分を責められるほど強くないからこうするしかない。なんと自分は脆弱なのだろう。
他人のシールドを侵すことでしか自己を保存する術を見出せない。
私の中の少女は、未だあのダイクロフトを眺めている。

ああ、前にもこんなことがあったな…脅されてぼろ糞に言われて、挙句の果てには失禁までして。
その後どうしたっけ?何だったっけか。

『行くぞ、リーダー。』
33黒翼の旗の下に 6:2006/05/12(金) 23:47:56 ID:hmkVhak4
「…仲間割れは良くない」
ゆっくりと、しかしはっきりとグリッドは言った。
「あんたと、逃げたあの子が、って意味?」
バイブレーション機能は切った。
「それもあるし、お前とプリムラとが、もだ」
「…」
「俺は、漆黒の翼のリーダー。音速の貴公子グリッドだ。
リーダーたるもの、団員同士の諍いは止めなければならんのだ。
プリムラが、お前に攻撃しようとすれば、俺は迷わずプリムラを止めるだろう」
翼が折れたからってそれがどうした?
「…いつあたしがよく分からない無利益団体に加入したのよ」
「今決めた。お前も、その男も、我が漆黒の翼の一員だ!!
プリムラを許してくれとは言わん。だが、あいつもまた漆黒の翼!!
どんな理由があろうと団員同士が戦うなど俺は認めん!!」
『だが! だからといってリーダーであるこの俺が、仲間の危機を救わないわけには行かないだろう!』
飛べないなら、走ればいい。惨めで結構。欠けても俺達はまだ翔ることが出来る。
「もっと実のある話をしましょ。死ぬ前にあんたは何がしたいの?」
ユアン、カトリーヌ、少しでいいほんの少し背中を押してくれ。
「俺はリーダーとしてプリムラもその男も死なせるわけにはいかん。
勿論俺にはそれを可能とする作戦は765個あるが
ここは新メンバーの入団試験も兼ねてここはお前に出番を譲ろう!どうだ!?」
鼓動が聞こえる。オンビート。ハロルドは満面の笑みを浮かべた。神の微笑。
「意味が分からないから、死になさい」
目の前の瓶の中心点が変動せずに縮小していく。瓶とグリッドの距離が離れる。
収縮が止まって、倍速で拡大。助走をつけた瓶がグリッドの眼球へ。
34黒翼の旗の下に 7:2006/05/12(金) 23:49:13 ID:hmkVhak4
瞼は下りない。最後の最後まで瓶を見ていた。近すぎて瓶の虚像が二つ見える。
瓶は眼球の2ミリ先で止まっていた。そう観測できる。失禁していないことに安堵。
グリッド以外の人間は理解していた。瓶が進もうとする力と瓶を引き離そうとする力が
釣り合っている。どちらがS極でどちらがN極なのだろうと、考える。
「あんたも仲間?」
「そのヒューマに今死なれては困るのでな」
そのガジュマから発する彩度の希薄な光。発生する力場。
ハロルドは分析する。頭脳が規則正しく音を刻む。よし、アタシの感覚だ。
「条件を限定すれば手が無いわけでもないわ。あんたらが知っていることを五分で全部説明しなさい」
うん。まだやれる。最後に見た兄さんの姿はまだダブらない。
私は、あの牛が私を止めてくれることを信じることが出来たのだから。
35黒翼の旗の下に 8:2006/05/12(金) 23:50:28 ID:hmkVhak4
10分後、山岳の少し南の草原地帯に2人。小柄な少女と大柄な牛男がいた。
すでに残り二人と一匹は目的地に向かって移動を開始している。
「観測される事象から導かれる推論は2つ。ヴェイグは非常に危険な状態にあるということ。
 高確率であのシャーリィって娘がここに戻ってくるということ」
ハロルドは眼を閉じて草むらに寝転んだ。出来る限りの回復に努める。
来る。敵は確実に知性ある化物。オフェンスに適したこの川を拠点にしない手はない。
シャーリィの思考を美しいとさえ思う。真っ直ぐで、純粋で、穢れていない。
「グリッド、あんたはヴェイグをおぶってG3洞窟に行きなさい。
 そこに置いてきたサンプルが幾つか残ってると思う。
 今から回復アイテムを探すには時間が無いわ」
トーマは生き残った左手を振って型を見直す。クィッキーを危険に曝すわけにはいかない。
「勿論そんなものは時間稼ぎにしかならない。そこで、その稼いだ時間で、
 シャーリィ・フェンネスからあの石を奪う」
仮定、実験、検証、危ない橋を何度渡ってきただろうか。
「それをヴェイグに装着すれば、少なくとも死ぬことは無いでしょ。
 化け物になる可能性は否定できないけど、こればかりは賭けるしかないわ」
何処まで直接戦闘で戦えるか…否、戦う。まだ切り札は残っている。
「倒すのは、多分無理。でも相手がメルネスであるという知識は確実にこちらの利よ。
 奪ったら即座に撤退するわ。そしてG3で合流
プリムラが向かった先には誰もいなかったはずだから、その件は後回しにしましょ」
ミミーの存在していた事実はまだ意味を持っている。
ハロルドは紙に薬の調合法を書き込んで、グリッドに渡した。
「正面の入り口からじゃ崩落しているからサンプルのある場所には入れない。
 裏手からよ。万が一誰かいたら隠れて私達を待ちなさい。それじゃ状況開始」
36黒翼の旗の下に 9:2006/05/12(金) 23:51:11 ID:hmkVhak4
「おい、ヒューマ」トーマはフォルスを練っている。
「ハロルドよ。で、何処で気付いたの?」ハロルドは指で二進法を折っている。
「俺の同僚にヒューマが一人いてな…嘘の付き方には心得がある」
嘘吐きの嘘ほど正直なものは無い。偽の偽は真である。
「…カトリーヌが持っていったグミは遠からずこっちに戻ってくるわ。私達が回収するべきはそれ」
「女が戻ってくるということか?」
「さあ?捕まって一緒に来るかもしれないし、殺されてサックだけが来るかもしれない。
 少なくとも無事では済まないでしょ。彼女はどっちに向かって逃げた?」
「…東に誰かいるのか?」
まったく予想外の情報に素直にトーマは眼を見開く。
「確実に言えるのはどちらかが死んでどちらかがエリクシールを消費しているということ。
 アイテムを使った状況で一般人のサックを狙わない理由が無いわ」
心地よい沈黙が5秒ほど流れる。
「どちらにせよ勘がいいからこちらに来るでしょ。味方ならそれでよし。
 敵なら三つ巴の混乱を付いてサックを奪って逃亡。それくらいは引っ張れるわね?
 最悪の場合本当にそのエクスフィアってのを抉り取る覚悟もしておいて」
無言。肯定の意思表示らしい。赤子すら奪える磁のフォルスにとってサックを引っ張ることは容易い。
「以上。他に質問は?」
「2つある。何故そこまでヴェイグを助ける必要がある?」
「プリムラを仕留めようとした時、ヴェイグのフォルスが反応した」
あの時一瞬見えた獣はいったい何かという質問。
「ハーフと同じものであるならば、恐らく聖獣の力だ…だがそれが何だ?」
『最初から脱出方法の見当は付いている』
ワンパターンに驚愕。
「本当か!?」
ハロルドにとっては取り立てて驚くことではない。
「別に実際の手段、ツールに関しては何でもいいの。レンズでも魔剣でも何でもいい。
そういう荒事は私が考えることじゃない。ヒーロー達に任せるわ。
 唯…何故こんなことをしたのか、どうやってこんなことをしたのか、
 という問いだけが分からなかった。フォルスという存在を知るまでは。
 恐らくジューダスもヴェイグに出会って私と同じことを考えて、
 その検証のためにヴェイグを私の所に連れてきた」
最初からそうではないかという考え方はあった。
「フォルスだけが孤独なの。つまり自由。その力を持っているのは他には?」
「もう一人いる」
闇の力を手に入れた樹のフォルスの使い手が一人。
「じゃあ、もうそろそろ気付く人間がちらほら出てくるでしょ。ミクトランを知っている分、
 私達は近道をした。それだけ。勘のいい人は気付くでしょ。もう一つは?」
ハロルドは寝そべったままトーマのほうを向いた。明らかにトーマ以外の人物に聞かせている。
「なぜあのヒューマに肩入れする気になった?」
「ああ…それはね」微笑するハロルド。悪魔の微笑。

「一生懸命頑張る人が、私は好きなのよ」
ああ、本当に似ている、とトーマは思うしかなかった。
37黒翼の旗の下に 9:2006/05/12(金) 23:51:42 ID:hmkVhak4
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創、出血 悲哀 今更首輪のシステムを理解
所持品:セイファートキー 、マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ
    クィッキー、S・D、ペルシャブーツ チンクエデア
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 漆黒の翼の再編
第一行動方針:ヴェイグをG3洞窟に運んで、薬の準備
第二行動方針:プリムラを説得する
第三行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:D5の山岳地帯→G3洞窟へ

【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 今更首輪のシステムを理解
軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック×2 
    イクストリーム マジカルポーチ 金のフライパン
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:シャーリィと戦闘中にグミの奪取、その後グリッドと合流
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
D5の山岳地帯

【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 強い決意 腹部重傷 瀕死
所持品:無し
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:???
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:D5山岳地帯南→G3洞窟へ

【ハロルド 生存確認】
状態:ミクトランへの憎悪 TP50%
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 
基本行動方針:具体的な脱出へのプランを立てる 
第一行動方針:シャーリィと戦闘中にグミの取得、その後グリッドと合流
第二行動方針:リオンの追跡からの完全離脱
第三行動方針:首輪のことを調べる
第四行動方針:C3の動向を探る
現在位置:D5山岳地帯南


【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)、死に強い恐怖 重度の錯乱
所持品:ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ジェットブーツ,
    C・ケイジ スティレット  グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:名探偵は死なない
第一行動方針:犯人を捕まえるまで死なない(どんな手段を使っても)
現在地:D5山岳地帯南→東へ
38黒翼の旗の下に 修正:2006/05/13(土) 20:43:05 ID:PJzfkOia
9番5行目を
「…プリムラが持っていったグミは遠からずこっちに戻ってくるわ。私達が回収するべきはそれ」

【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創、出血 悲哀 今更首輪のシステムを理解
所持品:セイファートキー 、マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ
    クィッキー、S・D、ペルシャブーツ チンクエデア ウイングパック
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 漆黒の翼の再編
第一行動方針:ヴェイグをG3洞窟に運んで、薬の準備
第二行動方針:プリムラを説得する
第三行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:D5の山岳地帯→G3洞窟へ

【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 今更首輪のシステムを理解
軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック 
    イクストリーム マジカルポーチ 金のフライパン
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:シャーリィと戦闘中にグミの奪取、その後グリッドと合流
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
D5の山岳地帯

【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 強い決意 腹部重傷 瀕死
所持品:無し
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:???
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:D5山岳地帯南→G3洞窟へ

【ハロルド 生存確認】
状態:ミクトランへの憎悪 TP50%
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 
基本行動方針:具体的な脱出へのプランを立てる 
第一行動方針:シャーリィと戦闘中にグミの取得、その後グリッドと合流
第二行動方針:リオンの追跡からの完全離脱
第三行動方針:首輪のことを調べる
第四行動方針:C3の動向を探る
現在位置:D5山岳地帯南


【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)、死に強い恐怖 重度の錯乱
所持品:ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ジェットブーツ,
    C・ケイジ スティレット  グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:名探偵は死なない
第一行動方針:犯人を捕まえるまで死なない(どんな手段を使っても)
現在地:D5山岳地帯南→東へ

に変更します。
よろしくお願いします。
39これからのために、今やること 1:2006/05/14(日) 13:43:58 ID:peP6dFDn
さっきまでの激闘が嘘のようにここは静まり返っていた。
結果として男がひとり(厳密に言えばふたり)死に、もうひとりの男が生き残った。
生き残った男の方は、第三者が見れば不自然なほど体に傷をおっていなかった。

とはいえ、多くの血を失ったことには変わりなく、食事もしていなかったので。
前にいた教会で調達していた食べ物のうち、生で食べられるものを少し口に入れた。
軽い食事を済ました、生き残った男、リオンはこれからどうするかについて考えることにした。

まず、ミクトランをどう対処するかだ、サシで奴に挑んでも勝算は薄い、なにせあのソーディアンチームと互角以上に戦ったのだからな。
それにどうやって奴のところに行く?まさかほかの全員を殺した後に奴に挑むというのか?ばかばかしい。
となると、まずは協力者を集めなくては、しかし自分がいた世界の奴等はほとんどが、放送によると犠牲者になってしまっているのが現状だ。

だがあいつは、スタンは…まだ……生きている………、とりあえず……候補の筆頭だな。
そしてもうひとり…気になる奴がいる、あの女は……いったい…何者だ。
あいつがシャルの晶術を見切るのはわかるが……、あの女はどうしてわかった。
見たことがあるのか?いや、シャルはずっと僕が持っていた。

………やはり…ソーディアンを知っているのか……。
いや、ディムロスかアトワイトの晶術を見ていたのでとっさにかわせた、という可能性もある………。
だがしかし、たかだか数回見ただけではたして晶術がかわせるだろうか…。
40これからのために、今やること 2:2006/05/14(日) 13:46:22 ID:peP6dFDn
頭の中での議論に決着がつく前に、事態は変わった。レーダーが反応をしめしたのだ。
あの女が走っていった方角から、点が一つこちらに近づいてくる。

あの女か?いや,どっちにしろ、あの女については何か知っているかもしれん。こちらから迫ることもないだろう。
だがもし戦闘になるのなら、アレを試すいい機会かもしれない。
……二刀流……,あいつにできるのに、僕にできないはずがない。

リオンは,まだ若干右腕の感覚に違和感を残しつつも,戦闘姿勢を保ち,来訪者を待つことにした。

【リオン=マグナス 生存確認】
状態:体力気力共に8割ぐらいまで回復 右腕はまだ少し違和感がある これから来る来訪者に一応警戒しておく 
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗 首輪 簡易レーダー 竜骨の仮面(ひび割れ)
基本行動方針:ミクトランを倒し、ゲームを終わらせる。
第一行動方針:来訪者から情報を得る。
第二行動方針:スタンとあの女(ハロルド)を探す。
第三行動方針:協力してくれる者を集める。
第四行動方針:もし戦闘になった場合,相手の技量しだいでは二刀流を試す。
第五行動方針:可能なら誰も殺さない。
現在地:E5東
41Contacting on Knife Edges 1:2006/05/15(月) 19:10:36 ID:DhlyFbZz
全く関係の無いことなんてこの宇宙に無いと思う。
いや、宇宙の外にもあるかどうか…だから、どうか…オードブルだと思って…

戦艦を中心としたその拠点は、雪に覆われていた。
別に銀世界というほど綺麗ではない。
そう呼ばれるには多分あと1000年はかかるだろう。
そんなに場所に、妙に人口密度が高いポイントが発生していた。
扉の前に数人の行列が出来ている。マトリクスと言うには乱雑な並び方だ。
「いや、実際の所お前等そんな大した怪我じゃないんだから他の衛生兵の所に行くことを勧めるね。
資源も時間も足りないんだからより良い効率を求めるのが、軍人ってもんじゃないだろうか」
Aは肘関節を血で滲ませて他の負傷兵を牽制する。(以下兵士AからDまでをこう呼称する)
「もうすぐ順番が回ってくるってのに内輪揉め?フフフ…後方支援のあんたらはつくづく平和ボケしてるんだな。
 前線じゃいつブルァァのジェノサイドブレイバーに巻き添えにされちまうかヒヤヒヤしてるってのに」
体積を誇示することだけを目的として形成されたとしか思えない髪しか特徴の無いBが鼻を鳴らす。
「そんなことは無い!私は物資保管所(毒ガス込み)で博士の使い走りをさせられていたんだぞ!」
中性的なカエル顔と金髪が印象的なCがB以外を代表して反論する。
「それなんて外宇宙?ともかく、この扉が開いたら大佐は俺のものだから」
Dが適度なツッコミを入れる。前腕を負傷している為、口だけのツッコミである。
「残念。お前のそれはブルァァだ」
「と、いうかお前等やっぱり大佐狙いかよ」
「治療中に大佐と濃密なボディ・ランゲージ出来たらいいなと思っている私は破廉恥な男かも知れん…」
オールバックのせいで古臭く見えるAがぼそりと呟いた。
42Contacting on Knife Edges 2:2006/05/15(月) 19:11:10 ID:DhlyFbZz
「…大佐ってエロい肉置きの割には浮いた話1つも出てこないよな」
話を切り替えようとBがぼそりと呟く。
「やっぱあれじゃね?じっちゃんに主治医としてED治療を…」
アダルティな2次元画像の内容が脳内で先行しているAが意見を述べる。
「あのじっちゃんオープンにスケベだけど流石にそりゃ無いだろう」
「じゃあやっぱまだ独身?つまり大佐に気がある確率はまだ残されているんだな?」
何となくブルジョアのような薄っぺらい気品を漂わせてDが確認を取る。
「そりゃラスボスが何も出来ずに秒殺される確率よりはあるだろうな」
Cの最もな意見。
「イヤッッタァァァァ!!じゃあさっそく大佐に俺のヨーグルトソースを」

「どうするというんだ?」
ジャーンジャーンジャーンというBGMが流れたような気がする、気がするだけだ。
「「「「げぇ!!中将!?」」」」
4人がシンクロニティ。
「自己紹介の手間を省いてくれてありがとう、覚えておく」
中将は優雅に微笑む。その割には殺気を隠す気が無い。
「い、いえいえ上官の些事を取り除くのも部下の勤めでありま痛!!」
中将はテンポ良く3人の頭を殴ってゆく。勿論中指の間接だけは立てて。
「上官不敬罪、今の功績が無かったら軍法会議ものだ。これで済んだことを神に祈っておけ。
…先に通らせて貰うぞ」
天岩戸を開けて、中将は医務室に入っていった。
43Contacting on Knife Edges 3:2006/05/15(月) 19:11:52 ID:DhlyFbZz
「なあ、なんであんなカリカリしてるんだ?中将」頭を抑えながらBが愚痴る。
「三択かな…」
兵士Aはもったいつけるように指三本を立てた。
「1、一向に好転しない戦局に業を煮やして八つ当たり」
「まあ妥当なところだろうな」
「2、意中の相手が不特定多数の人間の妄想の捌け口になっていることへの欲求不満」
「大佐と中将か…いくらなんでもベタすぎるだろ、却下」
「最後の1つは?」

「ヨーグルトソースを馬鹿にされたから?」
Cがいきなり割り込む。
「「「意味わかんねえよ」」」
3人がシンクロニティ。


扉を閉めて中将は部屋全体を見回す。内外の人口比はかなり高い。
消毒薬の酸い匂いが鼻につく。負傷した兵達の中から
目的の人物をディスカバリし、狙撃兵のように慎重に壁にもたれかかった。
腕を組み眼を細めてどこを見ているかを気取られないように、
兵士の治療を行っている大佐を眺める。
大佐が一瞬唇を固く結んだことを観察してから中将は時計を見る。
誤差はコンマ二桁で無い。博士製の時計を今しがた合わせてきたばかりなのだから。
下品なジョークをいなしながら大佐はAの傷を素早く消毒をして、ゆっくり包帯を巻く。八の字巻き。
老の主治医である以上このような末端の兵士の治療を行う義務は無い。
小学生のような質問をする兵士Bの傷口を沁みるように洗浄して、普通に包帯を巻く。螺旋巻き。
にも拘らずこのように人が密集しているのは大佐自身がこの状況に少なからず嫌悪感は
ないということなのだろう。中将にとって面白い話ではない。
ディープな話題に少し引きながら三角巾で少し手早く洗浄した兵士Cの眼に包帯を行う。
上官に対する親近感から軍規が乱れるかも知れないし、何より、個人的にも面白くない。
鬱になっている兵士Dをささやかに励ましながら鮮やかに包帯を巻いていく。折り返し巻き。
手を口元に当てて中将は、走ると歩くの境界を曖昧にして医務室を出て行った。
44Contacting on Knife Edges 4:2006/05/15(月) 19:12:35 ID:DhlyFbZz
「…結局あの人何しに来たんだ?」
Dを待っていたAは首を傾げる。
「大佐を視姦しに来たんじゃヌェまそっぷ」
Cが言い終わる前に大佐の平手がその口の動きを阻害する。勿論掌底が当たるように。
「馬鹿言ってないで用事が済んだら早く戻りなさい」
大佐は殴った相手を一瞥もせずに向こうを向いた。4人からは顔が見えない。
「大佐は何か知ってるんでありますか?」Dがそれとなく聞いてみる。
「さあ?でも口に手を当てていた理由は何となく分かるけど」
大佐は右人差し指の関節を口元に当てて考える振りをする。
「そのこころは?」
少しだけ時間を空けて、大佐は4人の方を向いた。
「よっぽど鼻の下を伸ばしていたんでしょうね、中将」
実にセクシャルな笑みだと、4人は三度シンクロニティ。

中将はようやく自分の顔の筋肉の統治権を奪還し、
口元の手を戻して堂々と戦艦の中を歩く。
頭の中で今夜の予定を再確認、重要な案件はシスコン軍師との打ち合わせくらいだ。
少し早めに切り上げることにしよう。ブラコン博士が横からしゃしゃり出てくる前に…
マルフタマルマル…スパイラルケイブ…体力をセーブしなくては…大局を見据えて…

夜はまだまだ長いのだから。
45Contacting on Knife Edges 5:2006/05/15(月) 19:13:56 ID:DhlyFbZz
拝啓、天国のユアン、カトリーヌ。グリッドです。
元気ですか?死んでから元気というのも変ですが。
こちらは元気です。仲間が3人も増えました。
誰もお前達の代わりには成れないけど、それでも、漆黒の翼は滅んでいません。
プリムラは所用で別行動を取っていますが心配しないで下さい。
今も森の中で新しい人たちに出会いました。
そんなわけで、今俺は手を後ろに回されて地面とキスしながら剣を突きつけられています。
本気のホールドアップです。マジでピンチです。関節が反対方向に回されて痛いです。3度目です。
でも…泣きません、リーダーは、意地っ張りでなくては務まらないのですから。
さっきわんわん泣いていたという意見は聞きません。それでは。     かしこ

森の中に6人の人間がいて、
その内の1人が関節を極められ拘束されたのはほんの数十秒前だ。

とりあえず現状を把握する

極めたのはコレット。
極められたのはグリッド。
そのそばにいるのは倒れたヴェイグ、そしてミトス。
少し離れた所に、ミントとリアラ。

同じ所を目指した二組は到着前に出会ってしまった。
E2から南下してきたチームの中で一番最初にグリッドとヴェイグを捕捉したのはコレット。
そのあとミトスが発見し、とりあえず2人で接触。
グリッドがヴェイグを下ろした瞬間に、コレットが手際良く拘束。
すぐに2人も近づいてきて、今に至る。
46Contacting on Knife Edges 6:2006/05/15(月) 19:14:29 ID:DhlyFbZz
同じ所を目指した二組は到着前に出会ってしまった。
E2から南下してきたチームの中で一番最初にグリッドとヴェイグを捕捉したのはコレット。
そのあとミトスが発見し、とりあえず2人で接触。
グリッドがヴェイグを下ろした瞬間に、コレットが手際良く拘束。
すぐに2人も近づいてきて、今に至る。

「お前!どこから来た!!武器は!?」ミトスは語勢を強めて尋問する。
「いででで、ギブ!ギブ!」この手合いの痛みに慣れていないグリッドは答えることもままならない。
ミトスは直接聞くのを諦め、グリッドのサックを確認する。
よく分からないアクセサリに占いの本、マジックミスト…あんまりの情けない装備にミトスは呆れた。
まともな武器はどうやらナイフ一本、しかもサックに入れていたなんて。
そうこうしているうちにリアラとミントが現れ、この時初めてコレットを使ったとはいえ
この素人を完璧に拘束したことを悔やんだ。手工業に気を取られて判断を疎かにしたことを悔やむ。
「コレット!やめて…」リアラの一声でコレットがグリッドにかけていた負荷を取り除く。
「ミトスさん…これは?」ミントが若干の曇りを込めた声で尋ねる。
幾ら正当性をでっち上げようと、過度の実力差は疑いの素になる。
あしらう位にして置けばよかった、という後悔をしながら、ミトスは落ち着いて言葉を選ぶ。
「…誰があいつの仲間か分かりません。失礼を承知で所持品を改めさせてもらいました」
ミントは悲しそうな顔をして、ミトスを制す。
「気持ちは分かります。でも、人を信じる気持ちを、どうか忘れないで下さい」
自愛の篭った言葉。恐らく自分自身に言い聞かせているのだろう。
「ミントさん。まずはこの人を…」
リアラが倒れたヴェイグを見る。見過ごせないといった表情である。
47Contacting on Knife Edges 7:2006/05/15(月) 19:16:03 ID:DhlyFbZz
「すいません。僕にやらせてもらえませんか?」
ミトスが話に割り込んだ。2人ともほんの少し驚いたような表情だ。
「僕が、この人の治療をしますから、彼の事情を聞いてください。
 僕じゃ、きっと彼を怖がらせてしまいますから…」
あまり良い手とも思わないが現状の最善はこれだろう。
G3に行く前に疑いをも抱かれては話にならない。
多少はいい人ぶって疑いの芽は潰しておかなければ。
ミトスはアトワイトを片手にヴェイグを見る。
屈強そうな体に精悍な顔つき、ビジュアルだけでは決定的な断は下せないが
それなりの実力は持っているだろう、だがダオスほどではないだろうし自分ほどでもないだろう。
アトワイトを翳す。そろそろ晶術の実戦データも欲しいと思っていたところでもある。
ソーディアンの基本は剣と呼吸を合わせること。
とりあえずアトワイトのリズムに身を委ねることにする。
それにこちらはこちらでやるべきことがある。

「ファーストエイド」ゆっくりと…
「アンチトード」…素早く…
「ヒール」慎重に…
「ヒール」…リズミカルに…
「リカバー」一気に…
   ・
   ・
   ・
「そうですか、ハロルドが…あ、終わりました?」
ミントが清楚に立ち上がりヴェイグの元へ向かう。
血色や、拍動を確認する。
満点とは行かないがTPとのバランスを考えれば及第点だ、自分達の出番は無いだろう。
「それで、グリッドさんも洞窟で待ち合わせしていらっしゃるなら…一緒に行きませんか?」
話半分で聞いていたミトスは自分の心拍数が上がるのを感じた。
48Contacting on Knife Edges 8:2006/05/15(月) 19:16:56 ID:DhlyFbZz
あまり面白くは無い。まとめて始末すればいい話だが不確定要素をこれ以上内包するのは危険ともいえる。
かといって別れるように仕向けるには少し不自然だ。
G3に想定外の人間が来るかも知れない以上、もうこれ以上時間を割くのも不味い。
どうしようかと思案していたミトスは意外な言葉を耳に入れた。
「いや、残念だが少し腰が抜けてしまってな…少しここで休んでいくことにするよ」
あまりに自分の都合の良い向こうの言に、ミトスは内心警戒を強める。
確かに腰が抜けているのは本当のようだ。
「そんな…そんなの危険じゃ?」リアラが本当に悲しそうな顔をする。
銀髪の男も未だ目は覚めない。6人で行くにはコレットが2人を運ぶしかないが…
「いやいや!この音速の貴公子グリッド、流石に自分より小さな子に運ばれたのでは立つ瀬が無い!!」
監視下に置いた方が良いか?いや、どうせなら後から来てもらって
死体を目撃してもらった方が都合が良い。カイルやロイド達へのメッセンジャーは多いほうが良い。
「…では、必ずすぐに来てくださいね?スタンさん達もこちらに来ると思いますから」
ミントが不安そうに念を押す。
ここは、流れに従っておくのがベターだろう。
「何!?スタンが?そうか…分かった。その前にはそちらに向かう。そっちも気を付けてな!」
「じゃあ、行きましょうか」ミトスがグリッドのアイテムを集めて差し出す。
ミントはその中の1つに眼をやって、少し考えた後、思い出せないので考えるのを止めた。

4人は2人と別れて再び森を行く。
ミトスは作業を行いながら考える。G3で作業を行った後の対処だ。
元々この戦略の要は噂を先行させることにある。
魔剣、というキーワードを浸透させそれを欲するものを増やす。
後はゆっくりと噂が実を形成するのを待てば良い。
だからこそあえて痕跡を残すことが重要なのだ。ミトスが殺したかもしれない、という程度の痕跡。
わざわざ良い人ぶる必要も無いが、暫く身を隠すか…噂が現実になるその瞬間まで。
49Contacting on Knife Edges 9:2006/05/15(月) 19:18:02 ID:DhlyFbZz
4人は2人と別れて再び森を行く。
ミトスは作業を行いながら考える。G3で作業を行った後の対処だ。
元々この戦略の要は噂を先行させることにある。
魔剣、というキーワードを浸透させそれを欲するものを増やす。
後はゆっくりと噂が実を形成するのを待てば良い。
だからこそあえて痕跡を残すことが重要なのだ。ミトスが殺したかもしれない、という程度の痕跡。
わざわざ良い人ぶる必要も無いが、暫く身を隠すか…噂が現実になるその瞬間まで。

もう少し、もう少しで作業も終わる。城を出てから慎重に慎重を期して練り上げた魔術。
無機生命体という特性と魔術と晶術という異なる術式だからこそ成し得たスペルチャージ。
そのヒントになったのはあのネレイドの技。寄り代と自身の魔術を同時に扱う技。
使って損になる技ではない。まだ…コレットに悟られるわけにはいかない。

ミトスは処遇を決めかねているミントの方を向いた。いっそこいつもメッセンジャーに?
そのミントは思い出したかのように両の手を叩いたのを観察する。
「どうしたんですかミントさん?」リアラが顔を覗き込む。
「あの処方箋を見て引っかかっていたんです。何処かで見た、って」
ミントは思い出せた、ということに少しだけ興奮している。
鍵を開ける、という行為にエクスタシィは付物だ。
チャームボトルとルーンボトルの関係に似ていなくも無い。
「…なんなんですか?」リアラは要領を得ない、といった顔つきで。
「あれは、洞窟に居た時にハロルドが書いていた紙だと思います」
「処方箋が、ですか?」ますます分からない、といった所のリアラ。
「いえ、何を書いていたのかは知りませんが…」
実に上品な笑みを浮かべミントは遠くを見据える。
「…?」

「あぶり出しなんですよ、確か。本当に、何を書いていたんでしょうね?」
50Contacting on Knife Edges 10:2006/05/15(月) 19:18:51 ID:DhlyFbZz
グリッドは4人が居なくなるのを確認して、あたりを見回す。
多分誰も居ないだろう。
「おーい」
呼ぶ。数秒後、そこにハーメルンのように現れた小動物が一匹。
「呼ばなくても聞こえている。あまり大きな声を出すな!」
クィッキーは恐ろしく男性的な声を発した。全然似合わない、とグリッドは思う。
「おお、済まない」
グリッドは声の主に近づく。クイッキーに近づき、括りつけていた「それ」を外す。
ウイングパックを外し、中から1本の剣が出てきた。
ソーディアン・ディムロスである。
「しかしいきなり隠れるって言われた時は何かと思った」
グリッドは謎々が解けた時のように満足げな顔を見せる。
「アトワイトの気配を察して、連中を見つけたときに違和感があった。
向こうもアトワイトが察知しているはずなのにこちらが先に見つけるのはおかしいからな。
―――つまりアトワイトは何らかの精神的拘束を受けていたのは明白だ」
ディムロスは厳かに語る。生前と違い表情は読めない。
「おそらくはあのうちの誰か、あるいは全員の監視下にあるのだろうが、
可能性としては私が最後にアトワイトを見たときにその場に居たミトスが濃厚だろう。
「理由は?」グリッドは最もな質問をする。
「不明だ…私はミトスと一緒に居た時間が短すぎる。だが、アトワイトは言っていた」
「何を?」グリッドが詰まらない質問をする。
51Contacting on Knife Edges 11:2006/05/15(月) 19:19:35 ID:DhlyFbZz
「セイジョタチノチハツガレメガミサク」

「…意味が分からん」グリットの疑問に当然だ、とディムロスも思う。
「普通に解釈すれば‘聖女達の血は注がれ、女神咲く’だが…文章としてまずおかしい。
女神、という主語に咲く、は妙だ。普通植物だろう。
しかし、アトワイトが考えてこのメッセージを私に伝えたなら必ず意味はある」
グリッドは腕を組み、眉間に皺を寄せる。何かを考えているのか、
考えているぞとアピールしているのか、どちらかであろう。
「女神…咲く……どっかで聞いたような、聞かなかったような…?
まあ、いいか。で、あいつらを追うのか?」切り替えが早いというのは美徳だ。醜悪でもある。
『いや、こんな不確定な手段を使ってアトワイトが交信をしてきたということは、
かなり危険だ。だが裏を返せば目的の時まで生存は保障されている…北に向かおう、E2だ』
ディムロスは自身の疑念を振り払うように方針を立てる。出来ることなら助けたいが…
遭えてメッセージを自身に伝えたのは‘来るな’というアトワイトの意思表示に他ならない。
落ち着け…私は軍人だ…大局を見据えて…
‘あなたは英雄なんかじゃない…唯の腰抜けだ!!’
『!!』
どこかで…どこかで?誰かに言われたような…何時だ…何時?何だこの違和感は…
「どうした?」グリットは実に妙な所には目聡い。
『何でもない…スタン達に会うぞ。G3に向かうにしても情報と戦力を増やしてから向かわないと無駄死にだ』
「ハロルド達はどうする?」
『距離を考えれば私達より先に着くということもあるまい。
意識は無いが幸いにもヴェイグの状態も良い。ヘまをしない限りは大丈夫だろう…では行くぞ!』
「その前に質問」空気を読まない質問は性質が悪い。
『…なんだ?』
「どうやってアトワイトから聞いたんだ?」
ディムロスは少し間をおいて、口を開いた。多分溜め息を付いたのだろう。


『社内恋愛というのは手間がかかる物なのだ。晶術でも、医療でも、時間だけは一定なのだ』
グリッドは「?」という顔をしてヴェイグを背負い、北に歩き出した。意味に気付かない。
ミトス曰く、良く分からないアクセサリーが仄かに光っていることには、気付いていない。

(お願い…ディムロス。どうか…ミトスを…止めて…)
52Contacting on Knife Edges 12:2006/05/15(月) 19:20:08 ID:DhlyFbZz
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創(処置済み)
所持品:セイファートキー 、マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ
    クィッキー、S・D、ペルシャブーツ チンクエデア
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 漆黒の翼の再編
第一行動方針:E2に向かいスタン達に会う
第二行動方針:ヴェイグをG3洞窟に運んで、薬の準備
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:F3→北へ

【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷(処置済み)強い決意 腹部重傷(処置済み) HP30%
所持品:無し
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:???
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:F3→北へ

【コレット 生存確認】
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)  苦無(残り1)
基本行動方針:防衛本能(自己及びリアラへの危機排除)
第一行動方針:リアラに付いてG3洞窟へ
現在位置:F3→G3洞窟へ

【ミント 生存確認】
状態:TP75% 重度のショック
所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント
第一行動方針:G3洞窟に移動
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:F3→G3洞窟へ

【リアラ 生存確認】
状態:TP60% 衝撃を受けている 
所持品:強化ロリポップ 料理大全
フルーツポンチ1/2人分 ピヨチェック 要の紋
第一行動方針:G3洞窟に移動
第二行動方針:コレットを信じる
第三行動方針:ハロルドが気になる
現在位置:F3→G3洞窟へ  

【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP50% 左肩損傷(処置済み) 治療による体力の中度消耗
   全身軽度損傷 天使能力制限(一時的) スペルチャージ準備中
   記憶障害の振り(カイルとの戦いを覚えていない振り)
所持品:S・アトワイト(初級晶術使用可能)、大いなる実り、邪剣ファフニール
基本行動方針:マーテル復活
第一行動方針:G3洞窟でリアラを殺しコレットを確保
第二行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用する
第三行動方針:カイル・ロイドを復讐鬼に仕立てエターナルソードを探させる
第四行動方針:アトワイトが密告した可能性のある場合その人間を殺害
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:F3→G3洞窟へ
53名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/16(火) 02:16:12 ID:4iuCY9UF
ぬるぽ
54名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/16(火) 07:58:11 ID:pTwCS+mY
ガッ
55The Cave Of The Death1:2006/05/19(金) 02:49:04 ID:yCFHVEqa
心を虚ろに帰した少女は、それを感じる。
殺意を。吹き付ける殺戮への意志を。
その意志の源は、分からない。そこまでは、空っぽの心の彼女には、判断できかねていた。
けれども、そいつは近い。近くにいる。
守らねば。自らが守ると決めた、黒髪の少女を。
紫の瞳の奥、コレット・ブルーネルはほとんど本能的に、彼女の守るべき存在に寄り添っていた。
寄り添う相手は、黒髪の少女リアラ。
リアラはコレットの様子を見て、「あらあら」と小声でこぼしながら、微かに笑う。
傍目には、仲のいい同性の友人同士として、この光景は映っていただろう。
だが、リアラに寄り添うコレットは、そんな目的でリアラに寄り添っているわけではない。
バルバトスの亡骸より手にした、長大な金属の筒。それを握る腕の中では、天使化に伴い強化された筋肉が臨戦態勢。
この近くに、敵がいる。濃密な殺意の臭いを感じる。守るべき対象、リアラの近くに渦巻く、殺意の臭いを。
敵がどこから来ようと、迎撃できるよう。敵の不意を討たれないよう。リアラにはしかと寄り添わねば。
たとえ心が虚ろであろうと、コレットはリアラを失うまいと、いじらしささえ感じるほどの献身を捧げる。
そして、その献身は無駄ではなかった。否。その献身あってこその、リアラの命であった。
だが、それを知る者はこの場にはただ1人。
コレットをして警戒せしめるほどの殺意をばら撒く少年、ミトス・ユグドラシル。
彼のみが、その事実を知っていたのだ。
56The Cave Of The Death2:2006/05/19(金) 02:49:46 ID:yCFHVEqa
――――――

「ここから先、しばらく下り坂が続きますから、足を取られないように注意して下さい」
ミント・アドネードはそういいながら、手元のランタンの光を足元に投げかける。
結露か、はたまた地下水の出水か。鍾乳洞の岩肌は、しっとりと濡れてランタンの光を返す。
先頭を行くは、この洞窟の土地勘を持つミント。遅れて、リアラと彼女にぴったり寄り添うコレット。
そして最後尾は、ミトス。
ミトスは傍目には、妙に落ち着かなげに見える。何やら周囲を見渡し、その首はあっちに来たりこっちに来たり。
それはコレットも同じこと。常に周囲を見渡し、何かを探しているように見える。
ミトスは、隙を探るために。
コレットは、先ほどから感じる殺気のもとを探るために。
二者の行動は酷似していても、その理由は完全に違えていた。
ミントとリアラの知らぬうちに、2人は水面下での牽制合戦を繰り広げていたのだ。
(…くそ。あの器、やたらと勘がいい!)
ミトスは心中でのみ舌打ちして、十数回目の機会を失ったことに苛立つ。
コレットは本能か、はたまた野生の勘か、ミトスがリアラ達を狙う隙を全て潰してくれる。
まるで、ミトスの悪意を全て見抜き、それを見張っているかのように。
コレットはバルバトスの遺品である榴弾砲をリアラの近くで掲げ、その長大な砲身でミトスが切りかかれない死角を作る。
無論、こんな狭苦しいところでは、コレットの身の丈を越えるような長大な得物の効果は半減するが、なんら問題はない。
要は、この榴弾砲により、ミトスの切りかかれる死角さえ潰せばいよいのだから。
更にはコレットはあちこちをきょろきょろと見回しながら、ミトスの行動を牽制にかかっていたのは前述の通り。
実際、腰に差したアトワイトや邪剣ファフニールに手を伸ばそうとした瞬間など、コレットは百発百中でミトスの方を向く。
ミトスの抜刀の速度は疾風迅雷と形容するに、何ら不足はない。だが、その速度を以ってしても、この守りは破れない。
リアラ達との間合いを詰めれば、その分コレットは短時間でミトスに応戦する。
リアラ達との間合いを離せば、コレットが迎撃するに十分な時間を与えてしまう。
57The Cave Of The Death3:2006/05/19(金) 02:50:28 ID:yCFHVEqa
どの間合いからでも、一太刀目は防がれる。そしてその次以降の攻撃は、全力で応戦を始めるコレットに防がれるだろう。
クラトス直伝の剣技「閃空裂破」や「剛・魔神剣」あたりで、榴弾砲を破壊し、その勢いのまま2人を殺すことも考えた。
しかし、剣技を放つには、一瞬とは言え闘気の溜めが必要になる。そしてその一瞬があれば、コレットには十分。
現在「スペルチャージ」で準備しているあれを撃つのも却下である。コレットはリアラと密着に等しい状態。
こんな状態で魔術を撃てば、よほど慎重にマナをコントロールしなければ、器ごと邪魔者を殺してしまいかねない。
そして慎重なマナのコントロールには、やはり時間が要る。コレットの応戦を引き起こすには十二分の時間が。
結果として、ミトスには打つ手はない。何らかの方法でコレットを引き離すか、一瞬だけ隙を作ってもらうか。
それだけでいい。
それだけで少なくともリアラは…現在コレットが親(マスター)として「刷り込み」を受けている対象を殺せば。
コレットの支配権はミトスの物となる。あとはまともに肉弾戦も出来ない、法術師なる女1人、殺すなど造作もない。
だが、その一瞬の隙さえも、巡ってこない。ミトスはひたすらに苛立った。
(こうなったならもう…)
切り札を切ってしまうか。ミトスがそうとさえ考えたその時。
(!!!)
ミトスは、目を見開いて立ち止まった。突然背中を鋼の槍にでも貫かれたかのように、びくんと背筋が伸びる。
「? …ミトス…さん…?」
突然歩みを止め、目を瞠るミトスに、一同もまた足を止め、振り返る。心なしか、特にコレットの眼光は鋭く向いている。
「どうかしたのかしら、ミトス君?」
リアラはきょとんとした様子でミトスに言う。ミトスのこめかみに、一筋の汗が伝う。
(まずいな…)
ミトスはとある「発見」を目にし、思わず足を止めてしまった。注目を浴びている。まずい。
だが、ここでまた妙な動きをすれば、ますます一同の警戒を呼びかねない。ならば、この言い訳で切り抜けるか。
ミトスは動揺を隠し、少しばかり上目遣いになりながら、ミントとリアラに言った。
「…ええと…あの…その……ちょっと、トイレに行きたいんです…」
自分で言っておきながら、猿芝居もはなはだしい。無機生命体化したこの体は、とうに排泄の必要性など失っているというのに。
だが、ここにいるのは女2人。一旦2人から怪しまれずに離れるなら、この言い訳はちょうどいい。
58The Cave Of The Death4:2006/05/19(金) 02:52:17 ID:yCFHVEqa
「…そ…そうなんですか…」
ミントは苦笑する。リアラもまた、所在なさげに視線をあちこちにさまよわせている。
「あ、その…先に行ってて下さい! 用を足し終えたら、すぐに行きますから!」
「でも、ここで離れたら…」
その場を離れようとするミトスを、思わずリアラは制止。
「大丈夫です。この洞窟は横に小さな道がいくつかありますが、私達が今通っているこの本道は、原則一本道です。
横道に反れなければ、多分迷ったりはしませんよ」
それは、ミントの助言により撤回される。
「それに、ボクはハーフエルフです。少しぐらい皆さんから離れても、皆さんの掲げる灯は見えますから。
それを辿ってまた合流します」
そしてここでも、ハーフエルフの瞳は役に立つ。
ミトスはエクスフィアによる感覚強化抜きでも、なお暗闇に強い自身の目をアピールした。
今は実用のためではなく、アピールだけでいい。引き止めるリアラは、これで説得できる。
そして、ミトスは無事にその説得に成功を収めた。
「では、私達はこの洞窟の最深部に向かいます。後から来てくださいね、ミトス君」
ミントはホーリィスタッフを片手に、こくりとうなずいた。振り返る時、金色の髪がランタンの灯に揺れる。
リアラは若干不安がりながらも、ミントに倣った。コレットもまた同じく。
ぴちゃぴちゃという、湿っぽい足音を立てながら、洞窟の奥に向かう3人。
ランタンの光が揺れ、洞窟の奥に橙の輝きは呑まれる。足音も徐々に、遠ざかっていく。
やがて、人間の目ではランタンの光が見えなくなるであろうくらいまで、3人は遠ざかる。
ミトスはそこで、初めて顔を歪めた。冷徹な狂気に満ちた、クルシスの支配者としての、残忍な笑みを顔に浮かべ。
(ミトス…なぜいきなり彼女らと…?)
(離れたのかって?)
ミトスは念のため、輝石越しに話を行う。自らの腰に差した小ぶりの曲刀、ソーディアン・アトワイトと。
(簡単なことさ。これからあの劣悪種の女2人を殺すための、仕込みを行うんだ)
59The Cave Of The Death5:2006/05/19(金) 02:53:01 ID:yCFHVEqa
答えになっていない答え。アトワイトははぐらかすような物言いをするミトスに、若干ながら苛立ちを覚える。
その「仕込み」として、何をするつもりなのか。それを聞きたくてミトスにそう問うたのに。
最も、ミトスの計画を看破したところで、アトワイトには何も出来はしないのだが。
精々が、自身の発言でミトスを困惑させる程度。
そして、情報戦や心理戦ならば、イクティノスやクレメンテと言った面子の方が、よほど適任であっただろう。
アトワイトは、今や剣と化した己の身を、このときばかりは呪った。
剣に手足が付いていない事など、子供でも分かる周知の事実。ミトスに一切物理的な妨害を試みることは出来ないのだ。
(ときにアトワイト、お前は『犬の洞窟』っていう話を知ってるかな?)
そんなアトワイトの気持ちを知ってか知らずか、ミトスは突然そう切り出した。謎めいた発言に、アトワイトは困惑を隠せない。
(…『犬の洞窟』?)
(そう。ボクがクラトスから博物学を学んでいた頃、少しだけ聞かせてもらった話さ。
世界には、こんな変わった洞窟もあるんだってね。
『犬の洞窟』は、別に人間ならば入ったってどうということはない。ただの洞窟さ。
けれどもそこに犬が入り込むと、犬はたちまちひっくり返って泡を吹く。そのまま犬は痙攣を始めて…
そして、最終的には死んでしまう。何故だか、分かるかい?)
ミトスはアトワイトに問いながら、「スペルチャージ」で体内に構築した術式を、更にアレンジ。
呪文詠唱の声を聞かれれば、それに伴うマナの擾乱をコレットに知られれば、コレットはすぐさまミトスに切りかかる。
だからこそ、「スペルチャージ」まで使って、先ほどから必死でこの術を構築し続けたのだ。
時間はかかったが、術式は完成している。後はそれを、多少いじるだけ。
(いえ…どうして?)
(その答えは、『死の空気』にある)
「スペルチャージ」で準備した呪文は、魔術「イラプション」。
今回施したアレンジは、溶岩の噴出エネルギーも全て、熱エネルギーに変換して放てるような術式の改変。
これを発動させれば、ただ地面に溶岩の池が出来るだけになるだろう。地面の噴火は、起こらない。
60The Cave Of The Death6:2006/05/19(金) 02:53:47 ID:yCFHVEqa
(『犬の洞窟』の中は、下層部だけが『死の空気』で満ちていたんだ。
ちょうど地面から犬の口のある高さ辺りまで、『死の空気』がね。
『死の空気』って言うのは、錬金術で言うところの、フロギストンを失った空気。それくらいアトワイトも知っているだろう?)
術式改変をもう一段階。
更に、今回の「イラプション」は、若干温度を下げた上で効果範囲を拡散。
具体的には、岩石が熔解する寸前の温度で加熱を止め、その代わり通常のそれを越える広範囲を、高熱に晒す。
(なるほど…その『犬の洞窟』では、犬の口が『死の空気』しか吸えない状況にあったのね。
だから犬が入ると、たちまち窒息して死んでしまう…そういうことですね、ミトス?)
(ご名答。それが『犬の洞窟』のからくりさ)
(でも、何故いきなりそんな事を…)
(それには、更にこの洞窟の説明をする必要があるね)
ミトスは、改めてこの洞窟を見渡す。鍾乳石や石筍があちこちに存在する、まさに見本的な鍾乳洞。
ミトスは更に、クラトスに学んだ博物学と錬金術の知識を引き出し、話を続ける。
(この洞窟は鍾乳洞。だからこの辺り一体は、石灰岩で出来ていることになるね)
(ええ。私も何度も、こんな洞窟には入ったことがあります)
(そう…さて、アトワイトは石灰岩を強熱すると、何が出てくるか分かるかい?)
(いえ)
その手の話なら、自分ではなくクレメンテあたりの守備範囲だろう。アトワイトはコアクリスタルの中、1人ごちた。
アトワイトの色の良くない返答を聞いたミトスは、けれども満足げな笑みを浮かべ、うなずく。
(なら、実演してみた方が早いだろうね。
ミクトランの奴はどこまでもいけ好かない奴だけれど、こんな洞窟を用意してくれるなんて、なかなか気が利いてるね)
ばしん。
ミトスは平手を洞窟の壁に叩き付けた。あとは最後の一句を発すれば、魔術は発動する。
「燃え尽きろ――イラプション!!!」
61The Cave Of The Death7:2006/05/19(金) 02:54:27 ID:yCFHVEqa
アトワイトの差さった腰からは、ミトスの表情を伺うことは出来なかった。
ミトスの手のひらを中心に、岩肌をしっとりと濡らす水分が、次々と音を立てて白煙と化す。
ミトスの手のひらを中心に放たれる高熱は、岩をも熔かす寸前にまで高まる。
たかが水ごときでは、その高温に耐えることはできない。ゆえに岩肌を濡らす水分は、すべからく虚空に帰する運命にあるのだ。
蒸気のベールが壁を伝わるにつれ、ミトスの手のひらの下からは、じわじわとそれがあふれ出す。
赤い光。岩石が赤く光っている。ミトスの手のひらを中心に、岩石が赤く輝き出す。
この洞窟を形成する石灰岩が、「イラプション」の高熱を前に、赤熱しているのだ。
たちまち、石灰岩は溶岩になる寸前にまで熱される。ぶくぶくと石灰岩の表面から、あぶくが浮き出す。
強熱され、溶岩になる寸前にまでなったのは、洞窟の壁。天井。
そして、ミトスが手を触れていなかった、向こう側の壁。
自らの足の裏を焼くなどという愚かな事態にならぬよう、地面はあえて加熱しない。壁と天井の加熱だけで、十二分。
赤熱するゾーンは、洞窟の前後に延び続ける。あたりは、たちまち活火山の火道のような状況を呈し始める。
周囲の光景が、陽炎に包まれ揺らめく中、赤く燃える石灰岩の表面は、あちらこちらがぶくぶくと泡立っている。
アトワイトは、そのあぶくを見て妙に不安な気持ちに駆られることを、隠すことは出来なかった。
(これは…一体?)
(よし、ここまではボクの読み通り。
3人とはちゃんと距離をとったから、この赤い光やあぶくの音は、あいつらには見聞きできないはず。
あの器がちょっと不安な要素ではあるけれど、まさかこの音や光だけで、ボクに切りかかるようなことはしないはずだ)
アトワイトの疑問の声を無視し、作戦成功の快哉を、クルシスの輝石の中で上げるミトス。
あとは、これで何食わぬ顔で3人の元に戻ればいい。それで、作戦は完了する。
鞘に収まった二振りの剣の柄をいじりながら、ミトスは洞窟の最深部へ向かう。
(ミトス、これは一体…!?)
(それは、おいおい説明するよ)
言いながら、陰惨な笑い声をくつくつと上げるミトス。
62The Cave Of The Death8:2006/05/19(金) 02:55:26 ID:yCFHVEqa
ミトスが去ったその後ろでは、石灰岩の表面からあぶくが次々生まれ、そして弾ける。
だが、実際に溶岩渦巻く火山内部を旅したことのある人間なら、一目見てそのあぶくを異常だと感じられただろう。
もちろん、溶岩の表面がぶくぶくと泡立つのは、当たり前と言えば当たり前のこと。
だが、この強熱された石灰岩の表面のあぶくは、あまりにもその絶対数が多すぎる。
まるで火にかけられた鍋に満たされた熱湯のごとく、石灰岩の表面全体で、ひっきりなしにあぶくが生まれているのだ。
そしてこのあぶくこそが、ミトスの唯一にして最大の狙いであったことは、神ならぬアトワイトは知る由もなかった。
ひたすらにアトワイトはそのあぶくを見やり、加熱された洞窟の空気の中を、ミトスともどもかき分ける。
(ディムロス…)
助けて、ディムロス。
アトワイトは、かつて心を許しあった戦友の名を…今は自身と同じく、剣に身をやつした青年将校の名を、密かに呼ぶ。
そして次の瞬間、ディムロスにもたれかかることを許されない現状を思い出し、再び自戒に心を引き締めたのであった。
63The Cave Of The Death9:2006/05/19(金) 02:56:03 ID:yCFHVEqa
――――――

所は代わって、G3の洞窟の最深部。
ミントは、ふうと一息つきながら、手ごろな大きさの石に腰掛けた。
傍らに流れるは地下の川。白皙の少年の言葉を借りれば、伏流水。
白皙の少年、ジェイの手により、一度は命の危険に晒されたことを、ミントはもう遥か昔のようにさえ感じてしまう。
彼と出会ってから、まだ二日にもならないのに。
彼と話をしていたのもここだった。今頃彼は、どうしているのだろう。ミントはふと、考えていた。
ランタンの照らす光の先…地下河川を越えた向こう側には通路が続いている。いや、続いていた。
今その道は、バルバトスの手により落盤を起こし、埋もれている。魔術の助けを以ってしても、落盤の処理は一苦労だろう。
「後はこれで、ミトス君が帰ってくるのを待つだけですね」
リアラは黒髪をかき上げながら、ミントの近くの岩に腰掛けた。ランタンの光は、彼女の白い肌を洞窟の闇に浮かび上がらせる。
「…………」
コレットはリアラから離れた場所で、榴弾砲を片手に静かにたたずむ。
先ほど、一瞬だけ殺気を感じた。そしてその殺気は、すぐさま消えうせた。
その直後からだ。何か、ぐらぐらという音…いや、ぷくぷくという音が聞こえ始めた。それが先ほどから、やたらと耳にさわる。
地下河川の流れる音と、鍾乳石から水が垂れる音を除けば、無音の世界と化すこの洞窟。
地下河川の音がかぶさっていても、この音は幻聴ではない。幻聴にしては、音に現実味があり過ぎる。
ついでに言うなら、出口側がほんのり明るい気もしないではない。
侵入者か。冷徹な思考のみを許されたコレットは、緊張のレベルを更に引き上げる。
体内の鼓動の音は、もう聞こえない。いわんや、呼吸音をや。
まともな人間としての生理機能を失った彼女の心臓は機能を停止している。無機生命体と化した今なら、呼吸の必要もない。
体内からの余計な音が聞こえないのは、索敵にあたってはありがたい。そして、コレットはそれを異常と感じる心など、失った。
その彼女の耳には、背中越しに会話が届く。ミントとリアラ、互いに最愛の友と離れ離れになってしまった2人の会話が。
64The Cave Of The Death10:2006/05/19(金) 02:56:43 ID:yCFHVEqa
「…やっぱり、何だか居辛いですね…ここは」
そう、形はどうであれ、自分達は逃げてきたのだ。スタンとカイル、2人をE2の城に置き去りにしたままで。
「頭では、逃げるべきだってことは分かりますけれどね…」
そう言うリアラも、心境はミントと同じ。ましてやリアラは、一番のパートナーであるカイルを、城に置いて来てしまったのだ。
ミントは法術師。いざ接近戦を挑まれれば、一番の足手まといになるのは分かっている。
リアラは晶術も得意としているし、カイルほどではないが接近戦もこなせる。だが、女の身では力勝負に不安があるのも事実。
ミントは信じられないが、クレスは今や極悪非道の殺人鬼にその身をやつしたという。
そして弱者を人質を取るという手段は、悪人の常套手段であることは今更言及には及ぶまい。
その点では、ミントやリアラは人質の条件としては十二分。クレスが2人を人質に取り、立ち回ることは容易に想像がつく。
「私もこんなことなら、リアラさんみたいに杖術を本格的に習っておくべきだったのでしょうか…」
「それでも、条件は変わらなかったと思います。
こんな不意打ちを受ける危険性が高いゲームでなければ、条件は変わっていたかもしれませんが…」
リアラはため息をつく。それでも今更、泣き言を言おうと神に祈ろうと、自身の持つ力は変えることは出来ない。
ミントは法術。リアラは晶術と、わずかばかりの杖術のたしなみ。
手持ちのピースを変えられないなら、そのピースで生き延びる手段を考えねば。
とにかく、この沈黙が2人には恐ろしかった。
ちりちりちり。
だがその沈黙は、突然に破られた。
「「?」」
物が燃える音。だがこれは、正常な燃焼の際発生するような音ではない。
ミントとリアラは、2人して今聞こえた謎の音の発生源に目をやる。
それは、傍らに2人が置いたランタン。ランタンの芯の糸が、異常な燃焼を起こしている。
ランタンの心から吹き上がる炎は、たちまちにその身を縮め去ってゆく。
赤い炎は、その身を青く変えながら見る見る小さくなってゆく。2人は遅れて気付いたが、コレットの持つランタンも同じく。
炎は、あっさりと消えてしまった。
65The Cave Of The Death11:2006/05/19(金) 02:57:24 ID:yCFHVEqa
「あれ…おかしいですね…?」
洞窟に訪れたのは、真の闇。だが幾度もの冒険を重ねたミントとリアラにとっては、これくらい取り乱すような事態ではない。
リアラはごくごく初歩の晶術を唱え、ロリポップに晶術の光を宿らせる。とりあえず、これで急場はしのぐ。
ミクトランの渡した皮袋に、最初から入っていた道具を取り出すミント。火打ち石を取り出す。
慌てず騒がず、ミントは火打ち石をこすり合わせ、その火花をランタンの芯にふりかける。
何度試しても、火は点かなかった。
「どうしたのかしら…?」
リアラは沈思黙考。何故、油も切れていないのに突然ランタンの火が?
そこで、リアラは思い出した。ハロルドに旅の中教えてもらった、ある話を。背筋が、ぞっと寒くなる。
リアラは慌てて、晶術の詠唱を開始。紡ぐは、「インブレイスエンド」の呪文。
早くしなければ、手遅れになる!
「リアラさん…!?」
事態を察し切れていないミント。だがリアラはミントに構ってなどいられない。
「氷結は終焉…せめて刹那にて砕けよ!」
呪文を一気呵成に詠唱するリアラ。その目標は…!
だが、呪文は完成しなかった。結びの句を唱えるその瞬間。
リアラは、口元を押さえ、膝から地面にくず折れた。
「リアラさん! リアラさ…!?」
そして、リアラの異状に思わず声を上げるミントも、「それ」は襲い掛かった。
まるで見えない悪魔の鉤爪に、胸を鷲掴みにされたような感覚。
ミントもまた、圧迫感に似た強烈な苦痛に、胸と喉をかばっていた。
66The Cave Of The Death12:2006/05/19(金) 02:57:56 ID:yCFHVEqa
――――――

(なんてひどい事を!!)
アトワイトは、洞窟を下るミトスの口から…否、輝石からその策を聞かされたとき。
怒りと非難に、その声を震わせていた。
(ひどい? これのどこがひどいって言うのかな?
あの劣悪種の女2人組だけを、器のマークを受けずにピンポイントで殺す手段として、これほど優れた策はないと思うけど?)
ミトスは白々しくも、そう言い切って見せる。
(それとも、あの劣悪種の片割れの女…確かミントって言ったっけ?
少なくともあいつはまだ、生かしておく価値があるんじゃないかってことを言いたいわけ?)
(違います! はぐらかすのは止めてください!!)
激昂するアトワイト。対するミトスの物言いは、しかしどこまでも冷静そのもの。
(まあ、ミントは人質として使おうとも思ったけれど、不確定要素を減らすって観点からも、
この場で死んでもらって方がいいかな。あの女にはボクの計画に、何の旨味ももたらさない。
敵に回る可能性のほうが大きい以上、ここで退場していただくよ)
(ミトス!!!)
アトワイトは凄まじい剣幕でもって、ミトスに向かう。
ミトスはやれやれ、と肩をすくめながら、ようやく独り言を中止した。
(…じゃあアトワイト。ボクの体の魔力を無理やり引き出して、『アイストーネード』辺りを使ってみれば?
『死の空気』を止めるには、中級以上の氷属性魔術があれば十分。今すぐ試してごらんよ)
(それが出来ないから…!!)
(だよね? なら、お前に残された選択肢は、このまま『死の空気』が洞窟の最深部に流れ込むのをひたすら待つだけだ。
この通り、ボクのランタンも消えてしまっている。
人間がここにいれば、まあどんなに上方修正を施して見積もっても、もって5分てとこじゃないかな?
5分過ぎれば、確実にあいつらはあの世に旅立っているさ)
先ほどミトスが、この洞窟の岩石に「イラプション」をかけた理由。
それこそ、この洞窟内に見えざる死神を放つための布石。その死神の名は「死の空気」。
67The Cave Of The Death13:2006/05/19(金) 02:58:27 ID:yCFHVEqa
(石灰岩は錬金術的にも面白い性質を持った岩でね。
工房内で粉々に粉砕したあと、そこに酸を振りかけるか、るつぼに入れて高熱を与えると、『死の空気』を生む。
錬金術師達の長年の研究によると、重さ100の石灰岩から噴出する『死の空気』の量は40〜50ってところ。
つまり、石灰岩はその重さの半分近くもの『死の空気』を生み出すことが出来るわけだ。
そして、『死の空気』は、人間がが普通に呼吸している空気より重いとはいえ、その量は膨大になる。
今ちょっと暗算してみたんだけど、体積が100ある石灰岩からは、実に体積にして6万以上の『死の空気』が作り出せる。
まあ現実に考えれば、この計算はもっと目減りするだろうけどね。
それでもボクが『イラプション』で熱した岩壁の、数百倍ものかさの『死の空気』が中心部に流れ込むだろう。
洞窟の最深部の空気は、間違いなく全てが『死の空気』に置き換わると見ていい)
そんな恐ろしい計算を、ある種楽しげにさえやってのけるミトスに、アトワイトは怒りと共に戦慄を覚える。
よりにもよって、そんなむごたらしい殺し方を選択し、それを平然と実行する。
ミトスはただでさえ、あれだけの広範囲の石灰岩を強熱したのだ。
あれの数百倍もの「死の空気」が流入するなど、呼吸の必要のないアトワイトでさえ、息苦しい恐怖を感じる。
「犬の洞窟」のたとえ話で出てきた犬のように、泡を吹き痙攣するミントとリアラ。
一瞬その様子を想像してしまったアトワイトは、慌ててその光景をコアクリスタルの中から蹴り出した。
おののくアトワイトを尻目に、ミトスは話を続行する。
(『死の空気』に対応する策は3つ。中級以上の氷属性の魔術で『死の空気』を凍らせるか。
上級の水属性魔術で大量の水を呼び起こして、『死の空気』を洗うか。
さもなければ、風属性の上級魔術で、『死の空気』を強引に洞窟から排気するか、だね。
『死の空気』は、中級以上の魔術ならけっこう容易に凍ってくれる。『濡れざる氷』に変わってくれるんだ。
『死の空気』を『濡れざる氷』に変えて、更にその周囲を通常の氷で何重にも凍りつかせれば、ひとまず問題はない。
水属性魔術で『死の空気』を洗うのは、ちょっと効率が悪いかな。
それこそ、ユウマシ湖の水を丸ごとこの洞窟に注ぎ込むくらいの、大量の水が必要になるし。
風属性の魔術で『死の空気』を追いやるのもいい選択だ。
けれども、これくらい大量の『死の空気』が相手なら、それこそ『サイクロン』並みの魔術を連発する必要があるだろうね)
68The Cave Of The Death14:2006/05/19(金) 02:59:09 ID:yCFHVEqa
(そして、それだけの術を行使するには…)
(…そう、察しがいいね、アトワイト。何はともあれ呪文の詠唱だ。
けれども、『死の空気』で窒息している人間が、まともに呪文を詠唱なんて出来ると思うかい?
呪文の詠唱には、まともに呼吸できる空気が大前提。呼吸を封じることは、すなわち呪文詠唱を封じることなんだ)
(…………)
そう。ミントとリアラは…彼女ら2人は、法術や晶術を得意とする。
呪文の詠唱を封じられれば、もはや彼女らは抵抗の手段を失ったも同然なのだ。
そもそも、窒息したまままともな戦闘が出来る方が異常である。
そしてミトスはその「異常」を、たくみに味方に付けこの作戦を成立させている。
(ボクの体…無機生命体化していてよかったよ。無機生命体になれば、元来備わっていた代謝システムはほとんど不要になる。
飲食や排泄、睡眠もいらない。もちろん、呼吸をする必要もない。それは、あの器にしたって同じさ)
無機生命体に、呼吸は必要ない。ゆえに、並の人間では窒息死するような濃密な「死の空気」の中でも、全く行動に支障はない。
「死の空気」の中で、無機生命体にかなうものは存在しない。メルネスと呼ばれる少女が、水中戦で絶対の力を得るように。
すなわちミトスは、現在無機生命体と化した自身と、そしてマーテルの器たるべき少女のみが生き残れる環境を作るべく。
魔術「イラプション」で石灰岩中の「死の空気」を解き放ち、洞窟深部に流し込んだのだ。
ミントとリアラは、これによって苦痛に満ちた死を受け取ることになるだろう。
窒息死は相当な苦痛を伴う死であることを、否定できる者はいるまい。
(まあ不満を言うなら、『死の空気』の中では、炎属性の魔術の威力が半減すること。
それから風属性の魔術の効き具合が若干変わることかな。
魔術の炎はマナを燃焼させて起こすとは言え、フロギストンの支持がないと全力は出ない。
風属性の魔術も、空気自体の重さが変わるから、それで空気の刃の威力は上がるけど、代わりに若干気流が鈍化する。
まあ、ボクの切り札の多くは、光属性の魔術だからいいんだけれどね。
そもそも『死の空気』の中で、ボクと互角にやり合おうっていう方が間違えた選択だけれど)
(ミトス…!)
(それからアトワイト、あまりボクになめた口を利くのも、程々にしておいた方がいいよ。
さっきは何やら鉢合わせしていた連中に…確か名簿に載ってた名前はヴェイグ・リュングベルと、グリッドだっけ?
あいつらに告げ口をしていただろう?)
69The Cave Of The Death15:2006/05/19(金) 02:59:58 ID:yCFHVEqa
(!?)
その言葉に、アトワイトは凍り付いた。
ミトスの発言はただの一箇所を除き、先ほどの事実をぴったりと当てていた。
告げ口した相手はディムロスであったという点を外していたことを除けば、反論のしようがないほど的確。
(まあ、お前の性格のことだから、ボクがどれほど口止めしても、隙を見て誰かに告げ口するとは思っていたけれどね。
夕方、ボクはお前のクリスタルを解析していたのを覚えているかな?
大体それで、思念の送信先を限定するための暗号化・複合化のシステムは掴めたよ。
暗号の複合化のためのアルゴリズムも、輝石に転写しておいた。
あそこで2人に切りかかると色々面倒だったから、ひとまず抑えてはいたけれどね)
(…………)
アトワイトは、ただミトスの言葉に黙り込むのみ。ミトスは口角を吊り上げ、アトワイトの心を抉るように言う。
(さて、これで君のせいで死ぬ人間の数は、3人に増えたね。すでに死んだマリアン、そしてヴェイグとグリッド。
ボクが殺さなきゃならない人間のリストに、2人の名前が追加された)
(それは…!)
(『また君が』殺したんだ。君の行為が、死刑執行を決めたんだ)
違う! アトワイトはそう、叫びたかった。
ミクトランの手により、人としての尊厳を欠いた死を甘受する羽目になったマリアン。
彼女の美しい顔が、粉微塵に張り裂ける光景を、嫌でも思い出してしまう。
またあの悲劇を繰り返す。自分の手で。
自分の判断で。
まさかここまでミトスが、ソーディアンのことを詳しく知りえていたなど、想定外。そう言い訳をしたかった。
だが言い逃れをしたい自分と、罰を受けることを強要する自分と。2人の自分の間に、アトワイトは板ばさみになる。
(さて、あの劣悪種達の死を、ひとまずは見届けようか。魔剣も回収しなきゃいけないし、何より姉さまを復活させないと。
その後は、あのヴェイグとグリッドって劣悪種も、この島からご退場願う)
アトワイトは、恐怖に震えた。
3人を殺す。自らの行為の失態の罰は、他者に下る理不尽な死の強要。理不尽な死の目撃の強要。
目を背けることは許されない。ミトスと共にいなければならない以上、必ずミトスが死刑を執行する時が来る。
それを近くから見なければならないのだ、アトワイトは。場合によっては、2人の体を切り裂くのは、己自身。
刀身全てに染み渡る恐怖。本来感情のぶれが少ないはずのソーディアンである彼女は、しかし恐怖に打ちひしがれる。
刑の執行の瞬間を。自ら招いた他者の死を、まざまざと見せ付けられるという、恐るべき刑を。
ミトスは不気味な笑みを顔に貼り付け、洞窟の坂を下った。
70The Cave Of The Death16:2006/05/19(金) 03:00:34 ID:yCFHVEqa
――――――

水面で空気を求める魚のように、リアラはぱくぱくと口を動かしていた。
この濁った空気をどれほど呼吸しようと、自身の求める生気は肺に満たされない。
灼熱した焼きごてで、頭の中を焼かれているかのような、凄まじい苦痛。
涙とよだれと汗とが一緒くたになって、悶絶するリアラの顔を流れる。
眼球が、拷問器具でぎりぎりと締め上げられているかのように痛い。視界も、見る見るうちに狭まり、暗くなってゆく。
その中で見たミントは、地に打ち上げられた魚のように跳ね回りながら、苦痛のもがきを見せている。
出来ることなら、このまま晶術で頭を打ち砕いて、さっさと死にたい。
だが、この空気の中では、まともな晶術の詠唱さえ出来ない。
コレットの榴弾砲に付いた銃剣で、首を切り落としてもらえたなら、どれほど楽か。
苦しい。苦しい。苦しい。
死にたい。死にたい。死にたい。
リアラの思考は、ただその一点にだけ収束していた。
そして、その2人を虚ろに眺める、一人の天使。紫の瞳をした彼女は、ひっそりとたたずんでいた。
コレットは思う。己が主が苦しんでいる。己が主に危機が迫っている。
このままでは、主は遠からず死ぬだろう。
天使術には、癒しの術はない。主を救う手立ては、ない。
そう結論しかけたコレットは、しかしある術の存在を思い出した。
思い出した。天使術にはある。1つ限り、癒しの術が。今まで何故忘れていたのか、それを。
(誰も犠牲になんてなっちゃいけないんだ!!)
そうか、とコレットは納得する。おのが心に強く刻まれた、鳶色の髪の少年の言葉。
彼は言った。
その術を使っちゃ駄目だと。誰かを犠牲にせずに、俺は勝ちたくない。誰も犠牲にせずに済むくらい、俺が強くなる。
だからお前も、そんな術を使うな、と。
その言葉が、今の今まで、彼女の意識からその天使術の存在を忘れ去らせていたのだ。
「犠牲」という言葉を、何よりも忌み嫌ったかの少年の想いが。
だが、主は現にこうして苦しんでいる。主を救うなら、自身に打てる手はそれしかない。
天使術「リヴァヴィウサー」。自らの命と引き換えに、全ての仲間の体力と気力を完全に回復させる、自己犠牲の術。
コレットは、背に天使の翼を展開。言葉を発さずして、その呪を紡ぐ。
全ては、己が主のため。自らの命が砕けようと、主を守り抜くために。
71The Cave Of The Death17:2006/05/19(金) 03:01:10 ID:yCFHVEqa
――――――

コレットは知らない。
この「死の空気」の中では、たとえ「リヴァヴィウサー」を用いようと、単なる延命にしかならないことを。
「リヴァヴィウサー」を用いようと、「死の空気」を追い払わねば、ただ彼女らの苦しみを長引かせるだけだということを。
ミトスは知らない。
コレットの中に仕組まれたプログラムはエラーがある事までは知っていようと、それは予想を大幅に超えるエラーであることを。
本来ならば主を守るために、自らの命まで投げ打つようには出来ていない、神子のプログラム。
だがコレットのプログラムは、もはや主を守るためなら、自らの命さえ捨て石にするよう仕組まれていることを。
紆余曲折する一同の意志。その合間を縫って、冥界から来たるは死神。
死神の鎌は誰に振るわれ、結果として誰の命を刈り取るか。
それは、神ならぬ一同には、決して知ることの出来ない、黄泉の国の審判。
死を受け取る人間の指名。その瞬間は、すぐそこまで迫っている。
72The Cave Of The Death18:2006/05/19(金) 03:01:59 ID:yCFHVEqa
【ミント 生存確認】
状態:TP75% 重度のショック 二酸化炭素による窒息
所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント
第一行動方針:事態の打開
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:G3洞窟最深部

【リアラ 生存確認】
状態:TP60% 衝撃を受けている 二酸化炭素による窒息
所持品:強化ロリポップ 料理大全
フルーツポンチ1/2人分 ピヨチェック 要の紋
第一行動方針:事態の打開
第二行動方針:コレットを信じる
第三行動方針:ハロルドが気になる
現在位置:G3洞窟最深部  

【コレット 生存確認】
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)  天使術「リヴァヴィウサー」詠唱中
所持品:銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)  苦無(残り1)
基本行動方針:防衛本能(自己及びリアラへの危機排除)
第一行動方針:リアラとミントを「リヴァヴィウサー」で治療
現在位置:G3洞窟最深部

【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP65% 左肩損傷(処置済み) 治療による体力の中度消耗
   全身軽度損傷 天使能力制限(一時的) 
   記憶障害の振り(カイルとの戦いを覚えていない振り)
所持品:S・アトワイト(初級晶術使用可能)、大いなる実り、邪剣ファフニール
基本行動方針:マーテル復活
第一行動方針:ミントとリアラの死亡の確認
第二行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用する
第三行動方針:カイル・ロイドを復讐鬼に仕立てエターナルソードを探させる
第四行動方針:アトワイトが密告した可能性のある場合その人間を殺害。当面の標的はヴェイグとグリッド
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:G3洞窟深部→G3洞窟最深部へ

【ソーディアン・アトワイト 生存確認】
状態:自らの犯した過ちに恐怖
基本行動方針:ミトスの支配から逃れ、対主催者サイドとして活動(葛藤中)


※現在G3洞窟深部〜最深部は「死の空気」が充満している。何らかの処置を施さねば、窒息する。
73作者:2006/05/19(金) 03:05:31 ID:zr1WGrK8
この作品は、VSの完全改訂版です。
よってVSは破棄をお願いします。
74作者:2006/05/19(金) 12:52:11 ID:zr1WGrK8
訂正です。

16レス目
×→「俺は誰も犠牲にせずに勝ちたくない」
○→「俺は誰も犠牲にせずに勝ちたい」
75継がれし想い 二つの光 1:2006/05/21(日) 01:01:12 ID:xLKUEEty
基本的に、チェスの卓上を見下ろすことが出来るのはそのプレイヤーに限る。
もちろん駒を操作するのはそのプレイヤーであって、駒自身は勝手に動くことなど到底不可能なのだ。
ここに、人間が入り乱れ、チェスの卓上で表現された舞台がある。
プレイヤーはただ一人、その舞台を自らの頭脳で作り上げたデミテルただ一人。
「人」というのは自我を持ち、あらゆる行動は自分自身の意思に基づいて決行される。どうして「人」を駒に見立てられるだろうか。
デミテルは駒を操作できる。正確には「その通りに動く」ことが駒としての最低条件だ。
つまり、デミテルはこの状況をチェスの卓上として見立てたと同時に、自分一人の勝利のための駒を用意し、プレイヤー自らがその駒を操ることでチェスが完成する。
チェックメイトは既に決定事項だった。この状況下で駒がプレイヤーに勝てることなど不可能なのだ。
チェックメイトとなる砲撃が放たれるまで、刹那か、久遠か、それはやはりプレイヤーにしか分からない事だ。

しかして、異世界者が交じり合うこの中で、決定事項などが生まれるであろうか。
統一して世の理がある。「この世に絶対というものは一つしか存在しない」。
不確定要素が漂うこの中で、もちろんデミテルもアクシデントを想定してのチェスプレイということは、今までの彼の功績からみても分かるだろう。
だがアクシデントとは、「想定外の事象」のことを指す。
果たして「想定内のアクシデント」は「アクシデント」といえるのだろうか。
舞台はチェス盤へと移り変わる。

言い忘れていたことが一つ。
「この世に絶対というものは一つしか存在しない」の答えを。
それは「世に在るモノの死」ということのみに限られる。
「死」は平等だ。必ず来るものであり、唯一無二の不可避な事象である。
さて、この「絶対」は、誰に微笑むものだろうか。

76継がれし想い 二つの光 2:2006/05/21(日) 01:02:08 ID:xLKUEEty
何度目かの剣戟が散る。鳶と金はその色を一層濃くし、夜とも思えないほどの闘志が湧き上がっている。
金の主、カイルには状況判断が出来ない。いや、正確には「状況判断の間々ならない状況下」にあるのだ。
飛んでくる威圧を押し払うのみで精一杯なのだ。認めたくはないが、相手にしている鳶の主、ロイドをただの雑魚とは認識できないでいた。
ガキッという剣と剣の交差時、互いが互いを見つめる。
だがこの時、どちらが冷静さを失っているかは、どの人種、どの性情な人から見ても一目両全だっただろう。
ロイドはその瞳を微かに濡らし、だが涙という甘いものは流していない。にも関わらず、その内心は猛りに身を任せているようでもあった。
カイルは思う。この男(どう見ても自分より年上に見えるので、青年とは言いづらい)は何かの出来事で気が狂っているのではないかと。
そして戸惑う。突然襲い掛かってくる状況など、あの最凶の敵であったバルバトスの奇襲で何度も体験している。なのでこの対処もいつも通りにやり過ごす……ハズだったのだ。
だがカイルは見てしまった。少年の潤いの含んだ目を。これに戸惑わない程、カイルの自己心は強く保たれてはいなかった。
剣が離れ、バックステップを取る。少しの距離が出来た。さっきはつられて応戦したけれど、周りも騒いでいるようだ。ここは一つ……。
「とう……カイルさん!! 状況が飲み込めません!! ここは一旦手を……」
沈静化を測ろうとしたカイルの言葉も全てを言い終われないで、ロイドがまたもその手を挙げてきた。
「『虎牙破斬』!!」
下からの切り上げ。一応剣で弾いたものの、その強さは先程の小手合いとは段違いのものだった。
それだけならまだしも、振り上げられた剣は更に降下。カイルを目掛ける。
咄嗟に反応して紙一重でその剣をかわす。同時に、その隙をついてカイルの剣がロイドを標的とした。
「『爆炎剣』!!」
ロイドの虎我破斬と同じような動作。違いは、地面と剣を瞬時に擦り、摩擦を帯びて空気に引火。
少量の火を纏った剣が下からロイドを狙う。
だがロイドもその一撃目を空いている片方の剣で防ぎ、弾かれはしたが一瞬の間を確保した。
上から降り注ぐ爆炎剣の終をロイドも同じように横へと紙一重にかわし、カイルの隙をついた。
「まだだっ!!」
だがカイルもこの隙を見計らったかのように連携の技をその場に当てた。
「『瞬迅剣』!!」
「『爆炎連焼』!!」
突に特化した技と、斬に特化した技がぶつかり合い、爆ぜる。
お互いの剣が震え、身体ごとその場を後ろへともっていかれた。
互いが互いの技を見抜き、かわし、交わり、攻める。
両者は綺麗に着地し、だが先程の剣戟がもうリセットされたかのように、ロイドはまたもその身をカイルへと投じた。
77継がれし想い 二つの光 3:2006/05/21(日) 01:02:48 ID:xLKUEEty
「はああぁぁぁ!!」
「くそっ!!」
カイルは悪態をついてその剣主を見据える。そしてまたも剣の交差。
カイルにはその時しかないと、本能的に悟った。この剣と剣の交差している時間が、目の前の猛っている男との最短の距離にして最大の時間だと思ったのだ。
「アナタは何故俺と戦っているんだ!!」
「父さんをよくも!! 信じていた!! 生きてるって!! でも……」
ロイドの頭がほんの少しうな垂れる。その隙をカイルは攻めない。いや、攻められなかった。
すぐにロイドはカイルを睨む。慕うべき人物の地下での姿。実の父を無残な姿で再会させられてしまった、この状況。
頭に血が上っているという比喩はこの時、まさにロイドに適合した。
正義だとか、犠牲だとか、何かにかこつけて自分を傷つけるようなやり方はロイドは好まない。
何も考えられない。考えたくない。己の心情をぶつける。この様な仕打ちをした敵に!!
ロイドが片手剣でカイルの剣をずらす。そこから剣攻の嵐のように、左右の片手剣を交互順にカイルへと向ける。
かろうじて防いでいるカイルだが、一つ一つの力は半分でも手数では圧倒的にロイドのほうが有利だ。
知らず、カイルは後ろへと後ずさりながら防ぐ形となる。
体勢的にも態勢的にも不利なカイルはいちかばちかの賭けに出た。
ロイドの左手剣を交わした後、咄嗟にそれを足で踏む。そしてやってくる右手剣を自らの剣で食い止め、制止させた。
二回目の会話の時がやって来た。
「俺には何が起こっているのかは分からない!! でも、アナタが悲しんでいるということくらいは、バカな俺にだって分かる!!」
勢いあまって叫び口調になるが、感情をむき出していると悟らせるには十分な効果があった。
ロイドは刹那、呆気に取られた顔をした。だがすぐさまその表情を戻し、
「ハァッ!!」
「ぐっ!」
剣を踏まれている足を蹴りのかせ、ぐらついたカイルに肩を当てる。
「『獅子戦吼』!!」
轟とした闘気を纏わせてカイルにぶつける。もろに喰らったカイルはそのまま吹き飛ばされた。
「がはっ!!」
そのままロイドは佇む。自らが欲した時間を、そして自身に問い掛ける時間を。
「誰が泣いてるって……俺は怒ってるんだ……父さんを殺した奴を、俺は……」
「ぐ……じゃあ、じゃあその涙はなんなんだ!!」
負傷しつつもカイルは剣を杖に見立てて立ち上がり、叫んだ。
ロイドはハッとして自分の目を触る。確かに、コレは濡れた感触。
零れてはいないが、溜まっている。一体何故……。
「俺は知ってる……怒っている時に泣いてるのは、悲しいから怒ってるんだ。じゃないと、怒りで涙なんて出やしない!!」
カイルは叫ぶ。どうやらこの機が、自分と、そして交戦している男との時間の最後だと思って。
78継がれし想い 二つの光 4:2006/05/21(日) 01:03:50 ID:xLKUEEty
「違う!! 俺は憎んでいるんだ!! 父さんを殺した奴を!!」
「憎むなんて言うなよ!! アナタのお父さんはそれを望んでいるのか!?」
ロイドはとうとう、その核心を突かれて手が緩む。だがまだ剣は落とさない。
クラトスが、望む?一体何を?
「父が子を心配しないわけない!! 逆も同じだ!! 俺はいつだって父さんのことを忘れたことはない!! アナタも同じじゃないのか!!」
精一杯叫ぶ。その言葉に一切の余計な含有は無い。ただ、ありのままをぶつける。
不器用だが、それが相手に分かってもらえる一番の方法だ。そのことをカイルは知らない。だからこそ、彼の周りは常に仲間が、仲間は常にカイルの周りにいた。
剣を握るロイドの手が強まる。何かを決め、何かを諦めた、何か。
「クラトスはいつだって俺の前でみんなを守ってくれていた……父さんはいつだって俺の後ろでみんなを支えてくれていた……」
カイルを見据える。だがその表情に先程までの怒気は存在していなかった。
「俺は間違えているみたいだ……でも、もうどうしようもない。この気持ちは、親を想う気持ちはどうにもならない!! ぶつけるしかないんだよ!!」
ロイドも、自らの気持ちを自らの言葉に発する。彼もまたバカ正直で無垢な青年の一人なのだ。
だがカイルにとって、誰よりもその気持ちを理解できた。そして、そうやってバカみたいに叫んで、不器用ながらも気持ちをぶつけるというその姿が、他人事には出来なかった。
カイルは地面を踏みしめ、見据えて剣を構える。
ロイドは双剣を交差させ、自らの体勢をとる。
「俺が止めてみせる……クラトスさんへの想いを……父への想いを真っ直ぐに!!」
言ってカイルは走り出す。距離にしてさほどではない。
79継がれし想い 二つの光 5:2006/05/21(日) 01:04:32 ID:xLKUEEty
――その時はすぐにやって来た。

一回、二回、三回、互いの剣が弾き合う。
「『魔神剣』!!」
「『蒼葉塵』!!」
激しい鬩(せめ)ぎ合い。しかし両者は一歩もひかない。
数回の剣戟が瞬時に展開され、だがお互いはその攻勢を全く変えない。
「『秋沙雨』!!」
「『蒼葉追連』!!」
無数の突きが空圧と斬突で相殺。互いが間をおかれる。
瞬間か刹那か、偶然か必然か。
「「はあぁぁぁ!!!!」」
互いは見たことのない気を纏わせ、その具現を互いに視認する。

紅の光を纏いし潜在の解放――スピリッツブラスター
白の光を纏いし稀少の邂逅――オーバーリミッツ

二つの閃光は、運命のように共鳴する。
「『猛虎豪破斬』!!」
「『屠龍連撃破』!!」
激しい激昂と旋律は、極限まで高められた肉体によって更に加速した。
結末など不要の、それは美しい奏でだったのかもしれない。
一つ、二つ、その重い剣戟は互いを潰しあい、互いを受け入れている。
猛虎豪破斬の最後の振り下ろしと
屠龍連撃破の最後の切り上げが
D.S.を告げた。

80継がれし想い 二つの光 6:2006/05/21(日) 01:05:49 ID:xLKUEEty
閃光が止んだ時、互いの体躯の光も失われていた。
そしてガンと、重い音が地面を穿つ。
最後の剣戟で打ち負けた者が頭を強打した音だった。
全体重を乗せた振り下ろしと、全体重をのせることが困難な振り上げでは圧倒的に振り上げが不利だったのだ。
踏む込みのみが力の源となる屠龍連撃破――カイルの技は、振り下ろしと双剣の全体重攻撃には耐え切れなかったのだ。
ロイドは着地と同時に勝利を確信した。相手は頭を地面にぶつけて跳ねたのだ。意識など簡単に吹き飛んだだろう。
――だがカイルの意識は完全には消えていなかった。
この時に、カイルは最後の切り札を使った。勝負は最後まで諦めてはならない。
先程はただD.S.を打っただけで、Fin.とは称されていなかった。
闘いはまだ終わっていなかったのだ。
ロイドが完全に足を地面に着けた時、「それ」は降り注いだ。
「『バーンストライク』!!」
地面に倒れながらもカイルは叫ぶ。最後の希望を馳せて。
しかしロイドは油断はしていた。だがその戦闘態勢までは解いてなかった。
だから、間に合ったのだ。
「『粋護陣』!!」
激しい爆音とともにその場が埃と塵で舞う。周りに他の者がいることも気にせずに、彼らは彼らの戦いを繰り広げたのだ。

徐々に足音が近づいてくる。とどめを刺しに来たのだろうか。
仰向けになって行く末を待つ。金の主はもう体を動かす力が無かった。
正確には、頭を強打したせいで朦朧とし、上手く体が動かせないでいたのだ。
そこに鳶の主が顔を出す。そこにも疲れ切った顔があり、カイルは危機にも関わらず目を閉じた。
諦めたわけでも、降参したわけでもない。ただ、こうするのがなんだが自然な気がした。
遠くではまだ戦闘が続いている。父さんも戦っているだろうな。俺は結局、親子とかそういう感情を語れなかったのかなぁ。
最後に、クラトスさんの息子の名前でも聞いておこう。
「アナタの名前は……」
言われた鳶の主は微かに眉を動かし、金の主へと逆に言い放つ。
「相手に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るもんだ」
その言葉に金の主はいらつきもせず、そうかと納得してから答えた。
「俺はカイル、カイル=デュナミス。父さん想いの、ある少女の英雄だ」
言って、自分で恥ずかしくなった。そんな想いの強さとか、誰かにとっての称号とか、あまり口にはしないから。
「俺はロイド、ロイド=アーヴィング。俺だって、父さん想いの、神子想いだ」
自分で言って何がなんだか分からないでいたが、これでまぁ、カイルと互角だろうと勝手にロイドは思った。
カイルは今更にお互いの名前を知り合うのが、何かこそばゆくて、そして恐ろしかった。
今知った者に、殺されるかもしれないのだ。
自分は戦闘不能だ。彼が自分を殺すのはもう時間の問題だろう、と。
81継がれし想い 二つの光 7:2006/05/21(日) 01:07:54 ID:xLKUEEty
だがロイドはカイルの意表をついて、話を始めた。
「最後のお前の、カイルの術には驚いた。けど、俺はまた父さんに助けてもらった」
双剣を前に出して、見据える。今は亡き父のことを想う。
「父さんに習った術で助かった。俺は、どうやらクラトスをまだ越えられないみたいだ」
カイルは目を開く。そして、ロイドの表情を、気持ちを、微かながらに感じた。
「クラトスを殺したのが誰とか、憎しみや恨みなんてのは後回しだ。今はこの状況を、静める」
そして再び剣を構えてカイルに呼びかけた。
「お前のお父さんは、どれだ」
「あの、金髪の長い髪をした……」
カイルは頭だけを浮かして実父の姿を捜す。どうやらかなりの苦戦を強いられているみたいだ。
「分かった。お前も、早く来いよ。父を越えるのは息子の役目だ!!」
言ってロイドは一目散に戦闘を繰り広げている場へと走っていこうとした。
「待って!!」
カイルはロイドを咄嗟に呼びとめ、自分に課せられた使命を全うさせる。
「父さんが、フランベルジュって剣を持ってる。クラトスさんが息子に……アナタに渡してくれって」
ロイドはその事実を聞いて、少なからず顔を綻ばせた。
クラトスが待ってる。クラトスの意志を、継ぐ時が再び来た。
「ありがとよ!! ちょっくら行って来る!!」
そして走り出すロイド。
その気力と体力にカイルは少し呆れたが、自分も脳震盪を起こしているだけで完全に再起不能なわけではない。
一刻も早く体力を整えて、加勢しなければ。
今の状況がどうなっているのか、さっぱり分からない。ある意味ここは深遠の混沌と化している。
ただ、わかった事は一つ。
彼も、ロイドも自分と同じ、父を想う心は同じだということだ。
「早く来いって……こうなったのはアナタのせいじゃないか……」
カイルは愚痴りながらも、仰向けのまま、動けない体のまましばしの休息に入った。

夜空はこんなにも綺麗なのに 俺たちは今 何をしているんだろう

【カイル 生存確認】
状態:ロイドと和解 意識衰弱 軽い脳震盪 HP45% TP45%
所持品: 鍋の蓋 フォースリング ディフェンサー
ラビッドシンボル(黒・割れかけ) ウィス
第一行動方針:体力回復のため、少し休憩
第二行動方針:スタンを守る
第三行動方針:リアラを守る
第四行動方針:ハロルドが気になる
現在位置:E2城跡

【ロイド 生存確認】
状態:カイルと和解 HP75% TP65%
所持品:ムメイブレード(二刀流)、トレカ、カードキー 
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:カイルの父を助ける
第二行動方針:リッド、キール、ジェイと行動
第三行動方針:協力者を探す
第四行動方針:メルディを助ける
現在位置:E2城跡

※SB・OLが発生しましたが、秘奥義は放たれていないので再度発生させられるかと思います

82【継がれし想い 二つの光 6:修正】:2006/05/21(日) 01:25:20 ID:xLKUEEty
× ロイドが完全に足を地面に着けた時、「それ」は降り注いだ。
「『バーンストライク』!!」
地面に倒れながらもカイルは叫ぶ。最後の希望を馳せて。
しかしロイドは油断はしていた。だがその戦闘態勢までは解いてなかった。

○ ロイドが完全に足を地面に着けた時、「それ」は降り注いだ。
「『バーンストライク』!!」
地面に倒れながらもカイルは叫ぶ。最後の希望を馳せて。
激突の前に、予めエンチャントの『連携発動』によってバーンストライクを発動待機させていたのだ。
ただこれは、自分の意識が無ければ発動はしない。
不幸中の幸いにして、かろうじてカイルはこの切り札を発動させたのだ。
しかしロイドは油断はしていた。だがその戦闘態勢までは解いてなかった。

83盟友 1:2006/05/21(日) 17:00:16 ID:ATv9oMZJ
グリッド達2人と1匹と1本の行軍は、グリッドに対する積載量オーバーの為
一般的な速度を大幅に下回っていた。被索敵率を減らすことを主目的として
北の森を突っ切ったのもその要因に含まれる。
森を抜けるのと同時に、グリッドはその疲労で上がらない頭に搭載された
眼の焦点を遠くに合わせ、微小に顎を持ち上げた。
その先に紫の光を見る。ここにまでイオン臭が漂ってきそうな雷光だ。

「…ホワッズィスズァット?」
小高い丘の上から、雷が横に走っていった。
その発生源に、歪なシルエットが1つ。
「…雷系晶術…にしては物々しいな。どちらかというとハロルドの兵器に近いが…」
ディムロスがコアを月光に輝かせて、いぶかしむ。
2人の共通見解は嫌な予感程度のものだ。

「―――――レイバーだ」
3人目の、ぐぐもった声が彼の肺とグリッドの背を伝導する。
筋に電気信号。ヴェイグ・リュングベルの指先が動く。
「サウザンド、ブレイバー…フォルスによる砲撃だ」
反響したフォルスが、ヴェイグの意識を励起する。
「あーすいません。専門用語は無しで説明を…それ以前に、起きたの!?」
驚きと共にバランスを崩したグリッドが背負ったヴェイグごと倒れる。
気付いたら誰かの背の上、流石に日に2回もあれば情けなく思うのが人間ではある。
しかし、そんなことは比較的些細だ。誰がそれを行使しているのか、ということに比べれば。
四つん這いからディムロスを掴み、杖として立ち上がる。状況の認識を…
「ここは…俺は、トーマを見て…ナイフが…ディムロス、何があった?」
ディムロスはグリッドを一瞥して、彼の了承を得る。
「お前は、プリムラという、お前がその、抱いていた女に刺されて意識を失った。
今はハロルドと別行動中だ。かつてハロルドが使っていた拠点に向かう途中だったが、
運よくヒーラーにお前を見せることが出来たので先にE2に向かうことにした。さて、あれは何だ?」
掻い摘んだ説明の後、未だ唇の青いヴェイグの口が開く。
あれがどんな技なのか、誰が使えるのか。
「…だとすれば、砲口から考えると狙いは…E2か!!」
ディムロスは声を上げる。その先にいるマスターを案じて。
2人をディムロスは急かす。しかし、それが出来ない事情を抱えたものが1人。
「駄目だ…あいつが、あそこにいる」
どうやってヒルダ無しで発動しようとしているかは分からないが、使えるのは1人しか居ない。
ディムロスを地面に突き、よろよろと歩を進める。
「おい!ヴェイグ!」
こういうときにソーディアンは辛い。所詮は道具に最終決定権はないのだ。
「…済まないとは思う。だが、俺には武器が…要るんだ」
「―――」
どうしようもない、と思う。ソロン、リオン、封殺された意思の数がまた1つ増えるだけだ。
84盟友 2:2006/05/21(日) 17:00:48 ID:ATv9oMZJ
「とう」
押そうとする力が重心を外して掛かり、ヴェイグを横転させる。
「痛!貴様何を…」
「おーい、ケダモノ」
グリッドはヴェイグのことを無視して、小声で森を呼ぶ。
するりと茂みが揺れて、クィッキーが現れた。
「おい、ディムロスを…返せ!」
グリッドは気にも留めない。多分2人の間に真空の層が形成されているのだろう。
ディムロスを再びウイングパックに入れてクィッキーに括りつける。
「よし。それじゃE2に…あ、何?お前ビビッているのか?漆黒の翼の公式マスコットの癖に
情けない。そいじゃ、サービスでこいつを付けてやる」
そういってグリッドは自分のサックの中からアクセサリを取り出し、ウイングパックに入れる。
光への導きへの鍵、多少正常な用法を逸脱した機能を期待しても罰は当たるまい。
「グリッド…」
「俺のことなんぞスタンは覚えちゃいないだろうからな…あいつを、頼む」
グリッドは手でクィッキーとディムロスを払い、それに応じてクィッキーは闇を駆けていった。

「…よし!」
「何が良し、だ…!!」
胸を張るグリッドの胸倉をヴェイグが掴む。しかし力の入らない体は
ヴェイグの言うことを聞かず、再び膝を折る。
悔しそうに地面を見るヴェイグの視界に、短剣が現れる。
それが何を意味するのかを理解する前に短剣を手に握らせた上で、
グリッドはヴェイグの腕を肩に回しヴェイグを立たせた。
「剣はそれで我慢してくれ…代わり、といっては何だが、俺が杖代わりになってやる」
眼を丸く、口を半開きにするヴェイグ。
「断る!」
「却下だ。お前はもう漆黒の杖の一員なのだ」
「そんな何度も団名を変えるような連中の…」
「いやか?じゃあ漆黒の翼ならオッケイだな!?ハイ決定!」
グリッドが鼻を鳴らしてから沈黙が暫く。
「…どこの漆黒の翼もこんな調子なのか」
諦観にも似た表情でヴェイグは丘の上を見上げる。時間も無い。
「俺は絶対に漆黒の翼なんぞに入らん」
チンクエディアを前に突き出し、フォルスを高める。
「代わりに1人仲介してやる…そこまで連れて行け」
凍結する草原の一部。弱体化した網の無効化。
「「行くぞ!」」
威勢と釣り合わない速度で、彼らは丘を登り始めた。
85盟友 3:2006/05/21(日) 17:01:30 ID:ATv9oMZJ
デミテルは眼を閉じ、フォルスの制御に集中している。
その顔の汗の量は尋常ではない。額に血管も浮かんでいる。
なんとも恐ろしい力。制御できるとかそういう次元の話ではない。
まるでこれは神の片鱗ではないかと錯覚したくなるほどに―――

草が割れる音が聞こえる。砂を踏むかのような、ささやかな音。
ティトレイの「網」を抜けて来た何者かが、1人、否、2人。
その歩調を聞く限りまともな状態でなかろうが…どうするか。あと、一分…

丘の上に、4人。クイッキーと分かれてから暫くたっている。
「何者かは知らぬが…今すぐここを退け。さすれば無用な命を奪わずに済む」
デミテルは2人を一瞥もしない。首を動かす余力すらない。
「ふん!お前みたいな地味に悪人面した奴は本当に悪人だと相場は決まっている!!」
グリッドは息を切らせながら気を吐く。その根拠の無い自信はどこから沸くのだろうか。
後30秒…
「ならばどうする…この砲口をお前達に向けても良いのだぞ?」
頭痛に皺を寄せるデミテル。
「ふ…ふん!そんなハッタリなどこのグリッド様には通用せん!それに貴様には用はない!!」
少し腰を引かせてグリッドは吼える。
15秒…
グリッドは肩を貸した相手を向く。ゆっくりと、ヴェイグは彼を見据えた。
「ティトレイ…何をしている…」
肺を動かす。
「無駄だ…其奴は感情を失った我が忠実なる僕…貴様らが何を言おうとこやつの力は我が手中…」
86盟友 4:2006/05/21(日) 17:02:02 ID:ATv9oMZJ
10秒

「フォルスは心の力。本当に心を失った能力者には扱えない…
 ティトレイ…お前、本当は、全部分かってるんじゃないのか?」
ドクン、と何かが鼓動したような音。紫電の光が更に輝く。

「グッ!ティトレイ=クロウ!何をしている!!」
崩れた均衡を取り戻そうと、デミテルはケイオスハートを突き出す。
不可能を悟る。海の波を止められないと諦めるかのように。
想定した威力の140%…これが…暴走…
「見るな…」
5秒。砲身が6度上がる。
「見るなよ…」
ありったけの知識を働かせ、可能と不可能を明瞭にする。
4秒。砲身が6度上がる。デミテルの腕が内出血で紅く染まる。
「見んじゃねえよ…」
ヴェイグの手が輝くが、砲身を凍結させることは出来ない。
3秒。砲身が6度上がる。ただ状況を眺めるしかないグリッド。
「頼む…見るな…」
城への直撃は不可能…ならば…
2秒。砲身が6度上がる。砲身に亀裂が走る。
「見るなァァァ!ヴェイグゥゥゥゥ!!」
1秒。6度上がる。砲身に光が集まる。
あくまでも‘弾丸’は私のマナ。城の中空への到達時間を算出。
城の上で、雷撃を地面に向けて指向性爆破する。城跡に雷矢の豪雨が降り注ぐであろう。
さながら、ティトレイの扇翔閃の如く。跡形も残らないのは変わらない。

0秒。仰角15度で、サウザンド・ブレイバーが発射された。
デミテルの腕と、砲身が閃光と共に爆ぜたのと同時刻である。
87盟友 5:2006/05/21(日) 17:03:07 ID:ATv9oMZJ
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創(処置済み)
所持品:状態不明、マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 漆黒の翼の再編
第一行動方針:E2に向かいスタン達に会う
第二行動方針:ヴェイグをG3洞窟に運んで、薬の準備
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:右肩に裂傷(処置済み)強い決意 腹部重傷(処置済み) HP30% 状態不明
所持品:チンクエディア
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ティトレイの説得
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3

【デミテル 生存確認】
状態:TP30% 右腕内部にダメージ 状態不明
所持品:ミスティシンボル、毒液 魔杖ケイオスハート アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:???
第二行動方針:発射後、可能なら生き残りを殲滅する
現在位置:E3

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:感情喪失? TP残り15% 状態不明
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3


【クィッキー】
所持品:S・D、セイファトキー
行動方針:スタンに会う
現在位置:E3→E2城跡
88【継がれし想い 二つの光 2:修正】:2006/05/21(日) 20:11:05 ID:xLKUEEty
× 「とう……カイルさん!! 状況が飲み込めません!! ここは一旦手を……」
○ 「とう……スタンさん!! 状況が飲み込めません!! ここは一旦手を……」

たびたび申し訳ありませんでした。まとめ管理人さんよろしくです。
89盟友 3 修正版:2006/05/22(月) 00:12:26 ID:9PeoWheR
デミテルは眼を閉じ、フォルスの制御に集中している。
その顔の汗の量は尋常ではない。額に血管も浮かんでいる。
なんとも恐ろしい力。制御できるとかそういう次元の話ではない。
まるでこれは神の片鱗ではないかと錯覚したくなるほどに―――


草が割れる音が聞こえる。砂を踏むかのような、耳障りな音。
ティトレイの「網」を抜けて来た何者かが、1人、否、2人。
ここに至るまでまったくティトレイからの報告は無かった…どうやって網を抜けて来たのか…
その歩調を聞く限りまともな状態でなかろうが…どうするか。あと、一分…

丘の上に、4人。
「何者かは知らぬが…今すぐここを退け。さすれば無用な命を奪わずに済む」
デミテルは2人を一瞥もしない。首を動かす余力すらない。
しかし、敵は…敵と呼べるかどうか妖しいが、全く以てマナを感じない男が2人、
しかも1人はどうやら手負いで、もう1人は一般人としか言いようの無い男。
「ふん!お前みたいな地味に悪人面した奴は本当に悪人だと相場は決まっている!!」
グリッドは息を切らせながら気を吐く。その根拠の無い自信はどこから沸くのだろうか。
後30秒…
「ならばどうする…この砲口をお前達に向けても良いのだぞ?」
頭痛に皺を寄せるデミテル。この一撃が終わってから始末すれば事足りる。
何十通りかのアクシデントを想定していたが、ここまで情けないアクシデントとは…
「ふ…ふん!そんなハッタリなどこのグリッド様には通用せん!それに貴様には用はない!!」
少し腰を引かせてグリッドは吼える。
この機を逸すれば、次の装填には1時間は優に要するだろう。
そのリスクはこの2人を見逃す比ではない。私は中断しない。
15秒…
グリッドは肩を貸した相手を向く。ゆっくりと、ヴェイグは彼を見据えた。
「ティトレイ…何をしている…」
肺を動かす。
「無駄だ…其奴は感情を失った我が忠実なる僕…貴様らが何を言おうとこやつの力は我が手中…」
?…違う?私は、中断しないのか…あるいは…中断‘できない’のか…?

10秒。デミテルは自分のセンサーの感度の良さが命取りになったといえる。
もう、後はただオートマティックに。
90盟友 4 修正版:2006/05/22(月) 00:13:08 ID:9PeoWheR
「フォルスは心の力。本当に心を失った能力者には扱えない…
 ティトレイ…お前、本当は、全部分かってるんじゃないのか?」
ドクン、と何かが鼓動したような音。紫電の光が更に輝く。
逆流の感覚。右腕の血液が沸騰する感覚。
「グッ!ティトレイ=クロウ!何をしている!!」
崩れた均衡を取り戻そうと、デミテルはケイオスハートを突き出す。
しかし、フォルスは何も応えない。寧ろ、
「まさか…私のマナを逆に制御下に置いたか!?従僕が主を隷属させるというか!!」
不可能を悟る。海の波を止められないと諦めるかのように。停止命令すら反抗。
私のマナを喰らい、想定した威力の140%…これが…暴走…
「見るな…」
5秒。砲身が6度上がる。
「見るなよ…」
ありったけの知識を働かせ、可能と不可能を明瞭にする。
4秒。砲身が6度上がる。デミテルの腕が内出血で紅く染まる。
「見んじゃねえよ…」
ヴェイグの手が輝くが、砲身を凍結させることは出来ない。
3秒。砲身が6度上がる。ただ状況を眺めるしかないグリッド。
デミテルはグリッドを見る。どこかにあった、慢心。戦場において最も厄介な手合い。
「頼む…見るな…」
千の策謀と万の知略の一切合切を荼毘に帰す、神に祝福された存在。
詠唱の中断は不可能…すでに隠密も神速も無為…ならば…
2秒。砲身が6度上がる。砲身に亀裂が走る。
「見るなァァァ!ヴェイグゥゥゥゥ!!」
1秒。6度上がる。砲身に光が集まる。
あくまでも‘弾丸’は私のマナ。城の中空への到達時間を算出。
城の上で、雷撃を地面に向けて指向性爆破する。城跡に雷矢の豪雨が降り注ぐであろう。
さながら、ティトレイの扇翔閃の如く。跡形も残らないのは変わらない。
理も知も今は埋葬しよう。戦略を解放する悦楽。デミテルは笑っている。
狂気を弄ぶデミテルもまた、狂気の住人。
殺傷力と殺害効率だけを希求し、狂気迸り山河を越えよ。


0秒。仰角15度で、サウザンド・ブレイバーが発射された。
デミテルの腕と、砲身が閃光と共に爆ぜたのと同時刻である。
91盟友 5 修正版:2006/05/22(月) 00:13:56 ID:9PeoWheR
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創(処置済み) 状態不明
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 漆黒の翼の再編
第一行動方針:E2に向かいスタン達に会う
第二行動方針:ヴェイグをG3洞窟に運んで、薬の準備
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:右肩に裂傷(処置済み)強い決意 腹部重傷(処置済み) HP30% 状態不明
所持品:チンクエディア
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ティトレイの説得
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3

【デミテル 生存確認】
状態:TP30% 右腕内部にダメージ 状態不明 狂気
所持品:ミスティシンボル、毒液 魔杖ケイオスハート アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:???
第二行動方針:発射後、可能なら生き残りを殲滅する
現在位置:E3

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:感情喪失? TP残り15% 状態不明
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3


【クィッキー】
所持品:S・D、セイファトキー
行動方針:スタンに会い、射手の存在を伝える
現在位置:E3→E2城跡
92魂という名の道筋1:2006/05/22(月) 16:31:53 ID:Ti1nHrM2
運命とは常に皮肉なものである。いや、皮肉なのではなく運命にはどこかで操る意志というものがあり、人を苦しめては笑っているのではないかと思う。
そんな気がするのは彼が必要以上に業を盲信するダークサイドの宗教家だからでも、被害妄想に駆られた精神病者だからでもない。
現実に「それ」があるからである。
もしこれが現実でなければ
もしこれが、脚本のある演劇であれば、映画であれば、あるいは小説であれば。
登場人物がピンチに陥ると瞬く間に奇跡が舞い降り、難を逃れるだろう。今まで歩いてきた道は例えぬかるみ歪曲した道ならぬ道だろうとも、そこに足跡を残した事に意義がある。登場人物はただ感情を吐露する為だけにいるんじゃない。
常にその先にはカタルシスや救いがあるのだ。…あるはずなのだ。
これが現実でなければ。

ジェイはその時、傍らにいた人物の首輪から上が散るのを見た。


話は数分前に遡る。
ダオスが猛神の如く修羅場に足を進めて、ジェイがそれを確認して眼を丸めているその時。
カイルとロイドは剣を交え、時空剣士は奇襲をかけ、リッドもスタンも剣を抜かざるを得ない。
誰が敵で、誰が味方で、何故戦っているのか。泥沼としか言いようのないこの現状。
呆然としながらもキールはただその状況を見つめていた。
そしてキールの胸にはかつてから違和感を感じていた。このゲームについて。一連がとても不気味に感じていた。
人間とはあまりの混乱に陥ると逆に冷静になってしまうらしい。人間は本来脳を30%も使えてはいない。
しかしこの喧噪がキールの脳を揺さぶった。
恐ろしいこの状況。しかしこの状況が本来のキールの頭脳を呼び覚ます。

まさか、これは…

キールは忘れないようにたまらず横にいるジェイに話しかける。
「…何かおかしくないか?」
「……、何がですか?」
同じく呆然としていたジェイは、はっとしたように答える。
真摯にジェイを見るキールにこの様な混迷した状況でも何とか平静を取り戻す。
「明らかにミクトランに仕組まれている」
元々バトルロワイアルはミクトランにより仕組まれてたものだ。今更というより当然な発言。しかしキールの態度にジェイは耳を傾ける。
「…何か裏があると?ミクトランの野望だとか…」
「いや」
キールはそのまま続ける。時空剣士がスタンに斬りかかり、スタンは応戦する光景が広がる。
93魂という名の道筋2:2006/05/22(月) 16:34:08 ID:Ti1nHrM2
「あくまで僕の推測だが、ミクトランにはこのゲームで何か物理的な糧を得る為とかそういう考えはないように見える。
彼は完全に愉快犯だ。だけれど彼が楽しむ為に裏があるように思えるということだ」
するとクレスは炎を纏い、こちらに突進してきた。とっさにジェイはクナイを構えるが、リッドも炎を巻き上げながら飛翔し、クレスと激突する。
身の危険が眼前に迫るにも関わらず、諮々と紡ぎ上げられるキールの推測は止まらなかった。
「どうしても納得いかないことが一つあるんだ」
「お聞きしましょう」
血なまぐさい喧騒の中、才物二人が語り合う。
奇妙な光景だ。
「まず支給品だ。僕は以前にもこれに目をつけていた。一部の支給品の中にある、レンズというもの。これには時を操る力があるんだ。
例えばミトスの所持していた剣。
そして僕の推測では、この空間はレンズにより作られたものとしている。
ということは脱出の望みが初めからこちらに与えられているということになる。まずそれが引っかかるんだ」
「そういわれれば…」
道具でも明らかに向こうを不利にする要素のあるものが度々ある。ただ単純に殺し合いを楽しもうとする人物が、そんなものを用意するだろうか。
「話を進める。
そして支給品についてもう一つ。これは単純すぎて今まで気付かなかったんだが、改めてみんなの持ち物…特に武器について考えてみて欲しい」
ジェイは少し目を伏せて思考を巡らす。そしてあまりにも簡単過ぎて見落としていた事に気が付く。
「そういえば…人それぞれに適した武器が支給されている事が多いですね」
これが偶然だといえるのだろうか。
例えばジェイの忍刀。
あらゆる世界からのあらゆる道具の中でこうも運が良く自分の望むものを支給されるだろうか。剣士達が運良く実戦用の剣を持っているのも、術士が杖を持っているのも、まともに考えればそうなる確率は至極低いはずだ。
「C.ケイジすら支給されない僕の様な者もいる。しかしそれこそが作為だったんだ。」
そう、各参加者への所持品は最初から決まっていたんだと、キールは大胆な推察をする。
しかし、それが気付かれないように彼の様な例外もいる。参加者に明らかなまでに武器が支給されたら、支給品がランダムでないとわかってしまうからだ。
「話が読めませんね。でしたら最初から普通に武器を支給すればいいだけでは?」
94魂という名の道筋3:2006/05/22(月) 16:35:37 ID:Ti1nHrM2
「それはまた説明する。ミクトランにとっては、僕らが本来の力によって、殺し合うことが面白いんだ。ただの乱闘やフォークで戦わせるだけではつまらないだろう。
そして、全力で戦えば、普通に考えて勝ち残った一人は紛れもない最強の戦士ということになる」
ひとつ鳳凰が地に落ちた。クレスに力で競り負けたリッドだ。しかしクレスも無事ではない。左足に火傷を負うが、その笑みはやむことはない。
「どけリッド!!!」
金糸が銀に染まりゆく魔王がクレスに牙をむく。
クレスが目をかっと開いて応戦する。
歓喜の表情だ。
相変わらずキールは冷静だ。本来ならばキールは慌てふためいている状態だろう。しかし彼はひとつひとつの言葉をジェイに注ぐ事に集中した。
「ミクトランは支給品はランダムだと言っていただろう。しかしそれこそが彼の心理作戦だったんだ」
ジェイはそこで成る程、と相槌を打った。
ランダムだと分かれば仲間とはぐれた者は仲間の身を案ずる思いが加速する。実際、支給品の外れを引いた者が近くにいれば尚更だろう。
必要以上の危機感を持たせ、あるいは状況に応じては闘争心に火が付きやすい。
「しかし、思うんだ。こんな野蛮な奴もうろつく現場とはいえ、いくら心理を利用しようとも確実に殺し合いが起きる保障はない。
たとえミクトランに命を握られているとしてもだ。
人の心はそこまで単純ではない。殺し合いをして一人が生き残るなんて数有るパターンの一つに過ぎないんだ」
ここでキールの弁舌が一旦止まる。

クレスとダオスがぶつかる。しかしあのダオスが今全快でないにしても、状況が不利に見えた。
どうもクレスの時空剣技とダオスの技では相性が悪いらしい。が、威力は申し分無く、スタンは巻き込まれてしまう。
「…僕は今、とても恐ろしい事を考えている。
僕らの今までの行動を虚無に帰してしまうかもしれないほどの事だ。…できれば嘘であってほしい」
キールの額を汗が伝う。
唇は乾き、やや震えている。
「…何ですか?」
尋常じゃないキールの様子にジェイは固唾を飲む。
「話はレンズに戻る。あれは時間を操れるとは話したな。
……ミクトランはレンズの能力を使って、この戦いの行く末を知っているんじゃないか?
そして数有る未来のうち、最もふさわしい終わり方、優勝の形を見て
―――僕らがその様に動く様操っているんじゃないか?」
「まさか!!」
95魂という名の道筋4:2006/05/22(月) 16:38:08 ID:Ti1nHrM2
ジェイが初めてひどく反論した。
嘘に違いない。
キールのこの意見が通るとすれば、自分達には初めから意志などなかったことになる。
ジェイはこのゲームで罪を犯した。
それはミントを裏切り傷つけたこと。
しかしそれはソロンの指示があったからだし、あれを実行したのはあくまで自分の足だ。
決してミクトランに操られたからじゃない。
そう、思いたい。
しかし、相手は時を操る力を手にしているミクトランだ。
頑なな否定もその前には次元と次元の間に吸い込まれてぺしゃんこになってしまうような錯覚を覚える。
絶対的に自分が手を出しようもない不可侵の領域。
足場が、巡らす思考が、急速に頼りなく感じた。
「…だって、まさか……」
ジェイの顔が蒼白になる。
しかし考えてみればそうだ。
もし、自分に時を征する力があればまず未来見(みきみ)の力を使う。そうすればいのままにするのは容易い事。
ジェイは愕然とした。
そうだ。そうなのだ。自分は脱出の方法に捕らわれるばかりに奴を甘く見ていた。考えてもみれば、愉快犯がわざわざ自分の身を危険に晒すかもしれない行為を享楽でやるだろうか。
絶対的な安全がなければこんな力を持った者達を集めて楽しむなんてしないだろう。
「いいか、ジェイ。そしてこんなゲームを開催する加虐趣味の奴の事だ。
まずはいくつかある未来を参考にして殺しやすい環境を作って見て楽しむ。
環境とは例えば、参加メンバーやその最初の立ち位置、あるいは僕らの心すら思いの通りにしているのかもしれない。
そして彼の思う様に順調にゲームが進み、この中で誰が最強かと分かれば―――そいつを殺さないわけはない。自分の満足の為に。勿論、安全な所から確実にね。
そして仮に万一の確率で僕らが談合するような事があれば…彼はここの時間を戻して、また僕らは何も知らないままこのゲームをさせられる。
この空間にいる限り、この空間の時間を奴が支配している限り、僕らの死は絶対かもしれないんだ」
96魂という名の道筋5:2006/05/22(月) 16:54:04 ID:Ti1nHrM2
キールの衝撃的な言葉にジェイは返す言葉もでなかった。
つまり僕らは無限のキラーケイジに囚われているということか?微かに見えていた希望の光が先細った。
まるで光をも呑み込み圧縮してしまうブラックホールの様に。
「ひょっとしたらこの今のゲーム自体が幾度目とかかもしれない。無論、奴が時間を操作して僕らをこの牢に連れ戻した上でね」
キールの一つ一つの言葉の質量がジェイの心臓を潰すようだ。
その様な生き方にはこの非にはならないが、心当たりがある。自分が先程浮かんだソロンのパペットとなっていた様に。
怖い。
しかしキールの横顔は相変わらず冷静だった。もう悟りを開いて諦めてしまったからだろうか。
いや、違う。
その深海の瞳の光は褪せてはいなかった。
「ジェイ、それでも僕はこう考えるんだ。
―――!!」
近くで轟音が渦を巻いた。衝撃の余波で草花が激しく吹きすさび、二人の間に小さな嵐を呼び起こした。
ダオスはクレスを掌底で吹き飛ばし、クレスは勢いよくその体が地面から上を切る。しかし不時着するかに見えたが瞬間、空間が揺らぎダオスの懐に転移した。
「ゼクンドゥス!!」
リッドが叫ぶと同時だった。
「真空波斬」
瞬間、ダオスの左腕が宙を舞った。


キールは決定的なミスを犯した。
この激闘と混乱のさなか、真の意味では冷静にいられなかったのだ。
場の崩壊は人から完璧な判断力を奪う。

暗い部屋の中、変わらすチェスの駒が動く。
「……喋り過ぎだな」
ミクトランは一言呟いた。
キールはゲーム開始当初から頑として誰かに重要事項を告げるには紙に書き記していた。
何故ならばその内容が当たっていても外れていても、必要以上の知能の披露はゲーム会場において意味するものは一つしかないのだ。
「もう少し見ていたかったが…危険因子になりかねん」
残念そうな言葉とは裏腹にフッと微かに笑う。
97魂という名の道筋6:2006/05/22(月) 16:55:23 ID:Ti1nHrM2
彼は、王だ。
どの世界のどの王よりも残虐で快楽主義で、絶対的な力を持つ王だ。
そして王を模した駒はこのチェス盤には存在しない。何故なら王とは天子である。彼は天上王だ。
地を這う愚衆と同じ様に地などは踏みしめないからだ。
虫けらは虫けららしくゴミ溜めの中から自分の思う愚王を選別し、紛い物の王冠を被せて醜悪な笑みを浮かべていればよい。そして自らの愚鈍さに気が付き、殺し合う。
極上のB級の螺旋。
私はそれを酒を片手に笑ってやろう。
「真の王とは愚かな地を這う虫とは同じ場所にいないのが定石だ。
虫と足並みを揃える必要などあるまい?」
ニヤリと笑い、チェス盤の一つの駒を見つめた。


その瞬間、「彼」の運命は決まった。
ダオスの片腕が飛び、血の軌跡が鮮やかに弧を描く。キールは流石に思わず身を乗り出した。
しかし。
キールの首。彼の命を繋ぐただ一つの首輪。
「ピ」と小さな音が鳴った。
その時初めてキールは自分の犯した、酷く初歩的だが決定的なミスに気付いた。
どくん、と大きく、体を痺れさせるほどに心臓が体内を叩いた。

本来なら一念にも満たぬ、この間。
「しまった」と思う隙間さえない、この僅かな時間と時間の狭間。
キールを様々な感覚が支配する
冷や汗がドッと噴出する。
体が凍る。
喉は詰まるようで。
血液なんかは逆流するかの様な感覚だ。
死ぬ?僕が死ぬ?
キールの肌を悪寒が撫で下りた。
疾風の様に思考が巡る。
絶望。しかし。
刹那を紡ぐ一糸にある少女の記憶がゆらいだのだ。
―――ああそうか、分かったぞ。
例え、何があろうとも。
ファラは僕らに遺志を託して死んだ。ファラはどちらかというと男勝りで、勝ち気で、元気で優しい幼なじみだった。
そう、ファラが死んだ。
死ぬのは怖かっただろう。
だけどこんなに胸を、いや身体中を、絶望が一気に喰い荒らすものだとは知らなかった。
身体を、生きたいと喚く命が突き破りそうで酷く苦しい。
だけどファラは伝えたんだ。
僕達に生きろと。
こんなに死が自分を蝕む中、その恐怖にも打ち勝って。
それでも本当に怖かっただろう
怖かっただろう
怖かっただろう。
流石だな。いつだってファラは僕らの姉みたいで。僕は些細な事で泣いてばかりだった。

―――でも次は僕の番だ。

98魂という名の道筋7:2006/05/22(月) 16:57:16 ID:Ti1nHrM2

「ジェイ!!!」
キールは叫んだ。
周囲の爆音の中キールの首輪の音は聞こえなかったジェイは、キールのその声の意味を推せずに固まった。しかしその瞬間悟った。
ずっと忍者として暗殺を続けてきた少年は知っている。
この顔は、魂と肉体が剥離する寸前の人間の、命の唸り。
「キ―――」
「いいか、それでも操られるだけの生など馬鹿げている!!未来がいくつもあって奴がそれを全て知っていても、奴の知らない未来を作ればいい!!
みんなで生き残るんだ!!!
そしてメる」

キールの頭は粉砕した。

「………
あ…!」
ジェイの目の前に小さな爆発音と同時にキールの頭や顔の一部が散る。
そして一つの肉片がジェイの目の前に落ちる。
眼孔に目玉の付いた左の顔。
しかしその眼は確かに、そして強い意志をもってジェイを見つめていた。
「…キールさん…」
再び数メートル先で爆音がする。
ダオスは無き片腕を押さえながらも火炎弾をクレスに見舞った。
確かにダメージを受けている筈なのにクレスの猛進は止まらない。痛みも恐怖もない化け物だ。
スタンは再び巻き込まれない様にダオスの攻撃を読みつつ、クレスに接近し、剣を凪ぐ。僅かの所でクレスの首を掠める。
「うああ!」
スタンがクレスの強烈な蹴りに弾き飛ばされ、リッドは背後からクレスに突進した。
「裂空斬!!」
スタンの攻撃で一瞬怯んだのもあり、リッドの剣は確かにクレスの右肩を裂く。
が、にやりと笑って体を大きく捻り、蹴りを剣撃へと繋げた。寸での所でリッドがそれを剣で受け止める。
スタンは背後にリッドが居ることに気付き、右足を軸にし大きく旋回すると、スタンにも切りかかる。スタンはまだリッドを敵と認識しているのだ。
「!」
防ぎきれない。
「皇王天翔翼!!」
「――っつ!!」
スタンの奥義を受け止めきる事は出来ず、炎の刃に呑まれる。
「貴様!!」
そしてそれが次はダオスに更に強くスタンを敵視させ、乱戦に油を注ぐ形となった。
「ダオス、やめろ!!」
そこにカイルと和解したロイドがようやく駆けつけ、割って入った。
しかし左腕を狩られリッドがスタンに攻撃される所も見た、頭に完全に血の上った覇王が聞く由はない。
99魂という名の道筋8:2006/05/22(月) 17:00:32 ID:Ti1nHrM2
「ロイド、その金髪の少年は敵だ!」
「話を聞けって!!」
そうこう揉める内にクレスは再び的をスタンに絞り、畳み掛けた。

血が嵐の中の草花の様に散る。
ジェイの顔もキールの返り血で真っ赤だ。
誰かが剣を振るう度、誰かが憎む度、誰かが血を欲する度。天から地を見下ろした破王は笑う。
聞こえやしないのに、剣の音や悲鳴や大地を轟かせる音に混ざって、ミクトランの嘲笑が聞こえるようだ。
「だめです、皆さん!これでは主催者の思う壷に…」
ジェイは考えた。
どうする、どうする、どうする!?
戦いを、このゲームを終わらせなければ――――!!!
100魂という名の道筋9:2006/05/22(月) 17:09:09 ID:Ti1nHrM2
運命とは常に皮肉なものである。いや、皮肉なのではなく運命にはどこかで操る意志というものがあり、人を苦しめては笑っているのではないかと思う。
そんな気がするのはキールが必要以上に業を盲信するダークサイドの宗教家だからでも、被害妄想に駆られた精神病者だからでもない。
現実に「それ」があるからである。
もしこれが現実でなければ
もしこれが、脚本のある演劇であれば、映画であれば、あるいは小説であれば。
登場人物がピンチに陥ると瞬く間に奇跡が舞い降り、難を逃れるだろう。今まで歩いてきた道は例えぬかるみ歪曲した道ならぬ道だろうとも、そこに足跡を残した事に意義がある。登場人物はただ感情を吐露する為だけにいるんじゃない。
常にその先にはカタルシスや救いがあるのだ。…あるはずなのだ。
これが現実でなければ。

それでも僕は自分の生きている世界が好きだ。
確かにこのゲームは一言で言えば最悪だ。暖かい食事、ベッドゆ期待する事は愚か、むしろ常軌を逸した事態じゃないか!

それでも演劇でも映画でもましてや小説でもそこに在るものには触れれやしない。
僕は現実が好きなんだ
これが詭弁だと思う人間は多いだろう。
だけれど少なくとも僕はこのゲームで、ゲームから逃れたい余りに自害している人間を知らない。

それは何故か分かるかい?

そして何故未来はいくつもの姿だあるのか。これについては簡単だ。
神でも知らない因子は常に僕らの生きる時間上に出現するんだ。僕らの一歩。例えば踏んだ草の倒れ方、飛び出した虫の方角、そしてその時に僕らがどのような表情をするか。
恐ろしく些細な事だけれど、その一つ一つの水溜まりの水泡にも満たない事象が本来は宇宙上に真っ直ぐ未来に向けて伸びてゆく軸の方角を変えてゆく。
僅かな角度、それは果てなく伸びれば大きな差となるだろう。
だから僕たちにも、僕にも在る意味神を越えた或いは未来を変える力があると信じたい。
こんな事、少し前の僕ならば鼻で笑っていたかもしれないけれど。





しかし皮肉、実に皮肉であった。
このたった数十秒後、E2一帯に死の光が降り注ぐ事になる。
101魂という名の道筋10:2006/05/22(月) 17:15:11 ID:Ti1nHrM2
【スタン 生存確認】
状態:ジョニーを殺した相手への怒り カイルへの同情  
左腕負傷 炎系奥義殺劇舞踏剣以外解禁
所持品: ガーネット オーガアクス フランヴェルジュ
第一行動方針:クレスの撃破
第二行動方針:ダオス以下リッド達の撃破
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:E2城跡
【ダオス 生存確認】
状態:TP残り85%  HP25% 死への秒読み(3日目未明〜早朝に死亡)
壮烈な覚悟 髪の毛が半分銀髪化 現状では天使化不可 若干錯乱気味 左腕欠損
所持品:エメラルドリング  ダオスの遺書
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:クレスの殺害 
第二行動方針:リッド達を守る(=スタン、カイルの撃破)
第三行動方針:デミテル一味の殺害
第四行動方針:遺志を継いでもらえそうな人間は決して傷つけない

102魂という名の道筋11:2006/05/22(月) 17:16:50 ID:Ti1nHrM2
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:TP70%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒 殺人快楽 左腕部裂傷
所持品:ダマスクスソード、忍刀血桜 植物の種(ブタクサ、ホウセンカ)金属バット
鎮静剤(一回分)
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:スタンを殺した後皆殺し
現在位置:E2城跡

【リッド 生存確認】
状態:HP60% TP80%
所持品:ヴォーパルソード、ホーリィリング、キールのメモ
基本行動方針:ファラの意志を継ぎ、脱出法を探し出す
第一行動方針:戦いを収める
第二行動方針:襲ってくる敵は排除
第三行動方針:南下してくるメルディ(ネレイド)への対処
第四行動方針:キール、ロイド、ジェイと行動

現在位置:E2城跡
【ロイド 生存確認】
状態:HP75% TP65%
所持品:ムメイブレード(二刀流)トレカ カードキー
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:カイルの父を助ける
第二行動方針:父の遺志を受け継ぐ
第三行動方針:リッド、カイル、ジェイと行動
第四行動方針:協力者を探す
第五行動方針:メルディーを助ける
現在位置:E2城跡
103魂という名の道筋12:2006/05/22(月) 17:18:10 ID:Ti1nHrM2
【ロイド 生存確認】
状態:HP75% TP65%
所持品:ムメイブレード(二刀流)トレカ カードキー
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:カイルの父を助ける
第二行動方針:父の遺志を受け継ぐ
第三行動方針:リッド、カイル、ジェイと行動
第四行動方針:協力者を探す
第五行動方針:メルディーを助ける
現在位置:E2城跡
【ジェイ 生存確認】
状態: 全快 クライマックスモード発動可能 若干の混乱
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(三枚)双眼鏡 エルヴンマント
基本行動方針:脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:状況の把握、射手の模索
第二行動方針:デミテルを「釣り」撃破する
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィ救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E2最北部の草原



【キール死亡 残り21人】
104名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/23(火) 12:48:12 ID:iJ6LC0sP
>>92->>103までは無効になりました。詳細は感想議論スレへ
105名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/23(火) 23:17:54 ID:YmteI2zR

106夜明け前の幕はあがり 1:2006/05/25(木) 19:19:12 ID:pzIpI8Oh
紫電の雨が降り注がんとするその少し前に、「それ」はやって来た。
一人の少女を器とし、この不可解な空間を破綻させ、新たな世界を作らんとする闇の創造主。
――ネレイド
迎え撃つのは、最も縁のある者達。幾度の時を重ね、その心を通わせてきた青年たち。
揺るぎない事実に、リッドとキールは焦燥の色を隠せないでいた。
「こんな時に来るかよ普通……泣きっ面に、なんだっけか」
「蜂だ。そんなことより、これは捉えようにしては好機かもしれないぞ」
リッドのボケにキールがつっこむ。そのまま会話が継続された。
キールには何か考えがある。そんなの、長年連れ添っていればイヤというほど分かってしまうものだ。
ネレイド、ひいてはメルディがこの場にやって来たことを明確に知ったのは、リッド、キール、それに先程から双眼鏡で辺りを隈なく探索しているジェイだけだ。
あとの者たちは、闇の城跡の中混沌の闘いで手が一杯になっている様子だった。
カイルとロイドがその剣を交じり、
ダオスとスタンとクレスは激しい三つ巴を形成している。
今、北から南下してくる相手に対応できるのは、リッドを筆頭にしたこの三人しかいなかった。
リッドは一度ジェイに顔を向けてから再度キールへと目を移す。
「で、何がチャンスだってんだ?俺には戦争してるところに核爆弾がやって来たようにしか見えないぜ」
「まぁ待て。僕達があいつに……メルディに会おうとしていたのを、わざわざあっちからやって来てくれたんだ。これを逃したら罰が当たっても文句は言えないさ」
キールは知らずに、微かににやっとした笑いをしている。嬉しいのか、怯えているのか。
リッドは少なからず感じる。ようやく、こいつは愛すべき人と再会出来るんだ。にやけるなと言う方が無理だろう。
まぁ今までも何回かそんな場面はあったが、頑なにこいつはそれを認めずに、結果つんけんした態度をメルディにとっちまっていた。
不器用というか何というか……今のこいつの表情をメルディに見せてやりたいな。
「ん、何か言ったか」
「いや、別に。それよりキール。何か考えがあるんだろうな」
キールはやってくる闇の創造主を、瓦礫にしゃがみ、その壁から目だけを出して観察する。
リッドもそれに習って同じくしゃがむ。ジェイだけは瓦礫に上り、三百六十度を見渡していた。
キールはあらためてメルディ、もといネレイドを見る。
距離にして、大体あと百メートルも無いだろう。ここに到達するのは時間の問題だ。
「とりあえず、第一接触を試みる。それが駄目なら、次の作戦に移るまでだ」
言って徐にキールは立ち上がり、その姿をネレイドに見せた。
リッドはしゃがみながらも、そのキールの大胆な行動に驚くしかない。
(お前!危ないって!)
(いいから静かにしてろ)
そのままキールは右手を上げ、自分はここいる、というサインを出した。
リッドにはこれに何の意味があるのか分からなかったが、分からない以上、ただただ黙って行く末を見守るしかない。
吉と出るか凶と出るか、ネレイドはキールの姿を確認したようだった。

「器よ、見えるか」
(はっきりと見えるな。あれは紛れも無くキールだよ)
「ふふ、視界は良好だな。では今から見せてやろうぞ」
ネレイドは静かにその手を動かし、前へとかざす。
そこから黒々とした禍々しい球体のモノが浮き出てくる。
(……!?何するつもりか!?)
「よぉく見ておけ。信じる仲間を葬り去るところをな!!」
(やめてえぇぇぇ!!)
メルディの願いは空しく、その球体はキール目掛けて放たれた。

107夜明け前の幕はあがり 2:2006/05/25(木) 19:20:08 ID:pzIpI8Oh
キールは視認した。ネレイドの姿を。そして、
そこから放たれる悪意の攻撃を。
「ヤバイ!! リッド頼む!!」
「え!? マジかよっ……だぁ!!」
急な注文に驚きつつも、瓦礫から一目散に飛び出し、やってくる攻撃を見据える。
「空破絶衝撃!!」
飛んでくる球体目掛けて激しい一点の突きを繰り出す。
その気の球体は拡散し、リッド達の後方目掛けてバラバラと瓦礫に命中していった。
「うわぁ!!」
それに少なからず巻き込まれたキールは慌てて体勢を整える。
瓦礫に命中したおかげで少しの間辺りは埃だらけだったが、その視界は段々と晴れていった。
誰かの着地音を横目にキールは再度ネレイドを見る。もうあと五十メートルといったところだ。
「キールさん。あれが例の創造神ですか」
先程の着地音はジェイのものだった。瓦礫の上にいたジェイはそのとばっちりをいち早く避け、自分の役割を一時中断したのだった。
「紛れも無く、な。今でこそ姿は少女だが、見えるか、頭上に浮かんだ靄を」
暗殺者(アサシン)直伝の千里眼を用いて暗闇に浮かぶ北方の少女を見やる。
確かに、今は夜であたりが暗く分かりにくいが、何か怨(おん)とした黒いものが少女の頭上を漂っていた。
「なるほど。あの少女自体は依然僕が見た者と相違ない人ですが……あの靄が全ての元凶ですか」
そういうことだ、とキールは小さく頷く。そこに応戦してくれたリッドの声が響き渡った。
「キール!! 第一なんたらってのはもう失敗かよ!! 次はどうするんだ!!」
剣を構えながらネレイドと対峙するリッド。瓦礫の最前線にいるリッドは、もうネレイドとその距離をほぼ無いものとしていた。
「失敗じゃない!! あれが僕の狙いだ!! 躊躇無く僕たちを撃ってきた。つまりそいつは完全にネレイドだ!! 全力でやってくれて構わない!!」
リッドはその言葉に驚嘆する。ネレイドに器にされているメルディを、俺に討てというのか。
「心配ない。ちゃんと打算はある。今は僕を信じてくれ!!」
リッドは一人悪態をつき、目の前にやって来たネレイドと対面を果たした。
「真の輝きを持つ者よ。あの村での件はやってくれたな」
ネレイドが喋る。だがその音声は、メルディの声に禍々しい音が重複して聞えてくる。
「何がなんだかわからなかったぜ……お前が復活したってこともな」
リッドは剣を構えてネレイドを見やる。しかし瞳に映るのは、紛れも無くあのメルディだ。
「学士さんよぉ……やりにくいったらありゃしねぇぜ」
心でキールの足を踏みつける。こんな茶番は真っ平御免だっていうのに。
当のキールは何してんだか。確認しようにも今はネレイドから目が話せない。それだけで命取りになり兼ねない状況にあった。
108夜明け前の幕はあがり 3:2006/05/25(木) 19:20:38 ID:pzIpI8Oh
「我がここにやって来たのは他でもない。まず、最も面倒な真の輝きを消すためだ。そして……」
ネレイドはふと、リッドの後ろで佇んでいるキールをみやる。そして、黒い笑み。
「余興のためでもある。ひいてはバテンカイトスの土台となるこの異空間と、その点に存在する余計なものの排除だ」
視線がリッドに戻る。リッドはネレイドの言ってることは相変わらずだなと思った。
「確かに、お前が作る世界が元の形だったかもしれねぇ。けどな、やりたきゃ誰も犠牲にならないとこでやってくれ。俺には帰るべき世界がある。こんなゲームを、くだらないもんをさっさと終わらせて、帰りたいんだよ」
ネレイドはリッドのその言葉を、赤子がなにやら喚いてる程度にしか聞いていなかった。
だがリッドは真剣だ。その胸にある想いは常に本物なのだった。
「おっと。そんときゃもちろんメルディは返してもらうぜ?そいつもエターニアに帰りたいって言ってるんだしな」
それこそ、ネレイドは跳ね除けるようにリッドの台詞を却下した。
「何を世迷言を言っている。器は自ら願って器となったのだ。我はそれに手を差し伸べ、器が立つための手助けをした。そこに我の意思は無い。あったのは、この器が願った破滅への想いだけだ」
「ふざけんな!!」
リッドは叫ぶ。その怒号の色は、かすかに、仲間を想う心が混じっている。
「メルディがんなこと思ってるハズねぇだろ!! あいつが何を思ってんのか、今どんな気持ちなのかはアイツにしかわからねぇ。けどな」
意を決し、横目でかすかに後ろにいるキールを一瞥した。
「分かろうとすることは誰だって出来る。俺たちは、そうしたいんだ。仲間だからな」
キールはその言葉に深く頷く。あいつは、やっぱり強い。
ファラも肉体的、精神的にも強かったが、どこか脆い所があった。
いちどそこを崩されると、あとはそのまま悪循環な坂を転げ落ちていってしまいそうな、そんな危うさをファラは持っていた。
だが、一番長く付き合ってきたリッドはそれを支えてやっていたのをキールは知っている。
人生観で一番強いのは、やっぱりこのリッドなのだろう、とキールは柄にも無く思った。
(リッド……)
メルディも、内側からその思いを受け取る。心はここにある。ちゃんと届いている。
だがその思いすらも、ネレイドは嘲笑うかのように腕を天に向ける。
「くだらん。信頼だの仲間だの、無に順ずる我が世界では虚ろに等しい」
その掌から形成されるのは、先程の黒い球体より少しばかり大きい、やはり禍々しい気の塊。
その形を維持し、ゆっくりと腕はリッドへと向けられる。
「幾度となく言おう。繰言はバテンカイトスの狭間で紡ぐんだな!!」
その塊は発射。迷うことなくリッドへと目掛ける。
リッドは不本意ながらも戦闘態勢に入り、飛んでくる目の前の球体を縦から真っ二つにした。
二つに割られた気は後ろに跳び、瓦礫へと着弾。キールの慌てている声が聞えた。
だが心配する余裕も無く、一球目の影に隠れるようにして二球目が飛んできた。
「ちぃっ!!」
一発目のように破壊が間に合わないリッドは、そのまま体を横に投げ出した。
「ジェイ頼む!!」
避けた先は瓦礫への直線上。そこにいるのはキールと、
そしてその戦力となるジェイの二人だけだ。
言われずともジェイは危機を避けるためにキールを引っ張りその場を離れる。
着地した場所はネレイドと更に離れた場所で、キールは尻餅を着いた。
「キールさん、アナタ華奢ですね。運ぶのに手間がかかりませんでしたよ」
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
打った尻をさすりながらキールは皮肉を軽くあしらった。
再度リッド達を見ると、既に激しい攻防が繰り広げられている。
「アイツ一人じゃもたないぞ……!ジェイ、力を貸してくれ!!」
「……今は戦況を覗っている場合ではありませんね。わかりました。僕も……」
その会話は末尾まで続くことはなく、東にある小高い丘からの閃光で、城跡の時は微かに止まった。

109夜明け前の幕はあがり 4:2006/05/25(木) 19:21:12 ID:pzIpI8Oh
「うおあああぁぁぁ!!」
当初の予定角度よりかなり高度になってしまた黙示録となるその砲撃は、ティトレイの咆哮と共にE2の城跡の上を通り過ぎようとしてた。
「ぐ、しくじったか!! だが!!」
右腕を抑えながらデミテルは式を閃光のマナに施す。
発射経緯はティトレイの意思一つだったが、発射された光線そのものはデミテルのマナで出来ている。
一度直線上に放たれたマナを、加えてその爆発的な加速度を味方にしたそれを操作するのは、いくら全快の調子でもほぼ不可能だろう。
だが、操作までしなくても、当初の予定は完遂できる。
光線を死の雨へと変えるには、今のデミテルでも初級魔術を行使するにも余る。
「爆ぜろ!!」
その言葉とともに、光線はE2頭上で爆発。その拡散された閃光は、瞬く間に当初の目的地へと降り注ごうとしていた。
「がはっ!!」
「ティトレイ!!」
デミテルが砲撃を爆発させた振動で、光線と直結していたティトレイが後ろに吹き飛ぶ。
ヴェイグは気付いてグリッドの肩を解き、そのよろけた体ながらもティトレイの元へと駆けつける。
「おいティトレイ、しっかりしろ!! ティトレイ!!」
その体を抱き起こすが気を失っている。どうやら倒れたときに後頭部を強く打ったようだ。
「おい!! あそこには人がいるんだぞ!! このままではマズイんじゃないのか!?」
漆黒の翼の隊長は流石に現状を理解できたか、閃光の落ちる所を見つめて叫んだ。
「ティトレイ=クロウよ、貴様はどうやらもう使い物にならんかもしれんが、当初の目的は達成された。例を言おう」
デミテルはやはりその腕を抱え、気絶しているティトレイに言葉を投げかけた。
「貴様……ティトレイをなんだと……」
ヴェイグがその眼差しを強くする。だがデミテルは動じずに、悲劇の舞台となる行く末を見やった。
「予定とは外れましたが、ダオス様。それではごきげんよう」

110夜明け前の幕はあがり 5:2006/05/25(木) 19:22:01 ID:pzIpI8Oh
「想定内のアクシデント」は「アクシデント」といえるのだろうか
どうやら答えは……

ネレイドは、メルディは、その頭上を見つめる。
(なんなのかアレ!? とっても危ないよ!!)
―ふむ、まさか何者かによる、この場諸共葬り去るための式か……こざかしい―
(このままじゃ皆死んじゃうよ!! キールも、リッドもメルディも、皆危ない!!)
―そうだな。あやつらはこのままではあの閃光に飲み込まれ、息絶えるだろう―
(……あやつら、てどうゆうことか!?)
―この場でごちゃごちゃと騒いでいる者たちがどうなろうと、我には関係の無いことだ。むしろ、全てがこの空間から生を断ってくれるのならそれは願っても無いことだなー
(ダメそんなの!! このままじゃ、みんな、みんな!!)
―騒ぐな器よ。もう遅い―
ネレイドは内部に眠るメルディの精神を微力ながら削る。
そこから自身だけを覆う、黒い半球体のシールドを張った。
降り注ごうとする閃光はまばらに散っている。おそらくとばっちり程度の衝撃だろうが、念密に重複したシールドを張る。
もっとも、それはこの神に限る話だが。普通の人間ならば岩に隠れようが穴に逃げ込もうが、その衝撃で死に至るだろう。
―完全に死に絶えてくれれば手間が省ける。もっとも、我をも標的にしたこの当事者には死んでもらうがな―
(ダメ、ダメ……死んじゃう……)
―そうだ、死ぬのだ。器よ、そこから指をくわえて見ているのだな―

   あんまり自分のこと弱いだなんて言っちゃダメだよ?メルディ
どうしてか?
   自分が弱いって思っちゃうと、周りの人に甘えたくなっちゃう
   自分を信じることが出来なくなっちゃうんだよ
   そんなことを考えてたら、今度は皆も自分のこと信じてくれなくなっちゃうよ
えっ それはメルディ、ヤだな
   でしょ? あたしも、一回そんなことがあったし……
ん、だいじょぶか? 何かイヤなことでもあったか?
   え?あ、いやいや、大丈夫だよ 平気平気
そか
   メルディは優しいんだね
そんなことないよ 友達の心配するのは当たり前
   うん、そうだね だからねメルディ
うん
   リッドやキールのこと、守ってあげてね あたしがいないと何も出来ない人たちだし
はいな!! まかせるよ!! セキニンジューダイな
   だね セキニンジューダイだね うん メルディならイケるイケる
イケるイケるよ
   真似しないでよ〜
……ファラ
   うん?
……ありがとな

111夜明け前の幕はあがり 6:2006/05/25(木) 19:23:27 ID:pzIpI8Oh
「ダメ〜ッ!!!!」
メルディは内側の精神力を酷使、体内のエネルギーを体外へと凝縮させる。
(反転衝動!? やめろ!!)
自らの精神を犠牲にする。その行為がどういうことか、何を意味するのか、自分でも分かっている。
メルディは体外に形成した重黒い気を抱え、天空へと翳す。
これを放てば、自分の体はボロボロになるだろう。全ての力を、精神をその一転に集中する。
もしかしたらこのまま死んでしまうかもしれない。みんなとずっとお別れになるかもしれない。
でも、それでみんなが助かるなら、それでもいい。メルディは心でそう思った。
「キール……」
その微かな声を、ただ一人、聞き取った。
「メルディ!?」
(させぬわ!!)
その気は放射状にE2の上空を駆け上がった。
青年の、少女の名を叫ぶ悲痛な声は、その轟音によってかき消された。

紫電の閃光と漆黒の閃弾は頭上で爆ぜ
凄まじい衝撃と激しい轟音を残して
その色は消え失せていった

E2城跡が激しい突風に包み込まれる。その場にいた者たちは大きく吹き飛ばされ、瓦礫は、草原は、瞬く間に埃と塵で埋め尽くされた。
岩が吹き飛び、体躯は風に乗り、しばしその光景が数秒続いた。
ぱらぱらと上空で音がした時、気付くとそこには、かつて本当に城があったのかと疑わせる程に、その跡形が無くなっていた。
瓦礫がそこらにあったお陰でかろうじて城跡と認識できていたその場所は、今や根から吹き飛ばされた現状、周りには黒こげた草原しかなかった。
「ぐ、あ……何だったんだ今のは……」
リッドがその場から立つ。どうやらかなり吹き飛ばされたらしい。
先程まで目の前に立っていたネレイドは、遠くのほうでぼんやりと佇んでいるのみだ。
他の連中も徐々に起き上がってくる。
閃光と閃光のぶつかり合いの真意はわからないが、くわえて、あの衝撃の中で全員が無事だという確立はおそらく低いだろうとリッドは感じる。
リッドの場合、衝撃や突風はネレイドから発せられたものの方が強かったので、直接的な被害は特に無かった。
気になるのは、他の連中……。
リッドは即座に頭を切り替え、仲間の安泰に気付く。そういえば、華奢な学生と小さい忍者がいない。
「キール!! ジェイ!! どこだ!!」
叫ぶ、が返事は無い。その代わりに、後ろから別の人物の声が返ってくる。
「リッド……一体どうなってるんだ……」
その主はロイド。どうやらカイルとの接戦直後、スタンの援護に向かう最中に事が起こったようだった。
「ロイド、無事……お前その肩!!」
リッドは仲間の状態に気付く。ロイドは「たいしたこと無い」と強がっているが、その肩からは少量だが血が出ていた。
「吹き飛ばされて岩にぶつけただけだよ。なめときゃ治るだろ」
「なめときゃって……あんま無茶はすんなよ」
兄貴肌か、はたまた経験の差か、リッドは無茶をする人の扱いに手馴れているかのようにロイドを気遣う。
ロイドはそれに元気に応答する。まぁこいつなら、多少の無茶も大丈夫だろうとリッドは思った。
112夜明け前の幕はあがり 7:2006/05/25(木) 19:24:23 ID:pzIpI8Oh
「さっきのは何だったんだろうな……そうだリッド。今さっき誰か呼んでなかったか?」
「いやそれが、キールとジェイと一緒にいたんだけど、どっかで寝てるのか?」
ロイドは二人の安堵を気遣うが、それはリッドに任せて自分の役目を思い出す。
何が起こったのか分からない中、早くも戦闘が再開されているところがある。そこはまさしく、三つ巴になっていた。
「悪いリッド、俺は手を貸さなきゃなんない人がいる……」
言った瞬間に、そいつが目に入った。
遠くで佇んでいるのは、かつて少々の時間を共にした少女の姿。
「メルディ……」
知らずに呟く。呟いて、初めて自分が見入っていることに気が着いた。
助けてやらないと。俺は一度メルディを畏怖なる存在として疑ってしまった。
謝って、助けて、そしてまた謝らないと。
だがふと、リッドの持つ蒼の輝きが強く呼応する。
リッドはビックリしてロイドを見る。どうやら蒼の輝きを放つその剣が、何かを呼んでいるように見えた。
いや違う。呼んでる。剣が、誰かを。
ロイドはリッドを見る。リッドは静かに頷いてその剣を差し出す。
「剣はお前を呼んでる。ロイド、お前も呼ばなきゃ不公平だぜ」
ロイドは静かにその剣を受け取る。俺も、応えないと、この剣に、父さんに。
――今一度、ヴォーパルソードはあるべき者の手に渡った。
そして、応えきらなければ。もう一つの剣の思いを。
ロイドはリッドを見据える。リッドもロイドを見据えた。
「メルディのこと、よろしく頼んだぜ。俺は俺のやるべきことをする」
ロイドは言ってスタンの方を見る。今でこそ戦闘を繰り広げているが、その手にあるのは、対の思い。
「あぁ、行って来い。メルディは俺たちに任せとけ!!」
二人は互いに笑い、そして互いに握り拳を弾き合った。

113夜明け前の幕はあがり 8:2006/05/25(木) 19:25:20 ID:pzIpI8Oh
「ハァ……ハァ……」
少女は息を絶え絶えにして目の前にいるものを見下す。
たった今かなりの精神力を消耗したものの、器はまだかろうじて耐えている。
まさか、こんなことが起ころうとは、少女は、ネレイドは一人驚愕する。
身体の支配権は完全にネレイドの手にあった。
にも関わらず、一瞬の爆発的感情の振動によって反転衝動が起こってしまったのは、ネレイドにとって脅威となる力。
「完全に闇に飲み込まれたわけではない、か。なおも抗うか」
メルディはその力を全力で放とうとしていた。
そんなことをすれば、器となるメルディの身体は生命活動を維持できなくなり、やがて灰になっていただろう。
確かに、あの閃光を完全に相殺するには精神力を大幅に消費するしかないのは事実だ。
かといって全ての力を使わずとも、ある程度のエネルギー配分をすれば、ちょうどぴったりの質量で相殺するのは不可能ではない。
メルディが闇の力を使いこなすにはまだ幼かった。総して言えることは、そういうことだ。
なのでネレイドは自らの器を壊すことを否とした。
闇の力を放とうとするにはネレイド自身の力が元となる。ネレイドの力はその時直結していたので、ネレイド側から力量をやや減少させたのだった。
それでも力の消費量がかなり大きいことには変わりない。
おそらく闇の極光術を使えるのもあと一回が限度だろう。それ以上使えばおそらく……。
そしてネレイドは見据える。今そこにある人物を。自分が滅するべき人物が、そこに。
「器の最も信頼をよせる男、だったか?貴様らは真に邪魔だ。器に感情的誘導を起こさせるとはな……」
キールはその言葉に微かに眉を動かす。
見下ろされ、倒れていながらも、静かにメルディの目を見つめる。
何かを願っているのか祈っているのか、どちらにせよ、ネレイドはそこに忌々しい聖とした気を感じた。
114夜明け前の幕はあがり 9:2006/05/25(木) 19:25:56 ID:pzIpI8Oh
「……その目をやめろ。今の器には何をしても無駄だ。先程の事象によってその内在は今虚ろいでいる。貴様がどう吼えようが戯言を言おうが、器には絶対なる無為にしかならない」
ネレイドの発言にキールは密かに笑う。そして心に強く決め、言い放つ。
「絶対なんてことは、この世には一つしかない。たとえ理論上の計算が百パーセントだったとしても、その理論自体の正確性が百パーセントという保証はどこにもない」
キールは言いながら立ち上がる。そして尚もその眼差しは、想うべき少女の瞳を見ている。
「僕も感情だとか、気持ちだとか、そんな曖昧で、目に見えないものは信じていなかった。けど」
そっと胸に手を置く。そこに存在する意思は紛れも無い事実。
「僕自身、この身を以て知った。この感情は揺るぎの無い真実だ。メルディを助ける。この言葉に嘘偽りは無い」
とうとう、キールは自分自身そのものをぶつけた。何か胸がすっきりするような、そんな感じを受けた。
たとえメルディに聞えていなくても、(いや実際に聞えていたら恥ずかしいところもあるのだが)その決心は変わらない。
だが対してネレイドはその眼光をするどくする。所詮犬が無闇に吼えているのと大差ない。そう言っているような眼差し。
「もういい。聞き飽きた。先に虚無の彼方へとお連れしよう」
ネレイドの手が黒い気で覆われる。標的は、キール。
だがキールは確かに見た。ネレイドの闇の力が発動するその瞬間に、見た。

――メルディの肩から下げられたサックが微かに光ったのを

「鳳凰天駆!!」
そこに炎を纏った鳥が間に割って入る。ネレイドは気の形成をキャンセルして後ろへと飛びのいた。
「キール、大丈夫か!」
「あぁ、おかげさまでな」
颯爽と登場したリッド。その手にはロイドが持っていた剣、ムメイブレードの片方のみ。
二人の短い無事の確認が終わる。だがお互いは心底安堵していた。
「手間が省ける。二人まとめて滅してやろう。感謝せよ」
「そいつぁどうも」
(リッド。リスクを背負った甲斐があった)
そのキールの声は微量、だがどこか嬉しそうな、何か難解な問題を解いたような感じが混ぜられている。
ネレイドに聞えないようにお互い話をする。
(機はこちらにある。メルディを助け出すぞ)
その案のどこに否の要素があろうか。リッドは剣を握るその手を強くして賛同した。
「あいよ!!」

器は静かに悲鳴をあげている
その悲鳴が途絶えるのは、はたしていつだろうか

115夜明け前の幕はあがり 10:2006/05/25(木) 19:26:31 ID:pzIpI8Oh
先程起こった事態に驚愕の色を隠し切れない者たちは、だがしかし、各々今に置かれている状況へと即座に移るしかないところがあった。
一つは、闇の淵よりいでし最強の創造主。
そしてもう一つは、自律を失われた時空剣士。
現状を把握しきる者は、今に置いてほぼ皆無だった。
しかし、その機を逃さんとする者は確かにここにいたのだ。
「あそこか!!」
言い放ち顔を向けるはジェイ。その方向はここより東の小高い丘。
まさにそこは、先程の紫電の閃光が放たれた場所。
突風と衝撃に身をさらされながらも、体勢を素早く整えて先程の自体の根本を見抜こうとしていたのだ。
「鏡殺」
(先に)その丘へと向かったのは、暗殺者(アサシン)として育てられた黒き影。
ジェイは事態が混乱する中、真っ先に状況を判断した。
完全に把握は仕切れなかったが、彼なりに大体の事情は掴めたようだ。
その間に託されていたネレイドの交戦を、たった今リッドの参戦を確認したジェイはリッドにその場を任せることにした。
先程の上空爆発のためのエネルギーは半端なものではなかった。おそらくネレイド自身、その精神力は残り少ないだろう。
だからこそ、リッドに託す。彼らの事情は彼らのみに解いて欲しいとジェイは願った。
さらに自分には果たすべき使命があり、後ろ髪を引っ張られながらもそちらを優先する。
ジェイはこの場所に到達してから、そして理不尽に仕組まれた戦闘が開始されてから、この機会をずっと待っていた。
最大の標的、デミテルがこの場にいることは既に明白だった。
勿論姿を現すわけが無いことくらいも承知、つまりはどこかに潜んで、集まったところを狙うという、漁夫の利の典型的な形だ。
それを逆に釣る側として考えたジェイは、わざとその策を泳ぎ、あえて乗ってやった。
だが最大の誤算は、デミテルを少しばかり過小評価していたこと。
あれだけの人数を一気に葬るだけの戦力を、デミテルは持ち合わせていないとジェイは考えていた。
やるなら一面焼け野原か、中距離からの詠唱撃破ぐらいである。
だが見る限り、まさかあんな砲撃があったとは思いもしなかった。
もしもあんなものを事前に持参していたならば、C3の村で、くわえて先程の夜の草原で使っていただろう。
だがそんな気配を一切見せなかったということは、それほどまでの武器を持っていなかった、とジェイは踏んでいたのだ。
だが誤った。あれほどの策士に切り札がないわけはない。結果として砲撃はしくじってくれたが、これは後々の反省材料。
「第二波があるかどうかはわかりませんが、ここは一刻も早く……!!」
丘を走り駆け上がる。一番の機動力を持つジェイがその場に出くわすのは時間の問題だった。

116夜明け前の幕はあがり 11:2006/05/25(木) 19:28:00 ID:pzIpI8Oh
もう一人、その所在を突き止めて身を震わす者がいた。
それは限られし命を持つ男、ダオス。
ここに憎き最大の敵デミテルがいることも、彼には分かりきっていたことだ。
恐らくあの砲撃はデミテルのものに間違いない。大方この混沌と化した群集を一気に葬るつもりだったのだろう。
だがかくしてデミテルはここに、微弱ながらその当初の目的を果たせていた。
メルディの必死なる相殺の力も、ダオスはその零れ火を受けていたのだ。
「ぐうううう……おおおおあああああ!!!!」
叫び、右腕から血が噴出す。相殺し切れなかった閃光の雨が、右腕を貫き、焼け焦がしたのだった。
急いでマントを布の大きさに破り、右腕を肘の上からきつく縛る。
時間が経てば止血は出来るだろう。だがしかしおそらく、命の灯火は風前のものになったかもしれない。
だから尚更ダオスは死ねなかった。自分にはやるべきことがある。
あの砲撃でデミテルの「漁夫の利」なる真意は確信になった。そして同時に、今が機だということも。
ダオスも先程閃光の放たれた東の丘を見る。
早くあの丘に潜伏し、高みの見物を気取っているその鼻をへし折りに行きたい……。
しかしてそれは、交戦中の、そしてデミテルの駒として動いている時空剣士によって阻まれる。
クレスはどうやら作戦を知っていたせいか、かろうじてその着弾は免れていた。
だがクレス自身にも、空中でのマナ散開などという出来事は不意に近かった。
だがそれを考えるのも今は後回し。この死に損ないを葬るのをまずは優先とする。
一、二回のクレスの攻撃をダオスは避け、同時によろける。
戦闘によって駆使されるこの体は、その「期限」着実にを縮めているのだろう。もう時間が無い。
「邪魔を……するな……」
「その体ももう限界が近いんだろう。早く楽になると……!?」
言い終える前に横から剣が伸びる。間一髪それをかわしてクレスはその剣の主を見やる。
「何をごちゃごちゃと言ってるんだ。やる気が無いなら、さっさとその剣を収めろ!!」
叫び、剣を構えてスタンは吼える。スタンもどうやらその閃光の直撃は無かったようだった。
その所為はおそらく、クレスのいち早い察知につられた、というものがある。
クレスとの真剣を交えていたスタンはその細部の動きまでに反応をしていた。
クレスの空中に向かれた意識も、知らずに反応したスタンは、クレスの次にその閃光に対応できたのだった。
117夜明け前の幕はあがり 12:2006/05/25(木) 19:29:03 ID:pzIpI8Oh
そして今一度意識をクレスへと向ける。
クレスという名はミトスから聞いてはいたが、これほどまでに手だれで、剣技が美しいとは思いもよらなかった。
「やる気がないわけじゃない。ただ……」
言うとクレスは少し俯く。何やら心持に考えをしているようだった。
(しくじったか……自らの策に溺れたか……?さて、ここはどうするか……)
その間も与えずダオスは自らの拳をクレスへと繰り出す。我に還ったクレスはそれを柄で跳ね除け、ダオスの懐に飛び込み、
「獅子……」
「裂空斬!!」
すかさずスタンがその刃を手にクレスへと飛び込む。クレスはやむを得ずにダオスから身を離し、その攻撃をかわした。
先程から続く攻防はこれの繰り返し。ままならないダオスの攻撃をクレスは避け、隙を突くが、そこにスタンが割り込むといった形。
「ちっ、邪魔をしてくれる」
「先に邪魔をしたのはそっちだろ!! お前が文句を言う筋は無い!!」
二人は叫び、その剣幕は凄まじいもの。ダオスは先程からクレスの相手をしてくれているスタンを便利に扱っているつもりでいた。
「そのまま奴をひきつけるのだ。私はあの丘へと向かう」
「お前も割り込んで来た一人だろ。言っておくが、俺は見逃すつもりなんてない」
スタンは構えを崩さずに横目でダオスを見る。この城に宣告も無しに割り込んできたものは二人。このクレスって奴とダオスってやつだ。
スタンは少ない時間ながらにも、この二人の関係を垣間見ていた。どうやら何か因縁めいたものがあるらしい、が。
敵の敵は味方、などと言っていられる状況ではないことなど百も承知。ここは完全な三つ巴状態となっていた。
「ちっ、私をも討つというのか……ならば」
ダオスはその拳を天高く挙げ、気を纏って地面へと叩き付けた。
「貴様もろとも葬ってやる!!」
大きく突かれた地面から強力な時場が発生した。周囲に拡散されたその衝撃は、城の瓦礫を粉々にする程だった。
「うわっ!!」
その衝撃にもろに飲み込まれたスタンは少しばかりその体を吹き飛ばされた。
だがクレスはその攻撃を長年知っているかのように対処し、時場が消えたと同時にダオスへと突進する。
「さっさと貴様を葬り、デミテルを潰す」
「させないよ!!」
クレスは大きく剣を振り上げ、ダオス目掛けて矛先とした。
だがダオスは自らの拳で跳ね除け、クレスの顔面を狙って拳を繰り出す。
だがそれも間一髪よけられ、大きな隙をつかれた。
「虎牙破斬!!」
上下の二段斬りを左肩にくらい、後ずさるダオス。しかしクレスの猛攻は止まらなかった。
「秋沙雨!!」
無数の突きを浴びせられ、ダオスの傷は増えていく。流れる血はその量を増していった。
118夜明け前の幕はあがり 13:2006/05/25(木) 19:29:44 ID:pzIpI8Oh
「ぐっ…!調子に!!」
ダオスは一歩退き、両の手を合わせてクレスに向ける。
「のるなああぁぁ!!」
そこから放たれた光は一直線にクレスへと向かう。
だがそれも空しく、まるでクレスは全ての攻撃を見切っているかのような動作をしてダオスに近づく。
「調子にのっているのはアナタの方だ。さっさと……っ!!」
「紅蓮剣!!」
最後の一撃を入れようとしたクレスに、炎を纏った剣が飛んでくる。
仕方なくその場をバックステップでやり過ごすクレス。だが、
着地した瞬間には、スタンはすでにクレスへと近づいていた。
「なにっ!?」
「飛燕連脚!!」
繰り出される蹴りの舞は、一発目は剣で防がれたものの、あとは全てクレスの懐へと命中した。
「がはっ!!」
蹴り飛ばされたクレスは空中で一回転しながらもなんとか着地をする。だが、あの蹴りをもろに喰らって無傷なハズは無い。
「どいつもこいつも……」
なんとか立ち上がるクレスはまたもスタンへと眼差しを強くする。
……まただ。これで何度目だろうか。
スタンは戸惑う。その眼光に宿る強さを。剣が語る心の強さを。
本来剣の型は、その人特有の癖を表すもので、更にその癖を引き出し、己のありのままの姿として剣技に反映させるためのものである。
これは剣を扱うものの大半はそれで表し、スタンも祖父に鍛えられ、自己流ながらもその剣技を磨いてきた。
剣の型には、その剣を扱うものの心や気持ちが少なくとも映し出されるものである。
だが、この目の前にいるバンダナの男の剣技はどうだろう。一言で言うと……
――美しいのだ。
余分な動作はせずに、常に攻撃と攻撃の合間を少なくすることに長けている。極論で言えば、相手を倒すための剣ではなく、自分やカイルと同じ、誰かを守る剣のように思えてならなかった。
だから尚更戸惑う。何故こうも正しい剣技を持ち合わせながら、こんな闘いをむけてくるのか。
たまらずスタンは、クレスに話し掛けていた。
「アンタ、本当は何が目的なんだ。何か考えがあるなら教えてくれ」
だがその問いかけにクレスは見向きもしない。ただ、目の前の敵を、自分を倒すことのみとするその瞳をスタンは受け取ってしまった。
「どうしてだよ……一体何だっていうんだ!!」
今の状況がもどかしく、叫ぶスタン。それに少しクレスは眉を動かし、逆にスタンへと言葉を発した。
「僕が何を考えているんだとか、今何をしているんだとかは関係ない。目の前に置かれた状況は揺るぎの無い事実だ。君だって理由があってこのゲームに参加して、こうやって僕たちと戦っている。そこに意義を求めるのは無意味だ」
クレスは言葉を紡ぎ終えると、再びその眼光を鋭くした。
「もしこの世に悪が存在するとしたら、それは……」
119夜明け前の幕はあがり 14:2006/05/25(木) 19:30:40 ID:pzIpI8Oh
しかしその言葉の続きを言うことは無く、クレスは飛んでくる波動を避けた。
その方向を見ると、ダオスがもう既に丘の麓まで上がりかけているところだった。
丘から放たれたダオスレーザーはクレスに避けられはしたものの、スタンとのやりとりを踏まえて十分な時間稼ぎとなっただろう。
ダオスは一足早くあの三つ巴から離脱し、優先するべき敵へと向かおうとした。
勿論、クレスは自分を追ってくるだろう。だが、先の金髪の男のやりとりで確信した。
どうやらスタンという男はクレスに用があるらしい。となると、足止めをしてくれることは容易に考えられた。
「行かせは……」
クレスの歩をせき止め、スタンがその前に立ちはだかる。
「しないさ……」
その合間を狙ってダオスは丘を駆け上がる。
急げ、時間が無い。一刻も早く奴を滅せねば……。

「どうして僕の邪魔をするんだ」
「先に手を出したのはそっちだろう。何を考えてるのか知らないが、挨拶も無しに襲い掛かるなんて礼儀がなってないな」
二人は対峙する。お互いの存在理由も戦闘理由もわからないまま、ただただ闘いだけが起こる。
クレスは容赦なく剣を構える。相手は、紅蓮剣を放った後。
「簡単に剣を手放しちゃいけないよ。こういう場面があるんだから」
「素手でも構わないさ。俺だって簡単にやられるわけにはいかない」
しばしの静寂。風が吹いたのか、吹いてないのか。どちらかは分からないが、今周りがどうなっていようと関係ない。
「二人」は、もう、「一人」しか見ていない。
「はあぁぁっ!!」
先に仕掛けたのはスタン。その拳を握り、クレスへと向かう。
クレスも軽やかに身をこなし、その拳を後ずさりながらかわしていく。
クレスは放たれた拳を掴み、そのままスタンを引き寄せ、懐に潜り込んだ。
マズイ、直感的にスタンは思う。だが時は既に遅かった。
「終わりだよ」
そのまま体を下から上に斬られ、更に上から下へと斬り裂く。
「ぐあああ!!」
そのまま身を肩に当て、止めの一撃。
獅子の咆哮が宙を舞い、スタンの体躯を吹き飛ばした。
「獅子吼破斬……」
呟き、スタンの行く末を見る。これでもう誰も邪魔はしないだろう。
スタンが地面へと倒れようとする。勝った。あとは主の元に戻って、さっきの死に損ないの始末を……。
120夜明け前の幕はあがり 15:2006/05/25(木) 19:31:20 ID:pzIpI8Oh
そう思考を巡らせていた刹那、スタンの影から、新たな形が現れた。
スタンの影になり見えにくくなっていたその姿は、確かに、こちらを標的としている。
「おおおお!!」
叫びながらその影はやってくる。どうやら標的はすでに決まっているようだ。
右手には、先程スタンが紅蓮剣で投げ、それを拾った紅の剣。
左手には、リッドから受け取った蒼の剣。
そうして、その本来の姿は帰還した。
今ここに、父の意志は継がれたのだ。
「はあああぁぁぁ!!」
その人物――ロイドは両の手に握られた剣をクレスに向けて突進。
クレスは我に還る。自分としたことが油断していた。
やってくる姿に少しだけだが見とれてしまった。もうその人物は目の前にいる。
「また僕の邪魔をするのか……もううんざりだよ!!」
クレスは剣を構え、ロイドに向ける。ロイドの勢いは止まらない。
激しい剣と剣のぶつかり。互いが互いの顔を確認した。
「よくもカイルのおっちゃんをやってくれたな……許さねぇ!!」
「君も立ちはだかるというのなら、僕は容赦しない!!」
ここにまた、激しい意思と意思のぶつかり合いが繰り広げられる。

121夜明け前の幕はあがり 16:2006/05/25(木) 19:32:41 ID:pzIpI8Oh

「げほっ!……く、そ」
スタンは自身の体を起こしながら身体の確認をする。
咄嗟に体を捻って僅かに威力を軽減したとはいえ、あのクレスの本来の技の切れ筋自体は変えようが無かった。
だが致命傷というわけではない。戦闘不能と印をつけるのにはまだ早過ぎる。
「アイツは……確か最初にここにやってきた……」
今、クレスと戦っている青年を見る。彼は確かに、最初にこの城跡に来訪してきた人物。
奴も敵か、はたまた味方か、見極めるのにはまだ現状の確認が少なすぎる。とりあえず加勢を……。
その歩を止めるように、一つの重い声を掛けられた。
「待てスタン」
呼ばれて驚くスタンは声のした方を振り向く。そこに人の姿は無いが、今の声はまさしく……。
「クィッキー!!」
その下方から小動物の鳴き声がした。見たことも無い生き物を見て少しビックリしたスタンは、その小動物からまたもその声が発せられるのを確信した。
「久しいな、相棒よ」
小動物の、正確にはその動物に括り付けられたウイングパックから声がする。
「本当だよ、そりゃ待ったさ」
スタンはその顔が綻んでいるのを感じる。だが隠すことなど無い。
今から手にするのは、かつて共に世界を歩んだ相棒。
ここにも、あるべき姿に戻ろうとしている。
ゆっくりとウイングパックからその相棒を取り出して掲げる。
「何でここにいるのか、何があったのか聞きたいけど、今は力をかしてくれ相棒」
スタンは構え、凛とした態勢でクレスとロイドの元を見る。
「行くぜディムロス!!」
「無論だ!!」

122夜明け前の幕はあがり 17:2006/05/25(木) 19:33:32 ID:pzIpI8Oh
「そんな、馬鹿な……」
デミテルは驚愕。たった今起こった事象。
それを認めたくないかのように、デミテルはE2の城跡を見下ろしている。
先程の、サウザンド・ブレイバーの雨を相殺した、濃密な黒い気の塊。
あれはマナか……だがマナに酷似した何かか、デミテルはその力を畏怖とした。
「確かにアクシデントは想定していたが……まさかジョーカーがあんな化け物とは……」
デミテルの心に、失敗の二文字が刻まれる。
あれだけ入念に作戦の攻勢を確認し、不可避な点が無いかを確認したのに、たった一つの、どこから飛んできたのか分からない未知なる駒によってその舞台は「ただの」舞台と化してしまった。
もうE2は、デミテルの手によって「仕組まれた舞台」とは全く別のモノとなったのだ。
だが同時にデミテルは、感嘆しているのか、途方に暮れているのか分からない表情をする。
少なくともその顔にはまだ、敗北の二文字など浮かんではいなかった。
「何がなんだかよくわからんが、貴様の陰謀は失敗に終わった……!! ということか?」
ヴェイグに問うが、俺が知ってるわけないだろうと釘をさされた。
だがヴェイグにとっては確かに安心する出来事であったに違いない。彼には果たすべき使命がある。
金髪の馬鹿親子はまだ死んでいないということだ。望みはまだ捨てきれない。
だが、今はこの状況をどうにかしなければ。
ヴェイグはティトレイの傍に膝をつきながらデミテルを見る。
こちらの戦力はあってないようなもの。応戦できる可能性はほど皆無だ。
グリッドは戦闘能力は無い。自分も、つい先程法術なるもので回復してもらったばかりだというのに、体がまともに動かないのは目に見えている。
対してデミテルという目の前の人物は、腕を負傷しているもののおそらく術を発動するのになんら支障はないだろう。自分たち二人を葬るのにそう力はいらないと思われる。
加えて、ティトレイが目を覚ませば、果たして彼はどっちに転ぶのか。こればっかりはティトレイの精神力に賭けるしかなかった。
「その時は、また殴りあうまでだ……」
一人呟き、また親友をこのような状態にしたこの世界を、ゲームを、認めないものとした。
しかし不利な状況は変わらない。すぐ傍にはデミテルがいるのだ。
「もとはといえば私の判断のミスだが、根本の根絶やしでもまだ足りない」
言うなりデミテルはゆっくりと、もっとも近いグリッドへと向く。
そして手を翳し、術式展開。マナやや良好。
「貴様らを消し、ここは一旦手をひくか」
「あわわわ!! ヴェイグよ!! 隊長の危機だ〜!!」
グリッドが喚く。命乞いをしないだけまだマシだが、怪我人に助けを求めるのもどうかと思うぞ。
「くそ!! フォルスよ!!」
自身の体内に眠るフォルスを練る。だがしかし、今だ快調ではないその体でフォルスを発生させるのには不安定すぎた。
「間に合わない!!」
「どわー!!!!」
「スパークウェーブ!!」
「朧土乱!!」
声が四つ。どうあっても一つ余る。
最後の一人が発した言葉により、その者は更に加速してグリッドの元へと近づく。
そこから土を盛り上げる。デミテルが発動させたスパークウェーブはアースの役割をした土乱によって威力が激減した。
気付くと、デミテルとグリッドの間に少年が一人、そこに立っていた。
「やれやれ、最近こんな役ばかりですね」
小さな参謀官ジェイは、ようやくその標的、デミテルとの接触を果たしたのだった。

123夜明け前の幕はあがり 18:2006/05/25(木) 19:34:59 ID:pzIpI8Oh
「想定内のアクシデント」は「アクシデント」といえるのだろうか
どうやら答えはNOのようだ
アクシデントは予想し得ない事象のことを指す
だが、その事象に味方も敵もおそらく存在しない
事象は、ただその場で起こってこその事象にのみ結果がある
追い風になろうが牙をむこうが、アクシデントは単なる事象に過ぎないのだ

【リッド 生存確認】
状態:ダメージ軽微 快調
所持品:ムメイブレード、ホーリィリング、キールのメモ
基本行動方針:ファラの意志を継ぎ、脱出法を探し出す
第一行動方針:メルディの救出
第二行動方針:ネレイドの撃破
第三行動方針:事態を収める
現在位置:E2城跡

【キール 生存確認】
状態:異常なし(運良く無事)
所持品:ベレット
基本行動方針:脱出法を探し出す 、リッドの死守
第一行動方針:メルディの救出
第二行動方針:情報収集
第三行動方針:事態の把握、及び収拾
現在位置:E2

【グリッド 生存確認】
状態:少しの恐慌
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:目の前の事態を把握する
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% 身体・フォルス不安定
所持品:チンクエディア
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ティトレイの説得
第二行動方針:ルーティのための償いをする。
第三行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3

【デミテル 生存確認】
状態:TP30% 右腕内部にダメージ 狂気
所持品:ミスティシンボル、毒液 魔杖ケイオスハート アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:目の前の敵を排除し、撤退
第二行動方針:駒の払い戻し
現在位置:E3

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:意識不明 TP残り15%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3

124夜明け前の幕はあがり 19:2006/05/25(木) 19:36:23 ID:pzIpI8Oh
【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:TP75%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(デミテルから定期的に薬品の投与を受けねば、禁断症状が起こる)
所持品:ダマスクスソード、忍刀血桜
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する(不安定)
現在位置:E2城跡

【スタン 生存確認】
状態:力髣髴 ディムロスとの再会
所持品:S・D  ガーネット オーガアクス
第一行動方針:クレスとの再戦
第二行動方針:状況の把握
現在位置:E2城跡

【ロイド 生存確認】
状態:HP75% TP65%  意気高揚 右肩に打撲、および裂傷
所持品:マテリアルブレード、トレカ、カードキー 
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:カイルの父を助ける
第二行動方針:リッド、キール、ジェイと行動
第三行動方針:協力者を探す
第四行動方針:メルディの救出
現在位置:E2城跡

【ジェイ 生存確認】
状態: クライマックスモード発動可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(三枚)双眼鏡 エルヴンマント
基本行動方針: 脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:デミテルの撃破
第二行動方針:現状の把握、及び収拾
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィの救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E3

【ダオス 生存確認】
状態:TP残り65%  HP1/8 死への秒読み(3日目未明〜早朝に死亡)壮烈な覚悟 髪の毛が半分銀髪化  左肩やや裂傷
天使化可能?  胴体やや出血 右腕重傷
所持品:エメラルドリング  ダオスの遺書
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテル一味の殺害
第二行動方針:クレスの殺害
現在位置:E2→E3

【ネレイド 生存確認】
状態:TP・精神力30%
所持品:BCロッド スカウトオーブ、リバヴィウス鉱、C・ケイジ
基本行動方針:ネレイド…新たなる世界の創造
第一行動方針:ネレイド…キールを殺す
第二行動方針:ネレイド…器(メルディ)を壊さないようにする
第三行動方針:ネレイド…不安要素を無くす(リッドを殺す)
現在位置:E2城跡

125夜明け前の幕はあがり 20:2006/05/25(木) 19:37:05 ID:pzIpI8Oh
【メルディ(精神内部)】
状態:精神力を削られ、意識不明
基本行動:仲間に首輪の解除方法を教える
第一行動方針:???

【クィッキー】
所持品:セイファトキー
行動方針:キールにセイファート・キーを渡す
現在位置:E2城跡
126祈祷・魔・岩戸 1:2006/05/26(金) 17:28:12 ID:XEZuAq5l
「あ」ハロルドは計算を中断する。
「どうした?」トーマはもはや話半分でしか聞いていない。
「あの洞窟今あんま人体に良くない空気配分になっているかも、散々燃やしたりしたしねえ
 石灰質の洞窟で炎系の術を使うなんて正気じゃないわね?死んでも仕方ないわ」
「死者にそう言うことを言うのは…」
「ヒトは死んだら死人になるんじゃないの、死体になるの」少しだけハロルドの顔が曇る。
「…大丈夫なのか?」トーマは仕方なく話題を戻す。
「まあ大した傾斜も無いし、エアラインは確保されているから
 二酸化炭素1,2%…まあ少し眩暈がする程度でしょ。まああれ以上壁を燃やしたら…
 ストーカーの仮面みたいになっちゃう」
「?」やはり話の要領を得ない。
「ただのジョークよ」
ジョークにすらなってない、と思う。
「それにしても、この技目標が来る前に完成するのかしら?
理論での試算しか出来ないってのはやっぱきついわ」
すこし生温い夜風に思考力を奪われた、とハロルドは自己分析した。

生きている猫・死んでいる猫、そしてどちらでもない猫。
どちらでもない猫は何処にでもいるし何処にもいない。
生と死の重ね合わせ。正解が無い故に無限。
観測の外、思考の内、理論の外、量子の内、マクロの外、ミクロの内。

面倒臭い前置きは止めよう。
量子力学なんてこのゲームにおいて無縁の話だ。聞き流して欲しい。
猫、彼女達がこの話が終わる頃に生きているのか死んでいるのか…
箱、洞窟の外により思考する我々だけが3番目を解釈することが出来る。

凶器が青酸カリでないのは残念だが、これだけは分かって欲しい。
50/50ではない。100%が二つあるのだ。死ぬか、生きるか、観測結果は100%しか無い。
127祈祷・魔・岩戸 2:2006/05/26(金) 17:28:47 ID:XEZuAq5l
ミトスは腹の内が捩れるのを耐えることに力を込めていた。
存外に扱いやすいこの女が実に面白可笑しかったからだ。
ミトスはアトワイトが内通した事実は知っていたが、誰に、何を供述したかを知らない。
この違和感が証明するのは
(鎌をかけてみたら本当に喋っていたのか。単純と言うか、何と言うか…)
嘘、心理的誘導だ。内通した可能性があったとしたらあの二人、証拠は無いから自供して貰うつもりだったが。
成程、想定していたよりアトワイトは「此方側」に適応していない。
こちら側の不自然が看破される前に心を抉って正常な思考を鈍らせるつもりだったが、
ここまで綺麗に嵌ってくれたことが一番想定外だ。情報官としては無能といっていい。
恐らくまともに戦場に出たことが無いのだろうか、この剣が強すぎたのか、兎にも角にも、温い。

暗闇の遥か先の連中を見る。イラプションから数分…ナルコーシスはそう遠くは無い。
もうじき空気に比べ比重の大きい二酸化炭素が充満し、濃度7%に至る。
後は伏して彼女達の死を祈るのみ。神にではなく、彼女達に。
実際に伏せると気分が悪くなりそうだからやらないが。

『ミトス』
「なんだい?素敵な言い訳でも思いついた?」
アトワイトに効果がありそうな言葉を選ぶ。的確に、憐憫無く。
『どうして…こんなことが出来るの?』
「どうしてこんなことも出来ないんだい?」
『貴方のやり方で貴方の姉さんを蘇らせるだけなら彼女達を殺す必要は無いわ』
「生かしておく必然性も無い」
逃げ場も無い。
『何のために、その意味は?』
「何処の世界にも1人2人は…ああ、そうか、そうか…それはいい
皆に見てもらうために殺すんだから、2人とも、少しくらいは飾っておいたほうがいいよね?」

ミトスは左手で前髪を掻き揚げ、右手でアトワイトを掲げた。
眼は手に覆われて見えないがその口元は笑っている。

「そろそろ12時間か・・・最後のチャンスだ、君にも踊って貰おうか?」
剣を収め、ミトスは最深部へ駆けていった。
無言。それを以って罠に落ちた哀れな剣は天使との契約を結ぶ。
128祈祷・魔・岩戸 3:2006/05/26(金) 17:29:18 ID:XEZuAq5l
少女が3人、無色透明の惨殺空間にいた。
但し、コレットだけは死の方向性が、他2人とは異なる。
コレットだけが、客観的に見て命を浪費しようとしているからだ。
無論、この見解はあくまで外側から見た物言い、
あるいは「自分の命こそが何よりも尊いという妄執」に則った見方でしかない。
コレットにとってはリアラの命こそが最上項であり、全てだからだ。
そのコレットが詠唱、と言っても発声機構はOFFになっているのだから詠ってはいないのだが、
しているのは天使術唯一の回復術、リヴァイヴィウサー。
両の手を凛と伸ばし、有色透明な翼から羽が散落する。自己犠牲の禁呪。
リアラを守る。忠実に愚鈍にそれを行使する。
自分が犠牲になる、と言うことを何よりも知っている娘だから
可能な、ある種の後天的才能と言えなくもない。術式も佳境へ。

‘その力、穢れなく澄み渡り流るる。魂の輪廻に踏入ることを赦し賜え ’


ふいに、彼女の手を掴む純白の「手」がある。握力は殆ど感じられない。
コレットは一切の出力をせずにそちらの方を向く。
立っているのもやっとな、法術師、ミント=アドネードが、そこにいた。
表面に濡れそぼる汗に演出された艶かしさと対照に、
その眼は今尚少女相応の精悍な輝きを放っていた。不自然な程に。
もう片方の口を手に当てて、ミントは首を左右に振る。
草食動物の視界を得ようとしているわけではない。それだけは使ってはいけない、という意思表示。
表情は読み取れなくても、分かるものがある。死ぬ覚悟などが最たる例だ。
それを看過することは、ミントには到底出来ない。一種の感染症に近いかもしれない。
(自分が犠牲になることに関しては非常にルーズになるのがこの病の特徴なのだろう)
コレットが不意に詠唱を止める。意志が通じたという錯覚にミントは苦しさを忘れずに微笑んだ。
直後、ミントは下腹部に重いものを感じる。続いて、体内の空気が逃げ場を失い逆流し、
ほんの少しの唾液と呼気を吐いた後、落ちる瞼の向こうに自分の腹にめり込むコレットの拳と
微かに揺らぐ彼女の瞳を見た。彼女が見た最後の画像である。
129祈祷・魔・岩戸 4:2006/05/26(金) 17:29:47 ID:XEZuAq5l
ミントが気絶したことを目視した上で、改めてコレットはリヴァイヴィウサーを再度詠唱しようと試みる。
しかし声が出ない。出せないのは当たり前の話だから、この場合「詠唱が出来ない」という
魔術のスラングである。声が、でない。術が、始まらない。リアラを、助けることが出来ない。

「物見遊山に来てみれば、こんなことをしているとはね?」
コレットはそこでようやく後ろに一人の少年が近づいていたことを認識する。
「人形に自害する権利も資格もないよ」
ミトスが笑う。光源が無いから、二人しかいないから、コレットだけが殺意の源泉を知覚した。
排除するべき存在の認識。しかし、詠唱が出来ないことを説明する情報ではない。
「アトワイト、見事だ…実に使いやすい」
ミトスの片手に、今し方晶術を発動したアトワイトがあった。
術殺しの‘サイレンス’がコレットを括っていた。
「ああ…本当に良かった…まだ死んでない…死化粧は、生きている内にやる方が手間が掛からない」
ミトスはリアラを一別し、濁った眼球がだらしなく振動するのを確認した。
コレットがすかさずリアラへのミトスの攻撃意志を感知し、榴弾砲を深く抱えて構える。
既に相反する状況に彼女の論理は破綻していることに、彼女自身は気づいていない。
「僕は君と戦うつもりはないんだ。とりあえず…」
ミトスは自分の敵意にコレットが反応したものと誤認したまま、アトワイトを掲げる。
「目を奪わせてもらう」
二酸化炭素が充満した洞穴に、何も変化は起こらない。光がないから、人間達にはその異常を
認識することが出来ない。コレットとミトスだけが見る暗闇の世界が、一気に白濁する。
コレットの本能は理解を誤った。夕方の一戦からミトスには攻撃「魔術」しか無いものと思っていた。
晶術も確認したのは全て回復術のみ。理解の外から、一方的に侵攻を許してしまった。
ミトスがコレットとの直接戦闘を警戒していなかった理由…それがサイレンスや
ディープミストに代表される「補助晶術」の存在である。
無痛覚は恐怖をねじ伏せ、視聴覚は万物を捕捉し、
膂力は敵を粉砕する(これは天使としての能力だけとは言い難いが)無機生命体。
末端戦力としてこれほど恐ろしい兵器はない。
しかし、裏を返せば無痛覚は危機への感性を鈍らせ、一部の感覚の鋭化は多面的な情報の取得を困難にし、
強すぎる膂力は攻撃の選択肢を狭める。天使は搦め手に非常に弱い。(並の搦め手ならスペックでねじ伏せるが)
皮肉なことに天使のスペックを最大限に発揮するには天使の感覚に耐えうる心が必要不可欠なのだ。
神の機関クルシスにおいても心(あるいは心があるという妄想)を備えるものは四大天使を除けば数は少ない。
それには古代大戦とクルシスに於いてこの技術の使用目的が根本的に異なることに起因するがここは省略しよう。
ともかく、エクスフィア、天使という知識を得た上で戦略を練りさえすれば、無機生命体は決して難攻不落ではない。
130祈祷・魔・岩戸 5:2006/05/26(金) 17:30:21 ID:XEZuAq5l
この狭い空間でコレットの「力」を奪い、
洞窟に反響する音はコレットの「耳」を抑え、
サイレンスがコレットの「術」を封じ、
ディープミストでコレットの「眼」を塞ぐ。

そして最大の要衝、コレットの「感覚」は晶術と魔術、二つの術式をずらすことで
発動する術を誤認させ、沈黙とする…ネレイドとの戦いで発想した戦術の最終形である。
ずらされた詠唱によって魔術を晶術と、晶術を魔術と、使用する術を惑わす。
凡百の戦士や魔術師にはそもそも唯の詠唱にしか見えないであろうが、
ダオス、ネレイド達ほどの手練との戦いならばこの小細工は確実に効いてくる。
そして、恐らくこの舞台で一番感覚に鋭いコレット相手ならば、その影響はそれだけでは済まない。
無自覚に小細工が大好きなミトスならではの発想であった。

コレットを「封殺」する、そのために選んだこの地である。
炭酸ナトリウムを大量に含有する石灰質の洞窟であったのは副次的な幸運と言えよう。
見ればほかにも岩壁を灼いた痕跡があった。それが自分の駒たるマグニスの技が成したとは知る由もない。
(ミトスは知らないが崩落の向こう側で死んでいる彼の親友になる「はずだった」人物が炎系魔術を使っている)
どうやら同じことを考えた人物がいるのかも知れない…いくら何でも危険域の濃度7%までの推移が早すぎると
訝しんだが、先客が下ごしらえをしていてくれたのなら僥倖と言う他無い。
そしてその戦術をここまで早く完成させる決定打を与えたのは沈黙するアトワイト。
彼女にもう少しルーティのような自信と傲慢があれば、ミトスの毒舌をいなすことも出来たかも知れない。
しかしそれは叶わなかった。彼女は、ソーディアンである自分を恨むことでしか、自我を保てなかった。
ソーディアンが腑抜けになれば、晶術のコントロールは比較的容易。
最後の詰めを除けば、アトワイトへの施術は完全といえる。

ここに、ミトスの脚本した第一幕は終幕の目処が立った。
131祈祷・魔・岩戸 6:2006/05/26(金) 17:31:12 ID:XEZuAq5l
コレットは本人以外にしか分からぬ濃霧の中、主の姿を求めた。
動ける容態ではないのだから位置は変わってないはず。しかし、それは無事を証明する材料にはならない。

リアラの鼓動は、洞窟に残響するノイズに阻まれて分からない。

ど…して…
人を助けるのに理由はないだろう?だから人を殺すのにも理由は要らない。

リアラの姿は、白濁した世界に飲まれて分からない。動けない。

あ……しん………に…
狂ってると思う?それは幻想だ。何処の世界にも、異常な動機なんて存在しない。

ミトスを探す。探して、この砲門で、完全に、突き殺さねば、リアラが。私が守るって、決めたんだから。

……………………………の……?
異常なのは、何時だって動機を成す手段だ。僕はただ…(I only…)

意図的にうっすらと霧の一部が晴れる。その向こうに天使の背中があった。迷わず、躊躇わず、榴弾砲を一直線に。

……………カイル……………………………
僕は唯々、君と一緒に居たいんだ(I only want to be with you♪)

示し合わせたかのように天使がコレットの方を向く。金髪で片眼は覆われ、覆われていない方の眼が
現れる直前、虹色の輝きが、洞窟を照らした。榴弾砲が、鍵が、肉を、心臓を貫く。

霧が、晴れた。
132祈祷・魔・岩戸 7:2006/05/26(金) 17:31:45 ID:XEZuAq5l
ミントはゆっくりと眼を開けた。肌に薄ら寒さを感じる。いや、寒い。
相も変わらず何も見えない洞窟の壁を、手探りで触ると、不思議なさらさらとして凍てつく感覚を覚える。
霜だ…霜が張っている…何も見えない…
洞窟一面に、霜が張って、凍っている。正確には洞窟内の二酸化炭素が凍っていた。
空気は通常配分に戻っている。魅せる為に殺したのだから何時までも惨殺空間にしておくわけにはいかない。
洞窟を丸々凍らせる…「今の」アトワイトならばさして難しい話ではない。
一体何だったのだろうか…リアラが倒れて、コレットが自分を犠牲にしようとして、
私はコレットに気絶させられて…何も見えない…リアラさんは…他の皆さんは…
呼んでみるが誰も答えない。冷却された音がよく残響する。そこに混じる足音。
呼吸とともに体内の熱と思考が奪われる…寒い…何も見えない…眠い…明日もいい日でありますように…
ミントは睡魔に逆らえず、瞳を閉じてしまった。起きても、朝になっても何も見えないだろう。
白馬のイヤリング、無属性の魔術を退けるその加護は確かにあった。
しかし見つけたのは第三の猫。酸素が足りなかった。
大脳新皮質の後頭葉にある視覚中枢まで足りなかった。猫が笑って泣いて死んで生きて半死半生。
ミントの体がひょいっと持ち上がる。法術師のトレードマークの帽子が剥ぎ取られ、神の頭に乗せられる。
ロイドを誘うため、要の紋を残し、クレスを誘うためではなく、道化を回収する。
殺したかったのに…聖母が盲目になるなんて…どんな冗談だというんだ…
可笑し過ぎて殺せないじゃないか…姉さまみたいな面しやがって…楽には殺さない…
壊してから殺してやる…姉さまじゃなくなってから殺してやる…
ミントの拒む意志が反映したのか、耳のイヤリングが白く一瞬輝いた。全景が映る。

真っ白く凍った岩壁に、一本の榴弾砲が、心臓の位置で刺さっている。
ファフニールによってなます切りにされた傷と血は凍り、所々にフルーツが凍結している。
その杭が穿つはずだった天使は、瞬間移動によって喪失し、その向こうの神を磔にした。
その死顔に恐怖も、悦も無く、実に不思議な…神を見たような驚きだけがあった。

神の足下に、中央が窪んだ飴が一本。それを重しにして、ミトスは血文字がまだ凍っていない紙を一枚置く。

「神の磔、心への鍵、天使は魔剣を求め、女神の眠る地へ」

祈祷は魔を喚び、かくして天の岩戸に神は閉じこめられ、聖母の世界は永久の闇に閉ざされる。
実に見事な、神の神たる証明だった。
133祈祷・魔・岩戸 8:2006/05/26(金) 17:32:23 ID:XEZuAq5l
【ミント 生存確認】
状態:TP75% 睡眠 失明(酸素不足で部分脳死) コレットに運ばれている 帽子なし
所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント
第一行動方針:???
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:G3洞窟最深部→ E2周囲を避けてC3村へ

【コレット 生存確認】
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)  
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック
基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除)
第一行動方針:ミトスについて行く
現在位置:G3洞窟最深部 →E2周囲を避けてC3村へ

【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP55% 左肩損傷(処置済み) 治療による体力の中度消耗 天使能力解禁
   ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない)
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放)、大いなる実り、邪剣ファフニール
基本行動方針:マーテル復活
第一行動方針:C3村で策の成就を待つ
第二行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用する
第三行動方針:カイル・ロイドを復讐鬼に仕立てエターナルソードを探させる
第四行動方針:考え得る最大効率でミントの精神を壊す(姦淫ですら生温い)
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:G3洞窟最深部→E2周辺を避けてC3村へ

*アトワイト備考
状態:自我の凍結、エクスフィア寄生
基本行動方針:ミトスに従う


【リアラ 死亡確認・・・残り21人】

落ちているもの・・・ロリホップ、料理大全 銃剣付き歩兵用対戦車榴弾砲(残弾0)
要の紋 ミトスメモ ミントの帽子
134名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/27(土) 10:37:24 ID:z6EBHekV
全員気が狂い乱交パーティー開始!!
135一つの終焉 一つの始まり 1:2006/05/28(日) 08:28:59 ID:EE/mn4hv
名探偵が犯人を捕まえるための心得(自称)

一つ、地道に人から情報を集める(基本中の基本)。

一つ、気になったこと、おかしなことは納得するまで調べる(可能な限り早く、正確に)。

一つ、犯人は必ず現場にもどる(何らかの形で現場にもどろうとする人は要チェック!)

一つ、犯人を捕まえるまでは決してあきらめない(何があろうとも!!!)。

まあ、ほかにもいろいろたくさんあるけど、代表的なのはこんな感じかな。
とりあえず私はこの殺人事件の犯人を挙げるために行動を開始した。
本当は死体の周辺から調べたかったところだけど、あのままあそこにいたら、
私が犯人にされそうだったし……………。

何て思って歩いていたら早速怪しい人を発見したので、
私はその怪しい人に職務質問することにした。
するとなんと脈ありのような反応が返ってきた!
でもなんか別の事件っぽいな、こっちにはきてないような反応だし……。
136一つの終焉 一つの始まり 2:2006/05/28(日) 08:30:36 ID:EE/mn4hv
「このままじゃらちが明かない、僕も一緒に行くからそこへ一度戻るぞ」
そう言うと、その人は荷物をまとめ始めた。
「……………」
「このまま濡れ衣を着せられたくはないからな、
確かに僕はこの島でも元々居たところでも多くの罪を犯しているが、
だがそれは僕じゃい、……まあどのみち向こうには行くつもりだったからな、
何をしている、早く行くぞ」
このひとは混乱する私を無視して歩き始めてしまった。
え……、なにこの予想外な展開……。
「……は…はい………」
そういうと私は慌ててこの人の後を追った。

そうかこの人私も殺す気なのだ。名探偵に捕まる前に犯人が最後のあがきをするように。
そうでしょ、私に考えさせる時間を与えないで事を終わらせるつもりでしょ、
そして私を殺せば真犯人を探す人いなくなるって分かっているじゃない。
……なら、できればみんなの前で疑いを晴らしたかったけど、
しかたないわ、やられる前にやらないとね。

そう思って、彼女はスティレットを取り出し、構え、走った。
そして短剣はこの人の左背中に突き刺さる………はずだった。
137一つの終焉 一つの始まり 3:2006/05/28(日) 08:31:30 ID:EE/mn4hv
まったく妙なことになったものだ、いきなり職務質問をかけられるとは…、まあ……乗ってしまった僕も僕だが………。しかしあの女が死んだのか?いや…とにかく確かめるためにもそこにいかなくては。

だが急に風が変わった。
……殺気……後ろ…、…駄目だ…間に合わない…。
リオンは直感すると、左手に持っている忍刀桔梗でとっさに背後を防御した。
金属がぶつかる音がし、相手が離れると、リオンは距離をとりつつ振り向いた。

「…どういうつもりだ…」
「あなたが犯人でしょ?」
「……はぁ…違うといったはずだが…」
「口では何とでも言えるわ、そのうち私を不意打ちして殺す気でしょ、そうでしょ!
………ならしかたないわ、…その前に…あなたを……殺す!」
「くっ……、しかたがない……」

次の瞬間プリムラのスティレットとリオンのアイスコフィンが鍔迫り合い、そしてはじけてリオンが体勢を崩した。
(…ちっ…やはりまだ本来の状態ではないということか。)
そう感じると、リオンは左手の忍刀桔梗でプリムラの攻撃を受け始めた。
138一つの終焉 一つの始まり 4:2006/05/28(日) 08:33:03 ID:EE/mn4hv
はじめは、プリムラが勢いで押していたが、この戦いは少しずつ変わってきた。
プリムラの猛攻を紙一重でかわし続けていたリオンが、徐々に、だが確実に、
左手の忍刀桔梗を使いこなし始め、刀で攻撃を受けているのである。
そう、プリムラが攻撃した回数が増えていくほどに正確に………。

なるほど………あいつが使うのも分かるような気がするな。
こうやって、左で相手の攻撃を止めて、そして右で攻撃する。これは逆でもできそうだ。
最初、短剣のほうは小回りが利く攻撃できる盾ぐらいのつもりで、
右腕が完治するまでのつもりだったが……なかなか使えるな、これは…。
だが、まだこいつを殺すわけにはいかない、まだ僕はこいつから何も聞いていない。

リオンが、二刀流での戦い方をいろいろと模索している中、プリムラにも変化がおき始めた。
勢いが明らかに落ちているのだ。これは単純にスタミナがないだけ、それだけだ。
元々ここにくるまでプリムラは武器による直接戦闘したことがないのだ。
だがそれでも一般人とはくらべものにならない粘りである。
これはもう語る必要もないが、あの怨念じみたすさまじい信念によって、
彼女の体は支えられているのだ。
139一つの終焉 一つの始まり 5:2006/05/28(日) 08:34:13 ID:EE/mn4hv
このまま、こう着状態が続くとこっちが先に参ってしまうかもしれん。
……しかたがない構想中のあの技を使ってみるか……。

プリムラ渾身の突きをかわしてリオンは勝負に出た、突き出された剣を忍刀桔梗で払い飛ばし、
そしてプリムラの視界からリオンが消え、次の瞬間プリムラの体から幾重にも血がふき出た。

リオンはプリムラを一瞬のうちに斬り刻んだのである。

だがその過程はすさまじいものだった、
まず飛び上がり、敵を一閃する。
次に自身の技である「空襲剣」の軌道を、逆からなぞる様につなぎ。
そして最後にジューダスが使っていた「幻影回帰」のように締めたのである。
リオンは完全オリジナルだと思っているが、これをカイルかハロルドが見ればこう言うだろう。

「崩龍斬光剣」だと。
140一つの終焉 一つの始まり 6:2006/05/28(日) 08:42:25 ID:EE/mn4hv
斬られた……。体から血が吹き出ている………。
体はまだつながってそうだけど……、…ダメ…力が…入らない……。
その場で倒れていく私、……ああ……、………私…死ぬの……かなぁ………。

すると視界が急にぼやけてきて、別の光景が現れた。
どこかで見たことある山岳で女性が二人、争っている。
一人はカトリーヌさん、もう一人は………自分だ…………。
(……どういうこと…、どうしてこんな…………)
だが、無情にも物語は続いていく……。
自分がカトリーヌさんの首を絞めている。
……彼女の声も聞かずに……、悪魔みたいに、無慈悲に。
そして、相手は事切れ、自分も倒れた……。
(…そんな…、…こんなことが…、…どうして…、…夢なら…覚めてよ……)
だが、…これは夢ではないのだ………。…自分の記憶なのだから……。
ほかにどのような要因があったとしても、曲がらないたった一つの真実がそこにはあった。
(私が…、カトリーヌさんを……殺してしまったのだ………)。
141一つの終焉 一つの始まり 7:2006/05/28(日) 08:46:45 ID:EE/mn4hv
この技は未完成だと思うが、悪くないな。
さて…、今は、こいつをどうするかだ………、……まだ息はあるようだな…。
……とりあえず応急処置ぐらいしてやるか。

切り傷の処置が一通り終わり、近くで休もうと思ったそのとき、
呻き声が聞こえたので振り返ると、一人彼女は涙声で呟いていた。

「……私が……、…私がやったんです……、…でも…しかた…なかった……から、
…だって……じゃなきゃ……わたしが………、
でも…本当は……仲間を………殺したくなんて…………なかった」
「お前が…どういう理由でそうしたかは知らないが…、
一度犯した罪が消えることはない…だが生きて償うことはできるはずだ、
僕はもう行くが、この場にとどまって死にたくなければ………一緒についてこい、
それと、傷はそこまで深くないはずだから歩くことぐらいはできるはずだ」

リオンは彼女に同情したのか、
それともさっき自分がされたように、彼女にも償いの機会を与えたかったのか、
またはただ単に道連れが欲しかっただけなのか分からないが、
プリムラはリオンに付いて行く事にした。

142一つの終焉 一つの始まり 8:2006/05/28(日) 08:48:18 ID:EE/mn4hv
そしてこの後、二人はリオンの目的の人物に会うことになる。

「思っていたより驚いているような顔をしているな」
「まぁね、いろいろと事情は聞かせてもらいたいけど…」
「僕も、お前には聞きたいことがたくさんある……だが、少し待ってくれないか」

その数秒後から数分間、この場は泣き声と物言わぬ者への謝罪の声で埋め尽くされた。

元ジョーカー、
フォルス使い、
天才博士、
そして博士の助手になれる人物。
鍵はそろいつつある。

【リオン=マグナス 生存確認】
状態:体力気力共に七割弱ぐらい 右腕はまだ微妙に違和感がある 
崩龍斬光剣(不完全だが)習得、ほかの技は不明
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗 首輪 簡易レーダー 竜骨の仮面(ひび割れ)
基本行動方針:ミクトランを倒し、ゲームを終わらせる。
第一行動方針:ハロルドから情報を得る。
第二行動方針:スタンを探す。
第三行動方針:協力してくれる者を集める。
第四行動方針:可能なら誰も殺さない。
現在地:D5山岳地帯南

143一つの終焉 一つの始まり 9:2006/05/28(日) 08:49:07 ID:EE/mn4hv
【ハロルド 生存確認】
状態:ミクトランへの憎悪 TP55% (暫定的だが)ジューダスの死に内心動揺
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) 
基本行動方針:具体的な脱出へのプランを立てる 
第一行動方針:リオンから事情を聞き、その後グミを取得し、そしてグリッドと合流
第二行動方針:首輪のことを調べる
第三行動方針:できれば、リオンの持つレーダーらしきものをもらう
第四行動方針:C3の動向を探る
現在位置:D5山岳地帯南

【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損)  TP60%程 状況に困惑気味 中度失血
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック×2 
    イクストリーム マジカルポーチ 金のフライパン
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:今の状況を理解し、その後グリッドと合流
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
D5の山岳地帯南

【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)、切り傷多数(応急処置済み) 
泣く 自分がしてしまった事えの深い悲しみ 体力消耗(大)
所持品:ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ジェットブーツ,
C・ケイジ スティレット  グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:リオンについて行く?
第一行動方針:???
現在地:D5山岳地帯南
144DとDの戦争1:2006/05/28(日) 12:00:35 ID:kbowLSWJ
「お前達は、手出し無用だ」
流れるような金髪の半分を、すでにしわがれた銀髪に変えた偉人は、その左手ごと金の刺繍の外套を翻した。
「この私自ら、デミテルを葬る。この戦いに手を出すつもりなら、私はお前達を敵とみなし、まとめて排除する」
金色の偉人ダオスの右手からは、未だにわずかながら血が滴る。ぽたり、ぽたりと、地面に紅い斑点を作る。
「我が部下デミテルのこれまでの狼藉は、上官たるこの私が裁く。お前達の手は煩わせん」
ずい、とダオスは一歩を踏み込む。睨みつけるは、一房赤のメッシュを入れた、青髪のハーフエルフ。
「貴様をこの場で、断罪してくれる…デミテル!!!」
ダオスは、怒り狂う金獅子のごとく吼えていた。
145DとDの戦争2:2006/05/28(日) 12:01:17 ID:kbowLSWJ
時は、数分ほど遡る。
ジェイは、即座にデミテルとの戦端を開いていた。
意識の明瞭なヴェイグとグリッドは、二者の戦いをその瞳に焼き付ける事となった。
まずは、遠巻きにデミテルの戦法を観察。
血にまみれた右手に握られた、魔術師の杖。左手に握られるは、棘だらけの植物の茎をそのまま用いた鞭。
おそらく鞭は、例の木遁の術の産物。
そして右手の杖こそ、あの破滅の大雷電をもたらした忌まわしき杖。
ジェイはその様子を観察し、デミテルの戦闘流儀をおおよそ伺うことが出来た。鞭と杖の二刀流。
接近戦もある程度こなせる魔術師。ジェイの遺跡船の仲間、ウィル・レイナードに近いと思えば、間違いはあるまい。
だが、ジェイはその分析をすかさず脳の片隅に追いやり、先入観をかき消す努力をする。
デミテルはつい先ほど、ジェイの分析を上回る一手を打ってきたのだ。
あの雷電の雨を生き延びたのは、ネレイドという不確定要素がもたらした僥倖と言ってよい。
この男は、どこに何枚切り札を隠し持っているのか。どれほど警戒しても、警戒のし過ぎにはなり得まい。
「残念でしたね、デミテルさんとやら。この夜の帳の中で、忍者を敵に回すなんてね」
口上と共に、ジェイは手持ちの苦無を投げつけた。
無論、この一撃はアーツ系爪術。滄我の力のこもった一射。ジェイは投げつけたまま固まった右手を、そのまま握り込む。
苦無は、デミテルに当たる前にその力を炸裂させた。
爆裂。
たちまち濃密な煙が、月夜の丘を煙らせる。忍法「火遁の術」。
ジェイはデミテルがハーフエルフであることを知っている。星明りの元でもまっとうな視界を得られる瞳を知っている。
たとえ夜とは言え、この煙霧で視界を潰すのは無意味な布石ではない。むしろ、不可欠の処置。
ジェイは直ちに、煙の中に突っ込む。無視界であろうと問題はない。
わずかな呼吸の音や鼓動の音。殺気。かすかな体臭。これらがあれば、ジェイは十分デミテルの所在を知ることが出来る。
ジェイはソロンのもと、目隠しをしたまま組み手を行う訓練を行ったことを思い出していた。
無視界のもと戦う訓練を積んでいたジェイは、この中でならば優位に立てる。
146DとDの戦争3:2006/05/28(日) 12:01:58 ID:kbowLSWJ
聴覚、嗅覚、第六感。三つの感覚を複合させて割り出した、デミテルの位置は明瞭。
ジェイは忍刀・紫電を振るう。繰り出すは、奥義「影走破」。
(この一撃で…!)
決まればいいが。ジェイは期待しないで、そう願った。
そして、その願いは結局適わずじまい。
地面から聞こえた、「ぼこり」という音。ジェイはすかさず「影走破」を強引に中断し、後方宙返り。
ジェイの靴の裏を、何かが叩く。直撃ならば、足を砕かれていたかもしれない、十二分の手応え。
ジェイは晴れゆく煙霧の中、「それ」の正体を知った。
魔術「グレイブ」。突き出た土の槍が、ジェイの足元から彼を狙っていたのだ。
(あの時間内で冷静に魔術を用いてきたか…)
なるほど、デミテルには並みのハッタリや揺さぶりは通じない。
ジェイは改めて、デミテルを蛇の道を行く蛇だと認識させられる。
何より恐るべきは、その威力。あれだけの時間のうちに詠唱可能な魔術は、初級魔術くらい。
だがジェイは、足をわずかに掠めたぐらいで、痺れるような手応えが残るあの一撃で、威力は十分中級魔術並みと認識できる。
(あの杖か!)
ジェイはその理由に、すぐさま目星はつく。
デミテルの右手に握られた杖。ダオスの証言にあった、「元はモリスンの持っていた魔杖」に間違いない。
やはりあれは、「木遁の術」によって回収され、デミテルの手の内にあったのか。
ジェイは自分の推理が次々証明されてゆくことを感じながら、再び間合いを詰める。
あの杖により増幅されて放たれる魔術の威力は凄まじい。
逆に言えば、あの杖による魔力の増幅があるからこそ、デミテルは体力を節約できたと言えよう。
十二分過ぎるほどの過剰殲滅を行いうるだけの威力を秘めた、先ほどの大魔術を撃った直後でも、これほどの動きが出来るのだ。
たとえ神の力を手にしたグリューネや、メルネスと化したシャーリィですら、あれほどの力を行使したら、しばらくは立てまい。
(それにしてもこの威力…!)
ジェイは足の裏に残ったわずかな衝撃だけで、背筋が寒くなる。
初級魔術でさえ、直撃なら致命打。上級魔術なら、かすっただけでも即死できるだろう。
防魔の障壁を張っても、どれほどダメージを減殺できるか保障はない。
147DとDの戦争4:2006/05/28(日) 12:02:38 ID:kbowLSWJ
ならば、ブレス系爪術を操る敵との戦いにおける定石を、絶対に外すわけには行かない。
すなわち、呪文詠唱を行わせる暇がないほどの圧倒的な手数で、相手を圧倒する。
相手が「鋼体」を…すなわち、ダメージを受けてもある程度なら耐えて、呪文詠唱を続行できる特性を持っている可能性もある。
それを考えると、この戦いには是非とも連撃技を得意とする、セネルやクロエの力が欲しかったか。
「鋼体」による呪文詠唱の続行を崩すには、「連牙弾」や「秋沙雨」のような連撃技が最も向いているのだ。
さもなくば、ノーマのブレス系爪術「サイレンス」。モーゼスの我流奥義による、爪術の力の封印。
だがどれも、今のジェイにはない力。今ある手持ちの技でデミテルを潰すしか、ジェイに打てる手はないのだ。
ジェイは超前傾姿勢のまま、デミテルの懐に飛び込む。
地面に着いた両手を軸に、飛び込み前転。頂点で両足を開き、ジェイは一陣の竜巻と化す。
ソロン直伝、「鐘音」…改め!
「『鈴鳴』ッ!!!」
ジェイの数少ない連撃技。逆立ちのまま開いた両足に爪術の力をみなぎらせ、風車のごとく回転。
滄我の渦潮が、デミテルに襲い掛かった。
148DとDの戦争5:2006/05/28(日) 12:03:28 ID:kbowLSWJ
「よく分からないが…」
グリッドは地に伏せったまま、ぽつねんと呟く。
「俺達は…助かったのか?」
淡い希望。またもきわどい所で、命を拾えたのか。
「油断は出来ない」
氷のように冷徹に、突然の戦いを始めた二者を眺めるは、アイスブルーの髪の男、ヴェイグ。
左手を右肩に。右手を腹部に。氷のフォルスを、両手に集中させる。
ぴきぴきという氷の成長の音。ヴェイグの患部を、氷が覆う。
患部を凍結させての止血、固定。フォルスの制御が不十分の今、自分のフォルスで自身が凍傷を受ける可能性もある。
だが、こうでもして傷口を処置しておかねば、普段の力の七割も出せない。
ひとまずここで待機して様子を見るが、逃走のためにも応戦のためにも、念のため下準備はしておく。
今は緊急事態なのだ。若干の無茶な処置も止むを得まい。
凍らせた傷の様子を見るように、ごく軽く患部を動かし、ほぐすヴェイグ。
未だ意識の戻らぬティトレイを抱えながら、語りだす。
「俺の戦士の勘が告げている。あのティトレイを配下にしていたあの青髪の男、まだ何か隠し玉を持っている気がしてならない。
E2の城への『サウザンド・ブレイバー』…
あの砲撃の際張っていた樹のフォルスの罠は、俺のちょっとしたフォルス程度で無化できていた。
いくらフォルスやそれに順ずる能力を持っていなければ破れなかったとは言え、あれがまともな罠とは俺には思えない。
砲撃の際の隙をカバーするためのものだとすると、いくらなんでも仕込みがずさん過ぎる」
四星の一角に数え上げられる男サレ、そしてワルトゥ。
ヴェイグはあの青髪の男から、彼らに似た臭いを感じる。策士の臭い、とでも言うべきか。
「奴は二重に罠を仕掛けていたのかも知れない」
「二重の罠?」
「つまり、こういうことだ」
口は動かしたまま、ヴェイグはチンクエディアを皮袋から取り出し、応戦用意を整えながら続ける。フォルスを臨界点まで凝縮。
149DとDの戦争6:2006/05/28(日) 12:04:32 ID:kbowLSWJ
「俺もユージーンという軍の特務部隊の元隊長に聞いたことがある。
野戦では時おり、罠を発動させるための縄を、二本張っておくことがあるらしい。
一本はあえて見つかりやすいように工夫した太めの縄、そしてもう一本は偽装や保護色を施した細めの縄だ。
太めの縄はそれほど巧妙に偽装されているわけではないから、発見は容易。無力化するのも簡単だ」
「…細い縄の方は?」
「そう、その細い縄の方が本番だ。並の人間では、太い縄を切った時点で、罠を無効化したと考えるだろう。
ここで油断すると、偽装した細い縄の方には気付かない。気の緩んだ相手はその細い罠の方にかかり、罠が発動。
罠を解除したと一旦は思わせ、油断する人間心理を突いた卑劣な罠だ」
チンクエディアを核に、フォルスを結実。氷のフォルスにより、元々彼の得意とする大剣を生成。
黒髪の女を殺した時にも、使った手。とりあえず得物さえあれば、応戦は出来る。傷口が開く危険を、度外視すれば。
「ということは…!」
「ああ。俺達はすでに奴の術中にはまっているのかも知れん。くれぐれも油断する…
!!」
ヴェイグの嫌な予感は、的中した。口にした瞬間的中してしまった。
傍らを見やる。ティトレイの生気を失った頬に、血のしぶき。
そのしぶきの発生源が、グリッドの喀血によるものだと知ったとき、ヴェイグもまた喉の奥に耐え難い灼熱感を覚えていた。
喉の奥から、熱い塊が込み上がる。鼻腔が焼け付き、悲しくもないのに涙がぼろぼろと湧いてくる。
(しまった! …これが奴の『細い縄』だったのか!?)
ヴェイグがそう認識したとき、すでに自体は手遅れだった。無色透明の瘴気。
ヴェイグはフォルスを練り、空気中の瘴気を凍りつかせようと、涙に曇る瞳を空に向ける。
だが、右手を宙に差し出した時点で、もとより生命力の弱っていたヴェイグには、限界が訪れた。
ヴェイグは口から紅い塊を吐き出した。
肺を焼かれ、目に棘が刺さるような激痛。舌は口内で張り付き、まともな呼吸が出来るかどうかも、そろそろ怪しくなる。
たまらずグリッドは、地面に突っ伏した。
とうとうヴェイグは、うつ伏せに地面に倒れこんだ。
150DとDの戦争7:2006/05/28(日) 12:05:20 ID:kbowLSWJ
「…ぁ…あ…あぁあ……」
辛うじて、ジェイはまた立っていた。辛うじて、ではあるが。
忍者はその訓練と併せ、食事には特別な混ぜ物をしている。微量の毒を食事ごとにとり、毒に対する耐性を身に着けている。
この訓練がなければ、ジェイはヴェイグやグリッドともども、喀血を起こし倒れ込んでいただろう。
「残念だったな、ジェイとやら。この島の中で、ダオス軍随一の智将を敵に回すとはな」
デミテルは暗記した名簿から、目の前の少年の顔と名を照合し、苦しむジェイが先ほど発した言葉を、そのまま返していた。
「あれほど大仕掛けの砲撃を仕掛けていたのだ。この私が第三者からの不意打ちを予期していないとでも思ったか?」
「くそ…『春花の術』…か……」
「ジャポン族は、毒の霧を撒く術をそう呼ぶようだな」
事実半分、虚勢半分。デミテルの足元にて砕けるは、陶製の入れ物。
それはかつて、遺跡船の仲間ノーマの用いていた毒入りのシャボン液を入れていた容器であるとジェイは気付いた。
恐らくはあのシャボン液に、デミテルは錬金術を用いて何らかの変成を起こさせたのだろう。
かつてノーマが使っていたシャボン液には、ここまで強烈な毒性はない。
一吸いで粘膜を激しく侵し、内出血を引き起こさせるような、蒸発性と即効性を兼ね備えた強烈な毒は。
そして「春花の術」使いの当然の作法として、予め術者は自分の撒く毒に対する解毒剤を飲む。ゆえに彼は無傷なのだろう。
だが、解毒剤を飲んでいないジェイにしてみれば、この「春花の術」はたまらない。
口元から一筋、血を垂らす。催涙作用には何とか耐えているが、鼻の奥がつんと痛い。
「やれやれ、先ほどの砲撃で貴様ら全員まとめて葬るつもりだったが、こうして一匹厄介な獲物が釣れたのならばよしとしよう。
見たところ、貴様もどうやら頭はそれなりに回るらしいな。…この私ほどではないが」
尊大。傲岸。慢心。鼻の曲がりそうなほどの自己陶酔の臭い。
こいつは、小物だ。
一流ぶっているつもりなのだろうが、所詮は肥大した過剰なまでの自信にあぐらをかいている二流。
分不相応な力を得て、全能感に酔っている三下。
ジェイはそう断じたが、自分はその小物の手のひらの上で、まんまと今まで踊らされ、そして今も踊った。
魔術ばかりを警戒して、毒という悪党の大好きな、そして有効な手段が来ることを見落としていた。
錬金術の知識をこの男が持っていると知っていた。ならば、毒物の調合は十分想定できていたはずなのに。
またも自身は、この男の奇策に…いや、陽動にしてやられたのだ。
151DとDの戦争8:2006/05/28(日) 12:05:57 ID:kbowLSWJ
デミテルは口元を押さえるジェイの横っ面を蹴り倒し、地面に転がせる。
瘴気に耐えるだけで精一杯のジェイは、あえなく地面に転がる。ヴェイグが、グリッドが、ティトレイが、突っ伏す方へ。
「せっかく私の顔を直に拝見するところまで行ったのだ。遠慮なく報酬を受け取るといい。
あの世で貴様らの仲間達に、自慢できるぞ? この私に、ここまで肉薄できたのだからな」
(だっ…誰が……ッ!!!)
こんな小物ごときに殺されて、あの世の仲間に自慢出来ようものか。犬死にもいいところだ。
ジェイは蹴りをしたたかもらった頬と肺と。両方から血を吐きながら、涙に濁りかけた視界越しに青髪の男を睨みつける。
見れば彼は、禍々しい響きを伴った詠唱と共に、杖を振る。
暗黒の気がデミテルの周りに渦巻き、その中からにじみ出るようにして姿を現出させるは。
魔宴(サバト)の主たる魔神、バフォメット。善男善女を堕落させんと常にもくろむ、背徳の王。
デミテルの最大の黒魔術。魔界より高位の魔神を召喚し、その力でもって絶大な破壊をもたらす滅殺の禁呪。
先ほども述べたように、デミテルの異常なまでに増幅された魔術の威力では、上級魔術がかすりでもしたら即死。
直撃ならば、髪の毛一本、肉片ひとかけらも残さず、4人の体はこの世から消滅する。
(くそっ! こうなったら…!!)
使うしかない。クライマックスモードを。
この島に潜むマーダーは、何もデミテルのみではない。可能ならば、これを使わずして勝ちたかった。
何より、この身に余る力に陶酔する三下ごときに、こんな切り札を切るとは。
今まで自分達をさんざん踊らせた相手が、こんな小物だったとは。
だが、使うと決めた以上、殺(と)る。殺らねば、殺られる。
ジェイは自らの精神の中で、クライマックスモードの「引き金」に手をかけた。
あと数瞬で、デミテルの黒魔術は完成する。だが、その数瞬さえあれば、デミテルに死を贈るには十二分。
ジェイがクライマックスモードの「引き金」にを引こうとした、まさにその瞬間。
一同の頭上に、赤い火球が発生した。
「!?」
ジェイが、「それ」を認識した瞬間であった。
なんだかんだで、結局この島では自らと因縁の浅からぬ仲となってしまったあの男…金色の偉人が、割って入ってきた。
その事実を、認識した瞬間。
「エクスプロォォォォォォォォゥドッ!!!」
世界は、赤一色に包まれた。
そして物語は、冒頭の言葉に繋がる――。
152DとDの戦争9:2006/05/28(日) 12:06:47 ID:kbowLSWJ
「ダ…ダオス…さん…!?」
突然の出来事に、あと少しのところでクライマックスモードをキャンセルしたジェイ。茫然と、ダオスを見る。
すでに瘴気は、払われていた。
デミテルの所在地へと歩を進めたダオスは、その途中、気付くことができたのだ。
デミテルが周囲に撒き散らかした、毒の霧の存在に。風に運ばれ混じった、かすかな刺激臭で。
結果、彼は毒の霧に冒されない境界線に踏みとどまり、その場で魔術「エクスプロード」を詠唱。
そして一同の上空で威力を絞って「エクスプロード」を発動。発生した高温の爆風で、毒の霧を強引に払い去っていたのだ。
「お…お前は!?」
石化の秘孔を突き、一度は自らを下した男。ヴェイグは、目を瞠りながら、ダオスを見る。
「確か最初ミクトランの野郎に立ち向かった……えーと…ダオスとかいう奴!!」
そして彼とは大した因縁もないグリッドは、そうとしか彼を呼べなかった。
驚き、気色ばむ一同。ダオスは未だに血の滴る右手をかざし、冒頭の言葉で一同を制した。
「あの男は私の仇敵…私がきっちり引導を渡してくれる」
「…何をわけの分からないことを!!」
「命が惜しくば、下がっていろ」
激しかけたヴェイグ。
だがダオスは、ヴェイグの凍気すら生ぬるい、絶対零度の氷を含めたかのような、冷徹な言葉を彼に浴びせる。
「お前達は…ヴェイグ、グリッド、それからティトレイだな」
名簿からの記憶を元に、ダオスは3人の名前をぴたりと言い当てていた。
「私にこの場で刃向かうつもりがなければ、私はお前達を傷付けたりはしない。
そこに寝ているティトレイにはのちのち聞きたいこともあるが、今はそれはさておこう。
またお前達3人が、そこにいるジェイという青い衣の小僧に協力してくれるというのであれば、私はお前達を命に代えて守る」
「…ど…どういうことだ?」
思わず言葉がよどむグリッド。だがグリッドのことなど意にも介さず、ダオスは話を続ける。
「詳しい話はジェイに聞け。さて、ジェイ」
「…はい?」
153DとDの戦争10:2006/05/28(日) 12:07:27 ID:kbowLSWJ
夕方には殴り倒され、先ほどは乱戦の中敵とも味方ともつかぬ中でのあわただしいやり取り。
微妙な立ち位置にあったダオスにとってのジェイ、ジェイにとってのダオスであったが、その彼から名を呼ばれ、ジェイは困惑。
それでもダオスはジェイの困惑ぶりなど知ってか知らずか、腰から皮袋を外し、ジェイに投げて渡した。
「その荷物は戦いに邪魔だ。私が戻るまでの間、しっかり持っておけ」
「一体それはどういう…?」
「あ! デミテルとか言う奴が逃げたぞ!!」
そして状況は、ジェイの疑問を解く暇もなく、急転直下。
ダオスは、デミテルのいた側に振り向く。
確かに彼の姿は忽然と消えていた。
だが、これくらいダオスにとっては想定の範囲内。
話を終えたら、すぐさま彼の方に向かう予定だったし、その時多少の「鬼ごっこ」の必要もあるだろうと、見越してはいた。
ダオスは、4人に背を向け、歩み出す。
「ジェイ、いいな。その皮袋は決して無くすな」
「ダオスさん! さっきからあなたは…!?」
「返事はどうした?」
「…仕方ありませんね」
いくらなんでも強引過ぎるダオスの仕切り。ジェイもさすがに反駁したくなる。
だが、この場で不毛な論議を仕掛けても、時間の無駄だ。デミテルは、何としてでも討たねばならない。
ジェイは、夕暮れの草原でのダオスの瞳を思い出し、沈黙した。
確かにこの戦いは、二人の間に起こるべくして起こった決闘。
一騎打ちなどという選択は、戦術的に見れば次善、次々善の選択肢。
それでも、ジェイにだって心はある。ダオスの心の中に煮えたぎる、激しい感情だって理解出来る。
この一戦、邪魔立てをしてはならない。
(こんなセンチメンタルな選択を許すなんて、ぼくも随分変わりましたね)
そう心中呟くジェイ。ダオスは、歩み出した。
154DとDの戦争11:2006/05/28(日) 12:08:37 ID:kbowLSWJ
(覚悟しろ…デミテル!)
凄絶な闘気が渦を巻き、わななくように震える周囲のマナ。
確かに自身は今、デリス・カーラーンの守護は受けられない。自らの力で戦わねばならない。
ならば、この一戦で、残る全ての時間を燃やし尽くす。命を代価として支払えば、力は手に入る。
こうまで時間が迫っているならば、もはやマーダーの一網打尽は期待できない。
おまけに、これから己の合する相手はデミテル。この島の裏で暗躍し、悪意をばら撒き、そしてクレスをけしかけ。
マーテルを…デリス・カーラーンの救いの道を閉ざした張本人。
滅する。「殺す」などという生易しい処遇では済まさない。この世からデミテルを…デミテルの血一滴さえ残さず、消滅させる。
偉大なるカーラーンの父祖よ、我に力を。
ダオスはこの島でわずかばかり行動を共にした、金髪の少年のことを思い浮かべた。
体内のチャクラを全解放。
ムーラダーラを起動。そこから伸びる気脈を、一気にサハスラーラまで繋ぐ。体内の霊的器官に、残る全ての活力を集約させる。
短いながらも「彼」と話を交わし、一時は互いの力を認め合い、連携さえも行えたあの少年。
(ミトスよ…お前の技を真似させてもらうぞ)
全身に流れるマナを煮えたぎらせ、ダオスはその力を行使する。
第三者からすれば、この術はミトスのあの技に酷似して見えるだろう。
残った左手で、その術を紡ぐ。普段の詠唱時の数倍、十数倍の速度で、マナが編み上がる。
刹那、ダオスの体は白い光に包まれた。
閃光のように、一瞬ばかり輝き、そして一瞬で闇に呑まれる。
白い光が消え去った時、そこには誰も存在していなかった。
ただひとひら、マナで編まれた輝く羽根が、丘に吹いた風に乗り、舞い上がった。
白い羽は、溶けるようにこの島の空に消えていった。
155DとDの戦争12:2006/05/28(日) 12:09:38 ID:kbowLSWJ
駆けるデミテル。デミテルは内心で、汚らしい悪罵を撒き散らしていた。
この島における随一の智将である己が、どうして今やこうも無様に、敵に背を向け逃げねばならないのか。
「サウザンド・ブレイバー」で敵の裏の裏までかいて、直接愚鈍な参加者どもを一網打尽にするはずだった。
何故だ。何故「サウザンド・ブレイバー」という神の力さえ手にした自身が、最高に無様な結末を迎える羽目になったのだ。
私の「サウザンド・ブレイバー」による一撃。あれを力技で粉砕するような化け物が、この島に残っていたのか。
私の完璧な計算のどこに誤りがあった。何故だ、何故だ、何故だ、何故だ!?
悔やみながらも走るデミテル。ミスティシンボルによる詠唱加速。魔術「ウインドカッター」を紡ぐ。
「ウインドカッター」を用いた、魔法陣の遠隔作成。先刻まんまとダオスを騙しおおせた、あの手段だ。
今回発動させる魔術は「アースクエイク」。
「ケイオスハート」による増幅を込めた、「アースクエイク」を込めている。
今回の魔法陣は特別なもの。追跡者達の予想針路上に、大量に魔法陣を作成していることは同じ。
だが今回、実際に魔力を込めたのは、核となる魔法陣ただ1つ。他には、何者かが魔法陣を踏むと発動する警報を込めたのみ。
そして核である魔法陣に込めた「アースクエイク」の魔力は、警報が発された瞬間、警報発動地点に一瞬で流れ込む。
つまり、今回デミテルが残したものは、魔力を最大限に節約して形成した、魔術の地雷原。
「サウザンド・ブレイバー」で大量に消費した魔力と、自身がおかれた現状をすり合わせて編み出した、苦肉の策。
だが苦肉の策にしても、この策は有効であることもまた事実。
下手な追跡をかければ、追跡者は「地雷原」に引っかかり、「アースクエイク」で岩盤に叩きつけられ、ぺしゃんこになる。
あの4人の誰が追いかけてきても問題はない。「アースクエイク」の威力は、全員の致命傷を優に上回るだけに設定した。
ここは逃げて、態勢を立て直す。
その後はティトレイ・クロウを覚醒させた男、ヴェイグ・リュングベルを始末する。
「サウザンド・ブレイバー」を無化した者を、草の根を分けてでも探し出し葬る。
私の編み出した完璧な策を、完全にひっくり返してくれた愚か者達に、この智将デミテルに刃向かった罰を与える。
もちろん、死という名の罰を――。
現状の脅威を、排除してから。
デミテルは、目の前の光景に釘付けになった。
156DとDの戦争13:2006/05/28(日) 12:10:22 ID:kbowLSWJ
丘の向こうにいたはずのダオスが、そこに立っていた。悠然と腕を組み、仁王立ちして。
「おやおやデミテル。久方ぶりに己が主に見せる顔が、それか?」
ダオスは能面のような表情の向こうで、地獄の業火もかくやというほどの怒りを燃やし、デミテルに声をかけた。
デミテルは今度こそ、驚愕と、そしてかすかな恐怖に表情を凍り付かせた。
何をどう言い繕うと、ダオスはここにいる。
デミテルの策は、またもや成らなかったのだ。
自分の手のひらの中で踊っていただけのはずの、ダオス自身が…!
ダオスは残る左手で、デミテルの右手を掴み上げた。
即座に、マナを左手に収束させるダオス。
放つは、零距離のダオスレーザー。本来なら不可能なはずの、ダオスレーザーの片手撃ち。
デミテルの右手を、途端にマナの激流が飲み込んだ。
肉が炭化し、骨が砕ける。人間が耐えるには、あまりに苛烈。
渦巻くマナは、デミテルの右手ごと魔杖を地平の彼方まで吹き飛ばしていた。
157DとDの戦争14:2006/05/28(日) 12:10:59 ID:kbowLSWJ
「………ッ…!!」
右手を丸ごと消失した激痛と、そしてまたしても完璧だったはずの策を破られた衝撃と。
デミテルはそれらゆえにうめきながら、ダオスを睨みつけた。
「私にここまで切り札を切らせるとは、今までさんざんてこずらせてくれたな、デミテル?」
ダオスのこのありえないはずのデミテルへの追跡劇。それを可能としたのは、ダオスの持つ最高位の魔術にあった。
「タイムストップ」。
この魔術は戦闘において、究極の利便性と究極の代償を包含する、大魔術。
ひとたび発動すれば、術者はその戦闘を制したも同然。止まった時の中で、術者は敵に一方的な攻撃を試みることが出来る。
ましてやダオスのような手合いがこれを用いれば、敵に何十回と止めを刺せるだろう。
だがしかし、この究極の利便性に求められる代償は、大量の魔力とそして長過ぎる詠唱時間。
ひとたび敵がこれの発動を察すれば、全力で阻止にかかる。
術者単体では、まず術を編む前に確実に妨害される。あまりに長過ぎる詠唱時間という、究極の欠点により。
術者が戦士達に防護されていようと、発動の確証はない。
だがそれは、並みの術者が用いたなら。だがそれは、戦意を持つ敵に用いたなら。
ダオスは、マナのそのものの大地、デリス・カーラーンで育った、かの星の王。
この島に降り立った者達の中では、最大級の魔力を体内に秘める。人間やハーフエルフでは決して持ち得ない、強大な魔力を。
そして、倒すべき敵が逃げるのであれば、「タイムストップ」の詠唱を阻む者は存在しない。
デミテルは「エクスプロード」で毒の霧を払われ、ダオスの姿を認めた瞬間、ジェイら4人の殺害を諦め即座に逃走した。
これは、戦術的判断としては決して誤りではあるまい。
戦いに勝つための定石の1つには、自分より強い相手と戦わないこと。強い相手からは逃げ出すこと。
だが、結果としてデミテルの打った「定石」は、ダオスの「タイムストップ」による追跡を阻む機会を、永久に失わしめた。
たとえ定石に忠実に戦いを進めたとしても、戦いは結果論がまかり通る世界。
戦いに負ければそれは「負け」に他ならない。
そしてどんな愚かしい戦術を用いても、戦いに勝てばそれは「勝ち」になる。
すなわち、後者の方が優れた選択として、他者には評価されるのだ。
158DとDの戦争15:2006/05/28(日) 12:13:18 ID:kbowLSWJ
「なぜ…あなたが……ここに…?」
「貴様に答える義務はない。…ああ、先ほどの『地雷原』を無事に抜けた理由を聞いているのか?」
デミテルの想定を上回る、「タイムストップ」による追跡劇。
だが、「タイムストップ」の詠唱による時間のロスや、「タイムストップ」の制限時間を考えれば、推測と疑問が自然と浮かぶ。
ダオスはここまで一直線にデミテルを追いかけてきたことは想像に難くない。
すなわち、止まった時の中で、ダオスはデミテルの仕掛けた「地雷原」を中央突破したのだ。
だがそれならば、何故ダオスは「地雷原」を五体満足なまま抜けてこれたのか。
その答えは、至極簡単だった。ダオスは答えて曰く、
「貴様は常日頃から私に進言していただろう? 『相手は同じ手は二度食わないと思った方がいい』、と。
貴様は、数刻前にも私を同じ手でたばかったのを忘れたのか? 魔法陣を地面に直接描き、それによる牽制を仕掛けたことを」
「!!!」
デミテルは、表情の凍結の度合いをますます進める。彼の内で、何かががらがらと崩れてゆく。
「どうせ貴様のことだ。逃げる先で何か罠を仕掛けてあることは見当は付いた。
あの軍用攻撃魔法の砲撃の前に仕掛けた罠か、それとも逃げながらばらまいた罠か、までは分からなかったがな。
結果として、あれほど稚拙な罠だったと気付いた時には拍子抜けしたな。
一瞬あの罠自体がフェイクでないかとさえ思ってしまったぐらいだ」
だが、ダオスは「地雷原」がフェイクである可能性を、一瞬にして却下していた。
あの「地雷原」に仕掛けられた魔力は、十分過ぎたからだ。
いくらあの魔杖の増幅があったからとは言え、デミテルは「サウザンド・ブレイバー」を撃った直後。
体内のマナのほとんどが空になっている状態で、たかがフェイクの魔法陣ごときにあれほどの魔力を注ぎ込むものではない。
ただの牽制ごときに、無駄に大量のマナを注ぎ込むのがどれほど愚かしい選択かは、言及には及ぶまい。
ましてや、青息吐息の現状では、裏の裏をかくにしても、リスクがあまりに大き過ぎる。
159DとDの戦争16:2006/05/28(日) 12:14:08 ID:kbowLSWJ
「例の魔法陣の中に『アイスニードル』を一発撃ち込んだら、何やら地面が凄まじい振動を起こして、
あっという間に辺り一面が荒地になった。なけなしの魔力を、随分と盛大に無駄遣いしたようだな、デミテルよ」
そして、「タイムストップ」の効果が切れた瞬間、ダオスはデミテルの前に立ちはだかり、腕ごと魔杖を吹き飛ばした。
これが、この逃走劇の間に起こった両者の駆け引きの全貌である。
「タイムストップ」を用いた相手にも有効な罠を張ったところまでは、結果的にデミテルの判断が勝っていた。
デミテルが唯一にして最大の失策を犯していなければ、この駆け引きの勝者はデミテルであったことは間違いない。
ただ1つ、ダオスには先刻、同じ手段を用いていたことを失念していたこと。
ダオスも同じ手に二度引っかかるほどの愚か者ではないことを、忘れ去っていたこと。
普段の彼ならば考えられないような失策ゆえに、彼は逃走に失敗したのだ。
「C3の村での放火による、リッド・ハーシェルやロイド・アーヴィングらの殺人未遂。
E2の城での私を巻き込んだ大量殺人未遂。それ以外にも貴様のことだ。何人もの参加者を殺してきたのだろう?」
「…………」
仁王立ちしたまま、ダオスはデミテルを睥睨し、彼の罪状を読み上げる。
「貴様に今までの罪を吐けなどとは言わん。今は貴様に拷問を行う時間も惜しい。
それに、先ほどE2の城へ放った、私を巻き込んでの砲撃の現行犯だけでも十分。
上官殺害を意図したものは、私の軍の中では例外なく死刑を執行するのは、貴様も良く分かっているだろう。
…だが!!」
うずくまるデミテルの胸倉を掴み上げ、ダオスは強引にデミテルを立ち上がらせる。デミテルは、苦痛のうめきを漏らした。
「私が何よりも許せんのは、貴様がクレス・アルベインをそそのかして行った、マーテル・ユグドラシルの殺害だ!!!」
「…………」
「『マーテルを殺したのはクレスであって、私は何もしていない』、などという下らん屁理屈には耳を貸さん。
私はかねてより貴様がクレスを操っていた首魁ではないかと疑ってはいたが、先ほどのE2の一件で私は確信した。
クレスをあの状況下に放り込み、E2の戦況を混乱させ、一同をE2の城に釘付けにし、
そこに先ほどの一射を撃ち込み、クレスを捨て駒とした一網打尽を試みた。…貴様の書いた筋書きはそんなところだろう?」
「…………」
160DとDの戦争17:2006/05/28(日) 12:14:52 ID:kbowLSWJ
デミテルは黙して、語らない。
「…沈黙は肯定とみなす。
どれほど泣き叫ぼうが、どれほど卑屈に許しを請おうが、マーテルを殺した罪だけは絶対に許さん。
デミテル…貴様のマーテル殺害の罪は万死に…否! 億死に値する!!!」
「……ふん、下らないたわ言を」
そこで、デミテルは始めて口を開いた。
「!?」
「…やれやれ、ダオス様ともあろう方が、何故たかがハーフエルフの下女1人ごときにご執心なさるのですかな?」
一言一言が、ダオスの神経を逆撫でする。ダオスの顔に、一気に朱が散る。
「もしダオス様があの女を慰み者にでもするつもりだったのでしたら、私はあれより上玉の女をいくらでも知っております。
まあ、死んだ女の事は忘れて、気持ちをお切り替えになっては…?」
刹那、ダオスの左拳が、デミテルの顔面をしたたか強打した。
既視感。ダオスの脳裏に、わずかによぎる。
だが、今のダオスの脳裏には、そんなわずかな雑念などあっさり焼き尽くす、真紅の激昂に駆られていた。
「デミテル…ッ! 貴様ァァァァァァァァッ!!!」
デリス・カーラーンの唯一の救世主、マーテル。
その女を自らの手を汚さずして殺し、あまつさえ侮辱するつもりか、デミテルは。
(この男は、どこまで性根が腐っている!!?)
ダオスの一撃で高々と宙を舞い、そして数十歩ほどの距離を吹き飛んだデミテルは、したたか大地に叩きつけられた。
161DとDの戦争18:2006/05/28(日) 12:15:26 ID:kbowLSWJ
デミテルは混濁しそうになる意識を必死に繋ぎとめ、自らの策が今度こそ成功したことを確信した。
「豚もおだてれば木に登る」ではないが、やはり自らの主たる男、ダオスには挑発がよく効く。
ダオスの1人語りを聞きながら、デミテルはその事実に気付いた。
ダオスは、マーテルという女に、とてつもなく大きな尊敬の念を抱いていることに。
ならば、その女をあえて侮辱して、ダオスの神経を逆撫でして、挑発してやろうと即座に思いついた。
どこまでも性根の腐った外道、などと今頃ダオスは思っているだろう。
だが、ダオスは…己の主たる男は、その外道の手によりこれから命を奪われるのだ。
デミテルの服の下に揺れる首飾り、ミスティシンボル。
これこそ、ダオスに対しては伏せ札となっている、自身の持つ最後の切り札。
デミテルは、迷わず呪文の詠唱を開始した。
今頃自分の顔面はガマガエルのように醜くひしゃげているだろう。だが、それでこれだけの間合いを稼げたなら安いもの。
デミテルには分かる。ダオスはもはや、満身創痍であることを。本来ならば、もはや立っていることさえ辛い傷であることを。
己の体内に残るマナは、もはや底を着こうとしている。多分次の一撃を放てば、もう後はない。
だがその一撃があれば、ダオスを葬るには十分。モリスンをそそのかせて、ダオスの強大な体力を削った甲斐があった。
この魔術の一撃が当たれば。ダオスが迫る前に術が完成すれば。デミテルがこの限定戦争の中での勝者になる。
必殺を見越すダオスも、これほどの遠距離からダオスレーザーを放っては来るまい。
ダオスレーザーは強大ではあるが、所詮は飛び道具。離れた目標に対する必中は見込めない。
必殺を期するため、ダオスは必ず間合いを詰める。その時間のうちに、この魔術を完成させ、放つ!
デミテルの口から、再び呪文が漏れ始めた。
162DとDの戦争19:2006/05/28(日) 12:16:03 ID:kbowLSWJ
ダオスは、吹き飛ばしたデミテルに猛追撃をかけていた。
煮えたぎる怒り。とめどなく吹き上がる。
この男、マーテルを侮辱し、あまつさえ開き直るとは。
ダオスは雄叫びを上げながら、突き進んだ。
デミテルは、マーテルを殺した。マーテルを殺したことで、デリス・カーラーンの十億の民を、一瞬にして皆殺しにしたのだ。
可能であれば、デミテル捕らえ、文字通り億の死を味わわせてやりたい。
たかが女1人、とデミテルは高をくくっているのだろう。その女が、十億の民を救う力を持つことも知らずに。
そんなことも知らずに「智将」を自称するなど、冗談にしても笑えない。
デミテルは、せいぜいが「痴将」と言ったところか。
ダオスは、引きちぎった外套にくるまれた、己が右手を見やった。その手ごたえを見る。間違いない。
この右手は、まだ耐えられる。あと一度。一度限りなら、術技の行使に耐えられる。
ダオスは右手をかばって今まで動かしてはいなかった。
ゆえに、デミテルに対して、この右手からの攻撃は不意打ちになるはず。
右腕は完全に死んでいると、勘違いしている可能性は高い。
今のダオスならば、出来る。ダオスレーザーの片手撃ち。
魔力も十分。左右の手からダオスレーザーを同時に発射し、十字砲火さえも可能。
ミトスと放ったあの技、「ダブルカーラーン・レーザー」の単体での使用さえも。
一撃放てば、もう右手は粉微塵になる。魔力も底を尽きる。だが、どの道時間が進めば、それらは全て死神に奪われる。
ならばためらいはしない。右手も魔力も全てくれてやって、デミテルを葬り去る。
雄叫ぶダオス。
その髪の毛は、すでに大半が銀髪と化していた。
163DとDの戦争20:2006/05/28(日) 12:16:45 ID:kbowLSWJ
ダオスも。デミテルも。
満身創痍。疲労困憊。
次の一撃で、全てが決まる。
互いにこれ以上、打てる手はない。追撃の余力はない。ゆえに勝負は一瞬で決まる。
一撃必殺。乾坤一擲。
駒は転がりに転がって、とうとう王(キング)同士の直接対決にまでなった。
まともなチェスを打てば、ありえないような布陣。
だが、この「バトル・ロワイアル」という名のチェス盤は、そのありえないはずの布陣さえ、ありえてしまう魔の戦場。
まともに駒を動かそうとも、それをいつの間にかねじれさせる、歪みの空間。
ダオスもデミテルも、その歪みに、力でもって、知でもって立ち向かって来た。
歪みに歪みで望んだ結果が、この戦況。もはや小細工抜きの、真っ向勝負。歪みに歪みで応じて、結果生まれた正面対決。
あまりにも真っ直ぐ過ぎる戦局ゆえに、この戦いはあまりにも美し過ぎる、戦士と魔術師の対決の構図を呈していた。
戦士と魔術師の正面対決は、一瞬で決着がつく。
戦士の剣が魔術師に達するのが先か。魔術師の呪文が編み上がるのが先か。
戦士は魔術師の魔術には耐えられない。しかし魔術師は一度懐に入られれば、あとは戦士からの一方的な虐殺が待つのみ。
どちらが速いか。互いに互いを殺める武器があるゆえに、ただそれだけが、勝負の鍵となる。
戦士たるダオス。魔術師たるデミテル。
そしてこの勝負、互いに持ちうる伏せ札は一枚限り。
ダオスの持つ、一撃限り術技を放てる、仮死状態の右腕。
デミテルの持つ、魔術の高速詠唱の紋、ミスティシンボル。
互いの持つ余力と、互いの持つ一枚限りの伏せ札。
ただそれのみが、この勝負を決する。
ダオスの拳が、ダオスの閃光が、デミテルを先に殺めるか。
デミテルの呪文が、デミテルの編む魔術が、ダオスを先に殺めるか。
金の王と、青の王がぶつかる時。
金の王と、青の王の伏せ札が表となると時。
審判の瞬間は、今訪れる――。
164DとDの戦争21:2006/05/28(日) 12:17:55 ID:kbowLSWJ
【ジェイ 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症(軽度) 喀血(軽度) 顔面打撲 クライマックスモード発動可能
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(2枚)双眼鏡 エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
基本行動方針:脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:現状の把握、及び一同への説明
第二行動方針:ダオスとデミテルを追跡。ダオスが撃破されたなら、代わってデミテルを追撃する
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィの救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E3の丘

【グリッド 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症 喀血 
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3の丘

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% 身体・フォルス不安定 傷口を凍らせ応急処置 毒による粘膜の炎症 喀血
所持品:チンクエディア(氷のフォルスでコーティング)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジェイの助けを借りて状況を把握する
第ニ行動方針:ティトレイの説得
第三行動方針:ルーティのための償いをする。
第四行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3の丘
165DとDの戦争22:2006/05/28(日) 12:19:07 ID:kbowLSWJ
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態:意識不明(毒は吸っていない) TP残り15%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック 短弓(腕に装着)
基本行動方針:???
第一行動方針:???
現在位置:E3の丘

【デミテル 生存確認】
状態:HP60%(右腕損失 顔面強打 全身打撲) TP10% 狂気
所持品:ミスティシンボル、アザミの鞭
基本行動方針:漁夫の利を狙い立ち回る
第一行動方針:ダオスの始末後、逃走して態勢を立て直す
第二行動方針:自らの策を台無しにした者を全員始末する
現在位置:E3の丘の東部

【ダオス 生存確認】
状態:TP残り25%  HP1/8 死への秒読み(死期はすぐそこに迫っている)壮烈な覚悟 髪の毛の大半が銀髪化
左肩やや裂傷 全魔力解放  胴体やや出血 右腕重傷(一度限り術技の行使に耐えられる)
所持品:エメラルドリング(残る全ての荷物はジェイに譲渡)
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテルの殺害
第二行動方針:クレスの殺害
現在位置:E3の丘の東部

※ジェイのクナイは、E3の丘に転がっている。回収可能。
※魔杖ケイオスハートはE3のどこかに弾き飛ばされ所在不明。
166Isolated Magician 1:2006/05/31(水) 19:05:49 ID:cqNmYsqf
蹲る三人の男。その先に、一人の男が立っていた。
一人は、突き刺さるような毒の痛みを堪えるのが精一杯で、
一人は、全く望外からの三連射によってその片足と片手、そして胸から赤を滲ませている。
既に滄我の恩恵を受ける意志は混濁していた。
そして最後の一人は、祈るような四つん這いで、その魔弾の射手を見上げていた。

「何故…どうしてお前が…」消え入りそうで、しかし確かに響く声。
しかし彼は応えない。
「お前は…あいつに操られていたんじゃないのか…」嘘であってくれと、血を吐いて願った。
彼は彼の方を向いた。月を背に、月光を逆光に、彼の瞳は陰っていて見えない。
「見るなって言ったろ。どうして会っちまったかな…」彼の唇が動く。笑ってはいない。
ゆっくりと左の手を突き出し、右の手で弓を引く。彼の方へ。

「お前の親友は、もう死んでるんだよ」
弓が、撥ねた。世界の全てが振動で出来ていることを証明するかのような一射だった。


魔王が加速する。怨敵をこの手で滅するために、マッハ魔王、ダオスが征く。
魔術師が静止する。究極の死地を踏破するために、孤高の魔術師、デミテルが佇む。
巡り巡った戦争の果てはクイックドロウ。
西部劇とは思想も作法もかけ離れているが、エネルギー節約という一点に於いてこの戦闘方法は評価できる。
余力がない。狭まった選択肢の中で残された道。真夏の昼下がりのように、時間が粘性を帯びていた。

デミテルが左の鞭を持ったまま、ローブの中に手を入れる。
それを目視したダオスがほんの一瞬、加速度を失する。この局面ですら小細工を疑う。
手から、葉を一枚。素早く丸め、端を乱雑に嚼み、魔術で火を付けた。
煙に灼かれる雑念、全ての思考を再起動する。
魔術以外の何物とも疑いようもない事実を、ダオスは疑う。ほんの一瞬、速度を失する。
空白の一瞬の後、魔王の眼前にあったのは緑の蛇。鞭が、大口を開けて、魔王の眼を啄む。
ダオスは世界の半分を失い、その体をよろめかせる。
鞭を振るい煙を揺らめかすデミテルの眼光を知る。
魔術師の反撃は魔術と固執した自分を責める。魔術すらフェイク。
蛇は未だ空腹なのか、魔王のもう片方の眼を啄みに掛かった。
怒れる魔王の左手が、聞き分けのない蛇の首を掴み、引きちぎる。
鞭の半分を放り投げた左手は棘に血を濡らす。
最後の意志を形として、蛇の半身が見事な半弧を成して重力に平伏した。
167Isolated Magician 2:2006/05/31(水) 19:07:33 ID:cqNmYsqf
ダオスはさらに足を進める。絶対優勢の機をデミテルの蛇によって食われたとしても、敗北は許されない。
十億の民の為に、そして、マーテルの為に。デミテルを見据える。その拉げた面の向こうから、
眼光が覗く、命乞いを知らない瞳の光。どす黒く、光など知らない瞳。
判断が僅かに遅れる。上空からの殺意を遅れてダオスは察知した。
歩みを止め一歩引き、首をあげてダオスは夜空を見る。
満天の星と二つの月、それ以外に、赤い星、否、火球が八つ、飛来する。
デミテルが唯一持つ「技」、ヘルジェムが空で爆散し、落ちる。
ダオスは最早防御に回す力すら無く、紙一重でそれらを避ける。マントの残りを貫通する火球。
火球一つ一つが、地面に落ちて、僅かに草を燃やし、消えていった。
ダオスは心から怒りを覚えた。片目の死角が出来た瞬間からヘルジェムを高度上空に投げたのか、
先ほどの眼光もこれを当てる為のフェイク。ダオスは許せない、この期に及んで小細工を弄する
ことも何より、デミテルが一向に諦めないと言う事実が、非を侘びる意志のないことが許せぬ。

気づけば、デミテルの葉巻は既に半分が灰になっていた。その左手の鞭もまた半分になっている。
気づけば、ダオスの衣類はマントは半分が灰で、右手は限界を訴えていた。

何も言わず、何も語らず、何も懺悔せず、デミテルは走り出した。曖昧になる戦士と魔術師の境界。

ダオスの左手が、白く輝く。マナを手のひらに収束させる。
デミテルの蛇が、魔王の左手に絡みつく。
ダオスの右手がデミテルの心臓に添えられる。収束するマナ。
デミテルの左手が、蛇を解き、魔王の左手を介して右手を微かに動く。落ちる蛇のつがい。

ダオスの右手から、レーザーが発射され、デミテルの左肩から先とダオスの右肩から先は消滅した。
168Isolated Magician 3:2006/05/31(水) 19:08:21 ID:cqNmYsqf
「…ここまでだな、デミテルよ。そのミスティシンボルを使う余力も無かったか」
ダオスは左の手を両膝を折ったデミテルの頭に翳す。破れたローブの向こうに、魔紋が覗く。
赤子を褒める親のように。与えるのは飴ではなく、滅び。腕一つ分で、魔王の勝利。
顎を引いたデミテルの表情は、メッシュの髪と未だ煙る葉巻の煙に隠れてダオスからでは判別が付かない。
「…私にここまで肉薄したその恥知らずな精神を讃えて、一つだけ聞いてやる。
何故私に反旗を翻した?貴様の目的は何だ?この私に逆らってまで成す理由とは何だ!?」
自身に時間がないのは重々承知している。しかし、そのマーテルを殺した意志だけは明白にする必要があると
ダオスは考えた。マーテルへの弔いのために、これだけは成さねばならぬと。
「…意味などありませぬ。私はただ、ゲームをしていただけのこと」
燻る煙の向こうから声が湧く。
「誰が死のうが生きようが私にとっては些細なこと…私自身の生き死にすら、些細なことです。
ただ、死ぬまでの退屈しのぎにちょうど良かった…生ける所まで生きて、死ねればそれで良かった…」
灰が微かに落ちる。ダオスの左手が震えていた。
「私は遊びに手を抜くつもりはありませぬ。遊びを完遂するためには、貴方の排除が絶対条件だった…
故にそれを完遂する…当然の思考順序です。その為のもっとも効率の良い手段が、あの女だった。
…実に当たり前の流れです…否定は、出来ますまい?私は唯…混沌たる疑獄が、見たかっただけ」
ダオスは唇を噛む。完膚無きまでに滅する、その瞬間を今と定めた。左手が白く輝く。
「…もういい。貴様の戯言は結構だ。最後に答えろ…何故今になって馬脚を現した!!
何故持論を覆してまで、性急な策を執った!?」
もう葉巻は一センチもなかった。
「…知ってしまえば欲しくなる。喩え、唯のパーツだったとしても、神の力が其処にあった」
煙と共にデミテルが呼吸する。
「我らの中に流れる忌まわしきエルフの血脈―――その根拠を粉砕する力…あの力に私は魅せられた…
あの光を止めたくなかった…使いたかった…それだけですよ、ダオス様」
フフッと、鼻で笑う音がする。ダオスは、左手に最後の力を込めた。
「…一つ、回答を忘れていましたな。なぜ同じ手を知って尚魔法陣を使ったか…」
デミテルが首をあげる。ダオスの眼に、それが映った。
「私がこれを完成させるためですよ」デミテルの葉巻が口から、術の起爆装置が、地面に落ちた。

鈍光が辺りに掛かる。デミテルの操作を受けた蛇の番いがウロボロスのごとく環を繋いでいた。
その環の中に八つの点とそれを結ぶ線の焼け跡が文様を刻む。
徹底した魔方陣による陽動、そして罠。すべては「これ」を生み出すための、
神の力を体現する為の演習、神々の演習。
169Isolated Magician 4:2006/05/31(水) 19:09:05 ID:cqNmYsqf

「…デミテルゥ…!!貴様…何をしたァ!!??」
ダオスは筋一本動かすこと叶わない。デミテルは応えない。ただ笑っている。真理に至った笑み。
ダオスはこれを解くことが出来ない。魔方陣ではないから。タイムストップではないから。
デミテルがあの激闘を全て計算し、構築した魔術式「弧方陣」。

‘エタニティワールド’

人の力では扱うことも叶わぬ、破滅のモノにしか扱えぬ時間停止の弧方陣。
フォルスに惹かれたデミテルが使用の可能性を模索した結論が「陣術」である。
心の力とマナ…源は異なれど文様を刻みそれを媒介とする理論は酷似している。
専門外であるティトレイの情報だけでは足りず、何よりフォルスを使うことの出来ないデミテルは
魔法陣側からアプローチするしかなかった。何回にも及ぶ検証とサウザンド・ブレイバーによる実証から
編んだ、緻密なる術式。理論的にはミスティシンボルで可能になるとはいえ、
それら全てを計算し、構築したのはデミテルの神算。
本来ならば低級の陣術から始めるのが常道、しかし、狂人に道理など無い。
神の力を手中に…その狂気だけが、人外の演算を是たらしめた。


全く未知の術にダオスは察知することも叶わなかった。標準はすでに定まっている。
あとはダオスレーザー一発で全てが終わる。しかし霊的機関ですら「止められた」以上撃つことは叶わない。
しかし厳密なる時間停止ではない。ダオスのマナの流出は一向に止まらない。
事実として金糸は一本一本と力なき銀髪へと変じている。

挑発からの一連の流れは全て魔術師の掌に。
ダオスがこれ以上ないというせっぱ詰まった表情を見せる。
デミテルの瞳はそれを写し、笑みは一向に変わらない。
今動かねば、私は何の為にこの大地に下り立ったのか。今動くためではないのか。
デミテルは一向に動く気配がない。ダオスの状態を察し、惨めに死んで逝くのを鑑賞しようというのか…
何処まで外道なのか。ダオスは憤慨を露わにする。
170Isolated Magician 5:2006/05/31(水) 19:09:37 ID:cqNmYsqf
「デリス10億の民よ…マーテルよ!私に、最後の力を!!」
ダオスの左手が、ゆっくりと、確実に動く。全てのマナを、命すらも込めて左手だけをマナで守り、
デミテルの顔へ近づけた。距離が狭まるにつれて、数の減る金糸。命の明細。


ゆっくりと、母なる星を掴むように、無限とも思われた時間の最後に、

ダオスはデミテルの顔に触れ、全てを知ったとき、弧方陣は解除された。


「…ふざけるなよ、デミテル…」
デミテルは応えない。唯笑っている。

狂気故、不可能たる弧方陣を完成させ、

狂気故、それが不可能たることを知らず、

狂気故、己の限界を超えて術を行使した。

「勝手に死ぬ権利など、貴様にあると思っているのかァ!!」
デミテルは応えない。唯笑っている。

神の力に至った笑みが、其処に遺っていた。
171Isolated Magician 6:2006/05/31(水) 19:11:31 ID:cqNmYsqf
ダオスは、両肩から大量の血を失血した骸を眺め逡巡する。
奴は、いつから死んでいたのか…陣が完成した時にはもう死んでいたのか…
フォルスに魅了されたデミテルは、最後の最後までサイコロを振らなかった。
策略を編み、確実に勝つ戦術を最後まで模索し続けた。命を賭けることをしなかった。
ダオスは、デミテルを討ち取ったと、言えるのだろうか…全ては方陣の中に包まれて不定となる。

ダオスは自身の状態を確認する。
もう残った金の髪は数本もない。皮肉なことに、デミテルを殺すための体力だけが残ってしまった。
もう私が成すべき事もない。後は、彼らに託し、デリス10億の希望を繋ぐのみ。

「マーテル…もうすぐそちらに行く…彼らを助けるまで、もう少し待っていてくれ…」
「そいつは、無理だ」

トスン、トスッ、トス。
ダオスの衣類が、紅く染まる。心臓に三連、「愚連墜蓮閃」がダオスを貫いた。
唇から血が漏れる。ダオスは後ろを向いた。
月光が逆光で、彼の顔はよく見えない。ボーボーな髪の毛が印象的な、シルエットだった。

「き…貴様は…」
血と共にダオスの弱々しい声が漏れる。陰は、ゆっくりと彼に近づき、彼を通り過ぎ、
既に息絶えた魔術師の亡骸、その前で片膝を折る。魔紋を胸に仕舞い、形見とする。
「…ああ、両腕が無くなって、失血死か…死んじまったのかよ…おっさん」
悲しみは無い。ただ、人形の中にあるのは、虚無感、そして怒りの模造品。
「貴様は、奴に操られていたのでは無いのかッ!!」
ダオスは残った腕で出血部を抑える。目の前にいるのはデミテルの駒、それだけだったはず。
その男、ティトレイ=クロウは、振り向き様にダオスの顔を一蹴した。無論、目の見えぬ方から。
噴出する魔王の鼻血、プライドだけで横転を拒む。
「…どうしてくれんだよ…本当に、真っ暗になっちまったぜ?」
月明かりがティトレイの顔を映す。彼の顔には、涙が流れていた。
172Isolated Magician 7:2006/05/31(水) 19:12:13 ID:cqNmYsqf
ヴェイグは苦悶する。先ほどの光景を、信じ難き友の行為を振り返って。
グリッドはもう何をどうして良いやらと言った顔付きで。

ダオスが離れた後、ジェイは薬の効果に苦しみながらもヴェイグ達に事情を説明した。
悪逆非道の魔術師デミテル、そしてそれに付き従う砦の存在。
ヴェイグは認めたくは無かった。しかし、また一人の女を斬った身である自分に反論の権利は無かった。

其処に、ティトレイがぬるりと目を覚まし、立った。二、三歩歩いて、背中を向けたまま月を見上げる。
ヴェイグはある種の淡い希望をティトレイに求めた。
自分を見て、サウザンドブレイバーの直接砲撃を避けてくれた。こいつが今までどれだけ罪を犯したとしても、
俺だけでも許すことが出来たなら、デミテルの呪縛を断ち切りまた仲間になってくれると―――妄想した。
直後、ティトレイは腕のショートボウを構え、ヴェイグの方を向いた。直後、三連射。
専用の闘弓でないため、連射は困難でも奥義として放てば連射も可能。
軽度とはいえ薬物の影響下にあったジェイはその殺気のない弾丸を避けること叶わなかった。
まず足の腿に一射、蹌踉けたところに手首に一射、そして
「やめろ!ティトレイ!!」
心臓付近の大動脈を狙って、最後の一射が射抜かれた。


「お前の親友は、もう死んでいるんだよ」
弓が撥ね、ヴェイグの眼前をギリギリで避けて弾が飛んでいった。

「ペトナジャンカのお前の親友はな…二つ遺体を見つけた後でも、同じ年位の女も守れない
クソったれだから死んじまったよ。お前の目の前にいるのは…魔術師を守る唯の名もない弓兵だ」
ティトレイは後ろを向く。そして東に歩を進めた。
「お前は…あいつに騙されて…」
「知ってるよ。そいつの話を聞いていたからな…いや、途中から分かってた。分かってておっさんの駒に成ったんだ」
「何故だ!!応えろ、ティトレイ!!」
「…あの時、しいなが血塗れになったとき、俺は死ぬはずだったんだ。このゲームを認めて、死ぬはずだったんだ」
ティトレイは歩みを止める。声に淀みはない。
「全部が真っ暗になって、どうしようもなくなって…何にも無くなっちまった。
…あのおっさんだけが、俺にとって光だったんだ。
おっさんの駒になることで、俺はしいなのことを忘れて、おめおめと生きることだ出来たんだ。
扉を開けることが出来たのは、デミテルだけだったんだ。デミテルだけが、俺の希望だった。
俺は、もうあいつの人形としてしか、生きられねぇ…そんな俺を、お前には見られたくなかった」
ヴェイグにはティトレイが何を言っているのか要領を得ない。それでも、まるで自分のフォルスのような
冷気だけは分かる。ティトレイは、本気なのだと。
173Isolated Magician 8:2006/05/31(水) 19:12:51 ID:cqNmYsqf
「待て…ティトレイ…」
ティトレイは再び歩みを始めた。主の元へ征くために。
「ヴェイグ、俺のことなんか気にしてる場合か?そいつ、もう死ぬぜ?」
グリッドは横のジェイの容態を見る。足と手首の一撃はそれほど危険ではない。
問題は腹部からの失血。唯でさえ青白いからだから生気が抜けていく。
「ティトレイ!お前じゃあいつには…ダオスには勝てん!!」
繋がらないキャッチボール。鬱蒼とした樹木に覆われた友情。
「…そうか、放送でお前が呼ばれたのはあいつの仕業か。
ヴェイグ…仲間を殺すなんて俺にはできねえ…だから…俺の見てないところで、死んでくれ」
沈黙するヴェイグ。惑うフォルス。空気が、寒い。
「待て!ティトレイとやら!!」
突如グリッドが吼える。毒にやられた状態だから、少し噎せた。
「あいつは、何処をどう見たって見事な悪党だ!お前がいるべき場所は其処ではな〜い!!」
恐るべきメンタルの強さ。ヴェイグも見習うべきだろう。しかし、ティトレイには届かない。
「世界には正義と悪、二つしかねえ…それはよく分かってる。でもな、それでも俺はあいつに救われた…
恩があるんだ。俺の居場所は、そっちにはもう無えよ。ヴェイグ…親友だったんなら少しくらい分かんだろ?」
ティトレイは最後に一言残して走り去った。追う者は誰もいない。

「義理人情無くして、ヒトは務まらねぇぜ」

最後の言葉は、ヴェイグの絶叫にかき消された。
174Isolated Magician 9:2006/05/31(水) 19:13:37 ID:cqNmYsqf
「ジェイを手に掛けただと!!」
ダオスは鼻血と共にマナを噴出しながら、怒りを燃やす。
「まだ死んでねぇよ。むっつりのヴェイグちゃんが一年前に何したか思い出せれば、手はまだある
 …まあ、それが本当に救いかどうかは、分かんねぇがな」
ティトレイは戯けたように口を動かす。その顔は未だ無表情で、人形で。
「贖う意志があるならば、見逃しても良かったが…どうやら貴様も滅ぼさねばなるまい!!」
託すべき希望を断たれた無念、更なる激昂。それが挑発であることにも気づかず。
「親友だった最後のよしみだ…仇はとってやんぜ、ヴェイグ」
ティトレイが走り出す。もはやほとんど見えぬその目でダオスは敵を見据え、拳を振った。

「テトラアサルト!!」
「牙連撃」

ティトレイの拳がダオスを半壊させる。腕一本と腕二本。精神論ではどうにもならぬ世界。
すでにダオスに戦力は残されていなかった。
「飛べよ。飛連斬空脚」
ティトレイの追撃は止まない。隙のない連撃から奥義へと流れるのをダオスは止めることは出来ない。
ダオスは飛ぶ、空へ、そのままデリスカーラーンへ飛んでしまうかのように。
ティトレイは蹴る、空へ、デミテルの願いを完遂するために。

高く高く飛んで、ダオスは天使のごとく空に吹き飛んだ。

着地するティトレイを確認する中空のダオス。
「貴様は…貴様だけはこの手で…殺す!マーテル、私に力をォォォォ!!」
全てのマナを解放する。レーザー一発分のマナ、それが全て。
その全てを半壊した掌に収束させる。重力を味方に付け、決死のダオスコレダーを試みる。
ダオスは輝く。太古の血を励起し、天使の波動をその手に。この一瞬を、女神に捧げる。
175Isolated Magician 10:2006/05/31(水) 19:14:55 ID:cqNmYsqf
「悪ィな、それ、知ってるんだ」
ティトレイは構える。重複する意味。
一つ、デミテルから口を酸っぱくして聞かされた技そのものへの知識。
そして、二つ。同じルーツの技を持っているということ。
腰溜に構え、両の掌底を結ぶ。収束するオーラ、必殺の波動。

「ダオスッ!!コレダァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「緋桜、轟衝牙」

まだ日の出ではないのに、少しだけ朝が顔を覗かせた。光の中に翼が有ったからかも知れない。


ティトレイは体中を埃塗れにして親指で鼻をかいた。
デミテルは死んだ。しかし、この堕ちた身に戻るべき場所はない。
ティトレイ=クロウはもう死んだ。感情を失った過去がその事実。
もう死んでもいい、ともティトレイは思った。守るべき魔術師を失った弓兵に居場所など有ろうか。
ティトレイは西を向く。どうせ死ぬならば、最後にこの一日を生かしてくれた
デミテルへの恩に報いる。それもまたいいだろう。
この命尽きる断罪のそのときまで、デミテルが願った混沌の疑獄に荷担しよう。
ここにいない連中が知ったらきっと信じないだろう。しかし、虚無を、しいなを屠り
生きようと願ったあの二つの死体を彼の目の前に用意しこのゲームは、
紆余曲折を経て、彼を修羅へと駆り立てた。
まずは、とりあえずデミテルの元に共にいた誼として、奴にデミテルの死を伝えなければ。
もう悪夢の夜は終演へと向かっている。夢は覚めた。ここは退くべきだろう。
奴を死なせるわけにはいかない。最悪…友殺しの剣を用意しなければならないのだから。

ティトレイはそれから指輪を拾い、その場を去った。
全てを黒く染める、その心の中の箱に入った闇の力の在るべき姿と共に。

哀れなる、魔王と魔術師の遺骸が両の腕が欠けたまま、禿げた丘の上にあった。
176Isolated Magician 11:2006/05/31(水) 19:15:34 ID:cqNmYsqf
【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態: TP残り10% フォルス活性化(闇の力?) 感情希薄
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック  
    エメラルドリング 短弓(腕に装着) ミスティシンボル
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る(優勝する気は無い)
第一行動方針:クレスと合流。援護した後、撤退
第二行動方針:クレスにヴェイグ殺しを依頼する
現在位置:E3の丘東部→E2城跡

【ジェイ 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症(軽度) 喀血(軽度) 顔面打撲 現状クライマックスモード発動不可
   左手首・右足貫通 心臓付近に貫通(出血中) 意識混濁
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(2枚)双眼鏡 エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
基本行動方針:脅威を排除しながら、脱出方法を模索する
第一行動方針:???
第二行動方針:ダオスとデミテルを追跡。ダオスが撃破されたなら、代わってデミテルを追撃する
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:シャーリィの救済策の模索
第五行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:E3の丘

【グリッド 生存確認】
状態:毒による粘膜の炎症 喀血  混乱
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:ジェイの救護
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3の丘

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% 身体・フォルス不安定 傷口を凍らせ応急処置 毒による粘膜の炎症 喀血 衝撃
所持品:チンクエディア(氷のフォルスでコーティング)
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ジェイの救護
第ニ行動方針:ティトレイの説得
第三行動方針:ルーティのための償いをする
第四行動方針:カイル、スタンの2名を探す
現在位置:E3の丘

【ダオス 死亡確認】
【デミテル 死亡確認】 残り20名

※ジェイのクナイは、E3の丘に転がっている。回収可能
※魔杖ケイオスハートはE3のどこかに弾き飛ばされ所在不明
177名無しさん@お腹いっぱい。:2006/05/31(水) 21:24:56 ID:yUgvV/Fv
( ´,_ゝ`) プッ
178名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/04(日) 19:27:01 ID:P8VHqGDv
m9<`∀´>
179名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/08(木) 16:27:04 ID:PUiuF/fa
保守
180名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/09(金) 01:15:45 ID:1BuOfGlN
気持ち悪いスレ
181凍りつく灯火、砕け散る希望1:2006/06/11(日) 13:07:10 ID:lWaCsGMG
「くそっ…くそっ!!」
凍れ。凍り付け。
ヴェイグは叫びながら、傍らに横たわる少年の胸に、両の手を押し当てた。
幸か不幸か、矢は貫通している。恐らくティトレイが放ったのは、闘気の矢。それゆえ体内に矢やその欠片は残っていない。
ヴェイグは、先ほど自分の傷口にしたように、刻一刻と命が流れ出すその少年に…ジェイに氷のフォルスを施していた。
カレギアを巡る旅の最中、医師でもあった少女アニー・バースの指導より、ヴェイグは傷口の凍結という応急処置法を教わった。
傷口を凍らせることにより、患部からの出血を止め、傷を腐らせぬよう守る処置。
ヴェイグはつくづく、ここにはいない少女に感謝を捧げながら、ジェイの傷を凍らせた。
左手と右足の傷は、すぐに凍りついた。制御を誤れば逆に患者を凍傷にかからせかねない危険な綱渡り。
ヴェイグはそれを、何とか成し遂げていた。
問題は、ジェイの胸の傷。
ジェイの命を今まさに奪おうとしているその傷は、冷酷な事実を伝えていた。
徐々に疲労の色が深まるヴェイグの表情に、表れつつある感情の名。絶望。
あまりにも傷が深過ぎる。傷が、完全に内臓にまで達している。
出血がひど過ぎて患部をよく確認出来ないが、この出血量。
おそらく心臓は直撃していないが、心臓に直接連なる血管が破れている。
心臓に連なる血管が破れていたなら、本来癒しの術を得意とするアニーでさえ、生半可な陣術では処置しきれない。
ここにアニーがいてくれたなら。せめて、「R・エリキシル」あたりが使えれば。
氷のフォルスと陣術を併用すれば、ジェイの命を拾うことは、あるいは出来ていたかもしれない。
直接破れた血管の裂け目を凍りつかせても、心臓の鼓動のせいで凍らせた側からくっつけた損傷部が破れてしまう。
だからといって、全力でフォルスを用いて強引に患部を凍らせるなど論外の処置。
言うまでもなく、そんな事をすれば関係ない部位まで凍結させる危険も大きい。下手をすれば心臓そのものが凍り付いてしまう。
だとするならば。
182凍りつく灯火、砕け散る希望2:2006/06/11(日) 13:08:54 ID:lWaCsGMG
(やるしか…ないのか?)
1年と少し前。大切な人に見舞ったあの仕打ちを。氷のフォルス使いにのみ許される、あの芸当を。
ジェイの肉体をそのまま氷の中に閉じ込め、仮死状態のまま眠らせるという、あの手段を。
そうすれば、ひとまずジェイは死なずには済む。時間は稼げる。
あとは、ハロルドと合流して全力で回復を行ってもらう。
ヒトを凍りつかせ眠らせるというあの手段は、出来ればヴェイグ自身、行いたくはなかった。
それは「ラドラスの落日」のあの晩、己の呼び起こした悲劇を再現することに他ならない。
クレア・ベネットの1年の時を奪った、あの悲劇を。
「凍れ…塞がってくれ!」
ヴェイグの悲痛な声。だがそれは、詮無い望みに過ぎない。
氷のフォルスで出血を抑えても、血の流れ出る勢いの方が強い。
もはや、フォルスを用いて傷口を塞ごうとしても、それは無意味な延命措置に過ぎない。
応急処置はしたから、今すぐ死ぬようなことはないだろう。しかし、時間が経てば同じこと。
全身を凍らせ、仮死状態にしなければ、このままジェイは死神に引きずられて、いずれは奈落の底に寄り切られる。
ヴェイグのフォルスも、そろそろ心許ない。ジェイの全身を凍らせるという措置を選ぶことの出来る、最後の機会。
ヴェイグは一旦、フォルスの放射を止めた。
「…はあ…はあ……くそ!」
思わずヴェイグは吐き捨てた。例え氷のフォルスが使えようとも、所詮彼にはまっとうな医術の心得はないのだ。
おまけに、もとより直接体内をフォルスで冷却するなど、荒療治もいいところ。
第三者が見たなら、ジェイをわずかなりとも延命させられただけでも僥倖と思うだろう。
だが、それでも足りない。ならばもはや取れる道は、この処置を更に上回る荒療治。
無茶苦茶もいいところだな、とヴェイグは半ば自嘲的に呟いた。
183凍りつく灯火、砕け散る希望3:2006/06/11(日) 13:09:52 ID:lWaCsGMG
この「バトル・ロワイアル」の会場の空気には慣れたつもりでいた。今立っている戦場は、何から何まで勝手が違う。
狂気こそ正気。異常こそ正常。定石を打てば、その定石を上回る現実が怒涛のようにかぶさってくる。
そんな中で、まだ全身を凍結させるという手を「無茶苦茶」と感じられる感性こそ正しいのか。
「無茶苦茶」と感じる時点で、この会場という魔物に一枚上回られているのか。
そんな言葉遊びをしてみると、馬鹿馬鹿しさのあまりヴェイグは頬が緩むことを感じていた。
けれでも、状況は己をあざ笑っている時間さえ与えてくれない。ヴェイグはそれを理解できないほど愚劣ではない。
次の瞬間、ヴェイグは再びその表情を引き締める。
(クレア…ユージーン…マオ…アニー…ヒルダ…それから、ティトレイも。
俺に、力を貸してくれ。俺にこの力を使う、勇気を与えてくれ)
勇気。それは恐怖に耐えようとする心の力。己の醜さや、無くしてしまいたい過去と向き合う意志。
「ラドラスの落日」のあの悲劇を、もう一度繰り返す。
愛する者の時を凍らせるためではなく、迫りくる死神の足を凍りつかせるため。
ヴェイグは、大きく息を吸い込む。心の奥底から、全ての力を呼び覚ます。
ヴェイグは身を乗り出し、意識の混濁したジェイに呼びかける。
「これ以上ないくらいの荒療治になるが、許してくれ」
己が心の力の顕現、フォルスを展開。ヴェイグの両の手に、2つの輝きが現れる。
天国と地獄。どちらを見るかは分からない。だが、地獄を見る恐ろしさゆえに、天国へ至る道を投げ捨てはしない。
両の手をスクラムさせ、凍気を凝縮。アイスブルーの光の渦が、ヴェイグの手の中に巻き起こる。
(俺の力よ…光になれ。全てを凍らせる、凍て付く光になれ!)
ヴェイグがその両手を、ジェイに下ろさんとしたまさにその時。
「がはっ! …ぅあ…!!」
目の前の少年の口元から、赤い霧がほとばしった。
ヴェイグは一瞬ぎくりとなるが、すぐさま状況を呑み込む。
ジェイは大量の出血でもって失った意識を、たとえ完全にとはいかなくとも止血されたことで取り戻したのだ。
「ぐふ! はぁ…はぁ……ぁ…」
息も絶え絶え。それでも、目を覚ましつつあるジェイ。
「大丈夫か? 大丈夫なのか!?」
ヴェイグは震える呼吸を続けるジェイに、呼びかける。
184凍りつく灯火、砕け散る希望4:2006/06/11(日) 13:10:34 ID:lWaCsGMG
「…なん…とか……うぅ…!」
意識を取り戻したジェイ。だが、すぐさま覚えた胸の激痛に、思わずうめき声が上がる。
「今は安静にしていろ。お前はかなり危険な状況だ」
「…それくらい…分かります…よ……」
意識を取り戻すも、もはやジェイの五体にはわずかな力しか残っていなかった。そのまま両手両足を投げ出し、浅い呼吸。
「…何が…あったんですか? 今度は…」
「俺の説明する番か?」
ヴェイグはジェイを労わり、彼の言葉の後半を引き取る。
ヴェイグは一つ間を置いてから、状況を簡潔に説明した。
ジェイはデミテルの繰り出した「春花の術」を受けた苦痛に耐えながら、自分とグリッドに状況を説明してくれていた。
そこから先に何が起こったか。
ジェイは目覚めたティトレイに不意を打たれ、闘気の矢を全身各所に受けたこと。
特に重傷なのが、胸の傷。心臓への直撃は免れたものの、おそらくは心臓に直結した血管が破れたこと。
それを自身の持つ能力で処置したが、このままではジェイはいずれ失血死を免れないこと。
そこで誰か、癒しの術を使える人間が来るまでの間全身を凍らせ、仮死状態にするという処置をこれから施そうとしていたこと。
そしてジェイの最も知りたいであろう、ダオスとデミテルの戦いの顛末は、グリッドに確認をしに行ってもらっていること。
「俺達が確認した時点で、ダオスも、それからデミテルって奴も、かなりボロボロの状態だった。
今頃は、決着が付いていると見ていいだろう」
ヴェイグは、しかしそこでティトレイのことはあえて伏せておいた。
先ほどの2人のやり取りの様子からして、ジェイとダオスは仲間同士という推理はヴェイグも容易に出来ていた。
そして、ティトレイのこれまでの行いと捨て台詞を考えると、ティトレイはどちらに味方したか――。
下手に話すと、話がややこしくなりそうだし、何よりヴェイグ自身気まずくてとても話せるものではない。
「『フォルス』…でしたっけ? 本当に、この『バトル・ロワイアル』では、何でもありなんですね…」
「ああ。お前が『木遁の術』と呼んでいる技は、カレギアでは『樹』のフォルスと呼ばれている」
「なるほど…キールさんが聞いたら、また質問攻めしょうね」
このE2の城周りの血戦が始まる前の休憩時間、キールとジェイは多くの情報を整理した。
キールはそれをメモとしてまとめ、今頃持っているはずである。
185凍りつく灯火、砕け散る希望5:2006/06/11(日) 13:11:23 ID:lWaCsGMG
この局面を乗り切れば、キールのメモにフォルスの項目も追加されるはず。
このアイスブルーの瞳の男は、先ほどの話の中で、この鮮血のゲームに乗る気はないと言っていた。
彼もまた、灯火を携える仲間になってくれるだろうか。
ジェイがそんな事を夢想した次の瞬間、東の方から男の声。
「ヴェイグー! 向こうの様子を見てきたぞー!!」
例え地に落ちようと、翼が折れようと。未だに砕けぬ不屈の意志を胸に秘めた男、グリッド。
ヴェイグはジェイともども、その視線を彼に向ける。
「おお! その少年は息を吹き返したのか!」
目を開けたジェイの顔を見て、グリッドは快哉を上げる。ヴェイグはしかし、あくまで冷静に事実を告げる。
2人に駆け寄り、グリッドが完全に会話の輪の中に入り込んだところで、ヴェイグは重い口を開いた。
「ああ。だが、このままではジェイの命は危ない。…だから、俺は今から最後の手段を使う」
ジェイの肉体を凍り付かせ、そのまま仮死状態にして保存するという手段。ヴェイグは淡々と、グリッドに言い放った。
「ヴェイグ…お前のフォルスとかいう能力は、何でもありなんだな」
「本当に『何でもあり』なら、苦労はしないんだがな」
ジェイと同じ感想を漏らすグリッドに、ヴェイグは右手で自らの前髪をかき上げるようにして、顔を覆いうつむく。
この状況下で、ジェイは命を繋げる見込みがあるだけでも十分に運がいい部類に入る。それでも手放しで喜ぶなど出来るものか。
見ず知らずのこの少年を傷付け、死の淵に追いやったのはティトレイだというのに。
一度は心を許してしまった、狂気に駆られた友人だったというのに。
あの時のティトレイの目を、ヴェイグは見たことがある。
ゲオルギアスの思念に冒されたガジュマ達の目。一度は自身を絞殺しかけたポプラの目。
本当にあれの原因が、ゲオルギアスの思念であれば大助かりだというのに。
水の聖獣シャオルーンの力を受けた自身なら、浄化できるめどは立つというのに。
けれども、今はティトレイのことよりも、目の前の少年のこと。
友の失態の尻拭いなどというと不遜な言い方になりそうだが、この少年の怪我の原因はティトレイに…
ティトレイを疑わなかった己にあるのは、厳然たる事実なのだから。
186凍りつく灯火、砕け散る希望6:2006/06/11(日) 13:11:54 ID:lWaCsGMG
「俺はこの場で一仕事始める。その横からでいいから、向こうがどうなっていたか教えてくれ、グリッド」
「ああ。――一言で言うと、あの2人は相討ちだった」
「!?」
ジェイは、そのグリッドの言葉に目を瞠った。胸の激痛を圧して、その言葉が喉から駆け上る。
「ダオスさんは死んだんですか!?」
「ええとだな…その……」
ジェイを下手に刺激するような失言をしたグリッド。ヴェイグからの視線が痛い。
「今度からは、怪我人を刺激するようなことは俺に耳打ちで状況を話せ。
俺も言い方が悪かったし、もう話してしまったから今回は別にいいが…」
「す…済まん。じゃあ、始めるぞ」
グリッドはとにかく、主観的な意見が入らないようにして、ありのままに今見てきたことを話すことにした。
軽く顔から汗を流すグリッドを見ながら、ジェイはヴェイグの秘密主義に皮肉の1つも言ってやろうと思ったが、止めた。
今は皮肉1つ言うのも一仕事だし、何より情報の迅速な把握は己の責務だ。
ジェイは静かに羊皮紙と羽ペンを皮袋から取り出し、グリッドの情報をそこに書き込み始める。
「俺が言った時点で、デミテルって奴もダオスって奴も死んでいたのはさっき言った通りだよな。
デミテルは両腕がもげて、血の海の中に沈んでいた。多分その時の出血でくたばったんだと思う。
ダオスってのも、どういうわけだか両腕がもげていた。原因は分からないけど、両腕とも木っ端微塵だったな。
それから…」
これは、果たして言ってもいいことなのだろうか。グリッドは逡巡した。
だが、ヴェイグとジェイ。「先を言え」という、視線からの言外の圧力。
グリッドは観念して、その事実を報告した。
「…ダオスの致命傷は、腕がもげたことによる失血じゃなくて、心臓を直撃した三つの刺し傷だった。
ええと、ダオスの死体の、腕の断面からの出血はデミテルほどひどくはなかったからな。
多分、心臓を貫いた凶器は矢…」
「心臓への三連射…間違いなく、殺ったのはティトレイさんですね」
187凍りつく灯火、砕け散る希望7:2006/06/11(日) 13:12:53 ID:lWaCsGMG
「!」
ヴェイグの瞳が、無力感と悲壮感に揺れる。そう、グリッドが報告をためらったのは、ヴェイグを慮っての事。
その事実を…ダオスの左胸に矢で貫かれたような刺し傷があったとなれば、もはやそこに弁解の余地はなくなる。
ティトレイは、ダオスを殺しに行ったのではあるまいか。ヴェイグのその予感が現実となったことを、否定する要素は消える。
ヴェイグは、友が殺人鬼と化した事実と、直面せねばならなくなる。
グリッドは人として当然の情けで、報告をためらっていたのだ。
「…なるほど。つまり、向こうの戦いの趨勢を簡単にまとめると、こうなりますね」
左胸を押さえながらも、ジェイは持ち前の情報屋としての魂を働かせる。状況を整理する。
「ここで先刻、超高火力の術『サウザンド・ブレイバー』を編んでいたデミテルとティトレイさんは、
偶然ヴェイグさんとグリッドさんの組と鉢合わせした。
双方共に状況を把握できない混乱状態のまま、友人であったヴェイグさんの呼びかけで正気が戻ったかに見えたティトレイさん。

けれどもデミテルの術の完全阻止には至らず、『サウザンド・ブレイバー』は放たれてしまった。
その時の反動で、ティトレイさんは気絶状態。話は、E2の城跡に一旦戻ります。
そのままいけば、ぼくやダオスさんを初めとしたE2にいた面々は、『サウザンド・ブレイバー』で殲滅されていたでしょう。
ですが結果的には『サウザンド・ブレイバー』は着弾前にネレイドという異界の神が、超絶の力を振るい無力化。
ぼくらは辛うじて命拾いしたわけなんですね」
そう言いながら、ジェイははたと気付く。
この筋書きは、先刻想定していた「最もありがたい筋書き」と、不完全ながら符合していたことに。
すなわち、現実はデミテルとネレイドが潰しあってくれるという、ジェイ達にとってありがたい結末となった。
デミテルは「サウザンド・ブレイバー」を放ち、そのとき見せた絶大な隙を見事に突かれ倒れた。
闇の極光を用いて「サウザンド・ブレイバー」を無化したネレイドは、まだ倒れてはいないだろう。
だが、いかに神とは言えどあれほど強大な力を用いて、平気の平左とはとても思えない。
少なくともメルディの体の限界を考えると、ネレイドはあの一射で相当に消耗したと考えていいだろう。
今ならリッドとキール、2人がかりでならネレイドを抑えられるか。
ジェイはそんな思考の時間も兼ねた小休止の後、状況のまとめを再開。胸をかばいながら、話を続ける。
188凍りつく灯火、砕け散る希望8:2006/06/11(日) 13:13:32 ID:lWaCsGMG
「では、今度の話はここ、E3に移ります。
その後、砲撃の犯人はデミテルの可能性が高いと即断したぼくとダオスさんは、ここに。
ぼくを第一陣、ダオスさんを第二陣にして、『サウザンド・ブレイバー』の発射地点であるここに向かった。
そこでデミテルを見つけたぼくは、ヴェイグさんとグリッドさんもろともに『春花の術』に巻き込まれるも、
第二陣のダオスさんが毒の霧を払いぼく達を救助。ダオスさんは逃走を始めたデミテルを追跡開始。
激闘の末、ダオスさんは辛うじてデミテルの撃破に成功したと考えていいでしょう。
ですが、ここで伏兵であったティトレイさんが動きます。
ティトレイさんは起き抜けにぼくに対し不意打ちの一撃。
茫然とするヴェイグさんとグリッドさんを尻目に、デミテルを救助に向かったわけですね。
ですがその時点でデミテルは、ダオスさんの手により命を奪われていた。
ティトレイさんはそこで、ダオスさんに対し報復を開始。瀕死のダオスさんは抵抗するも敵わず、ティトレイさんに射殺された。
ティトレイさんはそのまま戦線を離脱して、行方不明。ざっと、こんなところでしょうか」
ジェイは深々と息をつき、話の終息を告げた。ころん、と力なく首を横に向ける。
ヴェイグは、悲しみを瞳に湛えていた。グリッドは、ただヴェイグを見守るだけだった。
「…不幸中の幸いは、ティトレイさんが二人の戦いに乱入する前に、ダオスさんがデミテルを撃破していたことでしょうか。
おそらくティトレイさんが2人の戦いの決着前に乱入していたら、おそらくデミテルにはまたも逃走されていたでしょう。
あの時のダオスさんの状況からして、もし2人がかりで攻められていたら…
間違いなくダオスさんは、デミテルを殺すことなく倒されていたでしょうから。
ですが実際のところデミテルは、死体になって向こうに転がっていたのですから、ぼくが今述べた通りの推測で正解かと。
そう考えると、この戦いは実に間一髪の、ギリギリの勝利と言えるでしょう」
もし、この戦いにおける勝利の条件が、デミテルの撃破であったとするならば。
だがそれは、あまりに多くの犠牲と血と悲劇にまみれた、苦過ぎる勝利。
ダオスは自らの命を失い、そして自らの希望を託した灯火も、あわやという所で1つ消えかけ。
ヴェイグは友を失い、そして友の狂乱を目の前で見せ付けられ、それを止められなかった無力感を舐める羽目になった。
デミテルは今や倒れた。しかし彼がこの島に撒き散らした悪意の連鎖は、しかとこの島に残っている。
189凍りつく灯火、砕け散る希望9:2006/06/11(日) 13:14:12 ID:lWaCsGMG
デミテルの手により良心と健全な肉体を失ったクレス。
デミテルの教唆により、殺人鬼への道へと追いやられたティトレイ。
デミテルのあずかり知らぬところで、彼のもたらした兄の死により、正気のまま狂気に堕ちたシャーリィ。
デミテルの遣わしたクレスにより姉を殺され、悲劇を繰り返すこととなったミトス。
憎しみと悲しみの連鎖は、未だこの大地に刻み付けられ、消えてはいないのだ。
デミテル自身は死したと言えど、彼の撒き散らした血の怨念は。
彼の放った憎しみと狂気という名の魔物は、未だにこの島に生き続けているのだ。
「くそ…デミテル!!」
ジェイの話を聞かされたヴェイグにも、怒りの火が燃える。
ティトレイをあんな風にした犯人は、つまりはあの男。あの男のせいで、ティトレイは殺人鬼へと成り下がったのだ。
デミテルは今や死者の1人。だが可能なら、ダオスによってではなく、この手でデミテルを八つ裂きにしたかった。
これほど激しい憎しみを覚えた相手は、スールズでクレアをさらったサレや、そしてかつてのトーマくらいか。
「ヴェイグ。だがデミテルはその結果として、あれだけひどい死に様を晒すことになったんだ。
天罰覿面、信賞必罰! 因果応報、自業自得! あいつは十分な罰を受けただろう?
今回ばかりは俺も哀れんだりはしない。哀れみをかけるには、あのデミテルとやらは少々あくど過ぎるからな」
冷たい怒りを放つヴェイグに、しかしグリッドはそう説く。ヴェイグは眉間にしわを深く寄せ、自らの髪を強く握る。
「ああ…分かっている。分かっているつもりだ。だが…」
氷漬けになったチンクエディアの柄を握る手が、ぶるぶると震える。固く握り締められた手から血の気が抜け、白くなる。
ヴェイグは必死で、湧き上がる怒りや憎しみを抑える。そうでもしないと、今すぐにでもデミテルの元に向かいたくなる。
デミテルの死体を、この手に握る剣で微塵に切り刻んで地面にばら撒いてやりたい衝動に、負けそうになる。
そんな事をしても無意味なことは分かっている。今の自分は、E2の城跡に向かわねばならないという使命もある。
死者に鞭打つような真似は無駄である。デミテルは死を…生きる者が最も恐れ忌み嫌うものを受け取ったのだ。
すなわち極刑なら…これ以上ないほどの苛烈な罰なら、すでにあの男に下っている。
かわいそうだとか、止むを得なかっただろうなどと思って、デミテルに同情する気持ちは、欠片ほども湧いてこない。
むしろ、同情する人間の方が外道だ。彼の所業を考えれば、まともな神経をした人間なら、同情の念など浮かぼうものか。
はらわたが煮えくり返りそうなほどの怒りに耐えるヴェイグ。気を抜けば激昂の余り夜空に吼えそうになる。
奥歯も砕けよとばかりに、顎を噛み締めるヴェイグ。そんな彼に、出し抜けにジェイは聞いた。
190凍りつく灯火、砕け散る希望10:2006/06/11(日) 13:14:54 ID:lWaCsGMG
「ところでヴェイグさん。ティトレイさんはどうします?」
その質疑に、ヴェイグははたと我に返った。
デミテルへの怒りを抑え、今は今後のことを考えねば。ヴェイグは己が胸の真紅の感情を凍らせ、ジェイに応えた。
「…俺が説得する。あいつは、俺の大切な仲間だ。これ以上、あいつに罪を重ねさせはしない」
「もし、説得に失敗したら? ティトレイさんが、今度また誰かを殺すような事態になったら?」
「その時は…」
絶対にそんなことはありえない。説得に失敗などするものか。
ヴェイグはそう続けようとして、止めた。
この島において、「絶対」はありえない。カレギアを旅していた頃ならば、そもそも自身もあんなことは絶対にしなかったはず。
ルーティ・カトレットを斬り捨てるような、冷酷無比な選択をするなど。
その「絶対」が崩れた経験は、身を以って知っている。
綺麗事を口にするのをためらったヴェイグは、大きく間を取ってジェイに応えた。
「その時は…その時は、俺がティトレイを斬る」
友が踏み出した道は、もう二度と後戻りできぬ道であったならば。
友が凶行に出る前に、己が友を斬り捨てる。友がこれ以上罪を被る前に、自身が友殺しの罪を着る。
「とんでもなく偽善者じみた論理だがな」
ヴェイグは自嘲した。友が罪を犯す前に、代わりに己が罪を被る。
だがその際、率先して罪を犯すのだ。人殺しの罪を。友殺しの罪を。
友を想うゆえと称して、ティトレイの生きる権利を奪い、代わりに死を贈るのだ。
どれほど言葉を飾ろうと。友のため、この島でまだ命を繋ぐ誰かのためと称して、友の命を奪う。その罪は揺るがない。
偽善に満ちた論理と言えばまさしくその通り。ヴェイグはそれを承知の上で、自らの思いを露呈させたのだ。
「…だがヴェイグ!」
「現にあいつは、ジェイにこんなことをした上に、ダオスを殺したんだ。
…事態はもう、とっくに綺麗事で解決できる段階を通り越している」
思わず口をついて出たグリッドの制止の声。ヴェイグは、そのグリッドを一蹴。
それでも、グリッドは必死の説得を止めない。
191凍りつく灯火、砕け散る希望11:2006/06/11(日) 13:15:30 ID:lWaCsGMG
「だったら、せめて腕を斬り落として戦う力を奪うだけで済ませればいい!
お前の氷のフォルスで傷口を凍らせれば、腕を切り落としても出血で死ぬことはないだろう!!」
「あいつと死合うことになったら、間違いなく俺は手加減できない。
仲間として旅を共にしてきた俺は、あいつの実力を知っている。いざ戦うことになったら、俺も切り札を切る。
水の聖獣シャオルーンの力を。そこまでして、ようやく五分だ」
ティトレイを見たとき、その言い知れぬフォルスの高まりを感じて、ヴェイグは悟った。
ティトレイは、間違いなく闇の聖獣イーフォンの力を解放している。
さもなければ、「サウザンド・ブレイバー」を放った直後でも、あれほどの動きが出来る理由がない。
しかも、あの時放たれた一撃の威力は、もとの「サウザンド・ブレイバー」のそれをはるかに凌駕していた。
さしずめ「サウザンド・ブレイバー」ならぬ、「インフィニティ・ブレイバー」といったところか。
直撃なら、間違いなく軍の一個中隊を殲滅できるほどの威力があっただろう。
フォルスの力も…心の力も所詮は有限のもの。
本来なら、ティトレイは今頃疲労の余り、倒れ込んでいなければおかしいはずなのだ。
「だったら、仲間を募ってあいつを生け捕りにして…!」
「この島には、俺の仲間はティトレイ以外にいない。俺に募れる仲間はいない」
「少なくとも俺がいる! 事情を説明すれば、きっと協力してくれる奴らだって…!」
「お前に何が出来る? フォルスも剣も陣術も導術も使えないお前など、精々が弾除けぐらいにしかならない。
それに、こうしている間にもティトレイは凶行に走るかもしれないんだ。呑気に仲間など募ってはいられない」
ヴェイグの意志は、北の果ての大地の、万年氷よりも固かった。
「…畜生…」
グリッドは膝から地面にくず折れた。歯を食いしばり、拳でどんと地面を叩いた。
「…結局また、俺達はミクトランの野郎の、思う壺ってわけかよ…」
無為感。無力感。グリッドは血を吐かんばかりに、その言葉を搾り出した。
「結局は殺し殺され、憎んで憎まれて、恐れて恐れられて、悲しんで悲しまれて…そうする以外俺達に手はないのかよ!?」
192凍りつく灯火、砕け散る希望12:2006/06/11(日) 13:16:02 ID:lWaCsGMG
正気を保ってこの島の土を踏んでいる人間なら、誰もが抱くであろう感情。
殺すだけでは飽き足らないほどのミクトランへの憎しみ。自らの命を保つには、他者の命を踏みにじらねばならぬ苦しみ。
「グリッドさん…」
ミクトランへの憎しみ。誰かを踏みにじり生きることへの罪悪感。ジェイの目に映る、グリッドの想い。
憎しみと罪悪感を、この期に及んでもここまで素直に感じられるグリッド。
グリッドは、ひょっとすれば今、この会場の中で一番人間らしい気持ちを抱いている人間かもしれない。
「無論、あいつを斬るのは、もはや説得の余地がないと分かった時のみだ」
グリッドに背を向けながらも、ヴェイグは小さく呟く。
「ティトレイがその罪を悔い改めたと分かったなら、俺は剣を収める。
俺が剣を向けるのは、誰かの命を率先して踏みにじる外道だけだ」
「ティトレイさんのその『悔い改め』、それ自体が演技の可能性もありますよ。
その手の芝居を打った上で、油断した相手の背中を刺すのは、悪党の常套手段と相場は決まっています」
確認するように。決意を試すように、地面に横向きに寝るジェイは、ヴェイグに問いかける。
「ティトレイはもともと、芝居や腹芸が得意な奴じゃない。多分それはあり得ないだろう」
「ですが、もはやティトレイさんは元のティトレイさんではありません。たとえ親友でさえ、平然と欺いてくるかもしれません」
「それなら、いっそこちらもやりやすい」
ヴェイグは懐に、凍りついたチンクエディアを引き寄せる。
「ティトレイは、もともと隠し事が大嫌いな性格だ。
ヒューマとガジュマの争いが止まらない中、俺は1人で全てを抱え込み、根を詰め挙句の果てにフォルスを暴走させた。
その時ティトレイが俺に対して向けてきたのは、俺を想うがゆえの本物の怒りを込めた拳だった」
こつん。ヴェイグはチンクエディアの柄を、眉間に当てながら、話を続ける。
「友に隠し事をされるのが大嫌いだったあいつが、腹芸なんて隠し事の極致も同然の真似をするものか。ましてや、俺に。
もし本当にあいつがそんな真似をしてきたのなら…」
ヴェイグは、閉じたまぶたの中、湧き上がる想いにその瞳をさまよわせる。
「…俺を殴りつけたティトレイ・クロウという友はもう死んだことになる。ティトレイの姿をしたあいつは、ただの殺人鬼だ」
言い切ると同時に、ヴェイグの肩からふっと力が抜ける。目を閉じながら、ヴェイグは結びの句を発した。
193凍りつく灯火、砕け散る希望13:2006/06/11(日) 13:17:16 ID:lWaCsGMG
「殺人鬼が相手なら、情けや容赦をかける道理はない」
グリッドは、瞳を震わせた。下唇を噛み、ヴェイグの宣告の重みに耐えた。
ジェイは、頷いた。右耳を下にしたまま、ヴェイグの宣告を淡々と受け取った。
「今の言葉に、嘘はありませんね」
「ああ」
「それならば、こちらも動きやすいというものです」
ジェイは、一瞬だけ。にやりと微笑んだ。地面に密着していた右耳を離し、北の方角を見つめる。
ジェイは胸の痛みをかばいながら、跳ね上がるように立ち上がる。幸い利き手はまだ生きている。忍刀・紫電を握り締める。
ぶしっ、と胸元で血がしぶく。奥歯を強く噛んで、激痛に耐える。
「鏡殺」
この島では何度も世話になった特技。アーツ系爪術を利用した、忍法「縮地の術」。
突然のことに、ヴェイグとグリッドはただジェイを唖然と見ているしか出来なかった。
ジェイは突然、あらぬ方に走り出したのだ。本来なら絶対安静を命じられねばならないはずの、致命的な怪我にも関わらず。
そして2人がその理由にようやく気付いた頃には、すでに遅かった。
世界は、蒼く凍り付いていた。
******
194凍りつく灯火、砕け散る希望14:2006/06/11(日) 13:17:51 ID:lWaCsGMG
(ぼくが…あいつを討つ!)
心中叫んだジェイは、一面蒼く凍りついた世界を、無意識のうちでのみ眺めていた。
爪術師のみ操れる、大いなる滄我の力。遺跡船の旅の中、強大な魔物をたびたび撃破してきた、最後の切り札。
クライマックスモード。
爪術師の肉体と大気を介して滄我とリンクし、術者の周囲に滄我の絶対領域を作り出す、ジェイの最終兵器。
滄我の絶対領域の中では、術者が許した者か、さもなくば滄我の祝福を強く受けた者以外、あらゆる存在が身動きを封じられる。
そしてこの滄我の絶対領域の中では、その身を縛られた者は全ての装甲や闘気などによる防御を無効化される。
すなわち、いましめを受けた者はすべからく丸裸も同然。
逆にクライマックスモードを発動させた術者は、滄我の恩寵を最大限に受けることが出来る。
肉体を蝕むあらゆる毒素や異常は滄我の力により浄化され、術者の潜在能力は完全に引き出される。
まさに絶対領域。術者の独壇場が、一方的な攻撃が許される空間。
幸いにも、胸の出血は止まっている。傷自体が癒えることはなくとも、滄我の力が胸の傷からの出血を抑えている。
ジェイは耐えられる鈍痛にまで和らいだ胸の痛みを感じながら、ひたすらに駆けた。
その先にいる者、ティトレイ・クロウ。目を凝らせば、夜の帳の向こうに緑髪の男が歩いているのを見て取れる。
ちょうど背を向けているため、その表情は伺えない。しかしそんな瑣末事に、ジェイはかまいなどしない。
この場で自分が、ティトレイを殺す。ティトレイを殺せる者は自分しかいない。それゆえの判断。
先ほどのヴェイグのやり取りを聞いて、ジェイは断じた。
ヴェイグは、ティトレイを斬れない。土壇場になれば、必ず逡巡する。
ティトレイを斬ると言っていたあの時のヴェイグは、苦しんでいた。
最初ヴェイグを冷血漢と思っていたジェイにしてみれば、意外と言えば意外。だがしかしその決意の内容を思えば止むなしか。
友を斬るという決意を、やすやすと固められる人間の方がおかしいのだ。
遺跡船で出会ったジェイの友達…モフモフ族のキュッポやピッポやポッポが、もしこの島で殺人鬼と化してしまったら。
(その時は…)
3人を斬った人間がいたとしても、それを恨む権利はジェイにはない。それはまだ譲歩出来る。
だが、自ら3人を手にかけ、葬ることは出来たであろうか。
ジェイは考え出そうとして、止めた。今はそんな事を考えていていい場合ではない。
今は、ティトレイを殺すことを最優先に考えねば。
195凍りつく灯火、砕け散る希望15:2006/06/11(日) 13:18:22 ID:lWaCsGMG
ティトレイの足音は、先ほどから捉えていた。地面につけた耳から、ティトレイのかすかな足音や振動が聞こえていた。
「樹」のフォルスで足音を消すなどという小細工は通用しない。
たとえ「樹」のフォルスが草を踏む足音を消そうとも、地面を踏みしめるその振動自体はかき消せない。
「樹」のフォルスで、自らの踏む地面の草を、羽根布団のようにふわふわしたものに変質させていれば、話は別かも知れない。
だがティトレイは、周囲の敵性参加者を全て戦闘不能に追いやったと高をくくっているのか、そこまでの処置はしていない。
ティトレイの歩く地面の振動を感じられていたのが、その理由だ。
ジェイは先ほどからずっと地面に耳をつけ、こうしてティトレイの動向を探っていた。
もしあらぬ方にティトレイが行こうとしていたならば、見逃してもよかった。
だが彼の足音が向かった先は、あろうことかE2。
(この計画を遂行するには、リッドやロイドが失われてはならない。それだけは確実だ)
共に作戦会議を行った青髪の学士、キール・ツァイベルとの確認事項がジェイの脳裏をよぎる。
今現在、E2はとてつもない大乱戦になっているはず。
そしてティトレイはあのデミテルの手駒だったのだ。E2の乱戦に横槍を入れることは、九分九厘間違いない。
そしてティトレイは格闘の実力もさることながら、この状況下で恐れるべきは、彼の狙撃手としての技量。
先ほどの「サウザンド・ブレイバー」の射撃を見れば、その程度は瞭然。
魔術による支援があったとは言え、ティトレイはあれほどの超遠距離からの狙撃も難なくこなして見せたのだ。
物陰からの狙撃、しかも殺気をほとんど伴わない一射であれば、防御は困難。
ティトレイは今や、警戒の困難な恐るべき暗殺者なのだ。もしリッドやロイドが暗殺の一射を受ければ、大変なことになる。
(この一撃を当てるまででいいから、保ってくれ!)
逆手に握った忍刀・紫電。ジェイはそこに、滄我の力を満たす。
この手でティトレイを殺せば、恐らくヴェイグはジェイを無条件に救う対象とはみなさなくなるだろう。
最悪、ヴェイグ自らが己に剣を向けてくるかもしれない。
良くも悪くも、ヴェイグはこのゲームの中においてすら、友が殺人鬼と化したとその目で確認してすら。
その友の死を受け入れられるほどには情は浅くない。友を殺した存在を憎まずにいられるほどには、割り切れてはいない。
196凍りつく灯火、砕け散る希望16:2006/06/11(日) 13:18:59 ID:lWaCsGMG
(けれども…!)
ヴェイグの手による、肉体の凍結で延命するという選択肢を捨てた時点で、よってジェイは決死の覚悟を固めた。
肉体を凍らせ、しかる後に解凍して生き延びたとしても、リッドやロイドが倒れては生き延びる意味はない。
ロイドが申し出たことにより、一同にもたらされた「究極の切り札」の可能性。
この「バトル・ロワイアル」で倒れた…否、「倒れる」全ての人間を救える可能性のある、「究極の切り札」。
その「究極の切り札」を手にするには、リッドとロイドは決して失われてはならない。
この命を引き換えに、2人に迫る魔の手を一つ潰す。
どの道これほどの傷を負った自身は、もはや足手まといにしかならないことは分かっている。
ジェイは、おそらく自ら死へ通ずる道を選び取ってしまったことは、漠然と理解できている。
だが、もとよりジェイは忍者。
目的のために利用できるならあらゆる物を利用し、手段を選ばぬことを美徳とする闇の住人。
利用するものが敵の犯した失策であれ、誰かの誠意であれ。
そして最終的には、己の命さえ道具にする。
セネル達との出会いを通じて、ジェイは一時期己も牙が抜けたのではないか、と危惧していた時期もあった。
だが、いざとなれば自らの命さえ道具にする、忍者の心は失われていない。不思議なほど、ためらいを感じない。
ジェイはその事実に、わずかとは言え喜びさえ感じていた。
希望の灯火を携えた者達のため。希望の灯火を、救いの道に導くため。
己の聞き出しまとめた情報、己の導き出したあらゆる推測。全てそれらは、キールにも授けている。
灯火を導くのは、キールの役目。ジェイはこうして、灯火の行く道を阻む者を自らの命を引き換えに討つ。
ジェイは雄叫びを上げながら、ティトレイに急速に肉薄。
忍刀・紫電を投げつけ、ティトレイの急所を百発百中で打ち抜ける、必殺の間合いまでは、あともう少し。
必殺の間合いに入り込んだ瞬間に、滄我の絶対領域は解除されるだろう。そこが、絶対領域の維持限界。
だがその絶対領域が消えた瞬間、ジェイは己が得物をティトレイの首筋に投げつけ、次の瞬間命中させているはず。
その状態で、得物に込めた滄我の力を解放すれば、ティトレイの首から上は間違いなく粉微塵になる。
それで上等。それ以上、何を望もうか。
ジェイは蒼く凍りついた世界を、雄叫びを上げながら驀進した。
******
197凍りつく灯火、砕け散る希望17:2006/06/11(日) 13:20:07 ID:lWaCsGMG
ヴェイグは、目の前の光景に、そして己が体の異常に恐怖した。
瀕死の重傷を負ったはずのジェイが、立ち上がり駆け抜けた。
何事かと彼を、彼の進行方向を見やった瞬間、世界は蒼一色に染まった。
全身が金縛りの状態になったと気付いたのは、その時だった。
己の肉体の全ての筋肉が、鎖を何重にも打たれたかのように、ぴくりとも動かない。
走り出すジェイ。叫び声を上げそうになるヴェイグ。
だが、この蒼の空間の中では、喉さえも凍り付き、声を上げることすら不可能。不思議と、呼吸だけは出来ていた。
だが、そんなことが何の足しになろうか。
ヴェイグは、渾身の力を込めて無理やりにでも五体を動かそうと試みた。
筋肉が裂けてもいい。骨が砕けてもいい。体よ、動いてくれ。動いてくれ!
目の前の少年の、ジェイの凶行を止めるために。
ジェイの向かった先の、夜の帳に隠れた人影を見て、ヴェイグはジェイの意図を知った。
ジェイの向かう先にたたずむは、緑髪の青年。かけがえのない旅の仲間。ティトレイ。
あれほどジェイが、何度も何度も駄目を押すようにティトレイをどうするかと、ヴェイグに問うたわけはこれだったのか。
ティトレイを殺される覚悟。友を失う覚悟。その覚悟がヴェイグにはあるのか。
それを自身に問うためだったのか。
だが、それにしてもこの処刑方法はひど過ぎる。
ヴェイグは悟った。この空間の中では、ヴェイグは身動きできない。
そもそも身動きをすること自体を、この空間の理法が禁じているのだと。
首が振れないから良く分からないが、それは隣にいるグリッドもまた同じことだろう。
そして、ティトレイも。
この空間の絶対君主は、ジェイ。ジェイのみが自在な動きを許される。
すなわちまた、ジェイのみが一方的な虐殺を許されるのだ。
(逃げてくれ…ティトレイ!)
198凍りつく灯火、砕け散る希望18:2006/06/11(日) 13:20:40 ID:lWaCsGMG
心中叫ぶヴェイグの祈りも、ただこの空間の中では空しいだけだった。
戦士であるヴェイグには、分かってしまう。ジェイがティトレイを葬る、必殺の間合いにはもう間もないことを。
ティトレイは逃げない。逃げられない。ジェイがふらつきながらも踏む一歩ごとに、ティトレイの死は近付く。
ティトレイも、この空間に縛り上げられた犠牲者の1人なのだ。
頭では理解している。ティトレイはもはやマーダーと化してしまったことを。
ティトレイを放置しておけば、何人もの人間を殺めるであろうことは想像に難くないことを。
いざ自らの手でティトレイを殺そうとすれば、逡巡せずにはいられないであろうことを。
自ら「説得が通じないなら、殺す」と言っておきながら、目の前で命を潰えさせようとしている友に「逃げろ」と願う自身。
ヴェイグがそんな自身を認知した時、確かに己の覚悟は甘いものであったと知ってしまった。
友を殺す際には、覚えずにいられない感情。迷い。
その迷いは、ヴェイグがヒトとしてあるべき心を、未だ宿していることを示している。
だが、そのヒトとしてあるべき心が、更なる悲劇を招くこの忌まわしきゲーム、「バトル・ロワイアル」。
それに引き換え、ジェイならティトレイを殺める際にも、迷いはあるまい。
ティトレイは、ジェイにとってはただの「敵」に過ぎないのだから。
それでも、友が一切の抵抗を許されないままの状態で、死刑を執行される。
それをまざまざと目に焼き付けねばならない。これがどれほどヴェイグにとって残酷なものか。
そして、不完全にとは言え、一度は固まりかけた友殺しの覚悟を崩壊させるものか。
想像には、難くあるまい。
(止めろ…ジェイ!)
とうとうジェイは、必殺の間合いに入り込んだ。クライマックスモードが解ける、直前の二手。
ジェイはその一手で、忍刀・紫電に自らの爪から漏れる光を注ぎ込む。放つは、「苦無・焔」。
よしんばティトレイの防御が間に合っても。「樹」のフォルスで身を守ろうとも。
ティトレイを守る草木を焼き払い、植物の盾を穿てるようにと選んだ、炎属性のアーツ系爪術。
(頼む…止めてくれ!!)
クライマックスモードが解ける、直前の一手。
ジェイは忍刀・紫電を、耳にこすりつけるようにして振りかぶった。
その手首は、しならせて忍刀を高速で投射するために、くるりと丸まっている。
肩が、腕が、手首が。限界まで引き絞られる。次の瞬間、剛弓から放たれる矢のごとく、忍刀・紫電は直進を始める。
その軌道は、間違いなくティトレイの首筋にまで伸びている。何者も、これを妨害することは出来ない。
ジェイの上半身の筋肉は、溜め込んだ力を一気に解き放つ。忍刀を滅殺の一射に変える、死の律動。
ジェイの肩の上を越え、忍刀は投げ出される。柄を握り締めていた手が、ほぐれてゆく。
クライマックスモードが解ける、その瞬間。
「止めろおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!」
ヴェイグの喉からは、まるで命を吐き出さんばかりの、凄絶な悲鳴が上がった。
******
199凍りつく灯火、砕け散る希望19:2006/06/11(日) 13:21:14 ID:lWaCsGMG
ティトレイは、振り向きざまににやりと笑った。
「俺を助けてくれてありがとうな、ヴェイグ」。そんなメッセージを乗せたかのような、ひどく場違いな笑み。
ティトレイは、回れ右をして、西の彼方に去り行く。がしゃり、と彼の左手のボウガンが鳴った。
ボウガンの矢溝は、どこからともなく伸びた蔓に覆われ、次の瞬間には矢の生成を終えている。
ヴェイグは、ティトレイに声をかけることが出来なかった。
夜の帳に消え行く、ティトレイの瞳。やはりゲオルギアスの思念に冒されたかのような、暗い光が宿っていた。
一歩ごとに前後に揺れる、ティトレイの肩。やはり闇の聖獣イーフォンから授かった、暗い力が立ち上っていた。
グリッドは、ヴェイグに声をかけることが出来なかった。
前方に投げ出されたヴェイグの手。本来ならば、氷漬けになったチンクエディアを握っていなければならない、その手。
グリッドは、そのチンクエディアの行き先を確かめて、凍りつきそうなほどの恐怖に襲われた。
剣技「紅蓮剣」ならぬ「『蒼』蓮剣」だな。お前の操る力は氷の力だし。
普段のグリッドなら、そんな軽口を叩けていたかもしれない。しかし状況は、そんな軽口さえ許しはしない。
ヴェイグは、ほとんど衝動的に体を動かしてしまっていた。
右手に握るチンクエディアを、投げつけてしまっていた。
結果として、今や氷の大剣は、「それ」に突き刺さっていた。もとは人間であった、暖かな存在に。
2人の上空で、明るい光が弾けた。
花火ではない。本来ならば、ティトレイの命を奪うはずだった、灼熱の輝き。炎の色そのままの、滄我の光。
どつん。
忍刀・紫電が空から降る。その名に違わず、常に紫の光を刀身の周りに弾けさせる、抜き身の名刀。
墓標のように、地面に垂直に突き立つ。
その刀身に映り込むは、この島の夜を飾る赤の月。青の月。そして――。
氷の大剣を左胸から生やした少年。茫然と立ちすくむ、白皙の忍者。
「不可視」のジェイ、彼の姿であった。
200凍りつく灯火、砕け散る希望20:2006/06/11(日) 13:22:27 ID:lWaCsGMG
「…………!」
グリッドは、未だに喉が凍り付いているかのように、言葉を失っていた。
氷の大剣の先端に、どくんどくんと波打つ赤い塊。
ジェイの心臓が、そこにぶら下がっていた。
「…じょう…冗談…だろう?」
そして、ヴェイグ自身が、その光景に一番驚愕していた。
必死で生きたいと願い、鼓動するかのようなジェイの心臓。
だが、ジェイの体外にはみ出た肉と血の塊は、その鼓動ごと、次の瞬間凍りつく。
「俺は…!」
殺すつもりは、なかったのに。その言い訳が、口をついて出そうになる。
氷の大剣のまとう冷気は、左胸からジェイの肉体を、じわじわと蝕んでゆく。
「…俺は……ッ!!」
チンクエディアは、全く狙いをつけずに投げた。クライマックスモードが解けた瞬間、完全な抜き撃ちで、投げつけた。
ヴェイグが、ジェイの足を一瞬でも止められればと思い。
はなから当てるつもりもなかった。当たれと願いもしなかった。
ぶるぶると、ジェイの肉体が震える。ジェイの肉が、血が、骨が凍り始めている、紛れもない証拠。
けらけらけらけら。
グリッドは、夜風に紛れてその嗤い声を聞いたような気がした。
この島に生き残る全ての参加者に、呪い在れかしとばかりに嘲笑するかの者の嗤い声。
馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、グリッドはその考えを否定できなかった。
死してなお、デミテルの怨念は生き残っていると。
デミテルの怨念が、絶体絶命であったティトレイの命を永らえさせたと。
デミテルの怨念が、本来当たるはずのなかったヴェイグのチンクエディアを、ジェイの左胸に引き寄せたと。
「俺は…!!!」
びくん。ジェイの体が、一段と大きく震えた。凍気が、ジェイの全身に回りきった。
形はどうであれ、意志はどうであれ。ヴェイグは、またもヒトを1人、冥界に送ったのだ。
201凍りつく灯火、砕け散る希望21:2006/06/11(日) 13:22:54 ID:lWaCsGMG
投げつけた氷の大剣により。
氷のフォルスをまとわせたチンクエディアを、ジェイの左胸に投げつけ、ジェイを貫いたことにより。
バランスを失い、倒れ込むジェイの凍りついた体。その倒れる様を見るヴェイグ。
自らの犯した過ちの結果を、まざまざと目に焼き付ける羽目になる。
がしゃん、と陶器のような音を立てて、ジェイの体は地面に落ちた。
四肢がもげる。ぶつけた眉間から、凍りついた頭部が真っ二つに割れる。
体内まで完全に凍り付いていなければ、真っ二つに割れた頭部の断面から、脳漿がはみ出ていただろう。
「俺は――――ッ!!!」
ジェイは、死んだ。
友を殺す覚悟が出来なかった。友の死をむざむざと見過ごせなかった。友を死なせたくない一心で、反射的に剣を投げた。
ヒトとしてあるべき優しさ。ティトレイに覚えた友情。
それに下った罰がこれだ。
逃れようのない、言い訳の出来ない、ヒト殺しの罪。またしてもヴェイグは、同じ過ちを繰り返したのだ。
「うわああああぁぁぁぁぁァァァァァ!!!!」
自らの頭を抱える、その指先。凍りつく。あっという間に、冷気が全身を覆う。
ぱきぱきという大気の凍る音は、すでにばきばきという音に変わっている。
体内から駆け上って来る、白の力。
フォルスが、暴走する。ヴェイグもまた、歴史を繰り返す。
「ヴェイグ! どうした!!?」
ヴェイグの全身に渦巻く吹雪。グリッドは無知ゆえの蛮勇か、それとも全てを知った上での決死の覚悟でか。
地面に膝を突くヴェイグに駆け寄る。肌に食いつくような冷気をものともせず、ヴェイグの肩を揺らす。
「逃げろ…グリッド!!」
血の気を失い、青くなったヴェイグの唇。その唇を途切れ途切れに震わせながら、ヴェイグは言う。
「これは一体何なんだヴェイグ!!? わけを説明し…」
「早く逃げろ! 俺のフォルスが…暴走する!!」
「暴走ってどういう…」
「死にたくないなら、早く逃げろォォォォォ!!!」
202凍りつく灯火、砕け散る希望22:2006/06/11(日) 13:23:32 ID:lWaCsGMG
それが、ヴェイグの限界だった。
ヴェイグの周囲に渦巻く吹雪が、一瞬しんと静まる。
だが、それは事態の沈静化を意味するものなどでは、無論ありえるわけもなく。
爆風。
白い爆風。
氷の精霊セルシウスが操るとされる、爆氷の獅子の顕現。
ヴェイグを爆心とした、極冷の招来。
形あるものを全て凍らせんとばかりに、白き悪魔がその顎を開く。
まるで音さえも凍ってしまったかのような、静寂の世界。
だが、その静寂の世界は、すぐさま終焉を迎える。
形なき白の悪魔は、たちまちの内に吹き荒れる。
人一人の命など軽く奪える氷柱の槍。地面をたちどころに覆う霜。霜は地面に降り積もり、雪となる。
本来雪原など存在しないはずの、この島。降り積もるは、フォルスの雪。
ヴェイグの発現させた、形なき氷の力。津波と化した寒波は、たちまちの内に周囲を覆い尽くす。
叫び声は、もはや聞こえない。炸裂した凍気の、激し過ぎる波濤ゆえに。
フォルスの制御を失ったヴェイグ。極寒地獄に呑まれたグリッド。
そして、命を奪われ、寒波の怒涛の下に消えた、1人の少年。
グリッドの考えは、こう見ればあながち間違いには思えないかもしれない。
デミテルの怨念は、未だに生きていると。ヴェイグらを呪うかのように、この島の大地に存在すると。
交錯する想い。凍り付く意志。
それすらも、かの智将のもたらした災厄なのか。
この夜、デミテルと接触した者は、すべからくその災厄の渦に呑まれた。
2人は死に絶え、2人は白の地獄に囚われ。
デミテルが死してなお、惨禍の連鎖は死ぬことなく、悪意を以ってしてこの島の闇の中に蠢いてる。
203凍りつく灯火、砕け散る希望23:2006/06/11(日) 13:24:59 ID:lWaCsGMG
【ヴェイグ=リュングベル 生存確認?】
状態:HP30% フォルス暴走
所持品:なし(チンクエディアはジェイの死体に突き立っている)
基本行動方針:????
現在位置:E3の丘

【グリッド 生存確認?】
状態:ヴェイグのフォルスの暴走が直撃?
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:事態の打開
第二行動方針:ヴェイグと共に行動する
第三行動方針:プリムラを説得する
第四行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E3の丘

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態: TP残り10% イーフォンの力を解放 感情希薄
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック  
    エメラルドリング 短弓(腕に装着) ミスティシンボル
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る(優勝する気は無い)
第一行動方針:クレスと合流。援護した後、撤退
第二行動方針:クレスにヴェイグ殺しを依頼する
現在位置:E3の丘→E2城跡

【「不可視」のジェイ 死亡】 残り18名

※ジェイのクナイは、E3の丘に転がっている。回収可能
※魔杖ケイオスハートはE3のどこかに弾き飛ばされ所在不明
※地面に落ちている支給品は以下の通り。
忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア
エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中)
ジェイのメモ(E3周りの真相、およびフォルスについての記述あり)
―ただし現在ヴェイグのフォルスで凍り付いているため、フォルスやそれに順ずる力で解凍しなければ回収不能。
204魔剣斬翔 1:2006/06/13(火) 18:53:20 ID:0IYxtYw6
生きたかった、帰りたかった、逝きたかった。
差し伸べられた手、白かったっけ、黒かったっけ。笑顔ってなんだっけ?
ただ長くて綺麗な爪だけを覚えている。
あの手だけが、俺を導いてくれると、信じていた。

彼は後ろに寒気を感じる。穢れ無き瞳で無くともここまで現象化していれば嫌でも分かる。
ヴェイグは暴走しているのは紛れも無い事実。
しかし彼は振り返らない。振り返ってはいけない。
次に合間見えることがあるとすれば、多分どちらかが死ぬ時だろう。

月明かりに照らされた表情は光量が足りなくて判別しきれない。
眼を細め夜の向こうにようやく城跡を見る。
観測手は全てデミテルに任せていた。元々ロングレンジは彼の領域ではない。
ましてや一k以上先、しかも夜を裸眼で狙うことなど出来ない。彼は標準を合わせただけ。
ヴェイグに会わなかったら、帰るために、何の感慨もなく標準を合わせて引き金を引いただろう。
ヴェイグと再び出会う時が来ないことを、ティトレイは願った。
何故願うのかは、自分にも分からない。
来て欲しいから、願うのかもしれない。
その顔は、雨に濡れていた。
205魔剣斬翔 2:2006/06/13(火) 18:53:53 ID:0IYxtYw6
城跡にて相対する3人。一人が場を降りて新たなる一人が場に上がる。
「あんたがカイルのおっちゃんか?」
ロイドはスタンに背中に向けてクレスを見据え、双刀を構える。
スタンは失った血の分だけ気だるそうに肩を上下させる。
「…おっちゃんて、俺そんなに老けて見えるかな…」
『少なくとも実年齢に見合った感性はしていないがな』
おどけたようなディムロスの相打ち。戦いの最中に笑顔がもれる。
「黙っとけディムロス。…そう言う君は誰だ、敵か?味方か?」
スタンが笑顔から一気に真剣な面構えに変わり、乱入者を詰問する。
「カイルの友達だ!!」ロイドの表情も真剣そのもので、
「よし、一緒に戦おう!」スタンも真剣そのもので、
『ちょっと待てスタン!!』ディムロスが空気を読んでいなかった。
「どうしたよディムロス」何を起こっているのか分からないといった表情。
『こんなことを言うのは何だが少し初対面の相手を信用しすぎじゃないか!?』
ディムロスの発言は至極もっともで。
「いや、カイルの友達らしいし。あ、カイルって言うのは…」
『そうではない!…?…お前まさか今の今までそんな甘いことを抜かして来たんではなか…」
そこまで言ってディムロスはスタンの手が震えているのを感じた。
「…お前には、もう会えないって思っていた。怖かった…あの時、ジーニアスが死んだあの時から、ずっと。
何か、ほんの少し、怖かったんだ…」スタンの口から初めて弱音らしい弱音が漏れる。
スタンはここに来た四人組を信じられなかった。クレスが現れたから、だけではない。
襲いかかる敵という状況に、赤鬼と青鬼、守れなかった命を心の何処かで引きずっていた
今度こそ守る。敵は倒す。ディムロス無しでも、一人でも守り抜く。
その決意がスタンを微かに強張らせた。信じる強さを鈍らせた。
「お前と一緒なら何処までも行ける、行ってやるさ。何かあっても多分大丈夫だろ?一応ソーディアンだし」
『…この馬鹿者が』ディムロスはコアがこそばゆくなったような気がした。
少しだけ背伸びをしていた英雄が、友を得て元の田舎者に戻り、大人の時間は終わる。
206魔剣斬翔 3:2006/06/13(火) 18:54:37 ID:0IYxtYw6
「そういや、なんでお前喋れるんだ?アトワイトは喋れなかったのに」
『それは…』
ディムロスが声を発したその瞬間に、スタン目掛け地を這って衝撃が飛ぶ。
直ぐさまロイドが同じ魔神剣を放って相殺する。最初の魔神剣の先には、剣士クレスが構えを取っていた。
「そろそろ続きを始めてもいいかな?遺言にしては、些か長すぎる」その虚ろな瞳を見せて、クレスは笑う。
「おっちゃんは離れていろ。その代わり、後でジーニアスの話を聞かせて貰うからな」
ロイドは剣を強く握る。突然出てきたジーニアス、という単語に動揺が無いわけではない。
しかし先の父親の件同様、今は後回し、まずはこの戦いを終わらせる。
「君は…いや、それよりもあいつ、クレスはテレポートを使…ロイド君!!」
スタンがアドバイスを終えるより前に、クレスはその位置より姿を消した。
転移先は、ロイドの真上。既にクレスは剣を真下に構えてロイドを狙っていた。
剣と剣と剣、三刀が均等に交わり360度を6分割する。
「グッ!!」突然の攻撃を何とか凌いでロイドは蹌踉ける。クレスは追撃を緩めることなく、さらに翔転移。
右前方から横に薙ぐ。斬撃を何とか凌ぐロイド。
正面からの連撃と翔転移による奇襲。ロイドはただ踏みとどまることしか出来ない。
「ディムロス、俺たちも加勢しよう!このままじゃ彼が…」スタンがディムロスに訴える。
『だめだ。自分で分かっているんだろう?その怪我では十分に剣を振るえまい。
よしんば行ったとしても彼の足手まといだ。
クレスとやらもそれが分かっているからお前に手を出しに来ない』
あくまで冷静に判断するディムロス。その声はスタンだけによく響いた。
唇を噛み、沈黙するスタン。ディムロスの声は続く。
『………まったく。暫く見ないうちにここまで馬鹿になったか』
スタンは無言のまま剣を睨み付けた。
『私は唯の剣ではない。動かずとも手段は在るだろう?…今は、体力を温存しろ。隙は、必ず出来る』
スタンはハッとした表情を見せ、すこし嬉しそうにロイドの戦いを見据えた。
ディムロスに会えて、本当に良かった。
207魔剣斬翔 4:2006/06/13(火) 18:55:20 ID:0IYxtYw6
この地で総計何合の剣戟が行われたのか、数えるのも馬鹿らしいほどに回数がカウントされていく。
そう、剣戟が続いている。
クレスが十何度目かの翔転移を行う。上でも横でも後ろでもなく、地面ギリギリに屈んだ状態で
現出し、下から上に一気に切り上げる。
「でぇりゃぁ!!」
ロイドはモグラ叩きの要領で双剣を振り下ろす。弾かれる三本。
しかしより体勢を崩しているのはクレス。ロイドの右剣がクレスの肩を狙う。
あわや刺さろうかと言うところで、クレスがさらに飛び、二人の距離が開く。
ロイドは息を荒げながら鼻を鳴らす。
行ける。何となく、クレスの出てくる先が読める。ロイドは確信していた。
クレスの使っている技は紛れもなくエターナルソードと同質の技…つまりクレスは…
ロイドが一瞬考え込んだ隙を逃さず、クレスはその場で剣を大きく縦に振り下ろす。
「次元斬!!」
発生する大規模な青い衝撃。ロイドはその何度目かの次元斬を見て一歩も退かない。
剣を構え直し、眼を瞑る。同じ力を得た存在ならクレスに出来て自分に出来ない訳はない。
「はあああああ!!」
双剣が青い輝きを纏う。クレスのそれより圧倒的に長さは無いが、紛れもなくそれ。
「‘次元斬’!!」
クレスの衝撃がロイドの一刀によって真っ二つにされる。同質の力のぶつかり合い。
城跡に再び埃が舞い上がる。
「…あんた誰だ。オリジンと契約したんだろ?何でこんな馬鹿な真似をするんだ!!」
ロイドは吼えた。ロイドはあの村でのあれを見ていない。故に何処かで信じる気持ちがあった。
スタンと同様、その剣質から一本気な性格が見て取れる。
そして何より、自分と同じ時空剣士としての無意味な親近感があった。
208魔剣斬翔 5:2006/06/13(火) 18:56:51 ID:0IYxtYw6
「そこの彼にも言ったが」クレスは剣をだらしなく下げて斜め上を見上げる。何を見るというわけでもない。
「僕がどんな理由を持っていたとしても、それは無意味だ。
少なくとも君に何の影響を及ぼさないし、僕にも影響を及ぼさない。
君は人を斬るその瞬間に一々理由を確認しながら斬るのか?」
ロイドもスタンも何も言わない。漸く埃が収まり、限定的に静寂が戻る。
「そんなんじゃ剣が鈍るよ。剣士とは剣を持つ者じゃない、剣になる者だ。剣に善意も判断も要らない」
「ふざけろ!そんなんで納得できるか!!」ロイドは涸れんばかりに怒号を上げる。
「………その強気な発言はどこから来るんだ?
まさか次元斬もどきを撃てたからって僕に勝てるとでも?」
クレスは言い終わった瞬間に、飛んだ。ロイドは集中して転移先を読む。
「上か!!」ロイドは上空に向けて剣を構える。次は裁いて確実に剣をかえ―――
「襲爪!雷斬ッ!!」
次元の先から現れたのはクレスではなく、雷。ロイドの体内を電気が駆けめぐる。
声にならない叫びを発するロイドの胸に袈裟一文字に刀傷が刻まれ、ロイドは片膝と剣を付く。
クレスは処刑人の如く剣をロイドの首に添えた。
「時空剣士を名乗るには、少し経験不足だったね…さようなら」
「『フィアフルフレア!!』」

一瞬、クレスがロイドを殺すその一瞬、即ちクレスの至上快楽の瞬間、隙が生じた。
それを見逃すほど英雄は甘くはない。本物の晶術がクレスを襲う。
数コンマ遅れる判断、転移の間に合わないクレスは迷うことなく、剣を地面に突き立てる。
火の雨がクレスに降り注ぎ、クレスの守護方陣にぶつかって飛沫となる
発散する熱量と煙の向こうからクレスが姿を現した。その眼はスタンを捕らえている。
「術が使えたとはね…だが、ここまでだ、先に死にたいのなら望み通り…」
スタンの表情に気づいたクレスが不満そうな面をする。
クレスの向こうを見ているその視線が気に入らなかった。
クレスが流し目でそれを見て、眼を大きく見開いた。
「確かにあんたみたいにバリエーションは無いけどな…」
ロイドの体が再びオーラに包まれる。
「俺にも一個だけあるぜ、時空剣技」
オーバーリミッツを再開放し、瀕死の体に鞭を打つ。
二つの魔剣、契約の指輪―――全ての条件が整った。

「これで終わりだあああああああああ!!!!!」
209魔剣斬翔 6:2006/06/13(火) 18:57:26 ID:0IYxtYw6
ロイドの周囲に濃密な力場が展開する。
クレスは即その未見の技の恐ろしさを理解し、剣を盾とした。
「我が魂の輝きを、蒼き刃に変えて魔性を切る!虚空蒼破斬!!!」
しかし全てを打ち砕くようなその破壊力に蒼破斬の闘気は飲み込まれ、ダマスクスソードは砕け飛ぶ。
ロイドは飛ぶ、上空で双剣を二つに重ねる。夜を越えて光が、秘奥義が飛ぶ。

「天翔ッ!蒼破斬!!」
今、ここに、魔剣・エターナルソードが発動した。

斬撃と呼ぶにはあまりに大きすぎるその一撃がクレス目掛けて堕ちる。
ロイドの位置からでは俯瞰過ぎて表情が分からない。
武器は折れた。後は大打撃を与えてふん捕まえれば少なくともここの情勢は終結に向かう。
そしてみんなでネレイドを倒してメルディを助けられれば…俺がこの剣で
『ロイド!やめろ!!』
(オリジン!?)
『今すぐ剣を戻せ!!』
(何言ってんだ!?今なら…)
『これは罠だ!時空をねじ曲げて契約者が三人、多重契約になる!!』
(どういうことだよ!もうクレスは目の前…!!)
クレスは目の前にいた。剣を持って其処にいた。
剣は青い時空剣技の波動に包まれてその形は分からない。
クレスの顔をロイドは見た。頬が裂けてしまうかのような笑いと。まるで底のない闇のような瞳。
その瞳はエターナルソードを真っ直ぐ見ていた。
揺り起こされる情景、深い森の向こう。
石碑、ダイヤモンド、ヴォーパルソード、フランヴェルジュ、
チェスター、アーチェ、クラース、すず、そして、そして、そして

「くっそあおあおあおあおあおおおお!!」
「あははははははははははははははは!!」
『く…これ以上ここにいては…ロイド!!今のままでは誰の契約も機能しない!新たな契約が要る!
精霊の力、エタ―――ソードの真の―――使することは出来るのは、最後の――だ!!』

力場が、閃光に包まれて爆散する。
柄の部分を残して金属バットは霧散した。


薄暗い部屋の中で、天上王はチェス盤を見ながらアルコールを摂取する。
「それ」を聞いて、満面の笑みを浮かべた。

「精霊王オリジン…今貴様に介入されては敵わん。自らのルールに従って、ご退場願おうか…」
210魔剣斬翔 7:2006/06/13(火) 18:59:38 ID:0IYxtYw6
雨が、城跡に降り注ぐ。東より来たる寒波と、ディムロスの晶術によって生じた熱量が
雲を生み、あり得るはずのない雨が降り注ぐ。
ロイドは眼を開け、自分が地面に這い蹲っているのを初めて理解した。
何秒気絶していただろうか。その答えを掴む前に、ロイドは
濡れた石畳の向こうにエターナルソードを見つけた。
ロイドはエクスフィアの付いていない方の手を伸ばして、
立つことままならない体を引き摺る。もうすこし…
あと十センチ…親父…
あと五センチ…父さん…

コレット…あと一センチ…

ロイドの視界に、突如誰かの足が落ちる。
足はロイドの伸びた手を踏みつけて圧力を加える。手の甲が、折れた。
ロイドの絶叫を背景音楽として、誰か、そう、クレスはゆっくり、ゆっくりと魔剣を掴む。
雨が豪雨に変わり、莫大な音に無音となる。絶叫も、クレスの声も何も聞こえない。
クレスの剣がロイドを手に掛けようとした瞬間、
スタンがディムロスを構えて突進した。その叫び声も聞こえない。
ギリギリまで温存した体力を全て使い、全てを力に。究極の連撃「殺劇舞荒剣」が走る。
それを見てクレスの唇が動く。誰にも聞こえない。その技の名前はスタンしか知らない。
211魔剣斬翔 8:2006/06/13(火) 19:00:30 ID:0IYxtYw6
カイルは突然の雨に漸く眼を覚ました。あの雷雨を無傷で生き延びた幸運をラビットシンボルに祈ることも
しなければ、雨の心地良さに身を任せることを良しとせず、カイルは剣を構え、父の元へ駆ける。
ロイドに父のことを任せたとは言え、何が起きるか分からない。
ほんの少し眼を開くのも一苦労な、その雨の白の向こうに二つの影を見た。

切り上げと斬撃。「と、スタンさん…?」
刺突と蹴り。「スタン!」
蹴りと刺突。『スタン!』
突き上げと打ち払い。「スタンさん!」
切り下ろしと右袈裟。「父、さん…」
飛燕連脚と左袈裟。「父さん」
「父さん!」掌打と飛燕連脚。
虎牙破斬と虎牙破斬。「父さん!!」
切り上げと緊急停止、そして転移。「残念だけど、僕の殺劇舞荒剣はここまでなんだ」
魔王炎撃波が虚しく空を切る。

父さん!!!アルベイン流の殺劇舞荒剣の妙は技を途中で停止できる所にあった。
スタンの剣は締めの魔王炎撃波の慣性に縛られ、若干の遅れとなる。
緊急停止の反動を威力に変えて、魔剣によって精度を上げたクレスの翔転移は若干の速さとなる。
その差分だけ、スタンの体に大きな傷が刻まれた。
白い雨の世界に、少しだけ赤が混じって、すぐ白に流されて、英雄の体が、重力に降伏した。

「――――――――」雨の中、耳障りな無音と慟哭が伝播する。
212魔剣斬翔 9:2006/06/13(火) 19:01:11 ID:0IYxtYw6
雨は続く。英雄の血を押し流す。最初から無かったかのように。
父さん!眼を開けて父さん!しっかりして父さん!!
クレスはその濁った眼を向けて、カイルに矛先を向ける。
カイルはそれを見ない、血を流す父親に必死で声を掛ける。
雨の音が五月蠅い、とクレスは感じた、とにかく五月蠅い。誰か半鐘の音を止めてくれ…

半鐘?なんで半鐘が…半鐘がなったのは―――

クレスの動悸が速くなる。呼吸が荒くなる。雨に紛れて分かりにくいが唾液の流出が止まらない。
焼けた村、親友と走る、狩りの後、平穏の崩壊、
痒い、痛い、暗い、アミィ、父さん、母さん、僕は―――
デジャヴと共に、デミテルの契約が、禁断症状が、ぬぐえない過去が、発症した。

カイルは憎悪に炎を燃やしてディフェンダーを掴む。
仇をじっと見据える。喉を押さえ、舌を突きだし、足を震わせてこちらを見ている。
まるで許しを請うような瞳。ふざけるなと、言う気もしない。
クレスはサックを取り出す。最後の希望を飲むために。
カイルは剣を薙ぐ。最初の絶望を飲ませるために。

サックが裂けて、どろりとした深緑の液体の入った小瓶が落ちる。
クレスはこの世の者とは思えない形相で、それを見た。肉体が思うように動かない。
クレスの眼下から消えたカイルは、神への礼拝のように剣を両の手で握り、それを振り下ろした。
213魔剣斬翔 10:2006/06/13(火) 19:01:50 ID:0IYxtYw6
縦に振り下ろされた剣の真横から、応力が掛かる。
矢が一本、カイルのディフェンダーの軌道を弾いて吹き飛ばし、
蔓が一本、地面に接触しかけた小瓶を掴んで、彼の元へ回帰する。
カイルは矢が飛んできた方向を見た。すでに豪雨は小雨になっていて、冴えた光景の中には
誰にもいなかった。カイルが後ろに五番目の男の存在を認識したのと、
ロイドが樹砲閃の「跳弾」を理解したのと、
ティトレイの轟裂破がカイルの体を吹き飛ばしたのは同時刻である。

カイルは水平にきれいに吹き飛んで、予想される着弾地点には、地面が無い。
元拷問部屋…最も城が城でなくなった今は「大きな穴」というのが正しい。
ティトレイは分かっていて其処に突き飛ばし、殺した瞬間を目撃しないですむ方法を選んだ。
少しだけ、心が痛んだような錯覚を覚える。
そんなティトレイの横で口から体液を覗かせながら、クレスは忍刀血桜を
投げつけた。血を求め、血によって痛みと渇きを癒す為に。
カイルが地面に落ちるよりも速く、カイルに刺さるよりもはやく、
ディムロスとぶつかって、速度を失した。クレスは躊躇い無く、忍刀を叩き落したそいつに
エターナルソードを振り落とす。


雨が完全に、晴れた。久方ぶりに覗いた月光は、魔剣が背中に刺さった英雄を無慈悲に照らす。

金髪が月光に輝いて、

ロイドはただ叫ぶことしかできなくて、

クレスが刀を引き抜いて、

カイルと剣と刀はゆっくり下方への速度を強めて、


月光に顔が映る。

ロイドはただ吼え、涙を流す。

五体を切り裂こうとしたクレスの鳩尾をティトレイが突いて気絶させる。

カイルは視界が地下の壁に埋まる刹那、父親の最後の顔を見る。


完全な笑顔の、完全な英雄が、完全な父親としてそこに存在していた。

214魔剣斬翔 11:2006/06/13(火) 19:02:36 ID:0IYxtYw6
残された二人が、対峙していた。見上げるロイドと、見下すティトレイ。
先ほどまでの戦闘とは打って変わって静謐に包まれる。
「お前、誰だ…」ロイドが呻くように立ち上がる。瀕死状態で秘奥義を放ったロイドは、
その場にあったディフェンダーを杖として立ち上がるしかなかった。
「ティトレイ、お前らをあそこで火に掛けた奴だよ」
ティトレイは弓を装填し、ロイドに背を向けて散乱したクレスの所持品等を回収する。
「…ヴェイグの…ダチが何でこんな事をするんだよ…!!」
ロイドは呻く。4人で名簿を見回したとき、ヴェイグはティトレイのことをここでの唯一の仲間だと言った。
ティトレイは辺りを見回し、バルバトスの遺体の「それ」をディスカバリーする。
「元、な。元親友だ。俺は、恩を返してから死ぬ。それだけだ」
少し痛んではいるがまだ使えそうだ。どうやら遺体と床に挟まって誰にも気付かれなかったのだろう。
その証拠にこの遺体のサックが無い。少女2人のガサ入れを逃れたクローナシンボルが
サウザンドブレイバーと天翔蒼破斬の衝撃によって、現出した。
「…じゃあ、先に死ぬか?」
回収を終えた、ティトレイは再びロイドの方を向く。
「絶対…諦めてたまるか…俺は、まだコレットに会わなきゃいけないんだ…」
ティトレイはほんの少しだけ眉を動かして虚ろな笑顔を見せた。
すぐに背を向けて、クレスを肩に担ぐ。
「俺を、殺すんじゃ無かったのか…」ロイドの声が少しだけ強くなる。
「気が変わった。一回だけ見逃してやるよ…次は無いぜ?」
ティトレイはサックからクレスのアイテムを取り出す。
「ふざけんな…てんめぇ…!!」
ティトレイは一切の反応を見せず、北の方の戦闘を見た。
「サービスで教えといてやる。ヴェイグが東の丘にいる…早くしないとエラいことになるかもな」
ロイドは驚きを隠さずに噎せた。ジューダスと一緒に別れたヴェイグが何でここに?
「信じなくても良い。ただ、俺は嘘だけは付かない。それが俺が俺だった最後の証拠だ。
それこそ信じる信じないはお前の自由だ…出来れば、あいつ、ヴェイグのことを…」
そこで口を噤んだティトレイは少しだけ驚きを表面に出して。
「いや、やっぱ止めとくわ。じゃ、がんばって生きろよ?」

ティトレイは少し力を込めてホウセンカとブタクサをありったけ咲かせた。
花粉と、弾ける無数の音が視界と音をかき消して、
ロイドが漸く眼を開けたときには、英雄の遺体だけが残っていた。
ロイドは声を上げて泣く。何故泣くのかは分からない、花粉が目に入ったからなのは間違いない。
215魔剣斬翔 12:2006/06/13(火) 19:03:06 ID:0IYxtYw6
ティトレイは西へ進み、海岸まで出てきた。クレスを下ろして、海を眺める。
「殺せたら殺してたんだがな…」
糸が切れたかのようにティトレイは腰を落ち着けた。
「樹砲閃、轟裂破、そんでフォルス…この疲れ…三つ星半だぜ。もー限界だ」
ティトレイは見逃す理由を探していた。殺さなかったのではない、殺せなかった。
サウザンドブレイバーによって精神力を、ダオスの最後の一撃によって体力を失い、
のろのろと歩くしか出来なかった為にジェイの侵攻を許すほど消耗していたティトレイには、
メンタルシンボルとエメラルドリングの補助を持ってしても、あれが限界だったのだ。
だから弱みを見せる前に逃げる必要があった。そういう建前がある。
「良い奴っぽかったな」
ティトレイはこれからの算段を立てる。やはりクレスは発症してしまった。
この薬を使えばとりあえず沈静するだろうが、今使えば次の発症は多分今日の正午。
それまでに万全の体勢が整うとは思えない。やはりクレスとの連携には鎮静剤の製造が不可欠。
原型はここにある。材料は元々自分が用意した物だから何とか作れるかも知れない。
調薬と調理はだいたい同じだろう、多分。昔取った杵柄と言う奴だ。
ティトレイは北を向いた。精神力ならすぐに回復するだろう。
歩けるくらいまで回復したら北の森…B2が塞がっているからC2に行く。
B3の方が隠れやすいとは思うが万が一C3が封鎖されて禁止エリアに包囲されるのは不味い。
出来る限りヴェイグ達から離れなければ…自分は、もう見ず知らずの少年を殺した。
もう復讐者ですら無い。ヴェイグ達から見れば…唯のモンスターと変わらないだろう。
その方が、幾分気が楽だ、と思った。最初から自分は人殺しなのだ。彼女を守れなかったあの時から。
「見殺しにした奴が惚れてた男じゃ、しょうがねえよな。なあ?しいな…」
本当は、もしあいつじゃなかったら、わざわざ花粉を使わずに無理してそのまま殺していた。
そう言う彼の顔は、少しも笑っていなかった。
216魔剣斬翔 13:2006/06/13(火) 19:03:59 ID:0IYxtYw6
ティトレイが殺したと思っている少年は、夢を見ていた。
もう見ることも無いと思っていたあの夢。父親が死んだあの日の夢。
しかし少しだけ違う。殺したのはバルバトスじゃない。
誰なんだろう…マントを靡かせて…すごくカッコよい大剣だけが鮮烈で。
でも、何かが欠落した夢。その光景には天使が欠落していた。

「父さん…リアラ…」

カイルは涙を流して、眠っている。外傷は殆ど無い。
父親の最後を見て、カイルは穴に落ちた。
落ちた先は、石床ではなく、もう少しだけ柔らかい「者」。
首の欠けた遺体の上で彼は眠る。今だけは、眠らせてあげよう。
これが幸運だったのか、息子達を守ろうとする父親達の意思だったのかはもう判別が付かない。
ただ、現象だけは説明できる。

彼が、カイル=デュナミスが持っていたラビットシンボルは跡形も無く粉砕した。
今だけは眠らせてあげよう。

どのような道を歩むことになろうと、彼が休まる時は二度と来ないのかも知れないのだから。


【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:ロイドと和解 意識衰弱 HP45% TP60% 睡眠 悲しみ ずぶ濡れ
所持品: 鍋の蓋 フォースリング ウィス
第一行動方針:???
第二行動方針:スタンを守る
第三行動方針:リアラを守る
第四行動方針:ハロルドが気になる
現在位置:E2城跡元拷問部屋
217魔剣斬翔 14:2006/06/13(火) 19:06:25 ID:0IYxtYw6
【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:TP35%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒 禁断症状 気絶 ずぶ濡れ
所持品:エターナルソード 
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する(不安定)
現在位置:E1海岸→C2森

【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP15% TP10%  意気消沈 右肩に打撲、および裂傷 左手甲骨折 
   胸に裂傷 疲労困憊 ずぶ濡れ
所持品:トレカ、カードキー ディフェンダー エターナルリング
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:状況の整理
第二行動方針:リッド、キール、ジェイと行動
第三行動方針:協力者を探す
第四行動方針:メルディの救出
現在位置:E2城跡

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態: HP70% TP1% 感情希薄 ずぶ濡れ
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック ガーネット オーガアクス  
    エメラルドリング 短弓(腕に装着) ミスティシンボル クローナシンボル クレスの荷物
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る(優勝する気は無い)
第一行動方針:休憩しながら北の森に行き、クレスの鎮静剤を精製する
第二行動方針:クレスにヴェイグ殺しを依頼する
現在位置:E1海岸→C2森

拷問部屋にS・D、忍刀血桜が置いてあります。


エターナルソードに関する暫定ルール
・エターナルソード←→マテリアルブレードへの変換はロイドのみが可能
・変換には所持してからの一定時間の精神統一が必要(敵から奪って即変換は不可)
・多重契約による矛盾を回避する為どの時空剣士との契約も機能を一時凍結する
・時空剣士(オリジンとの契約者)が一人になるまで再契約出来ない=真の力は使えない
・多重契約状態でロイドに無理矢理干渉したオリジンの状態は不定
・現状ではエターナルソードは時空剣技と相性の良いだけのただの高性能大剣
・ロイド以外の二人が最後の一人になった場合、オリジンとの契約が可能なのかは不定

・そもそも制限下で真の力がどこまで発揮できるか不定

【スタン=エルロン 死亡確認 残り17名】
218魔剣斬翔 修正:2006/06/14(水) 00:37:26 ID:keBnySun
12−8行目
メンタルシンボル→メンタルバンクル

14−ロイド状態
左手甲骨折→右手甲骨折

宜しくお願いします。
219Replaceable Wisdom 1:2006/06/17(土) 19:08:12 ID:cRmHs5PQ
静かな草原に噎せなく声が止み、続いて二人の過去を紡ぐ歌が流れる。
それが終わり、幾許かの沈黙の後、天才はようやく眼を開けて口を開いた。
「1つ、聞きたいことがある」
その二人への敵意を全く隠さずに、威圧的に聞いた。
「その男を仮装パーティに誘ったのは貴女ね?」
若干瞳の黒をプリムラの方に向ける。そのプリムラは突き刺さる視線から逃れるため、彼の方を向いた。
彼は炎のようなラインの入った黒のパンツに胸に十字架の印の入った黒のシャツ、そして若干紫の混じった
漆黒のマントを翻している。しかし何よりも特異なのはその顔を覆った仮面。
髪型だけが左右非対称のジューダス、リオン=マグナスの姿が在った。
二人がハロルドの元へ向かうと決めたとき、プリムラはリオンの服装の問題点に気がついた。
真っ赤なのだ。胸の辺りから放射状に真っ赤。ジューダスが突き刺した部分から流れに流れた血は
まるでペンキのように染み渡り、その白かったタイツも紅白のコントラストになっていた。
はっきり言って印象最悪である。恐ろしく駄目だ。犯人と血で真っ赤になった人間が警察の元に行くなんて
どうしようもなくアウトだ。その旨をリオンに伝え、その点に関しては彼も同意した。
しかし肉片ならまだ洗えば落ちようが、染まった血は落ちようがない。ましてや近くに川もない。
無駄なことに労力を裂く位なら早く目的地に向かったほうが良い、と言うのがリオンの意見である。

‘じゃーあそこのそっくりさんの服を借りたら?’

(いやまさか本気にするとは思って無くて…)プリムラは漏れそうになった心の声を封じる。
その後のリオンの行動は恐ろしく早かった。どのくらい早かったかというと「パッと着る」くらい早かった。
その過程を見ることが出来ないのが残念なほどだ。
「勘違いしないで貰おうか…確かにこの女の意見が発端だがこの姿になると決めたのは僕の意志だ」
リオンがプリムラを守るように右手を彼女の前に出す。腕ごと切断された衣服の部分には紅い布、
リオンのマントだった布が巻かれていた。他に見あたる色は脇腹を薄黒く染める黒ずんだ血の部分だけだ。
「罪を隠匿するため?」ハロルドは問う。
「罰を認識するためだ」リオンは迷わない。
プリムラにはリオンが何を考えているのか分からない。探偵としてまだ未熟なのだ、と思う。
最も、今の自分に探偵を名乗る死角が在るとは微塵にも思えないが。
「…流石に私もジューダスがその子を捕まえてきたのかと思ったわ。ジューダスの遺体は?まさか
裸のまま野晒しにしてきたんじゃないでしょうね?」
ハロルドの眼は依然として毅然としていた。
「無論埋葬してきた。…シャルの残してくれた力の残滓で」
リオンはゆっくりとサックからそれを取り出した。星のように光るレンズの欠片…シャルティエのコアだった
それをハロルドに見せる。
「…正しく加工されてないレンズじゃあんまり力を出せないはずだけど…流石はコアって所ね」
ハロルドはそれと共に提出されたチャネリング片をよく見回した上で、両方をリオンに返却した。
「さて、じゃあ本題に移りましょうか?今更どの面下げて私の目の前に現れたの?私に何を望んでいるの?」
その大きな目が二人を射抜く。レーザー機能搭載の眼球なのだろう。
220Replaceable Wisdom 2:2006/06/17(土) 19:08:53 ID:cRmHs5PQ
「私…あのう、その…」プリムラは魚類のような口の運動をする。
「…被害者の爪に少量血が付いていた」ハロルドの言葉にプリムラは顔を上げる。その首には傷跡があった。
「どちらが先に手を出したのか、何でこうなったかは私には一切興味がない。
殺されたくなかったから殺した、この思考を否定する理由は私にはない。
ヴェイグを刺したのもそれが賢明だったかどうか、という論点を除けば分からないでもない。
自己の確立と他の排除は同義で、生きるということは何処かで何かを殺すって言うことですもの」
ハロルドは手を組み、親指の指紋を合わせて立てた爪を前歯に当てる。
「はっきり言うわ…貴女のやったことは何も間違っていない。故に、私は絶対に貴女を許さない」
プリムラの頬を一筋汗が流れる。
「理解と納得は全く別の単位よ。貴女は裁かれるためにここに来たんじゃない。
貴女は私が許してくれると期待したんでしょう?甘えたんでしょう?」
「わ、私は…彼に、グリッドに…」
一向に緩まない空気。捩切れるのも時間の問題だろう。
「ヴェイグもグリッドももう洞窟に行ったわ。残念ね?貴女が奪ったアイテムでヴェイグを直せば、
グリッドがここにいれば、貴女を庇ったでしょ。でもいない、私が貴女を許す理由がない。
だからこの話はここでおしまい」
ハロルドがそう言い終えると、プリムラは膝を折って座り込んだ。あまりにも容赦の無い罵声。
しかし否定することは出来ない。リオンと会って、確かにそう考える自分がいたからだ。
「じゃあ、そっちのリオン=マグナスはどうなの?私に許しを請いに来たようには見えないけど」
「端からその気は毛頭無い…取引だ。お前の知っていることを全て話せ」
リオンは元々はジューダスのサックから対人レーダーを取り出してハロルドに渡す。
「漆黒の翼を火に掛けなさい」
ハロルドは一言そう言って、レーダーに手を伸ばした。
「…どういう事だ?」
「あんたにやる情報なんてこれっぽっちも無いってこと」
ハロルドは触診しながらアプローチの手段を模索する。
「おい、貴様ふざける…」
剣を抜きかけたリオンに、ハロルドは振り向かずに、淡々と告げた。
「早く失せなさい。私があんたらを解剖する気になる前に。これでも結構我慢しているのよ?」
221Replaceable Wisdom 3:2006/06/17(土) 19:09:34 ID:cRmHs5PQ
そこに帰ってきたのトーマが見た物は、2人の後ろ姿だった。プリムラが何秒か置きにこちらを向いている。
「川には誰もいなかった」
トーマの報告に、ハロルドはそう、といっただけで、その手はひたすらレーダーの解析結果を
メモに記している。少々ナイフで無理矢理分解した為もうレーダーとしての効果は発揮していない。
「…よかったのか?これで」トーマはぼそりと呟く。
ハロルドは結果をまとめて、立ち上がった。
「結局の所、私が許そうが許すまいが、彼女が自分を許せなければ意味がないの。
そしてそれを促せる外的要因は1つしかないわ。…それよりも」
ハロルドはトーマの方に向く。
「私の読みではターゲットはあの二人が来る前に襲撃にくるはずだった。
最後にレーダーを見たときも反応はなかったし、川にもいなかった…何故?」
ハロルドはメモに全く別口の用件を書き込んで、それを折りたたんだ。
「まだ動けないか…やはりこっちに来なかった。それともこちらが少し南下したことを知らないのだから引き返した」
「もう一つ、レーダー圏外からロングレンジで狙っている」
トーマはその一言に身を震わる。
「まあ、グリッドの情報を統合するとあの石には視力強化は搭載されていないみたいだし
観測手なしで夜間狙撃は無理だわ。仕方ないわね…私たちも撤退してあの二人を尾行…あんた、その蝶は何?」
ハロルドの一言にトーマは後ろを向いた。ひらひらと、1つの青い蝶が舞っている。

ハロルドは訝しんだ、一応虫には多少の造詣があるがこんな種類の蝶は見たことがない。
青い蝶…さっき、たしか…。トーマの手がその蝶に伸びる。

‘何か、カトリーヌが青い蝶に触って、いきなり消えたらしい。
そのあとあの化け物に襲われたからそれどころの話じゃなかったんだが…’

「触らないで!!」
この手合いの注意が世界で何度行われたのだろうか…大抵やった後に注意されるから、数が減らないのだろう。
どんなに気をつけたところで、歴史が変わった試しはない。
222Replaceable Wisdom 4:2006/06/17(土) 19:10:14 ID:cRmHs5PQ
山合いの岩影に、正確には巨石の影に完全に収まる形でシャーリィがいた。
積まれた岩を三脚代わりにして、メガグランチャーを構えている。しかしその砲口の1m先には岩が
立っていて、視界が全くない。しかも彼女は眼を開けていなかった。
彼女がD5に到着したときには、そこには誰もいなかった。
川に入ったところで禁止エリアE4の事を考えると迂闊にはいるわけには行かない。
だからこそもう一度同じ手を使う。打つところは、テルクェスが反応があった点。
この付近にいるということは、誰であれシャーリィの存在を知っている可能性が高い。
騙すには少々適していない。消した方が身のためである。
「誰かは知らないけど、さようなら」
滄我砲が、眼前の岩ごとテルクェスの方へ放たれた。
奇しくも、西で同じことが今行われている。

「氷結は終焉!せめて刹那にて砕けよ!インブレイスエンド!!!」
最初から連携発動用に準備していた晶術を発動する。
二人の前に大氷塊が盾として現出した。
威力と威力がぶつかって、氷が飛沫と砕ける。

「っく…ヒューマ、無事か!!」
蹌踉けながらトーマは辺りを見回す。すぐにハロルドが見つかった。氷の破片に体中幾つかの斬り傷が残る。
「何とかね…川に入っていたなら川ごと凍らせて殺してやろうかと思ってたんだけど、中々上手くいかないわ」
ハロルドはそう言って、自分のバックをトーマに投げ渡した。
「私が残る。あんたはあの2人を守りなさい。「王の盾」なんでしょ?」
「ガジュマの俺がヒューマに殿をさせるなどできるか!」トーマは引き下がらない。
「うるさい!負傷兵は後方支援に回るのは戦陣の基本!馬鹿にしてんの?」ハロルドの一括。
「お前と俺では価値が違う!」トーマは確信している。
「…私じゃ多分駄目、このままだと本当にあいつの手の中で踊らされるわ」
ハロルドは一気に声のトーンを落とした。
「どういう事だ!?一体!」
「雑談はここまで。もうすぐ彼女が来るわ…大丈夫。保険も掛けてあるし、何とかなるでしょ」
ハロルドはその厚い唇をにんまりと動かした。
「…なぜ退かん!お前は率先して戦いに行くヒューマでは在るまい!!」
トーマは、走り去った。答えを聞いたのだろう。
223Replaceable Wisdom 5:2006/06/17(土) 19:11:12 ID:cRmHs5PQ
「クレイジーコメットでエネルギィ量を集めて、水気アクエリアス・スフィアは西の川とインブレスエンド、
光気プリズミックスターズはディバインセイバーと北の鉄に見立てて、開門のブライティスト・ゲートに
トゥインクルスター、陽気エクスプロージョンノヴァは月の熱気にエンシェントノヴァと、
闇気ディメンジョナル・マテリアルはエクゼキューションと夜の邪気はそこらに溢れているし…
さてさてどうにも足りない土気マクスウェルロアーとTP…」
ハロルドは巡るましく計算を働かせる。ミクトランに負ける気はしない。
ゲームに屈する気もない。しかし、どうしても解けない、解けるはずのない問題があった。

「…私は「私」に勝てない。そういう算段なんでしょ?ねえ…」
ハロルドは頭を掻いた。「なぜ、逃げないか、か…」
「私がただのマッドサイエンティストなら、逃げるんだけどね〜」
一瞬眼を閉じて、そして見開く。
「ここが軍人の辛い所なのよ、うん。民間人置いて逃げたら軍法会議だし」
ハロルドは短剣を強く握る。
「絶対にあんたの思い通りにはさせないわ。千年で劣化した頭で私に勝てるわけ無いじゃない」


その蒼い閃光を見ていたのは、たったの5人。
今夜のもう一つの戦いが、幕を開けた。
224Replaceable Wisdom 6:2006/06/17(土) 19:13:01 ID:cRmHs5PQ
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー
     ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
     フェアリィリング
     UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り25% HP残り80% 背中と胸に火傷(治療中)冷徹
   ハイエクスフィア強化クライマックスモード発動可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない) か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動
第一行動方針:E5に進撃
第二行動方針:E5に残る面々を追撃
第三行動方針:D5の水中で休息後、テルクェスで島内を偵察
第四行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:D5の山岳地帯→E5北

【ハロルド 生存確認】
状態:ミクトランへの憎悪 TP40% 至る所に切り傷
所持品:短剣  
基本行動方針:具体的な脱出へのプランを立てる 
第一行動方針:3人が逃げるまでの時間を稼いで撤退
第二行動方針:首輪のことを調べる
第三行動方針:C3の動向を探る
現在位置:E5北

【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
    イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
    金のフライパン 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:リオン達と合流後、撤退?
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
現在位置:E5北→南下

【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創・出血(止血処置済み)、切り傷多数(応急処置済み) 
   自分がしてしまった事への深い悲しみ 体力消耗(中)
所持品:ソーサラーリング、ナイトメアブーツ ジェットブーツ,
C・ケイジ スティレット  グミセット(パイン、ミラクル) 首輪
基本行動方針:リオンについて行く
第一行動方針:閃光に対する対応を決める
第二行動方針:グリッドに会いにG3洞窟へ
現在地:F5

【リオン=マグナス 生存確認】
状態:HP70% TP80% 右腕はまだ微妙に違和感がある 
崩龍斬光剣習得 コスチューム称号「ジューダス」
所持品:アイスコフィン 忍刀桔梗 首輪 レンズ片(晶術使用可能)
基本行動方針:ミクトランを倒し、ゲームを終わらせる 可能なら誰も殺さない
第一行動方針:閃光に対する対応を決める
第二行動方針:グリッドに会いにG3洞窟へ
第三行動方針:スタンを探す
第四行動方針:協力してくれる者を集める
現在地:F5
225名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/17(土) 22:42:35 ID:Yt0KQNcS
テイルズオブバトルロワイアル 感想議論用スレ7
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1150453574/
226どうか、今は安らかな眠りを 1:2006/06/18(日) 10:57:18 ID:slDEnY60
曖昧な、包み込むような暖色の光の下で、6人の男女が話していた。
ある少女は酒に呑まれ騒ぎ立て、青年2人掛かりでそれを押さえ込んでいる。
最年長の男性は呆れつつも微笑ましく見守り、最年少の少女はどうすればいいかと少々困惑している。
それを自分も、見守っている。
見慣れた、いつもの情景。旅の合間に見える、平和な景色。
心が安らぐ感覚に、安息という言葉はこういう光景の為にあるのだと思う。
願わくば、この光景が永遠に続きますように、世界にこんな光景がもっと生まれますように。
ぱちり、たった1秒の瞬き。あれ、1人消えている。次期頭領の少女がいない。
おかしいと思い再び瞬きすれば、また1人。切れ目の弓使いがいない。
そしてまた1人と。箒に乗る魔女っ子がいない。
気付けば、自分含め2人だけになっている。
思わずもう1人、所々にペイントを施した最年長の召喚士に尋ねる。
何を言っているんだ? ここには私達以外、他にはいないぞ? 召喚士はさも不思議そうに答える。
ぱちくりと瞬きをする。上手く言葉を呑み込めない。
彼の言葉の意味を理解しようとして、だが彼女の思考は急停止する。
「──」
声は出なかった。
伝えるにも、どう言えばいいのか分からなかったし、信じられなかったから。
自身もよく知る剣士が、召喚士の背後に立ち、歪んだ笑みを浮かべ、時の剣を両手に持ち掲げ、今正に振り下ろさんとしていた。
227どうか、今は安らかな眠りを 2:2006/06/18(日) 10:58:30 ID:slDEnY60
視界に広がる黒のスクリーンに、ランプの燭が消え真っ暗闇になった洞窟を思い出す。
あれは…夢か、そう、夢だ。
額の汗を拭う。湿った感触に、幻の世界から闇夜の現実世界への逆行を再認識する。
まだ自分は暗い洞窟の中にいるのだろうかと思う。しかし飴に宿る光は無い。
私はコレットさんに気絶させられて、それから何かひんやりとした空気を感じて──…。
しかし気付く。その冷気、まるでフリーズキールの氷の洞窟のような冷気をはたと感じない。
寧ろ今感じるのは、冷却された空気ではなく、通常の、深夜の澄み渡った空気。
肌寒いのは同じだが、度合いが違う。そもそも感覚的に違う。
そして更に、露出した腕に布のさらさらとした感覚、規則正しい振動が伝う。
布の温もりは分かっても、その向こう側の体温は感じない。
暗闇の中で、自分は誰かに抱えられていると、もう洞窟にはいないと理解する。
それと共に浮かび上がる1つの疑問。
私は、目を開けているのでしょうか?


「ああ、起きた?」
耳を伝う凜としたボーイソプラノ。何故だろう、不思議と違和感を覚える。
「どう? 暗闇の世界は。怖い? 何も見えないでしょ?」
先の大人しげな声とは声量は同じ、静かだ。だが秘められたもの、まるで未開封の玩具を開けるのを今か今かと待ちわびる子供のよう。
そこにある狂喜。それが違和感の正体だった。
「ミトス…君?」
「軽々しく僕の名前を呼ばないでよ。紛い物のくせに」
少々の苛立ち。表情は何も見えない。そう、見えない。
ミントはやっと我が身に起きた異常を理解する。暗闇の中には、月も星も幻も存在しない。
「一体…何が!?」
「何が? へぇ、聞く権利があるとでも思ってるんだ?」
規則的な振動が止まり、ほぼ顔に近いだろう首筋でひやりとした感触がした。剣だと察するのは簡単だった。
「そうだね、失明した、とだけ覚えておけばいいよ。具体的な説明より、曖昧な方がいいでしょ? 何があったか、色々想像出来て」
「…!」
分かりきった、しかし認めたくはない宣告に、思わず息を呑む。
上手く状況が理解出来ない。
今まで見たこと、いや、聞いたことの無いようなミトスの声。
自分は今、光を喪失している。なのに、何故彼はこうも声を上擦らせ、うきうきとしている?
この対極の感情は、何?
言いようの無い寒気が襲い掛かる。本当に、彼?
この闇の向こうでミトスがどんな表情をしているかは、分からない。
ミントの記憶に残るミトスは、何かに怯えるように静かだったから。
「…リアラさんは…?」
自分と同じように苦しんでいた少女を思い出す。彼女の声がしない。
228どうか、今は安らかな眠りを 3:2006/06/18(日) 11:00:13 ID:slDEnY60
「死んだよ。今お前を抱えてる奴に殺されて、さ」
何の躊躇いも無く、第二の宣告。しかも何の悲哀の情も存在せず。
おかしい。何かの間違いだ。
今自分を抱えている人物──容易に想像はつく、コレットだ──が彼女を殺す訳が無い。
今まで一緒にいたのだから嫌でも知っている。コレットはリアラを第一に守るガーディアンだった。
その彼女が何故殺し、彼女が何故殺される?
気付いた時には、嘘です、と言葉が自然に溢れていた。
ミトスは小馬鹿にするように一笑。
「何で嘘をつく必要があるの? 別にもう少ししたら分かることだろ?」
体が強張る。その言葉が正しいのだと、無意識に悟ってしまった。
そう、あの無慈悲な声が、彼女の、リアラの名を呼ぶ。
彼の言葉通り、嫌でもあと数時間すれば分かることだ。それは逃れ得ぬ真実。
目をぎゅっとつむる。暗闇の濃度は何ら変わらない。
「コレットさん…どうして…」
何故コレットがミトスに従っているのか、ミントには想像の余地も無い。
この悲痛な呟きも聞こえているのだろう、しかし紅の瞳の天使コレットは表情を全く変貌させていないのだろうと思う。
記憶には彼女の笑顔が見当たらないから。
「今はもう、そいつは僕に従う下級天使さ。勿論、大事な器でもあるけどね」
冷たい触覚が離れる。ミトスが剣を納めたのだろう。それと同時に彼が冷たく言い放つ。
「…私達を…皆さんを、騙していたんですか?」
失笑が聞こえる。
「騙したんじゃないよ。騙されてたんでしょ?」
頭がくらっとした。目は見えなくとも、視界が揺らぐような感触は確かにある。
「それじゃあ…あの話も、嘘…?」
「1割、ね。C3で姉さまが殺されたのも、殺したのはクレスってのも本当さ。
 違うのは、メルディって奴とは共謀してないってことだけ」
全身から力が抜ける。それは安堵によるものとは程遠く。
そう、カイルが正しかったのだ。少年の必死の声を否定して、その結果がこれだ。
今更理解したって遅い。既に後戻りは不可能な所まで来てしまった。
もしカイルをあの時信じていれば…彼は、大切な人を失わずに済んだのだろうに。
信じること、信じ続けること。それが本当の強さだ──このゲームで長く共にした剣士の言葉を思い出す。
だが所詮、それは幻の強さなのだろうか? このゲームでは露に酷似したものなのだろうか?
信じることの何が悪い?
何故、信じて罰が下る?
神よ、貴方は何て残酷な御方なのですか。
229どうか、今は安らかな眠りを 4:2006/06/18(日) 11:02:24 ID:slDEnY60
「クレス…さん…」
「その名前を呼ばないでよ。忌々しい」
大事な、大事な大事な姉の命を奪ったあの剣士。
許せない。許してたまるものか。例え世界中の全員が許しても、僕は絶対に許さない。
そんな奴に縋るように、名前を呼ぶなんて…くそっ…。
そうだ、姉さまがあいつの名前を呼ぶもんか…こいつは姉さまとは違うんだ…!
ミトスは心中で憎悪を散らす。顔には歪んだ表情が浮かぶ。
その形相すら、今のミントには察せられない。コレットは何の反応も示さない。
ふと、ミトスは表情を憎しみから変え、にやりとおぞましく口角を上げる。
あろうことか、それは復讐の対象、あのクレスに似た狂気の笑みだった。
「そうだ。目の前で殺すのもいいかな。痛々しい声だけが聞こえてさ、助けも出来なくて、ただただ見守るだけ…耳は塞がせないよ?」
そうしてミトスは、かつてアトワイトに語り掛けたように、静かに喋り出す。
ミントははっとしたような顔をし、声がする方向へと向く。
「…止めて下さい」
「八つ裂きにして、ばらばらにして、滅茶苦茶にして…最期はお前の手で殺させてあげようか?」
「止めて下さい!!」
必死の懇願を軽々しく捨てるように、またミトスは笑う。
「ま、時間はまだまだあるし…それに、もう死んでるかもしれないしね」
静寂の闇の中で、ミトスの嗤笑だけが響く。
それっきり、ミントは黙り込んでしまった。
約束の地への歩みを再開しながら、ちらりと偽の聖母の顔を覗く。
辛そうな顔はしているのに、涙は流していない。中々に気丈な女だ、ムカつく。
赤い感情が込み上げてくるのが分かった。しかし何かが壁を作り上げ、そして遮断する。
こんな奴が姉さまと似てるなんて。壊してやる。壊してやる!
言いようのない破壊衝動と幻影のせめぎ合いの中で、彼は感じた。
感じた。懐かしい波動を、時の力を。
この感覚、間違いない。オリジンとの契約で授けられし盟約の剣、エターナルソード。
近くにある。裏切り者の息子、もしくは英雄とも呼べない奴は、何処かにあった時の剣との邂逅を果たしたのだ。
方角は西。地図の記憶が正しければ、ちょうど海岸辺りだ。
誰だ? ロイドか、カイルか、それとも──…。
エクスフィアを寄生させた、最早ただの術も引き出せる剣となったアトワイトを携える。
声はしない。ただ、呼吸で硝子が曇ったり晴れたりするように、コアがゆっくりと点滅している。
こいつの精神は既に破壊したのだから、当然だ。
人で言えば植物状態。ただ「生きる」ということだけを維持する哀れな無機。
天才により開発された意思ある最強の携行兵器──それはもう単なる過去の肩書きだ。
大佐という地位も老将ラヴィス・クレメンテの主治医であったことも、今や何の意味も持たない。
せいぜい、その過去が癒しの力を持つ水属性に直結しているだけである。
230どうか、今は安らかな眠りを 5:2006/06/18(日) 11:04:01 ID:slDEnY60
意思なき剣を手に、ミトスは西を見据える。
実力は知らないが、例えロイド達だとしても、今の自分なら負けは有り得ない。
今の? 否、元から1人でも充分にやり合える。何せ僕は古代大戦の英雄。
そもそもそういう問題ではない。今の自分には魔剣が必須なのだ。それをわざわざ見過ごすなんて。
「お前はそいつを連れて先にC3に向かっていろ。僕は後から行く」
姉さまを傷物にする訳にはいかない。
暗黙の了解か、コレットは無言で北東へと歩き出す。
ここはE1。ミトス達はジースリ洞窟を出た後、禁止エリアのG1を、イーツ城を避けながら海岸線に出、そのまま北上していた。
北のD1は禁止エリア。それを敬遠するように、コレットはD2へと向かっていく。
小さくなっていく金色の影を見送りながら、ミトスは波動を辿る。
「…さてと」
思考を巡らせる。
仮にロイド達がいるとしたら、どうしようか。突如消えた僕を怪しむだろうか。
それにしても何故西方に? 僕の考えじゃE2城にてカイル達と結託、南に向かうと思っていたのに。
何かあった、と考えるのが道理か。
仮に考えていたパターン、ロイド達とカイル達が会ったとして。
時間と距離を考えて、カイル達が神の骸を見た可能性は、まず有り得ない。
ということは、時空剣士らしいロイドが元からエターナルソードを持っていた?
好都合だが不都合だ。クラトスの首に潜ませてきた手紙も見ていないかもしれない。
まぁ…父の死に狂ったロイドがカイル達を殺した、ってのも十分考えられるけど。
逆に手紙を先に読むなり後に読むなりしたら、僕は確実に敵扱いだろう。
ましてや洞窟に向かった筈の、しかもリアラがいない自分達を見たら、怪しまれるのは必須だ。
カイルやスタンがいたら間違いなくアウトだ。
だからコレットをシースリ村に先行させた。その方がいざという時の理由は作れる。
…けどまぁ、仮定だし、もしかしたら元からエターナルソードを支給されていた「ラッキー」な他の参加者かもしれない。
それに僕には大きなアドバンテージがある。
夜目の利く、更に天使の力で強化された視力と、この耳さえあれば、状況の把握も容易い。
まずはそこからだ。戦うか、利用するか、奪取するかは、それからだ。
姉の復活という大願の為、ミトスは海岸へと歩き出した。


彼は知らない。
この先にいる人物がロイドではないことを、自分の怨敵であることを、時空剣士がもう1人いることを、仇が同じ時空剣士であることを。
231どうか、今は安らかな眠りを 6:2006/06/18(日) 11:05:03 ID:slDEnY60
濡れる心。体は動かない、動いてくれない。衝撃が体を侵し、立ち向かう気力さえ抜けていく。
重複する絶望が彼女、ミント・アドネードから活力を奪い去っていくのは容易だった。
ミントは押し黙ったまま、心の中で泣く。
法術士である自分が、迷える少年を救えなかった。
同道する少女を救えなかった。
泣き続ける。
哀れな、あの優しげな金髪の少年を思って。
全てこれが夢であるようにと、今はまだ夢覚めやらぬ夜であるようにと彼女は願った。
静寂と規則正しい歩調は、今だけは心地良い子守歌になる。
眠ろう。次に目を覚ました時は、この悪夢は夢と幻であったと分かるから。
暗闇の向こうには、愛しい人の姿さえ見えない。
自分が目を閉じているかどうかも分からない。
そう、分からないということが分かる。
意識は冴々として、神は残酷だから、尚もこの先の悪夢を見ることを求めているらしい。


ミントを抱え歩くコレットの足に、何かが当たる。
かさ、と軽い音。紙のようだ。何となく拾い上げ、読んでみる。
そして何を思ったか、くしゃくしゃのメモを丁寧に畳み、ミントの荷物に忍び込ませる。
見も出来ないのに、読み聞かせることも出来ないのに、まるでそれを免罪符とするかのように。
尤も、それは彼女達の免罪符ではないし、免罪符にしようとした少年は、既にこの世にはいないのだけれど。
232どうか、今は安らかな眠りを 7:2006/06/18(日) 11:06:29 ID:slDEnY60
【ミント 生存確認】
状態:TP75% 失明(酸素不足で部分脳死) コレットに運ばれている 帽子なし 悲哀
所持品:ホーリィスタッフ サンダーマント ジェイのメモ
第一行動方針:コレットに連れられC3へ
第ニ行動方針:クレスがとても気になる
第三行動方針:仲間と合流
現在位置:D2→C3村へ

【コレット 生存確認】
状態: 無機生命体化 (疲労感・精神力磨耗無視)
所持品:苦無(残り1) ピヨチェック
基本行動方針:防衛本能(自己及びミトスへの危機排除)
第一行動方針:ミントを連れC3村へ行く
第二行動方針:ミトスの言うことを聞く
現在位置:D2→C3村へ

【ミトス・ユグドラシル 生存確認】
状態:TP55% 左肩損傷(処置済み) 治療による体力の中度消耗 天使能力解禁
   ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない)
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放)、大いなる実り、邪剣ファフニール
基本行動方針:マーテル復活
第一行動方針:遠目に状況を確認する
第二行動方針:離脱後、C3村で策の成就を待つ
第三行動方針:ミント・コレットをクレス殺害に利用する
第四行動方針:考え得る最大効率でミントの精神を壊す(姦淫ですら生温い)
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:E1南西→E1海岸へ
233名無しさん@お腹いっぱい。:2006/06/21(水) 23:10:50 ID:cZK5w+lK
糞ゲー
234Shape of Nothings Human1:2006/06/22(木) 21:04:10 ID:1OP0k60u
海がそこにあった。砂浜の白砂は月光に照らされて、真昼のように輝いている。
波打ち際から砂浜の終わり、草原まで大きく見積もって直線距離5メートルと言ったところか。
砂の上には貝も、流木も、時間が蓄積している証拠になるものは一切無い。
幾つかの雑草が中年の髪の毛のように惨めに、不自然に在るだけだ。
砂と草の境界で彼は地面に手を添える。その手は震えていた。既に捉えている。
彼は眠る剣士を見下ろす。塞がれた顔は誰の物か分からない。
「もうちょい土が良かったら楽なんだけどなあ」
手を合わせ、両の手を地面に付く。黒い夜に、白い砂の上で、緑が輝き、血の赤が澱む。
「誰が来るかは分からねえが…クレス…お前だけは守ってやる。
イーフォン、俺を信じなくて良い。お前が託した俺を信じて、力を貸してくれ」
乾いた砂の中に、彼の意志が咲いた。


何もない海と砂、寄せては返す波の音。この静寂には人間排他の効果があるようで。
そんな場所に、ミトス=ユグドラシルは辿り着き、そこに一人の青年を発見した。
海の方を向いて、胡座を掻いて座っている。どうぞ首を斬って下さいと言いたげな背中だった。
「何をしているの?」実に子供っぽく訪ねてみる。背中に左手を回し、アトワイトを隠す。
「何もしてねえよ」青年は立ち上がって、ようやく少年の方を向いた。髑髏と何の差もない死人の顔。
しかし、ミトス少年がまず眼を奪われたのはその顔ではない。彼の右手、正しくは右腕に巻き付いている布。
「お前、それを何処で手に入れた?」一気に声の調子を落とす。既に騙すという選択肢はない。
「俺の希望をぶち壊した奴のマントだった布。包帯がなかったから代わりに貰った」
ティトレイは肘を前に出して見せつける。ミトスにとっては実に印象の深い、血染めのボロ切れだった。
「お前が、ダオスを殺したのか?」ミトスは感情を堪える。
「ああ…でも確かお前ら啀み合ってなかったか?えー…ミトス…だったかな?」
ティトレイは鼻をポリポリと掻く。明確な意図を乗せて。
「僕の事なんかどうでも良いよ。…剣を寄越せ」
ダオスへの意識をコントロールすることに必死で、ミトスは彼の意図に気づかず、本題へと乗り出した。
「剣なら後ろにもってんじゃん…ああ、それとも…」彼は自分のサックから、それを出した。
「これのことか?」
「アイスニードル!!」
ミトスが瞬間的にアトワイトを翳して晶術を放つ。構成された何本もの氷槍が彼に牙をむく。
ここにロイド達がいないと分かった時点でもう相手を騙す必要がない。
どうにも、まさかエターナルソードを持っていたラッキーな愚か者がいるとは、
ましてやそいつが自身の愉しみを、ダオスを勝手に殺したというのであれば、生かす理由もない。
あいつは姉様の前で頭を垂れて惨めに無様に死ななきゃいけない存在なのだ、それを勝手に。
235Shape of Nothings Human2:2006/06/22(木) 21:04:57 ID:1OP0k60u
彼は何も表に出さず、素早く地面に手を当てた。
「生えろ」彼の目の前だけにその植物…カレギアのノースタリア・ノルゼン地方にしか生えない
氷割り草が次々氷槍に突き刺さって行く。術が終わったのを確認して、彼は立ち上がった。
「俺を氷で殺すなら、あいつ以上の氷で来な」役目を終えた草が一気に萎えてゆく。
「…黙ってその剣を渡せ。さもなくば…」ミトスはその苛つきを押さえ、冷静に‘説得’を試みた。
見る限り戦闘スタイルは拳と弓…剣よりも近い間合いと剣よりも遠い間合いを得意として、
何よりもさっきの異能、魔術でも晶術でも無い技。どうやらかなり相性が悪いようだ。
(どうする…あちらの体になるか?)そっとミトスの手が首輪に伸びる。無機質な金属で出来た首輪。
ミトスは別に首輪を解除したいと考えてはいない。ただ、どうしても今後のために首輪の問題は避けられない。
ミトスは自身の戦力分析を行う。紋無しエクスフィアによって心を封じたアトワイトは今や
どんな晶術も使えるほどにこちらとシンクロしている。精神体であるソーディアンにはエクスフィアの性質が
よく効くようだ。外さない限りは反抗する意志すら芽生えないだろう。
二刀流、晶術、魔術、天使術。ここまで手札を揃えたとはいえ、しかい未だ磐石ではない。
(やはり確実に戦うには高速で発動できる高火力技が必要だ…)
どんなに力を得たところで射程の短い斬撃と詠唱の要る術、どうしても
目の前の男や連携を取ってくる相手には対応しきれない。ダオスと同質の技が必要になる。
ミトスもその技を持っている。しかしその為にはユグドラシルの体で無ければ衝撃に耐えられないのだ。
ミトスはこの島で一度もそちらの体にはなっていない。理由が二つある。
まずマーテルへの配慮である。マーテルはミトスが何をして来たかを知らず、ミトスとしては
業の代表例とも言えるその姿になるわけにはいかなかった。
しかしネレイド戦でも彼は決してその姿になることは無かった。条件が足りなかったからである
(ユグドラシルになって、首輪が爆発したら…)

そう、その一点だけが、今尚問題だったのだ。
まずルール的に抵触して爆発する可能性、これは除外できる。
シャーリィ=フェンネスがフィギュア化した際首輪が爆発しなかったことを考えると
ある意味にて同質の行為が誘爆を誘うとは考えにくい。
問題はミトスとユグドラシルの首の大きさが違う点である。
この首輪は首と殆ど密着に近いサイズである。おそらく参加者によってサイズが異なるのだろう。
同一人物とはいえ大人と子供のサイズ差では変身によって太くなった首が首輪を圧迫し、
爆発に至るかも知れない。ミトスにとっては大問題である。
シャーリィ=フェンネスが大丈夫だったから、という可能性も無くは無いが。
あそこまで原型を留めない変貌だけでは判断材料としては乏しい。なにせ失敗したら首が飛ぶのだ、
簡単にはいかない。そもそもあいつの首輪がどうなっていたかもよく思い出せない。
なんか肉体が溶けてなかったか?流石に首輪が本当に爆発する物だと知っている以上迂闊はならない。
理想的なのは首輪が魔術によって構成されていて変身しても丁度のサイズに変質する場合、
或いは首輪が物理的に展性・伸縮性が若干ある場合だが…
236Shape of Nothings Human3:2006/06/22(木) 21:05:32 ID:1OP0k60u
「そんなにこの剣がいるのか?」ミトスの思考は目の前の彼によって阻まれた。
「…だったらどうした」やはりリスクを冒せないミトスは二刀を構えて威嚇を強める。
冷静に考えればどんなに時間を稼いだところで向こうは魔剣をこちらに渡すしか活路はない。
あの剣を質にしたところで壊せる代物ではないし、それを失えば殺されること位は
分かっているだろう。この勝負は端から自分の勝ちなのだ、そうミトスは油断した。
「こうすりゃ手っ取り早ぇ」ティトレイは、即座にミトスに背を向け、狙いを定めた。
エターナルソードを、魔剣を未だ夜の中にあった海に投げ込む。
その光景に唖然とするミトス。まったくの予想外のことに体が対応しきれていない。
エターナルソードは放物線を描いて飛び、海の中の砂に垂直に刀身を三分の一ほど入れて突き刺さり、
柄の部分を残して、ゆっくりと水中に身を沈めた。月明かりの御蔭で水中の剣を見ることは苦労しない。
「確か海は禁止エリア、だったよな?海に浸かったらか?海の領域に入ったらか?爆発は」
ティトレイはミトスに尋ねる。内容の割には嫌みのない声色だった。
「お前、覚悟は出来ているんだろうな?」
ミトスは声を震わせて、ティトレイの方を向いた。まさか、海に投げ込むとは。
判定はどうなる?禁止エリアでは無い海は安全なのか?瞬間移動は出来ても飛行は出来ない。
凍らせて…もし海上の空間に入ったらアウトだとしたら…どうする?最後の手段を使うしかないか?
「いいのかあ?俺を殺すと、安全にあれを回収できる奴いないぜ、多分」
ティトレイは腕に絡んだ蔦を伸び縮みさせて笑った。
「もうちょっと恩を返し切れてないんだ…今だけは見逃してくんねぇか?」
彼は別段命を惜しむ気は更々無い。惜しむ感情がない。
だからこそ迷うことなく切り札を海に捨てられる。
策も勝算も無い。そこまで彼が付き従っていた知将との記憶は都合良く出来ていない。
ただ、ティトレイなら守ると決めたなら誰であろうと命に代えて守る。そう彼は思っている。
迷探偵の安易な閃きと、ティトレイのルールに、彼は全てを賭けた。
常に全額BET、命なんか平気で自分任せに出来る。

二人の思惑など私には関係ない、と言わんばかりにエターナルソードは海に刺さっている。
彼の安っぽい思惑は、彼の知る以上に、ミトスに効果があった。
何も恐れない彼を前にして、ミトスは剣を下ろすしかなかった。
237Shape of Nothings Human4:2006/06/22(木) 21:06:28 ID:1OP0k60u
暫く二人の情報交換、というか彼の一方的な陳述が続く。
「成程。随分とおもしろい話だね…東は混迷の一途を辿っている、と」
「ま、信じるかどうかは、お前さん次第だ」
まずミトスが尋ねたのはエターナルソードを何処で手に入れたか、という点であった。
それに付随して彼の口からその前後…大凡今夜の悪夢が始まった辺りからの
情報が人事のように語られてゆく。主体の欠けた主観こそが客観に他ならない。
「俺は瀕死のダオスって奴を始末して、E2から一直線でここに来た。あの剣はそこで拾ったモンだ。
すまねえな。そのダオスとカイルって奴を殺しちまって」
彼はオーバーに両手を広げて、自嘲気味に構えた。
「別に良いよ。ここまで事態が進んでいるなら彼奴なんてどうでも良い。
…もう一度聞くが、本当にクレスって奴は…」
「さっきも言った通り、今は砂の下だ。俺が最後に見たときは眠ったような面だったぜ」
ミトスは虚勢を張る。自身が想定していなかった四軍クレス、デミテル達、ネレイド、そしてダオスの乱入。
予想以上にG3での仕事が捗ったのも納得のいくシュチュエーションだ。
しかしダオス、カイル、クレスの死は、ミトスのモチベーションを下げるには十二分だった。
なんとも拍子の抜けた話だ…自分の手で後悔させてやりたい連中が挙って死んでしまうとは。
玩具を取り上げられたかのように、その残念そうな顔を隠そうともしない。
しかし、ミトスは目の前の男にその残念をぶつける気には成らなかった。
ミトスは彼を胡散臭そうに見つめた。その評価は1つだけ「なにもない」だ。
どんな責め苦を与えたところでこいつは何の感情も露わにはしないだろう、それが分かる。
そもそも怒りや憎しみを抱くにはその対象が必要不可欠なのだが、
どうにも目の前の男にはその値が無いようにミトスは思えた。本当に目の前の男は存在しているのかどうかさえ
疑わしくなっていく。あの何を見るともない無の瞳にミトスは無機生命体に近い物を見た。
ミトスは剣を納め、戦闘態勢を完全に解く。これ以上構えていたらこちらの戦意まで萎えてしまいそうな
予感に襲われたからだ。或いは…
238Shape of Nothings Human5:2006/06/22(木) 21:07:02 ID:1OP0k60u
ミトスは踵を返して北東を向いた。
「お前の話が本当なら今日、あの城の残党がC3に来る。…あそこに鐘楼があるの知ってる?」
「ああ…そういやあったけな?」
二人は知らない。鐘楼は確かにあるが、その上であの血塗れの演説が行われたことを。
「奴らが来たら、僕は鐘を鳴らす。その剣を持ってお前も来い」
「来ないかも知れないぜ?いや、来たとしてもこの剣置いてくるかもな?」
「それはないね」ミトスは彼の方を向いた。
「わざわざ僕に殺される危険を冒してまでエターナルソードを渡したくない…でもお前は剣士じゃない。
そのうえその剣の真の価値を分かっていない。つまり…お前には剣士の仲間がいるんだろう?
しかも、代わりの大剣を調達する余裕の無い位、何かに焦っている…多分、その剣士が長く持たない。
でもその剣士に死なれる前にやらなきゃいけないことがある…違う?」
ミトスは左手を台座として立ったまま頬杖をつく。この推理が間違っていないなら
目の前の男には仲間がいて、今は別行動中と言うことになる。
「お前はどこの名探偵だよ」冗談と顔が一致してないのが新しい冗談のようで。
ミトスは南北と東に集中して音を探る。反応は感じられないが時間が立てばこちらの不利は明確。
「忘れるな。その剣を持っている限り僕はお前達の位置が分かる。
そして、僕は何時だってその剣を諦めてお前達を殺し、大人しく優勝してやったっていい」
無論これはブラフに過ぎない。精々が近くにいれば気配が分かるといった程度の物だ。
ここで無理をすれば剣は一生禁止エリアに括り付けられる可能性がある。
ここは退いて改めて安全に回収すればいい。そう判断してミトスは安全策を選んだ。
ミトスは先行させた二人と合流するため、その一歩を踏み出そうとして
彼が投げたそれに感づいてキャッチする。内心でその殺気のない投擲が凶器で無いことに安堵した。
「…なんだこれは?」ミトスはそれを見て訝しむ。ミスティシンボルと、それに括り付けられて一輪の花が在った。
「礼は果たさねえとな?」その行為がやはり不似合いで。
「…これの価値分かってるのか?第一この花は?」
「おっさんは形に拘らない質だったからな…俺は別に使わねえし。
その花は、在るところにしか咲かないティートレーイの花」
彼は笑ったような表情をしている。しかしミトスにはやはりそれが不自然なように思えてならなかった。
「花ぐらい添えてやんな。姉貴なんだろ?」人間味とは相も変わらずのかけ離れた虚構。
239Shape of Nothings Human6:2006/06/22(木) 21:07:46 ID:1OP0k60u
ミトスは、その一言に同類の臭いを、ほんの少し感じ、その分だけ警戒を弛緩する。
「1つ、頼み事をして良いかな?」ミトスはサックから1つの輪を取り出し、彼に投げた。
首輪だった。ミトスはただ演出の為だけにクラトスの首を落としたわけではない。
自身がユグドラシルに変成する為に首輪の圧力実験をする必要があったからだ。
彼は何も言わずに首輪を受け取る。
「お前の蔦でそれを括ってそれを引っ張って見てくれ」
彼は何も言わずに蔓を延ばし、二方向からそれを搦めて引っ張った。
蔓が裂けそうなほどに伸びた瞬間、首輪は音を立てて爆発、ミトスは剪断の判定を見切る。
「…OK、最後に、そのダオスのマント…くれないか?」
ミトスは彼を信じていた、というより疑うべき所がそっくり欠落していた。
ミトスの差し出された手に、ダオスのマントだった布が渡される。
ミトスはマントとしては短すぎるそれをスカーフのように巻いた。
そして、何も言わずに彼にリザレクションを掛ける。
何もかもが予定調和によって存在しているかのようで、ミトスは少し可笑しかった。
「劣悪種に借りは作りたくない」ミトスはそれだけ言って改めて踵を返し、二、三歩歩いて立ち止まる。
「何で殺す?」ミトスは尋ねる。彼は髪の端を女々しく弄る。
「…種族が一つになれば、違いが無くなれば争いが無くなるって思ったことがある。
俺はそれを否定した。そんなことしなくても、気持ちが同じなら俺達はやっていける。そう信じていた」
殺された姉の幻影。しかし今の彼には怒りを定義することも出来ない。
「…分かんなくなった…気持ちって一体何だ?嬉しいって何だ?悲しいって何だ?」
試練に立ち向かった彼の論理は感情と共に喪失した。種族が違ってもヒトの気持ちは同じ、
ならば気持ちとは何か?ティトレイが信じた心とは一体何なのか。
「俺はゼロだ。ゼロの男だ。何にも残ってねえ…」
彼はあの時全てを失った。元より日記が「暇つぶしでしかもタダ」扱いの男など、
最初からゼロかも知れないが。残ったティトレイの体は心を渇望している。
彼が帰りたかったのは、元の世界なのか、それとも「彼」に帰りたかったのか。
ある意味では彼はそれを知るためにティトレイを「被って」いるとも言える。
デミテルの見たかった物を、彼も見てみたのかも知れない。
ある意味で感情そのものであるその光景を。

「…今のコレット、人形は少し使い物にならなくなってね?
体だけじゃない、心すら無くなればその苦しみからも解放される…僕の下に来い。天使になれば全てが解決するぞ」
コレットの精神は主殺しで剥奪され、ミトスの思い通りになる人形になる…はずだった。
マリオネットと言うにはあまりにもう動かないのだ。
リアラのときのように率先して危機察知をする気も無ければ警戒する気も無い。
少なくともミトスをリアラと同等の存在と思っていないのは確からしい。
想定とは大分異なっていたがミトスはそれほど重要視していなかった。
犬猫程度に命令が聞ければそれ以上の要求は罰当たりという物だ。ただ労働力が少し足りないだけだ。
その事実はあっても、この勧誘は冗談なのか、本気なのか、ミトス本人にも判別付かぬ茫洋としたもので。
「俺は、お前と行く資格がねえ」彼は応えない。
「それは残念。次に会うときは殺し合いだ」ミトスは歩みを始めた。今度は止まらない。

「さようなら、また会おう」月が彼らを等しく照らす。
「じゃあな」しかし彼らの心に月はない。
240Shape of Nothings Human7:2006/06/22(木) 21:08:46 ID:1OP0k60u
月の中、一人歩く少年は思考を進める。
C3の生き残りが1人でも生き残っていれば、
E2、E3の事態が収束次第、残党がクラトスの首から手紙を発見してG3に向かうだろう。
そこで仕込みを見た連中が激昂し、僕への憎悪を滾らせ、ミントとコレットの奪還に来る。
後は連中を誘い込んで一網打尽にしてやればいい。よほど剣が入り用なのか、ティトレイは焦っている。
過半数がもう死んでいる以上、僕の意図が分かっていても用意された狩り場に食いつかないわけにはいかない。
乗ってくるなら最高のタイミングで横槍を入れてくる。
だが、それが分かっていればその状況は此方にとって大きな利益だ。
ティトレイと剣士、北上するE2残党、纏めて葬り去る。あそこならそれが可能になる。
それでお仕舞い、その後は姉様を守れればそれで良い。
その時までゆっくり体を休め、盤石の体勢で迎え撃つ。少なくともE2残党は人質のことを考えれば
強行軍で来るしかない。疲労した連中など物の数に入ろうか。万が一何を思ったかすぐにC3に来たところで
それは奇襲ではなく集団自殺。そこまで愚かでもないだろう。
それまで精々ミントを壊しに壊して、放送でクレスの名前が出た瞬間の絶望の表情を見て殺してやろうか?
暇つぶしには丁度良い。カイルもダオスも居ないのでは少々張り合いが無いくらいだ。
ネレイドも僕が殺すまでに生き延びているかどうか…実に面白くない。

気がつけば、ミトスの周りには誰もいない。ダオスも、シャーリィも、ミントも、スタンも、コレットも、
アトワイトも、カイルも居ない。ミトスは1人だ。
しかしミトスはそれに気づかない。ティトレイが配下になってくれれば、とミトスは一瞬考えた。
なんで来なかったのか。疑問と共にミトスはティートレーイの花を見た。

『ああ…でも確かお前ら啀み合ってなかったか?えー…ミトス…だったかな?』
『花くらい添えてやんな、姉貴なんだろ?』
『俺は、お前と行く資格がねえ』
その事実に今更気付き、その花は何の罪もなく、握り潰された。
241Shape of Nothings Human8:2006/06/22(木) 21:09:26 ID:1OP0k60u
「そういうこと。お前が、あの時…ああ、あいつの仲間は…クレスか」
ミトスは一度だけ振り返る。もう海岸は遙か遠くで、今更戻ったところでもう居ないだろう。
「自分がクレスとお前を分断した」
「今は砂の下、俺が最後に見たときは眠ったような面」
彼は最初から本当のことしか言っていない。推理が正しければクレスは、最初から…
ミトスは萎えた感情が再び鼓動するのを感じる。しかしそれは憎しみと言うより、歓喜。
クレスの顔を見なくて良かった、見たら先走って殺していただろうから。
ダオスもカイルももういない。ならばせめて楽しみは後に取っておかないと。
ミントを壊し、その本性を白日の下に曝し、証明した上で殺す。
クレスを殺し、無限地獄に突き落とした上で、処刑する。
その二つを果たした上で魔剣を得、姉様を取り戻す。
纏めて喰らって愉しみを2倍にも3乗にもしなければつまらない、つまらな過ぎて死にそうだ。
最早ティトレイも北より来る哀れな殉教者共もその過程の添え物に過ぎない。
万が一自分がオリジンに拒まれようと、手段はある。
自分が使えなければロイドに「使わせれば」良い。その為のコレットだ。
そういう野暮ったい話を他人にするような阿呆は劣悪種だろうが神の化身だろうが磔にされて然り。
もしそれすら叶わなければそれでも良い。全てを血で染め上げて終わらせるだけだ。
全く、実に、恐ろしい程、何も問題はない。問題がなさ過ぎてつまらない。劣悪種なんてつまらない。
姉様のいない世界なんてつまらない。つまらない世界なんて滅べばいい。
握った手が開かれ、花びらが風に流されてゆく。人の命のビジュアルの様に。
「…哀れなる劣悪種共よ、」ミトスはスカーフを強く握った。ミトスの体が輝く。
スカーフの中の首が首輪を圧迫する。しかしそれが爆発に至らないことを彼は知っていた。
「私は神の機関クルシスを司る者、ユグドラシル」
呼吸は元から必要ない。仲間はもっと必要ない。
もう恐れる者は誰もいない。姉様さえ居てくれれば負ける気がしない。

「貴様等に神の慈悲を呉れてやろう」
242Shape of Nothings Human9:2006/06/22(木) 21:10:18 ID:1OP0k60u
彼は周囲の草原に誰もいないことを確認した上でエターナルソードを回収後、海岸を歩いた。
元々コレットが気付いたと同じ頃、彼もミトス達を捉えていた。
砂浜に、枯れた雑草が密集している所がある。その名前を「スナカケワラビ」と言い、
動く物や生き物に砂を掛ける性質を持つノースタリア・スールズ地方にしか生えない植物だ。
彼はその辺りの砂を掘り起こす。十回ほど手を動かして、お目当ての人物を発見した。
「まだ生きてたか…」彼は顔を覆ったマントを解いて、掘り起こす。
クレスは余りにも顔がこの島で知れ渡っている。だからこそ、今は完全に隠匿する。
あの時直感した、「この剣はクレスと共に在るべきだ」という確信を信じてみる。
恐らくこの斧では何かが駄目なのだろう。LUCKが下がりそうだ。
根拠無く断定するのがティトレイらしいと、彼は思った。
ティトレイは感性と直感で動かねばならないのだ。
「騙したみたいで気分…ッッ!!!」
彼の口から、紅い液体が水道のように溢れた。中々に馬鹿に出来ない出血量。
「あいつに回復術掛けて貰わなかったらヤバかった…やっぱ、聖獣の力も無限って訳じゃねえか」
彼は己の体力が減衰しているのを感じる。詰まるところ聖獣の力とはフォルスを暴走寸前まで
活性化させるブースターのような物、だから気を抜けば直ぐ暴走する諸刃の剣。
しかしカレギアでヴェイグ達と共に戦っていたティトレイはここまで消耗する事はなかった。
その理由が彼に分かるはずもなく。
彼は先ほど生やした氷割り草を掴む。白い砂には血が紅く染み込んでいた。


「とりあえずこれの煮汁飲も…」
彼が演じているティトレイは、料理人としてこの茎に滋養強壮効果があったことを知っているらしい。
243Shape of Nothings Human10:2006/06/22(木) 21:12:19 ID:1OP0k60u
【ミトス=ユグドラシル 生存確認】
状態:TP30% 左肩損傷(処置済み)  天使能力解禁 ユグドラシル化(TP中消費でチェンジ可能)
   ミント殺害への拒絶反応(ミントの中にマーテルを見てしまって殺せない)
所持品:エクスフィア強化S・アトワイト(全晶術解放)、ミスティシンボル
  大いなる実り、邪剣ファフニール、ボロボロのダオスのマント
第一行動方針:先遣の二人と合流
第二行動方針:C3村で策の成就を待ちながら休息
第三行動方針:考え得る最大効率でミントの精神を壊す(姦淫ですら生温い)
第四行動方針:C3村にやってきた連中を一網打尽にし、魔剣を回収する
第五行動方針:蘇生失敗の時は皆殺し
現在位置:D2→C3村へ

【ティトレイ=クロウ 生存確認】
状態: HP20%(聖獣の力による消耗) TP0% 感情希薄 ずぶ濡れ 重度の疲労 
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック ガーネット オーガアクス  
    エメラルドリング 短弓(腕に装着) クローナシンボル クレスの荷物 (鎮静剤入り)
基本行動方針:命尽きるまでゲームに乗る(優勝する気は無い)
第一行動方針:動けるまで休憩
第二行動方針:北の森に行き、クレスの鎮静剤を精製する
第三行動方針:クレスにヴェイグ殺しを依頼する
第四行動方針:ミトスの誘い(鐘と共にC3村襲撃)に乗るか決める
現在位置:E1海岸→C2森

【クレス=アルベイン 生存確認】
状態:TP40%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒 禁断症状 気絶 ずぶ濡れ 砂塗れ
所持品:エターナルソード 
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:?
現在位置:E1海岸→C2森
244blue or blue 1:2006/06/29(木) 14:31:27 ID:CY5BHgLC
「だって、科学者でも、私軍人だし」
「それにね、私のせいで誰かが死ぬなんて、もうごめんなの」

振り返るな。振り返るな。
四星の一角、トーマは駆ける。
呼吸が荒い。酸素不足と中々な量の失血が災いして、意識がたまに朦朧とする。
それでも止まらない。トーマは、止まってはいけないのだ。
彼は「王の盾」、と言ってもその盾をリンドブロム家の為に使ってきたのか、と聞かれれば疑問だが。
守るとすれば、自分、もしくはガジュマという種族自体だろう。そして此処では相反する、ミミー・ブレッドという名のヒューマだった。
そして言われた、新たに2人のヒューマを守れ、と。それを言ったのもまたヒューマだ。
このたった2日間で、随分彼らに対する考えが変わったと思う。
忌み嫌っていたのが遥か昔のことのように思えるのは、このゲームの性質故だろうか。
否、違う。ミミーのお蔭だ。彼女がくれた優しさのお蔭だ。
その温かい感情、ヒトの心の光を胸に、彼は駆ける。
前方に2人組の影が見えた。やはり徒歩と走行なら後者の方が速い。
245blue or blue 2:2006/06/29(木) 14:32:37 ID:CY5BHgLC
「さ、何処から来る?」
天地戦争の天才科学者は、たまたま生えていた2本の木のうち、片方に身を隠す。
無垢な少女は何処から現れるか。またあの砲撃をしてくるか、それとも…。
しかし、あのレベルの砲撃を短時間の間に連発するのは考えにくい。
第一、あの青い蝶が索敵に使われているなら、その蝶が今は無いのだから、心配はないだろう。幸い先程の場所とは少し離れている。
耳を澄ませる。葉が擦れる自然の音だけが聞こえる。そこに余計な音はない。
…必要な術はあと3つ、いや、現状を考えれば2つ。
内1つは既に詠唱を終えている。勿論、TP節約のため許容範囲内で威力は押さえて。
必要なのはマナ、純粋なマナ。
微かに身を木から食み出させ、前方に見据える。
「…来た来たぁ」
薄気味悪い2つの月をバックに、少女のシルエットが目に映った。




「…何処にいるの?」
南下してきた滄我の代行者は、人影の無い草原を見渡す。
月光に照らされた緑達は風に踊り、静かな声を立てている。それしか音のない状況が、自然と空気を張り詰めさせる。
そして見つめる、音源の1つである2本の木。誰かが隠れているなら、間違いなくそこ。
2本、つまり、確率は2分の1。50パーセント。面倒臭い。
「悠遠を支えし偉大なる王よ…地に伏す愚かな贄を喰らい尽くせ!」
簡単な話だ、50を100にすればいい。
シャーリィが持つ地属性古代魔法・グランドダッシャー。大地の力が母なる御身を伝い、木の元で解放される。
2本は地割れにより倒れる。根本は粉砕していた。辛うじて残った部分は豪快な音と共に大地に臥せ、土煙を上げる。
それに紛れ、1つの影が駆け抜けていく。月夜の朧な明かりの下、光に反射する黄色い煙の中で、黒が走る。
間違いない、敵だ。
ウージーサブマシンガンを素早く抜き、影が走っていく方向に合わせて発射する。
ぱらららら、というタイプライター音が深夜の静謐を打ち破る。
しかし、瞬時に感じる滄我の集束、マナの結合。
言いようのない、素を織る術士にしか分かりようのない感覚と力を感じ、即座に座標から離れる。
「エンシェントノヴァ!!」
直後、頭上から降るは巨大な炎塊。
着弾した場所を中心に、円形の焼け野が出来ている。草の後影もない。その場に留まっていたら直撃、今頃真っ黒焦げだっただろう。
熱波が顔にかかり、髪が風に揺れた。無条件反射に息を吐く。
似たような上級術(というより同名だ)を知っている。それを使用するということは、結構な術士ということ。
必然的に接近戦には弱い筈だ。
遺跡船の仲間の1人、ウィルのようにハンマーを振り回すような人物ならば話は別だが、声を聞く限りは女のよう。
今の自分にはアーツ系爪術がある。接近戦は、こちらに分がある。
だが、煙が立ち込め視界は不明瞭、威嚇で弾を放つも相手の位置は確認出来ない。
246blue or blue 3:2006/06/29(木) 14:33:28 ID:CY5BHgLC
「裁きの時来たりし…」
そしてまた感じる、マナの高まり。
接近戦に持ち込みたくとも、相手の姿を確認出来なければ無理な話。ジェイとは違って六感で相手を察知することは不可能なのだから。
テルクェスも視覚や聴覚がない以上、ここでは何の意味もない。…こんな煙を使って隠れるなんて!
しかし、今度は危機を察しても離脱はしない。
「天翔ける閃光の道標よ…」
二律背反する力、相殺は可能だ。直ぐさまシャーリィも詠唱を開始する。
「還れ、虚無の彼方! エクセキューション!!」
「汝が咆哮により万象を薙ぎ払え! インディグネイション!!」
夜に広がる闇の空間と、天より下りし裁きの雷。相反し合う闇と海の力。
しかし力を弱めていた分、神の雷に軍配が上がった。せめぎ合う二力は破裂。闇は消去され、雷は拡散する。
煙が晴れる。しかし何たることか、今度は破裂した際の雷の残滓による白光が目をくらまし、行く手を拒む。
「…何回も何回も!」
目くらましを多用してくる相手に、思わず声を荒げる。
こんなに近いのに、相手の姿が見つからないなんて。
白くかかった靄のようなものが、深夜に似つかわしくなく、もう朝方ではないのかという錯覚に陥らせる。
「…聖なる意思よ!」
耳は確かに聞いた。今度ははっきりと声がした。大きい、近い、逃さない。
シャーリィは駆ける。ネルフェス・エクスフィアの助力もあり、走力は以前と比べ上昇している。
場所さえ分かればしめたもの。先手を打てれば、勝つのは私。
声量からして距離はあと──突如眼前に現れる人物。
(フェイク──!?)
詠唱をダミーに、中断してわざわざ接近戦に持ち込むなんて…!
こんなに近くては、今からウージーを撃つことも出来ない。かと言って、擦れ違い際にアーツ系爪術を使うのも難しい。
迫るナイフ。考えている暇などない。何とか体を逸らすものの、左腕を掠める。鈍い痛覚が腕を伝う。
テルクェスを展開、飛翔出来れば、簡単に避けれるのに。それが出来ないのは、先程上空に飛ばされた時に知っている。
体を捻らせ反転し、その勢いを利用し裏拳を後頭部へと殴り込む。手甲には痛みと確かな手応え。
振り返る。見事に相手は地へ倒れ込んでいた。
「やっと見つけた」
247blue or blue 4:2006/06/29(木) 14:36:49 ID:CY5BHgLC

光の粒子が分散していき、再び元の深夜に戻る。
背に片足が乗せられているのが分かる。拘束された訳だ。
しかも思いっ切りだから動くにも動けない。せいぜい動かせるのは顔と腕だけ。頭は常に動かせるが。
月光が逆光となっているのだろう、影に影が落ちる。
「…あらら、見つかっちゃったわね」
ハロルドは白旗を上げたような緩い笑みを浮かべた。と言ってもそれは拘束する側、シャーリィには見えない。
冷たい何かがずきずきする後頭部へと突き立てられている。熱さの中で尚更金属のような冷たさがはっきりと感じる。
これは確実に言える、ピンチだ。
「ごめんなさい、さようなら。私、お兄ちゃんに会わなきゃいけないの」
「…お兄ちゃん、ねぇ」
やっぱり純粋無垢なのね、といった感じに、ハロルドは息をつく。
それなら自分は純粋無垢じゃないのか、と思ったが、15歳の少女と23歳の自分を比べる方がおかしいと思った。
今更ながらこんな状況で冷静な自分もおかしいと思った。人は窮地に立つと逆に冷静になるっても聞くけど。
この少女は瞼の向こうに愛しい兄の姿を映しているのだろう。自分も真似して目を伏せてみる。
「私だって兄貴、亡くしてるわよ。悲しかったわよ」
シャーリィはぴくりと反応した。
闇にまだ兄さんはいる。銃はまだ火を吹かない。
「でも、生き返らせたいなんて思わなかったわ。だって、歴史は変えられないもの」
自分でもどんな表情をしているか分からない。恐らく笑っているか悲しんでいるかだろう。
手に握っていた短剣を地に突き立てる。
「変えようと思えば変えられたけど、ね。私はそこまでエゴイストじゃないって訳」
ハロルドは沈黙する。シャーリィは体の異変に感付く。
ぴくりとも体が動かない。向けたウージーのトリガーを引くことも叶わない。
今頃どうして、どうして!? と、隠そうともせず表情に焦燥を押し出して、心の中でwhyの疑問詞を繰り返しているのだろう。
そう考えて、ハロルドは口元ににやり笑みを乗せた。
248blue or blue 5:2006/06/29(木) 14:37:56 ID:CY5BHgLC
短剣により相手の「影」を縫い止め動きを封殺する、数少ないハロルドの特技「鏡影槍」。
永久ではないが、時間稼ぎをするには充分だ。
揃っているエネルギーは5つ。
水気、光気、陽気、土気、闇気。
あとは、開放の門。始まりの太陽はクレイジーコメットで代用出来る。
足りなかったのは地の力。属性を行使出来ない以上、仕方がない。
あのジューダスに似た奴がいたらと思い、直ぐに振り払った。わざわざトーマを向かわせたのに、引き戻されてたまるものか。
いざとなればミックスマスターぐらいまで発動してやるつもりだった。
けれども、予想外のことが起きた。あの少女が地属性、それも上位晶術に匹敵する術を放った。
結果、土気は集束。内心笑わずにはいられなかった。
そして陽気、闇気と術を発動。更にはエクセキューションを相殺しようと光気を放ってくれたものだから、大助かりである。
尤もそれも計算していた節が彼女にはあったようだが。
とにかく、準備は揃った。
紡ぐ、暴虐の星。
この禁術の特徴は、詠唱と引き替えに、長い集中を要することである。逆に言えば、詠唱はない。
TPは正直、足りない。これだけはどうしようもない。だが、それなら己の命を燃やしてでも発動させる。
目的のため命を賭けて戦うのがこのゲーム、ルールには反してはいないでしょう?
「…クレイジーコメット!!」
ハロルドの声が高らかに響く。
それと共に周囲は暗転し、空には会場の星をも越える、数多の星が散らばる。宇宙という光の海に漂っているような気さえした。
そして──無数の流星が煌めきシャーリィへと降り注ぐ!
似たような術を知っている、だが瞬時にこの禁術の危険さに感づくも、光速に避けることは叶わない。
せめてものか、悪あがきか、シャーリィは対術防御壁を発動させる。
それでも、禁術の威力は凄まじい。星々は容赦なくシャーリィの体を傷つける。小さく悲鳴が緑色の膜の中で聞こえる。
集う、5つの気。
「…更に!」
まだ足りない。門は開いていない。
「トゥインクル・スターっ!!」
夜空に輝く一際大きな星。そこに一筋の流れ星が駆け抜ける。星と星は衝突し、発生した光が包み込む。
あまりの眩さに目を開けることが出来ない程に、その波は光り輝く。それはまるで全てを抱擁する母の手のようで。
その光の中で、シャーリィは僅かに見る。終焉へと導く、七色の光を。
ハロルドを取り巻き渦を作り上げるそれは、急速に速度を上げると、深くも鮮麗な青へと姿を変える。
そして全ては1つとなる。
「…──更にっ!」
それは、ブルー・アースという名のプリンセス・オブ・マーメイド。
大地が、蒼い光に包まれる──。
249blue or blue 6:2006/06/29(木) 14:38:48 ID:CY5BHgLC
嘘よ。
何なの、これ。
視界に、金が流れ煌めく。
両手から、翼が生えている。
手が、胸に添えられて。
輝ける青の中に、深紅が散った。





蒼い世界が晴れる。
2人の体は崩れ落ちる。
片方は血に塗れ、片方も血に塗れ。
しかし決定的な違いは、その片方は予期せぬ疲労感も倒れる要因に含まれていたこと。片方は、動かないこと。
シャーリィのアーツ系爪術は、ハロルドの胸部を裂き、おびただしい程の血を噴出させた。
ハロルドのクレイジーコメット、追加晶術トゥインクル・スターは、シャーリィに多大な傷を負わせた。
ただ、ネルフェス・エクスフィアで強化された体と、防御壁の力が、シャーリィを僅かに生き永らえさせた。
それに対し、ハロルドは心臓部への直接攻撃。致命傷だ。
危なかった。
連続して3つも術を放とうとするなんて…しかも、最後の術はこれまでの術より遥かに強いもの。
クライマックスモードを使わなければ、最後の術まで発動されていた。そして確実に死んでいた。
シャーリィは流れるように、重心を後ろにかけ倒れ込んだ。
そして笑う。
これでお兄ちゃんにまた1歩近付いた。好きな人を復活させようとするのは、エゴなんかじゃない。
ハロルドの言葉が思い出され、胸に留まり、まるで自分のしていることが間違っていると言われたようで、何だか気分が悪かった。
好きな人に会いたいと思うことの、何処がいけないの?
患部に触れようと、重い手を動かす。
そして回復系古代魔法、キュアを唱える。傷付いたって、効きづらくたって、ゆっくり癒していけば傷は治る。
でも、もう力がない…水のベッドで休んで、癒して…。
ああ、その前に、あの欝陶しい奴に止めを刺さなきゃ…。
250blue or blue 7:2006/06/29(木) 14:40:03 ID:CY5BHgLC

痛い。けど痛いを通り越して、何も感じない。
人は死んでも動くっていうけど、本当なのね。どうだっていいけど。
真っ暗で何も見えない。頭まで空気が行き渡っている感じがしない。
死ぬのね、私。ヘマしちゃったわ。
兄さん…死ぬのって、こういう感じなの? 案外苦しくないもんね、それとも苦し過ぎんのかしら。
これなら死ぬのも別に辛くないって思えるわ。
うわ、何か頭に色々流れてる。これが走馬燈ってヤツ?
だけど何でか、頭に浮かんでくる奴は馬鹿ばっかり。私がいなくて大丈夫なの?
大丈夫よね。馬鹿ってのはいっつも天才の考えることを無駄にしてくれるんだから。
悲しいかな、馬鹿は自然と天才をも越える頭を持ってるって訳。

…でも、これでいいの。
私は私に勝てない。ミクトランには勝てても、ソーディアン・ベルセリオスには勝てない。
遥か未来のハイデルベルクって土地で知った。
スタン達四英雄が戦った時、ミクトランはベルセリオスを持っていた。
スタンにも聞いたから確実。あっちにも「私」はいる。
最初から思っていた。何故、ミクトランが天才であるこの私をこのゲームに呼んだのか?
明らかに脅威となりうる私を呼ぶなんて、いくらボケた頭でも考えないでしょ。
私に何をさせようとしたの? ミクトラン…。
案外、本当に道楽で呼んだとか? それなら勝てる可能性は充分あるわ。楽しむしか能がない奴に誰が負けるもんですか。
そう…負けちゃダメよ、アンタ達。私が死んじゃう意味ないじゃない。
稀代の天才の頭脳を潰すんだから、有り余る対価は払って貰わないとねぇ?
あー駄目だ。ぼーっとしてきた。目の前が真っ暗なのに、霧がかかったみたいに霞んでるのが分かる。

ふと、懐かしい面影達が視界に収まったような気がした。
あれ、どうしたの? 皆揃って…迎えにでも来てくれたの?
ああ、待って、先に行かないでよ、皆、兄さん。今、私もそっち行くから。






髪が、力なく揺れる。眠る顔はどこか安らかだった。
止めを刺そうとして、止めた。
胸から流れる血が、とても冷たいことに気付いたからだ。
251blue or blue 8:2006/06/29(木) 14:41:04 ID:CY5BHgLC
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー
     ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
     フェアリィリング
     UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
状態:TP残り10% HP残り20% 背中と胸に火傷(治療中)左腕に軽い切り傷 全身に打撲 冷徹
   ハイエクスフィア強化クライマックスモード発動不可能
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない) か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動
第一行動方針:D5の水中で休息後、傷を癒しテルクェスで島内を偵察
第二行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
現在地:E5北→D5

※短剣はその場に放置してあります。


【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 軽い火傷 TP残り55% 決意 中度失血 疾走による疲労
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック ハロルドメモ2(現状のレーダー解析結果+α)
    イクストリーム マジカルポーチ ハロルドのサック(分解中のレーダーあり)
    金のフライパン 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明)
基本行動方針:漆黒を生かす
第一行動方針:リオン達と合流後、撤退?
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従う
現在位置:F5



【ハロルド 死亡】
【残り16人】
252それぞれの翼 1:2006/07/01(土) 13:13:24 ID:Eoyaz9Lu
先ほどまで立ちこめていた花粉は地面に湿り、漸く濡れた瞳も前を見ることが可能になるくらいには沈静した。
ロイドは、呼吸を整えて辺りを見回す。人影は無い。先の男の影は見あたらない。
「…あいつ、何だってんだ」
男の名前はティトレイ=クロウ。その名前はここに来て二回聞いた。
1つ、ジェイが得た情報から浮かび上がるC3村での演出家‘策士’デミテル。
その人物がこの城でジェイが戦った時に付き従っていたという男の名前。そして

“…参加してる仲間はこのティトレイという騒がしい奴だけだ”

デリスと母星の距離よりも遙かに遠い、あの殺戮とは無縁だった過去。
メルディと、ジューダスと、そしてヴェイグと居たあの頃に確認したその名前。
ジェイからその名前を聞いたとき、ロイドが意見したのは言うまでもない。

「ロイドさんの話を聞く限り、ティトレイさんがデミテルに荷担していないという根拠は、
そのヴェイグさんの‘かつての’仲間だった、という一点しか無いですよね。根拠としてかなり弱いですよ」
「俺はヴェイグを信じてる。そのヴェイグが仲間って信じてるんだから、俺もそいつを信じる」
D2を出発する前の最後のミーティングでジェイは自身の推理を述べた。
反発するロイドにやれやれといった感じでジェイはゆっくりと論理を紡ぐ。
「デミテルがこの一件の黒幕と仮定します。ソースは明かせませんが彼は植物操作が出来ないはず。
しかしそれがこの一件に関与していることから、最低1人デミテルには協力者が必要です。ここまではいいですね?」
リッド達が固唾を呑む中、ジェイは指を立てて演出を込めてロイドを諭す。
「次にデミテルは声を聞いてE2から北上し、C3に到着後、策を展開しています。
クレスさんの行動がデミテルの策の一環なら、距離と時間から逆算してクレスさんは平常通りの行軍を
しなければいけないわけですが、僕が最後に見たクレスさんと貴方達が見たクレスさんの状態が
ほぼ一致していることから1人歩かせてここまで来させるのは無理があります。
デミテルは肉体労働には不向きでしょうから、デミテルがC3で策を成立させるには
クレスさんを運べる労働力が今日の朝の時点で1人必要なんです」
「そしてE2城の生き残りは地下に居たはずの三人を除けば、ジェイ、デミテル、そしてティトレイと言うことか」
ジェイの推理にキールが的確な相槌を打つ。放送から簡単に導き出せる論理だ。
「…全ては状況証拠でしか在りません。もちろんE2で見たティトレイさんがデミテルと繋がっていたというのも
僕の主観的判断です。…ただ、覚悟だけはしておいて下さい。それでは、今後の作戦について話します―――」
ロイドは何も言わず、ただ左手を見据えている。諦観でも反発でもない。揺るがないという意志の表明だろうか。
253それぞれの翼 2:2006/07/01(土) 13:14:05 ID:Eoyaz9Lu
そして今この状況で、ロイドはその男に出会った。ロイドはスタンの亡骸の傍で膝を付いた。
俯せになっていてその死に顔は分からない。その大きな背中だけが雄弁に語っていた。
ロイドは大穴の方を向き、先ほど戦った少年の事を想い巡らす。
父の無惨な姿に我を忘れたロイドを命懸けで諭してくれた少年。
確かにあの瞬間、彼らは友情に近い情念を抱いていたのだ。
しかし彼の父親を守ると、その少年とした約束は無惨に果てた。父を守れず、友達の父を守れず、
挙げ句の果てには約束を交わした友達まで…ロイドは己の無力を呪う。
オリジンが何を言っていたのかはよく分からないが、
やっと受け取った父の思いを、皆の希望だったあのエターナルソードを
あのクレスに奪われたことだけは、自分がどうしようもなく無力だと言うことだけははっきりと自覚できる。
何も守れない、ちっぽけで無力な存在。ロイドは両の手を顔の前に出した。歪んだ左の手が発する痛みが
無力感を促進する。この島で、この手で、守れた物が1つでもあるのだろうか。俺は――

「――ロイド――」

ロイドはその声に反射して、何とも奇っ怪なほどに首を回し、辺りを見回す。
彼女の声が、聞こえたような気がした。ただ、いつもの彼女の声ではない。
まるで、泣きじゃくっているような、そんな赤子の泣き声のような、彼女らしくないそんな声に、
ロイドは酷く心を揺さぶられ、同時に心に沈んだ澱のような物が削げ落ちるのを感ずる。
「コレット!いるのか!?いたら返事してくれ!!コレット!!」
ロイドは叫ぶ。しかし、既に壁という壁のないこの地で残響する波動は無く、意志は減衰する。
ロイドは叫ぶのを止め、もう一度辺りを見回した後生き残った左のエクスフィアを見た。
そして自分の目的と意志を再確認する。
まだ、膝を付くわけにはいかない。ここにはコレットを探しに来たのだ。
確かに彼女はいなかった。でも死体もなかった。ならばまだ会える、いや、会わなければいけない。
守れなかった人たちを思う。しかし、それは呪縛ではない。最後まで諦めてはいけないのだ。
コレットが生きて、空耳だとしても呼んでくれた…それだけでロイドはまだ戦える。そういう生き物なのだ。
254それぞれの翼 3:2006/07/01(土) 13:15:29 ID:Eoyaz9Lu
ロイドは辺りを東の方に首を向け、寒気のような物を感じる。
ティトレイはヴェイグが東にいると言っていた。嘘かも知れない、それは分かる。
しかしロイドはヴェイグに会わねばならない。
カイルを突き落としたのがアイツだとは分かっている。しかしそのあと、
ヴェイグの名前を口に出したときのティトレイの表情をロイドは見逃さなかった。
ヴェイグの居場所に嘘はない、そうロイドは確信した。

自分の後ろ首に手をかけ、特徴である白の細布を1つ引きちぎる。
どちらが本当のティトレイなのか…それとも両方ともティトレイなのかそうでないのか、
見極めなければならない。敵をただ敵として断じるにはまだ早すぎる。
それではクラトスと戦ったあの時の二の舞だ。
左手と口を器用に使い折れた右手にディフェンダーを添えて固定する。
いざと言うことを考えると生きた左手が空いていた方が対応が出来るだろう。
地下に剣を探しに行く気にはとてもなれない。無惨な父の姿に、加えてカイルの死に顔を見るには
まだ決心が付かない。時間が欲しいとロイドは内心で自己弁護した。
リッドのムメイブレードを借りにいける状況ではないだろう。彼らには彼らの戦いが在るのだ。
何故ヴェイグがここにいるのか、ジューダスはいるのか、ティトレイとは何なのか、

ロイドはその足で、東に駆けだした。その肉体的矛盾を全て無視して。
255それぞれの翼 4:2006/07/01(土) 13:17:47 ID:Eoyaz9Lu
「グリッド!!」
ミリー…か?…ここは、どこだ?
「漆黒空間」
は?
「ここは漆黒の翼所属者にしか入ることが出来ない(裏口あり)ワンダーでモモーイな素敵空間。まあ座れ」
夢…なのか?そうか、確か俺はヴェイグに近づこうとして…!!まさか俺は死んだのか!?
「死んだ。盛大に凍死した」
マージーデースーカー
「マージーデースーノー」
ぎゃああああああああああああああああ!!!もう駄目!帰る!ゲーセンにいって鬼カルマ叩いてくる!!
「ちょっ今の無し!ノーカンノーカン!!嘘だから、嘘だから!!っていうか‘!’が多すぎて見づらいから!」
………………
「ああ疑ってる疑ってる。無理もないよな、そうだよな。でもそんなことを言ってる暇はないぞ」
どういうことだ?
「○の穴かっぽじって能く聞けグリッド。今お前にはデンジャーが迫っているのだ!」
○ってお前…
「そうじゃねえよ馬鹿が!もういい、とっとと帰れバーカ!」
言われなくても帰るわバーカ、バーカ!!っつーか貴様誰だ!?そんな紫紫した団員は知らん!
「貴様は団長の名前も分からんのか!?俺はグリ××――――

グリッドが眼を開けたその瞬間、目の前に白銀の世界が飛び込んできた。
白い白い、一切の不浄を蹂躙し尽くすかのような白。まるでモノクロームの写真のような光景を、
グリッドは見ていた。意志を感じる。この光景は「拒絶」なのだと。
「ふ、ふう、し、死ねか、あ、いや…ふう、死ぬかと思ったぜ」
目の前の光景に処理が鈍った頭がやっと言葉を送る。
全天を覆うような吹雪に前を向くのも、辛い。
吹雪はその後直ぐに収まった。グリッドは眼下の状況を知り、ようやく自分の意識が飛んでいたことを認識する。
どれくらい時間が立っていたのだろうか、しかし、まるで時間まで凍ってしまったように何も変わっていない。
辺りが一面雪に覆われたことと吐息が白くなったこと以外は、何も。
遥か向こうの凍った遺体もそれに突き刺さった氷の大剣も、それを投げた青年が目の前にいるのも、
何も変わっていなかった。その青年の尋常ならぬ容態以外は。
「ヴ、ヴェイグ!しっかりしろ!おい、聞こえて」
「俺に近づくなあぁぁぁぁぁ!!!!!」
眼前に回り込んだグリッドが伸ばした手に呼応したかのようにヴェイグが手を伸ばす。
グリッドが眼を覚ますまでずっとそのここで苦しんでいたのだろか。
手より発せられた衝撃に、グリッドの体が吹き飛ぶ。綺麗に吹き飛んで、氷漬けの遺体の傍まで吹き飛んだ。
256それぞれの翼 5:2006/07/01(土) 13:18:47 ID:Eoyaz9Lu
ヴェイグの暴走の核となる感情、それこそが拒絶であった。
他を顧みず己の望みの為だけに名も知らない女性の可能性を略奪し、
結果的にとはいえ、今また親友を助けたいという独善によって滅私を持って大局に望もうとしていた
少年の未来を強奪した。もう、許される人間ではない、他人と居れば死神を呼ぶ。人を近づけてはならない。
(俺の前から…消えろ!どいつもこいつも、)
「消えて、失せろぉぉぉぉぉぉ!!!」
孤独への逃避が、拒絶を生み、暴走によって捩曲がった拒絶は、いとも容易く視界に入る者の殲滅へと
すり替わる。フォルスの暴走、その最終方向は常に破壊に向かうのだ。

グリッドにはその核が分からない。自分がペルシャブーツの加護、
属性効果を半減によって生きながらえていることを知らない。
しかし、自身が成すべき事は分かっている。ヴェイグを救わねばならない。
(どうする、どうする!?)
防寒具を装備しているかのように、自身の体は凍ってはいないが寒いことは何も変わらない。
このままだと何れは衰弱して「疲れたよ、おやすみディムロス」とかのたまって天使に連れられて

「そ、れ、だー!!」

ヴェイグは突然の大声に反応してフォルスを飛ばす。
よく練られていない氷弾の速度は遅く、グリッドはそれを避け、そのまま一目散に逃走する。
「…スマン!!」グリッドは一度だけジェイの方を向いて、ひたすら西へ、E2の城に向かった。
孤独になることと他者の排除が逆転してしまったヴェイグもまた追う。
ジェイの体から凍ったチンクエディアを引き抜いて、錬術の掛かったかのような速度で、ヴェイグは駆けだした。
257それぞれの翼 6:2006/07/01(土) 13:19:24 ID:Eoyaz9Lu
グリッド走る。逃げるためにではない。ヴェイグを助けるためだ。
(あいつなら…このグリッド様が認めた永遠のライバル、スタンなら…!!)
グリッドは一縷の望みをスタンに、正確には今頃スタンに渡っているはずのディムロスに賭けた。
まずは何としてもヴェイグを正気に戻さなければいけない。
氷に対抗するのは炎、ベタではあるがこれしかグリッドには想像できなかった。
もうクイッキーがディムロスをスタンに運んだはずだ。
今のヴェイグ相手では自分の力ではどうにもならない。
(それでもディムロスなら…スタンならきっと何とかしてくれる!)

そう思った瞬間、グリッドは盛大にズッこけた。
思い切り鼻を強打し、つんのめる。
グリッドは理解した。自分が顔を打った地面が凍っていたことを。
後ろを向いて、ああ、やはりとグリッドは感嘆した。
氷剣を持ったヴェイグが、文字通り鬼気迫るといった様子でそこに屹立していた。
「…く、そ…」
グリッドは呪いの言葉を舌打ちに載せる。
何時まで立っても城は一向に見えてこない。ヴェイグの追撃を避けるには体力が残っていない。
「ヴェイグ、目を覚ませ…」
前髪がはだけて眼光の分からないヴェイグは、上体を屈めて突進した。
「ヴェイグ」
剣を水平に突き立て、一本の氷槍の如くグリッドを狙う。
「ヴェイグ!!」
絶対的な死を前にして、それでも尚、グリッドは揺るがない。

グリッドは最後の最後まで、眼を閉じなかった。故にそれを見た。
黒の空、白い雪、その間に青い翼の天使が、彼の目の前にあった。
258それぞれの翼 7:2006/07/01(土) 13:20:08 ID:Eoyaz9Lu
グリッドはようやく全体像を把握する。
グリッドとヴェイグの間に人が一人いた、天使ではない。
服はボロボロで、傷に血が滲んでいる。
ヴェイグの剣の先端が、彼の剣の腹で見事に止まっていた。
(さっきの羽根は…見間違いか?確か、奴は…)
赤い服に、ツンツン頭、確か、ユアンが言っていた奴の名前は…

「ろ、ロイド=アーヴィング!!」
「何やってんだよ…ヴェイグ!!」

北東でであった彼らが、遥か南西の地で奇妙な邂逅を果たした。


最早城を城とも呼べないその地に一つの死体があった。
長い金髪と、白と青の美しい鎧が特徴の死体だ。
清々しいほどの笑顔、まるで生きているかのような笑顔だった。
そう、笑顔の見ることができる、「仰向け」の死体だった。

「リアラ…リアラ…今、今行くから…」

石畳の上にはもう生者はいない。誰もいなかった。
259それぞれの翼 8:2006/07/01(土) 13:22:11 ID:Eoyaz9Lu
【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP15% TP20%  右肩に打撲、および裂傷 左手甲骨折  胸に裂傷 疲労
所持品:トレカ、カードキー ディフェンダー(骨折した左手に固定) エターナルリング
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:ヴェイグを止める
第二行動方針:リッド、キール、ジェイと行動
第三行動方針:協力者を探す
第四行動方針:メルディの救出
現在位置:E2、E3の境

【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】
状態:HP30% フォルス暴走
所持品:チンクエディア
基本行動方針:目の前の存在の排除
現在位置:E2、E3の境

【グリッド 生存確認】
状態:顔面強打 寒い
所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動
第一行動方針:事態の打開
第二行動方針:スタンに助けを求める
第三行動方針:ヴェイグと共に行動する
第四行動方針:プリムラを説得する
第五行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:E2、E3の境

【カイル=デュナミス 生存確認】
状態:意識衰弱 HP45% TP60% 悲しみ 
所持品: 鍋の蓋 フォースリング ウィス S・D
第一行動方針:リアラに会いたい
現在位置:E2城跡→G3洞窟
260それぞれの翼 修正:2006/07/01(土) 13:59:24 ID:jTPoxjI4
7ー20行目
×石畳の上にはもう生者はいない。誰もいなかった。

○石畳の上にはもう生者はいない。思考する精神も無い。誰もいなかった。


【ロイド=アーヴィング 生存確認】
状態:HP15% TP20%  右肩に打撲、および裂傷 右手甲骨折  胸に裂傷 疲労
所持品:トレカ、カードキー ディフェンダー(骨折した右手に固定) エターナルリング
基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う
第一行動方針:ヴェイグを止めて、ティトレイのことを問いただす
第二行動方針:リッド、キール、ジェイと行動
第三行動方針:協力者を探す
第四行動方針:メルディの救出
現在位置:E2、E3の境

に変更をお願いします。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2006/07/02(日) 21:28:36 ID:U6FI7iXZ
http://hissi.dyndns.ws/read.php/gamerpg/20060702/ZTJYQmpCM1c.html

↑基地外テイルズ信者必死だなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
262名無しさん@お腹いっぱい。:2006/07/02(日) 21:51:27 ID:K0AfmvQv
リオン「うひょょょーぉあかはやゅららとゅおじゃゅるるる?」
263酔生夢死 1:2006/07/04(火) 19:20:14 ID:Vee5xEW+
赤い髪の青年が、濡れた草の上で坐っていた。
その瞳はラシュアンを眺望するかのように遠く、北北東を見つめている。
遠く、遠く、その偉容大らかなる高台と、降り注ぐ雨と、冷ややかな闇に阻まれたその先、
あの村を、彼は見つめていた。あの村の、彼女を見つめていた。
「クイッキィィィィィ」
彼はその声にはたと気付き、そちらを向く。
青いポットラビッチヌスが、倒れた二人の傍に覇気無く往復していた。
青年は気怠そうに、剣を杖としてのそりと立ち上がり、畜生が居た方に先に近づく。
そこに小柄で肌の少女が伏せっていた。あの邪気はもう感じない。
その小さな体の拍動を感じ、その深い眠りに、彼は勝手にあの瞬間を彼女は見ていないと決めつけ、
勝手に安心した。彼女は強い。多分、大丈夫だろう。
彼は後ろを向いて、親友の元へ移動した。あまりの遅さに、随行している畜生は何度も立ち止まり、
何度も青年に方に振り返っている。
ようやくその親友の元へ至り、青年は親友を一別する。
先ほどと何も変わらない。雨に沿うかのように、親友の躯は熱を奪われていた。

青年は眼を閉じ、彼を想う。ここに来る前、ここに来た後、共に歩んだその道程を想う。
全ては流れ、全ては移ろい、全ては変わってゆく。それは命もまた同じ事。
青年の力ですらその移ろいは止められない。物質は移ろう定めなのだから。
別れは、いつか必ず訪れるのだから。惑うな、と青年は自分に言い聞かせる。

「クイッ、クククイッキ」
傍の畜生が、青年のサックから何かを引っ張り出す。
ここに来る前、親友が青年に渡したメモだった。
許可無く見るなとのことだったが、今更許可も何もないとばかりに彼はそれを広げた。
一別すること十数秒、すぐに青年は見るのを止めた。
なんてことは無い。先に打ち合わせしたフリンジとエターナルソードを組み合わせた
空間破砕の方法や、今まで自分たちが見てきた事柄について、そしてただの遺言だけだ。
内容は実に陳腐で、やれ僕がこの島で生き残る確率は云々、これを他の頭の切れる奴に見せろやら、
やれ彼女を頼むやらと実に吐き気のする内容だった。
この島でもお前と出会えて、との下りには青年は少し吹いてしまった位だ。
要するにこのくたばっている親友は青年に後事を託すつもりだったのだ。
何とも巫山戯た馬鹿野郎だと青年は思う。メルディを馬鹿にしてんのか、
それで満足なのか、と聞いてみたくなったが
無理な話なので諦めた。雨とそれ以外の液体にインクが滲む前に、青年はそれを片付けた。
「クイッッキ」
畜生が、健気に自らを振動させて、自分に括り付けられて居るウイングパックをアピールする。
少しだけ考えて青年はその意図を理解し、その袋からそれを取り出した。
青年はそれを手に取り、少しの間の後、怒気と悲哀と共にそれを握りしめた。
何で今更と、彼は怒った。もう少し早ければ、この別れは来なかったかも知れないのに、
何で今更と、彼は泣いた。もう少し遅ければ、この別れを粛々と受け入れられたかも知れないのに、
お前は何を自分にさせたいのだと、鍵を通じて、彼は彼に力を授けた神に問う。

セイファートキーが輝いたのはその数秒後であった。
264酔生夢死 2:2006/07/04(火) 19:21:57 ID:Vee5xEW+
芥と失せた古城、その北側に、かつての仲間が一堂に会した。
「なあキール」極光の剣士リッドは、一切気を緩めずにキールに声を掛ける。
「なんだリッド」瓦礫に身を隠したまま学士キールは周りの状況を識別する。
「最初のあいつの名前なんだっけか、ほらアレ、アレだよ」
「幽幻のカッシェル、だな。フォッグじゃないんだからアレとか言うな。
で、それがどうした。今昔話してる暇は無いぞ」
リッドは内心、何でアレで分かるんだよと思う。
「いやな?あいつ確か言ってただろ?逃げやがった癖にえっらそうにさ、
‘覚えておけ〜いつかお前達も〜殺しあう時が来る〜このゲームに殺し合い以外の選択肢は無い〜’
とか言ってたじゃねえか」
「リッド」キールの声に怒鳴られるか、とリッドは軽く身構えた。
「もしかしてモノマネか…ぜんっぜん、似てないな」
「うるっせえよ…で、この状況、どう思う?」
キールの抜けた声に思わずリッドは顔を緩めた。
そこを逃すことなく、雷光、ライトニングがリッドを襲う。
しかし気の一切緩んでいないリッドは寸での所でそれを見切る。
「全然、全く以て似てないな。僕たちはメルディを助けるんだ」
恐れを騙すためか、キールは不敵に笑ってその助けるべき対象を見た。
手を伸ばし晶霊術を行使したのは小柄な少女。
しかしその背より立ち上る黒い霧は何とも禍々しくその少女の倍の大きさで存在していた。
彼女、メルディを救いだし、彼女を傀儡とする破壊神ネレイドを打ち倒すため、二人は其処にいる。
「だよな。殺し合う気はさらっさら…無ぇんだよ!!」
リッドは大きく深呼吸し、上体を屈め一気に駆け出した。狼を狙うかのような速度でネレイドに突進する。
メルディの背後の靄、その一部がぬるりと前に突起し、収束する。
キールはそれが完成して、それが何かをようやく理解した。あれは、右腕だ。
『小賢シイッ!!』
具現するほどまでに高密度になった「右腕だけ」からソウルショットが連射される。
石畳を抉り、リッドの前に再度砂煙が舞った。
「魔神、連牙斬!!」
リッドは足を止めてそれを避けつつ、砂煙るその向こうに魔神剣の連撃を放った。
地を這う衝撃に砂は吹き飛び、彼らの視界は確保された。
その向こうに小動物のようにテケテケと走っていくメルディの後ろ姿があった。
黒い靄にかかって実際の背中はよく見えなかったが。
265酔生夢死 3:2006/07/04(火) 19:23:28 ID:Vee5xEW+
「逃げた…のか?」リッドはその後ろ背中を見て眉間に皺を寄せた。
「いや、誘ってるんだろう」後ろからの突如の声にリッドは慌ててそちらを向く。
少しは働け、と愚痴を零しそうになったがリッドは堪える。今はそんな事を言っている場合ではない。
「ここにいてはまたあの雷撃が飛んでくる可能性が在るからな。
つまり、逆に言えばネレイドはもうあの攻撃を返す余力がない。
自分の具現化が出来ていないのが何よりの証拠だな。恐らくメルディの意識も今は無いだろう」
「じゃあアイツはもう半分以上消耗してるって事か…やっぱり逃げたんじゃねえのか?」
「本気で逃げたかったらスカウトオーブを使うさ。多分、もうメルディの肉体が保たないんだ」
キールはリッドの視線を無視し、北を仰ぎ見る。
「もし奴がシゼルの様なやつに乗り移っていれば、それこそわざわざ前線に出てくる必要はない。
お前が死ぬまでずっと待って、お前が死んでからじっくり闇の極光で残りを屠っていけばいい。
それでもなお僕たちの前に出てきたってことは、ネレイドは何としてでも僕たちを潰したい。
リッド、奴の狙いはお前だ」
キールは静かにリッドの方を向いた。
「はあ?アイツさっきお前が邪魔だって言ってたじゃねえか」リッドは剣を振って砂を払う。
「ブラフに決まっている。奴に対抗できるお前を排除しなければどうにもならないんだ。
ここで僕を狙えば、お前は僕を守ろうとする。後は動けないお前を蛸殴りにしてお仕舞いだ」
「キール、言ってて虚しくねえか?攻撃を避けきれませんって言ってるようなモンだぜ?」
キールはしかめっ面をして、喉の奥の感情を嚥下する。
「…現実を認識しているだけだ。兎に角リッド、お前は自分の身を優先しろ」
リッドは暫く胡散臭そうにキールを睨み、どっとため息を付いた。
「まあいいや、分かったよキール。そろそろ具体的にどうするか教えてくんねえか?」
キールは少し影を引いて、直ぐに意識を修正した。
「まず現状の認識だ。さっき他の連中を見ていたがジェイとダオスは東に、
ロイドが城内の南側であのクレスって奴と交戦に入った。
アンノウンは依然として意図が分からない。つまり援護、支援は無しだ」
キールは南を向き、動かずににらみ合う三者を眺める。
「気を利かせてくれたって言おうぜ。それよりよ、要点だけにしてくれ」
「さっき確認した。ロイドの報告を聞いて半信半疑だったが…やはりメルディは
リバヴィウス鉱を持っている。十中八九、それがネレイドの媒介だ」
「星のカケラみたいな石…当たりだったか。ってえ事は…」
リッドは横目で東を一別した後、キールの方に視線を合わせる。
「それを切り離せば、メルディを元に戻せる」
キールはほんの少しだけ唇を曲げた。
「切り離す?壊すんじゃ駄目なのか?」リッドは当然の疑問を抱く。
「それでも可能だろうがメルディの今後のことを考えるとそれは好ましくない。
それに、幾らか希望は確立できたが時間が無いのはこっちも同じだ。万が一
ネレイドが自暴自棄になってメルディを「変質」させよう物なら…」
キールは言葉を締めくくることなく、首輪を指さして撃鉄を起こした。
リッドは首筋に一等の寒気を覚えた。
266酔生夢死 4:2006/07/04(火) 19:24:09 ID:Vee5xEW+
「…とりあえず楽観だけはしないでくれ。で、具体的な救助方法なんだが、リッド。
‘アレ’をアイツに決めるとなると何秒かかる?」
キールは一層に険しい眼をリッドに向けた。
「アレ?…もしかして、アレのことか?無理に決まってんだろ。アレは奴には…!!」
リッドがそれに気付いたのを確認してキールは論理を進める。
「決まるだろう?奴はシゼルを苗床にしていない。だから決まるはずだ」
キールの意図を理解し、リッドは柏手を打ちかける。
「成る程。流石キール、天才だ!!」
「煽てても何も出ないよ…で、どうなんだ?」キールは鼻を意図的に鳴らして、本題に戻る。
「…実際に掛けて見ないことには何とも言えねえが、ネレイド相手になら2秒、出来れば3秒欲しいな」
ほんの少し考えて、リッドはキールに応えた。
「十分だ。それくらいなら僕が時間を稼げる…その後は」
躯の震えをリッドに気付かれないようにキールはさりげなく腕を組む。
「分かってる。確実にサックだけを狙えば良いんだろ…でもどうやって時間を稼ぐつもりだ?」
リッドの問いに答えることなく、キールは素早く剣指と立ててそれを結ぶ。
「アクアエッジ!」
地面を這う水弾を見せて、キールは勝ち誇ったような顔をした。
「ネレイドは僕がC・ケイジ無しで晶霊術を使える事を認識していないはずだ。
十分目くらましになる。行くぞ」
267酔生夢死 5:2006/07/04(火) 19:24:56 ID:Vee5xEW+
「おう!あ、でもちょっといいか?メルディはケイジを持っていたよな?
何でお前ケイジ無しで術が使えるんだ?」
ようやく出撃かとのタイミングに水を差され、キールは大層不愉快な顔をする。
「あの村で、メルディのケイジを調べさせて貰った。
パラソルを備えた上に丸々セレスティア大晶霊五体分の晶霊が詰まっていたよ。
しかし大晶霊のそのものは居なかった。何か意志と呼べる核が足りないんだろう。
つまり用途としては上級晶霊術や此方から大晶霊のような物を具象する召還、
フリンジによる複合晶霊術に用いるためだろうな。つまり術そのものには必要ない」
「…説明になって無くねえか?何でキールが術を使えるんだよ?
お前にも魔術や晶術、爪術が使えたってことか?」
「リッド、もう少し現実的な見方をしたらどうだ?
ケイジ無しで術を行使する方法なんて1つに決まっている。
肉体をケイジに見立てて術を撃つ―――闇の極光側の晶霊術だよ」
リッドはその発言に酷く驚く。その内容よりも、その言葉を淡々と述べる親友に驚いた。
「ここでの晶霊術の根幹の方法論としてそれだと言うことだ。
別にネレイドに操られている感覚はないし問題はないよ」
リッドの不安を汲み、キールは答えに先回りした。
「そりゃこの事実は僕だって信じられないさ。だが、信じられないことと
信じられないことが存在しないことは同義じゃない。不可知なる物は知れば良いんだよ。
さあて、長ったらしい講釈は幕だ。決着を付けに行くぞリッド…何が起ころうともだ」
リッドに先駆けてキールはネレイドの元へ第一歩を踏み出す。
その背中は煙たくなる程に気を立ち上らせていた。

キールは嘘を隠していた。ネレイドの狙いはリッドではなく、やはり自分。
しかしそれならそれで都合が良い。
意図は読めないがわざわざ相対的に見て戦力外な自分を狙ってくれるというなら
リッドの危険が僅かにでも減るというもの。生き残るべきはメルディ、リッド、極光なのだから。

悲観的だ、ネガティブだと笑えばいい。
最後の三秒の為に、自分はここにいるのだから。

メルディの自分への思いを過小評価したキールの背中は、やけに力強かった。
268酔生夢死 6:2006/07/04(火) 19:25:31 ID:Vee5xEW+
E2北部に広がる草原に改めて三人が対峙した。三人が三人、退く気は一切無い。
「もう逃がさねぇぜネレイド!今度こそメルディを返して貰う!!」
吼えるリッドに、ネレイドは何も言わず、再び腕を具象化してソウルショットを放つ。
打ち下ろされるそれの死角に潜り込むように、リッドは前転しそれを避ける。
その勢いのまま更なる突進した。
リッドは腰を地面に漸近させてメルディの背後に回り込む。
その頭部はメルディの腰の辺りにまで下がっていた。
全身のバネを使い反動を制動し、リッドは振り向きと同時に攻撃と突進の体勢を構えた。
(まずはネレイドの隙が出来るまで消耗させねえと…すまねえメルディ、少し我慢してくれ!)
「空破!絶掌げ」
「リッド、やめて…」
此方を振り向いたメルディのその一言に、リッドは剣を止める。
反動を完全に吸収した辺りでようやく、首に遅れて振り向いたメルディの体、その死角から
青き水晶の杖が輝くのを理解した。
『ディストーション』
杖が輝き、リッドの体が時空の檻に捕らわれる。
「が、があああああああ!!!!」
体があり得ない方向にねじ曲がる感覚、
体がいきなり老いるような感覚、
頭がいきなり赤子の時分に逆行するような感覚。
リッドの内外に掛かる「時間的矛盾」が破壊をリッドに向けた。
『…フン、バテンカイトスを司る我がこのような物質を用いねば成らんとは不愉快極まる。
しかし、そのような些事に拘るなどそれこそ物質の束縛。使える物は有効に使わねば…
なあ、セイファートの従僕よ』
時間の檻に捕らわれたリッドはその振動を耳に入れることすら叶わず。
『何とも愚かしい。あのまま貫いていればこの器の心の臓を穿ち我を滅することも出来たというのに。
所詮は物質に魅入られたセイファートの傀儡。この器に、物質に‘拘る’からこうなる。
…物質に捕らわれたまま、時空の残滓となるが良い』
BCロッドを持つメルディの手が上がり、
時計の長針は正常に、短針は逆しまに、
リッドが世界が誕生が鼠が回る回る回る回る
「エアスラスト!!」突如発した突風が、乱数的な線を描き、ネレイドに襲いかかる。
『何、晶霊術だと?』回転にネレイドの意識が半瞬遅れ、杖を持たぬ掌からの障壁を抜けて杖が動く。
ネレイドが次に見た物は、リッドを守るように立ちはだかるキールの姿だった。
269酔生夢死 7:2006/07/04(火) 19:27:04 ID:Vee5xEW+
「キール、お前…どうやって」
キールの術によって歪む縛鎖は完成しなかったがその余波は確実にリッドを蝕んでいた。
そのリッドはこの瞬間移動に近いキールの手品の種を理解すること叶わず、ただ呆然とする。
『ククク…何とも賢しい奴よ。小癪にもケイジを隠し持っていたとは、な』
キールは無言で剣指を組む。ネレイドはそれに動ずることはなく。
『だが、この器に拘る限り、お前達が我を傷つけることなどできまい…なあ』
「キール」
ステレオとモノラルが入れ替わるように、メルディの口から振動が生まれ、キールの耳に届く。
「キール止めて」さらに加速する剣指、その背中より発する意志に決意するリッド。
「メルディを攻撃しないで!」詠唱を編み切り、キールはようやく口を開いた。
「アイツを騙るな!!」
剣指をメルディの眉間に定めて突きつける。体内でフリンジされたマナが像を成し、
炎となってリッドの剣に収束した。タイミングを合わせてリッドはキールの前に躍り出でて、
虎牙破斬の切り上げを斜めに放った。そして、上がりきった剣にファイヤーボールの炎を纏う。
「「紅蓮剣!!」」
切り下ろしと共に剣風が熱気を帯びてメルディに叩き付けられる。
『グ、オノレェェェェェ!!!!!』
メルディの意識が極限にまで衰弱しているため、メルディの受けた感覚が全てネレイドにたたき込まれる。
その痛みに身を悶えさせ、ネレイドの靄は魔力を具象化させる。
『ナッシングナイト!』極光術と晶霊術の狭間に位置する氷系禁呪が発動し、地面から氷の流星が飛翔する。
「リッド、掴まれ」キールはリッドが何かを言う前にその手を掴み、素早く剣指を紡ぐ。
「エアリアルボード!」構築と同時にリッドとキールの足が地面からの抗力が無くなる。
地面と彼らの間に、気流の層が生まれ重力に抗する力が生まれた。最大加速で二人が回避を始める。
「キール!お前こんな物使えたのかよ!?」
「お前とロイドが特訓しているのに僕がしていない訳はないだろ」
全く望外の手法に眼を丸くするリッドを尻目に、キールは全神経を使い氷弾を回避する。
「なあ、キール。もし、もしもだぜ、これがあの時使えたら…」
剣を振って氷弾を弾くリッドが言い切る前に、キールは精一杯に感情を押し込め、90度に軌道を曲げる。
「逆だよリッド。間に合わなかったから僕はこれを完成させたんだ。…もう、誰も無くしたくない」
「…すまねえ」あの時、彼らがこれを使えたなら、彼女を弔う歌は、夢になったのか。
『己ノ体内デフリンジダト!キサマ、ナゼ我ガ晶霊術ヲ使エル!?
否!ソレヨリモコノ器ガ惜オシクナイノカ!!』
術を維持しつつネレイドは苦悶の声を上げキールを呪う。彼らの彼方此方に無数の傷。
「前者の答えはお前の方が先に回答に辿り着くだろ。後者は…知識不足だよ、ネレイド」
『ナンダト!?』
「標準語を喋るメルディなんて居るわけないだろ、この出来損ない」
怒りを讃えたその眼光が、不敵な笑みと共にネレイドを射抜く。
しかし、その自信に反比例して、ケイジ無しのエアリアルボートは晶霊を失い失速している。
『ガァァァァァァ!!!!!』
最後の氷弾が、打ち終わった。
270酔生夢死 8:2006/07/04(火) 19:28:21 ID:Vee5xEW+
エアリアルボートを強制解除されたリッドはバランスを崩し、地面に頭を打つ。
後頭部をさすってようやって状況を確認した。
右手約2メートル先にキールが立っている、見たところ外傷は特別無い。
どうやら全弾回避したようだ。ネレイドは前方5,6メートルというところか.
『認メヌ…貴様ガ闇ノ素質アッタトシテモ、ナラバ何故我ノ支配ヲ受ケヌ!?』
靄が身を悶えるかのように不規則に動く。
「…現象を説明する方法は今のところ1つしか考えられない。ネレイド、お前が一番認識しているはずだ」
『ナンダ、ト…?』
キールは眼を細めてネレイドを睨む。理解できぬリッドはただネレイドの隙を探すほか無かった。
「この空間においては闇の極光のほうが正道なんだ。そう、根幹は異なれどここは――」

「            」

キールが何かを言いかけたとき一枚の羽が風ならぬ風に迷い、この場に来た。
白い白い純白の羽は静かに静かに、メルディのサックに、
メルディの持っていたクレーメルケイジに取り込まれる。
ネレイドだけがこの羽に気付かなかった。
ネレイドだけがこの風の正体に気が付いた。風ならぬ風、東より来たるその波動に。
ある天才科学者が組んだその策の息吹を。
(コノ領域ガ塗リ替エラレル感覚…惑星禁呪カ?
ソレニシテハ不完全ナ…ソモコノ大海ノ波動ハ何ダ?ソシテ何故時空ガ安定スル?)
そして理解した。ネレイドが本来一番先に気付かなければならないことに。
『クククク…成程、成程。漸ク得心ガイッタゾ。何トモ実ニ、小賢シイッ!!』
その言葉と共に、メルディの靄が更なる量を形成する。ビクリ、とメルディの体が撥ねた。
『我ノ介在セヌ我ガ世界ナンゾ片腹痛イ!!
キール=ツァイベル、器ノ楔タル貴様ゴト、コノ茶番ヲ終ワラセテクレヨウゾ!!」
ネレイドそのものが、全身が、メルディの命を蝕みここに具現化した。
その波動が恐るべき収束を始める。二人はそれを直ぐに理解した。
深遠なる闇の極限―――ファイナリティ・デッドエンドだと。
「リッド!時間がないアレを始めろ!!」
「おい、やっぱりお前を狙ってるんじゃねえか!早く逃げろ!俺が極光で」
キールの声を潰すかのようにリッドが叫んだ。そして気付く。
キールの左足が、見事に凍結していることを。
「理解しろリッド!お前とメルディが生きなきゃどうにもならないんだ!
奴の狙いが僕なアレは確実に間に合う、打たせずに勝つにはこれしかないんだ!!」
キールの叫びに、リッドは予感を現実の物とした。
「やっぱお前…最初から…」
「僕のことは良いから早くやれ!!」
「クッソオオオオオオ!!!」
意を決してリッドは剣を構える。技を完成させるために式に入った。
271酔生夢死 9:2006/07/04(火) 19:29:57 ID:Vee5xEW+
しかしネレイドは依然としてその愉悦を隠そうとしない。
わざわざ新世界を作る必要が無くなったのだ、キールさえ殺してしまえば器は完全な器となり
後は少し塗り替えるだけでよい。そう、キールを殺せば、そう、だから。
「セイファートの使徒!貴様の邪魔だけはさせぬ!!」
突如メルディが叫び、サックよりそれを、クレーメルケイジを取り出す。詠唱されるはサンダーブレード。
キールはそれを理解し、猛烈に後悔する。ネレイドは、器と本体同時に詠唱が出来たのだ。
動けぬままリッドの方を向く。今ならデッドエンド前にアレが間に合うだろうが、
その前に来る晶霊術には間に合わない。リッドが避けようが当たろうがアレは、もう…
『ハハハハハハハ所詮ハ人間、所詮ハ物質!バテンカイトスノ神タルコノ我ニ敵ハ無イッ!!』

『ディレイ』

「「『!?!?!?』」」
突如の声に三者三様に意識を振動させる。そして、ネレイドの空間が歪む。
『ディレイダト?誰ガ!?』
発生した時空の干渉がクレーメルケイジの鼓動を鈍らせる。
「クイッキィィ!!」
「クィッキー!?」
この異変に固唾を呑んでいたキールは思わずその声に過剰に反応を示す。
この世界にいた最後の仲間、クィッキーが尋常成らざる速度でその場に突撃してきた。
「ククィッッ?クィッキィィィィ!!!!」
「お前居たのか…そうだ!来い、クィッキー!!」」
「クイ」
何故ここにクィッキーがいるのか、何を言っているのかは分からないが、
彼らの考えたことは、奇しくも全く同じだった。
あまり整った体とは言い難いがキールは肉体力学の知識を、
右手と背面の筋肉を総動員させ、フォームを取る。
クィッキーはさらに加速し、キールの元へ、飛んだ。彼らが見るのは唯1人、メルディのみ。
「いっけぇぇぇ!!」
「クィッキィィィ!!」
キールの自慢の拳を砲台として、最速のクィッキーがいま、飛翔した。
272酔生夢死 10:2006/07/04(火) 19:31:01 ID:Vee5xEW+

『貴様…やはりあの時あの村で滅しておくべきだった…』
『……』
『だが、甘かったな!媒介はそれだけに在らず!!』
ネレイドは持っていた杖を輝かせ、詠唱時間2倍の世界を無理矢理推し進める。
『ハハハハハハハ我ノ勝チダ―――――ス!!サンダァァァ』
「クィッキィィィィィ!!」
スローすぎて欠伸が出ると言わんばかりのクィッキーの渾身の体当たりとも区別の付かない蹴り。
弾かれる手、重力に身を任す杖、正常に遅延する時間。
ネレイドの、いや、メルディの晶霊術が阻止された。
「風刃ッ、縛封!!!」
長き溜を乗り越えて、リッドの周囲とメルディの周囲の風が同調する。
『フン、何ヲシテイタカト思エバ極光デハナクタダノ技カ、コンナ児戯デ我、ノ、キョ、極光…ガ!!』
「効くだろうネレイド?…こいつは体重制限にひっかからなけりゃ神だろうが絶対効くんだよ!!」
メルディの体が、自由を失い、ネレイドごと吹き飛ばされる。

ネレイドは高きよりその人間を凝視した。
『マダダ…貴様サエ、貴様サエ死ネバアアアアア!!』
キールはその変異をまるで黒体を観測するかのように、正確に認識した。
メルディのエラーラに黒い放電を確認した。恐らく、シゼル城での最終決戦の時に使った
エラーラからの光線だろう。距離にして何スオムだろうか。どうにも狙いはキールのようだ。
ならばそれで良いと、キールは思った。リッドとの約束は風刃縛封からアレまでの3秒間。
キールが死ぬより先に、リッドのアレが決まれば、ネレイドは終わる。
それが、ここにいる理由なのだろうとキールは自分に言い聞かせた。
極光を止められたネレイドの最後の一撃が放たれた。

メルディ、お前は生きろ。さようなら。
一条の黒線はリッドを直撃し、キールの意識はそこでとぎれた。

「‘1秒’フラット、完成だ」
リッドの周囲から八本の風刃が立ち上り、寸分の狂いもなくメルディのサックを切り裂く。
靄が密度を薄め、ネレイドはネレイドを自壊させてゆく。その怨の文言はすでに人語を超えていた。
「…風塵、封縛殺」
降り始めた雨と共に墜ちるリバヴィウス鉱が、本当に流星のようだった。
273酔生夢死 11:2006/07/04(火) 19:31:45 ID:Vee5xEW+
キールは眼を覚まし、頭の重さに眼を眩ませて10秒しっかり掛けて上体を起こした。
まず自分の体が濡れているのを知り、天を見上げる。雲1つ無い夜の晴れ。
自分の体が恐ろしく冷たいことを認識する。もう少し健康なら体温も在ったのだろうか。
そして、服の彼方此方が焼けていたことを知る。何かの余波を受けたのか…
ようやく頭脳にギアが掛かり、当たりを見回す。そして一番遠いメルディを見た。
黒い靄はもう無く、その少し離れた場所に墜ちたリバヴィウス鉱は乳白色に輝いている。
本当に、本当に良かった。

そして、彼はクィッキーが右往左往していることに気付き、其処に近づく。
一体何の周りを回って居るんだろうと少し考え、キールは地面にあった紙を発見する。
しゃがんでそれを拾い、それが自分が親友に当てた遺言だと気付いた。
そして自分が塗ったインクを塗りつぶすかのように、血の赤で、太い線…恐らく指で、
たった6文字、書かれていた。

‘また、会おうぜ’

その紙をゆっくり視界から外す。紙で覆われていた部分が無くなった所から、
それが現れた。足、腿、腰、背、首、そして頭。五体満足そこにあった。
何故、見えなかったのだろうか。何故、自分がリッドの血の上に立っていることに気が付かなかったのか。
見なかったから、見てはいけなかったから。リッドがこうなってはいけないから。
キールはクィッキーの方を向いた。しかし何も返ってこない。
キールは、クィッキーが回っていた物が、リッドの死体であることをようやく認識した。
何で、僕を守ったんだ、この嘘つきが。

キールの意識が再び墜ちたのは、その数秒後であった。


クィッキーはあの時夢を見ていた。しかし夢の内容は覚えが全くない。
何も知らない、聞いていない、見ていない。知ってはいけない。


極光の奥の夢の続きは、オルバースの中に―――――
274酔生夢死 12:2006/07/04(火) 19:32:41 ID:Vee5xEW+
【キール 生存確認】
状態:TP60% 気絶
所持品:ベレット
基本行動方針:脱出法を探し出す
第一行動方針:???
現在位置:E2

【メルディ 生存確認】
状態:TP10% 軽微の火傷 睡眠
所持品:BCロッド スカウトオーブ、C・ケイジ (サック破壊)
基本行動:仲間に首輪の解除方法を教える
第一行動方針:???
現在位置:E2城跡

E2中央平原に落ちている物…クィッキー(空白の時間に何があった知らない)
ムメイブレード、ホーリィリング、キールのメモ、リバヴィウス鉱

【リッド=ハーシェル ‘死亡’確認】

【残り15名】
275酔生夢死 修正:2006/07/06(木) 02:25:28 ID:iH0qJtD9
1−9行目
小柄で肌の少女→小柄で肌の色素が強い少女

8−35行目
奴の狙いが僕なアレは確実に間に合う、→奴の狙いが僕なら、アレは確実に間に合う、

状態表修正

【キール 生存確認】
状態:TP60% 気絶
所持品:ベレット
基本行動方針:脱出法を探し出す
第一行動方針:???
現在位置:E2中央平原

【メルディ 生存確認】
状態:TP10% 軽微の火傷 睡眠 中度の消耗(F・デッドエンドが放たれなかった為)
所持品:BCロッド スカウトオーブ、C・ケイジ (サック破壊)
基本行動:仲間に首輪の解除方法を教える
第一行動方針:???
現在位置:E2中央平原

E2中央平原に落ちている物…クィッキー、セイファートキー
ムメイブレード、ホーリィリング、キールのメモ、リバヴィウス鉱 (内部のネレイド消滅)

【リッド=ハーシェル ‘死亡’確認】

【残り15名】

修正をお願いします。よろしくお願いします。
276Contradiction1:2006/07/09(日) 00:32:35 ID:PbQbqtJr
シャーリィ・フェンネスは水の中、静かに佇んでいた。
光り輝く金の髪。陸の民からは「煌髪人」とも呼び習わされる由来となった、水の民の象徴。
息も、苦しくはない。むしろ、陸と同じように呼吸が出来、しかも水の抵抗は感じない。
岩肌に耳を付ければ、こんこんという湧き上がる水の音が聞こえる。ここが、水源である証。
すなわち、D5の山の最奥部。この島唯一の川の源流たる、洞窟の中の岩室。
(水の中で寝るなんて、すごく久しぶりだわ)
少なくとも、遺跡船に来てからは一度も、そんなことはなかった。
精々が故郷の里にいたとき、近くの水辺で昼寝をしたことがあるくらい。
はるか昔の水の民の先祖ならいざ知らず、現在ではほとんど全ての水の民が陸上で暮らしているがためだ。
無論、水の民の知るべき作法として、寝ている最中自らの体に錨を打つことは忘れない。
傍らには、しばらく前に脱ぎ捨てた、ぼろ布と化した普段着を適当によって作った、即席の綱がぷかぷかと浮いている。
近くに置いてあるメガグランチャーと自分の体を結び付けて、即席の錨を打ったのだ。
そしてメガグランチャーは、寝ている最中に自らの身を守る「避雷針」の役目も兼ねてもらっている。
彼女もまた水の民であるからして、水の民の弱点も知っている。すなわち、雷属性のブレス系爪術。
陸の民の参加者がここまで泳いでくるとは考えにくく、よって危害が及ぶとすればブレス系爪術による攻撃。
だが金属であるメガグランチャーがあれば、何者かがこの岩室の内部目掛けてブレス系爪術を放ったとしても問題はない。
電撃によるダメージは、まずメガグランチャーに及ぶ。シャーリィ自身には直撃しない。
更にこの際メガグランチャーのクレーメルケイジにも爪術のエネルギーが蓄積され、やろうと思えば雷を打ち返すことさえ可能。
すなわち、メガグランチャーは攻防一体の優れた「避雷針」なのだ。
(まあ、まさかとは思うけど、念のためね)
ここで一息つく前に確認もしたが、この水で満たされた岩室の岩壁はかなり頑丈な造りになっている。
上級ブレス系爪術でも連発されなければ、まず岩壁の崩落はありえまい。
ここにいれば安全。彼女は外敵に怯えることなく、ゆっくりと成すべきことをなすことができる。
例えば、右手に握り締めた生首の処置を。
277Contradiction2:2006/07/09(日) 00:33:07 ID:PbQbqtJr
(できればクライマックスモードは、相手がたくさんいるときに使いたかったんだけれど…)
けれども、今生首と化したこの女は、生意気にもほぼ丸腰で自分にここまでの怪我を与えたのだ。思い出すだけでも腹が立つ。
(でも案外脆かったわね。テルクェスを込めた手刀一発で、スパッと斬り落とせたもの。
首輪も案外、あっさり手に入ったわ)
その結果として、ハロルド・ベルセリオスその人の生首が、シャーリィの右手にあった。首輪が、皮袋に収まっていた。
一言で言えば、その生首はもはや原型を留めていない、グロテスクな静物であった。
桃色の髪を生やした頭皮は、シャーリィが乱暴に扱ったがために半分剥げ落ち、頭蓋骨が露出していた。
好奇心に満ちた光をたたえていた瞳はもうない。シャーリィが指を使って、眼球を抉り抜いていたから。
耳も引きちぎれて、側頭部にはただ耳孔が残るのみ。鼻面はシャーリィの正拳がめり込んだがゆえに、見事に陥没している。
ついでに強引に舌を引きちぎってみたが、それでもまだ満足できない。
そこで彼女は、斬り落とした首の断面から手を差し込み、二つに引き裂いてやろうという遊びを思いついていた。
結果、ぼぎんと鈍い音がして、ハロルドの顎骨が折れ、外れた。
そのまま思い切り力を込めると、みちみちと音を立てて、彼女の頬の肉が口角から千切れ、そして最後には分かたれた。
よって、今ハロルドの首には下顎が残っていない。上顎の骨が、辛うじて残った頬の顔面筋でつながり、残っているばかり。
こうでもしなければ、彼女の溜飲は下がらなかったから。
(まあ、わたしをこうまで追い詰めたんだもの。これくらい仕返ししても、文句は言えないわよね?)
そう思うと、怒りがぶり返してきた。彼女は左手の中に残った、ハロルドの眼球をぷぎゅっと握り潰す。
赤黒い血液と、水の中では判別できない透明な液体が、この流れの中に溶け出した。
血の混じったもやが、シャーリィの左手の指から漏れ出す。ハロルドがつい先ほどまで生きていた証が、水の中に溶け消える。
けれども、それを見ていたシャーリィは、今度は一抹のつまらなさを同時に覚えてしまう。
平たく言えば、飽きてしまった。
(…そろそろこれも、捨てちゃおっと)
ハロルドの生首を壊す遊びに飽きてしまったシャーリィ。決断は、早かった。
シャーリィは生首を持ち直し、右手で鷲掴みにする。そして発動させるは、アーツ系爪術。
お兄ちゃん。さっきの戦いで、わたしも少しアーツ系爪術に慣れたよ。見てて。
この技の名前は…そうだわ、思い出した。
278Contradiction3:2006/07/09(日) 00:34:27 ID:PbQbqtJr
「ヘル・セス・リェス」
古刻語の呟き。それは訳すなら、「魔神拳」。クルザンド流爪術の基本技。手のひらから闘気を放つ、初歩的な技。
そしてシャーリィの闘気の放たれた先は、ハロルドの生首。零距離ゆえに、直撃。
ごば。
ハロルドの生首が、爆発した。
水中に爆散する、肉と骨と血。ハロルドの髪の毛が赤いもやの中を漂い、ハロルドの歯が力なく水底に落ちる。
莫大な知識と、底なしの知恵を携えた脳漿が、水の中に溶ける。表面に皺の寄った細切れの肉片が四分五裂する。
(ふん、汚い花火ね)
手のひらを静かに下ろしながら、シャーリィは1人呟く。
水の外でこんなことをすれば、シャーリィの服は血まみれになっていただろう。それほどまでに、盛大に紅い花が咲いた。
彼女の言うところの「汚い花火」は、やがて沸き起こる水に流され、下流へと向かう。
肉片も血も、水の中を流れる内に、やがては消え行く。
シャーリィは「汚い花火」が見えなくなるまで、流れる水の先を見ていた。
水は、元の清らかな流れを取り戻した。
さて、そろそろ精神力も戻ってきたし、回復をしないと。
どれほどの時間がたったか失念はしたが、シャーリィはそれを思い出した。
ハロルドの首輪を手に入れたはいいが、いじくり回すのは後でもいい。
シャーリィはすかさず、リズムに合わせて詠唱を始める。
「キュア!」
ひとまずは、先ほど切られた左手の傷。中途半端に塞がった傷を完全に塞ぐ。塞ごうとした。
思いのほか、効きが悪い。
この島における回復の術の効きの悪さは、シャーリィもすでに知るところだが、その分を計算に入れてもなお効きが悪すぎる。
この島において、癒しの術の力は激減することは知っていたが、それを計算に入れてもなお、治り具合が芳しくない。
もともと「キュア」は、強力な回復のブレス系爪術。よほどの重傷でもなければ、ほぼ全ての傷を完全に治してしまえる。
千切れた手足を接合させることさえ、不可能ではないのだ。
それが、このざま。骨に達していない傷ですら、ほとんど塞がらない。
279Contradiction4:2006/07/09(日) 00:35:14 ID:PbQbqtJr
(…クライマックスモードの副作用かしら?)
先ほどから感じ続けていた違和感の正体はこれか。
理由は不明だが、確かにこの島にまで滄我の加護は届いている。
それゆえに、遺跡船にいた時と全く同じ感覚で戦い続けらていたのだが、どうやらクライマックスモードばかりは例外らしい。
先ほどから、妙に体の先端が痺れる。おそらく、爪術の力を練り上げる気脈が異常をきたしている。
不完全な爪術封印状態と言えば、最も分かりやすいだろうか。
シャーリィは水の中、一つだけ舌打ち。さすがに悪態を乗せたりはしない。
(参ったわね…出来れば夜が明けるまでには、完全に回復したかったんだけれど)
いつこの岩室が禁止エリアに指定されるか分からない以上、ここをいつまでも安全な休憩所として使える保証はない。
最悪の場合、次に指定される禁止エリアがここである可能性もある。
そうすれば、夜が明け切るのを待たずしてここを出なければならないのだ。
シャーリィは焦った。出来ることなら、体力はなるべく早く回復させておきたい。
精神力はすぐさま回復させなくとも死には直結しないが、今の体力で何者かとの戦いを強要されればとてつもなく危険。
(…取れる手は、『あれ』しかないわね)
本音を言えば、もう二度と頼りたくはなかった力。この島で見続けてきた悪夢を、もう一度見る羽目になるから。
けれども、それも愛しい兄のためなら犠牲にするにやぶさかではない。
どんな手を使ってでも兄の笑顔をもう一度見ると、そう誓ったからには。
シャーリィは静かに、己の乳房の間に手をやった。触れるは、ネルフェス・エクスフィア。
今までは「メルネス」という器の力を以ってして抑えつけていた、エクスフィアの毒素を解放。
ネルフェス・エクスフィアが妖しく輝く。シャーリィの体が、寒気に当てられたかのようにぶるりと震える。
刹那、シャーリィの肌が毒々しい色合いに変化する。腐敗した藻のような、青緑色。
それは、かつての彼女の姿を見たものであれば、すぐさまあるものを連想させたであろう。
エクスフィギュアの肌の色。かつて彼女が身をやつしていた、異形の怪物のそれを。
280Contradiction5:2006/07/09(日) 00:35:52 ID:PbQbqtJr
全身が青緑色に染まるシャーリィ。極彩色が胸から広まり、それはたちまち彼女の顔にまで、指先にまで、つま先にまで広まる。
火傷の痕の残る胸と。背中と。そして切り裂かれた左手と。傷口が熱を持つ。たちまちの内に、泡を吹き始める。
自らの体が再びエクスフィギュアに変じない程度に、しかし抑えきれる臨界点すれすれまで、エクスフィアの毒素を体内に。
青緑色に変じた顔で、シャーリィは泡を吹く傷口をただ静かに眺める。
成功。シャーリィの目論見どおり。
エクスフィアの毒素がシャーリィの肉体を変質させ、本来の水の民にはありえない、凄まじい再生能力を付与する。
この状態で眠りこけると、エクスフィアの毒素が制御を失い再びエクスフィギュア化する危険もある。
よって完全に心を夢の世界に持っていくわけにはいかない。
だがこの調子で回復を続ければ、次の放送までにはかなりの回復を見込める。十分に動ける程度には、体力も精神力も戻る。
ぶくぶくと音を上げる、シャーリィの傷口。シャーリィはその様子を見て安堵した。
(さあ、これで傷は一安心ね。明日はもっと殺しまくるわ…)
ぴしり。
(!!?)
シャーリィの耳を突然叩く、不気味な音。
シャーリィはとっさにエクスフィアの毒素を再抑制。傍らのメガグランチャーを持ち上げ、即座に身も心も臨戦態勢。
(まさか、見つかった!?)
メガグランチャーを構える彼女は、その動きに遅滞がない。水の民の血脈ゆえに、水の中でもほとんど行動に支障がないのだ。
メガグランチャーの砲口をあちこちに振りながら、岩室の中を見渡すシャーリィ。
敵を見つけたなら、その瞬間滄我砲を発射する。メガグランチャーのクレーメルケイジは、すでに滄我の力が満ちている。
前方。後方。左右。高い水位ゆえに、水に浸かっている岩室の天井。
そして、ありえないとは思うが足元。水底からの攻撃も、念のため警戒する。
その状態が、数分ほど続いた。敵影なし。
エクスフィアにより強化された聴覚からも、ただただ水が岩室を洗う音が聞こえるのみ。
281Contradiction6:2006/07/09(日) 00:36:32 ID:PbQbqtJr
(…気のせいね)
彼女はそう結論し、メガグランチャーを下ろした。再び川底に着け、「避雷針」として使うことにする。
拍子抜けしたシャーリィは、そのまま腰を川底に下ろした。一息つくが、だからと言って口から泡が漏れたりはしない。
陸上では空気を呼吸し、水中では水を呼吸し生きる水の民は、水中に潜っている際は肺が水に満たされているのだ。
シャーリィは、再びエクスフィアの毒素を解放し、患部にそれを集中させた。
本来ならばありえないはずの、超再生がまたも始まる。
ほの暗い水の底を、シャーリィは海色の瞳で見つめ続けていた。
彼女の耳を叩く音は水の流れる音、そして傷口ではじける泡の音だけだった。
(そう言えば、さっきの音…もしかして)
体の中から聞こえた音かもしれない。そんな考えが、一瞬限りシャーリィの脳裏に去来した。
ただ去来しただけ。ただ夢想と結論しただけ。
(馬鹿馬鹿しい考えね。忘れましょう)
そう思い直し、彼女は一瞬限りの思いを一蹴した。
とにかく今は、傷の回復に専念する。そして安全なところからテルクェスを飛ばし、他の参加者を見つけ殺しに行く。
あと殺さなければいけないのは、多ければ22人。
自分が殺した人数を、夕方の放送で発表された人数から差し引けば出来る、簡単な勘定。
これだけの人数を殺すには、「気のせい」で片付くような些事になど構っていられるものか。
思うシャーリィは、暗い光を目に宿し、静かに水底に佇む事を選んでいた。
彼女の左手の傷口の、一番奥底…皮が裂け露出した肉の隙間に隠れた、不気味な結晶の存在を知ることなく。
くしくもその結晶は、かつての彼女の姿と同じ、青緑色をしていた。
本来なら二律背反を引き起こし、同じ体には宿ることの出来ない、ヒトとしての形質と、エクスフィギュアとしての形質。
それを無理やりに同居させたがための、肉体の拒絶反応。その結実が、それであった。
青緑の結晶は、まずはシャーリィの皮膚を呑み込もうとするだろう。
やがては肉を冒し、骨を喰らい、そして最期には――。
282Contradiction7:2006/07/09(日) 00:37:59 ID:PbQbqtJr
【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー
     ネルフェス・エクスフィア(セネルのアーツ系爪術を、限定的ながら使用可能)
     フェアリィリング
     UZI SMG(30連マガジン残り1つ、皮袋に収納しているが、素早く抜き出せる状態)
 ハロルドの首輪
状態:HP35% TP35% 冷徹
   ハイエクスフィア強化 クライマックスゲージチャージ中(現在1%)
   限定的なエクスフィギュア化(再生能力のみ解放)
   永続天使性無機結晶症を発症(左腕から肉体が徐々にエクスフィア化。本人はまだ無自覚)
基本行動方針:セネルと再会するべく、か弱い少女を装ったステルスマーダーとして活動し、優勝を目指す
第一行動方針:ひとまず放送まで休息後、テルクェスで島内を偵察
第二行動方針:可能ならばジェイと接触し情報を得る。そののちジェイの不意を打ち殺害
第三行動方針:偵察の合間にハロルドの首輪をいじってみる
現在地:D5の川の洞窟

※永続天使性無機結晶症について
永続天使性無機結晶症は、エクスフィア装着者の肉体が、エクスフィアに対する拒否反応を起こして発症する病気です。
原作のテイルズオブシンフォニアでは、コレットがこれにかかりました。
肉体がエクスフィアになっていく点を除けば、いわゆる「石化病」と考えて下さい。
このロワではシャーリィがエクスフィアの毒素を解放した時に、特に劇的に進行します。
永続天使性無機結晶症を治すには特製の要の紋が必要となり、これ以外の方法での治療はまず不可能です。
283名無しさん@お腹いっぱい。:2006/07/09(日) 21:42:48 ID:+iFRVN+M
284埋め:2006/07/11(火) 17:43:11 ID:bBDPkdhm
 こつり。
 足の下敷きになった石ころが、剥き出しの岩肌に擦れ小さな音をたてる。


 こつり。こつり。
 手にした道標が、夜明けを知らない暗がりを頼り無く照らす。
 背後には、未成熟な丈を幾倍にも引き延ばしたかのように細く長く、影が弱々しく揺れている。


 こつり。こつり。こつり。
 腰に差した長剣の切っ先が地肌に触れる。
 その剣にとって元来有り得なかった事象。所有者の変更という重大な事実を感覚を以てして知らされる感慨。
 主にとっては些細な事象。背を押す焦燥が歩を進め、それがいまの彼のすべて。


 こつ、こつこつこつこつ……
 約束の場所は目と鼻の先。一向に現れない待ち人の気配。
 冷や汗が頬を伝う。鼓動が激しさを増す。吐息が……白く色付く。
 思わず息を呑む。目の前、ほんの数歩先から、景色が凍り付いていた。
 緊張はピークを迎え、足取りはいよいよ駆け足。
 踏み締める融解間際の氷の表面が、不快な感触を伝えた。


 ザッザッザッザッザッ……
 頼む、頼むから無事でいてくれ。
 少年は盲目的に祈り続ける。神を否定した彼が何に祈りを捧げるのか。それは定かでない。
 その願いは、もっと純粋で根本的な、無意識下の感覚というそれだったのかもしれない。


 グシャ――――――
 氷を形作る分子構造が、強か加えられる圧迫にその体積を縮める。
 少年の歩みが、はたと停まった。
285埋め:2006/07/11(火) 17:45:15 ID:bBDPkdhm
「ちょ……そ………あ…」
 人為的拘束を脱したランタンが束の間自由を味わう暇もなく重力の支配下に置かれ、湿っぽい洞窟の床へ転げる。
 ちらちらと照らされる、ひと揃いの真っ赤な靴。すらりと伸びた脚を覆うハイソックスとのコントラストが美しい。
 ピンクのワンピースの裾しおらしく腿を包み隠し、その両脇シンメトリに投げ出された細長の腕もただそれだけで愛らしい。

 人の気配は無い。

「……アラ……嘘……そ…な」
 色取り豊かなトッピングに少年の眼は、心は奪われていった。
 紅、白、橙、山吹、黄緑。艶やかな装飾が、清楚な印象をもつダークブラウンの髪によく映えた。
 乳白色の肌はワインレッドの模様に染められ、なんといっても胸元のワン・ポイントが彼の視線を独占した。

 ひとの気配はない。

 胸部でさんざ自己主張を続けている立派なアクセサリ。
 ここまで大胆な装いはかつて見たことが無い。身に余る程巨大なそれは最早オブジェと呼ぶに相応しい。
 しかしそれは装着者に吸い付くようにフィットし、さらには取り巻く背景にすら溶け込む一体感を醸しだしていた。

 ひとのけはいはない。




 りあらは しんでいた




 脚が、指先が、肩が震える。顔からは血の気が引き、末端から徐々に身体が痺れて動かなくなる。
 眼は血走り、歯がガタガタと音を立て、やがて全身が痙攣を引き起こした。
「な……りあら、りあ……うっ」
 ただ嗚咽混じりの片言を吐くことが、唯一動く喉にできるすべてだった。
 少女の変わり果てた姿に、傷塗れの少年の心は張り裂けんばかりの悲鳴を上げ



「ぅあっ………っっっあ゛ああぁああああぁぁああああぁぁぁあああああぁぁぁぁ!!!!!」



 間も無く絶叫をともない勢いよく張り裂けた。
286埋め:2006/07/11(火) 17:46:18 ID:bBDPkdhm

           ――――――――――――――――――――――――――――――

『こんな形で君と再会することになろうとは。運命とは皮肉なものだな』
 仄暗い穴倉のどん底に、彼は居た。
 時刻はもう明けで、見上げれば朝日の片鱗が覗く。すべては、もう終わっていた。
『しかし、君が無事でなによりだ。この高さから墜ちた衝撃をまともに受けていたら、流石に徒事では済まなかっただろう。
 ……あの馬鹿も無茶をする。仲間を護る為とはいえ、私を投げつけて難を逃れるとは』
 短刀を拾い上げながら、カイルはにわかに顔を顰めた。
 沈んだ少年の気を紛らそうという気遣いの意図で弁舌を揮ったつもりだったが、失言だった。
 思い直せば、自分はもともと口達者なほうでは無かったではないかと今更自嘲する。
 そんなものは、シャルティエとかイクティノスなんていうインテリ優男どもに任せておけばよかったからだ。
 だが現状そうもいってはいられず、気分を変えて当たり障りの無い話題をと思考を巡らせるが、
『あの少年……ロイドといったか、彼は』
「……誤解して斬りかかってきたんです」
 自分から安易に話し掛けるのは止そうと考えを改める結果に終わった。
 結果的には和解したんですけど。カイルの補足は黴臭い石壁に消える。

 押し黙るディムロスの気苦労を後目に、カイルは薄暗い床を探っていた。
 間もなく立ち上がった彼の手には、仰々しい黄金の蝙蝠が握られている。
『……意外だな。君は他人の亡骸に手を触れるなど気が進まない性と思っていたのだが』
 またも失言だが、カイルは別段気に掛ける素振りも見せずさらに少し歩を進め、おもむろに屈み込んだ。
「母さんにいつも言い聞かせられてたんです。綺麗事は二の次。生き残るには、そのとき必要なものを見極める細やかさと、
 神をも畏れない図太さが不可欠なんだ、って。……正直、破綻してるとは思いますけどね」
 踵を返した彼は、裾の解れた布やらなにやら拾い上げ、どんな物も呑み込む化物サックにそれらを丁寧に仕舞い込んだ。
 黙々と作業をすすめる少年の瞳は、些か曇って見えた。
『……上策だな。君の母君は聡明な方らしい』
 確かに、この決断は今後少なからず彼に利益をもたらすであろう。
 特にこの首輪、解除法の模索に確実に役立つものの、死人が出なければ手に入らない貴重な代物。
 手札にあるとないとでは情報量に天地の差が出る。
 智のある者、できればハロルドとの合流が叶えば、これを利用して状況の挽回を図ることが出来るやもしれない。
「ホントは……恩人の遺体を漁るなんて罰当たりだし、止しておきたかったんですけど、ね……」
 しかし、代償として有り余る背徳感の重圧、そしてなによりこの年端もいかぬ少年の自らを嘲う乾いた表情に憤りを憶えた。
 マスターであるスタン亡き今、この抑え切れぬ憤怒を憎き天上王に返上する時がはたしてくるのだろうか。
 この少年に、いつか安息はおとずれるのであろうか。
 思考に暮れながら、また少しばかりのセンチ・メンタルに鬱々と焦らされながら、ディムロスは少年と共に廃墟を後にした。

 カイルに悲しみを噛み締める猶予は無かった。立ち止まる時間は生命を削ると彼は知っていた。
 横たわる父の亡骸を前に、何か奇異な違和感を憶えた。しかしその正体を探るにはいまは相応しくはない。
 彼はただ黙々と、南を指し地面を蹴った。


 そして、悲劇は加速の一途を辿ることとなる。

           ――――――――――――――――――――――――――――――

287埋め:2006/07/11(火) 17:47:30 ID:bBDPkdhm
 あれから、どれだけの時間が過ぎたであろうか。
 少年は少女の亡骸の傍らに跪き、彼女の砂糖塗れに汚れた髪を梳き解すように撫で続けた。
 その寝顔のような自然な表情からは、凄惨な死に様を彷彿させる苦痛は感じられなかった。
 彼にとってそれが気休めだとか救いであったかは定かでないが。
「ごめん……護ってあげられなくて、ごめん……ごめん……」
 ディムロスはその脇で、彼の空虚な懺悔を聞き続けるほか無かった。

 悲惨としか、表しようもない。
 少年の目は虚ろに泳いで焦点が覚束ず、かつて見た若い活力に溢れる眼差しが嘘のようにさえ思える。
 可能ならば、目を逸らしてしまいたい。それが率直な感想だった。
 ディムロスの気を滅入らせる要因はそれだけではない。
 場を覆う冷気からひしひしと伝わる、無表情の嘆き。
 ふと、グリッドらと共に出会った金の髪の少年の姿が脳裏をよぎる。
『やはり……彼女は、奴の傀儡とされていたようだ』
 アトワイトが会話を拒んだ理由がはっきりした。少年になんらかの弱味を掌握され、沈黙を余儀無くされているのであろう。
 彼自身の能力は未知数、しかし素面の身でソーディアンの最大級の力を引き出すことができるならばそれだけでも充分な脅威である。
 一刻も早く彼の暴走を止めねばならない。次なる被害者を出さないために。彼女の手を、これ以上穢さないために。


 喪失感にすべてを奪われるという経験を、貴方はしたことがあるだろうか。
 少年はいま、壱拾五の幼心にそれを噛み締めている。不憫、などといってはむしろ不謹慎か。
 正確に云えば、彼はまだ現状‘すべて’を失ったわけではない。あくまで現状の話ではあるが。
 しかし少女の存在は、彼にとってその比重を占め過ぎていた。
 盲目的な愛情はときに至高の悦びを彼ないし彼女に与えるであろう。
 同時に、理性の伴わない愛情の弊害なりリスクは、計り知れない危険性を潜めている。
 貴方が健全なる第二の人生を送りたいと願うならば、その喪失なり精神の歪みに備えが必要不可欠となる。
 しかしながら、彼は幼かった。その重みを受け止めるには、機が熟し切らなかった。ただ、それだけのこと。

『―――くん、おい、カ……』
 剣は持ち主に訴え掛ける。否、延々訴え続けている。手応えはない。
 カイルには既に五感が無かったのだろうか。‘そこ’へ至る以前から。
「ごめんね……痛かったよね。苦しかったよね。淋しかったよね……」
 重い腰を唐突に上げると、彼はふらつく足取りで来た道を引き返してゆく。
『……カイル君、何処へ行くつもりだ?』
 訝しむディムロス。しかしやはり彼は応えなかった。ただひたすらに、のらりくらり凍った床を蹴る。
 行き着いた先には、リアラを発見し慌てて駆け出した際取り落とした彼の鞄が横たえられていた。
「……でも、もう寂しい想いはさせないよ……」
 鞄に手を差し込み、掻き回すように乱雑に中を探る。さらに痺れを切らしたか、ついには中身を湿気た床へぶちまけてしまった。
 コンパスやら、食べさしのパンやら、穴の開いた篭手やらが辺りに散乱し、思い思いの音響を奏でた。
『おい……まさか……!』
 目当てのものを拾い上げ、微かに覗く灯りを映し込んだそれを愛おしむように撫でる。
「待ってて……いま、そっちへ逝くから……!!」
 カイルは短刀を逆手に握り締め、ゆっくりと頭上高く掲げた。
288埋め:2006/07/11(火) 17:48:42 ID:bBDPkdhm
『血迷ったか……ふざけた真似は止せ!!』
 ディムロスが低位置から突き上げるように吼える。
『いま此処で命を絶って、何になるというのだ。それこそ、ミクトランの思う壺ではないのか』
「俺は、あなたのように立派なヒトとは違う……俺は、一人じゃなんにもできないんです。
 こんなことになってしまって……もう、俺、終りなんです、なにもかも」
 支離滅裂吐き捨てるカイルの声は、弱々しく震えていた。虚ろな瞳に、生への渇望が映し出されてはいなかった。
『弱音を吐くな。まだ終わってなどいない。君にはまだ、できることがあるだろう』
「俺にできること……? そんなもの、なにもありませんよ。
 俺は、誰ひとり守ることができなかった。みんな……みんな死なせてしまった!!」
『それでも、君は生きている。生ある限り、人には為すべきことがある。
 無念の死を遂げた人々の為にも、君には生き延びる義務があるはずではないか』
「そんなの関係ない! 父さんも、母さんも、ロニも、リアラも。誰もいない世界で、生きてたってしかたない。
 俺にはもう……生きてる意味が無いんだ!!」
『この馬鹿者ッ!! そのような台詞、軽々しく口にするな!!』
 ディムロスは怒鳴りつけつつも少年に同情の目を向けた。
 両親をもたない彼がさらに二人の友をも喪った事実は、その身にあまる衝撃であろう、と。
 彼はまだ知らなかった。カイルの両親が、この地で最期を迎えたことを。
『それに、いつか君は言っただろう。自分は、英雄になるのだと。その英雄が、かように容易く命を投げ出してしまおうというのか』
「違う……俺、リアラと出逢って、一緒に過ごして、やっと気付いたんです。
 俺は、世界を救う英雄になんてなれない。俺は、世界に選ばれた人間なんかじゃないんだって」
 カイルは歯噛みした。そして大きな溜息を吐き、瞳を閉じる。
「俺は、ちっぽけな人間なんだ。だから、俺には、リアラが必要なんだ……リアラがいなくちゃ、俺は、ダメなんだ!」
『……甘ったれるなッ!!』
 ディムロスの声は、微かに上擦っていた。取り繕いもせず怒鳴り散らす自分に内心どこか懐かしさを感じていたがそれはまた別の話。
『君はここまで、そうやって、多くの人々に支えられて生きてきたんだろうが。
 いまこうして生き長らえているのも、誰かと支えあった絆が齎した因果だろうが。
 それを理解していながら、なぜ、自ら命を絶つなどという愚かなことを口走るのだ!!』
 カイルは閉口した。悪戯を戒められた、萎縮するばかりの幼子のように。

 そんなことは、解ってる。自分がこうして生き残ることができたのは、命を懸けて守ってくれた多くの人々の御陰なんだ。
 あのとき、リアラが危険を報せてくれなければ、瞬時に消炭になっていただろう。
 あのとき、ミントさんの慰めがなければ、自棄に走っていただろう。
 あのとき、クラトスさんがリアラたちを救ってくれていなければ、早々に生きる希望を失っていただろう。
 そしてあのとき、父さんが……―――

 ―――違う。そんなの、なんの意味もない。
 みんな、みんな死んでしまった。いまある事実は、それだけだ。
 だれの力にもなれず、だれの命も護れず、みんなを楯にして、俺は、生きている。
 ここには、誰もいない。
 俺は……ひとりぼっちだ。

「……うわあああぁぁぁぁっっ!!」
 振り上げたカイルの諸手に力が込められる。
『まだ理解出来ないか。皆の死を無駄にするのか。数多の閉ざされた生への願いを、踏み躙ろうというのか!!』
「うるさい、うるさいうるさい!! 俺は、リアラたちのところへ逝くんだッ!!」
 小刀を握る手の震えが激しさを増す。汗がカイルの身体を流れ落ち、ディムロスの身を伝った。
 彼の生を繋いでいるのは、痛覚への潜在的躊躇ただそれだけだった。
 それも、もう終わる。
『よせ、やめろ、やめるんだっ!!』
 大きく息吐くカイル。彼の耳に、もうディムロスの声は届かない。
 緊張の糸が徐々に解けていく。すべてを悟ったような表情の少年に、最早躊躇いは無くなった。
「やっと、やっと逢える……いま逝くからね……リアラッッ!!!」
 迷いの無い一閃が、少年自身に振り下ろされる。
289埋め:2006/07/11(火) 17:49:34 ID:bBDPkdhm


 ―――イル、カイル……


「なっ!?」
 刃が勢いを緩め、その切先がカイルの腹の皮一枚を突いてぴたりと止まった。
 咄嗟に出口方向を振り返る。
 索敵行動。それは生存への本能的反射。自ら死を望んだ者とて、それは発動されるらしい。生のある限りは。
 視線の先には何人の姿も認められなかった。


 ―――カイル。私の声が、聞こえるか。カイル……


『……背後だ、カイル君!』
 すかさず振り返り、辺りを探る。そこには、自ら撒き散らした道具類が転がるのみ。
 薄汚れたマント。正体不明のカード。水の少し残ったボトル。忌々しい金の首輪。
 その真ん中で、小さな石ころが光を放っていた。
「あなたが……なぜ……」
 声の主は、剣士の形見である透き通る蒼をした宝玉だった。

『無機生命体エクスフィア、か……我々ソーディアンと似た原理なのかも知れんが……』
 しかし自分には時間が無い。エクスフィアなる存在は淡々と述べた。
 もともと彼は人間としての肉体をもっていた。それはカイルのよく知るところである。
 ところが彼、クラトス=アウリオンは、この地に措いて肉体の滅びを迎えた。早い話が、彼は死んだのである。
 数千年の時を生きた物質としての歴史に終止符が打たれ、彼の意識はたかだか百年足らずの寿命しか持ち合わせない「人間」を
 「天使」としてここまで生き長らえさせた高度無機生命体「クルシスの輝石」に取り込まれたのだという。
 そして今、その意識までもが石に呑まれつつあり、彼は完全な最期を遂げようとしている。

 気不味そうに視線を逸らせるカイル。自殺未遂の現場で命を救われた恩人に遭ってしまったのだから無理からぬ話か。
 顔を顰めつつも、彼は唇を噛み締めた。それでも、溢れ出る感情を抑えられそうもない。
 死を望んだ自分が、なぜ内心彼との再会を喜ばしく感じているのか。この出逢いが泡沫のものと知り、なぜ心を傷めるのか。
 自分の感情が、理解できなかった。

『……カイル。真なる最期を迎える前に、お前に云っておきたいことがある』
 彼の低い声色と相俟ってか、石の紡ぐ振動は水の底から響くように曇っていたが、それを逃すまいとカイルは耳を欹てていた。
『ユグドラシル……ミトスは、過ちを繰り返そうとしている。姉のマーテルを喪い、周囲がなにも見えなくなっているのだ。
 恐らく、ミトスはすべての参加者を殺戮し、マーテルを蘇らせようとしているのだろう』
 正確には魂胆は少し違っているが、クラトスの言葉に大きな間違いは無かった。
 ミトスの言い分は、本当だった。姉の為に、我を失っていただけなのだ。
 だからといって同情の余地は微塵も有りはしないことに変わりは無いが。
『解ってやってくれとは云わない。ミトスの犯した罪、そしてこれから起こす過ちは、到底赦されるべき所業では無い。
 また、ミトスを止めてくれと頼む心算も無い。お前にとって、彼は憎むべき加害者に過ぎないのだから。
 だが、せめて知っておいて欲しい。ミトスは姉想いの、どこまでも純粋で、哀れな少年なのだ。
 しかしながら彼は幼かった。盲目過ぎた。力を持て余し過ぎた……ただ、それだけのこと。
 ミトスもまた……このゲームの被害者でもあるのだ』
 カイルの心は揺れた。ミトスは、大切な人の死に耐えることが出来なかった。滾る感情を、処理することが出来なかった。
 行為の方向性はまったく違っている。しかし、リアラの死に直面した自分の取った行動は、彼と同じではないのか。
 なら、彼を否とする自分はどうすべきなのか。彼が答えを出す前に、クラトスは続けた。
『彼を止めることが、私の為すべき責務だった。彼を残して死ぬことは、赦されない筈の身であった。
 リアラの命を奪ったミトスや、志半ばにして果てた無力な私を、幾らでも謗り、恨むがいい』
 恩人であるあなたを恨むなんて。カイルの呟きは、クラトスの言葉に掻き消され彼に届くことはなかった。
『だから……死ぬな、カイル。命を粗末にしようなどと、愚かしいことを考えるな。
 私だけではない。偶々、私は死して尚お前に伝えることが出来たが、死んでいったお前の仲間は誰しもが同じ想いでいた筈だ。
 多くの人々に紡がれたお前の命が失われることを、誰が望む。否、何人たりとも望みはしないだろう』
 クラトスの脳裏に、ロイドの、神子コレットの、そしてリアラの姿が浮かぶ。人の云う、走馬灯という代物か。
290埋め:2006/07/11(火) 17:50:23 ID:bBDPkdhm
終了
291名無しさん@お腹いっぱい。



























































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