テイルズ オブ バトルロワイアル Part5

このエントリーをはてなブックマークに追加
195翔る 1
山岳にて。

彼は敵へ向かって走る。敵を殺す為に、敵を生かすために。
2つの敵は今虫の息で、彼が右手を掲げれば敵は生を失い
彼が左手を差し伸べれば敵は死より逃れる。
この限定的な状況において、彼は全能の神と同義だった。
大きい敵と小さい敵、右手と左手。
彼が選んだのは大きい敵と右手、
即ち大筒による今尚背を向ける敵の後頭部への零距離砲撃。
せめて苦しまぬようになどと言った神の慈悲の類では決して、ない。
あまりに喧しい奇声を黙らせるなどと言った神の傲慢の類でも、ない。
その選択は、確実に絶命させる為の酷く臆病な正解。

殺さねば、殺される。彼の種族的な感性を差し引いても十分な生への本能。
大筒を構え意気を吐き疾駆する神は、まるでライフルを構えた新兵のようで。

彼は小さな敵の左腕から先が欠損していることが
分かる程度の位置まで接近した。
しかしその距離でなお満足しないようで、更に歩を進める。
零距離まで進むことへのリスクを、彼は何も躊躇わない。
殺さねば、殺すのだ、生かさねば、生かすのだ。
矛盾する思考を矛盾したまま留めておけるのは、
いい意味で愚者のなせる業か。愚者とは強者の称号である。

ぼとり、と音がした。目の前で大きな敵の右手から銃器が落ちる。
とす、と音がした。目の前で大きな敵の左手から剣が落ちる。

この意味が彼には分からない。理解できるほど思考能力に余裕が無い。
ただ、本能が告げる。ヤバイ、よく分からないがヤバイ。
今すぐ殺さないとヤバイ。砲身には弾が自らが飛散する
姿を心待ちにしている。敵は武器を落として尚、後ろを向きっぱなし。
負ける要素は皆無、しかし何故かヤバイ。
己の中の恐怖を体内から消し去る為に、彼は吼えた。
必殺、むしろ過殺とも言える零距離射撃。焼くなど、溶かすなど生ぬるい。
どんな化物だろうと殺せば死ぬ、頭を消してそれで終わる、終わって欲しい。
砲身を槍と見立てるならば、貫かんとする勢いで彼は大きな敵に肉薄する。

突如の青く眩い光、光源は言うまでも無く大きな敵。
196翔る 2:2006/04/06(木) 00:24:00 ID:QrB6EbJy
その光に彼は怯まない。
蘇生薬を袋に収納するという思考はとうに無い、
いや今の彼は何故自分の左手が塞がっているかを忘れている。
そんなことは気にも留めないで彼は砲身を片手で構える。
物理的に不可能な片手撃ち、それを可能とするのは彼の力、磁力である。
地面と砲身の間に重量と同等の反発力を形成し
水平方向に、砲身に一様の力を及ぼして標準を固定する。
ほんの十数cmの身長差分、銃口を上に上げて、瓜のような頭を狙う。
今、彼の右手、右腕に全くの付加はかかっていない。人差し指、トリガーを
引く力を除いて。敵の姿は光によって見えないが敵は動いていない。

「くたばりやがれッ!化物がァァァ!!」

引き金を、引いた。殺意が、指向性を持って、飛ぶ。


山岳にて。

言葉というのは存外不便なものである。
言葉に出来るものと言葉に出来ないもの、どちらが多いかと問えば
答えは不定だ。有限と無限は比較することが不可能だから。
例えば、色。あの輝く二つの月、その足にしがみつく死体の髪と血、
赤と青で括ることは出来る。しかし二つは明らかに違う色。
例えば、感覚。今のその背中を這う不快感をどう表せばいいのか
手持ちの言葉で出来る限り正確なところを述べようとすれば…
熱いが6割、痛いが3割、残りは痒い、と言った所だろうか。
ましてや体を巡る痺れまで加味すれば言葉を以て表現するのは
非効率的だ。そんなことよりもやるべき事がそれにはある。
背中の損傷、窮鼠の一撃、全て甚大だ。
この島においてそれがここまで劣勢に追い詰められたことは
一度も無い。それが「それ」になってからは一度も無い。
197翔る 3:2006/04/06(木) 00:25:57 ID:QrB6EbJy
断るのを忘れていたが今現在それ、と呼称しているものは人間である。
身長2m以上で瓜のような面構えで外皮が緑色で指と掌の区別が無く
声帯がまともに機能していない酷く醜くて仕方の無い人間である。
別に外見に尺を当てて化物と呼称しても良い。
ただ、この世界に於いて外見を境界条件として人間と非人間を比較するのは
ヒューマとガジュマのどちらが優れているか、を問うくらいに無意味なので、
それの持つ感情があまりに人間らしいことから人間と定義した。

それはひたすら己の生を願う。そしてどこかで己の死を願っている。
あまりに、あまりにそれは一線を越えてしまった。
姿形に拘らずに己を確立するには、それはあまりに幼すぎた。
家族、仲間、嘗ての姿、失ったものが多すぎる。
それは、今全てを諦めようとしていた。

ああ、私はここで死んじゃうのか。
別にいいか、どうせこんな姿お兄ちゃんに見せられるわけないし。
どうせ今の私は化物だし。
私が殺した人、私が殺し損ねた人、私が殺す人、
どうせみんなと違うし。
どうせ、どうせ、どうせ…元に戻れたって、私は水の民だし。

どうせ…お兄ちゃんも死んじゃったし。
198翔る 4:2006/04/06(木) 00:27:43 ID:QrB6EbJy
…もう疲れたよ。休んでいいかな、お兄ちゃん?

垂れた頭に釣られてそれはその目で、
本当にその頭部に埋め込まれた球体が目なのかは分からないが、
左手の元凶を、始まりの石を見た。
先ほどまで血のような真紅だった石は、青く輝いている。
ああ、何処かでこんな色を見た。あれは――

ぼとり、と音がした。それの右手から銃器が落ちる。
とす、と音がした。彼女の左手から剣が落ちる。

(諦めるな。)
彼女の兄はいつもそうだった。
(諦めない。)
水の民も、陸の民の関係も。
(諦めない。」
虚ろなる導き手の力にも。
「諦めない。」
世界と、彼女の命との選択も。
「お兄ちゃんは諦めなかった。」

光が彼女を包む、石の光か、滄我の光か、正しく輝ける青。

駄目だったのだ、正しくなかったのだ。
あの時、彼女は力を渇望した。人の形を捨ててでも力が欲しかった。
それに石が応えた。それでは駄目だったのだ。
化物となった妹を見て、悲しまない兄などいるのか、いやいない。
人間のままで、兄に会わなければ、意味がない。
自分の命を危機に晒して、彼女はようやく思い出した。
命の尊さ、他者の命、殺すということ、私のために死んだ人。
その意味を思い出した、何のために皆殺しにしようとしているのかを。

「だから、私も諦めない。私は、お兄ちゃんに、会いに行くんだ。」

引き金が、引かれた。殺意が、指向性をもって、彼女の頭上を飛んでいく。
199翔る 5:2006/04/06(木) 00:29:12 ID:QrB6EbJy
山岳にて。

彼はまったく遮蔽物の無い所に突っ立っているが、それは本意ではない。
彼はまだ存命であるはずの彼女たちに撤退命令を下そうと
駆け寄ろうとしたのだ。その為に岩場から出た直後、閃光。
そして、一条の赤。彼はその瞬間を網膜に焼き付けた。
いや、本当に焼きついたかもしれない。牛が走って、構えて、撃った。
化物が後ろを向いたまま、武器を落とし、光った。
青い、とても青い光が彼の仲間を含めて3人を包んで、
そして直後、円錐状に火灼の赤が広がる。眼が、熱い気がする。
何が起こっているのか全く分からないこの状況を、その眼は凝視していた。
見届けなければ、ならない。

さて、この時点でこの場所にて既に1つの殺戮が完了している。
本来時間軸的には彼、トーマが引き金を引く前に
そのエピソードを入れるのが正しい。
(彼、グリッドがもうひとつの事件の存在に気づくのは
もうしばらく後である。)
しかし今現在ここで起こっている二つの事象は(微小な相互干渉はあれど)
独立している。それらを時間を軸として連続に並べることは可能だが、
それにより生ずる著しい不連続性は言葉という形では
筆舌に尽くしがたいほど不快な、要するに分かり難い為、
二つの事件を分けることにしたい。ただ、今の時点では
何も気にする必要は無いことを付け加えておく。
200翔る 6:2006/04/06(木) 00:31:21 ID:QrB6EbJy
彼は撃った。本来敵の頭のあるべき場所には熱された空気があるばかり。
やった、殺した。敵を、殺した。救ってなどいない。俺は、殺したのだ。
そして、どうする?敵はまだ残っている。
殺すか、生かすのか、生かした後に弄ぶのか。
ああ、俺はどうしたらいい?
俺は何でも選べることが出来る。
そうだ、考えるのは後でも出来る。
まずは

「チアリング」

彼がそこに一人のヒューマがいたことに気づいたとき、
彼の左手の甲に剣が刺さり、彼女の残滓が砕けて飛沫になった。
小瓶の中の液体は地面に、伏せる敵に、彼女の足に、
差別無く万遍無く降り注ぐ。

彼が左手から何を落として、それをどうしようと
思っていたのかを思い出した時には、彼の右腕に銃口がかかっていた。
その少女の小柄な体では不可能と思われる片手撃ち。
それを可能とするのは、純粋な筋力強化と魔力強化を施した
古代爪術による肉体強化。即ち石の力、エクスフィアの力である。

彼女は撃った。撃った、撃った、差別無く万遍無く。
弾奏が終わり、弾倉が空になったときには、
彼の右腕には歪な半月があった。二の腕の筋肉の一部がそぎ落とされ
血の赤が月を汚し、赤の中でうっすらと骨の白が見えている。
201翔る 7:2006/04/06(木) 00:35:08 ID:QrB6EbJy
大筒が落ちた。あまりの激痛に落としたわけではない。
右腕の筋繊維、神経がごっそり半分欠けた腕に伝令がいかないのだ。
マシンガンに最後の弾倉を入れて仕舞い、
大筒をその強化した膂力で持ち上げる。

「背中の傷を、ありがとう。」

少女は、滄我の代行者、滄我は無くともその滄我を
内包する器としての素養は確実に存在している。
砲門内部のクレーメルケイジが満たされる。
本来入るべき晶霊ではなく、大気中に幾重にも存在する滄我が、
自身の体を中継点として砲門に詰め込まれている。
規模も、威力も、元来のものの数千分の一に過ぎないであろうが、
今彼女が放とうとしているのは、紛れも無く「滄我砲」。

「これで心置きなく殺せるから、心置きなく、死んで。」

砲門が、真逆に転じてかつての主を撃とうとしたその時

「囀るな、娘。」

2人の足元からか細い声がした。声の主は少女の足をむんずと掴む。
男は生きているのか、死んでいるのか、もう分からない。
滴り落ちたライフボトルがくれた、最後の時間。
改めて発動した鎮痛も効いているのかどうかよく分からない。
もう胸から下は殺した。全てを残りの部位の生命維持に当てる。
だが、この有様でもまだ出来ることはある。
もう死んだ命、惜しむ理由はない。

「進化は防げたとはいえ、まさか丸ごと無事とは…
貴様の高位の血統が成せる技か。」
202翔る 8:2006/04/06(木) 00:37:06 ID:QrB6EbJy
未だ輝石精製理論の確立していないエンジェルス計画。
もし彼女の石のデータがクルシスに送られれば、
指導者の提唱する千年王国の実現は可能だったかもしれない。
それをレネゲードの首魁が未然に防いだことは皮肉なことかもしれない。
男は輝石を壊せなかった。しかし完成する前に殻が失われたことにより
進化は終わり、残ったのは既に存在する試作型のハイエクスフィアと
同種のもの。男の、勝利だ。

しかし、不完全なものとはいえハイエクスフィア。
その性能は今までのものよりも高い。要の紋の有無に関わらずに。

彼女は彼女の世界で「メルネス」と呼ばれた存在である。メルネスは
膨大な意思総合群体である滄我を、換言すれば膨大なマナを内包することが
可能な「器」としての素養を持っている。
その「器」としての素養が無いものが滄我をその身に宿せば化物になる。
奇しくもこの地でも化物と化したマウリッツがその凡例だ。

その、器としての素養がハイエクスフィアによる更なる強化によって、
要の紋無しでエクスフィアによる体内のマナへの干渉、フィギュア化
に耐えるまでとなった。

「遺伝か、転生か、守護か、エクスフィアの毒を自力で耐える人間
は初めてだ。その力で、愛する者の為とのたまって、何人殺めた?」

彼女は男を見ない。見据えるのは、正面の獣。溢れる血を手で
押さえようとしている哀れな獣。この獣には感謝している。
服は殆ど無事ではあったが背中の傷は鉄が混じってぐちゃぐちゃに
痛覚を刺激する。すでに尋常ならざる再生能力はもう存在しない。
それが彼女には嬉しかった。焼けるような背中の痛みが、
私は今人間なのだと教えてくれる。
彼女が行ってきたことの罪を教えてくれる。
その火傷は、今まで、そしてこれから皆殺しにする為の免罪符。
203翔る 9:2006/04/06(木) 00:41:56 ID:QrB6EbJy
「図星か。お前によく似た大馬鹿者を、一人知っている。
姉を失い、全てに失望した馬鹿者とそっくりだ。そいつの姉は、
そいつが堕ちることを誰よりも悲しむ人間だろうに。
お前の請う人は今のお前を本当に望んでいるのか?」
時間稼ぎとはいえ、少し言い回しが臭いかと男は思った。
まあ、言っていることは本心なので仕方ない。

少し、標準がずれた。もっともこの距離で標準など意味はないが。
彼女の兄は、こんなことをしている妹を、どう思っているだろうか。
頑張ったな、偉いぞ、ありがとう。どれも違うと思われる。
多分彼女の兄はそんな事を望まないだろう。
でも彼女は、そんな彼女の兄に、もう一度会いたいのだ。
そして彼女は、そんな姉弟を、知っている。

「ユグドラシル…」
彼女はそう呟いた。その意味を見逃すはずは無く、
「知っているのか…そうか、マーテルを殺したのは、貴様か。」
男は問う。唯でさえ足りない血が少し体外へ抜ける。
既に残った右手も先ほどの一撃を放った際に砕けてしまっていた。
成人男性が目一杯に引っ張れば、千切れてしまいそうなほどに。
「そうだっていったら…私を殺す?」
今更もうじき死ぬ人間に嘘をつく理由は無い。
彼女が聖母たちに銃口を向けたときに、あの一日は、失われたのだ。
彼女の中の聖母は彼女が殺したと言っても、言葉遊びの面では同じことだ。
あるいは彼女はほんの少し、後悔していたのかもしれない。

男は一拍置いて本心を紡ぐ。
「殺さんよ、多分。敵討ちも、蘇生も、あいつは
そういうことを死んでも望まんよ。私には分かる。」
血に塗れたその声は場違いな位に厳かに聞こえる。
4千年前に聞いた彼女の言葉は、今なお純粋なまま、男の中に残っている。
彼女がそれを否定しないはずは無く

「ウソ「ウソだ!!」

突如割り込む第三者の声。彼女は改めて彼を見据え、砲口を向けなおす。
左の手で肩口を圧迫し、無理矢理血を止めて、彼は喚く。
「あいつはこんな所で死んでいい奴じゃねえんだ!!
あいつはもっと生きていたかった筈なんだ!!
あいつは死んだんだ!!死んだ奴の気持ち何ざこれっぽっちも
分からねえ!!だから、もう一度あいつに会うんだ!!」
感情が堰を切ったようにあふれ出す。
復讐とか、後悔とか、自分のせいで死んだとか、言い訳が剥がれ落ちて、
好きな人に、もう一度会いたいという唯の女々しい情が姿を現す。
204翔る 10:2006/04/06(木) 00:43:25 ID:QrB6EbJy
男は少しだけ目を見開いた。目に映るのはマーダーではなく
思春期の子供が2人、不謹慎な優越感。
「もう一度会わずとも分かるさ。愛した人の気持ち位分からんで
どうする餓鬼共。貴様らと私では残念ながら年季が違う。
素人が気安く愛を語るな。」

男の言葉を先に否定したのは、彼女。
「それでも、私は逢いたいの!
間違っていても、お兄ちゃんが望んで無くても、
他の人の命を奪っても、もう一度、逢いたいの!!!」

砲門が青く輝く。全ての迷いを吐き出すかのように、
クレーメルケイジが満たされてゆく。
「死んで!みんな死んで!全部死んで!
お兄ちゃん以外みんな、みんな!」

滄我砲が、放たれた。

「クィッキィィィッィィィィィィッィィィィィ!!!!!
(旦那アァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!)」

突如、嵐が巻き起こった。低気圧の意味ではない。
空間に存在する磁気圏の圧縮によって生ずる磁気水平成分の急激な変化

学術的にいうところの「磁気嵐(マグネティック・ストーム)」である。

本来ならばこの近接状態、渾身のアッパーカット「リアルスマッシュ」
を放つのが常道ではあるが、両腕が使用不可能な現状での最善策は
逃走以外にない。しかし彼は引けない。引くわけにはいかない。
彼のフォルスが極限まで高ぶる。
物理現象まで高められた磁力が壁となり辺りを包む。

「俺の気持ちがァ!ヒューマ共のォ!ちゃちい感情にィ!負ける訳ェ…
無えだろがあああアアアァァァァァァ!!!!!」
205翔る 11:2006/04/06(木) 00:44:32 ID:QrB6EbJy
エネルギーが、相殺を開始した。
海と磁、圧倒的な高密度の力場の中でぶつかり合う。
単純なエネルギィのぶつかり合いであるが故に、
終わる前に決着はついていた。
彼の右腕の損傷と彼女のハイエクスフィアの差分、彼女の勝利だ。

「一つ言い忘れていた、私はお前を殺さない。」
横槍さえなければ。

男の手と彼女の足を経由して先ほどのスパークウェブの残留電荷を
再構築し彼女の体内に微電流を流し、回路を形成。
電流の方向を常に周囲の磁界に対応、変動させ、
最終結果を一律一定にする。

「だがな、報復をしないままでいるほど私はハーフエルフが
出来ていないのでな…」

結果が手首にまで響く。既にボロボロの手首が半分千切れているが
手を離すわけにはいかない。男にはもう何も残っていない。
ただ、成り行きで受け取った称号だけが残るのみ。
大喰らいの称号だけが、こびり付いていた。

「マクスウェルの秘術、その身を以って受け彼方まで飛べ。」

全電流、開放。
発生する力が、全て北に向く。
高く高く、彼女は、飛んだ。
206翔る 12:2006/04/06(木) 00:46:58 ID:QrB6EbJy
ゆっくりと男は体を回し空を見た。
ハーフエルフはいつでも人里から去れるように星を学ぶ。
夜空に浮かぶ無数の星。しかし男には星座が読めない。
見たことのあるような配列もあればまったく記憶に無い配列も存在する。
しかし、そんなことはたいした問題ではない。
双月はそこにある。それで十分事足りる。

ふと、視界が暗くなる。傍には彼、トーマが突っ立っていた。
服を裂いて肩口で無理矢理止血している。
男は彼が感染症にかからないのかと考えたが、面倒くさいので止めた。

「…あいつらの命を保障するなら、殺してもいいぞ。」
「誰が半死体の命なんざ欲しがるか、もう要らねえよ。」

「…あいつらを殺すつもりか。」
「おう、そのつもりだ。ちっとばかし用事を済ませたらな。」

「…私の胸元の石を壊せ、手が無いから自分で出来ん。」
「聞けよ、スルーするんじゃねえよ。ここは流れ的に聞くところだろ。
もういい、勝手に喋るかんな。」

少し不貞腐れた顔をして、彼は夜空を見上げる。
澄んだ夜、すでに磁気圏は正常に戻っている。
「お前が磔になって、俺が他の連中を殺そうとした時、
あいつの声が聞こえた。俺の聞いた限りじゃお前らを殺すななんて
フカシやがる。ありゃ幻聴だな、間違い無え。お前らのせいで死んだのに
お前らを殺すななんて有り得無え。つまりだな…」
207翔る 13:2006/04/06(木) 00:48:12 ID:QrB6EbJy
そこで言葉を区切って、トーマはバツが悪そうに生き残った左手で
鼻頭を掻く。ユアンはただ黙って聞いていた。
「俺は、まだちゃんとあいつの声を聞いてやれるほどの、
その、なんだ、想い…ってのが足りてねえんだろうな。
俺があいつを想って更に想ってまだ想って想いきったら、
きっとあいつの声が聞こえるはずだ。
‘牛さん!カワイイ小生をぶちのめしたあの影の薄い4人組をぶちのめす
パン!!そんでもって小生を復活させて欲しいパン’ってな。
そしたら何にも考える必要はねえ。お前らも他の連中もぶっ殺す、
そんだけだ。」

トーマはクィッキーの方を見た。その顔はどこか嬉しそうで。
あの時聞いた声がミミーの声だったかどうかは
分からない。だからもう一度聞かなければ分からない。
ただの問題の先送りかもしれない。
それでも、あの時嵐の中で言った言葉は、本物だと思う。
「そん時は骨も残らねえから覚悟しとけ。
そんまでは勝手に生きてろ…おい、野郎がお迎えに着たぞ。
ん、このフォルスは…あいつか、メンド臭えな。
それにしてもあいつら何やってんだ?
おいヒューマ、お前の…おい?」
208翔る 14:2006/04/06(木) 00:51:01 ID:QrB6EbJy
どうしたグリッド、何を泣いている。また下着を濡らしたのか?仕様も無い。
お前から空元気と根拠の無い自信と逃げ足の速さを除いたらただの
無能しか残らんぞ。お前がリーダーなのだ、お前が迷ってどうする馬鹿者。
五月蝿い、そう近づかんでも聞こえている、私は耳の良さに自身があるのだ。
あいつは北に飛ばした。どこまで飛んだかもよく分からんし恐らく死んでは
無かろうが山一つ向こう側だ、逃げるには十分な時間が稼げたろう。
それにしても腰を抜かして動けなくなるとは情けない、
他の二人ならばともかくだが。まったく、参謀などやるものではないな。
いずれはボータには感謝せねば。まあ、中々貴重な経験ができた。
他の才能が無くともリーダーの素質があるものがいると初めて知ったしな。
四千年ぶりの充足感だ。お前達に出会えて、良かった。
ああ、一つ言い忘れた。他の2人にも伝えておいてくれ。

真の意味で、お前たちの勝利を願っている。


島の中心で慟哭が鳴った。雲ひとつ無い夜空に、雷光などどこにも無い。

もう、無いのだ。
ただ落ちた右腕に、古臭い意匠の指輪が付いていただけだ。
209翔る 15:2006/04/06(木) 00:53:26 ID:QrB6EbJy
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創、出血 悲哀
所持品:セイファートキー 、マジックミスト、占いの本
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:泣く
第一行動方針:女性メンバーを逃がす
第三行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す
現在地:D5の山岳地帯

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品: メガグランチャー(自身を中継して略式滄我砲を発射可能)
     未完のハイエクスフィア(従来のものより強いだけで
     天使化などは不可)
     フェアリィリング(足に付いたユアンの右手ごと)
     UZI SMG(30連マガジン残り1つ)
状態:TP残り45% HP残り60% 背中と胸に火傷 覚悟
ハイエクスフィア強化 チアリング
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
第一行動方針:???
現在地:D5の山岳地帯 →北へ

【トーマ 生存確認】
状態:右腕使用不可能(上腕二等筋部欠損) 左手中傷(手甲貫通)
軽い火傷 TP残り50% 決意 中度失血
所持品:ミスティブルーム、ロープ数本、 ウィングパック×2 
イクストリーム 金のフライパン マジカルポーチ ペルシャブーツ
基本行動方針:ミミーの声が聞こえるまで漆黒を生かす
第一行動方針:向こうで起こっている「何か」が気になる
第二行動方針:ミミーのくれた優しさに従おうとしている
D5の山岳地帯

クィッキー
状態:歓喜と安堵
第一行動方針:トーマについていく

ショートソードはD5山岳地帯に放置

【ユアン 死亡確認:残り24名】