テイルズ オブ バトルロワイアル Part5

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1名無しさん@お腹いっぱい。
テイルズシリーズのキャラクターでバトルロワイアルが開催されたら、
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。
参加資格は全員にあります。
全てのレスは、スレ冒頭にあるルールとここまでのストーリー上
破綻の無い展開である限りは、原則として受け入れられます。
これはあくまで二次創作企画であり、ナムコとは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。

詳しい説明は>>2以降。

【過去スレ】
テイルズ オブ バトルロワイアル Part4
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1138107750/ テイルズ オブ バトルロワイアル
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1129562230
テイルズ オブ バトルロワイアル Part2
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1132857754/
テイルズ オブ バトルロワイアル Part3
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1137053297/

【関連スレ】
テイルズオブバトルロワイヤル 感想議論用スレ5
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gamerpg/1140575973/
※作品の感想、ルール議論等はこちらのスレでお願いします。

【したらば避難所】
〔PC〕http://jbbs.livedoor.jp/otaku/5639/
〔携帯〕http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/otaku/5639/

【まとめサイト】
http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/index.htm
2名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 07:19:49 ID:DrZfwwOQ
----基本ルール----
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができ、加えて願いを一つ何でも叶えてもらえる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
 「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去12時間に死んだキャラ名」
「残りの人数」「主催者の気まぐれなお話」等となっています。

----「首輪」と禁止エリアについて----
 ゲーム開始前からプレイヤーは全員、「首輪」を填められている。
 首輪が爆発すると、そのプレイヤーは死ぬ。(例外はない)
 主催者側はいつでも自由に首輪を爆発させることができる。
 この首輪はプレイヤーの生死を常に判断し、開催者側へプレイヤーの生死と現在位置のデータを送っている。
 24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。  
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しい。
 下手に無理やり取り去ろうとすると首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
 プレイヤーには説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
 たとえ首輪を外しても会場からは脱出できないし、禁止能力が使えるようにもならない。
 開催者側が一定時間毎に指定する禁止エリア内にいると首輪が自動的に爆発する。
 禁止エリアは3時間ごとに1エリアづつ増えていく。

----スタート時の持ち物----
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を配給され、「ザック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「着火器具、携帯ランタン」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「支給品」
 「ザック」→他の荷物を運ぶための小さいザック。       
 四次元構造になっており、参加者以外ならどんな大きさ、量でも入れることができる。
 「地図」 → 舞台となるフィールドの地図。禁止エリアは自分で書き込む必要がある。
 「コンパス」 → 普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「着火器具、携帯ランタン」 →灯り。油は切れない。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「食料」 → 複数個のパン(丸二日分程度)
 「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
 「写真付き名簿」→全ての参加キャラの写真と名前がのっている。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「支給品」 → 何かのアイテムが1〜3つ入っている。内容はランダム。
※「ランダムアイテム」は作者が「作品中のアイテム」と
 「現実の日常品もしくは武器、火器」の中から自由に選んでください。
 銃弾や矢玉の残弾は明記するようにしてください。
 必ずしもザックに入るサイズである必要はありません。
 また、イベントのバランスを著しく崩してしまうようなトンデモアイテムはやめましょう。
 ハズレアイテムも多く出しすぎると顰蹙を買います。空気を読んで出しましょう。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 07:21:03 ID:DrZfwwOQ
----制限について----
 身体能力、攻撃能力については基本的にありません。
 (ただし敵ボスクラスについては例外的措置がある場合があります)
 治癒魔法については通常の1/10以下の効果になっています。蘇生魔法は発動すらしません。
 キャラが再生能力を持っている場合でもその能力は1/10程度に制限されます。
 しかしステータス異常回復は普通に行えます。
 その他、時空間移動能力なども使用不可となっています。
 MPを消費するということは精神的に消耗するということです。
 全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内ということでお願いします。

----ボスキャラの能力制限について----
 ラスボスキャラや、ラスボスキャラ相当の実力を持つキャラは、他の悪役キャラと一線を画す、
 いわゆる「ラスボス特権」の強大な特殊能力は使用禁止。
 これに該当するのは
*ダオスの時間転移能力、
*ミトスのエターナルソード&オリジンとの契約、
*シャーリィのメルネス化、
*マウリッツのソウガとの融合、
 など。もちろんいわゆる「第二形態」以降への変身も禁止される。
 ただしこれに該当しない技や魔法は、TPが尽きるまで自由に使える。
 ダオスはダオスレーザーやダオスコレダーなどを自在に操れるし、ミトスは短距離なら瞬間移動も可能。
 シャーリィやマウリッツも爪術は全て使用OK。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 07:21:49 ID:DrZfwwOQ
----武器による特技、奥義について----
 格闘系キャラはほぼ制限なし。通常通り使用可能。ティトレイの樹砲閃などは、武器が必要になので使用不能。
 その他の武器を用いて戦う前衛キャラには制限がかかる。

 虎牙破斬や秋沙雨など、闘気を放射しないタイプの技は使用不能。
 魔神剣や獅子戦吼など、闘気を放射するタイプの技は不慣れなため十分な威力は出ないが使用可能。
 (ただし格闘系キャラの使う魔神拳、獅子戦吼などはこの枠から外れ、通常通り使用可能)
 チェスターの屠龍のような、純粋な闘気を射出している(ように見える)技は、威力不十分ながら使用可能。
 P仕様の閃空裂破など、両者の複合型の技の場合、闘気の部分によるダメージのみ有効。
 またチェスターの弓術やモーゼスの爪術のような、闘気をまとわせた物体で射撃を行うタイプの技も使用不能。

 武器は、ロワ会場にあるありあわせの物での代用は可能。
 木の枝を剣として扱えば技は通常通り発動でき、尖った石ころをダーツ(投げ矢)に見立て、投げて弓術を使うことも出来る。
 しかし、ありあわせの代用品の耐久性は低く、本来の技の威力は当然出せない。

----晶術、爪術、フォルスなど魔法について----
 攻撃系魔法は普通に使える、威力も作中程度。ただし当然、TPを消費。
 回復系魔法は作中の1/10程度の効力しかないが、使えるし効果も有る。治癒功なども同じ。
 魔法は丸腰でも発動は可能だが威力はかなり落ちる。治癒功などに関しては制限を受けない格闘系なので問題なく使える。
 (魔力を持つ)武器があった方が威力は上がる。
 当然、上質な武器、得意武器ならば効果、威力もアップ。

----時間停止魔法について----
 ミントのタイムストップ、ミトスのイノセント・ゼロなどの時間停止魔法は通常通り有効。
 効果範囲は普通の全体攻撃魔法と同じく、魔法を用いたキャラの視界内とする。
 本来時間停止魔法に抵抗力を持つボスキャラにも、このロワ中では効果がある。

----TPの自然回復----
 ロワ会場内では、競技の円滑化のために、休息によってTPがかなりの速度で回復する。
 回復スピードは、1時間の休息につき最大TPの10%程度を目安として描写すること。
 なおここでいう休息とは、一カ所でじっと座っていたり横になっていたりする事を指す。
 睡眠を取れば、回復スピードはさらに2倍になる。

----その他----
*秘奥義はよっぽどのピンチのときのみ一度だけ使用可能。使用後はTP大幅消費、加えて疲労が伴う。
 ただし、基本的に作中の条件も満たす必要がある(ロイドはマテリアルブレードを装備していないと使用出来ない等)。

*作中の進め方によって使える魔法、技が異なるキャラ(E、Sキャラ)は、
 初登場時(最初に魔法を使うとき)に断定させておくこと。
 断定させた後は、それ以外の魔法、技は使えない。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 07:32:25 ID:DrZfwwOQ
【参加者一覧】
TOP(ファンタジア)  :4/10名→○クレス・アルベイン/○ミント・アドネード/●チェスター・バークライト/●アーチェ・クライン/●藤林すず
                  ○デミテル/○ダオス/●エドワード・D・モリスン/●ジェストーナ/●アミィ・バークライト
TOD(デスティニー)  :3/8名→○スタン・エルロン/●ルーティ・カトレット/○リオン・マグナス/●マリー・エージェント/●マイティ・コングマン/●ジョニー・シデン
                  ●マリアン・フュステル/○グリッド
TOD2(デスティニー2) :4/6名→○カイル・デュナミス/○リアラ/●ロニ・デュナミス/○ジューダス/○ハロルド・ベルセリオス/●バルバトス・ゲーティア
TOE(エターニア)    :4/6名→○リッド・ハーシェル/●ファラ・エルステッド/○キール・ツァイベル/○メルディ/●ヒアデス/○カトリーヌ
TOS(シンフォニア) :4/11名→○ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/●ジーニアス・セイジ/●クラトス・アウリオン/●藤林しいな/●ゼロス・ワイルダー                   ○ユアン/●マグニス/○ミトス/●マーテル/●パルマコスタの首コキャ男性
TOR(リバース)    :3/5名→○ヴェイグ・リュングベル/○ティトレイ・クロウ/●サレ/○トーマ/●ポプラおばさん
TOL(レジェンディア)  :2/8名→●セネル・クーリッジ/○シャーリィ・フェンネス/●モーゼス・シャンドル/○ジェイ/●ミミー
                  ●マウリッツ/●ソロン/●カッシェル
TOF(ファンダム)   :1/1名→○プリムラ・ロッソ

●=死亡 ○=生存 合計24/55

禁止エリア

現在までのもの
B4 E7 G1 H6

九時:F8
十二時(午後0時):B7
十五時(午後3時):G5
十八時(午後6時):B2

【地図】
〔PC〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/858.jpg
〔携帯〕http://talesofbattleroyal.web.fc2.com/11769.jpg
6名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 07:33:29 ID:DrZfwwOQ
【書き手の心得】

1、コテは厳禁。
(自作自演で複数人が参加しているように見せるのも、リレーを続ける上では有効なテク)
2、話が破綻しそうになったら即座に修正。
(無茶な展開でバトンを渡されても、焦らず早め早めの辻褄合わせで収拾を図ろう)
3、自分を通しすぎない。
(考えていた伏線、展開がオジャンにされても、それにあまり拘りすぎないこと)
4、リレー小説は度量と寛容。
(例え文章がアレで、内容がアレだとしても簡単にスルーや批判的な発言をしない。注文が多いスレは間違いなく寂れます)
5、流れを無視しない。
(過去レスに一通り目を通すのは、最低限のマナーです)


〔基本〕バトロワSSリレーのガイドライン
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)
7名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 08:04:03 ID:n05Jetb8
>>1
いい加減この板に立てるのはやめろ
8名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/26(日) 09:20:18 ID:fJ1miAlq
ゲサロでやれ
9子猫:2006/02/26(日) 09:39:29 ID:ExA7aWji
続きどうぞ
10第三回放送 1:2006/02/26(日) 12:04:43 ID:PzVP5/Z/

黄昏。
青と赤と黄が交わり合った空を、やがて光から闇へと変わり行く空を、人は黄昏と呼ばずに何と呼ぶのだろうか。
人々は沈む陽を見て、一日の終幕を感じ始める。長い日であったか、短い日であったか。充実していたか、空虚なものであったか。
だが、この世界の黄昏時は、少なくとも一日を思い返し明日に繋げる刻ではない。
明暗の狭間で流れる無慈悲な声。
失望に至らせるあの声によって、人々は嗟嘆し、苛酷な現実を改めて思い知らされる。
「未来への光」ではなく「過去の残照」。この世界で意味する黄昏はそうであった。
歩く。走る。佇む。戦う。思う。嘆く。叫ぶ。笑う。
様々な人の様々な行動を前に、この世界の常理である声は始まる。

時は、午後6時00分。




「諸君」
巨大スクリーンに浮かぶ25の小さな輝きと、それを緩慢に眺めていた人物。
その人──天上王ミクトランは分針と秒針が重なるのと同時に、マイクから語り掛けた。
何時も会場を支配し凍てつかせ時を止める0時と6時の声だ。今頃各地の拡声器から声が流れているのだろう。
放送が流れる会場と留まり耳を傾ける人々の姿を想像し、彼ら彼女らの表情を思い浮かべるだけで心が高鳴った。
11第三回放送 2:2006/02/26(日) 12:06:14 ID:PzVP5/Z/
「如何がお過ごしかな? 楽しんでもらえているだろうか?
 ゲームも2回目の夜を迎える。早いものだ…深い闇に紛れ不意打ちに遭わぬよう気をつけるのだな。いや、慣れてきた諸君らには既に通じない手かな?」
最後に出た、わざとがましい小さな嘲笑さえも聞こえているのだろう。
一度咳払いしミクトランは放送を続ける。
「最初に、新たな禁止エリアを発表しよう。既に分かっているとは思うが、今から3時間ずつ禁止エリアが増えていく。
 まず午後9時にA3、午前0時にE4、午前3時にD1、午前6時にC8が禁止エリアとなる」
今回は大して反応もないだろう、と踏んでいたが案の上的中した。
盗聴器を通して聞こえてくる声には驚きの色が少ない。当然か。
前回拠点を多く選んだ故の控えめな選択。余り中心部ばかり指定し分断してしまうのは、色んな意味で望ましくなかった。
それに、この静けさも後の発表の前菜と思えば悪くはない。
メインディッシュは楽しみに取って置かなくては。
「では諸君らも待ちわびている、この12時間の間に脱落した者の名を呼ぶとしよう」
──空気が騒めき張り詰める。
それを直に肌で感じながら、ミクトランは一拍置き、名前を読み上げ始める。
12第三回放送 3:2006/02/26(日) 12:09:03 ID:PzVP5/Z/
「アーチェ・クライン、エドワード・D・モリスン、ジョニー・シデン、マリアン・フュステル、ファラ・エルステッド、
 バルバトス・ゲーティア、クラトス・アウリオン、マグニス、マーテル・ユグドラシル、サレ、ミミー・ブレッド。
 以上の11名だ。ここに来て1番多くの死亡者が出たな…良い傾向だ。これからもどんどん殺し合ってくれたまえ。遂に参加者は半数を切ったのだからな」
部屋に広がる十人十色の反応を聞きながら、放送を続ける。
彼の口元には自然と笑みが浮かんでいた。喜悦、興奮、恐悦。それらが混ざった主催者に相応しい笑みだった。
「既に諸君らも分かっているだろう? このゲームでは甘さなど通用しないことが。未だ持ち続ける者がいるとしたら、速やかに捨てることを勧める。それが生き残る唯一の方法なのだからな。
 …では、放送を終了する」
1つの警告の後、マイクの電源を切り軽い一息の後大きめのソファーにもたれ込む。
双眼を伏せ、これからを考える。
13第三回放送 4:2006/02/26(日) 12:10:24 ID:PzVP5/Z/
参加者は半数を切った。
どれほど生き残りたいのか、願いを叶えたいのか…その意思の強さが生死を左右する。
ここまで来た以上、全員が強い意思を持っているのだろう。しかし、それでも各々の思いは天秤に掛けられ、上がった方が切り捨てられる。
勿論、参加者の状況や状態によって天秤の傾きも変わってくるのだが。
様々な条件(ウェート)の下で掛けられる天秤。それに最後まで残った者がゲームの勝者となるのだ。
願望と引き換えの血塗られた手を持つ者が。
それは一体誰なのか。ここに現れるのは何時なのか。楽しみで仕方がなかった。
放送で抑えていた分を解放するかのように声を出して笑う。厳めしい笑声が部屋の声を上塗りし、響き渡った。




色を手放した空は闇を抱いていく。
また、誰かがこの闇に堕ちていくのだろうか。
14第三回放送 1(修正):2006/02/27(月) 22:16:41 ID:inLBuGZD
お手数をかけますが修正をお願いします。

1の、
×「何時も会場を凍てつかせる0時と6時の声だ。」
○「何時も会場を凍てつかせる6時の声だ。」

そして3の修正を全文投下します。
15第三回放送 3(修正1):2006/02/27(月) 22:18:33 ID:inLBuGZD
「アーチェ・クライン、エドワード・D・モリスン、ジョニー・シデン、マリアン・フュステル、ファラ・エルステッド、
 バルバトス・ゲーティア、クラトス・アウリオン、マグニス、マーテル・ユグドラシル、サレ、ミミー・ブレッド。
 以上の11名だ。ここに来て1番多くの死亡者が出たな…良い傾向だ。これからもどんどん殺し合ってくれたまえ。…そう」
部屋に広がる十人十色の反応を聞きながら、おもむろにミクトランが世間話でもするかのように軽く言葉を紡ぐ。
「今回の脱落者の内、マリアンとミミーは首輪が爆発し死亡した。禁止エリアに侵入したり等すれば彼女達と同じ、首から上を失う末路を辿ることになる。気をつけるのだな」
しん、と一瞬静寂が支配したのは思い過ごしだろうか。いや、そうだった。変わったのは明らかに声量が減ったことだけだ。
牽制の意。
脱出派の連中は、まず首輪の解除を目的として動く筈。それを首輪が爆発した者がいるという恐怖を与えてやれば、そうそう下手な行動は起こすまい。
何せ、首輪の解除が失敗すれば待っているのは確実に死なのだから。
16第三回放送 3(修正2):2006/02/27(月) 22:20:50 ID:inLBuGZD
生きたいから脱出しようとする。それと矛盾するわざわざ捨てるような行為をする奴など余程の命知らずだろう。
マリアンとミミーの知人にとっては精神的なダメージも与えることが出来る。
それに、
『第二回の放送を聴く限りどうやらあの主催者はかなりのお喋りの様だ。上手くすれば…』
ジファイブの町にいた男の言葉。
この男と周りの仲間達は盗聴されていると気付いていない。だが男の言うことを鵜呑みにして言葉を少なくすれば、逆に怪しまれかねない。
ならば多少は情報を与えねば。この程度の情報なら与えても不利になることはないだろう。
それが敢えてマリアンとミミーのことを告げた意味だった。
彼の口元には自然と笑みが浮かんでいた。喜悦、興奮、恐悦。それらが混ざった主催者に相応しい笑みだった。
「半数を切った今、諸君らも分かっているだろう? このゲームでは甘さなど通用しないことが。未だ持ち続ける者がいるとしたら、速やかに捨てることを勧める。それが生き残る唯一の方法なのだからな。
 …では、放送を終了する」
1つの警告の後、マイクの電源を切り軽い一息の後大きめのソファーにもたれ込む。
双眼を伏せ、これからを考える。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 13:19:26 ID:87xj19OR
どうでもいいけど前スレ使い切ってからこっちでやれよ
18名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 17:15:20 ID:yJ+VblQB
>>17
容量がもうないんです
19名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 19:06:18 ID:87xj19OR
>>18
「あと4KBあるから(今496KB)それを埋めてから新スレに移れ」
って意味で言った




住民が前スレ埋める気無いなら俺が埋めてくる
20名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 20:38:56 ID:VEq1yWUL
急に言われても困るな。
せめて書き手がログを保管するまで待ちたまえよ。
今から住民で審議かけるから。
21ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 20:50:17 ID:9zrPzYxK
でどうするよ?
22名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 20:51:04 ID:RVi/3eBc
>>21
まさかここでソフィーをお目にかかれるとはwwwww
うはwwwwwラッキーwwwww
23ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 20:53:42 ID:9zrPzYxK
でお目にかかれてどうするよ?

ソフィーの世界って事でOKかな?
24名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 20:56:25 ID:RVi/3eBc
>23
ソフィーwwwwww
おkwwwwwおkwwwwwwww
25ヒットラー ◆EtJdV1/kQU :2006/02/28(火) 20:58:45 ID:PrFv7ydn
糞どもwwwwwwww


VIPがてめーーーーらに戦線布告だwwwwwww

くやしかったらかかってこいwwww

そのかわりてめーーーらの板を侵略するぜwwwwwwwwww

26名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 20:59:37 ID:RVi/3eBc
>>25
二人だけじゃ戦力が足りないぜwwwwww
仲間を集めなければwwww
27ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 20:59:39 ID:9zrPzYxK
よっしアリガトウ^^ベリーーベリーーありがとう!

テイルズ オブ バトルロワイアル Part5スレこれにて終演!!

只今よりソフィーの世界かよwwwwwwwwwスレです
28名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:02:18 ID:CQmosU2x
VIPからきました
29名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:02:32 ID:RVi/3eBc
イヤッホオオオオオゥwwwwwww

他のコテ仲間を集めてくるんだwww
ソフィーwwwwwww
30名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:03:49 ID:aQGGC+Ho
イヤッホオオオオオゥwwwwwww

他の糞コテ仲間を集めてくるんだwww
ソフィーwwwwwww (笑)
31ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 21:04:37 ID:9zrPzYxK
テイルズ オブ ソフィーの世界かよwwwwwwwwwwwwwww

^^
32名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:06:14 ID:RVi/3eBc
>>31
テラカオスwwwwwwってな世界観なんだろうなwwwww
うはwwwwwwwテラホシスwwwww
33ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 21:07:28 ID:9zrPzYxK
価格1万6千円だよwwwwwwwwwwwwwwww
34名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:07:33 ID:H/wrQa4T
vipからきますた
35名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:10:42 ID:azwSK4et
vipから来ました。ソフィー頑張れよ
36名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:11:20 ID:RVi/3eBc
一万六千円wwwwww
これまたカオスな詐欺的値段wwwwww
うはwwwwwww
37ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 21:13:43 ID:9zrPzYxK
相手居ないから燃えないじゃーーん・・

燃えさせてよ〜テイルズ オブ モエサセテ
38名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:16:10 ID:RVi/3eBc
勢いが無いな・・・wwww
39名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:16:36 ID:Qmk6ILa0
vi(ry
40名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:17:17 ID:Qmk6ILa0
vi(ry
41名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:18:17 ID:Qmk6ILa0
vi(ry
42名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:19:26 ID:18sX0PBN
HIPHOP板から来ました
三行で誰か説明してくれ
43BVLGARIア・ヨーグルト(o^ー')9m ◆2J0R1YULjw :2006/02/28(火) 21:19:50 ID:3kB7G9Np
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       .i `''´ ノ~フ  ヽ- ´   .|:
       λ / / ,       .i: <キリンです
    /´ / /./       i:,
   / / ./.∠___    /ノ
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  !、  ヽ、.レ´ ヽ __,,, - ''´´,,;;;;;;
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44コンソメ ◆Punch.me9U :2006/02/28(火) 21:19:58 ID:Ee0EyYsB
(´・ω・)ふがし暴れすぎないでね。
45ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 21:22:11 ID:9zrPzYxK
はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいww
暴れませんよ^^

ソフィーの世界かよwwwwwって流行ってるのかよwwwwwwwwww
気になるのかよwwwwwwwww心狭いのかよwwwwwwwwwwww
意味アルのかよwwwwwwwwwwww・・・・ん?ないよ^^ねーーーーのかよwwwwwwwww
46名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:26:18 ID:5/fenNIk
VIPからきました
47名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:26:46 ID:4pAN3n/2
vi(ry
48名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:29:52 ID:+olHNFJl
VIPからきますた
⊂二二二( ^ω^)二⊃
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49名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:30:27 ID:2J2EiIKL
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 /;;;: - ´ .i. !● !ヽ、  !\;イ   |:
       .i `''´ ノ~フ  ヽ- ´   .|:
       λ / / ,       .i: <キリンです
    /´ / /./       i:,
   / / ./.∠___    /ノ
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  !、  ヽ、.レ´ ヽ __,,, - ''´´,,;;;;;;
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50ソフィー ◆z0/eVxGUZ2 :2006/02/28(火) 21:33:24 ID:9zrPzYxK
      ,.、 ,..、
   ,r‐, / ノ/ /                        _
   l i i !l i   ,..、                  r‐、 { レ、
   | l l ぃ 、  { j                    ヽ ゙! i | !
  f^i、 `ー/ .>→ {、          ∩     / /ノ ノ ∩
  l L〉'"  / /   )             | !   /< / /||
 └−、_       /               ノ `'ー'´`ヽ、 `' ''"ノ
     ´"'ー  1             ´"' 、  ノ     /
        \  \             厂   _,. - '´
          \ __ヽ‐、!ヽN(/レ'ムrZィ,/  /
          、_,>`   ヽ l/ r ,r  '´<_,/
         _,>_y-`゙7'冖'^ヘfヾ<,_, <,
          フ ニ'             `! く、
          Z _,i        ,r-   iニ {`
          ノィ r` 一 、     ,√` k Z`
           ノr',| ==。=ヾノ/ {_/=。== ミ_i`     動物園かよ・・
           ´fki ` ̄´ ^´ 「`` ̄´ ト!|
            _,. -ll,l!      、」    J iノj‐ 、,_  違うソフィーの世界かよwwwwwww
     _,. ‐ ' ´   ヾl r エ 工 エ ェ、__,. メ@  ` '‐ 、_
  ,.‐'´      l | └┴┴┴┴┴┴'/^′i     `'‐、
 /            ヽ  \ "´ ̄´ /  / /         ヽ
             \ `´ ̄ ̄`´  /
51名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:35:26 ID:aFRwicNc
サントス(笑)
52名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:37:40 ID:RVi/3eBc
( ^ω^)
53名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:38:30 ID:JIG7qzlX
vi(ry
54名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:39:02 ID:hEruCY1G
          /                  \   
          /                     ヽ 
         l                     \ヘ  
           l   /    ,|        i       ヽノ 
        i,// /    , /! i、,   i   i   .  i   l 
        /,i //  /| / l/ i l、 ! ∧ i、 iヽ  . lヘ ! 
        .i .i // _,,. -ー-.,,,__ i | ヽ ! l i_⊥r|┼iヽ. | i | 
        | l//!  / /~r-`''’  V | /イ)ヽ\  i i | ノ  
         い/ | ,/ ゝ   ヒノ    i/ ゝノ  /ヽ!ノ   
       /\!ヾ/  ヘ  、,,    ,  、、 /  |    
     / /ヽ;;::v\丶 ゝ  /⌒ヽ、__  ノ/ li. l
    / ,へ_ \;;:::::\\  !      ) イ ./)ノ   VIPからきたよ
    l /     \ヽ;;::::::i`へ > _ /// !/ |'    
     |    ゝ  Y;;:::::|   _ニ ー..,,__,..イ::::/   |
     |     ヽ |;;:::::レ´  〉―)>、|//  |      
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  /       へ ゝ:::::::::l <_,..!/:::::/       ヽ
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55名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:40:26 ID:87xj19OR
>>20
でも、前スレ埋めてから次スレ行くのが普通じゃないか?
56名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:46:31 ID:b9r9z6Nx
>>55
移転→新スレ立て→ログ取るまで数日待つ→埋め
これが普通。ネタスレじゃないから。
まあ、今回は数日立ってるから埋めても大丈夫だろうけど。
実際は放送問題で前スレのこと忘れてただけだろうがな。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:56:53 ID:Jo55l3yV
VIPからきました
58名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 21:59:08 ID:87xj19OR
>>56
じゃあ、その数日間はもう誰も使わないスレを「ログを取るため」
って理由でわざと残しておくってことなのか?

どう考えてもおかしいだろ




まあ、それがこのスレのローカルルールだって言うならそれ以上文句は言えないけどさ…
59名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 22:20:45 ID:DocnC1et
>>58
>実際は

釣られてる。ただ悪態ついてるだけじゃないか。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2006/02/28(火) 22:23:05 ID:bffdKipS
ログを取るというのが使うという事になるので十分に理由になる。スレ住人はただ迷惑を掛けるためにやっているわけではないのでどうか理解がほしい。すまんね。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2006/03/01(水) 13:44:03 ID:IuZXjk9V
うほ
62The Chess named 'Battle-Royal' 1:2006/03/01(水) 14:25:42 ID:NWnm8sei
 忌まわしきミクトランの放送が終わって、そろそろ小一時間というところ。
 ほとんど生き物の気配のないこの殺戮の島。島の夜は、まるで死者を待ち構える深淵のごとく、静かに、禍々しく過ぎてゆく。
 星詠み師ですら見たこともない、ありえないはずの星の配置。由来も定かならざる、赤と青の月。
 ここが「バトル・ロワイアル」の会場でさえなければ、十分に幻想的な夜空と言えただろう。美しい月に、嘆息することも出来ただろう。
 そんな夜空に向け、クレス・アルベインはあらん限りの語彙を尽くし、怨嗟の言葉を連ねていた。
「あああああぁぁぁあぁぁああっ!!!」
 地面に転がったクレスは、まさに悶絶という言葉を使うにふさわしい、苦痛のもがきを見せていた。
 震える自分の両手を見ていると、それがどろどろと腐り落ち、その中から骨が現れる。
 腐り落ちた肉からは数百匹もの蛆虫が湧き、貪欲にクレスの肉であったものを喰らう。
 たちまち肩まで蛆虫に蝕まれ、クレスの両腕はまっさらな白骨と化していた。
 たまらずに目を背けるクレス。目を背けた先は、東の砂漠。黄土色の大地が、延々地平線まで伸びている。
 その地平線から、「何か」がぼこっ、と生えてきた。
 「何か」はふらふらとした頼りない足取りで、しかし確実にクレスの方に向かってくる。
 マーテルだった。マリーだった。
 マーテルは涙とも血ともつかない赤黒い液体を、その瞳から垂れ流し、匍匐前進で迫ってくる。
 それもそのはず。彼女は右手一本で、地面を這いながら進んでいるのだ。余った左手は、足首を掴んでいる。クレスが両断した、彼女自身の下半身を。
 マリーは、さながら屍生人(ゾンビ)を思わせるような足取りで、のたのたとクレスに歩み寄ってくる。
 眼窩。鼻。耳。口。全身の傷口。腐敗した腸がはみ出る腹部。全身の穴という穴から、津波のように害虫が湧き、四方八方に撒き散らされる。
(ドウシテ…ワタシ…コロシタノ……)
 いつの間にかクレスの眼前にまで迫ったマーテルは、うつろな瞳でクレスに問いかけた。
「く…来るなぁ!!」
(かゆい…カユイカユイカユイカユ…)
 全身をかきむしるマリー。傷口を1つかくごとに、湧き出る蟲の量も一段と増える。害虫を撒き散らす両手が、クレスの首に伸ばされ…
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
 クレスは今、悪夢の中にいた。
63The Chess named 'Battle-Royal' 2:2006/03/01(水) 14:26:42 ID:NWnm8sei
「さて…『お仕置き』もこれくらいやればいいだろう」
 青息吐息で地面に転がるクレスを前に、デミテルは1人ごちた。
 彼が右手に握る物は、小さな木製の椀。どろりとした深緑の液体が、そこには満たされていた。
「クレス・アルベイン。これを飲め」
 デミテルの存在に気付いたクレス。もはやまともな言葉を繰ることも出来ない喉。
 だが、彼はそれで、やってきた救いの手に必死にすがろうとする意志を、主人たる男に必死に表していた。その意志は、確かに伝わっていた。
 震える手を無理やりに押さえつけ、椀を受け取るクレス。椀の中の深緑の液体は、小刻みに波打っていた。
 それを急いで口元にやり、一気に飲み干す。味ははっきり言って飲めた代物ではないが、それでも今の状態が永遠に続くよりは遥かにましだ。
 げほげほとむせ返りながら、クレスは椀を投げ捨てた。荒い呼吸と、言うことを聞かない四肢。それは段々と、収まっていった。
「言うことを聞かないからこうなる。…分かったか?」
 いまだ息の荒いクレス。その金髪を掴み上げ、デミテルはクレスの目を真っ向から見据える。クレスは対して、荒い呼吸の中から、途切れ途切れにデミテルに答えた。
「はい…ご主人…様……」
「分かればいい」
 デミテルは、掴んだクレスの金髪を手放した。糸が切れた人形のように、クレスはかくん、と頭を垂れた。
「……………!」
 いまだに苦しげな声を漏らす金髪の青年。彼を見やる青髪の魔術師は、落胆半分安堵半分といった様子で、言葉を紡ぐ。
「…やれやれ…『保険』をかけておいて、やはり正解だったようだな」
 立ち上がるデミテル。その言葉を誰に聞かせるでもなく、感情で色を付けるでなく。
 深淵の暗闇は、あっという間にデミテルの言葉を呑み込み、辺りは再び静寂に帰った。
 デミテルがクレスを操る際にかけておいた『保険』…それは、クレスを操る際に錬金術で成分を変質させた、あのバクショウダケにある。
 コカの葉を…さもなくば芥子(けし)の実を精製し、作り出した薬を例に出すまでもなく、人の精神を変質させる薬は、往々にしてとある性質を持つ。
 一度飲んだ薬に、服用者の肉体を、ひいては精神を依存させ、最終的には薬抜きには服用者を生きられなくするという性質だ。
 人はその薬を「麻薬」と呼ぶ。
 本来バクショウダケもまた、デミテルの在りしアセリアの大地には存在しないはずのキノコ。
 だが、簡易なマナ解析を行う錬金術の初歩呪文程度で、デミテルは「そのこと」を見抜いていたのだ。
 バクショウダケの成分を、マナを以って変質させれば、人間の凶暴性を引き出す薬を精製しうることを。善意を失わせ、精神を蝕む魔の薬を。
 本来ならば成分の組み換えを行う際、麻薬としての性質を抜き取ろうと思えば、抜き取ることも出来た。
 習慣性を示さない、「安全な」薬品を作ることも出来なくはなかった。
 しかしそれを取りやめ、あえて薬に習慣性を残しておいたのは、この事態を想定しておいてのことだ。
 習慣性を残しておけば、もし服用者が暴走するような事態になっても、まだ制御の手段は残る。
 禁断症状で服用者を苦しめる、という手段が。
64The Chess named 'Battle-Royal' 3:2006/03/01(水) 14:27:38 ID:NWnm8sei
 麻薬漬けになった人間が、いざ麻薬を止めようと思っても自力ではほとんど止められなくなるのは、この禁断症状によるところが大きい。
 麻薬に依存しきった人間が、麻薬を断ったとき。彼は…または彼女は地獄のような苦痛と、そして悪夢に見舞われる。
 その苦痛と悪夢を逆手に取れば、麻薬の提供者は、服用者を好きなように手玉に取れる。
 アルヴァニスタやミッドガルズがどれほど「手入れ」を行おうと、麻薬の販売者を根絶しきれないのは、これにも一因があるのだ。
 すなわちデミテルは、クレスの良心をバクショウダケから精製した麻薬で破壊し、そして麻薬の依存症でクレスを隷属させる。
 この手段を以って、手綱を取っているのだ。
 クレスにしてみれば、もはやデミテルに付き従う以外の選択肢はない。デミテルが死ねばもはや麻薬を作れる人間はいなくなる。
 後はそうなれば、クレスは死の瞬間まで地獄の苦痛と悪夢に付き合わねばならないのだ。
 無論、こんな手段を以ってして他者を隷属させるなど、まさに鬼畜や外道の行い。人非人と謗られても文句を言えない、極悪な行為だ。
 だが、古くより伝わる戦争論の書物には、この一句が存在することもまた事実。「目的は手段を正当化する」と。
 いざ戦争になれば、浅薄な感傷や正義感など、吹けば飛ぶようなはかない題目に過ぎない。
 鬼畜外道に堕ちる覚悟のない者は、戦争の勝者たり得ないのだ。
 クレスの荒い吐息も、夜の闇に消えようとするその時。デミテルは傍らに控える、もう1人の青年に声をかける。
「…異常はないか、ティトレイ・クロウ」
 ひとところに座し、禅の位を組みながら精神を研ぎ澄ます青年、ティトレイ・クロウ。
 彼の目はいまだ、深い霧に閉ざされた森林のように濁っている。ここにあらざる彼の心は、いまだに彼の体に帰る素振りを見せない。
 だが、彼はただ聞かれるがままに、主たる男への質問に、最低限の疑問や関心を持つ以外せずに、淡々と答えていた。
「…ない。だいじょうぶ」
 デミテルのもう1つの駒たる緑髪の青年は、ただ自らの主の命ずるがままに周囲の草木と息吹を合わせ、草木に伝わるあらゆる情報をその脳裏に運んでいた。
 「樹」のフォルスは植物を急成長させたり、蔦で獲物をがんじがらめにするだけが能ではない。
 草木を自分の意に沿わせるのではなく、逆に草木の方に寄り添えば、彼らは術者に有益な情報をもたらしてくれる。
 すなわち、術者の周囲に近寄る存在の感知。ティトレイは、これにより草木そのものを鳴子に利用、警報の役割を果たすのだ。
 草を踏みしめる存在を感じれば、木に寄りかかって休息をとる者がいれば、草木自身が…すなわちティトレイが直ちにそれを感知する。
 空を飛ぶ力を持つ者か、はたまた警告を発することが無意味なほど高速で接近する者か、どちらかでない限りこの草木の警報は有効。
 逆に、相手に己が存在を感知されたことに気付いていない、愚かな侵入者の油断を誘っておいて、不意打ちの逆襲を見舞うことも出来る。
 気配を消せる消せないの問題ではない。どれほど練達の暗殺者であろうと、地面を踏みしめねば獲物に歩み寄ることは出来ない。
 すなわち、忍びの術に長けた者でさえ、ティトレイの監視を逃れることは不可能なのだ。そこに草木の生えた地面がある限り。
65The Chess named 'Battle-Royal' 4:2006/03/01(水) 14:28:35 ID:NWnm8sei
「さて、ここから先、どう打っていくか…」
 デミテルはクレスへの「お仕置き」を終え、再び地面に座して思考の海へと漕ぎ出す。
 当初は人質の…マーテルの死に錯乱した金髪の少年、ミトスを利用する形を想定して、次なる策略を展開する予定だった。
 C3の村で漏れ聞こえてきた会話から察するに、ミトスなる少年はマーテルの弟であったらしい。
 肉親や友人や恋人を殺された人間が、憤怒や憎悪の余り、この会場を包む狂気に呑まれるという事態は、これまでこの島で散々起きてきた。
 ミトスという少年もまた、その狂気に呑まれた者の1人。
 そして狂気を飼いならし、したたかにこの島を生き延びるデミテルにとっては、ミトスの狂気は、またしても天から恵まれた嬉しい誤算。
 狂気にかられた人間が、他の人間を襲い、殺す。そこから更に狂気は広まり、まさに鼠に媒介される黒死病の様相を呈する。
 よしんば何者かが強い意志で狂気の伝染に絶えたとしても、命がけの激闘を繰り広げ、疲弊した一同を殺すのは容易。
 デミテルはすでに、狂気を伝染させ、噛み合う互いが疲弊した隙を突き、多くの命を葬っている。
 ましてやミトスは、下手をすればあのダオスとさえ互角に渡り合えるくらいの、強大な力を備えている。
 強大な存在ほど、狂気に堕ちたときの周囲への破壊は凄まじい。
 その点において乱心したミトスは、デミテルにとってはこの上ない漁夫の利の提供者…となるはずであった。
 だが、その目論見は、クレスの狂気の方に阻まれた。血への欲情を抑えきれなくなったクレスが、無駄な「道草」を食ってしまったことで。
 それでも、デミテルはクレスを手放すことに、ためらいを感じている。
 本人に聞くところによれば、まだクレスは最後の切り札を備えているというからだ。
 迫り来る死の重圧によって肉体の枷を解き放ち、いかなる魔力や闘気をも無化する激烈な剣風を放つ三連斬り…
 アルベイン流最終奥義・冥空斬翔剣を。
 御しきれないからと言って、あっさり切り捨ててしまうには惜しいほどのメリットを、クレスは包含しているのだ。
 クレスはまさしく騎士(ナイト)の駒。真っ直ぐに進むことも出来ず、かといって斜めにも進めない、歪んだ進路しか取れない、ひねくれ者の駒。
 だが、騎士(ナイト)は逆に言えば、他の駒には出来ない奇襲戦法を取ることが出来る。
 何より、敵の張った兵士(ポーン)の防衛線をあっさり飛び越え、王(キング)に単騎で切り込める駒は、騎士(ナイト)を以って他にないのだ。
 そして、クレスという騎士(ナイト)は、見事にダオスという王(キング)に単騎駆けをこなして見せた。
 毒でもあり、薬でもある。まさにクレスは、劇薬の名を冠するにふさわしい手駒であった。
 劇薬のもたらすものは、利が多いか害が多いか。デミテルは常に、そのギリギリの見極めを強いられることになる。
 クレスはバクショウダケの禁断症状で、強引に押さえ付けてはいる。だが、だからといって油断は出来ない。
 クレスの「毒」も計算に入れた上で、今後の対策をいかにするか。
 デミテルの脳裏には、再び激しい火花が舞い始めた。
66The Chess named 'Battle-Royal' 5:2006/03/01(水) 14:29:23 ID:NWnm8sei
 時はやはり、小一時間ほど遡る。
 夕暮れの空に、悲嘆と絶望をもたらす、あの声が響き渡る中。
 ダオスは、ジェイは、互いににらみ合いを続けていた。
 2人の手には、この島の地図と参加者の名簿。
 放送の通りに、ミクトランから与えられる情報を逐一書き込む。
 禁止エリア。死亡者。そしてミクトランの気まぐれな話。
「…これで、情報に間違いはありませんね」
 ジェイは独り言のように呟きながら、筆記用具で地図の各所を指し示し、一つ一つ確認する。
(あのマグニスとバルバトスがゲームから脱落してくれたのはありがたいけど…)
 ジェイは、シャーリィを除けば今や唯一の知人であった、ミミーの死を知った時も、心はそれほど揺れはしなかった。
 死者にこんな発言は不謹慎ではあるが、禁止エリアに踏み込んで死ぬような、間抜けな死に方を彼女がしていたから、かも知れない。
 禁止エリアを聞き逃すような真似など、もはやこの島においては、命なんて要りません、と言っているも同然。
 そしてジェイは、ただでさえソロンの「教育」で奪われたなけなしのお情けを、そんな人間に対して向けるほどには持ってはいないのだ。
 だが。さすがのジェイでさえ。11人目の死者に赤い×印を付ける事は逡巡した。
 クラトス・アウリオン。ジェイに魔剣ヴォーパルソードを渡し、息子にそれを渡すようにとジェイに言い、E2の城の瓦礫に消えた男。
 やはり、彼はバルバトスの凶弾に…崩れ去った城の瓦礫に斃れていたのだ。
 じわり、と視界がぼやける。鼻の奥が、つんと熱くなる。
 それでもジェイは、次の瞬間には己に喝を入れることを忘れてはいない。死者を想い涙するのは、自身の役割ではないのだ、と叱咤して。
 セネルの死を、モーゼスの死を耳にしても、挫けなかった心だ。泣き濡れなかった顔だ。ここで心を砕かれては、今までの頑張りが無に帰す。
 心の弱い者から順に、この会場の闇は命を食い尽くしていく。闇に生きる者にそんな運命は許されない。自らの生きる拠り所に食われ、死ぬ運命など!
 ジェイは湧き上がる悲哀を、ソロンに教え込まれた滅心の法で以って、強引に押さえ付けていた。
 今なすべきことは、目の前の金髪の偉人より、C3の村の情報を引き出すこと。
 それにより、このゲームに少しでも優位に立てるよう、今後の戦略を組み立てること。
 涙に震えそうになる声に無理やり芯を通し、ジェイはごく平然を装いながら、彼に話しかける。
「…ええと…ダオスさん、でしたね…」
「…………」
67The Chess named 'Battle-Royal' 6:2006/03/01(水) 14:30:06 ID:NWnm8sei
「…ダオスさん?」
「…聞こえている。心配するな」
 感情を押し殺した声。それが、ジェイにとっては自分の鏡写しのように思えて、ジェイは思わず言葉をつぐんでしまった。
「…お前もまた…大切な人を亡くしたのだな」
 呟くダオス。
「さて、何のことでしょう?」
 この男には、何か意図があって自分にカマをかけているような雰囲気はない。けれどもジェイは、生来の癖でとぼけたような返答をしていた。
「…私もまた、大切な人を亡くした。お前の醸し出す雰囲気は、私と同じだ」
 ダオスもまた、ジェイと同じく11人目の人物に×印を付けることをためらっていた。そして今、その作業を終えたところだ。
 マーテル・ユグドラシルの死を、ダオスはやっとのことで認めていた。死を認められていなかったからこその、印付けへの躊躇だった。
「…………」
 ダオスは目を伏せ、もう一度マーテルを偲ぶ。故郷の救世主たりえたはずの、唯一の人物を。1人の人として、敬うにあたう女性を。
「…ところで、放送で中断してしまいましたが、お話の続きをよろしいでしょうか?」
 ダオスの黙考を、しかし中断せしめるジェイ。ダオスは目を見開き、目の前に立つ白皙の少年を映す。
「それとも、もう少しお待ちしましょうか?」
 ともすれば、皮肉とも取れそうなジェイの物言い。だが、ダオスはその言葉を真っ直ぐに受け取り、そして返す。
「構わん。今の私には、物思いに沈む暇はないのだ」
 そう。ダオスには時間がないのだ。
 東の地平線には、赤と青の月が姿を覗かせ、遥かなる天球にかかろうとしている。あの二つの月が再び地平線に抱かれるとき、ダオスの刻は果てる。
「用件は手短に言え。私はこれから、この島に残るマーダーを狩り尽くさねばならんのだ」
 この島にいまだ残る、狂気にとらわれずに踏みとどまる者達が、悪しき意志を持つ輩の凶刃にかからぬ内に。来たる永遠の眠りを、一時の眠りに変えるために。
「…でしたらひょっとすれば、ぼくはあなたにとって有益な情報を、提供出来るかもしれませんよ」
「…何?」
 白皙の少年の言質に、ダオスは眉根をひそめる。
「ですから、ここは1つギブ・アンド・テイクでいきましょう。名簿を見ればご存知かとは思いますが、ぼくの名は『不可視の』ジェイ。
一応、遺跡船という所では、指折りの情報屋として知られていました。
あなたはダオスさんですね? 最初ミクトランに立ち向かったあのときの事、覚えていますよ」
 ジェイと名乗った少年は、すると早くも用件を切り出しにかかった。C3の村で起きたことを、知る限りでいいから証言してくれ、と。
 ダオスは今まであったことを筋道立てて、ジェイに告げる。
68The Chess named 'Battle-Royal' 7:2006/03/01(水) 14:30:58 ID:NWnm8sei
 マーテルの願いの元、島の北東部から向かってきたこと。
 その道中でロイドという少年と、メルディという少女と合流したこと。メルディが途中で狂乱状態に陥り、それを力づくで押さえた事。
 村に行ったら行ったで、自らを宿敵とみなす男、モリスンと鉢合わせしたこと。
 それでも、ロイドという少年に仲人を務めてもらい、一時的に仲間となったこと。
 その輪の中に、クレスという少年も途中から参加し、改めて一同の力でミクトランに立ち向かおうと、一度は決意したこと。
 しかしその団結の輪を、再び狂乱したメルディに壊され、クレスの誘導により一旦他の仲間と別れたこと。
 そこでダオスはクレスの卑劣な策略にはめられ、モリスンにより満身創痍になったこと。
 そこでモリスンは自ら殺したが、マーテルは殺されたこと。共に行動していたミトスとは断絶し、しばらく腑抜けのようになっていたこと。
 そして、こうしてマーダーを狩るべくして、ここにいること。
 ダオスはあえて、ジェイに自らの命が終わりに近いことは告げなかった。単純に、言う必要がないと思ったからだ。
 そしてジェイは、この一連の証言の中で、ようやく待ち望んでいたパズルの1ピースを手にすることが出来た。
 残された唯一の仲間…シャーリィ・フェンネスの安否という、1ピースを。
「シャ…シャーリィさんが化け物に!?」
「シャーリィは、お前の仲間だったのか…」
 だが、ダオスから顛末を聞いたジェイは驚愕した。
 セネルの死を受け入れられずに、狂気という毒を呑み、そして挙句の果てには怪物に成り果てた、というダオスの証言に。
「向こうも刃を向けてきた以上、こちらもやむなく応戦はした。恨みつらみは聞き入れんぞ」
「いえ、その判断は正しかったと思います」
 正直なところ、ジェイの受けた驚愕は凄まじい。恐らくこの驚愕は、ソロンの死を聞いた今朝のそれに匹敵するかも知れない。
 ジェイは万一シャーリィと鉢合わせしてしまったら…その恐怖もまた、憂慮すべき事態として、ジェイは羊皮紙に書き込んでおく。
 ダオスやミトスほどの力を持つ者が、手を組んでさえ止めを刺しきれぬほどとあらば、はっきり言って恐るべき脅威だ。
 ジェイの持つ切り札、クライマックスモードでさえ、通じるかどうか。
 もともとクライマックスモードは、大気を介して大いなる海の意志、滄我と自身をリンクさせ、周囲に滄我の絶対領域を生成し、敵の行動を封じる技。
 発動させれば、ほぼ確実に相手を葬り去れる。
 もし敵対する二者が、同時にクライマックスモードを発動させたなら、どうなるか。試したことこそないが、推測はつく。
 恐らく滄我の支配力が高かった方のみが、クライマックスモードの発動に成功する。
 そしてシャーリィは、怪物と化していようと、滄我の代行者と目されるメルネス。競り合えば、恐らくはジェイが敗れる。
 シャーリィを元に戻すにせよ、葬るにせよ、ろくな打開策を思いつけない。
 ジェイは、その問題については後回しとする。明確に彼女の脅威の迫っていない今、他に考えるべきことは多くあるのだ。
 ジェイはつとめて、冷静な口ぶりで、ダオスに謝辞を述べる。
69The Chess named 'Battle-Royal' 8:2006/03/01(水) 14:31:43 ID:NWnm8sei
「ありがとうございます。ダオスさんのお陰で、C3の村周りの事件の真相は明らかに出来ました。ちょっとまとめてみましょう」
 ジェイは、今や半分以上の人間が赤く塗りつぶされた名簿と、そしてこの島の地図を取り出し、状況の整理にかかる。
「まず事の発端は、あの村にいたファラ・エルステッドさんとジョニー・シデンさんが、アーチェ・クラインさんを迎え入れたことからですね。
それが1日目の夜。今日の朝方になったとき、アーチェさんは2人の朝食に一服盛って、毒殺を試みたようです。
ジョニーさんはそれにギリギリ気付いたものの、ファラさんはすでに毒を受けていた。
アーチェさんはジョニーさんとのもみ合いの末ジョニーさんに刺殺され、ファラさんもまた、自らの死を知った。
ファラさんは最後の力を振り絞って、例の朝の呼びかけをしていたわけなんですね。
ちょうどありがたいことに、それと同時刻にE2城にいた、例のマグニスはこの紫髪の男…サレさんに殺されていた。
更に乱心したこの男…バルバトス・ゲーティアがE2の城を粉みじんに打ち壊し、その際の余波でサレさんとクラトス・アウリオンさん、
そして城を破壊した本人であるバルバトスが、まとめて死んだ。
…E2城の件は、ちょうどその時ぼくも現場に居合わせていたのですが、最後まで見ていたわけではないので、一部放送からの情報で推理したものです」
 もしE2城でマグニス達が死んでくれていなければ、C3の村はもっととんでもない事態になっていたかも知れませんね。
 その言葉と共に、ジェイは一度言葉を区切る。
「さて、問題のC3の村の件です。ファラさんの命を賭けた演説は、多くの人を呼び寄せた。
B2の塔に潜伏していたリッド・ハーシェルさんとキール・ツァイベルさん。エドワード・D・モリスンさん。
ダオスさんが率いていたマーテル・ユグドラシルさん、ロイド・アーヴィングさん、ミトス・ユグドラシルさん、メルディさん。
そして、そこに乱入してきたのが、クレス・アルベインさんてわけですね」
 ふう、とジェイはため息をつきながら、投げ出し気味の脚を畳む。
「後は、ダオスさんも見ての通り。その後C3の村に集った人間は、マーテルさんを旗振り役して一致団結するも、
そこに現れた不協和音が、ネレイドという異界の神に体を乗っ取られたメルディさんと、マーテルさんを人質に取ったクレスさん。
2人のせいで、せっかく組まれた仲間の輪は見事に空中分解。
メルディさんのせいでキールさんは家の中から外へと弾き出され、
リッドさん、ロイドさん、ミトスさん、ジョニーさんは屋内に幽閉され、その上で火計にかけられた。
屋外に追いやられたダオスさん、マーテルさん、モリスンさん、クレスさんの組は、クレスさんがマーテルさんを人質にとり、
最終的には屋内外併せて、ジョニーさん、モリスンさん、マーテルさんの3人が命を断たれた。
クレスさん、ダオスさん、ミトスさんはこうして南部に別々に進み、リッド・キール・ロイドさんを残して、
マーテルさんの作り上げた仲間の輪は崩壊したわけですね。
…最初ぼくはメルディさんとクレスさんが、裏で繋がって共謀していたと推理しましたが、その説は却下しました。
つまり村はあの時、マーテルさんの組とメルディさんとクレスさん、勢力が三つ巴になっていたわけですね」
70The Chess named 'Battle-Royal' 9:2006/03/01(水) 14:32:28 ID:NWnm8sei
「…一応聞くが、メルディとクレスがグルになっていたという説を、否定する理由は何だ?」
 そこで始めて、ダオスは口を差し挟んだ。ジェイはそれに、滞ることなく返事をする。
「確かに2人が共謀していたと考えれば、マーテルさんの組が団結を誓った直後に、あんな風に上手く戦力を分断できたのも説明がつきます。
ですが、ロイドさんの証言によると、メルディさんはロイドさんの見る前で、ネレイドという神にその体を明け渡したそうです。
それ以前の彼女は、心優しく善良で、何かに怯えているような風だったと彼は言っていました。
クレスさんと共謀するための打ち合わせが出来るとすれば、メルディさんがロイドさんと出会う前ですが、
ネレイドに屈する前の彼女の性格からして、C3の村の件のような悪辣な策略を立案したとは考えにくいですし…。
百歩譲って、もし彼女の本性は邪悪で、その悪意を完全に隠し切って今回の策を練っていたと仮定すると、
今度はC3の村の策略それ自体が、稚拙過ぎます。
もしメルディさんが、悪意を完全に隠し切って行動できるほどの腹芸の達人なら、もっと仲間内で絆を深め合って、
油断を誘っておいてからC3の村の面子を一網打尽にするくらい、やれていたはずです。
このようなかなり強引な仮定や論理展開が延々続いてしまって、共謀説は考えにくいんです」
 そこまで聞いて、ダオスは浅く頷いた。
 恐らくこの少年は、参加者の間を飛び回り、多くの証言を集めて縫い合わせている。
 証言だけからここまで精密な論理を展開できる少年の「指折りの情報屋」の自称は、伊達ではあるまい。
「ですから、C3の村の一件は、マーテルさん達とメルディさん、クレスさんの三つ巴、でカタをつけてもいいと思いますね。
…何より、ぼくが一番引っかかっているのは、屋内に閉じ込められたメンツが遭った『火計』です」
 今までのジェイの言葉に耳を傾けていたダオスは、その単語に反応し、きらりと目を輝かせた。
「ぼくが知りたいのは火計の犯人です。
あれも状況的にはメルディさんの仕業とまず推理したくなりますが、そうするといくつか腑に落ちない点が出てきます」
「…その『腑に落ちない点』とやらを言ってみろ」
 ジェイはそれに短く諾、と答え、すぐさまに言葉を繰り出し始める。
「もし火計の犯人がメルディさんだとすると、クレスさんがマーテルさん達を外に連れ出そうとした際、出口を潰すなどしてでも強引に引き止めたはずです。
先ほどの推理より、クレスさんとメルディさんは少なくとも共謀関係にないことが判明しましたから、メルディさんにとっては、その場にいた人間は全て敵。
もしメルディさんが火計の準備をしていたとすると、可能な限り多くの人間を殺すためなら、クレスさん達の逃走を見逃す手はありませんよね?」
 その方が、よりたくさんの人間を火事に巻き込めますから。ジェイは、そう締めくくる。
「そもそも、自分が家の中に残っている状態で、火を家に放つなんて馬鹿げた考え方です。
そんなことしたら、言うまでもなく自分も巻き添えになりますからね。
そこまでしてでも油断を誘ったり、はたまた乾坤一擲の大勝負に出なければならなかった理由も考えにくい。
おまけに、彼女には例の家の二階に運び込まれてから、キールさんが様子を見に行くまでの間、完全に意識を失っていた。
そんな状況じゃ火計のための仕込みなんて出来ませんし、遥か以前から彼女が仕掛けを張っていたなんて強弁は論外です。
…つまり、ぼくの言いたいことは分かりましたか、ダオスさん?」
71The Chess named 'Battle-Royal' 10:2006/03/01(水) 14:33:21 ID:NWnm8sei
「…第三者による放火、というわけか」
 ダオスの言葉を、ジェイは無言で肯定していた。
「はい。そう説明付けた方が、すっきりと筋が通るんです。ただ…」
 ジェイは声のトーンを一段階落とし、手元の羊皮紙を見る。
 もはや参加者の半数がこの島の大地にその血を啜られた。だが、容疑者はそれでも多過ぎる。
「現在の生存者数は25名。C3の村の一件の生存者5名やアリバイのあったクレスさん、そしてぼくを差し引いたとしても、
残された容疑者の数は18名。更にこの中でもぼくが直接見聞きした情報の中で、悪意がなさそうと確認した人を除外しても、
17名にまで絞り込むのが限界です」
 実を言えば、ジェイの偵察網にかかった人間の中には、位置的に犯行が可能な人間は1人…いや、2人いる。
 だが、「奴」を犯人だと確証出来る決定的証拠はない。そもそも、状況証拠でさえ不足している。
 あと一歩。仮決めのものでもいいから、パズルのピースがなければ、これ以上の推理は進められない。
 ジェイは、ここに来て改めて困惑した。
 今までの自分の推理は、証言を提供してくれたダオスへの返礼として披露していたが、さしもの彼でさえ、推理をこれ以上進めるのは困難となっていた。
 しかし。
 天恵か、はたまた必然か。
 ダオスは突然、その人物を指差した。
 ダオスが指し示した、その人物を確認した瞬間。
 ジェイの脳裏で、肝心要のパズルのピースが…仮決めのパズルのピースが、かちりとはまっていた。
「…デミテルだ。あんな策を繰り出す様な者を…私はこの中で一人だけ知っている。
それが…この男だ!」
 ダオスのその言葉と共に、ジェイは更なる情報への渇望に捕らわれる。もはや反射的に、ジェイはダオスへと問いを投げかけていた。
「その男のことについて、もっと詳しく教えていただけますか?」
 ダオスが指し示した男…デミテルこそ、ジェイが最も怪しいと睨んでいた人物。
 E2の城の崩落騒ぎのとき、ほんの一瞬だけ見かけた、赤メッシュを入れた青髪の男!
72The Chess named 'Battle-Royal' 11:2006/03/01(水) 14:34:15 ID:NWnm8sei
 ダオスは、デミテルという男の人となりを、ジェイに知る限りの情報を、全て提供していた。
 デミテルとは、アセリアの大地において、ダオスの軍門に下ったハーフエルフの1人。
 彼は屍霊術や黒魔術を専門とし、それだけではなく博物学、錬金術と言った諸般の学問に長けた男。
 そして彼はまた、戦術論・戦略論について深い造詣と天性の素養を持つ、ダオス軍屈指の智将であった。
 彼が軍師として指揮を振るった軍は、まさに無敗。
 さすがに全戦全勝とはいかなくとも、戦争論において絶対の鉄則である「負けない」という条件を常に満たしていた。
 彼の立案する作戦は、常にこの観点にから組み立てられていた。
 「いかにして、限りなく自軍の損害を0に近づけつつ、敵軍を壊滅させるか」。これを彼なりのやり方で、極限まで昇華させた戦法…
 それこそが、ダオス軍でも語り継がれる、「漁夫の利戦法」である。
 デミテルはダオスから、ある軍を壊滅させろと命じられたとき、まず何をするか。
 自らの軍勢を出撃させるのではない。まず周囲に敵軍を潰してくれそうな第三勢力が存在しないか、調査を行う。
 もし第三勢力が存在しないなら、別の手を使う。敵軍の一枚岩を割る、「ひび」を探すのだ。
 どんな軍でも、構成員は人間。そこには必ず派閥争いや、人間関係の軋轢がある。必ず付け入る隙はある。
 間諜を放ち、流言飛語を流行らせ、軍勢に揺さぶりをかける。第三勢力を挑発し、敵軍と戦うように仕向ける。
 これが最高形で決まれば、わざわざ手勢を派遣するまでもなく、敵軍は壊滅する。デミテルは一兵も派遣せず、敵軍を自滅させられるのだ。
 更に、一度やると決めたからには、鬼畜外道の所業を行うことも辞さない。
 第三勢力の軍を挑発するために、デミテルは自軍の兵士を用いて第三勢力の女性兵士を誘拐し、その目前で輪姦をさせたこともある。
 無論、デミテルが倒したい敵軍が、その輪姦を行ったように見せる偽装工作は怠らない。
 そんなデミテルは、しかしあるときダオス軍の軍師の座を辞した。
 その理由は、分からない。
 だが、十二分に勢力を拡大できたダオス軍にとって、デミテルの存在は必要不可欠ではなくなっていたため、あえてダオスはその辞意を受け入れた。
 以来彼は、1人ヴェネツィアの西の、とある孤島で孤独に学問を修めていたという。
「…なるほど。デミテルなる男の人となりは、ある程度理解できました」
 ジェイはそう答えながらも、仮決めのパズルのピースが正解である可能性の深まりに、疑問が氷解していくのを感じていた。
 位置的に犯行が可能であるというジェイの憶測と、状況から察してこのシナリオを書いたのは奴ではないかというダオスの憶測。
 二つの憶測が、一つの同じ結論を導出したのであれば、その憶測も結論も、真実である可能性はにわかに跳ね上がる。
「…しかし、となると、人数も減ってきたこの情勢下じゃ、そのデミテルって男が脅威になる可能性も濃くなってくるな…
よしんば今回のC3の件の犯人がそのデミテルって奴じゃなかったとしても…」
 呟きながら、推論を組み立てるジェイ。
 その耳に、ダオスの声が混じるまで、その思考は続いた。
 否。続けるわけにはいかなかった。
 ダオスの口から漏れる、その声を聞いては。
73The Chess named 'Battle-Royal' 12:2006/03/01(水) 14:34:54 ID:NWnm8sei
「ごはっ!!!」
 ダオスは、まさに血反吐を吐いていたのだ。
「! ダオスさん!!」
(あれだけの傷…やっぱり内臓が傷付いていたか!)
 ジェイは満身創痍になっても、なお二本の脚で立つダオスの頑健さを、見誤っていた。
 あれほどに傷を受けていれば、本来立っていることさえ辛いはずなのに。
 ジェイには癒しの力のある、ブレス系爪術は使えない。それでも目の前の人間が血反吐を吐こうものなら、何事かと駆け寄るのが人間だ。
 ジェイもまた同じく。
 それでもダオスは、あえてジェイの好意を受けようとはしなかった。駆け寄るジェイを、乱暴に突き飛ばす。
「!? 何を!!」
「お喋りの時間は終わりだ…お前と話せたのは非常に有意義だった。今の話を聞いてますます私は、デミテルを殺さないわけにはいかなくなった」
「どうして!? どうしてそんなボロボロの体で!!?」
 ダオスの背よりにじみ出る、激しい感情。それに揺さぶられたのか、めったに感情的に声を上げないジェイでさえ、声のトーンが上がる。
 そして、帰ってきたのは、ジェイの悲鳴に層倍する、ダオスの大喝の声だった。
「私には…時間がないのだッ!!!」
 ジェイは瞬間、全身が凍り付いた。
 次の瞬間、全身の毛穴から、どっと冷たい汗が吹き出た。
 この男の発する鬼気…桁外れの凄まじさを秘めている。まさに触れるだけで、肌が切り裂かれそうな程の。
 違う。この男の鬼気はそんな生易しいものではない。刃そのものが烈風と化し、吹き付けるようなほどの気迫。
 少なくとも、ソロンは確実に超えている…次元が違う! ソロンのまとう鬼気など、この男のそれに比べれば、そよ風も同然だ。
 見れば、ダオスの金髪は、一房ばかりが色を失っている。一筋の銀髪が、そこにはあった。
 ジェイは理屈を通り越して、直感で理解する。この男の髪の毛が、全て銀髪に変わったとき、この偉人は死の闇に臥すのだと。
 ジェイの瞳には、確かに見える。見えた気がした。
 闇夜よりも黒い外套をまとい、大鎌を握り締める骸骨が、ダオスの肩の上に。
 死神は、もはやダオスの背から離れようとはしない。彼の命を、定められたその瞬間に奪い、冥府に帰還するまでは。
 ぶるぶると、ジェイの膝が震える。ソロンよりも、かの虚無の神より強き何者かが、自らに命じているかのようにさえ感じてしまう。
 この男の屍を拾えと。この男の命の、最後の輝きまでを見届けよと。この男の燃える命を、極限まで熱からしめよと。
 この偉人は、もはや限られた命を賭けて、何かを守ろうとしている。その意志を無視し、通り過ぎるなど、出来ようものか。
 歩み始めたダオスの背に、たまらずジェイは声をかけた。
74The Chess named 'Battle-Royal' 13:2006/03/01(水) 14:35:39 ID:NWnm8sei
「ダオスさん!!!」
 この男の放つ鬼気に負けまいと。刃の烈風をおして、少しでもこの気持ちが届けと。
「デミテルを殺すにしても、どうやって!!? あいつをいぶりだす策はあるんですか!!?
あなたが認めるほどの智将なんですよね! デミテルは!! ならば、策を用いねばデミテルは確実に取り逃します!」
「ならばどうしろと!! 私にひとところに座し、おとなしく犬死にを待てとでもほざくつもりかっ!!」
「そんなつもりはありません! …落ち着いて聞いて下さい」
 あくまで感情を激発させるダオスと、その激情を静かに受け止めるジェイと。
 ぎりぎりと、緊張の糸が引き締められる。
 先に言葉を発したのは、ジェイだった。
「…1つ質問します。デミテルはあなたの軍門下で、『漁夫の利戦法』を用いて軍を無敗に仕立て上げていたんですね?」
「いまさら何を言うかと思えば…」
「そのやり方を、一度でも崩したことはありますか?」
 ジェイの言葉を一蹴しようと、一時は考えたダオス。だが、ジェイの瞳の輝きは、ダオスにそれを許さなかった。
 ジェイの眼光に、熱くなりかけたダオスの頭は再び冷静さを取り戻していた。
「…いや、ない。『漁夫の利戦法』は、絶対無敵の兵法と奴自身が自負し、奴は軍を正面から派遣したことは一度もなかった。
逆に言えば、どんなに油断を排した軍を相手にしても、奴は奇襲をかける隙を的確に見抜き、それを突いていたのだ」
「ならば逆に、そこが奴に付け入る隙です」
 ジェイの眼光。撃ち抜かれたダオスは、はっと息に詰まる。
「なるほど。つまりはそれが弱点か」
「はい。俗に『兵は水に象る』とも言います。
無形の兵法、絶対に先読みの出来ない兵法をデミテルに打たれれば、ぼくらは百回戦っても、百回負けるでしょう。
ですが、デミテルは『漁夫の利戦法』に固執した布石を打ってくるのであれば、その兵法はもはやとらえどころのない『水』ではありません。
デミテルが漁夫の利に食いついてくるのであれば、ぼくらはそれを逆手に取って、漁夫の利をぶら下げてデミテルを『釣る』んです」
 その漁夫の利が餌であると気付かせなければ、デミテルはほぼ確実に釣り上げることが出来る。
 ダオスはデミテルを智将とは目したが、その戦闘力自体はそこまで高くはない。
 たとえ今の満身創痍のダオスでも、「テトラアサルト」あたりをクリーンヒットさせれば…
 デミテルの秘孔を一撃でも突く事ができれば、その瞬間勝負は決まる。
 「テトラアサルト」は四連続の格闘攻撃で、敵の肉体を痛めつけるだけの技ではない。
 同時に敵の肉体の秘孔を突き、体内のマナのバランスを崩すことで、たちまちの内に肉体を石化させる技なのだ。
 これが決まれば、デミテルは有無を言わさず王手(チェックメイト)にかかる。
 だが…
75The Chess named 'Battle-Royal' 14:2006/03/01(水) 14:36:24 ID:NWnm8sei
「問題は、奴に付き添う一人の砦(ルーク)ですね」
 ジェイはE2の騒動でちらりとだけ見かけた、緑髪の青年を思い出していた。名簿によれば、彼の名はティトレイ・クロウ。
 たとえデミテルを釣り上げたとしても、彼がいる限りデミテルに肉薄するのはかなりの難業となるだろう。
 それだけではない。
 ダオスがモリスンとの戦いの際見かけたという、禍々しいまでに魔力を増大させる杖。それは地面から伸びた蔓が、どこかへ持ち去ったという。
 それはジェイがあの火計の跡地で見かけた、焼け爛れた蔓と奇妙な一致を見ている。
 それに、ダオスをこうまで痛めつける策を放った張本人、クレスのことも忘れてはならない。
 彼がもし、メルディではなく、デミテルと共謀していたと仮定したなら。少なくともメルディとの共謀説よりはしっくりきそうな気がする。
 さまざまな情報がジェイの脳裏を渦巻き、高速で整理されていく。
 この「バトル・ロワイアル」が始まって、まる1日半。
 デミテルもダオスでさえ一目置くほどの人間なら、この1日半のうちで、幾枚もの切り札を手にしている可能性がある。
 デミテルはC3の村の筋書きを構想し、その通りに見事に一同を踊らせたほどの相手とあれば、どれほど用心しても、し過ぎる事はあるまい。
 もちろんジェイは、ここで情報収集を終えたなら、ダオスを見限ってさっさとリッド達の元へ帰ることも出来る。
 だが、ジェイは頭でも、心でもその選択肢を破棄していた。
 今なら、ジェイはダオスの強大な力を借りることが出来る。少なくとも、今なら。
 それに、これから来る夜の闇は、もとよりジェイの得意とする舞台。ジェイは幼少時より、闇と共に生きることを強いられてきた。
 そんな自分が、軍隊の本営の中でぬくぬくと椅子を暖め、自分の手を汚すのを是とせぬような人間ごときに、遅れを取るわけにはいかない!
 ありがたいことに、デミテルはまだジェイという女王(クイーン)の存在に気付いていない。
 存在は認知していても、どれほど自慢の頭脳を働かせても、ジェイがこうしてダオスの味方になりつつあることは、予測し得ないだろう。
 少なくともジェイは、デミテルに自分がいかなる存在なのかを、一言も漏らしていないのだ。
 もとより不意打ち、闇討ち、騙し討ちは忍者の家芸。おまけにジェイには、デミテルと同じく軍師として働いた経験さえある。
 兵法にいわく、「人に致して人に致されず」。智将同士の対決においては、先手や上策で以って、先に戦いの主導権を握った方が勝つ。
 デミテルが生き残るのなら、ゆくゆくは必ずジェイも彼との対決を強いられることは必定。
 その時点で戦いの主導権を握られていたならば、目も当てられまい。だが、今ならジェイから「人に致す」またとない好機。
 「兵は拙速を聞くも、いまだ巧の久しきを見ざるなり」。先手必勝は、いかなる戦いにおいても成立するのだ。
「…ぼくに、この戦いの絵を描かせてもらえますか、ダオスさん?」
「…………」
 その無言の返答は、ダオスがジェイの提案を受け入れたことを、如実に示す。ジェイは少しだけ笑みを浮かべると、すかさず続けた。
「それではダオスさん、あなたの持つ切り札を、ぼくに教えて下さい。ぼくもこれから、持ちうる切り札を全て、かき集めて来ましょう」
 それからジェイは、ダオスと短い会話を交わした後、すかさず「鏡殺」で走り出す。彼が付いていた、仲間たちの下へと。
76The Chess named 'Battle-Royal' 15:2006/03/01(水) 14:37:01 ID:NWnm8sei
 この鮮血の島を舞台に、いま一つのチェスゲームが始まる。
 ジェイという名の女王(クイーン)を味方に付けた金色の王(キング)、ダオス。
 クレスという騎士(ナイト)と、ティトレイという砦(ルーク)を手駒にする青の王(キング)、デミテル。
 金色の王(キング)は、かけられた王手(チェックメイト)が成立するまでの、わずかな時間を以って、青の王(キング)へ肉薄する。
 次なる手を打つのは、デミテル。
 ここから先、双方共に、一手てたりとて悪手を打てない。まさに自らの命を駒とした、壮絶な戦いが起ころう。
 互いに互いの陣地の一部を、駒の一部を見やることの出来ぬこのチェス盤。
 結果論でもよい。上策を打たねばならない。先に上策を打てなくなった方が、先に判断を誤った方が死ぬ。
 王手(チェックメイト)成立までに、わずかな時間の猶予という、奇跡を掴み取ったダオスか。
 はたまた姿を見せぬ不明の智将、デミテルが、今度こそ完全に金色の王(キング)を滅するか。
 勝利の女神に微笑まれるのは、天運を呼び込むのは、果たしてどちらか。
 両雄は、こうしてチェス盤の上に立つことと相成る。「バトル・ロワイアル」という名のチェス盤は、激闘への予感に、打ち震えていた。
77The Chess named 'Battle-Royal' 16:2006/03/01(水) 14:37:40 ID:NWnm8sei
【デミテル 生存確認】
状態:TP残り85%
所持品:ミスティシンボル、ストロー、金属バット 魔杖ケイオスハート
第一行動方針:ミトス追跡は断念し、今後の行動の計画
第二行動方針:出来るだけ最低限の方法で邪魔者を駆逐する
現在位置:E3

【ティトレイ・クロウ 生存確認】
状態:感情喪失、TP残り60%
所持品:フィートシンボル、メンタルバングル、バトルブック
基本行動方針:かえりたい
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する
現在位置:E3

【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:TP残り80%、善意及び判断能力の喪失 薬物中毒(デミテルから定期的に薬品の投与を受けねば、禁断症状が起こる)
所持品:ダマスクスソード、忍刀血桜
基本行動方針:ひとまず禁断症状で苦しみたくはない
第一行動方針:デミテルの指示通りに行動する(不安定)
現在位置:E3

【ジェイ 生存確認】
状態:緊張 全身にあざ TP残り70%
所持品:忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(三枚) 双眼鏡
基本行動方針:後顧の憂いを立つために、ダオスのデミテル討伐に協力する
第一行動方針:出来る限り多くの切り札を用意する
第二行動方針:3人との合流
第三行動方針:ミントへの謝罪
第四行動方針:ミトス・ユアンを発見する
現在位置:D3崖下

【ダオス 生存確認】
状態:TP残り75%  HP1/8 死への秒読み(3日目未明〜早朝に死亡) 壮烈な覚悟 髪の毛が一房銀髪化
所持品:エメラルドリング  ダオスの遺書
基本行動方針:死ぬまでになるべく多くのマーダーを殺害する
第一行動方針:デミテル一味の殺害
第二行動方針:クレスの殺害
第三行動方針:遺志を継いでもらえそうな人間は、決して傷付けない
現在位置:D3崖下
78矛盾存在 1:2006/03/03(金) 19:25:49 ID:sc0fpxSk
その疾走は結構な時間を要した。
そもそも研究者であるハロルドにとって全速力での身体の行動はそれ以上に疲労の蓄積を大きくした。
どれだけ走っただろうか、息をついて地図を広げてみる。
敵がどうやってこちらの位置を把握できたのか判断しかねた以上、少しの油断も今は命取りになり兼ねない状況にある。
果たして奴は…リオンはどうやってこちらの状況が分かったのか。
それらは全て自らが握る一本の剣が答えを知っている。
ハロルドは域を整えてその剣に話し掛ける。
「ディムロス、あいつは何でアタシの一夜状況が分かったの?」
だがその問いにディムロスはどうやら口ごもっている様子を見せた。
ハロルドは訝しげにディムロスを見る。何故答えるのを躊躇うのか。
リオンは言った。自分の悲願の為に協力してもらうと。
ディムロスは未だにその判断を下せないでいた。答えは恐らく言わずと出ている。
だが彼の姿を、一部始終を見てきたディムロスにとって、リオンの辛さを知ってしまった面がある。
果たして、彼をはばかう壁となっていいのか。
自分はかつての仲間に何をすればいいのか。
79矛盾存在 2:2006/03/03(金) 19:28:09 ID:sc0fpxSk
―否 やはり答えは同じ
彼の手助けをするのかと一度でも思ってしまった自分が恨めしい。
自分は軍人だ。非情には慣れている。
いや、慣れなければならないのだ。
願わくば彼を救うことを。そして彼に光を。
自分の存在意義を見失っていたディムロスはその輝きが一層増したかのように見える。
このゲームを終わらせなければ…
ディムロスは主催者を思う。果たしてあれはミクトランなのか。
はたまた全くの違う誰かなのか。
いずれにせよディムロスはリオンを止める選択をした。
そしてハロルドについて行く決断を下したのだった。
(こいつについていれば恐らく間違いはないだろう)
改めてハロルドはディムロスに問い掛ける。
「で、どうなの?あいつ何か持ってるんでしょ、電波系の。何で渋ってんのか分かんないけど吐いて貰うからね」
「いや、問題ない。答えよう」
ディムロスの問いにそれはそれでまた驚くハロルド。だがとりあえず相手の情報が手に入るのだ。逃す手は無い。
「奴は、リオンは離れた他の参加者の位置を掴む為のレーダーを所持している」
ハロルドの眉が動く。おそらく考えがビンゴだったのだろう。
それだけ聞いてハロルドは全てを理解したかのようにその歩を進める。
「やっぱりね…てことは感知しているのはこの首輪か」
触るだけでもおぞましい首に巻かれたそれは今尚自身の首元で妙な感触を健在させている。
ハロルドの憶測はほぼ正しく、また同時に新たな思考を巡らさせる。
「となると必要になってくるのはどうやってあいつを撒くか、ね」
歩きながら呟く。だがそんな事は百も承知のことをハロルドはあえて言葉にした。
首輪の仕組みは大体分かっている。その機能すべき点も。
天才にとってその可能性はまず第一に考える。傍観者が参加者の位置を把握しなければ意味がないことを。
そう、ミクトランはこちらの全ての事情を知っている。
だが自分たちしかいないこの島でどうやってその情報を知ったのか。
伝えるべき媒介はただ一つ…この首輪のみ。
どこかに盗聴器を取り付けたわけでもなく監視カメラが設置されているわけでもない、ただ一つの一方的な通信機。
これによってこちらの状況が筒抜けになっているという推論は、彼女の中ではほぼ確定となっていた。
故に分かりきったことをあえて口にして、裏では全ての打算を立てる。
だがその考えは今の彼女にとって後回しにされてしまう。
ある男への復讐…。
彼女にはやらねばならないことがあるのだ。
が、その所為も全ては五分後に打ち崩される結果となった。

80矛盾存在 3:2006/03/03(金) 19:29:00 ID:sc0fpxSk
自分としたことがこんなにもショックを受けるだなんて。
ハロルドはその場にへたり込み、ディムロスがたまらず声を掛けた。
「どうしたハロルド!?」
その叫びにもしばらく反応しないハロルド。
それは放送を聞いてからのことだった。
まず、第一に専念としていた目的が早くも崩れ去ってしまったのだ。
復讐すべき対象、バルバトスとマグニス。
その二人がそろってこのゲームから退場した。
ロワという大きな岩にポッカリと穴が開いた、少なくともハロルドはそう感じた。
復讐が絶えた。この憎しみをどうすればいい。
表は冷徹を装っていたハロルドだったが、ここにきてその内面が流出した。
憂さを晴らすことの出来ないまま対象は死んでしまったのだ。
なら自分は今から何をすればいい。何を一心にして生きていけばいい。
あの子供への償いはどうする。やすやすとここで生き長らえるのか。
わざわざ孤独にまでなったひとりの女性はその場で立ち尽くす。
彼女もまた存在意義を見失ってしまったのだ。
 
だが彼女はその数分後にゆっくりと立ち上がり、その眼差しを濃くする。
おもむろに地図を取り出して印を付け始める。それは指定区域のチェック。
何かが吹っ切れた、全ての答え。
方程式を編み出したときのあの感覚と似ている。
自分は天才だ。だからここにいる。
考えろ、自分のすべきことを。やるべき事を。
「ハロルド…?」
おそるおそる声を掛けるディムロス。だがその心配も杞憂に終わる。
「アタシとしたことが、どうかしちゃってたわ」
にへらと一度笑って体を整える。
「復讐の相手があっちから逃げちゃったのよ。矛先、換えましょうか」
言ってもう一度笑う。ディムロスはその光景が嫌なものに感じた。
その矛先とは誰なのか。それは今にもこの場を楽しんでいるであろう一人の傍観者。
「さて、と。利用させて貰おうかしらね」
次にハロルドは今しがた歩いてきた後方を見やる。今は薄暗くて見えないが、恐らくはいるであろう彼ら。
それを待ち構えて利用しようとした、その矢先。
「きゃああああああ!!!」
「え!?」
西から発せられたそれは誰のものだか判らないが、紛れも無く悲鳴だった。

81矛盾存在 4:2006/03/03(金) 19:30:03 ID:sc0fpxSk
ジューダスの足が止まる。
ヴェイグはその様子に気がついてジューダスの方を見る。
「ジューダス、どうした」
反応はない。何かに驚愕している様子。
「マリアンが…」
ボソッと呟く。そこに込められた感情。
先程の放送を、この二人も聞いていた。
だが死を知らせたそれは仮面の奥で何かを光らせる。
彼女が、死んだ。
参加している以上、それは揺るぎの無い事実。
ジューダスは一人歯を食いしばる。恨みや怒りや悲しみでもない、何か。
そしてここでもまた、ハロルドの考えもあえなく崩れる。
背後に誰かがやって来た音。ヴェイグはそれに向かって振り返る。だがジューダスは振り返らない。
「お前は…」
少なくとも彼には訳が分からなかっただろう。やってきたのは一人の少年。
だがその顔立ちは、仮面で素顔が分からなかったとはいえ、あまりにも似すぎている。
「貴様がジューダスか」
その少年は声を出す。ヴェイグは更に混乱する。声まで一緒なのだ。
「貴様に一度会っておきたかった。こちらを向け」
言われてゆっくりとジューダスはその少年、リオンへと顔を向けた。

二人の間にしばしの静寂が募る。
何の因果か、同じ時空に同じ人物。

「成程…確かに僕と瓜二つだ…」
先に声を上げたのはリオン。そのあまりにも類似している姿をリオンはまじまじと見る。
「で、貴様は何だ。奴の隠し子か」
奴、とは恐らく父であるヒューゴの事を指しているのだろうが、ジューダスにとって今はどうでもいいこと。
「貴様…」
そしてジューダスが口を開く。それをヴェイグ含め二人は息を飲んで待つ。
「マリアンはどうした」
一番聞くべきこと。今は亡き彼女のこと。
過去を断ち切った自分は彼女のこともすべて断ち切られた過去の自分に任せていたのだ。
だが任せた結果が、これ。
ジューダスは怒りや憎しみではなく、先に自分の不甲斐なさを感じた。
だがリオンは「あぁ」と言って一つのペットボトルを取り出した。
ヴェイグはその様を見て眉をひそめる。そこにはおぞましい何かが詰め込まれている。
ジューダスは真っ先にそれが何なのか…いや

誰なのかを理解した
82矛盾存在 5:2006/03/03(金) 19:31:03 ID:sc0fpxSk
「貴様あぁぁ!!」
叫び、ジューダスは剣を抜く。
リオンはすかさずボトルをしまってシャルティエを抜いた。
そして剣と剣が交わる。
近くには、目の前には同じ顔がある。
「何故お前がマリアンのことを知っているのか知らないが…」
リオンは剣を隔ててジューダスに喋りかける。その声はやはり紛れもなく自分のもの。
「彼女を生き返らせるためだ。死んでくれ」
キィンと剣を弾いて距離をとる。
ジューダスは再び双剣を構えてリオンを見据える。
だがそこには微かに輝きをみせるシャルティエの姿があった。
「ちっ!」
咄嗟にジューダスはその場を飛びのける。さっきまでいた場所に一つの大きな岩が降り注がれた。
リオンは怪訝な顔をしてジューダスを見る。
「まただ…何故こうも晶術が避けられる」
シャルティエに話し掛け、一つの返答が返ってきた。
『あの仮面の男、坊っちゃんと同じ匂いがします』
「顔だけでなく匂いまで一緒なのか…」
『いえ、そうなのですが言いたいことはそうでは無くて…』
二人が算段をしている間、ヴェイグは状況を把握できないままその光景を目の当たりにするしかなかった。
「ジューダス、奴は一体…」
「手出しはするな。これは僕自身の戦いだ」
その一言でヴェイグは黙ってしまう。
これも彼の中で何かがあったのか。こうなれば自分が出る余地など無い。
だがそこにひとつの悲鳴が零れた。
西の方角を見る。確かに誰かが悲鳴を上げた。
ここまで届くと言うことはおそらくそう遠くは無いだろう。
「行けヴェイグ」
ジューダスが囁きかける。
「ここは僕に任せて、ハロルドと合流しろ。いいな」
ここにいても恐らく自分の居場所はないだろう。
ヴェイグは今の自分の立場を理解した上でその要求を聞き入れた。
「分かった。あの女と合流すればいいんだな」
ヴェイグは西を向く。
去り際にジューダスに何か囁いて、ヴェイグはこの場から去っていった。
「無事でいろ…か。あいつも変わってきているな」
ヴェイグの囁きを復唱して一人ぼやく。
「逃がして良かったのか?二人がかりの方が何とかなったかもしれないのに」
「ちょうど貴様と二人きりになりたかったんでな…いや、三人か。なぁシャル?」
ジューダスはこの場にいるもう一人の人物、シャルティエに声を掛ける。
これには二人とも驚きの色を見せた。
「お前…何故シャルのことを知っている」
リオンは耐えられずに質問するが、ジューダスは逆にその双剣を構える。
「そんなことどうでもいいだろうリオン。決着を着けよう…」
リオンもその気らしくシャルを構える。
「そうだな…隠し子だかなんだか知らないが、マリアンを生き返らせることには関係ない」
先程から耳に残る「生き返らせる」という単語。
まさかミクトランの言っていることを本当に信じているのだろうか。
だとしたら過去は何と浅はかな事だったのだろう。ますます断ち切らねばなるまい。
「さぁ」
「始めよう」
ジューダスは過去にけじめをつけるため
リオンは愛すべき人を甦らせるため
それぞれがそれぞれの思惑を抱いて、今 戦いが始まった。

83矛盾存在 6:2006/03/03(金) 19:32:29 ID:sc0fpxSk
【ジューダス:生存確認】
状態:健康 少々混乱
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール、首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:リオンを倒して話を聞く
第二行動方針:ハロルドを捕まえて首輪解除の方法を模索する
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第四行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:E5西より

【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 強い決意
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)首輪
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ハロルドを捕まえる
第二行動方針:悲鳴の後を追う
第三行動方針:ルーティのための償いをする。
第四行動方針:可能ならハロルドの剣(=ディムロス)を手に入れる
現在位置:E5西より

【ハロルド 生存確認】
状態:新たな考え
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ソーディアン・ディムロス
基本行動方針:迂闊なことは言わない 脱出への算段を立てる
第一行動方針:リオンの追跡からの完全離脱
第二行動方針:悲鳴が気になる
第三行動方針:首輪のことを調べる
第四行動方針:C3地点の動向を探る
現在位置:E5中央
 
【リオン 生存確認】
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:腹部に痛み(軽め) 極めて冷静
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ジューダスの処理
第二行動方針:ハロルドを追いかける
第三行動方針:ジューダスという男に会う
第四行動方針:目的を阻む者の排除
現在位置:E5西より
84矛盾存在 6【修正版】:2006/03/03(金) 23:24:30 ID:sc0fpxSk
【ジューダス:生存確認】
状態:健康 少々混乱
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール、首輪
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:リオンを倒して話を聞く
第二行動方針:ハロルドを捕まえて首輪解除の方法を模索する
第三行動方針:協力してくれる仲間を探す(特に首輪の解除ができる人物を優先)
第四行動方針:ヴェイグと行動
現在位置:E5東より

【ヴェイグ 生存確認】
状態:右肩に裂傷 強い決意
所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル)首輪
基本行動方針:生き残る
第一行動方針:ハロルドを捕まえる
第二行動方針:悲鳴の後を追う
第三行動方針:ルーティのための償いをする。
第四行動方針:可能ならハロルドの剣(=ディムロス)を手に入れる
現在位置:E5東より

【ハロルド 生存確認】
状態:新たな考え
所持品:短剣 実験サンプル(燃える草微量以外詳細不明) ソーディアン・ディムロス
基本行動方針:迂闊なことは言わない 脱出への算段を立てる
第一行動方針:リオンの追跡からの完全離脱
第二行動方針:悲鳴が気になる
第三行動方針:首輪のことを調べる
第四行動方針:C3地点の動向を探る
現在位置:E5中央
 
【リオン 生存確認】
所持品:ソーディアン・シャルティエ 手榴弾×1簡易レーダー マリアンの肉片(ペットボトル入り)
状態:腹部に痛み(軽め) 極めて冷静
基本行動方針:マリアンを生き返らせる
第一行動方針:ジューダスの処理
第二行動方針:ハロルドを追いかける
第三行動方針:目的を阻む者の排除
現在位置:E5東より
85漆黒の翼・ユアン 1:2006/03/04(土) 01:37:23 ID:1lIJFQ6g
ユアン達が地図上の座標D5の山岳地帯に到着した後に、第三回の放送があった。
今回の禁止エリアには彼らの現在地を直撃するものはなく、また慌しく移動する必要には迫られなかった。
グリッドはまたミクトランがしつこく自分達の居るエリアを狙ってくると思っていたらしく(我々の結束はミクトランにとって脅威に違いない!)、
些か不満げに見えなくもなかったが、ユアンは無視した。
といってもすぐ隣のエリア(D4)が禁止エリアに指定されたので、
移動の際には警戒が必要になった(特にカトリーヌ。迂闊に歩き回ったりしないように)。

そして死者達。
今回の発表は恐らく最も多くの参加者に影響を与えただろうと思われる。
というのも、五十数名からなる参加者の中で全員に名乗りを上げた人物が二人、死んでいた。
すなわちそれはゲーム開始前に殺戮行為をしゲームに乗ることを宣言したあの五聖刃マグニス、
そして島全体に停戦の呼びかけをした少女、ファラ・エルステッド。
この二人が死んでいた。ことにユアンにとってマグニスという男は世界を同じくする同種でもある。
しかしユアンにとっては、二人の死はさほど気にはならなかった。
C3村に行くことを(密かに)希望していたカトリーヌとプリムラは、
ファラの死に結構な動揺を受けた様だったが、結果的にそれでC3村行きの案は完全に絶えてしまった。
内心ユアンは危険な地域に出向く必要がなくなって安堵した。
実際の所、火事と牛と少女の騒ぎでC3行きの話はうやむやになっていたが。

そう、ミミー・ブレッドという少女についても小さな引っ掛かりを感じた。
あの炎上する村で戦った、牛と少女。
少女の名はミミーと言うらしい(名簿でも確認した)が、
あの時自分達は牛(こちらはトーマと言うらしい、どうでもいいが)を縛りつけ、吹っ飛ばした。
距離的に間違いなく牛は禁止エリアから逃れたはずだが(だからこそ牛は生きているのだ)、
どうしてあの少女が死んでしまったのかが不可解だった。
少女は確かに牛を追って行った。ならば禁止エリアのG5からは逃れたはずだ。
なのに彼女は首輪で死んだと主催者は言った。
時間、距離などの状況から考えてG5の禁止エリアに引っかかったとしか思えなかった。
何故彼女はあの場所に舞い戻ったのか、禁止エリアの場所を知らないとはいえ
大切な仲間であろう牛を残して一人村に戻る行為に何の意味があったのか、その真意は到底彼らには分からなかった。
86漆黒の翼・ユアン 2:2006/03/04(土) 01:38:13 ID:1lIJFQ6g
首輪に対する件で、グリッド達は再び主催者への対抗意識を燃やし、三人は山岳地帯の岩陰に座り込んだ。
しかしユアンは一人離れて、山岳部から島を二分する川のほとりに腰掛けていた。

他のメンバーには言わなかったが、ユアンにはもう一つ放送で思うところがあった。
「マーテル・・・」
放送で呼ばれたその名を誰にも聞き取れないくらいの声量で呟き、懐から小さな銀色に光る何かを取り出す。
彼の手の平の上で薄暗くなった陽光を受けて光るそれは、指輪であった。
『YからMへ』と刻まれた、指輪。
それを強く握り締め、ユアンは目を閉じかぶりを振る。
そしてもう一人、赤髪の剣士の姿を思い浮かべる。
かつて共に世界を巡った仲間、頼りになった剣士、クラトス・アウリオンもまた、放送で呼ばれていた。
ユアンの知り、仲間となりうる者達が二人死んだ。
つまりは残すところ、彼の仲間はミトス一人ということになる。
だが、自分と同じくマーテルを誰よりも何よりも大切に想っていた少年が、
その彼女を失った今、果たして平常心を保っているかというと、疑わしかった。
最悪の場合、ミトスがミクトランの甘言に乗せられて殺戮者となっている恐れすらある。
グリッド達と共に行動している今、迂闊に少年と接触するのは危険とすら思えた。
かつての仲間に対し、少々薄情かもしれないが・・・状況が状況だ、仕方あるまい。
つまりは、目下ユアンの行動方針は漆黒の翼と行動し続けるしかなくなったことになる。
87漆黒の翼・ユアン 3:2006/03/04(土) 01:39:07 ID:1lIJFQ6g
はぁ、とため息を付き南に向かって流れる川をみやる。
島の中央を流れる川の、山岳部付近は案外結構な深さで、
大の大人一人が丸々沈んでしまうくらいだった。
とりあえず水分の補給をし、作戦会議を行うことになった。
六時を回り、徐々に闇夜に近付いていく中、これからについて検討する必要があった。
次の拠点について話し合い、また移動して、或いはここに留まって、それから・・・
それから・・・どうする?
ユアンの頭に、今まで殆ど考えなかった疑問が浮かび上がる。
自分が守りたかった最愛の人は既に亡くなった。
自分が頼りにしていた友は既に亡くなった。
では残された自分はどうする?
ゲームに乗って最後の一人に?
馬鹿げている。第一あの主催者は全く信用ならない。
・・・ミトスならやりかねんかもしれんが。
もう、この島に自分が会って共に脱出したいと思う者は殆ど居なかった。
ミトス、それにあのクラトスの息子、ロイド・アーヴィング。
知り合いが居ないわけではない。
しかしマーテル亡き今、彼らと合流することがそれほど重大なこととも思えなかった。
言ってしまえば疲れたのだ。
これまではグリッド達と共にどたばたと慌しい事件が続いたので、気を休める余裕も少なかったが、
今こうして座っていると、溜まった疲労が(精神的にも肉体的にも)沸き起こってくるのだ。

(マーテル・・・クラトス・・・私は、これからどうすればいい・・・)

虚ろに視線を漂わせると、眼前に広がる川が揺れて見えた。
悲哀の情から、視界が潤んだのかと思い、慌てて目を強く瞑り、首を左右に振る。
(もしそんな姿をグリッド達に見られたらもう一緒に行動していけないだろう、多分)
改めてもう一度前を見た時、川は揺れていなかった。
88漆黒の翼・ユアン 4:2006/03/04(土) 01:40:20 ID:1lIJFQ6g
その時、背後から声がかかった。
「ユアンさん、そろそろこれからの行動について話し合いをしようとグリッドさんが言ってますけど・・・」
カトリーヌがおずおずと言う。ユアンの雰囲気が平常と違うことに感ずいているのだろうか。
「ん、ああ。今行く」
ゆっくりと立ち上がり、後ろを向く。
すぐ近くにカトリーヌが立っており、その奥、
三〜四メートルほどはある灰白色の岩が斜面に無造作に立ち並ぶ横から、グリッドが立っていた。
ついでに向かって右手奥方向に、プリムラが座っている。
「ユアン、何をさぼっているのだ。これから一番重要な我々の今後についての会議を行うのだぞ」
グリッドがリーダーらしい(偉そう、とも言う)声を上げる。
「お前の口は二十四時間閉じることが無いんだな」
カトリーヌがユアンの一歩前に出て、歩き出す。
「どういう意味だ、それは!リーダーたるもの、常にメンバーを纏め上げるのは当然だろうが!」
「てゆうか、二十四時間おしゃべりし続けることぐらいだったらあたしも余裕よ!」
何故か便乗してプリムラも立ち上がり声を上げる。
「グリッドさんもプリムラさんも、微妙にずれてる気がするんですが・・・」
カトリーヌが言う。
ユアンは、彼らと行動を共にするようになって何度目だろう、ため息を付いた。
そうして視界に映る三人を眺めながら、微かに笑んで、更に歩を進めようとした。

その時、背後で水の跳ねる音がした。
淡魚でも跳ねたのだろうか、しかしその音はかなり巨大なものが水に出入りしたような音だった。
妙な胸騒ぎがして、振り向き、見た。
ユアン等が居る場所から南へ十数メートルほどの水辺に佇む、緑色の影を。
人の様にも見えるその影は、巨大な右腕を自分達に向けていた。
ぱらららら、と乾いた金属音が響いた。
89漆黒の翼・ユアン 5:2006/03/04(土) 01:41:47 ID:1lIJFQ6g
「伏せろ!!」
ユアンはそう叫び、咄嗟に一番近くに立っていたカトリーヌの肩を掴むと、強引に岩場の陰に向かって突き飛ばした。
同時に、凄まじい痛みが体の中で跳ねた。
熱を持った弾丸が彼の腹部の、服、皮、肉、骨、内臓を貫通した。
胴体の所々が焼け焦げるように熱を持ち、血が噴き出した。
平衡感覚を失い、ぐらりと世界が揺れた。
その時、悲鳴が聞こえた。
ユアンは激しく揺れる視界の中、プリムラが足を踏み外したかのようにカクンと揺れ、
体が崩れ、前のめりに倒れこむのを見た。その右足から、血が流れ出ていた。
グリッドには攻撃が当たらなかった。彼は突然のことに慌てふためいて立ち尽くしていた。
そうしてユアンは地面に両膝、左腕を付き、吐血した。
強烈な痛覚の中で、ユアンは顔を上げて正面に佇むモノを改めて見た。
いつの間にそこに現れたのだろうか、全身から水滴を垂らしながらマシンガンの銃口をこちらへ向ける、シャーリィ・フェンネスの姿があった。
といっても、その姿は既に少女のものではなく、その姿はまるで、
(エクスフィギュア──!!)

ユアンもよく知るそれは、確かにエクスフィアの暴走による生まれた怪物だった。
だが、常人よりはエクスフィギュアについて詳しい知識を持ってるはずの彼でさえ、目の前のそれはかなり違った風貌であった。
頭部から流れる色あせた髪、そして右腕から飛び出している、黒い銃身。
多かれ少なかれエクスフィギュアというものに直に接することもあったが、
武器を体内に取り込んでしまうものなど、全く以って知らなかった。

どうして、こんなことに?
跡を尾けられていた?いつから?どこから?
何故ここまで一方的に不意打ちを喰らってしまったのか?
放送直後のユアンの意識が多少なりとも不安定になっており、外部への警戒が弱まったこと、
シャーリィがユアン等四人を発見してから、川の深いところを潜って四人を追跡をしていたこと、
彼らが移動したルートは川沿いに近く、シャーリィは水中を移動することでクライマックスモードを使う事無く、気付かれずに彼らを追跡できたこと、
水の民でもあり、メルネスとして特別な体質を持つ彼女は、異形と化した今でさえ、水中である程度自由自在に行動できたこと、
そして気を見計らって今さっき水面から飛び出してユアン達に急襲をかけてきたこと、
それら全てはユアンの知ることではなかった。

だがそんなことはこの際どうでもいい。
今、何よりも優先すべきは──
90漆黒の翼・ユアン 6:2006/03/04(土) 01:43:11 ID:1lIJFQ6g
シャーリィはゆっくりとユアンの居る方向に歩き始めた。
巨躯を引きずるその姿は、正に怪物と言った表現が正しいか。
いくら元が人であると分かっていても、ユアンは畏怖の念を感じずには居られなかった。
いや、目の前の異形からはユアンが知りうるエクスフィギュアの中でも、特別強烈な念を感じた。
怨念、とでも言った方がいいのか、とにかくその巨躯から発せられる気は、脅威的であった。

カトリーヌはユアンの横、岩場の影で膝を折って座り込んでいた。
「ユアンさん・・・!!」
「動くな、隠れていろ」
ユアンは血が流れ続ける腹部を左腕で押さえながら、横目で彼女をちらと見やり、再度正面の相手に視線を戻した。
血が大量に流れ出し、袖をどんどん朱色に染めていく。
シャーリィの視界にはカトリーヌは死角に入っていて映っていないらしく、右腕の銃口を向けたまま、ユアンを目指して歩み寄っていた。
「くそっ・・・!」
ユアンは呻き、膝を突いた体勢から体を引き起こそうとした。
しかし体に力を込めた瞬間、腹部に激しい痛みが起こり、血が滲んだ。
それでまた体が傾き、しかし完全に横になるのは避けて、もう一度立ち上がろうとした。
かちゃ、と硬質な音が割りと近くで聞こえた。
見れば、シャーリィがユアンに接近し、銃口を彼の頭に向けていた。
今にもその先端が火を噴くかと思われたが、不意にシャーリィの頭部に何かがぶつかった。
それはただの石っころであったが、彼女の注意を惹き付けるには充分であった。
シャーリィ、そしてユアンがその方向を見やれば、グリッドが投球後のピッチャーの様な体勢で斜面に立っていた。
「俺の大事な仲間に手はださせんぞ!こっちだ、バケモノ!!」
声高く、叫んだ。そうして大げさに手を振り、挑発する。
「グリッド、よせ、やめろ!!」
ユアンがそう叫んだ。
と同時に、シャーリィが右腕を上げて右上から左下へ斜めに振り下ろした。
ばらららら、という、今度は少し違った銃声と共に、青白い弾丸が岩壁から地面へ斜めに切り裂くように走った。
しかしグリッドは既に岩壁の陰に隠れており、青白い弾丸、いや光弾は礫岩を砕くだけだった。
そしてシャーリィは獲物をそちらに変更したらしく、
右腕を前方に突き出した体勢で、ばららららと光弾を連射しながらグリッドが隠れた岩場へ走っていった。
「くっ!」
ユアンは激痛をこらえ、強引に立ち上がった。
気付けば地面には彼の血が溜まり、小さな水溜りが出来ていた。
91漆黒の翼・ユアン 7:2006/03/04(土) 01:44:26 ID:1lIJFQ6g
しばらく歩くと、グリッドとシャーリィが走っていったほうとは反対側に、プリムラが膝をついているのが見えた。
「ユアン、カトリーヌは!?大丈夫!?」
自身の怪我も構わず、少女はそう叫んだ。
「心配するな、大丈夫だ。お前もそれほど重傷ではないようだな」
「あ、ええ。でもあんた・・・」
プリムラが紅く染まったユアンの体を見て、何か言おうとした。
しかしユアンはそれを遮り、すぐに踵を返してグリッド達を追った。
「いいか、下手に動くな。奴はこれまでの敵とは違う。迂闊な行動は即、死に繋がる」
それだけ言い残した。

グリッドが装備するマジックミストには、装備者を逃走させやすくする効果がある。
具体的な仕組みはユアンは知らなかったが、何でも不可視性の霧が発生して、敵対者の感覚器を微妙に狂わせるらしい。
だが、いくらマジックミストが逃走を支援する道具だとしても、弾丸を反らす効果は無い。
シャーリィがグリッドの隠れる岩場をグランドダッシャーで破壊した後、再度走ろうとする彼目掛けて銃を乱射した。
とうとうその弾丸がグリッドの肩を抉り、血が点々と宙を舞い、彼の体は傾いだ。
幸いにも致命傷ではなかったが、地面に倒れてしまうには充分な痛みだった。
彼を襲った痛みは、それまで彼が経験したどの痛みよりも、鋭く、熱く、痛かった。
コングマンに殴られたときよりも、おとり作戦で電撃を喰らった時よりも痛かった。
シャーリィがもう一度弾丸をばら撒いたが、グリッドが倒れたことにより彼の体が瓦礫に隠れ、着弾することは免れた。
そこでシャーリィは再度歩を進めようとした。が、彼女の背後に電撃が走った。
92漆黒の翼・ユアン 8:2006/03/04(土) 01:46:19 ID:1lIJFQ6g
ユアンが追いついたとき、既にグリッドの体は地に伏していた。
即座に手の平に電撃を溜め、エクスフィギュアに放つ。敵の動きが止まる。
そこでユアンは近場の岩に隠れようとしたが、予想外の速さでシャーリィは銃弾を発射しながら回転してきた。
青白い光弾が鮮やかな放物線を描き、ユアンの身を襲った。
今度は左腕と右胸に着弾し、血肉が弾けた。
しかしユアンは動作を止める事無く、歯を食いしばり岩の裏に隠れた。
シャーリィは獲物が皆隠れてしまったので、少し戸惑い誰を狙うか決めかねているようだった。
丁度シャーリィを中心にして、北西にグリッド、北東にユアン、南にカトリーヌとプリムラが位置する形になった。

「無事か、グリッド」
ユアンが岩越しに叫んだ。それだけで体に開けられた傷が痛んだが、気にしても居られない。
「あた、当たり前だ!リーダーであるこの俺が、この程度でくたばるわけがないだろう!!」
その声はちょっと震えて聞こえた。恐らく、痛みを堪えるだけでも手一杯なのだろう。
とりあえずまだ死人が出てないことにユアンは少し安堵した。
しかし油断すれば、即座に屍の山ができあがるだろう。
「いいかグリッド、私がこいつを引き付ける。その隙にプリムラとカトリーヌと共に逃げろ」
「な、何を言う!ならその役目は俺が・・・!」
「いいか」
ユアンは激しい痛みの中、ゆっくりと深呼吸して精神を集中させた。
「聞け、グリッド。私はもう先が長くないようだ。だから、ここは私に任せて、お前達は・・・」
「黙れ!!」
その時、ユアンはグリッドの声を聞いて、なぜかは分からないが一瞬震えた。
どうしようもない状況に陥っているはずなのに、どういうわけか、グリッドの声は今までのどれよりも力強く聞こえた。
「ユアンよ、お前は我が漆黒の翼の一員だ!」
グリッドの声は直も力強く、その場に響いた。ユアンは黙って聞いていた。
「仲間を守る事も出来ずにどうしてリーダーが出来よう!!俺は漆黒の翼を守る!!」
ユアンは、グリッドの言葉を聞いて、ああ、と思った。
確か以前にも、どこかで似たようなことを言われた気がした。あれは、いつのことだったろう?
「だからユアン、死ぬな!我々漆黒の翼は生きてこの場を脱するんだ!」
グリッドは熱弁を振るい、大きく腕を振ったが、そのせいで傷口が開き、言葉は途切れた。
ユアンは静かにその言葉を聞き、少し目を閉じて、息を吐いた。
93漆黒の翼・ユアン 9:2006/03/04(土) 01:47:34 ID:1lIJFQ6g
そう、か。私は確かに漆黒の翼の一員であったか。
逃げようと思えば逃げれたはずだった。
銃声が聞こえた時、カトリーヌに構わず、即座に動けば、或いは銃弾をかわせたかもしれなかった。
グリッドが敵を引き付けた時、後を追わずに一人この場を離れることもできないこともなかった。
しかし気付けば、自分は彼らを助けようと動いていた。
マーテルは死んだ。残された自分は、何を?
もし彼女との再会を強く望むとすれば(ユアンは知らなかったことだが目の前の少女のように)殺戮者となっても問題は無かった。
こんな一般人達を助けようとして、自身が痛手を被るのは、このゲームの本質的には効率的ではなかった。
だが、それでも。何か、自分の胸の中で引っかかるものがあった。
ただ一つ、確かに言えることがあるとすれば、彼等を死なせたくはないということだった。
だから。

シャーリィは結局、彼女の身に攻撃をしたユアンを先に始末すべきと決めたらしく、彼の居る岩場を向き、歩き出した。

自分にできることは既に限られて居る。
もし全力で敵を排除しようとしても、あの異形を倒せるだけの力が残っているとは、思えなかった。
今、自分にできることは。
奴等を、グリッド達を生かすことのみ。
「私がこいつをなんとかする!だからその隙に、お前達は逃げろ!!」
全力で、三人に聞こえるように、改めてそう叫んだ。

「ユアン!」
「ユアンさん!」
「ユアン!」
グリッドが、カトリーヌが、プリムラが、三者三様に叫んだ。
ユアンはそうした声を聞きつつ、徐々に自身に迫る畏怖なる存在の気配を感じていた。
僅かな静寂が生まれた。
地面がざくざくと踏みしめられる音と、水がさらさらと流れる音だけが妙に耳に障った。
94漆黒の翼・ユアン 10:2006/03/04(土) 01:48:49 ID:1lIJFQ6g
【グリッド 生存確認】
状態:右肩に銃創、出血
所持品:セイファートキー 、マジックミスト、占いの本
基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動。
第一行動方針:漆黒の翼全員でこの場を脱出
現在地:D5の山岳地帯

【プリムラ・ロッソ 生存確認】
状態:右ふくらはぎに銃創、出血
所持品:ソーサラーリング、ナイトメアブーツ
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを磔にして島流し決定。
第一行動方針:ユアン達を助ける
第二行動方針:この場を脱する
現在地:D5の山岳地帯

【カトリーヌ 生存確認】
状態:無傷
所持品:ジェットブーツ、C・ケイジ
基本行動方針:帰りたい。生き延びる。
第一行動方針:死なないようにする
第二行動方針:ユアン達を助ける
第三行動方針:この場を脱する
現在地:D5の山岳地帯

【ユアン 生存確認】
状態:HP1/7 腹部に銃創、内臓の損傷、出血、左腕に銃創、右胸に銃創
所持品:フェアリィリング
基本行動方針:仲間と共に脱出。ミクトランを信用していない。
第一行動方針:グリッド達を生き残らせる
現在地:D5の山岳地帯

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ショートソード(体内に取り込んでいる)
     要の紋なしエクスフィア(シャーリィの憎悪を吸収中、ひび割れあり)
状態:エクスフィギュア化 TP35%消費
基本行動方針:憎悪のままに殺戮を行う
第一行動方針:放送と同時に4人組に襲撃
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:D5の山岳地帯
95漆黒の翼・ユアン 1 訂正:2006/03/04(土) 21:05:12 ID:JxsHvX2b
といってもすぐ隣のエリア(D4)が禁止エリアに指定されたので、
移動の際には警戒が必要になった(特にカトリーヌ。迂闊に歩き回ったりしないように)。

訂正↓

といってもすぐ近くのエリア(E4)が禁止エリアに指定されたので、
移動の際には警戒が必要になった(特にカトリーヌ。迂闊に歩き回ったりしないように)。
96Crossing Chain 1/10:2006/03/06(月) 00:38:19 ID:KAboxD/+
そろそろ放送の時間だな、とキールが時計を見ながら呟いた。
空は黒が混じり始めている。結局ジェイは見回りに行って放送まで帰ってくる気配はなさそうだ。
何処まで行ったんだろ、と思いつつロイドも荷物から時計を取り出して見た。
放送まで、あと数秒。秒針が1秒と1秒の間を渡っていく。
5、4、3、2、1、0──・・・。


「あ・・・」
手が滑り、するりと時計が手から抜け落ちていく。
やけに時がゆっくりだった。落ちていくのがスローモーションに見える。
自分もゆっくり、落ちていく時計に手を伸ばす。
しかし、手は止まり、時計は地に接触した。
1秒と1秒の間にあった秒針が止まる。
その時、自分の時まで止まったと思ったけれど、風は変わらず吹き抜けた。

「・・・父、さん・・・」
時計が落ちたのとクラトス=アウリオンの名が呼ばれたのは同時だった。
ロイドは父の名が呼ばれたと気付くと、落ちた時計も拾わずに悲痛の声を上げた。
イーツ城に父がいると知り、捜しに行こうとした矢先、呼ばれた父の名。
一足遅かった。しかし、その一足はあまりに遠く大きい幅だった。
97Crossing Chain 2/10:2006/03/06(月) 00:40:05 ID:KAboxD/+
「・・・大丈夫、大丈夫だ。俺は大丈夫・・・」
ロイドは問われてもないのにリッド達の方を向き、精一杯笑いかけながら言う。
共に休んでいたリッドは思わず声をかけようとしていたが、それで口は閉ざされた。
彼もまた、大切な人の名が呼ばれ、死を再認識させられていた。
だから分かるのだ。大切な人を失う悲しみと喪失感の大きさが。
だが、今のロイドはどう見ても大丈夫じゃない。自分に言い聞かせるように、同じ内容を小さく繰り返し呟いているのである。
自分でも無理している気がした。今ならコレットの気持ちも分かる。
嘘をつく理由が。嘘をつく時、愛想笑いをする理由が。

少しして、ロイドは2人が会話しているということだけ理解し、内容も聞かずに、独りで考え込んでいた。
自分の仲間は死んでいき残った仲間はコレットだけ。その彼女も何処にいるかは分からない。
留処ない不安。本当は今すぐにでもコレットを探しに行きたい気持ちだった。
もしこの間にコレットが死んでいたら。
もしコレットまで失ったら。
それこそ自分はどうなるか予測がつかない。
しかし、それは出来なかった。今はリッド、キール、ジェイという仲間がいる。
98Crossing Chain 3/10:2006/03/06(月) 00:41:33 ID:KAboxD/+
それともその仲間さえ置いて向かうか?
仲間を裏切ってコレットの下に向かうか?
ゲームに乗って全員を殺して仲間を蘇生させるか?
一瞬そんなどす黒い考えが頭を巡ったが、そんなこと、出来る訳がない。自分が許さない。
例え少しの間でも、この悪夢のようなゲームで行動を共にした「仲間」達だ。
一緒にいた時間は遥かに違うけれども、時間なんて、仲間という事実の前には関係ない。
そう──



「やはり、な。お前は今でこそマーダーではないが、かつてはマーダーとして行動していたのだろう?」
ジューダスの問い掛けに、助け出したヴェイグは押し黙っている。
寡黙な顔には微かに沈痛そうな表情が広がっていた。
「俺は殺してしまったんだ・・・黒髪の女だった。俺は・・・元の世界に帰るために・・・」
切々たる告白。渇いた血が付着する左手を見ながら、ヴェイグは呟いた。
ジューダスはその自白を聞いて、微かに目を大きくしていた。今の状況で考えられる黒髪の女性に心当たりがあったからだろう。
僅かな沈黙の後、ジューダスは告げた。
「そいつの名前は・・・ルーティ=カトレットだな」
彼女の名を。
「・・・ルーティ・・・カトレット・・・」
99Crossing Chain 4/10:2006/03/06(月) 00:43:24 ID:KAboxD/+

「なあ、ヴェイグ。少し思ったんだけど、お前名簿見てないのか?」
「何故だ?」
銀髪の青年ヴェイグにそう問い掛けると、ヴェイグは案の定質問で返してきた。
「そう聞かれたらまぁ、何となくだけど。ジューダスが名前教えた時、いまいちパッとしなかったからさ」
オールバックの髪を弄りながら答えると、ヴェイグは小さく頷いた。
「ああ・・・お前の言う通りだ。俺は全員を殺すと決めた時、決意が鈍ってはいけないと・・・名簿を見はしなかった・・・」
「じゃあヴェイグもう見てもダイジョーブな!」
そんな重苦しい雰囲気の中に、やけに明るい声がひょこりと乱入してきた。紫のふわふわとした髪質の少女、メルディだ。
「ヴェイグ、前と違う。皆もう殺さないって決めた。だから、もう見てもダイジョーブ!」
メルディのその言葉でヴェイグは面食らってしまったのか、目を大きくしていた。まだ、自分でも少し整理がついていないんだと思う。
そして今まで沈黙を決め込んでいたジューダスも歩み寄ってきた。
「最もだな。お前は全員を殺すと決め、名簿を見なかった。なら、名簿を見ることで誰も殺さないことを誓えばいい」
100Crossing Chain 5/10:2006/03/06(月) 00:45:05 ID:KAboxD/+
その言葉と共に、ジューダスは自分の荷物から名簿を取り出して、ヴェイグに差し出した。
ヴェイグは1度目を閉じ考えていたようだったけど、はっきりとした様子で名簿を受け取った。
今まで禁じていた名簿を開き、昨日殺してしまった女性を探しているようだった。
途中、止まった視線はポプラという人の写真に向けられていて、赤い線が引いてあった。ヴェイグは何も言わなかった。
少しして、動きを再開した視線がまた一点に留まった。
「ルーティ・・・間違いない。俺が殺してしまったのは・・・」
視線の先には、ややショートの黒髪の女性。快活ではきはきしてそうな表情が印象だ。
額を押さえ黙りこくるヴェイグに言った。
「ヴェイグ、言っただろ? これからどうしていくかだってさ。ジューダスみたいに根暗じゃ駄目だって」
「僕のどこが根暗だ?」
すかさずジューダスが割り込んでくる。抜目がない。影で俺は根暗じゃない・・・、と聞こえた気もした。
「あ、いやいや、そーゆー意味じゃなくて〜・・・」
と言い、
「2人とも喧嘩はやめるよ〜・・・」
とメルディは心配そうな声で言った。
ジューダスはやれやれといった感じで首を振ると、1つの提案を持ち出してきた。