テイルズ オブ バトルロワイアル Part2

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375I should・・・ 3:2006/01/09(月) 00:49:31 ID:WJC3V+lP
それがこのゲームのルールなのだと、彼はコレットに言ってしまいたかった。
しかしそれは言えない。今の自分にそれを言う資格は無い。
徒党を組み、守るために戦ってしまった自分は、自分達はルールに反している。
先程出会った男、女、そしてあの二人は殺し合いに乗ったのか。
やはりこのゲームでは自分以外の者を殺すしかないのか。
生き残るためなら戦いも辞さないのか。
だが・・・

「やっぱり、私達、甘いのかな。みんな、私達を殺そうとするのかな・・・」
顔を地面に向け、微かに震えながら、自身の内情を吐露するように、コレットは言葉を発する。
仲間に撃たれ、仲間が死んだことはこの純粋無垢な少女には過酷なことなのだった。
ふと、下を向くコレットの頭に誰かの手が乗せられた。
沈んだ表情のまま顔を上げる。
いつの間にかクレスが少女の傍らに寄り、頭を撫でていた。
「大丈夫」
クレスはそう言い、微笑んだ。
コレットは上目遣いに彼の顔を覗き込み、そのまま動かずに居た。

大丈夫?何が?
クレスの頭に疑問がよぎった。
仲間と合流することか?
その仲間に彼女は撃たれたのに?
生きて無事に脱出することか?
いや、何度も検討したことだ。それでは死人は戻らない。
自分も、少女も、まだ見ぬ多くの者も悲しんだままだ。
全てをあるべき姿に戻すには、やはり最後まで生き残り願いを叶えるしかない。
ここまで理不尽なことが出来る主催者だ、願いを叶えることが出来るのは信じていいだろう。
ではやはり殺すしかないのか。
今にせよ、この先にせよ、自分は裏切り者の汚名を被り、仲間を皆殺しにするのか。
いつかそうせざるをえない時が来る。そんな、気がする。
しかし・・・

376I should・・・ 4:2006/01/09(月) 00:51:47 ID:WJC3V+lP
飛んだ意識が現実に戻り、視界に映る少女を見つめる。
涙を浮かべて子犬の様に震える少女の姿を目の当たりにすると、そんな考えもどこかへ行ってしまった。
「君は、僕が守る」
気が付いた時、クレスはそう言っていた。
それは彼の本心から出た言葉か、少女を安心させる為に出した、取り繕いの言葉かは分からなかった。
ただコレットは目を閉じて力なく少し笑って、浮かんだ涙を手で擦った。
「うん・・・」
「サレが戻ってくるまで、もう一回休んでるといいよ。まだ傷が痛んでるはずだ」
「うん・・・」
少女は小さく頷いた。
傷が治りきらない内に無理して起き上がったので、また体調が悪くなった様だった。
再び少女は横になった。

最後まで生き残ると決めたのに、彼女を守る?
矛盾したことだった。いや、それは彼自身分かっていた。
だが自分が何をすべきか、最終的にどうありたいか、それが時々分からなくなっていた。
クレスもまた、少しずつ精神が壊れ始めていた。

【クレス 生存確認】
所持品:ダマスクスソード バクショウダケ
状態:左手に銃創(止血) TP消費(微小)
第一行動方針:コレットを守る
第二行動方針:コレット、サレと行動
第三行動方針:最後まで生き残る
現在位置:F3の森

【コレット 生存確認】
所持品:忍刀血桜 手枷
状態:右肩に銃創(止血)、発熱 TP消費(微少)
第一行動方針:サレ、クレスと行動
第二行動方針:ロイド達と合流
現在位置:F3の森
377名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/09(月) 08:39:33 ID:xE2pnuOa
わかったわかった凄い凄いね。面白い面白いよ。












いいから糞みたいなオナニー小説はゲサロでやれ。
378逆輸入ジェラシー 1:2006/01/09(月) 16:12:59 ID:xJ5HIio+
暗い暗い森の中を、朗らかに歌を唄いながら
高速スキップで駆け抜ける女の子が居りました。

「ある〜ひっ♪ もりの〜なっかっ♪」

花飾りをつけたブロンドのサラサラヘアーとフリフリスカートを
風にはためかせ、木々の間をずんずん進みます。

「おにーちゃんにっ♪ でぇあ〜った!!!」

キラキラ眩しい笑顔を浮かべ、女の子はごきげん。
だってまた一歩、大好きなお兄ちゃんに近付いたんですもの。

……でもこの子、どこか変。
よーく観察してみると……
そう。この可愛らしい女の子は、全身血塗れ。
彼女が探しているのは、次の獲物です。
彼女は『にんげんがり』をしている凄腕ハンター(仮)なのでした!
すべては、お兄ちゃんを生き返らせるため。
お兄ちゃんのことを考えれば、睡魔なんてへっちゃら。
けなげなシャーリィは、夜遅くまで大きな機関銃を手に頑張るのでした。

おや。
シャーリィが立ち止まって、キョロキョロ辺りを見回し始めました。

「……人が居る……近い!」

シャーリィは姿勢を低く、身構えます。
どうやら、彼女は臨戦態勢に入ったようです。
379逆輸入ジェラシー 2:2006/01/09(月) 16:13:48 ID:xJ5HIio+
そろり。そろり。
出来るだけ物音を立てないように、標的に近付いていくシャーリィ。
その顔にはいつもの大人しい彼女の面影は無く、
きりりと凛々しい眉に、一文字に結ばれた口元。
彼女は一瞬にして、崇高な使命を帯びた戦士と化したのです。

そろり。そろり。
欠伸をしてしまいそうな程ゆっくりと、シャーリィは進みます。
そしてあと数メートルに近付いたとき、声が聞こえてきました。
……声の主は男の子、それも二人。
あんまり長引かせたくないな……と、シャーリィは呟きます。
少し角度を変えると、木々の合間に彼等の姿が見えました。
まだこちらには気付いていないようです。
よくよく見てみると、二人に程近いところに女の子が横たわっていました。
……シャーリィは、彼女に見覚えがありました。
そう。先程、爪術大戦を繰り広げた、腹話術師です。
あれの爪術をまともに受けては、さしものシャーリィもひとたまりもありません。

この闘い、少し不利です。
眉間に皺を寄せ、唸るシャーリィ。
そして、一言。

「一気に仕留めるしか無いわ……」

劣勢にもめげず、彼女はやる気満々でした。
380逆輸入ジェラシー 3:2006/01/09(月) 16:14:54 ID:xJ5HIio+
先ずは眠っている女の子から確実に……
そう思い、彼女に銃口を向けます。
そのときでした。
今まで雲に遮られていた月明かりが、森の中に降り注いで来たのです。
視界に映った三人が、よりくっきりと見えてきました。

不意に、片方の男の子が身に付けたヘンテコな被り物が目に付きます。
訝しげな表情のシャーリィ。これにも、見覚えがある様子。

……思い出しました!
これは、彼女のお友達、クロエが最近購入したそれにそっくりなのです。
彼女はそれが大層気に入った様子だったので、強く印象に残っていたのでした。
期せずして、ウェルテスでの楽しい思い出が、胸の中に蘇ってきます。
ほんの昨日までそうであったというのに、随時と昔のことのように感じられました。

……彼女は、それ程までに、変わってしまったのです。
381逆輸入ジェラシー 4:2006/01/09(月) 16:16:24 ID:xJ5HIio+
――クロエ・ヴァレンス。私のお友達。
負けず嫌いで、おっちょこちょい。
強がりなのに、内気で優柔不断。
でも、剣の技はとっても上手!
いつも前線に立って、私達ブレス使いを魔物の攻撃から守ってくれる。
(強くてカッコよくて頼り甲斐のある)お兄ちゃんと一緒に。
そう、一緒に……

……むかつく。
闘いのどさくさに紛れてお兄ちゃんに近付く、アイツ。
お兄ちゃんに誉められて、素っ気ないフリしてデレつく、アイツ。
奥手な癖に、私に『恋のライバル』と楯突く、アイツ。
何もかも、思い出すすべての姿がどうしようもなく……むかつく。
そして、アイツの持ってたのと同じ仮面着けたあの男の子も……
シャーリィは、腹の底が煮えくり返る思いを抑えることが出来ません。
興奮の剰り判断力を失い、彼女は照準を変えてしまいました。
骸骨の仮面を着けた男の子の眉間をギッと睨み付け、機関銃を構え直します。

…………大ッ嫌い!!!

ギリギリと歯を食いしばって、シャーリィは引き金を力一杯引いたのでした。

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:狂気、TP半減、左腕に刀傷(ほぼ回復)、妄想による嫉妬
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2)、ショートソード、???
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
第一行動方針:仮面男の抹殺
第二行動方針:以下二人の殺害
現在位置:B5の森
382逆輸入ジェラシー 5:2006/01/09(月) 16:17:06 ID:xJ5HIio+
【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:休憩中
所持品:ウッドブレード、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディと行動
現在位置:B5の森

【ジューダス 生存確認】
状態:休憩中
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、エリクシール、???
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディと行動
現在位置:B5の森

【メルディ 生存確認】
状態:睡眠中、TP中消費、全身打撲、背中に刀傷、両手足に浅い刀傷
左腕に銃創、右手首に擦り傷、ネレイドの干渉を抑えつつある、左肩に銃創
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ロイドとジューダスを信じる
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:B5の森
383落し物 1:2006/01/09(月) 17:51:00 ID:Cwp621Dj
「…っ粋護陣!」
一瞬の出来事。
唐突に現れた防護壁に、相手を殺傷する為の勢いを保つ弾丸達は全て跳ね返された。
「!?」
シャーリィは慌てる。

何があったの?
また、私とお兄ちゃんを隔てるの?
どうして?どうして、何で?
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔シイ悔シイ悔シイ悔シイ悔シイ悔シイ悔シイ悔シイ……!次コソ殺────

「殺気を隠そうともしないくせに、バレないとでも思ったか?」

思わず追撃の手を止めてしまった。
仮面の男はこちらをじっと見ていた。
否、睨んでいた。
骸骨の眼窩に開いた空洞から、しっかりとこちらを。
気が付けば奴を防護したもう一人も、こちらを睨んでいる。
身は隠している筈なのに。
「………」
それでも黙り込んで息を殺す。
じっと、睨み付け返す。

384落し物 2:2006/01/09(月) 17:52:25 ID:Cwp621Dj


ジューダスは殺気には薄々感付いていた。
だが相手が何をしてくるか解らない上にメルディが眠っている以上は、下手に逃亡は謀れない。
だからこそ相手に感付かれぬようにロイドにそれを伝え、彼が粋護陣を使う事を提案し、ものの十秒で作戦を決めたのだ。
タイミングの問題は、シャーリィが嫉妬に任せ標的を変える際に鳴った、銃器と草が奏でる小さな音で解決した。
問題は、これからどうするかだ。

だが。

385落し物 3:2006/01/09(月) 17:53:45 ID:Cwp621Dj

「ど、どうしたか…!?」
起きてしまっていた。
一番刺激してはいけない人物が。
銃声に目覚めた彼女は瞳にいっぱい怯えを溜めて、混乱しきったように信用したばかりの二人を交互に見つめている。
一歩間違えば、すぐにでも恐慌に陥るだろう。
「だ、大丈夫だ。な?」
幾分慌ててロイドがなだめる。
メルディは傍目に見ても解るくらいに震えていた。

その様子を観察していたシャーリィは。

「…っっ!!」
脱兎の如く駆け出した。

このままいては圧倒的に不利だ。
386落し物 4:2006/01/09(月) 17:54:40 ID:Cwp621Dj
こいつらは憎いけど、後ででも良い。
どうせみんな私がころすんだから、またいつだって機会は訪れる。

まだまだころさなきゃならないひとはたくさんいるんだから。

訳のわからない爪術となんて、今は張り合わなくて良い。
ね?お兄ちゃん。



先程まで彼女が身を潜めたそこにはひとつ。
皆に配布された、何の変哲もないただの筆記用具──鉛筆──のみが置き去りにされていた。



387落し物 5:2006/01/09(月) 17:56:44 ID:Cwp621Dj
【ロイド・アーヴィング 生存確認】
状態:緊張が残っている
所持品:ウッドブレード、トレカ、カードキー
基本行動方針:皆で生きて帰る
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ジューダス、メルディと行動
現在位置:B5の森

【ジューダス 生存確認】
状態:緊張
所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、エリクシール、???
基本行動方針:ミクトランを倒す
第一行動方針:メルディを回復できる人またはアイテムを探す
第二行動方針:協力してくれる仲間を探す
第三行動方針:ロイド、メルディと行動
現在位置:B5の森

【メルディ 生存確認】
状態:恐慌間近、TP中消費、全身打撲、背中に刀傷、両手足に浅い刀傷 左腕に銃創、右手首に擦り傷、ネレイドの干渉を若干抑えつつある、左肩に銃創
所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱
基本行動方針:元の世界へ帰る
第一行動方針:ロイドとジューダスを信じる
第二行動方針:仲間と合流
現在位置:B5の森

【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
状態:狂気、TP半減、左腕に刀傷(ほぼ回復)、妄想による嫉妬、慌てたため鉛筆を落とす
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2)、ショートソード、???
基本行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
第一行動方針:とりあえずここは退く
第二行動方針:仮面男の殺害
現在位置:B5の森から移動

388確認に行こう!1:2006/01/10(火) 22:06:56 ID:eJok3y6L
「かかったぁっ!☆★」
少年のものと思われる凄まじい絶叫と、炎のはぜる音。
罠をかけてしばらくの後、休んでいた彼らにそれは訪れた。
自らの仕掛けた罠にかかった獲物の声に、ハロルドが喜々として瞳を輝かせた。
そのキラキラしたオーラの後ろでは、スタンとミントが青冷めている。
ミントに至っては今にも倒れそうだ。
「さ〜て、どこのどいつかしらぁ〜?」
そんな事を気にも止めずに、鼻唄混じりのハロルドはさっさと罠の方の通路に向かう。
気が付けば絶叫が止んでいたところから察するに、相手は既にきっと…
「も、もし…、相手の方に敵意がなかったらどうするんですか?」
ミントが恐る恐る声をかければ、ハロルドはくるりと振り返る。
にぃ〜っと笑みを浮かべれば、ぐふふとか何とか、とても可愛らしい外見とは似合わない笑い声をあげて。
「ほらほら皆、行くわよ〜♪」
「え!?」
「わ…私もですか?」
正直、人間の丸焼きなんて見たくない。二人は青い顔を互いに見交わし、しばらく押し黙る。
そこに、
389確認に行こう!2:2006/01/10(火) 22:08:21 ID:eJok3y6L
「丸焦げはないはずよ?
あの葉はかなり燃えやすいけど、炎の温度は割と低いから」
ひどくても全身火傷程度よ。と白々しく追い討ち。
そしてワクワクしたように鼻唄を再開すれば、二人がついてくる事を確信しているのか振り返らずに歩いていく。

「…………」

押し黙る。
しかしこのままじゃ、埒があかない。
結局、二人は苦い顔をして頷き合い、緩慢な動作で彼の天才科学者の後に歩を進めた。






【スタン 生存確認】
状態:無傷
所持品:ディフェンサー ガーネット 釣り糸
現在位置:G3のジースリ洞窟内部
行動方針:他の仲間と合流する ハロルドたちと行動

【ハロルド 生存確認】
状態:無傷
所持品:ピーチグミ ホーリィボトルの瓶 短剣 実験サンプル(詳細不明)
現在位置:G3のジースリ洞窟内部
第一行動方針:不明
第二行動方針:他の仲間と合流する スタンたちと行動

【ミント 生存確認】
状態:TP中程度回復 軽い疲労
所持品:ホーリイスタッフ サンダーマント
現在位置:G3のジースリ洞窟内部
行動方針:他の仲間と合流する スタンたちと行動 罠にかかった人がマーダーでなければ救いたい
390Kidnaping! 1:2006/01/10(火) 23:47:23 ID:2hqvfWl5
思考が、何度も頭の中を往来する。
考える程に頭が痛い。
この有限和の殺人ゲームに措いて、自分はどうあるべきなのか。
少女を護り、闘い抜く?
全ての人を殺戮し、勝者となる?
それとも――

堂々巡り……そんな事は分かっていた。
しかし、迷わずには、居られなかった。
迷うことで……思考に溺れる事で、自分を保っていた。
結論など……今は欲しくなかった。

クレスは傍らの少女・コレットを見遣り、鼻で溜息を吐く。
彼女は再び眠ってしまい、起きる気配は無い。
彼女の為に張った虚勢も、一人になった今では底無し沼に沈んでしまっている。
サレは、まだなのか?
……いや、内心、戻って欲しくなど無いのかも知れない。
このまま、彼女の寝顔でも眺めて、ただただ時を過ごしたかった。
自分の往き着く先など……知りたくなかった。

茂みが、不自然に揺れた。
……サレか?
いや違う。彼は他者に存在を感づかせる様なヘマはしない。
たとえ、相手が仲間であろうと。
音も無く剣を構え、招かれざる来訪者の登場に備える。
再び、乾いた摩擦音が響く。
修羅の再来は近い。
戦士の勘が、そう告げた。
391Kidnaping! 2:2006/01/10(火) 23:49:33 ID:2hqvfWl5
「何者だ!」
クレスは強い語勢で問い掛ける。
「俺様が何者か……だと?」
意外なことに、相手は律儀にも返事を返した。
「常勝無敗、天下の闘技場覇者の名を知らねぇたぁ……
ちいとばかし勉強不足だな、少年」
木立の闇から姿を現す、巨大な筋肉達磨。
「俺様がチャンピオン……マイティ・コングマン様よォッ!!」
満足気に言い切ると、大男は自慢の力瘤を盛大にアピールした。
「小僧。剣を抜いたその覚悟、しかと受け取ったぜ。
チャンピオン直々に……リングに沈めてやらァ!!」
言い切るや否やこちらへ駆け出した男は、その巨大な拳に力を込めて迫り来る。
見掛けに因らず、かなりのスピードを誇る男。
クレスは剣を抜き、中段後方から振り下ろすと、地面を掠めて前方へ振り抜いた。
「魔神剣!」
距離のある相手への、牽制のひと振り。
剣先は地表を僅か削ぎ取ると、それを押し出す形で衝撃波を生んだ。
波動は地を這い、襲い来る相手の足を正確に捉え、牙を剥く。
「甘い、甘いっ!」
衝撃波が噛み付く寸前、男はその極太の足を勢い良く踏み鳴らす。
すると、男の足下に発生した激しい振動により、地の刃は跡形無く消し去られた。
初歩的な剣技とは言え、小さな蛇を踏みにじる様に魔神剣を掻き消す男。
……油断ならない。
クレスは体勢を改め、接近戦の構えを取る。
「いくぞオラァ!」
勢力そのまま肉薄し、男は体側に隠すかの如く大きく振りかぶった右腕に闘気を込めて打ち出した。
クレスはそれを軽く身を捻ってかわすと、剣を下段後方に構える。
相手の状態はさておいて、こちらの体力に余裕の無い今、長期戦は得策では無い。
出し惜しむ事無く、必殺のカウンターで勝負に出る。
……その思い切りが、勝負の雌雄を分けた。
392Kidnaping! 3:2006/01/10(火) 23:51:34 ID:2hqvfWl5
剣士の攻撃は、既にその時点で意味を無くしていた。
否、コングマンのチャンス予告としては大いに有用だったのだが。
力一杯……一般ピーポーにはそう見えたであろう右腕を、
瞬時に引き戻すコングマン。
彼にとって見飽きる程見慣れた、剣士の力強いモーション。
━━その予備動作……見切った。

腰溜めにした剣を振り上げ、威勢良い掛け声を掛ける。

「「虎牙……」」

━━違和感。
声が二重に聴こえる。

「「破ッ斬んっっ!!」」

続け様に斬り下ろしを放った時、事態は最早抜き差しを赦さない状態であった。
重なった声、それは眼前の標的に拠るものだった。
嘲けて掛け声を重ねた男。
表情は余裕綽々を強調している。
男の姿は剣を振るった先に無く、巨体に似合わない軽やかなステップを
目で追った先、拳は低く構えられていた。
「グレイト……」
「なっ……」
男の腕が盛り上がり、更に太さを増した。
「アップァァッッッ!!!」
次の瞬間、クレスの土手腹を強烈な痛みが襲い、
その身体は高く打ち上がり、宙を舞った。
「ぐぁはっっ!!」
被弾の覚悟を決める間も無く受けた、痛恨の一撃。
ダメージは軽減される事無く、直に彼の身体に打ち込まれた。
393Kidnaping! 4:2006/01/10(火) 23:54:34 ID:2hqvfWl5
──チャンピオン・コングは、半生唯一の敗戦を、片時たりとも忘れた事は無かった。
雨の日も、雪の日も、霧の日も、雑誌の取材の日も、
世界が平和になった日も……
自分を負かした相手の顔を浮かべ、屈辱を胸に稽古に打ち込んだ。

憎きツンツン頭、スタン・エルロン。
奴との出会いは忘れもしない。
あの男は有ろう事か神聖なるコロセアムに女を連れ込み
……いや、コロセアムクィーンのねーちゃんは別だ、
まぁそんなこんなで彼奴は俺様を侮辱しやがったんで、
軽く捻り潰して世間の厳しさを教えてやろうとした訳だ。
……結果、惨敗。
初めて味わった、敗者の悔しさという感情。
……俺は努力した。
奴の使った流派の剣術を扱う傭兵共を何人も打ちのめし、
研究に研究を重ねた末、遂にその極意を掴み取ったのだ。
楽な道では無かったが、その時の高揚は計り知れないものだった。
そして……
今の俺様に敗北の理由は……無い。


ドサッ

クレスの身体は重力の赴くまま落下し、
地面に強か投げ出された。
地に臥せる少年に背を向けたまま、コングマンは吐き捨てるように云った。
「俺様が、チャンピオンよ……」
394Kidnaping! 5:2006/01/10(火) 23:57:41 ID:2hqvfWl5
「……クレスさん!」
つい今し方まで眠っていた少女が声を上げた。
クレスと呼ばれた少年は、何の反応も示さない。
コングマンは少女に詰め寄った。
「何だ、小娘……?
お前の様なヒョロっちい小娘、ひとひね……」
「クレスさんに、何をしたんですかッ!!」
彼の言葉を遮り、少女が吼えた。
見掛けに因らず生意気な小娘だ……コングマンは思う。
「よくもクレスさんを……許さないんだからッ……痛ッ……」
短刀を握り締め立ち上がった少女は、声にならない悲鳴を上げ、
再び力無く地面に座り込んでしまった。
彼は気付いた。
少女の肩に巻かれた、深紅に染まった布切れ。
そして彼は、少女への感情を改めた。
健気な小娘だ、と。
「お前、そんな身体でこの俺様が倒せると思ってるのか?
阿呆が。寝言は寝てから言いやがれ」
腹を抱える仕草を見せ、ケタケタと笑い少女をからかうコングマン。
おどけた態度とは裏腹に、圧力を掛ける様に睨みを利かせる。
これで、少しは自分に対し畏れを抱くだろう。
そう考えての行動だった。

……ところが、少女の剣幕は止まる様相を示さなかった。
「確かに……私なんかじゃ、貴方に叶わないかも知れない。
……でも、仲間を傷付けた貴方を許す訳にはいかないのッ!!」
啖呵を切り、少女は手にした短刀を仇目掛けて投げつけた。
彼は短刀を篭手で易々と叩き落とすと、地面に転げたそれを拾い上げ、クルリと弄ぶ。
「どうした? まさか、今のが『復讐』だなんて冗談はナシだぜ?」
挑発を聞きもせず、少女は呪文の詠唱に入っていた。
コングマンは更に少女へと歩み寄り、その顎から頬にかけてを鷲掴みにする。
顎を押さえられ詠唱をすることも能わず、少女は突き出された唇をパクパクと動かす他無かった。
少女はその手を必死に振り解くと、今度は打って変わって、諦めの表情で彼を見た。
「……分かりました、降参です。
もう抵抗はしませんから、好きにして下さい」

──拍子抜け。
態度をガラリと変えた少女に覚えた感覚は、それだけだった。
つまらない。物足りない。
そう、彼は思う。
そして彼は、彼女の姿に何か奇異な感情を抱いている自分に気付いた。
395Kidnaping! 6:2006/01/11(水) 00:03:35 ID:6RPTHEdm
彼女は言葉を続けた。
「……だから、お願いです。
彼だけは……クレスさんだけは、見逃してあげて下さい!
あの人は、私の命の恩人なんです!」
遂には涙を流し懇願する少女。
胸の前で祈る様に手を組み、瞼を強く閉じて俯いた。
「馬鹿め。敗者に掛ける情なんざ………」
言い掛けて、止めた。

──虐めたい。
もっと、もっとこの小娘を、汚辱にまみれさせてみたい。
虐めに虐め抜いて、絶望の底に叩き堕としてやりたい───

渦巻く感情の正体に、彼は朧気ながら答えを見た。

──圧倒的に無力でありながら、狼に必死に食い下がる子羊。
それをひと呑みにあしらいもせず、その鋭利な爪と血に飢えた牙とでなぶり、眺める。
獲物は皿の上でひたすらに無駄な抵抗を繰り返し、疲弊してゆく。
やがては訪れる終焉の足音を、確かに聴きながら……──

世に『加虐趣向──サディズム』なる言葉があることなど彼は知りもしなかったが、
彼の目覚めたそれは紛う事無く、サディストの精神其のものだった。

「……良いだろう、あの小僧は見逃してやる」
濁した回答を改め、薄笑いを浮かべるコングマン。
窮鼠は顔を上げ、不幸中の幸いを見た僅かな安堵を噛み締めた。
直後に訪れる、次なる災いをも顧みず。
「但し……条件がある」
「えっ!?───」
一瞬の出来事だった。
コングマンは少女の首筋に手を延ばすと、その付け根にある気絶功を突いた。
すると少女はがくりと首を垂らし、再度虚無の世界へと墜ちていった。

持て余した短刀をさらに遊ばせながら、少女の所持品を物色する。
中身を粗く確認するや否や、ほくそ笑むコングマン。
鞄には、今の彼に誂え向きな品が用意されていた。
罪深きを、その頑強な身を以て捕らえるべく造られた道具──手枷。
元来の働きをするならば、これを掛けられる立場に在るのは
彼自身に他ならないだろう。
だが、この『バトル・ロワイアル』という法の及びもしない
異常事態に措いてはその限りでは無い。
道具は、それを用いる者に因ってその姿を変える。
悪心に駆られた者に支配された枷は、無実の少女の両手を縛り、自由を奪い取った。
396Kidnaping! 7:2006/01/11(水) 00:06:51 ID:6RPTHEdm
虜とした少女を抱え、コングマンは倒れた剣士の元へ歩み寄る。
顔中を自らの吐き出した血に汚し、深い眠りに墜ちた敗者を、眼光鋭く見下す。
少年の寝顔は強か殴られて気を失ったとは思えない程穏やかで、
先程闘り合った際に見た引き吊った表情が嘘の様だった。
束の間、眠りという形でこの悪夢を忘れることが出来たからなのだろうか。

──こいつ……血迷いやがったな……

強者と闘うことを至上の生き甲斐とする彼にとって、このゲームに
別段不満を感じる事も無く、自信とも相俟って死への恐怖など
微塵も有りはしなかった。
しかし、だからと言って、死の不安を抱える人間の心情が理解出来ない程
非人間的である訳でも無い。

そして感じていた。
少年が、このゲームに措いてどう在るべきなのかということに、迷いを抱いていた事を。
これ程までに迷いを持った剣を振るう者を目の当たりにすれば、
猛る闘志も萎えてしまうというもの。
闘いに措いては一切手抜かりを許さない彼ではあるが、
闘いを望まぬ者を倒すことが果たしてチャンピオン・シップに
乗っ取った事なのか、という疑問は、嘗てより抱いていたのである。

彼は思う。
やはり、闘志に満ち溢れた者達と闘いたい
……否、闘うべきなのだ、と。
同時に、本来中々の手練を持つのであろうこの少年と全力を以てぶつかりたい
という強い欲求を、彼は再認識した。
……強者であるからこそ、判る。
この少年は、スタン・エルロンと遜色無い実力を秘めているのだ。
再戦を想像するだけで、血湧き肉躍る。
「立ち上がれ……そして、必ず俺を追って来やがれ。
そして次に逢うときが……お前の最期だ」
沸き起こる高揚を抑えつつ、コングマンは木立の闇へと消えていった。
397Kidnaping! 8:2006/01/11(水) 00:10:00 ID:6RPTHEdm
寂寥に包まれた森の中、一人残された若き剣豪の醜態。
傍らでは、死闘の末敵に一度も触れる事無く主の手から投げ出された剣が、哀愁を物語る。
さらに隣、人の生き血で花を咲かす妖刀として畏敬を込め『血桜』と呼ばれた忍刀が、
その意匠を冒涜するかの様に地に突き立てられていた。
刀身には、乱雑に千切られた紙切れが刺さっている。
紙にはいずれ目覚める彼に宛てた侵略者のメッセージが、殴り書きに記されていた。


果たし状
やっと起きたか!
くたばり損ないの負け犬野郎!
おまえの仲間の小娘はいただいていく
返して欲しけりゃ、北西のイーツ城まで一人で来やがれ

追伸
怖じ気づいたんなら、シッポ巻いて逃げたってかまわねえぞ
こいつは俺様が、たっぷり可愛がっておいてやるからな
あ ば よ ! ! !
チャンピオン、マイティ・コングマン

【クレス・アルベイン 生存確認】
状態:左手に銃創(止血)、TP消費(小)、腹部に痛み(殴られた箇所)
背面に軽度の打撲(落下に因る)、気絶
所持品:ダマスクスソード、バクショウダケ
基本行動方針:最後まで生き残る
第一行動方針:混迷(目覚めたときの書き手に一任)
現在位置:F3森

【マイティ・コングマン 生存確認】
状態:HP半分、サディスティック
所持品:レアガントレット、セレスティマント、手枷の鍵
基本行動方針:闘志のある者と闘い、倒す(強弱不問)
第一行動方針:イーツ城でクレスを待ち、倒す
第二行動方針:出会った相手は倒す
第三行動方針:コレットを虐めて愉しむ
現在位置:F3からイーツ城へ移動中

【コレット・ブルーネル 生存確認】
状態:右肩に銃創(止血)、発熱、気絶、後手に手枷
コングマンに担がれている
所持品:なし(コングマンにより鞄ごと没収)
基本行動方針:取り敢えず生き残る
第一行動方針:不明(目覚めたときの反応次第)
第二行動方針:仲間(Sキャラ及びクレスとサレ)との合流
現在位置:F3からイーツ城へ移動中
398閉幕は遥か彼方 1:2006/01/11(水) 01:50:18 ID:fQ6tXtLS
「はぁはぁ…………」
一人の男が、森の中をよろよろと歩いていた。
風の如く移動するいつもの姿からは想像も出来ないほどのおぼつかない足取り。
男――ソロンは、再び激痛と倦怠感に襲われていた。
「ぐ、ぐふぉぁ」
立ち止まり、木に寄りかかったかと思うと、吐血をする。
先ほどから、激痛と吐血に襲われる間隔がどんどん短くなっている気がする。
「あの赤髪めぇ。随分とふざけた真似を…………」
自分をこのような状況へ追い込んだ赤髪の男の姿を思い出し、忌々しくなって頭を掻き毟る。
しかし、すると今度は掻き毟った髪が、はらはらと抜けていくではないか。
まさかと思い、試しに髪を掴んで引っ張ってみるといとも簡単に掴んだ髪が抜けていった。

――そう、放射能が影響を与えたのは内臓だけではない。頭部を含め、至る所に被害を及ぼしているのだ。

「ウジ蟲がぁぁぁぁ!!」
男の憤怒の叫びが夜の山に響く。
しかし、こんな絶望的な状況でも彼は生への執着を捨てていなかった。
「私はぁ……私はこのゲームを盛り上げなければいけないのですよぉ……。ここで死ぬわけがないでしょうにぃ…………」
彼は、この殺し合いゲームをより血みどろに演出することに喜びを感じていた。
いわば、彼は島を舞台にした殺し合いがテーマの悲劇(彼にとっては喜劇だが)において、演出家を気取っていたのだ。
そして、彼には演出家としてまだまだやりたい事が山のようにあった。

――信頼で結ばれた集団を疑心暗鬼にして仲間内の殺し合いをさせてみたい。
――マーダーをゲームに乗らない連中の方へと誘導して、一方的な殺戮を観賞するのも面白いかもしれない。

彼は、そういった欲望と生への渇望を糧にして、何とか歩いてゆく。
そうしてふらふらと歩いていると、人影が見えた。
黒髪の華奢な体つきの少年…………忘れもしない、自分の演出した殺し合いで役者を務めたリオン・マグナスだ。
彼は、どうも目を閉じて木陰で横になっているようだった。
ある程度近づいているはずだが、例の機械のようなものには目もくれていない。
これは、完全に眠っている――ソロンはそう判断すると、彼へとゆっくりと近づいていった…………。
399閉幕は遥か彼方 2:2006/01/11(水) 01:51:31 ID:fQ6tXtLS
リオンを見下すような位置に立って、彼を睨みつけているソロン。
そこには、憎悪の念が立ち込めていた。

――こいつさえ、しっかりと赤髪男にとどめさえ与えていれば、自分は今苦しんでいなかったはずだ。
――結局は、こいつもジェイのように出来損ないの手駒だったのだろう……。

放射能による苦痛のせいもあって、彼の苛立ちはピークに達していた。
「殺しも満足に出来ない役者に用はありませんねぇ」
彼はぶつぶつとつぶやきながら、ザックからディムロスを取り出す。
「少し不本意ですが、役者の始末をするのも私の仕事ですし……」
ディムロスを大きく振り上げると、その振り下ろす先をリオンの頭上に固定する。
そして、無情にもそれを勢いを付けて振り下ろし、それは彼の頭を切り裂いた!

――はずだったのだが、現実は違った。

振り下ろそうとした瞬間、リオンが体を起き上がらせ、ソロンの腹部をシャルティエで貫いていたのだ。
ソロンは、ディムロスを握ったまま、滅多に見せない“驚愕”の表情を浮かべた。
「な、何故です!? 眠っていたはずな――」
しかし、彼の言葉は途切れる。
腹から抜かれたシャルティエが、今度はディムロスを握る手を肘から腕ごと斬り落としたのだ。
「散々山の中で大声をあげておいて、『何故』だって? 笑わせてくれる」
400閉幕は遥か彼方 3:2006/01/11(水) 01:52:26 ID:fQ6tXtLS

リオンは、ソロンが憤怒の叫びをあげた時に目が覚めたのだ。
忘れるはずも無い。マリアンに自分の醜態を見せるように仕向けたあの男の声だ。
音源は近い位置にあったので、すぐにでもその声の方向へ向かい、声の主を殺したかった。
だが、疲労がたまるその体がそれを許さない。
だから彼には、男が自らこちらに赴いてくるを期待する事しか出来なかった。
そして彼の期待通り、男は彼の至近距離にまでやってきた、そして今にいたるのであった。

ソロンは、普段の狡猾な姿からは想像も出来なような二つのミスを犯した。
一つは、目を瞑って動いていないだけで、彼が眠っていると確証してしまったこと。
もう一つは、クナイを使って殺さずに、わざわざ至近距離まで近づいていってしまったこと。
それは、放射能のよる倦怠感が呼んだ判断力の低下が起こした悲劇だったのだろう。
「ぐがぁぁぁあ!?!」
ともかくミスを犯した彼に待っていたのは、腕の切断という現実。
苦悶の表情を浮かべ、残る方の手で肘の断面から吹き出す血を止めようとするが、そちらの方の腕もリオンは肘から斬り落とす。
「ぐげっ!」
苦痛の余り歪みに歪んだ顔は酷く醜く、口からは放射能のせいか腹部を刺されたからか分からないほど大量の血を吐き出した。
もはや、そこには演出家としての余裕も暗殺者としての冷酷さも無い。
今の彼からは、誰が見ても“絶望”しか連想できないだろう。
そして、そんな哀れな男をリオンは見下す。
「僕は、マリアンを殺そうとしたお前だけは許さない」
しかし、それでもソロン本人は生き永らえようと必死だった。
「わ、私はまだ死ぬわ――」
シャルティエが、そんな生への渇望と止めなかった男の言葉を首ごと刎ねた。

こうして、一人の演出家が舞台から去った。
しかし演出家が一人欠けた所で、この悲劇の幕が閉じるわけが無い。
舞台が存在し、役者が二人以上いる限り、この悲劇は永遠に続くのであった…………。
401閉幕は遥か彼方 4:2006/01/11(水) 01:53:31 ID:fQ6tXtLS
首と両腕が分断された無残な骸を一瞥もせずに、斬り落とした腕からディムロスを拾うと、リオンはその場から離れた。
この憎き男の血で穢れた場所などで、一秒たりとも寝れるはずが無い。
彼は、少し離れた場所の木陰に着くと、今度こそ深い眠りについた…………。
『リオン…………』
そして、そんな眠るリオンの横でディムロスは、彼にかけるべき言葉を見つけられずにいた。


【リオン・マグナス 生存確認】
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:睡眠
第二行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の森


【ソロン 死亡】


【残り38人】
402乱れる三つ巴1:2006/01/11(水) 06:46:46 ID:DdjFm7Cl
ダオスがマーテル達の居た場所へと戻ると、そこには目の下を赤く腫らした見慣れぬ女性が樹の根元にうずくまっていた。
その両腕には赤い装飾に細い刀身の剣を抱えている。
「戻られたのですね」
彼女の脇にはマーテルが宥める様に座り込み、ミトスが立っていた。
「お前、何処に行っていたんだ?」
ミトスが訝しげにダオスに訊くが、ダオスは、「いや」と軽く返事をするだけで先程の事態を話す事は無かった。
しかしダオスの外套はヴェイグの氷刃により少々痛んでおり、それはダオスが何かしらの攻撃を受けてきた事をミトスに窺わせる。
「まあいいけどさ」
「それより」
ダオスはうずくまる女性――マリアンに視線を落とした。
「う…っ、う……」
その女性は下女の格好をしており、とても戦いの場にそぐわない様相だった。
マーテルはまだ興奮から冷めぬマリアンの頭を優しく撫で、大丈夫よと声を掛ける。
そこで何者かが喋りだした。
『今…、彼女は混乱しているみたいだから私から状況を話すわ』
「誰!?」
ミトスは驚き、周囲を見渡して体を構える。
『私よ、彼女の持っている剣。大丈夫よ、驚かないで』
その剣、アトワイトは冷静に周りに語り掛けた。
「嘘…剣がお話するなんて…」
「意志を持つ剣か…。よかろう、話して欲しい」
ダオスはアトワイトにそう促した。


それは長い長い話だった。
赤毛の男との出会い、その男が襲われた事、襲った主はマリアンと親しい少年だった事、そして白蛇の髪の男―――
彼女が必死でここまで逃げてきた事も。
半刻程掛けてアトワイトは事を詳細に語った。
「…本当に…そんな戦いが……」
マーテルは悲しげに口を噛みしめる。
震えるマリアンを抱きしめ、背中を撫でた。
「よく…本当に良く頑張ったわね」
するとマリアンはマーテルの胸に体を預け、嗚咽を上げながらぼろぼろと泣いた。
そこには現実に打ちひしがれたひたすらにえづく弱々しい女性の姿があった。
「信じるに足る様だな」
「凄く可哀想だよ、この人…。どうかな、僕達と一緒に行こうよ。多分、力になれると思うから」
ミトスはマリアンに話掛ける。
一通り泣き通し、マリアンはようやく落ち着いたのか三人に頭を下げる。
403乱れる三つ巴2:2006/01/11(水) 06:50:20 ID:DdjFm7Cl
「……ありがとうございます…」
しかし眼はまだ虚ろで、どこか気の抜けた様な表情だった。

「ミトス、少しいいか」
マーテルとマリアンが何とか浅く寝付いた頃、ダオスはミトスに静かにミトスに語り掛けた。
「何?」
ミトスも静かに返す。
「少々、気になる事がある。あの女性を襲った者の事だ。お前には話しておきたい」
「…お前もそう思う?」
「やはり気付いているか」
ダオスとミトスに湧き上がった疑問。
アトワイトが先程話した出来事で登場した男三人。
特に白蛇の髪の男に至ってはダオスには心辺りがある。
彼女の話によるとマリアンは男三人の生死までその目で確認していない。全員死んでいるかもしれないし、逆に全員生きている可能性もある。
ゼロスという赤髪を襲ったエミリオという少年も、マリアンに対しては殺意があったかどうかも不明瞭だ。
何よりいくら全速力とはいえ、戦いを知らない女の脚だ。まだ近くに三人がいるかもしれない。
最悪、その内二人はマリアンを殺す為に。
「…今は極めて危険な状況だ」
「そうだね」
ミトスはそれでもきっ、とダオスを睨んだ。
「マリアンさんを見捨てようだなんて考えないでよ」
「…随分と冷たく見られたものだな」
ミトスが少しむくれてふん、と顔を伏せた。しかしゆっくりとまた顔を上げて、遠くを見た。
「正直、あんたに嫉妬してたよ。僕より強いし、…姉さんといるし。姉さんを守れるのは僕だけって思っていたから」
はあ、と溜め息を吐いてダオスを見る。
「先程…あんた本当は誰かと戦っていたんでしょ?
黙っていてくれてありがとう。きっと姉さん知ったら悲しむから」
ダオスはふん、と視線を逸らした。
「この程度で嫉妬か。子供だな」
「なっ…!」
しかしダオスは少しだけ、口角を上げた。
今までに見ることのなかった彼の僅かな微笑みにミトスは一瞬目を丸くする。
「お前が姉を守ろうとする気持ちは本物だ。
私はお前の腕も確かだと思っている。これからも協力して欲しい」
ミトスはダオスの意外な発言に暫し黙ってしまったが、うん、と素直に頷いた。
するとざわり、と風が木の陰を揺らした。
そしてその直後、二人の眼は厳しいものになる。
その眼が睨む先は―――――

四人の居る場所を、遠くから見ていた者が居た。
凄まじい殺気を押し殺して。
その者の目には、マーテルとマリアンが映っていた
「なんで…?」
404乱れる三つ巴3:2006/01/11(水) 06:53:06 ID:DdjFm7Cl
その少女―――シャーリィはわなわなと震えている。
マリアンとマーテルを映していた視界が、やがてマーテルに寄り添うマリアンに絞られる。
「やっぱり…私、見捨てられちゃうんだあ…」
マーテル。それはこの少女を最初に助けてくれた女性。
そのマーテルの横で体を預けて眠るマリアンにふつふつと嫉妬の炎が燃え上がってきた。
「ひどいよひどいよ。やっぱり私にはお兄ちゃんしかいないんだ、お兄ちゃん…」
尤も、シャーリィ自身がマーテルに刃を向けて三人の元から去ったというのに、シャーリィにはそんな事は関係なかった。
ただ、自分に初めて優しくしてくれた女性を自分の知らない女性に取られたようで悔しくて仕方なかった。
見れば見るほど、苛々する。
「私の…私のものを取るなんて…許せない…あの女…!!
お兄ちゃん、そんな人殺しちゃってもいいよね」
「どうせみんな殺しちゃうんだし」
「だけどあの女は今すぐに始末してあげるんだから」
ぶつぶつと独り言を繰り返し、シャーリィは握り締めていたマシンガンのトリガーを引く。

ばらら、と黒い音が森に響いた。





「なんだ…?」
その音を聞いて一人の少年が起きる。
眠っていたと言っても一刻ほどしか経ってはいないが。

近い。

まだ体中が痛む。
それでもその痛みよりも胸を覆ってゆく得体の知れない不安の方が恐ろしかった。
嫌な予感がする。

「マ…リ…アン?」
直感的にその予感の意味を理解し、少年は起き上がった。
そして走り出す。
その銃声を追って。

405乱れる三つ巴4:2006/01/11(水) 07:03:38 ID:DdjFm7Cl

【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:多少TP消費 精神の緊張
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、緊張
行動方針:マーテルを守る
第一行動方針:マーテルと行動
第二行動方針:打開策を考える
第三行動方針:クラトスとの合流
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 邪剣ファフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:軽い眠り
第一行動方針:マリアンを落ち着かせる
第二行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×13
状態:混乱 疲労 TP微消耗
第一行動方針:眠って頭を整理する
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森林地帯


【シャーリィ 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ????
状態:TP中消費 頬に切傷(ほぼ回復) 左腕に刀傷(回復中)
第一行動方針:マリアンの殺害
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B7の森

【リオン・マグナス 生存確認】
状態:極度の疲労 睡眠 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:銃声を追う
第二行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
第三行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:C7の森からB7へ移動



406罪と償い1:2006/01/11(水) 12:48:09 ID:35AU4cX+
ここはジースリ洞窟。
その中で少年、ジーニアスは倒れていた。
彼を包んだ炎は消えていたが、彼の肌は酷く焼け爛れている。

痛い…熱い…
ボク、このまま死んじゃうのかな…
ロイド、コレット…みんなごめん…
死にたくない…誰か…助けて…
……?? 足音が聞こえる。誰だろう…

―少年の意識はここで途絶えた。

対するこちらはスタン組。
鼻歌を歌いながらご機嫌のハロルドにそれとは対照的に青ざめた顔のスタンとミント。
「…なあ。やっぱりまずかったんじゃないか?」
「大丈夫。最悪でも死ぬことはないはずよ♪」
スタンの心配とは正反対に怖ろしいほどの笑顔で答えるハロルド。
「ほらほら。さっさとついてくる!」
さらに足を早めるハロルド。その様子に頭を抱えるスタンとミント。
「…あら?」
洞窟の奥からうめき声のようなものが聞こえてきた。
「あいつね〜♪ほら、急ぐわよ!」
声の主のもとへ急ぐ3人。
407罪と償い2:2006/01/11(水) 12:48:49 ID:35AU4cX+
「なんだ、ガキじゃない。」
「おい、これは…」
「ひどい…」
そこには全身を真っ赤に焼いたまだ12くらいの少年が倒れていた。
「ハロルド!お前なんてことをしてくれたんだ!」
「あらら。ちょっとやりすぎちゃったかしら。」
少年の様子からこのままほおっておけば死ぬことはたしかだった。
「やめてください!まずはこの子を助けることが先です!」
興奮するスタンをミントが止める。
「でも、どうする?治療の道具なんて持ってないぞ。」
「私にまかせてください。」
そう言ってミントは杖を構えた。
『ファーストエイド!』
焼け爛れた肌が少しずつ治っていく。が、1回では効果が不十分だった。
『ファーストエイド!』
1回では不十分だが、回数を重ねるごとに火傷が治っていくのが確認できる。
そして、ミントの精神力が尽きたころには火傷もほとんど治っていた。

「…う…うん…」
「お、気が付いたか。」
火傷が治った少年は意識が戻った。
「…やった…よかっ…た…」
そして、それとは反対に力を使い尽くしたミントは気絶した。
「ボク、どうしたの?」
「火傷してたんだ。それをここのミントが直したんだよ。」
「そうなんだ…。あの、ありがとう。」
「いや、罠を仕掛けたのは俺たちなんだし。悪かったよ。」
「それは大丈夫。ボクが不注意だっただけだよ。
 ……あ…そうだ…ボクは…ボクは…」

落ち着きを取り戻した少年は同時に自分が犯した罪を思い出してしまった…
408罪と償い3:2006/01/11(水) 12:49:59 ID:35AU4cX+
【スタン 生存確認】
状態:無傷
所持品:ディフェンサー ガーネット 釣り糸
現在位置:G3洞窟内、ハロルドがトラップを仕掛けた通路
第一行動方針:他の仲間と合流する ハロルドたちと行動
第二行動方針:目の前の少年(ジーニアス)を保護する。

【ハロルド 生存確認】
状態:無傷
所持品:ピーチグミ ホーリィボトルの瓶 短剣 実験サンプル(詳細不明)
現在位置:G3洞窟内、ハロルドがトラップを仕掛けた通路
第一行動方針:不明
第二行動方針:他の仲間と合流する スタンたちと行動

【ミント 生存確認】
状態:TP0 気絶
所持品:ホーリイスタッフ サンダーマント
現在位置:G3洞窟内、ハロルドがトラップを仕掛けた通路
行動方針:不明

【ジーニアス・セイジ 生存確認】
状態:軽い全身火傷(ほぼ完治) 錯乱状態
所持品:ビジャスコア アビシオンのフィギュア
現在位置:G3洞窟内、ハロルドがトラップを仕掛けた通路
第一行動方針:自分のしたことを悔いる
第二行動方針:自分がしたことの償いをしたい
409デリス・カーラーン:2006/01/11(水) 14:16:01 ID:qX7C2KPB
 赤々と曙光に染まる空の下、鉛色の死が、マーテルとマリアンに容赦なく降り注いだ。
 ウージーサブマシンガンから放たれる弾丸は、たとえ戦士でさえ捉えることは困難なほど高速で飛来する。
 ましてや、それを受けようとしているのは、戦う力を持たないマリアンと、そして戦士としての訓練を受けていないマーテル。
 そして、不意打ちを受けたダオスやミトスには、彼女らをかばいだてするような手段は残されていない。
 たとえミトスが短距離瞬間移動を用いたところで、鉛弾はそれより一瞬速く、二人の体を貫くだろう。
「マーテル――!!」
「姉さま――!!」
 二人に下った死刑宣告は、もはや揺るぎようがない。その場にいた全員が、惨酷なほどに確信してしまった、その瞬間だった。
「させるかぁっ!! マリアンっ!!」
 その声と共に、森の南側から、二条の銀光が迸った。
 金属と金属が、互いの身を叩き合う甲高い悲鳴。銀光はマーテルとマリアンの目と鼻の先で、鉛弾の弾幕をすべて叩き落し、近くの木の幹に突き立った。
 ソーディアン・ディムロス。ソーディアン・シャルティエ。二振りの剣の刀身が、すんでのところで二人を守る盾となったのだ。
(結構身に堪えるな…このやり方は)
 その身から鉛弾の衝撃抜けきらぬディムロスは、思わず一人ごちた。そして、その声に驚愕したのは、マリアンの手の内に収まった、もう一振りの剣。
(この声は…ディムロス!? それに…シャルティエまで!!)
(何とか、まためぐり合えたみたいだ…)
 ささやき合う三振りのソーディアン達。ディムロスとシャルティエをとっさに投擲した、リオンもそこに、重い体を引きずるようにして、追いつく。
「…間に合ったか…」
 満身創痍のリオンは、二人の女性の前で、たまらずに膝を追った。
410デリス・カーラーンの赫怒2:2006/01/11(水) 14:16:39 ID:qX7C2KPB
 殺したと思った。殺していたと思っていた。
 期待してたのに。あの女の顔面が、焼くのを失敗してしまったイチゴのパイみたいに、ぐちゃぐちゃのバラバラになっていたはずなのに。
 むかつく。むかつく。むかつくむかつくむかつく…殺す!
 シャーリィは、自身の狂気と憤怒の命じるままに、再びマシンガンを掲げた。
 今ならあの女を殺せる。転がり込んで邪魔をした黒髪の奴も巻き添えだ。屠殺に失敗した豚みたいに、ドログチャのミンチにしてやる。
 死ね。みんな死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇっ!!!
 ウージーのトリガーにかかった人差し指に、力を込めようとした、その瞬間だった。
「その辺にしておくんだね」
 !? 背後を取られ…!!
 その次の瞬間には、シャーリィの右手はウージーごとひねり上げられていた。
 シャーリィの背後に、いまや立っていたのはミトス。
 姉のマーテルの死は、突然転がり込んできた黒髪の彼が阻んでくれた。
 ミトスは分かる。あんな声でマリアンを呼ぶ彼は、名簿にある名前として、マリアンの名を知っているわけではあるまい。
 マリアンは、黒髪の少年にとってとても大切な人のはず。自分にとっての、姉さまみたいに。
 ミトスは、そこで目を通しておいた名簿の記述から、あの黒髪の少年の名が、リオン・マグナスであることを思い出していたが、この際それは重要事項ではない。
 とにもかくにも、自らの姉の命の無事を確認したミトスは、即座に瞬間移動でシャーリィの背後を取り、腕をひねり上げたのだ。
「ボクにナイフを刺した上に…よくもこんなことまで!」
 自らの姉を狙った不貞の輩…一時は自分達とも手を組んだ少女、シャーリィ・フェンネスへの怒りが、ミトスのうちに膨れ上がった。
 それに呼応するかのように、ミトスの天地はひっくり返っていた。
「なっ!!?」
 腕をひねり上げたと思っていたシャーリィに、逆に投げ飛ばされて地面に叩き付けられた。
 ミトスがそう気付いた頃には、とっさにとった受身で体勢を整える中、彼の金髪が数本、けたたましい音と共に宙に舞っていた。
 あろうことか、シャーリィはひしがれたはずの腕を起点に、逆にミトスに投げ技をかけた上で、ウージーによる追撃をかけていた!
 今は亡きセネル・クーリッジが、妹であるシャーリィに教えた簡単な護身術。暴漢に取り押さえられた時の脱出の技を、シャーリィはかけていたのだ。
 彼の兄は、このゲームで最初に脱落したとはいえ、こうして今でもシャーリィの身を守っている。
 シャーリィは兄に…兄の教えに感謝しながら、今の標的を改めて見定めていた。
411デリス・カーラーンの赫怒3:2006/01/11(水) 14:17:13 ID:qX7C2KPB
「くそっ! あのシャーリィって子、体術の心得まであるのか!」
 後退して間合いを取ったミトス。だがそこに並ぶ金髪の偉人、ダオスの読みは至って冷静であった。
「あの程度の体捌きなら、精々護身術程度の心得しかあるまい。
狂気が彼女を思い切らせているとはいえ、彼女の体術の実力は、素人に毛が生えた程度のものだ」
 今度は、ダオスがずいと前に出る番であった。
「私が相手をする。格闘戦になれば、私の方が力も技術も遥かに上だっ!!」
 金色の風が、森の中を駆け出した。
 金髪を振り乱すダオス。しかしそれを迎撃するシャーリィも、ただぼうっとしていたわけではない。
 シャーリィはその爪を輝かせ、天から三つの火球を招来した。
 「ファイアボール」。滄我の加護を得た紫色の火球は、狙い過たずにダオスを狙う。
 さりとて、この程度の攻撃など、ダオスには牽制程度の意味合いすらなかった。
「甘いわぁ!!」
 肩にかけた外套に魔力を通じさせ、一気に自分の前方を払うダオス。三つの火球は、全てダオスの外套に焦げ跡を作るだけで弾かれてしまった。
 そしてその頃にはダオスも間合いを詰めている。絶対的優位性を保つことの出来る、拳の間合いへ!
「受けるがいい! テトラアサルト!!」
 青い髪のフォルス使い、ヴェイグを撃破した四連攻撃が、シャーリィの体に炸裂した。
 シャーリィが防ぎ切ったのは、初撃の一撃のみ。あとは全て、シャーリィにクリーンヒットを決めた。
「あうっ!!」
 拳に込めた魔力は、シャーリィの肉体を石化させるには及ばずとも、とどめの一撃は彼女の体を吹き飛ばし、近くの木の幹に叩き付ける。
 木の幹がほとんど真っ二つに折れそうなほどの勢いで、その身を強打されたシャーリィ。肺から空気が抜け、脳を揺さぶられる。
 思わず意識が遠のきそうになるシャーリィ。フィニッシュのポーズを維持したままのダオスの傍らには、ミトスも追いついていた。
412デリス・カーラーンの赫怒4:2006/01/11(水) 14:18:55 ID:qX7C2KPB
「さすがだね…ダオス」
「…ふん、魔術を使う相手に、格闘で敗北する方がおかしいのだ」
 ダオスはひとつ、首を鳴らした。睨み付けるは、まだ意識のはっきりしないシャーリィ。
 ダオスの目の奥に、灼熱の怒りが燃える。ミトスの言葉は、今にも火を噴きそうなほどの激情がこもる。
「…貴様…たとえ冗談であっても、マーテルを傷付けようとしたその行為、万死に値する」
「まあ、狙っていたのが姉さまかマリアンさんか…どちらであれ、君は許しがたい罪を犯したんだ」
 刹那、ミトスは胸の前に両の手のひらを掲げ、そこに魔力を集中させる。白く輝く球体が、鼓動を打ち始める。
「…ダオス、合わせて。一度ボクらのもとから離れた時使っていた、あの技を使うんだ」
「ミトス…知っているのか?」
「多分あんたも、ボクと似た技を使えるはずだろう? 僕は目も耳もいいし、何よりあの時のマナの乱れ方、ボクの技にそっくりなんだ」
「…ふん、知っているなら、まあいいだろう」
 ミトスの胸の前の球体は、すでにまばゆい輝きを放っていた。ダオスはもうそれ以上何も言わずに、ミトスに倣った。
 デリス・カーラーンの過去と…そして未来の王。
 くしくも運命がめぐり合わせたこの二人には、似通った力が与えられていた。
 純粋な魔力を両の手のひらに込め、それを光の柱に変えて撃ち出し、全てを焼き払う、その力が。
 もはやまともに目を開けていることすら困難な、光の洪水がその場には起きていた。
「お前をこの世から…塵一つ残さず消滅させてやる!」
「貴様の魂ごと、この一撃で打ち砕いてくれるわ!」
 次の瞬間、魔力の鼓動は、臨界点を突破していた。デリス・カーラーンの赫怒が、ここに炸裂した。
「受けろ! ユグドラシルレーザー!!」
「これで終わりだ! ダオスレーザー!!」
 ミトスとダオス。二人の両手から放たれた極太の光線は、射線上の木々を、草を、葉を、全てを呑み込みながら、シャーリィへ迫る。
「「滅び去るがいい!! ダブルカーラーン・レーザァァァァァァッ!!!」」
 放たれた二本のレーザーは、ちょうどシャーリィが倒れ込んでいた辺りで交差し、周囲を白一色に染め上げた。
 そろそろ「放送」まで秒読みに入るその時刻。
 この島の北東部の空は、朝焼けの赤ではなく、白い光に染まる。
 デリス・カーラーンの裁きが、この地に下ったのだ。
 膨れ上がる爆光は、呑み込んだもの全てを塵に返しながら、なおも貪欲に膨れ上がっていった。
413デリス・カーラーンの赫怒5:2006/01/11(水) 14:23:34 ID:qX7C2KPB
【ダオス 生存確認】
所持品:エメラルドリング
現在位置:B7の森林地帯
状態:TPを中程度消費 シャーリィに激怒
第一行動方針:マーテルを守る
第二行動方針:マーテルと行動
第三行動方針:打開策を考える
第四行動方針:敵は殺す
【ミトス 生存確認】
所持品:ロングソード ????
現在位置:B7の森林地帯
状態:擦り傷、足に軽裂傷、 TPをある程度消費 シャーリィに激怒
行動方針:マーテルを守る
第一行動方針:マーテルと行動
第二行動方針:打開策を考える
第三行動方針:クラトスとの合流
【マーテル 生存確認】
所持品:双眼鏡 邪剣ファフニール アクアマント
現在位置:B7の森林地帯
状態:驚愕
第一行動方針:マリアンを落ち着かせる
第二行動方針:ダオス達と行動
第二行動方針:ユアン、クラトスとの合流
【マリアン 生存確認】
所持品:ソーディアン・アトワイト スペクタクルズ×13
状態:驚愕 疲労 TP微消耗
第一行動方針:眠って頭を整理する
第二行動方針:アトワイトの提案した作戦を実行する
現在位置:B7の森林地帯


【シャーリィ・フェンネス 生存確認】
所持品:UZI SMG(30連マガジン残り2つ) ????
状態:????
第一行動方針:マリアンの殺害
第二行動方針:セネルとの再会(手段は一切選ばない)
現在地:B7の森

【リオン・マグナス 生存確認】
状態:極度の疲労により気絶寸前 全身に軽い火傷 上半身に軽い凍傷 腹部に痛み 右腕に刀傷 肩に刺し傷
所持品:シャルティエ ディムロス 手榴弾×1 簡易レーダー
第一行動方針:マリアンとの再会(ただし再会を恐れてもいる)
第二行動方針:ゲーム参加者の殺害
現在位置:B7の森
414デリス・カーラーンの赫怒の作者:2006/01/11(水) 14:29:05 ID:qX7C2KPB
あ、>>413のシャーリィの項目は
【シャーリィ・フェンネス 生存確認(?)】
に直しといて下さい。
415Destroy 1:2006/01/12(木) 00:30:04 ID:1h8p558P
ミントを洞窟の脇道に寝かせ、スタンとハロルドはジーニアスから話を聞いた。
彼等が居るのは洞窟の入り口から奥に進んだところにある小部屋。
彼女が寝ているのは、ちょうどスタンが最初に彼女を寝かせた場所である。
少年から話を聞いたスタンとハロルドは、思わずため息を付いた。
「そうか・・・それで、その人は?」
「分からない・・・しいながどうなったか、僕は・・・」
語尾を詰まらせる少年に対して、スタンは頭を下げてうなだれた。
仲間を撃とうとするなんて。それも、ずっと一緒に旅をしてきた仲間を。
そしてこの少年もまた、恐怖に心が負かされて仲間を攻撃してしまったのだ。
全く、本当にどうかしている、このゲームは。
「状況から考えると、多分やる気のやつに見つかってそのままやりあった可能性が高いわね」
ハロルドが極めて冷静につぶやく。
その言葉を受けて、少年は更に表情を沈める。
その様子を見ていたスタンは慌てて明るい声を出し、
「と、とにかくさ!まだその女の人も生きてるはずだし、
 ほら、君も無事にこうしているんだから、いいじゃないか!」
しかし対する二人の反応は薄い。
「・・・ミントの様子を見てくる」
暗い空気に耐え切れず移動する。
少年の悲しい顔を見ていると、またあの自分の姿が脳裏に蘇った。
放送により大きく取り乱した自分の姿。
もしもジーニアスが言う女性が放送で呼ばれたら、この少年はどうするだろうか。
そして自分は、どうしているのだろうか。
416Destroy 2:2006/01/12(木) 00:30:56 ID:1h8p558P
「あ・・・」
唐突に声を上げる少年に、思わず立ち止まる。ハロルドも顔を上げる。
「どったの?」
「ねぇ、この辺に誰か男の子が倒れてなかった?」
急に態度を改めて喋りだす少年に圧されながら、スタンとハロルドは顔を見合わせた。
「いや・・・見てないけど」
「この辺に居るはずなんだ、金髪の、ああ、スタンによく似た・・・」
突然名前を呼ばれて訝しがるスタン。
そしてハロルドは何かに気付いたように少年の顔を見つめていた。
「僕が傷つけちゃったんだ。助けてあげて、謝らないと・・・」
そうして少年は立ち上がった。
彼の頭は、これまで自分がしてきたことへの償いをすることで一杯だった。
自分が弱かったせいで、二人の人間を傷つけてしまった。
せめてこれからは、自分の力を正しく使い、仲間を守りたかった。
彼は少し焦っていたのかもしれない。
イセリアの天才と呼ばれる彼も、この殺戮の舞台の毒にやられ、
更に人を傷つけてしまったことで冷静な判断力を失いつつあった。
それが、悔やまれる。
417Destroy 3:2006/01/12(木) 00:31:49 ID:1h8p558P
まだ不思議そうな顔をするスタンは、ハロルドとジーニアスを交互に見やっていた。
そしてハロルドはきょろきょろと周囲を見回す。
と、その表情が固まった。彼女等が通過した、洞窟の入り口側を黙って見つめていた。
「どうした?」
険しい表情を浮かべるハロルドに、スタンが声をかける。
黙って前を見続ける彼女につられて、彼もその方向を見る。
奥へと延々と続く通路は真っ暗で、闇が果てしなく続いているかと思われた。

・・・ふと、その真っ黒な闇の中から、紫色の何かが見えた気がした。
それは少しずつ拡大し、スタン達に迫ってきた。
「伏せて!!」
ハロルドが声を上げた。
次の瞬間、禍々しい極太の光線が頭上を通過し、壁面を撃ち砕いた。
ガラガラと、岩石が崩れ落ちる音が響いた。
「な・・・」
スタンが伏せた体勢のまま顔を上げ、ぶち抜かれた壁面を見やった。
凄まじい威力だった。もし直撃を受けていればただでは済まなかっただろう。
「早く起きて!」
ハロルドが続いて指示を出す。
スタンは急ぎ立ち上がった。光線が飛んできた方向を見つめる。
「・・・ごめんなさい」
険しい表情で、彼女はぽつりと言葉を発した。
「私、浮かれてたわ。罠の方に注意を向けすぎてた。
 本来ならこんなこと、すぐ気付いたのに・・・」
「誰かが、侵入してきたのか!」
スタンはディフェンサーを構え、闇を見つめた。
そして斜線軸上から離れた位置に居たジーニアスは、一人呆然と立ち尽くしていた。

そして、ゆっくりと奥から人が現れた。
赤髪のドレッドヘアの男と、青髪のウェーブヘアの男。
マグニス、そしてバルバトス・ゲーティアだった。

418Destroy 4:2006/01/12(木) 00:32:37 ID:1h8p558P
・・・二人はあの後、川沿いに南下し、西に進路を取った。
マグニスが例の必殺技について熱弁をふるいながらも、獲物が居ないか二人は注意していた。
そうしてやがて見えてきたジースリの洞窟。
そこに人が居た形跡を発見したことにより、二人は再び狩りを始めることにした。
そして中に入ってしばらくして聞こえた、何者かの悲鳴。
誰かが居ることは確かだった。
ずかずかと内部に侵入し、ようやく彼等は獲物を発見した。

「二人・・・!」
スタンが表情を引き締め、突如現れた者達を見ながら言う。
「おいハロルド、あれって・・・確か、マグニスとかいう・・・」
その時ハロルドは少し違和感を覚えた。
てっきりバルバトスの方に反応するかと思っていたが、少し考えれば当然のこと。
『バルバトスを知っているスタン』が都合よくここに連れてこられる確率なんて、かなり低い。
「気をつけなさいよ。マグニスの隣にいるあいつ、かなり強いわよ」
バルバトスを知らないスタンの為に忠告する。
けどちょっと遅かったかもしれない。既に臨戦態勢なのだ。
それからもう一つ、ハロルドは首を回し、ジーニアスを見やった。
「あんたは奥に逃げてて!」
「え・・・でも・・・」
「こいつら二人は私達でなんとかするから!」
語気を強めて少年に語りかける。少年は後ろ髪を引かれながら奥へと消えていった。
419Destroy 5:2006/01/12(木) 00:33:24 ID:1h8p558P
「さぁて・・・行くぜ豚共ぉぉぉ!!」
赤髪の男、マグニスが二人目掛け突進した。
「ハロルド、下がって!」
スタンはそう言い、ディフェンサーを構えて突進してくる男に対し、こちらも走り出した。
「うぉるぁぁぁぁ!!!」
大気を斜めに切り裂く振り下ろし。回避しきれず、やむなく剣でガードする。
凄まじい衝撃が彼を襲い、体勢を崩され後退した。
赤髪の男が持つ武器はかなりのリーチ、そして破壊力を持っていた。
こちらの武器が攻防一体を考案された剣とはいえ、接近戦では分が悪い。
ハロルドが充分に離れているのを確認してから
(ついでになぜかもう一人の青髪の男も離れて見ているだけなのが気になった)、
距離をかせぎ赤髪の男と対峙する。
薄ら笑いを浮かべて手にした刃を掲げる男は、正にマーダー、殺人者であった。

「魔神剣!」
牽制の一撃。
男は全く微動だにせず、斧を強烈に振り上げて地面ごと威力を相殺した。
砕けた岩石がスタンに降りかかった。
再度男が突進する。そして遠心力を最大限に生かした回転斬り。
大きくバックステップを取り、大振りの隙を見て接近。
「甘ぇ!」
マグニスはオーガアクスの柄でスタンの手の甲を弾き、更に前蹴りを叩き込んだ。
屈んだ体勢で後ろに後退させられる。危うく尻餅を着くところだった。
だが男の攻撃はまだ止まなかった。
男は斧を深く握り、渾身の突きを繰り出す
かろうじて剣の面で受け止めたが、その衝撃は凄まじい。
大きく吹き飛ばされ、後ろ向きに壁面に激突した。
「く・・・!」
頭が切れたのか、血が流れ出る。体の節々もじりじりと痛む。

ハロルドはなぜか援護をしようとせず、青髪の男とにらみ合っていた。
それは彼女がバルバトス・ゲーティアという男についてよく知っているからであり、
彼女がこの場で迂闊な行動をとることは命取りだったからでもある。
420Destroy 6:2006/01/12(木) 00:34:14 ID:1h8p558P
再度スタンに走り寄るマグニス。
スタンも急ぎ立ち上がり、剣を構える。
赤髪の男は身を溜め、一気に獅子の闘気を放出した。
「獅子戦吼!!」
対するスタンも大きく体を振り、同様の技を放つ。
二匹の獣が空中で噛み付きあい、消滅した。
「ふんっ!」
マグニスは斧をくるりと半回転させて両手で持ち、
刃を下に向けてスタンを頭から串刺しに・・・否、叩き潰そうとする。
咄嗟に飛び退き、回避。刃の先端は地面の土塊を砕き、中小の岩石が舞った。
マグニスは続けて足を振り上げ、舞い上がった石をサッカーボールの様に蹴り飛ばした。
それはスタンの眉の少し上辺りに命中した。
思わず顔をしかめ、手で傷口を覆う。
しかし男は追撃の手を緩めない。
斧を持つ右拳がスタンの左の脇腹を穿ち、続けて左の正拳を顔面に叩き込んだ。
スタンの鼻から血が流れ出し、体勢が崩れた。
「もらったぜオラァァァ!!」
オーガアクスを高く掲げ、一気に振り下ろそうとする。

だが、その時不意にマグニスの視界の脇に飛び込んできたものがあった。
ピンク色の髪の女だった。手に、短剣を握っている。
「なんだてめぇは!」
ターゲットを変更して斧を斜めに振り下ろす。
ハロルドはさっと飛びのき、手にした短剣を男の足元目掛け投げつけた。
「鏡影槍!」
短剣が男の『影』に刺さり、男の動きを封じた。
「なにっ!?だが、この程度ぉ!!」
「スタン!!」
ハロルドが叫んだ。
その一瞬の後、スタンが彼女の背後からばっと飛び出した。
そして炎を纏った右脚を振り上げ、男の太い首筋に叩き込んだ。
「うおぉぉぉぉ!!」
そのまま勢いに任せて蹴り飛ばす。
今度はマグニスが地面に叩きつけられた。
近くにあった石柱が折れ、砕けた石が数十センチ舞い上がった。
421Destroy 7:2006/01/12(木) 00:35:01 ID:1h8p558P
「はぁっ、はぁっ・・・」
息も荒く、地に伏す男を見下ろすスタン。
ハロルドは短剣を拾い、彼に並ぶ。
そしてハロルドに視線を移し、声をかける。
「どうする、このままじゃ・・・」
「そう、ね、残念だけど勝ち目は薄いわ」
「それと、なんで術で援護してくれないんだよ?」
「あの青い男、バルバトスはこっちが術を撃とうとすると、
 物凄い速さでカウンターしてくるのよ、だから奴の前で迂闊に詠唱はできないわ」
「そうなのか?じゃあ・・・」
「逃げるしかなさそうね」

スタンとハロルドはじりじりと後退し、そして脱兎の如く駆け出した。
「走れ!」
目的地はこの洞窟の更に奥、ミントとジーニアスがいる部屋。
そして二人と合流しそのまま洞窟外まで脱出し、
例の罠を応用させた装置で洞窟を爆破し、穴を塞ぐ手筈だった。

「あぁ?逃げんのか!?」
マグニスは立ち上がりながら二人の背中を見て吼えた。
そしてオーガアクスを垂直に立て、猛烈に走り出した。
バルバトスも後を追う。
「逃がしはしねぇぞ、この豚がぁぁぁ!!」
マグニスの体力からして、怪我を負ったスタン達が追いつかれるのは時間の問題と思われた。

422Destroy 8:2006/01/12(木) 00:35:49 ID:1h8p558P
だがその直後に、ハロルドが二人の間に向けて何かを投げつけた。
宙を舞うそれは、ホーリィボトルの空瓶だった。
否、そこには聖水の変わりに植物が大量に詰まっていた。
そしてその先端には、火が付けられていた。
その瓶が地面に落ちると同時に、凄まじい閃光、爆音が起こった。
「!!」
赤髪と青髪の男の視界が白に染まった。
それはハロルドが罠を仕掛けるのに使った可燃性の植物。
余ったそれを利用して簡易的な火炎瓶を作っていたのだった。

「よし、この隙に・・・」
スタンがそう言った、その直後。
突如上空から灼熱の火球が雨あられのように二人に降り注いだ。
「なっ!?」
両腕で上半身をかばいながら、降りかかる火球を耐えしのいだ。
爆発の陰に隠れて詠唱をしていたバルバトスの放ったバーンストライクが、二人の身を焦がした。

「くっ・・・はぁ、はぁ・・・」
ハロルドは息をつきつつ、傍らのスタンの様子をうかがった。
咄嗟に術防御した自分はよかったものの、直撃を受けた彼はどうなっているのだろうか。
「は、ハロルド、大丈夫?」
身をゆっくりと起こしながら、スタンが言った。体のあちこちが焦げている。
「なんとかね。あんたは?」
「動けることは動けるけど・・・」

「だがここまでだ、な。豚が!!」
「!!」
いつの間にか接近していたマグニスが、斧を振り上げ二人に接近していた。
もはや、回避は不可能と思われた。
そしてその凶刃が振り下ろされようとした時──

螺旋を描く炎の帯が、マグニスに当たり、その身を吹き飛ばした。

423Destroy 9:2006/01/12(木) 00:36:43 ID:1h8p558P
「させないよ!!」
スタンとハロルドが駆け込もうとする穴の奥から、一人の少年が飛び出した。
禍々しい紋様のケンダマを片手に、たった今、術を放ったジーニアスだった。
少年の放ったスパイラルフレアにより、マグニスは大きく体勢を崩していた。
そして少年は、更に詠唱を開始した。
スタンとハロルドは大きく目を見張った。
「ジーニアス!何を!?」
スタンが叫んだ。
「僕だって戦える!僕を助けてくれたあんた達のためにも、これまで僕が傷つけてきた人達のためにも・・・」
ジーニアスは興奮気味に言った。
自分がしてきたことの償いをしたい、その思いが少年を早まった行動に駆り立てていた。
「そうじゃない!」
「それにあいつはあのマグニスだ!ここで倒さないと、みんなが危ない!」
そう叫び、ケンダマを激しく打ち付ける。彼なりの詠唱の仕方だった。
「ば・・・馬鹿!やめなさいっ!!死ぬわよっ!!!」
ハロルドが絶叫した。

「え──?」
詠唱も半端に、戸惑いをあらわに、呆けた表情を浮かべる少年。
そして次の瞬間、青髪の男が動いた。
「術に頼るか雑魚どもが!!」
僅か数秒の内に詠唱を終わらせた男は、腕を大きく振るいジーニアスに向けて術を放った。
突如、闇の魔空間が少年を中心として現れ、収縮し、少年の小さな体を飲み込んだ。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
ジーニアスの悲鳴が洞窟内に響いた。
スタンはただ目の前の光景に気を取られていた。
「屑が!」
青髪の男が再度叫び、魔空間は今度は逆にそのエネルギーを放出し始めた。
中に居るジーニアスからは、もう声が聞こえなくなった。

424Destroy 10
そして黒の魔空間が消え去ったその場に、
ジーニアスは顔を天に向け、だらりと両手を下げて立ち尽くしていた。
その着衣はぼろぼろで、彼の体も所々傷ついていた。
ハロルドは闇の魔力が消えると同時に少年に駆け寄ろうとした。
彼女が持つ、ピーチグミが希望の綱だった。
それならば術を撃たれても回避できると判断した。

そして呆然と立ちすくむジーニアスに手が届くと思われた瞬間、
少年の頭に細長い何かが突き刺さった。
驚き、手を止めるハロルド。
それは石柱だった。
先程赤髪の男が倒れた時に折れた、槍ほどの大きさの石柱。
マグニスがそれを拾い、ジーニアスに投げつけたのであった。

「あ・・・・・・」
スタンは唖然とし、眼前の光景を見ていた。
カタッと石柱が地面に落ちる音がした。
やがてジーニアスはふらりと倒れ、そのまま動かなくなった。

「はっはっは!どうだ、今度は俺さまが仕止めたぜ!」
嬉々として己の行動を絶賛する赤髪の男。
対する青髪の男は、特に動じる様子も無く静かにしていた。