>>779のネタから思い付いた短文を。
会議室から戻ったヴィレッタの机には、なぜか花が飾られていた。
使っていないガラスのコップに活けられた、一輪の黄色いタンポポ。
「…?」
昨日から持続していた怒りに任せて、資料を乱暴に置こうとした手が止まる。
茎のあまり強くない植物だから、そんなことをすればくたりと曲ってしまうかも知れない。
謎の生け花を眺めながら、静かにヴィレッタは席についた。
「お帰りなさい、隊長」
奥の給湯スペースから出てきたのは、大きなコンビニ袋を手に持ったマイ。
そのままヴィレッタの側まで来ると、その中身を机上に次々と置いてゆく。
「あら、あなたしかいないの?」
「うん。みんなはもう一度訓練に行ってくるって」
「…そう。確かにあれでは演習にならないものね」
今日のヴィレッタは個人的な感情をひた隠すのに精一杯だった。
昨日目撃してしまった「彼」の笑顔。その視線の先にいたのは、自分の知らない可愛らしい少女。
認めたくない。認めたくはないが、この感情の源はその光景に間違いないのだ。
この激情を押さえ込むのは思ったよりも手強く、普段なら難無くこなせる事柄にすら精彩を欠いていた。
そう、例えばーPT演習で、ライどころかリュウセイにまでストレート負けをしてしまうくらいに。
「ずいぶん強くなったわね」と誤魔化した物の、他の4人は誰も喜んでいなかった。
(聞いてしまえばいいのだろうけれど…でも…)
「はい、隊長。どれにする?」
「どれに、って…え?」
プリン、シュークリーム、チョコレート、ロールケーキ、チーズケーキ。
アイスクリーム、ヨーグルト、ゼリー、キャンディー、アップルパイ。
物思いに耽っている間に、数多の菓子がヴィレッタの机を占拠していた。
「幾つでもいいよ。でもあんまりいっぺんに食べ過ぎるとお腹を壊すと思う」
「そ、そうね…じゃあこれを」
シンプルな板チョコを手にとると、満足げにマイは微笑んだ。