「やあ、ヌヌザック、久しぶりだね。」
「あなたは、ポキール殿!?」
「草人は旅立つ時がきた。行かせてやってくれないか?」
「ポキール殿、賢人はそんなにも争いがお好きなのか?
甦ったマナの気を争って、また多くの血が流されることを
お望みになるのですか?
マナの木なしでも、こうして生きてこれました。
力は災いの元です。
賢人のご忠告とはいえ、聞くわけにはまいりませぬ。」
「マナの木が無くても人は生きていける。
だが、マナの木があれば、人はもっと豊かになる。
人は誰も愛していなくても生きていける。
けれど、愛すれば豊かになる。
これは、同じことなんだ。ヌヌザック。」
「しかし、誰より豊かになりたいと思うものは、人を傷つけ、その人の物を奪うでしょう。
心の平穏とは、何も望まぬことにあると信じます。
マナの木は、無用のものです。
今、この世界にある物だけで、人の生きてゆく糧は、充分足りております。」
「ヌヌザック、話がズレてるよ。
今キミが見ている世界は、宇宙のほんの一部なんだ。
マナの木は無限の力の源。
だけどその力は、本来は人の中にあるものなんだ。
力は常に自分自身の中にある。
マナの木に触れることで自分の本質に気が付くだけなんだ。
人に足りないものは、生きていく糧なんかじゃない。
愛するということさ。」
「愛するですと?」
「愛が力になる。
キミが誰かを愛すれば、キミもその相手も、満たされる。
罪を犯した者、貴方を憎んでいる者、親しい者、会ったことの無い誰か、
そして自分自身、
全てを許し、全てを愛し、
全てを理解した時、全ては新しく生まれ変わる。」
「フッ……
賢人殿の欺瞞に満ちた言葉は私にはさっぱり……」
「ヌヌザック、君はこの世界に正しき者よりも愚かな者の方がたくさんいると思い込んでる。
キミは何かが起きたとき、愚かな者と争うつもりでいる。
君は胸の中で、負のイメージと争いながら、それを世界だと信じている。
だが、女神がつくりたもうた命に愚かな者はない。
それを信じるだけでいい。
君のイメージが力になる。
君の言葉が世界になる。
信じるだけでいい。」
「現実は夢ではありません。
そのようなことは叶いません。
マナの木が甦れば、不死皇帝や炎帝ロンウェイのような輩が
現れるのは目に見えています。
そうなれば、私は学生たちに、本当の召喚術を教えなければなりません。
それこそ世は闇です。」
「それは過去のことさ。
力で奪う時代はもう終わった。
ヌヌザック、人の愚かさばかりを見る、キミの生き様に
光明はあったかい?
マナの女神の与えた世界が、
苦痛に満ちているだけなら、
それは誰のための世界なのだ?」
「愚かは他人事ではありませぬ。
愚かなるは、人と言う種族そのもの。」
「ならばそれでいい。
君の判断に従おう。」
「待って下され!!ポキール殿!!
私は弱い人間です。愚かな私の判断に委ねずと、
その手でひねりあげてくだされ。
我ら弱き者を導いて下され。
賢人殿の神のごとき力をお示しくだされ!」
「君に全てをまかせる。
しいて言うならば、それがボクの力だ。
キミが、世界を目茶苦茶に
破壊し尽したとしても
かまわない。
それでも、ボクはキミを祝福する。」