第三次スパロボキャラバトルロワイアル3

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1それも名無しだ
ここはスパロボのキャラクターでバトルロワイアルをやろうとするスレッドです。

【原則】
・リレー企画ですのでこれまでの話やフラグを一切無視して書くのは止めましょう。
・また、現在位置と時間、状況と方針の記入は忘れずに。
・投下前に見直しする事を怠らないで下さい、家に帰るまでが遠足です。
・投下後のフォローも忘れないようにしましょう。
・初めて話を書く人は、本編を読んでルールや過去のお話にしっかり目を通しましょう。
・当ロワは予約制です。投下する前にスレでトリップを付けて使うキャラを宣言しましょう。
・予約の期限は五日。期限内に書き上がらなかった場合の延長は二日までとなります。

【ルール】
・EN・弾薬は補給ポイントを利用することで補給することができます。
・補給ポイントは各キャラの所持するマップにランダムに数個ずつ記載されています。
・機体の損傷は、原則として機体が再生能力を持っていない限り直りません。
・再生能力も制限で弱体化しています。
・特定の機体がスパロボのゲーム内で持っている「修理装置」「補給装置」はありません。
・8時間毎に主催者からの放送が行われます。
・放送毎に主催者がMAP上に追加機体の配置を告知します。
・乗り換えは自由です。
・名簿は支給されます。

【備考】
・投下された作品に対して指摘をする場合は、相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、ミスがあった場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・スパロボでしか知らない人も居るので、場合によっては説明書きを添えて下さい。
・おやつは三百円までです。使徒やゲッター線は好きに食べてください。
・水筒の中身は自由です。健康を謳いながらハバネロやステビアを添加するのも自由です。
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
・作品の保存はマメにしましょう。「こまめなセーブを忘れるな」って昔どっかの元テロリストも言ってました。
・イデはいつ発動するか分かりません。本当にあった怖い話です。


まとめwiki
http://www31.atwiki.jp/suproy3/

したらば避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13329/

前スレ
第三次スパロボキャラバトルロワイアル2
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1261810062/
2SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 13:56:23 ID:I3QkpC6d
再度の竜巻が吹き荒れ、辺り一帯を包み込む。
生身のテッサを庇うべくジャイアントロボが膝をつき、その手に包み込んだ。
二本の脚で立っているのは暗黒大将軍、大雷凰、R-GUNリヴァーレ――そして驚くべき頑強さを見せるディアブロ・オブ・マンデイ。

「女! ダイヤ達を連れて逃げろ!」
「五飛さん、あなたは!?」
「言っただろう、やる事があると! こいつらは俺が倒す!」
「そんな、無茶です!」
「早く行け! 巻き込まれればもう助けられん!」

言って大雷鳳はR-GUNリヴァーレへと飛びかかっていく。
R-GUNリヴァーレは剣を構え大雷鳳を迎撃しつつ、ガンスレイヴを放ち暗黒大将軍へ向かわせる。
その逆側からディアブロが斧を振り上げ、暗黒大将軍は鞘に納めていた自身の剣を抜き放ち二刀を構え迎撃する。

大雷鳳の蹴りから放たれたプラズマの刃が、
R-GUNリヴァーレのスレイヴから放たれる光が、
刃の結界を創り出すディアブロと暗黒大将軍の刃が、
絶えることなく吹き荒れる竜巻が、

そこにある全てを裂き、砕き、削り取っていく。

「だ、ダメ……ロボ! ダイヤ君達のところに……!」

介入も観戦もできないと痛感したテッサが、ジャイアントロボをダイヤとイルイの元へ後退させる。
気を失ったらしいダイヤを抱え上げ、三人はジャイアントロボの手の中に収まる。
そうしている間にも烈風は吹き続け、イルイの小柄な体は吹き飛ばされそうだ。

「しっかり掴まってて、イルイちゃん! ここから離脱します!」
「で、でも! あの人は……?」
「五飛さんは……きっと、自分で何とかします! いえ、私達がいれば邪魔になるんです! だから……!」

頼みの綱だったガンバスターも、ダイヤが気絶している現状では使いようがない。
無為にこの場に留まっていれば流れ弾で全滅するかもしれない。だから――

「ここは、逃げるんです……!」

仲間を、五飛を見捨てて、逃げる。
ダイヤが眠っていて良かった。そんな事を思ってしまうテッサ。
3SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 13:57:10 ID:I3QkpC6d
ジャイアントロボが飛翔する。未だ戦いの渦中にある五飛を残し、一路東の海へ向かって。
最初は基地に行くことも考えたが、向かっている途中なんと天から光が降り注ぎ基地施設を破壊していく。
攻撃を受けている。おそらくは成層圏からの狙撃だ。
今すぐにでも向かって止めさせたいところだが、宇宙へ上がる手段がない。シャトル発着場一帯は真っ先に攻撃されていた。
何より、テッサには宇宙に上がるという考え自体思い浮かばなかった。普段は潜水艦の館長をしているのだから、当然と言えば当然だが。
地図の端に飛んだところですぐ行き止まりになると思ったが、どういう訳か遥か彼方に陸地が見える。
突き詰めて考える事も出来ず、テッサはただその方向へ向けてロボを移動させることしかできなかった。

しばらく飛んだが、追撃はない。おそらく五飛が押さえてくれているのだろう。
会ったばかりのテッサ達を守るために、自らの命を賭して。

「ゼンガー……助けて、ゼンガー……!」

イルイが祈るように呟く名前。知らない、名簿にも載っていない名前だ。
少女は固く目を瞑り、その人物の名前だけを繰り返し連呼する。

「私は……無力ですね……」

遠くなる戦いの気配。
強く固く握られるイルイの小さな手だけが、テッサの意識を現実へと繋ぎ止めていた。




【一日目 8:40】

【ツワブキ・ダイヤ 搭乗機体:なし(ジャイアント・ロボに同乗中)
 パイロット状態:気絶、疲労(中)
 機体状況:なし
 現在位置:A=4 海上
 第一行動指針:???
 最終行動方針:皆で帰る】

【イルイ(イルイ・ガンエデン) 搭乗機体:なし(ジャイアント・ロボに同乗中)
 パイロット状態:良好、疲労(小)
 機体状況:なし
 現在位置:A=4 海上
 第一行動指針:ダイヤ、テッサと一緒にいる
 第二行動指針:ダイヤに暗黒大将軍の伝言を伝える
 最終行動方針:ゼンガーの元に帰りたい
 備考:第2次αゼンガールート終了後から参加】

【テレサ・テスタロッサ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日)
 パイロット状況:良好、全身に痛み、疲労(小)
 機体状況:全武装の残弾50%、全身の装甲に軽い損傷
 現在位置:A=4 海上
 第一行動方針:安全な場所まで逃げて、ダイヤを介抱する
 第二行動方針:仲間を探し、部隊を形成する
 第三行動方針:首輪を外す
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】
4SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 13:57:55 ID:I3QkpC6d
     ◆


「がはっ……!」

天から叩き落とされた雷の巨人。
逞しかった体躯は、見るも無残にほぼ全面の装甲を砕かれている。
喉から込み上げてきた液体が、コクピットを濡らす。
張五飛はぼんやりと悟る――ああ、死ぬだろうな、これは。

レイ・ザ・バレルを突破する際に少々無理をしすぎたらしい。
至近距離で炸裂したガンスレイヴは大雷鳳のみならず五飛の肉体をも傷つけていた。
身体を見下ろしても、破片で傷ついていない場所を探す方が困難だ。

だが不思議と身体は動く。軽い、まるで羽のように。

「システムLIOH……。この俺が機械に手助けされるとは……な」

それは実のところ手助けでも何でもなく、ゼロシステムと同様にパイロットの安全を度外視し一個のパーツとして扱う悪魔のシステム。
だが今の五飛には有難い。痛みや苦しみを感じる事なく戦い続けられるのだから。

ダイヤ達はもう大分前に離脱したのを確認している。彼らを逃がす事だけが目的tだったなら、もう撤退してもいいのだが。
五飛の正義と、自身の身体がそれを許さない。ここで退けばもう二度と悪を屠る好機は巡って来ないだろう――死と言う断絶の前には。
ガンダムパイロットとして幾多の戦場を駆け抜けてきた五飛に、死の恐怖はない。
今度は自分の番だった、ただそれだけの事だ。

だが――だからと言って、死に際に自分を曲げる気などさらさらない。
どこにいようと、どんな時でも、張五飛は強くあらねばならない。
それがガンダムパイロットとしての、『ナタク』を駆る者としての、たった一つの責務。

「お前は……ナタクではない。だが強き者……大雷鳳! お前の正義を見せてみろ……ッ!」

搭乗者それぞれにアジャストされる雷鳳・大雷鳳は、本来これと言った武装やモーションプログラムを持たない。
現在の格闘戦特化の調整はテストパイロットだった一人の青年に合わせた仕様だ。
その最奥――厳重に封印された機動パターンの奥底に、ある一つのプログラムを発見する。

コード・神雷――全てを砕く神の雷。

システムが警告する。少しでも制御をしくじれば、大雷鳳はその瞬間に砕け散ると。それほどに高難度の技――

「……面白い! お前の正義がその技だというのなら、俺の正義で使いこなして見せよう!」

躊躇わず、プログラムを起動させる。
敵は三体。

――誰彼構わず嵐を放ち、二刀を振るう異形の巨人。
――ジョーカーであるレイが駆る、正体不明の機体。
――ある意味この中では一番組みし易い、近接戦用の斧しか持たない機体。
5SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 13:58:48 ID:I3QkpC6d
一度に砕けるのは、一つだけ。二度目の攻撃を仕掛ける余裕はない。
レイと斧の機体が組んでいるのは既に知っていた。
異形の巨人は五飛と同じだ。己以外の全てに攻撃を仕掛けている。
では、レイか斧の機体を砕くべきか。そうすれば残るは異形ともう一体、どちらが勝つにせよ片方は落ちるだろう。

そして生き残るのは殺戮者のみ――論外だ。全て倒さねば五飛がこの場に残った意味がない。
誰に切り札を切るか。それを見誤ってはならない――

そして、状況が動く。

「ええい、小賢しいハエどもめ! 一気に片付けてくれる!」

業を煮やした異形が左手のサーベルを鞘に納め、右手の大剣を構える。
震える剣に凄まじいエネルギーが集中するのがわかる。おそらくは、あれが奴の切り札。
対抗するようにレイが距離を取り、胸元から砲身を露出させる。
この戦いの中一度として全力の砲撃を見せられた事はないが、相当威力に自信があるのだろう。
斧の機体に牽制を任せ、自身はチャージに専念している。

「もはや俺は眼中にないという訳か……だが、な!」

地に這っていた大雷鳳が飛び起きる。両腕を無くし、満身創痍となりつつも死地へと踏み込むその足取りに遅滞はない。

「ダイナミック・ライトニング・オーバー……大雷鳳! 行くぞ……ッ!」

大雷鳳の頭部、眼帯状のパーツが開かれる。現れる、千分の一を見通す遥かなる瞳。
背のプラズマコンバーターから莫大なエネルギーが放出され、光の翼――否、光の不死鳥となって大雷鳳を前に進ませる。
気付いたレイが振り向く刹那に、

「チャージなどさせるかああッ!」
「何っ!?」

全力で蹴り上げる。
宙に舞うR-GUNリヴァーレ。だが大雷鳳はその後を追わない。
その時には既に、先行していたディアブロ・オブ・マンデイの背後に現れている。

「もっと速く!」
「ぐおおおおおっ!」

時空すら軋ませるほどに鋭い蹴りが、ディアブロをR-GUNリヴァーレに続かせる。
そして残った暗黒大将軍、その剣が振り下ろされる前に。

「もっと強く!!」
「な……なんという速さだ!」

一瞬にして視界から消えるそのスピード、まさに雷。
セレブレイドが叩き落とされ、腕を押さえた暗黒大将軍の顎を蹴り上げる大雷鳳。
暗黒大将軍の視線の先には、先に行った二機が仲良く衝突している。
6SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 13:59:31 ID:I3QkpC6d
「もっと熱く……!!」
「があっ!」

当然、暗黒大将軍もまた続く形で打ち上げられる。
激突。痛みはそれほどでもないが、小賢しくも斧の機体に殴りつけられ離脱のタイミングを逃してしまう。
R-GUNリヴァーレはアキシオン・バスターのチャージを緊急停止させた事により、短時間の行動不能に陥っていた。
一塊になって、身動きの取れない状態――格好の的だ。

腕のない大雷鳳が脚を叩き付け、地を震わせる。
凄まじい噴射炎が地表をめくり返す。
相当に強力な一撃が来る。それが、この瞬間三者に共通する思考。

「俺の正義に応えろ……大雷鳳! うおおおあああああああああッ!」

そして、発進――それはまさに地上から昇り上がる隕石。
雷光が視界を埋め尽くす。
もはや回避は不可能と見た暗黒大将軍は、斧の機体の頭をそれぞれ掴み、前に押し出す。
避けられないのなら耐え抜くのみ。
当然斧の機体は抵抗したが、不意に周囲に現れた紫色の何かが至近距離でその顔面へ光弾を放ち動きを止める。
どういうつもりだ、と訝しんだその一瞬に、衝撃は来た。


「砕け散れええええええええええええええええええええええッ!!」


五体全てがバラバラになるような痛み。
回る、周る、廻る――遥か天へと吹き飛ばされている。
見えるのはただ、雷光と砕け散った鋼鉄の破片のみ。
視界が反転する。今度はどうやら落ちているようだ。


天地を引き裂く轟天の蹴りが、荒野の迅雷となって駆け抜けた。
7SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 14:00:12 ID:I3QkpC6d
     ◆


「名も知らぬ戦士よ。貴様もまた、強敵と呼ぶに相応しい男であった」

更地となった荒野に立つは、ミケーネ帝国の武人。
張五飛渾身の一蹴りは、暗黒大将軍を討つ事は叶わなかった。
その強敵は今、暗黒大将軍の目前で塵と化した。暗黒大将軍をして戦慄成さしめる力、その対価を払ったのだ。
ひどく、身体が痛む。どこと言うところはない、全てが痛む。
鮮やかに閃き消えた雷光の、ただ一つ残る存在の証。

「俺はこの痛みを忘れん。この戦いを、生涯を通し誇り続けよう」

手向ける言葉は称賛だ。
剣鉄也、兜甲児。そして草薙剣児。
この地には彼らに勝るとも劣らない戦士が集められているらしい。

「死力を尽くした戦いこそ武人の誉れ。剣鉄也……奴との来たるべき決戦の前にこうも強敵と巡り合うとはな」

剣を手に振り向く。
そこには胴から真っ二つになった斧の機体、ディアブロ・オブ・マンデイが転がっている。

「だが、そんな奴ほど早死にし、貴様らのような腑抜けばかりが生き残る。嘆かわしい事よ」
「それは済まないな。だが、俺にも俺の都合というものがある」

応えたのはアマンダラ・カマンダラ――ではなく、レイ・ザ・バレルだ。
暗黒大将軍の間合い、そのギリギリ外にR-GUNリヴァーレは滞空している。
その手にはディアブロの大斧を握り締めていた。

「貴様、そやつとは同胞であったのではないのか?」
「いいや。必要に迫られたから手を組んだだけだ。要らなくなれば切って捨てる――そんなものだろう」
「フン、礼節を知らぬ愚か者め。降りて来い、相手をしてやる」
「遠慮しておく。俺も大分消耗した……お前とやり合って負けるとは思わないが、確実に勝てる確信もないからな。この場は退かせてもらおう」
「俺から逃げられると思うのか?」
「彼の相手をしてやってくれ。お前をご指名のようだ」

レイが示す先には、倒れ伏すガンバスターによじ登る老人の姿があった。
老人――生体電流システムをカットされ、急速に老いていくアマンダラ・カマンダラの姿が。

「ああなってはもはや手を組んでいるメリットもない。お前が始末を着けてやってくれ」
「小僧……貴様、戦士の誇りはないのか!」
「あいにく俺は軍人なのでな。では、失礼させてもらう」
8SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 14:00:57 ID:I3QkpC6d
ガンスレイヴが迫る。
暗黒大将軍が剣を一閃させた時、もうR-GUNリヴァーレはどこにも見えなくなっていた。
そしてガンバスターが起動する。暗黒大将軍を遥かに超える巨体が、ゆっくりと立ち上がった。

「貴様ら……許さん、許さんぞ……! この私を誰だと思っている……!」
「利用され、ボロ屑のように捨てられる。哀れなものだ……。よかろう、俺が貴様を冥府へと送ってやる!」

ガンバスターは操縦者の動きをトレースする機体。
ダイヤや健康であった時のアマンダラならいざ知らず、腰が曲がり髪も全て白く染まった老人に活かし切れるはずもない。
立ち上がったまま、微動だにしないガンバスター。
その中枢、アマンダラが乗り込んで行ったコクピットを見据え、暗黒大将軍がセレブレイドを構える。
プラズマドライブ、起動。
そして暗黒大将軍自身の技である竜巻を剣身に纏わせる。
先ほどの拡散放射ではない、一点集中の必殺戦技。

「喰らえいッ!」

放たれた竜巻が200mを越える巨体を包み込み、締め上げる。
力無きアマンダラの身体が翻弄される。だが、巨体の頑強さ故に倒れることも許されない。
竜巻の中心、無風空間の只中を駆け抜ける黒の烈風。

風を越え、音を越え――光をも超える。

これこそが暗黒大将軍とセレブレイド、正義と悪の合一した最強の一撃――


「ぬううううおおおおおああああああああああああッ!!」


――デスストラッシュが、ガンバスターのコクピットを貫いた。
9SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 14:02:54 ID:I3QkpC6d
「チッ、人間もこんな物を作るに至ったか。地上制圧を急がねばならんな」

静寂に包まれた戦場。
未だその原形を保つガンバスターを見上げ、暗黒大将軍は呟く。
全力全開、渾身の一撃を持ってしてもこの巨神を破壊する事はできなかった。
サイズの違いもあるが、尋常ではなく厚い装甲。一点を突破するのが精一杯だ。

「破壊しておきたいところだが……これ以上消耗するのは得策ではない。
 今はどこかで休息を取る方が先決だな」

こんな状態で剣鉄也と出会えば苦戦は必至だ。
逃げるくらいなら戦わない方がまだ良い。全力を出せず敗れるなど武人の風上にも置けない無様。

剣を収め、暗黒大将軍は歩き出す。
激戦の傷跡、強き戦士の魂をその身に刻んで。
往くはただ、修羅の道のみ。


【一日目 8:40】


【暗黒大将軍 支給機体:セレブレイダー(神魂合体ゴーダンナー!! SECOND SEASON)
 パイロット状況:全身に大きなダメージ、激しい怒り、疲労(大)
 機体状況:良好、ENを60%程消費、セレブレイドに変形中
 現在位置:F-4
 第一行動方針:剣鉄也に勝利する
 第二行動方針:マジンガーとの戦いに横槍を入れた者を成敗する
 第三行動方針:ダイヤが現れたのなら決着を着ける
 第四行動方針:余裕ができたらガンバスターを破壊する
 最終行動方針:ミケーネ帝国の敵を全て排除する
 備考1:セレブレイドは搭乗者無しでも使い手側の意思でプラズマドライブが機動できるようになってます
    無論、搭乗者が普通に機体を使う事も可能です】
10SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 14:03:53 ID:I3QkpC6d
     ◆


「ジョーカーが一人脱落、だが俺のカウントは増えず終い……か。失態だな」

疲労も色濃い声で呟くレイ・ザ・バレル。
何とかあの戦いを切り抜けたものの、得た物は皆無に等しい。幾許かの情報と引き換えに、大きく消耗しただけだ。

「いや、だが……そう悲観する事もないか。これでわかった、いくらジョーカーとはいえ俺が一人で勝ち残るのは難しい……」

特別な機体を与えられたとはいえ、それ以上に強力な力はいくらでもあるようだ。
張五飛の機体を別にすれば、あの暗黒大将軍という化け物に200mはあったであろう機体。とても一人では殺し尽くせない。
そこでレイは他の参加者と協力する事を考えつく。もちろん勝ち残る事が狙いなので、最終的に裏切るのが前提だが。

アマンダラと組んだのは、彼から共闘を持ちかけられたため。レイと出会う前に強敵と交戦したらしく、仲間を求めていたのだ。
薄々と感じてはいたが、その関係は長続きしなかった。向こうも向こうでレイを盾にする事を考えていただろう。
信用できる、少なくとも当面は裏切らない仲間が必要だ。
名簿をめくり、目に留まった名前は二つ。

「シン・アスカ。そして……ラウ・ル・クルーゼ」

シン・アスカ。
レイのたった一人の友と呼べる男。たとえその関係が欺瞞に満ちたものだったとしても。
崩れゆくメサイアで聞いた、彼の最後の声。
彼が愛した少女を理由に使い、自分の命が長くない事も加えて新世界の守護者にさせようとした少年の、声。

「生きろと……俺に生きろと、お前は言ってくれたな、シン」

だが、今のレイを見れば彼はどう思うだろうか。
生きるために他者を殺そうとするレイを、守るために剣を取ったシンが見れば――

「これ以上、お前に嘘はつきたくない……。だからシン、お前が立ち塞がるなら、俺は……」

また共に歩めるかどうか、それはわからない。だが彼にだけは嘘はつけない。
たとえその結果、銃を向け合う事になったとしても。


そしてもう一人。こちらはもう一人のレイともいえる存在。

「ラウ。あなたも俺と同様に、死の淵からここに呼び出されたというのか?」

だとしたら、彼は今のレイを知らないだろう。
レイが体験した戦いも、想いも。
もはやレイがクルーゼとは違う一個の人間として、ここにいるという事を。

「あなたの事だ。この場でもあなたらしく生きているんだろうな」

すなわち、世界の破滅。それを成すために、最後の一人になろうとしているはず。
こんなところでも似るものか――と、レイは苦笑する。
11SWORD×AX ◇I0g7Cr5wzA:2010/01/09(土) 14:04:58 ID:I3QkpC6d
「だが――。だがラウ、俺は俺だ。俺の命はもう、俺の物なんだ……だから」

決意はできている。
シンと同じだ。立ち塞がるなら、誰であろうと排除するのみ。
たとえそれが兄であり父であり自分でもある男であっても。
もう選んでしまった。引き金を引いてしまった。

そう。
だから。



「俺は、俺の道を往く……!」





【一日目 8:40】

【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:EN残り50%、装甲各部位に損傷(再生中)、ガンスレイヴ一基破壊(再生中)、ディアブロ・オブ・マンデイの大斧を所持
 現在位置:E-4
 第一行動方針:生き残るために戦う
 第二行動方針:シンを探す。協力を要請するが、場合によっては敵対も辞さない
 第三行動方針:ラウは……
 最終行動目標:優勝狙い
 備考1:メサイア爆発直後から参戦
 備考2:原作には特殊能力EN回復(大)がありますが、エネルギーはポイントで補給しなければ回復しません】



【アマンダラ・カマンダラ(重戦機エルガイム) 死亡】
【張五飛(新機動戦記ガンダムW) 死亡】

【ボスボロット(グレートマジンガー) 大破】
【大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α) 大破】
【ディアブロ・オブ・マンデイ(ガン×ソード ) 大破】

※ガンバスターはF-4に放置されています。
※ガンバスターはバスターマシン一号機のコクピットに該当する部位を完全に破壊されました。
12それも名無しだ:2010/01/09(土) 20:08:09 ID:5KvwZuUT
遅ればせながら投下乙!
なんかもう、そこかしでバトルが激化し始めてるなぁ、まだゲーム開始から数時間なのに。
13それも名無しだ:2010/01/09(土) 20:29:55 ID:0PSNook3
投下乙です

一言だけ…GJ!
14それも名無しだ:2010/01/09(土) 20:31:01 ID:2tyPcM6l
>◆MeiOuuUxlY
>◆I0g7Cr5wzA
投下GJ
どちらも大人数を上手く捌いて描いて面白くて魅力的で……
その技量に嫉妬せざるを得ない
15それも名無しだ:2010/01/09(土) 20:33:17 ID:afPVDWRf
投下乙
16それも名無しだ:2010/01/09(土) 20:35:39 ID:afPVDWRf
投下乙
17それも名無しだ:2010/01/09(土) 21:40:55 ID:CG3BqRHG
投下乙です
やっぱ妖精さんがいないとショウは駄目だったか・・・
五飛も頑張ったよ

しかしこれで予約が無くなってしまった・・・
18それも名無しだ:2010/01/10(日) 01:02:38 ID:q7UccYLq
予約とまったから燃料と呼べるか分からないもの振ってみる。


・対主催 27/70
テッサ ガイ プルツー カナード 万丈 鉄也 中条 カズマ タスク ドモン 紅茶 ジュドー
ギリアム、一騎 ダイヤ、イルイ ミスト ジロン、テッカマンレイピア ルリ バニング
ジャミル、シーブック トビア、トレーズ ロム・ストール、カノン

・マーダー 16/70
(無差別)カヲル ウンブラ Dボゥイ ガトー ウォーダン 暗黒大将軍 アルベルト シン
(奉仕・他)ティンプ 翔子 プル クルーゼ イネス・真矢 テッカマンアックス ディアッカ

・特殊 6/70
ラカン シリウス アポロ  ジ・エーデル ヴァン レーベン

・死亡 15/70
総士 カラス エイジ 剣児 エリート兵 ウェンドロ エルデ テッカマンランス
五飛 コウ 弁慶  アマンダラ ルネ ショウ 忍

・ジョーカー 6/70
アギーハ、ヴィレッタ、甲洋、イスペイル、レイ、シンジ

死者15名、マーダーがジョーカーでやる気あるの含めて20名って感じだね。
生き残りが55名だから生き残りの1/3がマーダー役なわけである。
せめて1/2はマーダーやってほしいなっと愚痴ってみる。
19それも名無しだ:2010/01/10(日) 17:02:08 ID:Z3eE6okr
予約がもう三件だと……?
20それも名無しだ:2010/01/10(日) 17:24:44 ID:q7UccYLq
落ち着け! 投下は火曜日以降だ。それまで落ち着いて待つんだ!!
21それも名無しだ:2010/01/10(日) 17:29:28 ID:rgHYGpej
死人がさらに増えそうでドッキドキだぜw
いいぞもっとやれ
22それも名無しだ:2010/01/10(日) 18:10:48 ID:mSkIDV0d
一体どれだけ死ぬんだw
まだ各キャラ登場1回2回の段階だぞwww
23それも名無しだ:2010/01/10(日) 18:25:05 ID:/uTft8Px
今回は早期決着が望めそうな勢いwww
まあ支給機体がそれを許しそうに無いけどさw
24それも名無しだ:2010/01/10(日) 19:47:10 ID:peZOFfZs
嬉しい誤算だね
予約がもう来たw
25それも名無しだ:2010/01/10(日) 21:44:53 ID:koF56OYB
一話につき一人死ぬと計算して、残りは最大55話か。
なんだ、まだまだ先はあるじゃないの。大丈夫大丈夫www
26それも名無しだ:2010/01/10(日) 22:34:33 ID:q7UccYLq
さらに追加予約だとぉ!?

うわぁ! パワーが違いすぎる!?
27それも名無しだ:2010/01/11(月) 12:41:47 ID:7gLk5vf+
ファフナーキャラが人気だなぁw
28それも名無しだ:2010/01/11(月) 13:03:50 ID:rMavNwdE
一番同作品参加者おおいしな。
1次2次と違ってUCガンダム系の参加者は少ないイメージがある。
シーブックとかコウとかジョドーとか主人公だけでもこれだけ出てるから充分ではあるけど。

参加者の中では種運命のシンが一番興味あるな。ぶれてぶれて最後にはマシンセルに取り込まれそうで。
29それも名無しだ:2010/01/11(月) 20:06:24 ID:pbkkXvcm
ファフナーこんなに出して書く人いるのかとか思ったけど余計な心配だったわ
30 ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:50:55 ID:E56/fiPd
ではロム兄さん、カノンを投下します。
31理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:51:42 ID:E56/fiPd
目の前の青年は確かに正義の味方に見える。
赤毛の少女、カノン・メンフィスの認識は変わらない。
慣れない機体であるクストウェル・ブラキウムから降り、自分の目で見れば更にその認識は深まった。
強化スーツのようなものに覆われた屈強な肉体には言いようのない頼もしさが感じられる。
カノンは思わず息を呑む。
この男と同じ場に居るだけで気後れしてしまいそうな感覚が襲う。
彼から滲み出るような気迫が自分の違いを浮き彫りにしているようだ。


「あ…………」


カノンは何かを言おうとする。
しかし、言葉とは到底思えない音を洩らすだけで終わってしまう。
そもそもカノンは自分がどんな言葉を出そうとしたのかもあやふやだ。
ただ、助けられたから。
この男、ロム・ストールと名乗った男に助けられたから。
だから礼を言うのは必要だ。
カノンはそう思っていた。
だけど何故だか言葉が出ない。

先程のカノンは見ているだけだった。
慣れない機体だったからと言いわけは出来る。
しかし、結局のところ何も出来なかった。
そしてカノンはたった一言のお礼を述べることすら出来ないでいる。
同時にカノンは自分自身に悔しさや苛立ちなどが混ざり合った感情を覚える。
なにより感じたのは――戸惑い。そう、戸惑いだ。
たとえば道生と共に竜宮島に連れられ、家族という存在を与えられた時のように。
カノンは、何を一体どうすればいいかがわからなかった。
一向に次の句を続けないカノンだが、その沈黙は静かに破られる。


「無理に話すことはない。落ち着いたら話でもしよう。
君のことであっても、俺のことであっても……俺は構わない」


口を開いたのはロムだ。
既にマスクは外れ、整った顔立ちがカノンに向けられている。
そして発された言葉はカノンを気遣う以外のなにものでもない。
そこには確かな思いやりが感じられる。
戦闘時に見せた激しさとの違いはあまりに違う。
本当に同じ人物だったのかとすらも疑える程に。
だが、不愉快な感覚はない。
ただ、ほんの少しの恥ずかしさがあった。
戸惑いを見透かしているかのような印象をロムに対し抱かずにはいられない。
ロムの目と視線を合わせるとそれを尚更に強く思った。
そしてカノンはその感情を口にすることはなく、口を開きだす。


「は、はい! 大丈夫だ……いや、大丈夫です。私は」


出来そこないの敬語染みた返答にロムは苦笑で返す。
またも恥ずかしさを覚えカノンは思わず俯むく。
しかし、純粋さからくるカノンの初々しい仕草は少なくとも、ロムの気を害することはなかった。


◇     ◇     ◇

32理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:52:27 ID:E56/fiPd
「では真壁一騎、皆城総士、遠見真矢、春日井甲洋の四人が君の知り合いというわけだな」
「はい。皆は竜宮島の仲間、大事な仲間だから……!」


ロムの確認にカノンが答える。
幼少時代、シリコン生命体フェストゥムにより両親を失い、軍に引き取られたカノンが自らについて語れることは少ない。
ただ死に場所を求めて戦場を転々としたあの頃は今更振り返るほど立派な記憶ではないのだから。
したがってカノンは先ずロムに竜宮島について話した。
竜宮島に住む人達を、自分を受け入れてくれた彼らのことをただ思いつくままに。
具体的に何を話せばいいかも碌に定まっていなく、あまり纏まった話ではなかったかもしれない。
だが、ロムは黙って静かに聞いてくれた。
そんなロムの態度にカノンは密かに感謝していた。
短い間ながらも自分が竜宮島で過ごした思い出を誰かに聞いてもらい、それがいかに大事なものかを実感出来たのだから。

(そうだ。私は帰る……皆とあの島に帰るんだ……!
誰に命令されたわけじゃない。私がそうしたいから……だから、帰る……!)

忘れることは出来ない。
どこか誰も知らない戦場で野たれ死ぬのだと思い、それが正しい事だと信じていた。
そんなカノンを受け入れてくれたあの竜宮島は暖かった。
竜宮島の人間、特に同年代のファフナーパイロット達の存在は温もりを与えてくれた。
考える事を止めて、ただ戦うだけの冷たい機械と成り果てたカノンにとってそれは強すぎるほどに
だから真壁一騎、皆城総士、遠見真野、春日井甲洋の四人がここで死ぬなんてあってはならない。
命令を下す人間は居ないけども自分がやるべきことはハッキリとわかっている。
たとえ自分の身が危険に陥ろうとも彼らの命は――。
そんな時、ふとカノンの頭が撫でられる。

「あまり気負うな、カノン・メンフィス。今の君では勝てる闘いも勝てはしない」

見た目よりも太く、逞しい腕から伸ばされたロムの腕がカノンの髪を抑える。
カノンの決意。それは仲間のために戦い抜く、不器用ながらも固い意志。
だが、そこには自分の命すらも度外視する危うさが少なからずあったのだろう。
ロムはそれを見逃さなかったのだろう。
確かに強く握られたカノンの拳が彼女の決意の深さを示していたのだから。
ロムに諭され、カノンはハッと気がついたかのように握りこぶしを解く。
自分でもそこまで力を込めているとは気づいていなかったのかもしれない。
微妙に頬をほのかに赤らめ小声でぼそぼそと呟くカノンに気付くことなく、ロムは彼女から手を放す。
そして何事もなかったかのようにロムは話を続ける。

「俺の仲間は一人も居ない。だからこの場での知り合いは君一人だ。あのテッカマンアックスを除けばな……」
「テッカマン……アックス……」

テッカマンアックス。
何かの偽名かはわからないが恐ろしい相手だった。
カノンには髭つきの青い機体から繰り出される猛攻は受け流すのが精いっぱいだった。
互角に闘ってみせたロムがいなければ今頃自分はどうなっていただろう。
考えるまでもない。それはかつて自分が求めた死だ。
もう一度アックスと会った時には勝たなければならない。
アックスが竜宮島の皆をその手にかける可能性だって充分にあるのだから。
ならばこうしてはいられない。
アックスを追うなり、情報を集めるなり、協力者を見つけるなりなんらかのアクションが必要だ。
それも迅速に、時間を無駄にはせずに。
不意に自分に与えられた力、クストウェル・ブラキウムをカノンは見やる。
紫の躯体には力強さがありありと感じられ、アックスの機体と見劣りしない。
あとは操縦者次第だが、慣れない操作系統であり、完全に自分の手足とするにはまだ時間がかかるだろう。
だが、たとえ充分に時間がなくても、自分はやらなければいけないのだが。
33理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:53:13 ID:E56/fiPd

「俺はアックスのような男を倒すために動くが君も一緒に来るか?」
「ロム……さんが良ければ。私は……」
「すまないな。それと……出来ればそのロムさんというのはやめてくれ。
話し方も君が話しやすいようにしてくれる方が俺も有難い」
「わ、わかった」
「ありがとう、カノン・メンフィス……いや、カノン」

そんな時、ロムがカノンに提案する。
有体に言えばそれは一種の同盟関係を依頼するものだ。
ロムの技量は凄まじい。
加えてロムの人柄はヴィンデルへの反抗、そして先程助けられたこともあり疑う余地はない。
カノンにとってロムとの同行を断る理由はなかった。
カノンからの承諾を受け、ロムは頷く。
ロムもこれ以上此処に留まる事は良しと思わなかったのだろう。
これからのことについて話すためにも、ロムは再び口を開く。



「カノン、気がかりなことはもうないか?」


カノンの両目が見開かれる。
別に後ろめたいことはない。
ただ、ロムの言う通り確かに気がかりなことはあった。
殺し合いに放りこまれた直後は、現状を把握するだけで精一杯だった。
しかし、ロムに助けられ、幾分か落ち着いてきた今ではその事について考える事が出来た。
言うべきか言わないべきか。
暫しカノンは考えるか結局は半ば諦めように決める。
きっとこの男にはお見通しだろうから――特に不快感を感じることはなく、カノンはロムに答える。
参加者に配られた名簿を開きながら。


「この羽佐間翔子は確かに死んだらしいんだ……皆を護るために」


カノンは一人では解き様のない疑問をロムへと打ち明けた。


◇     ◇     ◇

34理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:54:03 ID:E56/fiPd


羽佐間翔子。
ファフナー・マークゼクスのパイロット。
真壁一騎らのクラスメイトであり友達。
カノンが竜宮島に来るよりも以前にフェストゥムと共に自爆したと聞いている。
出会った事は一度もなくカノンとの直接的な関係はない。
だが、カノンを引き取ってくれた女性は奇しくも翔子の義母だ。
病弱の身である翔子が日常生活の殆どを過ごした部屋を譲り、彼女が飼っていた犬の面倒も引き継いでいる。
島で行った灯篭流しでは羽佐間家の灯篭を造るのにも微力ながらも手伝った。
しかし、確かに名簿では羽佐間翔子という文字が並んでいる。
これは一体どういうことなのか。

「同じ名前の別人だとは思う……。
でも、もしこれが……この羽佐間翔子が竜宮島の羽佐間翔子なら……」

馬鹿げたことだとカノンは思う。
羽佐間翔子は確かに死んだ筈だ。
同姓同名の別人に決まっている。
けれども僅かながらにも思ってしまった。
どんな願いでも叶うとヴィンデルは言っていた。
シャドウミラーが一体どういう組織なのかは知らないが彼らの技術が異常なら。
もし、一度死んだ者ですらも生き返らせる技術を保有していたとしたら――。
しかし、カノンの思考はそこで打ち切られることになる。

「別人だな」
「えっ」

思わず驚くカノンだが別段ロムは不思議なことは言っていない。
むしろ死者が蘇るなどの発想の方が突飛なものだ。
ただロムが一切の迷いもなく断定したことにカノンは驚いていた。



「何があろうとも死んだものが生き返ることはない。
それがこの世の必定。死者を自由に扱う権利など誰にもなく、ましてシャドウミラーにあるハズがない。
たとえ無限の力を手に入れたとしても、そんな奇跡を起こそうとする者は自らを神と錯覚した者に過ぎん。
もし万が一にあのヴィンデル・マウザーがそれをしようというのなら――俺は、ヤツを許さん!」



確かに死んだ人間が生き返れば喜ぶ者は居る事だろう。
だが、命は有限であるこそその重さが実感でき、人は今を生きようとする。
命の尊さを忘れてしまえば、自らの欲望のままに生きるギャンドラーと同じだ。
故にロムは力強く否定する。
一度は死に、そして今度はこの狂気じみた殺し合いに参加させられた少女が一人は居る。
そんな許し難い事を現実としては認めるわけにはいかない。
両腕を組み、そう言い放つロムの姿には先程の戦闘で見せた様子の一片が垣間見える。
静かに燃やすは有り得ないことではあるが、あってはならない可能性への怒り。
それはカノンに痛いほど伝わり、一瞬でも馬鹿げたことを考えてしまった自分を悔やむ。

35理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:55:04 ID:E56/fiPd


「竜宮島では皆が死んだ人間を悲しんでいた……あれは大事なコトだと思う。
でも、悲しみたくはないから、仲間に死んでほしくはないから皆は戦っていた……!」


竜宮島に来る前のカノンに死者を悼む習慣はなかった。
いつだって優先してきたのは命令だ。
フェストゥムに同化された仲間は撃てと言われた。
その命令に従い、実際に引き金を引いたことは何度もある。
勿論というべきかその時、仲間の死を悲しむという感情はなかった。
仕方ないから。命令だから。そんなことを自らに言い聞かせていた。
だが、竜宮島では全てが違った。
島の人達は島の住民総出で灯篭を海に流していた。
灯篭を流す意味はカノンにはよくわからなかった。
ただ、大事なことだとは思った。
灯篭流しの時に浮かべた皆の神妙な表情は今でも鮮明に蘇る。
あの光景はお世辞にも楽しいものではない。
だけども、必要なものではあるとカノンは強く思う。
死んでしまえば何もかも終わり。
以前は追い求めたものであるはずなのに、今では逆にそれを避けることが目的となっている。
自分の変化に戸惑いを覚えないわけではないが、今に始まったことではない。
それは寧ろ逆にいいことだと思うのだから。
これからも竜宮島で生きていられるなら――少なくともそれ以上に、望むものはない。



「私も……皆のように戦いたい。私も生き残るために戦いたい。仲間と一緒に……絶対に生きて帰るために……!」
「なら――戦うしかない。カノン、君は一人ではない。俺が、そして何より仲間達がどこかに居る。
そうさ。その素晴らしい島に住む、君の掛け替えのない仲間達がな」


カノンはふと思う。
ロムの年齢は判らないが彼はきっと年上だろう。
日野道生とは違うタイプ。
しかし、頼りになる点は同じだ。
自分の言葉にロムは力強く頷いてくれる。
理解されることがこんなにも嬉しく思えるのはやっぱり慣れない。
同時に頼りがいのあるロムと出会えたこと幸運な事だと思いながらも、やがてカノンは答える。
確信をもって言える事を、どこかぎこちない笑顔をつくって。



「ああ……! 本当に素晴らしい島なんだ。そして皆も……私を受け入れてくれた皆も……!」



だけどもその笑顔はロムにはとても眩しいものに見えた。



◇     ◇     ◇


36理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:55:50 ID:E56/fiPd
ロム・ストールはこの状況に対し怒りを忘れたことは一度もない。
有無を言わさずに自分達に殺し合いをしろなど狂気の沙汰だ。
しかもその中にはカノンのような子供も含まれている。
吐き気を催すほどの邪悪。
偉大な父より受け継ぎし天空宙心拳を極めるに最早理由は充分。
だが、自分一人ではいつか限界がくることだろう。
何故ならシャドウミラーの保有する戦力は図りしれない。
ギャンドラーすらも凌ぐ力――それも有り得ない話ではない。
少なくともこんな大掛かりな茶番を仕込めるほどの組織力を油断するわけにいかない。

(カノン・メンフィス、竜宮島……明らかにクロノス星とは違う。
奴らは別の星の人間すらも集めることが出来るのか……だが、そんなことは関係ない)

ロムとカノンは取り敢えずもう暫くは自機のチェックに時間を費やすことを決めた。
その後はカノンの仲間を優先に、共にこの殺し合いに反抗する志を持つ者を集めるといったようなものだ。
二人が少し時間を置いた理由。それは大部分はカノンの問題によるものだろう。
会場に送られて直ぐにテッカマンアックスに襲われたカノンは未だクストウェルに慣れていない。
モビルトーレスシステムという拳法家にはこれ以上ないシステムを積んだ機体だったロムは幸運の部類に入るに違いない。
故に、今は自分の機体のチェックを行っているカノンの背中を見やりながらロムは一人思考にふけている。
薄々と感じていた。カノンが話す内容はクロノス星とは矛盾していることに。
だが、ロムは敢えて口にはしなかった。
今考えることはそんなことではない。

(テッカマンアックス……奴はラダムと言っていた。
おそらくはそれが奴の属する組織……もしくは奴が束ねる組織か。
ならば俺が潰す。ラダムも、そしてシャドウミラーもこのロム・ストールが叩き潰す!
己が欲望のために他者を軽んじる者達を……俺は許さん!)

自分と互角の戦いを繰り広げたテッカマンアックス。
彼は殺し合いに乗ることになんら抵抗がなかったように見えた。
ならば倒す。何があろうとも。
しかし、倒すべき存在はアックスだけではない。
残念ながらアックスのような参加者はまだ居ることだろう。
彼らが他者に害を為すまえに、なんとしてでもこの手で仕留めなければならない。


(死なせたくはないな。このカノンという少女を、竜宮島の子供達は一人も……)

またやるべきことは倒すだけではない。
護る。この場で散らせるべきではない命はなんとしてでも護る。
カノンにはどこか自分の命を軽く見ているような節があるのは気になっている。
しかし、それもカノンの話を聞けば幾分かは得心がいった。
カノンの話からはいかに彼女が竜宮島に大事なものかを知ったのだから。。
それはカノン自身が伝えようとしたものよりもずっと深い。
嘘を含ませることなく必死に想いを綴ったカノンの意思は確かにロムへ届いた。
カノンを受け入れた、竜宮島の仲間達の温もりは称賛に値するものだ。
そして竜宮島の人間達の生きるための戦いを、ロムは邪魔するつもりはない。
だからこそ許せないと強く思う。
竜宮島の人間だけでなく、ユーゼスという男も含めて多くの人生に横やりを入れたあのシャドウミラーは断じて許せない。
戦意は充分。たとえどんな悪がこようとも負けるつもりなどない。
だが、ロムには気がかりなことがあった。

37理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:57:25 ID:E56/fiPd
(剣狼が俺に応えないのはわからない。しかし、剣狼の導きがなくとも俺にはやるべき使命はわかっている。
ならばそれに従えば何も問題はない)

クロノス族に伝わり、父より託された剣狼と呼ばれた一本の剣。
その剣は稲妻や烈風などの森羅万象を生み、更にはロムに無限の力を齎す。
ケンリュウ、そしてバイルフォーメションを経て最強のマシンロボ、バイカンフーへの合身が行われる。
しかし、普段であれば時空を越えてでもやってくる剣狼をここでは呼び出すことが出来ない。
これでは満足な力が出せないのは事実だ。
されど何も無力だというわけではない。
ふいにロムは見やる。
そこにはロムに支給された機体が膝をついている。
キング・オブ・ハートと呼ばれる最強の格闘家が操りし機体。
言うなれば太陽の戦神機――ガンダムと呼ばれし機体だ。



(神を名乗るなどおこがましいとは思うが……使わせてもらうぞゴッドガンダム)



未だゴッドガンダムについて知っている事は少ない。
しかし、一度乗っただけで理解出来た。
間違いない。この機体は自分と似た男が使っていたと。
同じ拳法家だからこそわかるのだろう。
ゴッドガンダムのコクピットには微かな火が残っていた。
それは物理的に見えるものではなく、言うなれば極限まで燃やした炎の篝火だ。
確かにそれは感じられ――そして力強いものだった。
あの感触を思い出し、ロムは無意識に両腕を握る。


(俺の分身として、この殺し合いに鉄槌を下す……その瞬間までは。
神という名を持つ以上、悪に負けてやるわけにはいかん……!)


その背中は実に広く、そして正義の味方に相応しすぎるものだった。



【ロム・ストール 搭乗機体:ゴッドガンダム】
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:G-4 草原地帯
 第1行動方針:カノンと行動する
 第2行動方針:悪を挫き弱きを助ける
 第3行動方針:真壁一騎、皆城総士、遠見真矢、春日井甲洋の保護
 最終行動方針:シャドウミラーに正義の鉄槌を与える】
※羽佐間翔子は同姓同名の別人だと考えています。

【カノン・メンフィス 搭乗機体:クストウェル・ブラキウム(スーパーロボット大戦J)】
 パイロット状況:良好。
 機体状況:良好
 現在位置:G−4 草原地帯
 第1行動方針:ロムと行動を共にする
 第2行動方針:竜宮島の仲間と合流する
 最終行動方針:仲間と一緒に竜宮島に帰還する】
 ※羽佐間翔子は同姓同名の別人だと考えています。

【一日目 08:00】

38理由〜ねがい ◆40jGqg6Boc :2010/01/12(火) 01:58:09 ID:E56/fiPd
投下終了。
なにかあればお願いします。
39それも名無しだ:2010/01/12(火) 02:46:37 ID:cEZnKWjR

そこかしこでいい感じのコンビが生まれてるなー
どちらも純粋だから、この話だけで以降
この二人の信頼が揺るぎないものになったように思える
40それも名無しだ:2010/01/12(火) 10:08:19 ID:QdgYRfyA
投下GJ!
今後の行方が楽しみなコンビだな
ロム兄さん頼りがいがありすぎるぜ
41それも名無しだ:2010/01/12(火) 14:38:48 ID:bNcTiM2I
投下GJ!
これからの展開に希望が見えるコンビだぜ。
そして黄金神話ナツカシス
42それも名無しだ:2010/01/14(木) 01:42:41 ID:NAktBVKj
某所で移動スピード速すぎってキャラ見て思ったんだが、こっちのカズマも30分でE-2からA-4まで移動してるのって無理じゃないか?
アレ別にワープしたとかじゃなくて普通に飛んでったんだろ?
43それも名無しだ:2010/01/14(木) 01:51:12 ID:Y0phOgJp
移動時間なんて目安だから後は勇気で補えばいい
44それも名無しだ:2010/01/14(木) 02:02:32 ID:NAktBVKj
目安だからとかそんな小さい誤差じゃないだろ・・・
移動にかかる時間とか全無視じゃねーか。あの話でカズマ出す必然性がかけらもなかったし
だったら館の中にワープ装置があって飛ばされたとかの方がいいよ、でなきゃ次から普通に4,5エリア離れてても遭遇できるだろってことになる
45それも名無しだ:2010/01/14(木) 02:43:37 ID:3DD+5IJ4
こまけえこたあいいんだよ

あと必然性とか求めてるんだったらこのスレに合わないから消えた方がいいよ
46世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:48:15 ID:Y0phOgJp
光もほとんど届かない、陰鬱な水の底を黒い巨体が静かに進んでいく。
目指す場所は、右上に存在する基地。首輪を解析するにしても、クロガネの施設では手に余る。
もちろん、シャドウミラーがそういった手段、道具を全て撤去している可能性はある。
それでも何もしないのに比べれば、遥かにましだ。敵を避けるため飛ぶのを避け、川を進み、F-6から北上する。
もちろん、その途中にあるG-7、G-5の施設も調べたうえで、最終的に基地へ向かう。
それが今のところの方針だ。

濁っているわけではないが生命に乏しく、酷く空虚に感じる海か川かもわからぬ水域を、クロガネは進む。
海は全ての生命の源などとも呼ばれるが、これだけ広いにもかかわらず魚など動く影がほとんど見られない。
明らかに通常のものとは違う異質な光景に、ギリアムは顔をしかめた。
一旦訓練を停止し、シミュレータから出てきた二人の顔を交互に見回し、ため息を一つつく。
二人とも、才能はある。センスと若さが乗り方にはある、と言える。
だが、どことなくずれをギリアムは感じるのだ。反応がワンテンポ遅れている。
思考→操縦→行動という段階を踏んで機体は動く。だが、彼らはその動くまでの「間」というものが計算に入ってない。

「よほど追従性がいいマシンを使っていたか……思念操作系のマシンだったか……そういうところか」

この行動までの「間」というものが、時に選択の幅を増やし、直感による行動を可能とする部分がある。
しかし、この二人の場合、そこまで戦闘における経験が積まれていない。純粋に、「間」がただの「ラグ」になってしまっている。
二人の機体のAIを最適化し、反応速度を限界まで上げてやろう。
機体のハード面、ソフト面、両方でギリアムはかなりの自信がある。その程度なら朝飯前。
どこまでしっくりくるようになるか分からないが、今よりは格段に良くなるはずだ。
二対一でもギリアムに勝てないことがショックだったのか肩を落としている二人に近づき、ギリアムは励ますことにした。
彼らが弱いわけでも下手なわけでもない。機体の調整なしでも新兵の部類にしてはトップクラス、いや中堅クラスでも十分通用する。
自分ではなくカイやエルザムならもう少しましなアドバイスもできたのだが、と内心思いつつも気になる点を二人に口頭で伝えていく。
二人とも、真剣にギリアムの話に耳を傾けてくれる。
アラドあたりもこのくらいの聞き分けの良さがあれば、とちらりと頭によぎらせながらも、一通り話し終えた時だった。

「けど、遠見。身体が弱いからファフナーに乗れないって……身体、大丈夫なのか?」

一騎が、真矢に対して発したその言葉が、空気を変えた。
手元にあるデータに目を落としながら、一騎たちの生存率を上げるにはどうすればいいかと顎に手を当て考えるギリアム。
ギリアムも、最初は「ああ、先天性の疾患か何かがあるのか」と言う程度しか考えていなかった。
しかし、その言葉を最後に言葉が途切れた。どうしたのかと思い、ギリアムは視線を上げた。

「なにを言ってるの、一騎くん。それは間違ってて、ほら裁判で……」

真矢の顔に浮かぶのは困惑。それが伝染し、一騎の顔まで怪訝な表情を形作る。
ギリアムは、真矢の視線に込められた感情を知っている。
何故なら、ギリアム自身、その視線をかつて向けられたことがあったからだ。
ギリアムは、ボードデータを近くの台の上に置くと、つかつかとわざと足音を立てながら一騎と真矢の間に割って入った。
47世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:48:56 ID:Y0phOgJp
「……少し、いいかな?」

突然両者の視界を遮る形で現れたギリアムに二人の視線が集まる。
無言の二人。つばを飲み込み、口の中で言葉を一度転がしてからギリアムは言った。

「二人に聞きたいのは、ここに来る直前のことだ。……二人とも直前に出会った出来事を話してくれ」

ギリアムが問うてからもしばらくは黙ったままだった。
訓練の疲労が緊張のせいで大きく感じられる。身体が痛むのも抑え、ギリアムはそこからピクリとも動かず二人を見つめ続ける。

「俺、先生と竜宮島からファフナーで飛び出て……外の世界を見ようと思って。それから、気付いたらここにいました」

先に口を開いたのは一騎。ギリアムに読心能力があるわけではないが、その言葉に嘘は感じなかった。
何か言おうとした真矢を手で制し、真矢へ質問に答えるように促す。一騎の答えに何か悩んでいる様子だったが、真矢も答えてくれた。

「わたしは……初めてファフナーで実戦に出て、アルヴィスに帰ってきたと思ったらここに……」
「日付は?」
「えっ?」
「二人が来た日にち。できれば、月、年単位で答えて欲しい」

ギリアムは、さらに質問をぶつける。
あえて、二人には質問以外口を開かせない。ここで状況を整理する前に無秩序に話すことを許せば、おそらく収拾は不可能だ。
二人が答える。その日つけは、半ばギリアムが予想していた通り、大きなずれを見せていた。
お互いの認識の明確な齟齬。二人の視線が揺れる。言葉が止まる。なんといっていいのか、なんと接していいのかわからない。
そんな、空気。

「やはりな。シャドウミラーなら可能なことだ。なるほど、理解した」

「やはり」の部分にアクセントを思い切りつける。この混乱の原因を知っていることを、二人にアピール。
気休めでも、二人を落ち着かせなければならない。二人とも、暴れだすタイプではなさそうだ。だが、内に溜め込んでしまうタイプに見える。

「今から言うことを、静かに聞いて欲しい」

彼らのことから触れるのは危険だ。まずは、自分の状況を例に出して、受け入れる前提を作らねばらない。
失敗できないという思いが、口の中を乾かせる。裏腹に、手や首には冷たいものが滴る。

「まず、名簿を見て欲しい。この中で、ウォーダン・ユミル、ウェンドロ、アギーハは、『俺の時間軸』では死亡している」

言い淀んではいけない。

「だが、彼らは生きている。もっとも、同姓同名の別人の可能性もないわけでない。だが、俺は最初のあの集まりで見ている。
 仮面をつけた、親友に良く似た巨漢がいたことを。それがウォーダン・ユミルであることは、一目で気付くことが出来た」
48世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:49:49 ID:Y0phOgJp
言うべきことを全て伝えるまで、聞いてもらわなければいけない。

「では、シャドウミラーは死者を蘇生する力を持っているか? 答えはノーだ。
 遺伝子的に同一人物を作ることは奴らの技術なら可能であることを知っている。だが、記憶などは個人のものだ。
 奴らが死者を蘇生するには、遺骸が原形をとどめていること。もっとも、それでも完全に記憶を戻すことはできなかった」

早口になってしまいそうなのをこらえ、ギリアムはしゃべり続ける。

「なら、この場にいる彼らは何者か。――答えは、別時間軸上の本人だ。俺の時間では死んでいる。
 だが数カ月前まで、彼らは生きていた。おそらく、その過去の時間、もしくは平行世界から拉致したのだろう。
 平行世界間に時間のずれが存在する。移動の際は、同じ時間に着地できるわけではない。
 01年1月1日に時間移動しても、辿り着く世界ではそれ以前だったりそれ以後であったりするわけだ」

やっと、そこで大きく息を吸うことがギリアムにも許される。
二人は、ギリアムの言葉を完全に理解できていないのか、黙っていた。

「おそらく、二人は違う時間から呼び出された。
 その結果、一騎からすれば真矢君は『未来の存在』に、真矢君からすれば一騎は『過去の存在』となっているだろう」






「ああ、なるほど、そういうことね」

ギリアムから話を聞かされたイネスは、そう言って静かに頷いた。
あまり驚いた様子がないことに、一騎が逆にまた驚かされた。そんな一騎を見透かすように、イネスは笑うと、

「説明しましょう。私たちの世界には、ボソンジャンプと言う技術があると言ったわね?
 これは、瞬間移動のようなものと言ったけど、本当は時間移動なの。
 粒子化した身体を目的地に移動させた後、ボース粒子の性質で「移動した分だけ」時間を逆行する。そういう技術。
 もちろん、計算が狂えば過去や未来にも飛ばされてしまうの。あのエステバリスを見た時、なんとなく想定はしてたけど」

イネスの説明も、ギリアムに負けず劣らず信じられないものだった。

「私の時間じゃ、あれだけ小型化したボソンジャンプ搭載機は存在していない。
 だけど、あの機体は間違いなく私の知る技術体系の延長線上にあるものだった。なら、理由をつけるのは簡単。
 私より未来の時間軸によって接収させた機体だった……と考えれば矛盾は消えてなくなるわけ」

そう言った後、またブラックサレナをいじりだすイネス。
自分は我関せず、というよりもそれくらい当然だと態度が物語っている。

「真矢君、すこし、いいか? 一騎、ここで待っていてくれ」

ギリアムが、真矢を引っ張って通路に消える。
自分には待つように、わざわざ言うということは、聞かれたくない話なのだろうか。
49世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:50:42 ID:Y0phOgJp
過去。未来。現在。
全て、自分から見たものでしかない。名簿に一騎は再び視線を落とす。
先程までと書かれていることはまったく同じのはずなのに、酷く異質なものに映るのは、一騎の気のせいだろうか。
皆城総士、遠見真矢、羽佐間翔子、春日井甲洋。
一騎は思い出せる。彼ら、彼女らと取った集合写真を。思い出を。
けれど。もしかしたら、皆は自分を覚えているのだろうか。
翔子は、フェンリルで自爆した。甲洋は、今も目覚めていない。これが、一騎の記憶だ。
彼らは自分の記憶より過去の世界からこの世界にやってきたのだろうか。
だとしたら、彼らが消えた世界の自分は何を思っているのだろうか。

……あれ?

ふと、考えて、どうしてもわからない疑問が一騎の中で首をもたげる。

「イネスさん、俺がもしその過去の時間で消えたら……もうその時間には俺は『どこにもいない』。
 遠見の時間にも俺はいないから……」

自分が拉致された後の時間のどこにも、自分はない。
もし自分が元の時間に帰ったとしたら、遠見にこのことを伝えていないはずがない。
どちらにしろ、矛盾してしまう。

「俗に平行世界分岐と言うものね。
 あなたが消えた時間軸の世界Aと、あなたが消えなかった時間軸Bの世界があると考えればいいわ」

背中を向けたままイネスが答えた。

「……だとしたら過去とか未来に移動するのはどうなってるんだ?
 未来が分かれているなら、なんで時間の迷子にならないんだ? いや、自分のいた以外の未来に飛んだら自分が二人……?」

一騎の呟き。
だが、その呟きがイネスの動きを止めた。
どことなく嬉しそうに見える。

「いいところに気付いたわね。いいわ、説明してあげる」

こっちに近づいてくると、どこからともなくホワイトボードを取りだし、絵を描き始めた。
一本の線を書き、その先が無数に枝分かれしている。

「よくある一本の線から無数の分岐する平行世界の視点、あれ結構乱暴なのよ?
 どの時間で、何が原因で分岐するかが、個人の行動単位でも一切実は分からなかったりするの。
 詳細とかは話し出すと1000字2000字じゃ足りないから省くけど、だからもう一つの説が実は、科学者の間では主流だったりするの」

こんどは、極めて近い感覚で大量の平行線を書き、その後一本一本の先端を別の方向へ曲げた絵。
根元の部分が分かれているが、先ほど書かれたものとほぼ同じだ。
50世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:51:23 ID:Y0phOgJp
「もう一つの説?」
「そう、まったく同じだから重ねて見えるだけで、実は分岐する前の線は、
 『まったく同じ行動が行われた』世界を束ねたものって見方。これなら、過去も現在も全て一本。
 神はサイコロを振らないって考えからある科学者が提唱したものね。名前、知ってる?」
「アインシュタイン……?」
「そうそう、そんな名前だったっけ」

無数の世界に、無数の自分がいる。
けど、元の世界に自分はもういない。遠見の言う世界とは別の世界。

『どこにでもいる』
『どこにもいない』

もし、ここで自分が消えたとしても、他の皆が元の世界に帰ったとき、そこにも自分はいるのだろうか。
もし、ここで他の皆が消えたとしても、自分が元の世界に戻ったとき、そこにも他の皆がいるのだろうか。
いや、そこにいるのは、本当に自分であり、自分の知る他の皆なのか。

一騎には分からなかった。





「……ここでいいか」

しばらくクロガネの艦内を歩いた後、設置された自動販売機の前でギリアムは止まった。

「何か飲むかな?」
「あ、いや……わたしはお茶で」
「分かった」

どうやら、タダで使用できるようになっているらしく、小銭を入れないままボタンをギリアムは押す。
コトンと、紙コップが落ちる音がした後、少ししてギリアムはお茶の紙コップを真矢に差し出した。
少しだけ口をつける。ギリアムは、最低限のやりとり以外になにも言わない。
今度は自分のコーヒーを取りだし、ギリアムも軽くそれに口をつけた。

「もし……未来予知というものが出来たら、どうする?」
「えっ……?」

なにを言いだすのだろうと身構えていた真矢に、壁にもたれたままギリアムは世間話でもするように呟いた。

「未来予知って……その、未来が分かるあれ、ですよね?」
「まあ、そう思ってくれて構わない」
51世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:52:11 ID:Y0phOgJp
なにをギリアムが伝えたいのか考えながらも、真矢は思ったままを答える。

「やっぱり、便利だと思います。未来が分かれば……きっと多くの悲しいことも防げると思いますし……」
「本当にそうかな?」
「……どういう、意味ですか?」

予想通りの答え――ギリアムの顔は誰でもそう読み取れるものだった。

「未だ来ていない『未来』は『過去』と同じだ、ということさ」

そう言って、ギリアムは静かに紙コップをテーブルの上に置いた。

「未来予知……聞けば便利な力に感じるかもしれない。だが、その力はあまりにも『明るすぎる』」
「……明るすぎる?」
「そうだ。例えば、真っ暗な夜道を人が歩くときは、手を伸ばし周囲に何があるか触れ、足を進めなければいけない。
 だが、街灯が輝く街ならば、そんなものは必要ない。全て、既に見えているのだから」

真矢には、まだギリアムの真意が見えてこない。
けれど、そのまっすぐ真矢を射抜くようなまなじりは、アルヴィスにいた大人たちと同じくらいに真剣だった。
大切だと思うことを、真矢に伝えようとしている。自然と背筋が伸び、真矢もまたギリアムのほうを見た。

「時間も同じだと俺は考えている。
 暗闇の一歩には、恐怖も伴うが同時に勇気が含まれている。そうやって決めた一歩だから、受け止めることが出来る。
 だが、明るければどうする? 決意もなく踏み出した結果の痛みは、必ず他者へ向けられる。
 多くの場合、他でもない光を灯したものに」

ギリアムは、一瞬目をそらした。
嘘をつくためではない。眉がより、頬を僅かに強張らせ、静かに拳を握りしめていた。

「昔、未来を全て知った『つもり』になった男がいた。男は、未来の危機を取り除くため、今で過ちを犯した。
 ……男は縛られていたのだ。自分の見た未来と言う名の幻想に。あまりに詳細に分かる、『明るすぎる』未来を
 見たせいで、それ以外の未来を落としてしまい、見ることが出来なくなった」

真矢にも、分かった。
これは、独白なのだ。他でもない、ギリアム自身の過去なのだと。
思い出すこともつらい、自分を傷つける自分の過去を、ギリアムは語っている。
それは、何故か。

「一つの未来を見て、それに盲目的に従うというのは、『過去』に縛られているにすぎない。
 多くの存在するはずの、無限の可能性を自ら閉じてしまうことに他ならない」

他でもない、真矢に似た過ちを繰り返して欲しくないからだ。

「……だから一騎には彼の『未来』を、君の『過去』を、教えないで欲しい。同時に、君も『過去』に囚われないで欲しい。
 状況次第で、『未来』とは如何様にも変化する。だから、ここにいる一騎の『未来』が、君の知る一騎の『未来』と違っていても……
 それに固執しないで欲しい」

一度置いたコップをもう一度掴み、一気にギリアムはそれを傾け飲み下した。
胸に残る苦い何かも纏めて飲み干そうとしている。そんな風に真矢には見えた。

「……少し、にが過ぎたな」
「飲み干すときに言う言葉じゃないですよ」
「いや、一気に飲む分にはという意味だ」

ふっと顔を緩め、ギリアムは小さくおどけて最後に言った。
52世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:52:52 ID:Y0phOgJp
「愚かにも太陽神を名乗った男が太陽を直視したばかりに盲目になる……そんなつまらない御伽噺だ。
 だが、御伽噺は往々にして、人の習性、慣習が元になっている。そんな話があったと心に留めてくれるだけでいい」

ギリアムは、真矢の横をすり抜けて、どこかへ行ってしまった。
真矢が何かを言う前に、逃げるように。

「けど、傲慢な話ね」

ふいに、背中からする女性の声。真矢が振り向いた先にいるのは、ギリアムと、その前に立つイネス。

「ねえ、浦島太郎って知ってるかしら? 知らないなら、説明するけど……」

ギリアムの肩を押しのけ、今度はイネスが真矢の前に立つ。

「いえ、知ってますけど……」

たしか、竜宮城(りゅうぐうじょう)が出る子供向けの絵本だったはずだ。
竜宮島(たつみやじま)と字がよく似ているので、なんとなく印象に残っていて、真矢も覚えている。
亀を助けたお礼に、楽園へ浦島太郎は連れて行かれる。
だが、故郷に帰りたいと思い、帰路についたものの、そこは自分の知る時代から遥か遠い未来だった。
そこで玉手箱を開けた浦島太郎は、それまでの時間全てを返され翁となった。
大まかに話せば、そんな童話だ。

「時間は残酷なものよ。勇気のありなしに関係なく、自分で決められなくても、勝手に進んでいく」

ぽつりと、イネスが零す。

「時間に、たった一人取り残される。自分が誰かすら、誰も分かってくれない。
 大切な思い出も、何もかも、共有した人はいるのに自分一人が胸に納めていなければならない。
 それは、とてもつらいことよ。そしてそんなつらいことがあっても……すがること一つできない」

真矢から視線を外し、首だけをギリアムに向け、イネスは言葉を続けた。

「そんな孤独を強要する権利があなたにあるのかしら?」
「……そんなものは、ない。だが、それは両者を傷つけるだけだ……。
 『ここにいない』誰かを重ねられる側も、重ねる側も、真の意味で相手を理解することはできない」
「強いわね。けど、その強さも押しつけたら何にもならないわ。
 夢と分かっても、夢物語にすがりたい……一時の夢でいい。それを叶える権利だってあるはずよ」

真矢には分かる。
二人とも、自分の実体験を元に話している。
二人とも、真矢に自分と同じ失敗を繰り返してほしくないのだ。
それが、痛いくらいに伝わってくる。だから、悲しい。

「……やめよう。確かに俺も無理強いに近い形になったかもしれない」
「……なんでこんなことを言ってるのかしら、私」

二人が顔をそむけ合う。
なんとなく、わかってしまった。
二人は似ている。けれど、平行線だ。交わることはない。
それこそ、別の世界と同じように。

「二人から、聞いたこと……良く考えてみます」

今の真矢には、そう言うしかなかった。



53世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:54:01 ID:Y0phOgJp
真矢が立ち去った後、自動販売機の前で二人の大人――いや取り残されたものが言葉を発している。


「どちらを選んでも、結局こうなった時点で『後悔する未来』しかないのかもしれないわね」
「だが、選ばなくてはいけない。それが、俺にも、あなたにも……あの子にもあった唯一の自由だ」
「けど、あたし達には、『あたし達』はいなかったわ」
「だから、一人で決めるしかなかった。俺たちのような存在は、彼女にとって益となるのか、害となるのか……」
「それこそ、未来を見て確かめてみる?」
「……見えないさ。見えたとしても、それ以外の可能性を俺は探す」

コトン。
紙コップの落ちる音。

「あなたも、飲む?」
「先程飲んだばかりだが……もう一杯欲しい気分だ」

自分は、何をしているのだろう。
コーヒーをすすりながらイネスは自問する。
別に、真矢に肩入れするつもりはない。優勝するまでの仮初めのパートナー。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

(自分の未練を他人にぶつけて……感傷ね)

イネスが願いの成就を目指す理由は、先程真矢に語ったものがそのまま当てはまる。
なんとなく、なのだろう。真矢の状況と、ギリアムの話を聞き、つい口を出してしまった。

(私も大概甘いわね……今でもあの子と変わらない)

そんな呟きは、コーヒーの中に溶け、どこにも届くことはなかった。
格納庫へ歩き始めるギリアムの背中を見ながら、イネスは冷めて冷たくなるまでコーヒーを飲み続けた。
胸に広がる晴れない靄は、飲み干せるものではなかった。



「なんだ、このブラックボックスは……」

調整のためヴァイスリッターを起動したギリアムは、不快な感覚に身を震わせた。
以前、元の世界でお遊びに模擬戦でヴァイスリッターに乗った時には感じなかった違和感。
これは――そう、変化したヴァイスリッターに乗った時に感じた意思のざらつきに似ている。
ヴァイスリッターと感覚で同調しなければ操作できなくなったライン・ヴァイスリッターは、事実上エクセレンの専用機だった。
それを、真矢は操縦できている。
54世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:54:42 ID:Y0phOgJp
「だが、何のためだ……?」

操縦桿を押す。不快さは止まらないものの、ヴァイスリッターの腕は動く。
自分でも、操縦できる。本来ヴァイスリッターは一般人でも操縦できるはずなのだ。
機体に何か細工があるのか。だが、それは何のためなのかが分からない。

「装甲……いや『外皮』でごまかしているが、むしろ変化したヴァイスリッターをベースに誰でも運用できるように改造してあるのか?」

いや、とギリアムは首を振る。
少なくとも、額の赤いコアはすでに砕かれている。
この機体に乗り続けることで精神的な失調が起こらないのは分かっているのだ。
今は、それよりもOSなどをいじることを優先しよう。

リーゼのほうはもう完了している。
あとはシステムの再起動を待つだけだ。
カチャカチャとキーを叩く音だけが、虚ろに響いている。

(俺は、間違っているのか……?)

結局ごまかしてしまった部分もある。
ギリアムは、わざと言わなかった。ウォーダン・ユミルはクローンであり、量産することも不可能ではないことを。
事実、マシンナリーチルドレンは無数にいた。だが、本来命は、一つしかない。そのことを強調したかった。
もし、短絡に自棄同然になってしまったら。
いつか露呈する事実とはいえ、あのような形で悩む前に口を出したことは正解だったのか。

「俺も手伝います」
「……すまない。さっきは、色々と急なことを言って」

一騎に簡単なシステム周りも教えながら、ちらりと一騎の顔を見る。
まだ、はっきりと納得できていない、そんな顔だった。何に納得できないのか、何が引っかかっているのか、ギリアムには分からない。

(未来を読むことが出来ても、人の心一つ知ることが出来ない。……情けないことだ)

会話のなさで、格納庫の空気が重くなる。
元々ギリアムも饒舌ではないが、何かに重く悩む人間がいる横で、何もアドバイスできないのを放置できる性格でもなかった。

「先程、言ったことで一つだけ訂正がある」

一騎と顔をあわせないまま、ギリアムは言う。

「平行世界の自分と言ったが……厳密には自分ではない。良く似た他人だ。自分は、ここにしかいない」

一騎の視線が自分の背中に向けられるのがギリアムにも分かった。
55世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 02:55:27 ID:Y0phOgJp
「……俺の世界に、ODEシステムと言うものがあった。
 大量の人間を統合し、知恵を瞬時に結合し並列演算することで、全ての人智を人にはできない速度で処理するシステムがある。
 だが、これは起動して早々に崩壊した。何故だと思うかな?」

ゆるゆると首を振る一騎に、ギリアムは答える。

「人間が『個人』であることをやめられなかったからさ。
 結局、人間の持つ千差万別の意思を、システムは全体の異物としか認識できなかった」

ギリアムは、平行世界で別世界の自分と言うものに会うことはなかった。
だが、それでも断言できる。

「俺たちは俺たち以外の誰かになることなどできない。
 仮に平行世界の自分を何千人集めても、同じ結果だろう。なぜなら、各自が独自の記憶を持っている。
 結局、『ここにいる自分』は、他の場所には『どこにもいない』。ここにしかいないのさ」

その時、突然クロガネが揺れた。

「……何だ!?」――ギリアムは、どうにか機体に寄りかかって転倒を防ぐ。
「なんだよ!?」―― 一騎は腰を落とし、バランスを取る。

「まずったわ。どうやら待ち伏せされたみたい。レーダーの効かないところから出てきて船体の下に取りついてるわ」

イネスからの通信に、ギリアムは自分の迂闊さを呪う。

「俺が出ます!」
「いや、無理だ。アルトアイゼン・リーゼのシステムが再起動するまで時間がかかる」
「そんな!」

ギリアムが一騎の肩を叩く。

「安心しろ、俺がどうにかする。船が近くにあっては危ない、ここは俺に任せて先に行ってくれ」

焦燥――それに後悔。
それが一騎の顔には浮かんでいた。海で、かつて何かあったのだろうか。
ギリアムは、それを振り払うように小さく笑って見せた。

「まかせて欲しい。最初の探索ポイントで合流しよう」

それだけ言って、何か言いたそうな一騎を格納庫から追い出す。

「発進準備、よし!」
56世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 03:07:45 ID:Y0phOgJp
オペレーターの声――真矢の声。
なんというか、その姿が妙にしっくりきていることにギリアムは肩をすくめた。
機体に乗っているときの冷静な姿よりも、やはり明るい年相応の少女のような姿のほうが似合っている。

「一騎、俺は君が羨ましい。俺は、外の世界……いや多くの世界の内情を知った。その代わり、永遠に故郷というものを喪失した。
 道を選んだ時には、既に帰り道などなかった。もし、帰りたいと思ったのなら――その時は素直に故郷に帰ることだ」

一騎が何か言う前に、通信をカット。
迷わせるようなことばかり言っていたことへの、小さな謝罪。
心からの言葉だった。

ギリアムは、静かにブラックサレナを立ち上げていく。
かつて「黒い幽霊」と呼ばれたブラックサレナ。
つくづく、自分は幽霊、幻影と縁がある。
この手の機体の操作は、慣れている。
そう、XN(ザン)ガイストで。


「ギリアム・イェーガー、出る!」


黒い亡霊が暗い海へ躍り出た。



57世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 03:08:48 ID:Y0phOgJp
「一刀両断――!」
「お前は……ウォーダン・ユミル……!? お前は、俺の知るウォーダン・ユミルなのか!?」
「ギリアム・イェーガーか……相手にとって不足なし! 問答無用!」
「くっ!」

何も見えない暗い海に、小さく光が走ったと思えば、すぐに消えていく。
戦いの激しさは、水流の乱れと言う形で離れていくクロガネにも伝わってくる。
だというのに、その戦いの瞬きは、酷く儚いものに感じた。

握りしめた拳が小さくふるえ、自然と顔がゆがむ。
一騎は、島を守るため、最初のフェスティム襲来から戦ってきた。
だから、初めてだった。こうやって、自分がなにもできず、ただ誰かが闘う姿を見ているしかないのは。
ただ、通信から戦う二人の声だけが、艦内に響く。外の苛烈な戦いとは逆に、戦艦内は静寂が広がっている。
戦うのが怖かった。自分がまったく別のナニカに変わっていくのではないかと怖かった。
けれど、知らなかった。戦えないことが、これほど苦しいことだったことを。
羽佐間の墓の前、甲洋が自分の胸倉を掴んで叫んだ言葉。それが今、良くわかる。
自分に出来ることがない。ただ、見ているしかない。その歯がゆさ。
そうして自分が見ている間に、何かが失われたら……きっとどうしようもない後悔になるだろう。

「我はウォーダン! ウォーダン・ユミル! ヴィンデルの剣なり!」
「そうか……お前は、俺の知るウォーダンではない、か。俺の知るウォーダンなら、絶対にそんなことは言わない……!」
「笑止! それがなんと関係がある!」
「関係あるさ……俺の知るウォーダン・ユミルのためにも、負けるわけにはいかない!」

ギリアムは、強かった。自分と遠見の二対一でも、まったく負けないほどに。
ギリアムは、言っていた。多くの世界を見てきたと。
外の世界を、いや世界の外を見た結果が、あの実力なのだろうか。
そうでもしなければ生き残れないくらい、世界は過酷な場所で――竜宮島は、本当に最後の楽園だったのか。

永遠に故郷を喪失した――故郷が羨ましい。

「俺は……」

外の世界が見たかった。
外の世界を見れば、総士と同じように何かが見えるかと思って、竜宮島を離れた。
奪ってしまった左目のように、総士の見るものを正しく見れるのではないか。
先生に、後悔はないとも言った。自分なりの、決心だった。だが、それは大人たちから見れば、ただの愚行だったのか。

「俺はギリアム・イェーガー……数多の平行世界を回ることを運命づけられた男だ」
「遅いっ!」
「俺の贖罪の旅は終わっていない……俺のような罪人を増やさないため、俺と同じ悪行に手を染めるものを打ち倒す。
 それが俺の贖罪だ! 再び地の底に眠ってもらおう!」

ギリアムは、一度死んだはずの相手と、再び戦っている。
だが、蘇ったわけではない。死ぬより前の相手が再び現れただけ。
死が覆ることは、絶対にない。それは絶対の摂理。一騎の頭に浮かぶのは、一人の少女。
自分の世界の羽佐間は、死んだのだ。
この名簿に載っている羽佐間は、生きているどこかの時間から来た、自分と違う世界の羽佐間。
もしこの羽佐間が自分の知る羽佐間とほとんど同じだったらどうしているだろう。
あまり深く知っているわけではない。だが、甲洋や遠見と一緒に四人でトランプをしたことを、一騎は覚えている。
恐怖で潰れそうになっているのではないか。苦しんでいるのではないか。
別の世界だから。自分の世界では関係ないから。

一騎は、顎が砕けんばかりに歯を食いしばっていた。
58世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 03:09:30 ID:Y0phOgJp
それでも――それでも、自分の世界と関係ないからと見殺しにしていい筈がない。

それは、羽佐間だけではない。遠見も、甲洋も、もちろん――総士もだ。
自分も他人も変わっていく。それはあのフェストゥムが襲来した時から、絶対に逃れられないことだった。
親しかった友達が、自分の知らない誰かで、自分へ、自分の知らない誰かのような眼を向ける。
その想像は、恐ろしいものだった。
けれど彼らが死に絶えている姿に比べれば、遥かにいいと思えた。

「おおおおおおおおおおおおおおお!?」
「XNガイストより取り回しが軽いか……! 浅かったか!?」
「踏み込みが足らん! 終わりだ! ギリアム・イェーガー!」
「それはまだ甘い!」

海に、ひときわ明るい輝きが放たれた。
それを最後に、二機が通信の圏外に出たのか、声は聞こえなくなった。
一騎は、通信機を立ち上げる。

「なあ、遠見。遠見の世界の俺は……島を出る前に、遠見に何か言ったかな?」
「え……?」
「未来のことじゃなくて。過去のことなんだけど……教えてくれないかな」

少し間をあけて、遠見は答えてくれた。
その答えは、一騎が知っているものと同じ。

――遠見は、俺のことを覚えていてくれる?

遠見の知る一騎も、きっと同じだったのだろう。
同じように、きっと不安だったのだろう。
不安への答えは、まだ出ていない。
考えれば、胸が苦しくなる。

「それでも……俺は、皆を助けたい。過去でも、未来でも関係ない」

それだけは、嘘じゃないから。
そこに、自分はいないのかもしれない。それでも、皆で故郷に帰りたいから。

「……ありがとう」
「二回目、だね」

そう、あの時も一騎はありがとうと言った。
これで、二回目。

一騎は祈る。
ギリアムが、クロガネに戻ってくれることを。
そして、ギリアムがいつか故郷に帰る日が来ることを。
59世界〜じぶん〜 ◇vtepmyWOxo:2010/01/14(木) 03:10:23 ID:Y0phOgJp
【ギリアム・イェーガー ブラックサレナ(機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-)
 パイロット状況:良好
 機体状況:???  スクリューモジュールを装備していた模様
 現在位置:E-5
 第1行動方針: ウォーダンを撃破し、G-7施設で合流する
 第2行動方針:仲間を探す
 第3行動方針:首輪、ボソンジャンプについて調べる
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊、シャドウミラーの壊滅】


【ウォーダン・ユミル 搭乗機体:アストレイレッドフレーム(機動戦士ガンダムSEED ASTRAY)
 パイロット状況:良好
 現在位置:E-5
 機体状況:フライトユニット装備、ビームコート装備、損傷軽微、EN消費小
 第一行動方針:ヴィンデルの命令に従う
 第二行動方針:次の戦闘相手を求める
 最終行動方針:ヴィンデルの命令に従い優勝を目指す
 備考:ヴィンデルを主人と認識しています。】





【イネス・フレサンジュ 搭乗機体:クロガネ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 格納庫にヴァイスの左腕あり
 現在位置:F-6
 第1行動方針:甘いわね、私も……
 第2行動方針:一応、真矢への対抗策を用意
 第3行動方針:ルリと合流、ガイもついでに
 最終行動方針:願いを叶える「力」の奪取。手段は要検討。
 備考1:地中に潜れるのは最大一時間まで。それ以上は地上で一時間の間を開けなければ首輪が爆発
 備考2:クロガネは改造され一人でも操艦可能】


【真壁一騎 搭乗機体:搭乗機体:アルトアイゼン・リーゼ(スーパーロボット大戦OGシリーズ))
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 クロガネの格納庫に収容 反応速度上昇
 現在位置:F-6
 第1行動方針:仲間を守る。
 第2行動方針: G-7施設でギリアムと合流
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】


【遠見真矢 搭乗機体:ヴァイスリッター(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:身体的には良好
 機体状況:左腕欠落、ミサイル半分ほど消費、EN消費(小) 精神的な同調ができないと不快感を覚える模様。
      もしかしたら何かのきっかけでラインヴァイスリッターになるかも……? 反応速度上昇
 現在位置:F-6
 第1行動方針:一騎を守る
 第2行動方針:総士、翔子、甲洋、カノンと合流し、守る
 第3行動方針:仲間を傷つける可能性のある者(他の参加者全て)を率先して排除する
 最終行動方針:仲間を生き残らせる。誰かが欠けた場合は優勝も視野に入れる】



【10:00】

60それも名無しだ:2010/01/14(木) 03:32:05 ID:3EZFwzs/
若人たちを導いてるギリアムさんがやっぱかっこいいよ
幽霊つながりのブラックサレナは似合うな
でも現時点じゃまだ無事みたいだがどうにかなったみたいで心配だ
ウォーダンはこのままヴィンデルの人形のままなのだろうか
一つ気になるのはこれルート的にシンジ君のワカメゾーンつっきってるよね?
現在予約中の内容しだいだがかち合いそうな気が
61それも名無しだ:2010/01/14(木) 06:02:30 ID:+Nbrg3E2
やりとりがかっけえ
ギリアムさん死亡フラグ全開っぽいが……
通信だけで戦闘が表現出来てるのも凄いな
傍観者視点が凄く良く出てる
62それも名無しだ:2010/01/14(木) 06:26:44 ID:Fd0l3gw2
それぞれの経験からくる未来、過去、現在における考察が興味深かった。
しかし格好いい大人の代表みたいだなギリアムさん。
そういう人は往々にして早死にするタイプだが……さてどうなるか。

>>44
ダンは今剣形態で超高速で真っ直ぐに突っ切ってるから
あれくらいの距離はまあ許容範囲内じゃない?
ちゃんとしたヨロイ形態になったらさすがに普通のスピードになるよ
63それも名無しだ:2010/01/14(木) 16:17:40 ID:AgBNjxBN
投下乙!
ギリさん、「ここは俺に任せて先に行け!」もだけど若者に自分の過去を語って諭すのも強力な死亡フラグだぞ!w
まあヒロ戦でも「ここは俺に任せry」をやって生きてたから何とか切り抜けそうでもあるが
一騎や真矢、イネスさんへの影響にも期待
それにしても感想が皆「ギリアムさん」呼びでちょっとワラタw
それだけ説得力がありカッコよく描けているってことだけどな
64 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:54:48 ID:kxnhBQUS
プルツー、テッカマンアックス、アポロ、ジ・エーデル・ベルナルを投下します
65閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:56:00 ID:kxnhBQUS
ガンダムというメカによく似た巨大ロボが飛んでいる。
プルツーが操縦するデュラクシールが、突然前方に吹き飛んだ。

「うわっ!」

急いで振り返ると、そこには青い巨大ロボットが左腕から煙を吹かせてこっちを見ていた。
デュラクシールより一回り小さい。左腕の先がなく、急いで周りを見ると腕のような物体が青いロボのところに戻っていくところだった。

「ふん、運がなかったな。死んでもらうぞ!」

青いロボ、ソウルゲインに乗るテッカマンアックスは岩陰に隠れてデュラクシールの背中に玄武剛弾、いわゆるロケットパンチを打ったのだ。
背中から煙を吹きながらデュラクシールが墜落する。

「くそ、ブースタ−が壊れた!?」
「隙あり!」

なんとか体勢を保とうとするプルツーだったが、ソウルゲインは一瞬で接近し肘のブレードを伸ばして切りかかった。
デュラクシールもハイパービームサーベルで応戦する。

「遅いよ!」
「ほう、中々やるな!」

ビームと実剣がぶつかり合い激しいスパークが飛び散る。
強化人間であるプルツーの動体視力と反応速度は充分にテッカマンアックスの攻撃に対応できた。
しかし最初に受けたロケットパンチの影響が大きく徐々にデュラクシールの動きが遅くなっていく。

「このままじゃ負ける…!」

プルツーは一か八か勝負に出た。
デュラクシールのメイン武装、メガスマッシャーだ。
66閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:56:55 ID:kxnhBQUS
「当たれえええええ!!」

デュラクシールの胸から光が発射されソウルゲインを襲う。
ソウルゲインは両腕を突き出し、青龍鱗を撃った。

「うおおおおお!」
「そ、そんな!?」

メガスマッシャーと青龍鱗がぶつかり合い爆発した。
衝撃で吹き飛んだデュラクシールを、ソウルゲインが踏みつける。

「ここまでだな、さあとどめだ!」
「うっ…!ジュドー!」

身動きできないデュラクシールの頭を踏み潰そうとするソウルゲイン。

「無限パァァァンチ!!」

その時、横から別の人物の叫び声が聞こえた。
すごい音がして、ソウルゲインが吹き飛ぶ。

「おい、もう勝負はついてるだろ。それ以上やるなら俺が相手になるぜ」
「貴様、何者だ!」
「俺はアポロだ!」

突然現れた三体目のロボ、ダンクーガのパイロット、アポロが叫んだ。

「おいお前、大丈夫か?」
「う、うん。私は大丈夫だけど…」
「なんだ、まだガキじゃねえか。お前みたいなやつまでいんのか」
「ガキじゃない!私はプルツーだ!」
「プルツー?変な名前だな。まあいいや、そこで見てな!」
67閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:57:42 ID:kxnhBQUS
ダンクーガが起き上がったソウルゲインに突撃する。
鉄拳を放つダンクーガ、ソウルゲインも同じようにパンチを繰り出した。
ガァァァン!と二体のロボットの中心ですさまじい音が鳴る。

「むっ!やるな」
「まだまだこんなもんじゃないぜ!」

次々に攻撃をするソウルゲインだが野性児アポロが操縦するダンクーガのでたらめな動きに中々当たらない。
格闘技の達人であるテッカマンアックスでも見たことがない動きをするアポロ。
ソウルゲインの右ストレートをダンクーガはしゃがんでかわす。
元々ソウルゲインの方が大きいので、ダンクーガはすっぽりとソウルゲインの懐に潜り込んだ。

「うおおおおお!!」
「何っ!?」

しゃがんだ姿勢から立ち上がる反動を利用して、ダンクーガがアッパーカットを打った。
ソウルゲインの顔にクリーンヒットするダンクーガのカエル飛びアッパー。
ソウルゲインは後ろにひっくり返り、音を立てて倒れた。

「ふう、ざまーみやがれ」
「す、すごい…!」

突然現れてソウルゲインを倒してしまったアポロに、プルツーは驚いた。
アポロはこのプルツーとも戦おうかと思ったが、急に鼻をひくひくと嗅ぎ出した。

「誰かいる…」
「え?」
「おい、隠れて見てるやつ!すぐに出てきな!」

突然誰もいない方向へ向かってアポロが叫んだ。
プルツーはびっくりしてその方向を向いたが、やっぱり誰もいない。

「お前、何を言ってるんだ?誰もいないぞ」
「いや、いる。なんだかすげえ嫌な臭いがする…」

やがてアポロが岩の陰に向けて剣を構えた。

「そこだ、断空剣!!」
68閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:58:46 ID:kxnhBQUS
ダンクーガが剣を投げた。
飛んで行った剣は岩に突き刺さる。

「あっ!」

その瞬間、プルツーにも何か小さいものが動いたのが見えた。
出てきたのは人じゃなくて、ぬいぐるみだった。

「あーららん、見つかっちゃったのねん。仕方ない、降参するにゃ!」

ぬいぐるみの頭が開いて、老人が顔を出した。

「ワシはかよわいお爺ちゃんなの!苛めないで!」
「お前、名前は?」
「お前達に名乗る名前はない!
「…撃つぞ」
「ああん、嘘うそ!ワシはジエー・ベイベル!お嬢ちゃんのお名前を教えてくれると嬉しいにゃ!」
「お、お嬢ちゃん?私はプルツーだ!」
「プルツー!可愛い名前じゃの!そっちの兄さんは何て言うんじゃ?」

やたらとうるさいジエーが踊るように近づいてきて、ダンクーガの足に触った。
その瞬間、ダンクーガのコクピットのアポロは背中に冷たい物を入れられたように、ぶるると震えあがった。

「俺に触んじゃねえ!」
「うひゃ!?」

ダンクーガに蹴っ飛ばされ、ジエーとぬいぐるみは吹き飛んだ。

「おいアポロ、相手は老人だぞ。やりすぎじゃないか」
「てめえ、わかんねえのか!?こいつ、ただの人間じゃねえ!すげー嫌な臭い…堕天翅と同じくらい臭いんだよ!」

アポロは先ほどソウルゲインと戦った時よりも、ずっとジエーを警戒していた。
ジエーがひょいと起き上がり、蹴られたダメージなどないようにぱんぱんと埃を払う。

「あーらら、君には変身が通じないのかな?さすがは太陽の翼ってやつぅ?」
「太陽の翼だと!?てめえ、俺を知ってるのか!?」
「僕は何でもしってるよ〜ん」

ぬいぐるみの頭は閉じられていて顔は見えない。
でもプルツーはその中身がもうさっきの老人と同じとは思えなかった。
アポロもプルツーも知らないが、既にその中身はジエー・ベイベルではなくジ・エーデル・ベルナルになっていたのだ。

「でもさ〜。まだこのバトロワも始まったばかりだし、あんまり正体知られるとつまんないんだよねえ。だからさ…」
69閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 19:59:43 ID:kxnhBQUS
ぬいぐるみが飛んだ。
ダンクーガに張り付き、ゴキブリのようにかさかさと駆け上がっていく。
ダンクーガの操縦席、イーグルファイターの前まできたぬいぐるみが警棒を振りかぶる。

「悪いんだけど、バイバ〜イ!」

警棒がコクピットを突き破った。
破片がアポロの身体に刺さり、血が噴き出した。

「ぐわああっ!」
「んー、これじゃ使えないなぁ。まあいいや、ビッグモスだけ動けば充分使えるしね」

ぬいぐるみが手を伸ばし、ダンクーガのコクピットをいじる。

「てめえ、何しやがる!」
「へへー、オープンゲット!」

アポロがぬいぐるみを殴りつけようとした瞬間、ダンクーガはバラバラになった。

「うおおお!」

慌ててレバーを引くアポロ、イーグルファイターは戦闘機形態になった。
普段からベクターマシンという戦闘機を操縦しているため、アポロはすぐに乗りこなせた。

「アポロ!」

プルツーがアポロを助けようと手を伸ばす。

「うわっ!」

しかし、またもやデュラクシールは吹っ飛んで、地面に激突した。

「ふん、やはりただのネズミではなかったようだな」

と言ったのはソウルゲインに乗るテッカマンアックスだ。
ソウルゲインはそのままアポロのイーグルファイターに青龍鱗を発射して撃ち落とした。
墜落するイーグルファイターには目も向けないで、テッカマンアックスが言った。

「こそこそと俺をつけ回していたのはやはりお前だったか。ちょうどいい、ここで決着をつけてやろう」
「ええー!死んだふりとか中ボスでも今時やらないでしょ〜。あんたせこいよ!」
「うるさい、死ね!」
70閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:00:40 ID:kxnhBQUS
分離したダンクーガの一番大きな部分、ビッグモスに乗り込んだジ・エーデルが慌ててビッグモスを人型に変形させた。
ソウルゲインのパンチやキックを、器用に避けるビッグモス。

「ちい、チョコマカと!」
「あいにくボクはカツ君とは比べ物にならないくらい強いんだよん!ビッグモスは伊達じゃない!ってね」

ソウルゲインの攻撃を避けるビッグモス。
その戦いを見ていたプルツーだが、ふと気付いてアポロを呼んだ。

「アポロ、無事か!?」
「うう…」
「良かった、生きてる」

アポロの声が聞こえたプルツーだが、プルツーもまた傷を負っていた。
二回目に吹き飛ばされた時、ソウルゲインはブレードで突き刺したあとに蹴ったのだ。
切られて脆くなり、蹴り割られた装甲の破片が身体に食い込んで、プルツーは血で真っ赤に濡れていた。
もう自分は長くないと悟ったプルツーは、アポロだけでも逃がそうと思った。

「アポロ、逃げるんだ。あいつらは私が引き付ける」
「逃げる…冗談じゃねえ!あいつら、絶対に許さねえ!ここでぶっ倒してやる!」
「アポロ…だったら、私と一緒に戦ってくれ!」
「なんか、作戦でもあんのか?」
「ああ。あいつらが一塊になったら、まとめて吹き飛ばせる」
「…いいぜ、乗った!」

イーグルファイターが再び空を飛ぶ。
赤い光がイーグルファイターを包み込んだ。
強い野性を持つ者にしかできない技、アグレッシブビーストだ。

「うおおおおお!やってやるぜええ!」

そのまますごい勢いでイーグルファイターは飛んでいき、ソウルゲインの背中に激突した。

「何!?」
「もういっちょ!」

ソウルゲインを地面に倒し、イーグルファイターは人型に変形してビッグモスの頭の上に着地した。

「うわっ!何、しつこいよ君!コンティニューとか反則だよ!」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえ!」
71閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:01:33 ID:kxnhBQUS
ジ・エーデルは野性より理性の性格をしているので、アグレッシブビーストは発動できない。
パワーアップしたイーグルファイターの力に負け、ビッグモスも倒されソウルゲインの上に覆いかぶさる。

「いいぞ、プルツー!撃て!」
「で、でも今撃ったらアポロまで!?」
「いいから撃て!こいつは生かしちゃおけねえ、わからねえのか!」
「うう…!」

アポロが必死の形相で言う。
もうアポロも限界だ。今撃たなければ無駄死にになる。
デュラクシール最強の攻撃、メガバスター砲のチャージは終わっている。

「おいおい、それはやばいって…!」
「へっ、逃がすかよ!」

逃げようとするビッグモスを押さえつけるイーグルファイター。
アポロが離れないと思ったジ・エーデルはビッグモスから降りて、ボン太くんで逃げようとした。
そこでソウルゲインの腕がビッグモスのコクピットを押さえる。
途中で閉じるコクピット。まだボン太くんが出れそうな隙間ではない。

「お前はそこで死ね!」

ソウルゲインから既に変身したテッカマンアックスが飛び出る。

「ええーっ!?第一放送もまだなのにここで脱落とかつまんないじゃん!仕方ない、ちょっと本気出そっかな!」

どうやっても脱出できそうにないので、ジ・エーデルは奥の手を使うことを決めた。
次元力を操作すれば簡単にビッグモスから脱出できる。

「テトラクテュス・グラマトン!ア〜イルビーバーック!てね」

ポーズを取り宣言するジ・エーデル。
だが…何も起こらない。

「あれ?おっかしいな、接触不良?」
「いいや、何もおかしくはないぞジ・エーデル・ベルナル」

ビッグモスの通信機からいきなり声が聞こえてきた。
ジ・エーデルにも覚えのあるヴィンデル・マウザーの声だ。

「ちょっとヴィンちゃん!せっかくボクがこのゲームを盛り上げようとしてるんだから邪魔しないでよね!プンプン!」
「お前の役目はもう終わっている。後は速やかにご退場願おう」
「ボクの役目?何それ、ジョーカーでもやらせたかったの?」
「いいや。ただお前がこの場に存在する、それだけで良かったのだ。この特異点その物と言える空間を作り出すために。
 お前が持つ次元力は大かたこちらで接収させてもらった。一度空間が安定すれば後はもうエンジンは必要ない。
 この戦いを根底から覆しかねないお前の存在は、もう害悪でしかないのだ」
「はあ?ちょっとちょっと、ノリの悪いこと言わないでよね!ボクの次元力を接収したって、そんなの君達ごときに出来る訳ないじゃん!」
「できるのさ、それが」
72閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:03:13 ID:kxnhBQUS
ヴィンデルに続いて、もう一人の男が画面に映る。

「…アサキム・ドーウィン!?何してんのさ、そんなとこで!」
「悲しみの乙女に敗北した僕は、ひどく力を消耗してしまった。これでは次の聖戦に参加するまで莫大な時間がかかってしまう…。」
 そんなとき、僕は彼らと出会ったのさ」
「協力者アサキムにより我らは次元力の存在を知った。この力があればもはやシステムXNとヘリオス・オリンパスに頼るまでもない。
 我らの願いを達するため、お前の全てを奪わせてもらったのよ」
「僕が知識を与える代わりに、彼らは兵力を提供しこの場と参加者を用意する。その中には君もいた…どの次元の君かは知らないけれどね。
 とにかく、君もまた破れたんだろう?あっさり捕獲できた時はこっちが驚いた物だよ」
「ボクが…負けた?」
「ジ・エーデル、貴様は存在するだけでその次元に影響を及ぼす存在。我々にしてみれば貴様を捕獲できるかどうかが勝負だったのだ。
 そして貴様の力の大半は我らとアサキムが頂いた」
「言っておくと君はもう不死ではないよ。もちろん、死ぬのはこの次元の君であって他の次元の君までは影響ないだろうけど。
 まあ…たまには、奪われる側の立場を味わっておくといい。次があれば役立つことだろう」
「では、さらばだジ・エーデル・ベルナル」

通信が切れた。

「…ちょっと、ふざけるのもいい加減にしてよね!ボクの力を奪うなんてそんな事できる訳…!」

だが、何度やっても次元力は出て来なかった。
そして今、プルツーがメガバスター砲の引き金を引いた。
同時に、テッカマンアックスがメガバスター砲と挟み込むようにボルテッカを撃った。

「落ちろっ!」
「ボルテッカアアアアアアアア!」
「い…嫌だ!こんなつまらないエンディングは嫌だぁ!もっともっと、僕は楽しまなくちゃ…!」
「へっ、往生際が悪いんだよ…!」

メガバスター砲とボルテッカが、イーグルファイターとビッグモスとソウルゲインを包み込む。

「う…うわあああああっ!」

そして、一瞬にして消し飛ばした。

「やった…えっ!?」

そして、プルツーはその結果を見る事なくテッカマンアックスのテックランサーによりコクピットを貫かれ、死亡した。
73閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:04:11 ID:kxnhBQUS
「三人も減らせたのはいいが、機体を失っちまうとはな。こいつは使えなくもないが…やはり使いにくいな」

プルツーの死体を放り出し、デュラクシールのコクピットに座ったテッカマンアックス。
ソウルゲインほど扱いやすい機体ではない。結局最後はテッカマンとして戦う事になるだろう。

「まあいい、まずは腹ごしらえだ」

そしてテッカマンアックスはプルツーに支給された食料をむさぼり始めるのだった。

【テッカマンアックス 搭乗機体:デュラクシール(魔装機神〜THE LOAD OF ELEMENTAL) 
 パイロット状態:疲労(大) カラスの首輪を所持
 機体状態:コクピットに大穴があいている
 現在位置:F−4
 第一行動方針:殺し合いに乗り優勝する
 最終行動方針:殺し合いに乗り優勝する】

【08:20】


【ジ・エーデル・ベルナル 死亡  量産型ボン太くん 破壊】
【アポロ 死亡  ダンクーガ 破壊】
【プルツー 死亡 ソウルゲイン 破壊】
74閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:05:38 ID:kxnhBQUS
【???】


「もう行くのか?」
「ああ、傷は癒えたからね。感謝するよヴィンデル・マウザー、そしてシャドウミラーの諸君」
「それはこちらもだ。君のおかげで我らの悲願は達成される」
「それは正直僕にとってはどうでもいいことだよ。まあ、しばらく共に歩んだ身だ…せめて幸運を祈らせてもらうよ」
「さらばだアサキム・ドーウィン。君が太極に辿り着くことを私も祈っている」
「ありがとう。じゃあ、さよなら」



【アサキム・ドーウィン バトルロワイアルから離脱】




「…良かったのか?奴をあのまま行かせて」
「不安か、アクセル?奴はこちらから手を出さねばもはや関わることもないだろう。会場にあるスフィアは本来の乗り手の者ではないしな」
「だが…」
「それとも奴と戦いたかったか?」
「まあ、少しはな」
「ふっ、よく自重してくれたよ。今お前に抜けられてはかなわん」
「俺が負けるとでも?」
「そうは言わんが。万が一ということもあるだろう。得体のしれん男でもあるしな」
「そうだな…すまん、少しナーバスになっているようだ」
「ソウルゲイン…か?すまんな、お前の愛機を」
「…いいさ。今の俺にはもっとふさわしい機体がある。だろう?」
「ふ、そうだな。出番はまだ先だと思うが、調整はしておけよ」
「わかっているさ、これがな」

「…邪魔はさせん。誰だろうと我らの悲願を阻むことは許さん…!」



【08:20】
75閃光 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/14(木) 20:06:28 ID:kxnhBQUS
これで投下終わりです。
76それも名無しだ:2010/01/14(木) 21:15:04 ID:exHTsd+N
>世界〜じぶん〜
確かに思わず敬称で呼びたくなるかっこよさのギリアムさんだw
それぞれのキャラクターの持つ心情やら背景やら性格やらが上手いこと描かれていて
台詞回しもなんだか俺の琴線に触れまくりで楽しく読めた
実にGJ

>閃光
ちょwww確かに「もっとやれ」って言ったけど三人も死ぬとはwww
アックスは好調だしジ・エーデルのメタ台詞は止まるところを知らないし
っていうかキム兄は何しに出てきたんだw
77それも名無しだ:2010/01/14(木) 23:02:20 ID:t75jsvrk
ギリアムもイネスも頑張れ〜。
大人って子どもをかばって…なイメージがあるけど生き延びてほしいぜ。
あと今更だけどファフナー続編決定おめでとうw

ジ・エーデルここで脱落か。俺のミッテ先生を見捨てた罰だなw
そしてアポロ、プルツーは安からにな。
78それも名無しだ:2010/01/14(木) 23:27:03 ID:tatm9DPl
>世界〜じぶん〜
ギリアムが格好良すぎる。
一応、ヒーロー戦記の後という事かな?

>閃光
なぜアサキム???
いくらなんでも超展開すぎじゃないか?
79それも名無しだ:2010/01/14(木) 23:58:47 ID:3DD+5IJ4
投下乙
いいねえ
この三人は機体状況とか考えても予約段階で死ぬとは思わんかったが、あっさりじゃないか
次元力も場の維持程度の扱いだし問題無さそうだな
80業務連絡:2010/01/15(金) 00:12:26 ID:istuBTdN
投下乙でした

したらば避難所の修正スレにて【閃光】の作品に対する矛盾点の指摘が来ていますので書き手さんは対応を願います
81それも名無しだ:2010/01/15(金) 00:38:01 ID:5vawR/bx
意見だけど、
82それも名無しだ:2010/01/15(金) 00:40:14 ID:ghhsuKeD
>壁にもたれたまま
>壁にもたれたまま
>壁にもたれたまま

……この壁際の燻し銀がw
かっこいいじゃないかこの野郎

>>78
OGギリアムがヒーロー戦記後なのは一応公式設定、のはず
83それも名無しだ:2010/01/15(金) 00:41:27 ID:5vawR/bx
途中送信失礼。
俺の意見だけど、ここは細かいことは気にしないんだろ?
アサキムは離脱してこれ以降のロワには全く影響でないし、何が問題なのかわからんな。
必然性と言うならジ・エーデルを完璧に死なせるという点であるだろ。普通に倒すだけじゃ復活しかねないキャラだしな。
パワーバランスがどうとかっていうのは、これはもう完全ないちゃもんだ。描写が足りない感はあるが、決定的な矛盾がないからとりあえずその線で叩こうという感じしか読み取れない。
84それも名無しだ:2010/01/15(金) 01:02:29 ID:h/KOc9sB
お前の発現こそいちゃもんだろう
85それも名無しだ:2010/01/15(金) 01:14:46 ID:L5DtMhjb
いちゃもんに失礼じゃね。
勝手な妄想読み取りまでしてるし。
86それも名無しだ:2010/01/15(金) 01:23:09 ID:fFikVBvt
やめろそいつは最近発生した必然性くんだ
87それも名無しだ:2010/01/15(金) 01:43:24 ID:kuQHz6ue
俺だってアックスエルデエーデルの話で
逃げるエーデルの背中にボルテッカをぶち込まないアックスはどうなんだよ
エーデル贔屓かよと思ったけど飲み込んだよ
多少の不具合は多めに見る精神が大事だと思うよ
88それも名無しだ:2010/01/15(金) 01:48:47 ID:h/KOc9sB
そりゃボン太くんごときにボルテッカなんか撃つよりまずダイターンを潰せる時に潰すだろう
89それも名無しだ:2010/01/15(金) 02:50:24 ID:kuQHz6ue
テッカマンならそうしても不思議ではないし、ダイタンクは無力になってたし、
例えダイターンにボルテッカを撃ったとしても
ドモンが入ってるわけでもないし所詮ポン太君、離せる距離もわずかだし追撃は可能だよね

ってこんな話は意味ないからやめだやめだ
90それも名無しだ:2010/01/15(金) 03:28:10 ID:h/KOc9sB
不思議ではないってそれじゃ可能性のひとつに過ぎないし砲身潰されてもまだミサイル撃てるし先にエルデの方を潰しただけの話なのに何言ってんだか
第一あの話でアックスはボルテッカ撃った所で終わってる訳で追撃云々いうならつっ込むべき矛先はその続きである今回の話になるんだが
91それも名無しだ:2010/01/15(金) 09:07:04 ID:fFikVBvt
あの話だとミサイルは全く効果無かったはず
でもやめって言ってるんだからいいじゃねえか
92それも名無しだ:2010/01/15(金) 10:29:16 ID:h/KOc9sB
だったら最初から何も言うなって話だが
自分は最後まで言いたいだけ言ってそこでやめって
あの話でミサイルは使っておらず全く効果なかったのはボン太君のロケットランチャーの方ですな
だから全く無力なボン太君なんかよりエルデが動き出す前にダイターンを潰しただけの話
93それも名無しだ:2010/01/15(金) 13:33:16 ID:fFikVBvt
ミサイルはそうだったのかスマン
まあ今回の話で87もせいせいしただろう
殺しにくいキャラでもすぐ死ぬってのはロワの醍醐味だね
94それも名無しだ:2010/01/15(金) 14:07:51 ID:AA0wdilT
まあ矛盾・修正スレでの書き手の口調や対応見てたら苛立つのも分かるがな
95それも名無しだ:2010/01/15(金) 19:36:11 ID:fFikVBvt
今回の話は通らなさそうだな
あとジエーデルが序盤に死ぬのは勿体無いとかって意見出す奴いるけどさ
そういう奴ってジエーデルが主催のOPに投票したの?
あれならそういう意見ももっともだと思うけど
結局違うOPになったんだから自重したほうがいいじゃねえか?
96それも名無しだ:2010/01/15(金) 19:58:04 ID:Nk9pH2NN
もったいないとかいう以前の問題だろこれ
97それも名無しだ:2010/01/15(金) 19:59:20 ID:h/KOc9sB
勿体ねえとかって発言はやめた方がいいな
あれでジエー死んだからいちゃもんつけてるだけにしか見えないってのもどうかしてるが
98それも名無しだ:2010/01/15(金) 21:00:33 ID:LALjz+Dy
いちゃもんとか揚げ足取りはほっとけ

ジエーデルにしろプルツーにしろアポロにしろ「もったいない」というのは死亡についてではなく、
それの描写と表現力の足りなさのことだろう
加えて書き手氏の空気の読めなさ、誠意のなさげな対応が萎えモードに拍車を掛けてるように思う
99それも名無しだ:2010/01/15(金) 21:04:48 ID:94d5olT5
誠意のなさげな対応・・・っていうが、どこをどう見て言ってんだ?

>はあ、つまりデュラクシールが弱すぎるから修正しろ、ということですね?

この辺は確かにそうだが、矛盾があれば修正します・ご意見お願いしますというのまで誠意がないって思ってんのか?
一度修正するのを認めた以上は矛盾があるかどうかでしか咎められないだろ
100それも名無しだ:2010/01/15(金) 21:36:57 ID:LALjz+Dy
誠意がないはその点で強く印象に残ったせいだな、言い過ぎた

しかし、執筆スピードが異常に速いんだとしても、最後の意見が出てから半日で修正版投下してる辺りとか、
住人とも問題点とも、もっと真摯に向き合ってくれよと思うよ
101それも名無しだ:2010/01/15(金) 22:05:16 ID:h/KOc9sB
>>99
確かにそうと例出せる時点で誠意がないという意見には反論できんと思うが
あと、ろくに考えて書いた訳じゃなくその場その場で適当に言い訳してる感がするとことか
結果に向けて行動をとってつけただけに見えて違和感ありありな修正とか
102それも名無しだ:2010/01/15(金) 22:11:00 ID:94d5olT5
>ろくに考えて書いた訳じゃなくその場その場で適当に言い訳してる

そんなもん個人的な受け取り方の問題だろうが
そういう感情論じゃなくて明確にここがおかしいって点を示せよ
そうでなきゃ毒吐いてるだけと何ら変わらん
103それも名無しだ:2010/01/15(金) 22:19:40 ID:h/KOc9sB
指摘した本人がそれは勘違いだったと認めたような内容をほいほいそれでいいんですねと返事した所とかかな
104それも名無しだ:2010/01/15(金) 22:27:28 ID:94d5olT5
は?意味わからん
作品の矛盾はどこかって聞いてんだけど
105それも名無しだ:2010/01/15(金) 22:40:43 ID:/DJRcCQg
 
106それも名無しだ:2010/01/15(金) 23:29:52 ID:fFikVBvt
それはお前が気に入らないだけだろwwww
107 ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:23:06 ID:xE4tdbU3
お待たせしました。甲洋投下します
108それも名無しだ:2010/01/16(土) 03:24:15 ID:RRQJKQu3
109忘却〜たいせつなひと ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:24:45 ID:xE4tdbU3
悪い……何か悪い夢を見ていた気がする。
醒めない悪夢の中をずっと彷徨っていたような。
そんな感覚がした。
ふと前を見上げると無限に広がる宙があった。
俺――春日井甲洋はそんな宙に抱かれながら、ただ思案していた。

俺は、一体何をしようとしていたんだろう。
それすらも曖昧でよく解らなかった。
ただ、解るのは前以上に頭がはっきりしている。
そんな事だけだった。

あの、忌々しい女が言った事もしっかり考えられるようになっていた。
俺はどうやら選ばれたらしい。
でも、今考えても思いつく答えは変わらない。


俺は――――護るんだ。



護らなきゃ……………………




――――誰……を?



あれ、可笑しいな。
俺は何を言っているんだ?
……まだ疲れてるのか。
さっきまで戦闘あったんだし。
俺は深く息を吐いてその時ふと、一枚の紙を見つける。
それを何気に無しに取ると其処には沢山の名前の羅列が広がっていた。

そして、おれはそこの紙に書かれた名前に言葉がつまる。


「真壁…………一騎」

真壁一騎。
大切な人を護れなかったあいつの名前が載っていた。
護れる力があったのに護らなかった、護れなかったあいつが。
俺はあいつを許せない。
俺はあいつのようにはなりたくなかった。


××を護れなかったあいつを。


その一騎がこの島にいる。
俺は一騎に対してどうするのだろうか。
一騎とも戦うのだろうか。

110それも名無しだ:2010/01/16(土) 03:24:49 ID:Iy24ehxb
 
111忘却〜たいせつなひと ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:25:42 ID:xE4tdbU3
「…………戦ってやる。俺は……護るんだ。お前とは………………違うっ!」


戦える。
戦ってやる。
そう、言えた。

そう言った瞬間に何処か胸が軋んだ。


けど…………俺は護りたい。
大切な人を。
護る為に。
解らなかったあいつを倒す。


そして。


「…………総士!」


××を見捨てた総士を。
作戦の為といって見捨てたあいつもいた。
俺は許せなかった。
そうやって割り切ろうとするあいつが。
絶対に許したくも無かった。

あいつはこの島でも誰かを見捨てて切り捨てるのだろうか。

……するんだろうな。
あいつはそういう奴だ。

だから……絶対に。

「許さない」


俺が戦う。
××を護る為に。


また他にも遠見もいた。
俺は遠見すら殺すんだろうか。
それは、解らなかった。
解りたくもなかったのも、間違いかもしれない。


これで全員か……?
ここに連れてこられた知り合いは……



……………………あれ?


何かを。

何かを忘れている。
112忘却〜たいせつなひと ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:26:28 ID:xE4tdbU3

俺は誰を護りたいんだ?


決まっている。

あいつだ。

大切な……あいつだ。


×××××なんだ。


なのによく思い出せない。


可笑しいな。

優しくて。
誰よりも笑っていて。
大人しいあの子。


おれは、あいつを護りたい。


きっとここにもいる。


だからおれはあいつを護るんだ。

だから、戦う。
あいつは護らないといけないんだ。
きっと一人じゃ生きていけないから。
俺が、護らないと。
護れなかったやつらの変わりに。

その為に戦う。

護る為に……殺し尽す。

俺は君を護るだけでいいから。
その為には殺さないといけないけど。
でも、覚悟なんてできてる。

戦って君を護るんだ。

それが守る事に繋がる。

そう、思うから。


113それも名無しだ:2010/01/16(土) 03:27:04 ID:Iy24ehxb
 
114忘却〜たいせつなひと ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:27:47 ID:xE4tdbU3
おれは……そう、決めて名前の書かれた紙を握り潰す。


そしてふと書かれていた名前を見つける。



『羽佐間翔子』



……………………誰だ?



………………誰……だっけ?



何か……。


何か大切な事を忘れている気がする。



それに気がついたとき。



俺は何故か泣いていた。




【春日井甲洋 搭乗機体:バルゴラ・グローリー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下&スフィアと同調することで思考能力の一部回復
機体状況:良好
現在位置:a−1 コロニー内
第一行動方針:見敵必殺
第二行動方針:一騎と総士を倒す。真矢は……?
最終行動目標:守るんだ………………誰を?】
※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
※具体的にどのくらい思考能力や記憶を取り戻しているか、どの程度安定しているかはその場に合わせて一任します。
 好きなように書いてもらって構いません。

【09:30】




115忘却〜たいせつなひと ◆UcWYLVG7BA :2010/01/16(土) 03:28:34 ID:xE4tdbU3
投下終了しました。
支援感謝します。
116それも名無しだ:2010/01/16(土) 03:36:14 ID:Iy24ehxb
こうよおおおおおおおう!
切ない、切ないすぎるぞ、これは!
こんなにも、こんなにも一生懸命なのに。
フェストゥムになりかけてまで護りたいと思ってるのに。
思い出したのは他のヤツラばっかで肝心の翔子思い出せないなんて。
締めもまた泣ける。
とうか乙!
117それも名無しだ:2010/01/16(土) 03:40:55 ID:RRQJKQu3
投下乙!
甲洋……なんというか悲しすぎる。
一騎と総士に対する反発は実にらしいなぁ……総士は死んじゃったけど一騎と出会ったらどうなるか。。
そして甲洋のこの状態は色々転ばせそうで実に楽しみだー。
118それも名無しだ:2010/01/16(土) 04:06:18 ID:FPZIAAf+
投下乙
改行多すぎる・・・これ詰めたら2,3レスで終わるだろ
延長してこんなもんなのか
119それも名無しだ:2010/01/16(土) 04:55:00 ID:z8582d2K
投下乙
まあ改行でスカスカなのは気になったけど次回策に期待という事で
120それも名無しだ:2010/01/16(土) 10:22:06 ID:gDkFmzVn
バルゴラ=不幸フラグ。キャラ的にもロボ的にもこういう展開は目に見えていたが……
けど報われないなぁ、甲洋もセツコも。ほんま乙女のスフィアは地獄やでぇ。
121それも名無しだ:2010/01/16(土) 10:45:33 ID:4I3DB+wG
投下乙
改行は演出だろ……
空白詰めたら印象変わっちゃうよ
122それも名無しだ:2010/01/16(土) 11:27:26 ID:RXS7kozV
投下乙です
夢と現実の境にいるような、胡乱な感じがいいな
不幸フラグに今からwktk
123それも名無しだ:2010/01/16(土) 23:37:41 ID:FLWqII96
おつ
よりにもよって思い出せないのが彼女か
切ないな、おい
しかしKであんなだったファフナーが、ここまでうまく書かれるとは……
124 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:36:40 ID:vHnXAihl
投下します。
125 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:38:05 ID:vHnXAihl
「当たれ、当たれぇーッ!」
「どこを狙ってんだい、素人が!」

天へ伸び上がるいくつもの砲火。
デスティニーの放つ高エネルギー長射程ビーム砲は、空駆けるストライクフリーダムに触れる事すら許されない。
機体制御と火器管制を同時に行うシ―ブック・アノーの表情は、既に焦燥に塗れている。
対するアギーハは余裕がある。戦ってすぐわかった、自分に比べればコイツは新米もいいところだ、と。

「くそ、速すぎる! それになんて火力だ!」
「シ―ブック、下だ!」

地上で見上げるしかないジャミルはせめてもの援護としてアドバイスを送るが、それを忠実に実行できるかと言えばシ―ブックはまだ未熟だった。
ミーティアの高エネルギー収束火線砲をデスティニーが急加速してかわす。中のシ―ブックの身体はあまりのGに眩暈を感じた。

「シ―ブック、奴はスピードはあるが小回りが利かん! タイミングを計り間違えるな !」
「わかってますけど……! こ、この火力差じゃ押し切られる!」
「先ほどの男との戦いを思い出すんだ! その機体にできる事、できない事、全てを把握し使いこなせ!」
「そんなこと言われても……! コイツ、反応が敏感すぎるんです!」
「無理に全力で機体を操ろうとするんじゃない! 君の反応速度に合わせ、機体の出力をコントロールするんだ!」


シ―ブックの機体、デスティニーガンダム。
ザフトの新型、スーパーエース専用に開発されたこのガンダムは攻防速全てに長け、あらゆる状況に対応できる機体として仕上げられている。
対艦刀やビーム砲を始めとする多彩な武装、大型スラスターウイングによる高速機動。
掌部に実装されたビーム砲やミラージュコロイドなど、新機軸の技術も盛り込まれ隙がない。
なによりデスティニーには、ソリドゥスフルゴール・ビームシールド、そしてヴァリアブルフェイズシフト装甲という鉄壁の防御を誇る機体。
この堅牢さがあればこそ、技量で遥かに敵に劣るシ―ブックが何とか生き長らえていられるのだ。
だが多彩な武装・機能を備えるという事は、それだけ操作が複雑という事でもある。

「し、シールド……うわあっ!?」
「チィッ、中々頑丈じゃないのか。実体弾は当たっても効かないみたいだしビームはシールドで防がれる……こいつの兄弟機か?
 まあいいさね、だったらコイツでぶった斬ってやるだけさ!」
「損傷は無い、でもこれじゃ僕が先に参ってしまう……! こっちから攻めないと!」

ビームライフルを連射するが、白い流星は事前に打ち合わせたかのようにスイスイと光の軌道上を避けて動く。

「う、動きを読まれてるのか!?」
「マシンは良くても、パイロットが性能を引き出せなきゃ意味がないんだよッ!」

シ―ブックの操縦はとても素人が乗ったとは思えないほど鮮やかではある。
しかし、訓練されたパイロットからすればやはり稚拙。馬鹿正直に敵の現在位置に向けて撃つだけで、その先を読んではいない。
ストライクフリーダムが反転する。
既にシ―ブックは敵機が自機と同系統の機体、あるいは似たような技術で作られた物だと悟っていた。
だが、両者に差があるとすればそれはやはり追加武装の差。
ミーティアの前方に張り出したアームから光剣が出力される。否、それはもはや剣などではなく。
126 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:39:01 ID:vHnXAihl
「ビームの丸太……!」
「もらったよ!」
「なん……とぉぉぉっー!」

直撃すれば戦艦だって真っ二つにできそうなビームソードを、デスティニーは急降下してやりすごす。
帯電した空気がデスティニーを叩く。当たれば間違いなくそこで終わりだ。
そのデスティニーの肩を蹴って駆け上がる影が一つ。
クロスボーンガンダムX1のヒートダガーがストライクフリーダムに直撃し、弾かれる。

「うっ、ぐ! この……地球人ごときが、やってくれるじゃないのさ!」
「ジャミルさん!」
「いつまでも若者だけに戦わせておく訳にはいかんのでな。ここからは私もお相手しよう」

参戦したX1を警戒してストライクフリーダムが距離を取る。
火力、機動力は負けている。それは二対一になっても同様だ。

「貴様、何の目的で私達を襲う! シャドウミラーの言葉を信じるのか!?」
「ああ? 戦闘中に一体何のつもりだい!」
「たとえ勝ち残ったところで奴らから解放される望みは薄い! ここは手を取り合い奴らに反抗するべきだ!」
「ハッ、あいにく地球人ごときと仲良しこよしなんてのは願い下げだね! あたしには心に決めた男がいるのさ、引っ込んでな!」
「地球人? 貴様は宇宙革命軍の者か!? 君も私達も巻き込まれた状況は同じはずだ、協力はできないのか!」
「ああもう、ウザったいねぇ! 辺境の野蛮人を殺すのに理由がいるのかい!」
「野蛮人だと!?」

苛立つアギーハ、そしてミーティアから雨霰とミサイルが放たれる。

「いかん、下がれシ―ブック!」
「うあっ!?」

ビームライフルでミサイルを撃ち落とす二人だが、ジャミルはともかくシ―ブックはとても手が追いつかない。
いくら避けようと撃ち落とそうとどこまでも追いすがってくるミサイルに、ついにデスティニーが呑み込まれた。
姿勢を崩し墜落するデスティニー。X1はマントを翻し追撃のビームを受け止める。
だが、動きは止まった。元々飛行能力のないX1には致命的だ。

「もらったよ、黒いの!」
「じゃ、ジャミルさん! 僕を庇って!?」
「回避……間に合わんか……ッ!」

ジャミルが強く歯を食い縛る。
ABCマントはあくまで『耐ビームマント』でしかない。連続して、あるいは強烈なビームを受ければ拡散しきれず押し負ける。
まして、ストライクフリーダムとミーティアの放つビームはどれも戦艦の主砲並みの威力。防御は無意味だ。
溢れ出した光がまっすぐにX1を狙い撃つ、
127 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:40:22 ID:vHnXAihl
「ふもぉ――――――――――――――ッ!!」
  (待てぇぇぇぇ――――――――いッ!)


その刹那、凄まじい勢いで飛んできた大岩がミーティアの砲身に激突し照準を逸らす。
ビームは深く大地を抉る。だが、X1には掠りもしていない。
誰もが岩の飛んできた方向に振り返る。そこにいたのは、くりくりとした大きい目で胸を張るぬいぐるみだった。

「ふも! ふふふもふ、ふもっふ! ふもふももふ、ふも!」
  (無事か!? 俺はネオジャパンのガンダムファイター、ドモン・カッシュだ! ここからは俺に任せろ!)
「いや、何言ってるか全然わからないです」
「ふも……ふもっふ」
  (む……通信機の故障か? まあいい、とにかく下がっていろ)

ジャミルが答えなかったので仕方なくシ―ブックが応答する。
向こうにこちらの声は届くらしいが、完全に一方通行だ。何を言っているか全く分からない。
ぬいぐるみ――誰も知らない事だが、名をボン太くんと言う――は先ほど危機を救ってくれたように、どこからか刀を抜いて空にいるストライクフリーダムへと突き付けた。

「チッ、お前もアタシに歯向かうつもり……な、なんだ!? 止めろ! そんな目でアタシをみるな!」
「ふもっふ……ふもふもふ! ふもっふふも、ふもーふ!」
  (俺の知らないガンダムか……相手にとって不足はない! ガンダムファイト、レディー……ゴーッ!)

戸惑うような女の声に構わずぬいぐるみが猛然とダッシュし、ジャンプ。デスティニーの脚を蹴り三角飛び。
瞬く間にストライクフリーダムの真ん前へと躍り出る。
振り下ろされた刀は、しかしフェイズシフトを貫けない。ならば流派東方不敗の技でと拳を握るドモン(+ぬいぐるみ)。
だが、拳が放たれる前にストライクフリーダムは機体を傾けボン太くんを払い落し、再び天高く飛翔する。

「あ、アタシの傍に近寄るなぁぁぁっー!」
「ふもっふ!? ふもももも、ふもーっ!」
   (待て、貴様どこへ行く!? ファイターなら正々堂々と戦え!)

ふもふも言ってるボン太くんは気にしないようにしつつ、シ―ブックは素早く敵機を狙えるかチェックする。
背中のビーム砲なら十分に届く距離だが、シ―ブックの腕では命中は難しい。
遠距離からの攻撃が当たらないのなら近付くしかない。それができるのはデスティニーだけだ。

「くっ、あの高度では手が出せん!」
「僕が行きます! このデスティニーならついて行けます!」
「待てシ―ブック! お前一人では無茶だ!」
「そんな事、やってみなければわかりませんよ!」

だから、シ―ブックはジャミルの制止も聞かずに飛び出した。
それは一番強力な機体に乗りながらジャミルやドモンに守られているという、弱い自分への反発でもあった。
128それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:41:43 ID:GOloNu7c
129それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:42:06 ID:2upnJHl+
130 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:42:16 ID:vHnXAihl
「シ―ブック……! くそ、この機体が空を飛べさえすれば!」
「ふふふふも、ふもっふ!」
   (海賊のガンダムよ、俺をあの空まで飛ばしてくれ!)
「何だ、何を言っているのだ! 今はお前に構っている暇は!」
「ふもっふ! ふもふもふ、ふもっふ!」
   (ボン太くんには空を飛ぶ機能がない! だからお前のガンダムの手を借りたいんだ!)

ボン太くんはしきりに腕を振る。果ては拾った石を猛スピードでぶん投げ、大木をヘシ折った。
ジャミルはその仕草を、遊んでいるのではなく何か伝えたい事があるのではないかと思った。

「……ええと、私にお前を投げろというのか?」
「ふもっふ!」
   (ああ、そうだ!)
「ば、馬鹿な事を言うな! その機体……いや、装甲服……ぬ、ぬいぐるみでは、空に跳んだところでまともに動けはせん!」
「ふも、ふもふもっふも! ふもふふふもふふもっふ!」
   (フッ、流派東方不敗は常勝の拳! どのような状況であろうと俺に負けはない!)
「む……任せろ、そう言いたいのか? やれる自信があるのか?」
「ふもっふぅ!」
   (キング・オブ・ハートの名に賭けて!)

丸っこい瞳の中に、ジャミルは燃え盛る炎を見た(ような気がした)。
どの道、自分に打てる手はない。ならば少しでも可能性の高いカードを選ぶべきだ。

「……今はお前に賭けるしかないか! 私の名はジャミル・ニートだ!」
「ふもふもも! もふもっふ!」
   (ドモン・カッシュだ! 頼むぞジャミル!)
「ええい、少しはまともに喋ってくれ! とにかく、行くぞ!」
「ふもぉー!」
   (いざッ!)

X1がスラスターを全開にし、跳ぶ。
だが重力は振り切れない――跳躍の限界点。
そこでX1は右腕を振りかぶる。
限界まで体を捻るX1、伸ばした腕の中にいるのはボン太くん。

「うおおおおっ!」
「ふも! もふふ! ふもおおおおおおおおおおおおっ!」
   (超級! 覇王! 電影だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!)

射出、などと上品なものではない。ただ全力で腕を振り抜くだけだ。
ボン太くんもまた、あらん限りの力でX1の指を蹴る。
その結果、X1の中指が吹き飛び――ボン太くんもまた空を駆ける流星となる。
131それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:44:24 ID:2upnJHl+
132 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:44:40 ID:vHnXAihl


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                  ト、___{    ト、{        <
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                         ~ヽ       //レ!
                         | ヽ、  _. '"/  |
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                 /     |_| |            〈  /|  \
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 弾丸
                                      ロロ      .
  / ̄ ̄ ̄ /  / ̄ ̄ ̄ / __/ ̄/ ロロ / ̄/ ./''7 / ̄ ̄ ̄ / / ̄/ ./''7
 ./ ./ ̄/ /  ./ / ̄/ / /___.    ̄/    ̄  / / / ./二/ /   ̄ . / / 
 .'ー' _/ /  / /_/ /  ノ / /i ̄!   ___ノ / ./__,--,  /  ___ノ / 
    /___ノ  /___________/ /_,./__./ ヽ、_> /____,./     /___ノ . /____,./ 
                                              

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133 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:45:23 ID:vHnXAihl
     ◆


「うわぁっ!」
「ハッ、よちよち歩きの坊やにしては頑張ったじゃないか。だがアタシは年下は趣味じゃないんだ……死んでもらうよッ!」

ミサイルが集中し、ビームライフルが爆発した。瞬時にシールドを展開し身を守るデスティニー。
経験のなさから動きを止めたデスティニーに、両側から挟み込むように大型ビームソードが襲いかかる。
上下に逃げてもアームを動かせばすぐに追いつかれる。後ろへ下がればビーム砲で狙い撃ち。
アギーハが勝利を確信し、にたりと笑みを浮かべる。

「死んじまいなッ!」
「やら……れる!?」

死を間近に感じ、時間が止まったように錯覚する一瞬。
引き延ばされた刹那の瞬間、シ―ブックは駆け昇る流星を見る。

「ふもおおおおおおおおおおッ!」
   (させるものかぁぁああああッ!)

ミーティアの下部に激突するぬいぐるみ。
その衝撃でビームソードは逸れ、デスティニーの足先を掠めただけに終わる。

「なっ……!」
「ふもっふぅぅ……! ふも! ふもおおおおおおおおおっ!」
   (ばぁぁぁく熱……! ゴッド! スラァァァァァァァァシュッ!)

視界の外から攻撃され、アギーハは動揺する。
だがドモンは構わずガンダムの上を疾走、ガーベラストレートを抜き凄まじい勢いで回転し竜巻のように斬りつける。
効果がないのはわかってはいたが、ストライクフリーダムの攻撃を止める事は出来た。

「うわあっ!?」
「す、すごい! あんなぬいぐるみで……!」
「ふも! ふふふももふもっふ!」
   (ボケっとするな! まだ奴は戦えるんだぞ!)
「……舐めるなァァァァーッ!」

ストライクフリーダムが、ミーティアを切り離す。
飛び出した本体が両腕にライフルを構え、未だ滞空しているボン太くんに襲いかかった。

「ふもっふ!?」
   (分離しただと!?)
「ちょっと愛嬌のある顔だからと手加減してりゃ、調子に乗って……! 喰らいなッ!」

次々と放たれるビームを2m程度しかない刀で切り払うボン太くん。正直シーブックは夢でも見ているのかと思ったが。
業を煮やしたストライクフリーダムは、身動きの取れないボン太くんを蹴り付ける。
いかにドモンの技量が優れていても質量の違いだけは覆しようがない。
134 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:46:07 ID:vHnXAihl
「ふもぉっ!?」
   (ぐああッ!?)
「このまま……! 地面に叩き付けられて粉々になっちまいなッ!」

ボン太くんを掴みストライクフリーダムは降下していく。
どれだけ強化されていてもボン太くんの毛皮……装甲はやはり薄い。鍛え抜いたドモンだからこそ身体がミンチにならずに済んだのだ。
だがさすがに身体の自由は利かなくなっていた。ストライクフリーダムの指を振り払う事ができない。

「ぬ、ぬいぐるみさん!」
「おっと、助けになんて行かせないよ! 下の奴もさね!」

ストライクフリーダムの背中から青い羽根が飛散し、助けに入ろうとしたシ―ブックとジャミルの鼻先を押さえる。
スーパードラグーン・機動兵装ウイングが網の目のように光を交錯させる。

「くっ、これはビットか! これでは身動きが……!」
「ジャミルさん、あの人を!」
「わかってい、――くっ!」
「ジャミルさん!?」
「アハハハハッ! 化け物タヌキがぺしゃんこに潰れるところを一緒に見ようじゃないのさ!」

四方からのビームがX1の動くを封じる。
助けに入ったデスティニーがビームシールドを展開し、どうにか破壊は免れたがドモンを助けるタイミングを逃がしてしまった。
臍を噛むシ―ブック。その時、視界の遥か彼方に一点の光が煌めく。


塵ほどの光点が瞬く間に巨大な鬼の姿となって現れる。
横に水平に伸ばす腕から、長く伸びる影。
音すら置き去りに驀進し、この星を断つかと錯覚するほどに雄々しく振り上げられる剣。


「おおおおおおおおおおおおおッ!」


シ―ブックと同じ年代のように聞こえる、感情に溢れた少年の叫び。
デスティニーやX1には目もくれず、一直線にストライクフリーダムの後を追っていく大型の機体。

「な、何だいコイツはッ!?」
「落ちろォォォォッ!」

100mに届こうかという超大型の刃が大気の壁を切り裂き、自由の翼を打ち据えた。
吹き飛ぶストライクフリーダム。その手から零れ落ちたボン太くんをデスティニーが受け止める。

「うわああっ!?」
「フリーダムッ! お前は……お前だけは、この俺がァァッ!」

人形のように吹き飛んだストライクフリーダム。
コクピットの中でアギーハは激しくシェイクされる。
135 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:46:51 ID:vHnXAihl
「い、いくらフェイズシフトがあるからって、あんなの何発も喰らっちゃまずい……!」

後退するストライクフリーダムを、鬼――スレードゲルミルが追う。
そのパイロット、シン・アスカはもはや他の何者も見えてはいない。

「こいつ……! ヴィガジが戦ったっていうスレードゲルミルかい!?」
「ドリルブーストナックル! フリーダムを捕まえろ!」
「こんなやつと接近戦だなんて、じょ、冗談じゃないよ!」

ドラグーンを戻さずヴォワチュール・リュミエールを展開。
ストライクフリーダムの機動力が跳ね上がり、ドリルを寄せ付けず右に左にと飛び回る。
シルベルヴィントという高速機に乗っていたアギーハには高速域での機体制御はお手の物だ。
その分ドラグーンの操作は機械任せになって精度が落ちてしまったが。

「速い……でも!」
「しつこいんだよ、ガキが!」

ドラグーン、ビームライフルや腰のレールガンなどあらゆる武装をスレードゲルミルに撃った。
だが見た目に違わずスレードゲルミルの装甲は厚い。その上鉄板のようにしか見えない斬艦刀が時に盾となって攻撃を防ぐ。

スレードゲルミルは一撃は大きいが大振りだ。冷静さを欠くシンはアギーハの動きを読み切れない。
だがアギーハもまた余裕はない。一度でも当たれば、フェイズシフトで破壊は免れるがアギーハの身体に負担がかかる。

ともあれ取り残されたシ―ブック達はいったん後退する事にした。

「ぬいぐるみさん!」
「意識がないのか?」

森まで退き、ボン太くんを寝かせ安否を確認するが返事がない。
死んではいないだろうが、あまり楽観できる状況でもなかった。

「とにかく、岩の陰にでも隠しておこう。このサイズなら早々見つかるまい」

というジャミルの言葉に従い、ボン太くんを隠すデスティニー。
改めて振り返り、今も続く戦いを見る。

「僕達を助けてくれた、って感じじゃなさそうですね」
「ああ。フリーダムというのか、あの羽のあるガンダム。あれを狙っているようだな」
「あの大きな機体、なんだか、すごく嫌な感じがします。息苦しいっていうか……」
「そうか、私もだ。有り余る憎しみが……自らの身を焦がす炎となっているようだ。どうやらあのガンダムに相当恨みがあるらしいな」

だが、殺し合いが始まってこんな短時間でそうそう恨みを買えるとも思えない。
136それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:46:55 ID:2upnJHl+
137 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 00:47:46 ID:vHnXAihl
「ここに来る前から、元々あのガンダムを知っているという事でしょうか?」
「かもしれん。だがおそらくパイロットは別人……の、はずだ。私や君に見知らぬ機体が支給されたようにな」
「じゃあ、勘違いで襲ってるって事ですか?」
「だろうな。そんな簡単な事に思い当たらないほど、あの少年の怒りと憎しみが凄まじいのだろう」
「僕と、そう歳は変わらないはずなのに……」

シ―ブックとジャミル、共にニュータイプの素養を持つ物だからこそ感じる。
剣の機体を駆る少年が、凄まじいまでの激情を持て余している事を。

「でも、どうしますか? 今なら僕たちは逃げられそうですけど」
「うむ……君はあのぬいぐるみを連れて逃げろ。私はここに残る」
「な、何でですか! あの戦いに巻き込まれたらいくらジャミルさんでも!」
「厳しいだろうな……だが私は、あの少年を放っていく事は出来ん。私も、君や彼と同じ年代の頃から戦っていたからこそ、わかる。
 己の全てを投げ打ってでも敵を倒そうとする兵士が、いかに悲しい存在なのかを」
「あいつを説得するっていうんですか?」
「あの女性もだ。事情はわからんが、殺し合えと言われて錯乱しているだけなのかもしれん。殺さないように無力化して、取り押さえてみるつもりだ」
「む……無理ですよ! 僕らだけでも歯が立たなかったのにあんな戦いに割って入るなんて!」
「そうだな、だから君は逃げろ。命を賭けるべきは大人だけで十分だ。特にこんな戦いを強制された場ではな」
「ジャミルさん……!」
「その話、俺も乗らせてもらおうか」

シ―ブックがジャミルに食ってかかった時、木立の中からぬいぐるみからひょっこりと人間の顔を生やした男が現れる。

「あなたは……?」
「ドモン・カッシュだ。どうやら世話になったようだな、礼を言うぞ」

精悍な顔つきの(首から下はぬいぐるみだが)男は、身体の調子を確かめるようにあちこちの骨を鳴らしながら言う。
驚いた事にそれほどダメージはないらしい。あるいはこの短時間で回復したか。
本当に人間なのかよ、とシ―ブックは疑ってしまった。

「いえ、助けてもらったのは僕の方ですから。大丈夫なんですか?」
「鍛えているからな……問題ない。それよりジャミル。俺も付き合うぞ」
「それは有難いが、いいのか?」
「ああ。あの少年、まるで昔の俺を見ているようだ。今のあいつは目の前の敵しか見えてはいない。
 あれでは誰彼見境なく襲いかかってしまうかもしれん、見過ごすわけにはいかん」
「そうか……ならドモン・カッシュ。当てにさせてもらうぞ」
「俺もだ、ジャミル」

鋭い眼差しで拳を(ぬいぐるみのモコモコした手だが)突き上げる男。
その姿からは己の強さに絶対の自信を持っている事がうかがえる。
だがやはり、シ―ブック的にはぬいぐるみじゃ無理だろとしか思えなかった。

「で、でも待ってください! そのぬいぐるみじゃどうやったって無理でしょう!」
「わかっている。だからあれを使う」
138それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:48:48 ID:2upnJHl+
139それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:49:07 ID:GOloNu7c
140それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:49:32 ID:2upnJHl+
141それも名無しだ:2010/01/17(日) 00:50:22 ID:2upnJHl+
142 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:03:13 ID:vHnXAihl
そこでドモンが示したのは、乗り捨てられていたキングゲイナーだ。

「あれ……って、キングゲイナー?」
「ほう、あれもまたキングの名を持つか。丁度いい……!」

ドモンは笑みを浮かべると、猛然とキングゲイナーへと走り寄る。
キングゲイナーはデスティニーのフラッシュエッジによって左腕から胴体に掛けて損傷してはいたが、それだけだ。
ドモンが乗り込むとすっくと立ち上がった。

「行けそうか、ドモン?」
「ああ。モビルトレースシステムとは勝手が違うが、何とか動かせそうだ」
「そのぬいぐるみは……脱がないのか? 動きにくいだろう」
「いや、心配無用だ。作業用にかどうか知らんが、手先は細かく動くようになっている。
 センサー類もあるし、いざとなれば脱出装置にもなるのでな」
「そ、そうか……ならいいのだが。シ―ブック、君は退け。そうだな、西の市街地に行って身を隠すんだ。私達もすぐに」
「僕も残りますよ、ジャミルさん」

そう言うだろうと思っていたので、シ―ブックは用意しておいた言葉を返す。
相手が反論する前に機体をX1の手の届かないところへ浮遊させて。

「む、だが」
「敵を倒すんじゃなくて、取り押さえるんだ。一人より二人、二人より三人の方が確率は高いはずです」
「……危険だぞ」
「わかってます。でも、やるって決めたんだ。だからあとは何も考えずに走るだけ――でしょう?」
「シ―ブック……」
「許してやれ、ジャミル。男がやると決めたんだ。中途半端な覚悟じゃないだろう」
「ドモンさん」
「だがシ―ブック。共に戦う以上は足を引っ張るんじゃないぞ」
「わかってます! そりゃ僕はお二人に比べりゃ未熟かもしれませんが、やれる事をやるだけです!」
「良い返事だ。では……行くぞ!」

そして、オーバーマンと二機のガンダムは戦場に舞い戻る。
ストライクフリーダムのドラグーンを、スレードゲルミルの斬艦刀がまとめて薙ぎ払った瞬間だった。
まずはデスティニーがビーム砲をぶつかり合う二機の中間へと撃ち込み、動きを止める。

「俺があのデカブツとやる! お前達はガンダムを頼む!」
「了解だ!」
「はい、わかりました!」

剣戟戦闘、つまりは近接戦ならドモンの土俵だ。
サイズの差をものともせずキングゲイナーは剣鬼へと向かって走る。
突然飛び込んできたキングゲイナーを前にスレードゲルミルの動きが止まる。
ドモンの視界の端で、ジャミルとシ―ブックがストライクフリーダムを追い立てるのが見える。分断は成功だ。
143 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:05:08 ID:vHnXAihl
     ◆


「何だよお前! 邪魔すんな!」
「そうはいかん! 俺の名はドモン・カッシュ、ネオジャパンのガンダムファイターだ!
 お前の名は何と言う!?」
「はぁ!?」
「ファイターが名乗ったのだ! 貴様も名乗るのが礼儀というもの!」
「知るかよ、どけぇ!」
「ふっ、踏む込みが足りん!」

横薙ぎに振るわれた斬艦刀を、回転しながら倒れ込んでかわすキングゲイナー。
直上を通りすぎる刃に合わせチェンガンを叩き付ける。
加速のベクトルを水平から斜めに逸らされ、斬艦刀が空へと吹き上げられた。

「う、嘘だろ!? こっちの腕の方が大きいのに!」
「もう一度言う……名乗れ、小僧!
 それともお前は、自分の名前すら満足に言えない情けない男か!?
「うるさいな! 名乗れって言うなら名乗ってやるさ!
 俺はシン・アスカ! ザフト軍ミネルバ隊所属のパイロットだよ、これでいいか!」
「シン・アスカ……では、シンよ! 改めて言おう。お前にガンダムファイトを申し込む!」
「が、ガンダムファイト?」
「そうだ! お前はあのガンダムに恨みがあるようだがな、その想いすらシャドウミラーの奴らに利用されているんだ!
 冷静になれ、シン・アスカ! 濁った瞳では未来は見えはしないぞ!」
「うるさい! お前に何がわかる!」

斬艦刀を構え直し、頭上で激しく旋回させるスレードゲルミル。
瞬く間に体積を減らし、芯である日本刀の姿に戻る。
代わりに放たれるのは、液体金属の形状を固定するためのエネルギー。

「目の前にフリーダムがいるんだぞ、俺の家族を奪ったフリーダムが!
 父さんを、母さんを……マユを殺して、ハイネまでやったんだ! なのに冷静になれだなんてなぁ……!」

シンの瞳にフラッシュバックするのは、過去――オーブを焼いたあの戦火から逃げ惑うあの日の記憶だ。
見上げた空を支配していたのは五機のモビルスーツ。
その内の一機――フリーダム。死を告げる天使。

「できる訳ないだろおおおっ!」
「むうっ!」

飛来する雷光を、キングゲイナーは踊るようにステップを踏んで避ける。
操るドモンは、しかし直撃を受けていないにも関わらず痛ましい表情を見せる。
144それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:06:24 ID:2upnJHl+
145 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:06:44 ID:vHnXAihl
「そうか、お前も家族を……。だが、それを聞いたら尚更俺はお前を止めねばならん!
 怒りや憎しみに身を任せ戦っても何も得られん。ただ全てが零れ落ちていくだけだ。過去も、現在も、そして未来も!」
「知った風な事を言うな! アンタに俺の何がわかるって言うんだ!」
「わかる! 俺もお前と同じく、一度は復讐に全てを捧げた身だからだ!」
「え……!?」

顔面へ向けて飛んできた雷撃を、鈍い反応の左腕で握り潰す。
揺れるキングゲイナー。ドモンは心中で謝罪しつつ言葉を紡ぐ。

「かつて俺は母を失い、父を投獄され、ただ一人残った肉親である兄を無知ゆえの浅はかさで仇と追い求めた。
 だが、違った。兄は俺の事をずっと見守っていてくれた。仇などではなかった!
 俺の怒りと憎しみは利用されたのだ。全ての元凶でありながら俺を謀った男に!」

全ては浅はかだった己の弱さゆえ。
ドモンが抱える消えない棘――同じ道を、少年はそうと気付かずひた走っている。
だからこそ、止めねばならない。他の誰でもない、その痛みを知っているドモンこそが。

「俺はそれに気付かないまま無為に突き進み、俺を支えてくれた友や一番大切な人を傷つけてしまった……。
 だからこそ、わかる! 今のお前はかつての俺なのだと!
 置いて来た過去に囚われ、そこから一歩も前に進めちゃいないんだ!」
「過去に囚われてるだって……?」

シンの身体が震える。
あいつと同じ事を言う――偉そうに説教するくせに自分はあっさり撃墜された、あの口だけの隊長と!

「復讐は意味のない事だって、無駄だから止めろって……そう言うのかよ、アンタも!」
「無駄ではない!」

力強く否定される――いや、違った。
シンを、肯定している?

「そう、失った過去のために戦う事は決して無駄ではないさ!
 過去に価値があるかどうか、それを決めるのは他の誰でもない、お前だからだ!」

そこから先は、記憶にある言葉とは違っていた。
頭ごなしに否定するのではなく、シンをある意味では認める言葉。

「だ……だったら!」
「だが、そのために未来まで犠牲にするのか!?
 もう戻れない過去を取り戻すために、これから出会う全てを切り捨ててもいいと言うのか、シン!」

男の声には力があった。
シンの頑なな心に響く、燃え盛る炎のような熱さが。
146 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:09:10 ID:vHnXAihl
「う……うるさい、黙れ黙れぇっ! 俺にはもう、戦う事しかできないんだ……戦う事を選んだんだ!」

わからない。何故自分はここまで動揺している? 敵の言葉に揺り動かされている?
それは、紛れもなくドモンがシンを『心配しているから』だ。敵であるシンを、たった今も戦っているはずの相手を。
舐められている――のではない。ドモンの声には一片の遊びもないのはシンにだってわかる。

「そうさ……俺は軍人だ! そんでフリーダムは戦場で好き勝手に暴れ回るザフトの敵だ!
 だったら、だったら……! 戦うしかないだろ、俺はぁぁぁぁぁっ!」
「シン……!」

だが、もうこれ以上敵の言葉は聞かない。
シンの心を包み込もうとする、理解しようとする男の言葉など――!
スレードゲルミルの咆哮。
斬艦刀がその心情を映し出すように形成する、全てを砕くための刃。
キングゲイナーでは持ち上げる事すらできないような大剣を前にするドモンは、常ならば高揚する己の魂が悲しみで満ちている事を自覚する。

「弱かった自分、力無き無念、抗えなかった運命……己が許せないんだろう、シン。
 本当に、お前は俺だ。お前の気持ち、俺には手に取るように分かる。
 だが……だがな、シン!」

本当に、鏡を見ているようだとドモンは思う。
おそらくシュバルツは――兄、キョウジもまたドモンをこんな目で見ていたのだろう。

「憎しみの心で戦って勝利したところで、何も手に入れられはしない。残るのはただ空っぽになった自分だけだ。
 俺には友がいたから、レインがいたからこそ、踏み留まれた。だから……!」

シンにも友はいるだろう。彼と共に歩き、時に道を正してくれる友が。
だが、今その人物はここにいない。ならばドモンが代わりを務めるまで。
そうする事が、ドモンを支えてくれた大切な人たちへ返せる、ただ一つの恩返し――!

「シン・アスカ!」

チェンガンを放り捨てるキングゲイナー。
武器など必要ない。魂を込めるこの拳一つあらば!
キング・オブ・ハートの紋章が光り輝く。ドモンの意志に応えるように。

「その怒りを、憎しみを、悲しみを! 全て俺が受け止めてやる!
 お前を縛る悪夢を、一つ残らずここで吐き出していけ!」
「なっ……!」

シンは目を疑う。一瞬、キングゲイナーの身体が黄金の輝きに包まれたように見えたのだ。
147それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:09:59 ID:r4CIWPzG
 
148それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:10:26 ID:2upnJHl+
149 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:10:31 ID:vHnXAihl
「全力で来い、シン!
 俺はお前の復讐を止めはせん。だが、心を憎しみで曇らせるな!
 復讐を成した先に何があるのか、その手で何を守るのか、それを考えろ!」
「な、何を守るか……?」
「なるほどお前は強い。血の滲むような努力をしたのだろうな。しかしそれは悲しい力だ!
 想いなき力……壊し、奪い、全てを薙ぎ払う力では何者をも守る事などできはしない!」

そしてそれは見間違えなどではなく。
キングゲイナーの『髪の毛』が逆立ち、放射される熱が風となって吹き抜ける。
キング・オブ・ハートの燃える魂が、キングゲイナーに注がれるガソリンとなって爆発する!

「俺がお前に見せてやる!
 復讐のさらに先、曇りのない鏡の如く、静かに讃えた水の如き、わだかまりややましさのない澄んだ心――明鏡止水の境地を!
 そしてお前もこのファイトの中で掴め! 自らが進むべき未来、お前だけの歪みなき想いと力を!」

『髪の毛』が広がる。
光を背負うその姿、まさにハイパーモード。

「キング・オブ・ハートの名に賭けて、シン・アスカ! お前の魂を、この一撃で浄化してみせるッ!」
「……くっそぉぉぉおおおおおおおっ!」

シンは言い返せる言葉を見つけられない。だからこそ、剣で応える。
駆け出す、二つの『王』。

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 迷子を導けと轟き叫ぶッ!
 行くぞッ! ばぁぁぁぁく熱……!」

灼熱、光輝、破邪の拳。
その名も名高き――


「ゴッドォォッ! フィンガアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」


神の指が、剣鬼が突き出した漆黒の刀と激突した。
拮抗は一瞬――刹那の瞬間蒸発した液体金属、真っ向から融け裂ける斬艦刀。
そしてキングゲイナーは止まらない。

「う、うわああああっ!」

輝く王の掌が剣鬼の頭部を鷲掴みにした。
ただのゴッドフィンガーではない。いくら最強のキング・オブ・ハートといえど、気合だけで腕から炎を発現させる事などできるはずがない。
そう、これはオーバーマン・キングゲイナーに元より備わっていた力。
キングゲイナーが備える「加速」のオーバースキルにより、分子運動を超高速でプラスの方向に加速した結果生まれた灼熱。


――オーバースキル『オーバーヒート』。
150それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:12:27 ID:2upnJHl+
151 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:12:32 ID:vHnXAihl
ドモン・カッシュの燃える魂――オーバーセンスが発現させたキングゲイナーの切り札。
初めて乗ったオーバーマン、モビルファイターとは全く違う操縦系統。いくらドモンでも本来のキングのようにキングゲイナーを扱う事は出来はしない。
だが、ただ一点。
心の温度とも言うべき正の感情、その爆発においてはドモンはキングに何ら劣るものではない。


何故なら、そう、ドモン・カッシュは!
宇宙に轟く一世一代の愛の告白を成し遂げた男なのだから!


この赤い瞳の少年の怒りが、悲しみが、ドモンには理解できてしまう。
このまま放っておいてはいけない、力とはどうあるべきか、それを伝えねばならない――救いたいという、紛れもない正義の想い。
その想いにキングゲイナーは応えた。
全てを凍りつかせるオーバーフリーズではなく、固く閉ざされた心の壁を融かし去るオーバーヒートとして。
同じくキングの称号を授かる男に、自らを委ねたのだ。

「どうした、シン! お前の怒りは、手に入れた力はこんなものか!」
「ぐうううっ!」

マシンセルの再生以上のスピードで、爆熱の爪は鬼神の命脈を絶たんと加熱する。
シンはその輝きに己の敗北を見る。
あれが炸裂した時、この苦しみから、痛みから、楽になれる――そして視界の中で、眼前の王に重なる、自由の翼。
光を湛える銃口をガンダム達に。いや、その先のシンに向けている。
家族を奪った、あの光を――俺に!


「――――――フリィィィィィダムゥゥゥゥゥッッ!」


その瞬間頭の中で、魂の奥底で何かが弾けた。
恐怖を、迷いを、諦めを、真紅の怒りが怒涛の勢いで塗り潰していく。



失った。
守れなかった。
弱かったから、奪われた。

だから強くなったんだ――もう二度とあんな思いをしたくないから!
152それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:14:12 ID:2upnJHl+
153 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:15:52 ID:vHnXAihl
シンの瞳から虹彩が失せ、無機質な人形の色を宿す。
剣を持たない左腕でキングゲイナーを掴むスレードゲルミル。
握り締めるが、超高熱の結界は鬼神の指が触れる事を許さない。
ダイレクト・モーション・リンクによりフィードバックする痛み。指が溶け落ちる感覚。
それがどうした、とシンは意識の片隅で一生に付す。
フリーダムがいて、今この手には力がある。だったらやる事は一つしかない!
邪魔をするというのなら――

「調子に……乗るなぁっ!」
「む、これは!?」
「マシンセル、全開! こいつを食い千切れぇっ!」

再生に回していたマシンセルを、全て攻撃へと叩き込む。
全身のマシンセルが指先に集中し、灼き尽くされてなおキングゲイナーを侵食せんと殺到する。
元々のサイズが違うのだ。瞬時にキングゲイナーは黒く蠢く機械の細胞に包み込まれ、その姿を消す。
繭の中で、ドモンが呻く。

「ぐううっ! 耐えろ、耐えるんだキングゲイナー! お前もキングの名を冠するファイターなら、俺の闘志に応えてくれ!」

キングゲイナーの各部に異常が発生する。黒い泥に触れた個所が年経たように朽ちていく。
ドモンが犯したミスはただ一つ。それは、キングゲイナーで真っ向勝負を挑んだ事。
これがゴッドガンダムであったなら話は違っただろう。溢れ出るドモンの感情を全てエネルギーへと変換し、スレードゲルミルを打ち破れたはずだ。
だが、キングゲイナーは本来スピードと手数で勝負する機体だ。
いかにオーバーヒートを発現させたとはいえ、対するスレードゲルミルは50mを越える巨体。
10mもない小型のキングゲイナーとは内包するエネルギーの総量のケタが違う。

「う……お、おお……ッ!」

オーバーヒートを発動し続けているため、ドモンの体力は天井知らずに削られていく。
熱はまだ耐えてはいない。だがそれはもはや攻撃ではなく、自らを守るために使われている。
鬼神の頭部を掴んでいた右腕が、離れる。
ドモンには見えない先、シンの操る剣鬼は刀身のない剣を収め、こちらも右拳を握り締めた。

「わかる……アンタの言う事もきっと正しいんだって、思う!
 でも、でも! 俺にはもうこれしかないんだ! こうやって戦う事しか! だからッ!」
「し……シンッ!」

ついにマシンセルが灼き尽くされ、スレードゲルミルの左腕が肘のあたりまで灰と化す。、
キングゲイナーが自由を取り戻す。だがその時には既に、

「立ち止まれないんだ……こんなところで、俺はぁぁぁぁっ!」
「ぐあああッ!」
154それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:16:36 ID:2upnJHl+
155 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:19:17 ID:vHnXAihl
怒りの拳は解き放たれていた。
避ける事も叶わない。自らの全長すらも超える巌のような拳を受け、キングゲイナーが吹き飛んだ。
追撃が来る――ドモンが揺れる視界の中で必死に機体を立て直す。だが反応がどうしようもなく遅い。
動かないのは機体だけでなく、ドモンもだ。意識が途切れる――

だが、シンは追っては来ない。
その瞳が見据えているのはただ一つ。

スレードゲルミルが再び剣を抜き放つ。瞬時にその刀身は万全の状態へと復元された。
片腕、だがこれまでにないほどの気迫と殺意を込め、シンは咆哮する。

「一撃で決める……!」
「い……いかん! 下がれジャミル、シ―ブック……! がっ……!」

鬼神から伸びる、大河のような煌めき。
マシンセルを纏わせた、一撃必殺の斬艦刀オーバーフロウ。
やがて大河は収縮する。全てのエネルギーを圧縮した光球に。

強力ではあっても実体剣である斬艦刀やドリルブーストナックルではフェイズシフトは貫けない。
だがスレードゲルミルは剣戟戦闘に特化した機体。光学兵器に分類される物は持たない。
ならばどうする? ――その答えを、既にシンは得ている。
たった今見せつけられた光。
加速、発火、燃焼、炎熱。イメージするのはあの一撃。
マシンセルがシンの思考を読み取り、その願いに応えるべく変質する。

真紅の輝きが迸る。
液体金属が膨張、マシンセルがエネルギーを生成し、巨大なる神の腕と成す。
見て取ったドモンが瞠目した。

「ゴッド……フィンガー……!?」

生まれたのは――そう、たった今ドモンが繰り出したばかりの拳。指が開き、掌となる。
止めろ、と叫んだ言葉は聞こえない。
その結果を見届ける事なくドモンの意識は闇に落ち、シンが往くのを止められない。

突貫する。
吶喊する。

怨嗟と怒りの雄叫びを上げ、スレードゲルミルはガンダム達の戦場へと踊り込む。
道を阻む海賊と輝く翼を持つガンダムは、気に留める事もなくその巨大で弾き飛ばす。
シンはそれらを見てはいない。
視界にあるモノはただ一つ、怨敵フリーダムのみ。
156 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:22:18 ID:vHnXAihl
     ◆


「コイツ、段々動きが鋭くなってる! 機体に慣れてきたって訳かい!」
「はあっ……はあっ……! まだだ、まだ遅い……もっと速く!」

デスティニーの姿が幾重にも重なり、アギーハの狙いを幻惑する。
ストライクフリーダムのヴォワチュール・リュミエールはあくまで機動性を上げるためだけの物だが、デスティニーのそれは違う。
ミラージュコロイド粒子を散布し、デスティニーの虚像を映し出すのだ。

「く、うっとおしいったらないね! いい加減に……!」

最大出力で稼働すれば目にも止まらぬ機動力と分身機能で高い回避率を示すデスティニー。
驚くべきスピードで動きをこなれさせていくシ―ブックだが、今はまだその力を最大限に活かせる腕ではない。
だが、一人で戦っているのではないのだ。

「そこだ!」
「ッ! もう一機の……!」

デスティニーが生み出した分身の中からX1が飛び出す。
二つのビームザンバーが振り下ろされ、ストライクフリーダムがビームシールドで受け止める。
即座に跳ね上がって来たX1の右脚を左脚で蹴り止め、腹部のカリドゥスを撃つアギーハ。
ABCマントが一瞬の抵抗を見せる。二機の間に満ちる白光。
後退するX1を迂回し二つのビームブーメランが飛び来たる。

「こんのッ……!」

両腕を広げ、左右のビームライフルで撃ち落とすストライクフリーダム。
次の瞬間がくっと機体が揺れた。直撃を受けた――そうではない。
ストライクフリーダムの脚にいつのまにか繋がれている、鎖付きのフック。
X1が離れ際、ビームブーメランに紛れるように放ったシザーアンカーだ。
落下する勢いに合わせX1が全力でアンカーを引いたため、ストライクフリーダムの体勢も崩れたという事。
腰のレールガンを下方に展開し、引き離そうとするアギーハ。
だがその目前に大剣を振りかぶりデスティニーが突っ込んでくる。

「うおおおおっ!」

対艦刀アロンダイトが唸る。
攻撃を断念しアギーハは再びビームシールドを起動、二つ重ね合わせて受け止めた。
157それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:24:29 ID:2upnJHl+
158 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:25:51 ID:vHnXAihl
「動きが止まった……シ―ブック、詰めるぞ!」
「はい!」

ストライクフリーダムがレールガンをデスティニーに向け至近距離から連射する。
実体弾だからダメージはないとはいえ、衝撃はかなりのもの。

「この距離なら、あたしの機体に分があるようだね!」
「そうでも……ない!」

デスティニーが剣に添えていた左腕を解く。
右腕はアロンダイトを保持し続けたまま。
ストライクフリーダムから伸びるレールガンを掴む。

「こっちには、こんな武器だってあるんだ!」
「くうっ!」

握り締めた砲身が赤熱し、爆散した。
掌の槍、パルマ・フィオキーナ。動き回る相手には使い辛いものの、こうして接近膠着しているなら話は別だ。
腰の連結部分にまで破壊が及び、ストライクフリーダムは揺れる。

X1がシザーアンカーを解除した。
今まで牽引に抗うためスラスターを上昇方向に向けていたので、一瞬ならず機体の制御がアギーハの手を離れ大きく乱れる。
デスティニーがアロンダイトを放り投げ、ビームライフルに両拳を押し付ける――パルマ・フィオキーナを展開した拳を。
一瞬で破壊されたビームライフルに見切りをつけ、アギーハは残された武装、カリドゥスでデスティニーを狙う。
今やデスティニーはガードを解いて攻撃に回した状態。ビームシールドの展開は間に合わない。

「調子に乗ってんじゃないよ!」

そう、確かにデスティニーには防ぐ術はない。
デスティニー、には。

投げ込まれたのは二つの板。
それはカリドゥスが直撃する寸前に、広くビームの盾を形成する。
ジャミルが放ったのはクロスボーンガンダムX1のビームシールド。
デスティニーやストライクフリーダムのそれと違い、取り外せるもの。

一枚目のシールドが突破され、二枚目のシールドにビームが喰らい付く。
こちらもあえなく突破される――が、カリドゥスの威力は完全に殺されていた。
ジャミルの三手目、シザーアンカーに纏わせたABCマントがデスティニーに届く。
かなりの無茶を強いた事もあり、マントはビームを受けて燃え尽きる。

そしてその向こう――デスティニーには、一切の損傷がない。

「仕留めるっ!」
159それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:25:59 ID:owV6qYgI
160それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:27:44 ID:owV6qYgI
161それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:28:57 ID:UTdbF19q
sien
162それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:30:31 ID:owV6qYgI
163 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:33:01 ID:vHnXAihl
掴み取ったのはアロンダイト。シ―ブックが前もって上に放り投げ、今ようやく落ちてきた剣。
本体のエネルギーに依存するビームシールドと違い、アロンダイトは独立した一個の武器だ。当然、さして消耗していない。
だがストライクフリーダムは違う。
ビームシールドの連続展開、カリドゥスの連発――無尽蔵のエンジンを備えているとはいえ、それは常に100%の状態でいられるという意味ではないのだ。
結果、ビームシールドは押し負ける。全体重を乗せたアロンダイト、その一撃によって。

アロンダイトがストライクフリーダムの両腕を叩き斬る。
同時にX1のビームザンバーがもう一つのレールガンを寸断。
ドラグーンは既に全てが破壊されている。
カリドゥスを残しストライクフリーダムはほぼ丸裸になった。

「ここまでだ。降伏しろ」

告げるジャミルの声は憎らしいほどに平静だ。
アギーハにもわかっている。ここから戦況をひっくり返す手は、ない。
地球人ごときが、全く憎らしい――あのやかましいガキさえ乱入してこなかったら、こんな無様はなかったのに!

「……殺さないのかい?」
「我々は勝ち残るために戦うのではない。生きるために戦っている。
 襲われれば応戦はする。だが、必要でもないのに命を奪う事はせんよ」

どうやら、かなりのお人よしのようだとアギーハは推察する。
この分なら少ししおらしいところを見せればすぐに油断する――そうなったらこっちのものだ。
まだミーティアがある。接続しさえすれば、まだ戦える。

「……いいよ、わかった。今までの事は謝罪するよ。あたしはアギーハ、所属は……」
「――――――フリィィィィィダムゥゥゥゥゥッッ!」

貫かれる意識。
聞く者全てに畏怖を与えるような、暗い怨嗟の叫び。

振り向いたアギーハの視界に映るのは猛進するスレードゲルミル。だが振りかぶっているのは剣ではない。
光の塊――が開いて、巨大な掌になった。
超高熱の印、赤を通り越して金色に輝く神の腕。

本能的に悟る。あれはヤバい、逃げろ、と。
割って入ろうとしたデスティニーとX1は、しかし加速する質量を止める術を持たない。
あえなく弾き飛ばされた彼らを追う事もなく、スレードゲルミルは一直線にアギーハへと向かって来る。
後退――間に合わない。アギーハはカリドゥスを巨大な掌の迎撃に回した。
だが、か細く見える閃光は灼熱の奔流を貫くには至らない。
164 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:35:40 ID:vHnXAihl
「っ……!?」
「これで、終わりだああああああああッ!」

瞬きの間に距離を詰められ、掌に全身を掴まれる。
ストライクフリーダムの全身を絡め取る禍々しい光の指。
フェイズシフトが全開で応戦する。だが、尽きる事なく送り込まれる熱量は、その鉄壁すら打ち崩す。

ストライクフリーダムのコクピットを埋め尽くすレッドアラート。
限界以上の発熱――フェイズシフトダウン。
アギーハは事態の推移についていけない。だが降りかかる濃厚な死の気配、それだけは嫌にはっきりと知覚できた。


「そんな……嫌だ! 助けて、助けておくれよシカログ! 嫌だ、アタシは、アタシはああっ!?」
「俺の前から、俺の記憶から、俺の運命から!
 今、ここで! 消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」


握り、潰す。
指が閉じられる。

そして――融け消える。


爆発すらもその輝きが掻き消し、自由の翼がここにいたという証すらも残さない。
シ―ブックとジャミルは一瞬の出来事に言葉もない。
ほんの一瞬、ほんの一合であの難敵は虚空に散った。生きていられるはずが、ない。



【アギーハ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)  死亡】
【ストライクフリーダムガンダム(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)  大破】
165それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:35:53 ID:owV6qYgI
166それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:36:09 ID:MCpfm5kA
  
167それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:37:00 ID:owV6qYgI
168それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:38:42 ID:owV6qYgI
169 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:39:11 ID:vHnXAihl
     ◆


舞台に残ったのは海賊と運命、そして剣鬼。
ストライクフリーダムを撃破した後、シンは離脱もしないままそこに留まっていた。

「はあっ……はあっ……!」


フリーダムを倒した。手に入れた力は、憎い仇を討ち取る事に成功した。
なのに、この気持ち悪さはどうだ?
ここがミネルバならみんなが喜んでくれたはずだ。
艦長に褒められ、副長が勲章を要請すると勝手に盛り上がり、整備班の友人は我が事のように喜んでくれて。

――すごいじゃない、シン! さすがスーパーエース!
――よくやったな、シン。お前を見出した議長の目に曇りはなかったようだ。

同僚が二人、シンの肩を叩き、嬉しそうに言う。シンもまたそれに笑って応え、そして、あの人の前に立って言うんだ。

――仇は取りましたよ、アスラン!
――ああ。見事だったぞ、シン。俺もお前に負けてられないな。

認めてくれるはずだ。シンが正しいと、間違ってなどいないと。
前大戦の英雄が、シンを同格の腕と認め共に戦おうと言ってくれる。
ステラだって、戦場でシンが活躍すればザフトで保護してもらえるかもしれない。
戦場でそれを認めさせるだけの戦功を立てればいい。


その、はずだ――なのに。


「……なんで、こんなに……こんなに、胸が、苦しいんだよ……!」

シンに応える声はなく、だが聞こえてくる声だけがある。

「ドモンがやられたというのか!」
「お前……! くっそおおおおっ!」
「待て、シ―ブック!」

現実感のないまま、シンは興奮を抑えきれず血走った目を見開く。
そこには当然、同僚も親友も、隊長もいない。
認識できるのはシンに向かって剣を構え、突撃してくる『ガンダム』のみ。

あれも、敵?
だったら、倒す。迷う必要なんかない。
そうだ、迷うな――!

自分に言い聞かせるように、シンは強くそう思う。
170 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:41:15 ID:vHnXAihl
「なんで……なんで殺した!」
「このモビルスーツ、インパルスに似てる……!?」

アロンダイトを斬艦刀で受ける。
一度フルパワーを放出したため、その形状は小さく通常の日本刀並みだった。

「答えろ、なんでだ! なんでドモンさんやあのガンダムを攻撃したんだ!?」

動揺させるための手だ、聞くな――シンはシ―ブックの声に応えない。
対艦刀が不調でも、スレードゲルミルを退かせはしない。
押し切られ斬艦刀が弾かれる。だが追撃が来る前に、スレードゲルミルの頭突き。
インパクトヘッドは未だ再生途中であるものの、質量だけでデスティニーを吹き飛ばす威力。

「こいつ……! 何とか言えよっ!」

吹き飛びつつもデスティニーがスレードゲルミルの頭を掴む。
瞬間、衝撃。ゼロ距離で炸裂したビームに頭部が半壊した。

「くっ、あの距離で……! ビームサーベル、じゃない! 小型のビーム砲か!」
「なんて装甲だ! コクピットを狙わなきゃ止まらない……!?
 でも、コクピットを潰せばパイロットは……!」

鬼の隻眼が輝き、斬艦刀を収め右腕を伸ばす。
脚を掴まれデスティニーが引っ張られた。

「うわああっ!」
「いくらフェイズシフトがあったって……! パイロットをやればいいんだろっ!」」

出力に物を言わせデスティニーを振り回し、凄まじい遠心力がシ―ブックを襲う。
シートにしがみつくシ―ブック、とても操縦できる状況ではない。

「このまま地面に叩き付けてやる……!」
「させるものか!」

腕を振りかぶったスレードゲルミル、その指を精密にX1が斬り付けた。
デスティニーが勢いで吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながら墜落する。

「シ―ブック、無事か! 返事をしろシ―ブック!」
「ぐ……うう……!」

落着する寸前で逆噴射をかけ、僅かながら勢いを殺した事が幸いしシ―ブックは生きていた。身動きは取れないようだが。
安堵したジャミルだが、機体を動かす手は止まらない。今この瞬間もスレードゲルミルのパンチをかわしたところだ。
171それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:41:51 ID:wFAbR02U
しえん
172それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:43:08 ID:MCpfm5kA
 
173それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:43:18 ID:owV6qYgI
174 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:43:47 ID:vHnXAihl
ドモンは敗れ、シ―ブックもまた負傷した。
襲撃者は死亡し、残ったのはジャミル自身と暴走する少年のみ。
潮時だ。ここで全滅する訳にはいかない――撤退しなければ。

だがもちろん、見逃してくれる相手でもないだろう。ならば、

「シ―ブック、ドモンのところに行け! さっきのガンダムの追加モジュールを使うんだ!」
「え? な、何……言ってんです、ジャミル……さん!」
「逃げろと言っている! この少年は私が押さえる!」

息も絶え絶えに、シ―ブックが反論する。
まだキングゲイナーの反応が感知できる事からして、ドモンは生きている可能性がある。ただあの男の信じがたい耐久力を信じるだけだ。
今まともに戦えるのはジャミルだけ。であれば、ジャミルが残るのは道理である。

「この少年は自らの感情を、怒りを持て余しているんだ! このまま放置しておく訳にはいかん!」
「だから……僕も!」
「君は足手まといだ!」

冷静さを欠き、加えて負傷した今のシ―ブックは戦力になり得ない。
言われるまでもなくシ―ブックにもわかっている。だからこそ悔しい、先走って下手を打った自分が。

「いいかシ―ブック。この少年はおそらく正規の訓練を受けた軍人だ。そして有り余るほどの才能も感じる。
 今の君ではこの少年には勝てん。だからここは退いて、力をつけるんだ! ドモンと共に行き、彼から戦う術を学べ!」
「ジャミルさん!」
「今この少年を押さえられるのは私だけだ。心配するな、死ぬつもりはないさ。適当に相手をしたら私も離脱する。
 A-5の市街地へ向かえ、人が集まるはずだ。そこで仲間を集め、君自身も強くなるんだ!」

未来のために礎になるのは若者であってはならない、というのがジャミルの持論。
そう、いつだって若者に道を切り拓くべきは大人なのだ。
シ―ブックにも、ジャミルが命をかけて自分を守ろうとしている思いは伝わっている。
ここに残れば諸共に砕かれる――ただの無駄死にだ。
痛いほどに歯を食い縛る。
信じるしかない。ジャミルは勝つ、死にはしないと。

「行け、シ―ブック・アノー! 己の戦場を見誤るな!」
「く……っそぉ! シ―ブック・アノー、撤退します……!」

墜落していたミーティアを起動し、デスティニーとドッキングする。
シ―ブックがドモンのいる方へ向けて飛んでいくのをジャミルは見送った。

「それでいい……死ぬな、シ―ブック。生きて、生き抜いて……君だけの答えを見つけるんだ」

X1に牽制されていたとはいえ、スレードゲルミルは逃げるデスティニーを追おうとはしなかった。
無差別に人を襲おうとしているのではないのか? ジャミルはそう睨んだが、
175それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:45:26 ID:owV6qYgI
176それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:45:46 ID:MCpfm5kA
 
177 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:46:12 ID:vHnXAihl
「ぐうう……うおおおおおおっ!」
「くっ、やはり戦う気か!」

シンはただ、マシンセルの再生を待っていただけだ。
左腕と頭部は後回しにして、全力で右手の指と斬艦刀を再生させる。
復元を終えた斬艦刀が、瀑布のようにX1に疾駆する。
愚直なまでに真っ直ぐな太刀筋を見切り、X1が身を捌く。

「あの装甲の厚さでは射撃では効果がない。接近するしかないか!」

先ほどと同じように、至近距離でビームザンバーを叩き込むしかなさそうだ。
接近戦――そこはX1の距離であると同時に、敵の距離でもあるのだが。
どう考えてもX1の装甲では一撃もらえばそこで終わり。ビームシールドは既にないが、あっても役に立たなかったろう。

「殺さずに無力化するためには、仕方ないな……!」

死の暴風圏に踏み込むジャミル、クロスボーンガンダムX1。
クロススラスターを全開で吹かし荒れ狂う刃の渦を駆け抜ける。
ナイフ状に変化した斬艦刀が迫る。X1はシザーアンカーが射出し、その刀身を絡め取った。
一瞬の拮抗、瞬時に膨張した斬艦刀が鎖を断ち切る。

「ここだ!」

その一瞬、斬艦刀による攻撃を一瞬だけ止められれば良かった。
一気に懐に飛び込んだX1が両腕にビームザンバーを煌めかせる。
狙うはスレードゲルミルのコクピット――ではない。
その巨体にただ一つの戦闘力を有する右腕に、『着地』して。

「おおおおおおおおおおッ!」

X1の胴回り以上の太さのスレードゲルミルの手首を、斬り付ける。

斬り付ける。

斬り付ける。

何度も何度も、斬り付ける。

ビームザンバーが過負荷でダウンする。放り出し、代わりに抜き放った両肩のビームサーベル。
深く突き込むが、まだ壊れない――もう一押し。

「こいつ……離れろよっ!」
178それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:46:18 ID:wFAbR02U
sien
179それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:46:51 ID:MCpfm5kA
 
180それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:48:49 ID:owV6qYgI
181 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:49:49 ID:vHnXAihl
機体が接触しているため伝わってくる、シンの焦燥に塗れた声。
明らかに冷静さを欠いている。
だからこそ、ジャミルは説得ではなく無力化を選択した。
X1の足底が開き、顔を出すのは鋭い刃――脚部スラスターの排熱により一瞬で赤熱したヒートダガー。

「少年よ、力を振るう意味を見失うな! 何のために戦い、誰に引き金を引くのか……状況に流されるのではない、自らの意志で見定めるのだ!」

言葉と共に、スレードゲルミルの手首に穿たれた傷穴に足先を突き入れた。



爆発、後、崩壊。
掌と肘の半ばあたりでスレードゲルミルの腕部が完全に砕け、斬艦刀が地に落ちる。
それはスレードゲルミルの敗北の証であると同時に、シンの怒りを強制的に冷却する鐘でもあった。

スレードゲルミルが膝をつく。本体はまだ動けるだろうに、戦意を示す事もなく。
改めて、ジャミルはシンへと呼びかけようと思った。

「お、俺は……」
「落ち着いたか? やれやれ、何とかなっ……!?」

スレードゲルミルの巨体が沈んだ事により開けた視界。
そこに見えたのは、両腕を開き赤く光る胸を張る偉大なる勇者――

「……ッ!!」

ジャミルは、躊躇わなかった。
X1を全速でスレードゲルミルへとぶつける。
木星の重い重力を振りきるためのクロススラスターを全開にして、身体ごと押しのけるように。


結果、

「ぐわああああっ!」

X1の胸から下が灼熱の奔流に消し飛ばされた。
制御などできるはずもなく、X1の上半身は大地へと突っ込んでいく。
そして、踏み付けられる。
182 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:52:03 ID:vHnXAihl
「フフフ……今日は良い日だ。少し予定は変わったが、新型のガンダムをこうも容易く始末できるとはな!」
「お、お前、は……!?」
「古来、地球ではこういう時のための諺があったな。
 楽してズルしていただき……違うな。トンビにチキンをさらわれる、だったか?」

勝ち誇るでもなく冷静に呟いたのは、ラカン・ダカラン。
ネオ・ジオン軍に所属するパイロットにして、グレートマジンガーの現パイロット。

「よほど奴に集中していたらしいな。俺の接近に気付かんとは」
「き、貴様……」
「あのデカブツを先にやるつもりだったが、まあいい。結果は変わらん」

デカブツ、という言葉に反応し、ジャミルはスレードゲルミルを探す。
擱座しているが、新たに損傷を受けた様子はない。
安堵するジャミル。

「しかし、わからん物だな。寸前まで戦っていた相手だろうに、何故助けた?」
「き……貴様には、わからん、さ……」

だが、状況はまずい。このままでは二人とも、新たに現れたこの男に喰われてしまう。
X1もスレードゲルミルも既に余力はない。抗えるはずがないのだ。

「ほう? だがいずれにしろ無意味だ。なにせ……」

グレートマジンガーが剣を抜き、逆手に構える。
剣先はスレードゲルミルに向いている。

「や、止めろ!」
「お前も奴も、ここで死ぬのだからな!」

豪腕が刃を投げ放つ。
動かないスレードゲルミル――間違いなくコクピットに直撃すると、ジャミルは焦燥と共に確信する。

だが、そんな結果は認めない。
少なくともこの身体が、ガンダムが動ける内は!


「やらせは――しない!」
183それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:52:11 ID:owV6qYgI
184それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:52:29 ID:MCpfm5kA
 
185それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:53:19 ID:wFAbR02U
sien
186 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:53:53 ID:vHnXAihl
胸を踏み付ける脚に対し頭部バルカンを発射するX1。
超合金ニューZには傷一つ与えられないが、踏み込む力は確かに緩んだ。
同時に生き残った二つのスラスターを全開にし、弾かれたようにグレートマジンガーの足下から離脱する。

先を往くマジンガーブレード、その前方に回り込みX1の口が開く。
頭部からの排熱機構。だが今は別の使い方をする――

がきぃぃぃん、と。
甲高い音を立てマジンガーブレードは静止した。
クロスボーンガンダムX1の顔が開いた瞬間閉じることで、まるで噛みつくように剣を防ぎ止めて。
勢いを殺し切る事は出来ず、剣の先端がX1の頭部を貫通し飛び出る――スレードゲルミルには、届いていない。

「あ、アンタ、俺を庇って……!」
「……少年、逃げろ!」

フリーズし動けないスレードゲルミルの中から、シンは全てを見ていた。
今も、そしてさっきも。
シンが殺そうとしていた相手が、二度も身を挺してシンを救う瞬間を。

「な、何で……!?」
「未来を担う若者を……こんな殺し合いで無為に死なせる訳にはいかんのだ……!」
「ちいっ、死に損ないが!」

二度も必殺の一撃を防がれたラカンは表情を歪める。
そんなに死にたいというなら、いいだろう。
グレートマジンガーの腕から鋭利な刃が飛び出て、回転し始める。
抉り貫く一撃、ドリルプレッシャーパンチ。

「少年、名は何と言う?」
「お、俺はシン……シン・アスカです!」
「そうか……シン。私はジャミル・ニートだ。
 忘れるな、いつも力の中心に想いを置け。力に呑み込まれるな。激情を制御しろ……」
「何をゴチャゴチャと! まとめて片付けてくれる!」

発射される、最期を告げる力。
死を目前にしてジャミルはただ言葉を紡ぐ。

「……シン! シ―ブック・アノーとドモン・カッシュ! この二人と合流しろ!
 そして、守るべき者を守れ! 二度と心の闇に身を任せるんじゃない!」
「あ、アンタ……」
「お前より長く生きた者からの忠告だ! 失った過去は取り返せないが、それだけを見て後悔するのは止めろ!
 道はいつでもお前の前に開かれている! 後は勇気を出して踏み出すだけなんだ……!」
187それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:55:26 ID:owV6qYgI
188それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:55:53 ID:wFAbR02U
sien
189 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:56:31 ID:vHnXAihl
視界いっぱいに映し出されるドリル。
恐れはないが、悔いは残る。


シャドウミラーを打倒すると誓ったのに。
もっと多くの言葉をシ―ブック、そしてこのシンという少年に残してやりたかった。
地球と宇宙、ついに手を取り合い新たな世紀を迎えたというのにこの目で見れないとは。

ガロード、ティファを頼むぞ――

全て一瞬で脳裏を駆け抜け、しかし最期に残す言葉はこれだった。



「生き抜けシン・アスカ! 運命など、そうと望めばいつだって変えていける! だから――!」



結びの言葉は、ない。
シンの眼前で、クロスボーンガンダムX1が砕け散った。



【ジャミル・ニート(機動新世紀ガンダムX)  死亡】
【クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーン・ガンダム)  大破】


190それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:57:55 ID:owV6qYgI
191それも名無しだ:2010/01/17(日) 01:58:44 ID:wFAbR02U
sien
192 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 01:59:58 ID:vHnXAihl
ジャミル・ニートは死んだ。シンのせいで、シンを守って。
シンを襲う痛み――何も変わらない。弱かった過去の自分、力を得たはずの今の自分!
心が、引き裂かれそうになる。

「あ……ああ……!」
「フン、手こずらせるものだ。だがこれで残るはお前一人……恨みはないが俺が生き残るためだ。死んでもらうぞ」

だが、悲しみに身を沈める事は許されない。
そう、ここにはもう一人いる。
乱入してきた男、ジャミルを殺した男が――

「ジャミル……!」
「どうした、何を悲しむ事がある。こいつは敵だったのだろう?
 俺はお前を助けてやったのだぞ。俺に怒りを向けるのはお門違いだというものだ、小僧」

嘘だ。
その言葉には一片の善意もない。
敵であろうとシンを救おうとしたドモンのような、ジャミルのような暖かさは――!

「フッ……しょせん俺も貴様も同じ穴のムジナというやつよ。
 まあ、そう気を吐くな。すぐに後を追わせてやる……!」

ジャミルによって祓われた怒りが、憎しみが再燃する。
呼応するようにスレードゲルミルのマシンセルが活発に活動し始め、頭部に集中していった。
形作るのは、そう――

「むっ!? 再生していく……ドリル!?」
「あんたは……あんただけは……!」

ジャミルを殺した、あの凶器!
オオオオオオオオオオ、と鬼の咆哮が大地を揺らす。
踏み出す脚に触れた木々が、一瞬にして壊死し塵と化す。
インパクトヘッドは再生し終えた。しかし暴走するマシンセルは無差別に放出され、留まるところを知らず噴き上がる。

「なんだ、この機体は!」
「急に出てきて、好き勝手に……!
 あんたは一体何なんだああああああああぁぁっ!」
「……ええい、サンダァァァブレェェェェクッ!」

後退しつつグレートマジンガーが雷を放つ。
森を抜け、腕のないスレードゲルミルが発進。
雷の嵐の只中に突入し――ほんの一瞬たりとて立ち止まらずに突き抜ける。
シンの、スレードゲルミルの全身を灼く痛み。
だが止まらない、止まれない。
溢れ出る激情が止まる事を許さない!
インパクトヘッドを穂先に、一個の弾丸となってグレートマジンガーに激突する。
193それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:01:27 ID:wFAbR02U
sien
194それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:02:05 ID:MCpfm5kA
 
195それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:02:28 ID:owV6qYgI
196 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 02:03:26 ID:vHnXAihl
「おおおあああああああああああああああああッ!!」
「グレートマジンガーが……パワー負けするのか!」


満身創痍のスレードゲルミル。
万全であるグレートマジンガー。

軍配が上がったのは――前者だ。
マジンガーブレードが受け止めるインパクトヘッド、その回転は時空すら歪ませるほどに速まっていく。
地を砕き、天を衝く。
どこまでも撃ち貫く鬼神の衝角は、魔神の剣を砕きその脇腹に噛み付いた。

「ぐおおおお……っ!」

もはや回避する事は諦め、ラカンは腹を抉るスレードゲルミルの頭部を掴み逆に押し込んだ。
削り取られる超合金ニューZの身体。触れた物全て砕き、インパクトヘッドは突き抜けた。
身を捻りドリルの侵攻範囲を減らし、グレートマジンガーは腹に大穴を開けながらもドリルから解放される。
地に突っ込むスレードゲルミル。
一瞬にして大地に走る亀裂。
轟音と共に、機動兵器が動くことを前提に作れらたであろう橋が崩落していく。

「ええい、撤退する……!」

勢い余って眼下の海へと落下していくスレードゲルミルを尻目に、グレートマジンガーは反転、離脱していく。
追っては来ない。そんな余裕はないのだろう。
しばらく後方を警戒し飛び続けていたが、完全に戦闘空域を離脱したと判断してラカンは立ち止まった。
機体のコンディションチェック。

「チッ……ガンダムを仕留めたはいいが、手負いのネズミを侮ったか」

剣を失い、腹に穴を空けられた。
代償が一機脱落。リターンとしては少なすぎる。

「まあ、いい。シン・アスカ……こいつはいいカードだ」

いや、もう一つ。有益な情報を得ていた。
あの場にいたのはラカンとシン、そして既に逝ったジャミルのみ。
ラカンは正直なところかなり早い時点で戦いを観察していた。名前を知れたのはシンとジャミルだけだが、大体の関係はわかる。


ジャミルと光の翼を持つガンダム、そして髪の毛を振り乱す小型機は繋がっている。
最初の敵は青い翼を持つ白のガンダム。
ここにシンという小僧が乱入し、戦況は混乱した。
197それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:05:09 ID:owV6qYgI
198それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:05:32 ID:wFAbR02U
199 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 02:07:30 ID:vHnXAihl
『髪の毛』がシンに、ジャミルとガンダムが敵ガンダムに。
その後シンが白いガンダムを仕留め、もう一機のガンダムもシンにより撃退され、『髪の毛』と共に後退した。

シンとジャミルは交戦、和解した――そこにラカンが介入し、ジャミルを殺害した。これが全体の構図。

つまりだ。
離脱したガンダムと『髪の毛』には、ラカンの存在を知られてはいない。

放送で、あるいはラカンが直に会ってジャミルの死亡を伝えたとしよう。
その時彼らが疑うのは、当たり前だがただ一人――シン・アスカ、あの小僧だけだ。


ジャミルを助けようとしたが、敵わなかった。
シン・アスカは今も手当たり次第に争いを仕掛けて回っている。

――シン・アスカは、危険だ。


この情報はいくらでも利用できる。
シンという脅威を前に結束する集団に紛れ込む事も、あるいはシンを狩り立てるように誘導する事も。

「せいぜい役に立ってもらおうじゃないか、シン・アスカ……。俺の生存のためになぁ!」

含み笑うラカン。
これからだ。何としても生き残り、帰還する。
そのために手段を選ぶつもりは――ない。



【一日目 9:30】

【ラカン・ダカラン 搭乗機体:グレートマジンガー(グレートマジンガー)
 パイロット状態:疲労(小)
 機体状態:脇腹に大穴、EN60%、グレートブースター無し、マジンガーブレード破壊
 現在位置:D-4
 第一行動方針:他の参加者と接触(ドモン、シンを優先する)
 第二行動方針:シン・アスカの情報を利用する
 最終行動方針:生き残る
 備考:シ―ブックとドモンの名は知らない】
200それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:08:14 ID:owV6qYgI
201それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:08:29 ID:MCpfm5kA
 
202それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:08:56 ID:wFAbR02U
203それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:11:07 ID:owV6qYgI
204 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 02:12:25 ID:vHnXAihl
     ◆


「俺は……何を……手に入れたって、いうんだ……?」

海中にて。
深く、深く沈んでいくスレードゲルミル。まるでシンの心を反映するように。

「やっとフリーダムを討てたのに……なんで俺の中、こんなに空っぽなんだよ……」

フリーダムを倒せば何かが変わると信じていた。
そして、倒した。なのに何かを得た感じは全くない。
理由は……想像がつく。
シンに言葉を投げかけてきた二人の男の存在があるからだ。

「ドモンさん……、ジャミル……さん。お、俺は……」

シ―ブック・アノー、そしてドモン・カッシュ。ジャミルは彼らと合流しろと言ったが、できるはずがない。
シンは差し伸べられた手を振り払ったのだ。そして、ジャミルはシンのために死んだ――シンが殺したようなもの。
シ―ブックという少年は、シンを許さないだろう。
ドモンとて、罪を犯したシンを受け入れてくれるとは思えない。

目に留まった名簿を、空虚な気持ちで開いていく。
そこにジャミル・ニートの名を発見し、さらに沈鬱な思いに支配されるシン。
文字列を目で追う。
シ―ブック・アノー、ドモン・カッシュ。知っている名はそれだけ――、

レイ・ザ・バレル。

不意にその名が目に留まる。
ミネルバにおけるシンの同僚。上官や異性の同僚を別にして、一番腹を割って話せる親友。
今まで彼もこの殺し合いに参加させられていた事にすら気付かなかった。とんでもない自分勝手だ。
だが今のシンには、親友のあの冷静な声が欲しかった。
どうすればいいのか、どうすれば許されるのか――その疑問に答えてくれる声が。

「レイ……いるのか、ここに」

怒れる瞳は彷徨い続ける。
罪を犯し、罰を恐れ、己の正義も見えぬまま。

「頼むよ、レイ。教えてくれ……俺は、どうすればいいんだ……」

身体を丸め嗚咽するシンに、スレードゲルミルは何も答えてはくれない。


「俺は……!」

暗い海の底に、少年の慟哭だけが響いていく。
205それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:13:24 ID:owV6qYgI
206 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/17(日) 02:13:34 ID:vHnXAihl
【一日目 9:30】

【シン・アスカ 搭乗機体:スレードゲルミル(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:疲労(大)、精神的に深刻な動揺
 機体状況:両腕破損、マシンセル正常機能中、EN30%
 現在位置:C-3 海中
 第一行動方針:レイを探す
 第二行動方針:今はこれ以上戦いたくない
 第三行動方針:シ―ブックとドモンには会いたくない
 最終行動方針:優勝し、ミネルバに帰還する……?】





【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)+キングゲイナー(OVERMANキングゲイナー )
 パイロット状況:疲労(大)、気絶
 機体状況1(ボン太くん):良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
 機体状況2(キングゲイナー):小破、全身の装甲に軽い損傷、EN60%
 現在位置:B-4 平原
 第零行動方針:???(気絶中)
 第一行動方針:他の参加者と協力して主催者打倒の手段を探す
 第二行動方針:シンを助けたい
 最終行動方針:シャドウミラーを討つ
 備考:ボン太くんを着たままキングゲイナーを操縦しています】

【シーブック・アノー 搭乗機体:デスティニーガンダム+ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:EN50%、ミーティア接続中
 現在位置:B-4 平原
 第一行動方針:A-5の市街地に向かい、ジャミルを待つ
 第二行動方針:仲間と情報を集める
 最終行動方針:リィズやセシリー、みんなのところに帰る
 備考:謎のビデオテープを所持】

【ミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 機体状況:残弾60%、右アーム切断
 備考:核以上の出力があり20m前後のモビルスーツ程度の大きさならば、どんな機体でも着脱可能に改造されています】



※C-3の橋が崩落しました。
207それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:16:24 ID:owV6qYgI
208それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:17:08 ID:vHnXAihl
投下終了、支援ありがとうございました
タイトルは
 「災厄の紅き剣は水底に消えて…」です
209それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:37:36 ID:wFAbR02U
投下乙です!
信じられるか?こんな前半でエルデ、アギーハどっちも逝ったんだぜ?
それはともかく、俺のアギーハ死んだ!でも彼女らしさが出てて良かったです。
ただ一人称は確か「あたい」だったかと。wiki収録時に直せる小さいことですがw
ジャミルも最後までかっこ良かったです。
これでシンがどうなるか…ぜひとも持ち直してほしいものです。
そして今後はドモンが導くのか。シーブックも頑張って強くなっておくれ!
210 ◆VI1alFlf1E :2010/01/17(日) 02:39:47 ID:7cryq+UZ
大作のあとで気が引けますが、投下します
211それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:40:05 ID:O8CC/iEI
すげえ、二人の大人の熱すぎる思いも少年には届かなかったか。
いや、届いた時には既に遅く……
ところどころで挟まれる原作での名台詞が凄い状況とリンクしてて良かった
投下乙でした
え? 俺の戦う理由だって?
……以前にもどこかの誰かさんに同じことを聞かれたっけなあ。
それと同じ結論でよければ、まっ、話してもいいけどさ。
――俺は元々、大人の勝手な都合で始めた戦争なんか乗り気じゃなくって、
ただビーチャたちみんなと一緒にジャンク屋をしながら、その儲けで妹のリィナを山の手の学校に行かせられればそれでよかったんだ。
だけどまあ、なんだか成り行きでガンダムに乗ることになっちゃってさ。
それからはあれよあれよといつの間にか戦争をする側に回っちまってた。
だから、今はともかく最初の頃は全然そんな、人に胸張って言えるような大義名分なんて持ち合わせちゃいなかったんだ。
けど、それでも戦っていく内に見えてくるものってのは、やっぱりあるもんだよね。
戦争をやってると、以前よりもずっとこれがくだらないことだって実感するようになった。
一部の偉い人だか何だか知らないけどさ、そんな連中の勝手な都合で人が死に、地球は汚染され……宇宙だって似たようなもんさ。
そんなの、黙って見てられないじゃないの。
俺はこんなだけど、何が悪いのかっていうのは感覚的に理解できる。
一人の独善で多くの被害が出る。それだけは、絶対に許しちゃいけないんだ。
この殺し合いにしたってそうさ……あのシャドウミラーの何とかって奴ら。
あいつらが何の目的でこんなことを始めたのかは知らないよ。知りたくもない。
ただどうせ、またあいつらの勝手な都合なんだろうね。
だから俺はそれを止める。これは俺だけじゃなくて、こんな馬鹿げたものに巻き込まれたみんなの意思ってやつさ。



ライディーンの右手の甲が変形し、左右から翼、次いで中心部から刃が飛び出す。
あのガトーとの戦いのあとで町に滞在している間に、あらためてこのライディーンにどんな武器があるのか確認してみるとこれが予想以上に多彩なものだった。
先ほど向こうから不意打ちを食らって多少機体にダメージはあるものの、これだけの武器があるならばそう簡単にやられはしない。
これはその多くの武器の内の一つだ。
鳥のようにも見えるその赤い羽を、ジュドーは前方にいる敵目掛けて勢いよく投げつけた。

「ゴッドブーメラン! ……ってね!」

それは大きく弧を描いて目標から一旦逸れて旋回すると、奴の背後から猛烈に勢いを増して襲い掛かってゆく。
ブーメランの形状をしている以上、こちらに戻ってくるのは承知済みだ。それは当然向こうも同じだろう。
だが、こちらの狙いは攻撃ではなくあくまで牽制だ。
牽制とはいっても、このライディーンの武器の威力ならそれ一つ一つが必殺に繋がりかねない。
よって軽々しく無視はできず、相手の注意が一瞬ゴッドブーメランの軌道を読むことに向けられた。
その思考の隙間が狙い目だ。ジュドーは無手のままライディーンを急加速させる。
213それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:41:11 ID:owV6qYgI
投下乙!

読み終わった時俺は自然と感慨深げに息を吐いていた。
誰だってそうであろう、このような大作を読ませてもらえたのなら。
大人数入り乱れての戦い。長編と呼んで差し障りないボリュームだが、度重なる状況の切り替わりが飽きさせずにいてくれる。
ミーティストフリVSデスティニークロボンに始まり、頼りになる援軍ふもっふ登場。
相変わらずのふもっふやクロボン弾でのギャグで笑わせてもらったと思ったら、シン乱入。
ストフリVS運命に続く宿命の対決が勃発する傍らでジャミルがかっこいい。
ぬいぐるみに乗ったままなのはツッコミたいがドモンもいい感じで頼り甲斐がある。
そして始まるシンVSドモンの復讐者と元復讐者の対決。
確かにドモンならシンの心を感じられると思わずうならされた。
激情をぶつけてくるシンを受け止め、かつ肯定しつつも前を向けさせようとするドモンはどこまでも大きい。
キングゲイナーに乗ったキングオブハートは確かにどこまでも王だった。
なればこそオーバーヒートが発動するのもまた道理。
熱い、熱すぎる、オーバーヒートフィンガー!
それでも、溶けきらない。
シン・アスカの心の闇は溶けきらず、まさかの哀と悲しみのゴッドフィンガーが発動してしまう。
向かうは怨敵、フリーダム。
手数の多さを存分に発揮してアギーハを追い詰めた若者と大人コンビの健闘空しく、遂にフリーダム堕つ!
だが救われない。否、だからこそシンは救われなくなってしまった。
彼の胸を襲う痛みが私の心も確かに打った。
もはや止まれぬシンに何故殺したと迫るシーブック。
シンVS運命という夢の対決その3が切って落とされるが、シーブックでは敵わない。
無力に嘆く彼を先に行かせ一人残るジャミル。
この二人の離別は両者の歯を食いしばるほどの強い思いが感じられて感嘆する。
そして大人は少年と向きあう。ガンダムと共に。
ガンダムを討たんと、自らが生き残ることだけを考える勝手な大人から未来ある少年を守りつつずっとずっと声をかけ続ける。
ジャミル! ジャミイイイイッッル!
過去を悔い、されど未来を見つめることを知った大人の死は確かにシンへと届いた。
サンブレをも打ち破るドリル返しの頭突きはいかにも激情的な彼らしい。
その一手があまりにも遅すぎて、結局は何も守れなかったことに嘆きレイを求める姿もだ。
邪悪に索をめぐらすラカンも相まって、今更ドモン達とも合流できないと手を振り払い続けるシンの今後は実に楽しみである。

等と長ったらしくおかしなノリで感想を書き続けてしまったが、とにかく面白かったと伝えたいが故である。
グッジョブ。この一言で締めくくらせてもらおう。
「むっ!?」

こちらの動きに気づいたのか、向こうの獅子を象ったマシンはゴッドブーメランとライディーン、双方から逃れんと上空へ飛び上がる。
案の定ブーメランは相手の下方を通過し、その役割を果たせぬままライディーンの腕に戻ってきて再び装着される。
だが避けられることくらいこっちだって読んでいる。ついでにいえば、どの方向に避けるかも含めた上でだ。
ライディーンもまた相手の動きに合わせて急上昇し、その両の手を開くと相手のそれに合わせ、力任せに握り締めた。
向こうの両手は獣の形をしているため、まるでそれの首根っこを掴んでいるかのようだ。
ライディーンと獅子のマシン……ゴライオンは互いに顔がぶつかり合いそうなほどの至近距離で、万歳のポーズをとったまま動きを止める。
単純な馬力勝負ならそうそう負けはしないはずだ……と踏んでいたのだが、ゴライオンはジュドーの予想をはるかに超えたパワーで逆にこちらを圧倒してきた。

「ふんっ……このゴライオンと!」

一旦掴まれたままの両腕を下げると、そこから勢いよく振り上げる。
瞬間、火花が走ると同時にゴライオンはライディーンの拘束をいとも簡単に破ってみせた。

「レーベン・ゲネラールを!」

間を置かずに自由になった両腕の獅子の牙を、間抜けな格好で動きを止めているライディーンの腕に逆に食い込ませ、

「舐めるなアァアアァァアアアッッッ!」

大気を震わす咆哮と共に、そのまま噛み砕かんと顎に込める力を右脳に任せるままに全開まで上昇させた。
ゴライオンの出力はなんと六百万馬力。
この不思議な空間内で大幅に力が削がれているとはいえ、それでも元々八十万馬力が限界のライディーンとでは根本的にパワーが違う。
嫌な音がしながら腕が次第にひしゃげていくのを、ジュドーは冷や汗を流しながら感じていた。
どうにか外そうにも向こうの牙がぎっちりと食い込んでいるためにそれもままならない。
このままではあと数秒もしない内に確実に使い物にならなくなってしまうのが目に見えていた。
だが、そこでジュドーはにやりと口元を緩ませる。
向こうの力が予想以上ではあったものの、それでもここまでは予定通りだ。
こっちは一瞬でも相手の動きを止めることができればそれでいいのだから。
215それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:42:46 ID:owV6qYgI
割り込みごめんなさい支援
「今だ、ディアッカ!」

直後、ゴライオンとライディーンの真下にある新雪が盛り上がり、中から黒い巨体が現出する。
言うまでもなくディアッカの搭乗機、ステルバーだ。
あらかじめ身を隠しておいて、ジュドーがポイントの位置まで敵を誘導するという作戦だったのだがこれが功を奏した形となる。
ディアッカはジュドーの声に応えるようにして、決して命中精度の高いとはいえない銃を構える。
ここからの位置では、下手するとジュドーにも当ててしまうかもしれない。
これがライフルだったらまた話は別なのだが、残念ながらこのステルバーにはそのようなものは備わっていなかった。
だがそれでも、ここはやらなければならない。コーディネイターは伊達じゃないってところを見せる時だ。
どこかでスナイパー専用機を見つけたら絶対に乗り換えてやると心に誓いながら、ディアッカは叫ぶ。

「グゥレイト! 初弾は絶対にお前には当てないから、その間に上手く逃げろよジュドー!」

この銃はマシンガン。当然これだけではあのライオン型マシンの装甲を貫くことは難しいだろう。
だからこそ、銃の引き金を引く直前にステルバーの全砲門を解放。
ガトー相手の時はこちらに注意を引かせるだけでよかったが、今回は出し惜しみなしだ。

「釣りはいらねえよ……全部持ってきな!」

驚異的といえる集中力をもって一瞬の瞬きすらせずに狙いをライオンロボへと定めると、ディアッカは全ての射出武器を解き放った。



ん? それはこの殺し合いとやらをケースに置いた場合の話かい?
だったら話は簡単だ。生き残るためだよ。
そのためならたとえ相手がナチュラルだろうが一時的になら手を組むし、脱出が無理そうならその手を組んだ相手をこの手で殺しもするさ。
……あーわかってるわかってる。あんたの言いたいことはわかってる。
そりゃ俺だって好き好んでこんなことやるわけじゃねえさ。
だがな、結局のところ人間なんてのはそういうもんじゃないのか?
こんな早い段階で自分以外の参加者を皆殺しにしようなんて積極的に動く奴はよほどの馬鹿だ。
そんな目立つ真似してりゃあ、いずれ力尽きるか誰かに殺されるのがオチさ。
やるならよっぽどのチャンスにめぐり合うか、誰にもばれないようにこっそりとってな。
かといってこの場所から脱出できるなんて盲目的に信じる奴もまた馬鹿だな。もしくは現実から逃避しているだけか?
いやいや実は全ての人を救えると本気で信じる聖者様かもな。
けど生憎と、俺はその領域にまではとてもたどり着けそうにないんでね……あくまで俺は優先順位を揺るがすつもりはないって話さ。
はっきりここで言っとくと、俺は死にたくない。それは当然、他の連中もみんなそうだろうさ。
さっき俺が言った奴らだって、まず自分が助かることを前提として、それに他の参加者を付随させるかさせないかって違いでしかない。だろ?
そこらへんの認識をごまかしてる奴もいるけどな。今俺と一緒にいるジュドーみたいな……さ。
そこいくと俺はどっちでもいい。第一優先順位は俺の命。あとは何だっていいさ。
助かる奴は助かればいいし、無理ならその場で死んでいけばいい。
無理強いはしねえよ。本当に脱出が無理って決まったとき以外はな。
……ああ、わかってる。
もしかしたら、俺もただ選択する度胸がないだけで本当は迷ってるのかもな。
ま、それならそれでもいい。俺はただ、一貫として人間であり続けるだけだ。


時間は少し遡る。
あのヴァンとかいういちいちこちらを苛立たせる言動の男との戦いを終え、その際に損傷した十王剣を修理できるものはないかと
レーベンは操縦を一旦止めて雪原に降り立ち、側にあった岩場の影に隠れたまま地図を眺めていた。
ついでに先ほどの戦闘で出た汗によって乱れかけた戦化粧をあらためて整えなおす。
やはりこれはいい。身が引き締まる思いだ。
さて、現在の機体の状況だが十王剣の損傷こそ激しいものの、それ以外は今のところ良好だ。
このままでも十分に戦えるだろう、が――やはり決め手に欠けるというのも事実だ。
これから全ての参加者を相手にしなければならないのに、こんな序盤から必殺武器を失っては苦戦を強いられることは必至だろう。
いざとなればこのゴライオン自体から別の機体へ乗り換えることも考慮に入れねばなるまい。
地図によるとすぐ近くに町があるが、そこではとても修理など望めないだろう。目指すなら基地か。
ここからだとG-5からG-6にかけて存在するやつが近い。

「いや、だが待て……」

ふと考え付いて、レーベンはもう一度地図を凝視する。
可能性としては低いが、町に住民が住んでいるかもしれない。
ジ・エーデル・ベルナルという名についての情報を収集するならば一度立ち寄って聞き込みをするという手もある。
どちらにせよ、基地の進行上に町はあるのだ。上空から町の様子を観察する程度ならばさして時間も取るまい。
そう思い立つと、レーベンはひとまず町へ向かおうとあらためてゴライオンの操縦を再開し、空中へと飛び立った。

――そんな時だ。他の機体と鉢合わせてしまったのは。




「俺はジュドー、よろしく!」

開口一番に、ゴライオンと比較してそこそこ大きい機体に乗っている男は気軽にそう自己紹介してきた。
能天気そうな声だ。それがまたこっちの神経を逆撫でしてくる。ああ、エーデル准将のあの美しくて気高い御声が恋しい。
……だが、その軽い調子とは裏腹に警戒度はそれなりに高い。
一定の距離を保ったまま、決してこっちの間合いに入ろうとはしていない。どうやら素人というわけでもないらしい。
加えて、一見したところそれなりに戦えそうな機体に乗っている。
今すぐ戦ってもいいのだが、このままでは苦戦を強いられる可能性が高い。
仕方ない……と、レーベンは内心で深く嘆息すると、かつて被っていた仮面を今一度装着する。
218それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:45:58 ID:owV6qYgI
 
「私はレーベン・ゲネラールといいます……申し訳ありませんが、あなた方はこの殺し合いに乗っていられるのでしょうか」

この口調も久しぶりなので顔面の筋肉が引きつくのがわかった。
まあ、互いに顔は見えないのでそれは大した問題でもないが。
我が友、シュランよ許せ。心のままに生きると誓いながらこのザマだが、それも一時的なことだ。
またすぐにお前の望む俺に戻る……それまで我慢してくれ。全てはエーデル准将のためだ。
対してジュドーと名乗った男は即座に否定してきた。

「いいや! 俺はね、こんな最低なことをやらせるあいつらを倒すつもりだよ。あんたもそうかい?」

そんなことはわかっている。貴様のような奴は当然そうだろうよ。
エーデル准将やシュランの他は全て虫ケラ同然と思っているが、こういう奴はその中でも特に虫唾が走るほどに嫌いなタイプだ。
偽善に満ち溢れていて、しかも本人はそのことに気づかずに正義面だ。本当の正義とはエーデル准将のような方の下にこそ存在するというのに。
まあ別に今はどちらでも構わんがな。どのような性格にせよ、こっちはただ貴様らを狩るだけなのだから。

「それを聞いてほっとしました……私はレーベン・ゲネラール。
あなたと同じく、この悪趣味な催しに怒りを覚えるものの一人です。
 こんなことは即座にやめさせて、あのシャドウ・ミラーなる連中に鉄槌を下さなければなりません!」

やや大仰な演技をすると、向こうの張り詰めた空気が多少緩和したのが伝わってきた。
素人ではないとしても、やはり単純馬鹿だ。こういう奴らの相手は実にやりやすくて助かる。
さて、ここからが本題だ。
この応答次第で、この男の寿命が決まる。

「……ところで、あなたがたはジ・エーデル・ベルナルという者について何かご存知でしょうか」
「ジ・エーデル? 知らないなあ。それならそっちもガトーって男のことを――」

有益情報なし。役立たず。用なし。クズ。
ならばもう仮面を被る必要はない。
一瞬でアクセルをフルドライブまで急上昇させると、レーベンは無防備な獲物に向けて猛烈な勢いで突進を開始した。

「ならば今すぐここでエーデル准将のための屍となるがいい!」
220それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:48:09 ID:owV6qYgI
 


戦う理由だと!? それは当然エーデル准将のために決まっているだろう!
エーデル准将こそが正義! 正義こそがエーデル准将!
ならば俺はその剣となって全てを屠る!
故にこの場においてやることは一つ! 皆殺しだ!
しかしもしジ・エーデル・ベルナルという名を持つ者がエーデル准将ご自身だったとするならば、俺は全ての参加者を殺したあとに自ら喜んで命を絶とう!
俺の命がエーデル准将の礎の一つとなるならば、それは何とも身に余る光栄だとは思わんか! これほどの幸福は他にはあるまい!
その光景を想像するだけで、おお――まるで天から光が俺に注いできたかのような心地に包まれるではないか!
ああ、エーデル准将……! 貴女こそこの堕落しきった絶望の世界における唯一の女神です!
エーデル准将! エーデル准将オオオオオオオオオオオ!!

…………。

だが……もしそれがエーデル准将ではなくまったくの別人だとするならば。
楽には殺さんぞ!
機体からパイロットを引きずり出した後、この世の人間が思いつく限りの苦しみを味わわせてやる!
泣き喚け! 命乞いをするがいい! だが発狂は許さん!
壮絶な苦しみを! 凄烈な痛みを! 全て貴様に叩き込むまでは絶対に魂を解放したりなどはせんぞ!
貴様はこの世に生まれてきたことを後悔し、次に人間に生まれ変わることすら拒否するほどの刻印を刻まれた上で死んでいくのだ!
エーデル准将の名を騙るというのはそれほど重い罪なのだということを知るがいい!
……ん? なんだもういいのか?
まだまだ語るべきことはたくさんあるというのに遠慮せずともいいのだぞ? おい!



……そこから不意打ちで突撃を食らわせると、ジュドーとかいう男の乗る巨人は敢え無く後方の雪山へ吹っ飛んだ。
出来としては六十点といったところか。一撃で決めるつもりだったが、ぎりぎりでガードされていたらしい。
動きを多少鈍らせることには成功したようだが、それだけだ。
戦闘そのものに支障をきたすほどのダメージを与えているとは言い難い。
やはりもっと警戒度を下げておくべきだったかと歯軋りするが、悔やんでも仕方ないと思い直した。
ならば正面から正々堂々と殺すだけだ。このゴライオンならば容易いこと。

そして戦闘を開始したのだが、戦っている内に向こうはこちらの両腕を掴むなどという身の程知らずな行為をしてきた。
だが、その程度の力で敵うはずもあるまいとレーベンはほくそ笑む。
逆に噛み千切ってやろうと相手の両腕に牙を突き立ててやったが、そこで初めてこの男の目的に気づく。
真下を見れば、そこにはもう一体の黒い機体。
一瞬漁夫の利を狙った第三の敵かと思ったが、よく見るとその砲身の先は確実にこちらだけを捉えていた。
となれば答えは明らか。あらかじめ、こいつらは手を組んでいたのだ。
222それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:50:56 ID:vHnXAihl
 
「ぐっ!? 貴様ら……!」

舐めていた。ただの単純馬鹿だと思っていた。
こうなってみて思い返せば、ジュドーが警戒度を下げていたのもこちらに敵意があるのか試したのだろう。
味方ならそれも良し、わざと隙を見せることでそこにこっちが踏み込んできたら、自身が囮となる形でこの作戦を実行する腹だったに違いない。
アラートが脳内に鳴り響く。この感覚は危険だ、避けなければならない。
しかし先ほど食い込ませた牙が仇となり、引き抜くのに時間がかかる。これでは間に合わない!

「釣りはいらねえよ……全部持ってきな!」

黒い機体からマシンガンの弾と無数のミサイルが放たれた。
いくらゴライオンの装甲といえど、全弾食らえばただでは済むまい。
こんなところで、エーデル准将のために何もできないままに、あのヴァンに借りを返す前に死ぬというのか。

「ふざけるなああああっ!」
「……!? な、なんだぁ!?」

ジュドーはゴライオンの右足に位置する獅子の喉奥から一発分のミサイルが顔を出したのを見た。
だが、それをどうしようというのか。ディアッカに向けて撃つにしてもそれより早く向こうの攻撃がそっちに着弾するに決まっている。
ならば自分に向けて撃つつもりか。だがこれほどの至近距離なら、当たれば向こうだってタダで済むはずが……

「フットミサイルウウウウウ!」

瞬間、下方から轟音がしたかと思うとライディーンに凄まじい衝撃が走った。
内臓が潰れそうなほどのGがジュドーの全身にかかり、そのまま後ろへと弾き飛ばされる。

「……うっそ!?」

ここに至り、ジュドーはレーベンが何をしたのか理解する。
奴はまさにその至近距離でミサイルを撃つことで爆発を巻き起こし、その反動で後方へ一瞬にして跳んだのだ。
案の定さっきまで奴のいた場所をたくさんのミサイルが通過していき、そのまま消えていくのが見えた。
この爆発だ。損傷は免れないだろうが、それでも致命傷は避けてみせたのだ。
自分が言うのもなんだが、なんとまあ無茶な戦法をするものだ。もしこの場を生き延びられたら、以降の参考にさせてもらおう。

なんとか雪上に着地してライディーンの損傷度を確かめる。
戦闘はまだ続行できる。が、下半身の左半分をやられてバランス維持が難しい。
さらに先ほどのGによって脳に負担がかかったせいか、目の前が少し歪んでいる。
操作に慣れていないとはいえ、ガトー、そしてこのレーベンという男にもまたここまでやられるとは、情けない話だ。
224それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:51:40 ID:owV6qYgI
 
225それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:53:12 ID:vHnXAihl
 
「おいジュドー! 平気か!?」

ディアッカが通信で話しかけてきた。
こちらの無事を伝えると、ミサイルが何発か当たったもののほとんど避けられて、仕留め損ねてしまったことを悔しげに報告される。

「向こうも無傷ってわけでもないようだが……こっちはほとんど撃ち尽くしたってのにあれくらいの被害じゃ割りに合わねえぜ」

見ると、ゴライオンもまた被害は軽くないもののまだ戦う余力は十分残っている。
地上に降り立ち、一歩一歩雪原を踏みしめながらこちらを威圧するように歩いてきていた。

「ふふふ……ははははは! さすがこのゴライオンもまた獅子の名を象った機体だな! これこそが我らの本領よ!
 貴様らにとっては強大すぎるゴライオンの一パーセントの力を、この俺のさらに強大なエーデル准将への愛が九十九パーセントで補う!
 最初から貴様ら徒党を組むような軟弱な虫ケラでは相手になるはずもなかったのだ!」

わけのわからないことを意気揚々と宣言しながら、その足は止まらずどんどん近寄ってくる。
極度の興奮状態にあると見えるが、戦意はまったく衰えていない。まったく大した執念だ。
ディアッカは弾薬をほぼ撃ち尽くしてしまったために残るは予備しかなく、どこまで戦えるか心許ない。

(なら、自分でやるしかないでしょ……!)

馬力の差は先ほど拝んだばかりだが、それでも負けるわけにはいかないのだ。
この世界にはプルやプルツーがいる。顔は知らないが、他に似たような参加者だって。
ここで自分が死ぬことで救えるかもしれない命が消えていくのかと思うと、ジュドーの内側からレーベンのそれとは異なった闘志がわき出てくる。
無言でジュドーは右手の甲から長い刃を飛び出させ、構えた。
接近戦に特化したライディーンの武器の一つ、ゴッドブレイカーだ。
向こうだって無傷ではないのだから、こちらに勝機は十分にあるはず……

「…………?」

そこで、ジュドーはゴライオンの足が突然止まったことに疑問を持った。
近接戦闘ではなくミサイルなどの遠距離からの攻撃に切り替えたのだろうか、と思ったがそういう様子でもない。
ただじっと、こちらを見ているだけだ。何をするでもなく、無防備なままで。
少し離れた場所にいるディアッカも同じことを感じたらしい。怪訝そうにレーベンの様子を窺っている。

「……ちょっと、もしもーし?」
「…………」

試しに呼びかけてみるが反応がない。
コックピットの中で心臓発作でも起こして倒れているのではないかと馬鹿な考えが一瞬頭をよぎる。
よく見てみればゴライオンはこっちを見ているわけではないらしい。
正確には自分の向こうにある上空を見上げている。まるで自分たちがこの場に存在していないかのように。
実際、現時点での彼の中ではそんなものなのかもしれないが。
敵を前にして後ろを振り向くのには意外と度胸がいったが、ジュドーは意を決して何があるのか確認するために機体を動かして、自分の後方に広がる空を見上げた。
「……女……」

ぽつりと、レーベンの漏れた声が聞こえた。
それが何を意味しているかはすぐに知れた。空に小さな機影が見える。
こちらに気づいているのかいないのか、次第に近寄ってきているようだ、
カメラを操作してズームしてみると、それは機体というよりむしろ……

「女……!」

そう、あれは紛れもなく女の子だ。
このライディーンや向こうのゴライオンもMSなどに比べたら大分人の顔に近い形をしているが、今見えるあれはその比じゃない。
ピンク色の髪の毛、肌の張りから造詣、身体各部の艶かしいライン、何もかもが女の子のそれそのものなのだ。
もしかしたらロボットなどではなく、何かの間違いが起きて巨大化した普通の人なんじゃなかろうか。

「女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「!?」

その時、レーベンの魂の奥底から憎しみに彩られた感情が迸った。
大気が振動し、天まで突き抜けるその叫び声に驚いてジュドーが振り向くと、その時には既にゴライオンは加速を開始して一瞬でライディーンの横を通り過ぎる。

「な、なんだあ?」

呆気に取られる二人を置いて、レーベンを乗せたゴライオンは一直線に空中の女の子向かって飛んでいく。
その他には何も目に映らない。
思考から色々な雑念が漏れ出てゆき、最後に彼の女性そのものに対する深い憎悪の念だけが残る。
今この瞬間だけ、レーベンはシュランのことも、エーデル准将のことも忘れてしまっていた。



ああ? 戦う理由だと?
それは前回散々語ったからそっちを参照してくれ!
て、ていうかだな! 今は何か知らんが猛烈な勢いでこっちに襲い掛かってきた奴の相手しなきゃならんのだ!
だから邪魔をするな頼むから!
228それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:55:45 ID:owV6qYgI
  
229それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:55:51 ID:wFAbR02U
 


「お、おいこらちょっと待て! いきなりお前は何だ!
 私はそこまで人に憎まれる覚えは……ないことはないが……い、いやしかしだな!?」
「死ねええええええええええええ!!」

見るからに女の子の形をした機体、ヴァルシオーネに乗っている男……イスペイルは困惑していた。
あれからとりあえずA-1にある基地を目指そうと順風満帆に機体を発進させたところ、いきなり身に覚えのない奴から強烈な憎しみをもって襲われたのだ。
あまりに突然のことで、こっちの戦闘準備もまだ完了していない。故に、今はただ向こうの攻撃を避けるしかない。
大体まだジョーカーとしてこの地に降り立ってから間もないというのに、こんな風に恨まれる筋合いはないはずだ。
まだ誰も殺していないし、それ以前にこの場で他人と遭遇したのはこの男……叫び声から察するに男だろう……が初めてなのだ。
最初からこの殺し合いに乗った殺戮者だというなら話はわかるが、こいつは明らかにこっちに憎悪の念で攻撃を仕掛けている。
正直、誰かと勘違いしちゃいないだろうかと思わざるを得なかった。

「落ち着け! 話し合おう! 話し合いというのは我ら知的生命体に与えられた崇高な財産というべき……」
「死ね、死ね、死ぃぃぃぃねえええええええええ!!」

作られた存在であるイスペイルが知的交流を要求し、れっきとした人間であるはずのレーベンが闘争本能に身を任せる。
それはなんとも皮肉で滑稽な姿だった。



放置されてしまった形となったジュドーとディアッカは、戸惑いながらもひとまず窮地を脱したことに胸を撫で下ろしていた。
ライディーンはなんとか動けるもののやはり損傷は軽くはなく、今後に不安を抱かずにはいられない。
そして一方のステルバーの弾薬はほぼなくなっていて、あと一度戦闘をすれば完全に空となってしまうだろう。
あのままレーベンとの戦闘を続行していれば、負けることはなくても共にボロボロになる可能性が高かった。
消耗するだけで得るもののなかった戦いだが、それでも今はこの場を生き延びれただけでも良しとしなければならないのかもしれない。

「とりあえず、弾薬を補給しなきゃな」

遠くの空で戦闘を繰り広げてる二人を眺めながら、ディアッカは次の目的地にG-6を提案した。
見ればそこは軍事基地。
基地というからにはミサイルの一つくらい置いてあるだろうし、うまくいけばもっといい武器だって手に入るかもしれない。
問題は既に他の誰かに奪われている可能性だが……まあそれについては到着してから考えよう。

「しっかし何だったんだろうね、あれ」

ライディーンの機体バランスの調整をしようとレバーを動かしながら、ジュドーは素朴な疑問を発した。
あのレーベンの、女性型の機体に対する反応は常軌を逸していた。
たしかにあの奇抜な格好にはジュドーも驚きはしたものの、嫌悪感などは一切湧き上がるはずもない。
こっちの戦闘を中断してまで優先させるほどのあの憎しみは、正直こちらの背筋を寒くさせるものがあった。

「さあてな。おおかたよっぽど女にモテなかったんだろうよ」

ディアッカのほうはあっさりとその件については流すと、向こうの戦闘から目を離してジュドーに向き直った。
とてもじゃないが現在の状況はとても楽観できたものじゃない。
気を抜いていたわけじゃないが、ここからはより一層慎重にならなければならないだろう。
まだこのジュドーと別れる場面でもないが、いざとなったら見捨てることも選択肢に入れたほうがいいかもしれない。

「ほら、行くぜ」

そんなことを内心で思いつつ決して表には出さずに、ディアッカはジュドーを促そうと先導して空中へ飛び立った。
231それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:56:32 ID:vHnXAihl
 
232それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:58:12 ID:owV6qYgI
 











ラダム









234それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:58:43 ID:vHnXAihl
 
235それも名無しだ:2010/01/17(日) 02:58:49 ID:wFAbR02U
 
「!?」

瞬間、あたりが光に包まれたかと思うとディアッカは凄まじい衝撃に見舞われた。
何が起こったのか理解できないままに、光の発する膨大な熱量にステルバーの装甲が次第に溶かされてゆく。
このステルバーは決して防御面に優れた機体とはいえないが、かといってそんじょそこらの機体とでは比べ物にならないくらいの装甲を持っているはずだ。
だがその言葉が虚しく感じられるほどに、ただただその光の威力は圧倒的だった。

「ディアッカ……」

その光景を、ジュドーは呆然としたまま見上げていた。
ディアッカに続いて自分も飛び上がろうとしたその刹那、空中に爆発的な威力と規模を持ったエネルギー波がどこからか放たれたのだ。
その余波は地上の雪を一瞬で蒸発させ、中の地面を露出させて歪で巨大な一本の線を作り上げている。
自分は寸前で免れたものの、ディアッカはまともにそれを全身に浴びてしまったのだ。

「ディアッカ!」

我に還り、ジュドーは仲間に向かって必死の思いで叫ぶ。
やがて光が収まりくらんだ目が慣れてくると、先ほどまでそこにいたはずのステルバーの姿がどこにもない。
まさか跡形もなく蒸発したというわけでもないだろう。それこそハイメガキャノンほどの威力でもなければ。
慌てて辺りを見回すと、ここから随分と離れた場所、白い雪山の側面に黒い色がぽつりと見えた。
まさか、あんな場所まで飛ばされたというのか。
ディアッカの生死は不明だが、この現状だけであの光熱波がとんでもない代物だということがよくわかる。
信じられない心地でそれが放たれた元となる方向を見上げると、そこには豆粒ほどの大きさ……いや、これはライディーンの大きさと比較すればの話だ。
現実には人間大ほどの身の丈をした、パワードスーツに身を包んだ男が空中を飛んだまま悠然と静止していた。

「思いの外頑丈なラダムだ……まだ原型を保っていられるとは」

ブラスターテッカマンブレード。
全ての理性を闘志と憎悪に費やした破壊の権化が、そこにいた。


【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状況:混乱
機体状況:良好
現在位置:C-7
第一行動方針:戦うにしろ話し合うにしろ逃げるにしろ、とにかくこの場を乗り切る
第二行動方針:まずは生存する為にノルマ(ノーマル、アナザー、どちらでも可)を果たす
第三行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還
備考:首輪の爆破解除条件(アナザー)に気付きました】
【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)
 パイロット状況:ブチギレ(戦化粧済み)
 機体状況:左腕にひび、右足一部破損、動力低下、十王剣(全体に傷あり)
 現在位置:C-7
 最終行動方針:女アアアアア死ねえええええええええ!!

【Dボゥイ 支給機体:なし
 パイロット状況:疲労(小) 思考能力回復 支給品入りのバッグ紛失
 機体状況:-
 現在位置:C-6
 第1行動方針:参加者(=ラダム)を殲滅する。手段は問わない
 第2行動方針:テッカマンは優先して殺す
 最終行動方針:ラダムを殲滅する
 備考:自分以外の動く全ての物がラダムに見えるように改造されています。
     家族の顔など、自分自身の細かい記憶は全て失っているようです。】

【ジュドー・アーシタ ライディーン(勇者ライディーン)】
パイロット状況:緊張状態
機体状況:左足動かず、装甲ダメージ中、動力低下
現在位置:C-6
第一行動目標:逃げることも視野に入れた上で目の前の敵に対処
第二行動目標:ディアッカの生存確認
第三行動目標:プル、プルツーと合流、二人を守る
第四行動目標:ガトーを倒す
最終行動目標:殺し合いの打倒

【ディアッカ・エルスマン ステルバー(真!ゲッターロボ〜世界最後の日〜)】
パイロット状況:…………(気絶中)
機体状況:非グゥレイト 大破(なんとか動ける)、弾薬ほぼ撃ち尽くし、予備弾薬少量
現在位置:D-6 雪山の傾斜
第一行動目標:当面殺し合いには乗らない
第二行動目標:脱出が無理と判断した場合、頃合を見て殺し合いに乗る

【08:10】
238それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:00:33 ID:owV6qYgI
 
239それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:00:56 ID:vHnXAihl
 
240 ◆VI1alFlf1E :2010/01/17(日) 03:01:35 ID:7cryq+UZ
支援ありがとうございました
レーベンが二回自己紹介してらあ……あとで修正しときます
241それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:16:27 ID:wFAbR02U
投下乙ですー。
レーベンは女を憎み過ぎだw理由が知りたいよなぁ。
てかそのせいで狙われたイスペイル可哀想wでも笑っちゃってごめんw
ジュドー、ディアッカは難を逃れたと思った矢先に…。ディアッカ死ぬな!
Dボゥイ怖いよDボゥイ。
242それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:23:50 ID:iSjsCPjZ
お二方投下乙です

>災厄の紅き剣は水底に消えて…

年増ー!
シーブック、「ぬいぐるみさん」ってお前女の子かw
ドモンもニートもかっこいいぜ
ラカン自重wシンはどこまで堕ちるか楽しみだ

>命題『貴方の戦う理由は何ですか?』

レーベンww原作でのステルス性はどこにいったwww
Dボゥイといいグレイトといいここはステルスフラグ持ちに厳しいロワですねw
ジュドーは……いまのうちに黙祷しとこう
243それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:24:53 ID:owV6qYgI
投下乙!
各自の性格や動機がにじみ出るインタビュー形式っぽい独白が皆らしいなーw
ってかそれまでが濃密に描かれてた分、最後の ラダム! のインパクトがずしんと来たぜい
イスベイル様の反応が可愛くて吹いたw
そりゃあ謂れも無い恨みには戸惑うよなあ。
レーベンもやっぱヴァルシオーネに切れたかw
ジュドーが流石歴戦のパイロットしてたのも嬉しかったぜい
244それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:41:17 ID:O8CC/iEI
>>213
それは感想ちゃうw
それは…そのノリは解説や!

>命題『貴方の戦う理由は何ですか?』
ラダム
こわっ、しかしブラスターボルテッカを喰らってなおグゥレイトは生き残ったか
みんなボロボロだ
245それも名無しだ:2010/01/17(日) 03:46:29 ID:XKbgyzdh
両者共に投下乙です!

>災厄の紅き剣は水底に消えて…

ジャミルがもう少しでシンを導くことができるところで、ラカンの邪魔が入り、
より混沌に向かっていく、このスパロワの醍醐味がでているいい作品でした。
また、シーブックの成長、運命+ミーティアと出来そうで出来ない組み合わせ、
ボン太君+キンゲの二機体同時運営という初の試みなど、今後いろいろと楽しみです。

>命題『貴方の戦う理由は何ですか?』

レーベンの暴走っぷりがとてもいいですw
そして(愛着無しに面白そうで投票した)イスペイル、超がんばれーwww
しかし、この青年コンビは一難振り払って、一難去って、さらなる一難と不運だなw
今後Dボゥイと戦うジュドーの活躍と、グゥレイトがいい機体に巡り合えるかに期待です。

そして一つ気になるのは、先の戦闘でボルテッカランサーを放ってガス欠気味の
Dボゥイがもう一発ボルテッカを打てたことにちょっと疑問があります。
まあ、事前に町で食い荒らしたとかいろいろ解釈できますが、その辺についての加筆してほしいと思ってます。
246それも名無しだ:2010/01/17(日) 10:58:23 ID:z5hlgwjg
>災厄の紅き剣は水底に消えて…
説得するドモンとジャミルの人生の先輩二人は格好良いし
色々不安定なシーブックとシンの若者二人は魅力的だし
狡猾なラカンは今後が楽しみで、本当に素晴らしい話だった
だがAAで吹いたwww弾丸クロボンダンじゃねえよwww

>命題『貴方の戦う理由は何ですか?』 
それぞれの戦う理由がらしくて面白いな
Dボウイの一言「ラダム」が良い感じに怖い
ジュドーがんばれディアッカ負けるな
イスペイル可愛いよイスペイルw
247 ◆VI1alFlf1E :2010/01/17(日) 17:16:31 ID:7cryq+UZ
みなさま感想ありがとうございます

>>245
本来永続的にブラスター化できるはずだったのですから、
気絶しそうになってたのはボルテッカランサーを放ったことも原因の一つでしょうが
どちらかというとウンブラの精神攻撃との併せ技で効いてたんじゃないかと思ってます

それで、前回の状態表を見ると疲労度は中だったので
ガス欠ってほどでもないかと判断し、7:30から8:10の間の40分間の内に
その疲労もある程度は回復しただろうと見越した上での内容でした
248それも名無しだ:2010/01/17(日) 19:40:42 ID:RgHpKT8Y
遅くなりましたがお二方乙です
三人のガンダムの主人公、それぞれの個性が出てていい
特にドモンは二段仕込みかよwww
キンゲの損傷も軽微だし、魔改造ポン太君、更には本人の強さもある、頑張ってくれ
ところでレーベンって一人の人間に対してもあなたがたって言うの?
249それも名無しだ:2010/01/17(日) 20:09:46 ID:kOXjQrxJ
二人とも投下乙でした!

>災厄の紅き剣は水底に消えて…
ジャミルゥゥーーーーーッッッッ!!!
戦闘中に死亡フラグを次々と立て始めたあたりでヤバイと思ったが、やはり逝ってしまったか……
その遺志はシーブックとドモンが継いでくれると信じよう。
シンもいい感じに鬱り始めたな。
レイと再会したところで厄介なことになる予感しかしないのがw

>命題『貴方の戦う理由は何ですか?』 
Dさんのラダム馬鹿っぷりが話題になってるが、
個人的にはディアッカのドライで賢しくて、でも臆病な『戦う理由』が好き。
「こんな早い段階で自分以外の参加者を皆殺しにしようなんて積極的に動く奴はよほどの馬鹿」
というくだりには妙に納得させられた。
冷静に考えれば、序盤から飛ばしまくって終盤まで持たせるのは相当厳しいし、
日和見してれば脱出のメドが立ったり、救助が来たりするかもしれない。
まあ、メタ的に考えれば救助はまずないんだろうけどw
250それも名無しだ:2010/01/17(日) 20:17:02 ID:XKbgyzdh
>>247
お返事ありがとうございます。
そういえば、このロワのブレードは影鏡の改造を受けていましたね。そのことを忘れていました。

ただ、今作や前作を見てもブレードのボルテッカ使用後の「空腹」に関する描写や状態表示がないため、
「ボルテッカランサーの後、空腹を解決しないままの状態でボルテッカを打てるのか」という疑問を持っています。
まあ、「影鏡の改造により、ボルテッカが低燃費化、それにより空腹度も減少した」と頭の中で自己解釈をしていますが・・・
この「空腹」に対して書き手さんはどのような解釈を持っていますか?
251それも名無しだ:2010/01/17(日) 20:31:46 ID:fxcOHpr2
まあいいじゃん
面白かったし
252 ◆VI1alFlf1E :2010/01/17(日) 20:45:50 ID:7cryq+UZ
>>250
正直疲労に関しては考えてはいましたが空腹については抜け落ちてました。
その解釈でも結構ですが、
別に空腹だからといってボルテッカが撃てないというわけでもないですし、
ロワが始まってまだ二時間程度ですのでラダム打倒に燃えてるDの字も
その怒りで現時点ではさして空腹感を感じていないということで。
253それも名無しだ:2010/01/17(日) 21:07:17 ID:XKbgyzdh
「こまけえことはいいんだよ」と頭の中で思っていながら、
気になったことは追及したがる性格ゆえの細かい質問をしてしまい申し訳ございませんでした。
また、スレのお目汚ししてしまったことにお詫び申し上げます。

そして、丁寧なご対応ありがとうございました。
今作はとても良い作品でしたので、今後の◆VI1alFlf1Eのご活躍を期待しております。
254それも名無しだ:2010/01/17(日) 21:22:09 ID:I/am4FZp
そういやこれでまだ二時間三時間なんだよな……放送までまだ五時間以上あるのかw
255それも名無しだ:2010/01/17(日) 22:34:58 ID:Ht6xEyhU
この調子だと、放送時までに半数切ってるんじゃないか?w
この結果に喜んでいいのか予想外すぎて困るのか、ヴィンデルは大変そうだなぁ
256それも名無しだ:2010/01/17(日) 22:38:14 ID:eslJcFss
大作が一晩に2つも…超乙!

>「災厄の紅き剣は水底に消えて…」
手に汗握るバトル、もふもふの脱力感、それぞれの心理描写、後に残された火種、どれも素晴らしかった!
ジャミルはフラグを全うして逝ったか…
シーブックの普通の少年らしい正義感や成長したドモンの包容力・信頼感は読んでて安心できる
一方で不安定なシンはこのまま堕ちるか浮上できるか…レイもあれだし
あと、あのメンツの中では把握しづらい方と思われるラカンの台詞をきっちり押さえてるのがすげえw

>「命題『貴方の戦う理由は何ですか?』 」
こっちはヴァルシオーネの脱力感というべきかw イスペイルご愁傷様
そして「ラダム」がホラー並に怖い。ジュドーは別の意味でご愁傷様w
ディアッカはまだ人生経験のなさからふらふらしてる感じで、今後が面白そう
しかしそこはかとなく迂闊で残念臭が漂うのは何故だろうw
ジュドーの信念は経験に裏打ちされてるから逆に歪みねえな
257それも名無しだ:2010/01/18(月) 02:58:56 ID:JFKl/+kK
・「閃光」◆bSTqMcZZvs氏の議論について

議論の結果、◆bSTqMcZZvs氏の議論への参加・矛盾修正の拒否などから、当該SSは一旦破棄となりました。
氏は結果は変えずに描写を追加したSSを書き上げるとの事ですが、当該SSキャラの拘束は解除され、前回SSの状況まで戻ります。
これによって、他の書き手氏のジ・エーデル・ベルナル、テッカマンアックス、プルツー、アポロの予約が可能となりました。

※キャラの長期占有を避けるため、◆bSTqMcZZvs氏の当該キャラ予約は禁止とします(描写追加SSの投下はOK、ただし先に予約された場合は×)
258それも名無しだ:2010/01/18(月) 11:57:08 ID:Q42c/dSC
編集内容は1473行あります。1200行以下に収めるか複数ページに分割してください。

編集内容は92847バイトあります。50000バイト以下に収めるか複数ページに分割してください。


とのことで◆I0g7Cr5wzA氏は「災厄の紅き剣は水底に消えて…」を
どこかで前後編に区切っていただけないでしょうか
よろしくお願いします
259それも名無しだ:2010/01/19(火) 00:23:41 ID:/Oq0rOr+
今バトル中で途切れてる作品いくつかあるが、
バトル中を引き継ぐのって勇気がいるなw

そうじゃないのに、みたいになるのがこええええ
260 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/19(火) 00:33:49 ID:dzvd5jHW
>>258
収録作業をしていただきありがとうございます。
きりのいいところで分けようとしたら微妙に30kb越えてしまうので、こちらからは特に指定致しません。
容量いっぱいになったら後編にという感じで結構です。
261それも名無しだ:2010/01/19(火) 19:48:28 ID:7Gi/Gjyn
つーか、wikiって33KBが限界とか聞いてたけど50kbまで行けるのか
じゃあ、某ロワで一々前後編にした俺の作品とか1ページで纏まるじゃん……
262それも名無しだ:2010/01/19(火) 20:51:40 ID:E/EWNbN/
確かwikiは文字コードの違いで容量が若干大きくなるんよ。
自分の書いたSSをノートパッドにコピぺして、
「ファイル」→「名前を付けて保存」→文字コードに「UTF-8」を選択して保存すると、
wikiに収録したときの容量になる…はず。違ってたらすまん。

さて、仮投下スレに新作SSが2作投下されてるので、これより代理投下します。
途中でさるさん食らったらあとお願いします。



「あーもう全然分かんねぇ!」
 演算の結果が画面に終了するなり切羽詰った様子でトビアは両手を戦慄かせながら、オーグバリューのコクピット内で吼えた。
「落ち着きたまえトビア・アロナクス君」
 トビアの駆るオーグバリューの隣を歩む炎を象った巨大ロボ――――グラヴィオンから凛とした男の声が掛けられる。
 その表情は殺し合いがおこなわれている最中だというのにまったく崩れることなく、実に優雅な姿勢で前方を見据えていた。
「だってしょうがないでしょう。ここまで手も足も出ないなんて」
 予想はしていた。用意されたプラグを、まるで差し込んでくださいといわんばかりに首輪に開いているジャックへと差し込んだのだ。
 それでどうにかなるほど甘くは無い。むしろ首輪が爆発しなかっただけで御の字というべきだろう。
「しかし、それらは予測していたことだ」
「でも向こうも、もうちょっと余裕を加えててもいいでしょうに」
 トビアとて無策無謀で首輪を調べようなどと思っているわけではない。
 用意されているもので相手が想定している行動をしたところでルール違反ではないだろう。所詮は掌の上だ。
 向こうは殺しあって欲しいのだ。ユーゼスの時とは違い不必要には首輪を爆破することは無い、とトビアとトレーズは予測を立てた上で
首輪の解析をおこなっていた。移動中であるため機体の制御を人体の挙動に任せているトレーズは調査に参加できなかったが、
それでも移動中にできるのならばやっておくべきだと考えたトビアは調査を慣行したのだ。
 とはいえ、今頃シャドウミラー達は自分達の行動を陰で笑いながらポテトチップスでも食べているかもしれないことを考えれば
あまり楽しい作業ではなかったが。
「で、どれほどのことが掴めたのかね?」
「たいしたことは分かりませんよ、ほんとに」
 トビアは自分が3時間がかりで調べ上げた結果を告げる。
「まず第一にパスワードが設定されています」
「パスワード?」
「何のパスワードかは分かりませんし、流石にノーヒントで説明も無いので入力する気もありません。
 もうちょっと調べればマニュアルぐらいは出てくるかもしれませんがね」
 トビアはそこで言葉を切り、缶ジュースを鞄の中から取り出す。
 プルタブを押し開け、飲み口に唇を付ける。ゴクゴクと中身を一気に飲み干す。
「ぷは〜」
 自分で思っていたより喉がからからだったらしい。爆弾付首輪の調査は自覚していた以上に神経をすり減らしていた。
 だがここで止めるつもりもない。トビアは二つ目の結果を読み上げる。
「第二に製作者の名前―――レモン・ブロウニング」
「レモン・ブロウニング、ふむ、聞かない名だ」
「俺の方も知りませんよ。まあこれは、大工が柱の影に自分の名前彫るようなノリで残してたんじゃないかと」
「ノリかね?」
「ええ、そんなノリだと思いますよ。たぶん」
 トレーズは頷きつつ、考えるようなそぶりをしながら先を促す。
「ふむ、それで他には?」
「三つ目は、推論ですけどね。地球圏で使われている技術しか使われていないことです」
 トビアが己の結論を述べると―――――グラヴィオンコクピット内のトレーズの瞳がギラリと輝いた。
「ほう? 根拠はあるのかね?」
「直感、と言いたいんですけどね」
 トビアは肩を竦めながら、
「地球人が理解できる技術しか使われてないからです」
「そんなもの、分かるのかね?」
 トレーズの問いにトビアはニカッと歯を見せる笑みを浮かべながら、
「こいつらが参考になってくれましたよ」
「……ソルグラヴィオンとオーグバリューのことかね?」
「はい、そうです」
 右手でチョキのサインを作りつつ答える。
「ソフトウェアが首輪と二機とで違うんですよ」
「ソフトウェア? 二機同士でもソフトウェアは異なるだろうに」
「ええ、まずはそこから説明したいと思います。前提の考え方として、こいつらは地球のものではありません。
 根拠としては重力に対する構え方が地球圏のMSとこいつらとでは違うんですよ」
「重力? 宇宙と大気圏内でもシステムは」
 一指し指で真下を示しながら、
「違いますよ。けどこいつらは1Gに対する設定が異なります」
「Gに対する設定が、かね?」
「いいですか? 1Gが9.8m/s」
「二乗で表せるという重力加速度の考え方は。1901年の国際度量衡総会において設定され、今日まで変更されることなく続いている。
 君の世界でもそうなのだね」
 最後まで説明することができずに多少呆気に取られたが、トビアはさらに自分の推論をさらに述べる。
「まあ、バランサーだってバーニアの出力係数の計算だってそれを基本にしています。けれどバリューは計算方式が異なってます、
 OSが惑星の重力加速度が変化してもすぐにでも対応できるシステムとなっています。ここまでいいですね」
 言い終えた後に再び紅茶へと口をつける。ここまでは自信があった。重力に対する考え方は活動宙域によって違う。
 木星に住む地球人からして1Gの考え方も違うのだ。
 異星の機動兵器では当然のことながら大きく異なるはずだ。
「確かにMSにおける重力の計算は一律だ。その数値が大きく変化するならばOSの書き換えも検討しなければいけない。
 その必要があるとするならば地球侵攻用、いや、他星侵攻用の機体というわけか。しかし、それでもあの機体が地球人のものでないとは――」
「言えますよ」
 だって、とトビアは続けながらオーグバリューが異星の機体である根拠を告げる。
「こいつに入力されていたデフォルトの数値設定じゃ地球だと、地球圏のどこの惑星でも簡単にすっころぶからですよ」
 基準のシステムがあり基準の数値設定がある、それを調べればどういった環境での動作が想定されていたかは判明するのだ。
「なるほど、元々地球圏以外の惑星での活動が基準ということか。では、グラヴィオンは」
「そっちはもっと簡単です。トレーズさんから貰ったデータが正しければですけどね。で、こいつの製作が始まった年代なんですけど」
 一旦そこで切り、間を溜める。聞けばこれまで表情を崩さなかったトレーズとて驚くはずだ。
「なんと、製作開始は19世紀の始め、21世紀にはもう完成していたんですよ!」
「なるほど、グラヴィオンは異星人が持ち込んだオーパーツである可能性が高く。
 首輪の機能にはグラヴィオンやオーグバリューから得られるであろう技術は使われていないということか」
「……」
 思わずトビアは絶句した。持ったいつけれたと思ったらあっさり理解されてしまった。言いたいことも言われ、なんか立つ瀬がない。
「違うのかね?」
「……まあそういうことなんすけどね。こいつらのニューロネットワーク構築方一つでも応用できれば首輪の攻略難易度は遥かに上がりますよ」
 だからこそ首輪の解析をここまでおこなうことができたのだ。
 とはいえ首輪のCPUのレベルが特機より多少低くとも、その機能の全貌を知れたわけではなかったが。
「地球圏の技術で固めている理由としては、大方意図しない暴走を避けたためだろう。
 だからといって、彼らも簡単に解かせる気はないだろうがね」
 そう締めくくりつつトレーズは機体の歩みを止めた。トビアも釣られて機体を停止させる。
「これで以上かね?」
「……ええ。後の機能は分かりません。爆発させたくなければもうちょっと環境をそろえないといけませんね」
 ハァ、とトビアため息をつき、テーブルの上へと突っ伏した。
「せめて盗聴機や発信機の有無ぐらいは確認したかったんですけどね」
「まったくの無駄骨でもないとは思うが」
「でも、たったこれだけのことを調べるために二時間もかけちまった」
「私なら5分で済んだな」
 あっさりとトレーズが告げると、トビアはさらに脱力する。
「……何でですか?」
「君から聞くだけで済んだ」
 トビアは頭上をしばし仰ぎ見、数秒後には視線をトレーズの方へと向ける。
「もうちょっと働いてくださいよトレーズさん」
「ならばそうさせてもらおう」
 そう言い放ちトレーズはソルグラヴィオンを目前の海面へと進ませていった。
「飛んでいかないんですか?」
「この機体は水中での活動にも支障はない」
「でも俺の機体は潜ったら支障があります」
「だからこそ、だトビア・アロナクス」
 不適な微笑みつつ、
「海中の敵への警戒を私がする必要がある。それに」
「それに?」
「美しい魚達と戯れたいのだよ」
「ハィ?」
 その言葉をトビアが理解する間もなくソルグラヴィオンは海中へと沈んでいった。 
 何を考えているのだろうかあの人は?
 べラ・ロナ館長、シェリンドン・ロナ、ザビーネ、その他の己が出会ってきた人物と照らしあせては見たが今までいなかったタイプだ。
「貴族ぽい人との付き合いなんて、どうすりゃいいんですかキンケドゥさん?」
 自分と同じくこの場につれてこられているはずの男に問いかける。答えなど帰ってくるはずがないことは理解していたが。
 天空を仰ぎ見て頭を働かせてみる。青い空に白い雲がそよそよと泳いでいた。
 雲はいい。悩みもなくただ空を泳いでいるだけで良いのだから。雲同士で殺しあうこともせず、仲良く浮かんでいるのが正直うらやましい。
「……何考えてんだ俺は?」
 彼一人を基地に先行させるわけにもいかないだろう。ブースターを吹かしつつ、オーグバリューを大空へと躍らせる。
 思考を切り替え、トレーズ・クシュリナーダのことについて考えてみる。
 いかにも貴族ぽい格好をして、いかにも貴族な言動であり、沈着冷静であわてた表情一つすら見せやしない。
 OZという軍事組織の将校だと聞いたが普段からあの調子では部下はそうとう苦労しているのであろう。
 そして彼の最大規模の問題は、
「生き返った……ねぇ」
 トレーズ・クシュリナーダは乗機のコクピットにチャン・ウーフェイの駆るナタクが放つビームの刃を受け蒸発したとのことだ。
 ぶっちゃけて信じれば良い話かは分からない。
「シックスデイでもじいさんの話でも……そういうのはあったよなぁ」
 現実でも、SF映画でもよくあるような話ではあるが、その真偽を己一人で判断しなければならぬとは。
「信じれる……のか?」
 トレーズ・クシュリナーダのことを自分は信じていけるのだろうか。正直言えばどことなく胡散臭くてあまり当てにはできない。
 が、深く考えたところで答えなど出そうにもない。どう判断したところでミスリードにでも陥りそうだ。
 それに信じるにしても否定するにしても、何か己の信じていたことを試されることになる。
 ならば後回しにしておきたい。他に頭を悩ませることとてある。
「まあ、海賊少年も十分にうさんくさい、っか」
 もしかしたら先ほどの発言は、自分のことを気遣って慣れぬ冗談を言ってみただけなのかもしれない。
 ならば悪い人でもないのだろう、良い人だとも判断できぬが。
 トレーズについては保留とし別のことを考えてみる。そういえばと呟きつつ、名簿を取り出してある一点を見つめた。
「アナベル・ガトー、歴史の教本にあったっけ?」
 学生の頃や大古株の仲間から聞いたことがあった名だ。もっとも詳細なんぞは記憶の要らない部分に放り込んであったが。
「異名はたしか……宇宙のキャンサー?」
 蟹の形に変化している雲を見つめながら呟く。違うような気もするがあだ名や異名なんぞは又聞きから発展する以上はそんなもんだろう。
「本気でどうでもいいな」
「キュウッ」
 真面目にレーダーを視線を落とし索敵をおこなう。
 ミノフスキー濃度は通常の濃さ。この辺りでは戦闘はおこなわれていないということだ。少なくともまだ。
「大丈夫かなキンケドゥさん?」
「キュッ」
 平和に暮らしていたはずの彼は果たして無事だろうか?
 片腕を義手にしパン屋をやっている人間がすぐさま戦場に適応できるだろうか?
 考えれば悩みは尽きない。
「あれ?」
 何故だろうか? 自分以外に誰か喋っているような気がする。
 椅子から僅かに身を乗り出し、辺りに視線を泳がせて見る。
 すると、いた。コックピットの隅に、隠れるでもなくつぶらな瞳で自分を見つめていた。どうやら朝食を取っている間に迷い込んでいたらしい。
「キュキュッ」
 アイボリーホワイトの毛並みで髭が生えてて長い尻尾のある子猫ぐらいのサイズの生き物だ。実物を見たことはなかったが
これが鼠という生き物なのだろう。ディズニーのアニメでみたのとすっごく似ている。
 おそらくシャドウミラー辺りが放し飼いにしているようだ。首輪は付けていなかったが、地球では猿や鹿が放し飼いになっており、
動物にアクセサリーを付けないのが流行なのだ。直接地球で見たので間違いない。
「お前も大変な人生……いや、ネズミ生を送ってるん…デチュネェ」
 何の気なしに右手を鼠の傍に寄せてみる。ついでにネズミ言葉も使ってみる。
「おいででチュウ。おいらと仲良くしましょうでチュウ」

 ガジリ!

「いてぇ! 先っちょ噛まれた!?」 




【トビア・アロナクス 搭乗機体:オーグバリュー(スーパーロボット大戦F 完結編)
パイロット状況:一応良好
機体状況:良好
現在位置:A-3 空中
第一行動方針:空を飛びながらA-1の基地を目指す
第二行動方針:シーブックとの合流
第三行動方針:殺し合いに乗っていない人物と出会う
最終行動方針:主催者の打倒。
備考1:グラヴィオンにはオプションとしてロロット(フェレット)が付いていました。今はオーグバリューに搭乗しています。
備考2:首輪の機構を調べました】
備考3:トビアの調査結果がコンピュータ内にまとめられています



【トレーズ・クシュリナーダ 搭乗機体:ソルグラヴィオン(超重神グラヴィオン)
パイロット状況:良好  
機体状況:良好
現在位置:A-3 海中
第一行動方針:海中を進みながらA-1の基地を目指す
第二行動方針:シーブックとの合流
第三行動方針:トビアのような強い意志を持つものを生き残らせる
最終行動方針:主催者の打倒
備考1:トビアによる首輪の調査結果を聞きました】



『トビアによる首輪の調査結果』

首輪にはジャックが付いており、プラグを用いて機体との接続が可能。
何らかのパスワードを打ち込むシステムが存在する。
(イスペイルの調べた解除システムの名残であるか、別のものであるかは以降の書き手さんに任せます)
オーグバリューや各グランディーヴァのCPUと首輪のCPUの性能比較データと、
それによる首輪が純粋に地球圏の技術で製作されたであろうとの推測。
以上が調査結果としてまとめられています。









◆◇◆◇◆



「いったいどこに向かっているんです?」
 後ろから控えめな声をかけられる。
 どこへ行くのかなど決まっている。カギ爪の男がいそうな場所に向かって突き進む。ただそれだけだ。
「おーい。ヴァンさ〜ん」
 再度声をかけられた。あまり女性を無視してはいけないと、かつて彼女に言われたことがある。だから振り向く。
「なんか用か?」
「用って、あなたがどこを目指しているか知りたいだけです」
「決まってるだろう。カギ爪がいる場所だ」
 この女はなにをいまさらなことを聞いてくるんだろうか? 女の考えることは理解できやしない。やっはり女はエレナに限る。
「ですからここにカギ爪さんがいるかどうか分からないって、先ほどもお話したじゃありませんか」
「どこかにいるかもしれないんだろ? ならいそうな方向に進んだっていいじゃねえか。バカだなお前」
 いないかもしれないということはいるかもということだ。ならばあの男を捜すように進んだっていいはずだ。
「なら、せめてまっすぐに歩きませんか?」
「俺は何時だってまっすぐに歩いている」
 ヴァンがそう言うと、ルリはフェアリオンの指を使って地面を指した。ダンと比べて幾分小さい指は大きな足跡を指したかと思うと、
足跡のレールを体を動かしつつなぞっていき、フェアリオンの指はやがてダンの足元へと向けられる。その軌跡はダンの前方から後方へと子供の落書きで
描かれるようなでたらめな線路のようである。すなわち、でたらめなルートを通って一周していた。
「……すいません」
「私が前を歩いていいですね」
「お願いします」
 フェアリオンはあっさりとダンを追い抜かしていき、ヴァンはその後にとぼとぼとついていった。
 なんだかなぁという気分にヴァンは支配されつつ無言でダンを歩かせる。
 しばらくするとヴァンの前方を歩くルリから通信が入ってくる。
「聞かないんですか?」
「聞くって、何を?」
「私たちがどこに向かっているかですよ」
 何故かどうでもいいことを聞いてきた。方向音痴な自分と違って行きたい場所と方向が分かっているのなら歩いていけばいい。
「聞かなきゃならないことなのかよ」
「そこは押さえておくべきポイントだと思いますよ」
「そうなのか?」
「そうですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ」
「……じゃあどこに行くんだよ」
 ちょっとした押し問答の末にヴァンの方が折れることとなった。彼としては折れたというよりもめんどくさくなっただけではあるが。
268それも名無しだ:2010/01/19(火) 20:57:38 ID:G12giq60
 
「まずは地図を見てください」
「おうよ」
 そういわれたので鞄の底から地図を引っ張りだして目の前に広げる。
「現在私たちがいるのはC-4、丁度山の近くです」
「ああ、あそこに見える山のことか」
 数百メートル離れた場所にこんもりとした盛り上がりが見えた。きっとあれが地図に示された山なのだろう。
「で、山の西には町があります」
「そうか、そこでカギ爪の情報集めをするのか。お前頭いいな」
 しかし、褒めたというのに女の表情は苦虫を潰したようになった。何故だろうか?
「まあそれもありますけど、私としてはそこでハッキングをしようと思っているんですよ。
 インターネットやイントラネットが……まあコンピュータの1台でもあればそれなりの情報は集められます」
「じゃあとっとと行くぞ。行って奴の情報調べてやる」
「調べるのは私なんですけどね。とりあえず逸れないようについてきて下さいね」
 女はそう言いつつすたこらと歩いていく、ダンの指をフェアリオンで掴みながら。
 そうしないと逸れてしまうと思われてるらしい。ついて行かなければいけない目標が小さい以上はありがたいことだ。見失う心配がない。
 どっかにカギ爪でも落ちていないかよそ見しながら引っ張ってもらおう。
 そんな調子でヴァン達は一路東へと進んで行った。
 やがて街が見え始める。すると、
「ヴァンさん」
 カン、という甲高い音と共に機体に衝撃が走った。
 それは誰かに襲われたため、ではなくフェアリオンのブレーキに反応が遅れてダンがつっぷし衝突したためである。
「急にとまるんじゃねぇ!」
「あれを見てください」
「見ろって何を!?」
「そこにあるテラスですよ」
 フェアリオンの指差す方向へと視線を向ける。そこには場違いとしかいえぬほ白いテーブルがただ1つだけ置かれていた。
 視線をずらすと他の地点にテーブル群があり、道の真ん中におかれているそれはそこからずらされたものであることが分かる。
 何かの罠なのだろうか?
「つーか、もう街についたのか」
 周囲を見渡せば白いビルやらでかでかとした看板を掲げるカジノのようなカラフルな建物が幾つも見受けられる。
 あまり見たことのない種類の建物ばかりだが、それよりもテーブルの方を気にするべきだろう。
「罠ってやつか?」
「そうかもしれません。ですがそうじゃないかもしれません」
「罠じゃなけりゃなんなんだよ?」
 しかし女は何が気になるのかしばらく質問にも答えずに周囲の様子を見渡すばかりで一向に答えようともしない。
「どう考えたって罠だろ。ほらあれだ、テーブルを動かすとドッカーンって感じの」
「足跡」
 罠だと主張しても聞き入れようとしない。どうやらウェンディ並の頑固者らしい。
「足跡なんざいくらだって……」
「私たちのじゃありません。北の方角に向かって別の人たちの足跡がついてます」
 そう言われて辺りを見渡すと、たしかに自分たちが来た方向とは別の方角へと延びていく足跡があった。それも二機分の。
「つまり……どういうことだ?」
「おそらくは彼ら、あるいは彼女らはここで休憩を挟んで。ほら、お茶でも飲んでたんでしょう」
 テーブルの上にはティーカップやらポットやらが置かれている。たしかに茶でも飲んでいたのかもしれない。
270それも名無しだ:2010/01/19(火) 20:59:06 ID:G12giq60
 
「その後は北の方向へと彼らは進んでいった、ということです」
「仲良しこよしでかよ?」
「はいそうです」
 その推測が当たっているはずがないと皮肉で言ったつりだが、女はそうと受け取らなかったらしい。
「周囲に争そった形跡はありません。二機分の足跡もここで、調度テーブルの前で合流してから足取りを合わせてます。
 彼らは話し合いを持ってして手を組んだということです」
「つまり……レーベンみたいに無闇やたらに喧嘩を売ってるような奴らじゃねえってことだな」
「ピンポーン。正解です」
 どうやら正解らしい。正答したところでうれしくもなかったが。
「この状況だと探す価値はあります」
「団体行動は正直、苦手だ」
 また歩くのが億劫だった。自分としてはここでハッキングなどで探してほしいところだ。
「お友達になれるかもしれませんよ」
「いやだきもちわりぃ」
「そうでなくともカギ爪さんの情報とか、もしかしたら本人かもしれません」
 そういわれるとやる気がちょっと湧いてきた。詐欺にあってるような気分なので普段の半分だが。
「でもよぅ。ここでティータイムはねぇだろ?」
「そうですか? 私の知人の会長さんならそんな馬鹿げたこともしますよ」
 また難儀な知り合いもいたものだ。そんな奴らがジョシュアよりも迷惑でないことを密かに願う。
「で、実際どうすんだよ?」
 聞いてはみたがどうするかなど二択でしかない。ようは追いつけるか分からない足跡の主を、追うか追いかけないかということだけだ。





【ヴァン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:斬艦刀verダンの太刀装備、ガーディアンソード所持 胸部にダメージ中 全身に軽い焦げとダメージ小
現在位置:B-4 街中
第一行動方針:二機のヨロイのパイロットを締め上げてカギ爪の情報を吐かせようか?
第二行動方針:エレナの仇、カギ爪野郎をぶっ殺す!あん、未参加?まだ決まったわけじゃねぇ!
第三行動方針:ダンを取り戻す。
第四行動方針:ルリと共に施設を目指し、カギ爪の男の情報を集める。
最終行動方針:エレナ……。カギ爪えええええええええええッ!
備考:斬艦刀を使い慣れたダンの太刀、ヴァンの蛮刀に変形できます】




【ホシノルリ(劇場版) 搭乗機体:フェアリオンGシャイン王女機(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:アサルトブレード装備、中破、EN消費(中)
現在位置:B-4 街中
第一行動方針:北に向かったであろう足跡の主達を追いかけるべきか検討する。
第二行動方針:街でハッキングに役立つ道具や施設を探す。
第三行動方針:ヴァンと共に行動する。
第四行動方針:自身のハッキング能力を活かせれる機体を見つけたい
最終行動方針:シャドウミラーを打倒する
備考:ヤマダ・ジロウ(ガイ)は同姓同名の別人だと思っています】





【一日目 9:30】
272それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:00:54 ID:G12giq60
 
273それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:01:21 ID:E/EWNbN/
続きまして2つ目の代理投下いきます。
歌が聞こえる。

知らない歌だ。

だけどその歌声が誰のものか、僕は知っている。

そう……彼は歌が好きだった。
そして、僕のことも好きだって言ってくれた。
初めてだったんだ。初めて、他人に好きだと言われた。

「歌はいいねぇ。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」

僕なんかよりも、彼が生き残るべきだったんだ。
ミサトさんは、生き残るのは生きる意志を持った者だけだと言った。
じゃあ、僕は何?

もう嫌だ。

「何甘ったれたこと言ってんのよ!」

死にたい。

「あんたまだ生きてるんでしょ!だったらしっかり生きて、それから死になさい!」

そんな資格なんてない。
ヒトを傷つけるしかしない僕に、エヴァに乗る価値なんてない。
それでも、僕に生きる資格があるというの?

「全て一人で決めなさい。誰の助けもなく」

自分達の都合を押し付けてたくせに、勝手なことを言わないでよ。
何かを決めようとして、何かを為そうとして、そのたびに誰かを傷つけてきた。
……いや違う。
結局流され続けただけなんだ。ずるくて臆病で、そうやって誤魔化してきた。
アスカにひどいことをした。カヲル君も殺した。

だったら、僕なんかいないほうがいい。
だったら、僕なんて必要ない。

何もしたくない。
何もしないほうがいい。

「だが、君は死すべき存在ではない」

だから何?だからまた、ヒトを傷つけるの?

「君達には未来が必要だ」
275それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:02:50 ID:G12giq60
 
僕の手の中に、カヲル君がいる。
十字架にかけられた使徒、一面のLCLの海。
そして僕の右手は、エヴァンゲリオン初号機。
広がっていたのはあの時と同じ光景。

僕に、また同じことをしろというのか。

「戦え。最後の一人となるまで」

ヴィンデル・マウザーが、僕の右横に立ちその行為を促してくる。

「死にたくなければ殺しなさい。あなた達にはそれしかないの」

レモン・ブロウニングが、左横から囁きかけてくる。

「お前達に拒否権は存在しない。生きる意志のない者は散り行くのみ」

アクセル・アルマーが、後ろから冷たく突き放してくる。

「バトル・ロワイアル――争覇の宴を、始めよう」

もう嫌だ。死にたい。何もしたくない。

「本当に?」

綾波の声が聞こえた。
その姿はやがて母さんに変わり。
そして最後に、W14のものへと変わった。

「お前はそれでも、死を望むのか」






ぐしゃ。







どぼん。





何かが潰れ、海の中に落ちていった。
あの時と同じことが繰り返されたと、すぐにわかった。
でも違う。僕は何もしていない。潰すための力など加えていない。

紫色の手には、首のない死体が握られていた。
その身体は、よく見ればカヲル君のものではない。

テッカマンランスの身体だ。

「これが争いを拒む者、または愚者に与えられる裁きだ」

首の落ちた海に、何かが浮かび上がってくる。
それも、カヲル君の首ではない。

ユーゼス・ゴッツォの仮面。

そこで、ようやく思い出す。
自分の首に嵌められたものを。


目の前にあるのは、ヒトの死の光景。
首の薄皮一枚を通じて、目の前の光景と同じものが伝わってくる。
それは、冷たい死の感触。


首の落ちたその場所を中心に、LCLの海が、紅い色に染まっていく。
血の赤、一色に――


「うああああああああああああああああああああッ!!!」


絶叫。
278それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:04:15 ID:G12giq60
 





そして、また何もない真っ暗に戻った。


恐怖。

怖イ。

死ニタクナイ。

死にたいと思っていながら、結局はこのザマだ。
死ぬのが怖い。
そしてやっぱり自分はただ逃げていただけなんだと、突きつけられた。

じゃあどうしろというんだ。
僕に一体何をしろというんだよ。
逃げるな?自分で考えろ?
うるさい。いつもそうだ、無茶苦茶な状況にばかり放り込んで、簡単に言うな!
みんなみんな、好き勝手なことばかり言うな!!

みんな嫌いだ。
だけど、誰もその叫びに答えない。答えてくれない。
誰もいない。もう僕しかいない。
そう自覚した時、結局、僕は嫌いなはずの他人を求めていることに絶望する。

僕は、一体――

僕は、最初に流れていた知らない歌を思い出す。
さっきカヲル君が歌っていた、聞いたことのない歌。
ああ、まるで自分だ。迷走を続けるだけの、愚かな自分。


それでも 一体この僕に なにができるっていうんだ


窮屈な 箱庭の現実を変える為に 何が出来るの――



280それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:05:20 ID:E/EWNbN/
突然、エントリープラグ内に激しい揺れが襲い掛かる。
その振動は眠っていたシンジの意識を強引に覚醒させた。

(何……一体何が)
被っていた毛布を取っ払い、汗だくの全身を起こす。
今のは夢であり、自分は引き戻されたことをすぐに思い出した。
殺し合いと言う、現実に。
『すまない、起こしてしまったようだ』
「うわあぁっ!?」
突然耳元の、息がかかるような超至近距離から囁かれ、シンジは思わず悲鳴をあげた。
振り返ると、そこにはW14の姿。
『失礼な。女性に対してその態度はいかがなものかと思っちゃいますですことよ』
「なんでいきなり後ろに立ってるんだよ!?君、自室に帰ったんじゃなかったの!?」
『急にうなされ出したから様子を見に来た。何、気にすることはない。ちなみに私は少し傷ついた』
「ああそう……ごめん……」
どうも、調子が狂う。綾波と半端に似ているせいもあってなおさらだ。
危機感と緊張感に欠けるW14の物言いに、シンジはただ脱力するしかなかった。
「そ、それより今の揺れは何!?」
『どうやら出っ張った岩にぶつけてしまったようだ』
「岩って……あ……あれ?ここどこ?」
モニターには、眠る前とは違う景色が映し出されていた。
確か、あのヴィンデルの頭のような鬱陶しい海藻の中に隠れていたはずだ。
だがモニターにはそんなものはなく、ごつごつとした岩場が映るのみ。
「な、何やってんだよW14!?しばらく隠れるって言ったじゃないか!?」
『ああ、わけあって移動中だ』
「なんだよそれ!?そんな勝手な……」
『我々が隠れていたすぐ近くを、巨大な潜水艦……いや、戦艦が通過したのだ。
 発見されてはまずいと思い、一時的にあの場から離れた』
「な、なんでその時すぐに起こしてくれなかったんだよ!!」
『6時間眠ると言っていたではないか。起こす時間にはまだ早い。
 お前が睡眠をとると言った以上、私は命に代えてもそれを死守する義務がある』
「別に命まで賭けられても……そういう時はちゃんと起こしてよ」
『了解した、では次からはそうしよう。起きてくれないと暴れちゃうぞ』
「……いや普通に起こして。不安で仕方ないんだけど」
このサポートユニット、気が利いているのかいないのかわかりゃしない。
こめかみを押さえつつ、シンジは現状把握のためW14に問いかけた。
「それで、僕達はさっきの場所からどう移動してきたのさ」
『了解した。MAPを表示する』
モニターに地図が表示される。その中央に、現在位置を示す光点が表示されていた。
『我々が先程隠れていたのがこのD-4中央の海底……
 そこから戦艦に見つからぬよう岩陰に身を隠しながら、西に5キロほど移動した。
 それで、今はこのD-4西の橋のすぐ下に……』
「……ちょっと待ってよ。これ、現在位置の表示なんてできたの?」
ジト目で睨む。さっきまで手元の地図で必死に確認して、結局現在位置の特定を諦めたのが馬鹿みたいだ。
『ああ。本ゲームの支給機体の標準装備だぞ。一部、例外はあるが』
「……なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ……」
『そういう命令を受けなかったからだ』
頭を抱えて溜息をつく。
281それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:06:05 ID:E/EWNbN/
「……他に隠された機能とかあったりしないよね……念のため聞いとくけど」
『別に隠すつもりはなかったが、参加者に公開できるのはこれだけだ。多分。きっと。
 ていうかゲーム開始の前には手元の簡易マニュアルくらいお読みになりんしゃい。
 全てのゲームに親切にチュートリアルがついてると思ったら大間違いだぞ』
「ごめんなさい……ってなんで僕が謝るんだ……」

いちいち気の抜ける物言いだが、こうしたやり取りで、気は紛れていたのも事実――

『ところで、もし戦艦が接近した時に起こしていたら、お前はどうしていたのだ?
 殺しにかかったのか?』

――いや、それも気のせいだったらしい。

「殺しにって、何を言って……」
W14の殺伐とした質問に、シンジは言葉を詰まらせた。
もし、その巨大戦艦とやらが迫ってきた時自分が起きていたら。
自分はどう判断を下していたのだろう。彼女同様に、その場から逃げることを選んだのだろうか。
「……どうでもいいだろ、過ぎたことなんて」
『今後のために聞いておきたかったが……言いたくなければ構わん、私はそれに従おう』
W14の喋りは淡々としたものだった。
口調は全く変わっていないはずなのに、その態度が妙に冷ややかに感じられた。

彼女の言葉で、改めてシンジは考え直す。
もし、その戦艦から逃げ切れなかったら。
もし、戦艦と接触することになったら。
もし、相手が攻撃を仕掛けてきたら。
もし、戦うことになったら。
もし、もし――

『もしもーし。シンジ、聞こえているのか?』
「え!?あ、ああ、何?」
思考が深みに嵌っていく所を、W14の声で我に返る。
だが彼女の次の言葉は、『もし』のリアルへの接近を示していた。

『別機体の反応を察知。場所は……我々の頭上、ちょうど橋の上だ』
「なっ……!?」
その報告は、隠れ続けていたシンジにとって最も恐れるべきものだった。



「おい!そこに誰かいるのか!?」
282それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:06:12 ID:G12giq60
 


上から聞こえてくる声。明らかに、自分達に向けられている。
こちらの存在は完全に気付かれているようだ。
「なん……で……」
『この辺の水域は水深が浅い。橋の上からでは機影が丸見えだったようだ』
なんでそんな見つかり易いルートを通ったのか。
W14のサポート能力が疑わしくなってくるが、そこに突っ込んでいる余裕はない。
「ど、どうしよう……」
『私はサポートユニットだ、お前の指示に従う以上の任務は与えられていない。
 シンジも14歳なんだから、自分のことは自分で決めなさい』
「ああそう……」
あてになりそうにないW14に目眩を起こしそうになりつつも、シンジは自分で考える。
はっきり言って、使徒の外見の怪しさ・不気味さは並ではない。
こんなもので出て行けば警戒され、即刻攻撃を受けても文句は言えない。
どうする、どうすればいい――?
既に相手はこちらの存在に気付いている。このまま背景を装って誤魔化すのは難しいだろう。

考えた末、シンジは水から上がることを選んだ。
この使徒にもATフィールドはある。
並みの兵器など容易に弾く防壁があれば、滅多なことで危機に陥るということはないだろう。
それに、この使徒は強い。その強さは彼自身、身をもって知っている。
相手がどんな機体でどれだけの強さかは不明だが、この使徒はジョーカー用として特別に用意
されたもの……のはずである。だから、そうそう遅れを取ることはないはずだ。
どうやら報告によると、橋の上にいるのは一体だけらしい。
だとすれば、万が一攻撃を受けても、耐え切り、逃げることは可能かもしれない。
「W14、水から上がろう」
『了解。ゼルエル、起動する』

エントリープラグの肉壁がうっすらと静かに光り、シンジの意思が宿るように使徒が動き出す。
意を決したシンジの意思のままに、水から浮上するゼルエル――

そして、そこでシンジが見たモノ。

「なんで……」

よく知っていた。橋の上から自分達を見下ろす、紫のロボットは。

「なんで……ここに、あるの」





――エヴァンゲリオン初号機。
284それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:07:27 ID:G12giq60
 




(な……何なんだあいつは!?)
エヴァンゲリオン初号機に乗る鉄也は、戸惑いを隠せなかった。
橋の下、水の中から出てきたものは、如何とも形容し難い異質。
「お……おい!聞こえるか!?そいつに、人は乗っているのか!?」
とりあえず、橋の上からその機体――いや怪物と呼ぶべきだろうか、それに呼びかける。
あれが自分の初号機同様に支給機体というなら、それに乗っている参加者がいるはず。
「こちらに殺し合う意志はない!言葉がわかるなら返事をしてくれ!」
しかしそれ以前に、あれはロボットなのだろうか。むしろ生物に近い印象がある。
ギルギルガンやピグドロンといった宇宙からの生物か、ドラゴノザウルスのような突然変異種か。
「聞こえているのか!?おい!?」
無意識のうちに、呼びかける声が強くなる。
鉄也の戦士としての直感が告げていた。この怪物は、危険だと。
「返事がないなら……攻撃するぞ!?」
もしこのバケモノが人の手を離れた存在だとすれば。
こいつが他の者達に危害を加える存在であるなら、ここで叩いて置かねばなるまい。
右手にバレットライフルを構える。その銃口を、ゆっくりとバケモノへと向ける――

異質に対し、思考が警戒・排除へと向かうのは、人の性だろうか。
そんな業が、ヒトの間に争いを呼ぶ。
今回のケースでも――



初号機が動いている。誰かが、動かしている。
エヴァを動かせる人間は限られているはずなのに。
だからこそ、僕は初号機に乗って戦ってきた。戦い続けてきた。
アスカにしても綾波にしてもそうだ。なのに。
「W14……なんであの人は、初号機を動かせるの」
『レモン様が調整した』
W14は事も無げに答えた。
この使徒を蘇らせた、渚カヲルを蘇らせた――その質問の時と同じように。
あっさりと。あまりにも簡単に答えた。
「そう……そんな簡単なものなんだ」
脱力を通り越して、虚しさに包まれる。
ひどく、馬鹿馬鹿しくなった。
まるで、今までの自分達の戦いを否定されたかのような気分だった。
『いやいや簡単ではないぞ、ありとあらゆる世界の技術を駆使してようやく制御できたという話だ。
 正直ここまでやる必要あるのかとか、労力の割に合わないとか、ぶっちゃけただの自己満足だろうとか、
 初号機に限らずこの手の苦情が各方面からレモン様のところに大量に……シンジ?』
ただ呆然――いや愕然として沈黙を保つシンジ。それに気付いたか、W14の説明が止まる。
しかし状況は、シンジを感傷に浸らせる余裕すら与えない。
286それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:08:20 ID:G12giq60
 
287それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:08:46 ID:9/pjrcZz
支援

「聞こえているのか、おい!」

「ッ!?」
呼びかけてくる相手の声に、そこに若干の苛立ちが混じり始めているのを感じ、シンジは気圧される。
「返事がないなら……攻撃するぞ!?」
最後通告とも言える相手の台詞に、最大まで張り詰める緊張。
やはり、恐れていた通りだ。こんなバケモノを見て、敵意を抱かないはずがない。
ここに来て、シンジは初めて自分の置かれた状況に現実感を持ち始めた。
(そうだよ……もう……殺し合いは始まってるんだ……)
W14と気の抜けた会話を続けていたせいか、どこか危機感も薄れ漠然としていた。
それをいいことに、無意識に過酷な現実から目を背けていた。
だが、それももう通じない。
命の危機に直面したことで、嫌でも真正面から向き合わざるを得なくなった。
(僕は……どうしたらいいんだ)
『シンジ、何か対応を。このままでは攻撃を受けるぞ』
急かすようなW14の声。迷う自分を、待ってくれない状況。
――ああ、いつもと同じだ。
『攻撃準備はできている。お前の指示次第で、すぐにでも攻撃は可能だ』
攻撃。この使徒を操って、相手を攻撃しろと。相手を殺せと。
反発を抱くも、それを傍らのW14にぶつけたからと言ってどうにもならない。
「……結局、それしかないんだ」
『いや、一応通信回線を開くことはできるぞ。どうする?』
初号機のバレットライフルが、ゆっくりとシンジ達の使徒へと向けられる。
いつ火を吹いてもおかしくない、一触即発の空気。
「つ……通信開いて!早く!」
『了解した』
切羽詰らせ裏返った声で、シンジはW14に指示する。
――ああ、やっぱりいつもと同じなんだ。今回もまた、流されるんだ。

「ん……?」
「あ……ぼ、僕は……」
通信回線が開かれ、相手の声が直接コックピットの中に送られてくる。
「ん……なんだ、やはり人が乗っているのか!?おい、聞こえるか!?」
男はさらに呼びかけてくる。先程までの苛立ちと敵意は薄れていた。
「あ……ぅ……」
声が出ない。何を言えばいいのかわからない。

――死にたくなければ殺しなさい。あなた達にはそれしかないの。

レモン・ブロウニングの言葉が頭の中で反復される。
殺し合わなければ、自分達は生き延びることを許してくれない。
その条件は、今会話をしているこの男も同じはずだった。
289それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:10:30 ID:G12giq60
 
290それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:13:37 ID:9/pjrcZz
.
しかし――

「大丈夫だ、落ち着いてくれ!俺は殺し合うつもりはない!」
何を言っているんだ、この人は。
殺し合わなきゃ、生き延びられないのに。
「あの連中の言いなりになってやる義理なんてないからな」
僕を落ち着かせようとしてくれているのかな。
口早な説明。多分、そういうのに慣れてないんだろう。
でも……それを本気で言っているのだろうか。
「なんとかしてこのバトルロワイアルを壊し、シャドウミラーへの反撃に出たいと思っている」
この人は、自分の命が惜しくないんだろうか。
あの人達に刃向かえば、すぐにこの首輪の爆弾で殺されるのに。
「とりあえず今は、殺し合いに乗った人間を止め、少しでも多くの人を助けようと回っているんだが……」
意味がわからない。
自分の命がかかっている中なのに、他の誰かのために行動なんてできるのか。

嘘だ。ありえない。

結局みんな、自分が一番大事なんだ。
みんな自分勝手で、自分の都合ばかり考えて、都合の悪いことは誰かに押し付けて。
この人だって、自分が一番大事なはずだ。何を考えているかわかったもんじゃない。
……首輪が、冷たい。違和感が気になって仕方がない。

殺されるかもしれない、そして殺さなければならない。
その恐怖がシンジの心を閉ざしていく。

「俺は剣鉄也。一応聞いておくが、君は殺し合いに乗ってはいないんだな?」
「それは……」
鉄也と名乗った男は、念を押すように問いかけてくる。
シンジは思わず言葉を詰まらせた。
殺し合おうだなんて思わない。本当は人殺しなんてしたくない。
だが、それを許さない枷が自分には与えられた。
二回目の放送までに二人殺さないと死――ジョーカーという名の枷が。
「ん……どうした?」
沈黙に不審なものを抱いたか、鉄也が問い詰めてくる。
「殺し合いなんて……したくない……でも」
シンジは掠れるような声で、それでもなんとか言葉を紡ぎ出す。
それはバトルロワイアルに対する、彼の正直な気持ちではある。
だが同時にその声には、他人に対する疑念、そして恐怖が含まれていた。
『気をつけろ、シンジ』
W14が口を挟んできた。
同時にサブモニターが展開され、そこに初号機の拡大映像が映し出される。
『あの男、既に一度交戦しているぞ』

初号機には、刃物を掠めたかのような無数の傷跡が残っていた。

誰かと戦ったんだ。
誰かと殺し合ったんだ、この人は。

「おい、どうかしたのか?」

あの銃で、誰を撃ってきたんだろう。
あの見慣れない刀で、誰を斬ってきたんだろう。
初号機で……一体誰を殺してきたんだろう。



LCLを染めた紅い血の海。
首のない死体。
浮かび上がる仮面。





―――死ニタクナイ。





「え……?」

シンジが我に返った時、彼の乗る使徒は既に行動へと移っていた。
それは、シンジにとっては無意識でしかなかったのかもしれない。
だが、シンジの中に確かに存在した意思であることには変わりはない。

――拒絶。

そして、少年は引き返せなくなった。
293それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:17:35 ID:G12giq60
 
「な……ッ!?」
怪物――ゼルエルの奇妙な両腕に一瞬の違和感を感じ、初号機は真横へと跳んだ。
直後、初号機の左肩を、白い刃が掠めていく。
折り畳まれていた右腕が真っ直ぐに伸び、白い帯状の刃と化して初号機を襲ったのだ。
かつてエヴァ弐号機の両腕と首を瞬時に落とした触腕。
その伸ばされた腕は、間髪いれずに、横薙ぎの一撃を加えてくる。
転がり身を屈めながら、それを回避する初号機。頭上を白い刃が通り過ぎていく。
「やめろ、何をする!?」
体勢を立て直しながら、鉄也は戦いを避けられないことを悟る。
(だが、これは……!!)


(殺さなきゃ……殺さなきゃ!!)
攻撃を仕掛けてしまった。今、自分はあの人を殺そうとしたんだ。
これで引っ込みがつかなくなった。あの鉄也という人も、もう自分を許しはしないだろう。
あの人は殺し合う人間を止めると言っていた。今、自分もそのカテゴリに当て嵌められた。
……いや違う。そんなのあの人の口実だ。
腹の底では、あの人は僕を殺そうとしてるんだ。殺し合いに乗ってるはずだ。
甘い顔をしていても、どうせ最後には裏切るんだ。
僕がいらない人間だとわかれば、すぐに殺しに来るに決まってる。
だから、殺す。そうしなきゃ、死ぬ。早く殺さないと。二人殺さないと。死にたくない。

恐怖。疑念。不信。打算。自虐。正当化。そして逃避。
それらの感情が滅茶苦茶に混ざり合って、シンジを突き動かす。
ただ、これらの感情に共通するもの、そして彼の根本にあるものは一つ。
――死の恐怖。
だから、他者を拒絶する。傷つける。

「もう嫌だ……もう沢山だッ!!」


シンジの叫びと共に、橋の上に閃光が走り、十字の光が立ち上がった。
ジオフロントの18の特殊装甲を一瞬で無力化した、破壊の光。
その爆発は、巨大な橋をいともたやすく崩壊へと導く。
「ちぃっ!」
崩れ始める橋を全力で疾走する初号機。
初号機に飛行能力はない。このまま橋を破壊されれば足場を失い、海に叩き落される。
水中戦は不利だ。怪物の戦闘力は未知数だが、不利なフィールドで戦う愚を犯すわけにはいかない。
この足場を完全に破壊される前に、橋を渡り切るしかなかった。
破壊の閃光の瞬きはなおも続く。
走る初号機を追いかけるように、十字架が立てられるかのように次々と爆発が巻き起こされる。
それに伴い、背後の足場が次々と崩れていく。それを振り返っている余裕などない。

――島が、橋の終わりが見えた。
このまま突っ走れば、逃げ切れる。戦いはそこからだ。
(戦い……だが、これは何のための戦いだ?)
295それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:18:51 ID:G12giq60
 
「くそっ、くそぉっ!!」
狙いが定まらない。疾走する初号機に光を当てられない。
初号機とは勝手が違う。シンジは使徒の動きに半ば振り回されていた。
(なんで、なんで当たらないんだ!向こうも慣れてないはずなのに!)
『あの男、初号機の操縦をものにしている。交戦経験の差もあるだろうが……』
シンジの心の中の焦りと疑問を見透かしたように、W14の解説が挟まれる。
平静を保ったその態度が、やけに腹立たしい。
シンジは追い立てられるかのように、ひたすらゼルエルの光を乱射する。
だが焦れば焦るほど、狙いは荒くなっていく。
『シンジ!奴の進行先、橋の付け根だ!!』
W14が叫んだ。
冷静で簡潔、そして容易に意味を理解できる。サポートとしては完璧だ。
「う……あああああああああッ!!!」
初号機のゴール地点、島と橋の繋ぎ目に、最後の十字の爆発が打ちあがる。
進路は防いだ。支えを完全に失い、橋は一気に崩壊する。これで初号機は、海へと落ちる。
ところが、初号機はその爆発と崩壊の中においてなお、走るスピードを緩めない。
「フィールド全開!跳べ!!エヴァンゲリオン!!」
崩れ行く足場を蹴り、初号機が大きく跳躍する。
ATフィールドを展開したまま、爆発の中を突っ切っていく。

「そ、そんな……」
橋を渡り終えた初号機を見て、シンジの声が漏れる。
あの人は迷いなく、突っ込んでいった。
自分にそれができるだろうか?そこまでの判断力があるか?
もしかして、自分以上に初号機を扱えているんじゃないだろうかとすら思えた。
その事実が、一層シンジを追い詰めていく。
『逃がすな、シンジ。ここで奴を逃がせば、お前が攻撃を仕掛けたことを、他の者に
 触れ回るかもしれん。そうなれば、後々不利な状況に……』
「うるさい!黙ってよ!」
苛立ちも顕に、W14を一蹴する。
いちいち悠長に説明を聞いている余裕など、今のシンジにはなかった。


橋が完全に崩壊する様を見届けていた。
(くっ、このパワー……危険すぎる!)
視線をゼルエルへと移す。初号機を追って、陸へと上がって来ていた。
マゴロクを構える。
この怪物が本格的に暴走を始めれば、大きな被害をもたらすことになる。
そうなる前に、止めなければならない。この身に代えても、なんとしても。
(だが……この子は――!)
少年の発した言葉が引っかかる。
殺し合う気はないと言った、しかし明らかな怯えを含んだあの声が。
「う……うああああああああッ!!!」
ゼルエルの右腕が、真っ直ぐに初号機へと伸ばされた。
その腕は先程までの刃ではなく、意思を持つ布のように、初号機の左腕へと絡みつく。
「くっ……!」
今も感じる。彼の拒絶の叫びの中にある、確かな恐怖を。
当たり前だ。こんな状況の中に放り込まれて、恐怖しない子供がいるものか。
そこで、鉄也は気付く。己の軽率な行動に。
(最後に彼を崖っぷちから突き落としたのは……俺か……!)
鉄也は最初に、彼に銃を向けてしまった。
相手が戦いを知らない一般人だった場合、その行為がどれほどの恐怖を与えるのか。
そんな簡単なことも気付かず、追い詰めてしまった。
「だったら……なおさらここで退くわけにはいかん!」
鉄也の不退転の決意と共に、初号機は左手に絡み付いた布を、マゴロクで断ち切った。
297それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:19:34 ID:G12giq60
 
『くあっ……!』
W14の口から漏れた苦悶の声、しかしシンジはそれに気付かない。
目の前の『敵』に、押し寄せる感情の波に、気付く余裕などなかった。
「く、くそっ!」
「聞いてくれ!!俺は殺し合うつもりはない!!」
聞くな。聞いちゃダメだ。シンジは自分に言い聞かす。
「嘘だ……信じられるもんか!!」
過ちを犯す今の自分からの逃避。人を殺すことへの正当化。
そして何より――

「そうやって、最後には僕を突き放すんだ!必要ないからって、僕を殺すんだ!
 父さんやカヲル君と同じだ!最後は僕の気持ちを裏切るんだ!」


――どうせ、アンタも奴と一緒だ!口では奇麗事を言っておきながら、いざとなったら裏切るに決まってる!

少年の発した言葉が、鉄也に攻撃を躊躇わせていた。
奇しくも、大剣のロボットのパイロットと同じ内容のことを口走っていた。
(最後には裏切る……か)
無理もない。顔を合わせたばかりの人間を頭から信じるなど、そうそうできるものではないだろう。
だが、彼らの場合は恐らくそれだけではない。

――アンタも奴と一緒だ――いざとなったら裏切るに決まってる!
――父さんやカヲル君と同じだ――最後は僕の気持ちをを裏切るんだ!

どうすれば、彼らを救える?
所詮、自分は戦闘マシーン。戦って止めることしかできない。
しかし。今、仮にこの場で少年を力ずくで止めたとして、それは根本的な解決となりえるのだろうか。
……ノーだ。
そんな戦いを繰り返したところで……結局は、誰も救えはしない。
スレードゲルミルとの戦いの時点で、鉄也は自分の戦いの限界を薄々ながら自覚はしていた。

(父さん――か)

少年の口にした言葉が頭に残る。
『父さん』そして『カヲル君』……恐らく、友達か何かだろう。
少年の物言いから察するに、彼らに裏切りを受けた過去があるのか。
その心の傷は、今なお少年の中に残っているのだろう。

改めて、自分は恵まれていたのだと感じて。
同時に、かつて過ちを犯した自分の愚かさを恥じて。
そして。

「だったら……殺し合いに乗っていないことを、証明すればいいんだな」

鉄也はそう言って、賭けに出た。
それはもはや無謀を通り越して、正気とすら言えない賭けと言えるだろう。
あまりにも馬鹿げている。こんな手が通用するのは、安っぽい物語の中だけだ。
それを承知の上で、鉄也は、少年の中に残る良心を信じることを選んだ。
ここで力ずくで捩じ伏せてしまえば、少年は二度と立ち直ることができないように思えたからだ。
少年を突き動かすのは、恐怖だ。そして先程戦った少年よりも覚悟が定まっていない。
だからこそ、彼はまだ引き返せる。



証明。
その単語に、思わずシンジは手を止める。
続いて、初号機の取った行動に目を疑った。

マゴロクを地面に突き立て。
携帯するライフルの数々を、地面へと落とし。
初号機は両手を広げた。

『あの男……正気か!?』
W14が呟いたのは、当然のことだ。
あらんばかりの殺意を向けるシンジの前で、無抵抗を表明した。
それがどれほどの危険を意味するか、わからないはずがあるまい。
「何を……何をやってるんだ、あの人は……」
シンジもまた、鉄也の行動に呆然としていた。

この人は何を考えているんだ。自分の命が惜しくないのか――?
「お前に、譲れない決意と覚悟があるというなら……俺を殺し、踏み越えていくがいい」
馬鹿な。殺されてもいいというのか。なんでそうまでして僕を……助けるつもりなんだ?
「だが……もう一度考えてくれ。本当にそれでいいのかを」
「い……し……?」
違う。そう言って、僕を惑わそうとしているんだ。
そのはずだ。誰か、そうだと言って――

『油断するな、シンジ。こちらを誘う罠かもしれん』
傍らから、肯定の意見が聞こえた。
これで、攻撃の口実が与えられ、正当化がなされた。
「うああああああああああああああッッ!!!!」
ゼルエルの左腕を刃に変えて、初号機に向け高速で伸ばす。

紫色の左腕が、宙を舞った。
初号機の左腕の付け根から、血が噴出す。

「ぐ……ッ!!」
「なんで!?なんで避けようとしないんだ……?」
擬似的な痛覚とはいえ、神経接続によってダメージはパイロットにも伝わるはずだ。
その痛みと辛さはよく知っている。
「おかしいじゃないか!なんでッ!」
再び左腕の刃を振るう。
今度は初号機の右脇腹を切り裂いた。同時に、そこからも噴出される鮮血。
初号機の足元が紅い色に染まる。
「……ッ!!」
「見ず知らずの相手に、なんでそこまでできるんだ!!」

「お前は似ているんだよ……昔の俺にな」
鉄也が、口を開いた。
「誰かに裏切られるのが怖いから……拒絶し、傷つけてしまう」
シンジは、それを黙って聞いていた。
「だがな……そいつに身を任せてしまえば、いずれ取り返しがつかなくなる。
 自分にとって大切なものを、失ってしまうことになる」
漠然とだが、わかった。それは、鉄也自身のことを言っているのだと。


ミケーネ帝国との戦いの最終局面。
兜甲児が帰国し、兜剣造との親子の対面を果たした時、鉄也の中に蟠りが生まれた。
最初は小さかったはずのそれは徐々に肥大化し、嫉妬心として表面化していく。
兜甲児が憎かったのか。
いや、違う。
それ以上に怖かったのだ。
見捨てられることを、裏切られることを恐れていたのだ。
そんなはずはないのに。わかっていたはずなのに。
所長を、何より自分自身を信じられなかった。
その果てに――鉄也は、取り返しの付かない過ちを犯してしまった。
そしてシローに、甲児に、ジュンに、所長と関わる多くの人達に消えない悲しみを刻み込んでしまった。

目の前の少年は、父親に裏切られたと言った。
少年の過去は、今の鉄也に知る術はない。
だがその一点だけでも、自分より遥かに辛い思いをしてきたのではないかと思えた。
しかし、それだけであるはずがない。それでは、あまりにも悲しすぎる。
彼にだって、かけがえのない何かがあるはずだ。

「お前は本当にこれでいいのか?自分の心に嘘はないのか?」
鉄也は叫ぶ。
「嘘をつき続けていれば、お前はいずれ後悔することになる!」
自分と同じ後悔を踏んで欲しくないが故に。
「お前は……本当に殺し合いなど望んでいるのか!?」
301それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:21:35 ID:G12giq60
 
ゼルエルが、シンジの感情にシンクロするかのように、膝をついた。
既にそこには殺意も戦意も存在しなかった。
「だったら……どうしろっていうんだよ!!」
響き渡るのは、半ばヒステリックな少年の声。
「好き好んで殺し合いなんてするわけないだろ……
 でも!!だったら、どうしろっていうんだ!!」
そう叫んで……あとは、嗚咽だけ。
答えなんて、すぐになど出せる筈がなかった。

「ぐ……っ」
初号機もまた膝をついた。あくまで擬似的な痛覚とはいえ、深手のはずだ。
「え……あ……」
一瞬、相手の心配をしてしまう自分がいた。
さっきまで殺そうとしていた相手なのに。
これが、自分の本心だとでもいうのか。

『シンジ、今ならあの男にとどめを刺すことは造作もない。
 そうすればお前に殺害数が+1され、ノルマ達成に一歩近づくことになる』
W14の冷徹な言葉が差し挟まれた。
少しは空気を読めと、シンジは内心で反発を抱く。
だが次の言葉で、決してそれだけではないことが理解できた。
『だが……言っておく。逃げ続けるだけでは、このバトルロワイアルは生き残れない』
彼女もまた、剣鉄也と同様のことを言っている。
「逃げちゃ……ダメだって言うの。自分から」
『逃げること自体を否定するつもりはない。だが物事の本質から目を逸らしたまま逃げれば、
 あの男の言うように、お前はまたいつか後悔することになる』
「わからない……そんなの、すぐにわかるわけないよ」
「すぐにわかる必要なんかない。そんなもんだ」
鉄也が、悩める少年にフォローを入れた。
「すぐに見つかるようなもんじゃない。ゆっくり迷って、見つけ出せばいい。
 もし見つけたそれが間違いだと思ったなら……
 それを正して、また探せばいい。……俺は、そうした」

彼の戦いは、もしかしたらかつての過ちの罪滅ぼしの意味合いも含んでいるのかもしれない。
なんとなく、シンジはそんな気がした。

シンジの肩に、手が置かれた。
振り返ると、W14が微笑んでいた。


――どうすればいいんだ、僕は。



303それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:22:16 ID:G12giq60
 
――そこで、一連の盗聴記録は途切れた。

「いかがかしら?W14の出来栄えは」
どこか満足げなレモン・ブロウニングに、尋ねられたアクセル・アルマーはきっぱりと言い放った。
「欠陥品だな」
「冷たいわねぇ。どこか不満な点でもあったかしら?」
「ふん……不自然なく、碇シンジを戦いに駆り立てた手腕は認めてやる」
そう、W14は常にシンジを『戦う』方向へと仕向けていた。
それは、彼にジョーカーとしての役割を促すには正しい行動ではある。
「だが詰めが甘い。その気になれば、最後は剣鉄也を仕留めさせることができたはずだ」
しかし、最後に彼女はそれらとは正反対の行動を取った。
まるで鉄也に同調するかのように、シンジを諭そうとしていた。
殺し合いを促すどころか、これでは逆効果だ。
「まったく、おれ達に相談もなく、独断でジョーカーなど選抜しておいて……
 ゲームを煽動する要素となるかと思った結果がこれか。真面目にやってくれ」
「あら。私は真面目に取り組んでいるわよ」
そんなアクセルを、レモンは飄々と受け流す。
「別に、あの子に最初から積極的に殺して貰おうなんて期待しちゃいないわ。
 単純に殺し手を求めるだけなら、もっと他の人材を選ぶわよ」
「ん?どういうことだ」
「参加者はあくまでも碇シンジ君よ。W14はあくまでサポートユニットに過ぎない……
 W14に言われるがままに殺して回るんじゃ、どっちが参加者かわからないわ。
 彼自身の手で奮起してもらわなきゃ、何の意味もないのよ」
「まあ……確かにそうかもしれんが」
レモンは地図を映し出すモニターに、視線を移す。
碇シンジと剣鉄也が戦ったD-4を、見守るように眺める。
恐らく彼女の目は、会場の碇シンジ、そしてW14自身に向けられていることだろう。
「何にせよ、未来ある若者を引き篭もりから救った、あの偉大な勇者さんには感謝しなくちゃね」

地図上の光点――参加者達の生存を示す光は、順調に消え続けていた。
ゲーム開始より、ようやく6時間。まだバトルロワイアルは始まったばかりである。

【剣鉄也 搭乗機体:エヴァンゲリオン初号機(新世紀エヴァンゲリオン)
 パイロット状態:気力と体力消耗(大)
 機体状態:全身に無数の刀傷、左腕損失、右脇腹裂傷。
      S2機関搭載、シンクロ率80%、マゴロクソード所持。
 現在地:D-4南西 島
 第一行動方針:殺し合いに乗った人間を止める
 第二行動方針:暗黒大将軍と接触、必要なら決着をつける
 第三行動方針:他の参加者と接触して情報交換を行う
 第四行動方針:この世界の脱出方法を探す
 最終行動方針:自分を犠牲にしてでも参加者を元の世界へ帰す
 備考:出来る限り一人で行動する】

【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
 パイロット状況:迷い
 機体状況:ゼルエル=右手先端損失(再生中) W14=右手首に痛み
 現在位置:D-4南西 島
 第一行動方針:???
 最終行動目標:生き残る。死にたくない】
 ※カヲル殺害後から参戦です。

【W14(ゼルエルXX)について】
・ゼルエルとの神経接続により、ゼルエルの受けたダメージはW14にもフィールドバックするようです。

※D-4北西の橋が崩壊しました。

【一日目 12:00】
305勇者と少年とアンドロイド ◇PfOe5YLrtI:2010/01/19(火) 21:27:56 ID:G12giq60
――そこで、一連の盗聴記録は途切れた。

「いかがかしら?W14の出来栄えは」
どこか満足げなレモン・ブロウニングに、尋ねられたアクセル・アルマーはきっぱりと言い放った。
「欠陥品だな」
「冷たいわねぇ。どこか不満な点でもあったかしら?」
「ふん……不自然なく、碇シンジを戦いに駆り立てた手腕は認めてやる」
そう、W14は常にシンジを『戦う』方向へと仕向けていた。
それは、彼にジョーカーとしての役割を促すには正しい行動ではある。
「だが詰めが甘い。その気になれば、最後は剣鉄也を仕留めさせることができたはずだ」
しかし、最後に彼女はそれらとは正反対の行動を取った。
まるで鉄也に同調するかのように、シンジを諭そうとしていた。
殺し合いを促すどころか、これでは逆効果だ。
「まったく、おれ達に相談もなく、独断でジョーカーなど選抜しておいて……
 ゲームを煽動する要素となるかと思った結果がこれか。真面目にやってくれ」
「あら。私は真面目に取り組んでいるわよ」
そんなアクセルを、レモンは飄々と受け流す。
「別に、あの子に最初から積極的に殺して貰おうなんて期待しちゃいないわ。
 単純に殺し手を求めるだけなら、もっと他の人材を選ぶわよ」
「ん?どういうことだ」
「参加者はあくまでも碇シンジ君よ。W14はあくまでサポートユニットに過ぎない……
 W14に言われるがままに殺して回るんじゃ、どっちが参加者かわからないわ。
 彼自身の手で奮起してもらわなきゃ、何の意味もないのよ」
「まあ……確かにそうかもしれんが」
レモンは地図を映し出すモニターに、視線を移す。
碇シンジと剣鉄也が戦ったD-4を、見守るように眺める。
恐らく彼女の目は、会場の碇シンジ、そしてW14自身に向けられていることだろう。
「何にせよ、未来ある若者を引き篭もりから救った、あの偉大な勇者さんには感謝しなくちゃね」

地図上の光点――参加者達の生存を示す光は、順調に消え続けていた。
ゲーム開始より、ようやく6時間。まだバトルロワイアルは始まったばかりである。

【剣鉄也 搭乗機体:エヴァンゲリオン初号機(新世紀エヴァンゲリオン)
 パイロット状態:気力と体力消耗(大)
 機体状態:全身に無数の刀傷、左腕損失、右脇腹裂傷。
      S2機関搭載、シンクロ率80%、マゴロクソード所持。
 現在地:D-4南西 島
 第一行動方針:殺し合いに乗った人間を止める
 第二行動方針:暗黒大将軍と接触、必要なら決着をつける
 第三行動方針:他の参加者と接触して情報交換を行う
 第四行動方針:この世界の脱出方法を探す
 最終行動方針:自分を犠牲にしてでも参加者を元の世界へ帰す
 備考:出来る限り一人で行動する】

【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
 パイロット状況:迷い
 機体状況:ゼルエル=右手先端損失(再生中) W14=右手首に痛み
 現在位置:D-4南西 島
 第一行動方針:???
 最終行動目標:生き残る。死にたくない】
 ※カヲル殺害後から参戦です。

【W14(ゼルエルXX)について】
・ゼルエルとの神経接続により、ゼルエルの受けたダメージはW14にもフィールドバックするようです。

※D-4北西の橋が崩壊しました。

【一日目 12:00】
306それも名無しだ:2010/01/19(火) 21:39:29 ID:G12giq60
>>305は間違い
代理投下かぶっちゃったすみません

>あてにならないパートナー?
トビアにネズミ、ってラットルかよw
ヴァンもトレーズも相変わらずで、どっちも割りと良いコンビのようなそうでも無いような・・・w
首輪については特に問題ないと思うます

>勇者と少年とアンドロイド
なんかシンジの話ごとのギャップがすごいw
W14はどうやらただの萌え担当ではないらしいな!さすが俺の嫁!?
鉄也も不器用なりにがんばっていて非常に良い
307 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:42:30 ID:89WGdoJt
お二方投下乙です。
ヤマダ、プル、ティンプ、ラカンを投下します。
308 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:44:36 ID:89WGdoJt
赤い巨大ロボを追い払った後、本名ヤマダ・ジロウ魂の名前ダイゴウジ・ガイはとりあえず少女を起こすことにした。
ここに来る途中に見かけた大きな館まで戻り、少女を寝かせてやろうと思ったのだ。
しかし、館に来てみると先ほどまで無事だったはずなのに今は半分吹き飛んでいた。

「なんだなんだぁ? まるでなにかが降ってきたみたいな壊れ方してやがるな」

危険な場所なら少女を寝かせておくわけにもいかない。でも、見た限り人はいなさそうだった。

「ちょっと様子を見に行ってみるか…」

ガイはソーラーアクエリオンから降りて館を調査することにした。
シートの後ろで眠っている少女が起きたときのために名簿を千切って、「すぐ戻ってくるからここでじっとしてるんだ  正義の味方ダイゴウジ・ガイ」と書置きを残した。



館の中は大きなホールになっていて、どこかの基地のように大きなモニターやコントロールパネルなどがひしめいていた。
しかし何者かの攻撃によって故障したようで、ガイが適当にいじってみても反応はなかった。

「怪しい…はっ!ここはもしかしてシャドウミラーの秘密基地じゃないのか!?」

なんということだ。一見普通の館のように見えて中はこんなハイテク設備が整っている秘密基地だったとは。
すでに機能は停止しているようだが、ここを残しておくといつまたシャドウミラーに利用されるかわからない。

「へへへ…敵の秘密基地にたった一人で潜入するこのシチュエーション!燃えるぜ!」

そうとわかれば長居は無用だ。ガイは大急ぎで館からでて、ソーラーアクエリオンに戻った。
だがガイが乗り込もうとしたとき、アクエリオンは独りでに立ち上がってしまい、ソーラーアクエリオンから声が聞こえてきた。

「あ、あれ?どうなってんだ?」
「おじさん、誰?」

そういえばコクピットにはあの少女がいたな、と思いだしたガイ。

「おじさんじゃない!俺はまだお兄さんだ!」
「その声、知ってる。なんだっけ、が…が?」
「ガイだ!ダイゴウジ・ガイ!」
「ガイ…あーっ!さっき私を助けてくれた人!」
「そうだ!そのガイだ!君の名前は何て言うんだ?」
「プル…私はプルっていうの」
「そうか、プル。そいつはおもちゃじゃないぞ、危ないから降りて来るんだ」
「やだ!」

わかってくれたか、とガイは近寄って見るが、ソーラーアクエリオンはその分後ろに下がってしまった。

「お、おい。俺は君に危害を加えるつもりはないぞ!」
「嘘だ!だってみんなやっつけなきゃ帰れないんでしょ!おじさんだって私を殺すつもりなんだ!」
「ち、違う!俺にそんなつもりはない!」
「私はジュドーのところに帰るの!だから…おじさんだって!」
「わーっ、待てーっ!」

ソーラーアクエリオンが足でガイを踏み潰そうとして、ガイは慌てて逃げ出した。

(あの少女は錯乱しているんだ!くそ、倒すわけにもいかないぞ…どうすればいいんだ!?)

必死に考えるガイ。プルが森を蹴って樹をなぎ倒していく。
森の中なので隠れる場所には困らないが、プルがソーラーアクエリオンの武器に気付けばまとめて吹き飛ばされるだろう。
それまでに何とかしなければ。

(えーっと、何かないか、あの子を説得する方法が!思い出せ、あの子はどうして錯乱しているんだ?
帰る…そうだ、帰りたいから優勝しようとしている!ジュドーのところに帰りたい…ん、待てよ?)
309 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:47:42 ID:89WGdoJt
ふと思いついて肩にかけっぱなしだった鞄を開き名簿を取りだした。
ジュドーという名前…やっぱりあった。
ジュドー・アーシタ。プルが探している人もこの会場にいるのだ。

「プル!俺の話を聞くんだ、プル!」
「あっ、そんなところにいたんだ!もう逃がさないよ!」

ガイが大声をあげると、プルは振り返ってこっちに向かってきた。

「待て!お前の大事な人はジュドー、ジュドー・アーシタか!?」
「え…なんでジュドーの名字を知ってるの?あたし、ジュドーとしか言ってない…」
「いいか、よく聞け!ジュドーってやつもここにいる!この島のどこかにジュドーがいるんだ!」
「えっ!?」
「たしかにお前が優勝すれば元いたところに帰れるかもしれんが、それはジュドーを殺すってことなんだぞ!おまえはそれでいいのか!?」
「や…やだ!ジュドーを殺すなんて絶対やだ!」
「だったら、シャドウミラーの言うことなんて従うな!大丈夫だ、俺がお前をジュドーのところに連れて行ってやる!
お前もジュドーも、二人とも俺が守ってやる!だから落ちつけ!ゲキガンガーから降りて来るんだ!」

必死に説得するガイ。真剣だったが、全身が汗でびっしょりだった。
少しして、ソーラーアクエリオンのコクピットが開いてプルが顔を出した。

「本当に…本当に、あたしをジュドーに会わせてくれるの?」
「も、もちろんだ!ダイゴウジ・ガイは絶対に嘘はつかない!俺を信じろ!」
「…うん、わかった」

ガイの魂の説得が通じて、プルがソーラーアクエリオンを降りてきた。
ほっとして、ガイは腰が抜けたようにへたり込む。プルが駆け寄ってきてお茶の入ったペットボトルを差し出してきた。

「あの…ごめんなさい。これ飲んで」
「ああ…いいってことよ!俺は正義の味方だからな!少女を助けるなんて朝飯前よ!」

プルが渡してくれたお茶を喉を鳴らして飲むガイ。

(とりあえずなんとかなったか。プルを襲ってたやつもぶっとばしたし、よし、あとはジュドーってやつを探して…)

と、そこまで考えたところでガイはお茶を噴き出した。

「やだ、汚い!」
「ゲホッ、ゴホッ!ああ、悪い…じゃない!そうじゃなくて!」

プルが襲われていたから助けた。
助けたプルが錯乱していて、ガイを襲ってきた。
プルは帰るためには優勝しなければいけないと思っていた。
そのため、プルはガイを殺そうとした。つまり。

(あ、あいつ…!もしかしてプルを助けようとしてたのか…!?)

ガイが思い出したのは、さっきゲキガンパンチでふっ飛ばした赤い巨大ロボのことだ。
考えてみればあれだけのロボならプルの乗るマシンなんて簡単に粉々にできただろう。
でも、ガイアガンダムというらしい機体は特に不具合もなく原形を保っている。
ガイの全身にさっきとは違う汗が噴き出てきた。

(俺…とんでもない勘違いしちまったんじゃ…!?)

あのとき赤いロボが反撃しなかったのも、プルを守ろうとしていたから、と考えられなくもない。
見る間に真っ青になったガイに、プルが不思議そうな顔でたずねた。
310 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:51:13 ID:89WGdoJt
「どうしたの、ガイ?すごい汗かいてるよ」
「プ、プル…正直に答えてくれ。さっきの赤いロボ、お前、本当にあいつに襲われたのか?」
「えっ」
「お前から手を出した…んじゃないよな!?なあ、違うよな!?」
「えーと…違うよ。向こうから撃ってきたの」
「…そうか。よかった…いや、それならいいんだ。いやー、焦った焦った。俺、お前が今みたいに暴れたのかと」
「私が最初に別の男の人を襲ってたら、あの赤いロボがその人を助けに来たの。最初にいた人は逃げちゃったけど」

汗をぬぐったガイに、プルが何でもないという感じで言った。
ガイの動きが硬直する。

「…え?」
「だから、あの私は赤いロボには先に手を出してないよ。別の人には出しちゃったけど」
「…駄目じゃねえええええええええええかああああああ!?」

ガイは吠えた。

「じゃああいつ、どっちかって言えばいいやつじゃん!俺悪人かと思ってぶっ飛ばしちまったぞ!?」
「悪い人…じゃないと思う。だって私に大丈夫か、なんて言ってきたし」
「おおおい!じゃああいつ、お前を落ち着かせようとしただけじゃねえか!なんであんな叫んでたんだよ!」
「だって、あのときは殺されると思ったんだもん。知らない人だったし」
「だからってな…」

プルは自分が人を殺そうとしていたのはあまり気にしていないようだ。その辺はまだ子供だからなのかもしれない。
だがガイとしては大問題だった。
もしあの赤いロボが誰かと合流し、ガイの事を話したらどうなるだろう?

少女を助けようとしていた赤いロボの前に乱入し、有無を言わさず攻撃した。
で、赤いロボが戻って来てもそこにはもう少女はいない。ガイが連れてきたからだ。
結論。
どう考えてもガイが悪党だ。

「と、とりあえずだ!さっきの赤いロボを追うぞ!」
「えー?やだよ、絶対に怒ってるもん!」
「そりゃ怒ってるだろうな…。でもだな、このままだと俺はとんでもない悪人だって噂が拡がっちまう!そうしたらお前もジュドーと会えなくなるんだぞ!」
「え、それはやだ!」
「だろう!?…だからさ、あいつに謝りに行こう。大丈夫だ、俺も一緒に謝ってやるから…て言うか多分、主に怒られるのは俺のはずだから…」
「うーん…わかった。ガイがそこまで言うなら謝る」

プルに関しては錯乱していたからで通るかもしれないが、ガイの場合は完全に早とちりによる暴挙だ。
気が重い…だがガイはここで逃げるわけにはいかなかった。

(ゲキガンガーを操る勇者が卑怯者であっていいはずがない…ここは素直に過ちを認めなきゃいけないぜ)

はあ、と溜息をついてガイはソーラーアクエリオンへ乗ろうとした。
と、そこでプルをどうするかと思った。ガイアガンダムはまだ動くが、こんな幼い少女を戦わせるわけにもいかない。
ソーラーアクエリオンを見上げ、少し考えるガイ。

「プル、お前気分はもう悪くないか?だったら移動したいんだが」
「うーん…ちょっと気持ち悪い」
「そうか。じゃあ、少し休むか…ついでにメシも食っておこう」

プルの調子が良くなるまで一時間ほどガイは待った。その間に館は完全に破壊しておいた。
支給された食料を食べ、お互いの知っている情報を交換するのだが、どうにもプルの言っていることが理解できない。
宇宙世紀だとかネオジオンだとかアクシズだとか。
職業軍人であるガイにも覚えがない。
そしてガイの話すこともプルは全く知らないという。

(いくら子供だからって木星蜥蜴のことを知らないはずがない。どういうこった?)
311 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:52:44 ID:89WGdoJt
プルはあんまり気にせず木陰に寝転んでいるが、ガイの顔は真剣だった。

(まさか…!シャドウミラーめ、こんな子供の記憶を奪ったっていうのか!)

記憶を奪って偽の記憶を植え付け、殺し合いを促進させようとする。悪党のやりそうなことだ。
そうするとジュドーという少年がどういった存在なのかも気になる。まさか主催者の手先…?

(いや、決めつけるのはまずい。それで一回ミスっちまったんだ、落ち付けダイゴウジ・ガイ…)

すべてはジュドーを見つけ出してからだ。
それまで正体がわからないプルを戦わせるのはまずい…

「…よし!プル、お前もゲキガンガーに乗るんだ!」
「ええ?ガイアはどうするの?」
「ここに隠しておく。大丈夫だ、ゲキガンガーは三人乗りだからな」
「えー。あたしが動かせないんじゃつまんなーい」
「つまんないって、そういう問題じゃなくて…まあその辺は心配いらないぜ。ゲキガン2、えっと今のこの形態がゲキガン1だな。
俺が操縦するときはゲキガン1で、変形したらゲキガン2とゲキガン3になるんだ」
「よくわかんない…」
「つまりだな、このゲキガンガーは三つの戦闘機が合体して人型になるんだ。
俺が乗ってる一号機がトップになった時はゲキガン1、二号機がトップの時はゲキガン2…と、要するにトップにどの戦闘機が来るかで形が変わるってことだよ」
「じゃあ、あたしがトップになったら操縦できるの?」
「ああ、そういうこったな」
「うーん…じゃあいいよ!あたしこれで我慢する!」

プルプルプルプルー、とプルが両腕を広げて二号機ベクタールナへと乗り込んでいく。
はあ、とガイは溜息をついた。ああは言ったがやはりプルに戦わせるつもりはない。
ない…が、このシチュエーションは少しそそるものがあった。

(熱血漢のリーダー、つまり俺!メンバーの紅一点、プル!あと一人…クールでニヒルなライバルが揃えばゲキガンガーは最強になる!)

やはり三人いてこそのゲキガンガーだ。まあ希望を言えばプルではなく別のメンバーを探したいところだが…

(俺と、クール担当と…あとは気は優しくて力持ちの黄色でもいいな。ジュドーってやつを誘ってみるか)

ぼんやりそんなことを考えながらガイがソーラーアクエリオンに乗り込むと、レーダーが反応していた。

「これは…!プル、乗り込んだか!?」
「うん。誰か来るよ」
「ああ。南からってことはさっきのやつじゃなさそうだが…注意しろよ!戦いに乗ってるやつかもしれねぇ!」

やがて、馬に乗ったガンマンのようなロボットが現れた。

「俺はティンプ・シャローン。応答してくれ、こっちにゃ戦う気はねえ」

ガンマンロボから通信がきて、モニターに黒い帽子とマントを着た男が映った。

「ちょっと前から観察させてもらってたんだが、どうやらお前さんたちは戦いに乗る気はねえんだろ?よかったら俺も混ぜてくれよ」
「む…」
「どうするの、ガイ?」
「俺が話す。プルは黙っててくれ…ガイアにプルが乗ってると思わせるんだ」
「うん、わかった!」

向こうに聞こえないようにひそひそと内部回線でプルと話すガイ。
ガイアはちょうどガンマンロボの方向を向いていた。
動いてはいない物の、運が良ければガンマンはソーラーアクエリオンとガイアの両方を警戒してくれるかもしれない。

「俺はダイゴウジ・ガイ。ティンプさんよ、俺が話を聞くぜ」
「ダイゴウジ…ガイ?」
312 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:54:18 ID:89WGdoJt
ガイが名前を言うと、ガンマンはぱっと飛び離れた。

「お、おいどうした?」
「突然話しかけた俺も俺だが、兄さんちょっと人を舐めてねえか?」

いつでも銃を引きぬけるようにガンマンは構える。
ガイは混乱し、それでも警戒を強めた。

「おい、何を言ってんだ。戦うつもりがないと言ったのは嘘か?」
「そいつはこっちの台詞だ。堂々と偽名を名乗りやがって…俺なんかとは話す価値もねえってか」
「…偽名?」

はっと気付いてガイは慌てて名簿をめくる。
「た」行の名前…

張五飛
剣鉄也
ツワブキ・ダイヤ
ディアッカ・エルスマン
Dボゥイ
ティンプ・シャローン
テッカマンアックス
テッカマンランス
テッカマンレイピア
テレサ・テスタロッサ
遠見真矢
トビア・アロナクス
ドモン・カッシュ
トレーズ・クシュリナーダ

どこにもダイゴウジ・ガイの名前はない。「や」行の欄に目を移すと。

ヤマダ・ジロウ
ユウキ・ジェグナン

ばっちりあった、ガイの本名。

(しゃ…シャドウミラーめ!俺の本当の名前まで把握しているだと…!侮れん組織だ!)

ガイが勝手に勘違いしていただけなのだが、これでは相手を警戒させるのも当然だ。
誤解を解くにはまあ、本名を名乗るしかないだろう。

「ち、違うんだティンプ!ダイゴウジ・ガイは偽名じゃない!」
「ああ?偽名じゃなかったらなんだってんだよ」
「俺の魂の名前だ!」
「…はぁ?」
「だから、俺が本当の俺であるためにつけた魂の名前なんだよ!…本名はその、ちゃんと名簿に載ってる…」
「魂の…意味がわからん。じゃあ本名は何なんだよ」
「…ダ、…ウ」
「聞こえねえぞ」
「くうう…!ジロウだ!ヤマダ・ジロウ!それが俺の本名だ!」

身を切るような思いでガイは叫んだ。だってダサいじゃないか…!

「ヤマダ・ジロウ…ああ、それならあるな。ったく面倒くせえことしやがって。お前さん状況がわかってんのか?」
「俺にとっては譲れない問題なんだ!」
「知らねえよ…で、どうなんだ?俺を仲間にしてくれるのかい?」
「…ちょっと待ってくれ。仲間と相談する」
313 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:56:34 ID:89WGdoJt
通信を切ってプルに聞くガイ。

「プル、どう思う?」
「ええ、私に聞かれてもわかんないよ。嫌な感じはしないけど…」
「うーん。俺達をだまそうとしてる…のはないかな。ちょっと前から観察してたって言うなら、俺達がマシンから降りてる時に襲ってきても不思議じゃないし」
「じゃあ、あの人もゲキガンガーに乗せるの?」
「いや、それはまだ早い。とりあえず仲間にはするが、警戒は解かない方がいいだろ」
「うん、わかった」

クールでニヒルな参謀役。ティンプにピッタリだが、まだ完全には信用できない。

「待たせたな、ティンプ」
「話し合いは終わったかい?」
「ああ。一緒にシャドウミラーと戦ってくれるんだよな、ティンプ?」
「うーん、俺としちゃ無茶して死にたくはないんだが…まああいつらに命握られてるのも気に入らねえしな。出来る限りは手伝ってやるよ」
「よし、じゃあ俺達は仲間だ!おいプル、お前もあいさつしな」
「うん。あたしはプルだよ、よろしくおじさん!」
「おやおや…もう一人もそっちに乗ってたのか。にしてもこんなお嬢ちゃんがいるとは驚きだね」
「ああ、シャドウミラーめ絶対に許さん!この俺が叩き潰してやる!」
「おー、熱いねえ。まあ頑張ってくんな」

そしてしばらく情報を交換する。驚いたことにティンプもガイの話をまったく違う世界のようなことだという。
そしてティンプの語る惑星ゾラという星のことを、ガイはまったく知らない。
さすがにこれは怪しい。記憶を操作されているのではないかもしれない。
プルはともかくティンプにならこういう話もできそうだと、横のテキサスマックを見るガイ。

「なあティンプ、おかしくないか?俺はまったくそのゾラって星のこと聞いた事ないぞ」
「そいつぁ俺もだ。地球に宇宙、はてはコロニーだって?寝ぼけてるんじゃねえのかお前ら」
「あたし嘘ついてないもん!」
「ああいや、お嬢ちゃんを疑う訳じゃねえよ。ただ、どうにもこの状況は腑に落ちねえ」
「だよな。なんか不自然なんだ…」

考え込む大人二人に、プルはつまらなそうに口をとがらせる。歌でも歌おうとして、プルは頭を押さえた。

「ああっ!?」
「なんだ、どうしたプル?」
「何か…何か来るよ!」
「なんだって!?」

プルが指さした方向にソーラーアクエリオンを振り向かせる。
尋常ではないプルの様子にティンプも何事かと驚いていたが、余計なことは言わずライフルを構えた。
森の向こうから飛んでくる反応が大きくなり、やがて姿を現した。

「こちらグレートマジンガー、ラカン・ダカランだ。応答してくれ、俺に戦う気はない」

脇腹を大きく抉られた黒いロボット。グレートマジンガーというらしいそのロボットから中年の男の声が聞こえてきた。

「こちらゲキガンガー3、ダイゴウジ・ガイだ。話を」
「待て待て、お前さんはパーか?さっきのこともう忘れたってのか」

応答しようとしたガイをティンプが呆れたように止める。

「俺はティンプ・シャローン。ラカンさんよ、この兄ちゃんはヤマダ・ジロウってんだ。偽名を名乗ってだまそうとしてる訳じゃねえから警戒しねえでくんな」
「ヤマダ…ジロウな。ああ、それなら覚えがある。ダイゴウジ・ガイは知らんが」
「俺の魂の名前なのに…」
「もうお前さんはちっと黙ってな、俺が話す」

ソーラーアクエリオンを押しのけてテキサスマックがグレートマジンガーと交渉を始めた。
いじけるガイを面白そうにプルが見ている。
やがて話が終わったか、ティンプが仕切り出した。
314それも名無しだ:2010/01/20(水) 01:58:19 ID:lJHZUwo1
 
315 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:58:31 ID:89WGdoJt
「ヤマダよ、このラカンの旦那はここに来るまでに一戦交えてきたらしい。頭にドリルが生えてバカでかい剣を持ったマシンだと。知らねえか?」
「いや…俺は会ってないな」
「そいつの名前はシン・アスカというらしい。誰だろうと見境なく攻撃する危険人物らしいぜ、覚えておいて損はねえ」
「シン・アスカ…!そいつも俺が倒すべき悪か!」
「また熱くなりやがって…まあいい。とにかくこの旦那は信用できるかどうかはわからねえが、仲間を探してるんだとよ。
シ―ブック・アノー、それとドモン・カッシュってやつが信用できるんだそうだ」
「おお、一気に二人も仲間が増えるのか!」
「馬鹿、勘違いすんな。そいつらは戦いに乗ってないってだけで旦那と面識はねえ。探して会えれば御の字ってとこだろ。あと、腹の傷が結構ヤバいもんだから基地に行って修理したいんだそうだ」
「基地か。そうだな…基地なら修理設備もあるし、広範囲を調べられるレーダーもあるだろ。ジュドーを探すのに役立つな」
「ホントに!?じゃあ行こうすぐ行こう!」

ジュドーを探せると聞いてプルがはしゃぎ出す。
ガイは苦笑し、危険人物を知らせてくれたラカンを仲間にすることに決めた。

「ラカンさんよ、改めて名乗るぜ。俺はヤマダ・ジロウ、しかし俺のことはダイゴウジ・ガイつまりガイと呼んでくれ!」
「よろしく頼む、ヤマダ」
「ガイって呼べよ!」
「誤解を招きかねん言動は慎むべきだぞ、ヤマダ。特にあのシン・アスカなどは人の話をまともに聞かん。チャンスを無駄にするな」
「うう…」
「あたしはプルだよ。よろしくね!」
「ん、プル?」

ティンプの時と同じように隠していたプルが元気に叫ぶ。そのとき、ラカンの雰囲気が一変した。

「プル…エルピー・プルだと?」
「どうしたんだラカンさん?」
「お前もやはり生きていたか…!」
「何言ってんだよ、落ち付け!どうしたってんだ!?」
「言葉通りの意味だ。そいつはすでに死んでいるはずなのだ」
「はぁ?」
「俺も人のことは言えんが…こうして目の前にお前がいるとなると信じざるをえまい。やつらには不可能な事ではないようだ」
「何言ってるかわかんない!あたしが死んだってどういうことよ!」
「お前は覚えていないのか?地球でプルツーに殺されたと聞いているが」
「プル…ツー?」
「ヤマダ、そいつは相当精神が不安定なはずだ。もしやとは思うが既に誰かを襲ったという事はないだろうな?」
「そいつは…」
「やったのか!?」
「…ああ。名前は知らねえがもう二人、襲っちまってる。殺しちゃいねえが…」
「ちっ、これだから強化人間は…」

そこでグレートマジンガーが一歩離れる。

「済まんがヤマダ、さっきの話は無しだ。この先お前らについていけば俺まで巻き込まれて狙われるかもしれん」
「お、おいラカンさん!」
「心配するな、お前らの不利益になるようなことはせん。いったん別行動を取るだけだ」
「一緒に来ちゃくれねえのか?」
「ああ。さっきも言ったが、そいつは精神が不安定だ。些細なことで爆発しかねないやつと共には行けん」
「そんな…」

離れようとするグレートマジンガーに、言葉のないガイではなくプルが噛みついた。

「ちょっと待ってよ!なんであんたはあたしのことを知ってるの!?」
「何?」
「もしかして…ジュドーのことも知ってるんじゃないの!?」
「ジュドー…ジュドー・アーシタのことか」

グレートマジンガーの中で、ラカンが苦虫を噛み潰した顔をする。

「知っているさ。やつはネオ・ジオンの中でも有名だからな」
「ネオ・ジオン…!じゃああんたはジュドーの敵なんだ!」
316 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 01:59:32 ID:89WGdoJt
ソーラーアクエリオンのバックパック、プルが搭乗しているベクタールナの部分が変形し腕となる。
ソーラーアクエリオン本体の操縦権はガイにあるが、ベクタールナの腕は独立してプルが動かしていた。
ベクタールナの腕に弓矢が現れた。ルナティック・アーチェリー、アクエリオンルナの基本武装だ。

「待て、何のつもりだ!?」
「あんたたちがリィナを殺したからジュドーは悲しんだんだ!絶対に許さない!」

リィナが死んだあと、ジュドーが抜け殻のようになったのをプルは忘れない。今のジュドーはプルが傍にいないと駄目なのだ。
この会場にジュドーがいるらしいが、ネオ・ジオンの兵士と会わせてはジュドーが危ない。
そしてネオ・ジオンの中でも有名、というのはもちろんいい意味ではないだろう。敵として有名、ということだ。
ジュドーはアーガマのガンダムチームの中心。ジュドーを倒せばエゥーゴの戦力を大きく削ぐことができるからだ。

そしてジュドーの名を言葉にした時、ラカンから悪意のようなものをプルは感じ取った。
ラカンは声の調子にそれを出さなかったが、何度も煮え湯を飲まされた身。
言葉に出さない苦々しい思いをプルにキャッチされたというわけだ。
こいつとジュドーを会わせてはいけない、それはもうプルの中では確定事項になった。

だからプルはラカンを排除しようとして、アクエリオンはその思いに答えた。
ソーラーアクエリオンの背中から生える腕が、ガイの意志に関係なくグレートマジンガーへ矢を放つ。

「くっ…やはり強化人間か!これほど見境がないとは!」
「このっ!落ちろ!」
「待て、止めろプル!止めるんだ!」
「操縦代わってよ、ガイ!あいつはあたしがやっつけるんだ!」
「落ち付けプル!ジュドーを探すんじゃなかったのか!?」
「あいつがジュドーに会ったら危ないんだ!だからここで殺さなきゃ駄目なの!」
「プル…!ティンプ、あんたからも何か言ってくれ!このままじゃヤバい!」
「ああ?んー、そうだな…」

矢を打ち続けるアクエリオンの横で様子を見ていたティンプのテキサスマックが、リボルバーを抜く。
グレートマジンガーもいよいよ危険と思い、戦闘態勢を取った。

「ちっ、接触する相手を間違えたか!」
「待ってくれラカンさん!本当に俺たちに戦う気はないんだ!」
「ジュドーはあたしが守るんだ…!」

どうにか事態を収めようとするガイだが、プルはまったく話を聞かない。
このままでは本格的にラカンに敵と認識されてしまう。
ティンプがどうにかしてくれることを期待したが、そのティンプは…リボルバーを、アクエリオンに向けていた。

「…え?」
「悪いな、ヤマダ。俺も付き合いきれねーわ」

銃声が二つ。
弾丸は正確に、ベクターソルとベクタールナに直撃していた。

「ぐはっ…!」

アクエリオンの動きが止まり、ガイは半分潰されたコクピットの中で血を吐いた。プルは…応答がない。

(なんだ…一体何が起こった!?)

理解できず、ガイは弱弱しい声でティンプを問いただす。

「な…なん、で…?」
「俺は生き残りたいだけだって言っただろ?出来る限りは手伝うとも。だが、そのお嬢ちゃんは駄目だ。同行するにゃ危険すぎる」
「ティ…ティンプ…!裏切ったのか…!?」
「お前さんたちよりラカンの旦那のほうが手を組むにはいいと思っただけさ。悪く思わねえでくれ」

そしてテキサスマックは、状況を窺っていたグレートマジンガーへと向き直る。
317 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 02:01:11 ID:89WGdoJt
「ってわけだ、旦那。改めて俺と手を組まねえか?」
「…ほう?」
「少なくともこいつらよりは役に立つぜ。なんならとどめは譲ってもいい」
「フフフ…。中々面白いやつだな、お前は。いいだろうティンプ、組もうじゃないか。だが…」

グレートマジンガーの腕の先端が尖り、ドリルのように回転する。

「そいつらはここで始末しておかないとな。譲ってもらおうか、ティンプ」
「あいよ。だがやるのは上のコクピットだけにしてくれ。下半身のコクピットさえ無事なら、後でまた使える」
「ほう、そいつはいいな。了解した」

グレートマジンガーが、ラカンが迫る。
ガイの背筋に悪寒が走る。こいつらは、間違いなく、ガイとプルを殺そうとしている!

「ま、待て…!」
「済まんが待てんな。ヤマダ、恨むならその強化人間を恨め…」
「ら、ラカン…!」

ガイが全力で操縦桿を動かし、ソーラーアクエリオンが拳を握る。
迫ってくるグレートマジンガーの顔に向けて、

「ゲ、ゲキガン…!がはっ、はぁ、ぁっ…パァァンチ…!」


魂の拳を放った。


だが、その拳が届く前に、グレートマジンガーのドリルプレッシャーパンチは、ベクターソルのコクピットを完全に破壊した。




【ヤマダ・ジロウ  死亡】
【エルピー・プル  死亡】

318それも名無しだ:2010/01/20(水) 02:02:47 ID:j8go9Lqk
「また熱くなりやがって…まあいい。とにかくこの旦那は信用できるかどうかはわからねえが、仲間を探してるんだとよ。
シ―ブック・アノー、それとドモン・カッシュってやつが信用できるんだそうだ」

【ラカン・ダカラン 搭乗機体:グレートマジンガー(グレートマジンガー)
 パイロット状態:疲労(小)
 機体状態:脇腹に大穴、EN60%、グレートブースター無し、マジンガーブレード破壊
 現在位置:D-4
 第一行動方針:他の参加者と接触(ドモン、シンを優先する)
 第二行動方針:シン・アスカの情報を利用する
 最終行動方針:生き残る
 備考:シ―ブックとドモンの名は知らない】


しっかり読みなさいって
支援
319 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 02:03:47 ID:89WGdoJt
「どうだい、使えそうかい?」
「このガンダムは問題ない。多少損壊しているが、調整すればすぐに復旧するだろう」
「そうかい、こっちもだ。アクエリオンマーズ…って形態限定だが、何とか使えそうだ」
「それはいいな。俺たちは一気に予備の機体を二つ手に入れたわけだ」

ガイとプルを殺害した後、ティンプとラカンはアクエリオンとガイアガンダムの調子をチェックしていた。
どちらも少しいじればすぐに使える。他の参加者に比べかなりのアドバンテージだろう。

「しかし旦那、なんでわざわざドリルでやったんで?あれじゃ見るやつが見ればすぐに旦那の仕業ってわかっちまうぜ」
「ふっ、問題ない。俺がさっき戦ったシン・アスカの機体にも大仰なドリルがあってな」
「ああ、なるほど。これをやったのはシン・アスカ、そう言い回るつもりってことかい」
「そうだ。俺がこれ以降ドリルプレッシャーパンチを使わないようにすれば疑いをやつ一人に向けることは容易い。せいぜい汚名を被ってもらうとしよう」
「へっ、えげつねえ…」
「お前も人のことは言えまい。ためらわず仲間を切り捨てるとはな」
「俺ぁ生き残るためには何でもするだけさ。あいつらと一緒にいちゃ勝ちの目が見えなくなった、だからあんたに乗り換えた…それだけのこった」

皮肉気にティンプが笑う。

(生き残るため…か。こいつも俺と同じ考えということは、いずれ俺をも裏切るだろうな)

完全に信用はできないだろう。ラカンが役に立たなくなるか、邪魔になると分かればティンプはすぐさま裏切るはずだ。
だが、逆にいえばそのラインを越えるまでは信用できるとも言える。
見極めが大事ということだ…
ラカンは笑った。ここに来る前もグレミー相手に腹の探り合いをしていたのだ。
相手が変わった、ただそれだけのこと。

「ティンプよ。とりあえずは東の基地へ向かうとするか」
「あいよ。この機体はどうする?」
「まずは基地を確保してからだ。それまでは適当に隠しておけばいい」

まずは基地でグレートマジンガーを修理し、人を待つ。
ソーラーアクエリオンとガイアガンダムを半壊した館に隠し、グレートマジンガーとテキサスマックは基地へ向けて動き出した。
基地に新たに人が来ないようなら取りに来るつもりだ。
お互い、相手に背中を見せないようにしながら。


320 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 02:04:31 ID:89WGdoJt


【ティンプ・シャローン 搭乗機体:テキサスマック(PK)(真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 ハイパワーライフルの弾を一発消費 リボルバーの弾を二発消費
 現在地:E−3館付近
 第1行動方針:基地を確保する
 第2行動方針:他の参加者の情報を集める
 第3行動方針:特にジロン・アモスの動向には注意する
 第4行動方針:可能な限り優勝は目指す
 第5行動方針:アクエリオンとガイアガンダムは隠して置いて必要になったら使う
 最終行動方針:生き残る



【ラカン・ダカラン 搭乗機体:グレートマジンガー(グレートマジンガー)
 パイロット状態:疲労(小)
 機体状態:脇腹に大穴、EN60%、グレートブースター無し、マジンガーブレード破壊
 現在位置:E−3館付近
 第1行動方針:基地を確保する
 第2行動方針:他の参加者と接触(ドモン、シンを優先する)
 第3行動方針:シン・アスカの情報を利用する
 第4行動方針:アクエリオンとガイアガンダムは隠して置いて必要になったら使う
 第5行動方針:ティンプに隙を見せない
 最終行動方針:生き残る
 備考:シ―ブックとドモンの名は知らない】

【一日目 10:30】

【アクエリオンはベクターソルとベクタールナのコクピットが破壊されています】
【ガイアガンダムとアクエリオンはE-2の館に隠してあります】
【ティンプとラカンは、ガイとプルを殺したのはシンだと言いふらすつもりです】
321 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 02:10:34 ID:89WGdoJt
投下終わりです。

318
そこなんですが、それまで普通にジャミルとラカンが話してて最後にジャミルがその二人の名前を読んだので、知っているのかなと思いまして。
状態表を見落としていましたので、315の

また熱くなりやがって…まあいい。とにかく旦那は信用できるかどうかわからねえが仲間を探してるんだとよ。
シ―ブック・アノー、それとドモン・カッシュってやつが信用できるんだそうだ」



「また熱くなりやがって…まあいい。とにかくこの旦那は信用できるかどうかはわからねえが、仲間を探してるんだとよ。
翼のあるガンダムってマシンと髪の毛みたいなパーツのあるマシンに乗ってるやつが信用できるんだそうだ」

に修正します。
322それも名無しだ:2010/01/20(水) 02:11:01 ID:lJHZUwo1
投下乙
ですがプルは「参戦時期:最初にジュドーと出会った直後くらい」
とのことなのでちょっとおかしいかと…。
323それも名無しだ:2010/01/20(水) 02:14:00 ID:j8go9Lqk
あれだけ言われたのにやっぱりリレーする気無いの?
324 ◆bSTqMcZZvs :2010/01/20(水) 02:19:50 ID:89WGdoJt
322
ああ、すみませんそこも勘違いでした。316の六行目からを


「待て、何のつもりだ!?」
「あたしはもうネオ・ジオンには帰らない!ジュドーのそばにいるんだ!!」

グレミーはプルに相当の期待をかけていた。
ネオ・ジオンのニュータイプ部隊、そのさきがけとなるプルをエゥーゴに奪われたままではいないだろう。
ラカンのことを、プルは自分を連れ戻しに来たネオ・ジオンの兵士だと思った。

そしてジュドーの名を言葉にした時、ラカンから悪意のようなものをプルは感じ取った。
ラカンは声の調子にそれを出さなかったが、何度も煮え湯を飲まされた身。
言葉に出さない苦々しい思いをプルにキャッチされたというわけだ。
こいつとジュドーを会わせてはいけない、それはもうプルの中では確定事項になった。

だからプルはラカンを排除しようとして、アクエリオンはその思いに答えた。
ソーラーアクエリオンの背中から生える腕が、ガイの意志に関係なくグレートマジンガーへ矢を放つ。

「くっ…やはり強化人間か!これほど見境がないとは!」
「このっ!落ちろ!」
「待て、止めろプル!止めるんだ!」
「操縦代わってよ、ガイ!あいつはあたしがやっつけるんだ!」
「落ち付けプル!ジュドーを探すんじゃなかったのか!?」
「あたしはもうネオ・ジオンには戻りたくないの!邪魔しないでよ!」
「プル…!ティンプ、あんたからも何か言ってくれ!このままじゃヤバい!」
「ああ?んー、そうだな…」


に、修正します。
325それも名無しだ:2010/01/20(水) 02:55:36 ID:DzB68etp
言いたい事は色々あるが取りあえず、
推敲はちゃんと行うようにな。書き上げてから最低でも1日は置いてから一度自分で読み直してみる
誤字脱字の確認はもちろん、書き上げた直後とは違った見方が出来るかもしれないからな。可能なら声に出して読んでみるとベスト
それから、各キャラの行動を纏めて、それぞれ行動・言動に矛盾が無いかも確認すると良いよ
当然、前回・前々回との話と比べてみるのも必要だからな
326それも名無しだ:2010/01/20(水) 03:04:55 ID:WdoRCG2h
この野郎! ジーグブリーカー!
327それも名無しだ:2010/01/20(水) 03:11:39 ID:ojCVLPSC
館は完全に破壊しておいたのに、なんでロボ二機も隠せるんだ?
328それも名無しだ:2010/01/20(水) 04:32:27 ID:YUABYC9a
期待した俺が馬鹿だった……
329それも名無しだ:2010/01/20(水) 10:37:53 ID:wGLzOwkB
そろそろこのバ書き手のあだ名を考える時期だな。
330それも名無しだ:2010/01/20(水) 13:59:33 ID:uEYMcE28
確かに、指摘された部分を修正すれば当面の争いを回避できるでしょうけど、根本的な解決にはなりませんよね?


前回・今回と拒絶意見が続出する理由をちゃんと考えようよ
331それも名無しだ:2010/01/20(水) 14:04:18 ID:6Fwrc+9A
これは修正要求か破棄も考えないとな…
332それも名無しだ:2010/01/20(水) 14:08:58 ID:6Fwrc+9A
あ、もう破棄になってたのか
333それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:02:41 ID:cxbSSIoH
ギリアムにも予約来たか!
さてどの予約分から投下されるか……楽しみだなーw
334それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:24:24 ID:JQTtRgFu
ギリアムもだが他にも気になる奴とか多いなw
暗黒将軍とロム兄さん・カノンとかどうなるやら
335それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:27:44 ID:c/o3Yg7/
暗黒将軍連戦続きだからなー
ロム兄さんに引導渡してもらえるなら本望じゃね
336それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:34:11 ID:h6z2nwOg
誰か中条長官のことを思い出してあげてください
337それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:36:26 ID:cxbSSIoH
ごめん、おぼえて(ry>中条長官  

確かに凄い取り残されてるな……w
338それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:41:57 ID:oSjVlIFd
そんなことよりアルベルトのサービスシーンはまだか!?
339それも名無しだ:2010/01/21(木) 21:56:46 ID:WFKdq3Ir
まさかとは思いますが……

中条長官、あなた今コーヒー飲んでたりしませんよね……?
340それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:13:30 ID:c/o3Yg7/
中年紳士には嗜好品が付き物
341それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:15:08 ID:JQTtRgFu
ネタ潰しにならないか?
コーヒーネタが来てもいいけど
342それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:18:37 ID:GX3h/43i
やっときた次の話で、すぐに死にかねないほど今回のロワは異常ヒートアップしてるからなぁ。
冗談抜きで第一放送前にビッグバンパンチを打ちこみかねないから不安になるな、中条長官。
343それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:18:38 ID:y/RDz51J
ていうか誰だよ長官なんて出したの・・・
マイナーにもほどがあるじゃねーか
344それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:22:23 ID:h6z2nwOg
したらばに残ってるキャラ投票スレ見ると一番乗りで単独指名だな>長官
マイナーキャラは色々議論になったが長官は誰かツッコんだっけ
345それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:44:04 ID:JQTtRgFu
一発しかない大砲持ちは扱いに困る
346それも名無しだ:2010/01/21(木) 22:55:15 ID:y/RDz51J
ビッグバンパンチ打たずに死んだら文句出るんだろうな……ほんと誰得
347 ◆f/BUilcOlo :2010/01/21(木) 22:58:53 ID:q5zaYU1u
すみません、少し投下が遅れます。
一時か二時ごろになると思います。
348それも名無しだ:2010/01/21(木) 23:26:23 ID:cxbSSIoH
>>347
がんばー!
349それも名無しだ:2010/01/22(金) 00:30:15 ID:wWSmKusP
>>347
つ「応援」

中条長官の素手攻撃=ビッグバンパンチってわけじゃないんだが…
同エリア内でも戦闘が発生してたり時系列で言うと5時間半差がついてたりするのが不安だけど、
予約を検討している人もここにいますよ。
350それも名無しだ:2010/01/22(金) 00:56:47 ID:H6n1KjdN
ビッグバンパンチしか話題に出ずダイモス涙目wwww
マグネットコーティングもしてあるのに
って結局話し合ったけど強化パーツとかこれとハロぐらいだったな…
今回は強化パーツもいらないほどの強機体ばかりだから
仕方ないけど
351それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:07:35 ID:T2h96Fuw
つスクリューモジュール(黒百合)
つロロット(ソルグラヴィオン)
352それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:09:16 ID:8aZBAQ2w
ロロットが何の役に立つというのだ
353 ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:14:35 ID:z3sTB8Yp
お待たせしました。投下します。
354混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:16:11 ID:z3sTB8Yp
しんしんと、雪の降り積もる光景。
衝撃のアルベルトはD-6エリア南部の街に引き返した。
雪崩に巻き込まれたせいでずぶ濡れになり冷え切った体を温めたかった。
無人の家屋に立ち入り、浴場を目指す。一刻も早く、熱い風呂に入りたい。
しかし、浴場は使えなくなっていた。水道管が凍り付いていた。シャワーも同じだ。

「な、なん、という、ことだ……」

あまりの寒さに舌が上手く回らない。
当てが外れた。だが使えないものは仕方が無い。
ストーブ、エアコン、こたつ、暖をとる方法は他にもある。何でも良いから早く温まりたい。
暖房器具はいずれも使用不能となっていた。どうやら電気が通っていないらしい。発電施設はあるだけで稼動していない。灯油も見つからない。
この街を調べ、ひどく前時代的な街並みだという印象を受けたが、流石に薪を使う程ではないようで、それも見つからない。
防寒具すらなかった。あるのは何故か夏場に着るような衣服、しかも女性や子供用のものばかり。
見つけた衣服に衝撃波で火花を散らせて火を点けてみた。
多少は暖かくなったが、すぐに燃え尽きた。というかどう見ても有害な真っ黒い煙が出てきたせいで家の中に居られなくなってしまった。
忌々しいことに火災対策は万全なようで、家そのものが燃え上がることは無かった。
その後、目に付いた家に手当たり次第に踏み込み調べたが、どこも同じ有様だった。
代わりの服すら見つからない。最後に入った家で毛布に包まり、ぬぅ、と唸るアルベルト。
動き回ったことで疲れが溜まってきた。普段ならばこの程度で疲弊などしない。予想以上に濡れた衣服に体力を奪われている。
先程この街を訪れたときは通信機の類を優先して探していたとはいえ、電話だけでなく他もよく調べておくべきだった。そうであれば無駄に体力を消耗することも……いや、いまさら言っても遅い。
寒さのせいか、誇り高きBF団十傑集が一人たる衝撃のアルベルトらしからぬ思考に侵されてしまった。

「…………ふぁ、」

あくびを噛み殺す。なんだか眠くなってきた。
こんなところで眠るわけにはいかない、今眠れば確実に凍死する。
ぼんやりとする頭を奮い立たせる。暖を取ることが出来ない以上、このまま街に留まっても益は無い。
積雪地帯さえ抜けてしまえば、少なくとも凍死することは無い。ここからなら東か南に真っ直ぐ進めばすぐだ。
即断、迅速に行動に移る。
間の悪いことに、ちょうどアルベルトが外に出た頃から天候が崩れだした。吹雪だ。
吹き付ける風と雪が容赦なく体温を奪っていく。滅茶苦茶寒い上に視界も最悪だ。
だからといっていまさら引き返しても意味は無い。戦う相手が吹雪から睡魔に変わるだけだ。
衝撃のアルベルトは進み続ける。ただひたすら、真っ直ぐ前へ。
355それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:17:53 ID:T2h96Fuw
....
356混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:18:34 ID:z3sTB8Yp


 ■


D-6エリア、雪原。
そこに、藤原忍の遺したハイパービームサーベルを握り締めるガンダムX――カナード・パルスが、いた。
忍との戦いを征し、爆発による一時的な電波障害と雪煙に乗じてまんまと逃げ果せたアナベル・ガトー。
今すぐ追えば捕捉できるかもしれない。だが、奴が何処へ向かったのか、それが分からない。
機体の修理、弾薬・エネルギーの補給、何処かに身を隠す、或いは……
動きを絞り込めない。
まごまごしているうちに取り逃がす可能性は高まっていく。
地図を広げる。敵の動きが読めないのならば、それ以外に判断材料を求める。
カナードが手に持つ地図と機体に登録されている地図、両方が現在地付近に一つの点を示している。
補給を行えるポイントを示す点だ。D-6エリアにある山の中にそれがあるというわけだ。
山中を捜索しつつ、補給ポイントを目指す。
ガトーがいれば良し。ガトーでなくとも、補給をしに来た者を狙って潜伏している奴がいるかも知れない。
まだ機体のエネルギーに余裕はあるが、どのように補給を行う場所なのか把握しておくのも良いだろう。
そう考え、現在、カナードは山の中にいるのだが、

「これでは、奴を捜そうにも、……うっ!?」

堆く降り積もった雪に足をとられ、危うく転びかけた。
山の天気は、荒れに荒れていた。吹雪でほんの数十メートル先の視界すら確保できない。
進むたびに雪が深くなっていく。このままではいずれ完全に身動きが取れなくなる。
空を飛んで移動しようにも猛烈な勢いで吹き荒ぶ風に煽られ、とても制御が利かない。
いっそ天候が回復するまでじっとしているべきか、そう思い始めたとき、レーダーが何かを捉えた。
――ガトーか?

「……いや、違うな。かなり小さい……というか、これは……」

機体の反応ではない。これは、人間の反応だ。
こんな吹雪の中に、生身の人間が? 機体はどうした? 
一人に一機、機動兵器を進呈するのではなかったのかあのワカメ頭め。
反応のするほうへ向かう。
先程から動きが見られない。ひょっとすると、まずいことになっているかもしれない。
357それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:19:21 ID:T2h96Fuw
   .
358混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:20:31 ID:z3sTB8Yp
雪を掻き分け進み、やがて、それらしい人影が見えた。
果して、そこには、いた。
積雪地帯を抜けるために真っ直ぐ歩いていた筈が吹雪で視界を塞がれたせいで盛大に方向を間違え山に逆戻りし、
それに気付いてまた引き返そうとしたが吹雪で二進も三進もいかなくなってしまった、衝撃のアルベルト、その人が。
信じがたいことに身体の半分近くが凍りついた状態でありながら、彼は生きていた。

「ちょ、ちょうど、良い、ところに、来た、な。わわ、悪い、が、手を、貸して、貰えん、かっ」

がちがちと歯を噛み鳴らしながら助けを求めてきた。
なんか割りと元気っぽくも見える。
ひょっとしてこちらを油断させて寝首を掻こうという魂胆なのではなかろうか。

「あ、安心、せい。ここで、き、貴様を、殺せば、困るのは、ワシの、ほうだだ……」

確かに、そうかも知れない。
上から見ているような物言いは気に食わないが、まあ良い。
文字通り、手を貸してやることにした。
カナードの操るガンダムXの手が伸び、アルベルトを掌の上に乗せる。
そしてそのまま移動を始めた。コックピットに乗せてやろうなどという気は更々無い。
仮に相手が強化服の類を身につけていれば、乗せた瞬間くびり殺されるかもしれない。
アルベルトもその辺りは理解しているらしく、何か言いたそうではあったが、文句は言わなかった。


 ■


とある世界の、とある時代の、とある戦場での話。
とある男性パイロットが敵軍の女性パイロットと共に雪山で遭難した。
凍死しそうだった男は女に救われたが、両手は凍傷にかかっていた。
その応急処置のため、出力を調整したビームサーベルで雪を溶かして湯を沸かし、手を温めた。
その後、出来上がった即席の露天風呂に二人で入ったりもした。

カナードがその話を知っているわけではないが、やったことはそれと同じだった。
周囲から目に付きづらく吹雪を避けられるところまで移動し、準備した。
ビームサーベルの出力を最弱に設定、雪を溶かし、露天風呂が完成。
359混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:22:28 ID:z3sTB8Yp
そこに服を脱がせたアルベルトを放り込んだ。
そのまましばらく湯船に浸かっていると血行が良くなり、暗紫色に変色していた肌が消え、強張っていた皮膚も次第に元の軟らかさを取り戻した。
処置が早かったおかげで大事には至らなかったが、もし血管にまで障害が及んでいれば患部を切断しなければならないところだった。
漸くありつけた熱い風呂に満足気なアルベルト。
身体の動きを確かめるように腕や脚を伸ばし、曲げ、指を張り、閉じる。
アルベルトの身体に贅肉というものは存在しない。いや、存在し得ない。
至高にして究極、人類の限界の次元を軽く超越したその肉体に贅肉の入り込む余地などありはしない。
身体の表面を、水滴と汗が混じりあい、伝っていく。
その様が、逞しい胸板、見事に割れた腹筋、そして、鍛え抜かれた身体を支える両の脚に挟まれた、アルベルト自身を象徴する存在へのラインを顕にする。
地を駆け抜ける獣を思わせる野性的荒々しさ。知を体現し礼を尊ぶ貴族的優美さ。
一見矛盾するそれらが同居し調和を保つ、ある種、芸術的とすら言える姿態。
普段はきちんと整えられている髪は水気を帯びて崩れ、父の慈愛と漢の意地を秘めた瞳を覆い隠すように前髪が垂れ下がり、さり気無い色気を演出する。
心に浮かぶ、今は過ぎ去りし情景。盟友の仇であり、宿敵とも呼べる男との闘い。
未だ勝負は決していない。少なくとも、アルベルトの中では。
愁いを帯びる残された左の眼。
そっと眼を閉じ、空を仰ぐ。
心の奥底、自分自身の根幹たるその部分に刻み込む。
いずれ、全ての因縁に決着を付けることを。
固く、固く、誓った。

そんな光景を排気熱を利用してアルベルトの服を乾かしながら特に感じ入ることも無く機体のカメラ越しに眺めるカナード。
凍死しかけていた人間が無事助かった、それは本来喜ぶべきことだ。
だというのに、カナードの顔は晴れやかではない。
アルベルトの態度は、あまりにも余裕がありすぎる。
彼の首もとに嵌められたものを見れば、自分と同じ立場――命を握られ、殺しあうことを強要されているのが分かる。
最後の一人になるまで殺し合いを続けなければならない以上、基本的に自分以外は全て敵になる。この男もそれは理解している筈だ。
ましてこの男は銃もナイフも乗り込む機体も何も無い、丸腰の、生身の人間だ。
仮にカナードがヴィンデル・マウザーの言うままに殺し合う気でいたならば、こうして風呂で温まることも無く死んでいただろう。
いったい、この余裕はどこから来るのか。

「お前、俺に殺されるとは考えんのか」
「……風呂まで用意しておいて、今更だな」

アルベルトの背に向けて問いかける。
返ってきたのはどうにも腑に落ちない答え。
助けられたからといって無闇に他人を信用するような奴とは思えない。
疑念は拭い去れない。
そう考え込んでいると、そこへ、

「貴様に、ワシは殺せんよ」

何でもないといった調子で投げかけられた、アルベルトの言葉。
360それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:23:23 ID:8dmmlkQt
361混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:25:56 ID:z3sTB8Yp
咄嗟に、意味を受け取り損ねた。

――奴は、今、何と言った?

頭の中で言葉を反芻する。
意味を理解し、体中の血が沸騰するような感覚に襲われた。
衝動的に動きかけ、自制した。
そのとき、ひどくゆったりとした動作で、アルベルトがこちらに顔を向けた。
カメラ越しに目が合った。
鋭い眼光――睨まれただけで心臓を鷲掴みにされるような尋常でない圧迫感を感じた。
背を冷たい汗が流れていった。
アルベルトは、唇の端を吊り上げ、ただ微笑んでいる。
その裏に、立ち塞がるもの全てを喰らい尽くさんばかりの、獰猛な笑みを見た。
この男は例え丸裸の状態でモビルスーツに襲われたとしても生き残って見せるだろう。
そう考えさせるだけの、圧倒的な気迫を持っていた。

「そうだな……十分に、温まらせてもらったところだ。最早、貴様は用済みだな」
「何……?」
「どれ、そろそろ、本格的に殺し合うとしようか」

完全に敵意を剥き出しにした言動。
アルベルトが立ち上がる。
堂々と、正面から向かってくる。
明らかに無手、明らかに生身、明らかに無防備。
にも拘らず、周囲の気温が一気に下がったように感じた。
それ程の殺気が発散されていた。

「……気に入らんな」

カナードの口から、自然とそんな言葉が零れていた。
その呟きを機体のマイクが正確に拾い、外部スピーカーを震わせた。
それを聞いたアルベルトは、面白いものでも見るような顔をしている。

「何がだ?」
「貴様の、その態度だ」

今ここでガンダムXに乗ったカナードと真正面から戦おうとも自分が死ぬことは無いと、むしろ勝てると確信しきっている。
己の強さを信じて疑わない、その態度。
それはある意味で尊敬に値するものだ。
だが――
見縊られている。侮られている。甘く見られている。舐められている。馬鹿にされている。見下されている。軽んじられている。
このカナード・パルスの力が、衝撃のアルベルトには拮抗し得ないと、決め付けられている。
それは、到底、容認し得るものではない。

「ならば、どうする?」
「決まっている」

なおも悠然とした態度を崩さないアルベルトへ、真っ直ぐ言葉をぶつける。
コックピットを開け放ち、その身を外気に晒した。
そして――
362それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:26:24 ID:8dmmlkQt
363混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:27:55 ID:z3sTB8Yp

「俺も、風呂に入るっ!」

勢い良く、服を脱ぎ捨てた。
一糸纏わぬ姿。
カナードの身体もまた、よく鍛えられている。
アルベルトに比べると細身に見えるが、それは必要とする筋肉の違いの表れだ。
モビルスーツを駆り、かつては特務兵として、現在は傭兵として戦っている。
そこに求められるのは腕力よりも柔軟性――スムーズに機体を操るしなやかさだ。
といって必要以上に肉を削げば、それはただ脆いだけ。バランスが重要だ。
それを満たす肉体をカナードは持っている。
スーパーコーディネーターを生み出す過程で誕生したカナードは、失敗作の烙印を押されたとはいえ、その身体能力・反射神経は常人の域に止まらない。
だがこの肉体は決して生まれ付いてのものだけではなく、カナード自身の努力の結晶だ。
自分自身で研鑽を積み、力を身に付けたという事実。それが誇りでもある。
風に煽られ、長く伸びた艶やかな髪が揺れる。
己の存在を確固たるものとすべく戦い続けた日々。
人と隔たりを作り、殻に閉じこもっていた心。
それを破ろうとせず、そっと、優しくすべてを包み込んだ少年。
運命の子、勇敢なる者――プレア・レヴェリー。
人と人は想いの力で繋がっていると彼は言った。
成功体にもなれず、生きる価値を見出せず、戦うことしか出来ないこの自分に、一人ではないと、言ってくれた。
彼の命に報いたい。
彼の遺志を失わせはしない。
その想いが、今のカナードの道を形作る。
カナードが湯船に飛び込む。
盛大に飛沫が上がり、アルベルトが顔をしかめる。

「男と男、裸で語り合うぞっ!!
 俺は、殺し合いなど認めん! 殺し合いに乗る連中も! あのシャドウミラーという連中も!
 俺が! 徹底的に叩き潰してやるっ! それが俺の意志だっ!!
 さあ、お前も語れ! お前は何故殺し合う! 理由如何によっては、俺がこの場でお前を叩き潰すっ!!」 

これが正しい行いかは分からない。ひょっとしたら間違っているかもしれない。
だが、生身の人間を相手にモビルスーツで闘えるわけが無い。
どんなに強い人間であっても、戦いになる筈が無い。
それは、ただの虐殺だ。
それは絶対にやってはならないことだ。
だから語り合う。裸の心を曝け出して。
視界の隅で、プレアの幻影が、頭を抱えながらも微笑んでくれている気がした。
364混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:30:32 ID:z3sTB8Yp

「…………くっ、」

アルベルトが身を傾けた。
どうした、と声をかけた。

そこへ、衝撃のアルベルトの、大きな大きな笑い声が、響き渡った。


「な、何を笑っているっ」

何か、妙に恥ずかしい気分になってきた。
湯に漬かっているせいもあってか、頬が紅潮してきた。

「いや、すまんな、ははっ、あまりにも、虚を衝かれたと言うか、予想外でな。
 はぁ、さっきのは、ただの冗談だ。貴様をここで殺すつもりは無い。ふっ、ははっ」

笑いを堪えながら、アルベルトが言った。
とても冗談とは思えない殺気を放っていた筈が、それも今は消えていた。
だが、カナードは油断しなかった。

「……あくまで、ここだけの話だがな」

すうっ、と笑みが消えさり、アルベルトが跳躍した。
とても人間業ではない高さ。一息でガンダムXの頭頂部まで跳び上がった。
てっきり自分に向かってくるものと思い身構えたカナードが、その人間離れした身体能力に唖然となる。

「風呂の礼だ。今は見逃してやる。
 貴様があのシャドウミラーとやらの打倒を志すのであれば、静かなる中条という男に会うが良い!
 ただし、あの男の側に立つということは即ち、十傑集が一人、この衝撃のアルベルトを敵に回すということだ!!」

アルベルトの放つ言葉の一つ一つが強烈なプレッシャーとなり、身体を、精神を打ち据える。
カナードは、アルベルトへの認識を誤っていたことを悟った。
この男は、丸裸の状態でモビルスーツに襲われたとして、生き残れるのではない、
この男は、丸裸の状態でモビルスーツと真正面から正々堂々と闘おうと、勝てるのだ。
何の装備も無く、その身一つで、数十メートルの巨体を誇る兵器を、正面から叩き潰せるのだ。
それを成し得る圧倒的な実力を持つ者。
それが十傑集。それが衝撃のアルベルト。
それは、決して敵に回してはいけない存在だった。

「良い湯加減であった。貴様もゆっくり温まっていけ。
 では――さらばだ、カナード・パルスよ! はぁっ!」

足の裏から衝撃波を噴出し、生乾きの服を脇に抱え何処かへ飛び去って行く衝撃のアルベルト。
カナードは、自分のこれまでの人生で築いてきた常識が木っ端微塵に吹き飛ぶ程の衝撃を受けながら、呆然と、その光景を眺めていた。

いつの間にか吹雪は止んでいた。

カナードの心は、晴れなかった。
365それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:30:52 ID:T2h96Fuw
   .
366混浴上等  ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:32:15 ID:z3sTB8Yp
【衝撃のアルベルト 搭乗機体:なし
 パイロット状態:全裸 ほっかほか
 現在地:D-6 山中
 第1行動方針:服を着る
 第2行動方針:他の参加者及び静かなる中条の抹殺
 最終行動方針:シャドウミラーの壊滅
 備考:サニーとのテレパシーは途絶えています】



【カナード・パルス 搭乗機体:ガンダムXディバイダー(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:全裸 
 機体状況:EN消費(小)、ハイパービームサーベル所持、ビームソード一本破損
 現在位置:D-6 山中
 第1行動方針:服を着る
 第2行動方針:ガトーを倒す。アポロを叩きのめしダンクーガを奪い返す。アルベルトを追う?
 第3行動方針:シャドウミラー打倒の方法を探す
 最終行動方針:ヴィンデル及びシャドウミラーを徹底的に叩き潰す】


【一日目 10:00】
367 ◆f/BUilcOlo :2010/01/22(金) 01:35:10 ID:z3sTB8Yp
投下終了
支援ありがとうございました
368それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:38:01 ID:T2h96Fuw
投下乙!
とりあえずお前ら 服 を 着 ろ w
アルベルトもカナードもセクシーだな。何か新たな境地に目覚めそうw
つかカナード……これが野生化かw
中条長官の存在も伝わったようで何よりだ
369それも名無しだ:2010/01/22(金) 01:42:48 ID:8dmmlkQt
投下乙!
タイトルがwカナードに助けられたあたりのアルベルトに笑ったwww
でもそのままギャグキャラになっちゃうのかと思ったけど途中でシリアスになったのはさすが衝撃の人か。
ガチでバトルになるかなーと思ったけどもカナードがいいなぁ。
再会が楽しみ!
370それも名無しだ:2010/01/22(金) 06:31:43 ID:wm4KDo8m
投下乙
ああ、なんだろう
アルベルトが可愛くて仕方ないw
カナード、お前もお前だw
371それも名無しだ:2010/01/22(金) 09:30:31 ID:IKF1/AQ0
投下乙です

ワロタw
アルベルトのおっさんが可愛く見えて仕方がない
カナードは……w
372それも名無しだ:2010/01/22(金) 18:09:34 ID:oZrOT6hY
ハハッ、ワロス
荒らしを批判しておいて自分は予約延長したあげく破棄ってw
373それも名無しだ:2010/01/22(金) 18:38:16 ID:IKF1/AQ0
と荒らしが言っておりますw
374それも名無しだ:2010/01/22(金) 22:58:18 ID:Xh9vKCO3
とにかくだ、暗黒大将軍たちは予約していい状態・・・なんだよな?
375 ◆dw7agDeNYQ :2010/01/22(金) 23:14:36 ID:fKjkz3uG
少し嫌な雰囲気だが投下します。
『使徒と軍人と快男子』
376それも名無しだ:2010/01/22(金) 23:55:17 ID:areUMSHj
もう!?支援
377それも名無しだ:2010/01/23(土) 00:08:20 ID:8ca0OScG
>>376
ドンマイ
ラーゼフォンはここで退場か
まあ三度連続での活躍とはいかないか
カヲル君はどうするやら
378それも名無しだ:2010/01/23(土) 02:16:15 ID:nFL3Xu3S
仮投下に投下があったんで今から代理投下します。
379代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:17:15 ID:nFL3Xu3S
「ショォオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!」

爆風が起こり、巻き起こる砂埃。その中心に白を基調とした機体。
その姿はまるで天使のようで、美しいとさえいえる。それを、彩るのは悲しみ。
サウス・バニングはショウ・ザマの名を叫ぶ。

共にいた期間は決して長いものではなかった。仲良しということもなかった。だが、彼の死はサウス・バニングの心を強く揺らした。

「君たちは不思議だね。人は死ぬ、生と死は等価値な物なのに、他人の死に悲しみを抱く」

天使の姿を模した機械、ラーゼフォンを通して声が響く。渚カヲル、自らを使徒だと、人類に滅びをもたらす者だと言った存在。そして、ショウ・ザマを殺した存在。

「当たり前だ。死を恐れ、それに抗いながら生きるのが人間だ。そして人の希望はどんな場面だろうと悲しみに彩られてなどいない」

この場にいたもう一人の人物、万丈は力強くそう宣言する。彼と渚カヲルは正反対の存在であった。死を恐れ、メガノイドとなったものたちを許せぬように彼の怒りは渚カヲルに向いていた。

万丈はトライダーの視線を地面に向ける。そこには無残に散ったガンダムの機体。希望の象徴であった機体は既に鉄屑に変えられてしまっていた。もはやパイロットは生きてはいないだろう。その光景が万丈の怒りをさらに強いものに変える。

「破嵐万丈、君は特に面白いね。好意に値するよ」
「なに!?」
「好きってことさ」

「来るぞっ」


380代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:19:39 ID:nFL3Xu3S
ゆっくりと空を飛び近づいてくるラーゼフォン。自身の障壁によっぽどの自信があるのか武器も構えずにまるで抱擁を求めるかのように両手を広げる。
バニングはラーゼフォンに向かいレールガンを放つがそれはラーゼフォンには届くことはない。バリアの表面でむなしく煙を散らすのみ。

それは既に分かっていたこと。だが、その光景にバニングはある違和感を感じた。

「トライダージャベリン」

裂帛の気合と共にトライダーが駆ける。ショウ・ザマが死んでしまったことには自分にも原因がある。万丈はその事実を受け止めていた、だがそれで思い悩んだりはしない。
自分にはやることがある。この戦いを止めなければいけない。メガノイドを倒さなくてはいけない。そして、

「君だけは許さない。渚カヲル」

トライダージャベリンは見えない障壁を破り、オレンジ色の光とぶつかる。
火花を散らし、ぶつかり合う両者。だが、渚カヲルは恐れを感じることなく、ラーゼフォンの掌をトライダーの頭に向けた。

「無駄だよ」

言葉と共に発せられる数発の光。万丈はそれを後ろに飛ぶことで避ける。トライダーは決してラーゼフォンに見劣りする機体ではない。
5700万馬力のパワーはこのバトルロワイアルでもトップクラスであろう。しかし、それでもATフィールドを貫くには及ばない。

「どうすればいいんだ……」

思わず、弱気な言葉が口から出てしまう。彼にとってはありえないことである。
だが、ダイターンもない。頼れる相棒もいない。そして、敵の防御を崩すことすらできない。
その事実は、重く万丈にのしかかる。

「聞け、破嵐万丈」


381代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:20:21 ID:nFL3Xu3S
ストライク・ノワールよりの通信。画像はついていない音だけのものである。その声の主、バニングはトライダーが下がるのにあわせラーゼフォンに牽制でレールガンを撃ち込みながら話す。

「今、あいつの障壁は二つだ。目に見えない壁とオレンジの壁」

もともと、三重の鉄壁の防御を誇る機体のシールドはショウ・ザマの手によって砕け散った。

「それに一つの障壁の強度も下がっている」
「なんだって……」
「疑問に答えている時間はない。ショウのあの一撃でやつはダメージを受けたんだ」

ショウ・ザマの一撃、それはラーゼフォンには届かなかった。しかし、その一撃によってラーゼフォンはシールドを失い、障壁を一度は破られた。
それはラーゼフォンにとってはENの消費というダメージとなり、再び障壁を張る上での大きな問題点となっていた。

万丈は笑みを浮かべる。彼はいつだって快男子だ。バニングの言葉により道が示された。最早迷いや恐れなど不要だ。

「いくぞ、万丈。ショウの敵を討つ」
「もちろんだ」

トライダーが再び駆ける。ジャベリンを振り上げ、敵を討たんと。だが、それはラーゼフォンの剣によって防がれる。

「どうやら、バニングさんが言っていたことは間違いないようだね」
「何のことだい?」
「僕たちが勝つってことさ」

ラーゼフォンは剣でトラーダージャベリンを受け止めたのだ。いままで、障壁で全ての攻撃を受け止めてきたものがである。これはラーゼフォンの絶対的な障壁に歪が生じ始めているということ。


382代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:21:26 ID:nFL3Xu3S
万丈はトライダージャベリンを全力で振り下ろす。元々、トライダーのパワーはラーゼフォンを上回っている。渚カヲルは力に逆らうことなく機体を後ろに下がらせる。もちろん万丈は追撃をかける。
それを防ぐように渚カヲルは掌を掲げる。ラーゼフォンの掌に光が生まれる。トライダーは既に攻撃の体勢に入っている。避けられない。

「さよならさ」

ドゥゥゥゥン

光は、放たれなかった。

「戦場において敵の数を間違えるとは。素人だな」

バニングの放ったレールガン、それがラーゼフォンの掌を直撃し、光を爆発させる。いままで、バニングの放った攻撃はどれもラーゼフォンの障壁を破ることが出来なかった。しかし、ショウや万丈によって障壁は破られ。既にそれは殆ど機能し得ない物になってしまっていた。

トライダージャベリンの二撃目が迫る。

しかし、

「まだATフィールドがある」

トライダーの攻撃はまたもオレンジ色の障壁に阻まれる。
この攻撃ではラーゼフォンには傷を負わせられない。万丈はトライダージャベリンを捨て後ろに下がる。

「諦めたのかい。破嵐万丈?」
「なぜ僕が諦めるんだい?」
「強がっても無駄さ、君には僕のATフィールドは貫けないさ」
「ほう、言ってくれるね。渚カヲルとやら。だが教えてやろう、人は幾度の死を積み重ね、そのたびに強くなってきた。生と死が等価値などと言うものに人が負けるはずがない」

万丈の意思に応え、トライダーが構える。


383代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:22:45 ID:nFL3Xu3S
「日輪の力をかりて今、必殺の」

彼はATフィールドを破るためにもっともシンプルな方法を選択した。
つまり、圧倒的な力で貫く。

「トライダーバードアタック」



胸の黄色い鳥のマークが巨大化し、トライダーの全身を包む。

「なんだって……」

トライダーは輝く一羽の鳥となり、ラーゼフォンにぶつかる。これこそがトライダーの必殺技トライバードアタックである。その攻撃により、ラーゼフォンの前面に展開されたATフィールドにひびが入っていく。

「やれ、万丈」

バニングからの通信、万丈は彼に謝罪する。なかなかに頼れる相棒だ。そんな風にさえ思う。

「君たちは予想以上だったよ」

しかし、渚カヲルの声からは焦りを感じない。自身を守るシールドは砕けようとしているのに。自分の死が迫っているというのに。

「ずいぶん余裕だな、渚カヲル。もう観念したのかい?」

「君たちは本当に強かった。だけど、もう終わりさ」

万丈はその言葉に酷い寒気を感じた。それは今まであまり感じたことのない感情であった。


384代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:23:26 ID:nFL3Xu3S
万丈は渚カヲルに、ラーゼフォンに『恐怖』した。


「さぁ、歌おうかラーゼフォン。君の歌を。禁じられた歌を」




ラーゼフォンの『瞳』が開かれた。



「ラァァァァァァァァァァァァァ―――――――」

トライダーをストライクノワールを不可視の衝撃が襲う。


トライダーの装甲にひびがはいっていくのが分かる。トライダーバードアタックのエネルギーによって守られているはずなのに、ラーゼフォンの攻撃はあまりにも圧倒的であった。

「だけど、僕は君に負けるわけにはいかない!」

「君はここで死ぬのさ」

「そんなことは断じて否だ。人は君達のような存在には絶対に屈しない」





「ラァァァァァァァァァァァァァ―――――――」








「トライダーアタァァァァァァァァァァァック」


385代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:24:07 ID:nFL3Xu3S
「いったいどうなった?」

万丈の機体が光をまとってラーゼフォンにぶつかるのまでは見えた。だが、その後ラーゼフォンが今までに見たことの無い攻撃をして。

「万丈は無事なのか?俺達は勝ったのか?」

煙が晴れてくる。そこから現れたのは純白の機体。機械仕掛けの神、ラーゼフォン。



「くっ、万丈は負けたのか」

だが、バニングのそれは間違いであった。煙が完全に晴れて分かった。ラーゼフォンは上半分しかその機体を残していなかった。トライダーバードアタックによって真っ二つに切断されていたのだった。そしてかろうじて浮かんでいたそれは大きな音をたてて地面に落ちる。

「やったのか」



「あぁ、そうだよ。君達の勝ちさ」


通信、しかしこれは万丈の物ではない。


「渚カヲル…まだ生きていたのか…」
「まぁ、もうこの機体は動けないけどね。それと、ちなみに彼もまだ生きてるよ」

ラーゼフォンの機体の後ろを見るとそこにあるのは傷ついたトライダーの姿。損傷はそれほど深くは無いようだ。

それに喜びが無いとは言わない。だが、それ以上に見過ごせない存在がいる。


386代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:25:14 ID:nFL3Xu3S
「渚カヲル、お前を見逃すわけにはいけない」

ストライクノワールのレールガンをラーゼフォンに向ける。機体は既に動けない。防ぐ手立てなど存在しない。

「最後に言っておきたいことはあるか」

「僕にとってはね。死の形だけが僕に許された自由だったんだ」

バニングは引き金を引いた。

一発

二発

三発

その弾丸はラーゼフォンの胴体に突き刺さる。

「敵はとったぞ。ショウ」


そういえば、万丈は怪我などしていないだろうか。通信を入れようと機器に手を伸ばす。


「この死の形を僕は望まないんだよ」


しかし、耳に入ってきたのは万丈のものではなく、渚カヲルの声。

「馬鹿な。生きていられるはずがない」
「言ったろ、死は僕にとっての唯一の自由なんだ」

カメラの画像を最大まで拡大する。そこに映っていたのは一人の少年。渚カヲル。


387代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:25:59 ID:nFL3Xu3S
「僕の機体にはこんなものも置かれていたよ。簡易通信セット。機体が無くても通信はできるらしい。距離は限られるけどね」

どうやって、生き延びたのかはバニングには分からなかった。

だが、相手は機体を失った生身の人間である。もう一度レールガンを撃ち込む。だがそれはバニングの予想に反し、渚カヲルには届かなかった。体の前面に展開されたATフィールドによって防がれる弾丸。それはわずかに空気を揺らしたがそれだけだった。

「なんだと…」

「それじゃあ、破嵐万丈にもよろしく」

あっけにとられるバニングを尻目に渚カヲルは光の壁に触れ、その姿を消す。
奴の話が正しければ、その向こうは地図の反対側につながっているのだろう。追いかけたいが、地の利が向こうにある以上再び見つけることは難しいし万丈のこともある。

「だが、渚カヲル。貴様だけはゆるさんぞ」

バニングは唇をかみ締める。万丈は恐らく気絶しているのだろう。まずは彼を手当てし、そして探さなくてはいけない。渚カヲルを。

「あいつは生かしておけん」




【破嵐万丈 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボ トライダーG7)
パイロット状況:気絶
機体状況:装甲を損傷、行動に影響なし EN消費70%
現在位置:A-5 海岸
第一行動方針:渚カヲルに対処する。
第二行動方針:弱きを助け強きを挫く。ま、悪党がいたら成敗しときますかね。
最終行動方針:ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕く。】
※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。


388代理投下 『使徒と軍人と快男子』◇dw7agDeNYQ:2010/01/23(土) 02:47:10 ID:IP8EzB+A
【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
パイロット状況:怒り
 機体状況:良好 EN消費55%
 位置:A−5 海岸
第1行動方針:万丈の様子を確人する
第2行動方針:コウ・ウラキを探す
第3行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢、渚カヲルを警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】
 ※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。



「さてこれからどうしようか」
渚カヲルは海の波に流されながらそう呟いた。


【渚カヲル 搭乗機体:なし
 パイロット状態:疲労
 機体状態:なし
 現在位置:F-7 海上
 第一行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす
 最終行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす】
 ※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。
 ※小型の通信機器を持っています。百メートルほどの範囲の者にしか通信できません。
389それも名無しだ:2010/01/23(土) 02:47:51 ID:IP8EzB+A
投下完了。

続いてカノン・ロム兄さん・暗黒大将軍代理投下します。
390代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:48:33 ID:IP8EzB+A
克己――発頸。

日頃は誰もが無意識にしている呼吸。
しかし、そんなものでさえ、一定の手順をもって行えば、自らの内よりさらなる力を引き出すことが出来る。
いや、それだけではない。息を吸う、息を吐く――その瞬間全身に起こる力の微弱な変化が戦闘においてどれだけ重いものか。
裂帛の一撃を放つ時も、相手の矢継ぎ様攻撃を捌く時も、呼吸の仕方次第で大きく変わる。

体内の疲労を押し出すように、深く、そして重く息を暗黒大将軍は吐く。
静かに剣を振り上げ――全力で打ち下ろす。全身に行き渡る剣の手ごたえ。
戦場にて常に剣をふるい続けた暗黒大将軍にとっては、剣から感じる振動が何よりも正確に疲れを教えてくれる。

「まだいける……しかし、次の戦いがこの戦(いくさ)の一区切りか」

呼吸法で疲れを軽減し、疲れを忘れることはできる。
だが、それはあくまで対処療法的なものであり、根本的な解決には程遠い。
どれだけ疲れていても引けず、戦い続けなければいけない時は確かにある。負けられない戦(いくさ)も確実に存在している。
だが、多くの猛者が闊歩するこの戦(いくさ)において、生き残るためには休息もまた必要だ。
もう一戦交えた後は、あえて放送まで休憩することも視野に入れても悪くないかもしれない。

「剣鉄也……今お前はこの空の下、どこで何をしている……?」

あの男が殺し合いに乗ることは、絶対にないだろう。
おそらく、自分のような殺し合いに乗るものを打ち倒すため、一人で動いている。
なれ合えず、戦うことしか知らない偉大なる勇者。奴もまた、果てしない戦いで生き延びる素質を備えた男だ。
無論、戦場で絶対はない。どれだけ強きものも、足元をすくわれることがある。あくまで、強ければ生き延びやすいだけだ。
それでも、暗黒大将軍は信じている。剣鉄也がそうそう死ぬような男ではないと。
そう敵として、その実力を誰よりも知っているからこそ。

「再びこの世界でまみえることになると言うのなら……今度こそ全力で勝ちたいものよ」

あの時は――ミケーネの勝利のため、あえて武人としての思いを半ば捨て、策を講じた上での一騎打ちだった。
だが、この場では策を講じることなどできない。純粋な一騎打ちだ。
そうやってこそ、真に勝つ意味がある。

手に握られた剣が光を照り返し、僅かに瞬いた。
暗黒大将軍はそれを見て一度目を閉じると、剣を納める。
200mもある頑丈で巨大な機械を砕く手間を考えれば、残った体力は戦いに費やしたほうがいい。

いざゆかん、さらなる戦いの地へ。

マントを翻し、暗黒大将軍は当てもなく歩き始める。

391代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:49:14 ID:IP8EzB+A



カノンの気合のこもった声と同時に蹴りと拳が振りかざされる。
クストウェルに馴染むため機体を走らせ、動かし続けるカノン。
それから少し離れた場所でロムはカノンと対照的に静かに腕を組み見守っている。
外から、ゴッドガンダムからは窺い知ることはできないが、コクピットの中で静かにロムは顔をしかめた。

「……おかしい」

ロムは、カノンとテッカマンアックスの戦いを見つけ、少しだけ様子を見て状況を知ると、即介入した。
つまり二人の戦いの一部始終を見ていたわけではない。だが、圧倒的にカノンが押されていたのは覚えている。
しかし、今のカノンの動きをみる限り、そこまで極端に押されるほどの実力ではない。
順当にいけば負けるかもしれないが、アイディアや立ち回りで十分補いきれる程度の差にしか見えない。
だが、現実においてカノンはテッカマンアックスに大敗している。

「カノン。すまないが手合わせしてくれないだろうか」

見ていて分からないのであれば、実際に向かい合うことで原因を知るべきだろう。
ロムはゴッドガンダムを滑るように動かし、カノンの前に出る。
少しカノンはまごついた後、しゃべり始めた。

「私より強いロムにいらないことかもしれないが……手加減はできないぞ」

どうにも、『力』を抑えて『相手』を抑えることに慣れていないらしい。
動きからしてそれなり以上に実戦の経験はあるのだろうが、常に相手をせん滅していたのかとロムはふと考える。

「問題ない。天空宙心拳は活人拳……相手の力を受け流し、受け止め、抑えることに重きをおいている」

組んでいた手をほどき、半身を前に出し、片手を前に。もう一方の手は胸の前に。
天空宙心拳の基本ともいえる姿勢をロムは取る。

「……いいんだな?」
「もちろんだ」

再度の確認。
そして――この世界において珍しい、殺し合い以外の戦いが始まった。

392代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:49:54 ID:IP8EzB+A


届かない――当たらない。
繰り出した全力の拳が、まるで虫でも払うかのような動きで逸らされる。
繰り出す蹴りも、思念を読まれているとしか思えない反応速度で出掛りを潰される。
テッカマンアックスとやった時と同じ光景が、ロムでも再現される。
ロムとテッカマンアックスの実力は五分、いや若干ロムが上だった。
つまり、この結論になることはおかしなことではない。おかしくはないが――

「どうして当たらない……!?」

二人と自分の実力の差。その原因、根本はどこにある。
なまじ人の形をしているからこそ、その動きはフェストゥムよりも良くわからないものに思えた。
ロムはそれを体術の何かを習得しているからと言うが、カノンも軍隊で実戦向けの暴徒鎮圧術を覚えこまされた。
自分との技術、ロムやアックスの身体にしみついた技術は、それほどの差を生み出すものなのだろうか。
紛いなりにも日野道生に付いて、世界中でフェストゥムと戦ってきた。
自分が戦えるという思いも、自負ではないが持っていた。
それが、酷く小さなものに思えた。

「……ここまでにしよう」

結局一発も入れることが出来ず、ロムが終わりの合図を出した。
肩で息をするカノンとはまったく逆で、ロムは呼吸一つ乱していない。
埋めようがないと思える実力差。それが疲れた肩にさらに圧し掛かってくる。
よくこんな実力で島を守ると言えたものだと情けなくなる。

「なるほど、良く分かった」

無言のままカノンはロムを見る。
一体何が分かったのか。それが知りたくてしょうがなかったのが顔に出ていたのだろう。
ロムはカノンを見て表情を崩し小さく笑うと、

「俺とカノンの間に実力がそう大きくあるわけではない」
「そんなはず……」

噛まれた唇。尻すぼみに消える言葉。
ロムがお世辞を言っているとしか思えない。ただ一撃も返せない自分とロムに差がないはずがない。
ロムが何かを言おうとする。慰めの言葉なのだろうかと思い、ぼんやりとロムのほうに意識を向けていると――

「なるほど、確かに小娘の動きは悪くない。だが――決定的に欠けているものがある」

上空からの声。
荒野に立ち並ぶ高台の、一機の――いや一鬼の影。
頭部と胴体に二つの顔。荒野の乾いた風を受けてたなびくマント。
その手に握られた大剣。
全員から漏れ出る、恐ろしいまでの戦意。

そう、それは暗黒大将軍。

393代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:51:46 ID:IP8EzB+A
戦場の空気を暗黒大将軍は肺腑一杯に吸い込む。
それだけで戦意が高揚し、頭の片隅に疲れや迷いが押し込まれ、そして霧消していく。
目の前の男の技量は、少し見ただけで明らかに達人と見て取れる腕前。
相手にとって、不足なし。

「カノン、下がっていてくれ」
「だが……」
「頼む。今のカノンではあれに勝つことはできない。そして、俺も庇う余裕もない……!」

高台から飛び降りる。着地と同時に地面が割れ、砂埃が舞い上がる。
睨みつけるは、ただ一人。ややあって男から小娘が距離を取った。

「いい判断だ。逃げる者を狩るのは最後の仕事よ。戦う者と剣を交えることこそ、今俺が成すべきこと」
「その殺意……いや戦意、ただものではあるまい……!」
「だが、それを知る必要はないだろう、お前もここで俺の剣の露と消えるのだ!」

男が構えると同時に、暗黒大将軍が剣を振り上げ、一気に切り掛かる。
大きく踏み出された足が大地に突き刺さらんばかりに落ちるのと同時に、全体重を乗せた一撃が放たれる。
当たれば目の前の機体など一瞬で紙きれのように引き裂くだけの威力を込められた剣技を前にした男は。

臆することなく前に飛び出していた。

「ぬぅ!」

相手と自分の身長差は約二倍以上。
さらに暗黒大将軍の使用する大剣ならば、そのリーチは一拍で到底逃げ切れるものではない。
それを正確に見越して、男は暗黒大将軍の懐へ飛び込んだのだ。
力が最大を迎える前に削ぐ。言うはたやすいが、やるのは絶妙のタイミングとなにより勇気がいる。

「はああああああああ!!」
「だが、まだまだよ!」

男の機体の手に滑りだされる光の剣が、まっすぐに突き出される。
暗黒大将軍は勢いのまま振り下ろされたはずの剣を腕力に任せV字の軌道で剣を引き寄せ、弾き飛ばす。
剣を弾かれ、体勢を崩す男の機体――否。
流水の動きで後ろに倒れる勢いを使い後方へ宙返りを披露し、四肢をもって着地。
超下段から伸びあがるような軌跡で放たれる光の剣。
剣の二度返しを行い、これ以上剣を引き戻すことはできない。

なら、どうするか。

「甘いわ! 俺の剣は二本ある!」

腰に握られた自分の愛剣を暗黒大将軍は引き抜く。
剣のエネルギーと実体剣が打ち合わされ、凄絶な音を立てる。
相手も一息に踏み込める限界だったのだろう、視線を切ることなく、後方に跳躍すると、音もなく着地した。
394代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:52:49 ID:IP8EzB+A
「ふふふ……こうも早くこの剣を抜くことになるとはな……!」

剣鉄也のような真の強者と戦う時まで抜くことはないと思っていた、二刀目。
それを一度の攻防で『抜かされた』事実。紛うことなき、最高峰の戦士。
血がたぎる音が暗黒大将軍の耳朶を叩く。

「強い……これほどの剣の使い手がいるとは……!」
「見くびるな! 俺の剣はまだこれで終わりではないぞ!」

さらにぶつかり合う三本の剣。
暗黒大将軍の剣を疾風怒濤と表現するのであれば、目の前の男の剣は、疾風迅雷。
二刀をもって怒涛の攻めを掻い潜り、なお暗黒大将軍の倍近い剣の軌跡を光らせるその技量、速度。
剣鉄也とはまた違う。剣鉄也が鈍い光を放つ斬馬刀だとすれば、この男は鋭く輝く日本刀。

「お前の名をなんと言う!」
「貴様らのような名乗る名前はない!」
「良く言った、気にいったぞ! 意地でもその口を割らして見せたくなったわ!」

雷光を纏い放たれた剣が、暗黒大将軍の肩をかすめる。
お互いの身体に触れることのなかった剣の嵐、届かなかった剣の結界が広がっていく。
しかし、それは暗黒大将軍の側のみ。

気付けば、男もまた二本の剣をその手に握っている。

「二刀の剣を使えるのはお前だけだと思うな!」
「だが、二刀の剣は一つに込める力を落とすものよ! 貴様の大きさで二刀を使い、俺の剣を受け止められるか!?」
「天空真剣の極意も天空宙心拳と同じ! いかな暴風であろうと受け流すのみ!」
「ならば、受け流してみよ!」

弾かれたように後退する両者。
大きく横へ剣を引き、薙ぎ払うように力を振り絞る。
放たれるは、黒い暗黒の竜巻。

対して、男のやったことも似ていた。
二刀を繋ぎ、超高速回転。瞬く間に男の姿が隠れ、竜巻が立ち上る。
それが、男が剣を最後に向ければ、前に進みだす。

「受けよ! 暗黒竜巻衝!」
「天空真剣、真空竜巻!」

両者の剣より放たれた竜巻はちょうど両者の中心地点にてぶつかり、お互いを打ち消し合い、なくなっていく。
二つの竜巻がぶつかり合い、猛烈な突風を起こした後に流れるのは、そよ風のみ。

「他でもない武道でここまで戦えるものと会えるとは……久しくなかったぞ!」
395代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:54:20 ID:IP8EzB+A
たぎり続ける血が燃える。全身が沸騰する。
疲れなどという異物を感じる隙間など、あるはずがない。
グレートマジンガーも確かに強敵だった。だが、あれは戦闘においての強敵、好敵手。
武道という分野において、暗黒大将軍は強すぎた。ミケーネ帝国の将軍を束ねる、唯一の実力者、暗黒大将軍。
何か一強であろうとも武道と言うものにおいて彼を超えるものはいなかった。
その自分を、ここまで楽しませることが出来る男がいる。

「もう一度聞こう、お前の名は何だ!?」
「俺の名はロム・ストール! お前の名は!?」
「名などアレス国が滅んだときに捨てた! 今の俺はミケーネ帝国の暗黒大将軍!」
「なら聞こう、暗黒大将軍、何故お前は戦う!」

暗黒大将軍は迷わず答えた。
暗黒大将軍が戦う理由。それは、ミケーネ帝国のために他ならない。
戦いの中に愉悦を見出すことはあっても、あくまで戦う理由とは別に存在している。

「知れたこと! ミケーネ帝国のためよ! 俺に従う七将軍、その配下のミケーネ軍団……
 多くのミケーネの民! それが地上を再び取り戻すため地上を俺は制圧する!」
「それをシャドウミラーの力で叶えようと言うのか…… 違うだろう!」
「その通りだとも、あのシャドウミラーとか言う人間どもも敵だ。 
 しかし、お前たちも敵であることは変わりない! 敵の敵は味方……などと言うつもりもないわ!」
「それも元の世界の理屈! この世界ならば協力できるだろう! お前の拳からは邪心は感じん!」

ロム・ストールと名乗った男の言葉を暗黒大将軍は笑い飛ばす。

「甘いわ! 生き残るための戦いに正義も悪もない! 勝ったものが正しい、
 故に俺は、ただ俺の信じるもののため戦うのみよ!」

その一言を叫んだ瞬間、空気が変わる。

「ならば、俺も信じたもののために戦おう! 暗黒大将軍、お前の理屈は間違っている!」
「ならどうした、俺を踏み越えて証明してみせい!」

ロム・ストールが一度静かに目を閉じる。
そして、その眼を開くと同時にロム・ストールが叫ぶ。





「  断 る ッ  ッ ッ  ! ! ! 」




「なっ……」

その気迫に、流石の暗黒大将軍も一歩下がらざるを得なかった。
それほどの何かが込められた叫びだった。
396代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:55:11 ID:IP8EzB+A
「なら俺は拳法家として、そして剣士としてお前を倒そう! 
 勝てば正義と言うのであれば、俺が勝ったならば俺たちに協力してもらう!」

その言葉の意味を暗黒大将軍は理解し、暗黒大将軍の怒りが一気に吹きあがる。

「命を奪う覚悟もなく俺を倒すと言うのか! 俺を愚弄するのは許さんぞ!」
「違う……お前ほどの力の持ち主ならば違う使い道があるはずだと言っている!」

両者の力が爆発的に高まる。
結着の一撃が、今炸裂の瞬間を前に体内で練り込まれていく。


「ならば、やってみせい!」
「天空宇宙心拳は活人拳! 生かしてこその拳法だ!」


己の剣を納め、両の腕をもって正眼に構え、セレブレイダーを保持する。
それだけ全力を持って剣を、己が身体を支えなければ撃つことの出来ぬ今の暗黒大将軍が使える最大最強の一撃。
湧き上がる力が黒い闘志となって全身を覆い尽くし、それが剣へと流れていく。
同時に、剣そのもののエンジンが唸りを上げ、回転数を上げていく。
正邪合一、神魔両断。断てぬものなど何もなし。

ロムもまた、奇しくも同じ姿勢。正眼に構え、一刀を両手で掴む。
しかし、暗黒大将軍が剣を「立て」ているのに対し、ロムはまっすぐに突くかのように暗黒大将軍へ剣を向ける。
天よ地よ、火よ水よ。そして我が身に眠る全ての力よ。今ここに姿を顕したまえ。
殺さず、生かす。人の命を絶つことなく、正しき道に導くために。
機体が金色に輝き、背中に六枚の羽根が開く。背負うは名のまま神の後光。


「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 死断殺(デスストラッシュ)!!!」
「天空真剣奥義! 爆裂! 空天!」

暗黒大将軍から放たれる黒い極光の竜巻。
ゴッドガンダムから放たれる、白き極光の八岐大蛇。


爆発。
炸裂。

そして――空白。



397代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 02:55:52 ID:IP8EzB+A



目も開けていられないほどの光が、カノンを照らす。
両者の超状の一撃がぶつかり合い、何も見えない。ロムは、勝つことが出来たのか。
加勢することが出来なかった自分に悔しさを覚えながら、カノンは白い光の中目を凝らした。

自分がまったく手を出すことが出来ないほどの、一瞬の交錯、攻撃の刺し合い。
それは、カノンが体験したことのない戦闘の形態だった。
カノンが、ロムやテッカマンアックスに大敗した理由――それはここにあった。
フェストゥムは、ワームスフィア―というものによる空間そのものをえぐり取る以外には腕などを伸ばし刺すといった攻撃がメインとなっている。
人間ではない、人間とかけ離れた生命体であるからこそできる戦闘方法。
カノンは、確かに戦い続けた。しかし、それは全てと言っていいくらいにほとんどフェストゥムが相手だった。
当然だ、人類同士がいがみ合っている場合ではないほど、フェストゥムは脅威だったのだから。

それに対して、アックスやロム、そして目の前にいる暗黒大将軍。
彼らは、自分の心技体の全てを使い、自分の闘志を前面に押し出して戦っている。
その近付いた接近戦での動きは、急に加速することはあってもおおむね緩慢なフェストゥムとは比べものにならない。
技量、という意味でも同じだ。
死を恐れず戦闘の純粋な技術を学ばないフェストゥムには通用しても、
死を遠ざけるためあらゆる技を使い相手の攻撃をいなそうとする三人に通用するはずがない。
ある意味で、カノンの戦い方は機械やそれに類するもの相手だった。
だからこそ、彼らのような『戦士』に対して戦うことが出来なかった。

息をのみ、暗黒大将軍とロムの戦いを見ることで、初めてカノンはそのことを自覚した。


光が収まり、場が見えてくる。
まだ眩んでいる目をこすり、見えてきた光景は。

「ロム……!?」

あれほど距離を取っていたはずなのに、いつの間にか両者の間はなくなっていた。
あの光の中、それでもなお一撃を加えんと両者が剣を構え相手に立ち向かったからだった。
そして――倒れているのはロム・ストールの乗るゴッドガンダム。

暗黒大将軍は、剣を持ったままゴッドガンダムを見下ろしている。
この後、暗黒大将軍が何をするつもりか、カノンにも即座に分かった。
仲間を失いたくない――誰にも死んでほしくない。カノンは、その一念で暗黒大将軍へ一気に距離を詰める。

「はぁああああああああああ!!」

勝てないかもしれない――けれど、一撃を当ててロムを回収し逃げることはできるかもしれない。
どれだけ難しくてもやって見せる。そんなカノンの思いを乗せた一蹴りは――

「たわけがっ!! 拾った命を捨てるか!」

剣の一撃でいとも簡単に跳ね返された。
地に叩きつけられるクストウェル。即座に身を起こし、さらに拳を握り、暗黒大将軍へ放つ。
しかし、それも剣すら使われず、何も握っていない暗黒大将軍の掌で受け止められた。
次の瞬間、大地が逆転した――力任せに投げられたのだと分かった。
それでも、カノンは飛びかかろうとして――

――暗黒大将軍の一喝。

「もういい、ここまでだ!」

その言葉に、カノンも動きを止める。
398代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 03:02:58 ID:IP8EzB+A
「この男は、最後の切り合いで、わざと俺の顔を避けた。そのまま突けば勝てたにも関わらずだ。
 あの極限の状態で、なお自分の言った言葉を守ろうとした。この男もまた、勇者。その心意気に免じ、ここは見逃そう」

暗黒大将軍が目を向き、カノンの背後のロムへまっすぐに剣を向ける。


「だが、このままでは俺の気もおさまらん! 8時間くれてやろう、その後またここに俺は来る! 結着はその時だ、伝えておけ!」


剣を納める暗黒大将軍。
さらに、暗黒大将軍はカノンを見据えて言い放った。

「闘志は認めてやろう、だが戦い方がなってないわ! そんなものでは俺と戦う資格もない!」

カノンとロムに背中を向ける暗黒大将軍。

「欠けていたものはわかったか!?」
「……わかった、つもりだ」
「なら俺とロム・ストールの戦いを思い出し、学ぶがいい! 俺と勝負がしたいのならばな!」



暗黒大将軍が再び歩き出す。
カノンは、その背中を見えなくなるまで眺めていた。

【一日目 11:00】



【暗黒大将軍 支給機体:セレブレイダー(神魂合体ゴーダンナー!! SECOND SEASON)
 パイロット状況:全身に大きなダメージ、激しい怒り、疲労(極大)
 機体状況:良好、ENほぼ空、セレブレイドに変形中
 現在位置:G-4
 第一行動方針:ひとまず休息する。補給も行う。
 第二行動方針:マジンガーとの戦いに横槍を入れた者を成敗する 、剣鉄也を倒す
 第三行動方針:ダイヤが現れたのなら決着を着ける
 第四行動方針:余裕ができたらガンバスターを破壊する
 最終行動方針:ミケーネ帝国の敵を全て排除する
 備考1:セレブレイドは搭乗者無しでも使い手側の意思でプラズマドライブが機動できるようになってます
    無論、搭乗者が普通に機体を使う事も可能です】


399代理投下 強さの理由 ◇vtepmyWOxo:2010/01/23(土) 03:03:39 ID:IP8EzB+A
「……そうか、まだ俺も修練が足らないか……」

目覚まし、カノンに説明を受けたロムは静かに呟いた。
どうにか、きっかけを作ることはできた。今はそれでよしとすべきかもしれない。
だが、もう少しだけ力があれば。その悔いは、いかのロムとは言え拭いがたかった。
あれほどの戦士が仲間になれば、それは大きな助けとなるはずだ。

「8時間後……再び奴はここに来る。ならば、その時まで俺ももっと強くならなければ……」
「そのことで話があるんだが……」

どこか躊躇した様子でカノンが言いだした。
しかし、その眼には先程の焦燥と違い、僅かに明るい色が混じっている。
そのことに小さく首をかしげながらも、ロムはその先を促した。


意を決した様子で、カノンが切り出した言葉は―――


「私に、戦い方を教えて欲しい……!」


【一日目 12:00】

【ロム・ストール 搭乗機体:ゴッドガンダム】
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー50%消費、 装甲表面に多少ダメージがありますがその程度です。
 現在位置:G-4 荒野
 第1行動方針:カノンと行動する
 第2行動方針:悪を挫き弱きを助ける
 第3行動方針:真壁一騎、皆城総士、遠見真矢、春日井甲洋の保護
 第3行動方針:19時の暗黒大将軍との再戦に備える(上と同じくらいの重要度なので3を並べてます)
 最終行動方針:シャドウミラーに正義の鉄槌を与える】
※羽佐間翔子は同姓同名の別人だと考えています。


【カノン・メンフィス 搭乗機体:クストウェル・ブラキウム(スーパーロボット大戦J)】
 パイロット状況:良好。
 機体状況:装甲がへこんでいる以外良好
 現在位置:G−4 荒野
 第1行動方針:ロムと行動を共にし、強くなる。
 第2行動方針:竜宮島の仲間と合流する
 最終行動方針:仲間と一緒に竜宮島に帰還する】
 ※羽佐間翔子は同姓同名の別人だと考えています。
400それも名無しだ:2010/01/23(土) 03:04:20 ID:IP8EzB+A
以上、さるりつつ投下完了。
両書き手氏お疲れ様でした。
401それも名無しだ:2010/01/23(土) 20:16:15 ID:bK3LImuM
誤字がけっこうあるな…
修正が必要かな?
402 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:39:28 ID:iASgr/Rt
クルーゼ、ミスト、ミユキ、ジロン投下します
403人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:40:32 ID:iASgr/Rt

鎮座するヴァルシオン改の眼前に、大破したアカツキを転がす。

一頻りの作業を終えたラウ・ル・クルーゼは∀ガンダムのコックピット内で汗を拭い、
機体を飛ばしてその場を離れる。ヴァルシオンは動かない。
ミストが気絶していることを確認したクルーゼは、とある策を練っていた。
コウ・ウラキが消え、∀ガンダムに自分が乗っている。
その顛末をミストにいかに歪曲して伝えられるかに、彼の今後は大きく左右されるからだ。
先ほど見た、バルゴラ・グローリーとヴァルシオン改の戦闘。
短い付き合いながらも大体把握したミスト・レックスの性格。
それらを総合し、ミストをよりよく活用する為の嘘を練り上げる。
仕込みは全て終了し、後はミストが目覚めるのを待つのみ。
程なくして、ヴァルシオンが動き始めた。周囲を見渡し、困惑した様子だ。
それを上空から見下す∀ガンダムのビームライフルに火が灯り、慎重に狙いをつける。

「さて、一芝居打つとしようか」

完全に再生したコクピットの中でクルーゼが不敵に笑って引鉄を引き、粒子の奔流が放たれた。




「ぐっ……お、俺は一体どうなったんだ……?」

目を覚ましたミストは、自分の身体に重大な傷がないことを確認し、機体に火をいれる。
次々と点燈していくディスプレイとコンソールを把握しながら、異変に気付いた。

「ここは地上じゃないか! まさか、俺はあのコロニーから落下したのか……?」

天を仰ぎ見るが、コロニーは当然視認できない。
時間もそれほど経っていないようだし、転移装置に辿り着けたのだろうか?

「でも、そんな記憶はない……俺はどうやってあの敵から逃れたんだ?」
404それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:41:02 ID:aaCuXbzv
 
405人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:42:06 ID:iASgr/Rt


続いて、周囲の様子を窺うミストの目に、大破したアカツキが映る。
そのMSはもちろん、彼の仲間のラウ・ル・クルーゼが乗っていたはずの機体だ。

「ク、クルーゼさん! 一体どうしたんです!」

慌てて通信波を飛ばして声をかけるが、一切反応はない。
ヴァルシオンの腕を伸ばしてアカツキを引き寄せようと、ミストが機体を操作した瞬間。

背後から、ビームが襲い掛かった。

ヴァルシオンのABフィールドが発動し、自機の四肢を狙う砲撃を無効化する。

「くっ! あの子供に追いつかれたか!? ……って、コウさんじゃないですか! 何をするんです!」

振り返るミストの視界に入ったのは、粒子を撒き散らしながら上空に佇む∀ガンダム。
クルーゼと同じく、自分と行動を共にしていたコウ・ウラキ少尉の機体だ。

「コウさん! まさか俺達を裏切ったんですか!? いくら不意討ちしたって、俺はコウさんに降参なんてしませんよ!」

「裏切ったのは君の方だろう……! ミスト・レックス!」

錯乱し、俄かに感情を高ぶらせるミストの耳に届いた声は、想像を裏切るクルーゼの声だった。
自分より遥かに怒りを湛えた口調で、次々とビームライフルを撃ち込んでくる。

「ク、クルーゼさん? 何故あなたがコウさんの機体に乗っているんですか!」

「君がそれを私に聞くかね……! ウラキ君を殺した君が!」

ABフィールドに全てのビームを弾かれつつ、∀は高速でヴァルシオンに接近してビームサーベルを抜く。
応じるヴァルシオンもディバイン・アームを抜いて、重金属粒子で構成された∀の凶刃と鍔迫り合いを演じた。
406人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:43:28 ID:iASgr/Rt

「俺がコウさんを殺した……? そんな筈はありませんよ! 何かの誤解じゃないんですか!?」

「君はあの青い敵機との交戦後、突如として我々に襲い掛かった! あれが誤解であるものか!」

「そんな……事がっ!」

「私は君を許さない……ウラキ君に託されたこの∀の全てで、君という悪を断つ!」

まったく身に覚えのない憎悪をぶつけられ、困惑するミストに、クルーゼの容赦ない攻撃が見舞われる。
40m近いサイズ差があるにもかかわらず、鍔迫り合いはクルーゼに軍配を上げようとしていた。
身の危険を感じたミストが一旦その場を離脱するべきか、と思案した瞬間、彼の頭に激痛が走る。

(これは……あの時と同じ……まさか!?)

戦いを強制するかのような思考介入。
それを必死で抑えながら、最悪の結論にミストのニューロンが辿り着いた。

(この機体に、搭乗者を暴走させる機能があって……それで、俺はコウさんを……?)

クロスマッシャーの発射ボタンに伸びそうになる手を片方の手で押さえる。
見れば、∀が自機に蹴りを入れるようにして離れ、ビームサーベルを突き出して突撃しようとしていた。

「ま、待ってくださいクルーゼさん! 俺の話も聞いてくださいよ! この機体には恐ろしい仕掛けがあったんです!」

「……何?」

ヴァルシオンの眼前で∀がブレーキをかけ、訝る様にビームサーベルを向けたままで武装解除を促す。
話を聞いてくれれば、とミストはディバインアームを放り投げ、機体の両手を上げて降伏した。
∀はサーベルを収め、地上に降り立ってヴァルシオンに通信を送る。

「……わかった、君の話を聞こう。機体から降りたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

喜んで機体から降りるミストは、当然気付かない。
通信先のクルーゼがほくそ笑んでいることに、など。


407それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:44:10 ID:aaCuXbzv
 
408人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:45:03 ID:iASgr/Rt



「……どうでした?」

「君のいう通りだったよ、ミスト君」

ヴァルシオンを調べる、と言って機体内部に入り、しばらくして帰還したクルーゼを迎えるミスト。
操縦センスの高いミストは碌にマニュアルなど読まずに操作していたのだが、
ヴァルシオンのコクピットのどこかにそういったものがあったらしい。
クルーゼは淡々とした様子で、ゲイム・システムの効用について語った。
ミストはそんなクルーゼの目(仮面で隠れているが)に非難の色が混ざっているように感じ、ぼそりと愚痴をこぼす。

「なんで俺が責められなきゃいけないんです……責めるべきなのは、この機体を支給したシャドウミラーの方でしょ」

「それはそうだが……」

ミストの言葉に、流石のクルーゼも少々不快感……というより違和感を覚える。
事実は違うとは言え、自分のせいで人が死んだという事を突きつけられたのにこの態度はいかがなものか。
一方のミストも、自分を無言で見つめるクルーゼとの間に険呑な空気を形成する。

(やはり姿形が同じでも宇宙人は宇宙人というわけか……意外と扱いが難しいのかも知れんな)

(俺が悪くないって事は分かった筈なのに……地球人ってのはみんな結果だけで人を非難するのか……!?)

ミストは罪悪感からか、自分がコウをどう殺したのか詳細を聞く気にもなれなかった。
なんともいえない重い空気を振り払うように、クルーゼがなるべく明るく言葉をかける。

「だが……安心したまえ、ミスト君。ゲイム・システムは外部から止められるようにしておいた」

「本当ですか!」

(嘘だよ……フフフ)

嘲笑を噛み殺しながら、クルーゼがミストに手のひらサイズの赤いスイッチがついた機械を示す。
これを押せば、ゲイム・システムの発動を抑えられると説明を受け、ミストの表情がパッと明るくなる。
もちろんそんな説明は口から出任せで、このスイッチの正体は核ミサイルの起爆ボタンだ。
ミストが気絶している隙にヴァルシオンの内奥に仕込まれた∀ガンダムの虎の子の核弾頭一発は、
このスイッチ一つでいつでも爆発できるように、ヴァルシオンの中で眠っている。

(君が大勢の敵や味方と接触する機会があったなら……私はその場を離れてこれを押すことになるだろう。
 他にも敵に撃墜された時に誘爆したりすれば、少なくともヴァルシオンを倒す強敵を一人消せるしな……。
 ゲイム・システムと核弾頭による二つの意味での爆弾手駒……いや、人間爆弾とでも呼ばせてもらうか、ククッ)
409人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:46:24 ID:iASgr/Rt


「ありがとうございます、クルーゼさん! 俺、やっぱりクルーゼさんと会えてよかったです!」

「いや、私も頭に血を上らせて君を攻撃してしまった。許してくれ」

「そんな、俺とクルーゼさんの仲じゃないですか! コウさんの事は残念だったけど、
 俺がコウさんの分まで頑張りますから、一緒にシャドウミラーを鎮圧しましょう!」

なんとか鎮火した場の険呑な空気に任せて、クルーゼがミストに地図を示す。
地図に描かれた地上の縮尺は、宇宙MAPにおける惑星と比べて小さすぎた。

「どういうことなんでしょう……わざわざ地球をリングにしておいて、こんな狭い範囲しか使わないなんて……」

「地球の他の場所に、シャドウミラーの本拠地があるのかも知れんな。そら、海上を見てみたまえ」

ミストがクルーゼに促されて海上に視線をやると、そこにはオーロラが出ていた。
比喩でもなんでもなく、海上のある位置……恐らく、この地図の端の部分に、
天と地全てを覆うような旭光が隔てているのだ。とてもではないが、自然の物には見えない。

「あれは一体……」

「推測だが、あれも空間転移に順じた技術ではないか? 恐らく地図の反対側の位置まで飛ばしてくれるのだろう」

「そうか……禁止エリアに囲まれたりして脱落なんて事、シャドウミラーが許すはずがないですしね」

殺し合いを強要する連中の非道さに憤るミストの肩を叩き、クルーゼが気さくにオーロラを指差す。

「アレに飛び込む勇気はあるかね?」

「もちろんです! シャドウミラーを倒してコウさんの仇を討つ為にも、立ち止まってなんかいられませんしね!」

言うが早いか、ミストはヴァルシオンに乗り込んでオーロラに突撃していった。
不都合な事が起こらないと確信してから、クルーゼもオーロラに飛び込む。

その先にあったのは―――。


410それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:47:13 ID:eNTJfguz
ミストさーん、支援
411それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:47:41 ID:aaCuXbzv
 
412人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:48:05 ID:iASgr/Rt



「うおっ!? なんだいありゃぁ!」

「わぁ……」

ジロン=アモスと相羽ミユキは、突如オーロラから飛び出してきた巨大なロボットに驚いて機体を止める。
彼らもまた、移動中に海上のオーロラを見咎め、好奇心からそれに近づいていたのだ。
警戒するように海上で後退するジンバだったが、クルーゼとミストの受けた衝撃は彼らの比ではなかった。

「なんだ……あの怪物は……」

「アトリームにもあんなのはいませんでした!」

想像したことすらない生物的なフォルムを持つジンバに驚愕するクルーゼに、頼まれもしない補足をいれるミスト。
しかし動転も束の間、クルーゼの駆る∀ガンダムのビームライフルが放たれる。
相当な機動性でそれを避けるジンバを尻目に、ミストが抗議の声を上げた。

「クルーゼさん! いきなり何をするんです!」

「通信より早い威嚇射撃さ。これで相手の腹積もりが読める。我々のように友好的でないならば反撃してくるだろうし、
 もしあの怪物の搭乗者(いるのかどうかも分からんがな)が我々と同じ方針で動いているのなら……」

さもありなん、ジンバは動きを止め、交戦の意思を見せずにこちらの様子を窺う。
そして、クルーゼが予想するジンバの次の行動は―――。

(ミスト君のようにバカ正直に通信を送ってくるか、一目散に逃げるか……さて、どちらかな?)

超然とした態度でジンバを見遣るクルーゼ。
しかし、ジンバの次の行動は、そんなクルーゼの予想を凌駕した。
413それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:48:56 ID:eNTJfguz

414それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:50:22 ID:eNTJfguz

415人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:50:36 ID:iASgr/Rt


「ジロンさん、どうしましょう……逃げた方がいいんじゃ……」

「へへっ、あいつ等が大真面目に殺し合いをやる気なら、もっとドカドカ撃って来てるよ!
 俺の勘によれば、相手は二人ともちょっと取り乱してるだけだと見たね……。
 だったら、このジンバのオーバースキルの出番だよっ! まずあの小さい方からいきますか!」

ジンバのオーバースキル『窃盗』。
先ほどミユキをダイテツジンから引きづり出したときのように、手をかざし、掴み取る動作を行うジンバ。
ダイテツジンやヴァルシオンと比べてコクピットの位置が分かりやすい、∀ガンダムにその魔手が伸びる。

「!?」

クルーゼが咄嗟に、顔の前に電流が走るような感覚と共に機体を後退させる。
次の瞬間、クルーゼの仮面は剥ぎ取られ、ジンバの手元へと移動していた。
こんなもんいらねえ、とばかりに海に放り捨てられる仮面。
クルーゼはそれを唖然と目線で追うが、回収できるはずもない。

「ありゃ、外しちゃったよ」

「あの仮面……テッカマンの物じゃないと思うけど……」

通信が通っていない為、両陣営に意思疎通の術はない。
よって、ジロン側のお気楽な空気とクルーゼが吐き出す怒りは噛み合わず。

「おのれ……私の仮面を! ……い、いや落ち着け、あぐっ、あぐっ!」

激昂しかかる精神をなんとか沈め、手持ちの老化抑制剤を懐から取り出して飲みこむクルーゼ。
精神安定剤代わりに使えるほど量があるわけでもなかったが、それでも飲み込まずにいられない。
クルーゼにとってあの仮面は、ただ顔を隠す為のものではなかった。
自分の忌まわしい生まれをなんとかして忘れたいという感傷の現れとも言える存在だったのだ。
とりあえずコクピットにあった赤いサングラスをつけて急場を凌ぐクルーゼに、ミストの困惑する声が届く。

「クルーゼさん、大丈夫ですか!? 今俺の方から通信してみたんですが、あちらに戦闘の意志はないそうです!」

「……盗まれ損という訳か……わ、わかった。一旦陸に降りて会談の場を持つとしよう……」

しっくりとこないサングラスで顔を隠しながら、クルーゼはジンバとヴァルシオンを先導し、陸地に降り立った。

416人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:52:57 ID:iASgr/Rt



「すごい、美女と野獣だ……!」

「な、なんだと!?」

自己紹介を終えてからそれぞれ機体から降り、向き合った四人。
筋骨隆々とした丸顔のジロンと可憐なミユキを見て、あまりに率直な意見を述べるミストに、
ジロンが顔をメロンにするような勢いで食って掛かり、それを仲裁するクルーゼとミユキ。
早くもグループ内のポジションが確定した瞬間であった。

「全く……いきなり撃ってくるわ、人を野獣呼ばわりするわ……なんなんだい、あんた達は?」

「すまなかったな、ジロン君。威嚇射撃だったのだが、誤解させてしまったかな?」

「ご、ごめんなさい……私がジロンさんを止めていれば、クルーゼさんの仮面がなくなる事も……」

「大丈夫さ、ミユキちゃん! それにクルーゼさんにはさっきの仮面よりそっちの方が似合ってますよ!」

最初はピリピリしていたジロンも、ミユキという緩衝材のお陰でクルーゼたちと打ち解け、
お互いにシャドウミラーに敵対する意志を確かめ合い、これまでの行動を語り合った。
もちろんクルーゼはコウの存在自体を語らず、ミストのほうをチラリと見て恩を売る。
少なからず罪悪感を覚えていたミストは、純粋に気を使ってくれたと取ってクルーゼを羨望の眼差しで見つめた。
ジロン達も、それぞれの探している人物やこれまでの経緯をクルーゼ達に教える。

「ふむ……ジロン君もミスト君と同じで、地球の人間ではないのか……驚きだな」

「惑星ゾラを知らないのかい? ミユキもそうだったし、なんか寂しいねえ……なあ、ミスト?」

(俺の出身はアトリームだよ……! ジロンさんのような野生児メインの星とは一緒にされたくなかった……!
 大体三日間逃げ切れば何をやっても無罪だなんて、法制度からして破綻してるじゃないか!)

「おいミスト、どうした?」

「あ、いえ。俺も異星人だけど、みんなとメンタルは変わらないつもりですよ」

「そしてミユキ君は私と同じ地球人だが、知る文化や常識はまるで違う、か……」

「地球を席巻するラダムを、本当に知らないんですか?」

きょとんとした顔で問い掛けるミユキに、男性陣が総出で頷く。
あまりに違う文化の集合に、この中では比較的冷静なクルーゼが目眩を覚える。

(素晴らしい……彼らの世界を全て巻き込んだ戦争が見たい!)

しかしその目眩は困惑からくるものではなく、歓喜の果てにあるものだった。
シャドウミラーに従って優勝すれば、その夢想も叶うだろう、とクルーゼは震えた。
そんなクルーゼの様子に気付かず、他の者たちはこれからどうするか話し合っている。
クルーゼは気を取り直すと、自分の提案が最も映える瞬間を狙い、議論に割り込む。

「ジロン君とミユキ君が置去りにした、ダルタニアスという巨大ロボットの事だが……」

「ああ、あれね。俺はミユキに乗ったら?って言ったんだけどさ、ああいう巨大ロボは苦手らしいのよね」

「私に最初に支給されたダイテツジンっていう大きなロボットをすぐに壊しちゃったから、不安で……」

「しかし、この場において戦力はあればあるほどいい。できれば回収したいが……」

「じゃあ、俺がひとっ走りヴァルシオンで拾ってきますよ!」
417人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 21:55:11 ID:iASgr/Rt


クルーゼがミストに視線をやる。あまりお遣いを頼みたいタイプではない。
かといって、ヴァルシオン以外に50m級の機体を運びうる機体などいないし……否。
パイロットを連れて行けばいいのだ、とクルーゼが思い遣る。

「いや……私が行こう。ミユキ君、諦めるのは試してからでもいいのではないかね?」

「え……」

「もしかしたら、簡単に動かせるタイプの機体かもしれない。同じ地球人のよしみだ、私の∀に同乗したまえ
 ……最も、君がテッカマンとしての力とやらを使って戦うのなら話は別だがね」

「ちょっとちょっと! 俺はまだミユキを預ける程あんたらを信用しちゃいないぜ!」

「君のお兄さんへの思いには私も胸を打たれた……私にも大事な親類がいてね。
 君の気持ちは誰よりも良く分かるつもりだよ、ミユキ君。だからこそ、君自身も戦う覚悟をして欲しいのさ。
 誰かを守るために、誰かを傷つけねばならぬ時がある……戦争だろうと、そうでない時だろうとね。
 そのために、人は力を求めると言っても過言ではない。それがどんな結果を生もうと省みることなく……!」

ジロンを無視してミユキにだけ語りかけるクルーゼ。
ミユキは迷っていたようだが、やがて決意したようにジロンに告げる。

「ジロンさん……私、クルーゼさんとダルタニアスを取りに戻ります。
 このクリスタルは、お兄ちゃんの為の物だから……私は、これを使いません」

「な、なんだって!? いいのかい、ミユキ!」

「私も、力を貸してもらうだけじゃ悪いですから。お兄ちゃんだけじゃなく、皆の為に戦います……たとえ、短い命でも」

微笑むミユキ。しかし、その微笑みが何を意味するのか、ジロンだけには分かる。
先ほどは軽い調子で言ったが、小一時間前にダルタニアスを発見した時はひと悶着あったのだ。
放置されていたダルタニアスを諦めた時、ミユキの顔には戦いへの拒否感があった。
それでも尚、戦う覚悟を決めた彼女を、どうして止められるだろうか。

「わかった……俺も、付き合うよ」

「それは必要ない。ジロン君、君にはミスト君と共に、雪原地帯の市街地に向かって偵察を願いたい。
 我々もすぐにそちらにいくから、待ち合わせといってもいいだろうが」

「おいおい、だから俺はまだあんたらを信用してないって……」

言いかけるジロンに、クルーゼが自分のディバッグを投げ渡す。
そこには、この島で生きるために不可欠な食料など、一つの欠損もなく全てが封入されていた。
ミユキに促し、彼女の分もジロンに預けるクルーゼ。

「これで、私が仮に彼女を殺しても何も得をすることはなくなった訳だ。なんなら、∀の武器も預けようか?」

「貸してくれるってんなら貰いますけどさ。う〜ん……分かったよ。とりあえず信用してやるさ」
418それも名無しだ:2010/01/23(土) 21:55:37 ID:eNTJfguz

419それも名無しだ:2010/01/23(土) 22:00:13 ID:eNTJfguz

420人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 22:00:45 ID:iASgr/Rt

迷いなく自分のメリットとなり得る全ての物を預けたクルーゼを一応認め、ジロンは渋々頷いた。
ビームライフル、ガンダムハンマー、ビームサーベルなど、めぼしい装備をジンバに移す∀ガンダム。
一方、置いていかれそうになったミストが、クルーゼに小声で伺いを立てる。
クルーゼがいなければ、ミストにとってゲイム・システムを抑えるのが困難になるのだから、当然だろう。

「でも、徒手空拳で大丈夫なんですか? クルーゼさん。(それに俺の機体の、あのシステムは……)」

「問題ないさ。この機体のポテンシャルならば、手刀だけでもそれなりに戦えるよ。
 (なるべく熱くなって戦わないようにしたまえ。そう長く離れるわけでもないし、戦闘を避けて動いてもいい)」

ミスト達は知る由もないが、それに加えて∀には核ミサイル、ビームドライブユニットといった武装がある。
クルーゼはそれを知っていて、戦力を増強し、かつ場合によってはミストたちを見限って行動できる流れを作る為に、
偽りの仲間に武器を預けて単独行動するという愚を犯したのだ。最も、今のところはミユキを殺すつもりもない。

(しばらくは君達と共に行動するのも悪くない。テッカマンとやらに興味もあるしな)

クルーゼはミユキをコックピットに乗せ、ミストとジロンの挨拶に返答しながら、∀を発進させた。
道中、より詳しくミユキの知り合いの話を聞こうと話題を振る。
"タカヤお兄ちゃん"ことDボゥイ、テッカマンブレードという男について、熱の入った解説を受けるクルーゼ。
妹が兄に向ける感情としては少々常軌を逸した物を感じるクルーゼだったが、とにかくその男は強いらしい。
彼女を手中に抑えておけば、大変使い出のある駒と成りうるだろう。

(家族、か……全く、素晴らしい物だよ)

敬慕する兄を語るミユキは気付かない。
本来の持ち主が、いやらしい視線で婦人を舐め回すために使ったサングラスの下の、クルーゼの本心に。

(なあ……ムウ、レイ……)

その、皮肉に。
421人間爆弾の恐怖〜序章〜 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 22:01:53 ID:iASgr/Rt

【ジロン・アモス 搭乗機体:ジンバ(OVERMAN キングゲイナー)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在地:D-7
 第一行動方針:雪原の市街地に向かい、クルーゼとミユキを待つ
 第二行動方針:ティンプと決着をつける
 最終行動方針:シャドウミラーをぶっ飛ばす
 備考:ジンバは∀ガンダムの武装を一部借り受けています】

【ミスト・レックス 搭乗機体:ヴァルシオン改@スーパーロボット大戦OGシリーズ
 パイロット状況:良好
 機体状況:前面部装甲破損 エネルギー消耗(中) 核弾頭秘蔵
 現在位置:D-7
 第1行動方針:仲間を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:雪原の市街地に向かい、クルーゼとミユキを待つ
 第3行動方針:戦いに乗った危険人物、イスペイルは倒す
 最終行動方針:シャドウミラーを倒す】
 ※ゲイムシステムは、戦闘が終了すると停止します。一定時間戦闘していると再び発動。
 ※ヴァルシオン改の内部に核弾頭がセットされました。クルーゼの遠隔操作でいつでも起爆できます。



【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
 パイロット状況:良好 仮面喪失 ハリーの眼鏡装備
 機体状況:良好 核装備(1/2)
 現在位置:C-7
 第1行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:ダルタニアスを取りに行って、雪原市街地でミストたちと合流する
 第3行動方針:手駒を使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
 最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす(できれば全ての異世界を滅茶苦茶にしたい)】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。
※ヴァルシオン内部の核弾頭起爆スイッチを所持。

【テッカマンレイピア 搭乗機体:なし(∀ガンダムに同乗中)
 パイロット状態:体力消耗
 現在地:C-7
 第一行動方針:タカヤお兄ちゃんを助ける
 第二行動方針:私も……戦う!
 第三行動方針:アックス、ランス、アルベルトに警戒
 最終行動方針:みんなで生きて帰れる方法を探す
 備考一:テッククリスタル所持
 備考二:Dボゥイの異常に気が付きました】


【一日目 9:30】

422それも名無しだ:2010/01/23(土) 22:02:21 ID:eNTJfguz

423 ◆s2SStITHHc :2010/01/23(土) 22:02:46 ID:iASgr/Rt
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
424それも名無しだ:2010/01/23(土) 22:06:34 ID:eNTJfguz
投下乙です
ミストさん、あなたという人はw

クルーゼも、ここまで扱いやすいと笑いが止まらんな
ミユキとの同行はどのような結果を齎すか楽しみです
425それも名無しだ:2010/01/23(土) 22:56:01 ID:cr/96BVa
ミwwスwwトwwさwwんww
思考回路がアレ過ぎるww
コウさんに降参じゃねーよwww
426それも名無しだ:2010/01/23(土) 22:59:44 ID:WgmrLOrJ
投下乙!

ミストさん……駄目だこいつ、本気ではやくなんとかしないと……w
427それも名無しだ:2010/01/23(土) 23:08:28 ID:Ws3jvJSF
投下乙
ミストさんまじでヒドイw
しかしこれで原作に相当近いというのもまたあれだな
428それも名無しだ:2010/01/23(土) 23:50:07 ID:yMpIE/kC
ミストさん色々とおかしいだろwww
429それも名無しだ:2010/01/24(日) 00:09:06 ID:jFYiDxFE
ミストさん……あんたはいったい何なんだー!!
そしてクルーゼマジ外道。
ミユキ危ない逃げて逃げて
430それも名無しだ:2010/01/24(日) 00:46:47 ID:uDatKzsp
投下乙
ミストさんwww
クルーゼすら引かせるその思考wwww
でも修正する必要がないとはwwww
431 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:32:32 ID:Mw1Ci7Zw
投下します
432それも名無しだ:2010/01/24(日) 23:33:12 ID:Mw1Ci7Zw
(プル……ジュドー……どこにいるんだ……)

プルツーは焦っていた。


少し前、プルツーは見慣れない機体の残骸を発見する。
開始からまだ時間はそう経っていないが、すでに戦いは各地で繰り広げられているのだろう。
比較的原型のまま残っていた右腕のパーツ等からみるに、通常のMSと同程度のサイズの機体のようだ。
その右腕のパーツはプルツーにとってはあまり見慣れない形で残されていた。
重火器の直撃等による爆発で吹っ飛んだのでもなく、ビームサーベル等で焼き切られたのでもなく、力ずくで引き千切られたのでもない。
そう、まるで鋭利な刃物で切り落とされたかのような断面を残していた。
自分は知らないが、ヒートサーベル等とも違う機動兵器用の完全な実体剣などが開発されていたのだろうか。
いや、仮にそんな物が存在していたとしても、この様に見事なまでに綺麗に切れるものなのだろうか。
MSの操縦には自身はあるが、自分にはそんな芸当はまず不可能だろう。
胴体部に何かしら攻撃を受け、爆発したのが決め手となったようだ。
コクピットにあたる部分がどこに存在したのか分からない程に跡形も無くなっている。
もしもパイロットが脱出できていなかったとしたらまず助からないであろう。



―――一体誰が乗っていたのだろうか?



まさか、あの機体に乗っていたのがプルかジュドーだったとしたら……
いや、あの二人もパイロットとしてかなりの腕をもっている。そう簡単に敗れてしまう事はないはずだ。
仮にこの機体に乗っていたとしても上手く脱出している可能性もある。
……だが、二人が自分のように機体に恵まれているという保証も無い。
二人の力を活かしきれないような機体が与えられていたとしたら……
あるいはこのデュラクシールのような強力な機体に襲われていたとしたら……


もしかしたら、二人とも既にどこかで死んで――――


そんな考えが一瞬頭をよぎり、不安を振り払うように再びプルツーは動き出す。
自分の家族を捜し求めて。
しかし誰とも出会うことは無く、時間だけが過ぎていく。


433 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:34:24 ID:Mw1Ci7Zw




「へへっ、こいつにも結構慣れて来たな!」

アポロはこのダンクーガの本来の操縦者という男との戦いの後、そこで得た感覚を忘れない内にこの機体を乗りこなそうと訓練していた。
というよりは、子どもがようやく自転車に乗れるようになってきて、はしゃいでそこらを走り回っているといった感じである。

少し分かった事がある。
確かにこいつはアクエリオンとはまるで動かし方が違う。俺には難しすぎて今もまだ扱いきれてねえ。
だが、近い部分もある。こいつはただの機械じゃねえ。
よく分からねえが、なんというか俺の気分や調子がそのままこいつに乗り移ってるみてえだ。
あいつをぶん殴った時もそうだ。俺が気合入れた分だけこいつもそのまんまパワーを上げやがる。
こいつを上手く動かせるようになって俺がもっと気合入れてやりゃあもっと凄え力がだせるはずだ。
最初のうちはこりゃあ駄目だと思ったもんだが、俺は思いのほかついてたみてえだ。
全部片付けたらそのまま持って帰って、こいつで堕天翅共と戦うってのも悪くねえかもしれねえ。

「さあて、そろそろ次の相手を探しに行くとするか!……っとなんだ?」

タイミングよくレーダーが他の参加者の機体に反応する。しかもこちらの方に向かって来ている様だ。

「よおっし!今度の獲物はこいつだぁ!」







ようやく他の参加者の反応をレーダーに捉えたプルツー。
接触を図るべくそちらへ向かう途中、こちらに気付いたのか向こうの方からも近づいてくる。
相手はヴィンデルの話に乗った殺戮者なのかもしれない。
だが、自分と同じように打倒シャドウミラーを志す者の可能性もある。
少なくともそういう人物はゼロではない。
ヴィンデルに襲い掛かったあの勇敢な男、ロム・ストールとは協力が得られるはずだ。
それに……そう、もしかしたら……
ジュドーに……プルに……会えるかもしれない……!!
様々な考えがプルツーの中で巡る。


相手の機体が確認できる距離まで近づいてきた。
これもまた見慣れない黒い機体。MSとしてはかなり大型であのクィン・マンサに近いくらいか。
真っ直ぐこちらへ向かってくる。やはり向こうもこちらに気付いているようだ。
プルツーが話しかけようとした瞬間――――


「そこの野郎!俺と勝負しやがれぇっ!!」
「なっ!?」


怒鳴り上げるとともに、黒い機体は殴りかかるような体勢でものすごい勢いで突っ込んで来る。

434 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:35:17 ID:Mw1Ci7Zw
プルツーの僅かな期待は裏切られる事となる。次々と拳を繰り出すダンクーガ。
しかし、

(こいつ……さっきの野郎の倍はでけえくせに……)

相手が殺戮者である可能性も想定し、十分警戒していたプルツー。
確かにその拳はかなりの速度と威力を具えてはいたが、
まだまだ未熟で乱暴なアポロの腕でただ闇雲に撃つだけでは、プルツーとデュラクシールにはかすりもしなかった。

「お前はあのヴィンデルという男の話に乗ったのか!!」

(―――こんなガキもいやがるのか!?)
荒廃した町で共に生き抜いてきた、本当の家族のような仲間たちの事が頭をよぎる。
彼らとそう変わらないような年恰好の少女が相手と知り戸惑うアポロ。
そして改めて思う。自分はこんな所でぐずぐずしている暇はないのだと。
(……まあ、大怪我させないうちにとっとと終わらせちまえばいいか!)

「あの野郎は気に食わねえが、要は全員ぶっ倒しゃあいいんだろ?
 てめえで二人目だ。さっさと片付けさせてもらうぜ」
「!? 既に他の参加者を!!」
「ああ、なんかギャーギャーやかましい野郎だったな。そういやだいぶちっせえけどお前のロボットと結構似てたな。
 そいつの子分かなんかか?まあ俺のパンチでぶっ飛ばしてやったぜ!」

こんな状況だ。例え攻撃をしかけられたとしても、それはただ相手が恐怖で錯乱しているだけの場合もある。
それなら落ち着かせる事が出来ればまだなんとかなるかもしれない。
だがこいつは違う。この男は明確にヴィンデルの話に乗っている。
ただ言葉だけでなく、この男からは押さえきれない程の荒々しさを感じる。
さらにこの男は既に誰かを襲っている。この男に何かを訴えていたであろう誰かを。
プルツーはそう判断する。
それに、

(……ガンダム、タイプ……)
誰が乗っていたのか、どんな機体だったのかは正確には分からない。
プルツーに推測できたのはこの男に落とされたのはガンダムタイプの機体であろうという事。
そして、思わず思い浮かべてしまった。
プルツーのもっともよく知るガンダムが。
ジュドー・アーシタの愛機、ダブルゼータガンダムが落ちる瞬間を。

「そうか……そういうことなら……容赦はしないっ!!」

435 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:37:13 ID:Mw1Ci7Zw
尚も突撃を慣行してくるダンクーガに対し、デュラクシールがハイパープラズマソードを抜き放つ。
アポロは野性の感で危険を察知し、そのまま突っ込んでいれば高出力の光の刃で斬られていた所間一髪でブレーキをかける。
その後たて続けに襲ってくる追撃の刃も危ういながらもかわす。

「ちいっ……!だったらこっちも断空剣だ!」

相手に対抗し、断空剣を取り出すダンクーガ。剣同士による打ち合い。
野生児アポロの反射速度は人間離れしているが、戦闘マシーンとして育てられたクローン・ニュータイプであるプルツーのそれも相当なも

のだ
元々武器の扱いには慣れていなかったアポロだが先程の経験が幸いした。
なんとか斬撃を受け続ける事に成功する。

(こいつ、図体がでかいだけあってやっぱパワーもありやがる……)
「ええいっ!」

幾合目かの打ち合い。鍔迫り合いで硬直した瞬間を狙い、デュラクシールがダンクーガに前蹴りを入れる。
デュラクシールは距離をとり、ダンクーガはやや体勢を崩しながら飛ばされる。
ここぞとばかりにプルツーは攻勢に出る。

「いけっ!タオーステイルッ!」

デュラクシールの肩のアーマーが外れ、射出される。
タオーステイル―――プルツーのよく知るファンネルと似た特性を持つ兵器。
パイロットの思うように遠隔操作可能な無線式の自動砲台である。

「な、なんだこいつは……うおっ!」

縦横無尽に動き回るタオーステイルに翻弄されるアポロ。
ファンネルを使いこなしていたプルツーにとってこの武器はとても相性がよかった。
そしてその破壊力はファンネルを上回る。ダンクーガの重装甲にもダメージを与えるほどに。

「ちっ!ちょこまかしやがって……」
「はっ!お前なんかにこの動きが見切れるものか!」

撃墜しようとするも、ダンクーガの拳が、蹴りが、剣が空を切る。
悠々とアポロの死角から攻撃を繰り返すタオーステイル。
無視してデュラクシールの方を叩こうにも、すかさず本体を守るよう回り込み砲撃をお見舞いする。
このように妨害された状態でたやすく捕えられる様なプルツーとデュラクシールではない。

(くそっ……こいつをまずどうにかしねえと近づく事も出来ねえ……)

それぞれのスピードは追いきれない程ではない。
ダンクーガの装甲ならば多少あの砲撃を食らったとしてもまだ大丈夫だろう。
ならば……。

「でええええりゃあ!」

一番近くにいたタオーステイルに対し特攻をかけるダンクーガ。
他には目もくれず一つ一つ確実に潰す。これがアポロのとった策。
タオーステイルから容赦なく砲撃を浴びせられるが、この程度でダンクーガは落とせない。
断空剣で斬りかかるがまたしても空を切る。だが、今回はここで終わらない。

「逃すかああああっ!!」

タオーステイルが逃れた方向にすかさず反転するダンクーガ。
凄まじい反応速度を見せタオーステイルに追い付き、剣を持っていない左手の手刀で叩き落す。

「よっしゃあ!この調子で全部叩き落してやるぜ!!」
436 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:38:45 ID:Mw1Ci7Zw
これまでの経験が実を結び、ここにきてアポロは本家獣戦機隊に近いレベルでダンクーガを乗りこなしつつあった。
だが―――


「何を喜んでいる?隙だらけだぞ」
「!?」
「これで、落ちろっ!!」


デュラクシールからいくつものビームが、ミサイルが、同時に一斉発射される。その量はただただ圧倒的。
タオーステイルを落とす事に集中する余り、アポロはデュラクシールの方への注意がおろそかになってしまっていた。
今からこの物量をかわす事など不可能。







まじい、ドジっちまった。
この数はさすがにこいつでもちょっとやべえかもしんねえ……。
もうちょい早く気付いてりゃまとめて食らうなんて事もなかったかも知れねえが、もう遅い。
今からじゃ逃げきれねえ。
逃げらんねえなら……

―――みんなまとめてぶっ潰す!!







背面の砲身が稼動し、ダンクーガに装備された全ての砲門が前方に向けられる。
全砲門一斉発射状態―――断空砲フォーメーションが完成する。

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

アポロの感情に呼応するように高められた凄まじい量のエネルギーがダンクーガから放出される。
そのアポロとダンクーガの全霊をかけた一撃は、ビームとミサイルの群れを一瞬で押し潰す。
そして、そのまま止まることなくその先にいるプルツーとデュラクシールの元へ――――

「なっ!?」
「いっけえええええええええええっ!!」


凄まじい爆音と共にデュラクシールが絶対的な破壊の光の中に飲み込まれる。
437 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:40:17 ID:Mw1Ci7Zw
「こりゃあ、ちとやりすぎちまったか……?」

あまりの威力に放った本人であるアポロも思わず驚いてしまう。
あの少女がどうなったか気にかかる。
やがて爆煙がはれていき、視界が開ける。
そこには――――

「まじかよ……」


五体満足なデュラクシールの姿があった。



(今のは危なかった……デュラクシールでなければ落ちていた……)

確かに断空砲フォーメーションの威力は凄まじかった。
とっさに盾代わりに呼び戻したいくつかのタオーステイルを破壊してなおデュラクシールに軽くはないダメージを与えた。
だがそこまでだ。
分身とはいえ邪神を圧倒し、敗れたとはいえ魔装機神とスーパーロボット軍団の猛攻と渡り合った超魔装機はここで落ちる事はなかった。

「お前の力は危険だ……徹底的に破壊する!」
「へっ、これからが本番てか……?それじゃ第二ラウンドといこうか!」


再び戦いを始めようと動き出した瞬間、二人の間に光弾が飛来する。

「何だ!?」
「新手か!?」

光弾が発射された方向を向くと、そこには僕を引き連れた異形の姿が――R-GUNリヴァーレが存在した。


R-GUNリヴァーレのパイロット――レイ・ザ・バレルが二人に呼びかける。

「お前たちに問う。お前たちはあの男の言葉に従い最後の一人になるまで戦おうとする者か?」
「ああっ?何ごちゃごちゃ言ってんだ?」
「質問に答えてもらおうか。」
「……俺はこんな所でぐずぐずしてる訳にはいかねえんだ。とっとと全員ぶっ飛ばして帰らせてもらうぜ!」

まずレイの問いに答えたのはアポロ。そしてプルツーの答えは―――


「ふざけるなっ!!」

438 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:41:59 ID:Mw1Ci7Zw




ここにはジュドーが……プルがいるんだ……
あたしが殺してしまったはずのプルが……
それに、あたしももうあそこで死んでしまうのかと思ってた。
でも、また二人に会えるかもしれないんだ……!
それがまた二人と戦うためなんて嫌だ……
あたしはもうそんな事できない……!
あたしは、もう二度と二人を悲しませるような事はしない!!







「そんな事ができるか……ここにはあたしの家族がいるんだ……!
 二人の敵になるという奴は、あたしが全部叩き潰してやる!!」

「お前……」
「……なるほど、お前たちの考えは分かった。ならば……」

ガン・スレイヴの砲門が一斉にダンクーガの方を向く。

「娘よ、俺はお前の方に付く事にしよう」
「何っ!?」
「はあっ!?」

レイの言葉に驚きを隠せない二人。

「これで2対1だ。このまま戦ってもお前の勝ち目は薄いぞ。さあどうする、そちらのパイロット」

「……邪魔が入っちまったし、しゃあねえ。今回はこれで切り上げるとするか!
 そこのガキ、機会があったらまたやろうぜ!じゃあな!」

そう言い残し、アポロとダンクーガはこの場から去っていく。


「待てっ!!」
「深追いはするな。俺たちの機体は消耗している。
 確かにこのままあの男と戦っても勝てない事はないだろうが、それで全てが終わるという訳ではない。
 もっと慎重に行動するべきだ」
「……あたしはお前を信用した訳ではない。」

プルツーは戦う構えを解かず、レイを警戒する。

「……俺の家族や仲間もここに集められている。俺一人が勝ち残るという訳にはいかないんだ。
 この状況を打開するべく協力者を探している。出来れば手を貸して貰いたい」
「…………そうか、お前も…………分かった、手を貸そう」
「協力感謝する」

439 ◆EIyzxZM666 :2010/01/24(日) 23:43:05 ID:Mw1Ci7Zw




(……とりあえずは上手くいったようだな。)

あの黒い機体の放った攻撃は凄まじいものだったが、それを受けてまだ余力を残しているこの機体と娘の力も相当なものだ。
この力を合わせれば、あの暗黒大将軍のような化け物どもが相手でもかなり勝算があるだろう。
野獣のようなあの男とはとても協力できるとは思えなかったし、放って置いても勝手に他の参加者に襲い掛かってくれるだろう。
せいぜい潰しあってくれ。

この娘は優勝狙いではなく、家族と共に帰ることを望んでいる。
油断はできないが、俺がボロさえ出さなければ当面は裏切られる事もないだろう。
それに、どうやらこの娘はあまり他人と関わる事に慣れてはいないようだ。
ここに呼ばれた家族という者たちが数少ないより所なのだろう。
もしかすると、上手く導いてやれば俺の思うように動き、俺の思う敵を討つ力となるよう仕向ける事もできるかもしれない。
少なくとも、優勝狙いの参加者のような自分の家族を傷つける可能性の高い相手とは問題なく戦ってくれるはずだ。
この娘がいれば、その家族という者との接触もスムーズにいくだろう。
利用するだけ利用して、使いようがなくなってから始末すればよい。
あそこでまともに戦うより、そうやって信用を得た相手を狙った方がはるかに効率がいい。


家族……か……







正直な所、まだあの男を信用しきった訳じゃない。
あの男からは、何か嫌な感じがする。
もしかしたら今も寝首をかく策を練っているのかもしれない。
もしもそうなら、そうと分かればあたしがこの男を討つ。


でも……あの時は違った……
あの男が家族や仲間の話をした時だけはあまり嫌な感じがしなかった……

この男の家族や仲間に対する想いだけは……それだけは信じたい……
440それも名無しだ:2010/01/24(日) 23:49:08 ID:2UzziSB/
支援
441それも名無しだ:2010/01/24(日) 23:53:15 ID:jFYiDxFE
支援
442それも名無しだ:2010/01/24(日) 23:54:26 ID:2QSRtovr
 
443代理投下:2010/01/24(日) 23:55:38 ID:jFYiDxFE




「そういえば名前を聞いていなかったな。俺はレイ。レイ・ザ・バレルだ」
「……プルツーだ」
「プルツーか。では、これからよろしく頼む」



【一日目 9:20】



【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:疲労(小)
 機体状況:EN残り50%、装甲各部位に損傷(再生中)、ガンスレイヴ一基破壊(再生中)、ディアブロ・オブ・マンデイの大斧を所持
 現在位置:D−5
 第一行動方針:プルツーを利用し、参加者を減らしていく
 第二行動方針:シンを探す。協力を要請するが、場合によっては敵対も辞さない
第三行動方針:ラウは……
 最終行動目標:優勝狙い
 備考1:メサイア爆発直後から参戦
 備考2:原作には特殊能力EN回復(大)がありますが、エネルギーはポイントで補給しなければ回復しません】


【プルツー 搭乗機体:デュラクシール(魔装機神〜THE LOAD OF ELEMENTAL) 
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:装甲各部位に損傷 戦闘に支障なし 肩パーツ(タオーステイル)がいくつか破損 EN・弾薬残り70%
 現在位置:D−5
 第一行動方針:レイを警戒、場合によっては排除。
 第二行動方針:ジュドー、プルと合流し守る。
 第三行動方針:ゲームに乗らない参加者と協力。
 最終行動方針:ゲームからの脱出、または打破。
 参戦時期:原作最終決戦直後】
444代理投下:2010/01/24(日) 23:56:26 ID:jFYiDxFE




(あいつ、自分の家族まで巻き込まれてんのか……)

状況が不利だったのは事実だ。だが、普段のアポロならそれ位で退く事はなかったかもしれない。
しかし、自分の家族のために戦うという少女の言葉を聞き、戦う気が削がれてしまった。少なくともあの場では。
(そりゃあ、こんなのでドンパチやってて無事ですむ保障はねえからな。そんな危険から家族を守るってか……)

「まあ、あいつのためにも俺がとっとと終わらしてやるか!」

かくして、いまだにここでの掟を把握しているようで把握しきれていないまま、アポロは次の得物を探す。



【一日目 9:20】


【アポロ 搭乗機体:ダンクーガ(超獣機神ダンクーガ)
 パイロット状況:疲労(中)
 機体状況:装甲各部位に損傷 戦闘に支障なし EN残り50%
 現在位置:C−4
 第一行動方針:ダンクーガの性能にご機嫌。誰だろうがぶっ倒す!
 最終行動方針:ぜんぶ倒して、最終的にはヴィンデルって野郎もぶっ倒す!
 備考:地図、名簿共に確認していません。そもそも気づいてもいません】
445代理投下:2010/01/24(日) 23:57:06 ID:jFYiDxFE
394 名前: ◆EIyzxZM666[sage] 投稿日:2010/01/24(日) 23:52:53 ID:VoIgbHgU
規制されたのでこっちへ続き投稿しました
以上で終了です
タイトルは「家族」で
446それも名無しだ:2010/01/25(月) 00:22:44 ID:0fgLlHko
投下&代理投下乙!
プルツーかっけぇ!
デュラクシールをZZの子分と考えたアポロの思考が実にやつらしいw
レイは戦うかと思ってたので良い意味でびっくり!
家族というキーワードでプルツーとくっつけるとは……なるほどその手が。
447それも名無しだ:2010/01/25(月) 00:32:05 ID:Qeqnk2fo
クローン同士だな、そういや
448それも名無しだ:2010/01/25(月) 00:53:52 ID:Cnk61Q2j
投下&代理投下乙

なるほど、これは色々と上手いです
家族とかクローンとか確かに似てるわ
アポロは順調に暴れてるなw マーダーに限りなく近いのに明るい奴めw
449それも名無しだ:2010/01/25(月) 12:10:25 ID:jiGNp93R
投下乙。

アポロがアホの子すぎるwww
結果的にいろんな意味で面白いコンビが出来上がったなあ。
家族といえばクルーゼがミユキと同行中、一方ジュドーがDボゥイと遭遇中なのが
狙ったにしろ狙ってないにしろよくできてるw
450 ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:09:06 ID:0fgLlHko
ではシン、ヴィレッタ、タスク、レーベン、イスペイル、ガトー、甲洋投下します。
451それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:09:41 ID:WiomJPuj
支援
452儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:09:54 ID:0fgLlHko
「――ッ! ここは……」

エリアD-1、灯台下でバンダナを巻いた青年が目を覚ます。
タスク・シングウジ。彼曰く端正な顔だちには未だ疲労の色が見える。
それもその筈、彼は苦しい戦闘の末今まで意識を失っていたのだから。
だが、タスクは様々な戦いを潜り抜けた歴戦のパイロットだ。
覚醒したばかりの意識を辿り、自分の置かれた現状を冷静に確認しようとする。

「目を覚ましたようね、タスク」
「姐さん!?」

そんな時、タスクに細身の女性が声を掛ける。
ヴィレッタ・バディム。タスクの上官に位置する人間だ。
タスクは思い出す。そう、彼はヴィレッタに保護されていた。
運良く出会えたのが信頼できる上司であったことはラッキー以外のなにものでもない。
己の幸運さを噛みしめながらタスクは先ず思ったことを疑問にする。

「あのー……ちなみにオレ、どのくらいぶっ倒れてました?」
「そうね……一時間半程といったところかしら」
「マ、マジっスか!?」


タスクは支給された時計を慌てて見やる。
時間は午前九時を過ぎていた。
気絶した正確な時間はわからないがヴィレッタが言うなら一時間半ぐらい経ったのだろう。
一時間半もあれば危険な奴が襲ってきてもおかしくはない。
先程のバカみたいに腕が伸びる奴が追撃しに来た可能性もある。
しかし、今の自分は五体満足。
支給されたビックデュオも気絶する前となんら変わりはない。
ただ単に運が良かったのだろうか。
それもあるかもしれないが先ず考えられる理由は目の前にある。

「すみません、ヴィレッタ姐さん! 俺、とんだお荷物だったみたいで」
「いいのよ、タスク。気にすることではないわ。それに色々と考えることも出来たのだから……」

恐らくはヴィレッタが警戒に当たってくれていたのだろう。
ビックデュオの傍に聳えるはヴィレッタに支給された機体、ガルムレイド・ブレイズ。
ターミナス・エンジンを積んだそれはジョーカーの機体として選ばれただけのことはあり、強力な機体だ。
そこにヴィレッタの技量も加われば並の相手なら難なく迎撃出来たことだろう。
謙遜するヴィレッタへタスクは頭を下げながらますます感謝の念を覚えていた。

453それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:10:25 ID:WiomJPuj
 
454儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:10:47 ID:0fgLlHko
「さぁ、気がついたのであれば機体のチェックでもしなさい。いつまでもここにいられないわ」
「了解!」

ヴィレッタの指示にタスクは素直に従う。
SRXチーム程の交流はないがヴィレッタと不仲ではない。
常に冷静沈着。実にクールビューティという言葉が似合う女性であるとタスクは常々思っている。
たとえばこれ見よがしに強調されたあの双房などあまりに刺激が強すぎる。
健全な青少年たる自分をうっかり危ない道へ誘ってしまう程だ。

(ん……あれ。待てよ、何か忘れてねぇかな……)

そんな時、不意にタスクは思考に耽る。
気絶するまではいい。
面目ない結果に終わったが全て思い出せる。
問題はその後。戦闘終了と気絶の間に何かがあったような気がする。
それも些細なことではなくて一世一代のとっておきの出来事が。
超大穴に賭けたチップがビッグボーナスに成り替わろうとする瞬間を見届けるような瞬間が。
言いようのない興奮が、確かに目の前にあった筈なのに――


(考えろ!考えろタスク・シングウジ……! お前はやれば出来るやつだ。
何かあった筈なんだ! 幻想じゃねぇ……幻想だっていう奴が居るなら俺がぶっ飛ばす!
俺の純真な心をくすぐってくれる何かが、あったんだ!!)


今まで生きてきた中で、きっとここまで考えたことはなかっただろう。
己の脳細胞に軽く謝りながらタスクは無我夢中に考える。
無意識に俯き、視線はただどこまでも広がる
その形相はあまりにも必死で、周囲から見れば何があったのかと思われるに違いない。


455それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:11:09 ID:WiomJPuj
 
456儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:11:32 ID:0fgLlHko
「タスク?」

だからこそヴィレッタは声を掛ける。
あくまでも部下を気遣う上官として、それ以上でも以下でもなく。
声を掛けられたタスクは思わず顔を上げた。
そこに広がったのは――まさに夢の光景。
水着ともボンテージとも取れる黒のスーツ。
細い両肩はあらげもなく露出しているだけでなく、おへそ周りも真っ白な肌が見えている。
さらにはすらっと伸びる四肢がヴィレッタのプロモーションをこれでもかと強調している。
間違いない。自分が求めた希望は目の間にあった。
理性よりも先ず本能が先走り、タスクは口走る。
もちろん、全開の笑みでヴィレッタへ。


「姐さん! なんですかそのコスチュームは!? サイコーっスよ! 全ての男共を代表させて言わせてもらうっス!!
ところでそれって姐さんの趣味ですか!? こんな趣味してるならもっと早くいってもらえれば――」



グボ。
鈍い音がタスクの腹部から響く。




「……バカを言うな。恥ずかしいのよ、これは」




ほのかに顔を赤らめたヴィレッタが拳を握っていた。



◇     ◇     ◇


457それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:11:35 ID:ypq1GLPG
    
458それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:12:03 ID:iQg6L9TO
459それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:12:10 ID:WiomJPuj
 
460儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:12:15 ID:0fgLlHko
「女!女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「くっ、しつこい! なんなのだお前は!?」


エリアD-7の上空で二つの起動兵器が飛行している。
同行しているわけではなく、片方がもう片方を追いかけているのは明らかだ。
追っている方はアルテア星の守護神、ゴライオン。
追われている方はスーパー・マシンナリー・ヒューマノイド、ヴァルシオーネR。
両機はかれこれ一時間程は周囲を彷徨っていた。

「うろちょろ逃げ回らずにさっと死ね! 女ッ!!」

ゴライオンからもう何度目かわからないレーザーマグナムが撃たれる。
戦闘行動が長引いた原因は一つ。
ゴライオンを操縦するレーベン・ゲネラールが持つ女性に対する歪んだ憎悪のせいだ。
ヴァルシオーネRの外見はどう見ても女の子でしかない。
だが、機械と生身の人間という違いはレーベンにとって些細なことだったようだ。
たとえ起動兵器であろうとも、レーベンは目の前の女を破壊するためにゴライオンの猛攻を止めようとはしない。

「お、おっと! こいつめ……!」

一方、ヴァルシオーネRはバーニアを駆使しながら器用に銃弾を避ける。
ヴァルシオンとは違い、機動性に重点を置かれているためいまだ被弾はない。
寧ろこれまでの戦闘の損傷があるゴライオンの方が状況的に不利だろう。
しかし、ヴァルシオーネRのパイロットであるイスペイルはただ困惑していた。
装備されたハイパービームキャノンでゴライオンを牽制しながら思考を回す。

(我々の情報が漏れているとでもいうのか……! くそ、シャドウミラーめ!
殺し合いをしろと言ったくせに、公平なルールさえも満足に用意出来んのか!)

ジョーカーとしてイスペイルが他者に行ったことはこれといってない。
したがって警戒はまだ仕方ないとしても、危険人物として断定はされない筈だ。
そう、今のように有無を言わさず執拗に狙われることなど考えにくい。
故にイスペイルはレーベンには自分にとって何か不利な情報が伝わったのではないかと推測した。
イスペイルは他者と接触していないため、当然情報源はシャドウミラーとなる。
開始早々から7人のジョーカーといった仕込みを用することから不信感はある。
他に疑う材料がない分、シャドウミラーならやりかねないと考えてしまう。
やはりシャドウミラーもイディクスの幹部である自分を警戒していたのだろうか。

461儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:12:56 ID:0fgLlHko
(いや、ヤツはさっきから女としか言っていない。狙いは私ではなくこのヴァルシオーネR……!)

しかし、イスペイルは直ぐに自らの考えを翻す。
ゴライオンの攻撃からは形容しがたい憎しみが感じられる。
それになによりも敵はイスペイルという存在よりもヴァルシオーネRに固執している。
女と口汚く罵るのが何よりの理由だ。
この殺し合いに呼ばれる前にこっぴどくやられたのだろうか。
事実は定かではないがどちらにしろ迷惑極まりない。
それもこれも全てはふざけた外見をしたこの機体を支給されたせい――。
イスペイルの頭の中で何かが閃く。

(待て! ヤツの狙いがヴァルシオーネなのは疑いようはない。
だが、もしヤツの本当の狙いが私の考えている通りなら……やってみる価値はあるか!)

ハイパービームキャノンの連射を構わず突進してきたゴライオンを避けながらイスペイルは一つの推測を出す。
科学者の悪意が集まったことで形成されたイスペイルには彼の部下とは違い確かな知性がある。
それこそ知的生命体である人間以上に考え、自我を以て行動することが可能だ。
たえば自身を創造した君主への謀反を企てる程に。
故にイスペイルは今までのレーベンの行動から考え一つの行動に出る。


「そこのライオンロボのパイロット! 少しだけでいいから私の話を聞け!」


ヴァルシオーネRには似つかわしい威厳に満ちた声が周囲に反響する。
イスペイルはヴァルシオーネのオープンチャンネルで呼びかけた。
それは勿論反転し、再び襲いかかろうとしたゴライオンに向かって。
ゴライオンを操縦するレーベンの表情が僅かに険しくなる。

「なんだ!?」

レーベンにヴァルシオーネを逃がすつもりはない。
エーデル准将以外の女に、しかもここまでコケにされ、ただで済ますわけにはいかない。
しかし、イスペイルの言葉で動きを止められたことが彼にほんの少しの冷静さを戻させた。
計器を見ればかなりのエネルギーを喰っている。
ここはがむしゃらに攻めるだけでなく、イスペイルの話を聞く振りでもし、隙を窺ってもいいかもしれない。
密かに算段を練り始めたレーベンは操縦レバーを握る手に込めた力を僅かに緩ませる。
そんな時、レーベンは思わず自分の耳を疑った。


462それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:13:20 ID:IeCDUXZK

463それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:13:27 ID:WiomJPuj
 
464儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:13:38 ID:0fgLlHko
「キサマの趣向に口出しするつもりはない……だから私はキサマを特別に可哀想なヤツだとは思わん!
地球人とは色々なヤツが居ると私も知っているからな」


地球侵略以外にイスペイルは個人的に人間の研究を行っている。
その内容はより絞れば人間の心についてであり、人間の感情も範疇に入っている。
元々が科学者だったためかその探究心は強い。
だからこそイスペイルは目星をつけていた。
狂的な程にヴァルシオーネRをつけ狙うレーベンの行為にもなんらかの意味があるのではないか。
死ねとは言うもののこれはもしやアレではないだろうか。
地球の、何かの文献を読み漁っていた時に見つけた資料に書かれた言葉が蘇る。
ゴライオンの動きが丁度止まったこともあり、イスペイルは最後まで言い切ることを決める。
この時点で自分が何か可笑しなことを言っていることに気づく筈もなく、彼はつづけた。



「だから提案だ。お前と私の機体を交換しようではないか!
お前が欲しいのはこの機体なのだろう。この機体で寂しさを紛らわすつもりかもしれんが……まあ、いいではないか。
私もこの機体では色々と不便なのでな。悪い話ではあるまい?」


知識を詰め込む者は時折自らの得た知識が全てと思いがちになる。
科学者であるイスペイルにとってそれは尚更のことだろう。
『愛を超越すれば、それは憎しみとなる』――何故だかここになってイスペイルが思い出した言葉だ。
当時は眉唾ものだと思っていたが、なるほど実際に目の前にすればある程度納得は出来る。
そもそもレーベンとはまともに意思疎通も出来そうになく、彼を深く考えるのは頭が痛くなってくる。
だからこそイスペイルは己の知識にレーベンを当て嵌めることにした。
女を愛するが故に歪んだ憎しみを持ってしまった悲しい人間。
それがイスペイルのレーベンに下した評価だ。


(そう、悪い話ではない。なにせどちらかといえば私の方が損をしている条件だ……!
ヤツの機体の方が損傷は大きい。しかし、もうこの機体は……嫌だ。やはり私には合っていない……!)


465それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:14:01 ID:IeCDUXZK

466それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:14:09 ID:iQg6L9TO
467儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:14:30 ID:0fgLlHko
右の人差し指をヴァルシオーネRはゴライオンに向ける。
その姿は勇ましく、まさしくヴァルキュリアと呼ぶに相応しい。
イスペイルの自信に満ちた言葉と態度が実に反映されているようだ。
対するゴライオンの動きは完全に止まり、沈黙を貫いている。
考え込んでいるのだろう。除々に余裕が出てきたイスペイルはじっと待ってやる。
その何気なく振りまく優しい気配りが、部下に慕われている密かなポイントなのだが彼は知らない。
やがてレーベンが返答する。


「……キサマ、名前はなんだ?」
「私か? 私はイスペイルだが……」
「そうか……なら――」

先程とはうって変って静かな様子を見せるレーベン。
しかし、イスペイルはなんだか妙な気がしてならない。
人間の言葉で言えば直感というやつだろうか。
何故だか不吉な、それかなり不吉な予感がする。
そしてその予感は――案の定現実のものになった。



「死ねええええええええええええええええええええ! イスペイルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」


あまりにも的外れな言動をたらたらと流したイスペイルのヴァルシオーネRにゴライオンが迫る。
その勢いはここ一番。女に対する怒りを込めたものと見劣りしない。
侮蔑を、それもよりによって女絡みの侮蔑とは考えるだけでおぞましい。
やはりこいつはここで殺す。最早レーベンに一切の迷いはなく、ゴライオンの右腕が大きく振りかぶられる。

「なに!? 交渉すら出来んとは嘆かわしい!」

対するイスペイルはまだ自分の言ったことは間違ってはいないと思っていないらしい。
だが、そんなことをいつまでも言っていられない。
今まさに繰り出されようとしているゴライオンの右拳から避けようとする。

468それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:14:45 ID:WiomJPuj
 
469それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:14:57 ID:IeCDUXZK

470それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:15:26 ID:WiomJPuj
 
471儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:15:32 ID:0fgLlHko
「くっ、速い!?」

しかし、ゴライオンの速度はイスペイルの目測を遥かに超えていた。
レーベンの怒りの理由を知らないイスペイルにとって彼の変化は予測できない。
咄嗟にヴァルシオーネRの両腕を交差させる。

「ぐあああああああああ!!」

間髪いれずにヴァルシオーネRの華奢な躯体に衝撃が走る。
200万馬力は伊達ではない。たとえ防御しようともダメージを完全に殺し切れはしない。
両腕を損傷させながらヴァルシオーネRは海中へ落ちていく。
ブースター系統が壊れたわけではないためイスペイルは直ぐに姿勢制御に取り掛かる。
されどもその隙を逃すほどレーベンは甘い男ではない。

「地獄の底で後悔するがいい! キサマのようなクズはこれで終わりだッ!!」

いつの間にか十王剣を手に持ち、ゴライオンがヴァルシオーネRへ振りかぶらんとしている。
落下運動による重力の補助を受けていることもあり、ゴライオンの速度は速い。
一方、ヴァルシオーネRのイスペイルは姿勢制御だけで手いっぱいだ。
辛うじてハイパービームキャノンを幾つか撃つに至るが、ゴライオンが止まる気配はない。
被弾しながらもなお接近し続けるゴライオンに、イスペイルは自らの危機を覚えた。


(まさか、こんな場所で……!)


イスペイルには何故か十王剣の動きがゆっくりと見えた。




そして――突如として二本のビームキャノンが両機の間を駆けた。



「チッ! だれだ!?」


横方向から伸びたビームをゴライオンは寸前で避け、レーベンが吼える。
振り返った先に佇むものは一機の黒い小型機だ
バックパックから伸びた二対の鋏が印象的だ。
才能を否定され、新たな世界の創造のために暗躍した兄弟の内、弟の機体。
その名はガンダム、ガンダムアシュタロンHC。


「アナベル・ガトー……見るに堪えん戦場だが、私は私の義を貫かせてもらう!」


そしてアシュタロンHCを駆るは、今は亡きジオンのエース。
ソロモンの悪夢、アナベル・ガトー少佐が戦場へ介入する。



◇     ◇     ◇

472それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:15:39 ID:iQg6L9TO
473儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:16:24 ID:0fgLlHko
ガンダムアシュタロンHCがビームキャノンを撃つ。
巨体ながらもゴライオンはビームを掻い潜り、腕を振るう。
されども機動性ならばアシュタロンHCに分がある。
ガトーの技術も重なりブースターを吹かせながら悠々と避けてみせる。
お返しにと言わんばかりにアシュタロン・HCが再びビームキャノンを発射。
二本とも直撃するが、既にゴライオンは身構えており、さしたる被害は見られない。
アシュタロンHCにはゴライオンの装甲を破壊する出力が。
対してゴライオンにはアシュタロンHCを捉えきる速度が足りなかった。

「チッ、このままでは消耗戦か……!」

アシュタロンHCのコクピットでガトーが苦虫を潰したような表情を浮かべる。
ガトーはイスペイルとレーベンの戦いを数分前から監視していた。
無理に仕留める必要もないが、目につく参加者を逃すつもりもなかった。
優勝するのであればどの道他の参加者を倒すしかない。
故に片方がやられ、消耗したところを狙ってもそれは構わないことだった、その筈だ。
しかし、明らかに一方的な戦局にガトーは介入の頃合いを速めてしまった。

(あの奇妙な機体、連邦のものかはわからん。
だが戦闘用ではないのは確かだ。戦う術も、意志すらも持たん人間を一方的に追撃するなど……やはり見てはいられんな。
私もまだまだということか)

自分の甘さをガトーは実感する。
わざわざ不要な困難を自身に強いることになった自分を悔やむ。
先程は出来た筈だった。たとえガンダムという因縁の敵であろうと、自分も無抵抗の人間を殺そうした。
しかし、今回は出来なかったどころか救助さえもしてまった。
自身の不審な行動に心当たりがないわけではない。
一年戦争時の技術を遥かに超えるガンダムならまだしも、あんなふざけた外見をした兵器など存在するわけがない。
所詮戦闘の機体ではなく後でどうとでも始末出来るとは思えるがそれは都合の良い言い訳だろう。
ならば何故、自分はこの戦場に介入したのだろうか。
だが、考えられる原因は他に何もないわけではなかった。

(フジワラシノブ……ふっ、私としたことがあんな若造に毒されるとは。
だが、ヤツは私が討った。いまさら後ろへ向ける背などもってはいない……!)

474それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:16:39 ID:IeCDUXZK

475それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:17:07 ID:iQg6L9TO
476それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:17:12 ID:WiomJPuj
 
477それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:17:20 ID:IeCDUXZK

478儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:17:46 ID:0fgLlHko
先程の戦闘で戦ったパイロット、藤原忍。
カナードが居なければあまりにもあっけなく命を散らすことになっただろう。
藤原は一言で言えば熱い男だった。
腐った連邦の将校とは違い、頑なに真っすぐな意志はジオン軍人の魂にも通じていた。
彼のような若者がこれからのジオンを支えていけばいつか悲願成就の日が来るに違いない。
やはり迷いが生じてしまったのだろう。未熟な我が身を思わず恨む。
あの非戦闘用の機体に藤原のような男が乗っていたらと思わなかったわけではない。
結局は藤原の命を奪った自分が言うことではないだろうが、彼はこんな場所で死ぬべき男ではなかった。

だからこそ彼の未来を奪った自分はなんとしてでも生き残らなければならない。
だが、藤原の事よりもガトーがこの戦いに介入した強い理由は別のことだった。
女、女と狂ったように叫ぶパイロットからは理性の欠片すらも感じられない。
恐らくはこの殺し合いという状況で狂ってしまった愚かなパイロットだろう。
ならば苦しませるのは酷だ。他者に、藤原のような信念を持った人間にとっては邪魔でしかない。
どうせ全ての参加者を倒すであれば、自分が汚れ役を背負うのも些細なことだ。
一旦ゴライオンから距離を取った後、ガトーは操縦桿を倒す。
瞬く間にアシュタロンHCはMA形態へ変形する。

「ちっ、変形した!」
「ただのMSとでも思ったか!」

両方のギガンテイックシザースを開き、ビームキャノンを乱射しながらゴライオンへ迫る。
変形したアシュタロンHCにゴライオンはレーザーマグナムで応戦する。
ビーム砲とレーザーマグナムの応酬が行われる。
ゴライオンはその場に踏みとどまり射撃に専念する構えだ。
しかし、アシュタロン・HCは止まることなくゴライオンへ突っ込む。
レーザーマグナムがかすり、装甲を削っていくが逆にアシュタロンHCの速度は見る見るうちに上昇する。
レーベンがイスペイルを逃がすつもりがないのと同じく、ガトーにもレーベンを逃がす気はない。
遂にはレーザーマグナムの雨を突っ切り、追い抜きざまにギガンテイックシザースを振るった。
ゴライオンの胴を猛烈に殴りつけ、アシュタロンHCは離脱していく。
それは俗に言う一撃離脱の戦法。旋回し、再び戻ってきたアシュタロンHCをレーベンは憎らしげに見やる。

「許さんぞ、キサマああああああああああ!」
「キサマではない! アナベル・ガトーだ!」
「ならば俺はカイメラの若獅子、レーベン・ゲネラールだ! 覚えておけ!」
「笑止! そのような言葉、私が覚えるに値する腕を見せた後にでも言ってもらう!」

迫りくるアシュタロンHCを尻目にゴライオンは更に上昇を掛ける。
続けて右腕を突き出したかと思うとすぐさまその腕から灼熱が生まれた。
ファイヤートルネードによる高熱の渦がアシュタロン・HCへ襲い来る。
突撃を敢行していたアシュタロンHCは急速に減速するが、完全には減らしきれない。
眼前に広がるファイヤートルネードに敢え無く突っ込む形となる。

479それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:18:13 ID:WiomJPuj
 
480儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:18:28 ID:0fgLlHko
「ぬぅおおおおおおおおおおおお!!」

ガトーの叫びがコクピット内で木霊する。
同時にアシュタロンHCはマシンキャノンの連射を開始。
牽制用に使われるマシンキャノンで狙いを絞るのは難しい。
だが、ガトーはマシンキャノンをあくまでも乱射するのではなく、ある一点を狙っている。
それは正面の少し上、丁度ゴライオンが居ると思われる地点。
マシンキャノンの一斉掃射によりその部分だけファイヤートルネードの層が薄くなる。
続けてビームキャノンをやはり二本とも発射、更に厚みが無くなった。
そして今度は急速に加速。やや軸を上に向けながらアシュタロンHCが全速で突撃。
身体に襲い来るGの衝撃に口元を歪ませながらも、ガトーはアシュタロンHCの操縦に全てを注ぐ。
やがてマシンキャノンとビームキャノンで薄くなったファイヤートルネードの突破に成功する。
纏わりつく火の粉を振り払うようにアシュタロンHCは再度変形。
右腕にビームサーベルを握りしめ、勢いは殺さずにそのままゴライオンへ斬りかかる。

「もらった!」

頭部を護るように掲げられたゴライオンの左腕を袈裟に斬りつけた。
両断には至らなかったものの、火花を伴った裂傷はハッキリとわかる。
確かな手ごたえを感じたガトーだったが彼はすぐさま次の行動に移る。
追撃ではなくもう一度離脱に意識を。
バーニアを利用し、ゴライオンの頭上をアシュタロンHCが飛ぶ。
止めを焦ることはない――だが、そんな時言いようのない悪寒がガトーを襲う。

「なめるなあああああああああああああああああ!!」
「なに!? やってくれる!」

見れば下のゴライオンがこちらに腕を振り上げている。
反撃は予測できた。しかし、予想よりも圧倒的にタイミングが速い。
事実、近接戦闘を得意とするレーベンの反撃は鮮やかなものだった。
止むを得ずアシュタロンHCは反転し、背部でゴライオンの拳を受けることになる。
拳の衝撃によりアシュタロンHCは吹き飛び、不規則な軌道を描きながらゴライオンから離れるがやがて停止した。
すぐさまガトーはアシュタロンのコンディションチェックに取り掛かる。
充分とは言えないが距離があったのは確かだ。
ダメージは当然あるが通常飛行に問題はない。
やがてアシュタロンHCのカメラアイがゴライオンを見やる。

「レーベンと言ったか。キサマ、カイメラとはなんだ? 連邦の特殊部隊か?」
「連邦だと!? 我々カイメラは新連邦の特殊部隊だ」
「なるほど。やはり連邦の一派か……!」

ガトーが知る知識では新連邦という組織は存在しない。
しかし、名前から察するに連邦の流れは汲んでいるに違いない。
信じがたいがアシュタロンHCの存在は、既にガトーにいつぞやの未来にもガンダムはあると示している。
ならばガンダムをフラッグマシンとして擁する連邦も存在しているのだろう。
更に醜く膨れ上がった連邦の成れの果てでもいったところだ。
我々ジオンはやつらに掃討されてしまったのだろうか。
その事実に悔しさを覚えずにはいられないが、今は目の前の戦いに集中するしかない。
先程の動きを見ればこのレーベンと言う男は新兵ではなく、明らかに実戦経験を積んだ兵士なのだから。
もはや聞きたいことは終えたといわんばかりのガトーだったが、レーベンが再び口を開く。

481それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:18:59 ID:IeCDUXZK

482それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:19:03 ID:WiomJPuj
 
483儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:19:10 ID:0fgLlHko
「だが、勘違いするな! 俺は新連邦などに属したつもりはない! 全てはエーデル准将のために、
いずれエーデル准将がお創りになる世界のために……俺はこの身を捧げるつもりだからだ!!」


ガトーにはエーデルという人間に心当たりはない。
したがってそのエーデルが一体どういう思想を持つ人間なのかもわからない。
だが、わかることはあった。
機体越しに伝わってくるはレーベンの強き意志。
一途なまでに強大なそれは信念というには最早生温い。


「見ろ! この俺の戦化粧を! これこそが俺の全て……エーデル准将への想い!!
この想い、キサマらごときクズどもがいくら集まろうと決して消せはしない!!」


思わずガトーは息をのむ。
唐突に転送された画像には金髪の青年の姿があった。
おそらくはレーベン・ゲネラールの素顔なのだろう。
しかし、何よりもレーベンの顔に施された真っ赤な戦化粧がガトーの注意を惹く。
更に両目はまるで研ぎ澄まされた太刀のように光り、ありあまる闘志を感じられる。
まるで獅子だ。それも負い目ではなく、躍動感に溢れる獅子だ。
レーベンという人間をただの狂人だとは思っていたが、ここにきてガトーは己の考えが違っていたのだと考える。
だが、ガトーの戦意が消失することなど、有り得るはずもない。
確かにレーベンの気迫は凄まじいものだが、ガトーにも譲れないものがある。

「レーベン・ゲネラール、その意気やよし! だが、キサマに忠義を誓う君主が居るように私にも居るのだ!
いや、君主だけではない、私は国家のために戦っている!
三年……三年待ったのだ。死んでいった同胞達に報いる日を迎えるまで、私は死ぬわけにいかん!!」


宇宙世紀0079年、後に一年戦争と呼ばれる戦争。
ガトーにとっては苦い負け戦であり、全てはあの時に止まってしまった。
ジオンの理想は、自らの命を預けるに相応しいと信じた理念が。
それがようやく成就しようとしている。
こんな殺し合いになど興味はない。
だが、ジオン再興の日を見届けるためにはこの場で生き残らなければならない。
そのためなら、たとえどんな信念や義を捧げる者であろうとも負けるつもりはない。
そう、たとえばこの獅子のように闘志を剥き出しにする若者を目の前にしても――何があろうとも、絶対に。
再度レーベンを倒すべき敵と認識し、ガトーは猛々しく叫ぶ。


「こい、カイメラの若獅子よ! キサマの信念、ジオンのアナベル・ガトーが討ち砕いてくれる!!」
「フン! いいだろう! 望むところ――――――――だ……?」



しかし、そんな時レーベンが素っ頓狂な声を上げる。
484それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:19:14 ID:iQg6L9TO
485それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:19:51 ID:WiomJPuj
 
486それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:20:04 ID:iQg6L9TO
487儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:20:07 ID:0fgLlHko
何事かと思いガトーはゴライオンを観察する。
見ればゴライオンはとある方向をじっと見ていた。
その先には一機の起動兵器、白い機体とピンク色の毛髪が嫌でも目を引く――。









それはこそこそとこの場から離れようとしているヴァルシオーネRの姿。
丁度海の上でバチャバチャと腕と足をかき、犬かきのような格好で。
イスペイルはヴァルシオーネRを泳がせて逃走を図っていた。




◇     ◇     ◇



488儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:20:48 ID:0fgLlHko
ゴライオンとガンダムアシュタロンHCが戦っている最中、ヴァルシオーネRは海中に沈んでいた。
アシュタロンHCの介入により十王剣の一撃を貰わなかったため致命傷はない。
だが、反転上昇は間に合わず、敢え無くヴァルシーネRは敢え無く海に墜落していたわけだ。
その理由は既に助かる筈もないタイミングだとイスペイルが半ば諦めていたことがあげられる。
というか、ぶっちゃけそれだけだった。

「くっ、やつらめ……ことごとく私を無視しおって……!」

結果的に助けられたがイスペイルにあまり良い気はしない。
なにせ両機とも自分に目もくれていないのだ。
これでは追撃を恐れて直ぐにでも上昇しようかと思った自分が悲しくなってくる。
しかし、ヴァルシオーネRが全く戦えないというわけではない。
いっそのことこのままあの戦いに乱入し、奴らに自分の力を見せてやろうかと思った。
ジョーカーとしてのノルマもいずれは果たさなければならないのだから。
だが、迂闊に飛び込んではうっかり流れ弾に直撃する可能性もある。
もう少し様子を見てもいいだろう。
怖いわけではないが、二機の注意を引かないようにイスペイルは除々にヴァルシオーネRを移動させていた。
バーニア類は使わずあくまでも四肢の駆動で、要するに海上を漂うといった形でだ。

「ふむふむ、向こうはアナベル・ガトーか……覚えておこう」

そんなこんなで色々と情報が入ってきた。
なにせ上空の二機は音声を外部にダダ漏れで戦闘を行っているのだ。
その音はイスペイルに嫌でも聞こえ、彼はアシュタロンHCのパイロットであるガトーの名を記憶する。
向こうはレーベンとは違い、自分の危機を救う形となったのだ。
一度くらいは見逃してやってもいいかもしれない。
下らない算段を練っている中でも依然として両機の戦闘は続いている。


489それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:21:18 ID:iQg6L9TO
 
490それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:21:36 ID:WiomJPuj
 
491儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:21:49 ID:0fgLlHko


『こい、カイメラの若獅子よ! キサマの信念、ジオンのアナベル・ガトーが真っ向から討ち砕いてくれる!!』


ガトーの咆哮は当然イスペイルにも届いた。
勝負をつけるつもりかもしれない。
ならば周囲への被害は今まで以上のものになるだろう。
しかし、相打ちでなくとももう片方も損傷は残る筈だ。
漁夫の利を得るためにも、あまり離れすぎず、安全を確保できるように、
またそれでいてやはり二人の注意を引かないようにするにはやはり泳ぎだろう。
既にヴァルシオーネRを泳がせるに慣れたイスペイルは両機からさらに離れる。
外見とは裏腹にあまり華麗な泳ぎでないことにはこの際目を瞑って欲しい。
そんな時だ。強烈な視線をイスペイルが感じたのは。


『フン! いいだろう! 望むところ――――――――だ……?』


後ろを振り返りたい。
だけども振り返られない。
振り返ってしまえば絶対に後悔すると思ったから。
だからイスペイルは気を取り直して泳ぐのを続けた。
しかし、予想に反して何も起こらない。

(き、気のせいか。なんだかとても悪い予感がしたのだが……ま、まあいい!)

ホッと安堵するイスペイル。
だが、彼はレーダーモニターを見る勇気はなかった。
まあ、どっちにしろ見る必要も――なかったのだが。



「逃がさんぞ、キサマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



もう二度と聞きたくないレーベンの叫びが、背後からイスペイルを襲った。


◇     ◇     ◇


492それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:22:22 ID:WiomJPuj
 
493それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:22:43 ID:IeCDUXZK

494儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:22:59 ID:0fgLlHko
「タスク、機体の調子はどうかしら?」
「万事オーケーっス、姐さん!」

ガルムレイド・ブレイズに操縦するヴィレッタが通信を送る。
それに答えるのは二度の気絶を体験したタスクだ。
ただし二回目は無理やりに起こされたという違いはあるのだが。
そして二人が現在いる場所はエリアC-2。
彼らは周囲の探索を行いながら、地図を見たうえで生じた疑問の答えを確認しようとしていた。

「ところで姐さんはどうなっていると思いますか?
俺はやっぱ端っこは行き止まりになってるんじゃないかって思うんですけども」
「そうね……まあ、直にわかることだわ」

参加者に配られた地図の端はどうなっているか。
極めて自然な質問だが知っておくに越したことはない。
よって共に飛行を行える機体でもあるので二人は確認する事に決めた。
ここまでは特に異常なし。出会った人間も一人も居ない。
だが、そんな時先行していたガルムレイド・ブレイズのレーダーに反応があった。

「接近する機影を確認……! タスク、何か来るわ!」
「了解! さぁ〜て、どうなることやら……!」

ガルムレイド・ブレイズとビッグデュオが共に臨戦態勢を取る。
ヴィレッタが言った通り、前方からは何かの音が響き、タクスに緊張が走る。
飛び出してくるのはユウキ・ジェグナンのような信頼できる仲間か、
はたまた有無を言わさず襲ってくるようなヤツか。
生来の博打好きが故に吉と出るか凶と出るかの状況に、僅かに興奮を覚えるが冷静さは損なわない。
操縦桿を握る手に込めた力が一段と強くなり、やがてタスクは迫りくる来訪者達を確認する。

「女! どこだここは!?」
「知らん! 私が知ってたまるか! そもそもお前が追ってくるからあの壁がなんだったかわからなかったのだ!!」

タスクとヴィレッタにはわからないが二機は会場のループにより此処まで辿りついていた。
だが、問題はそこではなくこの二機が一体何なのかだとタスクは考える。
一方はリューネ・ゾルダークの機体、ヴァルシオーネR。
もう一方はサイズを考えるとジガンスクードのような特機だ。
タスクには両機から聞こえる声に心当たりはないがわかることはある。
あんまり関わり合いになりたくない。タスクは本能的にそれを悟った。
追っている方も追われている方も、普通じゃないような気がする。
失礼だとは思うけども、両者の様子からタスクはそう受け取った。

「そこの二機、止まりなさい!」

ガルムレイド・ブレイズを全面に出し、ヴィレッタが逸早く制止を掛ける。
内心どうしようかと悩んでいたタスクはヴィレッタの判断の速さに感嘆する。
やはり頼りになる上官だ、と思わずにはいられない。
ビッグデュオよりも小さいながらもガルムレイド・ブレイズから確かな頼もしさが感じられた。
これで奴らも少しは落ち着くか。そんな事を思いながらもタスクは慎重に状況を見守る。

495儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:23:43 ID:0fgLlHko

「むっ、もしやその声は……?」

ヴァルシオーネRからは訝しげな声が聞こえた。
少なくとも知った声ではないが、ヴィレッタの知り合いなのだろうか。
まあ、どこか謎がある彼女ならどんな知り合いがいても可笑しくはない。
だが、その次に飛び出してきた言葉にタスクは唖然となった。


「その声!? キサマ――女かアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


今まで女性型の起動兵器をつけ狙っていたレーベンが更なる怒りを見せる。
レーベンが何よりも嫌うのはエーデル以外の生身の女だ。
声色からしてヴィレッタを憎むべき女とだとレーベンは断定する。
ヴァルシオーネに撃ち放っていたレーザーマグナムの照準をガルムレイド・ブレイズへ。
更には足を向けて無理な体勢を取ってまで、フットミサイルすらも撃ち放つ。

「くっ!」

既に回避出来るタイミングではない。
レーザーマグナムとフットミサイルの衝撃によりガルムレイド・ブレイズが吹っ飛ぶ。
その後をゴライオンが追いすがる。
大きさ故に嫌でも目につくビックデュオを追いぬいたあたり、余程女という存在が気に食わないのだろう。
当然タスクがレーベンの行動を黙って見ているわけもない。

「待ちやがれ! てめぇよくも姐さんを――」
「タスク! 後方からまだ!!」
「な、なんだって!?」

直ぐに援護に出ようとするタスクをヴィレッタが諌める。
慌ててレーダーに目を向けるタスク。
しかし、確認するよりも早くビッグデュオに衝撃が走った。
起点はビッグデュオの背部。方向からしてレーベンのゴライオンではない。
そもそもゴライオンはいままさにガルムブレイド・ブレイズに殴りかかろうとしている。
ならば一体誰が――答えは直ぐにわかった。


「エリアC-2だと……原理はわからんが、まあいい。私のやるべきことは変わらん!」


レーベンがループによりやってきたようにガトーも此処に辿りついていた。
今しがたビームキャノンを放った、MS形態のガンダムアシュタロンHCがビックデュオと対峙する。
悠然と構えるアシュタロンHCからはこれといった隙は見られない。
こいつはかなりやる相手だ。直感的にタスクはそう悟るが、駄目もとで通信を開く。

496それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:24:41 ID:iQg6L9TO
 
497それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:24:48 ID:WiomJPuj
 
498儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:25:00 ID:0fgLlHko
「俺はタスク・シングウジ。あいにくだけどアンタと殺し合いをするつもりなんかねぇ。
だから見逃せ……っていってもどうせ見逃してくれないんだよなぁ?」
「ふっ、わかっているのであれば無駄な口を開かんことだな、若造」
「ゲェ!? やっぱりそうきますか」

短い会話が終わった途端、アシュタロンHCがビッグデュオへ突っ込む。
更に二門のビームキャノンによる砲撃というオマケつきだ。
タスクにとって予想出来た展開ではあるが全然嬉しくもなんともない。
気を取り直して胸部に装備されたガトリングミサイルで応戦。
サイズの違いもあり、一発でも受ければ危ういミサイルの雨がアシュタロンHCを襲う。
対するアシュタロンHCは咄嗟に変形する。
更に下降し、掃射されたガトリング砲を掻い潜る形で空を駆けていく。
その速度は凄まじく、敵であるというのにタスクがガトーに掛かるGを心配してしまう程だ。

「くそ! こっちはパワー自慢の特機なんだ。そうチョロチョロ動かれたら困るって!」
「無論、それを狙っている!」
「ちっ、いちいち反応してくれるとは、ずいぶん律儀な方でえええええええええええええええええッ!!」

やがてガトリングを避けるだけでなく、アシュタロンHCはビッグデュオの下方すらに潜り込む。
今度は一転して上昇。ビッグデュオの背部と並行する形で上空を目指す。
同時にビームキャノンを撃ち、避けようのないビックデュオの背部が砲撃にさらされることになる。
揺れるコクピット内でタスクは舌打ちを撃ちながらも、ビックデュオの頭部を動かそうとする。
両目部分に装備された超光熱線、アークラインによる反撃を考える。
だが、そんな時ビッグデュオのレーダーがとある反応を示す。
そういえば何か忘れていたような気がタスクにはしてならなかった。






「キサマら……ことごとく私を無視しおって……! もういい! ならば私にも考えはある。
ここらでスコアを稼がせてもらおうではないか!!」



499儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:26:03 ID:0fgLlHko
宙に浮かんだヴァルシオーネRの中でイスペイルが憤慨する。
度重なる冷遇の末にイスペイルは所謂やけくそな状態に陥っていた。
気がつけばヴァルシオーネR自身も可愛らしく怒っている。
この光景はリュウセイ・ダテにとっては喜ばしいものに違いないが、タスクにとって全く嬉しくはない。
何故なら自分の予感が当たっていた。
ヴァルシオーネRの予備動作に覚えがあったのだから。
両肩に装備された円形のユニットに光が集まる。
それぞれ右肩の方には青い光を、そして左肩には赤い光を、
くびれた腰をまわして、回転を加えながらヴァルシーネRは右腕を突き出す。
それこそが合図、二輪の光輪が唸りをあげながら射出される。


「クロォォォォォォスソーサー!!」


変則的な軌道を描きながらクロスソーサーがビッグデュオを襲う。
判っていたもののビッグデュオに避ける術はなかった。
空中戦に特化したビッグデュオではあるがその巨体ゆえどうしても格好の的になりやすい。
後方に退くことで少しでもクロスソーサーの直撃のタイミングを遅らせる。
だが、可愛らしい外見はしているものの、ヴァルシオーネRは最強ロボ・ヴァルシオンの兄弟機だ。
依然として回り続けるクロスソーサーは容赦なくビッグデュオの胸部装甲を抉る。
コクピットブロックが胸部に存在するため、あまりダメージを受けるのは不味い。
しかし、そんな時上空から伸ばされたビーム砲がビッグデュオの頭部を直撃する。

「私が居ることを忘れたか!」

そうだった。未だにガトーのアシュタロン・HCは健在だ。
いつのまにかアシュタロン・HCとヴァルシオーネRに囲まれる形となってしまった。
勿論ガトーとイスペイルが事前に打ち合わせたわけではない。
ただ一際大きなビッグデュオを先ずは潰しておこうと判断したのだろう。
単独では火力が足りずとも、二機掛かりなら充分に勝機はある。
あくまでも推測でしかないが、決定的なのは自分の状況が危機以外のなにものでもない事だ。


「く、くそ、ヴィレッタ姐さんの方も気になるってのにしかたねぇ! 俺もちょいと腹くくってやらぁ!
男、タスク・シングウジ……やる時はやるってこと、見せてやるぜ!!」


先程吹き飛ばされたヴィレッタへの心配を忘れずに、タスクは操縦桿を強く握りしめる。
今は自分に出来ることを、自分でやりきるしかないのだから。
誰にも頼らず、ただ自分だけの力をタスクは一重に信じ、ビッグデュオにその命を預ける。



◇     ◇     ◇


500それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:26:09 ID:iQg6L9TO
 
501それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:26:14 ID:WiomJPuj
 
502それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:27:19 ID:WiomJPuj
 
503それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:27:21 ID:iQg6L9TO
 
504儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:27:29 ID:0fgLlHko
「いけ、ファングナックル!」


ガルムレイド・ブレイズが右腕のファングナックルを発射する。
二形態の内、現在はS形態を取っているガルムレイド・ブレイズ。
TEソフィアによる防御はあるものの、青い躯体の至る所に見られる損傷がゴライオンの猛攻の跡を示している。
ウルフヘッドを模した拳が牙をむき、その獰猛な口を開きながら一直線にゴライオンへ飛ぶ。
エリアC-2の北部から始まった戦闘は西部までに移動している。
その間のゴライオンとの戦闘経験からヴィレッタは先ず直撃のコースだと推測する。
事実、ゴライオンにファングナックルを避けようとする動きは見られない。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

元々レーベンにファングナックルを避わすつもりはなかった。
一歩も退くことなく、ゴライオンが大きく右腕を振りかぶる。
向かってくるファングナックルとタイミングを合わせ、真っ向からぶつかる。
そう、レーベンはゴライオンの右腕でファングナックルを撃ち返した。
ファングナックルは堪らずガルムレイド・ブレイズの右腕に戻る。
右拳だけとはいえ勢いを全く意に介さず、殴り返したゴライオンの馬力はやはり強烈なものだ。
思わずヴィレッタは下唇をかみしめる。

「どうした女! その程度か!?」

加えて操縦者の方も厄介だ。
確かレーベン・ゲネラールと此処に来るまでに名乗っていた。
先程より少しは落ち着いているようだがそれでも面倒なことに変わらない。
だが、このレーベンは出来るだけ迅速に突破、もしくは撃破しなければならない。
分散することになったタスクとの合流を目指す必要があるためだ。
そして気がかりな事はまだあった。

(先程私の声に反応した参加者……たしかイスペイルという男だったハズ。
タスクにジョーカーのことが知られたら、面倒ね……)

レモン・ブロウニングにより指名された7人のジョーカー。
十六時間以内に同じジョーカー以外の参加者を二人殺さなければ首輪が爆発されるルール。
ヴィレッタはそのルールを押しつけられた一人であり、同じ境遇の者がヴェルシーネRに乗っていた。
確認したわけではないがあの特徴的な声はイスペイルという男だろう。
あれでタスクは勘のいい青年だ。あの時、自分の声に反応したイスペイルを疑問に思ったかもしれない。
もしタスクがジョーカーのルールを知ってしまえば自分は選択しなければならない。
即ちタスクとこのまま行動を共にするか、ジョーカーとして他者と戦っていくかを。
だが、生憎ヴィレッタの選択は未だ決まっていない。

505それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:28:03 ID:WiomJPuj
 
506儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:28:27 ID:0fgLlHko
(結局は答えが出なかった……時間はあったというのに。
タスクに知られずとも、決めなければ……そう、すぐにでも……!)

タスクが気絶していた間、ずっと考えていた。
不用心に気を失うタスクを殺せばノルマの半分は達成される。
考えたくはなかったが、自分でも驚くほどにその考えは自然に零れ落ちた。
しかし、裏切りたくはないという強い思いが実行には移さなかった。
タスクを含め仲間達は、エアロゲイダーの二重スパイとして活動した自分を受け入れてくれた。
そんな彼らをもう一度裏切りは、それも殺すなどは到底出来ない。
だけども、レモンの言っていたノルマを実行しなければ自分はここで終わってしまうだろう。
異星人の一種と思わしきテッカマンランスをいとも簡単に殺した、首輪の爆弾は今でも首に巻きつけられている。
首輪を外せばノルマに従う必要もないが、ここまでの事を仕込む彼らがそれを許すとは思えない。
懸念材料が多い現状では、結局、ヴィレッタはまだ決められはしない――。


「何を呆けている! 女アアアアアアアアアアアアアア!!」


迂闊だったと咄嗟にヴィレッタは自らの行為を悔やむ。
ジョーカーとしてという特殊な身の上から思考に没頭してしまったヴィレッタ。
ヴィレッタが見せた隙は当然ガルムレイド・ブレイズの動きにも伝わり、レーベンはそこを狙った。
ゴライオンは腕を振りかぶり、持っていた十王剣を思いきり投げつける。
充分に乗せられた勢いが十王剣に強力な加速をもたらす。
避けきれない。ヴィレッタの判断は間違ってはいなかった。
TEスフィアを破り、ゴライオンより下方を飛行していたガルムブレイド・ブレイズの肩に十王剣が突き刺さる。
体勢を崩したガルムレイド・ブレイズにゴライオンは更に追撃をかける。
右腕を十王剣へ伸ばし、強引に引き抜くだけでなく右脚で蹴り飛ばす。

「ちっ、この……!」
「こんどこそ本当に終わりだ! 所詮エーデル准将以外の女など、生きる価値などないッ!!」


ガルムレイド・ブレイズが見る見るうちに海上へ落ちていく。
ゴライオンは再び接近。十王剣を逆手に持ちかえ、そのまま振り下ろす。
ガルムレイド・ブレイズの胴体を串刺しにせんと迫る。
堪らず両肩のビームキャノン砲と腰のビームバルカンを乱射するが、ゴライオンは損傷をものともしない。
鬼気迫る勢いを以ってして突撃するゴライオンは既に攻撃に一身を捧げている。
ヴィレッタが己の危機を悟った瞬間、ガルムレイド・ブレイズの下方に存在する海で水しぶきが舞い上がった。

「熱源反応!? これは……!」



507それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:28:43 ID:WiomJPuj
 
508それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:29:12 ID:iQg6L9TO
  
509儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:29:28 ID:0fgLlHko


驚くヴィレッタを尻目に海中から何かが飛び出す。
一本の赤いドリルが海水を出鱈目に撒き散らし、ゴライオンへ向かっていく。
続けて見えたものは白に染まった強大なショルダーアーマーに、黒を基調とした躯体。
背部には先程飛んできたものと同じく血に染まったように赤いドリルがある。
何よりも鬼と相応しき顔面から覗く緑眼がこちらを見上げている。
両目を見張るヴィレッタには見覚えがあった。
それは武人と称するに相応しい男と死闘を繰り広げた人造人間の専用機。
アースクレイドルに座する主の敵を断つ、斬艦刀を持ちしその機体の名は――スレードゲルミル。



「俺はザフト軍ミネルバ隊所属のシン・アスカ! アンタたち、レイ・ザ・バレルを知らないか!? 知っていたら教えろ……拒否は許さない!!」


パイロットはザフトのスーパーエース。
そして悲しき復讐者、シン・アスカ。
紅に染まった両眼がガルムレイド・ブレイズとゴライオンを鋭く睨みつける。



◇     ◇     ◇


510それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:29:50 ID:WiomJPuj
 
511それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:29:52 ID:IeCDUXZK

512儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:30:09 ID:0fgLlHko
そこは真っ暗な海の底だった。
周囲に居るものは自由気ままに泳ぐ魚やサンゴ礁ぐらい。
もし、死んだあとにこうやって海に沈んだらゆっくりと眠れることだろう。
憎しみも争いも何ものかも忘れることが出来て、いつまでも安らかに。
海の流れにスレードゲルミルを任せ、その中でシンはそんなことを考えていた。

(フリーダムは討った……この手で、確かに……)

ニュートロンジャマーキャンセラー搭載機、フリーダム。
かつて血のバレンタインと呼ばれる悲劇から起きた戦争中に奪取された機体。
シンにとってフリーダムは全てを奪い、また今の自分をつくらせた存在でもある。
ザフトと連合の戦地となった永久中立国オーブ。
一般の民間人でしかなく、戦火から逃れようとしたシンはそこで家族を失った。
父を、母を、そしてたった一人の妹すらも。彼女が伸ばした細い腕を掴んではやれなかった。
全てはフリーダムが起こした戦闘の流れ弾のせい。
だからこそシンは願った。守れる力を、大事なものを奪おうとするものを倒せるだけの力を。
出来るだけの努力は続け、その結果がザフトの士官学校での首席卒業を可能とさせた。
もう二度とあんな悲しい想いは繰り返さない。フリーダムのようなヤツは必ず、自分で斃す。
ただそれだけを願い、妹の面影を忘れずにシンは戦い続けた。
そしてシンはようやくフリーダムを斃すことに至った。
その筈だった。

(だけど俺は……)

しかし、喜びはなかった。
残ったものはどうしようもない空虚感のみ。
ずっと燻っていた願いを果たせたというのに。
理由は痛いほどわかっている。
ドモン・カッシュ、そして自分のために死んだジャミル・ニートの存在がしこりとして残っている。
彼らは自分に殺し合いに乗るなと言った。
一般の良識に当てはめれば彼らの言い分が正しいのだろう。
だが、ここでは常識など通じない。人一人の頭が四散したことで全ては始まった。
この異常な状況で良識を持って行動できるほど、シンは器用に自身の感情を抑えられない。
なによりも今度こそ護ると誓った少女のために、死ねるわけにはいかなかった。

既に何分経ったのかもわからない。
ぼんやりとした目で計器を見やる。
どうやらいつの間にか隣のエリアに流れていたようだ。
機体の方はというと――問題ない。マシンセルがずっと修復を行っていたようだ。
ドリルブーストナックルを撃つぐらい問題はない。
だが、問題があるといえばシン自身の方だ。
フリーダムを斃せたというのに、結局は得るものはなかった。
復讐をやり遂げてもこんな結末が待っているのはなんとなくわかっていたがやりきれない。
両親や妹のマユが戻ってくると信じたわけでもない。

だけど、何かが欲しかった。
どんな些細な事でもいい。せめて自分がフリーダムを斃せたことで何かが変わって欲しかった。
たとえばザフトと連合の下らない戦争の終結が一日でも速まるような変化が。
青春の全てをなげうって、鍛えぬいた技術に一定の成果があっても良かった筈だ。
戦って、戦い抜いて、そうして進んだ先に待つものがこの空虚だけだとしたら。
自分は一体何を求めて戦っているのか……それすらもわからなくなってしまう。
想像するだけでどうしようもなく怖かった。自分を導いてくれる何かが欲しいと強く思う。
ドモンやジャミルがいくら自分に立派な言葉を投げかけてくれたとしても、結局彼らは赤の他人だ。
あの皆城総士のように、本心では何を考えているかなんてわかりやしない。
しかし、あいつだけは違う筈だ。

513それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:31:08 ID:WiomJPuj
 
514儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:31:43 ID:0fgLlHko

(レイ……どこに居るんだ。俺はどうすればいい……教えてくれ、レイ。
スレードゲルミルは俺に何も教えてくれない……お前の、お前の言葉なら俺は……)


レイ・ザ・バレル。あまり社交的ではないシンにとっての数少ない友人の一人だ。
士官学校時代からの同期でありその縁はかなり深い。
いつだってレイは冷静で、大抵のことは彼が言うとおりだった。
それはミネルバ隊に配属された後にも変わらない。
レイともう一人の同期、ルナマリアと共にザフトとして戦うと決めた。
ザフトの勝利を勝ち取るために、ギルバート・デュランダル議長の理想を実現するために、
そしてもう二度と大切な存在を失わないために。
あの頃の自分なら迷うことはない。
レイが進むべき道を指し示してくれれば、自分はそれに向かうだけだ。

だから当面の目的はレイとの合流だ。
襲われれば勿論迎撃する。ただ、問題は目の前で戦闘を目撃した際について。
レイ以外の人間は直ぐには信用できない。
たとえ危ういところを助けても絶対に裏切られないとは言い切れない。
だが、他者と接触すればレイの情報を得られる可能性もある。
レイなら自分と違って上手く立ち回っていることだろう。
出会った人間に言付けを頼み、自分を捜していてくれているかもしれない。
取り敢えずの思考は纏まった。
何十分かの静寂がシンの瞳に再び灯を宿させる。
まどろみを振りきり、シンはスレードゲルミルを海上へ飛ばそうとする。
そんな時、けたたましい声をスレードゲルミルのセンサーが捉えた。


『何を呆けている! 女アアアアアアアアアアアアアア!!』


一瞬唖然とするシン。
だが、直ぐに気を取り直して上を見やる。
センサーからは何かがぶつかり合う音が聞こえた。
戦闘だ。先程、自分が身を置いていた暴力の渦が頭上に広がっていた。
やるせなかった。結局は皆戦うことを望んでいると思ってしまったから。
襲う奴は必ず一人は居る。人間だから、周りは皆他人だから。
何も自分だけじゃない。自分のようにただ自分勝手に誰だって戦っている。
死にたくはないから、守りたいものがあるから、ただそれだけだろう。
自分もその一種と自覚するシンにそれを否定するつもりはない。
なら戦ってやるだけだ。真っ向から自分の守りたいものを他人の望みより優先させるために。
ひどく自分勝手なエゴに塗れた考えだが仕方ない。
レイの言葉を聞くまでの間、そのぐらい単純な方針でないと迷いは生じてしまう。
所詮は斃すべき敵でしかないドモンとジャミルの言葉に心を動かされてしまったのがいい例だ。
だから――レイと出会うまで精いっぱいこの状況を足掻く。それだけだ。

スレードゲルミルの両眼が一際鋭い輝きを放つ。


(やってやる……やってやるさ。目についたヤツ全員からレイの情報を聞き出す。口を割らないヤツは……後悔させるまでだ……!)


咆哮を上げながらスレードゲルミルは真っすぐ海上を目指す。
依然として己の道を彷徨う怒れる瞳が、剣鬼を再び戦場へ飛びこませる。


◇     ◇     ◇


515それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:32:15 ID:IeCDUXZK

516それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:32:15 ID:WiomJPuj
 
517儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:32:29 ID:0fgLlHko

「レイ・ザ・バレルですって……!」
「知っているのか、アンタ!?」

思わずシンの声が張り上げられる。
ヴィレッタを助けることになったのは偶然でしかない。
その偶然にも助けたヴィレッタがレイの言葉に反応を示した。
直ぐにでもレイの情報が入るかもしれない。
何よりもレイとの合流を目指すシンにとって紛れもなく幸運なことだった。

「いや、私は……」
「はぁ? 何を歯切れの悪いコトを言って……知っているのか知らないのかどっちなんだ!」

しかし、ヴィレッタの返答はなんとも不明瞭なものだ。
レイ・ザ・バレルのことは当然知っている。
何処に居るかはわからないが彼もまたジョーカーの一人だ。
レイについて話すということは当然ジョーカーの存在が露呈されることだ。
同時に自分もジョーカーであることも知られてしまう。
けれどもヴィレッタは未だ自分の身の振り方を決めてはいない。
この状況でジョーカーの存在を口に出してもいいものか。
一瞬の沈黙。ヴィレッタにとってはあくまでも一瞬でしかなかった時間。
だが、シンにとってその時間は長く感じられ、ヴィレッタへの疑惑を膨らませることになる。

「そういうことかよ……! 助けてやったのに、俺なんかに話すつもりなんかないってことかよ!」
「違う! ただ――」
「うるさい! 違うもんか! 信じられるものか!!」

表面上はあくまでも冷静を貫くヴィレッタの態度がシンの激情をますます駆りたてる。
シンは只でさえ頭に血が昇りやすく、そこにレイの情報も加わっている。
碌に喋ろうとしないヴィレッタにシンは敵意を露わにする。
最早取りつくしまもなく、シンはただその暴力に身を任す。
既に戻ってきていたドリルブーストナックルを腕に、それも今度は両腕に装填。
両腕を同時に振りかぶり、ガルムレイド・ブレイズだけを真っすぐと狙う。


「言っただろ、拒否は許さないって!」


518それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:33:03 ID:iQg6L9TO
 
519それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:33:17 ID:WiomJPuj
 
520儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:33:51 ID:0fgLlHko
一本でさえ強力なドリルブーストナックルが二本同時に発射。
凄まじい回転の果てに生まれる赤い火花が空に軌跡を残す。
反射的にヴィレッタはTEスフィアによる防御を選択。
TEスフィアの出力が間に合ったせいか、寸前のところで侵攻を喰いとめる。
流石はゼンガー・ゾンボルトとのダイゼンガーと互角に張り合った機体だけのことはある。
しかし、そこに更なる追撃が爆風をもって襲い来る。

「どけ! そいつは俺の得物だ! 女はこのレーベン・ゲネラールが殺してやる!!」
「くっ! 邪魔するなよアンタ!!」

声高らげに叫ぶはゴライオンを操縦するレーベン。
抜け目なくゴライオンのフットミサイルをガルムレイド・ブレイズに撃ちこんでいる。
またそれはガルムレイド・ブレイズだけでなくスレードゲルミルの方へにもだ。
レーベンにとってシンは女の殺害を邪魔立てしただけで殺す理由には充分すぎる。
シンに臆する理由もない。直ぐにレーベンに反撃を行おうと考える。
先ずはこれが終わってから――やはり信用に値しなかったヴィレッタに後悔の念を植え付けるために。
遂にはフットミサイルの威力も相まってTEスフィアが破られる。
両のドリルブーストナックルに喰いこまれたガルムレイド・ブレイズへスレードゲルミルが猛追をかけた。
胸部を抉るとらんとばかりに暴れ狂うドリルブーストナックルが耳障りな音をあげる。


「女アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「アンタのせいだ……アンタがレイについて話せば、こんなことにはあああああああああッ!!」


ガルムレイド・ブレイズは漸くドリルブーストナックルを振り払うがそこには悪夢のような光景があった。
スレードゲルミルだけでなく、ゴライオンまでもこちらへ向かっている。
奇しくも先ずはガルムレイド・ブレイズから始末しようと考えたのだろう。
ヴィレッタの頬を思わず冷や汗がつたう。これを危機と言わずになんと言えばいいか。
頭部の赤熱線・ブラッディレイやビームキャノン、ビームガトリングで応戦するが止められない。
依然として迫る危機の中、ヴィレッタは一つの案を捻り出す。

(こうなったらレイ・ザ・バレルのことをあのシン・アスカに……!)


幸い此処にはタスクは居ない。
自分がジョーカーであると露呈してもここで仕留めれば問題はないだろう。
そうすればノルマも達成出来、考えるための時間が延びる。
悪くはない考えだ。少なくとも仲間への裏切りよりか心が痛むことはない。
ジョーカーであることについての告白をシンは今更信じようとはしないかもしれない。
しかし、このままではいずれ撃破まではいかずとも今後の行動にも支障が出る。
とにかくこの状況を打破しなければ何も始まらない。
スレードゲルミルとゴライオンへの反撃を練りながら、ヴィレッタはガルムレイド・ブレイズの操縦桿を握った――。







「――知ってるか? 真打ちは遅れてやってくるのがお約束だってことをなぁ!!」

521それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:34:18 ID:WiomJPuj
 
522儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:34:33 ID:0fgLlHko
陽気な声が周囲一体に響く。
やがてやってきたものは衝撃ではなく轟音の群れだ。
それはヴィレッタの前方からではなく後方からやってきた。
言いようのない数のミサイルの大群にスレードゲルミルとゴライオンは停止を余儀なくさせる。
巨大なプロペラ・ユニットによる飛行でやってくるは赤い巨人。
最強と呼ばれしメカデウス、THE BIGの内一機、ビッグデュオ。
そしてそのパイロットはギャンブル好きな、陽気でどこか憎めない男。

「てめぇら! よってたかって姐さん苛めるとは……いい度胸してるぜ!!」
「タスク!?」
「アイサー! 遅れてすんません、姐さん」

タスクがビックデュオを強引にガルムレイド・ブレイズの前へ押し出す。
胸部からのガトリングミサイルの掃射は依然として続いている。
絶好の機会を失ったスレードゲルミルとゴライオンはミサイルをやり過ごすしかない。
スレードゲルミルは即座に斬艦刀を形成し、ゴライオンは円形のシールドを翳す。
しかしそれでもビックデュオのガトリングミサイルの威力は無視出来るものではなく、二機は除々に後退を余儀なくされる。

「助かったわ、タスク……それで、さっきの二機は?」
「たたき落としてやったっス! こうガツーンと一発って感じで。まあもう一方は見失っちまいましたけども……」
「そう、それは頼もしいことね」

確かに後方を確認しても機影は見当たらない。
ビックデュオの各部にはビーム痕を始め様々な損傷が見られるが、タスクの言うとおり無事切り抜けられたのだろう。
ヴィレッタは安堵するがそれはタスクの救援が間に合った事だけではない。
ジョーカーについての告白。それを行う必要がなくなった意味合いも含んでいた。
だが、このままで良いというわけでもない。
いつかは決めなければ、タスクとの間にもなんらかのトラブルが起こる可能性もある。
後回しにするのも今回で終わらせるべきだ。

「ちっ! さっきのヤツか! だが、このレーベン・ゲネラールの邪魔立てするヤツは容赦せん!
俺のエーデル准将への想いはこんなものではない!!」

そんな時、ゴライオンが更に上昇しビックデュオへ突撃する。
スレードゲルミルは何故か止まったままだがタスクの注意はゴライオンの方だけだ。
タスクと同じくヴィレッタも狙いをゴライオンに絞る。
今までは数の違いやレーベンの気迫に押されていたがやられるだけではない。
エアロゲイターの切り札ともいうべきSRXチームの隊長を、伊達や酔狂で務めているわけではない。
己の創造主、もう一人の自分というべき存在から預かった契約は、未だ終えていないのだから――。
既に目を通しておいたマニュアルに記載された一文が鮮明に蘇る。


そのコードは――イグニッション、点火を指し示すワード。


523儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:35:31 ID:0fgLlHko

「リミッター解除――イグニッション! ヒオウ! ロウガ!」

緑色のカメラアイが発光した後、ガルムレイド・ブレイズが吹き荒れる灼熱を身にまとう。
自然界四つの力に次ぐエネルギーであるターミナス・エナジーはどこにも存在する。
故にそのターミナス・エナジーを動力とするターミナス・エンジンは言うなれば永久機関。
限界のない力が内部でまるで炎のように燃え盛る――灼熱の正体はそれだ。
そして胸部に存在する緑の丸状の部位の輝きはいっそう強くなった。
続けてガルムレイド・ブレイズの各部装甲が外れ、二機の小型機となる。
鳥類を模した方がヒオウ、残りの狼を模したものがロウガだ。


「ターゲットインサイト……! さぁ、いけ!」


一瞬の内にヴィレッタは演算計算を終え、ヒオウとロウガに指示を与える。
二機ともガルムレイド・ブレイズと同じく炎に包まれている。
彼らにもターミナス・エンジンの血は通っているのだから。
ヴィレッタの意思を受け、目前のゴライオンへ強襲。
ヒオウは後ろから周り、ロウガは愚直な程に正面からゴライオンへ駆けていく。
ヒオウは装備されたビームマシンガンを乱射し、レーベンの注意を引いている。
その隙を狙ってロウガが喰らいつき、振り払おうとしたゴライオンの左腕へ逆に噛みつく。
小型機といえどもその威力は侮れるものではなく、連続して鈍い音が響く。

「こ、こいつら! こしゃくな真似を!」

無事な方の腕でゴライオンはロウガを殴りつける。
堪らずロウガは吹き飛ばされ、ヒオウが両脚で受け止める。
ヒオウとロウガの二機ではゴライオンを喰いとめることは出来なかった。
しかし、時間は充分に稼げた。レーベンの新たな隙を誘うぐらいの時間は。

「しつこいヤツは嫌われる……ってね。いい大人のくせにさっきから見苦しいぜオッサン!!」

ヒオウ、ロウガと入れ違いの形でタスクの駆るビッグデュオがゴライオンへ向かう。
プロペラ・ユニットを前へ向け、ロケットエンジンによる噴射が更なる加速をもたらす。
そして両のプロペラ・ユニットからアームが顔を出し、その指が力強く掴む。
掴んだものはゴライオンの両肩だ。
急な接近に対応が遅れたゴライオンの両肩がギシギシと軋む
そのパワーは強大。最強のメガデウス、THE BIGの名は伊達ではない。


524それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:35:52 ID:IeCDUXZK

525儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:36:24 ID:0fgLlHko
「くっ、放せ! このクズが!!」
「聞こえねぇなぁ! それより気にならねぇか……俺とアンタの運、どっちが強いかをッ!!」


ゴライオンも右腕をビッグデュオの胸部に撃ちつけ、ファイヤートルネードを噴射させるがビッグデュオは離れない。
元々赤い躯体が更に赤みを帯びてもタスクは動じない。
これぐらいで臆するようであればとっくにヒリュウ改から降りている。
それにジガンスクードのような大型機に乗ってきたタスクにはお得意の戦法だ。
だが、ファイヤートルネードは確実にビッグデュオの装甲を、胸部を溶かしている。
コクピットが胸部に存在するビックデュオには決して楽観できない状況。
それでもタスクはゴライオンを掴むのをやめはしない。
幾ら攻撃を貰おうとも決定打をこちらが打てればいい。
我慢の果てに勝利の一瞬を掠め取っていく。
タスクはパイロットである以前に勝負師だ。
一か八かの状況。そこで勝利をもぎ取ってこそ勝負師たるもの。
たとえ分が悪かろうと勝負と名のつくものに負けるつもりはない。
離脱するどころか両目のアークラインを発射し、駄目押しの一撃を見舞う。
ゴライオンの顔半分が熱戦で焼かれ、思わず反り返った。
そして爆発が起きる。


「運だめしさせてもらったぜ、レーベン・ゲネラール! そんでもって結果はもちろん、タスク様の勝ちだぁッ!!」



遂にはビッグデュオがゴライオンの両方を握り潰すまでに至った。
爆発により、ゴライオンの躯体がビッグデュオから離れる。
辛うじて腕は繋がっているものの両肩からは黒煙が出ている。
決めるのであればここだ。タスクはトドメの一撃を見舞おうと再度ビックデュオの拳を振るう。
右腕をゴライオンに胸部へ、その圧倒的な力を持って動力系を潰す。
海上へ落ちゆくゴライオンにビッグデュオの腕が今まさに届こうとする。

526それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:36:27 ID:WiomJPuj
 
527儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:38:28 ID:0fgLlHko
「――フットミサイル!」
「なに!?」

そんな時、ゴライオンが両足のフットミサイルを発射する。
一発目の爆発によりビックデュオのアームユニットが焦げつき、
やや遅れ二発目が胸部にて炸裂し、爆炎が生まれる。
黒々とした煙を突き破り、ビッグデュオがその巨体を再び大空に晒す。
減速はしたものの、完全にビッグデュオの勢いを止めるには至っていない。
だが、レーベンの狙いはビッグデュオの撃破ではない。
至近距離での炸裂による爆風は当然ゴライオンの方にも及んだ。
吹き荒れた爆風をその身に受け、ゴライオンが加速。
その躯体は何処までも広がっていそうな、青い海を目指していた。


「タスク・シングウジ、そしてヴィレッタ……覚えておくがいい! キサマらは必ず俺が殺してやる!!」


ゴライオンは勢いを緩めることなく海中へ飛びこんだ。
さすがのレーベンも状況が不利だと悟ったのだろう。
ビッグデュオから貰った痛手の他に今までの損傷もある。
実に画に描いたような捨て台詞を残し、ゴライオンは離脱していく。



(そうだ……あのイスペイルという男も絶対に許さん! だが、ヤツは一体どうなって……)


殺すべき人間は未だ多い。
獅子の怒りは未だ収まりそうにはなかった。


【1日目 10:30】
【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)】
 パイロット状況:ブチギレ(戦化粧済み)
 機体状況:頭部半壊、両肩破損、左腕にひび、右足一部破損、動力低下、十王剣(全体に傷あり)
 現在位置:C-4
 第一行動方針:ヴァン、タスク、ヴィレッタ、イスペイルは次こそ必ず殺す
 第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
 第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
 最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う
 備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】




◇     ◇     ◇


528それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:38:36 ID:aDyd3OR9
しえん
529それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:39:01 ID:IeCDUXZK

530それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:39:13 ID:iQg6L9TO
 
531儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:39:34 ID:0fgLlHko






一方イスペイルはというと――













「ひ、酷い目にあった……」










波に流され、ようやく海の上まで上がってきていた。
ビッグデュオに叩き落とされた時に気絶していたため、自分がまたしてもループにより移動した事にも気づいていなかった。






【1日目 10:30】
【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)】
パイロット状況:疲労
機体状況:両腕に損傷 EN80%
現在位置:C-7 南端
第一行動方針:まずは生存する為にノルマ(ノーマル、アナザー、どちらでも可)を果たす
第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還
備考:首輪の爆破解除条件(アナザー)に気付きました




◇     ◇     ◇
532それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:40:29 ID:IeCDUXZK

533それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:40:45 ID:iQg6L9TO
 
534儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:40:49 ID:0fgLlHko

「へっ、おとといきやがれってんだ! さぁ〜て残りは……」


ビッグデュオの中でガッツポーズを取りながらタスクが周囲に目を回す。
ゴライオンを撃退したもののまだ全ては終わってはいない。
ウォーダン・ユミルの機体、スレードゲルミルという強敵が未だ残っているのだから。
だが、こちらには頼りになるヴィレッタも居る。
二人掛かりでいけばそれなりにやれることだろう。
だから今の戦闘で受けた損傷はそこまで気にしなくともいい――。
そう確信していた。


「貰ったぞ!」
「くっ、おまえは……!」
「姐さん!」


突如として海中から躍り出る機影が一つ。
ヤドカリのような形をしたそれにタスクは見覚えがあった。
ガンダムアシュタロンHC、MA形態がガルムレイド・ブレイズの真後ろを取った。
先程戦闘途中で補足出来なくなったがまさか追ってきていたとは。
戦闘不能に出来なかった自分を悔やみながらタスクは直ぐにビッグデュオを動かそうとする。
しかし、機敏な動きを得意としないビックデュオではどうしようもないタイムラグが発生する。
アシュタロンHCは、アナベル・ガトーにとってその時間は充分すぎた。
歴戦のパイロットであるヴィレッタの反応よりも早く、ガトーはアシュタロンHCを動かす。
ギカンティックシザースを開き、ガルムレイド・ブレイズの両腕を強烈な力で挟み、再び海中へ飛びこむ。
未だヒオウとロウガとの合体を終えていないガルムレイド・ブレイズは満足な状態ではない。
なすがままに海中に引き込まれ、あっという間にタスクの視界から消えてしまう。


「ちっ! なんてこった……今すぐいくぜ、姐さ――ぐ、ぐわぁ!!」

救援に行こうとするビッグデュオに衝撃が走る。
それがやってきた方角からして原因は一つしかない。
再び反転させた視界の先には、丁度今しがた撃ち放ったドリルを手に戻した機体の姿がある。
そいつが何者であるか今更確認するまでもない。


535それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:41:30 ID:IeCDUXZK

536儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:41:39 ID:0fgLlHko

「どけよ! 俺はあの女に用があるんだ……!」
「悪りぃけど絶対にノゥだ。というかドリルブーストナックルなんて軽々しく撃つんじゃねぇ! ちょいと寿命が縮んだじゃねぇか!!」
「知るかよそんなこと! 戦ってるんだ……相手のことまでなんて……!」


どこかふざけたような調子で抗議するタスクにシンは僅かながら動揺するが退くわけにはいかない。
たった今海へ消えていったヴィレッタという女は確かにレイを知っていた。
レイとの合流へ近づくにはあの女の情報を手に入れないわけにはいかないためだ。
やがて少なからず感じた戸惑いをシンは言葉にする。

「だいたいなんでお前はそこまで……もうその機体だってボロボロじゃないかよ!
邪魔しなればお前に用はないんだ。だからそこをどけぇ! そうじゃないと俺は……俺はこの斬艦刀でお前を……!」

迷いが自身の負けに繋がることは重々承知だ。
それでも迷ってしまう自分をシンは確かに認識する。
ドモンやジャミルとの出会いが関係しているのかもしれない。
しかし、あまり時間を喰っていてはヴィレッタを見逃してしまう。
レイの情報を優先するのであれば全力でタスクを斃せばいいだけだ。
そう、先程の戦闘によりビッグデュオの損傷は決して軽くはなく、特に胸部のそれは重いものに見える。
斃そうと思えば簡単に斃せるはずだ。ドリルを背部へ戻し、シンはスレードゲルミルを構えさせる。
両腕に握られた一本の太刀、斬戦刀を上段の構えでビッグデュオへ翳す。
なんとしてでもここは突破する。
ただそれだけを考え、シンはビックデュオを睨む。


「はっ! このタスク様も舐められたもんだ……あいにくだが斬艦刀には慣れてんだ!
それもお前よりもっとおっかねぇ人達の斬艦刀だ! 伊達に盾の役目をしてるわけじゃねんだッ!!」


だが、タスクは動じない。
勝負師故の負けず嫌いという理由もある。
斬戦刀といえど振るう人物がゼンガーのような男でなければそこまで怖くはないのも理由の一つだ。
それに何よりもシンと同じくタスクにも退けない理由があるのだから。


「ヴィレッタ姐さんはやらせねぇ……! 姐さんを追うなら俺が相手になってやらぁ!」
仲間の一人も守れないようじゃ……惚れた女なんか守れやしねぇぜッ!!




537それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:41:46 ID:WiomJPuj
 
538儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:42:27 ID:0fgLlHko
浮かんだ顔は金髪のどこか意地っ張りな女。
自分が惚れた女の顔を一度も忘れたことはなかった。
今は傍に居ない彼女だが放すつもりは毛頭ない。
だからこそタスクはシンを此処で喰いとめようと考えている。
斬戦刀の刀身がたとえどれほど大きく見えようとも、タスクはビッグデュオを退かせるつもりはない。
そんなタスクの様子をシンは心底憎らしく感じている。
抵抗しなければやられないのに――だが、やらなければならない。
自分は何としてでもレイと合流しなければならないのだから。


「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

シンが発した叫びはどこか悲しげなものだ。
結局は変わらない。フリーダムを斃した後も変わらない。
戦うだけしか出来ない自分への悔やみなのだろうかはわからない。
ただシンは全てを振り払うかのようにスレードゲルミルに怒りを込める。
翳していた斬艦刀の刀身を横に向け、スレードゲルミルが一迅の風となってビッグデュオへ向かう。
それは風と呼ぶにはあまりに圧倒的な暴力の塊でしかない。
ガトリングミサイルの発射口を開き、応戦するビッグデュオ。


「勝つか負けるか二つに一つ! タスク・シングウジ、この勝負勝たせてもらうぜッ!!」


ガトリングミサイルの渦をスレードゲルミルが突撃。
機体の各部でミサイルが爆ぜ、衝撃が襲うがスレードゲルミルは止まらない。
やがて斬戦刀を振り切り、ビックデュオの横を追いぬいていく。
轟音が響くと同時にシンは確かに己が振るった斬戦刀に手ごたえを感じた。
断ち切ったものはビックデュオの右腕。
もはや巨大な鉄の塊でしなくなった右腕が海中へ落ちる。
それは右腕を失い、不安定ながらもなんとか飛行し続けるビッグデュオがスレードゲルミルへ向き直った時と同じ。
ガトリングミサイルによる損傷が至る所に見られるスレードゲルミルを無傷とは言い難く、痛み分けといったところだ。
しかし、結果的にスレードゲルミルはビッグデュオを突破することになった。
スレードゲルミルに、シンにヴィレッタを追わせるわけにはいかない。
右腕がなくともまだ左腕がある。
そのあまりの威力故に使用していないメガトンミサイルだって健在だ。
だからまだ――戦える。タスクはビッグデュオの腕を突き出し、スレードゲルミルを捉えようとする。



「ちっ! ドジった! だが、まだまだこれからってコト見せてやらああああああああ――」



だが、その腕が掴んだものはあまりにも心許ない空虚のみだった。



539それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:42:46 ID:WiomJPuj
 
540それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:42:58 ID:IeCDUXZK

541儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:43:23 ID:0fgLlHko
「なっ……!?」


呆然とするはようやくタスクを抜けられたシンだ。
目の前で起きた爆発にシンは驚きを隠せない。
先程スレードゲルミルを包んだものとはまた違う。
遥か前方、ビッグデュオの後方から紫のビームのようなものが伸びていた。
紛れもなく長距離からの狙撃だ。ビッグデュオは一瞬よろけあっけなく海へ落ちていく。
そして更に何らかの兵器を撃ちながら此方へ向かってくる機影が一つ。
ブースターから噴き出す火の色は青く、その軌道がはっきりと判別出来た。
ガンダムとは違う、蒼の機体が目に見張る機動性をもってして向かってくる。
それはかつて仲間達と共に築いた栄光の日々を取り戻さんと願われた機体。
スフィア――ただ奪われるしか出来なかった乙女の悲しみに触れ、その動力は更なる進化を遂げている。
グローリースター、“栄光の星”の名を負わされた機体の名はバルゴラ。
バルゴラ・グローリーが今しがた狙撃したビッグデュオへ肉迫する。


「護るんだ……俺は、護るんだ……!」


蒼穹から零れ落ちたような青に彩られたバルゴラ・グローリーに乗る操縦者の名は春日井甲洋。
その悲しみの深さ故にバルゴラ・グローリーに見こまれた女は段々と失った。
彼もまたその女と同じく失った。ただしバルゴラ・グローリーに乗る前に既に。
悲しみの末に大事な存在の思い出を失くした男。
専用兵装、ガナリー・カーパーから伸びたビーム刃がビッグデュオへ振りかぶられる。


◇     ◇     ◇


542それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:43:31 ID:iQg6L9TO
 
543それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:43:40 ID:WiomJPuj
 
544儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:44:03 ID:0fgLlHko


気がつけば地球に居た。
エリアa-1で奇妙な装置を調べようとした直後の事だった。
面食らった。どういう原理なのかと考えるよりも先ず困惑が先だった。
別に宇宙にこだわりがあったわけじゃない。
寧ろ馴染みのない宇宙はどこか居心地が悪く、地球の方が馴染み深い。
ただどこまでも広がっていそうな、青とも黒とも取れる宇宙空間はアレを連想させた。
遠見と溝口さんを助けるために、フェストゥムと共に沈んだあの光景を――。

(そうだ。俺はあの時に……)

やっぱりだ。
記憶は戻っている。
あの日のことだけじゃない。
フェストゥムが侵攻した直後の事も、その前のことも大抵のことは思い出せる。
一騎と総士が許せなくてファフナーで戦うことを決めた。
護りたかった。あいつらがあっさりと見放したものを護りたかったから。
だけどそれが、それだけが思い出せない。
大事なものだった筈なのに、大事なものであった事は痛いほど覚えているのに。
だけど――どうしようもなく思い出せない。何故だかそれが悲しかった。
それだけを考え出鱈目に飛行を続けた途中、一つの戦闘を見つけたのはあくまでも偶然だった。

545それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:44:25 ID:WiomJPuj
 
546それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:44:56 ID:iQg6L9TO
 
547儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:45:16 ID:0fgLlHko

(戦っている……見たこともない。ファフナーともフェストゥムとも違う……俺の知らない兵器……!)

共に大型機だ。
ファフナーやフェストゥムよりも大きい。
それは自身に支給された機体と較べても言えた。
しかし、甲洋に迷いはない。
やれるかやれないかの問題じゃない。
やる。ただそれだけだ。自分は一騎や総士とは違うのだから。
見捨てやしない。何かを、大事な何かを護り通すために戦う。
鉄のように固く、そして閉ざされた意志の元にガナリー・カーパーを構えさせた。
見る見るうちに銃身が展開していくガナリー・カーパーに奇妙な満足を得る。
まるで自分のペットが上手く自分の言う事を聞いてくれた時のような感覚。
家の裏で飼っていたショコラが自分の言う事を――そういえばなんでショコラって名前をつけたのだろうか。
何かの名前を少し変えて筈だろうけども、思い出せない。
また一つわからないことが思い出せないことが増えてしまった。
同時に悲しくなってくる。いつから自分はこんなに涙もろくなったのだろう――やはりわからない。
だけど、今はそんなことを考えている時じゃない。
虚ろ気であった甲洋の顔が再び戦士のそれに戻り、ガナリー・カーパーが緑色の輝きに包まれる。

(捉えた。そこだ、いけ……!)

そして甲洋は引き金を引いた。
あっさりと、まるで自分の指を動かすように。
今しがたハイ・ストレイターレットによる撃ち放った光が眩い。
紫の極光を見つめ感傷に浸る暇はない。直ぐにバルゴラ・グローリーを指示を与える。
狙撃のために減速させていた速度をフルスロットルに。
容赦なく襲うGなど気にせずに、バルゴラ・グローリーをただ全力で飛ばす。
更にガナリー・カーパーをブイ・ストレイターレットに変形させ、落ちてゆく敵機へ銃弾を撃っていく。
標的がでかい分、面白いように弾丸は当たってくれる。
もう一方の機体は驚いているせいか特に動きを見せない。好都合だった。
ようやく此方を振りむいた赤い巨人と更に接近。
胸部の損傷が酷い。そう思った瞬間には既に狙いをそこに絞っていた。
どんなに頑丈な装甲だろうとも集中的に狙ってやればそうもいかない。
冷酷な判断。しかし、甲洋は自身の行為に特に感想も覚えずバルゴラ・グローリーを肉迫させる。


548それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:45:30 ID:IeCDUXZK

549それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:45:33 ID:WiomJPuj
 
550それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:46:21 ID:iQg6L9TO
 
551儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:46:24 ID:0fgLlHko

「護るんだ……俺は、護るんだ……!」


甲洋は初めて声を発した。
意志とは裏腹にそれは絞り出したような苦しげな声だった。
ファフナーに乗っている時は何もか違う。
もう一つの自己として受け入れ、自分の手足として扱うファフナーとはあまりに違う。
だが、やることは何一つとして変わっていない。
上手くやらなければらない。そうしなければ自分も一騎と総士と同じになってしまう。
もう失いたくない。大切なものは失いたくはないのだから。
ガナリー・カーパーの生物の眼球を模したような緑色の球体、スフィアが鈍く光りその姿を変えていく。
桃色の光の奔流が菱形状の刀身を形成する。
その刀身はあまりにも大きく、出力の高さを否応でも匂わせる。

「ちっ! また乱入者かよ!!」

しかし、ビッグデュオの反撃が叩きこまれる。
ガトリングミサイルでは間に合わないと判断したのだろう。
両目から撃たれたアークラインの光がバルゴラ・グローリーへ向かう。
ビックデュオへ斬りつけようとしていたバルゴラ・グローリーに避ける手だてはない。
そう、あくまでも“避ける”手段はない。
振りかぶらせていたガナリー・カーパーの刃の光が更に輝く。



「――俺はああああああああああああああああッ!!」



そして振るった。
力強く、何もかも薙ぎ払うように。
暴れ狂う光の粒子がアークラインの光を跳ね飛ばし、返す刃で再びビッグデュオへ斬りかかる。
甲洋がこれを狙ったのかは定かではない。
恐らく自分でもわかっていないのだろう。
そもそも甲洋はそんなことまで考えていない。
損傷が特に酷い胸部を斬り裂けば機能停止、コクピットがあればパイロットは即死だろう。
もう直ぐ自分が人を殺すかもしれない。
こんな状況でありながら甲洋はただそれだけを考えていた。
だが刃は止まらない、止まる筈がない――。



552それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:46:59 ID:WiomJPuj
 
553儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:47:10 ID:0fgLlHko





「護るんだあああああああああああああああああああああああああああああッ!!」



強烈な一閃がビッグデュオの胸部に走る。
生憎それは鮮やかな太刀筋とはいえなかった。
しかし、確かな力強さがあった。
たとえただがむしゃらに、酷くみっともない様子であっても甲洋の悲痛な叫びに呼応するかのように。
その侵攻がビッグデュオの堅牢な装甲に阻まれようともそれは押し進まれた。
ぶるぶると揺れるガナリー・カーパーをまるでへし折ってしまうかのような強引さで――断った。
損傷が酷かった部分を、攻撃を集中させていた部分を、そして必死に斬りつけていた部分を、両断した。
それはビッグデュオの胸部に存在していた部位。先程まで生体反応があった球状の部位だ。
爆発。やがてグラっと揺れたかと思うと、ビッグデュオは力なく海中へ落ちていく。
胸部から舞いあがった黒い煙はきなくさい臭いを帯びている。
バルゴラ・グローリーはただそれを黙って見下ろしていた。




◇     ◇     ◇


554それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:47:11 ID:iQg6L9TO
 
555それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:48:01 ID:IeCDUXZK

556儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:48:09 ID:0fgLlHko


『護るんだあああああああああああああああああああああああああああああッ!!』


アークラインが跳ね返された。
信じがたい出来事だったが現に目の前で起きた。
今からではメガトンミサイルは勿論のことガトリングミサイルでも間に合わない。
認めなくてはならない。
自分は負けた。己の勝負運が尽きたのだ。


(おしまいか……あ〜あ、俺ってかっこわりぃ……)


脱力感は否めない。
ビッグデュオはその火力と装甲からかなりの当たり機体だったに違いない。
そこで運を使い果たしてしまったのか、はたまたその運を活かしきれなかったのか。
どちらにせよ自分が駄目だったのだろう。正直悔しいが仕方ない。
どうやら神様とやらはここからの大逆転は用意してくれなかったようだ。


(すいません、ヴィレッタ姐さん……ちょいと一抜けさせてもらうっす……)


ヴィレッタ隊長が気がかりだから仕方ない。
さすがの姐さんも死人を叱りつけることもないだろうから。
だが、思い残すことはある。少しじゃない。結構あるもんだ。
色々と浮かぶがやはり真っ先に浮かぶのはあいつの顔だった。
今頃何をしているだろうかとか、ちょいとは料理が上手くなっているだろうかとか些細なことだ。
とにかくあいつはこの場に居なくてよかったな。
それは確かだが、思うことはあった。


(なぁ、レオナ……いろいろあったけどさ。俺思うんだ……今更だけどさ、ホントかっこわりぃけどさ……)




557それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:49:15 ID:iQg6L9TO
 
558それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:49:34 ID:IeCDUXZK

559儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:49:39 ID:0fgLlHko


ガナリー・カーパーの刃の光により目の前が一気に明るくなる。
どうやら最期の瞬間すらもゆっくりさせてくれないようだ。
少し不機嫌ながら、だがそれでいて確信を持ってタスクは想いを馳せた――



(お前のキスでも貰ってたら……勝ってたと思うぜ? こいつだけじゃなくてシャドウミラーにも。
だって、勝利の女神さまのキスだ……そりゃ御利益ってモンがあるさ。
それも俺だけの……俺だけの女神さまだから……レオナっていう女神だから…………)



きっとこんなことを聞いたら赤面するんだろうな。
何故だかそんなことすら思っちまう。余裕なんかないのに。
もうあの光の渦に消えていくというのに何故か。
答えは考えるまでもなかった、今更考えることがばかばかしいぐらいに。
俺は、タスク・シングウジはわかりやすい人間だから。




(好きだったぜ……レオナ、まあ、疑ったことなんかなかったけど……な…………)



そこで俺の意識は消えていった。





【タスク・シングウジ:死亡確認】



◇     ◇     ◇


560それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:50:27 ID:WiomJPuj
 
561儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc :2010/01/25(月) 23:50:56 ID:0fgLlHko

(フェストゥムじゃない、相手も人間だった……同じ人間だった……! だけど、俺は…………!)

落ちてゆくビッグデュオを見つめる。
ジョーカーとして人を殺せといわれた。
人類の敵、フェストゥムを倒せとはまた違う。
彼らフェストゥムならば一切の抵抗はない。
竜宮島を襲ったという理由もあるがやはり彼らは異質なのだから。
だから自分の力を証明するために、一騎や総士とは違うことを証明するために戦える。
だが、自分と同じように赤い血が流れている人間とは違う。
生き残るということはこの場で他者を蹴落とすことだ。
そして実際、たった今一人の人間の命を奪った。
突然動きを止めたところあれがコクピットだったのだろう。
しかし、後悔はない。
そうしなければ大事なものを護れないのだから。
だけどどうしても気分が悪かった。

「くっ……がっ、げほ…………」

急に吐き気が催してきた。
覚悟は出来た筈なのに。
護ると誓った筈なのに。
今、自分の手で人間一人を殺したと考えれば我慢出来なかった。
今更ながらに人を殺してしまった自分を自己と認めたくないと思う。
しかし、慣れなければならない。
最低でもあと一人は殺さなければならないのだから。
たとえばこのもう一機を、自分の手で。
こうしている間にも襲われる可能性だってあるのだから、ぐずぐずなんかしていられない。
頭ではわかっているのに、身体がどうにも言う事を聞いてくれなかった。

562それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:51:15 ID:WiomJPuj
 
563それも名無しだ:2010/01/25(月) 23:51:20 ID:IeCDUXZK

564儚くも永久のカナシ ◆40jGqg6Boc

「お前……」

だが、シンはスレードゲルミルを動かそうとしない。
動きが止まったバルゴラ・グローリーをただじっと見据えている。
体調を抑えることに精一杯な甲洋なら簡単に殺せるだろうに。
ただ明らかに戦いなれていない様子の甲洋がどうにも気になっていた。


「……名前は?」
「……春日井、甲洋……」

何かの気まぐれか定かではないがシンが甲洋の名前を問う。
元々シンの狙いはヴィレッタが持つレイの情報だ。
襲われれば迎撃はするがそんな時間があればヴィレッタを追うのに費やしたい。
加えて憐れな姿を晒した甲洋を殺す気にはどうにもなれなかったのもある。
また、目の前であまりにもあっさりと命が奪われた事には驚いた。
だが、冷静に考えれば悩む必要はなかった。
自分もそうするつもりだったから。迷いは捨てたのだから。
ただ目の前の人間が代わりにやってくれた。
そのぐらいの印象でしかない筈だ。
だからというわけではないが今回は見逃してやる、とシンは考えていた。
それは苦行を代わりにやってくれた甲洋への僅かながらの感謝だったかもしれない。

「ッ! 皆城が言っていた……今度は見逃さない、絶対にだ……!」

そんな時、シンの表情が豹変する。
時間も惜しいため今回だけ見逃すのは変わりない。
しかし、甲洋が皆城総士の知り合いの一人だということを知った。
何を考えているかわからなかった皆城の知り合いが目の前で殺して見せた。
そこまでの状況を作り出したのは自分だがそれでも思ってしまう。
あの羽佐間翔子もそうだ。これまで出会った皆城の知り合いは人を殺している。
これは偶然なのか。わからない、わからないが警戒に越したことはない。


(残りは真壁一騎に遠見真矢……こいつらは、どうなんだ…………?)


スレードゲルミルを反転させながらシンは残りの二人について疑問を抱く。
知っているのは名前だけだ。皆城との関係は一切わからない。
ただ、羽佐間翔子と春日井甲洋の件もあってあまり良い印象はない。
だが、ほんの少しの興味のようなものは確かにあるがそれも些細なことだ。
結局、自分の目的には関係がないことなのだから。