第三次スパロボキャラバトルロワイアル2

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1それも名無しだ
ここはスパロボのキャラクターでバトルロワイアルをやろうとするスレッドです。

【原則】
・リレー企画ですのでこれまでの話やフラグを一切無視して書くのは止めましょう。
・また、現在位置と時間、状況と方針の記入は忘れずに。
・投下前に見直しする事を怠らないで下さい、家に帰るまでが遠足です。
・投下後のフォローも忘れないようにしましょう。
・初めて話を書く人は、本編を読んでルールや過去のお話にしっかり目を通しましょう。
・当ロワは予約制です。投下する前にスレでトリップを付けて使うキャラを宣言しましょう。
・予約の期限は五日。期限内に書き上がらなかった場合の延長は二日までとなります。

【ルール】
・EN・弾薬は補給ポイントを利用することで補給することができます。
・補給ポイントは各キャラの所持するマップにランダムに数個ずつ記載されています。
・機体の損傷は、原則として機体が再生能力を持っていない限り直りません。
・再生能力も制限で弱体化しています。
・特定の機体がスパロボのゲーム内で持っている「修理装置」「補給装置」はありません。
・8時間毎に主催者からの放送が行われます。
・放送毎に主催者がMAP上に追加機体の配置を告知します。
・乗り換えは自由です。
・名簿は支給されます。

【備考】
・投下された作品に対して指摘をする場合は、相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、ミスがあった場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・スパロボでしか知らない人も居るので、場合によっては説明書きを添えて下さい。
・おやつは三百円までです。使徒やゲッター線は好きに食べてください。
・水筒の中身は自由です。健康を謳いながらハバネロやステビアを添加するのも自由です。
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
・作品の保存はマメにしましょう。「こまめなセーブを忘れるな」って昔どっかの元テロリストも言ってました。
・イデはいつ発動するか分かりません。本当にあった怖い話です。


まとめwiki
http://www31.atwiki.jp/suproy3/

したらば避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/13329/

前スレ
第三次スパロボバトルロワイアル・開始前議論スレ
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1260588818/
2それも名無しだ:2009/12/26(土) 16:34:12 ID:pPw40HT5
セックス
3それも名無しだ:2009/12/26(土) 17:07:50 ID:9Udw5idx
俺は童貞だ
4それも名無しだ:2009/12/26(土) 17:45:57 ID:h6/h3MnD
てめえに俺の乙はやれねえなあ! ウソウサ
5それも名無しだ:2009/12/26(土) 19:09:23 ID:h/a10iOU
乙です
6それも名無しだ:2009/12/26(土) 19:17:15 ID:RDeenahb
>>1
乙!
7それも名無しだ:2009/12/26(土) 22:32:58 ID:0oAovWJ0
1乙だ
8それも名無しだ:2009/12/27(日) 01:56:21 ID:hhTllKBJ

半角にしたのね
9 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 15:45:16 ID:XIu1ZHWl
すみません、続き行きます
「ついつい、だと? 貴様、ふざけているのか!」

ふざけちゃなんかいない。
女を助けちまったのは本当についついだった。
けれどこの場に引返してきたのはついなんかじゃない。
どうしても聞き捨てならない言葉をこいつが言いやがったからだ。

「なああんた。本気で女を好きになったことないだろ?」

女はゴミだと、女は屑だとこいつは言いやがったのだ。
気に入らねえ。その考え方が何よりも気に入らねえ!

「好きだと? この俺のエーデル准将への想いは愛だああ!」
「そうかい。だったらそいつも大した女じゃねえってことだな」

俺は生まれた時から一人だった。
親が誰なのか、どうなったのか知らない。
食べることだけ考えていて、それには金と力さえあれば良かった。
世界は俺にとって単純にできていた。
その世界をあいつは、エレナは変えてくれた。
あいつにとって俺は単なる仕事仲間のはずだった。
だがあいつは俺に……優しくしてくれたんだ。手を握ってくれたんだ。
俺はそれまでの自分が非道く惨めに思えて。
あいつのことを好きになった。
あいつのおかげでガドヴェドのことも、いや、人間そのものも嫌いじゃなくなった。
エレナは、それくらいにいい女だったんだ!

「貴様、貴様、貴様あああ! 気高くも美しいエーデル准将を愚弄するかあああ!」
「ああ、するね! 人一人の女嫌いもなおせないような女なんざとは違う本物を知ってるんでな!」

女嫌いどころか人間嫌いをもふっとばしちまうようなそんな、そんな、俺の大好きな女だった!
それを、あいつは奪った!
カギ爪の男は、俺からエレナ。
やっと見つけた俺の一番大切な人を奪った!
そしてあのもじゃもじゃ頭はエレナが俺に命がけで残してくれたダンを奪った!
死にゆく俺を助けるために、あいつは致命傷を負ったまま俺を改造しダンの生命維持装置に適合させてくれたんだ。
俺にじゃなく、自分に施していれば助かったかもしれないのに。
……俺は自分よりもエレナに生きていて欲しかったのだろうか?
違う。
俺は、俺はエレナと共に生きたかったんだ!

「許さんぞ、貴様っ!! 女と共に貴様も八つ裂きにしてくれる!」

許さない?
そうだ、俺は絶対に許さない。
俺からエレナを奪ったカギ爪の男を!
俺からエレナの残したダンまで奪おうとするもじゃもじゃ頭も!
エレナを死んで当然だと言ったこの男も!

「いいぜ、てめえら即効片づけて、カギ爪野郎をぶった斬る!!」

全部、全部、全部、この手で必ずぶち殺す!


【ヴァン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:良好
 機体状況:斬艦刀verダンの太刀、ガーディアンソード
 現在位置:C-5 平原
 第一行動方針:エレナの仇、カギ爪野郎をぶっ殺す!あん、未参加?知るかあ!
 第二行動方針:ダンを取り戻す。もじゃもじゃ頭、死ねぇええぇえぇっ!
 第三行動方針:ライオン野郎をとっとと片づける。
 最終行動方針:エレナ……。カギ爪えええええええええええッ!
 備考:斬艦刀を使い慣れたダンの太刀、ヴァンの蛮刀に変形できます。
    十四話直後からの参戦です】


【ホシノルリ(劇場版) 搭乗機体:フェアリオンGシャイン王女機(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:良好
 機体状況:中破、EN消費(中)、エネルギーフィールド発生装置負荷大
 現在位置:C-5 平原
 第一行動方針:この窮地を脱する
 第二行動方針:自身のハッキング能力を活かせれる機体を見つけたい
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する
 備考:ヤマダ・ジロウ(ガイ)は同姓同名の別人だと思っています】

【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)
 パイロット状況:戦意高揚(戦化粧済み)
 機体状況:十王剣なし(近くに落ちています)
 現在位置:C-5 平原
 第一行動方針:エーデル准将を愚弄した男を殺す
 第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
 第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
 最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う
 備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】

【一日目 6:40】
投下終了
13それも名無しだ:2009/12/27(日) 15:56:44 ID:vF2BEgKr
ヴァルシオーネとかアフロダイAとか支給されなくて良かったな、レーベン。
14それも名無しだ:2009/12/27(日) 16:05:20 ID:caraFolB
投下乙!
ヴァンとレーベンは良い機体が支給されたな
レーベンにはガオガイガーあたりかと思ったがゴライオンか
そしてルリルリは活かせる機体を見つけられるのか?
ってか活かせる機体って現状支給されてるか?
D-3とかも出てないし・・・
15それも名無しだ:2009/12/27(日) 16:10:25 ID:vF2BEgKr
>幸い見つけるのが早かったおかげでライオンロボとの距離は元より十分離れている。

読み返してて気付いたけど、ヴァンの一人称だと「ライオンヨロイ」じゃないとおかしいかも。
16それも名無しだ:2009/12/27(日) 16:14:02 ID:a3vzwQ4p
>>13よ、お前は重要な事を忘れてるぞ。
ゴライオンは……メスライオン5匹が合体した機体だ!!!
17それも名無しだ:2009/12/27(日) 16:22:51 ID:8/b51ZpC
さすがヴァン。こんな状況でも、第一行動指針がぶれてねぇww
18それも名無しだ:2009/12/27(日) 16:59:47 ID:EeIw3dTO
 
19それも名無しだ:2009/12/27(日) 17:59:13 ID:vR2+OEie
ヴァンとレーベンがこう絡むかw
これは楽しみになってきたw

とりあえず前スレは埋めてしまわないか?
20それも名無しだ:2009/12/27(日) 18:01:46 ID:8u/zL4mY
ヴァンかっけー
レーベンとの対比もいい感じだな
21それも名無しだ:2009/12/27(日) 18:06:03 ID:ZaEoes1y
ゴライオンか。こいつもスパロボWでかつてラスボス含むオリ組織を単独で撃退したとかいうトンデモロボだな。
ルリが活かせる機体といったら現状じゃクロガネが一番設備整ってるかな?
あと、一つ突っ込みたいとしたら、ヴァンはダンに乗らないと死ぬという事くらいしか分かっておらず、
神経電気を増幅だのG-ER流体制御システムだのは把握できてないんじゃね?
なにせ「よく分からんけど剣の形変えられる」「ダイレクトなんちゃらシステム」だし
22 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 18:13:40 ID:XIu1ZHWl
たくさんの感想といくつかの指摘を感謝。
ライオンロボ→ライオンヨロイに修正。
また、神経電気を増幅だのG-ER流体制御システムだのは

どうやらこのヨロイに使われているダイレクトなんちゃらシステムとやらはオリジナル用に人体改造された俺とはかなり相性がいいらしい。

改造の副作用でダンがなければ遅くとも一週間後には死ぬ。

という風に修正して収録します。
また、フェアリオンの状態に初期装備の換装武器であるアサルトブレードを追加しておきます
23 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 18:18:18 ID:XIu1ZHWl
と、あれ?
すみません、スレをまたぐに辺り一部投下に抜け落ちを発見しました。
>>10
の前に次の部分を
24 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 18:20:36 ID:XIu1ZHWl
今にも迫り来る凶刃を前にいつか口ずさんだ言葉を皮切りに今までの思い出が脳裏を過ぎります。
これが走馬灯というものでしょうか?
始まりはあの水の音で。
施設で過ごした伽藍堂の日々が挿入されて。
ネルガルに引き取られてからの特に面白みのない生活が駆けていって。
そして――
コマ送りのペースが一気に遅くなりました。
それはあのナデシコでの日々。
ユリカさんがVサインをして。
アキトさんがチキンライスを作ってくれて。
山田さんが名前を言い直して。
ジュンさんが報われなくて。
イネスさんが説明しだして。
オモイカネが暴走して。
アキトと止めにいって。
メグミさんがおかしな飲み物を作って。
リョーコさんも一緒になってキッチンを壊滅させて。
ヒカルさんが漫画を描いてて。
イズミさんが寒いギャグでみんなを凍らせて。
アキトさんと一緒にピースランドに降り立って。
ミナトさんがルリルリって私を呼んで。
ゴートさんがむっつりしていて。
プロスさんが胃薬を探していて。
ホウメイさんが見守っていてくれて。
館長コンテストに飛び入りして歌を歌って。
白鳥さんが真っ赤に照れていて。
ユキナさんが笑顔で走り回っていて。
アカツキさんが会長さんで。
エリナさんが一苦労していて。

我ながらなんだかアキトさんの比率が多いですね。
アキトさん……迎えに行けなくてごめんなさい。
今度はわたしが置いていく側になっちゃったみたいです。

最後に私が謝った思い出の中のアキトさんはいつの日か墓地であった黒尽くめの姿で。
その姿が突如転じて黒いタキシードを纏った見知らぬ男の人へとなりました。

「え?」
「あー、通信ってこれでいいのか? おいあんた、とっとと逃げろ」

呆然としていたのは何秒位のことだったでしょうか。
走馬灯の海に飲まれていた私はようやく現実に復帰しました。

「貴様ぁっ! 見捨てたのではなかったのか!」
「いやー、すいません。ついつい」

見れば後一寸でフェアリオンに到達していたはずの剣は横合いから伸びた――そう文字通り伸びた剣に絡め取られていました。
それをなしたのは確かにさっき私達に関わらないように去っていったはずの鎧武者でした。
しかもこの鎧武者、フェアリオンの僚機だったのかモニターに形式名称が表示されています。

――DGG-XAM1 Dynamic General Guardian

「ダイナミック・ゼネラル・ガーディ、アン?」
「ダン、だ。そして俺はヴァン。人呼んで」

ヴァンさんが伸ばしていた剣で十王剣を弾きながらテンガロンハットの片側にある輪に指を通して反対側に回して名乗ります。

「夜明けのヴァンだ!」
25それも名無しだ:2009/12/27(日) 18:25:11 ID:a3vzwQ4p
なるほど、確かに略せば“ダン”だ。その発想はなかったわ、マジ感服した。
26 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 18:28:28 ID:XIu1ZHWl
修正完了。
スレをまたいだ上に投下ミスもあり読みにくくてすみません。
一応WIKIでの当話のリンクを張って置きます
http://www31.atwiki.jp/suproy3/pages/69.html
27それも名無しだ:2009/12/27(日) 18:31:26 ID:ZaEoes1y
ダイナミックゼネラルガーディアン、略してダンか、うまいな
28それも名無しだ:2009/12/27(日) 18:32:17 ID:caraFolB
>>アキトと止めにいって。
さんをつけろよデコ助野郎ォ!なんちゃって
29 ◆8Ab8CIePQg :2009/12/27(日) 20:28:51 ID:XIu1ZHWl
>>28
だがことわ……れない!
修正しておきました。感謝
30それも名無しだ:2009/12/27(日) 21:58:03 ID:vR2+OEie
予約が5日間ってことは予約開始日が23日だから、
延長申請がないものについては、少なくとも明日の朝には全員分揃うってことか。
楽しみで眠れないなw
31それも名無しだ:2009/12/27(日) 22:05:29 ID:a3vzwQ4p
予約開始からしばらく経ってから予約されたパートもあるから、全部出揃うとは限らんよ。
32それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:15:35 ID:vR2+OEie
今確認したら24日のAM6時あたりが1周目で一番遅い予約かな。
33◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:35:31 ID:A6NsQGW7
朝。
空は漆黒から青々とした色に変わり太陽が控え目にその顔を覗かせる。
まだ朧げなその陽光もやがて燦々と地上全体を照らすものになるだろう。
それは一日の始まりを実感できる指標。ある者には英気と活力を、またある者には虚脱と疲労を。
そしてある少年には言い知れぬ不快さを与えていた。
C-3。鬱蒼と木々が生い茂る森の外れ。
見通しが悪く周囲がほの暗い闇に包まれたそこにうらやかな木漏れ日が二つの存在を照らし出す。
コロニー『フロンティアW』フロンティア総合学園工業学科に通う高校生シーブック・アノー。
そして彼の傍らで静かに佇む人型兵器オーバーマンキングゲイナー。丸みを帯びた華奢なシルエット。白と青を基調としたカラーリング。髪の毛ようなものを生やした頭部。
それはどこか本物の生き物のような雰囲気を醸し出していた。


喧騒のない静寂の世界に暖かな風が吹き抜ける。
草木が揺れ、柔わらかい感触がその少年の頬を優しく撫でた。
今だ夜の残滓が残る森林を背後に端正な顔立ちをした少年−−−シーブックは今現在何か行動をするわけでもなく、ただただ虚空を陰欝な表情で眺めていた。 その姿はさながら迷子になり途方にくれる子供そのもの。
でもそうなるのを誰が責めようか。
彼と同じ状況に立ったらきっと誰もが一度は思いこう言うだろう−−−

「夢でも見てるのか、僕は……」
それもとびっきりのたちの悪い夢−−ー悪夢。





唐突の目覚め。見覚えのない場所。多くの知らない人、人、人。
一体何が起きたのか?
まるで訳がわからない。ひたすら疑問と困惑とがシーブックの頭を占める。
住んでいるコロニーが突然テロリストの襲撃に合い自分は妹のリィズや友達のセシリー達と避難しようとしていたはずだった。
その矢先に起きたこの異常事態。いや、元々の異常事態にさらなる異常事態が上塗りされたと言った方が正しいかもしれない。
とにかく目まぐるしく推移する非常識な状況に芯は多少強くともただの高校生であるシーブックの心中はもうパンク寸前だった。
しかし落ち着く暇もなくさらなる追い撃ちをかけるように驚愕の言葉の数々が彼の脳髄に直撃する。


バトルロワイアル−−−殺し合い。説明。そして強要。

既に理解の範疇を越えていた。


だが本当の悪夢はここからだった−−
34◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:37:39 ID:A6NsQGW7
殺し合え……もし一方的にそう告げられれば人間どのような反応をとるか。
冗談?驚愕?憤怒?絶望?憎悪?恐怖?悲嘆?号泣?諦念?

その数多の選択をそれぞれが選んでいく中、ポンっという破裂音を発して吹き飛んでいく人の頭。後には見るも無惨に血溜まりに沈んでいく人間だったもの−−−


目を疑う衝撃……数瞬遅れてつんざく怒号と悲鳴。にも関わらず何事もなかったように続くどこまでも事務的な説明……


そして気が付けば見た事もない機体に乗りこの場所に飛ばされていた。
呆然自失とはこういう事を言うのだろう。
全く事態が呑み込めないでいるシーブックはひとまず落ち着こうと外の空気を求めてコックピットを出ようとして−−−
しかし出方がわからず何とはなしに視線をさまよわせていると、
ぽつんと置かれている食料と名簿に何かのビデオテープ、そして機体のマニュアルに気づく。
その中からマニュアルを手に取ると軽く流し読みする。
それだけでこの機体が未知の技術と自身の預かり知らないパーツで造られている事がわかった。

(同じ人型でも、僕の知っている物とはこうも違うのか。それに……いや、きっと気のせいだ……)

何とか手早く機体の構造だけは理解する事ができたシーブックは少し逡巡した後名簿に手を伸ばし脇に抱えると腹部に当たるチャックを開けて外に出た。


それから何かするわけでもなくただ時間だけが過ぎた……


夢。これは悪夢。そんなたちの悪いものを今も見ている。むしろ、そうでありたかった。そう願いたかった。
だけどその全てを冷えてきた頭が頑なに否定した。

わかりたくないだけでシーブック・アノーは無意識の内にわかってしまっていた。


今瞳に映る青空が、あの嘔吐を催す光景が、この無機質な首輪の感触が、
あまりにも普通で、あまりにも鮮明で、あまりにもリアルで、
これが最悪でくそったれの現実だと−−−

「……クソッ」

思わずらしくない悪態をついてしまうシーブック。 平和な世界で物騒事とは無縁の日常を謳歌しているはずだった。
その平穏が何の前触れもなく崩壊してまた新たな凄惨な現実が彼の目の前に提示される。
心も身体もまだ成熟段階の少年にとってそれはとても辛く苛酷なものだった。

「……セシリー……リィズ……父さん……みんな……」

無事に避難することはできたんだろうか?
35◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:38:56 ID:A6NsQGW7
不幸中の幸いかシーブックにとっての縁がある人物の名前は誰一人名簿には記されていなかった。
それでも彼の気は晴れることはない。現在もあの渦中の中で危機的状況に立たされて、すぐにでも助けを求めていないとも限らないのだから。
それなのに自分は近くにいてやることも守ってやることもできない……
そんな自身の不甲斐なさに苛立ちと憤りを感じながらも今は無事を祈り信じることしかシーブックにはできなかった。

……そしてそこで一旦思考のネジを締め直し意識をふたたび自身の置かれている状況に傾ける。


今だ現実味が薄く実感が湧かなくとも認識しなくてはならない。
『バトルロワイアル』殺し合い。つまり血で血を洗う命の奪い合い。
目的も理由も一切わからない。ただわかるのはその盤上の駒として否応なく巻き込まれたということ。
そしてそれを有無を言わせず強制できる圧倒的な力があのヴィンデルという男にあるということ。

「……」

日に照らされ不気味な光沢を放つ首輪にそっと手を当てるシーブック。
思い出すのはあの呪いのような光景。
この拘束具が絶対的な物であり自分達に反逆が許されないと認識させるためには十分なものだった。
……でもだからって言う通りに従って殺しをする? 確かに死にたくなんてあるわけないし、何よりシーブックには帰らなければいけない所があった。
……でもそのために最後の一人になるまで殺し合いをする?

恐怖が、不安が、諦観が絶望感があらゆる負の感情がシーブックの全身に絡みつく。……だがそれを吹き飛ばす純然たる怒りが心の底からせりあがってきた。

「ッ……受けいれられるわけないじゃないか、そんな事!」

そう、そんなものは守る戦いですらないただの無意味な殺戮だ。
殺すのも殺されるのも、ましてやそれを見過ごすということは心優しい少年であるシーブックにはできるわけがなかった。

「でも、どうする。…どうすりゃいい僕は!」

自分は少し機械に知識があるだけの普通の高校生なのだ。
感情ばかりが先行してこれからどうすればいいのか、何ができるのか、そういった明確なビジョンが何一つ浮かんでこなかった。
それでもシーブックは必死になって考える。考えて−−−

そんな時だった背後から声が聞こえたのは。

「危険だぞ。周囲の警戒を怠り、立ち止まっていては」


36◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:40:07 ID:A6NsQGW7
木立を縫うようにしっかりとした足取りで歩を進める一人の男がいた。
青いコートに、顔には深い傷跡、そして特徴的なもみあげをしたその男の名はジャミル・ニートといった。
15年前、地球と人類を滅びしかけた大戦争の中その類い稀なる才能と他を寄せ付けない圧倒的な戦績により兵士からは英雄と呼ばれ、また自らが世界崩壊の銃爪を引いてしまったパイロットでもあった。その彼もこの凄惨な殺し合いに参加させられていた。

過去の過ち。トラウマ。新たな仲間達との旅。ある少年と少女との出会い。かつて恋した女性との再開と別れ。亡霊との邂逅。悲劇の被害者。旧敵。ある言葉に縛られた者達により始まった8度目となる大戦争。それを望み全てを滅ぼそうとしたある兄弟……そしてある一つの答え。
様々な事があった。その過程で男は成長し感化されついに求めていたものへと辿りつき過去を振り切った。
そうして男はようやく未来を歩き出す。最高のパートナーを得てやるべき事のために向かって尽力するために。……しかし今はその一切を隅に置き男には新たにやらなければいけない事ができてしまった。


数分前−−−


ジャミルは自身に支給された機体に若干の衝撃を受けつつも各チェックを程々に、ここに転送された直後から今までレーダーの範囲内にいる動きを見せない機影にどう対処すべきか思案していた。

(……相手は気付いていないのか? いや、だがこの距離……だとすれば、罠か?)

先程から接触しようとも逃げようともする気配も見せず、その場で停止したまま動こうとしない存在に百戦練磨のジャミルといえどいささかの困惑を禁じ得なかった。それにもう一つ気になる事があった。
運がいいのか彼に支給された物は機体だけではなかった。
それは首輪探知器。効果範囲は機体のレーダーよりさらに広範囲に及び文字通り首輪の位置を詳細に表示する機械だ。
その首輪を示す位置と機体の位置にほんの僅かな差異がある。
つまりパイロットが機体に搭乗していないのだ。

(誘っているにしてはあまりに無用心だな。……やはり明らさまが過ぎる……)

だとすれば……ジャミルの脳裏にティファのような力のない者達の姿が浮かぶ。

(もしそうなら、このまま接触すれば無用な誤解を生む可能性があるか。……用心に越したことはないが、確認はしておいて間違いはないだろう)
37◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:42:05 ID:A6NsQGW7
ジャミルはひとまず機体を手近な場所まで移動させると、淀みのない手つきで端末を操作しコックピットハッチを開けて地上に降りる。
そうして今だ動かない光点の地点に向かって歩きはじめた−−−


(やはり、動きはない…か)

歩きながら常に探知器の表示に気を配っているが今だ位置を示す表示に変化はない。
恐らく、この反応の主は今だ事態が呑み込めず途方にくれ周りが見えていない者か、術すらもたず恐怖に震えひたすらに助けを求めている者か、そのどちらかとジャミルは様々な判断材料から半ば確信していた。
だからこそそんな精神状態が不安定な者に対して機体での接触は余計な負荷をかけかねない。錯乱し予想もつかない行為に及ぶ危惧もある。
勿論そうでない可能性も十二分にある。故に確認といえど油断はできない。この状況下生身を晒すというのはそれこそ自殺行為にも等しいのだから。


やがてその地点が肉眼で確認できる辺りまで来たジャミルは木陰に半身を隠し鋭い視線で観察を行う。

まず視界に映ったのは支給日であろう人型兵器だった。MSとは違い生物をより意識した外見に見受けられた。それから視線を僅かに横にずらすと一人の少年が悲痛な表情で空を仰いで何かを呟いていた。
ここからではよく聞き取れないが、その表情からある程度は予測できる。

(……)

ちくりと胸を過ぎる痛み。ジャミルの顔に陰が射し込んだ。
あの会場には多くの少年少女がいた。その中には逞しく勇ましい者もいるかもしれない。だが人間全員がそうであるはずないのだ。
繊細で気弱で直前まで何事もなく平穏の日常の中にいた者が、この地獄の箱庭にいきなり放り込まれたとすればどうなるかそれは想像に難くない。
しかし頭で理解していても実際わからないものだ。 今視線の先で悲嘆に暮れている者を目にしないとこの胸の痛みが。
故に改めてジャミルは決意する。
殺し合いの根本的な歯車自体を止める事も大事だが尊く儚い命が理不尽に蹂躙されていくのもまたさせるわけにはいけない。
手が届かない命も、助けられない命もあるかもしれない。
でも、ジャミル・ニートは諦めない。懸命に前を見据え走り続けてきたあの少年のように。
これがそのまず第一歩だ。
(未来の灯りは消させはしないぞ、ヴィンデル・マウアー!)
38それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:42:53 ID:a3vzwQ4p
支援
39◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:43:19 ID:A6NsQGW7
そう胸に秘めジャミルは少年の元へ歩いていく。
その時だった。

「ッ……受けいれられるわけないじゃないか、そんな事!」

ピタっと止まる足。
少年の突然の大声にジャミルは目を細めた。

「でも、どうする。……どうすりゃいい僕は!」

ジャミルは少年のその必死の心からの訴えを聞いて一つ思い違いをしていた事を知った。やはり切り離せない焦りがあったからかもしれない。

(……なるほど)

ただ立ち止まっているわけではなかった。ただ怯えているわけではなかった。ただ待っているわけではなかった。少年もまた戦おうとしている。ただ踏み出せないだけ。
視線の先で何かを模索するようにひたすら考え込むその姿は、強敵に完膚なきまでに敗北を喫して大事な者を奪われてしまい道に迷ってしまったかつての少年の姿とどこかダブって見えた。
ならば大人である自分がすべき事はただ一つ。

(背中を押してやればいい。多少、強引にでも)

そしてジャミルは少年に声をかけた。





突然の声にシーブックはビクンと肩を跳ね上げた。 弾かれたように顔を上げるとそこには背の高い男が立っていた。
見知らない参加者との初めての接触に彼の心臓の鼓動は嫌でもテンポアップしていく。
加えて一瞬前まで思考に没頭していたのだ。思わず取り乱しそうになるシーブックだったがその動揺を必死に抑え口を開く。

「……あなたは?」
「私はジャミル・ニート。無論、殺し合いには乗っていない」
「……」

鷹のような鋭い視線に威圧感を感じながらシーブックは咄嗟に動けるように僅かに腰を落とし、半歩下がった。そして警戒の視線はそのままに男の言葉を吟味していく。

「信じられないか?」

殺し合いに乗っていない。つまりするつもりはないということ。もしその逆だった場合そんな人がわざわざ声をかけてくるだろうか?
事実、彼は殺し合いに積極的な人物には隙だらけの恰好の獲物であり問答無用で殺されても文句は言えない状態だった。
何より支給日で配られているであろう機体に降りてまで接触するメリットは殺し合いに乗った者には皆無に近い。
だからこそ説得力があった−−−

この異常の真っ只中にいるためか必要以上に疑り深くなってしまっている自分に心痛めながらシーブックは警戒を解いた。
40◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:44:08 ID:A6NsQGW7
「…いえ、信じます。何かすいません」

頭を下げるその姿はどこまでも心優しい普通の少年であった。
少なくともジャミルの目にはそう映った。だが確かに揺れる瞳の奥で熱い激情を秘めている事も見て取れた。

「いや、こちらこそ信用してくれた事を感謝する。−−君の名前を教えてくれるか?」
「…あ…えっと、シーブックです。シーブック・アノーって言います」

忘れていたように慌てて答えるシーブック。
その表情にはいつもの彼らしい爽やかな色が戻りつつあった。
恐怖と不安の状況化で一人というのは何時だって心細いものである。
それが少し厳つい顔をした男であろうと気を許した者がいるといないとではまた安心感が違うだろう。
もっともそれだけでは彼の逆巻く心に完全な歯止めとはなりえない。
だからそのための一石をこれからジャミルは投じていく。

「そうか。…ではシーブック、君に一つ質問してもかまわないか?」
「…なんでしょう? 僕で答えられることなら答えますよ」

深く考えずシーブックはその質問を待った。

「では単刀直入に聞くが君はこのバトルロワイアル−−殺し合いについてどう考える?」

−−ドクン、と心臓が大きく脈打ったのを感じた。

「……どう…ですか?」 「難しく考えず君の思っているままの事を、素直に口にしてくれればいい」 「……」

一時的な安堵で隅に追いやられていた感情が再びシーブックの鎌首にもたげる。

「……許容とか納得以前の問題ですよ、こんな人の命を弄ぶようなこと……」

ジャミルから視線を外して顔を俯かせるシーブックの眉間に苦悩の皺が刻まれた。

(それがわかってても僕には……)

奥噛みするシーブックに ジャミルはさらに問い掛ける。

「では、どうする?君は」
「……どうするったって…どうにもできませんよ、僕には……」

無力感が空虚感がまるで叱責するように全身に絡み付きシーブックの心を締め上げていく。
僅かに視線を上げた先で深い奥底を見透かすような瞳が彼をじっと見据えていた。

「君はためしたのか?」 「……え?」

何を、と疑問をぶつけるようにシーブックは顔を上げた。

「悩む前に動いたのか?」
「…動く?……どう動けってんです?」

答えを懇願するように、深海の底からはい上がるようにシーブックの心は足掻きさ迷う。
41それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:44:11 ID:jkjF+azn
支援〜
42それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:44:51 ID:XIu1ZHWl
43◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:45:10 ID:A6NsQGW7
だがジャミルはまだ救う手を伸ばさない。

「それは君が一番よくわかっているのではないか?」

分からない、全然わからない、僕は……虚空を泳ぐ視線。
泳いで……もがいて、また泳いで、その時視界の端に一つの存在を捉える。 そこに顔を向けると青い巨人が悠然と彼を見下ろしていた。
まるで彼を待ち焦がれているかのようにじっとそこに威風堂々と。
確かにいたのだ思いを具現化できる存在が。
知らない機体? 未知の機体? 普通の高校生? 何もできない?そんなもの関係ない。
機体を見つめ続けるシーブックの瞳にやがて熱が戻りはじめる。

(……そうだ。…僕はまだ何もしちゃいない)

勝手に決め付けて、やる前から諦めて−−−でも、

「でも、僕にやれる、やれるのか?」

見上げたジャミルにもまたその機体が彼を待っているように見えた。

「やってみる価値はあるだろう。君がそれを望むなら」

そしてジャミルは視線を再びシーブックに向ける。 澄み切った空気を吸い込み目一杯背中を押すための言葉を集束して肺から一息に解き放つ。

「君が願う道…そこに向かって何も考えず走れ!シーブック・アノー!」
「…!?」

動かなくては何もはじまらない。思ってもためさなければ何も為せない。確かに踏み出す勇気はいるかもしれない。だがそこに強い力はいらない。

ジャミルの言葉が遥か前方を照らし彼の心の鬱積を奔流となって押し流す。

だが、だがまだ少し足らない。

「…僕のちっぽけの力でも繋がるんでしょうか。…この惨劇を止めるためのものに」
「…全てを一人で背負い込む必要はない。そのために私のような大人や仲間がいる」
「……仲間…ですか?」 「殺し合いを止めようとする勇気ある者は必ずいるはずだ。だから君は出来ることをしたらいい。私はそれを全力でフォローするだけだ」

たとえちっぽくともがむしゃらに前に進もうとする力強い心が思いと思いを繋ぎ未来を紡いでいく。
それをジャミルは知っている。

シーブックはジャミルの言葉を深く噛み締めるように目をつぶった。

−−しばしの静寂。

いつの間にか巻き込まれた殺し合い。恐怖し絶望しでもそれ以上に憤怒した。
「…もう一度聞こう」

そんな事はしたくない、させたくない、そう思ったでも自分に何ができるんだと答えはでなかった。
44◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:45:56 ID:A6NsQGW7
「…君はどうする?」

いいや、最初から答えはあった。ただ進もうとしなかった。勝手に思い込んで逃げようとしていただけ。

「この殺し合いをどうする?」

そう、深く考える必要も悩む必要もなかった。
死んでからまた考えてもやり直しはきかない。後悔なんてしたくない。
自分でも何かできる力があると信じてただやるだけだ!

(……みんな、帰るのちょっと遅くなるけど、怒らないでくれよ?)

−−心は決まった。

シーブックは決然と目を開く。
そしてただそこに思いの全てを凝縮して言った。

「させませんよ」

その強固な意思を称えた瞳を前にジャミルは微笑む。
もう余計な言葉は必要なかった。だからそれだけ呟く。

「そうか」

そしてすぐに意識をこれからの事に切り替える。
覚悟はしていたが随分と話し込んでしまっていた。 探知器の範囲内に今だ他の反応はないがいつ殺し合いに乗った危険人物が接近して来るとも限らない。
咄嗟の時のために早急に 機体を取りに戻っておいた方がいいだろう。
それまでに彼に少しでも機体に慣れてもらっておき再びここに戻った後情報交換を行い……そこからは彼次第だが。

(…シーブックの機体はMSとは違う。私でうまくアドバイス出来ればいいが…)

その事が少し歯痒くあったが同時に彼が必ずやれるとジャミルは信じていた。 だが時間は多少かかるだろう。またそれをただ待っているというのも悔しい事だができない。
そこまで考えてジャミルはひとまずこれからの事を彼に伝えた。だが−−

「それなら、こいつで僕がジャミルさんをそこまで運びますよ。そっちの方が時間短縮になりますし」

あっけらかんと自身の機体に視線を向けたまま答えるシーブック。

「いや、しかし−−」
「やってみせますよ。そのための決意はもう済ませました」

彼の心中を察したように被せられた力強い言葉にジャミルはここにきて初めて驚きの顔を浮かべる。
その有無を言わせない説得力のある表情はもう立派な大人のそれだった。

(…ガロードといい、ついつい驚かされてしまうな…)

内心頭が下がる思いでジャミルは答える。

「では、頼めるか?」
「…ええ、じゃあ早速動きしょう」

二人は頷き合うと、ここにきてから今まで待ちぼうけを食らっていたキングゲイナーの元に歩み寄った。
45それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:46:45 ID:XIu1ZHWl
46未来の灯は消さない ◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:47:07 ID:A6NsQGW7





「…そういえば、ジャミルさんに支給された機体も人の形を?」

ピクっと数瞬、ジャミルの眉の角度が上がった。加えて微かな胸の動悸を感じた。
何でもない質問にそんな反応をしてしまう自身に苦笑しながらジャミルは静かに頷いた。

「ああ、君のとは大分違いがあるが」

どこか遠い目をするジャミルにシーブックは不思議そうに首を傾ける。

「何と言ったかな−−」
その名は点と点を繋ぎ一つの螺旋を描くもの。

ジャミル・ニートの世界では人類史上最悪の悲劇を産み落としそしてシーブック・アノーの世界では数々の畏怖と伝説と奇跡を紡いできたそれもまた断片の結晶の一つ。

その名は−−−


「クロスボーンガンダムX1」



【ジャミル・ニート 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーン・ガンダム)
 パイロット状況:良好  機体状況:不明
 現在位置:C-3
 基本行動方針:殺し合いを止めるために尽力する  第一行動方針:シーブックに自分の機体の置いてある場所まで送ってもらう
第二行動方針:仲間と情報を集める
第三行動方針:力のない者は保護。あるいは道を示す。
最終行動方針:バトルロワイアルの主催者の打倒。 参戦時期:原作終了後※サングラスはしてません
備考1:首輪探知器を所持※詳細な効果範囲は後の書き手さんにお任せ。



【シーブック・アノー 搭乗機体:キングゲイナー(OVERMANキングゲイナー) パイロット状況:良好  機体状況:良好
 現在位置:C-3
 基本行動方針:殺し合いを止めるために自分のできることをする
第一行動方針:ジャミルさんを機体を置いてる場所まで送る
第二行動方針:仲間と情報を集める
最終行動方針:リィズやセシリー、みんなのところに帰る。
参戦時期:原作序盤※クロスボーンバンガードの襲撃から避難している時
備考1:オーバースキルはまだ使えません。
備考2:謎のビデオテープを所持。


【一日目 6:40】
47未来の灯は消さない ◇8sC8I0OGaw 代理:2009/12/27(日) 23:48:33 ID:A6NsQGW7
代理投下終了しました
48それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:54:45 ID:XIu1ZHWl
投下乙!
ジャミルかっけええええ!
渋いッつうか大人つうか!
シーブックも原作序盤なのに見てて気持ちいいな
戸惑いつつも抗おうとしてる感が伝わってきた。
文字通りその背を押すいいSSでした。
それにしてもこの二人の組み合わせもさることながら(ニュータイプ)、
この二人に“クロスボーン”“ガンダム”とはナイス選択w
49それも名無しだ:2009/12/27(日) 23:56:19 ID:hhTllKBJ
作者、代理投下の人乙!

迷う若人とその背中を押す大人の対比が実に良い
しかしジャミルにクロボンか……シーブックと取り替えたほうがいいんじゃねw
50それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:04:59 ID:PeXHyWDA
投下乙!
シーブックもMSに乗ったことがある頃ならまだしも完全に素人の状態からならビビるよなあ
まあラフレシアを簡単に撃破した成長力なら機体を乗りこなせない心配は無いかな?
機体もキンゲだしむしろF91の癖が無いって事で活躍出来るかもしれん
NEETも迷いを振り切った状態からの参戦ってことでカッコいい
時代は違えどNT同士の出会いが何を引き起こすのか楽しみだ、クロボン引き当てたってのも運命だな

しかし機体が出たから言うけどカズマの目の前の館をメダイユの館につなげてキングゲイナーに乗せようかと思ってたぜ
51それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:10:16 ID:Pd2/V4wd
代理投下乙

この時期のシーブックは確かに新鮮だわ
ジャミルのこのシーンはXスキーな俺としては脳内再現出来て嬉しいぞ
最後にクロボン登場か。よかったです
52代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:22:48 ID:GszxLJE0
代理投下いきます
53代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:23:49 ID:GszxLJE0
何が起こったのか分からない。
少年の心中はそれだけで占められていた。
途切れ途切れの記憶の断片が脳内でぐるぐると回り続けるも、混乱の極みにある現状ではそれが思考の形を成すことはない。
見覚えのない場所。
そこに集められた見知らぬ大勢の人間。
たくましく軍人らしき精悍な雰囲気を纏った男の演説。
質問を投げかけた仮面の男。
赤く爆ぜたその頭部。
その後で名乗りを上げた勇敢なる人物は、ヴィンデルと名乗る男に跳びかかったと思えば消えていた。
何が起こった?
なぜここに自分が?

「僕は……」
「あら、可愛い子ね。人は見かけによらないとはよく言ったものだわ」
「……ッ!?」

床に手をついてうずくまるような姿勢で混乱した記憶を反芻していた少年は、どこか気怠げで妖艶さを帯びた声をかけられ、顔を上げた。
ウェーブの掛かった髪に、深いスリットの入った濃い青のドレスを纏う美しい女性が目の前に立っていた。
そこで初めて少年――碇シンジは己が先程とは違う場所にいることを理解する。
先刻は一つのホールに数十人はいただろうか。それほどの人数を収めて余りあるスペースだったが、今いるここはそれほど広くない。
せいぜい学校の教室ほどの大きさで、照明がついているだけの飾り気の無い空間だった。そこに自分を含めて九人の人間がいる。

「え、ここは?」
「さっきの話を聞いてなかったかしら? あなた達に殺し合いをしてもらうって」

戸惑うシンジに先程の女性が笑みを浮かべながら答えになっていない返答をよこした。
殺し合い……そうだ、あの男もそういっていた。
じゃあどうしろっていうんだ、ここで、この人達と、殺し合えって……?

「あら、そんな顔しないで。まだゲームはスタートではないわ。機動兵器に乗って戦ってもらうと言っていたじゃない。
 まずはその兵器の受け渡しをしなきゃね。それから戦場となる場所へ転移してもらうわ」
「待て。お前はあのヴィンデルとかいうやつの仲間なのか!?」

そう言って割って入ってきた少年はシンジと同年代くらいだろうか。
だが表情はきつく、目の前の女性に向かって鋭い視線を叩きつけるその容貌は、クラスの同級生には見られないものだった。
シンジならばすくみあがってしまうであろう怒りを含んだ問いにも女性は全く動じず、自分の首のあたりを指差す。
そこには何もない。
首がどうかしたのか。
自分の首には、金属の輪が――、

「――!!」
「首輪がない……!」
「そうよ、張五飛。私はレモン・ブロウニング。シャドウミラーの一員。よろしくね」
「貴様!」

レモンと名乗った女性以外の、この部屋にいる全ての人間が息を飲んだ。
一番近い位置にいるのはシンジと、そしてウーフェイと呼ばれた少年だ。
掴みかかろうとすれば可能な距離。だがそれをしない。
格闘技の経験など皆無なシンジならばともかく、見るからに鍛えていそうな体つきのウーフェイですらも。
ユーゼスという仮面の男が首輪を爆破された様、そしてロム・ストールと名乗った男が瞬間移動させられた様を誰もが見た。
54代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:25:04 ID:GszxLJE0
迂闊に反抗するのは得策でないと思うのは無理からぬことだろう。

「さて……おめでとうと言わせていただくわ。あなた達はラッキーよ」
「何だと……!?」

この状況のどこがラッキーなのか。
今にも掴みかからんばかりのウーフェイ以外にも気色ばんだ何人かがレモンを睨んだ。
それをどうということもなく受け流し、涼し気な笑みすら浮かべて彼女は言葉を続ける。

「あなたたちには特別に強力な機体を支給してあげる。もっともタダではないのだけれど」
「目的は何?」
「目的……とはどういう意味かしら? 強力な機体があればあなた達にもいいことじゃない?」
「そうじゃない、私達を殺し合わせるその意味について聞いているのよ」

切れ長の眼を持ち、背の高い妙齢の女性だった。
気怠げで退廃的なレモンとは違う、飾り気の少ない凛とした雰囲気を持っている。
言われてみればもっともな話だ。
そもそも何が目的でこんなことをするのか。
聞きたいことは山ほどある。

「知ってどうするのかしら。あなた達にとって今一番大切なことは『殺さなければ殺される』という、ただそれだけのことよ」
「そうやって生き残っても助かるという保証はどこにもないんじゃないかしら?」
「保証が欲しいの? 私が保証すると言ったところで信用するとは思えないけれど。
 それにそんなものは殆ど意味がないことよ。どうせ一人を除けば皆死ぬ運命なのだから」

ふう、とレモンは物憂げに息をついた。
その長い睫毛を伏せながら、紅を引いたなまめかしい唇から紡ぎだされた言葉。
それはさほど大きな声でないにも関わらず、シンジをはじめとしたここにいる人間たちの心臓に突き刺さるように刻まれた。


「――死にたくなければ殺しなさい。あなた達にはそれしかないの」


ドクン。
空気が止まったかのような静寂。
レモンの視線が部屋にいる全ての人間にゆっくりと、順番に注がれた。
そしてシンジの番。
それは冷たく、重く、そしてどこか悲しげだった……気がした。

「私達の目的はこの殺し合いを最後まで完遂することよ。つまりあなた達を最後の一人まであなた達の手で殺させること。
 生き残った者には多額の報酬、絶大な力、死者の蘇生……大抵の願いを叶えてあげることができるわ。
 私達にはそれだけの力があるのだから。質問の答えは以上でよろしいかしら?」
「なぜ……そんなことをさせる必要が?」
「そこまで答える義務はないわね。さてと、そろそろ話を勧めないとアクセル達にお説教されちゃうわ」

そういいながらレモンはクスリと笑い、こちらに背を向けて数歩ほどシンジ達から距離を取る。
55代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:26:10 ID:GszxLJE0
そしてクルリと振り向いて高らかに宣告するように言った。

「あなた達の役割はジョーカー、つまり他とは違う鬼札。強力な機体を支給される代わりにある役割を担ってもらうわ。
 放送二回、つまり16時間で二人ほど殺してもらいます。できなければ自分の命で償ってもらう。この意味が解るかしら?」
「爆破するということ……!」
「そのとおりよヴィレッタ・バディム。皆、ああいったところで状況を素直に飲み込んではくれないでしょうしね。
 まず、あなた達が手本を見せて欲しいのよ。スムーズにこのゲームを進行させるために、あなた達の手で誰かを殺すことでね……」

そうすることで皆がこのバトルロワイアルの本質を理解してくれることでしょう、とレモンはこともなげに言い放った。
この手で誰かを殺す……?
何言ってるんだ……ありえない……そんなバカな……。
そんなことが出来る……わけが……。
だが混乱の渦中に陥っていくシンジの思考にはお構いなしで説明は続いていく。

「無事にノルマを果たして生き残ることができたら、その後は自由に行動してくれて構わないわ。
 これからあなた達に支給する強力な機体はこの場において大きなアドバンテージとなりうるから、生き残る確率、すなわち優勝の確率も大きくなる。
 そちらにとっても悪い話じゃあないでしょう?」

誰も何も答えない。
重い沈黙が人工的な光に包まれた空間を支配している。
理解、状況把握、打算、混乱が全員の心の中で渦巻いて、結果として誰もが迂闊な言葉を発することができないでいた。

「ああ、肝心なことを忘れていたわ。ノルマにはあなた方は含まれない。ターゲットはその他のプレイヤーよ。
 つまりこの場にいるメンツで同士討ちしても意味はないから注意してね」

レモンはそれからここに居る全員の名前を読み上げていく。
碇シンジ、そしてヴィレッタと呼ばれた女性や、五飛という少年も。
さらにイスペイル、春日井甲洋、テッカマンランス、アギーハ、レイ・ザ・バレル……。
この場の一人ひとりに対して確認するように、そしてお互いを確認させるように、レモンは名前を呼ぶたびにその人間に視線を向けていく。
イスペイルはおよそ人間とは思えない、ロボットのような風貌だった。
春日井甲洋はクセッ毛の、シンジより少し年上らしき少年。無表情。いや、無反応と言った方が正確か。
テッカマンランス。引き締まった体つきで西洋系の男だ。軍人か警察のような職業がいかにも似合う。
アギーハ。いかにも気の強そうな女性で、何も言わずとも不服そうな怒りが顔に出ている。
レイ・ザ・バレル。金髪で、男から見ても整っている顔立ち。表情に僅かながら不快感を表すものの、大きな感情の揺らぎは見られない。

「理解できたかしら? あなた達に拒否権はないわ。
 もっともそんなもの、ここに呼ばれた人間たちには初めから何一つとしてありはしないのだけど」

レモンの理不尽な宣告に対して誰もが怒りを覚えているのだろう。
だが、何を言ったところで無駄なことだ。少なくとも今は。
だから何も言わない。

「さてテッカマンランス。ミスターモロトフと読んだ方がいいかしらね」

レモンは懐から手のひらよりやや大きい、奇妙な形の宝石を取り出した。
それを見た途端、モロトフと呼ばれた男は身を乗り出すようにしてそれを凝視する。
今にも飛びかかって奪い取らんばかりだが、流石にここまできて実際に行動に移すようなことはしない。
56代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:27:18 ID:GszxLJE0
その先一秒後の未来がどんなことになるのかは想像するまでもないからだ。

「それは……!」
「そう、あなたのテッククリスタル。機体の他にあなたにはこれも使わせてあげる。はい、どうぞ」

余りにも無造作にレモンは宝石を放り投げた。
慌てて両手を差し出して受け取るモロトフ。
放り投げた当人は、大の男が慌てふためくその様子に失笑を隠そうともしない。
どう足掻こうが反抗できないと考えているのだろう。
だがその宝石を拾い上げたモロトフは憎悪を込めた笑みを顔に張り付かせている。
笑みが意味する感情はシンジにも理解できた。それは……殺意だ。


「バカめ! テックセッタ――――――――――――ッ!!!!」


眩い光が生まれた。
部屋全体の色を塗り替えるほどの光量の中心はモロトフと呼ばれた男だった。
その異常現象に対して、誰もがそこから後ずさって距離を取る。
光の中心に人影があった。眩しさに眼を細めながらも観察すると、それが鎧を纏ったようなヒトの形に変化していく。

「な……!」
「フハハハハハハハ、テッカマンランス見参! 変身してしまえばチャチな爆弾などでは傷ひとつ付かぬわ!」

光が消えた。
かつてヒトが存在していた場所に立つのは、甲冑を纏った騎士に似た異形だった。
手があって、脚がある。二本の脚で立っている。
それでも、ヒトの形をしていながら、それはヒトとはかけ離れている。
アレは人間ではなく、まさに異形だ。
直感的に拒否感を抱く、人間とは違う何か。
しかしシンジは見た。
それを前にしてもレモンは全く動じていない。

「馬鹿な女よ。この私を捕らえた罪、侮った罪、辱しめた罪、貴様の断末魔で償ってもらおう!!」

ずん、ずんと怪物が近付いていく。
レモンを見下ろし、腕を伸ばせば細く白い首がその手にかかる距離。
そして躊躇うこと無く掴み、へし折ろうとする。
その時だ。
艶のある唇が小さく動いたのは。




「――――馬鹿はあなたよ」
57代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:28:41 ID:GszxLJE0
ばぁん。




くぐもった破裂音が発生した。
音と同時に鎧の異形がぶるりと揺れる。
態勢が崩れて、そのままズタ袋が叩きつけられるように床へ倒れ伏した。

「え……!?」

驚きを示すその声はシンジが発したものだろうか。
それとも別の誰かだったろうか?
一つ言えるのは、誰もがこの異常を把握できていなかったということだけだ。
悠然と微笑む一人の女を除いては。
レモン・ブロウニングを除いては。

「確かにテッカマンの力は凄まじいわ。人間大の大きさに超音速の機動力、反応弾にすら耐える装甲、数え上げればキリがないくらいにね。
 でも私達シャドウミラーはそのテッカマンを生きたまま拉致してくることができる。そういう力を持っているの。
 生きたまま連れ去ってくるのは殺すことよりもずっと難しいのよ?」

つまりこの女はこう言いたいのだ。
どう足掻こうとも、歯向かうだけ無駄なのだと。

「そんなことに考えも及ばない……力に溺れるだけの男なんてどのみち途中で脱落するでしょうね。
 ここで死んでも大勢に影響はないでしょう。けれど、あなた達は違うはずよ。期待しているわ」

変身が解け、異形はヒトの死体となって部屋の床に放置されている。
頭ががバックリと柘榴のように割り開かれ、血の赤と頭蓋の白がミックスされて元の形が分からない。
血の生臭さと脂のべたつきが空気に溶け込んで部屋中の全てにまとわりついてくるような感覚があった。
だがレモンはそれを無視する。
この部屋の出口を指差して、用意してある機体に乗り込むように指示した。拒否権はないと、無言のうちにそう言いながら。
やがて一人がゆっくりと一歩を踏み出した。
そのままふらふらと扉の方へと向かう。
一人、そしてまた一人と扉の向こう側へ消えていく。
その誰もが望んで従ってなどいない。
逆らえないから、少なくとも今は逆らわない。
ある者は絶望に染まった顔で、ある者はレモンを怒りに燃える目で睨み付けて。
ある者はうっすらと笑みを浮かべながら、ある者は何らかの覚悟を刻みこんだ顔で。
そうして、やがて部屋には一人の女だけが残った。


「――ブラスター化したテッカマンもいることだし、仕込みは上々……かしらね。
 閉じた世界の混沌から何が生まれるのか……研究者としては興味深いのだけれども……」


ふう、と物憂げなため息を置き土産にして最後の一人が部屋を去る。
生命のあるモノはそこにはもう誰もいなくなった。


【テッカマンランス@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】
58代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:29:56 ID:GszxLJE0
   ◇   ◇   ◇


「システムLIOH……ダイレクトモーションリンク……なるほど、如何にも俺向きの機体だ」

コクピット内で少年は呟く。
パイロットはシートに座らずアームで保持され直立し、球状コクピット内の動きをセンサーによりリアルタイムでスキャンし機体動作へ反映させている。
その動きがそのまま機体の動作に反映されるがゆえに操縦には卓越した身体能力が必要となり、ダメージが痛みとなってフィードバックされるというリスクもある。
さらにパイロットの潜在能力を強制的に引き上げて操縦させるという過酷な仕様、そしてそうでなくては歩くことすらできぬピーキーな調整。

「強くなくては操る資格はないということか……気に入ったぞ、大雷凰!」

ゼロシステムに触れた経験、そして常に研鑽を心掛ける自分にとってはまさしく己を試すにふさわしい。
全ては強くあらんがため。
心も、肉体も、魂も、弱くあることなど許されない。
正義は常に強くあらねば意味を成さないからだ。
力に屈する正義は、その時点で正義などではない。

「二人……ならば殺し合いに乗る、弱き者を傷つける邪悪を俺は討つ!
 このふざけた戦いで悪意を振りまくのであれば、例え同じジョーカーであろうとも叩き潰すまでだ!」

張五飛は力には屈しない。
どんな強大な力が立ちはだかろうとも己は曲げない。
そうでなければガンダムのパイロットである資格などない。


「正義は……俺が決める!!」




【張五飛 搭乗機体:大雷凰(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:G-4 河口付近
第一行動方針:悪意を振りまく敵を討つ
最終行動目標:シャドウミラーの野望を砕く】
59代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:30:58 ID:GszxLJE0

   ◇   ◇   ◇


ヴィンデル・マウザーが生きており、シャドウミラーが復活していた。
それはヴィレッタ・バディムの心に衝撃を生むのに充分すぎるほどの事実であった。
アクセル・アルマーが、アインストらしき不可解な力によってアルフィミィとともに生存していたことは知っている。
だが、組織の復活に執着するような素振りは見せていなかったはずだ。

「ラミアが知ったらどう思うでしょうね……」

かの組織によって作られた美しき人造人間のことを考える。
紆余曲折を経て組織から抜け出し、今は地球の平和を守らんとする同志となった彼女はここに呼ばれていない。
生みの親であるレモン・ブロウニングや上官であるアクセルには、その関係以上の感情を抱いていたように思う。
そんな彼らが殺戮の宴を催すなどと知ったらどうなるだろう。
自分の意志で、自ら定めた己の使命のために戦えるだろうか?
答えはおそらく、イエスだ。
彼女はもはや作られた存在ではなく、自らの道を歩き始めたれっきとした人間なのだから。
そしてそれはヴィレッタ自身にも当てはまることだ。
作られた存在――だが、そこに確固たる意志があるならば人間と何が違う。
イングラム・プリスケンの遺志を継ぎ、リュウセイらSRXチームとともに闘いながら、同時に彼らを見守っていくことが己に課した使命。
未だにバルマー帝国やゲストこと監察軍の脅威は無くなったわけではない。
いつ、地球が本格的な侵略に晒されるか分からないのだ。
まだヴィレッタにはやるべきことが山ほどある。イングラム亡き今、それを果たすのは自分しかいないのだから。

「アギーハ、ウェンドロ……彼らも生きていた……? 死者の蘇生……いえ、まさか、そんな……でもウォーダン・ユミルまでいる。
 ギリアムにタスク……ギリアムなら、もしかしたら……」

名簿を眺め、知った名前をチェックしながら思考をまとめていく。
無為な血を流すなどできることならばしたくはない。
ギリアムなどの味方を集め、この陰謀に楔を撃ち込むことが出来るならばそうしたいところだ。
だがヴィレッタは強力な機体を与えられ生存確率が上がったのと引換に、制限時間内に誰かを殺さなくてはならない立場にある。
本意ではない。だがそれもやむなしとあらば汚れ仕事は昔からお手の物だ。覚悟はすでにできている。
だが今は性急に事を進める時ではないだろう。
いきなり拉致されて状況を把握出来ていない者も多くいると思われる。
友好的に接触して情報を引き出すか、仮初めの味方として引き入れるという手段も考慮すべきだ。
この場でおそらく最もシャドウミラーに詳しいと思われ、しかも信用に足る人物であるギリアムを捜索するにしても有用な駒となりうる。

「それにしても……これってデザインどうにかならなかったのかしら」

ヴィレッタに支給された機体は強力だが制御が難しい代物だった。
エネルギーの出力調整に精微を極めたコントロールを必要とするそれは、パイロットの皮膚感覚を利用し、微妙な感覚を頼りに出力を制御する。
そのためには皮膚に直接機器を触れさせる必要があり、なおかつ受信状態を少しでも良くするためにそれを露出させておくのが望ましい。
結果としてパイロットの皮膚に貼り付けた機器を露出、すなわちパイロットは機器となるコスチュームだけを身につけた極めて裸に近い状態で操縦することになる。
DFCスーツと名付けられた、水着とボンデージ衣装を足して二で割ったような制御機器を装着した姿があった。
スレンダーですらりと伸びた四肢。
女性らしい胸や腰の膨らみのラインが余す所無くさらけ出され、肢体を締め付けるスーツの黒が純白の肌を際立たせていた。
60それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:31:53 ID:O0x0nRvO
   
61代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:31:58 ID:GszxLJE0
【ヴィレッタ・バディム 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:DFCスーツ着用、ちょっと恥ずかしい
機体状況:良好
現在位置:D-1 海岸
第一行動方針:ギリアムを探し、シャドウミラーについての情報を得る。
第二行動方針:出来る限り戦闘は避け、情報を集める。戦いが不可避であれば容赦はしない。
第一行動方針:ノルマのために誰かを殺害することも考えておく。
最終行動目標:生き残って元の世界へ帰還する】
※参戦時期はOG外伝終了後。


   ◇   ◇   ◇


「ええい、どうなっておるのだ! 開発者を呼べ!」

人間離れした、まるで髑髏を模した仮面をつけたような容貌がこの男の素顔だ。
とりあえず男とは呼んだが、彼には性別など関係がない。
巨大すぎるほど巨大な、大いなる意識の集合体から生まれたその欠片がイスペイルと呼ばれる彼の正体なのだから。
ここに呼ばれた生命体は大半が地球人か、それに似た系列の人類だと考えられる。
そいつらを殺す事には別段抵抗はない。
シャドウミラーと名乗る人間たちは、勝ち残れば莫大な報酬を与えると言ったが、彼らの使う未知の技術を己の力にできるならそれも悪くないと考えていた。
イスペイルの意識の本質は研究者だ。
長年、クリスタルハートの解析に努めてきたのは伊達ではない。
では早速、与えられた強力な機体とやらの性能を把握しようとマニュアルを熟読する。
まず接近戦用の実体剣ディバインアーム。
振り回すには手ごろな上に切れ味も悪くはなさそうだ。
次に長距離狙撃用のビーム兵器であるクロスマッシャー。
射程距離はかなりのものだ。充分な威力も併せ持っており、主力兵装として活躍してくれるだろう。
遠近両距離に対応できる武装はもちろん、人工筋肉による柔軟な動作は接近戦において大きなアドバンテージとなる。
機動性も悪くはない。
なるほど、強力な機体というのは嘘ではないようだ。
だが、ひとつ。
ひとつだけこのマシンには欠点がある。
ここまで完成度の高いものに仕上げておきながら、なぜ最後でこのようにするのか。
研究者肌のイスペイルは、まるで丁寧に組み上げたパズルの最後の1ピースを台無しにされたように苛立ってしまっていた。

「装甲が薄すぎる! 接近戦におけるモーションを邪魔しない程度でももっと厚く出来るだろう!
 いや、いっそがっちりと防御を固めてその分火力を充実させればいいものを!
 何故だ! この機体を作った技術者は何故――――」

技術者、もしくは研究者というものは多かれ少なかれ己の拘りを捨てられぬ人種である。
誰もが生きていく為にやりすごす些細な疑問も突き詰め、研鑚し、真実の一端へと昇華させる。
62それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:33:01 ID:JLqO+uJe
 
63代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:33:08 ID:GszxLJE0
ゆえに一旦疑問というものが芽生えてしまうと、それを捨て置く事が難しい。
むしろ捨て置くようでは研究者にはなれないのだ。


「――こんな、人間の女のような体つきのロボットを作ったのだ!?」


まさか娘の我が侭だったなどという答えには辿り着けるはずもない。
イスペイルに支給された機体の名は、ヴァルシオーネRといった。




【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:イライラ
機体状況:良好
現在位置:D-7
第一行動方針:まずは生存する為にノルマを果たす
第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還】


   ◇   ◇   ◇


「俺が……守るんだ」

春日井甲洋。
本来は心穏やかで優しい少年だった。
助けを求める声があればそれに応えようと手をさしのべる。
誰もがそんな彼を慕った。
けれど。
何よりも大事だった、恋心を抱いた少女を守ることができなかった。

「翔子……」

羽佐間翔子。
病弱で、いつも何に対しても申し訳なさそうにしていた。
好きだったけれど、その子が本当は誰に恋していたかわかっていた。
だから彼女が喜べるように、笑っていられるように、身を引いた。
なのに――、

「一騎……総士……」

あいつらは守れなかった。
それどころかその死に様を否定した。
翔子が、どんな気持ちで島を守ろうとしたのか理解しようともしなかった。
誰も守ろうとしないなら自分でやるしかない。
64それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:33:25 ID:O0x0nRvO
 
65代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:33:49 ID:GszxLJE0

「俺が……守るんだ……」

黄金の瞳。
表情のない貌。
フェストゥムに取り込まれた証。
できなかったことをやろうとした。
そうすることで、できなくて失ったことを償えると信じた。
その結果。
自我をなくして完全に取り込まれる直前に、春日井甲洋は召喚された。


「誰を……守るんだっけ……?」


とても悲しいことがあった。
なぜ悲しかったのか。
思い出せない。
誰を思って泣いたのか。
何を思って償おうとしたのか。
何も感じない。
戦うことだけを命じられ、疑うことすらできないこの有様で。




――春日井甲洋は悲しみの乙女を駆り、定かならぬ何かを求めて戦場をさ迷う。




【春日井甲洋 搭乗機体:バルゴラ・グローリー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下(敵を見つけ次第攻撃に入ります)
機体状況:良好
現在位置:a−1 コロニー周辺
第一行動方針:見敵必殺
最終行動目標:守るんだ……】
※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
66代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:35:30 ID:GszxLJE0
   ◇   ◇   ◇


無限に広がる大宇宙。
数多の星々の輝きを切り裂くようにして、一迅の矢となった白い機体が虚空を駆け抜ける。
自由の名を冠する鋼鉄の流星、ストライクフリーダム。
操るは銀河を股にかける秩序の担い手。ゾヴォークの女将軍アギーハだ。

「ウチのダーリンはいないかぁ。まあむしろよかったけど。
 でもよりによって唯一の知り合いがあのいけすかないウェンドロ坊やとか勘弁して欲しいねえ」

実の兄であるメキボスへの対応を見ても分かるとおり、上司とはいえあの男に温情など期待できない。
隙を見せれば後ろから撃たれる。いや、はじめから自分以外の全てを駒としてしか見ないだろう。
そんな人間にわざわざ付き従う義理はどこにもない。
もとより部下としての義理はお釣りが来るほどに果たした。
この命すら捨てて、だ。
ゾヴォークのアギーハはあの戦いで地球人に敗れ、討ち死にした。

「……でもあたしはこの通り生きている」

死者蘇生。
そういえばあのレモンという女がそんなことを言っていたような気がする。
それが可能であれば、愛しい男を蘇生させることもできるだろうか。
そんな馬鹿なことを……と普段の彼女なら一笑に付すところだ。
だが今はそうやって否定する材料が見当たらない。この自分自身の存在が何よりの肯定材料なのだ。

「さぁて、どうしたもんか」

16時間で二人殺す。それ自体に抵抗はない。
だが敵である地球人を名乗ったヴィンデルたちの言いなりになるのも面白くない。

「でもまあ死んだらダーリンにまた会える可能性がゼロになっちゃうしねえ……」

あの戦いで恋人のシカログがどうなったのかは覚えていない。
苛烈な激戦のさなかで確かめる術などありはしなかった。
だが、まだ生きていてくれたなら。死んだとしても自分のように生き返ることが可能なら。

「まずは1つずつかたずけるとするかねえ……」

目の前のノルマが現在の最優先事項だ。
できなければ確実な死。
考えることはそれが終わってからでもできる。だから考えない。
代わりにまずはこの機体に慣れてから、誰かを二人殺すための戦略を考えるのだ。
67それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:36:14 ID:O0x0nRvO
     
68代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:36:33 ID:GszxLJE0
【アギーハ 搭乗機体:ストライクフリーダムミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:c−1 宇宙空間
第一行動方針:敵を捜して、発見次第撃破。ノルマをこなす。
第二行動方針:ノルマをクリアしたら今後の戦略を練る。
最終行動目標:生き残り、シカログと再会する】
※OGs死亡直後からの参戦です。


   ◇   ◇   ◇


レイ・ザ・バレルはクローン人間である。
その大本は同じくクローンであるラウ・ル・クルーゼだ。
クローンのクローンを創る実験。それは何のために?
理由などない。ただ、出来るかどうか試された。
たったそれだけの理由でレイという男はこの世に誕生させられた。
生まれてしまったからには生きなければならない。
そして本能だけで生きる動物ではない人間であるからには、例えクローンであろうとも生きる理由というものが必要なのだ。
戯れ同然に産み落とされたという現実は常にこの男を苦しめ続けてきた。
ならばせめてこんな悲しみを作り出す世界を変えるためにこの生命を使おうとして、その妨げになるものは切り捨ててきた。
それらを切り捨てることは、結局は己の抱く悲しみを他の誰かに同じ分だけ増やすことだと最後の最後まで気付かずに。

「人は自分の意志で変わることも生き抜くこともできる……か」

崩れゆく要塞メサイアの内部で聞いた、キラ・ヤマトの言葉だ。
母と呼んだタリアに抱きしめられ、レイ・ザ・バレルの短い生涯はそこで終わりを告げるはずだった。
自分は変わるにも生き抜くにも全てが遅すぎたと諦めながら、爆炎の中に消えて行くはずだった。

「ならば今ここで、まだ俺が生きているのは、俺に変われということなのか? キラ・ヤマト……」

キラ・ヤマトはこうも言った。
レイ・ザ・バレルの生命はレイ自身のものであると。
ラウ・ル・クルーゼなどではない。ギルバート・デュランダルでもない。
他でもない自分自身のものであると。

「いいだろう……変わってやるさ」

あの炎の中で、レイを縛る全てのしがらみは焼き尽くされた。
自身の夢と明日を託したデュランダルを他の誰でもない自分のこの手で撃った。
かつて己の全てを捧げた、新しい世界を創り上げるという夢そのものでもあったギルバート・デュランダルを否定したのだ。
全てを賭けた夢を自身で否定したというのならば、今ここで生き延びた自分は抜け殻でしかないのか。
違う。
引換にして得たものがあった。
レイはそれを決して忘れない。
今まで決して呼ばなかった、呼べなかった母という存在。
そう呼んだレイをタリアは抱きしめてくれた。
戯れに生み出されたと思っていた自分自身の生命の意味。
誰からも望まれなかったのではない。
69それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:37:51 ID:O0x0nRvO
 
70代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:40:14 ID:3GdYlcMl
己を望み、愛してくれた人間がいた。
うわべだけの言葉ではない温もりが、レイの最も奥深くにある最も脆い部分を撃ちぬいた。

「俺は……俺のために生きる」

誰かに夢を託すとか、明日を託すとか、そんなものはもう要らない。
寿命が短いことも何もかも、結局は己自身の生命の意味を自分で決めることすらできない弱さへの言い訳にすぎなかった。
そんなものを全て取り払ったときに残ったもの。
それはとても単純なこと。

「生きていたいんだ……死にたくないんだ……! だから……戦うんだっ……!!」

己に言い聞かせるように唱える。
歯を食いしばって、前を見据えて。
あのぬくもりが幻想だと、思い込みだと笑うのならば笑わせておけばいい。
己にとっての真実こそが己にとっての絶対だ。
この単純な生への渇望を否定できるものならしてみるがいい。
レイ・ザ・バレルはただ叫び、戦うだけだ。




――生きていたいと、叫び続けるだけだ。




【レイ・ザ・バレル 搭乗機体:R-GUNリヴァーレ(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:A-4 草原
第一行動方針:生き残るために戦う
最終行動目標:優勝狙い】
※メサイア爆発直後から参戦です。
71代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:41:02 ID:3GdYlcMl
   ◇   ◇   ◇


夢を見ていた。


とても、とても辛いことがあったことは覚えている。
生きていても辛いことばっかりだ。
どこへ逃げてもそうだったし、立ち向かってみてもさらに辛いことにぶつかるだけだった。


今もそうだ。


殺すなんてごめんだ。
殺されるのはいやだけど、自分がそうするくらいなら死んだ方がいい。
僕は生きていないほうがいいんだ。


だって、友達を殺したから。


トウジを傷つけてしまった。
とりかえしのつかないこと。
一度は全部投げ出してしまおうかとも思った。
悩んで、そしてけじめだけはつけるつもりでもう一度戻った。


そしてさらに取り返しのつかない罪を犯した。


「なのに……」


コックピットはエントリープラグに瓜二つだった。
エヴァと同じようにコントロールできる。
LCLは注入されていない。それがなくても動くように設計されているようだった。


「なんで……?」


シンジの瞳は驚愕の感情によって見開かれていた。
七十人の名前が記された名簿は、強く握り締められ皺がよっている。
72それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:41:20 ID:O0x0nRvO
    
73代理投下 JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY:2009/12/28(月) 00:41:43 ID:3GdYlcMl
自分の名前があった。
その他はシンジと同じくここに連れ去られた者たちの名前だろう。
テッカマンランスや五飛なども見つけたが、その驚きはそれらのどれによるものでもない。
その名前からシンジは目を逸らすことができないでいた。
しばらくして、ようやく肺から全ての空気を搾り出すように声を吐く。




「カヲル君…………!!」




この手で殺した『トモダチ』。




【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
パイロット状況:混乱
機体状況:良好
現在位置:D-4 海底
第一行動方針:カヲル君……!?
最終行動目標:???】
※カヲル殺害後から参戦です。


【ジョーカーのルール】
※第二放送が行われる16時間後までに二人の参加者を殺さなければ自身の首輪が爆発する。
※時間内に殺害できればその後の行動は自由。
※ジョーカーである七人の誰かを同じジョーカーが殺害しても、ノルマの数にはカウントされない。
74それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:43:16 ID:3GdYlcMl
代理投下終了

乙です
いろいろ感想書きたいが今はこれしか思い浮かばない


>【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)

ロボじゃねええええw
75それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:44:45 ID:7Q/lKdL6
レモンの“特別に強力な機体”云々は真っ赤な嘘だよなぁ。
はっきり言って、こいつらより強い機体支給されてる人間結構ゴロゴロいたりするから。
ノルマの事を考えたら、貧乏くじ引かされた以外の何物でもねぇ。十六時間以内に二人って、かなり厳しい条件だぞ。

ランスさんは……まあ仕方ないよね、ランスさんだし……。
76それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:45:46 ID:IZLfLjER
ジョーカーとか言いたいことはあるんだが…


なぜゼルエル?
77それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:46:31 ID:Ns7znBNb
ゼルエルwwwwww
いや、まあエントリープラグありゃ動かせんのか?w


ラミエルが見たかry
78それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:47:46 ID:4FhgDLMG
投下乙
確かにあんまりジョーカーならではの機体って感じはしねぇなぁ
でも大量のジョーカーってのはおもしろいかも
ランス…
79それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:48:48 ID:SpXha6dq
投下乙

これは……おもいっきりぶん投げてきましたねぇ。
内容はすっごくおもしろいと自分は思います。

あまり反対意見がでないならば自分はいいと思います。

とりあえず気になった点は1次2次ではでれなかったであろうミーティアw
80それも名無しだ:2009/12/28(月) 00:50:50 ID:bqWAdjgo
代理投下乙です

ジョーカー多いなおい
これで一気にマーダー増えたし各地が乱れそうな予感
つうかランスはせっかく見せしめ回避してもこんなポジションなのね……
81 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 00:52:26 ID:rqBlwTd7
紅エイジ、ウォーダン・ユミル投下します。
82紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 00:54:10 ID:rqBlwTd7
見渡す限り大小の岩山が広がる荒野、その茶色に染まった大地を異彩を放つように蒼く染まった
パーソナルトルーパー、ゲシュペンストMk―2・Sは走っていた。
ゲシュペンスト――シャープで力強いボディーでありながらその丸みを帯びた頭部からくる愛らし
さは芸術のデザインといっても過言はない。
だが、機体を動かす操縦者、紅エイジは中で芸術とは程遠い愚痴を一人延々とこぼし続けていた。
「あ〜あ……なんだって人間同士の殺し合いなんかに巻き込まれてんだろう」
エイジはこの謎の殺し合いに巻き込まれる前までグランナイツの一員として外宇宙から現れた正体
不明の機械、ゼラバイアから日夜地球を守る生活を送っていた。
人間同士での殺し合いをした事のないエイジにとって、ワカメヘアーの男から突然押し付けられた
『みんなで殺し合いをしろ』という命令は当然ながら受け入れられるものではなかった。
「ほんと、災難だよな〜。殺し合いなんてやってられねえっての」
今日何度目になるか分からない大きなため息をつく。
この会場に飛ばされてすぐの頃、機体操縦のマニュアルを読むと共にどうすればふざけた殺し合い
を止める事ができるかは考えた。だが自分の頭では話してダメなら力ずくで止める事しか浮かばない。
けれどもそれでは根本的な解決には結び付かない。
では、どうすればいいか━━
会場に大勢の人がいた事を思い出す。あれだけの数がいたのだ、誰か一人くらいは妙案が思い浮かぶはずだ。
エイジは彼らの知恵を信じて今の自分ができること、即ち仲間を沢山探す事にした。
こうして仲間を求めつつ10分ほど南西に走り続けたが、人っ子一人どころか生き物の気配一つすら
見当たらず、その結果が先程からの愚痴の繰り返しに至ったわけである。
「あー、もうどうなってんだ!アヤカや斗牙達が巻き込まれていないのはよかったけど、どうして
この辺りには誰もいないんだよ…って、あれは…?」
愚痴を言いながらも周囲を見回していたエイジは西の方角から一振りの刀を差した紅色の機体が
東の方へ向かっていくのをしっかりと捉える。

83紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 00:56:48 ID:rqBlwTd7
「おーい、あんた!参加者か〜?」
エイジは機体を走らせるのを止め、スピーカーをオープンにしてゲシュペンストの両手を大きく振
り回す。相手もそれに気付いたのか東に向かうのを止めこちらの方に近寄ってくる。
「如何にも」
剣士風味の機体からは渋いトーンの声が返ってくる。
「俺は紅エイジ、エイジって言うんだ。あんたはなんていうんだ?」
どうやら話はできそうだと思い、エイジは気軽に自己紹介を続ける事にする。
「我が名はウォーダン……
ウォーダン・ユミル!メイガスを守る剣なり!!」
「へっ……?メイガスを……まもる……つるぎ?」
自己紹介をしよう……そう思った直後に突然発せられた謎の言葉にエイジは思わずすっ頓狂な声をあげてしまう。
しかし眼前の機体はそんなエイジの声を無視するかのように刀を抜きこちらへと突き出す。
「お互い名乗りは挙げた。では、いざ尋常に勝負参る!」
「…………はあっ!?」
先程の謎の言葉にまだ困惑していた相手の切り替えの早さと突然の宣言にますます混乱する。
「ちょっ……ちょっと待て!俺は殺し合いなんかする気ないんだ!!まずは話を――」
まだ人間同士の殺し合いをする心構えができていなかったエイジは慌てて機体の右手で拒絶のジェ
スチャーを取り、会話をしようと試みるが、言い終わる前にウォーダンは大声を挙げ遮ってくる。
「話など必要ない!貴様には戦う意志がなくとも我にはあり」
言い切るや否や紅の機体は刀を両手で携える。
どうにか止められないかとエイジはしばらく説得を重ねるがウォーダンは沈黙を続けたまま一歩も
動かない。どうやら全く聞く耳を持ちそうにない。
ならば腹を括るしかない。エイジは生き延びる為にウォーダンと戦う事を決断する。
「分かった、やってやるよ。ただし最初に言っておく。俺はかーなーり強い」
エイジのその言葉を待っていたかのようにウォーダンも返事を返す。
「ではいざ勝負!」

――かくしてエイジにとっては望まぬべき、ウォーダンにとっては望んだ戦いが幕を開ける。
84紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 00:59:02 ID:rqBlwTd7
最初に仕掛けたのは紅の機体の方であった。
両手で握った刀を正眼に構え疾風のような速度で突撃してくる。
(……速いっ!?グランカイザーとは比べ物にならない!だがこの距離なら!!)
ゲシュペンストを上空に跳躍させることで避ける。
(…こっちもネオ・プラズマカッターで対処だ。)
左腕に収納されたカッターを抜きとろうと一瞬目を離す。
だが紅の機体は空中で身動きが鈍くなったゲシュペンストの隙を見逃すことなく跳躍し、すかさず
距離を縮める。
その方向は左腕の収納ラックに手を伸ばした機体の右腕を正確に見定め、電光石火の勢いで刀を
振り降ろし、そして――切り裂く。
「しまっ…」
エイジが気付いた時には何もかも遅く、ゲシュペンストは右腕を失っていた。だが、敵機の勢いは
まだ衰えない。ゲシュペンストはそのまま体当たりを浴びせられて後方へ大きく弾き飛ばされていた。
(マズった……!右腕がなければ武装のほとんどが使えない……!片腕だけで戦えるのか?
それにあの機体の速さ、乗り手の技量、斬撃の威力……ゼラバイアとは全く比べ物にならねえ……)
油断――普段はグランカイザーを操縦しないエイジにとって戦闘における判断力の弱さこそが
最大の弱点であり、それがここぞという生死の境目において姿を見せた形であった。
「ちくしょうっ!スプリットミサイルだ!!」
自分のミスで右腕を失った事は痛い。しかし相手よりも体勢を立て直したのは僅かに速い。
ならば、その隙を突いて相手を崩すまでだ。
紅の機体目掛け発射したスプリットミサイルは全弾命中するかに見えたが――そこで目を疑うことが起きた。
「――切り払われている!?」
そう、ウォーダンはミサイルの方角に切っ先を向けると機動性を活かした回避と切り払いにより
一発も本体に被弾する事なくしのぎきったのだ。
(化け物かよっ。斗牙より強いんじゃねえのか?)
小言をこぼしながらもエイジはチャンスを伺う。これならどうだ?接近する相手に対し胸部から
必殺の一撃、メガ・ブラスターキャノンを放つ。
命中に成功。敵は大量の放射線を浴び後ろへと後退する。だが、対ビーム装甲にでも覆われている
のか損傷を受けた様子がない。
(装甲まで堅いのかよ…。全く厄介な相手だぜ)
舌打ちしながらもなんとか逆転の一手を考える。
85それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:00:46 ID:7Q/lKdL6
支援
86それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:06:24 ID:CGxSKGY/
支援
87紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 01:07:08 ID:rqBlwTd7
「あいつの刀をなんとかしないと……」
敵の攻撃は全てあの刀から繰り出される。ならば刀を封じればゲシュペンストの装甲で五分五分に
持ち込めるかもしれない。そう考えて武装を見渡す。
今、残された攻撃手段はミサイルと胸部のキャノン。左腕による打撃。それに奥の手が一つ。
右腕一つ失っただけで随分頼りない。その上スプリットミサイルでは相手を捉えられない。メガ・
ブラスターキャノンは堅い装甲に阻まれて全く通用しなかった。左腕一本では止められないだろう。
「奥の手を叩き込むしかないのか……?」
しかし、あの技を当てるにしても刀によるリーチの差が厄介だ。
どうにかして刀を取っ払う手段を模索する。そして――
(一つだけ浮かんだぜ……。一か八かの賭けだがな。)
エイジは覚悟を決め接近してくるウォーダンに対し、スプリットミサイルを放つ。
ウォーダンは先程と同じようにミサイルを切り払いながら徐々にこちらへと迫ってくる。
(まだだ……。まだ焦るんじゃない……!)
心の中で言い聞かせ、ありったけのスプリットミサイルをとにかく発射し続ける。
やがてミサイルの雨が煙幕のように紅の機体を包み始め、周囲の景色は白いもやへと変わってゆく。
「今だっ!!」
ゲシュペンストはもやの中で切り払い続ける敵機を発見すると左腕を突き出し音速の勢いで駆ける。
しかしウォーダンはミサイルを全て切り払うと即座にレーダーの反応を頼りにゲシュペンストの
方へと向き直り、刀を振り上げ全てを両断する構えを見せる。
左腕を突き出して近付く蒼の機体に対して一閃する間合いを測る紅の機体。
戦場において長いようで短い時が流れる。
そして紅と蒼の機体が交錯したとほぼ同時に周辺の煙幕が晴れてゆき、視界が開けたウォーダンの
モニターには――刀の根元が突き出した左腕に食い込んだゲシュペンストの姿が映っていた。
ゲシュペンストの左腕の手先はグチャグチャに切り裂かれていたが根本で抑える事で力を込めても
なかなか先に進まないギリギリのところで食い止められていた。
刀の特性を理解した素晴らしい飛び込みといえるだろう。
先程のミサイルの弾幕も懐に飛び込み刀を抑える隙を作る為の作戦だったのか。
ウォーダンはエイジの作戦に感心するもこのまま一気に押し切ろうとする。
だが、エイジの作戦はこれだけでは終わらない。
「待っていたぜ、この瞬間を!!メガ・ブラスターキャノンッ!!」

88紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 01:08:43 ID:rqBlwTd7
胸部から発射口が開き、巨大な放射線が左腕を切り裂き続ける刀を狙う。
対ビーム装甲に覆われた両腕とは反対に刀は放射線の波に飲み込まれ遥か彼方へと弾き飛ばされる。
「貴様!我が剣を狙っていたのか!!」
「ああ、そうだぜ。本当は折ろうと思ったんだがな。」
ウォーダンの呼び掛けに対してエイジは憎たらしげに答える。
心臓に悪い賭けだったが上手く決まってよかった。相手の方を見つめる。
これでやっと刀が奪えた。ゲシュペンストの左腕は先程の交錯の影響か一切動かない。
だが奴にとどめを刺すチャンスは今しかない。
「はあああああっ!!」
エイジはゲシュペンストの残された全ての力を両足に回す。
相手は武装をなくし覚悟を決めたのかその場から動かない。
(なにが来ようともあとはこいつの装甲を信じるだけだ――)
ゲシュペンストを大空高くへ舞い上がる。敵を照準に捉え、ブースターを噴射。一気に加速する。
全てに決着をつけるべく右脚に全神経を集中させ、すさまじい速度で下降を始める。
「食らえっ!!」
これが――
「究極!」
俺の――
「ゲシュペンスト!」
一撃だ――
「キィィィック!!」

爆発と轟音が煌めき響き渡り、そこに立っていたのは――



――紅の機体、アストレイ レッドフレームであった



89紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 01:10:14 ID:rqBlwTd7

エイジの一撃はウォーダンには届かなかった。
レッドフレームはゲシュペンストが加速すると同時に腰のビームサーベルを抜き放ち、
リーチの差を活かして先に渾身の一撃を加えたのである。
死力を尽くしたゲシュペンストはレッドフレームのもう一つの剣に耐え切れず、
無残にも横薙ぎにされ爆発を起こす。
タナトスの呼び声は最後までエイジの耳元から離れることはなかった。

【紅エイジ 搭乗機体:ゲシュペンストMk―U・S(スーパーロボット大戦OG2)
パイロット状況:死亡
機体状況:大破】
90それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:13:53 ID:CGxSKGY/
支援
91それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:14:27 ID:GszxLJE0
 
92紅ノ牙 ◆0cm..EdqyM :2009/12/28(月) 01:18:58 ID:rqBlwTd7
ゲシュペンストの大破を確認したウォーダンはガーベラ・ストレートを拾いに行く。
刃こぼれがないか見つめるが傷一つ見当たらない。素晴らしい刀だ。輝きを放つ銘刀を腰に差す。
そしてもう一度鉄屑となった青き幽霊の方に目をやる。
戦いは元の世界でゲシュペンストの動きを知り尽くした自分が圧倒的優位に立っていた。
そんな自分に対し、相手が両腕を失ってまで賭けたであろう策略は見事としか言い様がない。
「紅エイジ…いい勝負であった」
ウォーダンは好敵手との別れを告げ、残骸に背を向け機体を走らせる。
彼は走らなければならない。そう。彼には休む暇は許されないからだ。
マスターの一人、ヴィンデル・マウザーの命に従うロボットとして――


【ウォーダン・ユミル 搭乗機体:アストレイレッドフレーム(機動戦士ガンダムSEED ASTRAY)
パイロット状況:良好
機体状況:フライトユニット装備、ビームコート装備、損傷軽微、EN消費小
第一行動方針:ヴィンデルの命令に従う
第二行動方針:次の戦闘相手を求める
現在地:E-5
最終行動方針:ヴィンデルの命令に従い優勝を目指す
備考:ヴィンデルを主人と認識しています。】

【一日目 6:45】
93それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:23:44 ID:rqBlwTd7
以上で投下終了です。加筆しすぎて疲れた

あとレッドフレームに関してですが、本来フライトユニット装備中は
ビームサーベルは使用不可らしいですけど、スパロボで使っているし、いいですよね?
94それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:24:38 ID:7Q/lKdL6
どぅぶれあ!

レッドフレームが人殺しの機械になるとは、なんとも皮肉な事に……。
だけど、この組み合わせにはワクワクせざるを得ない。
150ガーベラなら斬艦刀と同じ感覚で使えるだから、ウォーダンにとっては物凄く相性の良い機体だ。
フライトユニット状態だから今の状態では装備出来ないけど、どこかの施設にパワーローダーと一緒に置いてあるかもしれないな。
95それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:24:56 ID:bqWAdjgo
乙です
結局エイジは死ぬ運命か……まあ仕方ない
ウォーダンは一気に騎士から武士へクラスチェンジしたなw
96それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:53:26 ID:PeXHyWDA
投下乙!
やっぱりエイジは死んでしまったか・・・残念
そしてレッドフレームが来たか、原作は知らんけどWの斬艦刀は衝撃的だったなあ

>JOKER 7 ◇MeiOuuUxlY氏
    _ □□    _      ___、、、
  //_   [][]//   ,,-―''':::::::::::::::ヽヾヽ':::::/、
//  \\  //  /::::::::::::::::::::::::::::::i l | l i:::::::ミ
 ̄      ̄   ̄/ /:::::::::,,,-‐,/i/`''' ̄ ̄ ̄ `i::;|  
―`―--^--、__   /:::::::::=ソ   / ヽ、 /   ,,|/  この機体を作ったのは
/f ),fヽ,-、     ノ  | 三 i <ニ`-, ノ /、-ニニ' 」')  誰だあっ!!
  i'/ /^~i f-iノ   |三 彡 t ̄ 。` ソ ハ_゙'、 ̄。,フ | )
,,,     l'ノ j    ノ::i⌒ヽ;;|   ̄ ̄ / _ヽ、 ̄  ゙i )
  ` '' -  /    ノ::| ヽミ   `_,(_  i\_  `i ヽ、 ∧ ∧ ∧ ∧
     ///  |:::| ( ミ   / __ニ'__`i |  Y  Y Y Y Y
   ,-"        ,|:::ヽ  ミ   /-───―-`l  |  //     |
   |  //    l::::::::l\    ||||||||||||||||||||||/  |     // |
  /     ____.|:::::::|    、  `ー-―――┴ /    __,,..-'|
 /゙ー、,-―'''XXXX `''l::,/|    ー- 、__ ̄_,,-"、_,-''XXXXX |
/XX/ XXXXXXXXXX| |         _,  /ノXXXXXXXXXX

っていうイスペイルを想像してしまった…
一人死に、グラグラ揺れてる対主催以外、奉仕マーダー、無差別マーダー、優勝狙い、とまったくファフナーは地獄だぜフゥハハー
ごひも当たり機体で良かったね、LIOH発動しても一次のシンジみたいにはならないだろうし
ヴィレッタもそんな格好で日常生活を送っていた人がいたとは思わんだろうな
ストフリミーティアも初参戦、期待
レイはクルーゼの言いなりにはなりそうもないなあ、どうなるか
シンジは一次と変わらない状態から来たけど、今回は殺したはずのカヲル君がいるんだよなぁ
殺せといわれて殺すようなキャラじゃないけどどうなるか、機体はバイカンフーの攻撃すら弾く凄い奴だが
97それも名無しだ:2009/12/28(月) 01:53:46 ID:GszxLJE0
ヴァン登場話を読んでたら何か ダン・オブ・ゼンガー とかいう正式名称(?)が浮かんだw
98それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:10:41 ID:SpXha6dq
投下乙
修正が終わってなによりでした。

残ってるのはアックス、カノン、トビア、トレーズ、ルネ、ロムか…
99 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:41:21 ID:jg6MTwrU
お待たせしました。投下始めます
100『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:42:08 ID:jg6MTwrU
「…………っ……何なんだ……これは……」

幼かった頃に全てを奪われた。
そしてただ、死に場所を求めて戦った。
だけど、得ようとしていたのは本当に温かい場所だった。

その少女の名前はカノン・メンフィス。
彼女が目覚めたのはちっぽけなコクピットの中で。
あの温かな島の中では決してなかった。
混乱する頭で必死に状況を把握しようとする。


「殺し合い……なのか?」

くしゃりと自分の赤みがかった髪を抑える。
彼女はそっと呟き、そしてその言葉の冷たさに少し驚いた。
戦いなんて慣れていたはずなのに、殺し合いと変わらないのに何故か驚いた自分に驚いて。
自分が変わったのだろうかと思ってしまう。

「…………皆」

ふと広げた名簿に書かれた名前。
それは竜宮島で知り合い仲良くしてきた仲間達。
死んだと聞いた名前もあり疑問にも思ったが、今はそれを考える余裕もないしする事はしない。
何故ならここには大切な仲間達がいる。
それが今のカノンには重要で。
皆の為にカノンはその不器用な心で、育ち始めた想いで。


「……帰る! 皆で!」

あの温かい島に帰ろうとそう、決めた。
昔なら死ぬ為に戦おうと思ったかもしれない。
だけど、今は違う。
殺し合いに乗らず仲間と一緒に皆であの島に帰ろう。
そう思ったから、そう……思えたから。

だから、カノンは前を見る。
あの温かい島に帰る為に。

「この機体は……近距離特化か」

カノンが乗りし機体はクストウェル・ブラキウム。
フェーリーの技術が詰まったこの機体は近距離戦闘に特化しておりカノンにもあっていた。
軽く機体になれる為にも練習でもしようかと考えた先の事だった。


「…………ほう、早速一人目か」

そう、呟いた声が聞こえたのは。
カノンは聞こえてきた方向に見えるのは蒼い機体。
コンタクトを取ろうかと思った矢先。


「……っ!? 早い!」

その蒼い機体――ソウルゲインが突撃したのは。
そして直ぐに戦いは始まりを告げる。
101『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:42:58 ID:jg6MTwrU






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「甘いぞ!」
「……っ!?」

遊ばれている、そうカノンが気付いたのは何回か打ち合った頃だった。
蒼い機体を操る男は武装も使わず、拳を振るうのみ。
だけどカノンはそれを避けるのに精一杯だった。
こちらも攻撃を振るおうとするが当たる気配がしない。
機体差は見た所感じられない。
なら、単純な事。

「っあ!?」

純粋に実力が開いているという事だった。
思いっきり蹴飛ばされてカノンは躓いてしまう。
見上げる先にいる機体は傷一つ着いてはいなかった。

「さて、終わりだ」

そう言い蒼い機体は拳を振り上げる。
カノンはそれを見続け

(……終わる……死ぬ……?)

走馬灯の様に浮かんでいく思い出。
それは何故かあの島の事ばかりで。
浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
自分を大切にしてくれた人。
温かさをくれた仲間達。
そして、最後に思い浮かぶのはあの少年。
自分を生かしたあの少年。
あの少年を思い出して

そしてカノンは――――

「まだ…………まだ死ねない!」


生き続ける意志を籠めて起死回生の一撃を蒼い機体に振るう。
まだ、死ねなかった。
皆であの島に帰らなけばならない。
その為にも、拳に意志を籠めて、生きなければならなかった。
102それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:43:01 ID:JLqO+uJe
 
103『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:43:41 ID:jg6MTwrU

カノンの拳は青い機体の顔面を捉えようとして。

「…………ほう、中々骨のあるお嬢さんだ」

拳を難なく受け止められていた。
その動作に淀みも無く対して驚いてない様子で、カノンは驚き

「あぁ……」

そして、絶望に染まっていく。
このまま死んでしまうのだろうか。
そう、思うと何処か哀しかった。

「名は……?」
「……カノン」
「……俺の名はテッカマンアックス……そして、死ぬがいい」

テッカマンアックスと名乗った男は拳をあげ、

今、まさにカノンを殺そうとした時


「待ていッ!」


戦場に響く声。


驚き、振り向くアックス。

そこには腕を組み戦場を見下ろす男。
104それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:45:16 ID:7Q/lKdL6
支援!
105『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:45:37 ID:jg6MTwrU


「己が信念を貫こうとする者、迷いを振り切り、ただ前を向き、我武者羅に進もうとする事……
 人、それを『意志』と言う……!」


力強く、カノンとアックスに言う言葉。
それは正しく意志の篭った言葉であり、戦場にただ響いていく。


「貴様……何者だ!」

堪らず、アックスはその男に向かって叫ぶ。


「貴様に名乗る名前はない!」


だが、男はそう切り返し口を白いマスクで覆った。


そして、


「出ろぉぉぉぉぉぉ! ガンダァァァァァァァァァァァァム!」


男の呼ぶ声に呼応して現れる白い機体。

それはある王者が操る機体。
日輪を背負い、なみいる敵を叩き潰してきた機体。

神の名を背負いしガンダム。

そう、その名は―――ゴッドガンダム。

106『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:46:58 ID:jg6MTwrU
「思い出したぞ、お前は最初の……ふふっ……骨のある奴と戦えそうだ」

アックスは男の正体を思い出し、ゴッドガンダムの下へ転進する。

そう、ゴッドガンダムを操りし者。

邪悪を憎み、正義を貫く者。


クロノス族の生き残り。


――――天空宙心拳継承者、ロム・ストール




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「はぁ!」
「ふんっ!」

カノンはロムとアックスの戦いをただ、眺めるしかなかった。
二人の戦いはまさに凄まじいというしかないもの代物で。
カノンが到底介入できるものではなかった。

ロムが拳を振るうならば、アックスはそれを右手で弾き。
アックスが拳を振るうならば、ロムはそれを左手で捌き。
ロムが蹴りを見舞うなれば、アックスはそれを後退し避け。
アックスが蹴りを見舞うならば、ロムはそれを腕で打ち落とすのだった。

互いに隙も無い一進一退の攻防で。

どちらかが勝つかなどカノンには想像もつかなかった。

「きぇぇい!」
「てぇやぁ!」

そして、ロムが振るった蹴りとアックスが振るった蹴りが交差しぶつかる。
それを合図に思ったが、二人は距離をとる。
暫く見つめあい、隙を狙っていた二人だったが、やがて


「ふふっ……タカヤ坊以外にも力がある者がいるとはな……次が楽しみだ」

アックスは振りを悟ったか、後退をし始める。
ロムは追おうとするが、カノンを置いておく訳にもいかない。
その一瞬の判断の遅れ故にアックスとはもう、追いつく距離ではなくなってしまった。
107それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:47:05 ID:PeXHyWDA
ゴッド支援
108『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:48:15 ID:jg6MTwrU
「憶えておこう……ロム・ストール、そしてカノン・メンフィス」
「待てっ!」
「俺の名前はテッカマンアックス……人類を滅ぼす……ラダムだ!」

そのアックスの言葉を最後に、彼は見えなくなった。
ロムはその姿を見送り、カノンの方に向かう。

「大丈夫かい?……君の名は?」
「カノン……カノン・メンフィス」
「そうか……俺の名前はロム・ストール。悪を挫き弱きを助ける者だ」

そういった、ロムの姿は。

カノンにとって正義の味方に見えて、ふっと笑ったのだった。


【ロム・ストール 搭乗機体:ゴッドガンダム】
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:G-4 草原地帯
 第1行動方針:カノンと接触する。
 第2行動方針:悪を挫き弱きを助ける
 最終行動方針:シャドウミラーに正義の鉄槌を与える】

【カノン・メンフィス 搭乗機体:クストウェル・ブラキウム(スーパーロボット大戦J)】
 パイロット状況:良好。
 機体状況:良好
 現在位置:g−4 草原地帯
 第1行動方針:ロムと接触する
 第2行動方針:仲間と合流したい
 最終行動方針:仲間と一緒に竜宮島に帰還する】



【テッカマンアックス 搭乗機体:ソウルゲイン(スーパーロボット大戦OGシリーズ)】
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:g−4 草原地帯
 第一行動方針:殺し合いに乗り優勝する
 最終行動方針:殺し合いに乗り優勝する】

【一日目 07:00】


109『意志』 ◆UcWYLVG7BA :2009/12/28(月) 02:49:01 ID:jg6MTwrU
投下終了しました。支援感謝します
110それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:53:58 ID:4FhgDLMG
投下乙
ロム兄さんかっけーーー!!
口上からゴッドガンダム登場までの流れが凄く良かった。
アックスもかっちょええわ
111それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:56:45 ID:JLqO+uJe
おお!三人とも格闘戦用の機体か!
ロム兄さんもアックスもかっこいいし、いいなあ三人ともw
112それも名無しだ:2009/12/28(月) 02:58:21 ID:1cghGwFU
乙!
ロム兄さんのガンダム召喚に不覚にも吹いてしまったw
113それも名無しだ:2009/12/28(月) 03:00:16 ID:7Q/lKdL6
ロム兄さんは鋼の体だから880kgも体重あるけど、二千倍の重力に耐えるMFなら余裕だな。
北斗神……もとい天空宙心拳の実力を発揮出来る機体だし、これから大活躍をしてくれそう。

カノンは……真矢と翔子が殺し合いに乗っちゃったし、総士は既に死んでるしで、可哀想な事になりそうだな……。
だけど、今こそ君がファフナーの真ヒロインとして活躍する時だ! 頑張れ!

アックスにはランスさんの分も頑張って欲しい所。キッドと同じ目に遭う参加者は果たして出たりするんだろうか。
114それも名無しだ:2009/12/28(月) 03:02:16 ID:PeXHyWDA
投下乙!
ロム兄さんかっけええええええ
ゴッドも遂に性能を活かしてくれる人に出会えたなwこれでアクセルは搭乗するとしたらヴァイサーガか
115それも名無しだ:2009/12/28(月) 03:10:57 ID:GszxLJE0
投下乙!
ガンダァァァァァァァァァァァァム!
似合いすぎだろ、GJw
全てが全て脳内再生されたわw
アックスVSロム兄さんは燃える
そしてファフナー唯一の良心兼真ヒロインなカノンがんばれ
116それも名無しだ:2009/12/28(月) 13:22:30 ID:4IhZkfvi
今回ゼルエルが一番のジョーカーにしか見えないw後、カノンの今後に超期待w
しかし、今回の第三次は書き手さんの機体選出が凄いわw
・強豪な機体のオンパレード ・主人公級の機体が勢揃い
・パイロットに因果ある機体が多い・人間サイズで戦う
・一次二次からの再選出
が目立つね。最初は一次二次と同じで当たり外れが一様で
新規の機体が目立つかと思っていたが、これはこれで面白くなりそうだ。
そして、ここまでセッティングしたシャドーミラーに過小評価できないわw
117それも名無しだ:2009/12/28(月) 14:34:17 ID:hsVvUIZu
ドモン、ジャミル、トビア、忍、アポロ、ジュドー、鉄也さん、ある意味シーブックも愛機が参加してるからそこらへんも楽しみ
118それも名無しだ:2009/12/28(月) 14:48:28 ID:IZLfLjER
仮投下に新作来てるから誰か頼む
にしても鉄也さん、かっこよすぎwww
119それも名無しだ:2009/12/28(月) 14:56:16 ID:N9gKPsyL
>>117
あと隅っこに放置されてはいるがロム兄さんのもだな。
120それも名無しだ:2009/12/28(月) 20:02:32 ID:ZOk8NaVm
tes
121それも名無しだ:2009/12/28(月) 20:40:09 ID:NkZxPs0P
嫌がらせ最優先で機体選ぶレモン様マジ外道。
「アクセル達にお説教されちゃうわ」の一言から深読みするとジョーカー作戦が独断である可能性もありそうだね。
その解釈でリレーが続けば、ノルマ関連がハッタリだった展開もアリになるか?
122それも名無しだ:2009/12/28(月) 23:00:46 ID:fo0KQ1Bl
とりあえず現時点での位置まとめ(含む代理投下分)
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org506294.jpg

シンと鉄也の代理投下するけどユウキとルネのは無理そうなので誰かお願い
123代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:01:37 ID:fo0KQ1Bl
鬱蒼と生い茂る森の中、エヴァンゲリオン初号機は周囲を警戒しながら歩き続けていた。
鉄也にとって半身とも言える相棒、グレートマジンガーとは違って、エヴァンゲリオンに飛行能力は無い。
初期配置地域であるD-1エリアは、南以外の全方位を海に取り囲まれている。
飛行手段が存在せず、また水中での戦闘能力に疑問が残る機体に乗っているからには、そちらに向かう以外の選択肢はまず無い。
どうやら周囲に自分以外の参加者は存在しないと言う事を確認した後、鉄也は機体を南方の森林地帯に向かわせていた。

「……この俺に、ゲッターチームの車弁慶、そしてあのロム・ストールと言う青年。
このバトルロワイアルとか言う殺し合いには、非道な行いを良しとしない人間も中には招かれている。
その一方で、暗黒大将軍のような人殺しを全く厭わない連中も。
それ以外にも、コードネームらしき名前で名簿に記載されている参加者もいる。
特に“テッカマン”と言う名前の参加者は複数いたが、まさかあれが名前と言う事はあるまい。
まだ俺以外の参加者と実際に会った事は無いから、はっきりとした事を言える訳じゃあない。
だが、このバトルロワイアルと言う殺し合いに招かれた人間は、おそらく何らかの意図を持って選ばれている。
あのヴィンデルと言う男は、この殺し合いの為に集めた連中を“歴戦の古強兵”と言った。
少なくとも、実戦の経験が豊富な人間が中には招かれている事は確かだ。
だが、あの最初俺達が集められた場所には、どう見ても戦う事など出来なさそうな子供もいた。
その事実は、奴の発言と明らかに矛盾している。これはいったい、どういう事なのだろうな……」

敵の姿を見る事が出来ず、機体を移動させる事しか出来ない状況の中、鉄也は考えを纏めていた。
ヴィンデルが説明したルールの全てを鵜呑みに信じられるほど、鉄也は現在の状況を単純に考えてはいない。
もちろん、すぐに嘘と見破る事が出来るような事は言っていないだろう。
ルール説明の場で語られた事柄のうち、いくつかは信じるに足る事であろうと、剣鉄也は認めている。
そう、自分達に“ロボットでの殺し合いを望んでいる”事だけは、全く疑い様の無い事実だろう。
だからこそ殺し合いを円滑に進める為の決まり事に限っては、ヴィンデルの説明に殆ど嘘は無いはずだ。

疑わしきは、連中の最終的な目的だ。
七十人に及ぶ参加者を殺し合わせて、いったい連中に何の得がある?

「殺し合いを見世物にでもする気か……?
いや、だがそれならミケーネの指揮官である暗黒大将軍を参加者に招く事はあるまい。
それなら、ミケーネ帝国の策略か……?
それも違うな。地球連邦とか言う聞き慣れない組織を名乗ってはいたが、あの連中は間違い無く生身の人間だ……。
……そういえば、東洋には“蟲毒”と言う術もあるそうだな。
毒を持った蟲同士を殺し合わせて、強力な毒蟲を作り出すと言う邪悪な術だ。
ミケーネには妖術の使い手がいたが、ヴィンデルとか言う男の奇妙な格好、妖術師の類に通じる物がある。
まさかとは思うが、そういう可能性もゼロじゃあないか……」

取り留めの無い考えを口に出して、その可能性を検討していく。
どれもこれも確証の無い推測だ。情報が少な過ぎる現在の状況では、あらゆる事態に備えて心構えをする他に無い。
今は疑問を晴らせずとも、いずれ情報が手に入る時は必ず来る。
その時に改めて考えを纏める材料として、思考を働かせるのは決して無駄な事ではなかった。

だが、今は――

「……フン。どうやら、ようやく他の参加者に出逢えたようだな。さて、鬼が出るか、蛇が出るか」

――南の方角より姿を見せた、巨大な角を持ったマシーン。
スレードゲルミルに機体を向き直らせて、エヴァンゲリオン初号機は戦闘態勢を取った。
124代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:04:57 ID:fo0KQ1Bl


「仕留めるッ…………!」
サーチ・アンド・デストロイ。
その手に持った巨大な斬艦刀を構えながら、シン・アスカの駆るスレードゲルミルは、エヴァンゲリオン初号機に斬り掛かっていた。
もう、誰も信じない。全てを薙ぎ払い、生き残る。
そう心に決めたシンの一撃が、渾身の威力を込めてエヴァンゲリオン初号機に襲い掛かった。
――やれる。
シンは心の中で確信する。
このスレードゲルミルと言う機体、モビルスーツとは比較にならない規格外のパワーを有している。
それに付け加えて、接近戦を得意とする自分との相性も良い。
この機体さえあれば、あの前大戦の英雄であるフリーダムすら打ち倒す事が出来るだろう。
「俺は負けない……俺は勝ち抜く! この力で、全てを薙ぎ払う!!」

だが――

「……出会い頭に問答無用で一撃、か。どうやら、遠慮は要らん相手のようだな」
ガキンッ……! と鋭い音を立て、スレードゲルミルの斬艦刀は、エヴァンゲリオン初号機のマゴロクソードに受け流されていた。

「なにっ……!?」
必殺の一撃を難無くいなされて、シンは驚愕の声を上げる。
驕りが無かった、と言えば嘘になるだろう。
ザフトの最新鋭機であるインパルスをパワーで遥かに凌駕する、このスレードゲルミルと言う機体。
こいつの性能さえあれば力押しでどうにかなると言う、楽観的な考えが頭の隅にあった事は認めよう。
だが、それを差し引いても、普通は今の一撃で終わりだったはずだ。
避けた、と言うのならまだわかる。攻撃をかわされたのであれば、シンの驚きも小さかった。
だが、今のは違う。
明らかに自分の攻撃を見切った上で、完璧な防御を行っていた。

「こいつ……エースか!」
「覚悟しろ! 今度は俺から仕掛けさせてもらうぞ!」
斬艦刀の一撃を受け流すと同時に、すぐさま反撃に転じるエヴァンゲリオン初号機。
下段に構えたマゴロクを、逆袈裟の形に振り上げる。

125代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:05:42 ID:fo0KQ1Bl
「ちィッ……!」
避けきれない。そう一瞬で悟ったシンの取った手段は、なんとマゴロクへの頭突きであった。
頭部の超硬度インパクト・ヘッドに対物排除フィールドを発生させて、マゴロクの切っ先目掛けて頭を振り落とす!
スレードゲルミルを斬り裂くはずであった一撃は、大金槌が如き頭突きに阻まれる!

「なんだとっ!? こいつ、思い切った真似をする……!」
さしもの鉄也も、その常識外れな防御方法には驚愕した。
この男、只者ではない。
どうやら自分と大して年齢の変わらない少年らしいが、実戦に慣れた人間の動きだ。
それも、正規の訓練を受けた兵士の印象を感じる……!

「はぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッッッッ!」
シンの猛攻は、まだ終わらない。
素早く体勢を立て直すと、後方に飛び退りながら大きく腕を振りかぶった。
斬艦刀を構えた右手ではない。何も持たない左手だ。
その構えを見て、鉄也の脳裏に閃くものがあった。
そうだ、確かに知っている。
この状況下、あの構えで打ち出す攻撃を、グレートマジンガーのパイロットである鉄也は確かに知っている……!

「ドリルブーストナックルッッッッッッッッ!」
「! やはりロケットパンチか!」
スレードゲルミルから撃ち放たれた左手が、エヴァンゲリオン初号機に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
だが、その攻撃は既に予測済みだ。
来る事が事前に分かっている攻撃ならば、防ぐ手段は幾らでもある。
鉄也はATフィールドをマゴロクの刀身に集中させて、まるで野球選手のように剣を構えた。

「こいつ……まさか、打ち返す気かっ!?」
「その……まさかだっ!」

ガキィィィィィン……!
マゴロクとドリルブーストナックルが激しくぶつかり合い、火花を散らしながら互いの威力を相殺する。
126代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:06:28 ID:fo0KQ1Bl
「くそっ……! 今の一撃でも無理だったのかよ……」
「相手が悪かった、と言っておこうか。生憎だが、その手の攻撃には馴染みがあるんでな……!」

一進一退。
今の所は互角に戦いを進めているシンと鉄也ではあったが、どちらかと言えば現状では鉄也に若干の余裕があった。
この殺し合いに乗って戦う事を決めたシンではあるが、彼は本来非情な殺戮を望む人間ではない。
ステラを守る為には仕方ないと自分に言い聞かせてはいるが、心の隅にはほんの僅かな迷いがあった。
だが、鉄也は違う。
悪を討ち、正しき人々の剣となる。鋼の意志で行く道を決めた、鉄也の戦いに迷いは無かった。
それが余裕の差になって、二人の間に現れていた。

「……聞かせろ! 貴様は何故、この殺し合いに乗った!?」
マゴロクを構えながら、エヴァンゲリオン初号機はスレードゲルミルとの間合いを詰める。
スレードゲルミルの威容を誇る巨大な体躯は、並大抵の攻撃では打ち崩す事が出来ない。
パレットライフルの火力では、どうしても力不足な感は否めない。
確実に仕留めるには、接近戦で渾身の一撃を叩き込む他にはあるまい。

「アンタに聞かせる義理は無い!」
だが、剣の間合いはスレードゲルミルの距離でもある。
撃ち放った左のドリルブーストナックルを、シンはスレードゲルミルに呼び戻す。
そして両手で斬艦刀を構え直し、駿馬の勢いで迫り来るエヴァンゲリオン初号機に激しく剣を振るい始めた。
それは、さながら暴風雨。渦中の存在を切り裂き薙ぎ払う、嵐の如き猛攻であった。
あるいは連なる木々を刎ね飛ばしながら、あるいは剣から生じる衝撃波が地面の土を掘り起こしながら、斬艦刀は無茶苦茶に振り回される。
縦横無尽に繰り出される斬艦刀の連撃は、近寄る者を寄せ付けない剣の障壁となって、鉄也の前に立ち塞がっていた。
まずい……これでは懐に飛び込めない……!

「義理ならある! 貴様に命を狙われた人間として、命を狙われた理由くらいは聞かせてもらおう!」
スレードゲルミルの猛攻を辛うじて避け続けながら、鉄也は敵の攻撃に精神を集中させて、一気に攻め込む隙を探っていた。
凄まじく鋭く早い攻撃ではあるが、その太刀筋は大雑把で荒い。あの規格外の大きさを誇る剣を、まだ充分に振り慣れていないのだろう。
斬艦刀の長大な刀身は、剣としては常識外の間合いをスレードゲルミルに与えている。
だが、懐に飛び込んでしまえば話は別だ。
常識を超えた長大過ぎる刀身故に、斬艦刀は至近距離の取り回しに向かない。むしろ、かえって邪魔な荷物となる。
もちろん斬艦刀が無かったとしても、スレードゲルミルは恐るべき機体だ。
あの豪腕に殴られたなら、あの強烈な頭突きを食らってしまえば、エヴァンゲリオン初号機も無傷ではいられないだろう。
だが、たとえ危険を犯しても懐に飛び込む価値はある……!
127代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:07:38 ID:fo0KQ1Bl
「うるさいっ! アンタに何を言った所で、どうせ殺し合わなくちゃいけない事に変わりは無いんだ!
死にたくなけりゃ、殺すしかない! 生きようとする事の何がいけないって言うんだよ!」
斬艦刀の連続攻撃は、エヴァンゲリオン初号機に確実にダメージを蓄積させつつあった。
パイロットの卓越した技量故に、いまだ直撃こそ与えられてはいない。
だが、完全に避け切る事は不可能と言う事か。
少しずつではあるが、エヴァンゲリオン初号機には掠り傷が目立ち始めるようになっていた。
……やれる。
自分の優勢を確信して、シンは頬に笑みを浮かべる。

「自分が生きる為ならば、他の人間を犠牲にしても構わないと言うつもりか……!?」
だから、シンにはそれが命乞いにしか思えなかった。
こいつも皆城総士と同じだ。耳を傾ける必要など無い。
自分の命が危険になったから、口先三寸で自分を言い包めようとしているに過ぎない。
そうだ……そうに決まっている……!

「偉そうに……それじゃあ、アンタは死んでくれるのかよ!? 他の人間を救う為なら、自分の命を犠牲にしても……」
だから、シンは叫び返した。
綺麗事など信じるものか。誰だって、自分の命が大切なはずだ。
見ず知らずな他人の為に、自分の命を捨てられる人間などいるはずがない……!

「……俺は構わん!」
だが、剣鉄也は違った。
それが力無き人々の為であるならば、自分の命を投げ出して戦う事が出来る。
正義の為に殉じる道を、厭う事無く往く事が出来る……!

「なッ……!」
「俺は機械だ、戦う為のマシーンだ! ミケーネ帝国と戦う事を決めた時から、この命は平和の為に使うと決めている!
悪に屈して生きながらえるより、俺は戦士として人々の為に戦い死ぬ事を選ぶ!」
戦士の誇りを声に乗せて、鉄也は一欠片の迷いも無く叫んだ。
決して奇麗事などではない。
それは、悪に対する激しい怒りだ。
罪無き人々に対しての、非道な行いを憎む心。

……シン自身にも、覚えがあった。
ガルナハンで連合の圧制に苦しめられている民間人を目にした時、それを確かにシンも感じた。
いや、それだけではない。
二年前、故郷が戦火に巻き込まれたあの日。
父が、母が、妹が、目の前で死んでいったあの瞬間――

「ふ……ふざけるなっ! 信じられるかよ、そんな事!
どうせ、アンタも奴と一緒だ! 口では奇麗事を言っておきながら、いざとなったら裏切るに決まってる!」
頑なに首を振り、シンは鉄也の言葉を否定する。
だが、叫び返すシンの声は揺れていた。
斬艦刀の勢いは、その激しさをほんの僅かにだが衰えさせていた……!
128代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:08:21 ID:fo0KQ1Bl
「! 今だ……!」
斬艦刀の太刀筋に生じた僅かな綻びを掻い潜って、エヴァンゲリオン初号機はスレードゲルミルに接近する。
――疾い。
必殺の威力と鋭さを込めた、雷光の如き一撃だ。
これは……間に合わない……! 避ける事も、防ぐ事も……!

斬ッ…………!

「が……あッ…………!」

……エヴァンゲリオン初号機の放った一撃は、スレードゲルミルを斬り裂いていた。
だが、浅い。
シンは咄嗟に機体を転ばせ、直撃を受ける事を避けていた。
その結果、大きな被害は角一本。頭から突き出たインパクト・ヘッドを斬り落とされるだけで済んだのである。
だが、それはエヴァンゲリオン初号機からの攻撃に限った被害である。
50mを超える巨体と、400トンを上回る超重量の機体が盛大に勢いを付けて転んだのだ。
その衝撃は、計り知れないものがある……!

「うおっ……!」
まるで大地震を思わせる強烈な振動に、鉄也は思わず機体のバランスを崩していた。
スレードゲルミルと同様に、エヴァンゲリオン初号機もまた機体を転倒させる。
だが、こちらは反射的に受身を取る事で、転倒による衝撃を最小限に抑え込む事が出来ていた。

「ッ……………………!」
スレードゲルミルを地面に倒れ込ませた状態の中で、シンは敵機の警戒が一瞬自分から外れた事に気付く。
今しかない。
スレードゲルミルは転倒の衝撃で、左足首の関節がイカれてしまっていた。これでは、まともに戦う事は難しい。
だが、今ならば。
あの男の警戒が緩んでいる、今この瞬間ならば――!
129代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:09:14 ID:fo0KQ1Bl



「……逃したか」
スレードゲルミルの巨体が飛び立った方角を睨み付けながら、剣鉄也は悔しげな声で呟いた。
ほんの僅かな隙を突いて、スレードゲルミルは戦場の離脱を果たしていた。
追って行きたいが、エヴァンゲリオンに飛行能力は備わっていない。
飛び立つ後ろ姿を見送る事しか、今の鉄也には出来なかった。
……手強い相手だった。
だが、それだけではない。
おそらく、あの少年もまた救われるべき人間ではあったのだ。
話しているうちに、察する事が出来た。あの少年も、本来であれば殺し合いに望んで加担する人間ではないのだろう。
だが、シャドウミラーによって仕組まれた今の状況が、殺し合う事を強いてしまっている。
それは、あの少年に限った話ではない。
あるいは死の恐怖に押し潰されて、あるいは大切な人を守ろうとして、この殺し合いに乗った人間は少なからずいるのだろう。

……邪悪と戦う事に関して、剣徹夜に迷いは無い。
だが、この殺し合いは決して邪悪な存在ではなくとも、他の人間を傷付け殺さなければいけなくなるようになっている。
そのような人たちに対して、剣鉄也はどうすればいい……?
どうすれば、彼らを救う事が出来る……?

「……所詮、俺は戦闘マシーンだ。戦って止める事しか出来ない、か」
自嘲気味に呟きを洩らして、鉄也は肩の力を抜いた。
斬艦刀の攻撃を紙一重で避けながら、反撃の隙を窺い続けていたのだ。気力と体力の消耗は中々に激しく、身体は休息を求めていた。
だが、剣鉄也は立ち止まらない。
こうしている間にも、事態は刻々と悪化の一途を辿っているのだ。
それなのに、どうして悠長に休む事など出来るだろうか。
剣鉄也は歩き続ける。
悪に対する怒りを燃やしながら、この無益な殺し合いを止める為に……。



【剣鉄也 搭乗機体:エヴァンゲリオン初号機(新世紀エヴァンゲリオン)
 パイロット状態:気力と体力をそれなりに消耗している
 機体状態:全身に無数の刀傷、S2機関搭載、シンクロ率80%、マゴロクソード所持
 現在地:D-2 森林地帯
 第一行動方針:殺し合いに乗った人間を止める
 第二行動方針:暗黒大将軍と接触、必要なら決着をつける
 第三行動方針:他の参加者と接触して情報交換を行う
 第四行動方針:この世界の脱出方法を探す
 最終行動方針:自分を犠牲にしてでも参加者を元の世界へ帰す
 備考:出来る限り一人で行動する】
130代理 勇者と剣鬼 ◇ZbL7QonnV.:2009/12/28(月) 23:09:57 ID:fo0KQ1Bl



「畜生ッ…………!」
ドン、と操縦桿に拳を叩き付けながら、シンは屈辱に身を震わせていた。
……無様な、敗北だ。
相手の言う事に動揺して、その隙を突かれてしまった。
誰の言葉にも耳を傾けないと決めたのに、まだ自分の中には僅かに迷いがあったらしい。
スレードゲルミルが飛行可能な機体であった事と、自己修復機能が備わっていた事は、不幸中の幸いであった。
そのどちらかでも欠けていれば、ゲームオーバーを迎える事は避けられなかったであろう。
戦いの中で迷いが隙にしかならない事は、言われるまでもなくわかっていたはずなのに……。

「……まずはしばらく身を潜めて機体の回復を待つ。角はともかく、左足の異常はすぐ直るはずだ。
もう、あんなヘマはしない……やるからには、徹底的にやってやる……!」
敗北の記憶を苦くかみ締めながら、シンは今後の方針を声に出して纏める。
だが、気付いているのだろうか。
それは、まるで自分に対して無理を言い聞かせているかのようで……。

「ステラ……俺は必ず帰ってみせる……どんな事をしても……!」

……操縦桿に叩き付けた握り拳は、ほんの微かに震えていた。



【シン・アスカ 搭乗機体:スレードゲルミル(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好、興奮気味
 機体状況:インパクト・ヘッド切断、左足首の関節に異常、マシンセル正常機能中
 現在位置:D-2 上空
 第一行動方針:しばらく身を潜めて機体の修復を待つ
 第二行動方針:左足首の修復後に行動を開始する
 最終行動方針:優勝し、ミネルバに帰還する
 備考一:まだ名簿は見ていません
 備考二:スレードゲルミルの左足首は比較的短時間で修復可能なようです】

【一日目 7:30】
131それも名無しだ:2009/12/28(月) 23:13:18 ID:fo0KQ1Bl
代理投下終了。
>>124-125は本当は1レスなんだけど、行数制限のため半分あたりで分割させていただきました。

戦闘のプロかっけー。
シンも揺れてるとはいえさすがスーパーエース、死線をくぐり抜けた手腕はさすが。
乙でした。
132 ◆h9HJmajl9Q :2009/12/29(火) 00:15:20 ID:mrb6nGi0
トビア、トレーズ投下します
133勝者への道 ◆h9HJmajl9Q :2009/12/29(火) 00:17:11 ID:mrb6nGi0
トビア・アロナクス。
クロスボーン・バンガードという海賊に所属し木星帝国の決戦後は
クロスボーンに残りキンケドゥ=シーブックの後を継ぎエースとして海賊活動に従事している……
(ハズなのに、なんで僕はこんな所で朝食をとってるんだ!)

それというのも目の前の人物、トビアにして見れば一目で、、
貴族主義者?と思いかねないような格好をした青年、トレーズ・クシュリナーダが原因だった。

「さあ、トビア君、君の世界の話の続きを聞かせてくれたまえ」

思えば、あのシャドウミラーのヴィンデル・マウザーという人物に殺し合いを強制され、
当然そんな話に乗れるわけもなく支給された機体で街中を散策していた時だ。
傍らにその巨大な機体を置きカフェテラスで無意味に優雅なブレックファーストを楽しむ彼を見つけたのは。
このバトルロイヤルのしかも開始直後にそんな無謀な試みをする彼を見つけ呆然とするトビアに席を勧め、
いわれるままに席についた自分もどうかと思うが目の前の人物の非常識さには負けるだろう。
そして簡単に自己紹介をしつつ朝食を済ませた後、彼の最初の一言は、

「君の世界の事を聞かせて欲しい」

との事だった。
トレーズが言うには彼はアフターコロニーという時代から来たらしい。
無論、トビアには聞き慣れない紀年である。

「なるほど、君と私は恐らく違う世界の人間だが、世界観自体は共通するようだ、
戦争があり、平和があり、MSがあり、そしてガンダムと呼ばれる機体が存在する」
「そんな……、違う世界なんてありえるんですか?にわかに信用できませんよ」
「ありえるのだろう、私達二人のどちらかが、或はふたりとも嘘をついていない限り、
私達は異なる歴史を歩んだ別の世界の人間ということになるだろう」
「でも…、どちらかが嘘をいっていない証拠はないですよ」
「無論、嘘の証明はできないだろう、しかし見たまえ、私と君の機体を」

言われて、そばに置かれた2機の機体を見る。
トビアの支給された機体、オーグバリュー。
そしてトレーズの機体、ソルグラヴィオン。
どちらも強力な機体であることは確かだがその機体仕様はMSと大きく異なる上、
そもそもこの二体にも共通項がない。

「どちらの機体も設計思想やエネルギー源等、我々の知るMSと大きく違う、
私自身、このグラヴィオンの技術など聞いたことがないものばかりだ」
「でも、それだけじゃ」
「焦る事はない、他の人間と合流すればさらに詳しく分かることもあるだろう、
差し当たっては君の知るシーブックと言う人物を探すとしようか」

そう、名簿にはシーブックの名前が書いてあった。
本来ならベラ艦長とようやく訪れた平和に、幸せに暮らしているはずの彼が、
よりによってこんな世界で再び戦いを強制される。
(そんな事は許されない!)

トビアが知るのはその他には死んだはずのカラスの名前。
その事についてもトレーズは平然と。

「では死ぬまえに連れ去られたのだろう」

と、信じられないことを言い放った。
「なぜなら私も本来死んでいるはずの人間だからだ」

との、言である。
どうやら彼の最後の記憶は自身のMSが敵モビルスーツに貫かれたところで終わっているらしい。
これもにわかに信じられない話だが、もし本当にカラスが生きているのなら信じないわけにもいかないだろう。
134それも名無しだ:2009/12/29(火) 00:21:40 ID:mrb6nGi0
とりあえず機体に乗り込み、恐らく人が集まりやすそうな基地に向かいだす。

「そういえば、あなたに最初にあった人間が僕だから良かったですけど、話が通じない人だったらどうしたんですか?」

それは最初から気になった問題だ。
あの場面、相手によっては問答無用で攻撃されていただろう。
通信モニターの向こう、トレーズはあっさりと返す。

「無論戦っただろう、そしてその場合には最後の生き残りを目指しただろうね」
「え!?」

それはゲームに乗っていただろうと言う宣言だ。

「安心したまえ、最初に出会ったのが君だったからこそ、私はこのゲームには乗ることはないだろう、
トビア君、私はね、勝ちたいのだよ」
「勝ちたい…ですか?」
「そう、ここでの勝利条件と言うのはいくつかある。
最後のひとりまで生き残ること、これが一番シンプルだ、
だがそれは勝利と言えない人間もいるだろう、親しい人間がこのゲームに参加している場合だ」
「自分一人だけ生き残ることは勝利とは言えないという事ですね?」
「その通りだ、その場合は脱出か、主催者…ヴィンデル・マウザーの打倒という事になる。
つまり最終的な結論は三択だ」
「それじゃあ、トレーズさんの考える勝利というのは・・・・・・」
「君達のような人間を生きて返すこと、君達のような意志を持つ人間が、
このような場所で散るのはそれだけで害悪だ、
故に私は君達にできうる限りの力を貸そうと思う、君のような人間、
が一人でも多く生き残るなら、それが私の勝利となるだろう」
135勝者への道 ◆h9HJmajl9Q :2009/12/29(火) 00:23:15 ID:mrb6nGi0
トレーズは思う、自身の死と最後の戦いによって、恐らくはACの世界では完全平和、そのきっかけは作られただろう。
ならば悪として敗者として死を望んだ自分に間違いはなかったはずだ。
そんな自分がどういうわけか此処に生きている。
ならばその理由は何か。
そして彼は試すことにした。
最初に出会った者が無差別に他者を害するものなら、そういった者達を倒しつつ最後に自身も倒されようと。
もう一度敗者として、悪として戦うと。
もし、あのガンダムのパイロット達のような意志を持つ者と出会ったのなら、今度はそちら側に立とうと。
奇しくも出会ったのは彼等と同じガンダムのパイロット。
ならば答えは出た、彼や、彼のような意志を持つ者達を助け生き残らせる。
敵として悪として向かい合うのではなく隣に立つ。
それはトレーズにとっての勝者の道だった。

「故にトビア君、私は君との、君達との生き残りを目指そう。それが私にとっての勝利となるだろう」

(彼等のような人間がこのような場所で死んではならない。他にもいるのだろうこのような意志を持つ少年達が)
(わが友五飛よ、かつて敗者を目指した私が今度は勝者を目指す、滑稽な事だ、君も死ぬなよ、
このようなくだらない場所で)

【トビア・アロナクス 搭乗機体:オーグバリュー(スーパーロボット大戦F 完結編)
パイロット状況:良好  
機体状況:不明
現在位置:B-4
第一行動方針:シーブックとの合流
第二行動方針:殺し合いに乗っていな人物と出会う
最終行動方針:主催者の打倒。
参戦時期:原作終了後
一日目 7:00】



【トレーズ・クシュりナーダ 搭乗機体:ソルグラヴィオン(超重神グラヴィオン)
パイロット状況:良好  
機体状況:良好
現在位置:B-4
第一行動方針:シーブックとの合流
第二行動方針:トビアのような強い意志を持つものを生き残らせる。
最終行動方針:主催者の打倒
参戦時期:五飛戦直後
一日目 7:10】
136 ◆h9HJmajl9Q :2009/12/29(火) 00:23:48 ID:mrb6nGi0
投下終了です
137それも名無しだ:2009/12/29(火) 00:23:53 ID:0djKIK6r
支援
138それも名無しだ:2009/12/29(火) 00:32:39 ID:0djKIK6r
支援間に合わなかったw

乙でした!
トレーズとごひはなんだかんだで目的が近いな
目的が衝突するか共闘するか出会う前に死ぬか…どれを取ってもおいしい気がする

139それも名無しだ:2009/12/29(火) 00:55:53 ID:KrQ9BaiD
投下乙
オーグバリューってあのMAPW持った奴か…

とりあえずようやく全参加者が書き終わったな
正直言って、外れ機体は少ないなww
誰が勝ってもおかしくない機体が多いwww
140それも名無しだ:2009/12/29(火) 01:11:50 ID:0djKIK6r
ハズレ引いたっぽいのはカズマとダイヤぐらいか?
そういえばレイがリヴァーレなのは一次でクルーゼがディストラだったのと対比させてるんだろうか
141代理 さらなる迷走 ◇3wukAoAu.Q:2009/12/29(火) 02:17:13 ID:KrQ9BaiD
「ここにも、人の気配はないか……」

粗末な照明に照らされた通路の中を歩く、コート姿の女性。
巨大な基地施設に支給機体と共に放り出された彼女は、周辺地域の調査を行っていた。
区画の建物内をいくつか調べてみるも、他の参加者と思しき人影は見当たらない。
今探索を行っているこの地下施設が、この付近では最後となる。

しばらく歩き続けると、開けた場所に出る。
ロボットの格納庫、だろうか。やはり人気はなく、しんと静まり返っている。
だがハンガーの一つに、龍の頭を模ったような肩の、赤いロボットが停められていた。
まだ起動はされていないようだ。

(この階層に誰かいるのか……?)

機体があるということは、それを支給された参加者もまたこの場にいると見て間違いない。
それが並みの人間なら、生身での戦いに限ればサイボーグである彼女の敵ではないだろう。
だが最初に集められたあの場所には、明らかに普通ではない者が数人見られた。
ここに潜んでいるのが、そう言った連中だとしたら……自然と警戒が強まる。
彼女の合図と共に、腕に巻きつけていた布が、一本の棍へと姿を変えた。
手に取り、構える。サイボーグである彼女の戦いに、果たしてこの棍がどこまで付いてこられるか。
普段使用する重火器に比べれば心許ないが、支給された機体のためにも扱いに慣れておくに越したことはない。

その時、彼女の人間離れした聴覚が、男の悲鳴をキャッチした。

「!! この声は……!?」

危害が目前に迫った人間が発する、恐怖を帯びた叫びだ。
つまり、この場には最低でも二人以上の人間がいると考えられる。
即ち、この悲鳴の主と、それを襲撃した……恐らくは殺る気になった人間。

「ちっ……!」

警戒を強めつつ、彼女……ルネ・カーディフ・獅子王は、声の聞こえた場所へと駆け出した。
声には聞き覚えがあった。ソール11遊星主との激戦の中で出会い、共に戦い抜いた男。
ソルダートJ。聞こえた悲鳴は、彼の声にあまりに酷似していた。

(Jの名前は名簿には載っていなかった……だが、まさか……?)

遊星主との最終決戦、その直後の時間から呼び出されたルネ。
ボロボロだった自分の体は、まるで何もなかったかのように完全に癒えていた。
だがGストーンとJジュエルの共鳴、あの手の熱さは今でも鮮明に思い出せる。
三重連太陽系で戦っていた自分が、どういった手段でここに召還されたかはわからない。
ただ、勇者達の勇気ある誓いは、こんな馬鹿げた殺し合いを許すために交わされたのではない。
彼女の取るべき行動は決まっていた。当然、このバトル・ロワイアルの破壊だ。

「ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

悲鳴の聞こえた場所までやってくる。そこは、赤い機体のコックピットからだった。
目の前にしてはっきりと聞こえてくる、装甲を隔てての男の悲鳴。

(この声……間違いない!?)
「待て、やめろ! 離れてくれぇぇぇぇ!!!」
(ん……? ほんとにJか、これ……?)

声色は妙に間の抜けたものに聞こえたが、確かにJの声だ。
他にも何やら得体の知れない声が聞こえる。
戦闘態勢を整え、ルネはコックピットの中へと飛び込んだ。
142それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:18:02 ID:KrQ9BaiD
「J!!」

しかし、そこで彼女が見たものは。

『ハロゲンキ!ハロゲンキ!』『キャー!ユウキサマーー!!!』『イエーイ!ダーリンステキジャーン!!』
「やめろ、やめてくれぇぇぇぇ!!」

大量の丸い物体に揉みくちゃにされている、誇り高き空の戦士の姿だった。

「そ、そこに誰かいるのか……ぐぇっ!」
「……」

大小様々色とりどりの丸い物体が、我先にとソルダートJにじゃれ付いている。
……どうやら懐かれている……らしい。
その重みで潰され哀れな姿を晒すJ……というより、兜がずれて明らかに別人の中身が見える。

「す、すまない君! ちょっとこいつらを俺から引き離してくれないか!」
「……」

見てはいけない、あるいは見たくなかったものを見てしまった気分だった。
見なかったことにしよう、私は何も見ていない。そう心の中で自分に言い聞かせる。
そして無言のまま、その場を立ち去ろうと彼らに背を向ける。

「なっ、待ってくれ! 頼む、手を貸し……うおっ、息ができなっ、苦しい!」
「……ああもう!! 世話のかかる奴だね!!」

あまりの惨めさに、傍から見ている自分のほうが無性に情けなくなってくる。
仕方がないので、このJの格好をした不審な男を助けることにした。
とはいえ体温調整のできない自分の手で直接彼を引っ張るわけにもいかない。
棍を布に戻し、その手でハロ達を彼の体から払いのけようとする。

「ほら、お前ら邪魔だからどきな『ガオォォォォォン!!!』

不意に、ハロの中の一体がルネ目掛けて飛び掛ってきた。
突然の抵抗にルネは避けきれず、その端整な顔面にクリーンヒットを許す。

「ぶっ!」
『ナンダコノネーチャンハ!!』『ダーリンニナニスルジャン!!』『シメテヤルダワサ!!』

間髪入れずに、大量のハロ達が怒涛のごとく押し寄せてくる。
あまりの数に対処が追いつかない。次々と腕やら脚やら噛み付いてくる。
普通ならば取るに足らない相手のはずが、狭いコックピット内ではろくに暴れることもままならない。

「あっこら、お前ら離せ!! やめろ、どこ触って……うわっ!」

やがてバランスを崩し、転倒するルネ。
そこに大量のハロ達が容赦なくのしかかり、彼女の動きを封じてしまう。

『ヒトノコイジヲジャマスルヤツハァァァ!!!』『ハロニツブサレジゴクヘオチロォォ!!!』
「この、お前ら!! 下手に出てると思って調子に乗るな!!」
『モハヤモンドウムヨウ!!』『ゆっくりしね』『ヤッテヤルゼェェェ!!!』
「くっくそっ! どけ、やるって何をするつもりだ!」
『ウフフ』『アナタヲ、ワルイコニシテアゲチャウコ・ト!』
「なっ……よ、よせ、やめろ! う、うわああああーーーーッ!!!」
143それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:18:43 ID:KrQ9BaiD





激しい攻防は十分以上の長きに渡った。
苦戦の末、ルネはようやくユウキをコックピットから引きずり出すことに成功する。
ハロ達はコックピット内に閉じ込めている。一体たりとも、外に出てきてはいない。
肩で息をする。この二人を取り巻く環境は、ようやくの落ち着きと静寂を取り戻した。

「す、すまない、助かっ―――!?」

礼を言うべくルネに向き直ったユウキは、背筋を凍りつかせた。
彼怒りや苛立ちの綯い交ぜとなった、怒れる獅子の如き彼女の視線が、ユウキに突き刺さる。
どうやらご機嫌斜めらしい。

(ど、どうする? 俺は何と声をかければいい!?)

彼女の気迫に、ユウキは完全に気圧される。新たな身の危険すら感じていた。
どう答えればいいのかわからない。下手なことを言えば殺されるのではないか。

「だ、大丈夫だった、か……?」
「……」
「お、おかげで助かった。れ……礼と言っては何だが、紅茶でも……」
「……」
(何を言っているんだ俺は! そういう空気じゃないだろうに!)

次の言葉を選ぼうと四苦八苦するユウキに、ルネは口を開いた。

「……それで?あんた、名前は」
「な、名前?あ、ああ……」

はき捨てるかのようなぶっきらぼうな問いかけに、思わず声を詰まらせる。
この時、改めて名を聞かれたことで、ユウキの中で唐突に羞恥心が生まれた。
見るからに怪しすぎる格好、少し前まで晒していた彼らしからぬ情けない醜態。
そこから発生した羞恥心と目前の緊迫感……立て続けに襲いかかる混乱に、彼の思考は正常からありえない方向へ外れていく。

どう答えればいい? こういった場合……そう、タスクあたりならどうするだろうか。
何かしらユーモアを交えて、場の空気を少しでも和ませるだろうか。……ならば。

「わ、私はソルダートJ! この殺し合いを破壊する、仮面の戦士―――」

問答無用で鉄拳が炸裂した。

ユウキは吹っ飛ばされながら、自身のあまりのユーモアセンスのなさに自己嫌悪を覚えていた。
そして今の自分を、カチーナ中尉やレオナ達にしばき倒されるタスクの姿と重ねあわせる。
なぜ彼を参考にしてしまったのかと、心の底から後悔した。




……その後、気を取り直した両者は、改めて話し合いの場を設けた。
双方共に殺し合いに乗る意思がないことを確認し、情報を交換する。
その中で、互いの住む世界の過去の歴史に、矛盾や食い違いがあることに気付く。
だが、ユウキがシャドウミラーの実態、異世界や並行世界の存在を認識していたことは大きかった。
二人がそれぞれ別の世界の地球の出身であるとして、互いの相違点の疑問はあっさりと解消された。


144それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:19:25 ID:KrQ9BaiD

「異世界に、並行世界……ね」
「他の皆も、俺達とはまた別の世界から呼び出されているのかもしれないな。
 奴らがどこでそんな高度な技術を手に入れたかは、甚だ疑問だが」

そう纏めながら、ユウキはカップの中の紅茶を口にした。

「おい……どうでもいいが、ここで紅茶を飲む必要はあるのか……?」
「ああ、気にしなくていい。コミュニケーションの一環と考えてくれ」
「……まあいいさ。あたしが持ってる情報は、今言ったことで全部だよ」

もはや怒る気力もなく、ルネもまたカップに注がれた紅茶を飲み干した。

ユウキの仲間はギリアム、ヴィレッタ、タスクの三人。
要注意人物はウェンドロ、アギーハ、ウォーダン。この内ウォーダンは主催の息がかかっている可能性が高い。
一方知り合いのいないルネは、代わりにこの1時間で調べたG−2区画の調査内容をユウキに提供した。

「ここはかなりの設備が整っているようだな。宇宙エリアへと向かうための設備まで完備か……
 今後の要所の一つとなる可能性は高いと思う。その分、人も集まりやすいといえるだろう」
「で、あんたは結局どうしたいんだい? まさかここでお仲間が来るのを待ちぼうける気じゃないだろうね」
「いや……むしろ一旦、この基地を出たいと思っている」

ユウキの下した決断は、ルネの予想とは正反対のものだった。
基地施設の重要性を把握した上で、彼はあっさりとここを放棄すると言うのだ。

「後々の為に、ここを押さえておくんじゃないのかい? てっきり今のあんたの言い草だと……」
「これだけの広さだ、現実的に俺達だけで押さえきれるもんじゃない。
 それどころか、これだけ開けている地形だ……襲撃者の、格好の的になりかねない」
「まあ確かに……殺し合いに乗った連中が、獲物を求めて来る可能性は高いだろうね」
「それに、ここの設備を有効活用できるスキルも、俺達は持っていない。
 だったら、何もせずここに留まるよりも、仲間との合流を優先するべきだ。
 知り合いだけでなく、少しでも多くの仲間を集める。この殺し合いに抗う、同じ志を持つ者を」
「ここの設備を有効に使える連中も、そこから探そうって? 随分と気の遠い話だね」
「いや。空間転移技術を完成させた過去のあるギリアム少佐なら、あるいは……」
「空間転移……一応、反抗のためのあてはあるってわけね」
「だから理想を言えば、この基地は極力戦闘に巻き込ませたくはないんだ。
 これだけの規模の施設だ。俺達の反撃のための拠点としても、利用できるかもしれない。
 俺達に填められた、この首輪の解析を行うにしても」
「首輪の……そんな余地を許すほど、奴らの管理が甘いとは思えないけどね」
「だからといって、諦めて手を拱いているつもりはない。
 手始めに、この基地の周辺地域の探索から始めようと思っている。
 仲間の捜索は勿論、後々のために地の利は少しでも把握しておきたい」
「へぇ……」

それなりに考えているのかと、ルネは素直に感嘆する。ざっと聞いた限り、特に大きな粗はないように思えた。
そんな彼女をよそに、ユウキは紅茶を飲み干し、立ち上がった。
145それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:20:27 ID:KrQ9BaiD
「そういうわけで、すぐにでも出発しようと思うが……構わないか?」
「……その前に、私はまだあんたと行動するとは一言も言っていないんだけど?」

元々、ルネは単独で行動するつもりだった。ユウキとの接触はあくまで成り行きでしかない。
ただ一方で、一人での限界にも少なからず自覚はあった。ユウキはそこを遠慮なく突いてくる。

「君もこの殺し合いを止めたいと思っているんだろう? だったら味方は多いほうがいい」
「もし私が……乗っている側だったらどうする?」
「その可能性は低いと思っている」

ユウキは事も無げに即答した。

「乗っているというなら、さっき俺を助けた理由がなくなる。
 さっさと見捨てるか殺すか、選択肢があったはずだ」
「随分あっさりと人を信じるんだね」
「そこまで楽観的なつもりはないが……過度の疑心は暗鬼を生ずることになる。
 心は常にニュートラルに……だ」

そう言ってふっと笑うユウキに、ルネは半ば観念したかのように大きく息を吐く。
ユウキの言葉は正論だ。それに、彼と違ってルネには何のあてもないのは事実だった。
そんな状況で闇雲に動き回ったところで、埒は明かない。

「……まあいいさ。この殺し合いを潰す目星が少しでもついているなら、それに乗っかってやるよ」
「そう言ってくれると、助かる。では、改めてよろしく頼む、ルネ」

手を差し出してくるユウキ。握手を求めているのだろう。
ルネはユウキに自分の体の欠陥のことにまでは、まだ言ってはいない。
ほんの少しの間、その手を凝視し……ぷいと、ユウキに背を向ける。

「あいにく、必要以上に馴れ合うつもりはないよ」
「? そうか……ところで、君にも機体は支給されているんだろう?」
「……ま、外に出ればわかるさ」
「そうか、では先に行っててくれ。俺もすぐに機体を発進させる」



146それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:21:17 ID:KrQ9BaiD
ユウキは荷物をまとめ、グランヴェールのコックピットへと向かっていった。
ルネはそれを尻目に、ここまでのやり取りを参考に、彼を評する。

第一印象の醜態から、最初は単なるヘタレとすら思っていたが、そうでもないらしい。
置かれている状況と自分の力量を把握した上で、尚且つ為すべき事を見据えている。
冷静な判断力を備えている上、そこそこ肝は据わっている、と見るべきだろうか。

「よし、起動させるぞ。席を空けてくれ」
『ナンダテメェハ!』『ユウキサマハドコー?』『オメェノセキネェカラ!!』

だが、一方でどこか甘っちょろさが抜けない。心の奥底で、非情になり切れていないような節がある。
そんな危うさも同時に持ち合わせているように感じた。

「ちょっと待て、俺だ! わからないのか!」
『ダマレ、ソシテキケ!』『ダーリンヲカエスジャン!!』『ニーサンハオレノモノダァァァァ!!』

まあいい。この際だから、その程度のフォローはしてやってもいい。
この殺し合い、そしてそれを仕組んだシャドウミラーを潰すためにも、今は付き合ってやる。
私も丸くなったもんだと……。

『ガォォォォォォン!!!』『フルボッコニシテヤンヨ!』『コウチャゲンジンメ、シネエ!!』
「ぐわぁっ! 待て、やめろ!何をするギャアー!!」

…………。

「ああもう!! どこまで世話焼かせんだあいつは!!」

こめかみを押さえながら、彼女は再びグランヴェールのコックピットへと飛び込んでいった……。

そして、再び無駄な時間が費やされる。
147それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:22:20 ID:KrQ9BaiD
「くっ……どうして俺がこんなことに……」

ソルダートJの格好のまま、ユウキはグランヴェールのシートで大きくため息をついた。
どうもハロ達が懐いているのは、このソルダートJの姿の彼のようであるらしい。
衣装を外すと、敵対感情むき出しで襲い掛かってくるのである。
やむなく、ユウキはJの格好を続けざるを得なくなってしまった。

『ミトメタクナーイ!』『ワカイノサ』『ソノカッコウ、イエスダネ!』『ダーリン、アイシテルジャーン!』
「ほら、お前ら静かにしてろ」

騒ぎ立てるハロ達を制する。ハロ達は思いの外彼の言葉に忠実だった。
正面からきちんと接してやれば、それなりに言うことは聞いてくれるようだ。
ただ、機体の外へは出てくれなかったが。
おかげでシート周りや背後はハロで溢れ、落ち着かないことこの上ない。

「ほら、ボサッとしてないでさっさと出発するよ!!」
「あ、ああ、わかった……」

蝶か植物を思わせる、どこか妖艶さ漂うオリジナル7のヨロイ――ダリア・オブ・ウェンズデイ。
そこから、ルネの怒声が響く。通信機のモニターの向こうから、ポール……いや棍を手にした彼女の姿が見える。
彼女の機嫌の悪化は明白だった。
下手に刺激すまいと、当たり障りのない返答でやり過ごす。
そんなユウキの心労など察することもなく、周囲のハロ達が再び騒ぎ出した。

『オオ、コワイコワイ』『ブスネーチャン、オコルトシワガフエルジャン!』『ポールダンス、マダー?』
「うるさいね!! いっそその機体ごとぶち壊してやろうか!!」
「頼むから勘弁してくれ……」

言い争うルネとハロ達を横目に、ユウキは一人頭を抱え込んでいた……。


【ユウキ・ジェグナン 搭乗機体:グランヴェール(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)withハロ軍団
 パイロット状態:脱力。ソルダートJのコスプレ
 機体状態:損傷なし、ただしコクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:G-2 基地施設
 第一行動方針:基地周辺の探索
 第二行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 第三行動方針:なるべく基地は戦闘に巻き込ませたくない
 最終行動方針:打倒主催
 備考:グランヴェールはハイ・ファミリア使用不可能。
    紅茶セット一式を所持】

【ルネ・カーディフ・獅子王 搭乗機体:ダリア・オブ・ウェンズデイ(ガン×ソード)
 パイロット状態:不機嫌
 機体状態:損傷なし
 現在位置:G-2 基地施設
 第一行動方針:基地周辺の探索
 第二行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 最終行動方針:バトル・ロワイアルの破壊】

【一日目 8:00】



「機体にガタは来てねえな……なるほど、確かにこいつはいい機体だ」

蒼い格闘戦用機の中でテッカマンアックス――いや、ゴダードは呟いた。

「さっきの嬢ちゃんもなかなかの腕前だったが、あっちの男は相当できるな。
 タカヤ坊より、いやもしかしたらワシより腕が立つかもしれんな」

戦いを思い出し、小さく温かみのある笑みをゴダードはこぼす。
比較的ラダムの精神支配による影響の少ないアックスは、ある意味一番人間味を備えたテッカマンと言える存在だ。
声には、敵対者全てを破壊し殺しつくす残虐さではなく、人間の武道家として相手を称賛する響きがあった。

「あんな連中だけじゃなく、ミユキ嬢にタカヤ坊までいる。こりゃあ、モロトフの奴は相手を見くびって足をすくわれかねんな」

いつも自信満々で、シンヤ坊に敵愾心丸出しで接しているモロトフことテッカマンランスが、
派手にとちるところがこの上なく幻視できてしまう。ちなみにゴダードが知る由もないが、実際このテッカマセランス、
見事に主催を見くびって首を先程吹っ飛ばされた。合掌。

「ただまあ、これがある限り早々負けるつもりもないが……」

そう言ってゴダードが手の中で転がすのは、緑色をした結晶。すなわち、テッカマンアックスのクリスタル。
今回の殺し合いでは、クリスタルに互換性があることから、一人一つずつクリスタルは支給されていたのだ。
ミユキには、タカヤのテッククリスタルが。
タカヤには、シンヤのテッククリスタルが埋め込まれ、ブラスター化して暴走している。
モロトフにも、テッククリスタルが支給されるはずだったが……会場に行く前にレモンに渡され爆死。
同じようにゴダードにもクリスタルは渡されている。もっとも、彼のみ本人のものだったが。
テッククリスタル自体に能力の差異がない以上、どれでもいいのだが、やはり自分のクリスタルを渡されて悪い気はしない。

「さて、それじゃあ行くか……」

一戦交えた疲れも取れた。
ソウルゲインがゆっくりと腰を上げる。
先程の人のいい男の顔は消え、代わりに浮かぶのは冷徹な殺戮者、テッカマンアックスとしての表情。
再び、テッカマンが獲物である「人間」を探し走り出した。




149それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:27:22 ID:KrQ9BaiD




荒野を疾走する一騎の巨大戦車。

「エルエル、ところでせっかくだからワシが足とり手とり……」
「お断りするわ!」

結論から言おう。エルデの腕前では、到底ダイターン3を使いこなすことはできなかった。
解析のためにも基地施設のあるG−5へ向かう途中、移動がてらに操作の練習を行ったが、あまりにもお粗末なものだった。
腕利きならば、それこそあっという間に撃墜されてしまうくらいに。
エルデは、そのためダイタンクで運用することに決めた。砲撃などの照準合わせなどならば、メディウス・ロクスでもやってきたことだ。
足を止めて、一種ダイタンクは移動砲台として運用。近付いてくる敵は、腹立たしいがこのジエーが撹乱して寄せないようにする。
それが、最良の選択と言えるだろう。

そうやってつい先ほどまで敵の襲来を予測していたからこそ、迅速な行動が間にあった。

「エルエル! 誰か近付いてきてるにゃ!」
「……分かってるわ。ひとまず黙っててちょうだい」

この老人が口を開くと、余計なことにしかならない。そんな予感を感じながらも、ジエーの拘束を解き、コクピットから蹴りだす。
なんだか喘ぐような声がしたが、頭痛のタネになるだけなのでスルーする。

「こちらには抗戦する意思はないわ。もしよければ……」

そこまで言った時だった。近づいてくる機体の手に青い光が灯り、こちらへまっすぐと向かってくる――!
緊急回避しようとしたが、あまりに図体の大きいダイタンクでは回避し切れなかった。
衝撃で揺れる機体。

「エルエル〜!?」
「わたしはいいからさっさと行きなさい! 敵よ!」

こいつが前に出て足止めしなければすぐに落とされてしまう。
命綱を相手に握られているも同然なことに苛立ちを覚えながらも、ダイタンクの砲門を敵に向けた。






150それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:28:07 ID:KrQ9BaiD



「ほう、この場で出会った即席コンビか知らないが……なかなかやるな……!」


ネズミだかなにかよくわからない着ぐるみかと思えば、ソルテッカマンのようなパワードスーツなのか、いい動きをする。
仲間の砲撃の隙にこちらの死角に回り込み、的確にこちらの関節やスラスターなどを狙ってくる、その動き。
窮鼠、というわけでもないだろうが小さな牙をこちらに突き立てようとしてくる。
もちろん、ゴダードも相手の狙いを知ってあたってやるわけにはいかない。正確にステップを刻み、攻撃を回避する。
無理に前に出ようとしても、ネズミの狙い撃ちで動きを止められるのが関の山。
そこを容赦なく本命の砲撃で落とされる。
攻撃を回避しながら、攻撃に転じるのはなかなか難しそうだ。

「どちらかだけでも動きを止められれば、いいだが……っと!?」

ネズミを落とし、木偶の坊となった戦車を落とすのが手っ取り早そうだが、それをやろうにもネズミに集中すること自体が危険だ。
機体の動きこそ素人だが、砲撃の正確さだけは見るところがある。

若さにまかせた突撃ではなく戦局を、余裕を持って見抜き、行動する。
これは、シンヤ坊やタカヤ坊の稽古まで付けていた、武道において免許皆伝の腕を持つゴダードだからこそできる技術だ。
かれこれ15分は砲撃の嵐をゴダードは回避を続ける。

そして、ゴダードは気付く。
タンクが、じわじわと砲撃のたびに下がっていることに。
おそらく、距離を取るためだろう。しかし、それはゴダードにとってきっかけとなった。
ネズミの砲撃をあえて無視し、一気にゴダードは前に出る。

正確な砲撃が向けられる。

だが、


「そこが隙だッ!」


機体を、一瞬だけ引き戻す。
砲撃が正確だからこそ、少しの動きでかわせる。
そして、距離が空いたからこそ、一回だけなら回避しきってから次弾が到達するより、こっちが動き出すほうが早い。
ソウルゲインの腕が唸りを上げ、打ち出された。その手は正確に――戦車の砲身を粉砕した。
砲身に詰まっていた砲弾が引火したのか、大きな爆発を起こす戦車。これでもう遠距離狙撃は心配ない。


151それも名無しだ:2009/12/29(火) 02:29:34 ID:N+cX25a1
152それも名無しだ:2009/12/29(火) 03:33:35 ID:FdWBpJ93


「おのれ〜よ〜くもエルエルちゃんを!」
「まだ死んじゃいないわよ……」


「死んでない」という女の声を無視し、こちらに喰ってかかるネズミ。
だが、もう問題ない。ネズミだけなら、もう相手ではない。確かにソウルゲインではこいつを捕えるのは難しいかもしれない。
だが、ゴダードには切り札がある。

砲撃が止んだことで、機体を撃たれることなくなった。
ならば、もう心配はない。コクピットからゴダードは身を乗り出し、落下する。

突き出すのは、他でもないテッククリスタル。
放たれる声は―――


「テックセッタァー!!」


重厚な緑色の装甲に包まれたテッカマンが、大地に降り立った。
いくら動きがすばしっこいネズミ言えど、テッカマンの機動力に比べれば相手にもならない!


「ウホッ、いいテッカマン!」
「ほう、テッカマンを知っているのか!」
「と〜ぜん! そしてこのボン太くんは多分テッカマンとも戦ったことがあるスペシャル仕様じゃ!」

テッカマンアックスの攻撃を、器用に銃で捌くいやボン太くんという名のネズミ。
しかし、所詮はしわくちゃの老人の使うパワードスーツ。精力的な男の超人の肉体である、テッカマンに勝てる筈がない。
瞬く間に、ボン太くんは劣勢に追い込まれていく。


「ぬぬ〜!! これが連邦の新型ぁ!?」
「死ねぇい!!」

振り下ろされる斧型テックランサーを紙一重でボン太くんはかわし、ロケットランチャーを打ち込むがテッカマンには傷一つ付けられない。
距離があくが、アックスは即座に詰めようとした。しかし、ボン太くんの不可思議な動きに、突撃を停止した。
突然、つけているスーツの頭を脱いだのだ。戦場で防具を外すなど、愚の骨頂でしかない。
脱がれたぬいぐるみから露出したのは、おかしな髪飾りを付けたしわくちゃの醜い老人だった。

「どうした!? カブトを脱いだからと言って俺は容赦するつもりはないぞ!」

チッチッチッ、とぬいぐるみの短い指を器用に振る老人。
そして、アックスをまっすぐ指さした。
153それも名無しだ:2009/12/29(火) 03:34:44 ID:FdWBpJ93
「その目……攻撃を止めぬ瞳…… ならば体裁を取り繕う必要はないな……」

先程のふざけた老人の声ではない。鋭い眼光とともに、老人の空気が一変する。
次に何をやるつもりか、と身構えながらも相手の行動を考え、武道家としてわずかに高揚をアックスが感じた時、
老人は息を大きく吸い込み叫んだ。

「激しいいぢめを得る為に変えていた……この顔でいる必要も……ない!! そうだ……これが本当の私ッッッ!!」

老人の身体が、眩い光に包まれる。
それは――まさにテッカマンのテックセッターの輝きに似ていた。


「ジ・エーデル・ベルナル!!  設定年齢19歳 蟹座のB型ッ!!!」


高らかな宣告とともに、光の中から現れたその姿は………








「「美……美形だッッッ!!」」






アックスもエルデも声を合わせてそう叫んだ。そう叫ばないといけない気がした。
実際、光の中にいたのは美形だった。バラも持っちゃったりする美男子だった。

「そ、それでどうするの……?」

なんだか、触れてはいけないものにおそるおそる触れるような口調で美形なジ・エーデルに話しかけるエルデ。
それに対して美形は、


「逃げる!」
154それも名無しだ:2009/12/29(火) 03:35:27 ID:FdWBpJ93
「……はっ!?」

アックスもエルデも全く状況がつかめず固まっている隙に、再びぬいぐるみのカブトを着けてすたこらさっさと走り出す美形。
完全に凍りついた空気のまま、僅かに時間が流れ、

「ふ、ふははははははは! 一本取られたか! だが……どうやらお前は見捨てられたようだな!」

エルデが我に帰るより、戦い慣れしていたアックスのほうが早かった。
アックスは瞬く間にダイタンクの胸部にとりつくと、斧型のテックランサーを振り下ろした。
メキメキと音を立て、強引に引きはがされるダイタンクのコクピット部の装甲。

「待って! あなた、あの連中の言いなりになるつもり!? 私ならこの首輪を解析して解くこともできる、ここは手を組みましょう!?」

エルデの命乞い。

「ほーぅ」

しかし、それに対してアックスには冷徹な返事を返した。

「こう見えても俺は、星間飛行用のエンジンを開発したこともあるんだ。こう見えても電子工学の権威なんでな」

エルデの顔が凍りつく。
自分が生き残るにあたって相手に提示できる、「生存させておくことの利点」がもうなくなったことを分かりやすく示していた。
エルでの横にあるディバックを肩に担ぐと、恐怖と怒りでないまぜになったエルデを、アックスは視線だけで黙らせた。

それでも、何か言おうと唇を震わせるエルデに対して、アックスの返答は一つ。

「ボル………」

せきを切ったかのように放たれる命乞いの数々――全て無駄。

「待って! 私という存在を殺すのは、人類全体に対して大きな損害なのよ!」

発射態勢よし。残りエネルギーよし。

「AI1さえ完成すれば、世界そのものが革変できる! それを生み出すことが出来るのは私だけで―――」

容赦など、あるはずがなし。



「……――テッカ――――――!!」




指向性の反物質砲が、ダイタンクのコクピットを中心に装甲をめくり返し、動力炉ごと反物質が反応する。

その爆発は―――ただただ圧倒的。
155それも名無しだ:2009/12/29(火) 03:36:09 ID:FdWBpJ93
【エルデ・ミッテ 支給機体:ダイターン3(無敵鋼人ダイターン3)
 パイロット状況:蒸発
 機体状況:大破 】


【テッカマンアックス 搭乗機体:ソウルゲイン(スーパーロボット大戦OGシリーズ)】
 パイロット状態:良好 カラスの首輪を所持
 機体状態:良好
 現在位置:G−5 基地
 第一行動方針:殺し合いに乗り優勝する
 最終行動方針:殺し合いに乗り優勝する】






「あーりゃりゃ。こりゃエルエル死んじゃたかな〜〜?」

手をおでこに当て、ボルテッカの輝きをジ・エーデルは見ながらそう嘯いた。

「んー、あの手のマッドサイエンティストは結構あとまでパターンで残ると思ったんだけどなあ、
 あ、もしかして僕とキャラ被ってるから? ま〜より天才が生き残るのは当たり前か!
 どっかの造作もありませんの人とめい☆おーもそうだったしね!」

そう言って、再びボン太くんスーツを身にまとうジ・エーデル。

「ふもっふ、ふもふも、ふもー!」
(訳 さーて、気を取りなおしていってみようかー!)


【ジ・エーデル・ベルナル 支給機体:量産型ボン太くん(フルメタルパニックふもっふ)
 パイロット状況:良好 大興奮 背中と右手の甲に痣
 機体状況:良好 弾薬小消費 ボイスチェンジャーの不具合解消
 現在位置:G−5 荒野 
 第1行動方針:ちょっとやめてよね、人の頭の中を覗き見ようとするのは!
          ボクはそういう事をされるのが一番嫌いなんだよ、プンプン!
 最終行動方針:それは秘密だよ〜ん!
 備考:何やら色々知っているようだが……? 次元力の行使は制限されているようだが……?】
156それも名無しだ:2009/12/29(火) 03:40:12 ID:FdWBpJ93
代理投下終了
タイトルは「超変身! 俺の名前を言ってみろ!」だそうです

投下乙です
首輪解析要員兼貴重な女性枠が早くも脱落か・・・
テッカマン対ボン太くんはさすがにテッカマンが勝つかw

ただコクピットにボルテッカ直撃させたのならエルデが持ってたカラスの首輪も一緒に消し飛んだはずでは?
あとテッカマン状態になれるならそっちの状態表も必要だと思う。特にボルテッカ撃って何の消費もなしっていうのはさすがに変

157それも名無しだ:2009/12/29(火) 15:01:36 ID:iR/6G3jV
3エーデルついに出たかw
158それも名無しだ:2009/12/29(火) 16:34:42 ID:PYj+xMV3

アックスは格好良いけど、その距離でボルテッカはオーバーキルすぎるだろjk
ジ・エーデルはフリーダムすぎるw

>>156
首輪に関しては
>エルでの横にあるディバックを肩に担ぐと
ここで回収してるね
159それも名無しだ:2009/12/29(火) 17:58:58 ID:VTzSn//F
ジ・エーデルいいなあw
160それも名無しだ:2009/12/29(火) 21:31:07 ID:HrgJ0ZP1
>「さらなる迷走」◇3wukAoAu.Q氏
ハロは一体どこへ行こうとしているんだwww
っていうかこのまま2人とも紅茶要員になるのかw

>「超変身! 俺の名前を言ってみろ! 」◇vtepmyWOxo氏
タイトル吹いたw
こんなに早くミッテ先生とのコンビ解消とは予想してなかったわ
ジ・エーデルの伏線なんだかメタ発言なんだかネタ発言なんだか分からないセリフが楽しすぐるw
161それも名無しだ:2009/12/30(水) 01:15:40 ID:XsK5Vavj
美形関連は漫画版スクライドのパロかな
162それも名無しだ:2009/12/30(水) 09:15:01 ID:POhNXdPb
規制に巻き込まれた人はこちらへどうぞ
避難所スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13329/1260285006/l50
仮投下スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13329/1261493501/l50
163代理投下 仮面の下の涙を拭え ◇ZbL7QonnV.:2009/12/30(水) 09:36:07 ID:POhNXdPb
――夢を、見ていた。
それは、とても辛くて悲しい夢。
夢の中で、あの人は戦い続けていた。
怒りと憎しみに身体を支配されて、どこまでも深い闇の中を戦い続けていた。
そう、まるで獣のように――

(ラダム……ラダム、ラダムッ…………!)

その人の手は、真っ赤な血に染まっていた。
あれは、兄の血だ。
テッカマンエビル――いや、相羽シンヤの身体に流れていた血液だ。

(ハハハッ……楽しいなあ、兄さん……!
タカヤ兄さんと本気で殺し合えるこの時を、俺はずっと心待ちにしていたんだ……。
兄さんもそうだろう? 俺との戦い、楽しんでくれているんだろう!?)
(ラダムゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッッ――――!)

異形の姿に変わり果てた兄は、もうひとりの兄に――いや、兄の身体を奪った悪魔に、猛然と立ち向かっていく。
悪魔は、避けない。
立ち向かう様子を見せもせずに、兄の一撃を身体に受ける。

(ガハッ…………!)

ランサーで胸の真ん中を貫かれて、悪魔はごぼりと血を吐き出す。

(は……はは、はっ…………!
そう……そうだよ、兄さん……。それでいいんだ、それでこそ兄さんだ……!
血を分けた実の弟すら躊躇わずに殺せる……それでこそ、僕のタカヤ兄さんだ……!)
(ラダム……! ラダム…………!!)
(まるで悪魔のようじゃないか、兄さん! 今の兄さんは、ラダム以上の悪魔だよ!
だって、こんなにも簡単に殺せるんだから……! 愛する家族を……共に過ごした仲間を……!)
(ラダムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――!!!!)

悪魔の身体にランサーを突き刺したまま、兄は腹の底から叫び声を上げる。
怒っていた。苦しんでいた。悲しんでいた。嘆いていた。
ラダムと言う存在を決して認める事が出来ずに、荒れ狂う衝動に身を任せて暴れ続けていた。
164代理投下 仮面の下の涙を拭え ◇ZbL7QonnV.:2009/12/30(水) 09:38:03 ID:POhNXdPb
……いつのまにか、悪魔は動かなくなっていた。
冷たい骸と化したテッカマンエビルの身体をランサーに突き刺したまま、兄は呆然と立ち尽くす。
だけど……。

(ほら……どうしたのさ、兄さん……。
俺はここだ……ラダムのテッカマンエビルは、相羽シンヤはここにいるよ……?)
(……………………!)

兄の背後から、悪魔の声が響き渡った。
振り向くと、そこには真紅のテッカマン。殺したはずの――テッカマンエビル。

(そうら、ラダム獣ども! 兄さんを襲え!)
(GAAAAAAAA――――!)

悪魔の命令に従って、いつのまにか兄の周囲を取り囲んでいたラダム獣が吼え声を上げる。
そして兄に触手を伸ばして、その身を捕らえようとした。

(ラダム……ラダム、ラダム!!!)

だが、無駄だ。
兄がランサーを一振りすると、それだけでラダム獣は瞬時に全滅した。
テッカマンを超えた、ブラスターの力。
ラダム獣程度では、相手になるはずがない。

(そうだ……! 素晴らしいじゃないか、ブレード!
その力……その怒り……! 間違い無く、今の兄さんこそが俺たちラダムのあるべき姿!
悪魔と言う名に相応…………ッ!)

……悪魔の言葉は、最後まで続かなかった。
兄は、ランサーを悪魔に向かって投擲していた。
あっさりと頭を貫かれて、テッカマンエビルは沈黙する。
……そう。その、テッカマンエビルは。

(兄さん……)
(やっぱり凄いや、兄さんは……)
(ほら……俺を殺してみなよ……)
(フリッツやゴダード、モロトフだってそうしたんだろ……?)
(血を分けた兄弟を殺した感想はどんなものなんだい……?)
(愛してるよ……タカヤ兄さん……)
(兄さんは……どうなのかな……?)
(決まっているじゃないか……)
(そうだね……殺したいくらいに……)
(俺を……家族を、愛してくれているんだろう……?)

(あ……ああ、あああ……ああああああああああああーーーーーーーーーーッッッッ!!!)

兄の周囲を取り囲む、数え切れないほどのテッカマンエビル。
兄は叫び声を上げながら、悪魔を殺し続けていく。

(ラダム……ラダム、ラダム、ラダムッッッッ!!!!)
(はは……はははっ! はははははははははははははっ!!!)
(ラダムゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!)

……地面に視線を向けてみる。
そこには、無数の死体が転がっていた。
数え切れないほどのテッカマンエビルが、死体の山を築き上げていた――
165代理投下 仮面の下の涙を拭え ◇ZbL7QonnV.:2009/12/30(水) 09:39:29 ID:POhNXdPb





「…………ぁ」
「おっ、気付いたかい」

……朦朧としていた意識が覚醒する。どうやら、ほんの少しだけ意識を失っていたらしい。
ひどく、嫌な夢を見た。
愛する兄が悪魔となって、もう一人の兄を殺し続ける夢だ。

「具合はどう? 気分とか、悪くない?」

こちらを気遣う、優しげな声。
声の方に目を向けると、そこには愛嬌のある笑顔を浮かべた男の人がいた。
……見覚えがある。
そうだ、この人は確か……。

「ジロン……さん?」
「どうやら、意識ははっきりしてるみたいだな。えっと……」
「あ……私は、相羽ミユキです。名簿には、テッカマンレイピアで表記されているみたいですけど……」
「アイバミユキ? 変わった名前だなぁ」

そうだ、覚えている。意識を失う寸前に、ほんの少しだけ話した人。
気を失ってしまった自分を見捨てずに、様子を見ていてくれたのだろう。
……良い人だ。
そして、それ以上に強い人だ。
こんな殺し合いの中で他人を気遣う事が出来る、心の強さを持っている人だ。

「あの……ありがとうございます、ジロンさん」
「なぁに、お礼を言われる事は何もしちゃいないさ」

陽気な態度を崩さずに、ジロンは明るい笑顔を見せる。
その笑顔に、一瞬兄を思い出した。
ラダムによって運命を狂わされる前の、誰にでも優しく明るかった、相羽タカヤの微笑む顔を。

……兄。
そうだ、今兄はどうしているのだろう。

「タカヤお兄ちゃん……そうだ、タカヤお兄ちゃんは!?」

思い出す。
夢に見た、悪鬼と化した兄の姿。
ラダムに対する怒りと憎悪に身を支配された、兄の姿を思い出す。
166代理投下 仮面の下の涙を拭え ◇ZbL7QonnV.:2009/12/30(水) 09:40:30 ID:POhNXdPb
……わかる。
あれは、決してただの夢ではない。
テッカマンはテレパシー能力を有している。
意識を失い、余計な雑念が取り払われていた事によって、さっきまでの自分は受信能力が一時的に増していたのだろう。
だからこそ、今は遠く離れているだろう、あの人の強い思念を感じ取る事が出来たのだ。
ラダムに対する憎悪で狂い、我を失ったテッカマンブレード――相羽タカヤの苦しみを。

「お兄さん? さあ……俺が会ったのは、君が初めてだからわからないな」
「私……行かないと……!」
「ちょ、ちょっと待った! まだ足とかふらついてるのに、いきなりどこに行こうって言うのさ!?」
「お兄ちゃん……今、お兄ちゃんは苦しんでいる……悲しんでいる、助けを求めている……。だから……」
「いや、だからって言っても、その状態じゃまだ立つのも結構辛いんじゃないか?
それに、お兄さんの所に行くとは言っても、どこにいるかもわからないんじゃしょうがないだろ?
どうやら、あのでっかいメカだって、もうボロボロで動きそうにないし……」

見るに耐えない壊し尽くされた姿となって、地面に転がるダイテツジン。
それを指しながら、ジロンは呆れた声で言った。

「それは……そうだけど、でも……。
それでも、私は行かなくちゃいけないんです……!」

まだ辛い状態だろうに、必死に兄の元に向かおうとするミユキ。
その姿を見て、ジロンは家族の事を思い出していた。
そう……ティンプによって殺される前の、家族と過ごした思い出を……。

「お兄ちゃん、か……」

ジロン・アモスは家族の事を愛していた。
イノセントによって定められた三日限りの法。
どのような悪行を働こうと、三日を逃げ切れば無罪とされる、無法の大地である惑星ゾラに定められた唯一絶対の決まり事。
それに逆らう事になったとしても、家族の仇を討つ事を諦めようとはしなかった。
家族の事を大切に思っていたからだ。
家族を奪った悪党を決して許せないと思ったからだ。

「……家族の事とあっちゃ、見過ごせないよなぁ、やっぱ」
「え……?」
167それも名無しだ:2009/12/30(水) 09:43:08 ID:POhNXdPb
はぁ〜と溜息を吐きながら、ジロンはミユキの肩に手を置く。
詳しい事情はわからない。
だけど、家族を想う少女の事を、ジロンは見捨てられなかった。

「俺も手伝うよ、お兄さんを探すの」
「え……! で、でも……」
「でも、はなしだ。君のメカは壊れちゃってるし、これじゃあお兄さんを探すのも一苦労だろ?
ちょっと狭いかもしれないけど、俺の機体に乗っていきなよ。
俺も探さなくちゃいけないヤツがいるから、いろいろと歩き回らなくちゃいけないし……」
「危険……ですよ?」
「そりゃ、どこにいたって危険な事に変わりは無いさ。それなら、ちょっとくらい無理しても一緒だろ?」
「……………………」

ジロンの言う事は、とても正しい。
今の自分では兄を助けるどころか、兄を探す事さえ難しい。
他の人に助けてもらわなくては、どうする事も出来はしない。

「ジロンさん……」

テッカマンの戦いに、この優しい人を巻き込むかもしれない事を考えると、ミユキの胸は微かに痛んだ。
……死なせはしない。
クリスタルを強く握り締めながら、ミユキはジロンに決意のこもった眼差しを向ける。

「私に……力を貸してください…………!」
「オッケー!」

血塗られた、兄の仮面。
その下に隠された素顔の涙を拭うために、相場ミユキは今一歩を踏み出した。





【ジロン・アモス 搭乗機体:ジンバ(OVERMAN キングゲイナー)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在地:C-7
 第一行動方針:ティンプ、Dボゥイを捜索する
 第二行動方針:ティンプと決着をつける
 最終行動方針:シャドウミラーをぶっ飛ばす
 備考:ジンバにミユキを乗せています】

【テッカマンレイピア 搭乗機体:なし(ジンバに同乗中)
 パイロット状態:体力消耗
 現在地:C-7
 第一行動方針:タカヤお兄ちゃんを助ける
 第二行動方針:アックス、ランス、アルベルトに警戒
 最終行動方針:みんなで生きて帰れる方法を探す
 備考一:テッククリスタル所持
 備考二:Dボゥイの異常に気が付きました
 備考三:ジロンのジンバに乗せてもらっています】

【一日目 7:25】
168それも名無しだ:2009/12/30(水) 09:52:09 ID:POhNXdPb
代理投下終了です
現在他の書き手さんが執筆中のDボゥイのパートと矛盾が生じた場合、予約が後になったこちらを
修正または破棄するとのこと…ですが特に問題ないんじゃないかと思います

しかしドマンジュウのくせにいい男だぜちくしょう
この先どんな鬱展開に見舞われても、こいつだけはスタンス変わらなさそう
169それも名無しだ:2009/12/30(水) 13:41:40 ID:POhNXdPb
>>122を元に最新版にして地図に書き入れてみた
詳細が不明で曖昧にしたり、隣の字が邪魔で若干ずらしたりした部分もあるので参考程度に
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org511018.jpg

青字=生存
赤字=死亡
170それも名無しだ:2009/12/30(水) 14:11:31 ID:EpX4jyPk
おおこういう地図がほしかった GJ!!

>>163
ジロンがいる限り、たとえアレになってるDの字を目撃しても
なんとか立ち直れそうな気がするなミユキ
それだけにジロンとD両方死んだらもう壊れちゃいそうな危うさも孕んでるが
171 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:31:48 ID:2ap/xC9q
ウンブラ、Dボゥイ投下します
172たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:32:50 ID:2ap/xC9q

名も無き兵士をじっくりと痛めつける過程で、ワタシはふと思い立った。
この負の感情を蒐集する絶好の機会、他のメリオルエッセが招かれていてもおかしくない。
あのワカメ頭の言い分では、これは殺し合い。"破滅の王"に仕える我々以上に相応しい参加者はいまい。
膝の上に乗せた物入れを漁り、『メイボ』というらしい、参加者の名前が列記された物質を探す。
最初の地、広い部屋でワタシの隣にいた間抜面の男などは鼾を立てて寝ていたが、ワタシはちゃんと説明を聞いていた。
大きな紙を見つけ、広げる。そこには名前、名前、名前……これがメイボ、か。

「コンターギオ……アクイラ、イグニス、グラキエース……」

ワタシが認めるメリオルエッセの名前は一つもない。
つまり、知り合いなど一人もいないということだ。
せっかくの好条件な舞台だというのに、これでは負の感情を集める効率が大幅に落ちるではないか……。
ワタシはシュンとこうべを下げ、しかしすぐに気を取り直してきりっとバイオトリケラの操縦桿を握る。

「争いの果てに流れる赤き血と悲しみの涙……その美酒を飲み干し、苦しみの呻きと悲鳴を調べと聴く。
 負の波動よ……ワタシの耳にその美しいさざめきの音を届け、打ち寄せる悪意のしぶきでこの身を叩け……」

周囲、殺風然とした荒野に気を配り、負の感情を探る。

「……!」

巨大な感情の流れを感知した。
ワタシは生まれてからまだ一年と経っていないが、これまでで一番の大物かもしれない。
先ほどの名無しのように痛めつけて感情を引き出す必要すらない。
むき出しの悪意を吐き出しながら、いみじくも好都合にこちらに向かってくる。
程なくして、ワタシの前にその悪意は仁王立ちする。その姿は2mほどの異形。だが、人間だ。ワタシにはわかる。

「悪魔の殻を羽織り、お前は裏腹に何を隠す……?」

「ラダム……? ラダム、ラダムラダム……!」

「ラダムとは何だ……人間……」

「ラダム! うおおーーーーっ! ラダムーーーーっ!!」
173たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:34:58 ID:2ap/xC9q

「正気を欠いたか……純粋な憎悪だけでは完全な"贄"とはなれぬ……ならば……」

狂おしく頭を振り、問答無用で魔人が襲いかかる。
ワタシはバイオトリケラの武装、ヘルファイアーを発動させた。
機獣の喉奥、火炎放射器から飛び出した轟炎を、驚異的な跳躍で回避するラダム男。
空中で両手に掴んだ投槍を飛ばし、バイオトリケラに攻撃する。
サイズ的には、避わすまでもない。だがその投擲の速度は、ワタシの反応を軽く上回る。
防御壁"フレアシールド"が展開される。二本の槍は弾かれ、回転しながら空を舞う。
ワタシが一息ついたのも束の間、ラダム男は空中で槍を掴み、槍の先端から粒子を迸らせる。
そして、展開されたままのフレアシールドに、輝く槍を突き立てた。全身を手元の槍に押し付けるような力押し。
背中から大量の推進剤でも撒き散らしているのか、明らかにこちらのパワーを凌駕している。
バリアは砕かれ、バイオトリケラの表皮が露わになる。

「うおおラダムァーーーーーッ!! 」

ラダム男は絶叫しながら、バイオトリケラの頭に槍を向け、突撃する。
しかしワタシは焦らない……こんな一本槍な相手の動きなど、容易く読めるからだ。
人間サイズで高速で動く敵には驚いたが、その速度と機動性にも既に目は慣れた。
ワタシはバイオトリケラを一歩退かせ、首を捻らせて口を開かせる。
無思慮に突進するラダム男は、あっさりとバイオトリケラに噛み付かれて動きを封じられた。
そのままバイオトリケラの顔面を近くにそそり立った岩壁にぶつけ、ラダム男を岩盤に押し付ける。

「このような薄皮越しではお前の満ち溢れる負の感情を満足に吸うことはできない……」

「ラダム! ラダム……ラダムラダムラダム!! うおおおーーーっ!!!」

バイオトリケラの首の後ろ、背中の装甲部が開く。
ワタシはシートベルトを外し、のそのそとコクピットから這い出て、バイオゾイドの装甲上を走る。
バイオトリケラの強靭な顎にはさまれ、ピクリとも身動きが取れないラダム男の元へ迫る。

「だから……お前の絶望を、悪意の意味を教えて……生で、直に、趣くままに……」

「ラダムーーーーーーーッ!!!」

ワタシはラダム男の胸板に飛び込み、その堅い背中に手を回して―――情熱的に、抱きついた。

174それも名無しだ:2009/12/30(水) 21:35:46 ID:3gzozRYI
175たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:36:23 ID:2ap/xC9q



ウンブラの矮躯が、テッカマンブレードの半分にも満たないその体躯が、うねる様に躍動する。
その矮躯の一連の動作中で特に注目すべき箇所は、ウンブラの人間離れした風体からは想像もできない長い舌。
赤く、紅く、鮮い舌が、ブレードの首筋に付着したフェルミオン粒子と分泌物を舐め取り、口内へ運ぶ。
ちゅくちゅくと、蠱惑的な音。
唾液とフェルミオン粒子、そしてウンブラにしか分からない、負の感情という最高のスパイス。
それらが混ざり合い、ウンブラにブレード……Dボゥイと呼ばれた男の事情をうっすらと伝える。
こくん、と喉を鳴らして、ウンブラはブレードの感情を、成分を摂取した。

「美味」

一言で感想を述べて、ベールの中から出した白い手を這わせる。
狂気に染まった顔……自分の唾液が付いた首筋……逞しい胸……武器が収められた脇下。
下へ下へと降りていくウンブラの手が、ブレードの制御下を離れたテックランサーを掴んだ。
抵抗は無意味だ。ブレードの体は完全に拘束されていて、バイオトリケラの両顎と岩盤にその両手を挟まれている。
ウンブラはテックランサーを軽々と持ち上げ、ブレードの右肩に突き刺した。
しかしテックシステムの装甲を完全に抜くことはできず、僅かに鎧に穴が開くだけに留まる。
ウンブラは構わずテックランサーを放り捨て、右肩の穴に……その細い指を、差し込んだ。

「……ッ! ラダム……ラダムゥゥゥゥゥッ!!」

「『痛い』という言葉も忘れたか」

ぐりぐりと傷口を抉り、メリオルエッセがその真価を発揮する。
"破滅の王"に仕える彼らの目的は、自然発生する負の感情の蒐集だけではない。
エリート兵に行ったように、人間のそれらの感情を掻き立てることがメインといえる。

「憎悪の起源を辿り、巡り……恐怖を、悲痛を、絶望を、無念を、苦悶を呼び覚ませ。お前の本質を……本懐を……」

「ラダ……ラダ、ラダム……ラダ……があああああああっ!!!!」

負の感情の増大、蔓延、配剤……操作。
それこそがメリオルエッセが一、"影"のウンブラの特技。
ウンブラが溜め込んだ悪意が、血液の流れに乗ってブレードの肉体を侵す。
ブレードの壊れた感情が、ウンブラの吐き出した負の感情で押し流される。
停滞し、暴走していたDボゥイの感情が、再び一定の方向へと流れ始める。
目を閉じ、動かぬ身体を捩るブレード。そんなブレードに、ウンブラが優しく語りかける。

「思い出せ……お前の真の感情を……そして、その混沌とした全てを……ワタシに吐き出して……」

テッカマンブレードの……否、Dボゥイの目が、開かれる。

そして……。

176たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:37:41 ID:2ap/xC9q



「目覚めたか……さあ、お前の滅びの運命を語れ……力で、言葉で、魂で……ワタシに……」

……目が見えない。
俺は、何を、していたんだろう?
何か、聞こえたような気がしたが。

「語れ……語れ……」

誰の、声だろう。思い出せない。
いや……思い出せることなど、何もない。
俺は……俺は……?

「……」

相手の声が、止まる。
誰だか知らないが、嫌な気分にさせちまったかな……?
でも、何も分からないんだ。何て言葉を返したらいいのかも。

どくん。

俺の中で、何かが躍動した。
思い出す。止まっていた歯車が回り始めるように、俺の記憶がいくらか回復していく。

「……妹、だ」

「うん?」

そうだ。俺には、家族がいたじゃないか。
優しい弟。可愛い妹。頼れる兄。賢い父親。

……。
……あれ?
思い……出せない……。
彼らの、名前を……顔を……声を……。

「おお……それが……それがお前の……!」

うるさいなぁ。少し静かにしていてくれ。
今、大事な事を思い出そうとしてるんだから……。
177たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:39:21 ID:2ap/xC9q

どくん、どくん。

まただ。何かを、思い出す動悸。
そして。
それは、その事実は、すとんと。何かを落とすように、俺の記憶に落ちた。

「あ……」

ああああああああああっ!

何故、どうして忘れていた!?

 .........
 彼らは死んだ!


俺が、弱かったから……守れなかったんじゃあないか……!
彼らの姿を思い出せない!? 当たり前だ! 俺は……彼らの仇を討つ為に、全てを……。
全てを、失ったんだから……!

「敵は……ラダム……テッカマン! そうだ……奴等こそが……」

「今ここに、"贄"の下準備は整った。さあ……黄泉路を渡り、永遠の孤独を歩め」

視力が回復する。
まず、俺の目に飛び込んできたのは俺自身の姿。
俺の身体もまた、ラダムの尖兵、テッカマンのそれと同じだ。
そうだ……そうだった。俺は、ラダムに取り込まれ、テッカマンになった。
父親を犠牲にして、精神支配だけは逃れたんだ。俺だけが……! 兄妹は全て死んだ……! ラダムによって!

次に目に入ったのは俺の武器、テックランサーを振りかぶり、今にも振り下ろそうとする異形。今まで話していた相手。


瞬く複眼。風にうねる触手。乱喰歯。鉤爪。


「ああ……なんだ」


......
ラダムか。


178それも名無しだ:2009/12/30(水) 21:40:43 ID:3yQPHhG9
支援
179たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:41:16 ID:2ap/xC9q


―――俺の顔面に向けて振り下ろされたテックランサーが、粉々になって弾き飛ばされる。
ラダム獣は驚いているようだが、テッカマンならばこのくらいは出来て当然だ、不勉強な個体め。
変形した装甲が、テックランサーから俺の仮面を保護していた。そして、この装甲の形態から放たれるのは……!

「クラッシュイントルード……!」

岩盤が消し飛び、俺を咥えていた巨大なラダム獣が後退する。同時に高速で空に駆け上がり、離脱する。
こちらの動きを見越してか、素早く俺の目の前から離れていた小さいほうのラダム獣。
巨大なラダム獣の中に小さいラダム獣が乗り込んでいく。始めてみる光景だが、新型か?
俺は、一旦その場を離れようとする巨大なラダム獣を空からあえて見逃す。
身体の調子を確認するため、地上に降り立って準備体操。問題は特にない。
このあたりには岩の壁が多いが、あの巨大なラダム獣が隠れる場所は存在しない。
逃げられないよう、少し離れたラダム獣の方を睨み付ける。すると巨大なラダム獣は転進して、こちらに突撃してきた。

角張った二本の角で俺を刺し殺そうと、猛烈な勢いで突進してくるラダム獣。
俺は一瞬の躊躇もなく、手元に残ったもう一本のテックランサーを構える。

「ラダムども……ここがどこで、なぜ俺がここにいるのかなど どうでもいい! ただこれが、貴様らへの宣戦布告だ!」

フェルミオンエネルギーをテックランサーの先端に集め、ボルテッカを纏わせる。
更に先ほどのような離脱の為でなく、攻撃の為に身体を変形させてクラッシュイントルードを放つ。
俺の身体は限りなく加速し、やがて音速を超える。物理法則を無視したかのような動きで、ラダム巨獣を翻弄する!
巨獣の前面に展開されたバリアーを易々と打ち砕き、下腹部にある赤い球体に俺の攻撃がクリーンヒットした。
テックランサーを押し上げながら、悲鳴をあげるラダム獣に構わず爆進、貫通。
フェルミオンエネルギーをラダム獣の体内に残留させ、空中で一回転して眼下の巨獣を見下ろし、見栄を切る。

「ボルテッカランサーァァァァァ!!!」

解き放たれる。ラダムの体内のフェルミオンエネルギーが、何らかの化学反応を起こして爆発したのだ。
天を裂き、地を焼き、ラダムを滅ぼす無量の光。
巨大な、まるで恐竜を思わせる形状のラダム獣は、結論から言えば一瞬で消滅した。
後ろ足の一部だけを残して、中に入り込んだ小型のラダム獣など欠片も見えない。
180たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:42:37 ID:2ap/xC9q

「ぐ……」

テックセットが解ける。テッククリスタルが懐に収まり、輝きを止めた。
人間の姿に戻った俺は、なんとか気絶しそうになるのを抑え、歩いてその場を去る。
つい感情に任せて多大なエネルギーを使ってしまったので、ここにいれば後続のラダム獣のいい的だ。
それに、この地にいるラダム獣はテッカマンのように意思を持ち、人間の言葉を喋る事が出来るらしい。
妙に馴れ馴れしく話しかけてきた事を考えると、ひょっとして俺が裏切り者のテッカマンだと知らないのかもしれない。
ならば、同胞を殺したとバレるのは拙い。……最も、ラダムの意思統一は完璧な筈だ。こんな推測は無意味なのだが。
だが、懸念するに越したことはないだろう。喋るラダム獣という異例が一つ出ている以上、油断するわけには行かない。
俺は顔すら思い出せない家族の仇を討つ為に、どんな手段を用いてでもラダムを全滅させなければならないのだから。
予想外だろうとなんだろうと、こちらにとって好都合なら利用するだけだ。

「……ん?」

ひらり、と風に乗って、一枚の紙が俺の足元に落ちた。
拾って読み上げてみれば、たくさんの名前が書き連ねられている。
その中に、見逃せない名前が三つ、あった。

「テッカマン……!」

テッカマンアックス、テッカマンレイピア、そしてテッカマン……ランス……!
俺の怒りを呼び醒ます憎っき家族の仇、ラダムの大幹部どもに違いない。

「まさか……この地にいるのか……?」

状況は分からないし、断言も出来ない。
しかし、俺は誓う。今度は大切な物を守るためではなく、敵から全てを奪い取る為に。

「テッカマン共……この地にいるのなら、今すぐ出て来い! 俺がこの手で殺してやる!」

紙を放り捨てて、走り出す。
俺には名前も、記憶もとっくの昔にない。あるのはラダムへの怒りだけ。
遠く過ぎ去った家族の幻像も、もはや気にかけることさえ出来ない。
目に映るラダムを全て破壊するだけだ。いや……真っ向からの手段だけを選ぶ必要などない。

もしこの地のラダムが俺を知らないのなら、奴等の内部に入り込んで隙を見て皆殺しにしてもいい。
とにかく、根絶やしにするのだ! 家族を奪った奴らを!


「今に見ていろラダム獣ども……! 全滅だ!」


【Dボゥイ 支給機体:なし
 パイロット状況:疲労(宙) 思考能力回復 支給品入りのバッグ紛失
 機体状況:-
 現在位置:B−6 荒野
 第1行動方針:参加者(=ラダム)を殲滅する。手段は問わない
 第2行動方針:テッカマンは優先して殺す
 最終行動方針:ラダムを殲滅する
 備考:自分以外の動く全ての物がラダムに見えるように改造されています。
     家族の顔など、自分自身の細かい記憶は全て失っているようです。】
181それも名無しだ:2009/12/30(水) 21:43:29 ID:3gzozRYI
182たかやの唄 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:46:09 ID:2ap/xC9q


「そうだ……赴くままに破滅の道を進め、人間よ」

ワタシは、荒野に切り立った岩壁の一角の頂点に立っていた。
風に乗せて飛ばした名簿を、あの人間はしっかりと確認したようだ。
詳しいことまでは分からないが、ラダム男にはこの地に憎むべき相手がいるらしい。
無論、そんな理由があったにせよただ奴を見逃すワタシではない。
元は生物だったバイオトリケラに負の感情を植え付けて暴走させ、自分は降りて捨て駒にしたのには理由がある。

「負の感情の逆しま……それをかの魔人に抱く者の声が聞こえた」

ラダム男に迫った直後、彼奴を案じる者の思念波らしきものがワタシに届いたのだ。
無論それは私に向けられたものではなく、ラダム男に向けられたものなのであろうが。

「だが……その願いが届く事はない。好意は踏み躙られて悪意へと転じ、さらなる破滅をかの魔人に齎すだろう」

そして、極限まで高まったラダム男の全ての負の感情を咀嚼し、貯蔵する。
軽く見積もっても、先ほどの名無しの二十倍ほどの成果が期待できるだろう。

「楽しみね……宿命に打ちひしがれ、絶望する者へさらなる悲痛を与える宴……必ずや……必ずや……」

しかし、バイオトリケラという足を失ったのは痛い。どこへ行くにしても、この広い地を往く為には機動兵器が必要だ。
それを調達したとして、どこに行くのがワタシの目的にとって最もべストか?

「……宇宙へ上がるとしよう。この地形図を見る限り、シャトルが用意されているようだ」

地図に目をやりながら岩壁から滑り降り、ラダム男が進んだルートは避けて雪原の方へ向かう事にする。
シャトルがあると思われる位置へは相当な距離があるが、
建築物がたくさんある場所にはマスドライバーの類が設置されているかもしれない。

「暗けき海から見下ろせば、この地の負の感情のうねりがより良く確認できるだろう」

そして、負の感情が最も集まった場所に降下し、それを蒐集する。単純な事だ。
ああ、そういえば。考えてみれば、ワタシが宇宙に出るのは生まれて初めてだ。

「だからどうだと言うわけではないが」

未知なる物など、"破滅の王"に比べれば、興味を抱く価値もない。
初めて行く漆黒の宇宙に対しても、ワタシは微塵もどきどきわくわくなど、心を掻き立てられたりなどしない。
"破滅の王"に仕えるメリオルエッセには感情など必要ないのだ。
それを持った時点で落ちこぼれとなり、自己の破滅だけを望む廃棄物へと成り下がってしまう。
だから、ワタシに感情を持つ必要などない……。

「む……あれは……」

"影"の名に恥じぬ、無音の移動術を駆使して荒野を駆けるワタシの目に、巨大な人型機動兵器が映った。

「"破滅の王"よ……この配剤、陳謝する……」

ワタシは、放置された機動兵器に乗り込み、操作方法の確認を始めた。

【ウンブラ 搭乗機体:ケンリュウwith剣狼(マシンロボ クロノスの大逆襲)
 パイロット状況:良好 うきうき
 機体状況:良好
 現在位置:B-7 荒野
 第1行動方針:人間を殺して負の感情を狩り集める
 第2行動方針:宇宙に上がって地上の負の感情の流れを観察する
 最終行動方針:狩り集めた負の感情を破滅の王に捧げる】
【1日目 07:30】
183 ◆s2SStITHHc :2009/12/30(水) 21:47:35 ID:2ap/xC9q
以上で投下終了です。支援感謝
184それも名無しだ:2009/12/30(水) 22:27:22 ID:rH3NUiZo
投下乙
Dさんにはいろんな意味で頑張ってほしいなw
185それも名無しだ:2009/12/30(水) 23:07:00 ID:3gzozRYI
暴走ブレードktkrと思ったらいきなり元に戻った
と思ったらやっぱりおかしいままだったwww


ところでどうでも良いことかもしれませんが

>負の感情の増大、蔓延、配剤……操作。
>それこそがメリオルエッセが一、"影"のウンブラの特技。

ウンブラにこういう設定ってありましたっけ?
186それも名無しだ:2009/12/30(水) 23:25:51 ID:8j8pohdf
投下乙
Dさんの不幸街道順調ですねww
あとウンブラがメリオルエッセを回想するシーンでシュバルツバルトを忘れていますよ

>>185
ウンブラは確か一回しか戦えないくらい出番が少ないはずだから知らんが、
メリオルエッセの基本設定にそういうのがあったはず
大暴れして人間に負の感情を植え付けてから収穫するみたいな
187それも名無しだ:2009/12/30(水) 23:36:21 ID:ZuMzfoSe
投下乙です。
Dボゥイ忙しいな!そしてウンブラが思ってた以上に強キャラで驚いた。

それよりも
「今に見ていろラダム獣ども……! 全滅だ!」

【Dボゥイ 支給機体:なし
 パイロット状況:疲労(宙)
(宙)→(中)の間違いだろうけど、事前のセリフとあわせて吹いた
188それも名無しだ:2009/12/31(木) 00:45:23 ID:AwgF0r61
狙ってやったとしか思えないw
189それも名無しだ:2009/12/31(木) 11:45:29 ID:20zhl5lq
死ねぇ!かw
190それも名無しだ:2009/12/31(木) 21:20:56 ID:VklsQhgz
今年最後の投下は鋼鉄Dボゥイなのだろうか乙。

お色気とかはないのだろうかヒメハジメみたいな。
と思ったらDさんが全裸なんだよなたしか。
191それも名無しだ:2009/12/31(木) 22:33:06 ID:+AIrCDbM
クリスタルを用いたテックセットは全裸になるんだっけ?
レイピアさんテックセットお願いします
192それも名無しだ:2010/01/01(金) 14:28:44 ID:Ki9o7uO+
>(宙)
あまりにもよくできてて勝手に直すのも気が引けたので、wiki収録は一旦待ってみることにしたw

>>190
ヴィレッタのスーツが露出度高いのでお色気といえばお色気
あれだと他のキャラが乗り換えできなくね?と思ったが、実は専用スーツがなくても乗れるのを
わざとあのスーツを着せたりしたんだろうか
実にけしからんもっとやれ
193それも名無しだ:2010/01/01(金) 22:16:46 ID:3UUFzwz/
114 名前:でもそれって名無しさんですよね?[sage] 投稿日:2010/01/01(金) 22:11:06 ID:AMVcAB7E
現在位置をつくってみました。誰でも更新出来ますのでやってみて下さい。

ttp://sandbox.media-luna.net/sp3map/index.cgi?page=Map

更新のやりかたはwikiの「現在位置」のページを参照して下さい。
規制中なのでどなたか本スレに転載していただけると助かります。

――
転載です。
作成GJ!
194 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:44:37 ID:w+43aFXt
忍、ガトー、カナード投下します
195 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:45:27 ID:w+43aFXt
一面の銀世界。
陽光が照り付け、鏡のように反射し辺りを白く染め上げる。
静寂の中、空を駆ける黒い戦闘機のようなシルエットが一つ。
クロ―アームを収めたガンダムアシュタロン・ハーミットクラブのコクピットにて。
ソロモンの悪夢と呼ばれた男、アナベル・ガトーは周囲の索敵に余念がなかった。

「連邦の新型、これほどの性能とはな。もはや一年戦争は遥か過去と言うことか……」

動かしてみてわかったのだが、ガトーが現在身を預けているこのガンダムは奪取した詩作二号機を遥かに凌駕していた。
いや、おそらくは宿敵の乗る一号機をも。
変形機構と飛行能力、高い攻撃性と単騎にてモビルアーマー並みの力を示すこの機体にガトーは驚嘆しきりだった。

だがあのジュドーという少年、そして新手の少年。共に乗っていた機体はこれまた明らかにモビルスーツではなかった。
可変機ではあるが、両機とも人型へと変形していた。モビルアーマーとも考えにくい。
主催者、シャドウミラーが新たに開発した機体群であろうか?

「だが……あれほどの機体を有しているなら、何故我々へ差し向けなかった?
 もし二号機の追撃にあれらが回されていれば、あるいは星の屑は失敗に終わったかも知れん。
 核を必要以上に衆目に晒すのを防ぐためか……?」

しばし考えてみたが答えはない。
地球連邦軍特別任務実行部隊――シャドウミラー。
連邦の特殊部隊というならその存在は秘されていても当然だが、だからと言ってここまで大がかりな私闘を行えるものなのだろうか?

「そう……それに、私はいつ奴らに拉致されたというのだ? 私はグワダンの自室で眠りについたはずだ」

いくら特殊部隊と言えどもデラーズ艦隊の本拠地であるグワダンに侵入できるはずがない。
考えられる可能性としては――

「裏切り者がいる……とは、考えたくはないな。誇り高きジオンの士にそのような痴れ者がいるはずはない……、む?」

がなり立てるアラームが苦い思いを振り切らせる。近辺に熱源がある。
空を飛んでいればいい的だ。人型へと変形して降下、索敵を開始。
ほどなくその反応は見つかった。雪山に埋まり込んだ一機のモビルスーツだ。

「ガンダム……!」

モニターに映ったのは紛れもなく連邦の旗印であるガンダム、その後継機であると思しき機体。
頭部に巨大な砲、連装式のライフル、背部のミサイルポッド。そして生半可な攻撃では撃ち抜けない分厚い装甲。

名を、ダブルゼータガンダム。
野性児アポロが駆るダンクーガに敗れた藤原忍の乗機。

既に誰かと交戦したのか、左腕がひしゃげ頭部メインカメラにも損傷が見られる。
おそらくパイロットは気絶しているか機を捨てたのであろう。この距離まで接近してもピクリとも動かない。
ギガンティックシザーズを展開し、慎重に接近していくガトー。
手を伸ばせば届く距離にあっても、反応がない。
雪山に埋まる姿勢、そして閉じたままのコクピット。おそらくはまだ中に人が乗っているはずだ。
だがガトーは非情なる決意を漲らせ、シザーズへと命令を下す。
196 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:46:14 ID:w+43aFXt
「……このような振る舞いは武人の道に外れる。が、これも大義のため……。済まんが、討ち取らせてもらうぞ」

参加者を減らし、かつガンダムという連邦のフラッグシップマシンを粉砕するため。
戦場に名を馳せるエースほど、倒された時は味方の士気は上がる。そして逆に敵の士気は下がる。
眠り続けるガンダムのコクピットめがけ、シザースを突き出した。

「――――ッ!?」

穂先が鋼鉄を食い破る刹那、背筋を這い上がった悪寒に逆らわずガトーは操縦桿を倒す。
シザーズが大きく横滑りし、本体も引っ張られるように横へ跳ぶ。
直後、寸前までガトーのいた位置を数条の光芒が貫いた。

(新手――!)

一瞬にして機体をコントロールし、動かないガンダムと乱入者から挟撃されない位置へと後退する。
間を置かず、雪原の向こうから新たな機影が現れた。
右手に銃、左手に大きな盾を構えた純白の機体。
そして頭部はまたも、ガンダムタイプ。

「貴様、殺し合いに乗っているのか?」

新手のガンダムから通信。
若い。おそらくは先ほどのジュドー少年より二つ三つ上というところだろう。だが声に漲る戦意は明らかに熟練の戦士のそれだ。
機体ごしにビリビリと叩き付けられる気迫がガトーの肌をチリチリと泡立たせる。
だが、恐れなどない。そして勝ち残ると決めた時より口先で言い逃れるつもりも毛頭ない。

「見ての通りだ。私はアナベル・ガトー。ジオンの志を継ぐ者である!」
「ふん、最初にあった奴がいきなり当たりとはな。だがまあいい、貴様がそのつもりなら俺も躊躇う理由はない。
 俺の名はカナード・パルス。このガンダムXディバイダーで、貴様を倒すッ!」
「よかろう、来いッ!」

裂帛の気合を吐き出し、カナードと名乗った少年が駆るガンダム――ガンダムXディバイダーが、背のX字状のバーニアを吹かし飛びかかってくる。
瞬時に持ち替えられ振り下ろされたビームソード、ガトーもビームサーベルを抜き放ち剣閃に応じる。
撒き散らされるプラズマの粒子が雪を溶かし、白い霧となって立ち込める。
至近で睨み合う二機のモビルスーツ。ガトーは敵機のメインカメラ目がけマシンキャノンを連射する。
だが敵手の想定内だったか、瞬時に割り込んだ大型の盾が銃弾を弾いた。

「甘いな、少年!」
「むうっ……!」

ガトーの攻撃は止まらない。カメラを保護するため自ら視界を閉ざした形の敵機へ、背部のシザーズを左右大回りに展開し叩き付ける。
大型の武器を受け切れないと悟ったか白のガンダムが逆に一歩踏み込み、鋏の殺傷圏内から離脱。
盾による突貫をもろに受け、アシュタロンが揺れる。
未だ鍔迫り合いを続ける右腕のビームサーベルがへと意識を移す。手首の返しによって敵ガンダムが剣を保持する手首へ。
一瞬速くガンダムXが拳を開きビームソードを置き去りに腕を引き戻す。
ジュッ、と小気味いい音を立ててビームソードの柄頭が灼け、爆発。
197 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:47:25 ID:w+43aFXt
追撃を、と再び敵機へと踏み込もうとしたガトーだが、その鼻先にちらついたのは黒光りする銃口。
カナードは腕が破壊されると判断した瞬間、ビームソードを囮にして後退を選んだ。
あらかじめ想定していた被害だったので動揺はない。遅滞なく腰裏のアタッチメントに接続されていたビームマシンガンを引き出した。

「今度は俺の番だ!」

声と共に放たれた二条の閃光。回避は間に合わないと見てシザースを前面に構え即席の盾に。
連続する衝撃がアシュタロンを揺らす。

「ぐっ……!」

ガンダムXディバイダーが装備するビームマシンガンはフリーデンが誇る天才メカニック、キッド・サルサミル謹製の一品だ。
名前こそマシンガンではあるが、その実戦艦の主砲を連装式に改造しエネルギー効率を調整したカスタム銃。
結果、そこらのビームライフルを遥かに凌駕する威力と連射効率を獲得することに成功している。

「……おおおおッ!」

並のモビルスーツだったならこの一撃で既に破壊されていただろう。
だが、このアシュタロンとてガンダムの名を冠するモビルスーツ。そう容易く他のガンダムの後塵を拝することはない。
何より、ジオン軍人たるガトーに取って、ガンダムに敗れることは最大の恥辱。
シザーズが地面を叩き、雪を吹き上げさせる。アシュタロンの全長以上に舞い上がった雪のカーテンは一瞬確かにカナードを惑わせた。

もちろん、熱源反応は感知されているだろう。視界を遮ったところで大した意味はない。
欲しかったのは一瞬の間だ。このアシュタロンの本領、もう一つの姿へと転身するための。
瞬時に変形を終えたアシュタロンが砲弾のように飛び出す。

全ての推進系を前進へと回せるこの形態は、人型と比べて圧倒的な加速力を誇る。
この状態のデメリットは腕部を使えない、つまりはビームサーベルを使えないというだけだ。シザーズは問題なく使用できる。
高速移動と巨大質量による攻撃。ある意味では人型よりもこのモビルアーマー形態の方が強力と言える。

「くっ……速いな!」

地上から空を飛び回るアシュタロンへ向けて、ガンダムXから次々に光が伸びる。
だがいずれもアシュタロンを貫くには至らず、乱された気流によって尾を引く雲を再び吹き散らすのみ。
ガトーは小刻みに機体を制御、ガンダムへとアプローチできる針路を取る。
いくつかのビームがアシュタロンを捉えるも、前方へ掲げられたシザーズの壁は突破できず。
加速の勢いを活かし一気呵成にガンダムを砕くべく加速するアシュタロン。
ガンダムXは空中における機動性でアシュタロンへ後れを取っている。回避は不可能――とガトーは確信していたが、

「ぬおおおおおッ!」
「させるかぁ!」

ガンダムが盾を構えるのが見えた。

「笑止! そんなもので我が信念は止められんぞ!」
「言われるまでもない……!」
198 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:48:48 ID:w+43aFXt
ガトーの嘲りに構うことなく、カナードは盾を背へと回す。
てっきり盾で攻撃を防ぐと思っていたガトーが怪訝な顔を浮かべる。
刹那、二機の距離はゼロになる。
音速にまで達した破壊鋏の先端は、過たず白いガンダムを――捉えられは、しない。

シザースは瞬時に上昇したガンダムの足先を掠めただけだ。
交錯の勢いを止めないまま、アシュタロンが飛び離れる。ガンダムXはバランスを崩したか膝をつくが、損傷がある訳ではない。
距離を取ってよく観察すればすぐに答えは出た。
あの盾は盾としてだけではなく、背中に接続することで上部下部に増設されたバーニアにより推進力を加味するようだ。

目に見えて機動性の上がったガンダムも飛翔し、アシュタロンを追う。
人型のまま、高い機動性を保持し空中戦もこなす。これまたガトーの想像を超える性能のガンダムのようだ。

「なるほど、さすがはガンダムと言ったところか。だが……!」

盾を移動に回しているのであれば、その分だけ身を守る術は減ったということだ。
クローを開き、内蔵されたビームキャノンを連続して浴びせかける。
右に左にと忙しなく機体を揺らし、ガンダムがビームを回避していく。
だがその動きはやはりどうしてもアシュタロンには及ばない。汎用のモビルスーツと一点特化のモビルアーマーの差。

「この勝負、君の負けだ!」

一瞬たりとも減速せずに、モビルアーマー形態のアシュタロンが縦横無尽に空を舞う。
その状態でも自在に動くギガンティックシザーズは近接戦の打撃武器であり、距離を取れば射角の広いビームキャノンでもある。
特にアームを引き出せばその砲塔は進行方向の真後ろすら捉えることができる。
死角を狙うべく何度かカナードは体当たりを避けて背後を取ったのだが、その瞬間狙い澄ましたように砲撃が飛んでくる。
普通に追うだけではアシュタロンのスピードにはついていけず、ビームマシンガンでは360度をカバーするシザーズを破壊できない。
ビームが少しずつガンダムの装甲を削り取る。

「くぅ……!」

カナードの手が汗に濡れる。どうにか致命的な一撃は受けてはいないものの、このまま翻弄されればいつかは直撃する。
相手のペースに呑まれているのだ。攻勢に出なければ一気に押し切られるだろう。

「若輩の身で私をここまで手こずらせる手腕、見事と言っておこう。だが惜しいな、その機体では私には勝てん!」

アナベル・ガトーとカナード・パルス。
異なる世界、だが共にガンダムを操るパイロット。
経験では一年戦争、そしてデラーズ紛争を今も戦い抜く前者が勝る。
身体能力・反射神経に置いては失敗作の烙印を押されたとはいえスーパーコーディネイターであるカナードに軍配が上がる。
技量はおそらくほぼ互角と、ぶつかり合う両者が共に感じている。なれば明暗を分けるのは機体の性能だ。

ガトーの看破した限り、ガンダムXディバイダーという機体は機動性に秀ではするがこれと言って尖った点はない。
何でもできる半面、全てがそこそこにしかこなせない。物資をふんだんに有する連邦らしい機体であるとガトーは見ている。
対してこのアシュタロン、設計思想は割とジオン側に近い。平均的に優れるよりも、どこか一点を突破させるという点でだ。
広範囲大威力の兵装はないものの、優れた加速力と衝撃を全て破壊力に転化できる質量打撃武器。
平たく言えばガンダムアシュタロン・ハーミットクラブはジオン製モビルスーツ全般に乗り慣れたガトー向きの機体だということだ。
付け加えるなら基礎的な性能も決して低くはない。文句のつけようがないと言ったところ。
199 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:50:04 ID:w+43aFXt
「己の運のなさと、その機体を支給したシャドウミラーを恨むがいい!」
「黙れ……ッ!」

焦りが色濃くにじむカナードの声。
ガトーの見つめる先でガンダムが背中の盾を取り外し構えるのが見えた。
攻撃を避けきれないと見て防御に専念する気だろうか。
だが、外部バーニアスラスターとして使用していた盾を外せば当然機動力は落ちる。
目に見えて動きの遅くなったガンダムへ向けて、ガトーはビームキャノンを乱射する。
掲げられた盾がビームをことごとく弾いた。
まあ、予想通りだ。遠距離からのビームではあの盾は破壊できない。
針路を変え、一直線にガンダムへと向かうコースへ。同時にシザーズをセットアップ。
いかに耐ビームコーティングが施された盾といえど、重量の乗ったシザーズを止められはしない。

「突き崩してくれる!」

ガトーの叫び。瞬きの間に彼我の距離が消し飛んでいく。
敵ガンダムは回避機動に入らない。盾を前面に押し出しただけだ。

(わかっているはずだ、カナード君……その盾では受け止めきれんぞ!)

敵手の身を案じた訳でもないが、その不可解な行動に思わず生まれる疑念。
眉をひそめたガトーの目前で、ガンダムXディバイダーの『盾』が開いた。

「俺を……! 俺と、このガンダムXを、舐めるなぁぁぁッ!」

現れたのは、19の砲門だ。
全てが滾り、解放の瞬間を待っている。

「ディバイダー……行けぇッ!」
「ぬおおおおッ!?」

光が瞬く刹那、ガトーは操縦桿を渾身の力で引き倒した。
まるで巨人の見えざる手で殴られたかのようにアシュタロンが急速に進路を変え、その直後に灼熱の奔流が駆け抜けた。
巡る視界の先、光芒の直撃を受けた雪山が爆発し、盛大に雪崩を起こす。
同時に叩き込まれた19のビームは連鎖的に炸裂、上から降ってくる雪の塊を順々に融かし流す。
強烈なGを歯を食い縛って耐えたガトーが機体を制御し、着地したガンダムXへと向き直った。

「ぬかった……! あれが奴の切り札か!」
「あの距離で避けただと? チッ、面倒だな……!」

お互いがお互いの敵の腕の冴えに戦慄する。
これだけの威力のある武器を温存しガトーと渡り合ったカナード。
苦心して力を温存し、ここぞというタイミングで繰り出したディバイダーを初見の敵に見破られた動揺は大きい。
カナード渾身の、必殺必中の一撃を回避したガトー。
だが喜ぶ訳にもいかない。敵方にも戦況を覆す一手があるということだからだ。
200 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:51:07 ID:w+43aFXt
「…………」
「…………」

両者、攻めあぐねる。
ガトーがシザーズを振るうべく接近すれば先ほどの連装ビーム砲が飛んでくるだろう。もう隠す理由がない。
逆にカナードが接近しようとすればガトーは空に逃げる。距離を開ければディバイダーも回避されやすくなる。
となれば相手の動きに対応して迎撃するのがベターかと、二人が同時に至った瞬間。

「うおおおおおおおおおおおおおおッ! ハイメガキャノン――やぁぁぁぁってやるぜッ!」

オープン回線で放たれた、第三の男の声。
アシュタロンとガンダムXのちょうど中間を、ディバイダーすら比較にならないほどの極太のビームが駆け巡った。

「何……!?」
「さっきのガンダムか!」

飛び退り距離を開けた二機のガンダムの前に新たにもう一機、最後のガンダムが現れた。
そう――実は最初からこの戦場にいて、だがずっと動きのなかったダブルゼータガンダムが。

「人がいい気持ちで寝てたら、やかましいんだよテメーらッ! おまけに何だぁ、勝手に人を生き埋めにしやがって!
 おう、どっちがこの俺の上で雪崩なんか起こしやがった! 事と次第によっちゃただじゃ済まさねーぞ!」

一言で言うなら、大激怒。
まさしくそんな状態で喚き散らす男、藤原忍がカナードとガトーの戦いに割って入った。
言葉通り先ほどの雪崩でダブルゼータガンダムは雪に埋もれたらしい。機体のあちこちが雪の白に染まっている。
衝撃で覚醒、その怒りのままに額のハイメガキャノンを(照準せずに)発射するほどに、忍の野性は爆発寸前だった。
ただでさえダンクーガを奪ったアポロに敗北し、気が立っていたのだ。
他人の喧嘩とは言え口を挟まずにはいられないのがこの忍の忍らしいというところ。
だがその糾弾の飛んだ先、当の本人であるカナードは邪魔が入ったといわんばかりに顔をしかめ、モニターの中の血に濡れる顔を睨みつけた。

「おい、気がついたなら早く逃げろ。こいつの狙いはお前だぞ」

と、ビームマシンガンの銃口で対峙するアシュタロンを示す。
怪我人を庇いつつやり合える相手ではない。カナードとしては別に忍がどうなろうと構わないのだが、さすがに目前で死なれるのも寝覚めが悪い。

「あん……? するって―と何か、お前は俺を守ってくれてたってことか?」
「ああ、そうだ。わかったなら早く行け。邪魔だ」
「んだと……!?」

にべもないカナードの言葉に、一瞬軟化しかけた忍の野性が再度沸騰する。
カナードは決して人付き合いが得意なタイプではない。本人としては忠告のつもりだったのだが、実際口から出たのは多分に刺々しい言葉だった。
そして忍は導火線が極端に短い、激しい気性の男。
有り体に言えば、忍はカナードを気に入らない奴として認定した。

「ハッ、逃げろと言われてハイわかりましたなんて言う奴は獣戦機隊にゃいやしねえよ。おい、テメー名前はなんてんだ」
「カナード・パルスだ」
「おし、じゃあカナード。下がってな、選手交代だ」
「は?」

ダブルゼータがガンダムXの前に躍り出る。つまりは、未だ一言もないガトーのアシュタロン、その矢面に。
201 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:52:01 ID:w+43aFXt
「テメーにも一応聞いとくぜ。こいつ――カナードの言うことに嘘はないか?」
「ない。私が身動きの取れない君を殺そうとしたのは紛れもない事実。言い逃れるつもりはない」
「へっ、随分殊勝じゃねえか。だがまあいい、それなら俺もやりやすいってもんだ。
 ――この戦い、獣戦機隊の藤原忍が預かる! こっからは俺がやってやるぜ!」

そして見栄を切るダブルゼータ。
呆気に取られていたカナードが我に返り、憤る。


「おいお前、俺の話を聞いていたのか? お前の代わりに俺が戦ってたのに、お前が出たら意味がないだろうが!」
「るせえ! 元々向こうのご指名は俺なんだろうが。だったら俺が出るのがスジってもんだろ!」
「その身体で何ができる! 少しは考えて行動しろ!」

忍の頭部からの出血は止まっていない。
さほど重傷ではないものの、決して無視していい傷でもない深さなのは容易に見て取れる。
カナードにしては珍しく純粋に他人の身を案じての言葉だったのだが、

「考えろだぁ? 冗談じゃねえ。獣戦機隊の辞書にはな、考えるだの冷静になるだの小賢しいことは書かれちゃいねーんだよ!
 そうさ……俺たち獣戦機隊に、野生を縛る理性はいらねぇ! 己の内の野性が叫ぶままに走り続けるだけだ!」
「な……!」

ギラギラと光る忍の眼光に気圧されるカナード。それは気迫やプレッシャーと表現するには相応しくない。
ダンクーガを奪われ、そして初めて乗ったであろうド素人のアポロに敗北した屈辱。
知らない間にただ守られていたという自分への怒り。
何より、胸にある鬱憤を発散したいという衝動。
そう、まさしく野性――人間の持つ根源的な力の発露。

忍はシャツの袖を引き千切り、即席の包帯として頭部へ巻いた。
そして、改めてダブルゼータはアシュタロンへと向き直る。

「待たせたな。さあ、おっ始めようぜ……!」
「私としては二対一でも構わんが。こちらから手を出したのだ、不公平などとは言わんぞ」
「冗談……俺が受けた借りは俺が返す。カナード、テメーが俺を助けたってんなら俺がテメーを助ける。
 オッサン、あんたが俺を殺そうとするなら俺があんたを殺す。ダンクーガを盗んだアポロってガキも俺が叩きのめす!
 何もおかしくはねぇ……やられたら十倍返し、それが俺だ、藤原忍だ!」
「その意気やよし……よかろう! フジワラよ、このアナベル・ガトーが冥府への案内仕る!」

カナードが口を挟む間もなく、二機のガンダムは同時に発進した。
左腕を損傷したダブルゼータは右腕にハイパービームサーベルを握り、斬りかかる。
対するアシュタロンもビームサーベルを抜き、光刃を受け止める。

「ぬうっ!?」
「そんなチャチな剣で、こいつを止められるかよッ!」

機体サイズは一回り、重量に至っては三倍の差でダブルゼータが勝っている。
そしてハイパーの銘は伊達ではなく、アシュタロンのビームサーベルはより強い出力の前に押し込まれていく。
膝をつくアシュタロン。その隙に後方で隙を窺っていたカナードのガンダムXがディバイダーを展開した。が、
202 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:53:16 ID:w+43aFXt
「手出しするんじゃねえ! こいつは俺とオッサンの勝負だッ!」
「……!」

忍の一喝により、その動きは止まる。
まるで、邪魔をするのならお前も敵だと言わんばかりの激しい舌鋒。カナードも苦い思いで介入を断念する。

「オッサン、アンタも気を散らすなよ。今戦ってるのは俺とアンタだぜ……!」
「フッ……腐った連邦にも、貴様のような骨のある男がいたとはな!」
「連邦? 俺は地球連合の士官だよ!」

損傷した左腕で殴り付ける。アシュタロンの頭部が軋み、衝撃に揺れた。

「調子に乗るなッ!」

背部のシザーズが伸び、ダブルゼータを打つ。
体勢が崩れた隙を逃さず、アシュタロンは後退。同時にビームキャノンを置き土産に放った。

「逃がすかよッ!」

だが、ビームの弾幕をダブルゼータは真正面から突っ切ってきた。
全身に施された耐ビームコーティング装甲を信じ、忍は更に攻勢に出ることを選んだのだ。
止むを得ずガトーはダブルゼータの足元へビームを集中させ、前進を止める。
一瞬にしてモビルアーマー形態になったアシュタロンが空へ。さっきのカナード戦と同じく高速の一撃離脱を狙うためだ。

高く高く、雲より上へ。
急降下するべく反転したアシュタロン。その鼻先に、多数のミサイルが群れをなして殺到する。

「な……!」

感性を殺し切れず停止したアシュタロンをいくつもの火球が包み込む。
その向こうに、高速で接近する戦闘機の影が一つ。

「逃がすかって……言っただろうがよッ!」

ダブルゼータガンダムのもう一つの姿、Gフォートレス。
アシュタロンと同じく機動性を大幅に向上させた形態。豊富な武装もそのまま使用できる。
平時はビームサーベルとして使われる発振器がダブルビームキャノンとして機能し、マウントされたダブルビームライフルと共に火を噴く。
反撃もままならないまま必死に回避するガトー。その動きを予測していたかのように、ミサイルが次々に回り込んできた。

「ぐう……おおおおッ!」
「もらったぁッ!」

ダンクーガに合体する前、藤原忍が駆る獣戦機は頭部となるイーグルファイター。すなわち戦闘機だ。
そして戦闘機操縦に置いて天性の素質を持つ忍にかかれば、異世界のメカだろうとこの通り。
一瞬にして再度人型に戻ったダブルゼータが突進の勢いを全て集約させ、アシュタロンを蹴り付けた。
二機の総重量に加えて加速した運動エネルギーを全て叩き込まれたアシュタロンは、きりもみしつつ地上へと落下する。
203 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 03:54:28 ID:w+43aFXt
「ぐああああっ!」

轟音。
雪原が大分衝撃を吸収したとはいえ、ランダム運動の衝撃は鍛え抜かれたガトーの肉体を消耗させるには十分すぎた。
横倒しになったアシュタロン。上空から落下したダブルゼータがその上に着地し、馬乗りになる。
アシュタロンの右腕、左腕をダブルゼータのそれが掴み取る。

「へへへ……さあッ! こいつでトドメだ!」

ダブルゼータの額に全身のエネルギーが集中していく。
ハイメガキャノン。ダブルゼータ最大最強の兵装。

「貴様、正気か!? この距離でそんな大砲を撃てば、貴様も無事では済まんぞ!
「そりゃ俺だってこんな分の悪い博打は打たかねえがよ……そろそろ俺も限界なんでな。
 手早くケリ付けるためにはこれしかねーのさ……!」

優勢に立ち回っていたダブルゼータだが、それは忍の身体にかかる負担を無視していたからこそだった。
目が霞む。手の感覚も薄れてきた。
だがもう一手で勝利を掴むことができる。ならば、行くしかないではないか――

「そうだろ、みんな……! ああ、そうだ……獣戦機隊に後退の二文字はねえ! だから……ッ!」

ダブルゼータが身を反らし、強烈な頭突きをアシュタロンへと浴びせた。
密着する二機の頭部。ハイメガキャノンの輝きはいよいよ強まっていく。

「行くぜ……受けてみろ、俺たちの野性ッ……!」
「ぬ……おおおおおおおおッ!」
「ハイメガキャノン――いいやッ! ハイメガ断空砲ッ! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁってやるぜぇぇぇぇッ!!」

あるで抱き合うように、二機のガンダムが身を寄せ光に包まれる。
その光量は傍から見ていたカナードですら怯ませるほどに強い。
ディバイダーを突き立て、その陰で衝撃を耐える準備をしたカナード。

「くう……フジワラぁぁぁぁッ!」

見えなくとも、せめて声だけは届かせんと叫ぶ。
そして、野性が炸裂した。
204 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 04:01:59 ID:w+43aFXt
     ◆


波のように拡がる光と衝撃。駆け抜けた端から雪が蒸発し、雪原に巨大なクレーターが穿たれている。
立ち尽くすモビルスーツは一機。


カナード・パルスの駆る、ガンダムXディバイダーただ一機。


ガンダムXはその手にダブルゼータのハイパービームサーベルを握っている。
辺りを見回すも、動くモノはない。何も……ない。
ただ、バラバラに砕け融けたダブルゼータの残骸が散らばっているのみ。

「フジワラ……俺は傭兵だ。気の利いた言葉は思いつかん。だから、俺は依頼を請け負おう。報酬はこれでいい……」

ガンダムXのコクピットでカナードは呟く。
残骸の中に黒いパーツ、すなわち敵ガンダムの残滓はない。つまり奴は、アナベル・ガトーはいまだ健在。
全身を包むやり切れない無力感。
だが、その瞳だけは熱い炎が灯っている――野性という炎が。

「アナベル・ガトー! アポロというガキ! そして戦いに乗った者全て! この俺が一人残らず狩り尽くしてやる……!」

誓う。
どこまでも己の野性を貫いた一人の男のために。
さして仲間意識はないカナードだが、それでも同じ地球連合の元同僚だったらしい男だ。

「プレア……俺は戦う。だがそれは俺がそうしたいから、だけじゃない。
 どうやらここには思った以上に馬鹿が多いようだ。かつての俺の様な馬鹿がな……。
 俺にはお前がいた。だから留まることができた。
 ああ、奪われてからじゃ遅いんだ。フジワラも、アポロと戦っていなければこうはならなかったかもしれない」

幻影のプレアが、見える。
心なしかこう言っているように感じる――みんなを助けてください、カナード。
それはカナードがこうありたいと望む錯覚かも知れない。かつてのプレアのような存在になりたいと。
それでもいい。いまはただ、この胸の内に芽生えた熱い、確かな想い――野性のままに、走り出すのみ。

行き先はどこでもいい。
ガトーを追うか、もしくはアポロというガキを叩きのめして元はフジワラの物だというダンクーガを奪い返すか。
どの道を選ぶにせよ戦いは避けられない。
死は怖くない――怖いのは、何もできないこと。
205 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 04:03:16 ID:w+43aFXt
漠たる死に安らぎはない。
死力を尽くした曲折の果てにこそ、生きる実感がある。
ナチュラルでなくとも、スーパーコーディネイターでなくとも。
ただ己の意志が赴くままに、カナード・パルスは進み続けるだけだ。
それこそが、亡き友が我が身と引き換えに繋いでくれたこの命の証明になると、カナードは信じている。

だから――


「カナード・パルス……やぁぁってやるぜッ!」


昂る野性を、抑えはしない。




【藤原忍@超獣機神ダンクーガ  死亡】


【一日目 8:30】
【カナード・パルス 搭乗機体:ガンダムXディバイダー(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:疲労(小)
 機体状況:EN70%、ハイパービームサーベル所持、ビームソード一本破損
 現在位置:D-6 雪原
 第1行動方針:主催者打倒の方法を探す
 第2行動方針:戦いに乗った者は倒す
 第3行動方針:ガトーを倒す。アポロを叩きのめしダンクーガを奪い返す
 最終行動方針:バトルロワイアルの主催者を徹底的に叩き潰す】
206 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/02(土) 04:05:34 ID:w+43aFXt
     ◆


機体のコンディションチェック終了。被害は甚大。
ガトーは息をつき、汗に濡れた額を拭う。

「一人倒すだけでこれか……厄介だな、全く」

場所は雪原ではなく、E-6の平原エリア。
丘の影に機体を隠し、先ほどの戦いを反芻する。

敵ガンダムの砲撃が炸裂するあの瞬間。
全身のエネルギーを額に集中し、また元々半壊していたため力の緩んだダブルゼータの左腕。
ガトーはとっさに戒めを脱したアシュタロンの右腕をダブルゼータの額に叩き付け、同時にマシンキャノンを集中させた。
一瞬にして溶解する自機の腕。だがその一瞬、おかげでダブルゼータの狙いは僅かに逸れた。
機体スレスレに駆け抜けるメガ粒子。地表で爆発する前にガトーはギガンティックシザーズを持ち上げダブルゼータに叩き付けていた。
コクピットを抉る鋏の先端。忍は痛みを感じる間もなかっただろう。
制御を失いハイメガキャノンが暴発する前に、巴投げの要領でダブルゼータを投げ飛ばし、変形。
モビルアーマー形態のまま雪に突っ込み、閃光から逃れた。カナードの位置からは確認できなかっただろう。
そして離脱してきたこの平原でようやく警戒を解いた。

「フジワラ……あのような猛者が、我がジオンの同志であったなら、な。もはや詮無いことだが」

宿敵と認めた男、コウ・ウラキに勝るとも劣らぬほどに手強い相手だった。
彼が言うところの野性。ガトーをして驚嘆させるほどに苛烈。
この場に集められたのが彼やカナードのような強敵ばかりとするなら、力押しだけでは勝ち残るのは難しい。
少し、戦い方を変える必要があるかもしれない。
だがとにかく今は、あの尊敬すべき戦士の冥福を祈ろう。

「シノブ・フジワラ……二度と忘れん」

心に刻む。
二度と巡り合えない強敵、駆け抜けた野性を。

ソロモンの悪夢、アナベル・ガトー。
撃墜数、一。


【一日目 8:50】
【アナベル・ガトー 搭乗機体:ガンダムアシュタロンHC(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:疲労(大)
 機体状況:右腕欠落、全身の装甲にダメージ、EN40%、マシンキャノン残弾80%
 現在位置:E-6 平原
 第1行動方針:敵は発見次第仕掛けるが、無理はしない。まずは補給する
 第2行動方針:コウ、カナードとはいずれ決着をつける
 最終行動目標:優勝し、一刻も早くデラーズの元に帰還する】
207それも名無しだ:2010/01/02(土) 04:07:15 ID:w+43aFXt
投下終了。
タイトルは 「野性を縛る理性はいらない」
208それも名無しだ:2010/01/02(土) 13:40:39 ID:KjG2FtXm
投下乙です。
藤原……応答しろ、藤原ぁぁぁぁぁ!!
やー、燃えた燃えたw 戦闘描写もさることながら、忍のガトーの掛け合いが熱いのなんのw
野生に感化され熱血かかったカナードの今後が気になるな
209それも名無しだ:2010/01/02(土) 14:43:30 ID:PO1xr6v/
忍は意地を通して死んだな
にしてもガトーと矢尾キャラは相性が悪いなあ…
210それも名無しだ:2010/01/04(月) 01:30:58 ID:uQL9s2QA
代理投下乱舞ー
211代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:32:19 ID:uQL9s2QA

「どんな馬鹿だいったい!?」
 ルネは蒼く蠢くコクピット内で怒鳴る。
 足元へと突き立てた棍棒を握る手に思わず力が入った。
「オマエハメッチェノカワリニモナラン」
「ドメヲササナイトイツマデモギロチンノスズガナルゾ」
「ナンダ?…ヒトツノイノチノナカニ、フタツノイノチガアルトイウノカ? ナゼダ!」
「キコエルダロ? ギロチンノスズノネガサァ!」
 思わず力んだのは随伴機のパイロット達と呼べるかどうか分からない物達がやかましい、からでもなく。
「おちつけ、おちつけ、ハロども」
ソルダートJごっこに興じる男がうざったらしい、からでもなく。
「アレガシロイヤツナラココデクサレエンヲキッテヤル」
 極太の光が自機を掠めつつ地面へと突き刺さり、光が収まった後に巨大なガラスのお椀を作る。
 この、そう、親の敵といわんばかりに大地へと突き刺さる熱戦を避けるために、意識を空へと集中しているからである。
「うわっ!? くっ、このビームの威力。かなり高い所から撃っているぞ!」
 スラスターを噴射させ自機を狙う熱線を避けつつ叫ぶ。
 施設から出て十数分たったころにいきなり砲撃を受け、それ以降は回避に専念するほかはなかったが上空から自分達を
誰かが狙っていることは明白だ。熱戦は確実に自分達を標的とした敵が放っているに違いない。
 そう、敵だ。目に見えぬ透明人間のような存在ではあるが、コスプレやボールといったわけが分からぬ存在ではない敵が
空の果てにいるのだ。これでうざったらしい馬鹿どもの相手をしなくて済む。
 それだけを見えない敵に感謝しつつルネは反撃の手段を考える。
212代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:34:06 ID:uQL9s2QA
「さーて、どうやってぶん殴ろうか?」 
「君も落ち着くんだルネ・カーディフ・獅子王」
が、どうやらコスプレ馬鹿は臆病風に吹かれたらしい。仮面に隠されていない表情からは撃って出る意思が見受けられない。
「ハッ! びびってんのかい?」
「現実的ではないし、撃って出る意味も無い」
 口元がにやりと笑う。格好も合わせれば実に悪役らしい笑みだ。生理的嫌悪など今更抱くような生娘ではないが。
「いくらビーム兵器とはいえレーダーだってある。そうそうあたるものでもない」
「撃たれっぱなしは趣味じゃないんだよっ!」
 弱気としか言えない発言しかしない男に怒鳴りつつ、何度目か分からない砲撃を左方向へとステップすることで回避する。
「逃げ回れば死にはしない」
 男の方もムカつく位優雅に右方向へと回避する、
「オチツケコウチャ」
ように見えたがハロが適当なレバーか何かにでも当たったのか、あっさりと紅い機体はバランスを崩し前のめりに倒れた。
「何やって……!?」
 最後まで言うことができなかった。グランヴェールの回避しようとした先が光の柱によって包まれたからだ。
 そう、回避しようとした先だ。こけていなければグランヴェールはあっさり蒸発していただろう。
「…丸っこいのに感謝しなよユウキ・ジェグナン」
「……クゥッ!」
 悔しそうに呻きつつも機体をすぐさま立て直すのは腐ってもパイロットと言えるだろう。
 間抜けな格好や動作やボールに囲まれている状況からはあまりそうは見えないが。
213代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:35:23 ID:uQL9s2QA
「で、どうするだい? このままじゃ」
「すぐにこの場を離れよう。ビーム砲がオーバーヒートしたのか誘いなのかは分からないがこの場にいるよりはマシだ」
 あいかわらず弱気なことしか言わない。だからルネ・カーディフ・獅子王は見切りをつけた。
「なら勝手にやらせてもらう!!」
 機体を変形させシステムをオートパイロットへ、ソラへと向かうために送還システムを起動させる。
「ちょっ――――――て」
 重力とは逆方向へと引っ張られる感覚と共に音声が途切れる。が、意識まで途絶えるほど柔な鋼の体でもなければ獅子の精神で

もない。
 なにより、ここで万が一にでも意識を失いでもすれば相手が打ってくるであろう次の手に対応できない。
 モニターに映る雲が途切れ、青空が黒く染まり掛けた時、一点の光が生まれた。
「来た!?」
 光は瞬きをするまもなく巨大となり、己へと踊りかかろうとする。
 その一撃はルネにとっては予測できたものである。故に対処しやすい。
 棍を通してルネの命令がダリア・オブ・ウェンズデイへと伝えられる。目に見えぬ力場が周囲へと展開され、
放たれるビームと展開された力場が衝突する。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 力場とビームが衝突する衝撃なのか機体が大きく揺さぶられる。だがダリアはビームを切り裂き直進した。
 ルネは叫ぶ、叫び続ける。己と機体を鼓舞するように叫びをあげつづける。
 このまま上がってすぐにでもぶん殴ってやる。なにしろオートパイロットの状態では衛星に向かって真直ぐにしか進めないのだ

から。

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ァガ!?」

 彼女の叫びは途中で途切れた。


◆◇◆◇◆
214代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:37:41 ID:uQL9s2QA

 羽佐間翔子は宇宙の人となっていた。
 周囲は黒と光り輝く星だけの世界――――――いや、彼女の眼下には先ほど飛び去った惑星が広がっていた。
 その惑星は、とても美しかった。外の世界がフェストゥムに支配されていると思えぬほどに。

「一騎くん達にも見せたいなぁ」

 そう呟き彼女は頭を振った。もはやその言葉が叶えられることはないし、その言葉を言う資格すら自分にはない。
 仲間を殺し、ただ誰か一人の命だけを願う自分には。
 翔子は眼下の地球へとツインバスターライフルを向ける。地上で発見した赤と花のロボットを撃墜するために。
 ゼロシステムのサポートにより敵を殲滅するための的確な戦法――――――大気圏を離脱し一方的な位置からの狙撃が提示され


翔子はその指示通りに狙いをつける。その肉体は宇宙に昇ったさいの負荷により体のいたる箇所から内出血を起こしていたが、問

題はなかった。
 彼女に備わった天才症候群は肉体の負荷を無視する、故にゼロシステムに振り回される負担も無視する。

 まずは第一射。ファーストターゲットを破壊。
 続いて第二射。セカンドターゲット及びサードターゲットの回避を確認、破壊失敗。
215代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:39:50 ID:uQL9s2QA


 初撃で敵機を撃破できないことまでは予想通りであり、ゼロシステムにとっては必要なことだ。
 相手の行動を予測することで対応した戦術を計算するゼロシステムがその機能をいかんなく発揮するためには相手の挙動を
覚えさせるのが最も効果的なのである。初撃、次撃を外そうとも最終的に敵機を撃破できれば問題ない。
 数度バスターライフルからビームを発射したところで赤い機体を破壊するための行動予測が完成した。
 自機と敵機の相対距離算出、敵機の運動性、回避パターン、着弾するまでの時間の予測、
ツインバスターライフルの分離、それらを終えたゼロは必殺の攻撃を放つ。
 赤と花の機体の間にバスターライフルを発射、続けて赤い機体の回避地点に二つ目のバスターライフルを発射。
 第一射により敵機の分断と誘導を確認、続けて第二射が演算された座標へと正確に突き刺さる。
 が、正確な一撃故に狙いが外れてしまったことを翔子は知った。
 どうやらこけてしまったことにより、赤い機体は着弾点から僅かにずれた位置に倒れ難を逃れたようだ。
 流石のゼロシステムとはいえ相手の凡ミスまで予測はできない。
 が、翔子はそんなことなど関係ないとばかりに銃爪を弾いた。
 照射されたビームが体勢を立て直す前に赤い機体を貫く、はずであった。が、再び一つにまとめられたツインバスターライフルは何故か沈黙していた。

216代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:41:15 ID:uQL9s2QA
 何故だろうか? 疑問に思う翔子はシステムをチェックし、疑問はあっさりと氷解した。ただ単純に連射により砲身が
熱せられてしまったためリミッターが働いたからである。
 それを確認した翔子は赤い機体の運の良さを恨みつつも、ゼロシステムの警告通りに眼下の敵に警戒する。なんらかの反撃があ

るかもしれない。
 予想通りとでも言えばいいのか、花型の機体が変形しこちらの方向へと突っ込んでくる。
 どうやら片方の機体はウイングゼロと同じく単独で大気圏離脱可能な機体なのだろう。
 だが、それでも自分の優位は変わらない。ゼロの予測では充分に撃ち落とすことは可能で、それができなくても離脱するための

推力を奪えるはずだ。
 クールダウンしたツインバスターライフルを宇宙へと上がってくる敵機へと構える。

「堕ちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 何度目かの銃爪を弾き、ツインバスターライフルから放たれる光が、漆黒の宇宙から蒼い海へと向かっていく。
 瞬きをする間もなく光が敵機を飲み込み、海へと突き刺さる。
 これでいい。これで敵は宇宙へと昇ってくることはできない。
 ゼロの言うプラネイトディフェンサーを展開した様子がない以上は撃墜できたか、熱に耐性のある装甲で防いだかのどちらかで

はあるが、
例え後者であっても機体がビームの圧力に耐え切れずに押されて地上へと落下するはずだ。
 そのことをゼロから伝えられると同時に、モニターにピンクの筐体が映った。

「アグッ!」

 機体に大きく衝撃が走る。


◆◇◆◇◆
217代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:42:40 ID:uQL9s2QA



 ユウキ・ジェグナンはG-3基地施設から離れ、南へとグランヴェールを疾走させていた。
 馬鹿だ。あの女は大馬鹿者だ。僚機を省みず単独で敵に突っ込むなど馬鹿がやることだ。
 他にも広大なソラにいる敵を探す当てはあるのか、ソラに出るまでに迎撃されたらどうするのか、敵が複数であった場合はどうするのか、
合流の手段は、敵のいる高度は、狙撃してくる敵機の性能予測は、そもそもソラでの体捌きの経験はあるのかといった問題などあげればキリがない。
「だが本当の大馬鹿者は俺だ!」
 操縦桿を握る手にさらに力が入る。
 そもそも己がヘマをし続けたが故に彼女に見切りをつけられたのだ。当然、信用などしてもらえるはずもない。
 ボールモドキドモにペースを乱され続け、肝心の初対面も心象が最悪な男など誰も当てになどしない。
 せめて冷静沈着な姿を見せることができさえすれば、援護の打ち合わせもできたはずだ。
「生きててくれよルネ・カーディフ・獅子王」
 こんなことで彼女を死なせとあればグラン・マやカーラに会わせる顔などない。なによりシャドウミラーを倒すことなどできないだろう。
 仲間を見捨てるような人間は仲間には決して恵まれはしないことは経験則でよく知っているからだ。
 自分に向かってさきほどの攻撃がないうちはルネも生きている。だから狙撃される危険を推してでもソラへと昇らなければいけない。
 やがて、黒い煙と共に自分の目指す先が見えてきた。モニターに表示される施設の映像が段々と大きくなっていく。

218代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:43:54 ID:uQL9s2QA
 彼はその光景を予想していたが故に絶望はしなかった。
 ソラから狙撃する相手がソラへと行く手段を潰さない理由はない。なにより相手の初撃がここに落ちたのは確認済みだった。
 現実としてグランヴェールは異世界ラ・ギアス以外の空は飛ぶことはできない。見事なまでにルネと分断されてしまった。
「だがシャトルがここにあるだけとは限らない」
 ひしゃげ、潰され、ばらばらとなり炎上する二機のシャトルを背にし、格納庫らしき方向へとグランヴェールを走らせる。
 G-3エリアへと撃ち込まれたビームは一射のみである。ならば破壊されたシャトルはここにある二機だけのはずだ。
 それにA-1にもシャトルはある。地図上では離れてはいるが、自分の予想が外れていなければそこへ行くまでに大きな時間はかからないはずだ。
 レプリ地球―――――ルネがここに来るまでに戦っていた惑星。そこには生命など存在しなかったが建築物などは地球のそれと同じものであったらしい。
 そのレプリ地球を作る技術さえあれば、いや、ちょっとした小惑星をテラフォーミングする技術でもあれば、用意されたMAP規模の世界を作り出すことなど造作もない。
 宇宙MAPのb-2に映る地球らしき惑星はきっとそれなのだろう。なにしろ宇宙ですら戦闘フィールドとしているぐらいだ。
 自分の見たものが虚構でもなければ説明がつかない。本物の宇宙人と日夜戦う自分にとっては、それが最も納得のいく仮定である。
「キタイハソノママ、パイロットハシンデモラウ」
 不吉なことを言ったハロは、分からなかったので適当なハロを殴りつつシャトルを捜す。
 敵機がどの程度の高度にいるのか、ルネがどこまで昇ったかは不明ではあるが、追いつくためにはシャトルが必要だ。
 
「間に合ってくれよ! ソラ!!」

 シャトルを探すために、ルネを追うためにユウキ・ジェグナンはグランヴェールをさらに加速させる。

219代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 01:45:26 ID:uQL9s2QA
【羽佐間翔子 搭乗機体:ウイングガンダムゼロカスタム(新機動戦記ガンダムW〜ENDLESS WALTS〜)】
 パイロット状況:急加速によるGの負担により体のいたるところに内出血あり
 機体状況:EN30%消費 ゼロシステム稼働中、正面衝突のダメージ
 現在位置:b-2 大気圏上空
 第一行動方針:敵を倒す
 第二行動方針:参加者の人数を減らす。
 第三行動方針:一騎、真矢、甲洋とは出来れば会いたくない。
 最終行動方針:一騎の生存】



【ルネ・カーディフ・獅子王 搭乗機体:ダリア・オブ・ウェンズデイ(ガン×ソード)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN20%消費、正面衝突のダメージ
 現在位置:b-2 大気圏上空
 第一行動方針:敵を倒す
 第二行動方針:基地周辺の探索
 第三行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 最終行動方針:バトル・ロワイアルの破壊】
220代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 02:00:33 ID:uQL9s2QA
【ユウキ・ジェグナン 搭乗機体:グランヴェール(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)withハロ軍団
 パイロット状態:ソルダートJのコスプレ
 機体状態:良好、コクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:G-3 シャトル発着場
 第一行動方針:ルネを追うためにシャトルを確保しソラへと昇る(G-3に無い場合は東へと向かいA-1のシャトルを確保する)
 第二行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 第三行動方針:なるべく基地は戦闘に巻き込ませたくない
 最終行動方針:打倒主催
 備考1:グランヴェールはハイ・ファミリア使用不可能。 紅茶セット一式を所持
 備考2:自分が立つ惑星がMAP規模程度しかない小惑星と認識。MAPの端と端は繋がっている、
     もとい小惑星とその周辺宙域のMAPを支給されたと認識】


【一日目 08:30】


 備考:G-3において表に野ざらしとなっているシャトルが二機破壊されました。
    予備のシャトルが残っているかどうかは以降の書き手さんに任せます。
221代理投下 超高空攻撃の下 ◇06elPxNp8E:2010/01/04(月) 02:03:25 ID:uQL9s2QA
130 名前: ◆06elPxNp8E[sage] 投稿日:2010/01/02(土) 03:22:45 ID:j9yKtzx2
投下終了。
規制されちゃったので代理投下お願いします。


ご覧の通りレイアウトとかミスってるのはwiki収録時に修正するつもりです。



投下乙です。
翔子がんばれールネはもっとがんばれー
ソルダートUはそらをとべー
222代理投下 サバイブ ◇ZbL7QonnV:2010/01/04(月) 02:07:45 ID:uQL9s2QA
――イスペイルは科学者の悪意と怨念を基に発生した意識体である。
ル・コボルの欠片として戦う力を与えられてはいるが、イスペイルの本質は研究者だ。
未知なる技術の解析と研究にこそ、彼の真価は発揮されると言って良い。
この首輪が如何なる技術で作られた物かは知らないが、人の知識と技術で作られた物である事には変わりない。
それ相応の研究設備と首輪のサンプルさえあれば、必ずや首輪の解除を行えると言う自信があった。

「十六時間以内に二人の参加者を仕留める、か。
 ゲームの参加者が合計七十人で、殺害のノルマを課された参加者は七……いや、結果的には六人か。
 我々以外にも個別で呼び出されて、ノルマを課せられた人間が他に居なければの話だが。
 時間的、効率的な事を考えると、厳し過ぎるノルマである事は否めんな」

不機嫌な声で愚痴を零しながら、イスペイルは首輪の解析結果を検分する。
ヴァルシオーネRのコンピューターと首輪を接続端子で繋ぎ合わせて、爆破条件に抵触しない程度で解析を行おうとしたのだが――
なるほど、シャドウミラーの連中が余裕な態度を見せるだけはあって、それなりに厄介なプログラムのようだ。
少なくとも、ソフトウェアの方面から攻略するには、かなりの知識と設備が必要になる事は間違い無いだろう。

……だが、首輪の爆破コード。
殺害ノルマを課された七人のジョーカー。
イスペイル自身を含めた彼らの首輪に共通する、十六時間のタイムリミットで爆破されると言う条件に関しては別だ。
これについては、かなり有力な情報を知る事が出来た。
二人の参加者を仕留めると言う殺害ノルマをこなす他にも、どうやら爆破条件をクリアする方法は存在するらしい。

223代理投下 サバイブ ◇ZbL7QonnV:2010/01/04(月) 02:09:26 ID:uQL9s2QA
「……パスワードの入力。
 バトルロワイアルの支給機体である、以下に挙げられた機動兵器の“正式なパイロット名”を答えよ。
 全十問。七問以上の正解によって、首輪の爆破条件は解除される。一度答えた問題について、再回答を行う事は不可能。
 十問全てに正解した場合、スペシャルボーナスとして支給機体一つ、もしくは参加者一人の詳細情報を得る事が可能。
 なお、ジョーカーに課せられた爆破条件を解除する方法は、各人によって異なる事を追記する、か……」

エヴァンゲリオン初号機、ダンクーガ、ファフナー・マークゼクス、アクエリオン、アルトアイゼン・リーゼ、
ジャイアント・ロボ、グレートマジンガー、ZZガンダム、ウイングガンダムゼロカスタム、クロスボーンガンダムX3。

全く見覚えの無い機体名が羅列する様子を眺めながら、イスペイルは今後の方針を頭の中で纏める。
まず真っ先に優先するべきは、首輪の爆破条件を解く事だ。
二人の参加者を殺すか、それともパスワードの入力を行うか。
どちらにせよ、他の参加者との接触は避けられまい。
イスペイルは知らなくとも、他の参加者はパスワードの答えを知っている可能性が非常に高い。
人殺しを厭う気持ちなど、ル・コボルの欠片であるイスペイルには存在しない。
だが、首輪の爆破条件の事を考えると、考え無しに参加者を殺して回る事は避けた方が良さそうだ。

このバトルロワイアルに支給された機体とやらに、直接当たってみるのも手かもしれない。
自意識を持った機体であれば、機体自身の口からパイロット名を聞き出す事が出来る。
ログや設定を調べる事が出来れば、ユーザーネームを探り当てる事も不可能ではあるまい。
コンピューターが破壊されては、何の情報も引き出せなくなる。機体の壊し方についても、ある程度考慮した方が良いだろう。

……この会場内に存在する施設を調べてみるのはどうだろうか。
可能性は低いかもしれないが、シャドウミラーのデータベースにアクセスする事が出来れば、機体の情報を得る事も可能なはずだ。

224それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:11:42 ID:gKq02y0X
 
225代理投下 サバイブ ◇ZbL7QonnV:2010/01/04(月) 02:13:41 ID:uQL9s2QA
「人と機体が集まりやすく、データベースのアクセス権を得られる可能性が高い、最も手近なエリア。目指すべきは、それだな。
 この位置からだと、A-1……もしくはG-2周辺の基地を目指すべきか。
 私と同じく、ジョーカーとして選ばれた参加者も施設に向かっているやもしれん。
 大規模な戦闘が発生しない内に急いだ方が良さそうだな……」

パスワードによる爆破条件の解除について、イスペイルに疑いを持つ気持ちは無かった。
解けないパズルを寄越されたと言う事は、まず無いと考えて良いからだ。

そしてイスペイルが“パスワード”の存在に気が付いたのは、かなり注意深く首輪を調べてみた結果の事だ。
おそらくジョーカーの中でも、このような抜け道が存在する事に気付いた者は多くあるまい。
血気に逸る若者や、怯えた表情を見せる子供。
この殺し合いと言う状況下で冷静さを保ち続けられる人間が多くないだろう事は、あの場に於ける反応を見れば充分であった。
あの場に呼び出された自分以外の六人――いや、今は五人か――の顔と声は記憶している。
自分が握っている解除条件に関する情報は、なんらかの交渉カードに使う事も不可能ではない。
命が助かる方法を増やせるとなれば、あの場に居た六人――また間違えた、五人だ――は恐らく耳を傾けてくれる余地はあるだろう。

「……生き残って見せるぞ、私は」

決意の呟きを洩らしながら、イスペイルは機体を目的地に向かわせる。

――生存。
ル・コボルの欠片から生れ落ち、いずれ消滅する事を宿命付けられたイスペイルの、それが生きる目的であった。
イスペイルは生きる為に抗い続ける。
このバトルロワイアルと言う状況に於いても、それは全く変わる事が無かった。





【イスペイル 搭乗機体:ヴァルシオーネR(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状況:良好(いつまでも苛立ってはおられん……)
機体状況:良好
現在位置:D-7 南端部
第一行動方針:まずは生存する為にノルマ(ノーマル、アナザー、どちらでも可)を果たす
第二行動方針:出来れば乗り換える機体が欲しい
最終行動目標:自身の生還
備考:首輪の爆破解除条件(アナザー)に気付きました】

【一日目 7:30】

226代理投下 サバイブ ◇ZbL7QonnV:2010/01/04(月) 02:15:52 ID:uQL9s2QA
143 名前: ◆ZbL7QonnV.[sage] 投稿日:2010/01/02(土) 22:44:51 ID:cKBC4ViY
イスペイル様投下。
普通に殺し合う以外でもノルマ達成方法があった方が、展開的に幅が広がるかもしれないと個人的に思ったりした。
首輪の解除条件(アナザー)はジョーカー各人で異なり、アナザー条件が存在しない者も中には居るかもしれない。
アナザー条件の存在に全く気付かず、ノルマを達成した後で知る人間も居るかもしれない。
その辺りは、これからの展開次第と言う事で。

……∀、ガンバスター、オーグバリュー、デュラクシール、ラーゼフォン、ゴッドガンダムと超強機体が普通に支給される中、
特別強い機体とは言えないヴァルシオーネRを「チョー強い機体よぉん♪」と支給されたイスペイル様を哀れに思った事は否定しない。

ちなみにパスワード機体の選出基準は、現時点で二人以上の人間が解答を知っている事だったりします。
ダンクーガは忍が「俺の機体!」と叫んでいたので、アポロ、カナード、ガトーが答えを知っている。
クロスボーンX3はトビアの話を詳しく聞いていたらしいので、トビアとトレーズ様が知っている。




投下乙!
イスペイル様が科学者っぽいけどどこか頼りないのは何故だぜ
ロボットラリー頑張ってw
227それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:17:17 ID:gKq02y0X
 
暗い空の下に作られた、隕石の衝突した跡――クレーター。
そのすり鉢状の地形に作られた街も、いまや住む者はいない。
響くのは、一機のモビルスーツの駆動音だけだ。

「やっぱりだ……俺の知っているフォンブラウンによく似ている……」

∀ガンダムのウィンドウから周囲を探索し、コウ・ウラキは静かにそうつぶやいた。
B-1の月面都市に飛ばされた彼は、移動しているうちに気付いたのだ。
街並みが、どことなく自分の知るものに近いことに。
もちろん、月面都市の構造物は重力その他から似通った形状になる傾向がある。
しかし、それでも通りなどの区画整理までがまったく同じというわけでない。
その、同じというわけでない部分が、確かにコウの知るものに似ていたのだ。

「どうなってるんだ? 俺の知る店もあることはある。けど……」

酷く、老朽化している。
自分の記憶の中で、一番新しくできたくらいの建物が、時代に取り残されたかのように古くなっているのだ。
既知のはずのものが、記憶と正確に繋がらない。大きさが合わないパズルのピースのような違和感。
それに戸惑いながらも、コウは機体をまっすぐに目的地へ進める。
彼が目指すものは、ここがフォンブラウンとするならUC世紀のモビルスーツパイロット誰でも探そうとする施設。
すなわち、アナハイム・エレクトロニクス。数多のモビルスーツを製造してきた軍事企業だった。

もしかしたら、何か機体が、いや機体ではなくてもパーツか何かがあるかもしれない。
もっともこの人っ子一人いない模型のような世界が、本当に自分が知るアナハイムのようになっているという前提だが。
ともかく現状具体的な移動方針がない以上、そこ以外今のところ目指すべき場所がコウには思いつかなかった。
しばらく時間をかけて、周囲を警戒しながらも辿り着いたアナハイム・エレクトロニクス。
心の中でニナに小さく謝りながらも、シャッターを破り工場内に∀ガンダムを押し入れる。

そこにあったのは―――

「なんだ、これは……?」

GP-03があることを期待していたわけではない。
何らかの機体でも、いや核を安置し隠せる場所があればいい。
そのくらいの期待度で工場に入ったコウだったが、入った工場内にあったものは、想像をはるかに超えたものだった。
地面に設置された円形のプールのような物体。その周囲に立っている4本の柱。
当然、こんなものがアナハイムにあるはずがない。
そもそも、モビルスーツ搬入に当たってこんなものがあれば邪魔以外何ものでもないのだから。
機材の意匠ともいうべきものも、UC世紀のものとは一線を画すデザインだった。


ピピッ、とコクピットに通信、いや録音されていたメッセージが機材から発信された。
コウが送られた音声データを再生すると、合成された機械音声が流れだす。

『空間転移装置使用者へ。空間転移装置は、宇宙と地上の特定の位置同士をつなぐ装置である。
 時間にラグなどは起こらないかわり、行先は初期設定された場所にしか飛べない。
 宇宙の任意の場所に移動したのであれば、別ブロックに存在するシャトルを利用すること』

さらにずらずらと表示される簡単な注意事項。

「空間転移だって?」

SF小説くらいでしか聞いたことのない技術。
それが現実に実用化されているなど、聞いたことがない。これは主催者の冗談か何かなのか。
踏み込んだ途端死んでしまうようなデストラップではないとは思いたい。だが、にわかに信じがたいのも事実。
どうするべきか――悩むコウだったが、彼は踏み込んでみることにした。
大きな理由があったわけでもない。ふとここと繋がっている場所を見て、踏み出すことを決めた。
空間転移など、信じているわけではない。だがちらりと思う部分があった。
もし、こんな装置が実用化されているとしたら、自分たちはもっと迅速に追いつけたのではないか。
あのような追い込まれた状態になる前に手が打てたのではないか。
そんな、気持ちが。

アナハイムの空間転移装置と繋がっている場所は――コロニーだった。





「……というわけです」

クルーゼは、突然目の前の装置から現れたモビルスーツの話を聞き、眉を寄せた。

「空間転移……なるほど、にわかに信じがたい話だ。ミスト君、君はどう思うかね?」

そう言いながらも、同行者に話を振るクルーゼ。
すると、顎に手を当て悩んでいた様子のミストが口を開いた。

「空間転移システムは、アトリームにはありましたよ……既に実用化され、機動兵器にも組み込まれていたものが」
「……アトリーム? それは一体どこの地方の名前なのかな?」
「地方じゃありません。俺の生まれた星の名前です」

そう言った後、データウィンドウシステムなる、
兵器をデータ化した後、転移することで呼び出し使用するシステムがあったとミストは告げた。

230それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:24:13 ID:gKq02y0X
 
しかし、コウとクルーゼにとっては、そこよりももっと気にかかる部分ができてしまった。

「星……アトリーム!? それじゃ、もしかして宇宙人……!?」
「そうですけど……別にメンタルはそこまで変わりませんよ、多分」
「いや待ってほしい。先程君は地球と言った。地球のことを知っている宇宙人……ということになるのか?
 宇宙クジラから、そういった生物がいるかもしれないという話は聞いていたが……」
「『宇宙クジラ』? また聞いたことがない言葉が……」
「ナチュラルでも『宇宙クジラ』くらいは聞いたことがあると思ったのだが」
「ナチュラル?? ニュータイプみたいなものなのか?」
「ちょっと待ってください、地球に来て日が浅いとはいえ、コウさんの言葉もクルーゼさんの言葉も俺は聞いたことがありません」
「……なんだって?」
「確かに。先程の話で気になっていたがアナハイム・エレクトロニクスという大手軍事企業は聞いたことがない……」

世界間の齟齬、ここに極まれり。
誰もが自分の世界を当然として語っているため、激しい食い違いが生じている。
なにしろ、前提となる知識が違うのだ。かみ合うはずがない。
にわかに不穏な空気が漂い始めた時、それを過敏に察知しクルーゼが言った。

「……どうやら、我々は認識している常識が違うらしい」

クルーゼは口を挟まないように、と前置きした後コズミック・イラの世界における常識を説明した。
顔を歪める二人に、次はコウに説明してくれと話を振ると、コウもいぶかしんだ様子ではあったが話し始めた。
最後は、当然ミストの番だ。
話し終えて残ったのは、なんともいえぬ雰囲気。

「……どうやら、あのヴィンデル・マウザーは想像以上の力の持ち主のようだ」

一番にこの現実へ適応したのは、クルーゼだった。
なにしろ、他でもない自分自身があの主催者の超技術のおかげで生存しているのだから。
あれほど克明な死の感触を覚えている。塵も残らなかった自分が生きている以上、そういうのもありかもしない。
だがそれよりも大きな理由がある。クルーゼが二人の説明する世界を肯定した理由は他でもない、戦争の存在だ。

(実に、愉快だと思わんかね? 君は世界はそうものではないと言ったが……どの世界も変わらないぞ?)

クルーゼの脳裏に浮かぶのは、死の直前まで戦っていたフリーダムのパイロット、キラ・ヤマト。
彼は、世界はそんな絶望するものではない、人は手を取り合えると言った。
だが、これは何たる喜劇か。どの世界も、宇宙と地球に分かれて、終わらない戦いに明け暮れている。
宇宙人から見ればあきれるほどに戦争を続け、戦争が終わればテロリズムという形で憎しみの環を広げる地球人の姿。
それは、クルーゼにとってなによりもリアルな人間の姿に思えた。


「なんてことだ……なら、こんなガンダムもありえるのか……?」

コウの呟きを聞き、クルーゼはどうかしたのかと問う。

「このガンダムには……核ミサイルが搭載されているんです。しかも二発も。
 その他の性能も、自分が知るガンダムよりはるかに強力な仕様になっていて……」
「……なるほど、考えられないわけではないな」

ジェネシスという殺戮兵器を生み出した世界があるのなら、世界を滅ぼすため核兵器を搭載したモビルスーツを作った世界があってもおかしくない。
むしろ、広い数多の世界をめぐればそんな兵器も多く転がっているのかもしれない。

「だが、これで謎は解けたというわけだ。見たこともないような兵器、食い違う組織名やその実態。
 『世界』そのものが違うと考えれば無理はない。ところでミスト君、アトリームは地球より技術が発達していたようだが……」
「確かに、無数の平衡する次元世界があるという決定的な論文は出ていたはずです。けど、その間を移動する技術までは……」
「……勝てるのか? あのヴィンデル・マウザーに……」

こちらの想像だにできない超技術を持つ以上、当然それは兵器に転用されていると見て間違いはない。
となれば、アカツキのようにあくまでこちらの技術の延長で考えられるレベルの機体では、太刀打ちすら難しいだろう。

「大丈夫です! こうやって、仲間を増やして首輪を外せれば……絶対に勝てます!」

明るいミストの声。なるほど、これほど純粋に人を信じられるのは宇宙人だからなのか。
だが、それはあまりにも無知と言うしかない。何故なら地球人は―――

(憎しみに曇った目と、引き金を引くことしか知らぬ指で、なにが出来るというのかね?)




――ああ、滑稽だ。




さらに仲間を探そうとコロニーの探索を再開した三人の頭上に、穴が開く。
ビームの光が、空から降り注ぐ。

「敵襲だ!」
「くそっ! こんな時に争ってる場合じゃないのに……!」

浮足立つ二人。それを見つめるクルーゼ。

「……こんな時だからこそ、人は争うのだよ」

呟きは、どこにも届かず消えていった。





233それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:35:36 ID:kbspVC72
 
234それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:36:36 ID:kbspVC72
 
235それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:37:24 ID:gKq02y0X
 
236それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:37:28 ID:kbspVC72
 
237それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:38:33 ID:kbspVC72
 
238それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:39:42 ID:kbspVC72
 
239それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:39:47 ID:gKq02y0X
 
240それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:41:26 ID:kbspVC72
 
241それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:42:06 ID:m5HbRTJ+
動力源が核エンジンのプロヴィデンスに乗ってたくせに
クルーゼのこの反応はおかしくねえか?


小型の二機が建物の陰に隠れ、ヴァルシオン改は高層ビルを盾にする。
もちろん60mを超える巨体は隠しきれるものでは到底なかったが、ヴァルシオン改にはABフィールドが搭載されている。
ヴァルシオン改の厚い装甲と合わせれば、ビーム兵器である限り被弾してもたいしたダメージではない。
∀ガンダムとアカツキが、ビームライフルを抜き、応戦しようとするのが見える。
ミストは、慌てて二人の行動を止めるために叫んだ。

「待ってください! もしかしたら、恐慌状態か何かなのかもしれません!
 先に警告……いや話をさせてください!」

射撃のため建物から身を出そうとしていたのを引っ込めると、クルーゼが言う。

「しかし、既に引き金は引かれてしまった。それでも、話そうと言うのかね?」
「わかってます! けど……俺は地球人全体がそこまで愚かとは思わない!」

クルーゼの返事も待たず、ミストは蒼い飛行機体に通信を繋げる。

「攻撃をやめてくれ! 俺たちが殺し合う理由なんてどこにもないはずなんだ。
 あの男の言うことを聞くなんて間違っ――っ!」

ヴァルシオン改に向けられる射撃。
巨体を動かすために全身に据え付けられたスラスターが一斉に火を噴き、機体を後ろに飛びすさらせる。
ミストは、改めてこの殺し合いを開いたヴィンデル・マウザーへの怒りを感じた。
今、こちらに攻撃を仕掛けている蒼い飛行機体のパイロットは――

「まだミドルスクールくらいの子じゃないか……!」

そう、中学生だったのだ。
こんな子供まで殺し合いに巻き込むとは、明らかに常軌を逸している。

「どうかしたのか!?」
「子供です! 子供が乗ってます!」

その言葉を聞き、軍人であるコウも息をのむ。
ゲリラなどでは確かに少年兵などもあるのはコウも知っている。
しかし、彼が向かい合ってきたのは誰もがコウよりも戦い慣れた古兵ばかりだった。

「きみ、止まってくれ! 頼む!」

ミストが攻撃を回避しながらも何度も呼びかける。
しかし、帰ってくるのは「守るんだ」「守らなきゃ」といった呟きのみ。

「なるほど、まだ新兵か。若い兵隊にはまれによくあるものだ」

243それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:43:38 ID:kbspVC72
 
244それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:43:44 ID:gKq02y0X
 
245それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:44:20 ID:kbspVC72
 

クルーゼがそう言いながら、ついに発砲した。
クルーゼの言う通り、まだ慣れていないのか、撃たれて一度身動ぎしてから蒼い飛行機体は回避した。
距離が開いていなければ、間違いなく直撃だったろう。空に昇っていくアカツキ。
さらに制止の言葉をかけようとするミストの声を遮り、クルーゼはすらすらと説明の言葉を紡いでいく。

「待ってください! まだ……」
「まだ戦場に慣れていない兵隊に、まれにあることだ。撃たれる恐怖などから集中、いや熱中し引きこもり、
 その状態が慢性的になることで一種自閉的な状態になる。もっとも、戦場全体を見ればよく見るものでもあるが。
 矛盾しているが、まさに『まれによくある』ものだよ」

クルーゼの正確な射撃が、蒼い飛行機体を正確に追い詰めていく。

「そういう場合、呼びかけて駄目な場合、機体をどうにかして止めて、コクピットから降ろすしかない。
 伊達にモビルスーツ隊の隊長はやってはいないさ」

最小限の動きで簡単に回避するクルーゼ。高い空間把握能力のたまものだった。

「というわけだ。ひとまず機体を停止させるため、戦って止めるべきだと私は提案するが?」
「わかりました! そういうのなら任せてください! 暴動の鎮圧などは慣れてますから!」

ミストは、最初にクルーゼという同行者を得ることが出来たことに感謝した。
大局的に物を見られる隊長としての広い視野。そして、確かなパイロットとしての腕前。
味方になってくれるのであれば、これほどありがたいことはない。

ミストの機体が、一気に前に出る。逆に、∀ガンダムとアカツキは、後ろに下がる。
機体を停止させるため狙うのは、手足と、スラスター部分。となれば、ただ撃墜するだけではだめだ。
狙ってやる場合、撃墜の三倍捕獲、鹵獲は難しいと言われている。
だが、その困難もミストにとっては対して気になるものではなかった。
何故なら、これほど心強い仲間がいるのだから。

「見ていろ……! すぐ救ってやるからな!」

ヴァルシオン改に搭載された射撃兵器を起動。あえて照準を右18ほどずらす。
こちらが攻撃シークエンスに入ったのを見たのか、手に持った巨大な携行火器を撃つ相手。
しかし、AB(アンチ・ビーム)フィールドの名が示す通り低威力のビームはいとも簡単に弾き飛ばす。
逆に、ヴァルシオン改から放たれた一撃は、強烈無比。

「いけっ! クロスマッシャー!」

赤と青。二色の光が混じり合い、螺旋を描きながらも一体化して打ち出される。
その一撃は、直撃せずとも蒼い飛行機体の姿勢をあおり、安定を乱すに十分だった。
しかし、

「なんて威力だ……コロニーの中でそんな武器を使うんじゃない!」

それだけに飽きたらず、いとも簡単にコロニーの外壁を貫通した。
コウからの忠告を、ミストは嫌な汗を流しながら肯定する。
想像以上の一撃がまき散らした破壊を見て、直撃コースで使うはめにならなくてよかったと思う。

247それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:46:31 ID:kbspVC72
 
248それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:48:47 ID:QIAXe5c6
 
249それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:48:59 ID:kbspVC72
 
250それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:49:12 ID:gKq02y0X
  

「前に出すぎだ! 行けぇー!!」

その隙に、コウが一気に飛び出る。
その手にもったビームサーベルが勢いよく振り下ろされるが、携行火器から銃剣に似たものが現れ、それを受け止めた。

「くっ! 空中戦は宙間戦闘と勝手が違いすぎる!」

戦闘にスラスターを回しているため、半ば落下しながらでも蒼い飛行機体と互角以上に切り結ぶ∀ガンダム。
相手が素人同然とはいえ、それでも慣れてないとは思えないコウの戦闘への順応性の高さに、ミストは驚嘆する。

「もう少しで捕縛できる高度です! コウさん、お願いします!」
「わかってる!」
「私も忘れてもらっては困るな」

アカツキが蒼い飛行機体の背後から、銃剣型のビームサーベルを抜き放ち、切り掛かる。

「ウラキ君。君は先に降りて、あの武器の準備を。あとは私に任せてもらおう」
「わかりました!」

∀ガンダムが地上に落下する。そして、地面を踏みしめた。

「あの武器ってなんなんですか!?」
「見れば分かる! 離れてくれ!」

そう言って、∀ガンダムがとりだしたのは――

「鉄球!?」

鎖のついたトゲ鉄球。これ以上ないほどに原始的な武装だった。
それを、頭上で回転させる∀ガンダム。その回転はどんどん勢いを増していく。
どういうことなんだと考えるミストをよそに、自体は進行する。

通りの少し離れたところに、二機がもみ合いながら落下した。
上になってイニチアチブを取っているのは、もちろんアカツキだ。
蒼い飛行機体を蹴り飛ばし、距離を取るアカツキ。

「これでダウンだ! でやぁぁぁっ!!」

起き上がろうとする蒼い飛行機体を、鉄球が正確に打ちすえた。





252それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:51:32 ID:QIAXe5c6
 

声が聞こえる。

「そうか……! 機体にダメージを与えないように機体内部にだけ衝撃を伝えたんですね!」
「仲間に引き入れるにしても、機体が危険な状況では困るのでね。
 むしろ、そう言った武器があることを伝えてくれたウラキ君のアイディアだ」
「けど……これ以上強い相手じゃ手加減は難しいかもしれない」
「大丈夫ですって! こっちもどんどん仲間も増えるんです、絶対に……助けられます!」

誰かの声が聞こえる。
誰の声かわからない。聞いたことのある声かすら思い出せない。
記憶力には自信があった……気がした
けど、何があったのか、少し前自分がなにをしていたのか思い出せない。

助けなきゃ。
守らなきゃ。

そう思っていた。
けど、どうやって助ける? 守る?
そうだ――殺さないと。そうればいい、と誰かが言っていた。
それだけが、守るための方法だと。

――守れた――守らなきゃ――守れなかった――守りたかった――

とても悲しいことがあった。
思い出したいと思うのに、忘れちゃいけないと思うのに、思い出せない。
ただひたすらに、悲しい。


――本当に?

――本当に何故悲しいのか思い出せない?

――守りたければ、悲しめばいい。

――悲しみが、もっともっと守るための力になる。

矛盾している。

守れなかったから悲しかったはずなのに、守るために悲しめと何かがささやく。


お前の見ているものを。
お前の聞いているものを。
お前の味わっているものを。
お前の感じているものを。
お前の痛み――悲しみを。
もっともっとなにも考えずに渡せばいい。
悲しむためのココロを取り戻せ。
それ以上でもそれ以下でもない。ちょうどただ悲しむためだけのココロを。

自分でない何かが、そう嘯く。けれど、自分の声のようにも思う。



大食らいのナニカが、自分に向かってニヤリと笑った気がした。




直結されるガナリー・カーバー。
スフィアに取り付けられた外付けの装置に火が灯る。
悲しみの乙女のスフィア――悲しめば悲しむほど力に変換される。
力を使えば使うほど、五感を奪う。
大いなる因果律の果て、大極と結び付くことによって組みだされるエネルギー。
春日井甲洋は選ばれた存在ではない。正しく力を引き出すことはできない。
しかし、変換効率は悪くともレモン・ブロウニングの取り付けた装置は強引に両者を繋ぎ止める。
中枢神経が侵され、思考すら奪われ外部に反応することすら不可能なはずの春日井甲洋が、何故マシンを操縦できるのか。
その答え。
魂の融合ともいえるスフィアと結ばれるため、外付けされた思考するための経路。
廃人ともいえる人間に、さらなる過酷な戦いを強要する思考回路。
悪魔の装置――あるいは、女神の装置。


レモン・ブロウニングの声――
『こんなタイミングで呼び出すつもりはなかったのだけど……そうなってしまった以上仕方ないわ。
 自分という存在を失ったあなたが、それでもあなたであり続けたいのなら……私は可能性をあげる。
 完全に自分に戻れるのか、『自分がここにいる』と証明できるのか……見てあげる。
 フフッ、いや違うかもしれない。私が見たいだけ、かもね』


フェストゥムと同化したはずの脳を、強引にスフィアの力が潜り込み、彼の意識を呼び戻す。
覚醒したとは言い難い混濁した意識のままの春日井甲洋。
しかし、彼はこの状態とよく似たものを知っていた。
スフィアと機材を通して強引に接続された状態を。


それは――ファフナーを操縦していた時によく似ていた。


「俺は絶対に、仲間を見捨てるようなことはしない……絶対に……絶対に、助けるんだ……!!」


スフィアとの融合――変性意識の影響で零れる本音――いや魂の叫び。

虚ろな金色の瞳に、僅かに光が灯る。





255それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:53:38 ID:gKq02y0X
 
256それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:53:42 ID:kbspVC72
 



「なんだ……あの光は!?」

突然、蒼い飛行機体から漏れ出した輝きに、コウが声を上げる。

「まだ戦えるのか!?」
「くそっ、戦う必要なんてないのに……っ!」

三者三様のリアクション。しかし、その一切を無視し、パイロットが叫ぶ。


「俺は絶対に、仲間を見捨てるようなことはしない……絶対に……絶対に、助けるんだ……!!」


そして――爆発。
先程まで蒼い飛行機体がいたはずの場所が、一瞬でえぐれとんだクレーターにかわる。
光の粒子が空まで軌跡となって伸びたいたことで、ミストも気付く。それが、スラスターによる衝撃だったことに。

そして、次の瞬間降り注ぐビームの雨。
ヴァルシオン改のABフィールドが、その雨を防ぐ。しかし、その衝撃は殺しきれるものではない。
クルーゼが、空へうって出る。

ビームライフルが、蒼い飛行機体へ向けられた。
しかしそれを、慣性を無視したような動きで回避すると、一瞬でアカツキに肉迫している――!
携行火器から現れた、機体の倍はあらんというビームサイズ。それが、アカツキに振り落されようとしている。

「くっ!」

コウがビームライフルで両者を割る。
その隙に、アカツキはどうにか距離を取った。

「先程までとは別人……いや、別の機体だな……! ミスト君、引くぞ!」
「引くって……このまま放置するっていうんですか!?」
「そうだ! 撃破するならいざ知らず、殺さないと言うのは不可能だ。ここは引く……!」

ヴァルシオン改を∀ガンダムとアカツキの前に出す。

「俺の機体が一番頑丈です! しんがりを務めるので早く逃げてください!」
「合流する場所は、『ウラキ君とあった場所』だ! そこならば逃げられる!」
「了解しました!」

258それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:54:49 ID:kbspVC72
 

クルーゼの言った符号に、ミストも納得する。
空間転移装置なら、移動した後破壊すれば転移を防げるし、相手が転移装置と気付かなければ見過ごされることも期待できる。
ヴァルシオン改が、ディバインアームを引き抜くと、横薙ぎに振るう。
いとも簡単にビルの上部が吹き飛び、瓦礫となって空を舞った。
蒼い飛行機体は、瓦礫の隙間を抜こうとはせず、後ろに下がる。

「確かに機体性能は上がったけど……別にパイロットの腕が上がったわけじゃない。いける!」

ヴァルシオン改の巨体が空に舞い上がる。
回り込むように眩く輝くビームキャノンを相手は放ってくる。
先程より威力があがっているのだろう。しかし全包囲をカバーできるABフィールドはいまだ健在だ。
一撃を決めれば、特機は通常勝てると言われる。それは、圧倒的な質量その他で一撃で相手を粉砕できるから。
だが、ミストはそんな結末を望んでいない。
だから。

ミストは、敢えて周りの建物をディバインアームで壊し、飛礫を空に舞い上げる。
相手は、散弾のように降り注ぐコンクリート片をかわしながら攻撃を繰り返すが、ヴァルシオン改はびくともしないのだ。
時間を稼ぎつつ、致命的な一撃を避けあくまで『制圧』にこだわるミスト。
しかし、繰り返すうち、相手はこちらの攻撃を、余裕を持って回避するようになってきている。

「まさか……こちらのモーションを読んでるのか!?」

単調に見えて、角度やタイミングなどをこう見えても織り交ぜて変えている。
そのはずなのに、相手はこちらの行動の出掛りを正確に判断し、動き始めているのだ。
攻撃こそABフィールドが防いでくれるが、確かに被弾量が増えている。

別の攻撃を織り交ぜるべきだとは思っている。
しかし、クロスマッシャーは威力が高すぎて、コロニーそのものを破壊しかねない以上使用できない。
となれば残弾が二つしかないエナジーテイカーしかヴァルシオン改は持たない。
元々、さまざまな汎用兵器を元に戦うタイプの機体を使っているミストは、
武器の種類がある程度ある前提での戦術しか分からない。
こうやってヴァルシオン改で戦っている今も、だましだましと言っていいのだ。

焦る心からか、行動が本当に単調になってしまっていたことを、懐に飛び込まれてから知る。

「まずいッ!?」

相手の携行武器から、アカツキ相手に使った巨大なビームサイズが伸びる。
慌ててディバインアームで受け止めた。

260それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:56:22 ID:kbspVC72
 

「しめた……! これならいける!」

相手の機体の倍近い巨大なビームサイズと、ディバインアームはほぼ同じ大きさだ。
しかし、それを支えている機体の全長は、3倍以上の差がある。
力による押し合いなら、圧倒的にヴァルシオン改が上なのだ。

「このまま地面に抑える!」

ディバインアームに力を込め、相手を上から抑えようとする。
相手も、必死にスラスターを吹かせて、踏ん張っているが、こちらのほうがなお上だ。
このままならいける。そうミストが確信した時だった。


カチリ、とどこかでスイッチの入る音がした。


一気に身体が沸き立つ感覚。脳が痛むほどに負担がかかる。

「が、ァああああああああァァァッッッ!!!?」

ゲイムシステムに抵抗できたのは、一重に彼の救護魂、人を殺すのではなく助けようという思いからだろう。
すぐさま殺意にのまれなかった分――その苦しみは、激痛となってミストを襲う。
だが、そんな状態で機体を正常に制御できるはずがない。ディバインアームが上に引き上げられ、相手が解放される。

「しまっ――――!」

ゲイムシステムを拒否するミストが頭を押さえたその一瞬。
その隙に、空に舞い上がった蒼い飛行機体は、別の場所をロックオンしていた。
ロックオンしている先は――逃げるクルーゼとコウ。
割って入ろうとする。しかし、ヴァルシオン改の動きはあまりに鈍重だった。
防ぐことは叶わず、今までにないほどの巨大な光の柱が打ち出された。


ザ・グローリー・スター。栄光の星を意味する一撃は、この偽りの宇宙に浮かぶコロニーを、星のように輝かせるに十分な一撃だった。


「うあああああああああああああああああああ!!!」


ミストの絶叫。ゲイムシステムへの抵抗の放棄。
仲間を撃った蒼い飛行機体へ、思考の全てを放棄し突撃する。
即座に携行武器がヴァルシオン改に向けられ、ビームキャノンが打ち出された。
ABフィールドと、巨大なビームキャノンがぶつかり合い、金属を蒸発させるような音を立てる。
勢いを増すビームキャノン。スラスターの全てを焼ききれんばかりに燃やすヴァルシオン改。

262それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:57:04 ID:kbspVC72
 
263それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:57:24 ID:m5HbRTJ+
支援

しかし弾き飛ばされたのはヴァルシオン改だった。
コロニーの街並みをえぐり飛ばしながら、どこまでもビームの勢いに押され転がっていく。
ミストが、身体を起こそうとする。しかし、できなかった。
ヴァルシオン改は――偶然にも空間転移装置に触れていたのだから。


ヴァルシオン改の姿が消えさる。
カチン、とどこかでシステムのブレーカーが落ちる音がした。







「……大丈夫かね?」
「ええ、こっちもなんとか……」

月面都市に辿り着いた∀ガンダムとアカツキがその場に崩れた。

「多分、このガンダムじゃなかったら蒸発してるでしょうね……」
「まったくだ……戦艦の主砲にも耐えるとあったがそれ以上と言うことか……今回ばかりはオーブの技術とやらに感謝しよう」

あの超砲撃から咄嗟に彼らがとった方法は、∀ガンダムのIフィールドを限界まで張ったのち、
少しでも弱めたものを全身ビーム反射装甲で覆い尽くしたアカツキの装甲で受け止めると言うものだった。
戦艦の主砲にすら耐えるさしものヤタノカガミも、
因果律から組み上げられる一撃の前には防ぐのがやっとで跳ね返すことなどできなかった。
全身が黒ずみ、手足など末端はもはや燃え尽きているも同然である。

「咄嗟に盾になってもらえなかったら、こっちが大破していたかもしれない……」

アカツキの有様に息をのむコウ。
それにクルーゼは飄々と答えた。

「なに、仲間や部下を助けるのは当然だろう。
 ……すまない、機体を起こせない。こちらの手を握って起こしてくれないだろうか」
「わかりました!」

265それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:58:53 ID:kbspVC72
 

助けてもらったという信頼感。
そして戦闘後と言うことから多少緩んだ意識のまま、伸ばされたアカツキの左腕を掴む。
アカツキの左腕は、焼けて指を失い黒ずんでいる。それを∀ガンダムは掴むと、一気に引き起こし――

「さよならだ。核を持つそのガンダムは、私が貰い受けよう」

アカツキの右手が、ちょうど目の前にきた∀ガンダムのコクピットをまっすぐに突いた。



【コウ・ウラキ 死亡】



「なるほど……これがナノスキン装甲と言うものか」

コウの死体を降ろし、あらかた血を拭き取った∀ガンダムのコクピットに乗り込んだクルーゼは静かに呟いた。
この∀ガンダム、全ての名を冠する通り、凄まじい能力を秘めている。

「機体は失ったが……結果としてもっといい機体と情報を確保することが出来た。
 結果的には、幸運ということか」

強力で、しかも世界を滅ぼす『核』の力を持つガンダム――それは、まさに自分にこそふさわしい。
その時、横で空間転移が起こった。そこにいたのは、全部装甲を破壊されこそしたが、まだまだ健在なヴァルシオン改の姿。
呼びかけるが、返事はない。気絶しているようだ。
さらに都合がいい――このお人よしの青年は、おそらくこちらの嘘を信じてくれるだろう。
なにしろ、アカツキの装甲さえ知らなければ生き残ったこと自体奇跡と思うだろうから。

「人は争う……何故か? ミスト君、それは……それが人間だからだよ」

クルーゼの顔には、邪悪な笑みが広がっていた。

267それも名無しだ:2010/01/04(月) 02:59:43 ID:gKq02y0X
 



【ミスト・レックス 搭乗機体:ヴァルシオン改@スーパーロボット大戦OGシリーズ
 パイロット状況:気絶
 機体状況:前面部装甲破損 エネルギー消耗(中)
 現在位置:B-1
 第1行動方針:仲間を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:イスペイルを倒す
 第3行動方針:戦いに乗った危険人物は倒す
 最終行動方針:シャドウミラーを倒す】
 ※ゲイムシステムは、戦闘が終了すると停止します。一定時間戦闘していると再び発動。


【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
 パイロット状況:良好
 機体状況:全身にダメージ(小) コクピットブロックのガラス等を破損 (どちらも短時間で再生します)
      核装備(2/2)
 現在位置:B-1
 第1行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
 第2行動方針:できるだけミストに戦わせ、自身は安全な位置に置く
 第3行動方針:ミストを使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
 最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす 】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。



【アカツキ(シラヌイパック装備)@機動戦士ガンダムSEED DESTINY
 機体状況:ほぼ大破、黒こげ】がB-1に放置されています。


【春日井甲洋 搭乗機体:バルゴラ・グローリー(バンプレストオリジナル)
パイロット状況:同化により記憶及び思考能力低下&スフィアと同調することで思考能力の一部回復
機体状況:良好
現在位置:a−1 コロニー内
第一行動方針:見敵必殺
最終行動目標:守るんだ……】
※フェストゥムに同化された直後から参戦です。
※具体的にどのくらい思考能力や記憶を取り戻しているか、どの程度安定しているかはその場に合わせて一任します。
 好きなように書いてもらって構いません。

269それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:03:01 ID:kbspVC72
 
160 名前:破滅を望む者、破滅を呼ぶ物 ◆vtepmyWOxo[sage] 投稿日:2010/01/02(土) 23:54:47 ID:zZ336J7g
投下、完了。
指摘などがありましたら、遠慮せずお願いします。


投下乙です。
クルーゼ汚いな流石隊長汚い そしてコウ追悼
キ○ガイに核とはガンダムでよく言うが、果たしてどうなることやら
ミストさんは原作どおりだし甲洋は不幸宝石ゲットするし先行きが怖いですな
271代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:05:23 ID:uQL9s2QA

黒き獣が地を走りながら、背負う砲門からビームの光を撃ち放つ。
赤き巨人へと向けられたその光は、しかし巨人の屈強な腕に阻まれ、本体への直撃を許さない。
「邪魔しないでよっ!!」
「って、あれに乗ってんのは子供かよ!?」
獣の中から聞こえるプルの声に、タスクが思い出すのはスクールの少年少女達の話。
あの少女もまた、彼らと同様の訓練や強化・調整を施されているというのだろうか。
操縦は荒ったい、しかし確かにあの獣のような機体を使いこなしている。
少なくとも、年端も行かない普通の女の子に一朝一夕でできる芸当ではない。
「しかもラトゥーニ達よりさらに年下っぽいし……たまったもんじゃねぇな、ったく!」
獣は巨人の周囲をすばしっこく跳び回りながら、ビームを乱射する。
その全てを受けきり、逸らし、やり過ごし……確実に防ぐ巨人。
それは、犬と飼い主のじゃれ合いのようなやり取りに見えなくもなかった。

タスクは特別優秀なパイロットというわけではない。
運動神経は鈍いし、一度はパイロット適正審査の段階で落とされたこともある。
だがそれでも、勘と悪運とそして根性を武器に、DC戦争に始まる幾多の大戦を潜り抜けてきた。
単純に実戦経験に関しては、ここにいるプルよりもタスクのほうが場数を踏んできている。
加えて重装甲の機体の扱いにかけては、ジガンスクードに乗り慣れたタスクに一日の長があった。
武装や格闘性能など、総合的に見ればビッグデュオはむしろジガンより遥かに使い勝手がいいといえよう。
獣――ガイアガンダムの火力は読めた。これなら、隙さえ突かれなければ防ぎきれる。
条件は全てにおいてタスク優位だ。これでヘマをやらかした日には、立場がないというものである。

「もう!ずるいよ、私のガイアにはそんな腕付いてないのに!」
イライラを募らせたプルが、痺れを切らし叫び声をあげた。
ビッグデュオの喉元を噛み千切らんばかりの勢いで飛び掛る。
「うおっと!?」
その際、背面ウイングにビームの光が収縮し、刃を形成しているのをタスクは見逃さない。
飛び込んでくるガイアにタイミングを合わせて……両の手で翼ごと挟みこむ!
「捕まった――!?」
「白羽取りっ!どうよっ!」
白羽取りにしてはスマートさに欠けるが、半ば力任せに機体ごと引っ掴む。斬られ役に甘んじてやる気はない。
ひとまずの動きを封じたことで、タスクは眼下を見回す。
(さっきのあいつは……上手く逃げ切れたみたいだな!)
カズマの姿が完全に見えないことを確認し、タスクは行動に出ることにする。
この取り留めのないじゃれ合いもここまでだ。
「よーし!もういいだろお嬢ちゃん、おイタはそこまでだぜ」
元々シャドウミラーの意のままに殺し合いに乗ってやる意思など、タスクには存在しない。
ましてや相手が幼子となってはなおさらだ。
「よくないよ!早く死んでくれなきゃ、ジュドーのところに帰れないんだから!」
「物騒だなぁオイ……ん?」
プルの口から出た言葉がひっかかった。
名簿だ。参加者一覧の中に、ジュドーという表記があったことを思い出す。
「おい、ちょっと待てって!お前、そのジュドーって奴まで殺しちまうつもりかよ!」
「何わかんないこと言ってんのさ!」 
「わかんないってお前、ジュドーって名前が名簿に……」
「あたしはジュドーの所に帰るんだ!邪魔すると許さないから!」
言っていることがメチャクチャだ。まるで、自分達と敵対していた頃のゼオラを思い出させる。
あの頃の彼女やオウカ・ナギサ同様、施された洗脳や強化が、思考をも破綻させているのか――
シャドウミラーのやりそうなことだと、タスクは舌を打った。
……『前例』の存在が、タスクの目を曇らせていた。
本当はそこまで難しく考えるまでもなく、ただ単に名簿を見ていないだけの話だが。

272それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:06:35 ID:kbspVC72
 
273代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:06:48 ID:uQL9s2QA
「沈めぇーっ!!」
砲門にビームが収縮するのを確認し、反射的にビッグデュオはガイアを掴んでいた手を離す。
放たれたビームが空を切る。同時に、空へと跳ぶガイア。
その獣の姿が、別の形――人型へと変わりつつあるのが見えた。
(変形するか!そうはいきますかって!)
元整備兵だったタスクの眼力は伊達ではない。
目の前の機体が何らかの変形機構を秘めていたことは先刻お見通しだ。
接近戦を行いやすい人型となって、体勢を立て直すか。
それを阻止すべく、牽制として巨人の豪腕を大きく振り回した。

その瞬間、ガイアの全ての動きが停止した。

「え……!?」
「なっ……!?」

完全に無防備となったガイアに、ビッグデュオの豪腕が炸裂する。
それが決まり手となって、戦いはあっさりと終わりを告げた。
ガイアは、まるで壊れた人形のように地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

「や、やべぇ!まともに入っちまった!!おい、大丈夫か!?」
元々殺す気などなかったこともあり、タスクは慌てて声をかける。
ガイアは変形途中の不恰好な形態のまま、微動だにしない。
(なんてこった……コックピットを潰しちまったのか……!?)
しかし、タスクの心配は杞憂に終わる。
「う、うぅ……いたたた……」
「あ、よかった。生きてたか〜」
ガイアの外部スピーカーから少女の声が聞こえ、タスクは胸を撫で下ろす。
声の調子から察するに、大した怪我はないようだ。
やがて、動かなくなったガイアがガチャガチャと動き始める。
「う、うそ!?なんで、どうして動かないの!?」
獣から人へ変わる途中段階の状態のまま、もがくように
タスクは相手の機体の不備を察した。
(もしかして……)
変形機構に異常個所があり、まともに作動しなかったのだろう。
考えられるのは、最初に放った巨大ドッスン落としだ。
相手の行動を封じるつもりで放った一撃だが、なにせこの重量だ。
その際のショックで変形機構がいかれてしまった、と考えるべきか。
そんな状態で無理に変形を試みたがために、動作不能に陥ったと思われる。
機体の動きを止められたという意味では結果オーライ……だろうか。
動作不能で済んだだけマシだ。ビルトラプターのような爆発事故を起こすよりは。
だが、このまま放置しておくわけにもいかない。
少女はこの状態のままでも、無理に機体を動かそうとしている。
下手に動かされて武器を暴発でもされたら、そこから機体の爆発を引き起こしてしまうかもしれない。
「よし、待ってろお嬢ちゃん。すぐそっちに行くからな」
「やだ、近寄らないでよ!!」
歩み寄ろうとするビッグデュオに、プルは怯えを含んだ声を上げ始める。
やはり、まだ年相応の女の子か。
今しがた自分を殴った怖い巨人が迫ってくるのだ、無防備な状態のまま待つのは辛かろう。
「来ないで!ジュドー!!助けて、ジュドー!!」
外部スピーカーを全開にしているせいか、プルの悲鳴が大音量で周囲まで響き渡った。
耳を劈くような甲高い悲鳴に、思わず耳をふさぎたくなる。
「あー、もう!これじゃこっちが悪者みたいじゃねぇかよ!」

274それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:07:17 ID:kbspVC72
 
275それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:08:19 ID:gKq02y0X
 
276代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:08:46 ID:uQL9s2QA



そう……確かにその通りだった。

この一場面だけを切り取れば、助けを求める少女を襲っているように見えなくもない。

そして。

何と間の悪いことであろうか。
ものの見事に、これを勘違いした輩がやってきてしまった。



「待て待て待てぇぇぇい!!その悪逆非道、許さぁぁぁぁぁん!!!」



閃光、爆音。燃える森。
他の参加者が、殺し合いを始めてしまった合図だ。
それを見つけながら、黙って立ち去るダイゴウジ・ガイではない。すぐさま現場へ急行する。
そして現場にたどり着いてみれば、響き渡るは助けを求める少女の悲鳴。
少女が乗るのは、傷つき倒れた獣のような小さな機体。
そんな無力な少女に今にも襲い掛からんとする、赤く禍々しい巨人。
一目瞭然。正義と悪との識別完了。
「悪党め!!このダイゴウジ・ガイが相手になってやるぜ!!!」
ガイは少女を救うために、巨人に戦いを挑む。立ち上がれ、ゲキ・ガンガー3!
先手必勝、赤い巨人に攻撃を仕掛けた。これで少しでも自分に注意を向けられれば儲けものだ。

「な、なんだぁ……うおっ!?」
新手の乱入に戸惑う余裕も与えてくれず。いきなり放たれたビームに、被弾するビッグデュオ。
「くそ、殺し合いに乗った奴か!?やべぇ!」
ビーム砲によるダメージはさほどではない。
ビッグデュオの機体性能を生かせば、新たな敵機と渡り合うことも可能だろう。
だが問題はガイアだ。動かなくなったガイアは格好の的でしかない。
タスクはプルを庇うために、機体を盾にするべく巨人をガイアのもとへと移動させる。

が、その行動もまた新たな誤解を呼ぶことになった。

「あーっ!?てめぇぇ、少しは空気を読まないかぁぁぁ!!」
どこまでも非道なその振る舞いに、ガイは叫んだ。
自分を無視して、あくまでも少女を殺さんとする悪しき巨人……どこまでも許し難い。
ゲキ・ガンガー3のスピードを全開にして、ガイもまた少女の下へと駆けた。
しかし、これはまずい。距離が離れすぎている。
この距離では、自分のゲキ・ガンガーより先に巨人が少女のもとにたどり着いてしまう。
それを許せば、終わりだ。
心無き殺人者により、あの機体諸共少女の命が失われることになる。
あのヴィンデルにより首を爆破された、仮面の男のように。
「くっそぉぉ!!間に合えぇぇぇぇぇぇ!!!」
さすがのガイにも、焦りを表情に滲ませずにはいられなかった。
唯一の飛び道具を巨人に向けて撃ちまくるも、非力なビーム砲では巨人の足止めすら叶わない。
だがそれでも、たとえ悪足掻きに見えようとも、ガイは諦めることはない。

277それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:08:48 ID:QIAXe5c6
 
278それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:09:05 ID:kbspVC72
 
279それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:09:15 ID:gKq02y0X
 
280代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:09:52 ID:uQL9s2QA
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!届け、ゲキ・ガンガー!!!
 ゲキガン・パァァァァァァァァンチ!!!!!」

無我夢中で、機体の拳を前へと突き出す。

その時、不思議なことが起こった――!

ガイの、ゲキ・ガンガーを信じる愚直なまでに純粋な魂の叫びに応えたのか。
ゲキ・ガンガー……否、ソーラーアクエリオンの新たな力が解き放たれる。
突き出された右腕に、奇跡の力が宿った。

腕が――伸びたッ!!

「ウソやっ!?」
その変化に、タスクは我が目を疑った。
アクエリオンの腕に新たな関節が凄まじい勢いで次々と増殖していく。
その拳は真っ直ぐに、ビッグデュオのいる場所へと迫ってくる。
ありえない光景に、一瞬、タスクは防御を忘れた。
だがこのタイミングで、隙を見せることは致命的――

「が……っ……!?」
コックピット内部に、激しい衝撃が襲い掛かる。
アクエリオンの拳が、ストレートにビッグデュオの胸部を捉えていた。

しかし、それだけには留まらない。
「そのまま……いぃぃぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
腕はさらに際限なく伸び続ける。
その拳に巨人を捉えたまま、真っ直ぐに伸び続ける。
腕の関節が無尽蔵に増殖を繰り返し、猛烈な勢いで。
ビッグデュオ諸共、ただひたすらに拳は飛んでいく。
どこまでも、どこまでも、どこまでも――

「ぐああぁぁぁあぁああああああばばばばばばばばばばばばばばばっっっ!!!!」

既にビッグデュオはバランスを崩し、その身の全てをアクエリオンの拳に任せていた。
放たれる拳の勢いのままに大地を抉りながら、ただひたすら猛烈な勢いで後ろに押し流されていく。
無論、それに伴いコックピット内に響く衝撃は、半端なものではない。
(どこまで!?どこまで伸びるんだ、こりゃあ!?)
このまま世界の果てまで押し出されそうな錯覚すら覚えた。
それに抗うべく、揺れるコックピットの中で操縦桿に手を伸ばす。
視界が、焦点が定まらない。それでも、懸命に手を伸ばす。
そして、ようやく操縦桿に届いた、その時。

一際大きな衝撃が、ビッグデュオに襲い掛かった。

「がはぁっ!!」

タスクの視界が暗転した。
身体が一瞬宙に浮き、上下感覚がなくなる。
直後、コックピットがひしゃげるような轟音が鳴り渡り。
全身がバラバラになるかのような振動が響いて――

――静寂が訪れた。
コックピット内の振動も止まった。
そこで、タスクは後退がようやく収まったことを知る。
朦朧とする意識の中で、タスクは見た。
巨人の胸に突き刺さっていた拳が離れ、伸びた腕がそのまま逆戻りしていくのを。

281それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:10:20 ID:QIAXe5c6
 
282それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:11:07 ID:kbspVC72
 
283代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:11:12 ID:uQL9s2QA
 * * * * * * * * * * *

「おぉ……す、すげぇ……」

伸びた腕が帰ってくる。やがて腕は元の長さまで戻り、何事もなかったかのように元の鞘へと収まった。
ソーラーアクエリオンの腕に起きた突然の変化には、ガイ自身も呆気に取られるほかなかった。
まるでマンガだ。常識で考えられることではない。
「すげぇ……腕が伸びやがった!すげぇぞゲキ・ガンガー!」
もっとも、彼はそんな細かいことにとらわれる人間でもないが。
テレビで見ていた本物のゲキ・ガンガーとは毛色こそ違うものの、これは間違いなくゲキ・ガンガーだ。
彼が憧れ、待ち望み、求めていたスーパーロボットに他ならなかった。
否応なしに、興奮が彼の身体を駆け巡る。だが、それに浸っている場合ではない。
倒れた、黒い獣のような人のような機体――ガイアガンダムに、視線を移した。

「助けて……くれたの……?」
アクエリオンを見上げながら、プルは呟いた。
「なんで……?みんな殺さなきゃいけないのに……ジュドーにだって、会えない……」
「心配するな!君はそんなことをする必要はない!全ては俺に任せておけ!!」
呆然と呟く少女に、ガイははっきりと言ってみせた。
根拠のない自信と言動、だがそれも時として頼もしさとなることもある。
「このバトルロワイアルなんて、俺がぶっ潰してやる!
 そして君も、そのジュドーって奴に会わせてやるさ!」
「ジュドー……に……?」
特に、こういう殺し合いの場では。死の恐怖を経験した直後の、幼子の場合には。
「俺はガイ……ダイゴウジ・ガイだ。君は俺が守ってやる!」
「ガ……イ……」
その言葉を最後に、少女は気絶したようだった。緊張の糸が切れたのだろう。
(大した怪我もないようだし、しばらく寝かせておいてやるか)

少女を襲っていた赤い巨人は、ゲキガンパンチで遠くまでぶっ飛ばした。だが、倒したという確証はない。
もし生きていたなら……それを放置しておくわけにはいかないだろう。
助けを求める無力な少女を、容赦なく殺しにかかるような外道だ。新たな犠牲者が出る可能性は否定できない。
「心無き悪党め……しかぁしっ!!このダイゴウジ・ガイがいる限り、お前の好きにはさせん!」
巨人を吹っ飛ばした方角に向けて、ビシッと指をさし宣言する。
続いてその指を空へと向け、この状況を見て楽しんでいるであろう諸悪の根源へと叫んだ。
「そして見ていろヴィンデル・マウザー!!お前達の思い通りにはならん!!
 悪の野望は俺とゲキ・ガンガーが打ち砕いてやるッッ!!!」

朝日をバックに、勝利を誓う男。なんと頼もしい姿だろう。
眠る少女の近くで大声出すのはどうかとは思うが、それは抜きにして。
弱きを助け、悪党どもを挫く。これこそまさしくヒーローの姿。

実は殺し合いに乗っていたのはプルで、最初に仕掛けたのも彼女で。
タスクはそれにも関わらず、彼女を助けようと頑張っていたわけだが……
そんなことはガイが知る由もなかった。
世の中は無情である。

284それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:11:26 ID:gKq02y0X
 
285それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:11:55 ID:QIAXe5c6
 
286代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:12:15 ID:uQL9s2QA
【ヤマダ・ジロウ 搭乗機体:ソーラーアクエリオン(創聖のアクエリオン) 
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:良好。エネルギー少量消費
 現在地:E-2
 第一行動方針:目の前の女の子を助ける。
 第二行動方針:仲間になってくれる参加者を探す。
 第三行動方針:女の子をジュドーとかいう奴に会わせてやる
 最終行動方針:打倒ヴィンデル!
 備考1:アクエリオンをゲキ・ガンガー3と名付けた。
 備考2:エレメントシステムについての説明はちゃんと目を通していない
 備考3:タスク(ビッグデュオ)を危険人物と認識しました】

【エルピー・プル 搭乗機体:ガイアガンダム(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 パイロット状態:気絶
 機体状態:変形途中形態のまま一時的な行動不能。多少の損壊。
 現在地:E-2
 第一行動方針:……(気絶中)
 最終行動方針:なんでもいいのでおうちに帰る(正直帰れれば何でもいい)
 備考:名簿は見てなく、ジュドーがこちらにいることに気づいてません】

【1日目 07:30】

287それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:12:41 ID:gKq02y0X
 
288それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:12:49 ID:QIAXe5c6
 
289代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:13:18 ID:uQL9s2QA
さっきのあの子、今頃あのロボットにやられちまってるだろうか。
そう考えるだけで、俺の端正な顔が悔しさに歪む。
助けてやれなかったどころか、今じゃ自分の命の危機ときた。情けないったらない。
でも、だからと言ってこのまま燻ってる場合じゃねぇ。
全身に響く痛みに耐えつつ、俺は状況確認のために機体を操作していた。
コックピットを中心にダメージこそあれど、ビッグデュオは問題なく動くようだ。頑丈なこった。
ただ機体は平気でも、中にいる俺自身のダメージは無視できるもんじゃなかった。
あばらが完全にいっちまってるのは間違いない。他にも身体を動かすたびに、各所から悲鳴が上がる。
頭からも軽く出血してるみたいだし……こいつは少し動いただけでも結構な苦痛だ。
まだ始まったばかりだってのに、いきなりなんてザマだ。

モニターにマップが映し出され、現在位置が表示される。
どうやら今いる場所はD−1……ちょうど灯台の真下にいるようだ。
無限に続くかと思われたあのズームパンチが止まったのは、灯台にぶつかったせいだろう。
……ってちょっと待て。D−1って何だ、俺がさっきまで戦ってたのはE−2だったはずだぞ。
この地図を見る限り、1エリアの対角線に近い距離を押し出されたことになるわけだが。
……。
待て待て待て。おかしいだろ、これ!一体どんなトリックだ!?
1キロ2キロの距離じゃないんだぞ!?そんな長い距離を腕が伸びたってのか!?
どういう構造してるんだ、さっきのロボットは。ラージじゃないが、解体してみたい衝動に駆られる。
あるいはマシンセルのようなナノマシンの類か?いや、斬艦刀だってあそこまでメチャクチャじゃないぞ。
それとも修行したらロボットでもここまで伸ばせるものなのか。帰ったらラーダさんに聞いてみよう。
今までいろんな非常識を見てきたし、滅多なことでは驚くまいと思ってたが……ありゃあ規格外だぜ。

苦笑いしながら、シートに深く背を倒す。
正直、よく生きていられたもんだと思った。この悪運、キョウスケ中尉とタメ張れるかもな。
だがその悪運も、後に続かなければ消え失せるだけだ。
もしこの後、さっきの腕が伸びるロボットの追撃を受ければ。
そうでなくても、殺し合いに乗った奴に見つかれば……それで俺は終わりだ。
または、このまま誰にも見つからず放置されて、このエリアを禁止エリア指定された日には……
畜生、ネガティブなこと考えてるうちにだんだん眠くなってきやがった。

――あれ?嘘だろ?意識が沈んでいく。
死ぬのか?まさかこのまま、死んじまうのか?俺は。
俺の人生、こんなので終わりだってのか?冗談じゃねぇぞ。
こんなわけのわからない所でわけのわからないままわけのわからない攻撃で殺されてたまるか。
まだやり残したことが山ほどあるんだ。
だってのに、身体にろくに力が入らない。
ちくしょう……目の前が霞んできやがった――

俺が死んじまっちゃぁ……

あいつ、泣いちまうんだろうなぁ。

ちくしょう。

俺は、まだ、あいつに――

レオ――ナ――

290それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:14:37 ID:kbspVC72
 
291それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:15:22 ID:QIAXe5c6
 
292代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:15:45 ID:uQL9s2QA
「聞こえる!?これに乗っている人、生きているなら返事をなさい!」

……っとと。聞き覚えのある声が、突然耳に届いた。
どうやら、俺の悪運はまだ消えていないらしい。
モニターに、見慣れない機体が映っていた。だが、俺の中に不安はない。
見つけてくれた。それも、何より心強い仲間に、だ――
「あ……ヴィレッタ姐さんじゃないスか」
「その声……タスクなのね!?」
安堵の溜息が思わず漏れた。自分の中の緊張の糸がプチプチと切れていくのがわかった。
この人が見つけてくれるとは、本当についている。
「ハハ……すいません、ちょっと自分でろくに動けない状態でして」
「大丈夫!?すぐそっちに向かうわ!」
「お手間かけるッス」
それだけ言って、もう一度シートに身を任せた。
安堵に任せて、徐々に意識が遠ざかっていく。
程なくして、ハッチが開いた。そこから、ヴィレッタ隊長が入ってくる。
「タスク!」
「へへ、助かりましたよ姐……さ……!?!?」



驚愕の光景が、俺の目に飛び込んできた。

293それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:15:51 ID:gKq02y0X
 
294それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:17:30 ID:gKq02y0X
 
295代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:17:34 ID:uQL9s2QA
何が凄いって――姐さんの格好だ。


これは何だろう、水着かボンテージか。
露出度が異常に高いそのスーツは、透き通るような白い柔肌を惜しげもなく晒し、
モデル並みに整ったボディラインをこれ以上ないほどに魅せていた。
この上黒い色がまた、何ともいえぬ大人の妖艶な雰囲気を醸し出している。
引き締まったウェストにヒップ……そして豊満で且つ形の整ったバストは、
それを支える下着を着けていないのか、挑発的なまでに揺れていた。
ついでに言うなら、少し赤みのかかったコックピット内の明かりが、
その艶かしいボディをさらに妖しく引き立てていた……


う……

うわぁ。

こ、これは、なんというか……ものすごいものを見てしまった。

いや、つーか……何やってんスか、姐さん。
一体何考えてそんな格好を。
言葉が出てこない。
頭が真っ白というか、真っピンクというか――あれ――?

意識が遠ざかっていく。

待て、もう少し耐えろ俺の意識よ!
まだ全然堪能してねぇ!あと少し、あと少しだけ持ってくれ俺の命!!
こんな素晴らしい光景を前にして、俺は何もできずに死ぬっていうのか!?

くっ……

無念……

タスク・シングウジ、一生の……ふか……く――




実に幸せそうな表情のまま、タスクの意識は闇に堕ちていった。


――ところで、本人はもっともらしくシリアスを気取っていたようだが。
彼の怪我は確かに軽くはないが、別に 命 に 別 状 は な い ことだけ付け加えておく。

【タスク・シングウジ 搭乗機体:ビッグデュオ(THE BIG・O)
 パイロット状態:気絶。全身強打、あばら骨数本骨折、頭部より出血
 機体状態:コックピット周辺部にダメージ
 現在位置:D-1 灯台下
 第一行動方針:姐さんの姿を……もう一度……ッ(気絶中)
 第二行動方針:仲間になってくれる参加者を探す。
 最終行動方針:殺し合いには乗らず、仲間と合流して主催者を打倒する】

296それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:18:03 ID:kbspVC72
 
297それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:19:24 ID:kbspVC72
 
298代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:19:32 ID:uQL9s2QA
ヴィレッタ・バディムは、かつて地球とエアロゲイダーの二重スパイとして活動していた過去がある。
スパイは、的確な状況分析力と判断力を要する。目先の感情だけで動くなど論外。
刻一刻と変化する状況を正確に掴み、立ち回る。でなければ、自らの身に危機が降りかかる。
そうした彼女の能力はスパイ活動のみならず、SRXチームの隊長職においても遺憾なく発揮されていた。
……では、そんな優秀な彼女の視点から見て、このバトルロワイアルはどうだろうか。
最後の一人になるまで殺し合えと言われた。
しかも自分には、二回目の放送までに二人殺さなければ死、というさらなる枷が加えられている。
そして嵌められた死の首輪。
果たして、この状況下まともでいられる人間がどれだけいるだろうか。
恐怖に駆られ、暴走する者も出るであろう事は、想像に難くない。

――それは、ヴィレッタ自身にも当然、同じことが言える。

殺し合いに乗った相手を潰せれば、それに越したことはない。
だが、この厳しい現実を考えれば、理想でしかないことは確かだ。
本気で自分が生き延びるならば……その手を血に染める覚悟はしなければならない。
そして、彼女にはその覚悟はあった。

――では、仲間を殺す覚悟はあるのか?

目の前に、タスクが倒れている。随分と幸せそうな寝顔だ。
見た限り、命には別状はないようだ。しばらく入院でもすれば、すぐに復帰できる程度の怪我だろう。
だがそれは満足な医療施設が整っている環境にあっての話だ。
少なくとも、この過酷な状況の中で三日やそこらで治るような浅い傷でもない。
これから先の戦い。そう、シャドウミラーを相手に共に戦うにしても。
怪我の具合から考えて、戦力として数えるのはあまりに厳しいものがある。
酷なようだが、今後は彼は戦力外……足手まといとなる可能性が高いと言わざるを得ない。

――逆に言えば、今の彼なら容易に殺すことができる。

(――ッ!?)
自らの思考の中にチラチラと混じるノイズを振り払う。
だが、彼女は冷静な判断力を兼ね備えていた。
だからこそ、彼女の思考はある一つの選択肢へと導かれる。

早く人を二人殺さなければ、自分の命はない。
そして、目の前には、容易に殺せそうな命が一つ。

そこから導き出される選択肢は――

――チャンスは逃すな。そうそう、訪れるものではない。

(私は……何を馬鹿なことを……!?)

断っておくが、別に彼女は薄情なわけでも、命惜しさに心が屈しかけているわけでもなんでもない。
ただ、情報分析を冷徹に行える彼女だからこそ、その選択肢に辿り着いた。
あくまで現在の状況を正確に踏まえた上で挙げられた、数ある手段の一つにすぎない。
当然のように、その選択肢をすぐに却下した。
元より、彼女はそんな選択肢など選ぶつもりはない。
死ぬ気などないが、かといってかけがえのない仲間を殺して自分だけ生き延びようなどとは思わない。

――そこまでの覚悟もない。

かつて仲間を欺き続けてきたことに対する負い目は、彼女の心の奥底に、今なお燻っているのだから。

だが、しかし――?

299代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:20:26 ID:uQL9s2QA
バトルロワイアル。残酷な殺人ゲームは、絆を破壊し、人を狂わせる。
ヴィレッタとて、それは決して例外ではない。

「……疲れているのかしら、ね……」

首の薄皮一枚を隔てて伝わってくる死の感触は、酷く冷たかった。
すぐには、慣れそうにない。

【ヴィレッタ・バディム 搭乗機体:ガルムレイド・ブレイズ(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:DFCスーツ着用、ちょっと恥ずかしい
 機体状況:良好
 現在位置:D-1 灯台下
 第一行動方針:タスクの救助
 第二行動方針:ギリアムを探し、シャドウミラーについての情報を得る。
 第三行動方針:出来る限り戦闘は避け、情報を集める。戦いが不可避であれば容赦はしない。
 第四行動方針:ノルマのために誰かを殺害することも考えておく。
 第五行動方針:そう、誰かを……?
 最終行動目標:生き残って元の世界へ帰還する】
 ※参戦時期はOG外伝終了後。

【1日目 07:40】

300それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:21:48 ID:kbspVC72
 
301代理投下 貧乏クジの行方 ◇PfOe5YLrtI:2010/01/04(月) 03:22:52 ID:uQL9s2QA
178 名前: ◆PfOe5YLrtI[sage] 投稿日:2010/01/03(日) 21:22:08 ID:ci4twxoo
投下終了。問題があれば指摘お願いします



投下乙です!
誰がタスクを責められるだろう・・・?
俺だってプルを見かけたら襲うし、ヴィレッタ姐さんの水着を見れば鼻血を噴出して死ぬ。
ガイにはそういう不健全な路線なしでプルを可愛がって欲しいですよね!
302 ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:25:06 ID:uQL9s2QA
では、シンジを投下します
303それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:26:01 ID:gKq02y0X
 
3043+14=?? ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:26:31 ID:uQL9s2QA




自分が殺したはずの渚カヲルが生きていた。
碇シンジにとってそれはそう喜ばしいことではない。
後ろめたさもあるし、そもそも渚は人類の敵……最後の使徒だ。

「またカヲル君を殺さないといけないなんて……畜生!」

彼らしくもない罵声を上げながら、コクピット内で地団太を踏む。
シンジが渚を殺したのは、彼が人間を滅ぼすサード・インパクトを起こそうとしたからだ。
人間であるシンジは、渚との友情と人類の存亡を天秤に掛け、結果渚の首を落とした。

「でも、僕は間違ったことはしてないはずだ。カヲル君だって抵抗しなかったじゃないか!
 僕達が生き残るべきだって言ってくれた! 僕は……ランスさんみたいにはなりたくないよ……!」

全く持って不愉快だが、今一度エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして渚を殺さなくては。
シンジの混乱する思考は殺人への忌避を次第に除外して前回と同じ結論を導き出し、操縦桿を強く握らせる。
彼の思考の推移には、二人殺さなければ十六時間後に首輪が爆発することへの恐怖感も混ざっていただろう。
実際に渚と対峙した時に彼を使徒として認識し、躊躇なく殺害できるかというと……頷きかねる。

「……でもこのロボット、エヴァじゃない……よな……?」

自分が乗っている機体は操縦自体はエヴァと全く同じ感覚で行えるが、LCLが満ちていない。
更に言えば、エントリープラグの内壁が何かおかしい。うねうねと脈打っていて、まるで生物の体内だ。

「外の映像は……海? これじゃ現在位置なんてわからないよ」

視界は見渡すかぎりの水、水水……。地図と照らし合わせても、周囲に目印になりそうな物など何も確認できない。
シンジは幾瞬の躊躇の後、機体を動かして湖底を進む。外部の映像に、紙切れのような腕が揺れて映る。
エヴァを歩かせる時に自分の足に感じる、地面を踏みしめるような反動が来ない。まるでホバー移動だ。

「……ま、まさか」

念じて、腕を動かす。モニターに映し出されるみょーんと伸びる触腕。
シンジの脳裏に、うっすらとスクリームのような顔と男の戦いが浮かび上がる。



「使徒だこれーーーーー!!!」



『そうだ、そのまさかだ』

「!?」

305それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:26:58 ID:kbspVC72
 
306それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:27:07 ID:AFsTzYFr
3073+14=?? ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:27:39 ID:uQL9s2QA

その声は坐臥するシンジの上方――前述の通りここはエントリープラグ内だ――から聞こえた。
機械音風の声が聞こえた、とシンジが見上げると同時に、声の主が現れる。
肉壁風のエントリープラグの装甲が開き、触手に両腕を掴まれた少女がシンジの腰の上辺りにガイナ立ちしたのだ。
触手が少女の腕を放し、その全体重がシンジにかかった。あまりの事態に目を白黒させるシンジ。
少女の顔は、シンジの良く知る人物、綾波レイに酷似していた。だが、雰囲気が絶望的に違う。
組んだ両腕を離し、シンジを上から目線で睨み倒す少女に、恐る恐る話しかける。

「き、君は一体……」

『私は第十四使徒ゼルエルの魂の代替。本来人間が乗る事が不可能なこの存在を改造する過程で産み出された物。
 シャドウミラー内部では失われた"W14"の名で呼ばれている。よろしくお願いしちゃったりしますのですよ……む?』

背中から羽を生やし、カラフルなプラグスーツを着込む桃髪赤眼の少女は、自らをW14と名乗った。
シンジは唖然としたままで、まじまじと彼女の容貌を眺める。先ほど彼の脳裏に浮かんだ使徒の姿がフラッシュバック。

『……何をそんなに見ている。お前はエヴァンゲリオンのパイロットだろう? 自分の乗る機体の特性を知らんのか。
 EVAシリーズを起動させ、制御する為には人間の魂が内部に宿っていなければならない。
 そして、エヴァと使徒はほぼ同一の存在……無論、このゼルエルを人間の手で制御する為にも魂が必要だった。
 そこで支給機体として用意されたエヴァに入れられていた魂を分割し、ゼルエルに注入したのだ。
 いわば、レモン様の技術力とネルフの科学力のハイブリッド……ベリーバッドクロスオーバー!
 誰が乗ってもゼルエルを自在に動かせるように創造されたのがこの私……W14なのであるってこっちゃでありんす!』

「……(綾波に似た顔で変な事言うのやめてくれないかな……)」

『言語機能の調子がおかしいのは気にするな。私は気にしている』
308それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:29:13 ID:QIAXe5c6
 
309それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:29:19 ID:kbspVC72
 
310それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:30:07 ID:QIAXe5c6
 
311それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:30:21 ID:gKq02y0X
 
3123+14=?? ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:30:54 ID:uQL9s2QA

シンジはW14の説明を全く理解していなかった。ショッキングな事件が続いたのでエヴァの仕組みなど覚えていない。
とりあえず彼女が参加者ではなくシャドウミラーの一派だと言う事は理解したらしく、あからさまに不審な視線を送る。

「でも、エヴァの中には君みたいな子はいなかったよ!」

『使徒とエヴァでは勝手が違う。大体ここではオペレーターもいないのだ、インターフェースは必須だろう?
 更に言えば、私はジョーカーであるお前へのサービスでもある。戦闘のサポートからカウンセリングまでフルおk』

「大体、この使徒は初号機に倒されてS2機関を食われちゃったじゃないか! どうして動いているの!?」

『レモン様が直した』

「ま、まさかカヲル君も……?」

『レモン様が直した』

淡々と答えるW14に、次第に気力を失い始めるシンジ。
混乱を抑さえるという意味では、なるほどW14にはカウンセリングの才があると言えよう。
W14はシンジが喋らなくなったと確認すると、もう自室に戻ってもいいか? と問い掛ける。自室があるらしい。

「……要するに君は僕が戦う時、ミサトさん達みたいにサポートしてくれるって事で、いいの?」

『そうだが。お前に危害を加える事はないから安心していい。しかしシンジよ、これだけは言っておこう。
 ゼルエルが死んだらたぶん私も死ぬので、お前は全力で生き残らねばならないとW14はW14は笑顔で脅迫した』

(……この機体、ホントに当たりなのかな……)

シンジが疑問を消化しきる前に、W14はもう話すことはないとばかりに再びガイナ立ちした。
同時に、エントリープラグの上部装甲が開き、触手が舞い降りる。
触手はW14を掴むと、ゆっくりとその華奢な身体を持ち上げ、やがて姿を消す。
ぽかんと見上げるシンジだったが、しばらくして気を取り直し、これからどうしようと考え込む。
313それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:31:55 ID:kbspVC72
 
314それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:32:38 ID:AFsTzYFr
315それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:32:40 ID:QIAXe5c6
 
3163+14=?? ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:33:02 ID:uQL9s2QA


「こんな使徒で会場をふらふらしてたら殺し合いどころじゃないよ……目の敵にされて集中砲火に決まってる。
 人を殺すことを前提に動くならそれでもいいけど、積極的に人殺しなんてできるもんか!」

頭を抱え込むシンジに、ふと一つの案が浮かぶ。

「そうだ……しばらくここでじっとしてて、それから陸に上がって戦闘で傷ついている人たちを助けよう!
 この殺し合いに嬉々として参加するような人が弱っていたら、その人は殺せばいいんだ! よし! これが一番だ!」

パッと表情を明るくして、良心と生存本能を同時に満たす結論を出すシンジ。
どうやって善人と悪人を見分けるかなど、細かいことは何も考えていない。
それを誤魔化すために、ハイテンションを保って次々とまくしたてる。

「よし! あまりのんびりしてもいられないから、六時間! 六時間、ここで休む! それから上陸しよう!」

ゼルエルの操縦を放棄し、敵機が近づいてきた場合の対策として海底のたくましいワカメ群に機体を隠蔽する。
と、エントリープラグの上部がちょっと開き、水筒と毛布と紙切れが落ちてくる。
シンジは紙切れを受け取り、そこに文字が書いてあることを見取った。

『シンジへ 温かくして寝なさいね 何かあったら起こします W14より』

水筒の中にはホットミルクが入っていた。
シンジは狭いエントリープラグの中で20分ほどのストレッチをしてからそれを飲み――――眠りについた。


【碇シンジ 搭乗機体:第14使徒ゼルエル(新世紀エヴァンゲリオン)
パイロット状況:熟睡
機体状況:ゼルエル=良好 W14=良好
現在位置:D-4 海底 ワカメゾーン
第一行動方針:六時間くらい寝る
第二行動方針:起きた後、善人を探して助ける。悪人は殺す、人類の敵である渚カヲルはもう一度殺す……?
最終行動目標:生き残る】
※カヲル殺害後から参戦です。

【W14(ゼルエルXX)について】
・外見はこれ:ttp://ecx.images-amazon.com/images/I/410GG2X6CNL.jpg
・中身は碇ユイ(初号機に内蔵された魂)と何かが混ざった感じ。詳細は後の書き手さんにお任せします。
・実体はあるが、ゼルエルから降りると多分死ぬ。ゼルエルが大破しても多分死ぬ。詳細は後の書き手さんにお任(ry
・本来のW14とは当然別物、名前を借りてるだけ。ウォーダン・ユミル(W15)との面識などは後の書き手さん(ry。

【一日目 8:00】
317それも名無しだ:2010/01/04(月) 03:33:54 ID:kbspVC72
 
3183+14=?? ◆s2SStITHHc :2010/01/04(月) 03:34:38 ID:uQL9s2QA
以上で投下終了です。
長時間に渡る代理投下&投下の間たくさんの支援を頂き本当にありがとうございました!
319それも名無しだ:2010/01/04(月) 07:35:44 ID:XpXEFDWw
投下乙です。
前回の登場で会場一のジョーカーだと思っていたか、今作を見てなんだか安心しました。
そしてW14の妹達発言に吹いたwww

ちょっと気になるのは、シンジの「使徒だこれーーーーー!!!」という発言が
使徒ゼルエルに対する反応としては個人的に違和感を感じましたが、
これ以外の部分が上手く話ができているので、この疑問は聞き流しちゃっても構いません。
320それも名無しだ:2010/01/04(月) 16:47:17 ID:JhhJRW4h
>超高空攻撃の下
このハロ軍団はひょっとしてVガン仕様なのか
でも自分が立つ惑星がMAP規模程度しかない小惑星と認識、ってそれ地平線めちゃくちゃ丸くならね?

>サバイブ
「また間違えた」が何か笑えた。イスペイル可愛いよイスペイル
でもジョーカーは最初八人でランスさんが死んで七人だからその辺は直したほうが良いですよ

>破滅を望む者、破滅を呼ぶ物
クルーゼ隊長マジ外道。コウ哀れ。甲洋はどこまで不幸になるのか
そしてミストさん良い感じに名台詞活用してるw

>貧乏クジの行方
流石はタスク!こんなときでも本能に忠実だ!
目を覚ましたときヴィレッタが着替えていないことを祈る

>3+14=??
あんた馬鹿だ!最高の馬鹿だ!大好きだ!
XXは胸のところが半透明で健全な男子には悩ましい限りだが、大丈夫かシンジ!? 
321それも名無しだ:2010/01/04(月) 18:47:17 ID:Ln+tPWAf
その時不思議なことが起こった…!
は、もはや魔法の呪文だな。

てかシンジくんW14のおかげで、ジョーカーらしくない行動方針立てちゃったね。
なにやってんだよシャドウミラーw
322それも名無しだ:2010/01/04(月) 18:52:54 ID:m5HbRTJ+
投下乙
十六時間で爆破するって言うのにシンジったらもう
何という余裕
323代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:29:28 ID:OR/1mbKw


「……待て。何かが近付いてきている」


そのジャミルの言葉が、始まりだった。
キングゲイナーと呼ばれる機体に慣れるため、必死に操縦の練習をしていたシーブックに投げられる、ジャミルの声。
誰かが近付いてきている。それが、この殺し合いに乗った殺戮者なのか、自分たちと同じく殺し合いの破壊を志す者なのかはわからない。
キングゲイナーのチェンガンを抜き、シーブックは構える。X1も同じように剣の柄のようなビームライフルを引き抜いていた。

「随分早いな。まっすぐ……といっても橋の上だから当然か。しかし、まるで警戒しているとは思えない速度だ」

キングゲイナーのレーダーなどは、どうやらX1より劣っているらしい。
X1は機影をとっくに捉えていただろうに、しばらく待ってやっと影がレーダーに浮かびあがる。
その影の動きの速さに、シーブックは少なからず驚いた。
相手はその推力の多さから考えるに、機動力に特化した機体か、もしくは相当の高性能機だと分かる。
それが、まっすぐこちらに突き進んで切るのだから。接触までのタイミングを確認する。
気付けば、10秒程度しかない。もしかしたら戦うことになるかもしれない。
そうなれば――初めての実戦だ。無意識の間に、何度も操縦桿を握りなおしていた。

「――来るぞ!」

ジャミルの声が飛ぶ。明らかに、攻撃に備えての声だった。その口調の激しさに、シーブックは咄嗟に機体を動かした。
その直後に来たのは、雨あられと放たれるビームライフルだった。
キングゲイナーが、やもすれば優雅とも呼べるふわりとした動きで空中に躍り上がる。
改めてはっきり確認される相手の機体。その姿は、細部はともかくとしてシーブックも知っているものだった。
二本のツノ型のレーダー。二つのカメラアイ。口元の赤い突起。そして、特徴的な色合い。
始めてみるタイプだったが、間違いなくガンダムタイプに他ならない。

「ガンダムタイプか……つくづく縁があるようだ……!」

言葉もなく、そして躊躇することさえせず先制で攻撃を仕掛けてきたガンダムへ、X1が応戦する。
一切速度を落とさず、猛スピードで切り掛かるガンダム。
X1は左腰部から流れるように柄を引き抜くと、巨大なビームサーベルに変えた。
打ち合わされるビームの剣が、光と粒子をまき散らしながら何合と切り結ばれる。
相手のビームサーベルが、大上段から落ちる。ザンバスターで弾き、そのまま「つ」の字型に振られた一撃。
それを相手は掌で受け止めた。いや違う。掌から離れたビームが、ビームザンバーを弾き飛ばしたのだ。
続いて、蹴りを繰り出すガンダム。無茶苦茶だ、武装による切り合いならともかく、MSそのものの四肢はそれほど丈夫に出来ていないはずなのに。
背中に背負った白い十字のスラスターが回転し、横方向にX1を滑らせる。
距離を取りつつも牽制に右腰部のザンバスター抜かれ、一条二条とビームを奔らせた。
だが、その牽制を迂回する形でビームサーベルが変形したビームブーメランが差し込まれる。
機体を一瞬前に倒したのち、即座に起こすことで最低限の動きでX1はさらに回避。
ビームバルカンがX1の胸元で輝いた。

324代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:31:33 ID:OR/1mbKw

「凄い……」

地上で繰り広げられる二機の戦闘。
モビルスーツ同士の戦闘を、これほど間近で見たのは、シーブックにとっては二度目になる。
一度目は、当然襲ってきた謎のモビルスーツ群と、防衛部隊のものだ。
しかし、その一度目とは比べものにならないほど高度な戦闘であるものが分かった。
襲ってきたガンダムの動きは荒い。しかし、その激しさは並みのモビルスーツパイロットなら動きのGで気絶してしまうほどのものだった。
それだと言うのに、平然と攻撃を繰り出し続けるパイロットは、一体どんな化け物なのか。
シーブックは知る由もないが、今目の前で戦っているガンダム、すなわちデスティニーはコーディネイター……
つまりナチュラルと言われる自然の人間より身体的に丈夫な人間の仕様を前提として作られている。
並みの人間なら機体の操縦する技量的な難度という意味でも、身体的な負担の意味でも、到底操縦不能なシロモノなのだ。
それをちょっとした練習で使いこなすのは、天才的な操縦技術と耐力、その両方を秘めなければ操縦できない、
『さらなるゲッター』のパイロットに選ばれた弁慶だからこそと言えた。

「だが……読める!」

しかし、その天性の才気による操縦を裁くジャミルも、並みのパイロットではない。
天才パイロットと言われ、戦争で教科書に載るほどのエースと一度はなった。
その後、現役を一旦退きはしたが、戦闘の経験値という意味ではそこらのベテランを凌ぐジャミルは、
弁慶の荒い動きから次の行動を予測し、攻撃を差し挟んでいく。

天才型の、迷いと言うものがまるで見えない自信にあふれた戦闘法と、
古参の熟練兵が見せる堅実で、それでいて損傷を抑える戦闘法。
シーブックが下手に手を挟めるものではまるでなかった。
無理に手を出せば、ジャミルの足を引っ張ってしまうだけだろう。

「まったく……ちまちまやってたら駄目だなあ」

戦闘中とは思えない弛緩した声。
敵のガンダムが、距離が空いた隙に背中から常識外れに巨大な剣を引き抜いた。
どう見ても20mは――握っているガンダム以上の大きさがある。
あんな兵器を携行させるなど、工業学科の学生として様々なモビルスーツの機構を見てきたがあり得ないと思った。

「これで一気にバッサリだ!」

羽のような背面フィンから光があふれ、剣を大きく振りかぶったままガンダムが突撃する。
ジャミル曰く、接近戦仕様の機体とX1は言っていたが、あれだけ巨大な武器を相手に鍔迫り合いは不可能だろう。
Xスラスターを最大限使い、回避する。しかし、さらに振られる大剣。
本来一撃必殺か、後の先による一発を狙うはずの大剣を、風車のようにガンダムは振り回す。

「機体があんな操縦でもつのか……!? なんて無茶苦茶な戦い方なんだ……!」

あれでは、相手からのダメージ以前に、操縦から来る負荷で関節などのモーターが駄目になってしまうはずだ。
とことん考えなしなのか、それとも相手から機体を奪えばいいと思っているのか。

325代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:34:13 ID:OR/1mbKw

地面に叩きつけられた大剣が、橋を支えるワイヤーと骨格をまとめて両断した。
X1には当たってない。素早く刻んだバックステップで、足場が崩れるよりも早く後退している。
ここまで、両者ともに目立った一撃はない。互いの戦闘における能力が拮抗している証拠だ。
だが、それは危ういバランスの上に成り立っているにすぎない。

「どうする……どうする、シーブック・アノー……」

見ているだけでも緊張で手に汗握る戦いに、自分が飛び込んで行ってなんになるのか。

もし、もう少し後の時間軸のシーブック・アノーであったなら、おそらく何の躊躇もなく戦いに飛び込んでいったであろう。
ニュータイプとも思われるエースパイロット、そんな風にスペース・アークでもてはやされ、自信過剰になっていた彼ならば。
彼の本来の初陣は、F-91と呼ばれるマシンに乗り、多大な戦果をあげるというものだった。
そして、その後も強敵と呼べるものと出会えず、増長する自分を叱れる大人にも出会わず、快進撃を繰り返すはずだった。
しかし、今ここにいるシーブック・アノーは違う。
彼は、まず第一にジャミルと言う人間という尊敬に値する人間に出会った。
そして、戦いがどれだけ激しく過酷なものであるかを知ることになった。
戦いと言うものそのものに対して、引いてしまうのも無理はないだろう。もちろん、彼がエースクラスの潜在能力を秘めていることには変わりない。
それでも、戦うに当たって前提となるメンタル部分に関して、まったく違う感情を抱いてしまった。
動きたい。けれど、動けない。何故か。それは、動いたことで余計に状況を悪化させるのではないかという思考が原因だった。

――「悩む前に動いたのか?」

脳裏に反響する、ジャミルの声。
つい先ほど、投げかけられたばかりの言葉。

「そうだ……まだなにもしちゃいない」

勝手に決め付けて、やる前から諦めてはなににもならない。
そう、先程思ったばかりではないか。自分の決意は、戦い一つで揺らぐほど、弱いものだったのか?
弱いものではなかった、と言いたい。しかし、自分でもそう思えない。
だが。少なくとも、自分の言葉を受けて、頷いてくれた人がいた。
ジャミル・ニートは迷う青年に一歩を踏み出してもらうため、背中を押した。
その言葉は、たしかに、青年に一歩を踏み出す勇気を与えた。
シーブックは、息を深く吸い込み、目を見開く。


「行けぇぇぇぇぇ!!」


キングゲイナーが動き出す。
キングゲイナーがオーバーデビルの眷属とも呼ばれるように、キングゲイナーのオーバースキルはパイロットの負の心によって覚醒するものだ。
つまり、今のシーブックにはそれらは一切使えない。使える武器は、チェンガンだけだ。
それでも。それでも、シーブックはまっすぐにチェンガンを突き出し、突進していく。

326代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:36:51 ID:OR/1mbKw
目指すのは、武器を握るガンダムの腕。殺しはしない――殺し合いには乗らない。けれど、相手を倒す。
相手の武器のみを狙い抑える。それは、通常格上が格下に対してやることだ。
だが、シーブックの行いは自分のほうが上だと言う傲慢から来るものではない。殺し合いには乗らず、相手を打ち破ると言う決意からのもの。

「なんだぁ!?」

相変わらず、緊張感に欠けた声が敵のガンダムから聞こえる。
オーバースキル加速ではなく、単純な全速力での突撃(チャージ)。相手は大剣を振るのをやめるとしゃがむことでチェンガンを回避した。
敵のガンダムと、自分のキングゲイナーが、背中あわせに立つ。
立ち上がったのは、同時だった。お互いが、横薙ぎに手に持つ武器を全力で振った。

「当たるかよ!」

シミュレーションで経験していたモビルスーツとは違う機体の軽さを感じながらも、キングゲイナーを浮き上がらせる。
その下すれすれを、ビームの輝きが通り過ぎていった。オーバーマン独特の動きの軽さが、モビルスーツを上回った。
しかし、今度はオーバーマンの小ささが仇となる。あまりにも、こちらが小さすぎ、攻撃が届くまでワンテンポ空いてしまう。
両側頭部に内蔵されたバルカンが火を噴いた――かに見えた。
モニターから敵のガンダムが横へ消え、武器を使う時間も惜しいと身体ごとぶつかったX1が映る。

「いまだ! 動け!」

ジャミルの声に返事をする余裕もない。だから、返事は成果と言う形で示そう。
チェンガンが、敵のガンダムの頭部へ向けられる。到達まで、あと数瞬だ。これで決まる。決める。
シーブックの気迫に答えてキングゲイナーが飛ぶ。

しかし、相手のガンダムの頭は潰されることはなく、吹き飛んだのはキングゲイナーだった。
キングゲイナーにぶつかったものは、明るい赤に輝く、ビームブーメランだった。



「おっし、意外とうまくいったな!」

剣を振り向きながら振ると同時、ブーメランのほうをぶん投げる。
弁慶は自分の策がうまく言ったことに嬌声をあげた。

「なんだなんだ、一体ずつかと思ったら、途中で二体一になるのかよ。やっぱり少しずつ難しくなるのか」

吹っ飛んだ一体を追いかけ、かばうように前に立つもう一体。
これから戦うとなれば、相手が一体とは限らない。野球でもチームプレーが大切だ。
そのチームプレーの生み出す力を考えれば、そういう状態で練習したほうがいいに決まっている。
そう頭では分かっているが、実際こうやってみると面倒だと弁慶は感じた。
元々あまり乗り気ではなかったのだ。
自分の身体の延長みたいに機械が動かせることにちょっぴりはしゃぐ気持ちが出てきたことは嘘ではないが、それでも気だるさが強い。
さっきから動かしててぶんぶん振り回されて、ちょっと気持ち悪くもなってきた。
面倒だし、今の二体を倒して休憩することにしよう。
投げたブーメランをキャッチし、でかいなんとか剣を再び持ち上げさせる。

「機械が動かしてるのに、かばったりチームプレーしたり面倒だなあ……」

そう愚痴の一つも零すのも、弁慶からすればさもあらんことだろう。
当然だ、彼からすればあくまでこれは仮想現実であり、リアルではないのだから。

327代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:39:45 ID:OR/1mbKw

だが、そんな思いは、目の前の一体、いやロボットから放たれた言葉で脆くも崩れ去ることになる。

「機械だと……!」

怒りに震えた男の声。半ばずれた意識でも、それが冗談ではないと分かるほど、真剣な怒りがこもっていた。
弁慶が、首をかしげ、頭を書く。おかしい、これはよくわからないことを言うだけの相手を倒す練習ではなかったのか。
ああ、そうか。きっと、自分以外にも候補がいて、みんなで最後の一人が誰になるか練習してるだっけ?
寝ぼけながら聞いた話を一部思い出し、そういうことかと剣を振り上げる。

しかし、男から放たれたのは、我慢の限界を超えた時に放たれる怒声そのものだった。

「我々はビットモビルスーツなどではない! 生身の人間だ!」

武器を構えながら、目の前のロボットから放たれる声。
弁慶は、ただ呆けるしかなかった。

「……え?」
「受け入れがたい現実をシミュレーションにしてしまいたい気持ちはわからないでもない……
 だがこれは紛れもない現実だ! 外に出て見ろ! これが、架空だと思えるのか!?」

男の言葉に、血の気が引くのが分かった。
外に出て見ろ――それ以外何も考えられず、慌てて外に出る方法を調べて、前をあける。
狭苦しかったコクピットが少しずつ開いていく。そこに広がっているのは――紛れもないホンモノの感触。
肌に触れる風が。飛び込んでくる日の光が。そして、流れ続ける冷や汗が、間違いなくホンモノだと告げている。

「う、嘘だろ……ロボットには、誰も乗ってなくて、遠くから動かしてるんだろ……」

こちらの呟きが通信を通して聞こえたのか、向こうのロボットも同じように胸が開き、人が出てきた。
蒼いコートのようなものを着た、間違いなく生身の人間だった。


「う……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


弁慶は、叫んだ。ただ叫ぶことしかできなかった。

「やっと自分のやったことに気付いたのか……!」
「違うんだ! 俺は、そんなつもりはなかったんだ!」

誰に対してかもわからない弁解の言葉。
鈍い鈍いと言われる弁慶にも、否応なしに理解できた。これがすべて現実で、自分のやったことは人殺しだと。
自分がさっきめちゃくちゃに壊した機械から時々聞こえていた子供の声も本物だったと。

328代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:44:22 ID:OR/1mbKw

「すまねえ……すまねえ……」

涙と鼻水で顔を覆い、くしゃくしゃに歪めた顔でそう弁慶は呟いた。
出てきた男は、そんな弁慶に何も声をかけずにいる。自分にあきれているのか。それとも、殺すつもりなのか。
殺す、死ぬ――そんな言葉が頭に浮かんだ時、それが嫌に身近に感じられた。
それも当然だ、他ならぬ自分がやったことなのだから。
さらに弁慶を襲う自己嫌悪。
止まらない涙。





そして、死。


地面が揺れる。
コクピットから投げ出される。
地面に落下する弁慶。
弁慶が最期に見たもの。
それは、足を滑らせた自分のロボットの踵。



「アハハッ! 獲物がより取り見取りってやつさね!」

上空から下りてくるのは、ストライクフリーダムガンダムと、それに装着されたミーティア。
アギーハは、宇宙に飛ばされた。しかし、地図を見ればすぐそばに月があるではないか。
ムーンクレイドルではないが、何か自分たちのかつて使っていたものはないかと降下した彼女に起こったのは、不思議な出来事。
なんと、月に降りた途端に景色が僅かに歪んだのだ。変化は一件無いように見える。
しかし、機体に表示される現在位置は、c-1から、B-2へ変わっていた。
どういう仕組みか、月に降りると地上MAPの月エリアに出るようになっていたのだ。
もっとも、そんな仕組みなど彼女には関係ない。どうやら自分の知る月ではないと見限った後、当初の予定通り彼女は獲物を探し始めた。

そして、彼女は見つけた。三機の獲物を。



「駄目だ、このままじゃ……!」

動きが悪い。やはり、あのビームブーメランの一撃が効いている。
それになにより、このマシンは自分に向いていない。動きの軽さといい、追従性といい、しっくりこない。
X1に視線を向ける。どこからともなく取りだしたマントで上空からのビーム攻撃を防いでいるが、動こうとしない。

「コクピットブロックを開放して無理をさせたのがまずかったか……!」

苦虫を噛み潰したような顔のジャミル。
どうやら、コクピットブロックをあけたまま無理な起動と衝撃を与えたため、動きが固まっているらしい。

329代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:46:20 ID:OR/1mbKw

「どのくらいかかりそうですか!?」
「あと5分……いや3分か……!」

3分。動きを止めているのであれば、モビルスーツ戦ならば百回は相手を撃墜できる時間だ。
ジャミルが動けないのであれば、自分が動くしかない。だが、この機体で降下してくる相手を倒せるのか。
乱雑な射撃ならまだいい。相手が完全に戦闘できる高度まで、正確に狙い撃てる高度まで下りてくる前に、行動しなければならない。
せめて、モビルスーツなら。そう歯をきしませるシーブックだが、無い物ねだりをしても――

いや、ある。
モビルスーツなら、ある。

キングゲイナーが、ビームの雨の中、ある一点を目指して飛ぶ。それは、砲撃にほとんどさらされず、その場に転がされている。
心の中で、あの哀れな男に頭を下げながらも、荷物を担ぎシーブックはそれに乗り込んだ。


それの名は――ZGMF-X42Sデスティニー。


「凄い……ジェガンの5倍以上のパワーゲインがある……これならいける!」

再び、運命の名を持つガンダムが立ち上がる。
シーブック・アノーの乗るデスティニーが、陽光を背にし、カメラアイを影の中光らせるストライクフリーダムへ飛んでいく。
空にストライクフリーダム。地から見上げる挑戦者は、デスティニー。

デスティニーガンダムvsストライクフリーダムガンダム。


まさしく『運命』の戦いが――今、始まる。

330代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:49:47 ID:OR/1mbKw



【ジャミル・ニート 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーン・ガンダム)
 パイロット状況:良好
 機体状況:数分のフリーズ、実はABCマントを持っていた模様。エネルギー消費(小)
 現在位置:C-3 橋の上
 基本行動方針:殺し合いを止めるために尽力する
 第一行動方針:ストライクフリーダムに対処
第二行動方針:仲間と情報を集める
第三行動方針:力のない者は保護。あるいは道を示す。
最終行動方針:バトルロワイアルの主催者の打倒。 参戦時期:原作終了後※サングラスはしてません
備考1:首輪探知器を所持※詳細な効果範囲は後の書き手さんにお任せ。

【シーブック・アノー 搭乗機体:デスティニーガンダム(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好(核・デュートリオン統合先進機動システムのおかげでエネルギー消費はほとんどなし)
 現在位置:C-3 橋の上
 基本行動方針:殺し合いを止めるために自分のできることをする
第一行動方針:ストライクフリーダムに対処。
第二行動方針:仲間と情報を集める
最終行動方針:リィズやセシリー、みんなのところに帰る。
備考1:謎のビデオテープを所持。

【アギーハ 搭乗機体:ストライクフリーダムミーティア(機動戦士ガンダムSEED DESTINY)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:C-3 上空
第一行動方針:敵を捜して、発見次第撃破。ノルマをこなす。
第二行動方針:ノルマをクリアしたら今後の戦略を練る。
最終行動目標:生き残り、シカログと再会する】
※OGs死亡直後からの参戦です。



備考 キングゲイナー(小破、エネルギー消費(小))が放置されています


【車弁慶 パイロット状態:死亡】

【08:30】

331代理投下 運命の戦士 ◇vtepmyWOxo:2010/01/05(火) 00:51:06 ID:OR/1mbKw
191 名前:運命の戦士 ◆vtepmyWOxo[sage] 投稿日:2010/01/04(月) 03:31:17 ID:4ScUsE/6
投下完了。
指摘や感想があればなんなりとお願いします。


投下乙です。
勘違い弁慶が落ちて因縁機体のバトル勃発か。
これは続きを書きたくなる素晴らしいSSでした!
戦いを止めんとする者達の願いも虚しく、バトルロワイアルは順調に進行していた。
ゲームの開始より3時間も経たずして、既に各所で殺し合いが繰り広げられ、次々と命が散っていく。
この小さな星は、早くも殺伐とした空気に満ち溢れていた……はずなのだが。

「ふもっふ!!」

そんな中を、殺伐さに不釣合いなファンシーな物体が、颯爽と駆けていた。
みんなのアイドル、ボン太くんである。
だがその挙動は、遊園地などで見かけるマスコットキャラの着ぐるみのものではない。
動きのキレが違う。一つ一つに隙がなく、走るスピードも常人のそれを凌駕していた。
その中身は、キング・オブ・ハートにしてガンダム・ザ・ガンダム、ドモン・カッシュだ。
加えてこのボン太くんスーツは、バトルロワイアル仕様として極限までの強化改造が行われている。
武術の達人であるドモンと超強化ボン太くんの相性は、最高と言って差し支えはないだろう。
しかし……現実問題として、この広大なフィールドを徒歩で移動するのは、いささか無謀と言わざるを得ない。
鍛え抜かれたガンダムファイターの常人離れした体力と脚力、そしてこの最強の着ぐるみの機能をもってすれば、
ある程度はカバーできるが……それでもやはり、限りなく生身に近いが故の移動力の欠如は否めない。
現に、先程の斧の機体をみすみす取り逃がしてしまった。
もし乗っていたのがまともな機体であれば、追撃に出ることも可能だっただろう。
……それでも、扱いきれない下手な機体を支給されるよりはマシではある。贅沢は言えないということか。

やはり、仲間が必要だ。移動に限ったことではない。共にシャドウミラーに立ち向かえる、仲間が。
デビルガンダムをがむしゃらに追っていた頃は一人で粋がっていたものだが、今は違う。
共に戦い抜いてきたシャッフル同盟の4人、そして最終決戦に集まった全世界のガンダム連合。
彼らの存在あってこそ、ドモンは勝利を掴むことができた。
今ならわかる。卑劣なシャドウミラーを倒すために、ここにいる者達で手を取り合うべきであると。
だからこそ、こうして彼は走り続ける。共に戦う、仲間を求めて。



やがてボン太くんは、一つの戦いの跡へとたどり着いた。
周囲の地形は荒れ、そこにあったのは腹部を中心に破壊され横たわる一体のガンダム。
この破壊を行ったであろう犯人は、既にこの場にはいなかった。
その大破したガンダムに――ドモンは驚愕する。
「ふも……ふもぉっ!?」
(訳:これは……ライジングガンダム!?)
かつて対デビルガンダムを想定した機体として、ウルベ・イシカワ用に調整されたMF。
レイン・ミカムラが乗り、DG四天王が一体・ウォルターガンダムと死闘を繰り広げた機体。
大破していたものの、散らばった各部位のパーツから判別はできた。
(どうしてライジングがここに!?……まさか、これも支給機体なのか……?)
ライジングはあまりに無惨な姿を晒していた。
コックピットブロックは完全に潰されている。搭乗者が無事である可能性は皆無だ。
(惨いことを……もしや、さっきの斧の機体の仕業か?……いや、違う)
さらにそこから上半身へと視線を移す。
他の部位に比べてある程度原型は保っていたが、ガンダムの特徴的な頭は潰されていた――

そして、ドモンは気付く。

潰された頭部、その形状に。

それはドモン・カッシュだからこそ、気付きえたことだった。
彼でなければ、他に誰一人として気付く者はいなかっただろう。

――『握り潰されている』。

(まさか……これは)

形状から推測するに、これを握り潰した手はライジングとそう変わらない大きさの機体によるものだ。
また、単に力任せに潰されたわけでもない。何らかのエネルギーが加えられた跡がある。
……それを可能とする武器を、いや技を彼はよく知っていた。知り尽くしていた。
そして、それを使用することのできる機体も。
当然だ。彼はその技で、その機体で、幾多のガンダムファイトを制してきたのだから。
だからこそ、気付いた。ライジングを倒した技の決まり手に。

(ゴッドフィンガー……なのか……?)

愛機、ゴッドガンダムの黄金の指――爆熱ゴッドフィンガー。

技のかかり具合は、元々の使い手であるドモンの目から見ればかなり荒く、甘かった。
完全に頭部を潰し切れていないことから、威力もドモンの放つそれと比べ大きく劣る。
だからこそ、こうしてドモンにも判別が付けられたわけではあるのだが……
恐らく、見よう見真似で技を放ったと思われる。もっとも、最初は誰でもそんなものだろう。
(ゴッドガンダムが、誰かに支給されているというのか……?)
ゴッド以外の機体の可能性もあった。同種の技を使えるMFは存在する。
例えば、ゴッド以前に彼が乗っていたシャイニングガンダムのシャイニングフィンガー。
だがシャイニングはギアナ高地で完全に燃え尽き、その役目を全うしている。
さらに彼の師である東方不敗マスターアジアが乗っていた、マスターガンダムのダークネスフィンガーと
いう線もあるが、こちらもまたランタオ島での決勝戦において、完全に破壊されていた。
これらの機体が支給されているとは考えにくいが、同様に大破したライジングがこうしてこの場にあるのだ。
修復され、このバトルロワイアルに使用されている可能性は否定できないだろう。
数多くのファイトを共に戦ってきた、自分達ファイターの魂の結晶ともいえるガンダムを、
こんな殺し合いのために利用するシャドウミラーに、改めて怒りがこみ上がってくる。
もしライジングガンダムと同様に、これらの機体も支給されているとしたら。
他の参加者が、自分の愛機を支給されて、そしてそれを使って殺戮を行っているとしたら。
……それを黙って見過ごすことなど、できるはずがない。

無論、それ以外の可能性もあるだろう。
似た特性の武器を持った、未知の機体という線もある。
全てを結論付けるのはまだ早すぎるが、一応警戒はしておくに越したことはない。

ドモンはライジングの搭乗者の冥福を祈る。
「ふもっふ、ふも、ふも」
(訳:せめて静かに眠れ。お前の無念は必ず晴らす……このバトルロワイアルを壊すという形でな)

実はライジングの搭乗者は殺し合いに乗っていて、元はといえば彼のほうから一方的に戦闘を吹っかけて。
その挙句、自滅同然の返り討ちにあっただけなのだが……
そんなことはドモンが知る由もなかった。
やはり、世の中は無情である。


【ドモン・カッシュ 搭乗機体:ボン太くん(フルメタル・パニック? ふもっふ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好、超強化改造済み、ガーベラ・ストレート装備
 現在位置:B-3 平原
 第一行動方針:斧の機体(ディアブロ・オブ・マンデイ)を倒す
 第二行動方針:他の参加者と協力して主催者妥当の手段を探す
 第三行動方針:ライジングの頭部を握り潰した機体を警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを討つ】

【一日目 9:00】
335それも名無しだ:2010/01/05(火) 23:08:59 ID:t6Xev2yN
投下完了。
どうしよう、ボン太君なのにかっこいいw
336それも名無しだ:2010/01/05(火) 23:20:16 ID:/rggbaf+
投下乙
ああ、弁慶・・・せめて勘違いしたまま死ねていればまだ楽だったろうに
そして確かにこれは続きの気になる展開だ!
337それも名無しだ:2010/01/05(火) 23:30:28 ID:/rggbaf+
>ガンダムファイト跡地にて
こちらも乙
カッコイイこと言ってるのに可愛いw
そういえばこのボン太君は頬に十字傷があるんだろうか
338それも名無しだ:2010/01/06(水) 00:04:41 ID:w3iY3Bd7
運命のパルマうんちゃらって「手から拡散ビーム」であって握りつぶすってのはなんか違った気が
339それも名無しだ:2010/01/06(水) 00:14:36 ID:Fr7euPVi
拡散ビームでもないな
パルマフィオキーナってのは「掌の槍」って意味で、単に掌にビーム砲付けただけ
グフの鞭握りつぶしたのは握ってからビーム撃って潰しただけで、厳密に言えば握り潰した訳ではない
340 ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:01:44 ID:ipVX8zE8
投下します
341大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:04:18 ID:ipVX8zE8
「脱帽ね」

 誰に向けてでもない、イネス・フレサンジュの呟き。
 鉄色の巨大戦艦クロガネは一時間の地中潜行可能時間を使いきっていた。
 今は地上で待機中。船体は一種の重力制御装置とも言えるテスラ・ドライブで浮遊している。
 巨大な物体が移動もせずただ浮いている様は異様に目立つが、それが狙いだった。
 あえて注目を集めることで、誰かが接触してくるのを待つ。下手に探し回るよりよほど効率が良い。
 艦橋のスクリーンに映し出される、長大な馬上槍を思わせるライフルを構える遠見真矢の操るヴァイスリッターの姿。
 接触を待つ間何もせずにいるのも難なので、警戒を兼ねて損壊したヴァイスリッターの扱いに慣れておく、と真矢は言った。
 左腕部を失ったにもかかわらず、器用に右腕と胴体でライフルを固定。狙いを定め、発射。
 標的は遥か遠方、数十キロメートル先の岩塊。放たれたエネルギー弾は狙い過たず岩塊へ命中。
 試し撃ちはこの時点で七発目を数えた。最初の三発は外した。四発目は左を掠めた。五、六、七発目が次々と岩塊を抉った。
 八発目。エネルギー弾が岩塊の中心を正確に射抜いた。
 驚嘆と称賛と畏怖のこもった瞳を向ける。
 曰く、標的を見ていると、どのように撃てば当たるのか「なんとなく分かる」。
 それはつまり風圧・温度・湿度など弾道に変化を与えるものの存在を極めて正確に「なんとなく」把握しているということなのか。
 異常とも言えるほど発達した観察力。物事を分類し、関連付ける能力。それが真矢の狙撃能力の支え。
 九発目。およそ本人以外には理解し得ない脳内処理を経てこれまた正確に岩塊の中心を射抜く。
 この異常な観察能力は狙撃だけでなく、交渉や尋問において非常識なまでの有用性を発揮する。
 真矢と面と向かって話し合ったことで、イネスはそれを嫌というほど実感していた。
 


 サウス・バニングともう一人が退いてからすぐ後のこと。
 ヴァイスリッターをクロガネに収容し、地中に潜り移動した。
 地中に潜行可能な残り約三十分を最大限利用し、敵に襲撃される心配の無い状態で真矢と突き詰めた話をしようとした。
 いずれ手を切ることが決まっているとはいえ、会話を通してそれなりに信頼を育んでおくのは決して悪いことではないはずだ。そう考えた。
 バニングたちへの対応、当面の行動指針、ヴィンデル・マウザー並びにシャドウミラーに関しての考察といった話に加え、お互いの身の上などについても多少の隠し事をしつつ語りあった。

 ――現状の戦力ではバニングたちとはまともに戦えそうもない。なるべく出会わないようにしたい。
 ――差し当たり戦力の確保に努めたい。相手の人となりを慎重によく見極めた上で勧誘。真矢の仲間であれば言うこと無し。
 ――ヴィンデル・マウザーの目的とは? 最後の一人になるまで戦えというが、では殺し合いを強要する理由は? 怨恨、娯楽、あるいは何かの実験? 
 ――最後の一人になれば望むもの全てを与えるとの言葉は嘘か真か? 仮に真として、ではその望みを叶えるための「力」なり何なりの奪取は可能か?
 ――何れにせよあの赤い髪の男、アクセル・アルマーの言うところの我々「参加者」に話されていない何かがまず間違いなくある。
 ――当事者の意思を全く尊重せず爆弾付きの首輪を嵌めて殺し合いを強要しておきながら「参加者」とは、いかにも傲慢な言い様だ。
342大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:07:02 ID:ipVX8zE8

 実際それは悪いものではなかった。
 クロガネの艦橋で向かい合って座り、それぞれに意見を述べる二人。
 とてもお互い相手をそのうち殺すつもりであるとは思えないほどに和やかな雰囲気だった。
 充実した時間はあっという間に過ぎ去り、ひとまずクロガネを地上にあげることになった。真矢はヴァイスリッターへの習熟と周囲の警戒。
 真矢が席を立った。会話が途切れた。真矢に背を向け、少し大きめに息を吸い込み、静かに吐き出した。
 息を吐ききった、その一瞬、

「ところでイネスさん、私に隠していることがありますよね」

 するりと、真矢の放った言葉は胸に突き刺さった。

「……何のことかしら?」

 真矢に向き直る。動揺を隠す。
 我ながらなんとも間の抜けた返答だった。
 それだけ真矢の言葉は虚を衝いたものだった。

「ここに知り合いはいない、って言いましたよね。本当ですか?」

 嘘だった。しかもそれなりに悪意を含んだ嘘。
 身を守るために真矢と手を組んだが、この協力関係は期限付き。そしていつ期限が切れるかは状況による。
 そんないつ訪れるとも知れぬ期限切れに怯えるよりは、背中から撃たれる心配のない他の人物と仲間になりたい。
 その候補がホシノ・ルリだった。ヤマダ・ジロウ(ダイゴウジ・ガイ)とは直接の面識はないのでこちらは保留とする。
 実際に彼女がどのように考え行動しているかは分からないが、人物を把握している分、真矢よりは遥かにマシだ。
 真矢の仲間が六人揃ったとき、用済みとばかりに自分が殺される様を想像した。自分がこうなのだから、相手もそう考えると想定。
 だから隠した。自分に知り合いがいて、その人物と合流したいと考えていて、そのとき用済みとなった真矢とはサヨナラしたいという気持ちと共に。
 さてどう誤魔化すか。バニングにもそうしたように、必要以上に自分のことを語る必要は無いという、その程度のほとんど意味の無い嘘だった。こんな感じだろうか。
 そのように説明することにした。これは決してあなたを害するためについた嘘ではないのですよ、と。

「いろいろ心配しちゃうのは分かります。でも、誰かに信頼してもらおうと思うのなら、そういうのはやっぱり良くないと思います」

 説明する前に、真矢が喋った。一切の反論を封じるような声音だった。
 そして、こちらが胸の内に抱いていることを把握しているかのような言葉だった。大いに動揺した。
 もしや彼女は、他人の心を読み取ることが出来るのだろうか? そんな途方もない考えが浮かび、口に出しかけた。

「私、別にイネスさんの考えていることが分かるわけじゃありませんから。だからそんなに困らないでくださいよ」

 考えていることを、ぴたりと当てられた。何も言えなくなった。
343大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:11:42 ID:ipVX8zE8
そのまましばらく押し黙ったままでいると、真矢が付け加えるように言った。
 ただ、ちょっとした仕草や、目線や、口の動きとかで、なんとなく相手の抱いていることって分かること、ありますよね。
 例えばイネスさんは、仲間や知り合いを連想する話題が出たときの反応が少し変で。
 言葉の端々にあえて親しみを込めて話しているような妙な響きが混じり。
 隠していたことを指摘されたときには、疑われて悲しいという雰囲気が無く、逆に相手を言い負かそうと挑むような目つきになっていたり。
 普通そんな異常に細かい仕草に気が付いたり、一つ一つの意味を察したりなんてしないだろう。
 一体この娘は、どれだけ僅かな情報から推測を働かせ、相手の真意を読み取ってしまうのだろうか。超自然的と呼びたくなるような読心術だった。
 しかし当の本人はこの才能に自覚が有るのか無いのか、「そういうのって、ほら、誰にでもあるでしょ?」といった調子でいる。
 自分の心に抱いていることを読み取られてしまう側は堪ったものではないというのに。
 イネスは真矢との対話に恐れを抱いた。
 大事な絶対に見られたくない部分まで見透かされてしまいそうな、真矢のその澄んだ瞳に見つめられるのを恐れ、嫌悪した。

「……まあ、とりあえず、あなたには周囲の警戒をお願いしたいのだけど?」

 もういいからさっさと出て行け、という態度。言外に真矢の言ったことを肯定する態度でもあった。
 それを察したのか、特に傷ついた風もなく真矢は艦橋から歩み去っていった。
 と思ったら扉の向こう、姿の見えない位置から声だけが飛んできた。

「別に、六人揃ったからって用済みだなんて言ったりしませんから。そのときは生き残るために協力して欲しいです」

 真矢と顔を合わせるのは二度とごめんだ。



 ライフルを構えたヴァイスリッターを見つめる。
 顔を見られたくないからコックピット内とは音声だけを繋ぎ映像を表示しないようにしていた。
 本当に音声が繋がっているのか怪しくなるほど静かな呼吸音。的に当てても「よし」とか「やった」とかいう言葉の一つもない。
 十発目が放たれた。軌道に乱れは一切無い。命中。真芯を捉えた。岩塊が砕け散った。
 拍手でも送ってやろうかと思った。だがその技術を見せ付けた本人は至って平然とした様子だ。
 動かない標的など地球の裏側からだろうが当ててやると言わんばかりに見えた。冗談だが。
344大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:13:40 ID:ipVX8zE8

「来た」

 ぼそりと、真矢が言った。
 見ればヴァイスリッターがライフルを脇に抱え、何処かを指差している。
 その先を見れば、なるほど確かに来ていた。機影が二つ。まだ通信圏外だ。
 どうやらバニングたちではない。彼らが撤退していった方角を避けて移動したのだからそうでなければ困る。
 少し話してくると言い、ライフルを構え直したヴァイスリッターが機影に向かっていった。
 さてさて釣れた魚はなんだろう。大物か雑魚か、本命か外道か。
 戦闘には発展しなかったらしく、なにやら話し込んでいる。とりあえず理性的な人物のようだ。
 三機そろって戻ってくる。仲間になってくれるということだろうか。やけにあっさりしている。
 通信圏内に入った。
 
「俺の名はギリアム・イェーガー。こちらは真壁一騎。遠見真矢から誘いを受けた。出来ればそちらに収容してもらい、直接話をしたいのだが、宜しいか?」
「……どうも」

 スクリーンに映し出される二人の顔。
 すらすらと言葉を並べ立てるやけに落ち着いた雰囲気の片目が髪で隠れている男。
 自分の名前まで言われ何を喋ったものかと迷ったあげくぞんざいな挨拶になってしまったという風情の少年。
 真壁一騎――真矢の仲間。道理であっさりと済んだ訳だ。
 
「ええ、構いません。お互いにとって有意義なものとなることを期待します」

 努めて友好的な態度でもって迎え入れる。
 二人との通信が切れる。そこへ真矢から通信が入った。対象をイネスのみに絞った回線。
 下手な嘘はつかないほうが良い、自分は残って警戒を続ける――それだけ言い、すぐに切れた。
 仲間が一人見つかったというのに、それほど嬉しそうでもないのを疑問に思うが、それはどうでも良い。
 確かにギリアムという男は油断のならない気配を持っていた。
 ここは素直に忠告を聞いておくべきだろう、と思った。



345大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:15:57 ID:ipVX8zE8
 話し合いは円滑に進んだ。
 ギリアムからはシャドウミラーに関する情報が提供された。
 イネスからはブラックサレナに搭載されたボソンジャンプ機能についての知識。
 ギリアムはボソンジャンプに興味がある様子で、後でよく調べたいからとイネスに協力を要請した。
 これを快く承諾し、代わりにギリアムには一騎と真矢への戦術指導を依頼した。
 機体の修理についてもギリアムに一任された。
 ブラックサレナ以外はよく知る機体であり、資材さえ揃えばヴァイスリッターの左腕も使えるように出来ると言った。
 それぞれの知り合いについてや、今後どのように動いていくのか細部を詰め――先が読めない以上、最終的には臨機応変、ということで落ち着いた。
 バニングたちについては、こちらが誤って攻撃してしまったことで戦闘に発展したのであって彼らに非は無い、と説明した。
 誤って攻撃した、というところ以外ほぼ事実のままだった。

「なんとか誤解を解こうとはしたのですが、私たちも気が動転してしまいまして……」

 そう語るイネスを見つめるギリアムの瞳は冷ややかなものだった。
 疑っているというより、純粋に真実を見極めようとする眼といった感じだ。
  
「次に会うことがあったなら、俺が仲介人になろう。和解出来るならそれに越したことはない」

 一応は信用しておこうという口調。安心は出来ない。
 イネスとギリアムが話す間、一騎はほとんど口を挟まず、真矢も音声だけを繋ぎただ黙って聞いていた。

「ひとまず話はここまでにしておこうか。一騎、シミュレーターで簡易だが訓練を行う。ついてきてくれ」
「わかりました。ではクロガネが地中に潜行可能になったら遠見さんもそちらへ寄越しましょう」

 時間が惜しいとばかりに足早に動き出すギリアム。それに続く一騎。
 二人が艦橋から出て行き、イネスはほっと一息ついた。
 全てを包み隠さず話したわけではないだろう。だが十分に期待した以上の成果。
 多くは俄かには信じ難いものだった。しかし全くの出鱈目とも思わない。
 死んだ筈の者の存在というのも面白いが、特に興味を引いたのは、シャドウミラーが純粋な地球人類の集団であるという点だ。
 アンドロイドなどもいるそうだが、基本的には科学の範疇。魔法や超能力といったものを扱う、コミックの世界の住人ではない。
 ということはヴィンデル・マウザーの願いを叶えるための「力」とは科学技術の産物である公算が高い。
 それはつまり、この自分にもその「力」を扱うことが出来るかも知れない、ということだ。
 手段は何でも良い。その「力」を奪取できれば――
 俄然やる気が出てきた。
346大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:17:50 ID:ipVX8zE8
 ふと、ヴァイスリッターとの回線が繋がったままな事に気付いた。
 そういえば、と思い、何気なく真矢に話しかけてみた。

「良かったわね。まだ一人だけど、仲間が見つかって」
「……そうですね」

 やはり、嬉しそうではない。
 いったいどうした訳か――ちょっと考え、なんかピンと来た。
 真矢の仲間の名前には、女性らしきものがあった。
 羽佐間翔子に、カノン・メンフィス。
 ひょっとして真壁一騎少年はその二人のどちらかを好いていたりするのだろうか。
 そして遠見真矢はその真壁一騎少年に惚れていたりなんかしちゃうんだろうか。
 中学生という年齢を考えれば、十分にあり得る話だ。
 もしそうだとすれば、三角関係とは実にたいした乙女っぷりである。
 途端、どこからか意地の悪い気持ちが湧いてくるのを感じた。
 決して、先程の仕返しをしようというのではない。
 本当に、全然、そんなんじゃぁない。

「ところで遠見さん。一つ、良いかしら」
「……なんですか」
「あなた、好きな人って、いる?」
「…………」

 プツッ、と音を立てて回線が切断された。流石に直球すぎた。
 怒ったか、不都合なことを聞かれると察したか、それとも単なる照れ隠しか。
 ふむふむ、なかなか可愛いところもあるものだ。と大して悪びれもせず思った。

 ……いや、待てよ。

 むしろ逆ではないだろうか。
 唐突に違う考えが浮かんできた。
 真壁一騎が誰かを好いているのではなく、誰かが真壁一騎を好いている。
 そしてその誰かは遠見真矢の友人か何かで、そのため遠見真矢は身を引いている。
 そう言えば、羽佐間翔子という少女は、死んだ筈だという話だったが――
 まるで根拠の無い考えだった。だが不思議とこれが正解の気がした。
 真矢の性格的にもそう思えた。
 
「……嫌われちゃったかしらね」

 何故か、残念な気持ちがあった。


347大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:19:38 ID:ipVX8zE8
 シミュレーターによる訓練。クロガネにブラックサレナの機体データは無かったため、一騎もギリアムと同じくアルトアイゼン・リーゼを使っていた。
 アルトアイゼン・リーゼ――同系統の機体と比べ破格の火力と突進力を獲得した機体。
 頭――電撃を迸らせる刃状の角。
 両肩――指向性散弾地雷射出装置。
 左前腕部――五つの銃身を束ねた機関砲。
 右前腕部――大型の回転弾倉式炸裂杭打ち器。
 爆発的な推進力を生み出すバーニア、スラスター類。
 推進力と重装甲が機体そのものを巨大な弾丸と化せしめる。
 全身隈無く呆れるほどの突撃仕様。突撃こそがこの機体の本領だ。
 一騎はそのアルトアイゼン・リーゼの本領を発揮させんばかりの動きを見せた。
 というより、最初から機体を全開で吹かしそれから自分が機体の動きに合わせていった。
 物凄い勢いで転倒。ビルや岩肌に激突。実機なら衝撃で全身骨折と内臓破裂でほぼ死体だ。
 無茶苦茶だった。いくらシミュレーターとはいえ、そんな動かし方をして平気でいられるはずが無かった。
 感覚器官をぐちゃぐちゃに掻き乱され盛大に吐瀉物をぶち撒けてもおかしくない。だが、一騎はまるで意に介していなかった。
 しばらく転倒と激突を繰り返していたが、次第に動きが安定してきた。
 ギリアムから見ても、一騎の戦闘への適性には目を見張るものがあった。
 とても十代半ばの少年のものとは思えない、耐久力、運動能力、反射神経。
 一騎の体は一見して細い。柔軟で本当に有用な筋肉しかついていない証拠だ。
 競い合う相手さえいればどこまでも伸びていきそうな有り余る才能。完成された肉体。

「感覚は大体掴めたようだな。……君の実力を見たい。全力で来てくれ」

 そんな場合ではないのは重々承知しているが、それでも才ある若者を指導できることに喜びを感じるのは確かだった。
 突撃してくる一騎、迎え撃つギリアム。ギリアムの背後には岩壁があった。正面からぶつかり合う二機。
 勢いそのまま、ギリアムは一騎の突撃を受け流した。宙に投げ出される一騎の機体。停止不可。
 岩壁に叩きつけられる瞬間、スラスターが火を吹く。体勢を立て直す。岩肌に着地。健在。
 さらにスラスターを吹かす。岩肌が抉れる。またも突撃。受け流せない。迎撃。
 正面衝突。目も眩まんばかりの衝撃。組み合う二機。拮抗する推力。
 地面を抉り飛ばし停止。密着した状態での超近接格闘戦へ。
 凄まじい勢いで繰り出される拳、杭、拳、膝、杭、角。
 装甲が陥没。指が千切れる。弾丸が零れる。
 杭が突き刺さる。それを圧し折る。
 角が食い込む。圧し折る。
 両肩部装甲展開。
 散弾地雷。
 不可避。
 炸裂。
 間。
 

348大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:21:59 ID:ipVX8zE8
 一騎の攻めは苛烈を極めた。
 それ以上にギリアムの守りは堅かった。
 ギリアムの機体――ところどころに装甲の陥没。左腕に半ばから折れた角、左脚に杭が突き刺さっているが、概ね五体満足。武器の損失も無い。
 一騎の機体――超至近距離の散弾から胴体と頭を守った両腕は肩から脱落。度重なる無茶苦茶な衝撃で磨耗しきった関節。内臓機器への甚大なダメージ。残った武装は半ばから圧し折られた頭部の角のみ。
 一騎の機体は既に立っているだけで精一杯の状態だった。
 ギリアムが、ここまでにしよう、と言った。

「まだやれます」

 簡潔な返答。臆すること無く。
 一騎の戦意は些かの衰えも見せていなかった。
 ギリアムはそこに、危ういものを見たような気がした。
 最後まで諦めないことは、生き残るための大切な要素だ。
 一騎のはそれとは違った。
 敵を倒すことだけを考えているかのようながむしゃらな攻撃。
 自分が傷つくことなど気にも留めない。
 まるで、それが自分の役目だというように。
 そんな戦い方では、いずれ取り返しのつかないことになってしまう。
 
 ――死なせたくないものだ。

 どこからか、卒然とそんな気持ちが湧いてくるのを感じた。
 一騎と、そして、真矢も。
 出会ったときの真矢は、非常に危なげな雰囲気を持っていた。
 自分の心を押し殺すことで何かを為し、その辛さに悲鳴を上げているような。
 心を殺すことは大変な苦痛だ。とてもそれに耐えられそうには見えなかった。
 一騎と真矢は仲間だ。
 お互いに支えになってもらえれば良いが……
 そう思わずにはいられなかった。




349大人目線  ◆f/BUilcOlo :2010/01/06(水) 20:24:28 ID:ipVX8zE8
【イネス・フレサンジュ 搭乗機体:クロガネ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 格納庫にヴァイスの左腕あり
 現在位置:B-3
 第1行動方針:ギリアムには隙を見せないように行動
 第2行動方針:一応、真矢への対抗策を用意
 第3行動方針:ルリと合流、ガイもついでに
 最終行動方針:願いを叶える「力」の奪取。手段は要検討。
 備考1:地中に潜れるのは最大一時間まで。それ以上は地上で一時間の間を開けなければ首輪が爆発
 備考2:クロガネは改造され一人でも操艦可能】


【ギリアム・イェーガー 搭乗機体:アルトアイゼン・リーゼ(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 クロガネの格納庫に収容
 現在位置:B-3
 第1行動方針:一騎と訓練
 第2行動方針:仲間を探す
 第3行動方針:首輪、ボソンジャンプについて調べる
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊、シャドウミラーの壊滅】


【真壁一騎 搭乗機体:ブラックサレナ(機動戦艦ナデシコ -The prince of darkness-)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 クロガネの格納庫に収容
 現在位置:B-3
 第1行動方針:ギリアムと訓練
 第2行動方針:仲間を探す。総士は……
 最終行動方針:バトルロワイアルからの脱出】


【遠見真矢 搭乗機体:ヴァイスリッター(スーパーロボット大戦OGシリーズ)
 パイロット状況:身体的には良好
 機体状況:左腕欠落、ミサイル半分ほど消費、EN消費(小)
 現在位置:B-3
 第1行動方針:一騎を守る
 第2行動方針:総士、翔子、甲洋、カノンと合流し、守る
 第3行動方針:仲間を傷つける可能性のある者(他の参加者全て)を率先して排除する
 最終行動方針:仲間を生き残らせる。誰かが欠けた場合は優勝も視野に入れる】


【一日目 8:10】
350それも名無しだ:2010/01/06(水) 20:38:34 ID:YlpJTwLw
投下乙!
自分は原作を知らないが、真矢の洞察力は今までにない強力な武器になりそうで今後が楽しみだ
でも、この集団はいつまでもつだろうか・・・
あと、ランページゴーストが見れるかも、とwktk
351それも名無しだ:2010/01/06(水) 21:55:28 ID:LuPSD126
投下乙!
一騎と真矢がどこに伸びるかだな
352それも名無しだ:2010/01/06(水) 23:31:41 ID:Ld5rQ0c4
ギリアムさんかっこいいよ
というかギリアムさんこそ誰かの事を想いながら死にそうなビジョンしか見えないよ……
353それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:04:43 ID:WLgI7TTQ
投下乙!
真矢とイネスさんの関係が凄い事になってるw
ギリアムが一騎の指南役は絵になるなぁ。
それと自分もアルトとヴァイスの合流にランページを期待せざるを得ないw
354それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:06:41 ID:H3pLL2YM
355 ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:06:47 ID:KgJ9boh1
ではヴァン、レーベン、ルリを投下します。
356その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:07:38 ID:KgJ9boh1
「とった! いけ、フットミサイルッ!!」

レーベン・ゲネラールが自らに支給された機体を操る。
レーベンの操縦を受け、彼の乗機であるゴライオンの両脚からフットミサイルが発射される。
右の青獅子、左の黄獅子から放たれたミサイルは合計二つ。
エーデル・ベルナル直属の特殊部隊、カイメラに所属するレーベンの階級は大尉。
機動兵器の操縦技術で今の地位を昇りつめたのは伊達ではない。
冷静さを欠いた言動とは裏腹に正確無比な狙いでミサイルは標的に向かっていく。
彼の最愛の女性、エーデルを罵倒した男が乗る一機のヨロイ武者を完膚なきまでに破壊するために。
ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン、簡単に言ってしまえば“ダン”。
最初の一文字と最後の一文字を取った、あまりにも略しすぎた名前。
だが、このくらい短くないと忘れてしまうかもしれない。
そんな不安すらも抱かせるのがレーベンの怒りを買った、ボンクラもといタキシードの冴えない男だ。


「――あぶねぇな」


さも不機嫌そうに唸る男の名はヴァン。
しかし、やるべきことはやっている。
ダンを操り、右腕に握らせたガーディアンズソードを振るった。
ガーディアンズソードは左腕に持った太刀よりも軽く、扱いやすいことこの上ない。
いとも器用にフットミサイルを斬り払う。
あえなく爆散したミサイルの爆風がダンを覆う。
今までレーダーという類のものをヴァンは碌に使ったためしはない。
よって計器類の示す結果など無視し、ただ自ら爆風へ突っ込む。
理由はなんとなく。そうするべきだと直感で判断したから。
ガーディアンズソードを振るいながらダンを前方へ飛ばす。
その先に待つものは、血に飢えた獣の守護神。

「なに!? キサマ、この俺の動きを読んだとでもいうのか!?」
「バカいうな、偶然だ偶然」

猛進し、左腕の緑獅子を喰らいつかせるように突き出したゴライオン。
そんなレーベンが駆るゴライオンの右腕をダンのガーディアンズソードが斬りつける。
ゴライオンの右腕も、ガーディアンソードも共に砕け散ることはない。
ただ全くの均衡が両者から迸る火花が証明する。
そしてその事実をレーベンとヴァンは互いに認識。
このまま我慢比べに持ち込んでいきそうな流れが意図せずに生まれる。
しかし、彼らにはまだまだ打てる手段が残されている。

「ハッ! まぐれというわけか!だったら二度目はあるまい! そうだろう、夜明けのヴァンとやらッ!!」

威勢良く叫ぶはレーベン。
突き出した左腕を引き戻す。
それはあくまでも後ろ向きな行動ではない。
次なる一手を、今度は右腕をダンの方へ。
赤獅子、燃えたぎる赤を連想させる腕がダンに向けられる。
357それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:08:46 ID:H3pLL2YM
358その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:08:58 ID:KgJ9boh1
「ファイヤアアアアァァァトルネエドオオオオオオオオオオオォォォッ!!」

フェアリオンにも使用した灼熱の炎が間髪いれずに吹き放たれる。
俗に言う特機に分類されるダンの装甲は厚い。
だが、それでも当然ながら完全無欠というわけではない。
現にファイヤートルネードはダンの装甲を確実に焦がし始めている。
このままいけば外部装甲を焼き尽くし、ダンの動力系にも異常をきたすことだろう。
僅かにダンはその巨体を後方へ揺らす。
その小さな動きをレーベンは見逃さない。
依然としてファイヤートルネードの出力は緩めずに、ゴライオンでダンに飛びかかる。

「どうだヴァン! 焼けるように熱いだろう!?
これが俺の炎! エーデル准将に捧げる炎! 俺のエーデル准将への愛の炎だ!!」

アルテア星の守護神、ゴライオンの動力は惑星エネルギーだ。
地球上の科学で説明がつくものではなく実体は計り知れない。
故にそれを動力とするゴライオンが叩きだす馬力もまた並み大抵のものではない。
先程は受け止められたゴライオンの左拳が真正面からダンの胸部を打つ。
今度は僅かではなく、大きくダンの躯体がよろめく。
ダンの胸部装甲には明らかなへこみが生まれ、レーベンは手ごたえを覚える。
しかし、ヴァンもただでは終わらない。
体勢を崩されたダンを踏みとどまらせ、ガーディアンズソードを振るわせる。
逆袈裟に走る刀身は真っすぐゴライオンの胸部へ。
だがそれは結局のところ苦し紛れの一刀にしか過ぎない。
渾身の一撃には届かない斬撃をレーベンははっきりと見切る。
それも余裕げに――ゴライオンはガーディアンズソードを掻い潜り、再び軽やかに跳ぶ。

「受けろ獅子の一撃を!レーザーマグナム!!」

全長60メートル、重量700トンの巨体を誇るゴライオンが華麗に舞う。
右脚を突き出しダンを思い切り蹴りつける。
左拳よりも更に重い衝撃はダンを襲い、いとも簡単に蹴り飛ばす。
ダンのその重厚な躯体はやがて仰向けに倒れ、地表を抉り、砂塵を吹き散らす。
更にレーベンは卑しく口元を歪めながらゴライオンを操作。
左腕の緑獅子からレーザーマグナムを連射し、未だ立ちあがっていないダンを狙い撃つ。
再び巻き起こるは圧倒的な砂塵の渦。
ダンが健在であるかどうかは肉眼では確認できない。

359その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:09:47 ID:KgJ9boh1

「ヒャアッハッハハハハハハハハハハハハッアハアハハハ! せめて光栄に思うがいい! カイメラの若獅子は相手がだれであろうと全力を尽くす!
全てはエーデル准将のために……そう、エーデル准将の御心のままに!!
所詮キサマとは見ている世界が違うんだよ! ヴァンッ!!」


しかし、レーベンにはわざわざ確認するつもりはなかった。
狂ったように言葉を連ねるレーベンの目的はただ一つ。
世界を統治するに相応しい御方、エーデル准将の手足となって闘う。
即ちエーデル准将の邪魔になるもの、エーデル准将を愚弄するものを見逃すつもりはない。


「だが、キサマはあの御方を弄した! キサマのようなクズがだ! エーデル准将は俺の全て! 世界になくてはならない御方だ!
許せんよなぁ! ああ、絶対に許せんなぁッ!! 醜い存在でしかない女で唯一偉大な存在な、最高の女性であるあのお方を愚弄するなど!!
ヴァン! 誇り高きカイメラの一人として俺は必ずキサマを殺す!! そうだ、だから――」


そしてダンを操縦するヴァンはエーデルをハッキリと侮蔑した。
故にレーベンの怒りは収まらない。
レーザーマグナムによる掃射を一旦止め、ゴライオンはあるものを手に取った。
先程ダンによって弾かれ、地面に転がっていた一本の剣が再びゴライオンの手に。
十王剣と名付けられたそれはゴライオンが持つ最強の剣だ。
ゴライオンの馬力を以ってして振るわれる一撃はダンの装甲も斬り裂くことだろう。
更にダンは依然として沈黙している。
最早勝利は目前――レーベンは血管を浮かばせながら声高らかに叫ぶ。



「ギブアップは許さん! 死いねえええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」



決定的な勝利宣言。
もはやレーベンは自分が負けるとは夢にも思っていない。
冷静とはいえないレーベンの性格、そして戦況を見ればそう思うのは無理もない。
だが、そう思いこんだこそ逆に衝撃は大きいものだ。
フルパワーでダンの方に突進を掛けようとしたゴライオンの動きが唐突に止まった。


360それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:10:12 ID:H3pLL2YM
361その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:10:31 ID:KgJ9boh1



「――ッ! なんだと!?」


機体にトラブルが生じたわけではない。
理由は言ってみれば至極単純なこと。
揺るがない勝利だと思っていた闘いに一つの転機が訪れたためだ。
小刻みな動作はやがて、己の剣を支えにしてしっかりと二の足で立ち上がることを可能とさせた。
ゴライオンの前に一体の、只唯一の武神が威光に溢れるその勇姿を再び見せる。
朝焼けの日を背に立ちそびえる姿は人よんで武神装甲。
ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン、ダイゼンガー、そしてダン。
左腕にガーディアンソード、右腕には一本の大太刀。
操る操縦者はオリジナルセブンと呼ばれる改造者。
そいつはどこか抜けた男だ。


「クソッタレ、ようやく慣れてきた。あー……レーベンだがベンベンだがしらねぇが、なめてんじゃねぇ」


夜明けのヴァンはダンの操縦宅でゴライオンを睨みつける。
いや、正確には今頃ゴライオンの中で驚いているレーベンを憎しみが籠った目で睨んでいる。
何故ならレーベンの言っている事はヴァンにはちっとも理解出来なかったから。
なにもレーベンのの話す言語が理解出来なかったわけではない。
問題はその内容、レーベンの言っている事はヴァンにとっての前提と著しく矛盾していた。


「たしかに俺はクズかもしれねぇ……親も知らない、他人がどうなろうとどうでもいい、俺が生きてりゃそぉれでいい!
だがてめぇの言ってること全部にハイそうですかと頷くわけにはいかねぇ!
最高の女だぁ? ハッ! エーデルなんか知らねぇ! てめぇのようなヤツが気にいる女なんぞ知りたくもねぇッ!!」


まるで野良犬のように生きてきた。
自分を取り囲む世界は単純だったから。
その日その日の食料を求めて、そして食べる。
他人とは関わらず、いつか終わるであろう自分の人生を終えていく。
自分を生んだ親を捜すこともなく、特に目的のないままに過ごしてきた。
そんな生きているか死んでいるかわからない人生であいつはこともあろうことか手を差し伸べてくれた。
他の誰でもない、ただヴァンというボンクラをあいつは求めてくれた。
そうしてあいつの手を握った瞬間、急に世界は複雑に変わりだした。
見えたものは目的、初めて生きたいと心から願った。
そう、あいつと、あの野郎に殺されたあいつと――。

「俺にはどうしても殺してぇヤツがいる! そいつは奪った! 俺の大事なものを、俺の大事な女を!
だからてめぇが言うエーデルって女がもし俺の邪魔になるなら……いいぜ! ぶっ殺す!
てめぇにとって大事な女だろうとこの俺が必ずぶっ殺してやる!!」

362それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:11:00 ID:H3pLL2YM
363その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:11:26 ID:KgJ9boh1


そして俺は強く思っている。
どれだけ落ちぶれようと、ボロクソになろうとも構いやしない。
生きてやる。誰がなんといおうと生きてやる。
どれだけ他人に嫌な顔をされても勝手に生きてやる。
俺は、あいつとの出会いを、まだ、思い出にはしたくない。


「ふざけるな!貴様如きがあの御方をどうこう出来るわけがない!!
それにエーデル准将以上の女など居るわけがない! そんなこともわからないとはどこまでバカなんだ貴様あああああああああああッ!!」
「お前、アレだな。お前こそバカってやつだな! それも救いようのないバカだ! とんでもないバカだ! このバーカ野郎!!
だから特別にだ。教えてやる……この大バカ野郎!!
最高の女ってヤツはなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


こいつはダンじゃない。
勝手にダンと呼んではいるがダンじゃない。
たしかに頑丈で強力な剣はあるがダンじゃない。
ダンじゃない、ダンじゃない、ダンじゃない――。
本当の、あいつのダンには力がある。
このダンよりも、もっと。もっととてつもない力がある。
オリジナルセブン用のヨロイだからってわけじゃない。
もっとなんというか、単純な。俺でもわかるくらい単純な。
いちいち口に出さなくてもわかるような、少なくとも俺だけにはわかるような力だ。
だってそうだろう。ダンはあいつと俺が造ったんだ。
わかるに決まってる。俺がテストし、あいつが造ったダンにはあいつの想いが籠ってる。
そして俺の想いも。だから、ダンを取り戻すまでは死んでも死にきれねぇ。
取り敢えず言いてぇこと言ってからこいつをぶっ飛ばす。
そうさ。最高の女は、最高の女は――あいつしかいねぇだろうが!


「エレナだ! てめぇがなんと言おうとエレナだ! ああ、エレナだ! 俺が愛したエレナだ!!
てめぇの言うエーデルなんかよりも百倍良い女だ!!
それがわかんねぇならてめぇはやっぱりバカだ! このバカバカバカバカバーカ野郎ッ!!」


ガーディアンズソードを投げ捨て、ダンはゴライオンへ突貫する。
空くことになった左腕はやがてあるものを握る。
右腕の下に、ガーディアンズソードのものよりも更に太い柄を支えるように。
ダンが両手で持つものは今まで振るわれなかった大太刀。
構成材質の特性故に自由に形状を変えられるそれは、本来のダンの太刀と同じ型になっている。
数々の特機が持ち、数多の敵を斬り伏せた至高の一刀。
人類の生き残りを、地下に眠りし人類の方舟を護るための剣として。
またある時は迫りくる悪を断つ剣として。
そしてまたある時は人類を滅ぼさんとする神を断つ剣として。
渾身の力と共に振るわれ続けたその刀こそ斬艦刀と呼ばれる業物。
参式斬艦刀をダンは横薙ぎにゴライオンへ向かって振るう。

364その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:12:13 ID:KgJ9boh1


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「なに!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


予想以上に強い斬戦刀の勢いに思わず驚くレーベンだが彼も十王剣を振るった。
真っ向から斬艦刀と十王剣がぶつかり合う。
生まれ出る火花は先程のガーディアンソードとゴライオンの右拳のそれと比べるまでもない。
一方、均衡状態であることは以前と変わりない。
どちらも一歩も退くようすはなく、決着は簡単にはつきそうにない。
いや――それはどうやら誤解だったようだ。
踏み込んでいたゴライオンが明らかに震えている。
どうにも前へ推し進めない。
目の前の武神の斬艦刀が十王剣を確実に押し込んでいる。

「なに! こ、こんなバカなあああああああああ!!」

思わずレーベンは絶叫し、無我夢中にゴライオンを動かす。
だが、既に優劣は決まってしまっている。
機体性能の差ではない。
何故ならレーベンは間違っていたのだから。
確かにエーデルはレーベンにとっては最高の女性であると言える。
しかし、当然のことながら他の人間の場合もそうとは限らない。
個人の趣味は千差万別。とうてい統一できるものでもない。
それもよりによってこんな男に話したのが間違いだった。
愛した女性の復讐のために生きているヴァンが今さらエーデルに惹かれるわけがない。
そして何よりも、ヴァンが素直に他人の言う事を鵜呑みにするわけもなく、
ただ、彼は根本的に――バカだから。
したいようにする、ヴァンがするのはそれだけだ。



「チェストオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


ダンは十王剣ごとゴライオンを横へ薙ぎ払う。
辛うじて切断は免れたものの、ゴライオンは強烈な勢いで吹き飛ぶ。
すかさず追撃を仕掛けようとするダンだが、ゴライオンは直ぐに体勢を戻す。
しかし、地上には降りたたずそのままバーニアを吹かせ、どこかへ飛び去って行った。
まさか撤退するとは思わず、ダンは追跡のタイミングを敢え無く見逃してしまった。




◇     ◇     ◇

365それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:12:25 ID:H3pLL2YM
366その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:13:01 ID:KgJ9boh1
このまま無理をしてでも追うか。
程良く頭をクールダウンさせながらヴァンはそう考える。
だが、既にゴライオンは見えなくなってしまっている。
かといってそれほど落胆が大きいというわけでもない。
追えないのであればまあそれでいいとも思えてくる。
戻ってくるならまだしもわざわざ手間をかけて追ってやるのも面倒くさい。
ぶっちゃけてしまえばレーベンなどヴァンにとってどうでもいいのだから。
但し、エレナについて言ったことは別なので今度出会ったら逃がしはしないが。
それよりもヴァンの意識を放さないのはこれからどうするかについて。
顔を下げて、ヴァンにしては珍しく今後のことについて頭を働かせる。

「もしもし」

殺し合いだろうと関係ない。
自分の目的はカギ爪の男一人のみ。
エレナを殺したカギ爪をぶち殺すだけだ。
そのためにはこれからもこの慣れない操縦系に慣れる必要がある。

「あのー」

一番いいのは本当のダンを取り戻すことだ。
ダンはエレナとガドヴェドの改造を受けた自分でしか操縦できない。
知らない奴に使われることはないだろう。
取り戻す方法は……これからどうにかしよう。


「もーしーもーしー」
「ん?」


そんな時、漸くヴァンは気づく。
どこからか声が聞こえていることを。
そう、レーベンをぶっ飛ばした後、誰も居ないと思いこんでいた。
だからこそ気付いていない。
モニターに一人の少女の顔が映っている事に。
そして男はゆっくりと頭を上げ、少女と対面する。



「…………」
「…………」

沈黙。
それは完全な沈黙。
ダンのモニターには透き通るような水色の髪を生やした少女が映っている。
黄金の瞳はどこか人工的で、神秘的な麗しさを漂わせている。
観察するように見つめる少女の様子からきっとヴァンの顔も見えているのだろう。
しかし、ヴァンは何も言わないしこともあろうか少女の方も何も言わない。
理由はズバリ、ヴァンにとって目の前の少女は面識がなかったから。
実際は声だけは、それも自分から話しかけはしたのだが綺麗さっぱりとヴァンはその事実を忘れていた。
367その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:13:44 ID:KgJ9boh1

「………………」
「………………」

そしてその沈黙は実に長い。
誰だこいつ、まあほっとけば向こうから話しかけてくるだろう。
勝手にそう思い込んでいたヴァンに無意味な緊張が走る。
何か言おうか言うまいか。
無常に過ぎていく時間の中、微妙に居心地悪く感じながらもヴァンは考える。
そんな時、やがて少女の手元が僅かに動いた。
ヴァンの視線を受けながらも少女は軽く右腕をあげた――。


「ぶい」


再び沈黙。
ただし、ヴァンの方は口を開けたままあんぐりと。
少女は右手で可愛らしくピースサインをしている。
本当に、ただ、ぶいと言いながらヴァンに向けてピースサインを送っている。
これは一体なんだろうか。一体自分に何を求めているのだろうか。
思わずそんな疑問をヴァンは感じずにはいられない。
しかし、少女はさも当然のようにピースサインを崩さない。
表情は無表情そのもの。まるでヴァンの行動を待っているかのように。
無言のプレッシャーがモニター越しにヴァンへ容赦なく突き刺さる。
やがてヴァンは覚悟を決め、彼もまた右腕を――


「ぶ、ぶい」


上げた。上げてしまった。
見た目10代の少女と同じような仕草を取ってしまった。
少女の場合とは打って変わって可憐さの欠片もなく、惨めさすらも漂う。
当の本人であるヴァンも今、やってしまった後で後悔しているに違いない。
だけどもやってしまったものはもう仕方がない。
さも深刻そうな顔をヴァンは浮かべているが、実際はあまりにも痛いピースサインをやっているだけだ。
そんな時だ。ようやく少女の方がまるで助け舟を出すかのように口を開く。



「さて、バカなことはやめて本題に入りましょう。
ヴァンさん、出来ればあなたとお話がしたいのですが、機体から降りられますか?」
「……わかりました」


どうせなら最初からそう言ってくれ。
敬語で答えたヴァンがそう思ったのは言うまでもない。
そうこうしている間にそそくさとヴァンはダンから降りる。
目の前にはどこかで見たような機体が鎮座している。
まるで妖精を模したかのような機体はとある亡国の王女の専用機。
同型機との同時運用を目的とされたそれはフェアリオンと呼ばれている。
そしてフェアリオンを支給された参加者こそが先程ヴァンに交信を呼び掛けた人物だ。

368それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:14:49 ID:H3pLL2YM
369それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:17:51 ID:xAWezj3m
 
370それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:18:25 ID:H3pLL2YM
371それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:20:11 ID:H3pLL2YM
372それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:21:17 ID:H3pLL2YM
373それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:21:31 ID:2X+1/XUD
 
374その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:21:53 ID:KgJ9boh1
「私は地球連合所属、ホシノ・ルリです。先程は助かりました、どうもありがとうございます」
「ん、ああ」

電子の妖精ことホシノ・ルリはちょこんと頭を下げ、ヴァンに礼を言う。
恐らくヴァンは忘れてしまっているだろうが元々ルリはレーベンに襲われていた。
そこを結果的にヴァンが助けることになったのだからお礼を言うのは当然だろう。
先程のピースサインのようなちょっとした遊び心は一切合切排した、至極礼儀正しいお礼がヴァンに向けられる。
そんなヴァンはあまり思わず硬直する。
ヴァンにはこんな風にお礼を言われた経験はあまりない。
故にどう返したらいいか微妙に困り、思わず視線が宙へ泳ぐ。

「まあ、その……アレだ」
「なんでしょうか?」

ヴァンの要領を得ない言葉に律儀にルリは相槌を打つ。

「お前、カギ爪を知ってるか? 右腕がカギ爪になっているヤツなんだが」
「ごめんなさい、知りません」
「そうか」
「そうでした」
「…………」
「…………」

ヴァンは再び認識する。
これはアレだ。
またもや居心地の悪い沈黙が生まれたわけだ。
ヴァンはカギ爪の男に関する事以外はどうでもいいと常日頃から考えている。
よって必要以上には喋らない。
カギ爪に関する以外は基本的に相手に何かを言われて返す場合が多い。
だからこそヴァンはこの状況に困っている。
あまり喋ろうとはしない少女とただ向きあっている状況に。
やがてヴァンは再び口を開く。
見つめ合うのは億劫だと感じたのか微妙に顔を逸らしながらで。

「……じゃあ、俺はこれで」

くるりと背を向けてヴァンは歩き出す。
目指す先はもちろん跪かせたダンだ。
カギ爪を殺すためにはいつまでも道草を食っているわけにはいかない。
具体的にどうしようとはまだ決まってはいないがなんとかなるだろう。
取り敢えずはダンに慣れることも兼ねて歩き回るとしよう。
そんなことを考えていた時だ。

「待って下さい、ヴァンさん。もう少し付き合ってくれませんか」

いまいちピンとこない質問がヴァンの足を止める。
少女の言う事に従う理由はない。
一応助けたことは助けたが別にそれだけなのだから。
このまま無視していってもいいがそれも何か気が引ける。
だからあくまでも話を聞くだけ、ヴァンは胡散臭そうに振り返った。


「私の力なら……カギ爪という人の情報が得られるかもしれません」


ヴァンの両目がここぞとばかりに大きく開かれる。


◇     ◇     ◇
375それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:23:16 ID:H3pLL2YM
376それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:23:25 ID:xAWezj3m
 
377それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:24:00 ID:H3pLL2YM
378その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:24:23 ID:KgJ9boh1
「くそ、あの男……絶対に 許さんぞ!!」


ゴライオンを動かしながらレーベンは怒りを露わにする。
絶妙な機で撤退したため、機体自体の損傷に目立ったものはない。
しかし、切り札ともいえる十王剣の損傷は大きい。
無理もない。斬艦刀とやりあったのだから。
それもこちらは全力で振るうことが出来なかったためためだ。
使用するに支障はないが修理出来るならば越したことはないだろう。
どこか機体の修理を行える場所があれば立ち寄る必要はある。
そして出来るものならば――


「しかし、このゴライオンは素晴らしいが……もっとだ、俺にはもっと力が必要だ。
エーデル准将を御守するに相応しいもっと絶大的な力が……俺の命すらも燃やしつくせるような力が……!」



何者にも負けない力を。
たとえ身に余る力でもいい。
エーデル准将への愛を抱きながらレーベンは依然として殺し合いの舞台で踊り続ける。





【レーベン・ゲネラール 搭乗機体:ゴライオン(百獣王ゴライオン)
 パイロット状況:戦意高揚(戦化粧済み)
 機体状況:左腕にひび 十王剣(全体に傷あり)
 現在位置:C-6
 第一行動方針:ヴァンは次こそ必ず殺す
 第二行動方針:女、女、女、死ねええええええ!
 第三行動方針:ジ・エーデル・ベルナルについての情報を集める
 最終行動方針:エーデル准将と亡き友シュランの為戦う
 備考:第59話 『黒の世界』にてシュラン死亡、レーベン生存状況からの参戦】


【一日目 7:20】








◇     ◇     ◇

379それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:25:17 ID:xAWezj3m
 
380その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:25:23 ID:KgJ9boh1
「つまりだ。お前はその……ハ、ハッチングとかやらで色々とわかるかもしれないって言うんだな?」
「はい、ハッキングですね。もちろんそれなりの設備と時間は必要ですけど」
「それだ!」

言いなれない言葉であったためヴァンは見事に噛む。
やんわりと言い直すルリの返答にヴァンは喜びを隠せない。
生身、そして機動兵器による戦闘にはある程度の自信はある。
しかし、お世辞にも人当たりが良いとは言いにくいヴァンは情報を集めるのは得意ではない。
もちろんハッキングなどの電子技術は聞いたことすらもない。
その点、ルリはその筋では類まれなエキスパートだ。
少なくともヴァン一人で行動するかよりは色々と情報が集まることだろう。
まあ、それもルリが言った通り相応の設備などは必要とはなるだろうが。

「そのハッキングとかでカギ爪がどこに居るかわかることもあるのか?」
「ええ、絶対に出来ると断定は出来ませんが可能性はあるかと」
「よし、少しでも可能性があるってんならそれでいい」
「あ、それと一ついいですかヴァンさん?」
「どうした?」

ルリはふとヴァンに質問する。
ルリの口振りは何かを確認するかのようなものだ。
思わずヴァンは疑問の声を上げた。

「カギ爪という方にはもちろん本名はありますよね」
「まあ、そりゃあ……少なくともなにかはあるだろ」
「じゃあヴァンさんはカギ爪……さんの本名などは知ってますか?」
「ハッ、あいつの名前なんざ知りたくもねぇな! 俺が欲しいのはカギ爪野郎の命だ。それがどうし――」
「これを見てください」

そう言ってルリは一冊の冊子をヴァンに差し出す。
見なれない冊子をしげしげと眺め、ヴァンはようやく受け取る。
ページをめくり、ヴァンの視界には無数の字の羅列が飛び込んだ。

「なんだこりゃ?」
「いわゆる参加者名簿ってやつです。ヴァンさんにも配られたと思いますけど。というか全員に」
「あとで探す。カギ爪は……居ねぇか。で、これがどうしたって言うんだ?」

もっともな疑問をヴァンはぶつける。
ルリが何を言おうとしているのかさっぱりとわかっていないのは丸わかりだ。
ルリは特に抑揚もなく話を続ける。
その様子はヴァンの反応を予想していたかのようだ。

「見ての通りここには私たちを含めて70人の名前が書かれています。
何人かは本名ではないような人も居ますが、基本的には本名で書かれていると思います」
「ああ」
「そしてヴァンさんはカギ爪さんを捜しているけども本名がわからない。
でも、この名簿では大抵の人は本名で書かれている……この意味、わかりますか?」
「んー……ん、あ、あああああッ!?」

唐突にヴァンが叫ぶ。
浮かべる表情にはどこか得心がいった様子がありありと見れる。
さすがのヴァンも理解出来たようだ。
ルリも説明のかいがあったことだろう。

「もしかすれば……この中にカギ爪が居るかもしれねぇ……そういうことだな!?」
「はい。ヴァンさんにはわからないだけかもしれない。この中にカギ爪さんが居ることを。
もしカギ爪さんが参加者であるならきっとシャドウミラーも彼の情報を把握していることでしょう。
なら彼らの保有するデータベースにアクセス出来れば……あくまでも可能性の話ですけども。」
「いや、上出来だ。賢い奴だなお前」
「ありがとうございます」
381その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:26:08 ID:KgJ9boh1
互いに素直に言葉を返す。
ヴァンは本心から感心しているし、ルリも悪い気はしていないだろう。
やがてルリは名簿を仕舞い、改めてヴァンと向き合う。
ヴァンはもう視線を逸らしてはいない。
彼らの話は、協定に関する話はまだ終わってないのだから。

「そこで先程も言いましたが相談があります。
私は自分で言うのも情けないですがパイロットとしては心許ないです。
ですから……ヴァンさんには用心棒みたいな役どころをお願いしたいです。
もちろん情報は共有しますのでご心配なく。
主導権がどっちか、とかはまったく関係なしでいきましょう」
「要するに……めんどうごとは俺がダンで相手をすればいいんだろ?」
「ええ、ぶっちゃけそうですね」
「いいぜ、乗ってやる。俺の目的はカギ爪だけだ……ヤツに近づけるなら、それでいい」

カギ爪を殺すためならヴァンはどんなことだって出来る。
ヴァンにとってルリが信頼に値する人物かはまだ完全にはわからない。
だが、彼女の知恵は少なくともヴァンを越えていることはハッキリとしている。
それにヴァンの本業は闘うことだ。
あれこれと考えることは得意ではないし、それをやってくれるというのならば是非とも任せておきたい。
そうすれば自分は戦闘に集中できるだろうから。
そんな時、ルリがヴァンの方へ右腕を差し出す。
ルリの黄金の瞳がヴァンの瞳を映した。


「それでは交渉成立……ということでいいですね。では改めてこれからお願いします」
「ああ」


長さの違う互いの腕が伸ばされ、握手が交わされる。
それは一つの同盟が生まれた証でもあった。



◇     ◇     ◇


ヴァンがダンに乗り込んでいく様子を眺めながらルリは思う。
取り敢えずの交渉が上手くいったことは確かな成果に違いない。
だが、ヴァンは無差別に他者を襲う人物ではないとは思っていたがそれでもやはり不安はあった。
清潔感があるとは言えず、一見してのヴァンの印象はあまり良くない。
多分全うな仕事にも就いていないのだろう。
それでもヴァンの戦闘技術は自分では到底届かない。
ヴァンと協力関係を持てたのはマイナスではない筈だ。
しかし、ふと思い当る。
何故自分はヴァンに協力関係を持ち込んだのか。
単に自分を助けてくれた事実が彼への警戒を緩めたのかもしれない。
もちろんそれもあるだろう。
だけどもルリは確かに感じていた。
このヴァンという男はどこかあの人に似ていることに。

382それも名無しだ:2010/01/07(木) 00:26:41 ID:H3pLL2YM
383その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:27:12 ID:KgJ9boh1
(復讐……ヴァンさんも同じ。あの人……アキトさんと同じく大切な人を……)


テンカワ・アキト。A級ジャンパーにして元ナデシコAクルーの一人。
戦争終結後はルリを引き取り、ラーメン屋の屋台を押す生活を続け、愛した女性と結婚し――そして全てを失った男。
視覚も、聴覚も、触覚も、嗅覚も、料理人としてはなにものにも代えられない味覚も、
なによりようやく結ばれた花嫁すらも、彼は火星の後継者と名乗る者達に奪われた。
アキトが選んだ道は復讐の鎧で身を守ることだ。
絶えず流し続ける涙すらも隠し、漆黒の鎧で復讐鬼としてアキトは今も戦っていることだろう。
それこそ自分一人で、たとえどんな生き方をすることになろうとも。
そしてヴァンの方も同じだ。
詳しい事情を聞いたわけではない。
だが、先程の戦闘中の会話を聞けば自ずとわかってしまう。
ヴァンがいかにエレナという女性を想っていたか。
その女性をカギ爪に殺された時、彼は一体どんな顔を浮かべていたのか。
きっとそれは想像出来ない程の非壮さに塗れたものだっただろう。


(悲しいですね。でも悪い人ではない……そう思います私は)



戦闘中のヴァンははっきり言ってあまり良い感じはしなかった。
あのレーベンという男のように、自分の感情を惜しげもなく晒す姿には醜悪さもあった。
しかし、だからといってヴァンという個人を嫌悪する気にはなれなかった。
ヴァンはロボットアニメのゲキガンガーや火星の後継者が良く口にする正義や悪など考えてはいないのだろう。
ヴァンはレーベンが気に入らなかった、たったそれだけの問題。
狂変したとも取れる様子は、ただ気に喰わない想いを誰よりも純粋に発散しただけの事。
だから何も判りあえないわけではきっとない。
故に興奮していたヴァンを落ち着かせる意味も兼ねてピースサインをした。
見慣れない人物が更に予想だにしないことをすれば嫌でも注意は向いてくれる。
別に伊達や酔狂でやっていたわけではない。
まあ少しは童心に帰った想いがあったのも確かだ。
たとえばナデシコAのオペレーターとして過ごしたあの忘れえぬ日々の感覚が少し蘇る。


「――おい、そろそろ行くぞ。えーっと……すまん、お前の名前……なんだったかな」


そんな時、ヴァンから無遠慮に通信が入った。
だがその内容はなんとも間抜けなもの。
確か名前を教えたのは数分前だった筈。
こう言っては悪いけどもヴァンはあまり知性的には見えない。
やっぱり記憶力の方も。やっぱりという言い方も失礼だな、とルリは少しだけ反省する。
だけど不思議と悪い気はしない。
むしろヴァンの人間らしさが感じられ心地よいとも思えてくる。
復讐のためだけの人生はあまりにも悲しすぎるから。
たとえ口を出せないものだとはわかっていても、やはりそう思ってしまう。
そして少し呆れながらも、ただし表情には見せずにルリはヴァンにもう一度名乗る。





384その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:28:19 ID:KgJ9boh1
「あー……わかった」

直ぐにヴァンは言葉を返してくれるが微妙に頼りない。
また忘れてしまうのではないだろうかという不安がどうにも拭えない。
そんなことを考えている内にヴァンは先へ進んでしまう。
おそらくレーダーを元にどこか近場の施設を捜してくれているに違いない。
操縦に慣れてないかまたは土地勘がないためか、ダンが時折迷ったような素振りを見せるのがどこか可笑しい。
そう、何故だか笑みが零れてくる。
本当にこの勇ましい機体をコミカルに操縦している男は、先程激しく戦った人物なのかと疑ってしまう。
なんというか凄いギャップを感じ、それがまた可笑しい。
ヴァンだけではない。
あのレーベンという男もそうだ。
ヴァンとレーベンは互いに言いたい事を真正面から言い合っていた
自分という傍観者が居たにも関わらず、なんの惜しげもなく自らの愛を語っていた。
真剣な様子で、まるで他の何ものも眼中にはない様子で。
ただ自らの想い人への純粋な愛が彼らを一種の暴走状態へ誘ったのだろう。
凄いことだとは思う。ただ、言い方は悪いが離れた位置で見れば少し――なような気もする。

(なに考えてるんですかね……私も)

決してルリは彼らの愛を否定しているわけじゃない。
ただ、少しだけそう思っただけのこと。
もしかしてあんな風に素直に自分の感情を出せる事に軽い嫉妬を覚えているのだろうか。
アキトに対してあんな風に感情を伝えることが出来れば――流石に話が脱線しすぎたとルリは気づく。
まあ、一つ言えることは自分もまともではないことだろう。
なにせ殺し合いの場でこんな変なことを考えている。
だからもうこの話はおしまいにしよう。
今はヴァンと協力し、必ずナデシコに帰還すること。
最終目標は忘れずに、ルリはフェアリオンの操縦に意識を傾ける。
あの日々の思い出を懐かしんだせいか、あの頃の自分が良く口にしていた言葉を紡いで――





(バカばっか……ですね、私もみなさんも)





ルリは自分の戦いが今、始まったことを強く意識した。





385その男達、バカにつき ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:29:03 ID:KgJ9boh1
【ヴァン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:
 機体状況:斬艦刀verダンの太刀、ガーディアンソード 胸部にダメージ中 全身に軽い焦げとダメージ小
 現在位置:C-5 平原
 第一行動方針:エレナの仇、カギ爪野郎をぶっ殺す!あん、未参加?まだ決まったわけじゃねぇ!
 第二行動方針:ダンを取り戻す。
 第三行動方針:ルリと共に施設を目指し、カギ爪の男の情報を集める。
 最終行動方針:エレナ……。カギ爪えええええええええええッ!
 備考:斬艦刀を使い慣れたダンの太刀、ヴァンの蛮刀に変形できます。
    十四話直後からの参戦です】



【ホシノルリ(劇場版) 搭乗機体:フェアリオンGシャイン王女機(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:良好
 機体状況:アサルトブレード装備、中破、EN消費(中)、エネルギーフィールド発生装置負荷大
 現在位置:C-5 平原
 第一行動方針:ヴァンと共に行動する。
 第二行動方針:自身のハッキング能力を活かせれる機体を見つけたい
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する
 備考:ヤマダ・ジロウ(ガイ)は同姓同名の別人だと思っています】




【一日目 7:20】


386 ◆40jGqg6Boc :2010/01/07(木) 00:30:09 ID:KgJ9boh1
投下終了しました。
長い間支援どうもありがとうございます。
387それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:01:48 ID:H3pLL2YM
投下乙!
ヴァンかっけえなあw
この馬鹿は見てて気持ちイイや。
抜けてるっつうか大雑把なとこもらしいw
そしてぶいはよめなかった。
ルリルリ可愛いよ、ルリルリ。
アキト重ねるよなあ、そりゃ。
いいコンビになりそう。
レーベンもどうなるか楽しみだしGJ
388それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:20:22 ID:xAWezj3m
投下乙です
そうか、花嫁と普通の身体を失った復讐鬼か
この二人を出会わせたのはそういうことかと今さらながらに気付かされたよ
そしてレーベン、ゴライオンこそかつて宇宙中を暴れまわり神に挑んだという絶対的な力を持った機体だ
本来なら5人乗りで邪悪な心の持ち主には操縦できないそれこそお前の身に余るものだから扱いきれないだけだ
389それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:28:27 ID:H3pLL2YM
390 ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:29:58 ID:2X+1/XUD
投下乙ですー
おおう……そうかヴァンはアキトと接点あるよなそりゃあ。
ヴァンもカッコイイしこのコンビはどうなる事か。
先が凄く楽しみだw
GJ

ではこちらも翔子、ルネ、ユウキ投下しますね
391それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:31:01 ID:H3pLL2YM
392勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:31:16 ID:2X+1/XUD
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ァガ!?」
「アグッ!」

宇宙へただ真っ直ぐに光を切り裂き進んでいた獅子の名を持つルネが翔るダリア・オブ・ウェンズデイ。
宇宙から地上に向けて、破滅の光を撃ち込んでいた羽佐間翔子が操るウイングガンダムゼロカスタム。

その二機が衝突したのは本当に偶然の事であり、それは二人にとって不運ともいえる結果となってしまった。

「……チッ」
「そんな……もうこんな近くまで!?」

ルネの舌打ちを聞きながら目の前に浮かぶダリアを見つめ、狼狽する翔子。
まさかこんなにも早く接近を許すとは思っていなかったのだ。
長距離からの狙撃という慢心もあったのかもしれない。
しかし、逃げられる事はあったとしてもまさか接近してしかも、近距離戦に持ち込まれるとは流石に予想は出来なかった。
ゼロカスタムは近距離戦は出来るものの、やはり本領はバスターライフルを使った戦闘である。
この機体と機体が密着する距離では明らかに不利だと翔子は思っていた。

だが、それはルネにとっても不運である事は変わりなく、むしろルネは翔子の方に分が大きくあると考えてたのだった。
ルネとしてもまさかぶつかるとは思ってはいなかった。
ぶつかった瞬間、ルネはオートモードを解除し、ゼロカスタムと向き合っている。
このまま離脱しても背後から狙われる様では格好の餌でしかなりえない。
ならば、このまま近距離で戦うしかないのだがルネとって誤算が一つあった。

(チッ……この機体……宙間戦闘は上手くいかないのか)

それはダリア・オブ・ウェンズデイが宇宙での戦闘を考慮されてない機体であった事。
思う様に動かせず、ルネは戸惑ってしまう。
いくら、混を持って様と使えない様では話にならない。
それに今は大気圏近くであり、このままで地上に引っ張られてしまう。
幸いにも翔子は気付いていないが、この状況はルネにとって最悪でしかなかった。
ルネが見た所、相手が操る機体は宙間戦闘は出来る機体である。
つまり、いくらこちら側に戦闘技術があろうともその差は埋めようが無い。
もし、翔子が自分の有利に気付きかかってこられたらひとたまりもないだろう。

だが

(なら……やるしかない!)

翔子よりも早くルネはいち早く思考を切り替えた。
その差はやはり戦闘経験の差と持ちえる『勇気』の差。
無理な状況なら無茶で押し通すしかない。
そうルネは思いたち覚悟を決め、

「ハァアアアアアアアア!!!」
「きゃぁ!?」

ダリアは操作し両手でゼロカスタムの胴と顔を抑え、そして

「一緒に……墜ちろォオオオオオオオ!」
393それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:32:06 ID:H3pLL2YM
394勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:32:15 ID:2X+1/XUD
ゼロカスタムを楯にしながら大気圏の下、元いた地表と降下を始めたのだった。
そのまま、相手の機体を楯にして地上に戻る。
それがルネが下した決断だった。
このまま宇宙で戦闘するようでは明らかに自分の負けが目に見えている。
ユウキの助けを待つという弱い考えなんて持つ気もしなかったし、期待もしなかった。
ならば、無茶に賭けるしかない。
相手の機体は単独で大気圏突入できる代物だ。
それを楯にして落とせば相手の機体にも損傷が入るだろうし、無茶な突入で相手のパイロットも無事ではすまないだろう。
しかし、当然それでいくら楯にしたからといってルネの機体が大丈夫といえる訳が無い。
もしかしたら一緒に燃え尽きて死ぬかもしれなかった。
ただの無謀な作戦にしかにしか見えないかもしれない。

だが、それでもルネは自分の勝利の為に『勇気』を信じた。
少しでも希望があるならそれに向かって突き進む。

それがルネ・カーディフ・獅子王が選んだ道だった。


「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――!!」
「きゃぁああああああああああああ!!!!」

ルネの気合を籠めた叫びが宇宙に響く。
それと同時に凄まじいスピードで落下していく2つの機体。
ルネの気迫は鬼気迫るものがあり、翔子はなす術も無くただ機体と同時に落ちていくだけ。

「よし……このまま…………?」

その様子にルネは勝利を確信しようとした時だった。
もはや気迫すら感じられない翔子からうなる様な呟きが聞こえてきたのは。
その呟きに籠めたものには狂気すら感じる強い信念。


「……ない…………る為に…………私は…………」





その刹那。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






395勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:33:04 ID:2X+1/XUD
墜ちるの……?
私は飛べずに墜ちちゃうの……?
そらも自由に飛べないまま墜ちてしまうの?

一騎君を護れないまま死んでしまうの?
一騎君の為に戦えないまま……墜ちてしまうの……?
一騎君の為に何も出来ないの?


……私は自由にそらも飛べずに死んじゃうの?




――――嫌。


そんなの絶対に…………嫌っ!!!!


私はまだ生きたい!

一騎君の為にっ!
一騎君を護る為にっ!

こんな所で死ねないのっ!


飛べる。
飛んでみせる。

私は自由にそらを飛翔してみせる!


お願い……ゼロ。

導いて……一騎君を護る為に!


空翔ける翼を持つガンダム……


私は…………


「死ねない……」

まだ死ねない。
絶対に死ねない。

「一騎君を護る為に……」

一騎君の為に。
一騎君を護る為に。
396それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:33:29 ID:H3pLL2YM
397勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:34:13 ID:2X+1/XUD

「私は……」


そらを


「――――飛ぶんだぁあああああああああぁぁああああああ!!!!」







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「――――飛ぶんだぁあああああああああぁぁああああああ!!!!」

そらに響く翔子の悲痛の叫び。
ルネがそれを聞いた時、翼を持つ機体は拘束を離れ、空を翔けていた。

「なっ……!?」

そして、気付いた時にはダリアの左腕は切り離され、両足も切り刻まれていたのだった。
ダリアの胴体も銃撃を喰らったかのように装甲のあちらこちらに穴が開いている。
正しく刹那の出来事。
翔子はゼロの導きにより、それをやってのけた。
まず、マシンキャノンにより密着状態から離れ、その直後にビームサーベルで切り刻んだだけの事。
普通ではまず難しい事なのだが、翔子が持つ天才症候群故にそれをイメージし直ぐに構築できた。
それだけの事だった。

「墜ちろぉおおぉおおおおおおおおお!!!」

そのまま、自由に動けないルネは蹴り飛ばされただ地に墜ちるしかない。
無茶な賭けはやはり無茶なままだけだった。
それだけの事。

(……っ……終わりなのか……?)

ただ、地に引っ張られるのを感じながらルネは思う。
ただ、墜ちていくだけのダリアの中で自身の生の終わりを。
いくら自分が死ににくい身体としても今にも分解しそうなダリアと共に地に墜ちれば死ぬだろう。
もし奇跡が起きるとしてもきっと追撃されるに決まっている。
だから、もう死ぬしか残っていない。

けど

(終われるの……か?)
398それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:35:44 ID:xAWezj3m
 
399それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:35:47 ID:VOpnbXlJ
支援
400それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:36:02 ID:H3pLL2YM
401勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:37:11 ID:2X+1/XUD

これでルネは満足に終われるのだろうか。
自分がこれまで歩んだ道を思い出し考える。
困難ばかりだったが、それでも今まで生きていけた。
なのに、今は何もせず、死を待つだけなのだろうか。


「違うっ……!……まだ終わっちゃいないさ!」

違うとルネは言える事が出来た。
自分の死は恐らく覆らないだろう。
でも、敵機を撃ち落す事ぐらいはきっとできるはず。
胸に燻っていた勇気を再び震わせ、少し遠くに移るゼロカスタムを睨む。
そして

「貫けぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」

叫びと同時に放たれたもの。
それはダリアが持っていた棍だった。
辛うじて残っていた右手でゼロカスタムに向けて投げ放ったのだ。
思い立った考えは単純。
残った手を使って唯一の武器を敵に向かって投げるだけ。
上手く当たれば敵を落とす事ができるだろう。
でもそれは、やはりとても無謀な考えだと言える。
普通に考えれば当たる訳ないのだから。
だけど、その考えは勇気に従っただけ。
そう、失敗を恐れないと言う『勇気』を。

だからルネはそれを投げられた。
信じる『勇気』の下に。

光の如く進む『勇気』の矢を見ながらルネは落ちていく。
残念ながら結果を見届ける事は出来ないようだ。
恐るべき速度でダリアは地に向かっていく。

でも、それでも。

「まあ……満足だったよ」

ルネは満足だった。

自分の信念を貫き通す事が出来た。
自分の『勇気』を示す事が出来た。

そんな気がしたから。


そして機体が墜ちていく。

「……ん? あれは……」
402それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:37:43 ID:xAWezj3m
 
403勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:38:12 ID:2X+1/XUD
その最中見つけた自分とは逆に宇宙へ向かっていくシャトル。
恐らくそれはルネが先程まで行動していた男が乗っているものだろう。
いまいち弱気な男だった。
立派な名前は持っているのにとルネは思う。
そう、思いたった時

「ユウキ・ジェグナン!」

ルネは彼に向かって声をかけていた。
届く訳が無いだろうが、何故か。
ルネは言葉を残そうとしていた。

「お前の『勇気』を信じろっ! 『勇気』のままに行動しろっ! お前が持つ『ユウキ』の名の様に……『勇気』をもてぇっ!……『勇気』を託したぞ!」

偶然にも『勇気』の名を持つ彼に。

伝わるか解らないけど。

言葉を何故か残していた。

ルネの『勇気』を彼に託す為に。

ユウキに希望を託したのだった。


そしてシャトルが見えなくなっていき機体が燃えていく。
やがて自身の身体も燃え尽きていくだろう。


そらに還っていく最中


走馬灯の様にルネの頭に色々なものが巡っていく。


「J……」

大空を愛した男。

その顔思い出し……ルネは笑い。


そして――――


最期に浮かんだのは――――



「なんで……最期が……おま――――」



――――父親の顔。





【ルネ・カーディフ・獅子王 死亡】
404勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:39:07 ID:2X+1/XUD








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「間に合ってくれ……!」

舞台は変わって地上から今、宇宙に向かっていた男、ユウキ・ジュクナン。
ルネを助けに行く為に基地を探してやっと見つけたシャトル。
だが、それに乗り込むのにまた時間がかかってしまった。
それでも、ユウキにしてみればタイムロスは殆ど無かったはずだ。
これなら少ない確率だが間に合う可能性がある。
そう踏んでいた直後だった。

「……なっ」

目の前に燃え尽きながら落ちていく機体を見つけたのは。
その機体を見てユウキは絶句する。
それはユウキが先程まで行動していたルネが乗っていたダリアだったのだから。
つまり戦闘は既に終わり、その結果ルネは敗れてしまったという事。
そして、ユウキが間に合わなかった事と同意義でもあった。
その残酷の事実に強く、強く唇を噛む。
握った拳に力が入り、真っ赤になっていた。
自分はベストな選択を取っていたはずなのに後悔がどうしてもわいてくる。
だから、ユウキはただ燃え尽きようとする機体を見るだけ。
その時だった。

『ユウキ・ジュクナン!』

ユウキの名を呼ぶ声が聞こえてきたのは。
それは本当に偶然だったけど。
確かにユウキの元に届いていた。

『お前の『勇気』を信じろっ! 『勇気』のままに行動しろっ! お前が持つ『ユウキ』の名の様に……『勇気』をもてぇっ!……『勇気』を託したぞ!』

その言葉と共に一方的な通信は終わりを告げた。
ユウキは何度も問いかけても、もう返事は無い。
恐らく、ルネは命を散らしたのだろう。
ユウキはそう考えると無言で強くコクピットの中を叩く。
拳から血が溢れてきそうなぐらい強く握っていた。
様々な感情が胸の中を渦巻いていた。
感情の整理はまだ着いていないが一つだけわかることがある。
405それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:39:13 ID:H3pLL2YM
406勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:39:54 ID:2X+1/XUD

ルネは勇気を貫き通し、それを自分に託した事。

ユウキは無言のまま、宇宙を見る。

その無限に広がる光景は。

ユウキにとって希望か絶望かはまだわからなかった。




【ユウキ・ジェグナン 搭乗機体:グランヴェール(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)withハロ軍団
 パイロット状態:失意。ソルダートJのコスプレ、シャトルの中
 機体状態:損傷なし、ただしコクピット内がハロで埋め尽くされている
 現在位置:b-2 大気圏上空
 第一行動方針:???????
 第二行動方針:仲間を集め(タスク、ヴィレッタ、ギリアム優先)、脱出方法を模索
 第三行動方針:なるべく基地は戦闘に巻き込ませたくない
 最終行動方針:打倒主催
 備考:グランヴェールはハイ・ファミリア使用不可能。
    紅茶セット一式を所持
 備考2:自分が立つ惑星がMAP規模程度しかない小惑星と認識。MAPの端と端は繋がっている、
     もとい小惑星とその周辺宙域のMAPを支給されたと認識】

【一日目 9:30】

※ダリア・オブ・ウェンズデイ(ガン×ソード)は燃え尽きました。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






407それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:40:07 ID:xAWezj3m
 
408それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:40:30 ID:H3pLL2YM
409それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:45:39 ID:3bfw7ljF
410それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:45:53 ID:xdGiw1J5
411それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:46:03 ID:KGFfinsH
 
412それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:46:32 ID:3bfw7ljF
413勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:46:35 ID:2X+1/XUD
「ふう……」

ルネを撃墜した後、翔子は一度また地上に戻っていた。
ルネの棍棒は難なく受け止める事ができた。
だが、ルネの粘りに少し冷や汗をかいた翔子は休憩をとる事にしる
降り立った場所は先程の基地で、翔子はそこで痛んだ機体の補給を行っていた。
その間、翔子は休憩をしていたのである。

「一騎君……」

コクピットの中で翔子は想い人の名前を口にする。
彼の為なら翔子はもっと頑張れる、そう思いながら。
先程の上昇による出血も止まり、基地にあった救護室の診断の結果たいした事はなかった。
その事に安堵しながらも、翔子はまだ戦える事にほっと安心する。
簡単な処置も済ませ、今はコクピットの中で休んでいた。

その時ふと、空を見上げる。
自由に翔けた青空。
その空を見ながら、翔子は真っ直ぐに両手を伸ばす。

「うん……私はもっと飛べる。空を飛ぶ事ができるんだ……」

そっと呟いて、優しく目をつぶる。

その目蓋の下に移ったのは


蒼い空を飛翔する自分と


大好きな彼の顔。


【羽佐間翔子 搭乗機体:ウイングガンダムゼロカスタム(新機動戦記ガンダムW〜ENDLESS WALTS〜)】
 パイロット状況:内出血(処置済み、止まっている)
 機体状況:良好、ダリアの三節棍所持
 現在位置:G-2 基地北部
 第一行動方針:敵を倒す
 第二行動方針:参加者の人数を減らす。
 第三行動方針:一騎、真矢、甲洋とは出来れば会いたくない。
 最終行動方針:一騎の生存】

【一日目 11:00】
414それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:46:44 ID:KGFfinsH
 
415それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:46:49 ID:H3pLL2YM
416それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:47:25 ID:xdGiw1J5
417勇気〜きぼう ◆UcWYLVG7BA :2010/01/07(木) 01:47:30 ID:2X+1/XUD
投下終了しました。支援感謝します。
418それも名無しだ:2010/01/07(木) 01:50:27 ID:VOpnbXlJ
乙!ルネはここで脱落か
短かったけどいいコンビだったぜ
そして奉仕マーダーの道をガンガン進む翔子に基地が占拠か
419それも名無しだ:2010/01/07(木) 02:09:40 ID:mayEZ09U
投下乙!
いくら勇気があってもルネの行動は無謀だったな。
ユウキも結局は振り回されて無駄足に終わってしまったな。けど、託された勇気とJの仮面を上手く使ってほしいな。
そして、翔子+ゼロの強さを再認識、一騎と会うまでに相当な奉仕を行うのだろうな。
420それも名無しだ:2010/01/07(木) 02:22:06 ID:xAWezj3m
おお、ルネが逝ってしまったか……このコンビはもうちょい見てみたかった
まあ地上での運用が基本な機体で宇宙でゼロカスとぶち当たっちゃどうしょうもないわなあ
それにしてもサイボーグのルネが気付いた時にはやられてるって翔子にゼロシステムは恐ろしいな
あと、さすがに今回はハロも空気呼んだのか
421それも名無しだ:2010/01/07(木) 03:26:00 ID:H3pLL2YM
ユウキと勇気かあ。
組ませた人が考えてたのか、氏が思いついたのかは知らないけれど上手いなあ。
ルネ・ユウキは短いけどいいコンビだった。
そしてゼロ翔子つええ!
422 ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:12:34 ID:yiQLTKI6
アルベルト投下します。
423バッドラックは突然に ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:13:37 ID:yiQLTKI6
「……無人、か」

D-6エリア南部の町に、男の声が響き渡る。
眼帯と銜え葉巻が特徴的なその男は、誇り高きBF団十傑集の一人、衝撃のアルベルトに他ならない。
彼はC-7エリアにて戦闘を行った後、比較的近辺に存在していた施設を目指していた。
シャドウミラーと名乗った組織が何者であるのかは知らない。
だが、衝撃のアルベルトは、あくまでBF団に忠誠を捧げた戦士である。
自分の命が握られているからとはいえ、偉大なるビッグ・ファイア以外の命令に従うような真似は、彼のプライドを逆撫でする結果となっ

ていた。
だが、現状のアルベルトに打つ手は無い。自分の身に生じている異常事態を、BF団に伝える手段が無いからだ。
たとえ通信機が無かったとしても、アルベルトは愛娘であるサニー・ザ・マジシャンと精神的な繋がりを持っている。
彼女を通じて事態の報告を行う事さえ出来れば、こんな下らない殺し合いを続ける必要は無くなる。
シャドウミラーと言う組織が如何ほどの力を持っているのかは知らないが、無名の組織如きがBF団に勝ると言う道理はあるまい。
BF団との連絡を付けさえ出来れば、後はもうシャドウミラーとやらの命令に従う必要も無くなる。
あのヴィンデルとか言う男を抹殺して、組織を壊滅状態に追い込む事は余裕で可能なはずであるからだ。
そうする事が出来ないのは、どうやったのかサニーとの精神的な繋がりを絶ち切られているが故の事であった。

(テレパシーのジャミングか? まったく、姑息な真似をする連中よ)

……おそらくは、サニーを通じて混世魔王・樊瑞にも、アルベルトの身に異常が生じた事は伝わっている事だろう。
詳しい事情はわからずとも、何らかの異常事態が生じた事はBF団側も理解しているはずだ。
通信装置の一つでも調達して、自分の状況を外部に知らせる事が出来れば、あの気に入らない連中を即刻片付る事が出来る。
そう思って、アルベルトは雪原を突っ切り町に向かった訳だが――

「……それにしても、えらく前時代的な街並みよ。今時、発電施設とは。シズマドライブが全く見当たらん」
424バッドラックは突然に ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:14:53 ID:yiQLTKI6
無人の町を調べた結果は、アルベルトの頭に疑問を植え付けるだけであった。
シズマドライブ。アルベルトが元居た世界で使われている、完全リサイクル可能で無公害なエネルギー。
全世界で標準的に使われているはずのそれが、この町では全く見当たらない。
いや、それだけではない。
BF団と連絡を行うべく探し求めていた通信機は見当たらず、これまた時代遅れの電話機があるばかり。
その電話にしても回線は途絶えており、全く使い物にならない状態となっていた。
そもそも、これだけ大きな町がゴーストタウン化している事がおかしい。
生活の痕跡自体は存在するのだ。
まるで住人だけが一瞬で消えてしまったかのように、生き物の姿だけが見当たらなくなっている。

……戦士としての経験と直感が告げている。
この町は……いや、この“世界”は、どこかおかしい……。

「……ちっ」

苛立たしげに舌打ちを鳴らして、アルベルトは考えを止める。
どうでもいい、詮無き事だ。
道路の真ん中に立ちながら、アルベルトは名簿を広げて目を通す。
名簿に記された参加者の名前を確認するが、この殺し合いに招かれたBF団の人間は自分だけ。
おまけに参加者の中には国際警察機構の九大天王である、静かなる中条も招かれているらしい。
生涯の宿敵である神行太保・戴宗でない事だけは残念だが、九大天王の一人を仕留める機会が訪れたと考えるなら、今の状況は悪くない。
つまらない思索に時間を取られるくらいなら、この強敵を倒す為に全力を注ぎ込むべきだ。
それでこそ、BF団十傑集! それでこそ、衝撃のアルベルト!

「ご期待下さい、我等が偉大なるビッグ・ファイア。目障りな国際警察機構の九大天王は、この私が必ず始末してご覧に入れましょう」

得体の知れない不安を振り切って、アルベルトは雪原の町を後にする。

だが――
425バッドラックは突然に ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:15:52 ID:yiQLTKI6





「ん……?」

……町を抜けて、しばらくの事である。
雪原を走り続ける彼の耳は、不気味な轟きを感じ取っていた。
ひどく、嫌な予感がする。
このままでは、なにか拙い事が起こってしまいそうな。
命の危険は感じない。
だが、これは……いったい、何の予感だ?

……アルベルトは知らない事だが、今と時を同じくしてD-6エリアでは激しい戦いが繰り広げられていた。
カナード・パルスと、アナベル・ガトーの戦いが、大きな山を隔てた向こう側で行われていたのだ。
両者の戦いは熾烈を極めて、そして攻撃の余波によって雪崩が引き起こされるに至った。

もう、お分かりの事だろう。
アルベルトの感じた不安が、何を感じ取っての事だったのかは。

ズズ、ン…………!

轟き渡る、低い音。
ゆっくりと山の上に視線を向けてみると、なにか真っ白い奔流が勢いを付けて落ちて来る様子が目に見えた。
……いや、持って回った言い方は止めよう。
雪崩、だ。
大量の雪が山頂から滑り落ちて来ている……!

「なぁ…………!?」

運悪く山の麓を走っていたアルベルトにとっては、不運の極みと言うしかなかった。

大量の雪が――
轟音と共に押し寄せて――――!
426バッドラックは突然に ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:17:17 ID:yiQLTKI6





……まあ結論から言うと、アルベルトは生きていた。
自然の猛威は恐るべきものだが、十傑集たる者、雪如きに押し潰されて死んだとあっては末代までの恥だ。
超人的な身体能力と、衝撃波を自在に操る力によって、アルベルトは無事に雪崩をやり過ごしていた。

ああ、いや……無事と言ったら、少し語弊があるかもしれない……。

「……………………ぶあーーーーーーーっくしょい!!!!!」

……びしょ濡れであった。
雪解けの水が凍り付き、アルベルトの身体を凍えさせていた。
BF団十傑集であるアルベルトは、雪崩に殺されると言う事は無かった。
それどころか、怪我を負う事すら全く無かった。
それは、確かに驚くべき事である。

だが、この状況を見ては決して無事に済んだとは言えまい。
いくら超人的な身体能力を持つとはいえ、アルベルトも人の子である。
極寒の雪原で氷漬けになっていたら、まず間違い無く凍死してしまう事だろう。

「さ……寒い! 寒いぞ! 何故だ……何故急に雪崩など……!? い、いや、今は暖を取る事が先決……!
 そ、そうだ……! さっきの町になら風呂が……!」

ガチガチと凍えた身体を震わせながら、アルベルトは元来た道を引き返して行く。

……風呂だ。
今はとにかく、熱い風呂に入りたい。





【衝撃のアルベルト 搭乗機体:なし
 パイロット状態:めっちゃ寒い……!
 現在地:D-6 山麓(南側)
 第一行動方針:風呂だ、風呂!
 第二行動方針:静かなる中条を抹殺する
 最終行動方針:参加者、次いで主催者を狩る
 備考:サニーとのテレパシーは途絶えています】

【一日目 8:30】
427 ◆ZbL7QonnV. :2010/01/07(木) 11:18:05 ID:yiQLTKI6
以上、投下終了。
次回お色気シーンの予感……!
428それも名無しだ:2010/01/07(木) 17:34:29 ID:ezEfe32k
お色気シーン…だと!?…
429それも名無しだ:2010/01/07(木) 17:48:46 ID:tlHYDO/B
なんつうところでぶった切ってんだよw
最高だけど最低だwww
430それも名無しだ:2010/01/07(木) 17:51:23 ID:v4oNDiU8
投下乙です!
次回(風呂)はもう一人男が乱入してアッー!ですね、わかります。
431それも名無しだ:2010/01/07(木) 21:04:00 ID:8tpSfm4q
おのれ、プルの入浴シーンすらないというのに!
けしからんもっとry
432それも名無しだ:2010/01/08(金) 00:23:25 ID:HLfha/pB
ウンブラとゼルエルが萌え要員で、アルベルトがお色気要員。

…………え?
433悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:27:10 ID:HLfha/pB
【一&六】


ザク、ザク、ザクと雪を踏む音だけが響いている。
朝の陽ざしに輝く銀色の世界を乱すように、一本の線が伸びていた。
パワーライザーの隙間から吹き込む冷え切った風が、シリウスの身体を容赦なく叩く。
荒野の多いクロノス星での活動が前提のパワーライザーは、雪原の移動には致命的に不向きだった。
周りには誰もいない。
ただ無言のまま、シリウスは雪原を歩いている。


【二】

剣に取り付けた機械が低い唸りを上げる。
ウンブラの、ターバンとフードの奥に光る三つの眸が何度か瞬かれる。
この剣に念を送れば、どうやら自動で機体が転送されるらしい。
そこからもう一段階機体と『合身』することで、さらに力を得ることも可能。
乗る、というよりも融合する、に近い感触。
自らの身体の延長で、あくまで戦闘力も己の心技で決定される。
ウンブラの愛機であった「プリスクス・ノクス」にかなり感覚は近い。
もっとも武器として愛用していた遠隔円盤も長い爪も存在しないが。

「剣……人間が憎み合うために産み落としたモノ……我らの代行者……」

メリオル・エッセが関係しない場所でも、人間は憎み合い殺し合う。
それは、どこからともなく流れる負の旋律が教えてくれる。
人間は今も剣を持ち、武器を持ち、殺し合っているのだろう。

ウンブラは、巻いていたフードを脱ぎ、ターバンを晒す。
ターバンは、頭に直接まくもの。頭の形がそのまま表れる装飾品。
だと言うのに、その形は側頭部二か所で盛り上がっていた。
人に在らざるものに相応しい風貌を備えると言われるウンブラ。
その言葉の通り、ターバンの布地の隙間から覗くのは巨大な耳だった。

「聞こえる……聞こえる……肉が爛れ、血が燃える音が……」

獣独特の縦に細長い瞳孔が、左右に動く。
俗に第三の目を慧眼と呼ぶことがある。慧眼、その意は全てを見通す目。
彼女の金色に輝く獣の慧眼は、何を見つめるのか。
434悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:28:57 ID:HLfha/pB


【三】

シリウスが、ふと足を止める。
もう少しで雪原を抜ける地点ではあるが、その先にあるものが問題だった。
遠目にも見えるのは、明らかな戦闘の様相。
巨大機械同士が激しくぶつかり合う轟音が、吹雪に乗ってシリウスにも届いた。
そこに人がいる。それも、おそらく殺し合いに乗るものが。
無論、殺されまいと抗うものもいるかもしれない。
だが、ここで飛び込んでいいものか。
シリウスが懸念する要素が、二つあった。

一つは、戦っている両者、もしくはその場の全員が卑劣な殺人鬼である可能性。
誰かを救おうにも、その場にいる全員が救いがたき悪漢であるという場合だ。
これでは、戦いに飛び込むことに意味はない。悪漢たちが潰し合う絶好の機会を殺すことになる。

もう一つは、シリウスの乗っている機体の問題だ。
このパワーライザーと、遠くで戦っている機体を比べれば、見劣りするのは一目瞭然。
加勢しようにも、逆に足手まといになりかねない。

自分が足手まといになることにシリウスは唇を噛む。
自分はアクエリオンに選ばれた人間であり、全てにおいて優秀なはずだ。
状況が状況とはいえ他者を頼るという選択が、シリウスが自尊心を刺激する。

「美しい調べが聞こえる……」

思案に集中していたシリウスの意識が、現界に呼び戻される。
身体の延長となる機体を振り向かせ、後ろを見れば、そこにいるのは小さな人影。
ボロボロのフード。その下に納められた顔にまで布を巻きつけており、まったく中身が窺い知ることができない。
雪原に点在している岩の上で、顔をどこかに向けている。

いつの間に私の後ろに回り込んだ?

不意を打たないということは殺し合いに否定的なのか?

そもそも何を言っている?

謎だらけの小人に、シリウスの頭は様々な推論を並べ立てる。
どれも推測どまりでしかない。だが、シリウスの直感は告げている。
目の前のこれは、醜い。そして、信用できない。
剣に振動を送れるか、試した時に使った剣を抜き、半身に構える。
シシオウブレードと呼ばれる倭刀らしく、僅かに添った刀身に刻まれた波紋が美しく輝いた。

「澄んだ、真っ赤な血の色をした調べが聞こえる……」

フードの顔がこちらを向いた。
いや、見ているのは自分の背後彼方にある戦いか。
435悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:30:19 ID:HLfha/pB

「美しい……? あのような戦い、粗野なばかりで美しさなどありはしない」

背後をちらりと見た後、シリウスは零した。
巨大な鎧甲冑と、獣を繋ぎ合わせた機体の戦いは、その姿同様荒いばかりで優雅さの欠片もない。
その戦い方がどことなくアポロを想像させ、余計シリウスの気分を悪くする。

「あの戦いに美しさはない。ワタシが美しいと言っているのは……」

フードの一部が盛り上がり、その下から手が現れた。
くすみ一つない、雪原の白さに並ぶ純白の腕が、ゆるゆるとシリウスに向けられる。

「お前のことだ……お前こそ、美しい」

流石に虚を突かれたシリウス。
だが、すぐさま我に返ると、相手の言葉にさもあらんと小さく被りを振って見せる。
整った金色の髪がさらりと流れる。
アポロのような粗野な人間ではなく、まだ話の分かる相手のようだ。
少なくとも、自分の感性についていくことのできる人間ではある。

「それは光栄……いや当然か。だが、何故こんなところにいる? 何者か名乗ってもらおうか」
「ワタシは……お前の名が知りたい」
「……先に問うたほうが先に答えるべきか。私はシリウス。シリウス・ド・アリシア」

まだ警戒は解かない。
武器を構えたまま、シリウスは相手に答えた。
相手は、何を考えているのか、一度噛みつぶすようにシリウスのフルネームを呟いた。
相手の動作の一テンポ一テンポが遅い。
他者と会話することに慣れてないのがシリウスにはよくわかる。
まるで社交性が身についていない。
緊張で、外気の低さにも関わらず汗が一滴流れた時、ようやくフードの何かは口を開いた。

「ワタシはウンブラ……死をもたらす闇の影……メリオル・エッセが一つ……」

その言葉に、シリウスは素早く距離を取る。
何者なのかは知らないが、初めて合う相手に『死をもたらす闇の影』と言うのは尋常ではない。
学のないものならば気付かないだろうが、ラテン語を知るシリウスだからさらに気付く。

「『umbra』……影。そして『Melior Esse』……上位存在。
 本名ではあるまい。そして上位存在とは傲慢な……!」

しかし、そんなシリウスの言葉に対して、相手は一切緊張などを見せようとしない。

「我らは、偉大なる破滅の王に仕える奉仕種族。集めるべきものは負の心……
 感じるぞ、お前の内より漏れる黒い心を……黒い魂を……黒い翼を……」

ローブの下に手が戻っていく。
その後、もう一度露出した手に握られていたのは……両刃の西洋剣。
戦闘への意欲は明らか。
436悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:31:12 ID:HLfha/pB

「もっともっと見せて……楽しみね……お前の心の炸裂が……」

その矮躯とは裏腹に、雪にも足を取られることなく滑るように走り出す影ことウンブラ。
その速さは、到底人間のものとは思えなかった。
瞬く間に音もなくパワーライザーまで近づくと、影が真上に跳躍。
握った剣を棍棒のように振り下ろしてくる。

「速い……だが……!」

だが、シリウスの剣の腕も、並みのものではない。
大きさの差で手間取ることもなく、シシオウブレードが相手の剣を絡みとり、相手の身体を弾き飛ばす。
くるりと身体を回転させ、やはり音もなく雪の上にウンブラが着地する。

「私はここで死ぬわけにはいかん……! 堕天翅か人間かは分からんが邪魔するなら覚悟してもらおう」
「使命感……それに隠れた感情……案ずることなくワタシに委ねればいい……」


【四】


剣、というものは意外に扱いが難しい。
爪と同じように使うことが出来ない。どうしてもぎこちなくなり、うまく使うことが出来ない。
それも、仕方ない。我々メリオル・エッセは最初からそんなものは要らないのだから。
イグニスは硬い守りで有名な研究所の施設を、素手で壊し内側に入り研究者を殺しつくした。
アクイラはその身一つで基地の崩落から瓦礫を掘り返し地上へ出た。
私より戦う力で劣るものでも、その始末。
そして、それに加えて身体の延長である機械体とも呼ばれる乗り込むべき機体が、一人一つ。
武具など最初から必要としなかったから、使い方も知らない。

それに対して、人間はどうか。
弱いからこそ、身を守るために武器を持ち、武器を使う術を極めようとする。
メリオル・エッセの身体能力を持ってしても、埋めきれない武具の練度の差。
しかし、そうやって手に入れた力は、所詮自分を守るため、他人を傷つけるものでしかない。

ワタシには分かる。
この男の、美しい顔の下に広がる、輝く美しい、どこまでも醜い感情が。
こうやって剣を振ってはいるが、心はここにはない。
ワタシでないどこかの何者へ対してのニクシミで一杯だ。
この男の根源は、闇だ。
暗い願いだ。

その色濃い臭いに惹かれ、寄り道してみればいいものを見つけられた。

美しい調べが聞こえる。

ニクイ、ニクイ、ニクイ、と。

そう叫ぶ心を自由にするのがワタシの役目。
心の皮を爪で一枚ずつ剥がし、味わい、献上する。
ワタシの役目、ワタシの願い、そしてワタシに唯一許された感情、『愉悦』。

ああ―― ……愉快だ。

ワタシは、男に自覚させる。
437悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:32:16 ID:HLfha/pB
それこそが、このニクシミをさらに加速させる方法だから。

「お前は、ワタシを見ていない。お前の瞳に映るのは――お前が憎む者だけ」

「お前は、憎い。自分を脅かす存在が。自分にないものを持つ存在が」

「お前は、隠している。お前は、知っているにも関わらず隠している」

「お前は、自分の下にあるものに価値を無いと思っている。お前の上にあるものはいらないと思っている」

歪む、歪む。
捻じれる、捻じれる。

美しい顔が。
醜い心が。

捻じれて零れる。
絞られたココロが、悲鳴を上げ、汁を滴らせる。
ワタシの心を濡らし、渇きを癒す調べは、大きくなり続ける。



「――お前は、嫉妬している」



【五】



「私が嫉妬しているだと……」


目の前の影が踊る。
まさしく影の名の通り、捕え所のない動きでシリウスの剣が空を切るたび影が唄う。

「そうだ……お前は嫉妬している。誰かは分からない。だが、その嫉妬がお前を焦がしている。
 憧れ、焦がす。それを隠すため、嘘を塗り固める。しかし、塗り固めているものもまた油。
 さらにお前を燃え上がらせる」

影が饒舌に語る。

「私が、アポロに嫉妬しているはずがない……!」
「アポロ……それが、お前が嫉妬する相手の名か……何故嫉妬する……?」

影が、嘯く。

「お前が――人間でないからか?」

フードの隙間から洩れるくぐもった笑い声。
その瞬間、雪がさく裂した。シリウスの右手のリストバンドから輝きが漏れ、光の羽をまき散らす。
放たれたのは、今までで最大最速の刺突。振動波を込めた、生身の人間に使うのはあまりに過ぎた力だった。
音すら置き去りにするほどの速度で放たれた一撃は、天空宙心拳に応えるパワーライザーをきしませるものだった。
438それも名無しだ:2010/01/08(金) 00:32:59 ID:tl4pcZl4
 
439悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:33:39 ID:HLfha/pB


「おお――炸裂よ。それが、お前の闇の、憎しみの、力か……」


しかし、その一撃が空を切ったことを、シリウスはその声で知る。
一瞬で背後に回り込んでいる影。
影が、剣を納めた。

「何のつもりだ……!?」
「今は、その時ではない。お前は、人と出会った時改めて自分の醜さを知るだろう。
 そして、待ち焦がれる相手と出会い、真の自分の心を知るだろう。
 ワタシが刈り取るのは……その時」

すっと、影が別の方向を剣で指し示す。

「南に向かえ。お前により大きな力を与える機神が待っている……」
「……何故、それを教える。騙され、罠に嵌るほど私は愚かではない!」

シリウスは語尾を荒立て叫んだ。
己に課している優雅さは、既に剥がれ始めていた。

「……ワタシが?」

闇の奥のように暗いフードの、そのまたさらに奥。
浮かび上がった真っ赤な口が溶けたチーズのように横へ広がっていく。

「ワタシが? お前を騙す? 何故?」

沈黙するシリウス。
ウンブラは静かに呟いた。

「来よ、倍功夫。二段合身」

閃光が場を包み、そこに現れたのは――。



「覚えておくがいい。ワタシはいつでもお前を殺せたということを」



アクエリオンに匹敵する、巨大な機神だった。
440悪意の捻転(修正版) ◇vtepmyWOxo(代理投下):2010/01/08(金) 00:34:44 ID:HLfha/pB



【一&六】


ザク、ザク、ザクと雪を踏む音だけが響いている。
朝の陽ざしに輝く銀色の世界を乱すように、一本の線が伸びていた。
パワーライザーの隙間から吹き込む冷え切った風が、シリウスの身体を容赦なく叩く。
荒野の多いクロノス星での活動が前提のパワーライザーは、雪原の移動には致命的に不向きだった。
周りには誰もいない。
ただ無言のまま、シリウスは雪原を歩いている。



【シリウス 搭乗機体:パワーライザー(マシンロボ クロノスの大逆襲)
 パイロット状態:良好のつもり。自分以外を基本的に信じていない。
 機体状態:良好 シシオウブレードを所持していたようです
 現在位置:C−5 雪原
 参戦時期:原作開始直後くらい。
 第一行動方針:???(雪原を抜け、市街地へ向かうか、ダルタニアスを取りに向かったかはお任せします)
 最終行動方針:もとの世界に帰り、堕天翔を倒す。
 備考1:高速振動とパワーライザーを組み合わせて小規模の衝撃波を出すことに成功。 
 備考2:首輪解除の可能性には気づいていません。】




【七】

衣服の奥の闇の中、瞳が踊る。
歓喜に震え、彼女の矮躯が跳ねる。
求めるは、さらに熟成されたニクシミ。
ウンブラは、まだと思えば暗い心に種を植える。

そして夢見る。

悪意の花が咲き乱れるのを。
悪意の翼が空に羽ばたくのを。


【ウンブラ 搭乗機体:ケンリュウwith剣狼(マシンロボ クロノスの大逆襲)
 パイロット状況:良好 うきうき。
 機体状況:良好
 現在位置:C-5 雪原
 第1行動方針:人間を殺して負の感情を狩り集める
 第2行動方針:宇宙に上がって地上の負の感情の流れを観察する
 最終行動方針:狩り集めた負の感情を破滅の王に捧げる】
441それも名無しだ:2010/01/08(金) 01:28:13 ID:82tgEXyY
代理と修正乙です
442それも名無しだ:2010/01/08(金) 01:43:25 ID:ENOgW3uJ
代理投下乙です

この二人はお似合いというか似合うな…
さて、シリウスも不安定になってきたなw
443それも名無しだ:2010/01/08(金) 08:26:21 ID:OtFUwFOz
>イグニスは硬い守りで有名な研究所の施設を、素手で壊し内側に入り研究者を殺しつくした。
>アクイラはその身一つで基地の崩落から瓦礫を掘り返し地上へ出た。
 
こいつらこんなことしてたのかよw
生身でも強いとは厄介だなウンブラ
444それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:29:21 ID:OtFUwFOz
              /`く´  ̄ `> 、
              / /   ヽ _  /    ヽ
            / ,、  , ヽ ー┴ ス  ヽ-  、
         / V ヽ / / ヽ  / / ヽ ヽ\、ヽ
           / 冫/ヽ. Y   |  | |  l_, ..l _ ヽヽ\
        l  l lハ l l    l _ l l  lハヽ `ヽ! lヽヽ
        /{  l l  l l l _,. _'´ l´ヽヽニイ トトヽ   l ! ヽヽ
      / /ィスォj_!、_j j-ィテ∠ イ  }  j l llハヽ./ /  ! l   見せしめも私だ。
.     / イ/ lーt、ヽ /´ ̄ィjァ'´!  ト、,.イ ヽl ll | / /, ‐ ニヽ
     i i { ! ト `ヽ ′/, ̄‐ ´/  l lヽヽ ヽ////  `
     | ! l l ハヽ. l /    / _/ -_ ニ フ /ト、j ハ
     lヘヽヽj_ i ! V   i´  /- ' r‐', - ´ --ヽ | , イ7
      ハ l ! ll ハ l    lヽ | , -| / /イ ̄ /  _l_
,. - ― フ l ! | |' ト、l  /j ヽ く l j | j/ ノ / , - ´
     l  ハー' |  ヽゝ'ィ/  Yl / ! レ'l / /
     l  ! l  ト、 |ヽ} !   / // !  !/ /   _  --
、ー 、  l  ! l  ! ヽ. トーl   / // l  l' /  / ̄,. -‐   ̄

名前:ユーゼス・ゴッツォ 愛称:それも私だ 声優:大友龍三郎
出展:スーパーロボット大戦α

「無題」に登場。
情報と優位性の確保を目論み発言したところ見せしめに首輪を爆破されてしまう。
一次では主催者、二次では参加者として「ユーゼス自重しろ」の名を欲しいままにしてきたが、流石に今回はそうはいかなかった。
まあ、見せしめとはいえ三連続で登場するあたりやっぱり自重してない気もするが。
445それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:30:51 ID:OtFUwFOz
 //         .:.::::.:;:;:;;;;
 | i     ,、-'二ヽ .:.:.:::;:;;;;;
 ト、ー‐''ニ-‐''::´: ヽ\ .:.:;;;;  やってやる! やってやるぞ!
 ',  ̄    .:: ::  / 厂_つ
.  V⌒ヽ、 __, イ /
  / __,;:.     //  (O
  丁__    //    .::
  ヽー-`    l_L___ノ
    L_   _ノ.::.:.::::;:;:;;;;;;

名前:エリート兵 愛称:踏み込みが足りん! 声優: ---
出展:スーパーロボット大戦F完結編

「破滅の従者」に登場。
開始早々、バイオトリケラに乗ったウンブラと戦闘になる。
シャア専用ゲルググでは分が悪かったようで、一方的にやられてしまう。
「踏み込みが足りん!」の台詞のもとファンネルを切り払うことで有名な彼だが、やはり一般兵では名前ありボスキャラには敵わないということなのか。
446それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:32:08 ID:OtFUwFOz
                      ________
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                  }/::;/:::::::|:l人::::l\{〃フ テゝ:::、::::\::、`−:::. i
                //} :::::::l/lニ.、:{   '"´ /:::\、::::::::::}:::::::::i: |
                 /´ .jィ::::/:Kjソ ヽ  /// /:// :::`::::::::;'::::::::::i|  
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                   ノ::::::ヽ´-      } ::://:::::|::::::::::::!
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                 _/ j } : : : : : ヽ.ヽ : : _ - _´-‐, ┴―- .、
              -=ニ _ /: ヽ: : : : : : }〉 ヽ イ- _ - ´    . . \
               /´  /. : __ヽ: : , -;一 '  / /       . . : :ヽ
                 ´フ´::::::::ハ イ ノ  /    . }. :     : : : i 
                 /-―/ /ノ/     .i  : :l:/ . :    :\- 、:ヽ
                    ///'/ . :    . |  : j:{        :`゙ヽ {
                  / / / /. : :      : 、. : ': l        . : : V
                   / / 「 /: : :      . : \: : i       : : :{
                 ヽ.{: :l }: : /      : . : \: }.       : : :ト、
                 ,}ヽ:/ j: : /       : : : ヽ/ヽ: .  : .  : : : |
                _ノ//}j /: :/ /      : : : ヽ  ` ‐‐、 : : : :|

名前:皆城総士 愛称:何だ 声優:喜安浩平
出展:蒼穹のファフナー

「ゼロからの明日へ」に登場。
シンと行動していたところに翔子と出くわす。
死んだはずの翔子の存在に動揺し、仲間のためを想い彼女を殺そうとするが、返り討ちにあう。
「君は死んだはずなんだから死んでなきゃ駄目(意訳)」なんてこと言ったら、そりゃやられもする。
教訓:人付き合いを大切に。
447それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:34:13 ID:OtFUwFOz
       _, _ ‐ ´          /Y
     /     __ ,.i´,ト`ヽ      l
 _ - ´     / , { lーヘY_      1
´         /  /l レ´ Yヘ ヽ     ヽ _r_
       ノレ=く ヾji、_´,...ィ  \     ー、l   j r ´
    、_ Y ート、にゝ-/´ヽ_、ヽ     l l´
     \  ̄ =∠イ  ト、, ィ=、´      ヽ
      `丶、 〃 ヽ /__j__jニ /       ヽ
         7ー 、 \   | /         l
          j  / 7ーヽ- lー'          ヽ_ _ -ー  ̄
        /  l  l´ll lll `l              l    /
     _-ー、. l∵,`l、.|ll ll! l|∴:'、・ノー=_        ヽ  /
     =、 ,ヘ ヽ`.j、・,llll jlll illj ;・` ,.ムー=          lrー
      ji⌒ヽ__.L_j_>ー┴'-ィ´  l           ノ    /
       !     く:::::::::::::::::7   l            ̄ ヽ/
       ヽ j    l:::::::::::::ノ=ー j              ヽ
       ヽ l     ` T ´   /                ヽ
         l      l   /                  j
        l ヽ     ノ  /                    ヽ
          } ` ーニ - 7                       ヽ
        ノ 、_      /                         j
       / ヽ_>ー‐ '                          ヽ
        {    |                              ー ヽ
       ヽ_ ノ
        ヽ='
          __
       =二三三三三二=

名前:草薙剣児 愛称:スケベ、バカ 声優:小野大輔
出展:鋼鉄神ジーグ

「暗黒大将軍VS鋼鉄神マジンガーZ」に登場。
ダイヤとイルイを逃がすために暗黒大将軍と戦う。
一進一退の攻防を繰り広げるが、それを見ていたティンプに遠距離から狙撃され機体が爆発、死亡する。
最大級の死亡フラグである「俺に任せて先に行け!」を地で行く死に様であった。
なおAAは見つからなかったため宙で代用。
448それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:35:42 ID:OtFUwFOz

    ',゙`ヽ_ _            _ノ'´"';
    ヾ;;;;;;;;;`ヽ `}     _,ン-''^ソ´;;;;;;;;彡
     ヾ、;;;;;;;;;}  レ'^`ゝ,r'";;;;Karous;;;;;;;;;ソ
      ヽ` ̄  r-ィ |;;r=ニニ);;;;;;;;;;;;;;;;彡
       `ーi ,'  l |;;r-ー‐'^'>;;;;;;;;;彡
        / /r-'^ |;;`ーフ /;;;;;;彡
        ノ/ `ヽ_,ノ;;;;/,ソ;rー‐'^>
      '"^  ,'";;;;;;;;;;;;´";;;;;;;;`フ く;;<,r
       ,、i,/'";;;;;;;;;;;彡´`>,イ〆ヘ_);;ノ、
       ゝ,;;;;;;;;;;;;;彡      彡ノソ ヽ;;\
      /,イ_;;;;<             `ヘ>
     /〆   `ヾ
     ~"

名前:カラス 愛称:先生 声優:茶風林
出展:機動戦士クロスボーンガンダム

「エルデおばさんの砲手日記・アイラビューな悪夢の日」に登場。
教育者的信念のもとエルデとジ・エーデルを襲撃。
戦闘に不慣れなエルデを相手に優勢に進めるが、ボン太君を着込んだジ・エーデルのペースに乗せられて自滅。
ダイタンクの砲撃で止めを刺される。
449それも名無しだ:2010/01/08(金) 19:37:29 ID:OtFUwFOz

                E三「|三ヨ
               , -‐ ¨¨ i 、
             /      / }ヽ
            ∧ヽ、  , '´ / .ハ
            i ヽ、`´  , '´  _/ |
            ├=========¨¨ ̄ |
            |           /|
               ',        ィ '´ノ/
                ',`i ー─一 '´ |r ´, ′
                ヽゝ r====イ,ィ´
               |`ー┬‐ '´ ',
     , -┬┬r 、 , -┬L _」_, -‐'>‐- 、   ___
 , ' ´     j | l ,イ   ヽ____  // / `,ニV  `' 、
くヽ、 , ' ´  .j / !        o |_/ /_. /  / ./   /へ
 ヽ`´   , '´./  |、______/L_//   | /  ./, ´  ヘ
.  `ー<   i.  !r=======、フ/   | |ニニ´ く    ,ヘ
     / `' 、|  |廴_______ノ /.     ! !   ヽ,`ー'´  i
    ./     !  ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´    | ヽ_, '´ ヽ    |
   / `' 、  |  「 ̄ ̄Ti || || || 囗囗    ヽ        ヽ.  |

名前:ウェンドロ 愛称:特に無し。カワイソス 声優:高坂真琴(第3次) 甲斐田ゆき(OGS)
出展:スーパーロボット大戦OGシリーズ

「歪む運命」に登場。
バトルロワイアルという状況下においても相変わらずの思考回路な彼は地球人の「駆除」を開始。
目に付いた弁慶を攻撃するが、支給されたライジングガンダムを扱いきれず、逆にやられてしまう。
弁慶の勘違いが無ければまた違った展開になっていたかもしれないが、いまさら言っても詮無きことである。
AAは見つからなかったのでインスペクターっぽい名前の人で代用した。



とりあえず作った分だけ投下
450それも名無しだ:2010/01/08(金) 20:03:45 ID:wjdkMApL
死亡者図鑑GJ!
相変わらず突っ込みどころだらけの代用AAだw
451それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:31:55 ID:tNuSwxSw
 
452 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:32:24 ID:BwPa6cUp
大変おまたせしてすいません。投下開始します
453 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:33:13 ID:BwPa6cUp
 
「それでも♪ 一体この僕に♪ 何が出来るっていうんだ♪」

悲しげな歌詞の内容にそぐわぬ、楽しげな表情で渚カヲルは歌を口ずさむ。
歌い続ける彼を乗せてラーゼフォンは海上を行く。
その眼下に映るのは奇妙な光景だった。
海の上に直線状の壁がそそり立っているのだ。
壁はオーロラのごとき幻想的な七色の光でできているが、近くに寄ってもそれが揺らぐことはない。
質量を持っているかのように光の壁は確固たる存在としてそこにある。

「これは……なんだろうね?」

変わらず、楽しげにカヲルは呟く。応えるものはいない。
機体には地図と参加者名簿がインプットされていた。
確認すると、ここは地図の南端だと解る。そういえばこのフィールドの端がどうなっているかは聞いていなかった。
自分たちを殺し合わせることが目的なら、そう簡単に逃げ出せるような仕掛けにはしていないだろう。
機体をぐるりとその場で回転させ、周囲を見渡す。
地図で見た南端の直線に合わせて光の壁は途切れなく続いている。
見あげれば天高くまで壁はそびえ立ち、その頂点は見ることが出来ない。成層圏の彼方まで続いていそうな気がする。
そういえば、この地図に宇宙らしき場所が表示されている。高度を上げればそこに行き着くのだろうか。

「空間歪曲かな……? そうだね……もう少し探ってみようか、ラーゼフォン」

途中で巨大な格納庫らしき施設があった。
誰もいないようなのでひとまず無視したが、そこにも何らかの空間歪曲を感じ取ることができた。
どうやらそういった仕掛けはあちこちにあるようだ。

「そろそろ誰かに会いたいな……シンジ君、君はどうしてるんだい? 僕は……寂しいよ」

針路を東へ。
巨大な翼を羽ばたかせて白い巨神が飛んでいく。


   ◇   ◇   ◇


ぎぎぎぎぎ……と、きしみの音を上げて重い扉が開いていく。
その奥の空間は薄暗い。
疲労の極みにあった肉体の悲鳴をなだめつつ、息を整えながらゆっくりとカズマは歩を進めていく。

「おーい……お邪魔しまーす……誰もいないかな」

かなり広い空間のようだ。カズマの発する声の語尾が微かな残響音となって後を引いた。
慎重に一歩一歩踏みしめながら周囲を見渡すと、そこは裕福な人間が住まうような館の外見にそぐわぬ機能的な施設で埋め尽くされている。
カズマには判断が付かないが、巨大なモニターやいくつものデスクにそれぞれ取り付けられたコンソール類、レーダーらしき機器など。
なんとなくではあるが、戦艦ヴァルストークのブリッジに雰囲気が似ているような気がした。

「なんだこりゃ……秘密基地ってか? えーっと、どうやるんだこれ」

機械類のスイッチはすでに入っており、電子音を上げて各種のモニターが何かを映し出していた。
454 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:34:01 ID:BwPa6cUp
スペースマンとしての、戦闘ロボットのパイロットとしての知識と経験を頼りに、カズマはなんとか始めて見る機器を操ろうと試みる。
適当に弄ってみるとモニターに地図が表示された。そこに描かれた地形図には数字とアルファベットが区切られたエリアごとに割り振られている。

「これ……そうだっ! 支給された食料水名簿地図!」

心あたりがある地図といえばこれしかない。
ヴィンデルという男がルール説明と称して一方的に言い放った通告がカズマの記憶から掘り起こされる。
刀とともに渡された荷物の中身を慌ててひっくり返した。
予想通り、容器に入った水と食料、そして……、

「名簿、地図っ!」

やはりだ。
この地形図は支給された地図と同一のもの。
そしてモニターに映る方の図では、ある地点にカーソルが固定されている。
森の中にぽつんと立った一軒の家。つまりここがそうだということだ。
座標は地図に従って表記すればE-2。
さらにカズマはコンソールを叩きつづける。

「こいつは……」

モニターのカーソルは地図上の四つの光点を指し示している。
位置はB-1、A-6、G-7。
空間転移装置。それが指し示す場所にあるという。

『空間転移装置使用者へ。空間転移装置は、宇宙と地上の特定の位置同士をつなぐ装置である。
 時間にラグなどは起こらないかわり、行先は初期設定された場所にしか飛べない。
 宇宙の任意の場所に移動したのであれば、別ブロックに存在するシャトルを利用すること』

コンピューターから合成された声が発せられた。
いきなりの電子音声に思わず間抜けな叫びをあげるものの、即座に気を取り直して内容の理解に努める。
つまり、ワープ装置ということか。
そして別ブロックのシャトルとは地図右上の基地らしき施設にそれがあるということらしい。
こんなところにいきなり拉致して転移させる技術を持つあたり、シャドウミラーという組織の力はおそるべきものと言えるだろう。
しかしまさかこんな技術が実用化されていたとは、ヴァルホークやヴァルストークといった謎の技術に触れていたカズマですらにわかには信じがたい。
いや、信じるに足る根拠がひとつだけカズマにはあった。
父の仇……「あの聖バレンタインの光」で心に焼き付いた死の極光。
未知の技術を持つ恐るべき敵。
あいつらがもしこの殺し合いの黒幕だとしたら、カズマは絶対に思い通りになってやるわけにはいかない。
かみしめた歯がきしみ、拳に力が入る。
握ったペンがみしりと悲鳴を上げて折れそうになることに気づき、そこでカズマは気を取り直して確認の作業を再開した。

「えーと……転移先はB-1がa-1コロニーで、A-6がa-3の資源衛星、G-7がc-3コロニーに繋がってるのか」

支給された筆記用具で地図に矢印を付け加えていく。
有益な情報は手に入った。
だが問題はそこからどうするかだ。
ここで得た情報を頼りに宇宙に逃げてもどうにもならない。
かといってあの戦場に戻っても、今のままではあの少女を止めることも出来ないし、助けてくれた紅い機体の足手まといにしかならない。

「トレイラー心得、『使えるものは親でも使え、値打ちものなら尚更だ』! ええい、なんかねえのか何か!」

ホールはさらに奥へと続いている。
そこは大きく、なだらかなスロープだった。
455 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:34:57 ID:BwPa6cUp
スイッチを探して明かりをつけカズマは躊躇うこと無く進んでいく。
森を駆け抜けた際の疲労はひとまず回復した。
当面の状況を即座に改善するものではなかったにせよ、情報も入手できたことでだいぶ気持ちが上向きになっていた。
無鉄砲とも言える前向きさがこの少年の本来の性格なのだ。

「はぁ、はぁ……ここは……?」

地下はホールよりもさらに巨大なスペースになっていた。
いくつかのの巨大な柱を中心に、機動兵器が何体かまとめてすっぽり収まる広さだ。
カズマが入ってきたのとは別に、外へとつながる通路がある。
これも機動兵器が出入りできる広さになっていた。
それ以外にめぼしい機材、施設は存在しない。

「機動兵器……くそっ、なんで俺には何も無いんだよ!?」

殺し合うために全員に支給すると言ったのはあの男だ。
無論、カズマにはそんなことをするつもりはないが、このままでは身を守ることすらままならない。
与えられたものといえば、この剣一振り――、

「……まさか実はロボットもぶった斬れる魔剣……とか……?」

ゴクリとのどを鳴らす。
まさかとは思うが、この剣こそが機動兵器の代わりであるというなら辻褄は合う。
カズマの脳裏にむかし流行ったファンタジーもののアニメ映像が浮かんだ。
刀身がビームのように伸びて巨大な敵を真っ二つにする剣士に自分の姿を重ねる。
……悪くない。というか、むしろイイ!

「どうやって使うんだ! 封印を解くキーワードとか、そうだマニュアルは!」

慌てて荷物をひっくり返す。
たしかさっき地図を取り出したときに冊子みたいなものがあった気がする。
それが予想通りなら、使い方が書かれているはずだ。

「これだ! なになに、ダン・オブ・サーズデイ……? ロボットを召喚!?」

カズマの予想とは違ったが、そこには現状を打破するための機動兵器を呼び出す方法が書かれていた。
つまりこの剣はその鍵というわけだ。
それがわかればこんなところで燻っている道理はない。
すぐさまとって返して逃がしてくれた恩人を助け、あの少女を止めなくてはならない。

「いくぜ……」

カズマが握りしめた蛮刀の形が変化を始める。
大小様々な大きさの穴が剣の表面に現れ、その穴が星座を描く星々のように刀身全体へと広がっていく。
青白い光が切っ先から迸る。まるでカズマ自身と刀がその火花を媒介に繋がっているようだった。
456 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:36:34 ID:BwPa6cUp
そして、この状態で刀を高速で薙ぐ際に発する高周波によってその機体は召喚される。
これが惑星エンドレスイリュージョンの監視者、オリジナルセブンのひとつ――ダン・オブ・サーズデイを呼び寄せるための合図だ。

「魔剣よ、カズマ・アーディガンの名において命ずる……きやがれ!」

ちなみに彼の姉妹あたりが聞いたら眉をしかめそうな、微妙に寒いこのセリフは単なる趣味である。
ロボットを呼び出すために必要な行程とは何の関係もない。

「――ダン・オブ・サーズデイ!! カムヒァァァァァァァァッ!!!!」

握ったその手で力いっぱい振り下ろし、そしてはね上げる。
刀の切っ先が青く輝き、それがVの字の軌跡を描いた。
ダン・オブ・サーズデイ――天空より来たる剣の巨人。
召喚に応じ、その担い手を守るべく真っ直ぐにその元へと降り墜ちる。
地下にいるカズマのもとへ、その頭上に位置する館の天井をぶち破って。




「……へ?」




カズマの目には、己の頭上から巨大な剣が膨大な質量の瓦礫とともに降ってくる瞬間がスローモーションのように映っていた。


   ◇   ◇   ◇


舗装された道路が途切れ、それとともにビルや住宅の姿も無くなった。
ここはA-5西端、全体地図の西端でもある。
そこで三機の機動兵器がその巨体を鎮座させていた。

「なるほど、いきなり襲われるとはね。冷静さを失っているだけと思いたいが、こりゃ予想以上に困った事態になってるみたいだ」
「ああ、ぼやぼやしてたらいつ襲われてもおかしくない状況だ。君はどうするつもりだ?」
「とりあえず俺たちでチームを組みませんか? 互いの事情はともかく、まずは身を守ることが先決だと思うんです」
「そうだな……三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。色々と話し合うべきこともあるだろう」

それらに乗り込んだまま、そのパイロットたちは今後の方策について話しあっていた。
白を基調としたカラーリングに双眼、二本の角。この機体はガンダムと呼ばれるものだ。
細部に違いはあるが、そのガンダムが二体ともう一機、明らかにサイズがふたまわりほども違う巨大ロボットが一体で合計三機。

「それにしてもガンダムねえ……聞いた事ないな」
「おいおい、どこに住んでいたんだ君は。それこそ俺もメガノイドなんて聞いたことはないぞ」
「それなら俺だって聞いたことはないですよ、ガンダムもメガノイドも」

まず話し合いで明らかになったのは互いの世界観の齟齬だった。
メガノイド、ガンダム、オーラバトラー……互いの説明する用語は当人にとっては常識とも言えるはずの事柄なのだが、その他の二人は全く知らないという。
457 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:37:27 ID:BwPa6cUp
そこで三人のうち、ショウという若者がある仮説を立てた。

「バイストンウェル?」
「そうです、そこには以前の俺には全く想像すら付かない異世界が存在していた。
 信じられないのも仕方ないです、俺だってそうでしたから」
「あのヴィンデルたちが異世界から僕等を召喚か……。バニング大尉でしたか、あなたは信じられますか?」
「にわかには無理だがな。だが俺はショウ君に生命を救われた身だ。彼が言うなら一考の価値はあると思っている」

ふむ――と破嵐万丈は考える。
先刻、遭遇したこの二人組は基本的に実直な性格であるようだ。
初対面で判断材料は少ないが、ある程度は信用に値する人間であると言える。
積極的に殺し合う気はなく、ここに来る前に早くも戦闘に巻き込まれたらしい。
表面上はへらへらしてるように見えて、万丈はクールな思考もできる男だ。
そうでなくてはギャリソンたちを率いてメガノイドたちと戦うことなど出来ない。
異世界からの召喚という可能性は、一見突拍子もないと思えるにせよ一応の辻褄は合う。
身をまもるためにチームを組むという発想も現実的。万丈としても一人で出来ることに限界がある以上、人手が増えるのは好都合だ。
死ぬわけにはいかないし、死ぬつもりもない。そのためにはまず生き延びることが先決。

「よし……とにかく問題はこれからどうするかだ。意見を――」
「ちょっと待ってください、あれを!」
「な……」

ショウの機体が万丈の背後を指さした。
そこは海側、さらにその向こうは地図の端になっている場所で、長大な光の壁となっている。
どうやらこれによって集められた人間を閉じ込めているようで、元々万丈はこの地図の端がどうなっているのか確かめにここに来たのだ。
さて、もう少し近づいて調べてみるかと思ったところで、襲われて逃げてきたバニングとショウの二人組にであった訳である。

「壁の向こうから……腕……!?」

巨大な壁は七色の光をぼんやりと発し、その向こう側は見えない。
その向こう側から巨大な何かがせり出してきた。
まず腕。大きさは万丈の機体のそれとほぼ同じくらいか。
平面であった光の壁が人型に盛り上がり、それにそって反射光が歪んだ。
壁の中から這いずるように出てきたそれは白い巨人だった。
額のあたりからその身の丈ほどの翼を生やし、それを羽ばたかせて飛び上がる。
烈風が真下の海面を叩き、波紋のような波が巻き起こった。

「近づいてくるぞ……警戒態勢をとれ!」

バニングの声。
職業軍人だと言っていたが、こういった態度を見てもそれは嘘ではないだろう。
しかもずいぶんと慣れているようで、その様子はまったく違和感がない。
歴戦の軍人――これでそういう人種にありがちな頭の硬いところがなけりゃ有用な人材だな、と万丈は心のなかで値踏みした。

「やあ……初めまして。君たちは何を話しているのかな?」

穏やかな若い声だった。
機体のモニターに映る画像はその声の通りの顔立ち。
458 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:38:12 ID:BwPa6cUp
赤い瞳と白い髪という外見の異様ささえ目をつぶれば、普通の少年とかわりない。
だが、壁の向こうから現れたと言う事実、そしてこの状況でやけに落ち着いているのが逆に不自然だ。
警戒態勢を解かず、バニングが逆に問い詰める。

「すまんが、こちらは襲撃を受けたばかりなので警戒せざるを得ない。
 だからまずはこちらの質問に答えてはもらえないだろうか?」
「ああ……そうか、殺し合えって言われてるんだっけ。それにしてもその襲った人、せっかちだね」

その答えを受けて万丈は違和感を感じる。見れば他の二人も同様だったようだ。
危機感が抜け落ちているのだ。まるで生命などどうでもいいというように。

「質問するがいいか? 君はその壁から飛び出してきたように見えたが、一体何をした?」
「さてねえ……あの壁に触ったら通り抜けられそうだったんでやってみたら、まったく別の場所に出た。
 そういうことになるのかな? 僕にも何が何だかわからないよ。ここはどこなんだい?」

少年の話を聞いて三人はお互い顔を見合わせた。
閉じ込めるためかと思った壁が、実はまったく違う役割を果たすものだという事実。

「ちょっと待ってくれ……ああ、君。名前は――」
「カヲル。渚カヲルさ。カヲルと呼んでくれて構わないよ」
「そうか、私はサウス・バニングというものだ。こちらがショウ・ザマ君、破嵐万丈君だ」
「よろしく、皆さん。会えて嬉しいよ」

カヲルと名乗った少年はそう言ってフフッと笑った。
壁の向こうからやってきたという異常さに加え、警戒心の欠片もない言動。
彼はひょっとして自分達とは違う立場の人間なのだろうか。そんな可能性を考えてしまう。
例えばシャドウミラーの手のものであるなど――、

「ああ、よろしく。ところでカヲル君、君のその首輪は僕たちと同じ境遇だという印と見ていいのかな?
 あのヴィンデルという――」
「そうだね。僕たちは拉致され、ここで殺しあうようにと強要されている」

やはり自分達と同じ立場であるらしい。
最初に見せられた首輪の爆発。そして殺し合えと言われ、実際それに従う人間がいるという事実を聞いてもこの有様だ。
明らかに不自然――もっとも彼が嘘をついているという可能性もあるのだが。

「なるほど、それを確認した上でもう一度聞こう。君はどこから来た?」
「……それはどういう意味?」
「君が通り抜けてきたあの壁の向こうがどこかということさ。その後でここが何処か教えようじゃないか」
「ああ、そういうこと……地図でいう南の端あたりかな? ここと同じように光の壁が延々続いていてね。
 ひとまずそれに沿って東に移動してみたんだけど……」

話によると、その先は巨大な行き止まりだったらしい。
東に延々と横たわる壁が直角に折れ曲がり、北へと続いていた。
どうやらこの地図の外周は全てこの壁に囲まれているようだ。

「そこからもう少し北へ進んでみたんだけど、誰もいないし景色に代わり映えはないしでつまらなくってね。
 じゃあ壁を調べてみようと触ったら、何の抵抗もなく突き抜けちゃったのさ」
459それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:39:18 ID:7er2izui
 
460 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:39:34 ID:BwPa6cUp
「そしてここへ出たってわけか……妙だな。ここは地図の西端、地形からしておそらくA-5あたりのはずだ」
「へえ、僕はずっと東に突き進んできたのに西の端っこに出たのか。面白いねえ」
「ちょっと待ってください。じゃあこの地図の端にあたる場所は正反対の端に繋がってるという事ですか?」

おそらくショウの推測のとおりなのだろう。
北の端から突き抜ければ南へ出る。その逆も然り。
なるほど、これならば自分達を閉じ込める役割も果たせる。

「む……どうやら地上に逃げ場はないか……ならば宇宙はどうだ?」
「この分だと同じく何らかの細工はされてるでしょうね。けど、地上からどうやっていくんだか」

貴重な情報が手に入った。
まずこれからどうするのか考えなければならないが、その検討にあたってこれは重要な判断材料となる。
このカヲルという少年も、少々妙なところはあるがその友好的な態度を見る限り、敵対ということにはならないはずだ。
こう考え、そして協力を申し出ようと万丈が言い出そうとした矢先だった。


「ねえ」


にこやかに語り掛ける渚カヲルの言葉。


「君達はこの殺し合いを止めようとしているの?」


一見、至極まっとうな問いかけに何故か胸騒ぎがした。

「そうだな……わざわざ奴等の言いなりになって殺し合いしてやる義理はないからね。
 諦めるにしたって、色々と試してからでもいいだろう」
「それが駄目だったら?」
「また別の方法を試すさ」
「ははは、それじゃ結局殺し合いはしないってことじゃない?」

そういうことになるかな、と万丈は軽い口調で言った。
見ればショウやバニングも頷いている。
どんな時でも万丈は万丈だ。
快男児に暗い苦悩は似合わない。
そんな万丈に対して渚カヲルは変わらず、うっすらと笑みを張り付かせたままで口を開いた。

「だけどね――滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ。
 こんな殺し合いなんかには関係なくね」
「――!?」

轟――――烈風が吹く。
白い巨人の翼がはばたくことで大気を強く叩き、それによって小さな嵐が巻き起こった。
ショウやバニングのガンダムがバーニアを噴射させて距離を取る。
万丈はトライダーを進め、カヲルの機体の前へと立ちはだかった。
あの機体のサイズに見合うのは万丈のものだけだ。他の二人では前衛となるには軽すぎる。
461 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:40:46 ID:BwPa6cUp
向かい合う二機の間に不穏を通り越して殺気とも言える緊張感が生まれ始めた。

「どういうことかな……いや、君は何者だい?」
「僕は渚カヲル。最後の使徒。人類に滅びをもたらす最後のシ者さ」

この場の全員がすでに戦闘態勢を取っている。
なおも問いかけながら、万丈は確信していた。
バニングたちもそうだろう。嫌な胸騒ぎはもはや間違いないものとなった。
彼は――危険だ!

「使徒というものが何なのか僕らには分からない。なんせ僕らは違う世界から集められたかもしれないらしくてね。
 少なくとも僕の世界では使徒なんてモノが世界を滅ぼしたりはしない。だが……!」
「へえ……でもね、それでも僕が生き続けることは運命なんだ。例え人を滅ぼしてもね」

白い巨人がふわりと浮遊するように舞い上がった。
重力から解放された刹那、身を乗り出したかと思えば猛スピードでトライダーへと突進する!


「人を滅ぼすというなら相手になってやる! この破嵐万丈とトライダーを恐れぬのならばかかってこい!!」
「つまり…………敵ってことさ!!」


――巨人たちが、激突する!


   ◇   ◇   ◇


激突の轟音は大気を打つ衝撃となり、そして地響きとなって炸裂した。
お互い50メートルを越える超重質量の激突だ。
離れて見守るバニングやショウですらコックピットまでビリビリと振動が伝わるほど。
トライダーが踏みしめる大地には蜘蛛の巣のような無数のヒビが発生していた。

「トライダージャベリン!」

真っ向から相手の突撃を受け止め、脚部から取り出した槍を掴むトライダーG7。
そのまま力任せに突き放すようにして距離をとったのち、手に握った得物を一振りして構え直す。

「いくぞ!」

反撃のターン。5700万馬力のパワーが唸りを上げる。
足裏のジェットが火を吹き、一気に距離を詰めた。
袈裟懸けにするように相手の肩口に向かって巨大なジャベリンが振り下ろされる。

「――いくよ、ラーゼフォン」

渚カヲルの様子は変わらない。
超弩級の一撃を眼前にしても変わらず、涼し気な笑みを浮かべたままで。
そして見えない壁に、その槍が阻まれる!

「なんだと!?」
「バリア!?」

バニングとショウの驚愕に満ちた声。
462 ◆MeiOuuUxlY :2010/01/09(土) 01:42:23 ID:BwPa6cUp
見えない何かにその軌道が阻まれて勢いを失った万丈の初撃を、ラーゼフォンなる巨人は左腕のシールド装甲で弾き、受け流す。
態勢が流れて隙を見せたトライダーに、間髪入れず残った右拳が叩き込まれた。

「ぐうっ!!」
「万丈さん!」
「ショウ、撃てっ! 援護するんだ!」

ストライクノワールとX3の援護射撃がトライダーへの追撃を阻んだ。
大口径のレールガン二門と内蔵ビームガンの一斉射撃を敵はまともに食らう。
連続する爆発音がその破壊力を語るまでも無く示している。
だが音はそうでも、目に映る光景はそれとは違っていた。

「無傷……!?」

X3のビームガンは見えない壁に容易く弾かれ、レールガンはその更に下のシールド防御を破ることが出来ないまま威力を打ち消された。
バリアとシールド、ひとつずつでも堅牢を誇る防御を二重にかさねた壁を打ち破らねば、ダメージを与えることすら叶わない。

「二人は援護に徹してくれ! ここはトライダーが引き受ける!」

ダメージを与えられずとも動きは止めた。
万丈は彼らの働きに感謝しつつ、再びジャベリンを構えたトライダーを立ち上がらせる。

「無茶だ、その槍でも駄目だったのに!」
「まだまだやりようはあるさ、この破嵐万丈を舐めないでいただこうか!!」

脚部から新たな武器。
片手に槍を構えたままで、先端に錨を取り付けた鎖をもう片方の腕に掴み、振り回す。

「トライダーチェーン!」

直線状に撃ち出された鎖の先端が敵に迫る。
だが、大気を震わせる甲高い反射音。バリアで勢いが弱まり、そしてシールドで弾かれる。
――その瞬間に鎖の先が変化。
万丈の操作によって鎖が軌道を変え、相手の腕に絡みついた。

「捕まえた!」
「――ッ」

超重量級の機動兵器同士がパワー全開で綱引を行う態勢になる。
みしみしときしむ音が聞こえるが、ガーバルニウムと呼ばれる異星の合金は二体のロボットの力を受けてもちぎれる様子はない。
シールドは封じた。仕掛けるならばここだ。

「もういっちょ、トライダージャベリン!」

ここで槍を投擲。
ラーゼフォンの顔面へ猛烈な勢いで飛来するも、シールドは封じられている。
バリアだけで防げるほどトライダーの武装とパワーは甘いものではない。
463それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:42:30 ID:1AayEydq
支援はいいねぇ
464それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:42:38 ID:7er2izui
 
465それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:45:07 ID:1AayEydq
支援は人の生み出した文化の極みだよ。
466それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:46:12 ID:7er2izui
  
467それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:47:24 ID:7er2izui
  
468それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:50:58 ID:7er2izui
   
469それも名無しだ:2010/01/09(土) 01:51:15 ID:1AayEydq
まさかさるさる?
ならば避難所あたりにお願いします。
470代理投下:2010/01/09(土) 02:14:13 ID:1AayEydq
このままならばその頭部が串刺しになる。
それを防ぐために――、

「くっ!」

ラーゼフォンの右腕から光の剣が飛び出してはたき落とす。
その動きで否が応にも鎖を引く力が弱まってしまうがゆえに、万丈はそこを突いた。
無敵ロボ・トライダーG7、パワー全開。
いかに踏ん張ろうとも一旦崩れた均衡をトライダー相手に引き戻すことは至難だ。
体ごと引きずられた白い巨人の踏みしめた大地が、その足の形に沿って轍を作る。
このまま引きずり回して動きを止める――そのつもりだった万丈だが、相手はなんとそこで自ら飛ぶ。

「なんとっ!」
「ラーゼフォンッ!」

主の声に応え、白い翼を羽ばたかせながら掌から光を放つ。
トライダーはたわんだ鎖を捨てて迎え撃とうと槍を構える。が、間に合わない。
強烈な光弾の輝きが万丈の視界を埋め、それとともに強烈な衝撃が襲いかかった。

「ぐあ!」

その衝撃で視界が大きく揺れ、シェイクされた五感が外部の情報を取り入れようとする脳に拒絶反応を起こす。
一瞬のパニック状態。だがその一瞬の遅れが致命的な隙となる。
眼前には今にもとどめの一撃を叩き込もうとする敵がいるはずなのに、今の状態では認識出来ない。
できることといえば、めくら滅法に槍を振り回すことぐらいだ。
だが黙ってやられるつもりもない。一撃耐えられるなら、その攻撃が来た方向へ向けてぶちかましてやるつもりだった。
トライダーの装甲に賭けた捨て身の相打ち作戦だ。
本来の愛機ダイターンならばできるとは思うが、今の状態では賭けだった。
さあ来い――覚悟を決めて身構える。全ては一瞬の判断。
だが、とどめの一撃はこなかった。
来たのは声。
裂帛の気合。
それは万丈がつい先刻知り合ったばかりの仮初めの味方のものだった。


「――はあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」


   ◇   ◇   ◇


戦う万丈に加勢するために、ショウ・ザマに出来ることは限られていた。
まず火力が足りない。
あの防御を突き崩すことが出来るのは敵と同じサイズの、破嵐万丈が駆るトライダーだけだ。
第二に同士討ちの可能性。
この危険が今の状況ではとことんついてまわる。
繰り返すがカヲルと万丈が駆る機体は上へ下へと入り乱れる肉弾戦の真っ最中だ。
迂闊に手を出して、誤って万丈に攻撃を加えてしまう可能性をショウは恐れた。
更に言うならば、カヲルの防御を打ち破るほどの攻撃を万丈の機体に誤って撃ちこめば、それで致命傷にもなりかねない。
実際のところ、崩すことが出来る手段はあった。だがこの状況で迂闊に出来ることではなかった。
そのためにはまず近距離戦に持ち込まなければならない。
大きさにして約三倍はあるロボットが二体。全力の肉弾戦を行う真っ只中に突っ込むなどミキサーに手を突っ込むようなもの。
どちらかの流れ弾をかわしそこねれば即死である。
それをこなしてさらに正確な攻撃を行わなくてはならない。
あの鉄壁を打ち崩すほどの破壊力を、万が一にも誤爆すれば味方の生命を奪う可能性が高いのだから。
471代理投下:2010/01/09(土) 02:15:10 ID:1AayEydq
ゆえにこれらのミッションをやってのけるパイロットに超絶の技巧が必要となるのだ。
課題は三つ。

1:カヲルの防御を打ち破るほどの破壊力。
2:この乱戦で万が一にも万丈を攻撃しないような精密攻撃を行う技量。
3:失敗が許されない仕掛けに踏み切る決断力。

この全てをクリアできるか。
その技量をショウ・ザマは持っているのか。
答えるならば、それはイエスだ。
彼こそは最強の聖戦士。
地上より召喚され、数多のオーラバトラーを屠り、バイストンウェルの隅々にまで名を轟かせたビルバインのショウ・ザマならばできる。
だが今はそれでも足りない。「できる」ではなく、「かならずできる」でなくてはならない。
そうでなければ万丈の生命が危うい。
必要なのは機だ。
神業を行うために自身を後押しする天の利を見極め、逃さぬこと。
まさしくチャンスは一瞬――、


「――なんとっ!」
「ラーゼフォンッ!」


敵の光弾に万丈の機体が弾き飛ばされ、態勢を崩すのを見た。
数え切れぬ激戦をくぐり、養った己の勘がこの先の戦況を読む。
――敵はすかさず追撃するだろう。軌道は直線。阻むものがない以上は当然。
かくして白い巨人は間髪入れず万丈に襲いかかる。
乱戦で動きが読めないなら軌道が読める状況を狙えばいい。


――ここだ!


「いきます! リミット解除!」
「まずい、援護を――ショウ君!?」

万丈の窮地を見て援護射撃に入ろうとするバニングの声が最後まで聞こえることはなかった。
全開で噴射したX3のバーニアの爆発がそれをかき消したのだ。
すでにショウとその相棒たるガンダムは宙空へと飛び出していた。
手にはライフルともサーベルとも付かない奇妙な形のギミック。
剣で言う鍔のあたりに髑髏が描かれたそれはX3の固有武装、十四連装ビームザンバー内蔵マルチウェポンユニット。




その名を――――ムラマサブラスター。
472代理投下:2010/01/09(土) 02:16:00 ID:1AayEydq
刀身が爆発した。
否、そう見えた。
剣の縁に沿って配置された14連の粒子発生器がビームを発生させ、その光が華開くように輝いた。
それと同時に着弾音。
見なくとも解る。
バニングのレールガンによる援護射撃が敵の動きを止めた。
これで外しはしない。




「――はあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」




待ちに待った好機を狙った、正に乾坤一擲の一撃。
巨大な敵を覆う見えないバリアに刀身が激突。
バチバチと火花が飛び散り、網膜に白い輝きが焼き付く。
多少の抵抗を感じるが問題ないと確信出来る。
これならば一気に切り裂ける――!


「おおおおおお――――ッ!」


全身のパワーで叩き込むように振り切った。
ビーム粒子の膨大な熱量とガンダムのパワーとスピードが合わさり、剣閃の軌跡が大気に水蒸気爆発を生む。
正に爆烈とも呼べる一撃でついに白い巨人のシールド装甲がはじけ飛ぶ。

「……!」
「やった、届いた……!」

まだだ。
バニングの感嘆混じりの声をショウは内心で否定した。
喜んではいられない。未だに敵はカスリ傷程度でまだまだ健在だ。
もう一撃。
袈裟懸けの返しの動きで逆袈裟での切り上げ。
狙いは胴体だ。この期に及んで手加減など出来る相手ではない。
全力で撃つ。運が良ければパイロットは生き残るだろう。




「――南無三!!」




――剣は、届かなかった。
473代理投下:2010/01/09(土) 02:18:14 ID:1AayEydq
 



   ◇   ◇   ◇


「強いね……君たちは」

少年は呟く。
まるで眼前の光景など何事ほどのことでもないというように。
髑髏を額に刻んだガンダムの一撃は、謎の障壁によってその勢いを完全に阻まれ停止していた。
それはオレンジ色の光だった。
六角形の形に結ばれた帯を幾重にも重ねたような形の光が壁となってラーゼフォンを守った。

「またバリアだと……!?」

立ち上がった万丈の声。
ラーゼフォンの防御は三つあった。
ひとつは機体の持つ特殊能力である音障壁。
もうひとつはその武装。両腕の甲を変形させたシールドの防御。
さらにもうひとつ。これは機体の武装ではない。
搭乗者である渚カヲルの能力。
何人にも侵されざる聖なる領域。
誰もが持っている心の光。心の壁。
使徒の力――――それはA.T.FIELD。

「君たちは強いね。本当に強い……。人間は常に孤独だ。だから常に心に痛みを抱えている。
 そしてその痛みから逃れられるものなど誰もいない。人は独りだからね」
「なんだ……何を言っている!?」
「独りだから寂しさを忘れることができず、人を求める。
 だけど他人を知るということは、裏切られることや互いに傷つくことと同義でもある。
 だから……人は忘れることでそれを誤魔化して生きていく」

ショウの乗るクロスボーンX3は、自身の三倍もある相手に下から逆袈裟に切り上げる態勢のままで動けない。
音障壁はムラマサブラスターで切り裂けた。だがA.T.フィールドは切り裂けない。

「離れろ、ショウ! 早くッ!!」

このままでは危険だとバニングが声を張り上げて指示を飛ばした。
だがショウは動けない。あのフィールドが上から完全に押さえ込み、動きを封じている。
バーニアの噴射で抵抗しているが、それを止めて他の動きをしようとすればたちまち押し潰されるだろう。

「君たちは強い。多分それでも人を愛することを恐れず、失ったものを忘れて前に進むだろう。
 僕をここで倒して、そしてその死を忘れて前に進んでいくのだろうね……」
「く……あ、あ」
「ショウッ!!」

潰される――、
474代理投下:2010/01/09(土) 02:19:07 ID:1AayEydq




「ヒトの希望は……………………悲しみに綴られているね」




大地とオレンジ色の障壁にサンドイッチされたガンダムの爆発は――爆風すら潰されて、拍子抜けするような鈍い音を響かせた。




「ショォオオオオオオオオオオオオオオオウ!!!!」




【ショウ・ザマ 死亡】




【破嵐万丈 搭乗機体:トライダーG7(無敵ロボ トライダーG7)
 パイロット状況:怒り、敵への恐れ
 機体状況:良好
 現在位置:A-5 海岸
 第一行動方針:渚カヲルに対処する。
 第二行動方針:弱きを助け強きを挫く。ま、悪党がいたら成敗しときますかね。
 最終行動方針:ヴィンデル・マウザーの野望を打ち砕く。】
 ※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。




【サウス・バニング 搭乗機体:ストライクノワール@機動戦士ガンダムSEED C.E.73 STARGAZER
 パイロット状況:怒り、敵への恐れ
 機体状況:良好 EN70%
 現在位置:A-5 海岸
 第1行動方針:渚カヲルに対処する
 第2行動方針:コウ・ウラキを捜索する
 第3行動方針:アナベル・ガトー、イネス・フレサンジュ、遠見真矢を警戒
 最終行動方針:シャドウミラーを打倒する】
 ※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。
475代理投下:2010/01/09(土) 02:21:03 ID:1AayEydq
【渚カヲル 搭乗機体:ラーゼフォン
 パイロット状態:良好
 機体状態:左腕の装甲破損
 現在位置:A-5 海岸
 第一行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす
 最終行動方針:殺し合いに乗り人を滅ぼす】
 ※地上マップのループに気付きました。また異世界からの召喚の可能性について聞かされました。


   ◇   ◇   ◇


――そのころ上空。




「ちくしょう、降ろせダン! 降りろっていってんだろ! ええい、マニュアルは――!」




間一髪ダン・オブ・サーズデイに乗り込んで生き埋めを脱したものの、オートパイロットを発動させて飛び出してしまったカズマがコクピットの中で右往左往していた。




【カズマ・アーディガン 搭乗機体:ダン・オブ・サーズデイ剣形態@ガン×ソード
 パイロット状況:背中に打撲、疲労(大)、ヴァンの蛮刀を所持
 現在位置:A-5 上空飛行中
 第一行動方針:とにかく降りる!
 第二行動方針:どうにかプルを止めたい
 最終行動方針:殺し合いには乗らずに主催者を打倒する
 ※宇宙へ転移する装置の情報を得ました。転移装置の正確な場所は他の書き手さんに任せます。
  B-1がa-1コロニーで、A-6がa-3の資源衛星、G-7がc-3コロニーに繋がっています。
  また主催者の影にデータベースがいるかもしれないと考えています
 ※参戦時期は第二部、カイト以後です。
 ※E-2の館はダン召喚の余波で破壊されました。


【一日目 8:00】
476代理投下終了:2010/01/09(土) 02:22:22 ID:1AayEydq
◆MeiOuuUxlY:2010/01/09(土) 01:57:42 ID:sXXpA3QE
投下終了です。どなたか良ければ代理投下お願いします。
タイトルは「強さの在処、心の在処」で。


投下お疲れ様。
カズマ本筋と関係ないw
477 ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:51:33 ID:BffyALmC
投下&代理投下乙ー
ハイパームラマサ斬りは夢に終わったか・・・
三重バリアってやばすぎだろw


えー、他の方が投下されてすぐで申し訳ないのですが、明日時間が取れるかどうかわからないので今投下します
478それも名無しだ:2010/01/09(土) 02:55:40 ID:ingBxKmz
支援
479GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:55:53 ID:BffyALmC
「なんだ、あれ」

ガラクタと見紛うばかりのポンコツロボ・ボスボロットの中で呟く、ツワブキ・ダイヤ。
その視線は荒野のド真ん中で派手に転倒した巨大な黒いロボに向けられている。
大きい……何というかそう、大きいとしか表現できない、そんなロボだった。
ダイヤの愛機であるガイキングも70mと相当に大きいのだが、あのロボットはそれどころではない。優にガイキングの三倍近くある。
その巨体から連想されるパワーは、おそらくダイヤが知る最強の力――ガイキング・ザ・グレートと同等かそれ以上のはずだ。
戦って勝てる訳がない。というかボスボロットでは戦いにすらなりはしない。
なのに何故、ダイヤはひたすらに呆然とそれを見ているだけなのかと言うと……

「あ、また転んだ」

そういう訳であった。



「う、うう……?」
「あ、気がついた?」

それから少し経って。
ダイヤが数えただけでも六度目だろうか。
巨体が転倒する衝撃は凄まじく地響きとなって現れる。だからだろうか、眠っていた少女がここにきて目を覚ました。
ダイヤもここを離れるべきかどうか迷っていたが、どうにもあのロボットには戦闘に不慣れなものが乗っている気がして決心がつかないでいたのだ。

「あ……え? あなたは……?」
「俺はツワブキ・ダイヤ! ダイヤって呼んでくれ! 君の名前は何て言うの?」
「え……と、イルイ、です」
「そっか、よろしくイルイ!」

快活な表情で握手を求めるダイヤ。その明け透けな態度に、人見知りする性格のイルイも何となく警戒を解かされる。
歳が近いこともあり、ダイヤもまた男の子としてイルイを守らねばならないという使命感に燃える。
イルイの目が七度目の転倒を迎えた巨大ロボに向いた。

「あの……ダイヤ、あれは……?」
「うーん……よくわかんないんだよね。危ない感じはしなさそうだけど」

イルイから見ても、200m近いロボが立っては転びまた立ってを繰り返す様は異常なようだ。

「どうすっかなぁ。音を聞き付けて誰か来るかもしれない。あんなでかくてもまともに動けないんじゃ、襲われたらひとたまりもないぞ」
「話しかけてみるのは……ダメ?」
「ダメじゃないけど。うーん……そうだ、これを使おう!」

思いついて、ダイヤは腕時計型のコントローラーに向かって(ノリで)叫んだ。

「ロボ! あいつをやっつけろ!」
「や、やっつけちゃダメー!」
「あ、いけね。ロボ、違う! 待て、ストップ!」

でもジャイアントロボは迅速に命令を実行していた。
二人の見ている前でジャイアントロボは指先からミサイルを垂れ流し、立ち上がろうとしていた巨大ロボを八度、地に伏せさせた。
そしてそれきり、動かなくなる。

「…………ダイヤ?」
「…………ごめん」

かなり怒ってるらしいイルイの低い声にビビりつつ。ダイヤはボスボロットを走らせた。
480それも名無しだ:2010/01/09(土) 02:56:24 ID:ingBxKmz
 
481GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:56:39 ID:BffyALmC
     ◆


「ごめんなさい! すいませんでした! もうしません! 俺が悪かったです! 反省してます!」
「あの、もういいから。私もケガは……あちこち痛いけど。おでこ打ったけど。とにかくケガはしてないから。
 ええ、と っ て も 痛 か っ た け ど 、特に気にしてないから」
「うう……ごめんなさい……」

ボスボロットのコクピット。
ちゃぶ台やら炊飯器やら、やたら生活設備が整っているというか普通に家じゃないかとかそんな感じのするでもとにかくコクピットで、ダイヤはひたすら謝っていた。
相手はイルイではなく、巨大ロボから引っ張り出した女性、テレサ・テスタロッサ――通称テッサだ。
イルイがトコトコとコーヒーを淹れてちゃぶ台に持ってくる。

「あの、これどうぞ」
「あ、ありがとうございます……ございます? なんか敬語使うのも変ですね。ありがとう、イルイちゃん」
「いえ……」

ダイヤに向けていた氷点下の視線が、イルイからコーヒーを受け取った瞬間に女神のような優しいものに変わる。
微笑みかけられたイルイもまた、花が咲いた様な笑顔を見せた。

「あの……俺の分は?」
「ダイヤにはないよ。ちゃんと反省しなきゃ」
「あうう……」

ジャイアントロボの攻撃により気絶したテッサはコクピットに侵入してきたダイヤに軽々と抱き上げられ、ボスボロットまで運ばれた。
すぐに気がついた彼女は見知らぬ場所に戸惑ったものの、明らかに自分より年下の子どもが二人いると悟ると取り乱すこともなく、

「あなたたち、ここは危険です! 早く逃げて!」

そう言った。彼女的には気絶する前何者かに攻撃されたのだから当然と言えば当然だが。
で、イルイが無言でダイヤを睨み、ダイヤがものすごい勢いで謝り出して……

「イルイちゃん、もういいんですよ。ダイヤ君も 多 少 は 軽率なところがあったとはいえ、この状況では仕方ないことです。
 私 さ え 我 慢 す れ ば いいことなんですから。ね、ダイヤ君?」
「うう……! すみませんでしたあ! だからもう許してくれよー!」

泣き出さんばかりのダイヤの顔をこれまた冷たく睨み、ふうと一息つくテッサ。
これだけ注意しておけばもういいだろう。少しは溜飲も下がったことだし……
それに何より、テッサがあの機体を扱うことは不可能だと分かった。運動神経などないに等しい自分が扱うには、ガンバスターは敏感すぎる。
過程に問題があるとはいえ、機体から降ろしてくれたことには本気で感謝していた。あのままでは身動きすら取れなかったのだから。
落ち着いたところでテッサは年長者として子どもたちに色々話を聞くことにする。
自己紹介を終え、ダイヤとイルイの元いた場所などを聞いていくうちにテッサは驚愕した。

「ダリウス界、ガイキング、大空魔竜、エアロゲイター、αナンバーズ……どれも聞いたことがないですね」
「俺だってそうだよ! 宇宙から侵略者が来たとか、星が落っこちて来たとか……そんなことがあれば絶対知ってるはずだよ」
「わ、私……嘘ついてないよ?」
「ああ、いえ。イルイちゃんたちを疑っている訳ではないんです。ただ、そう……少し、情報を整理してみましょうか」

この三人の中では必然、考える担当はテッサだ。
地球連邦の特殊部隊、シャドウミラー。
常識を越えた性能、いまだ実現不可能なはずの技術が雨霰と詰め込まれた超絶のスーパーロボット、ガンバスター。
ゲームや物語のような歴史を語るダイヤとイルイ。
70名の人間によるこの殺し合い。
482それも名無しだ:2010/01/09(土) 02:57:11 ID:ingBxKmz
 
483GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:57:31 ID:BffyALmC
テッサは熟考する。
出た結論は荒唐無稽なもの。しかしそれが一番納得のいく、整合性のある答え……

「おそらく、私たちは違う世界から集められたのでしょう。異なる世界の、同じ地球という星から」
「ち、違う世界?」
「並行世界、というやつですね。これまたSFの世界ですが……私も少々疑問ですが、こればかりはどうにもそういうものだと割り切るしかありません」

そもそもテッサの世界に地球連邦などという組織は存在しない。
未だ人は宇宙にその生活圏を伸ばしてはいないし、世界規模の組織と言えば国連の方だろう。
ミスリルのデータベースにも地球連邦並びにシャドウミラーなどという組織は記載されてはいないはずだ。

「あのシャドウミラーと名乗る者たち。彼らが何らかの方法で違う世界に干渉する手段を保有していて、私たちを集めた。
 少なくとも私とダイヤ君とイルイちゃん、三つの世界が確認できる。そしてあのホールにいた他の人……ダイヤ君、何か気付いたことはなかった?」
「え? うーん……あ! そう言えば、さっき俺たちを襲ってきた奴!
 暗黒大将軍とか言ったっけ……あいつもいた!怪獣みたいな大きさの、頭と胸に二つ顔のある奴!」
「ええ、私もその人……人なのかしら。まあとにかくその人を確認しています。私たちの世界にはあんな生物はいません」
「俺の世界には……い、いるかも。でも多分違うよ。ダリウス帝国ならともかく、ミケーネ帝国なんていなかったし」
「これで四つ。まあ、参加者の数だけ違う世界があると見ていいでしょう……ダイヤ君?」

テッサが見ると、ダイヤは何やら慌てた様子で頭をかきむしる。

「そうだ……! 剣児さんを助けに行かないと! ロボー!」

ボスボロットの窓を開け放ち、ジャイアントロボに移動しようとするダイヤ。
その首根っこをテッサの腕が引き戻す。

「ちょ、ちょっと待ちなさいダイヤ君! いきなりどうしたの!?」
「剣児さんが俺とイルイを逃がすために一人で残ったんだ! 暗黒大将軍って奴、将軍なんだからノーザみたいにバカ強いはずだ……!
 だから俺も行って一緒に戦わなきゃ! テッサさん、イルイをお願いします!」

だが華奢なテッサの力では、13歳にしてプロのアスリートすら凌駕する体力を誇るダイヤを止められはしない。
振り解かれたテッサは、窓に足を掛けたダイヤの背に叫ぶ。

「待ちなさいダイヤ君! ……イルイちゃんを放っていくんですか!?」

我ながら卑怯だな、とテッサは思う。こんな子どもに他人の命を背負わせるなど。
だが予想通り、ピタリとダイヤの動きは止まる。
自己嫌悪に苛まれつつも、テッサは年長者として、指揮官として、ダイヤを行かせる訳にはいかなかった。

「ダイヤ君。話を聞く限り、私たちの中で一番戦闘力があるのはあなたです。
 戦闘に不慣れな私、そもそも戦えないイルイちゃん。あなたとジャイアントロボがいなくなれば……言わなくても、わかってくれますね?」
「……お、俺は……!」
「そもそも、あなたがその剣児さんと別れたのはもう大分前の時間なのでしょう?
 剣児さんが勝ったにせよ……負けたにせよ。同じ場所に留まっているとは考えにくいわ。合流地点へ向かった方がいいはずです」

負けた場合。テッサは口にしなかったが草薙剣児が死亡した場合は移動できるはずがない。つまりは暗黒大将軍がこちらを追ってくる可能性。
勝った場合。剣児は必ずや合流地点――北東の基地へとやってくるはずだ。
ダイヤは幼くはあっても決して馬鹿ではない。テッサが言わなかった部分も、頭では理解していた。
484それも名無しだ:2010/01/09(土) 02:57:52 ID:ingBxKmz
 
485GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:58:24 ID:BffyALmC
「私たちにしろ、安全とは言い難いのです。おそらくここにはもうすぐ誰かしらやってくるはずだし、そうなったとき対応できるのはダイヤ君だけ。
 そしてこの首輪を何とかするためにも、誰よりも早く基地を押さえなければいけない。
 だから……戦いを終わらせるために、まず基地へと向かいましょう」
「ダイヤ……」

イルイがそっと、ダイヤの手を握る。
動かなければいけない時に動けないもどかしさに歪むダイヤの顔を、テッサは顔を逸らし見ないでおいた。

「ダイヤ君。残酷なようだけど……」
「……いいよ、わかってる。俺が……イルイと、テッサさんを守らなきゃいけないんだもんね」
「基地で待っていれば、やがては誰かと合流できるはずです。そうして集団を作れば、この殺し合いだってきっと……」

呟く言葉は尻すぼみに消える。
イルイが握る方とは逆の、固く握り締められた拳がその無念さを推し量らせた。
テッサはこれ以上少年にかけるべき言葉を見つけられない。
だが、一つ。口には出さなかったがテッサは現状を覆し得る一手を考えてもいた。

未だ倒れ伏すガンバスター。
超技術の塊、人間同士の戦いに用いるには余りにも過剰な力がここにはある。
テッサでは扱い切れなかった機体も、ガイキングなるこれまたオーバーテクノロジー満載の機体を駆っていたというダイヤなら、あるいは。

ガンバスターはバスターマシンという戦闘機が(戦闘機と言うにはサイズが非常識だが)二つ合体してその姿を現す。
主に戦闘を行う一号機、管制を担当する二号機。シャドウミラーが改造を施したらしく一人でも操縦できる仕様にはなっているが。
ともあれ運動能力に優れたダイヤが一号を操縦し、情報処理に秀でるテッサが二号に搭乗しダイヤをサポートすれば、ガンバスターはまさしく無敵となる。
この会場にどれだけ戦いに乗る者がいるかは分からないが、その者たちとて容易に駆逐できるだろう。

(問題は……軍人でもない子どもを、人を殺すかもしれない戦いに巻き込んでしまう、ということですが)

それこそが、テッサが口を噤む理由。
テッサは本来ならまだ学校に通っている歳ではあるが、自ら望んでミスリルに所属している。人を殺す覚悟もしているつもりだ。
ダイヤの話を信じるなら彼とて己の意志で戦っている立派な戦士だ。
だが、彼がいくら襲われたからといってその相手を殺せるかと言えば……テッサには正直、できるとは思えない。
戦力としては申し分ない。これが部下であったなら、躊躇わず戦えという命令を下せるだろう。
だが、ダイヤはあくまで民間人だ。守るべきではあっても、戦わせるべきではない。
先の言葉とて半分は出まかせだ。ジャイアントロボを失えば痛いのは本当だが、それ以上にダイヤを戦わせたくはないというのが大きい。

(それに、イルイちゃんも……できればどこか安全なところで匿いたいところですが)

ダイヤとイルイ。
幼い二人の安全を確保するにはやはり戦力が必要だ。
基地で友好的な誰かと合流できればいいのだが、とテッサが思ったとき、イルイがはっと顔を上げた。

「あ……誰か、来る……?」
「え?」

唐突に呟いたイルイの声に反応し、ダイヤが窓に飛び付いた。
テッサもその後ろから外を除くと、遥か向こうの大河の水面を何かが激しく叩いている。
天まで届かんとばかり噴き上がる水柱。
段々そのシルエットが見えてくる。マフラーのようなものを巻いた、巨人――
486それも名無しだ:2010/01/09(土) 02:59:12 ID:ingBxKmz
 
487GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 02:59:23 ID:BffyALmC
「こっちに来るっ!」

ダイヤの一言で我に返るテッサ。
水面を走ってくるのは紛れもなく他の参加者の機体だろう。真っ直ぐこちらに向かって来ている。

「ダイヤ君、ジャイアントロボを!」
「わかってる! ロボ、前に出るんだ!」

ダイヤの声に、佇んでいたジャイアントロボが唸りを上げて前進、ボスボロットを守るように立ち塞がる。
程なく接近してきた新手の機体が停止した。
赤いマフラーに白と黒のボディ、ところどころに黄色の突起が生えた大型の機体。

(大きい……! ガンバスターほどじゃないけど、ジャイアントロボよりも……べへモスよりも大きい!)

どことなく雷を連想させる機体のサイズは、おそらく50m超はあるだろう。ジャイアントロボが30mなことを考えると、倍は近い。
しなやかに伸びた手足、余計な武装のないシンプルな体型。おそらくは格闘戦特化の機体。
そして地平線の彼方からあっという間にここまで接近してきたスピード。どう考えてもジャイアントロボでは逃げられない。

「ダイヤ君、迂闊に仕掛けないでください。あの機体は……」
「うん……わかるよ。あの機体、強い……! こうして見ているだけでも、すごいプレッシャーだ……!」

さすがに直接的な戦闘に関してはテッサよりもダイヤの方が場慣れている。
だからダイヤは対峙した瞬間にわかってしまった。
ガイキングならともかく、ダイヤの能力を完全に発揮できないジャイアントロボとボスボロットでは、この機体には勝てないと。
イルイがテッサの袖を掴む。その手は震えていて、逆にテッサを落ち着かせた。
この機体、問答無用で仕掛けてこないところを見るに対話の余地はあるのかもしれない。
ダイヤに身振りでいつでも動けるように指示しつつ、ボスボロットの通信機に向かって口を開いた。

「こちらはテレサ・テスタロッサ……この機体、ボスボロットのパイロットです。
 私に戦う気はありません。あなたもそうであるのなら、話を聞いていただけませんか?」

応答は、ない。
だが代わりに白黒の機体は指を伸ばし、ジャイアントロボを指し示す。

「…………」

ダイヤが通信に出ればジャイアントロボには人が乗っていない、つまりボスボロットを仕留めれば一気に二人始末できるということが伝わってしまう。
今は向こうもジャイアントロボとボスボロットの双方に気を割いているからいいが、片方に狙いを絞られれば対処は難しい。

「あの……この人は怖い人じゃない……と、思います」

悩むテッサに、イルイが呟いた。

「え?」
「この人じゃない……違う、別の……。黒い、炎が……」
488GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:00:32 ID:BffyALmC
焦点の合わない瞳で続けるイルイ。その眼はテッサやダイヤ、果ては巨人すらも見ていない。
ぶつぶつと零すイルイが心配ではあったものの、

「テッサさん、ここは俺が話してみるしかないと思う」
「ダイヤ君」
「俺も警戒するけど、もしものときはボスボロットの操縦を頼むよ」

と言うダイヤに押し切られ、通信を再開。

「俺はツワブキ・ダイヤ。俺がそのジャイアントロボのパイロットだ」
「……子どもか?」

驚いたような、少年の声。
ダイヤの幼さにではあろうが、その声の主もまたテッサの歳とさほど変わりがないように思えた。

「シャドウミラーめ……女だけでは飽き足らず力のない子どもまで巻き込んだというのか!」
「あ、あの」
「許さん、許さんぞシャドウミラーめ!」

怒髪天を衝くがごとく何やら盛り上がる少年に呆気に取られるダイヤ達。
とりあえずは敵ではない――多分。そう思って交渉を再開したテッサ。

「済まんが、俺はお前達と共に行く事はできん。やる事があるのでな」

だがあっさり断られた。
少年の名は張五飛。詳しい素性は教えてもらえなかったが、ともかくこういった機動兵器を日常的に操る軍人のようなものらしい。
戦いに乗ってもいないようなので同行を頼んだのだが、即答だった。

「そ、そこを何とか。施設に着くか、他の参加者と合流するまででも構いません。私達を護衛してもらえませんか?
 こちらにはもう一人、非戦闘員がいるんです」

と、イルイを示し食い下がるテッサ。子どもが二人に女一人の集団と知ると五飛なる少年はまたも怒りを露わにした。
簡単な自己紹介をしてダイヤは戦えることも知らせたのだが、やはり機体の不安がある。
大雷鳳なる機体は相当に強力らしいので、五飛が来てくれれば心強いのだが。
しばし熟考していた五飛が、やれやれと溜息をつき、

「……ここから北の基地までなら、共に行こう。だがそこから先は別行動を取らせてもらう。それでいいか?」
「はい! ありがとうございます」
「へへっ。よろしく、五飛さん!」
「ああ、それとあの巨大な機体はどうするのだ。置いていく訳にもいかんだろう」
「ああ……そうですね。私やイルイちゃんでは扱えませんし、やはりダイヤ君に……でも……」

渋々とはいえ共に来てくれることになり、ダイヤとテッサは喜色を浮かべた。
ガンバスターの処遇について話す五飛とテッサを横目に、ダイヤは残る一人を見やった。
五飛を信用できると言ったきりどこかぼんやりとしていたイルイが、急に頭を押さえて膝を付いた。

「う、うう……!」
「イルイ! どうしたんだ!?」
「あ……危ない……! みんな……逃げて!」

何を、とダイヤが言おうとした瞬間ボスボロットが吹き飛んだ。ダイヤは反射的にイルイを抱きかかえる。
一拍遅れて、凄まじい衝撃波。ボスボロットのコクピットに置いてある雑多な家具が散らばった。
489それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:00:48 ID:ingBxKmz
 
490GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:02:02 ID:BffyALmC
「な……なんだ!?」

元々頑丈なダイヤと庇われたイルイに怪我はない。テッサもどこかにぶつけたのか腰を押さえてはいたが、無事だった。
急いで外を確認すると、五飛の大雷鳳がいつの間にか現れていた紫色の新たな機体と対峙している。
大雷鳳の腕から伸びる光の鞭が、新たな機体の左腕に絡みついていた。
その腹部には煙を吹く砲身。どうやらあれで砲撃を受けたらしい。
ボスボロットを突き飛ばしたのはジャイアントロボであるらしかった。命令していなくても、操縦者の危機にはオートで対応してくれるようだ。

「貴様……この戦いに乗るというのか?」
「…………」

五飛の問いかけに、紫の機体は答えない。代わりに光の剣を伸ばし、両腕に構えた。
大雷鳳が光の鞭――プラズマビュートを引っぱり、紫の機体を引き寄せる。
その蹴りに砕かれる刹那、紫の機体が振り下ろした剣がプラズマビュートを切り裂き戒めから脱する。
距離を置いて向かい合う、二機。

「いいだろう……シャドウミラーの口車に乗り弱き者を虐げると言うのなら、俺が貴様を倒す!」
「五飛さん!」
「お前達は下がっていろ。こいつは俺がやる!」

大雷鳳が加速し、プラズマ轟く剛脚を敵機へと叩き付ける。
操縦者の挙動をそのまま機体に反映するダイレクトモーションリンクシステムは、武術の達人である五飛に取ってはまさしく大当たり。
疾風迅雷としか表現できなさそうなスピードで放たれた蹴りをまともに受け、敵機が吹き飛ぶ。

「ダイヤ君、今の内にガンバスターに!」
「え?」
「私達を庇いながらでは五飛さんが不利です!」

五飛の鮮やかな動きに感心していたダイヤにテッサの指示が飛ぶ。
躊躇いはあれど、ボスボロットであの二機の戦いに巻き込まれれば命はない。戦わせたくないとはいえ、ガンバスターに乗っている方が安全なのは明らかだ。
ボスボロットを抱え、ガンバスターの方に向かおうとするジャイアントロボ。

「うわっ!?」

その前に割り込む、紫色の小さなUFOのような物体。口を開け光を吐き出した。
ジャイアントロボが被弾し巨体が傾ぐ。当然、ボスボロットのコクピットも激しく揺れる。

「ダイヤ!? くっ、貴様!」

大雷鳳の脚が一閃、刃状のプラズマ力場――ハーケンインパルスが飛び、機動砲台へ激突する。
だが、砕けない。
吹き飛びはしたものの、寸前で相殺されたか機動砲台は形を崩すことなく紫の機体へと帰還する。
まともに蹴りが入ったというのに、敵機にはさして損傷を受けたようには見えない。
今も、そして先ほども。五飛は蹴りが命中する刹那、妙な感触を感じていた。
形容するとすれば脚が水をかき分けるような、と言えば近いだろうか。
とにかく蹴りのスピードが、敵機の間合いに入った途端鈍ったような気がしたのだ。
再び距離を詰めようとする大雷凰だが、今度は逆に紫の機体が光の剣を鞭状に伸ばし大雷鳳へと巻き付かせた。
だが五飛は怪訝に思う。どうにもこの機体、大雷鳳を狙っているとは思えなかったからだ。
裏付けるように、紫の機体から秘匿通信の申し出が届く。
491それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:02:04 ID:ingBxKmz
 
492GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:04:10 ID:BffyALmC
「……やはり張五飛、か。こんなにも早く再会するとはな」
「貴様……レイ・ザ・バレル、と言ったか?」

繋がった敵機パイロットの映像。
映し出された長い金髪の少年、その名は五飛自身が直前に対面した他のジョーカーの一人、レイ・ザ・バレルだった。

「さて、済まないな。俺はどうやら邪魔をしたようだ。そいつらはお前の獲物だったか?」
「フン、謝る必要はない。だが代わりに貴様の命を置いていけ!」

鞭を瞬速の蹴りが裂断し、浮き上がった機体を旋回させもう片方の脚がレイの機体――R-GUNリヴァーレを襲う。
だが予測されていたか、その一撃を軽々とかわしレイは後退する。
追って飛ぶ大雷鳳。突き出した拳は交差した光剣に受け止められた。

「どういうつもりだ。ノルマに俺達ジョーカーは含まれない……忘れたか?」
「いいや、忘れてなどいない。注意しろとは言われたが、絶対にするなとは言われていないな!」
「くっ!」
「望み通り二人、倒してやるさ。だが、その敵は俺が選ぶ! 貴様のように弱者を犠牲にするような奴をな!」

出力に物を言わせ、大雷鳳がR-GUNリヴァーレを押し出すようにして後退させる。
ダブルGの系譜に名を連ねる大雷鳳はそこらのモビルスーツやパーソナルトルーパーなどとは比較にならない力を有する。
いかにEOTで強化されたイングラム・プリスケンの愛機と言えど、純粋なパワーでは抗し得なかった。

「正義なき者に俺は負けん!」
「ぐうううっ!」

雷光閃く蹴りが放たれ、宙へと押し上げられるR-GUNリヴァーレ。
だがその時、必殺の一撃を放たんとする大雷鳳の視界の端を掠める二つの影。
瞬間の判断で五飛は敵機よりもその影の迎撃を選択した。
レイに向き直ったときには既に体勢を整え、距離を開けられている。

「なるほど……お前はジョーカーでありながらこの殺し合いに反逆する、と言う訳か」
「俺は俺の正義しか信じない。そして俺の中の正義はこう言っている――奴らシャドウミラーも貴様のような外道も、等しく地獄へ蹴り落とせとな!」
「甘い事だ。それは弱さだぞ、張五飛!」

今度は三つ。三つ同時にR-GUNリヴァーレの背から機動砲台ガンスレイヴが飛び立った。
それぞれに違う軌道を描き、だが全てが大雷鳳ではなく後方のボスボロットを狙っている。

「っ、ダイヤ!」
「ロボ、撃ち落とせ!」

五飛が叫び終わる前にダイヤの指示により動いたジャイアントロボが指のミサイルランチャーを乱射し、ガンスレイヴの迎撃を図る。
瞬く間に火球が咲き乱れ轟音を響かせるが、ガンスレイヴは巧みに爆発を避け反撃の光弾を撃ち込んでいく。

「このガンスレイヴはただのドラグーンとは違うぞ! 全てが俺の意思通りに動く……!」

レイの言葉通り、ガンスレイヴはまるで人が乗っているかのように滑らかな動きで空を舞う。
時に連携し、時に欺瞞行動を見せ狙いを幻惑するその軌道は華麗ですらあった。
ボスボロットから戦況を確認し指示を飛ばすダイヤでは、その変幻自在の動きに対応しきれない。
493それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:04:36 ID:ingBxKmz
 
494GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:05:57 ID:BffyALmC
「ダイヤ、退け! こいつは俺に任せろ!」
「そんな!? 俺も戦うよ!」
「今のお前達では足手まといだ! 俺も気を散らしている余裕はない!」
「……っ、だったら!」

ジャイアントロボを盾に、ボスボロットがガンバスターへと向かっていく。あの機体を動かせれば戦況は逆転する。ならば五飛がやることは一つ。
大雷鳳がマフラーをはためかせR-GUNリヴァーレの前に立ち塞がる。

「ここは通さん! お前の意思通りにその小型機が動くというなら……!」
「むっ!?」
「回避に集中せねばならんほどにお前を追い込めば、そんな余裕はなくなるということだろう!」

乱撃乱舞。
五体全てが凶器である五飛の体術を存分に活かす、高速のラッシュ。

正拳、手刀、貫手、鉤爪、裏拳、肘打ち、頭突き。
回し蹴り、踵落とし、二段蹴り、飛び蹴り、膝蹴り、浴びせ蹴り。

右に左に上に下にと縦横無尽に大雷鳳が飛び回り、これでもかと言うほどの攻撃をR-GUNリヴァーレへと加えていく。
合間に閃くプラズマの輝き。拳から伸びるプラズマビュートと足刀から放たれるハーケンインパルスが、距離を取ることも新たな武装を展開することも許さない。
ロシュブレードとガンスレイヴを防御に回し、必死にレイは怒涛のラッシュを凌いでいく。
やはりこの機体には何かあると五飛は確信した。
五飛の攻撃はいくつかが防御を擦りぬけて直撃している。だというのに、その部位を破壊するには至らないのだ。
おそらくは何か不可視の力場が展開されている。アフターコロニーにはない未知の技術。
だが、万能ではない。敵機が回避運動を取っている事こそその証拠。
ともあれこのまま行けば押し切れる――と、五飛が一層拳と脚に込める力を強くした時。

「くっ、やるな……! だが、張五飛。数で劣る俺が無策で仕掛けてきたとでも思っているのか?」
「何!?」
「俺は勝てると踏んだから仕掛けた。その理由は何か……簡単だ。俺にも仲間がいる、それだけの事だ」

蹴りを交差させた両腕で防いだR-GUNリヴァーレ。
呟くレイに応えるように新たな反応。五飛の領域を迂回し、一直線にダイヤ達へと向かっていく機体――機体?
いや、違う。
それは斧。そう、大雷鳳にも匹敵する大きさの斧が、振るう者もいないのに飛んでいく。
急いで救援に向かおうとする大雷凰を、R-GUNリヴァーレが阻む。

「ダイヤ、女!」
「フフフ……。張五飛! ここからは俺がお前を留める番だ!」

そして、鋼が交錯する。
495それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:05:58 ID:ingBxKmz
 
496それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:06:45 ID:ingBxKmz
 
497GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:07:23 ID:BffyALmC
     ◆


ガンバスターまであと一歩、というところまで来たテッサ達も巨大な斧に追いつかれていた。
ジャイアントロボがその身を盾として斧を受ける。だが元の大きさが違う事と斧自体に凄まじい加速がついていたので、あえなく吹き飛ぶ巨人。
瞠目するテッサらの眼前で、斧が折り畳んだ手足を伸ばし人型の機体に変形した。

ディアブロ・オブ・マンデイ――バランスの執行者、オリジナルセブンのヨロイ。
身の内に秘めるは世を支配せんとする死の商人、アマンダラ・カマンダラ。

「さあ、狩りを始めよう!」
「くっ……ロボォォ!」

黄金の戦斧を頭上で旋回させ、ディアブロがボスボロットに迫る。
膝を付いたままでジャイアントロボが主を守るべく腹部四門のスポンゾン砲を発射した。
ディアブロは避けない。
先だってのぬいぐるみの姿をした化け物には遅れを取ったが、それはアマンダラが動揺したせいであって決して機体に問題があった訳ではない。
ディアブロの装甲を貫ける者などそう多くはない。そう、あの化け物――悪魔のようなごく一部の例外を除けば。
そう考えたアマンダラはあえてその砲撃を避けず、ボスボロットへと黄金の戦斧を振り降ろす。

「うおおおおおおおっ! ボロットパーンチッ!」

だが、どう見てもスクラップを寄せ集めたようにしか見えないボスボロットはその一撃を受け止めた。
丸っこい拳で挟み込むようにディアブロの斧を殴りつけ強引に白羽取るボスボロット。
見た目が多少コミカルでも、改造に改造を重ねたボスボロットはパワーだけならマジンガーにすら匹敵する。
テッサが何か言う間もない。反射的にダイヤは動いていた。

「こ……この出来そこないが!」
「ボスボロットの力を、甘く見るなァァァァーッ!」

動きの止まったディアブロを狙いジャイアントロボが背中のミサイルをセットアップする光景が、アマンダラの目に映る。
さすがにあれは無視できないと斧を手放し跳ぶディアブロ。

「カウンタァァァークロォォス!」
「ロボ、今です!」

思い切り回転し遠心力を付けてボスボロットが戦斧を投擲する。
そしてこうなれば行くしかないと、ダイヤからコントローラーを受け取ったテッサがジャイアントロボに全武装の開放を命じる。
猛回転する刃とミサイルの雨がディアブロを包み込んだ。

「ぐおおおっ!? き、貴様ら……!」
「まだだ! ついでにこいつを喰らえっ!」

腕の刃でなんとか斧を喰いとめたが全身に砲撃が命中しディアブロが頭から地面に叩き付けられた。
ボスボロットが自らの右腕を引っこ抜く。腰の後ろから取り出したのは一回り太くなった別の腕。
ドリルのように回転し、あまつさえダイヤは装着している右腕ごと風車のようにブンブンと振り回す。
498それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:08:44 ID:ingBxKmz
 
499GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:08:52 ID:BffyALmC
大車輪パンチャーグラインドォォォーッ!」
「熱ッ!? ちょ、ダイヤ君熱いです! 熱い熱い痛い!」

バランスが保てなくなる寸前までブン回した右腕から炎が噴き出し、発射された。
噴射炎は本体であるボスボロットにまでお構いなしに吹き付け、頭部コクピット内のテッサ達まで高温の熱風を浴びせかけていた。
当のダイヤは涼しい顔だが、ジャイアントロボを操るために前に詰めていたテッサはたまったものではない。イルイはちゃっかりちゃぶ台の影に隠れて難を逃れていたが。
ともかく発射された右腕、言うなればロケットパンチはようやく立ち上がったディアブロの腹を深々と抉った。
50mを越える機体が、たった一つの砲弾に押し戻される。

「ぐふっ!」
「ようし……とどめだ! ハイドロォォォ……!」

腕を付け直し、ボスボロットが球を――ボスボロットの頭部を構え、高々と片足を上げる。
流れる視界、ヒートアップするダイヤ。テッサは猛烈に嫌な予感を感じた。
ボスボロットはASと違い、コクピットは頭部にある。つまりは、今ボスボロットが掲げているのはコクピットそのもの。
それを、ダイヤは、

「だ、ダイヤ君、何を……?」
「ブレイザァァァァァァァァァーッ!」

ブン投げた。

「やっぱりぃぃーっ!?」
「きゃあああああ!?」
「行けええええええええっ!」

三者三様の反応を上げ、ボスボロットの頭が大気との摩擦で火を纏いながらもディアブロへと殺到する。
ディアブロの顔面にめり込むハイドロブレイザー、もといボスボロット。
ヨロイの巨体が傾ぐ。一拍遅れて、地に倒れ伏した。

「へへ、どうだ!」

ボスボロットの頭部が零れ墜ち、二転三転して静止する。
当然激しくシェイクされぐちゃぐちゃになったコクピット内で、ダイヤが喝采を上げた。目を回しているのはテッサとイルイだ。

「だ、ダイヤ君……あんな無茶するなら、せめて前もって一言……」
「あ、ごめん。 でも敵はやっつけたよ!」
「……いいや、まだだッ!」

ディアブロが跳ね起きる。近づいていたジャイアントロボを勢いのまま蹴り付け、吹き飛ばした。
唖然とするダイヤ達が行動を起こす前に、ボスボロットの頭部を踏みつける。

「やってくれるじゃないか、若造が……!」
「うわぁっ! こいつ、まだ!」
「ろ、ロボ……!」
「変な真似はするんじゃない! 少しでも動けばお前達を踏み潰すぞ!」

テッサがジャイアントロボを呼ぼうとしたが、アマンダラはそれを許さない。
無人機、口頭で命令を発することでジャイアントロボが動くと看破したアマンダラはまず押さえるべきはそのコントローラーだと定めたのだ。
500それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:09:34 ID:ingBxKmz
 
501それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:10:23 ID:ingBxKmz
 
502GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:10:26 ID:BffyALmC
「あの機体のコントローラーを渡せ。そうすれば命は取らない」
「ふざけるな! お前の言う事なんて誰が信じるもんか!」
「元気がいいな、若者よ。だが状況を理解していない……!」

ディアブロが少し脚に力を込める。それだけでボスボロットの柔な装甲はミシミシと軋み出し、圧壊しそうになる。
ジャイアントロボは、動かない。下手に手を出すと即座に主が踏み潰されるとAIが判断したためだ。

「さあ、選べ。このまま死ぬか、私の慈悲に縋るか! 二つに一つだ……!」
「こ、このお!」

ダイヤがなんとか脱出しようとがむしゃらにボスボロットの操縦桿を動かす。
自動操縦で向かってきたボスボロットの胴体は、だがあえなくディアブロの戦斧により真っ二つに斬り捨てられた。

「ああ、ボスボロットが!」
「これでわかっただろう、抵抗するな。さあ、出て来るんだ! 早くしなければ私の気が変わるかもしれんぞ!」

コクピットの天井に、ビシリと亀裂が走る。絶妙な力加減。
イルイが悲鳴を上げてテッサに抱きつく。このままでは本当に、三人まとめて潰されてしまう。
だがジャイアントロボのコントローラーを渡したところで、アマンダラはテッサ達を生かしては置かないだろう。
それどころか今もR-GUNリヴァーレを押さえている五飛にまで危険が及ぶ。
二対一ならまだしも三対一となれば絶望的だ。いかに彼がSRT並みの技量を誇る腕利きの兵士であったとしても。

死ぬのが自分一人ならいい。だが、幼い子ども二人を道連れにはできない――テッサは決断する。
ダイヤとイルイを抱き寄せ、耳元で囁く。アマンダラには聞こえないように。

「ダイヤ君、イルイちゃん。よく聞いてください。今から私が外に出て、あいつの気を引きます」
「な……何言ってるんだよテッサさん! あいつにロボを渡しちゃダメだ!」
「ええ、私もそのつもりです。ですがこの状況、何か手を打たないと本当にみんな死んでしまうんです。
 だから、私が出て行ったら隙を見てあなたとイルイちゃんは逆方向から逃げてください。私がロボで援護します」
「逃げる!? 嫌だ、俺も戦うよ!」
「もうボスボロットは動きません。私達が勝てる確率はほとんど0なんです」
「だからって、テッサさんを置いて逃げるなんてできない!」
「ダイヤ君……」
「剣児さんも俺を逃がして自分は残ったんだ! もう、誰かを置き去りにして逃げるのなんて嫌だよ!」

必死に食い下がるダイヤ。どう説得したものかと言葉に詰まるテッサに、イルイがそっと呟く。

「あ、あの……! 私も、嫌です……。逃げるなら、み、みんな一緒でないと……!」
「イルイちゃん……」
「相談は終わったかな? そろそろ決めてくれないと私も力加減を間違えてしまうよ」

男の声に怒気が混じってきた。確かにもう時間がなさそうだ。
逃げるならみんな一緒に。それを叶えるためには、やはり――

「……ダイヤ君。あなたに……期待しても、いいですか? 過酷な運命を背負う事になりますが……」
「テッサさんが心配してるのは、俺が人を殺すかもしれない事、だろ?」
「ええ。ここにいるのは侵略者でも何でもない、私達と同じただの人間がほとんどのはずです。そんな人達を、あなたに」
「わかってる……わかってるよ。悪いのはこんな殺し合いを仕組んだ奴で、今襲ってきてる奴らだって本当は戦わなくてもいい人なのかもしれない。
 でも! でも……。俺はそれでも、テッサさんやイルイ、剣児さんが死ぬのはもっと嫌だ! だから……!」
「……わかりました。では、作戦を変えましょう」
503GUN×KICK ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:12:44 ID:BffyALmC
大人としては最低だ。でも、今はこの熱く燃える炎に賭けるしかない――
テッサの言葉に強張った顔で頷くダイヤ。イルイもまた泣きそうではあったが、必死に恐怖と戦っている。
年下二人がこうなのだから、年長のテッサとて情けないところを見せる訳にはいかない。

「では、行きますよ!」

ボスボロットから転び出るテッサ。
外のディアブロによく見えるように腕を掲げジャイアントロボのコントローラーを示す。

「これを渡せば……仲間の命は保証してくれるんですね?」
「もちろんだとも。さあ、その時計を外して地面に置き、君は下がりたまえ」

余裕ぶった男の声。それはそうだろう、逆転される要素など一つもない。
だが、その余裕が命取りだ。
時計を外し、地面に置くためしゃがみ込み――

「……ロボ! 全弾発射!」

最後の命令を下した。
機を窺っていたジャイアントロボが、背中の大型ミサイル、バズーカ、指の小型ミサイルランチャーを全て一斉に解き放つ。

「ぐうっ、それが答えか! ならば!」

ぐしゃっ、とディアブロの脚がボスボロットの頭部を踏み潰す。もはや跡形もなく、一瞬で粉々に。
だがその時には既にダイヤとイルイは脱出している。
俗に言うお姫様抱っこと言うやつで、脆くなったコクピットの外壁を内側から蹴破って。
その向かう先は、ついに辿り着いたガンバスター――宇宙に敵なし、最強無双の力。
テッサがジャイアントロボに下した命令は攻撃ではなく陽動。派手に砲火を上げ、気を逸らす事。
アマンダラは気付かない。砲弾飛び交う戦場を生身の人間が駆け抜けていくなど、普通は考えつけるはずなどない。

そう、普通のパイロットならば。

「甘いわァッ!」

ディアブロの拳をジャイアントロボが受け止める。
最優先すべきは主の安全。砲撃は一時中断され、一瞬の静寂。
アマンダラはその中に、ごく小さい熱源反応――全力でダッシュするダイヤの影を見つける。

「あの化け物と戦っていなければ見逃しただろうな……だが、今の私には通じん!」
「ああっ!」

アマンダラの脳裏に焼き付くぬいぐるみの悪魔。あの化け物との交戦経験が役に立った。
身体を捻り斧を振りかぶるディアブロ。
そして――投擲。
ガンバスターへと駆けていく影。運動は苦手なテッサとは比べ物にならないほど速いが、それでもどうしても遅い。
一瞬で音速にまで達したかもしれない大戦斧が、少年と少女の身体を引き裂く。



――――轟。


504それも名無しだ:2010/01/09(土) 03:14:08 ID:ingBxKmz
 
505SWORD×AX ◆I0g7Cr5wzA :2010/01/09(土) 03:15:44 ID:BffyALmC
     ◆


一閃。
唸るは剣風、響くは剣戟音。


「お、お前は……!?」

ダイヤを砕き散らすはずだった大戦斧は、遥か天空へと切り払われた。割り込んだ大剣――人剣一体の機体、セレブレイダーによって。
そしてセレブレイドを握るはそびえ立つ巨体。腹にもう一つの顔を持つ誇り高きミケーネの武人、暗黒大将軍。
ダイヤ自身が数刻前に行き逢った、間違いなく敵と言える男。

「フン、よくよく貴様も運がないな。マジンガーに逃がされた先で戦に巻き込まれるとは」
「お前、剣児さんはどうした! なんでお前がここにいるんだ!?」
「剣児……草薙剣児、か。奴は見事な武人であった。この俺をああまで追い詰めた男は、剣鉄也を置いて他におらん」
「ま、まさか……!」
「奴は死んだ」

イルイを抱きかかえるダイヤの顔がくしゃりと歪む。涙を堪えるように――それ以上の怒りで塗り潰すように。
錯覚かどうか、イルイは肌に触れるダイヤの体温が急激に上昇したかのように、ビクリと震える。

「お前……! お前が、剣児さんを殺したのか!?」
「……そうだ。俺がこの手で奴を討った」
「う……うわぁぁぁーっ!」

イルイを下ろし、ダイヤは生身で暗黒大将軍の脚へと殴りかかる。
子どもながらに腰の入った打撃だ。相手が普通の人間だったなら骨まで砕けそうな。
だがもちろん、30mを越える巨体の暗黒大将軍に通じるはずもない。
暗黒大将軍が、軽く脚を振る。腹にめり込む衝撃に、ダイヤは軽々と吹き飛ばされた。

「ダイヤーッ!」

イルイがダイヤを助け起こす。だがダイヤは完全に気を失っていて、イルイの声には応えない。
暗黒大将軍は剣をイルイへと突き付ける。見返す瞳は友を傷つけられた怒りで震えている――それでこそだ。

「その小僧の名、貴様は知っているか?」
「ダイヤ……ツワブキ・ダイヤ!」
「ダイヤ、か。小娘、そやつが目覚めたら伝えるがいい。力を手に入れ、いつでも草薙剣児の仇を取りに来いとな!
 俺は暗黒大将軍、挑まれれば逃げも隠れもせん! たとえ相手が女子どもであろうともだ!」

言い捨て、暗黒大将軍は踵を返す。
その眼光が見据えるのは、状況の推移を計りかねていたディアブロ・オブ・マンデイ。
傍らに突き刺さっていた戦斧を抜き、放り投げる。受け取るディアブロ。
暗黒大将軍自身はセレブレイドを正眼に構え、漲る闘気を解放する。
明らかに人でなき者と相対し、その凄まじいプレッシャーに気圧されるアマンダラだが、それはテッサも同様だった。

「貴様も戦場に在る武人ならば名乗るがいい! 俺は暗黒大将軍、ミケーネ帝国の将よ!」
「ぬう、貴様……私の邪魔をするというのか!」
「弱者を嬲る愚か者など、俺の剣の錆にする価値もない。だがな……!」
506SWORD×AX ◆I0g7Cr5wzA
振り回されるセレブレイドが大気を切り裂き、烈風を巻き起こす。

「草薙剣児はこやつらを守るために俺と戦った、見事な戦士だった!
 決着を着けられなかったのが心残りでな……あのまま続けていれば俺が勝っていたかどうかわからん。
 だからこそ、奴の同胞であるツワブキ・ダイヤが俺と雌雄を決せねばならんのだ!」
「ダイヤ君と……? そのために私達を助けるというのですか!?」
「勘違いするな、娘。これは草薙剣児への敬意だ。奴が生きておればこうしただろう、ただそれだけの事。
 次に相見えた時は容赦せん! 覚えておけ、いずれ貴様もダイヤと言う小僧も俺が討ち果たす!」

それきりテッサには目もくれず、暗黒大将軍はディアブロの間合いへと踏み込んでいく。
交差する剣と戦斧。体格に勝るディアブロだが、暗黒大将軍の湧き上がる闘志はその不利を覆す。
一気に押し込まれ体勢の崩れたディアブロへ、セレブレイドから放たれる竜巻がディアブロを天へと弾き飛ばした。

セレブレイダーは本来ブレイドガイナーと合体する事で、本来の力を発揮する。
だが今セレブレイドを握るのはプラズマドライブを持たない暗黒大将軍。必然、その力を十全に振るう事などできない――はずだった。
だが、シャドウミラーの技術力はセレブレイド単体でもヘルスハリケーンを起こせるほどにプラズマドライブを強化していた。
加えて、暗黒大将軍が本来持つ竜巻を放つ力。
二重の竜巻は全てを薙ぎ払う嵐となって顕現し、猛威を振るう。

「砕け散れェェェいッ!」
「おおおおおおおおっ!?」

異なる二つの気流の流れは反発し、時に混じり合い、中にいるディアブロを木の葉のように惑わせる。
今こそ必殺の一刀を。
脚を踏み出した暗黒大将軍。だが狙うべきディアブロのさらに上、煌めく一点の星が見えた。
星は瞬く間に急降下し、ディアブロを掴み暗黒大将軍目がけて蹴り落とす。
とっさに一歩下がった暗黒大将軍。その身体は不意に横手へと吹き飛んだ。

「ぐあああッ!?」

地を滑り、小山へと激突する暗黒大将軍。
代わりに着地したのは雷の化身――大雷鳳と、吊り下げられた銃――R-GUNリヴァーレ。
そして地面に埋まるほどの勢いで胴から叩き付けられたディアブロ。

「五飛さん!」
「無事か、女! ダイヤ達はどうした!?」

大雷鳳、R-GUNリヴァーレ共に全身に傷を負っている。
特に大雷凰はR-GUNリヴァーレを突破するために相当無理をしたらしい。左腕は肩から欠落していた。
R-GUNリヴァーレは全身の装甲至る所に傷があるものの、さして大きい損傷はない。
暗黒大将軍を吹き飛ばしたのはR-GUNリヴァーレの切り札、アキシオン・キャノン。万全の出力ではなかったので威力はさほどでもなかったが。
身を起こす暗黒大将軍。怒りに震える眼光が、新たに現れた二機を射殺さんばかりに睨み据える。

「貴様ら……許さんぞ! この俺に砂を噛ませるとは何たる屈辱!」
「ええい、また新手か!」
「待って五飛さん、その人は!」
「もはや問答無用! ぬおおおおおおッ!」