スパロボキャラバトルロワイアル5

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1それも名無しだ
【原則】
乗り換えのルールはこれが鉄板です、変更は出来ません。(詳しくは初代議論感想スレを参照の事)
前の人の話やフラグを無視して続きを書くのは止めましょう。
また、現在位置と時間、状況と方針は忘れないで下さい。
投下前に見直しする事を怠らないで下さい、家に帰るまでが遠足です。
投下後のフォローも忘れないようにしましょう。
全体の話を把握してから投下して下さい。
【ルール】
基本的に初期の機体で戦うことになりますが以下は特例として乗り換え可能です。
・機体の持ち主を殺害後、その機体を使う場合
・機体の持ち主が既に別の機体に乗り換えていた場合
・機体の持ち主が既に殺害されていて、機体の損傷が運用に支障無しの場合
弾薬やENは各地にある補給装置で補給です。
また乗り捨てたor破壊された機体は次の放送時に消滅します
→主催者権限で、現在は機体消滅は無いようです
【備考】
議論感想雑談は専用スレでして下さい。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
おやつは三百円までです、バナナは含まれません。
スパロボでしか知らない人も居るので場合によっては説明書きを添えて下さい。
水筒の中身は自由です、がクスハ汁は勘弁してつかぁさい。
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
初めての方はノリで投下して下さい、結果は後から付いてくる物です。
作品の保存はマメにしておきましょう、イデはいつ発動するかわかりません。

前スレ
スパロボキャラバトルロワイアル4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1144645354/l50

感想、議論はこちらで。
スパロボキャラバトルロワイアル感想・議論スレ6
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1152329739/l50
2それも名無しだ:2006/07/09(日) 23:38:40 ID:5n2H5ZRw
2
3それも名無しだ:2006/07/09(日) 23:40:19 ID:95lyT71Y
4Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:46:24 ID:K+IM3s8I
「お前がやったんじゃあないのか? なぁ、マサキ?」
周囲をむき出しのコンクリートに囲まれた通路の中で、白銀の流星が蒼き流星へと銃を突きつけて対峙する。
「フォッカーさん…何を…!」
「そのままの意味だ。お前が、司馬先生を殺したんじゃないのか?」
通信機越しに向けられた言葉を跳ね除けて、フォッカーはGアクセルドライバーを僅かにレイズナーへと近づける。
向けられたGアクセルドライバーを見詰めながら、木原マサキは歯噛みした。
この男が自分を警戒しているのは、向けられる言動から薄々は感付いていた。
だが、奴は遷次郎を慕っている。事実、遷次郎が自分に同情の念を抱き、同行を許したときもさしたる反対はなかった。
遷次郎が自分との同行を望む限り、明確な敵対行動を起こさなければ害を加えてくる事は無いと踏んでいたが、
その遷次郎の庇護が失われた今、こんなにも早く自分に牙を剥いてくるとは。
「ふざけないで下さい。何で僕が司馬さんを…」
言いながら、冥王はその頭脳をフルに回転させてこの状況を打破する術を考える。
ベストなのは、誤解を解いてこの男をこちらの手駒とすること。
イサムの信用は既に得ているし、奴と行動を共にしていたヒイロという少年もイサムを信頼していたようだ。
その上でこの男を手駒に出来れば、自分を含めて頭数は四人になる。参加者も30人を切った今、その戦力は恐らくこのゲーム内で随一のものになるだろう。
だが、それは難しい。
証拠もなく、ただ胸中に渦巻く不信感だけで銃を向けてきたのだ。抱いていた警戒は思っていたよりも根が深かったらしい。
遷次郎の仲介でもあれば話は違っていただろうが、既に奴はいない。それに、例えこの場を言い包めたとしても、その後が問題だ。
これだけの不信感をそう簡単に拭い切れるとも思えない。仮に誤解が解けたとしても、一度巣食った不信感はこの男の中に根深く息づく。
となれば―――。
(―――いっそ、切り捨てるべきか?)
この男と白銀の機体が有する戦闘力は高い。切り捨てるには、少々惜しい。
だが、それだけの力を持つからこそ、それが再びこちらに向けられるよりも早く切り捨てるべきだろう。
獅子身中の虫を飼うつもりはない。思い通りにならぬ駒など、必要ないのだ。
冥王の頭脳が冷酷な結論を出すと同時、再びアルテリオンから通信が入る。
「証拠はあるのか?お前が先生を手にかけなかったという、証拠が」
「…ヒイロさんは音の確認に向かっていて、二人きりでした。残念だけど…証拠はないとしかいえません」
こちらに向けられた銃口は下がる気配を見せない。
「司馬さんが亡くなった今、首輪を解析できるのは…僕だけです。僕を信用できないのはわかります。
…僕だって、正直に言えば貴方達を信頼しきっていたわけじゃありませんから。だけど、今だけは信用して銃を下ろして下さい。
まずは首輪を解析すること。それが…司馬さんの望みでもあるはずです」
突きつけられた、何時火を噴くともわからない銃口を見詰めながら言葉を続ける。
自分でも歯の浮く台詞だとは思ったが、こういう手合いにはこういった言い方が最も効果が高いはず。
フォッカーを切り捨てるにせよ、この場で戦うのは絶対に避けたい。もし施設にダメージが加われば解析を続ける事が出来なくなる。
ともかく、まずはこの男をここから引き離すのが先決だ。
しかし、それでもアルテリオンのGアクセルドライバーはレイズナーのコクピットをポイントしたまま動かない。
引き金に指をかけたまま、ロイ・フォッカーは静かに考える。
先生は、このゲームを終わらせる事を願っていた。
このゲームの中で息子を失ったにも関わらず、それでも先生は息子を殺した相手でさえこの殺し合いの被害者なのだと言い切った。
出来る事ではない。少なくとも、目の前で部下を殺され、その仇討ちのことばかり考えていた俺には出来なかった事だ。
そのような人だからこそ、共に行こうと決めた。共にあの主催者を打ち倒し、この殺し合いを止めようと命を預けた。
悔恨が、胸を締め付ける。やはり、あの人から離れるべきではなかったのだ。
しかし、嘆いている時間は無い。司馬先生亡き今、あの人の遺志を継ぐのは、俺しかいない。
視線だけを動かし、レイズナーのコクピットに座すマサキへと目を向ける。
5Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:47:07 ID:K+IM3s8I
あの主催者を倒すためには首輪の解析、解除が不可欠。ならば、マサキの言う事に間違いはない。
だが、それはこいつが司馬先生を殺していなければの話だ。
残った参加者の中には首輪を解析できるだけの知識を持った人間もいるだろうが、少なくともこの基地にいる人間の中でそれが出来るのはマサキ一人。
ここでこの少年を殺したとて、首輪の解析が遅れるだけ。それどころか、イサムやヒイロを敵に回す事にもなりかねない。
しかし、それでもレイズナーのコクピットに狙いを定めたGアクセルドライバーの照準が動く事は無かった。
「…どうにも、解せなくてな」
ぽつりと口をついた言葉に、マサキが身構えるのがキャノピー越しに見て取れた。
「合流したとき、お前はチーフとかいう軍人に襲われたのを隙を見つけて首輪を奪ったといったな。
俺も軍人だからわかるが、軍人というものは様々な訓練を受けているもんだ。その軍人が、いくら不意を突かれたといっても中学生くらいのガキに後れを取るとは思えん」
「それは…」
「まだある。そのように訓練を受けた筈の軍人が、いくら意識の無い民間人が相手とはいえ何の拘束もせずに放置しておくモンだろうか?
事実、イサム達はあのヤザンとかいう奴を鎖で縛り上げていた。それに、わざわざレイズナーの近くにお前を置いておいた事にも疑問が残る」
マサキの言葉を遮り、フォッカーは抱いていた疑念の数々をぶつける。一度解き放たれた疑念は、堰を切った様に溢れ出した。
「そもそも、何故イサムの事を話さなかった?仲間とはぐれていたのなら、まずその事を俺たちに聞いてくるはずだ。
それに、その知識。一般人が有するには、ちぃと度が過ぎてる。まして、お前くらいの年齢なら尚更だ」
心に積もった全ての疑問を叩きつけ、フォッカーは漸く息をつく。
「…そういわれても、僕の話したことは全て真実です。そんなことは、あのチーフとかいう奴に聞いてください。
ただ…もしかしたら、後頭部への一撃で僕を殺したと思ったのかもしれません。
それに、レイズナーには音声認識による遠隔操作システムが組み込まれています。あの時生き延びられたのも、これに因る所が大きかった。
それと、イサムさんに関しては…もう、死んでしまったと思っていましたから。
僕の知識に関しても、僕の居た世界は貴方達の世界と比べて文明が進んでいたようです。加えて、将来は科学者を目指していたので…それで」
フォッカーの言葉に臍を噛みながら、マサキは間をおかずにそれらの疑問の答えを告げる。
出来るならもう少しマシな答えを用意したかったが、この状況での沈黙は嘘だと告白するようなものだ。
だが、この言い分でも筋は通る。逆に言えば、この言い分でも信用されないようならばもうフォッカーと協力関係を築くのは不可能と思って良い。
緊張を保ったまま、銃を向け続けるアルテリオンの様子を観察する。
―――筋は通っている。
マサキの語った言葉を咀嚼し、フォッカーはそう考えた。
だからこそ、解せない。それは、この少年と出会ったときも感じた違和感。
出来すぎているのだ。まるで、全てがこの少年の掌の上で行われる舞台のような印象さえ受ける。
自分達は、この少年のシナリオ通りに役割を演じ、そして切り捨てられる役者に過ぎないのではないか。
本当にこの少年が司馬先生を殺したのか。確証はない。
だが、これまで生き抜いてきたパイロットとしての勘と経験が叫んでいるのだ。
この少年は危うい―――と。
ここでマサキを殺せば、首輪の解析は大きく遅れる。場合によっては、不可能になるかもしれない。イサムとヒイロを敵に回す事にもなるだろう。
「悪いが―――」
しかし、この少年は得体が知れない。これ以上共に居て、後ろから撃たれない保障は何処にも、無い。
俺には、先生の遺志を継ぎ、あの主催者を打ち倒す義務がある。例え何があっても死ぬわけにはいかない。
ならば、信用の出来ない相手は―――消すしかない。
「―――やはり、信用できん」
そうして、フォッカーは決別の言葉を叩きつける。
―――それが、自らの止めようとする殺し合いの理に取り込まれた証であるということに気付かぬままに。
6Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:47:48 ID:K+IM3s8I
「そう…ですか」
フォッカーの明確な決別にも、マサキは大きな動揺は見せなかった。銃を突きつけられたときから半ば予想できた事だ。
こうなれば、フォッカーを手駒にするのはもう出来ない。となれば、なすべきは施設に被害を与えずにフォッカーをここから引き離す事。
レイズナーの左手を、ナックルカバーが覆う。コクピットに視線を注ぐフォッカーは、その事に気付かない。
「だけど…僕もこんなところで死ぬつもりはない!」
叫びと共に、レイズナーの左拳が突きつけられていたGアクセルドライバーを跳ね上げる。
「何―――ッ!?」
咄嗟に引き金を引き絞ったGアクセルドライバーから放たれた弾丸は、レイズナーのコクピットを掠めるようにして背後の天井に穴を穿った。
「マサキ!貴様…ッ!」
銃身を弾かれたフォッカーが機体の体制を整えさせた頃、レイズナーは既に背中を向けて離脱を開始していた。
体制を整えたアルテリオンのGアクセルドライバーが再びレイズナーを捉えるより早く、マサキはレイへと指示を飛ばす。
「レイ!閃光弾を放て!解析室の反対側にだ!」
「レディ」
放たれたカーフミサイルは、すぐに壁へと激突し、凄まじい発光となって二人のいる通路を包み込んだ。
至近距離で放たれた閃光弾に目が眩み、フォッカーは追撃の手を緩めざるを得なくなる。
闇雲に撃ったとて、命中させられるとは思えない。それに、この施設は首輪の解析に必要だ。
彼もまた首輪を解析し、主催者の打倒を掲げる一人である。施設にダメージを与えるような真似はしなかった。
網膜に焼きついた閃光から漸く視界が回復した頃、やはりその場にレイズナーの姿は無い。
未だ違和感の拭えない瞼を擦りながら舌打ちをし、レーダーに目を向ける。D-3のジャミングの影響か、レーダーは何の反応も示さない。
(マズいな。イサム達と合流されると厄介だ)
若干の焦りを抱えてフォッカーはマサキを追うために機体を発進させようとし―――。
―――通信が入ったことを示すランプに光が灯っている事に、気がついた。


7Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:49:05 ID:K+IM3s8I
高速で通路を駆け抜けていたレイズナーがその速度を緩め、着地する。
「…追っては来ない、か」
当面の目的であった格納庫近くまで来たところで機体を振り返らせ、アルテリオンが追ってこない事を確認すると、マサキは一人ごちた。
もしかしたら、遷次郎の死に目でも見ようと解析室にでも行っているのかも知れない。尤も、遷次郎のボディはレイズナーのコクピットに積んであるのだが。
ともかく、この基地は今D-3のジャミングに覆われている。一度離れれば、そう簡単に見付かる事はないだろう。
これだけ離れれば、仮に戦闘したとしても解析室にダメージが行くことも無い。
まずはイサムと合流し、然る後、新たに反応のあった機体を確認に行ったヒイロと合流してフォッカーを迎撃する態勢を整えよう。
ついでに、ヒイロがその新しい参加者を仲間にしていれば有難いのだが。
そうしてレイズナーの歩を進めてしばらく、イサムから通信が入る。
「マサキか!?漸く繋がりやがった、今まで何してやがったんだ!?」
スイッチを入れるなり、通信機からイサムの怒声が鳴り響く。
「すいません…こっちも、色々あって。外の様子はどうでした?」
「どうもこうもあるか!ヒイロがやられた!」
イサムから語られた内容に、マサキは思わず舌打ちしそうなる。
「そんな…ヒイロさんが?」
言いながら、冥王は被り続ける仮面の下で冷静に状況を整理する。
ヒイロがやられた、ということは、新しく反応のあった参加者というのはゲームに乗っているということだ。
遷次郎が死に、フォッカーが離反した今、こちらの戦力はレイズナーとイサムのD-3だけということになる。戦力的に厳しいと言わざるを得ない。
「相手は、シンジとアスカとかいうガキの二人組だ!どっちも機体はボロボロだが、図体がでけぇ!D-3の武装じゃどうにもならん!」
「二人組…?相手は、二人いるんですか!?」
「基地に反応があった機体のほかに、外から近づいてくる機体もあったんだ!どうやら知り合いだったらしい!くそ、そうと知ってりゃ同情なんかしなかったってのに…!」
通信機越しに、鈍い音が聞こえてくる。恐らく、コクピットを殴りつけているのだろう。
そんなイサムの様子を捨て置いて、マサキの表情が憎々しげに歪んでいく。
厄介な事になった。まさか、この期に及んでゲームに乗った参加者が二人も現れるとは。
新たな参加者がどれだけの戦力を持つかはわからないが、フォッカーを含めて全部を相手にするのは無謀としか言い様が無い。
8Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:49:37 ID:K+IM3s8I
…一度、基地から離脱して体制を立て直すか?
いや、仮にフォッカーとその参加者達が戦闘になれば、解析室に被害が及ばないとも限らない。
となれば、上手くそいつらを解析室から引き離した上でフォッカーと戦わせて、消耗させるのが最良か。
自分の不利に流れ続ける状況の中で出来るベストの選択を導き出し、マサキはこちらの状況をイサムへ知らせるべく呼びかける。
「…実は、こっちも少し厄介なことになって。司馬さんが…亡くなりました。ある程度解析が進むと、首輪が爆発するようにトラップが仕掛けられていて…」
「何!?それじゃ、首輪の解析は…!?」
「司馬さんのボディを解体して調べれば、解析は続けられます。だけど…フォッカーさんが、僕が司馬先生を殺したんじゃないかと疑ってきて…さっき、襲われました」
「何だって!?くそ、あの野郎…!今はそんなことしてる場合じゃねぇってのに…!」
再び、通信機から鈍い音が響いた。恐らくは、怒りを湛えて歯を食い縛っているのであろう。
「とにかく、合流しましょう。そちらの座標をレイズナーに送ってください。
フォッカーさんをどうにかするにしても、ゲームに乗った参加者に備えるにしても、まずは合流しないと…」
イサムと合流すべく、D-3の座標をレイズナーに送るよう要請する。だが、返事は無かった。D-3の座標が送られてくる様子も無い。
「…イサムさん?」
「…お前、フォッカーに襲われたって言ったな?」
いぶかしんだマサキが探るような声色で問いかけると、今度はちゃんと通信機からイサムの声が返ってきた。
問いかけとなんら関係のない答えが帰ってきたことに眉を潜めるも、マサキは頷いて口を開く。
「はい…今のフォッカーさんは僕が司馬さんを殺したと思っています。残念ですけど、とても説得できるような雰囲気じゃ―――」
「マズい!マサキ!!すぐにそこから逃げろッ!!」
通信機からイサムの叫びが張りあがると同時。背後に続いていた通路の壁をぶち破り、アルテリオンが姿を現す。
「な―――!?」
咄嗟に振り返ったときには、もう遅かった。
振り返ったマサキは、先ほどと同じように自分へと向けられたGアクセルドライバーから弾丸が発射されるのを、ただ呆然と見詰めていた。


9Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:50:19 ID:K+IM3s8I
「マサキ!?おい、マサキ!!ええい、くっそォォッ!!」
音声の途絶えた通信機を苛立ちの任せるままに殴り付け、イサムはレーダーに目を向ける。
レイズナーを示す光点は、未だ健在だった。尤も、だからといってマサキの生存が保証されたわけではない。
機体は無事でも、パイロットは負傷、あるいは死亡している可能性もある。
「ふざけやがって…ッ!そういうことかよ、ロイ・フォッカァーッ!!」
隠そうともしない怒りを孕んだ叫びを上げ、D−3は主の憤怒を糧にするかのようにその速度を早める。
フォッカーとは、つい先ほど通信したばかりだった。
こちらの状況を伝えると、奴はさも驚いた風に振舞って、マサキと合流するからレイズナーの座標を寄越せと言ってきたのだ。
今思えば、疑うべきだった。
ほんの少し前まで、フォッカーとマサキは一緒にいたはずなのだ。それはこちらのレーダーからも確認できた。
なのに俺は、何の疑いも無くアルテリオンにレイズナーの座標を送信してしまった。
「チクショウ…!待ってろよ、マサキ…!!」
悔恨は燃え盛る怒りに更なる薪をくべ、それでも収まらずに焦りとなってイサムの胸を締め付ける。その焦りは、彼の心の中に最悪のケースを投影させた。
もし、間に合わなかったら。
もし、俺が着いたときに全てが終わってしまっていたら。
もし、これで―――マサキが死んでしまったら。
それは―――俺の責任なのだ。
「くそ…くそ…!くっそォォォォ!!」
D−3が、漸く基地の入り口へと辿り着く。
閉じていた扉にそのまま足から突っ込んで蹴破ると、スピードを落とすどころか更に加速してD−3は通路の中を疾走する。
目指すは、アルテリオンとレイズナーを示す光点が共に存在する場所―――格納庫。
「これ以上、仲間を殺されてたまるかってんだ……ッ!!!」
猛る激情は抑える事が叶わずに、言葉となって表へと発露した。
その想いに呼応するかのように、ハンドレールガンを握り締めるD−3の手に力がこもる。
レーダーに映る光点は、まだ遠い。


10Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:51:01 ID:K+IM3s8I
「く…。レイ、被害状況を報告しろ」
いくつも積みあがったコンテナに背を預けるレイズナーの中で、マサキが苛立った声をあげる。
「左腕伝達システムニ損傷。二次回路作動セズ」
「…つまりは、左腕が動かなくなったというわけか」
試しに左腕を上げようと試みるが、装甲が砕け、中の回路や配線の剥きだしになった左腕はバチバチと耳障りな火花を立てるだけだった。
あの時、マサキはGアクセルドライバーを咄嗟に左腕を犠牲にして防ぐと同時、右腕のナックルで扉を体ごとぶち抜くように格納庫へと飛び込んで難を逃れた。
積み上げられたコンテナの影へと隠れれば、D−3のジャミングが掛かっている以上、目視以外に相手を捕捉する術はない。
コンテナの隙間からそっと格納庫の様子を伺ってみると、油断無くGアクセルドライバーとライフルを構えたまま、自分を探すアルテリオンの姿が映る。
―――状況は、果てしなく不利だ。
左腕を封じられたのに加え、格納庫に飛び込む際にレーザード・ライフルも取り落とした。
しかも、その落としたレーザード・ライフルは今アルテリオンの手の中にある。抜け目の無い事に、こちらを追って格納庫に入ってきた際に回収されたのだ。
これでこちらの武装はカーフミサイルと右腕のナックルのみ。V−MAXも出来るなら使用したくは無い。
あの赤い一つ目の機体に襲われたときも使用しなかった切り札だ。これの存在はイサムにもまだ知られていない。
万が一の時の隠し球として取っておきたいところだが―――。
(―――そうも言っていられんか)
最悪の場合は、V−MAXの使用も止むを得ない。
こちらの手中にあるカードを確認すると、次いでマサキは相手のカードへと意識を向ける。
見た限り、アルテリオンに損傷らしき損傷は見られない。
基地についてから補給も済ませているし、事実上の完全状態といって差し支えないだろう。
それどころか、レーザード・ライフルが向こうの手中にある以上、その火力はむしろ上がっているとさえ言える。
考えれば考えるほど、こちらの不利を思い知らされる。ともかく、今はこのまま身を潜めよう。
恐らくは今イサムがこちらへ向かっているはずだ。奴が来れば、多少なりとも状況は好転するかもしれない。
そうして、マサキは息を潜めることにした。
アルテリオンが近づいてくる度にコンテナの死角を利用して隠れ場所を変え、やり過ごす。
しばしの間静かないたちごっこを繰り返していると、不意にアルテリオンの動きが止まった。
「聞こえているだろう、マサキ!下らん鬼ごっこは終わりにしようぜ!出て来い!」
姿を見せないこちらに痺れを切らしたのか、オープン回線でフォッカーが叫ぶ。
それを聞き、マサキは唇を歪めほくそ笑んだ。
四方を壁に囲まれたこの格納庫では、声を発したとしても壁に反響してその出所はわからない。
向こうが会話を望むというなら、丁度良い。話を合わせて、イサムが来るまでの時間を稼がせてもらおう。
「もうやめてください、フォッカーさん!僕は司馬さんを殺していない!あれは事故だったんだ!」
同じようにオープン回線を開き、マサキが叫ぶ。
声の出所を探そうとフォッカーは辺りを見渡すが、マサキの居場所は特定できない。
「信用できないと言ったはずだ!いいから姿を見せろと言っている!」
「そんなことを言う人の前に姿を現せられるもんか!とにかく落ち着いてください、今は首輪の解析を何よりも優先するべきです!」
「黙れッ!」
フォッカーの一喝と同時、天井へとGアクセルドライバーが撃ち込まれる。
「フォッカーさん…!」
回線を開いたまま、フォッカーの名を呼ぶ。だが、返事は無い。
やがてゆっくりとGアクセルドライバーの銃身が下げられ、辺りに再びフォッカーの声が響いた。
11Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:51:41 ID:K+IM3s8I
「わかったよ…そこまで言うなら、こっちにも考えがある」
そう言うと、アルテリオンはバーニアを吹かして上昇し、たった今自らの開けた穴から基地の外へと出て行った。
「…なんだ?何をするつもりだ?」
アルテリオンの出て行った穴を見上げながら、マサキは一人呟く。そしてその答えは、予想だにせずレイによってもたらされた。
「警告、敵機ヨリ、大量ノミサイル発射ヲ確認」
「何…!?」
「出てこないなら…いぶり出すまでだッ!」
オープンになったままの回線から、フォッカーの叫びが響き渡ると同時、凄まじい衝撃が格納庫を襲う。
「バカな―――!?」
崩れ落ちる天井から咄嗟にコクピットを庇いつつ、マサキは吐き捨てた。
遮るものの無くなった空に、無数のミサイルをバラ撒くアルテリオンの姿が見える。
「く…無茶苦茶な…!?何を考えている…ッ!」
もうもうと煙の舞い上がる瓦礫の隙間からアルテリオンを睨み付け、機体の状況をチェックする。
幸い、コンテナに寄りかかっていたお陰で多少の瓦礫を浴びた以外に大した被害はないようだ。
落ちてきた天井が、丁度こちらを覆い隠す形になってくれたのも僥倖だった。
だが、アルテリオンの爆撃で格納庫は無残な廃墟と化した。相手に上空から見下ろされている以上、場所を移動するのも難しい。
何より、もう一度絨毯爆撃に晒されれば逃れる術は無い―――。
「…ち」
状況は益々不利。これ以上身を潜めるのも限界か。
だが、まだ終わりではない。操縦桿を握るマサキの腕に力がこもる。
元より、逃げ隠れする事など性には合わないのだ。歯向かうものには力で持って捻じ伏せる。それが、冥府の王たる者の戦い方だ。
「レイ、カーフミサイルを使うぞ」
「レディ」
電子の侍従の紡ぐ機会音声を聞きながら、冥王はもう一度空を仰ぐ。
いい気になるなよ、クズめ。この冥王に逆らった罪、その身で償ってもらうぞ。
怒りを孕んだ冥府の王の視線は、宙に佇む白銀の流星を真っ直ぐに貫いた。


12Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:52:26 ID:K+IM3s8I
吹き荒ぶ風が、立ち込める煙を晴らしていく。
それまで格納庫だった廃墟の上空に浮かぶアルテリオンの中で、フォッカーは油断無くその隅々に目を凝らした。
動くものは無い。
だが、逃げ込んだマサキを追って格納庫に入った後も出入り口だけは常に警戒していた。既に逃げられた、という事はありえない。
あいつはまだここにいるはずなのだ。この、崩れ落ちた瓦礫の下に。
―――あくまで、姿を見せないつもりか。
フォッカーの無言の問いかけに、廃墟はただ静寂を保つのみだ。そしてその静寂は、肯定であるということの証である。
ならばそれも構わん。もう一度ブチ込むまでだ。
潜み続けるマサキを今度こそいぶり出す為に、再び先の小型ミサイル―――CTM-02スピキュールを放とうとして―――。
「…ッ!?」
―――突如として瓦礫の中から放たれたいくつものカーフミサイルに、阻止される。
「ちぃ…ッ!」
素早くバーニアを吹かして後退しながら、90mmGGキャノンを乱射して迎撃する。
バラ撒かれる弾丸が飛来するミサイルを捉え、宙を滑るアルテリオンの軌跡を追う様に爆炎が続く。
「そこか、マサキ!」
弾幕を擦り抜けて来たミサイルをギリギリまで引き付けてからの急制動で避け、カーフミサイルの放たれた場所へとGアクセルドライバーを放とうとした、その瞬間。
コクピット内に鳴り響いた警告音に、フォッカーは機体を振り返らせた。
避けたはずのカーフミサイルが、その牙を剥きだしにアルテリオンに襲い掛かってきたのだ。
否、それは先ほどのミサイルではない。瓦礫の中を大きく迂回し、背後から放たれた物だ。
「く…!」
回避は間に合わない。咄嗟にGGキャノンで迎撃する。
唸るような音と共に吐き出された弾丸がミサイルを捉える。着弾の直前で、ミサイルは爆散した。
だが、いかな直撃ではなかったとしても爆風までは防げない。白銀に輝くアルテリオンの体が紅蓮に燃える炎の中に飲み込まれる。
燃え盛る炎に覆われたモニターを忌々しそうに睨み付けながら、フォッカーはもう一度機体を振り返らせた。
彼のこれまで培ったパイロットの勘が告げたのだ。今のは本命ではないと。
「甘いぞ、マサキ…!」
視界の利かない中、フォッカーはソニックセイバーを発生させると勘だけを頼りにアルテリオンの腕を振りぬいた。
振り向きざまに振るわれたソニックセイバーが、背後に迫っていたレイズナーを正確に捉え、切り裂く。
―――しかし、それさえもフェイク。
「何ぃッ!?」
振り向きざまに振るわれたソニックセイバーは、確かにレイズナーを切り裂いた。
乱暴に肩先からちぎり取られた、レイズナーの左腕を。
「残念だったな、ロイ・フォッカー!」
漸く爆炎の晴れたモニターに、そのすぐ後ろから冥王の駆る隻腕となったレイズナーが弾丸のように迫り来る姿が映し出された。
接触する直前でくるりと旋廻したレイズナーの放った蹴りは、ソニックセイバーを振りぬいたまま体制の整っていないアルテリオンの胴体を正確に打ち抜く。
その衝撃で、アルテリオンの手からレーザード・ライフルが零れ落ちる。
キックの反動をそのまま利用してのとんぼ返りを繰り返しながら、レイズナーは宙に投げ出されたレーザード・ライフルを掴み取った。
「俺の勝ちだ!」
機体各所のバーニアで姿勢を正し、逆さになったままレイズナーはレーザード・ライフルを体制の崩れたアルテリオンへと照準する。
距離は僅か10数M。この至近距離ならば、レーザード・ライフルでもアルテリオンの装甲を撃ち抜くことは可能だ。
勝利を確信した冥王が唇を吊り上げ、その引き金を引き絞る。
「ぐぅう…ッ!」
揺れるコクピットの中、フォッカーはモニター越しにレイズナーを歯を食い縛って睨み付ける。
その鋭い眼光に、諦めの色は無い。
13Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:53:18 ID:K+IM3s8I
「舐めるな…ひよっこォォォォッ!!!」
奪い返されたレーザード・ライフルから幾条ものレーザーが放たれるのを見ながら、フォッカーは体制を整える事もせずに強引にアルテリオンを変形させる。
すぐさまバーニアを全開にし、降りかかる強烈なGを物ともせずに旋廻を繰り返して辛くもレーザーを避け切ると、アルテリオンはレイズナーへと突っ込んでいく。
「ぐぁ…!?」
機体を貫く衝撃に、マサキが思わず顔をしかめて声を漏らす。だが、それでも白銀の流星は止まらない。
「オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッツ!!」
アルテリオンのバーニアから噴き出す炎は肥大を続け、その速度はレイズナーもろともどんどん上昇していく。
「く…!?おのれ、クズの分際で…ッ!」
マサキはレイズナーをアルテリオンから引き離そうと操縦桿を動かすが、そうしている間にも増していく加速が生み出すGがそれを許さない。
機体の先端にレイズナーを捕らえたまま、アルテリオンは大きく弧を描いて宙返りをした。その勢いのままに、まっ逆さまに地面へと向かって加速を続ける。
「貴様ッ!何をするつもりだ!?」
マサキがそう叫んでいる間にも、コンテナや残骸の散らばるさっきまで格納庫だった地面との距離は凄まじい勢いで縮まっていく。
(まさか―――このまま地面に突っ込むつもりか!?)
頭をよぎったその考えにマサキが戦慄を覚えた瞬間、アルテリオンの下半身だけが変形し、足のバーニアを噴射して急停止する。
アルテリオンの先端に捕らえられていたレイズナーだけが、今までの加速のままに大地へと激突した。
「く…ぅ…」
機体が半ば地面に食い込むほどの衝撃に、マサキの意識が霞む。
「残念だったな、木原マサキ!!」
その様子を悠々と見下しながら、アルテリオンが今度こそ全身を変形させた。地面に倒れ伏すレイズナーに右腕を突きつける。
「勝つのは、俺だッ!」
フォッカーの勝利の叫びと共に、突きつけられた腕からアルテリオンの主力兵装である中型ミサイル―――CTM-07プロミネンスが放たれた。
白煙を靡かせて飛来する二対のミサイルを歪む視界で睨み付けながら、マサキは霞がかった頭でこの危機を脱する方法を模索する。
(レーザード・ライフルで迎撃…くそ、体が動かん…!チャフもECMも手遅れ、ならばV−MAX…間に合わん!!)
冥王の頭脳を持ってして、この状況を切り抜ける方法は見つからない。既に状況は王手。冥王の中を戦慄と憤怒が駆け巡る。
成す術無く大地に伏せるレイズナーへ、プロミネンスは吸い込まれるように突き進み―――そして標的たる蒼き流星を大きく逸れて地面へと突き刺さり、爆散した。
「何だとッ!?」
驚愕に声を荒げるフォッカーに、横合いから無数の弾丸が襲い掛かった。飛来する弾丸を避けながら、フォッカーが弾丸の発射された方向へ目を向ける。
モニターに映ったのは、格納庫の出入り口からハンドレールガンを乱射するD-3の姿だった。
「貴様、余計な事を…!」
右へ左へとバーニアを吹かし、時折旋廻を加えながらハンドレールガンを避け、アルテリオンはD-3へとGアクセルドライバーを発射する。
ハンドレールガンの斉射を止めぬままGアクセルドライバーを回避し、イサムはマサキへと呼びかける。
「マサキ!無事か!?早くこっちに!!」
イサムの声を受けて、マサキは頭を振って意識をはっきりさせると、すぐさまレイへと指示を飛ばす。
「く…レイ、いけるか?D-3と合流するぞ!」
「レディ」
レイの機械音声が変わらぬ返事を告げると同時、レイズナーのバーニアが火を噴いて、瓦礫を押しのけて瓦礫の中を滑空する。
「逃がすか!」
地面を削るようにD-3へと向かうレイズナーへ、フォッカーがGアクセルドライバーを放とうとする。
だが、再び襲い来るD-3のハンドレールガンがそれを許さない。
「くそ…ッ!」
的確にこちらの動きを封じようと発射されるハンドレールガンを避けるフォッカーの見ている前で、D-3の元へと辿り着いたレイズナーはD-3と共に基地の中へと消えていった。


14Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:55:20 ID:K+IM3s8I
「…なんとか間に合ったか。マサキ、大丈夫か?」
基地内へと逃れ、通路で歩みを止めたイサムは、レイズナーへと通信を入れた。
「はい…すいません。助かりました」
「バカ、謝る事じゃねぇよ。仲間だろ?」
そう言って、かすかな笑いをその表情に浮かばせながらレイズナーを小突く。
レーダーを見れば、アルテリオンは格納庫から離脱していったようだ。これで、しばらくは安全だろう。
次いで、イサムはレイズナーへと視線を向ける。
「随分、手酷くやられたじゃねぇか」
左腕を失い、背面の装甲にもけっして軽いとはいえないダメージを負ったレイズナーを見遣り、呟く。
「えぇ…正直、イサムさんが来てくれなかったら、今頃は…」
そう言って、マサキは顔を伏せる。だが、その姿にイサムは言い様の無い安堵を覚えていた。
自身で言ったとおり、確かにレイズナーは手酷くやられてはいる。しかし、それでもマサキは生きているのだ。
イサムはD−3の残った左腕で、レイズナーの肩へと手を回す。
「い、イサムさん?」
その行動に、マサキは戸惑ったような声を上げた。今は、そのような声さえ心地良い。
「…やっと、守れた」
ぼそりと呟いた言葉は、マサキには届かなかった。
だが、それでいい。元より、聞かせようと紡いだ言葉ではない。
アキトの時も、そしてついさっき、ヒイロの時も、俺は誰一人守れなかった。
だけど、今。
マサキはこうして、無事に俺の前に居てくれるのだ。それの、なんと嬉しいことか。
不意に胸の中からこみ上げてきた熱いものに、イサムはレイズナーから顔を背ける。
見えないと解っていても、どうにもばつが悪かった。慌てて目元を拭い、改めてレイズナーに向き直る。
もう一度マサキの無事を喜ぶ言葉をかけようと口を開こうとして、その動きは途中で凍りついた。
D−3のレーダーに動きがあったのだ。離脱したはずのフォッカーが、移動を始めている。
「ち…フォッカーの野郎、動き始めやがった。こりゃぁ…解析室に向かってるのか?」
レーダーを見ながら、その動きをマサキに伝える。
「解析室に…?」
その言葉に、マサキは眉を潜めた。
今更フォッカーが、解析室になんの用があるというのか。先ほど考えたように、遷次郎の死に目でも拝みに行くつもりか?
いや、こちらは既にイサムと合流しているのだ。自分の動きがこちらには筒抜けだという事が解らないほど愚かな男ではないだろう。
では、一体…?
15Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:55:50 ID:K+IM3s8I
「…おい、マサキ?」
「イサムさん、僕らも解析室に行きましょう」
突如無言になったマサキに、いぶかしんだイサムが声をかける。するとマサキは、突然そんな事を言い出した。
「はぁ!?解析室ってお前、あそこは今フォッカーが向かってんだぞ?」
「だからこそ行くんです。もしあそこが破壊されれば、首輪の解析が出来なくなる。
フォッカーさんがそんなことをする人だとは思いませんが…あの人は今、司馬さんを亡くした事で、心の均衡を失ってる。
僕を疑って襲ってきたように、どんな行動に出るかわからないんです」
「だからってお前…大丈夫なのか?」
「…大丈夫ですよ、心配しないで下さい」
そう言ってこちらを心配そうに見詰めるイサムに、マサキは答える。
「…そうか、解った。よし、解析室に行くぞ」
「はい」
施設の重要性は、イサムにもわかっていることだった。
この首輪をどうにかしない限り、あの主催者への反抗は不可能。ならば、何があっても解析室は守る必要がある。
―――そして、同時に解析の知識を持つ、マサキのことも。
例え解析室で何かあったとしても、その時は、俺が全力でマサキを守るだけだ。
かつて、二人の仲間を失った事の無念さを誓いにかえ、イサムは声に出さずその決意を固める。
そうして解析室へと歩き出したところで、イサムはふと、あの捕虜の事を思い出した。
(そういやあいつ…どうなったんだ?)
あの男は、格納庫に監禁していた。だが、その格納庫は今フォッカーによって廃墟と化している。
あれだけの破壊のあった場所で、生身の人間が生き延びられるとは到底思えない。
(…死んだ、か)
先ほど目の当たりにした事実から、イサムはそう結論を導き出す。
出来れば情報を引き出したかったが、こうなってしまった今では、それも叶わないだろう。
とにかく、今はマサキを守る事が先決だ。
ヤザンの事を頭の隅に追いやり、イサムは既に歩き出して前を行くレイズナーを追いかけようと、D−3を発進させた。


16Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:56:34 ID:K+IM3s8I
格納庫から離脱してしばらく後、フォッカーは格納庫から程近くの死角となる倉庫の影にいた。
イサムとマサキに合流された今、一度仕切りなおしをしようとしたのだ。
「イサムが来たか、面倒な事になってきやがったな…」
倉庫の角から自らの破壊した格納庫の様子を伺い、フォッカーは呟く。
いかな死角とはいえ建物の影にはいった程度は気休めにもならない。向こうにはD-3があるのだ。こちらの動きは筒抜けだろう。これで迂闊な行動は取れなくなった。
「…ち、敵に回すとこれほど厄介だとは思わなかったぜ」
ぼやきながら、機体の状態をチェックする。
90mmGGキャノン、CTM-02スピキュール、CTM-07プロミネンス、Gアクセルドライバー。
どれも残弾は充分だ。燃料系もそれほど消費していない。戦闘には充分耐えられる。
とはいえ、相手の場所が確認できないというのはやりにくい。
(さて、どうしたもんか…)
顎に手を沿え、フォッカーが思考に耽ろうとしたその時、不意にアルテリオンへ通信が入る。
思考を中断させられたフォッカーは忌々しそうに通信機へと目を向け―――。
「な…に?」
―――その発信元に目を疑った。
スカーレットモビル。死んだはずの、遷次郎の乗機からの通信だった。
震える指で、すぐさま通信機のスイッチを入れる。
「…フォ…ねが…ッカー君…答…がう…」
D-3のジャミングの影響か、途切れ途切れの酷く不鮮明な音声が流れ出した。
「…先生!?司馬先生ですか!?」
「…ぁ…私だ…てや…れ……析室…居る…まな…助けに…来てく……」
通信は、そこで途切れた。通信機からはもうノイズしか聞こえない。
「は…はは」
通信から漏れるノイズの音を聞きながら、フォッカーの口から掠れた声が上がる。やがてそれは、堰を切ったような笑い声へと変化した。
「ははははははははは!!くそったれ!やったぜ、生きてた!生きててくれた!!無事だったんだ!!」
狭いコクピットの中、フォッカーは己を突き動かす歓喜のままに握り締めた拳を突き上げ、叫びを上げる。
尤も、通信で語られた断片的な言葉から察するに、遷次郎の状態はけして良好とは言えないようだ。
だが、それでも生きていてくれた。
ならば、まだ自分達には望みがある。先生が首輪を解析してくれれば、仲間を集め、あの主催者を打倒することも夢ではない。
昂ぶる気持ちのままに、フォッカーはアルテリオンを離陸させる。
「待っててください、先生!今行きます!」
目指すは、解析室。ノイズ交じりの通信は良く聞き取れなかったが、確かに解析室と言っていた。
それでなくとも、遷次郎はマサキと共に解析室で首輪の解析をしていたのだ。彼がいる場所は解析室と思って間違いない。
そうしてアルテリオンは、イサム達と鉢合わせする可能性のある格納庫の上を通り過ぎ、一直線に解析室へと向かう。
解析室前の通路でマサキと対峙したとき、Gアクセルドライバーで天井に空いた穴があるはずだ。
あそこから中に入れば、イサム達と遭遇する事もない。
空を翔るアルテリオンはすぐに解析室の上空へと辿り着き、先ほど自らの穿った穴に飛び込んでいく。
17Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:57:58 ID:K+IM3s8I
「先生!大丈夫ですか!?」
逸る思いは、基地に入ってからも萎える事をしなかった。速度を落とす事無く壁に床に機体を擦りつけながら、フォッカーは解析室への扉を開ける。
だが、返事は無い。無人の解析室で、ただ無機質にいくつかのウィンドウが開いたモニターがフォッカーを出迎える。
「先生…!?何処です、司馬先生!」
部屋中を見渡しながら、遷次郎の姿を求めてフォッカーが声を張り上げた。ふと、視界の隅に開け放たれたままの人間サイズの扉が見える。
そして、その向こう側。
小さく死角に切り取られた風景のその先に遷次郎の乗機、スカーレットモビルがあった。
「先生ッ!」
言いながらフォッカーはシートのベルトを外し、アルテリオンから飛び降りる。
高所から着地した衝撃に痺れる足を叱咤してスカーレットモビルへと駆け、そして扉を潜ったその瞬間―――。
「が…ぁッ!?」
―――突如として、フォッカーの後頭部を衝撃が襲った。
抗う事も叶わずに地面へと倒れ伏し、状況も理解できないまま起き上がろうとするフォッカーの背中へ、更なる衝撃が降りかかる。
その衝撃は留まる事を知らず、フォッカーの体を頭とも言わず、胴とも言わず幾重にも降り積もっていく。
(なんだ…何が起こった…!?)
激しい痛みに晒されながら、必死にフォッカーは状況を理解しようと考える。
そういえば、イサムは新しく反応があった二人の参加者にヒイロが殺されたと言っていた。
ならば、そのゲームに乗った参加者が既にここまで侵入していたということか?
マズい、なら先生が危ない。
なにせ先生はあの体だ。生身での戦いになったら、勝ち目は無い。
そうしている間にも、身体を打ち据える衝撃は止まらない。不意に、視界が紅に染まった。
頭部へと振り下ろされた一撃が、皮膚を裂いたのだ。顔を血が伝っていくのを自覚する。
(ぁ…)
失われていく血が、際限なく沸きあがる痛みが、フォッカーから思考を奪っていく。
(先生…先生を…守らなくては…)
頭の中に最後に残ったその想いに突き動かされるまま、フォッカーはスカーレットモビルに手を伸ばす。
―――先生は、俺たちの希望なんだ。
例え俺が死んでも、先生が無事ならばまだ希望はある。
死なせるわけには行かない。何があっても、あの人だけは―――。
からん、と。
視界に隅に甲高い音を立てて何かが転がった。それは、血に赤く染まった鉄パイプ。
「…ク。クック…クハハハハハハハ…ハァーハッハッハッハッハッハッハッハァッ!!!」
酷く耳障りな笑い声が聞こえる。
何処かで聞いた声だったような気もしたが、既にフォッカーにその事を考える力は残っていなかった。
(先…生……)
伸ばした手は、何も掴む事無く虚空を掻いて力無く崩れ落ちた。


18Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 06:58:58 ID:K+IM3s8I
鎖で縛り上げられたまま、ヤザン・ゲーブルは身動きもせずにただじっと待ち続けていた。
折られた足が酷く痛むが、だからといってのた打ち回れば骨折が治るわけでもない。
隙をついて逃げ出すためにも、今は僅かな体力の消耗とて避けるべきだ。
そうしていると、やがて機械の駆動音が辺りに響き始める。
何事だと辺りを見回してみるが、コンテナや資材に視界を阻まれ、その正体はわからなかった。
そして、次いで聞こえてきたこちらへと向かってくる足音に顔を向けると、
自分の足をへし折ってくれた少年―――確か、ヒイロとか言ったか―――の乗る機体が、格納庫の入り口からこちらを見下ろしていた。
負けじと睨み返してやるが、M9はこちらを一瞥すると、すぐに視線を格納庫の奥へと向ける。
「止まれ。こちらに戦意はない」
そうしてM9から発せられた言葉に、ヤザンは状況を理解する。他の参加者が現れたのだ。
思わず、ヤザンの唇が歪む。
そうだ。俺はこれを待っていた。この場で、何もおきないはずが無い。それは、予感めいた確信だった。
あの時この場にいた者達のうちの誰かが、あるいは、今こうして現れたほかの誰かが巻き起こすであろう混乱を、俺は望んでいたのだ。
「…く」
堪えきれず、笑みがこぼれる。
さぁ、顔も名も知らぬ参加者よ、お前はここに何を成しに来た?
混乱か?破壊か?殺戮か?どれでも良い、早くその衝動を解放しろ―――!
そして、彼の望みは実現する。
「そちらに戦う意思がないなら……」
続けて言葉を紡ごうとしたヒイロの声が止まる。コンテナの向こうから、傷ついた赤い機体がM9へと襲い掛かったのだ。
始まった戦闘の余波で辺りの資材が蹴散らされ、瓦礫が舞う。
その只中で、降りかかる瓦礫に構う事も無く、ヤザンは目を見開いて二機の戦いをじっと見詰めていた。
やがて、二つの機体は争いを続けながら格納庫を後にする。戦闘の残滓の色濃く残る格納庫で、ヤザンは一人行動を開始した。
何せあの状況だ。もはや格納庫の扉に鍵は掛かっていないはず。
途中、頑丈そうな鉄骨を拾って引きずりながら、ヤザンは地面を這いずり格納庫の扉へと到着する。
先ほど拾った鉄骨を勢いよく振り上げ、扉の隙間へと叩きつける。それを繰り返すうち、やがて閉じられていた扉は段々とその門扉を開いていく。
どうにか鉄骨の通る程の隙間を作り、ついでそこに鉄骨を差し込んで体重をかけるようにして全力で横に引くと、ギギ、と重い音を立てながら扉の隙間は広がっていった。
かろうじて身体の通り抜けられそうなだけの隙間が出来たのを確認すると、あとは自らの身体でこじ開ける様に通路へと出る。
「…よし」
荒い息を整えながら、しかしヤザンは休む事無く辺りを見渡す。目的の物は、すぐに見つかった。
鎖で縛り上げられてここに監禁されたとき、格納庫の中にあった鎖を断ち切れそうなものは全てイサムの手で外に運び出されたのだ。
だが、イサムはそういった道具を抱えて通路にでると、すぐに戻ってきた。
自分の触れられないところにさえおいておけば大丈夫だと考えたのだろう。通路の隅に、鋸や鑢といった道具がうずたかく積み上げられていた。
その一つを手に取り、自らを戒める鎖に宛てる。
折られた足の痛みを堪えながら、鎖を断ち切る作業を開始して数分。遂に彼を捕らえていた鎖が切断される。
手首を振り、ずっと同じ体制を取らされていた身体を曲げてほぐすと、ヤザンは今まで自分を縛り付けていた鎖を手に取り、
近くに転がっていた丁度いい長さの鉄パイプを骨折した足に宛て縛り上げる。
応急処置はこれで済んだ。先端の曲がった鉄パイプを拾い上げ、それを松葉杖代わりに立ち上がる。
よし、後は―――。
「…ちっ」
自由の身となり、これからの行動を考えようとしたヤザンは、そこで通路の遥か彼方に見えたレイズナーの姿に舌打ちし、咄嗟に格納庫へと戻り身を隠す。
そのままやり過ごそうと考えたヤザンだったが、よりにもよってレイズナーは格納庫の前で着地し、動きを止めた。
(…マズい、こちらの様子を見に来たか?)
もし奴がこのまま格納庫に入ってくれば見つかってしまう。そうなれば、こうして訪れたせっかくの好機も終わりだ。
扉の隙間から通路の様子を窺うヤザンの焦りも知らず、蒼い機体はなにやら通信しているようだった。
確か―――あれに乗っているのは、マサキとかいうガキだったな。
相手の正体を確かめ、ヤザンは一度扉から離れようと立ち上がったところで、突如通路から激しい音が響き渡った。
19Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 07:00:28 ID:K+IM3s8I
(何だ…!?)
慌てて扉にへばりつき、隙間から様子を窺う。見れば、後から現れた白銀の機体、アルテリオンがレイズナーに攻撃を仕掛けていた。
放たれた弾丸を左腕で受け止め、レイズナーはあろうことかこちら側―――格納庫の扉目掛けて突っ込んでくる。
「うおお…ッ!?」
レイズナーが扉をぶち破った衝撃に、そのすぐ下にいたヤザンは倒れ伏す。
頭上をレイズナーが通り過ぎ、それを追ってアルテリオンもまた格納庫へと突入した。
「…っく…ぐ…」
倒れた衝撃に痛烈な痛みを訴える足を押さえながら、鉄パイプを拾い、立ち上がる。
幸い、破られた際に捲りあがった扉が上手くこちらの姿を隠してくれている。どうやら気付かれずに済んだようだ。
確か、あの二機は行動を共にしていたはずだが…仲間割れだろうか?
鉄パイプに体重を預けながら背後を振り返り、考える。
まぁ、そんなことはどうでも良い。ともかく見つからずに済んだのは助かった。奴らが争っている間に、こちらも何か機体を手に入れたいところだ。
格納庫に入っていった二機を尻目に、ヤザンは格納庫を後にした。ともかく、先ずはこの二人から離れよう。
鉄パイプを地面に突き、とりあえずレイズナーの現れた方向へ歩き出す。
目的を定めぬままそうして歩みを進めていると、やがて背後から声が聞こえた。
「聞こえているだろう、マサキ!下らん鬼ごっこは終わりにしようぜ!出て来い!」
「もうやめてください、フォッカーさん!僕は司馬さんを殺していない!あれは事故だったんだ!」
その声に、ヤザンは動きを止めて振り返る。
司馬―――というのは、確かあの妙な機械のアゴジジイの事だったか。
「そうか…奴が死んだのか」
一人呟き、唇を歪める。
好都合だ、機体を奪うにも、乗り換えルールによって本来の持ち主が生きている機体は乗った瞬間首輪が爆発してしまう。
だが、あのジジイが既に死んだというならば、奴の乗っていたバイクは今誰のものでもない。手に入れるには、まさにおあつらえ向きだ。
問題は、あのバイクが何処にあるかということだが―――。
「信用できないと言ったはずだ!いいから姿を見せろと言っている!」
「そんなことを言う人の前に姿を現せられるもんか!とにかく落ち着いてください、今は首輪の解析を何よりも優先するべきです!」
再び、背後から声が響く。先ほど格納庫に入っていったあの二人だろう。
何故奴らが争う事になったか、詳しい経緯はわからないし、知ろうとも思わない。今の自分にとって重要なのは、あのジジイのバイクが何処にあるか、ということだけ。
そして、そのヒントは今の言葉の中にあった。
今は首輪の解析を何よりも優先するべき―――。
その言葉が意味する事はつまり、彼らがこの首輪を解析するためにここを訪れたという事だ。
司馬とかいうアゴジジイも、あの主催者への反抗をほのめかすような事を言っていた。ならば、奴は首輪を解析しようとしていたはず。
首輪を解析することが出来るだけの設備がある場所、そこに、あのバイクはある。
「…くくく」
背後から、凄まじい爆発音が響く。
だが、今度はヤザンは振り返らなかった。
最早、奴らが何をしようとどうでもいい。こちらの利となる情報は既に手に入れた。後はそこを目指し、ただ往くだけだ。
そうしてレイズナーの来た方角や壁に掲げられた施設案内図などを頼りに場所に当たりをつけ、ヤザンはその場所へと向かった。
当たりをつけた場所へと辿り着き、部屋に入ると、いくつもの端末が並び、巨大なモニターが備え付けられているのが目に映る。
成る程、確かにここならば首輪の解析も可能だろう。部屋を見渡しながら、そう考える。
だが、今の自分が求めているのはそんなものではない。部屋の中を進みながら遷次郎の乗っていたバイクを探す。
程なく、それは見つかった。見た限り、損傷も見受けられない。
「よし…」
鉄パイプを近くの端末に立てかけ、バイクにまたがる。首輪は、何の反応も示さなかった。
抱いていた僅かな危惧も杞憂であった事を悟り、ヤザンは機体を自分のものとするべくチェックを開始する。
探したが、マニュアルは見つからなかった。操作は自分の手で覚えるしかないらしい。尤も、バイク程度なら運転することになんら障害はないのだが。
20Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 07:01:26 ID:K+IM3s8I
「…ん?」
ふと目に付いた見慣れぬ装置に、ヤザンの手が止まる。
いや、正確にはその装置が何であるか、ヤザンにはわかっていた。ただ、それがバイクに装着されているという事に違和感を感じたのだ。
「ほう…こんなバイクにまでちゃんと通信機は搭載されているのか。ふん、あの仮面野郎も変なところで気を遣う」
試しにスイッチを入れてみると、通信機からはノイズが飛び出してくる。使用するのに問題はなさそうだ。
そこでふと、ヤザンはあることを思いついた。
口元に手をやり、たった今閃いた自分のアイディアが成功するかを考える。
そうして解析室を静寂が支配してしばらく。その静寂は、他ならぬヤザン自身の笑いによって破られた。
「く…ククク…クハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
折られた足の痛みも忘れ、しばしの間ヤザンは狂ったように笑いを上げる。
ようやくその笑いが収まった頃、ヤザンは端末に立てかけた鉄パイプを手に取り、スカーレットモビルを発進させた。
近くにあったドアをくぐり、扉を開け放ったまま通信機のスイッチを入れる。通信を送るのは、あの白銀の機体の主。確か、フォッカーという名だったはずだ。
「んん…あ、あー…あ”−…」
喉に手を添えて唸りを上げ、遷次郎の声色を真似る。程なく、通信はつながった。
「フォッカー君、応答願う。フォッカー君、応答願う」
「…生…司馬…いで…か…」
返事はすぐに返ってきた。あのイサムとかいう奴の機体の影響か、音声は酷く不明瞭だ。
だが、それはむしろ好都合。こちらが遷次郎ではないという事がバレる可能性が低くなる。
「あぁ、私だ。してやられたよ、今、解析室に居る。すまないが、助けに来てくれ」
それだけ言って、通信を切る。
自然と緩む口元から低い笑いをあげながら、ヤザンはスカーレットモビルから降りて、扉のすぐ脇へと移動する。
あのフォッカーという男は、どういうわけか司馬とかいうアゴジジイを慕っていた。
先ほど聞いた会話の内容からも、遷次郎を殺された恨みでマサキとかいうガキに襲い掛かっていたようだ。
尤も、マサキの方はそれを否定していたし、真偽の程はわからない。必要なのは、奴が遷次郎を慕っていたという、その事実。
死んだと思っていた、まして、自分が慕っていた人物から唐突に通信が入れば、その安否を確認に来るのは当然のこと。
後は、そうしてノコノコ現れたあの男を殺せば、あの白銀の機体を手に入れることが出来る。
壁に寄りかかって鉄パイプを握り締め、ヤザンは呟く。
「さぁ、掛かった獲物はデカいぞ…竿を折られないようにせんとなぁ…」
程なく、頭上からバーニアの音が聞こえてくる。
思ったよりも早かったな。それだけ、あのジジイに寄せる信頼は大きかったという事か。
そんなことを考えながら、注意深く扉から解析室の中を窺う。
「先生!大丈夫ですか!?」
解析室の扉が開き、あの白銀の機体が入ってきた。
「先生…!?何処です、司馬先生!」
叫びながら、白銀の機体が辺りを見回す。自分の目の前にあるスカーレットモビルを見つけたのであろう、その動きはすぐに止まった。
「先生ッ!」
バカの一つ覚えのように”先生”を連呼しながら、フォッカーがコクピットから飛び降りた。
邪悪にその表情を歪めて、ヤザンはフォッカーがエサに誘き寄せられるのをじっと待ち受ける。
そしてフォッカーが扉をくぐり、スカーレットモビルの前で足を止めた瞬間。
振り上げていた鉄パイプを、ヤザンは全霊を持ってその後頭部に振り下ろした。
「が…ぁッ!?」
苦悶の呻きをあげて、フォッカーが地面に倒れ伏す。その背中目掛けて、ヤザンは何度も鉄パイプを振り下ろした。
打ち据えるごとにフォッカーの動きが小さくなっていくのが解る。振り下ろしたうちの一発が頭に当たり、ぱっと赤い花が辺りに咲いた。
更に何発か鉄パイプの打撃を加えたところで、ヤザンはすっかり赤く染まった鉄パイプを投げ捨てる。
倒れ伏すフォッカーは、もう動かなくなっていた。
「…ク。クック…クハハハハハハハ…ハァーハッハッハッハッハッハッハッハァッ!!!」
乱れた呼吸を整える事も忘れ、ヤザンは自らの思惑通りに事が運んだ事に先ほどと同じような狂ったような笑い声を上げる。
ひとしきり笑いをあげたところで、しゃがみこんでフォッカーの首筋に手をあてて脈が無い事を確かめると、投げ捨てた鉄パイプを拾い上げた。
「悪いな…あんたの大好きな先生は、もういねぇよ」
何かを掴むかのように伸ばされたフォッカーの腕に、血を払いがてらもう一度だけ鉄パイプを振り下ろし、ヤザンは解析室を振り返る。
そこに鎮座する白銀の流星へと歩み寄りながら、ヤザンはもう一度高らかに笑いをあげた。
21Niðhoggr ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 07:02:03 ID:K+IM3s8I
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態 左腕断裂 背面装甲にダメージ カーフミサイル残弾無し
 現在位置:G-6基地(格納庫近くの通路)
 第一行動方針:解析室の状況を確認する
 第二行動方針:マシンファーザーのボディを解体し、解析装置と首輪残骸の回収
 第三行動方針:マシンファーザーの解析装置のストッパー解除
 第四行動方針:首輪の解析、及び解析結果の確認
 最終行動方針:ユーゼスを殺す
 備考:マシンファーザーのボディ、首輪3つ保有。首輪7割解析済み(フェイクの可能性あり)
    首輪解析結果に不信感】

【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
 パイロット状況:疲労
 機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断
      ハンドレールガンの弾薬残り1割
 現在位置:G-6基地(格納庫近くの通路)
 第一行動方針:マサキの護衛
 第二行動方針:碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー両名の打倒
 第三行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
 第四行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
 第五行動方針:アクセル・アルマーとの合流
 最終行動方針:ユーゼス打倒
 備考:ヤザンの事は死んだと思っている】

【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:全身打撲、右足骨折(鉄パイプを当て木代わりに応急処置済み)
 機体状況:各武装の弾薬をある程度消費
 現在位置:G-6基地(解析室)
 第一行動方針:アルテリオンの性能を試す
 第二行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
 最終行動方針:ゲームに乗る】

【ロイ・フォッカー 搭乗機体:無し
 パイロット状態:死亡
 現在位置:G-6基地(解析室)】
22 ◆Fk59CfYpJU :2006/07/10(月) 09:31:14 ID:K+IM3s8I
ごめんなさい、時間の記入を忘れていました。
【二日目 20:30】でお願いします。


…これで時間記入忘れ二回目だよorz
23それも名無しだ:2006/07/10(月) 21:32:00 ID:+6Oq1SzL
739 名前: ◆PXPnBj6tAM [sage] 投稿日: 2006/07/01(土) 00:44:58 ID:BTwG2jKb0
>>736
文章力に関しては同感だけど、あんま言い過ぎるな。   
書いたこと自体に意味がある。 よくがんばったよ。  

等とえらそうなことを言う俺の文章が一番駄目だったりするw

それと、フリーザと両津が出会ったのは、偽最終回での話。
こち亀の偽最終回で両津が部長にこの漫画にはいらんとか言われてDB世界に飛ばされる。
そこにはフリーザとザーボンがいた。 確か60巻台だったと思うが……
24それも名無しだ:2006/07/16(日) 01:35:36 ID:P9phs7fy
保守
25殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:51:36 ID:O9INSohf
「よし……ここまで来れば……」
 先程の襲撃地点から遠く離れたF−1エリア。
 海岸沿いに自らの機体ともう一つ――先程拿捕したGP−02を慎重に下ろし、剣鉄也は安堵の溜息を吐いた。
 激戦の連続で深刻な損傷を負ったガイキングでどこまでやれるかは不安だったが、なんとか作戦は上手くいった。
 奇襲は成功し、本来の目的である新たな機体も確保出来たのだ。出来れば目標以外は全滅させておきたかったのだが、それは望み過ぎというものだろう。
 今は本来の目的である新たな機体の奪取が成功した事だけを喜んでおこう。
 あの場に居合わせた連中の機体では、ガイキングの全速には追い着けない。
 あとはパイロットに止めを刺し、そして機体を奪うだけだ。
 ……とはいえ、油断は出来ない。
 機体を乗り換える際には、機体から降りて生身の身体を晒さなければならない。
 そんな状況を、この場に偶然居合わせた他の参加者に見られでもしてみろ。
 もしそいつがゲームに乗っているとするならば、もしくはこの機体の乗り手と面識を持っているならば、確実に狙い撃ちされてしまう。
 奇襲は成功した。機体を奪う事にも成功した。
 だが、乗り換えの際に急いてしまい、他の参加者に殺されてしまった……では話にならないのだ。
 全てが上手くいっていればこそ、つまらないミスを犯す事のないよう、慎重でなければならないのだ。
 幼少期から過酷な訓練を受け続けてきた戦闘のプロ――剣鉄也であるからこそ、その事は誰よりも良く理解していた。
 まずはレーダーで周囲の様子を確認し、付近の状況を確認した上で、どこか近くの身を潜められる場所まで――

「なにっ……レーダーに反応だと!?」
26殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:52:56 ID:O9INSohf
「ブライ・シンクロン、マキシム……!」
 ブライシンクロンにより機体が再度の巨大化を行い、ブライスターはその真なる姿を顕にする。
 その名は、ブライガー。のさばる悪を闇に葬る、銀河に流れる一陣の旋風。
 かつて異なる次元において地球人類を救うべく太陽系を疾り抜けた旋風は、戦友の命を救うべく凄惨な戦場に今正しく巻き起こったのだ。

「……っ! ガイキングミサイルッ!!」
 新たな敵機――今の鉄也にとって、自分以外の全ては敵である――の存在を察知した瞬間、鉄也は先制の攻撃を仕掛けていた。
 ガイキングミサイル。先程の奇襲で大半を撃ち尽くしてはいたが、万一の事態を想定して幾らか残しておいたのが役に立った。
 今の損傷状態では、まともな戦闘など望めようはずがない。ならばこそ先手を打ち、必殺の一撃を与えなければならないのだ。
 逃げ出そうとしても無駄な事は、誰よりも自分が一番良く理解している。
 過酷な激戦の連続により、ガイキングの出力は低下している。この状況で逃走を図ったとしても、追い着かれる事は目に見えていたのだ。
 まして、ここで逃げれば折角手に入れた新たな機体を手放さなくてはならなくなる。
 だからこその先制攻撃、だからこその一斉射撃であった。
 だが――

「分かっていたぞ……そう来る事はな! ブライソードビーム!!」
 ブライガーの胸部から飛び出した、蒼い炎を纏った剣。その剣身から放たれたビームが、ミサイルの一斉射撃を迎撃する。
 敵の機体がミサイルの一斉射撃を得意としている事は、先程の奇襲で判明済みだ。そして敵機の損害状況を見る限り、正面切っての戦闘を挑んで来るとは思えない。
 であるならば、考えられる攻撃は先手を打っての一斉射撃。ミサイルの雨嵐であるのだろうと予測してはいたが、その考えに間違いは無かった。
 敵の出方が判明しているならば、その打開法を見付け出す事は難しくない。そしてブライガーの武装には、この状況に最も適した物があった。
 そう、ブライソードビーム。振り下した剣から広範囲に渡ってビームを発射するその武装は、今の状況にうってつけのものだった。

「くっ……! あれだけのミサイルを防ぎ切っただと!?」
 ガイキングの操縦席で鉄也は思わず叫び声を上げていた。
 まずい――敵機の戦闘力は、自分の想像以上に高い。ガイキングが万全の状態であるならともかく、傷付き過ぎた今の状況では勝ち目が無い――!
 ……クォヴレーとトウマにとって幸運だったのは、ブライサンダーの変形巨大化機能である。
 もし彼らの目的が“仲間の救出”であると知っていたならば、鉄也には人質を取るという選択肢があった。
 だが、ブライガーとブライサンダーが同一の機体である事を、剣鉄也は知らなかった。いや、想像する事も出来なかった。
 ブライシンクロンシステムにより巨大化した今のブライガーは、奇襲の際に見かけた自動車とは似ても似つかないものである。
 だからこそ、気付かなかった。あの機体に乗っている人間が、自分が奪った機体の救出に来たという事に。
27殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:53:54 ID:O9INSohf
「ジョシュアっ……! ジョシュア、聞こえるか!? 聞こえていたら返事をしろ!!」
 あらかじめ確認しておいた専用の通信周波数。機体の操縦をクォヴレーに任せ、トウマは通信回線に話し掛ける。
 機体の操縦系統に触れずとも、大声で通信に話し掛ける事には問題無い。
 ……悔しいが、機体の乗り換えルールがある以上、今の自分に出来る事はこれだけしかないのだ。
「ジョシュア! ジョシュア・ラドクリフ! 頼むっ……! 無事なら返事をしてくれッ!」
 そうして、どれだけ通信機に話し掛けていたのだろうか。もう駄目なのかと絶望が心に過ぎり掛けた時――
『ぅ……ぁ…………』
「っ……! 今の……声はっ……!」
「生きている……! 生きているぞ、ジョシュアはっ!!」
 ほんの微かな呻き声ではあったが、確かに通信機は捉えていたのだ。そう、ジョシュア・ラドクリフの声を。

「返して貰うぞ……! 俺達の仲間を!!」
「くっ……!」
 大きく剣を振り上げながら、ブライガーはガイキングに斬り掛かる。それは必殺の威力が込められた、ガイキングにとっては致命的な一撃。
 それを喰らっては一溜まりもないと判断し、鉄也はガイキングを後退させる。
 並の操縦者では反応出来ずに倒されてしまっていたのであろうが、流石は戦闘のプロを自認しているだけはあるという事か。
 運動能力を大きく損なったガイキングではあったが、かろうじて回避運動には成功。 つい先程までガイキングが立っていた場所を、ブライソードの袈裟切りは走り抜けていった。
 ……だが、生死を分ける咄嗟の判断において、そこまで要求するのは酷と言うものか。
 それまで放さず拿捕していたGP−02のボディを、ガイキングは緊急回避の際に手放してしまっていた。

「よしっ……! ジョシュアは確保した! 後は奴を……!」
「分かっている! このままブライソードで片を付けるぞ!!」
「ああ! やれ、クォヴレー!!」
 GP−02を背後に庇う形で、ブライガーはガイキングに対峙する。
 鬼気迫る壮絶な殺意を傷付いた全身から今尚放ち続けるガイキング。だが、それに恐怖は感じない。
 負けられない理由がある。背中を支えてくれる仲間がいる。
 ならば、敵に屈する道理は無い。
「くっ……!」
 もはや逃げ場は無いと悟ったか、ガイキングは破れかぶれに攻撃を仕掛ける。
 だが――殆どの弾薬を使い切ってしまっている現在、火力の不足は否めない。
 これまでの戦いにおいて圧倒的な攻撃力を駆使して幾度も強敵を退けてきたガイキングではあったが、それも既に打ち止めだ。
 ガイキングが持つ最大の長所である圧倒的な攻撃力は、とうの昔に失われている――!
「悪足掻きをっ……! これで終わりだ! ブライソード!」
 向かい来る攻撃をブラスターとブライソードビームによって迎撃しながら、ブライガーはガイキングとの間合いを詰める。
 そして、次の瞬間――

 斬ッ…………!

「が……あッ…………!」

 必殺の威力を込めたブライソードの一撃は――ガイキングのボディを完膚無きまでに破壊していた――


28殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:54:58 ID:O9INSohf
 ……一寸先も見えない暗闇の中を、剣鉄也は漂っていた。
 指先の感覚は既に無く、全身には重い疲労が圧し掛かっている。
 憶えているのは、無様な敗北。敗れ去った瞬間の無念だけが、記憶の中に焼き付いている。
(俺は……死んだのか……?)
 闇の中、自問する。
 もし自分が死んだとするのなら、これは“あの世”というものなのだろうか。
 そうだとするなら、皮肉なものだ。もし自分が死んだのならば、死後は地獄に行くものだろうと思っていた。
 この手を血で染め過ぎた自分が行き着く先は、地獄しか無いと思っていた。
 だが……これは、地獄ではない。
 まるで深い眠りの中に居るかのような、安らかな静寂に満たされた闇。
 これが、地獄であるものか……。
 ならば……ここは?
(……走馬灯、というものか)
 恐らくは、そうなのだろう。
 生と死の挟間で見る、刹那の夢。こうして静かに目を閉じていると、これまでの記憶が思い起こされるようだった。
 ……思えば、戦い以外には何も無い人生だった。
 幼少期からの過酷な特訓、ミケーネ帝国との熾烈な戦い、そして……ユーゼス・ゴッツォによって仕組まれたバトルロワイアル。
 思い出す記憶は、その尽くが死と隣り合わせの戦いだった。
 だが……それも、もう終わりだ。あの苦しかった戦いも、もう自分とは関係無い。
 そうだ……もう、戦わなくても……。

(それで……いいのか……?)
 ……薄れゆく意識の中、剣鉄也は自問する。
 本当に、これでいいのか?
 たとえ修羅の道を歩む事になろうと、戦い続けると誓ったのではなかったのか?
(そうだ……俺は、まだ終われない……いや、終わるわけにはいかない……!)
 この命尽き果てようと、戦い続けると誓ったはずだ。
 かつての戦友であろうとも、容赦無しに殺そうとした。
 たとえ罪の無い女子供であろうとも、もはや命を奪う事に躊躇は無い。
 剣鉄也という人間は死んだ。ここにあるのは、戦う為のマシーンだ。
(マシーンは……死なない……! 俺は、まだ……戦えるッ…………!)
 ゆっくりと、身体の感覚が戻ってくる。
 全身を突き刺すような激痛と戦いながら、剣鉄也は意識を覚醒に向かわせていった――


29殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:55:44 ID:O9INSohf
 これまで嫌と言う程に猛威を振るい続けたガイキングの、それはあまりにも呆気無さ過ぎる幕切れだった。
 だが、無理はない。これまでに繰り広げた激戦の数々によって、ガイキングは既に限界を迎えていた。この結末は、むしろ当然の結果と言えた。
「やった……か……」
 くずおれたガイキングから注意を逸らさず、クォヴレーは安堵の溜息を吐く。
 手応えはあった。倒したはずだ、確実に。
 しかし……何故だろうか。もはや完膚無きまでに破壊されたはずの敵に、クォヴレーの直感は未だ警戒を促し続けていた。
「……トウマ、ジョシュアを連れてこの場を離れるぞ」
「クォヴレー……?」
「確証は無いが、嫌な予感がする。上手く説明は出来ないが……ここに居続けるのは危険だ」
 ジョシュアの生死は確認したが、しかし彼がどれほどのダメージを負っているのかは確認していない。
 通信機越しに返って来る言葉も、意味を為さない呻き声だけ。この場を離れるよりもまず、ジョシュアの安否を確認するべきだ。
 そうトウマは主張したかったが……クォヴレーの張り詰めた表情に、抗議の言葉を引っ込める。
 仲間の安否を案じているのは、クォヴレーにしても同じ事だ。出来る事なら今すぐこの場でジョシュアの安否を確認したいに違いない。
 だが……それでもなお、クォヴレーはこの場を離れようと言った。
 ……実を言えば、トウマも薄々とは感じていたのだ。あの崩れ落ちたガイキングに、得体の知れない危機感を。
「ああ、分かった……」
 ガイキングへの警戒はそのままに、ブライガーはGP−02を両手で抱え、ゆっくりとその場を離脱する。
 ……いや、離脱しようとした。

 ゴゴ……ゴゴ、ゴ…………!

「なんだ……地響き……?」
 大地の奥底から響いてくる、それは不気味な地響きの音。
 地震、か――?
 そう二人が思ったのは、至極当然の事ではあった。
 だが、違う。
 それは、地の底から現れる――悪夢の、具現。
30殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:56:38 ID:O9INSohf
「なんだ……エネルギー場が異常に膨れ上がっている……?」
 その変化に一番早く気付いたのは、計器類に注意を向け続けていたトウマだった。
 それは、ガイキングより湧き上がる巨大な力。
 流竜馬との対決において、ガイキングの全身に降り注いだゲッター線。それが剣鉄也の闘志によって、活性化を始めようとしていたのだ。
 無論、そのような理屈などトウマは知らない。
 だが、これだけは断言出来た。
 この場所は――危険だ。
「おい、クォヴレー!」
 その異常事態を知らせるべく、トウマは叫び声を上げる。
 しかし、異変はまだ始まったばかりだった。

「っ……!? なんだ……アレは……!?」
 ガイキングの様子を映し出したモニターに、突如として沸き起こった異変。それは、緑の輝きだった。
 燃え盛る焔の勢いで、激しく輝きを放ち始めるガイキング。そのあまりにも異様な光景に、驚愕の響きで声が洩れる。
 だが、それは更なる異変の前兆でしかなかった。

 ゴゴ……ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴォォォォッ…………!!

 ガイキングの倒れ伏した地点を中心に、揺れる大地が割れ砕ける。
 そして大地の奥底より――“それ”は姿を現した。
「あれは――ガンダム!?」
31殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:57:24 ID:O9INSohf
 そう、それはガンダム・ヘッド。
 復活の直後でエネルギーが足らず、餌となる大量のエネルギーを必要としていたデビルガンダム。
 それがゲッター線を大量に取り込んだガイキングに目を付けたのは、ある意味当然の事であった。
 デビルガンダムの本体から切り離された、ガンダムヘッドの一部分。
 地中を高速で掘り進む事でガイキングの元に辿り着いたそれは――その目的を違える事無く、ガイキングに喰らい付いた!!
「が……あ、あぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!」
 傷付き倒れたガイキングのボディに、ガンダムヘッドは溶け込んでいく。
 ――DG細胞。
 自己再生能力を備えた悪魔の細胞がガイキングを――そして剣鉄也を侵食し、その身を造り替えていく!

「ま……まさか、こんな事が…………」
 まるでビデオを逆再生するかのように、見る間に修復されていくガイキング。
 腕が、足が、胸が、そして――フェイスカバーまでもが、元の通りに戻っていく。
 いや、ガイキングだけではない。剣鉄也の肉体もまた、DG細胞によって修復されていた。
 ゾンビ兵としての再生ではない。ミケロ・チャリオットやウルベ・イシカワと同様に、自らの意思を持ちながらの再生である。
 ……そう、剣鉄也は甦ったのだ。もはや人間としての温もりさえも失くしてしまった、戦う為の機械として。


32殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:58:43 ID:O9INSohf
 ゆっくりと、目を開ける。
 ……気分は、悪くない。マシーンとして生まれ変わった事に対する違和感も、あくまでも現時点では感じていない。
 だが……現状に対する不快感ならば、鉄也は確かに感じていた。
 死んではなるものかと思った事は確かであるし、その為であれば悪魔に魂を売っても良いと思いはした。
 だが、実際に“悪魔”の手足となってしまうとは――
「流石に、思ってもいなかったな……」
 自嘲気味に唇を吊り上げ、鉄也は昏い笑みを零す。
 デビルガンダム。悪魔の名前に相応しいこの機体も、鉄也にとっては倒すべき敵だ。
 しかし、それは今すぐの話ではない。この強大な力、今は利用するべきだろう。
 このバトルロワイアルの参加者を殺し尽くすのに、デビルガンダムの力は必ず役に立つはずだ。
 利用価値のある内は、せいぜい役に立ってもらえばいい。
「……まずは、デビルガンダムと合流するべきか。どうやら目覚めたばかりの状態で、エネルギーが不足しているようだからな。
 デビルガンダムが安定して活動を行えるようになるまでは、行動を共にしておいた方がいいだろう」
 DG細胞を通じて手に入れた情報を元に、今後の方針を固めていく。
 デビルガンダムがガイキングを取り込もうとしたのは、そのエネルギーを取り込む為だ。どのみち、デビルガンダム本体の元には一旦帰還しなければならない。
 そうと決まれば、もはやこの場に用は無い。
 だが、この場を離脱する前に――

「……奴等の始末は付けていくか」
「っ…………!」
 GP−02を抱え込み、ろくに身動きの取れないブライガー。離脱の機会を逃した二機へと、復活のガイキングは顔を向ける。
 ――まずい。ブライガーはただでさえ本来の性能を発揮する事が出来ず、おまけに今はGP−02を庇わなければならない。
 今の状況で攻め込んで来られたら――ブライガーはともかく、GP−は!!
「カウンタァァァァァ…………」
 ゆっくりと両拳を上げながら、ガイキングはカウンターパンチの発射体制に入る。
 この間合い、この状況、どうあっても避けられるものではない。そう、ジョシュアを見捨てなければ。
 しかし――仲間を見捨てるなど!!
「パンチィィィィィィッ!!」
「――――――――!!」
 逡巡の余裕すら与えもせずに、ガイキングはカウンターパンチを発射する。
 やられる――――!?
 迫り来る死の予兆に表情を強張らせながらも、クォヴレーは諦める事無く操縦桿に手を伸ばす。
 だが――間に合わない。このままでは、どうやっても――――!

「……撃て、ロボ」
『ガォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!』

 轟ッッッッ…………!
33殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 02:59:30 ID:O9INSohf
 ブライガーの目前にまで迫っていた、ガイキングのカウンターパンチ。
 それを迎撃する形で横合いから放たれたのは、ジャイアント・ロボのロケットバズーカであった。
「っ……! 新手か!」
 ロケットバズーカに迎撃された拳を呼び戻し、鉄也は苛立ちに表情を歪める。
 ……見覚えの無い機体だ。だが、プレッシャーで分かる。あの機体、強い。
 そして、なにより――自分に対して、明らかな敵意を向けている。
「この殺気……そうか、あの時見逃した……!」
「見付けた……見付けたぞ、リオの仇……っ!!」
 ガイキングに殺意を向けながら、リョウトは憎悪に表情を歪める。
 ……ブライガーの危機を救ったのは、ガイキングに殺されようとしている誰かの姿が、リオのそれと重ね合って見えてしまったからだった。
 もしブライガーを仕留めようとしていたのが他の何者かであったならば、きっとリョウトは見向きもしなかったのであろう。
 だが、それでも結果として言えば、クォヴレー達の命は彼に救われた事となる。

「三……いや、二対一か。いささか、分の悪い勝負だな、まあいい、ここは退くとするか」
 真っ直ぐに向かい来るジャイアント・ロボの姿を遠目に見ながら、鉄也は戦闘の続行を諦める。
 退路は既に確保してある。ガンダムヘッドが掘り進んで来た地下のトンネルを辿って行けば、デビルガンダムの元に辿り着く事が出来るはずだ。
「待てっ……! 逃げるな、剣鉄也ァァァァァァァッ!」
 ゆっくりと地面に潜り込んで行く、50メートルを越えるガイキングの巨体。
 追い求めた仇が逃げ出そうとしているその光景に、リョウトは声を荒立てる。
 だが――

「……憎いのならば、追って来い。待っているぞ、俺が生きている限りはな」
「っ……! ま、待てぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「ザウル……ガイザァァァァァァ!!!」

 ドォォォォォォンッ…………!

 地中深くに潜り込み、もはや完全に姿の見えなくなったガイキング。ザウルガイザーでトンネルの入口を完全に塞ぎ、リョウトの追跡を完全に振り切る。

「が……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッ!!!」
 ……逃げられた。
 狂ったように叫びを上げて、荒ぶる感情を撒き散らすリョウト。無念の叫びを上げる彼に、クォヴレーとトウマは何も言わず視線を送り続けていた……。 
34殺戮の向こうに未来を夢見て ◆ZbL7QonnV. :2006/07/16(日) 03:00:50 ID:O9INSohf
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好、冷静さを取り戻す
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:ジョシュアの生存確認
 第二行動指針:リョウトと接触する
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第四行動方針:ラミアともう一度接触する
 第五行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
 備考2:ブライカノン使用不可
 備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと19〜20時間前後】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:ジョシュアの生存確認
 第二行動指針:リョウトと接触する
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
 備考2:空間操作装置の存在を認識
 備考3:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる】

【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
 パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
 機体状況:弾薬を半分ほど消費
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:剣鉄也を殺す
 最終行動方針:???(リオを守る)
 備考1:ラミアの正体・思惑に気付いている
 備考2:鉄也の位置をほぼ完全に把握している】

【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類にダメージ?
 パイロット状態:電撃による致命傷。意識半覚醒。具体的な負傷の状況は不明。
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
 備考:バトルロワイアルの目的の一つに勘付いた?】

【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
 パイロット状態:DG細胞感染
 機体状態:DG細胞感染
 現在位置:F-1地下を移動中
 第一行動方針:DGの元に一旦帰還する
 第二行動指針:皆殺し
 最終行動方針:ゲームで勝つ
 備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】

【二日目 19:45】
35それも名無しだ:2006/07/24(月) 09:48:52 ID:tf2hFinr
保守
36ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:49:00 ID:RNFAnjPk
デビルガンダムは、既に次の段階への進化を始めていた。
その進化のスピードは、元々のデビルガンダムのそれに比べ、異常なまでに速い。
生体ユニットが女性であることも当然だが、やはりゲッター線の効果が大きい。
ミオ・サスガの持つ高いプラーナが、生体ユニットとして効果的に作用しているのかもしれない。
(素晴らしい……まさか、これほどまでとはな)
その様子を見ながら、ユーゼスは感嘆の溜息をつく。
これなら、最終形態に辿り着くまで、そう時間はかかるまい。
さらに、アニムスの実をその身に取り込んだことで、デビルガンダムの自己進化機能が働き……
実の遺伝子情報から、少しずつ、しかし確実に、デビルガンダムにベターマンの特性が備わっていく。
この上でベターマンを取り込むことができれば……
神の身体は、ひとまずの完成を見ることになるだろう。
あまりに上手く事が運ぶため、全身に震えすら走る。
だが、順調だからこそ、ここで油断してはならない。
次の計画が動き出そうとしている、今だからこそだ。

デビルガンダムが一定段階以上に成長した今、“システム”が動き出す。
そして、デビルガンダムにまた新たな力が宿る。

新たな……最悪の、力が。
37ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:50:20 ID:RNFAnjPk



(ここ、どこだろ……何も見えない……)

目前に広がるのは、果てしない暗闇。
その奥底に、少女の意識はあった。
自分はどうなってしまったのか――
上下の感覚も、時間の感覚も何もない。
生きているのか、死んでいるのかすらも分からない。
あるのは、ただ一つ。目の前の暗闇から感じられる感覚のみ。

恐怖―――
絶望―――

(誰かここから出してよ……もうやだ、帰りたい……)

その弱気は、普段の彼女からは想像もつかない。
それほどまでに、少女の精神は打ちひしがれていた。
もはや冗談を飛ばす余裕などない。そこにあるのは、ただ底知れぬ恐怖に怯える、哀れな姿のみ。

(……なんで……こんなことになっちゃったんだろ……)

思い出そうにも、思い出せない。
自分の記憶が、いや自分の意識そのものが、目の前の闇に侵食されていくような感覚。
味わったこともないような深い絶望がのしかかり、彼女が考えることを邪魔する。
どうして、こんなにも不安になるのだろう――?
まるで、絶望が直接自分の心に流れ込んできているような……
直接……

(え……?)

その闇は次第に勢いを増し、周囲をさらに黒く染め……直接、少女を包み込んでくる。

(何、この感じ……あたしの中に……何かが、入ってくる……?)

怒り。悲しみ。憎しみ。疑い。嫉妬。恐怖。絶望。狂気。
ありとあらゆるさまざまな負の感情が、大波となって少女に押し寄せてくる。

(やだっ、何よこれ!?いやああああああああああっ!!!)
38ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:51:45 ID:RNFAnjPk



ユーゼスがバトルロワイアルを始めた、一番の理由。
それは、人間の持つ心の闇……いわゆる「負の心」を集めること。
(人間とは愚かな生き物だ。
 苦しい状況に追い込まれると怯え、もがき、妬み、憎み合い……そして心に闇を抱くようになる。
 この狂気に満ちた殺し合いの世界で生まれた、計り知れない闇……
 それをエネルギーに変換すれば……ククク……)
そう……ユーゼスがこのゲームを通じて集めていたという、超神の力とは。
人の心の闇……人間の負の感情。
負の心によって生まれるエネルギーが、超神の新たな力の源。

そして、ユーゼスの設定した“システム”として……
DG細胞が一定段階以上に進化を遂げた時、
負の心によるエネルギーに耐え、そしてそれを行使できる段階まで成長したと思われる時、
収集した負の心のエネルギーは、負の波動となって、この会場のDG細胞へと送られるようになっている。
デビルガンダムは、力を満たすための、いわば容器。

「ふ……ふはははは……!
 成功だ……予測どおり、いや……それを凌駕する成果だ……!!」

この上、さらに活性化を始めるDG細胞。
デビルガンダムは、負の波動を吸収したことで……さらなるパワーを得た。
その進化は、留まる所を知らない。

39ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:52:17 ID:RNFAnjPk


(うああああああああああああああああああっ!!!!)

負の波動が、デビルガンダムへと一気に流れ込んでくる。
それはDG細胞を通じて、生体ユニットの少女にも直接伝わってきた。

(怖い!!苦しい!!痛い!!気持ち悪い!!
 やだ、助けて!!誰か助けて!!)

殺し合いの中で生まれた闇の全てが、鮮明に少女の脳に流れ込む。
その感情が生まれた瞬間の状況までもが、吐き気がするほどに鮮明に。

殺される恐怖。傷つけられる痛み。
大切な人を失った悲しみ。生きている相手への嫉妬。そこから生まれる憎悪。
壊れゆく精神。それを埋めあわせる狂気。
肥大化する疑心。それらが連鎖し、生まれる敵意。
そうした感情のもたらす、殺意。

バトルロワイアルによって曝け出された、人の心の闇。
それらが、ご丁寧な状況付きで少女の頭を駆け巡る。
まるで、疑似体験をさせられているかのように。

(あああああああああああああああああ!!!!
 やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてお願いだからあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)

この狂った殺し合いの世界で生まれた、巨大すぎる闇。
本来ならば平和のために正義を貫く強き戦士達すらも、狂気に走らせるほどの闇。
そんな強力な闇の全てを、たった一人の少女の心で受け止めるなど……
耐えられるはずがない。

(うああ……が……がぁ……ぁ……ぎゃぁああああああああああああ!!!!)

ただでさえ衰弱しきっていたその心が、正気を失っていく。

(もう嫌、こんな想いなんてしたくない!!!これなら死んだほうがいい!!!
 死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死なせて!!!
 あたしを助けて、誰かあたしを殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

その悲痛な叫びは誰にも届かない。今の彼女には死すらも許されない。
ただ、悪魔の心臓として、その場に存在するだけ。

(誰も助けてくれない……誰もあたしを殺してくれない……あたしに構ってくれない!!
 誰か構ってよ!!あたしを一人にしないで!!なんで誰もあたしに構ってくれないの!!
 なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!!なんでなのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)

壊れゆく心。
そしてそれは、次第に……他者への殺意にすら変貌していく。

(誰もあたしを助けてくれない
 みんな、あたしが苦しむのを嘲笑ってるんじゃないの?そうだ、そうに違いない
 みんないなくなっちゃえばいい、そうすれば、こんな思いしなくていいのに!
 いなくなれば、死んじゃえばいい、そうだみんな死んじゃえば、
 殺しちゃえばみんな死んでいなくなる
 そうだ殺せばいい殺せば殺せば殺せば殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……)

あらゆる負の感情に徹底的に陵辱され、その心は狂気に染まり……
それはやがて狂気すら通り越し、崩壊の一途を辿りだす。
そこにまともな理屈などもはや存在しない。
彼女の心は、深い闇に堕ちていった。
40ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:53:17 ID:RNFAnjPk



今でこそ、こうして外部の“システム”を介しなければ負の心を集め、取り込むことはできない。
だが、今のスピードで無限の進化を続けるデビルガンダムならば……
そう遠くないうちに、外部からの干渉を要せずとも、自ら闇を取り込める段階まで進化することだろう。
それは、霊帝ケイサル・エフェスや破滅の王ペルフェクティオに等しい存在といえる。
「いや違う……私は、神を超えるのだ」
人の心の闇を糧にし、ゲッター線の力で無限の進化を続ける、究極の生命体。
彼の目指す所は、目前まで迫っている。

「さあ、どうするラミア・ラヴレス?」
誰とも無く呟く。ラミア……己の手駒。
デビルガンダムは、殺し合いを扇動する彼女にとって、障害となりえるだろう。
このままデビルガンダムが肥大化すれば、いずれ全ての参加者達の目に付く。
そしてその存在は、「共通の敵」として、参加者同士の結束を促す可能性を生む。
それは彼女の任務遂行にあたって好ましい展開ではない。
ひいては、彼女自身の危機を導く結果にもなるだろう。
しかし、その結束に、彼女がどれだけ亀裂を入れられるか……それを期待するのも、また一興。
「今後、生存者達がゲームを壊し、私に牙を剥いてくるか……
 ゲームを完遂し、さらなる多大な負の心のエネルギーを提供してくれるか……
 全ては、お前の働き次第かもしれんぞ。ククク……」
このゲームを娯楽として心底楽しんでいるような嘲笑。
参加者の負の感情を煽り立てるために、ラミア・ラヴレスはジョーカーとして投入された。
彼女の役割は、確かに重要ではある。だが大局的に見れば……
彼女もまた、ユーゼスにとって、余興を楽しむための駒のひとつに過ぎないのだ。


【二日目:20:10】
41ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:54:16 ID:RNFAnjPk























42ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:55:05 ID:RNFAnjPk




【二日目:???】


それはほんの、偶然だった。

進化を続けながら地中を進むデビルガンダム。
その通り道に、たまたま――マシンが一機乗り捨てられていた。
デビルガンダムは、その機体をまるでもののついでのように取り込んでいく。
それが大局に影響することなど何もない。
果てしない進化の階段を登るデビルガンダムにとって、そしてユーゼスにとって。
今となっては、この機体を取り込む程度のことは、取るに足らない些細な出来事でしかなかった。
……それでも。
その偶然は、小さな、しかし確実なきっかけになった。

(ア……レ…………ハ…………?)

ほんの僅か、彼女が我を取り戻すきっかけに。

取り込まれたのは、マシュマーの乗っていた機体。そして本来なら、ブンタの搭乗していた機体。

――魚竜ネッサー。

(マシュマーサン……ブンチャン……)

ネッサーの吸収でわずかに戻った、ミオ・サスガの理性。

(―――――――――!?)

そのほんのわずかな切り口から……
少女の中に、何か別のものが流れ込んできた。
負の波動とは違う、何かが。
43ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:56:05 ID:RNFAnjPk

(え……?)

ミオの目の前に、世界が広がる。
それは進化の記憶の一部であり。
世界の成り立ちの一部でもある。

生まれる地球。恐竜の誕生と、滅亡。サルから進化する人類。
人類の歴史。そこから生まれる、無数の並行世界。その行き着く果て。

(何、これ……?)

そして――――――命。


「どうなってんの……」
ミオはしばし呆然とし……そして、改めて気付いた。
自分を覆い尽くしていた闇が、心を埋め尽くしていた闇が晴れていることに。
先程までの地獄の苦しみが、嘘のように消えている。
「なんで?どうして……?」
その心も、先程までとはうって変わって、安定を見せていた。

(大丈夫、恐れないでミオさん)
誰かが、ミオに語りかけてくる。
その声に気付き、面を上げると……そこには。
「プレシア!?」
ミオのよく知っている仲間。プレシア・ゼノサキスの姿があった。
「よかった、無事だったんだ……って、どうしてここに!?」
ミオの問いかけに、プレシアは語り始めた。
(私は、死を迎えて……そして魂が、この地に蔓延したゲッター線に導かれて……ここに来たの)
「……は?死んだ?魂?ゲッター?何言ってんの?」
いきなり意味不明の言葉を告げられ、困惑する。
するとまた新たに別の声が聞こえ、その主が姿を現してきた。
(ゲッター線、それは宇宙の意思のひとつ……
 私達の魂はそれに導かれ、あるべき所に還っただけなのです)
「ブンちゃん!?」
その主は、ハヤミブンタ。ミオの目前で確かに死んだはずのブンタが、そこにいた。
いや、彼だけではない。
(そうだ……全ては同じ次元、同じエネルギーから発生したものなのだからな……)
「アクセルさん!?」
死んだと聞かされた、アクセル・アルマーも。
「何よこれ……ここってひょっとして死後の世界!?あたし死んだの?」
(いいえ。あなたはデビルガンダムを通じて、ゲッター線に触れているだけです。
 死んだわけではありません……今の状況では、生きているとも言い難いですがね)
今度はシュウ・シラカワが現れ、ミオに語りかける。
「あ……シュウ!それに……?」
それだけではない……このゲームで散っていった40の魂が、そこに存在した。
それは別の言い方をすれば……このゲームによって生まれた、「まつろわぬ霊」達。
(全ては同じ次元から発生しているのだ)
(そして、みんな同じ次元に存在する)
(そう……みんな、ここにいる)
(生物も物質も、天国も地獄も)
(時間も空間も、そして命も。同じエネルギーでバランスを保つパラドックス……)
霊達のメッセージが、ミオの脳裏に流れ込む。それは、まるで何かの意思のもとにあるかのようだった。
「あのー……話についていけないんだけど……」
44ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:56:47 ID:RNFAnjPk
(だが、その宇宙の理を崩そうとしている者がいる)
新たな声が響いてくる。
それはゲッターの意思そのもののようでもあり……目の前の霊達全ての声のようでもあった。
(――ユーゼス・ゴッツォ。
 彼はこのバトルロワイアルを通じて、神をも超える存在になろうとしている。
 人の心の闇を、負の感情を糧とする、超神に……
 それは無限力と対極をなす、霊帝や破滅の王と呼ばれる者達と同質の存在。
 ユーゼスがその目的を達成すれば、ここにいる者達は皆、まつろわぬ霊のひとつとして……
 彼に取り込まれることになる。それは、宇宙の真理を乱す行為……)
とりあえず、ミオは黙ってそれを聞く。内容は相変わらず意味不明だ。
だがこのゲームを通じて、ユーゼスは負の感情を集めて神を超えようとしてるらしい。
よくわからないけど、何かのアニメみたいだ……ミオはそう思った。
(ミオ・サスガ……時間がない。アニムスの実を取り込んだことがきっかけで、
 デビルガンダムはゲッター線に適合し始めている。
 そうなれば、我々の声を君に届けることもできなくなるだろう。
 だから、君に今分かっていることを伝える……)
その言葉と共に、ミオの頭に新たな情報が流れ込んできた――

(この会場のある場所に、“ゲート”が存在する。
 デビルガンダムに供給される負の波動は、そこから放出されている。
 それは、会場を構成する、このバトルロワイアルの“核”……
 それを壊せば、ゲームの破壊のための大きな切り口となるだろう)
45ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:57:44 ID:RNFAnjPk
「ゲート……?それって、どこに……」
(生体コアである今の君ならば感じ取れる。
 DG細胞に流れ込む負の波動、それを遡ればいい)
「そ、そんなこと言われてもさ。第一、今のあたしの状態じゃ……」
そうだ。例え、打開する術を見つけたとしても、今のミオの身体は死んだも同然の状態。
ゲートを壊すために行動することも、ゲートの情報を誰かに伝えることすらもできない。
(……今は、心を強く持つがいい)
「え?」
(そうだ。DG細胞に飲まれないよう、心を強く持て。
 強い精神力を備えれば、DG細胞を跳ね除けることは可能だ
 デビルガンダムの進化を遅らせることも、君自身が元の身体に戻る可能性も出てくるだろう)
「そ、そうかなぁ」
(大丈夫よ、ミオさん)
プレシアが言った。
いつの間にか、彼女の身体はうっすらと透け始めていた。
プレシアだけではない、ミオを囲む霊達全てが。
(みんな、ここで見守ってるから)
その言葉を最後に、彼女はミオの前から消えていく。
その瞬間、ミオの中に彼女の記憶が流れ込んできた。
(大丈夫です。マシュマーさんを信じていてください)
(今のヴィンデルなら……やってくれるさ)
続いて、ブンタ。アクセル。次々と、魂達はミオの前から姿を消す。
そのたびに、ミオの中に、いろんな記憶が流れ込んでくる。
それは、犠牲者達の想い。
負の感情だけではない、彼らがこのゲームを通じて感じてきたこと。
彼らがもがき、足掻いてきた確かな痕跡。
その中で、信じて想いを託してきた生存者達の存在も。
彼らの想いが、伝わってくる。
ゲッター線の意思とは違う、彼らの確かな願いが。
46ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 22:59:04 ID:RNFAnjPk
やがて全ての霊達は消え……そして、最後に流竜馬が残った。
(君と話せるのもここまで……あとは君の心次第だ)
その声は、語りかけてきたゲッターの意思と同じようにも思えた。
「……うん」
ミオの瞳からは、怯えや絶望は消えていた。
死んでいった者達の想いを、確かに感じ取ったから。
そんな彼女に、竜馬は語りかける。
(最後に一つ、頼みがある。ゲッターの意思ではない、俺の、流竜馬としての頼みだ)
「え?」
(鉄也君を……剣鉄也を、助けてあげてくれ。
 彼は闇の力に取り込まれ……そして、自ら受け入れた)
「それって……自分の意思で、あたしと同じようになってるってわけ?」
(そうだ。彼はゲッターの見せる運命を否定し、全てを捨てて悪鬼になった。
 しかし、彼は全てを捨て切ってはいないと思う。
 彼の行為の原動力には、間違いなく仲間への想いがあるはずなんだ)
「……なんで、あたしに?」
(今、おそらく彼の一番近くにいるのは君だからだ。DG細胞で繋がっていることで……
 君なら、彼の心に触れることもできるかもしれない)
彼と話したことも、逢ったこともない人間に、それを頼むのは無茶であるかもしれない。
竜馬自身、それはわかっていただろう。
だが、彼をこのまま闇に堕ちたままにしておくのは。ユーゼスの野望の道具として使われるのは。
それは、あまりにも哀しい。
(できれば、で構わない……彼がただの殺人鬼ではない、それを心に留めておいてくれるだけでも……)
「……わかった。頑張ってみる」
(そうか。ありがとう……)

竜馬は遥かな時空の彼方へと消えていった。
ゲッターロボと共に……
そしてミオの意識も、現実へと引き戻されていく。



47ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 23:01:49 ID:RNFAnjPk
【二日目 21:00】

会場のほぼ中心部。
そこを震源として、激しい地響きが鳴り渡り、地面が割れていく。
その地割れの中から、巨大な怪物の如き物体が姿を現した。
新たな形態へと進化を遂げた、デビルガンダム――

DG細胞が、周囲の大地を汚染していく。
汚染された地面から、ガンダムヘッドが姿を現し……
程なくして、デビルガンダムを中心に巨大な「要塞」が形作られた。

依然として、デビルガンダムは進化を続けている。
このまま肥大化を続ければ、いずれ会場全土を覆いつくしてしまうかもしれない。
そこに、止め処なく流れ込んでくる負の波動。
デビルガンダムに更なる力を与え、どんどん手が付けられなくなっていく。

その負の波動の出所、それは―――
48ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 23:03:05 ID:RNFAnjPk
丸いドーム状のオブジェクト。
それこそが、ゲートと呼ばれた……バトルロワイアルの核。

“ダイダルゲート”

かつて、ある世界に、新帝国ダイダルと呼ばれる悪の組織が存在した。
その首領・帝王ダイダスは、このダイダルゲートを地球の各地に設置。
ゲートからワームホールを発生させ、そこからダイダル兵と呼ばれる戦闘員を地球各地に送り出し侵略を行ったという。

ユーゼスは、このダイダルゲートに目をつけた。
ワームホールを生み出すこのゲートを、自分の持てる技術を注ぎ込んで改造する。
そしてその機能をさらに発展させ、会場全体の空間操作・制御のための基点としての機能を持たせることに成功した。
……だが、ダイダルゲートの機能はこれだけではない。
ゲートには、もう一つの……真の機能とも呼べるシステムがある。
むしろそれこそが、ユーゼスにとって最も目を引いた要因。
それは……人の心の闇、人の持つ負の心、それを感知・収集し、エネルギーに変換するシステム。

これが、イングラムの探していた空間操作装置であり、
今、デビルガンダムに負の波動を供給し続けているものの正体である。

負の波動は、このゲーム会場に存在する全てのDG細胞に送られている。
そう、全てのDG細胞に。

49ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 23:04:38 ID:RNFAnjPk


「デビルガンダムか……さらに力を増したようだな」
水中から飛び出し、剣鉄也が最初に見たもの。
それは、巨大なデビルガンダムの影。
E−2のこの場所からでもうっすらと目視できるほどに、巨大な姿に進化を遂げていた。
「俺も、あれと同じ……か」
呟く鉄也。
あのデビルガンダムも、外部から流れ込む闇の力で、パワーアップしたのだろう。
……自分と、同じように。

剣鉄也の身体に、力が漲ってくる。
それはガイキングも同様。自己修復能力が急激に上昇し、戦闘力が回復していく。
この修復スピードならば、デビルガンダムの元に辿り着くころには傷は完治していることだろう。
流れ込んでくる、どす黒い心の闇。強烈な悪意が、彼の心身を包み込む。
不快感は感じない。むしろ心地よさすら感じる。
その感覚は、彼の心が闇に染まりきっている証。
このまま、この感覚に身を委ねたくなる。
「ふん……冗談じゃない」
だが鉄也はそれを拒んだ。

悪魔の手先に堕ちようとも。
俺の心まで、どうにかできると思うな。
これは、俺の選んだ選択だ。
確かに、俺はデビルガンダムの力を受け入れた。
この力を使い、これからまた暴虐の限りを尽くすことだろう。
だがそれは悪魔の意志によるものではない。
俺の意志だ。
ユーゼスの手の上で、ただ踊らされているだけだとしても。
これは間違いなく、俺の選んだ道。俺自身の罪だ。
それは、誰にも否定させはしない。

鉄也は闇を受け入れる。ただし、それに全てを委ねることなく、あくまで自我を選んだ。
その強靭な意志を持ったまま、彼は悪魔の道を歩み始める。

全ての罪を、全ての業を背負うのは、他の誰でもない。
この剣鉄也、俺自身だ。

50ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 23:06:18 ID:RNFAnjPk

この人が、剣鉄也っていうんだ――
朦朧とする意識の中、ミオは接近してくるガイキングの、そして鉄也の存在を感じ取った。
流れ込む彼の負の波動、そしてDG細胞を通じて、彼の心が見えたような気がした。
彼の行いは許されるものじゃない。しかし確かに、その心は哀しすぎた。
ダメだ。彼を、デビルガンダムの……ユーゼスのいいようにさせちゃ。
逢ったこともない人だが、それでもできることなら彼をこの闇から救い出したい。
もっとも……今は自分自身のことで精一杯なわけであるが。

ミオの意識は、再び闇の中に戻っていた。
負の波動は、今もなお彼女の心を蝕んでくる。
それは瞬く間に、平常を取り戻していたミオの精神を破壊していった。
だが、それでも……
(ダメだ……負けちゃ……!!)
その心が壊れる一歩手前で、踏みとどまる。心を強く持ち、自我を崩壊させまいと。
いかに抗った所で、デビルガンダムの動きを止められるわけではない。
しかし、絶対に、負けられない理由がある。
死んでいったみんなの想いを、託された。
そして、マシュマーが……自分を助けようとしている者達がいる。
だから、安易に死を選ぶような真似は、できない。
最後の最後まで、絶望なんかに負けるもんか――


ユーゼスは見落としていた。大局を見据えすぎたが故に。
デビルガンダムに取り込まれたネッサーが見せた効果。
それがきっかけで、生体コアの少女がゲッター線に触れたということ。
そこで得た知識で、少女が真実の片鱗を知ったこと。
何より少女は、まだ希望の光を失っていないこと。

そして……帝王ダイダスは、その「希望の光」そのものに敗れたこと。
ダイダスだけではない。まつろわぬ霊の王も、破滅の王も。
皆、そうした想いの前に敗れていったこと。


ゲームは続く。
そして、少女の孤独な戦いも。
51ある野望の遺産 ◆mfD2sxAeCI :2006/07/24(月) 23:09:18 ID:RNFAnjPk
【ミオ・サスガ 搭乗機体:デビルガンダム第二形態(機動武道伝Gガンダム)
 パイロット状態:デビルガンダムの生体ユニット化(精神崩壊寸前)
 機体状況:超活性化。ゲッター線及び負の波動による能力強化。胸部装甲、ほぼ修復。
 現在位置:E-4(一帯がDG化。汚染はさらに広がる恐れあり)
 第一行動方針:???(心を強く持ち、DGに完全に取り込まれないようにする)
 第二行動方針:???(マシュマー達を信じて助けを待つ)
 第三行動方針:???(ダイダルゲートの破壊)
 第四行動方針:???(剣鉄也を助けたい)
 最終行動方針:???(主催者を倒しゲームを潰す・可能な限りの生存者と生還)
 備考1:コアを失えば、とりあえずその機体の機能のほとんどが無力化すると思われる
 備考2:ハロを失ったため、DG細胞でカイザースクランダーのような新たな別個の存在を生み出すことは不可能
 備考3:ダイダルゲートを介し、負の波動が供給されている
 備考4:ダイダルゲートの機能、及び位置を把握】

※ネッサーはデビルガンダムに吸収されました

【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
 パイロット状態:DG細胞感染。ダメージ回復中。強い意志。
         負の波動による戦意高揚(ただし取り込まれていない)
 機体状態:DG細胞感染。ダメージ修復中。負の波動による強化・活性化。
 現在位置:E-2南部
 第一行動方針:DGの元に一旦帰還する
 第二行動指針:DG細胞に自我を完全に取り込まれないようにする
 第三行動指針:皆殺し
 最終行動方針:ゲームで勝つ
 備考1:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている
 備考2:ダイダルゲートを介し、負の波動が供給されている】


○本ロワにおけるダイダルゲートについての説明(暫定版)
・登場作品「スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望」
・ドーム状の建造物。大きさは家屋一軒分くらいか?
・本ロワにおいては、ユーゼスの改造により空間操作装置として機能
・ゲートのさらに地下深くに、人の負の心を収集しエネルギーに変換するシステムがある
・変換されたエネルギーは、現在会場内のDG細胞に供給されている
・なおこのシステムは、負の心だけでなく、人の持つ希望の光も収集することが確認されている
 (原作において帝王ダイダスはそれによりダメージを受け、倒された)

【二日目 21:00】
52それも名無しだ:2006/07/29(土) 12:00:10 ID:GzotaH8d
保守
53それも名無しだ:2006/08/01(火) 13:32:11 ID:svUnYbzC
保守
54high on hope:2006/08/02(水) 03:57:28 ID:0zyhTdYU
【二日目 19:00】

市街地の外れ、荒廃したビルの並ぶ一角、そこに彼女はいた。
ラミア・ラブレス――
争いの因子を振りまかんとする者である。

新たに狂気に囚われた男に力を与えた後、彼女は自身の力でもあるラーゼフォンと共にその羽を休め、自らの主との交信を行っていた。
今はまだ自分が表舞台へ出て行く時ではないと判断したためだ。
あくまで他の参加者どうしでの殺し合いを促すこと――
それが目的である。
現状、円滑にゲームが進行しているのであれば裏方にまわればいい――
どちらにせよ、今は情報を集め、整理する必要があった。

自分がこの舞台へと降り立ってから、それなりに時間も経過している。
ヘルモーズ内で確認していた他の参加者の位置もそろそろ意味を成さなくなってくる頃だ。
効率よくゲームを進行するには再度、主と交信を行い参加者の位置、状況を確認しなければならなかったのだ。

とはいえ、あまり何度も交信を行っては興を損なう恐れもあった
主が望んでいるのは、ゲームが円滑に進むことで新たな力を手にすることであるが
そのゲーム自体の進行具合をも楽しんでいるようでもあった。
あまり頻繁に主催者と通信を行うというのは無粋かもしれない。
しかし、今は新たに情報を得ねば今後うまく立ち回れなくなってくるかもしれないと結論付け
先程、ヘルモーズとの通信を開いたのであった。
主もそのことを承知していたのであろう、状況整理は滞りなく行われた。


「かなり荒れてきているな・・・」
通信を終了した時、ラミアはそう呟いた。
どうやら参加者達はうまい具合に三ヶ所に集まり始めているようだ。
しかも、どちらもただで済みそうではない。
好都合――、そう思う。
ただし、まだそれぞれの場所に接触していない参加者が数人程いるようだ、
ならば彼等をうまく、最も混沌としそうな場所へ誘ってやればいい
それが自分の次の仕事である。
55high on hope:2006/08/02(水) 03:58:17 ID:0zyhTdYU
(まずは東か――)
先程、ユーゼスとの通信で得た他の参加者の位置を再度確認し、彼女は舞い上がる。
自身の力であるラーゼフォンと共に――
その機械神はその目的地をまっすぐに見据えていた。
56high on hope:2006/08/02(水) 03:59:02 ID:0zyhTdYU
【二日目 19:05】

(非常にまずいことになった・・・)
チーフは思う。
目の前には両手足を失ったロボットとその損傷具合を確かめようと調査を行っているガルドが見えていた。
大方の外部損傷のチェックは終ったのだろう、次はコクピットへと乗り込もうとしている。
(初めて見る機体を、ここまで素早くチェックできるのはさすが戦闘機設計主任といったところか・・・だが・・・)
そう思いを馳せ、視線を少しずらす。
そこには一本の木と共に先程自分が作った墓が見えていた。
しかしそこに在るはずであったロボットの姿は無い――

別の参加者に拾われたのだろう・・・
すでにそこにグランゾンの姿は無く、代わりにボロボロの機体が乗り捨てられてあったのだ。
(プレシア・・・すまん・・・・・・)
そんなことを考えながら、行方をくらませたグランゾンを思い返す。
計器類がほとんどやられているとはいえ、その凄まじい攻撃力は健在だ・・・
熱が引いてしまえば運用にさほど問題は無いだろう――
そう、他の参加者を殺すということにおいては特に――

「やはりダメだな、乗り捨てていかれただけはある・・・これならば今の機体のほうが遥かにマシだ」
ガルドが急に通信を送ってきた、どうやら目の前の機体からチェックも兼ねて送ったのだろう
その声は低くどこか神妙な雰囲気をかもし出していた。
「そう・・・か・・・・・・」
対するチーフも表情は固い。

二人とも理解していたのだ、
これでは二手に分かれるのは危険であると――
もちろん他の参加者に渡ったグランゾンも気になる。
しかし、現状優先すべきはG-6の施設への急行、リョウトの追跡である。

そして、今やその両方の遂行が難しくなってしまった。
それが現在二人を、特に悩ませる要因となっていた。
57high on hope:2006/08/02(水) 04:00:09 ID:0zyhTdYU
テムジンは比較的大丈夫であろう。
エネルギーが減ってきているとはいえ、まだまだ半分以上ある。
加えてチーフが向かおうとしていた東側には、先刻ガルドが小島内で発見した補給ポイントもある。
これならばリョウトを追いながらも補給でき、かつ時間のロスも比較的少ない。
乗り手が万全の状態であるとは言えないが、先程の戦闘を鑑みるに致命的というわけではない。
むしろ機体がパワーアップした分、前以上に動きが良くなっている。

しかしエステバリスはやや厳しい
ガルドの操縦技術はかなりのものだ、先の戦闘でも結局被弾は無かった。
今後も回避に徹すればそうそうやられることは無いだろう。
だが、それは裏を返せば回避するしかないと言う事でもある。
武装も弱く、装甲も薄い、これでG-6へ向かったとしてもできることはたかが知れている。
そこで何事も起こっていないのであれば問題は無いが、あのマサキがいるであろう場所である
騒動が起こっている可能性は高い。
結果、たどり着いたとしても何も成せないといったことが大いに有り得る。

だからこそ、グランゾンを回収する必要があったのだ・・・
だからこそ、二手に分かれると言う案も承知できたという物なのだ・・・
これでは、ガルド一人で基地に向かうには心もとない、危険度はかなり倍増する。
こうなれば、いっその事どちらかに向かうのを諦めるべきであろうか?
そういう考えが二人の頭をよぎる。

「しばらく共に東へ向かうのが打倒だろうな・・・」
ガルドが再び通信を送る、やはり声は沈んだままだ。
「うむ・・・こうなった以上なるべく素早く少年を確保し、それから施設に向かうべきだろう・・・残念だが・・・・・・」
チーフが答えを返す。
そう、施設に向かうのであればG-1まで東へ向かってから北上しても遅くは無い、
光の壁を通り抜ければ直接向かうのと時間的には大差はないのである。
ただし、直ぐに北上できればの話であるが――

「おそらく・・・唯ではすまんだろうがな・・・」
チーフはその視線を、リョウトが飛び去った方向へと向け――
「先程のプレッシャーはかなりの物だったからな・・・」
そう付け加えた。
ガルドも黙って頷く――
そう、何か起こる可能性は高い。
さっきリョウトの駆る巨大なロボットを見て以来、不思議とそんな直感があったのだ。
リョウトだけからそんな不安を感じているわけではない・・・
リョウトが自分たちの居場所を知っていたのにも関わらず、少しも構う気配を見せず飛び去っていったこと
それが何かしら別の違和感を覚えさせ――
東に何かいる、と言う直感を抱かせ――
そして、そのことが後々さらに重大な何かを巻き起こすような
そんな不思議な予感が二人の頭をかすめていた。
58high on hope:2006/08/02(水) 04:02:08 ID:0zyhTdYU
(朝までに施設には向かえない可能性もでてきたな・・・)
ガルドは思う。
だが現状では仕方のないことだ――
これから夜を迎え、ますます暗くなる。
そんな中レーダーの効きにくいこの世界で装甲の薄いエステバリスで移動する。
そんな事は自殺行為にも等しい。
自分はまだ死ぬわけにはいかないのだ。
友を元の世界へと送り返すためにも。

何とか自分たちがたどり着くまで施設と解析を行っている連中が無事であること、
そしてそこにイサムがいないこと、それを願うしかない。
(ともかく、今は急いで東へ向かうしかないか・・・案外イサムの奴がいる可能性もあるしな・・・・・・)
そう思い直し、このボロボロの機体から降りることにした。
早くエステバリスに乗りなおしたほうがいいだろう。
コクピットから出ようとハッチ足をかける

だがその瞬間、チーフが声を荒げる――
「まずい!ガルド早く機体を乗り換えろ!!・・・何か向かってくるぞ」
59high on hope:2006/08/02(水) 04:03:37 ID:0zyhTdYU
【二日目 19:15】

飛ぶ――
飛ぶ――
疾風のごとく――
翼を羽ばたかせ、ラーゼフォンは一陣の光となって薄暗くなった空を駆け抜けていく――

ラミアは今G-5エリアへむけて全速で向かっていた。
(これでいい――)そう思いながら。
先程、共に行動しようか、二手に分かれようかと悩んでいた二人組みに指標を示してやったのだ。

リョウトの時と同じように暗に自分が何者なのかをほのめかしつつ

チーフが追っているリョウトが何を目的としているのかを――
そこに何者が待ち受けているのかということを――

そしてG-6施設にガルドの探している人物がいること――
そこに彼らが危険視している男がいることを教えてやったのだ。

(『馬鹿な・・・』そんな顔をしていましたわね・・・)
ラミアはほくそ笑む。
通常ならば、いきなり現れた人物がそのようなことを話したとしても本気には取らないだろう。
だが私は、彼らしか知らないであろう特定の人物の名前や、目的をしゃべってやった
これが何を意味するのか、私が何者であるのか読み取れないような奴等では無いだろう。
主催者との繋がりを持つものだと理解したはずだ。
感が鋭ければ、私の目的がゲームの進行であることにも気づいたかもしれない

だからこそ、示された指標へと向かわずにはいられないはずだ。
全てを知っている主催者側からの情報である。
嘘である可能性を危ぶみながらも、向かうしかない
万が一この情報が本当である可能性を考えると、そうするしかないのである。
それが、彼女が今までヘルモーズ内で通信機から彼らの会話を傍受し続けて推測した答えであった。
この二人のみに言えることではない、人には何かそれぞれ守りたい何かがある。
それが何であるかさえ知っていれば行動を操ることなど比較的容易なことなのだ。
それが失われそうな状況にあると教えてやれば、必死にそれを守ろうとするのだから。
60high on hope:2006/08/02(水) 04:04:28 ID:0zyhTdYU
とにもかくも、これで彼らは分断され、それぞれ新たな混沌の地へと赴くであろう。
ゲーム進行もはかどると言う物だ。


しかし――
彼女は少し悩む
(しかし、こいつはどうするべきか)と――
その原因となっているのは先程の二人以外にもう一人混沌を免れている者
パプテマス=シロッコ、グランゾンの存在であった。

グランゾン、それが争いを免れていることはハッキリ言ってユーゼスにとって都合のいいことであった。
偶然を誘発する因子、その源である『それ』は戦地から離れるほど良い。
少なくともユーゼスが望む力が発現するまでは何としても残しておかなくてはならない存在なのだ
へたに戦闘に巻き込んで破壊された――、なんてことはあってはならないのである。

だが――

ラミアは思う。グランソンは危険であると――

確かに『それ』は、我々、いや自らの主にとっては有益な偶然を幾つもおこしてきている。
今後、主が新たな力を得るためにも必要な物であろう。

しかし本当にそんなに都合よくいくのであろうか?
ラミアはそう危ぶむ。
これから先、我等にとって不都合な偶然をも誘発してしまう可能性もあるのではないか――、と
だとすれば『それ』は倒しておくべき存在なのではないだろうか。
61high on hope:2006/08/02(水) 04:05:54 ID:0zyhTdYU
答えは出ない――
主の命を確実に守ると言うのであれば話は簡単である。
今すぐにでも、グランゾンを破壊してしまえばいい。
しかし、それではこのゲームの目的を潰してしまうことにもなる。
自分に命じられた使命、それはあくまでゲームの進行なのだ。

あのイングラムを葬った時も主は言われた、『余計なことをするな――』と
結局のところ、今グランゾンは放っておくしかないのだ
「うまくいけば良いのだが・・・」
そう呟きモニターに目を向ける
今、自分が目指している目的地、そこにあるグルンガストのデータが映し出されていた。

ふと考えてみる。
今のこの状況すらもグランゾンの巻き起こす偶然の渦の中なのではないか、と――
都合が良すぎるのだ――
ほとんどの参加者は三ヶ所へと集いつつある、まるで導かれるように
たしかに自分も他の参加者を戦いへと導いている。
しかし、この状況はどう考えても出来すぎである。
そして、当のグランゾン自身のみがこの混乱から離れた場所に位置しているのだ。

先程、主から情報を聞いたところ、
グランゾンのパイロット、パプテマス=シロッコは呑気にコーヒーなんぞを飲んでいるらしい
いい気な物だ――
心からそう思う。

ユーゼス様は言われた。
この世界は自分に掌握されていると。
だが、本当に掌握しているのは、もしかするとグランゾンなのではないか?
そういう考えが頭をよぎる。

今、自分が向かっている場所
そこは参加者が集まっているそれぞれの箇所の成り行きを見守るには最適な場所に位置していた。
上に行っても、下に行っても、さらには光の壁を越えて右に行っても接触できる。
状況を見て、グランゾンを新たに誰かに与えるには、なかなかの位置だ。
やはりこれも出来すぎている――

「いいだろう――」そう呟く、
首輪の通信機にすら拾えないような小さな声で。
(今は思うとおりにさせてやろう、どのみち我が主にはこの力が必要なのだから)
だが――
我が主が力を手に入れたなら――
もしくは奴が主に不都合な偶然を巻き起こしたならば――
(その時は私が奴を消す!!)
それまでは――、一杯と言わずに何杯でものんびりコーヒーを飲んでいるがいいさ。
そう心に決め、彼女は機械造りの神と共に飛び去っていった。
62high on hope:2006/08/02(水) 04:08:40 ID:0zyhTdYU
「どうしても行くと言うのか?」
チーフが再度尋ねる
ラミアが飛び去ってしまった後、彼らもまた遂に決断を下そうとしていた。
すなわち、別れてそれぞれの目的地へと向かう決断である。
突如現れて、言うだけいって去っていってしまった来訪者について意見を交し合ったため
また少し時間をロスしてしまったのだ。
あの女の正体が主催者側ということは明白で、自分たちに新たな戦いをけしかけていると言うことは推測できたが
それでも得た情報は無視できる物ではなかったし
これ以上はさすがに時間をさけない。
「あぁ、こればかりは危険だからと言って後回しにはできん・・・俺の・・・贖罪だからな・・・
 あいつだけは何としても元の世界へ返してやらねばならん・・・俺の命にかえてもな・・・」
ガルドが神妙な面持ちで答える、その目には一片の揺らぎも存在していなかった。
「そうか・・・」
決意を感じ取ったのだろう、チーフはその答えに短く言葉を返す。
「ではな・・・先に行かせてもらうぞ・・・」
そうしてエステバリスはゆっくりと浮かび上がる、だが・・・
「何のつもりだ、チーフ?」
テムジンがエステバリスを掴んでいた、そして軽く機体を小突く。
「その目をして戦場に向かった奴は決まって死んでいった・・・」
「な・・・に・・・?」
「自分が死ぬことで誰かが救えるかと思ったら大間違いだぞ・・・」
静かに言葉を続ける。
「ガルド・・・貴官を信じよう、君が仲間を助けて元の世界へ送り返すと言う言葉を・・・だが・・・」
チーフが通信機越しにガルドを見つめる。
「だが・・・その時は俺も、貴官も一緒だ・・・・・・死ぬなよ?」
「・・・」
ガルドは無言で見つめ返す。
しばらくの沈黙、そして――
「ふっ」思わず笑みがこぼれた。
目の前の男は固い男だと思っていたが、意外に熱いところもあるようだ。
なんだか、少し懐かしい感じがした。
「チーフ、これは指導なのか?」
「・・・いや・・・個人的な忠告だ、仲間としてのな・・・」
「そうか・・・」
ガルドは少し何かを考えるように目をつぶる、そして
「ならば今の一発はかりだな?」
聞き返す。
「むっ・・・」
突然の言葉に意表をつかれたのだろう、チーフは眉をひそめる。
だがその後、軽く笑い、掴んでいたテムジンの手を離した。
「次にあったとき、お返しはさせてもらう・・・また会おう」
「あぁ、お互いの武運を祈ろう」
互いに最後の通信を交わす。
そして再度バーニアが吹かされ、今度こそ浮き上がる。
エステバリスは、最後に地上で敬礼をしているテムジンを一瞥すると飛び立ち
光の壁の中へと飛び込んでいった。
63high on hope:2006/08/02(水) 04:11:32 ID:0zyhTdYU
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:E−3
 第一行動方針:G−5へ向かい、グルンガストの取得・状況を見て誰かに渡す
 第二行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
 第三行動方針:グランゾンの様子を見て、用済み・もしくはユーゼスにとって危険と判断したら破壊する
 最終行動方針:ゲームを進行させる
 備考:ユーゼスと通信を行い他の参加者の位置、状況などを把握しました 】

【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
 現在位置:D−8
 第一行動方針:G-6でのイサムの存在の確認・合流
 第二行動方針:G-6にて、首輪・マサキの情報を集める
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
 第四行動方針:チーフとの合流
 最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる )
        ただし可能ならばチーフ、自分の生還も考慮に入れる】


【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
 パイロット状況:全身の打撲・火傷の応急処置は完了
 機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
 現在位置:C−1
 第一行動方針:リョウトを追って東へ
 第二行動方針:E-1小島内で補給
 第三行動方針:G-6へ向かいガルドと合流、首輪・マサキの情報を集める
 第四行動方針:空間制御装置の破壊
 最終行動方針:仲間とゲームからの脱出】

【チーフとガルドはラミア(主催者側)の存在に気づきました】


【二日目 19:20】
64マリオネット・メサイア ◆JevR7BMAco :2006/08/02(水) 04:14:52 ID:Tc2ZMUVj
 漆黒。荒れ果てた大地を癒すように夜の帳が下りる。
光瞬く星の下、宵闇に抱かれて眠る二人の男女の姿があった。
それは若き修羅王と念能力者の少女。先の戦闘から一時間。
恐るべき悪魔との戦いは、彼らに多数のキズと泥土のような眠りをもたらしていた。
 やがて、微かな呻きと共に・・・『少女』はその目を覚ました。

「・・・奴は逃げたか」
 覚醒した少女が真っ先にとった行動。それは、機体と周囲の状況の確認だった。
R-1の上体を起こし、T-LINKを含めた全ての機器を起動させる。
手元の計器を注視して、周囲に悪魔の反応がないことを確認した後に・・・
彼女はようやく、いまだ目覚めない青年へと意識を向けた。

 微動だにしない白い甲冑。それに向かい歩を進める。
おそらく、この殺し合いの中でも上位に属するであろう戦闘能力・・・
そして決して折れないであろう、その信念・・・
いずれきっと、彼は主催者の前へとたどり着く。そいつを倒すために。



ならば・・・それならば・・・



 彼女は自らの機体の右腕を振り上げる。それに伴い、上腕部へと光が集う。
そして、光が収束するその拳を・・・そのまま白い甲冑へ目掛けて振り下ろした。
65マリオネット・メサイア ◆JevR7BMAco :2006/08/02(水) 04:15:39 ID:Tc2ZMUVj






「・・・・・・・・・」
 いまだに、青年は目覚めない。
振り下ろされた拳は、中空でその動きを止め・・・まばゆい光は四散していた。
「私は・・・なにを・・・?」
 真っ白になるくらいの力で握り締められた手を、操縦桿から無理やり引き剥がす。
(殺そうとしてた。私は、フォルカの事を・・・)
おこりがかかったように震える体を、自らの両手できつく抱きしめる。
「私は・・・私は・・・!」
「・・・レビ?」
 不意に、フォルカの声が聞こえ、マイは声にならない悲鳴をあげた。
目覚めたらしい彼の動きに合わせて、白い甲冑が身じろぎする。
それを眺めながら、マイは操縦桿を再びきつく握り締めた。
(・・・ここにいてはいけない・・・ここにいたら、私はまた・・・)

「フォルカ・・・ごめん」
 それだけを言葉にして・・・機体を変形させたマイは、その場を高速で離脱した。



「レビ!待ってくれ、いったい何が!?」
 少女の突然の謝罪。フォルカの出した困惑の声は、戦闘機の出す爆音によってかき消された。
(いったいどうしたっていうんだ、レビ・・・)
彼女の真意は分からない。だが、事態の深刻さは自分にも理解できる。
フォルカは飛竜へと姿を変えた、自らの機体へ飛び乗り・・・そのまま膝を付いた。
休息を求め、全身が悲鳴を上げている。
そんな体に鞭をうって、フォルカは慌てて少女の後を追った。


これからどこへ行こうか・・・操縦桿を握り締め、そんな事を考える。
・・・いや、行く所は最初から決まっていた。
どこか、遠く。誰も傷つける事のない場所へ。でも・・・
(でも、その前に・・・リュウに、会いたい)
幸い、彼の居場所はなんとなく分かる。
北のほうから感じる二つの気配。それに向かって、機体を飛ばす。
そう、リュウに・・・リュウセイ=ダテに会って・・・私は・・・私は・・・


彼の元へは、未だ遠かった。
66マリオネット・メサイア ◆JevR7BMAco :2006/08/02(水) 04:16:18 ID:Tc2ZMUVj
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
 パイロット状況:ややレビ化? サイコドライバーを感知
 機体状況:G−リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし) 
      ENを半分ほど消費。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
      コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)
      T-LINKシステム起動中
 現在位置:B-3北部
 第一行動方針:リュウセイに会う(会って、どうしたいかは不明)
 最終行動方針:どこか遠くへ
 備考:精神的に非常に不安定】

【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)  
 パイロット状況:重度の疲労
         頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
 機体状況:剣破損。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
      腹部の外部装甲にヒビ(戦闘に支障なし)
 現在位置:B-3中心付近
 第一行動方針:レビ(マイ)の後を追いかける
 第二行動方針:プレッシャーの主(マシュマー)を止める
 第三行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
 最終行動方針:殺し合いを止める
 備考1:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
 備考2:一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
67マリオネット・メサイア追記 ◆JevR7BMAco :2006/08/02(水) 04:18:29 ID:Tc2ZMUVj
【二日目 21:08】
68high on hope:2006/08/02(水) 04:55:21 ID:0zyhTdYU
すいません、61の29行目の「グランゾンを誰かに渡す」というのは
「グルンガストを〜」の間違いです。
69それも名無しだ:2006/08/04(金) 11:02:25 ID:WCxrjS3O
保守
70それも名無しだ:2006/08/04(金) 19:09:23 ID:+uCpLJah
あげ
71精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:05:55 ID:IkOtmd1F
「……やっぱり、どうにもならねえか?」

『外装はまだしも、武装のダメージが大きすぎますね。
 まともに使えるのが殆ど残ってません。
 専門の施設とスタッフでも一週間、どんなスクランブルでも3日は必要でしょう。
 仮に現状で動いたところで、的になるのがいいとこです。
 率直に言って、お手上げですね……』

 朽ち果てた巨人を背に、エルマが残念そうに告げる。

 待機中のリュウセイが一縷の望みを託し、
 セレーナにビッグオーの修理を依頼したところ、彼女は快く応じた。
 もっとも、実際にそれを行うのはエルマなのだが。

 ともあれ、専門家に比肩する知識、能力を持つエルマならば、或いは。
 イングラムと共に戦ったこのマシンを、蘇らせることが出来るかもしれない……!

 しかし、その希望は無情にも打ち砕かれた。
 専門家によって突きつけられた死亡診断書。
 眼前の鋼鉄の巨人が再び立ち上がることは、ありえないのだ。

「ちっくしょう……!」

 抑えられない怒りに、リュウセイに拳に力がこもる。

 ゲームと称して命を弄ぶユーゼス=ゴッツォに。
 イングラムを殺した、名も顔も知らぬこのゲームの参加者に。
 そして、このゲームの前に何も出来ない、
 目の前の朽ち果てた巨人に何もしてやれない己の無力に。


『それにしても、この機体の頑丈さも大したものです。
 並の機体なら跡形もなく消し飛んでいても不思議じゃないですよ』

 改めてビッグオーの方へと向き直り、エルマが呟く。
 裏を返せば、それだけ強力なマシンが存在するという証左でもある。
 未だ知らぬ強敵の存在に、一行は静かに戦慄した。

「やはり、どうにもならんか」
「イキマ、大丈夫なのか!?」

 駆け寄ろうとするリュウセイをイキマは片手で制する。

「この程度の傷など、どうと言うことはない。
 それに、泣き言を言っていられる状況でもあるまい」

 イキマの言葉に、無言で俯くリュウセイ。

 参加者の過半数が死亡し、いよいよバトルロワイアルも佳境に入ってきている。
 だが、そんな状況にあって自分は機体を失い、何も出来ないでいる。
 イングラムとの遺志も、己の決意も果たせぬままに。

(何をやってるんだよ、俺は……!)

 現状でまともに戦闘が可能なのは、セレーナの乗るアーバレスト一機のみと言う体たらく。
 ハッキリ言って、今の自分は足手まといでしかない。
72精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:06:55 ID:IkOtmd1F
 いや、今ばかりではない。
 自分はこのバトルロワイアルで一体何をしたというのか。
 フェアリオンとともに、一体何をやってきたのか。

 自分に割り当てられた機体は、決して恵まれていたとは言えない。
 だが、それを言い訳にしたくなかった。
 戦場を共に駆ける相棒に言い訳がましく愚痴を言うことは、彼のプライドが許さなかった。
 それがリュウセイの戦士としての誇りであり、ロボットを愛する者としての矜持だった。

 だが、信念だけで世界は動かせない。
 力がなければ、仲間一人助けることすらできないのだ。





       ……に……を……


「えっ?」

 思わず辺りを見回すリュウセイ。
 どうしたんだ、とイキマが肩を竦める。

『あれ、何か接近してます……え!?』

 異常を伝えた直後、絶句するエルマ。
 その数瞬の後、一同はエルマの動揺の意味を知ることになる。


「そんな馬鹿な……」
「う、嘘だろ!?」
「エルマ、アル、状況は!?」
『全計器、問題なし。……目の前に起こっていることは、現実です』
『僕らが夢を見ているようなことがなければ、ですが……』

 目の前に現れたのは、ノルス・レイ。
 誰も乗っていないはずのマシンが、先ほどの戦闘で力尽きたはずの妖精が、
 突如として眼前に現れたのだ。


 パイロットはどうした。
 イキマはここだ。

 ならば、誰が乗っているのか。
 と言うより、誰が乗れると言うのだ。
 完全にルールを逸脱しているではないか。
 主催者は何をやっている。

 何の解決にもならない思考がぐるぐると回る。
 呆然と立ち尽くす一同。


 彼等の目の前でノルス・レイは静かにビッグオーの前に降り立つ。
 あまりに現実離れしすぎた光景に、一同は言葉を失う。

 よく見ると、ノルス・レイはその身に淡い光を纏っている。
 見る者を威圧する類ではなく、傍にあるものを安らげる穏やかな光。
 そして、その光は次第にビッグオーを包み込んでゆく。
73精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:08:00 ID:IkOtmd1F


        ……あなた達に……世界を………




「っ……何だって!?」
「何だ、何を伝えようとしているのだ!?」

『そんなバカな……全機能、修復されていきます!
 欠損した胸部装甲まで!?』

 リュウセイとイキマの呟きは、興奮を通り越して錯乱気味に叫ぶエルマの声にかき消される。
 その状況を横目に見ながら、セレーナはラ=ギアスの魔装機についての情報を思い出していた。
 チーム・ジェルバに所属していた頃、資料を目にしたことがあったのだ。


 戦闘能力が足りず、正式な魔装機として採用されなかったノルス。
 だが、緊迫するラ=ギアスの情勢において、
 動く魔装機を遊ばせる余裕はラングラン王国にはなかった。

 そこで、修理装置と補給装置を搭載し、
 支援に特化した機体として戦線に投入されたのだ。

 しかし、本来のそれは大破したマシンを完全に修復出来るほどのものではない。
 その手の力が制限されているこの世界では尚更だ。

 おそらく、精霊の力―――ノルスの守護精霊、水の低級精霊『いずみ』―――が、
 何らかの明確な意志でもって、機体の力を限界を超えて引き出しているのだ。
 このE-1地点が湖に浮かぶ小島であることも、有利に働いているのだろう。
 そして、それが何を意味するのか理解できないほど、彼女たちも鈍感ではなかった。

「ノルス、まさか……!」
「その魂をもって、この巨人に再び命を吹き込もうというのか……!」







 やがて2機を包み込む光は静かに集束し、辺りは再び夜の闇に包まれる。
 全てが終わったあと、そこには完全に機能を停止して立ち尽くすノルス・レイと、
 まるでこれまでの激戦が嘘のように、雄々しく大地に立つメガデウスの姿があった。
 損傷していた右目や、失われたコクピット部の装甲さえも修復されている。
 生まれ変わった、とでも表現すればよいのだろうか。

『な、内部機関、それにコクピットまで、完全に修復されています……
 信じられない……こ、こんなことが現実に起こるなんて……』

 呆然としたような口調でエルマが言葉を紡ぐ。
 目の前で起こった事実を受け入れられず、
 思考にノイズでも入っているのか、所々で言葉に詰まる。

 が、リュウセイとイキマは神妙な顔つきをしたままだ。

「……どうやら、考えることは同じようだな」
「……ああ」
74精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:09:06 ID:IkOtmd1F
 念動力の素養を持つリュウセイと、妖術の心得のあるイキマ。
 彼等は己の力を通じ、ノルス・レイの意志を垣間見た。
 耳で聞く音でなく、魂に響く声として、彼等は精霊の想いを感じ取ったのだ。

 この世界に渦巻く数々の負の感情。
 悲しみが怒りを呼び、怒りが狂気を目覚めさせる。
 狂気は破壊と殺戮を呼び、新たな悲しみを生み出す。

 それをゲームと愉しむ男、ユーゼス=ゴッツォ。
 世界に渦巻く負の感情を、己が目的のために利用せんとするその野望。
 その心は、彼等の敵対する破壊神ヴォルクルスと限りなく近しいものであった。

 この先に続く熾烈な戦い、過酷な運命。
 己がそれに耐え得ぬことを知り、ビッグオーに全てを託したのだ。
 彼等に希望を残すため、ノルスはその身を捨てたのだと。


 蘇った巨人は空を見る。

 絶望と狂気の戦場において、未だ希望と誇りを忘れぬ者よ。
 戦え、偉大なる王の名の下に。

 我が力を使え。
 狂気を止めるために。
 悲しみを止めるために。


「乗るがいい、リュウセイ」
「……いいのか、イキマ?
 ノルスはお前の機体だろ?」

「構わんさ、あの機体はお前に縁の深い者が乗っていたのだろう?
 それに、あれは俺が乗るには少々狭いのでな」
『あらら、あんたも冗談くらい言えたんだ』

 茶々を入れるセレーナをイキマがジト目で睨む。
 せっかく格好を付けたのに、台無しではないか。
75精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:10:28 ID:IkOtmd1F
 そして、リュウセイは差し出されたアーバレストの手に乗り、
 セレーナはその手をビッグオーのコクピットに差し出す。


「エルマ、開けてくれ」
『ラジャ!』

 イングラム教官、俺は戦います。
 教官が戦ったこのマシンと共に。
 教官が教えてくれた誇りと共に。
 俺を信じてくれる仲間と共に。


CAST IN THE NAME OF GOD.
“我、神の名においてこれを鋳造する。”

―――YE NOT GUILTY.
“―――汝ら 罪なし。”


 だから、見守っていてください、教官………!




『ビッグ・オー……アァクショォォォォンッッッ!』


 かくて、偉大なる王は蘇る。
 精霊の導きの下に。
76精霊の導き ◆JsFbBPFCWM :2006/08/05(土) 19:11:16 ID:IkOtmd1F
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
 パイロット状態:健康
 機体状況:完全復活
 現在位置:E-1
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
 第三行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
 備考1:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない
 備考2:フェアリオン・Sは廃棄されました】


【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
 パイロット状況:戦闘でのダメージあり、応急手当済み
 機体状況:守護精霊消失、再起不能
 現在位置:E-1
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 備考1:空間操作装置の存在を認識
 備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】


【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:健康
 機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
 現在位置:E-1
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
 第三行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
 最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
 備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
 備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない
 備考3:エルマ、やや混乱】



【2日目 19:45】
77それも名無しだ:2006/08/07(月) 15:42:02 ID:/0IzTm+0
保守
78それも名無しだ:2006/08/09(水) 12:42:30 ID:yiNC52Nc
保守
79それも名無しだ:2006/08/11(金) 10:03:47 ID:O1iH2mJS
保守
80それも名無しだ:2006/08/14(月) 00:58:46 ID:veiW93wB
保守
81憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:18:41 ID:tabW9lK5
ガイキングの交戦から、既に30分以上が経過していた。
奴の逃げた湖を眺めながら、僕は独り、悔しさをかみ締める。
逃げられた。
剣鉄也に。リオの仇に。
あと一歩の所まで追い詰めながら……
僕は、あいつが逃げる姿をなす術もなく見ていることしかできなかった。
憎しみだけが募る――
こんな所でぼんやりしている場合じゃない。本当ならすぐにでも追いかけたいところだ。
でもジャイアント・ロボでは水中に逃げたガイキングを追うことはできない。
ロボの内部にコクピットが、パイロット搭乗のためのスペースがないから。
緊急避難用のスペースは一応あるけど、外が見えないのではどうにもならない。
もう一つ言えば、このロボにはレーダーがない。索敵には、肉眼に頼るしかない。
全く、不便なロボットもあったもんだ。
もっとも、元々レーダーなんてこのゲームじゃあってないような程度の効果しか期待できないのだけど。
それでも、肉眼だけで探すよりはまだ遥かにマシではある。
もう既に周囲は暗く、そんな中を自分の目だけであてもなく闇雲に探し回るなど、危険なだけだろう。

「ジョシュア!気がついたか!」
何やら、後ろのほうからやり取りが聞こえてきた。
さっき助けたガンダムのパイロット……ジョシュアとか言ったっけ。彼が目を覚ましたらしい。
あの後、僕はあの特機……ブライガーとかいうロボットに乗る二人に協力して、彼の救出を手伝った。
別に同情とかしたわけじゃない。ただの気まぐれに過ぎない。
あの時は、何か動いてないと、大きくなっていく憎しみに完全に呑まれそうだったから。
……あのまま心が憎悪に埋め尽くされていたら、もしかすると彼らも見境なく殺そうとしたかもしれない。
「トウマ、クォヴレー?ここは……ぐっ!」
「大丈夫か……まだ動かないほうがいい」
「すまない……」
そんな彼らを他所に、僕は再び湖へと目を移す。
82憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:19:36 ID:tabW9lK5
あの戦いの前まで敏感に感じ取っていた、あの男の圧倒的な気配と殺意。
もちろん、それは今でも感じる。忘れたくても忘れられるものじゃない。
でも、あの時までははっきりわかっていたあいつの居場所は、わからなくなっていた。
その代わりに感じるのは……あいつが持つ計り知れない危険性。

あの時、あれだけのダメージを負っていたガイキングが、瞬く間に再生していく所を見た。
その光景を見ながら、あいつの背後にある影を、僕は感じた。
ラミア=ラヴレスの後ろに感じたユーゼスの影とはまた違う。
巨大で、禍々しい感じだった。あれは一体なんだったのか……
確かなことは、今のあいつと、あいつの持つ得体の知れない力……
そしてあいつの背後の影が、とてつもない脅威であること。
一刻も早く追いかけ、倒さなくては、とんでもないことになる。
そんな予感がする。
……今の僕には追いかけようがないのだけど。

もっと……もっと力が要る。
不便さがあるとはいえ、ジャイアント・ロボは強力だ。
あのガイキングとも互角に戦える力はある。
でも、それだけじゃ足りない。
得体の知れない、巨大な力を身につけた剣鉄也。
そして……このふざけたゲームを開催した、ユーゼス=ゴッツォ。
こいつらを殺すためには、もっと力が必要だ。
力が。敵を殺すための、力が。
83憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:21:08 ID:tabW9lK5
「……さっきは助かったよ。ありがとう」
「――――!」
その声に、ふと我に返る。
気付けば、目の前には……ブライガーのパイロットの片方、トウマとかいう男が立っていた。
「……別に」
僕は無愛想に呟いた。
別に助けたつもりはない。たまたま状況がそうなったに過ぎない。
この連中が死のうがどうなろうが、僕には関係ないことだ。
「リョウト=ヒカワ……だったな。……単刀直入に聞く。お前は、ゲームに乗っているのか?」
もう一人、クォヴレーと呼ばれていた銀髪の少年が問いかけてきた。
こっちのトウマと違って、こいつはまだ僕に対する警戒を解いていない。
ゲームに乗っているかだって?……冗談じゃない。
「僕をあの男……剣鉄也と一緒にするな」
自分の表情が一瞬だけ、醜く憎悪に歪んだのがわかった。
剣鉄也。あいつの名前を口にしたと同時に。
「!……そうか、すまなかった」
どうやらゲームに乗っていないことは理解したらしい。
同時に、僕のあいつに対する憎悪にも気付いたようだけど。

「そろそろ戻ろうぜ。リュウセイ達も心配してるだろうしな」
トウマの口から、聞いた名前が出てくる。
リュウセイ?ああ……リュウセイ=ダテか。そういえばいたっけ。
かつての仲間が無事であることを知りながら、何の感慨も沸かない。
今の僕にとっては、彼などもうどうでもいい存在だから。
「なぁリョウト、よかったら俺達と一緒に来ないか?」
突然、トウマが馴れ馴れしく誘いかけてきた。
この悪意渦巻く殺し合いの中で、しかも初めて会った人間に対して、よくそんな甘い言葉を言えたもんだ。
いや……以前の僕も似たようなものだったかもしれない。
「このゲームを潰すための目処がつきそうなんだ!あんたも、協力してくれたら心強い」
「……そうだな。今は少しでも戦力が欲しいところだ」
トウマに続き、クォヴレーまでが誘ってくる。
随分と節操のない。まるで……あの部隊だ。
「少なくともゲームには乗っていないんだろ?だったら、最終的に目指す所は同じじゃないのか?」
「……」
「あの男……剣鉄也と言ったな。
 そして奴の前に現れ、再生させた謎のガンダム……
 今の奴には何かが……俺達の想像を超えた、何か別の力が働いている……
 ……あんた一人で立ち向かうのは危険だ」
「……だから、あなた達の仲間になれ、と?」
確かに、今は少しでも力が欲しい。
ゲームを潰す目処とやらがどこまで信用できるかは怪しいけど。
でもあいつを殺すためにこの連中を利用できるのなら、この選択もあり、か。
いざという時は、弾除けや囮といった捨て駒としてでも使えばいい。
「……わかった」
僕は彼らの申し出を受ける。その返事には、やはり何の感情もこもらなかった。
84憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:24:48 ID:tabW9lK5
「よし、そうと決まれば行こうぜ!」
トウマの明るい声が響く。
……どこか、懐かしい空気だ。
まるで……ハガネやヒリュウ改にいた頃の暖かさが、そこにあるような気がする。
軍隊とは思えない、馬鹿げたくらい人情に溢れた部隊。
そこに理由なんてない。「そういう部隊だから」としか言いようがない。
でもそんな部隊だからこそ、今こうして僕が存在している。
居心地がよかった。僕が僕でいられる場所だったかもしれない。
そう、僕もちょっと前までは彼らと同じだったんだ。

だけど、なぜだろう。
そんな暖かさが―――


無性に、苛つく。


「ジョシュアも無事だったし、リョウトに、それとさっきのセレーナって人も加えれば……
 へへ、希望が見えてきたって感じだな!」
「楽観的過ぎるぞ。だが……少しはやれるようになってきたのは確かか」

笑うな。
お前達が、笑うな。
リオはもう笑うことも、話すことも出来ないんだ。
本当なら、そうやって笑っていられるのは彼女だったはずだ。
彼女でなきゃいけないんだ。
笑うな―――

……憎しみの連鎖、という奴だろうか。
関係ないはずの彼らに対しても、言いようのない憎悪が湧き上がってくる。
やめよう。少なくとも今は、彼らを憎んだり敵対したりする必要はないのだから。

「リョウト、この湖の先の小島に、俺達の仲間が……」
「……ごめん、その前にちょっとやることがあるんだ。ちょっと待ってて」
彼らの言葉を遮って、僕は言った。
「?ああ、構わないが……」
「すぐ戻るから」
そう言って、僕はジャイアント・ロボの右足へと向かう。
「あいつは……」
「どうした、クォヴレー?」
「いや、何でもない。それより、ジョシュアはまだマシンの操縦は無理だ。
 俺達で運んでいかなければ……」

85憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:26:44 ID:tabW9lK5

ロボの右足部分には、緊急避難用のスペースが設けられている。
その中で毛布に包まって、女の子が眠っている。
僕の一番大切な人が。

「ただいま、リオ」

返事はない。わかっている。

顔はグチャグチャに潰れ、そこには彼女の面影も感じられない。
頭の血も、既に固まってどす黒く変色してきている。
可哀想に。
辛いだろう。
でも、もう少し待ってて。
君を誰にも邪魔されない、安全な場所に連れて行く。
そう……僕達のいた世界に戻って、そこでゆっくり眠らせてあげるから。

リオの唇に自分の唇を重ねる。
冷たいな。以前の君からは信じられないくらいに。

君の温もりは……いや君の場合、熱さというべきかもしれないな。
熱い君の心は、魂は、どこに行ってしまったんだろう。
答えはわかっている。あの男が奪っていった。
剣鉄也。あいつだけは、絶対に許さない。
僕の全てを賭けて、あいつをこの手で殺してやる。
ただ殺すだけじゃない。地獄以上の苦しみを味合わせた上で、徹底的に嬲り殺さなきゃ。
そして、それが終われば次はユーゼスを……

大丈夫、心配いらないよリオ。僕はこの憎しみを闇雲に振り回したりしない。
憎悪の赴くまま殺戮を繰り返しちゃ、あの男と何も変わらないから。

この憎しみは……「正義」のために使う。
君がいつも口にしていた、君の信じていた「正義」のもとに。
そのためにも、剣鉄也は殺す。君の悲劇を繰り返させないためにも。「正義」のために。
そして君の「正義」を邪魔する者、否定する者には……容赦はしない。

じゃ、そろそろ行かなきゃ。
お休み、僕のリオ―――
86憎しみは正義のために ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:29:53 ID:tabW9lK5
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
 パイロット状態:感情欠落。リオ・鉄也に対する異常すぎる執着。
         念動力の鋭敏化(現在、やや落ち着き)。クォヴレー、トウマ、ジョシュアに対し苛つき。
 機体状況:弾薬を半分ほど消費
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:剣鉄也を殺す(手段は一切問わない。障害は何であろうと躊躇なく排除)
 第二行動方針:クォヴレー達を利用すべく、共に行動(仲間意識は皆無)
 第三行動方針:ユーゼスを殺す
 最終行動方針:リオを守る。「正義」のために行動
 備考1:ラミアの正体・思惑に気付いている
 備考2:ロボの右足の避難スペースに、リオの遺体が収納されている】

【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好。リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:仲間と共にE−1小島に帰還
 第二行動指針:リョウトと接触する
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第四行動方針:ラミアともう一度接触する
 第五行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
 備考2:ブライカノン使用不可
 備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと19〜20時間前後】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:ジョシュアの生存確認
 第二行動指針:リョウトと接触する
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
 備考2:空間操作装置の存在を認識
 備考3:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる】

【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 パイロット状態:電撃による重傷。数時間はロボットの操縦は不可能。やや意識朦朧。
 機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類損傷、レーダー・通信機など使用不能。
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
 備考:バトルロワイアルの目的の一つ(負の感情収集)に勘付いた?】

【二日目 20:30】
87 ◆Y8xBZL/m/U :2006/08/14(月) 20:42:16 ID:tabW9lK5
>>86
クォヴレーとトウマの状態を訂正

【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好。リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:仲間と共にE−1小島に帰還
 第二行動指針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:ラミアともう一度接触する
 第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
 備考2:ブライカノン使用不可
 備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと18〜19時間前後】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
 機体状況:良好
 現在位置:F-1北部
 第一行動方針:仲間と共にE−1小島に帰還後
 第二行動指針:仲間に空間操作装置の情報を説明する
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
 備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
 備考2:空間操作装置の存在を認識
 備考3:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる】
88兇 ―Devil Gundam―:2006/08/15(火) 20:28:58 ID:P+R0J0oq
「むぅっ……!?」
 そして身構える東方不敗の前で、青年の姿は変貌を遂げた。
 それは、さながら白き竜。
 零影と比べて一回りほど大きな体躯を誇る、それは紛う事無き人ならざる異形。
 ほんのつい先刻まで保っていた人間の姿を捨て去って、青年は異形の肉体に変わり果てた。
 ベターマン・ネブラ。霧の化身に姿を変えて、ベターマンは翼を広げる。
 アルジャーノン――東方不敗に対する激しい闘志を明らかにして。
「なんと……只者ではあるまいと思っておったが、よもや人ですらなかったとは……!」
 天高く飛び上がったベターマンを見上げ、東方不敗は緊迫の面持ちで呟きを洩らす。
 ガンダムファイターとして、キング・オブ・ハートとして、数多の戦場を駆け抜けてきた東方不敗である。
 並大抵の出来事では、驚く事などないはずだった。
 だが、その東方不敗をもってしても、目の前で起きた今の現象は驚愕に値するものであった。
 まさか、このような化け物と戦う事になろうとは――

「面白い……!」
 かつて経験した事の無い、人ならざる者との戦い。それに血潮を滾らせて、東方不敗は拳を固める。
 この化け物に流派東方不敗がどこまで通用するか――それを思うと、楽しみでならん!
 それはアルジャーノンによる殺人の衝動ではなく、武術家としての純粋な闘志。
 強者との戦いに心震わせ、東方不敗は闘気を練った。

「くらえいっ! 超級! 覇王……日輪弾ッッッッ!!」
 零影の突き出した掌より、気の奔流が撃ち放たれる。
 それは、さながら日輪の輝き。莫大な破壊力が込められた気の塊が、激しい輝きを放ちながらベターマンに襲い掛かる。
 さしものベターマンとて、この一撃を食らってしまえば一溜まりもない。
 戦闘不能とまではいかなくとも、深手を負ってしまう事は目に見えていた。
 無論、東方不敗とて、この一撃で勝敗を決せられるとは思っていない。
 なにせ、相手の実力には見当すら付いていないのだ。撃ち放った奥義の一撃が様子見であったとしても、なんら不思議ではないだろう。
<…………!>
 撃ち放たれた闘気の奔流を、ベターマン・ネブラは回避する。元より様子見目的の一撃、避ける事は難しくない。
 そして回避を行いながら反撃に出る事も、無論難しい事ではなかった。

「む…………?」
 東方不敗が目を向ける中で、その異変は始まった。
 ――濃霧。
 辺り一帯を覆い尽くさんばかりの濃い霧が、前触れも無しに立ち込め出す。
 それは山の天気が変わりやすいとはいえ、あまりにも異常な霧の立ち込め方であった。
 長く世界の各地で修行を続けて来た東方不敗ではあったが、これほどまでに急激な霧の掛かり方は見た事が無い。
 だからこそ、この霧が如何なる理由で立ち込めたのか、東方不敗はその理由に見当が付いた。
 そう、ベターマンである。超音波の振動により、大気中に霧を発生させる。ベターマン・ネブラが得意とする音波攻撃の一つであった。
「なるほど、まずは視界を潰す気か……」
 一寸先すら見渡す事の出来ない濃霧に、センサー類が機能しない現在の状況。なるほど、確かに悪くない手だ。
 だが、甘い。
 たとえ視界を奪おうと――気配を断たねば、意味は無い!

「そこかぁっ!!」
 視界を遮る濃霧の向こう側から、叫び声と共に何かが投げ込まれる。
 それは零影が持つ武装の一つ、鎖分銅。恐らくは鎖で翼を絡め取り、機動力を奪うつもりなのだろう。
 この攻撃、甘んじて受ける訳にはいかない。
 ――サイコ・ヴォイス。鎖分銅の固有振動数に波長を合わせ、ベターマン・ネブラは高周波を放つ。
 投げ放たれた鎖分銅は、一瞬の内に塵と化した。
89兇 ―Devil Gundam―:2006/08/15(火) 20:30:17 ID:P+R0J0oq
<強い……やはり、ネブラでは……>
 東方不敗の実力は、ベターマン・ラミアの予想通り……いや、それ以上だった。
 フォルテの力を使わなければ、自分に勝ち目は無いだろう。
 だが、それを理解していながら――ベターマン・ラミアはフォルテの使用を躊躇っていた。
 フォルテの実が残り少ないから、オルトスの実を精製しなければならないから。それも、確かにあるだろう。
 だが、それだけではなかった。

「やはりと言うか、やりおるわ。だが……」
 ベターマン・ネブラの攻撃を凌ぎながら、東方不敗は強敵との戦いに心を躍らせていた。
 今の所、戦況は自分の優位に傾いている。武装の幾つかは失われたが、機体に目立った損傷は無い。
 そして東方不敗が放った攻撃は、これまでに幾つかの確かな手応えをネブラの身体に与えていた。
 しかし、である。その武術家としての研ぎ澄まされた戦闘センスが、東方不敗に教えていた。
 この怪物は――二重の意味で、己が全力を出してはいない。

<何故だ……、何故、殺そうとしない……!?>
 ベターマン・ラミアが、フォルテの使用を躊躇っている理由。
 それは、東方不敗の攻撃に“殺意”が全く存在しないからであった。
 アルジャーノンの気配は、今なお確かに感じている。
 しかし、アルジャーノンの感染者に見られる殺戮衝動は、全くと言って良いほどに感じ取れてはいなかった。
 だからこそ、ベターマン・ラミアは戸惑う。
 この男を殺すべきか、それとも殺す必要など無いのか――


90兇 ―Devil Gundam―:2006/08/15(火) 20:31:13 ID:P+R0J0oq
「超級! 覇王! 電撃弾ッッッッッ!」
 ……忍者と白竜の戦いは続く。
 それは傍目から見てみれば、凄まじい戦いに見えた事だろう。
 だが、違うのだ。
 東方不敗にせよ、ベターマン・ラミアにせよ、全力を出してなどいない。
 流派東方不敗最終奥義、石破天驚拳――
 フォルテの実――
 お互いが隠し持っている切り札を、未だに使おうとはしていない。
 それは、何故か?

<抑え込んでいると言うのか……アルジャーノンを……>
 ……やがて戦いの中、ベターマン・ラミアは理解する。
 武術家は拳を交わす事によって、お互いの事を知り合う事が出来ると言う。
 ベターマン・ラミア。
 彼は武術家ではなかったが、それでも戦いの中、東方不敗の意思を感じ取っていた。
 だからこそ、フォルテの実を使わない。
 そう。この死力を尽くしたように見える戦いは、いまや拳で語り合う為のものとなっていた。
 もはや、お互いに殺意は無い。



 ……そうして、どれだけの時間が流れたのだろうか。
 やがて二人は距離を取り、そして全身の力と緊張を解く。

 だが――その時、その瞬間だった。


91兇 ―Devil Gundam―:2006/08/15(火) 20:31:54 ID:P+R0J0oq
 ――ぞわ、り。

「「ッッッッッッッッ……………………!?」」
 それは遙か彼方より伝わってくる、ベターマンと東方不敗を思わず震え上がらせてしまうほどの圧倒的な重圧感。
 それを、彼は知っていた。かつて悪魔と手を結んだ事のある、その老人は知っていた。
「この気配……まさか、奴が甦ったとでも言うのか!?」

 かくして、戦いは新たな局面を迎える。
 キング・オブ・ハートにベターマン。
 人類を守護する使命を持った二人の前に立ちはだかるのは、人の手によって作り出された最兇の悪魔――

 ――デビル・ガンダム。
92兇 ―Devil Gundam―:2006/08/15(火) 20:32:40 ID:P+R0J0oq
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:ベターマン・ネブラ(ベターマン)
 パイロット状況:良好
 機体状況:体表に多少の掠り傷
 現在位置:D-6(岩山)
 第一行動方針:デビルガンダムに対応する
 第二行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
 第三行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
 第四行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
 最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
 備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り1個】

【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
 パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で押さえ込んでいる)
 機体状況:機体表面に多少の傷(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
      鎖分銅消滅、弾薬消耗
 現在位置:D-6(岩山)
 第一行動方針:デビルガンダムを滅ぼす
 第二行動方針:ゲームに乗った者を倒す
 最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】

【二日目 19:10】
93兇 ―Devil Gundam―:2006/08/16(水) 12:33:24 ID:RJ5JlEpU
>>92を修正します。

【ベターマン・ラミア 搭乗機体:ベターマン・ネブラ(ベターマン)
 パイロット状況:良好
 機体状況:体表に多少の掠り傷
 現在位置:D-6(岩山)
 第一行動方針:謎の気配(デビルガンダム)を調査する
 第二行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
 第三行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
 第四行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
 最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
 備考1:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り1個
 備考2:リミピッドチャンネルによってデビルガンダムの存在を感知した
 備考3:東方不敗に関しては現在敵対する意思は無いが、アルジャーノンが発症すれば全力で倒すつもりでいる】

【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
 パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で抑え込んでいる)
 機体状況:機体表面に多少の傷(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
      鎖分銅消滅、弾薬消耗
 現在位置:D-6(岩山)
 第一行動方針:デビルガンダム復活の事実を確認する
 第二行動方針:ゲームに乗った者を倒す
 最終行動方針:必ずユーゼスを倒す
 備考:過去の因縁と、武術家としての直感によって、デビルガンダムの存在を感知した】

【二日目 19:10】
94それも名無しだ:2006/08/19(土) 12:44:37 ID:0Ict4lPM
保守
95それも名無しだ:2006/08/22(火) 06:46:52 ID:gJNbPJbY
同上
96それも名無しだ:2006/08/25(金) 10:51:45 ID:Apm4ouK7
保守
97それも名無しだ:2006/08/25(金) 13:26:31 ID:ZvT5y4Ch
保守
98それも名無しだ:2006/08/29(火) 22:48:25 ID:L8CoP0h5
保守
99それも名無しだ:2006/09/01(金) 22:11:13 ID:GfsAY8rS
同上
100それも名無しだ:2006/09/01(金) 23:37:19 ID:BGepnNSB
100なら書き手に
『信頼』『激励』『補給』『期待』『再動』『挑発』
101それも名無しだ:2006/09/02(土) 14:44:13 ID:EpGVWBii
じゃあ俺は>>101なら書き手に『自爆』
102 ◆JPDzXFk1Fk :2006/09/03(日) 14:11:49 ID:bGH85hE5
あたしは特別なはずだった。
ドイツの大学を出、エヴァンゲリオン弐号機のパイロットになり、特別な人間として生きてきたはずだった。
それが何故・・・?

「あ゛あ゛あ゛あああああああ!!!」
システムLIOHによって精神と肉体を支配されたシンジ。
それの動きはもはや人間のものではなかった。
ダイモスの拳を、蹴りを、ファイブシューターの雨をくぐり抜け、それによって生まれる刹那の隙に叩き込まれる神速の蹴り。
その蹴りはダイモスの装甲を抉り、アスカのプライドを切り取っていく。
「なんで・・・、なんであたしがあんたなんかに・・・!あんたなんかに負けてるのよぉぉぉぉおおぉお!!!」
「アスカが、アスカが悪いんだ・・・。アスカが僕に守られてくれないから・・・」
その言葉は誰に向けられている訳でもなかった。
互いに崩壊した自我。
会話もままならず、ただ両者の殺害のみを望み、行動していく。
ダイモスは既に三竜棍、双竜剣、ダイモシャフトの全てを失い、四肢による攻撃しか残ってはいない。
それでもダイモスの拳は、蹴りは十分な威力がある。
大きく損傷こそしているが、両腕のもげた大雷凰に比べればマシではあった。
そしてアスカ自身が持つ天性の格闘センス。
シンジが乗る大雷凰などに負けるはずがない。
だが、負けている。
おされている。
当たらないのだ、攻撃が。
当たれば装甲をぶち抜く拳が、当たれば頭を吹き飛ばす蹴りが。
避けられる、全て。
ガードされる訳でもない、大雷凰は脚部のバーニア巧みに使用し、アクロバティックに、それこそ舞うようにかわしていく。
動きが読まれている?
そんなはずはない。
このあたしの攻撃が、バカシンジ如きに。
自分が劣っているはずがないのだ。
そんなアスカの想いをよそに、大雷凰は脚部のバーニアを吹かしながら、ダイモスの左腕を蹴り落とす。
否、斬りおとした。
速過ぎる蹴りは既に打撃ではなく、斬撃と化していた。
攻撃本能が暴走し狂気の笑みを浮かべるシンジ。
「ハ、ハハ・・・!!」
「ちくしょぉぉぉぉおおぉおぉぉおお!!!」
自分がシンジに劣るはずがないのに。
「あんたなんかにぃいいいぃいいぃいぃぃぃ!!!」
大雷凰の首を狙い、手刀を放つ。
しかしそれもまた虚しく空をきる。
「あたしは特別なの!!特別なんだから!!!あんたなんかに負けてらんないのよぉぉぉ!!」
アスカの顔が憎悪と、怒りで歪んでいく。
「そうよ!特別なのはあたしなのに!!ミサトも!ファーストも!司令だって!いっつも特別扱いなのはあんた!!」
自分の心を、不満を、怒りを叫ぶ。
「あたしが倒せなかった使徒だって・・・!あんたは倒していった!!あたしは負けられなかったのに・・・!!」
「・・・・・・・・・」
「みんなしてあたしを馬鹿にして!あんたがいなければこんなことにはならなかったのに!!」
沈黙するシンジ。
その沈黙がアスカをさらに苛立たせていく。
「あんたさえいなければ・・・、あんたさえいなければあたしはまた特別になれる!!」
そう・・・。
あんたさえいなければ・・・。
「だから殺すのよ!あんただけは!あたしがこの手で!!」
自身のプライドを守るための殺意。
アスカの殺意はそれだった。
「殺してやる!あんたなんか!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!」
湧き上がってくる殺意が暴走し、狂気が加速していく。
103キョウキ、コロシアイ、そしてシ ◆JPDzXFk1Fk :2006/09/03(日) 14:14:49 ID:bGH85hE5
「・・・・・・・・・」
大雷凰が加速し、ダイモスとの距離を急激に詰め、肉薄する。
左腕を失い、ガードの薄くなったダイモスの左側へ蹴りを撃ち込む。
その蹴りはダイモスの装甲を深く抉った。
しかしダイモスは前に、大雷凰へ突進する。
「あんたを殺せるなら、この機体なんかどうだっていいのよ!!」
予想しない行動に大雷凰の動きが一瞬鈍る。
動きの鈍った大雷凰に体当たりし、むりやり地面へ叩きつける。
大雷凰にのしかかり、マウントの体勢になるダイモス。
「死になさいよぉおおぉおぉおぉおぉおお!!」
殺意を乗せた拳を大雷凰の胸部へ打つ。
激しい打撃音、いや金属音が木霊する。
一発一発打たれるごとに大雷凰の装甲が凹んでいく。
「・・・!死にたくない!死にたくない!!」
「今更何言ったって無駄なんだから!!あんたはこのまま死ぬのよ!!」
死ね死ね死ね死ね死ね死ねシネシネシネシネシネシネシネシネシネ・・・・・。
異常な殺意を打ち込むダイモス。
大雷凰のコクピットが揺れ、ひしゃげ、小規模な爆発が起きる。
シンジはシステムLIOHの発動による影響からか、頭部と鼻と目から出血し、顔中が血にまみれている。
目の前が赤く染まり、血の匂いが鼻につく。
それはシンジに死の近づきを知らせた。
沈黙をやぶり、口を開く。
「ひっ・・・!死、死ぬ、死ぬ!じにたくない!!!うあ゛ぁあ゛ぁあぁあああぁああぁああ!!!」
誰にでもある死への恐怖。
その恐怖にシステムLIOHが呼応した。
露出した大雷凰の胸部にある、玉状の物体がまがまがしく輝き、頭部の眼帯のようなものが展開する。
「!!!!!何!?」
大雷凰が背部のスラスターと脚部からすさまじい光を放つ。
マウント状態だったダイモスを強引に引き剥がし、バランスを崩したダイモスは転倒する。
「何よ!!一体なんなの!!?」
さっきまで優勢を保っていた自分。
それが転倒している。
何が起きた・・・?一体なにが・・・?
困惑しながら大雷凰に目を向ける。
「・・・なんなのよそれはぁっ!!」
大雷凰の背部と脚部から放たれている光。
その光は大雷凰を飲み込み、翼のようなものを描く。
その姿はまるで・・・。
「ハッ!!?調子にのるんじゃないわよぉおぉ!!」
「じにだぐない・・・」
ただ一言。
そういうと大雷凰はダイモスへ、突っ込んでいく。
鳥のように。
疾くただ真っ直ぐ。
「こんなものでぇぇええぇえぇえぇえ!!」
超速で突っ込んでくる、大雷凰へ残った拳を放つ。
ありったけの殺意と、怒りと、憎悪をのせて。
「えっ・・・?」
放たれた拳が大雷凰の光に消えていく。
ダイモスのコクピットが光に飲まれる。
目の前が、ただ真っ白に染められていく。
104キョウキ、コロシアイ、そしてシ ◆JPDzXFk1Fk :2006/09/03(日) 14:16:37 ID:bGH85hE5
あらゆる光景がアスカの前に浮かんでは、消え、浮かんでは、消え・・・。
突然自分へ何者かから手が伸ばされる。
女性の手・・・?

特別でありたいと願い続けた自分。
褒めてもらいたいと、愛されたいと願った。
自分を認めてもらいたかった。
幼き頃に自殺した母。
周りの誰よりも母親という存在を渇望した。
会いたかった、褒められたかった、愛されたかった。

光から伸ばされた手はアスカを優しく包み、抱きしめた。
ママ・・・
そう、呟く。

大雷凰の放った「神雷」
ダイモスの上半身を跡形もなく吹き飛ばした。
しかし・・・
「は・・・は・・・あ゛あ゛あ゛・・・」
限界を超え、もはやシンジに生を続けることは出来なかった。
体中に激痛が走る。
涙と、鼻水と、血がまじり、ぐちゃぐちゃになった顔。
それはシステムLIOHの力の副作用だった。
シンジの体が崩れ落ちる。
(痛い・・・痛い・・痛い・・死に・・たく・ない・・・誰・・か・・・・・・・・・・・)
思考が止まる。
血にまみれ、虚ろに開かれた目。
その体が動くことはもうない。
105キョウキ、コロシアイ、そしてシ ◆JPDzXFk1Fk :2006/09/03(日) 14:17:28 ID:bGH85hE5
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス) 
 パイロット状態:死亡
 機体状況:上半身消失、右足損傷。戦闘は不可。
 現在位置:G-6基地(外)】

【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:両腕消失。胸部が大きく凹んでいる。
      背面装甲に亀裂あり。 戦闘は何とか可能(?)
 現在位置:G-6基地(外)
 備考1:死亡しているが奇妙な実(アニムスの実?)を所持】


【二日目 20:10】
106戦友の帰還を待ちながら:2006/09/03(日) 17:03:25 ID:0nmeWyqQ
 ――そういえば、と思い出す。
 このゲームが開始された直後、自分に襲い掛かって来た機体を仕留めた場所。あれは、この近くではなかったか。

「エルマ、機体の修理だけど、どんな具合だ?」
『あまり、順調とは言えません。フェアリオンとノルスは元々、壊れ掛けの状態でした。
 ですから、使える部品が少なく……』
「そうか……」
『せめてもう一機、パーツ回収に使える機体があれば……』
「エルマ」
 リュウセイやイキマの手伝いを受けながら、メガデウスの修理に取り掛かるエルマ。
 周囲に対する警戒は解かず、セレーナは自らの相棒に話し掛ける。
『はい、なんでしょうか、セレーナさん?』
「パーツ回収に使える機体の心当たりなら、無くもないわ」
『えぇっ! ほ、本当ですか!?』
「ほら、憶えてない? このゲームで最初に戦った、怪しい喋り方の外人さん。
 あの機体が襲い掛かって来たのって、このすぐ近くだったはずでしょ?」
『あ……!』
 そうだった。今まですっかり忘れていたが、あの機体と交戦した場所は、今居る場所から非常に近い。
 機体を使えば十数分で辿り着けるだろう距離だ。
「それくらいの距離を移動するくらいだったら、あの二人が無事戻って来たとしても、私達を見失う事は無いはずだわ」
「メガデウスの巨体が目印になって、俺達の居場所を教えてくれるって寸法か」
「そういう事ね」
 セレーナがウォーカー・ギャリアを撃破した際、彼女は操縦席を直接潰す方法で勝利を得た。
 ならば、機体の間接部や駆動系等に殆ど損傷は無いはずである。機体を回収しに行く価値は、十分にあると言えるだろう。
『メガデウスの状態はお世辞にも万全とは言えませんが、歩く程度なら全く問題はありません。
 もちろん、あの機体を倒した場所に行く事も可能です』
「……決まり、だな」
 エルマの報告に頷きながら、イキマはノルス・レイの残骸を見上げる。
 セレーナにはアーバレストが、そしてリュウセイには復活したメガデウスがある。
 しかし、イキマのノルスは機能停止状態だ。戦うどころか、乗って移動する事も出来ない。
「アーバレストの手なら空いてるわよ?」
 そんなイキマの状況を見越して、セレーナは苦笑しながら言った。


107戦友の帰還を待ちながら:2006/09/03(日) 17:04:39 ID:0nmeWyqQ
 ――そして、十数分後。
 アルのナビゲートに従って辿り着いた場所には、コクピットを破壊された緑の機体が転がっていた。

『あった! ありましたよ、セレーナさん!』
「はいはい、見れば分かるわよ」
 コクピット部分を除いて殆ど無傷に近い機体。それを見付けてはしゃぐエルマに、セレーナは素っ気無い声で返す。
「よしっ……これで、メガデウスの修理も……!」
『ええ、なんとか形にする事が出来そうです!』
 ギャリアの状態を確認しながら、弾んだ声で言うエルマ。
 だが――
 ふと、リュウセイは気が付いた。
「なあ……エルマ。この機体、操縦席が二つ無いか?」
 ウォーカー・ギャリアは、ホバー戦闘機である“ギャリィホバー”が上半身に、
 三輪マシン“ギャリィウィル”が下半身となって完成する、合体機構を持ったメカである。
 セレーナが破壊したコクピットは、メインの操縦席である上半身側の片方だけ。
 残った下半身の操縦席は、無傷の状態で残されていたのだ。

「……つまりメインの操縦席を破壊した以上、合体状態の機体を動かす事は難しいが、
 下半身側の機体を分離させた上で運用する事は可能、と言う事か?」
『はい、そうなります』
 イキマからの問い掛けに、エルマは肯定の答えを返す。
『パーツの回収ですが、上半身の部分からだけでも何とか間に合わせる事は出来そうです。
 もちろん、下半身側の部品もあった方が、ずっと状況は良くなるんでしょうが……』
「それよりだったら、現在機体が無い人を乗せた方が良いでしょうね」
「ああ、そうだな」
 リュウセイ、セレーナ、そしてエルマ。
 三者の視線が、イキマに向いた。
108戦友の帰還を待ちながら:2006/09/03(日) 17:05:42 ID:0nmeWyqQ
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
 パイロット状態:健康
 機体状態:再起動、装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
      額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
      頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
      砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
      コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
      サドン・インパクトは一発限り(腕が吹っ飛ぶ)
 現在位置:E-2
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
 第三行動方針:仲間を探す
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)

 備考1:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない
 備考2:フェアリオン・S、ノルス・レイの部品を使って修復中
 備考3:主に作業をするのはエルマ
 備考4:サドン・インパクトに名前を付けたがっている】


【イキマ 搭乗機体:ギャリィウィル(戦闘メカ ザブングル)
 パイロット状況:戦闘でのダメージあり、応急手当済み
 機体状況:良好
 現在位置:E-2
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する

 備考1:空間操作装置の存在を認識
 備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】


【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:健康
 機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
 現在位置:E-2
 第一行動方針:クォヴレーとトウマの帰りを待つ
 第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
 第三行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
 最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す

 備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
 備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない
 備考3:エルマは現在ビッグオーの修理中】


【2日目 20:45】
109それも名無しだ:2006/09/09(土) 01:08:01 ID:96nDt6xR
保守
110それも名無しだ:2006/09/12(火) 12:26:20 ID:P/2YFFQf
保守
111希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:06:50 ID:xKla5UIq
現在、二日目の午後9時。第3回の放送から既に3時間が経過した。
薄暗かった空は、夜の闇が完全に覆い尽くしていた。
まるでこの殺し合いで生まれた、人の心に蠢く闇のように。
そんな中、湖に囲まれた小島に小さな灯が灯る。
この狂った世界に抗う戦士達が集う、光。
それは希望の光となりえるか、はたまた更なる闇への道標か。

……この僅か3時間の間に、ゲームの状況は劇的なまでに大きく変化していた。
それは、この小島においても例外ではなかった。
剣鉄也の急襲により周囲のビル街は破壊し尽くされ、一帯が焼け野原へと変化……
その中央では、力尽きていたはずの巨人が、精霊の力によって息を吹き返していた。
そして巨人を囲むように、戦士達の新たな力が集っていた。

ジョシュアの救出に成功したクォヴレー達は、その後リュウセイ達のもとに無事帰還。
生還は絶望的かとすら思われていたジョシュアを中心に、仲間達が集まる。
クォヴレー。トウマ。イキマ。リュウセイ。そして、そこにはセレーナとエルマの姿もあった。
「無事でよかったぜ、ジョシュア!」
「ああ、心配をかけた……」
「フン、馬鹿を言うな。貴様がその程度でくたばるとは思ってはおらんわ」
「素直じゃないわねぇ。今さら悪人キャラやっても、多分もう説得力ないわよ?」
「ハハ……違いない」
それぞれが、ジョシュアの無事と再会を喜び合う。
それはこの殺伐とした世界の中での、束の間の安らぎ。
「エルマ……だったな。ジョシュアの傷の具合はどうだ?」
ジョシュアの具合を診るエルマに、クォヴレーが尋ねた。
「神経系の麻痺がまだ後を引いてますね……
 ロボットを動かすだけなら、かろうじて可能ですが……」
「激しい動き……戦闘行為は無理、ということか」
「それに、後遺症が何かしら残る、という可能性もあります」
「……そうか」
エルマの診断、それはこの状況においてはある意味戦力外通告に等しい。
「すまない、この大事な時に……」
「そう言うなよ。あの襲撃でこの程度の怪我で済んだだけでもよかったぜ」
事実、手加減を加えられていたとはいえ、あれだけの激しい電撃を受けこの程度で済んだのは奇跡ともいえた。
いや、あの襲撃で結局誰一人として死者が出なかったこと自体が、このゲームとしては奇跡的というべきだろう。
112希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:07:28 ID:xKla5UIq
「それにしても、みんながジョシュア君を連れ帰ってきた時は驚いたわよ」
ほんの少し前、ガンダムが謎の2機のロボットに抱えられて戻ってきた。
その片方の機体は、その前に島を通過したのを目撃した時に、危険視すらしていたのだが。
もう一体の赤いロボットから、クォヴレー達の声でアーバレストに通信が入ってきた時は、彼女は我が耳を疑った。
「ブライガー、って言ったわね……」
赤い巨人を見上げながら、セレーナは答えた。
ブライガーの変形機構を聞かされ、どこまでも非常識な話だと呆れすら浮かぶ……が。
「ま、ただの車が巨大化して飛行艇になったんだし。
 それがさらに巨大化してロボットに変形しても、不思議じゃないわよねぇ」
「いや、あんた何か感覚が麻痺してないか……?」
即座にトウマによる突っ込みが入った。
しかし先のメガデウスの復活といい、立て続けにこうも非常識なことが起これば、それも無理はない……かもしれない。
「にしても、思わぬ所に戦力が隠れていたものね。主催者の悪意すら見え隠れするっていうか」
「全くだ」
セレーナの言葉に、クォヴレーはやや不愉快気に同意する。
あの出来事も、結局は全てユーゼスの手の上の茶番だと考えると、不快になるのも無理はない。
「そして、ジャイアントロボ……か」
セレーナはもう一機のロボットに目を移す。
見るからに強大なパワーを秘めていそうな特機。大した損傷もなく、今後の戦いで心強い戦力となってくれることだろう。
だが、それは素直に仲間になってくれれば、の話である。
問題は……あれを動かしていた少年だ。
「……あの子、リョウト・ヒカワ……と言ってたわね」
仲間達の輪から外れ離れた場所で、リョウトは一人、ぼんやりと海の方角を眺めていた。
その瞳は虚ろで、まさに心ここにあらずといった感じだった。
「ああ……さっきも言ったけど、あの敵……剣鉄也と戦う時、助けてくれたんだ」
「……そう」
彼はこの島に来てから一言も発せず、トウマに誘われても輪の中にも入ってくる様子を見せない。
「……気になるか、あの小僧」
「まあ、ね……」
声をかけてきたイキマに、セレーナは素っ気無く答える。
二人の脳裏には、この島を横切った時の少年の姿が焼きついていた。
忘れられるものではない。彼の瞳に灯っていた、危険な光を。
(あの子が……リオちゃんの言ってた、リョウト君……か)
セレーナに追い詰められ錯乱していたリオが、助けを求めていた男の名前。
それは彼で間違いないだろう。彼ら二人がただの仲間以上の関係であろうことも、想像はついていた。
リオが死んだ今、彼の心境は如何なるものか……
113希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:09:26 ID:xKla5UIq
「よ、よう」
その声に、リョウトが振り返る。そこには、リュウセイの姿があった。
仲間との再会だというのに、やはりリョウトには何の感慨も沸かない。
むしろ……リュウセイの明るい性格は、今の彼には目障りですらあった。
「クォヴレー達を助けてくれたんだってな?ありがとよ」
コミュニケーションをとる気分でもない。適当に流すつもりだった。
しかし、リョウトは彼の言葉に違和感を感じた。
「えーと……リョウト、だっけ?あんた、あのジャイアントロボってのを操縦してるんだろ?」
……妙に他人行儀だ。まるでリョウトのことを知らないかのように。いや、まるでではない……
「あ、俺、リュウセイ・ダテってんだ。よろしくな!」
どうやら、彼は本当にリョウトと面識がないらしい。
(何を言っているんだ、リュウセイは……?)
思い返せば、ラトゥーニと話した時も、会話に噛み合わない部分が多かった。
疑問が頭を擡げてくる。ふざけているようにも思えない。彼は本物のリュウセイなのか?一体――
「あ……ところでさ、頼みがあるんだけど」
頼み。もし本物のリュウセイなら、次に出てくるであろう言葉は……
「よかったらあのジャイアントロボ、写真撮ってもいいか!?」
(……やっぱり)
114希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:10:20 ID:xKla5UIq
「お……おいリュウセイ……何を言っているんだ?」
「だって見ろよ!ブライガーにジャイアントロボ、スーパーロボットが2機も揃ってんだぜ!!
 これが燃えずにいられるかってんだ!!」
目を輝かせてバカ騒ぎを始めるリュウセイ。
この瞬間、リョウトは彼が間違いなく本物のリュウセイであると確信した。
「……マニアか、お前……」
「お、おい、誰かカメラ!カメラ持ってないか!?」
「やかましい。あとでエルマにでも撮ってもらえ」
一人で興奮するリュウセイを、イキマはこめかみを押さえながら半ば投げやりにあしらう。
そんな光景を見て、クォヴレー達はイキマやセレーナと同じ感想を抱いた。
(……大丈夫なんだろうな、こいつ……)
微妙に張り詰めていた場の空気が一気に脱力する。
だがリョウトは終始、それを冷めた目で見ていた。
(いつものことだし。……まあ、どうでもいいか)
リュウセイのことに対する興味はすぐに失せた。
今の彼にとってはリュウセイのことなど、どうでもいい存在に過ぎないのだから。

ここで説明しておく。リョウトとリュウセイ、彼らの意識の食い違いは「並行世界」の存在から生じたものである。
リョウトのいた世界は、DC戦争やL5戦役が勃発し、終息を迎えた直後の世界。
彼はその世界で戦艦ハガネの部隊に所属。部隊の中には、その世界におけるリュウセイも存在していた。
一方リュウセイは、バルマー戦役や封印戦争、終焉の銀河での戦いが起きた世界の人間である。
彼はαナンバーズと呼ばれる部隊の一員だった。
その部隊には……リョウトはいない。ついでに言えば、トウマ、クォヴレー、セレーナもだ。
他の並行世界ならともかく……少なくとも、ここにいるリュウセイのいたαナンバーズには、彼らの姿はなかった。
だから、リュウセイはリョウトのことを知らない。ひいてはハガネやヒリュウ改の仲間のことも。
リュウセイがラトゥーニの死に何の反応もしなかったのは、こうした事情があってのことだった。
115希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:11:23 ID:xKla5UIq
「まあ、写真はこのゲームを潰してからゆっくり撮ればいいさ。
 そのためにも、皆で生きて帰らなきゃな」
「!……ああ、そうだな」
ひとしきり騒いだ後、ジョシュアは咳払いを一つして話を切り替える。
「それでイキマ、これからどうする?」
「いろいろ情報も得られた。それに、面子も増えた以上……
 ここらでもう一度情報をまとめ、今後の方針を決定すべきだと思うが」
「そうだな……ブライシンクロンのタイムリミットを考えれば、早いうちに次の行動に移りたいところだ」
イキマの言葉にクォヴレーが同意し、続いて他のメンバーも頷いた。
「なら、決まりだな」
そう言って、ジョシュアは麻痺の残る身体を押して起き上がる。
「ジョシュア、まだ横になっていたほうが……」
「いや、いつまでも寝ているわけにもいかない。
 それに、自分の出来ることから始める……そうだろ?」
そう言われて、リュウセイは放送直後のことを思い出した。
「……ジョシュア、その……あの時はすまねぇ」
笑いかけるジョシュアに、ばつが悪そうにリュウセイが謝る。
考えてもみれば、ジョシュアに逆ギレして、殴られて諭されて、それっきりだった。
「あの時……ああ、気にするな。もう吹っ切れたんだろう?」
「ああ……もう自分を見失って、一人で抱え込んだりしない。俺には仲間がいる。それに……」
メガデウスを見上げながら、リュウセイは言った。
「教官も、な」
「……そうだな」
リュウセイの言葉は、自分自身に対する決意の表れでもあった。
「……どうやら、丸く収まったようだな」
そんなリュウセイを見ながら、クォヴレーが呟く。
「貴様も、な」
「……?」
突然自分に向けられた、イキマのその言葉に、意味がわからず困惑するクォヴレー。
その表情は、放送直後の余裕の感じられなかった姿に比べ、幾分落ち着いていた。
「お前も、一人じゃないってことだよ」
「??」
その疑問を察してか、トウマがクォヴレーの肩を叩く。
そしてそんな彼らを、一歩離れたような視点から、セレーナは見守っていた。
116希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:12:03 ID:xKla5UIq
仲間、か―――

チーム・ジェルバの……かつての仲間達のことが思い出される。
……“かつて?”
そこに来て初めて、いつしかジェルバの仲間が、自分にとって過去形となっていることに気付く。
……馬鹿な。自分にとって仲間と呼べる存在は、ジェルバの皆だけだったはずだ。
ジェルバとしての自分の任務はまだ続いている。ずっとそう思ってきた。今だってそうだ――
任務を、復讐を果たす時まで、修羅にでも何でもなってみせる。
そんな想いを胸に、私はユーゼスの誘いに乗り……ゲームに乗った相手限定とはいえ、二人の参加者を殺害した。
しかし、三人目を仕留められぬままタイムリミットを迎えた時。
せっかく見つけた手掛かりを掴み損ねたと言うのに、僅かに心に生まれた安堵。
どうして、そんなものが生まれたのだろう。
そして、私はゲームを潰すことを決意した。
何故?ユーゼスの非道な行いが許せないから?だったら自分のしてきたことは何?
違う、ただユーゼスを直接問い詰め仇の情報を聞き出すためだ。ゲームを潰すのはそのための手段に過ぎない……
とはいえ、潰すにしても一人で出来ることは限られている。だから信頼できる仲間を探そうとした。
このゲームで出逢った、イングラムのような――
…………
じゃあ、その信頼できる仲間って?
自分にとって信頼できる仲間は、ジェルバの皆だけ。
ならば、あの時私は何を探そうとしていた?
結局、チーム・ジェルバの復讐ための、利用対象でしかないのか?イングラムも、リュウセイも。
……そう、そのはず。陳腐な仲間意識など、私には必要ない。
だったら……仲間って、何?
…………
本当の仲間は、隣で泣いたり、笑ったり出来る相手のことを言うものだ、と思う。
その定義で考えるなら、目の前の少年達は……一人少年じゃない人もいるけど……きっと本当の意味での仲間だろう。

なら、私のしていることは?

……やめ。この辺にしとくか。深みに嵌ってもしょうがない。第一、私のキャラじゃないしね。

セレーナは、生まれた迷いを心の奥底にしまい込んだ。

(……ん?)
ふと、自分や彼らへの視線を感じ、セレーナは振り返った。
117希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:12:45 ID:xKla5UIq
仲間、か―――

……馬鹿馬鹿しい。
リョウトは心の中で、唾を吐き捨てる。

ここはやはり、ハガネやヒリュウ改と同じ空気だ。リュウセイもいる分、尚のことそう思わせる。
かつて彼を救ったその暖かさ、明るさ、そして気遣いが、僕の神経を逆撫でする。
だってここには、リオがいないから。彼女はもう、戻ってくることがないから。
そんなことも知らず、はしゃぐ彼らが不愉快でしょうがなかった。
リオはもういないのに、お前達が笑うんじゃない――

「…………!?」
その時、振り返ったセレーナと、ちょうど目が合った。
それは、ほんの一瞬。
しかし……彼女と目を合わせて、リョウトは何かを感じ取った。

どこか影のある瞳。この人も、僕と同じだ。復讐に身を窶した人間。
……でも、この人は……

(あの子……)
「セレーナさん、どうしたんですか?」
「ん……何でもないわ。で、作戦会議を始めるのね」
エルマの声に我に返って、セレーナはいつも通りの明るい口調で返す。
「それじゃ、エルマは引き続き修理のほうよろしく」
「ええ!?ボクだけ仲間はずれですか!?」
いきなりの言葉に、エルマは不服そうな声をあげる。
そんな二人に、メガデウスを見上げながら、イキマがフォローを入れた。
「まあ、今こいつを修理できるのはお前しかいないからな。
 それに、少しでも早く次の行動に移りたい現状……早くこいつにも満足に動けるようになってもらいたいところだ」
「そうですね……わかりました」
「素直で結構。ま、あとでゆっくり説明してあげるわよ」
エルマは修理作業を再開すべく、メガデウスのコクピットへと向かっていった。
「リョウト、君の情報も聞かせてもらいたい。参加してくれないか」
「……ええ」
ここで初めて、リョウトは輪の中に入っていった。
情報を得るため、そして彼らを自分の……いや、リオのために利用するため。
リョウトにとって、彼らにそれ以上の存在価値はなかった。
118希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:13:46 ID:xKla5UIq


「では、もう一度情報を整理するぞ」
ジョシュアが切り出すと共に、セレーナはメモ用紙を取り出し、一同の前に差し出した。
『首輪や通信機を通じて盗聴されている可能性があるわ。
 ユーゼスに知られるとまずいような話は、筆談で行うべきね』
一同は無言で頷いた。
(それだけ、とも限らないけどね……でも今はこれ以上を心配しても仕方ないか)
どこにどんな細工が施されているかわからない。警戒はし過ぎることはなかった。
しかしさすがのセレーナも、自分の相棒がユーゼスの目や耳となっていることなど、夢にも思わない。
……幸い、エルマは作業中により作戦会議不参加であるため、エルマを通じての情報は遮断された。
もしここでエルマも会議に参加していれば、彼のカメラを通じてユーゼスに情報は筒抜けとなり、
こんな筆談など無意味となっていただろう。
そんな偶然になど誰も気付くことなく、情報交換は行われた。
119希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:14:20 ID:xKla5UIq

『まずは、あの巨人のデータにあった、空間操作装置の情報だ』
空間操作装置。対主催の抵抗を行うための大きな情報。
イキマがその内容を紙に書いて説明する。
この会場にある光の壁。そしてそれと同じ技術を使用していると思われる、ヘルモーズの空間移動能力とバリア。
ユーゼスが空間操作の技術を持っていることは間違いない。
イングラムの推測によると、その空間を操作するための基点となる装置が、この会場のどこかにあるらしい。
『それじゃ、そいつを破壊すれば、ヘルモーズを丸裸にできるんだな!?』
『多分あの光の壁だって消せるはずだ。もしかすると、ゲームからの脱出も……!』
『落ち着け。あくまで可能性があるという話だ。
 仮にそうだとしても、首輪の爆弾がある以上、今は手出しは出来まい』
この悪夢の中で見つかった、一筋の希望。その存在に息巻くリュウセイとトウマに、イキマは釘を刺した。
忘れてはならない、装着された首輪。この抑止力が、思い切った反逆行動を阻む。
……ついでに、少し落ち着いて、字はわかるように綺麗に書け……とも突っ込んでおく。
『イキマ、装置のある場所はわからないのか』
『ああ。イングラムはD−3とE−7にあると推測していたようだ』
クォヴレーは地図を広げ、その二つの場所を確認した。
(最初に指定された禁止エリアだな。一番簡単で手っ取り早い守り方、ってことか)
装置の発見・破壊を防ぐべく、その地域を禁止エリアに指定する。
それだけで、参加者は誰も装置に手出しすることはできない。
参加者はその場所に踏み込むことすら不可能となるののだから。
(でも、本当にそれだけかしら……?)
セレーナは装置の隠し方に疑問を抱いていた。
確かに、そうなれば装置に手出しできるものはなくなるだろう。だがそれは指定された後の話だ。
ゲームが始まってから最初の放送がかかり、その二つが禁止エリアに指定されるまで6時間あった。
装置の形状にもよるだろうが、それまでの間に発見される、あるいは破壊される可能性も十分あるはずだ。
そうした可能性をユーゼスが見逃すとは思えない。
120希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:15:23 ID:xKla5UIq
「それと……気になる情報があった」
セレーナの疑問を他所に、イキマは次の情報の説明を開始した。
空間操作装置の他にもう一つあった、イングラムの遺した情報。
イキマは、そちらの情報はユーゼスに知れた所で問題はないと判断し、口を開いた。
それは、C−7にあったという、謎の地下通路。その奥にあった、蒼い粒子の舞う渦。
その渦に触れたことで、メガデウスは一瞬にしてこの小島までワープしたという。
「地下道……蒼い渦……?」
その二つのキーワードに、リュウセイが反応する。
「どうしたリュウセイ?」
「同じだ……俺の時と、全く……」
ゲーム開始時、最初にいた地下室で謎の隠し通路を発見したリュウセイ。
その地下通路を、2時間近い間探索した。……いや、実際には迷っていただけなのだが。
迷い迷って奥まで進むと、「旅の扉 経過3時間」などと書かれた蒼い渦があった。
それに触れるとその中に吸い込まれ……気付けばG−1の地に立っていた。
イングラムの体験と酷似した状況――
「そんで教官と再会したんだったな。そういえば、時間も3時間ほど経過していたっけ」
「リュウセイ、それはどこにあった?」
ジョシュアの質問に、リュウセイは開始直後の状況を記憶から探り出す。
「えーと……確か、地下道の入り口は……
 俺が最初にいたC−4の……どっかの建物の地下駐車場みたいなとこだったな」
言うや否や、ジョシュアは地図の座標を確認する。
建物の地下の駐車場ということは、どこかの街の中だろうか。そしてC−4における、小さな街のエリア……
リュウセイのスタート地点、そして地下道の入り口の特定は容易だろう。
「旅の扉、ねぇ……どっかのゲームじゃあるまいし」
「しかし、もしかするとまだ他にもこの蒼い渦があるかもしれないな」
それぞれが推測をめぐらす中、ジョシュアはリュウセイの言った位置に注目していた。
(C−4地点……街の位置的にも、さっき言ってたD−3とは目と鼻の先だ……)
これは偶然だろうか?それを確かめるべく、ジョシュアはさらにリュウセイに問いかける。
「他に気付いたことはなかったか?何でもいい、思い出してくれ」
「そ、そうは言われてもよ……えーと……」
リュウセイは、あの地下通路で迷っていた時の、おぼろげな記憶を掘り返す―――
121希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:15:55 ID:xKla5UIq
―――そこは地下街のような場所だった気もする。通路はフェアリオンがギリギリ通れるくらいの大きさだった。
あの時はわけのわからぬまま迷っていたが、今思えばあの地下通路はかなり入り組んでいて、広かった。
そんな視界が真っ暗な中を進みながら、十字路に差し掛かった。
右に進んだ。ウルトラマンがどうとかいう落書きがあった。怪しかったんですぐ引き返した。
左に進んだ。鷹の壁画とショッカー万歳とかいう落書きがあった。胡散臭くてすぐ引き返した。
あれ?よく確認しなかったけど、どちらの道もまだ先があったような……?
そんで、今度は真っ直ぐ進むと、蒼い渦を見つけて……

「……リュウセイ君、その地下通路の中でどれくらいの距離を移動した?」
「え?よく覚えてねぇけど……2時間近く、かなり歩いてた気がするな」
「中で、現在地の座標の確認は?」
「すまねぇ、わけわかんないまま闇雲に進んでたからな……」
「……そう」
「……どういうことだ?」
セレーナの質問の真の意図を理解できないリュウセイに、ジョシュアは紙に書いてそれを説明した。
『つまりその地下通路から、D−3へと足を踏み入れた可能性はないか……ということだ』
D−3の位置はC−4の入り口のすぐ北東。地下通路が広がっていれば、その可能性は十分にあるだろう。
『そう。もっと言うなら、D−3に地下がある可能性、ってことね。
 そして……空間操作装置も、地下に隠されてるかもしれないってわけ』
(そ、そうか……!)
地下ならば、普通ならばまず発見されることはない。
よほどの規模でもない限り、戦闘に巻き込まれて破壊されるということもないだろう。
その上で、その地域を禁止エリアにすれば、守りは完璧だ。
「……なるほど。イキマ、イングラムの探索していた、C−7の地下通路について、他に情報は?」
「こちらの地下通路は、どうやらC−7から東に向いて伸びていたらしい。
 渦があった場所は、D−7だったようだな。他に道が分岐していたかどうかはわからんが」
(……その先には、E−7があるな)
二つの謎の地下通路。
そしてその先に通じるは、それぞれ最初に禁止エリア指定された場所。
その場所は、空間操作装置の所在地候補。
まだ推測の域を出ていないが……この二つの場所、匂う。

「調べてみる必要があるだろうな」
クォヴレーは言った。そしてそれに付け加えるように、続きを紙に書く。
『もっとも、首輪を外さないことには、禁止エリア部分の調査は不可能だがな』
結局はそこに辿り着いてしまう。
何よりも急務なのは、この枷を外すことだった。でなければ、仮に装置を見つけたところで次の行動に移れない。
『誰か、この首輪を外せる奴はいないのかよ?』
トウマの質問に、全員が首を振る。というより、そんなことが出来るくらいなら最初からやっている。
セレーナもエルマに解析させたことがあったが、不可能だった。
お前は?という表情で、トウマはリョウトのほうを見る。
リョウトは先程からずっと黙って座ったままだったが、その問いにペンを取る。
『少しならわかるかもしれないけど、実際に調べてみないことには何ともいえない』
リョウトは技術者の卵である。ヒュッケバインMk3の開発にも関わっていた。
元々機械いじりが趣味だったこともあって、ある程度の知識は備わっていた。
『まあ、肝心の解析するための首輪もないし、今の俺達にはどうにもできないな』
まさか、このメンバーの中の誰かをモルモットにするなど……ここにいる者達は許さないだろう。
……実は、そのために使えそうな首輪なら、ジャイアントロボの中に一つあったりするのだが……
それを知るのはリョウトのみ。彼もそれを喋るつもりはなかった。
122希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:16:23 ID:xKla5UIq

『一応、当てならあるわ』
セレーナが切り出した。
「それじゃ、次は私の情報ね……上手くやれば味方になってくれるかもしれない、二人組がいるわ」
彼女の当て……味方となってくれるであろう人物の情報。
漆黒の悪魔のようなマシンに襲われていた、白銀の戦闘機と白いバイクに乗った二人組だ。
「俺以外にもバイクなんて支給されてた奴がいたのかよ……」
「傍受した通信の会話からすると、G−6基地に向かっていたみたいね」
ぼやくトウマを他所に、セレーナは言いながら、この情報の最も重要な部分を紙に書く。
『それに、その二人……どうやら首輪の解析を進めているらしい。
 会話を聞いた限りだと、既にある程度まで解析は進んでいるようね』
解析を続けるべく設備の整った基地に向かったのであろう、ということは予測がついた。
なお、その片方は博士と呼ばれていたという。首輪解析のための知識を持っていてもおかしくない。
(博士、か……)
イキマは思い返す。このゲームの参加者の中で、自分の知る「博士」と呼ばれる人物……いや、厳密には人間ではないのだが。
司馬遷次郎。彼の名が参加者名簿に存在し、さらに現在に至るまで死亡者として放送で呼ばれていないこと。
……アレがどうやってこのゲームに参加しているのかだとか、そもそもアレは元々死んでいるのではないかだとか、
他愛もない疑問はいろいろあるのだが……もしこの男が参加して、今なお健在だとすれば。
(首輪を解析している博士とは、奴のことかも知れんな……)
「どうした、イキマ?」
「いや、何でもない。ともかく、その者達と接触してみる価値はありそうだな」
旧敵といえど、今となっては争い合うつもりはない。だが……
――接触してどうする?手を組む……そんなことができるのか?この俺に。
心の中で、自分に問いかける。
その答えを出す前に、話題は次に移る。
123希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:17:18 ID:xKla5UIq
「その二人組もそうだが、彼らを襲っていたという黒い機体も気になるな」
「ああ。そいつに殺されてなきゃいいんだけど」
「……それについても、話しておいたほうがいいわね」
そう言うと、セレーナは黒い機体に関する知る限りの情報を話す。
ファーストコンタクトは昨日の深夜。C−4で黒い機体の襲撃を受けたセレーナは、これを撃破。
しかし本日早朝、その二人組を追う黒い機体が、D−4にて再度発見された。
「どういうことだ?そいつは倒したんだろ?」
「ええ、交戦した時にコクピットを吹き飛ばした。私が戦った時のあれのパイロットは、確かに死んだはずよ。
 新たに別の参加者が乗り込んだと考えるのが自然ね」
パイロットの死亡を確認したわけではない。
だが、12時のヘルモーズからの通信で、ユーゼスの言葉を信じるなら、それは間違いない。
ちなみに……セレーナはユーゼスと接触していたことは伏せているが。
「なら、機体の損傷については?コクピットを吹き飛ばしたんだろう?」
「何ともいえないけど、何らかの手段であの機体は再生したか……あるいは機体そのものの特性かもしれない」
「機体が再生、だと……?」
セレーナの推測の中に出てきたフレーズに、クォヴレーが反応する。
同時に、無表情のリョウトの眉が、ピクリと動いた。
「まさか……あいつと同じ力を……?」
つい先程の信じられないような出来事が、トウマの記憶に蘇る。
「?どうかした?」
「その機体の再生能力ってのに、思い当たることがあるんだ」
「ああ、奴と……さっきここを襲った、あの敵と関係がある」
124希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:18:32 ID:xKla5UIq
クォヴレーは話し始めた。剣鉄也とガイキング……つい先程襲撃してきた、敵の正体を。
一同の脳裏に、あの時の悪夢のような光景が過ぎった。
戦力不足もあったとはいえ、たった一機の、満身創痍の敵にものの見事に手玉に取られてしまった。
今こうして無事でいられるのは、ブライガーやジャイアントロボといった、度重なる奇跡的要素あってのことである。
彼の戦闘力は計り知れない。それは、ここにいる者達が身をもって知っていた。
「あのボロボロの機体で、あれだけの奇襲をやってのけた……あいつの戦闘センスは半端じゃないわ。まさに、プロの仕事って奴ね」
加えて、ファーストコンタクトの際に感じた凄まじいプレッシャー……セレーナは肌に冷や汗が滲むのを感じた。
「それだけでも十分危険だが……ここで重要なのは、奴が見せた再生能力だ」
クォヴレーは説明を続ける。あの襲撃の後のジョシュア救出時の出来事を。
ブライガーで確実に止めを刺したはずだったガイキング。
そこに、突如謎の巨大な、怪物のようなガンダムらしきモノが出現。
それが大破したガイキングと同化する。すると、見る間にガイキングを再生された。
「冗談だろ……」
その顛末に、リュウセイは呆然と呟いた。何かの冗談だと思いたい。
満身創痍の機体ですら驚異的な力を見せ付けたあの男が、機体共々再生されたなどと。
「で、でもそんな能力があるなら、どうしてもっと早く再生しなかったんだ?」
「直前に現れた謎のガンダム……あれが何か関係していると見るのが妥当だろうな」
「……なるほど。私の遭遇した黒い機体も、同じ手段で再生した可能性がある……ってわけね」
リュウセイの疑問に、クォヴレーはその時の状況から推測する。そこをさらにセレーナが続けた。
「となると問題は、その突然現れたというガンダムは一体何なのか、だ。
 あの戦いの後、周囲を警戒してはみたが、ガンダムの影も形もなかった。
 ガンダムが出現した場所の地面も調べたが……その痕跡は極めて不自然だった」
「不自然?」
「何もない……そうだ、まるで何もない空間から突然現れたようにも見受けられた」
「何もない空間から、突然……?」
クォヴレーの説明から、ジョシュアは先程聞いた蒼い渦の情報を思い出す。
これでは、渦に巻き込まれて別の場所に飛ばされた直後のリュウセイやイングラムと同じだ。
そして彼は、自分の推測を紙に書き出し、一同の前に出す。
『そのガンダムも……空間操作装置と、何らかの関係があるのかもしれない』

さすがに、ゲッター線の力で空間を飛び越えてきました……などとは、今の彼らにはわかるはずもなかった。
125希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:19:42 ID:xKla5UIq
「リョウト、お前は何か知らないのか?あいつを追ってたみたいんだけど」
「別に。ただ以前の戦闘の時乱入してきて、無差別に何人もの人を殺していたのを見ただけです」
トウマに対するリョウトの回答は、相変わらずの淡々とした口調だった。
だが、剣鉄也の話題になってから、リョウトの虚ろな瞳に微かに憎悪の光が灯ったことを、セレーナは見逃さなかった。
「リョウト……もしかして、あいつに仲間を……?」
「どうだっていい、そんなこと」
リュウセイの、やや無神経な質問に投げやりに答える。
気まずくなる空気。それを逸らそうと、クォヴレーが話を続ける。
「あれが何かは不明だが……得体の知れないプレッシャーを感じた。上手くは言えないが……
 俺達の知らない所で、このゲーム全体を何かが覆い尽くそうとしているような気がする……」
「な、何かってなんだよ」
「さあ、な……
 とにかくさっきも言った通り、セレーナの言うマシンがこれと同じ力で再生した可能性はある。
 いずれにせよ、こいつらに関しては十分に警戒を強めるべきだろう……今俺達にわかるのはここまでだ」
強引にまとめへと持っていく。
だが話すべきことは全て話した。これ以上謎のガンダムについて議論をしても埒が明かない。
126希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:20:32 ID:xKla5UIq

「剣鉄也に黒い悪魔、そして怪物ガンダムか……
 ここらで一度、他の参加者の情報も整理したほうがいいな」
このゲームに蠢く危険な存在の名が、立て続けに出てくる。
それらをまとめるべく、ジョシュアが切り出した。
「まず、マーダー、及び危険と思われる人物についてまとめよう。
 今出てきた剣鉄也と黒い機体以外に、みんなが警戒すべきだと判断した相手はいるか?」
各々がこれまでに遭遇した、あるいは人づてに聞いた、危険と思しき参加者が次々と挙げられる。
トウマを襲った赤い可変戦闘機。イキマの出会った、アルマナを殺したという銀の仮面の男。
ジョシュアとリュウセイの遭遇した、龍のようなマシン。
さらにリョウトの口から、惣流・アスカ・ラングレーという名のマーダーの情報も語られた。
パイロットの素性が不明なものも多い。そのうちの何人かは既に死亡してる可能性もある。
「俺達が遭遇したゼオラ・シュバイツァーは死亡が確認されているから除外だな。となると……」
イキマが名簿を指差しながら確認する。
「第3回放送の時点で生存が確定されている危険人物は、このアスカという女と……そして……」
「木原マサキ、だな……」
トウマとクォヴレーを襲った、蒼い機体のパイロット。
見た目はどこか気弱そうな、人を殺すとは思えないような青年。
仲間になると見せかけて、突然掌を返し攻撃してきた。
その内に危険な本性を隠し持っていることが見て取れた。
「なるほど、典型的な猫被りマーダー、ってわけね」
「けど、こうして手の内が知れた以上……その手は通用しないってもんだぜ」
「いや……そう一筋縄でいく相手でもなさそうだ」
リュウセイの楽観的思考をクォヴレーが止める。
マサキの襲撃の時、乱入してきたイングラム。その時の、マサキの彼への対応……
高い状況分析能力と冷静さを持ち、咄嗟の判断力にも優れる要注意人物だ。
「木原マサキ……かなりの危険人物のようだな。剣鉄也や黒い機体同様、十分警戒する必要があるな」
127希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:24:37 ID:xKla5UIq
「それと、マーダーとは違うようだが、あと一人……不審な人物に遭遇した」
さらに続けて、クォヴレーが新たな参加者の話に切り替える。
「ああ、あの天使みたいな白いロボットに乗ってた、女の人か」
「天使みたいな、白い……?」
トウマの口から出た言葉に、セレーナは眉を動かす。
「セレーナ、知っているのか?」
「昼過ぎに……ちょうどこの島に来る前に遭遇したわ。
 多分、あんた達の言ってるロボットだと思う」
そして一呼吸置いて、呟く。
「……嫌な感じの奴だったわね、あいつ」
あの時通信機から聞こえた女の微かな嘲笑が、未だセレーナの耳から離れない。
「……ブライシンクロンの情報を俺達に教えてきたのは、その女だ。
 そして、俺の名前も知っていた……」
「なんだよそれ……一体何者なんだ、そいつは」
クォヴレーの言葉に、女に対するさらなる謎と疑惑が深まる。
だがそれは、いともあっさりと破られることとなった。
「ラミア・ラヴレス。多分、ユーゼスの回し者だと思うよ」
突然、リョウトがその口を開いた。
質問を受けない限りずっと沈黙を続けていた彼が自ら喋り、一同はやや戸惑いを見せる。
「リョウト……お前もあいつに?」
「あいつは乗る機体が破壊されてなくなった僕に、ロボを渡してきたんだ」
「ジャイアントロボを……?なんであいつがそんなのを?」
トウマが首を傾げる。以前会った時には、白い機体以外のマシンは見当たらなかった。
「……詳しい経緯はわからんが、その女がやろうとしていることは想像がつく」
考えた所でわかりはしないと判断し、イキマは再度女の目的のほうに話題を向けた。
「乗機のなくなった彼に新たな機体を渡し……
 ブライガーの真の機能を発動させる方法を、クォヴレーに伝えた。つまり……」
「ゲームを扇動している、ってことか」
セレーナの解説に、クォヴレーが続いた。そして、ジョシュアが最後にまとめる。
「ラミア・ラヴレス……主催者の犬、か。こちらも警戒したほうがよさそうだな」

「次は、こちらの味方となってくれそうな人物だ。さっきセレーナの言った二人組以外に、誰かいないか?」
要注意人物に比べると少ないものの、こちらも数人が挙げられた。
トウマ達からはヒイロ・ユイが。セレーナから、ガルド・ゴア・ボーマン。
リョウトからも、タシロ・タツミと副長の情報が得られた。
そして……マイ・コバヤシ。リュウセイと同じ、SRXチームの一員。
「マイの名前はまだ放送で呼ばれてねぇ。まだ生きてる……心細い思いしてなきゃいいけどな」
「わかった、俺達もその子を探そう……早く見つかるといいな」
「ああ……」
128希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:26:31 ID:xKla5UIq


「情報はあらかた出揃ったようだな」
纏められた情報の羅列は、白いメモ用紙数枚を文字で埋め尽くしていた。
それらを整理しながら、クォヴレーの口から溜息が漏れた。
よくもまあ、これだけ集まったものだ……と。
首輪の解析。ヘルモーズのバリア無力化。ゲームを潰すための手段。そのために向かうべき場所。
ほんの数時間前までは、情報不足で反撃の手立てなど何一つ目処の立たない状況だったというのに。
情報だけではない、戦力的にもそうだ。ブライガー、アーバレスト、ジャイアントロボ、そしてメガデウス。
数時間前とは比較にならないほどに充実していた。
ここに来て、一気に反撃の目処が立った。……不自然とすら思えるほどに。
(出来すぎている……)
まるで、そう仕向けられているかのようだ。
これも、ユーゼスの思惑通りなのか?
結局、俺達はユーゼスの手の上で踊り続けているだけなのか……?
希望が見えてきた、と盛り上がるトウマとリュウセイ。しかし彼らほど、クォヴレーは楽観的にはいられなかった。
「……では、これらの情報をもとに、これから俺達が取るべき行動をまとめてみよう」
そう言って、ジョシュアは新しい用紙に今後の方針を書き出す。

・空間操作装置を探し、破壊。所在地の候補は、D−3とE−7。
 そこに通じていると思われる、C−4とC−7にある地下通路の調査。
・G−6基地に向かい、首輪解析の情報を得る。
・剣鉄也、及び黒い機体のバックにあると思われる「何か」の真相の究明。

「とりあえず、G−6基地に行ったという二人組との接触が最優先だな」
イキマの言葉に頷く一同。何はなくとも、やはりこの首輪を外さなければ話にならない。
「じゃ、まずはG−6に向かうんだな」
「いや……ブライシンクロンのタイムリミットも考えれば、あまり時間はかけられない。
 並行して、地下通路の特定や内部の調査もある程度行ったほうがいいかもしれん」
「なら、手分けして行動したほうがいいな」
そんなわけで……
クォヴレーの提案を受け、彼らはお約束の「チーム分割イベント」をすることとなった……
129希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:27:35 ID:xKla5UIq
「では、G−6基地に向かい、セレーナの言っていた二人組と接触するメンバーと、
 二つの地下通路を探索するメンバーに分かれよう」
ジョシュアが中心になって、メンバーの割り振りを決める。
「まず、クォヴレーはG−6基地に向かってくれ。
 今ある機体の中では、おそらくブライガーが一番機動力が高い……空も飛べるしな」
「了解した」
「トウマは引き続きブライガーに乗ってくれ。やはりバイクだけでの行動は危険が伴う」
「ああ、わかった」
「……俺も行っていいか。その二人組について、少々確認したいことがある」
滞りなく進められるメンバー選抜、そこにイキマがG−6行きの希望を申し出た。
「確認したいこと?」
「ああ。その二人組の片方は、もしかすると俺の知っている人物かもしれん」
「それって、仲間なのか?だったら、来てくれれば話は早……」
「いや……」
僅かに言葉を濁らせ……イキマは口を開いた。
「司馬遷次郎……俺の世界において、敵対していた者だ」
重い表情で話すイキマに、一瞬場が静まる。
だが、その沈黙はすぐにセレーナの正論によって破られた。
「……それじゃ、逆に話がこじれる危険もあるんじゃないの?」
「かもしれん。だが、今という時だからこそ……俺は奴と話をしたい。
 いや……違うな。ただ単に、俺は自分に対して、けじめをつけたいだけなのかもしれん」
そう語る彼の瞳には、どこか強い意志の色が確認できた。
彼にとってのけじめ、それは自身の心に決着をつけること。
邪魔台王国幹部としての自分と、この反逆の牙の仲間の一人としての自分。
その板ばさみ状態から生まれ、彼の心の奥底に未だ残る、人間と手を組むことへの迷い。
だがもし、旧敵と手を取り合い互いの怨恨を拭うことが出来たなら……自分の中の、何かが変わるかもしれない。
そう信じて……
「……ジョシュア、クォヴレー。俺からも頼めるか?
 知り合いなら、接触の時にも間違うこともないだろうしさ」
イキマのそんな意志を読み取ってか、トウマも一緒になって頼む。
別に、無理に拒む理由もない。クォヴレーは快く承諾した。
「わかった。なら、陸地まではブライガーで担いで行こう」
「……すまない、手間をかける」
「と、なると……
 G−6基地には、クォヴレー、トウマ、イキマが向かってもらう」
「なら、地下通路の調査のメンバーは……ジョシュア、リュウセイ、セレーナの3人だな」
それぞれジョシュアとクォヴレーが話をまとめ……あと一人、未決定の者が残る。
130希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:28:10 ID:xKla5UIq
「で、リョウトだが……お前はどっちのグループに入る?」
ジョシュアがリョウトに問いかけた。
「……僕は……」

「リョウト選択」
  「G−6基地に向かう」
  「地下通路を探索する」
131希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:29:27 ID:xKla5UIq
「…………」
沈黙。
「ん?どうした?迷っているのか?」
リョウトの表情は……相変わらずの無表情だが、どこか不服そうな印象を受けた。
いや、実際不服だった。
彼にとって、一番肝心な選択肢が提示されてないから。
「あいつは……剣鉄也はどうするんです」
今のリョウトにとっては、鉄也を殺すことが全てだった。それを放置するなどと……
「確かに、あの男は危険だ。できるだけ早いうちに奴もどうにかしたいところだが……
 だが、奴がどこに逃げたかわからない以上、今は手の打ちようがない」
それはリョウトにもわかっていた。
どこにいるかもわからない者を当てもなく探すより、少しでも判明した部分から手を付けていくべきことは。
しかし、頭ではわかっても、心は納得しない。
「でも、あいつは一刻も早く殺さなきゃならないんだ」
ジョシュアに返したリョウトの言葉は、憎悪に満ちていた。
言葉だけでない。剣鉄也の話題になった途端、彼の瞳にも並々ならぬ憎悪の炎が宿っていた。
(こいつ……何という目をする……)
イキマの頭からは、不吉な予感が離れなかった。
やはりこの男、危険すぎるのではないか……?
「……あいつに殺されたのね。知り合いを……いや、大切な人を」
セレーナは、彼のその瞳に怯むこともなく言った。
「……だから何です?あなたには関係ないことだ」
リョウトは、苛立ちを隠さず言い捨てる。

張り詰める、場の空気。
そこに、ジョシュアは諭すように、リョウトに言った。

「……リョウト、お前の気持ちはわからなくもないが……」
――わからなくもない?ふざけるな。お前などにわかってたまるか。
「憎しみに飲まれるな。飲み込まれたら……行き着く先は、破滅しかないぞ」
――他人事だから言えるんですよね。そういうのって。
でも、それだけの憎しみを抱かずにはいられない人間の気持ちが、あなたにわかるんですか?
「俺からは何も言えない。でも、復讐は復讐を生むだけでしかない……それだけは、覚えていてくれ」
――覚えるも何も、自分も前にそんな綺麗事を言ったような気がする。
その言った相手の彼女はやけにあっさりと割り切って、自分達の仲間になっていたけど……
「みんなも、だ。憎悪に、負の感情に取り込まれるな。それでは……ユーゼスの思うつぼだ」
あいにく僕はそんな簡単に割り切れない。僕の持つ負の感情は、その程度で割り切れるほど安くはない。
……でも。
132希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:31:08 ID:xKla5UIq
「……わかりました」
リョウトはあっさりと引き下がった。
自分の我侭で、ゲームを止めようとする彼らを止めるつもりはない。
(復讐は復讐を生む、か……)
セレーナの頭の中でジョシュアの言葉が反芻される。
彼女は、それを覚悟の上で復讐鬼となる道を選んだ。
しかし、他人がそんな修羅道に堕ちる様を見るのは、何とも気分が悪い。
彼はまだ、自分ほど堕ちてはいない。まだ、取り返しはつくはず。やり直せるかもしれない。
……自分が他人に対してこんな心配をしようなどとは。
(全く、私もヤキが回ったようね)
セレーナは、心の中で自嘲気味に呟いた。

「じゃ、リョウトはG−6基地に一緒に来てくれ。
 G−6基地は、場所が場所だけに目立つからな。恐らく一番、戦闘の起こる可能性が高い。
 その時、ジャイアントロボは大きな戦力となるはずだ」
言いながら、クォヴレーは続きを紙に書く。
『何より、首輪解析が行われているなら、あんたの技術がそこで役立つと思う』
「……わかった」
リョウトは不服そうに呟いた。
これで、チームの組み分けは決定した。
続いて、再合流の時間と場所、その他注意すべき事項など……
後は特に問題なく決定していった。


「さっき言ってた二人組のことは、エルマのカメラが捉えてるから確認するといいわ」
「ああ、すまない」
「それじゃ、出発の準備に取り掛かろうぜ!」
イキマ、トウマ、クォヴレーは立ち上がり、エルマが修理を続けるメガデウスへと向かっていった。
「リョウト、お前は行かないのか?」
「……僕は……」
リュウセイに一言呟くと、リョウトもまた立ち上がり……ジャイアントロボのほうへと向き直る。
「ロボの調子が悪いんだ。ちょっと見てくる」
「そうなのか?だったら俺も手伝って……」
「いや、構わない。
 クォヴレー達の準備のほうが先に整ったなら……
 すぐ追いつくから、先に行くように伝えといてください」
「え?あ、ああ……」
リュウセイの手助けを断ったリョウトは、言うだけ言ってロボのほうへと走っていってしまった。
「どうしたんだ?あいつ。ロボの調子、悪そうには思えなかったけどな」
「……さあ、ね」
リョウトの行動に、セレーナは不審なものを感じていた。
「……彼はああ言ってるけど、時間も惜しいし……私も一緒に手伝ってくるわ」
「……頼みます」
ジョシュアはセレーナの意図を読み取り、彼女に任せてみることにした。
セレーナは、リョウトを追っていった。あとには、ジョシュアとリュウセイだけが残る。
「どうなってんだ?」
「……とにかく、リョウトのことはセレーナさんに任せよう」
133希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:31:50 ID:xKla5UIq


「これが、その時の写真です」
エルマのカメラが捉えた映像。
その写真を見ながら、トウマ達はこれから接触を試みる相手の確認をする。
「黒い機体に、白い戦闘機と……うわ、ほんとにバイクだぜ!
 俺以外にもそんなの支給されてた奴いたんだな……」
呆れるトウマを横目に、エルマは説明を続ける。
「白い戦闘機はおそらく、YAM−008−02アルテリオン……
 DCの恒星間航行計画・プロジェクトTDによって開発されたAMです」
「知っているのか?」
セレーナ達にとっては、後に同じ仲間として共に戦場を駆け抜けることになるはずの、アルテリオン。
だが、今ここにいるセレーナとエルマの時間軸は、この機体と接触する遥か前。
「ええ、データがボクの中に入っていますから」
だから、それ以上の関わりはなかった。
「とにかくこの、アルテリオンと白バイクのパイロットに接触すればいいんだろ?」
「この黒い機体にやられていないことを祈るばかりだな。……いくぞ」
トウマとイキマは出発準備に取り掛かろうとする。だが、クォヴレーだけは写真を凝視したまま動かない。
「行くぞ、クォヴレー……どうした?」
クォヴレーのその目は、写真の黒い機体を……
ディス・アストラナガンを見据えていた。
(なんだこの機体は……俺は……この機体を知っている……!?)
それは……かつての、彼の愛機。記憶のない今は、それを知る由もない。だが……
(この黒い機体……俺の記憶と何か関係があるのか……?)
頭の中の何かが引っかかる。何かが疼く。
この機体は何だ?ただのロボットではない……何故、俺にそれがわかる?
俺は何者だ……?
「おい、クォヴレー!」
「!!」
トウマの声が、クォヴレーの意識を現実に引き戻した。
「……どうした?またなんか様子がおかしいぞ?」
「いや……すまない、何でもない」
断ち切るように、クォヴレーも二人の後を追う。
今優先すべきは、G−6に向かうことだ。そう自分に言い聞かせて。
134希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:33:06 ID:xKla5UIq


一人、ジャイアントロボに向けて足を進めるリョウト。
先程は表面上を取り繕っていたが……リョウトは、相変わらず苛立っていた。
この、居るだけでも不快になる空間に身を置いているのも、剣鉄也を倒すための力を得るためだった。
ゲーム脱出・ユーゼス打倒の情報を得る意味もあったが、彼にとって打倒剣鉄也は何より優先すべき事項だった。
先の戦闘以来……いや、B−1で目を覚ました時から、彼はずっと剣鉄也の存在を感知していた。
ドス黒い、悪意そのものと言ってもいい仇敵の存在。
そして、それをさらに包み込む大きな悪意。
悪意は、時間が経つごとに大きくなっていく。
特に21時を回った頃から、その傾向は極端に強くなっていた。
この会場のどこかで、何かが起きている。途方もなく危険な、何かが。
一刻も早く倒さなければ。剣鉄也と、その背後の悪意を。
だというのに、ここの連中は、あの男を無視して別の行動に走り始めた。
その上、戦力を分断するなどと……リョウトにしてみれば、当てが外れたと言える展開だった。
「こんなことしてる場合じゃないのに。早くあいつを殺さないと……」
彼らの言い分は、リョウト自身わかっていた。
ゲーム脱出を考えるこの集団、参加者を殺すよりも、ゲーム脱出を優先するのは当然。
そうでなくとも、それよりも優先して居場所もわからない剣鉄也を探すなど、判断としてありえない。
自分にとってもそうだ。ゲーム脱出は、いずれ自分とリオが元の世界に戻るために嫌でも必要となってくる。
そう、理性ではわかっている。でも、やはり我侭な心はそれで納得しない。
だから納得させるために、リョウトはこの反逆の牙を抜けようと考えていた。
剣鉄也を相手にしないなら、この集団に用はない。
しかし……このまま何もせず、一人で出て行くのも芸がない。この集団に自分への余計な疑いを植えつけるだけだ。
ここの連中との信頼関係などどうなろうが知ったことではないが、余計なリスクは負いたくない。
……せめて、そのリスクにあった何かを得たいところだった。
今の自分だけでは限界がある。元々この島に来たのは、力を得るためだ。
リョウトは、ただ感情に任せて行動しているわけではない。むしろ極めて冷静で、利己的であると言えた。
その冷静さから導き出した、彼の答えはこうだ。
135希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:34:43 ID:xKla5UIq
ここにいる誰かを殺し、その殺した者の機体を強奪する。
自分はその機体に搭乗し、同時にその機体からジャイアントロボを遠隔操作する。
そう。このゲームで今まで誰も行わなかった、複数の機体の確保。
このやり方ならば、ジャイアントロボの遠隔操作システムも長所として生かせる。
2機の機体を駆使すれば、剣鉄也にも、それ以外の相手にも、そうそう遅れは取るまい。

だが、誰を殺す?どの機体を奪う?
既にブライガーとギャリィウィルは出発準備にかかっている。どうやらワルキューレも積み込んでいるようだ。
多分、こちらの機体にはもうチャンスはない。
となると残るは、地下通路探索組の3機。メガデウス、ガンダム試作2号機、アーバレストだ。
まずメガデウス……どうやらイングラムが乗っていた機体を、リュウセイが後を継いで乗るつもりらしい。
だが問題は、現在まだ修理に時間がかかりそうな上、元の損傷の激しさから修理が終わっても戦闘力は不完全なまま、ということか。
次にガンダム……核を持っているのは切り札となりえる。
ジョシュアも負傷中、満足に動けない状態。おそらく殺すだけなら一番簡単に違いない。
こちらの問題は、ガンダムの計器類がほぼ全滅に近い状態となっていることか。
最後に、アーバレスト……大した損傷もなく、詳細はわからないがどうやら特殊なシステムが搭載されているらしい。
小柄で運動性に長け、ここにある中で一番自分向きの機体。タイプが正反対のジャイアントロボと組ませるにもいい感じだ。
おそらく戦力としてなら自分にとって一番理想的な機体だろう。
だが、殺す相手が問題だ。セレーナは兵士として訓練されている。
空手経験があるとはいえ、基本的に素人同然の自分が彼女をまともに殺そうとしても、返り討ちは目に見えている。
どうする……?誘き寄せて一人になったところを、ロボで潰すか?そんな手に乗るだろうか?
ふと、こんなことなら、剣鉄也との戦闘直後に、あの3人を殺せばよかった……などと軽い後悔が過ぎったりもする。
その一方で、無関係の人間を殺すのは少なからず気が引けたりもした。
良心とか、そんな感傷によるものではない。剣鉄也と同じような真似をすることになる、という理由からだ。
でも、これは仕方がない。これは悪を倒すためだから。これは正義の行いだから。
彼は自分勝手な理屈で、いや正義で、その行いを正当化する。
彼の目に迷いはなかった。あるのは、狂った決意だけ。
136希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:36:56 ID:xKla5UIq
ジャイアントロボの足元まで来て、彼は足を止める。
そして振り向くこともなく、言い放った。
「僕を追ってきて、どうするつもりなんです?セレーナさん」
「ご挨拶ねぇ。せっかく、ロボの整備を手伝ってあげようって言うのに」
数メートル離れた場所から、セレーナが軽口を叩く。
しばしの沈黙。
そして、セレーナが打って変わってシリアスな口調で、尋ねた。
「あなた……ここを出て行くつもりね」
「……僕にはやらなきゃならないことがありますから」
それが、剣鉄也の抹殺であることは明白だった。
「そんなに剣鉄也が憎い?」
「ええ。それはもう」
「リオちゃんを殺したから?」
「……知ってたんですね。リオのことも、僕のことも」
「……ちょっとだけね。リオちゃん、あなたの名前を呼んでたわ」
淡々と会話が紡がれる。
「で、止めるつもりですか?」
「別に、私にはそんな義理はない……と言いたいとこだけど。
 今はあんたに抜けられてもらったら、いろいろと困るのよね」
「……」
「復讐に走る気持ちはわかるわ。
 大切な人を殺された憎しみは、そう簡単に消せるもんじゃない」
まさか、自分がこんな諭すようなことを口走るとは。
自分が変わってきていることを、嫌でも自覚する。
だが、リョウトの口から発せられた言葉は……冷徹で、皮肉が込められていた。
「何が言いたいんです?同じように復讐に身を窶した、先輩としての助言ですか?」
「あんた……」
「能書きはいいんですよ。僕に自分と同じ道を歩んで欲しくない……とか思ってるわけですか?」
嘲るような刺々しい口調。
(何なの、この子……?)
「でも、僕は復讐のためにあいつを殺すんじゃない」
「なんですって……?」
「あいつは生きていちゃいけない。あいつが生きてちゃ、悲劇が繰り返される。
 だから何より優先して殺さなきゃ。強いて言うなら……
 正義のため……ですか」
セレーナは、その言葉で全てを悟った。
今の彼は、剣鉄也に匹敵するくらい危険であることに。
復讐鬼以上に、タチの悪い存在であることに。
これは……生半可な説得は通用しそうにない。
「……いい加減にしな。ガキの我侭にいつまでも付き合ってられるほど、こっちは暇じゃないんだよ……!」
137希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:40:07 ID:xKla5UIq


ワルキューレの積み込みを終え、クォヴレー達のG−6出発の準備は整っていた。
「すまないな、無理言って」
「気にするな。バイクでも、何かの役には立つかもしれん。イキマ、そっちの準備は終わったか」
『ああ、いつでも出発できる』
「よし、それじゃ行くぞ」
ブライガーはギャリィウィルを抱え、いよいよ飛び立とうとしている。
その足元には、ジョシュアとリュウセイの姿があった。
「まだメガデウスの修復まで、時間がかかるってよ」
「そうか、ならジョシュア共々、今のうちに身体を休めとくといい」
ぼやくリュウセイに、クォヴレーが言う。
「……ところで、リョウトはどうしたんだ?」
「ああ、なんかジャイアントロボの調子がおかしいんだってさ。セレーナも一緒に見てる。
 先に行っててくれって」
リュウセイの言葉に、胸騒ぎが起きる。
「……どうする?」
『……どうにも嫌な予感がする。あの小増、このまま放置していいものだろうか』
モニター越しに、イキマは険しい表情で言った。
彼もまた、セレーナ同様にリョウトを警戒していた。そして、クォヴレー自身も。
「考えすぎじゃないか?そりゃまあ、危なっかしいのは確かだけどさ……」
『あいつの目を見ただろう。剣鉄也とやらが絡むと、あれはどう転ぶかわからんぞ』
ここで話していても埒が明かないと判断し、クォヴレーは決断する。
「……先に行こう」
「いいのか?」
「セレーナが一緒に見ているんだろう?見た限り、リョウトは素人寄りの人間だ。
 兵士として訓練されているセレーナが、遅れを取るとも思えない。
 何かあっても止めてくれるだろう。彼女は……どこか、リョウトを気にかけていたようだからな」
「ふーん……ま、いいさ。俺は仲間を信じるよ」
トウマの言葉は、リョウトとセレーナ双方に向けられていた。
『ふん、お人好しどもが。まあいい、それなら早い所出発するぞ』
憎まれ口を叩くイキマ。だが、そんな彼らに自分が感化されていることも自覚していた。

「じゃ、俺達は先に行く」
「さっきも言ったが、合流時間は明日の午前5時!合流ポイントはE−5の橋だ!」
ジョシュアが叫んだ。
時間は、放送前にもう一度情報を交換したいために余裕を持って。
場所は、それぞれの目的地からほぼ同距離で、目印となるものがある場所を選んだ。
「みんな……死ぬなよ」
「お前達もな……必ず、生きてまた会おう」
再会を約束し……ブライガーはギャリィウィルを抱えたまま、北に向かって飛び立った。
海を超え、そのまま光の壁の中に消えていく……
その先に、希望の光があると信じて。

探す光は、既に消え去っていることも知らずに。

138希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:43:30 ID:xKla5UIq
「それがあなたの本性、ってわけですか?」
それまでの口調から一転してドスの利いたセレーナの啖呵に、何一つ動じることなくリョウトは言い放つ。
「身勝手は承知の上ですよ。でも、僕にはあなた達に協力しなければならない義理はない」
淡々とリョウトは続けた。
「そして、僕にはあいつを殺さなきゃならない義務がある。
 何よりも優先して。何を引き換えにしても」
「……自分の不幸に酔ってるんじゃないよ!」
セレーナとしては、事を荒立てたくはなかった。なんとか、説得するつもりだった。
だが、これでは……
「そうかもしれませんね。でも、あなたには言われたくない」
「!!」
「復讐のため、何も頼らず、何も信じず……自分の中で、孤独な戦士を演じている。
 新しい仲間の絆からも、無意識のうちに目を背けて」
「な……!?」
自分の心を見透かしたような言葉に、セレーナは言葉を失った。
「さっきは随分と居心地が良さそうだったじゃないですか。
 あの連中の中にいることで、復讐心が薄まってきてるんじゃないですか?」
何なのだ。この少年は、一体……!?
「そんな中途半端な人に、言われたくない」

止めなければ。何とか説得して。それが無理なら力ずくでも。何が何でもG−6に向かってもらう。
彼は危険すぎる。このまま放置させるわけにはいかない……
それでも、こちらの説得に応じないなら、最悪の場合は……

普段冷静な彼女としては、それはあまりに急ぎすぎた判断だった。
それは、自分の本心を見抜かれたが故の焦りが、心に生じていたのかもしれない。



牙を持つ戦士達は、果てない泥沼に足を踏み入れていく――
139希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:45:16 ID:xKla5UIq
【反逆の牙組・共通思考】
○剣鉄也、木原マサキ、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒
○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測
○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測
○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測
○空間操作装置の存在を認識。D−3、E−7の地下に設置されていると推測
○C−4、C−7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測
○アルテリオン、スカーレットモビルのパイロットが首輪の解析を試みていることを認識
 ただしパイロットの詳細については不明
○木原マサキの本性を認識
○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識
○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE−1橋付近

【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好。リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:F-8
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動指針:ヒイロと合流、主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
 備考2:ブライカノン使用不可
 備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと17〜18時間前後】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好、怪我は手当て済み
 機体状況:良好
 現在位置:F-8
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動指針:ヒイロと合流、及び主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
 備考2:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる
 備考3:ワルキューレは現在ブライガーに搭載されている】

【イキマ 搭乗機体:ギャリィウィル(戦闘メカ ザブングル)
 パイロット状況:戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:E-8
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動方針:司馬遷次郎と和解し、己の心に決着をつける
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】
140希望という名の泥沼 ◆zfN0CkqcCk :2006/09/12(火) 23:46:25 ID:xKla5UIq
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
 パイロット状態:健康
 機体状態:再起動、装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
      額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
      頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
      砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
      コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
      サドン・インパクトは一発限り(腕が吹っ飛ぶ)
 現在位置:E-2
 第一行動方針:ビッグオーの修理完了を待つ
 第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
 第三行動方針:マイ、及び主催者打倒のための仲間を探す
 第四行動方針:戦闘している人間を探し、止める
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
 備考1:フェアリオン・S、ノルス・レイの部品を使って修復中
 備考2:主に作業をするのはエルマ
 備考3:サドン・インパクトに名前を付けたがっている】

【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 パイロット状態:電撃によるダメージ。激しい操縦及び戦闘は不可能。
 機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類損傷、レーダー・通信機など使用不能。
 現在位置:E-2
 第一行動方針:しばらく傷を癒す・ビッグオーの修理完了を待つ
 第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
 最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
 備考:バトルロワイアルの目的の一つ(負の感情収集)に勘付いた?】

【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:健康。リョウトを危険視。
 機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
 現在位置:E-2
 第一行動方針:リョウトをG-6基地へと向かわせる(説得に応じなかった場合は――?)
 第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
 最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
 備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
 備考2:エルマは現在ビッグオーの修理中】

【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
 パイロット状態:感情欠落。リオ・鉄也に対する異常すぎる執着。冷静。
         念動力の鋭敏化。牙組に対し不快感。
 機体状況:弾薬を半分ほど消費
 現在位置:E-2
 第一行動方針:剣鉄也を殺す(手段・犠牲は一切問わない。障害は何であろうと躊躇なく排除)
 第二行動方針:新たな機体を入手し、剣鉄也を探す
 第三行動方針:ユーゼスを殺す
 最終行動方針:リオを守る。「正義」のために行動
 備考:ロボの右足の避難スペースに、リオの遺体が収納されている】

【2日目 21:30】
141遙か広がる戦いの荒野へ:2006/09/13(水) 11:49:46 ID:7DY3m8tV
 補給地点に辿り着き、エネルギーと弾薬を補充する。
 その間、“彼等”に会話は無い。互いの存在を気に掛けはしていたようだが、気まずい沈黙を保ち続けるばかりだった。
 ……彼等の置かれた状況を考えれば、無理もない事だとは思う。
 仕えるべき主人を救えず、共に過ごした仲間を失い、守るべき少女を“化け物”に連れ去られたマシュマー・セロ。
 自らの無力から片腕であった部下を殺され、そして部下の仇に対する復讐心を今この瞬間も抑え続けているヴィンデル・マウザー。
 いつ殺し合いを始めてもおかしくない二人だ。
 それがこうして行動を共にしている事は、むしろ考え難い事であった。
「…………」
 機体の自己修復を待ちながら、マシュマーとヴィンデルの二人には休息を取ってもらっている。
 精神的な均衡を欠いていたマシュマーに、負傷を受けて体力を消耗させていたヴィンデル。
 機体の自己修復を待つしかない現在の状況で、出来る事は何も無い。ならば今は身体を休め、不測の事態に備えるべきだ。
 そう二人を説き伏せて、タシロと副長は今の状況を作り上げていた。

「……静かだな」
「はい。とても、殺し合いが行われている真っ最中だとは思えないほどに……」
 幸いにも、と言うべきか。今の所、敵性機体の反応は周囲に無い。
 ディス・アストラナガンとマジンカイザーの戦闘力が失われている現在、もし敵機と遭遇すれば苦戦は免れない。
 いや、それどころか一網打尽にされてしまう可能性すら考えられるだろう。
 このヒュッケバインMK3が弱い機体だとは思わない。
 だが、パイロットの操縦技能には不安が残り、また機体の状況も万全とは言えない。
 この状況下で強力な機体に襲われでもしたら、とても無事では済まないだろう。
 そう。たとえば、あの悪魔のような機体に襲われでもしたら――
142遙か広がる戦いの荒野へ:2006/09/13(水) 11:50:26 ID:7DY3m8tV
「っ…………!」
 思わず、身体に震えが走る。
 あの機体……あれは、異常だ。
 バトルロワイアルのルールを根底から否定しかねないほどの、あからさまな異常性を持っている。
 仮面の主催者、ユーゼス・ゴッツォは確かに言った。諸君らには殺し合いをしてもらう、と。
 そう、殺し合いだ。
 主催者側の目論見としては、それぞれの参加者が各自の意思で殺し合いを始める事を望んでいるはずだ。
 だが、あの悪魔はなんだ。あらゆる意味で、このゲームの主題を外れている。
 マシュマー達の話によれば、あの機体はミオ・サスガと言う名の少女を自らの中に取り込んだという。
 機体が参加者を取り込んでしまい、参加者の意思を外れて動き出す。
 これでは、わざわざ参加者を集めて殺し合いを始めさせた意味が無いのではないか?
 いや、それだけではない。あの他を圧倒する強大な力と、そしてガンダムヘッドによる無差別な攻撃範囲。
 その気になりさえすればだが、一つのエリアを丸々壊滅させる事も可能なのではないか?
 それだけの力を持った機体であれば、ゲームのバランスは容易く崩壊する。
 ゲームとは、全ての参加者に等しく勝機が与えられてこそ成り立つのだ。
 あまりにも突出した力の存在は、ゲームの進行を阻害する要因となってしまう。
 そういった側面から考えても、あの機体は異常だった。

「……副長。率直に聞くが、あの“悪魔”と戦う事になったとして、我々に勝ち目はあると思うか?」
「それは……難しいと言わざるを得ないでしょう。
 あの圧倒的な戦闘力もそうですが、あの悪魔には不可解な点が多過ぎます。
 情報を集めて有効な攻略方法を見出さない限りは、手に負えるものではないと思います」
「やはり、そうか……」
 力が、足りない。
 そして、あの悪魔に関する情報も。
 だが、それでもあの悪魔を放置しておくわけにはいかない。
 悪魔に取り込まれた少女の救出もそうだが、これから悪魔が及ぼすであろう被害を食い止めなければならない。
 あの悪魔を放置しておけば、自分達を含めた全ての参加者は死に絶えてしまう……。
 そうなる前に、止めなければならないのだ。
 この命、賭しても。

 だが、どうすれば。
 どのようにすれば、あの悪魔を倒す事が出来る……?


143遙か広がる戦いの荒野へ:2006/09/13(水) 11:51:13 ID:7DY3m8tV
「タシロ艦長。世話になった、私は行く」
 まだ機体に傷が残ってはいるが、戦闘を行える程度には回復を遂げたディス・アストラナガン。
 ある程度は落ち着きを取り戻したらしいマシュマーから、ヒュッケバインに向けて通信が入る。
「待ちたまえ、マシュマー君! 君の機体は、まだ万全の状態とは……」
「それでも、私は行かねばならないのだ。こうしている間にも、ミオは……!」
「確かに、な……」
 マジンカイザー。やはりまだ万全とは言えない状態の機体から、ヴィンデルが通信を行ってくる。
「貴様一人では心許無い。私も行こう」
「ヴィンデル・マウザー……」
「貴様の為、ではない。あの娘を救う事は、アクセルの願いでもあった。
 ……今となっては遺言だ。奴の上司として、叶えん訳にはいくまい」

 止めても無駄だ。
 二人の決意が揺るがない事は、もはや誰の目にも明らかだった。
 ならば……。
「……我々も同行しよう。あの悪魔の如き機体をどうにかしなければ、どのみち我々にも未来は無い。
 異存は無いか、副長?」
「はい、艦長」



 遙か彼方、東の空に視線を向ける。
 あの空の下に、悪魔が居るのだ。
 ……救いを求める、少女と共に。
144遙か広がる戦いの荒野へ:2006/09/13(水) 11:51:49 ID:7DY3m8tV
【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレストオリジナル)
 パイロット状況:上半身打撲
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動方針:デビルガンダムへの対抗策を考える
 第二行動方針:デビルガンダムをどうにかする
 第三行動方針:リョウトの捜索、シロッコをどうにかする
 最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】

【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレストオリジナル) 
 パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動指針:タシロを可能な限りサポートする
 最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】

【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:強化による精神不安定の徴候
 機体状況:Z・Oサイズ紛失、装甲全体に亀裂(修復中)
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 最終行動方針:ユーゼスを殺し、ハマーンに殉じる】

【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有
 機体状況:装甲全体に亀裂(修復中)
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊
 備考:機体及びパイロットにDG細胞反応は無し】


【ハロ 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 現在位置:B-4
 パイロット状況:機能を完全に停止】

【三日目 3:30】
145 ◆g4Vy1pXIaM :2006/09/15(金) 21:33:28 ID:dmvX4NI2
「戦闘の跡、か……」
二つ目の首輪を入手したシロッコは、D−6を経由してG−6基地へと向かうべく、北上していた。
だが移動を始めてからそう間もなく……左手に、大きな戦闘の跡を発見する。
破壊された街並み。倒壊した多数のビル。
(特にこれといった手掛かりはなさそうだが……む?)
中央の地面に、ロボットが一機通れそうな巨大な穴がひとつ開いていた。
その穴に違和感を感じたシロッコは、穴の中を覗いてみる。
その奥には、通路が広がっていた。
(人為的に作られたもののようだな……隠し通路か?)
少々調べてみる必要がありそうだ……グランゾンは、地下通路へと足を進めた。

それから、どれだけの時間が流れただろうか。
地下通路は暗い上に意外と広く、探索に思いのほか時間がかかってしまった。
そして今、シロッコの目の前には、蒼い粒子の舞う謎の渦があった。
(何だこれは……どうやら、未知の技術が使用されているらしいが……)
ほぼ機能を失ったはずのグランゾンのセンサーが、目の前の渦の異常に、僅かに反応する。
それは渦を中心に、周囲の次元交錯線に激しい乱れが、空間の歪みが生じていることを示していた。
隠し通路、その奥に隠されていた謎の渦。これらは何を意味するのか。
まずは目の前の渦のさらなる調査を行いたい所だが、このまま迂闊にこの渦に接触するのは危険だ。
この通路にはこの場所に来るまでにも、分岐がいくつか確認された。
渦の直接的な調査は、もう少しこの地下通路を探索してからでも遅くはない。
だが手に入れた首輪の解析、新たな手駒の入手などのためにも、G−6基地に早い所向かいたいのも事実。
(さて、どうしたものか……)
146 ◆g4Vy1pXIaM :2006/09/15(金) 21:38:07 ID:dmvX4NI2
とりあえず、頭を落ち着けよう。この通路の探索中も、神経を張り詰めたままだった。
まさかこのような場所に他の参加者が来るとも思えない。シロッコは一息つくことにした。
傍らのカップに、コーヒーを注ごうとする。

「む……?」
そこで、手元のコーヒーが底を尽いたことに気付く。
C−8での最初のコーヒーブレイク、そしてさっきのD−8での考察の間ずっと飲み続けていたのだから、それも無理はない。
「ふむ……まあいい」
コクピットの片隅に置かれた、食料の入ったザックに手を伸ばす。
その中から、やや大きめの箱を取り出し、箱の蓋を取る。
中には、ティーバッグが数個に、洒落たティーカップなど……紅茶セット一式が揃っていた。
コーヒーセットといい、主催者は殺し合いの真っ只中にこんなものを用意してどうするつもりだったのだろうか。
他愛のない疑問はさて置いて、シロッコはティータイムの準備に取り掛かる。

魔法瓶であらかじめ沸かしていたお湯を、カップに注ぎ込む。
しばらく待って、カップが十分に温まったことを確認してから、お湯を捨てる。
そしてティーバッグを入れ、新たに熱湯を注いだ後、カップに蓋をする。
熱や香りが外に漏れないように。ティーバッグで美味い紅茶を入れるには、重要な部分だ。
蒸らす時間は90秒ほどが目安か。

ふと、紅茶セットの箱の奥底に、一枚の紙切れを発見する。
「この紙は……?」
明らかに不自然に挿まれていたその紙には、何やらペンで文字が書かれていた。
これは何だ?参加者に向けられた、何らかのメッセージなのだろうか?
書かれた文字には、どこか怒りのようなものが滲み出ていたようにも思えた。
シロッコは、それを読んでみる。
147サブタイトル ◆g4Vy1pXIaM :2006/09/15(金) 21:39:07 ID:dmvX4NI2






ティーバッグでいれた紅茶など、邪道だ








何これ。



手掛かりとなる可能性は極めて低そうだが、とりあえずその紙をポケットにしまった。

蓋を取る。すると、カップから心地よい香りが漂ってくる。
十分に香味が抽出されたことを確認し、静かに、ティーバッグを引き上げる。
この時、ティーバッグを絞ったりしてはいけない。後味の悪い苦味が出て、不味くなってしまうからだ。

ティーカップに口をつけ、紅茶の味をゆっくりと楽しむ。
なかなか、悪くはない。
この紙に書かれてあるように、邪道だと頭から全てを否定しているようでは、美味い紅茶など入れられはしない。
単純な味ではリーフティーに劣るかもしれないが、入れ方、そして気の持ち方次第でその差は補えるものだ。
シロッコは、この文字を書いた者に若干の哀れみを抱きつつ、一時の休息を楽しむ。
そして、これからの行動について、ゆっくりと検討するのであった。


【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:良好
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
 現在位置:D−7地下通路
 第1行動方針:まずはティータイム
 第2行動方針:地下通路の探索・蒼い渦の調査、及びそれらの考察
 第3行動方針:G-6基地への移動
 第4行動方針:首輪の解析及び解除
 第5行動方針:新たな手駒を手に入れる
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 備考:首輪を二つ所持】

※目の前の蒼い渦の行き先が、イングラムの時同様E−1に繋がっているかどうかは不明

【二日目 21:25】

こうしているうちにも、時間は刻一刻と確実に流れていた。
149それも名無しだ:2006/09/20(水) 12:00:16 ID:5a7CauZV
保守
150全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 08:56:43 ID:d4toFpmO
「まず、差し出がましいことかもしれないが、今わかっていること、成すべきことを確認しよう」
デビルガンダムへ急行する最中、タシロが話を切り出した。
「まず、あのガンダムは、非常に巨大だ。地表から見える部分でも巨大だが……あの竜のような首が地面の中に広がっているだろう」
おそらくですが、と前置いて地中で放射状に広がっていること、首は数百m、そこから数kmは射程であることを副長が付け加えた。
「だが、それでも征かねばならん」
「だからこそ、君たちの情報がまだ救いなのだ。」
「あれだけの巨体なら、自立行動が可能なはずです。しかし、人間をわざわざ取り込んだ。これはつまり人間をなにか重要な機関として
使用している可能性が強いでしょう。そして、どんなマシンでも生物でも再生不可能な機関を失えば……」
「……止まるやもしれん、ということか?」
ヴィンデルの問いに答える声はない。今言ったことは、仮定に過ぎないのだ。だれもはっきりとはわからない。
分からないことを答えられる人間などいない。もし、いるとすれば、その人間は嘘吐きか、ホラ吹きだろう。それでも、みな心の何処かで
はっきりとした正解を望んでいる。微妙な重苦しい沈黙が場を包む。
「結局、ミオを救う、その一点は変わりないか。なら、何がわからずとも成すべきことさえわかれば十分だ……!」
マシュマーが誰言うわけでもなく呟いた。前を、まだ見えぬデビルガンダムを見つめ、それ以外に視線一つ向けない。
「マシュマー……そうか、そうだな」
ヴィンデルがはじめて苦笑して見せた。
やるべきことは決まっているのだ。どれだけ暗雲が立ち込めようと、その先に指標とすべき輝きは見える。それさえ見えれば十分だ。
「やれやれ……年をとると後ろ向きになっていかんな」
「データが足りない以上、わからないことがあるのも当然です。あとは現場で計算すればいいでしょう」
ここで、初めて彼らは意思をひとつに纏め上げた。

ミオを救うために。

「タシロ艦長、あなたに現場指揮をお願いしたい。こう見えても元の世界では総司令官などということをやっていたが、何しろ乗っている
機体が、戦闘特化型の機体だ。戦闘に専念したい。頼めるか?」
「任せてくれてかまわんよ。もちろん、そのつもりだ。では……いこうか。目標への距離は?」
「現在10km。あと数分で到達ですな」
「ここにいる総員に告ぐ!」
たった4人の騎兵隊に、統率者の声が響く。
「これより、我々は人命救助のため、敵機動兵器と接触する!現在確認できる現状では、勝利は薄いかもしれない。だが!
必ず我々が止めねばならない。囚われている彼女はもちろん、今この世界にいる全ての人々のために、他の悪魔を討つ!」
『応!!』
殺し合いの場に似つかわしくもない、正義の轟きが空に響き渡る。
「敵、大型1!小型1!敵スレイブの反応は……観測不能!レーダーで反応のしないところのほうが少ないようですな」
もはやマトモな地面が見えない。そこらじゅうに触腕がのた打ち回る光景は、まさに黙示録の光景だった。
151全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 08:58:47 ID:d4toFpmO
次々とガンダムヘッドが叫び声を上げ、各機に襲い掛かる。
「持久戦は圧倒的に不利な以上、一点突破を狙う、誰も振り向くな!」
カイザーのパワーが、ガンダムヘッドをひねりつぶす。ディス・アストラナガンの攻撃が的確に間接や首の付け根を狙撃する。
「これほどとは、な……」
タシロが嘆息する。まるでこの機体とは、格が違う。これほどの力と、パイロットの技量。ガンバスターですら危ういのではあるまいか?
と思うほどだ。この力なら、主催者を打ち砕くことが可能かもしれない。もちろん、それまでの障害は山ほどある。
しかし、皇帝と悪魔の力はそう思わせるものがあった。
「かならず、生き延びさせねばな……」
これほどの力を、思いを消してしまってはならない。かならず、彼らの力は戦うものの大きな助けとなるはずだ。
そう、この若い2人を生き残らせることが、元の世界ですべてを終え、この世界に来た自分のやるべきことなのだ。
物思いに僅かに傾いた心を起こす声。
「敵、本体来るぞ!」
触腕の海から巨体がせりあがる。ゲッター線を浴び、時間をかけたデビルガンダムは、もはやもとある世界のものを超えるサイズに成長していた。
左右不均等で、右に3本の腕を持ち、左に2本の腕を持つ。首からは歪に生えた2つ目の頭を持ち、下半身もまた顔に酷似している。
肩は四方八方に張り出し、無数の棘をそなえていた。もはや、人工物だったという名残はない。
しかも、ダイダルゲートによる負の感情の収集速度も、加速度的に増えた結果だ。
ダイダルゲートは本来、ウルトラマンガイアとアグルによって撃破された根源的破滅招来体を、帝王ダイダスが取り込んで作ったもの。
時空と次元を超越したゲートは、他の次元のゲートを通じ、初期の負の心に慣らす段階を超え、さまざまな次元から能動的に取り込むようになっていた。
ゲッター線による急速な進化と人の負の感情は、あまりにも歪んだ力と進化をデビルガンダムに与えていた。
――ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥオオオオオオオオオオォォォォォォォヲヲヲヲヲ!!
顔の装甲を引き裂き、デビルガンダムが咆哮を上げた。
肩の棘に光が灯る。1つしか灯っていなかった光はいくつもいくつもいくつも増えていき――
「……!全員散開しろ!急げ!」
悪寒を感じたヴィンデルが声を張り上げた。3人も何かを感じていたのか、疑問も言葉も挟まず散った。
その直後。何十本もの閃光が駆け抜ける。
「あの肩の一本一本が、拡散メガ粒子砲……いや大口径メガ粒子砲か!」
マシュマーは、ディフィレクトフィールドを展開、そのままスピードを落とさずデビルガンダムへ突貫する。
しかし、デビルガンダムはそれを阻むように、メガ粒子砲が正確に襲い掛かる。
「1本、2本、3本……もうバリアの限界だと!?」
ウィンドウに警告メッセージが表示された。
並みの攻撃ならいとも簡単に跳ね返すディフィレクトフィールドがあっという間に磨耗していく。
いったんバリアを解除、すぐさま直上へと飛び退る。何本、何十本という破壊の牙がディス・アストラナガンのわずか背後で輝き続けた。
そして、ある程度上ったところで一気に急降下し……
「悪いが……ここまでだ!」
画面いっぱいに映し出される巨大な鬼の顔。その拳がディス・アストラナガンへと打ち出された。
明緑の光が限界まで噴射され、腕を紙一重でかわす。
「私の邪魔をするな……!」
ドスの聞いた声でマシュマーが言う。
ラアム・ショットガンを抜き放ち、そのままトリガーを引き絞る。散弾を連射し、3発分を打ち込む。しかし、ガイキングにははっきりとした
ダメージを与えることはできなかった。
「悪いが……あれは俺が勝つためにはまだまだ使えそうだからな。壊されちゃこるんでな!!」
角が激しく稲妻を放出する。
「DG細胞で強化したガイキングの力をみせてやる!」
152全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 08:59:51 ID:d4toFpmO
腕がガイキングがまた接続される。その腕を空へと高く掲げてみせた。
「サンダァーブレーク!!」
腕へと稲妻が伝わり、力が収束する。強化されたガイキングの一撃は、空中放電すら可能なレベルに達していた。
(まずい……!)
しかし、本来の帯電量がグレートマジンガーが桁違いに多い。腕を横に振るように振り下ろす。
槍のように飛ぶはずのサンダーブレークは、圧倒的な電力により、大剣のように周りをなぎ払った。
「フィールド展開、エンゲージ……!」
ディフィレクションフィールドが真・サンダーブレークを防ぐ間に肩部ユニットを展開、すぐ目の前の雷にメス・アッシャーを発射。
爆砕。

………
……

「今の爆発、マシュマーは無事か!?」
地表を移動していた2機の直上で爆発が巻き起こる。
「確認はできませんが……無事だと信じましょう。それに……」
ミサイルを壁のように展開。そこに突如触手の海から3匹のガンダムヘッドが先行するMkV襲い掛かり、ミサイルと衝突した。
MkVを回り込むようにカイザーの両手のターボスマッシャーパンチがバリアで足止めされたガンダムヘッドを砕く。
「こちらもそう余裕はありません」
副長の、「さすがにむやみに自分を傷つけることはしないだろう」と言う言葉を信じ、こちらは地表を進んでいた。
この副長の選択は、一方で正解していた。デビルガンダムのメガ粒子砲も、触手を傷つけぬように水平射撃にきりかえられたことに
より、読みやすく、また数も激減していた。
だが、この地表を進むルートは、別の危険を孕んでいた。それが、この「海」より無尽蔵に湧き出すガンダムヘッドが近いこと。
徐々に接近してはいるが、レーダーに存在がポイントされてから、出現までの間隔が短いガンダムヘッドの攻撃をかわすことは
難しく、結果MkVを先行させ、弾幕で進行を止めそこをカイザーが砕く戦法をとっていた。
「戦闘と最大速度を両立させているためでしょうか、エネルギーの減りが激しいようですな。ですが、これでもサイズ対比の『首』の出現率は30%。
大きさから考えれば、これで少ないくらいでしょう」
「だが、いけるところまではやってみようじゃないか……!」
「……いや、もう十分だ。マシュマーの援護と確認に向かってくれ」
ヴィンデルが静かに口を開く。
「もう十分に近づいた。これ以上、このような戦法を取れば、遠くないうちに撃墜されることになる。ここまでくれば、最大速度で一気に
いけるはずだ。それに、その機体では、奴と戦うには逆に足を引っ張ることになるかもしれん」
「何を言っているんだ、ヴィンデル君。まだ奴へは距離がある。ここでやめれば、その機体は……」
「だがこのままいけば撃墜される。」
「なに、その覚悟はあるつもりだ。それに、やすやす落とされるつもりもない」
「頼む」
多くはしゃべらないが、強い調子でヴィンデルが言った。
「ここからは、私とマシュマーだけで十分だ。いや、我々がやらねばならない。だから……マシュマーの援護を頼む。」
そう、これは、アクセルの弔いをかけたものでもあるのだ。だから、その当事者だけで決着をつけねばならない。
まして。まして他人をそれで死なせることなどあっては、誰に顔向けできようか。
だから……
「……分かった。彼の援護に向かおう」
一拍おいて、ため息をつくようにタシロは答えを返した。確かに、このまま行けば、彼の足を引っ張るかもしれない。それだけは避けたい事項だ。
それに、苦戦しているとしたら、マシュマーの援護も必要だ。
「感謝する」
「だが、それは君が死んでいいというものではない。それを覚えておいてくれ」
そう一言言うと、MkVは空へと舞い上がっていった。
「やはり、わかっていたか。……当然かも知れんな」
決死の覚悟をヴィンデルが持っていることにどうやらタシロは気づいていたようだ。だが、それでも彼がデビルガンダムへ一人で
行くことを許した。それは、マシュマーを助けることが必要と思ったこともあっただろうが感謝の言葉もない。
だが、わずかな感慨にふける間もない。目の前にまた湧き上がるガンダムヘッドの群れ。
153全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:00:26 ID:d4toFpmO
「いくぞ、マジンカイザー!」
カイザースクランダーが大きくバーニアを噴かす。一気に速度を上げ、邪魔をするガンダムヘッドを切り裂きながら一直線に。
いくらモース硬度において27を誇る超合金ニューZαとて、無敵の金属ではない。
いくつものガンダムヘッドを切り裂き続け、ビームに掠られ、少しずつ疲弊し、削れていく。
だが、止まらない。カイザーは止まらない。猛烈な勢いを持って、デビルガンダムへ迫った。
空にそびえる鉄の城のごときマジンカイザー。その巨体は、しかし今のでデビルガンダムの前では問題にならぬほど矮小だ。
「うおおおおおぉぉぉぉ!!」
ついにたどり着いたデビルガンダムにカイザースクランダー限界のスピードを落とさず拳を叩きつける。
グシャリ、と砕ける音が響き渡った。
「なんだと!?」
――マジンカイザーの右腕が。
マニュピレーターそのものが使用不可能になったわけではないが、明らかに損傷が見て取れた。
対して、デビルガンダムは無傷。装甲に凹み一つ無かった。
「くッ!」
デビルガンダムを蹴り、爆発に巻き込まれないよう安全な距離とって、ギガスミサイル光子力ビームを打ちまくる。
1発でも機械獣を打ち砕くミサイルと熱線が10発以上デビルガンダムへ打ち込まれた。たちまち爆炎で姿は掻き消えていく。
「これならどうだ……?」
煙が、一筋のメガ粒子砲によって払われた。煙から浮かび上がる巨体には傷一つついていない。
慌てて回避運動を取り、それを避ける。一発目を避けたその先に、狙い済ましたように二発目が来る。
すんでのところでかわしたところに三発目……まるでマジンカイザーのすべてを知り、次弾の弾道へ追い込んでいくように。
ヴィンデル背筋に戦慄の寒気が駆け上る。遠距離でデータの無いときならともかく、この距離で相手のデータを得た
デビルガンダムのメガ粒子砲は、一部の乱れも無い。乱射のように打ちまくりながら、一発も無駄弾を撃っていない。
回避の範囲は確実に狭まっている。
掃射でも乱射でもない。何十発と絶え間なく繰り出される狙撃。
(まずい……!)
ついによけられる方向は下の一部のみ。マジンカイザーがそこに回避すると同時、「海」から大量のガンダムヘッドが昇って来る。
迎撃するしかない――!
そう判断し、ファイヤーブラスターの発射姿勢をとり、一気にエネルギーを開放しする。
ブレストファイヤーの数十倍の威力の熱線がぶつけられ、ガンダムヘッドはまとめて消滅した。
しかし、結果的にマジンカイザーは動きを止めてしまった。つまり……
直後、何本ものメガ粒子砲がマジンカイザーを貫いた。地表に落ちていくマジンカイザーをまた新しいガンダムヘッドが襲い掛かる。
16匹ものガンダムヘッドによりマジンカイザーは見えなくなっていった。


(う、お、あ……)
巻きつくガンダムヘッドの圧力で、コクピットが軋みをあげる。それだけではなった。わずかに割れたガラスの隙間から、長い棒が
出ていた。首をうつろな意識で下に向ける。
そこには、胸、左腕、右肩が長い棒に貫かれた光景があった。
――そうか、この長い棒はアレのうろこのようなものか
もはや痛みすら感じない。どこかから自分を見つめるような気持ちで、そんなどうでもいいことを考えていた。
154全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:00:56 ID:d4toFpmO
(私は、死ぬのか……?)
終わる。ここで人生が終わる。
心の何処かで、それがいいと誰かが呟いた。
戦った。連邦軍として反乱軍と戦った。異星人と戦った。愛する世界が完全に異性人の手に落ちてもゲリラとして戦った。
たくさんの仲間が死んだ。当然のことだ。それでも戦った。ついに星を取り戻した。その後異星人を駆逐するまで戦った。
平和が戻った後も、残党狩りとして戦った。必要とされなくなったとき、今度は政治家として世の中の悪と戦った。
愛する世界が腐っていくことに我慢できず、反乱軍として戦った。司令官として、前線の戦士としても戦った。劣勢のときも戦った。
膠着したときも戦った。優勢のときも戦った。別の世界に行っても戦った。また必ず、生まれた世界に戻り、正すために戦うだろう。
戦って、戦って、戦って、戦い続けた。そして、これからも戦う。
もう、いいだろう。
戦いすぎた。もう、一旦休んでもいいだろう。
一人で、ゆっくり……
一人。一人?
……?
何かやらねばならないことがあったような……?
誰かと、約束した。2つのこと。たくさんの人との約束と、誰か1人との約束
なんだったろう。
思い出せない。思い出せないが大切なことがあった。
思い出せない。まて、なら考え方を変えよう。なぜ大切と思った?どこで引っかかった?
一人。一人で引っかかった。約束は一人心に決めたものではない……?なら、約束した相手は誰だ?
(隊長、信じてますぜ!)
誰だ?
(ここは私たちに任せてください!司令官は安心して本部を一気に落としにいってください!)
いや、一人じゃない。もっと、もっとたくさんの……
(この戦い、本当に私たちは異星人に勝てるのでしょうか?)
(上層部も馬鹿ではない。勝てない作戦は立てないだろう)
答えているのは……私だ。
(隊……長、ありがと……うございます。あなたの、隊に……入れて本当、幸せでした。うおおぉぉーッ!!ヴィンデル隊バンザーイ!!)
彼は……私が始めて受け持った部隊の……
(何をやっているんだ、ヴィンデル。まだやることは残ってるんだろう?なに、潜入工作は任せておけ。気にするな)
アクセル……そうか……これは……
(隊長!)
(ヴィンデル隊長!)
(司令!)
(ヴィンデル!)
私は……私は……

「死ぬわけにはいかない!!」

155全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:01:31 ID:d4toFpmO
瞳にまた力が戻る。血でぬめる操縦桿を握りなおす。体はズタボロだ。しかし、動かないわけではない。まだだ……まだ戦える!
たくさんの名も無き兵士たちが、私に託したのだ。戦士が、本当の意味で生きられ続ける世界を作ってくれと。
アクセルが、託したのだ。彼女を救えと。
「私は私一人で立っているのではない!だから私は立たねばならない、倒れてはならない、戦わなければいけない!」
ヴィンデルの体から輝く。体に突き刺さった棒を伝い、その光は、ガンダムヘッドへ流れ込んでいく。
デビルガンダムに搭載されたダイダルゲートシステム、それは人の心を集める装置。
それがヴィンデルの意思により、逆流とも呼べる現象を引き起こした。ダイダルゲートが集めるのは負の心だけではない。
ただ、場に満ちる魂にそちらに属するものが多かったからそうなっただけ。正義の意思を持つものが、人のために心を集めることもある。
矮小な人間一人の……いや幾人もの命の輝きが、圧倒的な巨体を苦しめた。
拘束の緩んだ隙間から光が漏れた。ヴィンデルだけではない。マジンカイザーまでもが光り輝き、時を巻き戻すように再生している。
「マジンカイザー、立ち上がれ!お前もツヴァイザーゲインと同じく皇帝の名を冠するものならば!!」
突然なにもしていないのにガンダムヘッドははじけとんだ。
いや、違う。高速の斬撃の衝撃波が吹き飛ばしたのだ。
『兜甲児ではなきマジンカイザーの適応者よ……運命の力が今、お前を真の主の一人と認めた……もはや模造品ではない……真の力を!』
胸に『神』の一文字が刻まれる。
皇帝マジンカイザー。それは、人の意思を持って振るわれる魔神の力の化身。


「いかん!緊急回避だ!」
「弾幕を張ります!」
MkVがマルチトレースミサイルを撃ち、目くらましの役割を果たす。
「無駄だ!ドリルプレッシャーパンチ!」
ガイキングの腕に突然刃が現れた。さらに高速回転でうなりを上げ、ミサイルの雨を潜り抜け、MkVの右腕をえぐり飛ばした。
「やらせん!」
鷹のように上空からディス・アストラナガンがラアム・ショットガンを撃ちながら、ガンスレイブを使ってガイキングの追撃を阻止する。
「無事か?」
「腕部破損。まだ問題はありません」
「だが、これは……」
「何を話している!まだまだいくぞ!」
ガイキングの猛攻がMkVとディス・アストラナガンを襲う。2vs1にもかかわらず、戦いはガイキングが圧倒していた。
突っ込んでくるガイキングに、フォトンライフルとラアム・ショットガンを放つ。当たったが、ダメージはほとんど見られない。
しかも、簡単な傷ならば数分で直してしまう。
逆に、ガイキングの一撃はどれも必殺と呼ぶにふさわしい威力を持っていた。わずかに当たるだけで、深刻なダメージがあることが
あるほどだ。
「このままでは、両機とも撃墜されるやもしれんな……」
(あれを……アイン・ソフ・オウルを撃つべきか?)
そう、今ガイキングを倒しうる唯一の可能性。それは、ディス・アストラナガンに搭載された絶対消滅兵器。
  アイン・ソフ・オウル
(しかし……)
胸をマシュマーは少し押さえた。
本来、時を渡る者や、怨念の王たるものしか扱えなかった力。人の手に余る代物だ。
もともと、ディス・アストラナガンの力を引き出すものは、不の心を持つもののみ。なぜならディス・アストラナガンの力の源が不の心だからだ。
つまり、下手に力を解放させれば、我が身の破滅を引き起こしてしまう。いや、どう扱おうが、ただの人間の域を出ないマシュマーの魂は
削られていく。むしろ、強化人間であることは、魂の出力を促進するものであった。
あと、アイン・ソフ・オウルを撃てるのはせいぜい2発。それ以上はマシュマーの魂が耐えられないだろう。
(皮肉だな)
破滅に近づけば近づくほど、魂は機体と同化し、より、この機体のことを熟知し、力を引き出せるようになる。
そして、今機体の力を完全に引き出し、すべてを知ったころにはすでに破滅へカウントダウンが始まっている……。
「マシュマー君、われわれが隙を作る。その間に行きたまえ」
――それでは、そちらが――
そんな言葉がのどまで出掛かった。
「わかった」
今、自分がなすべきことをなさねば。それは、ミオを救うこと。それ以外にかまっている暇は無いのだ……!
156全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:02:30 ID:d4toFpmO
「そう、それでいい。副長君、悪いが、一斉攻撃後分離してくれ」
「……タシロ艦長、なぜ」
「もう、ここまでくれば、あとは彼らに任せよう。その残りの後始末は私だけで十分だ」
「いえ、そうは言わせませんよ。あなたもあのヴィンデルという男と同じです。大切なことを忘れています。
……もともと艦長、クルー、艦は一蓮托生でしょう」
「いや、君は若い。まだ……」
「それに、『計算』では艦長一人では無理とでました」
そう言って少し副長は笑って見せた。そんな計算、あろうはずが無い。そんなこと、計算できるはずが無い。
「なんてっこった……まったく、強情とは思っていたが、ここまでとはな」
帽子のつばを指でなぞり、タシロもまた笑って答えた。
「では、行きましょう。カウント」
ガイキングが2機へと迫る。
「3」
あと8秒で接触
「2」
ディス・アストラナガンが駆け出す。
「1」
ガイキングの意識がそちらに僅かだが移行した。
「……今だ!」
MkV、ガンナーユニットの両方に内臓された大量のマイクロミサイルが発射され、さらにフォトンライフルと、残った砲門から
Gインパクトキャノン――念動力者がエンジン制御をしてないため低威力だが――がミサイルの隙間を埋めるように注ぎ込まれる。
発生する爆炎。爆煙。爆発。
その隙にディス・アストラナガンは一気に駆け抜ける。
「逃がすか!」
これほど大量の攻撃を受けながらも、ガイキングは正確にディス・アストラナガンへ腕を向ける。
爆発の煙や熱でマシュマーはそのことに気づいていない。
「しまった……!?」
分離から加速の一瞬の隙。MkVもガンナーも反応できない。腕が今、もう数瞬で発射される、その刹那。
輝きが戦場に満ちた。
生命の輝き。光の炎。
マジンカイザーの放った輝きは、また別の戦場にも影響を与えた。
「なんだ!?あの輝きは!?う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」
突然ガイキングがもだえ苦しむ。しかも、焼けるように装甲から白い煙をあげ、身をよじる。
「今だ!」
ガンナーユニットが、ガイキングの腹部にぶち当たる。そのまま、艦首に当たる部分を撃ちながら、下に向けた。
どんどん高度を落とし落下していく。
「く、この程度で!」
ガイキングのもう一つの顔の口が大きく開く。しかし、ガンナーユニットはまったく臆せず、そのまま口へと吸い込まれていく。
「このまま地表に落とすつもりだったのだろうが……計算が違ったな!」
顎でガンナーユニットが噛み砕かれる。さらに、コクピットへパンチを繰り出した。
「計算違い?いいえ、計算通りです。……タシロ艦長、艦では酒は厳禁でしたからな。向こうで酒でも飲みましょう」
さらに副長がペダルを押し、加速させるのと、コクピットが潰れるのはまったく同時だった。
主を失っても、ガンナーユニットは加速し、鬼を地に落とした。
鉄也の体に2回猛烈な衝撃が伝わった。一回目は、地に落ちたとき。では2回目はいったい?
鉄也が状況を確認しようとカメラを見る。
「な……」
写っているのは、ヒュッケバインMkV。そう、2回目の衝撃の正体は、ヒュッケバインMkVがt両足に組み付いたときの衝撃。
ヒュッケバインはバチバチと音を立てる。しかも、関節をすべて固定し、ガイキングにしがみ付いている。センサーで確認すると、
敵のエンジンの熱量が異常なほどにあがっている。まさか。
「自爆!?死ぬつもりか!?」
「いいや。」
タシロが最後のセーフティを解除する。さらにエンジンが回転数をあげ、ついにウィンドウにはLimit Overの文字が表示させる。
それでも、まだ出力を上げ、回転させる。
「託すつもり、だ」
そして、トロニウムによる大爆発が起こった。

157全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:03:00 ID:d4toFpmO
ビームの隙間を駆け抜け、マジンカイザーは突進した。デビルガンダムの演算とデータを超えるスピード。カイザーブレードを
振りかぶり、デビルガンダムの頭上に振り下ろす。デビルガンダムは3本の右腕でそれをうける。二本の右腕が斬られて飛び、
3本目の半ばで刃はとまる。さらに力を入れて押し切ろうとするマジンカイザーに対し、デビルガンダムは胸部を展開。
中から巨大な砲塔が現れ、緑色の光線――ゲッタービームだ――を発射。マジンカイザーを弾き飛ばす。さきほどまでの攻防
から見るなら、マジンカイザーはグシャグシャに潰れるはずだった。しかし、今では装甲がひび割れるのみ。
さらに打ち込まれるメガ粒子砲をすべてかわしてみせた。
ヴィンデルは、今マジンカイザーと完全に一つになったといっても過言ではなかった。
マシンを操縦するものが、時として感じる完璧な一体感。それだけではない。ただ、ひたすら圧倒的な力が体に宿っていた。
燃えるような赤みを帯びたカイザースクランダーの加速がヴィンデルの体に強烈なGをかける。
だが、痛みは無い。むしろ、風を切る心地よさ――感じられるはずの無い――だけがあった。
瞬きする間に距離を詰め、加速を剣の切っ先にすべて載せた。裂帛の気合とともに振られる豪剣。
次の瞬間、マジンカイザー必殺の一刀により、デビルガンダムの下半身の顔は横一文字にたたききられていた。
大質量をものともせず、切られた勢いでデビルガンダムの体はチリジリになった破片を撒き散らしながら転げていく。
しかし、この程度で今のデビルガンダムを倒しきることはできない。
下から沸き立つ触手と、体からあふれる触手が絡み合い、植物と蛇をない交ぜにしたような下半身を再生させた。
――ア゛ガジッグレ゛ゴード……ア゛ガジッグレ゛ゴード!ア゛ガジッグレ゛ゴォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ドッ!!
口腔から金属をすさまじい力でねじり上げるような声で、自分の永遠の怨敵の名を叫ぶ。
すでに、デビルガンダムは心を吸い上げすぎ、希薄ながら自分の意思を持つようにすらなっていた。
先ほどの衝撃で壊れた場所を骨格と外装を組み替えながら、再生される。
そこへさらに追いすがるマジンカイザー。
――ヴゥオオオオォォォ!!
突然マジンカイザーの目の前に触手の津波が十重二十重に発生し、飲み込んだ。
「ヴィンデル・マウザーッ!」
ついに追いついたディス・アストラナガン。飲まれていく瞬間を見たマシュマーが声をかける。
「マシュマー・セロか。離れておけ。巻き込まれると危険だ」
意外なことに、まったくあわてた様子の無いでヴィンデルが答えた。
「しかし、脱出できるのか?死ぬぞ」
「私が死ぬ……?」
その言葉を、鼻で笑って見せた。
「私は死なん、まだやることがある。それに、私は独りではないからな!」
巻きついたガンダムヘッドが少しずつ、少しずつ溶け、煙を上げた。
「光子力エネルギー、フルチャージ!いくぞ、お前たち!!」
溶け崩れたガンダムヘッドの隙間から閃光が柱のように伸びる。
「カイザァァァァァァ・ノヴァ!!!!」
一瞬で夜空まで染め上げる。大気すら焼く、無限に限りなく近い熱量が発生した。
まとわりついていたガンダムヘッドはもちろん、直下では地下のガンダムヘッドすら一瞬で蒸発した。
離れていたディス・アストラナガンでさえ、あおりを受け、体制を崩すほどだ。
そして、地面をガラスの鏡面のようにした後、マジンカイザーによって発生し、周囲を焼く尽くした恒星のごとき光球は、
急速に力を失い、消滅する。
158全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:03:32 ID:d4toFpmO
すべては消え失せ、チリも残らないクレーターが出来た。
マジンカイザーが周りを見回した。
「……そこか!」
マジンカイザーが何も無い地面へまっすぐと飛ぶ。そして、カイザーブレードが地面の一点を刺し貫いた。
カイザーブレードを力任せに振り上げる。そこには、デビルガンダムが突き刺さっていた。一気に地表に引き上げる。
ガンダムのコクピットは胸部、というマシュマーの言葉を思い出し、胸部装甲を強引に引き剥がす。
本来マシーンにあるべき操縦桿やスクリーンといったものはまったく無かった。
中からあふれる触手を掻き分け、マジンカイザーが手を入れる。マジンカイザーの動きが止まった。
そして、一気に手を引き抜く。握られているのは、間違いない。
銀色の皮膜のようなものが砕け散り、青い豪奢なドレスを着たツインテールの少女が現れた。まだ、気を失っているようだ。
「……ミオ」
通信からマシュマーの安堵の声が聞こえた。
しかし、まだ一筋縄では行かない。主を引き抜かれたデビルガンダムが暴れ始めた。全身の全間接から触腕を戦慄かせ、
離れようとしたマジンカイザーを追跡する。
「く……!」
両手を被せて、風や舞い散る破片からミオをかばいながら、空を飛ぶ。しかし、この状態では攻撃を仕掛けることも、
最大速度で飛ぶことも難しい。少しずつではあるが、確実に差は迫っていく。
(あと、1分、いや30秒で追いつかれる!?)
何本もの触腕がマジンカイザーを追い詰めた。だが、今この場にいるのはマジンカイザーだけではない。
「よくやった。後は私に任せろ……!」
ディス・アストラナガンが胸部を腕でこじ開ける。
左右に内蔵されたディーンの火とディスの火が限界まで力をくみ出す。出力を開放された心臓がうなりを上げた。
「テトラクテュス・グラマトン!回れ、インフィニティーシリンダー……!!」
究極、絶対消滅の力が胸へ集中する。
僅かに、マシュマーの体が傾いた。目の前が薄く白くなる。
――思ったより命のときが少ないか。
あまりに機体の力を引き出しすぎたことによる副作用がマシュマーを蝕む。
(思ったより消耗が激しいな……だがまだ!)
そう、まだだ。このときのために温存していた一撃。今、この時を持って全てを断つ!
「受けろ!アイン・ソフ・オウル!!」
制御も何も無く方向性のみを与えられ放出されるエネルギー。
周囲の待機をゆがませ、ガンダムヘッドの破片を舞い上げながらデビルガンダムの本体へと飛ぶ。
当たったデビルガンダムを中心に、閉鎖された空間を生み出す。その周囲を回る蛍のような光がデビルガンダムを食い荒らす。
下半身、右腕、胸部、腰部、頭部――……みるみるうちにデビルガンダムがこそげとられていく。
最後に、空間が元に戻る反動でおこる大爆発。
後に残るは、僅かに残った腕一本。
マジンカイザーを追いかけていた触手がしおれていく。
それだけはない。
次々と触手が弾けては赤黒いタールのようなものになっていく。3分もたつころには、個体はなくなり全てがタール状になっていた。
「……終わったな」
「ああ、終わった」
2機は並んで崩れていくさまを眺めてた。
2人そろってミオを見る。見たところ、外傷はまったく無い。ただ、寝ているだけに見えた。
「勝ち目の薄い戦いだった。しかし、大切なものを私に思い出させてくれた」
「……大切なもの?」
「人の意思、だ。まったく、司令官などという立場に立ってから、後ろを見ることをしなかった自分が愚かしい」
159全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:04:13 ID:d4toFpmO
「そうか。人の意思か……」
何か思うことがあったのか、静かにマシュマーは頷いた。
ぐるりと地平まで広がるタールを見回し、ある一点を見据えた。
「本当に、勝ち目のない戦いだった。あの2人も……」
「……タシロ艦長、副長の二人に何か会ったのか?」
「鬼を倒すため、自爆攻撃を敢行したようだ。背後で異常なほどのエネルギー反応があった。」
静かに、軍人として、人として二人は敬礼した。、自分達の確執に付き合い、命を落とした2人。
出来ることなど無いが、せめてそれが最大の手向けになるだろうと祈りながら。
タシロたちのその場その場での的確な行動が無ければ勝てなかったろう。
ヴィンデルがガンダムヘッドと接触し、力を引き出さねば勝てなかったろう。
マシュマーが最後の場に居合わせ、消し飛ばせねば勝てなかったろう。
ミオがデビルガンダムの中で意思を繋ぎ止めねば、救出は不可能だったろう。
運命の歯車が最高の形でかみ合わなければ勝てない、それほどにあやふやなあって無きに等しい可能性を潜り抜け、勝った。
その勝因とは何だろう?
おそらく、答えは望み。どんなに可能性が薄くとも、その望みを信じ、皆が自分の意思を持って突き進んだからこそ訪れた結末。
「では、ここまでだ。次合うときは、お互い敵だろう」
ディス・アストラナガンが背を向けた。
「何故、そこまでする?」
「ハマーン様のためだ」
「やれやれ、お前も私と同じだ、大切なものを忘れている」
ため息をヴィンデルがついた。
「私に、そのハマーン・カーンなる者のことは知らん。しかし、お前がそこまでをする人物だ。よほどのものだったろう。
なら、その聡明な者がお前の今の行動を望むと思うか?」
「だが、それ以外にやりようなど知らん」
「なら、さらに私が言ってやろう。今、お前がやるべきことは、主催者と戦うことだ。このガンダムだったか?を見てもわかるだろう。
このゲームは、ただの殺し合いではない。裏で、もっと大きな何かが蠢いている。主催者の望むようにな。殺し合いはおそらく
その一つだ。つまり、お前がむやみに人を殺せば、殺すほど主催者はあざ笑うだろう。『自分の思う壺だ』とな」
「………」
マシュマーは無言。さらにヴィンデルは話し続ける。
「やるべきことは、主催者を倒すこと。そして……マジンカイザーとディス・アストラナガンにはその鍵となるかもしれない力と、
可能性を秘めている。だからこそ、だ。主催者を倒しうる力を無駄に振るって、死ぬまで戦うか、共に最大の敵であるヤツを倒すか」
まっすぐマシュマーを見つめ、真摯に話しかけた。
「私は、アクセルの仇を打つためにも戦う」
いったん切って、強調する。
「さて、どうする?」
「…………」
「…………」
お互いに無言で相手の目を見る。
「……わかった」
マシュマーが静かにだが、強く言った。
すっとマジンカイザーが腕を差し出した。ディス・アストラナガンも手を握り返す。
「これからは、仲間だ。頼ってくれてかまわんぞ」
「……ああ、これからも頼むぞ」
160全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:04:43 ID:d4toFpmO
――これでいい。
マシュマーはそう思った。もう、わずかばかりの命。ならば、ヤツを打つため、一矢報いるために使おう。必ず、ヤツに牙を突き立てる。
それでこそ、ハマーン様をお喜びになるだろう。胸のバラを掲げ、清清しげにマシュマーは夜空を眺めた。
デビルガンダムは倒れた。
ついに、ここに最強のタッグが完成する。
ここから、始まる。新しい道が。そう――――――













                                                         ――――――最悪の悪夢が。

161全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:05:15 ID:d4toFpmO
タールが、嘲笑った。
そう形容するしかない光景だった。
突然、ゴボリと泡を立て始め、まるでマグマのように滞留したと思うと、この世に在らざる声で騒ぎ始めた。
他人を呪う様に。世界を恨むように。そして、誕生を祝福するように。
粘液からなる肉体が、硬質化する。
「何が起こっているのだ!?」
「わからん、しかしこれは……これは……すさまじいプレッシャーだ!」
――――爆縮していた。
小都市ならすっぽり包み込むほどの量のタールが、小さく集まり、一つになろうとしている。
あまりに急な収縮により、まるでブラックホールが発生し、吸い込んでいるようにすら見えた。
赤黒い負の心の塊が、一気に凝縮された。液体が固体へと変化する。
僅かに残った腕が空へ浮き上がり、タールに包まれ、なめらかな人の手をしたものになった。
そして―――
「……『月』?」
ヴィンデルがそう呟いたのも無理はない。直径100m前後の球形になった。きちんとクレーターのようなものまで刻まれている。
2機に異変が起こる。
『何……!?』
二人の声が重なった。
マジンカイザーが突然地上に落下した。
ギリギリで噴射して、どうにかミオを傷つけないように軟着陸。機体の状態をチェックすると、Over Heat の文字があった。
理由は何度調べても『不明』の二文字しか表示されない。いつの間にか胸のマークも『Z』に戻っている。再起動には、6分30秒と表示された。

一方ディス・アストラナガンはまったく逆の反応だった。
「どうしたのだ!私の言うことを聞け!」
勝手に動き始め、ガンスレイブを射出、その赤い双眸は今までに無いほど煌々と輝いていた。
「あの『月』がそれほど気になるのか!?あの月は何だ?」
――クォヴレーが倒した霊帝と――俺が倒したゼストの融合――ユーゼスの最終目標――その原型――
「何だ……誰だ私の中に入ってくるのは?」
――いそげ――時間がもう尽きようとしている――荒療治だがすべてを教える――受け取れ――
「私の中に入ってくる……!?う、おお……?」
うめき声を上げたあと、マシュマーが動きを止めた。焦点の合わぬ目で虚空を見つめている。
「マシュマー?マシュマーどうした!?」
呼びかけても何も反応を返さない。
強化人間なる通常と異なる感性が何かを感じ取ったのだろうか?とヴィンデルは判断した。
「あの『月』はいったいなんだ?何を引き起こしているのだ?」
月を見上げ、呟く。その声に、答えるものがあった。
「いや、違う。あれは『卵』だ」
上空から涼やかな声が聞こえた。
上空を振り仰ぐヴィンデルの目に映っているのは――
「馬鹿な!お前は死んだのでは……!」
――ガイキング
162全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:05:46 ID:d4toFpmO
「俺は戦闘のプロだぞ?あのくらいで死にはしない。しかし、またゲッターのまねをすることになるとは思わなかったがな」
自爆の直前、ガイキングは分離して組み付かれた足をはずしたのだ。あとは、元々マッハ3のガイキングである。
高速でその場を離れ、デビルガンダムに作らせておいたスペアパーツと交換したのである。
「まったくもしものときの予備ぐらいは作っておくものだ」
憮然と言う鉄也。
「貴様……!」
今にもそのまま食いかかっていきたい思いを抑え、ヴィンデルが冷静に状況を把握しようとした。
マシュマーが起きる時間と、マジンカイザー再起動への時間も稼がねばならない。
「先程、あの『月』を『卵』といったな、どういう意味だ?」
「詳しくは、俺も知らん。どうも、あやふやなもので俺とあれは接続されているようでな。分かることは、
『あれにあるものを除き接近を許すな』ということ、『圧倒的な力を持つものが生まれる』こと、そして、『そこのマシンを嫌っている』ことだ」
「『あるものは除き』?」
「他は聞かれてもわからんが、それは答えてやろう。あるものというのは……あれだ」
ガイキングが親指を立て、空を見ろと示した。
ドォゥ――――!
鳥の様な頭部と長い首を持つ、細身の怪鳥が、月に向けまっすぐに突っ切っていった。
「怪獣!?いったい、本当に何が起こっているのだ!?圧倒的な力?そこのマシン……ディス・アストラナガンのことか!?」
デビルガンダムという成長、進化する敵。消滅の後現れた月。突如暴れるディス・アストラナガン。今度は怪獣……
完全に常人の理解の範疇をはるか離れたものだった。
「聞かれてもわからん。むしろ、そこのマシンに聞いたらどうだ?随分と嫌っているようだからな、何かあるんじゃないのか?」
「ディス・アストラナガンと、何かある?」
「だから聞かれてもわからんといっているだろう。それより、もう時間稼ぎはいいだろう?」
鉄也の顔に勝利の確信が浮かぶ。
「動かないようだったから様子を見させてもらったが……どうやら動けないの間違えだったようだな」
カウンターパンチをディス・アストラナガンに向ける。今度こそ倒しきるために、コクピット狙いだ。それでもディス・アストラナガンは動かない。
瞳を光らせ、静止している。オーバーヒートで行動できないヴィンデルには見ていることしか出来ない。
ガイキングの腕が発射された。硬く握り締められたコブシはそのままディス・アストラナガンに―――
「そうか……そういうことか……」
直撃しない。ディフィレクトフィールドが直前で跳ね返した。
「ハマーン様があそこにいらっしゃるのだな!?」
ディス・アストラナガンは月を見据え、加速を始めた。しかし、鉄也はそれを許さずサンダーブレークでゆく手を阻む。
「悪いが、いかせん」
「黙れ………!」
気の弱いものなら気絶しそうなほどの殺気のこもった目が、鉄也に向けられる。
「そうか、なら、こうするだけだ」
ガイキングは腕をひょいとマジンカイザーへあげる。
「あの男と、あのマジンガーもどきの手の中にものが駄目になるぞ?それでもいいのか?」
「いいだろう……!すべてがわかった以上、出し惜しみは無しだ。お前を倒し、ミオの安全を確保する。そして、『ゼスト』を生まれる前に倒し、
ハマーン様の魂をお救いする。それが私に与えられた運命だ!」
「倒すだと?やってみろ!」
「言われなくてもわかっている……!ディス・アストラナガンよ、いくら我が命削ろうともかまわん!」
163全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:06:46 ID:d4toFpmO
「待てマシュマー!『ゼスト』とはなんだ!?」
ディス・アストラナガンが吸い込んだ力を感じ、歓喜の唸りをあげた。
ヴィンデルの声を無視し、ディス・アストラナガンが虚空を踏みしめ飛び上がる。
雲を、大気を引き裂きガイキングへ。
「そうだ!それでいい!!」
ガイキングの顔がひとりでに弾けとび、真の顔が明らかになる。それは、さらに異常さを増す鬼の顔だった。
「ガイキングミサイル!」
1分間に300発という速射がディス・アストラナガンに飛ぶが、今まで最高のありえない速度で加速、そしてありえない角度で急上昇、
ミサイルは見当違いの場所に飛んでいく。
ガイキングの上空へ舞い上がった瞬間、点の月が僅かに翳った。
腕を交差させ、防御の姿勢をとるガイキングを、そのままディス・アストラナガンが殴り飛ばす。
「これほどのパワー……、いったどこからだ!?」
特殊な体術を行ったわけではない。ただ無造作に殴り飛ばしただけの一撃で、身長を倍するガイキングを吹っ飛ばした。
が、ディス・アストラナガンのうでも数m縮み、しわのような凹凸が生まれていた。
折れた腕をつかみ、無造作に引っ張って直す。それだけで完全に直っていた。
指揮者のように手を振り上げ、優雅に下ろす。
ガンスレイブは、その動きにあわせ、あるものは急速に加速し、あるものはスピードを落としまわりこむように動き、
あるものは狙撃し、またあるものは食いつき装甲を噛み破ろうと複雑怪奇に飛び回る。
一匹一匹が多角的に攻撃を仕掛け、ガイキングの装甲を貫く。
だが、ガイキングにダメージは無い。確かに装甲を抜いてはいるが、一匹一匹の力が弱いため、変化したDG細胞で生まれ変わった
ガイキングの再生速度を上回らないのだ。
ガイキングは両角から激しく放電。すると、次々とガンスレイブが弾け、すべてが打ち落とされた。
「その程度では意味が無いぞ?」
「そうか……なら確実に止めをさしてやる!!」
さらにいままでで最高の速度で加速。
ディス・アストラナガンが、本来の操縦者のであるクォヴレー・ゴードンが、霊帝を打ち砕いたときの性能に限りなく近づいていく。
外勤の周りを円を描くように回りながら、ラアム・ショットガンを打ち続ける。
その散弾も、暗い光の尾を引き、最高の威力と速度を兼ね備え、打ち出される。
ガイキングは回避行動を開始。『点』ではなく『面』の攻撃であるショットガンをうまくかわしていく。
空中で灼熱のつぶてを放ちながら、ディス・アストラナガンの側面へ回り込もうとする。お互いが最高の攻撃点をもとめ、加速し続ける。
隙を見て攻撃を続けるガイキング。ディス・アストラナガンは、直撃コースではない限りディフィレクトフィールドを利用し、
攻撃をそらしていくことによって最小限の動きを作り出し、攻撃を続けた。
あるとき、お互いの腕に攻撃が直撃した。
「まだだ!」
もげた腕が地に付くよりも早く再生させる。
ズバン!!と、空間を見えない腕で叩く。すると、なくなったという痕跡すら残さず元に戻った。
ガイキングは、もげたところから動サイズの腕がきしませながら出現、もちらも元に戻った。
燃える
燃える
燃え上がる
マシュマーの魂が、ディス・アストラナガンにくべられ、燃えている。
まるで、消える直前のろうそくの様に、煌いている。
再生した腕にはZ・Oサイズが握られていた。
164全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:07:17 ID:d4toFpmO
またガイキングの角が大量の電撃を集め始めた。
「これがかわせるならかわしてみせろ!」
その場をまとめて埋めつく雷が覆いかぶさるように投げ込まれた。逃げ場などない。
「見える、私にも見える!奴のプレッシャーが……悪意の連なりが!」
超高速を超えた超光速をもってディス・アストラナガンが光の速度で迫る雷の僅かな隙間を駆け抜けた。
Z・Oサイズを振り上げ、無防備なガイキングを両断しようとする。
「だが、この程度!」
ガイキングは放電を即刻中止、両手を使いZ・Oサイズを真剣白刃取りした。そのまま、動けないディス・アストラナガンに
ハイドロブレイザーを撃とうとする。
「エンゲージ!」
ディス・アストラナガンもその状態のまま、メス・アッシャーの発射準備。
ガイキングのハイドロブレイザーは、致命的なダメージをディス・アストラナガンの下半身に与えたが、ガイキングの両腕も
メス・アッシャーを受け、因果の彼方へ飛ばされ、爆発した。
距離をとり、お互いダメージを再生させる。
マシュマーがそのときむせかえった。べっとりと血が栄光のネオジオン軍の制服につく。それではなかった。
全身から汗を噴出し、まるで高熱を出して倒れそうな様子だ。
――すまない――本来、俺がやらねばならんことを―――
青い髪の男――姿は見えないが、なぜか確信できた――がマシュマーに謝罪した。
「勘違いをするな!お前のためではない、ハマーン様を救うため、ミオを守るため、そして私の誇りのため……そのためだ!」
――まだ完成していないゼストを砕けば――魂は開放されるかもしれない――
「わかっている、先程お前が導いた記憶、確かに受け取った」
ところどころ意識まで飛び始めた。それでも戦いをやめるわけにはいかない。世の中には、命よりも崇高なものがある!
「そちらが刃物を使うというのなら、こちらも使わせてもらおう。こい!ダイターンザンバー!」
鉄也の呼びかけにより、どこからかガイキングとほぼ同サイズの剣が飛来した。
「戻るとき、回収していたものを再生させたものだ。硬度は今まで以上だぞ!」
ガイキングが先に仕掛けた。ダイターンザンバーが風をまいて駆け抜ける。マシュマーも鎌の特性を生かし、遠心力を使いながら
刀身の軌跡をかいくぐって、ガイキングを狙う。
しかし、ツバメのようにダイターンザンバーがひるがえり、ダイターンザンバーとZ・Oサイズはぶつかった。
ガラス同士がぶつかるような、冷たい響きが夜空に木霊する。
通常、大剣は、一撃必殺か後の先を狙うものだが、ガイキングの膂力と鉄也の技量は、片手剣なみの交戦点を与えていた。
その特性をフルに生かし、スピードをまったく落とさない。
まるで、ガイキングの肩口を中心にダイターンザンバーが勝手に回っているようだ。
ディス・アストラナガンは、小回りが聞くことを利用し、確実に制空権を確保し、閃光のように鋭い一撃を素早くねじり込んでいく。
いったい何合打ち合ったか分からなくなったころ、ガイキングがいったん距離をとった。
「さぁ、始まるぞ!ちょっとしたスペクタクルだ!」
鉄也の声と連動するかのように、『月』が動きを見えた。
――まずい――体の生成が完了したか――?――
『月』の外円が皆既日食の時のように光った。
そして――――――
『月』の表面から黒い半透明の巨大な腕が現れ、衝撃波で『月』攻撃を仕掛けていた怪獣をつかんだ。
そして、腕から生えた小さな同じような触手が生え、怪獣に食い込んでいる。徐々に腕の色素が濃く、逆に怪獣の体は薄くなっていく。
――まずい――直接同化して――のっとるつもりだ――あれでは抗いようが無い――
しばらく怪獣は暴れていたが、動かなくなった。
165全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:07:48 ID:d4toFpmO
腕は、怪獣を『月』に取り込んだ。
『月』の表面が跳ねた。浮き上がった形は、何処か人の形に見えた。
「胎動が始まったということか!?」
――おそらく――日の出が限界だ――もう時間が無い――
状況の悪化が焦りを呼ぶ。
しかし、時は待たない。ガイキングはまた攻撃を仕掛け始めた。
「なぜ、あれの味方をする!?あれが何か分かっているのか!?」
激しく戦いながら、会話は続く。
「分かっているさ!あれが他の参加者を皆殺しにするものだとな!」
ドリルプレッシャーパンチが発射される
「自分は逃れられるとでも思っているのか!?」
それをかわし、ラアム・ショットガンを弾幕を張るように撃つ。
「思っちゃいないさ!だが、その覚悟はある!どの道、皆殺しにするのは変わらん。一人では骨が折れるようなのでな、力を借りることにした!」
上からガイキングが回り込んできた。
「利用されているというのがなぜ分からん……!」
Z・Oサイズでガイキングの突進をさばく。
「利用されているんじゃない、俺が利用しているだ!そのためにはちょっとは働く必要はあるだろう!」
身をひるがえし、光線が発射された。
「そう考えるよう思考が誘導されていることに気づけ!」
メス・アッシャーでそれをまた迎撃。
「なんだっていいさ!俺が優勝するのならな!」
爆発で、お互い距離が開く。
――力が足りない。
そのことをマシュマーは感じていた。倒すためには、まだ力が足りない。
だが、これ以上は、命つきかけている彼には無理だ。
――落ち着け――今のお前は独りではない――
その言葉で、あることを思い出した。先程かわした、約束を。
『――これからは、仲間だ。頼ってくれてかまわんぞ』
「そうか!」
マシュマーが気がついた。
「ヴィンデル・マウザー!1回でいい、行動できるか!?」
自分には、マジンカイザー、ヴィンデル・マウザーという仲間がいることに。
「策はあるのか?」
「ああ……」
そして、マシュマーが思いつきをヴィンデルへと話す。
「分かった、動くかどうかはわからんが、やってはみる」
「外せばすべて終わりだ。これにかけるしかない。……撃った後のことを頼む」
「どういう意味だ、マシュマー?」
「……頼むぞ」
そういって通信を切った。
「征くぞ……!」
ガイキングの光弾をかわし、一気に組み付く。体格差もあってこれは無いと思っていたようで、一瞬ガイキングがひるんだ。
「うぉおおおお!!」
零距離でラアム・ショットガンとメス・アッシャーを限界まで撃つ。ガイキングの体があっという間に損傷していく。
だが、ディス・アストラナガンも損傷は大きい。衝撃と反動で肩ごと両腕が吹き飛んだ。
さらに全力でガイキングを横へ蹴り飛ばす。足もまた潰れて破片が落ちていった。
166全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:08:33 ID:d4toFpmO
「ディスレヴ、ファイナルオーバードライブ……!! 」
吹き飛んだガイキングが姿勢を立て直し、再生させている間に、力を解放し、エンジンに臨界まで力を貯める。
「ぐッ……!」
目の前が白む。脳の神経がまとめてぶちぶちと千切れていき、視界が薄く、かつ赤くなっていく。
限界を超えた戦闘の果て、すべての生命力をアイン・ソフ・オウルにつぎ込んだ末消耗で体が悲鳴を上げた。
先程までかいていた汗は無くなった。なぜなら、マシュマーの腕は今、老人のように干からび、節くれになっていたから。
息をすることさえ、激痛で堪えられないほどだった。それでも、霊に従い言霊を紡ぐ。
――アイン・ソフ・オウル――さぁ――
「アイン・ソフ・オウル………さぁ……」
この時、ガイキングが姿勢を立て直し、 マシュマーへ攻撃をしようとしていた。しかし、
「やらせん!」
マジンカイザーからルストトルネードが発射、ガイキングの攻撃を防ぎ、さらに正確にある場所へとガイキングを運んだ。
いくら痛めつけところでアイン・ソフ・オウルを撃つまでは時間が足りない。
だから、マジンカイザーの力が必要だった。そして、その助けにより完成した一撃。
――虚無に還れ!!――
「……虚無に!還れ!とどめぇ―――!!」
アイン・ソフ・オウルがガイキングに飛ぶ。
「なんだと……!こんなもの、かわしてやる!」
竜巻から逃れ、回避するガイキング。しかし、高速で消滅は迫る。
「かわせ!かわすんだ、ガイキング!」
ガイキングが避けようとする。迫るアイン・ソフ・オウル。避けようとするガイキング。さらに接近するアイン・ソフ・オウル。
ガイキングの僅か10m前にアイン・ソフ・オウルが来る。まだ横によける。
目と鼻の先まで近づき―――
「どうだ!これが剣鉄也だ!」
……ガイキングがかわした。
ディス・アストラナガンが傾き、落下していく。
「……さすがに今のは肝が冷えたが、どうやら最後の悪あがきだったようだな!」
意気揚々に話す鉄也の声をヴィンデルは遮った。
「我々……いや、マシュマーの勝ちだ」
「何?」
「『月』を見ろ」
促され、鉄也は『月』を見た。
「ま、さか。まさかこれを狙って……!?」
月にはぽっかりと暗い穴が開いていた。そこからは何筋もの光が外へと尾を引き、飛び出していった。
「その通りだ。マシュマーは、アイン・ソフ・オウルで勝負を決めようとした。しかし、撃つだけの隙を作ることは難しい」
ヴィンデルが、マシュマーを代弁し説明する。
「だから、マジンカイザーの力も借りた。そして、お前と月を一直線上に並べた。あとは、お前に当たれば私が『月』を破壊し、
もしお前がかわしても『月』に一撃を加えられるようにな」
「なんだと……!」
さっきとはうって変わって怒りの形相をあらわにする鉄也。
「こうなったらお前たちを倒すだけだ!!」
ガイキングがサンダーブレークを撃つ体制を作る。
「まずいな」
ヴィンデルが舌打ちをした。まだ、オーバーヒートは解けきっていないのだ。あと、10秒、あと10秒だと言うのに……!
せめてミオをかばおうと身構えた。
そこに、

        「 十 二 王 方 牌 ! 大 !車 併 ッ ッ ッ ッ ! ! 」

新たな戦士が現れた。



167全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:09:21 ID:d4toFpmO
ぼんやりと、マシュマーは、ウィンドウを通し、月に穴が穿たれるところを見ていた。
(これで……よかったのか?)
――ああ――これで開放されるはずだ―――
そう一言言い残し、青い髪の男の気配が消えた。
(そうか……最後に、ハマーン様の安全を確認できなかったのは残念だが……これでいい)
とても自分のものとは思えないようになった手で、震えながらもバラを胸から抜く。
バラを握り締めようとしたが、握力が足らなかった。もう、死は目の前であることを知覚し静かに目を閉じる。
そこに、1つの光がディス・アストラナガンの前でとまった。
――マシュマー、大儀だったな――
(その声は……ハマーン様。もしや……!?)
重いまぶたを持ち上げ、もう一度世界を見る。
――よく、あの暗い牢獄から開放してくれた――礼を言うぞ――
水分等残っていない干からびた体だというのに、目からは熱いものがあふれ始めた。
(もったいなきお言葉……感謝いたします……!)
マシュマーの体が灰のように崩れていく。
地面にわだかまった灰は煙となって消えていく。
(この……マシュマー……最高の……幸せ……)
ディス・アストラナガンのコクピットに残ったのは、一輪のバラ。
マシュマーは、消滅した。それは、『無』となったという意味ではない。マシュマーは、大いなる運命の力の一部となったのだ。



「……ということがあった」
ヴィンデルは、目の前に現れた男、東方不敗に今までの事情をあらましではあるが説明した。
「デビルガンダムがあのように変化したとはにわかに信じられん。わしがガンダムヘッドに手間取る間にそんなことがあるとは」
この東方不敗、話を聞くとどうやらこちらとは違う方向からデビルガンダムを倒そうと進んでいたらしい。
副長の、これでも想定よりはるかに少ない、というのはおそらくこちら側にも戦力を回していたからだろう。
ただ、副長の話を信じるとなると、この老人と先程の怪獣だけで70%、こちらの総量の2,3倍もの量をさばいていたということになるが。
他にも分かったことをまとめていく。あのガンダム?はデビルガンダムといったこと。『自己再生、自己増殖、自己進化』を持っていたこと、
自分戦ったものは、信じられないほど進化していたこと。ガンダムヘッドなるものも、本来の世界とは雲泥の差だったらしい。
さらに、あの怪獣も一騎当千のつわものであったこと、それがなすすべなく取り込まれたこと、マシュマーは『ゼストが生まれる』といったこと。
「やってくれたな……!」
怒りで最高まで帯電したところを、十二王方牌大車併を打ち込まれ、自爆同然で大破していたガイキングがまた再生し、立ち上がった。
先程より明らかに再生が――特に、十二王方牌大車併なる技が打ち込まれたところ――遅かった。
この老人の説明によると、『気』を打ち出すものらしい。もしかしたら、このガイキング、理由は不明だが『気』に弱いのではないか、と
情報を付け加える。
「それでもまだ起き上がる其の意気は良し!しかし、おぬしにかまっている暇は無い!」
168全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:09:53 ID:d4toFpmO
零影が構えを取り、ガイキングと向き合う。マジンカイザーはその隙に、ディス・アストラナガンに駆け寄る。
すると、なぜか勝手にコクピットハッチが開放された。
「マシュマー……?」
呼びかける声に答えは無い。姿も無い。バラがシートの上にあるだけだった。
「そうか……そういうことか。ミオを頼む」
マジンカイザーがディス・アストラナガンのコクピットにミオを移す。すると、今度もまた勝手にハッチが閉じられた。
ミオを守ろうと思ったマシュマーの残った意思が、ディス・アストラナガンにそうさせたのだ。
マジンカイザーはそれが終わるのを見届けると、零影とガイキングの場所へと戻る。
3機が怒気を放ち向かい合う。
一発触発の空気が張り詰めたときだった。
――ピシリ
場にいる全員に幻聴が聞こえた。まるで、卵が割れるような音が。
ぽっかりとあいた黒い穴から、放射状にひびが入る。それはどんどん広がっていく。
周囲の光も、白から血の様な赤へと変わっていく。
「どうやら、うまくいったのか!?なら……ここまでだ!生きてまた会うときがあれば相手をしてやる!」
そういい残し、ガイキングは飛び立っていった。
しかし、ヴィンデルも東方不敗もその言葉を聞いていなかった。
目が『月』へと引き寄せられる。
「ニュータイプやら念動力者でも無くてもはっきり分かる……あれは……!」
「これほどのものが、デビルガンダムから生まれるというのかッ!」
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/
ZEST/ZEST/ZEST/ZEST/ZEST……………
5時40分。この世界のあらゆる機体にZESTなる意味の分からない言葉の羅列が表示された。
「『ZEST』……それがあれの名なのか?」
――空間が爆裂し、鳴動した。
―――ヴィンデルはその様な存在を知らなかった。
―――東方不敗はその様な存在を知らなかった。
――――誰一人、それを知るものはいなかった。
――――かつて、あらゆる次元に存在したものより神々しかった。
――――かつて、あらゆる次元に存在したものより禍々しかった。
―――――ほとばしる力が炎、光、雷といった物理現象にかわり、空間を駆け渡った。
―――――其の姿はまさに神。いや、神すら超えた神。
―――――――超神
―――――――――――――――ゼスト
――――――――――――――――――――超神ゼスト
169全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:10:29 ID:d4toFpmO


「何故だ……!どこでおかしくなったというのだ!」
ユーゼスが握ったコブシを監視パネルへ振り落とす。握り締めた拳から、血が滴っていた。
DG細胞をゲッター線を浴びせ、最高の進化を促す。最初はこの世界の負の心を流し、適応させた上で、負の無限力そのものを
食わせることで力の属性と性質を決定させる。さまざまな世界から心を引っ張ることにより、さまざまなオーバーテクノロジーも取得。
アカシックレコードと接触させ、一度死を経験させることによって、更なる負の力の引き出し方と、アカシックレコードを打ち破る方向に
体を組み替えさせる。
一度、マジンカイザーがデビルガンダムを撃破することさえ計算のうちだった。このままいけば、完全、究極のゼストが生まれるはずだった。
だが、思わぬところで計画がつまずいた。
1つ目はベターマン。ベターマンは地球単位の破壊者には立ち向かうことは確実、さらに場所をはっきり認識させるため、アニムスの実まで
取り込ませた。これにより、事前に取り込んだアニムスの実で、スムーズに取り込ませ、確実に接近してくるようになっていたのだ。
「違う、これでは違うのだ!」
ユーゼスが取り込ませたかったのは、究極の存在オルトスだ。決してネブラではない。ゼストの空中戦闘能力は飛躍的に伸びるだろうが、
それはユーゼスの求めるものではなった。
2つ目はディス・アストラナガンの存在。日の出まで時間をかけ、完全な肉体が生み出されるはずが、奴の一撃により、鹵獲した魂の一部は逃げ、
肉体が強引に引きずり出された。
確かに、あのゼストでもかつて作ったゼストよりは、はるかに強い。それでも、決して完全とはいえるものではない。
真・ゼストはまだ不完全なのだ。
「あの時、マシュマーは『ゼスト』と言った……まさか、またお前の差し金か……!」
憎々しげに高いリノリウムの天井を見た。
「イングラム!」
『俺はきっかけを作っただけだ。あとは、マシュマーの執念が起こした奇跡だ』
突然、ウィンドウの一つが砂嵐になり、そこから声が聞こえてきた。
「馬鹿なことをいうな、私やお前のような存在でも、強念者でもない、ただの人間がそんなことが出来るはずが無い」
『いや、出来る。お前は人間というものを軽んじすぎた』
その言葉に続き、次々とウィンドウが砂嵐になる。
『その通り。この程度、グランゾンの力を借りずとも造作もありません』
『驕るのもそこまでだな。恥を知れ、俗物!』
『どんなにつらくても……守りたいものがあるんだ!』
次々と語りかける魂たち。
「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!」
ユーゼスが耳をふさぎ、懐から取り出した銃でモニターをでたらめに撃った。
ステンドガラスのように、ガラスが舞い落ちる。
後に残るは、不快な壊れた機械の音と、無音の静寂のみだった。
170全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 09:11:07 ID:d4toFpmO
【真・ゼスト(不完全体)   (スパロボキャラバトルロワイアルオリジナル)
 機体状況:良好
 現在位置:B-3
 第一行動方針:マジンカイザーの撃破、高い知能は持って無い。 
 最終行動方針???】

【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有 、全身に刺し傷あり。
 機体状況:良好
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ゼストの様子を見る
 第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊 】


【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
 パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で抑え込んでいる)
 機体状況:機体表面に多少の傷(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
      鎖分銅消滅、 弾薬消耗
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ゼストが何かを知る
 第二行動方針:ゲームに乗った者を倒す
 最終行動方針:必ずユーゼスを倒す


【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
 パイロット状態:DG細胞感染。ダメージ回復中。強い意志。
         負の波動による戦意高揚(ただし取り込まれていない)
 機体状態:DG細胞感染。ダメージなし。負の波動による強化・活性化。
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ゼストから離れ、別々に行動をとり参加者を減らす。
 第二行動指針:DG細胞に自我を完全に取り込まれないようにする
 第三行動指針:皆殺し
 最終行動方針:ゲームで勝つ
 備考1:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている
 備考2:ダイダルゲートを介し、負の波動が供給されている】


【ミオ・サスガ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発(少し落ち着いた)
 機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅
 現在位置:B-3
 第一行動方針:??? 
 最終行動方針???】


【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3(パンプレオリジナル) パイロット状況:死亡 機体状況:消滅】
【副長 搭乗機体:ガンナーユニット(パンプレオリジナル) パイロット状況:死亡 機体状況:消滅】
【ベターマン・ラミア パイロット状態:死亡】
【マシュマー・セロ パイロット状態:死亡】
171全ての人の魂の戦い:2006/09/21(木) 10:39:54 ID:d4toFpmO
ミオの状態を

【ミオ・サスガ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:気絶
 機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅
 現在位置:B-3
 第一行動方針:??? 
 最終行動方針???】
に変えてください。

【5時30分】
172それも名無しだ:2006/09/25(月) 13:10:31 ID:m2UWAKyW
保守
173全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:44:39 ID:k+KP8mDg
「まず、差し出がましいことかもしれないが、今わかっていること、成すべきことを確認しよう」
デビルガンダムへ急行する最中、タシロが話を切り出した。
「まず、あのガンダムは、非常に巨大だ。地表から見える部分でも巨大だが……あの竜のような首が地面の中に広がっているだろう」
おそらくですが、と前置いて地中で放射状に広がっていること、首は数百m、そこから数kmは射程であることを副長が付け加えた。
「だが、それでも征かねばならん」
「だからこそ、君たちの情報がまだ救いなのだ。」
「あれだけの巨体なら、自立行動が可能なはずです。しかし、人間をわざわざ取り込んだ。これはつまり人間をなにか重要な機関として
使用している可能性が強いでしょう。そして、どんなマシンでも生物でも再生不可能な機関を失えば……」
「……止まるやもしれん、ということか?」
ヴィンデルの問いに答える声はない。今言ったことは、仮定に過ぎないのだ。だれもはっきりとはわからない。
分からないことを答えられる人間などいない。もし、いるとすれば、その人間は嘘吐きか、ホラ吹きだろう。それでも、みな心の何処かで
はっきりとした正解を望んでいる。微妙な重苦しい沈黙が場を包む。
「結局、ミオを救う、その一点は変わりないか。なら、何がわからずとも成すべきことさえわかれば十分だ……!」
マシュマーが誰言うわけでもなく呟いた。前を、まだ見えぬデビルガンダムを見つめ、それ以外に視線一つ向けない。
「マシュマー……そうか、そうだな」
ヴィンデルがはじめて苦笑して見せた。
やるべきことは決まっているのだ。どれだけ暗雲が立ち込めようと、その先に指標とすべき輝きは見える。それさえ見えれば十分だ。
「やれやれ……年をとると後ろ向きになっていかんな」
「データが足りない以上、わからないことがあるのも当然です。あとは現場で計算すればいいでしょう」
ここで、初めて彼らは意思をひとつに纏め上げた。

ミオを救うために。

「タシロ艦長、あなたに現場指揮をお願いしたい。こう見えても元の世界では総司令官などという立場だが、何しろ乗っている
機体が、戦闘特化型の機体だ。戦闘に専念したい。頼めるか?」
「任せてくれてかまわんよ。もちろん、そのつもりだ。では……いこうか。目標への距離は?」
「現在10km。あと数分で到達ですな」
「ここにいる総員に告ぐ!」
たった4人の騎兵隊に、統率者の声が響く。
「これより、我々は人命救助のため、敵機動兵器と接触する!現在確認できる現状では、勝利は薄いかもしれない。だが!
必ず我々が止めねばならない。囚われている彼女はもちろん、今この世界にいる全ての人々のために、他の悪魔を討つ!」
『応!!』
殺し合いの場に似つかわしくもない、正義の轟きが空に響き渡る。
「敵、大型1!小型1!敵スレイブの反応は……観測不能!レーダーで反応のしないところのほうが少ないようですな」
もはやマトモな地面が見えない。そこらじゅうに触腕がのた打ち回る光景は、まさに黙示録の光景だった。
次々とガンダムヘッドが奇怪な叫び声を上げ、各機に襲い掛かる。
174全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:45:22 ID:k+KP8mDg
「持久戦は圧倒的に不利な以上、一点突破を狙う、誰も振り向くな!」
カイザーのパワーが、ガンダムヘッドをひねりつぶす。ディス・アストラナガンの攻撃が的確に間接や首の付け根を狙撃する。
「これほどとは、な……」
タシロが嘆息する。まるでこの機体とは、格が違う。これほどの力と、パイロットの技量。ガンバスターですら危ういのではあるまいか?
と思うほどだ。この力なら、主催者を打ち砕くことが可能かもしれない。もちろん、それまでの障害は山ほどある。
しかし、皇帝と悪魔の力はそう思わせるものがあった。
「かならず、生き延びさせねばな……」
これほどの力を、思いを消してしまってはならない。かならず、彼らの力はゲームに抗う者の大きな助けとなるはずだ。
そう、この若い2人を生き残らせることが、元の世界ですべてを終え、この世界に来た自分のやるべきことなのだ。
物思いに僅かに傾いた心を起こす声。
「敵、本体来るぞ!」
触腕の海から巨体がせりあがる。ゲッター線を浴び、時間をかけたデビルガンダムは、もはやもとある世界のものを超えるサイズに成長していた。
左右不均等で、右に3本の腕を持ち、左に2本の腕を持つ。首からは歪に生えた2つ目の頭を持ち、下半身もまた顔に酷似している。
人体をでたらめにつなぎ合わせたマッシヴなオブジェに、機械の表皮を被せたようなものだ。右の胸部は、張り出しているにもかかわらず、
左下腹部は異常なほどに細い。肩は四方八方に張り出し、無数の棘をそなえていた。もはや、人工物だったという名残はどこにもない。
しかも、ダイダルゲートによる負の感情の収集速度も、加速度的に増えた結果だ。
ダイダルゲートは本来、ウルトラマンガイアとアグルによって撃破された根源的破滅招来体を、帝王ダイダスが取り込んで作ったもの。
時空と次元を超越したゲートは、他の次元のゲートを通じ、初期の負の心に慣らす段階を超え、さまざまな次元から能動的に取り込むようになっていた。
ゲッター線による急速な進化と人の負の感情は、あまりにも歪んだ力と進化をデビルガンダムに与えていた。
――ウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥオオオオオオオオオオォォォォォォォヲヲヲヲヲ!!
顔の装甲を引き裂き、デビルガンダムが咆哮を上げた。
肩の棘に光が灯る。1つしか灯っていなかった光はいくつもいくつもいくつも増えていき――
「……!全員散開しろ!急げ!」
悪寒を感じたヴィンデルが声を張り上げた。3人も何かを感じていたのか、疑問も言葉も挟まず散った。
その直後。何十本もの閃光が駆け抜ける。
「あの肩の一本一本が、拡散メガ粒子砲……いや大口径メガ粒子砲か!」
マシュマーは、ディフィレクトフィールドを展開、そのままスピードを落とさずデビルガンダムへ突貫する。
しかし、デビルガンダムはそれを阻むように、メガ粒子砲が正確に襲い掛かる。
「1本、2本、3本……もうバリアの限界だと!?」
ウィンドウに警告メッセージが表示された。
並みの攻撃ならいとも簡単に跳ね返すディフィレクトフィールドがあっという間に磨耗していく。
いったんバリアを解除、すぐさま直上へと飛び退る。
何本、何十本という破壊の牙がディス・アストラナガンのわずか背後で輝き続けた。
そして、ある程度上ったところで一気に急降下し……
「悪いが……ここまでだ!」
画面いっぱいに映し出される巨大な鬼の顔。その拳がディス・アストラナガンへと打ち出された。
明るい緑色の光が限界まで噴射され、腕を紙一重でかわす。
「私の邪魔をするな……!」
ドスの聞いた声でマシュマーが言う。
ラアム・ショットガンを抜き放ち、そのままトリガーを引き絞る。散弾を連射し、3発分を打ち込む。
しかし、ガイキングにははっきりとしたダメージを与えることはできなかった。
「悪いが……あれは俺が勝つためにはまだまだ使えそうだからな。壊されちゃ困るんでな!!」
角が激しく稲妻を放出する。
「DG細胞で強化したガイキングの力をみせてやる!」
腕がガイキングがまた接続される。その腕を空へと高く掲げてみせた。
「サンダァーブレーク!!」
腕へと稲妻が伝わり、力が収束する。強化されたガイキングの一撃は、空中放電すら可能なレベルに達していた。
(まずい……!)
しかし、本来の帯電量がグレートマジンガーが桁違いに多い。腕を横に振るように振り下ろす。
175全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:45:52 ID:k+KP8mDg
槍のように飛ぶはずのサンダーブレークは、圧倒的な電力により、大剣のように周りをなぎ払った。
「フィールド展開、エンゲージ……!」
ディフィレクションフィールドが真・サンダーブレークを防ぐ間に肩部ユニットを展開、すぐ目の前の雷にメス・アッシャーを発射。
爆砕。

………
……

「今の爆発、マシュマーは無事か!?」
地表を移動していた2機の直上で爆発が巻き起こる。
「確認はできませんが……無事だと信じましょう。それに……」
ミサイルを壁のように展開。そこに突如触手の海から3匹のガンダムヘッドが先行するMkV襲い掛かり、ミサイルと衝突した。
MkVを回り込むようにカイザーの両手のターボスマッシャーパンチがバリアで足止めされたガンダムヘッドを砕く。
「こちらもそう余裕はありません」
副長の、「さすがにむやみやたらと自分を傷つけることはしないだろう」と言う言葉を信じ、こちらは地表を進んでいた。
この副長の選択は、一方で正解していた。デビルガンダムのメガ粒子砲も、触手を傷つけぬように水平射撃にきりかえられたことに
より、読みやすく、また数も激減していた。
だが、この地表を進むルートは、別の危険を孕んでいた。それが、この「海」より無尽蔵に湧き出すガンダムヘッドが近いこと。
徐々に接近してはいるが、レーダーに存在がポイントされてから、出現までの間隔が短いガンダムヘッドの攻撃をかわすことは
難しく、結果MkVを先行させて弾幕で進行を止め、そこをカイザーが砕く戦法をとっていた。
「戦闘と最大速度を両立させているためでしょうか、エネルギーの減りが激しいようですな。ですが、これでもサイズ対比の『首』の出現率は30%。
大きさから考えれば、これでも少ないくらいでしょう」
「だが、いけるところまではやってみようじゃないか……!」
「……いや、もう十分だ。マシュマーの援護と確認に向かってくれ」
ヴィンデルが静かに口を開く。
「もう十分に近づいた。これ以上、このような戦法を取れば、遠くないうちに撃墜されることになる。ここまでくれば、最大速度で一気に
いけるはずだ。それに、その機体では、奴と戦うには逆に足を引っ張ることになるかもしれん」
「何を言っているんだ、ヴィンデル君。まだ奴へは距離がある。ここでやめれば、その機体は……」
「だがこのままいけば撃墜される。」
「なに、その覚悟はあるつもりだ。それに、やすやす落とされるつもりもない」
「頼む」
多くはしゃべらないが、強い調子でヴィンデルが言った。
「ここからは、私とマシュマーだけで十分だ。いや、我々がやらねばならない。だから……マシュマーの援護を頼む。」
そう、これは、アクセルの弔いをかけたものでもあるのだ。だから、その当事者だけで決着をつけねばならない。
まして。まして他人をそれで死なせることなどあっては、誰に顔向けできようか。
だから……
「……分かった。彼の援護に向かおう」
一拍おいて、ため息をつくようにタシロは答えを返した。確かに、このまま行けば、彼の足を引っ張るかもしれない。それだけは避けたい事項だ。
それに、苦戦しているとしたら、マシュマーの援護も必要だ。
「感謝する」
「だが、それは君が死んでいいというものではない。それを覚えておいてくれ」
そう一言言うと、MkVは空へと舞い上がっていった。
「やはり、わかっていたか。……当然かも知れんな」
決死の覚悟をヴィンデルが持っていることにどうやらタシロは気づいていたようだ。だが、それでも彼がデビルガンダムへ一人で
行くことを許した。それは、マシュマーを助けることが必要と思ったこともあっただろうが感謝の言葉もない。
だが、わずかな感慨にふける間もない。目の前にまた湧き上がるガンダムヘッドの群れ。
「いくぞ、マジンカイザー!」
176全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:46:25 ID:k+KP8mDg
カイザースクランダーが大きくバーニアを噴かす。一気に速度を上げ、邪魔をするガンダムヘッドを切り裂きながら一直線に。
いくらモース硬度において27を誇る超合金ニューZαとて、無敵の金属ではない。
いくつものガンダムヘッドを切り裂き続け、ビームに掠られ、少しずつ疲弊し、削れていく。
だが、止まらない。マジンカイザーは止まらない。猛烈な勢いを持って、デビルガンダムへ迫った。
空にそびえる鉄の城のごときマジンカイザー。その巨体は、しかし今のでデビルガンダムの前では問題にならぬほど矮小だ。
「うおおおおおぉぉぉぉ!!」
ついにたどり着いたデビルガンダムにカイザースクランダー限界のスピードを落とさず拳を叩きつける。
グシャリ、と砕ける音が響き渡った。
「なんだと!?」
――マジンカイザーの右腕が。
マニピュレーターそのものが使用不可能になったわけではないが、明らかに損傷が見て取れた。
対して、デビルガンダムは無傷。装甲に凹み一つ無かった。
「くッ!」
デビルガンダムを蹴り、爆発に巻き込まれないよう安全な距離とって、ギガスミサイル光子力ビームを撃ちまくる。
1発でも機械獣を打ち砕くミサイルと熱線が10発以上デビルガンダムへ撃ち込まれた。たちまち爆炎で姿は掻き消えていく。
「これならどうだ……?」
煙が、一筋のメガ粒子砲によって払われた。煙から浮かび上がる巨体には傷一つ、ついていない。
慌てて回避運動を取り、それを避ける。一発目を避けたその先に、狙い済ましたように二発目が来る。
すんでのところでかわしたところに三発目……まるでマジンカイザーのすべてを知り、次弾の弾道へ追い込んでいくように。
ヴィンデル背筋に戦慄の寒気が駆け上る。遠距離でデータの無いときならともかく、この距離で相手のデータを得た
デビルガンダムのメガ粒子砲は、一分の乱れも無い。乱射のように打ちまくりながら、一発も無駄弾を撃っていない。
回避の範囲は確実に狭まっている。
掃射でも乱射でもない。何十発と絶え間なく繰り出される狙撃。
(まずい……!)
ついによけられる方向は下の一部のみ。マジンカイザーがそこに回避すると同時、「海」から大量のガンダムヘッドが昇って来る。
迎撃するしかない――!
そう判断し、ファイヤーブラスターの発射姿勢をとり、一気にエネルギーを開放しする。
ブレストファイヤーの数十倍の威力の熱量をぶつけられ、ガンダムヘッドはまとめて消滅した。
しかし、結果的にマジンカイザーは動きを止めてしまった。つまり……
直後、何本ものメガ粒子砲がマジンカイザーを貫いた。地表に落ちていくマジンカイザーをまた新しいガンダムヘッドが襲い掛かる。
16匹ものガンダムヘッドによりマジンカイザーは見えなくなっていった。


(う、お、あ……)
巻きつくガンダムヘッドの圧力で、コクピットが軋みをあげる。それだけではなった。わずかに割れたガラスの隙間から、長い棒が
出ていた。首をうつろな意識で下に向ける。
そこには、胸、左腕、右肩が長い棒に貫かれた光景があった。
――そうか、この長い棒はアレのうろこのようなものか
もはや痛みすら感じない。どこか遠い場所から自分を見つめるような気持ちで、そんなどうでもいいことを考えていた。
(私は、死ぬのか……?)
終わる。ここで人生が終わる。
心の何処かで、それがいいと誰かが呟いた。
戦った。連邦軍として反乱軍と戦った。異星人と戦った。愛する世界が完全に異性人の手に落ちてもゲリラとして戦った。
たくさんの仲間が死んだ。当然のことだ。それでも戦った。ついに星を取り戻した。その後異星人を駆逐するまで戦った。
平和が戻った後も、残党狩りとして戦った。必要とされなくなったとき、今度は政治家として世の中の悪と戦った。
愛する世界が腐っていくことに我慢できず、反乱軍として戦った。司令官として、前線の戦士としても戦った。劣勢のときも戦った。
膠着したときも戦った。優勢のときも戦った。別の世界に行っても戦った。また必ず、生まれた世界に戻り、正すために戦うだろう。
戦って、戦って、戦って、戦い続けた。そして、これからも戦う。
177全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:46:54 ID:k+KP8mDg
もう、いいだろう。
戦いすぎた。もう、一旦休んでもいいだろう。
一人で、ゆっくり……
一人。一人?
……?
何かやらねばならないことがあったような……?
誰かと、約束した。2つのこと。たくさんの人との約束と、誰か1人との約束
なんだったろう。
思い出せない。思い出せないが大切なことだったはずだ。
思い出せない。まて、なら考え方を変えよう。なぜ大切と思った?どこで引っかかった?
一人。一人で引っかかった。約束は一人心に決めたものではない……?なら、約束した相手は誰だ?
(隊長、信じてますぜ!)
誰だ?
(ここは私たちに任せてください!司令官は安心して本部を一気に落としにいってください!)
いや、一人じゃない。もっと、もっとたくさんの……
(この戦い、本当に私たちは異星人に勝てるのでしょうか?)
(上層部も馬鹿ではない。勝てない作戦は立てないだろう)
答えているのは……私だ。
(隊……長、ありがと……うございます。あなたの、隊に……入れて本当、幸せでした。うおおぉぉーッ!!ヴィンデル隊バンザーイ!!)
彼は……私が始めて受け持った部隊の……
(何をやっているんだ、ヴィンデル。まだやることは残ってるんだろう?なに、潜入工作は任せておけ。気にするな)
アクセル……そうか……これは……
(隊長!)
(ヴィンデル隊長!)
(司令!)
(ヴィンデル!)
私は……私は……

「死ぬわけにはいかない!!」

瞳にまた力が戻る。血でぬめる操縦桿を握りなおす。体はズタボロだ。しかし、動かないわけではない。まだだ……まだ戦える!
たくさんの名も無き兵士たちが、私に託したのだ。
戦士が、本当の意味で生き続けることのできる世界を作ってくれと。
アクセルが、託したのだ。彼女を救えと。
「私は私一人で立っているのではない!だから私は立たねばならない、倒れてはならない、戦わなければいけない!」
ヴィンデルの体から輝く。体に突き刺さった棒を伝い、その光は、ガンダムヘッドへ流れ込んでいく。
デビルガンダムに搭載されたダイダルゲートシステム、それは人の心を集める装置。
それがヴィンデルの意思により、逆流とも呼べる現象を引き起こした。ダイダルゲートが集めるのは負の心だけではない。
ただ、場に満ちる魂にそちらに属するものが多かったからそうなっただけ。正義の意思を持つものが、人のために心を集めることもある。
矮小な人間一人の……いや幾人もの命の輝きが、圧倒的な巨体を苦しめた。
拘束の緩んだ隙間から光が漏れた。ヴィンデルだけではない。マジンカイザーまでもが光り輝き、時を巻き戻すように再生している。
「マジンカイザー、立ち上がれ!お前もツヴァイザーゲインと同じく皇帝の名を冠するものならば!!」
突然なにもしていないのにガンダムヘッドは弾け飛んだ。
178全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:47:34 ID:k+KP8mDg
いや、違う。あまりに高速な斬撃の衝撃波が吹き飛ばしたのだ。
『兜甲児ではなきマジンカイザーの適応者よ……運命の力が
                               お前を真の主の一人と認めた……もはや模造品ではない……真の力を!』
胸に『神』の一文字が刻まれる。
皇帝マジンカイザー。それは、人の意思を持って振るわれる魔神の力の化身。


「いかん!緊急回避だ!」
「弾幕を張ります!」
MkVがマルチトレースミサイルを撃ち、目くらましの役割を果たす。
「無駄だ!ドリルプレッシャーパンチ!」
ガイキングの腕に突然刃が現れた。さらに高速回転でうなりを上げ、ミサイルの雨を潜り抜け、MkVの右腕をえぐり飛ばした。
「やらせん!」
鷹のように上空からディス・アストラナガンがラアム・ショットガンを撃ちながら、ガンスレイブを使ってガイキングの追撃を阻止する。
「無事か?」
「腕部破損。まだ問題はありません」
「だが、これは……」
「何を話している!まだまだいくぞ!」
ガイキングの猛攻がMkVとディス・アストラナガンを襲う。2vs1にもかかわらず、戦いはガイキングが圧倒していた。
突っ込んでくるガイキングに、フォトンライフルとラアム・ショットガンを放つ。当たったが、ダメージはほとんど見られない。
しかも、簡単な傷ならば数分で直してしまう。
逆に、ガイキングの一撃はどれも必殺と呼ぶにふさわしい威力を持っていた。わずかに当たるだけで、深刻なダメージを受けることは確実だ。
「このままでは、両機とも撃墜されるやもしれんな……」
(あれを……アイン・ソフ・オウルを撃つべきか?)
そう、今ガイキングを倒しうる唯一の可能性。それは、ディス・アストラナガンに搭載された絶対消滅兵器。
  アイン・ソフ・オウル
(しかし……)
胸をマシュマーは少し押さえた。
本来、時を渡る者や、怨念の王たるものしか扱えなかった力。人の手に余る代物だ。
もともと、ディス・アストラナガンの力を引き出すものは、不の心を持つもののみ。なぜならディス・アストラナガンの力の源が不の心だからだ。
つまり、下手に力を解放させれば、我が身の破滅を引き起こしてしまう。いや、どう扱おうが、ただの人間の域を出ないマシュマーの魂は
削られていく。むしろ、強化人間であることは、魂の出力を促進するものであった。
あと、アイン・ソフ・オウルを撃てるのはせいぜい2発。それ以上はマシュマーの魂が耐えられないだろう。
(皮肉だな)
破滅に近づけば近づくほど、魂は機体と同化し、より、この機体のことを熟知し、力を引き出せるようになる。
そして、機体の力を完全に引き出し、すべてを知ったころにはすでに破滅へカウントダウンが始まっている……。
「マシュマー君、われわれが隙を作る。その間に行きたまえ」
――それでは、そちらが――
そんな言葉がのどまで出掛かった。
「わかった」
今、自分がなすべきことをなさねば。それは、ミオを救うこと。それ以外にかまっている暇は無いのだ……!
「そう、それでいい。副長君、悪いが、一斉攻撃後分離してくれ」
「……タシロ艦長、なぜ」
「もう、ここまでくれば、あとは彼らに任せよう。その残りの後始末は私だけで十分だ」
179全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:48:06 ID:k+KP8mDg
「いえ、そうは言わせませんよ。あなたもあのヴィンデルという男と同じです。大切なことを忘れています。
……もともと艦長、クルー、艦は一蓮托生でしょう」
「いや、君は若い。まだ……」
「それに、『計算』では艦長一人では無理とでました」
そう言って少し副長は笑って見せた。そんな計算、あろうはずが無い。そんなこと、計算できるはずが無い。
「なんてっこった……まったく、強情とは思っていたが、ここまでとはな」
帽子のつばを指でなぞり、タシロもまた笑って答えた。
「では、行きましょう。カウント」
ガイキングが2機へと迫る。
「3」
あと8秒で接触
「2」
ディス・アストラナガンが駆け出す。
「1」
ガイキングの意識がそちらに僅かだが移行した。
「……今だ!」
MkV、ガンナーユニットの両方に内臓された大量のマイクロミサイルが発射され、さらにフォトンライフルと、残った砲門から
Gインパクトキャノン――念動力者がエンジン制御をしてないため低威力だが――がミサイルの隙間を埋めるように注ぎ込まれる。
発生する爆炎。爆煙。爆発。
その隙にディス・アストラナガンは一気に駆け抜ける。
「逃がすか!」
これほど大量の攻撃を受けながらも、ガイキングは正確にディス・アストラナガンへ腕を向ける。
爆発の煙や熱でマシュマーはそのことに気づいていない。
「しまった……!?」
分離から加速の一瞬の隙。MkVもガンナーも反応できない。腕が今、もう数瞬で発射される、その刹那。
輝きが戦場に満ちた。
生命の輝き。光の炎。
マジンカイザーの放った輝きは、また別の戦場にも影響を与えた。
「なんだ!?あの輝きは!?う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」
突然ガイキングがもだえ苦しむ。しかも、焼けるように装甲から白い煙をあげ、身をよじる。
「今だ!」
ガンナーユニットが、ガイキングの腹部にぶち当たる。そのままGインパクトキャノンを撃ちながら、艦首に当たる部分を下に向けた。
どんどん高度を落とし2機はきりもみ落下していく。
「く、この程度で!」
ガイキングのもう一つの顔の口が大きく開く。しかし、ガンナーユニットはまったく臆せず、そのまま口へと吸い込まれていく。
「このまま地表に落とすつもりだったのだろうが……計算が違ったな!」
顎でガンナーユニットが噛み砕かれる。さらに、コクピットへパンチを繰り出した。
「計算違い?いいえ、計算通りです。……タシロ艦長、艦では酒は厳禁でしたからな。向こうで酒でも飲みましょう」
さらに副長がペダルを押し、加速させるのと、コクピットが潰れるのはまったく同時だった。
主を失っても、ガンナーユニットは加速し、鬼を地に落とした。
鉄也の体に2回猛烈な衝撃が伝わった。一回目は、地に落ちたとき。では2回目はいったい?
鉄也が状況を確認しようとカメラを見る。
「な……」
写っているのは、ヒュッケバインMkV。そう、2回目の衝撃の正体は、ヒュッケバインMkVが両足に組み付いたときの衝撃。
ヒュッケバインMkVはバチバチと音を立てる。しかも、関節をすべて固定し、ガイキングにしがみ付いている。センサーで確認すると、
敵のエンジンの熱量が異常なほどにあがっている。まさか。
「自爆!?死ぬつもりか!?」
「いいや。」
タシロが最後のセーフティを解除する。さらにエンジンが回転数をあげ、ついにウィンドウにはLimit Overの文字が表示させる。
それでも、まだ出力を上げ、回転させる。
「託すつもり、だ」
そして、トロニウムによる大爆発が起こった。

180全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:50:10 ID:k+KP8mDg
ビームの隙間を駆け抜け、マジンカイザーは突進した。デビルガンダムの演算とデータを超えるスピード。カイザーブレードを
振りかぶり、デビルガンダムの頭上に振り下ろす。デビルガンダムは3本の右腕でそれをうける。二本の右腕が斬られて飛び、
3本目の半ばで刃はとまる。さらに力を入れて押し切ろうとするマジンカイザーに対し、デビルガンダムは胸部を展開。
中から巨大な砲塔が現れ、緑色の光線――ゲッタービームだ――を発射。マジンカイザーを弾き飛ばす。さきほどまでの攻防
から見るなら、マジンカイザーはグシャグシャに潰れるはずだった。しかし、今では装甲がひび割れるのみ。
さらに打ち込まれるメガ粒子砲をすべてかわしてみせた。
ヴィンデルは、今マジンカイザーと完全に一つになったといっても過言ではなかった。
マシンを操縦するものが、時として感じる完璧な一体感。それだけではない。ただ、ひたすら圧倒的な力が体に宿っていた。
燃えるような赤みを帯びたカイザースクランダーの加速がヴィンデルの体に強烈なGをかける。
だが、痛みは無い。むしろ、風を切る心地よさ――感じられるはずの無い――だけがあった。
瞬きする間に距離を詰め、加速を剣の切っ先にすべて載せた。裂帛の気合とともに振られる豪剣。
次の瞬間、マジンカイザー必殺の一刀により、デビルガンダムの下半身の顔は横一文字にたたききられていた。
大質量をものともせず、切られた勢いでデビルガンダムの体はチリジリになった破片を撒き散らしながら転げていく。
しかし、この程度で今のデビルガンダムを倒しきることはできない。
下から沸き立つ触手と、体からあふれる触手が絡み合い、植物と蛇と機械を交配させたような下半身を再生させた。
――ア゛ガジッグレ゛ゴード……ア゛ガジッグレ゛ゴード!ア゛ガジッグレ゛ゴォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ドッ!!
口腔から金属をすさまじい力でねじり上げるような声で、自分の永遠の怨敵の名を叫ぶ。
すでに、デビルガンダムは心を吸い上げすぎ、希薄ながら自分の意思を持つようにすらなっていた。
先ほどの衝撃で壊れた場所を骨格と外装を組み替えながら、再生される。
そこへさらに追いすがるマジンカイザー。
――ヴゥオオオオォォォ!!
突然マジンカイザーの目の前に触手の津波が十重二十重に発生し、飲み込んだ。
「ヴィンデル・マウザーッ!」
ついに追いついたディス・アストラナガン。飲まれていく瞬間を見たマシュマーが声をかける。
「マシュマー・セロか。離れておけ。巻き込まれると危険だ」
意外なことに、まったくあわてた様子の無いでヴィンデルが答えた。
「しかし、脱出できるのか?死ぬぞ」
「私が死ぬ……?」
その言葉を、鼻で笑って見せた。
「私は死なん、まだやることがある。それに、私は独りではないからな!」
巻きついたガンダムヘッドが少しずつ、少しずつ溶け、煙を上げた。
「光子力エネルギー、フルチャージ!いくぞ、お前たち!!」
溶け崩れたガンダムヘッドの隙間から閃光が柱のように伸びる。
「カイザァァァァァァ・ノヴァ!!!!」
一瞬で夜空まで染め上げる。大気すら焼く、限りなく無限に近い熱量が発生した。
まとわりついていたガンダムヘッドはもちろん、直下では地下のガンダムヘッドすら一瞬で蒸発した。
離れていたディス・アストラナガンでさえ、あおりを受け、体制を崩すほどだ。
そして、地面をガラスの鏡面のようなクレーターにした後、マジンカイザーによって発生し、
周囲を焼く尽くした恒星のごとき光球は、急速に力を失い、消滅する。
すべては消え失せ、チリも残らないクレーターが出来た。
マジンカイザーが周りを見回した。
「……そこか!」
マジンカイザーが何も無い地面へまっすぐと飛ぶ。そして、カイザーブレードが地面の一点を刺し貫いた。
カイザーブレードを力任せに振り上げる。そこには、デビルガンダムが突き刺さっていた。一気に地表に引き上げる。
ガンダムのコクピットは胸部、というマシュマーの言葉を思い出し、胸部装甲を強引に引き剥がす。
本来マシーンにあるべき操縦桿やスクリーンといったものはまったく無かった。
中からあふれる触手を掻き分け、マジンカイザーが手を入れる。マジンカイザーの動きが止まった。
そして、一気に手を引き抜く。握られているのは、間違いない。
181全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:50:40 ID:k+KP8mDg
銀色の皮膜のようなものが砕け散り、青い豪奢なドレスを着たツインテールの少女が現れた。まだ、気を失っているようだ。
「……ミオ」
通信からマシュマーの安堵の声が聞こえた。
しかし、まだ一筋縄では行かない。主を引き抜かれたデビルガンダムが暴れ始めた。全身の全間接から触腕を戦慄かせ、
奪われた物を取り返そうと離れようとしたマジンカイザーを追跡する。
「く……!」
両手を被せて、風や舞い散る破片からミオをかばいながら、空を飛ぶ。しかし、この状態では攻撃を仕掛けることも、
最大速度で飛ぶことも難しい。少しずつではあるが、確実に差は迫っていく。
(あと、1分、いや30秒で追いつかれる!?)
何本もの触腕がマジンカイザーを追い詰めた。だが、今この場にいるのはマジンカイザーだけではない。
「よくやった。後は私に任せろ……!」
ディス・アストラナガンが胸部を腕でこじ開ける。
左右に内蔵されたディーンの火とディスの火が限界まで力をくみ出す。出力を開放された心臓がうなりを上げた。
「テトラクテュス・グラマトン!回れ、インフィニティーシリンダー……!!」
究極、絶対消滅の力が胸へ集中する。
僅かに、マシュマーの体が傾いた。目の前が薄く白くなる。
――思ったより命の残りが少ないか。
あまりに機体の力を引き出しすぎたことによる副作用がマシュマーを蝕む。
(思ったより消耗が激しいな……だがまだ!)
そう、まだだ。このときのために温存していた一撃。今、この時を持って全てを断つ!
「受けろ!アイン・ソフ・オウル!!」
制御も何も無く方向性のみを与えられ放出されるエネルギー。
周囲の待機をゆがませ、ガンダムヘッドの破片を舞い上げながらデビルガンダムの本体へと飛ぶ。
当たったデビルガンダムを中心に、閉鎖された空間を生み出す。その周囲を回る蛍のような光がデビルガンダムを食い荒らす。
下半身、右腕、胸部、腰部、頭部――……みるみるうちにデビルガンダムがこそげとられていく。
最後に、空間が元に戻る反動でおこる大爆発。
後に残るは、僅かに残った腕一本。
マジンカイザーを追いかけていた触手がしおれていく。
それだけはない。
次々と触手が弾けては赤黒いタールのようなものになっていく。3分も経つころには、個体はなくなり全てがタール状になっていた。
「……終わったな」
「ああ、終わった」
2機は並んで崩れていく様子を眺めていた。
2人そろってミオを見る。見たところ、外傷はまったく無い。ただ、寝ているだけに見えた。
「勝ち目の薄い戦いだった。しかし、大切なものを私に思い出させてくれた」
「……大切なもの?」
「人の意思、だ。まったく、司令官などという立場になってから、後ろを見ることをしなかった自分が愚かしい」
「そうか。人の意思か……」
何か思うことがあったのか、静かにマシュマーは頷いた。
182全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:51:09 ID:k+KP8mDg
ぐるりと地平まで広がるタールを見回し、ある一点を見据えた。
「本当に、勝ち目のない戦いだった。あの2人も……」
「……タシロ艦長、副長の二人に何か会ったのか?」
「鬼を倒すため、自爆攻撃を敢行したようだ。背後で異常なほどのエネルギー反応があった。」
静かに、軍人として、人として二人は敬礼した。、自分達の確執に付き合い、命を落とした2人。
出来ることなど無いが、せめてそれが最大の手向けになるだろうと祈りながら。
タシロたちのその場その場での的確な行動が無ければ勝てなかったろう。
ヴィンデルがガンダムヘッドと接触し、力を引き出さねば勝てなかったろう。
マシュマーが最後の場に居合わせ、消し飛ばせねば勝てなかったろう。
ミオがデビルガンダムの中で意思を繋ぎ止めねば、救出は不可能だったろう。
運命の歯車が最高の形でかみ合わなければ勝てない、それほどにあやふやなあって無きに等しい可能性を潜り抜け、勝った。
その勝因とは何だろう?
おそらく、答えは望み。どんなに可能性が薄くとも、その望みを信じ、皆が自分の意思を持って突き進んだからこそ訪れた結末。
「ここまでだ。次合うときは、お互い敵だろう」
ディス・アストラナガンが背を向けた。
「何故、そこまでする?」
「ハマーン様のためだ」
「やれやれ、お前も私と同じだ、大切なものを忘れている」
ため息をヴィンデルがついた。
「私に、そのハマーン・カーンなる者のことは知らん。しかし、お前がそこまでをする人物だ。よほどのものだったろう。
なら、その聡明な者がお前の今の行動を望むと思うか?」
「だが、それ以外にやりようなど知らん」
「なら、さらに私が言ってやろう。今、お前がやるべきことは、主催者と戦うことだ。このガンダムだったか?を見てもわかるだろう。
このゲームは、ただの殺し合いではない。裏で、もっと大きな何かが蠢いている。主催者の望むようにな。殺し合いはおそらく
その一つだ。つまり、お前がむやみに人を殺せば、殺すほど主催者はあざ笑うだろう。『自分の思う壺だ』とな」
「………」
マシュマーは無言。さらにヴィンデルは話し続ける。
「やるべきことは、主催者を倒すこと。そして……マジンカイザーとディス・アストラナガンにはその鍵となるかもしれない力と、
可能性を秘めている。だからこそ、だ。主催者を倒しうる力を無駄に振るって、死ぬまで戦うか、共に最大の敵であるヤツを倒すか」
まっすぐマシュマーを見つめ、真摯に話しかけた。
「私は、アクセルの仇を打つためにも戦う」
いったん切って、強調する。
「さて、どうする?」
「…………」
「…………」
お互いに無言で相手の目を見る。
「……わかった」
マシュマーが静かにだが、強く言った。
すっとマジンカイザーが腕を差し出した。ディス・アストラナガンも手を握り返す。
「これからは、仲間だ。頼ってくれてかまわんぞ」
「……ああ、これからも頼むぞ」
――これでいい。
マシュマーはそう思った。もう、わずかばかりの命。ならば、ヤツを打つため、一矢報いるために使おう。必ず、ヤツに牙を突き立てる。
それでこそ、ハマーン様をお喜びになるだろう。胸のバラを掲げ、清々しげにマシュマーは夜空を眺めた。
デビルガンダムは倒れた。
ついに、ここに最強のタッグが完成する。
ここから、始まる。新しい道が。そう――――――




183全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:51:40 ID:k+KP8mDg



                                                     ――――――最悪の悪夢が。

タールが、嘲笑った。
そう形容するしかない光景だった。
突然、ゴボリと泡を立て始め、まるでマグマのように滞留したと思うと、この世に在らざる声で騒ぎ始めた。
他人を呪う様に。世界を恨むように。そして、誕生を祝福するように。
粘液からなる肉体が、硬質化する。
「何が起こっているのだ!?」
「わからん、しかしこれは……これは……すさまじいプレッシャーだ!」
――――爆縮していた。
小都市ならすっぽり包み込むほどの量のタールが、小さく集まり、一つになろうとしている。
あまりに急な収縮により、まるでブラックホールが発生し、吸い込んでいるようにすら見えた。
赤黒い負の心の塊が、一気に凝縮された。液体が固体へと変化する。
僅かに残った腕が空へ浮き上がり、タールに包まれ、なめらかな人の手をしたものになった。
マジンカイザーと戦い、アカシックレコードと『死』を感じたデビルガンダムは、デビルガンダムをやめ、戦うにふさわしい形態へと
変化を始めたのだ。水蒸気が昇華され氷になるように、タールが超硬度の物質へと生まれ変わる。
そして―――
「……『月』?」
ヴィンデルがそう呟いたのも無理はない。直径80m前後の球形になった。きちんとクレーターのようなものまで刻まれている。
2機に異変が起こる。
『何……!?』
二人の声が重なった。
マジンカイザーが突然地上に落下した。
ギリギリで噴射して、どうにかミオを傷つけないように軟着陸。機体の状態をチェックすると、Over Heat の文字があった。
理由は何度調べても『不明』の二文字しか表示されない。いつの間にか胸のマークも『Z』に戻っている。再起動には、6分30秒と表示された。

一方ディス・アストラナガンはまったく逆の反応だった。
「どうしたのだ!私の言うことを聞け!」
勝手に動き始め、ガンスレイブを射出、その赤い双眸は今までに無いほど煌々と輝いていた。
「あの『月』がそれほど気になるのか!?あの月は何だ?」
――クォヴレーが倒した霊帝と――俺が倒したゼストの融合――ユーゼスの最終目標――その原型――
「何だ……誰だ私の中に入ってくるのは?」
――いそげ――時間がもう尽きようとしている――荒療治だがすべてを教える――受け取れ――
「私の中に入ってくる……!?う、おお……?」
うめき声を上げたあと、マシュマーが動きを止めた。焦点の合わぬ目で虚空を見つめている。
「マシュマー?マシュマーどうした!?」
呼びかけても何も反応を返さない。
強化人間なる通常と異なる感性が何かを感じ取ったのだろうか?とヴィンデルは判断した。
「あの『月』はいったいなんだ?何を引き起こしているのだ?」
月を見上げ、呟く。その声に、答えるものがあった。
「いや、違う。あれは『卵』だ」
上空から涼やかな声が聞こえた。
上空を振り仰ぐヴィンデルの目に映っているのは――
「馬鹿な!お前は死んだのでは……!」
――ガイキング
184全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:52:09 ID:k+KP8mDg
「俺は戦闘のプロだぞ?あのくらいで死にはしない。しかし、またゲッターのまねをすることになるとは思わなかったがな」
自爆の直前、ガイキングは分離して組み付かれた足をはずしたのだ。あとは、元々マッハ3のガイキングである。
高速でその場を離れ、デビルガンダムに作らせておいたスペアパーツと交換したのである。
「まったく、もしものときの予備ぐらいは作っておくものだ」
憮然と言う鉄也。
「貴様……!」
今にもそのまま食いかかっていきたい思いを抑え、ヴィンデルが冷静に状況を把握しようとした。
マシュマーが起きる時間と、マジンカイザー再起動への時間も稼がねばならない。
「先程、あの『月』を『卵』といったな、どういう意味だ?」
「詳しくは、俺も知らん。どうも、あやふやなもので俺とあれは接続されているようでな。分かることは、
『あれにあるものを除き接近を許すな』ということ、『圧倒的な力を持つものが生まれる』こと、そして、『そこのマシンを嫌っている』ことだ」
「『あるものは除き』?」
「他は聞かれてもわからんが、それは答えてやろう。あるものというのは……あれだ」
ガイキングが親指を立て、空を見ろと示した。
ドォゥ――――!
鳥の様な頭部と長い首を持つ、細身の怪鳥が、月に向けまっすぐに突っ切っていった。
「怪獣!?いったい、本当に何が起こっているのだ!?圧倒的な力?そこのマシン……ディス・アストラナガンのことか!?」
デビルガンダムという成長、進化する敵。消滅の後現れた月。突如暴れるディス・アストラナガン。今度は怪獣……
完全に常人の理解の範疇をはるか離れたものだった。
「聞かれてもわからん。むしろ、そこのマシンに聞いたらどうだ?随分と嫌っているようだからな、何かあるんじゃないのか?」
「ディス・アストラナガンと、何かある?」
「だから聞かれてもわからんといっているだろう。それより、今度は俺の質問に答えてもらおうか。……そのマシンは何だ?」
「マジンカイザーのことか?」
「……マジンカイザー」
暗い響きが言葉の端にうかぶ。
「それは何だ?マジンガーは俺のグレートと、マジンガーZだけのはずだ。先程の戦闘は遠目に見させてもらった。はっきり言って、
グレートよりもはるかに強い。だが、そんなマジンガーあるとは聞いたことが無いぞ」
苦虫を噛み潰したような声で、認めたくは無いがな、と付け加えた。
「私もよくは知らない。もともと、他の参加者から奪ったものなのでな」
「そうか。」
短く鉄也は答えた。そして、
「動かないようだったから様子を見させてもらったが……どうやら動けないの間違えだったようだな」
鉄也の顔に勝利の確信が浮かぶ。
「破壊するつもりだったが、気が変わった。そのマシン、奪わせてもらうぞ」
カウンターパンチをマジンカイザーに向ける。
「本当にマジンガーというなら、マジンガーに乗るために育てられた俺のものだ。違うというなら俺のグレートより強いマジンガーの偽者と
いうことになるからな。破壊させてもらう」
機体を奪うために、コクピット狙いだ。オーバーヒートで行動できないヴィンデルには見ていることしか出来ない。
ガイキングの腕が発射された。硬く握り締められたコブシはそのままマジンカイザーに―――
「そうか……そういうことか……」
直撃しない。割って入ったディス・アストラナガンのディフィレクトフィールドが直前で跳ね返した。
「ハマーン様があそこにいらっしゃるのだな!?」
ディス・アストラナガンは月を見据え、加速を始めた。しかし、鉄也はそれを許さずサンダーブレークで行く手を阻む。
185全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:52:40 ID:k+KP8mDg
「悪いが、いかせん」
「黙れ………!」
気の弱いものなら気絶しそうなほどの殺気のこもった目が、鉄也に向けられる。
「そうか、なら、こうするだけだ」
ガイキングは腕をひょいとマジンカイザーへあげる。
「あの男と、あのマジンガーもどきの手の中にものが駄目になるぞ?それでもいいのか?」
「いいだろう……!すべてがわかった以上、出し惜しみは無しだ。お前を倒し、ミオの安全を確保する。そして、『ゼスト』を生まれる前に倒し、
ハマーン様の魂をお救いする。それが私に与えられた運命だ!」
「倒すだと?やってみろ!」
「言われなくてもわかっている……!ディス・アストラナガンよ、いくら我が命削ろうともかまわん!」
「待てマシュマー!『ゼスト』とはなんだ!?」
ディス・アストラナガンが吸い込んだ力を感じ、歓喜の唸りをあげた。
ヴィンデルの声を無視し、ディス・アストラナガンが虚空を踏みしめ飛び上がる。
雲を、大気を引き裂きガイキングへ。
「そうだ!それでいい!!」
ガイキングの顔がひとりでに弾けとび、真の顔が明らかになる。それは、さらに異常さを増す鬼の顔だった。
「ガイキングミサイル!」
1分間に300発という速射がディス・アストラナガンに飛ぶが、今まで最高のありえない速度で加速、そしてありえない角度で急上昇、
ミサイルは見当違いの場所に飛んでいく。
ガイキングの上空へ舞い上がった瞬間、天の月が僅かに翳った。
腕を交差させ、防御の姿勢をとるガイキングを、そのままディス・アストラナガンが殴り飛ばす。
「これほどのパワー……、いったどこからだ!?」
特殊な体術を行ったわけではない。ただ無造作に殴り飛ばしただけの一撃で、身長を倍するガイキングを吹っ飛ばした。
が、ディス・アストラナガンの腕も数m縮み、しわのような凹凸が生まれていた。
折れた腕をつかみ、無造作に引っ張って直す。それだけで完全に直っていた。
指揮者のように手を振り上げ、優雅に下ろす。
ガンスレイブは、その動きにあわせ、あるものは急速に加速し、あるものはスピードを落としまわりこむように動き、
あるものは狙撃し、またあるものは食いつき装甲を噛み破ろうと複雑怪奇に飛び回る。
一匹一匹が多角的に攻撃を仕掛け、ガイキングの装甲を貫く。
だが、ガイキングにダメージは無い。確かに装甲を抜いてはいるが、一匹一匹の力が弱いため、変化したDG細胞で生まれ変わった
ガイキングの再生速度を上回らないのだ。
ガイキングは両角から激しく放電。すると、次々とガンスレイブが弾け、すべてが打ち落とされた。
「その程度では意味が無いぞ?」
「そうか……なら確実に止めをさしてやる!!」
さらにいままでで最高の速度で加速。
ディス・アストラナガンが、本来の操縦者のであるクォヴレー・ゴードンが霊帝を打ち砕いたときの性能に、限りなく近づいていく。
ガイキングの周りを円を描くように回りながら、ラアム・ショットガンを打ち続ける。
その散弾も、暗い光の尾を引き、最高の威力と速度を兼ね備え、打ち出される。
ガイキングは回避行動を開始。『点』ではなく『面』の攻撃であるショットガンをうまくかわしていく。
空中で灼熱のつぶてを放ちながら、ディス・アストラナガンの側面へ回り込もうとする。お互いが最高の攻撃点をもとめ、加速し続ける。
隙を見て攻撃を続けるガイキング。ディス・アストラナガンは、直撃コースではない限りディフィレクトフィールドを利用することで、
攻撃をそらす。そうして最小限の動きを作り出し、攻撃を続けた。
あるとき、ディス・アストラナガンの腕に攻撃が直撃した。
「まだだ!」
186全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:53:18 ID:k+KP8mDg
もげた腕が地に付くよりも早く再生させる。
ズバン!!と、空間を見えない腕で叩く。すると、なくなったという痕跡すら残さず元に戻った。
燃える
燃える
燃え上がる
マシュマーの魂が、ディス・アストラナガンにくべられ、燃えている。
まるで、消える直前のろうそくの様に、煌いている。
ユーゼスが施した紛い物というリミッターと、人間が命を守ろうとする本能という名のリミッター、
この2つを超えたことによる力がディス・アストラナガンを動かし続ける。
命はエネルギータンク。
体は歯車。
頭脳は大いなる負の心を円滑に扱うためのデバイス。
「うおおッ!」
再生した腕にはZ・Oサイズが握られていた。
武器ごと、強引に再生させたのだ。
またガイキングの角が大量の電撃を集め始めた。
「これがかわせるならかわしてみせろ!」
その場をまとめて埋めつく雷が覆いかぶさるように投げ込まれた。逃げ場などない。
「見える、私にも見える!奴のプレッシャーが……悪意の連なりが!」
超高速を超えた超光速をもってディス・アストラナガンが光の速度で迫る雷の僅かな隙間を駆け抜けた。
Z・Oサイズを振り上げ、無防備なガイキングを両断しようとする。
「だが、この程度!」
ガイキングは放電を即刻中止、両手を使いZ・Oサイズを真剣白刃取りした。そのまま、動けないディス・アストラナガンに
ハイドロブレイザーを撃とうとする。
「エンゲージ!」
ディス・アストラナガンもその状態のまま、メス・アッシャーの発射準備。
ガイキングのハイドロブレイザーは、致命的なダメージをディス・アストラナガンの下半身に与えたが、ガイキングの両腕も
メス・アッシャーを受け、因果の彼方へ飛ばされ、爆発した。
ディス・アストラナガンはダメージを再生させ、ガイキングはどこからか取り出したカウンターパンチのスペアを装着した。
マシュマーがそのときむせかえった。べっとりと血が栄光のネオジオン軍の制服につく。それではなかった。
全身から汗を噴出し、まるで高熱を出して倒れそうな様子だ。
――すまない――本来、俺がやらねばならんことを―――
青い髪の男――姿は見えないが、なぜか確信できた――がマシュマーに謝罪した。
「勘違いをするな!お前のためではない、ハマーン様を救うため、ミオを守るため、そして私の誇りのため……そのためだ!」
――まだ完成していないゼストを砕けば――魂は開放されるかもしれない――
「わかっている、先程お前が導いた記憶、確かに受け取った」
ところどころ意識まで飛び始めた。それでも戦いをやめるわけにはいかない。世の中には、命よりも崇高なものがある!
「そちらが刃物を使うというのなら、こちらも使わせてもらおう。こい!ダイターンザンバー!」
鉄也の呼びかけにより、どこからかガイキングとほぼ同サイズの剣が飛来した。
「戻るとき、回収していたものを時間をかけて再生させたものだ。硬度は今まで以上だぞ!」
ガイキングが先に仕掛けた。ダイターンザンバーが風をまいて駆け抜ける。マシュマーも鎌の特性を生かし、遠心力を使いながら
刀身の軌跡をかいくぐって、ガイキングを狙う。
しかし、ツバメのようにダイターンザンバーがひるがえり、ダイターンザンバーとZ・Oサイズはぶつかった。
ガラス同士がぶつかるような、冷たい響きが夜空に木霊する。
通常、大剣は、一撃必殺か後の先を狙うものだが、ガイキングの膂力と鉄也の技量は、片手剣並みの交戦点を与えていた。
その特性をフルに生かし、スピードをまったく落とさない。
187全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:54:18 ID:k+KP8mDg
まるで、ガイキングの肩口を中心にダイターンザンバーが勝手に回っているようだ。
ディス・アストラナガンは、小回りが聞くことを利用し、確実に制空権を確保し、閃光のように鋭い一撃を素早くねじり込んでいく。
いったい何合打ち合ったか分からなくなったころ、ガイキングがいったん距離をとった。
「さぁ、始まるぞ!ちょっとしたスペクタクルだ!」
鉄也の声と連動するかのように、『月』が動きを見えた。
――まずい――体の生成が完了したか――?――
『月』の外円が皆既日食の時のように光った。


サイコ・ヴォイスで『月』に攻撃を仕掛けていたベターマン・ネブラが、異変に気付き、攻撃の手を止めた。
<また……性質が変化した……>
人間では気付けない変化を感じ取り、クラッシュ・ウィッパーで変化した性質を読み取ろうと接近する。
すると、『月』の表面から黒い半透明の巨大な腕が現れ、ベターマン・ネブラをつかもうと、伸びる。
サイズからすると、緩慢に見えるが、かなりの速度を誇る腕が迫るが、慌てることはない。
ベターマンは隙間を縫うように指の間を飛び回る。
時速800km以上で飛行可能なベターマン・ネブラにとっては鈍足の域を出ないものだった。
しかし、腕から生えた小さな腕が生えはじめ、ベターマンの軌跡をそのまま再現し、追跡する。
腕に『月』を攻撃していた際放っていたサイコ・ヴォイスを浴びせるが、まるで効果は無い。
形質、性質が変化している最大の証拠だろう。
さらにしつこく追いすがる触手たち。次々と幹とも言える腕から枝葉のように生え続け、逃げ場を奪おうとする。
ついに、追い詰められるベターマン・ネブラ、大量の腕がベターマン・ネブラに組み付き――
違う。ベターマン・ネブラの姿が僅かに揺らぎ、腕は実態をつかむことなく、空を切った。
激しく追いすがられる間、いつの間に作ったのかベターマン・ネブラの実体と超音波で作った幻影は入れ替わっていた。
光の屈折率を変えて、相手を幻影する。
その隙に、枝葉の一番生えていない幹のそばにベターマン・ネブラはいた。
クラッシュ・ウィッパーで、読み取り、まさに文字通り根幹である部分を破壊するためだ。
そのため、鞭状の突起が『幹』に触れた。
――ヤットサワレタ
〈!!〉
リピッドチャンネルから流れるはっきりとした人間とは比べ物にならない悪意。
何か異常な感覚を察知し、急いで引き戻す。なぜか、そこの部分がこそげとられて、ただれたようになっていた。
危険を感じ、距離をとりつつも、体の一部と引き換えに得た物質構造を解析、サイコヴォイスを放つ。
Zマスターですら恐れる確殺の声が『腕』を揺るがし……
3分の1程度程度を破壊した。おかしい。広範囲に、間違いなくサイコヴォイスは放たれ、腕をまとめて分解するはずだった。
しかし、大部分が残っている。
触手が、また追い詰めようと迫る。そこに、『幹』ごと巻き込むようにサイコヴォイスを放射。
まったく壊れない。
――ムダダ
また追いかけっこが始まる。しかし、ベターマン・ネブラは先程と同じように腕を追い払ようとし――
腕から、ベターマン・ネブラと同じ超音波を発信し、打ち消した。
腕へ迫ろうとしていたベターマン・ネブラの僅かな隙。触手が絡みつく。それを打ち払おうとした。
体が、動かない。
――ヨビミズ
たった一言の言葉が、万の意味を示していた。
そして…………



188全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:55:20 ID:k+KP8mDg
腕から生えた小さな同じような触手が、怪獣に食い込んでいる。徐々に腕の色素が濃く、逆に怪獣の体は薄くなっていく。
――まずい――直接同化して――のっとるつもりだ――あれでは抗いようが無い――
しばらく怪獣は暴れていたが、動かなくなった。
腕は、怪獣を『月』に取り込んだ。
『月』の表面が跳ねた。浮き上がった形は、何処か人の形に見えた。
確実に迫る絶望の化身。
「胎動が始まったということか!?」
――おそらく――もう時間が無い――
状況の悪化が焦りを呼ぶ。
しかし、時は待たない。ガイキングはまた攻撃を仕掛け始めた。
「なぜ、あれの味方をする!?あれが何か分かっているのか!?」
激しく戦いながら、会話は続く。
「分かっているさ!あれが他の参加者を皆殺しにするものだとな!」
ドリルプレッシャーパンチが発射される
「自分は逃れられるとでも思っているのか!?」
それをかわし、ラアム・ショットガンを弾幕を張るように撃つ。
「思っちゃいないさ!だが、その覚悟はある!どの道、皆殺しにするのは変わらん。一人では骨が折れるようなのでな、力を借りることにした!」
上からガイキングが回り込んできた。
「利用されているというのがなぜ分からん……!」
Z・Oサイズでガイキングの突進をさばく。
「利用されているんじゃない、俺が利用しているだ!そのためにはちょっとは働く必要はあるだろう!」
身をひるがえし、光線が発射された。
「そう考えるよう思考が誘導されていることに気づけ!」
メス・アッシャーでそれをまた迎撃。
「なんだっていいさ!俺が優勝するのならな!」
爆発で、お互い距離が開く。
――力が足りない。
そのことをマシュマーは感じていた。倒すためには、まだ力が足りない。
だが、これ以上は、命つきかけている彼には無理だ。

「今の私には、見ていることしか出来ないというのか……!」
ヴィンデルがコンソールを叩く。
「マジンカイザー、何か打つ手は無いのか!?」
もう一度、マニュアルを読む。レバーを引く、スイッチを押してみる。
コクピットであらゆる方法を検討するが、答えは出ない。
――このままでは、マシュマーが危険だ。先程仲間といったばかりではないか、今応えずしていつ応えるというのだ……!
「コマッテルヨウダナ、アニキ」
「……?」
――通信……?いや、その電源は落ちている。それに、今の声は……?
「オイオイ、ワスレタノカヨ、ヒドイナ」
この声。あの、ピンク色の……
「――まさか、お前たちか?」
「YES!YES!YES!エグザクトリィ!!」
「お前たち……どうして」
「オットアニキ、ツモルハナシモアルダロウガ、イマハナシダ。カンタンニイウゼ、オレタチガアイツヲ、アシドメスル」
「足止め?どうやるというのだ。」
「オレタチハマダ、キュウシュウサレキッタワケジャネェ」
「コノタマシイホノオ!キョクゲンマデタカマレバ!クダケヌモノナドナニモナイ!」
「セキハ!シャフルドーメーケーン!」
「?」
「トニカク、10ビョウゴ、『ツキ』ト、アイツノウゴキヲトメル。……タノムゼ、アニキ」
189全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:56:15 ID:k+KP8mDg
――落ち着け――今のお前は独りではない――
「マシュマー!何でもいい、あと10秒持たせろ!そうすれば、奴らの動きが止まる!」
その言葉で、マシュマ−あることを思い出した。先程かわした、約束を。
――『これからは、仲間だ。頼ってくれてかまわんぞ』
「どういう意味だ!」
「とにかくとまるんだ!信用しろ!」
自分には、マジンカイザー、ヴィンデル・マウザーという仲間がいることに。
「確実なんだな……?」
「ああ」
その目に、嘘はない。
「分かった、どの道、外せばすべて終わりだ。これにかけるしかない。……撃った後のことを頼む」
「どういう意味だ、マシュマー?」
「……頼むぞ」
そういって通信を切った。
「征くぞ……!」
ガイキングの光弾をかわし、一気に組み付く。体格差もあってこれは無いと思っていたようで、一瞬ガイキングがひるんだ。
「うぉおおおお!!」
零距離でラアム・ショットガンとメス・アッシャーを限界まで撃つ。ガイキングの体があっという間に損傷していく。
だが、ディス・アストラナガンも損傷は大きい。衝撃と反動で肩ごと両腕が吹き飛んだ。
さらに全力でガイキングを横へ蹴り飛ばす。足もまた潰れて破片が落ちていった。
「ディスレヴ、ファイナルオーバードライブ……!! 」
吹き飛んだガイキングが姿勢を立て直している間に力を解放し、エンジンに臨界まで力を貯める。
「ぐッ……!」
目の前が白む。脳の神経がまとめてぶちぶちと千切れていき、視界が薄く、かつ赤くなっていく。
限界を超えた戦闘の果て、すべての生命力をアイン・ソフ・オウルにつぎ込んだ末消耗で体が悲鳴を上げた。
先程までかいていた汗は無くなった。なぜなら、マシュマーの腕は今、老人のように干からび、節くれになっていたから。
息をすることさえ、激痛で堪えられないほどだった。それでも、霊に従い言霊を紡ぐ。
――アイン・ソフ・オウル――さぁ――
「アイン・ソフ・オウル………さぁ……」
この時、ガイキングが姿勢を立て直し、 マシュマーへ攻撃をしようとしていた。しかし、
「やらせん!」
マジンカイザーからルストトルネードが発射、ガイキングの攻撃を防ぎ、さらに正確にある場所へとガイキングを運んだ。
いくら痛めつけところでアイン・ソフ・オウルを撃つまでは時間が足りない。
だから、マジンカイザーの力が必要だった。そして、その助けにより完成した一撃。
――虚無に還れ!!――
「……虚無に!還れ!とどめぇ―――!!」
アイン・ソフ・オウルがガイキングに飛ぶ。
「なんだと……!こんなもの、かわしてやる!」
竜巻から逃れ、回避するガイキング。しかし、高速で消滅は迫る。

そのとき、『時』が来た。

190全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:56:45 ID:k+KP8mDg
「ラムダドライバと同じやり方なのは気に食わんが、こうするんだな?」
「僕と、彼女が送る役ですか?」
「そのようだな……まさか一年戦争のころのアムロ・レイと会うとはな……」
「はい?」
「いや、なんでもないよ、坊や」
「おっしゃあ!あんな仮面野郎にやらせてなんかたまるか!」
「アラド、落ち着きなさい。無鉄砲なんだからまったく……」
「やらせはせん、やらせはせんぞ!一人でも多く地獄に引きずり込んでくれるわッ!」
「あの、ひきずりこんじゃ駄目なんじゃ……?」
「まるでこれじゃ主人公サイドのモブキャラみたいだっつの、まぁ、手伝ってやるけどな」
「皆さん、ちゃんと手をつなぎましたか?プラーナを落ち着いて高めて……」
「ヴィンデル、後は頼んだぞ」
「親父、いくぜ!」
「ああ、目にモノ見せてやろう」
「外との接続は、イングラムがやってくれているのですね?……では、グランゾンを利用する代価、支払っていただきましょう」
「異星人の暴走をわしがとめてやろう!!」
「心を細く、切っ先として……参る!」
「ソレジャイクゼ……タノムゾ、アニキ!ミンナノタマシイ、オレガアズカル!」
「ダイダルゲートニハ、コウイウツカイカタモアルンダ!!」
『行っけぇぇぇぇぇええええええ!!』


「ッ!なんだ!?ガイキングが動かん!」
突然、動きを完全に止めたガイキング。そこへ、容赦なく迫るアイン・ソフ・オウル。
「動け!動けガイキング!ここで死ぬわけには俺はいかないんだ!」
さらに接近するアイン・ソフ・オウル。
「俺は、ミケーネを倒すと……」
それ以上の言葉はなかった。アイン・ソフ・オウルは、ガイキングの頭部を吹き飛ばし、さらに、『月』に直撃した。

「マシュマー……私たちの、いやお前の勝利だ」


ぼんやりと、マシュマーは、ウィンドウを通し、月に穴が穿たれるところを見ていた。
(これで……よかったのか?)
――ああ――これで開放されるはずだ―――
そう一言言い残し、青い髪の男の気配が消えた。
(そうか……最後に、ハマーン様の安全を確認できなかったのは残念だが……これでいい)
とても自分のものとは思えないようになった手で、震えながらもバラを胸から抜く。
バラを握り締めようとしたが、握力が足らなかった。もう、死は目の前であることを知覚し静かに目を閉じる。
そこに、1つの光がディス・アストラナガンの前でとまった。
――マシュマー、大儀だったな――
(その声は……ハマーン様。もしや……!?)
重いまぶたを持ち上げ、もう一度世界を見る。
――よく、あの暗い牢獄から開放してくれた――礼を言うぞ――
水分等残っていない干からびた体だというのに、目からは熱いものがあふれ始めた。
(もったいなきお言葉……感謝いたします……!)
マシュマーの体が灰のように崩れていく。
地面にわだかまった灰は煙となって消えていく。
(この……マシュマー……最高の……幸せ……)
ディス・アストラナガンのコクピットに残ったのは、一輪のバラ。
マシュマーは、消滅した。それは、『無』となったという意味ではない。マシュマーは、大いなる運命の力の一部となったのだ。

191全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:57:16 ID:k+KP8mDg
『月』にはぽっかりと暗い穴が開いていた。そこからは何筋もの光が外へと尾を引き、飛び出していった。
ぽっかりとあいた黒い穴から、放射状にひびが入る。
「終わったのか……?」
ヴィンデルが、その様子をオーバーヒートしたマジンカイザーから見る。
あの月は、はっきりとした亀裂が入り、崩れようとしている。いったい何故このようなことになったかは見当もつかないが、
分かったことは一つあった。
「……もう、終わりだ。主催者、お前が何を企もうともな」
これで終わった。そう思っていると……
「今度は『門』!?あれを何処かに運ぶつもりか!?」
「クロス・パラダイムゲートシステム座標設定、ヘルモーズにアクセス……使用許可受理。開放空間は、異相番号08……」
『月』の上に、天使が舞い降り、『門』を生み出した。
『門』に沈んでいく『月』。
「ヴィンデル・マウザー……ここまでやるとはな」
「その声は……W17?」
しかし、その答えはない。稲妻のような光が場に包まれ、『月』も『門』も消滅した。
そして、天使もまた何処かへ去っていく。
…………まだ、絶望への時計は、動いている。



「何故だ……!どこでおかしくなったというのだ!」
ユーゼスが握ったコブシを監視パネルへ振り落とす。握り締めた拳から、血が滴っていた。
DG細胞をゲッター線を浴びせ、最高の進化を促す。最初はこの世界の負の心を流し、適応させた上で、負の無限力そのものを
食わせることで力の属性と性質を決定させる。さまざまな世界から心を引っ張ることにより、さまざまなオーバーテクノロジーも取得。
アカシックレコードと接触させ、一度死を経験させることによって、更なる負の力の引き出し方と、アカシックレコードを打ち破る方向に
体を組み替えさせる。
一度、マジンカイザーがデビルガンダムを撃破することさえ計算のうちだった。このままいけば、完全、究極のゼストが生まれるはずだった。
だが、思わぬところで計画がつまずいた。
1つ目はベターマン。ベターマンは地球単位の破壊者には立ち向かうことは確実、さらに場所をはっきり認識させるため、アニムスの実まで
取り込ませた。これにより、事前に取り込んだアニムスの実で、スムーズに取り込ませ、確実に接近してくるようになっていたのだ。
「違う、これでは違うのだ!」
ユーゼスが取り込ませたかったのは、究極の存在オルトスだ。決してネブラではない。ゼストの空中戦闘能力は飛躍的に伸びるだろうが、
それはユーゼスの求めるものではなった。
2つ目はディス・アストラナガンの存在。日の出まで時間をかけ、完全な肉体が生み出されるはずが、奴の一撃により、鹵獲した魂の一部は逃げ、
肉体はまだ固まっていないのにもかかわらず、『卵』は割れた。
このままでは、最悪ゼストは生まれない。
異相空間に送ることは出来たが、あまりにも不安定だ。
「あの時、マシュマーは『ゼスト』と言った……まさか、またお前の差し金か……!」
憎々しげに高いリノリウムの天井を見た。
「イングラム!」
『俺はきっかけを作っただけだ。あとは、マシュマーの執念が起こした奇跡だ』
突然、ウィンドウの一つが砂嵐になり、そこから声が聞こえてきた。
「馬鹿なことをいうな、私やお前のような存在でも、強念者でもない、ただの人間がそんなことが出来るはずが無い」
『いや、出来る。お前は人間というものを軽んじすぎた』
その言葉に続き、次々とウィンドウが砂嵐になる。
『その通り。この程度、グランゾンの力を借りずとも造作もありません』
『驕るのもそこまでだな。恥を知れ、俗物!』
『どんなにつらくても……守りたいものがあるんだ!』
次々と語りかける魂たち。
192全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:58:01 ID:k+KP8mDg
「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!」
ユーゼスが耳をふさぎ、懐から取り出した銃でモニターをでたらめに撃った。
ステンドガラスのように、ガラスが舞い落ちる。
後に残るは、不快な壊れた機械の音と、無音の静寂のみだった。
「……W17、ある程度直接的な方法をとってかまわん、殺し合いを煽れ」
違うモニターを使い、命令する。
「了解」
短くラミアも答えると、通信を終えた。
「このままでは済まさん……かならずゼストを臨(お)ろす……!そのためには、もっとゲームを進めねば……」
ゼストの補修のためにも、殺し合いを進め、負の心の加速を促進させねば……そのためのゲームなのだ。
最後に残った参加者をゼストで、蹂躙、もしくはあらゆる困難を克服し、現れたドンキホーテ――道化の勇者――どもを
ゼストで相手をしてやろうとも思ったが、これではそんなことをいっている場合ではない。
ゲームの進行状況や、参加者の心で、大きくこれからは変わる。
――ヴァルシオンか、ジュデッカか。そのあたりを調節する必要があるな。他にも、手を考えねば……
ユーゼスは、格納庫へと向かった。

かくして、主催者ユーゼスもまた、運命に翻弄される。超越者から、参加者たちと形は違うが、同じく抗う者へと堕ちる。
はたして、ゲームは、完遂するのか?破壊されるのか?
ユーゼスの、完遂すれば野望は叶うのか?完遂せずとも叶うのか?はたまた、破壊されても叶うのか?破壊され崩れるのか?
誰にもそれは分からない。


【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有 、全身に刺し傷あり。
 機体状況:オーバーヒート解除まであと1分
 現在位置:E-4
 第一行動方針:オーバーヒートが解けるのを待つ
 第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 最終行動方針:バトルロワイアルの破壊 】

【ミオ・サスガ  
パイロット状態:気絶
 現在位置:E-4
 第一行動方針:??? 
 最終行動方針???】

【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:E−4
 第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる。ある程度直接的な行動もとる。
 第二行動方針:グランゾンの様子を見て、用済み・もしくはユーゼスにとって危険と判断したら破壊する
 最終行動方針:ゲームを進行させる
 備考:ユーゼスと通信を行い他の参加者の位置、状況などを把握しました 】
193全ての人の魂の戦い:2006/09/25(月) 17:58:34 ID:k+KP8mDg
【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3(パンプレオリジナル) パイロット状況:死亡 機体状況:消滅】
【副長 搭乗機体:ガンナーユニット(パンプレオリジナル) パイロット状況:死亡 機体状況:消滅】
【ベターマン・ラミア パイロット状態:死亡】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)  パイロット状態:死亡 機体状態:コクピット消滅】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α) パイロット状態:死亡
機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅】

【4時】
194 ◆MZT8e2CjCg :2006/09/27(水) 12:04:41 ID:q1q3Ru4z
(このペースならば・・・いけるか?・・・いや、やってみせる!)

そこはD-8,地図上の最南端,市街地の一角。
G-6にある基地を目指し、ガルドは今もなお
自らの機体であるエステバリスのバーニアをふかしていた。

その進路は後30分弱で禁止エリアとなるE-7へと向いている。
普通ならば誰もが迂回して進む場所である。
万が一そこでトラブルが発生してしまえば命にかかわるのだから当然といえよう

だが、彼にとってはそれが逆に狙い目となっていた。

今現在、自分がいる市街地や誰もが避けて通る禁止予定区域ならば
途中誰かに見つかる可能性も低くなる。
ならばこそ、周りを警戒する必要性も低下し、より高速で飛行できるというものだ
かなりの時間短縮となるだろう・・・

もちろん、これは多少なりとも危険を要する、一種の賭けである。
だがガルドにとって、これ以外に選択肢はなかったのだ。

迂回した航路をとればその分時間もかかるし
また、誰かの目につきやすそうな場所を移動するには辺りを警戒して速度を落とさなければならなくなる。
つまり二重にタイムロスとなりえるのだ。
それはなんとしても避けねばならぬ事態であった。
195一人煌く:2006/09/27(水) 12:07:13 ID:q1q3Ru4z
夜間の移動は昼間の其とは全く違う、
薄暗い中、バーニアを煌かして飛ぶのだから目立つことこの上ない。
もし危険な相手が航路上に潜んでいればひとたまりもないだろう。

確実に目的地へ着きたいのであれば、なるべく慎重にゆっくりと・・・
早く目的地に着きたいのであれば、なるべく人目のない所を移動するしかない

一見無鉄砲な行動に見えるが、救いたい相手、そして自分の命
両方を考えるのであれば最も理にかなっているといえよう。

(ここを抜ければ、しばらく平原か・・・警戒が必要になるな。再びスピードを落とさねばならんか・・・だが!・・・)

そう、ここを抜けてしまえば目的地まではあと僅かなのだ。
問題はない、9時・・・いや8時半ぐらいには到着できるかもしれない

エステバリスは飛ぶ、暗闇をバーニアで煌かせて・・・
その目的地でどのような運命が待ち受けているのか
それはまだ、誰にもわからない・・・


【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
 現在位置:E−7に差し掛かったところ
 第一行動方針:G-6でのイサムの存在の確認・合流
 第二行動方針:G-6にて、首輪・マサキの情報を集める
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
 第四行動方針:チーフとの合流
 最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる )
        ただし可能ならばチーフ、自分の生還も考慮に入れる】


【2日目 19:25】
196それも名無しだ:2006/10/04(水) 13:49:50 ID:izWQV/q8
保守
197それも名無しだ:2006/10/06(金) 21:21:19 ID:rg63sr9U
保守
198それも名無しだ:2006/10/09(月) 15:48:17 ID:oC8/JuUx
保守
199それも名無しだ:2006/10/10(火) 16:53:11 ID:WoN6xJQW
ホシュ
200それも名無しだ:2006/10/13(金) 13:47:49 ID:IFUmdH+s
保守
201それも名無しだ:2006/10/16(月) 13:15:26 ID:OYqDb2li
保守
202それも名無しだ:2006/10/18(水) 16:07:05 ID:SfpQ5YTP
hosu
203last moment ◆JevR7BMAco :2006/10/21(土) 21:51:32 ID:H9kOvP2O
「叩き潰せ、ロボ!」
 張り詰めた空気が叫びによって破られた。
セレーナとその乗機との間を遮断するように拳が振り下ろされるのと同時、
リョウトはアーバレストへと向かい駆けだす。
生身の戦闘に手馴れている彼女と、まともにやり合うのはやはり分が悪い。
だが、できれば無傷で機体を入手したいのも事実。
方法は一つ、彼女をアーバレストに搭乗させない。生身で確実に排除する。
立ち上った粉塵が視界を遮るが、それも計算のうちだ。
「ロボ、僕について動け!」
リョウトの命令に、ロボがゆっくりと立ち上がる。
そのままリョウトは、自分と他の機体二機を守るようにロボを動かした。
・・・この状況で予想できる相手の動きは三つ。
粉塵に紛れこちらを襲うか、アーバレストへ向かうか、仲間を呼ぶために退くか・・・
他の機体を背にしたこの状態ならば、どの動きでも対応できる。
(さて、どう動く?こちらに来るとすれば、右か、左か・・・)
アーバレストとロボの右足の間に立つ。
左右に意識を集中しながら、対応策を思考。どちらから来てもその瞬間に殺す。殺せる。
そして微かな、本当に微かな音が・・・上から聞こえた。
「―――!?」
 リョウトがその場から飛び退くよりも速くその目の前に女が降り立つ。
女に腕を取られ、そのまま一本背負いの要領で押さえ込まれる。
「チェックメイト・・・終わりよ」
 操縦装置のついた右腕を極められる。
苦痛に歪んだ表情で、リョウトはセレーナの冷たい呟きを聞いていた。

「・・・どうやって、上から来たんですか?」
「ロボの拳からよ。命令と動きのタイムラグを利用してね」
 セレーナの答えにリョウトは卑怯だなと口中で呟く。そして、
「取引をしませんか?」
 と続けた。
「取引?素直にG-6に行くから、この手を離せって言うのかしら?」
 茶化すような声色で、しかし力を緩めることなくセレーナは返す。
「違いますよ。このまま手を離して僕を自由にして欲しいという事です。
 貴方に押さえつけられていたんじゃ、奴を追えないじゃないですか」
「何を言ってるのか解らないわね。そう言われて、手を離すと思う?」
「いえ。ただ、このままの状態だと余計なことまで口にしそうなんで。
 例えば、G-6へ向かう理由とか・・・っ!」
 リョウトがそう呟くと同時に、右腕に加えられる力が増す。
そして、セレーナは無表情にリョウトの首元に手をかけ、力を込めた。

「何をしているんだ、セレーナ!」
 苦しい。掠れゆく意識の片隅に男の声が響く。
薄れ行くリョウトの視界に二人の男の姿が入る。
リュウセイと、それに支えられるように立つジョシュア。
それを見て、リョウトは・・・好都合だとほくそえんだ。
204last moment ◆JevR7BMAco :2006/10/21(土) 21:52:08 ID:H9kOvP2O
「邪魔をしないで!」
「危ねぇ!!」
「逃げろ!セレーナ!」
 同時に放たれる、三人の叫び。そして、その上に更に重なるように轟音が響く。
それは、恐ろしい勢いで振り回された巨人の腕が廃ビルを倒壊させる音だった。
オートガード機能。操縦者の危機に発動するガードシステム。
緊急避難スペース内で見つけた説明書でその事を知っていたリョウトは、
自ら命の危機を招く事でシステムを作動させたのだった。
多量の破片が降り注ぎ、慌てて飛び退くセレーナ。
それを尻目に、リョウトはロボの右足へと飛び込む。そして・・・
「飛べ!ロボ!そして全弾を発射しろ!」


・・・奇しくもそれは彼が忌み嫌う悪夢が引き起こした事象と、全く同じ光景だった。
周囲の廃墟群へと撃ちこまれる数多くのミサイル。あらゆる場所で巻き起こる爆炎・・・
ロボが再び大地へと足をつけた時、その地は既に原形を留めてはいなかった。
右足のハッチを開け、リョウトは外へと降り立つ。
目の前には各部がが破損した上、横倒しになった試作2号機の姿があった。
(やりすぎたか・・・これじゃあ、機体を奪うどころじゃないな)
おそらくはアーバレストも瓦礫の下なのだろう。うまく、発見できるだろうか?
などと考えながら、周囲を見渡す。そして、彼はあるものを見つけた。
自機の方へと向かおうとしたのだろうか?
幾つかの瓦礫に埋もれたアーバレストを前に、それは倒れ伏していた。
それは、紫色の髪をした一人の女性―セレーナ・レシタール――だった。
頭からおびただしい鮮血を流しながら・・・
それでも彼女は、生命の証である微かな呼吸を繰り返している。
ただし、その下半身は荒地の中でも一際目立つ、巨大な瓦礫の下へと消えていたが。
(これは放っておいても死ぬかな・・・)
辺りへと意識を向けつつ、そう考える。そして、他の二人を探そうと身を翻し・・・
「・・・そうだ」
 唐突に、その足を止めた。
205last moment ◆JevR7BMAco :2006/10/21(土) 21:52:43 ID:H9kOvP2O
「くっ・・・」
 黒煙の上がる焼け野原を、ジョシュアは這いずっていた。その背後には紅い、道。
全身の傷からの出血・・・特に大きな破片の刺さった太腿からの出血が止まらない。
しかし、今、彼の中にあるのは死の恐怖などではなく、爆炎の中で散り散りになった仲間の事だった。
(セレーナ・・・リュウセイ・・・無事でいてくれ・・・)
だがその願いは、ぼやける視界に飛び込んできた、一つの光景によって破られる。
それは、瓦礫の下敷きになったセレーナと、その正面に立つリョウト・ヒカワの姿。
(なにを・・・しているんだ?)
彼はセレーナの前で何か小さな物体を弄っていたが、やがて、おもむろにその場にしゃがみこむ。
彼が手に持っているもの。霞んでしまって、よくは見えないものの・・・
ジョシュアの目には、それが腕時計のように、見えた。
(まさか・・・)
「やめ・・・」
 大声で叫ぼうとして、口から血を吐き出す・・・どうやら、内蔵もやられていたらしい。
周囲の光景が、徐々に白に埋め尽くされてゆく。心なしか、痛みも消えていっているようだ。
――もう・・・駄目か
――すまない、リム、親父・・・
――俺はもう、帰れそうにも無い

――リュウセイ・・・無事でいてくれ

――クォヴレー、トウマ、後は頼んだ


そして、さいごに・・・


――イキマ・・・生き残れよ


親友への想いを胸に、ジョシュアは意識を閉ざす。
彼が最期に聞いたのは、とても微かな爆発音だった。



「・・・なんだ。これもルール違反とみなされるのか」
 とてもつまらなそうな顔をして、少年はポツリと呟く。
彼の目の前には、今まで人間だったものがあった。
それから飛ぶ赤い飛沫が頬を濡らし・・・少年は心底、不快そうにそれを拭う。
(もう、ここにいる必要は無いな)
そう考えながら、彼女の腕から操縦機を取り外す。
あと二人、リュウセイとジョシュアの姿が無いのが気になったが・・・
おそらくは瓦礫の下にでも埋もれてしまったのだろう。
それに、万が一生きていたとしても、この状況では脅威ではないはずだ。


「おまたせ、リオ・・・もうすぐ、あいつを殺せるから、待っててくれ」
 少女の冷たい唇に自らのそれを重ねた後・・・リョウトはロボのステップにつかまる。
「行くぞ、ロボ。奴を探す!」
 少年の言葉と共に、鋼の巨人が飛び立つ。
そのまま南へと狙いを定めると・・・鬼を求め、月光の中へと消えていった。
206last moment ◆JevR7BMAco :2006/10/21(土) 21:53:29 ID:H9kOvP2O
そして・・・少年が飛び去って数分もしない瓦礫の街を、一つの影が歩く。
彼の目に映るのは地獄のような光景。二つの死体。二つの機体。
「セレーナさーーん!ジョシュアさーーん!リュウセイさーーん!」
 やがて、様子を見に来たのだろう。少年のような、小さな声がその場に響く。
しかし影は、自らを呼ぶ声に振り返ることも無く・・・目の前の機体に乗り込んだ。

全身の痛みを堪えつつ、損傷が激しい機体を無理矢理起動させる。
体を覆うビルの残骸は起き上がることで薙ぎ払う。折れた左腕に激痛が走るが耐える。
計器が死んでいるが問題ない。相手は肉眼で確認できる。
そして、白い色のその機体は、手にした物を前方に向けた。
「すまねぇな、皆・・・トリガーは、俺が預かるぜ・・・」
・・・操縦桿へと重ねられた手に、幾つかの手が重ねられた気がして、彼は微かに微笑んだ。


「天上天下、一撃必殺砲だ・・・喰らいやがれ」


光。背後からの強烈な光に、リョウトは思わず振り返る。
そして・・・光の奔流に視界が霞む。必死に目を庇いながらもリョウトは叫んだ。
「回避しろ!ロボォォーーー!」



エルマがそこに駆けつけた時。そこにあったものは、姿を変えてしまった廃墟群と、二つの死体、
そして、試作2号機の中で微かな笑みを浮かべながら眠る、リュウセイ・ダテの姿だった。



【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
 パイロット状態:全身に激しい痛み、左腕を骨折、気絶中
 機体状態:全身に激しい損傷、核を消費
 現在位置:E-2
 第一行動方針:ビッグオーの修理完了を待つ
 第二行動方針:C-4、C-7の地下通路の探索、空間操作装置の破壊
 第三行動方針:マイ、及び主催者打倒のための仲間を探す
 第四行動方針:戦闘している人間を探し、止める
 最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
 備考:サドン・インパクトに名前を付けたがっている】

【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:なし
 パイロット状態:死亡】

【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:全身に損傷、瓦礫に埋もれている
 備考:トロニウムエンジン グレネード残弾3、投げナイフ残弾2はアーバレストと共に残されています】

【2日目 22:15】
207last moment ◆JevR7BMAco :2006/10/21(土) 21:54:28 ID:H9kOvP2O
「は、はは・・・まだだ、まだ僕は死んでない・・・まだ、あいつを殺せる・・・」
 右腕で両目を押さえ、必死にステップにつかまりながら、リョウトは笑っていた。
敵――ジョシュアかリュウセイか、どちらかは知らないが――の放った、最後の攻撃。
その光の奔流は、リョウトの視界を一時的に奪いはしたものの、
ロボを落とすまでには到っていなかった。
「はは、ははははははははは・・・ッ!」
 勝ち誇った笑いは、リョウトが咳き込むことによって中断される。
その咳と共に吐き出された液体に、赤い色がついてる事を・・・むろん、彼は気づいていた。
あの状況で、あれだけの火力を出せる武器。
彼等の持つ武器の中で、それが出来るのは一つだけだった。
だが、しかし・・・それでも彼の笑みは消えない。
まだ時間はある。その前にアイツを殺せばいいのだ。そうすれば・・・
やがて、塞がっていた視界が徐々に戻ってくる。軽く、頭を振った後、下を覗き込む。
「リオ、ごめんね。怖かったろ、う・・・」


そこには、何も、存在していなかった。


リョウトは、声にならない叫び声をあげた。



【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
 パイロット状態:絶叫、放射能汚染
 機体状況:弾薬を全て消費、下半身消失
 現在位置:E-3
 第一行動方針:???】

【2日目 22:30】
208それも名無しだ:2006/10/26(木) 02:11:08 ID:8BOea1sT
保守
209それも名無しだ:2006/10/30(月) 00:23:53 ID:tG3M/bro
保守
210閃光:2006/10/31(火) 15:24:57 ID:3A6GMtdn
「思ったより時間がかかってしまったな……」
チーフは一人呟いた。
水中用のOSに書き換え、水中を渡り、またOSを一人書き換えて。
どうにか補給ポイントまでたどり着いたのはいいが、時刻はすでに24時を越えていた。
リョウトを追うにしても、他の脱出計画者と合流するにしても、あまりにも痛い時間の遅れといえるだろう。
しかも、1時間ばかり前に輝いた、あの光。
チーフとしては、実際経験したことはないが、戦術兵器などの資料集で垣間見たことがある。

  核

その威力は、たやすく町を焼き、何十万もの人間を焼き尽くす。
旧世紀、まだ冷戦と呼ばれるものが存在していたころ、アメリカという国は、携帯兵器として歩兵用のアトミック・バズーカを造り、
ソ連と呼ばれる国は、核地雷を造ったという話がある。
無差別な爆発ではなく、前述のような戦術兵器として調整してあることを、チーフは祈ることしか出来ない。
そして、願わくばそれで命が失われていないことを。
テムジン747Jの体をなめるように動き回っていた工具型の小型ロボットが、少しずつ減っていく。
おそらくは、補給が完了したということだろう。
「よし、各部チェック……オールグリーン。問題ないな」
テムジンの弾薬や、エネルギーが完全に満タンになっていた。
これで、まだしばらくは持つな。
そう思い、補給ポイントから離れようとしたと時、突然夜空の暗い光さえさえぎられた。
「――機影かッ!?」
とっさの経験から、爆発するような勢いでブースターを噴射し、距離をとる。
静かに補給ポイントに降りて来る巨体。それは―――

――ジャイアント・ロボ。
しかし、前にチーフが見たときとは、まるで違う。
下半身を抉り取られ、上半身だけで動くその姿は、全体のモチーフと組み合わさって、まるで包帯死体〈マミー〉のようだ。
ジャイアントロボの腕が、補給ポイントのスイッチを押すと、四角い箱から小さいロボットがミサイルのように撃ち出される。
わらわらと工具型のロボットがジャイアントロボに群がり始めた。
その様も、腐乱した死体に群がる蝿のような奇怪な想像を掻き立てるだけだ。
もしや、先程の核と何か関係があるのだろうか。だとしたら、何があって、何故こうなったかが想像がつかない。
その肩に、チーフはカメラを向け二段階拡大。
そこには、リョウトがいた。ただし、チーフの向きからでは、彼の表情は見ることは出来ない。
この距離なら、チーフに気付かないわけがないはずだが……?
確かリョウトという名前だったな、ということを思い出し、
「リョウト……といったな。何がいったいあったのか、話してもらえないだろうか?」
その声で気付いたのか、リョウトがゆっくりと振り返った。
「……――ッ!!」
無意識のうちにチーフはテムジン747Jを一歩下がらせていた。
211閃光:2006/10/31(火) 15:25:27 ID:3A6GMtdn
撃て、と。
迷わずその場で撃てとチーフの経験と直感が言っていた。
昆虫のように無機質で、無感動で、無貌な瞳。人が死ぬことにすらさざ波一つ心にを立てないような瞳。
しかし、熱病にうなされたような腐爛した瞳。何かに執着し、それ以外何も見ようとせず、濁りきった瞳。
典型的な、狂気に犯された人間の――いや目的のためなら人間すらやめかねない狂った生物の瞳。
剣鉄也のように、ただ、目的のため燃えるように輝く瞳とは違う。
この瞳は……もっと恐ろしく、もっと危険なものだ。
コレは危険だ。
今すぐにでも、「外科的に摘出」しろ。今なら撃てる。
コレを放置すれば、どれほどの被害が出るかは予測がつかない。
トリガーにこめる力が気付けば、かなりのものになっていた。それこそ、もう少し力を込めれば、そのまま弾が打ち出されるほどに。
だが。
同時にチーフの理性が叫んでいた。
撃つな、と。
そもそも、ジャイアントロボがボロボロになってはいるが、だからといって何かやったという確証はない。
第一、彼がこうなったのも、自分がリオという少女を守れなかったことも原因の一つなのだ。
そのリョウトを、まさかとめるために来た自分が撃つと?
そんなことは、あってならない。
だが。
しかし。
かといって。
一つ前の思考を打ち消す言葉が、グルグルと頭の中を回る。
(どうする……!?俺は、どうすればいい……!?)


(どうしようかな………)
リョウトは、ジャイアントロボの肩から、テムジン747Jを凍った瞳で眺めていた。
ここであまり時間をとりたくないな、とは思ったが、かといって下手に動けば、むこうを触発してしまうかもしれない。
こんなくだらないことで、頭を使いたくないな。
僕は、今すぐリュウセイを殺しにいかなきゃならないのに。
あの状況、セレーナは死亡しており、ジョシュアも動ける状態じゃなかった。
それに、最後に聞こえた天上天下……とか言う声。あんなことを言うのは、彼しかいない。
リュウセイが、僕のリオを吹き飛ばした。そう、熱かったろうに、痛かったろうに、それを……それを……。
リョウトが乱暴に自分の頭をかきむしる。
殺したい。殺したい。殺したい。よくもリオを!
ああ、またイライラしてきた。
頭をかきむしる指に、さらに力が入る。その力はあまりにも強く、頭皮を破り、血が流れ始めた。しかし、それでもリョウトは
掻くことをやめない。爪と肉の隙間に血と肉が入り込む。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
ガリガリガリガリ
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
212閃光:2006/10/31(火) 15:26:10 ID:3A6GMtdn
ガリガリガリガリガリガリ
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ
そうだ。
だから、僕は行かなくちゃ。こんなところで、悩んでる暇なんてないんだ。
ちょうどよく、補給も終わったみたいだ。これなら、殺せる。リュウセイを、殺せる。
「ロボ……いけ」
もう、リョウトの瞳には、チーフなどという路傍の石ころは写っていない。写っているのは、リュウセイと、その先に待つ剣鉄也のみ。
上半身のみとなったジャイアントロボが、空へと飛ぶ。
しかし、一発のソードウェーブが、ジャイアントロボのすぐ側に打ち込まれた。
「とまれ。そして、何があったのか……話してもらう」
チーフとしては、あくまで警告、それ以上の意味はない足止めの一撃。
しかし、ただの路傍の石に、邪魔をされたリョウトの気持ちはいかようであったか。
「ロボ」
自分がつまずいた石を蹴り飛ばすような、生きていないただのモノを見る瞳で。
「全弾打ち続けろ」
補給ポイントに上に載るジャイアントロボから、雨のような数の兵器が撒き散らされた。



機体のあちこちをやられた状況で無理に核を撃ったため、GP-02サイサリスは、大の字になって地面に倒れていた。
ブースターの利かせ方も甘く、吹っ飛んだせいだ。
「うぅ……」
リュウセイがコクピットでうめく。
酷く体が痛い。しかも、視界は、定まらないくらい揺れていた。しかも、ガンガン大音量で、音が聞こえてくる。
「―――リュウセイさん!生きてたら返事をしてください!リュウセイさん!生きてたら返事をしてください!」
訂正。音ではなく、声のようだ。
「その声……エルマかよ?無事だったんだな」
「リュウセイさん!生きてたら返事をしてください!リュウセイさん!……って起きましたか!?」
どうやら、リュウセイが起きるまでひたすら叫んでいたようだ。
だがリュウセイも起きたはいいが、まだ意識がはっきりしておらず、クラリと来て、コンソールにもたれるような形になった。
「ちょっと!リュウセイさんこそ大丈夫なんですか!?」
「ああ、俺は大丈夫だ。それよりセレーナ達は…………」
「……………」
答えは、無言。しかし、それは何よりも雄弁に現実を伝えていた。
リュウセイの首輪が爆発しない時点で、ジョシュアは確定。
また、リュウセイが気絶している間に、エルマが自分の主の状態を確認してないはずがない。
それに、生きているならば、この場に顔を出しているだろう。
―――2人は、もうすでに死んでいる。
「俺は……みんなを守ろうと思って……なのに、なんてザマだ!」
力いっぱいコンソールをリュウセイが叩く。
「リュウセイさんのせいじゃないです。そもそも、セレーナさんを離れた自分のほうこそ、何で……」
うつむくエルマが、搾り出すように呟いた。
最悪の沈黙が、その場に厚いカーテンのごとく被さる。
213閃光:2006/10/31(火) 15:26:41 ID:3A6GMtdn
いったいその時間はどれほどだっただろうか。少しだったかもしれない。何十分だったかもしない。
しかし、その静寂を切り裂いて、爆音が遠くから聞こえてきた。
1人と1機はそろってそちらを振り向く。―――夜空が真っ赤に染まっていた。
僅かな地鳴りもある。
「この爆発音、ミサイルの連射間隔……間違いなくさっきの、ジャイアントロボです!」
「あいつ、また誰かを……!」
体の痛みを無視し、GP-02サイサリスを起き上がらせる。しかし、それまで。
自分の体の重みに耐えかねたように、GP-02サイサリスが膝を突く。
もともと、かなりボロボロで、戦闘機動は無理といわれており、電撃で電子機器もやられていた。
その状態で、冷却系もブースターも満足にきかせず核を撃ったのだ。機体にガタがきたところで何の不思議もない。
だが、理屈では分かっていても、頭では納得できようはずがない。
「頼む、GP-02サイサリス、起きろ、起きてくれ!俺はまだ、やらなきゃならないんだ!」
それでも調整系を弄り回し、立たせて一歩を踏み出させる。
さらに一歩。さらに一歩。
あまりにも遅い。
僅かな凹凸に引っかかって、GP-02サイサリスが転倒した。
「なんで、なんでなんだよ……俺には、見ていることしか出来ないってい言うのかよ!」
「リュウセイさん……」
遠くビルの隙間から閃光が漏れ続ける。
GP-02サイサリスの下半身は完全に機能を停止し、残った両腕が地面を書くばかり。
その姿は、まさにリュウセイの状態をそのまま写していた。
必死にもがくが、何も変わらない。自分は何も出来ない。ただ、無力だ。
「もう、アヤの時のような思いはしたくねぇ……俺は、いかなきゃなんねぇんだ……」
這いずって、GP-02サイサリスが進む。
進んだところでそこにたどり着けるのか、とか
たどり着いたところで何が出来るとか、とか
そんなことは関係ない。ただ、前へ。リュウセイの全身の細胞が、進めと指令を出した。
彼の魂が叫んでいた。
現実がどうとか関係ない。とにかく、進め!
「リュウセイさん……もうなにをしても……やめてください」
エルマが悲壮な声で言った。
エルマの目からは、現実を受け入れられず、ただ足掻くかわいそうな少年――そんな風に見えただろう。
だが、それは違う。
リュウセイのそれは、セレーナにも通じる、戦士の意地と魂から湧き出す、意思による行動だ。
傍目から見たら、みっともないだけかもしれない。だけど、絶対にあきらめない。
無様と嘲笑わられても、愚かだと憐憫の目を向けられても、愚鈍だと蔑まれても、何度倒れても、必ず起き上がる。
百回倒されたら、百回起き上がる。千回倒されたら、千回起き上がる。
千回砕かれれば、千回よみがえる。決して誰にも壊すことの出来ない、人の魂。

―――人、それを『鋼の魂』という。

そして、『鋼の魂』は『奇跡』をよぶ。
これだけ、広範囲に撒き散らされ砕かれた瓦礫の中。
GP-02サイサリスが触れた、一本の腕。
慌ててそれを掘り返す。
「おい……これ………」
まだ戦う力を持ち新たな戦士を待つ、セレーナが遺した物。人の意思を、力へと変える奇跡の機体。
それは……ARX-7 アーバレストだった。
214閃光:2006/10/31(火) 15:27:58 ID:3A6GMtdn


「待て、こちらに戦う意思はない!とまれ!」
チーフが声を張り上げるが、一向にミサイルの雨がやむ気配がない。
まぁ、当然といえば、当然だろう。
猟師が鳥がさえずったからといって撃つのをやめることはない。
リョウトからすれば、その程度だからだ。
(馬鹿な人だ)
蔑むわけでもなく、嘲笑うわけでもなく、ただ冷静にリョウトはそう思った。
リョウトは、一言もチーフと口を利いていない。
もちろん、リョウトからすれば、チーフと話すことなど何もないというのは大きな理由の一つだが、もう一つある。
―――徹底的にこちらから情報を提供してはいけない。
リョウトは、激しくイラついてはいたが、心の一部がある意味『死んだ』状態の彼は、
冷静に虫でも観察するような目でチーフを分析し、そう判断した。
相手は、自分を攻撃していいかどうか、決めかねている。
自分が最後にあった段階では、チーフは、こっちを撃っていいいような『悪』か否か決める決定的な要素がない。
そして、今のジャイアントロボの状態を見れば、何かがあったかは明らかだが、詳細は分からない。
つまり、自分が、攻撃を受けマシンを壊され過剰に防衛している被害者か、能動的に攻撃している加害者か分からないから
こそ攻撃を控えているわけだ。何か取っ掛かりとなる言葉を与えて、攻撃を本格的に加えられては今のジャイアントロボでは厳しい。
なにしろ、状況から考えるに、あの剣鉄也を撤退させたであろう人物だ。
パイロットの物腰、見事にミサイルをかわし続ける技量と運動性、そのポテンシャルは、どう考えても非常に機体、パイロット共に高い。
(本当に、馬鹿な人だ)
仮に、今の仮定が正しいとしたら、やる気になればジャイアントロボなど一蹴することが出来るだろう。
それなのに、自分の正義を貫く上での犠牲を出すことを認められない。
正義を、ヒューマニズムとか、命は大事とかつまらないことのせいで正義を貫き通すことが出来ない。
だいたい、これだけ攻撃されているんだから、察して攻撃してもいいだろうに。
もし、万が一を間違えたらと思って自分の身を危険において。くだらないことにこだわって。
結局、自分がいい人でいたんだろう。
正義を貫いて、人から後ろ指を指されることを恐れて。
―――まぁ、いいさ。
自分は違う。
正義のためなら、リオのかたきを撃つためなら、絶対に迷わない。
どんなことをしてでも達成してみせる。
「撃て!撃ち続けろロボ!」
そうだ、僕には、掲げるべきものがある。こんなところで手間取ってる暇はないんだ。
大型ミサイルランチャー、小型ミサイル多連ランチャー、80mmスポンソン砲にロケットバズーカ。
さまざまな兵器が補給ポイントから次々と補給され、途切れることなく打ち出され続けている。
ロボには複雑な動作も必要ない。ただ、「撃て」と命じるだけだ。
無限vs人の集中力の持続時間。
どちらが勝つかは、見て明らかだろう。
だが、あまり時間を食うのも考えものだ。撤退ルートをつぶすよう撃ち続けているためチーフから逃げられることはないが、
その間にリュウセイに逃げられる恐れはある。
そうなれば、また探しなおす必要がある。なんとなく、どこにいるか今のリョウトは把握することは出来たが、
かといって手間が増えるのはあまりよろしくない。
どうしたものかと周りを見回し、
「あ、れ……は……」
視界が、一瞬怒りで赤く染まった気がした。
怒りで思考力が根こそぎ奪われ、正常な判断を失ったリョウトが叫んだ。
「ロボォォッ!全弾アレにブチ込めェェェ!」
リョウトの目に映ったのは、R-ウィング。もとある世界でリュウセイの乗っていた戦闘機だった。


215閃光:2006/10/31(火) 15:28:33 ID:3A6GMtdn
いつの間にかフォルカもいなくなり、一人フラフラと僅かな予感を頼りにR-ウィングは飛び続けていた。
どうしようもなく、リュウに会いたい。
そうしないと、自分は―――自分は、自分を保つことすら出来ないかもしれない。
深く、自分の殻にこもり続け、浅い呼吸でうなされるように顔を下げていた。そのため、
「え?」
ひたすら意識を内に閉ざし、リュウに会うために飛び続けていたマイは、一瞬反応が遅れた。
現実に浮き上がった意識いっぱいに映し出されるのは、大小さまざまな銃弾。
「よけろォーッ!!」
黄色、白、青の何処か戦闘機のような美しさをもった細身のロボットがマイの乗ったR-ウィングを突き飛ばした。
さっきまで、R-ウィングがいた――そして今は突き飛ばしたロボットがいる場所に、大きく爆発が広がった。
爆発に巻き込まれたロボットは、厚い煙と、炎でさえぎられてみることが出来ない。
確かに心配だし気にはなるが、こちらもそうはいっていられない。さらに追い駆けてくる多くのミサイルたち。
(駄目だ、このままでは……)
いくら機動力があっても、全方位から迫るミサイルをとめることは出来ない。
ミサイルの隙間を縫うように飛びはするが、僅か僅かな減速の間に、確実に近づいてくる。
いくつかのミサイルがR-ウィングを捕らえるその直前、R-1に変形し、念動フィールドを形成する。
そこへ襲い掛かるミサイルの群れ。続けざまに多くのミサイルがR-1にぶつかり、念動フィールドとR-1をゆるがせる。
いくらマイの強念で生み出された念動フィールドいえど、それは鉄壁ではない。
マイの精神の消耗と共に、確実に薄くなっていく。
ギリギリの限界を見極めて、横っ飛びし、転がり続ける。すぐ真横で、爆発爆発爆発。
転げる勢いを使って、R-1を立ち上がらせ、メインカメラを急いで確認する。
「行けェェ!ロボォォォ!!」
大型のロボットがまっすぐこちらに突っ込んでくる。
「へんけ―――」
変形し、上に逃げようとしたさなか。視界の端、自分の後ろにいる影が見えた。
先程、自分をかばったロボットだ。右腕を失い、地に伏しぐったりしている。
だめだ、今自分がここを離れては、後ろのロボットは、粉砕される。
誰が乗っているかはわからない。だが、かばってもらった以上見捨てるというのは……!
(だが、私では……どうしたら……!?)
ジャイアントロボはこちらに迫る。
(どうする……どうする!?)
さらに、ジャイアントロボは迫る。
(どうすれば……!?)
―――私に任せておけ。
マイの思考に、僅かに不純物が混じる。しかも、滴るような悪意のこもった毒の意思。
ジャイアントロボの腕がR-1に力強く振り落とされ―――
216閃光:2006/10/31(火) 15:29:04 ID:3A6GMtdn
「下衆が」
ないでとまった。R-1の数メートル上で、何か同じくらいの力で押し返されているように震えている。
マイとは、比べ物にならないほどにならないほどに強固な念動フィールド。
しかし、生み出しているのは、先程と同じR-1だ。なら、いったいこの少女はいったい……?
「お前のような半端な念動力者が、サイコドライバーの私に敵うと持っているのか?」
その声には、とても10代半ばの少女とは思えないような嘲りの響きがこめられていた。
R-1の右腕に、緑色の光が集まる。それを、無造作にR-1は振り上げた。
体格差を跳ね返し、ジャイアントロボが後ろに吹っ飛ぶ。
ざっと見て、マイの3倍の念動力。
その隙を見逃さず、『彼女』は更なる念をR-1に込める。
R-1の横幅より広い巨大な剣が収束した。
「T-RINKブレード……いや、『天上天下念動破砕剣』とでもいってやろうか?」
弓のように体をしならせ、天上天下念動破砕剣を、リョウトを殺すべく放とうとするが、
「あ、ぐ………あ、頭が、違う、わたしは、こんなこと、うるさい、私の言うとおり……」
まるで、2人の人間『彼女』とマイが話し合っているように、マイがうわごとを呟く。
R-1がまとっていた威圧感が消え、収束した剣もまた解けて消えた。
たたらを踏むようにR-1がよろめく。
「こ、の声……レビ・トーラー」
さしものリョウトも驚きの声をあげた。あの戦争の最強の敵にして、敵の大首領。
先程見せた念動力といって、まちがいない。それほどの大物がこの場に居合わせようとは。
こいつは、危険だ。
自分のことは棚に上げて、リョウトは思った。
コイツほどの存在が、よりにもよって念動力を増幅するあの、R-1に乗っている。どれほど危険極まりないことか。
あの、リュウセイ=ダテが乗っていたR-1に。
「こいつは、殺しておかなきゃ……あの戦争で死んだ人たちのためにも」
ジャイアントロボが、無防備な姿をさらすR-1にこぶしを振り上げる。
「お前がいなかったら、DC戦争すら起こらなかったんだ……死ネェェェ!!」
もはや、支離滅裂である。
そもそも、彼が怒っていたのは、自分からリオを奪ったことで、至りの矛先は鉄也とリュウセイだけのはずだ。
潜在的にはあったかもしれないが決して、彼の巻き込まれた戦争に関してはない。
狂っている。
この言葉がこれほど似合う人間も、この世界には少ないだろう。
生きていようが、死んでいようが、リオの存在は、彼にとってイカリの役割を果たしていた。
だからこそどれだけ狂っても、リオがいたからこそ、それが基軸となってそこまで壊れることはなかった。
だが、それが外れた彼に、分別などあるはずがない。
ただ、『怒っている』と『狂っている』が状態として、こびりついている。
それに付属する『理由』や『信念』はもうすっぽりと抜け落ちた。
感情だけが心に固定され、その思うままに動く。
もう一度言おう。
狂っている。
だが。
その彼でも、怒りを向けるものへの優先順位というものは残っていたようだ。
場に、乾いた音が響く。
機械が砕ける破砕音ではない。
乾いた……まるで銃でも撃ったかのような音。
ピタリとジャイアントロボの動きが止まる。リョウトが錆付いた機械のような動きで振り向いた。
「やらせねぇ……これ以上やらせてたまるかよ!」
夜の空気を引き裂いて、澄んだ空気に足音が響く。
童話のヒーローのように、白亜の神像が姿を見せた。


「リュゥゥゥゥセエエエェェェ!!」
リョウトが方向転換しまっすぐアーバレストへと接近する。
「三人とも!征くぜ!」
「モーションマネージャ・設定終了……はい!」
〈ラージャ。バイラテラル角の設定1.チャーリー1の書き換え完了。しかしこの設定では本機の85%が限界〉
「そんなもん、勇気で補えば……」
「勇気で補えば?」
217閃光:2006/10/31(火) 15:30:02 ID:3A6GMtdn
「100%だ!」
〈教育メッセージ。勇気で、本機の性能が上昇するのでしょうか?〉
「もちろんだ!3人力を合わせりゃ、120%、140%の力だって出せるぜ!」
〈本機に、そのような仕様は確認されておりません。ナンセンスです。……しかし、嫌いではありません〉
「そんなこと言ってる場合ですか!敵、きます!」
「おっしゃあ!MM(モーションマネージャ)3番!」
「はい!MM3番って……えぇ?」
疑問の声をあげながらも、エルマがMM3を起動させる。
次の瞬間、アーバレストは、安定しきった重心移動で、最速のスピードで前に走り出した。
「うあああァ!!」
ジャイアントロボが、無差別飽和のミサイルを吐き出す。
「ミサイル着弾地点演算。メインモニタに表示します!」
「オッケェーッ!俺だって、伊達や偶然で生き残ってたわけじゃないって教えてやる!」
エルマの演算に従い、ミサイル着弾点を避けるようにさらに走る。
その動きは、滑らかでよどみがない。まるで、猛禽類や猫化の猛獣が獲物に襲い掛かるような動きで距離を詰める。
「行けロボォォ!!」
左右から抉り込むようにパンチが振り落とされる。
「MM1番、続いて、MM2番起動!」
ギリギリまで拳をひきつけ、アーバレストがスケート選手のように横に回転しながら、第三世代ASの特有の高いジャンプを見せる。
「コイツを、思いっきり蹴り飛ばすイメージ……T-Rinkナックルと同じ……いっけぇ!」
頭に、ジャイアントロボを思い切り蹴り飛ばすイメージを浮かべる。そのイメージと共に浮かぶ、2人の顔……ジョシュア、セレーナ。
こいつを倒せなきゃ、またあんなことが繰り返される。そんなこと、絶対認められねぇ!
「アーバレスト!お前に魂があるんなら、答えろ!」
回転した体から足を突き出し、後ろのエンジンをつける。
アーバレストの肩が展開され、美しいオーロラのようなものが回転もあってアーバレストを包み込む。
英単語を口に出して覚えるように、口に出すことでイメージを強く増幅する。最後に脳裏に浮かべるのは、イングラムの撃ったあの一撃。
「稲妻……流星蹴りィッ!」
10tばかりのアーバレストが蹴ったとは思えない音があたりに響き渡る。
よもや、10mもない機体が、ジャイアントロボを大きく吹き飛ばしたなど、誰が信じられようか。
〈このような戦術は、想定されていません。ラムダドライバが発動しなかった場合、足のマッスルパッケージの7割が……〉
「うまくいったんだ!気にするなって!」
〈了解しました。〉
リュウセイが今、ラムダドライバを起動させられたのはリュウセイが似たような兵器を使っていたのも大きいが、
それよりも重要だったのは、アルの変化。
オムニスフィアを通じ、裏側の法則を引き出すアーバレストやヴェノム、ベヘモスたち。
これらとアーバレストは決定的な違いがある。兵器として、一定の水準を引き出すことを目標としたヴェノムたち。
対して、アーバレストは違う。
できるだけ搭乗者に近付くように。
搭乗者の心理や感情を把握し、シンクロできるように。
それによってオムニスフィアからの連鎖反応を高め、より効率よく増幅し、様々なことができるように。
本来、バニの死を知ったところから真の意味で覚醒したオリジナルのアルと違い、このアーバレストのアルは、最初から常に
『教育メッセージ』を取得してきた。ほぼずっとコクピットにいたセレーナの感情などを浴び続けていた。
だからこそ、セレーナを気遣う様子を見せた。
苦悩、悲哀、希望、悩み……そういったものをライブで受け続けたアルは、『人間的』に成長する。
そして、セレーナの撃ったラムダドライバのデータも、彼女の『死』についても。
本来、変更不可なパイロットの変更も、ユーゼスの無理なプログラミングでさせられているが、それはアルのリセットは
意味していない。人間は、身近な人の死を受け成長するというが、このAIはいったいどうだろうか。
さらに現在、接続されているエルマからも、生の経験の数々を吸い上げていた。
アルは今までの経験を持ってリュウセイとシンクロし、成長し続けている。
それも、凄い勢いで。
「次だ!ボクサーを出してくれ!」
「分かりました!」
〈ラージャ〉
起き上がりながらもミサイルを吐き出すジャイアントロボに、追走しながら散弾銃を撃つ。
しかし、今度はラムダドライバがこめられてないためか、装甲一枚抜くこともできない。
218閃光:2006/10/31(火) 15:30:32 ID:3A6GMtdn
「緊急回避!」
ミサイルの着弾予測にいたアーバレストを、エルマが強制的に横っ飛びさせた。
さらに、アルがジャックナイフ機動で、アーバレストを起こす。
「す、すまねぇ2人とも」
〈「サポートは任せてください〉」
思わず二人の息が合う。
今のアーバレストは、三身一体で動いていた。バイラテラル角を1に設定し、リュウセイが極力戦いやすいようにする。
エルマが、モーションマネージャを独自に1〜15番まで設定し、体の回線をアルに接続、フレキシブルに使用する。
自動照準モードも同様だ。本来、自動照準モードもMMの機動も、いざ戦闘になったら大して役に立たないが、
エルマがその場その場において微妙な調整をかけている以上、これ以上ないほどの武器となっていた。
今のリュウセイが受け持っているのは、火気のトリガーと、とっさの機動と、MMでカヴァーできない部分。
もっとも、折れた左腕をあまり動かさないようにするため、武器は持ちっぱなしになっているが。(だから、リュウセイは蹴りを選択した)
エルマは、MMと、自動照準モードの適切な調整、切り替え。
アルが本来アームスレイブの持つ機能と、リュウセイの補佐。
リュウセイの言葉どおり、3人の力をあわせることにより、100%以上の力をアーバレストは見せていた。
もともと、SRXに乗っていたリュウセイは、操縦系の分割に抵抗がない。さらに、この分割でアルが一個の存在として扱われ、
成長を促進させられているというのも大きい。
「撃て、撃てェ!」
ジャイアントロボの重火器が一斉に発射される。
しかし、アーバレストには当たらない。それどころか、ジャイアントロボに正確に近づいていく。
「セレーナも……ジョシュアも……いいやつだったんだ……」
〈アラート!〉
ステップを踏み、唸りを上げてさらに接近する。
「それを!お前に何をやったって言うんだよ!!」
バズーカの連射の間隔を正確にカウントしていたエルマにあわせ、対戦車ダガーがきらめいた。
狙い済ましたようにバズーカの中に吸い込まれ、中の火薬に引火。大爆発を起こす。
「こ、んな……おかしい、こんなはず……ロボ、いったん補給だ!」
リュウセイの気迫に、リョウトがさがる。
おかしい。リュウセイにこれほどの技量があるはずかない。
彼の知っているリュウセイは確かにマシンに対し天性の素質というものがあった。
だが、ここまで研ぎ澄まされたような戦い方をする人間ではなかったはずだ。
無駄が多くて、突撃屋で、感情的で……
なまじ、性格が自分の知るものと同じだけに、得体の知れない感覚が背中を這った。
「アル!エルマ、もう一発いくぞ!MM3番、MM1番、続いて2番!」
まっすぐ、スピードを上げ、ジャイアントロボの背中にアーバレストが飛ぶ。
もう一度、完璧な角度で、回転蹴りが炸裂する。
ここにいるのは、リョウトの知るリュウセイではない。
未来を含む3度の大戦乱を乗り越え、一度は仲間の死すら乗り越え、霊帝を砕いた偉大な勇者の一人。
真の成長した戦士なのだ。
吹き飛ばされ、補給ポイントにジャイアントロボがぶつかった。
「う、ぐ、ぐぅ……」
頭を強くぶつけ、ただでせさえ血だらけのリョウトの頭が、さらに赤くなる。
補給ポイントに手をつき、ジャイアントロボが起き上がる。同時に、補給ポイントから工具ロボがあふれ、また弾薬を補給する。
「これで終わりだ!」
アーバレストが手の電気銃をリョウトへ向ける。
そのとき、ジャイアントロボの目が薄く輝いた。
219閃光:2006/10/31(火) 15:31:48 ID:3A6GMtdn
「ッやべぇ!」
先程と打って変わって風をまとい早い突きがアーバレストへ打ち込まれた。
「MM4を起動します!」
エルマの声と、アーバレストが下がるのは、同じだった。
ジャイアントロボに仕込まれている、オートガード機能が発動したのだ。
ジャイアントロボは、片腕でリョウトを庇いつつ、またもミサイルを狂ったように撒き散らした。
アーバレストが回避に専念し、意識が僅かにジャイアントロボから離れる。
ジャイアントロボが、それほど高度なAIを備えているかは分からない。
だが、その時ジャイアントロボは、その隙を狙いアーバレストへこぶしを打ち込もうとした。
「駄目です!緊急回避間に合いません!」
「ラムダドライバを……」
使おうとしたが、その集中も、追いつかない。もはやこれまで……!
「リュウを……やらせはしない!」
横から、一つの影が割り込み、ジャイアントロボの腕にしがみ付いた。
さっきまで、ひたすら某立ちしていたR-1だ。
「その声、マイなのか!?」
その声に答えるより早く、ジャイアントロボが横に手を振った。
通常の50倍を超えたパワーを受け、R-1は、木屑か何かのように吹き飛ばされ、R-1はビルに激突し、また動かなくなった。
だが、それによってできた隙をリュウセイは見逃さない。
アーバレストがジャイアントロボの腕に渡り、肩へと走り出す。
反対の手がアーバレストをつかもうと伸びる。
「やらせん!」
ジャイアントロボの腕がはじけとんだ。
遠く離れたところから、見たことのない機体が腕を伸ばし、武器を手に取りこちらにかざしていた。
ついに、目の前にリョウトの姿が明らかになる。
このまま、12,7mmチェーンガンで吹き飛ばすことができた。いや、むしろそれがもっとも容易で、簡潔な選択肢だった。
(でも、それじゃダメだろ……みんな)
憎しみを、憎しみで返してはいけない。そんなことをしても、皆悲しむだろう。だから、このまま殺してはいけないのだ。
アーバレストが手のひらをリョウトに向ける。
そして、ついに戦いの終わりを告げる、爆音に比べればささやかな音が鳴った。



「マイ!マイ!大丈夫か!?」
「う……あ……」
「おい!」
アーバレストがR-1の機体を揺らす。
「おい!」
「あまり、無茶をしてやるな。軽く揺らすだけなら、振動吸収で意味などないぞ」
離れたところで、庇った機体をゆするマシンに呼びかける。
「よし、駆動形には問題ない。まだまだ大丈夫だな」
のろのろと機体を起き上がらせたチーフは、アーバレストへと駆け寄った。
「いったい、何があった?俺にはまるでわからん」
「それは……」
エルマとリュウセイは、歯切れが悪いながらも全てをチーフに打ち明けた。
「……そうか」
何処か、質問したことを恥じるような声でチーフが言った。
「希望はすでに潰えし、か……」
「それは、違う!まだトウマたちだって生きてるだろうし、まだ何も終わっちゃいねぇ!ジョシュアや、セレーナのためにも、
まだまだやれることなんていくらでもある!俺は絶対にあきらめねぇ!」
リュウセイが、弱気な言葉を叱責するように、声を荒立てた。
その言葉に、少しチーフを面食らいながらも、一言試す意味を含めて言った。
「本気で、そう思っているのか?」
「当たり前だ!」
まっすぐチーフの目を見てリュウセイは即答した。
220閃光:2006/10/31(火) 15:32:20 ID:3A6GMtdn
「どれだけ、困難があるか分かっているのか?首輪、あの空間操作装置、さらに待つであろう主催者……」
「分かってるさ。けどな、俺は絶対にあきらめないし、絶望もしない。必ず、もう一度ユーゼスのヤツをぶっ飛ばしてやる」
リュウセイの目に、一転の曇りもにごりもない。あれだけの出来事があっても、まるであきらめることを知らない。
「………まるでプレシアと同じだな」
「え?なんていったんだ?」
「気にするな。試すようなことを聞いて悪かった。ただ、そこまで言うお前の覚悟が知りたくてな」
今度こそ、この青年を必ず守らなくてはならない。
プレシアと同じく、優しく、強く、透き通った曲がらない心。
この青年は、希望だ。主催者のことを直接知り、そして絶対に絶望に染まらぬこの魂。
そうチーフは直感した。
「それより、リョウトはどうした?もちろん、拘束してあるな」
「ああ、一応してあるけど、気絶しているみたいだったし、柱にくくりつけおいた」
「時計も没収してありますが、そもそもジャイアントロボにもう戦闘能力がありません」
「それなら、一安心だな」
ちらりとチーフがリョウトを見る。
……しかし、あの少女がそんなこと望むはずもなかろうに」

「お前がリオを語るな」

通信機に入る、底冷えした声。
「そんな!?時計はちゃんと没収してます!」
そこの言葉を聞き、リョウトがせせら笑う。しばられて動けないため、袖に歯をかけ、上にあげる。
そこにあるのは、時計。本物の、ジャイアントロボの操縦機。
「でも、ジャイアントロボに戦闘能力はありません!何もできないはずです!」
溶けたチーズが横に避けるように、口の端がつりあがる。
「ロボ。自爆しろ」
命令は簡潔だった。
しかし、ジャイアントロボはその命令に従い、腕を胸へと差し込む。
ギチギチと音を立て、姿を現す動力炉。人間の感覚で言うと、リンゴ程度の大きさだろうか?
しかし、それはぬめるような輝きを放ち、太陽のように輝いていた。
つながったチューブから、何かが流れ込み、心臓のように脈打つ。
「まさか……核!?死ぬ気か!?」
「ハッ……ハハハ……ハハハハハハハハハハハ!僕からリオを奪ったヤツも!リオを守れなかったヤツも!
レビ・ト−ラーも!皆!殺せないなら死んでしまえばいいんだ!ハハハハハハハハッハハハハ!!!」
リュウセイに負けたことが、最後の一歩を踏み出させた。死神でも一歩下がるような狂った笑い声を上げるリョウト。
「ロボォォォォ!!そのまま握りつぶせェェ!!」
しかし、その命令が実行されるよりも早く、チーフが腕を切り飛ばし、空中でキャッチした。
「でも無駄さ……もう、臨界は始まった!数分もしないうちに爆発する!リュウセイ!リオを奪ったことを後悔しろ!!」
「どうすりゃいいんだ!アル、エルマ何かないか!?」
<ラムダドライバは、爆心地で核を受けるような状態は想定しておりません>
「とにかく、距離をとるしか……だめです、計算だと、時間が……!」
「何か解決策はないのか!?」
叩き落したところまではいい。しかし、このままでは、僅か数分で、また希望が失われる。
そんなことは絶対に許容できない。なら、どうする?落ち着け。冷静になれ。慌てても、状況は好転しない。
この惨事を回避する方法は?
1、爆発をとめる。
―――だめだ、とても虚言とは思えない。臨界は始まっているだろう。弄ってどうにかなるレベルではない。
    それに、モニターでも熱量の状態は、はっきり表示されている。
2、距離をとる。
―――これもだめだ、そこまで遠投する能力などテムジン747Jにはない。これを置いて走ったところで、間に合うのは難しい。
3、それらの複合。
―――これも、無理だ。爆発を遅らせて逃げるには、冷却が必要だ。だが、そんな手段はない。走って、投げる?
    これは確かに遠投の距離は伸びるが、距離をとるという意味ではあまりよくない。
4、どうにもならない。現実は非情である。
―――こんなところであきらめられるものか……!折角、見つけたこれほどの希望!あの青年だけでも……!
どうする?落ち着け、執着を捨てろ、冷静に……冷徹になれ。逆から考えろ。
221閃光:2006/10/31(火) 15:33:20 ID:3A6GMtdn
爆発を遅らせない以上、安全圏まで距離をとれば助かる。どうすれば距離を取れるか?
走ること。これでも足りない。先程、考えた複合案。走って、投げる。速度を上げる方法以外に、相対的に距離をとる方法。
断片的な言葉が、意味を持つ言葉となり、結論を作る。
「バリアを、ここではって、そのマシンを庇え!決してついてくるな!」
「どういう意味だよ!?」
しかし、チーフはその答えを返す暇も惜しいと、走り出した。
(テムジン747Jの最高速度は、時速1200km……いけるはずだ!)
あまりに急に推力をあげたため、背中が爆発したように見える。
次の瞬間には、リュウセイの目に映らぬ速度でテムジン747Jは駆け出した。
地面だけでなく、ビルの壁も使い、ピンポン玉のように多角的にテムジン747Jが翔ける。
足場とした地面や、ビルの壁面が、砂糖菓子のように砕けて散った。
「ぐ……うおおおおッ!!」
猛烈にかかるGがチーフをシートにめり込ませる。
目の前に広がる廃墟の隙間をぬい、速度を落とさずどうしてもかわせない建物を砕く。
光が激しく降り注ぐ。あまりに加速しすぎて、光が流れるように見えるのだ。
(操縦を誤るな……意識をたもて……今、気を失えば……)
―――また、プレシアの時と同じ結果になる。
摩擦で、テムジン747Jが一つの太陽のように光る。彼の後ろには、移動のさい生じた衝撃波により粉砕された瓦礫が広がっていた。
もし、上空からこの周辺を見れたなら気付くだろうが、チーフの跡に、1度の角度の乱れもない。
まっすぐ、島の最も遠くへ。
しかし、無情にも、彼の努力は打ち砕かれる。
「まずい……!摩擦で、炉心の熱まで上がりだしているのか!?」
いくら、かかえるように抱いたところで、完全に炉心を包み込めるわけではない。
指の隙間や、地面から吹き上げる熱せられた風が、炉心を加速的に温める。
爆発までの予測時間が、1分20秒から飛んで突然50秒に表示が変更された。
例え、時速1200kmだろうとこれでは、届かない。
「こんな……こんなとこで全て終わるのか……そんな……」
ついに、心が折れる。
テムジン747Jが転倒した。
「ッ!」
体に染み付いた条件反射から、とっさに受身を取り、宙返り。
しかし、速度は落ちる。現在速度は時速980kmまで減速していた。
―――すまん、プレシア、ガルド。俺には、どうしようもない……
それでも走らせながら、顔を下げる。
222閃光:2006/10/31(火) 15:33:50 ID:3A6GMtdn
『ヘイブラザー!こんなとこであきらめちまうのか!』
テムジン747Jを包む摩擦熱の色が、緑に変わった。
この太い声。それに、暑苦しく人をブラザーなどと呼ぶものなど、一人しかいない。
だが、すでに死亡しているはずだ。だから、このテムジン747Jがある。では、あの声はいったい何者か?
驚きで、顔を前へと向ける。
そこには、おぼろげに光るハッターが、テムジン747Jを導くように、ビルの隙間を進んでいる。
「お、おい待てハッター!」
その後をついてテムジン747Jも走る。
ぐんぐんテムジン747Jをまた加速させるが、一向にテムジン747Jは追いつかない。
妙な違和感をチーフは感じた。
風景が流れるのが早すぎる。速度計に目をやり、その違和感の正体を知った。
現在のテムジン747Jの速度は、時速1360km。限界速度よりはやい。
だが、チーフは限界速度を超えているということより、1360kmに驚いた。
時速1360km。それは、ハッターの最高速度のはずだ。
テムジン747Jが、前のハッターに導かれるように進み、ハッターと同じ速度を出している。
「アーイルネヴァーギブアップだ、フレンド!」
「I will never give upか……いい言葉だ」
そうだ。
ここであきらめてはいけない。守るべきものがあるんだろう?
守りたいものが、本当にあるからこそ、大きな恐怖にも、立ち向かえるのだ。
視界が開く。
目の前に広がる青い平面。
「もう少し……付き合ってくれ、テムジン」
テムジン747Jの足が水面に足が触れる。水が蒸発する音。
そして……足が沈み込むより速く、次の一歩を踏み出す。
蒸発する水蒸気と、激しい動きで巻き上げた水がテムジン747Jを濡らす。
ついに、テムジン747Jの体が前につんのめる。
「さぁ、最後の仕上げだブラザー!」
「……ああ!」
2つの影が一つに重なる。
『フィニッーシュ!!』
腕を後ろにそらし、チーフが光るリンゴを投げる。

フォマルハウトの炎が輝いた。


【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)  パイロット状況:死亡 機体状況:消滅 】


223閃光:2006/10/31(火) 15:35:12 ID:3A6GMtdn
「ふん、全て終わったか」
風を切るような音が鳴ると同時、突然何もない空間から黒い巨体がアーバレストとR-1の前に現れた。
「まったく、機体が動かなくなったときはどうしようかとも思ったが……結果的には行幸というわけか」
そう言いながら一口紅茶を飲む。
もうこのアクションで誰かお分かりだろう。パプテマス・シロッコである。
空間転移でここにきた彼は、補給を住まえたあと、自身の生理現象を処理するため、機体をビルの中に隠して降りていたのだ。
あんだけコーヒーやら紅茶を飲んでりゃ誰だってそうなる。
そのおり、突然リョウトが襲来したため、処理したあと、機体に戻ったわけだが、これがどっこい動かない。
(注 グランゾンには、念動力による外部コントロールシステムがあるため、強力な念に当てられて、動かなかったのだ。
自身が念動力者なら、ともかく、そうでないシロッコじゃどうしようもない)
かといって切ると性能が落ちるので急いで動けるようにプログラムに修正をかけていた。
で、仕方なくエンジンを切って『いないフリ』をしていたのだ。
正直言って、驚異的なスピードだ。彼らの戦闘が始まって、終わるまで20分たらず。その間に、全て終わらせたのである。
世間からは、超天才に分類されるレベルだ。
「あの核には驚かされたが……にしても」
リョウトのことは予想外といえた。まさか、あそこまで狂気に染まっているとは……見つかっていた場合を考えると、寒気がする。
だが、まぁ脅威は過ぎた。彼にとって恐ろしいのは、話の通じない相手であり、コミュニーケーションを取れさえすれば、その限りではない。
かといって、襲ってくる相手や、使えないと判断できる駒には容赦はしないが。
アーバレストと言うほうは、どうやら、自機とR-1を守るために力を使いすぎでパイロットが力尽きて気絶中。
R-1とやらのほうは、どうも昏倒状態。しかし、こちらは利用できるのか。あのとき見せた、力と性格の豹変。
とりあえず、このままどちらかが起きるまで待つか………
そう思い、もう一口紅茶を飲む。

「うむ、うまい」

【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状態:全身に激しい痛み、左腕を骨折、気絶中
 機体状態:全身に損傷、ENほぼ空 ※エルマもオーバーヒートで、倒れています
 現在位置:E-2 】

【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
 パイロット状況:かなりレビ化? サイコドライバーを感知  昏倒中
 機体状況:G−リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)  ENを6割ほど消費。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
      コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)  T-LINKシステム起動中
 現在位置:E-2
 第一行動方針:???
 備考:精神的に非常に不安定】


【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:良好
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
 現在位置:E-2
 第1行動方針:2人が起きるのを待つ。利用できない場合排除も考える
 第2行動方針:G-6基地への移動
 第3行動方針:首輪の解析及び解除
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 備考:首輪を二つ所持、リュウセイとチーフの話を全て聞いていたため、かなりのことを知っています】
224閃光:2006/10/31(火) 15:35:43 ID:3A6GMtdn


「ハハハ……ぼくは……まだ生きてる……」
フラフラとリョウトが廃墟を進む。彼は、非常に運がよかった。
あの爆発で瓦礫が飛ぶ中、、偶然彼を縛り付けていた柱が崩れ、縄がゆるくなったのだ。
おぼつかない足取りではあるが、目標を目指して歩き続ける。
「あった……!」
目標は、ビッグオー。あの時リュウセイがアーバレスト人って現れたことから、よもやと思ってみれば案の定、
ビッグオーはそのまま放置されている。
しかも、修理のためか乗りやすいように横倒しになっていた。
「ハハハ……これなら殺せる……殺してやれる……殺してやる……ハハハハハ!」
痛む体を引きずり、コクピットの中に落ちるように入る。いたせりつくせりなことに、マニュアルまである。
起動の操作を、マニュアルに従って打ち込む。
「ハハハッ待ってろよ……すぐに殺しにいってやる……」
電子音と共に、目の前の丸型のモニターが点灯する。
「ハハハッ………」

   “CAST IN THE NAME OF GOD”
   我、神の名においてこれを鋳造する

「ハハハハハハハッ!」

   “YE ……
     汝……

「ハハハハハハハハハハハッ………ハ?」

―――GUILTY”
―――罪人なり

『人の業をもち、それに目をそむける者のにTHE BIGを駆る資格なし!』
厳かな声が朗々と場に響く。
「う……ああああああああッ!?」
コクピットのあちこちから計器類を吹き飛ばし、コードが溢れる。
さらにそれは、どこにこれほどあったのかと思うほどに飛び出し、リョウトを締め付ける。――まるで意思を持つように。
「や……やめろ!そこのヤツ!僕を助けろ!ひ!い、嫌だ!やめろぉぉぉぉぉ…………!」
リョウトの声に、答えを返すものはいない。
彼の姿は、コードに押しつぶされ、まったく見えなくなった。圧死したか、体をコードに引きちぎられたか。
最後に彼は、包帯で全身を包むコートを着た男を見たような気がするが、果たしてそれが現実にあったことかは分からない。
客観的に言うなら、いなかったのだろう。
いえることは一つ。
彼に『正義』などなかったし、ましてや『救い』などというものは最後までなかったと言うことだ。

【リョウト・ヒカワ パイロット状態:死亡】
225それも名無しだ:2006/11/01(水) 18:19:46 ID:4jvpnvGS
保守
226この拳に誓いて ◆ZbL7QonnV. :2006/11/01(水) 19:33:49 ID:zs4JlgNa
 身を切る風の鋭さは、さながら刃のようだった。
 吹き付ける風の勢いに逆らいながら、白き飛竜は翼を広げる。
 高く、高く、どこまでも高く。
 だが、哀しいかな。天翔ける竜の主は、体力の限界を迎えようとしていた。
「レビッ……!」
 突如として北の方に翔け出したR−ウイングを追いながら、フォルカは必死に叫び声を上げる。
 今の彼女は、酷く危うい。もはや周囲の様子など全く目に入らないとばかりに、追い詰められた人間の様相を見せている。
 今の彼女を独りにさせてはおけなかった。この様子では敵に襲われたとしても、自分の身を守る事すら出来ないだろう。
 どうにかして連れ戻し、落ち着きを取り戻させてやらなければ、どのような事態に陥るか予想も付かない。
「もっとだ……もっと速度を上げろ、エスカフローネ! やれるはずだ、お前なら!」
 フォルカの意思に応える形で、エスカフローネは速度を上げる。
 さらに早く、さらに高く、白き飛竜は天空を翔ける。
 もっとも、それは諸刃の剣。体力の限界を迎えようとしているフォルカにとって、現在の状況は決して楽なものではない。
 指先の感覚など、半ば失われているようなものだ。エスカフローネの手綱を握り締めた拳は、いつ握力を失ってもおかしくはなかった。
 このままでは強風に身体を吹き飛ばされて、地面に落下する可能性も無くはない。そうなれば長高々度からの落下により、まず命は助からないだろう。
 死の恐怖を微塵でも感じているのならば、どれだけ無謀な事をしているのか理解出来ているはずだった。
 だが、それがどうした。
 修羅界の戦士は死を怖れない。
 そうでなければ、乗り手の生命力を喰らう事で戦闘力を発揮する“修羅神”を操る事など出来るものか!
「お……おおおおおッ…………!」
 ゆっくりと、ゆっくりと、エスカフローネとR−ウイングの距離が狭まっていく。
 もう少し……もう少しで追い付ける……!

 だが……。

「っ…………」
 虚脱感。やおら身体の自由が利かなくなり、フォルカの視界は暗転する。
 酷使し過ぎた肉体が、体力の限界を迎えたのだ。
 エスカフローネはゆっくりと、地面に向けて堕ちて行った……。


227この拳に誓いて ◆ZbL7QonnV. :2006/11/01(水) 19:35:29 ID:zs4JlgNa
 ……戦った。
 戦って、戦って、戦い抜いた。
 自分が信じる未来の為に、友や兄弟とも敵対する道を選んだ。
 そして……。

『そうだ、お前は何も守れなかった』
(……ミザル)
『哀れだな、フォルカ。理想を為した代償は、兄や友の命だったのだから』
『所詮、貴様も修羅に過ぎん。血塗られた道を歩く事でしか、生きる事は出来んのだからな』
『ぐははははっ! お前が俺様達を殺したんだ! 戦う事を拒んでおきながら、その手でなぁ!』
(アルコ……マグナス…………)
『そうだ、お前は修羅だよ、フォルカ。戦う事でしか生きる事が出来ん、血塗られた宿命を背負いし者……』
(違う! 俺は……)
『何が違う? 貴様の行く道は屍だらけではないか!』
『修羅王は死んだ! アルティスも、メイシスも、アリオンも、そしてフェルナンドもなぁ!』
『そして貴様が守ろうとした、あの小娘も今頃は……』
(っ…………!)
『……認めてしまえ、フォルカ。貴様は修羅だ。そして修羅は戦い無くしては生きられんのだ』
『そうだ、フォルカ。殺せ……戦え……!』
『そうだ……俺達を殺したように……!』
(俺……は…………)

『おいおい軍師さんよ、ふざけた事を言うんじゃねえよ』
『なにっ……!?』
(その声……アリオン…………?)
『確かに我等は命を落とした。だが、それは我等が自分で選んだ道。後悔など微塵も無い』
『……フォルカと幾度も拳を交わす事で、俺達は知った。修羅であろうと、血塗られた道から外れて生きる事は出来るのだと』
(メイシス……フェルナンド……)
『そうだ。誇りを持て、フォルカ。お前は戦う事しか知らない修羅に、新たな生き方を示したのだ』
(アルティス……兄さん……)
『我等の命は、新たな時代の礎となったのだ。亡者の戯言に耳を貸すな……わしが認めた新たな修羅王よ!』
(修羅……王…………!)
『さあ……起き上がれ、フォルカ。殺し合う事しか許されんこのバトルロワイアルとやらを、お前の拳で変えてみせろ!』
『そうだ……かつてお前が修羅界を変えてみせたように……!』
『戦い抜け、フォルカ。お前ならきっと……』
『あのユーゼスとやらに、お前の拳を叩きこんでやれ』
『こういう台詞は柄じゃねえが……期待してるぜ、フォルカ』
(…………俺は…………)


228この拳に誓いて ◆ZbL7QonnV. :2006/11/01(水) 19:36:14 ID:zs4JlgNa
「っ…………」
 ……覚醒する。
 今のは……夢、か。
 身体が軽い。
 ずっと気を失っていたおかげで、身体が休まされていたからだろう。目覚める以前までの激しい疲労は、すっかり影を潜めていた。
 周囲を見渡すと、一面の砂地。それがクッション代わりとなって、エスカフローネを受け止めていたらしい。
 不時着同然の着地を行ったにしては、エスカフローネに損傷は無いようだった。
 意識を失ってから、かなりの時間が経過しているのだろう。身体の疲労が消えている事と、なによりも明るみを増した東の空。
 あれから相当の時間が経っている事は、ずっと気を失っていた今の状況でも容易に知れた。
 ……当然、レビの姿は無い。
「レビ……」
 呟き、拳を握り締める。
 歯痒かった。自分の無力が、どうしようもなく。
 また、救えなかったのか?
 かつて友や兄を死なせてしまった時のように、自分は何も出来なかったのか?
 ……いや、違う。まだ、彼女が死んだと決まった訳ではない。
 誓ったのだ。託されたのだ。
 戦いの無い世界を作ると、哀しみの連鎖を断ち切ってみせると、握り締めた両の拳に。
「行くぞ……エスカフローネ……!」
 白の竜は再び飛び立つ。その力強い羽ばたきを、阻める物など何も無かった。


229この拳に誓いて ◆ZbL7QonnV. :2006/11/01(水) 19:36:54 ID:zs4JlgNa
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)  
 パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
 機体状況:剣破損。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
      腹部の外部装甲にヒビ(戦闘に支障なし)
 現在位置:B-2砂地
 第一行動方針:レビ、リュウセイの捜索
 第二行動方針:プレッシャーの主(マシュマー)を止める
 最終行動方針:殺し合いを止める
 備考1:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
 備考2:一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】

【三日目 4:45】
230それも名無しだ:2006/11/06(月) 09:51:49 ID:xsSfHw4R
保守
231それも名無しだ:2006/11/07(火) 12:57:43 ID:6TgXsBjK
保守
232それも名無しだ:2006/11/08(水) 12:27:31 ID:UIL3ksFb
age
233それも名無しだ:2006/11/09(木) 17:28:54 ID:IAok/Aji
hosyu
234それも名無しだ:2006/11/11(土) 08:57:02 ID:WWXMrbS8
ホッシュ
235それも名無しだ:2006/11/14(火) 05:57:37 ID:Zk48AX3P
hosyu
E−4。
悪しき細胞によって汚染され、瘴気に満ちた地。
その中央部に鎮座する巨大な悪魔――デビルガンダム。
そして、見渡す限り一面に蠢き犇き合う、機械の触手――ガンダムヘッドの群れ。
今やその地は元の形を完全に失い、巨大な悪魔の巣と化していた。
そんな巣の中に、悪魔を倒すべく不敵にも正面から攻め込む、二つの影があった。
忍者と怪鳥。奇妙な取り合わせである。
零影を駆る、東方不敗マスターアジア。
ネブラの姿となった、ベターマン・ラミア。
数時間前まで戦闘を繰り広げていた彼らだが、悪しき気配を察知し、どちらともなく戦闘を中断。
二人は、ただ危機を感じる本能に従い、気配を追ってこの地に辿り着いた。
仲間でもなければ、意思の疎通すらもされていない。そんな二人を繋ぐ目的はただ一つ。
デビルガンダムの撃破。
そのために、二人は巣の中を突っ走る。数え切れないほどの触手を蹴散らしながら。

「十二王方牌・大車併ぃぃぃぃぃん!!!」
叫び声と共に零影から放たれる、流派東方不敗の奥義。
放出された12の気の塊は零影の分身となって、迫る触手を次々と打ち倒していく。
しかし、圧倒的な物量を誇る触手の前には、冴え渡る奥義も焼け石に水。
何せエリア一つ丸々が、デビルガンダムと化しているのだから。
「ええい、埒が明かんか!」
予想を遥かに超えたデビルガンダムの力に、東方不敗は忌々しげに吐き捨てる。
デビルガンダム本体を目前に、彼らの快進撃は止まる。
本体の周りの守りは他と比べて厚く、彼らの力を持ってしても突破することは難しかった。
「キョウジの時とは比較にならん……一体どんな手を使いおった……!?」
東方不敗は知らない。
ランタオ島の戦いの後の、デビルガンダムの進化の行方を。
デビルガンダムに最もふさわしい生体ユニットの条件を。
そして今のデビルガンダムは、その条件を満たした者が乗っていることを。
もう一つ付け加えるなら、その上にゲッター線や人の持つ負のエネルギーといった、更なる力が宿っていることも。
そうした条件が重なって、悪魔は絶大な力を持って立ちはだかる。
(どうしたものか……!)
旗色は悪い。敵の戦力はほぼ無尽蔵。このまま戦いが長引けば、いずれこちらが力尽きる。
(奴のほうはどうなっている――?)
東方不敗は、悪魔に立ち向かうもう一つの影、ベターマン・ネブラに目を向ける。
押し寄せる触手の群れを、ネブラはその喉から迸る断末魔の如き声によって粉砕していく。
それでも、やはり数が多すぎた。それだけで手一杯、そこから前に進めないようだ。
(奴も身動きが取れそうにないか……む?)
東方不敗は気付いた。ネブラを襲う触手の動きに。
それは自分への攻撃のような、明確な殺意を持ったものとは違う。
まるでネブラを捕らえようとしているように見えた。
(まさか、デビルガンダムは奴を取り込もうとしているのか!?)
ベターマンの持つ、その特異な能力。その本質が如何なるものか、東方不敗が知る由もない。
だが、あれが進化を続けるデビルガンダムに取り込まれでもしたら?
どうなるかは想像もつかないが……現に、デビルガンダムはベターマンを取り込もうとしている。
つまり、必要としているということだ。ならば、少なくとも今以上に厄介な事態に陥る可能性が高い。
そうなる前に、手を打たなければならない。
(これ以上は時間をかけられんか。ならば、一気にケリをつけるほかあるまい!)
面を上げ、そびえ立つデビルガンダムの本体を睨みつける。
かつてデビルガンダムのもとに身を置いたこともある彼は、その機能を……弱点をも熟知している。
デビルガンダムを止めるための手は一つ。
即ち……コアユニットの破壊。
東方不敗の目的を察したか、さらに多くのガンダムヘッドが壁となって立ち塞がる。
壁の向こう側の本体は、瞬く間に完全に見えなくなってしまった。
「この数に加えて、自己再生と増殖能力……並の攻撃では通してはくれんか。ならば……」
零影が構えを取る。同時に、周囲の空気が震えだした。
「並の攻撃でなければいいだけの話よ!!」
それは、東方不敗最大の必殺技の構え。
零影にエネルギーが集まってくる。その光景に、周囲のガンダムヘッドすらも怯みを見せた。
「流派……東方不敗が最終奥義……!」
己の気のみならず、大地の気、大気の気、自然の気をも身体に集め。
その気の塊を一気に放出する最終奥義。
その名も―――

「 石 破 ! 天 驚 拳 ぇ ぇ ぇ ん !!」
零影の拳から、膨大なエネルギーの塊が撃ち出される。
それは巨大な手の形へと変わり――目前のガンダムヘッドを飲み込んでいく。
その勢いのままに手は悪魔の防壁に叩き込まれ、その守りを削り取っていく。
しかし……それでも、穴を空けるにはまだ足りない。
DG細胞の厚い壁は、究極の一撃を持ってしても貫くことはできず――

「これで終わりと思ったかぁっ!!」

即座に、二発目の石破天驚拳が放たれた。
病という名の枷から解き放たれた今の彼には、最終奥義の連発すら造作もない。
その一撃は、放たれた一発目と寸分違わず同じ場所に叩き込まれる。
強力な攻撃の二連発によって、壁となるDG細胞は修復される間もなく塵と化していく。
火力の一点集中。ついにその防壁に僅かに穴が空いた。
(よし……もう一発撃てば、十分な突破口を開けるか……!)
手応えを確信し、三度、最終奥義の構えを取る。
零影の全身に膨大な気が集まってくる。その気を制御し、両手に集中させ……
みしり。
そんな音が僅かに聞こえたような気がした。
機体が軋んでいる……?
流派東方不敗の常識を超えた動き。ベターマン、デビルガンダムといった強敵との連戦。何より、最終奥義の連発。
それらによる機体への負担はあまりに大きかった。
それでも、東方不敗は技の発動を止めない。
(持つか?いや、仮に持たなかったとしても、突破口さえ開ければそれで十分よ。
 あとはこの身一つででも、コアを叩き潰してくれるわ!)
覚悟を決め、東方不敗は制御した気を解き放つ。
「貴様も忍者の端くれなら、持たせてみせぃっ!!
 石破ぁ!!天驚ぉぉぉぉぉ……」

  ドクン

「ぐぅっ!!?」
零影が構えを解き、膝をつく。
同時に、手の中の気の塊も消えた。
(な、なんだと……!?)
持たないのは、東方不敗のほうだった。
東方不敗の身体の奥底から響き渡るような鼓動。
それは、抑え込んでいた破壊の衝動が、急激に肥大化していることを示していた。
石破天驚拳の連発が、スイッチとなったのか。あるいはこの地に蠢く瘴気が、負のエネルギーが、内に眠る殺意を呼び起こすのか。
(ぬぅ……いかん、これ以上は……!)
意識が少しずつ、しかし確実に殺意で塗り潰されていく。常人ならこの場で狂い死にしても不思議ではない。
今でこそこうして抑え込んでいるものの、このまま戦い続ければ、いずれ抑え切れなくなる。
東方不敗の強靭な精神力ですら限界が近づくほどに、その闇は強まっていた。
(くっ、今一歩のところで……!!)
石破天驚拳によって拓かれようとしていた突破口が、自己再生能力によって修復されていく。
塞がれる前に追撃するにも、これ以上石破天驚拳を撃てば……間違いなく、自身が暴走する。
「ええい、何たるザマだ……!!」
そうしているうちに、零影のもとに一気に触手の群れが押し寄せてきた。
零影は立ち上がりざまに、手裏剣型の光線を触手に向け撃ち出す。
それがいくつかの触手を破壊するものの、倒しきれなかったものがビームと爆発の中を潜って零影に迫る。
(いかん、かわしきれんか――!!)
しかし、ガンダムヘッドが零影に食らいつくことはなかった。
大気が震え、周囲の空間が一瞬歪んだかと思うと――零影の目前で、ガンダムヘッドが粉微塵に破壊された。
(これは振動波……奴か!?)
振り返れば、ネブラが雄叫びをあげている。
DG細胞の固有振動数に同調させた超高周波振動が、ガンダムヘッドのみを粉砕していく。
音圧の響く範囲内にいるにも拘らず、零影はダメージ一つ受けることはない。
(こ奴、ワシを守ったのか?)
東方不敗は、ベターマン・ラミアの取った行動に驚いた。
共通の敵の存在という理由を付けられるとはいえ……元々、彼は自分を倒すつもりではなかったのか?
(何故だ?いや、今はそれよりもデビルガンダムだ――)
気を取り直し、東方不敗は冷静に戦力を分析する。ベターマンを味方と考慮した上で。
目の前のガンダムヘッドの群れによって作られた防壁は、既に再生を完了しようとしている。
防衛線を突破して本体のコアまで辿り着くには、先程同様、石破天驚拳クラスの破壊力を持った攻撃が数発必要だろう。
だが、今の自分がそれを行うのは危険だ。それとも、殺意に意識が取り込まれる危険を承知の上で、強行すべきか?
あるいは彼の、ベターマンの力ならどうか?
ネブラのサイコ・ヴォイス。強力ではあるが、しかしこれだけでは決定打に欠ける。
もっとも、彼はまだ力を隠し持っていると思われるが……それを使う素振りは見せない。過度の期待は禁物か。
そう考えると、現状で自分達に敵の防衛線を突破できるだけの火力はない。
その上これ以上戦いが長引けば、東方不敗の中の破壊衝動が抑え切れず、暴走することになる……
そこまで考えて、東方不敗は何とも屈辱的な事実に気付く。
(むしろ、ワシのほうが足手まといということか……フン)
ネブラが零影の傍らへと歩み寄ってくる。
その目は真っ直ぐにデビルガンダムを、そしてガンダムヘッドの群れを見据えている。
共に協力して戦おうというのか。いや――東方不敗を守ろうとしているのか?
「聞こえておるか?今の一撃、礼を言っておくぞ」
東方不敗がネブラに呼びかける。
返事は返ってこない。果たして、言葉が伝わっているのか。
構わず、東方不敗は話し続ける。
「よいか……今のワシらだけでは奴は倒せん。ここは退くぞ」
敵を前に、撤退。彼の口から、事実上の敗北宣言が紡がれた。
戦力不足だ。ここにいる二人だけでは、勝てない。
それを痛感しているからこそ、敵との戦力差を十分把握しているからこそ……逃げを選ぶ。
<いいだろう――>
そんな声が聞こえたような気がした。
それと同時に、周囲に濃い霧がかかりだし……デビルガンダムを撹乱させる。
肯定の意を示した、と解釈していいだろうか。
「ならば……ゆくぞっ!」
怒声が響くや否や、零影とネブラは敵に背を向け、走り出した。
彼らの撤退を阻止しようと触手が集まってくるが、本体の鉄壁の守りに比べれば層は薄い。二人を止められるほどではなかった。
逃げる、逃げる。迫る触手をひたすら蹴散らし、一目散に逃げる。
これからさらなる被害を広げようとする敵を目の前にして、無様にも逃げ出す。
(だがこのままでは済まさん。いずれ何としても、奴はワシが倒す……!!)
敗走の屈辱を噛みしめ、零影は走る。
触手の海の中を縫っていくうちに、ネブラと自分との間の距離が次第に広がっていく。
触手の群れに遮られ、再合流は不可能だろう。このまま、はぐれるのは時間の問題だ。
そう感じた東方不敗は、最後にネブラに向けて叫んだ。
「奴の狙いは貴様だ!!挑発には乗るな!!ワシが戻るまで、奴に手出しするでないぞ!!」
ベターマン・ラミアが真の力を出していないことについては、東方不敗も見抜いていた。
敵に、迂闊に手の内を晒すな――果たして、東方不敗のメッセージは届いただろうか。
返事は返ってこない。ベターマン・ネブラの姿も、そのまま触手の向こう側へと消えていった。
(よいな……決して先走るでないぞ……!)


(奴は無事に逃げられたか?)
E−5の橋を越える。周囲にはもうDG細胞の存在はない。ベターマン・ネブラの姿も。
東方不敗は逃げてきたE−4の方角を振り返る。
そびえ立つデビルガンダムは、その位置からでも十分に確認できた。
デビルガンダムには、依然として何の変化も見られない。
もしベターマンを取り込んでいるならば、何らかの変化を起こしていても不思議ではないだろう。
もちろん、これだけで判断するのは早計ではあるのだが……。
彼ほどの実力なら、あの場を脱出するくらいは造作もないはずだ。逃げ切れた、と信じたい。
全く持って、奇妙な男だった。
拳を通じて語り合い、僅かな間とはいえ共に闘った、人間ですらない異形の男。
彼が自分を追い、狙った理由は漠然とながら勘付いていた。
おそらく、自分に潜む破壊の衝動。襲いかかって来たのは、それを滅ぼすためだろうか。
にも拘らず、デビルガンダムとの戦いでは、彼は自分を助けた。
自分の中の殺意は、もはや暴走寸前の危険な状態であるのに。
殺意を抑え込む自分を信じたが故の行動だろうか?あるいは戦いを通じて、彼の心に何かが生まれたとか?
(まさか、な……)
それは一方的な思い込みかもしれない、だが。
(いずれにせよ、ワシを守りおったあ奴のためにも……この殺意に、負けるわけにはいかんな)
決意を新たに、零影は再び走り始める。
(もし機会があれば、奴とは互いに全力で戦ってみたいものだ……)
しかしこの後、この二人が生きて再会することはなかった。

東方不敗は現在、G−6へと向かっている。
基地のような目立つ施設ならば、参加者も集まりやすい。
設備が整っているならば、そこで首輪の解析を試みている者達もいるかもしれない。
ならば、デビルガンダムを打ち倒すための、引いてはこのゲームを潰せるだけの仲間を得られるかもしれない。
そう、仲間を……一人での限界を知った彼は、その存在を求め動き出す。
……そもそも、初めからそうすべきだったのだ。
どれだけマーダーを倒して回った所で、このゲームが継続される以上、殺し合いを止めることはできない。
殺し合いが憎しみや悲しみを生み出し、その感情が新たな殺し合いを促す。
根本を絶たねば、この泥沼は終わることはない。
ゲームを潰すなら、そのための行動を何よりも優先すべきだったのだ。
(ワシとしたことが、大局を見誤るとはな……!)
第3回放送の時点で、死亡者は既に37人。それから6時間、死者はさらに増えていることだろう。
その中に名を連ねた、流竜馬とリオ・メイロンを思い出す。もしあの時、自分が彼らと共に戦う道を選んでいれば。
彼らを守れたのではないか。彼らもまた、違った未来を見ていたのではなかろうか。そしてデビルガンダムも……
……しかし今は、己の不甲斐なさを悔やんでいる時ではない。
一刻も早く仲間を集め、デビルガンダムへの対処を考えなければならない。
今でこそ落ち着いているものの、これからデビルガンダムがさらに進化する可能性は十分に……
「む……?」
思考が遮られる。
遮ったのは、察知した新たな気配。
「何奴ッ!!」
零影は気配の先、暗闇の中で動く影のほうへと振り向き、
――迷うことなく、太腿に装備されたミサイルを撃ち出した。
爆発。閃光が走る。
ミサイルは牽制。当てるつもりで撃ってはいない。
爆発の明かりの中から、紫の影が飛び出した。
「そこかっ!!」
敵の存在を確認し、地を強く蹴って突進する。
『待て!こちらはゲームに乗るつもりは……!?』
通信が入る。パイロットが何やら言っているが、――関係ない。
一気に間合いを詰めにかかる。
『ちぃっ!!』
敵はハンドガンを構え、零影へと向けてくる。
しかし遅い。
蹴りを一閃――ハンドガンをその手から弾き飛ばす。
『何ッ!?』
怯み、体勢を崩したその隙に、零影は徐に敵へと飛び掛かった。
右手指先に闘気を集め、その手で敵の頭を砕かんと掴みかかる。
「ダァァァァクネス……ッ!?」

間一髪で、我に返る。
右手は、敵の――エステバリスの顔面ギリギリで止められた。

今、ワシは何をした……?

「……すまぬ」
『何……?』
エステバリスのパイロットは、面食らった様子で言葉を返す。
いきなり問答無用で攻撃したかと思えば、いきなり謝罪して攻撃を止める。意味不明だ。
謝罪したからといって、普通ならばこの状況でただで済むはずはないだろう。しかし……
『……ゲームには乗っていないんだな、あんたは』
相手は――ガルドはあくまで冷静だった。
東方不敗とガルド・ゴア・ボーマン。互いにゲームに乗っていないことを確認し、両者の和解は驚くほどスムーズに行われた。
情報を交換し、二人は行き先が同じG−6基地であるとわかった。
仲間を、友を求めて。ひいては、このゲームに立ち向かうため。
志を同じくした二人は、共に行動することとなる。
「ガルドだったな。急ぐぞ、もはや一刻の猶予もない!」
『承知した……』

――そうだ、もう時間がない。
急がねば。ワシがワシでなくなる前に……


【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
 パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で抑え込んでいるが……?)
 機体状況:機体表面に多少の傷(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
      鎖分銅消滅、弾薬消耗。ボディへの負担大。
 現在位置:E-6
 第一行動方針:ガルドと共にG-6へ向かう
 第二行動方針:他の参加者にデビルガンダムの脅威を伝える
 第三行動方針:デビルガンダム及びユーゼス打倒のための仲間を集める
 第四行動方針:ゲームに乗った者を倒す
 最終行動方針:必ずユーゼスを倒す
 備考:これ以上の戦闘行為は危険です】
(デビルガンダム……か。また厄介事が増えたらしいな)
東方不敗と名乗る男から入手した情報。
ガルドにとっては、にわかには信じがたい話ではあったが……
テムジンに宿った不思議な力といい、このゲームはもはや何が起きても不思議ではないところまで来ていた。
(主催者は一体何を企んでいる?今、このゲームで何が起きているのだ……?)
思考を巡らすも答えが出るはずがない。そこに、零影からの通信が入る。
『ガルドだったな。急ぐぞ、もはや一刻の猶予もない!』
「承知した……」
東方不敗。情報交換の際のやり取りから、破天荒ではあるが、基本的には落ち着いている老人だ。
先程、殺意を剥き出しにして襲いかかって来た時とは別人のようだ。
それこそが、彼が東方不敗を驚くほどあっさりと受け入れた理由だった。
(やはり、この男は……)
ガルドは、東方不敗が自分の内なる衝動に抗っているような印象を受けた。
心に潜む、攻撃衝動。
……他人事とは思えない。

思い返す。
かつて自分の犯した、許されざる罪を。
一時は記憶の奥底に封印していた、しかし決して忘れてはならない罪を。

そう、忘れてはならない。
彼の中には、今も巨人族の血が流れていることを。

エステバリスと零影は、G−6へと向けて飛び立つ。
果たして、彼らの行く末は如何に。


【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
 パイロット状況:良好
 機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
 現在位置:E-6
 第一行動方針:東方不敗と共にG-6に向かい、イサムの存在の確認・合流
 第二行動方針:G-6にて、首輪・マサキの情報を集める
 第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊。デビルガンダムへの対処
 第四行動方針:チーフとの合流
 最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる )
        ただし可能ならばチーフ、自分の生還も考慮に入れる
 備考:東方不敗の殺戮衝動の存在に漠然と気付いています】

【二日目 22:10】
245守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:04:37 ID:hpWdqTqR
一つのエリアのほとんどを占める広大な基地の中、戦闘によって抉られた格納庫を後にし、通路を駆ける二つの影がある。
基地の通路に響くのは二つの駆動音と足音だけだった。
先を行くのはレドームが特徴的な機体、D−3だ。
残された左腕にハンドレールガンを握り締めるD−3に続き、シャープな外見の機体、レイズナーが行く。
D−3が先行しているのはその乗り手、イサム・ダイソンの意志だった。
レイズナーのパイロット、木原マサキは守るべき存在だ。
このふざけたバトルロワイアルから脱出し、あのいけ好かない仮面野郎をぶっ倒すために、マサキはいなくてはならない。
そしてそれ以上に、イサムはマサキを守りたかった。
賢しい打算や損得といったことを抜きにしても、イサムはマサキを守ろうと思っている。
マサキは仲間なのだ。
この益体もないゲームで、イサムは多くの人間と出会ってきた。
殺し合いを強要されるゲームだというのに、いや、だからこそ、見ず知らずの者とも手を取り合うことができた。
ホシノ・ルリ、アクセル・アルマー、木原マサキ、テンカワ・アキト、ヒイロ・ユイ、司馬遷次郎。
ほとんどが、命を落とした。
アクセルは無事だろうか、とイサムは思い、それを願いに変える。
無事でいろよ、と。
もう仲間を失いたくはなかった。短い間でも共に過ごした仲間を、これ以上無くしたくはなかった。
だからイサムはアクセルの無事を願う。そして今は、仲間を失わないために出来ることがある。
マサキを守る。何としてでも、必ず、俺がマサキを守る。
絶対に、守る。殺させはしない。
イサムは自覚していない。自分の精神が疲弊し切っていることに。
殺し合いの強要、命を握る首輪、仲間の喪失。繰り返される悲劇に、彼の心には疲労が蓄積されていた。
マサキを守ろうとすることに縋らなければ、自分を保つことができないほどに。
そのことに気付かないまま、イサムはD−3を駆る。もはや解析室のすぐ側まで来ていた。
レーダーに目をやれば銀色の機体、アルテリオンが前方にいることを把握できる。
イサムがハンドレールガンを構えた、その直後。
正面から、一条の光が飛んできた。空気を穿つような、細く鋭い光は真っ直ぐ向かってくる。
「マサキ、避けるぞ!」
イサムは叫ぶと同時、D−3の身を跳ばす。直後、D−3のいた場所を光が貫いていく。
レイズナーに着弾しなかったことを確認して、バーニアをふかしながら着地。銀の流星の接近に備えてハンドレールガンの銃口を突き出す。
246守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:05:32 ID:hpWdqTqR
「この、いい加減にしやがれ!」
トリガーを引く。ノズルから吐き出される銃弾はしかし、アルテリオンの装甲を掠めることすらなく壁に吸い込まれた。
舌打ちをして射撃を止める。無駄弾は撃てない。
「試させてもらうぞ。こいつの性能をな!」
オープンチャンネルでばら撒かれた男の声、ロイ・フォッカーではない声にイサムは驚愕する。
「てめぇ、生きてやがったのか!」
言い返すイサムに答えたのはパイロットではなく、アルテリオンのツインGGキャノンだった。
マズルフラッシュと銃声を伴い、弾丸が飛来する。それを回避しながら、イサムはなんて野郎だと思う。
捕虜にしていた男、ヤザン・ゲーブル。
格納庫に拘束されていたはずのヤザンが生きているということは、機動兵器の戦闘に生身で巻き込まれながらも生き延びたということだ。
更にどんな方法を使ったのかは知らないが、フォッカーを殺害し機体を奪うことに成功している。
危険な男だと再認識する。フォッカーよりも遥かに危険だと、イサムの頭が警鐘を鳴らしていた。
『イサムさん! ここで戦うのは――』
「分かってるッ! 引っ張るぞ!!」
マサキの通信を遮り、もう一度ハンドレールガンを撃つ。その弾道を縫うように、レイズナーがレーザード・ライフルを撃つのが見えた。
レイズナーの転進に合わせ、イサムもアルテリオンに背を向ける。当然、ジャマーを稼動させることは忘れない。
「マサキ、格納庫に着いたら二手に別れるぞ。俺が奴を引きつける。その間に補給を済ませて戻って来てくれ」
レーダーで後方を確認しながら、マサキに通信を送る。通信機の向こう、マサキが息を呑む音が聞こえた。
『危険です! 囮なら僕がやります。レイズナーの方がD−3より速い!』
イサムは不謹慎にも喜びを感じる。マサキの発言から、彼も自分を仲間だと思ってくれていると、そう実感できたからだ。
それを表すように、イサムは小さく笑い、軽口を叩くように返す。
「俺の腕を舐めるなって。それにジャマーもある。だから大丈夫だ。心配するな」
マサキの答えはすぐに返っては来ない。ちらりとレイズナーの様子を窺うと、半透明のキャノピーの中、思案するマサキが見えた。
その姿から目を離し、何か言ってやろうと口を開く。その声が出るよる先、通信機からマサキの返答が来た。
『……分かりました。必ず助けに戻ります』
言って、レイズナーが加速する。頼もしい答えに、イサムは頷いてレーダーを確認した。
「……ヒイロを殺した奴らは動かなくなってる。大丈夫だと思うが、気をつけろよ」
そう言って、フォッカーが開けた穴からレイズナーが格納庫に入るのを見送る。
そして、D−3は急制動をかけてターンした。
肉薄するアルテリオンに向けて、イサムは叫ぶ。
「俺が相手をしてやるよッ!」
D−3が格納庫に入るのと、アルテリオンがGアクセルドライバーを構えるのは、ほぼ同時だった。
247守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:06:16 ID:hpWdqTqR
Gアクセルドライバーを避けて格納庫へ消えたD−3を追って、ヤザンはアルテリオンを進ませた。
向き出しとなった夜空から降る月光が、銀の機体をたおやかに照らしてくる。
いい機体だ、とヤザンは思う。
可変型アーマードモジュール、YAM-008-2アルテリオン。
可変型の機体には慣れている。もともといた世界で、彼の愛機は可変型モビルスーツだったのだから。
機体の特性もモビルスーツに近く、龍王機やグルンガストよりも扱いやすさを感じていた。
そんな機体を得たヤザンに啖呵を切るのは、先ほど苦渋を舐めさせられた相手の片方だ。
「いい度胸じゃねぇか」
格納庫から遠ざかっていく機体を追うのは後でいい。狩りは後でも十分に楽しめるのだ。
「借りを返させてもらうぜ!」
言って、ヤザンはアルテリオンを突っ込ませた。牽制のGGキャノンを撃ちながら距離を詰めようとする。
だが相手はバーニアをきめ細かく操作し、うず高く積まれた瓦礫に隠れながら、ある程度の距離を保ちつつ回避を行う。
決して反撃は行わず、ただひたすら回避と防御に徹する相手を見て、ヤザンは不愉快そうに眉根を寄せた。
こいつは囮だとヤザンは判断する。だが、もう一機を追う気にはとてもならなかった。
まずはこいつ、自分を負かせた奴を倒すことの方がヤザンには価値があったからだ。
それなのに、相手が逃げてばかりでは面白味がない。つまらなそうに、ヤザンは鼻を鳴らした。
「さっきの威勢はどうした? 貴様は一人では戦えないのか? 随分臆病者だな」
ヤザンは通信機に向けて声を投げる。嘲笑うように挑発してやるが、相手は乗って来ない。
その態度に、ヤザンは意外さを覚えた。
ヤザンは思い出す。
ヤザンの足を折った奴、ヒイロ・ユイは冷静に見えた。だがもう一人、イサム・ダイソンは直情的なはずだ。
そして今、目の前にいるのがイサム・ダイソンなのは間違いない。挑発に乗ってくると、そう確信していた。
「俺にはいんだよ。信頼できる、仲間がな。一人で戦ってるわけじゃねぇんだ」
イサムの声が返ってくる。オープンチャンネルで響くその声を聞いて、ヤザンの口に笑いが込み上げてきた。
ヤザンはそれを抑えようともしない。通信機が笑い声を拾い、それが外に漏れてもイサムは何の反応も見せなかった。
「そうかい。ならば殺ってやるよ。仲間が戻ってくる前にな!」
248守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:07:14 ID:hpWdqTqR
アルテリオンをCFに変形させるヤザン。Gアクセルドライバーを左右交互に撃ちながら、GGキャノンを連射しながら突撃をかけた。
アルテリオンのスラスターが光を増し、陽炎と残響を残しながら機体を前へ飛ばす。強烈なGさえ、ヤザンには心地よい。
D−3の逃げ道は後ろ、あるいは上。
さぁ、どちらへ逃げる?
胸中で問いかけたとき、D−3が少し膝を曲げ、そのバーニアの光が下へ落ち始めた。狩人の目つきで、ヤザンはそれを捉える。
D−3が宙に浮くより早く、ヤザンはアルテリオンの機首を引き上げた。上向きになったアルテリオンは、軌道を斜め上に変えて前に行く。
銀のボディが夜気を裂いて高い風鳴りを立てる。鳥の鳴き声のような音を引きつれたアルテリオンは大鷹のように飛ぶ。
その行く先にあるのは、暗い宙と、爆炎を受けて焼け焦げた天井の残骸がある。
それだけ、だった。
D−3は、上がってきていない。
D−3はバーニアの角度を変え、アルテリオンの真下を潜るようにして正面へと向かっていた。
単純なフェイントを経て、ヤザンの突撃をかわすD−3。
しかし、ヤザンは表情に浮かぶ笑みを深くした。
「甘いんだよ!」
叫び、ヤザンは180度ロールを行う。背面姿勢となった状態で、上向きの機首を思い切り下へ向けた。
アルテリオンの軌道が急激に下へ曲がるが、構わずヤザンはスラスターを全開にする。
急降下と言える速度で落ちる流星は、円のような軌跡を描いて飛ぶ。
地面スレスレで正面に戻ったアルテリオンは、D−3の背後を取った。
スラスターの出力を弱め、アルテリオンはすぐさま変形。DFになることで生まれた強烈な空気抵抗が速度を削ぐが、再びスラスターの出力を上げて空気を破っていく。
「その鬱陶しいレドームからやらせてもらうぞ!」
アルテリオンから二本の光剣が伸びる。それを察したD−3がバーニアの光を強くするが、距離は縮まるばかりだ。
アルテリオンは止まらない。飛べない獲物を上空から狩るように、D−3のレドームへとソニックセイバーを突き立て、乱暴に引き裂いた。
249守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:08:14 ID:hpWdqTqR
レドームを切り裂き、距離を取るアルテリオンをイサムは睨みつける。
DFのまま空中で静止したアルテリオンは、そんなイサムを見下すようにメインカメラを向けてきた。
「これで終わりだな」
レドームを無残に切り裂かれたD−3の中、イサムは降りかかる声を聞く。
彼はそれに答えることなく、D−3の損傷チェックを行う。
レーダー、ジャマー、サブカメラが完全に死んでいる。五感のほとんどがなくなったようなものだ。
イサムは苛立ちを隠せず舌打ちをする。バルキリー乗りであるイサムにとって、あの芸当を予測出来なかったわけではない。
しかしまさか、折れた足であれだけのことをやってのけるとは思わなかった。
油断だ。こうなったのは自分の油断のせいだ。
だが、後悔などしている暇はない。それにまだ、後悔するには早い。
まだ自分は生きている。D−3も動く。
そして、まだマサキは生きているのだ。
アルテリオンがミサイル――CTM−07プロミネンスを放つ。尾を引きながら向かってくる2基のミサイルを見ながら、イサムは呟いた。
「へっ、ジャマーを潰したら早速ミサイルかよ」
彼は、その軌道を見据える。もともといた世界で、ミサイルを相手にすることは多かった。
対処にも、慣れている。
「舐めんじゃ……ねぇッ!!」
イサムは吼え、バーニアを一気に開いて前へ駆ける。読んでいたかのようにGアクセルドライバーが撃ち込まれるが、右に跳んで回避。
そのままバーニアの向きを操作し、瓦礫を跳ね飛ばしながら右へ一気に移動する。その勢いのまま壁へと近づき、壁沿いに前へ突っ走る。
そうすれば後ろで聞こえるのは二重の爆音だ。D−3を追ってきたプロミネンスは壁に衝突し、噴煙を巻き上げて壁に穴を開けた。
アルテリオンの攻撃は止まない。上空、悠然とGアクセルドライバーを構えるアルテリオンから、再度プロミネンスが発射される。
その軌道は、壁沿いに疾駆するD−3を迎え撃つ動きだ。D−3の正面から、プロミネンスが向かってくる。
イサムはまたもバーニアを操作する。繊細に、丁寧に。そして素早く。
壁から離れるD−3の移動先に、Gアクセルドライバーの狙撃が来る。それはD−3の破損したレドームを更に貫いた。
完全に制空権を握られたままの戦いの中、イサムは思う。
レドームがやられ、ハンドレールガンの弾数も僅かな今、D−3はもう戦えない、と。
時間稼ぎすら厳しくなってきた、と。
250守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:09:02 ID:hpWdqTqR
だがイサムは諦めない。生まれそうになる絶望や恐怖を焼べ、闘志の炎を燃え上がらせる。
このまま戦うのが厳しいのならば。ならば、せめて。
――あいつに傷くらい負わせてやるッ!!
イサムはバーニアの光を最大限まで強くしながら、瓦礫の散らばった床を思い切り蹴った。
D−3が、跳ぶ。
後方、プロミネンスを引き連れて上昇する。銀の流星に向けて、ひたすらに空へと近づいていく。
アルテリオンが下がり、そして上昇しながらGGキャノンを放つ。連射された弾丸が腹部装甲に直撃しても、イサムは構わない。
遠くなったアルテリオン。だがイサムはそれを追おうとするのではなく、バーニアを急激に停止させた。
イサムの体が強烈な慣性に引っ張られる。それに耐えながら、イサムは落ち行くD−3の身を捻らせ、そして見る。
追ってきていたプロミネンスがD−3の脇をすり抜け、真上へ飛んでいくのを、だ。
プロミネンスがそのままアルテリオンに当たるなどと、そんな都合のいいことは考えていない。相手がそんな馬鹿なら、最初から苦戦などしない。
イサムは、再度バーニアに火を灯す。落下するD−3が一時空中で静止し、再度上昇していくのを感じながら、イサムはD−3の左腕を上へと突き上げた。
ハンドレールガンのトリガーを引いて、躊躇わず発砲する。
狙いは行き場を失ったプロミネンス。撒き散らされる銃弾はプロミネンスをまとめて爆散させる。
2基分の爆炎が、メインカメラに広がっていく。そこに、イサムは突っ込んだ。
「おおおおおおッ!!」
爆音の中、イサムは吼える。弾切れを起こしたハンドレールガンを投げ捨て、空になった左手にアザルトナイフを逆手に握り、振りかぶる。
爆炎を、抜ける。眼下にいるのは銀の流星。
炎の雲を越えたイサムは流星の上を取る。アルテリオンがGGキャノンを乱射しつつソニックセイバーを構えようとするのが見える。
「遅せぇッ!!」
バーニアを逆噴射し、落下の速度を上げ、アサルトナイフをアルテリオンへと振り下ろす。GGキャノンでは止められない。
いける。
イサムが確信した、その瞬間。
アサルトナイフを持つ左手に、一筋の青いレーザーが直撃した。
アルテリオンの射撃ではない。通路側からの正確な射撃が、D−3の手からアザルトナイフを吹き飛ばしていた。
イサムは驚愕に目を見開く。
撃ったのが誰か。イサムがそれを確認するより早く、アルテリオンのソニックセイバーがD−3の胸部を薙ぎ払うのが見えた。
D−3が激しく揺れ、予想外の落下が始まる。
その衝撃で、イサムの意識はブラックアウトした。乱入者の正体を、知ることのないまま。
251守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:09:36 ID:hpWdqTqR
解析室とは逆方向へ伸びる通路の中、レイズナーは走っていた。格納庫から遠ざかりながら、木原マサキはレーダーに目を向ける。
後方、格納庫から1つの機影が近づいてきているのを確認し、マサキはレイズナーの足を止めてそれを待つように振り返った。
レイズナーが背を向けた方向には閉ざされた扉がある。補給ポイントのすぐ側に繋がる扉だ。
D−3を撃ったのは、これ以上イサムは使えないと判断したからだ。電子戦を行えないD−3など邪魔でしかない。
格納庫から遠ざかったのは、相手の出方を窺うためだった。相手がこちらを追い、襲撃してくるなら返り討ちにしてやればいい。
イサムが時間を稼いでいる間にレイズナーの補給は済ませた。消耗した相手に、負ける要素はない。
だが、それはマサキの望むところではない。もう手駒が残っていないのだ。
ここに集った者たちのうち、ほとんどが死亡した。
ヒイロ・ユイに司馬遷次郎、ロイ・フォッカー。
外の静けさと、別れ際にイサムが言った言葉から、ヒイロを殺したとかいう二人組も死んだのだろうとマサキは判断する。
残ったのはマサキ自身と、もう1人。なんとしてでも利用したいと考えていたとき、コクピット内にレイの声が響いた。
「ターゲットノ接近ヲ確認」
ふむ、とマサキは頷いてレーザード・ライフルを構える。
姿を見せたアルテリオンはこちらにGアクセルドライバーを突きつけ、そのまま一定の距離で移動を止めた。
撃ってこない。
その事実に、マサキは内心ほくそ笑む。
「どうした、撃たないのか? 貴様はこのゲームを楽しんでいるのだろう?」
「……貴様、ただのガキではないようだな。奴を撃ったのは何故だ? 俺を助けたつもりか?」
「違うな。使えないクズを処理しただけだ」
「ほぅ……なるほど、な」
通信機越しに聞こえる相手の声に、含み笑いの気配をマサキは感じ取った。
それはマサキの望む、確かな手ごたえだ。だから彼はキャノピーを開け、言い放つ。
「取引をしないか? 戦わせてやるぞ。貴様を、この俺の下でな」
高らかなその物言いは、秋津マサトのような弱々しいものではなく。
冥王木原マサキの、尊大な口調だった。
252守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:10:06 ID:hpWdqTqR
首輪を解析し、このゲームからの脱出を考えている。
交わされた筆談から分かったその事実に、ヤザンはあまり興味を示さなかった。
命の奪い合いを好むヤザンにとって、このバトルロワイアルは楽しいものだったからだ。
マサキが提示したエサよりもむしろ、ヤザンは木原マサキという男に食い付いていた。
打算的で野心的。
目的のためには手段を選ばず、利用できるものは利用する。
それが例え、戦闘狂であっても。
それが例え、牙を剥く可能性のある相手であっても。
面白い、とヤザンは思う。
首輪の解析などどうでもいい。外せればそれで構わないし、外せないならばマサキも殺し、優勝すればいいだけの話だ。
「貴様は歯向かう奴らと戦うだけでいい。徒党を組んでいる奴らも少なくないからな」
ヤザンに出された要求は、マサキを守り戦うこと。場合によっては、マサキと共に戦うこと。
下らない正義や善意を振りかざす奴と共に戦うのは虫唾が走る。だがこのような男とならば、更に戦いが楽しめそうだ。
十分だった。ヤザンに断る理由はない。
「いいだろう。やってやろうじゃないか。ただし――」
ヤザンは言う。その顔に、愉悦を浮かべながら。
「後ろから撃たれる覚悟くらいはしておくんだな」
253守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:11:36 ID:hpWdqTqR
イサムはゆっくりと目を開ける。
瞼を持ち上げたはずなのに、あたりは真っ暗で光は見えなかった。
背中に感じるシートと手の中にある操縦桿の感触で、自分がコクピットの中にいるということをなんとか判断できた。
そこはやけに静かで、聞こえる音は自分の微かな息遣いと弱々しい拍動の音だけだった。
口の中に広がる粘ついた鉄の味が不愉快だ。それをごまかそうとするかのように、イサムは声帯を震わせる。
「マギーちゃん……動けるか……?」
予想以上に掠れた声に驚きを感じながら、イサムは返答を待つ。
だが何の声も、音も返ってこない。その静けさが不安で、イサムは口を開き続ける。
「無理、か。俺ももう、動けそうにねぇや……畜生……」
D−3のAIナビ、マギー。それもまた、イサムがバトルロワイアルで出会った仲間だった。
「ルリちゃん、アキト、ヒイロ。俺ももう、そっちへ逝くことになりそうだ」
出会った仲間の顔を思い浮かべながら呟かれるイサムの言葉は、闇に溶けて消えていく。
「アクセル。無事なら、マサキと合流して、守ってやってくれ」
イサムはもう、自分が目を開けているのか閉じているのかすら分からなかった。
「悪い……。もう俺、お前を守ってやれねぇみたいだ。本当、悪ぃな、マサキ……。無事で、いやがれよ」
かけがえのない仲間、失いたくない仲間。イサムにとって、守りたかった仲間。
木原マサキに届かない呟きを最後に、イサムの口は完全に閉ざされた。
静かで、暗くて、何もない世界。
イサムはその中で、1人の女性を見る。黒髪の、よく知った女性。
ミュン・ファン・ローン。
イサムは操縦桿から手を離し、ミュンへと伸ばそうとする。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。震える手を、前へと。
ミュンへと向かうその手はしかし、彼女に触れる前に、だらりと落ちる。
薄れゆく意識の中、イサムは胸中で呟く。
――ガルド、お前もいやがるんだろ、この会場に。生き延びて、生き残って。ミュンのこと、頼んだぜ。
その言葉が終わると同時、ミュンの姿は見えなくなって、そして。
イサム・ダイソンが動くことは、なくなった。
254守りたい“仲間” ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 18:12:16 ID:hpWdqTqR
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:左腕断裂 背面装甲にダメージ
 現在位置:G-6基地(通路)
 第一行動方針:マシンファーザーのボディを解体し、解析装置と首輪残骸の回収
 第二行動方針:マシンファーザーの解析装置のストッパー解除
 第三行動方針:首輪の解析、及び解析結果の確認
 最終行動方針:ユーゼスを殺す
 備考:マシンファーザーのボディ、首輪3つ保有。首輪7割解析済み(フェイクの可能性あり)
    首輪解析結果に不信感】

【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:全身打撲、右足骨折(鉄パイプを当て木代わりに応急処置済み)
 機体状況:各武装の弾薬を半分ほど消費
 現在位置:G-6基地(通路)
 第一行動方針:アルテリオンの補給
 第二行動方針:マサキの護衛。マサキに歯向かう者の排除
 最終行動方針:首輪解析に成功すれば主催者打倒。失敗すればゲームに乗り、優勝】

【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:リフター大破 レドーム大破 装甲に無数の傷
      アサルトナイフ一本、ハンドレールガン消失 胸部断裂 マギー沈黙
 現在位置:G-6基地(格納庫) 】

【時刻:21:25】
255守りたい“仲間”修正願い ◆tgy0RJTbpA :2006/11/15(水) 21:10:46 ID:4gOIxM4H
微妙に文章のおかしいところを発見したのでお手数ですがお願いします。

>>250の中盤
×空になった左手にアザルトナイフを逆手に握り、振りかぶる。
              ↓
○空になった左手でアサルトナイフを逆手に握り、振りかぶる。

このようにしてください。
256それも名無しだ:2006/11/20(月) 02:14:59 ID:Wz4Jbymk
保守
257それも名無しだ:2006/11/21(火) 12:26:26 ID:BveIPWNx
>>255
アザルトで合ってるよ
258それも名無しだ:2006/11/21(火) 20:58:09 ID:RsAT1tVh
>>257
ttp://www.dragonar.net/mechanics/e03.html
ここによるとアサルトが正しいんじゃないか?
って議論スレで話すべきかもしれんが
259それも名無しだ:2006/11/22(水) 01:00:27 ID:qcorR+bf
>>258
ホントだ
でも最近再プレイしたスパロボAでは「アザルト」と表記されていたから
どっちでもいいんじゃないか?
260それも名無しだ:2006/11/22(水) 02:09:59 ID:Yva5zwLz
俺O型だけどどっちでもいいよ。
261守りたい“仲間”再修正願い ◆tgy0RJTbpA :2006/11/22(水) 09:28:54 ID:FwMQwWsY
指摘感謝。
正直どっちが正しいのか分からず迷走していたのが本音です。
スパロボ準拠および他の話との整合性を考え、アザルトナイフに統一したいと思います。

>>250
>バーニアを逆噴射し、落下の速度を上げ、アサルトナイフをアルテリオンへと振り下ろす。
→バーニアを逆噴射し、落下の速度を上げ、アザルトナイフをアルテリオンへと振り下ろす。

>アサルトナイフを持つ左手に、一筋の青いレーザーが直撃した。
→アザルトナイフを持つ左手に、一筋の青いレーザーが直撃した。

>>254の機体状況の
>アサルトナイフ一本
→アザルトナイフ一本

前に修正をお願いをした点で恐縮ですが>>255
>空になった左手でアサルトナイフを逆手に握り、振りかぶる。
→空になった左手でアザルトナイフを逆手に握り、振りかぶる。

まとめの方、すみませんが以上のように修正をお願いします。
262それも名無しだ:2006/11/26(日) 23:45:00 ID:fFNfCLuF
支援
263?????:2006/11/27(月) 22:07:42 ID:liIPGxtE
浅ぃ!!もっと打ち込んで来ぃ!!!
264それも名無しだ:2006/11/29(水) 21:54:22 ID:NVjj+T9n
踏み込みが足りんッ!!
265それも名無しだ:2006/12/03(日) 11:49:59 ID:gweta/X0
保守
266それも名無しだ:2006/12/05(火) 15:48:58 ID:xyRnurt4
保守
267過去を追う者、断ち切る者 ◆Y8xBZL/m/U :2006/12/05(火) 23:53:01 ID:hfdcMVBV
俺は誰だ。
俺は、一体何者だ。

自問自答を繰り返す。しかし答えなど出るはずがない。
島を発ってから、ずっとこの調子だ。
出発前にエルマに貰った写真。
それに写っていた黒いロボット。
俺はあのロボットを知っている。それは間違いない。
だが、それが何であるかまでは思い出せない。

あのロボットは何だ。
俺は何故、あのロボットを知っている。
俺は誰だ。

俺はクォヴレー・ゴードン。名前以外の記憶はない。
どうやらユーゼス・ゴッツォの手によって奪われているらしい。
改めて思い返す。ゲームの開始前に、ユーゼスから告げられた言葉を。

――君の力は制限させてもらっている。そうでないといろいろと不都合が起こるのでね。
  使命、愛機、何も思い出せないはずだ――

俺の力とは何だ?奴にとって不都合、だと?
自分には、このゲームを左右する……もしくは、破綻させるだけの力があるというのか?
俺が記憶を取り戻せば、このゲームを潰す道が開けるというのか?
それは、俺の使命に繋がることなのか?
あの黒いロボットは、俺の愛機だったのか?

一刻も早く、思い出さなければならない。そんな気がする。

そうだ――ひとつ思い出した。
あの黒いロボットの名前。

ディス・アストラナガン―――
268過去を追う者、断ち切る者 ◆Y8xBZL/m/U :2006/12/05(火) 23:54:59 ID:hfdcMVBV

「どうかしたのか?ボーッとして」
「……いや、何でもない」
後部座席に座るトウマに声をかけられる。
どうやら俺は、また一人で考え込んでいたらしい。
『何か心配事でもあるのなら、今のうちに話しておいたほうがいい。
 この先、こういう時間が取れるか、わからんからな』
「そうそう。仲間なんだから、遠慮するなって」
通信機の向こう側のイキマも一緒になって、俺を心配してくる。
アラドやゼオラも、こんな風に接してくれたのだろうか?
その気遣いはありがたいが……
「すまない。だが、本当に大丈夫だ」
記憶については、自分でも不明瞭なままなのだ。今話した所で、余計な混乱を生むだけでしかない。
それに盗聴されている可能性を考えれば、迂闊に口に出すのはまずい。
一段落落ち着いて、自分でもある程度整理がついてから、全てを話そう。
今は何より、この首に突きつけられた爆弾を取り除くことが最優先だ。

俺とトウマ、イキマの三人は、現在G−6にある基地施設へと向かっている。
ここに向かったと思われる、味方となってくれるかもしれない二人組と接触するために。
改めて、エルマから貰った写真を見返してみる。
ディス・アストラナガンに追われる戦闘機・アルテリオンと、白いバイク。
セレーナの情報によると、どうやらこの二機の操縦者達は、G−6基地で首輪の解析を行うつもりだったらしい。
詳細は不明だが、そのうちの片方は、イキマと因縁を持つ司馬遷次郎博士である可能性がある。
司馬遷次郎博士――その実体は、マシンファーザーと呼ばれるコンピューターであるとのことだ。
写真に写ったバイクには、よく見ると人は乗っていない。代わりに何やら、機械らしき物が積まれている。
(イキマの話から察するに……このバイクに積まれた機械が、司馬博士である可能性が高いか)
果たして彼らは無事にG−6基地に辿り着いたのだろうか。
第三回放送で呼ばれなかったことからも、この時のディス・アストラナガンの襲撃からは逃れているのは確かだろうが。
とにかく、今は彼らがG−6基地で解析を行っていると信じて向かうしかない。
この首に付けられた忌々しい枷を解くことができそうな人物は、現状では彼らしか心当たりがないのだから。
269過去を追う者、断ち切る者 ◆Y8xBZL/m/U :2006/12/05(火) 23:56:34 ID:hfdcMVBV
「イキマ、あんたの方こそ大丈夫なのか」
俺はイキマに問い返した。
イキマは、司馬博士とは互いに敵対する者同士だったという。
蟠りがないというはずはないだろう。だが……
『打倒主催を決めた時点で、いずれは通らねばならん道だとわかっていた。
 心配はいらんよ』
イキマの返事には迷いはなく、確かな決意を感じさせられた。
「クォヴレー、イキマなら大丈夫だ。過去はどうあれ、今のあいつなら……」
「ああ……そうだな」
トウマの言葉に、俺は頷いた。
今、イキマは過去のしがらみを断ち切り、新たな一歩を踏み出そうとしている。
俺達には、それを見守ることくらいしか出来ないだろう。

ここまでの道中で、イキマは俺達に自分の過去を聞かせてくれた。
彼は、全てを俺達に話してくれた。
司馬博士との関係を、鋼鉄ジーグと呼ばれた戦士を、彼らと幾度となく刃を交えてきたことを。
そして……ここに来る前の彼の素性を。
彼の所属する邪魔大王国は、人類に敵対する存在であること。
邪魔大王国のために、彼は数え切れない虐殺や非道を過去に行ってきたことまでも。
俺もトウマも、それには驚いた。
出逢ってまだ間もないが、イキマの人格から、そんな人物であるとは考えもしなかった。
確かに、顔色は悪いし、ジョシュアやトウマの言う所の「悪人面」という面構えではあるが……
このゲームで俺達と出逢う事がなければ、彼は悪しき存在として人々を脅かしていたのだろうか。
正直、イキマの悪党姿自体、全く想像がつかない。
だがもし今の彼が、俺達人間と接することによって、彼の中の何かがこのゲームで変わった結果ならば。
それは……この救いのない殺し合いの中で生まれた、数少ない奇跡なのかもしれない。
270それも名無しだ:2006/12/06(水) 00:41:02 ID:Ouj/cp5i
援護に入る
271それも名無しだ:2006/12/06(水) 00:47:02 ID:CKkG4WCZ
>>267、お前は先に行け!
272それも名無しだ:2006/12/09(土) 14:34:57 ID:SBIhsjzb
保守
273それも名無しだ:2006/12/13(水) 17:58:21 ID:QZoHCUOu
保守
274それも名無しだ:2006/12/15(金) 16:51:38 ID:IM/70toP
支援
275それも名無しだ:2006/12/18(月) 21:34:33 ID:TCfUNhNo
支援するのも私だ
276それも名無しだ:2006/12/19(火) 20:42:31 ID:L0I9vphA
復活してたのか。がんばれ
277それも名無しだ:2006/12/22(金) 21:14:23 ID:e4vihewM
保守
278それも名無しだ:2006/12/22(金) 23:16:14 ID:8eaH6DWc
この基地外スレまだあったのか
279それも名無しだ:2006/12/28(木) 21:07:56 ID:HbSapvKE
保守
280それも名無しだ:2006/12/28(木) 23:53:06 ID:Xg/GJbIb
この手のスレは糞
281それも名無しだ:2007/01/03(水) 07:53:56 ID:V4JAdVK9
ゾフィー
282それも名無しだ:2007/01/09(火) 02:29:11 ID:5sfPR9rs
ほしゅ
283嵐の前の… ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 21:56:22 ID:hBW8elug
“君は今、このマシンファーザーの解析に成功した。
 まずは祝辞を述べさせて貰う。おめでとう。

 これの解析装置に目をつけた着眼点。
 そして装置に仕掛けていたストッパーを取り除いた、その技術。
 どういった経緯でそこに至ったかは知らぬが……ここは、見事だと誉めておこう。
 その栄誉を称え、ささやかな褒美を用意した。
 解析装置を起動させてみたまえ。
 新たな機能が、多数追加されているはずだ。
 それらの機能は、これから君が行うであろう首輪の解析を、大きく促すことになるだろう。
 首の爆弾の恐怖から逃れられるのも、時間の問題かもしれんな?

 さて、これをどう生かすかは、君の判断に委ねさせてもらおう。
 このゲームのイレギュラーとして、さらなる殺し合いに精を出すもよし。
 首輪の解析データをもとに、他者を弄ぶもよし。
 あるいは……この私に抗うためのきっかけとして、使用するもいいだろう。
 このチャンスをどう使おうが、君の自由だ。
 ただ、一つだけ言っておく。
 首輪を外した所で、枷が一つ外れただけにすぎない。
 君達を管理する術は、他にいくらでも存在する。
 今の君達では、私に抗うには全てが及ばぬ。
 私に挑むつもりならば……それを心に踏まえておくがいい。
 折角手にしたチャンスだ。つまらぬ使い方でふいにしてくれるなよ。ククク……

 さて、最後にもう一つ、付け加えておこう。
 このゲームの参加者の中に一人、私の送り込んだスパイが存在する。
 それもまた、肝に銘じておくがいい。

 それでは、引き続き殺し合いを楽しんでくれたまえ。
 お前達のさらなる憎悪と絶望を期待している――”
284嵐の前の… ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 21:58:18 ID:hBW8elug


静まり返った基地の一室から、コンソールを叩く音だけが鳴り響く。
解析室。
そこには首のない死体がひとつ転がり。
そして、彼――木原マサキが黙々と解析作業を続けていた。
その室内のディスプレイには、首輪の解析結果が映し出されている。
表示された解析率は既に85%に達しようとしていた。
速い。遷次郎と二人がかりで作業していた時以上のペースで、解析は進んでいる。
司馬遷次郎のボディ……小型版マシンファーザーの解析機能があるからこそだ。
ストッパーを外した後、機能が追加されバージョンアップした解析装置。
それは、それまで遷次郎と共に使用していた時とは比較にならないほど高性能だった。
滞りなく作業は進む。今のところ、異常は何も感じられない。
解析結果と遷次郎に仕込まれた首輪の残骸を照合させても、ピタリと一致する。
疑いようがないほど、気味が悪いほどに。
(ふん……全てはあのユーゼス・ゴッツォの手の上、ということか)
ストッパーを解除したと同時に流れた、ユーゼスのボイスメッセージ。
それは、彼らの行動が全て予測されていたことを示していた。
(全く持って、手の込んだ嫌がらせをしてくれる――)
マサキは忌々しげに顔を歪め……しかし、すぐに思い直し口元を吊り上げた。
(だが……)
285嵐の前の… ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 21:59:07 ID:hBW8elug
マサキはユーゼスに対し、自分と通じる何かを感じ取っていた。
必要最低限の種を蒔き、それによって人の運命を狂わせ……そんな哀れなピエロ達を利用しつくす。
全てを見下し、嘲笑いながら、己の目的を遂行する。
自分と同じ類の人間だ――マサキは確信する。
(……詰めが甘いな、この男)
ボイスメッセージから、彼はユーゼスの言葉の節々から必要以上の自己主張の強さを感じ取った。
それは、裏で糸を引き全てを操る策士としては好ましい傾向ではない。
例えるなら、最後の詰めの段階でわざわざ表舞台に現れ、聞いてもいないマジックの種明かしをご丁寧に説明し勝ち誇るタイプだ。
己の感情を、あるいは人としての弱さを捨てきれず、隠しきれず。
そこを突かれて、惨めに敗北する……三流の策士にありがちな話である。
(この詰めの甘さが生み出す隙を見出せば……この男を制することは、さほど苦ではないかもしれん。
 とはいえ……その隙を突くためには、こちらも周到な準備が必要だな)
マサキは考える。
メッセージに込められた、必要以上の情報。バージョンアップした解析装置。
ユーゼスは参加者達をある一つの結末へと導こうとしてる……マサキにはそう思えた。
その結末とは何か。ユーゼスの真の目的は?このゲームを通じて、彼が行おうとしていることは?
そして、その目論見を崩すための、彼の裏をかくための手段はあるか。
(あの男のことを少しでも詳しく知る必要がある。
 奴のことを知る参加者を捜すか、あるいは――スパイとやらと接触するか)
思考を巡らせる。
この会場からの脱出、ユーゼスに対抗するための力の入手……
やるべきことは山積みだ。反逆への道はまだ遠い。
(手立てが整わぬまま、首輪を外すのは返って危険かもしれんな……)
マシンファーザーさえあれば、首輪の残りの解析にはさほど時間はかからないだろう。
しかしボイスメッセージが流れた時点で、自分達が首輪の解析を試みていることは、既にユーゼスにも伝わっている可能性は高い。
その状況で首輪を外すことは、主催者に対し明確に宣戦布告を行うも同然となる。
首輪以外の管理する術、というものも気にかかる。
それ以前に、この解析結果がフェイクである可能性も未だ否定されたわけではない。
286嵐の前の… ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 22:00:52 ID:hBW8elug
不安要素はあまりにも多い。
だが、それでも冥王は笑っていた。
それは、この神を気取る仮面のピエロの持つ醜い人間性を、見抜いたが故か。

その時、解析室に通信音が鳴り響いた。マサキの思考と解析作業は中断される。
『マサキ、レーダーが反応をキャッチした。反応は二つだ』
新たな客の来訪を告げるヤザンの声。
今さら言うまでも無いが、この会場においては、レーダーなど気休め程度の効果しか得られない。
つまり、来客はもう既に基地のすぐ近くまで接近していることになる。
「来たか……」
客を出迎えるべく、椅子から立ち上がる。
さあ、来たのは誰だ。
ゲームに乗った殺戮者か。反主催を考える身の程知らずか。
あるいは――チーフ、トウマ、クォヴレー。自分の本性を知る者達か。
「ククク……」
不敵に笑う。これから行われる来客との駆け引きに心を躍らせ。

(いいだろう……今は貴様の上で存分に踊ってくれる。
 だが……最後に笑うのは、この俺だ――)



ひとつの嵐が過ぎ去った。
あらゆる負の情念が吹き荒れた、嵐が。
疑心、憎しみ、狂気……それらは、残っていた希望の光と純粋な想いを踏み躙り。
そして悪意のみを最後に残し、基地には静寂が戻った。
だが、今また静寂は破られ……新たな嵐が吹き荒れようとしている。
その嵐のあとには、果たして何が残るのか。
それは、今はまだ誰にもわからない。
287嵐の前の… ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 22:01:29 ID:hBW8elug
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:左腕断裂 背面装甲にダメージ
 現在位置:G-6基地(通路)
 第一行動方針:基地に迫る参加者への対応
 第二行動方針:首輪の解析、及び解析結果の確認
 第二行動方針:ユーゼスを欺きつつ、対抗手段を練る
 最終行動方針:ユーゼスを殺す
 備考:マシンファーザーのボディ、首輪4つ保有(フォッカーの首輪を回収しました)
    首輪85%解析済み(フェイクの可能性あり) 解析結果に不信感。
    スパイの存在を認識。それがラミアであることには気付いていない】

【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:全身打撲、右足骨折(鉄パイプを当て木代わりに応急処置済み)
 機体状況:良好(補給は終えている)
 現在位置:G-6基地(通路)
 第一行動方針:マサキの護衛。マサキに歯向かう者の排除
 最終行動方針:首輪解析に成功すれば主催者打倒。失敗すればゲームに乗り、優勝】

【三日目 0:00】
288 ◆3MPcubviSI :2007/01/10(水) 22:25:42 ID:hBW8elug
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:左腕断裂 背面装甲にダメージ
 現在位置:G-6基地(解析室)
 第一行動方針:基地に迫る参加者への対応
 第二行動方針:首輪の解析、及び解析結果の確認
 第三行動方針:ユーゼスを欺きつつ、対抗手段を練る
 最終行動方針:ユーゼスを殺す
 備考:マシンファーザーのボディ、首輪4つ保有(フォッカーの首輪を回収しました)
    首輪85%解析済み(フェイクの可能性あり) 解析結果に不信感。
    スパイの存在を認識。それがラミアであることには気付いていない】

【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:全身打撲、右足骨折(鉄パイプを当て木代わりに応急処置済み)
 機体状況:良好(補給は終えている)
 現在位置:G-6基地
 第一行動方針:マサキの護衛。マサキに歯向かう者の排除
 最終行動方針:首輪解析に成功すれば主催者打倒。失敗すればゲームに乗り、優勝】


状態欄一部修正。ヤザンの詳しい居場所は次の人にお任せします。
289それも名無しだ:2007/01/18(木) 14:25:28 ID:6ZFQ2NKa
期待age
290それも名無しだ:2007/01/25(木) 23:29:59 ID:radbTW2K
宇宙警備隊隊長ゾフィー
291それも名無しだ:2007/01/25(木) 23:32:48 ID:v/OphG4G
>>290
ヘタレと申したか
292それも名無しだ:2007/02/02(金) 02:23:43 ID:ciw3WfwU
HOSYU
293銀河旋風速度制限 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/04(日) 12:39:58 ID:4HttvVnF
大きな月が草原を照らしている。
その横に巨大戦艦が浮かんでいなければ、名月といって差し支えないだろう。
時折、風が草木を揺らして、その音が波の様にあたり一帯に染み渡っていく。
その中で草原の真ん中にうずくまる男が一人。
「あ〜、快便快便」
トイレットペーパー代わりに使った広葉樹の葉を捨て、トウマ・カノウは立ち上がる。
手を洗う水がないので、ズボンの尻の部分で手をゴシゴシと擦った。
『トウマ、終わったら早く戻って来い』
トウマのそばに置かれたワルキューレの通信機から、仲間の声が聞こえた。
彼らはここから100メートル程離れた場所に機体を止めて待機している。
「ったく、仕方ないだろうが」
リュウセイ達と別れ、地図の南端に当たる部分にワープしてからすぐのことだ。
トイレに行きたい。
トウマがそう言った瞬間、仲間たちは非難を口に出すことはなかった。
その分、表情のほうにありありと「緊張感がない」、「早くしろ」などといった本音が漏れていたが。
「こんなもん、生理現象なんだから非難される覚えはないぜ。
だいたい、あいつらやリュウセイとかセレーナだってみんな同じだろ。
ここに来てから二日間も、出ないほうがおかしいんだよ。
そもそも機体にトイレぐらい付けろっての。
…待てよ、セレーナ?…いやいやトウマ・カノウ、変なことを考えるな。
セレーナのあのスーツって、トイレの時は全部脱がなきゃいけないの?とか彼女に失礼だ。
だいたいお前にはミナキという心に決めた女が…」
『おいトウマ』
炸裂する妄想癖にストップをかけたのはクォヴレーからの通信だった。
素っ頓狂な声を上げそうになるのを堪えて、何とか取り繕った返事を返す。
「…何だ?」
『今、お前を待ってる間にブライガーの機能を色々と調べていて分かった事がある。
このことでお前たちに相談したい事があるから、ブライガーの中に来てくれ。イキマもな』
そして、トウマの返事を待たずに通信は切られてしまった。
「何なんだよ、いったい…ま、行ってみりゃわかるか」
ワルキューレに跨り、アクセルを開けてギアを踏む。
飛び出すような加速で走り出すと、仲間達との距離を見る見るうちに縮めていく。
いいバイクだ。ここが巨大ロボットが跋扈する殺し合いの場でなければの話だが。
トウマの吐いた、やれやれといわんばかりのため息が風の中に消えていった。
294銀河旋風速度制限 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/04(日) 12:46:01 ID:4HttvVnF
ブライガーにワルキューレを格納してからコックピットへ向かう。イキマは先に来ていたようだ。
操縦席に座るクォヴレーはトウマの姿を見るなり、さっそく話を始めた。
「待っていたぞ。早速だが、このブライガーはどうやら単独での大気圏への突入、離脱が可能らしい。
おそらく本来は惑星間移動するための宇宙船の形態がメインなんだろう。
自動車は地上、ロボットは戦闘用といった具合だ」
そこまでハイテクならトイレぐらい付けろとトウマは心の中でツッコミを入れた。
クォヴレーの説明は続く。
「大気圏離脱のための出力をスピードに換算すると、時速25000km以上…
つまりマッハ20を超える速度が出せるということになる」
は?…マッハ20?いまいちピンとこない。
「俺たちのいるこのフィールドを一周するなら一分だ」
言葉がない。今までチンタラ移動していたのがアホらしくなる。
「ならば俺のギャリィウィルをブライガーに担いでもらって飛べば、G−6まですぐということだな」
イキマのいうとおりだ。ブライガーには24時間のタイムリミットがある。急ぐに越したことはない。
「…待てよ。宇宙船ってブライスターのことだよな。じゃあ、あの形態でもマッハ20で飛べるのか?」
そうでなければ宇宙船としては機能しないだろう。
トウマは脳裏に浮かんだ疑問をクォヴレーにぶつけた。
「そうだな…初めて変形した時、高速で逃げる鬼のロボットを楽々と追いかけることができたからな。
音速の壁は間違いなく超えていたはずだ。可能性は高い。
あの時はジョシュアが奴に捕らわれていたからな。
下手に近づくことはせずに、ただ追いかけることしかできなかったが…」
もしフルパワーなら――。
これは当たりだ。ブライスターならタイムリミットも無い。逃げに徹すれば誰も追いつけないだろう。
移動手段としても有効性はとてつもなく高い。
「だがこれは推測だ。ユーゼスが何か制限を設けている可能性もある。試してみないことには分からん」
だから何故マニュアルを捨てたのかと。今さら言うことでもないのかもしれないが。
295銀河旋風速度制限 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/04(日) 12:51:49 ID:4HttvVnF
「方向よし。周囲に敵影らしきものもなし。準備はいいぞ」
地図とモニターを見比べながら確認作業を行うイキマ。
「では発進だ」
クォヴレーの声とともにブライガーは飛び立った。
見る見るうちに周りの景色が後方へスクロールしていく。
「マッハ1…2…3…ここまでは順調だ。次で一気にフルパワーで飛ぶぞ」
「なあ、このまま加速したらG‐6なんか、あっという間に通り過ぎちまわないか?」
「ならUターンすればいいだけだ。これなら戻るのに大して時間もかからんだろう」
トウマの疑問にイキマが答えた。
「そういうことだな…こいつの性能を試しておくいい機会だ。行くぞ、しっかり捕まってろ!」
景色が溶ける。
急加速のGに対して身構えてみたものの、たいした衝撃も無い。
よほど高性能な慣性制御装置が働いているのか、つくづくトンデモなロボットだ。
「すげえもんだな」
もはや芸も無く感心するしかない。
耳障りなアラームのような音が聞こえたのはその時だった。
何だ?どこか計器の異常か。
耳を澄ますと…何やら襟元から聞こえてくる。


「首輪が鳴ってるぞ!!」


見ればイキマもクォヴレーも同様だ。
首輪のランプが赤く点滅し、三人分のアラームがコックピット内に鳴り響く。
「イキマ、どうなってる!禁止エリアにでも入ったか!?」
「そんなはずはない!近づいてすらいないはずだ!」
「なら、何で!」
三人の頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
何故。
何で。何が。
それを吹き飛ばしたのは、首輪から聞こえてきた音声。
まるで留守番電話のメッセージのように事務的な、どこかで聞いたような女の声だった。
「制限速度をオーバーしているでございますです。直ちにスピードを落としませんと首輪が爆発しちゃったりしますですことよ」




「…何ィィィィィィ!!??」
「おいクォヴレー、ブレーキ!!」
「…わかってるっ!」
296銀河旋風速度制限 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/04(日) 12:55:52 ID:4HttvVnF
現在ブライガーは空中で静止している。
スピードを落としたことで首輪のアラームも止まった。
…なんだかひどく疲れた気がする。だいたいこんな仕掛けでなくとも、最初から動力部分にリミッターでも取り付ければいいだろう。
このブライガー、変形の事といい操縦方法といい、支給した者に悪意があるとしか思えない。
いや、この殺し合いをやらせる時点で悪意云々の次元ではないのだろうが。
「…なあクォヴレー」
「……何だ」
「あのユーゼスってやつ、お前に相当恨みがあるんじゃないのか」
「なんとなく心当たりがある気はするが…俺は記憶がない」
「それを言うなら記憶にないだろ。…間違っちゃいないけどよ」
「そうだな…」
そろって苦笑い。

「さて…どこだここは。イキマ、分かるか?」
「少し待ってくれ…G‐5あたりだな。少し北にずれて通り過ぎたようだ。…ん?何かいるぞ!」
問答無用の敵か、それとも戦いは避けられる相手か。
夜の闇のせいではっきりしない。
かなりサイズは大きいが、いきなり攻撃をしてこないあたり話は通じそうだ。
「っていうか、動かないぞ…?」
トウマの言うとおり、よく見てみると仰向けに倒れたままで、ぴくりとも動かない。
通信で呼びかけても返事はない。
「パイロットは死んだのかもしれないな。近づいてみよう」
クォヴレーはブライガーでゆっくりと用心深く近づいていく。
あの機体そのものの損傷は軽微のようだ。
ならばパイロットは何故反応しないのか。
余程打ち所が悪かったのか…実は生きていて不意打ちを狙っているのか。
肉眼で確認できる距離まで接近する。
するとコックピットのハッチが開いたままだ。
中に人は…いない。
「どうやら無人のようだな。…トウマ?」
「こいつは…」
トウマはその機体を知っていた。正確にはその系譜に連なる機体をだが。
それはかつて憧れたゼンガー・ゾンボルトが駆った機体。
トウマと共に戦うことはなかったが、守るべきもののために望まぬ戦いにあえて身を投じた少女の機体。
そのプロトタイプたる存在――超闘士グルンガスト。
297 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/04(日) 13:11:58 ID:4HttvVnF
【反逆の牙組・共通思考】
○剣鉄也、木原マサキ、ディス・アストラナガン、ラミア・ラヴレスを特に警戒
○ガイキングの持つ力(DG細胞)が空間操作と関係があると推測
○ディス・アストラナガンがガイキングの力(DG細胞)と同種のものと推測
○剣鉄也らの背後の力(デビルガンダム)が空間操作装置と関係があると推測
○空間操作装置の存在を認識。D−3、E−7の地下に設置されていると推測
○C−4、C−7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測
○アルテリオン、スカーレットモビルのパイロットが首輪の解析を試みていることを認識
 ただしパイロットの詳細については不明
○木原マサキの本性を認識
○ラミア・ラヴレスがジョーカーであることを認識
○再合流の予定時間は翌朝5時、場所はE−1橋付近

【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:やや精神的に疲労、リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:G-5
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動指針:ヒイロと合流、主催者打倒の為の仲間を探す
 第三行動方針:なんとか記憶を取り戻したい(ディス・アストラナガンとの接触)
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
 備考2:ブライカノン使用不可
 備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと16〜17時間前後
 備考4:ブライスター及びブライガーは最高マッハ25で飛行可能。
     ただしマッハ5以上で首輪に警告メッセージ。30秒後に爆発。スピードを落とせば元に戻ります】


【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:やや精神的に疲労、怪我は手当て済み
 機体状況:良好
 現在位置:G-5
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動指針:ヒイロと合流、及び主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
 備考2:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる
 備考3:ワルキューレは現在ブライガーに搭載されている】

【イキマ 搭乗機体:ギャリィウィル(戦闘メカ ザブングル)
 パイロット状況:戦闘でのダメージあり、応急手当済み。リョウトの憎悪に対し危惧。
 機体状況:良好
 現在位置:G-5
 第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているアルテリオン・スカーレットモビルのパイロットと接触
 第二行動方針:司馬遷次郎と和解し、己の心に決着をつける
 第三行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
 最終行動方針:仲間と共に主催者を打倒する】

【二日目22:30】

グルンガストをどうするかについては次の方にお任せします。
298徒然なるままに ◆S5LK8pzfGw :2007/02/04(日) 21:17:30 ID:7eweeLqE
夜は更けていた。
明かりが無い場所で一人の男は悩んでいた。
結果・・・彼はG6基地へと向かう事に決めた。
待機よりも進行を選んだ方が良いと判断したのだ。
自分の機体、グランゾンをノソリと動かす。
慎重に行動するという方針を立てたのでまっすぐ行けばいいというわけにはいかなかった。
今いる場所はE2である。
渦に入らずあの後G6に動いた方が良かったかもしれないと彼は思った。
周囲を警戒しながらゆっくりと進む。
グランゾン自体機体は大きめだ。
動きは素早くないから的になる。
それ故慎重に行動しなければならない。
地下通路から出た後、彼は状況を再確認した。
レーダーに敵は映ってはいない。
熱源も無い。
ゆっくりと機体をF2に進ませようとした直後、それは起こった。
突然足元に衝撃が発生したのだ。
機体に衝撃が走り、彼は痛みに耐えた。
罠か。それとも待ち伏せされていたのか。
「誰だッ!?」
無線で周囲に呼びかける。
「そこの人・・・今私を踏みそうになったわよ。あなたはゲームに乗っているの?」
少女の声がした。
マシュマーは下を見た。
そこにはグランゾンの踵の傍に横たわるR1の姿があった。
「おっとこれは失敬、お嬢ちゃん。」
「失敬では済まさないわ。」
R1がをグランゾンをロックする。
その様子に戦慄を覚えたシロッコは先に蹴りを仕掛けた。
バーニアをフル噴射してそれを避けた少女は牽制の為にバルカンを連射した。
エースパイロットでしか出来ない精密射撃によってグランゾンの足は少し後ろに下がった。
「中々元気の様だね。これならどうかな?」
シロッコは傍で動かなくなっていたアーバレストを掴むと軽く握った。
アーバレストの機体が軋む音がした。
「人質ねぇ。その前にアナタがゲームに乗っているかどうかを教えなさい。」
299徒然なるままに ◆S5LK8pzfGw :2007/02/04(日) 21:18:01 ID:7eweeLqE
「実に偉そうな態度だねぇ。そんな態度を取ったらこの機体は・・・」
シロッコは掴んでいたアーバレストを今度はぶら下げた。
更に頭を掴んでいたのを今度は腕を指で摘んでいる。
「汚いわね・・・・。」
そういいながら少女はアーバレストの腕に標準を定めた。
(T−LINKシステム・・・エネルギーをバルカンに装填・・・)
ズダダダという音とともに銃弾が発射されそれらは全てアーバレストの腕に命中し、機体は落下した。
「この機体は無人なのか?それとも?」
少女は答えなかった。
T−LINKシステムの作動は彼女の体に負担を掛けていたのだ。
今の彼女ではリュウセイと一緒に行動しても足手まといになるだけだ。
休憩すればその心配は無いのだが今目の前に仕掛けてきた相手がいる。
「あなたはこのゲームに乗っている・・・のね。」
「いや・・・私はこのゲームを終わらせたいのだ。首輪を解析してね。」
シロッコの言葉は彼女には届かなかった。
現に少女はシロッコに先程踏まれそうになったのだ。
もう少し目覚めるのが遅かったら・・・。
「私を踏もうとしておいてそれ?冗談も休み休み言いなさい!」
本当の事を言ったのにそれが相手に信じてもらえない場合もある。
それがシロッコにとっての悲劇だった。
「冗談も何も・・・それに君の機体が小さい方が悪いのでは無いかね?ん?」
「小さい・・・?」
それは少女にとって禁句だった。
「ああ小さいじゃないか。グランゾンが大人だとしたら君の機体は子供の様だ。」
「うるさぁぁぁい!」
少女がTリンクシステムを最大限に稼動させた。
300徒然なるままに ◆S5LK8pzfGw :2007/02/04(日) 21:18:32 ID:7eweeLqE
ウィィィィィンという音とともに機体の出力がどんどん上がっていく。
そして・・・臨界直前まで高まったエネルギーがその拳に宿された。
「むう・・・これは危険だ。不本意だがブラックホールクラスター!」
グランゾンの胸部にどんどんENが溜まっていく。
(マーダー達に感づかれる可能性があるな・・・・最低出力で行くか。)
少女に恐怖は無かった。
ただ自分の胸が小さいと言われた(と思い込んだ)事による怒りがあった。
「Tリンクナックルー!」
R−1がグランゾンの胸部に飛び込んでいく。
(・・・そのエネルギーを今のグランゾンにぶつけるのか?この状況でッ!?)
「発射ー!」
「しねぇ!」
閃光。
そして亀裂。
R1のTリンクナックルがグランゾンの胸部にめり込み・・・行き場を無くしたエネルギーは・・・グランゾンの内部で発散された。
「ぐおおお!」
R1,グランゾン両者とも吹き飛ばされた。
意識が遠のく中、少女は思った。
(リュウセイ・・・)
シロッコも同様に意識が遠のいていた。
「意外だった。あんな作戦に出るとは・・・グフッ。」
そして、そんな激闘があったにも関わらずリュウセイは未だに眠り続けていた。

【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:ARX-7アーバレスト(フルメタル・パニック)
 パイロット状態:全身に激しい痛み、左腕を骨折、気絶中
 機体状態:全身に損傷、ENほぼ空 右腕破損※エルマもオーバーヒートで、倒れています
 現在位置:E-2 】

【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
 パイロット状況:気絶
 機体状況:G−リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし) 
      ENゼロ。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
      コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)  T-LINKシステム起動中
 現在位置:E-2
 第一行動方針:???
 備考:精神的に非常に不安定】


【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:気絶
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
      胸部に亀裂  縮退砲使用不可
 現在位置:E-2
 第1行動方針:2人が起きるのを待つ。利用できない場合排除も考える
 第2行動方針:G-6基地への移動
 第3行動方針:首輪の解析及び解除
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 備考:首輪を二つ所持、リュウセイとチーフの話を全て聞いていたため、かなりのことを知っています】
301銀河旋風速度制限 修正願 ◆uiAEn7XS/. :2007/02/05(月) 01:33:02 ID:/YKt0RMy
>>297

時間の項を

二日目22:30から>二日目23:00に修正します。

まとめの人、ご面倒をおかけします。
302徒然なるままに ◆S5LK8pzfGw :2007/02/05(月) 07:18:09 ID:T51Gld/J
時間の項を

二日目 22:45分に修正します
303それも名無しだ:2007/02/08(木) 13:39:19 ID:Yza39VQX
>>298-300は無効です。
304それも名無しだ
保守