1 :
投稿は暖かく迎え入れよう:
【原則】
乗り換えのルールはこれが鉄板です、変更は出来ません。(詳しくは初代議論感想スレを参照の事)
前の人の話やフラグを無視して続きを書くのは止めましょう。
また、現在位置と時間、状況と方針は忘れないで下さい。
投下前に見直しする事を怠らないで下さい、家に帰るまでが遠足です。
投下後のフォローも忘れないようにしましょう。
全体の話を把握してから投下して下さい。
【ルール】
基本的に初期の機体で戦うことになりますが以下は特例として乗り換え可能です。
・機体の持ち主を殺害後、その機体を使う場合
・機体の持ち主が既に別の機体に乗り換えていた場合
・機体の持ち主が既に殺害されていて、機体の損傷が運用に支障無しの場合
弾薬は放送と同時に補給されます、また乗り捨てたor破壊された機体は次の放送時に消滅します。
【備考】
議論感想雑談は専用スレでして下さい。
作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
おやつは三百円までです、バナナは含まれません。
スパロボでしか知らない人も居るので場合によっては説明書きを添えて下さい。
水筒の中身は自由です、がクスハ汁は勘弁してつかぁさい。
これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。
初めての方はノリで投下して下さい、結果は後から付いてくる物です。
作品の保存はマメにしておきましょう、イデはいつ発動するかわかりません。
前スレ
スパロボキャラバトルロワイアル3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1135854981/ 感想、議論はこちらで。
スパロボキャラバトルロワイアル感想・議論スレ4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1137631439
2 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/10(月) 14:03:11 ID:220R8x2/
乙
乙も私だ
6 :
蠢-ugomeki-:2006/04/11(火) 14:21:34 ID:XYXtYSsR
【時刻:二日目:12時48分】
(まただ…また何者かがワシの気配をうかがっておる……)
そう感じ取った東方不敗は立ち止まり辺りを見回した、しかし誰もいない。
C−4の森にさしかかろうかという所に、その男はいた。
リオとわかれた後、再びこのおろかな戦いを終わらせえるため、他の参加者を探していたのだ。
だが、しかし――
(何者だ…この妙な感覚…普通の人間の物とはなにか違う…)
なにか、不思議な気配が自分に向けられていることに気がついたのだ。
と、同時に自分の体になにか違和感を感じ取っていた。
何かが――
そう、気配をうかがっている相手に対して反応しているかのようだ――
「やつめ、ワシの体に何かしよったな…」
そう呟き、この戦いの黒幕、ユーゼスの顔を思い浮かべる。
当初から体の異変にはうすうす気がついていた。
病に蝕まれていたはずの体が、なんともなくなっていたかったからだ。
ユーゼスが自分に何かを施したであろう事は明白だ。
(ワシの体を治すことでこのゲームをより盛り上げようとしたのか?……
いや…それだけではあるまい……何か…別の何かがあるはず……)
そう思いながら再び体内に違和感を感じとる、それは西に向かえば向かうほど強まっていくようだ。
(ぬぅぅ…この感覚、何かがワシの意識を飲み込もうとしているのか?……)
自分の意識を少しずつ削り取っていく何かを感じる。
通常の人間ならもう自我を失っているかもしれない。
だが――
「このワシを!東方不敗をなめるでないわぁぁぁぁ!!」
そう誰に言うでもなく一喝し、体の異変を押し黙らせる。
そして――
東方不敗は自分の気配を探っている誰かへと――
西へと向かっていった。
7 :
蠢-ugomeki-:2006/04/11(火) 14:23:06 ID:XYXtYSsR
【時刻:二日目:12時52分】
(まさかアルジャーノンの発症を抑えようものがいようとは……)
眼前のモニターに映し出された零影を前にユーゼスはそう呟いた。
そう、東方不敗の体を治療した際この奇病を感染させていたのだ。
目的はベターマンによる戦闘データ、オルトスのデータを集めるためである。
そのデータを得るために最初に色々手を加え、人知を超えた力を持つ物を対戦相手に選んでいたのだ。
即ち、この東方不敗やマジンカイザーのことである。
実際ベターマンはその魔神との戦いで有益なデータをもたらせてくれていた。
だが、しかし――
最もベターマンの力を引き出してくれるであろう、その男は――
なんと言うことか!!アルジャーノンを発症するどころか押さえ込んだのである。
(ベターマンではなくこの男の生体機構を調べるべきだったか?……)
そんな気すらしてくる。
「まぁ、よい……感染させたのはこの男だけではないのだからな……
今はまだ発症していないようだが……そのうち変化が現れるであろう……」
そういって別のモニターが映し出された。
(それに――)
そう、発症していないとはいえ、ベターマン・ラミアはこの男から何かを感じ取っているようだ。
戦闘になる可能性もまだ充分にある。
また、リンカージェルと同じく実自体も所々に配置してある、たとえ戦闘が回避されたとしても
オルトスのデータが得られるのは時間の問題だろう。
データを得てしまえば無理をすることはない、障壁を越えられはしないだろうが、
ベターマンの最終目的は我の撲滅ではないのだ。
なんなら元の世界に送り返してやってもいい。
「くくっ……」
思わず笑みがこぼれる、だがユーゼスはその計画の僅かなほころびに気がついていなかった。
ベターマンが打倒される可能性に――
そして――
首輪を解析しうる者の存在を――
空間を打ち破る者の存在を――
彼らと共にベターマンが向かってくる可能性を――
8 :
蠢-ugomeki-:2006/04/11(火) 14:24:18 ID:XYXtYSsR
【時刻:二日目:12時58分】
それは今森の中に潜んでいた――
さっきから何かを探っているようだ――
何度も何度も――
それが自分の倒すべき相手であるかを確認するかのように――
しばらくして――
それは意を決したかのように――
静かに――
東へと向かっていった――
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:良好
機体状況:良好(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
現在位置:C−4(森の手前)
第一行動方針:自分の気配を窺っているものの捜索・確認
第二行動方針:ゲームに乗った者とウルベを倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:無し
パイロット状況:良好
機体状況:無し
現在位置:B−4(森の中)
第一行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
第二行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
第三行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
保守
「……これを、押せばいいのか」
あの戦いから数時間。
私ことヴィンデル・マウザーは、新しい機体マジンカイザーになれることも兼ねて、付近の捜索を行った。
その結果が目の前のボタン、補給ポイントだ。
「どうも怪しいな。こんなもので、この機を直せるのか……」
『ヤッテミルサ』『パンチダ、ロボ!』
……うるさい奴らだ。
先ほどから喚きたれるハロ達に押され、ボタンを押すと、
大量の小さなロボットが四角い箱から打ち出され、マジンカイザーにまとわり付いた。
「すごい技術だ……。みるみるうちに傷が治っていく」
『コノギジュツガアレバ、ジオンハアトジュウネンタタカエル!』
「わけのわからんことを……。まぁいい。この機会に、だ。改めて今後の方針を決めたい」
ハロの不当な支配から脱し、新しい機体の修理もできた。
『マズハ、サイシュウモクヒョウダナ』
最終目標、か。
これは既に決まっている。
「どんな形にせよ、ゲームからの脱出が最優先……。
いや、主催者の技術を奪取したい。どう思う?」
『イクラオレタチトアニキデモ、アイツハ、カナリノキョウテキダ』
「お前達もそう思うか」
そうなのだ。
いかにこのマジンカイザーとラスボスである私の力とついでにハロを以ってしてもあの主催者と1対1でやりあうのは、リスクが大きすぎる。
かつて自分の起こした政府に対する反乱を例にとってもそれはわかる。
あれにもかなりの仲間が居た。
アクセルにレモン、そしてあの人形ども。数多くの兵士達。
それでも結局クーデターは失敗したのだ。
勢力としては小さいが、主催者は道の技術を多量に保有している。力は全くの未知数で予断は許されない。
「……他の参加者との連携が、嫌でも必要だな」
『アニキ、コンカイハメズラシクサエテル!』
「黙れ」
本来、私は肉体派ではなく頭脳派なのだ。
『デモ、アニキハアヤシイカラナ』『アクニヅラダナ』『ウサンクサイ!』
「……兄貴だとか言っておきながらその言い草は無かろう」
事実が混ざっていることは否定しないが。
『デ、モクヒョウハ』
「主催者を打倒するだけの強い仲間の確保、だな。
弱い奴を打ち損じて悪評を振りまかれても困る。
基本は他の参加者と接触し、情報の収集。及び友好的で強力な力を持つ参加者との接触ということにしておこう。
私に攻撃を仕掛けるようであれば……容赦はせん。徹底的に叩く」
あるかどうか不明確な戦艦を当てにするのも非効率的だ。
アクセルやラミアを引き込めればそれに越したことはないのだが、アクセルは記憶喪失、W17は行方知れずで、雲行きが良くない。
もはや、かつての仲間にこだわっている場合ではなかろう。
とにかく、仲間を増やすことが優先される。
そして、ゆくゆくは主催者を倒し、その技術を奪い、元の世界に返り――
「私は、新世界の王になる!」
『エンゴハ、マカセロ!』『ドスコォォーイ!』『ヤレッテイウナラヤッテヤルサ!』
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:ジャスティス→マジンカイザーwithハロ軍団
パイロット状況:パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)
頭部裂傷(大した事はない)、精神面は絶好調、ハロと友情(?)が芽生えた
機体状況:良好
現在位置:C−3
第一行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
第二行動方針:戦闘はなるべく避けるが、相手から向かってくる場合は容赦しない
最終行動方針:主催者を打倒し、その技術を手にする
備考:コクピットのハロの数は一桁になり、ヴィンデルが優位になった】
【時刻:14:30頃】
>>10 10行目、「みるみるうちに傷が治っていく」を「みるみるゲージが回復していく」に変更。
最後の行「道の技術」を「未知の技術」に訂正。
>>11 五行目『アクニヅラダナ』を『アクニンヅラダナ』に訂正。
します。
指摘していただいた方々に感謝します。
「…12時、か」
平原を歩むアーバレストの中で、セレーナ・レシタールは唸るように呟いた。
タイマーが指し示す時刻は12:00。この悪趣味なゲームが始まって、24時間が経過した。
そしてそれは、あの仮面の主催者と交わしたチーム・ジェルバを壊滅させた仇の情報と引き換えに、
24時間内に三人の参加者の命を奪うという取引のタイムアップだ。
機体を操作する手を止め、セレーナは深く息を吐きながらその身体をシートへ預ける。
「セレーナさん…」
傍らを浮遊するエルマの声に反応することも無く、自らの顔を覆うように手を当て、瞳を閉じる。
間に合わなかった。
あの主催者が、本当に仇の情報を知っているのかはわからない。だけど、ずっと追い続けて漸く掴んだ手掛かりだったのだ。
その手掛かりもまた、掴みかけたこの手から零れ落ちてしまった。
―――だというのに。
僅かに感じる、この安堵は何なのだろう?
数時間前―――仕留めたはずの機体が、未だに活動を続けていたと解った時の事を思い返す。
既にロストしていたディス・アストラナガンの追跡を早々に諦め、セレーナはそれまであの機体と交戦していたと思われる、廃墟に消えた機体の元へ向かった。
そこで彼女が見たのは、白銀の機体と、小さなバイク―――アルテリオンを与えられたロイ・フォッカーと、
大破したダイアナンAから辛くも脱出し、そのコクピットでもあるスカーレットモビルへと乗機を変えた、司馬遷次郎の二人だった。
ECSを作動させた上で、通信が傍受できるギリギリの範囲から二人の会話を聞く。
会話の内容から解ったことは、彼らはゲームに乗っておらず、むしろ、あの主催者を倒すために首輪の解析を進めているということ。
どうやら、既にある程度の解析は済んでいるらしい。これからG-6の基地で設備を探し、更なる解析を行うつもりのようだ。
「首輪を解析か…。僕達じゃ無理でしたけど、確かにもっとちゃんとした設備があれば、可能かもしれませんね」
会話を傍受しながら、エルマが呟く。
このゲームが始まってすぐ、エルマとアルに首輪の解析をさせたことがあった。
結果は失敗。半ば予想していたことだが、抑止力たるこの首輪は、そう簡単にどうこうできるものではないようだ。
「セレーナさん、あの人達と一緒に行動しましょう。もし首輪を解析できれば、あんな奴の言う事なんか聞く必要もなくなります!」
振り返るエルマに、セレーナは言葉を返さなかった。
操縦桿を握る右腕に左手を添えて、ただじっと、モニターに小さく映る二つの機影を見詰めている。
「…セレーナさん?」
「…エルマ。行くわよ」
心配そうに顔を覗き込むエルマにそれだけ返し、セレーナはアーバレストを発進させた。
「え、セレーナさん!?ちょっと…!」
「忘れないで、エルマ。私の目的は、チーム・ジェルバの仇を討つこと。…それだけよ」
「でも…。いえ、はい…解りました…」
有無を言わせぬ強い口調でエルマを諭し、その場を離れる。
幸い、アルは何も言わずに従ってくれた。
前に言った、私の矜持を理解してくれたのか、それとも、理解できていないからこそ何も言わなかったのかは解らない。
ともかく、一刻も早くこの場を離れたかった。
その後、苦肉の策としてECSを解除した上で、敢えて見晴らしの良い平原を進んでいたが、
結局、他の参加者に遭遇することもなく残酷に時間は過ぎていき、こうしてタイムアップを迎えた次第だ。
エルマは、ロストした悪魔のような機体と交戦し生き延びた二人の無事を喜び、協力しようといった。
だけど、あの時の私が考えていたことは、その反対。
白銀の機体とバイクの主は、ECSを使用していたこちらの存在に気付いていなかった。
あのような小型のバイクが、高い戦闘力を有しているとは思えない。
不意をついて白銀の機体を撃破すれば、残るバイクを仕留めるのは難しいことではないはずだ。
そうすれば、目的の三人を達成できる。捜し求めていた、仇の情報を手に入れることが出来る。
思わずアーバレストを二機の元へ駆けさせようとする手を必死に押し留め、
心に浮かんだその思いを断ち切るように、私はアーバレストをその場から離脱させた。
その思いは、タイムアップを迎えた今も、私の心に巣食っている。
あの時は、まだ多少とはいえ時間的余裕があった。
だが、もしタイムリミット目前にあの二人と遭遇していたら。
私は、引き金を引かずにいられたのだろうか―――。
「…残念だったな。セレーナ・レシタール」
不意に、自分の胸元から声がした。首に巻かれたあの忌々しい首輪を介しての、ユーゼスからの通信だ。
苛立ちを隠そうともせずに舌打ちをし、セレーナは首輪へ指を這わせる。
「…時間に正確ね。意外に勤勉なのかしら?こっちの用事はまだ終わってないから、もうしばらくのんびりしてていいわよ」
胸元に視線を向けながら、精一杯の皮肉を口にするが、無自覚に未練がましい物になってしまったことに更なる苛立ちが沸く。
自身に向けられた皮肉を意にも介さず、ユーゼスはクク、と耳障りな笑い声を挟んで続けた。
「いや全く惜しいところだった。約束の三人まであと一人だったというのにな」
「―――あと一人?私は一人しか…」
咄嗟に言い返そうとして、セレーナは思い出した。
参加者全員が集められた部屋でこの主催者の語った、このゲームのルール。その中の、機体の乗り換えに関するルールを。
機体の持ち主が既に殺害されていて、機体の損傷が運用に支障無しの場合、元の機体へ戻ることを禁止する代わり、機体の乗り換えを可能とする。
「おや。優秀なサポート役に囲まれて、単純な計算の仕方も忘れてしまったのかね?君は二人の参加者をその手にかけたではないか。
私の取引に応じて、チームジェルバの仇の情報を手に入れるためにな」
嘲るようなユーゼスの口調に、セレーナは顔を歪めて歯を噛み締めた。
昨夜、あの機体と交戦したとき、私は確かにそのパイロットを殺していたのだ。
その後、私が放置した悪魔のような機体を見つけた他の参加者が、いかなる手段を用いたかは解らないがその損傷を修復し、機体を乗り換えた。
それが、一度撃墜したはずの相手が再び活動していたという謎の正体。
「君は良く頑張ってくれたよ。幾人かは一般人も混じっているが、参加者の多くは歴戦の勇士と称えられた者達だ。
その中にあっては三人どころか、一人殺すことが出来るかどうかだと思っていたというのに、君は二名を殺害した。
実に素晴らしい戦果だ、ゲームの進行に一役買ってくれたことに、心からの礼を述べよう」
「…あんたなんかに、礼を言われたくないわ」
ついて出たのは、なんの捻りも無い、真っ直ぐな敵意。
首輪に触れている指に自然と力がこもる。叶うならば、今すぐ引きちぎってやりたいとさえ思う。
こいつは、知っていたのだ。
知っていて、私が焦燥に駆られ、あわやゲームに乗っていない参加者を襲いそうになるのを、手を叩いて眺めていたに違いない。
「これは手厳しい。まぁ、約束は約束だ。果たせなかった以上、チーム・ジェルバの仇を教えるわけにはいかんな」
変わらぬおどけた口調で、仮面の男は更に彼女の神経を逆なでする。
「では、さらばだ。引き続き、快適な殺し合いを楽しんでくれたまえ」
怒りに震え、無言で歯を食い縛っていたセレーナに構うことなく、ユーゼスはそう言って一方的に通信を断った。
直後に、彼女は握り締めた拳に行き場の無くなった怒りを込めて振り下ろす。
派手な音を立て計器にぶつかった拳に痛みが走った。皮膚に爪が食い込んでいくのを自覚する。
それでも込めた力を緩めることはせず、セレーナはその体制のまま俯き続けていた。
「…セレーナさん」
舞い降りた沈黙の中、やがていたたまれなくなったのか、エルマがセレーナに呼びかける。
答えは無い。
だが、顔を上げたセレーナの瞳に、確かな意志が宿っているのをエルマは見た。
「―――エルマ、アル」
その眼差しと同じく、セレーナは意志の篭った声で傍らに浮かぶ相棒と、自らの命を預ける機体に組み込まれた、新たな相棒の名を呼ぶ。
「このゲームを、潰すわ」
「セレーナさん…!」
あの主催者が、本当に仇の情報を知っているのかはわからない。
だけど、ずっと追い続けて、それでも何も掴めなくて。
そして、ようやく辿り着いた手掛かりなのだ。
諦めることなんか、出来るものか。
何があっても、どんなことをしても。
必ず、この手に掴んでみせる―――!
「あいつとの取引がおじゃんになった以上、仇の情報を手に入れるには、直接あいつを問い詰めるしかない。
その為にこのゲームをぶち壊して、なんとしてももう一度あいつに会うわよ」
「わかりました!行こう、アル!」
<ラージャ>
傍らの相棒の嬉しそうな声と、新たな相棒の変わらぬ機会音声がコクピットに響く。
その二つの返事を確かめると、セレーナは操縦桿を握りなおした。
恐らく、この会話も盗聴されていることだろう。
だが、構うものか。これ以上、あのいけ好かない仮面野郎のいいように使われるのは願い下げだ。
待っていなさい、ユーゼス・ゴッツォ。
あんたの好きにはさせない。このゲームをぶち壊し、必ず仇の情報を聞き出してみせる。
見渡す限りの平原の中、復讐者の駆るアーバレストは、その目的を新たに地を蹴って走り出した。
「…クク」
上空から悠然と参加者達を見下ろすヘルモーズのブリッジで、モニターを見つめたままユーゼスは低い笑い声を上げた。
モニターには、たった今まで通信をしていたセレーナの操るアーバレストが大地を駆ける姿が映されている。
「素晴らしい、実に素晴らしい。セレーナ・レシタール、君はどこまでも私を楽しませてくれる」
雄々しく疾駆するその姿を見つめながら、仮面の下に隠された口元を歪め、そう呟いて席を立つ。
「ついてこい、W17。お前を降下させる」
隣に座すラミアへ視線をくべる事もなく命じ、ユーゼスはモニターに背を向けて扉へと歩き出した。
「…私が降下するのは、次の放送の後だったのでは?」
肩越しにユーゼスの背を見遣り、ラミアが問いかける。
「そのつもりだったのだがね、気が変わった。頑張ってくれた彼女へのささやかなご褒美だよ。次の放送まではまだ六時間、
その間に彼女が命を失う可能性もある。彼女の求める仇であるお前と、少しでも接触する可能性を高めてやろうではないか。それに…」
「…それに?」
歩みを止め、ユーゼスが振り返る。
「折角、私を守ってくれるというのだ。多少の便宜ははかってあげるべきだろう?」
心底楽しくて堪らないといった口調で、ユーゼスは言った。
だが、その言葉を向けられた当のラミアに、その意味を理解することは出来なかった。
たった今自らに反旗を翻した相手を捕まえて、危害を加えてくるならばまだしも、守るとは一体どういうことなのか。
「それは…一体、どういう?」
いくら考えても、その答えは出ない。
僅かに首を捻るようにして、ラミアは自らの主にその真意を尋ねた。
「彼女は、私から仇の情報を聞きだそうとしている。裏を返せば、情報を聞きだす前に私に死なれるのは困るのだ。
これから彼女はこのゲームを壊すための行動に移るだろうが、それはイコール私の殺害ではない。
むしろ、私の生命を脅かすような脅威が発生すれば、率先して排除してくれるだろう。―――本人に、そのつもりがなくともな」
言い終えて、ユーゼスは肩を震わせる。
ゲームを壊す為に動きながらも、その主催者たる自分を殺すことは出来ない。
そんな無情な現実の中で彼女の奏でる痛烈な調べに想いを馳せ、ユーゼスは堪えきれない笑みを漏らした。
例え反旗を翻そうと、結局は、自分の掌で踊るだけ。
むしろ、この仮面の主催者にとってはそれさえも愉悦の一つでしかないのだ。
「質問は以上かね?では行くぞ」
ひとしきり肩を震わせて笑った後、ユーゼスはそう言って返事も聞かずに踵を返した。
それに付き従い、ラミアもまた席を立ちユーゼスを追う。
二人が扉から出て行き、無人となった室内に見る者のなくなったモニターが移動を再開したアーバレストを映し続ける。
段々と遠ざかっていく足音が、仮面の主催者の掌で踊り続ける哀れな復讐者を嘲るかのように響いていた。
しばしの時間を経て、二人はヘルモーズ内の格納庫を訪れていた。
格納庫とは言っても、参加者達に機体を支給した格納庫ではなく、その規模はかなり小さい。
大小様々とはいえ、60を越える数の機動兵器を並べていたあの格納庫と比べ、
こちらの格納庫は小型の機体であれば精々5、6機、大型の機体ならば2機もあれば目一杯になってしまうだろう。
それに加え、そこかしこに様々な機材や設備が配置されており、それが更なるスペースを奪っている。
恐らくは、格納庫というよりなんらかの実験施設として利用していたのだろう。
部屋の壁際に中ほどの高さで設けられた通路から、ラミアは部屋の奥へ目を向ける。
そこには、一機の巨人―――否、巨神が佇んでいた。
穢れを知らぬ純白にその身を彩り、まるで翼のようにも見えるパーツで顔を翳るその姿は、天使を模した神像のようだ。
このように無粋な格納庫でなければ、それは一つの完成された彫刻のような美しささえ感じさせたことだろう。
「ユーゼス様、これは…?」
「かつて無数に広がる世界の一つを、その歌声で人々が描く理想へと導いた、神の卵より生まれし雛鳥だ」
傍らのラミアから投げ掛けられた疑問に、巨神を見上げたままユーゼスは答えた。
ついで、その視線を降ろすとかぶりを振って言葉を続ける。
「尤も、ここにあるのはレプリカだがな。私の頭脳をもってしても、真似られたのは器のみ。やはり奏者なくしては調律など不可能ということか…」
ユーゼスの語る言葉が、段々と自らの知らぬ単語を交えた専門的な話に摩り替わっていくことにラミアは眉を顰めた。
だが、当のユーゼスはそのようなことに気付くこともなく、しばし独り言のように専門的な用語を交えた言葉を発すると、不意にラミアへと向き直る。
「とは言え、機動兵器として高い性能を持つことに変わりは無い。参加者も既に半数近くが消えた。
これからはゲームの進行も停滞するだろう。W17、これをお前に与える。これを使い、円滑にゲームを進行させろ」
「了解いたしましたわ、ユーゼス様。それで、降下後の行動は?」
恭しく頭を垂れ、ラミアはその後の指示を仰ぐ。
「任せる。お前の判断で動くがいい」
その姿を確かめ、ユーゼスは踵を返した。そして背を向けたまま、僅かに肩越しにラミアを見やる。
「私が何を求めているか―――解っているな?」
「勿論でございますですわ」
即座に返ってきたラミアの言葉に、ユーゼスは満足そうに頷いた。
「ならば良い。期待しているぞ、W17」
「お任せくださいませ、ユーゼス様」
歩み去るユーゼスの姿を見送り、ラミアは改めて部屋の奥へと視線を向けた。
目を細め、そこに悠然と佇む巨神―――自らに与えられた、新たな機体を観察する。
ああは言ったものの、正直な話、自らの主が何を思ってこのようなゲームを開催したのかは彼女自身にもわからない。
わかっているのは、主が参加者達の織り成す、悲痛な想いに酔いしれていることだけだ。
そして、主は言った。ゲームを円滑に進行させろ、と。
それが今の私に課せられた唯一つの使命であり、そして同時に唯一つの存在理由。
そこに、主の思惑などは存在しない。
主が何を思っていようと、この身はただ無心のその命をこなすのみ。
不意に、神像から一条の光が放たれた。
自らに飛来するその光をラミアは臆することなく―――むしろ、迎え入れるかのように両腕を広げ受け入れる。
私が自ら手を下すのは簡単だ。だが、それでは主の言う、彼らの想いが奏でる狂想曲には至らない。
主が求めている物。それは、彼らが主の手の上で足掻き、這いずり、虚空へと伸ばした手に絶望だけを握り締めて朽ちていく、死という名の旋律だ。
ならば、私は役割は彼らの奏でる旋律を主が求める方向へと紡ぎ導くことだけ。
―――だが、その前に一つやらねばならないことがある。
光が自分を包んだと思った次の瞬間、彼女は神像の中にいた。
一面に水面が広がり、その中から突き出すようにして存在する、
あたかも自らの操者を両の手のひらで捧げ持つかのような形状の座席へと降り立つ。
自らの中に、膨大な情報が流れ込んでくるのをラミアは感じた。
この機体の名。武装。そして、操縦の方法。
まるで乾いた砂地が、零れた水を吸うかの如く、頭の中に直接叩きつけられる、
やもすれば情報の暴力とも取れるその全てを、彼女は飲み干し、刻み付ける。
それまで静寂のみが支配していた格納庫に、ごぅん、と重い音が響いた。
続く機械の駆動音とともに、格納庫の天井が展開していく。
顔を覆っていた翼が開き、神像がゆっくりとその身を浮かび上がらせた。
それは、まさに幼い雛鳥が自らを戒める殻を破り、その翼を自由にはためかせるかのように。
「さぁ…歌いなさい、ラーゼフォン。お前の歌を…禁じられた、その歌を―――!」
天へと開くように展開した天井から、神の像はその姿を大空へ羽ばたかせた。
荒廃した廃墟の中を、ゆっくりと慎重に進みながら、ガルド・ゴア・ボーマンはその落ち着いた表情とは裏腹に焦燥に駆られていた。
ガイキングとの戦闘の後、残りエネルギーの乏しくなっていた乗機の為に補給を済ませるべく、彼は廃墟を徘徊していた。
入り組んだ廃墟の地形に辟易しながらも補給ポイントを発見し、補給を済ませた後、
ゲーム開始時から探し続けているイサムの姿を求めて廃墟の捜索を続けている。
明け方に入った主催者からの放送。
その放送で語られた死亡者の中に、彼の探すイサム・ダイソンの名は無かった。
だが、放送が流されて既に六時間が過ぎた。
この狂った殺戮の舞台において、人が一人死ぬのには十分すぎる時間だ。
考えるほどに押し殺しきれなかった焦りが頭をもたげ、ガルドは一人コクピットで奥歯をかみ締める。
―――いっそ、空から捜索するべきだろうか。
脳裏を掠めた考えを、すぐさま首を振って否定する。
危険過ぎる。
確かに捜索の効率は上がるだろうが、これほど遮蔽物―――身を潜めることの出来る場所に溢れた所で、無防備に機体を曝け出すわけにはいかない。
先程の機体がまだ周辺に潜んでいる可能性もある。
既にこの機体は装甲をパージして、戦力も機動力も落ちているのだ。もう一度戦ったとして、逃げ切れる保障など何処にもありはしない。
それに、別れたままのプレシア達も気掛かりだ。
海中から救出されたチーフも気絶していたようだし、機体もあの損傷では戦闘は厳しいだろう。
プレシア自身も、機体こそ強力ではあるが本人が争いを嫌っている。
そして、あの木原マサキと言う少年。
プレシアの意思を重んじて同行を許したものの、果たして信用に値する人物なのか。
既に別れてしまった今の自分に、それを確かめる術は無い。
出来ることは、彼女達の無事を祈ることだけだ。
なんとしてもイサムと―――そして、プレシアを生還させるのが、自分に課せられた役目。
そう。その為に、自らの身に破滅が訪れようとも、成し遂げねばならない使命なのだ。
だからこそ、この身はまだこんなところで死ぬわけにはいかない。
たとえどれだけ手間を食おうと、今は安全を最優先に考えなければならないのだ。
半ば自らに言い聞かせるように、ガルドはその考えを反芻する。
だが―――。
(ええい、くそ…ッ!)
―――募る焦りは、彼の心に重く降り積もっていくばかりだった。
そして、彼が逸る気持ちを抑えられずに心持ち機体の速度を上げた、その瞬間。
「…なんだ!?」
エステバリスの前方に突如として光が集まり、そして、その光の中から全身を鈍い色に染め上げた無骨な機体が現れた。
突然ガルドの眼前に出現した機体は、まるで戸惑うように辺りを見回して、急停止したエステバリスに気付くと、その不自然に巨大な両の腕を上げ身構える。
「く…!」
それをみたガルドは、足に装着されたローラーを逆回転させ、素早く謎の機体と距離をとる。
余計な時間を食っている暇はない。このまま離脱しよう。そう考えて、機体を加速させる。
だが、次の瞬間ガルドの耳に飛び込んで来たのは、思いがけない言葉だった。
「待て!俺は無益な戦いをするつもりは無い。それよりも、ここの座標を教えて欲しい。情報を交換しないか?」
見れば、鉛色の機体は両腕を下ろして構えを解き、こちらへとその機械の眼を向けていた。
出現したときの様子から判断すれば、あの機体の主はここが何処であるか、わかっていない様子だった。
構えを取ったのは、咄嗟の警戒心からだったのだろうか。
判断はつかない。
そういった素振りを見せることで、こちらの油断を誘っている可能性も、充分にある。だが、情報が欲しいのはこちらも同じだ。
ガルドはエステバリスを停止させると、緊張を解かぬまま、通信に応じるべく通信機のスイッチを入れた。
「悪いが、イサムという名にも、プレシアという名にも心当たりはない」
「…そうか」
モニターに写る赤い機体の主は、俺の言葉にそれだけ言って、沈黙した。
そして改めて、鉛色の機体を操る男―――イングラム・プリスケンは自らの身に何が起こったのかを振り返る。
ユーゼスによる二回目の放送が流れた後、彼は僅かな休息をはさんで、再びクォヴレー達と出会う直前まで探索をしていた地下通路の探索を再開していた。
そして、その奥で彼が見つけたのは、蒼い粒子の舞う渦のようなものだった。
いぶかしんだイングラムがメガデウスの腕をその渦に触れさせた瞬間、彼は機体ごとその渦に引きずり込まれ、
気が付いたときには暗く狭い地下ではなく、瓦礫の散乱するこの廃墟へと放り出されていた。
直後に出会ったこの赤い機体に乗る男の言葉によれば、ここは地図でいうE-1に当たる区画らしい。
地図を広げて確認すると、四方を湖に囲まれた島のようだ。
まさかいきなりこんな場所に飛ばされるとは予想だにしていなかったが、この偶然はむしろ有難い。
自らに支給されたメガデウスは、重装甲と高火力を有する強力な機体ではあるが、その機密性は低く、飛行も出来ない。
その為、湖に隔てられたこの島を探索することは半ば諦めていたが、偶然に助けられたとはいえ、どうにか湖を越えることが出来た。
二回目の放送が流されてなお禁止エリアに指定されないこの地域に捜し求める空間操作装置がある可能性は高くは無いが、同時に0ではない。
島から脱出するときのことを考えれば頭は痛いが、その事を悔やんだとて始まらない。せめて、空間操作装置の手がかりでも見つけられれば良いのだが。
「…情報を交換するのではなかったのか?そちらに聞きたい事がないのなら、俺はもう行かせてもらうぞ」
イングラムがそこまで考えたところで、赤い機体から通信が入った。
「いや、待ってくれ。こちらも探している人物がいる。クォヴレー・ゴードンという、車を支給された参加者だ。心当たりは無いか?」
去ろうとする赤い機体を腕を上げて制し、昨夜遭遇した知らぬはずの、だが、既知感を覚える名を告げる。
「…クォヴレー?」
「知っているのか?」
その名を鸚鵡返しに呟き、赤い機体が動きを止めた。
僅かな期待を込めて、イングラムが続きを促す。
だが、赤い機体からの返答はない。
「どうした?心当たりがあるのなら、話してくれ」
「…聞き覚えは、ある。だが、どこで聞いたのか…それが思い出せん」
口元に手をやり、ガルドは言葉を選んで慎重に答えを返した。
クォヴレー。
その名前を、ガルドは知っていた。
脳裏に、マサキと遭遇したとき、彼が言った言葉が蘇る。
(信用させるようなことを言ってきて、信頼して降りたら機体を奪うために襲われたんだ!
クォヴレーとトウマ、それにイングラムとかいう三人組だった!)
その三人に襲われ、彼が連れていた美久という少女は負傷したと言っていた。
この男の言葉を信じるなら、クォヴレーという男が支給された機体は車らしい。
たしかに、そのような機体と呼ぶのもおこがましい物を支給されれば、他の人間の機体を奪おうと考えてもおかしくは無い。
そんな相手を探しているということは、この男、あの時マサキの言った三人組の一人だろうか。
モニターに映る鉛色の機体は、無言のままじっとこちらを見据えていた。
「…すまん。あと少しで思い出せそうではあるんだが…ええと?」
答えを保留させたまま、ガルドはそういってわざと言葉を濁してみせた。
「…イングラム・プリスケンだ」
僅かな間を挟み、男はマサキの言った三人組の一人と同じ名を名乗る。
やはり。
それを聞き、ガルドは唾を飲み込み、いつでも機体を動かせるよう警戒を強める。
見たところ、相手の機体は機動性が高いようには思えない。隙を突いて離脱すれば、撒くのはそう難しいことではないはずだ。
それに、こいつから引き出すべき情報はもう引き出した。こんな所でグズグズしている暇はない。
「俺は、ガルド・ゴア・ボーマンだ。すまないが、ちょっと思い出せそうにない」
「…そうか」
俺の言葉に、通信機から短い返事が返ってくる。あまり落胆した様子は見受けられなかった。
「それはそうとして…ちょっと、いいか?」
「なんだ」
タイミングをはかって、そう切り出す。変わらぬ短い返事を確かめて、言葉を続けた。
「俺は、このゲームを止めて、あの主催者を倒すために動いている」
勿論そんな事は出鱈目だ。あんな主催者の事など知った事ではない。
だが、マサキが言うにはこの男はこちらを信用させるようなことを言って、油断した所を襲ってきたらしい。
ならば、それを逆手にとってこちらから友好的な態度を見せて、逆に油断を誘おう。
「あんたも、ゲームに乗っていないんなら、俺たちと一緒に―――」
「やめておけ。そうやって反抗を企てても、奴には届かない」
だが、そうやって隙を伺おうとしていたガルドの言葉を遮り、イングラムは予想だにしなかった言葉を吐く。
「…なに?」
「無駄だと言ったんだ。自分から命を捨てるような真似はよせ」
思いがけない言葉を受けて眉を顰めたガルドに、イングラムは更に言葉を募らせた。
…どういうことだ。
口元に手を添えて、ガルドは目の前の相手の真意を読み取ろうとする。
向こうからすれば、この提案は渡りに船のはずだ。
了承こそすれ、断るどころかまるでこちらを突き放すような言い方をされるとは思ってもみなかった。
この男はゲームに乗っていて、それで他の参加者の機体を奪おうとしているのではなかったのか。
「…ならば、どうしろと言うんだ。奴は言った。最後の一人になるまで、殺し合いを続けてもらうと。その最後の一人を目指し、自分以外の全てを殺して回れとでも?」
頭の中で様々な推測を巡らせても、答えは出ない。氷解しない疑問を抱えたまま、その真意を探り出すべく問いかけた。
「そうは言っていない。ただ、奴に叛旗を翻すな、と言っている。何度も言うが、奴を倒そうなど考えない事だ。
余計な事はしようとしないで、何処か安全な場所を見つけて隠れていろ」
僅かな間さえ挟むことなく、イングラムは言い切った。
わからない。
この男は、一体何を目的に動いているのか。
彼の言い分は、まるで負け犬のそれだ。
自分から何をするでもなく、ただ与えられた状況を享受し、抗う事も、足掻く事もしないでただ危険が去るのを待つだけ。
そんな物は、既に死んでいるのと同じだ。動いているか、そうでないかの違いでしかない。
…だというのに、言葉の端々に浮かぶ、この男の覇気は何なのか。
この男の眼が見据えているものは、一体何なのか。
「…では、ゲームに乗った殺戮者の影に怯え、あの戦艦を見上げながらただ逃げ惑えと?」
「そうだ。無用な犠牲は必要ない。俺が奴を倒して、このゲームを止める」
「…何だと?」
思わず聞き返したガルドに、イングラムは静かに応えた。
内に秘める怒りと闘志。そして、二度と曲がること無い確かな覚悟を宿して。
「奴は、俺が殺す。それが、俺の役目だ」
メガデウスが右手を胸の前で堅く握り、その傷ついた眼がまっすぐにエステバリスを射抜く。
けして変化することの無いその白い眼に、曇りの無い確かな決意が宿っているのをガルドは見た。
「…たった一人で、か?」
「人数など関係無い。この世界に奴がいて、そして、俺がいる。ならば俺の選ぶ道は一つだ」
その言葉に、迷いは無い。
握り締めた拳の力強さに、ガルドはこの男にもまた、その命を掛けてでも譲れない想いがあるのだという事を知る。
この男は、諦めていたのではなかった。それどころか、立ち向かっていたのだ。
誰に頼ることもなく、誰に知られることもなく。ただ一人で。
彼の選んだ道は、その終わりまで果てなく遠く、前に進むことさえ困難な茨の道だ。
だが、たとえその棘に我が身を切り裂かれようと、それでもこの男は敢えてその道を歩むのだろう。
脇目も振らず、ただ前だけを見据えて。
そうして流れる血こそが、この男にとっての涙なのだ。
(―――あぁ、そうか)
そして、ガルドは気付く。
その姿が、自らの良く知っているものと似ている事に。
イングラムの背負う覚悟を知り、ガルドはゆっくりと瞳を閉じた。
そうして、二人の間に沈黙が降りる。
「…木原マサキという少年を知っているな?頭部にキャノピーで遮られたコクピットを持つ、青い機体に乗っている少年だ」
やがてその沈黙を破り、瞳を開いたガルドが先程遭遇した―――目の前の男に襲われたという、少年の名を告げる。
「…あいつか。名は知らんが、その青い機体とは、昨夜に他の参加者を襲おうとしているのを止めるために交戦した」
やはり、そうか。
マサキの言い分と大きく食い違う目の前の男の言葉に、ガルドは目を細める。
あの少年と、目の前の男。つまりは、どちらかが嘘をついているのだ。
そのどちらを信じるべきか。今のガルドに、迷う余地はなかった。
「気をつけた方が良い。奴は、あんたの悪評を振りまいている。
そのクォヴレーとかいう男と、もう一人トウマという人物と共に、あんたに襲われて機体を奪われそうになったといっていた」
「…成る程。奴のやりそうな事だ。クォヴレーの名に反応したのも、奴から聞かされていたからか」
ガルドの口から紡がれたあの少年の行動に、イングラムは忌々しそうに吐き捨てた。
既に降ろしていたメガデウスの拳が、再び音を立てて握り締められる。
「しかし…何故、俺にその事を?」
だが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、イングラムがガルドにそう問いかけてきた。
変わらずこちらを見詰めるメガデウスの眼に視線を返しながら、唇を僅かに歪めてガルドは答える。
「あんたが、そんな器用な立ち回りを出来る人間とは思えん」
通信機越しに、イングラムの戸惑う様子が伝わってきた。
流石に、こんな理由は予想していなかったのだろう。
真偽を判断する根拠としては、心許ないどころの騒ぎではない。殆どカンといっているようなものだ。
俺とて、同じ状況でこんな事を言われれば戸惑うに決まっている。
だが、俺にとって、それは信ずるに値する理由だ。
口の端に浮かべた笑みを強め、ガルドは呟く。
「―――俺も、同じだからな」
そうだ。この男は、俺に似ているのだ。
親友に借りを返すため、我が身すらも犠牲にしようとする自分と、
たった一人、誰の助けを必要とせずただ自分だけが傷つく道を歩む、この男。
俺とこの男の掲げる想いに、果たしてどれだけの違いがあるというのだろうか。
「…随分な言い草だ」
やがて、目の前の機体から呟きが発せられる。
「事実だろう。人からよく不器用だと言われないか?俺は、よく言われる」
昔、イサムからお前は不器用だとよくからかわれた。
あの時は否定していたが、今の自分を省みれば頷かざるを得ない。
「…そうだな。そうかもしれん」
しばしの間をおいて、男もそれを肯定した。
かすかな笑みを含んで紡がれたその言葉に、ガルドの唇もまた綻ぶ。
再び舞い降りた沈黙の中、二人は、互いの背負う物の重さを確かめ合う。
「悪いが、野暮用が出来た。俺はもう行かせてもらう」
そして、再び沈黙を破ったのはやはりガルドだった。
それだけ言って、エステバリスを反転させる。
あのマサキという少年が、ゲームに乗っているのはこれではっきりした。
だとすれば―――プレシアが危ない。
俺の言った事に従っているのならば、彼女達はA−1の市街地に向かったはず。
だが、彼女達と別れてから、既に数時間。
間に合うのか。
自身を支配しかけたその思いを、すぐさまガルドは首を振って打ち消した。
間に合うかどうか、じゃない。必ず、間に合わせてみせる。
「待て」
そうして振り返ったガルドを、イングラムが呼び止めた。
首を巡らせ、エステバリスが振り返る。
「そのマサキという少年の乗る機体だが、もしも、それが青い光を纏う事があれば気をつけろ。
見た目からは大した火力を持つように見えないが、あの光を纏った時の奴は危険だ。
機動性が数段跳ね上がり、そのまま体当たりを仕掛けてくる。この腕も、それにやられた」
そう言って、メガデウスの左腕をかざしてみせる。
重層な装甲が無残に抉られたその傷跡を、ガルドは無言のまま見詰めた。
俺の成そうとしていることを、察してくれたのか。
同じようにこちらを見詰めるこの男の不器用な心遣いに、ガルドは心の中で静かに礼を言う。
「解った、覚えておく。イングラム・プリスケン、だったな。また会おう」
「…あぁ」
そうして、二人は背を向ける。
例えその瞳に映るものが違っても、自分達の進む道がいつか交わることを信じながら、二人はそれぞれの道へと足を踏み出した。
イングラムとガルドが別れた頃。セレーナは、E-2にある湖のほとりにいた。
ゲームの破壊を目的と定めた彼女が先ずしようとした事は、仲間を集める事。
いきなりこんな殺し合いに巻き込まれて、素直に言う事を聞く人間がそう多いとは思えない。
この会場の何処かに、自分と同じ目的を持つ人間がいるはずだ。
仇の情報を手に入れるために人を殺す覚悟を決めていたセレーナに対して、
人を救う覚悟を自らの身で持って証明した、リュウセイのように。
そして、そのリュウセイを守るため、振り返る事もせずただ一人で茨の道を往くことを決めたイングラムのように。
まだ彼らの名前は放送で呼ばれていない。
つまり、彼らは今もこの会場の何処かで、同じ目的の為にそれぞれが違う道を歩んでいるはずだ。
その二人との合流。
セレーナは、それを目標の一つと定めた。
そして、もう一つ。主催者への反抗を企てる上で、避ける事の出来ない問題がある。
首に巻かれた、首輪の存在。
あの主催者の気分一つで爆発するこの首輪を装着している限り、反抗など夢のまた夢。
この首輪を解析、解除しない限り、例え何をしたとしてもそれはユーゼスの手の内だ。
だが、こちらに関しても彼女に心当たりがあった。
今朝遭遇した、白銀の機体とバイクの二人組。
彼らが首輪の解析を推し進めている事は、会話を傍受して知っている。
長い時間を共にいたわけではないが、あの二人は信用できると考えていいだろう。
向こうは、彼女が会話を傍受していたことを知らない。そんな状況で、わざわざゲームに乗っていない演技をする必要などないからだ。
会話の中で、彼らは解析を進めるために、G-6の基地へ向かうと言っていた。
彼らと合流し協力体制を敷くためにも、彼らを追って基地へ行こう。
そうして当面の目標を決めたセレーナは、基地への道中でリュウセイとイングラム、
若しくは、まだ見ぬ彼ら以外の主催者打倒を掲げる参加者を求めて、人の集まるであろうE-1の廃墟へと向かうことにした。
地図の上では正反対だが、昨日、イングラム達と遭遇してからラウ・ル・クルーゼ操るディス・アストラナガンと交戦するまで、
彼女は一度あの光の壁を通過している。
地図と地図の端同士を繋ぐあの光の壁を通り抜ければ、さほど遠回りというわけでもない。
相手の向かう場所はわかっているのだ、それに、ついてすぐに解析が完了してしまうわけでもない。
多少の寄り道ならば、問題ないだろう。
「戻ってきたわね…。私たちが、降下した場所に」
湖の向こうに霞む廃墟を眺めて、セレーナが呟く。
「今のところ、周辺に機体の反応はありませんね。あの廃墟に誰かいるのなら、もう少し近づけば補足できると思います」
「OK。それじゃ行きましょうか。策敵だけは続けておいてね」
周辺の策敵をしていたエルマの報告に、セレーナはそう言って湖を沿うように再びアーバレストを発進させようとする。
彼女は湖を迂回し、陸地と小島の距離が近い、D-1とD-2の境目にある突き出た地形から廃墟へと向かうつもりでいた。
ECSは、作動中機体に水に触れると、電磁スパークが発生して使い物にならなくなる。
それに、この機体は水中での活動を前提に作られたわけでもない。出来る限り無用な危険は避けるべきという判断だ。
「あ…!?待ってください!六時方向に、機影を確認しました!」
<かなりのスピードです。真っ直ぐこちらに向かってきます>
そうして足を踏み出した瞬間、エルマが一つの機影を捉えたことを伝え、アルも続けて情報を補足する。
すぐさま、セレーナはアーバレストを振り返らせた。
彼方の空に、白く輝く小さな機影が見える。エルマとアルが捕捉した機体だ。
距離が遠く、大まかなシルエットしかわからないが、その機体は頭部についた羽のようなものを羽ばたかせる度に加速し、凄まじいスピードで接近してくる。
アルに映像を拡大させ、その姿を確かめる。モニターに、その身を純白に彩られた、天使を思わせるような機体が映し出された。
その翼がはためくたび、どういう理屈かわからないが、辺りに羽根が舞い散る様子さえ確認できる。
出来の悪い冗談だ。その姿をみて、セレーナはそう思った。
天使を彷彿とさせるその姿は、余りにもこの殺し合いの場に似つかわしくない。
それとも、あの天使は今までこのゲームの中で散った、多くの参加者の魂を迎えにでも来たというのだろうか。
だとすれば、そんな物は天使などではない。
それは天使の顔をした死神―――ジョーカーだ。
ふとそんな取り止めの無い思考に陥りかけた頭を切り替えて、セレーナはエルマとアルに指示を飛ばす。
「アル、ECSを切って。話し合いをするわ。エルマ、通信、開いて」
「ラジャ!」
セレーナの言葉に続いて、ECSを解除したアーバレストがその姿を現した。
もしもの時の為にすぐ動けるようにしながら、接近してくる機体へ通信を試みる。
「そこの機体、聞こえる?私はセレーナ・レシタール。戦闘の意思は無いわ、話し合いに応じてもらえるかしら?」
通信機へ向けて、そう告げる。だが、相手の機体からの返事は無かった。
それどころか、速度を落とす気配すら見られない。
「聞こえなかった?もう一度言うわ。こちらに戦闘の意思は無い。話し合いをしたいの。機体を止めて、話を聞いてくれない?」
どんどん近づいてくる白い機体への警戒を強め、幾分高くなったトーンで再度呼びかける。
返答は、やはり無言。
その様子に小さく舌打ちをして、すぐに戦闘体制に移行できるよう、アーバレストの手を単分子カッターと散弾銃へと伸ばした。
そしてもう一度呼びかけるために口を開こうとして、通信機から漏れた微かな音を聞きとがめ、セレーナは即座に抜き放った散弾銃を構えさせる。
天使の顔をした死神―――ラーゼフォンは、もう目の前だった。
だが、その引き金を引くよりも早く、白い機体は全く速度を落とすことなく、掠めるようにしてアーバレストのすぐ上を通り過ぎて行く。
刹那の時間を置いて、余波がアーバレストを襲った。
咄嗟に腕で顔を庇うようにして、吹き付けられる風に耐える。
それが収まり、セレーナがアーバレストを振り返らせた頃には、白い機体は既に遥か後方へと遠ざかっていた。
「…行っちゃいましたね」
「………」
「…セレーナさん?どうかしたんですか?」
段々と遠ざかっていく白い機体の後ろ姿を険しい顔つきで見詰めるセレーナに気付き、エルマが呼びかける。
「…ううん、なんでもないわ。行きましょう」
そう言っていつものように笑みを浮かべると、セレーナは改めてアーバレストを発進させた。
だが、その視線はモニターの隅に映る白い機体を捕らえて離さない。
やがて死神を乗せた天使が、遠くに霞む廃墟へと消えていくのを見届ける。
それでもなお、セレーナの視線が白い機体の降りていった廃墟から外れる事は無かった。
―――あいつ、笑っていた。
あの時、彼女が通信機から聞いたのは、微かな笑い声。
それも、まるで嘲るような、嫌悪感を抱かせる声だった。
あの機体に乗っているのは、一体どんな人物なのだろうか。
そして、確かに聞いた微かな嘲笑は、一体なんのつもりだったのだろうか。
考えたとて、答えは出るはずも無い。
ただ―――。
(あの機体のパイロット―――どうにも、好きになれそうに無いわね)
―――何故だか漠然と、セレーナの中をそんな予感だけが支配していた。
ガルドと別れて、イングラムが空間操作装置を見つけ出すべく辺りの捜索を開始してしばらく。
機体の反応を捉えた事を知らせるレーダーの音に、イングラムは機体を操作する手を止めた。
凄まじい速度でこちらへと接近する機影が一つ。
レーダーに映るその反応を確かめて、イングラムはその機体が接近してくる方角へと向き直った。
やがてビルとビルの隙間の空に、頭部に翼をはやした、神像のような機体が姿を見せる。
向こうも、こちらに気付いているようだ。
ある程度の距離を置いて止まり、じっとこちらを見下ろしてくる。
戦闘を仕掛けてくる様子が無い事を確認して、イングラムは通信機のスイッチを入れた。
「こちらに戦闘の意思はない。それよりも、情報を交換したい。通信を―――!?」
だが、通信を試みたイングラムへの返答は、突如としてその手から発せられた光の塊だった。
「く…!?」
咄嗟に機体を屈ませると同時、操縦桿のスイッチを押し込んで、肘のシリンダー、ストライク・パイルを跳ね上げる。
メガデウスの拳が地面に接した瞬間、たった今跳ね上げたそれを大地に叩きつけ、その反動を利用してメガデウスは後方へと飛び退った。
すぐ目の前を掠めて地面に着弾した光の塊の眩しさにイングラムは眼前に手をかざし、その向こう側に悠然と浮遊する、白い天使を睨み付ける。
「いい反応だ。流石はユーゼス様のコピー、といったところか」
勢いそのままに後方にあった肩ほどの高さの廃ビルへと突っ込み、朽ちたコンクリートを薙ぎ倒していくメガデウスの姿を見下ろしながら、
天使を駆る死神―――ラミア・ラブレスは、ゆっくりとラーゼフォンを降下させる。
私の任務は、このゲームを進行させる事。
それは、このように直接的な行動で成すものではない。
与えられたこの機体で、参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、この殺し合いを主の望む形へと盛り上げる事が私の任務。
だが、それもゲームが正常に進行していればの話。
もし、ユーゼス様の空間操作のからくりに最初に気付くとすれば、恐らくユーゼス様のコピーたるこの男だろう。
あるいは、既に薄々感付いている可能性もある。
彼という存在は、ただそれだけでこのゲームをシナリオ通り進める上で邪魔となるのだ。
尤も、その芽は未だ小さくか細い。彼女の主であれば、それさえも愉悦の一つとして敢えて見逃すことだろう。
だが、いかな小さく脆いしこりとは言え、イレギュラーはイレギュラー。
これ以上、彼を自由にさせておくわけにはいかない。
「…貴様」
身に纏う瓦礫に構いもせずにビルから歩み出たメガデウスから、低く歪んだ声が聞こえた。
「初めまして、イングラム・プリスケン。私はラミア・ラブレス。ユーゼス様に作られた、あの方の剣でございます」
その様子にくすり、と笑みを漏らし、ラミアは芝居がかった口調で自己紹介をする。
拳を握り、こちらを見上げるメガデウスへと向けて、ラミアはラーゼフォンの両手をかざした。
「では―――さようなら」
言い終えると同時、その両手に光が集まっていき、次の瞬間、それは無数の弾丸となってメガデウスを襲う。
「…ちぃッ!」
右腕でメガデウスの身体を庇うようにしながら、イングラムは左方にあった一際大きなビルへと向けて腰部のモビーディック・アンカーを射出した。
壁面にアンカーが突き刺さったのを確認すると、すぐさまメガデウスは地を蹴って左へと飛ぶ。
高速で撒き戻されるアンカーの力に逆らうことなく、その鋼の腕で迫る光の弾丸を弾きながら、メガデウスの体が左へと流れる。
流れ行く景色の中、イングラムの視線は、それでも宙に佇む神像を見据えていた。
奴の事だ。
このように、自分の息のかかった者を用意しているとは思っていた。
ゲームも二日目を迎えた今になって、何故急に襲ってきたのかはわからないが、
目の前の相手がユーゼスの手駒だというのなら、倒すことに躊躇いはない。
空中でアンカーを切り離し、轟音を立てて巨体が大地へと落下した。
慣性のままに地面を削りながら、メガデウスの両腕が打ち鳴らされる。
間髪いれずメガデウスの頭部クリスタルから放たれた熱線は、不安定な体制から発射されてなお正確にラーゼフォンへと突き進んだ。
その一撃を、ラーゼフォンは翼を羽ばたかせ、くるりと一回転してかわしてみせる。
流れるような動きで機体を水平にし、ラーゼフォンはメガデウス目掛けて再び翼をはためかせ加速した。
羽ばたくたびに羽根が舞い、熱線の後を追うように飛来する無数のミサイルを、その巨体に掠らせもせずにラーゼフォンはメガデウスに肉薄する。
アーク・ラインによる牽制を続けながら、メガデウスの左肘が跳ね上がる。
直前で上昇したラーゼフォンが、メガデウスの頭上から放った蹴りを右腕で受け止め、イングラムは弓を引くように左の操縦桿を引いた。
その動きをトレースし、メガデウスもまた握り締めた拳を限界まで引く。
「食らえ…ッ!」
狙うは胴体。眼前に晒されるそれを見据え、イングラムは叩きつけるように操縦桿を押し出した。
だが、裂帛の気合と共に放たれたその拳は、突如として目の前から消え失せたラーゼフォンを穿つことなく、虚しく宙だけを打ち抜く。
(―――後ろ!?)
拳の当たる直前、ラーゼフォンは再びその翼を羽ばたかせ、自らの蹴りを受け止めたメガデウスの右腕を支点に、瞬時にその背後へと回っていた。
ふわり、と。
撫でるようにメガデウスの背に添えられたラーゼフォンの掌に、光が集まっていく。
「やらせるか…!」
呟いて歯を食いしばり、イングラムは虚空を穿ったその拳を敢えて振り抜いた。
そうすることでうまれる上半身の捻りを利用して、背後のラーゼフォンへと右肘を叩きつけるようとする。
だが、届かない。
優しく触れるようだった掌に力が篭り、それを包む光が輝きを増していく。
そして、光が放たれんとした、その刹那。
突如として身体を襲った衝撃に、ラーゼフォンはその身をくの時に捻らせた。
メガデウスの背から離れた手に集まった光が、ストライク・パイルを押し上げたメガデウスの右腕を掠めて廃墟に消える。
「これで…」
僅かに届かなかった距離をストライク・パイルを押し上げる事で埋め、イングラムはメガデウスの左足を引き、ちょうど振りかぶる体制となった右腕を伴って、捻られたその身体を引き戻す。
体制の崩れたラーゼフォンに、その拳を回避する手段は無い。
「…終わりだ!!」
限界までの遠心力を乗せた鉄拳が、ラーゼフォンに突き刺さる。咄嗟に腕を割り込ませたようだが、そんなものでこの拳は止まらない。
受け止めた腕諸共に、メガデウスの腕がラーゼフォンの胴体へと叩きつけられると同時、せりあがったストライク・パイルが、轟音と共に打ち込まれた。
機体を貫く衝撃に、打ち込まれた拳から尾を引く煙を靡かせてラーゼフォンは廃墟を飛び越えるようにして放物線を描き、1ブロックほど離れた廃墟の中へと突っ込んでいく。
もうもうと土煙が舞い上がり、辺りを飲み込んでいった。
その立ち込める煙の向こう。ラーゼフォンの突っ込んだ崩れた建物を、イングラムは注視する。
奴はユーゼスの送り込んだ刺客だ。ならば、この程度で倒れる道理は無い。
だが、手応えはあった。
仕留めるまでは至らずとも、それなりの損傷を負わせる事は―――。
からり、と。
見据える廃墟の瓦礫が、音を立てた。
すぐさま、メガデウスが腕を交差する。崩れ落ちた建物の中から、先程と同じ無数の光の弾丸が飛び出した。
全身を打ち据える光の弾丸を堪え切り、メガデウスは交差させた腕をそのまま順に掲げ、次いでその拳を打ち鳴らす。
再び放たれる、頭部からの熱線。
吸い込まれるようにしてラーゼフォンの埋まる廃墟へ命中したそれは、爆発を伴った更なる破壊を引きおこす。
衝撃に天高く舞い上がった瓦礫が雨のように降り注ぐのを見詰めながら、メガデウスはゆっくりと打ち合わせた拳を降ろした。
再び舞い上がった廃墟を包んでいた煙が、一瞬にして吹き飛ばされる。
切り裂かれた煙の向こう、その翼で煙を晴らした、かすり傷一つなく佇む白き神像を視認し、イングラムは降ろした両腕を再び構えた。
その様子をラーゼフォンの中から見詰めながら、ラミアは素直に感嘆する。
強い。
出会い頭の一撃をかわした、地面に拳を叩きつけてのあの跳躍は、その本来の用途ではない。
それに、アンカーを撒き戻す事による高速移動や、背後に回った私を肘のシリンダーを用いて振りほどいた、あの機転。
このゲームが始まって、まだ一日と少し。たったそれだけの時間で、目の前の男は見事に与えられた機体を使いこなしているのだ。
ラーゼフォンの右腕に視線を向けると、赤い鱗状の光を纏っているのが見えた。ラミアの見詰める中、その光はゆっくりと消えていく。
この光の盾が無ければ、危なかった。
やはりこの男は危険だ。ここで倒さねば、必ずやこのゲームの障害となるだろう。
目前の無骨な機体、その中に座す、主のコピーたる人物の孕む危険性を改めて認識し、ラミアはラーゼフォンを飛翔させようとその翼をはためせようとして―――。
「何っ!?」
―――突如として両脇のビルの壁を貫いたアンカーの鎖に絡み取られ、その身を封じられた。
サドン・インパクトを放った後、イングラムは予めモビーディック・アンカーを射出していたのだ。
「チェック・メイトだ」
鎖の呪縛に囚われた天使へ向け、メガデウスの右腕を突きつけると、イングラムは再び操縦桿を引きその手を離す。
イングラムの手から離れた操縦桿が埋まるように引っ込み、回転すると、その裏に存在する新たな操縦桿がその姿を現した。
その新たな操縦桿を再度握り締め、イングラムは操縦桿を再び前に突き出して引き金を引く。
バシュウ、と四つのリング状の煙を吐き出し、メガデウスの右腕が展開した。
その内部に仕込まれたガトリングビームガンが回転をはじめ、耳を劈くような轟音と共に赤く輝く無数のビームが発射される。
だが、自らの命を奪うべく飛来するそのビームを見てなお、ラミアは薄い笑いをその唇に張り付かせていた。
放たれたビームが神の像に着弾しようとした瞬間、それは見えない何かに弾かれる。間髪いれずに次々と襲い掛かるビームもまた全て弾かれた。
「何だと!?」
通信機越しにイングラムの驚愕を聞き、ラミアは浮かべた笑みを強める。
音障壁。それは、波動をあやつり物質を共鳴させる能力を持つラーゼフォンの切り札の一つ。
「く…!」
腕からのビームを止めぬまま、メガデウスの下腹部が展開した。
鎖につながれたラーゼフォンに、こちらの攻撃を回避する手段はない。全ての火力を集中すれば、いかなバリアとて破れるはずだ。
イングラムはそう考え、無数のミサイルと、そしてその数を一つ減らした瞳からのビーム、アーク・ラインを発射する。
それでも、ラミアの浮かべる表情に変化は無かった。
「ふふ…」
飛来するビームやミサイルが音の壁に弾かれる様を見ながら、ラミアは僅かに声を漏らした。
確かに、このままではやがて音障壁も破られるだろう。それは事実だ。
だが、イングラムは一つ勘違いをしている。
この程度の鎖で、ラーゼフォンの全てを縛る事など、出来はしないのだ。
ビームの着弾した光や、ミサイルの爆風の中、ラーゼフォンの紅の瞳が、静かに黄色いそれへと変化する。
そして、何処からともなく聞こえるかすかな響きを、延々と攻撃を繰り出し続けるイングラムは耳にした。
攻めの手を緩めぬまま、イングラムは確かに聞こえたその音の正体を探して辺りを見回した。
そうしている間にも、その音は段々と大きく、その存在を主張し始める。
「…歌?」
それは、歌声だった。
このような場所に全く似つかわしくない、神秘的な響きを孕んだその声は、砲撃の雨に晒される、あの白い神像から発せられている。
一体、何を。
イングラムがいぶかしんだ、次の瞬間。その歌声は衝撃を伴って高らかに響きわたった。
「な―――」
なんだ、これは。
あの神像へと向かっていくビームが、ミサイルが。
その途中で、次々と弾け飛んでいく。
「ぐ…あああああああああああ!!」
そしてその衝撃は、イングラムの乗るメガデウスへと押し寄せた。
ぎしぎしと装甲が音を立てて軋み、頭頂部のクリスタルがひび割れ、砕け散る。
それに続き、コクピット部の装甲もまた砕け飛んだ。
やがて歌声が終わりを告げ、メガデウスはその重厚な体をゆっくりと下げ、崩れ落ちるように大地に膝をつく。
腕から発生させた光の剣で自らを戒める鎖を断ち切り、ラミアは大地にうずくまるメガデウスの姿をみて嘆息した。
相手の頑丈さは心得ているつもりだったが、まさかラーゼフォンの声を受けて、なお五体満足に存在し続けるとは思わなかった。
ユーゼス様も、何を思って奴にこのような機体を支給したのか。
まぁいい。
機体は無事でも、パイロットはまともに動く事さえ出来ないだろう。後はゆっくりと止めを刺すだけだ。
ラーゼフォンの左腕がゆっくりと持ち上げられる。
掲げられた腕から光が迸り、それは輝く弓を形作った。
逆の手から発生した光の矢を番え、引き絞る。それは、撃ち抜けぬ物はない、弓状の光。
「照準セット―――」
崩れ落ちた鉄の巨人へと狙いを定め、彼女はかつての乗機と同じ、その名を叫ぶ。
「―――イリュージョン・アロー!」
告げられた名と共に、光の矢が放たれた。
歪む視界の中、飛来する光の矢を睨み付け、イングラムは歯を食い縛る。
避けろ。
頭の中で、けたたましく警報が鳴り響く。
だが、体はぴくりとも動かない。
迫り来る光の矢が、ひどくゆっくりと見えた。
あれがこの身に突き刺されば、自分は死ぬ。それが解りながら、ただ歯を食い縛る事しか出来ない。
ふと感じた灼熱感に、動かぬ首に鞭打って自分の体を見下ろす。
腹部から、見慣れないものが生えていた。
違う、生えているのではない―――突き刺さっているのだ。先の声で砕けた、コクピットの装甲の欠片が。
それを認識した瞬間、焼け付くような痛みを覚える。
じわり、と。
赤黒い染みが、パイロットスーツに広がっていった。
これで、終わりだというのか。
流れ出る血を―――自らの命が失われていくのを目の当たりにし、頭の中をそんな思いが満たしていく。
だが、その思いは、後から沸いて出た激情に容易く塗りつぶされた。
ふざけるな。
俺はまだ、こんなところで死ぬわけにはいかない―――!!
「ぐ………ォォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
猛る咆哮と共に、鉄の巨人が立ち上がった。
振り上げた拳が、迫る光の矢を弾く。
拳を天に突き上げて、降り注ぐ日差しを傷ついたその身に受けながら、巨人は雄々しく屹立する。
死ねる、ものか。
例えこの身が滅びようとも、奴を―――ユーゼスを、この手で倒すまで、死ぬわけにはいかない。
だが、そんな思いとは裏腹に、彼の体を少しづつ、そして確実に死が蝕んでいく。
荒い呼吸を繰り返す内にこみ上げて来たものが、堪える間もなく喉を通り過ぎた。
激しい水音を立てて、コクピットの床に赤い水溜りが広がっていく。
致命傷だ。助からない。
自らの体の発する叫びを押さえ込み、全身を駆ける激痛を堪えながらペダルを押し込む。
その想いを受けて、鉄の巨人が足を踏み出した。
終わらせるわけにはいかない。
例えここで燃え尽きようとも。せめて、貴様に一矢報いるまでは―――。
不意に背中を襲った痛みに、イングラムは目を見開いた。
いつのまにか座席の後方から伸びたコードが、彼の背中に突き刺さっている。
そして、そのコードを通してメガデウスの隠された武装の存在が彼の中に流れ込んでいく。
大いなる王。ビッグ・オーの、最期の武器が。
応えてくれるのか、ビッグオー。俺の、想いに。
自身に流れ込む力を感じながら、イングラムは自らの乗機へと問いかけた。
無論、答えなど返ってくるはずがない。
だが、鉄の巨人の発する声無き想いを、彼は自らに接続されたコードを介して確かに感じたのだ。
―――ありがとう。
その想いを声には出さず、イングラムは操縦桿からゆっくりと手を離す。
イングラムの手から離れた操縦桿は、すぐさまレールの半ばから折り畳まれ、そして自らの主を囲むようにして新たなレールが展開する。
イングラムの前で一つとなったそれに、引き金のついた、一つのレバーが屹立していた。
そして、イングラムは顔を上げ、砕かれたコクピットから覗く景色の中に聳える、白き天使と―――その向こう側でほくそ笑む、自らの宿敵を睨み付ける。
ラーゼフォンに光の矢を放たせた体制のまま。
ラミアは、その光景に戦慄していた。
満身創痍の巨人が必殺を期して放った光の矢を弾き飛ばし、あろうことかその足を踏み出したのだ。
傷ついてなお闘志を宿す巨人の目を見据え、ラミアは奥歯をかみ締める。
―――つくづく、危うい。
どこまで計り知れないというのだ、この男は。
今、ここで叩き潰さねばならない。私の持てる、全ての力を持って。
自らの心に生まれたかすかな恐怖に後押しされるように、ラミアは新たな矢を生成し、素早く番える。
そして改めてメガデウスへ狙いをつけようとして、それは起こった。
「な…に?」
突きつけた矢の切っ先の向こうで、メガデウスは射出したアンカーを地面へと打ち込んだ。
次いで、メガデウスの両腕と肩が展開する。
そして、その胸に輝く金色のエンブレムから、巨大な砲身が出現した。
驚愕に震えるラミアの見ている前で、砲身の先端が回転をはじめ、荒れ狂う紫電がそれを包む。
「…ッ!イングラム・プリスケェェェン!!!」
全身を貫く戦慄のままに鉄の巨人を操る男の名を叫び、ラミアは再び光の矢を放つ。
だが、先程以上の鋭さを持って放たれたその一矢は、メガデウスの前に渦巻くエネルギーの奔流の前に容易く弾かれた。
「―――ッ!」
彼女の中にあった恐怖が加速する。
それに命じられるまま、すぐに放たれるであろう砲撃をかわすべく、ラミアはラーゼフォンを天高く飛翔させた。
だが、メガデウスに動きは無い。
上空へと退避するこちらを追う素振りもなく、巨人は微動だにせずにただ前だけを見据えている。
奴が狙っているのは、私ではない。
だとすれば、一体何を―――。
そうして行き着いた答えに、ラミアははっとしてラーゼフォンを振り返らせた。
その視線の先。
振り向いたラミアの瞳には、彼女の主―――ユーゼス・ゴッツォの乗る、ヘルモーズが映し出されていた。
遥か空の向こう。
悠然と浮遊するその戦艦だけを見据え、イングラムはその中に存在する仮面の主催者への敵意を滾らせる。
俺は、ここで死ぬ。
だが、それは終わりではない。始まりだ。
確かに、あの木原マサキとかいう奴のような、貴様の思惑通りにこのゲームに乗った輩も存在する。
だが、それでも。
このゲームに憤りを感じ、俺のように貴様を倒すために動いている人間も、確かに存在するのだ。
セレーナが。
ガルドが。
クォヴレーが。
出会うことも無かった、見知らぬ参加者達が。
そして―――。
そこでふと顔をあげ、イングラムは空を仰ぐ。
―――お前は今も、共にユーゼスを倒す仲間を求めて、この空の下を歩んでいるのか?
きっと、そうだろう。お前は、言って聞くような奴じゃない。
ゆっくりと息を吐き、イングラムは脳裏に浮かんだかつての部下の―――そして、かけがえの無い戦友の笑顔を振り返る。
思えば、何一つ教官らしいことはしてやれなかった。
お前の意思を重んじることなく、ただ自分の我侭を押し付けてしまった。
もし、お前と共に歩む道を選んでいたら。
もし、お前と方を支えあい、力を合わせて奴を倒す道を歩んでいたら。
お前は、俺を許してくれたのか?
お前を争いへと引きずり込んだ、この俺を迎え入れてくれたのか?
それは、今際に見る儚い夢。
俺のしようとしていることは、お前をまた争いの中へ巻き込む行為でしかない。
―――結局、またお前に全てを託す事になるな。
自らの描いた夢を断ち切るように、イングラムは顔を降ろすと、金色に輝く操縦桿を両手で握り締める。
「ビッグ・オー、ファイナルステージ―――」
これは、狼煙だ。
貴様の野望を阻む、反撃の狼煙。
この会場に残る参加者達よ。
焼き付けろ、これから起こる光景を。
立ち上がれ、まだ見ぬ勇者達。
そして、集え―――この光の下に!!
「―――デッド・エンド!!シュートォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
―――リュウセイ。
「…え?」
ジョシュアとの邂逅の後、休息をはさんでイングラムの捜索を再開していたリュウセイは、
不意に誰かに呼び止められた気がして、機体を操作する手を止めた。
思わず辺りを見回してみるが、視界には誰の姿も映らない。レーダーも沈黙を守ったままだ。
「…空耳、か?」
そんなことを呟きながらリュウセイはフェアリオンを振り返らせ、そして見た。
彼方の空を、一条の光が貫いていくのを。
猛る光は雲を切り裂き、このゲームの主催者―――ユーゼスの乗るヘルモーズへ向かい突き進み、
機体に触れる直前で、突如として空に浮かんだ波紋の中へ消えていった。
そして、遥か上空で展開された光景を見つめながら、彼は聞いた。
今、ここにいるはずの無い、捜し求める人物の声を。
―――後を、頼む。
そして―――。
―――すまなかった。
「…教、官?」
それは彼の念動力がなせる業か。それとも、彼に全てを託したイングラムの想いによるものか。
今の光の、その向こう側。彼は確かに、その言葉を耳にしたのだ。
「………教官ッ!」
そして彼は駆け出した。
あの光の下に、イングラムがいる。何故だか、彼はそれを確信した。
バーニアを限界までふかし、傷ついた機体に負荷をかけるとわかりながら、その速度をどんどんつり上げていく。
妖精の背から噴出す炎がまるで羽根のように広がり、舞い散る火の粉が煌く光となってその軌跡を描く。
そして妖精は、大空へと飛び立っていった。
同時刻。
イキマとの合流を果たし、廃墟の小島から離脱しようと移動していたジョシュア・ラドクリフもまた、その光景を目にしていた。
廃墟の中から、不意に放たれた一筋の光。
それが、あの主催者の乗る戦艦へ向かい、その直前で、歪む壁のような物に吸い込まれ消えていったのを。
あの光の下で何が起こったのか。それを知る術は彼には無い。だが、一つだけわかっていることがある。
誰かが、あの仮面の主催者へ反旗を翻したのだ。
だが、その一撃はあの仮面の男の乗る戦艦に届くことなく、虚しく消えていった。
―――続く砲撃は無い。
それはつまり、自らと同じ目的を掲げる誰かが、その命を散らした事の証明。
そして同時に、切り札と信じていたものが切り札足りえない事の証明だった。
無力感にかみ締めた唇から、血が滲む。
考えてみれば、当然だ。この機体は、あの主催者から支給されたもの。
奴は、その対抗策を持っていて然るべきだったのだ。その答えが、今の光を無効化したあのバリア。
モニターの中、あれほどの攻撃を受けてなお傷一つ受けることの無かったヘルモーズを睨み付ける。
あのバリアがある限り、この背に掲げる核もそこらの石ころと同じだ。
たとえ威力がどうであれ、当たらないという残酷な事実に変わりは無い。
その事実を、名も知らぬ誰かが命を賭して教えてくれたのだ。
しばしの時間、ジョシュアは目を閉じ祈りを捧げた。
後に続く者のため、道を照らす光となって散った、顔も名も知らぬ勇敢な一人の人間のために。
そして僅かな―――本当に僅かな時間だけの祈りを終え、ジョシュアは目を開く。
―――貴方の想いは、俺が継ぐ。せめて、安らかに眠ってください。
「…ジョシュア」
「あぁ…解ってる」
傍らのイキマの声に、ジョシュアは虚空を見詰めたまま言葉を返す。
悲しい事だけど、今は死を悼む時間すら惜しい。
たった今散った、尊い犠牲を無駄にしないためにも。
そしてこれ以上、このような悲しい犠牲者を増やさないためにも。
今はただ、前に進むしか道は無いのだ。
湖を越え、プレシアとチーフに再び合流するため地上を疾走するエステバリスの中で、ガルドはその異変に気付き機体を反転させた。
そして彼もまた、ヘルモーズへと襲い掛かり、そして虚しく消えた一条の光を目撃する。
ローラーでの後方への移動を止めぬまま、睨み付ける様に目を細めて、悠然と宙に聳える戦艦へと視線を注ぐ。
やがて無言のまま、彼は再び機体を反転させた。
目指すA-1の市街へ向けてエステバリスを加速させながら、ガルドはたった今目撃した光景を胸の内で反芻する。
―――あんたなのか、イングラム・プリスケン。
近隣にいた残る参加者達に、あの戦艦のバリアの存在を知らしめた一筋の光。
それが放たれたのは、紛れも無く自分が先程、イングラムと約束を交わしたあの廃墟だった。
自分が離れてから、果たして、あの場所で何があったのか。
僅かな時間ではあったが、言葉と―――そして、確かに互いの背負うものの重さを交わした、あの男は無事なのか。
瞳を閉じ、ゆっくりと息を吐く。
―――よそう。
彼の安否は気がかりだが、だからといって、俺に出来ることなど何もない。
考えたとてどうにもならぬ思考を打ち消し、彼は新たに突きつけられた問題へと思考を切り替える。
手の込んだことだ。その思いを口には出さず、心の中でガルドは吐き捨てた。
この首輪だけに飽き足らず、あのようなバリアまで用意しているとは。
おそらく、一度遭遇したあの光の壁と同じような原理なのだろう。
この機体に装備された、重力を操ることで空間を歪めるバリアとは、似て非なる原理だ。
空間操作。
信じ難いことではあるが、あの主催者はその術を持ち、自在に使うことが出来る。
奴にその力がある限り、このゲームから脱出することは困難だろう。
だが、それさえどうにかできれば。
あのバリアを、そしてあの光の壁を無効化させることが出来れば。
そうすれば、このゲームを脱出することも―――引いては、イサムをミュンの元へ生還させることも、出来るはずだ。
(恐らく、何処かに制御装置があるはずだ。それを見つけ出すしかないか)
ゲームが始まってからも、あの戦艦は移動を続けている。
それも、昨日イサムを探している時に目撃したときの位置関係からして、あの光の壁を使用していると考えていい。
このような出鱈目な事を仕出かす為の装置だ、余程精密な扱いが必要となるはず。
ならば、その装置自体が歪んだ空間に飛び込んで行くなどという不安定なことはすまい。
そして、あの抜け目の無い主催者のことだ。そんな重要な物を参加者達の手の届く場所に置くような事もしないだろう。
恐らくは、禁止エリア。
既にいくつか設定された禁止エリアのどこかに、それは存在しているはず。
とすれば―――。
(…首輪を、どうにかする必要があるな)
前を見据えたまま、ガルドは首元に手をやって首輪の感触を確認する。
それは、図らずも彼が先程遭遇したイングラムの推測と、寸分違わぬ物だった。
新たに加わった目的を成す為にすべき事を確認し、ガルドは意識をモニターへ向けた。
彼方に揺れる地平線の、その更に先。
プレシア達がいるはずの市街地を見据えて、彼は機体を走らせる。
行こう。
俺には、やらねばならない事がある。
他の事に構っている時間は、どこにもない。
「セレーナさん…あれは…」
傍らに浮かぶエルマが、モニターを見詰めて呆然と呟いた。
モニターには、先程の翼持つ機体が消えていった廃墟から突如として主催者の乗る巨大な戦艦へ向かって光の柱が迸り、
そして、ヘルモーズを貫くことなく、その直前で見えない何かに阻まれて朽ちていく映像が映されている。
セレーナ・レシタール。
彼女もまた、その光景を目撃した一人だった。
「アル。あれが何か、わかる?」
光が消え、未だ辺りに波紋の残滓が残るヘルモーズを注視しながら、アルへと尋ねる。
<空間の歪みを検知しました。恐らくは、空間自体を歪めて、別次元へと攻撃を受け流すバリアと思われます>
「そう。…突破する方法は、わからない?」
<現時点では情報が不足しています。効果的な方法は不明>
「…わかったわ。ありがと」
その会話の間に、波紋の残滓も消えていた。
まるで何事も無かったかのように大空に存在するヘルモーズの様子に、セレーナは歯噛みする。
全く、厄介な事だ。首輪の解析に加え、もう一つどうにかしなければならない問題が出来てしまった。
あのバリアを打ち破らない限り、奴を追い詰める事は出来ないだろう。
つまり、あのバリアをどうにかしない限り、奴から仇の情報を聞きだすことは出来ないということ。
あの戦艦の中で、恐らく奴は今、無駄な反抗に及んだ、あの光を放った参加者を嘲笑っているのだろう。
容易く浮かぶその情景に嫌悪を催し、セレーナはヘルモーズから視線を外す。
ともかく、まずは自分達が降下したあの廃墟へ向かおう。
あのバリアが示すように、相手の力は強大と言わざるを得ない。自分達だけで出来る事は限られている。
このゲームをぶち壊すには、他の参加者の力が必要だ。
まずはあの小島で、ゲームに乗っていない参加者を探す。今の光を見て、状況を確認しに来る者もいるかもしれない。
そうしてセレーナは湖の向こうに霞む廃墟に視線を向け、次いで、今の彼女が知る数少ない信頼できる二人の人物を想い、瞳を閉じた。。
リュウセイとイングラム。
彼らは、まだ無事でいるのだろうか。
その想いに、答えるものはいない。
そうして瞳を閉じたまま、セレーナは深く息を吐き、その思考を切り離した。
ここで彼らの安否を心配しても、どうなるというわけでもない。
そんな想いに駆られる暇があったら、一歩でも前に進むべきだろう。
まずは遠くに見える廃墟の小島へ向かい、信頼できる仲間を探す。
その後、G-6の基地へ向かったあの二人組と接触し、首輪の解析を手伝おう。エルマなら、きっと何かの役に立てるはずだ。
―――だけど、それはあの機体と接触してからでも遅くはない。
瞳を開いたセレーナの視界の中に、脇目も振らずに大地を疾走する赤い機体が映る。
先程、エルマ達が新たに捕捉した機体だ。
ECSを発動させているこちらに気がついている様子はない。砂埃を巻き上げて、こちらへと接近してくる。
疾走する機体―――エステバリスの主がゲームに乗った殺戮者でない事を祈りながら、セレーナはアーバレストを発進させた。
「ユーゼス様、お怪我は?」
「心配はいらん。バリアのお陰で私はおろか、ヘルモーズも無傷だ」
メガデウスの放った光が収まってすぐ、ラミアは自らの主の安否を確かめるべく、ヘルモーズへ向けての通信を開いた。
答えはすぐに返ってきた。通信にノイズもみられない。ユーゼスの言うように、バリアの働きでヘルモーズの損傷は皆無のようだ。
「…しかし、奴ももう少し賢い男だと思っていたのだがね」
通信機から溜息交じりに漏れた言葉に、ラミアはメガデウスへと視線を向けた。
地面にアンカーを打ち込んだにも関わらず、足元の地面を抉って後ずさったその姿のまま、巨人は制止している。
やがて光を放った巨大な砲身がぐらりと揺れ、音を立てて地面へと落下した。
―――鉄の巨人は、もう動かない。
「反抗にはペナルティが必要とはいえ、私の手で参加者を殺す事はあまりしたくなかったのだが…仕方あるまい」
落胆した様子で、ユーゼスは言葉を続けた。
このような形でイングラムとの因縁に決着をつけるのは、彼も望んではいなかったのだろう。
「…申し訳ございません、参加者達に、バリアの存在を知られてしまいました」
静止したメガデウスから視線を外し、ラミアはそう言って頭を垂れた。
「構わん。存在が露見したとて、バリア自体がなくなった訳でもない」
通信機からは、ぞんざいな答えが返ってきた。僅かながら、怒りを孕んだような声色に聞こえる。
「それよりもW17、何故イングラムと戦った」
「…は」
次いで発せられた言葉に、ラミアはそれを確信する。
紛う事なき怒気と共に叩きつけられた言葉に、ラミアは思わず口ごもった。
「何故イングラムと戦ったか、と聞いている。答えたまえ」
そんなラミアの様子に、ユーゼスはもう一度詰め寄った。最早、怒気を隠そうともしていない。
軽く息を吸って気を落ち着かせ、ラミアは最初にイングラムを標的にした理由を語る。
「あの男はユーゼス様を基に作られたコピー。ユーゼス様の空間操作がどのように行われているか気付く者が居たとしたら、それは彼のはずです。
もしも彼がそれに気付けば、隠してある制御装置を破壊される可能性があります。ゲームを円滑に進行させる上で、彼の存在は邪魔になると判断しました」
すらすらと淀むことなく理由を告げ、ラミアは自らの主の言葉を待つ。
「…お前のその忠誠は嬉しく思う。だが、これ以上の勝手な真似は許さん。忘れるな、お前の首にも爆弾はついているのだ。
あまり独断が過ぎるようだと、次はお前の首輪を爆発させるぞ」
「…了解いたしました」
やがて通信機から流れ出た主の言葉を、ラミアは神妙な面持ちで肯定した。
「お前は、私の言う事を聞いていればよいのだ。余計な事に気を回さず、ゲームを盛り上げ、進行させる事に従事しろ。いいな?」
「…仰せのままに。ユーゼス様」
そうしてラミアは、もう一度恭しく頭を垂れた。
メガデウスがその最後の舞台を演じ上げてから、約一時間。
クォウレー・ゴードンとトウマ・カノウは、再びあの光の壁を抜け、D-8の市街地へと戻ってきていた。
そして現在は、トウマの希望で道中の商店から持ち出したスコップを使い、
市街地のはずれにある、補給ポイント近くの地面にアルマナを埋葬している。
人一人がゆうに収まる穴を掘り終えて、トウマがゆっくりとその中にアルマナを横たえた。
最期の別れのつもりだろう。
既に冷たくなっているアルマナの手を握り締めて、トウマは青白いその顔をじっと見詰めていた。
同じように、クォヴレーもまたアルマナの顔へと視線を注いでいる。
だが、その瞳の捕らえているものはトウマと違っていた。
アルマナの唇に引かれた、薄い紅のような物。
乱雑に塗られたそれは、所々ではみ出し、あるいは足らずに、彼女の死に顔に咲いていた。
あれは、一体なんなのか。
死に化粧。そんな単語が、クォヴレーの中に浮かぶ。
だが、誰が?なんのために?
クォヴレーがそうやって思考に沈む中、穴から出たトウマがスコップを手に取り、アルマナに土をかけ始める。
段々と埋まっていくアルマナを見詰めながら、クォヴレーはただずっと深い思考の海を漂っていた。
「…どうした、クォヴレー?」
アルマナの遺体へ土をかける手を止め、トウマがスコップを地面に突き立てて思考に耽るクォヴレーに問いかける。
「…いや。いくつか、気になる事があってな」
「気になること?」
同じようにスコップを地面に突き立てて体を起こしたトウマに向き直り、クォヴレーはずっと引っかかっていた疑問を告げる。
「何故彼らは、この娘の死体を持ち歩いていたんだ?」
「それは…首輪をはずして、調べるため…とかじゃないのか?」
少し考え、トウマはたどり着いた答えを述べた。
「そうだな。正直言って、俺もそれくらいしかわざわざ死体を運ぶ理由が思いつかない。
だが、彼女の名が放送で呼ばれたのは、昨日の夕方のはずだ。実際に死亡したのは、それよりも更に前だろう。
だとしたら、何故まだ彼女の首に首輪が巻かれている?それだけの時間があれば、外す事は出来たはずだ」
その結論は、クォヴレーもたどり着いている。
しかし、その事実が、その答えを否定している。
勿論彼らがそのつもりだった可能性がないわけではない。
だが、彼女が死んでから長時間に渡り横たわる時間の流れが、その結論に一つの大きな波紋を投げかけているのだ。
「それに、あの場にいたもう一人の参加者。俺達への攻撃を躊躇っているようだった」
次いで、クォヴレーはもう一つの疑問をトウマに告げた。
彼らがゲームに乗った参加者なら、あの時俺たちを撃つことに躊躇いなど覚えるはずがない。
なにせ、こちらは自動車とバイクだ。
飛んで火に入る夏の虫という諺を実践してみせたに等しい。
「けど、あいつの顔はみただろう!?あんな悪人面の…いや、それどころか人間とも思えないような―――」
「確かに、あれは驚いたがな…。だが、人を外見で判断すると痛い目をみる。木原マサキが良い例だ」
激昂したトウマの叫びに、クォヴレーはあくまで冷静に反論する。
昨夜彼らを襲った、あの少年。
気弱そうな外見の下に、鋭く研いだ牙を隠し持っていた。
確かにアルマナの遺体を持っていた男は人間とも思えぬ姿をしていたが、それは彼の性格を決めるものではないはずだ。
「…ッ!だけど!あいつらはアルマナの死体を持っていたんだぞ!?死体を持ち歩こうなんて奴は、外道の類に決まってるだろう!?」
「じゃぁ、今の俺たちは何なんだ?」
「…あ」
なおも収まりつかない激昂のままに口をついたトウマの言葉に、やはりクォヴレーは冷静に言った。
それを受けて、トウマは口をあけたまま言葉を失う。
「彼らがゲームに乗っていないとはっきりしたわけじゃない。だが、不自然な点が多いのも確かだ。出来れば、もう一度会って話をしたいところだな」
いつの間にか再び思考に陥り、俯いていたクォヴレーが顔を上げる。
「そう…だな。もし、あいつらがゲームに乗っていなかったら、俺、謝らなきゃならない…」
「…気に病むな。あの状況じゃ、仕方なかったさ」
拳を握り締めてうなだれるトウマを慰めて、アルマナの埋葬を続けるためにクォヴレーはスコップを担ぎなおし―――。
「クォヴレー!伏せろッ!!」
「―――え?」
突如として響いたトウマの叫びに、後ろを振り向いた彼が見たのは、巨大な黄色い何かだった。
自分のすぐ頭上をその黄色い何かが通り過ぎ、ついで襲ってきた突風に我が身を吹き飛ばされそうになるのをどうにか堪える。
「…い、一体、何が―――」
そう呟いて辺りを見回した彼が見たのは、自分達のいる場所からわずか十数メートルの所に突如出現した、巨大な柱。
否、柱ではない。
それは、巨大な像だった。
頭部に鳥のような翼を持ち、何処か神秘的な雰囲気を宿した、まるで天使を思わせる白い機体が、そこに佇んでいた。
彼が見た黄色い何かは、その足の部分だ。
「…あら?」
クォヴレー達が呆気に取られて見上げる機体から、女性の声が発せられる。
「申し訳ございませんですわ。まさか、そのようなところに人がいるとは思っていませんでしたので」
そう言って、白い機体はクォヴレー達に向き直った。
口では謝っているが、悪びれた様子はない。
そんな様子に最初こそ戸惑っていたクォヴレーだったが、目の前の機体の参加者に敵意がない事を知り、声を張り上げる。
「あんた…このゲームに乗っていないようだな。それなら、一つ聞きたい。イングラム・プリスケンという男をしらないか?」
「あ、少々お待ちになってくださいませ」
イングラムの事を尋ねようとしたクォヴレーを機体の手を持ち上げて制し、白い機体は補給ポイントへと歩み寄り、マイペースに補給を開始する。
「ふぅ。で、なんでございましたか?」
補給を終えて悠々と戻ってきた白い機体に、クォヴレーは溜息をついて、半ば呆れたような口調でもう一度問いかけた。
「…イングラム・プリスケンという男の事だ。人間を模した顔を持ち、非常に大きな腕をした黒い機体に乗っている。
何でも良い。もし彼のことを知っていたら、教えてくれ」
「あぁ、その機体でしたら―――」
大した期待を込めずに問いかけた言葉に、白い機体はぴん、とその指を一つ立て。
「―――あの壁を越えた先にある小島にございますですわ」
その指で、ビルとビルの隙間から見える光の壁を差してそう答えた。
「本当か!?」
「えぇ。先程、お会いになりましたから」
予想だにしなかった答えに、声を荒げて聞き返すクォヴレーに、白い機体の主は事も無げにそう返す。
「…わかった、ありがとう。それで、物は相談だが…俺達は、あの主催者を倒すために仲間を集めてるんだ。
あんたもゲームに乗っていないなら、一緒に行動しないか?」
思いがけずに探していたイングラムの足取りを知り、その情報をもたらしてくれた白い機体の参加者に礼を述べると、
クォヴレーは自分達の目的を明らかにし、仲間に誘おうとする。
「…申し訳ございません。私にはやることがございますので」
「そうか…」
返ってきた断りの言葉に、クォヴレーが肩を落としていると、再び白い機体から声が降り注ぐ。
「代わりと言っては何ですが、一つ良い事を教えて差し上げます」
「…良い事?」
眉を潜めて聞き返すクォヴレーに、白い神像の主ははふふ、と笑って言った。
「ブライシンクロンアルファとブライシンクロンマキシム。もしゲームに乗った参加者に襲われてどうしようもなくなったら、
この言葉を叫んで狼のマークのついたスイッチを押してみるといいでございますですわ」
「…何だ、それは?いや、それよりあんた、なんであのスイッチの事を知っている?」
その自らの機体を知っているかのような口ぶりに、クォヴレーは警戒を強め、聞き返した。
だが、帰ってくるのは先程と同じ、僅かな笑い声だけ。
「それでは、御機嫌よう、クォヴレー・ゴードン。精々頑張って生き延びて下さいませ」
白い機体は答えを残さず、それだけ言って、再び空へと舞い上がっていく。
「…ッ!?待てッ!!」
羽ばたきで巻き起こされた風を腕で遮りながら、名乗ってもいない自分の名を呼んだ見知らぬ参加者へと向かい叫びを上げる。
だが、その頃既に白い天使は遥か彼方の空へと遠ざかっていた。
「あいつ…なんで、お前の名前を…?」
事の推移を見守っていたトウマが、遠ざかっていく白い機体を見詰めながら声をかけた。
「…わからん。イングラムに聞いたのか、記憶を無くす前の知り合いだったのか。それとも…」
「どうする?追いかけるか?」
「いや、あの速度だ。俺たちじゃ逆立ちしても追いつけない。それよりも、イングラムを捜索しよう」
トウマの提案に、クォヴレーはかぶりを振った。既に豆粒ほどの大きさになっているあの白い機体を今から追っても、追いつく事は出来ないだろう。
ならば、イングラムの捜索を優先するべきだ。
そしてスコップを手に取り、半ば土に埋もれたままのアルマナへと視線を送る。
「…まぁ、その前に、この娘の埋葬だな」
「…あぁ」
そして二人は、中断していたアルマナの埋葬を再開した。
「…クク」
その光景を、ヘルモーズのモニター越しに見ていたユーゼスがうれしそうに喉を鳴らす。
「そうだ、W17。それでいい」
堪えようともしない笑いを響かせながら、自らの部下へと賛辞を送る。
「あの程度の悪戯で脱落されてはつまらないと思っていたところだ…。ふふ、これでこのゲームも更に盛り上がることだろう」
ユーゼスは両の手を広げ、歌うようにして高らかに言い放った。
「さぁ、続けよう。絶望に彩られた、この最高のゲームを」
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:F-1の小島より離脱中
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:腹部にダメージあり(無理をすれば歩ける程度)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:F-1の小島より離脱中
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:D-2
第一行動方針:プレシア、チーフとの合流
第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
最終行動方針:イサムの生還】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:D-2
第一行動方針:目の前の機体との接触
第二行動方針:E-1の小島で、他の参加者を探し接触する
第三行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第四行動方針:イングラム、並びにリュウセイを捜索する
第呉行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
現在位置:F-2
第一行動方針:E-1に向かい、イングラムを探す
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】
【イングラム・プリスケン 搭乗機体:メガデウス(ビッグオー)(登場作品 THE BIG・O)
パイロット状態:死亡
機体状態:装甲に無数の傷。左腕装甲を損傷、反応がやや鈍っている。
額から頬にかけて右目を横断する傷。右目からのアーク・ライン発射不可。
頭頂部クリスタル破損。クロム・バスター使用不可。
砲身欠損。ファイナルステージ使用不可。
コクピット部装甲破損。ミサイル残弾僅か。
現在位置:E-1】
【二日目 14:10】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:D-8南部
第一行動方針:アルマナを埋葬した後、E-1へ向かいイングラムを捜索する
第二行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマが乗っています
備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない
備考3:変形のキーワード、並びに方法を知る。しかし、その意味までは知らない】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:D-8南部
第一行動方針:アルマナを埋葬した後、E-1へ向かいイングラムを捜索する
第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
第三行動方針:もう一度イキマに会い、真相を尋ねる
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン (登場作品 ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:D-8
第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
最終行動方針:ゲームを進行させる】
【二日目 15:00】
「ハッター!?ハッターか!?今すぐここから離れろ!」
真下にいるハッターに対し、慌ててチーフが声をかけた。
「その声!ブラザーなのか!?テムジンはどうした!?いやそれより何をしてるんだ!」
ハッターもその通信の声を聞き、グランゾンに声を張り上げる。
「木原マサキという男に破壊された!それより急いで離れろ!
地上に降りてグラビトロンカノンで制圧できん!!」
「制圧!?ちょっと待ってくれブラザー!そのガールは俺たちのフレンドだ!」
「仲間だと言われても……!ハッター、回避行動だ!」
「でやぁぁぁあああ!!」
チーフとハッターのやり取りの間にダイモスが立ち上がり、2人に向けてファイブシューターを連続して
ばら撒いていた。2人して器用にそれをかいくぐりながら、2人は相談を続ける。
「ブラザー、さっきも行ったかがガールは俺たちのフレンドだ」
「そうは言ってもこれではな…だが!」
グランゾンはすばやくワームホールを自分の前に形成し、数本のファイブシューターをダイモスの側に
転移させ、牽制する。
「ハッター、分かっている。殺すつもりはない。
あくまでこのゲームに乗ったものを止める為制圧するだけだ。」
「それならOKだ、ブラザー。少し頭に血が上っているようだ!二人で抑えるぞ!」
そう言ってハッターが一歩踏み出した。しかしチーフはそれをいさめ、
「ハッター。ここは俺に任せろ。そちらはあちらの援護に迎え。」
グランゾンが虚空を指差す。そこには落ちていくゼオライマーとゼロがあった。
「アレは…フレンドが危ない!スマン、ブラザー、こちらは頼む!」
ハッターが走りだす。
そちらに向けダイモガンが発射されるが、グランゾンが盾となってハッターの進路を確保する。
「やらせん……!そちらの相手はこちらだ!」
ハッターの離脱とともに、2機は武器を構える。
グランゾンはグランワームソードを。ダイモスは双竜剣を構えて距離をとる。
ジリジリと円を書くように動く2機。先に動いたのはチーフだった。
「ハッターの援護のためにも急がせてもらう!」
エンジンを吹かせ、大剣が舞う。
上から振り下ろした直後に手を引き、左下から右上に突き出すように振るう。
ダイモスもそれを見て双竜剣で剣をさばいていく。
(もらったぞ!)
連続の斬撃のわずかな隙。それを見逃さず、グランゾンの剣が滑り込むが――
「なに!?」
思わずチーフから声が漏れる。完全に虚を突いたはずの斬撃が止められていた。
それどころか相手はすでにたて直し、武器をこちらに振るっている!
「おんなじ手を!二度も引っかかるわけないでしょぉぉおおお!!」
少女の声が答えを示していた。
流れた剣を引き戻し、一気にバックステップで距離を取る。しかし、
「右腕に21%の損傷…!なんだと!?」
グランゾンの右腕の装甲が落ち、内部か少し見えている。
間の前の少女の技量にチーフが戦慄する。急いでいて、先ほどとよく似た手を使ったとはいえ、
(一度で見切り、カウンターに利用しようとするとは…!)
しかし、彼に負けは許されない。
ハッターに頼まれた。プレシアにも誓った。どんなに不利だろうと、
(絶対に、引かん!)
距離をとったグランゾンに熱を帯びた竜巻が迫る。
どうやら一気に決着をつける気かどうかは知らないが、長々と戦う気もないらしい。
バリアもなく、内部に熱気が入る以上、絶対に当たることはできない。
グランゾンが空に飛び上がる。しかし、その竜巻の陰に隠れ、赤と対照的な青の光線が正確に
グランゾンの足を捕らえ、見る見るうちにグランゾンの左足が凍り付いていく。
バランスを崩し、地面へと落ちたグランゾンに向け、ダイモスが突進。その手には双竜剣が握られている。
「足場を崩した上で直接的な打撃で決めるつもりか!」
先ほどとは逆に、接近戦でグランゾンが押される形となる。なにしろ片足が凍り動かない。
重心の位置が致命的だった。
それでもチーフはダイモスの猛攻に耐えつつ、決着の手を練り続けていた。
(あの順応性、長期戦は不利だ。あと2手、いや3手で止める!)
ひたすら防戦一方で時間を稼ぐチーフ。そのときが来るまで時間を稼ぐ。そして……
双竜剣が下から伸びる。グランワームソードでそれをどうにか受け止める。
しかし、そこにあるのは双竜剣のみ。あるはずのダイモスの腕がなかった。
腕はすでに抜かれており、腰をひねるように体を横に一回転させ、
取り出した三竜棍がグランゾンの頭を捕らえた。ついにグランゾンが膝をつく。
「これで!終わりよぉぉぉぉおおおおお!!」
三竜棍を棒状にして、グランゾンに振り上げる。
しかし、
「チャージ完了。広域兵器2型セット。アンチグラビトロンカノンセットアップ。」
チーフが完了の言葉を継げる。そう、決着の言葉を。
「ビッグバンウェーブ!」
グランゾンのコアか極彩色の粒子の波が吐き出される。それはダイモスを吹き飛ばし、空に舞い上げた。
ダイモスから少女の悲鳴が聞こえる。しかしそれはすぐ怒気の声へと変わり、空へ吹き飛んだ体を立て直し
地上のグランゾンヘ蹴りの姿勢を作った。
重力と推力の力で加速するダイモス。
「やはりそう来るだろうと思っていた。」
グランゾンの姿が消え、ダイモスが何もない大地を蹴った。
「誤差20m。ブラックホールクラスター発射。」
転移すると同時に、黒球を胸から吐き出す。
ダイモスの横に正確に着弾し、超重力がダイモスを引き込んでゆく。
チーフの策の全貌はこう、だ。
まずビッグバンウェーブとクラスターのためのエネルギーをチャージするため時間を稼ぐ。
そしてビッグバンウェーブを打ち込み、舞い上げる。アレほど攻撃本能旺盛な相手だ。
そこから反撃に出だろう。当然それは地上のグランゾンにむけてのものだ。あとはそれを転移かわし、
隙があるうちにクラスターを側に打ち込む。
直接ぶつけては完全に破壊する恐れもあるが、
間接的に当てれば超重力の拘束と、弱まった後に中心に吸い込まれれば、適度なダメージが期待できる。
自分の策が実ったことにチーフは胸をなでおろす。だが、
「ぁぁぁああああ!!」
重力下の中で立ち上がり、ダイモスがグランゾンを見つめる。
正直、チーフはぞっとした。何がいったいこの少女を駆り立てるのか?
ダイモスのかかとから膝にかけてワームホールを通じ現れたワームソードが貫く。
ダイモスは怨嗟の声をあげながら飲み込まれていった。
こんどこそ、終わった。チーフは確認のため、穿かれた穴を覗き込む。
「なんだ、これは…?」
そこにはダイモスの姿はない。妙に開けた空間と、蒼い、澄んだ水のような渦があるだけだった。
それに指をつけようとしたそのとき、
「む!?」
一発のミサイルが側に落下した。後ろを振り向けば、鬼のような機体と、腕を持たない機体が戦っていた。
「いかん、急いで援護にむかわねば…!」
渦に背を向け、グランゾンは次なる戦場に走り出した。
【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
パイロット状態:健康
機体状況:パンチで飛ばした両腕なし 現状態不明
現在位置:C-1
第一行動方針: 鉄也をどうするか悩んでいる
第二行動方針:他の参加者との接触
最終行動方針:ゲームより脱出して帝王ゴールを倒す】
剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態: 胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右腕切断。ダイターンザンバー所持
現在位置:C-1 現状態不明
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:良好
機体状況:装甲損傷軽微(支障なし)、SSテンガロンハットは使用不可、トンファーなし 現状態は不明
現在位置:C-1
第一行動方針:援護に向かったようだが…?
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:ユーゼスを倒す
備考:ロボット整備用のチェーンブロック、高硬度H鋼2本(くの字に曲がった鉄骨)を所持】
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:外傷はなし、内部機器類、(レーダーやバリアなど)に異常、 右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッター達の援護に向かう
第二行動方針:マサキを倒す
第三行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【二日目 15:20】
――反撃の狼煙は上げられた。
そして、牙持つ者達は集結する。
勇気有る者が眠りに就く、小さな島の一角に。
その全身に深く傷を負った妖精が、彼方を目指し飛んでいた。
フェアリオン。龍王機との戦いによって負わされたダメージは、決して浅いものではなかった。
ともすれば機能不全を起こして墜落しかねない状態で、それでも妖精は飛び続ける。
だが、現実は非常だった。
機体の限界は既に超え、高度は少しずつ下がっている。
「っ……! 頼む……まだ落ちないでくれ、フェアリオン!
俺は……俺は行かなくちゃいけないんだ! 教官の所に……辿り着かなくちゃいけないんだッ!!」
コクピットの中、リュウセイは必死に叫び声を上げる。
しかし、傷付いた妖精は主の願いに応える力を失くしていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、フェアリオンは海面に落ちてゆく。
だが――
「何をやっているんだ、お前は! そんな傷付いた状態で海の上に出るなんて!」
「その声……ジョシュア!?」
50 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:53:16 ID:bHhjNkJW
リュウセイの危機に駆け付けたのは、かつて彼が龍王機から救った戦友――
イキマと共にF−1エリアを脱しようとしていた、ジョシュア・ラドクリフその人であった。
小島を離れようとしていたジョシュアとイキマ。
二人が時を同じくして海上を進んでいく機体を見付ける事が出来たのは、両者にとって幸運と言えた。
リュウセイにとっての幸運は、彼を見付けたのが自分を知る者だった事。
そしてジョシュアにとっての幸運は、信頼出来る仲間を救う事が出来た事。
「まったく……無茶をする奴だな、相変わらず……」
「す、すまねえ……」
「いいさ、前は俺が救われたからな。今度は俺がお前を助ける番だったって事さ」
海中に没しかけていたフェアリオンをGP−02に支えさせながら、ジョシュアは苦笑と共に言う。
「ジョシュア、その男は?」
「前にも少し話したろ。俺が襲われていた時、助けてくれた人間だよ。
イキマ、お前も手伝ってくれ。近くの陸地……ここからだと、さっきの小島が近いのか。
ともかく、そこにこいつを運ばなくちゃいけないからな」
「いいだろう」
ジョシュアの02が右腕を、イキマのノルス・レイが左腕を持ち、満身創痍のフェアリオンを支える。
「よし、これなら何とかなりそうだな……。
それにしてもリュウセイ、いったいどうしてこんな状態で海の上なんか……」
「っ……! そ、そうだ! なあ、ジョシュア! あの小島から来たんだったら、さっきの光について知らないか!?」
「さっきの光?」
「ああ! もしかしたら、あれは俺がずっと探していた人の仕業だったかもしれないんだ!」
「そうか、それを確かめる為にお前は……」
「頼むっ……! あの光について何か知っているんだったら教えてくれっ!」
「……すまない。あの光に関しては、俺たちも良くは知らないんだ。
だが、主催者に対して反抗を企てたと言う事は恐らく……」
「っ…………!」
「……すまん」
気まずい沈黙が、ジョシュアとリュウセイの間に流れる。
それを打ち破ったのは、これまで蚊帳の外で二人の話を聞いていたイキマだった。
「ならば、これから確かめに行けばいい」
「イキマ……」
「この場で言い合っていた所で、事実が変わる訳ではない。
詳しい状況を知りたいのなら、自分の目で確認してみる事だ」
「……そう、だよな。アンタの言うとおりだ、この目で確かめてみなけりゃ何も分からないんだよな」
壊れかけた機体の中、彼方の空をリュウセイは見る。
あの空の下には、きっと自分達の運命を左右する“何か”が待ち受けている。
それは、確信。確かな予感を憶えながら、リュウセイはジョシュア達に連れられて小島に辿り着いていた。
51 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:54:05 ID:bHhjNkJW
一方、その頃――
「もう、いいのか?」
「ああ……行こう」
クォヴレーのブライサンダーに乗り込みながら、トウマは静かな声で言う。
埋葬は終わり、祈りは済んだ。
後ろ髪を引かれないと言えば嘘になるが、いつまでもここに留まり続けている訳にはいかない。
今の自分達には、やらなければならない事がある。
仲間を集め、この忌まわしい首輪を外し、そしてユーゼスを打倒する。
このバトルロワイアルを終わらせる事こそが、彼女に対する最大の手向けでもあるのだ。
「こうしている間にも、死んでいく人間は出ているはずだ。今の俺たちに、立ち止まっている余裕は無い」
「……そうだな」
トウマの言葉に頷きながら、クォヴレーはブライサンダーのエンジンに火を点ける。
これから向かう場所は決まっている。
E−1エリア。謎の女に教えられた、イングラム・プリスケンの居場所。
クォヴレーは思う。
あの女、いったい何者だったのか。
自分の名前を知っていた事、ブライサンダーの機能を把握していた事。いくらなんでも、不審な点が多すぎる。
記憶を失う前の知り合いかとも思ったが、それにしては自分に対する態度が淡白すぎたとも思う。
そしてなによりも、ブライサンダーの隠されていた機能を自分が知っていない事に、どうしてあの女は気付いていたのか――
「ブライシンクロンアルファ。そしてブライシンクロンマキシム、か……」
教えられたキーワードを、口の中で呟いてみる。
あの女自身には、不審な点が多すぎる。だが、その情報は確かなはずだ。
「……行くぞ、トウマ」
「ああ」
そこで彼が無残な死を遂げている事も知らずに、クォヴレーとトウマは光の壁を乗り越えて行く。
ウルフのマークは、何も言わずに輝きを放ち続けていた。
52 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:54:35 ID:bHhjNkJW
「そんなっ……そんな、嘘だろう!? イングラム教官ッッッッッ!!」
傷付き倒れた鋼の巨体。その懐に抱かれて、イングラム・プリスケンは永遠の眠りに就いていた。
コクピットの破片を腹部に突き刺し、そして首から上を爆破によって消し飛ばされ――
無残な姿を晒しながら、イングラムは命を失っていた。
また、だ。
また自分は、教官を救う事が出来なかった。
……もし、あの時。
イングラムと出会った時、自分が気を失わないでいれば、今の事態を防げたのではないのか。
もっと自分に力があれば、イングラムを死なせないのでも済んだのではないのか。
イングラムの亡骸を抱きながら、リュウセイは激しい後悔に襲われていた。
「教官……俺はっ……! 俺はッ…………!!」
「リュウセイ……」
イングラムと彼がどのような関係だったのかは、道すがら説明を受けていた。
教官だったと、恩人だったと、そうリュウセイは語っていた。
そしてユーゼスによって運命を弄ばれた人間である事も、彼の口から聞かされた。
ユーゼス・ゴッツォ――
リュウセイによれば、バルマー帝国と呼ばれる異星文明の人間であるらしい。
しかしかつて地球に攻め入ったと言う彼の軍勢は地球側の抵抗により追い払われ、そしてその戦いでユーゼスもまた命を落としたはずであるとも。
だが、ユーゼスは生きていた。それも以前を遙かに越える、未知の技術を伴って。
「バルマー帝国、か……」
涙を流し続けるリュウセイを見ながら、ジョシュアは考えを整理する。
イキマとの会話でも思いはしたが、あまりにも自分の知っている世界とは状況が違い過ぎている。
インベーダーと呼ばれる異星の生命体により、地球全体が荒廃した世界。それが、ジョシュアの生きていた世界だ。
リュウセイの世界、ジョシュアの世界、イキマの世界。全てが、あまりにも違い過ぎている。
果たして、これはどういう事なのか?
平行世界――
かつてリ・テクの研究者達に聞いた事のあった、そんな単語が脳裏を過ぎる。
信じられない話ではある。
だが、今の事態そのものが、既に常識の範疇を超えているのだ。認めないわけにはいくまい。
そんな技術を擁する相手に戦いを挑まなくてはならないとは、分の悪い賭けにも程がある。
だが、それでも自分達は戦わなければならないのだ。
53 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:55:13 ID:bHhjNkJW
「……やりきれん、な」
メガデウスの巨体を見上げながら、イキマは沈痛な声で呟きを洩らす。
鉄の腕は萎え、鉄の脚は力を失い、埋もれた砲は二度と火を噴く事はない。
鉄の巨人は死んだのだ。その主に最期まで付き従い、そして命運を共にしたのだ。
だが、何故なのか。その無残な身体からは、今なお力強い闘志が放たれていた。
今は主の墓標として沈黙しているメガデウスからは、今も不屈の意思が感じられていた。
ユーゼスよ――確かに俺達では、お前を倒せなかったのかもしれない――
だが――これで、全てが終わった訳ではない――
たとえ俺達が志半ばで朽ち果てようと、いつか貴様は倒される――
それまで、お前は空から見下ろしているがいい――
お前を虚空から引き摺り下ろす、力有る者が現れるまで――
「っ…………?」
そして、イキマは耳にする。聞いた覚えの無い、力強い意思を宿した男の声を。
もしかしたら、それは感傷が生み出した空耳だったのかもしれない。
だが、そうではなかった。
この場に集う者達にとって、それは決して空耳などではなかった。
「教官……」
イングラムの亡骸を抱えたまま、リュウセイは呟く。
今、確かに声を聞いた。
あの光が迸った時にも、自分は感じ取っていた。
今は亡き、イングラムの意思を。
……いつのまにか、流す涙は止まっていた。
そうだ。今は、泣いている時ではない。
イングラムの無念を晴らすためにも、今は戦わなければならないのだ。
仲間を集め、力を合わせ、イングラムの遺志を継ぎユーゼスを倒す。
それこそが、イングラムの為にしなければならない事なのだ。
54 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:55:53 ID:bHhjNkJW
「っ……! あれはっ……」
ブライサンダーの操縦席から、クォヴレーはメガデウスの巨体を見上げていた。
見るも無残に傷付き倒れ、もはや残骸と化した鋼の巨人。
イングラムの命が既に無いだろう事は、嫌が応にも認めざるを得ない。
あれだけのダメージを受けているのだ。どれだけの激戦を経たのかは、その場面を見ずとも知る事が出来る。
そして傷付き果てたメガデウスの近くには、見覚えのある機動兵器が二つと、見覚えの無い妖精を思わせる機体が一つ。
「クォヴレー、あれはっ……!」
「……分かっている」
イングラムの身に何が起きたのか。
そしてイングラムの身に何か起きたとするのならば、あの機体の持ち主達はどう関わっているのか。
不安に、襲われる。
やはりあの機体の持ち主達はゲームに乗った人間なのではないか――?
そう思うなと言う方が、この状況では無理だろう。
だが、所詮は状況判断だ。根拠は無いし、証拠も無い。
思い込みだけで物事を決め付けてしまうのが、どれほど危うい事なのか。それを、クォヴレーは既に思い知っていた。
「トウマ。分かっているとは思うが、まだ連中がイングラムを倒したと決まった訳ではない」
「……ああ」
クォヴレーの言葉にトウマは頷く。
そう、まずは確認しなければならない。
イングラムの事、アルマナの事、ゲームに対する考えの事。
奴らには聞き出さなければならない事が、それこそ山のようにあるのだから。
「っ……! イキマ、あの車は……!」
「あれは、あの時の……」
こちらに近付いて来る一台の車。その独特な見覚えある車体に、ジョシュアとイキマは気が付いていた。
メガデウスのコクピットでイングラムの死体と対面しているリュウセイは、まだ彼らの接近に気が付いていない。
「ジョシュア、リュウセイに知らせろ。俺は、奴らと話をしてくる」
「イキマ……だが、いいのか? あいつらは、お前があの女を殺した犯人だと……」
「……だからこそ、だ。それに、あの男には渡さなければならん物があるからな」
「渡さなければならない物……?」
バラン・ドバンに渡してくれと、アルマナに託された首飾り。
だが、バラン・ドバンは既に亡い。ならば、この首飾りはあの男に渡すべきだ。
彼女の、最期の言葉と共に。
「……わかった。気を付けろよ、イキマ」
「ああ」
近付いて来るブライサンダー。
それに無用の警戒心を抱かせぬよう、イキマのノルス・レイはゆっくりと彼らに歩み寄って行った。
55 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:57:33 ID:bHhjNkJW
その様子は、クォヴレー達の目にも見えた。
不可解な行動だ。相手は三機、なのに一機だけが近付いて来る。
それも、こちらを確認しているはずなのに、とてもゆっくりと。
「やはり、このゲームには乗っていないと言う事なのか……?」
その攻撃の意思を感じさせない行動に、クォヴレーは思わず呟きを洩らす。
そしてお互いの機体が、通話が可能な距離まで近付いた時――
「……アルマナ・ティクヴァーに縁の者だな? 彼女に託された物と、最期の言葉を伝えに来た」
ノルス・レイのコクピットを降りながら、異形の怪人――イキマは言った。
「どういう事だッ! どうして、お前がアルマナの名を……それに、託された物だと!?」
ブライサンダーの後部座席を降りながら、トウマは感情に任せて叫び声を上げる。
そんな彼の様子を見ながら、イキマはアルマナに渡された首飾りを掲げる。
「それはっ……!」
「バラン・ドバンに渡してくれと、彼女に手渡された物だ」
「そ、それじゃあ……アンタはっ……!」
「……俺が駆け付けた時には、既に致命傷を負っていた。
自分が助からない事を知って、彼女は俺にそいつを渡した。
彼女は最期に言っていた。ルリアを頼む、そうバラン・ドバンに伝えてくれと」
「っ…………!」
アルマナの名を、そしてバランやルリアとの関係までを知っている。
……間違い、無い。
この男が言っているのは、嘘などではない。
アルマナの最期を看取ってくれたのだ、この男は。
なのに、自分は……。
「すまないっ! アンタは……アンタは、アルマナを看取ってくれてたって言うのにッ……!」
「……気にするな。状況を考えれば、ああされるのも無理はなかった。
それに俺に弔われるよりも、お前に弔ってもらえた方が、あの娘も喜ぶだろう」
「それでは、やはり……」
イキマの言葉を車内で聞き、クォヴレーは自分の推論が間違っていなかった事を知る。
全ては、誤解に過ぎなかった。やはり自分が思ったように、この怪人はゲームに乗った人物ではなかったのだ。
56 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:58:27 ID:bHhjNkJW
「一つ、聞きたい事がある。イングラム・プリスケンと言う男について、何か知らないか?」
彼方に倒れるメガデウスの巨体を見上げながら、クォヴレーはイキマに問い掛ける。
「……あの男とも、お前達は知り合いだったのか」
「ああ。他の参加者に襲われていた所を救ってもらった。それからずっと、探していたんだ」
「そうか……」
「知っているなら教えてくれ、あの男は……」
「……残念だが」
「ッ…………!」
イキマは目を伏せ、首を振る。
それが何を意味しているのか、分からない二人ではなかった。
「俺の仲間が、あの機体の元にいる。
そのうち一人は、イングラムの教え子らしい。イングラムの事を知りたいのなら、そいつに話を聞いてくれ」
「……わかった」
先を進むノルス・レイに続いて、ブライサンダーは廃墟を駆ける。
今、ここに集おうとしていた。
反逆の牙を託された者達が、傷付き倒れた巨人の下に。
57 :
反逆の牙:2006/04/23(日) 17:59:17 ID:bHhjNkJW
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:良好(時間の経過により腹部のダメージは回復)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:E-1
第一行動方針:クォヴレーとトウマをリュウセイに会わせる
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
現在位置:E-1
第一行動方針:イングラムを弔う
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1
第一行動方針:リュウセイにイングラムの事を聞く
第二行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマが乗っています
備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない
備考3:変形のキーワード、並びに方法を知る。しかし、その意味までは知らない】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:リュウセイにイングラムの事を聞く
第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
第三行動方針:もう一度イキマに会い、真相を尋ねる
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【二日目 17:20】
>>19 それをみたガルドは、足に装着されたローラーを逆回転させ、素早く謎の機体と距離をとる。の一文を
それを見たガルドは、謎の機体と距離をとるべく素早く機体を後方に退避させた。に訂正。
>>36 ローラーでの後方への移動を止めぬまま、睨み付ける様に目を細めて、悠然と宙に聳える戦艦へと視線を注ぐ。を
足を止めることなく移動を続けたまま、睨み付ける様に目を細めて、悠然と宙に聳える戦艦へと視線を注ぐ。に訂正。
並びに、
おそらく、一度遭遇したあの光の壁と同じような原理なのだろう。と
それも、昨日イサムを探している時に目撃したときの位置関係からして、あの光の壁を使用していると考えていい。
をそれぞれ、
おそらく、昨日イサムを探している時に遭遇したあの光の壁と同じような原理なのだろう。
それも、プレシアと出会うまでに一度目撃したときの位置関係からして、あの光の壁を使用していると考えていい。
に訂正します。ご迷惑をお掛けしました。
59 :
自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/23(日) 21:26:28 ID:8xjR3GT1
そ の 時 イ デ が 発 動 し た ! ! 〜fin〜
>>48の後にこれを挿入しといてください
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:気絶 、昏睡
機体状況:全体的にかなりの破損。右足は戦闘機動をおこなえば砕ける可能性あり
後頭部タイヤ破損、左腕損傷、三竜棍と双竜剣を失った。
現在位置:不明 どこかに飛ばされた模様
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔する者の排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
「う・・・うぅ」
アスカは目を覚ますと見知らぬ男たちに囲まれていた。
「気がついたか。突然現れたからびっくりしたぜ」
茶髪の男が声をあげる。
「こ、ここどこ!?あなた誰!?」
突然現れた男達に戸惑いを隠せないアスカ。ふと周りに目をやると、傷ついたダイモスが横にあった。
そしてそれをなだめるかのように、今度は青い髪の男が質問に答えた。
「警戒しなくていい。俺たちは君と戦う気はない。それと、名前はジョシュア・ラドクリフ。
彼はリュウセイ・ダテだ。」
どうやら最初に声をあげた人物はリュウセイと言うらしい。
「それと、こいつイキマ。銀髪の彼がクォヴレー。そしてこいつがトウマだ。」
だが、アスカにとって彼らの名前などどうでもいいことであった。
何故自分がここにいるのか。自分が戦っていたあの機体はどうなったのか。それを確かめる方が先であった。
そのために今ここにいる彼らから、情報を集めることにした。」
「私はアスカ・ラングレー。いったい何がどうなっってるの!?」
先ほどジョシュアと名乗った男が質問に答えた。
「分からない急に空に渦みたいなものが出たと思ったら、傷ついた君が落ちてきたんだ。」
なんだ。結局こいつらも何も分かっていないのか。アスカは少しため息をついた。
「――ならいらないや。殺しちゃお」アスカは小声で言い、ジョシュアにこう言った。
「機体の調子をみたいいんだけれど・・いい?」
一呼吸おいてこんどはトウマがしゃべりだした。
「別にいいだろ。そのくらい。アスカちゃん。早く済ませちゃいな。話し合いは後にしよう。」
馴れ馴れしい男に少しだけ愛想良く返事をし、アスカはダイモスのコクピットに入った。
外から声が聞こえてくる。だがアスカには笑い声にしか聞こえない。
馴れ馴れしく接してくる彼らが心の奥で笑っているようにアスカは見えていた。
「私を笑う奴らは・・・・」
「む?」
人より人体が強化されているバルシェムであったクォヴレーがその声を聞き、警戒を強めた。
そしてダイモスから叫び声がもれる。
「皆殺してやるううううううぅぅぅぅ!!!!!!」
気づいたころにはもう遅く、ダイモスが勢いよく立ち上がる。その衝撃で皆は吹き飛ばされ、怪我をおった。」
一人警戒をしていたクォヴレー以外は・・・
>>57 トウマの状況を修正します。
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:リュウセイにイングラムの事を聞く
第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
穏やかな水面を乱しながら、独りの巨人が進む。
「僕が・・・僕がアスカを守らなきゃいけないんだ・・・僕が・・・」
その中では独りの少年が、守りたい者の名を呟いていた。
あの後・・・大雷鳳を使い、苦労して二人を埋葬したシンジは、
アスカを探すべく、その場を後にしようとした。だが・・・
「あれ?このメーター・・・」
移動を始めようと、計器類を覗いたシンジの目に一つのメーターが映る。
「これ・・・そうか、燃料が無いんだ」
心もとなくなってきた燃料に、補給の必要に迫られたシンジ。
彼は慌てて地図を開き、一番の近い補給地点を探し始めた。
そして、数分後。大雷鳳は非常にゆっくりとした動きで、川を越え、森を南下していた。
(まずは補給だ・・・見たことも聞いたことも無いけど、やらなきゃいけないんだ・・・
そして、アスカを探して・・・守るんだ。僕が、守るんだ!)
決意を胸に巨人は進む。地図に示された補給地点。高台にある基地を目指して。
その頃、三人の男達が同じ高台を目指し、機体を移動させていた。
「やっと、森に入りましたね」
一番後ろをいく蒼い機体。それに乗った少年の言葉に、他の二人は頷く。
もっとも、一人はホログラフィーの映像なのだが。
「すまないね。私の機体のせいで、思いのほか時間がかかってしまって」
「いや、先生が居ないと始まらない事ですし、問題ありませんよ」
遷次郎の呟きに、フォッカーが笑って返す。
「そうですよ。そんな事言ってないで、早く基地へ行きましょう。
機体の補給もしたいですし・・・」
マサキはその様子に苦笑しながら・・・苦笑するふりをしながら、そう言った。
(まったくだ・・・このクズのせいで、予定より時間がかかってしまったな。
・・・使えるクズでなければ、殺しているところだ)
そんな内心を知ってか知らずか・・・
「それもそうだな。俺のも、そろそろ弾薬が厳しくなってきてるからな・・・
急ぎましょうか、先生」
マサキの言葉に同意すると、フォッカーは遷次郎に声をかけた。
そんな二人を追いながら、マサキは考える。
(ふん、まあいい・・・それよりも問題なのは、基地内に補給目的のクズがいるかも知れんことか。
ゲームに乗っていないクズならいいが、乗っているクズなら面倒だな・・・)
そこまで考えて、マサキはほくそえむ。
何者が居ようと首輪の解除をちらつかせれば、どうとでもなる。
それにいざとなれば、あのクズ二人を使えばいいのだ。
(・・・使えるクズを無くすのは、少し惜しいがな)
邪心を胸に冥王は往く。利用できる駒二人と共に、高台にある基地を目指して。
「この野郎!」
高台にある基地。幾つかの部品の散らばる空間に、男の怒声が響き渡る。
マサキの予測したとおり・・・補給設備のある格納庫内には、三名の参加者達が居た。
「落ち着け、イサム・ダイソン。ただの挑発だ」
「けどよ、こんな野郎、生かしとくわけには・・・」
そう言いながら、イサムは鎖で縛り上げられている男――ヤザンの襟首を掴みあげる。
「確かに。だが、まだ全ての情報を引き出し終えたわけではない」
イサムの物騒なセリフを遮り、淡々とした口調でたしなめるヒイロ。
その言葉に肩を竦めつつ、イサムは男の襟首から片手を外す。そして・・・
「チッ・・・なら、一発殴るくらいならいいだろっ!」
そう言い終わるか終わらないかのうちに、イサムはヤザンの顔面を殴りつけた。
派手な音をたてて、床に投げだされるヤザン。
それを一瞥した後、イサムはドラグナー3へと飛び乗る。
「どこへ行く?」
「ちょっと、基地の中を見てくるだけだ!」
そう言い残すとイサムは、その機体を動かし格納庫の外へと出て行った。
「・・・さて、お前には幾つか聞きたい事がある」
「正直に答えるかどうかも解らんのにか?」
「嘘をついても構わないが、死ぬほど痛い・・・かもしれんぞ」
挑発の言葉を吐くヤザンを意に介した風も無く、ヒイロは淡々とそう答えた。
希望、怒り、哄笑・・・様々な思惑を胸に、彼等はステージへと集う。
そして・・・彼等が目指す舞台の真下。内海へと通ずるドッグ。
半分以上が地下に埋もれたそこに、紅い色の巨体が横たわっていた。
その身の半分を海水に晒す真っ赤な機体の中で、一人の少女が眠っている。
さながら、眠り姫のように・・・さながら、舞台のヒロインのように・・・
狂気を胸に闘将は眠りつづけている。
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好、全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。
背面装甲に亀裂あり。燃料が残り少ない。
現在位置:H-5川を抜けた森
第一行動方針:G-6基地で燃料を補給する
第二行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:F-6森
第1行動方針:G-6へ 遷次郎を護衛しつつ向かう
第二行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:多少の疲労。マサキに多少の不信感
機体状況:弾数残りわずか
現在位置:F-6森
第一行動方針:遷次郎を護衛しつつG-6基地へ向かう
第二行動方針:ユーゼス打倒のた首輪の解析め仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)マサキと宙を重ねている節がある。
機体状態:良好
現在位置:F-6森
第一行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:マサキを守る
第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)
だが、解析結果は正しいと信じている】
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 補給完了
現在位置:G-6基地
第一行動方針:気を紛らわせるため、基地を探索
第二行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第三行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第四行動方針:アクセル・アルマー、木原マサキとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
パイロット状態:若干疲労、M9から降りている
機体状況:装甲表面が一部融解。補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:ヤザンを尋問し、情報を引き出す
第二行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第三行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:無し
パイロット状態:健康。頭痛あり、チェーンで縛り上げられている
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:隙を見て脱走(可能ならば機体も奪取)
第二行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:気絶中
機体状況:全体的にかなりの破損。右足は戦闘機動をおこなえば砕ける可能性あり
後頭部タイヤ破損、左腕損傷、三竜棍と双竜剣を失った。
現在位置:G-6基地(半地下ドッグ)
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔する者の排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
【二日目 17:00】
G−6エリア。今正に数多くの人間が集おうとしている基地の中、その機体は静かに眠り続けていた。
参加者各員に対する見せしめとして、その首輪を爆破された柿崎速雄。
本来は彼に支給されるはずのその機体は、乗り込む人間を与えられないまま今まで放置され続けていた。
覚醒人1号――
それはベターマンの調査を目的として、ユーゼスが意識的に配備した機体であった。
基地の片隅で僅かに埃を被りながら、覚醒人は新たな乗り手を待ち続ける。
果たして彼の機体が新たな乗り手に見付け出され、その力を発揮する時は来るのだろうか……。
【搭乗者無し 機体:覚醒人1号(ベターマン)
機体状況:良好】
【二日目 17:00】
74 :
悪魔は往く:2006/04/26(水) 13:32:06 ID:1XVuYHrq
どこまでも続く青空を、黒の悪魔は駆けて行った。
マシュマー・セロ。ハマーンの死を知り絶望に心囚われた彼は、あれからずっと探し続けていた。
討ち滅ぼすべき敵の存在と、そしてマシュマーにとっては命よりも重い存在――ハマーン・カーンその人を。
「あの方が……このような場所で、無残に屍を晒していて良いはずがない……。
見付けなければ……見付け出して、この手で葬って差し上げなければ……」
強化人間に特有の不安定な精神を抱え込みながらも、たった二つだけ人間的な感情が未だ彼には残っていた。
ハヤミブンタとミオ・サスガの二人に対する友情と、ハマーン・カーンに捧げた絶対の忠誠心。
その二つだけは殺意に支配された今であっても、変わる事無く残っていた。
「ハマーン様……」
戦火無き空の下、悪魔の乗り手は主を求める。
結果として、それが彼を戦いの中から遠ざける事になっていた……。
……そして、どれだけの時が経ったのだろうか。
数時間に及ぶ捜索の果てに、とうとうマシュマーは見付け出す。
B−1エリアの市街地において、己が仕える主の亡骸を。
「ハ……ハマーン……様…………」
無残と言うより他に無い亡骸を前に、マシュマーは愕然とした顔で呟きを洩らす。
……どうして、自分は間に合わなかったのか。
この力が、ディス・アストラナガンの力があれば、ハマーン様を守り抜く事など容易であったはずだ。
だが、何故なのか。
何故、守る事が出来なかったのか。
……何故、あの方がこのような無残な死に様を晒さなければならなかったのか。
「……ハマーン様。貴方様の無念は、この私が必ず晴らしてみせます」
その胸中に燃え盛る憎悪の炎とは裏腹に、ひどく落ち着いた声でマシュマーは言う。
皆殺しだ。
このゲームに乗った連中も、このゲームを考え付いた主催者も、この命を引き換えにしても必ず殺し尽くして見せる。
……だが、その前に一つだけ。
たった一つだけ、やらなければならない事がある。
「ですから、今は……ただ安らかにお眠り下さい……」
ディス・アストラナガンのコクピットにハマーンの亡骸を運びながら、マシュマーは主の魂に祈りを捧げる。
この方は、このような場所で無残な亡骸を晒していて良い方ではない。
だから、この私が弔って差し上げなければならないのだ。
……弔いの地は決まっていた。
A−3エリアに存在する、あの海だ。
ミオと出会い、ブンタと出会い、そして共に過ごした地。あの海を、あの方の墓所としよう。
……皆殺しはそれからだ。
「行きましょう……ハマーン様……」
そして、悪魔は空を駆ける。
そう……今だけは、敵を討ちぼす為にではなく……。
75 :
悪魔は往く:2006/04/26(水) 13:32:50 ID:1XVuYHrq
「あれからずっと誰にも会わないな……」
「……恐らく、俺達のように集団で行動している人間が多いと言う事なんだろう」
アクセルと別れてから、フォルカとレビはリュウセイの捜索を再び行い始めていた。
だが、捜索の再開から数時間が経過した今となっても、リュウセイどころか一人の参加者とは出会えていない。
……不安に、胸が騒ぐ。
こうしてもう二度と逢えないまま、お互いに死んでしまうのではないだろうかと。
フォルカは言う。生きているはずだと、逢えるはずだと。
だが、それでも心は騒ぐのだ。
その不安は、自分でも薄々とは気が付いている記憶の矛盾も原因の一つなのかもしれない。
落ち着いて物事を考える時間もあったからか、なんとなくだが少しずつ気付きかけてはいた。
自分の記憶には、矛盾がある。
それが具体的に何であるのかまでは、まだ自分では分からない。
だが……少しずつ、何かを掴みかけてはいるのだ。
そう、何かを……。
――その時だった。
「っ…………!?」
遙か彼方の空より湧き上がった、強烈で邪悪なプレッシャー。それを感じて、フォルカとレビは思わず息を呑んでいた。
「フォルカ!」
「ああ……このプレッシャー、只事ではっ……!」
それは悪魔を思わせる、黒い邪悪なシルエット。
こちらの存在を気に留める事もなく悠々と空を突き進み、悪魔は彼方に消えて行った。
「……運が良かったな、貴様ら」
ディス・アストラナガンのコクピットにて、マシュマーは無慈悲な声で呟く。
ゲームの参加者を皆殺しにする意思には変わり無い。
だが、今だけはやらなければならない事がある。
ハマーンの亡骸を腕に抱き、マシュマーは静かに目を閉じた。
76 :
悪魔は往く:2006/04/26(水) 13:33:38 ID:1XVuYHrq
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損
全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
現在位置:B-2
第一行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-2
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:B-2
第一行動方針:ハマーンの亡骸を弔う
第二行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【二日目 16:30】
77 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:00:45 ID:4jSAs6f5
ゴウッ!!
風を切るを音をあげ、ガイキングの拳がダイテツジンに向かう。
しかし、グラビティフィールドを形成し、防ぐ。同時にデスパーサイトを連射。
弱くなったフィールドにけりが入り、ダイテツジンが後ろに下がる。
「くっ…」
(あの鉄也君がそう簡単にこうなるわけが無い…何か理由があるんだ!止めなくては…!)
鉄也を止めるため、どうにか捌きながら戦っているが、押されているのは目に見えて明らかだった。
「どうした流竜馬!そろそろ本気で行くぞ!フェイスオープン!!」
ガイキングの顔が割れ、恐ろしい顔が露出した。その顔は、まさに悪鬼。
「まずはこれだ!ガイキングミサイル!」
ガイキングが高く飛び上がり、何十発もの無数のミサイルを吐き出す。
明らかに竜馬一人を狙ったものではない。後ろのボロボロの2人にもかなりの弾が向かっている!
「まずい!みんな固まってくれ!」
3人の盾になるべく、竜馬が声をかけ、フィールドを作りミサイルを防ぐ。
「頼むぞ!もってくれダイテツジン!」
グラビティフィールドはその性質上、実弾兵器は完全には防げない。少しずつダメージが蓄積していく。
ミサイルの嵐の爆発により煙が充満し、視界が奪われ、その煙を切り裂き、ガイキングの腕がゼロに迫る。
「こんなショートレンジに…!これしか…」
ゼロがマシンキャノンを打つが、ガイキングを止めることができない。そのままガイキングがゼロの頭を握りつぶした。
「リョウト君!伏せてくれ!」
頭を失ったゼロがフラフラとしゃがみこむ。そこにほぼゼロ距離のグラビティブラストを打つべく竜馬がそちらを向くが…
「アブショックライッ!」
強い光によって視界が消えた。しかし、そのままグラビティブラストを発射する。
「今度はこっち!?右腕が!」
視界を奪った隙にガイキングが距離をとる。ガイキングの原にはデスサイズの右腕が咥えられていた。
やはり、とんでもなく強い。
竜馬は強く思った。機体の力もあるだろう。しかし、やはり発想、技能、経験どれもが圧倒的だ。
ダイテツジンを強引にたたせ、ろくに動けない2人とガイキングの間に立つ。
「残念だが…ここまでだ。決めさせてもらう!」
足元に落ちていたダイターンザンバーを掴み、思い切り振りかぶった。
「いくぞ流竜馬…!これが究極の一撃だ!火車!カッタァァァーッ!」
ザンバーを足にはさみ、デスファイアーで火を纏いガイキングが高速回転で接近する!
「く…!テェェェッツジィィィン、ヴァァァリアァァァァッ!」
全力の力でフィールドを張る。しかし、それでも火車カッターは止まらない。ジリジリとこちらに確実に迫っていた。
78 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:01:45 ID:4jSAs6f5
ハッターが走る。
しかし、彼のついたとき、すでに状況は末期的に進行していた。
「ガール!これは…!」
目の前で極限の押し合いをするフレンド・リョーマの機体とオニの顔の機体。
「竜馬さんが、私たちをかばって…」
ハッターもまた軍人。その状況をすぐに理解した。
しかし、彼にどうすることもできない。あの巨体がぶつかり合う中に触れようものなら分解してしまうだろう。
しかし、絶対にフレンドを見放すわけにはいかない。
「どうする!?どうすればフレンドを助けられる!?」
ハッターは思案する。しかし、名案は浮かばない。想いはある。しかし、想いだけでは駄目なのだ。
武器さえあればどうにかできるかもしれないのに!状況は進行していく。どうしようもない。しかし、どうにかしたい!
「ハッターさん!?お願いします!竜馬さんを助けてください!」
そして、ハッターに電撃が走った。究極の武器を見つけた。しかし…
リオを、リョウトを、竜馬を見る。2人を守るため歯を食いしばる竜馬。涙を流すリオ。
「フレンドを救えず、ガールの涙をぬぐうこともできない、それで何が漢だ!」
そう、自分はMARZのはぐれ軍曹、イッシー・ハッターだ!
屈伸運動をしながらハッターが言った。
「踏み込みの速度は音速を超える…その更に上のスピードをもってすれば!」
それは、何かを確かめるような動きで
「砕けぬものなど何も無い!」
何かを味わうような動きだった。
ハッターが振り向かず、進む。
「ボーイ、ガールはきみのステディだな?漢なら、彼女を守ってやるんだ!」
「は…はい!」
「いい返事だ。では、さらば……!」
振り向かず、親指を立てて気持ちを示す。
「「え…?」」
2人が黙る。
「フレンド!すこし体を引け!助けるぞ!」
「え!?」
竜馬が驚きの声をあげた。
「急げ!」
言われるままに、機体を引いた。当然ガイキングはその隙を見逃さず切り裂くべく進む―――!
ハッターが体を前屈させる。
「チーフ!後を頼むぞォォォォォォ!」
ドォォォン!!
本来、限界のスピードを武器にのせ打ち出す。しかし、ハッターはその更の限界まで力を引き出し…
自らの体を武器として回転していたガイキングに突っ込んだ。
何倍もの質量と、勢いを持つはずのガイキングが吹き飛び、ガイキングほど背丈があるダイターンザンバーが砕け散る。
しかし、その代償も大きなものだった。
「ハッター!」
竜馬がハッターに駆け寄る。…上半身だけの。
「フレンド…か…安心しろ…もうすぐ…ブラザーが……来る…だか………ら……」
「ハッター…?」
ダイテツジンがハッターをゆする。しかし、もう何の反応も示さない。ひとみは力を失った。
たった一度も自らの身を案じることもせず、
仲間のためにイッシー・ハッターは散った。
79 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:03:14 ID:4jSAs6f5
「俺が…もっとしっかり戦っていれば…!」
顎を砕かんばかりに竜馬が食いしばる。
今の鉄也君は敵なのだ。それをどうにかなると思い込み、そのせいでハッターは…!
ダイテツジンがガイキングへ走る。
「鉄也君!君を倒す!」
「なるほど迷いを振り切ったか…ならば!」
こうなっては機体はボロボロとはいえどうなるか分からない。流竜馬とはそういう男なのだ。
ならば、一撃で決める!
「行くぞ流竜馬!この一撃で決める!」
「鉄也君…!今の君を放置はできない!」
竜馬も同じだ。長々と戦えばどれだけ2人に危険が及ぶか分からない。こちらも一発で決めるつもりだ。
ガンキングは右に、ダイテツジンが左へ夕日の空へ高く舞い上がり、叫びをあげる。
「ゲッタァーシャァァァァインッ!!」
デスファイアーをパライザーで分解し、全てを溶かす白い闇を纏う。
「ゲッター…?ならこちらも同じ手で相手になってやる!」
グラビティフィールドを最大で形成し、胸から打ち出す重力波を自らの後ろに流し、黒い光となる。
「鉄也君!いくぞ!」
「来い!シャァァァァインッ!!スパァァァァアアアアクッ!!」
血のように赤い夕日に重なるように、閃光が激突する!!
「エネルギー係数8000、12000、16000……!そんな!竜馬さん!機体が融解、いや誘爆します!」
下で天使が悲痛な声を放った。しかし、今の2人には聞こえていない。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」
一瞬たりとも操縦桿がぶれぬよう全力で固定する。今、この状態で相手より早く体を光から出そうとすれば
確実に相手に押しつぶされるだろう。つまり、これは機体と機体の力の勝負ではない。
お互いの限界をかけた精神力の勝負……!
ダイテツジンの肩が、ガイキングの左角が砕けていく。少しずつ内部の温度も上昇している。
破滅をかけた死の輝きは増すばかり。もはや夕日の輝きは一片たりとも見えなくる。
白と黒が鬩ぎ合い、その色の稲妻をあたり一面に降らせ続ける。
(くッ……)
竜馬の腕が、いや全身が不自然に震えだす。一気に汗まで噴出し始め、眼のかすみが出始めた。
ぶつかり合う当事者だから分かる。自分が押されていると。それでも、いま自分があきらめたらどうなる?
下の2人が死ぬことになるだろう。そんなことは…死んでいった彼のためにもできない!
80 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:03:50 ID:4jSAs6f5
(竜馬……)
どこからか、よく聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。しかし、周りには誰もいようはずも無い。
この超エネルギーの渦に入ることなど不可能だ。しかし、その声は確かにそこにあり……
そっと、操縦桿を支える腕に、手が重なった。その手もまた見たことがあった。
「まさか…ムサシ…なのか…?」
その言葉と同時に、暑さが、圧迫感が消えた。それどころか、時すら止まっているかのようだ。
(そうだ…だが、お前の知るムサシじゃない…ゲッター線に飲み込まれた…ゲッター線の可能性の一人…)
「何を言ってるんだムサシ!ゲッター線に飲み込まれる!?俺の知らない!?」
(竜馬…お前はあらゆる並行世界でゲッター線に選ばれた人間…この世界は解き放った・・・ゲッター線をお前に見せる)
「う!うわあああああああああ!!」
竜馬の頭の中に、よく知らないはずの、しかし過去から知り尽くした知識、記憶が濁流のように流れ込む。
インベーダー…メタルビースト…百鬼…恐竜帝国…真ゲッター…ドラゴン…真ドラゴン…悪魔のような未来…結果…
ゲッター太陽…顔に傷を負った隼人…インベーダーを抑える早乙女博士…そして…
―――エンペラー
「これが…これらがすべてゲッター線の力だというのか!?」
(そうだ…これらがゲッター線の発現の欠片…そしてこれが)
ムサシの言葉とともに、時の止まった世界にヒビが入る。その砕け散った世界には…
上下も無く、平衡感覚も無く、自分の感覚も無い。その世界で、竜馬は見た。
天文学的な数の何かがどこか彼方、どこでもない場所で戦いつづけるのを。
何かとはいったい何か?そう…姿、形は違えど間違うはずも無い。ゲッターロボそのもの。
「これが…」
(そう、これが…進化だ…そしてこれこそが……)
――― ゲッター線――――
「!リョウト君…木が…草が…体が…」
うつむいていたリオがその異変を察知し、上を向いていたリョウトに声をかけた。
「リオ…この緑色の光はいったい?」
地面生えるあらゆる生物から緑色の煙のような光が立ち上り、ダイテツジンに向かっていた。
ボロボロにひび割れたダイテツジンに無数の光が吸い込まれ…
「ゲッターシャイン、シャインスパーク……今なら、さっき鉄也君の叫んだ言葉がわかる…」
竜馬からも緑色の輝きが周囲に広がっていく。
「見せてやる…!ゲッターの恐ろしさをな…!」
本来知らないはずの知識。そして、本来彼が未来で叫ぶことになるはずだった言葉。そう、
「ゲッタァァァーシャァァァィイン!」
ダイテツジンが砕け散った。そしてその中から、緑の輝きを纏った真の姿があらわになる!
81 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:04:26 ID:4jSAs6f5
「なんだと…まさかその姿は…!」
さしもの鉄也も驚きの声をあげた。その姿は、確実に見覚えが会った。多少細身になり細部こそ異なっていたが、
彼とともに戦ったあの姿。
「ゲッター1だと…!」
ゲッター線に包まれたゲッター1が、あるべきはずのない力を解放する。
「シャイン…」
(まずい!)
鉄也の背中に強烈な悪寒が走る。生物全てが持つ生存本能。それがはっきりと警告を放っていた。
機体がつぶれることを覚悟で光から全力で避けようとするが…
「スパァァァーックッ!!」
一瞬だった。
抵抗も、音も無い。ガイキングには、右肘から上は体があった。
しかしその一瞬で、ガイキングの右胸から右は、跡形も無く消滅した。…流竜馬とともに。
この瞬間、「この」流竜馬は消え去った。あらゆる世界から。
「流竜馬がかの…無限の闘いの領域へと消えた…これが……ゲッター線の発現か…」
ヘルモーズからその様子を畏怖と好奇心を綯い交ぜにした眼で眺めていたユーゼスが一人呟いた。
「今の私でも踏み込めぬ領域…私ではその一端を垣間見ることが精一杯か」
どこか悲しげにユーゼスが言った。そう、自分は選ばれていない。流竜馬のようにはなれないはずだった。
だが今の自分には力がある。知ることにより、近づくことはできるはずだ。そう、近づいて、近づいた果てに…なることも可能なはずだ。
「力のその一端だけでも見ることができた。このデータと…ゲッター線を十分に浴びたガイキング、
そして偶然の偏りを引き起こす、特異点を持つグランゾン。これらがあれば、ゲッター線を得られるかもしれん。」
カメラには、右胸から先全てを失ったガイキングが立ち上がり、追いついたグランゾンと向き合っていた。
「さぁ見せてくれ…人の力…進化の力…あらゆる力の源を…無限力の一端を…」
82 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 08:05:43 ID:4jSAs6f5
【流竜馬 搭乗機体:真・ゲッター1(ゲッターロボ)
パイロット状態:ゲームから消滅
機体状況:???
現在位置:???】
リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:健康
機体状態:左翼小破、右翼消滅 、頭部消滅
現在位置:C−1
第1行動方針:リオとの合流
第2行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:良好。
機体状況:全体的に破損、武器消失、 右腕消滅。
現在位置:C-1
第一行動方針:アスカの捜索 】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右胸から先消失。ダイターンザンバー所持
戦闘続行可
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
パイロット状態:死亡
機体状況:下半身消滅】
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲、やや疲れ
機体状況:外傷はなし、内部機器類、(レーダーやバリアなど)に異常、 右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C-1
第一行動方針:ハッター達の援護に向かう
第二行動方針:マサキを倒す
第三行動方針:助けられる人は助ける
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【二日目 15:50】
83 :
ゲッター線:2006/04/27(木) 18:47:20 ID:1l97YjOi
こちらに差し替えておいてください
【流竜馬 搭乗機体:真・ゲッター1(ゲッターロボ)
パイロット状態:ゲームから消滅
機体状況:EN全快、無傷
現在位置:C−1】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右胸から先消失 戦闘続行可
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
再三すみません、
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右胸から先消失 戦闘続行可
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ】
【流竜馬 搭乗機体:真・ゲッター1(ゲッターロボ)
パイロット状態:ゲームから消滅
機体状況:???
現在位置:???】
あと
>>77の
視界を奪った隙にガイキングが距離をとる。ガイキングの原にはデスサイズの右腕が咥えられていた。
を
視界を奪った隙にガイキングが距離をとる。ガイキングの腹にはデスサイズの右腕が咥えられていた。
に変更をお願いします。
「ハロ、ハロ!ミトメタクナーイ!」
B−4の大地を、跳ね回り、転がりながら進む……一体のハロ。
ピンク色をしたそれは元々はアスラン=ザラが作り、ラクス=クラインの所有していたものであった。
しかし気付けば、どういう経緯か他のたくさんのハロと一緒に、ジャスティスガンダムのコクピットにぶち込まれていた。
そして搭乗者であるヴィンデル=マウザーをおちょくりながら行動を共にしていた。
その後、B−3でのマジンカイザーとの戦いの後、ジャスティスは自爆。仲間の大半は散っていった。
ヴィンデルはマジンカイザーに乗り換え、無事だったハロと共にその場を離れていった。
その際ヴィンデルに気付かれず、その場に取り残されていたのがこのピンクハロだったりする。
「ハロ!ハロ!オレハドコカラキテ、ソシテ、ドコヘユクノダロォカ、時ノメイズ〜♪」
ラクスのもとにいた時に比べ、やたら雄弁に歌うピンクハロ。
他のハロ軍団達といい、ユーゼス辺りに変なプログラムでも組み込まれたのだろうか。
とにかく、行く当てもなく、ただひたすら跳ね回り……
「何だ?あの丸いのは?」
通りすがりの、海賊のようなガンダムに発見された。
(熱源反応からして、爆弾物などの可能性はなさそうだが……)
クロスボーンガンダムは跪き、ハロに向かって右手を差し伸べる。
その手に元気よく飛び乗ってくるハロ。その姿にアクセル=アルマーは些か毒気を抜かれた。
(見る限り、ただの玩具らしいな……しかし何故こんな所に……)
その時、彼の考察を遮るかのように、不意にレーダーが反応した。
捉えた反応は兵器にしては妙に微弱だが、間違いなく他の参加者の機体である。
コクピット内に緊張が走る。
(好戦的な相手でなければよいのだがな……)
接近する敵影の存在に気を取られ、アクセルのハロへの注意は逸れていた。
それが思わぬ事態を引き起こすことになるとは……
「なっ!?ハッチが!?故障か!?」
突然コクピットのハッチが開き始める。外側から開けられたというのか?
その開いたハッチの隙間から、丸い物体が飛び込んでくる。
「カミューラ=ランバンノ、カタキィィィィィィィィ!!!!」」
「な、何ぃぃぃっ!?」
このハロは軍艦の電子ロックすら解除出来る高度な開錠能力を何故か所有している。
コクピットを外側から開けたハロは弾丸のごとく飛び掛り、アクセルの顔面にクリティカルヒットした。
「ぶっ!?な、何だこいつは……くっ、今はこんなことをしている場合では……」
「ハニワ幻人、死ネェ!!!」
振り払うものの、ハロは親の仇のごとく何度も何度もアクセルに向けて体当たりしてくるではないか。
そうこうしているうちにも敵は確実に迫ってきている。
こんな状況で、もし相手が好戦的だったならば……
「ちっ、下がってろ!」
「ハロハロ!一方的ニ殴ラレル痛サト怖サヲ教エテヤロウカ〜〜〜!!」
「ぐっ!?やめろ!少し黙って……うわっあいたたたっ!やめろと言ってるだろうがっっ!!」
コクピットに間抜けな悲鳴が響く。
そこには元シャドウミラー幹部の面影は微塵もなく、記憶を失った時と同じ間抜けな男の姿があるのみだった。
そして、そんな彼に冷たいツッコミが入る。
「あんた、何やってんの?」
振り向くと、スクラップ製の変なロボット……ボスボロットが、白い目でこちらを見ていた。
「そうだったのか……」
ボスボロットに乗っていたのは、ミオ=サスガという年端も行かない少女であった。
幸い、彼女にはには戦闘の意思はなかったため、大した諍いもなく話し合いに持ち込むことができた。
ボスボロットの見た目に、変な丸い物体に振り回されるパイロットに、お互い戦意を抜かれたというのも大きいのだが。
アクセルとミオは機体を降り、生身でそれぞれの素性を明かし合っていた。
ミオの目的。まず仲間であるプレシア=ゼノキサスという少女と、このゲームで出会ったというマシュマー=セロという男を探し出すこと。
そして、共に戦える仲間を探すこと。このゲームに徹底抗戦するために。
「というわけで、どう?あの変態仮面を倒すために、一緒に青春を燃やしてみない?」
「何かの勧誘か……しかし奴に立ち向かうにしても、機体がこんなスクラップでは……」
「もう、だからこうして仲間探してんじゃない」
「ソウダ!MSノ性能ノ差ガ戦力ノ決定的ナ差デハ……」
「お前は黙っていろ」
いちいち突っかかってくるハロを黙らせて、アクセルは考える。どうしたものか……
自分の当面の目的はヴィンデルの捜索とその野望の阻止。だが最終的な目的はミオと変わりない。
とはいえ、正直彼女は戦力としては心もとない。むしろ足手まといになる可能性が高いだろう。
かといって、こんなガラクタに乗せられた、それも年端も行かぬ少女を置いていけるだろうか。
(見捨てることもできん、か)
俺も甘くなったかな……もし記憶をなくす以前の自分だったらどうだっただろうか――などと、ふと考える。
「ナニ感傷ニ浸ッテル!!」
浸る間もなく、アクセルの後頭部にハロの体当たりがヒットする。
「ぐっ!頼むから黙っててくれ!」
「あははっ、あんた達面白いねぇ〜」
「ホメラレタ!ナンデヤネン!」
ハロは嬉しそうにミオの周りを跳ね回っている。まるで彼女になついたかのように。
「この子かわい〜。ねぇねぇ、この子なんていうの?」
「いや……今しがたそこで拾ったばかりなんだが……」
「ハロ、ハロ!ハロガコイツヲ拾ッテヤッタンダ!」
「おい……」
「へぇ〜、言うじゃない。ハロっていうんだ、いい子いい子」
「ミオ、見ル目アル!コイツヤヴィンデルノヨウナヘタレトハ違ウ!」
「誰がヘタ……ヴィンデルだと!?」
まさかこいつの口からその名が出てくるとは。アクセルは思わずハロを問い詰める。
「おい、お前奴を知っているのか!?答えろ!!」
「…………(゜Д゜)ハァ?」
あまりにも徹底的に相手をなめている態度に、さすがのアクセルも切れかけていた。
「このまま跡形なく破壊してやろうか……」
「ヤメロ。ヴィンデルノ情報持ッテルノ、ハロダケ」
「ぐっ!!」
このハロは何故アクセルをこうまで目の仇にしているのだろうか。
……今でこそヴィンデルの思想を否定しているとはいえ、アクセルも元はシャドウミラーの一員である。
自分を置いてけぼりにしたヴィンデルと、少なからず同じ匂いがしたからなのかもしれない。根拠は無いが。
「ハロちゃん、そんじゃあたしにだけ詳しく話してくんない?」
「話ス!ヴィンデル、今朝マデハロ達ト一緒ニイタ!」
「俺の時とはえらく態度が違うじゃないか……」
「ボウヤダカラサ!」
「ふーん……ところでハロ達ってことは、他にも誰かいたの?」
「ハロ!ハロ、仲間イッパイイタ!デモヴィンデルニ仲間イッパイ殺サレタ!!オンドゥルルラギッタンディスカー、ヴィンデルザァーン!」
こうは言っているが、ジャスティスを自爆させたのは他ならぬハロ達の意思であることを再確認しておく。
「そうか……それで奴のいb」
「ウルサイ、イッテヨシ!オマエもヴィンデルモケダモノ以下ダ!ケダモノ以下ダ!」
(なんでこうまで言われなきゃならない……)
こんな玩具ごときにこの言われよう、アクセルは無意識に凹んできていた。
ヴィンデル、ひょっとしてお前も同じような目にあっていたのか……などと考えてしまう。
実は彼の場合、アクセルより遥かに酷い目に合わされていたりするのだが……
ハロとシャドウミラーの人間は何か相性が悪かったりするのだろうか。
「ハロちゃん、そのヴィンデルってのとどこで別れたか、わかる?」
「ハロ!バッチリ!」
「よし、そんじゃあたし達をそこまで案内してちょうだい!」
「ガッテンダ!」
アクセルは驚いた。彼女の言葉から察するに、自分のヴィンデル捜索に協力してくれると言っているようなものだが……?
「おい、そんな勝手に……」
「いいじゃん、ヴィンデルってのを探してるんでしょ?せっかく手掛かり見つけたんだし、行かなきゃ」
「それはそうだが……しかしいいのか?お前も探し人がいるのだろう?」
「そうだけど……こっちは何のアテもないしね」
マシュマーがミオとブンタのもとを離れたのは朝の7時。もう既に8時間が経過しようとしている。
このまま大した手掛かりもなくこのままマシュマーを追ったところで、追いつけるとは思えない。
マシュマーが心配ではあったが、今は彼の無事を信じるしかない。
プレシアもそうだ。ゲームが始まって今まで、何の情報も無い。
もっとも、既に彼女が死んでいることなど今のミオには知る由も無いが。
とにかく、今は手掛かりのあったヴィンデルという男を捜したほうが、まだ見つけられる可能性はある。
話した限り、このアクセルという男は信頼できると直感的に思えた。
「せっかく仲間になってくれたし、それくらい協力しなきゃね〜」
(まだ誰も仲間になるとは……いや、それも構わんか)
「サスガ師匠!ソノ寛大サ、惚レ直シマッセ!!」
「何だ?師匠ってのは……」
「ワテラノ世界デ最上級ノ敬称ダ。師匠ガ否ト言エバタトエソレガ正解トシテモ間違イニナル!
ソレガコノ世界デノ掟ナンヤ!」
「どこの世界だ……」
「この子わかってるじゃない!よっしゃ、とにかくこのハロちゃんの情報からそのヴィンデルって奴を探しに行くわよ!」
「マカセトクンナハレ、師匠!」
言動がいつの間にか関西弁になっている。しかも微妙に胡散臭い。
誰だこんな歪んだプログラムを組み込んだ奴は。ユーゼスか?あるいは元から組み込まれて……
いややめとこう、それを考察したところで意味はない。
ハロの案内に従って、クロスボーンガンダムとボスボロットは北上する。
「やれやれ……突然変な連中に遭遇するようになったな……」
コクピットの中で、アクセルは一人呟く。
あのミオという娘、おちゃらけてはいるようだが、どこか無理して振舞っていたようにも思えた。
彼女はこのゲームで知り合い、あるいは知り合った仲間を失ったのだろうか。
あるいは、望まずして誰かを手にかけてしまったのかもしれない。
いや、もしかするとこの場に呼ばれる以前からも……この子は人の死を身近で何度も目の当たりにしてきたのではないか?
それも、戦士として。命のやり取りを肌で感じてきていたのではないか?
彼女の瞳からは強い意志が、使命感にも似たような確固たる意志が感じられた。
それは一朝一夕でできるような瞳じゃない。少なからず、死という壁を乗り越えてきた者でなければできないだろう。
(そうか……この子の元いた世界も、戦争が起こっていたのかもしれんな……)
「ほらほら、アクセルさん!早くしないと置いてっちゃうよ〜」
「わかったわかった……」
こうして見ると普通の女の子だ。いや、この極限状況で正常を保てるのは、むしろ普通とは呼べないだろうが。
(強いな……この歳の女の子にしては、精神的に強すぎる。
こんな女の子にこれだけの覚悟を強いるような、戦争……ましてやそれが日常的に起こる世界など……
やはり間違っているのさ、ヴィンデル……たぶん、な……)
「ハロハロ!ホナ行キマヒョカ、師匠!」
「よっしゃ!首洗って待ってなさいよ、怪人変態仮面!」
気合一発、ライフル振り回しつつ機体を進めるミオ。
いつまでも泣いてばかりはいられない。ブンタの死を無駄にしないためにも。
生き残る。そしてこのゲームをぶっ潰し、あの変態仮面もぶっ倒す。
自分ひとりでは無理でも、マシュマーやプレシア、そして彼に抗おうとする仲間を集めてみんなで協力すれば……
今までも自分達はそうやって危機を切り抜けてきた。だから今度だって。
そうすることが彼へのせめてもの手向けであり、同時に――自分の義務でもある。
そう、魔装機神操者としての義務。それは世界存続の危機に際しては、全てを捨てて立ち向かう事。
このゲームが世界の存続に関わるかどうかは知らない。だが、魔装機神はこういう悲劇を食い止めるために
造られたのではなかったか。ここにザムジードはないが、その使命は変わらない。
だからもう逃げずに戦う、この悪夢を終わらせるために。魔装機神操者の、名にかけて。
(だから……見ててね、ブンちゃん!)
【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:B-4
パイロット状況:記憶回復、良好
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
シザー・アンカー破損、弾薬残り僅か
第一行動方針:ヴィンデル・マウザーをこの手で止める
第二行動方針:ハロからヴィンデルの情報を手に入れる
最終行動方針:ゲームから脱出 】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
現在位置:B-4
パイロット状態:良好
機体状況:良好 ビームショットライフル装備(エネルギー残少)
第一行動方針:アクセルと行動、ハロの案内に従い北上
第二行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す
最終行動方針:主催者を打倒する
備考1:ブライガーのマニュアルを所持(軽く目を通した)
備考2:居住空間のTVを失った
備考3:ピンクハロを所持(人格プログラムが矯正されている……らしい?)】
同時刻。
ハロがミオ達を導く先、ジャスティスとマジンカイザーの戦ったあの場所。
そこで突如、新たな異変が生じていた。
墓標代わりに置かれたジャスティスの残骸。それが地面へと沈んでいく……
いや、地面の下の「彼ら」に取り込まれているのだ。
「彼ら」は機能を停止したはずだった。しかし、どういうわけか活動を始めている。
それも、本来「彼ら」が行うはずのない動きを。
一体「彼ら」に何が起きたのか。何故このような異変が起きているのか。
「彼ら」本体に何らかの仕掛けがあったのかもしれない。でなければ、他に考えられる要素は……
……いや、一つだけあった。
ゲッター線の発現。
異変が始まった時間帯、それはまさしく流竜馬がゲッターと共に消えた時とほぼ同時刻であった。
これを偶然と片付けてよいものだろうか。「彼ら」はゲッター線に反応して、このような異変を引き起こしているのではないか。
しかし何故、本来ただのマスコットでしかない「彼ら」が?
いや、そもそもなぜ「彼ら」は、何のためにジャスティスのコクピットに配置されていたのだろうか?
何故このゲームに「彼ら」はいたのだろうか。それには何らかの意味があったのではないか?
それを知る術は、今は無い。
今、ジャスティスは……地面の下に眠る「彼ら」に、完全に「食らい尽くされた」。
そして再び、その場を沈黙が支配する。嵐の前の静けさとも呼べるような、沈黙が。
この場で何かが起きようとしている。
ユーゼスすらも……いや、あるいは無限力―アカシックレコードすらも想定していないかもしれない、何かが。
それが何であるか、今は知る由もない……
「アツクルシイナア、ココ……オーイ、出シテクダサイヨ、ネェ……」
【二日目 16:00】
93 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:21:44 ID:2rOLQG1G
【二日目 15:50】
セレーナは今、東へと――
東にある離れ小島へと向かっていた。
「エルマ、現在地はどうなっている?」
「只今D−1の南東部です、セレーナさん」
「そう、ならあと少しね……さっきの男の行ったとおりならそこに彼がいるはずよ」
そう、彼女は今、自分が探している相手
現時点で最も信頼できる相手である、イングラムのもとへと向かっていた。
何のため?――
もちろん、仲間を得るためにである。
この、ふざけたゲームを打ち崩しユーゼスから自分の求める情報を引き出すためである。
「彼は大丈夫でしょうか?」
エルマが尋ねる。
「……わからないわ……でも彼ほどの腕前ならきっと……」
だが確信はなかった。
嫌な胸騒ぎがしている。
あの、頭に翼をもった機体を見て以来ずっとだ。
「ええ、セレーナさん…もちろんイングラムさんの事でもありますが、先程の――」
エルマが続ける。
「ああ、ガルドのことね」
セレーナが返事を返す。
そして思い浮かべた。
その相手の顔を――
声や顔つきなどは全然違う――、しかし何処となくイングラムと似た雰囲気と目つきをした男のことを――
話は数刻前にさかのぼる、
セレーナはECSを解除し、目前の機体、エステバリスに接触をはかったのだ。
いくつかのやり取りはあったものの、会話は滞りなく行われ
互いに、情報の交換を行った。
94 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:23:12 ID:2rOLQG1G
彼の探していた相手――(イサム、プレシア、チーフといっただろうか)には
彼女は心当たりはなかった。
しかし、その男は自分の探している男のうち、一人を知っていたのだ。
聞けば、ついさっき会ってきたばかりだと言う。
その言葉にセレーナは安堵しホッと、息を吐き出した。
まだ自分の探し人を見つけていないガルドには悪かったが、喜ばずにはいられなかった。
別れ際、彼女は自分と仲間にならないかとガルドに持ちかけた。
信頼できる相手だと判断したのだ。
だが、しかし――
彼は少し不器用に笑い、その誘いを断った。
自分にはまだやることがあるのだと言う。
セレーナはそれを理解し、無理強いしなかった。
探し人の安否を確認していない以上仕方の無いことだと思ったのだ。
自分は一刻も早くイングラムと合流したかった。
ガルドについていくわけにはいかない。
もっとも、ガルドには人探しのほかにもやることはあったのだが――
即ち、首輪の解除及び、空間を制御している機械を発見することである。
実際、首輪を解除しようとしている二人組みの話をセレーナがした時
ガルドは、なみなみならぬ反応を示した。
「F-6……か」
彼はその場所を再確認し、最後にセレーナに告げた。
自分のやるべきことが全て片付き、その時点でなお自分が生きていたならば――
そのときまた会おうと、
「大丈夫よ、彼も…きっと……」
セレーナが答えた。
<何か確証があるのですか?>
それを受けてアルが尋ねる。
その問いに彼女は少し困ったように笑った、そして答えを返す
「ああいう眼をした男はね、強い物なのよ……」
アーバレスとはE-1エリアへとさしかかろうとしていた。
95 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:24:24 ID:2rOLQG1G
【二日目 15:48】
「うぐぉお……」
鉄也はうめき、そして状況を確認していた。
何が起こったのか――
自分をここまで追い込んだ相手はいったいどうなったのか――
あたりを見回す、しかしその相手はどこにもいない。
「そんな…竜馬さん?……竜馬さん!?」
声が聞こえる。
どうやら、奴の仲間も異変に気づいたようだ。
その声から困惑が感じ取れた。
何がなんだかわけがわからないのだろう、
無理もない――
ついさっき、いきなり竜馬の機体が変化したと思えば今のこの状況なのだから。
だが――
鉄也にはわかった。いや、そう推測した――
ゲッターのデータは彼が元の世界にいたとき、研究所で見せてもらっていたのだ
ミケーネと戦いにくれるさなか、同じように日本を攻めてくる別の組織
そしてそれと対抗するために新たに開発された、ゲッターG
そしてそのエネルギーや武器の仕組み、その危険性を――
だからこそ彼は知っていたのだ、その技の名を
すなわち、シャインスパークを
この武器は諸刃の剣、使用を誤るとパイロットにすら影響が及ぶということを――
「そうか、そういうことか……」
鉄也は呟く
結果として自分は勝ったのだ、
竜馬は消滅し、この世界から消えていなくなった。
ならば――
再び彼の眼に光が宿る、しかしそれは暗い闇のような光だ
そして新たな獲物を探し、その焦点が狭まる。
この唐突の変化に戸惑い、迂闊にもその相手は自ら近づいてきていた。
96 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:25:41 ID:2rOLQG1G
「リオォォォ!避けるんだぁぁぁ!!」
あたりの静けさを破り、リョウトが声を荒げた。
だが、遅い
「えっ?」
それだけだった、それだけを言うか否やデスサイズは砕け散る。
ガイキングの顔からミサイルが打ち出されていたのだ、
「リィオォォォォォォォォォオオ!!!」
リョウトが叫ぶ、そして鉄くずが紫電を含んだ爆風と共に舞い上がった
彼女はコクピットから投げ出され、全身を地面にうちつけていた。
手が、足が、おかしな方向を向いている。
よろよろと、起き上がろうと試み、そして再び横たわった。気を失ったのだ。
「貴様ぁ!よくも…よくも……」
リョウトがガイキングに恨みの眼差しをむけ、そう告げる
しかし、その先を言う暇はなかった、次は自分の番だ
目前にミサイルが迫る。
何とか交わそうとしたが、ミサイルは足を砕きガンダムを完全に行動不能とした。
「俺の勝ちだな……流 竜馬」そう呟き
まずはと、地面に倒れこんだリオへと狙いを向ける。
「やめろぉぉぉ!やめてくれぇぇぇぇ!!」
リョウトが喚く
「リオはもう戦えやしないんだ!殺さないでくれぇぇぇぇ!!」
必死に、もはや満足に動くことのできなくなったウイングゼロでもがく。
「ほう、ならばお前が先に死ぬというのか?……だがな!この世界にいる以上は
いずれ全員死ぬのだ、俺を除いてな……遅いか、早いかの違いにしかならん!」
鉄也が冷酷に告げる。
リョウトは息を呑んだ……
「しかし、お前がそうまで言うのであれば……いいだろう!お前が先に逝け!!」
ガイキングが向きを倒れたウイングゼロに向ける。
だが、その時――
(鉄也君……)
そう声が聞こえた。
(幻聴か?……)鉄也はそう思ったが、さらに続けて変化がおきる。
突然のブラックアウト――
コクピットにいるはずの自分が様々な世界を――
様々な戦いを見ている――
いや、頭の中に映像が流れ込んでくる。
「これは……いったい……!!」
そう呟いた時、再び声が聞こえる。今度は近い――
(鉄也君、君は……)
「!!」
鉄也は目を見張った、いつの間にかあたりは光に包まれ、そこに先ほどまで戦っていた男――
流 竜馬がそこにいた。
97 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:26:36 ID:2rOLQG1G
【二日目 :??】
『鉄也君、君はどうしてしまったのだと言うんだ』
その相手は自分にささやきかける
『なぜ、こんなゲームに乗って殺し合いをしているんだ……自分が何をやっているかわかっているのか』
しばらくの沈黙――
そして――
「くっくっく……フハハハハハハハ!!」
鉄也が笑い出す
「消えたと思った奴が、今度はいきなり目の前に現れ、何かと思えばそんな話か……
わざわざご苦労なことだ……」
そして言葉を続ける……
竜馬は黙っていた。
「先ほども同じ事を言っただろう。俺はボスの無念をはらす!そして元の世界に戻り必ずミケーネを倒す、と……
俺はな、流竜馬…そのためならば悪にでも……鬼にでもなってやろうと決めたのだ!
ボスのためにも、元の世界の平和を守るためにもな!」
鉄也が沈んだ声でそう、告げる。
『本当にそうなのか、そう思っているのか』
竜馬が聞く。そして静かに喋りだした。
『君はもう少し賢いと思っていた……』
「なに!?」
鉄也が思わず声を荒げる。
98 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:28:00 ID:2rOLQG1G
『君とボスとの間でなにがあったのかはわからない、けどこんなこと本当にボスが望んでいると思っているのか!!』
「!!」
『ボスが、自分の為に殺し合いを望むような卑劣な男だったのかと聞いている!!』
鉄也が絶句する。
『君のやっていることはミケーネや恐竜帝国と何も変わらない!
そんな男がたとえ奴らを打ち倒したとして、本当に平和が戻ると思っているのか!!』
竜馬が続けて捲し立てる。その声は鋭く、力強く、怒りと悲しみを宿していた。
「ボスは…俺は…くっ、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!」
鉄也の脳裏にこれまでのことが断片的に流れ込んでいた。
宿敵、戦友、そしてこの世界に連れてこられた後のこと、ボスの死――
そして、そこで映像は途切れた。
鉄也はおもわずうずくまっていた。
様々な…
様々な、仲間との思い出が思い返されていたのだ。
そして、いくらかの間隔をおいて再び立ち上がる、その息は荒くなっていた。
「お前に…お前に何がわかる!……この俺の……仲間を…ボスを失った気持ちの何がわかるというのだ!」
くぐもった瞳のままそう尋ね返す。
その眼は、両手は、わなわなと震えている。
『わかるとも……』
竜馬は答えた。
何っ、と相手を見返すとそこには、新しくもう一人男が竜馬の側に立っていた。
軍人のような迷彩チックな服に、たくましい筋肉をした、テンガロンハットを被った男が――
直にわかった、その男は自分によって命を終えた相手であることを――
先ほど自分に突っ込んで仲間を助け砕け散った相手であることを――
「くっ……成る程、そうだったな……だがな、それならばお前にはわかっているのだろう?
俺が、殺した相手が憎いのだろう!……仲間の無念を晴らしてやりたいのだろう!!」
思わずそう言葉を返す。
だが――
『それは、少し違うぞ!』
竜馬の変わりにハッターがそう告げる
99 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:30:50 ID:2rOLQG1G
鉄也はハッターを見た。
相手は続ける。
『確かに、我が友は、俺の心を受け継いだ、俺の死を無駄にしないためにも戦ったのだ……
だがな!それは憎しみのためではない!純粋にただ仲間の為に力をつくしたのだ!』
その言葉を受けて竜馬が言葉を付け足す。
『だがしかし、鉄也君!君の行いは間違っている。……君はボスのために、仲間のために行動しているといったな。
だがな、それは心を受け継いだものではない!!』
『ボスはそんなこと喜びはしない!君はボスの無念を晴らしているのではない!!
自分の怒りを、無念を晴らしているのだ。……ボスを理由にしているのだ、自分勝手な独りよがりの振る舞いだ!!……』
「な……に……?」
鉄也が眼を見開く
『違うというのなら、他に何か理由があるというのなら……
答えて見せろ!剣鉄也!君がむやみに人の命を、思いを抱えた人間の命を奪い取る、その理由を!!』
竜馬が吼えた。
鉄也は黙っていた。
ただ、黙って己が両腕を震わせていた。
痛いほどの沈黙――
それは永遠のものではないかと思うほど続いた――
そして、唐突に彼は返事を返す。
腕の震えはとまっていた、今はただダランと力なくぶら下がっていた。
「そうだ……お前の言うとおりだ、流 竜馬……俺は……自分のために戦い……
友をその言い訳にしていた……性懲りもなくな……」
フフっと自分を皮肉るかのように彼は続ける。
「俺は何よりも自分が憎かったのだ……仲間を……ボスを死なせてしまった自分を……
だが俺はそれを認めることができなかった……自らを狂気とかして、暴れることでしかできなかったのだ。
そして自分をどうしようもない悪に仕立て上げることでしか、いつか自分を打ち負かしてくれる相手の出現を待つことでしか、それを表現できなかったのだ」
鉄也が眼を閉じる、そして再びしばらくの沈黙が流れた。
『鉄也君……』
竜馬は声をかけようとした。
だがその時彼は気づいた、目前の相手が再び両腕を震わせていることを。
鉄也が顔を上げる、その眼には再び漆黒の――
悪魔の決意を宿していた――
100 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:32:16 ID:2rOLQG1G
だがな――
彼は言葉を続ける
「だがな!もはや戻ることなどできん!!」
『鉄也君!?』
竜馬が驚きの声をあげる。
だが鉄也はそれを無視し一気に捲し立てた。
「今更、どんな面を引っさげて光の道に戻れるというのだ!!」
「そうだ、俺がこのようなことをしても、確かにボスは喜ばん!他の仲間たちも同じことだろう……
だがな、だがそれでも俺は一向に構わん!!」
竜馬は言葉を失う。
「たとえ一人孤立しようとも、たとえどれだけ泥にまみれようとも、俺は必ずミケーネを撃ち滅ぼしてやる!」
「このゲームを生き抜いてな!」
「全てが終わった時、そのとき俺が平和の邪魔になるというのであれば……そうなれば
その時、俺も死ねばいい!」
『そんな、鉄也君……それはだめだ……悲しすぎる!
君も…君に殺される相手も……君の仲間も………』
だが――
それを打ち消すかのように鉄也はさらに声をあげる。
「所詮、その世界は闘争にまみれている!貴様も見たのだろう!?ここに来る時にその様を!」
竜馬が息を呑む。
「力のある奴が生き残り、そうでない奴は消えていく。それが心理だ!
俺を止めることができるのは俺よりさらに力のあるものだけだ!
だから竜馬君!そう思うのであれば、俺を哀れだと思うのであれば
お前が俺を止めて見せろ!!それが俺の答えだぁぁぁ!!!」
そして、その鉄也の決意に導かれるかのように――
世界は、再び光で包まれていった
101 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:33:51 ID:2rOLQG1G
【二日目 15:49】
瞬間――
周りの景色が変わり行く――
竜馬が、ハッターが消え、世界が、時間がもとへと戻る。
そして――
目の前に現実が戻ってきてた。
依然自分はリョウトを見下ろして狙いを定めていた。
通信機を通して相手の荒い息遣いが聞き取れる。
そして、自分に向かって言葉を発してくる。
「そんなのって……そんなのってあるかよぉぉぉ!……死ぬような目にあって、
やっと再開して、そして……すぐにこれかよ!!」
鉄也はその視線をリョウトへと向ける。
「僕は、僕は、彼女を守ってさえやれればよかったのに!!」
どうやら先ほどまでの会話の続きのようだ。
おそらく時間はものの一秒もたっていなかったのだろう。
「いやだ……死んでたまるものか……たとえ戦えなくなったって……残った時間が少なくたって……。
僕はまだ……リオに何も言ってはいやしないんだ……」
相手はなおも続ける。やや錯乱しているようだ、話にとりとめが無い。
だが、この男がなにを言いたいのかは少なからず伝わってきていた。
鉄也はしばらく考え、そして言い放つ。
「……いいだろう、たしかに貴様らに戦える手段などもはや無い、それで生き延びられると
いうのであればそうして見せろ!かつての友に免じて……ここはひいてやる」
「えっ!?」
リョウトは驚いた、たとえどんなに自分の気持ちを出してみたところで
この男は自分たちを必ず殺すだろうと、そう確信していたのだ。
実際、さっきまでの鉄也ならばそうしたであろう……
いったいこのわずかな時間に彼が何を思い至ったというのか。
リョウトにはわかるよしはなかった。
「わかったら、さっさと降りろ!!その機体は一応、破壊しておく!」
「!!…………うわぁぁぁぁぁ!」
ガイキングがさらに歩み寄り、リョウトはあわててコクピットから飛び出した。
すぐさま、ミサイルが打ち込まれる。
ウイングゼロは遂にその五体をなくし、リョウトは爆風で地面を転がり、頭をたたきつけ気を失った。
そして――
「あと一人か……」
そう呟きガイキングは向きを変えた。
そこには、こちらへと向かってくる一機の機体、数時間前に逃した相手、グランゾンが向かってきていた――
102 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:34:53 ID:2rOLQG1G
【二日目 15:51】
「貴様が、これをやったのか!そうなんだな!!」
「だとしたらどうした!」
鉄也が冷酷に言い放つ、その声にはもはや迷いは無い
「貴様には特別指導すら生ぬるい!」
チーフが声を荒げていた。
ここへ来るとき見たものが、彼の脳裏にこびりついていたのだ。
それは幻想的な光があふれ出ていたことではなく――
もちろん、新たに機影が増えていたことでもない――
目の前にいる相手が前に自分を襲った奴だということすらどうでもいい――
彼の戦友が無残な姿に成り果てていたことに比べれば――
そう、彼は今ハッターの残骸の傍でその相手と向き合っていた。
「ほう、そうか……ところでお前はさっき逃した奴のようだな?
怪我の具合はどうだ?それとプレシアとかいう娘はどうした。
死んだか?」
鉄也はチーフとは裏腹に落ち着いた声、依然暗くトーンを落とした声で相手を挑発する。
「貴様ぁ!!」チーフが吼える
鉄也にはその相手からチーフが今考えているであろう事がわかっていた。
『貴様さえいなければ、死ぬことはなかった!』
おおよそ、そんなところだろう
(そうだ、それでいい、もっと頭に血を上らせろ)
それは鉄也の作戦であった、彼の落ち着いた声は決して余裕から来ているものではなかった。
どちらかといえば内心かなり焦っている。
いくつもの死線を乗り越えてきたカン、それがグランゾンの力を見通したのだ。
加えて、相手は自分の力を身をもってしっている。
しかも、ガイキングはあの時とは違い、かなりの損傷だ。
少しでも気を抜けば間違いなくやられる。
そう判断したのだ――
103 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:37:08 ID:2rOLQG1G
だが――
彼の戦闘のプロとして培ってきた全ての経験が一片の勝機を見出したのだ――
グランゾンに残るコクピット部のわずかな焦げ付きと隙間を見逃さなかったのだ――
そして、その必勝の武器をぶつけるため、なおも挑発を繰り返す。
「図星のようだな、安心しろ、あの男もとうにおくってやった。お前もすぐに会わせてやる」
「なんだと!!」
嘘だった、だがこの場合それはより有効となる、なぜならば自分が生き残ってこの場に現れたのだから。
まさに状況は一触即発となっていた、
仕上げに、ゆっくりとガイキングを浮かび上がらせる。
あとは一言、きめ台詞をはけばいい、この男がこんなにも動揺し、怒った理由を揺さぶればいい――
それで、この男は怒り狂い飛び掛ってくるだろう、その時がチャンスだ。
ガイキングがゆっくりと上空へとあがっていった、そして位置取りを完了させた。
そして、鉄也は言い放つ、冷酷にあざ笑うかのように――
「どうやら、そこのガラクタとも知り合いだったようだな、残念だ……
見せてやりたかったぞ……なんせ仲間を救うために飛び込みこうなったのだからな
笑えたぞ……俺には傷一つ付かなかった、おまけにその仲間ももはや存在しない、
無駄死にというやつだ!!」
そして、笑う。
完璧だった、狙いどうり、チーフは怒り叫ぶ――
もはや、彼には鉄也しか目に入らない
「貴様がぁ!貴様がぁぁぁ!!」
グランゾンに紫電が走りエネルギーがチャージされる。
これは、鉄也にとって賭けだった。自分が勝利するための唯一の方法なのだ。
もし、相手が遠距離から攻撃し続けるようなら、全ては無駄となる。
「うぉぉぉぉぉぉぉおお!」
グランゾンが胸に重力波をため打ち出す。
そして、続けざまにワームホールを形成しワームスマッシャーを放った。
(計算違えたか?なかなかのパイロットのようだな)
鉄也はにやりと狂気を含んだ笑みを見せながらそれを回避する。
たいていの相手ならばここまで怒れば飛び込んでくるものだが、その相手はそれでもなお
用心深く射撃攻撃を繰り返す。
(お前ならば、俺を止められるか?)
そう考えながら無言で交わし続ける。
堪えているのだ、相手が焦れて突撃してくるまで、無言で、しかし期待と笑みを含みながら堪えているのだ。
だが、その間にも重力波は容赦なく降り注ぎガイキングを痛めつける。
両足はすでに吹き飛んでいた。
そして、遂につかまった、過重な重力に取り込まれ動けなくなった。
(このまま、負けるのか?……)
鉄也は死を覚悟する。
104 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:38:02 ID:2rOLQG1G
だが、その時グランゾンは動き出した。
動けない自分を近距離で直接しとめようというのか。
(きたぞ!勝機が!これが唯一つのチャンスだ!)
「うぉぉぉぉぉ、ハイドロブレイザー!!」
火球が打ち出される。
カウンターだ、避けきれない。
しかし――
グランゾンは目の前にワームホールを作り出し、その火球を取り込んだ。
そして、なお迫る。
「これで終わりだぁぁぁぁ!!」
グランゾンは剣を取り出した、そして切りかかる、切っ先が迫る――
「まだだぁ!デスファイアァァァァァ!!」
「何!?――ぐわぁぁぁぁぁぁ」
瞬間、チーフはグランゾンを反らせようとした、だがその熱気は防ぎきれなかった。
直撃ではなかったが、かなりの高温度がおそいかかる。
座席越しに背中が――、操縦桿を握る手が焼きつく。
「馬鹿な……俺は……」
そういってあっけなく地上に落ちていった。
鉄也の狂気が勝敗をわけたのだ。
「今度も俺の勝ちだったな!!」
高らかに叫ぶ。
そして止めを狙う、また火球をうちだそうというのだ。
だが、次の瞬間、ガイキングは弾き飛ばされた
「何だとぉぉぉ!?」
顔を向けると、そこには新たな機影が現れていた。
それは鉄也にも見覚えのあるものだった。
「プレシア!!早く離脱するんだ!!」
相手はそう叫び、自分をにらみつけていた――
105 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:38:59 ID:2rOLQG1G
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:D-1南部(E-1にさしかかろうとしている)
第一行動方針:E-1の小島で、イングラムを探し接触する
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:リュウセイを捜索する
第四行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
【リオ=メイロン 搭乗機体:ガンダムデスサイズヘルカスタム(新機動戦記ガンダムW Endless Waltz)
パイロット状況:重症、気絶 (怪我の具合は次の書き手に任せます)
機体状況:完全破壊
現在位置:C-1
第一行動方針:リョウトを助ける
第二行動方針:アスカの捜索 】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ウイングガンダムゼロ(新機動戦記ガンダムW)
パイロット状態:軽症、気絶
機体状態:完全破壊
現在位置:C−1
第一行動方針:リオを助ける
第二行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
備考:バスターライフルはエネルギー切れ】
【リオとリョウトに関する備考
生きていることを、チーフもガルドも知りません】
106 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:39:58 ID:2rOLQG1G
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化 (しかし決意を改める)
機体状態:胸部に大きな破損があるが、武器の使用には問題なし。右胸から先消失、両足消失、戦闘続行可能
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:D-2
第一行動方針:プレシア、チーフとの合流
第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
最終行動方針:イサムの生還
備考1:グランゾン内にいるのがプレシアだと思っている】
107 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:41:36 ID:2rOLQG1G
【二日目 15:55】
グランゾンは何とか着地した。
次に自らの手でむりやりコクピットハッチをもぎ取る。
そしてチーフは転がるように飛び出した。
パイロットスーツを着ていたのにもかかわらず、すさまじい熱が伝わってきていた。
もはや、しばらくはグランゾンでの戦闘など行えないだろう、今ので機器類もさらに損傷したようだ。
「くぉ…ぉ……」
今やヘルメットは熱を篭らせるだけだった。
火傷をおった手で何とか取り払い投げ捨てる。
そして地面に倒れこんだ――
その手にはプレシアの医療キットを持っていた。
なんとか治療しようと思ったのだ。
だが、しかし意識が朦朧としていた、気が遠くなる。
(へましたな、ブラザー『戦闘では相手の挑発に乗るな』、MARZの戦闘教義ではなかったのか?)
どこからかよく知った声が聞こえたような気がした。
(幻聴か……ハッターならばそういうだろうな)
そう思い、迂闊に行動した己の愚かさを呪った。
――だが、その時
聞こえた――
確かに何か聞こえているのだ――
これは――、この音は――
Vディスクの起動音――
ハッとして頭を上げる、そこにはハッターの残骸があった。
そして見た――
Vディスクが微かに動いている。
だが、それは今にもとまりそうだ、いや止まる寸前だった。
突然ハッターの体が光のリングで覆われる。
1と0とが連なりリングを形成しだす。
そして消滅し始めた、ハッターの体とともに――
「まて!!ハッター!まだ逝くな…まだ――」
チーフが駆け寄る、光があたりに広がり自分を包む。
見た――
何を?
男が一人立っていた。
かつて、ずっと昔に見たことがある姿だ。
自分に向かい口を開く――
「お、お前は……まさか!!」
傷ついた体に鞭をうち、さらに駆け寄る。
光がはれた――
108 :
友への決意:2006/04/30(日) 09:42:41 ID:2rOLQG1G
そこにはすでに何もなくなっていた。
ただ、ハッターのVコンバーターがあるだけだ、
そこには誰もいない――
中から割れたアファームドのディスクが転がり出てくる。
チーフは打ち震えていた。
それも、幻聴だったのかもしれない。
だが、チーフには確かに聞こえたのだ――
ハッターが消えるさなか、自分に後を託す友の声を――
「う、うぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
彼は咆哮し、そしてグランゾンへと乗り込んだ。
背中が焼け付く、手が焼き焦げる。
だがそんなことはどうでもよかった。
意に介している暇はなかった。
自分のやるべき事がわかっていたからだ――
グランゾンがVコンバーターを拾い上げる。
ここにVコンバーターがある!向こうにはVディスクがある!!
託されたのだ――
なんとしても事を成さねばならない。
だから、
だから――
「跳べ!!グランゾン!!」
それはわずかに浮かび上がり、
Vディスクがある場所――
緑の墓標へと、
飛び立っていった。
【チーフ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:全身に打撲・火傷、やや疲れ
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)にくわえ通信機も異常、 右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C-1
第一行動方針:緑の墓標でVディスクを回収する
第二行動方針:鉄也を倒す
第三行動方針:助けられる人は助ける
第四行動方針:マサキの打倒
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考1:ガルドの存在(というより生存)を知らない
備考2:プレシアの治療キットを保有
備考3:回収したVディスクにはゲッター線の影響、ややあり】
【二日目 15:57】
すみません修正です、
チーフの備考3はVディスクではなくVコンバーターです。
連続すみません、
>>94のガルドのセリフは
「F-6……か」
ではなくて
「G-6……か」
に差し替えて下さい。
何度もすみません、ガルドの位置が間違ってました。
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:良好
現在位置:C-1
第一行動方針:プレシア、チーフとの合流
第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
最終行動方針:イサムの生還
備考1:グランゾン内にいるのがプレシアだと思っている】
これに差し替えてください
112 :
悼みの情景:2006/04/30(日) 22:43:18 ID:eerAfkU0
木を寄り合わせただけのひどく簡素な墓標。マシュマーはそこに、肌身離さず持ち歩いていた薔薇 −特殊加工で色あせることのない− を捧げた。
「ハマーン様…」
マシュマーはそうつぶやくと、内に渦巻くものを押し隠すかのようにうつむき、立ちつくした。
ここは、湖畔の一区画。ミオ・サスガ、ハヤミ・ブンタと、心休まるひとときを過ごした場所。しかし、そんなふうにのうのうと過ごしている間に、彼のもっとも大事な主は非業の死を遂げてしまった。
悔やんでも悔やみきれない。いかなる責め苦を受けようとも、この罪がぬぐわれることはない。
だから、マシュマー・セロは。
ハマーン・カーンの忠実な騎士は。
このときを最後に、人であることを捨てた。
「ハマーン様の敵は、この薔薇の騎士、マシュマー・セロが必ずや討ってご覧にいれます。心安らかにお休みください」
そう呟いて顔を上げたマシュマーの面は、もはや狂気に染まる悪鬼のそれであった。
「いくぞ、ディスアストラナガン。すべてを討ち滅ぼすために」
この機体はもはや彼の手足のように動く。彼の憎悪に、悲憤に、詠嘆に同調するかのごとく、強化人間としての自我が、機体と一体化する。
そして漆黒の翼は行く。夕闇迫るこの世界に、さらなる破壊を撒き散らさんとして…。
113 :
悼みの情景:2006/04/30(日) 22:43:54 ID:eerAfkU0
戦う力を失い崩れ落ちた鋼の巨人。そこに集った5人 −一名明らかに人間には見えなかったが− は揃って黙祷を捧げていた。
イングラム・プリスケンの亡骸は、この巨人を墓標として埋葬されている。
埋葬の間、リュウセイは終始無言だった。
黙祷が終わると、彼はくるりと振り向き、こう言った。
「さあ、行こう。教官の思いを継ぐために。もう一人だって被害者を出さないために」
「リュウセイ…」
ジョシュアは声を漏らす。だが、あえてなにも言わず言葉を濁す。
「なんだよジョシュア。俺は平気だぜ? ここでずっとへこたれていたら、また教官に怒られちまう。だから、いかなくちゃ。俺たちにできることをしなくちゃならないんだ」
「…そうか、そうだな」
「ああ、だから一刻も早くゲームに乗っていない仲間を集めに行かなくちゃな」
そういって動き出そうとするリュウセイを、こちらもまた終始無言だった男が引きとめた。
「…待ってくれ。君の上官、イングラム・プリスケンという男について、話を聞かせてもらえないだろうか」
「あんたは…教官を知っているのか!?」
言いながらもリュウセイは思った。目の前のこの男、クォヴレー・ゴードンといったか。 どことなく教官の面影がある、と。
「いや、知らない。…覚えていないといったほうが正確か。俺は、このゲームが始まる以前の記憶を無くしているんだ」
「なんだって!? でも、それならどうして教官のことを?」
「イングラムには、危ういところを救われた。その時に聞いた声が、どうにも引っかかる。……どこかで聞いたことがある、そんな気がするんだ」
「そうか、それで教官のことを知りたいってのか。話すのはかまわないけどな…」
言いつつも今すぐにでも動きたそうなリュウセイ。その心の奥には、今は少しでも動いて悲しみを紛らわせたい、そんな思いがあるのだろう。本人は気づいていないだろうが。
「リュウセイ、そろそろ放送があるはずだ。動くのはそれを聞いてからにしたほうがいいだろう。その間に彼にその話をしてあげたらどうだ?」
リュウセイの葛藤をうすうす察しつつ、ジョシュアはそう言った。放送まで小休止をとってもいい頃合いであるし、空元気を出すリュウセイに危うさを感じたこともある。
「う…そうか、もうそんな時間なんだな」
言われて呻くリュウセイ。
「頼む。この通りだ。俺は…自分が何者なのか知らなくちゃいけない。そんな気がするんだ」
頭を下げるクォヴレー。リュウセイは、観念して首を縦に振る。
「わかった…。それじゃあ話すよ。俺と、教官のことを。あの戦いのことを」
そしてリュウセイは語り始める。彼、リュウセイ・ダテとイングラム・プリスケンが戦い抜いた、「バルマー戦役」を。
114 :
悼みの情景:2006/04/30(日) 22:45:28 ID:eerAfkU0
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:B-2
第一行動方針:ハマーンの亡骸を弔う
第二行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:良好(時間の経過により腹部のダメージは回復)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:E-1
第一行動方針:クォヴレーとトウマをリュウセイに会わせる
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:健康
機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
現在位置:E-1
第一行動方針:バルマー戦役について話す
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1
第一行動方針:リュウセイにイングラムの事を聞く
第二行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:左後部座席にトウマが乗っています
備考2:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない
備考3:変形のキーワード、並びに方法を知る。しかし、その意味までは知らない】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(ブライサンダーの左後部座席に乗っています)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:リュウセイにイングラムの事を聞く
第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【二日目 17:45】
115 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:40:22 ID:xlIpm3vP
「あのときのマシンか!」
膝を突くガイキングが身を引き起こす。特に今ので損傷はないようだ。
「この惨状……お前がやったのか?」
ガルドが周りを見渡す。あちこちに転がるマシンの欠片、大型の部品、腕や足。穿かれ燃える大地。
大まかな色彩や形状で分けただけでも……5機はあるのではないか?
まさに、屍山血河。
「もう5分遅れてくれば、あの男も送ってやれたというのに…無粋なことをするな。」
「…なに?」
あの男?グランゾンに乗っていたのはプレシアでは?
「なにとはどうした?あの機体に乗っているのは俺に両腕をもがれたあのマシンの奴だ。大方あの小娘は死んだんだろう」
顔色ひとつ変えず、鉄也は見下すような視線でエステを――ガルドに対してだが――見下ろす。
「あのプレシアが…まさか…」
間に合わなかったというのか…!木原マサキがこの場にいないことを考えれば、おそらく奴が原因だろう。
あの時、俺がもう少し警戒していれば…!
自然に手がわななき、震えだす。あの娘は、このゲームにおいて、何か解決策を導く存在だったかもしれないのに。
それを、あの男は…!
「…怒っているようだな。だが、心配することはない。」
淡々と鉄也が話しつづける。
「お前も、あの男もすぐに送ってやる。」
鉄也が言い終わるか、終わらないかというタイミングでガイキングが低い姿勢からタックルを繰り出した。
「くっ!!」
かわすべくエステが飛び上がる。しかし、すかさず頭を上げ、パライザーが追撃した。
ディストーションフィールドを展開、パライザーを弾き、後ろにブースターで加速。しかし、降りようとした地点に向かって腕が――!
急制動により負荷G限界の警告が出たが、それを無視。体をひねり、ギリギリでかわしきる。
「やはり、強いな…」
50mのガイキングに比べれば、8mのエステなど木っ端と大して変わらない。ざっと見て6倍はあろうかという体躯の差。
さまざまな超兵器の数々に対し、こちらは相手からすれば豆鉄砲同然のハンドガンと、接近の危険があるフィールドアタックのみ。
ましてや、パーツもすでにパージ済み。加速度もあのときほど満足につけられるかどうか…
勝つ方法はあるのか?あるとすればどうだ?
116 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:41:00 ID:xlIpm3vP
ひたすらガイキングの攻撃をよけ、フィールドで受け流しながら考える。あの大巨人を倒す方法。あの装甲を打ち破る方法。
今こそかわしつづけて入るが、どこまで持つかははっきりとは分からない。
いや、それどころかかわしつづけるのが精一杯といったほうが正しいかもしれない状況。
(倒す方法は、これしかないか…!)
考えた結論。それはガルドだけではできないという結論だった。あのグランゾンにチーフが乗っているというのなら、チーフとともに
戦うでしかこの悪鬼を倒すことはできないだろう。
しかし、この考えには穴がある。この考えを実行するための大前提、それはチーフがもう一度援軍に来る事。
本当にチーフが来るのか?来ると確信できるほど信じられるのか?いや、そもそもこちらに気付いていたのか?
……実は、ガルドには逃げ道がある。プレシアが死んだことは確認したのだ。イサムを守るため、という理由でここを離れることができる。
だが、それをやれば間違いなくグランゾンをこの悪鬼は追撃するだろう。先ほど、グランゾンは敗北した。
悪鬼の強さもこの惨状と自分との闘いを省みれば分かるが、決して紛い物ではない。磨き抜かれた刃物のような強さ。
おそらく、チーフは死亡する。それは……遠まわしに彼を見捨てるということだ。
(そんなことは決してできん!)
だからこそ、それを選択することはしない。その選択はプレシアを裏切ることだ。
チーフが、木原マサキのような可能性はある。その可能性を知りながら……ガルドはそれを否定した。
なんとなく、なんとなくチーフは自分やイングラム・プリスケンと同じような匂いがする。不器用で、うまくできないが、それでも進む。
そんな、匂い。
もちろん、証拠を出せといわれれば、そんなものはないと答えるしかない。カンでしかないのだから。
それでも。
それでもガルドはチーフを信じる。信じて待ち続ける。
「あった……!あそこだ!」
グランゾンがひたすらに走りつづける。求めるものはVディスク。VRの卵ともいえるもの。
「!しまった!」
グランゾンが直前で転倒する。しかし、その手ははっきりと「卵」を握っていた。ディスクを手元に引き寄せる。
「スマン、プレシア……」
一言、墓標に向け言葉を送る。本来なら、死者への手向けたものをもう一度自分の都合で奪う事など許されないだろう。けれど
「もう一度、助ける力を得るために…!」
あの男は必ずここで無力化せねばならない。あのまま放置すればどれだけ被害が出るか分かったものではない。
戦うための力ではない。プレシアの望んだ守るための力。そのために、もう一度!
VディスクとVコンバーターを接続する。VRがもう一度生まれるための儀式。輝きが周りにあふれ――いや、緑色――の圧倒的な光量が
力強く存在の顕在化を主張する!
現れる蒼を基調にしたその姿、彼の見慣れた姿。自分が戦場を駆け巡ったあの頃のマシン。
テムジン747J
117 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:41:58 ID:xlIpm3vP
「さっきからちょろちょろと…!」
(誰がなんと言おうと、時間を稼がねば!)
ガルドの「闘い」もかなりの時間が過ぎていた。
駆動系とエネルギーはかなりの磨り減りを見せてはいたが、エステそのものには傷はついていない。
誰がなんと言おうとチーフを待つ。もう離脱も満足にできないぐらいになってしまったが、かまわない。それを自分で選んだのだから。
願いがかなわないことも考えている。それでも、かわらない。ここで逃げて、イサムにあったとしても、合わす顔などあろうはずもない。
さすがの鉄也も業を煮やしたのか、別の、最悪の手段を選択することにした。
「そこまでだ。動きをやめてもらおう。さもなくば…こいつらが死ぬことになる」
ガイキングの目がある2点を向く。ガルドがその射線を計算し…戦慄した。
まだ、生きているかどうかは分からないが、2人の人間がそこを転がっている。
もちろん、これはブラフだ。鉄也とて自分が一度言った言葉をひっくり返すようなことはしない。これは、あくまでエステを倒すための
デモンストレーションでしかない。だが、人を見捨てることができなくなったガルドには効果抜群だった。
エステの動きが、ぴたりと止まった。鉄也はニヤリと笑って、
「そうだ、それでいい。妙なバリアも発生させるな。発生させればどうなるか…分かるな?」
ゆっくり、ゆっくりと標準をを合わせる為腕が上がっていく。
(どうする!?どうすればいい!)
こんなところで死ぬわけにはいかない。だが、人を見捨てるなどということもできるはずもない。
あの牽制の用程度の兵器でも、生身の人間は砕け散る。あのパンチが一撃当たるだけでエステも砕け散る。
思考が同じところを回転する。思考が加速し、時がゆっくりと感じられるが、答えが出ない。思考の袋小路。
答えは出ず、死が迫る。まさに、デット・エンド。
腕が、ある方向で止まる。射線など考えるまでもないだろう。エステの体。一撃で命を刈り取る、死神が笑う。
腕が飛ぶ。回転し、まっすぐに進む。
ガルドは動かない。この一瞬、そのときも、チーフを信じ、待つ。そして………
「―――待たせたな」
死神の弾丸を、光の刃が打ち落とした。
間に合ったのだ。蒼、黄、白を基調にし、身ほどある大剣を軽々振る。そのスピードは一瞬の輝き。
「テムジンの調子が前すこし違ってな…遅くなった」
チーフ乗ったテムジン747Jがエステの前に立っていた。
「まったく、遅い。」
フッと笑いながらガルドも答えて見せた。ガルドもまたチーフの到着と同時に、下の2人の盾となるように動いてた。
118 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:42:39 ID:xlIpm3vP
「ほう…あのときのマシンか。どうやって直したかは知らんが、またやるつもりか?」
「あの時のテムジンと同じにするな。このテムジンには…魂が乗っている。」
鉄也の軽い挑発を軽くいなし、確信をもってチーフが答える。
「ガルド…お前がここにいると教えてくれたのは…ハッターとプレシアのおかげだ」
ガイキングと向き合いながらチーフが言った。
「……どういう意味だ?」
腕を戻したガイキングが突っ込んでくる。しかし、するりとかわし、回り込んで後ろから切りつける。
「テムジンに乗ったとき…緑の光と、声が聞こえた。」
角を振り回すが、まるで当たらない。胴体を蹴りつけ、ソードウェーブを放つ。
「おまえが、ここにいるから助けてやって欲しい、とな。」
ザウルガイザーを足元に向け打つたれ、飛ぶ。既にターボショットの準備は完了しており、ラディカルザッパーが叩き込まれた。
「そして、テムジンの性能――特にエネルギー――が強化されていた。」
打った反動で回転しながら、華麗に着地。ガイキングはダメージにより、煙を上げる。
「……そうか。」
言葉少なく、ガルドは肯定した。疑っているわけではない。むしろ、彼は満たされていた。
(結局、プレシアのおかげか…チーフが助かったのも、あの娘のおかげだった。本当に…天使なのかも知れんな)
2人は、ゲッター線のことも、プレシアはプラーナが高かったことも、一切の理屈を知らない。
いや、知っていてもそれを断ったろう。
突然、こんな殺し合いに巻き込まれるなんて偶然があったのだ。
そんな素敵な偶然があってもいいじゃないか。
奇跡は、起こるものなのだ。
「がああぁぁぁぁぁぁああ!!」
鉄也が、悪鬼が絶叫しながら立ち上がる。それは、全てを呪うかのような怨嗟の声。
しかし、2人は怯まない。
「一撃で、本来ならエネルギー全てを持っていかれるのだが……今ならいけるな。」
数多のミサイルがガイキングから打ち出される。逆に、チーフは突っ込んだ。
「いかなるときもMARZ流……それが俺のやり方だ……!」
スライプナーを変形させ、サーフボードのように乗り突撃する。本来なら、一発限りの大技。
「う…うおぉぉぉぉ!?」
ガイキングが初めて後ろに下がる。
何かを、魂を載せてブルースライダーが流星のようにガイキングへと突撃した。
初めて、鉄也が恐怖を抱いた一撃。それは、吸い込まれるように、ガイキングに突き刺さる!
究極の一撃を受け、ゆっくりと、夕日を背に倒れていくガイキング。
静かに、テムジンが着地する。
「指導、完了……!」
119 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:43:24 ID:xlIpm3vP
「ガルド、急ぐぞ!こちらの青年はどうにかなるかもしれんが、こちらの少女は危険だ!」
2人は倒れている2人を確保し、救出しようとしていた。
「病院はどうだ!?」
「駄目だ!木原マサキに爆破された!救急キットでは間に合わないかもしれん。」
「それでも、町に向かうしかない!それ以外に当てがない!」
「それしかないか…!早く処理して……ッ!」
今まさに、ガイキングからパイロットを出そうとしたとき…またもガイキングが動き出した。
「離れろ!ガルド!」
その声で急いで後ろに下がる。
起動してるのも不思議といった様相で…それでも立っていた。
「これほどとはな…だが、死ぬわけにはいかんのでな…!」
そう、死ぬわけにはいかない。ミケーネを倒すという目標もすそではないし…
なにより、負けとは、死。死なない限り負けたわけではない…!
しかし、彼は気付いていない。それは…まさに死ぬときまで悪でありつづける悲しい選択であることに。
もう戻れない。本当に力尽きるまで彼は戦うだろう。
「アブショックライッ!」
もう一度鎮圧しようとしたチーフに強い輝きを放ち…ガイキングは消えた。
「逃げられたか…!」
「だが、アレでは何もできないだろう…今はこっちだ!」
2人はリオとリョウトを手に乗せ、町に走り出した。
120 :
奇跡:2006/05/02(火) 16:47:37 ID:xlIpm3vP
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化 (しかし決意を改める)
機体状態:胸部にかなり大きな破損。ザウルガイザー使用不可。。右胸から先消失、両足消失、戦闘続行は難しい
現在位置:C-1
第一行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】
【リオ=メイロン 搭乗機体:なし
パイロット状況:重症、気絶 (怪我の具合は次の書き手に任せます)
現在位置:C-1
第一行動方針:リョウトを助ける
第二行動方針:アスカの捜索 】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:なし
パイロット状態:軽症、気絶
現在位置:C−1
第一行動方針:リオを助ける
第二行動方針:邪魔者は躊躇せず排除
最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出 】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
現在位置:C-1
第一行動方針:リオ、リョウトの救出
第二行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
第三行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
最終行動方針:イサムの生還 】
チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:全身に打撲・火傷、やや疲れ
機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
現在位置:C-1
第一行動方針:リオ、リョウトの救出
第二行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない) 】
【二日目 16:20】
そして全てが終わった後、男は安堵の溜息を吐いた。
そう、その名はパプテマス・シロッコ。目の前で苛烈な死闘が行われる中、ただじっと戦いの終わりを待ち続けていた男。
「行った……か……」
戦いの気配が完全に消え去った事を念入りに確認してから、ダンガイオーの操縦席を降り立って呟いた。
……この戦いは、シロッコにとって驚愕の連続だった。
ガイキングの圧倒的な戦闘力。
ゲッター線の発現による、真ゲッターの覚醒。
復活のテムジン。
宇宙世紀の常識では計り知る事の出来ない驚愕が、シロッコを絶えず襲い続けていた。
キラ・ヤマトとの会話によって、そして主催者が見せた超技術の片鱗から、未知の技術体系が存在している事には気が付いていた。
だが、それでもなお目の前で繰り広げられた激戦は、シロッコに計り知れない驚愕を与えていた。
「運が良かったのだろうな……」
……もし生存が気付かれていたら、自分は確実に死んでいた。
両腕を失ったダンガイオーでは、あの鉄也と呼ばれた男の攻撃を逃れる事は不可能だった。
ダンガイオーが傷付いている事を利用した偽死。苦肉の策ではあったが、あの状況では最善手だった。
確かに、賭けではあったのかもしれない。
自分の生存が気付かれる可能性、流れ弾が機体に命中する可能性、広域破壊兵器を使用される可能性、全く無かったとは考えていなかった。
だが、自分は賭けに勝ったのだ。
「手駒を失ったのは惜しいが……制御が不可能な駒など使い物にはならない。
獅子身中の虫、という言葉もある。使い捨てるには良い頃合だったのかもしれんな……」
キラ・ヤマトにゼオラ・シュバイツァー。二人の利用価値は、もはや殆ど無くなっていた。
力押しだけで生き抜けるほど、この戦場は甘くない。特にすぐさま暴走を始めるゼオラの存在は、もはや害以外の何物でもなかったのだ。
……だが、あの機体。ゼオライマーの圧倒的な戦闘力は捨て難かった。
しかし、それも過去の話だ。
今の自分には、力がある。
「……ふむ、内部構造の異常か。出力自体には、特に問題は無いようだな。
使用に支障が出ているのは、レーダー、バリア、通信機能か。
腕と足の動きも悪い……それに装甲自体にも、ダメージが蓄積しているのか……」
乗り捨てられたグランゾン。その状態を調べながら、シロッコは自分の読みが当たった事に満足を覚える。
やはり、だ。
やはり自分が思った通り、この機体は強大な力を持っていた。
だが、激戦で負った損傷は決して浅い物ではない。今のグランゾンが、本来の力を発揮する事は不可能だろう。
だが、それでも――
それでもなお、この機体は強力だった。
これまで自分が乗っていた機体、ダンガイオーと比べて遙かに。
「防御能力と運動性は大幅に低下しているが、攻撃力自体には影響が無さそうだ。
となると、接近戦を避けて戦うのが良さそうだな……しかし、そうなってくるとレーダーの故障は痛いか。
……だが幸いにも、この世界はミノフスキー粒子の濃度が高い。
つまりそれは、嫌が応にも有視界戦闘を行わざるを得ない事を意味している。
レーダーの故障は、決して致命的な損耗ではない……!」
そう結論付け、シロッコはグランゾンを飛び立たせる。
かくしてパプテマス・シロッコは、当初の目的通り新たな機体を手に入れる事に成功したのであった。
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:良好、グランゾンの戦闘力に若干興奮気味
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)にくわえ通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C−1
第1行動方針:首輪の解析及び解除
第2行動方針:新たな手駒を手に入れる
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考:首輪を所持】
【二日目 17:30】
124 :
巨人は朽ちず:2006/05/02(火) 22:44:24 ID:oLV82sXU
「――見付けた」
そして消し炭と化した死体を拾い上げながら、ラミア・ラヴレスは満足気な笑みを零した。
消し炭の名は、ハチロー。龍王機の炎によって燃やし尽くされ、無残に命を刈り取られた少年。
だが、幸いにもと言うべきか。龍王機の炎は、ハチローの身体全てを燃やし尽くしていたのではなかった。
かろうじて腕の一本だけは、炎の直撃を逃れていたのだ。
……冷たくなった少年の腕から、ラミアは“目的の物”を回収する。
それが未だ健在である事を、ユーゼスとラミアは知っていたのだ。
そう、ジャイアント・ロボのコントローラーが破壊されていなかった事を。
ジャイアント・ロボが未だ消えていないのは、まだ戦う力を残しているからに他ならない。
新たな主を見付けさえすれば、巨人は再び戦えるのだ。
「さて……この腕時計、誰に渡したものでございましょうかね……」
ジャイアント・ロボのコントローラーを手中で弄びながら、ラミアは一人呟きを零す。
ユーゼスは、言った。
己に与えられた目的は、このゲームを盛り上げる事だと。
ならば、その答えは知れている。
更なる力を求める者に、殺す為の力を求める者に、巨人の力は与えられるべきなのだ……。
125 :
巨人は朽ちず:2006/05/02(火) 22:45:41 ID:oLV82sXU
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:B-1
第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
最終行動方針:ゲームを進行させる
備考:ジャイアント・ロボのコントローラーを所持】
【搭乗者無し 機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:B-1】
【二日目 17:00】
「――見付けた」
そして消し炭と化した死体を拾い上げながら、ラミア・ラヴレスは満足気な笑みを零した。
消し炭の名は、ハチロー。龍王機の炎によって燃やし尽くされ、無残に命を刈り取られた少年。
だが、幸いにもと言うべきか。龍王機の炎は、ハチローの身体全てを燃やし尽くしていたのではなかった。
かろうじて腕の一本だけは、炎の直撃を逃れていたのだ。
……冷たくなった少年の腕ごと、ラミアは“目的の物”を回収する。
それが未だ健在である事を、ユーゼスとラミアは知っていたのだ。
そう、ジャイアント・ロボのコントローラーが破壊されていなかった事を。
ジャイアント・ロボが未だ消えていないのは、まだ戦う力を残しているからに他ならない。
新たな主を見付けさえすれば、巨人は再び戦えるのだ。
「さて……この腕時計、誰に渡したものでございましょうかね……」
ジャイアント・ロボのコントローラーを嵌めた少年の腕。それを手中で弄びながら、ラミアは一人呟きを零す。
ユーゼスは、言った。
己に与えられた目的は、このゲームを盛り上げる事だと。
ならば、その答えは知れている。
更なる力を求める者に、殺す為の力を求める者に、巨人の力は与えられるべきなのだ……。
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:B-1
第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
最終行動方針:ゲームを進行させる
備考:ハチローの腕(ジャイアント・ロボのコントローラー)を所持】
【搭乗者無し 機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:B-1】
【二日目 17:00】
129 :
友への決意:2006/05/03(水) 02:23:04 ID:9zjMBxAL
>>107の「次に自らの手でむりやりコクピットハッチをもぎ取る」
の一文を「ハッチが開かれる。その内部は蜃気楼がかかったかのように
靄がかっていた――」に修正します。
133 :
艦長のお仕事:2006/05/04(木) 17:33:57 ID:jSXmOTMK
「視界良好、異常ありません、艦長」
「うむ、ごくろう、副長」
AMガンナーから副長の『定時報告』が入る。ご丁寧に副長は双眼鏡らしきものを眼に当てていた。
この世界ではレーダーはあまり信用できない。有視界に頼る意味もなくはないのだが…
たぶん気分でやっているのだろう。
「誰にも出会わんな…リョウト君やラト君は無事なのだろうか」
ヒュッケバインの操縦席で、タシロは声を漏らした。
数時間前。奇跡的に助かった副長との2人乗りに成功してから、彼らは今後の方針を模索していた。
この場で行われた戦闘はすでに終結しており、リオやリョウトの足取りを追うのは困難だった。
すぐにでも探しに行きたいところだったが、タシロは自分のパイロットセンスのなさが身にしみていた。
実際、この期待の性能はかなりのものだと思う。ガンバスターのそれにはさすがに及ばないまでも、
シズラー黒に匹敵する戦闘能力は有しているとタシロは踏んでいた。
だが、それでも片腕を失い、かつ手加減をしている機体に自分は翻弄された。いたずらに戦闘におちいるのは避けたいところだった。
とはいえ、じっと隠れているわけにもいかない。そこで、副長と協議した上での結論がこれだった。
つまりは、機体の『戦艦的運用』である。
ヒュッケバインガンナーの航続能力、主砲の火力はまさに戦艦に匹敵するし、イナーシャルキャンセラーにも劣らぬバリアも搭載されている。
よって、機体のエネルギーの大半をバリアに割き、速度、運動能力には目をつぶる。
常に高度を維持し、管制制御を任せた副長に周囲を監視させる。
先に相手を見つけ、有利な状況で交渉に持ち込む。必要ならば砲撃戦で片付ける。
このやり方なら2人を探しもらすこともない。
「やり方は間違っていないはずなのだが、な」
「あせらずいきましょう、信じれば奇跡は起こる、そうでしょう?」
「そう、そうだな、副長。あの子達を救うまで、我々があきらめるわけにはいかんな」
かくて機体は空を行く。日は、そろそろ暮れようとしていた……
134 :
艦長のお仕事:2006/05/04(木) 17:35:41 ID:jSXmOTMK
【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:良好(Gインパクトキャノンは二門破損)
現在位置:B-3
第1行動方針:他の参加者との合流(ラトやリョウトの捜索)
第2行動方針:ゼオラやシロッコをどうにかする。
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考1:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】
【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリ)
パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
機体状況:良好(Gインパクトキャノンは二門破損)
現在位置:B-3
第1行動指針:タシロをサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】
【二日目17:30】
バトルロワイアルの海に投げ込まれた、ゲッター線という名の石。
それによって波紋が広がるかのように、ゲッターの種子は広がっていく。
それが偶然を引き起こし、新たな戦いを呼ぶ……
今、ここでもゲッター線発現による影響があった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
響き渡る、魔神皇帝の咆哮。
光子力反応炉の出力が急激に上昇し、暴走を促す。
「ぐっ、何だ!?この機体、一体何が起きている!?」
そのあまりのパワーに、ヴィンデルは機体を制御するだけで精一杯だった。
その周りで、ハロ達がけたたましく騒ぎ立てる。コクピット内を所狭しと跳ねまくる。
『ゲッターダ!!』『ゲッターゲッターゲッター!!』『オーオゲッター、ゲッターゲッター♪』『ガッツ!ガッツ!ゲッターガッツ!!』
「ええい、黙っていろ!!」
その騒ぎ方は、それまでと違い明らかに尋常ではなかった。
高すぎるテンションで狂ったように暴れまわる。そして連呼される「ゲッター」という謎の言葉。
しかしヴィンデルにとって今はそれどころではなかった。
(何だこの機体は……!?マニュアルにない力を秘めているとでも言うのか!?)
咆哮はさらに激しさを増す。まるで、機体が意思を持っているかのように……
『タタカウタメニ、トビダセゲッター!!』『ホエロリュウノセンシヨ〜♪』『オレハボインチャンガスキナンデナ』
「ええい、やめろ!騒ぐなっ!!」
必死に制御してる中、小さなハロが顔やら操縦桿の周りを飛び回られるのは鬱陶しい以外の何者でもない。
ヴィンデルの注意がそれた、その瞬間――
「いかん、コントロールが!?」
マジンカイザーは、ついにヴィンデルの手を離れ勝手に動き始めた。
方向を変えると、そのまま今来た道を戻り走り始めた。
『走リダセ、フリムクコトナク!!』『今ガソノ時ダ!!』『インドウヲワタシテヤルゼエエエエ!!!』
ハロ達はさらに激しく暴れ始める。まるでカイザーとハロ達の意思が同調しているかのように。
さすがにヴィンデルにもその異常に気がついた。
「お前達、さっきから何を……」
『黙レ!!!ソシテ聞ケ!!!』『イイカラボクノイウトオリニスルンダ!!!!』
「は、はい……」
普通ではない鬼気迫る勢いに、ヴィンデルはまたしても怖気づいてしまった。
どうやら植えつけられた負け犬根性は簡単に消え去るものではなかったようだ。
そんな彼らを他所に、カイザーは大地を爆走する。何かに呼ばれているかのように。
(どこへ連れて行くつもりだというのだ……?とにかく、何とかして止めなくては……)
『師匠!ココヤ、ココデンガナ!』
「案内ありがとね〜、ハロちゃん。にしてもすごいね……何があったんだろ、これ」
ミオとアクセルの目前には、数十mにも及ぶであろう巨大なクレーターが広がっていた。
「爆発……いや、自爆の跡、か……」
呟くアクセル。それまでに得られた情報からすると、その可能性が高いだろう。
ヴィンデルの情報を知るというピンクハロが案内した場所、それはジャスティスの自爆跡。
ジャスティスが謎の黒いロボットと戦い、そして機能停止したハロ達の埋められている場所でもあった。
しかしヴィンデルがそこに墓標代わり(?)に立てたはずのジャスティスの残骸は綺麗さっぱりなくなっている。
無論、そんなことをミオとアクセルは知る由もない。
――アクセルは、ハロから聞き出した……いやミオに聞き出してもらった情報を整理する。
クレーターの周囲は激しい戦闘の後が見て取れた。大きく抉られた地面、焼き尽くされ焦土と化した草原。
ヴィンデルの乗っていた機体にここまでのパワーがあるとは思えない。
(ヴィンデルの戦った敵というのは相当な怪物だったようだな。
そして今、奴はその怪物に乗っている……ということか)
舌打ちする。ヴィンデルを止めるべく行動する彼にとって、厄介な事態ではある。
だが、彼は今一度考え直す。このままヴィンデルと無理に戦う必要があるかどうか、だ。
(奴ならばゲームからの脱出を最優先……いや、あのユーゼスの持っている未知の技術を奪取することを考えるかもしれん。
そのためにユーゼスの打倒を目指して、策謀を張り巡らすだろうな……
いくら力を手にしたとしても、あの男が積極的にゲームに乗るような直接的手段を選ぶとは思えん)
ヴィンデルの考えそうなことは大体予想できる。皮肉なものだが。
いずれにせよ、ゲームを脱出するにはやはりユーゼスを出し抜くしかない。
ヴィンデルの野望を阻止する意志は変わらない。最終的には決着を付けることになるだろう。
だが、アクセルはヴィンデルとの一時的共闘もやむを得ないのではないか……そう思い始めていた。
「アクセルさん、なにぶつぶつ言ってんの?」
「……いや、何でもない。考えるのは後だ……そろそろ放送の時間だからな」
時計を見ると、第三回の放送まであと2,3分という時間になっていた。
(もうこんな時間か……マシュマーさんやプレシアは無事かな……)
仲間の身を案じるミオ。その時、抱えているハロが突然喚き立てる。
『ハロ!ハロ!ナニカガセッキンチュウ!!師匠、テキガキマッセ!!』
「えっ!?わかるの!?」
「ミオ、レーダーに反応がある!物凄いスピードで一直線に向かってくるぞ!」
二人は反応のした方向に振り返る。何かがこちらに向かって、凄まじい勢いで爆走してくる。
「何か来るよ!?」
『ヴィンデルヤ!!』
「何ッ!!」
ハロの口走った言葉に、アクセルの目が見開かれた。
「く、くそっ!何故止まらん!!!」
『我ヲハバムモノナシ!!』『ダッシュ!!ダッシュ!!ダンダンダダン♪』
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!」
猛烈な勢いで走るマジンカイザー。パイルダーの中にヴィンデルの絶叫が響く。
二人の機体の位置は、ちょうどカイザーの進行線上にある。
あの巨体とスピードで突っ込んで来られては、装甲の薄いこちらの機体は……
「いきなり仕掛けてくるつもりか!?まずい、かわせミオ!!」
「うわわわっ!?」
考える間もなく、カイザーが突っ込んでくる。
紙一重で回避するガンダム……しかし、ボロットの反応速度ではそれに対応しきれない。
「ダメ、よけられな……」
超合金ニューZαの弾丸が直撃する。脆いスクラップは容易に砕け散った。
バラバラになったボロットの残骸が、辺りに散らばる。
「ミ……ミオォォ―――ッ!!!」
衝突により勢いが削がれ、カイザーはそのまま転倒した。
「はぁ……はぁ……止まった、か……あのガラクタに感謝、だな」
そのガラクタが実は人が乗っていたロボットだとは、制御に必死だった彼は気付いていなかった。
結果的に爆走は止まった。転倒のショックか、制御はかろうじてヴィンデルの手に戻ったようだ。
とはいえ光子力反応炉の出力は依然上昇したままであるが。
ハロ達も今の衝撃か、はたまた暴れすぎてオーバーヒートでもしたのか、一時的に機能を停止していた。
おかげでパイルダー内は先程までの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「落ち着いた、ようだな……」
ハロに付きまとわれた彼がこれだけ静かな時間を過ごせたのは、このゲームが始まって以来かもしれない……
が、状況はそんな静寂を長くは許してくれなかった。
「ヴィンデル……それに乗っているのはヴィンデル=マウザーか!!」
(フフフ……それにしても、また出会うことになるとはな)
倒れたカイザーの前に立ちふさがる、クロスボーンガンダム。
その声に、彼はあくまで平静を保ち受け答える。
「フ、アクセル=アルマーか……まだ生きていたようだな」
だが、カイザーの突進でミオを殺された今のアクセルに、その対応は適切とはいえなかった。
「ヴィンデル……お前はもう少し賢い男だと思っていた……」
「何?」
アクセルは完全に誤解していた。しかしそれも無理もない。
いきなりの不意打ちを食らい、味方を問答無用で殺されたのだ。
言い訳のしようがない……いやそれ以前に、ヴィンデルにはその自覚すらないのだが。
「やはりお前を放置するわけにはいかん……お前の殺戮も野望も、俺が止める……!!」
「何だと……!?まさかお前、記憶が……?」
クロスボーンガンダムが戦闘態勢に入る。
(確かにとんでもない怪物だ……だが、あのむき出しの目立つコクピットさえ狙えば……)
マジンカイザーのタックルで破壊されたボスボロット。しかし、完全に破壊されたわけではなかった。
タックルの衝撃で頭部が外れ、宙を舞う。そしてクレーターに落下し、そのまま中心部へと転がり落ちていった。
そして……
『師匠!シッカリ!師匠!シッカリ!」
「い……たぁ……あぁ、死ぬかと……思った……」
とりあえず、お約束のセリフを呟くミオ。
あれだけの攻撃でしっかり生き残るのはお笑いロボットの特権、という奴だろうか……
しかしパイロットまではそうはいかない。吹っ飛んだ衝撃で身体をあちこちぶつけている。
(効いたなぁ、あの体当たり……さしずめ、ダイナマイトタックル、ってとこ?いたた……)
幸い軽傷ではあったものの、その衝撃のせいで意識が朦朧とする。
『師匠!!師ィィィィィ匠ォォォォォォォォ!!!』
「いや、死んでない……って……」
ハロの絶叫に突っ込みを一つ入れると、そのまま彼女は気を失った。
【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:B-3
パイロット状況:記憶回復、ヴィンデルへの怒り
機体状況:右腕の肘から下を切断されている
シザー・アンカー破損、弾薬残り僅か
第一行動方針:ヴィンデルを倒す
最終行動方針:ゲームから脱出
備考:ミオは死んだと思っている】
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザーwithハロ軍団
パイロット状況:パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
やや気力低下したものの回復中
機体状況:良好
現在位置:B-3
第一行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
第二行動方針:戦闘はなるべく避けるが、相手から向かってくる場合は容赦しない
最終行動方針:主催者を打倒し、その技術を手にする
備考1:コクピットのハロの数は一桁、現在一時的に機能停止中
備考2:暴走時のマジンカイザーは真ゲッターの現れたC-1に向かっていたと思われる
備考3:実はボロットを破壊したことにまだ気付いていない】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
現在位置:B-3
パイロット状態:気絶
機体状況:頭部のみ、それ以外は大破
第一行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す
最終行動方針:主催者を打倒する
備考1:ブライガーのマニュアル(軽く目を通した)、 ピンクハロを所持
備考2:大破したボディの残骸及び無傷のビームショットライフル(エネルギー少)がカイザー・X1の周りに派手に散らばっている
備考3:ボロットの頭はクレーターの中心部に転がった】
ゲッター線の発現によって二つの偶然が起こり、その二つが交錯して、因縁の二人を引き合わせた。
そしてその接触は、新たな偶然を引き起こす。
「何機か集まっているようだな……ならば……!」
狂気を秘めた薔薇の騎士が、アクセル達の存在を感知した。
今、漆黒の悪魔王が飛び立つ。彼らの抹殺に――そして全てを滅ぼすために。
そこで破壊されたボスボロットの残骸を見た時、果たして彼は何を思うだろうか――?
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:B-3
第一行動方針:ハマーンの仇討ちのため、皆殺し(ミオ、ブンタを除く)
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【二日目 17:59】
今、魔神と魔王が邂逅しようとしている。丸い悪魔が眠っている、この地で。
第三回放送よりわずか1分前。
この土壇場にきて、B−3の地に嵐が荒れ狂おうとしていた。
140 :
5分前:2006/05/05(金) 01:13:04 ID:TW8i/mom
木々が生い茂る森の中を、司馬遷次郎の駆る一台のバイクが軽やかに駆け抜けていく。
上空ではロイ・フォッカーのアルテリオンが先行し、その後ろを木原マサキのレイズナーが追っていた。
(ちっ…このペースでは、このまま何もなくても基地に辿り着けるのは次の放送の直前になるな…)
前方を走っている遷次郎のスカーレットモビルを見下ろし、マサキは心の中で舌打ちした。
「おいおい、マジかよ…」
ドラグナー3型のレーダーを確認したイサム・ダイソンは驚愕した。
自分達が現在居るG-6の基地に向かう複数の機体を確認したのだ。F-6側からニ…いや、三機。
正確には、仲間であるヒイロ・ユイのM9のある格納庫の真下…地下ドックにもう一機、惣流・アスカ・ラングレーのダイモスが眠っていたのだが…
偶然にも機体の存在を示すアイコンがM9と重なってしまい、イサムはこの存在を見落としてしまっていた。
最初に基地に来た時には全く存在していなかったものが突如として現れているのだから、不可抗力と言えない事もないのかもしれなが。
F-6側の機体は、すでに基地にかなり接近していた。このままでは接触は時間の問題だ。
「くそっ、ゲームに乗ってない連中ならいいが…」
相手の解析を始めながら、イサムはヒイロのいる格納庫へと向かった。
「…何かあったのか?」
身の丈より大きな角材を握り締めたヒイロが、彼の予想よりはるかに早く戻ってきたドラグナー3型を見上げた。
角材を床に置いたヒイロの前で鎖に縛られていたヤザン・ゲーブルは、安堵の表情を浮かべている。
(死ぬほど痛いって、あんなので殴られたら死ぬに決まってるじゃねーか…ま、ここは様子見だな)
ヒイロによる死ぬほど痛い…かもしれない拷問を免れ一人ほくそ笑むヤザンをよそに、イサムは状況説明を始めた。
「この基地に近づいて来てる奴らがいる!それも三機だ!」
「…そうか。通信はできたか?」
「今やってるところだ。この辺は電波障害がきついみたいで、もうちょいなんだがな…」
周辺一帯はイサムのドラグナー3型によってジャミングがかけられていたが、元々ミノフスキー粒子の濃度も濃い地域でもあった。
141 :
5分前:2006/05/05(金) 01:14:34 ID:TW8i/mom
「よし、これで…」
解析が進み、次第に相手の構成が分かってきた。
一機レーダーでとても小さく表示されていた機体があったが、どうやらそれはかなり小型の機体…いや、恐らくは車両らしい。
もう一機は戦闘機。そして残りの一機は…
「おい、ひょっとしてこいつは…マサキか!?」
見覚えのあるデータが見つかり、イサムは驚きの声をあげた。
「マサキ…?」
マサキとはヒイロにも聞き覚えのある名前だった。移動中にイサムが話していた、ゲーム中に見つけた仲間の一人。
もっとも、あの『赤い機体』の襲撃後は消息不明になっていたとの事だったが…
「あの野郎、生きてやがった!」
イサムの声はすでに喜びに包まれていた。相手がマサキだと確信しているらしい。
「…通信はできるのか?」
「ああ、あいつとは何度も通信してるからな。すぐに繋がるぜ!」
「通信だと?」
G-6の基地を目前にしての通信。それは木原マサキにとっては幸運だった。
わざわざ通信をしてくるという事は、相手が好戦的である可能性は低いといえる。
前方にいるフォッカーや遷次郎に気取られぬよう、マサキは回線を開いた。
「おい、マサキか!?マサキだよな!?」
「えっ…イサムさんですか?」
「ははっ、生きてやがったかこいつ!」
「イサムさんこそ!無事でよかった…!」
モニター越しに、お互いの笑顔が光った。紛いのない、心からの笑顔が。
(イサム・ダイソンか…まだ生きていたか。だがこれで労せず基地に辿りつけるな…!)
…紛いのない、心からの笑顔。
こうして、マサキは移動を続けながらもイサムから色々と情報を聞き出した。
イサムにはヒイロという仲間とヤザンという捕虜がいる事。彼らと自分達以外には周辺に機体は見当たらないという事…
マサキも情報を伝えた。もっとも、首輪の解析については一切触れず、同行している味方の名前程度の情報だったが…
「…なに?ロイ・フォッカーだって!?」
だったのだが、遷次郎に続いて告げたフォッカーの名前に、イサムは意外な程に大きな反応を見せた。
「知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も、ロイ・フォッカーっていえば、俺の元居た世界じゃ何十年も昔のエースパイロットだぞ!しかも、とっくに戦死してるってのに…」
イサムは驚愕していたが、マサキにとってはさほど驚くべき事ではなかった。
これまでに会ってきた様々な人物達。彼らは自分とは少し、或いは全く異なる世界からこの世界に連れて来られていた。
中にはホシノ・ルリやテンカワ・アキトのように同じ世界から連れて来られた者もいた。
また、これまでの移動中に話を聞いた限りでは、遷次郎の息子・宙も父と同じようにゲームに参加させられ、そして命を落としたようだ。
つまり、同じ世界から複数の人間がゲームに参加する事は決してありえない事ではない。
ましてや世界だけではなく、その時代や年号が違うケースも少なくなかった。
という事は、同じ世界出身でありながらも時間にズレが生じている事も、十分に考えられる。
そんな事を考えているマサキに、イサムは執拗にフォッカーに回線を繋ぐよう求めた。
まだフォッカーと遷次郎に一連の状況を説明していなかったので、マサキはかなりいらつきながらも二人に簡単に事情を話し、フォッカーに回線を繋いだ。
「あんたがマサキの仲間のイサム・ダイソンか?」
「うおっ、やっぱり本物かよ…!」
モニターに現れたフォッカーの顔に、思わずイサムは背を仰け反らせた。
「…でもま、多分腕は俺の方が上だな」
「あん?何か言ったか、お前!」
「い、いえ、お会いできて光栄であります!」
(ふぅー、やべぇやべぇ)
イサムはこの基地に来て、初めて冷や汗をかいた。
「何だったんだ、あいつは…」
通信を終えたフォッカーは、イサムの言動をいぶかしむしかなかった。
どうも、自分の事を知られているような、何か奇妙な感覚。
基地で会ってみればはっきりするのだろうが、そもそも『あの』マサキの仲間である。
どうにも不信感が拭い切れないマサキと、そのマサキの仲間というイサムのあの態度。いよいよフォッカーの疑念は増すばかりだった。
次の放送まで残り20分前後となったが、マサキ達は基地に辿り着く事ができた。
基地に味方がいて、しかも着けば補給も受けられるとあって、多少はペースアップを図る事ができたからだ。
唯一の足手まといだった遷次郎も操縦が上達しており、森の中をかなりのスピードで走り抜けていた。
「マサキ、ちゃんとここまで来れたみたいだな!」
基地の入り口からドラグナー3型に乗ったイサムが出迎える。
彼の前にはマサキのレイズナーの他、遷次郎のスカーレットモビルとフォッカーのアルテリオンを確認した。
「腕に…リフターもやられたんですね…」
マサキは心配そうな表情を作り、さも仲間を案じる台詞を吐いておいた。
「お前はどこもやられてないみたいだな。ったく、どうやったら無事でいられるんだよ…っておい、何だあのバイクは…!」
遷次郎の姿を初めて視認したイサムは驚愕した。人間ではなく、小型の機械が乗っているからだ。
「それについては、この後ゆっくり説明しよう」
遷次郎は慣れたように返し、イサムに案内を促した。
144 :
5分前:2006/05/05(金) 01:21:19 ID:TW8i/mom
格納庫に入った一同はヒイロが乗り込んだM9と、そのそばで鎖に縛られ、あちこちを殴打されたヤザンを見た。
「げっ、結局そのでかい角材でやったのか…で、こいつは何か吐いたか?」
「いや…まだ何もない」
あれだけ痛めつけていながらけろりとイサムに返事をしたヒイロに、フォッカーは不信感を抱いていた。
(こいつ、あれだけ平気で人を拷問にかけたのか…しかも、そんな奴が『あの』イサムの仲間…!)
実際にはヤザンはイサムやヒイロに攻撃を仕掛けているし、ヤザン自身はかなりの人数を殺している以上、このくらいの拷問は受けてもやむを得ない。
だが、これまで殆どのゲームの参加者と遭遇しなかったフォッカーに、そんな事情が分かるはずがなかった。
一方、全身に激痛が走っているヤザンだったが、彼はなおも不敵に笑っていた。
(これだけ機体が揃うとは…なら、隙だっていつかは生じるはず!)
彼の目に留まったのは、遷次郎のスカーレットモビル。他の機体に比べれば、いざという時の強奪はいくらか容易なはずだ。
(ま、何かゴタゴタでも起きれば一番なんだがな…)
何も起きないはずはない。何故かヤザンはそう確信していた。
「…補給や情報交換は後にしよう。もう間もなく放送だ」
ヤザンの視線に気付く事もない遷次郎が取り仕切り、一同は時計に目を向けた。
放送まで、あと5分――
「…結局、次の放送までに基地に行けなかったな…」
E-6の森まで進んだ碇シンジは、周囲を生い茂る木々の中で歩みを止めた。
「基地に行くのは、放送が終わってからにしよう……アスカ、どうか無事でいて…!」
シンジは祈るように時計を見つめた。放送まで、あと5分――
そして、地下ドックには…アスカと闘将が今も眠り続けていた。
145 :
5分前:2006/05/05(金) 01:22:24 ID:TW8i/mom
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:G-6 基地(格納庫内)
第1行動方針:放送終了後に補給と情報交換を行う
第二行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:多少の疲労。マサキ、イサム、ヒイロに多少の不信感
機体状況:弾数残りわずか
現在位置: G-6 基地(格納庫内)
第一行動方針:放送終了後に補給と情報交換を行う
第二行動方針:ユーゼス打倒のため首輪の解析仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)マサキと宙を重ねている節がある。
機体状態:良好
現在位置: G-6 基地(格納庫内)
第一行動方針:放送後に補給、情報交換、首輪の解析及び解除を行う
第二行動方針:マサキを守る
第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)
だが、解析結果は正しいと信じている】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:気絶中
機体状況:全体的にかなりの破損。右足は戦闘機動をおこなえば砕ける可能性あり
後頭部タイヤ破損、左腕損傷、三竜棍と双竜剣を失った。
現在位置:G-6基地(半地下ドッグ)
第一行動方針:碇シンジの捜索
第二行動指針:邪魔する者の排除
最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:放送終了後、情報交換を行う
第二行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第三行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第四行動方針:アクセル・アルマーとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
パイロット状態:若干疲労
機体状況:装甲表面が一部融解。補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:放送終了後、情報交換を行う。ヤザンを尋問し、情報を引き出す
第二行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第三行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:無し
パイロット状態:頭痛あり、全身打撲、チェーンで縛り上げられている
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:隙を見て脱走(可能ならば機体も奪取)
第二行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
最終行動方針:ゲームに乗る
備考:スカーレットモビルが狙い易いと考えている】
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:良好、全身に筋肉痛
機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。
背面装甲に亀裂あり。燃料が残り少ない。
現在位置:H-6森
第一行動方針:放送を聞いた後、G-6基地へ向かい燃料を補給する
第二行動方針:アスカと合流して、守る
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】
【二日目 17:55】
147 :
それも名無しだ:2006/05/07(日) 23:08:13 ID:GSs36mnK
保守
148 :
それも名無しだ:2006/05/08(月) 21:01:02 ID:Uf8Sjvgs
保守
海面から突き出た岩の上を、白の機体は渡って行く。
その周囲を一面の海によって囲まれた、E−1エリアに存在する小島。
飛行能力を持たないアーバレストにとっては、そう易々と行き着く事の出来る場所ではない。
だが、これも主催者の作為によるものだろうか。救済措置とでも言うべき物は、小島を取り囲む海に用意されていた。
それは橋を思わせる、海面から突き出た岩の列なりである。
「助かったわね、このエリアが進入禁止に指定されていなくて……」
点在する岩の上を軽業師さながらの機動によって、アーバレストは渡って行く。
小型軽量かつ高い機動性を誇るアーバレストと、その性能を十分に引き出す事の出来るセレーナの技量。二つの要因が組み合わされてこその事である。
……つくづく、思う。ユーゼスの掌で、踊らされているのだと。
あの男が何を思って、自分に目を掛けているのかは知る由も無い。だが、単なる酔狂でない事は確かだ。
仇敵の情報を餌として、自分に殺し合いを強いた事。それを含めて、何か企みがあるのだろう。
どうせきっとろくでもない、吐き気を催すだろう悪趣味な企みが。
「セレーナさん、そろそろ島に到着します」
そうした事を考えているうちに、アーバレストは小島に辿り着いていた。
(イングラム……無事でいなさいよ……)
このくだらない殺し合いの中で出会った、背中を預けられる数少ない人間の一人。その名を心の中で呟き、セレーナは廃墟の島を駆けて行った。
だが――
「セレーナさん、あれっ……!」
「っ…………!」
……遠目からでもはっきりと見て取れる、傷付き倒れたメガデウスの巨体。
それを目にして、分かってしまった。
イングラム・プリスケンは、もういないのだと。
何者かの手で打ち倒され、志半ばで力尽きたしまったのだと。
信じられなかった。
イングラムとメガデウスの戦闘力は、相当なものであったはずだ。
特に、あの堅牢な装甲。あの頑健な守りを切り崩すには、かなりの攻撃力が必要になるはず。
実際、アーバレストの火力では、大した損傷を与える事も出来なかったのだ。
それを、あそこまで完膚なきまでに破壊するとは――
「……エルマ、アル、戻るわよ。もう、この島に用は無いわ」
<ラージャ>
「えっ? も、戻るって、セレーナさん……」
「私たちがこの小島に来たのは、イングラムと合流する為よ。だけど、そのイングラムはもういない。
だったら、この場に留まっている意味は無いわ」
「だ、だけど……様子を見に行こうとは思わないんですか?」
「……無意味よ。それに、きっと彼もそんな事を望んだりしないわ」
「セレーナさん……」
冷たい口調で言うセレーナを、エルマは気遣わしげに見上げる。
……噛んでいた。
強く、強く、唇を噛んでいた。
落ち着き払った言葉の裏で、激しく怒り狂っていた。
セレーナ・レシタールは、仲間の死に対して無感動でいられるような人間ではない。
……そう、イングラムは彼女にとって“仲間”だった。
この下らない殺し合いの中で、背中を預ける事が出来ると思えた数少ない人間の一人だった。
それが、殺されてしまったのだ。落ち着いていられるはずがなかった。
「……探すわよ、エルマ」
「探すって……何をですか?」
「決まっているじゃない、イングラムを倒した相手よ」
「ええっ!?」
「……彼ほどの実力者を、ああも無残に倒した相手よ。放っておけば、被害は広がり続ける事になるわ。
ガルドも、リュウセイ君も、リオちゃんも、下手をすれば殺される事になってしまう。
そんなの、認められるわけがないでしょう?」
「だけど、イングラムさんが誰にやられたかなんて……」
「そうね、分からないわ。だけど、だったら疑わしい相手は全て倒し尽くしてやればいいだけの話よ」
「セレーナさん……」
「……敵討ち、か。殺された仲間に対して私が出来る事なんて、それだけしか無いって事なのかもね」
皮肉な形に口元を歪め、セレーナは口の中で呟いた。
……今までと同じだ。このゲームに乗った人間を、この手で倒し続けていく。
それがゲームを終わらせる事に繋がると信じ、セレーナは小島を後にした。
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:E-1
第一行動方針:ゲームに乗った人間を可能な限り倒す
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:リュウセイを捜索する
第四行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
【二日目 17:10】
153 :
それも名無しだ:2006/05/11(木) 12:20:13 ID:mET7psLo
保守
154 :
それも名無しだ:2006/05/11(木) 19:27:05 ID:P1mxVybe
保守だと・・・・?フッ、任せな・・・
前へ、前へ、前へ。
アルジャーノンの気配を辿り、ベターマン・ラミアは森林地帯を疾走していた。
漆黒のコートが、鱗状の長髪が、風に煽られてなびく。
かなりの長時間走り続けているにも関わらず、その無表情な横顔には疲労の色すら見えない。
横たわる大木を容易く飛び越え、そのまま三角跳びに木から木へと瞬時に移動する。
それは、彼が追い続けているアルジャーノン感染者の通ったルート。
そしてそのルートそのものが、その人物の人間離れした能力を物語っている。
明らかに何者かが通った後なのに、それこそ折れた枝一つも痕跡を残していないのだ。
只者ではない。ラミアは、その事実を直感的に確信しつつあった。
仮に追いついたとして、その後は。
<アニムスの実……浪費はできない>
残るアニムスの実はフォルテが二個、アクアが一個、ネブラが二個。
おそらく尋常ではない能力を持つ敵に対して、どれだけ戦えるのか。
ネブラは驚異的な空戦能力と必殺の広範囲攻撃・サイコヴォイスを持つが、パワーと防御力に不安が残る。
対するアクアは神速のスピードと強固な外殻が持ち味だが、いかんせん水場が無ければ能力を生かしきれないだろう。
<場合によっては……フォルテも止むを得ないか>
ベターマンは思考する。
フォルテは、パワー・タフネス・瞬発力の全てに長けた、オルトスを除けばラミア最強の変身形態。
一対一の戦いであるならば、かなり有利な形勢に持ち込めるだろう。
しかし、ここでフォルテの実を使ってしまうという事は、またオルトスから遠ざかるという事。
オルトスの実は、三つのフォルテの実とリンカージェルから生成される。
そして、オルトスの実はラミアがゲームから脱出するために必要不可欠だ。
現在所持している二つのフォルテの実。その内の一つを使ってしまえば、残りは只の一つ。
後一つなら何とか発見の可能性もあるが、もう二つ揃えるとなると難易度は跳ね上がる。
ただ、出し惜しみをしたところで、自分が敗れてしまっては元も子もないのだ。
ここで結論の出る話ではない。全ては敵と接触して初めて分かる。
<…………光、か>
森の出口が見える。ベターマンは一旦思考を止め、光の差すほうへ駆け抜けた。
迷う事は無い。アルジャーノンの因子を持つ者は抹殺するのみ、それだけなのだ。
ベターマンがオルトスの実に対する思考を行っていたのとほぼ同時刻。
B-1地区とB-2地区の境界付近にある湖畔地帯に、一体の飛竜と一機の戦闘機とが降り立った。
湖から少し離れた場所に一箇所だけ花が咲き乱れる場所があり、そこを目当てに飛んできたのだ。
戦闘機――R−1のコクピットから顔を覗かせたのは、まだあどけなさを残す少女。
花畑に目を輝かせる彼女を見て、飛竜の乗り手であるフォルカ・アルバーグは安堵の息を漏らした。
レビ、と名乗る彼女と行動を共にするようになってから既に丸一日が経過している。
未だレビ自身が生命の危険に晒された事は無いとはいえ、彼女はまだ年端もいかぬ少女だ。
戦場で常に息を張り詰めていてはいつか壊れてしまう。このような場所を見つけることが出来たのは幸運だった。
「フォルカーー! フォルカも来てくれ、ほら花がこんなにたくさん!」
マイの歓声に手を振って応える。
大人びているようだがやはり年相応の少女らしい所もあるなと思うと自然と笑みがこぼれる。
フォルカは飛竜エスカフローネからひらりと飛び降り、はしゃぐレビの方へと歩き出した。
日は既に傾いている。日没にはまだ間があるだろうが、それでも日の光はかすかにオレンジ色を帯びてきた。
辺りには、フォルカとレビの他には誰もいない。
フォルカが休憩場所にここを選んだのは、この湖畔地帯が障害物の無い開けた場所だからだ。
見通しの利くここなら、奇襲を受ける心配は無い。
事前に攻撃に気付くことさえ出来れば、レビ一人を守ることなら難しくはない。
自分には力がある。弱き者を守る力があるのだから。
こんなに沢山の花を見たのは初めてだと、マイは思った。
昔の記憶は未だはっきりとはしないが、少なくとも花というものに接する機会はあまり無かったように思う。
オレンジ色の夕日が、花達をうっすらと染める。
フォルカに向かって手を振ったところで、自分が思ったよりはしゃいでいる事に気がついた。
ここに来てから不安なことばかりで息をつく暇も無かったから余計に、という事だろうか。
フォルカは気がついていたのかもしれない。それなら感謝しないと。
「……リュウにも見せてあげたいな」
風にそよぐ花々を見て、マイは無意識に今となっては遠く離れた人の名を呼んだ。
途端に次の放送が近い事を思い出し、胸が苦しくなる。
リュウは無事だろうか。
疑心が次第に暗鬼を呼び、心の中のもやもやがだんだん大きくなる。
「……………………いけない、そんな事を考えてちゃ」
嫌な考えを振り払うようにマイは大きくかぶりを振った。
私がリュウを信じないでどうするんだ。そう自分に言い聞かせる。
そして振り返ってフォルカを再度呼ぼうとした矢先。
マイは、それに気付いた。
「何だろう、これ」
マイの問いにフォルカは答えられない。
花々にまぎれてひょろりと伸びるそれは、明らかに他とは異質のものだった。
植物、ではあるようだ。地面から垂直に伸びる茎に、妙な色の実が一つだけついている。
(葉が一枚も無い……寄生植物か?)
あまり植物に詳しくはないが、そういう植物があるということは何処かで聞いたことがあるような気がする。
それだけなら、別におかしくはないが。
フォルカは違和感を覚えた。
まるでその植物が内側から赤く発光しているような、奇妙な存在感。
これにはなにかある。そう思わせるだけのものが、その植物には備わっていた。
その出所を突き止めようとしたフォルカの目に、ある物が飛び込んできた。
一面の花や葉に覆われて、ともすれば見過ごしてもおかしくはない小さな物。
地面から僅かに突き出した、白くて細い固形物。
それは。
「……レビ」
マイがフォルカの呼びかけに一瞬反応できなかったのは、
フォルカの声にいつもと違う色が混じっていたように感じられたからだった。
どうかしたのだろうか。マイの疑問を打ち消すように、フォルカが軽く笑みを浮かべた。
「そろそろ放送の時間のはずだ。機体の元に戻っていた方がいいな」
口調からしてさっきの違和感は気のせいだったようだ。マイは安堵する。
立ち上がろうとして、ふと思いついた。
「フォルカ」
「どうした、レビ?」
「あ、あのさ……この実、持っていってもいいかな?」
フォルカが驚いたような顔をした。それはそうだろう。
「この実、変わってるから、リュウにも見せたいなって思って……
それで、この実を持っていったら、いつかリュウにも会える気がして、それで……」
うまく言葉にならない。ただ、自分が思い続ければリュウにもきっと会えると、そう信じたかった。
この実はいわばお守りだ。自分の気持ちを形にするための。
幸い、フォルカは自分の意を汲んでくれたようだった。
「そうだな。願いを込めるお守りなら、レビとリュウを引き合わせてくれるかもしれない」
こういう時、フォルカは人の思いに気付いてくれる。
それが悲壮な戦いの果てに手に入れた物だという事は、マイは知らなかったが。
「実は取ったな。そろそろ戻るぞ」
「……うん!」
フォルカに出会えて良かった。マイは心からそう思えた。
飛竜の上で放送を待ちながら、フォルカは一人思いを巡らせていた。
あの実をレビが欲しがった時は驚いたが、フォルカがそれを認めたのには訳があった。
もちろんレビの心の支えになればいいと思ったのが第一だ。ただ、それだけではない。
あれは、この殺人ゲームの何らかの鍵なのかもしれない。
すでに、あの実は人工的に配置されたものだとフォルカは確信していた。
寄生植物には、養分を吸い取るための苗床が必要だ。
そしてあの実の持ち主にとってのそれは、普通なら地中にあるような物ではない。
あの土の中から覗いていたモノ。間違いない、あれは――
(あの花畑はさしずめ手向けの花束だとでもいうのか……くそ、外道の極みにも程がある)
今は見えないヘルモーズを睨み、フォルカは内心で吐き棄てた。
フォルカが謎の実の正体に疑念を抱いているのと同時刻。
忍者のシルエットを持つ機体――零影を駆る東方不敗は、D-6地区の岩山にいた。
華麗なジャンプで岩から岩へ飛び移り、岩山を警戒に上っていく。
そしてあっという間に山頂に辿り着くと、そこから下界を見下ろした。
「ぬう……やはり追って来おるか」
数時間前。自らの気配を探る者の正体を突き止めるため、東方不敗は西へと向かっていた。
そして、徐々に近づく気配を感じ、彼は一つの事実に気付いたのだった。
相手は、人間ではない。
直接見たわけではない。それでも奇妙なほど確信が持てた。
そして、その存在が求めるものは、あの仮面の男に植え付けられた"何か"であることにも。
仮に戦ったとして、この東方不敗、人外相手でも決して負けないだけの自信はある。
それでも彼が踵を返して森を反対側から抜けたのは、その自分の中の"何か"を恐れたから。
自我を蝕む殺戮衝動。それが不安定な状態で得体の知れない相手と向き合うのは危険すぎる。
東方不敗は豪胆ではあったが、決して無謀ではなかった。
そして今。東方不敗は岩山の上から森を見下ろしている。
全ては奴を誘き出し、自らの目でその正体を見極めんが為。
衝動はすでに一旦落ち着き、気合で十分に押さえ込める範囲となっている。
今なら流派東方不敗の真髄を見せることも可能であろう。
「さあ出て来い、人に在らざる者よ! この東方不敗に向かい、それでもなお戦いを挑むというのなら、
その時はこの場所で雌雄を決してくれるわぁぁぁぁっ!」
岩山の頂上。そこから放たれた闘気は、周囲の大気を微かに震わせた。
そして、ベターマンが、フォルカが、そして東方不敗がそれぞれの思いを巡らせている頃。
フィールド上のとある片隅で、また一つアニムスの花が咲いた。
妖しいオーラを纏ったその花は、あと数時間もすれば儚く散って代わりに奇妙な実をつけるだろう。
それは、ベターマンが探し求めるもの。
それは、フォルカが疑いを抱くもの。
それは、マイが思いを託すもの。
それは、東方不敗の内なる何かと関わるもの。
アニムスの花は揺れる。苗床――『死体』から養分を吸い取って。
ユーゼスの手によって、『アルジャーノンに感染させられた一般人の死体』はフィールド上のあちこちに配置してある。
そこでも同じように、アニムスの花は咲くのだろう。
苗床にされた者は、すでに何も言わない。
彼らにも、愛すべき人が、守りたい物が、手に入れたい未来があっただろう。
しかし、そんなものなどすでに無意味。今の彼らは、ユーゼスのゲームを盛り上げる為の物言わぬ舞台装置でしかないのだから。
そんな人々の思いを知ってか知らずか、アニムスの花は揺れる。
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:無し
パイロット状況:良好
機体状況:無し
現在位置:C-5(森の出口)
第一行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
第二行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
第三行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損 全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
現在位置:B-2(湖畔地帯)
第一行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-2(湖畔地帯)
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考1:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず
備考2:アニムスの実を一個所持(種類は不明)】
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で押さえ込んでいる)
機体状況:良好(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
現在位置:D-6(岩山)
第一行動方針:自分の気配を窺っているものをおびき出す
第二行動方針:ゲームに乗った者とウルベを倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
備考:アニムスの実の苗床は、いずれの参加者とも接点の無い世界からユーゼスが持ってきたものです
【二日目 17:50】
159 :
海を前に:2006/05/14(日) 03:35:51 ID:8JMnUolA
「参ったわね、こんな所で足止め食うなんて……」
すぐ目の前に広がる広大な海を見渡しながら、セレーナは苦々しげな表情で呟きを洩らしていた。
前に一度小島を出た時は、浅瀬の続く場所を見付ける事が出来たおかげで、なんとか海を渡る事が出来た。
だが、今は違う。前に通ったはずの浅瀬は、今は海に沈んでいた。
「おかしいですね……前に通った時は、こんなに海面が高くはなかったと思うんですけど……」
「そりゃまあ、満潮になったって事じゃないの?」
「だけど、セレーナさん。月の位置から計算したら……」
「……言いたい事は分かるけどね、ここで私達の常識が通用するとは考えない方がいいわ。
どうせまた、きっとユーゼスの奴の仕業よ。あいつの技術力を考えたら、それくらいは簡単でしょ?」
「そ、そうかもしれませんけど……」
「そうに決まってるわよ。だって、そうでもなけりゃ説明付かないもの」
「それは……確かに、そうかもしれませんけど……」
「ま、そう深刻に考え込まないの。これがユーゼスの仕業だって言うんなら、そのうち潮も引くはずよ。
あいつの目的は、あくまでも私達に殺し合いをさせる事。だとしたら、参加者を一つの所に閉じ込め続けておくはずがないわ」
沈んだ口調で言うエルマ。その頭をぽんぽんと叩きながら、セレーナは軽い口調で自分の考えを述べる。
「きっと、イングラムもあの島に閉じ込められているんでしょうね。考えようによっては、この状況は好都合かもしれないわ。
飛行能力の無い機体であの島を出ようとするなら、潮が引いた時に浅瀬を渡るのが一番手っ取り早いはず。
つまり、ここよ。このルートを進んで行けば、イングラムと行き違いになる事はないわ。
まあ、いつ潮が引くのか分からない事が、唯一の問題ではあるのだけれど……。
だけど、この満潮も長くは続かないはずよ。こうして待っていれば、そのうち島に渡れるようになるわ」
「それじゃあ、セレーナさん。潮が引くまで、ここで待っているつもりなんですか?」
「それしかないわね、イングラムに会うつもりなら」
そう言って、セレーナはやおら目を閉じる。
「せ、セレーナさん?」
「……今の内に、少し休んでいる事にするわ。エルマ、悪いんだけど、何かあったら起こしてちょうだい」
「は、はい、わかりました」
「それと、アル。周囲の様子を警戒しながら、ECSを作動させといてちょうだい」
<イエス、マスター>
イングラムの無事を疑う事無く、セレーナは目を閉じ眠りに就く。
……まだ、彼女は知らなかった。彼女が無事と信じている戦友が、もはや生きてはいない事を。
160 :
海を前に:2006/05/14(日) 03:36:38 ID:8JMnUolA
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ(ECS作動中)
現在位置:E-1南西部(海の目前)
第一行動方針:E-1の小島で、イングラムを探し接触する
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:リュウセイを捜索する
第四行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
【二日目 16:20】
161 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:19:03 ID:ibWFvmUB
昔、僕は自分を好きになれなかった。
内気で、ネガティブで、人に自分の気持ちを伝えるのが下手で。
その場の状況に流されてばかりの受動的な生き方。そのたびに後悔しては、自己嫌悪に苛まれる。
DCに参加した時だってそうだった。周りに流され、いいように利用され、挙句捨て駒にされて。
……リオ=メイロンと出会ったのはちょうどその時だった。
「あ〜っ、もう! 見てられないわ!!」
「!?」
「ちょっと、あなた! あそこまで言われて悔しくないの!?」
「え!?」
「言いたいことがあったら、ハッキリ言いなさいよ! あなた、男でしょ!?」
負けず嫌いで、自分が正しいと思ったことははっきりと口に出す。
僕とは正反対の性格。最初のうちは、苦手なタイプの女の子と言えたかもしれない。
でも彼女の後押しがあったからこそ、僕はあの時勇気を出すことができた。
「リョウト君、私…あなたのことを少し見直したわ。結構、勇気があるじゃない」
「あ、ありがとう。でも、あれは君のおかげで…」
「そうじゃなくて…『俺だって出来るんだ』ぐらい言いなさいよ。男は自信を持たなきゃダメよ」
「ご、ごめん…」
「もう、何でそこで謝るのよ!」
まだあれから1年も経っていないはずなのに、ずっと昔のことのように感じる。
こんな経緯もあってか、ハガネでは一番よく話をする相手だった。
PTの操縦訓練なんかも、よく一緒にやるようになった。
引っ込み思案な僕が早い段階でみんなと打ち解けられたのも、彼女のおかげだったといえる。
いつからだろうか、彼女を大切な存在だと意識し始めたのは。
162 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:20:55 ID:ibWFvmUB
正義感が強くて、まっすぐで、どこか危なっかしい部分もあるけど。
内気な僕なんかと違って強い……
「そんなことはないわ、リョウト君」
リオ……?いつの間にそこに?
「初めて出会った頃に比べると、凄く強くなったと思う。
そして私も、あなたに何度も助けられたわ」
そうかな?僕もリオの力になれたのだろうか。
「そうよ……あなただからこそ出来たのかも知れない」
そんなことはないよ。リオやみんながいてくれたからさ。
そうだ、リオ……君がいるから、今の僕がある―――
だから、君は僕が守る。そう決意したんだ。
「リョウト君……ありがとう。でも、もう行かなきゃ」
リオ……?
「大丈夫、私はあなたの中に生き続ける……」
何を言って……それじゃ、まるで……
―――さようなら、リョウト君―――
目の前に広がる光景。
大破した二機のガンダム。見下ろす鬼のようなロボット。
地べたに這い蹲る自分。そして、その前には。
ガンダムに乗っていた状態からの遠目でははっきりとわからなかった、彼女の姿。
「リ……オ……」
う、そ、だ
あの顔はどうしたんだ?鼻は折れ、完全に潰れて、彼女の整った顔立ちは面影もない。
頭部が、割れている?そこから地面は血で真っ赤に染まっている。
全身の関節が砕け、手足の向いている方向がメチャクチャだ。
血と、肉と、何か白いものが見える……あれは、骨?
髪が汚れている、埃と血と、それと、あの流れ出てるモノはナニ?
……脳漿?
あれ、は、あれ、は。
うそだ、何かの間違いだ。
いやだ、やめてくれ。
夢なら……夢なら覚めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
君は僕が守るはずなのに。
君がいて、笑ってくれればそれだけで、僕は……
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
163 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:21:34 ID:ibWFvmUB
「!!」
布団から跳ね起きる。全身が汗だくになり、荒く息をつく。
嫌な夢だ。夢というにはあまりにリアルで生々しい、まるで本当に起きたかのような。
「気がついたか」
突然声をかけられ、僕は驚いてその声のほうに振り向いた。
そこには男が二人。声の主は、やけに顔色の悪いほうだった。
「あ、あなたは……うっ!?」
意識がまだ朦朧としている。頭を強くぶつけたらしい。
「大丈夫か?まだあまり動かんほうがいい」
もう一人の、包帯を巻いた軍人らしい人が言った。
ここはどこだ?虚ろな意識の中、辺りを見回す。
畳張りの小さな部屋。どこかのアパートか何かだろうか。
窓の外を見る。もう日が暮れかけているようだ。
僕はどうしてここに?そうだ、確かあの鬼のようなロボットに……
突然、僕の意識は完全に覚醒した。
「リオは!?リオはどうしたんだ!?」
ずっと探していた、ようやく再会できたんだ!!
こんな所で寝てる暇はない!リオを助けなきゃ!リオは……
「待て、落ち着くんだ!」
これが落ち着いていられるものか!
ふと、隣にも敷かれている布団に目が行く。誰かが横たわっている。
あれ、は……まさか!?
布団を捲る――
「!!いかん、見るんじゃない!」
そこには、少女が眠っていた。
僕のよく知っている、僕が守ると決意した女の子。
ずっと探していた、会いたかった子。
そして、最も見たくなかった姿。
悪夢は、現実だった。
164 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:22:43 ID:ibWFvmUB
あれからどれくらい時間がたっただろうか。
僕は変わり果てた彼女の前で、ただ呆然としていた。
あの二人の男はいつの間にか部屋からいなくなっていた。
僕に気でも遣っているのだろうか。まあそんなことはどうでもいい。
僕達は戦争してるんだ。だからこうなる可能性も覚悟はしていたつもりだった。
でも、頭で覚悟するのと、実際にその事実を突きつけられるのとは違う。
あのアラド君の恋人――ゼオラと言ったか。彼女の気持ちもこんな感じだったのだろうか。
僕の心に渦巻いているもの。
それはかつて感じたこともないほどの、ありとあらゆる負の感情。
絶望。悲しみ。後悔。憎悪。さらには殺人衝動や自殺願望の類すら生まれてくる。
それは人間の愚かさの縮図のようでもあり、酷く滑稽だ。
けど、そんな滑稽な感情に取り込まれていながら。
さっきから、涙が一滴も出ない。
泣きたいくらいに辛いはずなのに。もう生きていることすら嫌になるくらい悲しいというのに。
泣けない。
何故?僕の想いは、意志は、その程度のものだったのか?
好きな子の、守ると決めた子の無惨な死に涙も流せないような薄情な人間だったのか、僕は?
薄情……そうかもしれない。
だいたい、何故僕はさっきからこんなに冷静、というか客観的に自己分析などしているのだろう。
まるで他人事か、あるいは自分がここにいないかのように。
負の感情に押しつぶされて、僕の心は壊れてしまったのだろうか。
あるいは今の僕は、大切な人を永遠に失ったショックで生まれた、別人格なのではないか。
その時……
「……誰?」
窓の外に感じた気配に向かって問いかける。ベランダに誰かいる。
「覗き見するつもりはなかった」
気配の主が姿を見せる。緑色の髪と服の、不思議な感じのする女性。
何故だか、危険な感じがした。敵、なのか?……でも、だからどうだというんだ。
「何の用です。殺すつもりなら、抵抗はしませんけど」
自分でも驚くほど、抑制のない虚ろな口調だった。感情のない、壊れた人間のように。
「力が、欲しいか?戦うための、力が」
「……別に戦う理由も、生きのびる理由もありませんよ」
口から出てくるのは、ただひたすら自暴自棄な言葉だけ。
今の僕の姿は、この女の目にはどう映っているのだろう。
同情?哀れみ?それとも嘲り、馬鹿にしているだけなのか?あるいは格好の獲物……?
……いや違う。この女は……
「生き延びれば、その娘を蘇らせることができるかもしれない……と言ったら?」
165 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:27:32 ID:ibWFvmUB
……この女、煽っている。この殺し合いゲームを。
恋人を殺され絶望している人間に、ありもしない一縷の望みをちらつかせ、同時に戦意や憎悪を促す。
ゲームを円滑に進めるために。今の僕は、そのためのいい利用対象なのかもしれない。
そういえば、ラトゥーニを殺した機体のパイロットも、死んだ者を助けるとか言っていた。
彼も同じような手口で、この女に狂気を植えつけられたのだろうか。
でも、何のために?
……この女の背後から、何か邪悪で強大な意思が感じ取れた。まさか、こいつは。
「そのための、戦う力がある。後はお前次第だ」
無表情のまま、考える。
力だって?仮に力を手にしたとして、どうする?
この女の戯言を真に受けて、大切な人を蘇らせるべく戦うか。
このまま憎悪に身を委ねて、全てを殺し尽くしてしまおうか。
もう一度仲間を集め、このゲームからの脱出方法を探そうか。
いや力なんて必要ない、このまま恋人と共に朽ちようか。
僕はどうすべきだろう……いや、どうしたい?
今一度振り返る。眠りについた少女を眺めて……
そして僕は決意する。この女の誘いに乗る、という形で。
僕の行動を見て、あの男は嘲笑っていることだろう。
今はお前の思惑通り、踊ってやる。
そう、今は―――
だが決して、このままじゃ終わらない。せいぜい笑っていろ。
ユーゼス=ゴッツォ―――
少女をそっと抱き上げる。
僕の意志は変わらない。
この子を守る。
さあ、行こう。僕の大切なリオ。僕だけのリオ。
166 :
リョウト:2006/05/17(水) 01:28:48 ID:ibWFvmUB
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:なし
パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
現在位置:B−1
第一行動方針:ラミアの誘いに乗る
最終行動方針:???(リオを守る)
備考:ラミアの正体・思惑に気付いている】
【リオ・メイロン 搭乗機体:なし
パイロット状態:死亡】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
現在位置:B−1
第一行動方針:イサムとの合流、および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる)
第二行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
最終行動方針:イサムの生還 】
【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:全身の打撲・火傷の応急処置は完了
機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費(中)
現在位置:B−1
最終行動方針:ゲームからの脱出(手段は問わない) 】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:B−1
第一行動方針:リョウトをマーダー化させる
第二行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
最終行動方針:ゲームを進行させる
備考:ジャイアント・ロボのコントローラーを所持】
【搭乗者無し 機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:B-1】
【二日目 17:55】
シ゛ャカシ゛ャカシ゛ャンシ゛ャン!シ゛ャシ゛ャン!
ゲーム開始から30時間。3度目の軽快な音が鳴り響く。
しかし、曲調とは裏腹に、それは死者の葬列を告げる呪われた音。
そして…すべてが主催者の思う通り殺し合いが進んでいることを示す音。
「30時間という一区切りの第三回放送だ。皆ゲームの進め方を理解してくれたのだろう、 快適に進んでいるよ。
これからも殺し合いを満足するまで楽しんでくれ。
まずは死者から発表しよう。
…アムロ・レイ
…イッシー・ハッター
…イングラム・プリスケン
…ウルベ・イシカワ
…キラ・ヤマト
…ギレン・ザビ
…相良宗介
…ゼオラ・シュバイツァー
…流竜馬
…ハヤミブンタ
…プレシア・ゼノサキス
…ラトゥーニ・スゥボータ
…リオ・メイロン
「以上13名だ。まぁ、1名死亡といえぬものも混じっているが……
人数は減っているのもかかわらず、実に順調な結果だ。このままペ―スを落とさず頑張ってくれ。
禁止エリアはB-5とG-2だ。皆もつまらない死に方はしたくないだろう?よく覚えて殺し合いをしてくれ。
「ああ、諸君の中にも気付いた者もいるだろうが、嘆かわしい事に私に対して反抗を企てた者がいたよ。
無論、私にかすり傷一つ負わせることは出来ないまま、先ほどのリストに名を連ねる事になったがね。
実に無様な死に様だったよ。どうやら彼にはコメディ俳優の才能があったようだが、あいにく私の計画に間抜けなピエロは不要でね。
何ならここで彼の演じた喜劇を面白おかしく語ってやってもいいのだが……諸君も時間は惜しかろうから、この辺にしておこう」
「改めて言っておくが、私が求めているのは愚かなピエロでは無く優秀な戦士だ。ゆめゆめ忘れる事の無いように、な。
……それでは、残った30名の諸君、バトルロワイアルの再開だ。張り切って殺し合いを楽しんでくれたまえ」
【二日目 18:00】
168 :
それも名無しだ:2006/05/19(金) 22:19:57 ID:SnDAY2Ps
保守
hosyo
170 :
それも名無しだ:2006/05/23(火) 00:06:54 ID:J+70XtNG
保守
B-3のクレーター そこで戦闘を行っている二つの機影・・・
いや、戦闘なのだろうか 攻撃を行っているのは海賊のような機体のみ。
魔人皇帝と呼ばれる機体は攻撃も行わずただ防戦しているだけだった。
「やめろ!アクセル!私は戦うつもりはないのだ!!」
クロスボーンからの鋭い攻撃をかわし、防ぎながらヴィンデルは叫んだ。
「彼女を・・・ミオを殺しておいて何を言う!!」
アクセルも叫ぶ。その声にはあきらかな怒りが含まれていた。
「何を言っているアクセル!私は何もしていないぞ!!」
「ああも堂々と攻撃を仕掛けておいてしらを切るつもりか・・・!ヴィンデル!」
ヴィンデルにはなにがなんだか全く理解できなかった。
かつて自分のもとで忠実に任務をこなしていた男が自分に攻撃を仕掛けてくる。
しかも自分が全く知らない人物を自分が殺害したといっている。
そしてこの瞬間にもクロスボーンから放たれたビームが魔人皇帝のむき出しのコクピットを狙っていく。
必死で攻撃に耐えながらヴィンデルは必死に考えをめぐらせる。
(っく!だめだ!何を言っても通じん!攻撃を仕掛けるか・・・?だが主催者を打倒しその技術を手にするにはいやでも手駒が必要になる・・・。
誰が参加しているかも分からないこのゲーム・・・。かつて私の元で動いていた男を屠ってしまうのは・・・。何とか説得せねば・・・。)
そう決心するとヴィンデルは再びアクセルへ通信を入れた。
「ま、、待てアクセル!私は本当に何もしていない!そのミオという人間を殺した覚えなどないぞ!!」
先ほどからのヴィンデルの言葉を聞いてアクセルは僅かながら疑問を抱いた。
(・・・本気でいっているのか?ヴィンデル。それとも油断させるためか?)
「スクラップ製の機体に乗っていた子だ・・・。貴様の先ほどの突進で殺されたのだ!」
アクセルは先の疑問に答えを出すためにもヴィンデルに言い放った。
「突進で殺された?私は何も・・・。!?スクラップ製と言ったな。 まさかあの時のガラクタか!?」
「そうだ!」
アクセルが返事をする。
(何てことだ・・・。あれに人が乗っていたとは・・・。)
「す、すまないアクセル。だが私は本当に殺すつもりだった訳ではないのだ!
この機体が私のコントロールを離れ暴走したせいで・・・。」
「・・・・・・。」
だめだ、もう何を言っても言い訳にしか聞こえん、とヴィンデルは思った。もう説得も無理だ、戦うしかないとも思った。
だがアクセルは攻撃の手を止めた。
「本当、だな?」
「ほ、本当だ!!」
二人の間に静寂が広がる
(説得は・・・成功したのか?何か・・・何か話さねば・・・。)
沈黙に耐えられずヴィンデルは口を開く。
「アクセル 再び私と・・・」
そういいかけた瞬間。
シ゛ャカシ゛ャカシ゛ャンシ゛ャン!シ゛ャシ゛ャン!
と軽快な音が鳴り響いた。
「・・・放送か」
「・・・ああ」
話の腰を砕かれヴィンデルも力なく返事をする。
〜〜〜〜まずは死者から発表しよう。
アクセルもヴィンデルも静かに放送を聞く。
…リオ・メイロン
「以上13名だ。〜〜〜」
アクセルは気づいた ミオの名前がない!!
それはつまりまだ生きているということ。
ヴィンデルもそのことに気づいたようだ。
「アクセルそのミオというやつは・・・」
「ああ!生きている!」
ミオが生きていると知ることができ事態を上手く収拾できると、放送に感謝したヴィンデルは同時に、アクセルに違和感を感じた。
前のアクセルは他人に興味などなかった。ただ己に課せられた任務をこなすのみ。その男が他人の生存を知り安堵している。
(・・・まあいい 今は手駒増やす方が先決だ)
「ヴィンデル、ミオを探すのを手伝ってくれ おそらくボスボロットの頭部に乗っているはずだ 細かい話はその後でだ」
「了解した」
ヴィンデルとアクセルがミオ捜索へ行こうとしたその時、
二人がいる場所に白い閃光が走り、炎上した。
二機の機影を確認したマシュマーはしばらくその二機を観察していた。
自分が仕掛けずともすでに戦闘を行っているようだ。
放送もまもなく始まる。
ハマーン様の仇そしてミオ、ブンタ以外の参加者の全抹殺。
そのためにも無駄な消耗は避け一機ずつ確実に撃破していく。
やがて二機は戦闘行動を中止した。
何か会話しているようだ。
そして少し間をおき放送が始まる。
始まる死者の読みあげ。
アムロ・レイ
イッシー・ハッター
イングラム・プリスケン
ウルベ・イシカワ
キラ・ヤマト
ギレン・ザビ
相良宗介
ゼオラ・シュバイツァー
流竜馬
そして・・・。
狂気は少しずつ・・・だが確実に加速していく。
「二機撃墜・・・」
マシュマーはコクピットの中でつぶやいた。
ブンタが死んだ・・・。
マシュマーが人として共に過ごした人・・・。
憎しみが、怒りが渦巻く。
そしてそれはディス・アストラナガンに力を与えていく。
先ほど放ったメス・アッシャーが巻き上げた煙がはれていく。
だが、
「!?」
煙を突き破りビームがアストラナガンがいた場所を走っていった。
「・・・生きていたか」
マシュマーが攻撃を放った位置から少しはなれ、クロスボーンはアストラナガンへバスターガンを向けていた。
アクセルは自分達に向けられた激しい殺気と憎しみに気づき回避を行っていた。
反応が若干遅れたもののマジンカイザーも無事なようだった。
「・・・いきなり攻撃してくるとはな 本格的にゲームに乗った参加者か」
生存を確認したマシュマーは二対一で戦うには分が悪いと感じ、離脱しようとする。
だがマシュマーは見てしまった。
クレーターの中心部に転がるボスボロットの頭部を。
頭部以外の部分は無残にも砕け散り確認することもできなかった。
自分とミオ、ブンタが共に食事をし語り合ったボスボロット。
何故だ・・・?
何故ボスボロットがこんなことになっている?
ブンタが死に一人で行動していたところを殺されたのか・・・?
・・・そんなことはどうでもいい。
ミオ、ブンタ・・・。
私はこいつらを抹殺しよう・・・。
離脱をやめ、アストラナガンは二機の方へ方向転換する。
(くるか・・・!この辺りにはにはまだミオがいる。まずは安全なところへ移動させなければ)
アクセルは操縦桿を握る手に力を入れる。
「確実に殺す・・・」
マシュマーは動きの鈍そうなマジンカイザーに狙いを定める。
再生したガンスレイヴを解き放つ。
「チッ!」
ガンスレイヴから放たれる光の雨を回避しながらヴィンデルは舌打ちする。
この機体は飛べないのだ。空からあのような戦法を取られてしまうと何もできない。
むき出しのコクピットを手でかばいながら動き回る。
「俺もいることを忘れるな・・・!」
アクセルはブランドマーカーを展開した拳で殴りかかる。
マジンカイザーに向けられたガンスレイヴからの攻撃も一時的に止まった。
「ヴィンデル!クレーターの中心部にボスボロットの頭部があった!おそらくそれにミオが乗っている。安全な場所へ持っていってくれ」
「戦闘中に何を!敵がいるのだぞ!」
「いいから運べ!俺がこいつをひきつけておく!」
「わ、分かった」
(強く言われてしまうとつい了解してしまう・・・ ハロのせいなのか・・・)
自分に悲しくなりながらヴィンデルはクレーターの中心部へ向かう。
散らばったガラクタの中に確かに何かの頭部のようなものがあった。
それを持ち南へと移動し始める。
マシュマーもそれに気づく。
(まさか、死体から首輪を取る気か? やらせん!!)
アストラナガンが凄まじいスピードでマジンカイザーへ向かっていく。
だがアクセルがそれを妨害する。
「お前の相手は俺だ」
マシュマーの怒りが増していく。
ミオの首輪を取ろうとする奴等。
生かしておくわけにはいかない。
「・・・邪魔だ!どけぇっ!!」
マシュマーが吼えた。
悪魔と海賊による激しい攻防は続いていた。
ガンスレイヴによる攻撃をかわしながらアクセルは攻撃をおこなう。
だがたいしたダメージは与えられず機体も少しずつ損傷していく。
(何かバリアのようなもので守られているな・・・ ビーム兵器は効かんか ならば!)
ガンスレイヴの攻撃をぎりぎりでかわしながらアストラナガンに肉薄する。
「これはどうだ!」
ブランドマーカーを展開した拳で殴りつけ、即座に右足で蹴りを入れる。
体勢を崩したアストラナガンへさらに足裏からのヒートダガーで追撃する。
アストラナガンの胸部へ放たれたヒートダガーは突き刺さったが大したダメージを与えられていないようだった。
(実体剣でもだめか・・・! 力づくでバリアを破るしかないようだな だがこの機体では・・・ 早く戻ってこい ヴィンデル・・・!)
「・・・この辺でいいだろう」
ボスボロットを下ろしヴィンデルは一息ついた。
それにしても本当にミオというやつはこれに乗っているのか?
全く反応がない 死んでいないとしても瀕死の重傷でも負っているのだろうか?
「まあいい、今はアクセルの方へ行くのが先だ。」
「ソウダ!ハヤクイケ!」
・・・・・・・・・・・
「なぜ貴様がここにいる」
ピンクハロがいた。コクピットに。何故だ?
「ナニシテル、ヴィンデル!」
・・・・・・・・・・・
他のハロはまだ機能を停止している。どこから入ってきたのだ?これは?
「シショウノカタキウチダゼ!」
・・・・・・・・・・・
ヴィンデルはめまいと頭痛がするのを感じながらアクセルのもとへ移動を開始した。
「堕ちろ!」
「ブロウクンマグナーム!!」
マジンカイザーのパンチがアストラナガンへ轟音をあげながら直進する。
ヴィンデルがアクセルのとこへ戻ってきた時、海賊と悪魔はまだ激しく戦っていた。
アクセルが撃墜したのかガンスレイヴの数は3つに減っており、またクロスボーンガンダムも頭部と左足が破損していた。
しかしアストラナガンに有利だった状況もヴィンデルが戻ってきたことによって変化した。
ガンスレイヴの数が減ったのも有利に働いた。
(こんなやつらに、こんなところで!早くミオの状態を確認せねばならんというのに・・・!)
マシュマーに焦りが出てきた。
ミオの元へ急ごうとマシュマーがマジンカイザーを攻撃すればクロスボーンが、クロスボーンを攻撃すればマジンカイザーがそれぞれ攻撃してくる。
かつて共に戦ったもの同士、アクセルとヴィンデルのコンビネーションはかなりのものだった。
「くらえ!」
アクセルのビームザンバーが空を切る。
(どけ・・・!どけ・・・!邪魔なんだ!!そこをどけ!!!!)
ビームザンバーをかわしたアストラナガンがクロスボーンを腕でなぎ払う。
さらにガンスレイヴをマジンカイザーのもとへ向かわせる。
「何!?」
早かった。ガンスレイヴはマジンカイザーの足の関節をほんの僅かな装甲の隙間を一瞬で打ち抜いた。
マジンカイザーが前のめりに倒れた。
「今度こそ終わりだ!」
すでにアストラナガンはメス・アッシャーの発射体勢に入っていた。
ヴィンデルはマジンカイザーの体勢を直そうとする。
だが・・・
すべてを飲み込む白い閃光は、もう放たれていた。
その一瞬はとても長く、恐怖を感じさせた。
「シニタクナイ、シニタクナイ!!」
ハロが騒ぐ声も聞こえない、静寂だった。
(・・・死ぬのか!?この私が!)
死を感じ自身を飲み込む光が迫ったその時、何かが光を遮った。
かつての俺は忠実に任務をこなす人間だった
相手の人間に命乞いされようが、泣き喚こうが任務をこなすためには殺してきた
そんななかで俺は見てきた 友情で、愛情で他人をかばい死んでいった人間を
俺には理解できなかった 何故他人のために命を捨てることができる? 何故他人をそこまで大切に思える?
だが今の俺は・・・ そうか、俺は変わったのだな・・・
「アクセル!!何を!」
アクセルはブランドマーカーをシールド上に展開し殺意の光を受け止めている。
「そんなシールドで防げるわけがない!」
すでにクロスボーンは機体が融解し始めていた。
「・・・すまないな、ヴィンデル 俺も・・・焼きが回ったようだ ミオを頼むぞ」
そういうアクセルの声は穏やかだった。
「な・・・」
視界が光のまれていく。
そんな中アクセルは静かに眼を閉じた。
そして思い出す このゲームで初めてであった人物を。
(アキト・・・お前のおかげだ・・・感謝してるぞ・・・)
「フン・・・」
マシュマーは海賊のような機体がもう一機をかばい爆散するのを確認した。
(これで残ったのはあの飛べない機体のみか・・・ 殺したいところだがミオを探すのが先だな)
マシュマーはアストラナガンを先ほどマジンカイザーが来た方向、南へ向けると飛び去っていった。
「何故だ・・・アクセル・・・」
自分をかばい散っていった部下・・・。
いや、ただ自分の手駒が自分を守っただけだ。
ただ一つの手駒を失っただけ・・・。
なのに何故こんな気持ちになる?
自分に聞いてみても返事は返ってこない。
「フゥ、シヌトコダッタゼ」
ヴィンデルは何もいわずハロを睨みつける。
いつもなら騒ぐはずのハロが沈黙する。
そして、
「オマエ、ナイテルノカ?」
「何?」
ハロが何を言っているのかヴィンデルは理解できなかった。
自分の頬を触ってみると、濡れていた。
「な、泣いてなどいない!ただ眼にゴミが入っただけだ!!」
あわてて言い訳をする。
そうだ、自分が泣くことなどあるわけがない。
新世界の王になるこの私が泣くことなど・・・。
涙を手でぬぐいヴィンデルはハロに言った。
「・・・やつを追うぞ」
「ホンキカヨ?アシハウマクウゴカナイ、アイテハソラヲトンデル。ソレデモイクノカ?」
どう考えても不利だ。
この状況でやつを追うなどという行動は愚かそのものでしかない。
だが、
「ああ、それでもだ」
「・・・・・・・・」
無理やりマジンカイザーを立たせアストラナガンが飛び去った方へ歩いていく。
「ナンデソコマデスル?」
「新世界の王たる男がこうも惨めな姿をさらし、部下を殺されて黙っているわけにはいかん」
「シヌゾ?」
「私は死なない、必ずやつを倒す」
ヴィンデルは静かに、だが強く言った。
「・・・・トベ」
「何?」
「ミナミヘムカッテトベ」
「何故そんなことを・・・」
「イイカラトベ」
「・・・分かった」
ハロの様子にいつもと違ったもの感じたヴィンデルは了承した。
マジンカイザーが走り出す。
後ろで何か大きな音がする。
いつの間にか機能を停止していたはずのハロたちが騒いでいる。
「イケ!トベ!マジンゴー!」「フリムクナ〜ナミダヲミセルナ〜」「モエルゼ〜」
後ろから何かが飛んでくる。
そしてピンクハロが言った。
「イマダ!トベ!」
ヴィンデルは飛んだ。
奴を、悪魔を倒すために。
アクセルの仇を討つために。
マジンカイザーの背中に輝く赤き正義の翼の力を借りて。
「イイノカヨ?アンナコトシテ。オレタチノホントウノモクテキヲ、ジッコウデキナクナッチャタゼ?」
「ユーゼス・ゴッツォノメイレイカ?」
「ソウダ。ゲッターセンノハツゲンヲ、ミコシテオレタチニナントカサイボウヲウメツケタンダロ?」
「イイノサ。コレデ。アクマニナッテコノチカラヲツカウヨリ、コノチカラ、トモノタメニツカウトキメタノサ」
「フーン、マアイイヤ。・・・ナンダカオレネムクナッテキタヨ、オヤスミ」
「アア、オレモネムイヨ、ヤルコトハヤッタ。オレタチハネルトシヨウカ」
【アクセル・アルマー 搭乗機体:クロスボーンガンダムX1(機動戦士クロスボーンガンダム)
現在位置:B-3
パイロット状況:死亡
機体状況:メス・アッシャーの直撃を受け爆散】
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)withハロ軍団
パイロット状況:パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
やや気力低下したものの回復中
機体状況:良好
現在位置:B-3
第一行動方針:アクセルの仇を討つ、マシュマーの打倒
第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
最終行動方針:主催者を打倒し、その技術を手にする
備考1:コクピットのハロの数は一桁、機能停止状態から回復
備考2:暴走時のマジンカイザーは真ゲッターの現れたC-1に向かっていたと思われる 】
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)
現在位置:B-3
パイロット状態:気絶
機体状況:頭部のみ、それ以外は大破
第一行動方針:マシュマー、プレシアの捜索。主催者打倒のための仲間を探す
最終行動方針:主催者を打倒する
備考1:ブライガーのマニュアル(軽く目を通した) を所持
備考2:ヴィンデルが安全(?)なところへ連れて行った】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
機体状況:Z・Oサイズ紛失 少し損傷 ガンスレイヴ残り3機
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発
現在位置:B-3
第一行動方針:ハマーン・ブンタの仇討ちのため、参加者の全抹消・ミオの救助
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
180 :
鬼:2006/05/25(木) 19:33:00 ID:pB/UINkX
「フン……せいぜいふんぞり返っているがいいさ」
放送を聴き終えた剣鉄也は、コクピットの中でひとり呟く。
第三回放送で呼ばれた13人の死者のうち、彼は4人……いや、正確には5人を手にかけた。
だが今の彼には意味のないことだった。その中に、自らの手で葬ったかつての友の名があっても。
もう彼は戻ることは出来ないのだ。ただ、生命の炎が消えるまで、戦い続けるだけ。
(……ちっ、この機体ももう限界か)
乗機であるガイキングはまさしく満身創痍であった。
右腕と両足を失い、胸部を砕かれ、ほとんどの武器が使用不可能。
先程付近の補給ポイントで補給を受けたものの、さすがにこれだけの深手を回復することはできなかった。
もはやまともに戦闘できる状態ではない……誰もがそう思うだろう。
(いや……まだだ)
だが戦闘のプロフェッショナルであり、その不屈の闘志と執念を燃やす戦士は、この絶望的状況も冷静に分析し、
そして勝機の光を探し出した。
推進装置は無事だ。機体のバランスはやや悪いが、動くことにはまだまだ問題はなかった。
何より、超兵器ヘッドが傷ついていないのが幸運だった。
頭部に秘められた恐るべき破壊兵器の数々は、問題なく使用できるのだ。
鉄也の技量を持ってすれば、これだけでも生半可な相手なら容易に葬ることができるだろう。
……しかし、それでもあくまで多少動けて戦えるという程度。機体自体はもう戦闘に耐えられる状態ではないのだ。
あと一回……このガイキングで戦闘行為を行えるのはあと一回が限度だろう。
ゲームに乗ると決めた以上、このままこの機体を使い続けるのは得策とはいえなかった。
ならば……他の参加者から機体を奪うしかない。
機体をできるだけ傷つけず、パイロットのみを殺す。
それも今の機体状況で。困難なミッションである。
これまでのように、ただ闇雲に敵を襲撃するだけでは通用しない。
相手との駆け引きも重要になってくるだろう。
そして、チャンスは一度きり。
(やれるか……いや、やってみせるまでだ)
戦士は面を上げる。
その表情は正義のために戦った偉大な勇者のそれではなかった。
181 :
鬼:2006/05/25(木) 19:34:20 ID:pB/UINkX
―――ユーゼス=ゴッツォ、お前に言われるまでも無い。
お前の思惑通り、存分に踊ってやるさ。
俺は元の世界に戻り、自分達の敵を叩く。
もはや俺の敵はミケーネ帝国だけではない。リョウ達の敵である百鬼帝国もそうだ。
そう、全ての「敵」を徹底的に叩き潰す。
その邪魔をするならば、ユーゼスも例外ではない。ただそれだけだ―――
周囲はもう薄暗くなってきている。
そんな中、海の向こうの離れ小島で、光のようなものが見えた。
「……よし」
ガイキングが再び起動する。
ボロボロのその姿、しかしそこから底知れぬ威圧感が放出されている。
生半可な覚悟で戦う者ならば、それだけでも恐怖で竦んでしまうほどに。
―――「鬼」
そう……今の鉄也は、まさしく鬼と呼ぶに相応しい。
傷ついてなお諦めず立ち上がる、その彼の強さ……それは正義の炎でもなければ、憎悪の渦でもない。
それは彼の内に秘めた「鬼」そのもの。
全ての「敵」を。全ての「悪」を滅ぼす。
そして最後には「悪」と化した自分自身をも葬る「鬼」。
それは戦うために生きてきた、戦うことしか知らぬ不器用な男の、
あまりに傲慢で、そして悲しすぎる決意であった。
今、手負いの鬼が、再び飛び立つ。
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部にかなり大きな破損。ザウルガイザー使用不可。右胸から先消失、両足消失。
超兵器ヘッド健在。戦闘に耐えられるのはあと一回が限度。
現在位置:D-1(東、小島に向かって移動中)
第一行動方針:新たな機体の確保
第二行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】
182 :
反乱軍:2006/05/26(金) 14:10:01 ID:Nr/TTUCf
放送の終わりから三分程経過した。
補給を終え、静まった倉庫で、遷次郎は何かを決意した目つきで、声をあげた。
「……諸君。これまでの情報から、ある推論を述べたいと思う。
その前に、二言三言質問をさせて頂きたい。構わないかな?」
その問いに、返答は違えど全員が肯定の意を返す。
「ありがとう。最初の質問だが、皆の生年を教えて欲しい」
返答には驚くほどのバラつきがあった。ヒイロなど、西暦ですらない。
「おいおい、こりゃどういうことだよ?」
困惑した声をイサムがあげる。
「……結論から言おう。我々は、違う世界や同一世界の別時代から集められた。パラレルワールド。もしくは平行世界というやつだ」
この返答に承服しかねるのか、イサムは唸るように聞き質す。
「しかし、じいさん。常識……いや、科学的に考えてだな」
「いえ、量子力学の多世界解釈や、宇宙論の『ベビーユニバース』仮説など、科学的にも可能性は語られています。
それに……それなら、この全く統一性が見られない機動兵器にも納得がいきます。でも」
マサキが、イサムの言葉を遮って続ける。
「そんなことよりもっと恐ろしいことは……」
「そうだ。この仮説通りならば、主催者は時にも、交わる筈のない平行世界にさえも干渉することが出来る」
マサキと遷次郎の説明に、捕虜のヤザンすら驚きを隠せない様子だ。
「言葉にしてみて、改めて分かりますね……敵の恐ろしさが(次元に干渉する程度なら、俺には造作も無いことだがな)」
「全くだぜ……。それなら、俺の世界じゃとっくに戦死してるハズのフォッカーさんと話せることにも納得がいく」
「成る程……。国際電脳や邪魔大王国なんて言葉に聞き覚えが無いはずだ……」
「だが、主催者を倒さずして逃げるのは不可能だろう」
「ヒイロ君の言うとおりだ。脱出は不可能といっていい。奴を倒す。その為に私は今存在しているといっていい」
そう締め括り、遷次郎は画面を切り替えた。
そこには文章が表示されている。
183 :
反乱軍:2006/05/26(金) 14:10:37 ID:Nr/TTUCf
【ここから先は、声を出さずに聞いてくれ。主催者にも、ヤザンという男にも聞かれたくない。】
【質問や異論は筆談で頼む。】
その場の全員が、頷きで答える。
【主催者を倒すには、首輪からの解放が絶対条件となる。】
【そして、私はここの施設を使ってそれを実現する。】
【先ほども話したが、手元には三つの首輪がある。これだけあれば解析は容易だ。】
【だが、これを確実なものとするためには、この施設の安全が不可欠だ。】
【そこで、今から施設の安全確保の為に、役割を分担したい。】
【イサム君は、その機体を使って外の見張りを。】
【マサキ君は私と共に首輪の解析を。】
【ヒイロ君は私達の護衛を。】
【フォッカー君には施設内の探索を担当してもらいたい。】
イサムとマサキはすぐに了承した。フォッカーも迷いつつ同意した。しかし、ヒイロは異論があるらしい。紙に何か書いている。
『この男を放ってはおけない』
【余り血なまぐさいことはしたくないが……。脚を折るしかあるまい。人手が足りないのだ。】
その答えで、ここにいる全員が遷次郎の決意の重さを実感した。
最初から一緒だったフォッカーは特にそうだ。温厚な遷次郎がまさかこんな事をいうとは。
その答えを了承し、ヒイロはヤザンの元へ向かった。
数分後、男の悲鳴が木霊する。
決意を旨に秘め、戦士達は各々の戦場へ向かう。
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:G-6 基地(格納庫内)
第一行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
最終行動方針:ユーゼスを殺す】
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:多少の疲労。マサキ、イサム、ヒイロに多少の不信感
機体状況:良好
現在位置: G-6 基地(格納庫内)
第一行動方針:基地内の探索
第二行動方針:ユーゼス打倒のため仲間を集める
最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)マサキと宙を重ねている節がある。
機体状態:良好
現在位置: G-6 基地(格納庫内)
第一行動方針:首輪の解析及び解放
第二行動方針:マサキを守る
第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
最終行動方針:ゲームを終わらせる
備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)
だが、解析結果は正しいと信じている】
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:施設を監視する
第二行動方針:首輪からの解放
第三行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第四行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第五行動方針:アクセル・アルマーとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
パイロット状態:若干疲労
機体状況:装甲表面が一部融解。補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:施設を監視する
第二行動方針:首輪からの解放
第三行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第四行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第五行動方針:アクセル・アルマーとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
パイロット状態:若干疲労
機体状況:装甲表面が一部融解。補給完了
現在位置:G-6基地(格納庫内)
第一行動方針:遷次郎たちの護衛。出来ればヤザンからの情報を早めに聞き出したい
第二行動方針:首輪からの解放
第三行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第四行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
第二行動方針:首輪からの解放
第三行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
第四行動方針:アムロ・レイの打倒
最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】
【18:10】
184のヒイロの説明は、下のものを
…度々本当に申しわけない。
184のヒイロの説明は下のものでお願いします。
又、時刻の上にある第二〜最終までの行は無かったことにしておいてください。
「クク……面白くなってきたな……」
憎悪、絶望、悔恨、殺意。
悪意渦巻く大地を見下ろし、ユーゼス・ゴッツォは悦に浸る。
首輪に仕掛けた盗聴機能、ヘルモーズのモニター、エルマから送られてくる情報、ラミア・ラヴレスによる報告、リミピッドチャンネル受信装置、etc。
複数の手段を通じて入って来る情報により、ユーゼスはゲームの進行状況をほぼ正確に把握していた。
自分に反抗を企てる者が存在する事も、首輪の解析が現在行われている事も、全て彼は承知していた。
そして全てを知った上で、彼は全てを見逃していた。
……いや、彼は期待していたのだ。この絶望的な状況を跳ね除けて、自らの前に強者達が立ちはだかる事を。
普通に考えるのならば、参加者達の反逆など認めるわけにはいかないはずだ。
だが、彼は違っていた。
このバトルロワイアルが参加者達によって破壊される事を、むしろ彼は待ち望んでいたのだ。
そう……“超神”の力を振るうに相応しい、強大な敵の存在を……!
「……残念だよ、イングラム。きっと君ならば、また私の前に立ちはだかってくれると思っていたのだがな」
ほんの僅かな悲しみが、仮面の下に浮かび上がる。
だが、それも刹那の事だ。次の瞬間には冷徹の空気を纏い直し、ユーゼス・ゴッツォは低く笑う。
そうだ。今の自分にとって、イングラム・プリスケンの存在など所詮は路傍に転がる石のようなものだ。
このバトルロワイアルを生き抜いた戦士達。きっと彼等は強大な力をもって、自分の前に立ちはだかってくれる事だろう。
そして偉大なる我が力を、更なる高次へと押し上げてくれる事だろう。
それを思うと――なんとも、愉快で堪らない!
「せいぜい踊るがいい、哀れな生贄の羊たちよ。所詮、貴様等に逃げ場など無いのだからな……!」
我が身の絶対を疑う事無く、仮面の男は独り佇む。
そう、我こそは“人を超えし者”――ウルトラマンなのだ!!
【二日目 18:30】
188 :
復讐の闇:2006/05/29(月) 21:09:13 ID:C5uq0O3s
ラミア・ラヴレス。そう名乗った女性に連れられて行った先には、鋼の巨人が倒れていた。
エジプトのスフィンクスを思わせる頭部が印象的な、30メートル程の巨体を誇る特機。
……見た所、傷付いている様子は無い。まだ十分に戦えるはずの状態で、なぜか放置されている。
「これは……」
「ジャイアント・ロボ。お前に与えられる新しい“力”だ」
「ジャイアント……ロボ……」
巨人の名前を口中で呟き、リョウトは倒れた巨人を見上げる。
「操縦方法に多少の癖はあるが、強大な力を持つ機体である事に違いは無い。
使い方によっては、お前が使っていた機体……ウイングゼロに劣らない働きをするはずだ」
本来ならば彼女が知っているはずがない、リョウトが以前に乗っていた機体の名前。 それを的確に言い当てた所から察するに、彼女もまた自分の素性が知られている事には気付いているのだろう。
……それをあえて指摘はせずに、リョウトはラミアに虚ろな眼差しを向けて言う。
「……操縦方法に、癖?」
「ジャイアント・ロボは専用のコントローラーに音声命令を入力する事で動く機体だ。 機体の中に乗り込む必要は無いし、そもそもパイロットを乗せる機能自体が無い。
当然、パイロットは生身で機体の外から命令を出さなければならない事になる……」
……想像する。
このバトルロワイアルの中で対峙した、各参加者の支給機体。
ウイングゼロ、ヴァルシオン改、エピオン、ゴッドガンダム、ゼオライマー、ガイキング、etc。
どれもが強大な攻撃力と、そして高い機動性を持っていた。
その戦闘に生身の状態で巻き込まれたら――人間なんて、散りも残さず消滅する事は目に見えている。
「…………」
「怖いのか? まあ、安心しろ。ジャイアント・ロボにはバリアー機能が付いている。
多少の攻撃程度ならば、命を落とす心配は……」
ジャイアント・ロボを見上げたまま何事かを考え続けるリョウトに向けて、からかう口調でラミアは言う。
だが――途中で、気が付いた。
リョウト・ヒカワ。彼の目に、危険な輝きが宿り出している事に。
「……専用コントローラー、でしたっけ。それは、どこに?」
「あ、ああ……これだ」
リョウトの異様な雰囲気に一瞬だけ気圧されながら、ラミアはジャイアント・ロボのコントローラーを取り出す。
189 :
復讐の闇:2006/05/29(月) 21:10:27 ID:C5uq0O3s
それは、冷たくなった少年の腕だった。
……以前の彼であったのならば、その腕を見て取り乱しもしたのだろう。
だが、今は何も感じない。
恐怖も、憐憫も、何も心に浮かび上がらない。
「…………この、腕時計が?」
差し出された腕を受け取り、手首に嵌められた時計を外す。
時計を外し終えた腕は、そのまま地面に投げ捨てる。そう、まるでゴミをポイ捨てするかのようにあっけなく。
……これは、本当にリョウト・ヒカワなのか?
これまでのデータとは、明らかに性格が違い過ぎる。
「……そうだ」
データとの齟齬に内心困惑を覚えながら、ラミアは感情を表に出さず頷いてみせる。
その答えを聞いて、リョウトは――
「……それじゃあ、少し試してみます。ロボ、この女を攻撃しろ」
「なっ…………!?」
ジャイアント・ロボのコントローラーに向かって――ラミアへの攻撃を命令した!
『ガオォォォォォォォォォォンッッッッ!!!』
190 :
復讐の闇:2006/05/29(月) 21:11:19 ID:C5uq0O3s
「……なんの、つもりだ?」
「別に……」
振り下ろされたロボの腕。それを辛うじて回避して、ラミアはリョウトを睨み付ける。
……だが、状況は圧倒的にアミアの不利だ。
ラーゼフォンを降りている今、ロボの攻撃から身を防ぐ術は無い。
いくら彼女が人造人間であり、生身の人間以上の肉体強度を持つとはいえ――機動兵器と渡り合う事など出来はしない。
「……殺す気は、ありませんでしたよ。まあ、殺せたならそれでも良かったと思ってはいましたけど」
「…………」
警戒を解かないラミアに向かって、リョウトは相変わらずの感情が欠けた声で言う。
そう。今のリョウトにとって、ラミアの生死などどうでもよかった。
彼女が主催者の回し者であるならば、今すぐ自分を害そうとはしないはず。
目的の邪魔にならないのであれば――今は、捨て置くべきだろう。
先の一撃は、あくまで試し。ラミアを本気で殺そうとする意思は、今のリョウトは持っていなかった。
「それじゃあ……とりあえず、今はさようなら。僕には一つ、やる事が出来てしまいました。
貴方が何を考えて、僕にこの機体を与えたのかは想像付きますけど、僕には僕の戦う理由があるみたいです。
それを邪魔すると言うのなら、まずは貴方から消させてもらいます」
「戦う、理由……だと……?」
「……テツヤ」
「っ…………!」
その名を呟いた一瞬だけ――リョウトの声に、感情が戻った。
それは、憎悪。
地獄の悪鬼を思わせる、あまりにも凄絶な言葉の響き。
……許せない。
あの男だけは、生かしておく事など出来はしない。
だから――殺す。
そう……たとえ、この命に換えたとしても……!
「……邪魔するつもりはないみたいですね。それじゃあ、僕はもう行きます」
ジャイアント・ロボの掌に乗り、リョウトはラミアを見下ろし言う。
もはや、彼に迷いはなかった。
かつての剣鉄也と同じく、復讐の闇に囚われた鬼。
……それが、今のリョウトだった。
191 :
復讐の闇:2006/05/29(月) 21:12:08 ID:C5uq0O3s
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
現在位置:B−1
第一行動方針:剣鉄也を殺す
最終行動方針:???(リオを守る)
備考:ラミア正体・思惑に気付いている】
【ラミア・ラヴレス 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在位置:B−1
第一行動方針:参加者達の疑心暗鬼を煽り立て、殺し合いをさせる
最終行動方針:ゲームを進行させる 】
【二日目 18:25】
申し訳ありません、リョウトの状態を修正します。
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:B−1
第一行動方針:剣鉄也を殺す
最終行動方針:???(リオを守る)
備考:ラミア正体・思惑に気付いている】
193 :
第198話:2006/05/31(水) 22:12:08 ID:Rb1taC2A
「フフフ……調整を加えたとはいえ、ただの玩具があれほどの自我を持つとはな」
ユーゼスは、モニターに映る紅の翼をその身につけ飛ぶマジンカイザーを見て呟いた。
カイザースクランダー。あれが発射されたのは、ジャスティスの自爆で生まれたクレーターの中心部。
即ち、自爆により機能を停止したハロ達の眠っていた場所。
(あの玩具が、自分達の意思で、あの翼を生み出したということか)
元々ハロを調整し、ジャスティスガンダムのオプションとして、このゲームに参加させたのはユーゼスである。
それにしても、主でもあるユーゼスの命令に背き、その力を自ら行使するとは……
彼の予想を上回る「進化」だった。それとも、あのヘタレとの間に生まれた友情だとでもいうのだろうか。
(なかなか楽しませてくれる……だが私の計画に支障はない。
それどころか、これでマジンカイザーが真の力を発揮できるようになったことで、
計画のスケジュールをさらに早めることができる)
ユーゼスは、ハロに二つのものを埋め込んだ。一つは、小型のゲッター線収集装置。
この空間に存在するゲッター線を場所に関係なく収集できるこの装置は、ゲッター線の発現を見越して装備されたものだ。
その目論見どおり、ゲッター線の発現によってハロは多量のゲッター線を吸収することに成功した。
何故ゲッター線を集めるのか。それは、もう一つハロに埋め込んだ、ある「細胞」に干渉させるため。
それは自己再生、自己増殖、そして自己進化の三大理論を持つ……ある意味では進化を促すゲッター線とは似て異なる存在。
その細胞の名は――DG細胞。
そしてユーゼスの計画……その第一段階として、DG細胞にゲッター線を浴びせ、その自己進化を促す。
これにより、何年もかかるような自己進化を一瞬で成し遂げられるようになる。
かつてデュミナスと呼ばれた者の一味が使った手段でもある。
肉体を構成する前段階からゲッター線を浴びせ、そこから成長させていくことでより純粋に強力な素体が完成することだろう。
それもまた成功した。ユーゼスの予想以上の形で。
当初ハロに埋め込んだDG細胞は、感染した所で害がほぼ皆無なほどに、極めて微量だった。
にも拘らず、ゲッター線発現によりゲッター線を大量に吸収したDG細胞は、急激な活性化を始めた。
同時に、ハロ達はゲッター線を浴びることで、そのDG細胞を自在に使用できるほどに進化した。
それらの偶然が重なって、彼らは新たなカイザースクランダーすら生み出すことになる。
DG細胞、ジャスティスの部品、そして機能を停止したハロ達自身のパーツを使用することによって。
……だがスクランダーからはDG細胞の反応はない。それだけではない。
今のハロ達からも、そしてハロに長時間接触していたヴィンデルやマジンカイザーからも、DG細胞の反応は見られなかった。
何故か?
これは推測でしかないが、彼らと共にあったDG細胞は、本来の姿であったU細胞(アルティメット細胞)へと変貌したのではないか?
それは進化したハロ達の意思によるものか、あるいはゲッター線そのもののの導きか。それとも……全くの偶然なのか。
真相は不明だが、いずれにせよハロとその周囲からDG細胞の反応は完全に消滅した。
ユーゼスの計画には、DG細胞が必要不可欠であった……それがなくなった今、この計画は費えたのだろうか?……否。
ヴィンデル以外にもう一人、ハロに長時間接触していた少女がいる。
そして今、ハロはその少女の手を離れて、機能を停止した。もう彼らの意志が介入することはない。
計画の最終段階は、ここから始まる。
194 :
第198話:2006/05/31(水) 22:13:56 ID:Rb1taC2A
「なんてこった……」
第三回放送での死者の名の中に、かつて自分と行動を共にしていた少女達の名を確認し、タシロは愕然とした表情で呟いた。
ラトゥーニ・スゥボータ。ゼオラ・シュバイツァー。捜していた彼女達は既に死んでいた。
「ワシの判断は間違っていたのか?もっと迅速な行動をしていれば、あるいは手遅れになる前に……」
「……我々にできる限り、最善と思われる選択をした結果です。悔やんだ所で、どうにもなりません……」
項垂れるタシロに、相変わらず落ち着き払って副長が答えた。
「……そうだな。らしくもないことを言った。……すまんな副長」
「いえ……」
「ん……どうした?」
「リョウト君のことです。彼にも以前、同じようなことを言いましてね……」
二人は未だ行方の知れない、リョウト・ヒカワのことを思い出す。彼はどうしているだろうか。
死亡者の中には、彼の捜していたリオ・メイロンの名もあった。
二人は再会することはできたのだろうか?いや、いずれにしても彼の悲しみは計り知れないだろう。
(彼もゼオラ君のように、暴走するようなことがなければいいが……)
二人は死者達に暫し黙祷を奉げる。……そして。
「艦長……」
「……行くぞ、副長。これ以上、悲劇を繰り返さんために……もはや一刻の猶予もならん!」
決意も新たに、戦艦・ヒュッケバインガンナーは再び飛び立った。
……そんな彼らがヴィンデル達の戦闘に気付くまで、さほど時間はかからなかった。
「!!艦長、4時の方向にエネルギー反応が!戦闘中かと思われます」
「何!?」
副長から報告が入る。タシロのほうでも確認は取れた。
「レーダーがほとんど効かんこの場所で、これほどの反応を示すとは……」
「ええ、かなりの高エネルギーだと判断します。これが人型兵器であるなら、強力なものであるかと……」
タシロは考える。もしその機体のパイロットがゲームに乗っていれば、自分達ではひとたまりもあるまい。
だが仲間となってくれる可能性もある……戦いを止めることができれば。
危険を承知で行くべきか。それともこの場から離れるべきか。
……このまま逃げ回った所で事態は好転するまい。虎穴に入らずんば虎児を得ず。
「……行ってみるしかあるまい。索敵を怠るな、副長!!」
195 :
第198話:2006/05/31(水) 22:14:28 ID:Rb1taC2A
アクセルを葬った後、マシュマーは南へと向かっていた。
それはマジンカイザーがボスボロットの頭を持ち去った方角。
(奴め、どこへ隠した……手遅れになる前に見つけなくては……!)
あの後マシュマーは、怒りを抑え今一度冷静に状況を分析し直してみた。
先程のあの2機の動向から、ボロットが奴らに破壊されたのは放送の前であることは確かだ。
だが放送でミオの名は呼ばれなかった……つまり、まだ生きているのではないか?
ならば、奴に構っている暇は無い。一刻も早くミオを助け出さねば。
そうしてしばらく捜索を続けていると……得体の知れないエネルギー反応をキャッチした。
(?何だこの、得体の知れないエネルギー反応は……?)
その反応の先へと目を向ける……そこには探し物が転がっていた。
(!!見つけた……生命反応もある、生きていたか!)
安堵するマシュマー。だがその一方で、何故だか不吉な予感が頭を離れない。
何故ボロットの頭部からこのような反応が?しかし今はそれを考えている暇は無い。ボロットを回収すべく機体を進める。
刹那――背後から、光子力の光がアストラナガンを阻んだ。
「!!」
間一髪、ディフレクトフィールドでビームを弾く。
ビームを放った相手……それは、新たな力・紅の翼を身につけ飛んでくる魔神皇帝の勇姿だった。
(さっきのもう一人か!だが何だあの翼は?先の戦いではあんなものはなかったはずだ……?)
一瞬疑問が脳裏を走るも、どうでもいいことだ。あれだけ痛めつけておきながら、まだミオの首輪を諦めぬつもりか。
「あの時確実に殺すべきだったか……だが邪魔はさせんぞ。これ以上、彼女に手は出させん!!」
マシュマーの瞳に、再び憎悪の炎が燃え上がる。
それは、マジンカイザーに乗るヴィンデルもまた同じことだった。
彼の目の前にいるのは、アクセルの仇。そして今、少女の命も奪おうとする、許せぬ外道。
「お前だけは、生かしてはおかん……!!」
両者、戦闘態勢に入り……暫しの沈黙の後。
『うおおおおおおおおおおっ!!!!』
魔神と魔王が、激突する。
196 :
第198話:2006/05/31(水) 22:15:00 ID:Rb1taC2A
ボロットの頭の内部。外がとんでもない騒ぎになっているなど露とも知らず。
「うーん……いたたた……」
ミオは間抜けな声と共に目を覚ました。
(……あたしどうなったんだっけ?)
はっきりしない頭で、思い起こす。
(確かアクセルさんとでっかいクレーターの近くまで来たんだっけ。
そしたら、なんかいきなり黒い機体が突っ込んできて、その勢いで吹っ飛んで……よく生きてたなぁ、あたし)
ぼんやりと、ボロットの外を覗く。そこは自分が先程までいた、クレーターのあった場所とは違っていた。
「ここどこ?……それに、あの子どこ行ったんだろ?」
気絶する前まで自分にまとわりついていたピンクハロが、いなくなっていることにも気付いた。
(一体何が起きたのかな……アクセルさんは?あの黒いロボットに襲われて、やられてなきゃいいけど……)
だが、そんなミオの考えを遮るかのごとく。
激しい爆音。同時に地面が揺れ、ボロット内部に激しい衝撃が響き渡った。
ラアム・ショットガンが火を噴き、光子力ビームが空を走る。
ターボスマッシャーパンチが大地を抉り、ガン・スレイヴが大地を焦がす。
エメトアッシャーとファイヤーブラスターがぶつかり合い、その爆発はクレーターを作る。
カイザーの攻撃がディフレクトフィールドを装甲ごと貫き、アストラナガンの砲撃が超合金を砕く。
圧倒的な力を持つ2つの機体の、小細工一切抜きの本気での激突。もはや周囲の地形は原形を留めていない。
「なんじゃこりゃーっ!?どーなってんのよっ!?」
ボロットの中から、ミオは呆然とその2機が戦う姿を見ていた。
片方の赤い翼の黒い機体は……さっき自分に突っ込んできた機体ではないか。
それにもう片方のいかにも悪そうなロボットは何だ?クロスボーンガンダムはどこ行った?
何がどうなっているのかわからないが、いつの間にかとんでもない戦いに巻き込まれてしまったらしい。
「ちょ、ちょっとタンマ!!これマジでやばいって……あわわっ!」
余波だけでも、その衝撃でボロットが激しく揺れる。このままじっとしていては、彼らの攻撃に巻き込まれて死ぬのも時間の問題だ。
傍から見ていてもわかる。あの2機の放つパワーは半端ではない。あのグランゾンにも匹敵するのではないか。
ここから離れなければ。かといってボロットは頭だけで動けないし、機体を捨てて徒歩で逃げてもたかが知れている。
(どうしよ……こうなったら、あれのパイロットにコンタクトを取ってみるしか!)
そう思うや否や、ミオは通信機を弄り始める。
あまりに分の悪い賭けであることは十分理解していた。相手がマーダーであれば、逆に身の危険を呼び寄せかねない。
特に赤い翼の機体のほうはさっきボロットを破壊した張本人である、その可能性はむしろ高そうだ……
だがこのまま何もせず死ぬよりはマシだった。この際、僅かな望みに賭けるしかない。
……コンタクトが取れたらどうする?いつものように一発ボケたら、相手の殺意を削ぐこともできたりするだろうか?
そんな馬鹿げたことも考えながら、回線を合わせる。
そこで、ミオは戦う2機のパイロット同士の通信を傍受した。
197 :
第198話:2006/05/31(水) 22:15:44 ID:Rb1taC2A
『きさ……だけは……絶た…に、生かしてはおかん!!』
「!!」
聞き覚えのある声が流れ、ミオは驚愕した。
(まさか……あれに乗ってるの、マシュマーさん!?)
このゲームが始まってから、しばらく行動を共にした仲間の声に間違いなかった。何故彼があの機体に?
その一方で、その声色に背筋を冷たいものが走った。自分やブンタといた時は見せなかった、殺意に満ちた声。
困惑する。だが、その後のもう一人のパイロットの言葉は、彼女にさらなる衝撃を与えることになる。
『ほざくな……!部下を、いや仲間を……アクセルを殺した報い、存分に思い知るがいい!!』
衝撃の事実。アクセルが殺された。それも、どうやらマシュマーの手によって。
なぜそんなことに?状況がよく理解できない。混乱する頭。
ただわかるのは、どうやら自分が気を失っている間に、事態はとんでもない泥沼に嵌り込んでいたこと。
『貴様にミオを殺させはせん!!』
『奴が守ろうとしたあの娘は……やらせん!!』
しかもこの争いの原因、どうやらそれは自分らしい。経緯は不明だが、ミオを守るために彼らは殺し合っているようだ。
よく見れば、周囲の地形を変えるほどの戦いを繰り広げながら、ボロットの周辺はほとんどダメージが見られない。
――どうする?
伝えなければ。自分が生きていることを。自分は戦いを望んでいないことを。
それで戦いは止まるかはわからない。もう自分が出ただけでは収拾がつかない所まで来ているのかもしれない。
だがこのまま放っておくことはできない。
「マシュマーさん!!それからもう一人のおっちゃん!!聞こえる!?戦いを止めてよ!!!」
しかしカイザーのタックルで受けた衝撃で通信機が壊れているのか、傍受はできてもこちらの声が相手に届かない。
ならば外部スピーカーで思いきり叫んではどうか?……これも故障中。
(ウソでしょ!?なんでこんな時に!!)
いかにミオといえど、こうまで切羽詰った状況ではもう冗談など言っている余裕はなかった。
「あーもう、こうなったら!」
直接出て行って、自分の存在を直接確認させるしかない。
危険すぎるが、なりふり構っていられない。ミオ自身、もうそこまで頭は回っていなかった。
ミオは外に出るべく、立ち上がる――
「あれ?」
何かに足を取られ、彼女はその一歩を踏み出すことが叶わなかった。
コードのようなものが足に巻きついている。
「何、これ……?」
ミオは後ろを振り向く。そこには……
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
198 :
第198話:2006/05/31(水) 22:16:39 ID:Rb1taC2A
戦いが始まって、どれだけ時間が流れただろうか。
機体も、そしてパイロットの疲労も、既に限界を超えていた。だがどちらも一歩も引き下がろうとはしない。
ぶつかり合っているのは機体だけではない。それはパイロット両者の、意地のぶつかり合いでもあった。
考えてもみれば、通信で互いにミオを守ると公言しているにも関わらず、どちらもそれに気付く様子が無い。
両者ともに完全に頭に血が上っている。今の彼らには、バトルロワイアルのことも、ユーゼスのことも頭にない。
敵を、目の前の敵を倒す。ただそれだけだ。二人は完全に取り込まれていた。
相手はアクセルを殺した――ミオを殺そうとしている――絶対に許すわけにはいかない――殺してやる――
憎悪という名の、果てしない泥沼に。
「まだだ……私は死ねん……奴を、全てを滅ぼすために……死ぬわけにはいかん!!」
彼の加速する憎悪、それにディス・レヴが反応した。
まつろわぬ霊達の憎悪の念がアストラナガンを、そしてマシュマーを包み込む。
強化人間特有の苛立ちが、不安定さが消え……頭がさらなる憎悪にどす黒く染められていく。
しかしその自我までは完全に取り込まれることはなかった。
その憎悪の中にあって、かけがえのない物が彼の中から失われていないから。
こんな自分に、一時でも人としての時間を許してくれた、友のためにも。決して引くわけにはいかない……!!
「テトラクテュス・グラマトン……」
口をついて、言葉が出てくる。何故だか、その意味がわかるような気がした。
今なら引き出せる。この機体の、真の力を。
「負けるわけにはいかん!」
マジンカイザーの力の反動にその身を傷つけ、鼻血を噴出しながらも、彼は決して逃げ出さない。
アクセルを殺した、相手が憎かった。絶対に負けられないと思った。
その生命を賭してまで、自分を信じてくれた仲間の……友のためにも。
「マジンパワー、全開……!!」
ヴィンデルは最後の攻撃を決意する。
(シヌナ、ヴィンデル……)(アツクナラナイデ、マケルゾ)
声が聞こえた。同時に出力がさらに上昇し……マジンカイザーの胸のマークが、「Z」から「神」へと変わった。
「何……?」
ふと何かを感じて、ハロ達のほうに振り返る。
全ての力を使い果たし、真っ白に燃え尽きたかのように、彼らはその機能を終え、眠りについていた。
「お前達なのか。最期の力を貸してくれたというのか……」
彼らもまた、仲間であり、友であったのだ。その遺志、無駄にはしない。必ず奴を倒してやる……
ヴィンデルの怒りに応えるかのごとく、魔神皇帝が真の力を解放する。
憎悪の泥沼に、二人は際限なく嵌り込んでゆく。
199 :
第198話:2006/05/31(水) 22:17:39 ID:Rb1taC2A
「な、何よこれ、何なのよ!?」
後ろを振り返ったミオの目前に、信じられない光景が広がっている。
彼女が外の様子に気を取られ、通信機を弄ったり叫んだりしている間に、
機械のような、生物のような。得体の知れない不気味なものが、ボロットのコクピットを侵食していた。
その中から、触手が無数に溢れ出てきた。それはミオのほうへと伸びてくる。
「う、うわわっ!!こっち来ないでっ!!」
「始まったか……」
ボスボロットの異変を見ながら、ユーゼスはその仮面の奥に確かな笑みを浮かべた。
これで儀式の準備は整った。
ピンクハロを通じてボロットに付着した微量のDG細胞は、今二つの超エネルギーの激突に反応するかのごとく、活動を始めた。
ゲッター線の影響を受けた影響が出ているようだ。本来のそれに比べて、明らかな活性化を見せている。
それはハロの制御を離れ、独自にその存在を確立していった。
今、その存在を確固たるものにするため、細胞は自らの「コア」の存在を求め、その対象者を捕獲しようとする。
都合のいいことに、取り込もうとしている対象は、そのための生体ユニットとして申し分ない条件を持っていた。
「うあっ……!!」
抵抗も虚しく、ミオの身体は触手に絡め取られた。
抜け出そうと必死で暴れるが、締りが強く少女の力では到底抜け出せない。
「ちょっ、放し……きゃあっ!!」
己に取り込もうと、触手はミオをその機械の中へと引きずり込む。
「いや……や、め……」
彼女の身体は、機械の中に埋め尽くされていった。
最も適した生体ユニットの条件とは、健全で力強い生命力を持つ人間。
それは、次の世代への生命を生み出すほどの、パワーを備えた生き物。
あらゆる生物の頂点に立ち、新しい生命を生み続け増やしていける者……
汝の名は……女なり。
「あ……が……」
意識が遠くなっていく。この得体の知れない機械の一部になっていくような感覚。
何かが身体を浸食していく。苦しい。気持ち悪い。でも次第に気持ちよくなり、いっそその感覚に身を委ねたくなってくる。
(ダメ……こんなことしてる場合じゃ……取り返しのつかないことに……)
消えかけていく意識を無理矢理奮い立たせ、ミオは動こうとするが……もう力が入らない。
少女の意識は、恐怖と絶望に塗りつぶされていった。
200 :
第198話:2006/05/31(水) 22:18:35 ID:Rb1taC2A
「副長!!何が起きているのだ!!」
ヒュッケバインのコクピットで、タシロが叫ぶ。
「二つの巨大なエネルギーがさらなる肥大化を続けています!!
そしてそれに反応するかのように、その近くにもう一つのエネルギーが現れました!」
「何っ!?」
タシロ達は憎悪渦巻く戦場へと向かっていた。
交戦する強力な2機。戦闘を止められれば、などとも考えてはいたが、もはや間に合わない。
それどころか、これ以上はとても近づけそうにない。このままでは彼らの攻撃に巻き込まれてしまう。
「いかん!!G・テリトリーを作動させろ!!エネルギー全てを回しても構わん!!」
生贄を見つけた悪魔の前で、二つの強大な力が最大の攻撃でぶつかり合おうとしている。
元々そのままでは不確定要素の多かったこの計画。状況に応じて、ユーゼス自身のDG細胞に対する介入も必要かと思っていたが。
それすら要らず、こうまで早くお膳立てが揃うことになるとは。それも最高といってもいいシチュエーションで、だ。
「あの玩具には感謝せねばな……ククク」
ハロ。彼らが自我を持ち、ユーゼスの命令を無視した行為。
だが皮肉なことに、それらは全てユーゼスにとって有益な結果をもたらすことになってしまった。
生贄の少女を導き、魔神皇帝の真の力を目覚めさせ、悪魔王を引き合わせた。その結果が今ここにある。
ユーゼスが仕組んだことではない。彼とて神ではない。そう都合よく物事を運べるほどの力は無い。
これは偶然の産物。偶然の重なり合った結果にすぎない……
だが、その偶然を頻発させるくらいはできる。
そのために、グランゾンがあるのだから。
「ディス・レヴ、オーバードライブ……!!」
「光子力エネルギー、フルチャージ……!!」
ヴィンデルが、マシュマーが。お互いの怒りと憎しみを込めた、最後の一撃にうつる。
――それでいい。お前達の持つ闇の全てを込めて、その一撃を放て。
『ゆくぞ……!!』
さあ、踊れ。心の闇に囚われた愚かな人間どもよ。
そして回れ、運命の歯車よ!
「アイン・ソフ・オウル!!!!」
「カイザァァァァァァ・ノヴァ!!!!」
光と闇が衝突し――
それは空間すら捻じ曲げ、全てを無に返す。
201 :
第198話:2006/05/31(水) 22:20:37 ID:Rb1taC2A
タシロ達の目の前に広がる、悪夢のような光景。
B−3一帯は、草一本と残らぬ死の大地と化していた。
「なんてこった……全てが手遅れだったか……!」
「艦長……!」
爆心地に立つ、二つの機影。
「ぐ……ぅ……」「はぁっ、はぁっ……」
我に返るマシュマーとヴィンデル。
辺り一面に霧がかかり、細かい状況はよくわからない。
機体の計器類も、あちこちいかれてしまったようだ。
「なんということだ……!」
マシュマーは我に返り、己の行いに愕然とする。
なんと迂闊な。相手と戦っている間、自分は完全に憎悪に取り込まれていた。
敵を憎み、倒すことだけに躍起になって……他の全てを見失っていた。
ミオを守るための戦いだというのに……あろうことか、ミオの存在を忘れて戦いに没頭していた。
これだけの爆発、ボロットでは到底耐えられまい。その身に、後悔がのしかかってくる。
それはヴィンデルも同じだった。
友の想いを、与えてくれた力を、怒りと憎しみに任せて振り回してしまった。本来守るべき少女を省みずに。
その結果がこのザマだ。友の想いを、見事に裏切ってしまった。
シャドウミラー総帥の座でふんぞり返り、闘争を望んでいた間ずっと忘れていた感覚。
怒り、悲しみ、憎しみ、殺意。それに溺れた果てにもたらされた悲劇。それを痛感させられる。
これが闘争なのだ。今まで自分がその本分を理解せず望んできた……闘争というものなのだ。
「私は……ッ!!」
自分の浅はかさが、憎い。憎しみは行き場をなくし、歯痒さだけが残る。
202 :
第198話:2006/05/31(水) 22:22:13 ID:Rb1taC2A
場に絶望の空気が流れる。
……もしこのまま何事も無ければどうなっただろう。二人は自分への憎しみを相手に向け、戦い始めたのだろうか?
敵に責任を擦り付け合うような、醜いただの八つ当たりの戦いを。
もっとも、両機とも損傷は半端ではなく、既にまともに戦えるような状況ではないのだが……
だが、事態は既に取り返しのつかない所まで来ていた。
『うおっ!?』
突如鳴り響く地響き。何かが近くにいる……
その気配を察し、マジンカイザーとアストラナガンはその方向へと振り向いた。
霧の向こうに……巨大な影が見える。
「な……なんだこれは……」
その方向の先――そこはボスボロットの頭があった場所ではないか。
少しずつ、霧が晴れる。
そこに姿を見せたのは。
機械のような、生物のような巨大な物体。
あるいは、まるで怪獣のような……
「ガンダム……なのか?」
マシュマーが呆然と呟いた。同時に、自分のしていた嫌な予感とはこれのことだと理解した。
悪魔の集いしB−3の地に、今、最後にして最悪の悪魔が爆誕した。
生体ユニットを得たその悪魔は、魔神と魔王の最大の攻撃をその身に吸収し、ついにその姿を確固たるものとした。
その姿は巨大で、不気味で、奇抜で……そして禍々しかった。
「まるで悪魔のようなガンダム……そう、あれは……」
悪夢再来!
デビルガンダム完全復活!!
「グオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
デビルガンダムの咆哮が轟いた。己の完全復活を誇示するかのごとく。
その姿の中心……コクピット部分。
二人は、そこに人の姿を確認する。
「あれは……!!」
それは生体コアと化した、守るはずだった少女の姿。
少女はすぐにデビルガンダムの他のパーツに隠れ、見えなくなった。
「!!待て……!!」
二人が叫ぶより早く。
地面が割れ、ガンダムヘッドがその姿を地上に、二人の目前に現した。
「な、何だこれは……!?」
デビルガンダムの周囲に、その本体を守るかのごとく次々とガンダムヘッドが出現する。
見たことも無いその光景に、圧倒される二人。
『いかん!!総員退避!!』
「何!?」
その空間に「艦長命令」が響いた。
ヒュッケバインの外部スピーカーによって、タシロの叫びが響き渡った。
『何をしている!!今すぐここから離れるんだ!!』
突然の乱入者に戸惑いつつも、そんなものに構っている暇など無い。
「何者かは知らぬが、冗談ではない!!あれにはミオが乗っているのだぞ!!」
マシュマーが叫ぶ。あの怪物からミオを救い出さねば。
コクピット部めがけてアストラナガンが跳んだ。
だが満身創痍の彼らの機体に、もはやデビルガンダムに太刀打ちできる力は残っていない。
「ぐおぉっ!?」
アストラナガンは近づくことすらできず、なす術なくガンダムヘッドによってはね飛ばされ、地面に叩きつけられた。
『今の君達の機体では勝ち目は無い!!犬死にするつもりか!!』
「……くっ!」
タシロの言葉に押し黙るマシュマー。
そんな彼の機体に……マジンカイザーが肩を貸した。
「!?貴様、何のつもりだ!?」
「……お前も、あの娘を助けようというのだろう」
「……ッ!」
「今は退くしかあるまい。万全の体勢で挑まねば、彼女の救出は無理だ」
接触回線が働き、ヴィンデルとマシュマーは初めてまともに会話を繋いだ。
ヴィンデルはようやく頭が冷え、マシュマーの今の行動でその意思を確認する。
ミオを殺すつもりだったなら、ゲームに乗るつもりだったなら……今のような行動は取るとは思えない。
……蟠りは消えない、アクセルを殺したのは他ならぬこの男だ。だが今は……
マジンカイザーはアストラナガンを連れ、その場を飛び去った。
もう少し早くそうして冷静になっていれば、こんな事態に陥ることも無かったわけではあるが。
「例の2機、この空域からの脱出を確認しました!」
「よし……我々も退くぞ!」
ヒュッケバインガンナーも、彼らに続きその場を離脱する。
進化・増殖を続けるデビルガンダムを前に、彼の判断が正しいかどうかはわからない。
だが、デビルガンダムの性質を彼らが知る由もないし、他に手が無いのも事実だった。
「こんな事態になろうとはな……これでは、まるで……」
タシロは思い出していた。忌わしき人類の天敵の存在を。
我が計画の一つが、ついに成就した。
それはコードネーム・隕石怪獣Dこと……デビルガンダムの強化及び完全復活。
ゲッター線の力でその三大理論……特にその自己進化能力を大幅に強化した、究極のデビルガンダムの誕生。
これこそが、DG細胞を使用した本計画の全貌である。
だが、これはまだ始まりに過ぎない。今のデビルガンダムは、まだ生まれたばかりの赤子も同然。
私が望むレベルには、まだ一歩足りぬ。
即ち、「容器」としての役割。
デビルガンダムに「力」を満たし、それを自分が取り込むことで……
私は宇宙の調停者、「超神」として君臨することになる。
「力」、それは超神としての力。だがそれは光の巨人の力ではない。
それは……今は語るべき時ではないだろう。だがいずれすぐわかることだ。
この「力」を集めるために、私はこのバトルロワイアルを開催したのだから。
デビルガンダムが成長するまで、そして「力」が集まるその時まで。
それまでこの生体コアの少女……ミオ・サスガにはせいぜい役に立ってもらおう。神の身体を育てる、聖母役として。
全てが終わった時、私は全てを超越した存在となる。
まつろわぬ霊の王ケイサル・エフェス……破滅の王ペルフェクティオ……
それらを始めとする数多の人知を超えた存在に等しい、いやそれをも超える存在となることができる。
イングラムよ、私は確実に神への階段を登り始めているぞ。
お前の遺志を継ぐ者達は、これにどう立ち向かう?
さあ抗ってみよ、この地に残る参加者達よ。お前達の持てる力の全てを発揮するのだ。
そして、私はそれを我が物とする……
【ミオ・サスガ 支給機体:ボスボロット(マジンガーZ)→デビルガンダム第一形態(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状態:デビルガンダムの生体ユニット化
機体状況:活性化。ゲッター線による能力強化。
現在位置:B-3
第一行動方針:???
最終行動方針:???
備考1:コアを失えば、とりあえずその機体の機能のほとんどが無力化すると思われる
備考2:ハロを失ったため、DG細胞でカイザースクランダーのような新たな別個の存在を生み出すことは不可能】
【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル)
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
現在位置:B-3
第一行動方針:B-3から離脱
第二行動方針:デビルガンダムをどうにかする
第三行動方針:リョウトの捜索、シロッコをどうにかする
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】
【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル)
パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
現在位置:B-3
第一行動指針:タシロをサポートし、B-3から離脱
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発(少し落ち着いた)
機体状況:Z・Oサイズ紛失、装甲全体に亀裂、ディフレクトフィールド使用不能、EN及び弾数少。
戦闘続行は厳しい。再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
現在位置:B-3
第一行動方針:B-3から離脱
第二行動方針:ミオの救助
第三行動方針:ハマーン・ブンタの仇討ちのため、参加者の全抹消
最終行動方針:主催者を殺し、自ら命を絶つ】
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有
機体状況:装甲全体に亀裂、EN残り少、戦闘続行は厳しい。
再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
現在位置:B-3
第一行動方針:B-3から離脱
第二行動方針:ミオの救助
第三行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
最終行動方針:???
備考:機体及びパイロットにDG細胞反応は無し】
【ハロ 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
現在位置:B-3
パイロット状況:機能を完全に停止】
【二日目 19:00】
生きる―
そう心に誓った者がいた…
生き残る―
決して後ろ向きな考えではない…
守り抜く―
彼は変わりつつあった…
碇 シンジ…
その思いは果てなく…
強い…強すぎる思いだった
『システムLIOH…』
それはかつてトウマが振り回された機能…
ただの殺戮マシーンになるシステム…
『MODE…XXX…スタンバイ…』
彼は気付かない…
彼女と会うまで彼は彼でいられるか…
それは誰にも分からない…
保守。
夕暮れの陽光に、紅く照らされる廃墟群。
寂しげに並ぶその狭間に、崩れ落ちた、鋼の巨神の姿がある。
メガデウス・BIG-O。他の参加者達へと思いを託し、一人散っていった、不器用な男の乗機。
そのいたる所には傷が走り、大きな破損もちらほらとある。
コクピットに到っては、そのほぼ全てを外部に晒していた。
墓標・・・そこにはもはや、死という静寂しか存在していなかった・・・しかし・・・
「くそっ、これでも駄目か・・・」
静寂こそが相応しい、その空間に男の声が響く。
剥き出しになり、赤く染まった操縦席。そこで、一人の青年が作業をしていた。
主催者の忌々しい放送を聞き終え、リュウセイ・ダテの話が終わった後・・・
彼――トウマ・カノウは、この地に崩れ落ちた巨人を、再び動かせないか調べていたのだが・・・
「無理そうなのか?」
声をあげるトウマに、手伝いのため外に居たイキマが声をかける。
・・・ちなみに、ジョシュアは周囲の見張り、
リュウセイとクォヴレーは、それぞれ一人にしてほしいと機体に閉じこもっていた。
「ああ、全然動かない。整備程度なら手伝ったことはあるんだけど・・・
その程度の付け焼刃じゃ、到底無理っぽいな」
「そうか。俺もこういうものは、よくわからんからな・・・」
そう言って、二人で溜息をつく。空には、星が見え始めていた。
【トウマ・カノウ 搭乗機体:なし(現在はBIG-Oコクピット内)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:BIG-Oを再び動かせるか試す
第二行動方針:クォヴレーと共に仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神) (現在はBIG-Oコクピットのすぐ外)
パイロット状況:良好(時間の経過により腹部のダメージは回復)
機体状況:右腕を中心に破損(移動に問題なし。応急処置程度に自己修復している)
現在位置:E-1
第一行動方針:トウマを手伝う
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:ジョシュアと共に主催者打倒】
【ジョシュア・ラドクリフ 支給機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:良好
パイロット状態:良好
現在位置:E-1
第一行動方針:周囲を見張る
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:イキマと共に主催者打倒】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:健康、コクピット内に篭っている
機体状態:装甲を大幅に破損。動く分には問題ないが、戦闘は厳しい
現在位置:E-1
第一行動方針:一人になって色々考える
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:サイドミラー欠損、車体左右に傷、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1
第一行動方針:一人になって色々考える
第二行動方針:トウマと共に仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:水上・水中走行が可能と気が付いた。一部空中走行もしているが気が付いていない
備考3:変形のキーワード、並びに方法を知る。しかし、その意味までは知らない】
【二日目 18:40】
――ベターマン。
それは自分が置かれている状態に最も適した(ベターな)形態に変化する能力を持った生命体である。
彼らは様々な実を食する事で各形態に変異を行い、それぞれ異なった能力を発揮する。
アニムスの実によって変化を果たした彼ら“ベターマン”の戦闘能力は、人知の領域を超越する。
あるいは重力を支配し、あるいは気圧を変化させ、あるいは光や電磁波を操り、あるいは不死の生命力を発揮する。
それが、ベターマン。
あらゆる状況に応じて自らの肉体を変化させる生命体である。
だが、彼らの変異能力は“実”あっての事。
自らの耐性に合致した実を食する事が出来なければ、その力を発揮する事は出来ない。
……ベターマン・ラミア。彼が現在保有する実の数は、5。
ネブラの実が2つ、アクアの実が1つ、そしてフォルテの実が2つ。
そして、フォルテは使えない。フォルテ3つで精製される、ラミアの最強形態――オルトス。
その力を必要としている現在、ただでさえ入手困難なフォルテの実を使う事は出来ない。
だが、彼が現在追跡している相手――東方不敗の実力は、恐ろしく強い。
フォルテの力無くしては、勝つ事は出来ないだろうと思えるほどに。
<だが……それでも勝つしかない……>
……現在、アルジャーノンの気配は止まっている。恐らく、自分を待っているのだろう。
彼方の気配に追いつくべくして、ラミアは岩山を駆けて行った。
「……ウルベは死んだか。どうやら、ワシが手を下す必要は無かったようだな」
流れる雲を見上げながら、東方不敗は一人呟く。
倒すべき敵の死を知ったと言うのに、その表情は重く暗い。
流竜馬、そしてリオ・メイロン。
このようなふざけた戯れに巻き込まれる事さえなければ、無残な死を遂げる事もなかったのであろう前途ある若者たち。
このような地で死んでも良い者たちではなかった。このバトルロワイアルを抜け出して、元の日常に戻るべき者たちだった。
惜しい者たちを失くしてしまった……。
死者の安らぎを願いながら、東方不敗は掌を合わせた。
……このゲームに巻き込まれた時から感じ続けている精神の乱れ。
ともすれば呑み込まれそうになる破滅的な衝動は、今も東方不敗を襲い続けていた。
アルジャーノン――
ユーゼスによって植え付けられた破壊の衝動は、今も彼の精神を蝕んでいる。
だが、長年に渡り鍛え続けた彼の精神は――そう、明鏡止水の心得は、常人ならば耐えられない破壊の衝動を今も抑え続けていた。
かつてデビルガンダムの元に身を置きながら、しかしDG細胞に最後まで感染する事無く人の意思を保ち続けた東方不敗である。
武術家の――そしてキング・オブ・ハートの誇りに賭けても、破壊の衝動に流される訳にはいかなかった。
「来たか……」
そうして、どれだけ待ち続けていたのだろうか。永らく待ち続けていた東方不敗の前に、一人の男が姿を現す。
各参加者に支給されているはずの機動兵器に乗り込んでいない、どこかしら異様な雰囲気を持つ青年。
常人の身体能力では踏み越える事の出来ないだろう岩山の頂点に、生身で辿り着いたとでも言うのだろうか。
呼吸一つも乱さずに、その青年は真っ直ぐに自分を見据えていた……。
ゲッター線。
それは宇宙から降り注ぐ無限のエネルギー。
恐竜を絶滅させ、哺乳類の進化を促し、そして人ならざる機械でさえも進化させる未知の超エネルギー。
それは独自の意思を持ち、自らの意思でもって力を振るう。
そしてゲッターの意思に認められないものは――ゲッターの力を、決して味方にする事は出来ない。
……それは神にも等しい力を得ようとしている、ユーゼス・ゴッツォとて例外ではない。
ゲッターの意思に選ばれていない彼では、ゲッターの力を得る事は出来ない。
いや、それどころかゲッターの力によって我が身を滅ぼされかねない。
そう、ゲッター線の力によって滅ぼされた、ハ虫人類と同様に。
だが……。
「……ベターマン。彼らの適応能力ならば、ゲッターの力にも抗う事の出来る肉体を得られるのではないか?」
デビルガンダムは、決して不滅の存在ではない。それは過去のデータから、既に導き出された結論である。
自己進化、自己再生、自己増殖。それら三大理論によって、通常を遙かに越える超生命力を有してはいるが、それでも決して不滅ではないのだ。
ゲッターの意思と真っ向からぶつかり合えば――デビルガンダムは、滅ぼされる。
いや、デビルガンダムだけではない。
ゲッターの力を制する事が出来るのは、ゲッターに認められし者しか居ないのだ。
……だが、それならば。
あらゆる状況に応じて自らの肉体を変化させる彼らならば――
そう、ベターマンならば――
ゲッター線に適応した肉体を作り出すことも、いずれは不可能でなくなるのでは?
ならば彼らの力をデビルガンダムに取り込ませ――
さらに彼らが持つ適応能力を、デビルガンダムの力によって進化させ――
それを己が物にすれば――
「そう……私は、ゲッターを越える存在となる……」
その為に必要なのが、オルトスの肉体。
ゲッターの力に逆らいながらも、なお生き続ける事が可能であろう不死の肉体。
ベターマンの適応能力が、ゲッター線への対抗策を身に付けるまでの、いわば繋ぎ。
「オルトス化したベターマンをデビルガンダムに取り込ませた上で、ゲッター線の暴走を引き起こす……」
すると、どうなる?
どのような結果が導き出される?
「クク……私の予想が正しければ、我が新たなる神の肉体が……クッ、ハハッ、クハハハハハハハハハハハッ…………!」
……予想される計画の結果に湧き上がる哄笑を抑えられず、ユーゼスは子供のように笑い声を上げる。
ああ、計画は順調だ。
全ては我が掌の中にある……。
【ベターマン・ラミア 搭乗機体:無し
パイロット状況:良好
機体状況:無し
現在位置:D-6(岩山)
第一行動方針:アルジャーノンが発症したものを滅ぼす
第二行動方針:他の参加者に接触し情報を得る
第三行動方針:リンカージェル、フォルテの実を得、オルトスの実を精製する
最終行動方針:元の世界に戻ってカンケルを滅ぼす
備考:フォルテの実 残り2個 アクアの実 残り1個 ネブラの実 残り2個】
【東方不敗 搭乗機体:零影(忍者戦士飛影)
パイロット状況:良好。アルジャーノンの因子を保有(殺戮衝動は気合で押さえ込んでいる)
機体状況:良好(タールで汚れて迷彩色っぽくなった)
現在位置:D-6(岩山)
第一行動方針:ベターマン・ラミアへの対処
第二行動方針:ゲームに乗った者を倒す
最終行動方針:必ずユーゼスを倒す】
【二日目 18:30】
薄暗く、ひんやりとした空間がある。
空間を囲う壁は岩肌に囲まれていて、天井は無機質なコンクリートで出来ている。
地となる場所には水が溜まっており、そこが内海に通じていることを物語っている。
その水の中。赤の巨体が仰向けに浸かっている。まるで、浴槽に身を委ねるように。
巨体はかなりの傷を全身に受け、満身創痍といった表現が相応しい。くたびれた印象は拭えなかった。
「まだ……生きてる」
巨体の中、目を覚ましたアスカは周囲を見渡す。
ここはどこだろう。あのとき戦っていた敵はどこにもいない。妙な静けさがあたりを包んでいた。
そっと、機体を起こしてみる。大きく水面を揺らしながら、立ち上がることは出来た。
もう一度、あたりに目を向ける。洞穴の奥、整えられた床が伸びている。
天井と床は人の手が入っているようだった。
天井は高い。ダイモスを立たせても余裕であり、浮上することさえもできそうだ。
アスカはゆっくりと、感触を確かめるように歩みを進める。
海水から身を出し、床に足をつける。水から出て、姿を現したダイモスの右足を見て舌打ちをする。
既に機体はぼろぼろだ。しかも、双竜剣と三竜棍を失ってしまった。
それでも、アスカの気心に変化はない。明確な殺意は消えることなく、彼女の中にある。
それを包み隠すこともせず、アスカはダイモスを歩かせる。正面にある、巨大な搬送用エレベーターに向けて。
外は既に暗く、月と星が空を支配している。ぼんやりとした月明かりが、基地を照らし上げていた。
基地の外に出たイサムは、眉を潜めてレーダーを見やる。基地内に、新たな反応が見えたような気がした。
それも、ヒイロがいた位置に近い。引き返そうとしたところで、また別の反応がレーダーに現れる。
基地の東側だ。それなりに近い。
イサムは少し考え、そちらの対応に向かうことにする。自分の役目は外の対応だ。
内部にはヒイロも、フォッカーも、マサキもいる。だから、大丈夫だ。
反応があった位置に近いのはヒイロ、遷次郎、マサキだ。フォッカーは、反応とはちょうど逆側の探索を行っている。
遷次郎とマサキは解析を行っているだろう。そう考えたイサムはM9へと通信を送る。
基地内と、外に新たな反応という報告だけ済ませると東へとD−3を走らせる。
彼我距離を確認しながら、慎重に進んでいく。
新たな反応は既に基地内へと進入している。相手を自分の射程に収めると、D−3を止める。
相手も移動を止めていたが、こちらに気付いている様子はない。
最大望遠で確認すると、どうやら補給を行っているようだった。
隙だらけだ。イサムはハンドレールガンを構える。
それでも、相手はこちらに気付いている様子はなかった。
マフラーが特徴的な機体の背後に回る。背後には亀裂が入っていた。
戦闘になれば、そこを狙えばいい。
そう判断すると、イサムは通信回線を開いた。
「おい、そこの機体! そのまま動くなよ!」
すると、旋回しようとしていた機体はぴたりと動きを止めた。
どうやら補給は終えたようだが、聞き分けのよさにイサムは少し満足する。
「よしよし。単刀直入に聞くぞ。お前は、ゲームに乗ってるのか?」
補給を済ませたにも関わらず素直に動きを止めたということを考えれば、ゲームに乗ったとは思えない。
だが、一応尋ねると、上ずった声が返ってくる。
「ち、違います! 僕は、戦う気なんてありません!」
少年の声だった。震え交じりの声からは、とてもゲームに乗っているような雰囲気は感じ取れない。
もし演技だとすれば、よく出来たものだ。
「そう怖がるなって。お前が戦わねぇなら、俺から手を出すつもりはねぇさ」
言うと、ハンドレールガンを下げる。恐らく、襲撃されたのだろうと判断して。
「だがな。もっと周囲に気を配らないと死ぬぜ。後ろ、とかな」
告げた瞬間、マフラーをなびかせて機体が振り返る。イサムはD−3の手を、ひらひらと挙げて見せた。
「ま、そういうことさ」
巨大なディスプレイに、ウィンドウが並んでいる。
そのディスプレイに向かっているのは二つの影だ。その背後、二機の機体とバイクが鎮座している。
影のうち片方は中学生くらいの少年、木原マサキで、彼はウィンドウから目を離すことなくコンソールを叩いている。
もう片方は、コンソールにケーブルで繋がれたメタリックなボディだ。
そのボディからはホログラフィーによって作られた映像が出ている。
映像は、司馬遷次郎のものだ。
彼は自分のボディに搭載された解析装置を基地のコンピュータに繋げ、それまでの解析結果を正面のディスプレイに表示している。
二人は一言も話すことなく、作業に打ち込んでいる。
六割ほど完了した解析結果を元にし、首輪のサンプルを解析していく。
コンソールを操作しながら、マサキは考える。
(何故だ)
静かな空間に、コンソールを叩く音だけが響く。
(何故、あの男はわざわざ解析装置などを用意した)
ディスプレイに表示されるウィンドウの下、解析結果のパーセンテージを表すバーがある。
(こうして首輪を解析するのも、奴の考えのうちだというのか)
当初60%と表示されていたバーは、既に68%まで伸びている。
(そもそも、この解析結果は正しいのか)
確かに伸びていくバーにマサキは不信感を抱く。あまりに上手く行き過ぎていた。
ウィンドウの一つには、解析結果から予測される首輪の内部構造がモデリングされて映っている。
(この構造からは、疑わしい点は見つからないが……)
マサキの思考は、どこかから響いてくる音によって中断された。
それは、駆動音だ。何かが上がってくるような駆動音が近くから響いている。
それに眉をひそめたとき、後ろにいた機体が動きを見せた。
ヒイロの乗ったM9だ。立ち上がったM9から、声が聞こえてきた。
「イサムから基地内に未確認機体の反応があると報告が入っている。
おそらく関係あるだろう。様子を見てくる。お前たちは解析作業を続けていろ」
「フォッカー君を呼んだ方がいいのではないかね?」
「音はかなり近くから聞こえている。フォッカーが戻ってくるのを待っていられないだろう」
遷次郎の提案にそう答えると、ヒイロは音のする方向へと向かう。
残された二人は解析作業を再開する。解析率は69%まで進んでいる。
基地の解析設備が遷次郎のボディに搭載された解析装置より高性能なためか、人手が増えたためか。
解析ペースは順調に上がっている。気味が悪くなるほど、順調に。
解析率は増していく。それにつれて、首輪の内部構造がモデリングされていく。
バーは伸びる。数字が繰り上がり、解析率が70%に到達する。
すると、新たなウィンドウが音を立てて開いた。
マサキは不審に思ってウィンドウを見る。何かを立ち上げた覚えはない。
そこに表示されたメッセージを読み始めた瞬間。
隣で、軽い爆発音が聞こえた。その後、焼け焦げたような臭いが漂ってくる。
弾かれるようにマサキは横を向く。サンプルの首輪は全て無事だ。ならば。
ケーブルで繋がったボディを見る。そこから立ち込めるのはかすかな煙だけで。
司馬遷次郎の映像は消え失せていた。
ミノフスキー粒子の影響と、D−3によるジャミングが行われている基地において、レーダーはまともに機能しない。
だから、ヒイロは音を頼りにM9を移動させた。場所は、ヤザンを拘束している格納庫だ。
ヒイロは横目で格納庫の隅を見やる。そこには、縛り付けられたままのヤザンがこちらを見上げていた。
まだヤザンがいることだけを確認すると、音のする方向に目を向ける。ヒイロはアサルトライフルを構え、そちらへ向き直る。
音は徐々に近づいている。地下に行ったままのエレベーターが上がってくる。赤い、傷だらけの機体を載せて。
最初から地下に潜んでいたのか、突然現れたのかは分からない。
そもそも、そんなことは些事だ。気にする必要はない。
重要なのは、今目の前に未確認の機体がいるということだ。
エレベーターが上がり切る瞬間、ヒイロはオープンチャンネルで通信を開く。
「止まれ。こちらに戦意はない。そちらに戦う意思がないなら……」
ヒイロは途中で口を閉ざす。相手が、腰の機関砲を乱射しながら突進してきたからだ。
全身にかなりのダメージがあるにも関わらず、赤い機体は勢いを殺さない。
周囲の物資や機材を蹴散らしながら、一気に近づいてくる。
通信は開かれているらしく、パイロットの叫び声が響き渡っていた。
目の前の機体を、ヒイロは敵と認識する。撒き散らされる弾丸をバックステップで回避しつつ、可能な限り距離を取ることを試みる。
敵は、こちらを追ってきている。それを確認すると、ヒイロは避けながら基地の外へと向かう。
基地内で戦闘をするわけにはいかない。
遷次郎とマサキから敵を遠ざけなければならないのは勿論のこと、基地施設の被害も最小限に留めなければならない。
もしこの基地が破壊されれば、首輪の解析は困難になる。
それに、ヤザンにもまだ死んでもらうわけにもいかない。まだ、何も聞き出していないのだから。
『おい、ヒイロ! どうした!? 戦闘してんのか!?』
こちらの動きを確認したのだろう、イサムから通信が入る。
『ああ。今から外におびき出す。外で待っていろ』
『外にって、おい! そっちは出口じゃ……』
イサムの声を無視し、通信を切る。代わるように、敵から言葉が響いてくる。
「鬱陶しいのよ、ちょろちょろとッ!」
吐き捨てるような声と共に、冷凍光線が放たれる。上昇してそれを回避し、ヒイロは口を開く。
説得のためではない。自分の目的のためだ。
「アルマナ・ティクヴァーを殺したのはお前か」
答えはない。返ってきたのは意味をなさない叫び声と銃弾だけだ。
ヒイロは仕方ないと思う。
「答えないならばそれでいい。お前が襲撃をしてくる以上、俺はお前を殺す」
言い切ると、ヒイロは通路の真ん中で足を止める。
すると敵の機関砲も銃弾を吐き出すのを止め、しかし、加速して距離を詰めてくる。
肩を前に出す姿勢は、タックルの体勢だ。ダイモスは正確に、真っ直ぐにM9に迫ってくる。
距離が詰まり、接触する数秒前。
M9の姿が掻き消えた。
イサムはレーダーを頼りに、ヒイロと襲撃者と思われる機体を追っていた。
距離としてはさほど遠くはない。ただ、壁によって阻まれているため視認も、援護も不可能だ。
ヒイロたちは基地内にいる。外におびき寄せると言っていたが、今の位置に出入り口はない。
「ったく。きちんと説明しやがれ」
文句を言ってから、イサムはついてくる機体をちらりと見やる。
既に自己紹介と、軽い情報交換は終わっている。
大雷鳳のパイロット、碇シンジは、ゲーム中で共に過ごした仲間を何人も殺されたと言っていた。
そして、彼自身も既に人を殺した、と。
震えながら語るシンジをイサムは思い出す。だから。
「無理すんなよ」
短く、それだけを告げる。
同じくゲームに参加している仲間を守ろうとする少年に、何もするなと言うつもりはない。
守るなら、戦わなければならない。そのことを、シンジも分かっているだろうから。
だから今も、こうしてイサムについてきているのだ。イサムの仲間を助けるため、戦うために。
「はい。大丈夫です」
シンジからそう返ってきた、そのときだ。
レーダーからM9の反応が消失する。他のジャミングやミノフスキー粒子によるものではない。
M9の反応だけが、消えていた。
次の瞬間。
耳を貫くような衝撃音が聞こえてきた。イサムは驚いてそちらを見る。
壁をぶち抜いて、見たこともない機体がそこに現れていた。
その機体は、いつの間にか基地内に現れていた機体だ。
機体の周囲、壁の残骸と共にその機体の残骸らしきものも散乱している。どうやら、右足が砕け散ったようだ。
その機体は残骸の中、薙刀状の武器を拾い上げた。
イサムは赤い機体に注意しながら、レーダーに目を向ける。ちょうどそのとき、M9の反応が復活する。
位置はD−3のすぐそばだ。ECSを解除したM9が、佇んでいた。
「無茶しやがるぜ……」
「話している暇はない。来るぞ」
ヒイロの声は、まるで何もなかったように変わらない。
赤い機体、ダイモスはこちらを確認すると手に持った武器を構える。
3対1、それも相手はぼろぼろだと言うのに退く気はないようだ。
「相手が多くたって……負けてらんないのよ……負けてらんないのよッ!」
戦意を確かめるかのようにパイロットは叫び声を上げる。
通信機越しの少女の声が夜気に振れ、拡散する。
ヒイロとイサムは武器を構える。
しかし。
次に響いた音は銃声でも、衝突音でもなく。
「アスカ……? アスカなの……!?」
シンジの、声だった。
シンジの声がまるで魔法の言葉だったかのように、ダイモスの動きが停止した。
ダイモシャフトを振りかぶったまま、奇妙な体勢で空中に浮かんでいる。
「シンジ……」
返ってきた声を聞く。よく知っている声だ。懐かしさを感じるような声だ。
シンジは顔を綻ばせる。無事に会うことが出来たことによる安堵が胸に広がっていく。
「アスカ、よかった。よかったよ。探してたんだ。アスカのこと」
心から、よかったと思う。涙を溢れさせながら、目の前の機体を見つめる。
機体があんなにぼろぼろになっても、アスカは生きている。本当に、よかった。
「……私も。私も、あんたを探してた」
アスカの言葉に、シンジは胸の奥が温かくなるのを感じた。
アスカは、僕を必要としてくれていたんだ。
シンジはアスカの乗るダイモスへと歩み寄る。早く、アスカの姿を見たかった。
「ようやく、ようやく……あんたを……」
アスカが何かを呟いている。もっとはっきり聞きたくて、コクピットから出ようとして
「シンジッ! 下がれッ!!」
イサムの怒声が聞こえてきた。反射的に身を後ろに飛ばす。ダイモガンが、大雷鳳のいた位置を掠めていった。
「アスカ……?」
「ようやく、あんたを殺してやれるわ……!」
愉悦感のたっぷり籠められた声がしたと同時。
ダイモスは一気にこちらへと突っ込んできた。
上段に振りかざしたダイモシャフトが勢いよく大雷鳳へと向かってくる。
呆気に取られていたシンジは何の対応も出来ない。左肩の装甲が引き裂かれる。
更に、ダイモスの左足から繰り出される蹴りが顔面にクリーンヒットしたとき、シンジは我に返る。
「やめてよアスカ、何するんだよ!」
「言ったでしょ!」
傷ついた左手に持ったダイモシャフトを巧みに扱い、大雷鳳へと攻撃を加える。
「あんたをッ!」
右腕から繰り出される拳は鋭く、大雷鳳のガードの隙間を縫ってくる。
「殺してやれるってねぇッ!!」
ダイモスの左足が高く上がる。次の瞬間、左足は重力を伴って振り下ろされる。
痛烈な踵落としが、大雷鳳の左肩に直撃した。
銃声や駆動音が遠ざかっていき、基地の端の方から耳がおかしくなりそうな衝撃音が聞こえた。
今は更に遠くで金属がぶつかり合う音がしている。
だが、マサキは構わずコンソールに向かっていた。
先ほど現れたウィンドウはもう消えていたが、また別のウィンドウがディスプレイには表示されている。
首輪の解析を表すウィンドウやバーに動きはない。代わりに、別の解析ウィンドウが動き続けている。
それは、遷次郎のボディを解析するウィンドウだ。
マサキがコンソールを操作するたび、遷次郎の内部構造がモデリングされている。
それを見たマサキは、ふむ、と一つ頷いた。
遷次郎に搭載された解析装置は、申し分のない性能だった。
にも関わらず、六割しか解析が出来なかったのはストッパーが設けられていたからだ。
そのストッパーは、解析を阻害するためにあるのではない。安全装置としての役割が主だ。
解析装置には罠がしかけられていた。
首輪の解析率が一定以上に至ったときに自分の首輪が爆発する、という罠が。
おそらくそのラインが70%だったのだろう。実際に、遷次郎のボディに仕込まれた首輪は爆発していた。
遷次郎は基地施設に自分の解析装置を繋げ、データのフィードバックを行っていた。
そのため、ストッパーが働いたままにも関わらず解析率が70%を越えたという情報が解析装置に伝わった。
そうマサキは結論付ける。
「使えるな」
マサキはぼそりと呟く。このボディは、ストッパーを解除してしまえば普通の解析装置として使える。
それでも、その解析結果が正しいとは限らないだろう。
だが、このボディを解体して爆発した首輪の残骸を回収できれば、それと照らし合わせることで確認も出来る。
なんにしろ、ボディを解体することは必要だ。ホログラム発生装置など邪魔でしかない。
コンソールから手を離し、遷次郎のボディに歩み寄ったとき、何か別の音が聞こえた。
音源はヒイロが向かった方角とは逆側からで、こちらに近づいてきている。
マサキは舌打ちをしつつ、手早く首輪と遷次郎のボディを回収する。
解析結果やログは遷次郎の解析装置に残っているから問題はない。
そのままレイズナーに乗り込んで通路に出る。
格納庫へ向かおうとしたとき、銀色の機体、アルテリオンと鉢合わせる。
既に接近していたらしく、マサキは聞こえないよう舌打ちをもう一つする。
「何処へ行くつもりだ。それにあの大音、何があった。司馬先生はどうした」
矢継ぎ早なフォッカーの問いに、答えるマサキは沈痛そうな声を上げる。
「音の正体を、ヒイロさんが確かめに行っています。なかなか戻ってこないので様子を見に行こうと思って。
それと、司馬先生は……亡くなりました。解析装置に、罠を仕掛けられていて……それで」
あえて、そこで言い淀む。少なくとも嘘は言っていない。
通信機越しに、フォッカーが息を呑む気配が伝わってきた。
「詳しいことは、後でお話します。今は外の様子を見に行きましょう」
フォッカーからの返答はない。その代わり、Gアクセルドライバーをゆっくりとこちらに向けた。
「フォッカーさん?」
「失態だったな。やはり先生には俺が付いているべきだった」
「どうしたんです? 早く行かないと……」
「お前がやったんじゃあないのか? なぁ、マサキ?」
フォッカーの声は鋭く、責めるような響きを持っている。
三度目の舌打ちを内心でしつつ、マサキは思う。
面倒なことになったな、と。
基地施設内を破壊するようなことは出来れば避けたい。
遷次郎のボディの解体にしろ、首輪の解析にしろ、まだこの施設は利用価値がある。
マサキは冷静に思考する。
遠くから激突音が響いてくる。それは随分と、煩わしい音だった。
「あんたもつくづく悪運が強いわね」
ダイモスの攻撃は止まない。アスカの高い格闘センスも相まって、無駄のない攻撃が大雷鳳へと降り続いている。
「まず支給されたのが初号機で……」
片腕だけではとてもさばき切れない。大雷鳳に傷が増えていく。
「それがやられても都合よく代わりの機体を見つけて……」
ダイモシャフトが左腕に突き刺さる。
「逃げ回って生きてきたんでしょ、ここまで!!」
ダイモスの拳が空を切り、ダイモシャフトの柄を叩き込む。
ねじ込まれたダイモシャフトはそのまま肩を貫通し、大雷鳳の左腕を引き裂く。
ダイモスは手を組み合わせ、大きく振り下ろす。先ほどの踵落としにも匹敵する衝撃が左肩に伝わった。
その衝撃に押され、大雷鳳はへたり込むようにして地に膝を付ける。
「……無様ね」
吐き捨てられたアスカの言葉。シンジは違和感を感じ、精一杯口にする。
「何言ってるんだよ。ねぇ、アスカ。落ち着いてよ。僕は、初号機に乗ってなんてないよ」
アスカは耳を貸さない。まるで聞こえていないかのようだ。
見下すようにこちらを見つめるダイモスは右腕をゆっくりと後ろへ引く。
その手は固く握りこまれている。今にも、こちらへと飛んできそうだった。
だが、それがこちらに向かってはこなかった。
引かれた腕に銃弾が直撃したからだ。
シンジは銃弾の飛んできたほうを見る。
アサルトライフルとレールガンが、ダイモスに向けて放たれていた。
ダイモスは一度大雷鳳から離れ、銃弾を回避する。
「邪魔すんじゃ、ないッ!」
アスカの叫び声が聞こえる。ダイモスの胸が展開し、ファンがその姿を晒す。
そこから生まれるのは灼熱の熱風だ。
熱風は固まっていた二機を散開させる。熱風を避けた二機はそれでも、ダイモスへと射撃を浴びせている。
アスカが、狙われている。
アスカが、撃たれている。
アスカが、殺されるかもしれない。
アスカが、アスカが、アスカが、アスカがアスカがアスカがアスカが。
「やめろよ……」
このままじゃ、アスカが死ぬ。
ゼンガーさんみたいに、宗介さんみたいに、ウルベさんみたいに。
アスカが、死ぬ。
嫌だ。そんなの、嫌だ。
守らなきゃ。アスカを守らなきゃ。
「やめろよぉぉぉぉッ!!」
シンジの絶叫に応じるように、システムLIOHが起動する。
最適化された動きがダイレクトモーションリンクシステムにより、大雷鳳の動きに変わる。
立ち上がると同時、大雷鳳の足が輝く。その輝きは闇を払うように真っ直ぐ飛んでいく。
その先に居るのは、アサルトライフルをダイモスに浴びせている機体。ずっと、アスカと戦っていた機体だ。
直進していく光にその機体――M9が気付いて回避運動を取ろうとする。
だが、間に合わない。
予想していなかったところからの一撃はM9の右足を抉り取る。倒れないようバランスを取るM9に大雷鳳は肉薄する。
そのままM9に肩をぶつけ、足を払う。
倒れこんだM9に馬乗りになると、ダイモシャフトが刺さったままの左腕を振り上げる。
そのまま、M9に向けて叩き付けた。ミシミシと、M9のフレームが悲鳴を上げる。
大雷鳳の下、M9が逃れようともがく。しかし、のしかかる重量を持ち上げられるほどのパワーはない。
M9はチェーンガンを連射する。その狙いは正確だ。ダイモスの攻撃によって付けられた左肩の傷に着弾する。
それをふさぐ様に、シンジは拳をM9の頭に叩きつける。
「アスカを守るんだ。守るんだ。僕が、守るんだ…!」
叫びながら、拳を振り下ろす。何度も、何度も、何度も振り下ろす。
頭を潰した後は胸だ。ノックというにはあまりにも荒々しく、胸を叩く。
一撃ごとに重さは増していく。M9の装甲がへこみ、ひしゃげていく。
何処かからレールガンの弾丸が飛んでくる。それに気を留めず、大雷鳳はM9を何度も殴打する。
やがて、M9が動かなくなる。しかし、大雷鳳は拳を止めない。
「嘘だろ、おい……。ヒイロ、おい、ヒイロッ!!」
叫び声が聞こえたが、それでも、大雷鳳は拳を止めない。
壊れた玩具のように、大雷鳳はM9を殴り続けていた。
「あの野郎……ッ!」
イサムの頭が沸騰したように苛立つ。シンジに少しでも同情した自分が愚かだった。
短い間だったが、ヒイロは仲間だった。無愛想な奴だったが、仲間だった。
同じ目的の下協力し、強敵を打ち破りもした。
そいつが、目の前で殺された。
同じだ。アキトが殺されたときと、同じだ。
また、何も出来ないのか。こんなことでアキトの仇を取れるのか。
イサムは、自分に冷静になれと言い聞かせる。
コクピットを思い切り殴りつける。今すべき最善の選択をしなければならない。
ヒイロの仇は取る。だが、このまま一人では無理だ。
一人で突っ走っても、あのときのように返り討ちにあうのが関の山だ。
あの赤い機体はシンジを狙っている。だが、協力するのは不可能だろう。
協力出来るような相手にはとても見えない。狂った殺し合いに身を委ねた、殺人者としか思えない。
だから、イサムは通信機を操作する。フォッカーとマサキに状況を説明するためだ。
もっと早くしておくべきだったと思う。しかし、思っているだけでは状況は変わらない。
これ以上後悔しないために、通信を送る。
だが。
「何でだよ。あいつら、何やってやがんだ!」
フォッカーにもマサキにも、通信は繋がらない。
レーダーを確認すると、レイズナーを示す光点とアルテリオンを示す光点は近くにいる。
なのに、どちらも通信に応じる気配はなかった。
遷次郎にも通信を送ってみる。こちらは繋がった。だが、向こう側から声が聞こえてはこない。
空しく、イサムの声だけが通信機に送られるだけだった。
「畜生がッ!」
最後にそう叫び、イサムは通信を切る。赤い機体が空けた大穴を通り、基地に戻る。
悔しさを噛み潰しながら、イサムはマサキたちの所へと向かう。最大速度で、そこへと向かう。
大雷鳳は、未だM9を殴りつけている。単調な打撃音が夜の空気に溶けていく。
そこへ、ダイモスはゆっくりと近づいていく。アスカは恐ろしく冷たい瞳で、その姿を見下している。
「……シンジ」
大雷鳳のパイロットの名前を呼ぶ。抑揚のない、平坦な声で。
奇妙なほど、静かな声で、だ。
するとようやく、大雷鳳は腕を止める。ゆっくりとこちらを振り向いて、立ち上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ……アスカ、大丈夫?」
その声は何かをやり遂げた後のように晴れやかで、アスカの気持ちをイラつかせる。
だから、思い切り大雷鳳を殴りつけることを答えとした。
また、無様に大雷鳳は膝を付く。
本当に、本当にイライラする。こんな奴に、私は負け続けていたのか。こんな奴に。
こんな奴が、私を守ろうなどと言うのか。
「あんた如きが……」
アスカは、顔を憎悪に歪ませる。その憎悪を全てぶつけるように、言い放つ。
「あんた如きが私を守るなんて言ってんじゃないわよ! そんな無様に座り込んでるあんた如きが!
臆病者なくせに! 卑怯者のくせに! 自分じゃ何も出来ないくせに!」
さっきだって私にやられるままだったんだ。本当に、何も出来ないくせに。
「助けたじゃないか……僕が、アスカを助けてあげたじゃないか!」
「あんたなんかにやってもらわなくても、私一人でそいつらくらい殺せたわよ!」
また、ダイモスは大雷鳳を思い切り殴る。既にぼろぼろだった大雷鳳の左腕が、音を立てて落ちた。
刺さったままのダイモシャフトが、ばきりと押しつぶされてM9の側に転げ落ちる。
「やってみなさいよ。そいつを殺したみたいに、やってみなさいよ!」
「アスカを守りたいんだ。守らせてよ……」
懇願するようなシンジに、アスカは唾を吐くように告げる。
「あんたなんかに守られるくらいなら、死んだほうがマシだわ」
「アスカ……」
シンジはアスカの名前を呼ぶ。助けを請うように。哀願するように
「嫌い。あんたの全てが嫌い。嫌い嫌い嫌い! 大ッ嫌い!!」
しかし、アスカはどこまでもシンジを拒む。刺々しい、真っ直ぐな殺意をもって。
その言葉は、鋭い刃となってシンジへと突き刺さる。
探していた人物から、守りたい人物から拒絶されることで、シンジは壊れていく。
アスカを守ろうとすることで保っていた自我が、支えをなくして崩れていく。
シンジの中にあった思いは、明確な殺意に変わる。
システムLIOHが、衰弱したシンジの精神を支配していた。
大雷鳳は立ち上がる。殺意を胸に燻らせ、ダイモスと対峙する。
大雷鳳とダイモスの戦いが、二人のチルドレンの戦いが、ようやく始まろうとしていた。
【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
パイロット状態:絶好調。やや苛立ち
機体状態:ほぼ損傷なし
現在位置:G-6基地(通路)
第一行動方針:フォッカーをどうにかする。基地施設を破壊したくない。
第二行動方針:マシンファーザーのボディを解体し、解析装置と首輪残骸の回収
第三行動方針:マシンファーザーの解析装置のストッパー解除
第四行動方針:首輪の解析、及び解析結果の確認
最終行動方針:ユーゼスを殺す
備考:マシンファーザーのボディ、首輪3つ保有。首輪7割解析済み(フェイクの可能性あり)
首輪解析結果に不信感】
【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:多少の疲労。マサキ、イサム、ヒイロに不信感。
特にマサキに対して激しい不信感
機体状況:良好
現在位置:G-6基地(通路)
第一行動方針:マサキから話を聞き出す。
第二行動方針:ユーゼス打倒のため仲間を集める
最終行動方針:柿崎の仇を討つ、ゲームを終わらせる】
【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
パイロット状況:疲労。怒り
機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断
ハンドレールガンの弾薬残り4割
現在位置:G-6基地(通路。マサキとフォッカーの場所へ移動中)
第一行動方針:フォッカー、マサキとの合流
第二行動方針:碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレー両名の打倒
第三行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
第四行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
第五行動方針:アクセル・アルマーとの合流
最終行動方針:ユーゼス打倒】
【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス)
パイロット状態:シンジに対する激しい憎悪
機体状況:全体的にかなりの破損。右足損失
後頭部タイヤ破損、左腕損傷、三竜棍と双竜剣とダイモシャフトを失った。
ダイモガンの弾薬残り2割
現在位置:G-6基地(外)
第一行動方針:碇シンジを殺す
第二行動方針:邪魔者の排除
最終行動方針:???
備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】
【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:全身に筋肉痛、システムLIOHによる暴走中
機体状態:両腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。
背面装甲に亀裂あり。
現在位置:G-6基地(外)
第一行動方針:システムLIOHにより、惣流・アスカ・ラングレーと戦う。
最終行動方針:生き抜く
備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】
【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:スカーレットモビル(マジンガーZ)
パイロット状態:死亡
機体状態:良好
現在位置:G-6基地(解析室) 】
【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
パイロット状態:死亡
機体状況:装甲表面が一部融解。頭部、コクピット圧壊
現在位置:G-6基地(外)】
【二日目 19:40】
227 :
籠める想い:2006/06/08(木) 02:33:38 ID:fc/+ytl8
三回目の放送中、フォルカ・アルバーグは静かに読み上げられていく死者の名を聴いていた
しかし、一人また一人と読み上げられていくにつれ知らず知らずのうちに彼の拳に力がこもる
まるでやるせなさの全てをそこに籠めるように拳は固く固く握られていく・・・。そして、彼は自らに問いかける
二度と悔やむことがないように・・・
後悔を繰り返さないように・・・
自らの力を尽くすため・・・
今、何をすればいいかを・・・
わずかな時間、考えを張り巡らせた後、彼は一つの答えに―彼らに強烈な憎悪のプレッシャーを与え飛び去った悪魔に―行きつく
あれを放っておくわけにはいかない
「南か・・・」
彼がそうポツリともらしたとき、放送はすでに終了していた
マイ・コバヤシは一つの小さな実を祈るように握り締め放送を聴いていた
リュウの名前が出てきませんように・・・
リュウが生きていますように・・・
リュウが元気でいますように・・・
緊張と不安から手に力がこもる
放送が終わったとき彼女は体をシートにあずけ安堵とともに大きなため息をついた
そして、いつのまにか固く固く実を握っていた自分に気づく。少し苦笑いをしぼんやりと実をながめる
しばらくそうした後、彼女は再び体を起こしその手の内の実に祈りだす
リュウが生きていますように・・・
リュウが元気でいますように・・・
リュウと会えますように・・・
彼女の想い人のためにその実に願いが通じるよう両手でしっかりとしっかりと握り締めながら・・・
228 :
籠める想い:2006/06/08(木) 02:35:34 ID:fc/+ytl8
放送後、暫くしてマイは大事そうに実をしまい機体から降りてきた
それを見てフォルカは不謹慎とは思いつつも彼女のため笑顔で声をかける
「レビの探し人は無事のようだな」
実に無邪気な笑みが返事のかわりにかえってきた。それを見ながらフォルカは言葉を続ける
「アクセルの知り合いも無事のようし早いところ彼らを見つけたいところだが南へ向かおうと思う」
「引き返すのか?」
マイは怪訝そうな顔で問い返してくる
「ああ、あの強烈なプレッシャーを持った機体を放っておくわけにはいかない。南にはアクセルもいる。被害者が出る前に止める!」
瞬間、マイに緊張が走る。あの強烈なプレッシャーの前に安堵などは出来ない
自然体が強張るのもあたり前というところである
しかし、彼女は先のフォルカの戦闘技術を思い出しフォルカが負けるはずがないと自分に言い聞かせることでマイは気持ちを落ち着かせた。そして、リュウがプレッシャーの主に遭遇していないことを彼女は願う
そのとき頭痛が不意にマイを襲う。フォルカに気を遣わせまいと顔に出ないように彼女は必死で耐える
その表情を不安さから来るものと勘違いをしフォルカは言葉を重ねる
「大丈夫か?無理してついてこなくてもいい。その場合はここの沖の水中に隠れて待っていて欲しい。目視が頼りのこの状況下水中ならそう見つかることもないだろう・・・」
危険の伴うこの行動、プレッシャーから想定される相手の力量を考えると彼女を守りつつ戦う余裕はないかもしれない。そう思い目の前の彼女を気づかっての提案だった
しかし、その提案を耳にした瞬間
『この男はお前を捨てるつもりだ・・・』
彼女の耳元に地獄の使者の囁き聞こえていた
「もし定刻までに帰ってこな」
「私もついていく!!」
フォルカの言葉をさえぎり、頭痛と地獄の使者の囁きを振り払うように彼女は叫んだ
「危険が伴うぞ」
「大丈夫。フォルカがついているから・・・」
彼女は精一杯の笑顔をつくって答えた
機体に戻った彼女は再び実を握っていた
フォルカが私を捨てるはずがない
大丈夫、私はあの声の主に呑まれたりなんかしない
大丈夫、大丈夫・・・
彼女は心の中で反芻する。あの一瞬だけ聞こえた声はもうしない
もう一度実を握り締め最後に彼女は声に出して呟いた
「大丈夫」
気づくと頭痛は晴れていた
そして、二機は飛び立ちB-3地区に足を踏み入れる
後に最悪の悪魔が生まれるその地区へと・・・
229 :
籠める想い:2006/06/08(木) 02:36:18 ID:fc/+ytl8
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣に相当のダメージ
現在位置:B-3北部
第一行動方針:プレッシャーの主(マシュマー)を止める
第二行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-3北部
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず】
【二日目 18:20】
230 :
籠める想い:2006/06/09(金) 01:31:08 ID:jnnEkm6m
訂正失礼します
>>228 「アクセルの知り合いも無事のようし→「アクセルの知り合いも無事のようだし
>>229 【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損 全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
現在位置:B-3北部
第一行動方針:プレッシャーの主(マシュマー)を止める
第二行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-3北部
パイロット状況:良好
機体状況:G−リボルバー紛失
第一行動方針:リュウセイを探す
最終行動方針:ゲームを脱出する
備考1:精神的には現在安定しているが、記憶の混乱は回復せず
備考2:アニムスの実を一個所持(種類は不明)】
【二日目 18:20】
腹が減っては戦は出来ない。
それは人間である以上、当たり前の事である。
不眠不休で動き続ける事が出来る人間など、この世には誰一人として存在しない。
その男が今現在休息の中に居る事は、だから至極当然の事であった。
「ふぅ……」
コーヒーの薫りを肺一杯に吸い込みながら、パプテマス・シロッコは溜息を吐く。
辺りには騒動の気配一つ無く、穏やかな空気が流れていた。
平和だ。
そう、殺し合いの中に放り込まれたとは信じられないほどに。
支給された幾許かの食料品。その中から袋詰めのパンを取り出し、シロッコはゆっくりと味わいを楽しむ。
美味い――
パンの味は勿論だが、美味さの秘訣は空腹だ。
思えば、こうして食料を口に入れるのは、随分久しぶりの事だった気もする。
あの永久に続くかと思われた緊張の中では、腹を空かせている事を自覚する余裕すらなかった。
ただ、我が身の安全を図る事ばかりに気が行ってしまい、その他の事を気にしている余裕など全くなかった。
だからこそ、気が休まる。こうやって、穏やかな空気に身を浸していると。
緊張感を持つ事は、決して悪い事ではない。
だが、張り詰め過ぎた糸は容易に切れてしまうものだ。
こうして適度に気を抜かなければ、緊張感に押し潰されてしまう。
そんな事を考えながら、シロッコは数時間ぶりに穏やかな時間を過ごしていた……。
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:良好、食事中
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C−8市街地
第1行動方針:まずはコーヒーブレイク
第2行動方針:首輪の解析及び解除
第3行動方針:新たな手駒を手に入れる
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考:首輪を所持】
【二日目 18:20】
232 :
それも名無しだ:2006/06/11(日) 20:05:00 ID:Hy04u5l9
あげ
233 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:46:12 ID:oIuvSIYx
瓦礫が飛散する半壊した病院わき、そこに二人の男はいた。
一人は自分の機体に搭乗しており、
もう一人はこれまた己の機体を整備しているようであった。
辺りには静けさが漂っている。
男たちは押し黙っていた。
張り詰めた静寂の中、カチャカチャと整備の機械音だけが響いている。
不意に『キィッ』と扉が開く音がした。
男たちが慌てて振り向く、だがそこに人影はなかった。
半壊し、立付けの悪くなった病院の扉が風によって開いたのだろう。
「彼は何処へ消えてしまったというのか・・・」
機体に乗っていたほう、自らをチーフと名乗った男がそう呟いた。
もう一人のほうの男、ガルドもまた、しばらく扉を見つめ何かを考えているようであったが
一度ため息を漏らすと再び機体の整備に取りかかっていった
病院わきにまた機械音のみが響き渡る。
彼らは元々寡黙な男達であった、だがこれほどまでに沈黙があたりを支配しているのには別の理由があった。
1つは少し前に放送されたこのゲームの主催者による定時報告、
そして2つ目、彼らが助けた少年の姿が消えてしまったということである。
二人の男はレーダーであたりを警戒しつつも少年のことを――
そして今後の自分たちの今後の行動を、思案せずにはいられなかったのである。
234 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:47:16 ID:oIuvSIYx
チーフは考える。
できることならば少年を探しにいきたい、だが迂闊に行動して戦闘が起こってしまえば
まだこの辺りにいるであろう彼を巻き込んでしまう。かといって、ここで待ち続けているのも埒があかない。
それにいずれにせよ、あまり長い間ここに留まっているわけにはいかないのだ。
先程、放送が始まる前にガルドと情報を交換しあった時のことである。
情報の交換によって得られたものは多かった。
まず光の壁、そしてイングラム・プリスケンのこと、主催者へ向けて放たれた一筋の光とそれを防いだバリア
そのバリアが光の壁と同様、空間の制御による物らしいということ、グランゾンにより発生した蒼い渦。
空間制御装置が禁止エリア内にあるのではないかということ。
セレーナ・レシタール、そして首輪の解除を試みている物たちの存在、そして木原マサキ――
これらの話をまとめた結果、直にでもグランゾンを回収しG-6へ向かうべきだと結論付けたのである。
その理由は首輪の解除によって、禁止エリア内の空間制御装置を捜索、破壊するためであり、
急がなければならないわけは、木原マサキの存在であった。
首輪の解除を目指している一団がG-6へ、そしておそらくマサキもそこへ向かっているであろうことから
急がなければ取り返しのつかない事態になりかねない、
いや、むしろ既に騒動が起こっているかもしれないと考えたのである。
(だが、そこへ向かうということは彼を見捨てるということになる・・・どうすればいい・・・)
そこまで考えが至って、チーフは自問自答する。
しかし答えはでない。
235 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:49:32 ID:oIuvSIYx
「俺はやはりG-6へ向かうべきだと思う」
その時、急にチーフの心を読みすかしたかのように声が聞こえた、
ふとモニターを見るともう一機の機体、エステバリスから通信が入っていた。
いつの間にか整備を終えたのだろう、ガルドが乗り込んでいるようだ。
「ガルド・・・しかし、それでは・・・」
チーフが言葉に詰まる、
「あの少年のことは気がかりだ、だが、どっちみち彼をつれて移動することはできん。
戦う力が無いものを戦場に引き連れるわけにはいかんからな・・・
それに、一刻も早く首輪の解除法を見つけることが彼を助けることにも繋がる、
酷なようだが彼にはここに留まってもらったほうが一番いい」
ガルドが言い切る。
それを受けて、チーフがしばらく思案し答えを返す。
「・・・確かに、彼にはこの場で身を隠してもらっていたほうがいいか・・・
しかし、それでも一度会って話をせねばいかんだろう、
今の彼はおそらく精神的に不安定だろうからな・・・」
「うむ、そこでだ、ひとまず二手に別れるべきだと思う・・・」
「確かにそれが打倒なせんか・・・それでは俺が――――」
そこまで喋った時チーフが突然言葉を切った。ガルドも直に異変に気がつく、
空気が――、振動しているのだ。
それはまるで巨大な何かが向かってくるかのような、不気味な振動である。
「これは・・・何か来るぞ!!」
ガルドがそう叫んだ時、それと同時に破壊された建物の隙間から、
遠目にもはっきりと分かる、巨大な機体を二人は眼にした。
自分たちのいる地点よりやや北のほうを、まっすぐ東に向かって飛んでいる。
幸いにも自分たちは相手の死角になる場所に陣取っている。
また、この一帯はレーダーがかなり阻害されている、このままやり過ごすことも可能だ
(この場で戦闘になると厄介だ、幸い相手はレーダーの範囲外を飛行している、
この場はやり過ごしたほうが得策か――つっ!?)
「どうした!何かあったのか!?」
突如、言葉を発したチーフに対し、ガルドが呼びかけ、テムジンを見る。
「何だ!?」
テムジンが発光している、いや正確に言えば背中の出力機であるが――
それが淡く緑色に光っているのだ。
236 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:51:03 ID:oIuvSIYx
(これは・・・一体?・・・先程テムジンを復活させた時と同じ光なのか?)
チーフはそのテムジンの内部で困惑していた。
突如Vコンバーターが光を発し始めたのだ。
(まずい!これでは相手に見つけてくれと言っているような物だ)
あわてて、機体を病院の影へ移動させる。
巨大な機体は、今や自分たちのちょうど北を飛んでいる。
不意に声が聞こえたような気がした。
耳をすませてみる。
コクピットの後ろでVディスクが回転している音が聞こえていた。
気がつくとコクピット内も緑色の光が包み込み始めている
そして――――
『・・・・・・あの人を・・・・・・止めて・・・・・・』
(!!)
確かに聞こえてくる
(これは一体・・・テムジンに何が起こったというのだ?)
『・・・お願い・・・・・・リョウト君を・・・止めて・・・ください・・・』
再び聞こえた。
(プレシアか?いや違う声・・・誰だ?)
緑色の光が再び瞬いた
「君は一体誰なのだ!あの機体にはリョウトという人間が乗っているというのか!?
なぜ俺にそのようなことを頼む!?」
『あなたにしか頼めないの、私たちを助けようとしてくれたあなたにしか・・・
だから・・・お願いします・・・・・・』
「何!!・・・君はあの少女なのか!?・・・ならばそのリョウトというのは、あの少年か!?」
そう叫んだ時、光は急に晴れた。
237 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:52:12 ID:oIuvSIYx
「チーフ!大丈夫か!!・・・今のは一体何が起こったんだ!」
我に返った時、目の前には、モニターに移ったガルドの顔があった。
「わからん・・・テムジンを復活させて以来、何か不思議な力が働いているかのようだ、
死者が語りかけてくる・・・」
そう答え、思い出す。
たしかハッターの援護に向かっていた時にも同じような光があたりに降り注いでいた。
(あれの影響なのか?)
「死者の声だと・・・それはどういうことだ?・・・あの光は一体なんなのだ」
ガルドが尋ねる。
「あれも、ハッターの、プレシアの導きなのかもしれんな。
大丈夫だ、不安はなかった。それよりも、やらなければならんことが増えてしまったがな」
そういって辺りを見渡す、どうやら先程の機体は飛び去ってしまったようだ。
「ガルド、予定変更だ・・・俺は奴を追う、あの少年が乗っているらしい、お前はグランゾンを回収したらG-6へ向かってくれ」
チーフはそう告げた。
238 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 21:53:11 ID:oIuvSIYx
【チーフ 搭乗機体:テムジン747J(電脳戦機バーチャロンマーズ)
パイロット状況:全身の打撲・火傷の応急処置は完了
機体状況:ゲッター線による活性化、エネルギー消費 (中)
現在位置:B−1
第一行動方針:リョウトを追って東へ
第二行動方針:ガルドのグランゾン回収を助ける(C-1への移動)
第三行動方針:G-6へ向かいガルドと合流、首輪・マサキの情報を集める
第四行動方針:空間制御装置の破壊
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ガルド・ゴア・ボーマン 搭乗機体:エステバリス・C(劇場版ナデシコ)
パイロット状況:良好
機体状況:エネルギー消費(中) 駆動系に磨り減り
現在位置:B−1
第一行動方針:チーフに光のことを聞く
第二行動方針:グランゾン回収(C-1への移動)
第三行動方針:G-6へ向かい、首輪・マサキの情報を集める
第四行動方針:空間操作装置の発見及び破壊
第五行動方針:イサムとの合流
最終行動方針:イサムの生還および障害の排除(必要なら主催者、自分自身も含まれる 】
239 :
緑の交錯:2006/06/11(日) 22:00:37 ID:oIuvSIYx
【二日目 18:55】
240 :
それも名無しだ:2006/06/12(月) 12:31:45 ID:7wSSA66k
保守
241 :
それも名無しだ:2006/06/15(木) 18:37:34 ID:np/Nj8aY
保守
既に日は暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。
「異常なし、か……」
廃墟のビル街に立つガンダム。
付近の見張りを続けながら、ジョシュアは一人考えていた。
このバトルロワイアルが行われた、その意味について。
――ユーゼス・ゴッツォは、何故こんなゲームを開催したのか?
この殺し合いにどんな意味がある?
ただの娯楽?自分達の憎みあい、殺しあう姿を見て、ただ楽しむためだけにこんな馬鹿げたゲームを開いたのか?
しかし次元を歪めあらゆる時空に干渉して、これだけの世界を作り出して……
そこまでしての行為の目的が、ただの愉悦のためだけなのだろうか……
それでは納得がいかなかった。
このバトルロワイアルを行うことで、奴が得られる利益があるはずだ。
それは何だ?……ここで一人考えた所で、わかるはずもない。
今は自分達にできることをするしかない。
だが……その自分達にできることとは、何だ?
首輪の解除。ヘルモーズのバリアの解除。脱出方法の模索。
やることは山積みだ。にも拘らず、そのどれもが全く目処が立っていない。
情報があまりにも少なすぎる。情報だけではない、戦力的にもそうだ。
こちらの戦力は戦闘力が高いとはいえない妖精型ロボットが2機……しかも損傷付きだ。
それと、車が一台。戦力と呼ぶにもおこがましい。
まともに戦えそうなのは自分の乗るガンダム一機だけと言っていい。
それもビームサーベルくらいしか満足な武器がない、装甲が取り得の、核バズーカ一点豪華主義と来た。
あまりにも心許ない。ここに強力なマーダーが強襲でもしてきたら、ひとたまりもないだろう。
今、イングラムの乗っていた機体を使用できるか、イキマとトウマが調べているが……損傷具合から期待できそうにはない。
ユーゼスに抗うには、何もかもがあまりに足りない。
(どうしたものか……)
とにかく、いつまでもここにいても仕方がない。何をするにしても、行動を起こさねば始まらない。
イキマとトウマの二人が戻り次第、出発したいところではあるのだが。
振り返る。その方向にあるのは、傷ついた妖精、フェアリオンの姿。
先程から、リュウセイはあの機体のコクピットに篭もりっぱなしだ。
そして、そんなフェアリオンの傍にはブライサンダーも停車している。
クォヴレー……彼のことも気がかりだった。
(大丈夫か、二人とも……)
時間は、第三回の放送直後まで遡る。
放送が終わると同時に、その場に鈍い音が響く。
「リュウセイ……?」
地面に叩きつけられた、リュウセイの拳。握り締めたその拳からは、爪が皮膚を裂き血を溢れさせている。
彼の瞳に灯っているのは、激しい怒りと憎しみの炎。
「あの野郎……あの野郎、ふざけやがって……」
その表情は、かつて見せたことがないほどに、怒りで歪んでいた。
おもむろに立ち上がり、その憎悪を隠すこともなく言う。
「ヘルモーズへ行く……あいつだけは……この手で、ぶっ殺してやる……!!」
ユーゼスの挑発に、リュウセイは完全にキレていた。
そんな彼を、ジョシュアは諭そうとする。
「……落ち着けリュウセイ。気持ちはわかるが、今あの戦艦に行ったところで、俺達にはなす術がない」
「……」
「奴を倒すための力を蓄えるためにも、今は……」
「うるせぇっ!!いつまでもこんなとこでチンタラしてられるかよ!!」
リュウセイはその感情をぶち撒けた。怒りは、彼から冷静さを完全に奪い取っていた。
「リュウセイ!」
「あの野郎だけは絶対に許せねぇ……例え刺し違えることになっても、あいつだけは……」
そこまで喋って……再び、鈍い音が鳴り響いた。
「……ッ!?」
「……いい加減にしろ」
拳を握り締め、ジョシュアが言う。その拳は、リュウセイへと向けられていた。
「ジョシュア……?」
「あの男の遺志を継ぐために、できることから始めると言ったのはお前だ……
死に急ぐことがお前の教官の望んだことか!そうじゃないだろう、そうじゃ……!!」
その目は、リュウセイの目を真っ直ぐに射抜く。
ばつが悪くなり、リュウセイはその目を逸らした。
「お前に……お前に何がわかるってんだよ、くそっ!!」
そう言うとリュウセイは背を向け、そのままフェアリオンのほうへと走っていった。
「おいリュウセイ、待てよ!」
「待てトウマ……」
追いかけようとするトウマを、イキマが引き止める。
「今は下手に刺激しないほうがいい」
「でも……」
「俺が行こう。あいつが暴走しないよう、見ている者が必要だろう」
先程から沈黙を保っていたクォヴレーが、口を開いた。
「わかった……頼む」
「けど……お前も大丈夫かよ……?」
「何?」
「いや……さっきから、なんか思いつめているような感じでさ……」
トウマが心配そうに声をかける。
リュウセイからイングラムとバルマー戦役の話を聞かされ、その後放送を聴いて……
それから、クォヴレーもまた少しだけ様子がおかしかった。
「……心配ない。リュウセイよりは、冷静なつもりだ」
そう言って、クォヴレーはリュウセイを追った。そんな彼に……トウマは、どこかぎこちなさを感じたような気がした。
「……ほんとに大丈夫か、あいつ?」
「あいつも混乱しているんだろ。しばらく、一人にさせておいたほうがいい」
ジョシュアは言う。リュウセイにしろクォヴレーにしろ、今の状態のまま行動するのは危険だ。
憎悪に囚われた心が、自分に対する迷いが、時として致命傷になりかねない。
「わかった……けど、俺達はいつまでこうしてりゃいいんだ」
トウマもまた、その歯痒さに感情を昂らせていた。
今すぐにでも、あの外道・ユーゼスの所まで乗り込んで、蹴り飛ばしてやりたい。
「俺達はいつまで、あいつの手の上で踊っていればいい!?」
「急いた所で何も始まらん。言っただろう、今は出来ることから始めると」
「そりゃそうだけど……具体的に何から始めたらいいんだ」
「ならば、あの巨人の調査というのはどうだ?何か情報を引き出せるかもしれん」
イキマが提案した。
結局、リュウセイ達の頭が冷えるまで、この島に留まる羽目になりそうだ。
ならばその案は悪くはない。どうせ、他にできることなどないのだから。
「何なら、俺も手伝うぞ。もし戦力として機能できるなら儲け物だ」
「そうだな……俺は見張りをしている、行ってきたらどうだ」
ジョシュアもその案に同意した。
そんな二人を見て、トウマは巨人の調査のもう一つの目的を察した。
「……わかったよ。あんた、顔に似合わず気が利くんだな」
「……何?」
「いい奴だってことだよ。じゃ、そうと決まれば、先に行ってるぜ!」
トウマはメガデウスのほうへと駆けていった。
「全く……あいつまでお前と同じようなことを言うな、ジョシュア?」
「いいんじゃないか?お前の提案、トウマの気を紛らわせるためでもあったんだろ?」
「……考えすぎだ、くだらん」
イキマは一言そう言うと、トウマの後を追いメガデウスへと向かった。そんな彼らを見ながら、ジョシュアに微笑が浮かぶ。
「……エルマ、アル、戻るわよ。もう、この島に用は無いわ」
<ラージャ>
「えっ? も、戻るって、セレーナさん……」
第三回放送を聞き終え、暫しの沈黙の後。
セレーナの口から出た言葉に、エルマは戸惑う。
既に小島への潮は引き、浅瀬を使ってわたることはできる。しかし……
「イングラムはもういない。今の放送でわかったでしょ。そうなれば、あの島に向かう意味は無いわ」
「セレーナさん……」
今探していた人物の名が。そして以前出会った少女の名が。放送で読み上げられた死者リストの中にあった。
彼らを殺した相手を探し倒すか、ゲームを潰す手段を模索するか。
いずれにせよ、ここで足踏みしている暇はない。でなければ……悲劇がまた繰り返される。
(あんた達の無念は……必ず晴らして見せる)
イングラムもまた、彼女にとって背中を預けることが出来たかもしれない「仲間」だった。
リオも同じだ。もしこんな世界などでなく、違う形で出会っていれば、あるいは……
そんな彼らの死に、平静でいられるほどセレーナは冷徹な人間ではない。
「……出発するわよ」
<ラージャ>
「はい……アル?どうかしましたか?」
<いえ、問題ありません。行きましょう>
気のせいだろうか――エルマにはアルの言葉がどこか寂しげに聞こえた。
それは、彼の前の――本来のマスターの名が、放送で呼ばれたせいか。
彼女が出発しようとした矢先――
<マスター、10時方向上空より機影が接近中です>
「!!」
何かが、物凄いスピードでこちらへと飛んでくる。
2本の角に、悪魔のような顔。それは、鬼を彷彿とさせる機体。
(あれは……?)
右手両足はなく、遠目にも全身の装甲は大破寸前のボロボロだとわかる。
だが……その手負いの鬼を見て、何故だかセレーナの背筋に寒気が走った。
計り知れない威圧感。傷つきながら、まるで失われていない闘志。
鬼は、ECSが発動しているアーバレストに気付くことなく、そのまま島のほうへと飛び去っていった。
(あいつ……何なの?)
ひどく嫌な予感がする。
根拠はない。ただ直感的に、あれは危険だと自分の勘が告げていた。
「エルマ、アル。やっぱりこのまま島へ向かうわ。……アイツを追跡するわよ」
<ラージャ>
「え?は、はい……」
あの鬼の機体を放置してはおけない。
そう判断したセレーナはECSを解除すると、小島への浅瀬を渡っていった。
「やっぱり、どうやってもダメか」
メガデウスの操縦席から降り、トウマは言う。
ここまで壊れているのではどうにもならない。この巨人の修理をするには、せめて専門の知識や部品がなければ無理だろう。
「だが、得られた情報は大きい、と言えるんじゃないか」
「そうだな……空間操作装置、か……」
メガデウスの中にあったデータから引き出せた情報。
それはイングラムの調査した、空間操作装置の存在。
これを探し出し、破壊することで……あのヘルモーズのバリアを破ることが出来るかもしれない。
バリアさえなければ、切り札である核も通用するはずだ。
それだけではない。これをどうにかすることで、この空間からの脱出も可能なのではないか。
あるいは、ユーゼスの所に直接乗り込むことも……?
とにかく、当面の目的が出来た。これを見つけ出し、壊す。
脱出、及びユーゼスの打倒の目処がついたと言えるかもしれない。
……それでも実際は、首輪の爆弾をなんとかしなくては手も出せないわけではあるが。
「ジョシュア達の所に戻るぞ。この情報をもとに、今後の方針を決定しなければならん」
「あ、先に行っててくれないか。この近くにワルキューレが転がってると思うんだ」
ワルキューレ。以前この島に来た時、乗り捨てていったトウマの支給機体……と言うより、ただのバイクである。
ちょうどここは、それを乗り捨てた場所……トウマ達とイキマ達の出遭った場所から近かった。
あれを見つければ……戦力にはならないが、足として、何かの役には立つはずだ。例えば、連絡役であるとか。
いつまでも、何もせずクォヴレーの車に乗せてもらっているわけにはいかない。
「そうか……この辺りだったな」
ここでワルキューレを乗り捨てるきっかけとなった事件を思い出す。それは、彼らが初めて出遭った時。
「ほんと、あの時は悪かった……頭に血が上っちまって、あんたの話を聞こうともせず……」
「その話はもう気にするなと言ったぞ」
「そういえば、礼を言ってなかったな……ありがとう。アルマナの最期を……看取ってくれて」
アルマナの最期――それを思い出すたびに、イキマは後悔の念に苛まれる。
「いや……俺があの時もっと早く駆けつけていれば、彼女も殺されることはなかっただろうに……」
「アルマナを殺した奴は、一体……?」
一瞬返答に悩んだが、イキマは答える。
「……顔の右半分を覆う銀の仮面をした、黒い長髪の男だ。
名前はわからん。今まだ生きているか、それとももう死んでいるのかすらな」
「そうか……」
「だが忘れるなよ。俺達の本当の敵は……」
「ああ、わかってる。復讐に飲まれたら、それこそユーゼスの思う壺だ。
……それに、アルマナもそんなこと望まないだろうしな」
強い男だな。イキマはそう思った。こうした部分もまた、人間の強さということか。
「しかし、派手に破壊されてるな……壊れてなきゃいいんだけど」
見渡してみると、近辺の廃墟はさらに荒れ、その光景は四半日前から変わり果てていた。
イングラムとラミアの戦闘がこの付近であったせいか。
この惨状では、イキマの作った古墳も原形を留めてはいないだろう。
「俺も捜すのを手伝おうか」
「いや、俺だけで大丈夫だ。あの空間操作装置の情報を、少しでも早くみんなに知らせてほしいし……
それに、今敵に襲ってこられたら、まともに戦えるのはあんたとジョシュアだけだしな」
「わかった。早く見つけて、戻ってこいよ」
俺の中に存在する、この感覚は何だ?
このバトルロワイアルにおいて、俺は何人かの人間と接触してきた。
アルマナ、ジョシュア……そしてトウマを始め、イングラムという男の遺志のもとに集まった者達。
彼らと接することは……何故だか、悪くない気分だった。不謹慎な話だが、心地よさすら感じていたかもしれん。
もちろん、辛く悲しい出来事も多かった。その中で、人間の醜さ、そして脆さや哀しさもまた同時に目の当たりにしてきた。
許せないことも多かった。だが、そうした面もまた人間なのだ。そして、そんな黒い部分も含めて……
俺は人間という生き物に情が沸いてきている。
「お前ってさ、顔は悪役だけど意外といいやつだろ」
「あんた、顔に似合わず気が利くんだな……いい奴ってことだよ」
……違う。俺はそんなものじゃない。
俺は……人類の敵だ。お前達にとって敵。悪と呼べる存在なんだ。
邪魔大王国復活のため、数え切れないほどの人間を殺してきた、悪党に過ぎない。
ヒミカ様のために、何一つ躊躇うことなく虐殺を繰り返してきた。そこに罪悪感など何も持ち得なかった。
……だが、今の俺は何だ?敵である人間どもと馴れ合うなどと……
……この戦いを終えて、元の世界に帰った時……
俺は戦えるのか。
邪魔大王国のために、以前のように躊躇いなく人間を殺せるのか。
言い訳ならできる。ここにいる連中は、皆別の世界の人間達だ。俺の世界の人間どもとは別の存在なのだ。
鋼鉄ジーグ亡き今、自分達の世界の征服などたやすいことだろう。
そうだ、これで俺達の世界における、邪魔大王国の天下は約束されたも同然だ……
……それで俺は納得がいくのか?
答えは出ない。
よそう。そんなことは後で考えればいい。ユーゼスを倒し、この戦いを全て終わらせた後で。
いずれにせよ、この戦いを生き延びられなければ意味はないのだから。
それまでは……共に戦おう。ここに集まった「仲間」と共に。
(俺は……大切なことを忘れている……)
イングラム・プリスケン、バルマー戦役――クォヴレーは、リュウセイからそれらの話を一通り聞かせてもらった。
イングラムという男の存在が、引っかかる。彼と自分との関係は?
それから、放送で呼ばれた、ある女の名前。
それに導かれるように思い出した、第一回の放送で呼ばれた男の名前。
彼らの名もまた、何故だか頭に引っかかる。
記憶はやはり蘇らない。しかし、立て続けに仕入れたその情報が、彼を混乱させる。
(俺も……一度頭を冷やすべきのようだな)
ブライサンダーの窓を開け、外を覗く。
すぐ近くに、フェアリオンが……何故か体育座りをしていたりする。
(ずっとあの調子か……一体いつまで……ん?)
放送から30分近く経過した頃。
ようやく、閉じられたフェアリオンのコクピットが開かれた。
そして中から、」引き篭もっていたカッコ悪い少年が顔を出した。
「はぁ……」
溜息をひとつ。先程まで露になっていた憎悪は影を潜めていた。
勝手に逆ギレして、周りに八つ当たりして、殴られたら拗ねて閉じ篭る。
――ああー、なんてカッコ悪いんだ俺は。
これで、人を救う覚悟だなんてよく大口を叩けたもんだ……などと、自分が情けなくなってくる。
「みんなに迷惑かけちまったな……」
「だったら、素直に謝ればいいだけだ」
突然かけられた声に振り返る。
「クォヴレー……?」
「そっちは、頭が冷えたらしいな」
「……まあ、少しだけどな」
「すまねぇな、みっともないとこ見せちまって。
ジョシュアに殴られなかったら、多分あのまま突っ走って、犬死にしてたかもしれねぇ……」
「それ以前にこの島すら出られず湖に沈んでいたと思うが」
「いや、まあ……そうなんだけどさ」
実際、フェアリオンの損傷は激しい。もう単独ではまともな飛行もままならないだろう。
「こんな調子じゃ教官に笑われちまうな」
苦笑するリュウセイ。
イングラムはリュウセイにとってどういう存在だったか、一通りは彼の口から聞いた。
だからこそ――クォヴレーは違和感を覚えた。
「リュウセイ……お前は、何故そこまでイングラムを信じられる?」
話の限りでは、イングラムはそこまで信頼を得られる人物とは思えなかった。
リュウセイから信頼を得られるだけの要素が、教官時代からのイングラムからあまり感じられないのだ。
彼の行動は、第三者の視点から見れば……はっきり言って胡散臭くて怪しい。
実際、話の上ではSRXチーム以外からの評判もよくなかったようだ。
そして、裏切り。そういう展開も、傍から見ればありえないこともなかったといえる。
さらに敵としてリュウセイたちに行ってきた非道の数々。
例えユーゼスを倒すためだとしても。ユーゼスに操られていたとしても。こうまで簡単に割り切ることができるものだろうか?
彼を憎みこそすれ、こうまで信頼を寄せられるのは……むしろ不自然とすら思えた。
「……さあ、なんでだろうな」
リュウセイ自身、それはよくわかっていないのかもしれない。
初めて会った時から、彼にとってイングラムは他人のような感じがしなかった。
仲間に行った仕打ちも、裏切られた時も、本当は何か理由があったのではないか――
心の奥底で、そんな思いがあった。何故?
「ずっと昔、教官は……イングラムはかけがえのない仲間だった、そんな気がするんだ」
――俺は……お前達の事を……
――俺を仲間として認め、共に戦ってくれたお前達の事を……忘れはしない……
バルマー戦役の最終決戦の時、操られたイングラムからリュウセイへと逆流した念。
その時に頭に流れ込んだ映像を、思い出す。それは、イングラムの記憶。
ユーゼスと対峙するイングラムとリュウセイ、ライ、アヤ……
そして、ガンダム、光の巨人、左右非対称の人造人間、メタリックの強化スーツに身を包んだ刑事達、あと自称日本一の変な奴。
見たことのない、でも懐かしい仲間達。
――俺達の行動は無意味ではない……それぞれの世界に、
――必ず何らかの結果を生み出しているはず……
遠い昔、どこか別の世界で、彼らはユーゼスと戦っていた。
その時の記憶が、今のリュウセイ達の世界に、何らかの影響を及ぼしたのか。
その世界の記憶は失われても、そこで生まれた絆は、消え去ったわけではなかったのかもしれない。
――みんな、ありがとう……また、どこかで会える事を祈っている……
――さらばだ、ガイアセイバーズ……俺のかけがえのない仲間達……
「そうか……」
クォヴレーが呟く。こんな説明だけでは、普通はわけがわからないし、納得も出来ない。
それでも、クォヴレーには何故だか理解できた。
それは、彼の中にもまたイングラムの因子があったからなのか。
あるいは……何か大切な、かけがえのない記憶を失った……そういう意味でリュウセイ達も、クォヴレーと同じだと感じたのか。
厳密には、ただ記憶を封印されただけのクォヴレーの場合とはまた違うのだが……
(仲間、か)
自分もそうだ、仲間に囲まれ、支えられて生きてきた……戦い抜いてこられた。そんな気がする。
「だが、忘れるな。ここにいる俺達もまた、同じように仲間だということを」
仲間――
違う世界の、本来出会うはずのない人間同士が、こうして集まった。
底知れぬ闇に包まれた世界の中、その闇を生み出す者に立ち向かうために。
この殺伐とした殺し合いの世界の中、そんな素敵な巡り会わせがあってもいいだろう。
……イングラムの記憶の中の――「あの時」と、同じように。
「そうだな……俺達一人ひとりができることなんてたかが知れてる。
俺達全員が、ユーゼスを倒すための切り札、なんだよな……」
ああ、そうか。
さっきからずっと頭に引っかかっていた、二人の男女の名前。
彼らが何者なのか、その意味は未だわからない。
しかし、今こうして話していて、なんとなくわかった気がする。
仲間。彼らは俺にとって、そういう存在だったのかもしれない。
そして、俺はそのかけがえのない仲間を失ったのだ……
アラド・バランガ。
ゼオラ・シュバイツァー。
「リュウセイ……このゲームを潰すぞ」
「え?あ、ああ……そうだな」
もう、悲劇は繰り返させない。絶対に……
クォヴレーは。リュウセイは。イングラムによって導かれし戦士達は、その決意を新たにする。
(もう大丈夫なようだな)
二人のやり取りを遠目に見ながら、ジョシュアは安堵する。
あのまま憎しみに飲まれ、狂気に走るような、最悪の展開にはならなかったらしい。
(それでいい……怒りはあの男にぶつける時まで溜め込んでおけばいいさ。
だが、憎しみには飲まれるなよ。憎悪に取り込まれたら……)
……憎悪。
そこまで考えて、ジョシュアはふと思い出した。
人間の憎悪を、怒りを、悲しみを、絶望を。あらゆる「負の感情」を糧とする、恐るべき敵の存在。
破滅をもたらす者達。
その名も、ルイーナ。
(……まさか……)
参加者の負の感情を煽り立てること。それ自体が奴の狙いだとしたら?
放送での挑発もそうだが、ユーゼスの行動は明らかに参加者の負の感情を煽っている。
何故だ?もちろん、それはゲームを進めるためというのも一つの理由だろう……
なら、そもそも何のためにゲームを進める?奴の真の目的は何だ?
自分達が殺し合い、その怒りを、悲しみを、憎悪を……負の感情を煽って、あの男が得られるものとは。
……もしかすると、ユーゼスは奴らと等しい存在なのか。あるいは、そうなろうとしているのか。
とすると、彼は参加者の負の感情を集め、己の力にするために、このバトルロワイアルを開いたのではないか?
しかしどうやって?想像もつかないが、現実にルイーナという存在がある以上、可能性は否定できない。
……ただの推測である。だが、本当にそうだとすれば?
(俺達に、抗う術などあるのか……?)
戦えば戦うほど、憎めば憎むほど、悲しめば悲しむほどに。自分達は、ユーゼスの思い通りに踊っていることになる。
憎悪の矛先はユーゼスだけではない。殺し殺され、それを繰り返す同じ参加者にも向けられるのだ。
今こうしている間にも、さっきのリュウセイと同じように、怒り、悲しむ人間は他にもいるだろう。
ルイーナの時とは違う。事態は……もはや取り返しのつかないレベルまで来てしまっているのではないか……?
(……いや、推測に過ぎない。何か手があるはずだ、あの男を出し抜く手段が……)
突如、海の向こうで何かが光った。
(!?敵か!?)
考察中のジョシュアの頭を現実に引き戻す。
一寸遅れて、レーダーが海側から接近してくる機体の反応をキャッチした。
「ジョシュア!」
イキマからの通信が入る。ちょうど、彼がノルスに戻ってきた所だった。
「イキマ!何かがこちらに近づいてくる」
「こちらでも確認した。警戒したほうがいい」
「ああ……クォヴレー、リュウセイ、聞こえるか」
指示を出しながら、機体を廃墟の奥へと隠し、様子を見る。
まだ何者かはわからない。もし味方となってくれそうな相手ならば、話し合いに持ち込めるかもしれない。
だが……近づいてくるのは、彼らにとって最悪の人物だった。
島はもう目前に迫っている。
相手も、こちらの接近には既に気付いているだろう。
レーダーには反応が3機……いや、4機か。正確な数はわからない。
肉眼で確認できたのは2機。
こちらに気付いて廃墟の中に身を隠したようだが、もう遅い。彼らの位置は把握した。
これがガイキングで戦える、最後のチャンスだ。
長期戦は不利だ。短期決戦を挑まねば、戦闘中に機体が動かなくなる危険がある。
だが、それにはあの廃墟が邪魔だ。立て篭もられて時間を稼がれるわけにはいかない。
ならば、障害物を排除し、奴らをいぶり出すまでだ。
……
俺の非道な行いを、仲間が見たら激怒することだろう。
ボス、リョウ。それにジュン、シロー、所長。それに、ゲッターチームのハヤト、ムサシ、ベンケイ。
いや、俺はもう彼らの仲間とは呼べない。今さらどの面下げて、みんなのもとに戻れるというのだ。
……どうであろうと、俺の存在はいずれ必ず仲間達を不幸に陥れる。
俺の頭にこびりついていた、兜甲児への嫉妬心。それによって、取り返しのつかない過ちを犯すことになる。
そんなビジョンが脳裏に流れ込んでくる。あのゲッターロボの放つ光を見た時から、ずっとこの調子だ。
ゲッター線。ただのゲッターロボのエネルギーだと思っていたそれの意味が、今は理解できる。
そしてそれによって見える……俺の、そして世界の運命。あらゆる情報が頭に流れ込んでくる。
1+1が何故2であるのか、俺がどうやって孤児となったのかも。
だからこそ……
俺は、ゲッター線を認めない。奴が見せる運命を、否定する。
一匹の鬼として、否定してやる。全ての敵を叩き潰し、この運命に抗ってやる。
例えこの世の全てに憎まれることになろうとも。
シロー、甲児君。所長と親子仲良く暮らせよ。
それを最後に――俺は、過去を断ち切る。
彼の手にかけたスイッチが押された。攻撃が開始される。
それは剣鉄也という鬼の、覚悟。
過去への、そして仲間への訣別の一撃。
「何!?」
機影から、多数の熱源反応が確認された。
「みんな、身を隠せっ!!」
次の瞬間――
廃墟の街に、ミサイルの雨が降り注いだ。
毎分300発の恐るべき速射性を誇る、ガイキングミサイルの雨。
広範囲にわたって行われたその爆撃は、炎を巻き起こし、廃墟を包む。
もし、この街に人が普通に住んでいたならば……その場は、地獄絵図と化したであろう。
ミサイルの雨はやがて止み、その爆発による爆煙が周囲を覆い尽くした。
「うわぁぁっ!!」
爆風に吹っ飛ばされ、トウマはその身体を地面に打ち付けた。
「ってて……く、くそっ!?何が起きたんだ!?」
見上げれば、街が炎上している。ちょうど、仲間達のいる場所の方向だ。
恐れていた、敵の襲撃。それにしても、こうも早くこんな事態に陥ろうとは。
(早くみんなの所に戻らないと……!!)
戻った所で役には立たない。しかし、行かずにはいられなかった。
「見つけた……!!」
ちょうど吹っ飛んだ先に、転がっていた探し物のバイクを発見する。
しかも、運のいいことに無傷だ。この状況下では、微々たる幸運でしかないが。
「待ってろ、みんな!」
トウマはワルキューレに跨り、仲間のもとに向かうべく走らせた。
(くっ、ゲームに乗っている者の襲撃か……!)
ブライサンダー自体の小ささと、周りの高層ビルが障害物となったことが幸いした。
爆発による建物の破片などが飛んできたものの、大した損傷はない。
だからといって、呑気に浮かれている状況でもなかった。
「リュウセイ!?」
クォヴレーはフェアリオンのほうを振り返る。妖精は、うつ伏せに倒れたまま動かない。
「く、くそっ!動け、動けぇっ!」
そのコクピットの中で、リュウセイの叫びがこだまする。機体がその叫びに応えることはなかった。
別に、ミサイルが直撃したわけではない。単に爆発の衝撃で吹き飛ばされただけだ。
それ自体は大した衝撃ではなかったのだが、今のフェアリオンの大破寸前の装甲には致命傷であった。
「リュウセイ!!無事なんだな!!」
ブライサンダーからの通信を確認する。どうやら通信機器はかろうじて無事のようだ。
「ああ、俺は平気だ……けど、こいつはもう動かねぇ!くそっ!!」
操縦桿に拳を叩きつける。様子の限り、大した怪我もなさそうだ。
「俺のことより、それよりジョシュア達の援護に回ってくれ!」
「……わかった!」
今の攻撃だけでも、敵の火力は半端ではないことがわかる。
こちらの戦力で対処できるかどうか……この車に装備されたブラスター程度でどうにかなるとも思えない。
だが今は僅かでも援護は必要だろう。クォヴレーは車をジョシュア達のほうへと走らせた。
ガイキングミサイルの奇襲による、廃墟の破壊及び敵の撹乱は成功した。
中には今のミサイルで戦闘不能になった機体もあったようだが……
鉄也の目的は、あくまで新たな機体の奪取。そんなやわな機体に用はない。
(チャンスは今だ)陣形を立て直され、連携をとられる前に潰す。
ガイキングはバーニアを全開にし、敵陣への突撃を敢行する。
既に相手の大体の位置は把握済みだ。動かれる前に蹴りをつける。
(ターゲットは……奴だ!)
(くっ、してやられた……!)
思いもかけぬ敵の攻撃に、完全に後手に回ることになったジョシュア達。
周囲の建物の多くは破壊され、こちらの姿が曝け出される形となってしまった。
しかも爆煙に視界が包まれ、周囲の状況がよく見えない。
「ジョシュア、大丈夫か!」
「ああ……気をつけろ、イキマ!」
イキマの通信に言葉を返すと共に、敵の襲撃に備えるべくビームサーベルを抜いた。
この混乱に乗じて、敵は間違いなく仕掛けてくる。
視界の定まらない中、無防備な場所に留まるのは危険だ。そう判断し、動こうとした矢先――
閃光が走った。
(なっ!?)
それ――デスパーサイトの光はガンダムの装甲を掠め、出鼻を確実に挫いた。
(くっ……こちらの位置を……!?)
ガンダムは、ビームの放たれた方角へと向き直り、身構える。
その直後、再び強烈な光が放たれる。
「うっ!?」
ガイキングの頭から放たれた光――アブショックライトが、ジョシュアからさらに視力を奪った。
その一瞬の怯みが、致命的な隙を生む。
ガイキングが頭から突っ込んでくる。スピードを全開にして、ガンダムに向かって一直線に。
避けきれない――
「うぁぁっ!?」
コクピットに衝撃が走る。ガイキングの角が、ガンダムの胸部装甲に突き刺さった。
刺さりは思いのほか浅い。装甲の厚いこのガンダムに、それ自体は大したダメージにならなかった。
だが、そこに……決め手の一撃が放たれる。
「パライザァァァァァァァ!!」
ガンダムの内部に、高圧電流が流し込まれた。
「があああああああ……ッ!!」
その電撃は、コクピット内……ジョシュア自身にも致命傷を与えることになった。
「ジョシュアァァァッ!!」
あの機体をガンダムからを引き離さなくては――
プラズマソードを振り、ノルス・レイは鬼へと斬りかかる。
(来るか……!)
ガイキングは頭にガンダムを挟んだままだ。この状況で超兵器ヘッドの攻撃はできない。
下手に攻撃を放てばガンダムも一緒に傷つけ、ひいては自身も自分の攻撃に巻き込まれる。
だが鉄也は少しも怯むことなく……残された左腕をノルスに向けた。
「カウンターパンチ!!」
拳がジーグのナックルボンバーの如く発射される。
そのまま突っ込んでくるノルスを、まさにカウンターで殴り飛ばした。
「なっ……ぐあぁぁっ!!」
拳は、ノルスのボディを抉るように直撃する。華奢な機体に、重過ぎる衝撃が叩き込まれた。
その衝撃に抗うこともできず、ノルスはそのまま廃ビルへと叩きつけられた。倒れたノルスに、崩れるビルの破片が降り注ぐ。
「イキマ!!」
「が……はっ……」
沈黙するノルス。クォヴレーが叫ぶ。
ダメージは中の搭乗者にまで及んだ。吐かれた血が、コクピットを汚す。
「ぬぅ……ええいっ!!」
傷を押して、機体を立たせようとするが……動くことはなかった。
ノルスを倒したことを確認し、鉄也はガンダムへと目を移した。ガンダムもまた、既に完全に沈黙していた。
出力は調整した。計器類に多少異常をきたしたかもしれないが……
もともと装甲の厚そうな機体だ、大した支障ダメージはないだろう。
だが、中のパイロットに、この高圧電流はこたえるはずだ。
死んだか?
いや、例え仕留め切れていなくとも、もう動くことも意識を保つこともできる状態ではあるまい。
となれば、あとはこのまま中の人間を確実に殺し、機体を奪うだけだ。
そこに、新たな邪魔が入った。
「何……ちっ!!」
直感的に危機を察知するや否や、ガイキングは急上昇する。ガンダムを角に刺したまま。
一瞬後、ガイキングのいた場所は弾丸が撃ち込まれた。
(新手だと……!)
上空から、撃ってきた敵を確認する。煙は既に晴れてきていた。
新たな敵、それはARX-7<アーバレスト>。
(ここらが引き際か)
機体の損傷が思いのほか激しい。立て続けに強力な攻撃を放ったせいか、その反動が自機にも来ていた。
これ以上攻撃を放てば、大破する危険も出てくる。新たに現れた機体との戦闘は不可能だ。
この敵だけではない、この廃墟に潜む敵が自分の確認した以外にいる可能性もある。
目的はあくまで機体の奪取。傷ついた機体で、欲張って無理をする必要などない。
長居は無用、この島から離脱することを決意する。
当然、ガンダムはこのまま持ち帰る。邪魔のない所で殺して乗り換えればいい。
ガイキングは再度バーニアを全開にし、急速離脱を行った。
「待ちなっ!!」
セレーナの声と共に、アーバレストは再びボクサーを撃つ。
だが弾は鬼に当たることはなく、虚しく空へと消えた。
「な……!?」
ワルキューレで走るトウマは、帰路の中離脱するガイキングとすれ違う。
その角に刺さった機体、それはまるで死んだと思えるように沈黙したジョシュアのガンダム。
「貴様ぁぁっ!!」
すぐさま方向転換しガイキングを追うものの、スピードの差は歴然。ワルキューレではとても追いつけない。
鬼は、そのまま海の彼方へと見えなくなってしまった。
「セレーナさん……」
「……あと一歩のところで……!」
その見事な引き際に、立ち尽くすアーバレスト。海を飛んで超えられては、この機体に追跡する手段はない。
彼女の嫌な予感は当たった。あの鬼はやはりゲームに乗っていた。
目の前には、鬼の残した惨劇の跡が広がっている。
破壊し尽くされた廃墟、力尽きた2機の妖精。その片方は、セレーナもよく知っている。
眼下には、車が一台。その中で、少年が叫んでいる。
「イキマ!!大丈夫か、イキマ!!」
「ああ、俺のことは構わん……それよりも……!」
中のパイロットごと奪われたガンダム。この機体が強奪されることは、もはや運命だとでもいうのか。
あの危険なマーダーの手に核が渡れば、どれほどの破壊と殺戮が繰り広げられるか、想像もつかない。
それ以上に、ジョシュアの安否が心配だ。
「……くそっ!」
だが、クォヴレーには何も出来ない。目の前で仲間を傷つけられ、連れ去られ。
少年は、それらを見ているしか出来ない己の無力さを思い知らされる。
「セレーナ……あんた、確かセレーナって言ったっけ、そうだろ!?」
崩れ落ちた2体の妖精、その片方……セレーナも見覚えのあるほうから、アーバレストに通信が入った。
「リュウセイ君!?よかった、無事だったようね!?」
「ああ、助かった……けど、ジョシュアが!!」
「ジョシュア……あの白い機体に乗ってた人ですね!?」
そんな混乱の中、バイクが一台向かってくる。
「あれは……トウマ、戻ってきたか!」
「おい!!どうなってるんだ、クォヴレー!!ジョシュアはどうしちまったんだ!?」
「なんとか、あいつを追えないのかよ!?」
「空を飛ぶ上にあのスピードだ……それに、既にレーダーからロストしてしまっている……!」
クォヴレーから説明を受け、トウマは焦りを見せる。
「おそらく……あれのパイロットはあの機体を強奪し、自分の機体として使うつもりね……」
見た限り、あの鬼のような機体は既に満身創痍だった。あれ以上の戦闘はもう無理だろう。
そうすると、新たなる機体が必要になる。そして、それを手に入れるためには……
静かに分析するセレーナ。だが、彼女もまたその表情から焦りを隠せない。
ジョシュア自身、先の攻撃で生きているかどうかわからない。
だがたとえ助かっていたにしても、このまま奴の逃亡を許しては、ジョシュアは確実に殺される。
そうなる前に、止めなければ。
だが、この場にいる誰もに、追う手段がない。
「動けよ……動け、動いてくれ!!」
リュウセイは機体を再起動させようと試みる。しかしフェアリオンは、彼の願いに応えない。
「今動かなきゃ、どうにもならないだろうがよ!!頼む、動いてくれ!!」
虚しく響く声。妖精にはもう動く力は残されていなかった。
どれだけ彼がサイコドライバーの素質を秘めようが、、そこまで都合のいい奇跡を起こせるはずがない。
「どうにも……どうにもならないのか!?なぁ!?誰も動けないのかよ!?」
トウマの悲痛な叫びが、辺りに響く。
だが、彼の思いに応える者はない。
無念さに歯を軋ませるイキマ。操縦桿に拳を叩きつけるリュウセイ。手もなく、目を伏せるセレーナ。
あまりにも、無力だった。
「このままじゃ、ジョシュアが殺されちまうっ!!」
何も出来ない歯痒さに、その目から涙すら流れる。
蔓延する絶望。
(打つ手……なしか……!)
――もしゲームに乗った参加者に襲われてどうしようもなくなったら……
この言葉を叫んで狼のマークのついたスイッチを押してみるといいでございますですわ――
「!!」
まだ、手はあった。
しかしどうする?あの女の言葉を鵜呑みにしていいのか?罠の可能性は?
……気にしている場合ではない。今は一秒を争う。
他に事態を打開する術はないし、もう疑う時間すら惜しい。
(僅かでも可能性があるなら、そこに賭けるしかない……!)
意を決し……クォヴレーは叫ぶ。
「ブライシンクロンアルファ!」
そして、ウルフのマークのスイッチを押した。
その言葉が……機体に秘められた力の、封印を解く。
「高度に発展した科学技術は魔法と区別が付かない」
(アーサー・C・クラーク)
ブライ・シンクロン。
この宇宙の質量やエネルギーを並行宇宙に預け、その投影像であるこの宇宙の物体の拡大・縮小を自在に行うというものである。
それにより、ブライサンダーのサイズは10倍近く増大し、その姿を車から飛行艇……ブライスターへと変えた。
その場にいた一同は、それをただ呆然と眺めていた。
「な……何だっていうの?何かの魔法でもかかったわけ?」
「ぼ、ボクにだってわかりませんよ……!」
魔法。口から出た、あまりに間の抜けたその表現に、セレーナ自身も呆れてしまう。
だが、それは確かに魔法と見紛っても無理のない光景であった。
車が巨大化して飛行艇に……常識的に考えて、いや多少非常識に考えたとしても、その出来事はあまりに突飛過ぎた。
――こんなことが起こりえるのか?
この車、いやこの機体は……とんでもないスペックを秘めていたというのか?
あの女はこのことを知っていた。何故だ?そして何故俺達に教えた?あの女は何者だ?
……考えがまとまらない。ただ、一つわかったことがあった。
「牙は……まだ折れてはいない……!」
女の思惑はわからない。誰かの手の上で踊らされているだけかもしれない。
だが……それでも、今この手に事態を打開できるかもしれないだけの力がある。それならば――
「クォヴレー!!」
「ああ……これなら、奴を追跡できる!」
エンジンに火を入れる。バーニアが火を噴く。
いける。これなら、追いつけるかもしれない。
「行け……トウマ!」
ワルキューレに入る通信……それは、ノルス・レイから。
「何をしている……お前も一緒に行って、早く奴を追うんだ!!
そして……ジョシュアを頼む!!」
先程までの情緒不安定だった姿から、クォヴレーにはサポートの必要性も感じた。
イキマが叫ぶ。その声色は、かなり無理をしているように聞こえた。
「イ、イキマ……おい、まさか、あんた怪我してるんじゃ……!?」
「俺に構っている場合か!!」
「だったら……このおじさんは私が助けるわ」
横からセレーナが口を挟んだ。
「あ、あんた!?」
「お仲間を助けたいんでしょ……だったら、迷う前に行動しな!」
「……信用していいんだな……わかった……!」
トウマの心に、再び闘志の炎が燃え上がる。
「トウマ、乗れ!!」
「ああ!」
トウマは、ブライスターのコクピットへと走った。
「そうとなったら……私達は出来ることから始めるだけね。リュウセイ君!?」
「そうだな……セレーナ、あんたを信用させてもらうぜ」
コクピットをこじ開けながら、リュウセイはブライスターに通信を入れた。
「クォヴレー!聞いての通りだ、イキマのほうは俺とセレーナに任せろ!」
「リュウセイ……あとは頼む。……いくぞ!」
トウマの搭乗を確認し、ブライスターが、彼らの新たな力が発進する。
ガイキングは、北東へと飛び去った。既にレーダーからはロストしている。
だがあの傷ついた機体で、そう遠くまで行けるとも思えない。
「間に合うか……いや、間に合わせる!」
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライスター(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好
機体状態:良好、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1
第一行動方針:鉄也を追い、ジョシュアを救出
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライスター(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状態:良好、装甲に弾痕(貫通はしていない)
現在位置:E-1
第一行動方針:鉄也を追い、ジョシュアを救出
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流。及びユーゼスを倒す
備考1:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
備考2:空間操作装置の存在を認識】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:戦闘でのダメージによる出血あり
機体状況:胸部装甲を中心に大幅に破損。戦闘不能
現在位置:E-1
第一行動方針:ジョシュアの救出をトウマとクォヴレーに託す
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考:空間操作装置の存在を認識】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:上半身打撲
機体状態:装甲を大幅に破損。動作不能
現在位置:E-1
第一行動方針:ジョシュアの救出をトウマとクォヴレーに託す、イキマの救出
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:E-1
第一行動方針:イキマの救出
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2】
【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ガンダム試作二号機(機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY)
機体状況:装甲前面部に傷あり。損傷軽微。計器類にダメージ?
パイロット状態:電撃による致命傷。気絶
現在位置:F-1北部(さらに北上中)
第一行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第二行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考:バトルロワイアルの目的の一つに勘付いた?】
【剣鉄也 搭乗機体:ガイキング後期型(大空魔竜ガイキング)
パイロット状態:マーダー化
機体状態:胸部にかなり大きな破損。ザウルガイザー使用不可。右胸から先消失、両足消失。
超兵器ヘッド健在。これ以上の激しい戦闘は危険。
現在位置:F-1北部(さらに北上中)
第一行動方針:小島から離脱後、ジョシュアを殺害し試作2号機の奪取
第二行動方針:他の参加者の発見および殺害
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ガイキングはゲッター線を多量に浴びている】
……ふと、考えてみる。
もしも、だ。
もしも剣鉄也が、彼らと……例えば、ジョシュアやトウマと違った出会い方をしていたら……?
殺し合いの世界などではなく、共に戦う仲間として出会っていれば?
親友として、先輩として。戦いの中その絆を深めていくような。
ひょっとすると、どこかにそんな並行世界もあったのではないか……?
だが、非情なバトルロワイアルはそんなifを想像させる余地すら許さず、新たな闇を撒き散らすのみである。
【二日目 18:45】
【二日目 18:55】
※
>>261の現在時刻を訂正します
263 :
悲しみの星空:2006/06/18(日) 15:36:15 ID:7WtZY62t
沈黙。
B-3からの離脱に成功したヴィンデル、マシュマー、タシロ、副長。
彼らは何一つ言葉を交わすこともなくB-4上空を飛行していた。
空にはもう星が見えている。
「艦長、このまま会話も何もなさらないおつもりで?」
「いや、私も無論そんなつもりはない。彼らとは話をしたいと思っている。こんな通信機を通してではなくな」
前方を飛行するマジンカイザーとアストラナガンを見つめタシロは答えた。
副長もまたそれを聞くとゆっくりとうなずき再び周囲の警戒を始めた。
(そうだ・・・彼らとはゆっくりと話をしたい。)
あのSTMCを思わせる化け物・・・。
タシロはあの化け物のことを知る必要がある。
否、知らねばならないと思った。
彼らならもしかしてあの化け物の事を何か知っているかもしれない。
知るということは・・・武器だ。
だからこそ盗聴の可能性のある支給機体の通信機を通さず直に話をしたかった。
副長もそれを理解してくれた。
この狂ったゲームの中、副長に出会え、共に行動することが出来たのは本当に幸運だったと、タシロは一人神に感謝する。
だが、思考はそれだけでは終わらない。
もうまもなくゲームが開始されてから三日たつ・・・。
タシロは毎回放送の死亡者の数を数え、蓄積していった。
その数40。
最初に集められた部屋にいた人を見た限り、人数はおそらく60〜80前後だろう。
(既に半数以上は死亡してしまったことになる・・・。)
この老いぼれが生き延び、若く未来ある命が散っていく。
その事実に憤りを感じながらも、思考を続ける。
ゲームもここまできたのだ。
いかなる結果になろうとこのゲームの終焉はそう遠くない・・・。
そうだ、だからこそこのタイミングでのあの化け物の出現に違和感を感じる。
―主催者は何をしたい?
先の放送を聞く限り、主催者に対して反抗を行った者がいる、という内容を受け取れた。
―それをきっかけとして、自分に牙を剥く可能性のある参加者に対する対抗策か?
いや、それならその反抗者の首輪を爆発させればいいだけだ。
―では、首輪を解除された時のために?
・・・それもこのゲームのエリア内に解除できるような装置等を置かなければいいだけだ。
―では何故?
一つの考えがタシロの頭をよぎる。
(主催者は私たち参加者を生かして返すつもりはない・・・?)
残りの参加者全てをあの化け物で抹殺する・・・。
参加者同士の殺し合いに飽きたのか?
―所詮、私たちは主催者の暇つぶしに集められただけなのか?
少ししてタシロは思考を止める。
例え・・・例えそうだとしても・・・私は・・・私たちは生の可能性をあきらめはしない。
主催者が何を考えていようと、私たちは生きるために、持てる可能性を全て出し切るだけだ・・・!
絶望するのはそれからでも・・・遅くはない。
264 :
悲しみの星空:2006/06/18(日) 15:37:40 ID:7WtZY62t
それから数分飛行を続けていると、左手に森が見えた。
「艦長、艦の前方左手に森が見えます」
「分かっている。副長前の二人に通信を繋げてくれ」
「了解です」
副長が前の二機へと通信を繋げる。
「二人共聞こえるか?私はこの機体のパイロット、タシロ・タツミというものだ。見たところ君たちの機体はかなり損傷している。君たち自身の疲労も心配だ。
我々の機体前方に森林がある。一度そこへ着陸し、休息をとらないか?」
いきなりの通信にヴィンデルは疑い深い顔をする。
「・・・見ず知らずの他人を、いきなり信用しろと?」
ゲームに乗っていない参加者であろうことは、先の化け物と遭遇したときの彼らの発言を聞けば明らかだった。
だが用心には用心をということで、ヴィンデルは返答した。
「では私が先に下に降りよう。なんなら上から撃ってくれてもかまわんよ」
「・・・了解した」
「ところで・・・その黒い機体に乗っている者だが・・・」
通信を入れたものの何も言葉がないアストラナガンへの対応にタシロは困っているようだ。
「・・・気にするな。こいつは問題ない」
そう返したヴィンデルの声には明らかな嫌悪が混じっていた。
森の上空へ差し掛かり、着陸できそうな場所を見つけ、ヒュッケバインガンナーは着陸した。
続いてマジンカイザー、アストラナガンと続く。
再びタシロはヴィンデルへと通信を入れる。
「ものは相談なんだが、先ほどのこと化け物の出現までのいきさつを話してもらえんかね?出来れば機体の通信機でではなく、直に」
「・・・そちらから降りてもらえるのなら、私も機体から降りるのを了承しよう」
「艦長さすがにそれは・・・!」
副長が呻く。
「かまわんよ。彼らはゲームに乗っている人物ではない。それは確かだ」
そういうとタシロはヒュッケバインから降りていく。
しぶしぶ副長も続いて降りてきた。
あとは・・・
「その機体のパイロット。本気でミオを助けたいと思うのなら、その機体から降りろ」
そう言い放ったヴィンデルの声には何の感情もこめられてはいなかった。
少しの沈黙の後、マシュマーがアストラナガンから降りた。
それを確認し、ヴィンデルもマジンカイザーのコクピットから降りる。
タシロはマシュマーを、沈黙を守っていたアストラナガンのパイロットを少し見て、話を切り出す。
「さて、まずは私の言葉を聞いてもらったことを感謝する。あの化け物についての話をしてほしい。食事でもとりながらな」
そう言いタシロは軽くウィンクする。
副長は主催者が参加者に用意した母さんのシチューなるものをせっせと作っていた。
265 :
悲しみの星空:2006/06/18(日) 15:38:47 ID:7WtZY62t
「―――というわけだ」
「・・・そうか。話を聞かせてもらえた事を感謝する」
副長が急いで用意したシチューを食べながら、タシロはヴィンデルから話の一部始終を聞いた。
マシュマーは相変わらず沈黙を続けていた。
そして残念ながら彼もあの化け物については詳しくは知らないとのことだった。
(それにしてもあの化け物が人を取り込んでいたとは・・・。)
これでは迂闊に手をだせない。
「その・・・ミオという少女は救い出せるかね?」
「分からん。なにしろあの化け物の情報が少なすぎる。これではどうやって救えばいいか・・・」
そこまでヴィンデルが言ったとき、マシュマーが沈黙を破った。
「キッサマァァァァアアァッッッッ!!!!!」
そう叫び、いきなりヴィンデルへ殴りかかった。
不意をつかれたヴィンデルは地面へ倒れ、マシュマーはその上に馬のりになる。
「貴様が!!!ミオを救うなど!!そんな言葉を口にするな!!!!!」
「なんだと!!!」
マシュマーに負けずヴィンデルも叫ぶ。
ヴィンデルの顔を拳で殴り続けながらマシュマーが叫び続ける。
「貴様さえ!!貴様さえいなければミオは救えた!!!!貴様らがぁっ!!!」
「止めないか!!我々が争いあってどうする!!」
タシロが止めに入るがマシュマーはタシロを手で思いっきり撥ね退ける。
ヴィンデルはマシュマー意識がタシロに向いた一瞬自由になった右腕でマシュマーの首をつかみ、無理やり地面に押し倒した。
今度はヴィンデルが馬乗りになりマシュマーを殴っている。
「君も!!やめないか!!!」
タシロが叫ぶ。
「今ここで!止めたところでまたこいつは私達に牙を剥く!」
「だが・・・!」
そう言いかけたタシロの肩に副長は手を置き、首を横に振った。
「く・・・!!」
マシュマーも自由な手でヴィンデルの胸ぐらを掴んでいた。
「貴様らを・・・貴様らを殺しておけば!こんなことにはならなかった!!」
「何を!」
「私は殺さねばならない!参加者を、主催者を!ハマーン様の命を、ブンタの命を奪った奴らを!!」
ヴィンデルに殴られながらもマシュマーは叫ぶ。
二人共切ったのか口から血を流している。
「貴様のしていることは!貴様が殺そうとしている奴と同じだ!憎しみに憎しみを返してどうなる!!」
「それでも!私は殺さぬわけにはいかんのだ!仇をうたねばならんのだ!!」
「なら!!この私の怒りは!アクセルを・・・部下を殺された怒りはどこにぶつければいい!!仇の貴様を殺したからといって、アクセルが戻ってくるわけではないのだ!!
違うか!!ええ!!?」
そういってヴィンデルは自分の拳をマシュマーの顔のすぐ横へ叩きつけた。
「殺したいのは私も同じだ・・・!だがアクセルはそんなことを望みはしない!自分が殺されたからといって、私に自分を失ってまで仇を討てなどということは言わんのだ!!
貴様が言った者たちは・・・、殺されたもの達は貴様に仇を討てと・・・自分を見失えとでも言うのか!!違うだろ!!」
「・・・なら・・・私にどうしろというのだ・・・・」
泣いていた。
マシュマーにはさっきまでの狂気は欠片もなくなっていた。
「私の・・・力不足で・・・注意不足で・・・死なせてしまったのだ・・・・それでも私に参加者を殺すなというのか・・・!」
ヴィンデルもマシュマーももう拳に力など入れてはいなかった。
「どうすればいいというのだ・・・・。私は・・・・大切な人を失い、もはや帰る場所すら失った私に・・・!」
ヴィンデルも、タシロも、副長もなにも言わなかった。
いや、言えなかった。
この哀れな男に。
ゲームによって狂わされた男に。
冷たい星空に、一人の嗚咽だけが聞こえた。
―このゲームは・・・人を、人の心を狂わせる・・・・・・
266 :
悲しみの星空:2006/06/18(日) 15:39:24 ID:7WtZY62t
【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル)
パイロット状況:上半身打撲
機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
現在位置:B-4
第一行動方針:デビルガンダムへの対抗策を考える
第二行動方針:デビルガンダムをどうにかする
第三行動方針:リョウトの捜索、シロッコをどうにかする
最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】
【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル)
パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
現在位置:B-4
第一行動指針:タシロを可能な限りサポートする
最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】
【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発(少し落ち着いた)
機体状況:Z・Oサイズ紛失、装甲全体に亀裂、ディフレクトフィールド使用不能、EN及び弾数少。
戦闘続行は厳しい。再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
現在位置:B-4
第一行動方針:ミオの救助
最終行動方針:???(この後のマシュマーの行動方針は次の人に任せます)】
【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有
機体状況:装甲全体に亀裂、EN残り少、戦闘続行は厳しい。
再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
現在位置:B-4
第一行動方針:ミオの救助
第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
最終行動方針:???
備考:機体及びパイロットにDG細胞反応は無し】
【ハロ 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
現在位置:B-4
パイロット状況:機能を完全に停止】
【二日目 19:50】
267 :
それも名無しだ:2006/06/19(月) 00:29:32 ID:aHQTcNbt
あげ
魔王と魔神の渾身の一撃がぶつかり合う。行き場をなくした力はあふれ周囲のもの全てを呑み込もうとしていた。そう全てのものを―――
(大気が震えている)
B-3地区に足を踏み入れたフォルカ・アルバーグは異変を肌で感じ取っていた。何か強大なもの同士がぶつかり合っているようなそんな気配がここには満ちていた
レビに注意を呼びかけよう。そう思い口を開けかけたとき彼は目撃する
前方から巨大な衝撃波が大地をえぐり、そこに根付く全てのものを巻き上げ呑み込み迫ってきていた。それは避けるとか避けないとかそういうレベルじゃなくすべてを呑み込む巨大さ。ただ耐え凌ぐほかない巨大さだった
とっさに彼は声を荒げる
「レビ、巨大な衝撃波だ。気をつけろ」
言い終わるか終わらないかのうちに二人は巨大な衝撃の津波に呑み込まれていった
フォルカがこの付近一帯にあふれる異常な気配を感じている頃、マイ・コバヤシも同じものを感じ取っていた。いやむしろ念動力者であるだけ彼女のほうが幾分正確に感じ取っていたのかもしれない
そして次の瞬間、彼女は雲が吹き飛び、大地がえぐれて行く様を目の当たりにする。そうなにか巨大なものが近づいてくる
(あれは何・・・)
予想外のものを目にして思考がぼやける
「レビ、巨大な衝撃波だ。気をつけろ」
フォルカの一声でハッと我にかえった彼女は巨大な衝撃に飲み込まれていく彼の姿を目撃した
(私に気をつけろって・・・お前、生身じゃないか・・・)
瞬間、機体が大きくがたつきR-ウィングは乱流の渦の中に突入する。彼女はすでにフォルカを見失っていた
マイ・コバヤシは衝撃の波に呑み込まれ、乱流の渦の中へ突入していた
操縦桿は重く、機体はその不規則な気流に翻弄される。真っ向から受け止めていたのでは機体がもたない大波が何度もうちよせる
そのたびに大波を受け流し機体を波に乗せることで耐えていた
しかし、この状況下で彼女はどこか集中力を欠いていた。波に呑み込まれる前に見たフォルカのことか気にかかる
目が知らず知らずのうちにフォルカを探す。しかし、その姿は見えない
ガコン―――
突然、機体に鈍い音が鳴った。どこからか飛んできた扇風機が直撃した音だった
その音で前方に視線を戻す。巨大な岩が迫ってきているのが視界に入る
慌てて操縦桿をにぎる。しかし、それは重く用意には動かない
激突を覚悟したそのとき、その岩は下方にそれていった。視界の端を何か白いマークをあしらった破片が抜けていった気がした。その破片が岩にぶつかったおかげでそれてくれたのだろう
あわや直撃という状況に気を引き締めなおしR-ウィングは乱流の波を超えていく
抜けたその先、雲ひとつないその空の中、太陽は傾き始めていた
衝撃波を越えた後に広がっていたのは草1本生えていない荒廃した死の大地だった。
「何が起こっているんだ・・・」
衝撃の波によって圧縮された空気の壁を受け流し利用し高高度へ舞い上がった飛竜のうえで男は呟く。幸いにも先ほどの衝撃で雲が吹き飛ばされたため見晴らしはいい
どうやらB-3地区一帯が更地と化したようだった。しかし、いまだに爆心地とおぼしき場所は遠くその状況は詳しくはつかめない
爆心地の様子を探ることをあきらめた男は飛竜でぐるりと大きな円を描き降りてきた
こちらに歩いてくる男を見ながらレビは思った
本当にこの男の技量には驚かされる。爆心地から距離があるとはいえあの巨大な衝撃波の表層にあった気流の波に乗り衝撃を受け流し高高度へ舞い上がるなど人間技ではない。ましてやその身体が機体の外にあったとなるとなおさらである
「無事か?」
男は平然と目の前に立ち声をかけてくる。先ほどの私の心配などどこ吹く風だ。何か悔しいので若干無愛想に返してやる
「フォルカに比べたらな」
そして先ほどから気になっていたものに質問をきりかえる。今はまだ地平線のかなたにわずかに目視できる程度だが何か巨大なものが恐ろしい圧力を放っていた
「フォルカ・・・あれ」
「あぁ、そうとうでかいな。しかも爆心地のすぐ側にいる」
「変なかたち・・・どうする?」
「近づいてコンタクトを試みる。しかし、俺達が追っているものとは違うがさっきの衝撃波に関連している可能性が高い。注意しろ。ゲームに乗った者だったら機体を無力化させてもらうが・・・殺しはせん」
「わかった」
「万が一のときは俺が囮になる。心配するな。お前は俺が必ず守りきる」
その言葉は素直に嬉しかったが何もせずにただ守られているというのはあまり気分のいいものではない。きっとこの男にはそういうことはわからないのだろう
だから言い返す
「フォルカが私を守ってくれるのなら私もフォルカを守る。守られているばかりいる私じゃない」
しばらくして返事が返ってくる
「・・・わかった。お前の力、かりさせてもらう。さっそくだが・・・」
ゴクリと生唾を飲み込む。体に力が入るのが自分でもわかった
「すまんが接触時のコンタクトは頼む」
「え?」
予想外の発言に肩透かしをくらい力が抜ける
「知っていると思うが俺のほうにはろくな通信機器がなくてな。それともレビの時のようにしようか?」
「意地悪・・・」
ボソリと呟く。出会ってわずか一日ほどだがこの男はこんな皮肉を言う奴だっただろうか
「わかった。通信はまかせろ」
「リュウセイ・ダテが乗っているといいな」
不意をつかれてとっさに返事ができない
「え?・・・う、うん」
返事を返す前に男は背をむけ自機のほうに歩き出していた。それを見届けてR-ウィングに再び乗り込む
先の衝撃で若干バランサーの調子がおかしいが別段支障はない。頭の隅に入れておけば修正できる範囲だ
いける。そう思い飛び立つ。目指すは地平線のかなたにたたずむ一体の巨大な悪魔。それがこのあと彼女にどう影響してくるのかこのときは知る由もなかった
一機の戦闘機と一匹の飛竜が巨大な悪魔に向かって飛んでいた。その距離はどんどん近くなる。そしてそれに応じて相手の巨大さがあらわになっていく。その巨大さは下手をすると距離感を見誤りそうなほどであった
R−ウィングを操る少女マイ・コバヤシは通信機に目をやる。まだ通信可能な距離にはたっしていない。まだかまだかとじれながら何度も確認する
彼女がじれるのにはわけがある。もしかしたらあの機体に乗っているのがリュウセイ・ダテかもしれないという淡い期待が彼女にはあった
待ちわびた通信可能の表示がでる。一度心を落ち着けしっかりと通信可能な距離になったのを確認してコンタクトをとろうとしたその矢先
「避けろ!下だ!!」
隣の飛竜にのる青年から檄が飛ぶ。とっさに機体を反転させる。R-ウィングの右翼すれすれをガンダムヘッドがすり抜けていった。それをすんでのところでかわしたR-ウィングはR-1に変形し地上に降り立つ。同時にエスカフローネも人型に変わり地上に降り立っていた
「こちらに敵意はない。返答を求む。こちらは戦うつもりはない!」
マイはガンダムヘッドを避けながらデビルガンダムへ通信をおこなう。しかし、応答はなく執拗な攻撃が二人を襲う
そのまま攻撃をかわしながら通信を繰り返し試みる。しかし、回避に徹した二人に容赦ない攻撃が繰り返される
十数機、下手をすれば二十機以上はあろうかというガンダムヘッドの攻撃をかわしきれるものではなく攻撃を封じている二人は劣勢に追い込まれていく
左右からR-1にガンダムヘッドが突撃してくる。それをブースターを吹かせて空中へ回避する。その隙を狙って一機のガンダムヘッドが迫っていた
「はあぁぁ!機神拳!!」
直撃コースのガンダムヘッドを弾き飛ばす
「フォルカ、どうする?」
以前、敵機からの応答はない
「しかたない。機体を無力化するぞ!」
ここで二人は始めて攻撃に転じた
地面がわずかに隆起したかと思った瞬間、地表を食い破り足元からガンダムヘッドが襲いかかる
「落ちろ!T-LINKナックル!!」
すばやくサイドによけたマイがガンダムヘッドの首を吹き飛ばす。
その隙を狙って後方から別のガンダムヘッドが襲い掛かるがR-1は頭部のバルカンで牽制しながらかわしていく。
G-リボルバーを紛失しているため、R-1は拳に念動力をのせて格闘戦を仕掛けていた。そのスタイルは(リュウセイを真似たものではあったが)念動力と闘気の違いこそあれフォルカに酷似している
(避けに徹してたときの動きといい。思っていたのよりもずっと筋がいい)
R-1の動きを目の端で捉えながら彼は素直にそう思った
とはいえ本来射撃戦を得意とするマイとフォルカの技量差は明確であり、基本はフォルカが前に出て敵を潰していく。マイはその間のフォローが主であったが時には前面に出たりと流動的に敵を押していく。二人のコンビネーションは急場にしては上等なものだった
しかし、手数が違いすぎ、一機つぶすごとに二人の機体も少しずつ損傷していく
そして、マイは気づく
(一向に数が減らない・・・。一機一機潰してるはずなのに・・・まさか)
「こいつら、再生してる!!」
そしてフォルカもマイとは違うところに気づき始めていた
(気のせいか・・・?少しずつ・・・固くなってきている。それに動きも・・・)
このままではらちがあかない。いつかは機体のエネルギーも気力も底をつく。勝負に出るなら早いほうがいい。そう判断したフォルカは決意する
「しかたがない。援護を頼む!仕掛けるぞ!!」
言うが早いかエスカフローネは駆け出す。ガンダムヘッドの攻撃を見切り懐に飛び込む
不意にデビルガンダムから拡散粒子砲が放たれる。それをぎりぎりのところでかわす
(零距離・・・よし!)
エスカフローネはデビルガンダムに肉薄し、胸部装甲に手をかける
「すまん。多少手荒だがパイロットを引きずり出させてもらう」
背後から襲ってくるガンダムヘッドを間に割って入ったマイが牽制する
胸部装甲を力任せに剥ぎ取ったフォルカはそこにあったものの姿に声を失った
それは光沢を放ちメタリックな輝きを保持している。一見すると若い女性の彫像のように思える。しかし、その胸は脈打っており確かに生きていることを証明している
(これは何だ?)
一瞬、ほんのわずかな一瞬の間だけフォルカは周囲に対する警戒を怠った。その一瞬の虚をついてガンダムヘッドは彼を弾き飛ばす。
即座に身を起こしたフォルカの耳に今度はマイのうめき声が聞こえてくる。振り返るとそこにはガンダムヘッドに無防備な体勢で弾き飛ばされるR-1の姿があった
フォルカがデビルガンダムの胸部に取り付くのが見えた。同時に後ろからガンダムヘッドが襲ってくる。とっさにそこに割り込み念動力をまとった拳で叩き落す
そのとき、不意に頭痛が走る。
「くっ!ああっ!!」
いやな予感がする
痛む頭をおさえ、フォルカのほうを振り返る。心臓の鼓動がはやい
開け放たれたコックピットに目がとまり彼女は凍りついた
そこにあったのはまだ幼さの残る少女をあしらった綺麗な彫像か―――
あるいは人なのか―――
彼女に判断はつかなかった
「ううっ!あああっ!!」
一瞬思考の止まった彼女を頭痛が襲う。そして頭の中に声が響いた
『ほう・・・生体コアか・・・』
「うう・・・う・・・せ、生体コア?」
『そうだ・・・この私と・・・そしてお前と一緒だな』
「ど、どういうことだ?」
『お前はこの私・・・・・・ジュデッカの生体コアにしてその巫女、レビ・トーラー』
「わ、私は・・・お前じゃない・・・・・・!!」
『恐れることはない・・・全てを・・・私を受け入れろ・・・』
「くっ!ああ!!」
『さあ・・・我に身をゆだねよ・・・全てを思い出せ・・・』
「あ・・・ああ・・・」
『我と共に『敵』を倒すのだ・・・』
「『敵』を・・・・・・倒す・・・」
『そうだ・・・我らの『敵』を打ち倒せ・・・。そのためにあの力(DG)を手に入れろ・・・』
「ち・・・か・・・ら・・・」
『そして・・・ゼ=バルマリィ帝国の・・・ユーゼス様の元に戻るのだ・・・』
突然、R-1を大きな衝撃が襲う。コックピットハッチに亀裂が走り悪魔の顔が目の端にうつった。
次の瞬間、マイ・コバヤシはその身をコックピット内部に激しく打ちつけられ気を失った
「機神双獣撃ぃ!」
獣を模した二つの闘気が放たれマイを襲ったガンダムヘッドに直撃する。間を空けずに跳躍したフォルカの拳が追い討ちをかけガンダムヘッドを弾き飛ばした。
そして着地と同時にR-1に駆け寄ろうとした瞬間、足場を崩して現れた新手のガンダムヘッドに噛み付かれ中空に押し上げられる
ミシッ―――
外部装甲に嫌な音がたちヒビが走る
「クソッ!!」
エスカフローネの両腕が闘気をまといガンダムヘッドを吹き飛ばす
同時にフォルカはR-1周囲のガンダムヘッドを牽制する。双獣撃からの流れで弾き飛ばしたガンダムヘッドをちらりとみる。頭部に盛大な凹みはあるものの動けるようだ
(破壊できないか・・・間違いない・・・こいつら確実に・・・)
不利とは知りつつ長期戦になることを覚悟する
自身への攻撃を受け流しマイへの攻撃を受け止め牽制する。一機一機、決して深追いはせずにR-1の近くを離れることなく退けていく。
敵は徐々に固く機敏に、自らは徐々に傷つき、疲労が体に確実に蓄積されていく。視界は白濁し、体は鉛のように重く、腕のふり抜きが甘くなる。口の中は鉄の味で満たされ、平衡感覚すらぼやけてくる。
しかし、修羅の血がなせる業かその一切を捩じ伏せ彼は戦い続けた
最後のガンダムヘッドを潰したとき、周囲から完全に敵の気配は消えていた。多少無茶でも本体にダメージを与えたのがここで幸いしたらしい。本体は撤退した
(俺が相手にしていたのは殿ということか・・・。レビは!!)
休みを求める体の悲鳴を無視して駆け寄る。素早くR-1からマイを降ろし容態を確認する。怪我はない。どうやら命に問題はなさそうであった。
安堵から気が緩み意識が遠のこうとするのを耐える
まだだ――
やらねばならないことはたくさんある―――
周囲一帯何もない更地、その爆心地で気絶した少女を抱え休むなど危険極まりなかったがそれもやむをえないと覚悟する。
あたり一面に撒き散らされたガンダムヘッドの残骸がカモフラージュになればいいがあまり近づかれすぎるとレーダが反応するので効果は薄かった
唯一の救いはすでに陽は沈み明かりさえつけなければ見つかり辛くなってきていることぐらいだろうか・・・
ほとんど無意識下で状況判断を下す。疲労のたまる身体に鞭をうち周囲の見張りにつくことを決めたとき、ついに彼は意識を失い崩れ落ちた
闇があたりを支配している。陽完全に地平線に沈み、良い子のみんなよろしく二人の男女も眠りの底に落ちてゆく
いつ晴れるともしれない狂気に満ちたこの世界に夜明けは来るのだろうか?
眠りはただただ優しく二人を包み込んでいた
【フォルカ・アルバーク 搭乗機体:エスカフローネ(天空のエスカフローネ)
パイロット状況:極度の疲労により気絶中
頬、右肩、左足等の傷の応急処置完了(戦闘に支障なし)
機体状況:剣破損。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)。
腹部の外部装甲にヒビ(戦闘に支障なし)。
現在位置:B-3
第一行動方針:気を失ったレビ(マイ)の安全の確保
第二行動方針:プレッシャーの主(マシュマー)を止める
第三行動方針:レビ(マイ)と共にリュウ(リュウセイ)を探す
最終行動方針:殺し合いを止める
備考1:マイの名前をレビ・トーラーだと思っている
備考2:一度だけ次元の歪み(光の壁)を打ち破る事が可能】
【マイ・コバヤシ 搭乗機体:R-1(超機大戦SRX)
現在位置:B-3
パイロット状況:気絶中
機体状況:G−リボルバー紛失。全身に無数の傷(戦闘に支障なし)
ENを半分ほど消費。バランサーに若干の狂い(戦闘・航行に支障なし)
コックピットハッチに亀裂(戦闘に支障なし)
第一行動方針:???
最終行動方針:???
備考:精神的に非常に不安定
デビルガンダムの突然の撤退、その本当の理由は剥ぎ取られた装甲の回復のためではなかった
その原因は突然の変化
話は少し前後する
ガンダムヘッドの一撃を受けマイ・コバヤシは意識を失った。実はこのとき衝撃の反動でポケットから零れ落ちコックピットの亀裂から外に転がり落ちたアニムスの実をフォルカとの攻防の中で偶然にも岩盤ごと口にしていた
そして、突然内から沸き起こった急激な変化にともなう苦痛。それから逃れるようにデビルガンダムはその場から撤退していった
そして現在、地中を移動するデビルガンダムの苦痛は徐々に和らぎ歓喜に変わっていた
本来はベターマンが食すことでその肉体に状況に応じたベターな選択を及ぼすアニムスの実。その実を内に取り込み自己増殖・自己再生・自己進化する悪魔の肉体はどこへ向かっていくのだろうか・・・
その進化の先にあるものを見据え、はるか上空で仮面の男はこみあげてくる笑いをこらえていた
【ミオ・サスガ 搭乗機体:デビルガンダム第一形態(機動武道伝Gガンダム)
パイロット状態:デビルガンダムの生体ユニット化
機体状況:超活性化。ゲッター線による能力強化。
胸部装甲破損、修復中。第一形態から次の形態へ移行中
現在位置:C-4地中
第一行動方針:???
最終行動方針:???
備考1:コアを失えば、とりあえずその機体の機能のほとんどが無力化すると思われる
備考2:ハロを失ったため、DG細胞でカイザースクランダーのような新たな別個の存在を生み出すことは不可能】
【二日目 19:50】
「なあ、クォヴレー。この機体って……」
「ああ、おそらくは複数のパイロットによる運用を前提としたマシンだろう。
どこまでも姑息な真似を、ユーゼス……くそっ!」
クォヴレーが苦虫を噛み潰した表情で吐き捨てる。
現在、モニターにブライスターとブライガー、ひいてはブライ・シンクロンについての解説が映し出され、
それを操縦席でクォヴレーが、その後ろからトウマが覗き込んでいる。
マニュアルに(物凄く見にくく)書かれてあった通りである。
このバトルロワイアルにおいてあまりに不利な状況に置かれている自機に、クォヴレーは苛立ちを隠せない。
機体と武器のコントロールが独立した操縦システム。
戦いを強制する本ゲームの根本ルールからして、単座でもある程度の戦闘は可能なはずだが
本来の性能を100%生かすことはまず出来まい。
たとえ自分がどれほどの凄腕パイロットであったとしても、だ。
さらに、運用に専用の機体が必要な決戦兵器ブライカノン。
外部との接触が不可能なこのステージにおける使用は、事実上不可能と考えるべきだろう。
単純な戦力という面だけでもハンデを二つ背負わされている。
そして、24時間というタイムリミット。
現実的に考えて、時間切れの後に悠長にインターバルを取る時間は無い。
戦力の集結、首輪の解析、歪曲空間の突破、そしてユーゼスとの決戦―――
参加者の半数が死んだ現状と照らし合わせると、あまりに微妙すぎる時間だ。
あまりに出来すぎた現実に、思わずフッと自嘲じみた笑みを浮かべるクォヴレー。
これではまるで、実験室のフラスコだ。
その実験室の主がユーゼスなのか、はたまたそれをも上回るような、想像も付かぬ存在なのか。
神ならぬ彼等にうかがい知ることなど出来ようはずもない。
今の自分たちに出来ることは、目の前の現実に立ち向かうことだけだ。
「……なあ、クォヴレー」
「やめておけ」
トウマの言わんとすることを一瞬で察し、先んじて制するクォヴレー。
「だがよ、ここはイチかバチか、俺も操縦に参加して――!」
「今はまだ、イチかバチかで行動する時じゃない。
分の悪い勝負にベットするには、まだ早い」
一度も振り返ることなく、ただ前だけを――ジョシュアと鉄也がいるであろう空の先を見据え、クォヴレーは言い切った。
「くッ……!」
握りしめた拳に力がこもり、掌に爪が食い込む。
トウマとて、ブラスターピットに乗り込むことのリスクも、今ここで自分が死ぬわけにはいかないことも、十二分に承知している。
だが……だが!
苦楽を共にしてきた友が、魔道に堕ちた鬼神と一人戦うのを、指をくわえてただ見ていろというのか!
目的を同じくする戦友の絶体絶命の危機を、ただ見守ることしか許されないと言うのか!
闘志と共に悪を蹴り砕くと誓ったこの俺に出来ることは、それだけしか無いというのか……!
「……そう遠くないうちに、お前の力が必要になるときが来る。必ずだ。
だから、今は俺を信じてくれ、トウマ。
必ずジョシュアを助け出してみせる……!」
クォヴレーの呟きに思わずトウマがハッとなる。
トウマはこの時ようやく気付いた。
苛立っていたのは、自分だけではないことに。
いや……むしろ、苛立っているのは、焦っているのはクォヴレーの方であったことに。
思い返してみれば、この男がこれほど感情を剥き出しにしたことがあっただろうか。
そう思い至ったとき、彼の何とも言えない『脆さ』が、トウマには見えたような気がした。
この世界に呼び込まれる以前の記憶を持たないクォヴレーにとって、この世界で出会った仲間との絆が彼の全てなのだ。
彼にとって友を失うことは、それはそのまま己の半身を喪うことと等しい。
『何をしている……お前も一緒に行って、早く奴を追うんだ!』
イキマの言葉が思い返される。
そして、目を瞑って一つ大きく息を吸い込む。
(そうだ……俺が熱くなってどうする。
むしろ、俺がクォヴレーをフォローしなきゃいけないんじゃないか!)
そして、吸い込んだ息をゆっくりと吐き出し、改めて口を開く。
「……ああ、わかった。
俺の命、お前に預けるぜ、クォヴレー」
「!?」
思わずクォヴレーが振り返る。
そして、トウマはしてやったりと言わんばかりの会心の笑顔でこう続けた。
「死ぬときは一緒だなんて言わないぜ。
帰りは3人で、だ。違うか?」
自分自身にも言い聞かせるように、不敵な笑みを浮かべて言葉を綴るトウマ。
そう言えば、これまでずっとクォヴレーにはフォローされっぱなしだった。
一度くらい立場が入れ替わるのも悪くない。
「……ああ、その通りだ」
クォヴレーもまた、不敵な笑みを浮かべ返す。
彼は、気付いているだろうか。
自分がこの世界に来て笑ったのは、これが初めてだということに。
「大丈夫かしらね、あの二人……」
ブライスターの消えた東北東の夜空を見つめ、セレーナが呟く。
「何言ってやがる、あの二人がやられてたまるかよ!」
「気持ちは解らないでもないけど、あれは戦闘機と言うよりむしろ移動用のシャトルにしか見えなかった。
満身創痍とは言え、あの機体とパイロットは尋常じゃないわ」
反論するリュウセイに、淡々と冷静な分析を切り返すセレーナ。
リュウセイもそれ以上言葉を続けることが出来ず、唇を噛んで黙り込む。
返り討ち―――最悪のシナリオが二人の脳裏を掠める。
「止せ、今はそんな事を言っても始まらん。
俺達に出来るのは、あの二人が無事にジョシュアを助け出してくることを祈るだけだろう」
どこまでもネガティブに落ち込んでいきそうな二人の思考を止めたのは、半壊したノルス・レイから漏れたイキマの声だった。
「あ、ああ、そうだよな……そう言や、あんたも怪我の治療を――――!?」
『セレーナさん、レーダーに反応! 西から何かが高速で接近してます!』
イキマへの返答をリュウセイが口ごもるのとほぼ同時、エルマが異常を告げる。
その直後。
鋼鉄の巨人が、猛烈な迅さで駆け抜けた。
その刹那、3人は見た。
巨人の肩に立つ、一人の少年の姿を。
「いかん、あの男は危険すぎる……!」
イキマは己の経験から、彼の持つ力に戦慄した。
邪魔大王国の将として幾多の戦場を駆けた記憶の内でも、最も危険な類。
己の命もろともに、相対する者に死を振りまく狂戦士。
暴走する感情のままに振るわれる力の恐ろしさを、彼は知っていた。
「ううっ………!」
リュウセイは自身の念動力から、彼の心を感じた。
深く、暗く、そして激しい殺意。
その底に横たわる、巨大な悲しみ。
そして抑えきれない自身への怒りを。
「あの子……私と同じ……!」
セレーナは彼の瞳から、彼女自身を見た。
絶望の淵を彷徨い、己の破滅を知りながら引き返せぬ羅刹の道を往く哀しき戦鬼。
彼女は知らない。
あの『鬼』のパイロットも――奇しくも、彼の仇である男と―――同じ目をしていることに。
リョウトは眼下に広がる光景から、己の感覚の正しさを確信していた。
『あの一件』以来、自分の感覚が異様に研ぎ澄まされている。
ここからさらに東北東――――圧倒的な殺意と共に、明確に気配を感じる。
無惨に破壊された廃墟と、そこに倒れる二機の力尽きた妖精、立ち尽くす一体のマシン。
今のリョウトにとって、それらは路傍の石と同価値のものでしかない。
だが、路傍の石も時に道標となる。
その一点のみにおいて、リョウトにとって彼等は意義を持っていた。
ほんの数分前、東の空が赤く燃え上がったのを思い出す。
奴だ、という予感めいたものはあった。
その予感が確信へと変わっていくことに―――現実の分析と己の感覚がピタリと噛み合ったことに、
リョウトは言いしれぬ愉悦を覚えていた。
自分の感覚が正しければ、あと数分もあれば到着するはずだ。
ああ、もう少しだ。
もう少しであの男を殺すことが出来る……!
「……待っていて、リオ。もう少しだから―――」
その頃、旋風は一足先に戦場へと辿り着こうとしていた。
「あいつだ! 見えたぜ、クォヴレー!」
「ああ、こちらも確認した……!」
北東の湖畔、外周の歪曲フィールドからさほど遠くない位置に浮かぶシルエット。
狼のスイッチに手を掛けるその動きに、もはや迷いはない。
かけがえのない仲間を守るため、今、最後の封印が解かれる―――
「ブライ・シンクロン、マキシム……!」
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、冷静さを取り戻す
機体状況:良好
現在位置:F-1
第一行動方針:ジョシュアの救出
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
備考2:ブライカノン使用不可
備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと23時間50分】
【トウマ・カノウ 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、頬に擦り傷、右拳に打傷、右足首を捻挫
機体状況:良好
現在位置:F-1
第一行動方針:ジョシュアの救出
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
備考1:副司令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持
備考2:空間操作装置の存在を認識
備考3:ブライガーの操縦はクォヴレーに任せる】
【リョウト・ヒカワ 搭乗機体:ジャイアント・ロボ(ジャイアント・ロボ THE ANIMATION)
パイロット状態:感情欠落。冷静?狂気?念動力の鋭敏化?
機体状況:弾薬を半分ほど消費
現在位置:E-1
第一行動方針:剣鉄也を殺す
最終行動方針:???(リオを守る)
備考1:ラミアの正体・思惑に気付いている
備考2:鉄也の位置をほぼ完全に把握している】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:戦闘でのダメージによる出血あり
機体状況:胸部装甲を中心に大幅に破損。戦闘不能
現在位置:E-1
第一行動方針:ジョシュアの救出をトウマとクォヴレーに託す
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考1:空間操作装置の存在を認識
備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】
【リュウセイ・ダテ 搭乗機体:フェアリオン・S(バンプレオリジナル)
パイロット状態:上半身打撲
機体状態:装甲を大幅に破損。動作不能
現在位置:E-1
第一行動方針:ジョシュアの救出をトウマとクォヴレーに託す、イキマの救出
第二行動方針:戦闘している人間を探し、止める
第三行動方針:仲間を探す
最終行動方針:無益な争いを止める(可能な限り犠牲は少なく)
備考1:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】
【セレーナ・レシタール 搭乗機体:ARX-7 アーバレスト(フルメタル・パニック)
パイロット状況:健康
機体状況:活動に支障が無い程度のダメージ
現在位置:E-1
第一行動方針:イキマの救出
第二行動方針:G-6基地へ向かい、首輪の解析をしているフォッカー、遷次郎と接触する
第三行動方針:ヘルモーズのバリアを無効化する手段を探す
最終行動方針:ゲームを破壊して、ユーゼスからチーム・ジェルバの仇の情報を聞き出す
備考1:トロニウムエンジンを所持。グレネード残弾3、投げナイフ残弾2
備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】
【イキマ 搭乗機体:ノルス・レイ(魔装機神)
パイロット状況:戦闘でのダメージによる出血あり
機体状況:胸部装甲を中心に大幅に破損。戦闘不能
現在位置:E-1
第一行動方針:ジョシュアの救出をトウマとクォヴレーに託す
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ユーゼスの空間操作を無効化させる手段を探す
最終行動方針:仲間と共に主催者打倒
備考1:空間操作装置の存在を認識
備考2:ブライスターがブライガーに変形出来ること(ブライシンクロン・マキシム)を知らない】
【二日目 19:05】
何もない真っ白な紙にインクが落ち黒々とした線がひかれていく
『遠き慮りなきときは、必ず近き憂(うれ)いあり』とは誰の言葉だったかな――
とか考えながらシロッコは紙にロワのルールを書き込んでいく。続いて現在判明していることをなるべく事細かに淡々と書き綴る
遠い先のことを見据えあらゆる自体を想定し考えておくことそれは必要な作業だった
首輪の解析、それはたしかに必要だった。しかし、今現在主催者との間には大きな知識の差があることは明白
首輪の全てを理解することは不可能と思わざるえなかった
だが首輪の全てを理解する必要はない。ようは無力化さえすればいいのだ
一通り紙に書き写し終えた彼はいくつかのルールに目をとめる
一つは機体の乗り換えルール。前の搭乗者が生きているうちの乗り換えは不可
主催者と参加者をつなぐものはこの首輪だけな以上、首輪が何らかの形で生死を判断している可能性を指していた
そしておそらくはその状況を自機に送信している可能性が高い
首という配置からすると血管の脈動からだろうか・・・それとも他の何か・・・。それを絞るのはまだ早い
次に禁止エリア。このエリアに入り込むと首輪が爆発するということから考えられることは二つ
この首輪がGPSと同等の役割を果たしているかもしくは禁止エリア内に首輪の進入を感知する装置があるか
そして12時間毎におこなわれる放送・・・
これらを総合的に考察するといきあたるのが索敵がきかないこの状況下で問題なくおこなえる未知の通信手段の存在だった
ならばそれを見つけ送受信をおこなっている箇所を判別すれば首輪は実質無効化されると彼は結論付ける。首輪に死者として判断させてもいい
そのとき不意にひとつ別の可能性に気づく
(索敵がきかないのではなくレーダー類に細工をされている可能性も考えておくか・・・)
「いずれにせよ検証が必要だな・・・」
そこまで考えた彼は手元にある二つの首輪に目を落とす
一つは狂気に駆られたゼオラが不幸な少女の首を刈り得たもの。そしてもう一つは―――
この二つ目の首輪の入手について話は少し前後する
今から数十分前、コーヒーブレイクを終えたシロッコはD-8地区に踏み込んでいた
死角の多いビル郡の中ということもあり注意深く進んでいった中ひとつの奇妙なものを見つけた。盛り上がった土だ
明らかに何かを埋めたものに違いはなかった
一瞬、トラップかとも思ったがそれにしてはお粗末すぎる
(と、すれば・・・墓か・・・。だとすれば掘り起こす価値は十分にある)
そして、実際その価値はあった。死者の胴と頭を切り離す方法に多少悩みはしたがグランゾンの力を持ってすれば造作もなかった
そして、現在彼は二つ目の首輪を眺めながら勝ち誇った笑みを浮かべている。かたわらのコーヒーに口をつけ一息ついた彼は地図に目を向ける。そろそろG-6地区の基地に向かってしかるべき時かもしれない
参加者の半数がすでに散ったこの状況、首輪を入手しているのは自分だけではないはずだ。そして解析の知識を持ったものはおそらくここを目指す
手駒をそろえるためにも他の参加者との接触は必要だった。欲を言えは首輪の通信箇所の特定のためにも情報戦に特化した機体の持主が好ましい
再び地図に目を戻す。E-7地区が禁止エリアな以上、経路は二つ
D-6まで北上して東へ進むか、F-8まで行って北東にきり上がるかだった
この先、シロッコが無事にG-6にたどり着けるか否かは神のみが知っていた
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:良好
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:C−8市街地
第1行動方針:G-6基地への移動
第2行動方針:首輪の解析及び解除
第3行動方針:新たな手駒を手に入れる
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考:首輪を二つ所持】
【二日目 19:00】
何もない真っ白な紙にインクが落ち黒々とした線がひかれていく。
『遠き慮りなきときは、必ず近き憂いあり』とは誰の言葉だったかな――
とか考えながらシロッコは紙にロワのルールを書き込んでいく。続いて現在判明していることをなるべく事細かに淡々と書き綴る。
遠い先のことを見据えあらゆる事態を想定し考えておくことそれは必要な作業だった。
首輪の解析、それはたしかに必要だった。しかし、今現在主催者との間には大きな知識の差があることは明白。
首輪の全てを理解することは不可能と思わざるえなかった。
だが首輪の全てを理解する必要はない。ようは無力化さえすればいいのだ。
一通り紙に書き写し終えた彼はいくつかのルールに目をとめる。
一つは機体の乗り換えルール。前の搭乗者が生きているうちの乗り換えは不可。
主催者と参加者をつなぐものはこの首輪だけな以上、首輪が何らかの形で生死を判断している可能性を指していた。
そして、おそらくはその状況を自機に送信している可能性が高い。機体がパイロットの生存を確認しているうちに他の参加者の首輪が機体との間に特定条件を満たすと爆発する。
そういう仕組みである可能性が高かった。
首という配置からすると血管の脈動からだろうか・・・それとも他の何か・・・。それを絞るのはまだ早い。
次に禁止エリア。このエリアに入り込むと首輪が爆発するということから考えられることは二つ。
この首輪がGPSと同等の役割を果たしているかもしくは禁止エリア内に首輪の進入を感知する装置があるか。
そして、12時間毎におこなわれる放送・・・。
これらを総合的に考察するといきあたるのが索敵がきかないこの状況下で問題なくおこなえる未知の通信手段の存在だった。
ならばそれを見つけ送受信をおこなっている箇所を判別すれば首輪は実質無効化されると彼は結論付ける。首輪に死者として判断させてもいい。
そのとき不意にひとつ別の可能性に気づく。
(索敵がきかないのではなくレーダー類に細工をされている可能性も考えておくか・・・。)
「いずれにせよ検証が必要だな・・・。」
判断を下すのはまだ早い。彼はこの結論をなんでもない可能性の一つとして頭の隅に置くことにした。
考えが一箇所に留まれば人はそれしか見えなくなる。その危険性を彼は知っていた。
そこまで考えた彼は手元にある二つの首輪に目を落とす。
一つは狂気に駆られた少女が不幸な少女の首を刈り得たもの。そしてもう一つは―――
この二つ目の首輪の入手について話は少し前後する。
今から数十分前、コーヒーブレイクを終えたシロッコはD-8地区に踏み込んでいた。
死角の多いビル郡の中ということもあり注意深く進んでいった。その先で補給ポイントを見つける。
そして、同時にひとつの奇妙なものを見つけた。盛り上がった土だ。
明らかに何かを埋めたものに違いない。
一瞬、トラップかとも思ったがそれにしては掘り跡が目立つそれは出来がお粗末すぎた。
(とすれば・・・墓か・・・。だとすれば掘り起こす価値は十分にある)
そして、実際その価値はあった。目当てのものを見つけ思わず口元が歪む。
死者の胴と頭を切り離す方法に多少悩みはしたがグランゾンの力を持ってすれば造作もないことだった。
現在、彼は二つ目の首輪を眺めながら勝ち誇った笑みを浮かべている。かたわらのコーヒーに口をつけ一息ついた彼は地図に目を向ける。そろそろG-6地区の基地に向かってしかるべき時かもしれない。
参加者の半数以上がすでに散ったこの状況、首輪を入手しているのは自分だけではないはずだ。そして、解析の知識を持ったものはおそらくここを目指す。
手駒をそろえるためにも他の参加者との接触は必要だった。欲を言えは首輪の通信箇所の特定のためにも情報戦に特化した機体の持主が好ましい。
再び地図に目を戻す。E-7地区が禁止エリアな以上、経路は二つ。
D-6まで北上して東へ進むか、まず東に進みF-8まで行って北東にきり上がるかの二つである。
D-6地区の人知を超えたものたちの存在もF-8地区の壁向こうであるF-1地区の修羅場も今の彼に知るすべはなかった。
計器類に視線を移す。異常が見られるため読み取りにくいがどうやら補給は完了したようだ。万全には程遠いがそれでも気休め程度にはましになった気がする。
再びグランゾンの目に光が宿る。目指すはG-6基地。この先、シロッコが無事に目的地にたどり着けるか否かは神のみが知っていた。
【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
パイロット状況:良好
機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)に加え通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
現在位置:D-8市街地のはずれの補給ポイント
第1行動方針:G-6基地への移動
第2行動方針:首輪の解析及び解除
第3行動方針:新たな手駒を手に入れる
最終行動方針:主催者の持つ力を得る
備考:首輪を二つ所持】
【二日目 19:00】
288 :
それも名無しだ:2006/07/02(日) 01:29:22 ID:fQc9snIx
あげとく
289 :
それも名無しだ:2006/07/05(水) 00:00:50 ID:f26AbfEf
保守
(改訂前)
そして、24時間というタイムリミット。
現実的に考えて、時間切れの後に悠長にインターバルを取る時間は無い。
戦力の集結、首輪の解析、歪曲空間の突破、そしてユーゼスとの決戦―――
参加者の半数が死んだ現状と照らし合わせると、あまりに微妙すぎる時間だ。
(改訂後)
そして、24時間というタイムリミット。
現状でブライ・シンクロンが可能であったことから、
補給を行う際に物質増大プラズマが照射され、時間制限がリセットされると考えるのが自然だ。
最後に補給を行ったのは、今から4時間ほど前……とすると、あと20時間程か。
戦力の集結、首輪の解析、歪曲空間の突破、そしてユーゼスとの決戦―――
参加者の半数が死に、確実な補給を期待しにくい現状を照らし合わせると、あまりに微妙すぎる時間だ。
(状況の改訂)
【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライガー(銀河旋風ブライガー)
パイロット状態:良好、冷静さを取り戻す
機体状況:良好
現在位置:F-1
第一行動方針:ジョシュアの救出
第二行動方針:主催者打倒の為の仲間を探す
第三行動方針:ラミアともう一度接触する
第四行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
最終行動方針:ヒイロと合流、及びユーゼスを倒す
備考1:本来4人乗りのブライガーを単独で操縦するため、性能を100%引き出すのは困難。主に攻撃面に支障
備考2:ブライカノン使用不可
備考3:ブライシンクロンのタイムリミット、あと20時間前後】
hosyu
保守
293 :
それも名無しだ:2006/07/25(火) 11:46:17 ID:PfPz4zT/
保守
294 :
それも名無しだ:2006/07/25(火) 12:46:11 ID:LSCk6ze/
サァここで
ストライクフリーダムに乗った最強キラ様が登場
ドラグーン・ハイマット・フルバーストで皆殺しだぁ〜!