ロボゲーSS・小説投稿スレ 2

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90前312:2006/04/09(日) 03:06:16 ID:CmHfwe7F

「トリントンでのガンダム強奪事件。
あれもアナハイムの内通者を通して行われたと聞いているけど」
「そうでしたか。まあそれに関しては上も敏感になっているようで、
レイバーにはレイバーをということで、極東地区から警察関係の部隊がやって来ています。
もちろんレイバーを使って暴れたところでモビルスーツがあれば話は済むんですが、
何しろモビルスーツを使うと周囲への被害が大きくなるばかりで」

「それで警察ってか。同時にレイバー運用のノウハウも見ておきたいってところかな」
「鋭いなビルギット君。まあそんなところだろう。
しかしあの連中、その警察の部隊だが。あれで使い物になるのかな。
やはり軍隊とは違うよ。どうも打っても響いてこない連中ばかりでな」

「まあ、言ってしまえば戦争するわけじゃないですから。民間人ですよ」
「そういうことでも、なくてな。まあ一人例外がいて、それも困っているといえばそうなんだが」
「例外?」

ユングは困った様な、しかしどこか可笑しがっている様にして言った。

「そう。例外だな。ほら、見えてきたぞ。
奴さん、基地に着いてからというもの張り切りっぱなしだ。あれじゃ脳の血管が何本あっても足りないぞ。
どうも何かを勘違いしているとしか思えないんだが、ビルギット君、君なら分かっているだろうが、
何かがあった時に行動を共にできるのは往々にしてそういう人間だったりするわけだ」
「耳が痛いんじゃなくて? ビルギット」

レアリィのどこか優しげな言葉が終わるか終わらないかの内に、
グスタフの周辺で行われている動きがザクタンクの掌に立つビルギットにも伺えてきていた。
作業をするロボット、レイバーの他にも何か別のロボットが
他のレイバーが行う動きとは全く別の行動を取っているのが分かった。


91前312:2006/04/09(日) 03:08:01 ID:CmHfwe7F

それ以上に目に付いたのは、作業に従事するレイバーがどこかプチ・モビ的な
コクピット・ブロックに手足をつけただけの無骨なものであるのに対して、
別の動きをするレイバーは全体のフォルムが完全に人間型のそれであるということであった。

それはまさにプチ・モビに対するモビルスーツといってもよかった。
モビルスーツと異なっているのは、そのレイバーの動きがどこまでも人間的であり、
同時に洗練されたものではないということだろうか。

洗練、いや画一化だろうとビルギットは思った。
そうした動きの統一はコンピュータが介して行うものだ。
OSが根本から異なっているのだろう。

そんな観点からレイバーの動きを眺めていれば、
作業を行うレイバーの方が動きはスムーズ、言うなればコンピュータの介する部分が多そうに思えた。
動作全体は別のレイバーにも共通するものが多くあったが、
そうした枠を捻じ曲げてしまうようなパイロットの癖、
もっと言えば人間の性格がというものがそのレイバーには感じられた。

「あれは……模擬戦中なのかしら?」
「そうみたいだな。うわぁ、無茶しやがるぜ。蹴りだぞ蹴り。二本足のロボットがすることじゃないぜ」
「あっ、今度はドロップキック。ねぇあれって模擬戦なんでしょう。あそこまでする必要あるのかしら」
「それにしちゃ効果はないみたいだな。いやはや参ったな。まさにどつきまわしてるよ」
「見て、ヘッドバットよ。あれ、自分の方が壊れてるんじゃない?」
「それでも相手の動きが止まったぞ。
やれやれ。あんなことやってみろよ。始末書が束になってもまだ足りないぜ」

レイバーのパイロットと思われる人間の怒声が基地内に響き渡ったのは、
それまで模擬戦を行っていたいた機体が完全に停止した次の瞬間のことであった。
パイロットは馬鹿ではあるが、馬鹿というよりは大馬鹿ではあるが、少なくとも無能ではないらしい。
相手の動きが完全に止まったことをしっかりと、そして迅速に確認できていた。

92前312:2006/04/09(日) 03:09:36 ID:CmHfwe7F

「この野郎何やってやがるコラ! そのザマは何だと言っとるんだコラ!
とっとと機体を降りろと言うのがわかんねぇのか!
貴様はグランド十周、さっさとせんか北山!降りたらダッシュ、ダッシュダッシュダッシュだろうが!
こらあ小倉、汚ねぇ反吐を吐くんじゃねぇ!
腐った性根叩きなおしてやる、さっさと乗らんか、模擬戦五本!
一本も取れなかったら飯抜きだぞ、覚悟しておけぇ!」

「きょうかーん、質問がありまーす」
「何だ!」
「あのですね、教官の機体はもう行動不能であると判断してもよろしいのでは……」

薮蛇だな、と会話を横で聞いていたビルギットは嘆息した。


「何コラタココラーッ!」

その叫びを拾って増幅したスピーカーの音声は完全に割れてしまっていた。
スピーカーに頼らずとも彼の声は十分に基地内に響いている。
そして彼の怒りも十分に伝わっていることだろう。

「見て、コクピットが上がってきたわ」
「有視界戦闘対応ってか。ありゃ、本当に地上専用というわけだな」
「あのパイロットなら、ノーマルスーツを着ただけで宇宙戦ができるんじゃないかしら」
「違いないな」

倒れていたもう一機のレイバーがゆっくりと起き上がる。
やはりというべきか、教官らしき人物が乗っている機体よりはこちらの方がダメージが少ない様だった。
訓練生が無謀にも言った言葉はあながち外れてはいないというわけである。

93前312:2006/04/09(日) 03:11:02 ID:CmHfwe7F

しかしそんな状況であっても、教官とおぼしきパイロットの闘志は僅かにも衰えることはない。
却って火に油を注いでしまうようなものだ。
ビルギットにはこの模擬戦の結果が既に見えていた。横に座るレアリィに言う。

「さて撤収といこうか。俺たちも俺たちなりに忙しいわけだからな」
「見なくてもいいの?」
「見なくても、分かるさ」

そう言ってザクタンクのコクピット内を覗き込み、ユングにタンクを出すように告げるビルギットの背中に、
レイバーの教官が発した乾坤一擲の叫びが覆い被さった。

「吐いた言葉ぁ飲み込むんじゃねぇぞコラァ!」

ビルギットはその様子を見もしなかったが、後にレアリィに聞いたところによれば、
教官の乗ったレイバーは走る勢いそのままに相手に向かってラリアットを敢行したそうだった。
相手の首筋にクリーンヒットしたそのラリアットは、レイバー自体の重量と相まって、
相手レイバーの頭部だけではなく、自身の右腕ももぎ取ってしまい、
教官のレイバーはそれだけでは納まらず、
吹き飛んだ右腕を掴んだかと思えば激しくその腕を相手レイバーに叩きつけ続けたのだという。

まあ確かにどんな状況でも頼りになりそうな男ではあるな。ビルギットはそう思う。
そして部下にすればどれだけ上官の胃の状態を悪化させるだろうかということも。

あの男が警察官でよかったと心底思う。
軍人だったら。軍人だったならと思えば、思わずぞっとする。
ああいう一直線な男は、警察官のような分かり易い正義の味方がよく似合っている。
まあ、それを理解する人間は少ないのかもしれないが。


それにしても。ビルギットはこう考えずにはいられない。
あの男を指揮していた部隊の指揮官は、ありゃ相当の人格者か、
そうでなければ悪党であるに違いない。

94前312:2006/04/09(日) 03:21:23 ID:CmHfwe7F
6話その3終了。

確実に拡げた風呂敷が畳めなくなってきています。
レイバーに関しては、『ビギン・ビルギット・ビギニング』の次のエピソードで詳しく。
もし書けるなら、P1とエヴァ(WXV風味?)を絡めたP2ができないかと考えているのですが。

太田さんに関しては、まあアレですか、正直スマンカッタと。

>>83
そこまで考えてなかった。うん、やっぱり馬鹿司令官だった。
95自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:15:39 ID:9E6/+vMJ
パトレイバーキタ━━━(゜∀゜)━━━!!
うわぁ太田さんだ懐かしいなぁ………
96自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:22:01 ID:7sT2zQkE
ここでパトレイパーが来るとは思わなかった。
まあ、確かにレイパーのほうがMSよりも小回りが効きますし、戦乱続きのスパロボ世界なら
需要も大きいだろう。にしてもバビロンプロジェクトがGアイランドシティですかw
レイパーとMSの違いの説明とかは良いと思います、両作の世界観の違いを上手く表せてる。

この調子でアームスレイブでのテロとか木星蜥蜴の襲撃とか起きんかな〜、なんて期待してみる。
いや、MS相手だとさすがに太田さん瞬殺されそうだし(泉と違って小細工が嫌いな人だからなぁ)
97自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/09(日) 23:35:40 ID:7sT2zQkE
レイバーだったよ、つかレイパーだとやばいよorz
98前312:2006/04/11(火) 00:11:59 ID:B7zWmJm0

大きく伸びをしながらビルギットがスペースアークのブリッジに上がってきた時、
そこは一面の闇の中であった。
夜も半ばを過ぎたかという時刻である。

ビルギットの身体が完全にその空間に入った途端、
天井付近に備え付けられていたセンサーが反応し、ブリッジ内の照明に火を点した。
首を二三度回すようにして、ビルギットは彼の背後に立っている人間との間を取った。
無人のブリッジを眺めてビルギットはようやく口を開く。

「誰もいないんだな。周辺の監視はどうしてるんだ。戦闘ブリッジか」
「そうよ。何か問題が起きたなら、最初から戦闘ブリッジに下りていた方が早いものね」
「道理だね。それにしても、つい二週間ほど前にも来たばかりだが、それでも懐かしいもんだな。
別にここで話すのは構わないが、どうして艦長室じゃいけないんだ」

ビルギットの背後に立っていた、この艦を預かる人間である、
レアリィ・エドベリは静かに微笑みながらこう答えた。

「こんな懐かしさの中なら、あなたからいい返事を貰えると思ったのよ」
「いい返事、ね」
「そう。もう一度聞くわ。
ビルギット、スペースアークに戻って来て欲しいの。
モビルスーツ部隊の隊長として。どうかしら」

ビルギットの返答はそっけないものだった。

「悪くはないがね」
「つまり、お断りってことね」

レアリィは大きくため息をついてみせた。
彼女が何歩か近づいてきたことを肌で感じた。
最低限の照明だけが灯ったブリッジで、ビルギットとレアリィは
肩が触れ合うかというぐらいの距離にありながら、
それ以上歩み寄る様子はお互いに決して見せなかった。

99前312:2006/04/11(火) 00:14:00 ID:B7zWmJm0

「それは、私がブルーコスモスだから?」
「無いとは言わんが、それだけじゃない。
俺には部隊がある。それを見捨てることはできんのさ」
「あなたの部下も可能な限り引き上げると前回言ったはずよね。それでもいけないの」
「一度面倒を見た部下は、まあ全員放ってはおけないわけだ」
「全員。ねえ、ハイネ・ヴェステンフルスの事を気にしてるの」
「まさか。あの生意気なガキにはいい機会だ。牢屋でしばらく頭を冷やしてもらうさ」

肩をすくめたビルギットに、レアリィはどこか決然とした言葉を投げかける。

「それで、あなたはそのしばらくの間を待ち続けるのね。彼が出てくるまで」
「一応、上司なんでね」
「彼に対して責任を取ろうと思ってる。そういうことでしょう。
だから司令官とあんな駆け引きを」

ビルギットはそれには言葉を返さなかった。
二人が黙ってしまえば、ブリッジの中に響く物音は何も存在しなかった。
その内に空調装置が動き始めて、静かなモーター音が響き始める。
空調装置が送り出す風が何度かビルギットの短い髪を揺らしたところで、彼はようやく次の言葉を発した。

「そのことについては三人で仕切り直しということになるのかな。なあ後ろの方」

レアリィが驚いて背後を振り向くと、そこには灰色のコートを着込んだ角張った顔の男が無言で立っていた。

「あんた荒川さんでしたっけ。
三佐、連邦でいえば少佐ってことになるんでしょうが、
まあお聞きの通り、大分プライベートな話になってましてね。
余り階級には拘りたくはないんですが、その辺どうです」
「無論です。せっかくのプライベートに割って入ったのはこちらですから。
まあ便宜上ピリヨ少尉と呼ばせてはもらうわけですが、エドベリ少佐はこれから少し結構ですか」

100前312:2006/04/11(火) 00:15:06 ID:B7zWmJm0

「荒川三佐。確かにあなたをスペースアークに乗船させるというのは
上層部の指示ですけれども、こうした立ち聞きというのは感心できませんわ」
「それは失礼。しかし、お二人には是非とも聞いて頂きたい話がある。
私も明日にはここを発たねばならないものですから。タイミングは今しか」

ビルギットは手近なシートに腰を下ろした。
そしてレアリィにはキャプテンシートに座るように視線で促す。
少しの間を置いた後で、諦めた様にしてレアリィもシートに腰掛けた。

荒川は二人に向き合う位置に立った。
ひっそりとでもいった表現が似合いそうな立ち方だった。
人ごみの中だったら、とてもじゃないが見分けがつかないだろうとビルギットはその姿を見て思う。

「改めまして。地球連邦軍極東支部、戦幕調査部別室所属の荒川です」
「ご丁重な自己紹介ですな。で、どういうお話ですか」
「本題に入る前に見ていただきたいものがあるんですがね。これなんですが」

荒川はコートの内側から一枚のディスクを取り出した。
確認するようにレアリィに視線を向ける。

「お願いできますか」

レアリィは大きく息をついてビルギットに言った。

「そこのコンソールで見られるから。ビルギット、それぐらいは忘れてなくてね?」
「今日はお願いばかりじゃないか。 これ、大丈夫なのかい」
「ウィルスに関しては全てチェックしてあります。それに、ウィルスに関しては後ほどまた」
「そういうの、本職に頼んだ方がいいぜ」
「ピリヨ少尉にも関係しているといえば、どうです。再生、お願いします」

ビルギットは確かめるようにディスクの表裏を何度か眺めた後、
仕方ないといった表情でコンソールのドライブにディスクを挿入した。
ブリッジ正面の大型モニターが起動し、ディスクのチェックを行う画面が表示される。
一通りのチェックが終了し、モニターに砂嵐が映り出す。
耳障りな雑音がブリッジ内を満たした。レアリィが眉間に皺を寄せる。
101前312:2006/04/11(火) 00:16:02 ID:B7zWmJm0

ようやく砂嵐が終わると、まずモニターに映し出されたのは巨大な都市の遠景であった。
それはビルギットには見覚えがある、Gアイランドシティのものであった。

「Gアイランドシティ?」
「ま、見ていて下さい。これはコマーシャル用の映像でしてね。まずは完成形からどうぞ」

荒川の言葉に被せるようにして、Gアイランドシティの全景の映像に音楽が被り始める。
それはこの場の雰囲気には似つかわしくない、どこか間の抜けた歌謡曲であった。

『きゅーんきゅーん きゅーんきゅーん 私の彼は……』

「あの、本当にこのディスクでよかったのかしら」
「いいんですこれで」
「艦長代行、あんたこの曲好きだったんじゃなかったか」
「止めてよ。こんな時に」
「お話は後にして頂くとして、ちょっと見ていただきたい。特にピリヨ少尉には」

荒川がビルギットに注意を促すと、画面には一機のレイバーが登場した。
場所は建設現場である。
ねじり鉢巻をしながら必死にレイバーを動かす男。
それを見守る売れないアイドル風の女。
どことなくリン・ミンメイに似ていないこともないが、
どこが似ているかと問われれば答に窮してしまうことだろう。

私の彼はパイロット、レイバーの。
コンセプトはそんなところで、CMとしては実にお粗末なものであった。
そしてそんな感想が覆されることは無いままに、CMは終わり、再び画面は砂嵐へと戻る。

「今の映像、どう思います」
「どうって、下らないCMにしか見えなかったけどな。
それにあの下手な歌、リン・ミンメイのカバーなんだろうが、ありゃ売れないだろう。
で、あのレイバーの動きがどうかしたかい」

102前312:2006/04/11(火) 00:16:55 ID:B7zWmJm0

「あの動きって、どういうことなの」
「そりゃ俺に見てくれって言うんだから、軍関係のものか、
もしくはモビルスーツ関係のものになるのは当然だろう。
確かに俺はレイバーに関しちゃ素人もいいところだが、
それでも二線級の歌手に関しての知識よりは、まだ誰かにコメントの仕様もあるってことだ」
「そういうことですな。ではそれを踏まえた上で次の映像を」

レアリィが手渡したリモコンで荒川は次の映像を呼び出した。
同じく工事現場に立つレイバーの映像。
先のCM映像と異なるのは、それが音も付けられていない、
編集もされていない、いわば素材の映像であるということだった。

「編集されてないみたいだけど」
「その通り。破棄寸前だったものを何とか入手したものです。どうです、分かりますか」
「さっきのレイバーとは若干異なるみたいだけど、特にはな」
「まあまだ動いていませんから」

「随分念入りにチェックされているみたいね。撮影開始時の映像なのかしら」
「テイク1です。レイバーの操縦者はメーカーのテストパイロット。
四菱が大々的に売り出そうとしている新型レイバーです。
社運の懸かった、というやつですな」
「その割には、脱力気味の映像だけどな」
「組織のトップのセンスというのはどこも変わらない。違いますか」
「全くだ」

ビルギットは可笑しそうに笑った。
映像ではパイロットがレイバーに乗り込み、スタッフがカメラのフレーム外へと一人また一人と消えていく。

そして撮影開始の号令が鳴った。
レイバーがゆっくりと鉄柱を持ち上げる。
鉄柱が本物であるとすれば、もちろん本物なのだろうが、だとすれば大したパワーだなとビルギットは思う。
その上機体コストはモビルスーツの十分の一以下に納まっている。
これはひょっとするとひょっとするのかと考えている内に、画面の中に異変が起きた。

103前312:2006/04/11(火) 00:17:36 ID:B7zWmJm0

「暴走、か?」

それまで実直な労働者の如く鉄柱を持ち上げていたレイバーが、
次の瞬間にはその手にした鉄柱を上に下に、右に左に振り回し始めたのだった。
スタッフが何事か叫びながらフレーム内に姿を現す。
レイバーに近寄り事態を収めようとするものの、成す術もなく逃げ始める。

レイバーは周囲のセットをことごとく破壊した後、猛烈なスピードでカメラに向かって突進し始めた。
当然のことだが、カメラマンは既にその場を離れている。
何か物が飛んできてカメラに衝突し、カメラが倒れた瞬間、映像は終わった。
画面は再び砂嵐へと戻る。

「どうですか」
「どうですかって言われても、これだけじゃ何とも」
「さっき暴走と言いましたが、それは何故です」

「何故ってそりゃ、あんたが言った情報から判断すりゃそうとしか思えないさ。
パイロットはテス・パイ。パイロットの種別で言えば、ベテラン中のベテランだ。
そして企業に食わせてもらってる。万に一つ、泥をぶっ掛けるようなことはしないさ。
それに何か仕掛けるならもっと大舞台でやるはずだ。そうだろう。
こんなCMの撮影現場でやったところで何になる。
加えてレイバー自体もメーカーが社運を懸けて送り出す機体なんだ。
チェックもチェック、何度やったって足りないはずだ。
それでこんな不祥事、映像、よくその場で破棄されなかったな」
「スタッフが一人、まあ保身のためにというところか」
「現場ははしっこいな。そりゃお互い様だが。
で、採点の結果を知りたいんだが、教えてもらえるかい」

荒川は静かに語り始めた。

「つい一年前のことだ。
レイバーメーカーの大手、篠原重工が画期的な新型オペレーション・システムを発表した。
現状のレイバーに乗せ代えるだけで性能が六割向上するOS、まさに業界に激震が走った」
「それ、聞いたことがあるわ。確か、ホスとかって」

104前312:2006/04/11(火) 00:19:13 ID:B7zWmJm0

「ハイパー・オペレーション・システム。HOS。通称ホス。
当然のことながら、そんなOSの登場はレイバー業界の勢力図を一気に塗り変えた。
グリフォン事件、まあこの件には関係ないが、
そういった一連の不祥事で大きく後退した北米地区のシャフト・エンタープライズの
シェアを巡って大手メーカーが次の一手を模索していた折のこのHOSだ。
篠原の勢いは凄まじかった。
現在、極東地区で稼動中のレイバーの九十パーセント以上がこのHOSを搭載している」

「で、そのHOSが何だってんだい」
「Gアイランドシティの建設が一段落した今、
そこに投入されていたレイバーの大半は第三次バビロン・プロジェクトに回されることになった。
Gアイランド以上の大事業だ。当然各メーカーが篠原の勢いを静観しているわけがない。
現在、メーカーの生産ラインは悲鳴を上げながら、HOS搭載のレイバーを連日連夜世に送り出している」
「そんな話を持ち出すってことは、つまり、さっきの暴走はHOSが原因だと、そういうことなのね」

モニターには消音にされたCMと暴走の映像が交互に流れ続けていた。
ビルギットは横目でそれを眺めている。

「我々はそう見ている。
もう一つ付け加えるならば、さっきの暴走事故が発生したのはつい二週間前のことだ。
我々の調べによれば、同様の事故が発生したのはどんなに遡ったところで十七日前」
「HOSの登場から一年経ったところでってことか。最悪だな。
で、本当にHOSが原因なのか。そして、どうしてそんな話を俺たちに持ちかける」

「まずは初めの質問に答えよう。
HOSが原因なのか。確かに大方の見方はそうだ。
しかし誰もそのことを立証できていない。
果たしてHOSにウィルスが仕込まれていたのかどうか、
そうであったとして暴走の原因は何だったのかはな」

105前312:2006/04/11(火) 00:20:31 ID:B7zWmJm0

「そんなこと。HOSの開発者を確保すれば済む話でしょう。まさか逃亡しているの」
「逃亡か、そうかもしれんな。奴は逃げたよ。誰も手の届かない場所へ」
「死んだのか」
「恐らく。死体は確認されていないがね。このファイルを見てもらいたい」

荒川はビルギットにファイルを差し出した。
ビルギットは自分ではなくレアリィに渡せと目で合図する。
荒川は黙ってファイルをレアリィに渡した。


「帆場瑛一。この男が?」

「そう。HOSを単独で開発した正真正銘の天才だ。
その高度な技術故、HOSは未だに解析不能の部分を多く残している。
現在、GGGを始めとして、大空魔龍戦隊、光子力研究所や早乙女研究所、
アナハイム・エレクトロニクス、特脳研、テスラ・ライヒ研、
ノヴィス・ノア並びにオルファン研究チームなど、
地球圏のありとあらゆる研究施設にHOSの解析が依頼されている。
実際に解析を始めているかは別としてな」

「ちょっと待った。その中でオルファンってのはどういうことだ。
それに、ここまできたら隠し事はなしにしようぜ荒川さんよ。
そんな大層な名前を並べたところで、
あの胡散臭い特務機関ネルフが絡んでないのはどう考えてもおかしいぜ」

荒川はどこか満足気に頷いた。その眼鏡にモニターの光が反射する。

「ピリヨ少尉、あんたはモビルスーツ・パイロットとしては三流も三流、
ヘボもいいところだが、小隊指揮官としては大したものだ。
そうでなければ基地司令官相手に避難民の引渡しに関しての大立ち周りなどできやしない」

106前312:2006/04/11(火) 00:22:23 ID:B7zWmJm0

「お世辞はどうでもいいんだが、説明お願いできるよな」
「あんたの予測通り、さっき並べた組織リストにオルファンが入っているのは
確かにおかしいといえばおかしい。
元リクレイマーには伊佐未夫妻を始めとする優秀な科学者が
雁首揃えているのは事実ではあるがね。
畑違いなことは否めない。
オルファンとアンチボディは遺伝子情報の塊だからな」
「おい、遺伝子って、まさか」
「ファイルの次のページ」

そう言われてレアリィはファイルのページを捲る。そして彼女の顔は一瞬強張った。

「ブルーコスモスの一派に属しているあんたなら知っているかもしれんな。エドベリ少佐」

「ヒビキ博士ね」
「ヒビキ博士?」

「ここからの話は一応口外無用ということになっている。
まあ数年後にはどうなっているかは分からないんだがな。
十数年前のことだ。ある優秀な科学者チームがとあるコロニーサイドへと向かった」

「はっきり言えよ、プラントなんだろう」
「そうだ。独自の理論を持った彼らはプラントが脈々と発達させてきた
遺伝子改造のノウハウを学び、自分たちのそれと融合、
更なる発展を目指して技術交流に赴いたというわけだ」
「技術交流ね、まあ聞こえはいいけどな」

「あんたの思っている通りさ。
技術の発展といえば通りはいいのかもしれんが、やっていることは人体実験もいいところだからな。
連中、コーディネーターを更に超える存在であるところの
スーパー・コーディネーターを生み出そうと躍起になっていたというわけさ」

107前312:2006/04/11(火) 00:23:19 ID:B7zWmJm0

「そのリーダーがヒビキ博士。でも研究は失敗したって」
「ブルーコスモスの妨害工作、要はテロによって。
プラント側もあまり公にしたくない研究だったらしいからな、
最低限のデータだけを回収して研究用コロニー・メンデルごと廃棄を決め込んだ。
まあこの話はそういう顛末だ」
「それで、そのヒビキ博士とやらと帆場って男の間にどういう関係があるんだ」

相変わらず薄笑いを浮かべたまま荒川は続けた。


「帆場がヒビキ博士の右腕だったとしたら、どうする」

「つまり帆場はコーディネーター、遺伝子に関するスペシャリストだったと。そういうわけか。
俺はその辺、まるで分からんのだが、
遺伝子とコンピューター・プログラムの間には何か関連性があるのかね」
「言ってしまえば遺伝子もプログラムに過ぎない。そうだろう。
人間の設計図みたいなものだからな。それが同じならば、たとえ姿形が違ったところで」

「ちょっと待て。誘導尋問は無しにしようぜ荒川さんよ。
それって確かネルフがやっていること、そのままじゃなかったか。
あいにくそういうことが嫌でも耳に入ってくる部隊にいたもんでね。
エヴァンゲリオンと使徒、そしてプロトカルチャー、
確かその辺りが人間と遺伝子的には一並びってところだったはずだぜ。
そして気色の悪い補完計画だか何だか。人類を一まとめにしてしまうんだったか?」

「ま、こちらとしても分かっているのはそれぐらいなものでしてね。
ネルフは壊滅状態にあるもののそのガードは異様に固い。
何しろ本部が物理的に土の下に埋もれている現状だからな。
それを掘り返すとなれば、どれだけの労働力が必要になるのやら」


108前312:2006/04/11(火) 00:24:33 ID:B7zWmJm0

「おいまさか、第三次バビロン・プロジェクトってのは」

「そう、ネルフ本部、ジオフロントの発掘事業、その建前さ。
ネルフの職員がスコップで掘り起こすわけにもいかないからな。
地球連邦本部から直々の命令だ。
どうも何としてでもジオフロントを使用可能にしておきたい連中がいるようだな。
遡ってしまえばな、Gアイランドの度々続く拡大事業もその一環に過ぎないのさ。
そうでもしなければ予算が下りないのが浮世の辛さというわけだからな」
「もうあんたの話を聞きたくなくなってきたよ」

「聞いてもらうさ。そして意見を聞きたい。これからが本題だ。
ヒビキ博士と帆場が行っていたスーパー・コーディネーターの開発とネルフが進める人類補完計画。
この二つには大きな共通点があり、そしてある一点において完全に異なっている。
それが何か分かるか」
「わざわざ聞くなよ。分かっているなら自分で話してくれ」

「スーパー・コーディネーターがその過程において、
あらゆる面で人間と異なる遺伝子構造を有するようになっていたとしたら、どうするってことさ」
「あらゆる面って、それって人間なの」

「中途段階ではまだ人間の形をしていたらしいがね。
最終的にどうなったかは分からない。
データは消失し、残っていたかもしれないサンプルは跡形も無く消えていた。
仮に成功していたなら遺伝子的に唯一絶対の存在。
さてもしそういうことになれば、
これはネルフの推し進める補完計画と相反するものになる、そうは思わないか」

109前312:2006/04/11(火) 00:26:00 ID:B7zWmJm0

「つまりあれか、帆場はスーパー・コーディネーターを模したOSを搭載した
レイバーの大群を今にもジオフロントに向かわせ、そこで大暴れさせようとしている。
そういうわけなのか」
「結論としてはそんなところだ。分かったのか」

ビルギットは相変わらず映像を流し続けているモニターを指し、そしてモニターを切った。

「これだけ散々見ればな。嫌でも分かる。
動きに癖がある。CMと素材のレイバー、両方な。
何か、どこかが違うんだが、説明できない。
幸いにして俺は見たことがあるんで分かった。
あれはコーディネーター用のモビルスーツの動きに似ているのさ。

しかしな、帆場って男、本当にそれが狙いだとするなら馬鹿もいいところだ。
レイバーがいくらあったところで、例えばエヴァンゲリオン一機がいればそれで全滅だ。
それでも帆場は、そんな狙いでHOSを作ったのか」

「それに関しては我々もあんたと同じだ。
ここで終点。袋小路に突き当たっているのが現状というわけさ。
奴が何を企てていたのか、誰にも分かってはいない。
だが何としても帆場の狙いは阻止せねばならん。何としてもな。


110前312:2006/04/11(火) 00:27:43 ID:B7zWmJm0

事実一度HOSに接触したコンピュータは例えOSを書き換えたところで
HOSの影響下にあることはこの映像でも明らかだ。
完成したCMのレイバー、念には念を押してとばかりにHOSを書き換えた機体だが、
それでもあんたが言った通り、動作のあちこちにHOSの癖が残っている。

だがメーカーはこのレイバーを売り出さないわけにはいかなかった。
目の前にぶら下がっている御馳走、第三次バビロン・プロジェクトを目の前にして
それに食いつかないというのは企業として自殺行為もいいところだからな。

そんな得体の知れないプログラムを内蔵したまま、
極東地区のレイバー並びに各種コンピュータは活動を続けているというわけだ。
一部政治家、幕僚たちによってHOSに問題なしの声明、
モビルスーツへの搭載すら検討されている。
誰もが分かっていながら目を瞑っているのさ。そんなことはありえないってな。
懐にいくらかの金を忍ばせ、都合の悪いニュースは黙って聞き流す。
泥を被るのはいつも現場だ。
こんな事態の中で、俺たちは未だに帆場の狙い、つまりはその全容が掴めないでいるのさ。
そのために協力を頼みたい。まずは……」

ビルギットは荒川に最後まで言わせなかった。
主導権の、せめて尻尾だけであっても掴んでおく必要があるからだった。


「まずはヒュッケバインの解析と、ジョージ・ジブリールの引渡しか。
面白い話だったがね、生憎だがお断りだよ、荒川三佐」

111前312:2006/04/11(火) 00:40:28 ID:B7zWmJm0
6話その4終了。

致命的に風呂敷を拡げてしまった。
HOSと一連の事件に関しては、次のエピソードにてカミソリ後藤に何とかしてもらいます。
正直自分でも、ビルギット如きがこんな大事に対処できるわけがないと思うので。

>>96
ナデシコは予定に無いんだが、ASは雰囲気的に出しやすいかもしれない。TAとかも。
リリーナを殺しに来たヒイロが曹介の仕掛けた無数のブービートラップを
すんでのところでことごとく掻い潜りながら……というネタを思いついたが、
考えてみればニルファ後のヒイロはもうテロリストじゃなくなっているのでこりゃ駄目だと。
112自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/11(火) 21:51:28 ID:i5/fn+Y0
・・・
まさかパトレイバーとエヴァや種がクロスするとは思わなかった・・・
確かに直径6kmを越す地下空洞を再び掘り返すのは東京湾塞き止め並みの大事業。
あと、スーパーコーディネーターは群体としてのヒトを外れたヒト(ある意味使徒)
ということなの?それとも補完に抵抗する人類ということかな。
HOS絡みで見れば後者っぽい気もするが、

まあ拙い考察はここまでにして、昼行灯の登場を期待して待ってますよ。
113自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/12(水) 17:37:29 ID:nUYyJhHr
いつもの人は相変わらずスゴイ……。
876さんはどうしたんだろう。
114自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 10:10:59 ID:QY6W5Z24
第12次IDでお前らのユニット決定
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/gamerobo/1144489592/

で出た機体などを考慮してSS書いてみよう。
115自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 10:12:20 ID:QY6W5Z24
機体:ゲシュペンストMkU
性格:普通
精神:脱力 友情 期待 熱血 ひらめき 幸運 
技能:切り払いL5 気力+(命中) ガード サイズ差補正無視 援護攻撃L2 底力L5 
強化パーツ:三次元レーダー
小隊長能力:クリティカル率+30%

ゲシュペンストは書きやすい部類だろうし、何より量産型ってのが俺好み。よし、やってみるか
116OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 11:06:59 ID:QY6W5Z24
「最悪だ…」
俺は目の前の命令書に目を通すなり呟いた。
かかれているものは簡潔。まさに三行半って感じだ。
さらにそれを要約すると、
「スペースノア級壱番艦シロガネでラグーン基地まで行って、ATXチームのアサルト4になれ」
…とのことらしい。何故そうなったかの説明によると、DC戦争の時アサルト1が離脱後、アサルト4が
アサルト1となって人員の補充もなしに戦っていたため。
で、戦後のゴタゴタが終結した今きっちりチームの補充をしろというわけで…
別に他のチームなら何の文句も無い。軍の命令でまぁしぶしぶではあるが従うだけだ。
だがよりによってATXチーム…
前戦役で、ホワイトスターに特攻を仕掛けた部隊の1つである。
その戦闘力、突破力は地球圏1といわれるほどだ。
しかし、人員はお色気おねー様とか鉄面皮のゴ○ゴ13のように無口な男とか暑っ苦しいガキとかな上、
部隊の雰囲気は軍とは思えないもんなんだとか。どっかいった奴も突然刀を振り回す奴だったらしいし。
なんでそんなうわさや憶測が飛び交う変態集団に俺は突っ込まされることになるんだよ!?
乗ってるものも実験機やらなにやらというわけでもないゲシュペンストMkU。
そりゃレーダーに関しちゃ裏から流してもらった三次元レーダーつけてるし、
ちょっと使い込みして機体をグレートにいじったりしたよ?けどそれだけじゃないか。
お咎めなしと思ったら、なんでこんな地獄の片道切符つかまされなならんのだ?
頭をかきむしる俺に、無常の鐘が鳴り響く。
「シロガネ発進準備、各員搭乗してください。繰り返します。シロガネ…」
ああ…地獄の列車の出発だ…
117OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 11:07:45 ID:QY6W5Z24
ラグーン基地について、いきなり俺は館長に呼び出された。
「補充人員か。艦長のリー・リジュンだ。これから司令室に向かう。ついて来い。いらん口は利くな。」
わぁ、つなぐ言葉もなしなら、つながせる気もないご様子。艦長、俺何か嫌われることしましたか?
そんなわけでまったく会話の無い重ッ苦しい空気のまま司令室まで連行同然の行進。
「生意気な口を利くな!貴様に言われずとも報告書には目を通しているわ!」
ああ、空気が悪そうだ。怒鳴り声が飛び散ってるよ。こんな中に俺は突っ込ないといけないのか…?
「失礼します。シロガネ艦長リー・リジュン中佐であります。」
俺がほうけてる間に艦長突入。あんた、もう少し空気呼んでよ。
中に足を踏み入れる。赤い服を着た男と、写真で見たことのあるちょび髭のおっさんがケネスだな。
あの赤い服着た男が、さっきの会話から察するにATXチームの一員か?
「ご苦労、中佐。ここにいる男が…」
俺も入ったわけだが、完全に俺はスルーの雰囲気。まぁ、楽だしいいか。聞いてりゃいいだけだ。
「それまでにシロガネに機体搬入を済ませておけ。いいな?キョウスケ・ナンブ。」
「了解しました。」
「それからATXチームヘの補充人員だ。軍曹、前に出。」
やれやれ、やっと俺の番か。キョウスケ・ナンブ…こいつが…噂のゴ○ゴ13か?
同じ日系人っぽいからまぁ、なんかどうにかなるだろ。
「今日からATXチームに配属されるヨシカワ・ユートです」
118OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 14:36:06 ID:0v2vPtYn
「とりあえず、話は終わりだ。ゲシュペンストはもうシロガネに搬入している。先に整備に戻れ」
は?艦長、いまからチームリーダーとの会話が…
「聞こえんのか?戻れといったんだ。」
ああ、コミュニケーションについて欠落しすぎ。なんで上司までこんなのに…
「分かりました。では失礼します」
しかし文句はいえるはずもなし。俺は戦艦に戻る。
ほんとに自己紹介のためだけだったのね俺の役目って…
「スラスターよし…OSもOK。間接とかのパーツの磨り減りもまだ十分にいける数値だな。」
愚痴りながらシロガネ船内の格納庫で自分の機体のチェックを行う。
ついたと思ったら艦長さんがメキシコに行ってDC残党狩りとか言い出したせいで、
また基地からはなれる羽目に。まぁATXチームも乗ってるらしいし、これが終わったら挨拶に行かないとな…
こっちがどう思おうが、戦場でお互い背中預けて戦うんだ。
そういうのは社交儀礼の意味も含めて重要なこと。ただ、多分残りが色気おねー様と暑っ苦しいガキ…
ため息をつき、うなだれる俺。そうだよなー、嫌でも今日から俺もイロモノ集団の仲間入りなんだよなーとか
思うとテンションも丸下がりというものだ。
「よし、オールOK。じゃ、降りてATXチームの皆さんとお話と行きますか」
ゲシュペンストMkUC(カスタムね。ちょっとゲシュペンスト離れしてるけど)から降りて、
軽く伸びをする。結構コクピットって狭いから肩こるためだ。すると、
「はぁいこんちには。あなたが今日からあたしたちとチームの人?」
視線をそちらに向けると、金髪のアメリカンな女性が立っていた。軍服だから露出は少ないが、
それでも色気というものが伝わってくる。…俗に言うとてもいい女性だ。
「あたしはエクセレ・ブロウニング。よろしくね☆」
「ああ、今日からお世話になるヨシカワ・ユート軍曹だ。」
なるほど、この女性がお色気おねー様ということか。階級ぐらい言って欲しかったが、まぁいいか。
「あんたらの話はいろいろ(良くも悪くも)聞いてるよ。改造したゲシュペンストでどこまでついていけるかどう
 か分からないがよろしく頼む。」
「そんなに謙遜しなくてもいいわよ。前の戦役から活躍してたエースなんでしょ?」
「う〜ん、エース、ねぇ…
 別に格闘戦が下手だから反撃食らわないよう急所を狙って狙撃してただけなんだが…
 そっちこそ、あのヴァイスリッターのパイロットなんだろ?射撃の腕は相当のもんだって聞いたよ。」
119OG2 insertion 導入:2006/04/13(木) 14:36:46 ID:0v2vPtYn
「別におねーさんを誉めても何もでないわよぉ?それともなにかあるのかしら?」
そう言ってずいっと一歩前にでてきて、下から覗き込むようにこっちを見てきた。
「っと、とととんでも無い、そんなつもりは一切無い!それにおねーさんって…俺はもう21だ!!」
高速で後ろにすり足移動。ううっ、顔が赤くなってるのがすぐに分かる。
やっぱりATX部隊って変人ばっかりだ。
「それならそんなに驚くことないでしょ?」
あちらさんはクスクスと笑っている。…からかわれてるんだろうなぁとは分かるが、
それでもそういうのを華麗にスルーなんて俺はできん!
「エクセレン少尉!もうヴァイスリッターの整備終わったんですか?」
今度は物陰から金髪のこれまたアメリカンなの―まぁ野郎だが―が現れた。
「あ、ブリットくん。もう全部オッケー。玉の肌よ。」
軽く会釈をした後、こちらにきて挨拶してきた。
「今度配属される人ですね?ブルックリン・ラックフィールド少尉です。ブリットと呼んでください。」
「ああ、こっちこそ頼むよ。俺はヨシカワ・ユート軍曹だ。」
そう言って軽く握手をする。なんだ、暑苦しいガキと聞いたがいい青年じゃないか。
「では軍曹。あと15分で戦闘配備らしいので、また。」
「じゃ、またあいましょ」
「ああ、戦場でな」
後ろで手を振るエクセレン。硬く敬礼してから去るブリット。2人が去るとまた静かになった。
「やれやれ…ま、うまくやれそうではあるかな?と、
 15分で戦闘配備って言ってたな。俺もモタモタできないな」
そう言って俺はゲシュペンストに乗り込んだ。
最終チェックもしながら時間をつぶす。火器管制までチャックしたとき、ブリットが通信をよこした。
「は?アンノウン機がいる?」
乗り込んで状況待ちとなったら、突然そんな情報が飛び込む。
「らしいです、軍曹。こんなところになんでいるかは不明ですが、一切信号が符合するものが無いとか…」
やれやれ…編入されていきなりこれか。さすがやることも妙なのが多い、ということか?
「そろそろ降下だ。行くぞ、ブリット、ユート」
「わかりました」
「OKだ」
ハッチが開き、青い空が目の前に広がる。
「ゲシュペンストMkU、ヨシカワ・ユート。発進する!」
120自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 14:38:01 ID:0v2vPtYn
ためしにやってみた。どこまで俺がもつか分からんし、致命的に文が下手だが、、まぁいけるところまでやってみよう
121自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 16:05:31 ID:gOvv+T+v
なにかものたりない気がしたが、乙。面白かった。しかし、一つ言いたいことが。
焼き直しは、セリフとかシナリオ野間もが膨大に必要だし、しかもOGは一番キツいとこだよ?
ゲシュペンストなのはいいけど、全部設定組み直してオリジナル舞台や設定のほうが再現が無いから楽だし、
そこからスタートしていけば?
122自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/13(木) 16:44:51 ID:VQMYavLN
俺も今その問題に直面してました。やっぱり勢いとかで書くもんじゃないですね。
しっかり練ってから色々決めてオリで投下しますので、>>116->>119を破棄します。
123自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/15(土) 11:34:44 ID:dSI36mGE
age
124自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/17(月) 17:40:29 ID:QxuO4D53
ここは落ち着いて保守
125前312:2006/04/22(土) 22:44:56 ID:Qvk76gGG

「俺に銃を撃たせ……」

景気良く六発の銃声が轟いた後、そのトリガーを引いた張本人の叫びは
最後まで発せられることなく途切れた。
対峙する機体の痛烈な一撃によって、主武装である三十八ミリリボルバーカノンを構えたまま、
そのレイバーは頭部を吹き飛ばされた後、ゆっくりと崩れ落ちていった。
対峙していた機体、ヒュッケバインには目立った傷一つ無い。

一連の状況を黙って眺めていたビルギットは大きくため息をついてから、
傍らのバムロに終了の指示を伝えた。
バムロが手持ちのリモコンを操作すると、彼らの正面に置かれていたモニターの電源が落ちた。
つい一瞬前まで周囲に鳴り響いていたはずの銃声も、
レイバーの撃墜と同時に巻き起こった爆発音も、全てスイッチ一つで綺麗に消え去ってしまう。
それはスペースアークの格納庫内に置かれたモニターの中、そこだけで行われた模擬戦であった。

「十連敗、いや十連勝ですか」
「まあ、こんなものだろうな。どうです、満足頂けましたかね。荒川三佐」

ビルギットとバムロから数歩下がったところに灰色のコートに身を包んだ、
それ以上に薄ら寒さを身に纏った男が立っている。
先ほどビルギットとレアリィ・ラドベリと会談を行った、荒川茂樹である。

「ピリヨ少尉の仰る通り、まあこんなものでしょう」
「レイバーとパーソナル・トルーパーじゃ何回やったところで同じでしょう。秒殺ってところですか。
まあレイバーの中のお巡りさんはまだ元気一杯みたいですが」

「どうしたどうしたぁ! こんなものかぁ! 俺はまだいけるぞぉ!」

機体との回線は既に切られているため、響いてくる叫びはつまり生の音声である。
いくら人気が無く、物音もしない格納庫の片隅だからといって、
モビルスーツが鎮座するほどのスペースを誇るこの空間一杯に叫びを轟かす
レイバーの搭乗者の神経を、ビルギットは疑わざるを得なかった。

「奴さん、まだやるつもりですよ」
「そうみたいだな。その辺はあんた次第ってことになるんだが、荒川さん。まだやりますか」
「勿論。気力に体力の限界。そこからのデータも当然頂きたい」

126前312:2006/04/22(土) 22:46:29 ID:Qvk76gGG

モニターの中の模擬戦でどれだけ疲れるものかと内心毒づくビルギットではあるが、
それは彼が現実のモビルスーツパイロットであるがための感想でしかない。
慣れない人間が行ったならば、もちろん程度の差はあれど、
モニター内の仮想模擬戦であったとしても相当に消耗するものである。
事実、ヒュッケバインを駆るジブリールからの返答、その声には明らかに疲労が目立ち始めていた。

「ジブリール。用意しろ」
「り、了解です」

まだやるのか。ジブリールの逡巡はそう伝えていた。
この模擬戦の意味を掴めかねているのだろうとビルギットは思う。

何せ相手はレイバーである。
頭部バルカン砲が掠っただけで大破するFRP装甲。
それに加えてヒュッケバインの装甲に傷一つつけられない、貧弱極まりないリボルバーカノン。
武装の違いもさることながら、機体自体のスペックが違いすぎている。
例えるならば戦車と乗用車。いやまだその方が差は少ないのかもしれない。

とにかく、双方には圧倒的な戦力差がある。その結果がジブリールの十連勝。
そのどれもがものの一分もかかっていない。
ジブリールが不満を抱えるのは当然だと思えた。

加えて、ジブリールにはヒュッケバインに搭載されていた新型の念動力システムという負荷がかかっている。
荒川が欲したのはそのデータであり、ビルギットは彼との取引に今こうして応じていた。

「太田巡査長、聞こえますか」
「何でありますかぁ!」

どうしてこいつはいちいち大声をあげるのだろうと思いながら、
ビルギットはモニター横のスピーカーと同時に機体の装甲を通してでも周囲に響くその声に伝えた。

「太田巡査長、申し訳ないのですが、そちらの武装を多少変更したいのですが、よろしいですか」
「武装の変更とは、どういうことでありますか!」
「せっかくですので多種多様なデータを取れればと思うものですから、
警備用レイバーとしては異例ですが、もう少し強力な武装データをですね」
「強力」

127前312:2006/04/22(土) 22:47:42 ID:Qvk76gGG

途端、レイバーに搭乗している太田の雰囲気が変わった。
声だけでビルギットにはそのことが分かった。
いや、今までの模擬戦を見ている中でそれは既に理解していることだった。

「ええ強力です。実際には使えないものでしょうが、その辺はまあシミュレーターですから」
「き、強力ですか!」

声が震えている。こういうのを何と言うんだったか。
極東の言葉で、そうだ、武者震いとか言うんだったかな。

「まあ大型ガトリングガンであるとか、バズーカランチャーであるとか。
さすがにビームライフルというわけにはいきませんがね。
データは送りますんで、お好きなものを使って頂いて結構です。
太田巡査長は訓練教官を勤められているとお聞きしましたので、
まあうちの小僧も一つ鍛えてやってもらえれば。
ああ、この際なんで弾数は無制限でお願いします」
「ガ、ガトリング、バズーカァ?!」

上ずった声を最後まで聞くことなく、スピーカーを切ったところで生で響いてくるその声を
少しでもかき消してしまえればいいとばかりに、ビルギットは再びシミュレーターの電源を入れた。
光が入ったモニターに多少荒い画像で作られた市街地が映し出される。
そして適度な位置に配置されたレイバーとヒュッケバイン。

「ジブリール。武装の使用は禁止する。それでやってみせろ。いいな」
「りょう、了解、です」

息遣いが荒くなっていた。
念動力システムを常時入れておくことは、
これほどまでにパイロットに負担を強いるものなのかと改めて驚く。
ビルギットは背後の荒川に不信気な顔を向けた。

「なあ荒川さんよ。良かったらこのデータ、何に使うのか教えてもらえないかね」

128前312:2006/04/22(土) 22:48:43 ID:Qvk76gGG

荒川はビルギットを見てはいなかった。
ただモニターに映し出されたヒュッケバインの、模擬戦が始まると同時にレイバーが放った
猛烈な攻撃を易々とかわす、その姿と実際の機体を交互に見比べていた。

その口元には常に浮かべている笑みが、ここでも例外なく刻まれている。
荒川は笑った形をどこかに残したまま、ビルギットに向かって口を開いた。
その態度は倣岸極まりない。

「データはデータさ。どんなものであっても、いつどんな状況で役に立つかは分からない。
あらゆるデータを集めておく必要があるのは、俺たちの業界じゃ常識でね」
「答になってないぜ」

荒川はそれきり口を閉ざしてしまった。これ以上の情報提供はしてくれないということである。
ビルギットは諦めて、最後に一つだけ念を押しておくことにした。

「さっき頼んだ件だけはしっかりやってもらうからな」
「それは勿論。信じちゃもらえないかもしれんが、
これでもそれなりの仁義を守るってのがこれも常識の一つだったりするのさ。
それにしても考えたもんだな、ピリヨ少尉。
ブルーコスモスの懐、このオエンベリ基地で避難民、コーディネーター達のお墨付きをもらおうとはな」
「都合よくあんたが出てきてくれたんでね。お互い持ちつ持たれつといったところさ」

モニターの中では、未だハリネズミの如き防御火線を展開するレイバーに向かって、
ヒュッケバインが突進していた。
大質量の機体が高速でぶつかってこられては、レイバーはひとたまりも無い。
その時点で太田の十一連敗、ジブリールの十一連勝が決定していた。

今までと違った点があるとすれば、ヒュッケバインの装甲に蓄積したダメージが
それまでとは比較にならないものになっていることだった。
とはいっても、それが深刻なものであるかといえばそういうわけでもないのだった。
ただビルギットは、レイバーの攻撃の命中率だけは大したものだと考えていた。
照準装置、FCSがいいのだろうか。

129前312:2006/04/22(土) 22:50:24 ID:Qvk76gGG

「特例市民認定、オーブへの保護を建前にする引渡し要求は明日にでも出るだろう」
「明日か。早いな。随分強く出たんじゃないのか」
「蛇の道は蛇というわけさ。
しかし何故、最初にスペースアークと接触した際に避難民たちを引き渡してしまわなかった。
結局彼らもオーブへ向かうはずだったと聞いているがな」

ビルギットはいい加減、荒川の回りくどい言い方に辟易していた。
どうせ荒川の視線はモニターに注がれている。
そうして自らの興味を逸らしていると見せながら、その実話だけはしっかりと聞いている。
それが荒川のやり方だろうと思う。気に食わないやり口だった。

しかし取引の内容に関しては、その意図の大方の部分を話してしまわねばならなかった。
下手に隠してしまえば、この計画に何らかの危険を感じた荒川が
取引から手を引く可能性があるからだった。
つまり、こちらも馬鹿ではないということを示さねばならない。

「あの時点で引き渡したところで、オーブにしてもスペースアークの連中にしても、
避難民をどう扱うかは知れたものじゃない。
何も確証は無かったんだ。仮にオーブに着いたところで、体よく追い出される可能性は十分にあった。
だからあんた達、極東支部の後ろ盾が必要なんだろうが。
それがあればオーブ内の反コーディネーター派だって下手は打てない。
その辺、面倒見てくれるんだろうな」

「あくまで避難民の身柄を考えるか。さすがはアルファナンバーズといったところだな。
それで、牢屋に入っているハイネ・ヴェステンフルスはどうするつもりだね。
こちらとしても、そこまでは引き受けきれないのが現実だ」

それが今現在、ビルギットが直面している最大の問題であった。
避難民の身柄を小隊に置いておくために必要だった犠牲、
それが拘束され投獄されているハイネであることは荒川も承知しているということだろう。

その建前が通用する間に、避難民がオーブへ亡命できるように
手配するというのがビルギットの狙いであり、
それを今こうして荒川と取引することでとりあえずの見通しが立ったというわけである。
しかしハイネに関しては、まだ何の解決策も思い至ってはいなかった。

130前312:2006/04/22(土) 22:52:15 ID:Qvk76gGG

「何とかするさ」
「何とか、ね。まあこちらには関係ないことだがな。
余計な忠告かもしれんがね、あんた自分で貧乏くじ引いているんだと、そう思ったことは無いのか。
縁もゆかりも無いコーディネーターたちを引き受けて、
更に彼らの亡命の手配までしてやって、一人ぐらい箱舟に乗り遅れたとしても、
それは仕方の無いことだと、そうは思わないのか」

そんな言葉にビルギットは正直驚いていた。
今まで一切を冷笑の中で語ってきた荒川が、
ここにきてほんの一片ではあるが感情の一部を見せていた。
その手にはいつの間にかバムロが渡していたコーヒーカップが、
顔に似合わない丁寧さで握られていた。

そうした諸々が、この男のどこかに隙を生み出したのかもしれなかった。
確かに、コーヒーを啜る荒川の表情には心なしか喜色が混ざっているとも見える。

「決めたのさ」
「何をだ」
「自分にゃ嘘はつくまいってな。だから俺はあんたを信用はしてないんだ、荒川三佐」

それが本当の意味で自分の中で決まったのはほんの数日前のことだったが、
そんな余計なことまでは言う必要はないのだった。
決まったものは決まったのだ。それがいつのことなのかは問題ではない。
バグに襲われる街にモビルスーツ一機で飛び込むことを決めた時、
それはもう自分の中では揺るぐことはない。そう思えたのだった。

だから自分はハイネを見捨てることはできない。
彼が一日でも早く出獄できるために、あらゆる手を打たなければならない。
それは自分の進退に関わる問題になるはずだが、
それでもビルギットはそうしなければならないのだった。

その決意は、アルファナンバーズと自分という、
どこかで考えるのを避けてきた関係を自分の中で受け入れる、そういうことでもあるのだった。

131前312:2006/04/22(土) 22:53:32 ID:Qvk76gGG

「多分、もうあんたと会うこともないだろうから言っちまうけどな。
あんた、確かにこんな仕事をするにはうってつけの人間だとは思うよ。
でもな、何となく、あんたのいる場所はここじゃないような気がするよ。
あんたみたいな人間は、肝心な時、いるべき場所にいないんじゃないかってな」

さすがに荒川が怒り出すかと思ったが、
意外にも荒川は低く、あくまで低い笑い声を挙げたのだった。

「面白い話だったよ。
いや悪いな。そういう意味じゃない。
久しぶりだったからな。そんな言葉を向けられるのは。
ああ、本当に、久しぶりだ」

もうビルギットはその言葉に答えようとはしなかった。
だからモニターを無言で見つめている。
後ろで荒川が静かにコーヒーを啜る音が聞こえた。

頭の片隅で、荒川に最後にその種の言葉を投げかけたのは誰だったのだろうと思った。
ふと、同志という言葉が思い浮かんだ。
友人というのも違う気がしたし、荒川が妻帯者であるとは考えたくなかった。

形はどうあれ、荒川は職務に忠実な人間ではあるのだから、
仕事仲間というよりは、そうした信念を共にする人間が最も適当なのではないか。
そう思ったのだった。
加えて、それはきっと随分前の出来事だったのだろうということも。

132前312:2006/04/22(土) 22:55:12 ID:Qvk76gGG

「往生せいやぁぁ!」

モニターの中では太田のレイバーが文字通り奮戦していた。
バズーカを打ちながらも、果敢に前進する。その動きは意外にも敏捷であった。

とはいってもパーソナルトルーパーの機動性に敵うものでもない。
当然簡単に補足され、右ストレートの一撃で勝負が決まるものと思われた。しかしである。

「死なば、もろともぉーっ!」

レイバーはバズーカランチャーを投げつけ、
それを弾くために動いたヒュッケバインの右腕を器用にすり抜けたかと思えば、
右足にセットされていたリボルバーカノンを取り出し、
ヒュッケバインのコクピットに向けて零距離射撃を敢行したのだった。

だがその勇猛さは、リボルバーカノンが所詮は豆鉄砲に過ぎないという現実と、
機動兵器である以上はコクピットの装甲が最も厚いはずであるという壁の前に脆くも崩れ去った。
崩れ去る、はずだった。

モニターに映し出されたヒュッケバインの機体状況を知らせる全身図が
異常を知らせる赤に染まったのは、太田のレイバーがリボルバーカノンを
全弾撃ち尽くしたその瞬間であった。

異常といっても、システムエラーではない。
データ上の機体への深刻なダメージを伝えるものだ。ビルギットは目を疑った。

たかだか三十八ミリ口径の豆鉄砲が、コクピット周りの装甲に深刻なダメージを与える。
ジブリールの腕前などは問題ではなく、それは構造的にあってはならないはずの事態であった。

そんな考えが一通り頭を巡った後で、ビルギットは答に辿り着いた。
傍らのバムロも同時にその答を得たようで、確認するように口を開いた。

133前312:2006/04/22(土) 22:56:47 ID:Qvk76gGG

「手動ハッチを撃ち抜いたみたいですな」

緊急時に手動でコクピットハッチを開くために備えられた手動スイッチとそのハッチ。
どのモビルスーツにも当然あるものだが、
人間の手のサイズに合わせて作られたそれはモビルスーツ同士の戦闘において
ウィークポイントと成り得るものとは言い難い代物であった。
そんなものを狙うぐらいなら、コクピットの真ん中を撃ち抜いた方がよっぽど話が早いはずだからだ。

にも関わらず太田はそんな行動を起こしたのだった。そして成功させた。
射撃の腕前もさることながら、何よりもそれを行うのだという意思が、
この結果に繋がったのだとビルギットは思わずにはいられない。

後一発弾が残っていれば完璧だったんだがと思うが、
それはまあご愛嬌と言ってしまってもいいほどの快挙であった。
そうした状況の全てが導き出した結論を、彼はジブリールに伝えた。

「ジブリール。お前の負けだ」

ビルギットは後ろの荒川が何を言ったところでこの模擬戦をこれで終わらせるつもりでいた。
確かに太田の戦法は見事だったが、ヒュッケバインの動きに荒が目立っていたのも事実だった。

ジブリールは早めに終わらせてしまいたかったのだろう。
体力の限界が近づいているはずだった。
この辺が潮時ということである。
だからジブリールが返した答は全くの予想外であった。


「まだです」
「何?」

「まだやります。まだやります。まだ……やらせろ!」


134前312:2006/04/22(土) 22:57:59 ID:Qvk76gGG

「よぉく言ったぁ! 坊主、俺が鍛えてやるぞ。いくらでもこぉい!」

太田だけがその言葉に反応を返した。
ビルギットとバムロは普段の態度とはまるで違うジブルールに一瞬虚を突かれた形になっていた。
今まで、一度足りとも命令に逆らったことなどなかったのだ。

そんな当惑を他所に、後ろの荒川がどこか満足げな笑いを浮かべていることには
二人は気付いてはいなかった。


「があああっ!」

ジブリールの叫びは、普段の大人しい彼とは全く違う、獣の如きそれである。
まるで激しくプライドを傷つけられた野獣。
何故かそんな感想をビルギットは抱いていた。

模擬戦はリセットされておらず、一度動きを停止していた二機は再び動き出した。
動き出したはずだった。

レイバーも動いたはずだったが、何かの動きを見せる前に、
その機体は縦に両断されてしまっていた。そこで模擬戦は終了した。
あっけないと言えば、あっけなさ過ぎる幕切れだった。
ただ誰もその時何が起こったのかを理解できていなかった。

135前312:2006/04/22(土) 22:59:30 ID:Qvk76gGG

「お、お花畑が……。眩しい、お花が一杯」

モニターが光で満たされたのだろう。
太田のそんな声がスピーカーから弱弱しく響いた。

ヒュッケバインの手には、いつの間にかもぎ取っていたらしいレイバーの腕が握られていた。
そしてレイバーの背後にそびえていたビルには、
まるでビームサーベルで叩き切ったかのようなダメージが加えられている。
モニターはそう報告していた。

加えて計測不能とも。しかしレイバーは確かに両断されていた。
モニターの中で、である。

「荒川さんよ」
「話すのは最後じゃなかったのか」
「事情が変わったさ。
あんたが欲しかったデータはこれなのか。HOSに対抗するための」

荒川はどこまでも倣岸だった。

「データはデータさ。それ以上のものじゃあない」

136前312:2006/04/22(土) 23:00:13 ID:Qvk76gGG

少し間を置いて、荒川はだがなと付け加えた。

「確かに一つの手段としてはある。それは事実だ。
一つの手段でしかないがな。俺はそう考えている。
さっきの言葉の御礼としては不十分かもしれんが、今現在は俺もこうとしか言えないのさ。
まあ勘弁しろ。
ところでジョージ・ジブリールの聴取は予定通りやらせてもらおう。いいな」

ビルギットは黙って頷いた。そうするしか他に仕様がないのだった。


「真っ白な、凄く綺麗なお花畑が」

スピーカーからは太田のあちら側へ渡ったかのような声が流れ続けていたが、
それに隠れるようにしてジブリールの、
満足そうな声が混じっていたことに気がついた人間はやはり誰もいなかった。



「これで、十四勝零敗。零敗。零敗。零敗……」


137前312:2006/04/22(土) 23:10:23 ID:Qvk76gGG
6話その5終了。

>>112
とりあえず後者だけど、抵抗するには遺伝子だけじゃ駄目らしいというのを
一応全体のテーマとして書ければいいなと。

>>115
今更ながら乙。機体から話を作ってみるというのは今まで無かったから面白いと思う。
再投稿期待してます。
138自治スレにてローカルルール検討中:2006/04/22(土) 23:47:35 ID:4GAIC4ZZ
GJ!!
太田さんが実に“らしい”ですな。
そして止まっていたビルギットの時間も動き出したようで。

>>137
抵抗者か。
139自治スレにてローカルルール検討中
ホシャゲ