忌 火 起 草 の 例 の ア レ ♪

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59紺ルート
◇屋敷にて
僕は愛美によって、京介の別荘だという屋敷につれてこられた。
はっきり言って、僕には愛美が何を考えているか解らなかった。
書斎で、京介が書いたというノートが見つかった。
そのノートを読んでいくうちに、今惹湯とビジョンの成分は同じだということがわかった。
そして、愛美がネットを使い、今惹湯の被験者を集めていたことも。
ネットって・・・。いやな予感がする。

○愛美の告白
僕は愛美を問いただした。
愛美は、小さい頃から幽霊が見える体質なのだそうだ。人に話しても信じてくれない。
そのために、人知れず苦しんできた。
京介が、今惹湯を作って飲むと、奇の幻覚を見て苦しむようになった。
そう、今惹湯は、飲ませた相手に自分と同じ苦しみを味わわせることができる薬なのだ。
愛美は、ひとりで苦しむのは嫌なので、ビジョンを作り、ばら撒いた。
山本の話は本当だったのだ。悪魔のような笑いを浮かべる愛美。
嘘だ、優しい愛美がそんなことするわけがない。
きっと、岡島が言っていた「解離性健忘」とかいうのにかかって――。
「アハハハ、それ、私のことじゃないよ。弘樹くん、あなたのことよ。
あなた、いない人間のことを、ずっといるように話していたでしょ。
今まで当たり前のようにいた人が、いなくなる。だからその人が恋しい。そうでしょう?
一人はいや、そんな気持ちから、今惹湯は生まれたの」
愛美はそんなことを言う。
今までずっと見守ってきたつもりなのに、まだ京介の死を乗り越えていないのか。
こんな所で言うつもりはなかったけど、僕は言った。
「ずっと片思いだった。だけど、愛美がいたから、僕は一人がいやだなんて思ったことはない。
なのに、どうして、あんなものを僕に飲ませたんだ?」
60紺ルート:2008/08/24(日) 02:10:41 ID:Wdh+0JWl
○曖昧な記憶
「よく思い出してよ、記憶が曖昧なところがあるでしょ?」
愛美は質問で返してきた。思い出せ、今こそちゃんと思い出すんだ。
僕は記憶を辿った。記憶が曖昧だったあの事故のこと。
・・・あの事故のとき、京介が死んで・・・愛美も、死んだ。
どうして思い出せなかったんだ。僕は、とっくに死んでいた愛美を、生きていると思い込んでいた。
目の前の愛美は幽霊なのか。でも、ほら、幽霊だけど話も出来るし、触ることもできる。
堪え切れないというような感じの高笑いの後、愛美はこう言った。
「今惹湯を飲んで、見えるようになるのは奇だけよ。
だって、幽霊は現れたり消えたりするけど、妄想は常に心から消えないものなの・・・」

○朝を迎えて
夜が明けた。帰りは僕が運転することになった。
サークルのメンバーはみんな死んでしまった。でも、愛美が残っている。
これからは、愛美とはいつも一緒だ。たとえば、一枚のコインの表と裏のように。
たとえば、二度と醒めない夢のように。

完<ビジョンの真相>