>>518 全領土治安回復という名のドサ廻り
兎角先生のこの話を思い出して泣けてきた
「ご注文の大筒だ。一門用意するのが精一杯だった。」
兎角は深々と御辞儀をした。「これで55門か‥。」
大筒を引く、主命を受けた時には血と肉で満ちていた両腕は今や枯れ木と見紛うばかりだ。
「失敗しても報告しなくていいから大筒100門買うまで帰ってくんな。」
大殿である氏康様の言葉を兎角は思い出していた。殿の期待が あの優しい眼差しが兎角を押す。
「鹿児島に腕のいい鍛冶屋がいる。」そんな噂を聞いた、この歳で長旅は堪える。
雪深い冬の今浜から兎角は再び歩みを始める。さくりさくり、雪を踏み分ける音が耳までも凍えさせるようだった。
時は元和五年、世に既に太平が訪れている事を兎角はまだ知らなかった。