1 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 21:57:04 ID:hric4Jth0
ある日曜の朝、いつものように競馬新聞をひろげながら珈琲をすする。台所では、忙しそうにあと片付けをする嫁。
5才になる娘はテレビに夢中。平凡な日曜だった。だがその日だけは、ちがっていた。
娘が俺の膝に乗り、娘「お父さん!むしきんぐ知ってるぅ?」俺「むしきんぐ?虫の王様か?」娘「ちがうよ!ゲーム!すごくおもしろいんだってわたしもやってみたぁい!」
駄々をこねる娘に困り果て渋々出掛けることにした。
嫁は買い物に行き、娘と近くのゲームセンターに入った。そういえばかれこれ10年はゲーセンにきてないなぁと懐かしむ。
昔のゲーセンは、不良の溜り場で殺伐とした雰囲気だったが、今となってその変わり様に驚いた。
随分と健全になったもんだと少し虚しさを覚えた。そんな俺をよそに娘はお目当てのむしきんぐを見つけはしゃぐ
ふーんじゃんけんゲームか兜虫やら鍬形やらが画面の中でたたかっていた。周りも俺と同じくらいの大人と娘と同じくらいの子供がたくさんいた。
すごいもりあがりだ。
娘が夢中になっている中、珈琲とジュースを買いに行くとビデオゲームコーナーがあった。懐かしい、、、
昔はよく対戦格闘やらシューティングをやりこんだもんだ。とシューティングを一通り見回したが知っているものは当然ない。
当たり前だ。10年もゲーセンを離れるともはや浦島太郎状態で目新しいものしかない。そんな中、対戦格闘コーナーから懐かしい声に耳を疑った。
2 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 21:57:54 ID:hric4Jth0
その懐かしい声に耳をうたがった。
「はどーけん!」「はどーけん!」「しょーりゅーけん!」
まだスト2があるのか!?もう10年いやそれ以上前の代物だぞ!
その神々しいデモ画面をみて無意識に財布から100円玉を取出し勢い良く入れスタートボタンを押していた。
しかし次の瞬間、ふと気が付いた。なんだこれは何かが違う。と違和感を感じ上をみるとハイパーストリートファイター2というポスターが
画面にはハイパースーパーダッシュ・・・どうやら歴代のキャラを使えるようだ。ふーんまぁいい。俺は一番やりこんだXの使用を選んだ。
キャラの選択、もちろん当時メインにしていた春麗を選ぶ。懐かしい顔だ。画面に映った彼女の顔は、35のオヤジには、眩しすぎて思わず胸が高鳴った。
CPU戦をこなし当時の感覚を取り戻そうとしたが、まるで昔の彼女と再開したかのようなぎこちなさがあった。
プレ-がちょうど中盤にさしかかったころ画面に乱入者の文字が!
その瞬間、背筋に緊張がはしる。空気が一瞬にして凍りつき、重くなる。
対戦者がキャラを選択している間、自然と手に汗がにじみこむ。
相手はガイル。当時、俺はちょっとした有名プレイヤーとして地元で名を覇せ、自称ガイルキラーの異名を持ち待ちガイルを好物としていた。
彼女も自信満々の表情で見つめてくれている。大丈夫俺の牙は折れちゃいない。戦いの火蓋は切って落とされた。
3 :
俺より強い名無しに会いにいく:2010/09/28(火) 21:58:34 ID:oDvN4BhsO
フイター
4 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 21:59:23 ID:hric4Jth0
開幕早々、ソニックと気功拳の壮絶なる打ち合いのなかお互い様子を見る。
この対戦は、打ち負けたほうが負ける。いかに相手にプレッシャーをかけるかがポイントになる。
意地の張り合い。
飛んだほうが負けるという厳しさ
絶対に負けられないというプライド
男と男の真剣勝負。
溜め完成ぎりぎりで発射させる気功拳。
緊張がピークに達した瞬間パンチをからぶりしてしまった!!
しまった!!
そのスキをガイルはみのがさなかった。そのまま投げと巧みな飛び込みでおしきられてしまう。こっちも地上戦で押し返そうとするがやはり10年という歳月は長すぎた。
そのあとはもはや一方的な展開になり大敗をしてしまった。
ちきしょう。まだだ次こそはと思いコインを入れようとした瞬間、画面みてハッとした。
顔を腫らした春麗のよこでガイルが俺に言い放つ。
「故郷へ帰れおまえにも家族がいるだろう」
男には戦わなければならない時がある。
そして守らなくてはならないものがある。
俺は決してストリートファイターになれないかもしれない。
しかし俺を支えてくれる人がいる。
俺は俺を支えてくれる人のためにファイターになる。
よか話や………
スレ一覧のこのスレを見てキン肉マンだよなと思った
7 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 22:47:05 ID:+g/SuORS0
舞台は北海道。
札幌駅前のゲーセンパロでの話。
仕事が終わり、俺はいつもの様にゲーセンに寄る。
いつもの面子がバーチャの台を囲んでいたが、1Pの台に見慣れない長髪の女性が座っていた。
アイリーン使いのその女はCPUのアイリーンとはまるで別キャラの様に、鮮やかに相手にダメージを与えている。
防御と攻撃をタイミングよく繰り出す。
俺は相手の顔を見ずに2Pの後に並ぶ。
チャレンジャーの2Pラウは負け、あっという間に画面がCPU戦に変わる。画面右上には【2連勝中】の文字が点滅している。
8 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 22:48:54 ID:+g/SuORS0
俺は百円玉を入れ、持ちキャラであるリオンのカードを差し込んだ。
強さは五分五分というところだった。
ラウンド5は途中まで俺が優勢だった。アイリーンのHPゲージが半分を切ったあたりで、俺は勝利を確信した。
しかし、アイリーンは急に攻撃的になり、コンボを2つ決められる。
お互いあと一発でも食らえばダウンといったところだ。
俺は防御をしながらジワジワとアイリーンに近付く。
刹那。
アイリーンの下パンチ。
うまくタイミングを合わせられなかったリオンは、呆気なく倒れた。
俺は溜息をつき、カードを抜きとり席を立った。
台の向こうの女と目が合う。
女は俺を見て、目をアイリーンの様に丸くして、俺を見た。
最悪だった。
大学の頃付き合っていた彼女だった。
彼女は顔を下げ、またCPU戦を始める。
すぐにチャレンジャーが入る。このゲーセンで1位2位を争う影使いだった。
女は1ラウンドを取ったものの敗れた。
カードを持って女が俺の横に立った。
「久し振りね」
9 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 22:49:56 ID:+g/SuORS0
女は俺の顔も見ずに、そう言った。
「あぁ」
「あぁ、って何?随分無愛想になっちゃったのね」
女はニヤニヤしながら俺を見る。
畜生。めちゃかわいい。
「何か飲まない?」
俺はまた「あぁ」とだけ言い、店の隅の休憩スペースに行く。一緒に歩くのは何年振りだろうか。一瞬懐かしい思いに浸るが、すぐに正気になる。馬鹿馬鹿しい。
2人だけの思い出に触れる事なく、共通の友人の話なんかしながら、俺はコーヒーを飲む。女はジュース。
そういえば俺がコーヒーを飲む様になったのはこの女と付き合ってからだった。彼女と一緒にジュースなんて恥ずかしくて、無理してコーヒーを飲んでいた。
彼女の髪が長くなった事と、俺がコーヒーを好んで飲むようになった事以外、二人は何も変わっていなかった。
「あんた、彼女いないでしょ?」
女の質問に俺は焦る。恋愛の話は勘弁して欲しかった。
「いないよ」
そっちは?の一言が俺はどうしても出て来ない。
「やっぱりなぁ」
10 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 22:50:59 ID:+g/SuORS0
「何だよ、やっぱりって?忙しくて恋愛どころじゃないんだよ」
「まだあんな戦い方してる様じゃ、彼女なんていないだろうと思った」
「はぁ?」
「リ・オ・ン」
彼女は自分の時計に目をやり、ジュースを飲んだ。そして俺の目をじっと見て言う。
「最後の最後の大事なところではいつも防御」
「あぁ」
「そんなんじゃ、彼女ができても振られちゃうんだろうなって」
俺は彼女から目をそらしてコーヒーを飲んだ。
「それより、お前何であんなバーチャ強いんだよ、前は格ゲー全然駄目だったろ?」
「また攻撃をそらして防御かしら?」
彼女はまたニヤニヤする。
「もうそういう話はやめよう、なっ?振られた女にバーチャで負けたってだけで、俺もういっぱいいっぱいなんだから」
「私は3回目に振った男が3勝目の男になったって事で妙な気分なのよ?」
俺はすぐに付き合っていた頃、彼女が言った事を思い出す。
「えっ?お前、俺が人生で2人目の彼氏だって言ってただろ?嘘だったのかよ」
彼女は目を細めて俺を見る。
「そぉいう事は覚えてんの?」
そして少しはにかんで、笑顔を見せた。
俺は何も言えなくなる。
11 :
つっちぃ:2010/09/28(火) 22:51:46 ID:+g/SuORS0
「ねぇ?もう一戦やらない?」
彼女は挑戦的な目で俺を見つめた。
「いいけど、次は本気出すぜ?」
「じゃあ、私はサブのアイリーンはやめて、本気モードの葵にしようかしら」
「望むところだよ」
俺と彼女は二人、笑いながらバーチャの台に向かって一緒に歩く。
いっそのこと、Gボタンは使わないでやろうか。そんな事考えながら、俺はニヤニヤする。
どっちが勝つかはわからないが、きっと凄くいい試合になる。動画保存しようかな、なんて考えてみる。
なにこれ、涙が止まんない
13 :
俺より強い名無しに会いにいく:2010/09/29(水) 01:09:24 ID:xGnTRJA2O
イイハナシダナー
14 :
つっちぃ:2010/09/29(水) 21:41:56 ID:yP15lbgt0
「ちょっとゲーセン寄っていい?」
彼は私にそう尋ねる。
その質問に嫌だと答えたことはない。嫌だと言ってもどうせ無意味なんだろうと思う。私は「うん」と答えて、彼と一緒にゲーセンに入る。
格ゲーやるのに彼女ゲーセンに連れてこないでよ、と一度でいいから言ってみたい。でも私の長い買い物に嫌な顔一つせずに付き合ってくれる彼にそんなこと言えやしない。
彼はいつもの様に財布から妙なカードを取り出し、機械に差し込む。
バーチャファイター5と名がつくそのゲームは、折角のデ−トの時間を大きく削る。
現実に存在するかの様なリアルな人間達が、現実にはなかなかありえない様な動きをしながら画面の中で戦うゲーム。
それだけ。
でっかい剣とか拳銃とかビーム出せる人は出て来ない。彼に言わせれば、そういうこと言う奴は何もわかってないらしい。
くねくね動くちっこい爺さんを躊躇なく蹴り飛ばす外人の女。高齢化の時代によく問題にならないものだ。
私は後ろから彼が動かしてるサラとかいう女を見る。
私なんかよりずっと美人で、背が高くて、細くて、手足も長くて、胸だっておっきくて、どう考えても100円じゃ安過ぎる。
たった100円で彼の目をキラキラ輝かせて、夢中にさせて、100円ずつ貢がせる女。
正直うらやましい。
私は無料なのに。たった100円の差でこんなにも女は違うものか。
爺さんが負けると、次は中腰の美青年との戦い。カマキリみたいな変な構え方。足と腰の負担を考えただけでウズウズする。
その美青年をも躊躇なく蹴り飛ばすサラ。あんな中腰だからキックが届かないのは誰が見たって明らかなのに、美青年は背筋を伸ばさない。
サラは見事に美青年に勝利して、いつもの決め台詞を吐く。
Know your limits next time.
私に言ってるみたいでむかつく。
15 :
つっちぃ:2010/09/29(水) 21:43:10 ID:yP15lbgt0
どうやら彼は昇段したらしい。
彼は振り返り私に笑顔をみせる。
っていうか段とか級とか、どの数字を持ってるのが強いのかいまだにわからない。
ニューチャレンジャーの文字が画面いっぱいに広がって、見ず知らずのファイター達にまたデ−トの時間を削られる。
今度は仮面を被った男と戦い始める。この男は何だか背が低く見える。
私は彼から離れて自動販売機でジュースとコーラを買いにいく。
画面の中の女に100円貢ぐよりも、20円足してジュースを飲むの方がどう考えてもお徳に感じてしまうのは私だけなんだろうか。
戻ってくるとサラは忍者と戦っている。忍者は人前に出て来ちゃ駄目じゃない?サラは忍者にありえない位高く投げられ、落下中に殴られて倒れた。
「はい、昇段祝い」
コーラを渡すと彼は照れくさそうにお礼を言った。
結局彼は更にサラに500円を貢いだ(駄洒落?)。
最後に彼とプリクラを撮って帰る。始めの頃は嫌がったけど最近はそうでもない。私を放ったらかしにしていて悪いと思ってるから?
少し不機嫌な私に彼は気付きやしない。
駅まで送ってもらって、私は帰路につく。
煙草臭いゲーセン臭が染み込んだ服を洗濯機に放り込む。煙草の匂いは大嫌いだったのに。彼と一緒の空間にいたいが為に最近はもう完全に慣れてしまった。
熱いシャワーを浴びる。
パジャマ姿でまったりしてたけど、ふと思い出して私は髪を縛りポニーテールにしてみる。
スクッと立上がり、電気の紐を揺らす。
一本足で立って、もう片方の足で宙を舞う紐の先の玉を蹴ろうとする。
でも脚は上がらす膝から先もサラの様に速くは動かない。
私はふて腐れてベットに飛び込む。
手帳からさっき撮ったばかりのプリクラを取り出してボッーと眺める。そこには笑顔いっぱいの2人がいる。2人だけの世界。
ここで私は今日初めてサラに勝った気分になる。
私もマーシャルなんとかを習ってみようかなぁと思うが、それこそ無駄な時間。実際に存在するかもわからない。
そんなんこと考えながら一人クスッと笑ってみる。
私には私の戦い方がきっとあるハズ。サラよりいい女になってやる。
I'm no pushover,sweetie.
, -=ミ;彡⌒`丶、
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lと', `"" ,l l `"" ,リぅ!
ヽ-ヘ ,ィ''。_。ヽ、 /_ン'
', / _lj_ } ,'
l、 ^' ='= '^ /!
l ヽ. `""´ ノ l、
_, ィ{ `' ― '´ }ヽ、
17 :
俺より強い名無しに会いにいく:2010/10/02(土) 19:31:08 ID:rnOzcBtI0
ほんまに真のファイターや!!!!
イイハナシダナー
感動した
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ソヽ ソヽ ソヽ ソヽ
.ゞヾ、 .ゞヾ、 .ゞヾ、 .ゞヾ、
.iヘ ヘ .iヘ ヘ .iヘ ヘ .iヘ ヘ
,.-、 y ,ソ.i、 ,.-、 y ,ソ.i、 ,.-、 y ,ソ.i、 ,.-、 y ,ソ.i、
.イ_、 i.ゞ,.ノノi| .イ_、 i.ゞ,.ノノi| .イ_、 i.ゞ,.ノノi| .イ_、 i.ゞ,.ノノi|
スノ ,-、 .、) スノ ,-、 .、) スノ ,-、 .、) スノ ,-、 .、)
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ゞイ ト、 /ノ ノ ゞイ ト、 /ノ ノ ゞイ ト、 /ノ ノ ゞイ ト、 /ノ ノ
ト──‐i ト──‐i ト──‐i ト──‐i
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.ヒテ .ヒテ .ヒテ .ヒテ
.Fム .Fム .Fム .Fム
_! .シ _! .シ _! .シ _! .シ
ーイ ーイ ーイ ーイ
(´●ω・) ハハッ
(´●ω・)アパカッ
(´●ω・) ハハッ