【いぬまっこ】菊地真 61やーりぃ【ねこまっこ】

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150名無したんはエロカワイイ
3 数日後

どうやら僕はデートをしてしまったらしい。“女どうし”で。
そんなわけで性別が疑われている。
僕がではない。その相手、真さんがだ。
たぶんタチの悪い冗談なんだろうけど、エスカレートすれば僕にまで危険がおよぶ。
真さんは正真正銘の女の子だけど、僕は性別を偽って活動している。
職業オカマとでもいうのか。プロカマ?風呂釜みたいだな。
そもそもオカマとして活動しているわけじゃないから、職業女?
まあいい。
こういうのはスルーに限る。
もし記者会見なんて開いたりしたら注目が集まって…あれ?
これで一気に有名に…いかん、いかん。

「記者会見を開くんだ!」
って、おい!

「どう言うんですか。“私たち、レズビアンなんです”とでも?」
「ボクにそっちの趣味はないよ。ただの友達だと言えばいいだろ?」
真さんは僕が男だと知っている。
だけどこの間言っていたように男として見てくれているんだろうか。

「だけど、わざわざ記者会見なんて不自然だし…」
僕には危険を冒してまで名を売るような度胸はない。

「男は度胸、だろ?」
そうだ。
ここで退いたら真さんに認めてもらえない。
堂々と会見に臨んで、真さんに僕の男らしさを示さないと。

「わかりましたよ。やりましょう!」
「だいたい、女装した男とデートだなんて。勘弁してほしいよ」
さっきと言ってることが違うような…
この間は男らしくなくても男だって、言ってくれたじゃないか!

僕は腹立ちまぎれに、気持ちは抑えて言う。
「…ですよね。デートするなら僕のことを男として見てくれる女の子がいいです」
「あ、ボクと同じだね。皆がボクを男扱いしても…」
「僕も真さんのこと、女の子だと思ってますよ」
言ってやった。
真さんの女の子らしいところを知っているのはその人だけじゃないんだ。
「嬉しいなあ。このごろ、やっと男の人のファンも増えてきたんだ」
違う。僕の気持ちはそんなもんじゃない。
ただわかっているだけじゃない。
あのとき確かに僕は、いや、今だって、ええい、どう言えばいいんだ。
テレビやステージで一方的に知っているだけのファンとは違って、
素顔の真さんを…その人と較べたら僕は全然知らないじゃないか!

「いいなあ、僕も女の子から認められたいです」
151名無したんはエロカワイイ:2010/01/09(土) 17:00:34 ID:xHUL39oeP
4 数週間後

765プロの敏腕プロデューサーが事務所のアイドルと結婚したそうだ。
以前は真さんも担当していたという。
もっとも、律子姉ちゃんの話によると事務所じゅうのアイドルたちに手をつけていたらしいが。
真さんは少し寂しそうだけど、僕にとってはチャンスかもしれない。

「男ってさ、髪が長くてムネが大きいオトナの女の人がいいの?」
髪の長さも、胸の大きさも、歳も関係ない。
僕が好きな子は髪も長くなくて胸もそれほどなくて歳も近い。
でも、笑うととってもかわいくて、賢くはなくてもいろんなことがわかってる。

「外見や歳はそれほど関係ありませんよ」
それよりも…と言おうとしてやめた。
一人の女性として、なんて言うと真さんに魅力が足りなかったみたいな言い方になる。

「真さんを好きになってくれる男の人もいるはずですし」
「いたとしても、ボクをその気にさせてくれないとね」
「そのうち、現れますって」
「ただ待っているだけじゃいけないよ」
まったくその通りだ。
僕はもう好きになっている。
こっちを向いてくれるのを待っていても仕方がない。
僕が気をひいて振り向かせるしかないんだ。

「今度、暇なときにでも、いい人探しに行きましょ?」
「またゴシップにされるかもよ?」
「大丈夫です。今度は男の恰好で歩きますから」
152名無したんはエロカワイイ:2010/01/09(土) 17:02:01 ID:xHUL39oeP
5 数日後、休日

真さんに模様替えを手伝ってくれと頼まれた。
男手が必要、ということなんだろうか。
ん。男として、必要とされている?

それなら行くしかない。


そんなわけでいま、僕は真さんの部屋にいる。
家族は出かけているそうで、家の中には二人きりだ。

「なんだかものすごく、女の子の部屋って感じですね…」
真さんの部屋は少女マンガや人形など、予想外なほどに少女趣味にあふれている。

「そりゃあ、女の子だよ。もしかして涼、女の子の部屋に来るのは初めて?」
「律子姉ちゃんのところにはたまに行きますけど。こんなにかわいくは…」
「そこなんだけどさ、」

「もうちょっと大人っぽくしたいんだ。ボクももう、結婚できる歳だからね」
そうだ。
女の人は16歳で結婚できるんだ。
いままで僕は結婚なんて考えたこともなかった。
真さんの好きだった人は結婚してしまった。
それで意識しているのか。

「だから少女趣味はもう終わり。これからは律子みたいにバリバリ働くイメージでいこうかな」
「バリバリ、ですか…」
「カッコいいのも悪くはないだろ?そうだ、髪、伸ばしてみようかな」
「肩まで伸びたら結婚するんですか」
「古いなあ。でもそれ、面白いね」
153名無したんはエロカワイイ:2010/01/09(土) 17:02:41 ID:xHUL39oeP
真さんの部屋はひととおり片付いた。
なんということでしょう…とまでは言わないが、少女を思わすものは目につかない。
少女マンガやティーンズ文庫の類はほんの何作かを残して段ボールに詰めた。
近々、ブックオフに出張買取に来てもらう。
オークションも提案してみたが面倒だからという。
残したものはクローゼットの中に仕舞った。
かわいらしい部屋からかわいらしいものを取り去ってみると、かえって“女の部屋”になった。
整然とした部屋に二人きり。
これじゃまるでベタなB級ラブコメみたいなシチュエーションではないか。

「真さんは平気なんですか?男を部屋に入れて」
「男?ああ、涼なら全然。マンガならいきなりキスとかするんだけど」
で、そのままベッドになだれこんで…

「ま、涼にそんなことできないだろ?へへっ」
頭にきた。
少女マンガに憧れた彼女なら少しぐらい強引でもかまわないだろう。
その口を僕の口で塞いだ。

「ちょっと、涼!なにするんだよ!」
真さんが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で言う。
「こういうの、好きなんでしょう?」
「それはもう終わりだって、言ったろ!それに…」
「それに、なんですか」
「こんなことされたら…どきどきするじゃないか。ほら。こんなに」
真さんは僕の手を掴むと、自分の胸に運んだ。
心臓というのは思ったよりも真ん中にある。
少しずらすと、その、胸。バスト。

「どう?これでも少しは大きくなってるんだよ?」
決して大きくはないが、作りものではない本物の女の子の身体。

「マンガみたいですね」
「自分から仕掛けてきてなに言ってんだよ」

ついさっき葬ったはずの少女マンガ、それもB級ラブコメの世界。
人はそう簡単には変わらない。
何か別のものに置き換えられるだけだ。
シンデレラがヘップバーンに、
仮面ライダーがローリング・ストーンズに、
マンガのプリンスあるいはプリンセスが恋人に。