1 初対面
この人になら。
この人には本当のことを話してもいい。
きっと、強い味方になってくれる。
いまのところ僕が性別を偽ってアイドル活動をしていることを知っているのは
従姉の律子姉ちゃん、岡本まなみさん、石川社長の3人だけだ。
ほかに業界の人は誰も、同じ事務所の子も知らない。
だけどいつピンチがやってくるかわからない。
それなら本当のことをわかっている味方は多いほうがいい。
「実は私、男なんです」
言ってしまった。もうあとには退けない。
「え?それはさっきも聞いたよ。あの律子のいとこだなんてねえ」
「いとこで、おとこなんです」
「おとこ?」
真さんの顔色がにわかに曇りだした。
ああ、そんな、変質者を見るような目で見ないで。
「…君はオカマか」
「違うんです、僕はいたって正常な正真正銘の男で」
「じゃあどうして女装してアイドルなんてやってるんだよ」
「僕、イケメンになりたくて」
「イケメンになりたくて女装?」
僕は赫々然々、すべてを話した。
「なるほどねえ…って、全然納得いかないよ!」
「僕だって納得はしてません!ただ、社長たちの口車に乗せられて…」
自分のやっていることがまったく矛盾していることはわかっている。
それなのに…
「とにかく、ボクは男らしくないのは嫌いだ。ビシビシ鍛えてあげよう」
2 数分後
「まずはその、“僕”っていうの、やめたらどうかな」
「え、“俺”って言ったほうがいいですか」
「うん。だってほら、ボクだって女の子だけど“ボク”って別に変じゃないだろ?」
それは真さんだからおかしくないだけで…とは言えなかった。
「でも、アイドルが“俺”じゃあまずいですよね」
「確かに、そうだね。でもボクの前では“俺”にしてもらいたいな。男なんだから」
男なんだから。
男のくせに。
男らしく。
男なら…僕の苦手な言葉だ。
だいたい、自分だって人のこと言えないじゃないか。
ちょっとからかってみよう。
「それなら僕…じゃなくて俺からも真さんにお願いしたいんですが」
「なんだよ。それにしても似合わないなぁ」
僕だって、まわりの男の子みたいに“俺”って言いたいけど、
たまにそう言うといつも友達から「似合わない」って言われるんだ。
「女らしく、“わたし”って言ってくれますか?」
「わわ、わ、わた、わた…」
真さんは真っ赤になって俯いてしまった。
「そんな、オカマみたいなことが言えるかー!」
あ、怒った。でもなんだかかわいいなあ。
「ボクはこのままでいいんだよ。星座だって乙女座だし、それに…」
「えっ、真さんもですか。僕も乙女座なんですよ!」
しまった。
僕が言うと意味が反対だ。
自分でもちょっと気にしていたのに。
「どうりでねえ…って、何を言おうとしたんだっけ」
「このままでいい、って」
「そう、そう。こんなボクを女の子として見てくれている人がいるんだから」
その人のことを語る真さんはやけに楽しげで、その表情はまぎれもなく女の子だった。
なんだろう、胸がどきどきする。
こんな気持ちは初めてだ。
「ごめん。涼も男だよね。どんなに女の子女の子していても」
そうだ、男らしくなくても僕は男なんだ。