【移植決定】トリガーハート エグゼリカ【ニヨニヨ】

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「は?……救援任務、ですか?」

超惑星防衛組織・チルダの司令官室。
突然、しかも司令官直々に呼び出され、エグゼクマは困惑していた。

いや、見た目では彼の表情はさっぱりわからない。
トリガーハートのサポート目的として、徹底的にコストダウンされた素体を持つ彼は、あまり複雑な表情を作れない。
傍から見ると「ヨxE」と書かれているような顔。その額をつたうジト汗が、かろうじて彼の内心を表現していた。

「ニ時間前、通信班がヴァーミス掃討作戦に出たフェインティアからの救難信号を受信した」
「フェイさんから!?」
クマの表情が引き締まる。……いや、引き締まったようである。
「フェインティアは、ヴァーミス本隊の中心部にある施設に拉致されているようだ。
 幸いにも侵食は擬似人格によってブロックされているが……このままでは時間の問題だろう」
「そ、それは大変です!直ちに救援のトリガーハートを……」

司令官は、難しい顔をして言った。
「それがだな……他のトリガーハートは全て出払っているんだ」
「ええっ!?」
「他の機体は全て、別の作戦を遂行中だ」
「そ、そんな!!それじゃフェイさんは……!」
短い手足をジタバタとさせるクマ。

「……そこで、君の力が借りたいのだ」
「は?わたしのですか?」
クマの顔面に並んだ「ヨxE」が、「?x?」になった。
……一時間後。クマはトリガーハートの出撃準備室にいた。

「困りました……わたしは戦闘用じゃないんですけど……でも、今フェイさんを助けに行けるのはわたしだけですし……」
ひたすら煩悶するクマ。まるっきり漫画のように、細かい汗が飛び散っている。
『クマ、準備が出来たぞ。ハンガーまで来てくれ』
スピーカーから整備班長の声がした。

ハンガーに向かったクマは、自分の目を疑った。
整備班が突貫で準備した、クマ用の機動ユニット。……しかし、それは。

「……ぼ、ボート?」

公園の池に浮かんでいるような、屋根の無い木製のレジャーボート。
その中には、漫画に出てくるような黒く丸い爆弾が山積みになっている。

「……あの……」
「まあ、見た目は気にするな」
「いや、しかしですね……」
青ざめたクマの顔に、何本かの縦線が入る。

「班長、カタパルト射出準備OKです」
整備班の一人が、そう班長に告げた。
「しゃ、しゃしゅちゅ!?」
すでに舌が回っていないエグゼクマ。
「ああ。フェインティアの場所はわかっている。無駄な戦闘は避け、一直線にフェイのところを目指し……」
小舟から繋がった、金属製の巨大な釣り針を持ち上げて見せる。

「これで引っ掛けて回収するんだ」

「……あのですね……」
クマが、げんなりとした顔をした。……とはいっても、その表情は相変わらず「ヨxE」なのだが。
「……ほ、本当に大丈夫なんでしょうね!?」
カタパルトにセットアップされた小舟の上。完全に裏返った声で、クマが訴える。
「心配するな!その小舟は防御フィールドでシールドされている、大船に乗ったつもりで行ってこい!」
「……どうみても小舟なんですけど……」
「よーし、射出カウントダウン!」
「いや、あの、その、わたしやっぱり」

……だが、カウントダウンはなかった。

「ゼロ!!」
「えぇええええええええっ!?!?」
強烈な轟音と衝撃を伴って、リニアカタパルトは、クマと小舟を虚空へと容赦なく押し出した。


漆黒の宇宙空間を、ピンク色の防御フィールドに包まれた小舟が突き進む。
「あぁぁあああああああぁぁああああ!!!」
目を見開いて……いや、相変わらず見た目は変わらないのだが気持ち的に……絶叫するクマ。
その進路に、ヴァーミスの先遣隊が立ちはだかる。目の前を埋め尽くす、銃弾の嵐。

「ひぃぃ!ぶつかr」
言い終わる暇すら与えず、小舟はヴァーミスの大型艦に突っ込み……大穴を開けて、反対側へ飛びぬけた。
「ンノォォォォォォォォォ!!!」」
なぜか英語で悲鳴を上げるクマを乗せ、小舟はヴァーミスの要塞へ突入した。

山のように現れる、大小取り混ぜたヴァーミスの軍団。
それらをものともせず、小舟は一直線に突っ切っていく

切り裂く。打ち砕く。ぶち抜く。突き抜ける。

「もーーいやーー!!こんなせーかつ!!!」
小舟はめちゃくちゃに翻弄されながらも、ただ真っ直ぐに、目的地を目指して突き進む。
爆音、轟音、また爆音。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
クマの声にならない叫び。もう何枚の隔壁をぶち抜いたかわからない。

だしぬけに、目の前の空間が開けた。
その空間の中央には……ヴァーミス・エンダ。侵攻部隊の司令塔を務める、大型の機動兵器だった。
鏃のようなレーザーが、円を描きながらゆっくりと迫る。
「ひいい!このこのこのこのこのこのっ!!」
掴んだそばから、爆弾を投げまくる。
たちまち周囲を多い尽くす爆風と衝撃。もう何がなんだか。

不意に、小舟の速度が僅かに落ちた。
後部に取り付けられたウィンチのワイヤーが、僅かに引き伸ばされて止まる。
『ふぇいんてぃあ回収成功・目的達成、急速離脱シマス』
小舟に積まれたサポートAIが告げる。……しかしクマには、もはやそんなものが積んであったのかと思う余裕すらない。

ポンポンポンポン……
焼玉エンジンのような間の抜けた排気音と共に、小舟がありえない急加速を開始した。
「あwせdrftgyふじこlp;@」
白目を剥かんばかりのクマを乗せた小舟は、ドッキングポートの隔壁をぶち破り、再び宇宙空間へと飛び出した。
突然、静寂があたりを支配した。

「…………終わっ……たんですかね?」
短い両腕で頭を抱え、しゃがみ込んだままのクマ。……恐る恐る顔を上げる。

漆黒の宇宙空間。クマを乗せた小舟は、その推力を失い漂っている。

「……あ!フェイさん!フェイさんは!?」
「ちょっと!クマ!さっさと引き上げなさいよっ!!」
「フェイさん!?」
小舟から身を乗り出すクマ。

ウインチから伸びた、ワイヤーの先にある釣り針に、フェインティアの姿があった。
釣り針は、彼女のボディースーツの……パンツのあたりに引っかかっていた。
半分脱げかかったパンツ。フェイの形の良い、白いお尻が揺れている。
「あ、あわうぇわわわわわ」
あわててウインチを巻き上げる。……フェイの腕を掴み、必死で小舟へと引っ張りあげる。

「……クマっ!」
「ひぃっ!ごめんなさいごめんなさい!!」
またも両腕で頭を抱え、丸くなりながら、クマは鉄拳制裁を覚悟した。

……しかし、暴力の嵐は吹き荒れなかった。
代わりにクマが感じたのは、ふわりと抱きとめられるような感覚。
そろりと顔を上げた、クマの目に飛び込んできたものは……

目の前に迫った、フェインティアの顔。
八の字にひそめた眉。僅かに歪んだ、半開きの口元。
釣り目がちの大きな瞳。その目尻からは……

……ぼろぼろと、大粒の涙。
「……うわぁあああああん!怖かった!怖かったんだからねっ!!!!」
長年身近にいたクマでさえ初めて見る、フェインティアの号泣。
彼女は相棒を……エグゼクマを抱きしめて、ただ泣きじゃくっている。
クマは腕を伸ばし、フェイの背中……彼の短い腕では、いいところ脇腹までだが……へと回す。

漆黒の静寂の中、フェイの安堵の泣き声だけが響いていた……


数日後。クマは久しぶりに、フェイと基地内の廊下を歩いていた。
何日もにわたる侵食検査。その結果「問題なし」と診断され、ようやく解放されたフェインティア。
つい少し前までは、なんでもない『いつもの日常』だと思っていた光景。
しかしそれは、いくつもの幸運や奇跡の上に成り立っているものだったんですね……と、クマは感じていた。

「さ、クマ、部屋に帰ろ。お腹すいちゃったわ、私」
「そうですね。それじゃ久しぶりにハヤシライスでも」
作りましょうか、と言いかけたクマの口を、フェイの指が押さえた。

「?」
「今日は、私が作ったげるわ」
にっこりと微笑んで、フェイが言った。



味音痴のフェイが作ったハヤシライスは、それはもう壊滅的な味であった。
「でも、これもまた『平和の味』なんですよね……うぇっぷ」


- Fin. -
518あとがき:2007/03/03(土) 21:01:52 ID:fOAAfETp
以上です。いきなりSSスマソ。


エグゼクマとは、アルカディアの連載コラム「トリガーハート・エクステンション」に出てくるクマ型のSDキャラ。フェイのお付きらしい。
ちなみに、クマの声のイメージは小山茉美(as メタルギアmkII@スナッチャー)。