.hack//G.U.の蒼炎のカイトはギョロカワイイ【四蒼騎士】

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639FACT
>>519

「・・・・・・。」
 カイトは沈黙したまま、その場に凍りついてしまった。
 頭が回転し、決断を下す為に審議を繰り返している。
 協力か拒否か・・・審議の答えは大きく揺らぎ続けた。
「深く考える必要はない。関係のないことに首を突っ込むべきじゃない」ともう一人の自分がささやいているような気分だった。
 だが、選択すべき答えはもう決まっていた。
 己のために罪の烙印を背負おうというのはあまりにもエゴなことなんだろう。
 だけど、今のカイトにとってこれ以外の選択は最善とは思えなかった。

 沈黙するカイトを見かねたのか、ため息混じりにビトが口を開いた。
「まぁ、いきなり急な選択を突きつけられて答えてもらえるなんて思っちゃいませんでしたよ。とりあえず、少しの間猶予期間を差し上げますそれ「協力します」・・・・」
 いきなりの返答にビトは面食らった。
 だが、すぐに落ち着きを取り戻し、もう一度尋ねた。
「今回の一件には、アナタの身内、知り合いなどが被害にあったという報告はありません。これはアナタにとってなんの関係もない事なんですよ?それでも・・・」
 そこでビトは話すのを止めた。
 カイトの目は揺らぎの色はなく、驚くほど真っ直ぐとしていた。
「なら、アナタは目の前に困っている人がいても自分と無関係なら助けないんですか?」
 随分と強めの口調でカイトはビトに尋ねた。
「・・・・・・。」
 カイトの問いにビトは答える事はなく、黙ってカイトを見つめていた。


「フフフ、勝負アリ・・・といったところかしらね?ビト。」
 この空気を断ち切ったのは、スピーカーから流れるヘルバの声だった。
 ヘルバの声を聞いて、ビトはため息をつき、肩を落とした。
「まったく・・・自分の利害関係無しに動く人間程扱いづらいものはない。・・・私の苦手なタイプですよ。」
「それにしても、本当に変わらないわね、アナタも。」
 二人ともそんな事を言っているが、カイト本人はもう苦笑いするしかなかった。
「でも、本当に構わないの?今回の一件は本当にアナタとは無関係・・・コチラも身の保障はできないわよ。」
「それは承知してます。でも、ここまで来て流石にNOとは言えないんですよボクは。」
 カイトの言葉に、ヘルバが笑っているのがスピーカー音から察する事ができる。
「まさに正義感の塊、子供が憧れるようなヒーロね。まぁ、だからこそ『彼女』はアナタに腕輪を託したのかもしれない。」
「・・・・・・。」
 一瞬、胸の奥に何かが触れたような気がした。
 胸の奥に何かが引っかかるんじゃなく、撫でるように触れて、そのまま離れていくような・・・そんな感じが

「それじゃ、早速だけどアナタにはこの子を起こしてもらおうかしら。」
 パソコンの画面の『カイト』を映したウィンドウが拡大された。
 カイトも無言で頷く。
「それでは、この端末とM2Dを装着してください。あぁ、その前に・・・」
 そう言ってビトはカイトの目の前に、M2Dと端末。
 そして、どこから出てきたのか、洗面器を置いた。
「起動時にもし吐き気などを感じたらこの洗面器にお願いしますよ。流石に仕事場を汚物で汚されるのは御免ですから。」
 これにはカイトも笑って見せるしかない。
 一瞬、脳裏に今日食べた物などが浮かんだがすぐに頭から追い出した。
 人間、胃の中に入れば皆同じ、意から出てくる物も皆同じ・・・考えただけむしろ逆効果だ。

 カイトはM2Dを装着し、携帯端末を握った。
 まだ何も映らない。電源が入っていないのだ。
「それじゃ、覚悟はいい?」
「・・・何時でも。」
 ゴクリ・・・生唾を飲み込んだ音が妙にリアルに聞こえた。
「それでは・・・」
 ビトが忙しくキーを叩く音が聞こえた
640FACT:2006/12/30(土) 20:19:57 ID:e7b6BThA
 次の瞬間、目の前が光で満たされた。
 あまりにも眩く、その光が白なのかどんな色香さえ認識できないほど・・・
 その眩しさに目を閉じていた時間も、短い物だった。
 カイトは閉じた両目をゆっくりと開いた。
 ゆっくりとその二つの目に光を認識し、辺りを映し出した。

 なにもない・・・
 見回した景色は全てが純粋な白に包まれ、それが無を表現していた。
 地面に立っているという感覚はあるが、どこまでが地面で、どこまでが空間なのかそれすらわからなかった。
『起動成功・・・やっとお目覚めってところかしら。気分はどう?』
 いきなり、カイトの耳がヘルバの声をとらえた。
 辺りを見回すが、それらしき姿はない。
 ゆっくり深呼吸をする・・・吸って・・・吐いて・・・。そして返答をすべく口を開く。
『エェ、別にコレといって何も・・・』
 カイト自身はそう言ったつもりだった・・・だが
「ウゥ・・・ァゥァ・・・アァァ・・・」
 何故か、今操作している『カイト』が発したのは、かすれたうめき声だった。
『え?』
 驚いて喉に手を当てる。
 いくら声を出しても、『カイト』は呻くばかりでなんの言葉も紡いではくれなかった。

「やはり・・・・ですか。」
「どういうことなんですか?これって・・・」
 M2Dを外してカイトは尋ねた。
「言ったでしょう。『完全に修復できなかった』って。」
「何故かこの『カイト』はボイスチャットはおろか、普通のチャット機能が働かないんです。」
 それを聞いて、カイトはすぐさま端末を操作して文字をタイプしようとした。
 だが、画面には文字らしき物は表示されず。何の表示さえしなかった。
「私達はアナタの声を直接聞いてるからわかるけど、外部の人間からはアナタが何を言っても。それはただのうめき声にしかならない。」

「それと・・・もう気づいているかしら。右腕のこと。」
 ヘルバに言われ、カイトは慌てて再びM2Dを装着した。
 言われたとおり、右腕を見てみる・・・
 そこにあるのは『カイト』の茶色い手袋・・・その上に何かがあった。
 ソレは、目で見るというより、感覚がその存在を教えてくれた。
「コレって・・・まさか。」
「そのまさかよ。」
 恐る恐るカイトは、右腕をもう片方の手で触った。
ギュワァン・・・
 一瞬、弱い光と共に腕輪の姿が見えた。
 驚きのあまり、心臓が高鳴る。
「修復作業の最中に気がついたのだけれど・・・まさか、まだソレまで残っているとは思わなかったわ。」
「『薄明の腕輪』・・・・」
 もう一度カイトは腕輪に触れた。
 正確には、腕輪があるであろう位置に触れたというべきだが。
「かなり劣化していたようだから、当時のアナタの使用していた腕輪と違って不安定な物になって。今となってはその腕輪が『黄昏』なのか『薄明』なのか・・・」
 もはや、ヘルバの声はカイトには届いていなかった。
 その夕焼けよりも、紅く輝く腕輪を、カイトはずっと見つめ続けていた。
641FACT:2006/12/30(土) 20:20:36 ID:e7b6BThA
「今回は、ご苦労様でした。」
 そう言ってビトは軽く頭を下げた。
「もう、いいんですか?」
 『カイト』を操作してからまだ数分、ビトはカイトを開放した。
 カイト本人から言わせてもらえば、今までの引きずれようにしては随分とあっけないものだった。
「ええ、必要なときはコチラから連絡します。後はこちら側で処理をしておくので今日はコレくらいで結構です。」
 そういわれた後・・・気がつけばカイトは待ち合い場所だった公園にいた。
 ・・・なんだろうか、この胸に吹く孤独感は・・・・

ビュゥゥゥウ・・・
 冷たい風がカイトの髪をなびかせた。
「(・・・なんか、寒いよ・・・)」
 不意にカイトがポケットから取り出したのは、携帯電話だった。

「あ、もしもし?・・・うん。・・・いや、特に理由はないんだけど・・・」
 ゆっくりと、自分の家に戻りながら、カイトは慣れ親しんだ彼女へと電話をかけていた。


「遂に・・・目覚めたわね。あの子。」
 ワゴン車の中、ビトはヘルバからの電話を受けていた。
「えぇ、実際。ここまで順調にことが運ぶとは思っても見ませんでした。」
「それは同感ね。なんかしらの異常が発生すると踏んでいたのだけれど・・・今のところ、そんな物は感じないわ。」
「で、これからどうします?」
「予定通りに事を勧めましょう。グズグズして増えるのは被害者と問題だけよ。今は時間がおしいわ。」
「了解しました。」

「さて、賽は投げられた。我々がたどり着くのは『真実』か・・・それとも刑務所か・・・」
 車を走らせながら、ビトはそんな冗談を口走った。
「衰退した世界。残された英雄・・・全ては神の御意思なのでしょうか・・・」

 英雄の亡骸は眠らない

 ただ真実を求め 歪みを正し 剣を振るう

 例えその目が視力を失っても その身がが朽ち果てようとも 

 彼は振るうだろう 追求と断罪の剣を 誰かのために


第一章・・・完