>>519 「・・・・・・。」
カイトは沈黙したまま、その場に凍りついてしまった。
頭が回転し、決断を下す為に審議を繰り返している。
協力か拒否か・・・審議の答えは大きく揺らぎ続けた。
「深く考える必要はない。関係のないことに首を突っ込むべきじゃない」ともう一人の自分がささやいているような気分だった。
だが、選択すべき答えはもう決まっていた。
己のために罪の烙印を背負おうというのはあまりにもエゴなことなんだろう。
だけど、今のカイトにとってこれ以外の選択は最善とは思えなかった。
沈黙するカイトを見かねたのか、ため息混じりにビトが口を開いた。
「まぁ、いきなり急な選択を突きつけられて答えてもらえるなんて思っちゃいませんでしたよ。とりあえず、少しの間猶予期間を差し上げますそれ「協力します」・・・・」
いきなりの返答にビトは面食らった。
だが、すぐに落ち着きを取り戻し、もう一度尋ねた。
「今回の一件には、アナタの身内、知り合いなどが被害にあったという報告はありません。これはアナタにとってなんの関係もない事なんですよ?それでも・・・」
そこでビトは話すのを止めた。
カイトの目は揺らぎの色はなく、驚くほど真っ直ぐとしていた。
「なら、アナタは目の前に困っている人がいても自分と無関係なら助けないんですか?」
随分と強めの口調でカイトはビトに尋ねた。
「・・・・・・。」
カイトの問いにビトは答える事はなく、黙ってカイトを見つめていた。
「フフフ、勝負アリ・・・といったところかしらね?ビト。」
この空気を断ち切ったのは、スピーカーから流れるヘルバの声だった。
ヘルバの声を聞いて、ビトはため息をつき、肩を落とした。
「まったく・・・自分の利害関係無しに動く人間程扱いづらいものはない。・・・私の苦手なタイプですよ。」
「それにしても、本当に変わらないわね、アナタも。」
二人ともそんな事を言っているが、カイト本人はもう苦笑いするしかなかった。
「でも、本当に構わないの?今回の一件は本当にアナタとは無関係・・・コチラも身の保障はできないわよ。」
「それは承知してます。でも、ここまで来て流石にNOとは言えないんですよボクは。」
カイトの言葉に、ヘルバが笑っているのがスピーカー音から察する事ができる。
「まさに正義感の塊、子供が憧れるようなヒーロね。まぁ、だからこそ『彼女』はアナタに腕輪を託したのかもしれない。」
「・・・・・・。」
一瞬、胸の奥に何かが触れたような気がした。
胸の奥に何かが引っかかるんじゃなく、撫でるように触れて、そのまま離れていくような・・・そんな感じが
「それじゃ、早速だけどアナタにはこの子を起こしてもらおうかしら。」
パソコンの画面の『カイト』を映したウィンドウが拡大された。
カイトも無言で頷く。
「それでは、この端末とM2Dを装着してください。あぁ、その前に・・・」
そう言ってビトはカイトの目の前に、M2Dと端末。
そして、どこから出てきたのか、洗面器を置いた。
「起動時にもし吐き気などを感じたらこの洗面器にお願いしますよ。流石に仕事場を汚物で汚されるのは御免ですから。」
これにはカイトも笑って見せるしかない。
一瞬、脳裏に今日食べた物などが浮かんだがすぐに頭から追い出した。
人間、胃の中に入れば皆同じ、意から出てくる物も皆同じ・・・考えただけむしろ逆効果だ。
カイトはM2Dを装着し、携帯端末を握った。
まだ何も映らない。電源が入っていないのだ。
「それじゃ、覚悟はいい?」
「・・・何時でも。」
ゴクリ・・・生唾を飲み込んだ音が妙にリアルに聞こえた。
「それでは・・・」
ビトが忙しくキーを叩く音が聞こえた