TOAのリグレットたんはミニスカエロカワイイ

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了解、つたないですがいきます。.txtで確認したら17kbあったから
かなり長くなるけど…。
433428:2006/01/05(木) 19:51:34 ID:Cmas0Fu1
 朝食当番のため食堂で皿を出していると、突然普段とは違う真っ黒い服を着た伝令兵が入ってきた。黒は人の死を象徴する色。食堂中が騒然とした。
 伝令は私たちの驚きなど全く気にせず、まっすぐ私の方に近づいて来る。私は無意識に後ずさりしていた。
「……ジゼル・オスロー殿ですね?」
 伝令は心の篭らない声で確認した。まさか…。
「はい、何か?」
「お悔やみ申し上げます」
 平坦な声色のままそれだけ言うと、丁寧に閉じられた封筒を私に手渡して出ていった。周りの他の当番たちがじろじろとこちらを見ている。両親は早

くに死んで、もういない。残る肉親は戦争に出ている弟だけ……何かの間違いであってくれればいい、私はそう願いながら勇気を出して封を切った。数

枚の紙切れが几帳面に折り畳まれていた。

『唱師マルセル・オスロー 神託の盾騎士団主席総長特別選抜隊所属 ケセドニア北部戦にてマルクト帝国軍第三師団の襲撃を受け死亡』

 一枚目にはただ事務的にそれだけが書いてあった。急に頭が真っ白になった。錯乱した状態で他の紙も見てみる。詠師からの追悼の言葉、遺族手当支

給手続の案内、戦死による名誉特進の通知…私は封筒を取り落とした。他の当番たちが少し離れたところからちらりちらりと書類を見る。私と視線が合

うと彼女たちは申し訳なさそうに視線を逸らした。
「ジゼル」
 真横に立っていたのは室長。
「ジゼル、今日は当番はいいわ、部屋に戻っていなさい」
「……申し訳ありません、室長」
 何度も紙切れを読み直しながら部屋へ戻った。扉がやけに重く感じられる。
「『唱師マルセル・オスロー』『死亡』……」
 書かれていることは何度読んでも変わりはしない。一人きりの部屋の隅で膝を抱えていると、室長が盆に朝食を載せて入って来た。
「ジゼル、ここに置いておくわ。今日の訓練、あなたは欠席にしておいたから」
 それだけ言ってまた部屋を出ようとする。
「……室長」
「……何?」
 室長は振り返らずに、扉の方を向いたまま応えた。
「お心遣い、痛み入ります」
「……」
 こくりと頷いてやはり振り返らず、室長は出て行った。私はまた一人きりになった。
 どれだけの時間が経ったか分からない。どうしていいか分からない。室長が置いて行ってくれた食事は全く喉を通らず、ずっと呆然としていた。窓の

外の雲が視界の中で唯一動いている。
「……午後の訓練に出るか」
 いくら弟のことを考えてもただ心が詰まるだけだった。突然こんな封筒を渡され、遺品も何もなしにただ死んだ、とだけ伝えられたのだから当然だが

。とにかく今は体を動かした方が気が紛れる…頭で考えたというよりも、自然にそう感じて私は外に出た。静かな教会内はかなり冷え込んでいるようだ

った。
434428:2006/01/05(木) 19:54:44 ID:Cmas0Fu1
 午後の訓練が行われる場所は結構遠い。午後は武術の訓練なのだが
情報部が主に使っている区画にはそういった訓練をできる場所がなく、
別の部門から訓練場を借りて使っているからだ。普段はあまりおしゃべりは
しないにしても同じ部屋の人たちと一緒に行くからすぐに感じられるのだが、
今日はやたらと長く感じられた。…尤も、長く感じられる理由は単に一人だから
というだけではないが…。
 と、角に差し掛かったところで近くから人の話し声がしてきた。特徴あるこの
声は大詠師モースだろうか。彼と話しているのは詠師トリトハイムらしい。
「今回の戦の負けは本当に秘預言に詠まれていたのか?」
「ええ、驚くほど正確に。これほど多くの命を犠牲にしてまで預言は守られねば
ならぬと……そうあなたはお考えですか?」
「詠師のおまえが今更訊くこととは思えんな。個人の考えではない、それが教団の
意思だ。おまえもそうだろう」
「そうですね……ええ、預言は守られねば……」
「……む、あそこに人影が見えぬか?」
 しまった、見られたか…?私は隠れたまま、いつでも逃げられるよう心の準備をした。
二人は辺りを何度も見回している。
「……情報部の者たちは今の時間は訓練中です、それはないでしょう。大詠師モース、
私はそろそろ失礼します」
「うむ、そうだな。では」
 彼らの会話を聞き、私の心に猛烈な勢いで怒りが湧き上がってきた。マルセルの…
弟の死は預言に詠まれていた…?死ぬのが分かっていて見殺しにされたのか?とにかく
詳しいことを聞き出さなくては。私は上着を脱ぎ、頭に巻いて顔が見えないようにした。
トリトハイムはこちらへこのまま来る。物陰から何も知らずに歩く詠師を観察し、
丁度角に差し掛かったところで飛びかかった。後ろから首に腕を巻きつけ、上手く力を
かけて締め上げる。
「な、なに……」
 トリトハイムは声にならない呻きを上げ、ものの十数秒で失神した。詠師に危害を
加えたことへの罪悪感は不思議と全く感じなかった。
「ダメな信徒だな、私は……」
 自嘲的に笑い、爪先で軽く蹴って確かに失神していることを確かめる。とにかくここでは
まずい、また誰かが通りがかる可能性がある。どこか人気のないところ…そうだ、私たちの
使っている部屋がいい。今は訓練中だから誰も来ない。私はトリトハイムを背負って部屋まで運んだ。
「ふぅ……。誰もいないな」
 万一誰かが入ってくることのないように扉に鍵をかける。それからトリトハイムを座らせて
活を入れた。
「あなたは誰です……」
 私はすかさず短剣を取り出し、目の前の詠師の喉元に突き立てた。
「大声は出すな、助けを呼んだら殺す。今からする質問に答えれば無傷で解放しよう」
 トリトハイムは辺りを見渡し、ようやく状況を掴んだ様子で渋々頷いた。
「先程大詠師と話していた、『今回の戦』というのはケセドニア北部戦だな?」
「ええ」
 やはり…。ということはマルセルについても…。
「秘預言に今回の件はどのように詠まれていた?」
 トリトハイムは秘預言と聞いて口をつぐんだ。
「どうした、言え」
435428:2006/01/05(木) 19:56:59 ID:Cmas0Fu1
「……秘預言は詠師以上の者しか知ってはならない、私の口から言うことは……」
「死にたいのか?」
 喉を傷つけないよう、小さく短剣の先を動かす。なかなか口を割らない相手には
効果があるやり方だ。
「言えません、秘預言だけは」
 これでもダメか。よほど堅く口止めされているのだろう。少しきつく揺すぶってみるか。
「こちらには強力な自白剤がある。それを飲ませればお前は間違いなく助からないが
私は全てきれいさっぱり情報を手に入れられる。……それでもいいのだぞ?」
 そんなものあるがはずない。自白剤というのは脳の働きを麻痺させてこちらの要求を
受け入れさせ易くするものだが、当然脳の働きは落ちるからよほど簡単な質問でないと
答えさせることなどできない。ましてや全てきれいさっぱり、などとは。少し考えれば
ハッタリだと分かるようなものだが、短剣を突きつけられて切羽詰った男にこの脅しは効果的だった。
「……どうしても知られてしまうのならば隠し立ては無駄ですね……。『ウンディーネ・
リデーカン、砂漠の街の北で大きな戦が起こる。マルクトの圧倒的な力の前にキムラスカ殲滅さる。
神の子らの一隊、キムラスカに与し同じく殲滅さる』私が詠んだのはこれだけです」
「秘預言……本当に……。この質問で最後だ、その秘預言はおまえ以外誰が知っていた?」
「秘預言を詠むことができるのは詠師以上の者に限られますがこれを実際に詠んだのはダアトでは
私以外誰も……いや、確かヴァン。ヴァンと私の他はまだダアトにいる者では誰も知らないはずです。
大詠師モースにもさっき私が教えたばかりですから」
 ダアトでは、と言うのが気にかかったがこの件に大きく関わっていたと思われる人物の名が出てきた
だけで十分だった。マルセルの部隊を組織した張本人、そしてマルセルがいつも信頼していた上官だ。
「ヴァン・グランツ主席総長か?ヴァン・グランツはダアト軍が殲滅されることを予め知っていたのだな?
知っていて兵を派遣したのだな!?」
「そういうことになります」
「マルセル……おまえの仇は必ず……」
 言ってからはっとした。今のは大失態だ。興奮してつい口を滑らせてしまった。トリトハイムに
聞かれてしまっただろうか。……殺すか?いや、あまり事を大きくしない方がいい。それに
トリトハイムは無関係だ。無関係な者まで殺すというのは……したくない。兵士失格かもしれないが。
とにかく質問はこれで十分だ。だがここで解放すると場所が漏れて厄介だな。
「これからおまえを解放する場所へ連れて行く。何か目隠しになるようなものを持っているか?」
「この帽子くらいしかないが……」
「ならいい、構わん」
 帽子で下手に目隠ししたフリでもされたら困るので結局私が手で目隠しをして連れて
行くことになった。幸い話を立ち聞きしたところまで行く途中、誰にも遭わずに済んだ。
「ここだ。跡をつけようなどとは考えるな。それと今日のことは絶対に口外するな。
もしすれば、必ず殺す」
「……マルセル、というのは恋人か?」
「……違う。余計な詮索をするな、忘れろ」
「女がこんなことをするとは何か事情があるのだろう。……ローレライの加護のあらんことを」
436428:2006/01/05(木) 19:58:46 ID:Cmas0Fu1
 急に涙が溢れてきた。トリトハイムの言葉に。こんな形でしか弟を弔ってやれない
自分への不甲斐なさに。死亡通知を受け取った時もこらえていたのに…。
「……詠師様……。申し訳ありません、本当に……ごめんなさい……!」
 私は頭に上着を巻いたまま、尾行されていないか気を配るのも忘れて涙ながらに
逃げるようにして走った。部屋に入って上着をちゃんと着て、深呼吸を何度かして
気持ちを整えた。
「今になって涙が……お笑い種だな、マルセル……。だがこれではっきりした。
おまえの仇は必ず討ってやる」
 その時、扉が開いてみんなが戻ってきた。時間的に考えて危機一髪だったわけか。
元々あまり私は他人と話さないが、みんなが私のことを避けているのは見るからに明らかだった。
みんながぺちゃくちゃおしゃべりをしている間、私はずっとヴァンを殺すことを考えていて
みんなが夕食をとるために食堂に向かったのにも室長に声をかけられるまで気づかなかった。
「ジゼル、夕食の時間よ。あなた朝食には全く手をつけていなかったし何も食べないと
弱ってしまうわ。行かないなら私が持ってきましょうか?」
「あ、い、いえ、少しぼうっとしていただけです、今行きます」
 夕食もやはり喉を通りそうになかったが、ヴァンと戦うにあたって空腹で倒れるような
ことがあってはならない。そう思って無理して少し食べた。
 その日の夜は全く眠れなかった。突然知らされた弟の死への想い、ヴァンへの憎しみが
胸を焦がしていた。一日でも早く、ヴァンを殺して復讐を成し遂げなくてはならない……。
 翌朝、室長に今日の訓練はどうするか、と訊かれた時、私はいつも優しくしてくれる
室長に初めて嘘をついた。
「あの……ヴァン主席総長から直接任務を与えられていまして、そのことで報告を
しなくてはならないので……」
 もう一日弟の喪に服したい、と言った方がより怪しまれずに済んだかもしれない。
だがそれだけは言えなかった。喪に服すのではなく、私は今から復讐をする。
そのことをもう一度自分に言い聞かせるためにも。
「そう、分かったわ。あまり無理はしないでね」
「心配してくださること、感謝します」
 いつも使っている短剣と、念のため二丁拳銃を隠し持って一礼して部屋を出た。
自分の中で渦巻いている感情を抑えるため無理に平静を装ったがそれが逆に怪しかった
のだろうか、部屋のみんなは私のことをじろっと見た。
 これで自由に動き回れるようになったのはいいが、私はヴァンがどこにいるのか知らない。
「……詠師トリトハイムに訊くしかない……のか」
 トリトハイムに訊くのは気が進まない。二度と顔向けできないようなことをつい
昨日やってしまったのだ。だが……
「目標のためなら……仕方がない」
 トリトハイムはいつもと何一つ変わらない温和な表情で礼拝堂にいた。今日はシャドウの日。
信徒が預言を詠みにもらいに来る訳でもないのに。
 私が声をかけることもできず、傍に突っ立っているとそれに気づいたトリトハイムの
方から話してきた。
437428:2006/01/05(木) 20:01:16 ID:Cmas0Fu1
「唱師オスロー、か。どうしました?訓練の時間では?」
 優しげな声だったにも関わらず私は鳥肌が立った。トリトハイムは昨日の
ことなど全くなかったかのような話し方だった。……当たり前か、私があの
犯人だなんて知っているはずがないのだから。
「……任務の報告があるのです、ヴァン…主席総長がどこにいらっしゃるか
ご存知ありませんか?」
 トリトハイムは一瞬眉をひそめた。
「詠師グランツがいる場所は教えられません。詠師以上の者だけの機密事項です。
帰ってこられるまで待ちなさい」
「そこをなんとか!どうしてもヴァン主席総長にお伝えせねばならないのです!」
 確かに帰ってくるまで待てばいいかもしれない。冷静に考えればそうだ。
もっと大局的に機会を伺えばいい。だが、それはダメだと思った。どうしても、
一刻も早く奴を……!
「いけません。もう戻りなさい」
 昨日のように脅すか…?そんな考えが一瞬頭をよぎったが、もうあんなことは
したくないと思った。『ローレライのご加護があらんことを』……そんなことを
こんな汚れた私に言ってくれた人には。どうするべきか分からず、でもここにいても
どうにもならないことだけは分かって、私が礼拝堂を出ようと扉に手をかけた時、
トリトハイムがぼそっと言った。
「マルセル・オスローの仇討ちですか」
 小さい声で短く言っただけだったが、私は心臓が止まりそうになった。
「そ……そ……」
 私が言葉にならない声を漏らしてしまったことも気にせず、トリトハイムは
まるでその場にいない人に話すかのような言い方で続けた。
「アラミス湧水洞、私が言えるのはここまでです。あなたがすることを止めよう
とは思いません、強い意志に基づいているのなら他人の言葉など意味を成さないでしょうから。
ですが、よく考えて。あなたの行動はあなたの意思に全く委ねられている。それは
あなたが全ての責任を負うということ……ジゼル・オスローにローレライの加護があらんことを」
 私は振り返らずに、無言で頷いて礼拝堂を出た。振り返ったら泣き顔を見られてしまうから。
「詠師トリトハイム……全てご存知だったのですね……」
 私はトリトハイムに言われた通り、ダアトからアラミス湧水洞へと向かった。
湧水洞をくまなく周ったが人影は見かけない。途方にくれていると、近くの湧水の中に
譜陣を見つけた。
「これは……見たことがない形だ、創世暦時代の譜陣か?もしや詠師トリトハイムが
言っていたのはこれのこと……?」
 私は服が濡れるのも気にせず、その上に乗って意識を集中した。パァッと辺りが輝いた時、
私は自分が光になってどんどん降りて行くのを感じた。そしてだんだん地の底へ近づくにつれ、
私の意識も光となって混濁していくようだった。
「……う、ううん、ここはどこだ?」
 意識がはっきりしてきた。どうやら辿り着いたのは小部屋のようだ。物音一つしない、
不思議な静寂の空間。近くにあった扉を出てみると、そこには更に不思議な空間が広がっていた。
「これは……街……なのか?これが詠師以上の者だけの機密事項?」
 あまり活気があるとは言えないが、変わった服を着た人々が歩いており、
物が売られているその光景は紛れもなく街だった。天井があって空からの光は
差し込まないが、その代わりに見たこともない譜業の照明装置が輝いている。
「……ヴァン!」
438428:2006/01/05(木) 20:03:33 ID:Cmas0Fu1
 私はこの建物の入り口に奴の姿を発見した。幸い護衛はいない。
「一人で来ているのか。人気のないところへ行くまでつけてみよう」
 気配を悟られないよう極力注意して、逸る気持ちを抑えながら距離をとった
尾行を始めた。ヴァンはどんどん人気のないところへ向かった。奇妙なまでに
すっきりと事が運ぶ。ヴァンについて行き、とうとう周りに誰もいなくなったところで
私は隠し持っていた短剣を出した。ここが街だと言うのなら音が出て他人に気づかれる
恐れのある銃はやめた方がいい。
 後ろを向いているヴァンに近づき、近づき、近づき……私は声を上げて突撃した。
「ヴァン・グランツ!弟の仇!」
 ヴァンの懐に潜り込んだ。奴が遅れて振り向いた。遅い。この間合いでは対応できまい。
強い手応えを感じる。殺った…!そう思った時、腕から全身にかけて強い衝撃を受けた。
何が起きたのか一瞬理解できなかった。ヴァンは倒れていない。私は両の手に握った
短剣を弾き飛ばされ、跪いている。
「くっ」
 完璧だと思っていた。奴は気づいていない、そう思った。だが奴はいとも簡単に私を
倒したのだ。奴は抜いた剣をそのまま私の喉元にぴったりと突きつけ、私を見下している。
「……おまえは神託の盾の兵か」
 平静を保ったままヴァンは私を小物のように扱う。事実、力量の差は歴然としていた。
……これがヴァン・グランツ……。あまりに強すぎる。あまりに冷たすぎる。私は恐怖に
呑まれないよう勇気を振り絞った。
「貴様がっ!貴様が預言で殲滅されると知っていながら弟を……おまえを信頼していた
マルセルをケセドニア戦に送り込んだのだな!」
「……一介の教団兵が秘預言を調べるのは死罪に相当するぞ」
 全く表情を変えず告げる。その顔には余裕の笑みも、怒りも見えない。私は奴が弟の
ことを取り合わずに教団の規律の話をしだしたことに強い憤りを覚えた。
「だからなんだ?ケセドニア北部戦は明らかにキムラスカの負け戦で、戦略的意義も
ダアト介入の意味もなかった!」
「しかし預言に詠まれていた。覆す訳には行かない」
 私が何と言っても奴は眉を動かしすらしない。ただ平然と答える。せめて相手も
感情的になってくれればいいのに。そのことがますます私の怒りを増長させる。
「貴様の理想の教団作りとやらにマルセルを巻き込んでおきながらむざむざ死なせたくせに!
マルセルはおまえを信頼していたのにおまえはそれを裏切ったんだ!おまえは……おまえは……」
「私のために働きたいと言い出したのはおまえの弟の方だ。強要した覚えはない」
 奴は相変わらず何の感情も込めずに、ただ私の言うことに的確に、反論の余地を与えず答えてくる。
確かに奴は嘘をついていない。マルセルが自分から志願した話を私も聞いていたから。
「……くっ」
 そのまま時間が過ぎる。奴はどうするつもりか?全く考えが読めない。このまま殺すのだろうか。
439428:2006/01/05(木) 20:04:58 ID:Cmas0Fu1
「……私が憎いか?」
 奴が私に初めてした質問。それはあまりに当たり前すぎた質問で、
普段なら拍子抜けするようなものだった。だが今の私にはそんな余裕すら
与えられていない。気分が悪い…こんな形で、力の差を見せ付けられた後で
結論を引き延ばされるというのは。
「……憎い!」
 奴の口の端が微かにつり上がったように見えた。私を問い質して遊び、
散々嘲笑った末に殺すつもりだろうか。
「愚弄しているのか、もう訊くことがないのならさっさと殺せ!弟のもとへ
逝く覚悟はとうにできている!」
 これ以上自分の感情を弄ばれたくなかった。だが奴が次に放った言葉は
意外も意外、全く想像できないものだった。
「ならば私はおまえを副官に任命しよう」
 私は耳を疑った。からかっているのか本気なのか分からない。本気だと
すれば正気ではない。
「……貴様っ!ふざけているのか!」
「公然と私の横に立ち隙を見て私に手をかけることができるぞ」
 それはそうだ。だが、だからこそ信じられないと言うのだ。奴は私が思いっきり
睨みつけても――最初からそうだったが――全く敵意を見せない。動揺しない。
「……何が狙いだ」
「フ……!私の命が預言に勝てるのか、それを確かめようというだけだ」
 奴の答えはよく意味が分からないものだった。預言に勝つ……?やはりふざけて
いるのかと思ったが、そうは見えない。
「後悔するぞ。……私は必ず貴様を討つ」
 私はもう一度強く睨みつけたが、奴はやはりそんなものには反応せずそのまま
剣を鞘に収めた。
「フ……フハハハハハッ!」

 私はこうしてヴァン・グランツの副官になった。自ら望んだことではないとは言え、
弟の仇の副官となった以上もう弟と同じオスローの名は名乗れない。ヴァンに敗れ、
マルセルの姉だったジゼル・オスローは死んだのだ。私は新たに自らをこう命名した。

 後悔――リグレット――と。
440428:2006/01/05(木) 20:05:36 ID:Cmas0Fu1
以上ですお。最初改行なんかおかしくなってた;