面白いフリーソフト レビュー&攻略質問スレPart180

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821名無しさん@お腹いっぱい。
「お爺ちゃん、どういうことなの?
 それって……カインさんは生きていたって事よね?
 ……死んだんじゃなかったの?」
ベッドに腰掛けていた5歳くらいの少女が、傍にいる老人に問いかける。
この少女の名前はアスナ。この老人の孫である。
老人はその少女に微笑むと、そのまま話を続けた。
「……今日も、そろそろ寝る時間じゃな。話はまた明日にしよう」
「やだ!気になって眠れないもん!!絶対に今日聞くー。
 あ、喉が渇くといけないから、今の内にジュース取ってこよっと」
「やれやれ、困ったものじゃな……」
少しばかり溜め息をついたが、この少女はこのまま大人しく寝る様子もなかった。
少女は冷蔵庫から2本のジュースを取り出し、その内の片方を老人に手渡した。
老人は少女への説得を諦め、彼女の腰掛けているベッド横に座った。
「カイン・ヴァンスは……死んだよ。間違いなくのぉ」
「え?……でも、青髪の青年って、カインさんでしょ?」
「そうじゃな……結論から言えば彼は、カインであって、カインではない」
「?」
少女は理解し得ぬまま、不思議そうに大きな青い瞳で老人を見た。
「まぁ、もう少し大人になれば分かる事じゃが……。
 歴史上からは"カイン・ヴァンスは死んだ"という事になっておるよ。
 ……言っている事が解かるかの?」
「……わかんない」
「ほっほっほ。つまり解かり易く言うとじゃな……。
 彼は皆の前では、死んだことになっておる、という事じゃ」
「みんなの前では?……ねぇ、それってもしかして、
 カインさんの師匠さん……ええっと、ジェラルドおじさんだっけ?
 ……その人がした事と同じ事なの?」
「そうじゃよ、解かっているじゃないか。アスナは偉いのぉ」
「えへへ〜」
アスナは照れながら、髪をぐしゃぐしゃ掻き上げた。
822名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 14:29:55 ID:r/RBaoHW
カインの師匠、つまり元聖ヘレンズ帝国将軍ジェラルド・ヴァンスが
過去にとった策は"こう"だった。

ある任務にて彼、ジェラルドは、かつての部下の裏切りによる死亡説が流れた。
帝国だけでなく全世界の人々に伝わり、また当然魔族にも例外なく……。
だがそれは全て虚言であり、実の所、彼はまだ生きていた。
自分の存在をこの世から消し去り、全くの別人、"黒騎士のレオ"として魔族側につく。
勿論、これは危険な賭ではあったが、情報を探るためには最適の策であった。
彼ならではの大胆な策だとも言えよう。
823名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 14:30:41 ID:r/RBaoHW
ガイア歴1658年12月――スノースリーブスの村――。

「ほう……これは、なかなかの美味さだ。済まんな、馳走にまでなって……」
「いえ、ジェラルド様に美味しいって言って頂けて、すごく嬉しいです」
この村の長老であるザクソン・ラスターの孫娘カトレアは、
彼女が得意としている料理"ビビンバ・ステーキ"をジェラルドに作った。
この村特製のスパイスと極上のビビンバを盛り込んだこの料理は、
村の評判も良く、今では村の食堂のメニューにもなる程、広まっていた。
「さて、ザクソン殿。話を続けようか……」
「ふむ。確か、カインの話じゃったかな……」
「あぁ。あいつが俺と同じ道を選んだ理由(わけ)が知りたくてな。
 ザクソン殿なら知っている筈だ。……教えて貰えるか?」
「カインがワシに初めて会った時。あの時、既に満身創痍の状態じゃった。
 ……いつ死んでもおかしくはないほどのな」
カインとザクソンが出会ったのは、そう、魔将軍ラーハルトを討ち倒し、
魔王城ヘルズ・キッチンへ乗り込んだ後……つい最近のことである。
「魔王ヴェイクとの戦いの後か……。一人で立ち向かったらしいが……。
 ……しかし、よくこの村まで生還できたものだ。信じられん」
いかにジェラルドであろうとも、魔王ヴェイク相手に生きて還るなど不可能な事。
ましてや、バジルを含む魔将軍達もその場にいたとなると尚更である。
ジェラルドでなくとも、疑問を持つのは決して不思議ではない。
「どうやって生きて、ここまで辿り着いたのかはワシにもわからん。
 あの城で"なにかが"あったんじゃろうな」
「うむ。……それで」
「満身創痍の状態でも、彼は伝えてくれおった。彼が体験した事全てを。
 そしてワシも全てを彼に話した。お主の事。ゼロのこと。……フリージアの事をな
824名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 14:33:02 ID:r/RBaoHW
「…………」

ジェラルドは黙り込んだまま、じっとザクソンの言葉を聞いていた。
傍で洗い物をしていたザクソンの孫娘カトレアも、話に興味を示したのか、
ザクソンの隣にある椅子に腰掛けた。
「カインにとって大切な存在であるアイリス、そしてフリージア、
 死んでいった数多くの仲間達。
 それらを失った悲しみから、一時は絶望感に打ちひしがれた。
 じゃがジェラルド。彼があのまま終わるような男じゃと思うかの?」
「…………。確かにあいつは自己嫌悪に陥りやすい所はある。
 だが、何の結果も見い出せずに死ぬような男では決してない」
「でも、おじいちゃん。カインさんが回帰の果てに見たものは、
 "己の死"って言っていなかった?あれってどういう事?」
カトレアはあの時、カインは死んだものと思っていた。
ザクソンの口調からは、"そう"とれていたし、第一家の外にあるあの墓は何なのか。
この家の外には、確かにカインとフリージアの墓が建てられている。
"カインは死んだ"。
この事は彼女だけでなく、誰もがそう思ったに違いない。
825名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/10(水) 14:34:36 ID:r/RBaoHW
「うむ。回帰の果てに見たもの。……己の死。まさにその通りじゃよ。
 彼は、自身の存在がこの世にあってはならぬもの、つまり"それ"を罪と考えた。
 償うために彼が導き出した答え。ジェラルド、お主と同じ策ではないかの?」
「……自分が生きていれば、他者を戦いに巻き込んでしまう。
 それなら自分の存在をこの世から消し去り、敢(あえ)て影として動く……か。
 あいつ……どこまでこの私に似たのだか……」
ジェラルドは困った表情をしたが、それはどこか嬉しそうな感じにも見て取れた。
「しかしカインの奴め、この事に関してワシにとんでもない役目を言い渡しおった」
「存在を消す手伝い……か」
「そうじゃ。わざわざ奴の墓を建て、仲間達にも"彼は死んだ"と伝え……。
 人を騙すのは、どうも性に合わん……」
「はっはっ。まぁ、そう言うな。ここは私に免じて、あいつの助けになってやってくれ。
 それで、肝心のカインはどこに?もう傷も癒えている頃であろう?」
「もうすぐ、ここに来る。……今日が出発の日じゃからな。
 お主をここへ呼んだのも、そのためじゃ」
「では、待たせてもらおうか。渡すものもあるしな……」
ジェラルドの手には、光り輝く大きな剣、聖剣オルタナティブが握られていた。
鞘からその剣を出そうとした丁度その時、扉をノックする音が聞こえた。
ザクソンが扉を開き、ジェラルドは彼を出迎え、彼はそれを拒否した。

「……この世にあってはならない罪、それは…俺の存在」