面白いフリーソフト レビュー&攻略質問スレPart180
「お爺ちゃん、どういうことなの?
それって……カインさんは生きていたって事よね?
……死んだんじゃなかったの?」
ベッドに腰掛けていた5歳くらいの少女が、傍にいる老人に問いかける。
この少女の名前はアスナ。この老人の孫である。
老人はその少女に微笑むと、そのまま話を続けた。
「……今日も、そろそろ寝る時間じゃな。話はまた明日にしよう」
「やだ!気になって眠れないもん!!絶対に今日聞くー。
あ、喉が渇くといけないから、今の内にジュース取ってこよっと」
「やれやれ、困ったものじゃな……」
少しばかり溜め息をついたが、この少女はこのまま大人しく寝る様子もなかった。
少女は冷蔵庫から2本のジュースを取り出し、その内の片方を老人に手渡した。
老人は少女への説得を諦め、彼女の腰掛けているベッド横に座った。
「カイン・ヴァンスは……死んだよ。間違いなくのぉ」
「え?……でも、青髪の青年って、カインさんでしょ?」
「そうじゃな……結論から言えば彼は、カインであって、カインではない」
「?」
少女は理解し得ぬまま、不思議そうに大きな青い瞳で老人を見た。
「まぁ、もう少し大人になれば分かる事じゃが……。
歴史上からは"カイン・ヴァンスは死んだ"という事になっておるよ。
……言っている事が解かるかの?」
「……わかんない」
「ほっほっほ。つまり解かり易く言うとじゃな……。
彼は皆の前では、死んだことになっておる、という事じゃ」
「みんなの前では?……ねぇ、それってもしかして、
カインさんの師匠さん……ええっと、ジェラルドおじさんだっけ?
……その人がした事と同じ事なの?」
「そうじゃよ、解かっているじゃないか。アスナは偉いのぉ」
「えへへ〜」
アスナは照れながら、髪をぐしゃぐしゃ掻き上げた。
カインの師匠、つまり元聖ヘレンズ帝国将軍ジェラルド・ヴァンスが
過去にとった策は"こう"だった。
ある任務にて彼、ジェラルドは、かつての部下の裏切りによる死亡説が流れた。
帝国だけでなく全世界の人々に伝わり、また当然魔族にも例外なく……。
だがそれは全て虚言であり、実の所、彼はまだ生きていた。
自分の存在をこの世から消し去り、全くの別人、"黒騎士のレオ"として魔族側につく。
勿論、これは危険な賭ではあったが、情報を探るためには最適の策であった。
彼ならではの大胆な策だとも言えよう。
ガイア歴1658年12月――スノースリーブスの村――。
「ほう……これは、なかなかの美味さだ。済まんな、馳走にまでなって……」
「いえ、ジェラルド様に美味しいって言って頂けて、すごく嬉しいです」
この村の長老であるザクソン・ラスターの孫娘カトレアは、
彼女が得意としている料理"ビビンバ・ステーキ"をジェラルドに作った。
この村特製のスパイスと極上のビビンバを盛り込んだこの料理は、
村の評判も良く、今では村の食堂のメニューにもなる程、広まっていた。
「さて、ザクソン殿。話を続けようか……」
「ふむ。確か、カインの話じゃったかな……」
「あぁ。あいつが俺と同じ道を選んだ理由(わけ)が知りたくてな。
ザクソン殿なら知っている筈だ。……教えて貰えるか?」
「カインがワシに初めて会った時。あの時、既に満身創痍の状態じゃった。
……いつ死んでもおかしくはないほどのな」
カインとザクソンが出会ったのは、そう、魔将軍ラーハルトを討ち倒し、
魔王城ヘルズ・キッチンへ乗り込んだ後……つい最近のことである。
「魔王ヴェイクとの戦いの後か……。一人で立ち向かったらしいが……。
……しかし、よくこの村まで生還できたものだ。信じられん」
いかにジェラルドであろうとも、魔王ヴェイク相手に生きて還るなど不可能な事。
ましてや、バジルを含む魔将軍達もその場にいたとなると尚更である。
ジェラルドでなくとも、疑問を持つのは決して不思議ではない。
「どうやって生きて、ここまで辿り着いたのかはワシにもわからん。
あの城で"なにかが"あったんじゃろうな」
「うむ。……それで」
「満身創痍の状態でも、彼は伝えてくれおった。彼が体験した事全てを。
そしてワシも全てを彼に話した。お主の事。ゼロのこと。……フリージアの事をな
「…………」
ジェラルドは黙り込んだまま、じっとザクソンの言葉を聞いていた。
傍で洗い物をしていたザクソンの孫娘カトレアも、話に興味を示したのか、
ザクソンの隣にある椅子に腰掛けた。
「カインにとって大切な存在であるアイリス、そしてフリージア、
死んでいった数多くの仲間達。
それらを失った悲しみから、一時は絶望感に打ちひしがれた。
じゃがジェラルド。彼があのまま終わるような男じゃと思うかの?」
「…………。確かにあいつは自己嫌悪に陥りやすい所はある。
だが、何の結果も見い出せずに死ぬような男では決してない」
「でも、おじいちゃん。カインさんが回帰の果てに見たものは、
"己の死"って言っていなかった?あれってどういう事?」
カトレアはあの時、カインは死んだものと思っていた。
ザクソンの口調からは、"そう"とれていたし、第一家の外にあるあの墓は何なのか。
この家の外には、確かにカインとフリージアの墓が建てられている。
"カインは死んだ"。
この事は彼女だけでなく、誰もがそう思ったに違いない。
「うむ。回帰の果てに見たもの。……己の死。まさにその通りじゃよ。
彼は、自身の存在がこの世にあってはならぬもの、つまり"それ"を罪と考えた。
償うために彼が導き出した答え。ジェラルド、お主と同じ策ではないかの?」
「……自分が生きていれば、他者を戦いに巻き込んでしまう。
それなら自分の存在をこの世から消し去り、敢(あえ)て影として動く……か。
あいつ……どこまでこの私に似たのだか……」
ジェラルドは困った表情をしたが、それはどこか嬉しそうな感じにも見て取れた。
「しかしカインの奴め、この事に関してワシにとんでもない役目を言い渡しおった」
「存在を消す手伝い……か」
「そうじゃ。わざわざ奴の墓を建て、仲間達にも"彼は死んだ"と伝え……。
人を騙すのは、どうも性に合わん……」
「はっはっ。まぁ、そう言うな。ここは私に免じて、あいつの助けになってやってくれ。
それで、肝心のカインはどこに?もう傷も癒えている頃であろう?」
「もうすぐ、ここに来る。……今日が出発の日じゃからな。
お主をここへ呼んだのも、そのためじゃ」
「では、待たせてもらおうか。渡すものもあるしな……」
ジェラルドの手には、光り輝く大きな剣、聖剣オルタナティブが握られていた。
鞘からその剣を出そうとした丁度その時、扉をノックする音が聞こえた。
ザクソンが扉を開き、ジェラルドは彼を出迎え、彼はそれを拒否した。
「……この世にあってはならない罪、それは…俺の存在」