面白いフリーソフト レビュー&攻略質問スレPart180
ガイア歴1656年2月、レモリア大陸某所。
「くくく……どうしたどうしたぁ?
まさかその程度の実力で、この俺に挑もうとしていたのか?
……笑わせる。笑わせるぞ、くっくっくっ!!」
全身黒尽くめのマントを纏(まと)った一人の男が、青髪の青年の元へ踏み寄った。
彼は魔将軍の一人、バジル。魔王ガルドゥーン復活を目論む魔族である。
「まだだ……」
青髪の青年は、これまでの度重なる戦いで深い傷を負っていた。
傷口からは大量の血が流れ出て、その場に立つこともままならない状態……。
後ろで束ねていた長い髪も解(ほど)けていた。
しかし朦朧(もうろう)とした微かな意識の中においても、
その美しい青き瞳だけは、目前の敵をしっかりと見据えていた。
「悪足掻(わるあが)きを……」
一言そう呟(つぶや)き、バジルは青年の長い髪を掴み、
手にしている禍々(まがまが)しい剣を青年の喉元へ突きつけた。
「自分の剣で止めを刺される気分はどうだ?んん?」
「くっ……」
「一度死んでみるか?くくく……」
バジルは剣を振り上げ、青年の左肩を突き刺した。
「……っ!!」
「他の奴らと違って、俺は優しいのさ。なぁに、すぐには殺さない。
……じわじわと"なぶり殺し"にしてやる……そらっ!!」
「ぐあっ!!」
青年の両肩から赤き血が溢れ出た。辺り一面、血で染まっている。
呻(うめ)き声をあげずにはいられないほどの激痛が傷口に走る。
だがバジルはその手を休めることはなかった。
「か……快感……。快感だぁっ!!ひゃっはっはっ!!」
「ふっ、相も変わらず趣味が悪いですね、バジル」
「あ?……誰だ、俺にたてつく馬鹿は」
バジルの背後に現れたのは、金髪の青年で、彼もまた黒尽くめのマントを纏っている。
「キリトか……。まさか俺の邪魔をしにきたのではあるまいな?」
「その"まさか"ですが、いけませんか?」
「……まぁ待て。今、丁度良いところだ。食事の邪魔をするな」
「ふ、これは失礼。ですが、お楽しみのデザートは後に取っておいてください」
(キリト……こいつも魔将軍なのか……)
青年は薄れゆく意識の中で、この魔族の強大さを感じ取った。
「魔王ガルドゥーン様の媒体を捕えました。すぐに戻ってください」
「ほう、媒体をか?……どこのどいつだ?」
「ヴェイク。元聖ヘレンズ帝国将軍ヴェイク・ジェイルです」
「くくく……これは願ってもない媒体だ。いいだろう、ここは退いてやる。
おい、貴様。命を助けてやる。運が良かったな」
「ま……待て……」
既に体力は限界に来ていたが、残る力を振り絞りその場に立ち上がった。
だがバジルは青年に背を向け、その場を立ち去ろうとしていた。
「命拾いしたのはラティス村の時を含め、これで2度目か……。
つくづく貴様は運がいいようだ」
「さぁ戻りましょうか。今こそ魔王様復活の時です」
「あぁ。……おっと、こいつは返してやろう。
その剣で、いつか俺を殺しに来い。俺と貴様は必ずまた出会う。
くくく……時に運命とは皮肉なものさ」
2人の姿が完全に消えた頃には、既に青年の意識はなかった。
彼は立ち尽くしたまま、意識を失っていた。
そして数時間後、その場を訪れた村人によって一命を取り止めた。
一度死んでみるか?くくく……
ガイア歴1658年12月、レモリア大陸東部の村ロレーヌ。
「…………ふぅ」
「んぁ?ルイ兄、どうしたんだ?突然目覚めて……。
まだ寝てから数時間も経ってねぇぞ?」
「……少し、嫌な夢(過去)を見たのでな」
ルイはベッドから起きあがり、テーブルの上に置いてあるコップを手にし、
注がれていた水をそのまま口へと運んだ。
(あの夢を見る度に、肩の傷跡が疼(うず)く……。
バジル……お前をこの手で討つまでは、この疼きが消えることはない……)
溜め息をつくと、弟ユウの持っている本に目を移した。
「お前は寝ないのか?……その本は?」
「これか?これ意外と面白いんだよな。"ボクと給食"っていう本なんだけどよ。
知らねぇか?ロブソン・G・マンダムって人の作品」
「いや……聞いたこともないな」
「まぁ、ストーリーを簡単に説明するとだな〜、
"給食"っていうのは実はあるモノの比喩で、実はい……」
「明日は早い。もう寝ておいたほうがいいぞ」
ユウの説明を遮るように、ルイはさっさと床についてしまった。
「んー……あと3頁読んだら寝る」
"一度死んでみるか?"……か。
…………。
ふ……下手な芝居を。
……そろそろ"生き返る"頃合いか。
だが……悪いが、もう少しそのまま"死んでいて"くれ。
もう少しだけ……。バジルを討つまでは……。
ガイア歴1658年同月、ヴィッツア大陸スノー・スリーブスの村某所。
「行くのか?」
「…………はい」
「お前に課せられた運命は厳しく、儚いものだ。
だが、必ず報われる時が来る。……そのことを忘れるな」
その場を去っていく青年の後ろ姿を見送りながらも、
元聖ヘレンズ帝国将軍ジェラルド・ヴァンスは少し涙汲んだ。
「……ついに第2幕の始まりじゃな。
まさか、あやつがお主と同じ道を歩むことになろうとは、
一体この世の誰が想像したであろうかの」
傍に立っていた老人は、ジェラルドに問いかけた。
「あいつの意志だ。それは誰にも止められんさ」
「……じゃが、あやつの仲間まで騙す必要があったのかの?」
「ふ、彼らも同じ将軍だ。そうそう馬鹿ではない。
おそらく既に気づいている者もいるだろう」
「……では、ワシらはこの地で見届けることにしようかの。
彼らの未来が"凶"と出るか。それとも"吉"と出るかをな……」
「……そうだな。物語の結末を見届けるのは、俺達の使命だ」
老人は部屋の中に入り、近くにある椅子に腰掛けた。
ジェラルドもまた彼の後に続き、同様に向かいにある"それ"に腰掛けた。
「さて、コーヒーでも飲んでいきなされ。久し振りの再会故に、
積もる話もあるじゃろうて。たっぷりと聞かせてもらおうかの」
「ふっ……頂こう」
「カトレアや、済まんが熱いコーヒーを入れておくれ。
勿論、美味しいコーヒーをのぉ」
カトレアと呼ばれた女性は「はーい、すぐに入れるね」と返事をし、
すぐにキッチンへと足を運んでいった。
小高い丘の上で、青髪の青年は目映く輝く大きな剣を握りしめ、
今まさに、彼に襲いかかろうとしている魔物へそれを構えた。
「ルーンマジシャンか……」
敵はルーンマジシャンと呼ばれる、凶悪な魔法を操る恐ろしい魔物である。
だがその強敵も、青年の技一撃で葬り去られることとなった。
「在るべき場所へ還れ!!」
天へと突き放つ技、"天空昇"。彼が得意とする技である。
他の魔物の姿がないか辺りを見回し、ないことを確認すると彼は剣を鞘に収めた。
青年の手に握られていたその剣こそ、
ジェラルドより託された七大聖剣の一つ"聖剣オルタナティブ"そのものである。
……物語は新たな展開を迎える。