みおんw

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鷹野さんの計画は阻止され、もとの平和な場所に戻った雛見沢。
けれど、あれ以来、この村に私の居場所はなかった。

「うっわ、懲りずにまた来たよ。いい加減空気読めよなー」
圭ちゃんが露骨に顔をしかめて言う。
裏表なく素直に思ったことを口にする彼が大好きだ。今も。
けれどその正直さが、また私の胸をえぐる。

今日は久々の学校。4日ぶりだろうか。
いい加減引き篭もるのもつらくなって来てみたが、やはり誰一人私を歓迎してくれない。

「あはははははは。圭一くん、魅ぃちゃんがかわいそうだよ、だよ?
ほら、あんなに泣きそうな顔しちゃってる。もっとやさしく言ってあげなきゃ。あっははははは」
「でも人でなしの命乞い女に情けは無用ではありませんの?何を言われても自業自得ですわ」
「みー、こういうのは真綿で締めるようにじわじわやるのがいいのですよ☆」
「まぁお姉は恐竜並の鈍感ですからね。はっきり言ってやらないとわからないんですよ」

かつて私を『仲間』と呼んでくれたみんなが、口々に私を笑う。罵る。詰る。馬鹿にする。
あの日、鷹野さんに銃口を向けられ動転した私が思わず命乞いめいた言葉を口にして以来、
皆は手のひらを返したように私を疎外するようになった。
もちろんこの雛見沢のこと、その話はすぐに村中に広まり、気づけば誰一人私にやさしくしてくれる人はいなくなっていた。

もっとも、詩音が言うには、
「空気読めないクセに無駄に仕切りたがるお姉が前からウザかったんですよ。みんな」
だそうだ。気づかなかった。私が気づかないだけで、みんな私を嫌っていたのだ。

自分の席に座る。また机のラクガキが増えていた。
『う、嘘……や、やめっ←だっさー!!!』
『売村奴は出てけ!』『あのままあんただけ死ねばよかったのに』
『コレ読んだら二度と学校に来ないでね♪』『臭い臭い臭い』
『こいつ1回200円で身体売ってるらしい』
涙が出そうになるのをこらえる。必死でこらえる。鼻の奥が痛い。

「皆さんおはようございまーす。では前原君号令を……あ、委員長、来てたんですか。
コホン、では委員長。号令を」
知恵先生は公平な人だ。彼女と校長は私を積極的に罵ったりはしない。
しかしあくまで公平なだけだ。私を特別扱いしないし、助けてもくれない。
ただ冷ややかな目で最低限の対応をする。それだけ。


今の私に、味方などいない。
7562:2006/01/23(月) 16:33:44 ID:uYFXARgT
放課後になった。やはり学校は苦痛なだけだ。少しふらつく。
食事はとっていないせいもあるだろう。
あれ以来、持ってきたお弁当は必ずイタズラされるため、何も持ってこないことにしている。
大抵は中身をカバンの中にぶちまけられていた。
一番こたえたのは、そう、弁当箱の中身がどこかに捨てられて、
代わりにぎっしりとひぐらしの死骸が詰まっていたときか。
あの時はショックと気持ち悪さで何度も吐いたっけ。

『部活』は当然のように消滅していた。第一あの日の直後には、私のロッカーの中身は
洗いざらい焼却炉で灰になっていたのだから。
かつてのメンバーは、それでも皆で集まってなんだかんだと楽しく遊んでいるようだが、
当然私の居場所はそこにはない。


「おっ、魅音帰るのか?じゃあな!もう来るんじゃねえぞ!ははははっ!!」
「あははははは、魅ぃちゃんバイバイ!ほら、レナも圭一くんも挨拶してるんだから返してよ。
バイバイ!ほらほら、笑顔で!笑顔で挨拶もできないの魅ぃちゃんは?あっはははははははっ!!」
「私は挨拶なんてしませんことよ。さっさと帰りやがれですわっ」
「これが今生の別れになることを祈ってますですよ☆」
「皆さんはいいですよねぇ。でも私なんか家でも顔合わせなきゃいけないんですよ?
せめて学校にいるときくらい顔見せるなって思いますよ。本当に空気読めないんですから」

逃げるように教室を出る。今日は興宮のおじさんのところでおもちゃ屋の店番だ。
急がないとまた何をされるかわからない。家族も親族も今では私に辛くあたる。
彼らにとって、今の私はタダで便利に使える奴隷のようなものらしい。

校庭を横切るときに後ろから石を投げつけられた。
振り向いて誰が投げたかを確認する気も無い。誰だろうと同じことだ。
石の当たった後頭部に触れる。軽く切れて血が出ていた。
今日何度目だろうか、涙が出そうになるのをこらえる。数える気もないが。


店番しながらぼんやりと考える。
やっぱり、確かに、私はあの時鷹野さんに撃たれて死んでいればよかったんだろうか。
こんな毎日なら、いっそ無い方がよかった。あの時楽しい思い出だけ持って
この世から消えてしまえばよかったのかもしれない。

「今からでも、遅くない、かな?」

呟いてみる。あれ以来何度も考えては答えを決めきれなかった問いだ。
しかしなんとなく、今はすんなりと答えが出そうな気がした。

ああ、うん。もういいよね。私はよく未練がましく頑張ったよ。
そうだ。そうだよ魅音、圭ちゃんにあれだけきらわれてもういきてるいみなんか――

「おう、誰かおらんね。ちぃと探しとるモンがあるんじゃが」
7573:2006/01/23(月) 16:34:26 ID:uYFXARgT
と、お客だ。ふう、とりあえず頼まれた仕事はしよう。
それは私のプライドだ。引き受けた責任は捨てちゃいけない。

「あ、はい……なにをお探しでしょうか……」
自然と声が小さくなる。この界隈で私は有名人だ。誰に会っても露骨に嫌な顔をされる。
いつしか私は目立たないよう、見つからないように怯えてこっそりと立ち振る舞うようになっていた。

「ん、姪っ子に頼まれてなぁ。爆竹に癇癪玉に……あぁと、『殺人ナイアガラDX』ちう……
これ花火の名前か?まぁ花火を探しとるんよ。まだ売れ残りかなんか……って、
あんたぁ確か……沙都子のダチの、あの娘かい」

北条鉄平だった。
保護司と警察にこってりと絞られた彼は、もはやかつてのような沙都子に対する粗暴な振る舞いは許されず
渋々ながらも表面上はおとなしく沙都子の親権者として北条家で暮らしている。
どうやら、彼女が相続しているはずの財産が目当てらしいが、
『十分反省した。友達との二人暮しも認める。だから親権は奪わないでくれ』
と行政に泣きついたようで、たびたび古手神社に現れては沙都子のご機嫌を取っているようだ。
もっとも、風の噂ではそんな叔父姪ごっこのような関係が、
鉄平にしては意外なことにまんざらでもなさそうなんだとか。
しかし、なんにせよ鉄平は鉄平。相変わらずのチンピラには変わり無い。

「がはは、聞いとるで。あんたぁ村のカタキに泣いて土下座ぁして命乞いしたそうやんけ。
なっさけないのぉ……と、んなこたぁどうでもええんじゃ。さっさと今言うた花火出さんかい」
「あ……はい、申し訳ありません……ただいま」

悔しいが、言い返す気力も無い。なんとでも言えばいい。
7584:2006/01/23(月) 16:35:35 ID:uYFXARgT
「お待たせしました……以上で、よろしいでしょうか」
「おう。それでまとめて包んでくれんね」

花火をまとめて袋に詰め、引き換えに代金を受け取る。
そんな私を、なぜか鉄平がじっと見つめていた。

「はい、ありがとうございました……あの……何か?」
「いや、あんたぁ双子の姉だか妹だかいたんね?」
「え?はぁ……いますけど。妹です」
「沙都子から聞いちょるが、ガッコん後にみんなで遊んだりせんのかい。今日はどしたんじゃ」
「いえ……もう私は……ご存知の通り相手にされてませんから……それに、持ってたゲームも
全部捨てられちゃったし」

鉄平の話が見えない。質問にも脈絡がない。なにを言いたいのだこの男は。

「あー、妹さんなぁ。沙都子が言うとったが、今日誕生日だぁ言うてパーティー開いとるらしいなぁ。
ダチん子みんな集めるちぅ話しやったが、双子なら誕生日同じはずやんね。あんたはどしたん思うてなぁ」

そうか。すっかり忘れていた。今日は私と詩音の誕生日だった。
しかし今更それがどうした、という感じだ。どうせ誰も祝ってなどくれない。
勝手に詩音だけ祝福されていればいい。

「知りませんよ……私はなにも聞いてないし、興味もないです」
「なんじゃい、ハブられよったかぁ。悲しいのぉ。『仲間』とか言うてたんになぁ」

その瞬間、私の目から一粒だけ涙が落ちた。
『仲間』。久しぶりに聞く言葉だ。その言葉が、こらえる暇もなく私の涙腺を直接刺激する。

「お、おい……なんね、なに勝手に泣いとるんね」
「いえ……気にしないでください……関係、ないですから……」
759名無しさん@お腹いっぱい。:2006/01/23(月) 16:36:09 ID:fj/JcG2/
詩音が泣きいれた指詰めだが、魅音は黙ってけじめつけてるんだよな。
ヘタレじゃないじゃん…。

と言いながらもこのスレのヘタレネタを読むのがやめられない。
「酷すぎる…」とか思いながらもついつい読んでしまうぜ。みおんw
7605/終:2006/01/23(月) 16:36:39 ID:uYFXARgT
それでも、鉄平は自分が責めたせいで私が泣いたとでも思ったのか、
落ち着きなくあたりに視線を逃がす。
と、彼はふと目を止め、カウンター横にかかっている玩具ホルダーに手を伸ばした。

「あぁ……ネェちゃんこれいくらね……いや、こっちやな。こっちでええわ。いくらね?」

はじめ知恵の輪にかけていた手を、その横のトランプの箱に移して鉄平が言う。

「え……300円になりますが……」
「じゃあこれも買うたるわ。300円な」
「あ、はい、ありがとうございます……そちらも一緒にお包みいたしま――」
「あぁん、いらんいらん。ほれ」

言いながら、トランプを受け取った鉄平は、そのまま箱を私に投げてよこした。
とっさのことに反応できず、私はそれをキャッチできずに呆然としていた。トランプが床に落ちる。

「え、と……?」
「つまりあんたも今日誕生日いうことやんか。ゲームみんな捨てられてもうたんやろ?」
「あ、はい……でも」
「あぁん!?ゴチャゴチャやかましったらね!黙って持っとき、こんダラズ!」
「はっはいぃっ!」

やっぱり鉄平は鉄平だ……。面倒になるとすぐ怒鳴り散らして打ち切ろうとする。
しょせんチンピラということか。なにかといえば暴力と恫喝ばかり……ああ不愉快だ。
でも……あれ?なんだか、これって。いま、わたし、なにか。すごく、なつかしい、ような、ことをしてもら――


ああ。


何の変哲も無い、自転車柄のトランプを拾う。
せっかく彼が知恵の輪でなくトランプを選んでくれたのだ。
期待に応えられるかどうかはわからないけれど、せっかく拾った命。
もうしばらく、頑張ってみようか。
とりあえず、まずは明日も学校に行こう。そして笑顔で挨拶してやろうじゃないか。
まぁ、空気が読めないのがおじさんの取り柄ってことで――。