「今日は部活で遅くなっちゃった」
光はそう呟きながら夜道を歩いていた。
ガバッ!!
突然誰かが強い力で光を背後から抱き締める。
(え!? 何?)
その人物は素早く右手で光の口を塞ぐ。
「うぐぅ」
(ち、痴漢!? この辺りによく出るって……琴子が言ってた)
痴漢は左手で光の右胸を揉みしだく。
(い、いやぁ……か、体が動かない……)
あまりの恐怖に光は殆んど抵抗できない。
しかし、痴漢の右手が緩んだ瞬間を光は見逃さなかった。
勇気を振り絞り、思いっきり痴漢の右手に噛み付く。
ギャアッーー!
悲鳴と共に、光に対する締め付けが弱まる。
光は痴漢の腕から逃れ、一気に走り出す。
光は暫く走った後、電柱の影に隠れて息を整える。
どうやら痴漢は追ってこないようだ。
「あら光、どうしたの?」
突然背後から声をかけられる。
光は恐る恐る振り返る。
「こ、琴子……」
光は涙を浮かべて琴子に抱きつく。
「い、いま、私……痴漢に……」
「そ、そうなの? でも、もう安心よ……」
そう言って、琴子は光を優しく抱き締める。
その右手には、まだ新しい歯形がくっきりと残っていた……。