愛妹が今日も貴方を待っています(10000)

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314咲耶 蜜楽への飛翔
トントン
昼休みが始まって数分、体育教官室のドアが控えめにノックされた。
「おう、入れ」
中からの声を聞き、咲耶はゆっくりとドアを開く。室内へと入り、奥のほうの椅子に
座っている体育教師へと歩を進めた。
「…言われた通り、来ましたけど…どんな御用ですか?」
咲耶はおどおどとしながら体育教師に問い掛ける。…と、体育教師がふいに
吹き出した。
「…くっ、はっはっはっはっ!」
「…な、何がおかしいんですか?」
「…ひ、ひっひっひっ…いやいや、猫かぶりが上手いと思ってな」
まだ顔ににやけた笑いを張り付かせたまま、体育教師が言う。
「あ、あの…先生?…猫かぶりって…?」
「…それはな…こういうことだよっ!」
突如として体育教師の顔が凄絶なものへと変化し、咲耶の眼前に銀の閃光が走る。
しかし、それは咲耶の顔に突き刺さる直前に咲耶の2本の指によって止められた。
咲耶はそのまま指の間にあるもの―銀色のシャープペンシルを床に投げ捨てる。
「…危ないじゃない」
体育教師と同様、咲耶の顔も先刻とは全く異なるものへと変貌を遂げていた。同時に
咲耶の周りの空気がゆらりっと揺らめく。
「そう!そうだよ!その顔だよ!お前はやっぱり『こっち側』なんだろう?」
心底嬉しそうに体育教師が叫ぶ。咲耶はしばらくの逡巡の後、ため息をつきながら答えた。
「…まぁ、ね。ここ最近の私に対するセクハラもその『調査』ってことかしら?」
「おうよ。以前から怪しいとは思ってたが、中々確信は持てなかったからな。
直接お前の体を触って確かめさせてもらった」
「あの保健体育の授業は?」
「いやいや、お前がどれぐらいキれやすいかどうか試したかったのでな。…んでもって
今日の体力測定だ。生徒のバカどもは騙せても…俺はだませねぇ」
「…まったく…が」
「ああ?」
ぼそりと呟いた咲耶の言葉を体育教師は問い返す。
「豚どもが…少しは私をそっとしておいてくれるという脳みそを持ち合わせていないの?」
咲耶の言葉を聞き、体育教師はにやりと笑った。
「なるほど…なるほど…この前の旧体育用具室で男子生徒が瀕死の状態で発見されたが…
ありゃ、お前の仕業ってわけだ?」
咲耶は何も答えない。しかし、体育教師はそれを肯定と受け取った。
「…さて、豚のように悲鳴をあげるのはどっちかな?」
そう言うと、体育教師は自分の机に立てかけてある袋から木刀を抜き出す。
「いいの?今は誰もいないみたいだけど、他の先生が帰ってきたら…」
「心配すんな。やつらのメシはいっつも長いんだよ。それに…すぐ終わる」
男はすうっと流れるように正眼の構えを取った。
「…同感ね」
咲耶も体を半身にし、拳を腰だめに構える。
「…へぇ、余裕じゃねぇか。『剣道三倍段』っていうことばを知らないのか?
剣道に無手で勝つにはその三倍の段数が必要なんだぜ?」
「心配しないで…」
「あん?」
咲耶は凄絶な笑みを浮かべてつぶやく。
「私は咲耶流総合格闘術…十段よ」

                                 続く