1 :
名無しくん、、、好きです。。。:
・参加者一覧
2/3【THE IDOLM@STER】
○高槻やよい/○菊地真/●如月千早
3/5【アカイイト】
○羽籐桂/○千羽烏月/●浅間サクヤ/●若杉葛/○ユメイ
5/5【あやかしびと −幻妖異聞録−】
○如月双七/○一乃谷刀子・一乃谷愁厳/○アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ/○九鬼耀鋼 /○加藤虎太郎
3/5【機神咆哮デモンベイン】
○大十字九郎/○アル・アジフ/●ウィンフィールド/○ドクター・ウェスト/●ティトゥス
0/4【CLANNAD】
●岡崎朋也/●古河渚/●藤林杏/●古河秋生
3/4【CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
○黒須太一/○支倉曜子/○山辺美希/●佐倉霧
2/2【極上生徒会】
○蘭堂りの/○神宮司奏
3/4【シンフォニック=レイン】
○クリス・ヴェルティン/○トルティニタ・フィーネ/○ファルシータ・フォーセット/●リセルシア・チェザリーニ
3/4【School Days L×H】
○伊藤誠/○桂言葉/○西園寺世界/●清浦刹那
1/2【Strawberry Panic!】
●蒼井渚砂/○源千華留
4/6【つよきす -Mighty Heart-】
●対馬レオ/○鉄乙女/○椰子なごみ/○鮫氷新一/●伊達スバル/○橘平蔵
1/3【To Heart2】
○柚原このみ/●小牧愛佳/●向坂雄二
2/3【Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
●アイン/○ドライ/○吾妻玲二
3/4【Fate/stay night[Realta Nua]】
○衛宮士郎/●間桐桜/○葛木宗一郎/○真アサシン
4/4【舞-HiME 運命の系統樹】
○玖我なつき/○深優・グリーア/○杉浦碧/○藤乃静留
5/6【リトルバスターズ!】
○直枝理樹/○棗鈴/○来ヶ谷唯湖/○棗恭介/●宮沢謙吾/○井ノ原真人
【残り44/64名】
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
【能力制限】
ユメイの幽体問題→オハシラサマ状態で参戦、不思議パワーで受肉+霊体化禁止
ユメイの回復能力→効果減
舞-HiME勢のエレメントとチャイルド→チャイルド×エレメント○
NYP→非殺傷兵器で物理的破壊力も弱い
ただし、超人、一般人問わず一定のダメージを食らう
NYPパワーを持ってるキャラはその場のノリで決める
リセとクリスの魔力→楽器の魔力消費を微小にする、感情に左右されるのはあくまで威力だけ
ティトゥスの武器召喚→禁止あるいは魔力消費増
士郎の投影→魔力消費増
アルの武器召喚→ニトクリスの鏡とアトラック・ナチャ以外の武器は無し。
または使用不可。バルザイの偃月刀、イタクァ&クトゥグア、ロイガー&ツァールは支給品扱い
またはアル自身、ページを欠落させて参戦
または本人とは別に魔導書アル・アジフを支給品に。本の所持者によってアルの状態が変わる
武器召喚全般→高威力なら制限&初期支給品マイナス1&初期支給品に武器なし
ハサンの妄想心音→使用は不可、または消費大、連発不可。または射程を短くする
ハサンの気配遮断→効果減
虎太郎先生の石化能力→相手を石にできるのは掴んでいる間だけ
その他、ロワの進行に著しく悪影響を及ぼす能力は制限されている可能性があります
【予約について】
書き手は事前に書きたいキャラを予約し、その予約期間中そのキャラを使った話を投下する義務がある。
予約無しの投下は不可。
予約期間は3日間(72時間)で、その期間を過ぎても投下がなかった場合、その予約は無効となり予約キャラはフリーの状態になる。
但し3作以上採用された書き手は、2日間の延長を申請出来る。
また、5作以上採用された書き手は、予約時に予め5日間と申請することが出来る。
この場合、申請すれば更に1日の延長が可能となる。(予め5日間と申請した場合のみ。3日+2日+1日というのは不可)
期限を過ぎた後に同じ書き手が同じキャラを予約することはできない。(期限が六日、九日と延びてしまう為)
予約の際は個人識別、騙り防止のためにトリップをつけて、 したらばで宣言すること。
投下の際には予約スレで投下宣言すること。
「……よく眠ってますね」
灼熱の太陽の下、木陰で座っている黒髪の少女、桂言葉が呟いた。
彼女の膝の上にやすらかに眠っている子猫のような子、棗鈴の髪を撫でる。
その様子は赤子をあやす聖母のようだった。
いや一点、聖母から程遠い物がある。
それは彼女の眼。
まるで人形の眼のように生気がなく光を失っている。
まさしく死んでいるような眼だった。
「……誠くん、今どうしてますか?」
そんな彼女が思うはひとりの愛してやまない少年、伊藤誠。
今こそ、言葉は自説を説いて廻ったりしてるが元は普通の少女。
ただ誠が好きでその事にしか精一杯にできない少女だったのだから。
それは今でも変わらない。
彼女の根本にあるのは誠への愛。
今まで行なってきた事は誠の為だけといっても言い過ぎではないのだから。
「……うん?」
その時、ピクリと言葉が反応した。
彼女が見据える先は鬱蒼とした木々の向こう。
彼女の沈んだ瞳は途端に鋭くなり気配が変わっていく。
そして傍にあった小鳥丸を持ち警戒を始める。
「……んう? ことのは? どうかしたのか?」
「……いえ、大した事ではないですよ、来客のようですから対応してきますね。鈴さんはそこで休んでいていいですよ」
「……ん、わかった」
言葉の警戒に気付いたのか鈴が目を醒ました。
何が起こったかとフルフルと首を振る様はまるで子猫のようだ。
そんな鈴に言葉は微笑んで接する。
まるで姉妹のように。
鈴はそんな言葉を見て安心したのかもう一度欠伸をして木陰で丸くなった。
言葉はそのまま木々の中に入り人の気配がする場所に向かう。
少しの間歩いた先に木々が開いた場所があった。
そこに歩いていた男が一人。
「……貴方は?」
それは一言で言うなら。
まさしく『亡霊』と称するに値する男だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(もう少しで放送、か)
怜二は鬱蒼とした森を歩いていた。
もう少しで放送の時間が訪れるので少し休める場所で聞きたいと思ったからだ。
思う事はキャルが呼ばれないことを願うだけ。
古河秋生、自分が殺した少女が呼ばれようと気にする事では、ない。
(……キャル)
思うはキャルの事。
未だに情報すら手に入らないのは不安であるが焦っていても仕方がないのだ。
ただ無事であればいいだけ。
彼女の邪魔する敵は殺す。
彼女が生きるためならどんな人間であろうと殺す。
自分にはそれが出来る。
それが『ファントム』と称された自分の存在価値なのだから。
「……!?」
「……貴方は?」
そんな時、木々の間から一人の少女が現れた。
その姿は怜二を戦慄させるに充分だった。
怜二の至高とも言える狙撃を避けたその少女そのものだったのだから。
その少女の目は濁っており怜二を睨む。
怜二は狙撃したから知っているものの少女からしたら知らないのは必然。
怜二はその事実を再確認しつつもただ事務的に答える。
「吾妻怜二……ツヴァイとも言う」
「私は桂言葉です」
言葉はそういって若干笑う。
瞳は濁ったまま。
少しの恐怖を覚えつつ怜二はあくまで事務的に一番大事なことを聞く。
「キャル、キャル=ディヴェンスって子知らないか? ドライと名簿には書いてあるが」
「残念ですが知りませんね……」
「……そうか」
怜二は嘆息しつつも仕方ないかと即座に割り切った。
さて、と。
怜二はいつもの行動を始めようとする。
その時、言葉が不意に怜二に話し始める。
まるで楽しそうに。
「怜二さん……少しお話をききませんか?」
「……は?」
言葉には怜二にも話を聞いて欲しかった。
怜二が名前を出したキャルという名前はきっと大切な人なんだろうと言葉は思ったから。
何故ならその時僅かだが怜二の顔がほころんでいたから。
とても優しい顔を。
しかし怜二は特に興味を示す事もなく話を打ち切ろうとする。
だが言葉が出したある言葉。
その言葉に怜二はピクッと動きを止めてしまった。
その言葉は、
「死者蘇生って信じますか?」
死者蘇生という言葉。
放送でも示唆されていたが参加者から直接聞かせられるとは思わなかった。
さらに言葉が続けた事はさらに驚くべき情報でもあった。
「私は生き返りました。一度死んでもう一度ここにやってきました」
それは桂言葉が一度死んで蘇ったという事。
にわかに信じられないような事。
しかしこれならアインが復活した事に疑問を持つ事はない。
それを言葉は自信を持って言う。
「私はマンションから飛び降りてぐしゃぐしゃになって死んだのを憶えています。
なのに生きてこの島に居るんです。それはどういうことでしょうか?
だから考えたんです。主催者は人を生き返らせる能力があるって。私はそれが欲しい。
大切な人が蘇るんです。それはどんなに素晴らしい事でしょう! いつでも何処でもずっとずっといられるんです!」
言葉は優越な表情を浮かべて語る。
満面の笑みで説法をする。
自分の考えが間違えない様に。
大切な人が蘇る、というフレーズに怜二が震えたのがとても言葉を満足させた。
「そう……怜二さんには願いがあるのですね。大切な人といたいという願いが」
「……っ!?」
言葉がまるで預言者の様に怜二の望みを当てる。
怜二その言葉に大きく動揺した。
キャルといたい。
それは怜二が願い続けてる事実なのだから。
「大丈夫です、叶います――貴方が」
そして言葉に怜二に至言を与える。
アカルティクスマイルのような笑みを浮かべ。
迷える子羊を救うように。
「――私を信じるなら」
怜二は信じられない風に言葉を見つめる。
本当に叶うのかと。
信じられるのかと。
その様子に言葉は力強く頷く。
怜二が乾いた声で切望する。
「叶う……のか?」
「叶います。絶対。貴方が願うなら絶対。大切な人が居たいと言うならそれは叶うなら。
私を信じるなら救われます。どうです? 一緒に来ませんか? 怜二さん。
貴方の願い、キャルさんと一緒にいたいという願いが叶うんです!」
言葉が手を伸ばす。
まるで救いの女神のように。
そっと、そっと。
「か……な……う」
怜二は掠れた声で呟く。
澄み切った青空の下。
その青空に耀く太陽。
碧く深く静かな木々。
さやさや吹くそよ風。
その美しい風景の中で。
怜二は。
手を―――――
「―――――そうか。でもこれが俺が進んできた道なんだ。神など存在しない、程遠い世界で。
ただ血濡れ続けた道を、そんな説法如きで変えるほど甘い物じゃないんだ。俺が生きた全ては」
―――――とらなかった。
スパンッと。
一つの音がこの神聖のような場所に響く。
「え……?」
言葉が戸惑う。
圧倒的な違和感。
そして気付く。
頭に生える銀の矢を。
それは神を殺す神槍の如く。
深く深く刺さっていた。
紅く紅く。
溢れて止まらない鮮血。
「それに……俺の願いは俺自身で叶える。他人に頼る事などするか。それは俺自身の力で叶える事にこそ意味がある、俺自身で救う事にな……」
最後に『亡霊』がそう呟いたのを聞こえるのと同時に。
言葉は自身が倒れていくのを感じる。
最後に彼女が感じるのは
澄み切った青空の下。
その青空に耀く太陽。
碧く深く静かな木々。
さやさや吹くそよ風。
その美しい風景の中で。
一羽の漆黒の鴉が啼いた。
まるで死を告げるが如く。
(ああ……誠くん、愛してま―――)
最後に彼女が思い浮かぶのは
ただ愛しい人の事だけ。
優しい声。
やわらかい笑み。
大丈夫。
また会えると思って。
だって生き返ったのだから。
もう一度会えるんだと思って。
でも。
それはもう訪れる事はないだろう。
そう、
『永遠に』
【桂言葉@School Days L×H 死亡】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んふう?……なんだ? でんわ?」
棗鈴が目を醒ましたのは突然の電話音だった。
けたたましく鳴る着信音。
しばしばする目を擦り鳴っている方に鈴は動く。
「あ〜わかった、わかった出るから静かにしてくれ」
鈴はぶつくさ文句を言いながら携帯電話をとる。
それは言葉がメールを送った携帯だった。
「もしもし……」
『あ、繋がった! 桂言葉さんですか?』
電話の先から聞こえたのは女の子の声。
どうやら言葉を所望らしい。
鈴はつたない声で応答する。
「うー、ことのはじゃない」
『あ、あれ? 言葉さんじゃないなら誰だろう?』
「ことのはは留守だ、ことのはに換わるか?」
『あ、はいお願いします……貴方は?』
「りん、棗鈴だ」
『はい、こちらは羽藤桂と……』
『アル=アジフだ』
「けい、とあじだな」
『違う、アルだ!』
「んーあじ? まあいいやことのはと換わる」
『ま、待て!』
鈴は会話を一旦止め荷物をまとめ言葉の声の方に向かう。
電話をしながら。
相手はアルから桂に換わったようだ。
「アレを見たのか。なら納得だ」
『はい、それで今何処に?』
「採石場の近くだな」
『採石場ですか?』
「ああ……!?」
そして鈴は見てしまった。
言葉が射殺されるその時を。
暗い雰囲気を持つ男がボウガンで撃ち殺すその時を。
目の前で。
鈴は足場がガタガタと音を立てて崩れ去るの感じた。
言葉という絶対の信頼を寄せていた鈴がその場を見た。
言葉が倒れるその瞬間
「ことのは?……こと……のは……?……あああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああああぁぁぁっっ!!!!!」
吼えた。
全身から何も考える事もできず。
そしてハルバートを持ち
「お前が!……お前が!……ことのはを……!……殺した!……よくも……よくもおぉぉぉおおおぉぉぉぉ!!!!!!!」
怜二に向かって突撃した。
電話は投げられそこで通話はとぎれた。
『な、何が起こったの!? りん……』
鈴は憎かった。
ただ憎しみに駆られ突撃する。
そこに思慮などなく感情だけで。
そんな攻撃が世界一腕の立つ暗殺者に当たるわけがない。
「……つれか? 無駄だ」
「うっさい! 絶対殺す! 殺す! 殺す! 殺す!」
薙ぐ、薙ぐ。ただ薙ぐ。
だけど怜二に当たるはずもなくただ避けられるだけ。
「実力差があるのに向かってくるのか? そのまま逃げ出せば逃げれただろう?」
「逃げるかぁ! ことのはは信じてくれた! なのにそれがお前が! 殺す! 殺す……殺してやるぅうううぅぅううう!」
怜二はそんな鈴を見てある男を思いだした。
その男はあの秋生と一緒にいた少年。
あの男はただ逃げ出した、その恐怖に。
だけどこの少女はどうだ?
怒りにむき出しにして勝てないと分かってるはずなのにかかってくる。
そこで怜二は一つの悪戯を思いついた。
それは単なる好奇心か。
はたまたここまで剥き出しの怒りをぶつける女の子に憐れと思ったか。
それは誰も知る由もないのだが。
怜二は簡単に鈴に足蹴りして距離をとり彼女に話しかける。
「……名前は」
「棗鈴!」
ふかーといいたいぐらいに鈴は怜二を睨む。
怜二は臆することもなく言葉を続ける。
「鈴か……猫みたいだな……どうだ俺が憎いか!」
「憎い! 殺してやる! 絶対に!」
なら、と言葉を続ける。
まるで楽しそうに。
「俺はツヴァイ、吾妻怜二……鈴……俺を殺しに来いよ……力を溜めて。俺を殺せるぐらいのな!」
「殺す! そんなこといわれんでも絶対殺す! 殺すんだ!」
「……ふふ。いいぜ……楽しみにしてる……猫が『亡霊』を殺せるか……! 楽しみに待ってるぜ! それまで死ぬなよ!」
「絶対殺す! しぬんじゃないぞ!」
「ふん……じゃあな!」
怜二はそういって走り出す。
近くの森林に姿をけす、その時携帯電話を回収しながら。
のこされたのは鈴のみ。
そして鈴は言葉の死体に近寄り慈しむ様に目を閉じてあげる。
その後
「うわああああぁぁぁああああああ!!!! ことのは……ことのは……わたしは……わたしはどうすればいい……こわい……こわい……」
なき始めた。
自分を妹のように可愛がってくれたというのに。
自分の思いを正しいといってくれたのに。
足元が崩された感じがして。
そして拠り所を失った猫に残るのは
「せつなぁぁぁあぁああああああ!! れいじぃぃぃいいいいっぃいいいいいいい!! ころすうううぅぅぅぅううううううううう!!!!!!」
ただ復讐のみ。
澄み切った青空の下。
その青空に耀く太陽。
碧く深く静かな木々。
さやさや吹くそよ風。
その美しい風景の中で。
一羽の漆黒の鴉が啼いた。
まるで哀しみを告げるが如く。
【C-4/森林南西部/1日目/昼(放送直前)】
【棗鈴@リトルバスターズ!】
【装備】:ハルバード@現実
【所持品】:支給品一式×2、草壁優季のくずかごノート@To Heart2、コルト M1917(1/6)、秋生のバット、コルトM1917の予備弾28、桂の携帯@アカイイト
小鳥丸@あやかしびと−幻妖異聞録−、アーチャーの騎士服@Fate/stay night[Realta Nua]
支給品一式×2、Love&Spanner@CLANNAD、、ニューナンブM60(1/5)、ニューナンブM60の予備弾15発、アルのページ断片(シャンタク)@機神咆哮デモンベイン、首輪(杏)、ハンドブレーカー(電源残量5時間半)@現実
【状態】:疲労()、背中と四肢の一部に火傷(小)、空腹、刹那、怜二への極度の復讐心、精神不安定、、血塗れ
【思考・行動】
基本:理樹を探し出し、守る。『清浦刹那』『吾妻怜二』への復讐。
0:殺す!
1:刹那と怜二を殺す。自分、理樹、千早、を襲う敵は、例外として殺す。
2:理樹を探し、守る。
3:謙吾と桜と杏を生き返らせるため言葉と同行する。
4:リトルバスターズメンバーを探し、同行する。
ただし、来ヶ谷に対してはやや警戒。
5:衛宮士郎を探し、同行する。
6:千早を誰かに預けたい。
7:爆発現場に行って刹那を殺す。
8:服を着替えたい
【備考】
※参戦時期は謙吾が野球に加入する2周目以降のどこかです。故に、多少は見知らぬ人間とのコミュニケーションに慣れているようです。
※くずかごノートの情報に気付きました。
※衛宮士郎の身体的特徴や性格を把握しました。
※『清浦刹那』に関しては、顔もまともに見ておらず、服装や口調、ピースサイン程度の特徴しか認識していません。
※言葉の話を完全に信用しました。盲目的に信頼しています。
※杏と情報交換し、彼女の人脈などについて知りました。
※くずかごノートには様々な情報が書かれています。現在判明している文は、
『みんなの知ってる博物館。そこには昔の道具さん達がいっぱい住んでいて、夜に人がいなくなると使って欲しいなあと呟いているのです』
『今にも政略結婚が行われようとしたその時、秘密の抜け穴を通って王子様は大聖堂からお姫様を連れ出すことに成功したのでした』
『山里のお寺に住む妖怪さんは物知りだけど一人ぼっち。友達を欲しがっていつもいつも泣いています』
『古い、古い昔の遺跡。そこにはドロボウさんなら誰でも欲しがる神秘のお宝が眠っていたのです』
です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうしたというのだ!? 鈴になにがあったのだ!?」
「わかんないよ!? ただ言葉が死んだって!」
「何だと!?」
一方こちら電話をしていた桂達。
鈴の絶叫で電話を切られたので混乱の極みに陥っていた。
ともかくこれからどうしようかとただ迷っていた。
そんな時方らが言葉をつむぐ。
まるで決心したように。
「ねえ……助けに行こうよ。きっと迷ってる。採石場だよね? 急ごう!」
「今更言っても間に合わないと思うが……」
「それでも! あんな取り乱してるのにほっと置けないよ! 行こう!」
「……そうだな」
桂の熱意におされてアルが同意する。
もっともアルもいく気満々だったが。
「よしいこう!」
「ちょっとまった桂。もう一度鈴に電話をしてみよう。繋がるかもしれない」
「そうだね……」
そして電話をかけ始める。
繋がるのは……?
【チーム『天然契約コンビ』】
【G-6歓楽街・雑居ビルの一室/1日目 昼【放送直前)】
【羽藤桂@アカイイト】
【装備】:今虎徹@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜
【所持品】:支給品一式、アル・アジフの断片(アトラック=ナチャ)
魔除けの呪符×6@アカイイト、古河パン詰め合わせ27個@CLANNAD、誠の携帯電話@School Days L×H
【状態】:強い決意、全身に擦り傷、鬼、アル・アジフと契約、サクヤの血を摂取
【思考・行動】
0:まずは鈴に電話する
1:採石場に向かう。
2:尾花の行方が心配
【備考】
※古河パン詰め合わせには様々な古河パンが入っています。もちろん、早苗さんのパンも混じってます。
※魔除けの護符は霊体に効果を発揮する札です。直接叩き付けて攻撃する事も可能ですし、四角形の形に配置して結界を張る事も出来ます。
但し普通の人間相手には全く効果がありません。人外キャラに効果があるのかどうか、また威力の程度は後続任せ。
※マギウススタイル時の桂は、黒いボディコンスーツに歪な翼という格好です。肌の変色等は見られません。
使用可能な魔術がどれだけあるのか、身体能力の向上度合いがどの程度かは、後続の書き手氏にお任せします。
※制限によりデモンベインは召喚できません。
※B-7の駅改札に、桂達の書いたメモが残されています。
※桂はサクヤEDからの参戦です。
※桂は、士郎の名前を知りません(外見的特徴と声のみ認識)
※桂はサクヤの血を摂取したお陰で、生命の危機を乗り越えました。
※サクヤの血を摂取した影響で鬼になりました。身体能力が向上しています。
※失った右腕にサクヤの右腕を移植しましたが、まだ満足に動かせる状態ではありません。
※憎しみに囚われかけていましたが、今は安定しています。しかし、今後どうなるかはわかりません。
【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×1
【状態】:魔力消費小、肉体的疲労小、羽藤桂と契約
基本方針:大十字九郎と合流し主催を打倒する
0:電話の内容を聞く
1:桂と協力する
2:九郎と再契約する
3:戦闘時は桂をマギウススタイルにして戦わせ、自身は援護
4:信頼できる仲間を探す
5:時間があれば桂に魔術の鍛錬を行いたい
【備考】
※制限によりデモンベインは召喚できません。
※B-7の駅改札に、桂達の書いたメモが残されています。
※アルは士郎の名前を知りません(外見的特徴と声のみ認識)
※アルからはナイアルラトホテップに関する記述が削除されています。アルは削除されていることも気がついていません。
※アルはサクヤと情報交換を行いました。
※桂の右腕はサクヤと遺体とともにG-6に埋められています。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ったく、らしくない事をした」
怜二がそう呟く。
鈴の事だ。
何故そう思ったのか未だに理解できない。
キャルだけを探せばいいのに。
ただそれと同時に。
「楽しみだ……あの少女が何処まで成長するか」
鈴が復讐を糧に何処まで成長するのかと。
自分を殺しはしないでも喰らいつくことぐらいは出来るようになってるだろうと思うと。
楽しみでたまらない。
その時だった。
「〜♪」
「……電話?」
さっき拾った電話が鳴り始めたのだ。
(さて……どうするべきか?)
怜二がとった手段は?
【C-4/森林南西部/1日目/昼(放送直前)】
【吾妻玲二(ツヴァイ)@PHANTOM OF INFERNO】
【装備】:コルトM16A2(11/20)@Phantom-PHANTOM OF INFERNO-、スナイパースコープ(M16に取り付けられている、夜間用電池残量30時間)@現実 桂の携帯@アカイイト
【所持品】:支給品一式×3。コンバットナイフ、レザーソー@School Days L×H、おにぎりx30、野球道具一式(18人分、バット2本喪失)コンポジットボウ(1/20)、コルト・ローマンの予備弾(21/36) 、ダイナマイト@現実×10、木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD
【状態】:疲労(大)、右手に小さな蚯蚓腫れ、右腕の骨にヒビ、頭部から出血
【思考・行動】
基本:キャルを見つけ出して保護する。不要な交戦は避け、狙撃で安全かつ確実に敵を仕留める。
1:電話にでる?。
2:アインはなるべく敵にしない。 主催者が本当に蘇生能力を持っているのか問いただす。
3:周囲に人がいなければ、狙撃した参加者の死体から武器を奪う。
4:弾薬の消費は最低限にし、出来る限り1発で確実に仕留める。
5:鈴が楽しみ。
【備考】
※身体に微妙な違和感を感じています。
※アインが生きていることに疑問。
※時間軸はキャルBADENDです。
※真アサシン(外見のみ)を強く警戒しています。
※理樹を女だと勘違いしてます。
※静留を警戒しています
※言葉(外観のみ把握)を警戒しています。
※M16A2の癖を完全に把握しました。外的要因がない限り、狙撃の精度は極めて高いものです。
※移動中です。移動先は後続の書き手さんにお任せします。
投下終了しました。
誤字脱字矛盾ありましたらお願いします。
タイトルは
「ただ深い森の物語/そして終わる物語/新たに始まる物語」
でお願いします
お疲れ様でした!
いやあ、ここで教祖様が逝ってしまうとは予想外ながら予測通り!
ツヴァイはトップマーダーになったのになんでしょう、この三下な印象が抜けないのはw
とにかく面白かったです!
投下乙です!
言葉ぁぁぁぁああ!
ガチの殺す覚悟決めた奴にその言葉は逆効果だと思ったら案の定…
ツヴァイようやく暗殺者の面目回復。
鈴のその後がヤバスwww
桂の電話が思わぬ展開に!?
ぎゃぁぁぁぁ!?言葉様死んだぁぁぁぁぁ!?これがバトルロワイヤル・・・!!
あー…そういえばインパクト在り過ぎて最強マーダーだと思い込んでたけど
よく考えたらただの基地外電波で超人でも何でも無かったんだよな…
とりあえず圧倒的下馬評を覆したツヴァイ大金星オメ
GJです
言葉様逝ったか……まあ、ツヴァイが相手だしね
そして鈴は今後どうなるのか、実に楽しみです
ツヴァイwww
笑う所じゃないはずなのに笑ってしまいました。
彼から(笑)がとれる日は遠そうですね^^;
投下乙です
なんとまさかの言葉様退場
ストッパーのいなくなった鈴は復讐鬼となってしまうのか!?
そして新たな電話の持ち主となったツヴァイ
これは続きが気になるなぁ
あと、鈴の持ち物の中から桂の携帯が消えてませんよ
あ……れ……言葉様……?
空気が! 空気暗殺者が殺りおった!
こうなったら桂ちゃんが言葉様を継いで鈴をたぶらかすしかないぜ!
気になったとこ
>「わかんないよ!? ただ言葉が死んだって!」
桂ちゃんは敵はおろか動物の尾花にも敬称つけてるので「言葉さん」が正解
>※言葉(外観のみ把握)を警戒しています。
殺したのでこの備考は外していいのでは?
以上、GJでした!
投下乙です
そりゃガチ暗殺者は説得されないよなあ
仲間を次々と失う鈴カワイソス
電話がこれからどうなるか楽しみです
サイスのツヴァイ評
「生死に関わる窮地に陥って初めて露になる才能の持ち主です」だっけか。
言葉様怖いからな…
投下乙
まさかの言葉様死亡。ツヴァイは救済を拒んで殺害することが多いな
完全に行き場を失った鈴は果たしてどうなるか…
羽藤桂たちを爆撃した後、衛宮士郎はカジノへと退避していた。
あの三人を一撃でまとめて葬り去った自信はある。
投影魔術を利用すれば必殺を約束されなければならない。
アーチャーの宝具である『偽・螺旋剣(カラドボルク)』による爆撃を防がれたとは思えない。
だが、もしもの可能性を考えて狙撃を行ったビルから退去。
投影魔術を使った衝動で爆発しそうになる体を強引に押さえ込みながら、士郎は近場の建物へと転がり込む。
そこがカジノだったわけだが、今の体調では戦えない。落ち着くまで身を隠すことにした。
「ギ……ぐっ、あ……!」
爆散しそうな意識を繋ぎ止める。
身体の内側から侵食される悪寒と恐怖と違和感が、際限なく衛宮士郎の身体を貪る。
人間としての細胞が作りかえられていく。
消えそうになる自分を必死に繋ぎ止めながら、士郎は歯を食いしばって耐え続ける。
喰われていく。
衛宮士郎という存在そのものが、内側から食い散らかされていく。
「くっ……そっ……!」
かつて、確かに言峰綺礼に警告された。
使えば時限爆弾のスイッチが入る――――使えば、確実に破滅への道を歩くことになる。
どう足掻こうと後戻りできない、容赦無用の自殺衝動(アポトーシス)。
それを承知の上で、衛宮士郎はそれを行使した。
桜は、どうしているだろうか。
怖い目にはあっていないだろうか。
痛い目にはあっていないだろうか。
苦しい、と。助けて先輩、と泣いてなどはいないだろうか。
「くそっ……うぐっ、うあぁああああ……!!」
彼女の涙を止めると決めた。
どれだけ憎まれようと構わない、どれだけ罵られようと構わない。
「っ……桜ぁあッ……!」
護りたいと思った。
いつも自分の前では笑っていて。
だけど自分がいないところで泣いていて。
そんな彼女の絶望に気づけなかった自分にも、彼女に冷たい世界にも腹が立つ。
正義の味方は死んだ。
味方と信じたリセルシア・チェザリーニの背中にゴルフクラブを叩きつけたときから。
もしくはトドメとして刃をその胸に突き立て、一人の少女の命を自分の勝手な理屈で奪い去ったときから。
誰かを護りたいと願った少女の夢ごと、投影魔術によって撃ち殺したときから。
「待ってろ……桜……っ……!」
道化と笑うなら笑え。
壊れた道筋であろうとも、衛宮士郎はもうこの道しか進めない。
罪のない少女たちの命を奪った業は彼を燃やし尽くす。
それすらも許容して、そんなことは一人を殺すと決めた時点で十二分に承知していて。
それでも桜の味方を張り通すと決めたのだ。
正義の味方ではなく、ただ一人の味方に。
心の底から護りたいと思えた少女のために、命を張り続けようと決めたんだから。
途中下車などできない。燃え尽きるだけしかない未来で結構だ。
身体は剣で出来ている。故に、折れて使えなくなったのならば切り捨ててくれて構わない。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……はあーっ……はっ……はっ……」
自分が壊れていく感覚が消えていく。
どうやら沈静化してくれたらしい。たった一度、絶望の風を受けただけでこの様だ。
今にして思えば失敗した、と思わざるを得ない。
命のカウントダウンの切っ掛けとなった、桂と呼ばれた少女に対する投影魔術……あれは失敗だったと言わざるを得ない。
確かにあの窮地を挽回できたという意味では必要だったかも知れないが、その一撃で眼帯の男も含めて殺すべきだった。
(……っ、たく……昼行灯も、大概に、しないと……)
聖骸布もろくに外さない状態での投影なら、問題ないのではないか。
そんな甘ったれた楽観のツケが、現状の自分を苦しめている。
中途半端な状態による一度目の投影、使用したのはアーチャーの短剣の一本である『莫耶』だ。
夫婦剣である片割れの『干将』が投影できなかったのは、聖骸布が不完全な状態での投影だからだろうか。
少なくとも砲撃に利用した『偽・螺旋剣』は壊れた幻想も含めて使用可能だった。
二回目の投影は成功例だ。切り札ではあるが、あのように有効活用していきたい。
現状把握、主な武装である名刀・維斗には皹が入っている。
弓のようにして電車の連結部分を破壊したり、人外であるサクヤの全力を受けたりなどが要因に挙げられる。
接近戦は不利。よって弓による狙撃を主とするのが効率がいい。
ならば、残る問題はふたつだ。
せっかくカジノに訪れたというのなら、やらなければならないことがある。
協力者だった支倉曜子との物々交換により手に入れた、カジノで利用するゲーム用のメダルの利用価値。
士郎自身にも興味はないのだが、可能性があるのなら一考もしなければならない。
(………………)
脱出の可能性。
誰もがこの地獄から逃げ延びることができる最善の策。
桜も、リセも、桂も、誰もが笑って生きられる世界があればいいのに。
「……莫迦か、俺は」
その可能性を自分の手で打ち砕いてきた。
誰もが幸せになれる道、正義の味方なら必ず選ばなければならない道を捨てた。
そんな自分が誰もが幸せになれればいいのに、など……考えるだけで、罪深い。
それでも一考だけはしてみよう、とカジノを回りながら考えた。
時限爆弾のスイッチが入った自分はもう二度と戻れないけど、それでも桜が無事に帰れるなら考察する価値はあるから。
正直に告白すると、優勝者は日常に帰してもらえる、などと主催者側が言っていないことは憶えていた。
それでも1%でも可能性があるのなら、確実な選択肢を選んだつもりだ。
言峰綺礼、彼とは天敵の間柄であると同時に。
衛宮士郎にとって彼は恩人でもある。死に掛けた自分にアーチャーの腕を移植したのも、桜を手術によって救ったのも彼だ。
だから、なのだろうか。
こんなふざけた殺し合いを積極的に運営していたとしても、優勝者は律儀に日常へと送り届けてくれるのではという幻想を抱いたのだ。
(まあ、あいつを知る奴がいたら……莫迦らしいって、言うんだろうけどな)
遠坂凛ならば、全力で自分を引っぱたくかも知れないな、と。
ほんの一瞬だけ少年の笑みを士郎は浮かべた。
自分は二度と戻ることの出来ない日常に、ほんの少しだけ思いを寄せて。
―――――そして、次の瞬間には感情のない殺人鬼の顔へと戻る。
過去への追憶も、希望的観測も終わりだ。
現状、この首輪を解除する方法も、主催者たちを打倒する方法も、島から逃げ出す方法もない。
士郎の得意な魔術に解析がある。
無駄な才能だ、と養父である正義の味方に嘆かれたこの力を使えば、少しは構造を把握することができるかも知れない。
だが、そんなことに意味はないのだろう。
解析できたからといって、首輪を解除する技術はない。
殺すべき参加者の誰かがそんな技術を持っているかどうかなど、わざわざ尋ねて殺すような悠長は真似は出来ない。
脱出、という淡い夢に別れを告げて士郎は立ち上がった。
「……だいぶ、疲れも取れてきたかな」
気づけば一時間近くもカジノでのた打ち回っていたらしい。
それだけ休めば体力も回復するというものだ。もともと致命的な外傷はない。まだ、彼は戦える。
「……カジノ、か。来たことはなかったけど……動いてるんだな」
周囲は無人、誰一人として存在しない。
ただ自立機械が音を立てて稼動したまま、そこに放置されているだけらしい。
ゲーム用のメダルの感触を右手に確かめながら、士郎はゲームをひとつひとつ確認していく。
ポーカー、使用不可――――ディーラーがいない状態では不可能。ブラックジャックも同様。
ルーレット、使用不可――――こちらも客が一人で挑戦することはできない。
スロット、使用可――――唯一、ディーラーのいらないものと言えば、これしか有り得ないだろう、と拙い知識で士郎は思う。
「………………」
ロビーに綴られた文字は自分たちへのメッセージだろうか。
メダルを集めて強力な武器や便利な物を手に入れよう、などの謳い文句が踊っている。
思わず士郎は口を歪めて苦笑いした。
こんなところでも、主催者たちは自分たちに殺し合いを加速させてほしいのか、とつまらない感想を抱いた。
「……ダメだな」
強力な武器は魅力的だ、それは認めよう。
士郎としても維斗の代わりとなる剣か刀も欲しいところだし、銃や魔術品なども貰えるならば貰っておきたい。
だが、時間が士郎にはない。絶望的なまでにない。
桜の情報はほとんどない。彼女と合流し、その無事を確実なものとするまでは時間が惜しいのだ。
こうしている間にも桜が襲われていると思うと、ゾッとする。
桜が命を狙われている間、自分はギャンブルに興じていたなど笑い話にもならないだろう。
よっと却下、このメダルを士郎は有効に活用できない。
「……これは、いらないか」
メダルをロビーに袋ごと放置することにした。
持ってて意味がないとはいえ、ここに放置する必要もないと言えばない。
それでも気まぐれに近い形で士郎はメダル500枚すべてを破棄することにした。
他の参加者が有効活用するかも知れないと考えて……こんな殺し合いの舞台で、ギャンブルに興じる奴もいないだろうと捨て置くことにした。
武装は維斗と弓。
状況に応じて火炎瓶を利用する方法はこれまでと変わらない。
それに加えて、残る問題は最後の支給品だ。
自分のではなく、リセルシア・チェザリーニに支給された最後の支給品。
「………………」
正直、利用するかどうかは迷っていた。
魔術を扱う者の一人として、この支給品はあまり手を出したくないと思えるものだった。
リセにしても、士郎にしても知らず知らずのうちに忌諱してしまっていた。
今までの士郎なら、やはり最後まで手に取るには迷いがあった―――魔導書の名は『屍食教典儀』。
「……使わざるを得ない、だろうな」
カジノを飛び出し、周囲を警戒しながら危険物について思考した。
士郎にとって魔導書とは魔術の知識が記された書物に過ぎない、はずだった。
その常識を呆気なく打ち滅ぼしてくれたのが、この『屍食教典儀』だった。その内容は常人には理解できない。
軽く目を通した士郎は、魔導書から発せられた毒に当てられたほどなのだから。
その効果がどれほどの物かも分からない。
行使したときの苦痛がどれほどのものかも分からない。
これを利用した者がどれほどの凄惨な末路を迎えるかも分からない。
それでも使わなければならないのなら、もう迷える段階ではない。
命を削った投影も敢行しておいて、魔導書に怖気づいていた今までがおかしいのだから。
「……っ……」
魔導書を手に取り、魔力を通わせた。
イメージは投影、されど通わす魔力は微量にして極小。
本来の持ち主ではない者が行使する代償だろうか、頭の中に魔導書の毒が流れ込んでくるのを感じた。
激痛、苦痛、これは投影を活用したときの痛みに似ていた。
魔導書の中身を理解していく。
頭の中の『人間としての螺子』が数本飛んでいく錯覚を覚えた。
正常な思考ではとても抑えられないほどの毒を頭の中に染み込ませていく。
内側から侵食する赤い腕の代償と、外側から制圧しようとする魔導書の毒が重なり合って夢幻へと誘う。
「ぐっ……あ……」
常人なら発狂していた。
彼がそれを呑み込めたのは、彼自身がもはや人間ではなく、ただの剣となっていたからか。
士郎自身にも細かいことは分からない。
彼にとって重要なのは、魔導書が剣で出来た自分を認めたという一点においてのみだ。
「……これは……投影魔術……?」
魔導書を行使。
右手から刀が生えてきた。比喩でもなく、本当に刀が生み出されたのだ。
それは投影魔術に似ているが、消費する体力や魔力量は微細なものでよく士郎の身体に馴染んだ。
代償はもはやない。魔導書は一時の主として、衛宮士郎を選んだのだから。
(刀……)
無骨な刀が一本、誰のものかは分からない一刀を振るう。
悪くない。そしてこれぐらいなら、何本も魔導書の力を借りて投影することができるだろう。
士郎にとって、この魔導書は一種の宝具とも思えた。
当初の激痛こそあったものの、アーチャーの腕を行使した投影魔術に比べれば圧倒的に消耗が少ないのだ。
これなら刀に困ることはない。
折れようとも、何度でも何度でも生み出してみせよう。
電車の連結部分を破壊したように、矢として魔力を込めて撃ち出す弾丸にもなるだろう。
「………………」
だが、自惚れるな。
多少の戦力強化などで油断はするな。
この島には強者が大勢いる。白髪に眼帯の男、獣となった女、まだ見ぬ強者たちが蠢いている。
それを思えば、この程度のことで慢心するなどできるはずがない。
刀は刀だ、決して魔導書で投影できるのは宝具ではない。
『偽・螺旋剣(カラドボルク)』のように真名を解放するような砲撃とまではいかない。
一撃必殺を有無とする、アーチャーの腕による投影のほうが威力も確実性も段違いなのだから。
「……はっ……はっ……はっ……!」
それを心に留めつつ、衛宮士郎は走り続けた。
身体能力はサーヴァントである、アーチャーのそれと遜色はない。腕に侵食されるたび、命を削って強くなれる。
カジノはもう見えない。解放感のまま、とにかくその場を後にした。
最後に桜の情報を手に入れて、もう六時間以上が経過している。さすがにもうこの場にはいないだろう。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
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――――――――――――――――――――――――
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――――――――――――――――――――――――
「…………あ?」
気づけば、ここまで足を進めていた。
そこに至るまでの記憶が少年の中には存在してなかったが、とにかく理性を持って行動したのだろう。
ちゃんと禁止エリアを避けた上で、それでもここに戻ってきていたらしい。
正義の味方が死んだ場所。
目の前にあるのは廃屋、リセルシア・チェザリーニを殺害した場所だ。
今一度、自分の罪深さを心に刻み込んだ。
感慨はそれだけだ。最低な自分を見つめなおし、それを理解したうえで更に地獄へと堕ちていこう。
「………………」
ちくり、と胸が痛んだ。
正義の味方だった衛宮士郎の心が、己の引き起こした地獄に苦しんでいる。
無視した。そんなこと、思うことすら許されないのだから。
もう日常には戻れない、もう人間にも戻れない。迫りくる破滅をも肯定して、士郎は再び歩き出した。
己が定めた道はひとつ。
まだそのゴールは見えない。その背中さえも掴めない。
【E-5 廃屋の外/1日目 昼】
【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:ティトゥスの刀@機神咆哮デモンベイン、木製の弓(魔術による強化済み)、赤い聖骸布
【所持品】:支給品一式×2、維斗@アカイイト、火炎瓶×6、木製の矢(魔術による強化済み)×20、屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン
【状態】:強い決意(サクラノミカタ)、良心の呵責、肉体&精神疲労(小)。魔力消費小。身体の剣化が内部進行。脇腹に痛み。
【思考・行動】
基本方針:サクラノミカタとして行動し、桜を優勝(生存)させる
1:参加者を撃破する
2:桜を捜索し、発見すれば保護。安全な場所へと避難させる
3:桜以外の全員を殺害し終えたら、自害して彼女を優勝させる
4:また機会があれば、支倉曜子の『同行者』として行動する事も考える
【備考】
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布は外れています。
※士郎は投影を使用したため、命のカウントダウンが始まっています。
※士郎はアーチャーの持つ戦闘技術や経験を手に入れたため、実力が大幅にアップしています。
※第一回放送を聞き逃しています。
※維斗の刀身には罅が入っています
※現在までで、投影を計二度使用しています
※リセの不明支給品(0〜1)は『屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン』でした
※ゲーム用のメダル(500枚)はカジノのロビーに放置されています
投下完了です。
タイトルは『outbreak』
元ネタはFateのファンディスクのBGMのひとつから。
ご指摘、ご感想をお待ちしております。
投下乙!
戻れない己の道に苦悩する士郎がいい味出してます
そして魔導書を手に入れてとりあえずは武装を強化
でも、ここまで覚悟を決めたのに
桜の死を知ってしまったら士郎はどうなってしまうんだろう…
投下乙です
ようやく出た屍食教典儀。死者スレでティトゥスも喜んでいるに違いないw
しかし士郎はいつになったら桜の死を知るのやらwいやもうこのままでいいかw
投下乙
士郎は勘違いしまくりだが、もう頑張るだけ頑張れw
コイン放置はらしいというか…
投下乙です
自分の進む道に苦悩し、内部からの侵食に悶えつつも突っ走る姿が、桜ルート士郎らしくて良かったです
士郎、とことん剣に縁がある男だなー
狙撃スキルとティトゥス刀を組み合わせればかなり極悪……だけど無茶しやがってな奴だからね
この先どうなるか楽しみです
乙です!
しかしツヴァイや士郎がマーダーを極めても
いまひとつ怖くないのは何でなんだぜ?
投下乙です
士朗が魔導書でさらにパワーアップしたか
やはり士郎も4本腕になったりするのだろうか?
投下乙です
サクヤの血と腕で桂ちゃんパワーアップしたと思ったら志郎さんまで!
天然契約コンビと志郎さんは切磋琢磨してるな!
恐いから九鬼先生はやく帰ってきて〜〜〜っ
ところで今回の志郎さんは好感の持てる志郎さんですね
桜のことを真剣に考えれば考えるほど憐れな感じですよ……
向こう容量一杯になったのでこちらで
>aa氏
投下乙です
曜子ちゃん……既に死に体っぽいけど、執念だなあ
投石機を使った戦闘がどうなるのか、楽しみだぜ
「……"誠"くん? もしかしてこのみのこと……忘れちゃった、のかなぁ?」
このみはクスリ、と嗤った。
瑞々しい果実のような唇の両端は歪み、桜色の舌先がチロチロと顔を出す。
大きな茶色の瞳は真っ直ぐに目前の少年を見つめ、一瞬の揺らぎさえ見られない。
「おおおお、お前っ!? い……い、いつの間にこんな近くまで……!」
赤く染まった少女がいる。
元々、彼女の制服は赤系統の色を基調にデザインされたものだ。
しかし、既にそれは更なる紅――血液によって極彩の海の中にある。
少女は黒髪にこびり付き、暗い茶に変色した血液を拭う仕草も見せず、笑顔を絶やす事はない。
(なんだよ、これ……!?)
フカヒレは自らの身に起こっている事態をまるで享受出来ずにいた。
現時点での最大の焦点は、フカヒレの肩に軽く添えられている彼女の指先。そしてあまりにも近過ぎる立ち位置について、だ。
その光景は見るものが見れば、愛を語り合う男女の微笑ましいワンシーン……と見るかもしれない。
事実、両者の距離は互いに気心を持っている相手同士でなければ考えられないほど近い。
柚原このみとフカヒレの身長の差は丁度20cm。
つまり、二人が並んだ場合、頭一つ分以上の差が生まれる訳だ。
フカヒレは完全に少女を見下ろす形となり、少女は上目遣いで彼を見上げる事になる。
(在り得ねぇ、絶対に在り得ねぇ……! なんだよ、コレは!? どうなってんだ!?
ワープ、瞬間移動……? 馬鹿か、相手はドンくさそうな女だぞ!?
ギャルゲーじゃ大体相場が決まってんだよ。こいつみたいに背がちっこくて、胸の貧相な妹系の女はドジっ娘だってなぁ!
そうだ。"あの人達"でもないのにそんな素早く行動出来る訳が……!!)
このみが一瞬で、自らと寸分違わぬ距離まで移動した事実をフカヒレは認められずにいた。
彼はあくまで「竜鳴館高校」というある種、異様な枠組みに所属する人間だ。
不幸な事に、フカヒレは彼女の行動を論理付けるだけの常識を持ち合わせていた。
例えば鉄乙女や橘館長であれば十分に今眼の前で少女が行った動作――眼にも止まらぬ速さで移動する――を実行に移すのは可能だろう。
だが、ソレを認めるのは『眼の前の女は二人と似たレベルの使い手である可能性が非常に高い』という仮説を同時に肯定してしまうのと同意義。
故に、彼は少女の異常を素直に認識する事が出来ない。
(しかも……おい、まさか……!! こいつ本物の"伊藤誠"と会った事があるんじゃ……!!
おいおいおいおい、マジかよ……常識的に考えて普通ないだろ、そんな可能性! でもコイツの口振り……)
そして、同時にフカヒレは自らが適当に『伊藤誠』という他の人間の名前を使った事に強い後悔を覚え始めていた。
とはいえ、もうこうなってしまっては後の祭り。
今更ながらに考えてみれば、自分が名乗った際に見せた少女の自分を嘲るような笑み――あれこそが、この失敗を証明していたのではないか。
しかし、
「どうやって移動したかなんて……そんなの、どうでもいいよ。ね、それより教えてよ。ファルさんの、こと!
それとお薬も、欲しいな。このみもね……病気だから。注射でも飲み薬かは分からないけど……お薬が必要なの」
「クスリ……ファ、ファル…………? あ、えーと、そのだな……ファルは……」
「うん。誠くん、ファルさんはどうしたの? 勿体ぶってないで早く教えてよ……誠くん。
本当に酷いなぁ、誠くん。もしかして、このみを苛めて楽しんでいるのかなぁ……このみ、悲しいよ」
あくまで、彼女はフカヒレの事を『誠くん』と呼ぶのだ。
親しげに、語りかけるように、まるで壊れた機械のように――何度も、何度も何度も何度も。
少女の瞳は彼の顔を見つめ続ける。
少女の指先は彼の肩を揺さぶり続ける。
灰色に染まった街。スラムの細い路地の壁際に追い詰められた彼に、もはや逃げ場は無かった。
(俺は……誠じゃない。そんなのコイツにも分かっている筈だ。じゃあ、何故だ? 何で俺を――!?)
確かにフカヒレにも彼女の顔に見覚えはあった。
もっとも、それはおそらくこの会場にいる全ての人間が当て嵌まる条項でもある。
脳裏に浮かぶのは一番最初に広間に集められた際、起こった惨劇を全ての参加者は目撃しているのだから。
頭を首輪爆弾によって吹き飛ばされた二人の少年少女。
そして、その亡骸に追い縋るように涙を溢していた柚原このみと呼ばれた少女。
それは間違いなく、今自分の肩を掴んでいる少女と同一人物だ。
……外見だけは。
薬を素直に渡すか?
とはいえ、アレはただの鎮痛剤である。彼女が求めている『病気を治す薬』に該当しないことは明らかだ。
そんなものを渡した所で、彼女は納得しないだろう。
それにこんな女の言う事をホイホイと聞いてやるつもりは毛頭無い。
こんな……馬鹿で泣き虫そうな相手など、生き残るためには足手まといでしかないのだ。
「クッ……! ふ、ふざけんじゃねぇっ! それにち、近過ぎだろ! 離れろよ!」
フカヒレは思わず、彼女の手を払い除けようとした。
少なくとも明らかに美少女の部類に入る相手のボディタッチ――普段の彼ならば、それは至高の喜びであった。
とはいえ、今回だけは話が違うのだ。
鮫氷新一にはもちろん女の性格の変化、思考の機微など分からない。
加えて彼は馬鹿で鈍感で墓穴を掘る性質ではあるが、妙な部分では鋭くまた"野生"としての感覚は非常に鋭敏である。
この時、彼の全神経が告げたのだ――この女は『地雷』であると。
しかし、
「な――ッ!? お……、おい、何だよコレ!? 離せよ! な、なんだよ……なんなんだ!?」
「誠……くん? あははーくすぐったいよ」
何度払っても、このみの手はフカヒレの肩から離れなかった。
フカヒレの動作は軽く肩口に乗ったゴミを振り払うかのようなものだった。
しかし不発。このみの小さな真白い手はどれだけの力を込めてもピクリ、ともしなかった。
故に何度もソレを繰り返す。
二度目はやや強く。三度目は若干の苛立ちを込めて。そして、
「は……離せよ!! おい、離せって言ってんだろ!?」
それから先、四度目以降は完全な力の氾濫だった。
このみの指を引き剥がすべく、フカヒレは声を荒げながら少女の手の甲に爪を立てる。
明らかに彼は余裕を無くしていた。半ば半狂乱になっていたと言ってしまっていい。
それでも、背筋から彼を飲み込もうと画策する恐怖に比べれば、血染めの少女を更に紅で染め上げる事に彼は一切の躊躇いを覚えなかった。
赤い血がとろり、と流れる――赤は白を陵辱し、一瞬で自らの色へと世界を侵蝕する。
それでも、
「ま、誠くん……? い、痛いよ……なんで……なんで、このみの手を引っ掻くの? このみとお話したくないの?」
このみの指先はフカヒレの肩から離れない。
大きな瞳を少しだけ潤ませ、このみは小さく餌付きながらフカヒレへと言葉を投げ掛け続ける。
両者の距離は変わらない。どれだけ、少年が少女を引き離そうと力を込めても、だ。
それはつまり、
「ぐぁっ!! お、お前……!?」
強く強く、このみがフカヒレ以上の膂力を込めて彼の肩を握り締めている事に他ならない。
小さな女の子が母親の衣服を摘むような力ではない。
まるで、手の中にある宝物を決して離さない――そんな鬼気迫る、異様なまでの力。人ならざる力。
太陽の光も碌に差し込まないある意味で密閉された空間。
壁に身体を押し付けられた体勢にあるフカヒレは思わず苦痛に顔を歪ませた。
爪が食い込んでいる、という訳ではない。
フカヒレの身体を圧迫するのは純粋なるこのみの指の力。単純な握力に過ぎない。
力だけで小さな少女が同じぐらいの年頃の少年を圧倒している光景はあまりにも異様だった。
「や、やめ…………こ、こいつっ!!」
「誠くん? どうしたの、誠くん? ねぇ、誠くんったら」
このみは病的なまでにフカヒレへと言葉を重ねる。
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
誠くん、
まるで彼を嘲嗤うように、顔も知らぬ男の名前が繰り返される。
が、フカヒレも一方的にやられているだけの男ではなかった。
彼のモットーとして『男は女に従うべきである』という論理がある。
故にこのような明らかに力も無さそうで、弱そうな相手に好き勝手される事は我慢ならないのだ。
とはいえ、相手が自分よりも圧倒的な強者である場合――例えば、鉄乙女や霧夜エリカ――容易く反故にされる意思ではあるのだが。
(こいつ……俺の眼しか見てない……!? なら……今なら……!)
すぐさま、フカヒレはその怒りを暴力へと変換する。
掴まれているのとは反対の手を懐に突っ込むと、その中に忍ばせた銀色の装飾銃を取り出したのだ。
クトゥルー神話の支配者の名を持つ四十六口径のモンスターハンドガン、イタクァである。
自分は古河渚の偽者を相手が攻撃に移る前に切り殺したのだ。
ならば、この血だらけの女を撃つ事になんの問題があるだろう?
この握撃は自身への敵対行為と見て、間違いない。
見た目と違って、在り得ないほど力が強い事が気になるが、撃てば死ぬ――間違いない。
一人の悪人を奈落の底に叩き落したフカヒレである。
ならば、二人目の相手を殺す事に何を躊躇うのだろうか。
彼女は、明らかに変だ。そう、一言で言ってしまえば『気持ち悪い』のである。
こう……胸がムカムカするのだ。
――不揃いな妙な髪形が不快だ。
――にやにやとコチラを馬鹿にするような笑顔が不快だ。
――いつ瞬きをしているのかと、不思議に思ってしまう瞳が不快だ。
――こんなに小さな身体の癖に、自分を微妙に脅えさせているのが不快だ。
――あくまで自分を『誠くん』と呼ぶのが不快だ。
これだけ近くに接近しているのに、彼女の髪から漂ってくるのは血の匂いだけだった。
シャンプーの芳しい香りなど微塵も感じられない。
相手は年頃の少女の筈なのに、だ。
鼻腔からの刺激は背筋へと襲い掛かって来るような恐怖を増幅する。
心臓の鐘が更にそのペースを上げる。心が呑まれそうになる。
だから、
「いい加減にしろって言ってるだろっ!!」
眼の前の少女に銃口を向ける事に疑問など持たなかった。
「――え?」
ドンッ、という鈍い音が草臥れた街の中で木霊した。
少女はキョトンとした眼でこちらを見つめていた。身体が地面へと沈んでいく、最後の瞬間まで。
▽
「……あら?」
瓦礫やゴミにまみれ一切の艶やかさを失い灰色に染まった街の片隅。
一人の少女が立ち止まり、辺りを見回した。
「……気のせい、かしら」
記憶を失った少女、ファルシータ・フォーセット。
自らの水底に残った水滴を拾い集め、この過酷な舞台から離脱した存在。
何か妙な予感を感じ取り、足を止めたのだが……勘違いだったようだ。
ファルは悩みながら、ひたすら"東"に向けて歩き続ける。
教会から、スラム街の一介へ向けての移動。
この短い行程をこなす間に、何度も彼女の耳には劈くような火薬の爆ぜる音が突き刺さった。
辺りを見回し、誰も近付いて来ないことを何度も何度も確かめながら、少女は背を猫のように丸め小走りに路地を駆ける。
白銀色の髪の毛が揺れる。
処女雪のように極め細やかな肌は、日の光を浴びて輝いているようだった。
彼女は確かに未だ『殺し合い』という枠組みの中で己の生を勝ち取ってはいる。
しかし、自らの名前や出身どころか、果てはこの催しに参加している事すら覚えてはいないという大きなハンデを抱えたままで。
只事ではない、そんな事実だけは認識出来る。
疑問は……いくつもある。
いや、逆に不思議に思わない事象の方が遥かに少ないのではないか。
自身のデータベースから吹き飛んだのは出自や性格などに関するパーソナルな情報が大半だ。
逆に世間の常識に対する知識は大半が残っていた。
銃の音は畏れるべきモノだと自分は知っていたし、頭上に広がる遙かなる蒼を「空」と呼ぶのも知っている。
言葉も当たり前のように喋れるし、字の読み書きだって可能だ。
そして何より――私は歌を、歌を歌う事を覚えていた。
ファルは"空"を見上げながら、当てもなく前へと進んでいく。
この辺りが危険な場所であるとは分かっている。
流れていく雲は白く、燦燦と照り付ける太陽は少しだけ暖かい。
思わず眉を顰めたくなるような世界の中で、この青色だけはずっと変わらない。
いつまでも……太陽が沈まない限り、自分を照らしてくれる。
何なのだろう、この感覚は。
記憶喪失、という概念に覚えはある。つまり、今の自分は名前すら分からない真っ白な存在なのだ。
そう、いわばそれは抜け殻なのかもしれない。
器を満たしていた液体はポッカリと空いた穴から抜け落ちてしまったのだ。
×××××××××××××という人間を形成していた要素は何もかもが欠落してしまったと言ってもいい。
だが、こう考える事も出来るのではないか?
器だけは残った、と。
ふっ、とため息を溢しながら、何気なく喉をファルは両手で包み込んだ。
か細くて折れてしまいそうな……それでも、力強くさと温もりを感じる。
トクトクと脈を打つ鼓動が躯の中で命を形作っている。
生命の息吹が掌を伝って頭へと染み込んでいく。
何をすればいいかは分からない。
だけど――自分は、もっともっともっと……歌が歌いたい。
その気持ちに嘘偽りは存在しない。
だから、こうしてここにあるモノが本当の×××××××××××××なのではないか、ふとそんな事を思った。
ならば、迷うことなどないのではないか。
ならば、臆することなどないのではないか。
……うん。多分、間違ってはいないと思う。
▽
「あ……ご、ゴメンなさい! 大丈夫ですか! 痛かったんじゃ……」
このみは足元で全身を痙攣させながら、蹲る少年へと声を掛けた。
「ご……ぐ……あ……っ!!」
どうして、こんな事になったのだろう。
額から汗を垂らし、凄まじい叫び声を挙げる少年を見つめながら、このみはそんな事を思った。
胸の奥は別に痛んだりはしないけれど、彼の唸り声は少しだけ気持ちが悪い。
それに彼からは妙な臭いがする。
何だろう……まるでドブ川で自生しているザリガニ、みたいだ。変なの。
彼――伊藤誠と名乗ってはいたが、それが偽名だと言う事は分かっている。
なぜなら、自分は本物の伊藤誠さんに会っているし、彼が嘘をついていない事も知っているからだ。
彼が偽りの言葉を自分に吐き出したと瞬時に理解はした。だけど、それだけだ。
怒りや憎しみのような感情は別に湧いてこなかった。
淡々と……世界の澱を再認識しただけだった。
だから、少しだけ脅かしてやろうと思った。小さな悪戯心という奴だ。
ちょっとビックリしてくれればそれで良かった。でも、
――彼は私に銃を向けた。
それは咄嗟の判断故の行動だった。
フカヒレがイタクァを取り出し、このみへと引き金を引く一瞬、彼女は自らに押し迫った危険を察知したのである。
そして、不思議なことに身体は一分の淀みもなく動いた。
少年の肩に『縋りついていた手とは反対の手』で、すぐさま彼の銃を叩き落とし、右膝で彼の腹部を貫いた。
それだけの事を行うのに一秒の迷いも必要なかった。
まるで……何かに躯が操られているような気分だった。
少年は瞬間「うっ」という小さな叫びを漏らしながら地面へと倒れた。
完全に急所……とはいえ、女の子の他愛もない空手の真似事みたいな行為にここまでのオーバーリアクションはないと思う。
少しだけ、演技が過剰だ。口の中から吐瀉物がボトボトとこぼれ落ちて、地面を汚している。
ビックリ人間か何かなのだろうか? あそこまでやる必要があるのかな……。
とはいえ、このみの意思をまるで解さずに指先は動くのだ。
彼は話せるようになるまで時間が掛かるかもしれない。
このみは倒れ込んだ少年からデイパックを引き剥がすと、中身を物色し始めた。
すぐさま、目当ての道具は見つかった。ラベルの貼り付けられた瓶。中身は――ん、待て?
「あれ、そういえば、あの銃……?」
瓶より先に、一つだけ気になる事があった。
「やっぱり! ……これ、ドライさんに貰った銃だ!」
地面に転がっていた銃を確認する。
銀色のフレームに刻まれた紋章のような文字。在り得ないほどの重さに、巨大な銃身。
間違い、なかった。
それはドライが臆病者の自分にくれた武器だった。大切なものだ……そして――"彼女"に奪われたものだ。
「……どこで、これを」
「ぁ……ぐっ……うぉえ……っ!!」
フカヒレは答えない。いや、単純に答えられないのだ。
彼の身体は悪鬼化しつつある人間の打撃を急所に食らってすぐさま行動出来るほど、頑丈ではない。
しかし、彼のそんな態度にこのみが苛立ちを覚えたこともまた事実。
「答えて! この銃をどうしてアナタが持っているの!?」
「う……っ、あが……っ! う…………っ、……た……」
「聞こえない! もっと大きな声で喋ってよ!」
このみは地面で未だに身体を捩らせ、痛みで転げ回るフカヒレの襟元を掴むと彼の身体を揺さぶった。
まるで出来の悪いコースターのように、彼の身体はガクンガクンと前後にシェイクされる。
少女の瞳は完全に光を失い、あどけない笑顔は完全にその姿を潜める。
残ったものは汚泥のような怒りの感情だけ。
自らに命の枷を嵌めた相手、ファルシータ・フォーセットの明確な手掛かりを手に入れた彼女は必死だった。
「うば……っ、……た。俺がこ、殺した……女が持っていただけ、だ」
「殺した!? アナタ、もしかしてファルさんを……!?」
「ち、違う……俺が、殺したのは……古河渚の、ニセモノだ! ……あの女、お、俺を殺そうとしやがった……それで……!」
「な……ファルさんじゃ……ない!?」
自分の身体からスッと何かが抜けていく感覚をこのみは覚えた。
ソレは緊張と高揚した感情によって張り詰めていた糸がプツン、と切れたような感覚だ。
あのファルが容易く銃という強力な武器を手放す訳がない。
では何故だ? 何故、その「フルカワナギサ」という人物がこの銃を持っていたのだ?
その女に――殺された?
「あ……っ! く、クスリは……解毒剤はっ!?」
「ぐぁっ!」
ファルの死という概念が頭を過ぎった瞬間、このみは一つの危機が自分へと突き付けられている事を理解した。
フカヒレを掴んでいた手をパッと放す。反動のままに、フカヒレは後頭部を地面にしたたかに打ちつけた。
銃を払った時、彼の手の指が一本妙な方向に曲がってしまったようだが、なんて貧弱なんだろう。
だが、そんな事はこのみにはどうでも良い事だった。すぐさまデイパックの中身を確かめる。
ファルシータ・フォーセットの死が導き出すもの。
それは同時に柚原このみの避けられぬ"毒死"の運命なのだから。
策略によって遅効性の毒薬を食事に混ぜられた……少なくとも彼女はそう認識していた。
もっとも、それ自体はファルの真っ赤な嘘だ。
毒などファルは持っていなかったし、銃を奪い戦乱の種を撒き散らすための方便に過ぎなかった。
彼女はいくら時間が経過しようとも毒で死ぬ危険性はない。今の所は。
が、それを知らないこのみにとっては只事ではなかった。
存命のため、彼女は解毒剤を喉から手が出る程欲していた。迫り来る……死へのカウントダウンの恐怖から逃れるために。
少年が背負っていたデイパックをこのみは狭い路地の中にぶちまける。
まず、凄まじい音と共に金色のメダルが滝のような勢いで飛び出して来た。
一見、火の玉を連想する特徴的な刻印が両面に刻まれていた。数字などは書かれていない。ゲーム用の特殊通貨だろうか?
カラカラと喧しい騒音を撒き散らしながら、数秒間で金色の雨は打ち止め。
基本的な支給品の他にも重くて太い銃もある。
説明書には『エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン』とある。どうやらグレネードランチャーのようだ。
エクスカリバー、何とも大層な名前である。この貧弱な少年の支給品としては不釣合いに思えた。
数回、デイパックを揺さぶり、中に何も残っていないことを確認すると、このみは地面に屈み込み目的の品物を探し始める。
探し物――少年が口にしていた「クスリ」という単語。彼が何らかの薬品を所持しているのは分かっていた。
「……あった、薬瓶――――え」
すぐに、らしき物体は見つかった。茶褐色の瓶に白いラベルが貼ってある。
そこには小さく「鎮痛剤」と書かれて――
――アレ?
妙だ。
おかしい。いや、こんな事があっていいのだろうか。
確かに、論理としては合っている。
彼はファルシータ・フォーセットの荷物を持っていた。それは、フルカワナギサと名乗る女から彼が奪った物だ。
つまりフルカワナギサが何らかの手段でファルから奪った道具が、回り回って自分の手の中にやって来た事になる。
だから、この中にはファルの荷物が入っていても何も驚く事はない。
解毒剤がない事もそう考えれば納得出来る。彼女は『薬を隠した』と言っていたのだから。
でも、
「これ…………ファルさんが、このみに見せた瓶とおな……じ……?」
どうして、この中には「鎮痛剤」とラベルに記された薬しかないのだろう。
しかもコレはファルさんが私を脅す時にチラつかせたモノと全く同じだ。
ハッキリと覚えている。
アレは思い出すのも胸が痛くなるくらい……鮮明な記憶なのだから。見間違えようがない。
――じゃあ、私が飲まされた筈の毒薬は何処に行ったのだろう。
▽
「む…………」
ファルは歌を歌いたい!という欲求を必死で押し込みながら、ひたすら東へと向かっていた。
銃が当たり前のように撃たれる荒れ果てた場所(おそらく、どこかの国のスラム街という線が濃厚だろう)だ。
目立つ行為は控えるべきだと本能が判断した。
それに、何故東なのか、よくは分からないが感覚的にそちらの方が適当な気もしたのだ。
ここが何処なのか、全く分からない以上全ての行動から"理由"は消え去る。
ただ己の勘に身を任せるのみ、だ。
が、その前に当面の問題点が一つ。
「困ったわね……」
ファルは不安げに天にて煌く星を見上げた。
光の球は高度を上げ、丁度天辺ぐらいの位置まで上昇している。
ファルは時計を持っていない。故に、今が何時か分からない……とはいえ、太陽があの辺りにあるのならば、正午近い事は理解出来る。
そして、彼女の身体は非常に万物の流れに正直だった。
「お腹が、空いたわ」
スラッとした腹部の辺りを軽く撫で回しながら、ファルはぽつりと独りごちた。
おそらく今は十二時前後だと思われる。
その事実から導き出されるであろう解答、お昼ご飯を食べなければならない。
今自分はお腹が空いてペコペコだった。この瞬間もくうくうと胃袋が悲鳴を上げている。
女の身でありながら、若干はしたない……という気持ちも当然存在するのだ。
こうしてキョロキョロと周囲を伺っている最中ですら、羞恥の感情が身体を焼いてはいる。
が、同時に自然の摂理には逆らえない事も理解はしているつもりだった。
――ひとまず、移動しよう。
流石にこんな場所で食事を取るつもりにはなれない。空腹を我慢してでも、一刻も早く離れるべきだろう。
いつ暴漢が現れるか分からないようなエリアで、呑気に料理を作る気にはなれない。
出来るならば、トラットリアでいつものラザニアでも作るのが適当――
「……あら?」
妙な単語が脳裏に浮かんだ。
ラザニアは分かるが、トラットリア?
普通の言葉ではない。だけど、何となくニュアンスで意味は伝わって来る。
ソレは確か、ご飯を食べる場所だった筈……いや、違う。自分にとっては"作る"場所だった。
もしや×××××××××××××は料理人だったのだろうか。
まさか。自分はこの衣服から察するに、学生……だったのだと思う。
アルバイトでもしていたのではないか。
学生の本分は勉強とはいえ、遊ぶ上で先立つ物は必要になる――――ん?
でも、何となく。
私のアレは、遊ぶ金欲しさで行う片手間の労働……ではなかった気がするのだ。
働かなければ生きていけなかった、そんな予感さえする。
ああ――私は、どうしてそんなにもお金が必要だったのだろう?
ふと、そんな事を思った。
▽
「だま…………され、た……?」
このみの胸の奥で膜を貼っていた"恐怖"という感情がポロポロと剥がれ落ちていく。
ファルシータ・フォーセットは言った。
『遅効性の毒をこのみのカレーにだけ混入した』と。
確かに、解毒剤は彼女しか知らない場所に隠してあると言っていた……しかし。
あの時点で彼女が『毒薬を持っていた』事だけは揺るぎない事実の筈だった。
そしてファルが見せた毒薬の瓶は今、自分の掌の中にある。
――"鎮痛剤"というゴシック文体で書かれたラベルが貼られた上で。
綺麗サッパリ毒だけが消えてしまうとは考え難い。
彼女が自分以外の人間に対しても、同様の手口を試みる可能性は非常に高い。
そうでなくても、毒物は有効な武器だ。おいそれと手放すとは思えない。
そして一度疑念の種が芽生えた瞬間、何もかもが屈折して見えて来るのだ。
ずっと頭の隅の中にはあって、ずっと否定して来た仮説。
『ファルさんが、自分に解毒剤を渡すメリットが存在しない』
例えば、彼女の命令を遵守し首輪をこのみが三つ集めてきたとしよう。
しかし約束の時間通りに教会へと赴いたとして、ファルは本当にその場所へ現れるのか?
解毒されたこのみが復讐する可能性は?
仲間を引き連れて来て私刑に遭わせるとは考えないのか?
そして――ファルがこのみを助けた結果、どんな利益を得る?
何もない! これっぽちも有りはしない!
他人に毒を盛り、人形として操ろうとする人間がそんな馬鹿正直に姿を現すものか!
一瞬でも飼い犬に手を噛まれるようなミスを犯す訳がない。
そう既に時限装置のスイッチは押されているのだ。
だったら、こう考えてしまった方がよっぽど気が楽だ。
いや、条件や道具から判断するにこちらの可能性の方が断然高い。つまり、
――あの時、彼女が持っていたのは毒などではなかった、と。
「アハッ、アハハハハ……う、嘘……、嘘……だよね? だ、だって……こ、このみ……バカ、みたいだもん。
あ……あんなに、がくがく震えたのに。怖い思いだって沢山、したんだよ。刹那さん……とか、さ。
いっぱいいっぱい泣いて……凄く辛くて……だ、誰も……信じられなくて」
自傷。
改めて鑑みる自身――柚原このみのなんと矮小なる事か。
言葉の刃を心臓に突き付けられ、命を賭して守ってくれた環の意思を継ぐ事も出来ず。
自らを心の檻へと逃がし、蓋をした。引きこもり全てを拒絶した。
「全部、嘘? 私の…………勘違い? 信じてくれた人まで裏切って……その結末が……本当に……コレなの!?
そんなのっ……酷いよっ!! 酷すぎるよっ、ファルさん!! どこまでこのみを弄べば気が済むの!?」
このみの身体に仕掛けられた毒殺の時限爆弾は完璧な不発。いや、そもそも設置すらされていなかったのだろう。
今は……そうとしか考えられない。
「……許さない、ファルさん」
このみの中の"鬼"は更にその色合を濃くする。
ぺロリと彼女は口の周りに幼い子供の食べ残しのように残った血液を嘗め取った。
それは、半ば無意識的な行動だった。しかし、このみは舌先から伝わって来るその味に思わず眼を見開く。
「あまい、や。せつなさんの、ち……。せつなさん……くるしそうだったなぁ。すてきだったなぁ。きれいだったなぁ」
不思議だった。指の肉を噛み締め、咀嚼した時はまるでおいしくなんてなかったのに。
口の周りに付着した血液が、これ以上無いほど美味に感じられるのだ。
同時に、苦痛に歪む彼女の顔が堪らなく愛おしく感じてきた。
もっと彼女の悲鳴を味わいたい。もっと彼女が苦しむ姿を見ていたい。
出来るならば、専用の檻にでも閉じ込めて泣いて脅える姿をずっと鑑賞していたいくらい――。
「みたい……な……せつなさんのちまみれのかお、ファルさんのちまれのかお。ちは……とってもとっても……あまい。
もっともっと嘗めて……みたいな」
それは、頬が落ちそうな程味わい深かった。
例えるならば甘美な蜜、だろう。
数万匹の蜜蜂が必死に集めた蜂蜜であろうと、この血の濃厚さには及ばないと思う。
芳醇にして味わい深い。
記憶として存在する"血液"としての苦味や鉄っぽさは微塵も感じられなかった。
「アハハッ、いいね、それ! このみはファルさんに遭う前の……ドライさんに勇気を貰ったばかりの柚原このみに戻ればいいんだ。
ううん…………違う。このみは…………ドライさんみたいになればいいんだ!」
タマお姉ちゃんが私に残してくれた言葉があった。
『……このみ。駄目だよ、あなたは生きなくちゃ』
『このみ、雄二――頑張って生きてね』
胸に刻まれた台詞。今の私を突き動かす衝動となるもの。
絶対に死ぬ訳にはいかない。
私は私のまま。
柚原このみは柚原このみのまま――絶対に、生き残らないといけないんだ。
絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対――絶対に!!!
「ドライさん……本当に、ありがとうございます。
『銃を持ったら躊躇うな。ありったけの殺意をこめて標的を撃ち殺せ』……その通りでしたね。
だから、ファルさんっ! 刹那さんっ! そして、言峰さん! 神崎さん! このみは……」
大きく息を吸い込んで、その想いをぶちまける。
「全力であなた達に復讐するでありますっ!!!」
▽
「……くしゅん!」
鼻の辺りに妙な痒みを覚え、思わずくしゃみをしてしまった。
周りに誰も居なかったのは幸いだが……少しだけ、恥ずかしい。
相変わらず、ファルは東へと向かっていた……筈だった。
スラム街を抜け、いつの間にか彼女は森へと足を踏み入れる。
ちなみに、移動を開始した時点の彼女の位置から考えると、明らかに南へ向かっているのだが、コンパスを持たないファルには知る由もない。
自分がどんな人間だったのか。未だに、答えは出ない。
おぼろげながら浮かび上がる輪郭は未だに深い霧に覆われたままだ。
歌、パパとママ、そして生きていくための努力。結局、断片としてのパーツだけしか浮かんでは来ない。
幻想と真っ白な殻にこの心は覆われている。真理に到達する事は適わないのだ。
――いったい、自分はどんな性格をしていたのだろう。
例えば、思慮深く誰にでも笑顔を絶やさない人間、というのはどうだろう。
やさしくお淑やかで誰からも好かれる――そんな、聖母にも似た……、
「……馬鹿ね」
子供が諳んじる夢物語の如く、スラスラと飛び出した愚かな妄想をファルは一笑に切って捨てた。
歳を取ってもサンタクロースを信じている子供ではないのだ。
見えない物に期待を寄せても、裏切られるだけに決まっている。
誰も自分を愛してはくれない。
誰も手を差し伸べてくれたりはしない。
誰も――
「…………痛っ!」
気付けば、ファルは自らの頭を抑え地面に蹲っていた。
一度に物を考えすぎたのだろうか。
それとも、何か自身のトラウマに触れたのか。
案外、加速度的な思考の概算は記憶を失った身には重荷だったのかもしれない。
きっと……そうだ。
今は、どこかで休もう。
そしてお腹一杯に料理を食べて、身体を落ち着かせるのだ。
サラサラと梢を擦り合わせ、森は小さな楽団になって自分を出迎えてくれる。
ゆっくりと春の小川のように流れる凛とした空気が首元をくすぐる。
緑色の風を肺一杯に吸い込んで深呼吸。
……ほら、大丈夫。何も心を惑わせるものはない。
【D-2 森/一日目 昼】
【ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン】
【装備:包丁、デッキブラシ イリヤの服とコート@Fate/stay night[Realta Nua] 】
【所持品:リュックサック、救急箱、その他色々な日用品、ピオーヴァ音楽学院の制服(スカートがさけている)@シンフォニック=レイン 】
【状態:重度の記憶喪失、頭に包帯、体力疲労(中)、精神的疲労(中)、後頭部出血(処置済み)、空腹】
【思考・行動】
基本:自分の記憶を取り戻したい パパとママを探したい
0:パパ……ママ……
1:東へ向かう。
2:自分のことを知っている人間から自分についての情報を得たい。
3:男性には極力近づかないようにする。
4:歌いたい
【備考】
※ファルの登場時期は、ファルエンド後からです。
※頭を強く打った衝撃で目が覚める前の記憶を失ってます。
※断片的に気絶前のことを断片的に覚えている可能性もあります(例として“他者を利用する”など)
※当然バトルロワイアルに参加していること自体忘れてます。
※教会に倒れていたこととスカートが裂けてたことから、記憶を失う前は男性に乱暴されてたと思ってます。
※恋人がいるのと歌を思い出しました。
▽
「はは……は……」
乾いた笑いを溢す事しか、もはやフカヒレには出来なかった。
少女は、自分のことなどゴミ屑程度にしか捉えていないのだろう。
故にこちらを一瞬たりとも見ようとせずに大演説大会を開催したり、自らの身体に飛び散った血をペロペロと嘗め取ったりしているのだ。
彼女の姿形は「柚原このみ」という少女のままだ。
幼く可愛らしい笑顔の似合う女の子。
だが、その実態は明らかに別の何か。"怪物"と言ってしまっても間違いではないだろう。
(やべぇよ、やべぇよ……!! スバルぅうううう!! 助けてくれよ!! 喰われちまう、このままだと俺喰われちまうよぉおお!!)
なにしろ少女は「血は甘い」と訳の分からない事を口走っていたのだ。
つまり、人さえ喰らうのかもしれない。少なくとも血は啜るだろう。
まさか道端で出会った妹系の少女がカニバリズムを嗜んでいるとは、さすがのギャルゲーマスターフカヒレも度肝を抜かれた。
凄まじい表情で空の鍋を掻き回したり、
鉈を持って追いかけて来たり、
鋸で鮮血の結末だったり、
日記で逐一こちらの行動を見られていたり、
愛玩人形の身体に魂が転生しても兄のことを愛していたり、
同棲を始めた彼女は幼い兄弟を飼育する誘拐犯だったり、
クランクアップした映画を見ていたら撲殺されたり、
少女は狂ったくらいが気持ちよかったり、
人肉を喜んで食べに行ったり、
あの女の臭いがしたり、
ねーちんだったり、
腹を切ったり、
二次元の……既にヤンデレとかキモウトとかそういうレベルでは無い。
完全に鬼――オーガ――の領域である。
戦って勝てる相手ではない。眼で、雰囲気で、殺されてしまう。
デイパックは奪われたものの、腰には未だビームライフルがあるとはいえ、その戦力差は絶対的。
つまり、このままこの場所に居ればいつ殺されるか分かったものではないのだ。
「ああ、そういえば」
「――ッ!?」
そこまで考えた時、クルリとこのみが首だけを回して、腰が抜けたように地面に座り込むフカヒレを見た。
「本当の名前……聞かせて欲しいな。"誠くん"?」
「は、はいっ! 先程は偽名を名乗るなど、大変失礼な真似を……!」
「名前、教えて?」
「申し訳ありません! 鮫氷新一と申すであります! シャーク、いや侮蔑のニュアンスと共に『フカヒレ』と呼んで頂いて結構であります!」
「そう、フカヒレさん……」
完全にこのみに威圧されたフカヒレは、何故か自衛官のような口調で立ち上がり、敬礼と共に自己紹介。
初めから有って無いようなだった彼のプライドは、このみの膝蹴りで地面に沈められた時点で消滅していた。
このみはどうでも良さそうな表情のまま、彼を一瞥。そして、
「フカヒレさん。このみの……仲間に、なってくれませんか」
彼には想像さえ出来ないような言葉を投げ掛けた。
「な……は!? ど……どうして、ですか?」
「だって、このみは皆と力を合わせて戦わないといけないんです。タマお姉ちゃんとタカくんとユウくんの恨みを晴らさないといけないんです。
それにファルさん達に復讐するのに、このみ一人の力じゃ不安で不安で…………。
しかも、フカヒレさん"も"人を殺す事に戸惑いはないみたいですし……いいパートナーかな、って。
ほら、普通何人かで行動したりするじゃないですか。とりあえず、このみもそうして見るべきだと思うんです」
このみは舌を出しながら、小さく「えへへ」と嗤った。
笑顔、というよりも顔面の筋肉運動とでも言った方が適当な歪み切ったものであったが。
その証拠に彼女の瞳は一切の光を失い、暗澹とした虹彩を刻んでいる。
「も、もし……断ったら……?」
恐る恐る、フカヒレは尋ねた。
一瞬このみは何を言われたのか分からないような空虚な表情を浮かべた後、ニコリと満面の笑みを浮かべた。
「ええとねーちょっと困るけど、その時はやっぱり、」
瞬間、全ての表情を消し去りつつ、
「殺しちゃうと思う」
と小さく呟いた。
「喜んでお供させて頂くでありますっ!!」
そして――寸分の逡巡もなく、フカヒレは吼えた。
己の運の無さと見事に"地雷"を踏みつけた受難を恨みながら。
▽
「よろしくね、フカヒレさん」
このみはフカヒレの顔を見もせずに、半ば義務的に言った。
仲間……という関係ならば挨拶ぐらいはしておくべきだと思ったのだ。
このみがフカヒレに同行を申し出たのには理由がある。
彼女にはあくまで自分は「柚原このみ」として行動したい、という強烈な欲求が根底に存在するためだ。
いかに彼女が鈍感であるとはいえ、自らに明らかな変化が訪れている事は薄々ながら理解している。
血があんなにも美味に感じられたのもそうだし、恐ろしい速さで躯が動くのもそうだ。
邪魔な人がいたら殺してしまえばいい、という思考に歯止めを掛ける事も出来ない。
現にフカヒレにしても、彼がこちらに敵意を露にするようならば、眉一つ動かさずに捻り殺す意思は明白だった。
でも、だからこそ、このみは自らに残った汚泥のような『人間らしさ』に縋り付いていたかった。
もはや何もかもが手遅れなのは分かっている。
手の施しようがない末期状態に足を踏み入れている事も確実。
そう……ここであえて宣言しよう。
柚原このみは、鬼だ。
妄執と生への渇望に取り付かれた幽鬼。血まみれの復讐鬼である。
だが、人間であった時の事を捨て去る事など出来ない弱い存在でもある。
それは、やっぱりタマお姉ちゃんの影響がとても強い。
タマお姉ちゃんが生かしてくれたのは『柚原このみ』であって、意識を失った動く肉の塊ではないのだ。
歩むは修羅道。
心の底から頼れる相手などいない孤独な旅路。
それでも、幾つもの想いを背負って進まなければならない。
たとえ――もう、哭いて叫ぶための胸を貸してくれる相手がいないとしても。
あいつらの肉を引き裂いて、血を啜り、骨を砕き、絶叫の渦に身を埋め、復讐を遂げるまで――立ち止まる事はないのだから。
▽
間違った舞台、誰かが選択を誤った世界。
煌星のような輝きを放ちながら闇にその核を支配された街。
復讐の鬼と化した一匹の"鬼"が大地を駆ける。
瞳を真っ赤に血走らせ、手足となる男を引き連れて。
鬼が追い求めるは記憶を失った少女。
自らを覆っていた殻を失い、少女は真実の自分へと手を伸ばした。
誰にも理解された無かった、いや自身さえ理解していなかった本質――歌を歌うこと、愛されること。
器だけになった少女は何を思う。そして、どんな言葉を口ずさむ?
彼女を包み隠していた被膜は消え失せ、丸裸の少女が佇むだけ。
溢れ出す想い――それこそが彼女の全て。彼女がひっそりと抱えていた秘めたる願い。
鬼の住む街。鬼が哭く街。
人は足を踏み入れることさえ出来ぬ妖なる魔都。
鬼は嗤い、少女は歌う。
ここは神に祝福されなかった者達の集う街。
人が人でなくなる場所。真実の自分と出会う場所。
――鬼哭街。
【C-2 中心部/一日目 昼】
【柚原このみ@To Heart2】
【装備:包丁、イタクァ(5/6)@機神咆哮デモンベイン、防弾チョッキ@現実】
【所持品:支給品一式、銃弾(イタクァ用)×12、銃の取り扱い説明書、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)】
【状態:悪鬼侵食率30%、リボン喪失、右のおさげ部分が不ぞろいに切り裂かれている、倫理崩壊】
【思考・行動】
基本行動方針:何を犠牲にしても生き残り、貴明と環の仇を討つ。
0:柚原このみのまま、絶対に生き残り、主催者に復讐を遂げる。
1:ファルと世界に"復讐"をする。
2:気に障った人間は排除する。攻撃してくる相手は殺す。
3:フカヒレは今は仲間として適当に利用する。歯向かったり、いらなくなったら殺す。
4:最悪、一日目終了時の教会でファルを殺す。
【備考】
※制服は土埃と血で汚れています。
※世界の名を“清浦刹那”と認識しています。
※ファルの解毒剤の嘘を看破しました。見つけ出して殺害するつもりです。
※第一回放送内容は、向坂雄二の名前が呼ばれたこと以外ほとんど覚えていません。
※悪鬼に侵食されつつあります。侵食されればされるほど、身体能力と五感が高くなっていきます。
※制限有りの再生能力があります。大怪我であるほど治療に時間を必要とします。
また、大怪我の治療をしたり、精神を揺さぶられると悪鬼侵食率が低下する時があります。
【鮫氷新一@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン(5/5)@現実、ビームライフル(残量70%)@リトルバスターズ!
【所持品】:支給品一式×2、きんぴかパーカー@Fate/stay night[Realta Nua]、シアン化カリウム入りカプセル、
スペツナズナイフの柄 、ICレコーダー
ゲーム用メダル 400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル、37mmスタンダード弾x10発
【状態】:疲労(大)、背中に軽い打撲、顔面に怪我、鼻骨折、右手小指捻挫、肩に炎症、内蔵にダメージ(中)
【思考】
基本方針:死にたくない。
1:このみが恐ろしいので、逆らわないようについていく
2:知り合いを探す
3:清浦刹那、ツヴァイ、ドライ、アイン、菊地真、伊藤誠を警戒
【備考】
※特殊能力「おっぱいスカウター」に制限が掛けられています?
しかし、フカヒレが根性を出せば見えないものなどありません。
※渚砂の苗字を聞いていないので、遺跡で出会った少女が古河渚であると勘違いしています。
また、先程あった少女は殺し合いに乗り、古川渚を名乗る偽者だと思っています。
※混乱していたので渚砂の外見を良く覚えていません。
※カプセル(シアン化カリウム入りカプセル)はフカヒレのポケットの中に入っています。
※誠から娼館での戦闘についてのみ聞きました。
※ICレコーダーの内容から、真を殺人鬼だと認識しています。
※ゲーム用メダルには【HiMEの痣】と同じ刻印が刻まれています。カジノの景品とHiMEの能力に何らかの関係がある可能性があります。
B-2中心部に回収出来なかったゲーム用メダル@現実が100枚落ちています。
【エクスカリバーMk2 マルチショット・ライオットガン@現実】
全長780mm。総重量4,235g。
イギリスのワロップ・インダストリー開発のリボルビング・グレネード・ランチャー。
特大サイズのリボルバーのような、シリンダー型の大型弾倉を備えている。
撃発・発射はダブルアクション式だが、かなりトリガープルが重いので、指を二本かけて引けるようにトリガーの形が工夫されている。
GJです!
このみは復讐鬼と化したか……
言ってることは健気っぽいのに、危険派対主催ってレベルじゃww
さらにフカヒレもファルも生き残るとはw
どちらかが死ぬかとwww
そして、ヤンデレ吹いたw
投下乙です
よし!フカヒレが生き残ったぞ!
しかもオーガこのみの仲間という生存フラグ付きだ!
彼には簡単には死なずもっと苦しんでほしいものですw
投下乙!
まさかのフカヒレ生存wwなんてしぶとい奴だこの男はw
ファルも危機回避で何とか生存
フカヒレを下僕したこのみの今後がとても気になります
でも…フカヒレじゃワールドに対して鉄砲玉にすらならないような気がw
乙です! おもしれー!
フカヒレ……運のいい奴め!
リアルタイムで支援しながら読むと「続きはどうなる!?」って感じのじらしが入ってドキドキしますね
とりあえずこのみには怪物ワールドと対決するに足る実力を付けていってほしいものでありますよ!
ところで
>『男は女に従うべきである』という論理がある。
は文意的に逆なのではないかと思うのであります
『雨に煙る』
(何で……)
こんな事になってしまったのだろう……
既に鮮明さを失ってしまった頭は…更にその霧を深めていく…。
見る事は出来ないけど、多分ボクの肌は朱に染まっているのだろう…
僕に伸ばされた、赤く染まった手から…ポタポタと雫が落ちる。
先ほど少し小ぶりになった筈の雨は…またその雨足を強めつつある…
不思議だな…
何だか…意識が…薄れて…きたよ…
◇
盛り上がった土の上に置かれた石の前に立って、そっと黙祷する。
僕達よりも少し前で、石の前に片膝を着いているミドリが、そっと告げる。
「…ゴメンね、こんなところでさ。
でも、…多分…連れて帰っては、あげられないんだ…」
だから、せめて、……安らかに…」
胸の前に手を組みながら、その中に眠る女の子の安息を祈る。
ふと…薄く目を開けて隣をみると、ミドリもユイコも伸ばした掌を合わせて瞑目していた。
ユイコ達の国の、作法なのだろう…
(……)
そっと、同じように手を組み替えようとして…止めた。
女の子はユイコ達と同じ国の子なのだから、本当ならその方が良いのかもしれないけど…
…再び目を瞑り、顔を落とす。
作法の判らない事をやるよりは…僕の知っているやり方の方が、良い気がしたから。
“サァァァァァァ”
……雨は、またその雨足を強めていく。
大きな木によって直接降られることはないけど、それでも僕達の全身を濡らほどの大雨が、降り注ぐ。
…まるで、ミドリの代わりに、空が涙を流しているかのように…
…
あの子は…
リセは…この子のように、誰かに葬られたのかな…?
つい…考え込んでしまう。
誰にも悼まれず…雨の中野ざらしにされる……リセルシア…
それは…とても、悲しい…よ…
もう、困ったような笑みも…控えめな歌声も…発せられる事は……無いんだ…
“サァァァァァァァァァ”
既に耳に馴染みきった雨音が…僅かに煩いと思った。
キョウの元気な笑みも…ウエストの愉快な声も…今は全て失われて、雨の中にその亡骸を濡らし続けている…
多分…いつか、僕も同じようになるのかな…
出来れば…トルタやファルさん…ユイコにはそのようにはなって欲しくないな…
“ザァァァァァァァァァァァァァァ”
止まない雨は、ますますその勢いを強めていく。
まるで、空が泣いているかのように…
いつまでも…
……いつまでも…
いつか、晴れる日は、来るのだろうか…?
◇
いつまでも、目を伏せていたくなる。
別に知り合いだった訳じゃあないし、名前くらいしか知らない相手だけど…それでも、悲しい。
あんなに小さい子の命が失われてしまった事が、とても。
背後で、僅かな衣擦れの音がする。
まず、唯湖ちゃん、ついでクリス君が合わせていた手を下ろした音。
それを聞いて…あたしもようやく、胸の前に合わせていた手を下ろした。
「……ありがとね、手伝って貰っちゃって…」
振り向いて、礼を言う。
長い黒髪の来ヶ谷唯湖ちゃんと西洋人のクリス・ヴェルティン君。
葛ちゃんの埋葬を手伝ってくれて、そして、そのお墓に手を合わせてくれた良い子達。
「何、気にする事は無い、死者を悼むのは万国共通の想いなのだからね。
…まあクリス君には多少重労働だったようだが…」
「…ユイコ…それは、言わないでよ……」
唯湖ちゃんのからかいに、クリス君が落ち込む。
まあ確かにちょっと貧弱すぎる気はしなくもないけどね…
男だからって譲らないから任せた、墓石代わりの石を持ってふら付いているのは中々面白かったけどね。
「ふむ、だがなクリス君、いくら運動とは無縁とはいえもう少し体力を付けたまえ。
フラフラと揺れながら石を抱えている様は中々微笑ましいものではあるが、アレでは鈴君はおろかクドリャフカ君辺りにも負けかねないね。
…ふむ、この場合私は勝って全身一杯で喜んでいるクドリャフカ君と、負けてどんよりと落ち込んでいるクリス君のどちらを愛でればよいのかな?」
「……どっちでもいいよ…。
…それに僕だって毎日学園まで歩いていってるんだから…一応運動してないって訳じゃないよ」
「……それは本気で言っている訳ではないのだろう?」
「………うん、まあ、一応」
音学校の生徒だそうだけど、それにしたって貧弱すぎる気はするね…
まあ隣にいる唯湖ちゃんがやたら運動能力高い感じだから余計にそう感じるけど。
それにしたって、クリス君は何か小学生くらいの子にも体力負けしそうな雰囲気が漂ってるしねえ。
“ふう、やれやれですね、流石に小学生に体力で負けるのはどうかと思いますよ、おにーさん”
「……っ」
別にどんな子だったのか知らないけど、思わず鮮明に想像してしまう。
葛ちゃんがこの場に居たら、きっとこんな感じなのだろうと。
「……ああ、ところで碧君」
再び湧き上がった悔恨を、唯湖ちゃんの声が途絶えさせる。
「……え、あ、何? 唯湖ちゃん?」
気配を発しないように、慌てて声を上げる。
「……すまないのだが、出来れば苗字で呼んでもらえないだろうか?
名前で呼ばれるのはあまり……」
「え? でもクリス君は名前で呼んでるじゃん?」
何やら多少眉をひそめた唯湖ちゃんがそう言ってくる。
警戒されてるのかな?
でも今更な気もするし、唯湖ちゃんはあたしの事名前で呼んでるし。
つーか、
「というか碧は良いとしても君付けはどうよ。
あたしこれでも一応先生なんだけど」
流石に君付けで呼ばれるのはねえ…
「ふむ、碧君は先生だったのか?」
「そうよー、だから敬意をこめて碧ちゃんと呼びなさい」
「…それは敬意は篭っていないと思うがね、…しかし碧教諭は何歳なのかね?」
「んー? あたしは十七歳よ」
「…………」
「何か言った?」
「いや、何でもないよ」
うん、まあ鋭そうだから気付くだろうけどあえて秘密。
女にはいろいろと秘密があるのだ。
「…ふむ、では私は碧ちゃんと呼ぶから、碧ちゃんも私の事を苗字で呼んでくれないか?」
ふ、と一瞬だけ考えて、唯湖ちゃんがそう言ってきた。
「……うーん、そこまでイヤなら別に呼んでも良いんだけどね…」
でも、
「来ヶ谷ちゃんってあんまり語呂が良く無いんだよねえ…。
来ヶちゃんもあんまりだし、クーちゃんだとクリス君と被るし…」
そこが問題なのよねえ…
「いや、無理にちゃんをつける必要は無いのではないか?」
「あ、駄目、何かコミュニケーション取れてる感じがするじゃん?
つーかクリス君が呼んでるのに何で不味い訳?」
……ん?
「……ははぁ、もしかして、そういう事?」
何となく意地悪な笑みが浮かんでる気もするけど気にしない。
「……む?そういう事とは?」
「ん、だからさ…」
そう言って、そっと唯湖ちゃんの耳に口を寄せる。
多少の身構えはあるけども特に警戒している訳ではないみたいだね…
まあそれはさておき、耳の側で、
「クリス君以外には名前で呼んで欲しく無いとか?」
クリス君には聞こえないくらいの声で言ってみた。
「…………っな!?」
おー赤くなってる赤くなってる。
少し意外なような、そうで無い様な…
「い、いや、そうではなくてだ、…そもそもクリス君は外国人だし名前で呼ぶのは当然なのだ!」
「僕がどうしたの?」
ナイスタイミング、クリス君。 先生満点あげちゃう。
「い、いや、私の名前がだね…」
「? ユイコは綺麗な名前だと思うけど?」
「……ぅ…」
ふむ、けっこう脈ありか、良かったねクリス君。
しかし外人だからかサラリと破壊力のあること言うね。
「い、いやそうではなくてだね…」
「うん、じゃああたしは唯ちゃんて呼ぶことにするかな」
中々見ていて楽しいけど、取りあえず終わりにしとこう。
唯ちゃんは悪くないしね。
「……仕方が無い、それならまあ良しとするよ…。
…それで碧君、とりあえず情報交換と今後の目的について話したいのだが…」
ん、やり返してきたか、…まあいいか。
「割と泥で汚れてしまった上に、我々は風呂上りで運動した為汗をかいてしまった。
なのでとりあえず温泉にでもつからないか?」
温泉…か。
……そんな、暢気なことは…
「特に、『碧ちゃん』は浸かるべきだな。
汗とともに『色々なもの』を洗い流してくれるのだから」
……
…唯ちゃん…
「……ふう、まあじゃあそうするかね」
…鋭い子だね…
◇
「そう、じゃあ静留ちゃんと会ったんだ…」
「うむ、彼女はそのなつき君の為に戦うと言っていた」
「シズル…何処に行ったのかな…」
後ろを向いたまま、答える。
今一番気になっていた事が、解決の目処がたった。
ミドリは、元々のシズル達の知り合いなんだそうだ。
そして、ナツキは少し前までツヅラと一緒にいたらしい。
今は何処にいるか解らないけど、多少は前進したのかも。
「……その、美希という少女が襲われたかもしれないということか…」
「うん、ミキミキは早く見つけてあげたいんだけど…」
ミドリの顔に、悔恨が浮かぶ。
ミキ…どんな子か知らないけど、確かに心配だな…
◇
保守
……恵みの雨は渇きの大地に潤いを与える、あたかも疲れきったそれを癒すかのように。
白い湯気を発する湯船に、白い、だが湯気とは違う、確かな形をもつ物体が差し入れられる。
白い、そう、あたかも雪のように白いそれは、だが断じて雪ではあり得ない。
湯気に触れ儚く消え行くのでも無く、湯につかり元の姿に還るでもなく。
それは、その白さをほのかに朱へと染め、そこに確かな形を保ち続ける。
そう、それは、白い、人の肌。
細く、長く、美しい…時には白魚のように称えられる、五つに別れたそれは人の指。
そう、雪のようでいて、断じて雪ではありえない、ほのかに染まりしそれは、人の手。
そのほっそりとした五つの指が掴むのは、茶の色を持つ木の桶。
桶の内に、なみなみと留められた湯は、透明な湯気を上げ続ける。
そうして、それはその繊手の持ち主の頭上へと掲げられ、そうしてその上下を逆転させられる。
無論、その中に存在していた湯は、重力のくびきに従い落下する。
その下にある、その手の持ち主へと。
白く、傷の無いすべすべとした肌の上を、暖かな湯がすべり落ちる。
その湯の温かさは、その白い肌を朱く、ほのかに朱く、染め上げる。
『まるで雪のように』という表現は、その繊手だけに収まるものではない。
その体は、まるで石膏の像のように白く、それでいて、断じて石膏ではない、石膏では表現しえない人の温かみを宿している。
その、白い、純白の雪原を、透明な湯が滑り落ちる。
首の後方、うなじよりその体へと注いだそれは、幾筋もの奔流となりて、瞬く間に雪原を蹂躙していく。
そう、蹂躙。
その表現がなによりも相応しく、そうして、何よりも相応しく無い。
その奔流が通り過ぎた後に残るのは、先ほどまでとは明らかに異なるものであり、断じて同じものでは無い。
だが、その変化は極めて自然なもの。
その潤いは、暖かく、まるで母の温もりのように、優しく、肌を癒す。
まるで、雪の中から桜の花園が生まれたかのように、その雪原を薄く、美しい朱に染める。
幾筋も、まるで雪解けの水のように、純白の雪原を、朱の花が染めていく。
その様は、芳しき花の芳香が漂ってくるかのような錯覚すら感じさせる。
いや、事実、人の目を引き付けるそれは、ある種の花園と呼んでもよいのかも知れない。
その芳しき花園は、その裸身の全体に広がって行く。
そのうなじを、背を、首を、頤を、胸を、腹を、ふとももを、体の隅からすみまで余す事無く。
全身を僅かに朱にそめ、頬を上気させ、
「…ふぅ」
と快楽に染まった声を放ち、再びその手に収まった桶を、湯船へと向ける。
同じ行為を繰り返す事数度。
その度に、僅かずつ、だが確実に、朱の花園は開花していく。
花は咲き誇り、芳しき芳香は他者を迷わす惑いの芳香となる。
口から漏れる吐息は徐々に艶と熱を含んだものへと変化をとげる。
そうして、その開花した魅力を放つ肢体は、やがて動きを止める。
もう、充分に咲き誇ったと、コレより先の開花には、この場では不足であると、
そのような意思を込め、その裸体は動き出そうとする。
その震えにより、僅かに濡れた髪から零れた幾滴かの水滴が、猫背気味に丸まった背をすべり、そのままその下にある白桃のような部分へとつたわり、そのふくよかな曲線をすべり、地へと落ちる。
ポタポタ、ポタポタと、皮を剥いた豊かな果実から、溢れる果汁のように。
その、乾きを覚えた旅人であれば貪りつきそうな果汁の中に、僅かだか他とは異なる定めを辿るものが生じた。
その一滴が辿りしは、豊かな果実のふくらみではなく、二つの膨らみのその間。
狭く、秘められたその谷間を、その雫は滑り落ちてゆき、やがて、重力に負け、雫となって零れ落ちる。
……再び、同じようにその谷間へと流れついた雫は…やはり、同じように重力の頚木の前に、地へと落ちる定めを余儀なくされる。
………だが、三度目。
三度重力に逆らい挑みしものに、奇跡が生じた。
そう、それは、定めに敗れし同胞の残せし軌跡。
僅かに湿りを帯びさせたその道は、後に続くものの道しるべとなり……その先へと導く。
そう、その先……秘め置かれるべき場所へと、ついにはたどり着き…そうして、そこより、あたかも不浄の雫のように、だが明らかに異なるものとなりて、地に、落ちる。
そして、零れ落ちる雫は髪からのみでは無い。
首の横側に僅かに窪んだへこみ…鎖骨に溜まっていた湯が、やはり同様に滑り落ちる。
それは胸の側方を伝わり、その先に存在する鎖骨のくぼみを、一つ、一つ、余す事無く潤し、その先、一つの肉壁と二つの丘の織り成すデルタ地帯へと流れ行く。
そこの谷を滑りおち、その自然な流れに従い、その先、三角州の終焉、秘め置かれるべき場所へと流れ、そして、一滴の雫となって落ちる。
そう、あたかも、熟れた一房の葡萄から、零れ落ちた一滴の甘い果汁のように。
だが、やがてその部分に、肌よりも白い物体が覆いかぶさる。
そう、秘められるべきものは、秘められるべきなのだと言わんばかりのそれは、手ぬぐい。
湯殿においては裸身を守る唯一のモノである。
……だが、それは、同時に裸身を「彩る」という表現も、当てはまるのかもしれない。
そもそもだ、秘密というのは、秘密である故に人を惑わせる。
裸身を秘するという道具であるが故に、それは反って人を惑わすものと化すこともある。
だが、今はそれよりも生じた変化について克目するべきかもしれない。
確かに、その肢体は覆い隠されてしまった。
だが、その肢体はそもそも水分を含み、湿り気を帯びていたのだ。
そうして、そこにかぶさる薄布は、その肢体に張り付く。
秘すべきものを隠しながら、それでもなお、そこに僅かに透けて、その裸体を関しだす。
そうして、隠された事によって、その身体のラインはなおの事強調される。
その、一部が隠されたが故にアンバランスな魅力をかもし出す肢体は…そのまま湯船に向かう。
歩き、進む度にその実より零れ落ちる果汁が、地へと惜しみなく降り注ぎ、地にはにわかに雨のような状況となりゆく。
そうして、片方の足が湯船に入り込み、瞬間、僅かに引き上げられる。
その足は、先ほどよりも鮮やかに染まっていたが、やがて思い直し、そうして足の裏が湯船の底へとたどり着く。
そうして、もう片方も同様にし…そのまま身体ごと沈みゆくかと思いきや、ふと、その手が動く。
そう、片方のてにより裸身を覆っていた手ぬぐいが、その身から…離れた。
再び、白日の下に晒される裸身。
足より伝わる熱によって朱に染まった全身。
それが、徐々に湯の中に沈んで行き…
そうして数秒。
「…ふぅ…」
快楽に染まった声が発せられる。
湯の悦楽を存分に味わい、クリス・ヴェルティンは文字通り一息付いたのだった。
◇
「ふう……」
ああ、暖かい。
泥を落とす…という名目で再び入る事になったけど…オンセンて結構気持ちがいいな…。
さっきはユイコにからかわれてゆっくり浸かる事が出来なかったけど…こうしてゆったりと足を伸ばせるのは気持ちがいいや…
「ん……っ、あふっ…」
両の指を組んで、掌をひっくり返して伸びをして…自然と声が漏れる…
普段はしない運動の疲れが、心地よく癒されるなぁ…
……というか、ユイコもミドリも酷いよ…
一応僕だって男なんだし…僕が力不足なんじゃないと思うんだけどなあ…
“サァァァァァァ”
「あ…」
小ぶりだった雨がまた強くなってきた。
頭に降る雨が冷たくて、肩まで浸かったその時、…声が聞こえた。
◇
『ふふ、眼福、と言うべきなのかな』
『んー? 唯湖ちゃん…なんかセクハラっぽい言い方だねぇ…』
『はっはっはっ、褒めているのだよ、小ちゃくて可愛い子のは無論見たいが、たわわに実った豊かな果実も素晴らしいものだよ』
『んー確かにねえ…というかあたしよりも大きい子って久しぶりに見たけど…良いものだね』
『ふむ、解ってくれて嬉しいよ。 どうにも私の周りには同好の士が少なくてね』
『んー…アタシの周りだと一人そういうのに興味ある子がいるんだけど…他は皆真面目でねー。
まあ命懸かってるんだからしょうがないんだけど…もう少し人生を楽しむって事を覚えたほうが良いと思うんだよねー。
そういう意味じゃあ、唯湖ちゃんは人生楽しみまくっている感じだねえ』
『まあそれは楽しんでいるよ。
何しろ先の無い…おっと何でも無いよ。
とにかく私の所属は可愛い子の多い集まりだからね。 今度合宿と称して温泉旅行を提案してみようか』
『ふーん、まあ良い心がけねー。
若いうちは一杯楽しんでおくものよね』
◇
「……」
何か、少し雨が小降りになった所為か良く聞こえるなぁ…
◇
『しっかし…立派な温泉だよねえ…神崎君も何でこんなの用意したんだか…?』
『む? 碧君はあの神崎という男を知っているのかい?』
『うん、ウチの学校の生徒なんだけどね…。
なんでこんな事を始めたのか…』
◇
……そういえば、ミドリは先生なんだっけ…
僕と変わらない年で先生だなんて凄いなあ…
……そういえば、ユイコは何歳なんだろ?
◇
『……ふ』
『…ひゃう!?』
『ふむふむ、ムニュっと形を変えながらそれでいて弾力のあるこの心地。
かなり鍛えているのかな碧ちゃんは?』
『なっ? ちょっ!?』
『ふむ、見た目に表れないものの筋肉もかなりのものだな…実に素晴らしい。
加えてこの豊かさ…ふむ、そういえば顧問の席が空いていたな…』
『ちょっ、ちょっ? さ、触るなら自分のを触りなさい!?』
『何を言うのかね?
自分の胸を触ってみたところで面白くも何ともないだろう?
やはりこういうのは堪能しなければ』
『んっ…あんまり先生怒らせるとあたしも触っちゃうよ?』
『ふむ…それはそれで楽しそうではあるのだが…』
『んっ…くぅ…』
『やはり触られるよりは触るほうが好きだな私は…』
◇
「…………」
小ぶりになった雨が、火照った体に心地良いな…
特にお湯の所為かやけに熱い頬にはとても気持ちがいいや…
……さっき、少しだけ、見てしまったユイコの…ミドリのも同じくらいだとすると…
“ブクブクブクブク”
思わず、顔を沈めた。
何か、お湯が、凄く熱いなあ……
◇
『……あったまきた…! この!』
『…む! 早いな!』
『あんまり年上を舐めない方が良いよ…唯ちゃん…』
『ふむ、碧ちゃんは17歳なのだろう? なら私と同じ年だな』
『……ほほう、そう来るか』
『……ふむ、まあ落ち着いてくれないか?
そもそもだ、私は碧ちゃんを励ます為にだね…』
『……うん、それは何となく解るよ……
だから…元気が出たことをよおっく感じてもらおうかなーてね』
『……ふむ、いや碧ちゃん先生が生徒に本気を出すのはどうかと…』
『んーでも同じ年だし友達同士の喧嘩と思えば問題ないよね…』
『……む、いや、ちょっと待ちたまえ…!』
◇
ユイコも同じ年なんだ…
というか…隣にいるんだからもう少し静かにしてくれると…
…
……別に、寂しくは……
『…!………!…』
『…………?…』
『………!!……』
『…!…………』
『…………!…』
……
………
…………
………そーーーっ
…別に上がる為に方向を変えるのであって…特に意味は無い…よ
そうして…
「え?」
振り向いたその先には、白い果実が四つ、あった。
「む?」
「ん?」
いや、うん果実って訳じゃない。
それは…その、白くて、柔らかそうで、お湯に濡れて綺麗で…
白くて…いや、白いんじゃなくてもっと柔らかな色でそれでいてそれで…
その果実にはそれぞれ手が伸ばされてとても柔らかそうに形を変えていて、しかもその手が少し赤くなっているから余計に色の対比がされて果実が白くなっていて、
そう…例えるなら…こねたパン生地みたいな…でもそれよりもとても美味しそうな色で弾力がありそうでしかもチェリーが………
「……!!」
振り向いた。
多分この島に来て最高の速度で首を回した。
顔がこれ以上無いくらい赤くなっている気がする。
「……なっ、なんでユイコとミドリがいるの!!」
確かにさっきオンセンに入る前に別れた筈なのに。
「ふむ…」
「んー…?」
バシャバシャと、お湯の中を進む音が聞こえる。
何か雨が凄く小ぶりなせいか頭が凄く熱い。
そうして、少しして、
「ふむ、喜べクリス君、先ほども少し疑問だったのだが、この温泉の仕切りは外されているようだ」
「うーん、神崎君がまさかこんな趣味だったとはねー。
こりゃ内申は真っ赤っ赤だね…」
戻って来たユイコとミドリが、そう言った。
……喜べないよ………………一応…
「まあ、こうなった以上仕方が無い、共に入る事にしようか」
「んー…まあいっか…」
「…僕、先に上がるよ……」
……流石に、二回も一緒にお風呂に入るのは恥ずかしい。
しかも今度はミドリもいるし…それに顔が凄く真っ赤だし…
取りあえず手ぬぐいを腰にあてて立ち上がろうとして…
「いや、待ちたまえクリス君」
ユイコに止められた。
「手ぬぐいを湯に入れてはいけないな」
…どうでもいいよ……
「それにだ、今から作戦会議を行うのでここに居たまえ」
「え?」
「ん? そうなの?」
「折角三人居るのだし、時間は有効に使うべきだろう」
「……まあ、いいかな」
「…あんまり良くないと思うんだけど…」
「さて、では始めるかな、クリス君、話すときはちゃんと顔を向き合おう」
…………
ふう…
仕方が無いか……っ!
お湯の中に…ふわふわと雲が浮かんでいる。
見慣れた雨雲ではなくて…もう遥か昔に見た、お日様の中綺麗に映る雲が…
……ううん、雲じゃない、雲よりももっと綺麗で、ふわふわで、しっとりしていて…
兎に角、ふわふわ、ふわふわと、綺麗なものが浮かんでる。
……ううん、正確に言うと綺麗なのはそれだけじゃ無い。
その綺麗なものの奥に見える、同じ色したものも綺麗だ……
その、すらっとした首…そこにある首輪さえなければどんなに美しいのだろう…
濡れた髪が張り付いているその様は、何だか見てはいけないもののように思えてくる…
ほっそりとした肩…綺麗な曲線を描き、僅かに水が溜まった窪みは雨上がりの草原みたいだ…
水に濡れて、上気している表情は、ドキッとしてしまう…ユイコもミドリも美人だけど……いつもとは違う美しさに溢れている…
濡れた頬、僅かにもれる吐息…気持ちよさそうでいてどこか楽しげな表情……表情……?
「なっ!何で二人とも隠してないのさ!!」
再び、さっきよりも早く頭をそらす。
……
半分くらい湯に浸かっていたけででも何だか浮かんでいてってそうじゃなくて、濡れた髪が張り付いた首筋とか胸とかが凄く綺麗も違う
凄くきれいな果物みたいにじゃなくてそもそもその先端にでもなくて……
「さっきも隠していなかったのだから今更だと思うが」
「あたしあんまり手ぬぐいって好きじゃないのよね…」
……そういう問題じゃあないよぅ……
「……っていうか…ユイコは恥ずかしくないの…?」
「はっはっはっ!愚問だなクリス君!
可愛い子には性別など大差無いのだよ!」
ユイコが…近寄って来るのが解る。
そうして、背中の近くにまで来てる。
…ユイコの柔らかな……の感触。
「それにだ、クリス君は弄っていると楽しいのだよ…愛おしいくらいにね…
こういう反応を返してくれる子は結構貴重でもあるしね…」
少し湯船から身体を持ち上げて、ユイコが僕の顔に手を当てる。
ちょっユイコ…もう少し離れて!
それに背中に降る雨に混じって…何箇所か感じる暖かい雨は…やっぱり…
「んー…こらこら唯ちゃん、そんなにいじめるとクリス君泣いちゃうよ」
「なに、こう見えて割りと我慢強い子なのだよ」
そうでもないよう…
「あー、不順異性交友は校則違反だからやめとくよーに。
一応先生だし見逃せないよ」
「ふむ、その点は問題無い。
うちの学校にはそのような都合の悪い規則は無い事になっている」
「……んー、じゃあまあいいか」
(よくないよ…)
無い事にってことはあるってことじゃあないか…
“サァァァァァァァ”
雨はまた冷たい位に僕の頭に降って来る。
……というか
雨が強くなってきた所為で…所為で…
背中に、背中に……谷から流れる「川が」
多分、そう、ユイコの……から流れてきている……が……
冷たく冷え始めた皮膚に、お湯とは違う人の…肌の…熱さが…
「あークリス君?
そういう場合って恥ずかしがる程に相手が喜ぶだけよー。
まあ言ってもどうにもならない気もするけど一応助言ね」
ミドリが何か言っている。
うう、つまり…反撃……
…………無理…
(何で……)
こんな事になってしまったのだろう……
既に鮮明さを失ってしまった頭は…更にその霧を深めていく…。
見る事は出来ないけど、多分ボクの肌は朱に染まっているのだろう…
僕に伸ばされた、赤く染まった手から…ポタポタと雫が落ちる。
先ほど少し小ぶりになった筈の雨は…またその雨足を強めつつある…
不思議だな…
何だか…意識が…薄れて…きたよ…
そうして、その手が僕の…に
「やめてよ! ユイコ!!」
ムニュ
……え?
ユイコの顔が…赤くなってる。
さっきまでも赤かったけど、それでも何だか急にこうカァーっと。
手に伝わる…この柔らかな感触は…
雨と湯に濡れながらも吸い付くようなこの手触りは…
「……」
…視線を、落とす……
僕の手が、ユイコに触れている。
触れるだけなら…まだいいけど……
でも、
いま、コレは…
掌が触れているこの…膨らんだ柔らかくて暖かかくてムニムニしてて豊かで弾力があってしっとりと手に吸い付いて…
兎に角これは…ユイコ…の……
「あ……う……」
そして…この一部に感じるでっぱり……は……………
「……きゅう……」
◇
バシャーン!と糸の切れた人形のように湯舟に倒れこむクリス。
そうして、起き上がる気配は無い。
「む、いかんな、のぼせてしまったようだ。
やはり長く湯につかる習慣の無い国の人間には長すぎたか」
「思いっきり別な理由だと思うけどね…。
……というか武士の情けだし、隠してやりなよ」
そう、クリスが気を失った事によって、その身を隠していた手ぬぐいも力を失い湯に浮かび…結果として……そこが丸見えとなっていた…
なのだが、この場にその程度で大きな反応を返すような相手は居ない…不幸な事に。
ここまで想定して仕切りを外していたのだとしたら…主催者の神埼とはどれほど恐ろしい相手なのだろうか…
「ふむ、これはこれで目の保養なのかね?
中々目にする機会のあるものでもないし」
「思いっきり間違っているような光景だねえ…とりあえずお嫁に行けなくなっちゃうからその位にしておいてあげなよ…」
表現が微妙に間違っているが、そんな事はやはりだれも気にしない。
というかむしろ誤用のほうがあっている気もする。
「しかし、興奮しすぎて気絶とはベタだな。
どうせならば鼻血も流していてくれれば完璧だったのだが…やはり漫画的表現という事だったのかな?」
「あー、そうみたいよ…まあ鼻の血管の薄い人が興奮しすぎると鼻血がでるらしいけどねー」
「ああ、残念だ……ふむ」
ムニュ
「……何してんの?」
「うむ、興奮して気絶した場合だと、気絶中でも更に興奮することがあれば症状が悪化するパターンが多いのだが…やはりこれもフィクションなのかな…?」
ムニムニと、クリスの頭を自身の胸に押し付ける唯湖。
気を失っているとはいえ、非常にアレな光景といえよう…
「……とりあえず悪化させるのはやめといてあげなさい…。
つーか…それ恥ずかしくないの?」
「別に減るものでもないので…好奇心の方が優先順位は高い。
個人的には何処か吹っ切れて逆に襲い掛かって来てくれたら面白かったのだが…その時は返り討ちにしてやったものを……」
「返り討ちにするのかい……クリス君も可哀想に…」
心底同情したようで、どこか面白さを秘めた碧の声。
だが、クリスの肩を担いで湯船から上げていた唯湖は反論を返す。
「いや、だがね碧君。
正直なところクリス君はもう少し活動的になった方が良いと思うのだよ」
「…賛成だけど、それならもう少し手段を選んであげなよ…」
「何を言う。 この年頃の男子と言えば下半身が脳に直結しているのが普通……でもないか…」
持論を述べようとした唯湖であったが、自身の周囲の人間を思い浮かべて当てはまらない事に気が付いたようだ…
いまいち自身の無さそうにしながら、クリスの身体を洗い場に横たえる。
一応腰部に手ぬぐいをかけた辺り、最低限度の慈悲はあるように見せかけて、そのままだと風邪を引く。
「ふぅ…まあ充分暖まったし…そろそろ上がろうかね…。
そのままじゃあクリス君風邪引いちゃうし…」
流石に同情したのか、碧がそう言って湯船から身体を引き上げる。
勢いよく立ち上がった事によって、それまで湯の中に揺らめいて見えていた裸身が白日の下に晒される事になった。
実年齢はさておき…なるほど、十七歳という自称は少なくとも肉体面においてはあながち間違いでもないのかもしれない。
勢いによって生じた運動エネルギーは、彼女の豊満な肉体の各所に分散し…そして目に見える変化を齎す。
張りのある肌は、水を弾き、飛び散らせ、湯船に汗交じりの湯の雨を降らせる。
湯に濡れて艶の生じた裸身、その全身に差した赤みなどと相まって、
その全身は美しく健康的な印象を周囲に見せ付ける。
だが、その中においても人目を引き付けて止まないのは、やはり俗に女性らしいといわれる部分であろう。
その豊かな胸は、確かな躍動感を感じさせながら跳ね、その豊穣具合を存分にアピールする。
その瑞々しい果実の先端からはまるで果汁のように湯が零れ落ち、
その二つの果実の谷間に生じた河川は、鍛えられながらも控えめさを忘れない腹筋を伝い…その下の窪みを通りこして、
そのほっそりとした腰のくびれのラインを正確に流れ行き…そうして、その終着点の…より湯船に落ちる。
その終着点より僅かに外れた流れは…その両横に確かな存在感をかもし出している太ももへと流れを返る。
普段より鍛え抜かれたその太ももは、鍛えた動物のような筋肉と、女性らしい弾力のある肌が、奇跡的な融合を果し、河の出所に勝るとも劣らない、豊かな丘陵となって流れを運ぶ。
そうして、丘陵を越えた河は、その先のやはり鍛え抜かれたふくらはぎへと達し、やがてその途中にて湯船へと還る。
……そして、忘れてはならないのは後背部であろう。
湯に浸かる前に纏めていた髪は、それでも湯の侵食を免れなかったのか、僅かに水気を吸い、その内の何束かがうなじから首筋、肩に掛けて張り付いている様は、ドキリとした感情を誘うものであろう。
健康的な肌に張り付く濡れた長い髪は意識せずとも蟲惑的な感情を呼び起こす。
その、蟲を誘う植物のような髪から、やはり河は生じ、重力のままに下り行く。
肩甲骨のふくらみ、背骨の窪み、背筋の盛り上がりといった地味ではあるがそれでも他では出しえぬ魅力さをかもし出す高原を越え…たどり着くのは、白き双丘。
胸の部分のそれと似通っておきながら、断じて異なる。
胸の双丘が柔らかさを表現したのであれば…腰のそれがあらわすのは弾力であろうか。
瑞々しさよりも弾力に溢れたそれは、ゆらゆらと揺れながらも、確実に河の流れを纏めて行く。
バラバラに背を伝いここまで辿った軌跡は、ここに来て一つに纏まろうとし、その双丘の谷間へと纏まっていく。
そうして、その流れは肢体の前面を伝ってきた流れを合流し、やがて湯船へと帰る。
「…ふむ……」
「ん?どったの?」
「いや、中々参考になったなと」
「?」
何やら得心いったかのように深々と頷く唯湖であったが…やがて、
「時に碧君、クリス君が眠っている間に言っておきたい事があるのだが…」
「ん?何?」
真剣な面持ちになり、言葉を紡ぐ。
ソレを受けて、碧もまたか表情を硬くする。
「クリス君の事だが……彼は恐らく精神的に何らかの疾患を抱えているのだと推測される」
「……それって、さっき言ってた『雨』っての?」
唯湖が確信を持っていた、持っていたが故にクリスには告げられない説を、碧に告げる。
本人の知らぬ所で話すのは良い事では無いが、これは仕方の無いことだ。
碧の方にも違和感があった為か、すんなりと受け入れる。
「ああ、どうやらクリス君の精神状態によって、多少雨量は変化するようなのだが…実際に目に見える訳ではないので詳しくは解らない。
今の所危険は存在しないと思うのだが…」
と、そこで一度言葉を切り、
「だが、碧君が危険だと思うのならば、…残念だがここで別れる事になるな。
その場合は何処か時間を決めて合流することを提案するが…」
「んー、まあいいんじゃない?」
続けた唯湖の言葉は、碧に遮られた。
「クリス君も良い子みたいだしね。
先生が一度任せなさいって言っちゃった以上、責任持たないとね」
「……面倒見が良いのは良いのだが、それは何時か命取りになると思うよ?」
「んー…唯湖ちゃんに言われたくは無いかな…」
「む」
しばしの沈黙、そして。
「「あっはっはっはっはっ!!」」
さわやかな笑い声が、温泉に木霊した。
◇
「う…ん…」
温泉旅館の一室(一泊二食付10,200円)にて、意識を取り戻すクリス。
「ふむ、お目覚めかねクリス君?」
「……ユイコ…?」
「君は温泉で気を失ってね…恐らくは湯当りだろうね」
「オンセンで……」
ボッと火でも付いたかのような急激な速度で、クリスの顔が赤くなる。
何を思い出したのかは彼のみぞ知ることだが…
そうして、ガバッと彼は起き上がり…
「あれ…ユカタ?」
「ああ、あのままでは湯冷めしてしまいそうだから着せておいた」
「え、あ、ありがとう」
自身の身を包む浴衣に、目を白黒させる。
それはもう彼が一人で着た粗雑な着付けではなく、きちんと整った綺麗なものであった。
だが、それはつまるところ…
「あれ…でも着てるって事は…」
「ああ、安心したまえ、着せている最中は目は瞑っていたような気がする」
「気がするだけ!?」
「ふむ、お望みなら鮮明に思い出してみようか」
「……ううん、ゴメン……何でもないよ…」
敗北。
まあそもそも勝利する確立などなかった気もするが…
兎に角、クリスにはそれ以上何も言えなかった。
そうして、クリスが寝ている間に決まった出来事…とりあえず昼ごはんにして放送を聞く…が告げられ、
そして、
「ああ、それとだ」
と、真面目な顔になり、
「クリス君は意外と大胆なのだな」
と、告げた。
「……え?」
「まさか寝ている間にあんな事をするとは思わなかったよ。
まあ健康的な男子としては当たり前なのかもしれないが」
言うまでも無く嘘である。
「え…え…!?」
「ふむ、まあ記憶が無いのは仕方が無いか…」
「寝ている…間…」
思いだす以前にそもそも何も無いのだが…それでも懸命に思い出そうとするクリス。
気絶する前に見た唯湖の裸体を微妙に思い出しそうになって首を振ったりしていたが…
“クリ…君の事だ………彼は……精神…に何……の疾患を抱えて…る………………”
(…え?)
やがて、ビクッと、僅かにクリスの身が跳ねた。
「む? どうしたのかねクリス君?」
「あ…ううん、何でもないよ……」
その気配を察して唯湖が顔を覗き込むが、クリスは何でも無いと返す。
そうか、と告げて、
「安心したまえ、クリス君は無意識でも紳士だったよ。」
といって腰を上げ、今度こそ唯湖は部屋から出て行った。
そうして、部屋にはクリスだけが残され…
「っ…くしゅん!」
とりあえず、暖かいものが欲しいと思うクリスであった。
【チーム:じゅうななさい】
【D-6 温泉宿/1日目 昼】
【思考・行動】
0:とりあえず放送を聞く
1:なつきを見つけ出し静留を説得する
2:乙女、美希も探す
【クリス・ヴェルティン@シンフォニック=レイン】
【装備】:浴衣@アカイイト
【所持品】:支給品一式、ピオーヴァ音楽学院の制服(ワイシャツ以外)@シンフォニック=レイン、 防弾チョッキ、フォルテール(リセ)
ロイガー&ツァール@機神咆哮デモンベイン 刀子の巫女服@あやかしびと −幻妖異聞録−
【状態】:Piovaゲージ:70%、軽く湯冷め
【思考・行動】
基本:無気力。能動的に行動しない。ちょっとだけ前向きに。
0:…え?
1:とりあえず暖かいものが欲しい
2:ユイコは不思議な人だ
3:あの部屋に帰れるのだろうか
4:トルタ、ファルは無事なんだろうか
5:あの少女(なごみ)が誰と会ったのか気になる
6:それでも他人とはあまり関わらない方がいいのかもしれない
【備考】
※雨など降っていません
※Piovaゲージ=鬱ゲージと読み替えてください
※増えるとクリスの体感する雨がひどくなります
※西洋風の街をピオーヴァに酷似していると思ってます
※巫女服が女性用の服だと気付いていません
※巫女服の腹部分に穴が開いています
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※なごみがトルタ・ファル・リセのいずれかに何かしたのかもしれないと不安に思っています
※リセの死を乗り越えました。
※記憶半覚醒
※静留と情報交換済み
【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備】:浴衣@アカイイト、デザートイーグル50AE(6/7)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
【所持品】:支給品一式、デザートイーグル50AEの予備マガジン×4
【状態】:脇腹に浅い傷(処置済み)
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗る気は皆無。面白いもの、興味惹かれるのを優先
1:中々有意義な時間だった。
2:クリスは面白い子だ、ついでに保護
3:いつかパイプオルガンを完璧にひいてみたい
4:リトルバスターズのメンバーも一応探す
【備考】
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※静留と情報交換済み
※来ヶ谷は精神世界からの参戦です
※美希に僅かに違和感(決定的な疑念はありません)
【杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明、FNブローニングM1910(弾数7+1)
【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ) 支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!
ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、アルのページ断片(ニトクリスの鏡)@機神咆哮デモンベイン
【状態】:健康、十七歳
【思考・行動】
1:クリスと唯湖を守る。
2:乙女、美希のことが心配。合流したい
3:反主催として最後まで戦う
4:知り合いを探す
5:羽藤桂、伊達スバル、玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える
【備考】
※葛の死体は温泉宿の付近に埋葬しました。
投下終了しました。
支援、有り難うございました。
誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
週刊ギャルゲロワ2nd第9号(5/15)
先週の主な出来事
/: : : : : : : :/: : : : : ,' ,' :,' |
/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ `ヽ: :.,' : ,| :i :./.:. i:.: |
/ /  ̄匚_'_]  ̄ヽ.∨ :/ i:_i.:.. :_/_:. ト、 i
| |===============| |r7 ̄',:.:.:i.:.: :.:/ |.::.:`,ヘ、 :.i: |
| | 宛名: | | i ',:.:.i.:. . ::/ _」.::.:/ !ヽ .:!: : |
| | 件名: | ト:! \:.:..:.i.:./ jr≠≪ |:.:.:.:. ,': :||
| |- - - - - - - - --| | __ \ !/ /{i .o0卞|:.:.:.:/: : : ! |
| | お腹空いた | |rr≠弌. `{ う j } 》:.:./}:.:.: :i!ノ
| | 」 | | _{L __ノ |:.//|:.:|:.:{
| | 」 | |  ̄¨ j/ jノ: :!
| | 」 | | ' /__/ :| |
| | 」 | ト、 f' ̄ ̄} /.:.:.:.:.i i |
| | 」 | |:.:\ ヽ.__ ノ , r<|.:.:.:.:.::{ :i |
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・ティトゥス、墜つ! まさかの最強マーダー失墜。 犠牲があったとはいえトル恭に双七も合流し有力な対主催誕生か。
・……妖蛆の秘密…なんじゃこりゃーーーー!! ワールド最早完全に化け物ではないですか。
・このみも何やら完全に悪鬼と化しました。フカフィレ?どうでもいいのでは?
・温泉に秘められた恐るべき主催者の罠によって犠牲者が……うんゴメン…
・しかしこのみを他所に平和なファル様といい、言うまでも無いトルタといい、S=R勢は何やら癒し系?
・脳内懺悔室、筋肉教の教えに疑問を抱いたら直に告解に行きましょう。
・アカイイトは安定方向、空気流は活躍と南部は割りと安定傾向?
先週(5/07〜5/15)までの投下数:15作+修正中1作
死者:2名(清浦刹那、ティトゥス)
現時点での鬼他:羽藤桂(鬼)、鉄乙女、柚原このみ(悪鬼)、西園寺世界(クリーチャー)
現時点(5/15)での予約:3件(◆wY氏、 ◆Lx氏、◆HlL氏 )
ギャルゲロワ2nd初代うっかり侍氏、投下and週間ギャルゲ乙です
これはある意味凄まじくギャルゲロワらしい話
最初の入浴シーンが脳内で姉御を想像していたら……騙されたorz
分量たっぷりの温泉描写、要所に配置されたシリアスシーン、面白かったです
携帯から失礼します。
すいませんが、少し遅れそうです。
1時間ほど猶予をください。
キャンプファイヤーよりもさらに大がかりな火柱が天へと昇っていく。
その下にある建物が何か知っている。
何の事はない。
その建物、娼館に火をかけたのは紛れもなく自分なのだから。
「とりあえずはこれでいいか」
娼館から移動した少女は近くの民家で傷を癒す。
簡単な治療を施したが、これではいけない。
クトゥグアのマガジンは既に装填して銃の手入れは終わったが、まずは治療か。
もっとちゃんとした道具がありそうな所へ向かわなければ。
さてどこに行こうか。
◆ ◆ ◆
刑務所と聞くと、どうしても良い印象は抱かない。
なぜならその場所は一般的には犯罪者を閉じ込めておく場所――監獄だからだ。
だが犯罪者といっても社会復帰を望む者もいる。
また最近の刑務所はそういったマイナスイメージを払拭しようと、外見にも工夫を凝らすようになってきた。
それだというのに、この島にある刑務所はそういった時代の波に乗り遅れていると言わざるをえない様相である。
灰色一色で統一された冷たい印象を与える外見。
内装も簡素に徹しており、味気ないにも程がある。
むしろこのような刑務所では囚人達もたちまち滅入ってしまうだろう。
それぐらいここは前時代的な造りであった。
「…………」
そしてそんな刑務所に一人の少女がいた。
輝くばかりの金髪のポニーテールに煌く碧眼、身に纏っているのは真っ赤なジャケット。
刑務所の中では場違いと言える容姿格好をしている彼女の名はドライ。
アメリカの巨大マフィア「インフェルノ」が誇る最高の殺し屋――『ファントム』の名を持つ少女。
ドライの目的は唯一つ――アインとツヴァイを探し出し、殺す事。
道中に出会った奴から情報を聞き出し、情報を引き出し終わったら殺す。
そうやってアインとツヴァイを探し出そうとしていた。
しかし……
「どうしたんだろうねぇ」
ドライが思い出すのはここに来てからの出来事。
最初は教会で柚原このみとかいうガキに情けをかけて銃を渡してやった。
次に会った二人組とは痛み分けだった。
そして極め付けは娼館での一件。
一つ目は気まぐれの遊びみたいなものだから問題ない。
二つ目は自分にとって不利な場所での殺し合い。撤退したが、あの場ではベストな選択に近いので問題ないだろう。
しかし三つ目はあろう事かファントムである自分が素人二人に翻弄され、一時的とはいえ二人に自由を奪われたのだ。
「マコト」という名と名簿から察するに、男のほうが伊藤誠、女のほうが菊地真という事は分かった。
だからどうしたという事でもないが。
だがすぐ後に相手との力関係は逆転したのでそこはとりあえず置いておくとしよう。
問題はその後だ。
不注意から足を捻挫して火事に巻かれて死ぬところを二人に助けられて、さらにその二人が火事で死にそうになったら、なぜか助けていた。
助けた後で伊藤誠には蹴りを入れておいたが、今までの自分からは考えられないような行動だった。
「よく考えたら……誰も殺せていないのか」
今まで出会った奴は全部で5人。
アインとツヴァイを知っていた奴は一人もいなかった。
それに特筆して強かったと言えるのは一人ぐらいだ。
殺そうと思えば娼館で確実に二人は殺せたはずだった。
だけど殺せなかった。
なぜか考えてみる。
…………
…………
…………
…………
「わっかんね。ああ、気分わりい」
考えるだけでイラついてくる。
自分は殺し屋だ。
誰かを殺す事に躊躇するなんて、そんな事は断じてありえない。
こんなにお膳立てされたステージにいるんだ。
硝煙という名のドレスを身に纏い、アクセサリーとして銃器を身に付け、赤き血が踊る舞踏会に参加しないでどうする。
ではなぜさっきは殺せなかった?
弾が切れていたからか――いや、それなら他にも殺す手段はあったはずだ。
その前に火事に巻かれるのを助けなければよかったんじゃないのか。
他にも――
「やめだ、やめだ」
すぐに答えは出そうにない。
実は心のどこかでは出ていそうだが、今はそれよりアインとツヴァイだ。
この6時間ちょっとで会えたのは64人中5人、死んだ奴は9人。
なんとも効率が悪い。
まあ、そんなに都合よく誰かに会えて情報が手に入るとは思っていないが、現状のままではいささか手際が悪い。
この刑務所を目指した理由の一つがそれだった。
ここに来た理由は二つ。
一つは他者との接触のため。
地図にも名前付きで載っているのだから誰かいてもおかしくないと考えて来たのだが、どうやら的外れのようだった。
中を調べてみても誰も見つける事は出来なかった。
そしてもう一つが怪我の治療。
簡単な治療ならあの後に済ましたが、やはりきちんとした治療はしておきたかった。
病院へ行ってもよかったが、おそらく自分みたいに怪我をした奴が何人かいる可能性が高い。
怪我人とはいえ自分も怪我をしていては満足に殺す事も出来ないだろう。
だからあえて逆方面で一番近そうな刑務所にやってきたのだ。
こちらも結果は芳しくなかったが、水道と包帯があっただけマシだった。
患部を冷やして包帯を巻いておく。
それでいくらかマシな治療ができたからよしとしよう。
「あと収穫はこれか」
先程ドライは包帯を見つけるついでに一冊のノート「業務日誌」を見つけていた。
ここは刑務所なので普通なら囚人達の様子を書き記していたのかもしれない。
娼館で基本支給品の紙を幾分か消費していたところなので、中身がほぼ白紙のこのノートは偶然見つけたにしては役に立ちそうだった。
「でもこの最初と最後のページに書いてあるのは何なんだ?」
だが例外的に最初のページと最後のページだけ埋められていた。
最初のページには……『マーボー豆腐のレシピ』……意味不明だ。
何が悲しくて殺し合いの最中にわざわざ手間のかかる料理を作らなければならない。
こんな状況で呑気にマーボー豆腐を作る奴など余程のバカだ。
無論ドライはマーボー豆腐を作ろうなどとは欠片も思わなかった。
それに輪をかけて意味不明なのが最後のページだ。
こちらはドライの理解の範疇を越えていた。
嬲り書きの上に1ページにギッシリと文字と数字が線や円を交えて幾何学的かつ怪しげな画を作り出していた。
辛うじて「ヨグ・ソトース」やら「聖杯」やら「媛星」と読める単語もある。
だが単語が読めてもさっぱり理解できない内容だった。
ところどころに見た事もないような言葉もあり、読み難い事この上なかった。
別にメモ代わりとして使用する分には支障なく大した問題でもないから気にしない事にした。
問題はこれからだ。
おそらくこの辺りで情報収集をしても有力な情報は得られないだろう。
ここはいっそのこと思い切って場所を変えてみたほうがいいのかもしれない。
そこで候補として挙がるのが南部だ。
電車も通っているので移動には便利だろうから人も北部よりは多そうだ。
その反面移動の際に襲われるという可能性もあるが、返り討ちにしてやったらいい。
銃がクトゥヴァ一丁だけでは少々物足りないし、銃の調達も視野に入れておいた方が賢明そうだ。
だがそれに関して一つ懸念事項がある。
足の捻挫だ。
本当なら安静にしておいた方がいいのだが、こんな所で何時間もじっとしているのは時間の無駄だ。
しかし無理な運動は捻挫を悪化させる可能性がある。
そこであの支給品の出番だ。
「噴射型離着陸単機クドリャフカか……さて、使い方は……」
娼館を訪れたのも元々は邪魔の入らない場所でこれの説明書を暗記するためだった。
いささか予定が狂ったが、ここなら静かだし覚えるのに適しているだろう。
実際問題、クドリャフカの操縦を覚えるのはかなり大変である。
だがドライは天才である。
それは同じくファントムであるツヴァイも認めるところであった。
本来なら満足に扱うにはそれなりに時間を要するところが、その天賦の才能ゆえにドライにとっては少しの時間で済んだ。
しばらくすると、刑務所の前にはクドリャフカを背負ったドライの姿があった。
耐熱対策に元から着ていたジャケットの上からクドリャフカに付いていた耐熱ジャケットを着ている。
少々動きにくいが、今回は試運転なので問題ないだろう。
「えっと、このボタンを押して、トリガーを引くと……よし、飛んでみるか」
そしてドライは大空へと飛び立っていった。
◆ ◆ ◆
人類は有史以来、空への憧れを持ち続けていた。
幾人もの挑戦者が空を飛ぶ事に情熱を注ぎ、空へと手を伸ばした。
あの大空を自由に飛ぶ鳥のように自分も飛んでみたい。
そんな子供の頃の夢はやがて大人になってからの願いと化す。
その夢や願いも1903年のライト兄弟による業績により現実のものとなった。
だが中には納得いかない者もいた。
今ある飛行機は所詮箱の中に入って空を飛ぶというものである。
鳥のようには飛べてはいない。
人類は未だ空を自由に飛ぶ鳥の気持ちを理解できないでいた。
だがここにそれを実現してみせた少女が現れた。
◆ ◆ ◆
「くっ、しかし、とんでもないじゃじゃ馬だったなあ」
結果、ドライの初飛行はまずまずの成功を収めた。
目測だが1エリア進むのに5分……もしかしたらそれ以上の速さだったかもしれない。
それほどまでの高性能な移動手段であったが、少々使いづらいのが難点だった。
やはり説明書を読むだけでは分からない部分も多々あり、初めての飛行でコツをつかむのにもいささか苦労した。
理論より実践、というところであろうか。
最初のうちは戸惑って上手く飛べなかったが、最後の方はなんとかマシになった。
使いどころが微妙だが、クドリャフカだけでも突っ込ませれば十分な兵器になりそうだ。
「とりあえず南を目指したが、ここは……目の前に発電所があるからH-1か。
端に来すぎたか」
なんとか初めての着地をした場所はこの島の端の端であるH-1。
アインとツヴァイを探すには向かないところである。
最初はF-2の駅で降りようとしたのだが、足の捻挫を気遣って降りようとしたために通り過ぎ去ってしまった。
いざとなったらクドリャフカをまた使えばいいだけなので、それほど問題でもない。
発電所には誰もいないとは思うが来たついでなので一応探索だけはしておいても損はない。
さてどうするか。
【ドライ@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-】
【装備】クトゥグア(10/10)@機神咆哮デモンベイン
【所持品】支給品一式×2、マガジン×1、懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom、噴射型離着陸単機クドリャフカ@あやかしびと、包帯、業務日誌
【状態】 健康、左足首捻挫(治療済み、患部に包帯を巻いている)
【思考・行動】
基本:殺し合いを楽しむ。男(玲二?)(誠?)を殺す。
1:アインと玲二を見つけ出して殺す。
2:駅に向かうか、発電所を探るか、または……
3:見つけた人間を片っ端から襲う。
4:とりあえず娼館での一件は保留。
※クトゥグア、イタクァは魔術師でなくとも扱えるように何らかの改造が施されています。
※業務日誌の最初のページには「マーボーの作り方」、最後のページには「怪しげな画」が書かれています。
ただ最後のページは酷い嬲り書きなので、辛うじて「ヨグ・ソトース」「聖杯」「媛星」ぐらいが読める程度です。
※クドリャフカの操縦を覚えました。(なんとか操縦できる程度です)
【噴射型離着陸単機クドリャフカ@あやかしびと】
すずルートで、双七がヘリを追いかけるために使用したもの。
本来、トーニャの所属するロシアの諜報機関の保有物。ちなみにロシア製品は世界有数の品質を誇る(トーニャ談)。
噴射型のロケットエンジンを背負うことで空中を移動することが可能になる。
操作については、本編中で双七が30分ほどで会得できた程度。なので要領次第で前後すると思われます。
速度は輸送ヘリに30分のハンデがありながら追いついているのでかなり速いです。目測でだいたい1エリア5分程度。
熱を持つので、背負った状態での長時間の使用は危険かもしれません。
なお、断じて意思持ち支給品ではありません。
投下終了です
矛盾点・誤字・脱字などありましたら指摘よろしくお願いします
支援ありがとうございました
タイトルは『日誌とクドリャフカと刑務所とドライ』です
すいません。
【1日目 午前/H-1 発電所前】を入れ忘れていました。
投下乙!
クドリャフカ早いなぁwww わずか五分で一エリアって、島一周も夢じゃないw
でも原作見てると「そりゃそうだなぁ」と思えるほど馬鹿げた速度のクドw わっふー。
さあ、迷走するドライの行く末はいかに。
作中でも言ってるけど、烏月さんと並んでサラマンダーなんだよなw
乙です!
ところでクドリャフカって目立つの?
空を高速移動しようものなら、音とかで色んな人に発見されそうだが
投下乙です
ヨグ・ソトース、聖杯、媛星
やばい、あらゆる世界のラスボスが勢ぞろいだw
時刻は午前八時を回っている――これが多くの人が想像する『日常』であるならば、駅周辺の状況はどうか。
学校に向かう学生、会社に向かう社会人、裏路地を這い回るねずみ、安住を求めるホームレス、朝食のお零れを啄ばむ鳩、
人間に限らず数多く命が群れを成し、騒音を運び、低血圧な者は起き抜けのテンションも影響し、多くの場合は『鬱陶しい』とストレスを蓄積させることだろう。
通勤通学ラッシュの最中とも言える時間、無人の駅舎内、ホーム白線の内側にて。
山辺美希は、そんな日常ならではと言える憂鬱とは別種のストレスを、ある男のせいで抱え込んでいた。
男の名は大十字九郎。アーカムシティという街で私立探偵をやっている、風変わりな青年だ。
なにが風変わりなのかと問われれば、私立探偵という職種よりもまず服装……と口ごもりつつも答えざるを得ない。
頭からすっぽりと女物のローブを被り、歩きづらそうに時折生脚を覗かせる姿は、お世辞にも似合っているとは言えない。
さらにこの服の下がパンツ一丁……どころか、腰にタオルを巻いただけのほぼ全裸という事実を知っている身としては、
なおのこと気持ち悪がるしかなかった。もちろん、表の態度には微塵も出さぬが。
しかし実際のところ、美希は九郎の服装にのことなど割りとどうでもよく思っていた。
仮に九郎が女装趣味の変態であったとしても、美希にとっては些細なことである。
彼女が同行者に求める条件はただ一つ――その人物が、『道具』と成り得るか否かだ。
この『道具』とは、例えば狙撃兵の奇襲から守ってくれる盾であったり、逃走の際の安全ルートを確保してくれる逃がし屋だったり、か弱い女の子に狙いを限定するような暴漢を一発KOしてくれるヒーローであったりだ。
大まかに解釈するならば、『山辺美希に安心感と事実として安心できる状況を提供してくれる人物』のことを差す。
さらに理想を付け加えるならば、いざというとき自分の思惑通りに動いてくれる駒の要素を兼ね揃えていたほうが良い。
過去に美希が接触した人物たちは、はたして美希の求める条件を満たしていただろうか。
対馬レオ――盾にしかならなかった。貧弱すぎる。一回限りの使い捨て。役には立ったがそれでも最低ラインだ。
杉浦碧――問題外。子供を放って独断行動に躍り出る大人の風上にも置けない人物。期待しただけにガッカリだ。
そして、大十字九郎――熱血漢という印象がピッタリ合致するこの男も案の定、美希の求める存在にはなりえなかった。
「ごめん、美希ちゃん。やっぱり俺、あいつのこと放っておけないわ」
俯き気味の顔で駅まで足を伸ばし、次発の電車がもう間もなく到着するという今になって、
重苦しい表情を維持し続けていた九郎は、ようやっとその言葉を口にした。
美希は表向きは「えっ?」という声を漏らし、心中では「ああやっぱりね」とぼやき、九郎の顔を覗き込む。
メラメラという熱気が伝わるほどに、暑苦しい目をしていた。見ているだけでげんなりしてくる。
そんな美希の心理は察さず、九郎は己の意を、あまりにも身勝手な誇りと共に主張した。
「俺なんかが行っても、なにもできないかもしれない。だけど、それじゃ自分が納得できねぇんだ。
あんな死ぬ気満々のガキ放って、自分だけ安全なところに逃げ延びるなんてよ……できっこねぇ。
ああ、できねぇさ! 俺はそういう男だ! だーもうなにウダウダ悩んで時間潰しちまってんだクソッ!」
漠然とではあるが、第一印象からしてこの展開は読めていた。つまりは必然の結果。
大十字九郎は、対馬レオや杉浦碧と同じ、いやそれ以上の無能であると――美希はこの瞬間、断定した。
駅のホームに汽笛が鳴り響く。新たな電車がB-7へと到着したようだ。
あれに乗れば、この危険極まりない地区を脱出できる。
九郎はそれを理解し、だが瞳に灯した火種は燻ることなく燃え盛る。
「美希ちゃんはあの電車に乗って、次の駅で待っててくれ! 心配すんな、理樹とアサシンってやつを助けて必ず戻る!」
心配なんて、まったく、これっぽっちも、一ミクロンたりともしてませんよ、と心のゴミ箱に吐き捨てる。
表面上は良識溢れる女子高生を演じ、山辺美希としての体裁を保ちながら、九郎との縁切りに躍り出た。
「……わかりました。絶対に、絶対に生きて戻ってきてくださいね!」
「おう! 任せとけ!」
無駄に威勢のいい声を返し、九郎は駅舎の外へと走り去っていった。
もう二度と会うことはないだろう。乗車間、名簿の大十字九郎の欄に逸早く横線でも引いておこうか。
いや、あるいは生き残るかもしれない。が、美希の勘は告げる。
九郎がヒーローとしての勤めを果たし、理樹たちを連れて戻ってくる確率は……ゼロパーセントだと。
「ホント……つっかえなー」
肩を落とし、深く溜め息をつく美希。
また一人になってしまったわけだが、予測はしていたので精神的にはそれほど痛手でもない。
問題は今後どうするか。駅を離れるのが第一として、向かう先に美希の求める安寧はあるのか否か。
行動を起こさなければ何事も好転しないのは明らかであり、悪手を恐れて手を拱くほどの臆病者でもなく、
しかしまったく懸念がないわけでもない現状で、美希はどう立ち回るべきが最善なのか、模索する。
その、一瞬の隙。
九郎が去り、美希が次のフェイズに身を転じる僅かな時間を縫い、声が齎された。
「あー、ちょっといいか?」
道端で勧誘を行うような、軽い呼びかけだった。だからこそ驚き、気を動転させる。
美希は総身を震わせ、オーバーリアクションで後ろを振り向いた。
そこにいたのは、到着したばかりの電車から今まさに降りてくる最中の男性。
背広を着た痩身は、ひょろ長くも軟弱者というイメージは与えず、掴みどころがない。
一見してどこにでもいるような、痩せているという以外これといった特徴のない、中年の男だった。
態度からして敵愾心を持った相手ではないと判断できるが、それでも美希は己の迂闊さを悔やんだ。
まだ方針の組み立てが完了していない時期に、想定外の出会いを迎えることになってしまったからだ。
こちらから接触するのならともかく、他者からの接触はなにかと懸念が残る。
積極的に声をかけるということはそれなりの思惑があるということであり、
そこに悪意がつけ込むのはある意味当然、少なくとも善意だけ持って接触を図ってきたと考えてはならない。
後手に回ってしまったのならば、細心の注意を払い、対処策を練る必要があった。
美希は不自然ではない程度に身を構え、人見知りな風を装って、痩身の男に対峙した。
男は美希の様子を見て頭をぼりぼりと掻き毟り、気だるそうな顔で言葉を続ける。
「急に声かけられて驚いちまったか? あ、いや、すまん。驚かせる気はなかったんだ。
ただ、君が着ているその制服なんだが……ひょっとしたら、と思ってな」
美希はまだ口を開かない。男の態度は友好的だが、その本性はまだ知れず、先読みもできない段階。
迂闊な言葉は致命傷となる。山辺美希という正体を晒すことすら、危険な行為となりかねなかった。
だから今はじっと、男の出方を待つ。
歩み寄ってくる男との距離を測りながら、電車のドアがまだ開いたままであることを視界の端で捉えながら。
「――佐倉霧って子を知らないか? 君と同じ、空色の制服を着た女の子なんだが」
◇ ◇ ◇
竜鳴館高校橘平蔵と、竜鳴館高校生徒会副会長兼風紀委員長鉄乙女。
この二人が、互いに本気で試合を行ったならば、はたしてどちらに軍配が上がるだろうか――?
そのような話題が竜鳴館の生徒たちの間に広まったとするならば、多くの者は館長こと橘平蔵を支持するだろう。
第二次世界大戦において米軍に「彼が戦争に参加していたら勝敗はわからなかっただろう」とまで言わせ、
実際にも数多くの英雄譚を持つ平蔵の実力は、もはや伝説の域だ。
年季の差から言っても、平蔵の弟子に値する乙女が、師を下す可能性は低い。
しかしそこは波乱万丈な学園ライフを売りとする竜鳴館高校。絶対とは言い切れない。
学生の中には、鉄の風紀委員と恐れられる鉄乙女を支持する者も少なからず出てくるだろう。
スポーツ万能、拳法の達人、居合道も習得……と、彼女も彼女で女学生とは思えないほどの武勲を立てている。
未だ発展途上の蕾が、開花期をとうに終えた花を下すとも限らないのではないか。
意見は交錯するのが目に見えている。ならば実際に戦わせるしか検証の術はない。
とはいっても、二人とも血に飢えたバトルマニアというわけではないのだから早々対決など望めない。
館長と風紀委員という双方の立場を考えても、大っぴらに拳を合わせることなどできようはずがなかった。
方法があるとすれば、それはただ一つ。
――ここが竜鳴館の外であるならば。
橘平蔵の定めるルールから外れ、鉄乙女の監視からも逃れ、規律も秩序も乱れた舞台に二人が立たされたとするならば。
対戦カードが組まれるのは師弟の必然かもしくは第三者の目論見か。その場合当人たちのやる気はどうだろうか。
もし互いに異論なく、本気を発揮できるのであれば――実現する。
橘平蔵対鉄乙女。
竜鳴館高校に所属する者なら誰もが食いつくであろう、世紀の大決闘が――
「……っの、馬鹿もんがああああああああッ!!」
――既に幕を開け、その幕は早くも閉ざれようとしていた。
理由はただ一つ。橘平蔵の圧倒的な実力が、乙女を防戦一方に強いている現状が続いているからだ。
「恥を知れ、鉄乙女よッ! 竜鳴館の風紀を守るべきおまえがぁ……なんたる愚行だ!
非常時とはいえ、儂の許可なく抜刀し、さらに罪もなき若人を襲撃するとは。
いずれも竜鳴館風紀委員にあるまじき行為だ。それ相応の罰を受ける覚悟はあろうな!?」
周囲は中心街ということもあり、雑多にビルが並んでいる。
立ち並ぶコンクリートの壁は、平蔵の肉声をダイレクトに反射し、響き渡らせる。
大柄な体躯を和服で包み、その隙間からは屈強な筋肉と傷跡が見え隠れしている。
肩を抜ける長髪とそれらと一体化するように伸びた顎髭が印象的であり、全身から日本古来の趣が感じ取れる。
この壮年の男――いや、『漢』こそ、知る者ぞ知る橘平蔵だった。
大太刀を振るう女学生相手に素手での奮戦を見せ、一歩も退かぬどころか逆に追いつめる。
無謀ではなく、実力の伴った勇猛さを発揮する漢らしさは、同性に恋情を抱かせるほど。
曰く、世の体育会系の男児で橘平蔵に憧れない男はいないという。
「……むぅ」
平蔵が大太刀を振るう女学生――乙女と対峙している後ろで、漆黒色の痩身が細く唸った。
表情を覆い隠す骸骨の白面。変わった形状の刃を握る隻腕。機を窺うような所作。
見た目には怪しすぎる男、真アサシンことハサン・サッバーハは一応は平蔵の味方である。
共通の敵を持っているというだけの間柄であり、アサシンはその敵を討つべく平蔵の背後で燻っていた。
彼が未だ攻撃に移れぬ理由はただ一つ。平蔵の振るう覇気が、第三者の介入を困難にさせていたからである。
「ハサンさん、あの……」
「む……緊張を解くでないぞリキ殿。勝敗はまだ決してはおらん」
アサシンの横、野球の打撃に用いるはずのバットで武装した少年が、心細そうに呟く。
彼の名は直枝理樹。アサシン同様、今は平蔵と共闘するべくこの場に立っている戦士だったが……
やはり平蔵と乙女の一戦には手出しができず、どうにか構えだけを取って観戦に徹してるのが現状だった。
「――シッ!」
平蔵が拳を、乙女が刀を振るう隙を縫い、アサシンが遠方から『星』を放る。
武器になどならぬ木彫りのヒトデ。ただしこの星は、投擲を得意とするアサシンが投げれば立派な牽制の役目を果たす。
殺傷能力はなくとも平蔵の援護になれば――と、アサシンが乙女の顔面に迫る星を見届けるが、
「むっ!?」
高速で放られたヒトデは、直撃の寸前、乙女の振るった刀に容易く弾かれてしまう。
平蔵という猛者を相手にしていながら、外野からの攻撃にも反応できる俊敏さ。
アサシンは敵対する者の力量を測りながら、次なる攻め手を模索した。
「ふっ、白面の者よ。小手先の一手など鉄には通じんぞ。あれは、歳若くして戦い方を心得ているのでな」
「御仁よ、貴殿はあの者を知っているのか?」
「左様。そしてだからこそ、奴は儂の手で成敗せねばならん……故に、手出し無用ッ!」
拳を固く握り締め、平蔵が突貫する。
対戦者――鉄乙女は、平蔵の教え子であり、竜鳴館の風紀を一任したほどの逸材だ。
外見の美貌とは裏腹な、精神的たくましさ、肉体的強さを兼ね揃えている。
若輩故に及第点は残るが、数少ない平蔵が認めた人間の一人だ。
その鉄乙女が、今は冥府魔道に落ち、我を失っている。
発端はなんなのか、理由はなんなのか、元凶はなんなのか、それらを断つことは可能なのか。
考えるべくもないことだ。橘平蔵が竜鳴館館長として、竜鳴館の学生にしてやれる指導はただ二つ。
女子は校庭十周――しかし乙女が対象とあっては、それしきの罰では生温い。
ここは男子と同じく――『鉄拳制裁』の四文字を持って正すほかなかった。
「ぬぅおおおお!」
豪気に振り被った巨腕が、乙女の華奢な体を穿たんと振り落とされる。乙女はこれを後方に回避。
空爆のような衝撃音がアスファルトの大地を叩き、砕け散った礫が避けた乙女に飛来する。
刀で払うまでもない弾幕をあえて身に受け、乙女は後ろへの移動を続けた。平蔵の姿は正面に据えたまま。
パンチ一発で路面を破壊する。常識からしてありえない光景を目にしポカンと佇む理樹とアサシン。
そんな二人を蚊帳の外に置き、平蔵は固く大地を蹴り、それだけで足場が揺らいだ。
まるで石像が戦っているかのような重厚な身体動作、それでいて放つ気迫は正しく人のもの。
豪気、闘気、覇気、なんとでも称せるが平蔵に言わせるならそれは――漢気(おとこぎ)。
日本の未来を担う若人に教えを説かんと、平蔵は暴力という手段を持ってして乙女に接する。
刀を盾に構えたまま後進し続ける乙女に対し、正面から走って接近し、正面から拳打を放つ。
正々堂々、何事も正面から。平蔵が貫く漢の信念は、豪胆すぎる戦闘スタイルとして表に体現される。
豪腕一閃――ボクシングにおいて言えば右ストレートと呼ばれるであろう一撃が、乙女の身に降りかかる。
これはパンチであってパンチではない。殴るという行為の本質自体は変わらないが、見た目から受ける印象はまるで別のものだ。
迸る気が相手の視界を歪ませ、距離感すらも麻痺させ、巨人を幻視させる妖術にも似た一撃――これら全て、漢気の一因なり。
平蔵の拳打を刀身で受け止め、さらにインパクトの瞬間に後ろに跳び、しかし衝撃は完全には消え去らない。
乙女は防御の姿勢のまま十数メートル後ろへと吹っ飛ばされ、足を滑らせながらなんとか踏みとどまる。
倒れはしない。盾として刀も折れてはいない。乙女は微動しているが、戦意を収めようとしない。
それでこそ――と、平蔵は不謹慎にも、教え子の見せる闘志を喜ばしく思った。
「ほう、儂の拳を受けてもまだ砕けんとは。地獄蝶々に勝るとも劣らぬ名刀よ」
乙女の振るう刀――斬妖刀文壱は、神代学園生徒会会長一乃谷兄妹の愛刀として知られる化け物刀だ。
怪力妖怪『牛鬼』を祖に持つ人妖、一乃谷兄妹だからこそ扱える重量とそれに見合った強度。
多少の心得があれど、人間が容易に振れる刀ではない――では、人間をやめた者ならばどうか。
答えはこうして、乙女が斬妖刀文壱を使いこなしているという事実にあった。
覇気を持って身の震えを一蹴し、乙女は再度、斬妖刀文壱を攻勢に構える。
剣先には純然たる殺意が込められ、刀身に留まることなく切っ先の平蔵へと向けられていた。
平蔵はそれを真正面から受け取る構え。そして正す心構え。果たすには腕一本で事足りる。
(刀で受け止める程度では、わからんか。やはり、直接鉄拳を叩き込むほかないようだな)
闘争心がたぎるその裏で、平蔵の僅かな落胆が零れた。
この手で教え子を下さなければならぬという、苦渋の決断。
あるいは手にかけてしまうのもやむなしか――と考えたとところで、平蔵の漢気は鈍らない。
「……儂すらも忘れているというのならば仕方がない。今この場で、改めて刻みつけるまでよ」
高齢者だからこその貫禄を持ってして、若き日に持ち合わせていた甘さを捨て去って、立つ。
その間、乙女は斬妖刀を平に構え、地面に対し水平に滑らせながら突進してくる。
間合いまで踏み込めば、即座に斬撃を与えられる姿勢。攻め手としては悪くはない。
乙女が得意とするのは、厳密に言えば剣道ではなく居合道だ。彼女の振り抜きの速さには目を見張るものがある。
鉄乙女という剣士を理解している平蔵だからこそ、相手が横薙ぎで攻めてくると察知したからこそ。
平蔵は構えを解き――おもむろに腕を組み始めた。
退かない避けない防がない。寛大ではあるものの愚かとも言える無防備の状態に至り、乙女の剣を待つ。
九、八、七、六、五、四、三、二――互いの距離が、斬妖刀の尺度ほどまで詰まり、
「渇ッ!!」
平蔵が突如、轟雷のような声を発した。
腹からの大声に、大気が震えた。
観戦者二人が、身を仰け反らせた。
覇気だけで、眼前の敵が吹き飛びそうだった。
しかし。
乙女は怯まず、平蔵を間合いに捉えた瞬間に――斬妖刀を振りぬく。
平蔵の顔面を狙った見事な横一閃。刃にぶれはなく、宿る殺意には曇りもない。
一刀に込められた乙女の『殺し』が、平蔵の顔に容赦なく浴びせられる。
が、
「――どうした、儂の気にあてられ臆したか? 鉄一族の末子ともあろう者が……嘆かわしい!」
斬妖刀は、間違いなく最後まで振り抜かれた。
ただしその切っ先に血の痕跡は残らず、平蔵の顔にも外傷はない。
当たり前だ。腕組みをしたままの平蔵の顔面には、刃など一ミリも触れなかったのだから。
――第三者の視点から見るならば、乙女の放った横一閃は、完全なる空振りに終わった。
刃にはぶれなく、殺意に曇りなく、しかし、空振り。どこに失敗の要因があったのか。
それは乙女が正常な思考回路を保っていたとしても、すぐにはわからなかっただろう。
古来より、武に精通した達人は、『気』を操るという。
気――それは誰しもが持つ、見えざる力の奔流。
ある者は気を破壊エネルギーに変換し、弾丸として用いる。
ある者は気を全身に纏い、鋼鉄よりも頑強な無敵の鎧とする。
ある者は気を相手に放ち、相手の五感を麻痺させる――平蔵がやったのはそれだ。
一閃の刹那、気を込めた全身全霊の一喝で、乙女の身に揺さぶりをかけた。
表には出ずとも、相手が生命である以上、影響は出る。
おそらくあの一瞬、乙女の視界では、平蔵の姿が元の何倍も大きく映ったはずだ。
相手との相対距離を把握する能力、平衡感覚を狂わせ、斬妖刀の間合いを見誤らせるほどまでには。
「刻みつけよ、漢の拳を! 思い出せ、儂の名を! よいか! 儂の名は――」
平蔵の気にあてられた乙女は、斬妖刀を振り抜いた姿勢のまま僅かに硬直。
防御不可能回避不可能反撃不可能不可避の硬直状態――!
平蔵は的と化した乙女の胸元目掛け、制裁のための鉄拳を繰り出す。
「――竜鳴館館長、橘平蔵ッ!!」
その、尊大すぎる名乗りと共に。
平蔵の漢気を正面から受け止めた乙女は、衝撃に耐え切れず吹き飛ばされる。
衝突先はファーストフード店。自動ドアを突き破り、カウンターの奥にある厨房まで飛ばされ、音と粉塵が生まれる。
平蔵が、理樹が、アサシンが、乙女の消失先へと視線を転じた。
一秒、二秒、三秒と待っても、変化は現れない。
即座の反撃がないと取るや、平蔵が静かに口を開く。
「……しばし頭を冷やせ。このたわけ者が」
呟くように放った平蔵の口元には、どこか哀愁の念が滲み出ている。
かくして、竜鳴館が誇る二強の対決は幕を下ろした――
――そして、新たな幕はすぐに開かれる。
「リキ殿……リキ殿の目から見て、あの御仁はどう映る? 人……でよいのだろうか?」
「……うん。人には、違いないと、思うけど……え、ええええ〜……?」
「あのような御仁が聖杯戦争に参加していたら……戦況も大いに変わったであろうな」
アサシンですら悟れぬほどの気配隠蔽能力を持ち、さらに身体能力も人間の範疇を越えていた鉄乙女。
正面から戦えば確実に苦戦を強いられたであろう相手はしかし、平蔵の一撃で沈黙してしまった。
拍子抜け……いや、この場合は平蔵の実力に目を見張るべきか。乙女が怪人であったことには変わりないのだから。
「ふぅむ。儂の教え子が迷惑をかけたな。改めて名乗ろう。儂の名は橘平蔵。竜鳴館館長、橘平蔵だ」
「あ、えと……直枝理樹です。こっちはアサシンさん……その、館長って?」
「ま、早い話が学園長だ。おまえたちを襲ったあやつは儂の教え子……鉄乙女といってな。
普段ならあのような蛮行を取り締まる側にいるべき人間なのだが、鉄になにがあったか知らぬか?」
「ううん。僕とアサシンさんはいきなり襲われて、ろくに会話もしてないんだ」
「完全に無差別の様子だった。どこか精気を抜かれていたような気配さえ漂っていたが……」
「……奴が落ちた理由はわからぬ、か。だが安心せい。儂の目が黒いうちは、二度とあんな真似はさせぬ!」
説得力に満ちた声で、豪快に笑い飛ばす平蔵。つい先ほどまで死線に立っていたとは思えない姿だった。
理樹は失笑気味ながらも平蔵の笑いに同調し、アサシンも決して警戒は解かぬまま、それぞれを紹介し合った。
「ふむ。その歳にして皆のリーダー役を担い、ゲームの転覆を狙うか……その意気や良し!
若人とは、いや漢とは、そうでなくてはいかん。直枝と言ったな。儂もおまえの策に一枚噛ませてもらおう」
理樹がゲーム開始当初から抱いていた算段を聞くや否や、平蔵は喜色に満ちた声でまた笑う。
平蔵は指導者である。将来を掴み取らんと奮起する若者を前にするというのは、それだけで嬉しいものだ。
願わくば、竜鳴館に属する対馬レオたちにもこうあって欲しい……と。
間違っても、乙女のような醜態は見せんで欲しいと願いながら、平蔵は理樹から木彫りのヒトデを受け取った。
(さて、そろそろ鉄に渇を入れ直して……む、なにやら背中が妙にあつ、い……?)
――その発覚に、前触れはなかった。
理樹はもちろんのこと、平蔵自身も、こういうことに長けた能力を持つアサシンですら、気づかず。
いつの間にか。時間も、感覚すらも遅らせて。僅か、あまりにも僅かな平穏は崩される。
引き金はそう、平蔵が背中に流れるなにか熱いものを察知し、首を後ろに振ったそのときに。
視界の端、理樹とアサシン共々、戦慄の要因を視認しなければ――あるいは混乱なく逝けたのか。
(――ぬ? これ、は……!?)
事実。
橘平蔵の背には、一本の太刀が突き刺さっていた。
「ぬ、がぁぁ……っ!」
血の滴る感触。時間差で伝わってきた激痛が、平蔵の身を沈める。
前のめりに倒れそうになる巨躯、だがあと一歩というところで軸足に力を込め、踏み留まる。
わかる。背中に突き刺さっているのは、乙女が振るっていた斬妖刀文壱。
平蔵の拳を持ってしても砕けなかった業物だ、彼の分厚い筋肉を裂くくらいわけはない。
気になるのはただ一点。いつ、何者が、皆の目を掻い潜り、こうやって平蔵の背後に凶刃を向けたのか――?
答えは、すぐに。
「っ!? お、と――」
平蔵の背後に位置するファーストフード店から、猪突猛進の勢いでなにかが飛び出してきた。
人の影にも思える俊敏ななにかの正体は、考えるまでもなく、先ほど制裁を加えた鉄乙女にほかならない。
乙女は前触れもなく戦地に舞い戻ると、平蔵の背に刺さっていた斬妖刀に手を伸ばし、握る。
引き抜くと同時に、平蔵の大柄な背中を斬り裂いた。
「ぐおっ……!?」
その一撃を持って、平蔵の身は今度こそ完全に倒れ伏した。
斬妖刀に血が染みる。最強の日本男児と謳われた橘平蔵の血と、僅かにこびりついた肉が。
斬妖刀を握る者は、その刀身をぺロリと一舐め。さらなる血肉を欲さんと、視線は次なる獲物のほうへ。
「くっ! 逃げるぞリキ殿!」
「は、ハサ――」
思わぬ奇襲に所作が遅れた二人ではあったが、アサシンの機転によりどうにか難を逃れる。
どんどん遠ざかっていく理樹とアサシンの後姿を捉えながら、平蔵は己の呼気が荒くなっていくのを感じていた。
(ぐっ……これも、制限とやらの一環か? この儂が、これしきの傷で参るなど……ぐはっ)
口から鮮血が零れる。視界が揺らぐ。全身から覇気が失われていく。手足の感覚も、次第に。
とある一線を退き、竜鳴館の館長を務めるようになってからは、久しく味わっていなかった窮地の到来。
傷を負う辛さ、獅子を前にしての生への渇望、駆け巡る思想、平蔵の体からアドレナリンが噴出する。
(乙女……! おまえ、は……ッ!)
顔を僅かに持ち上げ、すぐ隣に立つ乙女を見やった。
乙女は斬妖刀を手に持ったまま、チラリと平蔵の姿を一瞥する。
死骸を見つめるホリフィック・キラーの目ではない。
瞳に灯った色は、切なさを感じさせる虚無の色……無色。
「レ、オ」
「……!」
乙女がか細く発した二句の語を聞き逃さず、耳に入れて、平蔵は理解した。
鉄の蛮行が愛ゆえのものであり、彼女が深い悲しみを背負っており、恋する乙女はただそれに溺れただけなのだと。
(そうか……対馬レオ。愛する男が、逝ったか……)
対馬レオ――鉄乙女と一つ屋根の下で生活を共にしている、乙女が認めた男児の名を思い出す。
あの夏の日、竜鳴館の道場で二人の恋仲を公認にしたのは、他でもない平蔵自身だ。
二人はともに、真剣な表情を持って平蔵に言った――レオを、乙女さんを、愛していると。
愛ゆえの狂い。認めがたし、だがわからなくもない。現に今わかった。しかしわかるのが遅すぎだ。
極地に至った恋情は、乙女ほどの人間すらも歪めてしまうほどの魔手なのか。だとしても悲観できないのが、人の恋路。
眼前で看取ったのか、もしくは放送でその死を知ったのか。数時間前なで気絶していた平蔵に知るよしはなく。
(この歳にして……女を知らぬ儂では……気づけてやれなんだか)
乙女が落ちた根源の理由――レオの死をあらかじめ知っていれば、まだ対策も取れたのだろうか。
ああ、きっとそうに違いない。乙女を突き動かすのは殺意ではなく、愛なのだ。
予兆すら掴めず突き刺された一刀。それに込められたものが殺気であったならば、平蔵もアサシンも気づけた。
だが違う。乙女はただ恋情を募らせ、刀を放り、凶刃が標的である平蔵の背中に突き刺さったにすぎない。
彼女が取る戦闘行為、それらの根底に位置する衝動はあまりにも悲しく、察してやれなかった事実に平蔵はただただ悔やんだ。
(阿修羅の道を進むか……鉄乙女よ。ならば往けい。破滅を恐れぬならば、な――)
最後に。
乙女を救ってやれなかった無念を胸に抱きながら。
平蔵は深く……這い上がれぬほど深い混沌の穴へと……落ちていった。
◇ ◇ ◇
(はしたない?)
「うん。はしたない」
若い男女が一つ屋根の下、二人きりで暮らす――人はこれを、同棲と呼ぶだろう。
これ自体は、はしたないものではない。なんせ私とレオは愛し合っている。
お互いが真剣な気持ちで愛を育んでいるのだから、不純異性行為にはならないわけだ。
麗らかな夏の午前。お昼を前にしたこの時間、私は自宅のキッチンで昼餉を拵えていた。
自宅というのはもちろんレオの家だ。私が住まいとしているのだから、自宅と言って差し支えない。
将来的に引っ越すこともあるかもしれないが、それでも私の居場所はこれから先ずっと……レオの家だと思う。
(私のいったいなにがはしたないって言うんだ、レオ?)
「だって乙女さん、食材を調理もせず生で食べてる」
(む、たしかに私は料理が下手だと自認しているが……それでも日々上達してるだろう?)
「だったらなおさら、料理してから食べなきゃ」
――平蔵に殴り飛ばされた総身は、まだガクガクと震えていた。
――震えているということは、動くということに相違なく。
――乙女は震えたままの総身を持ち上げ、ひっそりと立ち上がる。
(そうは言うがな……私はなぜか、さっきからお腹が減ってお腹が減ってお腹が減って……お腹が減ってるんだ。
どうしてこんなにも空腹なのかはわからないがとにかくお腹が減っていて腹ペコで今すぐなにか食べたい。
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい――)
――脳を蹂躙する食欲。失せていく闘争心。残るのは、相手に危機を抱かせる殺意ではない。
「だーめ。ほら、俺も乙女さんの手料理食べたいしさ。生は駄目。まず食材は全部料理して、それからランチ。オッケー?」
――震えは止まった。刀を握る手に痺れはない。ああ、だが食材は遠い。だから、投げた。
(むぅ……レオがそう言うのなら)
「えらいえらい。それでこそ乙女さん」
レオが私の頭を優しくなでる。生意気に。だが不快ではない。むしろ嬉しい。もっとしてほしい。
アレを上手く調理できたら、レオはもっと、私のことを……そうだ、そうだな! きっとそうに違いない!
――投げつけた刀は大きな肉に突き刺さり、バランスが崩れたのか前倒れになる。
――乙女は即座に駆け出し、突き刺さった刀を引き抜くと同時に斬る。肉を細かく分断するつもりで。
――しかし、この肉はあまりにも分厚い。一刀で切り崩すのは困難だった。
――そうこうしている内に、残りに食材が逃げ出してしまった。まずい、拾わなければ。
――せっかくなら豪勢なランチがいい。食材は余すことなく、有効的に活用したい。
(よし、ではまず下ごしらえだ。次に調理。それから食べる。……私と、レオの二人で)
――平蔵の一喝にあてられた影響か、かつての日常を鬼の脳裏に思い返した乙女は、恋情を再燃させる。
――愛する人の笑顔が見たく、愛する人の喜びが見たく、愛する人の、そして自分の空腹を満たしたい。
――だから、楽しいランチタイムはまだまだこれから。
◇ ◇ ◇
――そして彼が目覚めた頃には、全ての幕が閉じた後だった。
「ぬ、ぐっ……お」
軋む巨体に喝を入れ、ゆっくりと起き上がる。
斬りつけられた切創から、脳髄を抉るような痛みが伝達される。
意識もふらふらで、視界もどこかおぼろげだ。血を流しすぎたのだろう。
しかし、出血のほうはもう止まっている。平蔵の鍛え抜かれた後背筋が、切れ込みを強引に圧縮し止血した。
未熟な剣士の斬撃など、熊九頭を相手にした際負った傷に比べれば、どうということはない。
……とはいえ、制限の影響もある。深手を負った平蔵の状態は、決して万全とは言えなかった。
「日は……まだ、昇っているか。あれから、どれほど経った? 乙女たちは……」
周囲を見渡すが、そこには人影は愚か、気配すら感じ取れない。
乙女、理樹、アサシン、三者ともに既にこの場を離れたか。
(未熟よのぉ……儂も。あれしきの攻撃で気を失うとは、修行が足りん)
己の身体的甘さ、そして乙女の心情を察せなかった精神的甘さ、全て受け止める。
受け止めた上で、それらの甘えは全て不要だと、振り払った。
「……ああ、儂が甘かった。鉄拳制裁など、生温い。鉄乙女よ、おまえが奈落の底に落ちたというのであればぁ――」
竜鳴館館長として、苦渋の決断をしなければならない。
鉄乙女の恋情による暴走が、既に引き返せぬところまで行ってしまったというのであれば。
力ずくで連れ戻すは無粋。想い人への情念を胸に焦がしたまま、送ってやるのがせめてもの情け。
「――儂の手で、沈めるしかあるまい。さらなる、黄泉路へとぉ……な」
そして平蔵は、『殺す覚悟』を決めた。
教え子をこの手にかけ――抹殺するという決意を心に刻みつけたのだった。
「しかし、乙女たちはどこぞへ消えたのか。ぐっ……血も、足りぬな。
どこかで飯にありつきたいところだが……まずは活力を取り戻す必要があるか。
直枝とアサシンには無事であって欲しいが……ええい、ままよ」
平蔵は右往左往した末、天命に身の矛先を委ねることにした。
道路端へと足を伸ばし、罪もない電柱にいきなりの鉄拳粉砕。
根元から折れた電柱を棍棒のように肩に提げ、空を仰ぐ。
「方角、風向き、力加減……どうでもいいわっ!!」
電柱を、昼下がりの青空へと放り投げる。
そして、すぐさま跳躍。飛行する電柱へと飛び乗り、平蔵は空路に躍り出た。
竜鳴館館長、橘平蔵が向かう先――そこに、宿敵と定めた元教え子はいるのか否か。
将来有望なる二人の若人の命運は、はたして?
彼が飛来する先、そこに待ち受けるのは――
【B-7 ドーム付近/1日目/昼】
【橘平蔵@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:なし
【所持品】:マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ!、木彫りのヒトデ×1@CLANNAD
【状態】:粉まみれ、肉体的疲労(大)、左腕に二箇所の切り傷、背中に切創(再出血の恐れあり)、貧血気味
【思考・行動】
基本方針:ゲームの転覆、主催者の打倒。
1:鉄乙女をこの手で成敗する(殺す)。
2:直枝理樹、アサシンを探す。
3:女性(ユメイ)を探す?
4:協力者を増やす。
5:生徒会メンバーたちを保護する。
6:どうでもいいことだが、斉藤の仮面は個人的に気に入った。
【備考】
※自身に掛けられた制限に気づきました。
※遊園地は無人ですが、アトラクションは問題なく動いています。
※スーツの男(加藤虎太郎)と制服の少女(エレン)全裸の男(九郎)を危険人物と判断、道を正してやりたい。
※乱入者(美希)の姿は見ていません。わかるのは女性だったことのみです。
※第一回放送を聞き逃しました。が、乙女の態度から対馬レオが死亡したと確信しています。
※乙女ルート終了後からの参戦。
◇ ◇ ◇
「止まって、ハサンさん! 橘さんを助けに行かなきゃ!」
「……ッ、黙っておれリキ殿。舌を噛むぞ」
「ハサンさん!」
理樹を抱え、再起した怪人から遁走する真・アサシンことハサン・サッバーハは、焦っていた。
あの怪人、鉄乙女は異常だ。橘平蔵の話を聞く限り人間であることには違いないようだが、
そのスペックは明らかに人外の域。サーヴァントのクラスで例えるなら――バーサーカーか。
(狂戦士……いや、あの姿はまるで――)
アサシンの脳裏をよぎるのは、日本古来に伝わる妖の存在――鬼。
鬼の語は『おぬ(隠)』が転じたものであり、元来は姿の見えぬ、この世ならざる者であることを意味した。
だから……だとでも言うのだろうか。アサシンにも平蔵にも悟れるぬよう攻撃をしかけ、成功するなど。
存在自体なら、日本のアサシンと呼べなくもない。が、現代日本における鬼は、主に人に災厄を齎す力の象徴とされている。
(正面から戦ったとして、既に『妄想心音』を失った私が勝てる見込みは……考えるべくもなし、か)
アサシンが生業とするのは、その名が示すとおり暗殺術だ。
影に潜み、影より狙い、影から襲撃を果たし、一撃の下に屠る。
正面からの殴り合いなど望むところではなく、ましてや荷を背負ったままの庇い合いなど、不向きにもほどがあった。
(……しかし、リキ殿は聞き分けてなどくれぬだろう。タチバナヘイゾウの敗北を知っても、なお。
生存の可能性は今も徐々に低下している。リキ殿にはそれが見えていない。悟らせねば、ならぬか)
左腕の中でがむしゃらに暴れる理樹。彼を抱え疾駆する先は、当初目指していた駅舎だ。
理樹という荷を捨てられない以上、乙女の俊足から逃れるには、現代の乗り物を活用するほかない。
ただし、その前の大前提として、今も追ってきているであろう後ろの追跡者との距離を離す必要があった。
「ハサンさん……橘さんは、橘さんが……」
「涙を堪えよ、リキ殿。我々はあまりにも非力だ。現実を受け止め――む?」
大通りを快走していたアサシンが、不意にブレーキをかける。
立ち止まっている暇はない。が、立ち止まらざるをえない。
前方に見慣れた人影が現れたからだ。人影は息切れ気味に進路を阻み、アサシンと理樹に眼差しを向けてくる。
(まさか、キャスター……いや)
第五次聖杯戦争における葛木宗一郎のサーヴァント、キャスターのものに似たローブを羽織る人影。
名簿に記載されていない以上、この場にキャスターが存在するはずはなく、だとすればあの者は何者か。
とそこまで考えて、アサシンはローブを羽織る人物の正体が、男であることに気づいた。
顔だけ見る分には好青年。瞳は熱く、殺し合いの肯定者のようには見えない。
男は異形のアサシンに向かい、腹からの大声で叫んだ。
「あ、愛と正義の魔法探偵、大十字九郎! 悪の匂いを察知したなら、ゼハァ、直ちに参上、即撃退!
お、ハァハァ、俺が来たからには、も、もはやお前の好き勝手にはさせないぞ!」
息も絶え絶えに、取ってつけたようなセリフを述べつつアサシンに指を差すその男。
アサシンは呆気に取られ、しばらく経っても状況が飲み込めずにいた。
「……えーと、九郎さん? どうしてここに?」
「知り合いか、リキ殿?」
「うん。あのね――」
「うおおおっ! 理樹から手を離しやがれこの怪人野郎おぉぉ!」
血気盛んに、無手の状態で特攻をしかけてくる九郎。敵意は、アサシンに飛ばされている。
「む――待て小僧! 貴様、なにか致命的に深刻な勘違いをしているぞ!?」
「うるせぇ! こっちは蚤の心臓奮い立たせてここまで来たんだ! 今さら謝っても容赦しねぇぞ!」
多少は戦闘の心得もあるのだろう。九郎は隙のない身体動作で、アサシンにパンチとキックの応酬をかける。
腕が塞がっているアサシンは回避行動しか取れず、説得の言葉をかけながら身を引き続けた。
「待ってよ九郎さん! アサシンさんは僕の仲間で、アサシンさんを襲ってた人とは別人だよ!」
「待ってな理樹! 今すぐこのガリガリ野郎をぶっ飛ばして俺が――って、はい?」
理樹の言葉を受けて、ようやく九郎の攻撃がやむ。顔は、難解な問題集を前にした子供のように硬直していた。
「え……だってよ、おまえ、仲間を助けに行ったんだよな?」
「その仲間というのが、私だ」
「……めっちゃ悪人面ですが」
「大きなお世話だ」
「九郎さん……」
「…………あう」
「…………」
「…………」
「……うおおおっ! 俺が悪いのかああああぁぁぁ!?」
己の過ちに気づいた九郎が、太陽に向かって懺悔の雄叫びを上げる。
直後、アサシンの背中に二振りの剣――いや、双剣が投げつけられた。
「グッ――オォ!?」
あまりの衝撃に足が地面を離れ、一時的に腕力を削がれたせいか、理樹の身も離してしまう。
抱えられていた理樹共々、アサシンは路面に転んだ。
「く、っつ……は、ハサンさん!?」
「ぐぅ、あ……ふ、不覚」
アサシンの背中に、墓標のように突き立てられた双剣――干将・莫耶を目にして、理樹は声を荒げる。
同時に、追跡者に追いつかれたのだと悟ると、恐怖を感じながらも振り向いた。
鉄乙女はすぐ後ろにいた。斬妖刀は腰に、両腕は投擲の姿勢のままこちらに向き、口元からは涎が垂れている。
平蔵の一撃によるダメージは残っていないのか、戦慄とともに考えるが、今はそれよりも。
「逃げよ……リキ殿!」
「ッ!? い、嫌だ!」
アサシンが理樹に逃走を促すが、理樹は即座にそれを拒否。
当たり前の返答だ。素直に聞き入れるようならば、初襲撃のときにアサシンを助けに舞い戻ったりなどしない。
「って、なんじゃありゃあ!? 女の子か、女の子なのか!? あんなおっかない娘さんがいるのか!?
ひょっとしてアイツが敵か!? そして大丈夫か変な仮面のおっさんんんんん!?」
「九郎さん! ちょっと静かにしててよ!」
「はい! すいませんでしたーッ!」
乙女の姿を見た九郎は、その禍々しい雰囲気にのまれ、混乱の渦中に捉われる。
アサシンは背中を走る激痛に悶えながら、なんとか這い上がろうと体を動かす。
状況を既にのみ込み、体も万全の理樹は、自分がやるしかないと、悟った。
「……来い、怪物!」
理樹は親友のバットを強く握り、アサシンと九郎を守るように正面に立った。
乙女は標的の数を三と定めるや、腰元の鞘から斬妖刀を引き抜き、
一跳び、
二跳び、
三跳び、
まるで地面スレスレを飛翔するように、壮絶な勢いで駆ける。
「ッ!?」
一瞬で、理樹との距離は詰まった。
加速の勢いに乗せて、細身厚刃の大太刀一閃。
理樹が構えていたバットが両断され、彼は武器を失った。
さらに、頭上へと振り上げた大太刀の柄先に左手を継ぎ、静止の間を置かず切り下げる。
「バ、カ、ヤ、ロ、オ――!」
理樹の顔面を剣風が撫でた。
頭上から振り下ろされる縦一閃が、理樹の命を刈り取らんとして、失敗する。
寸前で、後ろの九郎が理樹の身を引っ張ったおかげだった。
僅か、剣圧が理樹の鼻先を掠め、傷が生まれる。
痛みを感じる頃には、乙女が第三撃を繰り出さんと体勢を整えていた。
(リキ殿は――死なせん!)
理樹を掴む九郎を、諸共に斬り崩さんとする一刀。
その軌跡を阻むべく、アサシンは左手を打ち上げた。
握る得物は、バルザイの偃月刀――魔道書『ネクロノミコン』の文中において、
旧支配者ヨグ=ソトースの召喚などに用いられたとされる、儀式用の刃だ。
斬妖刀とバルザイの偃月刀が衝突を向かえ、金属音の後に均衡する。
「ぐ、ぐ……」
上方から振り下ろされた刃を、下からの立ち位置で受け止める姿勢となってしまった。
当然アサシンにかかる負荷は大きく、この状況が長く続くのは好ましくない。
「よいかリキ殿……私の言葉を、しかと心に刻み付けるのだ」
「に、逃げないよ! たとえ足手まといだとしても、僕はここから逃げるわけにはいかないんだ!」
「それは……リキ殿の意思か? リトルバスターズのリーダーとしての、確固たる意志か?」
「そうだ……僕は仲間を見捨てて逃げたりなんかしない! どんな敵にも、徹底的に抗ってやる!」
アサシンの背に守られながらも、理樹は己の信念のを枉げたりはしなかった。
窮地を見据え、しかし屈服を受け入れず、傍から見れば無謀とも取れる過程に縋っている。
手のかかる子供のような、それでいて頼もしくもある、希望の担い手とするには十分な――
(ふっ……)
思わず、アサシンは苦笑した。
「承知した。ではリキ殿、そしてクロウとやら。逃げろとは言わん……全力でこの場から離れろ!」
「――!?」
アサシンから飛ぶ怒号。気迫のようなものが伝わってくる言葉を受けて、理樹と九郎は踵を返した。
脇目も振らず、アサシンと乙女が鬩ぎ合う戦線から離脱。それを確認し、アサシンもまた動く。
刃と刃が均衡する隙間を縫い、しなやかな腰つきで乙女の腹部に蹴りを叩き込む。
均衡が解かれ、乙女が僅か後ろに撥ね飛ばされるのを見やり、跳躍。
跳んだ先、道路脇に置かれた電柱を蹴り、ビルの壁面を蹴り、空を駆ける。
乙女の視線は上空へと向き、追撃をかけんと跳躍を試みるが、彼女はアサシンほど身軽ではない。
(――ここだ!)
乙女が立ち往生しているのを視界の端に、アサシンは地上へと降り立つ。
刃の届く距離に舞い戻ったアサシンを捉え、乙女が攻撃を再開する。
大地を蹴り、刃を構え、アサシンの着地地点へと足を伸ばす――のこのこと。
「バルザイの偃月刀よ。その真価、見せてもらおう!」
――アサシンの下へ到達するまでの射線上、一台の乗用車が停まっていることには気づいていない。
――仮に気づいていたとしても、乙女は歯牙にもかけない。
――アサシンが罠を仕掛けているなど、考慮もせず。
「ハァァ――」
バルザイの偃月刀に、己の魔力を通わせる。
暗殺者たるアサシンの潜在魔力はそれほど大きくはないが、罠を発動させるための魔力は小規模で十分。
駆け巡った魔力が刃を浸透し、そこに熱を発生させ、可燃性物質に引火するほどの灼熱に至れば。
「――吹き飛べ、人をやめし怪人よッ!」
灼熱の刃と化した偃月刀を振り被り、投擲。
標的は乙女ではなく、路中の乗用車。厳密にはその内容物。
乙女が乗用車のすぐ近くまで接近してきた、その瞬間に穿たれる刃。
ガソリンが焼ける。熱が膨張し拡散する。周囲には、爆発が生まれた。
乙女はそれに巻き込まれ、アサシン、理樹、九郎はそれを遠方から見届けた。
否、最後まで見届ける余裕などない。
すぐに動かなければならない――危難はそう安々と退けられるものではないのだから。
◇ ◇ ◇
加藤虎太郎は思索する。
目の前に立つ可憐な――『お花ちゃん』とでも称したくなるような少女は、いったい何者なのか。
波がかった髪、溌剌ではあるものの今は緊張の色を纏う顔、そして佐倉霧と同じ空色の鮮やかな制服。
服装だけの判断ではあったが、可能性は十分にある。
はたして、彼女は佐倉霧の知り合いなのか否か。
「佐倉霧って子を知らないか? 君と同じ、空色の制服を着た女の子なんだが――」
公衆便所で霧に逃げられ、彼女が駅に向かったと推測し、虎太郎が流れ着いたのはB-7の駅。
霧が虎太郎の隙を縫い駅まで逃げたと仮定して、電車でさらに遠方へ足を伸ばしたとするなら、終点はここしかありえなかったからだ。
もちろん、駅に向かったという仮定自体が間違っているとも限らない。
仮定が正解だとしてもそのまま駅に留まっているはずはなく、既に離れている可能性が大だが、それは考えても仕方がない。
B-7駅到着後、すぐに発見した霧と同じ制服を着る少女。霧は上着を着ていなかったが、タイプからして同じ学校のものだろう。
今はこの少女の素性を知ることが最優先だと、虎太郎は考え至った。
(佐倉が危険だと言っていた黒須太一と支倉曜子……黒須のほうは名前からして男だろうが、だとするとこいつが支倉か?)
しかし、少女の容姿は見れば見るほどに可憐だ。
幼くもあり、どこか大人びた雰囲気も醸し出している。女学生としては理想的な美しさと言っても過言ではない。
いや、そもそも容姿の可憐さと性格や思想が必ずしも釣り合うわけではなく、見た目での判断など愚かにもほどがあるのだが。
とにかく、聞き及んだ支倉曜子の外見的特徴には合致しないのは明白だった。
考えられるケースは四つ。
一。眼前の少女が霧の話にあった支倉曜子であり、危険人物であるパターン。
二。眼前の少女が霧の話にあった支倉曜子であり、危険人物であることを隠しているパターン。
三。眼前の少女は霧の知り合いでもなんでもなく、ただ同じ服を着ているだけの他人であるパターン。
四。眼前の少女は霧の知り合いではあるが、霧がそれを隠していたというパターン。
(結局、逃げられたってことは、俺が信用されなかったってことだからな。
知っていることの全部を話してくれたとは考えにくい。
この子が、俺の知らない佐倉の知り合いであるパターンは、十分にありうるか)
内面の緊張は解かず、表向きはいつものだらけた印象を見せ、少女の反応を待つ。
やがて少女は、怯えたような警戒心を纏いつつ、訥々と口を開いた。
「霧は……私の親友です。あなたこそ、霧のなんなんですか?」
「俺は加藤虎太郎。教師だ。佐倉とはさっきまで一緒だったんだが……あいつ、酷く怯えていてな。
俺の態度にも問題はあったんだろうが、目を離した隙に逃げられちまった。たぶんこっちに来たと思うんだが」
「逃げられたって……霧を、どうするつもりだったんです?」
「取って食いやしないさ。俺は殺し合う気なんてないし、ここには俺の教え子もいる。
基本、子供は保護だ。あー、あいにく教員免許は携帯していないんだが、胡散臭いか?」
親友などという単語は、霧の口からは一切出ていなかった。
嘘をついているのは、はたして霧か少女か。確かめる術はあるが、無闇に生徒を疑いたくなどない。
少女の正体が、ただ警戒心の強い利口な娘であることを願いつつ、虎太郎は尋ねた。
「佐倉の知り合いと言ったが、あいにく佐倉からは黒須太一と支倉曜子という名しか聞かされてないんだ。
彼女はその二人を、殺し合いに乗ってもおかしくはないほどの危険人物だと言っていた。
できることならこんな前置きはしたくないんだが……教えてくれ。君の名前は?」
虎太郎の問いに対し、少女は顔を顰める。どうやら不快感を与えてしまったようだ。
彼女の正体は狐か狸か、そのどちらでもない見た目どおりの花か。
願わくば前者であってほしいと胸に抱きながら、虎太郎は返答を待った。
「私の名前は……山辺美希、です」
初めて聞く名前だった。この名が偽名かどうか、霧が話さなかっただけかどうかは、まだ判然としない。
さらなる探りを入れるべく、虎太郎が口を開こうとしたところで、
「美希、ですけど……って、今それどころじゃないんですってば!」
山辺美希と名乗った少女が、唐突に声を荒げた。
「突然ですが、加藤先生は強いですか!?」
「は? いや、まぁ強いかどうかと聞かれれば、多少の心得はあるが……」
「なら、手を貸してください! 今、なにげにすっごいピンチなんですよ!」
先ほどの慎重さはどこへやら、美希は初対面の虎太郎に対し胸ぐらを掴まん勢いで肉迫する。
演技か、それとも冷静さを欠くほどの事態がどこぞで起こっているのか、駅に到着したばかりの虎太郎にはわからない。
「待て。とりあえず落ち着け。聞きたいことは山ほどあるが……まず、そのピンチってのがなんなのか教えてくれ」
面食らう虎太郎は、一時思索を中断する。
駅のホームに置かれていたベンチへと身を移し、美希の語るピンチとやらに耳を貸すことにした。
◇ ◇ ◇
人間が生まれながらにして持ち合わせる方向感覚は、緊急の場においてどれほどの機能を果たすものなのか。
未開の土地。歩き慣れぬ街。後ろには危難。そんな場所で、正確に目的地を目指すことのなんと困難なものか。
理樹も、九郎も気づいてはいなかった。ただひたすらに足を動かし、駅を目指す。できたのはそれだけ。
故に、アサシンが不意に足を止めたのには疑問だった。
あと少しで逃げ切れる。電車に乗ってしまえばそれでミッション・コンプリート。
やれる。棗恭介でなくとも、直枝理樹として、このミッションを完遂することができるのだ。
なのに、どうして止まるのか。仲間が一人止まれば、自分も止まらざるをえないではないか。
理樹、そして九郎も足を止め、路上で棒立ちになるアサシンを見やった。
アサシンは口を閉ざす。なにか後ろめたいことでおるのか、視線を向けられていると知りながら押し黙っている。
なにをやっているのだろう。こうしている間にも、怪人は近づいてきているというのに。
あの爆発に巻き込まれて倒れたなどとは思わない。そんな楽観的には考えない。
ああ、きっとそうだ。そうに違いない。だからこそ、逃げなくては。
臆病者だと笑われても構わない。それで仲間が救えるのであれば、リーダーとして決断する。
リトルバスターズは軍隊や悪の組織などではない。なによりも仲間を重んじる集団なのだ。
だから、だから、だから――理樹には、アサシンの発言がのみ込めなかった。
「改めて進言する。クロウ殿と共に逃げよ、リキ殿」
――今度は逆に、理樹と九郎が押し黙る。
アサシンの意図が掴めず、ただし言葉の意味だけは理解して、なおのこと押し黙るほかない。
逃げる。それはわかる。現在進行形で逃げている最中だった。それをわざわざ中断に追い込んだのは、アサシン自身だ。
いや――本能ではわかっている。
アサシンの「逃げよ」という言に含まれているのは、理樹と九郎の二人のみなのだろう。
そこに真アサシン、アサシン、ハサン・サッバーハ等の名前はない。
二人だけで逃げろ、と。
アサシンがやっとの思いで搾り出した達意の言は、確かに胸に刻まれた。
刻まれて、唯々諾々と従うことはできない――直枝理樹という少年の、魂は。
「嫌だ……できない。できっこない」
「聞き分けてくれ、リキ殿。鉄乙女はすぐに追ってくる。駅までは逃れられまい」
立ち尽くすアサシン――いや、ハサンに向かって、理樹は正面から食ってかかる。
己が信念で、ハサンの古くさい考えを染めてしまおうと、血走った瞳で鉄面皮を見据える。
「それでも、できない! 仲間を見殺しにすることなんて、僕は……!」
「どちらにせよ、私は死に体だ。この背中から滴り落ちる鮮血が見えぬわけではあるまい?」
ハサンの背には、依然として干将・莫耶が突き刺さったままだ。
だからなんだというのか。受肉しているとはいえ、ハサンほどの体力があれば早々失血死することなどありえまい。
「生きていれば……生きている内は、希望がある! それを自分から手放すなんて、馬鹿だ!」
「死が繋ぐ生もある。常在戦場のこの世……仲間を持つというならば、覚悟も持つ必要があるのだ」
まず生を拾う。誰一人欠けることなく。一度は共感してもらえたはずの意地が、真っ向から否定される。
覚悟なんてものはいらない。持っちゃいけないのだ。仲間を見捨てるようなリーダーにはなりたくない。
「僕は仲間を失う覚悟なんて持たないし、持ちたくない。僕は、僕を枉げたくない!」
「それが誇りだとでも言うのか? 違うな、それは単なる悪趣味な道楽だ。迷惑極まりない」
それでは誰もついては来ない、とハサンは言う。あまい考えだと、そう思われているのだろう。
ハサンの辛辣な言葉を受け止めていると、目頭に熱いものが込み上げてくる。が、懸命に堪えた。
「私がこの場に留まり、時間を稼ぐ。その間に、リキ殿は新たな仲間と共に発たれよ」
「ハサンさんを見捨てて……かい? なら、やっぱり聞くことはできない。それが僕の意志だ」
強く――恭介みたいに強く――恭介よりも強く。直枝理樹として、ハサンを納得させたい。
願いが情念を生み、決して折れることのない信念をさらに強固なものとし、活力を与える。
「ハサンさん……リトルバスターズのリーダーとして命ずる! 僕と――」
リトルバスターズを背負って立つ。
揺らぎのない芯を据えた直枝理樹としての発言は――しかし。
「黙れぇええええええ!!」
わかってもらおうとした仲間。
ハサンからの、思わぬ怒号によって掻き消された。
「もう『リトルバスターズごっこ』はおしまいなんだよ!」
理樹の胸ぐらを掴み、至近距離から喚き散らすハサン。
出会いから数刻、まったく見たことのない、予想すらしていなかった姿に面食らう。
「ここで希望が途絶えれば、リキ殿が守りたかったものは全て潰えるのだ!
繋がねばならん、たとえこの身を捧げることになろうとも、私は繋ぐ道を選ぶ!!」
髑髏面に覆われた顔からは、表情が窺えない。だが、怒っているだろうことは明白だ。
ただしこの怒りは、悲しみにも似ている。
理樹の双眸から堪えたはずの涙が溢れ出たのは、ハサンの悲しみに共感してしまったためだ。
「切り捨てる覚悟を持て! そして未来へ往け! 己が信念を枉げぬというのであれば、進めリキ殿ォ!!」
止まらない。涙が止まらない。瞳が、心が、全身が、悲しみに震えて打ちのめされそうだった。
この人はどうして、こんなにも自分に苦渋を強いるのだろう。わかっている。わかってはいるんだ。
でもそれを飲み込めないでいるのは、やはり弱さ。恭介なら、決断することができただろうか。
それもわからない。なにもかもがしっちゃかめっちゃかだ。理樹の心は洪水に見舞われている。
「……僕たちの、してきたことが……ごっこ遊びだって、言うんなら!」
泣きながら、理樹は厳しく接してくるハサンに抵抗を試みた。
「ハサンさん一人で、逃げればいい。僕を生かす理由なんて、ない。ハサンさん一人なら、気配を消してどこにでも」
見当違いなことを言っているのは承知している。だが、他に言葉が見つからないのだ。
「……逃げ、られる。だから、せめて逃げてよ……僕は、仲間を失いたくなんて、ないんだ……」
「……リキ、殿」
思わず零れた本音が、理樹の弱さを物語っていた。
そうだ。仲間を失いたくない。理樹の中に根づく信念の元は、全てこの想いだ。
唯湖、真人、恭介、鈴……ハサンとて、もう立派なリトルバスターズの一員なのだ。
欠けてはならない。失ってはならない。
欠かしたくない。失いたくない。死なせたくない。
子供らしい身勝手な、それでいてロリポップのように甘い、未熟な思想だ。
成長するべきなのだとは思う。しかし、その成長は仲間の死を迎えずしてはありえない。
それなら理樹は、今の弱っちいままの理樹は、成長しなくてもいい。むしろ成長などしない。絶対に。
「命令じゃなく、お願いだ。逃げて…………お願いだから、僕なんて見捨てて逃げてよハサンさん!」
叫ぶ。そして直後に――胃が悲鳴を上げた。
(えっ――?)
ハサンの右膝が、理樹の腹部に減り込んでいる。閉じていく視界の隅で確認した。
ハサンの顔を見上げる。その表情は、髑髏面に阻まれやはり窺い知れない。
ハサンが呟く。理樹は失せていく意識の端で、確かにその声を耳にした。
「すまぬ。そして――さらばだ、リキ殿」
別れの、言葉。
◇ ◇ ◇
揉み合いの末、ハサンは理樹を気絶させるという力技で、自らの主張を通した。
意識を途絶した理樹は、もう異論をぶつけることもできない。
卑怯だ、と。大十字九郎は思った。
口を挟まず、最後まで見届けた二人の結果が、これなのか。
別れとするには、あまりにも……緩みそうになった涙腺に、固く鍵をかける。
「……礼を言う。そして再び頼む。リキ殿を連れ、逃げ延びてくれクロウ殿」
告げるハサンの口調は、どこか重々しい。
あのときの理樹とまるで同じだ。これから死にに行きますとでも言わんばかりの声。
ハサンの決意がどれだけ確固たるものか、理樹とのやり取りを見ていた九郎は知っている。
「断る」
知っているからこそ、それをきっぱり切り捨てた。
「いけしゃあしゃあと自分勝手なことばっかり言いやがって……どこの映画俳優様だコンチクショー!
そんなに理樹が大事ならなぁ、生きて、死にそうになっても生きて、そんで自分で守って見せやがれ!
あんたも男なんだろう!? だったらなぁ、自分が惚れ込んだ男くらい、自分の手で最後まで面倒見ろよ!」
九郎とて、心の芯に根づく考えは理樹と同種のものだ。
救える命には慈悲を。救えぬ命だったとしても、やれることは全部やってから諦める。
今はまだ、諦めのフェイズではない。だから徹底的に抗う。大十字九郎とはそういう男だ。
「立派に主張を掲げるのはいいが、そうこうしている間にも、生存の道は遠のいているのだぞ?」
「俺は最初っから、あんたを置いて逃げる気なんてねぇ! 迷惑かけちまったしな!」
「ならばなおのこと、私の願いを聞き入れてはくれまいか?」
「だが断る!」
「どうしてもか?」
「絶対にノゥ!」
「貴殿を囮にし、私とリキ殿の二人で逃げるという方法もあるが……」
「やれるもんならやってみやがれ!」
「私は奥の手を隠している。人を意のままに操ることができる宝具の一種で……」
「ならあのおっかないねーちゃんに使いやがれ!」
「……頑として退く気がないと見える。リキ殿以上に強情なようだ」
「ああ、よく言われるよッ!!」
やれやれ、とハサンは首を振る。
九郎の意志は揺るがない……が、このままハサンと口論を繰り返しているばかりでは、いずれ乙女に追いつかれる。
どこかでどちらかが妥協しなくてはならない。あるいは追いつかれても撃破すればいいのだろうが、それは非常に困難だ。
重傷を押している身であり、自ら死に体であると発言するハサン。
つい先ほど気絶し、元々低かった戦闘力がゼロとなってしまった理樹。
アルとの契約が解除され、マギウススタイルに変身すること適わなくなってしまった九郎。
立ち向かったとして、勝つ見込みなど皆無に等しい。
厳しく辛い現実を見据えると、九郎の火照った体を臆病風が浸透していった。
(だからって、ここで退いたら男が廃るってもんだ! このわからず屋は絶対に――)
冷めた体に、再び薪をくべようとした直後である。
頑なに逃走を進言していたハサンが、唐突に膝を折った。
地に膝を着け、頭は深く下げ、土下座の姿勢を取る。
(は!? え、あ、ちょ!?)
ハサンの思わぬポーズに動揺する九郎。一瞬、彼の真意を見失う。
だがすぐにわかった。古めかしくはあるが、これも彼なりの意地の通し方なのだと。
「頼む――この通りだ」
男としての自尊心をかなぐり捨て、ハサンは言葉でわかってくれぬ頑固者に懇願する。
ポーズだけではない。誠意が伝わってくる土下座だ。ハサンにとって、理樹の命はそれほど重いということなのだろう。
「この地で見つけた、掛け替えのない主君……私が心から仕えたいと願った、マスターなのだ」
――聖杯戦争において、ハサン・サッバーハの忠誠心は他のサーヴァントに比べ群を抜いて高いとされる。
主の命に従い、時には主の間違いを正し、時には主の身を守る盾ともなる。
クラス・アサシン――ハサン・サッバーハとはそういう男だった。
「繋いでくれ。リキ殿はきっと、皆の道しるべとなる。どうか、このハサン・サッバーハの願いを聞き入れてくれ!!」
聖杯戦争やサーヴァントの事情、ハサンという英霊として真名も知らぬ九郎にも、彼の想いは伝わった。
おそらくハサンと理樹の関係は、九郎とアル・アジフのような『パートナー』などではない。
もっと厚く、もっと深い、真の『主従関係』にあるのだろうと――認めるしかなかった。
不器用で、それでいて重い。あまり褒められた生き方ではない。だが、無碍に扱えもしない。
ハサンが理樹を生かしたいという願いに込めた情念は、正しく本物だ。
それを否定する権利など、九郎にはなかった。
「……必ず、帰って来い」
言いたくはなかったが、言ってしまった。
これはつまり、ハサンの熱意に大十字九郎が負けた、ということなのだろう。
敗北としては清々しい、が、この先に起きる危難を思えば、苦々しい。
せめて、負け犬の遠吠えだけでも残そうと、九郎は震える拳を押さえて叫ぶ。
「帰って来い! そんでもって、一発ぶん殴らせろ! いいか、絶対だかんなー!!」
せめて、泣き顔は見せないように。
頭を下げたままのハサンには一瞥もくれず、倒れた理樹を背負って駅までの道をひた走る。
振り返りはしない。なにやら物音が聞こえて、乙女がすぐに後ろまで追いついたと悟っても、振り返らない。
理樹を生かす。託された者として、ハサンの願いに共感した者として、この仕事をやり遂げる。
九郎は誓い――心中でこの憤りを吐き捨てた。
(ちくしょう……!)
◇ ◇ ◇
(……行ったか)
遠ざかっていく九郎の背中を目で追いつつ、ハサンは思う。
いつから……そしてきっかけは、なんだったのだろうか。
未だ聖杯戦争の途中、間桐臓硯をマスターに持つ身でありながら、ここまで理樹に入れ込むようになったのは。
(時間に換算すれば、半日にも満たぬというのにな。まったく、おかしな話だ)
いや、時間など問題ではないのかもしれない。
理樹との出会いは必然。彼を主として認めることになったのも必然。
運命論を語るわけではないが、なるべくしてなった結果なのだろう――とハサンは失笑する。
(それにしても……リキ殿を一喝するためとはいえ、若者の言葉を真似るのには些か苦労したな)
性格上、怒るのはあまり得意ではなかった。マスターに逆らうのも、本来は領分ではない。
理樹はまだまだ未熟だ。果実に例えるならば、歳相応に青い。
だからこそ鍛えがいがあるのだが、従者としてやってやれることは、おそらくもうない。
(ここから先はクロウ殿、もしくはまだ見ぬ仲間たち、貴殿らの仕事だ。
押しつけるようですまないが、我らのリーダーをどうか、よろしく頼む)
おもむろに、背中の双剣を一本、長い腕を伸ばして引き抜く。
遠坂凛のサーヴァント、アーチャーが愛用していた干将・莫耶。
ダークほどではないが、片手剣であれば投擲道具とするにも無理はない。
ハサンはそれを、なんの気なしに背後に向かって投げつけた。
キン、という金属音が鳴り、確信した。
後ろに鉄乙女がいるという事実、これから戦いが始まるという事実、そして。
この地における真アサシンの、死期が訪れたのだという事実。
(なるべく時間を稼ぐ……いや、儚い望みだな。暗殺者が剣士と真っ向勝負など、笑い話にもならん)
残った一振りの剣も引き抜き、乙女と戦うための武器とする。
一本の腕。一本の片手剣。宝具を失い、気配を断つわけにもいかないこの状況で、暗殺者の技能がどれほど生きるのか。
(空気が張り詰めている。戦の気配だ。武人としてなら楽しめただろうが、な)
振り返り、乙女の姿を視認する。
乗用車の爆発などでは、やはり足止め程度にしかなっていなかった。
焼け爛れたセーラー服の中に見えるのは、健在を貫く肌。
微かな火傷など歯牙にもかけず、斬妖刀は腰の鞘に収め、ハサンを見据えている。
(ふむ。これは誘い……と受け取るべきか? よかろう。一撃の速度なら、こちらに一日の長がある)
勝機は薄い。が、無というわけではない。
乙女がこの戦の参加者である以上、必然的に抱え込んでいるはずの弱所を突けば、あるいは相討ちも狙えるか。
既に死は見据えた。ならば、理樹の明日を繋ぐためにも、狙わねばならないのだろう。
(討たせてもらおうか、怪人。いや、鉄乙女よ)
一陣の風が吹く。カランコロンと、道端の空き缶が音を鳴らした。
静寂な時間は僅か、一秒にも満たなかったかもしれない。
攻めを待つ乙女、攻めの間を窺うハサン。
衝突を前に、場は穏やかな空気に満たされる。
そして、
「ハサン・サッバーハ……参る」
ハサンが駆ける――眼前で待ち構える敵の下へと!
――――……!
(む――?)
駆ける中、ハサンは乙女の口元がなにやら蠢いていることに気づいた。
喋っている、としても、声が小さすぎて聞き取れない。
読唇術を試み、刹那の間に彼女の言霊を見定める。
そうする最中も、二人の距離は徐々に詰まる。
――――万物、悉く斬り刻め。
(呪言……いや、なにか技を繰り出す気か!)
ハサンの接近を捉えながら、乙女は未だに斬妖刀を抜こうとはしない。
それどころか構えも疎かに、自然体での待機を貫いている。
剣士があの状態から繰り出す技など、一つしかない。
理解し、おもしろい、とハサンはさらに駆けた。
(見よ、これぞ一撃必殺を生業とする暗殺者の技なり――)
斬妖刀の間合いは既に把握している。
ハサンの長い腕ならば、片手剣の短さを補って余りある。
狙うは、相手の喉下。
乙女を間合いに収め、左腕を振るう。
双剣の片割れ、その切っ先が伸び――
――――地獄蝶々=I
(――!?)
――切る寸前で、乙女の腰から刀が一閃、光の速さで振り抜かれた。
(な、んだと……!?)
刹那の瞬間、ハサンは理解する。
鞘に収まっていた斬妖刀が、抜かれる。
抜いた際の勢いに乗せて、一閃へと至る。
斬妖刀の刃は、ハサンの剣が乙女の喉に届くより速く、
ハサンの胴体へと触れ、軽く切れ込みを入れる。
グラリと体が揺らぎ、ハサンの放つ剣筋はあらぬ方向へと逸れる。
切れ込みはその間に拡大し、軌跡を曲げることなく切断。
斬妖刀が乙女の腰から右方に移動を果たした頃には、
刃の軌跡に置かれていたハサンの胴体など、上下に両断されてしまっていた。
(ぬ――おぉ!?)
想像以上に速い。相手が居合を狙っていることは理解していたが、こうも速いとは。
ハサンは己の失策を受け入れ、早々に次なる手段へと移る。
不思議なことに、体を分断されても、この刹那の時は生きられた。
元が霊体だからだろうか。否、仕組みや原理などどうでもいい。
即死ではない、即死であってたまるものか、無駄死にでは終わらない――!
(――死ねいッ!)
宙に舞った上半身を強引に捻り、左腕を乙女の喉へ。
剣はまだ握られている。
居合直後の剣士には、不可避の猛撃。
切っ先が喉下――首輪にさえ触れれば、乙女の喉は爆ぜて死ぬ。
だが、
(あ――――)
乙女が居合の体勢から振り抜いた、斬妖刀を握る右腕はそのまま。
その片方、無手の状態にあった左腕が、
執念で動くハサンの上半身に、
拳を捻じ込んでいた。
(馬鹿、な)
身体動作、そして反応速度――全てが達人級。
振るうのは剣だけでない。なぜならば乙女は、剣士である以上に拳士だからだ。
橘平蔵ならば知りえたであろう乙女の本質の力を、ハサンは見誤った。
(私の……敗け、だ。すまぬ……リキ、殿)
捻じ伏せられたハサンの身は、沈黙に至り地表へと落下する。
もう二度と起き上がることは適わず、受肉した英霊は亡霊とは成りえない。
最後の最後まで、執拗に命を狙う仕事人としての根性は、見上げたものだった。
しかし通じない。結果的にはなにも果たせず、ハサンは敗北者として散る。
日々の癖か――また起き上がってくると期待して、起き上がってこない対戦者に対し、
乙女は侮蔑ではなく、心憎さのあまりこう告げた。
「コンジョーナシ」
◇ ◇ ◇
「――……っ!?」
それ、を知らせる音はなかった。
九郎の足を止め、駅舎を眼前にまで捉え、それでも後ろを振り向かせたのは、漠然とした予感。
決着がついた――虫の知らせにも似たざわめきが、九郎の身を蹂躙する。
「……ぐっ」
同時に込み上げてきた、引き返したい、という衝動を懸命に押さえ込む。
ハサンは必ず帰ってくる。返答は貰えなかったが、彼には帰ってこなければならない義務がある。
(必ず帰って来い……! そんでもって、ぶん殴らせろ! 絶対、絶対……ッ!?)
九郎の顔が、歪む。
必死に振り払おうとしていた衝動が、もう叶わぬ願いであるからと、雲散霧消する。
後方、九郎が辿ってきた道路の奥に、ゆらりと蠢く人影が見えてしまった。
幽鬼にも似た、不穏で薄弱とした存在感。暗殺者かと思えたそれは、すぐに見間違いだったと気づく。
自分の視力を呪ったのは初めてだった。
もう少し視力が低ければ、まだ遠い距離に立つあの人影が、戦勝し帰還したハサンであると、
そんな儚い夢を見ることもできたかもしれない。
「ちくしょう……泣くぞ。全部終わったら、本気で泣いてやるからなぁ!」
前を向き直し、もう十メートルもない駅舎までの道を走る。
後方数十メートルの位置には、追跡者が迫っている。その恐怖を肌に染み込ませて。
ハサンが自らを投げ打ってまで託した想いを、背中の理樹を、せめて明日へと繋ぐため。
九郎は全力で駆けた。駅のホームに、電車が停まっていることを祈り――
「うおおおっ! 待ってくれそこの金ぴか列車ぁあああっ!!」
純金か鍍金かは知らないが、車体全体が金色に彩られた趣味の悪い電車は、今まさに汽笛を鳴らし終えた。
駅舎に入り、改札を蹴散らし、ホームに駆け込むが、電車のドアは既に閉まっている。
中には入れない。だがまだ動き出したばかりで、速度はついていない。
天井でも側面でもどこでもいい、もう一踏ん張りすれば、飛び移ることも可能だ。
しかし、
足音が聞こえる。
ひたひた、という不気味な音、ではなく、
どたどた、という騒がしい音、でもなく、
だだだだ、という凄絶極まりない、追跡者の足音が、すぐ後ろに。
反射的に振り向きたくなるほどの音だったが、今はそれすらもタイムロスに繋がる。
最悪、後ろから斬られるかもしれないという懸念を抱きながらも、九郎は無心で電車を追った。
太陽光は眩しく、本格的に昼が到来したのだと思えた。
光に照らされる金の光沢、見据えるのも眩い電車の全景を見て、九郎は二つほど違和感を覚える。
一つ、閉まり切っていたと思われた電車のドアが、後部車両の一部分だけ開いて――いや、消失している。
誰かが無理矢理破壊して、どこぞへ持っていってしまったような――そこで、もう一つの違和感の正体を見た。
進みゆく電車の天井部に、人影がある。
その人影は、電車のドアの大きさとほぼ合致する巨大な板を掲げ、九郎を見下ろしていた。
「――よく頑張った。あとは任せろ」
自身がアーカムシティを守る守護者でありながら、
九郎には、その痩身がヒーローのように思えた。
◇ ◇ ◇
山辺美希の観察眼は告げる。
対馬レオ、杉浦碧、大十字九郎――いずれも美希が欲す拠り所には成りえなかった。
しかしこの加藤虎太郎は――違う。前三人とは比べものにならないほどの、安心感を覚える。
自身が教師である、そして佐倉霧を保護しようとしていたという弁も、信用に値するだろう。
霧が美希の情報を漏らさなかったのは、親友の行動を束縛すまいとする彼女なりの気配りか。
親友思いの霧らしい判断だ。おそらく彼女は、虎太郎のことを信用し切れなかったのだろう。
虎太郎の推測によれば、霧は電車を利用しこの中心街付近まで足を伸ばしたというが、それも定かではない。
不運にも擦れ違ったのだとして、他人の保護を拒む霧に生存の道はあるだろうか。考えるまでもない。
なにしろ、この付近には直枝理樹とその仲間であるアサシンとやらを襲った怪人がうろついているのだ。
霧の安否などよりもまず、美希が懸念しなければならないのは、その危険極まりない存在についてである。
正体が気になるところではあったが、それは知ってもどうしようもない情報。
理樹とアサシンは謎の怪人と対峙し、さらに九郎が救援に向かった。現在の怪人を取り巻く状況である。
一人離れたところに身を置く美希は、このまま戦線を離脱するのが一番の良策だろう。
再び一人きりとなるのはいろいろと不安がつきまとうが、まずは震源地を離れることが先決である。
加藤虎太郎の存在がなければ、美希はあの電車に乗り、逸早く中心街から脱出していた――しかし。
そこで問題が発生した。それは虎太郎の出現であり、虎太郎が霧の中途半端な情報から美希に懐疑心を持っており、
さらにそんな状況にありながら、虎太郎が美希を発見したタイミングが掴めないという点だった。
声をかけられたのは、電車が到着してすぐ。一見、九郎との完全な擦れ違いのようにも思える。
だが、それはあくまでも、電車が停まり、ドアが開き、中から乗客が降りてきた頃合を見ての判断だ。
九郎がホームで美希に熱弁を振るっていた頃、電車自体は既に駅に到着していた。
もし、完全停車する前の電車内でドアが開くのを待っていた虎太郎が、ホームに立つ美希と九郎を見ていたとしたら。
会話の内容まで知らずとも、九郎という美希と繋がりを持つ存在を視認してしまっていたら。
知らん振りでは通せない。九郎を無視し、虎太郎と共に駅を離れるという選択は取れなくなってしまうのだ。
虎太郎が九郎を視認していたと仮定して、虎太郎の信頼を勝ち取るならば、九郎のことは黙っているわけにはいかない。
拠り所を得るには、まず信用が第一だ。小規模であろうと、不確定要素を持ち合わせてはいけない。
ならばどうするか。虎太郎を徹底的に無視し、自分一人で電車に駆け込み退避するという手段もあったが、即却下。
相手に不審に思われている中、さらに疑われるような行動を取ったとしては、後々まで影響を及ぼしかねない。
仮に虎太郎が大集団を築き上げ、その際多くの参加者に美希の疑わしいポイントが伝われば、即アウトだ。
故に、道は二つに絞られる。虎太郎から懐疑心を拭い去り、美希を完璧に信用させるか。
――もしくは、この付近をうろついている怪人に虎太郎を始末させるか。
もちろん前者が好ましい。なので美希は、九郎と怪人に関する情報を包み隠さず虎太郎に伝えた。
直枝理樹という少年が、何者かに襲われている。仲間の大十字九郎が、それを助けに行った――と。
この親告は、美希にとってハイリスクハイリターンの大博打でもあった。
これで虎太郎が九郎のような熱血思考に走らなければ、第一段階はクリアとなる。
それだけに、当初虎太郎が「なら加勢に行こう」と言い出したときには、想定内とはいえ焦った。
怪人と虎太郎の実力差がわからぬ以上、そんな無謀な策には走れない。
虎太郎一人差し向けて自分は電車で退避するという手も考えたが、それでは結局また一人になってしまう。
考え抜いた末、美希が虎太郎に推奨した役目は――『逃がし屋』だった。
――『九郎さんは直枝さんを連れて必ず帰って来ます。だからここは、九郎さんを信じて待ちましょう』
――『もちろんただ待つだけじゃ駄目です。九郎さんが戻って来て、すぐ逃げられるよう、サポートするんです』
設けたリミットは30分。次々発の電車がこの地を離れるまで。
そのときになってもまだ九郎が戻ってこないようであれば、虎太郎が救援に向かい、美希は避難する。
逃走に重点を置き、より多くの仲間が生き延びられる結果を目指しての作戦だ。共感も得やすい。
九郎のような熱血漢なら痺れを切らし助けに向かっただろうが、大人の虎太郎は美希の案を理解し、のんでくれた。
そして、美希は電車内で、虎太郎は電車の上で待機する。リミットを間近に控えても、九郎はまだやって来ない。
最悪、既に九郎たちが倒れていたとしても美希だけはこの場を逃げ果せることができるが……と考えたところで、状況が動いた。
電車が発車体勢に入った頃、九郎が追撃者を引き連れて駅のホームに舞い戻ってきた。
怪人つき――というのは、ある意味最低の状態で、またある意味では最上の状態でもある。
背中に担いでいるのは、仲間の救援に向かった直枝理樹だろう。彼が救おうとした仲間の姿は、そこにはない。
まあいい。ここまでくれば、勝率は十分だ。
あとは虎太郎の手腕に期待し、万が一のときは電車の後部車両を引き離す準備でもして――
(えっ――!? あの人って……!)
電車の窓に顔を擦りつける美希が、思わず目を疑った。
九郎を追い立てる、焼け爛れたセーラー服の女……あれは、杉浦碧と行動を共にしていた鉄乙女ではないだろうか。
外見から受ける印象はかなり変化していたが、容姿で判別するに同一人物だと断定できる。
いったいなぜ――というところまで考えて、美希は思考を途絶する。
それはいま考えるべきことではない。無駄な憶測や感傷は、判断力を鈍らせてしまう。
「――よく頑張った。あとは任せろ」
電車の天井部に立つ虎太郎が、体力を振り絞って走り抜けてきた九郎に、エールを送る。
その腕に掲げられているのは、電車の後部車両に備え付けられていた鉄扉である。
虎太郎が豪腕を振るい、ドアを切り離した理由は二つ。
一つは、既に電車が走り出したとしても、九郎がドアを失った車両に駆け込めるようにとの配慮。
そしてもう一つの理由とは――目暗まし、である。
虎太郎が、電車の天井から跳ぶと同時、乙女に向けて鉄扉を投げつける。
人の体ほどある巨大な板は、乙女の視界を塞ぐ。衝突すれば、女子の軽い体など吹き飛んでしまうだろう。
その面積ゆえに回避も困難だったが、乙女は避けるでも防御でもなく、自然な動作で腰元の鞘から刀を引き抜いた。
足を止め、一呼吸。
横一閃、縦一閃、斜一閃、鉄扉をバラバラに分断する。
その間、九郎は電車のすぐ側まで到達し、ドアを失った入り口へと、吸い込まれるように侵入していった。
そして虎太郎はというと、
「八咫雷天流――」
乙女が足を止め、標的を見失った、その一瞬の隙を縫い、
彼女の横っ腹へと回りこみ、
「――散華(はららばな)=v
無防備な的に、拳の弾幕を叩き込む――!
二発三発といったレベルではない。幾重にも幾重にも、驟雨のように畳み込む。
インパクトは一瞬。衝撃で相手が吹き飛ぶそのときまで、可能な限り拳を打ちつける。
元々の体重の軽さ、そして間隙を突かれたことによる防御の遅れ、双方が重なり、乙女の身が飛ぶ。
抗うこと適わず、ホーム端のゴミ箱へ一直線。盛大に音を立てて沈むと、虎太郎は即刻身を退いた。
追い討ちはかけない。加速の段階に乗ろうとする電車を猛追し、九郎同様ドアなしの侵入口へと跳び移る。
電車は去り、駅のホームには、廃棄された乙女一人が残された。
◇ ◇ ◇
お腹が空いた。やはり、この飢えは堪えられるものではない。
活きのいい食材を追いかける最中も、肉を絶つため包丁を振るう最中も、空腹は増していく。
ああ、駄目だ。抑制し切れない。食べたい。食べたい。食べていい、レオ――?
「――――」
レオの声は、いつの間にか聞こえなくなっていた。
私の手際があまりにも悪いから、待ちきれなくなってしまったのか。
部屋で漫画でも読んでいるのだろうか。まったく、堪え性のない。
と、それは私も同じか。うん、そうだな。
ほんのちょっと……ちょっとくらいなら、つまみ食いも許されるだろうか。
さっきの大きなお肉は、高カロリーでたんぱく質が取れそうだ。
ガリガリのほうは肉こそ少ないが、骨を作るカルシウムが多分に摂取できるだろう。
どちらも美味しそうだ。まだ下ごしらえの段階だが、ほんのちょっと齧っても怒られたりしないだろうか。
あ、でもあの遠くへ逃げて行ってしまった食材はどうしよう。あちらも捨てがたいが……。
それはそうと、なんだか体の節々が痛むな。筋肉痛だろうか?
まぁ、活きのいい食材を相手にして多少疲れたが……食べれば回復するさ、この程度。
うーむ、やはりちょっとつまみ食いを……いやいや、レオが待っているんだ。私の手調理を。
あ〜、でもちょっとくらいなら……しかし……いや……ううむ。
まだ日は高い。ランチタイムにはまだ間に合う。
さて、この飢えを満たすには――
【B-7 駅/1日目/午前】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:斬妖刀文壱@あやかしびと −幻妖異聞録−
【所持品】:真っ赤なレオのデイパック(確認済み支給品0〜1)、ドラゴン花火×1@リトルバスターズ!、霧の手足
【状態】:狂気、鬼、肉体疲労(中)、腹部に打撲、全身に軽度の火傷、空腹
【思考・行動】
1-A:電車で逃げて行った食材を追い、料理してからランチ。
1-B:既に調理済みのお肉をつまみ食いしに戻る。
2:自分が強者である事を証明する。
3:レオの声が、また聞きたい……。
【備考】
※アカイイトにおける鬼となりました。
身体能力アップ、五感の強化の他に勘が鋭くなっています。
◇ ◇ ◇
ガタンゴトン、ガタンゴトン、と電車が揺れる。
一枚のドアが消え、外からの風がダイレクトに吹き抜ける、冷房いらずの車内。
難を逃れた四人は、しばしの平和を共有し合っていた。
「うおおお〜ん、ありがとう、ありがとうおっちゃ〜ん」
「泣きつくな、いい大人が。女の子が見ている前でみっともない」
「私なら構いませんよ。九郎さんがそういう人だというのは、既に認知済みなので」
「なんですと!?」
僅か15分の乗車時間――約束された平穏。
その中で、騒がしく談笑し合うことなど……今の弱りきった心では到底不可能だった。
頭のスイッチを切り替えることが、こんなにも困難だとは思わなかった。
全部忘れて眠ることができたら、どんなに幸せだったろうか。
ナルコレプシーを患っていた頃の自分を羨ましく思いながら、
理樹は、泣いた。
「さて、問題はあの怪物じみた女子高生だが……困ったことに、俺は過去あいつに襲われた経験がある」
「え、本当ですかそれ?」
「ああ。まず同一人物で間違いない。そして奴があそこにいたとなると、吾妻や佐倉はおそらく……」
「……ん? おい、理樹。おまえ……起きてるのか?」
すすり泣く声に気づいた九郎が、理樹に声をかけてくる。
理樹のみは電車の座席に寝かされており、顔はシートに埋めて表情を見せないようにしていた。
泣き顔なんて、見られたくはなかった。今は誰の心遣いもいらない。ただただ悲しみに溺れたい。
「あれ? 直枝さんの腰に挟まってるそれ、なんですか?」
「刀……か? おいおい危ないな、外しておけよ」
「って、ちょっと待て。これ……」
九郎が、なにやら理樹の腰の辺りをごそごそと探っている。
どうやら、ベルトの間に刀が挟まっていたらしい。理樹には覚えがないが、深くは考えない。
「バルザイの偃月刀じゃないか……これ。いつの間に回収してたんだ……?」
「そっちの、なんか不気味な顔みたいなのは……マスク?」
「仮面、か? 随分と悪趣味なデザインだが……」
「っ!? おいおい、いつの間に忍ばせてたんだよあの人……!?」
背後がなにやら慌しい。マスクや仮面がどうのこうのと……意識せず、ハサンの顔を連想してしまう。
髑髏の面に覆われた素顔は、結局目にすることができなかった。
どうして素顔を隠していたのだろう。そんなこと、理樹にはわからない。
些細な疑問だ。仮面を被っていようがなかろうが、ハサンは素の態度で、理樹に接してくれていたのだから。
(えっ……仮面?)
ふと、胸がざわめきだす。
後ろの騒ぎが急激に気になり始め、理樹は涙を押し止め起き上がった。
「九郎さん、それ……」
振り向いた先、九郎の手には理樹のベルトに挟まっていたらしい二つの品が握られていた。
一つは、ハサンが足止めのために投擲したバルザイの偃月刀。
投擲武器でありながらブーメランのような特性を併せ持つそれを、ハサンは律儀に回収し、人知れず理樹に返していた。
そして、もう一つは――
「あっ……」
――白い、骨みたいに白い、悪趣味にもほどがある、髑髏のような仮面。
こんなもの、好んでつけていた人など一人しかいない。
「うっ……あ……」
ハサンがつけていた、髑髏面だった。
別れ際、乙女に挑む際に――ハサンは仮面を取り外し、理樹の腰元に忍ばせておいたのだ。
(こんなの……こんなの、単なる遺品にしかならないじゃ、ないか)
お守りのつもりなのだろうか。
体は潰えずとも、魂は永久に見守っていると――そんな風に、格好つけて。
(ずる、い、よ……こんな、ぼく、は。ハサン、さんが……ぐっ)
――繋いだのだ。ハサン・サッバーハは、主と認めた少年に全て。
武器も、己の象徴も、僅かな物資や交渉の手段たる星すらも、気づかれぬよう理樹のデイパックに忍ばせて。
最後には、その身を捧げた。
――『あ、あの、大丈夫で――』
――『どういうつもりだ、小僧。素人でもわかる死地に、何を考え踏み込んだ』
初対面時は、あんなにもぶっきら棒な態度を取っていたというのに。
――『……僕、誰からも男扱いされなかった気がするんだけど……』
――『…………なに、些細なことだ。気にするな』
容姿の女の子っぽさを気にしたとき、慰めてもくれた。
――『……リキ殿、問おう――――貴方が私のマスターか?』
――『……僕たちは、悪を成敗する正義の味方――――、リトルバスターズだ』
短い間に、絆はどんどん深まっていった。そう簡単に瓦解することなど、なかったはずだった。
――『リキ殿……信頼しているのだろう……なら任すがいい』
――『……っ!?』
このゲームの法則は、そんな絆すらも容易く破壊する。理樹は知り、それでも抗った。
――『皆で協力してあの怪人を倒す! 絶対仲間は殺させない!』
――『マス……いや、リーダー。御意』
二人の絆があれば、結束の力を引き出せたならば、どんな悪にだって屈しない。無敵だ。
なのに。…………なのに。
――『すまぬ。そして――さらばだ、リキ殿』
(ハサンさん……あなたは、どうしてっ!)
心を丸焼きにする、悔しさ。
全身の肌に突き刺さる、悲しみの怨嗟。
知らなかった。
仲間の喪失が、こんなにも痛いものだなんて。
九郎が、美希が、虎太郎が見ている。
構ってなんかいられない。
自制心が利かず、理樹は叩きのめされた。
ハサンが残した髑髏面を抱きつつ、
ハサンが己に抱いた淡い願いを想いつつ、
理樹は、成長を強いられる。
でも、今この瞬間だけは。
「うっ……あぁ、あっ、あぁ……あぁあぁあぁぁぁああぁああぁあああぁああぁぁ!!」
【E-7 電車内/1日目/午前】
【直枝理樹@リトルバスターズ!】
【装備】:カンフュール@あやかしびと −幻妖異聞録−、生乾きの理樹の制服、トランシーバー
【所持品】:支給品一式×2、ハサンの髑髏面
聖ミアトル女学院制服@Strawberry Panic!、女物の下着数枚、
バルザイの偃月刀@機神咆哮デモンベイン、木彫りのヒトデ21/64@CLANNAD、トランシーバー
【状態】:疲労(中)、鼻に切り傷、深い悲しみ
【思考・行動】
基本:ミッションに基づき対主催間情報ネットワークを構築、仲間と脱出する。殺し合いを止める。
0:うっ……あぁ、あっ、あぁ……あぁあぁあぁぁぁああぁああぁあああぁああぁぁ!!
1:リトルバスターズの仲間を探す。
2:葛木宗一郎、高槻やよい、プッチャンと協力する。
3:真アサシンと敵対関係にある人には特に注意して接する。
4:首輪を取得したいが、死体損壊が自分にできるか不安。
【備考】
※参戦時期は、現実世界帰還直前です。
※黒須太一を危険視。静留と知り合いについて情報交換しました。
※トランシーバーは半径2キロ以内であれば相互間で無線通信が出来ます。
※棗恭介がステルスマーダーである可能性を懸念しています。
※名簿の名前を全て記憶しました。
※博物館に展示されていた情報をしました獲得しました。
※高槻やよい、プッチャンの知り合いの情報を得ました。
【理樹のミッション】
1:電車を利用して、できる限り広範囲の施設を探索。
2:他の参加者と接触。
3:参加者が対主催メンバー(以下A)であり、平穏な接触が出来たらならAと情報交換に。
4:情報交換後、Aに星(風子のヒトデ)を自分が信頼した証として渡す。
5:12時間ごと(3時、15時)にAを召集し、情報やアイテムの交換会を開催する。第一回は15時に遊園地を予定。
6:接触した相手が危険人物(以下B)であり、襲い掛かってきた場合は危険人物や首輪の情報を開示。興味を引いて交渉に持ち込む。
7:交渉でBに『自分が今後の情報源となる』ことを確約し、こちらを襲わないように協定を結ぶ。
8:Bの中でも今後次第でAに変わりそうな人間にはある程度他の情報も開示。さらに『星を持っている相手はできるかぎり襲わない』協定を結ぶ。
9:上記の2〜8のマニュアルを星を渡す時にAに伝え、実行してもらう。
なお、星を渡す際は複数個渡すことで、自分たちが未接触の対主催メンバーにもねずみ算式に【ミッション】を広めてもらう。
10:これらによって星を身分証明とする、Aに区分される人間の対主催間情報ネットワークを構築する。
【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:手ぬぐい(腰巻き状態)、ガイドブック(140ページのB4サイズ)、キャスターのローブ@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:木彫りのヒトデ12/64@CLANNAD、アリエッタの手紙@シンフォニック=レイン
【状態】:疲労(大)、背中にかなりのダメージ、股間に重大なダメージ、右手の手のひらに火傷
【思考・行動】
0:理樹……。
1:電車に乗って南下し、アルと桂、奏を捜索する。
2:蘭堂りのと佐倉霧も捜索。
3:サクヤの作戦に乗り、可能な限り交流を広げる。
4:人としての威厳を取り戻すため、まともな服の確保。
5:アル=アジフと合流する。
6:ドクターウエストに会ったら、問答無用で殴る。ぶん殴る。
【備考】
※神宮司奏・浅間サクヤ・山辺美希と情報を交換しました。
※第二回放送の頃に、【F-7駅】に戻ってくる予定。
※着物の少女(ユメイ)と仮面の男(平蔵)をあまり警戒していません。
※理樹の作戦を全部聞きました。彼の作戦を継ぐ気です。
【山辺美希@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
【装備】:投げナイフ1本
【所持品】:支給品一式×2、投げナイフ4本、ノートパソコン、MTB
【状態】:健康
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
0:…………
1:虎太郎から信用を勝ち取り、拠り所にする。
2:太一、曜子を危険視。
3:刀を持った人間が危険だと言う偽情報を、出会った人間に教える。
【備考】
※ループ世界から固有状態で参戦。
※つよきす勢のごく簡単な人物説明を受けました。
※理樹の作戦に乗る気はないが、合流してしまった以上再検討。
【加藤虎太郎@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、凛の宝石10個@Fate/stay night[Realta Nua]、包丁@School Days L×H、タバコ
【状態】:健康、肉体疲労(小)
【思考・行動】
基本方針:一人でも多くの生徒たちを保護する。
0:…………
1:理樹が落ち着いたら、詳しい事情を聞く。
2:美希は本当に霧の親友なのか、だとしたら霧はなぜ黙っていたのか、考える。
3:子供たちを保護、そして殺し合いに乗った人間を打倒する。
【備考】
※制限の人妖能力についての制限にはまだ気づいていません。
※仮面の男(橘平蔵)を危険人物と判断。
※文壱を持った生徒(鉄乙女)を危険人物と判断。
※黒須太一と支倉曜子の危険性を佐倉霧から聞きました(ただし名前と外見の特徴のみ)。
※吾妻玲ニとキャル(ドライ)の情報を得ました。
※佐倉霧と吾妻エレンは、文壱を持った生徒(鉄乙女)に殺害されたと推測しています。
※電車は9時40分発の9時55分着、F-2駅行きです。
※謙吾のバット@リトルバスターズ!は、折れた状態でB-7路上に放置。
※干将・莫耶@Fate/stay night[Realta Nua]は、B-7駅周辺路上放置。
◇ ◇ ◇
小鳥の囀りが聞こえる。
燦々としたお日様の陽気が、影浸りの我が身を照らす。
魔術師殿は、ご老体だからか今日も朝が早い。
最近は体調不良が続いているというのに、
無理を押してメイド喫茶に足を運び、
…………ああ、いや。
あのような日常は……もう遠き過去の話なのだな。
天高く上り詰めようという日の向き加減は、昼。
そうだな、この地に私が仕えた魔術師殿はいない。
私がこの地でマスターと定めたリキ殿は……生き延びてくれただろうか。
私にはもう、想うことしかできない。
いや、じきに想うことすら、叶わなくなるのだろう。
それはとても悲しく、とても寂しい。
けれどもリキ殿は、きっと大丈夫。
彼はまだまだ弱いが、芯はしっかりしている。
磨き上げれば、それはそれは立派な柱となろう。
このハサン・サッバーハが保障するのだ。
今は悲しみに打ちのめされようとも、
自信を持たれよ、そしていつの日か、
己の足で立ち上がるのだ……リキ殿。
見守ろう。
私が残した髑髏の面から。
リキ殿の成長と、躍進を。
しかと歩めよ、リキ殿。
がんばれ――――。
「私が認めた――生涯最高のマスター殿」
【真アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/stay night[Realta Nua] 死亡】
投下……終了です。
支援、ありがとうございました……
投下GJ!
は、ハサン先生ぃぃいいいいいいいいいいッ!!!
うう、なんて漢だったんだろうか……彼は、最後は、幸せではあったのだろうか。
くそう、乙女め!
そして残りの先生たちも色々と規格外すぎるw
館長とかもうねwww ていうか、あーーーっ、言いたいこと多すぎて感想まとまらないぃぃいいっ!!
大作、堪能させていただきました。
影として生きた男が、従者の本懐を遂げた。
その散り様がどこまでも美しく響いて、他に言いたかった言葉など飛んでいってしまいました。
心の底からの拍手を贈らせてください。
投下乙です!
ハサン先生ーーーーーー
漢だ! あんた漢の中の漢だーーーーー
GJとしか言いようがない
熱く激しいバトル、感動の別れをありがとう!!!
投下乙です
ハサン先生えええええええええええ! ああ、逝ってしまわれるとは…
しかし、なんと熱い死に様、開始前はハサンに感動させられるとは思いもしなかったw
ハサンだけじゃなくてみんな熱い、そして美希もすごく美希らしい
小ネタも面白いし、全体としても読んでてすごく楽しい話でもありましたw
とにかくGJでした!
先生……・゚・(つД`)・゚・
色々あるが今はこれしか浮かばない……
超大作の投下乙です!!!!!
うっわあああハサン先生がああああ!!!!
こんな熱い漢が逝ってしまわれるとは!!
最高に熱くて泣ける作品GJでした!!
今さらだけどハサン先生fate本編より活躍してる気がする…
投下乙!
ハサン先生、貴方は英霊候補などではない。
真の英霊とは貴方のことだ。
シリアスに笑いを混ぜれる氏に脱帽!
だがこの作品は何といってもハサン、ハサン、ハサン!!うおおおおおおおお!!
投下乙でした
先生ぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぃ!
投下乙です……ハサン先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
あんた最高にかっこよかったよ、まさしく英雄ですよ
理樹も先生の死を乗り越え頑張ってくれ!
すいません、分割点の指定をしておきます。
「想い出にかわる君〜Memories Off〜(前編)」
>>350〜
>>426 「想い出にかわる君〜Memories Off〜(中編)」
>>430〜
>>495 「想い出にかわる君〜Memories Off〜(後編)」
>>498〜
>>572 そして館長の状態表に追記をば。
※平蔵がどこに飛んで行ったかは、後続の方におまかせします。
やばい、涙腺に来た・・・
最初は館長カッコヨスだったんだけど
それ以上にハサン先生が・・・
ここで消えるとは思ってなかったけど
ロワ的にこれ以上の死にっぷりはないと思います!
めちゃくちゃGjでした!
589 :
名無しくん、、、好きです。。。:2008/05/16(金) 08:52:27 ID:KoLwUhzb
投下乙
aW氏
フカヒレのしょうもないヘタレさに泣いたw
このみは言葉様に続く危険対主催として期待大
lc氏
このグループはまったりしてて良いな
こいつら、言葉様の次にロワ満喫してると思うぞw
Hl氏
マーボー、そんなに参加者に食わせたいのかw
嗚呼、誠の影響がドライさんにもジワジワと…
aa氏
なかなかの繋ぎ話。曜子ちゃんのどうあっても、
理性で行動してしまう彼女らしさが出てますね
Lx氏
館長強っ、ドキドキハラハラ感を楽しませてもらいました。で、美希黒っ!
そして…ここ最近の死亡話はどれもこれも心揺さぶられて困る
あと、Uc氏
言葉様死亡の修整の方もご苦労様です
二人の性格の対比がしっかりでて、良い感じになりましたよ
ハサン先生・・・まさかハサン先生がこんなかっこいい逝きかたをするとは。Gj!
しかしメイド喫茶って・・・まさかトラぶるのハサン先生だったのか!?w
今だから言うぜ。
最初ハサンは「こいつ卑怯だ」「女子供に不意討ちって腐れ外道かよ」
みたいなポジションと思い込んでた。
こんなカッコいいキャラで最後漢を見せて死ぬなんて予想外すぎる。
ハサンかっこよすぎだ。GJ
「ごっはんーっ、ごっはんーっ」
高槻やよいは貧乏な家の生まれである。
父親の仕事が安定しない、つまりは収入が安定しないのが直接の原因だ。
しかもやよいの家は五人姉妹。ハングリー精神旺盛な子供たちに育つだろうこと請け合いな人口密度である。
貧乏であるため、携帯電話も持てない。それではアイドルとして困るので、事務所から借りなければならないほどに貧乏だ。
だからこそ、長女である彼女は面倒見がいい。
心の奥底では頼れる人を見つけたいと思っていても、彼女自身は必要に迫られて掃除や料理などの家事を習得した。
家庭的で簡単に作れるもの。朝食には光るほどのご飯に、お味噌汁。
「おお……こりゃあ、家庭の味だぜ……」
「………………うまい」
葛木が居候している先は寺である。
精進料理などの和食が大抵だ。もちろん、寺の食事は無感動に考えながらも満足な出来である。
だが、やよいの味も悪くないものだ。
家庭的であり、素朴。細かいところに気を配れている。普通に美味かった。
ちなみにプッチャンは人形なのに、やよいの用意した食事を平らげていく。
葛木は無反応だったが、さすがにやよい自身は首を傾げざるを得ない。
自分の手から食べ物が消えていく様を想像していただけると、どれほど不気味なのかは分かると思う。
「…………どういう原理ですか!?」
「聞いたら駄目だ!」
「う……うっうーッ!」
撃墜。
これは永遠に明かされることのない謎なんですね。
私は決して触れてはならないカステラの箱を開けてしまったんですねーっ、と半泣きになりながら呟くやよい。
「……ちなみに、カステラではなく、パンドラの箱だ」
学力は今ひとつの高槻やよいだった。
箱を開けるまでもなく、絶望を確認したやよい。いつもの口癖を高らかに歌い上げる。
それもようやく落ち着いてきた頃、やっと休憩として一息をつくのだった。
「さて……相棒。これから教会だよな?」
「ああ。あの男がいる可能性がある場所が、それ以外に思いつかん」
どうせ行く当てもない身だ。
理樹たちから星を預かっているものの、よほどのことがない限り打ち明けることは出来ない。
見極めもできないまま、星を渡すことの意味。
恐らくは理樹の作戦を根本から叩き壊してしまいかねない以上、葛木自身が相当の制約を己に課している。
問題は見極めが出来るか、否か。
現れる人物についての対応を考えるべきかも知れない。
積極的に主催者に挑戦する者。
消極的に主催者に挑戦する者。
積極的に参加者を殺害する者。
消極的に参加者を殺害する者。
この場合、消極的な殺人とは生きるためには人を殺すような人物を指す。
積極的に人殺しを敢行する者はそもそも会話には成り得ないだろう。
さて、葛木自身に見極めが出来るかどうかは、自分にも自信がない。
当然、やよいやプッチャンたちに至っては論外だ。こちらを騙して利用しようとするだろう相手を確実に信じてしまう。
「………………」
ふと、ふたつの気配に気づいた。
ここは古ぼけた民家で、やよいの作った朝食の匂いが程よく漏れている。
「……」
騒ぎ立てるやよいとプッチャンもまた、ひとつの障害となっているのだろう。
この民家は人を誘い込んでしまう条件がぴったりと備わってしまっていた。
人の五感のうちのふたつ、嗅覚と聴覚が人の存在を感知したのなら、視覚で確認したくなるのは心理的に正しい。
問題は誘い込まれた人物が、先に挙げたタイプのどれに当たるか。
すぐに戦闘体勢に入れるようにしながら、訪れる人物を待ち受ける。
突然腰を浮かし始めた葛木の姿に疑問を抱いて、やよいとプッチャンが共に首を傾げだしたとき。
「すまない! そこに誰かいるのか!」
「こっちは殺し合いに乗ってないよ! そっちはどうですか!」
耳に届いたのは少年少女の身の潔白の証明。
気配に気づいていなかったやよいが、びくりと身体を震わせ……しかし、彼らの釈明に安堵した。
殺し合いに乗っていないと言うのなら、問題ない。
新たな仲間の予感に胸を膨らませ、とてとてと歩いて民家のドアを開いて彼らを招こうとした。
そんな彼女の肩を葛木は掴む。
無表情だ。決して彼らを口頭だけでは信じていない、と言っているかのようだった。
「私が行く。そこで待っていたまえ」
「え? あ、はい」
葛木は無感情で無感動な男だ。
だからやよいの行動に関しても、特に非難しなかった。責めるつもりだってなかった。
ただ第三者から見れば、彼女の行動は無防備であると言えるだろう。
天真爛漫、明朗快活な彼女の性格は得がたい。ツヴァイに襲われ、命の危険に晒されてもいるのに、まだ光を失わない。
それは彼女の長所だが、同時に短所でもある。
それほどの無防備さの隙をつく者は、必ずこの島で蠢いているのだから。
「…………」
がちゃり、と薄くドアを開ける。
相手が銃を構えていたなら、ドアを蹴り破って牽制する用意すら掲げて。
だが、目の前に立っていたのは無手の少年少女だった。
見た目は二人の少年のようではあったが、声色のひとつが少女であった以上、もう一人は女性なのだろう。
「葛木宗一郎、教師だ」
「伊藤誠……生徒、かな」
「菊地真です。えっと、職業はアイドルで……」
無難な自己紹介。
葛木はじっくりと彼らの動向、視線、焦燥、注意を把握する。
結論、無害が出てくるまでそれほどの時間は掛からなかった。
「うっうーーーーーっ!! 真さーーーーーんっ!!」
「え? うわ、ちょっ……!?」
何故なら、ようやく逢えた自分の知り合いの姿に感動したやよいが、思いっきり真に抱きついたからである。
◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず、騒ぎ立てるやよいを落ち着かせて四人+αが民家に集結した。
葛木宗一郎、伊藤誠、高槻やよい、菊地真、そしてプッチャン。
それぞれがこれまでのことを意見交換する。
「つまり、ドイツ語で数字の彼らは全員警戒人物か」
「やよいを襲ったのもツヴァイって名乗ってたし、どうやらこいつらは殺し合いに乗ってると思っていいみてえだな」
「うん? ちょっと思ったんだけど、放送で言ってた『息のかかった者』ってこいつらじゃないのか?」
「……有り得ない話ではない。だが、この場合において彼らが期待したのは疑心暗鬼だ」
「なるほどなぁ……積極的に殺し合うような奴じゃなくて、誤解やらなんやらを撒き散らす役割かも知れねえ」
男性陣である葛木、誠、プッチャンの三人は情報交換と考察。
女性陣はようやく出逢えた知人たちだ。再会を喜ばせてあげることにした。
「うっうー、真さん、逢いたかったですー……」
「……うん。僕も。やよいちゃんに逢えて、良かった。無事でよかった」
「色々、色々なことあったんです。真さんも、色々あったんですよね?」
「…………うん、色々と」
横目で誠のほうを睨んでみる。
ごほん、ごほんとワザとらしい咳で返された。まあ、いいかと真は思う。
どちらも一度は命の危機に瀕していたらしい。
やよいはツヴァイに、真はドライによって襲撃され……そして、どちらも無事に生還して再会することが出来た。
それは、とても嬉しいことだと思う。
アイドルの真にとってやよいはライバルではあるが、それでも仲間であるのだから。
「これで、千早さんとも合流できればアイドルグループも全員集合ですねーっ!」
「…………えっ?」
ふと、何かおかしな違和感が真の中に走った。
何だろう、と首をかしげる。この、飲んだお茶の中が濁っていて、それでも構わず飲み干してしまったときのような。
アイドルグループ、と彼女は言った。
事務所の仲間同士ではある、が……グループ。つまりは組んだ者同士が使うような言葉をやよいは言ったのだ。
「ちょっと待って、やよいちゃん……アイドルグループって誰のこと?」
「え……? はい、私と、真さんと、千早さんですよね?」
「いや、僕は別の人と組んでるんだけど……あれ?」
「えっ……? ええっ……?」
雲行きが怪しくなってきた。
情報交換中の葛木たちが不審に思ってこちらを見ている中、やよいと真は慌てながら元の世界について語り合う。
語られる内容が食い違う。
やよいは真たちとグループを組んでいるというのに、当の真は雪歩とデュエットを組んでいる。
嘘か、偽りか、それとも地獄に投げ出されたことで記憶障害に陥ったか。
様々な可能性が議論される。
今度は誠たちも加わり、一時間に渡る討論と議論が混ざり合った結果、ひとつの仮説がプッチャンの口によって告げられた。
「平行世界?」
「……そんなSFみたいな話があるのか?」
「…………それ以前に、この人形ってどんな原理なんだろう……」
「うっうー! 聞いたらだめだ、らしいです」
「………………」
平行世界。
人間という種は常に未来を選択し、人生という物語を綴っていく。
その上で多くの選択肢が数多くヒトという存在に降り注ぐだろう。
どんな仕事に就くか、誰と添い遂げるか、明日の晩御飯は洋食か和食か、重大なことから日常の1コマまで。
その上で選ばれなかった選択肢はどうなるのだろう?
洋食を食べた自分は、和食を食べる自分とは別次元の存在として確立していく。
ならば、そこで世界は分かたれる。
『洋食を食べた自分の世界』と『和食を食べた自分の世界』……可能性の数だけ、世界は増えていく。
ヒトの可能性は無限大だ。
一人の可能性ですらそうなのだから、星の数の人たちが無限大を展開すれば凄いことになる。
そして、その全ての可能性が『平行世界』として現れるのだ。
「要するにこのやよいちゃんは『僕と千早さんの二人とグループを組んだやよいちゃん』ってこと?」
「つまり、この真さんは『雪歩さんとデュエットを組んだ真さん』ってことですか!?」
「むっ……いやあ、仮説っていうより空想の域に過ぎねえけどよ……」
「いや、有り得るかも知れない……」
賛同したのは伊藤誠だった。
彼は議論の途中から顔を青ざめたかと思うと、そのまま葛木と一緒に黙り込んでしまっていた。
どうしたのか、と心配していた矢先の出来事に全員の視線が誠に寄る。
そうして、誠の事情をただ一人だけ知っている真が、あっ、と彼の心当たりに反応した。
「誠さん、もしかして……世界さんと言葉さんは」
「ああ、俺も考えてた。死んだはずだって考えてた。それで、今回の仮説聞いて……少し、嫌な予感がした」
誠の世界では西園寺世界と桂言葉、二人は電車に撥ねられて死んだはずだった。
そんな彼女たちが生きている理由を、主催者たちが言っていた『死者蘇生』の可能性に求めていた。
だが、もしもこの仮説が正しいなら。
誠の元いた場所ではなく、平行世界から『西園寺世界と桂言葉が呼ばれていた』としたら。
「俺のことを知らない、言葉や世界がいるのかも、知れない……」
「……誠さん、だからってさっきの誓いを翻したりしないでよ?」
「それはもちろん、分かってるさ……」
そのまま、誠は俯いて押し黙ってしまう。
護る、と。愛すると決めた人物像が突然、誠の把握できない別のものになってしまった気がして。
せっかく彼女だけ、と決めたのに。
その彼女は誠のことも知らない、誠の知らない桂言葉であるかも知れないのだ。
「しっかし、もしもそうだとすると、主催者って奴の力は洒落にならねえな〜」
「ただの拉致ではないと思っていたが、平行世界からか。可能性はどちらかと言えば低いが、有り得ない話ではないな」
葛木はただ肯定する。
そういう可能性もあるのだろう、と。
彼の婚約者であるキャスターことメディア、彼女と出逢ったときは魔術も知らない時勢だった。
それでも葛木は受け入れた。空虚であるが故か、彼はどんな常識はずれな可能性とて笑い飛ばさない。
もちろん、死者蘇生の話もだ。
例えば聖杯戦争におけるサーヴァント召喚、あれは過去の英雄に肉を与えて世界に召し上げるもの。
言い方を変えれば死者蘇生そのものと言って過言ないのだから。
「死者蘇生の可能性もある。私にも心当たりがある」
「……心、当たり?」
「そうだ。事実上、私の婚約者は死んだ人間だった。彼女は後に蘇生し、紆余曲折の後に私と出逢っている」
驚きを隠せない一同、を通り越してしまう全員。
最初はそんな莫迦な、と笑おうとして……結局、誰一人として笑い飛ばせなかった。
よく喋るはずのプッチャンでさえ、笑わない。相棒、とまで呼ぶ人物の性格はこの半日に近い時間で理解している。
彼は生真面目だ。決して冗談を言わない。ただ、事実だけを突きつけてくるのだ。
死者が生き返る、という絵空事。
そんな途轍もないことが起きるという現実感の無さ。
「……もう、何が来ても驚かねえ自信がある」
「うっうー、平行世界に死者蘇生……めえるへん、じゃないのですよー?」
「…………なんか、頭がパンクしてきたよ……誠さんは大丈夫?」
「……あ、ああ。何とか……」
全員の顔色は優れない。
無理も無いだろう、葛木を除いた全員(プッチャン除く)は普通の日常を生きてきたのだ。
死者が生き返るとか、魔術とか、殺し合いとか。
そんなことには縁の無い人たちで……今また、知り合い全員が自分のことを知らない可能性に行き着いた。
それは侵食する恐怖に近い。
彼らは全員、生にしがみ付いた者同士の集まりだが……一番の心の支えは、元世界の友人であり、仲間なのだ。
その心の拠り所を、この仮説は崩壊させる。
ぐらり、ぐらり、と揺らいでいくものが全員の心に確かにあった。
(言葉……世界、刹那……)
伊藤誠は民家の窓から空を見上げた。
時刻はそろそろ昼を迎える頃だろうか。太陽が眩しいな、と呟きながら……思考は知り合いへと。
言葉は、自分の知らない言葉なんだろうか。
世界も刹那も、自分を知らないところから来たのかも知れない。自分を憎んでいる場所から来たのかも知れない。
なら、どんな行動を自分は取るべきなのだろうか。
何を指針にすればいいのか。
このみを救い、ファルや世界や刹那と合流し、そして言葉を今度こそ愛すると決めた。
だというのに。
突然、愛さなければならない人が消えたかも知れないという可能性。
弱い心と強い心が様々な選択肢を押し出し、ぐるぐると何時までも誠の周囲に淀み始めていた。
(やよいちゃんも千早さんも、私のこと知らないかも知れないんだ……)
誠ほどの衝撃は受けなくとも、不安を抱えることになったのが菊地真だ。
こうして高槻やよいと出逢えたのに。それはきっと小さくとも、奇跡にも近いことで感激するべきなのに。
どうしてか、嬉しくない。目の前にいるのは『高槻やよい』なのに『真の知っている高槻やよい』ではないのだ。
それは、とても悲しいことなんだ、と思った。
せっかく再会できたのに。きっと、大切な人に逢いたくても逢えないまま死んでしまう人が多いのに。
どうして、知人と再会できても嬉しくないのだろう、と。
愛佳は、自分以外の誰にも知られることなく死んでしまった。無念のまま、死んでしまった。
彼女に出来なかった分、自分が『女性の王子様』となると決めたのに。
心の拠り所が不安定になってしまった途端、この始末だ。
弱い、と思った。自分はこんなにも弱いということを思い知って、唇を噛み締めながら……視線は、誠をずっと見続けていた。
(うっうー……何だか、皆の様子が少し変なのですー……)
不自然な雰囲気になってしまう一同を、おろおろとしながら見つめ続けるのは高槻やよい。
彼女は真と再会できたことが素直に嬉しかった。
たとえ自分の知らない彼女であろうとも、それでも自分が抱きついたら頭を撫でてくれる菊地真が確かにいたのだから。
プッチャンも何か考え事をしていたようだが、途中で諦めたらしい。
どうやら難しいことを考えるのが面倒になったようで、不安そうに自分を眺めているやよいに気づく。
「俺の名はプッチャン、それ以上でも以下でもねえ……ぶっちゃけ、考えるの疲れたぜ」
「うっうー、私も疲れましたーっ」
何やら難しい雰囲気になってしまったからこそ。
自分はこれまでどおり、明るく天真爛漫に行こう。それがきっと、皆のためになるに違いないのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「………………」
最後に、一人の教師は静かに状況を見据えていた。
葛木宗一郎は全ての可能性を冷静に鑑みつつ、無感情に考え続けた。
彼には感情が無い。
彼には感動が無い。
彼には感慨が無い。
死者蘇生も平行世界も肯定した彼の心は揺らがない。
元々親しい相手が参加させられているわけでもない。
彼が思考するのは、木彫りの星(ヒトデ)を利用した理樹の作戦についての考えに至っている。
伊藤誠と菊地真。
両者とも危険は無い。それは絶対に真実であるといえる。
彼らは仲間の証である星を渡すには相応しい、はずだ。葛木自身とて疑いようはない。
ただ、説明しようの無い不安だけが残るだけだった。
(少し……待つか)
そろそろ、放送が始まる頃だと高く昇った太陽を窓から見上げながら思った。
ゲーム開始から半日、十二時間。
その間にどれほどの人間がこの地獄から脱落してしまったのだろう。そして、それが彼らにどんな影響を与えるだろうか。
それを見極めてからでも遅くはない、と葛木は考えた。
ゆらり、ゆらり。
人の心は揺れていく。
揺れる心は迷いを生み出す。
果たして、彼らを待ち受ける放送は揺れる彼らの心に何をもたらすだろうか。
ただひとつだけ葛木自身が理解していることがある。
己だけは決して心が揺れることはないだろう、と。
彼の心は凍りついたまま、感情も感動も感慨も感激も感心もなく、同志たちが揺れていく姿を見つめ続ける。
【A-3 病院近くの空き家 /1日目 昼(放送直前)】
『先生と生徒とマスコット』 +『まこまこコンビ』
方針:休憩して放送を待ち、その後教会(病院)に向かう。
【葛木宗一郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式 、ルールブレイカー@Fate/stay night[Realta Nua]、弾丸全種セット(100発入り)、木彫りのヒトデ8/64
【状態】:健康、右肩に切り傷
【思考・行動】
基本:帰る
0:………………
1:教会に向かうか、誠たちと行動を共にするか……
2:直枝理樹の作戦に乗る
3:高槻やよいを守る?
4:蘭堂りのと如月千早を探す?
5:衛宮士郎に関しては保留。可能なら保護
【備考】
※自身の体が思うように動かない事には気付きました。
※博物館に展示されていた情報を記憶しました。
※直枝理樹の知り合いについて情報を得ました。
※黒須太一、ティトゥス(外見的特徴のみ)を危険視。
※黒須太一、藤乃静留が直枝理樹を女と勘違いしている、という情報を得ました。
※ツヴァイ、ドライ、アイン、フカヒレ、巨漢の男を警戒。
【高槻やよい@THE IDOLM@STER】
【装備】:プッチャン(右手)
【所持品】:木彫りのヒトデ2/64
【状態】:健康
【思考・行動】
0:うっう〜……皆、雰囲気が変なんですー
1:葛木先生と一緒に行動
2:真たちとも行動を共にしたい
3:うっう〜。千早さんにも早く会いたいです
【備考】
※博物館に展示されていた情報をうろ覚えながら覚えています。
※直枝理樹の知り合いについて情報を得ました。
※死者蘇生と平行世界について知りました。動揺はあまりしてません。
【伊藤誠@School days L×H】
【装備:エクスカリバー@Fate/stay night[Realta Nua]、防刃チョッキ】
【所持品:支給品一式(水なし)、支給品一式、手榴弾2つ、このみのリボン
天狗秘伝の塗り薬(残り90%)@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【状態:肉体疲労(小)、精神疲労(中)】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない
0:俺は……
1:病院へ行くか、葛木たちと行動を共にするか……
2:自分の知り合い(桂言葉、西園寺世界、清浦刹那)やファルとその知り合い(クリス、トルタ)を探す
3:このみに何が起きたかわからないけど、助けたい。
4:信頼出来る仲間を集める。
5:主催者達を倒す方法や、この島から脱出する方法を探る。
6:巨漢の男、アイン、ツヴァイ、ドライ、フカヒレに気をつける。
7:言葉以外の女性に如何わしい事はしない?
【備考】
※誠の参戦時期はエピローグ「無邪気な夕日」の後です。
※言葉と世界は、主催者が蘇生させたのではと思っています。
※また、平行世界の可能性で内心動揺しています。
【菊地真@THE IDOLM@STER】
【装備:電磁バリア@リトルバスターズ!】
【所持品:支給品一式(水なし)、金羊の皮(アルゴンコイン)@Fate/stay night[Realta Nua]、レミントンM700(7.62mm NATO弾:4/4+1)、予備弾10発(7.62mm NATO弾)】
【状態:背中付近に軽度の火傷(皮膚移植の必要無し)、左足に切り傷(ほぼ治療)、傷治療中、肉体疲労(小)、精神疲労(小)】
【思考・行動】
基本:誠と共に行動する
0:僕は……
1:誠さんの行動方針を支える。
2:やよいや、他の女性を守る王子様になる。
3:巨漢の男に気をつける
4:誠さん、本当に自重できるのかな?
5:誠さんは駄目な人だけど、それでも……
【備考】
※天狗秘伝の塗り薬によって休息に外傷を治療しました。大体の軽い傷は治療されました。
※誠への依存心が薄れ、どういう人間か理解しました。
※愛佳の死を見つめなおし、乗り越えました。
※元の世界では雪歩とユニットを組んでいました。一瞬このみに雪歩の面影を見ました。
※また、平行世界の可能性で若干動揺しています。
【二人の共通備考】
※誠も真も、襲ってきた相手が大柄な男性であることしか覚えていません。
※フカヒレからツヴァイの危険性、渚を殺害したことのみ聞きました。
※平行世界や死者蘇生の可能性について知りました。
※電磁バリア@リトルバスターズ!
NYPにより攻撃を反射するバリアを展開する。
NYPの数値によって防御力は増減。
防御力を上回った攻撃は貫通する。
※天狗秘伝の塗り薬@あやかしびと −幻妖異聞録−
出血箇所に塗れば皮膜が張って血は止まり、どれだけ酷い打撲や痣も一晩で治る。
(本編中では身動き取れないほどの打撲も一時間で動けるようになった)
病気には効果がなく、骨折ともなると効果は薄くなる。
頭からつま先まで塗りたくっても三度は使える量。ちなみに無味無臭。
成分は鎌鼬の塗り薬に八咫烏の糞。知っても忘れたほうがいい。
投下完了です。
タイトルは『ゆらり、揺れる人の心は』
元ネタは水夏のOPの歌詞を少し変更して。ご指摘、ご感想をお待ちしております!
GJです
アイマス勢再会したのに平行世界論でなんだか不穏に……
はたして今後彼等はどうなるのか、誠は誓いを守れるのか
今後が非常に気になる作品でした
投下乙です
この面子なら割と安心だと思ってたら何やら不穏な雰囲気…
それと死者蘇生が刻々と浸透していきますねえw
投下乙です。
何かかなり不穏な気配が漂いますねえ。
そんな中葛木先生はかなり素敵。
なんか大人勢は頼りになるなあ。
投下乙です
揺れる心ってのは、やっぱり人間らしくて良いね
そして葛木先生、クールだ……
ハサン先生といい、笛の大人勢は格好良いなあ
並行世界ネタで不安を煽るその綺麗なやり方が、とても良かったです
そして葛木先生のブレの無い頼もしさは異常。良い大人って素晴らしいです
揺れる子供とブレない葛木先生の対比と、そして……今後もブレないでいられるのかどうか、そんな所にも期待が持てる葛木先生が良かったです
投下乙です
意外な事実発覚で不穏な気配? でもそんなの関(ry
ああ……うっうーだけが心の清涼剤です。葛木Pの舌を唸らせるとはさすが高槻家の台所
紆余曲折の果てにあるのは絆か、破局か。誠が激しく不安だw
レオ……
ムシャムシャ。
レオ……?
おかしいな?
さっきまでそこにいて声が聞こえてたというのに。
ズズズーー。
ううむ……
折角準備ができた言うのに。
全くだらしない。
ハグッ。
むう、結構弾力があって美味いな。
しょうがないからレオの分まで食べちゃおう。
待ち切れない。
ハムハム。
うん噛むごとに旨みがますな。
熟成された良い肉だ。
ガツガツ。
しかし……誰だ、黙ったく。
私の手料理を一つ奪った奴は。
あんな上等な肉は滅多に無いというのに。
バキバキ。
しょうがないからもう片方のだけだ。
折角のランチタイムなのに。
しかし……
ボリボリ
中々歯ごたえあるなあ。
骨の癖に味が深い。
これも私の調理の賜物だな。
ボキボキ。
電車にも乗りたかったしお弁当にしたが正解だな。
コンパクト詰め直して食べやすい。
中々趣がある、揺られながら食べるという事は。
シャクシャク。
ふむ。
やはり美味い。
弁当といったらお握りだろう。
適当にあった店からご飯を貰って作ったが美味い。
サクサク。
具も良い。
先程に電車に乗ったとき作った具財。
中々だ。
柔らかく肉汁たっぷり。
噛むごとに肉汁が溢れる。
それが米に混じって実に美味い。
レオも早くくればいいのに。
ゴクン。
お握りの次は。
これだな。
ジャリジャリ。
ううむ独特の苦味がなんとも。
しかしこっちは甘い。
色々の野菜が沢山。
細長いのまで。
ザクザク。
む、エグイがそれがいいな。
先程も食べたが物だが中々。
しかしなんという汁が沢山。
今にこぼしそうだ。
すべからず食べて。
ゴクン。
さあ最後はデザートだ。
まずは殻をわって。
コツ、コツ、ガツン!
よし割れた。
おいしそうな黄色の果実が。
そして紅い果汁が。
チューチュー。
なんて瑞々しい。
フルティーな香りが口の中に充満する。
シャクシャク。
むう。
この官能的な甘みがなんとも……
ああ食べさせたい。
こんな甘みは滅多にないのに。
もったいない。
そして
「ごちそうさまでした」
ランチタイムが終えた。
実に美味かった。
あの猪肉も食べたかったか残念だ。
それにしてもまだ食べたりない。
ああおやつが楽しみだ。
早く食べたい。
なあレ……?
あれ?
私は誰を思ってたのだっけ?
誰の声を聞きたかったのだっけ?
おかしいな?
直ぐに出てくるはずなのに。
えっと?
むむう。
でもこれだけ言える。
愛してる。
愛して。
愛して止まないんだ。
どんな時でも。
何処でも。
君を愛してる。
だからいつでも想おう。
名前を忘れても。
姿を忘れても。
声を忘れても。
すべてを忘れようとも。
それでも。
それでも君を想い出すから。
【E-7 駅/1日目/昼(放送直前)】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:斬妖刀文壱@あやかしびと −幻妖異聞録−
【所持品】:真っ赤なレオのデイパック(確認済み支給品0〜1)、ドラゴン花火×1@リトルバスターズ!、
【状態】:狂気、鬼、肉体疲労(中)、腹部に打撲、全身に軽度の火傷、空腹
【思考・行動】
1:電車で逃げて行った食材を追い、料理してからおやつ。
2:自分が強者である事を証明する。
3:君の声が、また聞きたい……。
【備考】
※アカイイトにおける鬼となりました。
身体能力アップ、五感の強化の他に勘が鋭くなっています。
※ハサンと霧の手足をランチしました。
投下終了しました。
誤字脱字矛盾ありましたらお願いします。
タイトルは
「それでも君を想い出すから」
タイトルはメモオフそれからからOPです
投下乙です。
むう…コメントしづらい。
とりあえず乙女さんは幸せそうですねえ。
周りには迷惑だけども非常に良いなあと。
投下乙です
とてもおいしそうなランチタイムでありましたw
内容とギャップのあるタイトルがなんだかいいですね
すいません駅を電車にかえてください
乙です・・・?
投下乙です。
ってwwwwナイスランチタイムwwwww
何を食ったw あれか、霧の手足やら消えてるからそれを食ったのかw
レオの名前も完全に忘れて、それでも愛してるのは覚えてる乙女さん。もう、彼女は戻れないんだろうなぁ
状態表。
これだけ食べて、まだ空腹ですか?
あ、すいません。作品への文句じゃなくって。
乙女さんへの突っ込みです。
乙女さんの空腹状態が満たされるのはいつの日か。
投下乙です
これだけ読んだらおいしそうなランチタイムですが、いざその光景を想像してみると……
な、なんというホラーシーンw
考えただけで微妙に身震いが……怖いよ乙女さんwww
太陽が天へと昇る頃、殺戮が横行する島でその二人は出会った。
人形のような少年と人形のような少女。
それぞれの思惑をその胸に抱きつつ邂逅する。
「貴方はこの殺し合いに乗っていますか」
そう少年に問いかけたのは少女の方だった。
少女の名は深優・グリーア。
誰も彼もが気づかぬうちに召喚され、殺し合いを強要されるこのゲームにおいて彼女は少々異質であった。
彼女の役割はジョーカー。
“優勝を目指して積極的に殺す”・“殺し合いが加速するよう、他の参加者を扇動する”ように主催者から依頼されたイレギュラーな存在。
彼女がその依頼に従う理由は唯一つ。
彼女が守るべき人――アリッサ・シアーズを救い出す事。
そのために深優・グリーアは行動する。
「…………」
少年は深優の問いを聞き、しばし沈黙する。
少年の名は黒須太一。
彼もまたこのゲームにおいて少々異質であった。
――『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る。
彼は地球の未来を救うのは自分しかいないと切に信じていた。
それこそが自ら行うべき事だと信じ、彼は行動する。
「申し遅れましたが、私は深優・グリーアと言います。
もう一度尋ねますが、貴方はこの殺し合いに乗っていますか」
深優は現在ウィンフィールドとの戦闘の影響で自身の能力による戦闘行為を自粛している。
一刻も早くアリッサ様を救い出したいと思うが、無理な行動を起こして自分が破壊されては元も子もない。
しばらくは無理な戦闘は極力避け、扇動に徹するべきと考えての接触だった。
黒須太一のデイパックにはあらかじめ嘘のスパイ情報を記した紙を忍ばせておいた。
これが吉と出るか凶と出るか、これからの交渉次第である。
(……頭がぼーっとする……)
まず太一が思った事はそれだった。
それも無理もない話である。
朝方から湖に落ちて川に流され、ようやく陸地にあがった矢先に思わぬ事故で再び川へ逆戻り。
おまけに川から上がる際に足を攣り、そのまま気絶。
風邪気味になるのは仕方のない事だった。
若干の発熱、軽いめまい、寒気。
太一が感じている症状は風邪の初期症状にあてはまる。
ふらつく身体を支え直し、霞む頭で太一は考える。
(「貴方はこの殺し合いに乗っていますか」って尋ねているなら、『人間』な……)
そこまで考えて太一は深優の服装に軽い既視感を覚える。
記憶を手繰るうちに既視感の正体を把握する。
『藤乃静留』――数時間前に出会った『エイリアン』だ。
その『エイリアン』の服装と深優の服装はよく見たら似ている、というよりは色違いのようにも見える。
太一の疑惑はさらに押し進んでいく。
よく考えてみると、深優はまだ太一の名を尋ねていない。
普通ならまずは名前を尋ねるべきではないのだろうか。
熱に歪む頭で太一の深優に対する疑惑は高まる一方だった。
「その前に聞きたい。藤乃静留と知り合いなのか」
深優は唐突に発せられた太一の質問の意味を考える。
ここで彼女の名が出る事の意味は何であろうか、黒須太一と藤乃静留の関係は何であろうかと。
だが、とりあえず今の段階で誤魔化すのはあまり得策でないと判断を下す。
よって事実を述べる事にした。
「ええ、同じ学校の生徒です」
その答えを聞いた瞬間――太一は深優との距離を詰めにかかっていた。
太一の中ではもうすでに『深優・グリーア』=『エイリアン』という短絡的な方程式が出来上がっていた。
エイリアンと同じ所に所属しているならエイリアンである事は確定だ。
もう少し冷静に考える余地もあっただろうが、風邪で頭が朦朧としかけている今の太一では『エイリアン』という言葉だけで十分だった。
太一は自分の武器であるカラデで以てエイリアンを倒すべく熱に浮かされたように駆ける。
「――ッ!?」
一方の深優にしてみれば、この状況は半ば想定外だった。
交渉の末での仲違いならありえると考えていたが、いくらなんでも決裂には早すぎる。
それに深優には何故太一が攻撃を仕掛けてくるのか理解できなかった。
完全なイレギュラーなケースだ。
「…………」
太一は無言でカラデを繰り出していく。
その動きは素人の域には収まらないものだった。
サバイバルナイフ無き今太一の持つ唯一の武器。
それを『エイリアン』に向けて惜しみなく披露していく。
深優はそれをかわすばかりのように見えた。
(一般平均よりは上……しかしウィンフィールドには及ばない)
深優は太一の攻撃をかわしつつ、そう結論づけた。
確かに太一は一般平均に比べたらポテンシャルは遥かに上だ。
だが深優は単体でHiMEやチャイルド、オーファンと渡り合える強者だ。
元のポテンシャルが違う上に、太一は風邪を引きかけている。
風邪の症状は太一から冷静な判断力と体力をじわじわと奪い、症状をさらに悪化させていく。
時間が経つうちに太一の動きが鈍くなってくるのは当然の理であった。
幸いにも攻撃をかわすぐらいなら現状でも問題なく実行できる。
深優はこのまま攻撃をかわし続ける事にした。
しばらく経っても二人の攻防は終わらなかった。
しかし攻防の終わりは突然訪れた。
不意に深優が何かに足を取られたかのようにバランスを崩したのだ。
これを好機と見た太一は己の持てる全力を込めた一撃を繰り出した。
「!?」
だがその一撃はあっさりと防がれた。
長時間に及ぶ戦闘で太一の体力は自身が思っている以上に消耗していたのだ。
それになにより――この隙は深優がわざと見せたものだった。
そして全力を出した後の一瞬の無防備な状態を捉えて――――
「ガァ!?」
深優は太一の首筋に手刀を叩きこんだ。
太一は堕ちそうになる意識を懸命に留めようとするが、追い打ちをかけるが如く鳩尾に深優の一撃が入った。
「エイリ、アン、め……」
太一はそれっきり意識を手放してしまった。
深優はその言葉の意味を訝しみながら太一を見下ろすばかりであった。
◇ ◇ ◇ ◇
(さて、どうしましょうか)
廃校の一室で深優は悩んでいた。
悩んでいる理由は目の前で気絶している黒須太一だ。
いきなり襲いかかられて隙を誘って気絶させたが、その後どうするか決めていなかった。
とりあえず自身の休息も兼ねて近くの廃校へと足を延ばしてみた。
一応廃校の倉庫に眠っていた備品の縄で縛って起きても大丈夫なようにしているが、起きる気配はなかった。
ここで殺してもいいのだが、深優はそれ以外の道を模索していた。
この島には自分ですら太刀打ちできないような者がまだいるに違いない。
そのような者と今の状態で戦いたくない。
寧ろできる事なら無理に戦わずに自身の責務を果たしたい。
ではどう対処するべきか。
考えた結果、深優は太一を利用する事を思い付いた。
その考えを行動に移すべく、太一の拘束を解いていく。
そして太一の意識を呼び戻すべく活を入れた。
「グッ……お前は……」
「気が付きましたか」
「エイリアンが――」
「一つ教えてあげましょう。この島にいる者はあなたを除いて全てエイリアンです」
「え!?」
「では、さようなら」
「ごふっ」
太一の鳩尾には再び深優の一撃が決まり、またもや太一は意識を手放す事となった。
太一が気絶したのを確認してから、深優はその場から立ち去って行った。
(これでいいでしょう。ただ殺すよりは役に立ってくれるはずです)
朝日が差し込む廊下を歩きながら深優は太一のこれからに期待する。
深優が見たところ、太一は少々頭が狂った少年のように見えた。
エイリアンだとか言っているので電波系という種類なのかもしれない。
強さも一般平均より上だが、自分には及ばない。
だが、そういう人物なら存分に場を掻き乱してくれると、密かに期待する。
わざわざ太一の神経を刺激するようにこの場にいる者は全てエイリアンだと言っておいた。
無論この後誰かに殺されてしまうかもしれないが、別に自分には何の損にもならない。
それに万一自分の事を誰かに話されてもあの様子では相手が信じる可能性も低いだろう。
やはり自分に損はない。
深優は次の手を打つべく廃校を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「……う……ん、ここは……」
太一が再び目覚めたのは深優が立ち去ってからだいぶ経った頃だった。
寝起きと風邪の症状でぼやける頭で太一は今までの事を思い出す。
不意に見知った物が目に映った。
それは床に転がっているナイフ――しかも自分が失くしたものだった。
太一は知る由もないが、そのナイフは深優が廃校に来る途中で川に沈んでいるのを見つけて拾ったものだった。
刃物があったほうが何かと騒乱を起こし易いと思い、深優が太一の元へ残していったのだった。
「……エイリアン」
太一の頭に残る深優の最後の言葉。
真偽のほどは不明だ。
「くしゅん!」
寒気からか、まずは温泉に入って温まりたいと思う太一であった。
【D-6 廃校の一室/1日目 昼】
【黒須太一@CROSS†CHANNEL】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ウィルス@リトルバスターズ!、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ
【状態】:疲労(中)、やや風邪気味(軽い発熱・めまい・寒気)
【思考・行動】
0:『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る。
1:拡声器を使って、人と交流する。
2:『人間』をたくさん仲間にし、『エイリアン』たちを打倒する。
3:『支倉曜子』『山辺美希』『佐倉霧』と出会えれば、仲間になるよう説得する。
4:温泉に入りたい。
5:「この島にいる者は全てエイリアン」という言葉を測りかねている。
※第一回放送を聞き逃しましたが、死亡者のみ名前と外見を把握しました。
※太一の言う『エイリアン』とは、超常的な力を持った者を指します。
※登場時期は、いつかの週末。固有状態ではありません。
※直枝理樹(女と勘違い)、真アサシン、藤乃静留、玖我なつき(詳細は知らない)、深優・グリーアをエイリアンと考えています。
※スパイに関するルールはでたらめです。
◇ ◇ ◇ ◇
深優・グリーアは観察していた。
Segway Centaurを使用して限られた地域ではあったが、参加者の動向を探っていた。
自身が戦闘行動を起こせるまではまだ時間がかかる。
なのでその間に他の参加者の様子を調べる事にしたのだ。
これにより自分は相手の事をいくらか知った状態になるので有利な立場で戦闘ができるだろう。
深優が目撃したのは衛宮士郎による羽藤桂、アル・アジフを襲撃した一連の顛末であった。
まず衛宮士郎が羽藤桂、アル・アジフを追っているのを発見。
三人は市民会館へと入っていき、しばらくしてそこに浅間サクヤも入っていった。
程なくして衛宮士郎が市民会館より撤退。
少し時間を置いて残った三人が出てくるが、その瞬間を狙って衛宮士郎が狙撃を敢行。
結果、浅間サクヤは死亡、羽藤桂がショックを受けたのかその場から走り去るとアル・アジフが一瞬の間を置いて追跡。
その少し後に誰もいなくなった場に玖我なつきが到着し、白い生物とデイパックを回収してその場を離脱。
その後玖我なつきは民家、劇場と移動してG-4の駅へ向かっていった。
入れ違いで羽藤桂、アル・アジフが狙撃された場所に帰還。
浅間サクヤの遺体に何かした後で簡単に埋葬。
その後二人はG-6の雑居ビルの中に入っていき、現在はそこに潜伏中。
一方衛宮士郎は追撃を行わずにそのまま狙撃場所より離脱。
カジノに立ち寄り、その後は一心不乱に北上中。
以上が深優の目撃した一連の顛末だった。
もちろん相手の姿が判別できるギリギリの場所から望遠視力を用いているので気づかれる可能性は低いだろう。
実際誰も自分の事に気づきはしなかった。
放送まで後少し。
もう戦闘行動を起こしても大丈夫だ。
殺し合いに乗っている衛宮士郎。
その衛宮士郎の襲撃を受けて負傷したと思われる羽藤桂とアル・アジフ。
その二人と入れ違いですぐにその場を去った玖我なつき。
もしくはまだ見ぬ参加者。
いずれに接触するにせよ先程のような失態は許されない。
アリッサ様を救えるのは自分だけなのだから。
【G-5 歓楽街/1日目 昼】
【深優・グリーア@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:遠坂家十年分の魔力入り宝石、グロック19(拳銃/弾数15+1/予備48)、Segway Centaur@現実
【所持品】:支給品一式、拡声器、縄
【状態】:自身の能力での戦闘は正午まで不可(もうそろそろ戦闘可能)、全参加者の顔と名前は記憶済み
【思考・行動】
0:アリッサを救うために行動する。
1:"優勝を目指し積極的に殺す"。
2:必要に応じて"殺し合いが加速するように他の参加者を扇動する"。
3:ここにいるHiME(玖我なつき、杉浦碧、藤乃静留)を殺す。
4:必要に応じて内通者は複数人いると思わせる。
【備考】
※参加時期は深優ルート中盤、アリッサ死亡以降です。
※場合によってはHiME能力に覚醒する可能性があります。
※アリッサが本物かどうかは不明です。
※ミサイルの残弾数については基本はゼロ、あっても残り1発。
※グロック19は他人に気づかれない場所にしまってあります。
※スパイのルールはでたらめです。
※衛宮士郎による羽藤桂、アル・アジフを襲撃した一連の顛末を目撃しました。
※どこへ向かうかは後続の書き手にお任せします。
投下終了です
矛盾点、誤字・脱字などがありましたらご指摘ください
支援感謝です
投下乙。
太一……そのまま二代目気絶王を襲名するつもりか?w
風邪を引きかけ、孤独のままの太一はいったいどうなってしまうんだろう。
そしてグリーアは何処に絡んでくるのか。士郎か、それとも桂たちか……w
投下乙です
よし!ようやく太一が来たぜ!ここから太一のターン!!
…あれ気絶?しかも風邪で死ぬ直前w
いまいち目立たないですね、この主人公w
とりあえずカラデで深優に挑む太一に笑ってしまいました
投下乙です
WA氏
まこまこコンビの未熟さが好きなんだよなあ
沈黙を続けるプッチャンの心境はいかに
Uc氏
乙女さん、記憶がどんどん曖昧に…
前回、ギリギリ館長に気づいてもらえて良かったなと
Hl氏
太一、他人とろくなコミュニケーションしてないぞw
深優はじっくり状況を観察していたようでどうなるか
……ふむ、少女よ。君は欺瞞に気付いている筈だ。
長年の想い人の為に殺し合いを肯定した君はしかし、新たに自らを預けられる存在と幸か不幸か真っ先に遭遇した。
そして今も彼に心の扉を開き続けている。
それがどういう意味か、分からないはずはないだろう?
無力さという言い訳に縋ってその青年に頼りきり――――、そして、甘えることを選ぼうとしてるという事を。
くく……、では問おう。聞こえてなどいないだろうがね。
君のかの少年への想いは、三年、いや、それ以上の長きに渡って蓄積された想いは、そんなに薄っぺらいものだったのかね?
こんな鳴り物入りで出くわしただけの青年に乗り換えられるほど、君が存在意義とまで呼んだ少年は軽いものだったのかね?
まあ、それが正しいか正しくないかは君が判断すればいい。
だがそれでも言える事は一つある。
君は、あの少年の代用品として目の前の青年を扱おうとしているのだよ。
尤も――――、代用品が元の物より優れていない、などという道理は存在しないがね。
そう、あの衛宮士郎のように、本物より尊い偽物があっても、あるいはいつか本物と変わる偽者があってもおかしくはないのだから。
……しかし、いずれにせよ君が求めているのは現状、君にとってのあの少年の立ち位置に彼を据えてどうにか自らを留めてようとしているだけだ。
自分が決してあの少年に手が届かない事を思い知らされ、その現実から逃げる為に、な。
要するに。
君は結局、あの少年の代用品としてしか彼を見ていないし、また、あの少年は代用の効く消耗品でしかないと考えているのだ。
つまりは君にとって彼らの存在価値などその程度、妥協しうるものでしかない。違うかね?
違うというならば、君は彼らを二人とも侮辱していることになる。
……さあ、もっともっと、苦悩と葛藤を見せたまえ。
その果てに君が本物だけを肯定し、偽物を切り捨てるのか。
はたまた、偽物だった感情を本物と万人に認めさせるまでに磨き上げるのかは問いはしない。
その過程でいかに自らをすり減らし、想いと感情と信念と存在意義を削り合わせ、
後悔と欺瞞と慟哭と悲哀と堕落と妥協と昏迷と、その他のいかなる表情を浮かべてくれるのかのみが私の関心だ。
神よ、迷える子羊に祝福を。
Amen。
◇ ◇ ◇
「……く、う、はぁ……っ、恭介ぇ……」
「……痛いならすぐ言ってくれ。俺もこんな経験ないし、正直、不安の方が大きいんだが……」
「だい……じょうぶ。信頼してるか、ら……続けて」
「……ああ、分かった。すまないけど、もう少し脚、広げてくれるか? 女の子にこんな事させて悪いな」
「……ん、しょうがない……よね。でも、恥ずかしいからあんまり見ないで」
「善処するさ。……おっと、触ったあたり、どうだ? 何か変な感じとかは?」
「……分かんない。何か妙な感触だけど……ひゃぁっ」
「大分効いてきたみたいだな。そろそろ大丈夫か?」
「……うん、いいよ。怖いけど……頼むね」
「……OK。それじゃあ力抜いてくれ。ちょっと手荒くなるかもしれないし、痛んだら本っ当にすまん」
「……あ、くぅっ!! は、あぁぁああぁああぁああ……っ! あ、はぁ、はぁ、は……っ!
きょ、すけぇ……、あ、が、……っ!」
「……く、すまんトルタ。こいつが中に入り込んじまってる分、どうしてもな……」
「ぐっ……、あ、あんま、り……、動かさな、あくぅ……!」
「もう少しだ、……くそ、思ったより血が……。……よし、引っかかったか?」
「あ、あ、くぅ、斬れて、痛い……、あ、づぅ……っ!」
「トルタ、耐えてくれよ……。後は出すだけだ」
「……っ、くぅぅううううぅうう……!!
「無理だと分かってるが、動かないでくれ。……余計広がって痛んじまうぞ」
「平……気っ、気にしなくていい……から……、い、ああああぁあああぁああ!!」
「……よし、見つけたぞ。ここか……!」
「くぅ、あ、ああぁぁああぁあああぁああああぁああぁああ……っ!」
「…………、ミッションコンプリート。終わったぞ、トルタ。良く頑張ったな」
「あ……、は、……きょう、すけ。……うん、がんばった。ありがと……」
◇ ◇ ◇
トルタの叫びが止んで十数分。
時折体を震わせてるとはいえ、未だ寝転んだままの彼女の呼吸も大分落ち着き始めている。
声が外に聞こえていないかと冷や冷やしたが、どうやら周囲に目立った動きはないようで一安心といった所だろう。
ここが何の変哲もない一軒家である以上、目立つ場所ではないのだが……、それでも不安要素が大きすぎるのは事実だ。
一応如月が周囲を偵察しているとはいえ、念を入れるに越したことはない。
まあ、よもや裏切るとは思えないお人好しではあるのは分かってはいる。
が、あいつの力量を超える事態が起きればどうしようもないわけだ。
「……まあ、何にせよこんな所にあまり留まるのは得策とは言えないよな」
現在位置はおおよそG-5の西といったところか。
先ほどの戦場からさほど離れている訳ではない以上、絶対の安全を保障するわけではない。
……そう、脅威は去っていない。
掌をゆっくりと開き、握っていた『それ』を見つめる。
何の変哲のない、金属の塊だ。
それがよもや十数分前までトルタの体内にあったとも思えないくらいに、目立ったところは何もない。
「……あの怪人が近場にいる可能性が高い以上、さっさとここを離れなきゃな……」
目星をつけている場所はある。
とは言え、とりあえずそこに向かうにしても流石に今のトルタを強行軍に参加させるわけにはいかないだろう。
……素人の生兵法とは言え、手術を施した直後なのだから。
兎にも角にもひとまず血止めだけを行なった後、真っ先に行なったのはトルタの脚の治療に他ならない。
……銃弾が貫通していればまだマシだったのだが、盲菅銃創を放っておく訳にもいかないからだ。
弾丸が体内にあるだけで神経や筋組織は動くたびに傷ついていくし、雑菌が入り込んで破傷風を引き起こしたり、いずれは鉛中毒に陥る可能性もある。
彼女の今後を考えれば、俺たちが大した医療技術を持っているわけでなくとも到底見過ごせる事態ではない。
病院から持ってきたものなのか、如月があの怪人から回収したという医薬品一式にはメスなどの刃物もいくらかあった。
ひとまずそれを用いて弾丸を摘出する事は即座に決定。
一端アルコールで傷を消毒した後、止血する。
一応下準備としてモルヒネを打ったとはいえ完全に痛覚を消せたわけではなかったようで、
彼女に大分負担をかけてしまったのは失敗だった。
……申し訳ない、と思う。
それに傷口の関係上、彼女の……って、ストップ。
一体なに考えてるんだよ俺は!
状況を考えろ、棗恭介……!
……いや、見ちまったのは事実だし、一応彼女だってそれを了承していたとは言えもっともらしい正当化をするのはどうかとは思うが。
それでも確かにトルタはかなり可愛い方だと思うわけで、演技とはいえ彼女の仕草にどぎまぎしたことも認めよう。
顔立ちとかは年齢の割に童顔気味なところもポイント高い……って、誰が真性ロリだ、ロリロリハンターズだ!
別に彼女はいわゆる(21)じゃないだろ、つーか同い年だよ俺と。
待て待て、思考が変な方向に行ってるぞ、邪な考えは捨てろ。
ま、まあ、弾丸を取り出した後は軽く縫い、抗生物質を打って感染症を防ぐ。
そして輸血がひとまず終わったら、後はトルタが落ち着くのを待って移動するだけだ。
……そのつもりだったのだが。
「……ん、恭介……」
もぞもぞと、ゆっくりと、トルタの体が動き始める。
「……どうした? トルタ」
モルヒネが効いているのか動きはやや緩慢だが、それでも目にはしっかりした力がある。
……どうやら、思ったよりも調子はいいらしい。
弾丸の通った部位も骨から大分離れていた様で、後遺症も運が良ければ残らないとは素人目に思う。
尤も、すぐに跳んだり跳ねたり走ったりできる訳でもない以上、殺し合いにおいて不利というのは全く変わってはいないのだが。
内心安堵の息をついた所で、トルタは俺を手招きして呼ぶ。
「……恭介、今度はあなたの番だよ。怪我、見せて」
……と、そうだった。
トルタの心配ばかりしていたが、俺もあの場から離脱する時の応急手当しかしていない。
しっかりと傷を見なくてはいけないだろう。
だが、それにしても。
「いや……、お前はゆっくり横になっててくれ。俺一人で何とかするさ」
……あまり、トルタを動かさせたくはない。
確かに見づらいが、俺自身でどうにかした方がいいだろう。
「駄目よ、傷の位置考えると恭介自身に負担がかかると思う。
……こっちはもう平気だから、私にもせめてこのくらいはさせてくれないかな」
……一理はある。
脇腹を診ようとすれば、変に力を込めなくてはならない。
傷を悪化させてしまう可能性は充分だ。
何より、トルタの目が真摯にやらせて欲しいと語っているのを断るのは非常に難度の高いミッションと言える。
……さっきの戦いや、食事を作って化物を呼び寄せてしまったことを気に病んでいるのかもしれない。
彼女はそういうことを抱え込む性質だというのは分かってきている。
……気にするな、といってもむしろ追い込むだけだろう。
ここは素直に甘えておくべきかもしれない。
「……OK。それじゃあ頼んだ、トルタ」
「……うん」
患部を出し、薬箱を持ってトルタに近づく。
おずおずと手を出す彼女にそれを渡して、俺もベッドに座り込むことにする。
……彼女の息遣いがすぐ近くに。
何となくむず痒く思うも、とりあえず俺は手当てに身を任せることしかできはしない。
――――ただ。
「あ……」
ポンと軽く、トルタの頭に手を載せる。
彼女の俺への負い目を少しでも減らすことが出来るのなら。
その為に、彼女が何かを俺にしてくれるというのなら。
「……さっきの料理の時、歌を歌ってたろ?
治療の間、あれを歌ってくれないか? なんか気に入っちまったみたいでな」
あの歌は素直にいいな、と思えたのだ。
……激戦を越え、一息吐く。それを噛み締める意味で彼女の歌声をもう一度聞いてみたい。
そんな事を伝えてみれば、トルタの顔は照れくさそうに僅かに微笑を湛え始める。
「……あの歌、私が作ったんだよ? これでも音楽学院の生徒だしね、私」
……報われない想い。何故かそのフレーズが心に残る。
色々。
……本当に色々な感情が込められたその曲を、俺はもう一度聞きたくなっていた。
それが彼女自身が作ったものだと言うのなら、彼女はそんな想いを抱えているのだろうか。
「え、そうなのか!? 道理で上手いと思ったが……、成程な。いい曲だと思うぞ、俺は
あれを聞いてれば、痛みも大分紛れそうな気がするんだよ」
やっぱり、歌うことが好きなのだろう。
そこにどんな想いが込められているのかは俺には分からない。
分からないが、彼女の顔は確かに嬉しさと気恥ずかしさ、そしてそれ以外の幾つもの感情で彩られていた。
――――俺は、その表情の理由を知りたいのかもしれない。
歌を聴きたいのは、それを通して彼女がどんな生き方をしてきたのかを知りたいと言うことなのだろうか。
「……ふふ、ありがと。それじゃ、失礼して……」
――――見つめていることさえ、罪に思える――――
◇ ◇ ◇
彼女の歌声に浸りながら、彼女の手の織り成す暖かい手当てに身を委ねながら。
俺は脳のどこか冷静な部分でこの殺し合いに関する考えを纏め始めていた。
……いや、彼女の歌声がむしろ心を落ち着けて考えを促進しているのかもしれない。
とにかく頭が大分冴えている。
トルタに感謝、だな。
歌だけじゃない。
……あのティトゥスという男を倒せたのは彼女あってのものだし、引いては……首輪を手に入れることも出来たのだから。
勿論あれは、清浦や如月たちがいてこその勝利なのは分かっている。
それでも俺が立ち上がれたのは、……トルタを護ろうと奮起できたからだ。
――――あの後、とりあえずティトゥスとかいう侍から俺と如月は首輪を回収した。
清浦からは、……出来なかった。
甘い、とは思うがそれでも一時なりとも彼女はともに戦った仲間だった。
……彼女の遺体は、先に手当てを終えた如月が偵察ついでに埋葬してくるらしい。
俺もトルタも、特に反対はしなかった。
……せめて、安らかに。
殺し合いに乗っていることを隠し続ける俺たちは彼女を騙していたとも言える。
それでも。
たとえそうだとしても。
偽善でしかないかもしれないが、彼女を弔い、涙する気持ちは俺たちにも確かにあるのだ。
如月だけでなく、トルタも俺も……泣いちまったんだから。
……清浦。
自分勝手すぎる言い分だが、それでもこう言わせてくれ。
お前の死は無駄にはしない。
……少なくとも、この首輪については一歩前進したのは間違いないんだ。
――――この首輪。
ちょっと見ただけでは銀色の起伏のない輪のように見えるし、触ったとしても特に凸凹している箇所がある訳ではない。
だが、目を近づけて良く見ると所々に違和感が存在するのが判明する。
ご丁寧にも持ち主の名前が書いてあったりと悪趣味全開だが、一番目立つのは首輪の前面、要するに顎の真下辺りに存在する小さな穴だ。
その穴はガラスやアクリルの様な透明な物質で隙間なく塞がれており、触れただけでは周囲と区別がつかないようになっている。
……ただ、透明と言っても内部には暗闇が充満しており、ろくに中を見通せない。
まあ、当然と言えば当然なんだが。
中がどうなっているかは解体しなければ分からないようになっているのだろう。
他の違和感も似たり寄ったりだ。
やはりガラスやアクリルのような物で継ぎ目なく塞がれている穴や、、
あるいは同じ銀色でも僅かに青みが強く見える四角形の部位などが所々に存在しているのだが……、
やはり、それがどんな機能を果たしているかは外観だけでは分からない。
だが。
その穴の中にはたった一つだけ、外部からでも見える構造物がある。
レンズだ。
こんなものが首輪の、それも前面に着けられている理由なんて一つしかない。
要するに、だ。
主催の連中は、これを使ってそれぞれの参加者の真ん前にいる相手を監視していると言う訳だ。
体軸の前面というのは、敢えて首を横に曲げない限りその参加者の視界とほぼ一致している。
つまり、普通の会話であろうが戦闘であろうが、俺が見たものは全部連中に筒抜けだったのだろう。
……おそらく筆談の内容も、だ。
そして、これを裏付けるものが一つある。
――――俺に支給されたデジカメにあらかじめ入っていたデータだ。
幾つか入っている画像データ。
その中の一つに、あからさまに怪しい代物が紛れ込んでいたのだ。
ラベル曰く、
『首輪の設計図―A』
とかいう、あまりにもふざけたデータだったため、目だけ通して後は放っておいたもの。
だってそうだろう、主催連中が支給品にそんな物を紛れ込ませる意図が分からない。
殺し合いを強制する為の首輪を解除させるメリットなんて、殺し合いの遂行においては全くない。
良くて偽物、最悪自爆を誘発するトラップと言った所だろう。
――――そんな風に考えていたのだが、いざ本物を入手してみると重要性が俄然増した。
実際のカメラのある位置と、その設計図とやらに記された『監視カメラ』の位置が全く一致している。
……これだけで判断はつきはしない。
しかし、少なくとも推理の補強にはなるのは間違いないだろう。
そこでもっと詳しく首輪の設計図を見ようとしたのだが、それ以上の情報を得ることはできなかった。
各部の説明がそれぞれ書かれているらしいのにもかかわらず、だ。
『らしい』とつく理由は単純で、デジカメ本体で閲覧しようとすると画像が縮小されて細部の文字が読み取れないのだ。
監視カメラという文字もカメラの3文字がカタカナだったのでどうにかそうだろうと当たりをつけられただけで、監視カメラと本当に書かれているかどうかはわからないのが事実。
……細部を見るためにはパソコンのようなものを入手する必要がある、というわけだ。
更に言うなら、『A』とつく以上、BやC、D。少なくともこれを含めて2枚以上が存在することもほぼ確実だろう。
……撹乱でない限りは。
――――この設計図Aは、首輪の外見から分かるパーツを解説しているに過ぎない。
内部構造については全く触れられていないため、たとえ細部を解読できてもこれ単体では首輪の解除には繋がらないのだ。
……おそらく、内部構造や回路それぞれについて解説したものがBやCなのだと考えられる。
つまり、それら全部を集めなければ、首輪の解体に着手出来ないのだろう。
全部で何枚とも判別できないそれは、おそらく様々な形でこの島に隠されている。
このデジカメの様に画像データで支給品に入っていたり、施設に紙媒体で保存されていたり、だ。
尤も、当初の見積もりどおり、こんなものはトラップや撹乱の為に蒔かれた真っ赤な偽物と言う可能性も充分にある。
そもそも主催の意図と反する代物なのだから。
……だが現状、完全に偽物と断定できる訳でもない。本物と言う可能性も0ではないのだ。
――――これこそ主催連中の目論見に乗せられて、一縷の希望に縋っている状況なのだろう。
しかし、それを置いておいても、これに従えば解除できる可能性は存外高いと俺は見る。
その論拠は主催連中の目的に関する事になるため、一旦ここで保留しよう。
今はとりあえず首輪と、そこから分かる監視方法についてを先に纏めるべきなのだ。
そう、今考えるべきは首輪の監視カメラの存在だ。
こんなものがある以上は、勿論カメラより更に小型化できる盗聴器もくっついていると見ていいだろう。
……俺たちがどう足掻こうが、首輪を身に着けている限り体の前方にあるものと言動全ては筒抜けだ。
……普通の筆談でも、体の前方で字を書いたのならカメラの視界に充分納まってしまうに違いない。
俺たちの見聞きしたもの全てが、主催連中に伝わるようになっている。
俺の手持ちのカードからはそういう監視方法だと推測できる。
戦闘であろうと作戦会議であろうと食事であろうと虐殺であろうと、何でも、何でもだ。
――――だから。
逆に言うなら、そこが主催連中の監視の限界だ。
ニヤリと口が歪むのが分かる。
俺とトルタの仮説、主催連中の裏には神にも等しい存在がいる。
それを前提とするならば、万能の力で俺たちの一挙一動を監視できる可能性すらある。
なのに監視カメラと言う『人間の持っている技術』ものでしか、俺たちの挙動を確認できていない。
少なくとも、五感のうちの視覚においてはカメラで監視を行なっている。
これはどういう意味か。
つまり、この殺し合いの進行では、それこそ神なんかじゃなくて矢面に見えている主催連中が実際に俺たちを監視していると言うことだ。
……そして。
人間である以上、必ず監視のどこかに穴がある。完全な存在なんて人間とは呼べない。
抜け道は確かに存在するはずだ。
まあ、こんなカメラとかは全てダミーで、不思議パワーで常時監視されている可能性もあるのだが、それは置いておく。
そんな事になったら対処のしようもないし、知りようもないからな。
それ以上にダミーを用意する意味が見受けられないと言うのもある。せいぜい混乱を煽るくらいにしか意味はないだろう。
ここで、『人間が監視している』事を前提に、首輪以外の監視方法を考えてみることにする。
この首輪が俺たち参加者の視点……主観的な情報を送信しているなら、客観的な視点での監視もあると見ていいだろう。
少なくともそっちの方が監視の確実性は高いし、そもそも警戒するに越したことはないから同じことだ。
――――こんなものが個々に取り付けられている以上、島の全域を監視する余裕はない……、そう見て問題はない、はず。
あくまで参加者を実況中継することに特化した装置、逆に言えば誰もいないところを監視してもしょうがない。
つまり、だ。
首輪以外の監視装置があるとしても、人の集まる所にしか設置はされていないのではないだろうか。
地図に記載された施設。屋内で監視カメラが仕掛けられているとすれば、そこにある。
そして、上空。
高所と言うのは屋外の監視にはうってつけだ。
それこそその場から見たい場所を見下ろすだけでいい。
屋外の大抵の場所は確認できることだろう。
衛星でも飛行船でも何でもいい、俺が監視するならそういった装置を上空に置く。
故に、連中の死角はここだ。
何の変哲もない一軒家。
屋外でもなければ重要施設でもない。つまり、上空からの偵察機械も施設に仕掛けられたカメラもない。
だからこそ監視は一番甘い。
首輪が送っている情報以外に連中が手に出来るものはないって訳だ。
そして上手くすれば、今度こそダダ漏れさせずに情報のやり取りが出来る。
……例えば、体の向きを明後日の方向に向けたままに首だけを向かい合わせ、カメラの死角を利用して筆談するとか、な。
首輪が体の前方しか視界を確保できない構造上、横方向や真後ろは死角になっているはず。
死角の内部で書き物をして、こういう監視の甘い場所でお互いの意見を見せ合うだけで主催連中を出し抜くことが出来るだろう。
そう。
――――ちょっと考えただけで、出し抜く方法が見つかる。
これまで大層なことを口にし、実際にやらかして来た連中にしては、あまりにも甘すぎじゃないか?
それが一番の懸念事項だ。
……だからこそ、ここからが本番だ。
果たして、主催連中は何を考えてこんな穴の多いシステムで監視をしていて何が目的なのかを、考える。
そもそも、連中の言動には色々おかしいところが多すぎる。
トルタの言った通り、連中は時折黒幕の存在を匂わせている。
それ自体は問題じゃない。
連中が使い走りでも、結果として俺たちは殺し合いを強要させられている。その事実に変わりはないのだから。
問題なのは、
『黒幕がいるとして、何故俺たちの前に姿を現さないのか』
という点だ。
黒幕の力は非常に強大なものだ。
少なくとも時代や場所を越えて人間を集めたり、言葉を通じさせる能力。
あのティトゥスとか言う化け物は俺の知っている世界では考えられないくらい強かったし、
如月の言う『人妖』が跋扈する日常なんてのにも俺は縁がないところを考えると全く別の世界から人を呼び寄せることも可能だと俺は見る。
更に、放送の言を信じるならば死者の蘇生すらも行なえるらしい。
まさしく魔法、トルタの言葉を借りて神と呼んでも過言ではないだろう。
だったら何故、そいつは俺たちに直接関わってこない?
殺し合いを強要するなら、そいつが直々にお出ましして力を見せ付けてくれた方が遥かに楽だろう。
結局、人間は圧倒的な力の前ではされるがままにしかならないのだから。
主催連中に『これこれこういう力を我々は持っていますよ』なんて匂わせさせるよりもよほど手っ取り早い。
……というか、主催連中という存在そのものに必要性があるのかすら疑問だ。
出てこない理由は確かに幾つか考えられる。
その1。
『自分の命や社会的名声が危険に曝されるのが嫌だから』
――――却下。
時代も空間も超えて人を呼べる力の持ち主なら、ここの参加者程度屁にも思っていないだろう。
その力でいつかどこかの彼方へと追放してやればいい。
その2。
『強くはあるが、力が特定の状況下でしか発揮できない』
……もっともらしくは、ある。
だが、それならば何故遊ぶ必要がある?
放送での主催連中の言動といい、何かを食っていたことといい、殺し合いに支給されたアイテムといい、監視の穴といい……、あまりにふざけた要素が多すぎる。
反抗することすら連中の意図通り、と言わんばかりの歓待ぶりだ。
その3。
『単なる趣味』
……身も蓋もないが、可能性は捨てきれない。
強者の余裕というのは前述のおふざけを許容する。
俺たちがもがき苦しむのをそれこそ鼻で笑って見ていることだろう。
……とまあ、適当に挙げてみたが……、これと言ってしっくり来る理由はない。
強大な力を持っているならば、基本的に身を隠す必要はないのだ。
逆に、僅かにでも弱点があるならば、身を隠す以外にも徹底して制限や監視をきつくするはず。
そのどちらにも該当しないこのゲームの黒幕。
……そいつは、何を考えているんだ?
さて、行き詰まりだ。
……俺達の立場から考えても、これ以上はどうしようもない。
だったら、ここでチェス盤をひっくり返してみよう。
主催連中が俺たちに対して発言したその内容、その行動の不可解さ。
奴らから見たとき、それにどんな意味があるのかを考える。
――――何故、主催連中は黒幕の代わりに俺たちを殺し合わせる?
そして何故、黒幕の存在を匂わせたり、死者蘇生や内通者の存在を示唆して混乱を煽る?
……答えは、最初に奴らが言っていたんじゃないか?
『僕達も駒の一つ、って事さ。もちろん静留さん達とは役割も勝利条件も違うけどね』
『さて、バトルロイヤル――便宜的に僕達はこれを『ゲーム』と呼ばせて貰う』
『駒とは言ったが僕達はあくまで舞台の外の人間だ。実際に殺し合うのは君達……ここに集められた68、いや65人の参加者諸君だけさ』
『ゲーム』『駒』『異なる役割と勝利条件』『舞台の外』
肝要なのは、それだけだ。
参加者:ゲームの舞台……盤上で実際に殺し合う駒。
主催者:ゲーム盤の外から、殺し合いを促進する駒。
たったそれだけの単純な構図。
混乱を煽るのはそれが連中の役割だから、ただそれだけの理由だ。
……つまり。
つまりだ……!
その4。
『このゲームの本当の参加者:プレイヤーは、俺たちや主催者ではない何者かである』
――――こういう事なんじゃないのか!?
黒幕と言っても一人とは限らない。
そして、そいつらが一枚岩だとも限らない。
……誰とも分からない様な神様気取りのヤツらのゲーム。
俺たちはその駒として集められたってのか?
主催連中の役割は混乱を煽って殺し合いを促進させる。
……つまり、それが勝利条件に繋がるって訳か。
恐らくは、『誰かの優勝』。
それが主催連中、ひいてはそいつら側のプレイヤーが勝利する条件だ。
その逆の勝利条件は、正直現状では特定は不可能だ。
『優勝以外の何か』。
……あまりに幅が広すぎる。
どうなれば終わりなのかも見えはしないが、もう一方のプレイヤーの目的が何かあるはずだ。
だからこそ、制限が甘かったり首輪の解除法なんかが散りばめられたりしているんじゃないか?
その可能性は充分ある。
――――神々の遊戯盤ってか。
……くそ、ふざけやがって。
この殺し合いは単なるゲーム、娯楽。
俺たちは単なる駒で、……何もかも踊らされてるだけだって事かよ?
ゲームだと考えれば、色々納得できることも多い。
例えば、この殺し合いの会場についてだ。
地図を一度でも見ればすぐに分かる。
――――あまりにも、歪すぎる。
その土地の成り立ちとか、文化とか、立地条件とか。
ありとあらゆる要素が不自然だ。
この会場はまさしく、このゲームの為だけに作られたゲーム盤に他ならないんだろう。
そう、まるで俺達の作り出した永遠の一学期――――あの世界のように。
……あの世界と同じ原理で出来ている可能性は0ではない。
ここは、誰かの意思によって事実が簡単に捻じ曲げられる世界なんだろうか?
……腸が煮えくり返りそうだが、ゲームだと言うなら少しは希望がある。
少なくとも、ルールは遵守されてこそゲームは成り立つからだ。
だとしたら、優勝者が決定さえすれば少なくとも今回のゲームは終わる。
……その後優勝者がどうなるにしても、だ。
そこに理樹や鈴を生きて返せる可能性がある以上、俺のやるべき事は変わらない。
……その筈だ。
……ただ。
『優勝以外の何か』という勝利条件も探ってみる必要はあるだろう。
どんなに先行きが不透明でも、そこに理樹や鈴、……トルタとクリス、全員を生きて帰すことができるのなら。
俺はそっちに切り替えることに躊躇いはない。
……いや、そうであって欲しいのかもしれないな。
――――くそ、俺は甘いな、本当に……。
まだまだ足りない。情報が足りなさ過ぎる。
……黒幕はどんな力を持っているのか、どんな存在なのか。
ゲーム終了後に優勝者はどうなるのか。権利は一体何か。
また、『優勝以外の何か』はどういうもので、それを満たしたとしても本当に帰れるのかどうか。
この会場が俺達の作り出した世界と同じ原理で出来ているなら、どんな奴の意思が生み出したものなのか。
それ以外の理屈で出来ているなら、一体どんな代物なのか。
カメラの監視はフェイクか否か、不思議パワーで監視されているのか。
首輪の解除は本当に出来るのか、単に混乱を煽っているだけなのか。
果たして本当に俺の推測は正しいのか、単なる妄想じゃないのか。
――――『優勝』でも『優勝以外の何か』でもない、黒幕のどっちの陣営にも一泡吹かせられる様な『俺たち自身の勝利条件』は存在しないのか。
……まあ、与太話でしかなくはあるんだが、な。
こんな誇大妄想が事実でないことを、俺は祈る。
少なくとも、まだ誰かに話せる段階じゃない。
信じてもらえるような内容じゃない。
あまりに荒唐無稽が過ぎて穴だらけ。
こんなのは思考遊戯の範疇だ。
……なあ、トルタ。
お前はこんな馬鹿げた世迷言でも――――信じてくれるか?
……何故か俺はそんな事を思った。
出会って間もないはずの目の前の少女に対して、願うように。
◇ ◇ ◇
「――――私でいいなら、聞くよ」
「……え?」
気付けば既に怪我の処置は終わっていて、輸血パックも大分中身が少なくなっていた。
……やれやれ、だ。
どれだけあんな妄想に浸ってたんだか。
自分に苦笑し、そして心配そうな声のトルタのほうを向き直して聞いた。
「どうして分かったんだ? トルタ」
……すぐに呆れ顔で返される。
「どうしてって……大体終わったのに考え込んで動かないんだもの。
私でも何か深刻なことを考えてるって分かるよ」
……まるで長年の付き合いのように、それが当然だとでも言わんばかりに。
どうしてなんだろうな、俺がこいつにこんなに気を許してるのは。
単に色々と似ているから? ……それもあるだろう。
……だけど。
「そう……か。だよな、ありがとう。
……そしてすまん。まだ、人に言えるような段階じゃない。
ある程度状況が整う前に言っても混乱させるだけだろうな」
……いや、置いておこう。
ついつい口に出してしまいそうなのを抑えてとりあえず妄想を脳から追い出す。
流石に信じてもらえないだろう、今の段階では。
首輪や監視のことを伝えるにしても、如月がいる場での方がいい。
「あ、うん……。……余計なお世話だったかな」
ストップ、そんな顔しないでくれ、トルタ。
お前が別に何かした訳じゃないんだから。
「いや、そうじゃない。……俺自身にも信じる要素が足りなさ過ぎる与太話だってだけさ。
自分で信頼できないような妄言、尚更お前に押し付けてバイアスをかけたくはないんだよ。
……少しでも裏づけが取れたら一番にお前に聞いてほしい。その時は、頼む」
目と目を合わせて伝えてみれば、数呼吸の後に、
「……分かった」
こくりと彼女は頷いてみせる。
それきり彼女は目線を下げたままで、何も喋らない。
俺もどうしたらいいのか、どういう話をしたらいいのか何も思いつかないままだ。
「…………」
「…………」
――――沈黙が辺りを支配する。
部屋の中でこつこつ、こつこつと時計が刻む音以外に聞こえるのは俺達の呼吸のそれくらいだ。
……気まずいというわけじゃないんだが、何を話せばいいのかも分からない。
かといって心地いい沈黙でもない。
――――おいおい、どうしたよ俺。
何でこんな時に限って普段みたいにぽんぽん言葉が出てこないんだ?
いつもの面子だったら特に話題がなくても適当に作り出せるってのに。
……あれ? そうだよ、あらためて考えてみればトルタはあいつらじゃないんだよな。
普通にそこにいるのが当たり前みたいに感じてたが――――、そもそも今の状況ってかなりにかなりな事なんじゃないか?
OK、周りを見渡せ、棗恭介。
ここは屋内で、俺とトルタは二人きり。
如月は外を偵察中でしばらく戻ってこない。
で、ベッドに寝たままのトルタと、その側に座り込んでいる俺。
……客観的に見れば、相当……な気がしないでもない。
まずい。
何がまずいって、意識したら急に沈黙に耐えられなくなってきたのがだ。
どうする? 何を話せばいい?
そんな必要はないのに心のどこかが妙な焦燥感を煽っている。
……なあ俺。俺ってこんなに語彙少なかったか?
何を口に出せばいいのかすら分からない。
……くそ、バスターズにずっと掛かりっきりだったからか、こういう時の経験値が絶対的に足りてないんだな、俺。
まだまだ未知の世界はあったということか……!
いやいや待て待て待て待て。
ここは殺し合いの場だ、ボケるのもいい加減にするべきだろ。
そもそもトルタ自身事を意識していないというか、俺だけが妙に高揚しているだけなんじゃないのか?
互いの信頼について疑いはないが、トルタが俺をどう思っているかなんてそれこそ分かるはずもない。
……それ以前に、俺自身はトルタをどう思ってるんだ?
まだ出会って一日も立っていないのにもかかわらず、似た境遇に共感し、背中を預けて激戦を潜り抜けてきたこいつの事を。
……俺は、何故。
何故、トルタを見捨てられなかったんだろう。
理樹でもない、鈴でもない。真人でも謙吾でも、新生バスターズのあいつらでもない。
縁もゆかりもない、ここで出会っただけの彼女を、何故。
「……ごめんね、恭介」
――――我に返る。
気付けば、トルタが俯いたまま、搾り出すように言葉を呟いている。
……隠しようもない苦悩と後悔の色を滲ませながら。
「……は? どうしたいきなり」
問い返してみるも、しかし彼女は言葉を止めようとしない。
「私、恭介にずっと迷惑をかけ続けてる。
方針の事もそう、戦いのときもそう。
……挙句の果てに怪我までしちゃって、文字通り足手纏いだよね」
……そんな事はないさ。
お前はしっかりやっている、偶々機会に恵まれなかっただけだ。
……だから、そんな顔をするな。
自然とそんな言葉が浮かび上がってくるのに疑問を覚えるも、その意思を否定せずに口に出す。
「おいおい、気にするなって。さっきも言った通り――――、」
「側にいるだけなんて、耐えられないのっ!! なのに! 私役に立ってない、恭介の役に立ててないの……」
……彼女の嘆きが響き渡った。
ずっと、ずっと。
溜り続けた澱の重さでダムが決壊するように。
彼女の思いの丈は俺に強く打ち付けられる。
――――そう、役立たずなら、見捨てたって当然のはずなんだ。
最初からそう言っておいた以上、俺は理樹達を救うことに専念すべきなのに。
……俺は今も、彼女の涙に自分を罵りたくなるほどの後悔を感じている。
何で彼女にそんな思いをさせたんだ、と。
「ごめん、ごめんね、恭介……。私、また勝手なこと言って迷惑かけてる……。
その怪我だって、私がさせたような物なのに……」
泣きじゃくる彼女。
その涙を止めるために、俺は、彼女に何ができるのだろうか。
自分の無力さに打ちのめされ、それでも誰かの為に何かをしたいと願う彼女に、いつかの俺が重なって見えて――――、
――――ああ、そうか。
「はは、何言ってやがるんだよトルタ。……俺はむしろ嬉しかったくらいだぜ?」
「……え?」
……無力なんかじゃない。
できる事は、どんな時だってきっとある。だからこそ、俺達ははあの世界を創り出すことが出来たんだから。
あの二人に強くなってほしいという、その願いを叶えられる世界を。
「……あの時、お前は俺を撃てなかった。それは確かに結果的に俺の怪我に繋がった。
だけど――――、」
……答えは、最初に会った時に言ってたんだよな。
俺とお前は――――、
「……こんなくだらない殺し合いの中で、俺は、俺を殺すのを躊躇ってくれる仲間を見つけられた。
そして、そいつと協力してあんな強い化物だって倒せたんだぜ?
お前は無力じゃない。俺の仲間で、俺が背中を任せられて、俺と肩を並べて歩いてるんだ」
どうしようもなく、似ているんだ。
自分にそっくりで、自分と同じ様な思いで苦しんでいるなら、助けない訳にはいかないだろ?
そいつは俺自身も同然なんだから。
「恭、介……」
「俺は仲間の為なら何でもできるし、立ち上がれる。
……それは理樹たちだって同じだし、お前だってそうなんだよ、トルタ。
お前が俺の仲間って言うだけで俺に力を与えてくれてるんだ」
……ああ、そうだトルタ。
報われない想いなんてない。俺はそんなのを認めない。
たとえ今は顧みられなくても、きっといつかは力になるんだと、あるいはかつては力になれていたんだと信じてる。
意味がないはずなんてないんだ。
俺たち自身が報われなくても、俺たちの想いはきっと報われる。
――――だろ?
「……そもそもあの勝利はお前がいてこそのものだし、俺に手の届かないことをお前はしっかりやってくれている。
お前は凄い歌が上手いし、いざという時の演技力も信頼してる。お前に頼らなきゃいけない局面だって必ずあるんだ。
だから、……自分を卑下するなよ。
……それは少なくとも、お前を買ってる俺まで侮辱してることにならないか?」
口の端っこを歪めて言う。言い切ってやる。
さっきから絶句したままのトルタは、目を赤くしながらもようやく少しだけ笑って頷いてくれた。
「……馬鹿だよ、恭介」
「そうだな……。そうでなきゃ、とっくにお前を見捨ててる」
そう、俺は馬鹿だ。
……それでいい。
たった二つの理由だけで、お前を見捨てる気を完全に無くしちまったんだから。
俺がお前を見捨てない理由は2つ。
第一の理由は、俺がお前にしてやれることがまだまだあるからだ。
……お前が救われるなら、それは俺自身を救うということと同義なんだよ、トルタ。
お前は頑張った分だけ幸せにならなくちゃいけない、――――そう思うのは、俺には見果てぬ夢だからかもしれない。
俺は死んでいるも同然の存在なんだから。
……俺は生きている間に見られなかった、俺自身が救われる姿をお前に託そうとしているのかもしれない。
「……あ、今のはちょっと酷くない?」
「はは、少しは元気出てきたか?」
互いに笑い合う。
……怪我の痛みにも大分余裕が出てきたみたいだ。
一安心、ってとこだな。まだ歩くことは出来ないだろうが、もう何時間かしたら少しは動けるかもしれない。
「……ねえ、恭介」
「ん? 何だ、トルタ」
そして、第二の理由、お前が俺にしてくれていること。
パートナーとして俺の側にいてくれることが、どれだけ俺にとって有り難かったか、嬉しかったか。
……それに気付いちまったんだよな、俺は。
俺は、きっと――――、
「もし、私が――――、」
唐突にガチャリとドアの開く音がした。
「恭介、トルタ、とりあえず問題はないみたいだぞ。埋葬も偵察も全部終わった。
治療も終わってるだろうし、道中にも問題ないみたいだし。
そろそろ移動を……、」
「「あ、」」
……如月?
何故にこのタイミングで!?
い、いや、存在を忘れていたって訳じゃないぞ、うん。
「……え? 俺、何かした?」
俺とトルタの間の空気が、文字通り凍ったかのように思える。
俺たちは互いに妙な愛想笑いを浮かべ、
「は、ははははははは……」
「あは、あはははは……」
……ただ、乾いた声で部屋を満たすことしか出来なかった。
……いや、妙な雰囲気だったし、ある意味助かったのかもしれない。
助かったのかもしれないが……、
「……きょ、恭介。もし私が手伝えることがあったら何でも言ってね?」
……何か、とても残念な気がするのは何故だろう。
◇ ◇ ◇
……しかし、彼と彼女を最初に遭遇するように配置したのはいい仕事だな。
核を失った空っぽの人間。
そこに新たなる核となり得る存在を放り込めば、自然、思考はその存在一色に染め上げられる。
それこそ、依存しきるようになってもおかしくないくらいにだ。
くく……、しかし、そこに確かにある欺瞞から目を背け続けるのにいつまで耐えられるかね?
少女よ、その時君はどのような決断をする?
内包する矛盾に気づいた時、果たしてどの様な意図を以って動き始める?
……ふむ。
そのうち、それとなく切開を施すのも面白いかもしれんな。
何にせよ君たちの行く末、ゆっくりこの場から眺めさせてもらうとしよう。
……ああ、やはり私には参加者より監督役の座がしっくり来る。
戦場の中でしか得られぬ、臨場感溢れる愉悦も捨て難かったが……な。
さて、此度の催しにおいて、如何程の愉悦が待ち受けているのか――――、実に楽しみだよ。
◇ ◇ ◇
……一体どうしちゃったんだろう。
ゆっくりと馬の背に揺られながら、進行方向を哨戒してくれている如月の遠くに見えるツンツン頭をぼんやり眺めながら。
私は色々なことを、それでいて結局一つに行き着く事を考え続けている。
考えているのはただ一人の事。
……今までの私なら、その『一人』に当てはまるのはクリスしかいなかった。
そこに今は別の人が入り込んでいる。
……棗恭介。
彼は今、足に力の入らない私がこの子……スターブライトから落っこちないように、私の体を包むように後から支えてくれている。
……明らかにおかしい。
何がおかしいって、それに違和感や嫌悪感を感じない自分自身だ。
……それが、気持ち悪い。
大怪我をしたのに痛みを感じなかったとしたら、それはどう考えても異常だ。
……私の今感じているものもそれに近い。
私の脚の手当ての時だって、私はごく自然に彼に任せてしまった。
……下着とか色々見えてしまうのに。
う……、思い出すだけで顔が赤くなるのを感じてしまう。
「ん? どうした、トルタ。やっぱりまだ体調がおかしいのか?」
「え、あ、違うから、うん。何でもないから心配しないの。
……恭介だって大分無理してるんだしね」
……あれだけの激戦を抜けて満身創痍にもかかわらず、彼は以前の言葉通りに『自分の打てる手は全て打つ』事を実践し続けている。
いつの間にか首輪や監視についても考えを推し進めていたのだ。
しかも、監視対策にと私や如月の首だけをさりげなく恭介の方に向かせた上で、筆談で彼の考察を全部伝えてのけた。
……凄い、と素直に思う。
少なくとも彼は、とても優秀で魅力的な人間というのは確かだ。
……だけど、それでもやっぱりおかしい。
何で私は恭介の一挙手一投足に一喜一憂して、何でもっと彼の事を知りたいと思ってしまうのか。
そこにはクリスがいるべきなのに。
恭介が居座ることに拒否感を示していながら、尚且つ嫌悪感は一切湧かないのだ。
――――私は、私が分からなくなってきてる。
自分一人で俯いて考えている間は、恭介の事は考えたくもないとすら思ってしまう。
私個人の彼への感情とは別の、生理的なレベルでの反応で、だ。
なのに、彼と話していたり、彼の事を見ていると喜びの感情が湧いてくる。
恭介と一緒にいるときだけはその感覚を忘れる。忘れられる。
その構造があまりにも歪で、みしみしと、めきめきと。
心の奥底に押し込めた何かが、矛盾を無視し続ける私を背後から圧迫し続ける。
好きよ、嫌いよ。……いいえ、×してる。
……×に入る文字は何なのかな。
さっき、一体私は何を言おうとしたんだろう。
……そう、あの時私は何かを言おうとしたんだ。
その何かが分かれば、きっと私はこのずっと続く気持ち悪さから開放されるんだろう。
そういう予感がするのは確かなのに……。
……だけど、理解してしまえば別の何かが終わってしまいそうな気がする。
だから考えない。考えたくない。
その何かを認めてしまったなら、きっとトルティニタ・フィーネを構成している大切なものを否定することになってしまう。
三年、ううん、何年も何年も仕舞い込んできた宝物が、壊れてしまう。
それはきっと間違いのない事実。
……クリス。
会いたい。だけど会いたくない。
……どうして?
会いたい理由は分かる。
……たとえ届かないと分かっていても、彼はやはり私にとってかけがえのない存在だから。
この身は彼のために尽くしてきて、それはこれからも変わらない……、そう信じている自分がいるから。
じゃあ、会いたくない理由は?
何で? どうして?
……幼馴染でいいって、納得した。覚悟はしたのに。
そんな覚悟の向く先、どうしようもない現実とは別のところで、私の感情は彼に会うことを望んでいない。
ねえクリス。……あなたの顔が、姿が遠いの。
私はどうなっちゃったんだろう。
どうすればいいのかな。
……それともあなたなら分かるの?
恭介……。
――――そんな気持ち悪さから逃げ出したくて。
私は恭介に体を寄りかからせ、彼を感じようとする。
一人に沈んでいく思考を無理矢理断ち切って。
何の解決にもなっていないと分かっていても、今の私にはそれしかできないから。
じくじくと、じくじくと。
心が軋んでいるのに気付いていない振りをしたまま。
……私は嘘をつき続ける。
騙すのは今度は誰でもない自分自身。
……だから、恭介に嘘はつかない。
これまでの思考を振り払いながら、私は思うままのことを言ってみる事にする。
これは私の素直な気持ち。どうしても伝えたい本心だ。
「――――恭介。あなたこそ無理はしないで」
背中に当たる恭介の体がこわばるのが感じられた。
……やっぱり。
何でこんなに不器用なんだろう、この人は。
何もかもを押し込めて、たった一つの目的の為にどこまでも進み続けている。
自分の体も心も悲鳴を挙げているのに、決してそれを見せないようにしながら。
……私も人の事は言えないけど。
苦笑してしまったけど、だからこそ私も何となく分かってしまうのだ。
そして、私は覚えている。
あの侍を倒した後、恭介が空を見つめて何かを呟いたのを。
……仇は取ったぞ、って。
漏れてきたのはたったそれだけの言葉で、……だからこそ、どれだけの想いを押し込めているのかが伝わってくる。
彼の強い強い覚悟すら僅かに上回るほどの、その想い。
彼はその綻びをすぐに塞いでしまったけど、今も溜まったままのそれはきっとますます彼の心を圧迫し、すり減らしていく。
ただでさえずっと無理をしてきただろう彼の心を、だ。
……だから、せめてそれ位は吐き出して欲しかった。
彼の感情の受け皿にはなれないかもしれない。全てを受け止めきれるはずはない。
……だけど、それでもそういう選択肢を彼に見せてあげる事はできる。
少なくとも私はここに、彼の側にいるんだから。
自分一人で抱え込む必要はないということを知って欲しい。
「……泣きたいなら、泣いていいんじゃないかな。辛いなら辛いって言えばいいし。
大切な人たちの前ではそんな姿を見せられないのなら、私の前で溜めていたものを吐き出して構わないよ」
……そう、彼はきっと皆のリーダーだ。
だからこそ、弱い所は見せられない。見せられる相手はいない。
だけど……、
「……だって私には、恭介は、凄い頑張ってるように見えるよ。
私にできる事はあまりないけど、それでも肩肘張らずに話ができる相手にはなれると思うから……」
……せめて私だけでも彼の弱さを認めてあげたい。認めてあげられるはずだ。
弱くたっていいんだって、伝わっただろうか。
私にとっての恭介はリーダーじゃなくて、パートナーなんだから。
「……トルタ」
――――耳に届く恭介の声はいつも通り。
……だけど、背中に当たる震えは収まらない。
「……どうせなら、楽しい話を聞いてくれるか? 多分、アイツもその方が喜ぶと思うんだ」
ぽたり、と頬に当たる一滴。
だけど、それは気のせいか、もしくは天気雨だ。
……クリスとは正反対に、彼は雨に濡れ続ける事を選ばない。
Boys don't cry.
……恭介は、泣かない。
後ろを向いてみても、寂しそうに唇を噛み締めて。
それでもどうにか小さな笑いを浮かべ続けている。
「……それと懺悔も、少しだけ。……少しだけ、な……」
必死に何かを堪えながら、それでも笑ったまま。
目尻に水滴を浮かべたまま、彼の口は思い出を紡ぎだす。
……それは、他愛もない一人の少年の物語だ。
優れた才能を持ち、だからこそ父に狭い世界に閉じ込められていた少年を、
馬鹿なヒーロー気取りの坊やとその妹、少年の未来のライバルが助け出す所から始まる、楽しい毎日の物語。
家族を失った少年を仲間に引き入れたり、蜂の巣を退治したり。
無茶な毎日はずっとずっと続いていく。
それこそ日常がミッションで、飽きる暇なんて決してない。
飽きる前に馬鹿な坊やが新しい遊びをどんどん考えていくからだ。
時が経ち、新たな仲間たちが加わって、ますます波乱は加速する――――。
……聞いているだけで楽しそうなその光景が浮かんでくる。
剣の道を志すその人の事を話す恭介はやがて本当に嬉しそうに、そして悲しそうに話を締めくくる。
……妹と弟分の為とはいえ彼の大切な人を冒涜してしまい、謝る事もできなかったという結末を。
「……謙吾は最期に、満足に逝けたんだろうか」
――――何で、自分の事を投げ打ってまで恭介が仲間の為に戦うのか、少し分かったような気がする。
彼は仲間が心の底から大好きで、だからこそ自分が嫌われたり、傷ついたりすることなんて躊躇していないのだ。
……本当に私たちは似ているね、恭介。
……それだけに今の話で違和感のあったところがちょっと気になった。
何で彼は、同じ仲間である謙吾って人の事を傷つけてまで、理樹と鈴に尽くそうとするのだろう。
恭介なら彼自身も思い悩むことは分かった上でもやるべきことはやるのは分かっている。
だけど、仲間を傷つけてまで何かを成し遂げようとする事それ自体が、あまりに彼の性質と食い違っている。
……つまり、まだまだ彼には話していないことがある。
打ち明けていない秘密が、彼の内側に溜まっているままだ。
そしてそれが――――、彼の異常なほどの献身と、自身の顧みなさに繋がっているように思えてならない。
……いずれにせよ、私の言葉が伝わらなかったわけじゃない。
恭介はまだやせ我慢をしながらも、それでも自分の心を少しだけ打ち明けてくれた。
それでも大部分を、悲しみを抱え込んだままなのは、きっと彼の言葉が本当だからだ。
……本心から楽しい話をした方が謙吾という人が喜ぶと思っているから、それを口にする。
あまりに仲間想いで、結局、自分が楽になるよりもそっちを選んでしまう人だというだけだ。
彼はどうするんだろう。
この殺し合いの中で更なる悲劇が彼に降りかかったとしたら、彼の心はどれだけ軋まされるのだろう。
……私は多分、今も自分を都合よく騙し続けている。
どの想いやどの感情、どの考えが本当か嘘かすら、自分自身では分からなくなっている。
だけど。
……恭介に辛い思いをして欲しくない。
そして、彼の話をもっと聞いてみたい。彼の事をもっと知りたい。
それだけは真実で、私の中に確かにある。
ただ今は、彼の力になりたかった。
だから、私は彼の腕をぎゅっと抱きしめる。
私がいるって、一人で頑張る必要はないって知ってもらいたくて。
私は謙吾ではないから彼の最期の感情は分からない。恭介の疑問には答えられない。
だけど、恭介の抱える罪悪感も悲しみも、喜びも。
……確かに私は受け止めたって、伝えたかったから。
ありがとう、トルタ。
そんな囁きが耳元に届いて振り返れば、そこにあるのはいつもの飄々とした表情だ。
……それでも震え続ける彼の腕。その先にある暖かな掌を私は握り締める。
振り解かれることもなく、そのままずっと。
手と手を繋ぎ合わせたまま、私たちは道を進み続けていた。
◇ ◇ ◇
劇場の側を通り過ぎ、俺たちが目指したのはG-6、歓楽街の東寄りに鎮座している施設。
普遍的なイメージとは存外異なっていて派手なオブジェや輝くネオンサインなどはなく、むしろ西洋の神殿を近代的にしたと言った方がしっくり来るその佇まい。
周囲の建物からは明らかに存在感の違うそれは、一般にカジノと呼ばれる遊戯施設だ。
正確に言うならラスベガスに多いカジノホテルで、一階から地下にかけて存在するカジノの上に、宿泊施設がくっついた構造になっている。
……まあ、とりあえずメインの施設はカジノなのでどうでもいいといえばどうでもよくはあるんだが。
とはいえ、目的はカジノのゲームなんかではない。
その中の一角、地下への階段に隣接するように設けられている小部屋こそが俺の求めていたものだ。
「……ビンゴ。地図には発電所があるから電気は通ってるとは思ったけど……、試しに来てみて正解だったな」
「……何? これ……。見たことないものばかり……」
カジノというのは大金をやり取りする性質上、非常に警備に力を入れている。
意外に思うかもしれないが、カジノの町として有名なラスベガスはアメリカで一番治安の整っている場所とされているくらいなのだ。
……つまり、だ。
俺は警備用、治安維持用の設備がおそらく施設の中でもトップクラスだと読んだのだが、まさしくその通り。
この場を探索して見つけたその部屋は、大分消耗した俺たちが拠点とするには申し分がない充実ぶりを誇っている。
……壁一面の、あちこちを映し出すモニター。
そして、その下に設置された無数の機械とボタン。
このカジノのセキュリティの中枢、コントロールルームに俺とトルタは足を踏み入れている。
……ここならば、少なくとも参加者に対してはかなり有効な対策を取ることができるはずだ。
当初の計画通りに線路上を移動するにはリスクが大きすぎる現状、活動拠点にする価値はある。
おそらくは主催連中の監視下に置かれていることを差っ引いても、だ。
このカジノの殆ど全域をカバーするように設けられた監視カメラの画像は、それだけでも相手の接近を察知するのに役に立つ。
また、このカジノの従業員用、機械のメンテ用の通路や裏口の見取り図が手に入れられたのも大きい。
ボタン一つで動かせる火災対策用の隔壁や消火ガスの噴出口も何箇所かに仕掛けられており、相手の行動の妨害に使えるだろう。
……俺達の身の安全を確保する為にも、とにかく今は落ち着いて休める場所が必要だ。
無謀と勇気は紙一重、こんな状態でのこのこうろつき回っても鴨が葱を背負っているのと同じこと。
俺たちの休息は、長い目で見れば必ず理樹たちのためになる。……その筈だ。
それに、ここを真っ先に探していた関係上詳しくは見ていないのだが、このカジノの景品はどうやら強力なアイテムらしい。
上手く使えばかなり有利にことを進められるかもしれない。
防弾チョッキや銃と言ったものから伝説の武器の名前を冠したもの。
ラヴクラフトの神話に出てくる本なんていう怪しい代物まで置いてある。
……他にも、ざっと目を通しただけでも色々なものが置かれており、もしかしたらトルタや俺の治療に使える何かしらがあるかもしれない。
が、現状一番俺の気を引いたのは『USBメモリ』という景品の存在だ。
……必要な獲得枚数は、10000枚。
1000枚で入手できる防弾チョッキと比べても、単なるUSBメモリにしてはレートが高すぎる。
となると、あの中には重要な情報が入っている可能性は高いのではないか。
それこそ首輪の設計図のようなものが、だ。
ちなみにカジノのコインを入手する方法は主に物々交換で、
支給品1つで250枚(複数個支給されたものは、250に現在の個数/支給時の個数をかけた枚数)。
首輪1つで500枚、らしい。
ちなみに交換した支給品は無くなってしまう訳ではなく、新たな景品になるとのこと。
……とはいえ、何故かカジノに放置されていた500枚のコインがあったので、一応はこれを元手にするつもりだ。
コインや景品の交換方法は、自動販売機みたいな機械の横に設置されたボックスで出し入れされるようだ。
まあ、棚とかに置いておいたら簡単にかっぱらわれちまうだろうし、当然といえば当然なんだが……、
……支給品扱いの『馬』を押し込んだりする光景はシュールだと思う。
いや、スターブライトを交換するつもりはないぞ? 今のところは。
……しかしまあ、首輪を通貨代わりにしている辺り、いい趣味してるぜ、連中。
強力なアイテム欲しさに殺し合いを進める連中も出てくるだろう。
……とりあえず、俺の手にあるこのティトゥスの首輪は交換するつもりはない。
後々の研究の為にも、これひとつは確保しておくべきだろう。
そして、どうにかコインを入手したとして、それを増やす為には、ゲームをする事が必要だ。
とはいえこの施設は無人。スロット以外のゲームをするにはどうしたらいいのだろうか。
そんな疑問を抱いたが、コイン交換の機械を調べてみればその答えは書いてあった。
『ディーラーロボ“メカコトミ”・起動スイッチ』
そんな説明書きとともにあからさまな赤いスイッチが設置されている。
何か妙な物が飛び出してきそうなのですぐに押しはしなかったが、おそらくあれを押せばゲームの相手が出てくるのだろう。
……まあ、こんな理由で俺はここを拠点に選ぶことにした。
これからどうするのかのプランはあるが、今しばらくは体力の回復に努めるつもりだ。
このコントロールルームから周囲を警戒しつつ、余裕があればカジノの景品を狙う。
当面できるのはそれ位だろう。
……トルタの怪我を考えても、俺自身の体調を考えても、無理はできない。
せめて、こいつくらいは……守ってやりたいと思う。
その為にセキュリティの優れていると睨んだカジノへやってきた。
ついていた事にティトゥスの持っていた支給品も動き回らずにできる選択肢を増やしてくれるアイテムだったため、
俺は躊躇い無くひとまずの戦線からの撤退を選ぶことができたのだ。
……ただ。
俺一人で行動していたのなら、同じくらいの怪我を負っていても無茶をし続けたのかもしれない。
理樹の、鈴のためならばそんな事は屁でもないと言わんばかりに。
……俺の中で、確実にトルタの存在は大きくなってきている。
――――それが望ましいことなのかどうか。俺にそれを判断する事はできない。
理樹たちを救う、という観点だけで考えればデメリットは大きい。
彼女に気を使うあまり、あいつらを失ってしまったとしたら。
……それは全て、俺の責任に他ならない。
たとえそれが俺の与り知らない、手の届かない場所で起こった悲劇であってもだ。
……だが、それでも俺は彼女を見捨てる気にはなれない。
ここに来るまでのやりとりで、俺は強く強くそれを思い知らされてしまったのだから。
俺がトルタを見捨てない、第二の理由。
俺は、情けないことに――――、寂しかったのかもしれない。
……だから、彼女というパートナーが、とても嬉しいものに感じられる。
彼女に甘えそうになる。
ずっと、ずっと。
あいつらを強くする為に、頑張ってきた。
バスターズのあいつらの理樹への気持ちを弄ぼうと。
謙吾を傷つけ、古式を侮辱しようと。
鈴を一人引き離し、追い詰めようと。
……俺自身が現実とあの世界の狭間で藻掻こうとも。
それがあいつらの為になるのなら、と、それだけを胸に。
……俺は、一人で手を汚してきた。
だって、そうだろ?
俺はあいつらより年上で、リーダーなんだ。
俺が面倒を見てやらなくちゃいけないだろ。たとえ、誰に理解されなくてもな。
なのに、笑っちまうよな。
……心のどこかで、俺はそれを誰かに受け止めて欲しかったのかもしれない。
支えて欲しかったのかもしれない。
……リーダーであるなら、一人なのが当然なのにな。
ランキングバトルのように、一番上、頂点にいるのはたった一人だ。
絶対的な、あいつらを導く為の存在なんだから。
だけど――――。
謙吾と真人のような、互いに磨き合うライバルでもいい。
理樹と鈴のような、それぞれを支え合い、理不尽に立ち向かえる関係でもいい。
……結局俺には、そんな存在がいなかった。
だからこそ、肩を並べられる彼女を気に留めているのかも、な。
……俺の弱さを認めてくれた、彼女に。
……だけど、だからこそ俺は躊躇わずに決断しよう。
それが彼女を突き放すことになるとしても。
なに、何度もやってきたことじゃないか。
……これでいいんだ。
……きっと、一番彼女の為になれることだから。
◇ ◇ ◇
「……トルタ、使い方は覚えたか?」
「うん、大丈夫だと思う。
……恭介は凄いね、こんなのを簡単に使いこなせるなんて……」
ケイタイ電話、という物を手にしたまま、私は機械の海の中で恭介と向かい合う。
……周りのそれらの使い方をメモしながら私に説明してくれた後、恭介が手渡したのはやはり機械だった。
あのティトゥスという侍の持っていたその機械は、遠くの人間と話ができるものらしい。
このカジノに備え付けられた『電話』からかけたそれは、確かに私の手元にあるケイタイ電話に繋がって話すことができた。
……電話、という機械は聞いたことがあるような気も無いような気もする。
少なくとも、手紙でのやりとりが主なピオーヴァでは見かけたことはない。故郷でも同じくだ。
……恭介曰くこの殺し合いの参加者は、いくつかの違う世界や時代から連れて来られた可能性が高いらしい。
それを否定する材料はない。
いろいろ、私の知っている常識や物理法則と違うことが多すぎるからだ。
何にせよ、これからどうするかという具体的な話をするに当たって、それが必要なものになるみたいだ。
手に入れたものを早速組み込む辺り、何というか、恭介らしいと苦笑する。
まだちょっと使うには不安があるけど、恭介のメモを見て使えば何とかなるだろう。
「別にそうでもないさ。住む時代や世界が違えば、文化だって違う。
俺のいた場所ではたまたまこういうのが普及していただけさ。
……お前の歌や料理の方が、どんな場所でだって通用する凄いものだと思うぞ」
「そう……かな」
何となく頬をかき、気恥ずかしくなったので話題を戻すことにする。
「……で、これをどう使うの? 恭介の方が使いこなせるんだから、あなたが持っていたほうがいいと思うけど……」
……そう、私が持つ意味はなんだろう。
私が覚えたのなんて、せいぜい相手に電話をかけるだけ。
『電話帳』という機能をようやく理解できたくらいだ。
他にも色々機能があるみたいだけど、どうにも使いこなせそうにない。
807 :
名無しくん、、、好きです。。。:2008/05/19(月) 21:52:51 ID:hJd1v6Eq
「ああ。……それを今から説明する。聞いてくれ」
こくりと頷くと、それを確認した恭介は腕を組んで私と目と目を合わせる。
「……まず第一に、俺たちは消耗が酷い。
だから、今までのミッションをそのまま遂行する事は難しいだろう」
……意外な言葉から、恭介の話は始まった。
あまりにも唐突なその言葉に一瞬私は呆然としてしまう。
「……え? 諦めるの、恭介。……そんなのでいいの?」
「いや、基本方針に変更はない。
……ただ、それを固める幾つかのプランを変更する」
真剣な顔付きの恭介に、私も自然生唾を飲み込む。
……何だろう、嫌な予感がする。
「……とりあえず、俺もお前もしばらくは休息に時間を使おう。
とりあえず2〜3時間。
……そのくらいは休んでおかないと、満足に動くこともできないだろ。
その間はここで周囲を監視しながら、ついでにカジノでのアイテム回収を狙うつもりだ。
一番怪我の浅い如月にはカジノ周辺の施設を哨戒、探索してもらう。あいつも了承済みだ。
……ここまではいいな?」
確認を促す恭介に肯定の意思を見せてみれば、彼はしばらく目を瞑った後、吐き出すようにゆっくりと続きを告げ始めた。
「……そして、問題は3時を過ぎてからの行動だ。いいか?」
「……うん」
「……今度は俺一人が周囲の探索に出て、他の参加者との接触を行なう。つまり、ミッションの再開だ。
如月は俺と入れ替わりでここで休憩。
以下、俺と如月は3時間おきにローテーション。
放送と、その合間の時に情報交換しつつ交代って事だな」
――――あれ?
……何か今、おかしくなかった……?
……『俺一人』……って、何?
「え……? 恭、介。私は……?」
言い間違い、だよね?
……それとも意地悪言ってるだけ?
……もう、そうなら酷いよ、恭介。
私だって――――、
「トルタ。……お前は、ここで待機していてもらう」
あっさりと、恭介は私の逃避を切り捨てる。
……なんで? どうして?
ううん、分かってる。でも、感情がそれに納得してくれない。
「……どういう、こと?
ねえ、恭介。……それって、私が役に立てないって事?」
だから、その感情をねじ伏せるように。
恭介は容赦なく事実を口にした。
「……ああ。参加者を探して歩き回るには、足の怪我は致命的過ぎる。
言いたくないが、敢えてはっきり言うぜ。
このミッション……、今のお前は正直、足手まといだ」
とん、と力が抜けて椅子に体がもたれかかる。
……ああ、何となくこうなるかもとは思ってた。
考えなくても分かる当然の選択肢だっていうのにね。
……だけど恭介は見捨てるなんて口だけで、仲間をどんな時もカバーしてみせる人なんだって、いつの間にかどこかで信じていたんだろう。
そんな幻想に縋るように、私はうわごとの様にいつか聞いた言葉を繰り返す。
「……でも、恭介。……信頼される為には、二人でいることが必要だって……」
「ああ。だけど、現状メリットよりもリスクの方が上回っているって話さ。
……新たに誰かと組もうにも、お前みたいに信頼できる奴と出会える可能性はまず0だろう。
如月は信頼できるけど、それも奴が俺たちがゲームに乗っていないと思っているからこそだしな。
……これ以上のミッションの遂行は、俺一人でしかできないって訳だ」
……死刑宣告。
全部の可能性を、理性と理論で真っ向から撃破される。
……だから、どうしようもないと理解してしまった。
――――打ちのめされて空っぽになるかと思ったけど、どうやら私は自分が考えていたより嫌な人間だったみたいだ。
何か不快なものがどんどん私の中から生まれて来る。
惨めさと、理不尽への怒りと悔しさと。
……誰にも見せたくない感情が、湧き出しては沈殿していく。
……きつく言い過ぎたな。……だけどこれは、」
……何か言おうとする恭介が、鬱陶しい。
そんな感情を彼に抱く自分を嫌悪する。
「私の為、って? ……嫌だよ、何の役にも立てないまま、こんな……っ!!」
彼は気を使ってくれたのだ。
なのにこんな、八つ当たりじみた言葉をぶつけてしまう。
「そんな事はないさ。お前は……、」
何かを言おうとした恭介は、だけどそれを飲み込み、別のことを口にした。
……何だろう。
少し気になったけど、続く言葉を聞いて、そんな疑問はすぐにどこかに消えてしまった。
「……いや、何でもない。
それよりもお前にもやってもらいたいことがある。お前にしか頼めないことだ」
……私にしか頼めないこと。
現金なことに、それだけで私の頭はある程度冷えたようだ。
……だけど、それだけで感情が収まったわけでもない。
「……如月に頼めばいいんじゃないの?」
いじけたような声、ううん、いじけた声そのものが漏れ出てくる。
……そんな自分が気に食わなくて、更に感情は沈んでいく。
「いや、無理だ。……これはお前にしか頼めない。
……俺の背中を預けられるパートナーは、お前だけなんだ」
……僅かな喜びを、その言葉に抱く。
気がつけば私は先を促していた。
「……言ってみて」
「……俺は後で他の連中と接触した際に、有能かつ本当に信頼できると判断した奴をここに送るつもりだ。
トルタ、お前にはそいつらに俺たちへの絶対的な信頼を築かせて欲しい。如月も含めて……な」
絶対的な信頼?
……単なる共闘関係でなく、まず疑われないような関係って事かな。
恭介が私に何をして欲しいのか、うっすらと理解する。
「ここに……って、カジノに?」
「ああ、そういう連中が集まっているなら色々心強いだろ?
……如月みたいにお人好しで腕も立つなら護衛にはちょうどいいし、首輪の解除に貢献できそうな能力も持っている。
そんな連中を利用して身の安全を確保すると同時、いずれ俺たちが暗躍するときに疑われる要素を消しておくんだ。
こいつらなら信頼できる、まさか裏切るはずはない。
……そう思わせたならお前の、いや、俺たちの勝ちだ。
脱出の可能性が出てきたのなら、そのまま仲間のままでもいい訳だしな。
信頼を築いて損はしない。
……それに、カジノのアイテムには正直、とんでもない枚数を稼がないと手に入らないものもある。
だったら人海戦術で責めた方がいい」
……つまり、終盤に実際に動くことを考えて、そのための仕込みをして欲しいってことか。
恭介は更に、私への協力を呼びかける。
「……そしてもう一つ。
その携帯電話を利用して、他の参加者と接触してもらいたいんだ」
「他の参加者……?」
「ああ、その携帯電話には何人か、名簿と一致する奴の名前が登録されている。
……って、事はだ。
他の奴の携帯電話もどこかに支給されている可能性があるんじゃないか?」
「あ……!」
……他の人間のケイタイ電話。
それが支給されているって言う事は、その人たちとも連絡が取れる――――、そういう事?
「その通りだ。
……とりあえず電話帳に登録されている奴にかけて、話の通じそうな奴だったらそのままそいつと定期的に連絡を取ればいい。
俺たちの所在はバラさずに、な。
ヤバい匂いがしたらさっさと切って、二度とその番号からの電話には出るな。
……こっちの居場所さえ喋らなきゃ、電話越しじゃどうにもできない。
その一点さえ肝に銘じて行動すれば、情報だけを手に入れることも可能なんだ」
……確かに、情報交換だけを目的にするならかなり安全な手段だと思う。
場所さえ言わなければ、ここに向かわれることもない。
……やる価値はある、と思う。
ただ、もし信頼できそうな相手なら、いずれ共闘するかもしれない。
「……もし何度か連絡して、信頼できると判断したらここに呼ぶの?」
……そんな疑問を恭介にぶつけてみる。
「……場合によるな。その辺りの判断はお前に任せるさ。
あんなこと言っといてなんだが、俺はお前の事を信頼してる。
だからこそ、たとえミッションに直接参加しなくても、お前には他の連中の信頼を繋ぎ止める楔になってもらいたいんだ」
……私を信頼してくれている。
その言葉を聞いて、ようやく細波だっていた私の心は落ち着いてくれた。
出来るかどうかは分からない。
でも、演技には自信がある。誰であっても騙し通してみせる。
……それが必要だと言うのなら、私はそれを叶えたい。
やりとげてみせたい。
「……納得して、くれたか?」
気遣うような恭介の目つきにようやく気付く。
……馬鹿だな、私。
恭介だって色々考えて、あの言葉を口にしたんだろうに。
「…………、うん」
だから素直に頷いて、恭介の言葉を待つ。
「……あとは、そうだな。
切り札についても説明しておくぞ」
「……切り札?」
聞き返す。
お互いの持ち物は全部知っているのに、そんなものあったっけ?
特に私には思いつかないんだけど、何だろう。
「いいか? ……絶対にこれは誰にも口外するな。
如月にもだ。
……いざという時、絶対にお前が生き延びる力になるはずだから、な」
――――耳元で、周囲を気遣うように告げるその声色には強い芯のようなものがあり、有無を言わさずに頷かされる力を持っていた。
それを見届けると恭介は、私の手の中にあるケイタイ電話を操作し、一つの画面を呼び出していく。
……言葉の圧力に押されたのか、それをとても大切なものだと思った私はその手順を心に刻み込む。
……そして表示されたものは、私を絶句させるに充分なものだった。
『――――禁止エリア進入アプリ。
このアプリを作動させた場合、このアプリがインストールされた携帯電話から
半径2mまでに存在する首輪は禁止エリアに反応しなくなります。
効果の持続時間は1時間、3時間、6時間の3種類。それぞれ1回ずつしか使用できません』
「……恭介、これ……!」
……ようやく、私は気付く。
この携帯電話を渡したり、自分だけがミッションに行くと告げたり。
今さっきからの恭介の言動は全て、私を生かすための算段だったということに。
私の驚愕を無視して、彼は淡々と『緊急事態』の際の対策を告げていく。
……気遣ってくれた嬉しさよりも、怖さが強いくらいに淡々と。
「……いざ何かが起こっても禁止エリア内部に逃げ込めば、最低でも10時間は生存が期待できる。
禁止エリアに比較的近いカジノを拠点に選んだのもその為だ。
……その脚で移動はきついかもしれないけど、ここのセキュリティと如月のスターブライトを使えばどうにかなるんじゃないか?」
……どうして、なんだろう。
どう考えてもおかしい。
こんな道具、自分が生き残るために使うべきだろうに、なんで私に渡すのか。
いや、彼の頭脳ならもっともっと有効な使い方だって思いつくだろうに、私を生き延びさせるなんてつまらないことに使うのか。
何にせよ、彼の行動は大切な人に尽くしているにしても――――、あまりに自分を顧みなさ過ぎていた。
……思えば、自分ごと相手を撃て、とか。
一人だけ車で逃げられたのに、助けに戻ってきた、とか。
それが自分のできること全てを尽くす事だとしても、限度というものがある。
理解できなくて、許せなくて、哀しくて。
――――気付けば、私は恭介に疑問をぶつけていた。
「どうしてここまでしてくれるの?
ううん、どうして自分の命が計算に入ってないの!?
答えてよ、恭介っ!!」
……だけど、恭介の表情は変わらない。
薄笑いを浮かべて、どうしようもないと諦めるような顔のまま。
ただ彼は、どこか遠くを見つめている。
「……どうして、か」
「ねえ、何で笑ってるの? どうして、どうして!?」
子供が駄々を捏ねるように、恭介の服を掴む。
そんな私に呆れたのか、あるいは彼自身最初から話すつもりだったのか。
……彼は、答えを紡ぎだす。
――――今までの彼の行動、全ての根源にある事実を。
「……簡単さ。大切な奴に未来があるなら、俺の命なんて惜しくはない。……だって、」
泣きたがっている様な笑み。
「俺は、―――――――――だからな」
「……え?」
……今、何て言ったの?
一瞬、理解が遅れた。
恭介の言葉をなぞるように口を動かしても、当然意味は変わらない。
それでも、一言一言を飲み込む為に、噛み砕いていく。
――――俺は、すでに死んでいるはずの人間だからな。
「……とっくに死んでるはずの命が、最後の輝きで誰かを助けられる。
だったら俺は本望だ」
……全身が麻痺しているように、体が動かない。
嘘、と言いたくなるのに、恭介の目はどうしようもない真実だと語っていて、それを許さない。
恭介、あなたはだって今、ここにいるのに。
……理解する。
彼は生きている者に希望を継ごうとしているんだ。
理樹に、鈴に、そして私に。
それこそ、散り行く最後の花が実を残すように。
……そして、恭介は語り始める。
悲しい事故の話を。
そこに生まれた一つの奇跡の話を。
何度も何度も繰り返される時間。
大切な誰かを弄び、傷つけ、侮辱しながらも、希望である二人をただ強くすることを望んだたった一人の旅路。
――――そこにはどれだけの苦しみと覚悟があるんだろう。
いつしか私は、泣いていた。
私自身の事ではないのに。
「……って、こういう訳だ。……信じられないかもしれないけどな。
だからトルタ、……あの時みたいなことになったら、躊躇わずに撃っちまっても別に構わないんだ」
……だって。
何が哀しいって、恭介は、自分自身が救われることを最初から考えてないのだから。
「そうだな、次に俺が窮地に立たされたとしても、さっさと見捨てて――――、」
パチン。
「……トルタ?」
――――恭介が、頬を押さえて呆然とこちらを見ている。
「勝手なこと、言わないで……」
手の平が熱くて、痛い。
――――でも。
そうせざるを得なかった。
叩かずにはいられなかった。
「……恭介、確かにあなたはずっと頑張ってきた。
じゃあ聞くよ、あなたの幸せはどこにあるの……?
あなたの想いは、どうやったら報われるの!?」
止まらない。
感情がどんどん溢れ出てくる。
……理由は簡単、単純に恭介が許せない。
「あなたの言うとおり、あなたは一度死んでしまったのかもしれない。
だけど、……だけど!」
……なんで諦めてしまうんだろう。
頑張って、頑張って頑張って頑張って。
その果てにあるのが変えられない死なんて、あまりに惨い。
「……今ここにいる恭介は、生きてる。
生きて、私の側にいて、私を護ろうとしてくれてる。
……あの人たち、言ってたよね。死んだ人を生き返らせられるって」
でも、今は違う。
……あなたは確かにここにいるの。
たとえそれが命を弄ばれた結果でもいい。
今のあなたには、まだまだ先がある。
報われることを諦める必要なんて、少なくとも目の前にいるあなたにはない。
「……ああ」
――――だから、最初から諦めてしまう必要なんてない。
私が伝えたいのはそれだけだった。
「……ただ、あなたは生き返った。それでいいと思うし、それを知っていて欲しいの」
ゆっくりと手を恭介の左胸へと持っていく。
そして反対の側では同じ様に恭介の手を取り、私の胸に。
「少なくとも今は、私と同じ世界にいる。夢の中じゃない、私のいる世界に。
それは確かなことで、誰にも否定できないはずよ」
私と恭介の鼓動が、確かにそこにある。
重なったりしている訳じゃない。
だけどそれでも、同じ様に確かに命を刻み続けている。
恭介は戸惑いの表情を浮かべて、うわ言のように口を動かしている。
まるで、さっきの私のように。
「……でも、俺はあいつらとお前を――――、」
……だから、私はさっきの恭介のように事実でそれを切り捨てる。
それがきっと、彼のためになると信じているから。
「……独り善がりだよ、恭介。今のあなたは確かにここにいる。
今わの際の夢の中じゃないのなら、生きているのなら、」
――――なんで私たちって、こうまで似てるんだろうね、恭介。
「……あなただって、幸せにならなくちゃいけない。
報われない想いなんて、私は認めない!」
……きっと。
私は多分、恭介に。恭介は多分私に自分を見ていて。
……自分が報われないからこそ、お互いの事を救われてほしいと思っている。
……だったら、私のしたい事は一つだ。
「…………トルタ」
不意に俯いたまま、恭介はぽつりと呟いた。
「……恭介、あなたは……、」
……何を言えばいいんだろう。
ただ何となく返事をしたものの、続く言葉がなくて少し戸惑う私に恭介が届けたのは想定外のものだった。
「く……、はは、あはははははは、はははははははははははははは……!」
「……はい?」
何で笑うの?
……何か私、変なこと言ったかな。
く、くさい台詞だと言えば確かにそうだけど……。
……だけど、彼が笑う理由はまったく別のものだった。
「全く、俺がずっと思い詰めてた事を一蹴かよ、あはははははははははは、ははははは……!
……どいつもこいつも大切だからこそ、誰にも聞かせられなかったのにってーのに。
何故かお前には話しちまって、そしてお前は簡単にそれを張り倒しちまった。
大した奴だよ、たはは、ははははははははははは……」
――――そこにどんな意味が込められているのかは、分からない。
もしかしたら私なんかが口を出してはいけないことだったのかもしれないし、
どこか間違っていれば逆鱗に触れていたのかもしれない。
……ただ、一つ分かるのは当たり前の事。
恭介は、笑いたい気分だった。
私が彼の中の何かを否定したことが、きっと痛快だったのだと、それだけだ。
そこにさっきまで張り付いていた表情はない。
ひときしり笑い終わった後。
どこか安心したようにも見える顔で、恭介は私に問いかける。
「……なあ、トルタ。ひとつ……いいか?」
「……うん。私でいいなら聞くよ?」
何度目かの同じ台詞に苦笑しながらも、それでも私は恭介の言葉を待つ。
……彼の本音の一部かもしれない、その言葉を。
「――――俺は色々、許されないこともやってきちまったけど。
それでも……報われていいと思っていいのかな。
実際に報われることはないとしても、……思い描くくらいは許されるのかな」
だけど、さっきのように、恭介自身のように、やっぱり私は事実を突きつける。
「……分からないよ」
だって、私は恭介本人じゃない。
あなたの中にある想いがどれほどで、どう育まれてきたのかを知らないから。
……そう、だから。
「私は分からない。あなたがどんな事をやってきたのかも、どんな人に囲まれて、どう育ってきたのかも。
だから――――、」
私はだから、あなたの大切に想う仲間たちをもっと知ってみたい。
あなたと言う人の核にいる人たちを、もっともっと。
「……聞かせてくれる? 恭介の大切な仲間たちの事を、全員分。
さっきの謙吾って人の話ももう一度最初から聞いてみたい。
……知ってみたいの、恭介」
「……ああ、そんなんで良かったらいくらでもするぞ。
聞いて驚け、どいつもこいつも馬鹿ばっかりでさ。
本当に最高の奴らなんだよ。大馬鹿な俺には勿体ないくらい、最高なんだ……」
――――本当に、心の底から嬉しそうな、楽しそうな顔で。
恭介は一人一人の事を語っていく。
眠り病を患っていて、少し頼りなげだけど恭介が誰よりも目をかけている『普通の少年』。
彼が夢の中のような世界で、少しづつ強くなっていくのは聞いていて私まで嬉しくなった。
いつも独特なペースで周囲を自分色に染め上げる『憎めない筋肉馬鹿一直線』。
誰よりも純粋な彼は、今もどこかで誰かを呆れさせながらも楽しませているのかな。
実直で、一番の仲間想いで、色々な意味で躊躇いのない『最強の男児にして真人のライバル』。
……強いからこそ弱さを併せ持つ彼の最期は、どうだったんだろう。会ってみたかった。
愛くるしくて、何かしでかしてもくすりと笑って許してしまえそうな『なかなか人に懐かない気高き仔猫』。
どこか放っておけないのに人を寄せ付けない彼女なら、恭介が過保護になってしまうのも納得だ。
他にも、他にも。
『ほんわかきゅーとなメルヘン少女』。
『えきぞちっく(自称)なマスコット』。
『お気楽 極楽 騒がし乙女』。
『日傘を差した物静かな天然素材』。
『ちょっぴりお茶目な姉御肌』。
こんな人たちの織り成す日常は、聞いているだけでも楽しそうで。
――――この人たちの輪の中に私がいないことに一抹の寂しさを覚えてしまうくらいだった。
……ただ、来々谷という人の話を聞いた時、少しだけ、怖いと言う感情が滲み出した。
聞くからに面白い人で、飄々としながらも面倒見がよく、尚且つ自分の趣味を忘れないというまさしく姉御肌な人だ。
そんな人がクリスの側にいるということを思い出す。
怖さを見つめてみれば、クリスの顔が頭に浮かんだ。
……私は、クリスの側にそういう人がいるから怖いんじゃない。
クリスの側に魅力的な人がいるのに、それにあまり不安を覚えない自分自身が怖いんだ。
……自分自身が知らない何かに変わっていくような錯覚を押し込めて、恭介の話に耳を傾け直す。
……私の何かが軋み続けている。その事実からまるでそれから逃げるように。
クリス、無事でいて。
とってつけたようにそんな事を思い、しかしすぐに頭の中はまた恭介の仲間たちに流されていく。
……顔すら見ていない、名前しか知らない全くの他人。
そんな人たちにこんな想いを抱くのは、生まれて初めての事だった。
できれば全員無事でいてほしい、……ううん、違う。
……お願いだから、誰一人死なないでください、と。
私自身がその人たちに会ってみたいし、恭介に悲しんでもらいたくもないから。
だけど、考えたくないけど事実は残酷かもしれない。
……もしもまた、大切な人が命を落としたら、今もまだ張り詰めている彼の心はどうなってしまうのだろう。
私は卑怯だ。
考えたくないといいながらその事を考えて、都合のいい想像をしてしまう。
だけどそれでもだ。
……それでも、確かな想いはここにある。
……せめて、私は側にいよう、って。
彼の心が限界を超えて溢れ出してしまっても、それを受け止める先になれればいい。
私では役不足かもしれないけど、そもそも彼自身がそれを許すかも分からないけど。
……彼が涙を流せる場所があると、知っていてほしいから。
◇ ◇ ◇
――――残念だが、少女よ。
誰一人欠けないという君の願いは叶わない。
そして、だ。
君の願いは確かに尊いものだ。
だが、気付いているのだろう?
……君の中には確かに存在しているはずだ。
その青年の悲しみに明け暮れる姿を見てみたい、という歪んだ感情が。
ああ、単なる私の推測だ、否定する材料は充分あるだろう。
しかしだ。
彼の見せる弱さに付け込んで、自分自身の側に惹き止めておきたいと、そんな邪な思いが存在していないと言い切れるかね?
君のエゴイズムが言動や行動の端に息づいているという、私の妄言を否定する材料もないのではないかね?
……ああ、君にこの言葉を聞かせられないのが実に残念だ。
だが、来るべき時には君が強く強く彼への感情を育んでいることを私は祈ろう。
君の思いの丈が強ければ強いほど、欺瞞が大きければ大きいほど。
邂逅し、切開を施すまさにその時が待ち遠しくなるのだよ。
それまで生き延びられれば――――、の話ではあるが、な。
◇ ◇ ◇
――――そして、誰かが待ち望んだ時は訪れる。
【G-6/カジノのセキュリティコントロールルーム/1日目/昼(放送直前)】
【チーム:BOY DOESN'T CRY MEETS LIAR GIRL】
共通方針
1:カジノを拠点として近郊の施設を探索。
2:他の対主催のメンバーと接触。
3:そこから情報を得る。
4:自分に危害が出ないように、相手のプロファイリングを元に他の対主催の悪評、もしくは真実を伝える。
5:十分な情報を得たらそのメンバーと別れる。もし理樹、クリスがいるメンバーなら合流。その後隠れながら邪魔な対主催メンバーを排除。
6:もし中々合流できない場合、もっとも安全だと思われるチームに合流。(戦力の面で、信頼関係も含め)
7:序盤は積極的には人を殺さない。基本同士討ちを狙う。情報最優先。終盤は対主催の中心になりなるべくマーダー排除。のち疲労した対主催から狙う。
8:最悪クリス、理樹、鈴がどちらかが死亡した場合は片方のサポートに徹する。両方死亡した場合は互いに優勝を狙う。二人になった場合一騎打ち。
9:ただし、完璧に脱出ができる状況になったらそのまま対主催に変更。
10:また、主催の動向や信憑性次第でも対主催に変更。
11:カジノ近郊を行動範囲にしていることを信頼できる人間に託し、理樹、鈴、クリスに伝えてもらう。
12:脱出や首輪、主催者の目的についても真剣に考察する。
13:信頼できる対主催を見つけた場合、カジノに集め、絶対の信頼関係を築く。
14:携帯電話を利用し、不認知の参加者と接触。その際はカジノを拠点にしている事は告げない。
15:双七を斥候及び護衛として上手く利用。思惑を悟られないようにする。
16:双七と恭介が3時間ごとに交代しつつ、周辺地域探索を行なう。なお、上記の2〜5は恭介の探索時のみ実行。
17:カジノの景品の確保。特にUSBメモリを狙う。
18:羽藤桂を見付けたら保護。但し残り人数が二桁を切った場合や、止むを得ない理由がある場合はその限りで無い。
【棗恭介@リトルバスターズ!】
【装備】SIG SAUER P226(15/15)@現実、トンプソンコンテンダー(弾数1/1)
【所持品】:支給品一式×2、SIG SAUER P226の予備弾3@現実、コンテンダーの弾44発、デジタルカメラ@リトルバスターズ!、アサシンの腕、首輪(ティトゥス)、カジノの見取り図、ゲーム用のメダル(500枚)
【状態】:脇腹に深い切り傷(処置済み)、胸部に軽い打撲、肉体的疲労(大)
【思考・行動】
基本方針:共通方針の通りに行動し理樹、鈴を優勝させる。トルタの生存に力を尽くす。ただし慎重に慎重を期す。
0:――――俺自身の、救い……。
1:しばらく休息、カジノのセキュリティを利用して周辺を警戒。景品の確保。
2:3時頃から双七と偵察を交替、他の参加者と交流する。近郊の施設を探索する。
3:筆談などを用いて殺し合いや首輪についてトルタと考察する。
4:トルタの過去に興味。
5:『トルタの好意に気付いている』フリをし、親密にしても怪しまれないようにする。
6:トルタを見捨てない。
7:『首輪の設計図』をとりあえず集める。その為にデジタルカメラやUSBメモリを閲覧できる機器を探す。
【備考】
※トルタを信頼し、共感を抱いてます。
※トルタとの間に符丁をいくつか作りました。
『時間』と『動詞』の組み合わせで意思疎通を行います。
(『分』:名簿の番号の人間、『待つ』:怪しい など。
『秒』や『時間』、その他の動詞の意味については詳細不明です)
※トルタとはぐれた場合の合言葉は『トルタの知り合い全員の名前』です。
※参戦時期は鈴ルートの謙吾との野球対決後、リフレイン以前です。
故に、リトルバスターズメンバー、特に謙吾に申し訳なさを感じています。
※羽藤桂、浅間サクヤ、神宮寺奏、プッチャンの細かい特徴を認識しています。
※黒幕がいると思ってます。
※参加者によっては連れてこられた世界や時代が違うと思ってます。
※双七と情報交換しました。
※首輪のカメラの存在について知りました。
※監視は『上空』『重要施設』『首輪』の3つから、カメラ及び盗聴器によって行なわれていると考えました。
※この殺し合いは、『神々のゲーム』であり、自分達はその駒であると考えました。
ゲームの終了は、『優勝』『優勝以外の何か』を満たした時だと推測しています。
ただしゲーム終了後の駒の扱いについては疑念を持っています。
ある程度の信憑性を得るまで、これを誰かに話すつもりは今のところありません。
※デジタルカメラに収められた画像データのうちの一つは、『首輪の設計図−A』です。
外見から分かる範囲での首輪の解説が記されていますが、内部構造については一切言及はありません。
また、デジタルカメラで閲覧した場合画像が縮小され、文字の殆どが潰れて見えます。拡大はできません。
記されたデータの信憑性は不明です。
他に首輪の設計図があるかどうかは不明です。
【トルティニタ=フィーネ@シンフォニック=レイン】
【装備】:Sturm Ruger GP100(6/6)@現実
【所持品】:Sturm Ruger GP100の予備弾4@現実、言葉の携帯電話@School Days L×H、医療品一式 、恭介の機械操作指南メモ、カジノの見取り図
【状態】:肉体的疲労(中)、右脚に貫通射創(処置済み)、左脚に盲管射創(処置済み)、モルヒネによる下半身の感覚の麻痺
【思考・行動】
基本方針:共通方針の通りに行動し、クリスを優勝させる。恭介のサポートに徹する。ただし慎重に慎重を期す。
0:……どうか、恭介の仲間が無事でありますように。
1:カジノで待機し、セキュリティを利用して周辺を警戒。景品の確保。
2:双七を含めた参加者から信頼を勝ち取れるように演技する。
3:道中、筆談などを用いて殺し合いや首輪について恭介と考察する。
4:恭介に対して――――?
5:『恭介に好意を抱いている』フリをし、親密にしても怪しまれないようにする。
6:恭介を見捨てない。
【備考】
※恭介を信頼し、共感してます。
※恭介との間に符丁をいくつか作りました。
『時間』と『動詞』の組み合わせで意思疎通を行います。
(『分』:名簿の番号の人間、『待つ』:怪しい など。
『秒』や『時間』、その他の動詞の意味については詳細不明です)
※恭介とはぐれた場合の合言葉は『恭介の知り合い全員の名前』です。
※登場時期はアルルートのアルが復活した頃です。
※羽藤桂、浅間サクヤ、神宮寺奏、プッチャンの細かい特徴を認識しています。
※黒幕がいると思ってます。
※参加者によっては連れてこられた世界や時代が違うと思ってます。
※双七と情報交換しました。
※怪我の為に走る事はできませんが、時間がたてば多少は歩けるようになる可能性があります。
※携帯電話とコントロールルームの操作方法を恭介から聞きました。
※首輪のカメラの存在について知りました。
※監視は『上空』『重要施設』『首輪』の3つから、カメラと盗聴器によって行なわれているという考察を恭介から聞きました。
※言葉の携帯電話には禁止エリア進入アプリがインストールされています。
※恭介の過去の話を聞きました。
【言葉の携帯電話@School Days L×H】
桂言葉の持つ携帯電話。何人かの人間の電話番号が登録されている他、禁止エリア進入アプリがインストールされている。
このアプリを作動させた場合、このアプリがインストールされた携帯電話から
半径2mまでに存在する首輪は禁止エリアに反応しなくなる。
ただし、効果の持続時間は1時間、3時間、6時間の3種類あるが、それぞれ1回ずつしか使用できない。
※カジノのコントロールルームからは、カジノ内の監視を行なうことができます。
また、隔壁や消火ガスの操作も可能です。
※カジノ内では、
支給品1つ(複数個支給されたものは、最初の個数の過半数で交換):250枚
首輪1つ:500枚
のレートでコインの交換ができます。
※スロット以外のカジノのゲームは、ディーラーロボ“メカコトミ”を起動させることでプレイ可能です。“メカコトミ”の形体その他性能は不明です。
※現在判明している景品は、防弾チョッキ(1000枚)、USBメモリ(10000枚)です。それ以外は詳細不明。
景品は自動販売機に酷似した機械によって入手可能です。
◇ ◇ ◇
「……よしよし、もっと食うか?」
とりあえず恭介とトルタが何か込み入った話をしているみたいなので、俺はとりあえずスターブライトと一緒に周囲を見張ることにした。
ついでにスターブライトに俺の飯として支給されたニンジンを幾つかあげている。
……生の人参が俺の食料に入ってたのは、最初っからこうする為だけになんだろう、きっと。
あの部屋には雰囲気的にもこう……何というか、入りづらかったし。
間違ってないよな、俺の選択肢。
もうすぐ放送だし、それを聞いた後には恭介の提案通り3時くらいまで周辺を偵察することにするつもりだ。
トルタの脚を考えると何かあったら動きづらいだろうから、とりあえずスターブライトは彼らに任せておくのがいいかもしれない。
「……スターブライト、トルタと恭介を頼んだぞ」
力強く、尚且つ優雅に嘶きをあげるスターブライトに片手を挙げ、俺はひとまずぼんやりと空を見上げることにする。
……ところで俺、忘れられてる訳じゃないよな?
【G-6/カジノ裏手従業員用入口/1日目/昼(放送直前)】
【如月双七@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:クサナギ@舞-HiME 運命の系統樹、双身螺旋刀@あやかしびと −幻妖異聞録−
【所持品】:支給品一式×3(食料-2)、予備弾丸18、首輪(リセ)、刹那の制服と下着、ファルの首飾り@シンフォニック=レイン、良月@アカイイト
【状態】:強い決意、肉体疲労(中)、精神疲労(中)、右膝と右肩に貫通射創(処置済み)、左肩裂傷(処置済み)
【思考・行動】
基本方針:仲間の確保と保護。
0:いい天気だなあ……。
1:恭介たちと同行、とりあえず提案は受け入れる。
2:九鬼先生と合流する。
3:向かってくる敵は迎撃。必要なら手を血で汚すことにも迷いはない。
【備考】
※双七の能力の制限は使い続けると頭痛がする程度です。
※首輪装着者の行動は主催者に監視されていると思っています。
※恭介達と情報交換しました。得たのは偽情報ではありません。
※首輪のカメラの存在について知りました。
※監視は『上空』『重要施設』『首輪』の3つから、カメラと盗聴器によって行なわれているという考察を恭介から聞きました。
※スターブライト@Strawberry Panic! はカジノの裏口に係留されています。
投下乙です
恭介とトルタの関係がまた深まったようで……どこまで行くんんだwww
恭介の考察も実にいいですね、トルタも健気に悩んでいるしwww
双七……ああいましたね……0:いい天気だなあ……。って、おいwww
とにかくGJでした
投下おつかれさまです!
最初双七がいつ空気壊してくれるか少しだけドキドキしながら読んでて…そこで来るかww
考察が進みましたね。ついでにカジノであんな作戦も…。恭介すげえなぁ。どうなるんだろうか。
それにしてもトルタはかわいいなぁ……。
そして恭介がうらやましいなぁ……。
さらに双七は二人が独自の世界作ってて本当に空気気味だなw
発言数が少ないぞww
もうこの二人ラブラブだな……ロワでの最中に…早くなんとかしないとw
見てるだけでもいいですけどね。
携帯は言葉様のだったか。どうなるかにちょっと期待
最後にカジノの”メカコトミ”にwww
投下乙
長編の恋話を堪能させていただきました
ああ、これはギャルゲロワなんだなとw 考察も良し。
なんか、馬よりも目だってない双七くんに吹いた
あと、支給品に関してですが、
以前の話で言葉が言葉の携帯電話に掛けて通じていないので、
別のキャラの携帯の方がよいと思いますよ
投下乙です
トル恭急接近!!
もうお前らはくっついてもいいよwww
そして双七、お前空気すぎるぞwwww
前回の活躍がウソのような空気っぷりで吹いたwww
投下乙
ラブラブしすぎだろお前ら結婚しろw
そしてお前はやっぱ空気だな双七
投下乙。
おお、恭介とトルタがいいなぁ……目下、最大の恋愛フラグだ、やっぱりw
言峰の娯楽染みた話もよかったし、良い考察でした。
そして一言言わせてほしい。
そ、双七くーーーーーーーーーーーんッ!!?wwwwwwwwww
投下乙
熱血バトルの次は首輪の考察ですか
恭介は本当に順調に対主催してるなあ
さて、お互いいつまでも間抜けな面を晒し合っていても仕方ない。
横たわっていた神宮司奏の手に武器が無い事と、目に見える敵意が無いを確認すると、
対峙するトーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナは、表情の変化を観察しつつ問答を開始した。
もちろん持っていた武器は即座に捨て、敵意が無いことを十二分にアピールしてだ。
最初は警戒していた奏も、トーニャ達が殺し合いに乗っていない事をすぐに理解。
と言うのも、事あるごとに割り込む井ノ原真人のせいで、緊張感など一瞬にして霧散してしまっていたのだ。
会話に混ざれないのが寂しいのか、自分の知っている単語が飛び出せば勝手に喋り出し、
その度に筋肉的な言語で奏を混乱させ、その結果、間違いを正そうとトーニャから幾度もの修正を喰らう。
真人を誘導する手綱を上手く握り始めているとは言え、流石のトーニャも殴りたくなる時がある。
ものの数分で済むはずだった自己紹介ですら、結果的には十分以上の時間を要する事となった。
けれども、それが空気を緩和したのは事実で、全ての情報交換が終わる頃には笑みを零す間柄となりつつあった。
ふと、トーニャの脳裏に『筋肉の功名』なる単語が浮かんだが、すぐさま奈落の底に沈める。
残念な事に、お互い直接的な知り合いは居なかったが、浅間サクヤと大十字九郎に関してだけは収穫だ。
特に大十字九郎。ドクターウエストと奏の情報を照らし合わる限り、味方としてはかなりの戦力アップに繋がる。
と、先程からジッと目を瞑りつつ、真剣な面持ちを浮かべていた真人がようやく目を見開く。
ある人物の情報を聞いてから、真人は自分に出来る最大限の想像力を働かせ、興奮し、胸を高鳴らせていた。
「へッ! 駅のホームですっぽんぽんたぁ、なかなか見上げた筋肉の持ち主だな」
奏を助けたと言う、全裸の男。都会育ちの全裸。締りのいい都会派。シティーボーイマッチョ。
聞けば別れるまでの六時間、身に纏ったのはタオルのみだったと言うではないか。
真人は想いを馳せる。隠す事無く晒された筋肉は、きっと真人を次のステージに向かわせてくれると。
彼の男は、至高の筋肉だろうか。はたまた、究極の筋肉だろうか。
詳細を訊ねた時の奏の言葉から考えるに、きっと後者の筋肉だろう。ならば自分のライバルだ。
だが、同時にこの衝撃的な事実は、自分の不甲斐無さを痛感させる事にも繋がった。
素晴らしい筋肉を持った男が、同じ空気を吸いながらも、その肉体を武器に新鮮な汗を迸らせている。
なのに真人自身は、服と言う恥知らずな布に身を守ってもらい、己の肉体を存分に表現出来ずにいるのだ。
汗はシャツに吸収され、冷たい外気は制服に遮断され。言ってみれば温室育ちそのもの。
気付かされてしまう。自分はこんなにも過保護なまでに守られた存在だったのだと。
歴史を辿れば、勇ましい肉体を誇る人間は、みな常に裸だったに違いない。
裸で交流し、裸で友情を育み、裸で戦場を駆け抜けぬけてきた。
そう。人類は常に己を包み隠さず、肉体に邪魔な制約を与えず生きるべきなのだ。
雨にも全裸で。風にも全裸で。そうして筋肉は、本当の成長を遂げるはず。
思えば、こんな素晴らしい歴史に、真人は幼い頃から泥を塗り続けてきた。
恥晒しと呼ばれても仕方ない。服を着るなどという、罪深い生き方を無意識のまま選んだのだから。
否。まだ間に合う。なれば今後、自身も全てを曝け出し、胸をはって生きればいい。
「……負けたままじゃいられねぇ!」
瞳に野性をたぎらせ、真人は咆哮をあげながら強引に制服を脱ぎ始めた。
さてこれからどうするかと、顎に指を添えていたトーニャは、反射的に隣の馬鹿にキキーモラを放つ。
既に半裸状態だった真人の胸板に、キキーモラが拘束を目的に目一杯喰い込む。
「すわッ! 何をいきなり脱ぎ出しているんですかプランクトンもどきが!」
「離せ! これは俺自身の戦いなんだ! 絶対に負けられねぇんだぁよ!」
「あれですか!? 予想はしていましたが、やはり九郎さんとやらのエピソードに感化されやがりましたか!?
いいからむさ苦しい筋肉をしまえッ! いえ、縛ってるのは私ですが、とにかくどうにかしやがって下さいっ!」
一方、流石に場の流れについていけない奏は、微妙な表情のまま後ろに後退っていく。
至極真っ当な対応だ。第三者から見れば、気持ちいいくらい呼吸の合ったモノを見せられたのだから。
引き締まった腹筋をキキーモラで締め上げながら、トーニャは務めて冷静な口調で訴える。
「いえ。待って下さい。誤解しているようですが、私はむしろ被害者です。ええ、被害者ですとも」
「わ、解かってます。大丈夫ですから……そうですよね。そう言う愛の形も大切ですものね」
「いやいやいや! 奏さん? 神宮司奏さ〜ん!? 妄想の世界からカムバァァック!
もしかしてフラグ立ってるとか勘違いしてませんか? ありえませんからねその結論!
おい『トーニャ×真人』とか電波発進した奴、画面の前に立て……修正して差し上げます!
見て下さい私の目の前の女性を。目を閉じつつ頬を赤らめて、多分凄い物語になってますよッ!?
多分ここからは、ライトノベルから二次元ドリームにバトンタッチな展開ですね! 実に勘弁願いたい!
いえ。例えばこれが男女で「あーん」したとか、温泉でキャッキャウフフを目撃したとか、
はたまた若い男女が長編に渡るラヴラヴな空間を描き、一人の青年を空気に追いやったとかならOK!
でも、貴女が目撃したのはどう好意的に見てもSMプレイですからッ! いえ、これはSMじゃないですよ!?
ただこれは、この筋肉を効率的に抑えるためで、決して好きでやってるんじゃないですからね?
と言うか、何で私はこんな説明する事態に陥っているか、よくよく考えれば貴女も責任があるんですよっ!?
ほぉら。とりあえず誤解を解く作業に戻りましょう? ね。誤解を解く権利書を差し上げます。
とりあえずその、『解かってる。私は受け入れます』って顔やめて下さい! いいですか、私とこれの関係は――」
「へへへ……いい締まり具合いだぜ。さすが俺と(筋肉で)通じた仲だッ!
こんな時ですら俺を鍛えてくれるとはなぁ! いいぜぇ、もっと俺を締め上げてくれぇ!」
「ちょっと黙ってろそこのボンレスハム」
「て・けりり」
「アオオオーーーッ!!」
十数分後。
そこには、敗れかけの服を着つつも満足げに床に倒れる真人と、トーニャに頭を下げ続ける奏の姿があった。
ようやく迎え入れた仲間が、またしてもボケ担当だった事に頭を痛めるトーニャ。
ダンセイニが元気を出せよと言わんばかりに、トーニャに擦り寄る。
「ええ、ありがとうございます。ただ慰めてくれるのは嬉しいですが、
貴方に慰められれば慰められるほど、私の心が余計に咽び泣きそうなので、出来れば勘弁して下さい」
「て・けり」
さらに数分後。
ようやく目を覚ました真人を無視しつつ、トーニャはようやく今後の事について説明を開始。
時間短縮にと、移動しながら奏に自身の方針を打ち出す。もちろん真人は言っても無駄なので捨て置いた。
まず始めに、奏がどうやってあの場所に訪れ、且つ倒れていたのかから確認しあう。
問い掛けられた奏は、出会った時にも口ずさんだ己の体験を、言葉変えずに語りだす。
普通ならば驚くのだろうが、この数時間で奏はこう言った魔法のような出来事に、すっかり慣れていた。
トーニャのキキーモラの事に関しても、気が付いたら受け入れていたくらいだ。
一方のトーニャも、二度に渡る奏の説明に矛盾が無い事を確認しつつ、改めて情報を整理する。
奏の語る事が本当ならば、ここはいわゆる瞬間移動の到達地点と言えよう。
そして現時点では、出発地点は教会の一角と考えられる。
では、これを使えば教会に戻るのか。それとも別の場所だろうか。
確かめるべく穴に突撃するべきか思案するものの、それは保留。いや、結論としては却下。
ここから何処に繋がっているか解からない上、その瞬間移動の発動条件が不明瞭過ぎる。
加えてもう一つ。どうやらこの洞窟自体もまた続きがあるようで、その探索も捨て置けないのだ。
ちらりと、奏と真人の様子を伺う。
(せめてもう一人ぐらい、ツッコミが欲しいんですが……って、そうではありません。落ち着け私)
分担して動くにも、お互い常に連絡が取れなければ意味が無い。
それどころか、地図にすら載っていない洞窟を探索するのだ。
あらゆる万が一と言う事態に備え、様々な対処方法を準備してから立ち向かうべきだと。
こういう場合、離れていても連絡手段を取れる道具があればありがたい。
が、情報交換時に併せ奏と支給品を見せ合ったが、交信に使えそうな品は入っていなかった。
もっともそんな物があるなら、奏は離れ離れになった九郎とやらと連絡を取り合っているはず。
念のため先の騒ぎの最中、どさくさに紛れて奏の身体をまさぐったが、それらしい物は所持していなかった。
(まぁ、もともと期待してませんでしたけれどね)
どちらにせよ、三人でもまだ人材不足だ。
奏自身が役不足とは言わないが、この面々では戦闘に巻き込まれるのは非常に困る。
敵対はしたが、最低でもドライの様な戦い慣れた人材が欲しいのは事実。
確かに、真人は馬鹿が付くほど丈夫な身体をしているのだが、イコール殺し合いが得意と言う訳ではない。
向こうの奏に至っては、下手をすれば戦いの足を引っ張るだけだ。
以上の事を踏まえて、やはり同じ学園の参加者とは早く合流すべきだろう。
ふと、奏が出会ったというスーツを着た眼鏡の男の事を考える。
奏の信頼を得ることを優先し、さらなる詳細を訊ねるのをやめたが、心当たりが一件。
断片的な情報だが、全てが一致する人物をトーニャは知っていた。名は加藤虎太郎。学園の教師。
だが、果たしてあの虎太郎が殺し合いに乗るだろうか。
普段の態度はともかく、生徒想いなのはトーニャだって知っている。
そんな人間が殺し合いに乗るには、それ相応の理由を持って来る必要があるだろう。
ともかく、運良く遭遇できたらその辺りの事情を聞いておこうと結論付ける。
考えが纏まった所で、トーニャ達は目的の場所まで辿り着いていた。
「で、なんで俺達は梯子の下にいるんだ?」
「先程説明しましたが、相変わらず右の耳から左の耳にフライアウェイですね。
もう一度説明してあげますから、左の耳を指で塞いだまましっかり聞いて下さい」
「おう! どんとこい!」
一生懸命左耳の穴に指を突っ込む真人に冷たい目線を向けつつ、トーニャは空を見上げ口を開く。
「食事の時間です」
「何ッ!? もうそんな時間なのか! あっぶねぇ……危うく餓死する所だったな」
「嘘です。と言うか一食抜いて餓死って、どんだけ虚弱なんですか」
「舐めんなよ? 俺の筋肉はなぁ、お腹が空いて泣き出すようには育てた覚えは無い!
ああ……むしろ空腹になればなるほど、力を発揮するタイプだと俺は信じているッ!」
「馬鹿だから説明が矛盾してますがもういいです。じゃあ食事は抜きでいいですね。
そうすれば貴方の言うように筋肉が鍛えられますし、その分の食料も余るし一石二鳥です」
「おう! 何がなんだかさっぱり解からんが、筋肉が鍛えられるなら問題ねぇ!」
「……奏さん。私の言った事覚えていますか?」
「は、はい。確か探索の準備を整えるのでしたよね」
「OK。ボケがあるとは言え貴女が会話できる人で良かった。
この巨大なプランクトンは会話すらあれなので、ここに放置してさっさと上りましょう」
「よし! 早く行こうぜ!」
「……」
トーニャが真人に告げた事は、あながち嘘でもなかった。
探索を続けるにしても、全体の広さが解からない以上、ある程度の食料と水分は備えておきたいのだ。
仮に瞬間移動で違う場所に辿り着いて、その先が魔境だったとしたら、またここに帰れる保障がない。
また重大な事がもう一つ。そろそろ放送の時間も迫っている事が挙げられる。
万が一にも地底にいて放送を聞き逃し、あまつさえ自分達のいるエリアが禁止区域になれば最悪だ。
そんな理由から、トーニャは放送の時間まで、寺の居住区で休息を取る事を決めた。
これを聞いた奏は、とある駅で待ち合わせをしていると申し出たが、今からでは間に合わないと却下する。
確かに仲間が増えるなら歓迎だが、ここから駅までは禁止エリアを迂回しなければならない。
その間に相手が移動してしまったら、入れ違いになる可能性がある。
納得したのか、奏はそれ以上食い下がる様な態度を見せる事は無かった。
さて、梯子を前にして、トーニャは真人に目線を送り、顎で梯子を指す。
ここで真人から上らなければ、また麗しい三角布が晒される危険性がある。
それを理解したのか、真人は梯子を両手で掴むと、力の限り引っ張った。
ぎちりと、どう考えても聞こえてはいけない音が梯子の真ん中から三人の耳に届く。
「ちょ! 何をしやがりますかこの時代遅れのKY馬鹿は! あれですよ!? 空気に対する苛めですよこれ!」
「何って、足を肩幅に固定しつつ、両脇をしっかり締めて、力の限り引っ張れって指示したのはお前だろうが」
「あ、ああぁ、あの仕草のどこにそんな指示が隠されていましたか!?
どうみても先に行けってジェスチャーでしたよねッ! 降りる時の事を覚えてませんか単細胞!
と言うか、どうするんですかこれ! まだ繋がってるけど、いつ切れてもおかしくないですよ!」
捲くし立てるトーニャに対し、悪びれる様子もなく真人は腕を組む。
「あぁん? そんなのアレだ。恭介の持っていた漫画と同じ上り方をすりゃいいだけだ」
「ほほう。漫画と言う時点で合格ラインにもろ引っ掛かりますが、一応聞いておきましょう」
「いいか良く聞け。井戸ってのはな、小さな窪みがあるもんだ……あとは解かるな」
「解かるかぁぁぁぁぁ! いや、言わんとする事は理解したけど出来ますかそんな離れ業!
アレですか? 漫画のロシアは常にそんな印象ですか? 擦り傷があれば上れると勘違いされてます!?
謝れ! どう見ても美少女で非力な外見の私に謝れ つか、そんな事出来ん! 出来ない! 出来んわッ!」
「あぁん? 最近だらしねぇな? そんな事じゃ俺と張り合うなんざ難しいぜ」
「……落ち着け私。KOOLだ。クールになるんです私。ええ、あの馬鹿の妄言を聞いちゃいけません」
支給品のカンテラを上空に向け照らしながら、問題の音が発生した場所を睨む。
どうやら、鉄梯子同士を繋ぎ合わせる部分が切れ掛かっているらしい。
だが、あれならば適当な布などで補強すれば大丈夫にも思える。
破れかけの真人のシャツをスペツナズナイフの刃で引き千切り、キキーモラの先端に括り付ける。
シャツを破られ驚く真人を無視し、問題の箇所までキキーモラを飛ばす。
が、あと僅かと言った所まで伸びるものの、微妙に届かない。
即座に諦め、キキーモラを戻しながら何か丁度良く台になる物が無いか周囲を見渡す。
「発見。ナイス着眼点ですね私」
視線の先には、邪魔だから筋トレしてろと申しつけ、本当に腕立て伏せを始めた真人の背中。
「教えて差し上げますが、絶対に反抗しないで下さいね」
「おう。最高の筋肉のためなら、俺は苦しくも辛い、激動の日々すら乗り越えていけるぜ」
「良く言いました。では」
梯子の真下に立つと、トーニャはゆっくりと視線を下ろす。
「四つん這いになって下さい」
「なれば筋肉が鍛えられるんだな」
交渉成立。この会話を経て四つん這いに。
肢体を地面にめり込ませ、がっちりと固定された真人を恨みを込め力一杯踏みつけつつ、足場を確かめる。
微妙に湿っぽいものの、踏ん張ってもぐら付かないのは流石とも言えよう。
と、視線が上がった所で、他の壁とはあからさまに違う不思議な色の壁を発見した。
降りるときは麗しの三角ラインの防衛戦で忙しかった為、見逃していたのだろう。
梯子を直すのも大事だが、違うと判った以上凄く気になるし、せっかくだから調べておきたい。
そっと指を当てようとしたものの、その壁から異臭が発せられている事に気付きやめる。
「奏さん。デイパックの中に、長い棒がありましたよね。それを取って下さい」
「ちょっと待って下さい……これで宜しいでしょうか?」
「ええ。ありがとうございます」
奏が取り出したのは知る人が聞けば慄く、有名なゲイボルグ。
が、受け取ったトーニャは、柄を握ると矛先で容赦なく壁を強引に穿り出す。
スコップと違い、細身の槍では穴を掘るのに適してはいない。なんて名ばかりの棒切れだろう。
それでも何とか壁を突き破り、槍が穴を貫通する。同時に、異臭が一層と強烈になった。
加えて、槍の先端にゴミのような塊が挟まったまま掘り出されてくる始末だ。
それを真下で四つん這いになる真人の頭上に落としながら、トーニャは顔を顰め溜め息を吐く。
「汚い穴ですねぇ」
微妙に臭くなったゲイボルグを奏に返し、そっと中を覗き込む。
腐った卵よりも酷い異臭が、穴の奥から生暖かい風と共に送り込まれてくる。
何処かに通じているのかもしれないが、こう狭い上に臭くてはどうしようもない。
穴の事は保留にし、鉄梯子の修復に意識を切り替える。
足の下の真人が「なんか臭ぇぞ」と失礼な事を抜かすので、蹴りを入れる。
「おいッ、なんで蹴るんだ?」
「初めて鍛える筋肉みたいですからね。力を抜いてください。鍛えてあげます」
「なんだそうだったのか。いいぞ、もっとやってくれ」
真人の背中を泥で汚しながら、トーニャはどうにか補強を完成させ一息つく。
下がってみていた奏に合図すると、その身体を真人の上に引き揚げた。
不安そうにする奏を安心させるため、トーニャは筋肉台座を何度も踏みつけながら梯子を引く。
女性の一人や二人が力強く引っ張っても、これならば千切れる心配は無いだろう。
足元の筋肉台座を四つん這いにさせたまま、先に奏に梯子を上らせる。
次にトーニャが井戸の外まで上り、最後に今だハチ公宜しく四つん這いだった真人を引き上げた。
井戸から飛び出した真人は、不思議そうに背中を摩り首を傾げる。
「なんかよぉ、背中が凄く痛ぇんだけど、どうしてか知ってるか?」
「成長痛です。おめでとう真人君。これで貴方の筋肉がもっと成長しますよ」
「おぉう! そいつはめでてぇ!」
喜ぶ真人を放置しつつ、トーニャと奏は寺の居住区に足を踏み入れる。
記憶通り、水も食料も豊富に揃えられており、問題は難なくクリア出来た。
放送までまだ時間がある。と、ここでトーニャは奏が訝しげな表情を浮かべているのに気付く。
「どうしましたか?」
「いえ……なんだか酷い臭いがするのですが、どこからでしょうか?」
言われて速攻で思い当たる。奏にばれない様にそっと自身の臭いを嗅ぐ。
臭い。物凄く臭い。多少麻痺していたらしいが、原因の元を嗅ぐとやっぱり臭い。
トーニャは踵を返すと、途中見つけた檜風呂に湯を張り始める。
不思議そうにする奏を尻目に、トーニャは誤魔化すように慌てて言葉を紡ぐ。
「ほ、ほら。せっかくですからお風呂に入りましょう。綺麗になりますし。ね? そうしましょう」
「ですが、危険ではありませんか?」
「大丈夫です。外であの筋肉台座を見張りに立たせますから。
安心して下さい。もうご承知とは思いますが、あの男は物凄くお馬鹿です。
きっと私達がお風呂に入っていても、筋肉に夢中で覗くなんて選択肢を浮かべられません。
なんだか女として負けてはいけないモノに負けている気がしますが、気にしては駄目ですからね」
強引に説得すると、奏を脱衣所に押し込み一時的に隔離する。
幸運だったのは、タオルを含め、未使用の女性用下着が何故か大量に用意されていた事か。
何度も袋が未開封だった事を確かめつつ、トーニャはそのまま奏を脱衣所に残し外に向かう。
居住区と本堂を挟んだ中庭で、真人はダンセイニと楽しそうに戯れていた。
ダンセイニが小石の敷き詰められた庭を這い、それを真人がでんぐり返しをしながら追いかけている。
「ダンセイニ。何かきたら直ぐに私達に知らせて下さいね」
「て・けり!」
「おい。俺には何か無いのか?」
「ではお聞きします。貴方の目の前で女性がシャワーを浴びていて、
さらに足元にはダンベルが二つ。さあ、そこから導き出される答えは?」
トーニャからの質問に、真人は親指を立てながら不適に笑う。
「へっ。悪いが俺も男だぜ? 答えは一つ。「外に隠してあるバーベルで筋トレする!」これでどうだ?」
「はい正解。想像以上の筋肉全開の珍解答をありがとう。
ご褒美に貴方はここで、思う存分筋トレして進化の秘法を突き止めていて下さい」
「へへっ。言ってくれるじゃねえか……
よっしゃぁ! 次に見たときにはニュー真人になってるから驚けよ!」
「わーすごいすごい。じゃあダンセイニ。大変だと思いますが宜しく頼みますよ」
「てけ・りり」
◇ ◇ ◇
再び脱衣所に戻ると、そこでは既に制服を脱ぎ始めている奏の姿があった。
臭いがばれないように、トーニャは換気扇のスイッチを入れる。天井のファンが景気良く回り始める。
締め切った脱衣所なので、視線は自然と相手の方へと向けられてしまう。
理解はしていたが、トーニャはとりあえず自身を見下ろし、そして再度奏の肉体を頭の計算式に叩き込む。
髪はやや乱れている気がするが、それでも一度櫛を梳けば、元来の美しさを簡単に取り戻すか。
醸し出す雰囲気は、長年培って来たものなのだろう。根付いた育ちの良さが十分伝わる。
次に視線は全体から絞り込まれ、主に首から下を解析し出す。
同年代にしては成熟している気がするが、奏の持つ雰囲気がそれを中和し、綺麗に昇華しているのだろう。
僅かばかり肉質的には物足りない感じもするが、それを補って余りある二つの破壊兵器を奏は持つ。
衣類の制御から解き放たれた破壊兵器が、奏が脱衣の行動を取るたび、縦横無尽に暴れまくる。
下って腰周りは無駄ない造りで、窪んだ臍にしても、そこだけでご飯が三杯はいけるエロさ具合。
ここに来てようやく、奏が自分が観察されていると気付き慌てて前面を隠す。
凶悪な破壊兵器が布の奥に消えていく。もっとも、布越しでもその存在感は十分伝わるが。
とにかく残念。解説はここでおしまいだ。続きは風呂場へと持ち越しになった。
溜め息混じりにトーニャは己の衣類を脱ぎ捨てる。
自身の脱ぎっぷりを解説しても良かったが、奏の後だとやるせないので却下。
脱衣所で衣類を畳んだ奏とトーニャは、湯気が立ち込める浴室へと足を踏み出す。
改めて中を見渡すと、檜造りに加え四隅にランプが配置されていたりと、微妙な拘りを感じられる。
小さな寺にしてはずいぶんと飾られているが、ともかく汚れが落とせればそれでいい。
二人はお揃いの淡い緑色のタオルで前面を隠しつつ、隣り合うように小さな椅子へと腰を降ろす。
どちらの肌も乳白色を連想させ、且つ新鮮な果実をも連想させる。
残念なことに、トーニャの小さな背中は、殆どが解かれた髪の毛に隠れているものの、
ちらりと覗かせるその隙間に、獲りたての白桃だとでも言わんばかりの初々しい尻が垣間見えた。
肉体を包み込む泡が相乗効果を生み、菓子職人でも生み出せない、究極の生桃菓子がここに完成する。
賞味期限に嘘偽りの無い、究極と至高を兼ね合わせた一品だ。
さて、一方隣で嬉しそうに湯を汲む奏の肌は、浴びせられる湯を弾き、弾力性を十二分にアピールしていた。
全体的に着痩せするのか、隠すものが無くなったその前面では、雪山の如き巨峰が静かに震えていた。
弾力もさる事ながら、驚くべきはその形状である。
重力に反逆するその山脈は、どちらも歪みなく、上空から降り注ぐ湯の雫など物ともしない。
また、山脈の谷間から流れ落ちた雫は、その先で待つ秘境で姿を消す。
そして暫くした後、見目麗しい脚の付け根から、星のようなきらめき得た雫が、一瞬キラリ。
ぽたりと、再び谷間を潜り抜けて雫が奏の身体を滑り落ちていく。
肌の感触を楽しむように流れていく雫は、やはり同じ様に秘境の中へと吸い込まれて……
(省略しました。続きを読む場合は全裸で「筋肉いえーい」と叫びながら※勝手に外へと飛び出して下さい)
◇ ◇ ◇
己に課した膨大な筋トレメニューを済ませた真人は、汁だくのままダンセイニへと向き直った。
キラリ輝く汗が、真人の魅力をより一層引き立てている。
湯気立つ己の肉体を何度も確かめながら、真人は誇らしげな表情で語りだす。
「ところでこの筋肉を見てくれ。こいつをどう思う?」
「て・けり」
「なにぃ!?」
ダンセイニの指摘を受けた真人は、自分の身体を丹念に嗅ぐ。
実に臭い。なんと言うか、海老臭い。加えて磯臭い。それと韮臭い。あと生姜の臭さもちょっぴり。
あまりに食欲をそそるので齧って見たが、塩気が強すぎて旨み成分が少ない。
なんとなく井戸の下辺りから臭い気がしていたが、まさか自分が臭いとは驚きだ。
もしかしたら自分の祖先は食べ物だったかもと悩みつつ、真人はふと重大なことを思い出す。
「ああ。そう言えばここに来てから汗を流してなかったな……」
新陳代謝は筋肉を育成する大切な行為の一つだ。
が、ここで安易に風呂に入っても、肉体はリラックスするだけなのだろう。
地底で思い知らされた筋肉からの悲痛な叫びを、真人は忘れてはいない。
汗を拭くようにとダンセイニが用意してくれたタオルを頭に巻く。
そしてするりと制服や下着を脱ぎ捨てると、脇目も振らず近くにあった庭池へと全力でダイヴ。
水飛沫を叩き出しながら、真人は冷水である池の水を、己の肉体へと一心不乱に浴びせ続ける。
水中に潜った真人の肉体から、十分に熱せられた汗が流れ落ちていく。
次第に皮膚にこびり付いた異臭が剥がれていき、その代償として池にいた魚の群れが痙攣を始めた。
寒さで指が震えるのも構わずそれを続け、やがて満足すると池からにゅるりと這い上がる。
水を弾く筋肉は、真人が若い肌の持ち主である事の証明だ。
頭に巻いたタオルで、身体を盛大にスパンキングしながら雫を払い、ダンセイニの元へ戻る。
「ふぅ、さっぱりしたぜ……ん? なんだこりゃ」
「てけ・りり」
ダンセイニが頭上に乗せていたのは、僧衣と大き目の阿修羅の柄のスポーツパンツだ。
ずるずると擦り寄ると、「風邪をひいてしまう。さ、これにお着替えなさい」と言う風に衣類を差し出す。
その優しさに、真人は涙ぐみそうになる。言葉は違えど、二人の筋肉は確かに通じ合っている。
ぬめりを気にする事無く、真人はダンセイニに力一杯抱きつく。
「ありがとよ! だが、俺はこれを着ちゃいけねぇ気がするんだ。
また今までみたいに服で肉を隠したりしたら、俺を育てた筋肉に申し訳なくなっちまう……」
「て・けり!」
「ッ!?」
ダンセイニは叫び声をあげると同時に、真人の頬をぷしゃりと叩く。
「てけ・りり!」
「着衣プレイだと? そ、そいつは全裸の筋肉よりも凄いのか?」
「て・けり」
「俺は険しい道を行くつもりで、安易な道に走ろうとしたのか……良く解かったぜダンセイニ。
他人の筋肉を追いかけても、その先には到達できねぇ! ずっと目の前の筋肉に隠れたままだ!」
ダンセイニから僧衣を受け取ると、それで柔らかな風を受けていた肉体を包み込む。
湿った僧衣の内側が、真人の肌にピッタリと張り付いて気持ちいい。
胸の谷間からチラリズムする分厚い胸板と、先端で小刻みに震えるアダムスキー。
一見すると動きにくいが、それもまた慣れれば丁度いいトレーニングとなるだろう。
股間にいたっては、この収縮が癖になる予感がひしひしとパンツから伝わってくる。
「俺がこの僧衣を脱ぐ時……それはきらめく筋肉の舞台に上る時だぁ!」
◇ ◇ ◇
風呂から上がり、新たな下着に穿き替えたトーニャと奏は、キッチンで適当な食材を探り当てていた。
一緒に風呂に入った所為もあってか、二人の立ち位置が微妙に近付いた気がする。
棚や貯蔵室から簡単に食べられそうな食材を調理し終えると、畳の敷かれている和室へと足を運ぶ。
ゆっくり襖を開けた二人は、室内で先に飯を胃の奥に詰め込む真人と目を合わせる事となった。
テーブルの上に空けられた皿を見る限り、かなり前から食卓に着いていたのだろう。
「おぉ、先に食べてるぜ」
「て・けりり」
目の前の真人がなぜ僧衣を着て、それでいてどうしてローション宜しくぬるぬるなのか。
疑問に思ったトーニャだったが、突っ込んだ質問をしても「YES!筋肉」で終わりそうなのでやめる。
奏と共にテーブルに向かい合うように座り、真人の持つ皿に注目する。
「あぁん? この餡かけチャーハンは俺のだぞ?」
「いえ。絶対にいりませんから」
「申し訳ありませんが、私もそんなには食べ切れませんし……」
丁重に断りつつ、トーニャと奏は運んできた食事をテーブルに並べる。女性が食べるには十分な量だ。
サラダを中心に、食べやすくて色々気にならないメニューを選んだのだろう。
だが、並べられた皿を見て、何故か真人が不服の表情を浮かべる。
「ちっ、しょうがねぇなお前ら……もっと食わなきゃ立派な筋肉はつかないぜ」
1000%スパンキングな好意を込めて、真人は皿の上に残っていた食べかけの餡かけチャーハンを流し込む。
即席『サラダ餡かけチャーハン』の完成である。
シャキシャキ野菜に、濃厚なとろみのついたチャーハンが着実に侵略を続けていく。
どうしたものかと悩む奏。トーニャはゆらリ立ち上がると、真人の隣へと静かに向かう。
「おっと釣りはいらねぇ。とっとき――」
「OK。レッツ制裁」
「アッー! アッー! オヴァァァァァァァァァァ!!!」
放送まであと僅か。
果たして真人がそれまで無事生きていられるだろうか……
【C-5 寺の居住区畳の間/一日目/昼】
【井ノ原真人@リトルバスターズ!】
【装備】:僧衣、木魚、マッチョスーツ型防弾チョッキ@現実【INダンセイニ@機神咆哮デモンベイン】
【所持品】:餡かけ炒飯(レトルトパック)×3、制服(破れかけ)
【状態】:仮死状態、胸に刺し傷、左脇腹に蹴りによる打撲、胸に締め上げた痕、全身にぬめり
【思考・行動】
基本方針:リトルバスターズメンバーの捜索、及びロワからの脱出
0:ボス狸や奏と行動。筋肉担当
1:お昼まで生死の境を彷徨う予定。
2:理樹や鈴らリトルバスターズのメンバーや来ヶ谷を探す。
3:主催への反抗のために仲間を集める。
4:ティトゥス、クリス、ドライを警戒。
5:柚原このみが救いを求めたなら、必ず助ける
【備考】
※防弾チョッキはマッチョスーツ型です。首から腕まで、上半身は余すところなくカバーします。
※現在、マッチョスーツ型防弾チョッキを、中にいるダンセイニごと抱えています。
※真と誠の特徴を覚えていません。見れば、筋肉でわかるかもしれません。
※真人のディパックの中はダンセイニが入っていたため湿っています。
※杏、ドクターウェストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
※大十字九郎は好敵手になりえる筋肉の持ち主だと勝手に思い込んでいます。
【ダンセイニの説明】
アル・アジフのペット兼ベッド。柔軟に変形できる、ショゴスという種族。
言葉は「てけり・り」しか口にしないが毎回声が違う。
持ち主から、極端に離れることはないようです。
どうやら杏のことを気に入ったようです。
【アントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:ゲイボルク(異臭付き)@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:支給品一式、不明支給品0〜2、スペツナズナイフの刃
智天使薬(濃)@あやかしびと−幻妖異聞録−、レトルト食品×6、予備の水
【状態】:健康。湯上り
【思考・行動】
基本方針:打倒主催
0:たまご風味のグッピーや奏と行動。頭脳担当。
1:真人を三途の川で遊ばせつつ放送を待つ。
2:放送後、寺の地下を探索。
3:神沢学園の知り合いを探す。強い人優先。
4:主催者への反抗のための仲間を集める。
5:地図に記された各施設を廻り、仮説を検証する。
6:ティトゥス、クリス、ドライ、このみを警戒。アイン、ツヴァイも念のため警戒
7:状況しだいでは真人も切り捨てる
【備考】
※制限によりトーニャの能力『キキーモラ』は10m程度までしか伸ばせません。先端の金属錘は鉛製です。
※真人を襲った相手についてはまったく知りません。
※八咫烏のような大妖怪が神父達の裏に居ると睨んでいます。ドクターウェストと情報交換をしたことで確信を深めました
※杏、ドクターウエストと情報交換をしました。
※奏と情報交換をしました。
【トーニャの仮説】
地図に明記された各施設は、なにかしらの意味を持っている。
禁止エリアには何か隠されてかもしれない。
【神宮司奏@極上生徒会】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式。スラッグ弾30、ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、レトルト食品×6、予備の水
SPAS12ゲージ(6/6)@あやかしびと −幻妖異聞録−、不明支給品×1(確認済み)
【状態】:健康。湯上り。爪にひび割れ
【思考・行動】
1:自分にしか出来ない事をしてみる。
2:蘭堂りのを探す。
3:できれば、九郎たちと合流したい。
4:藤野静留を探す。
5:大十字九郎に恩を返す。
【備考】
※加藤虎太郎とエレン(外見のみ)を殺し合いに乗ったと判断。
※浅間サクヤ・大十字九郎と情報を交換しました。
※ウィンフィールドの身体的特徴を把握しました。
※主催陣営は何かしらの「組織」。裏に誰かがいるのではと考えています。
※禁止エリアには何か隠されてかもと考えてます。
※トーニャ・真人と情報交換しました。
【寺の地下】
寺の裏庭に、地下へと通じる大穴が開いています。
地下の空洞には大仏が安置されており、その他の詳細は一切不明。
梯子の下ろされた場所から約2mの場所に異臭を放つ穴があります。詳細は不明。
放送が届くかは、今後の書き手さんにお任せいたします。
※勝手に外に飛び出しても、続きはありませんし身の保障は約束出来るません。妄想で補って下さい
以上。投下終了となります。
たくさんの支援ありがとうございました!
誤字脱字や、矛盾点などありましたらお知らせください。
それでは失礼致します。
筋肉いえーい!投下乙です!!
真人がどんどんアホになっていくw
お前もうロワに真面目に参加する気ないだろ
それにしても真人が紳士だ、俺たちの代わりに覗けよw
投下お疲れ様です!
……いやもうなんていうか、清涼剤にも程があるというかw
何でこんなに愉快なんですかw
ネタもいちいち凝ってますし……w
投下乙!
お前らロワに参加する気があるのか、と問いたいwww
今回も素晴らしいトーニャのツッコミw そして全てを受け入れようとする聖母のような奏に笑ったwww
そして地味に真人が、とうとう筋肉教を設立するために法衣を身に纏ってしまったwwwww
投下乙!
ギャグが面白すぎるぞ筋肉組はwww
ホントいいコンビだよなぁw
メンバーも一人増えたしこれからに期待!
筋肉いえーい!と念でレスしてみたが特になにも起こらなかった詐欺!
筋肉とツッコミと軟体生物のハーモニーは奏会長という良識人を交えてもこんなんなのか……!w
ラブラブカップルのせいで空気に追いやられた某少年とか、ネタがフレッシュすぎるw
改めて投下乙です。愉快痛快な作品をありがとうございましたw
投下乙
このロワ、遊んでるばかりのキャラ多いぞw
特に筋肉、本来の目的を忘れてないか、おーい
またしても筋肉w筋肉教の進撃はとどまるところを知らない。
そもそも紳士というより己の筋肉(よくぼう)に忠実すぎるだけのような気が…。
僧衣を脱ぐときとか、やらないかとか、小ネタを挟むタイミングがうますぎます。
体から臭いがしだしたというのを聞いた瞬間、
トーニャと真人が「深きものども」になりかけているんじゃないかと
思った私は少し疲れているのでしょうか?
磯臭いとか言っているし、変なぬめり帯びてるし。
投下おつかれ!
やっぱ筋肉最高すぎるww
どこまで行くんだろうか…w
最後に、筋肉いえーい!
清浦刹那は天高く戦場を俯瞰する。彼女が纏うのは学生服でも、シチュワーデスの制服でもなく、紺色のローブ。そして、頭にチャームポイントのリボンはなく、ゴムで髪を軽く束ねている。
もはや彼女に肉体はない。あるのは世界を想う強い意思だけ。
――世界は楽しいことが大好きで、私の手を色々引っ張ってくれた。でも、世界はおっちょこちょいだから、私が色々フォローしてた。
世界は人懐っこくて、私にたくさんの友達を紹介してくれた。世界が誰かと喧嘩したら、私が上手く仲直りさせた。
世界は私を虐めから守ってくれて、私は引き篭もった世界を慰めてた。
私達はお互いに足りない部分を補って生きてきた…半身。
「あはは、凄いよ私! 指が生えた!」
それゆえ、刹那は頭を抱えて苦悩する。親友が異形と成り果て、少女の遺体を食い散らしているのだから。
――これは一体、どう考えれば良いんだろう。いっそ、見なかったことにしたい。アレは世界ではない別の何かと割り切ってしまいたい。
その時、世界は何かの気配を感じたのか、慌てて周囲を見回した。
「せつ、な…なの? どこ、どこにいるの?」
だが、世界が見つけたのは、採石場から飛んできた一羽の烏だけ。それでも、世界は不安げな表情を崩さずに呟いた。
「刹那、私が刹那の名前を使ったのを怒ってるかな?
…違う、刹那を裏切ってない。私はただ、誠の赤ちゃんを守りたかっただけ。
そうよ、私のお腹には赤ちゃんがいるもの、ちょっとくらい嘘ついたって良いじゃない」
刹那はそれを見て、力なく息を吐くしかなかった。おそらく、世界は刹那の名を騙り、悪事を行ったのだろう。
――悲しいけどあれが世界。とても弱い子。
私は世界と昔からの付き合い。だから、世界の気持ちが手に取るように分かってしまう。
今の世界は自分しか見てない、それしか見る余裕がない。自分に嘘をついて、自分の世界に閉じこもっている。
…大丈夫、私が殺されたのは世界のせいじゃない。それだけは安心していいから。
世界は気分を落ち着かせるため、腹に手を当てようとしてはっとする。
「あっ、私の赤ちゃんは今、桂さんのお腹の中にいるんだっけ?
桂さん、ちゃんと面倒見てくれてるかなあ。もし、先に死んじゃったりしたら、桂さんのお腹から…あはは」
刹那はその先を想像してしまい、強い吐き気に襲われた。
――桂さん、ごめん。でも、世界をおかしくしたのは、私の責任、そして罪。
私は何が何でも世界を見つけて、彼女の弱い心を守る必要があった。
ううん、この島に来る前に、もっと世界の心を鍛える必要があった。
V V V
しゅぱん
世界は人差し指で烏を刺し貫くと、軽やかな足取りで北へ北へと歩き出した。
「まあ、考えすぎよね。刹那はぜったい死んでないし、桂さんもたぶん大丈夫。
そんなことより、柚原さんに仕返しに行かないと。あいつ、私に酷いことしたんだから!」
――世界は自分の心を守りきれない時、理不尽に憎しみを爆発させる。それだけは絶対に止めたかった。世界、絶対に守るって約束、守れなくてごめん、本当にごめん…。
刹那はこの島の出来事に思いをはせる。絶望的な状況でも、決して諦めなかった勇敢な人たち。
そして、伊藤誠、入学式の日に勇気をくれたクラスメイト…そして、彼女の片思いだった人。
刹那は世界の進路に降り立った。
――みんな、私に勇気を貸して。今の世界には私が必要。
〜その時、世界は止まる〜
今の刹那は霊体ですらない。だから、悪鬼に侵食された世界でも彼女を視認できない。
だが、世界は足を止め、そしてゆっくりとした歩調で、刹那のいる場所に近づく。
――私の声が届くか分からない。ううん、聞こえて何も変わらないかもしれない。その方がずっと怖い。それでも、世界に言わなきゃいけない、放送が始まる前に。
刹那は真摯な眼差しで、世界に向けて口を開いた。
V V V
〜そして、世界は動き出す〜
世界は下あごに手を当てて、少し考え込んだ。
「うーん、今のはなんだっんだろう。……まっ、いいか」
結論を言うと、刹那の思いは世界に届かなかった。
世界の所持品『妖蛆の秘密』には怨霊呪弾と呼ばれる奥義が存在する。これは術者に殺され、未練ある霊を力として、相手にぶつける攻撃術である。
今の世界に怨霊呪弾を扱えるかは別にして、この島の魔導書には大なり小なり改造が施されている。
これはクトゥグアやイタクァが普通の人間に扱えることからして、明らかだろう。
そして、『妖蛆の秘密』はその副作用により、刹那の後悔の念を啜り取ってしまったのだ。
それが世界にとって、また刹那にとって幸せだったのかはまだ分からない。
刹那は世界の良心である。これは彼女の目付け役、という意味だけではない。
世界は誰かに赦して貰えると感じた時しか罪悪感を覚えない。覚える強さがない。
そして、刹那は彼女の罪を受け止められる、数少ない人物であった。
もうすぐ放送が始まる。自己愛の塊、西園寺世界は良心の死をどう受け止めるのだろうか……
【C-3北部/森/1日目/昼(放送直前)】
【西園寺世界@School Days】
【装備】:89式小銃(11/30)
【所持品】:支給品一式*2、時限信管@現実×3、BLOCK DEMOLITION M5A1 COMPOSITION C4(残り約0.75kg)@現実、交換マガジン(30x2)、妖蛆の秘密、贄の血入りの小瓶×1
【状態】:妊娠中(流産の可能性アリ)、精神錯乱、思考回路破綻(自分は正常だと思い込んでいます)、悪鬼侵食率40%
【思考・行動】
基本:桂言葉から赤ちゃんを取り戻す。元の場所に帰還して子供を産む。島にいる全員を自分と同じ目に遭わせる。
0:今のはなんだったんだろう?
1:柚原このみを殺すために北へ向かう。
2:言葉が追ってくるなら『桂言葉の中を確かめる』、そして『桂言葉の中身を取り戻す』。
3:新鮮な内臓が食べたい。
【備考】
※妖蛆の秘密は改造されており、殺した相手の霊を本に閉じ込める力があります。そして、これを蓄えるほど怨霊呪弾の威力が増します。
そのほかのルールは他の書き手にお任せします。
代理投下終了です
不備があったらご指示ください
投下乙。
おお、刹那カワイソス。良心というのはどうしてこうも不幸な目にあわないといけないのだろうか。
そして世界がいい感じに中ボスフラグを立てて、立ててw
死者を喰らう、か。いったいどういう基準なんだろうなぁw
感想を
刹那……どこまでも報われないwカワイソス
世界、もうすでにこれ人間かwクリーチャーだな
どこまでいくんだろう
そして一方刹那は向こうでは……
投下乙
すげえワールドがついに必殺技を身につけたw
原作のティベリウスと比べてどっちがいやらしくなるんだろうw
時(ザ・ワールド)よ止まれ。
そして時(ザ・ワールド)は動き出す。
シリアスの中に、さりげなく西園寺世界ネタを絡ませるところに粋な職人芸を感じる。
もうこのクリーチャーはスタンド使ってもいいよw
ともかくGJでした。
あと30KB……なにか埋める話題はないものか
各キャラのAAを貼っていくとか?
【一乃谷刀子@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【装備】:古青江@現実、ミニウエディング@THE IDOLM@STER、ナイスブルマ@つよきす -Mighty Heart-
【所持品】:、支給品一式×2、ラジコンカー@リトルバスターズ!、ランダム不明支給品×1(渚砂)、愁厳の服
不明衣服(765プロ所属アイドル候補生用・ステージ衣装セット@THE IDOLM@STER のうちの一つ)
木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD
【状態】:健康
【思考・行動
基本方針:殺し合いには乗らない。兄の愚かな行いを止める。
0:えーと、……どの服を着れば双七さんは、よ、喜んでくれるでしょう……?
1:双七に会いたい。見つからなかった為、しばらくは九鬼と同行。
2:主催者に反抗し、皆で助かる手段を模索する。
3:兄の犯した罪を償いたい。
4:直枝理樹と面会、双七について情報を得たい。
【備考1】
【一乃谷愁厳@あやかしびと −幻妖異聞録−】
【状態】:疲労(中)、右肩に裂傷、腹部に痣、白い制服は捨てた状態、強い覚悟及び悔恨、精神体
【思考】
基本方針:刀子を神沢市の日常に帰す。外道として外道を討つ。
0:…………。
1:『殺し合いに乗ったもの』を殺し尽くす。
2:刀子を初めとする『殺し合いに乗っていないもの』を守る。
3:鉄乙女をこの手で討ち、責任を取る。
【備考2】
※一乃谷刀子・一乃谷愁厳@あやかしびと −幻妖異聞録−は刀子ルート内からの参戦です。 しかし、少なくとも九鬼耀鋼に出会う前です。
※サクヤを人妖、尾花を妖と警戒しています。
※なつきと情報交換しました。
※理樹のミッションに参加するかは未定。
※刀子が何の衣装を選ぶかは後の書き手さんにお任せします。
【山辺美希@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
【装備】:投げナイフ1本
【所持品】:支給品一式×2、木彫りのヒトデ4/64@CLANNAD、投げナイフ4本、ノートパソコン、MTB
【状態】:健康、若干の迷い
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
0:霧の死に傷心。
1:暫くはなつきを『盾』にしながら行動する。
2:機会があれば、もっと良い『盾』を見付けたい。その為に直枝理樹の『会議』に向かう。
3:詳細名簿を見れなくする為に、違和感が無いようにノートパソコンを壊す?
4: 最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
5:太一、曜子を危険視。
6:九鬼耀鋼を危険視。戦闘中に『誤射』や『流れ弾』に見せかけて殺害を狙う。
7:直枝理樹の『会議』で、人脈を作っておく。
8:機を窺ってなつきから詳細名簿を奪取、破壊する。
【備考】
※千華留たちと情報交換しました。
※ループ世界から固有状態で参戦。
※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
※把握している限りの名前に印をつけました。(但しメンバーが直接遭遇した相手のみ安全と判断)
※なつきと情報交換しました。
※九鬼と情報交換しました。ただし、彼の仮説についてはまだ聞いていません。
【玖我なつき@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:ELER(二丁拳銃。なつきのエレメント、弾数無制限)
【所持品】:支給品一式×2、765プロ所属アイドル候補生用・ステージ衣装セット(一着が抜き取られている)@THE IDOLM@STER、
『全参加者情報』とかかれたディスク、カードキー(【H-6】クルーザー起動用)、双眼鏡、首輪(サクヤ)、
ベレッタM92(9ミリパラベラム弾 15/15+1)、ベレッタM92の予備マガジン(15発入り)×3
七香のMTB@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜、クルーザーにあった食料、不明支給品(0〜1)、
木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD
【状態】:中度の肉体的疲労、迷い
【思考・行動】
基本:静留と合流する
0:私は、一体……
1:刀子の服を選ぶ。
2:とりあえず、直枝理樹のところに向かい人脈を構築する。
【備考】
※チャイルドが呼び出せないことにおそらく気づいています。
※人探しと平行して、ゲームの盲点を探し本当のゲームの参加者になる。
※盗聴の可能性に気付きました。
※『本当の参加者』、もしくは『主催が探す特定の誰か』が存在すると考えています。
※佐倉霧の言いふらす情報に疑問視。
※劇場にてパソコンを発見しました。何か情報が隠されているようです。見るにはIDとパスワードが必要です。
※山辺美希と情報交換しました。ただし、恣意的な改竄や重要事項の黙秘がされている可能性があります。
※刀子と情報交換しました。
※理樹のミッションに参加するかは未定。
【F-7北西/森/一日目/午後】
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:カリバーン@Fate/stay night[Realta Nua]
【所持品】:真っ赤なレオのデイパック、斬妖刀文壱@あやかしびと −幻妖異聞録− 、ドラゴン花火×1@リトルバスターズ!
【状態】:狂気、鬼。鬼の力(消耗中〜大)、肉体疲労(中)
【思考・行動】
0:私が……負け犬……?
1:遊園地の方におやつを食べに行く。
2:自分が強者である事を証明する。
3:美食を極める。量は二の次。
4:君の声が、また聞きたい……。
【備考】
※アカイイトにおける鬼となりました。
身体能力アップ、五感の強化の他に勘が鋭くなっています。
食事のためか人間性が失われているからかの影響で、能力が上がっているようです。
※鬼の力を消費して、宝具を使用する事が出来ます。但し現在は疲弊している為、カリバーンでも大した効果は期待出来ません。
人を食えば食う程、鬼の力は回復していきます。
※尾花を食った影響で、過度の空腹からは解放されました。
※リセの死体を食べた為、多少回復した模様です。
【F-7西/遊園地北/一日目/午後】
【大十字九郎@機神咆吼デモンベイン】
【装備】:キャスターのローブ@Fate/stay night[Realta Nua] 手ぬぐい(腰巻き状態)、バルザイの偃月刀@機神咆哮デモンベイン
【所持品】:支給品一式、アリエッタの手紙@シンフォニック=レイン、凛の宝石7個@Fate/stay night[Realta Nua]
木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、 物干し竿@Fate/stay night[Realta Nua]、タバコ、木彫りのヒトデ3/64@CLANNAD
加藤虎太郎の眼鏡、トランシーバー(故障)
【状態】:肉体的疲労(大)、背中に重度の打撲、全身に複数の打撲、右手の手のひらに火傷(全て手当て済み)
【思考・行動】
0:ユメイと共に遊園地で理樹達と合流する
1:アルと桂、奏を捜索。
2:人としての威厳を取り戻すため、まともな服の確保。
3:アル=アジフと合流する。
4:鉄乙女を打倒する
5:虎太郎の生徒達を保護する。
6:ドクターウエストに会ったら、問答無用で殴る。ぶん殴る。
7:皆に虎太郎の死を伝え、その死を無駄にしないことを戒める。
【備考】
※千華留、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※仮面の男(平蔵)をあまり警戒していません。
※理樹の作戦に参加しています。 把握している限りの名前に印をつけました。
【ユメイ@アカイイト】
【装備】:エクスカリバーの鞘@Fate/stay night[Realta Nua]、
【所持品】:支給品一式×3、メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、光坂学園の制服@CLANNAD
木彫りのヒトデ4/64@CLANNAD、包丁@School Days L×H、ガイドブック(140ページのB4サイズ)、
【状態】:霊力消耗(中)、肉体的疲労(中)
【思考・行動】
基本方針:桂を最優先で保護する。他の仲間達も守る。
0:九郎と共に遊園地で理樹達と合流する。
1:桂、烏月を捜索する
2:怖くても、守る為に戦う。
【備考】
※理樹たち、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※仮面の男(平蔵)は危険人物には違いないと思っています。
※エクスカリバーの鞘の治癒力は極端に落ちています。
宝石などで魔力を注げば復活する可能性がありますが、幾つ使えばいいのかなどは不明です。
【E-6南東/上空/一日目/午後】
【チーム:じゅうななさいと親父】
【思考・行動】
0:クリス達と合流する為、理樹達と会って情報収集。
1:乙女を止める。
2:美希を探す。
【杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明、FNブローニングM1910(弾数7+1)
【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ) 支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、
恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、
【状態】:健康、十七歳 、Fly in the sky
【思考・行動】
0:いーやぁぁぁああぁああああぁぁぁーッ!
1:意志を貫く。
2:美希のことが心配。合流したい。
3:反主催として最後まで戦う。
4:知り合いを探す。
5:羽藤桂、玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える。
6:直枝理樹と会って情報交換、彼に協力する。
【備考】
※葛の死体は温泉宿の付近に埋葬しました。
※理樹のミッションについて知りました。
※木の着弾地点は遊園地のどこかです。
【橘平蔵@つよきす -Mighty Heart-】
【装備】:マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ!
【所持品】:木彫りのヒトデ×1@CLANNAD
【状態】:左腕に二箇所の切り傷(治療済み)、背中に切創(治療済み)、貧血気味、そらをとぶ
【思考・行動】
基本方針:ゲームの転覆、主催者の打倒。
0:うぅまう――――!
1:鉄乙女をこの手で成敗する(殺す)。
2:直枝理樹と合流、情報収集。
3:女性(ユメイ)を探す?
4:協力者を増やす。
5:生徒会メンバーたちを保護する。
6:どうでもいいことだが、斉藤の仮面は個人的に気に入った。
【備考】
※自身に掛けられた制限に気づきました。
※遊園地は無人ですが、アトラクションは問題なく動いています。
※スーツの男(加藤虎太郎)と制服の少女(エレン)全裸の男(九郎)を危険人物と判断、道を正してやりたい。
※乱入者(美希)の姿は見ていません。わかるのは女性だったことのみです。
※第一回放送を聞き逃しました。が、乙女の態度から対馬レオが死亡したと確信しています。
※乙女ルート終了後からの参戦。
※理樹のミッションに参加しています。
※木の着弾地点は遊園地のどこかです。
【F-7/遊園地/一日目/午後】
【チーム:Little Jumpers!】
【直枝理樹@リトルバスターズ!】
【装備】:カンフュール@あやかしびと −幻妖異聞録−、理樹の制服
トランシーバー、
【所持品】:支給品一式×2、ハサンの髑髏面、女物の下着数枚、木彫りのヒトデ6/64@CLANNAD
聖ミアトル女学院制服@Strawberry Panic!
【状態】:疲労(中)、腹部に銃創(治療済み) 、強い決意
【思考・行動】
基本:ミッションに基づき対主催間情報ネットワークを構築、仲間と脱出する。殺し合いを止める。
0:3時からの会議に備えて考えをまとめ、他にもアイデアがないか思索する。
1:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る。
2:リトルバスターズの仲間を探す。恭介の行動が気になる。
3:仲間達と協力する。
4:真アサシンと敵対関係にある人には特に注意して接する。
5:首輪を取得したいが、死体損壊が自分にできるか不安。
6:なつきが敵なのか確かめたい。
7:自分が死んだ後のリーダーを誰にするか考える。
【備考】
※参戦時期は、現実世界帰還直前です。
※真アサシンの死、鈴の死を乗り越えました。
※トランシーバーは半径2キロ以内であれば相互間で無線通信が出来ます。
※千華留、深優と情報交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※名簿の名前を全て記憶しました。
※博物館に展示されていた情報を獲得しました。
【理樹のミッション】
1:電車を利用して、できる限り広範囲の施設を探索。
2:他の参加者と接触。
3:参加者が対主催メンバー(以下A)であり、平穏な接触が出来たらならAと情報交換に。
4:情報交換後、Aに星(風子のヒトデ)を自分が信頼した証として渡す。
5:12時間ごと(3時、15時)にAを召集し、情報やアイテムの交換会を開催する。第一回は15時に遊園地を予定。
また、第2回目として病院や学校など北西部の施設を想定。
6:接触した相手が危険人物(以下B)であり、襲い掛かってきた場合は危険人物や首輪の情報を開示。興味を引いて交渉に持ち込む。
7:交渉でBに『自分が今後の情報源となる』ことを確約し、こちらを襲わないように協定を結ぶ。
8:Bの中でも今後次第でAに変わりそうな人間にはある程度他の情報も開示。さらに『星を持っている相手はできるかぎり襲わない』協定を結ぶ。
9:上記の2〜8のマニュアルを星を渡す時にAに伝え、実行してもらう。
なお、星を渡す際は複数個渡すことで、自分たちが未接触の対主催メンバーにもねずみ算式に【ミッション】を広めてもらう。
10:これらによって星を身分証明とする、Aに区分される人間の対主催間情報ネットワークを構築する。
11:会議の後は分散し、複数のチームで夜の3時まで島を探索する。
【源千華留@Strawberry Panic!】
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、スプリングフィールドXD(9mm 14/16)
【所持品】:支給品一式、木彫りのヒトデ2/64@CLANNAD、怪盗のアイマスク@THE IDOLM@STER、
RPG-7V1(1/1)@現実、OG-7V-対歩兵用弾頭x5
【状態】:健康、強い決意
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。りのちゃんを守る。殺し合いからの生還。具体的な行動方針を模索する。
0:リトルバスターズとして、脱出方法を模索する。
1:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る
2:りのちゃんと一緒に行動。何としてでも守る。
3:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
4:恭介とトルタに若干の違和感。
5:神宮司奏に妙な共感。
6:深優を許さない。なつきについては保留。
7:リトルバスターズとして行動する。
【備考】
※理樹たち、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
※G-4の民家に千華留とりのがF-2の駅に向かう、というメモが残されています。
【蘭堂りの@極上生徒会】
【装備】:メルヘンメイド(やよいカラー)@THE IDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER
【所持品】:支給品一式、ギルガメッシュ叙事詩、地方妖怪マグロのシーツ@つよきす -Mighty Heart-
騎英の手綱@Fate/stay night[Realta Nua]、ドッジボール@つよきす -Mighty Heart-、縄
木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD
【状態】:貧血気味、右足に銃創(治療済み。歩く分には大きな支障は無いが、激しく動き回るのは困難)、
【思考・行動】
基本:殺し合いはしない。ダメ、絶対。
0:九郎とユメイと虎太郎達の無事を祈る。
1:千華留さん、理樹さんと一緒に行動。
2:奏会長、プッチャン、桂ちゃん、クリス、リトルバスターズメンバーを探す。
3:リトルバスターズとして行動する。
【備考】
※理樹たち、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※恭介からの誤情報で、千羽烏月を信用に足る人物だと誤解しています。
※G-4変電所の周囲には無数のブービートラップが仕掛けられています。詳細は不明です。
※E-6廃屋のリセの死体は、頭部や四肢を除いて内臓が食い荒らされています。
原形は留めています。
◇ ◇ ◇
この地に輝く希望の星。
少年は彼の創り出したツナガリに何を見るのだろうか。
これまでとこれからを結ぶ一つの峠。
交錯する思惑と、手を取り合った絆。
断ち切れぬ因縁と、新たに生まれた感情。
積み上げた全ては今此処に集う。
全てがドミノ倒しのように、一つの流れを創り出す。
さてさて、この先に何が待つのか。
傍観者でしかない我々は、それを座して待つとしよう。
怪人。
暗殺者。
討伐者。
正道。
外道。
銃師。
隠者。
鬼神。
勇者。
蝶。
漢。
教師。
聖母。
福音。
そして、何の変哲もない普通の少年。
彼らと、もしかしたら彼ら以外の者達も巻き込んで。
数多の人物の織り成す一幕が今まさに始まらんとしている。
What's next on――――
Baccano!
投下終了です。
多大なご支援、ありがとうございました。
タイトルはライトノベル
『ヴぁんぷ!』
『世界の中心、針山さん』より。
まずは投下乙です
色々議論中ですが、また誤解されるぞ館長w
とか結構好きなパートも多いです
投下乙!
遊園地に一堂に会す参加者メンバー。
物語の大きな転機であると同時に、惨劇の予感が凄くしますww
議論中で何らかの形で修正になるかも知れませんが、頑張ってください。
ああ、館長のうぅまうぅー、久しぶりに見て和んだw
そしてリセ。地味に可哀想だな。曜子に首輪を取られ、太一に(想像上で)食われたと思ったら乙女さんに内臓食われてw
投下お疲れ様です
すげー大胆な展開ですね……w
理樹の作戦通り開催されることになった会議が、果たしてどんな惨劇を生み出すのか
色々と修正もありそうな雰囲気ですが、どうか頑張って下さい
っていうか館長wwwwwwww
お前どこのタオパイパイですかwwwww