◆ ◆ ◆
ザクザクと音を鳴らし、それを自分を奮い立たせるためのリズムにしながら少年は山の中を進む。
紅毛の、紅い腕の、紅い信念を持った少年の名前は――衛宮士郎。
かつては『セイギノミカタ』を志し、今はそれを捨て『サクラノミカタ』という道を往く男である。
しかし、その道は不明瞭。まだ僅かにブレが見える。
桜を救うという目的と、それ対する覚悟はある。
どの様な選択であろうとも、桜のためには迷わない。どんな方法であろうとも、桜のためには厭わない。
それは、つい先刻。一人の少女を踏み台にすることで、自分自身に対して証明してみせた。
だが、守るべき桜は目の前にいない。どこにいるかも分からない。もう死んでいるかも知れない。
果たす力が足りているのか。また、果たしたとしてそれが彼女の救いになるのかの保証もない……。
故に焦りは募り、紅い心を逸らせる。
ザクザクと音を鳴らし、それを追う様に、そしてそれに追われる様に少年は不明の道を往く。
サクラノミカタが此処にいるぞと音を鳴らし、少年は歩を刻む。
血に塗れ月光を跳ね返さない紅い刀を手に――……。
何者にも臆さないその有様は、一見すれば不動の覚悟の表れに見えたかもしれない。
だが、もしかしたらそれは修羅の道行きを選んだ自身への自罰行為だったのかもしれない……。
そう、先刻手にかけた無垢の少女。放って行くはずが、結局一度戻ってしまった。
それは後悔や彼女への贖罪のためではなく、己の背後に立ついつかの自分に対する言い訳。
亡骸を少し動かしただけで何が変わるというわけでもない。あくまでそれはポーズだ。
サクラノミカタには迷いがない。
しかし、それでも……――そう想う心が、衛宮士郎としての少年のブレだった。
ザクザクと音を鳴らし、己の心の声を掻き消しながら少年は暗がりの中を進む。
踏み鳴らす音を詠唱とし、それを囁く衛宮士郎を抑える枷に、サクラノミカタは夜を往く。
◆ ◆ ◆
不意に士郎の足が止まる。静かに、ではなく……何かに驚く様に、ビクリと。
素早く、しかし緊張感から緩やかに感じる速度で彼は背後を振り返り、彼女の存在を確認した。
彼の往く道を、不穏の気配を頼りに追ってきていた影の少女――支倉曜子を。
僅かな迷いに足を引き摺られた少年に、一切の迷いを持たない少女が追いついた。
邂逅してより数瞬。
互いに無言。互いに相手を観察する。
両者共に、片手には獲物。両者共に、纏う空気は不穏。
時間が惜しい――同様に思考し、そして同時に動き始めた
◆ ◆ ◆
少年の振るう剣が、空気を切り裂き、空気を切り裂き、空気を切り裂き、空気を切り裂く。
まるで幽霊か? そう思うほどに少年の目の前にいる存在は希薄だった。
必殺の意思を込めて振るう刀が、まるですり抜けるかの様に繰り返し空を斬る。
頭を、腹を、腕を、肩を、脚を、心臓を狙っても、刀には一切の手応えが返ってこない。
衛宮士郎は、聖杯戦争の中においてサーヴァントと呼ばれる超常的な存在の闘いを繰り返し目にしてきた。
そして、その中で時には自分も闘いに加わった。故に、目の前の存在に驚愕はしない。だが……。
気迫と共に放たれた最速の横一閃。それもまた空を斬る。
影の少女は屈した体勢から、跳ね上がる様な手斧の縦一閃。それを少年は腰から身体を引いて避ける。
揺れる黒髪を率いて宙を泳ぐ少女に向かって一足。その開いた脇を払おうとする――が。
続けて跳ね上がってきた黒い脚に腕を払われてしまう。
影の少女は四肢を伸ばしてそのまま風車の様に回転。
側転の形で二足程の位置まで後退し、着地と同時に回転のベクトルを真横に変換。
横薙ぎの一閃をフェイントに再び肉薄し、少年に槍の様な膝を突き刺した。
グガァ――と、肺を持ち上げられた少年の口から空気が塊となって無理矢理に排出される。
踏み止まるには一呼吸必要とするが、目前の相手にその間はないと少年は無呼吸で牽制の一閃。
そして、再び間合いを取り直す。
「(………………強い!)」
そう実感せざるを得なかった。
絶対的な強さで言えば、サーヴァントの足元にも及ばないかも知れない。だが、
相対的な強さで考えれば、少なくとも今の自分を上回る強さを持っていると、少年は把握する。
手先に持った斧を武器としてだけではなく、身体を振る錘としても利用し、四肢を均等に使う戦術。
それは日本の剣術よりも、あくまで武器を身体の延長線上にあるものとして捉える中国の武術に近いと推測される。
そしてそれを実現するだけの体捌きは、それが付け焼刃ではなく長年の修練の賜物であることを教えてくれる。
対して、少年の方はどうかと言うと……それこそ付け焼刃だった。
数多くの脅威を退けてきたが、あくまでそれらの闘いは魔術師として、人間としてイレギュラーなものばかりだった。
衛宮士郎のただの人間としての地力。それは目の前の少女とは比べるべくもない。
しかし、だからと言って『サクラノミカタ』はここで敗れることを許されてはいない。
ならば、どうするのか――?
◆ ◆ ◆
マルティーンの聖躯布。アーチャーと呼ばれる男が遺した、概念武装――魔力殺し。
それを解放すれば、赤い布を引き剥がし黒い左腕を解き放てば、目の前の少女を屠ることは容易い、が。
――その腕を使えば、おまえの体に植え付けられた時限爆弾にスイッチが入るのだ。
それは同時に終局へのカウンドダウンを始めることにもなる。
ほどなくして、衛宮士郎の身体は黒い腕に侵食され文字通りの一本の剣に成り果ててしまうだろう。
となると、それは――できない。少なくともまだその時ではない。
まだサクラノミカタは桜を見つけてすらいない。
ましてや、たった一人の相手に命は消耗できない。倒さなければならない相手は無数に存在するのだ。
ならば……超えなければならない。人間、衛宮士郎として、目の前の少女を。
◆ ◆ ◆
月下の薄闇の中に再び空気を斬る音が聞こえ始める。
少年も少女も獲物を打ち合わせる事を決してせず、側から見ればまるで演舞の様に。
どちらも無言。無表情。互いに縁も恨みも皆無。己が目的のためだけに互いを障害とし、刃を振るう。
そして邂逅より四半時が過ぎた頃、唐突に影の少女が姿を消した。
いや、正確には濃厚に放っていた気配を消した。それが、少年に彼女が消えたと錯覚させた。
切先が迷う。
今、突きを避けた少女は一体どちら側の死角へと滑り込んだのか? 右か? それとも左か?
気配を追い慣らされていたと気付いた時には、必死の選択肢は目前に迫っていた。
一秒が十秒にもそれ以上にも感じられる一瞬の中、少年は答えを探して精神を研ぎ澄ます。
――トス。
右か。と、微かな音を捉えた方へと渾身の払いを放つ――が、そこに少女はいなかった。
少女の代わりにあったのは、地面の上に落ちていた一つの小さな皮袋。
それが意味することは考えるまでも無い。一瞬後には死が待っているだろう。
だが、サクラノミカタは衛宮士郎に諦める事を許しはしない。
払いを勢いのままにもう半周。――しかし、やはり苦し紛れは空を斬ってしまう。
身体を開き切った少年の胸元へと少女の手が伸び――トンと、決着の音を鳴らした。
◆ ◆ ◆
その瞬間に感じたことは疑問。そして疑問が生み出す困惑だった。
この絶好の機会。決定打を打ち込めるここで、なぜこの少女は凶器である斧ではなく掌底で自分を打つのか?
しかも、なぜその掌底は力を通し内蔵にダメージを与えるものではなく、力を残しただ身体を押すだけのものなのか?
惑う心と同じ様に、少年はたたらを踏み土の上へと尻餅を付く。
胸中に発生した困惑はそれを解消するために答えを求める。
パシュ――と、気の抜ける様な音がし、それと同時に少年の目の前の土が抉れた。
これまでの戦闘にはなかった新しい何か。真新しい疑問に、彼は顔を上げて少女を見。そして、解答を得た。
いつの間に持ち替えたのか、少女の手には斧ではなく一丁の無骨で大きな拳銃が握られていた。
その拳銃の正式名称は――H&K MARK23。通称は、ソーコムピストル又はマーク23と呼ばれる。
45口径の大型拳銃であり、全長は25センチほど。重量は1.5kg以上もあるという、最強の拳銃の一種である。
銃口の先端には発砲音を殺すためのサイレンサー。
そして、銃身の下のレーザーサイトから放たれる赤い光線が、少年の胸の真ん中へとポイントされていた。
目の前の少女はいつだって自分を殺せた――その事実を少年は解答として受け取る。
拳銃を持っているなら、何もわざわざ近づいて己の存在を明かす必要はなかった。
そして、刀を振り回す相手に手斧一本で切り結ぶ必要もまたなかったはずだ。
そんな危険を冒してまで闘い、そしてその終着に拳銃を取り出してなお止めを刺さないのは何故か?
「何故、危険を冒してまで俺と闘い、そして何故殺さない? お前の目的は……なんだ?」
闘争の終了を悟った少年は、地に座り込んだままの姿勢で、その疑問を率直に目の前の少女へとぶつけた。
◆ ◆ ◆
――1/64。
その数字が、少女から少年への解答だった。
それは、この場に連れて来られた者達がそれぞれに持つ、最終的な生存の確率。
ただ頭数で割っただけの、固有の能力差や状況を考慮しない、大雑把でとても確立とは呼べない数字だ。
彼女は、これが雑な論理であることを前置きした上で続きを少年に聞かせた。
個々の人間が最終的に生き残る可能性は、頭数を見ただけでも簡単に少ないと解る。
ならば、その可能性をどうすれば高めることができるのか?
答えは難しくない。至極単純――敵である人間と手を組めばよいのである。
2人組と、62人の個人。これならば、数字以上の生存率が期待できる。
組んでいる人間と、そうでないたった一人の人間との間には、取りえる戦術の数が段違いだからだ。
そして、それが3人となれば? または4人となれば……?
仮に4人のチームを組めば1/2の確立で生き残れるとした場合。
さらに残った4人で殺しあうことを計算に入れると――1/8。最初の数字より8倍も可能性があるということになる。
もっとも、数字はただの目安でしかないが、計算そのものは道理に従っている。
「……そんなにうまくいくはずがない。…………俺は、お前を裏切るぞ?」
道理ではあるが、それは机上の空論だろう? と、少年は疑問を呈す。
本当に裏切るつもりならば聞く必要の無い質問だったが、彼に残された最後の実直さがそれを口にさせた。
返ってきた答えは――『それで、問題ない』だった。
信用ではなく、あくまで理で実を取るための提案。
ならば、そこにいる人間はクレバーであることが望ましいと少女は説明する。
付け加えて、少年がそういった種類の人間であることをあの廃屋で確認したと彼女は少年に知らせた。
「だったら、もう一つだけ質問させてくれ。……何故、闘いを挑んだ?」
正体を知っていたのならば、最初から交渉に入ればよかったのではないか? そう少年は疑問を浮かべる。
無意味な1対1の闘いは、彼女の理屈から言えば最も避けるべきもののはずだ。それが、何故?
答えは至って単純なものだった。
彼女は、彼が躊躇なく殺しにかかれる人間かを試したのだと言う。
まずは話し合いから……等という日和見や、優柔不断な人間ではなく、目的のために手段を選ばない人間であるかどうか。
廃屋の惨状からあらかたの見当はついていたが、それでも確認しておきたかったと……。
◆ ◆ ◆
結論として、支倉曜子は理性的で、かつ容赦なく人を殺せる人間を探していたという事だった。
そういった人間が集まり、互いに有利な方向へと動けば自然とそれぞれの生存確立もあがる。
利用するために、互いを活かしあい……結果、生かし合うことになると、そういうことだ。
もちろん途中で目的を達成、または破棄して裏切る者が出たり、能力の不足から切り捨てられる人間も出てくるだろう。
だが、それを差し引いても単独で行動するよりは遥かによい――それが、彼女の理屈だった。
その提案。サクラノミカタにとっては願っても無いことだった。なので――……、
「解った。あんたと一緒に戦おう。……ただし、あくまで敵同士として」
……――彼は、それにのった。
◆ ◆ ◆
利害の一致を見た後、支倉曜子と衛宮士郎の二人は互いに簡単な自己紹介をすませ、
それぞれに――黒須太一、間桐桜と言う優先して保護したい人物がいることを教えあった。
次いで、曜子から士郎へと脱出の可能性が0でないことが示唆される。
無論、あくまで0ではないというだけの事であって、それをどう捉えるかは個人の判断にも委ねるとも。
最後に、それぞれが持つ荷物。つまりは互いの手の内を見せ合った後、彼らは移動を開始した。
前に立ち、デコボコとした山道をまるで平地を進むがごとく降りてゆく曜子の片腕には腕章が嵌められている。
それは、士郎に与えられた『使えない支給品』の最後の一つ――『バッカプル反対腕章』だった。
なんら効果のない、ただ『バカップル反対』とだけ書かれた腕章。それを彼女は『装備』していた。
互いの支給品を見せ合った際に、彼女が探す黒須太一ゆかりの品ということで士郎から譲り受けたのだ。
そして、その後ろを神妙な面持ちで付いてゆく士郎の鞄の中には、それに替わるものが入っている。
先程の戦闘の最後に、曜子がファイントに使った皮袋で、中にはゲームに使うメダルがぎっしりと詰っていた。
『G-6:カジノで使用できます』と書かれたメモが一緒に入っていて、その用途は明らかだったが所謂外れには変わりない。
しかし、もしかしたらそのカジノで貰える景品は銃火器などなのかも知れない。と言う事で、一応大事に仕舞ってある。
あくまで敵同士。利用しあう二人は、無言で山を降りる。
それぞれの目的に向かい。同じ道を――同じ修羅の道行きを往く――……。
【F-6 山中(北西)/1日目 黎明】
【支倉曜子@CROSS†CHANNEL 〜to all people〜】
【装備】:H&K MARK23(拳銃/弾数11/12発/予備12×2発)、斧、バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康
【思考・行動】
基本方針1:黒須太一の捜索・保護、この世界からの脱出
基本方針2:『同行者』を増やし、利用して生き残る可能性を増やす。
1:とりあえず街(リゾートエリア)まで降りる
2:人を発見したら、『同行者』となりうるか判断し、そうであれば勧誘。でなければ殺害する
3:手が出せそうにない相手からは遠ざかる
4:首輪の解除に必要な器具・情報を探す(首輪のサンプル入手も含む)
5:この世界からの脱出に必要な方法を探す
6:機会があれば、カジノに出向きメダルの使い道を確認しておく
※登場時期は、いつかの週末。固定状態ではありません。
※名簿に佐倉霧、山辺美希の名前がある事も確認しましたが、特に気にしていません。
※『H&K MARK23』にはサイレンサーと、レーザーサイトが装着されています。
※『同行者』とは、理で動き殺人に厭いが無い者のことを指します。
【衛宮士郎@Fate/stay night[Realta Nua]】
【装備】:維斗@アカイイト
【所持品】:支給品一式×2、ゲーム用のメダル(500枚)、リセの不明支給品(0〜2)※確認済み
【状態】:健康、強い決意(サクラノミカタ)
【思考・行動】
基本方針:サクラノミカタとして行動し、桜を優勝(生存)させる
1:とりあえず街(リゾートエリア)まで降りる
2:桜を捜索し、発見すれば保護。安全な場所へと避難させる
3:支倉曜子の『同行者』として行動し、最大限に利用し合う
4:桜以外の全員を殺害し終えたら、自害して彼女を優勝させる
5:脱出の可能性があるのならば、それも一考してみる
6:機会があれば、カジノに出向きメダルの使い道を確認しておく
※登場時期は、桜ルートの途中。アーチャーの腕を移植した時から、桜が影とイコールであると告げられる前までの間。
※左腕にアーチャーの腕移植。赤い聖骸布をまとったままです。投影の類は使えません。
投下終了しました。多大な支援感謝します。
投下乙です
やっぱ曜子ちゃんすげーわ、何でもできるなこの人
強マーダー同士がこんなに早くから組むとは
なんという、波乱の予感っ!
GJ!
曜子強ええ……士郎死んだかと思いきや。
マーダーコンビの今後に期待。
投下乙!
台詞ほとんどなしでここまで分かりやすく状況書けるってのはスゲー。
死体検分といい、戦闘での立ち回りといい、
曜子ってキャラへの注目度が一気に上がりました。
投下乙です
曜子かっこいい!!惚れた
それくらいに曜子がよかったです
セリフがほとんど無いっていう点も新鮮でした
なにげにこのロワ危険な連中が半端ない……
投下乙
理性の怪物っぽさが凄く出てるな
彼女、太一という枷さえなければ、筆頭優勝候補だからねえ
彼らとミキミキとの対決も楽しみである
投下乙!
まさかのマーダーコンビ! てゆーか耀子さん強いwwww士郎を普通に戦って撃破ですかww
このマーダーの問題は放送後だね、桜の死を告げられた士郎はどんな行動をするか。
……これで耀子がうまく操縦でもしたら、神と呼ぶwww
投下乙です
この二人が出会って血をみないとは。まさか組むとは思わなかった。
曜子ちゃんのほうは厳密にはマーダーじゃなさそうだけど、マーダーコンビにしか見えないw
投下乙です
なんというスーパー忍者……冷静さが半端じゃないw
マーダーコンビ結成だが、果たして放送後は士郎がそう動くのか楽しみで仕方ないw
ギャルゲMAD現在製作中
一応確認だけど、一部出てないキャラがかなり目立つけど問題無いよな
いいんじゃね
完成待ってます