【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://www29.atwiki.jp/galgerowa?cmd=upload&act=open&pageid=68&file=MAP.png 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
【予約】
したらばの予約専用スレにて予約後(
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1173505670/l50)、三日間以内に投下すること。
但し3作以上採用された書き手は、2日間の延長を申請出来る。
また、5作以上採用された書き手は、予約時に予め5日間と申請すろことが出来る。
この場合、申請すれば更に1日の延長が可能となる。
(予め5日間と申請した場合のみ。3日+2日+1日というのは不可)
1/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
○ハクオロ/●エルルゥ/●アルルゥ/●オボロ/●トウカ/●カルラ
1/3【AIR】
●国崎往人/●神尾観鈴/○遠野美凪
2/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
○高嶺悠人/○アセリア/●エスペリア
2/2【Ever17 -the out of infinity-】
○倉成武/○小町つぐみ
1/2【乙女はお姉さまに恋してる】
○宮小路瑞穂/●厳島貴子
3/6【Kanon】
●相沢祐一/○月宮あゆ/●水瀬名雪/○川澄舞/●倉田佐祐理/○北川潤
1/4【君が望む永遠】
●鳴海孝之/●涼宮遙/●涼宮茜/○大空寺あゆ
0/2【キミキス】
●水澤摩央/●二見瑛理子
2/6【CLANNAD】
●岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/●伊吹風子/●藤林杏/●春原陽平
1/4【Sister Princess】
●衛/●咲耶/○千影/●四葉
0/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
●土見稟/●ネリネ/●芙蓉楓/●時雨亜沙
1/5【D.C.P.S.】
○朝倉純一/●朝倉音夢/●芳乃さくら/●白河ことり/●杉並
3/7【つよきす -Mighty Heart-】
●対馬レオ/●鉄乙女/○蟹沢きぬ/●霧夜エリカ/○佐藤良美/●伊達スバル/○土永さん
1/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
●前原圭一/●竜宮レナ/○古手梨花/●園崎詩音/●大石蔵人/●赤坂衛
1/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
●双葉恋太郎/○白鐘沙羅/●白鐘双樹
【残り20/63名】 (○=生存 ●=死亡)
「……つ、ぐみ……?」
ふと、武は振り返った。
そこに一抹の不安と疑問を浮かべながら。それは第六感というものだったのだろう。
何故か、つぐみが呼んでいるような気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
ひゅー、ひゅー、風が吹く。
それは自然の風ではなく、そして悠人の喉からでもない。すでに魔力を整えた悠人はもう苦しまない。
ならばこの風は何処から吹く?
それは地面に倒れ伏す、敗者の喉から漏れていた。ひゅー、ひゅー、虫の息。
血溜まりの中に少女は倒れていた。
どくどく、流れ出るのは生きるために必要なもの。それを見下ろす冷酷な死神は、少女から奪ったミニウージーとマガジンを回収する。
自らがズタズタに切り裂いた少女には目もくれず。ただ全生物の殺害を誓って行動する。
「………………?」
ふと、目元から涙が毀れた。それは悠人本人の心が壊れた証拠かも知れない。
ホテルでは戦い、そして仲間だったはずの少女をこの手で殺した。
永遠神剣の本能のままに行動する悠人には涙の意味が分からない。無表情に彼は次の獲物を捜し求める。
軽傷はすでに回復したが、まだ内蔵まで治療は終わっていない。
まだ足りない。まだ足りない。もっとマナを、もっとマナを。まるでそれしか知らないと言わんばかりに呟いている。
踵を返す。間もなくつぐみは絶命するだろう。もはや、立てるはずがない。それほどの致命傷を負っていた。
「かっ……ごほ、ごほ……」
ミニウージーを乱射したが、弾切れと同時に勝負は決まった。
ベレッタに込められた銃弾……マガジンに入っている16発を全弾、容赦なく撃ち込まれたのだ。
頭はかろうじて防御したが、それを差し引いてもまだ生きていられる自分は、やっぱり化け物なんだろうな、と呟いた。
日光はさんさんとつぐみを照らす。
身体中から悲鳴が上がっていた。動かなくても、持って10分。もしも動くなら……身体を動かすだけで寿命が半分になるだろう。
悠人はつぐみを見ていない。ただゆっくりと歩きながら、根元から折れた木に落ちている巨大な大剣を回収しに行っている。
(……無様、ね)
もう何度死んだか分からない。そんなつぐみは死ぬことなんて怖くなかった。
ただ、自分が死んだ後、武や子供たちが悲しむことが心残りだった。そんなことを考えられるほど、彼女の身体は絶望的だった。
キュレイは日光に遮られて効力を発揮しない。血は後から後から流れていく。だんだん、意識が遠くなってくる。
このまま眠れば、きっと楽に逝けるだろう。
思い残すことは多々あるが、武や純一ならきっと大丈夫だ、と。やはり全幅の信頼を寄せながら瞳を閉じる。
それは終焉の合図。長い長い人生の終点。ゆっくり、死を受け入れるように大きく息を吐いて。
.
つぐみは僅かに残った寿命までも放棄して、近くに落ちたままの大鉈を掴んでいた。
(それじゃ、ダメなのよね)
大鉈を杖にして、ゆっくりと立ち上がる。ぼたぼた、と身体から鮮血が噴出すのにも構わずに。
つぐみが顔を上げる。まだ瞳は諦めを宿していない。
当然だ、自分が愛した人はどんな絶望的な状況でも決して諦めなかったのだから。なら自分だって出来るはずだ。
(行かせない、わ……)
ここで悠人を放置してはいけない。
彼は文字通り、一人で参加者を皆殺しにする力を持っている。そんな彼を五体満足で見送るわけにはいかない。
何より、ここで終わるなんて癪だ。せっかく武に逢えたのだから。こんなところでは終われない、こんなところでは倒れない。
(敵わないにしても……腕の一本、貰っていくっ……)
脚力は全開に、地面を蹴る。まるで狩りを始めた豹のような身の動き。
とても満身創痍の動きではない。だが、それすらつぐみは当然だと思う。むしろそうでなければならない。
今まで人の一生を滅茶苦茶にしてくれたキュレイの力。せめてこれくらいの役には立ってもらわないと、割に合わないというものだから。
「はっ……ぁぁあああああああああっ!!!!」
「……!」
叫び声に悠人が遅れて気づく。背後に振り返りながらデイパックに収めた武装を取り出そうとしていた。
さすがに反応が早い。今の悠人なら気配にさえ気づければ数秒足らずで戦闘準備を終わらせるのだろう。
だが、遅い。その動きを持ってしてもつぐみの疾走のほうが早い。
.
.
決着は本当に一瞬だった。
悠人の首を狙って振り下ろされる最後の一撃。彼の片手は無手で、もう片方はデイパックの中。
回避行動を取る暇さえない。それは完全に意表をつき、つぐみは残った全ての力をその一撃に集約した。
「タイム――――アクセラレイト」
ただ、デイパックの中で掴んでいた『時詠』さえなければ。
◇ ◇ ◇ ◇
「……………………」
呆然と、武は立ち尽くした。全身の力が理由もなく抜けるような気がした。
ホテルへ向かう途中だったが、千影は武と生首を引き合わせて疑心暗鬼を刺激することを恐れて、進路を変えようとしていたときのこと。
何故かはわからないが、無くしてはいけない大切な物を無くしてしまったような、そんな喪失感を憶えた。
「……武くん?」
「あ、ああ、すまない。今いく」
我に返って、武は千影の下へと走る。
気のせいだろう、と武は思うことにした。頭の中に浮かぶつぐみのイメージを振り払いながら。
.
「……だから、まずは悠人くんをどうにかするしかない。アセリアくんと合流しよう……」
「でも、アセリアもあいつには敵わなかったぞ?」
「……いや、それは永遠神剣さえあれば何とかなるはず……今のアセリアくんなら、きっと互角のはず……」
もっとも、それはアセリアと悠人が互角の力量であるならば、ということ前提なのだが。
それにアセリア自身が武から『求め』を受け取ろうとした。『求め』を回収しても戦おうとしなかったことから、扱えなかった可能性もある。
だが、正直なところ今の悠人に真正面から戦って勝てる存在はいないと思う。同じく人外のアセリア以外には。
「それにハクオロくんとの誤解を解かなくてはいけない……彼女たちとの確執を何とかするには私が必要だからね……」
「そうだな、それもある」
「……朝倉純一という人物とも合流したいな……」
「やること多いな。まあ、とにかく……出来ることから始めていこうか」
千影は背伸びをしながらそう語る千影に不思議なものを覚える。
さっきまでは殺人鬼だったのに、まだ疑心暗鬼は完全に直ってもいないのに、どういうわけか頼りがいがあると感じてしまう。
自分の違和感が可笑しくて、思わず口元を歪めてしまうのだった。
「……唐突だが、千影」
「……なんだい?」
「本当に脈絡ないんだが……あの手製の人形、何故だかとある誰かへの腹いせに燃やしたくなった。貸してくれ」
もちろん、断られる。ついでに半目で睨み付けられる。
そんな日常を進んで演じながら、武は心の奥にある違和感の正体を掴めなかった。
結局、違和感の正体は分からないまま……それが今後どう転がるのか、それは誰にも分からない。
【F-6 病院(広場)/2日目 朝】
【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に祭、スタングレネード×2、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
.
【所持品1:支給品一式x3、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×7と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、大石のノート、情報を纏めた紙×2】
【状態:L5緩和、頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)、脇腹と肩に銃傷、女性ものの服着用】
【思考・行動】
基本方針:つぐみと合流し、ゲームを終わらせる
0:突然訪れた喪失感に対する不安
1:咲耶との約束の履行のためにも、千影を守る
2:つぐみや美凪、アセリアを心配
3:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
4:L5対策として、必要に応じて日常を演じる
5:ちゃんとした服がほしい
6:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感
【備考】
※C120の投与とつぐみの説得により、L5は緩和されました。今はキュレイウィルスとC120で完全に押さえ込んでいる状態です。
定期的にアンプルを注射する必要があり、また強いストレスを感じると再び発祥する恐れがあります。キュレイの制限が解けるまでこの危険は付き纏います
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料はごく僅かです。何時燃料切れを起こしても、可笑しくありません。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。
【千影@Sister Princess】
.
【装備:トウカのロングコート、ベネリM3(4/7)、12ゲージショットシェル96発、ゴルフクラブ】
【所持品1:支給品一式×11、九十七式自動砲の予備弾95発、S&W M37 エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、
出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】
【所持品2:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品3:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、デザートイーグルの予備弾92発】
【所持品4:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)、各種医薬品】
【所持品5:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)情報を纏めた紙×1、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【状態:洋服の上から、トウカのロングコートを羽織っている。右肩軽傷、両手首に重度の擦り傷、左肩重傷(治療済み)、魔力残量微量、悲しみ】
【思考・行動】
基本行動方針:罪無き人々を救い、殺し合いに乗った者は倒す。
1:武と共に行動し、ゲームを終わらせる
2:アセリアと合流して、悠人への対処法を考える
3:また会う事があれば智代を倒す
4:永遠神剣に興味
5:北川潤、月宮あゆ、朝倉純一の捜索
6:舞を何とかしたい
7:つぐみ、美凪、アセリアを心配
8:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感
【備考】
※四葉とオボロの事は悠人には話してません
※千影は原作義妹エンド後から参戦
※ハクオロを強く信頼。 つぐみ、美凪、武も信用しています
※不明になっていた人形と服はエリーの人形とスクール水着でした
※これからの目的地は『ホテル』『海の家』が候補としてあがっていますが、他の場所でも構いません
◇ ◇ ◇ ◇
ひゅー、ひゅー、今度こそ悠人の口から空気が漏れる。
油断したことに対する反省もなければ、出し抜かれたことに対する憤りもない。ただ人形のように悠人は歩き続ける。
やられた、と。使う予定ではなかったタイムアクセラレイトの行使により、彼の身体は再び不安定な状態に戻らされた。
「………………」
残りの魔力は自身の存在を固定することと、傷の治療に当てる。
早急にマナ補給が必要だ。そのためには、あの青い妖精を貪り尽くさなければならない。あれはまさに極上だった。
触れているだけでマナが流れ込んでくるほどの魔力量。アセリアを殺せば、きっとマナ不足に悩まされることはないはずだから。
日本刀は血に濡れている。
これは先ほど殺した少女の血。『時詠』の力を使い、その刀で切り刻んだ。容赦なく、躊躇なく命を奪ってきた。
即死だっただろう。涙すらもう流れない。悠人の心は奥深くへと封じられた。諦観と絶望の波を漂って。
悠人は進軍する。目的地は特に決まっていない、ただアセリアを捜し求めて。
本能と僅かに残った理性、その二つがアセリアを求めている。
マナを寄越せ―――――永遠神剣の本能がそう命じる。
殺してくれ―――――最後に残った理性が、ただ唯一の願いを心中で呟いた。
.
【F-6 病院(広場)/2日目 早朝】
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、スタングレネード×2】
【所持品1:支給品一式×5、バニラアイス@Kanon(残り6/10)、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳】
【所持品2:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+1)、懐中電灯】
【所持品3:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)、投げナイフ2本、ミニウージー】
【所持品4:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】
【所持品5:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、乙女のデイパック、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】
【状態:疲労大、魔力消費極大、左肩と脇腹と右太股に銃創、肋骨数本骨折、数本に皹、内臓にダメージ、暴走】
【思考・行動】
1:全ての生物を殺して、マナを奪い尽くす
2:アセリアを優先的に狙い、マナを搾取する
【備考】
※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
※悠人の身体は、永遠神剣の本能に支配されています
※悠人本人の意識は僅かに残っていますが、身体には一切干渉できません
※パワーショベルカーの窓ガラスは、一部破損しています
※暴走悠人の身体能力は、時詠にマナを注ぎ込めば注ぎ込む程強化されます。
つまり、マナが切れ掛けている今の状態では、カルラの大剣を振り回したりするのは、まず不可能です。
※魔力持ちの相手を殺せば、マナを回復させる事が出来ます(回復量は、相手の魔力量に比例)
※暴走悠人は時間経過と共にマナ回復しますが、神剣を持っている限り回復したマナは吸われていきます。
※悠人とアセリアは身体をマナで構成しているため、マナ回復できれば傷の治癒も可能です。
◇ ◇ ◇ ◇
(ああ……負けたんだ……)
ぼんやりと、私は思い出す。私が繰り出した大鉈は悠人の首には届かなかった。
瞬きをしたつもりもなかった。捉えた、と思った瞬間に悠人の身体は視覚から消え失せてしまった。
それを疑問に思う暇もなく、この身体はズタズタに切り裂かれた。
血溜まりはさらに広がっている。もはや何をしようと助からない。とはいえ、こんな致命傷でも即死しない私は、重ね重ね化け物だ。
だけど、そのキュレイもさすがに打ち止めらしい。
日の光、紫外線が私の身体を炙っている。吸血鬼もこんな気分なんだろうか、と意味のないことを漠然と考えてしまった。
もう、指一本まともに動かない。17年前はあんなに遠かった死がひどく身近に感じる。
(まったく……皮肉なものよね……)
死のうとして、生き抜いて。生きようとした途端にこうして死ぬ。
これが運命だとしたらあまりにも馬鹿馬鹿しい。そんなひどい話が現実にはいくらでも転がっている。
ああ、あの子たちは大丈夫だろうか。私がいなくても強く生きていけるだろうか。
いや、きっと大丈夫。私がいなくてもあの子たちは強く生きた。
きっと悲しんでくれるだろう。だけど、大丈夫。武がいるんだから。私の代わりに必ず、この悪夢を終わらせてくれる。
このまま追憶と走馬灯に身を任せていよう。それが私に許された最後の望みなんだから。
.
.
.
「……あ、れ……?」
目を閉じようとしたけど、私の視界の端に何かが移った。
大鉈はすでにバラバラに破壊されている。あれを無意識に盾にしたのだけど、容赦なく私ごと破壊されてしまっているらしい。
違う、私の気を引いたのは……黒い四角の物体。それはそう、確かに見たことのあるもの。
「あ……」
武のPDAだ。デイパックの中ではなく、私の服の中に入れていたもの。
それが悠人の攻撃による衝撃で吹っ飛んでしまっているらしい。本当にすぐ近くにある。普通に手を伸ばせば届く場所に。
だけど、ダメなのだ。もう指一本だって動かせない。それに意識を費やしていたら、最後に許された走馬灯すら放棄してしまう。
見れば当の昔に壊れてしまっている。それは何の意味もない。さっさと目を瞑って、ほんの少しの安らぎを手に入れたほうがいい。
「……でも、そうね……悪くないかも」
私は笑っていたと思う。よほど私は毒されていたらしい。
最後に自然に与えられる安らぎよりも、自分自身で掴み取る幸せのほうを握りたい。たとえそれが、無駄だとしても。意味がなくても。
もぞもぞ、と指を動かした。その間にもじりじりと太陽の光が私の命を削っていく。血が抜けて私の体力は奪われていく。
それでも、私は私自身の力をもらって戦っていた。
「っ……っ……っ……!」
もうまともに身体も動かせないのに。
もぞもぞ、と全身全霊を振り絞って、持てる力を使い切って、ようやく腕が動く程度。指一本だって全力だ。
届くはずがない。指が精一杯だなんて届くはずがない。理論的なかつての私か諦めろ、と囁くのにも関わらず。
痛い、悲しい、苦しい、辛い。
やがて私の目が用を成さなくなってくる。視界が暗転し始め、私は涙が出てきそうになった。もう枯れ果てたと思った雫が頬を伝う。
待って、待ってほしい。せめて、それに手が届くまで消えないでほしい。
(届けっ……届けぇ……!)
持てる全ての力を振り絞って、たかが機械ひとつに腕を伸ばすなんて愚かだろう。
そうしている間にも寿命は刻一刻と消えていくのに。暴力的な力に身を任せた私は決して諦めようとしない。
必死に願いながら手を伸ばす。真っ直ぐに、私は最後まで決して諦めない。武や純一のように、一途にそれに手を伸ばす。
そしてようやく、心が其処に至ったような気分になって。
その手が、ちっと血塗れになってしまっているその手が、武のPDAに触れる感触。続いて、それを掴み取った満足感を手に入れた。
.
「ああ……」
たったそれだけの行為で、寿命は半分に減ってしまったけど。
その代わり心はきっと満たされた。手の感触が嬉しかった。
目が見えなくなった。もう真っ暗な闇と、そしてじりじりと照らす白しか分からない。だけど、胸に抱いた希望は決して離さなかった。
じりじり、と。しつこいぐらいに私の焼くのは紫外線。
無遠慮な日光は私にとって地獄の業火のようなもの。それでも、自分の手で掴み取った幸せは温かだった。
「……あは」
最後の力で僅かに首を上げる。
これが本当に最期の最後、皮肉めいた笑みを浮かべて太陽を見据える。
武なら、純一ならきっとやり遂げてくれるだろう。そんな願いを込めながら。
「本当……憎らしいほど、素敵な朝日……ね」
無限は今、終焉を迎えた。
静かに私は瞳を閉じる。幸せを胸に抱き、勝ち取った希望の温もりを感じながら。
カナカナカナカナ……
静寂の中にひぐらしの鳴き声が届いた。
永遠はここに、終末を迎えたことを認めるように。あるいはそれを憤るように。もしかしたら、それを悲しむかのように。
【小町つぐみ@Ever17 -the out of infinity- 死亡】
.
『諸君らに大神の祝福あらんことを―――――』
「畜生! 間に合わなかったのかよ……」
純一は自分の拳を地面に叩き付けた。
なぜなら放送で探し人、前原圭一の名が呼ばれたからだ。
間に合わなかった、その事が悔しかった。
純一達は病院に向かってる途中のE−6で放送を聴いていた。
そこで呼ばれた圭一の名前。
その事で純一達はショックを受けていた。
「梨花ちゃん……独りになっちまったな」
「古手……大丈夫かよ……」
心配するのは梨花の精神状態だった。
あんなに会いたがってたのに。
あんなに心配されたのに。
そう思うととても居た堪れなくなった。
そして
「つぐみと悠人は大丈夫か? 病院に向かったはずだし」
「クラゲなら大丈夫だろ……たぶん」
そうつぐみ達の心配だった。
前原圭一が病院で死んだのだとすると病院に向かったつぐみたちが殺し合いに乗った人に襲われる危険性が高い。
戦闘能力が高い二人でもやはり心配だった。
もっとも今は
悠人は永遠神剣に呑まれ暴走し
つぐみは病院で最愛の人、武と戦おうとしていた。
その事に純一達が知る由も無いのだが。
そして純一達が放送を聴いている間に
「純一、今戻ったぞ」
回りを偵察にいっていた土永さんが帰ってきた。
純一達が放送についてメモをしてる間土永さんは偵察する事を提案した。
少しでも純一の役に立ちたかったからだ
翼も少し傷がよくなっていたのでリハビリもしたかったからだ。
純一は一旦考えることを止め
「ああ、お疲れ様。何か収穫は?」
「うむ、もう少し先に男女の2人がいたがどうする? 接触するか?」
「どうすんだよ、純一? お前が決めろよ」
「2人組みか……うーん、なら」
そして純一が下した判断は――
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(また放送した人間が変わったかい……そんなにそっちは人材が豊富だって事を言いたいかい、鷹野?)
放送を聞いたあゆはそう思った。
また放送を行う人物を変えたのだ。
だがそこで疑問に思った事があった。
なぜ今更そんなに変える必要があるのかということだった。
そこで今回呼ばれた死者が少なかった事。
それと結びつけあゆが達した結論は
(殺し合いに乗った人間が減ってる事か。人数が減ったのも確かだけど、こんなに少ないさね。間違いないさ。それでわざわざ人材が豊富だっていいたいのか、脱出が無理だと言う為に)
その結論は殺し合いに乗ってないあゆにしては嬉しい事。
(でもまだ一ノ瀬は生きてる、甘い人間を騙して。だから絶対あの糞虫は殺す!)
でもまだ一ノ瀬ことみは生きている。
そのことがあゆを奮い立てていた。
そう思いハクオロに声をかけた。
「行くさ、ハクオロ。こうしちゃ居られないよ。一ノ瀬をさっさとやらないと……ハクオロ?」
しかしハクオロはそれを聞いていなくどこか上の空だった。
あゆはもう一度
「どうしたんだい、ハクオロ?」
「あ? あ、ああ何でもない。あゆ」
「大丈夫かい?」
「ああ何でもない」
ハクオロやっと反応し答えた。
彼を上の空にしていた事、それは
(大神だと? まさかウィツアルミネティアなのか? だとしたらヒエンなる者は私達と同じ世界の人間なのか? なぜ鷹野の元にそんな人間が居る? 分からないな)
ヒエンが発した「大神」という言葉。
それはもしかしたら自分達の世界の神「ウィツアルミネティア」の事だとしたらヒエンは自分達と同じ世界の人間だということである。
そうだとすると今まで自分達の世界と関りのなかった鷹野が関係があるということだ。
なぜ、と疑問に思っているハクオロをせかすようにあゆが
「なら行くよ! 時間が惜しい」
「ああ、判った。だがその前に」
ハクオロは後ろに振り向き傍にある茂みに
「いい加減出てきたらどうだ? 私が分からないと思ったか?」
そうさっきから背後に気配を感じていたのだ。
何も起こさなかったので黙っていたがいい加減無視できなくなっていった。
それを聞いたあゆの顔にも驚きと緊張が走った。
その直後茂みの奥から
「だー! ばれちまったじゃねーかよ! お前がヘタレだからだろ! 純一」
「いや! それは絶対関係ねーって! ヘタレは関係ないし! しかもまたヘタレかよ!」
「我輩はお前ら2人が原因だと思うのだが……」
「「土永さんは黙ってろ!」」
「……理不尽だ」
という騒がしい声が聞こえてきた。
この瞬間あゆとハクオロは判断した。
絶対ゲームに乗ってない、無害だと。
そして凄まじく馬鹿で甘いということも。
ハクオロはそんなバカップルのような騒ぎ方をしている純一達の方を向きため息をつきながら言った
「……そろそろいいか? こちらは乗っていないが、そっちは……乗ってる訳無いか」
「あ、ああ悪い。俺達も乗っていない。俺の名前は朝倉純一」
「ボクは蟹沢きぬだ」
「我輩は土永だ」
3人はハクオロ達のほう向きそう答えた。
「……私は大空寺あゆさ」
あゆは唖然としつつも土永さんのほう向き
「鳥も参加してたのか? こいつ非常食かい?」
そういった。
「な!? 我輩が非常食だと」
「そんな訳ねーよ。第一こんな不味そうなの食べたくもないし」
「それもそうか、悪かったよ」
「な、な、……何だとー」
土永さん自分が悲惨な扱いを受けていた事にショックを受けていた。
そんな土永さんを華麗にスルーして純一はハクオロに
「それであんたはハクオロか? 悠人から聞いたんだ。変な仮面してるって聞いたから間違いないと思うが」
「ああ、そうだが。悠人とあったのか?」
「ホテルでな。確かに病院で合流すると聞いたけど」
「……ああ、色々あって変わったんだ」
「色々?」
純一の疑問にあゆが
「これは私が答えるさ、私が話した方がいい」
そう答えた。
そして全てを話し始めた。
一ノ瀬ことみに仲間だった亜沙を殺された事。
その後にハクオロと合流した事。その時、あゆが自分が一度乗ろうとした事は伏せた。
病院に行き、ハクオロの仲間だった衛を殺された後だった事。
そして遂にことみと出会い、またハクオロの仲間を騙していた事。
今はことみを追ってる最中だという事。
あゆは話した。
話してる最中にあゆは憎しみ隠し切れなくていくつかは怒声になっていた。
黙って全部を聞いていた純一は
「……それで、そのことみって奴見つけたらどうするんだ?」
そう言った。あゆは間髪入れず
「殺す! あの糞虫に生きてる価値なんか無い!」
その言葉にはただの単純な憎しみ。
それしか篭められてなかった。
それしか考えられなかった。
だが純一は黙っていなかった
「なぜ殺そうとするんだよ! 憎んでもいい! でも殺したって何にもなんないだろーが!」
あゆがやろうとする事は純一は信念に反していた。
また鷹野の思惑にはまって殺そうとしている。
止めたい。
ただその一心で動いていた。
だがあゆは怒りを爆発させ
「は!? 何言ってるさね! あいつは殺されて当然の行為をしたんだよ! それを殺すなだって!?」
「ああ! 俺はこの地獄のような島で決めた信念がある! 殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出するって信念が!」
「この島で死んでいい人なんて居ないんだよ! 鷹野の様な人間に騙されるんじゃねーよ! 殺されたから殺して、殺したから殺されてという連鎖をしちゃ駄目なんだよ!」
「俺達が倒すべきは鷹野だ! だから、どんな憎んでも殺すべきじゃない!」
その純一の信念を聞いてあゆは
(殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出するだって! 甘い、甘すぎるさ! まだこんな人間居たのかい!)
「はっ! 甘いね! そんな糞虫みたいな人間生かしておいてなんになる! 私は時雨を殺した奴となんか行動したくも無いさ!」
「おれだって恋人だった音夢を殺された! でも、ここで殺しても何の意味なんか無い!」
純一はそういい切った
だが純一は気付いていなかったが恋人という単語にきぬが過敏に反応していた。
互いに意見をぶつけ合う。
だがお互いに認める事は無い。
平行線のままだった。
それに見かねてハクオロが
「あゆ、少し私に任せてくれないか?」
「でもさ!」
「いいから」
「……わかったよ」
しぶしぶあゆが了解するとハクオロは
「さて、純一といったな。お前のその信念しかと聞いた。とても強く綺麗な物だな」
「そ、そうか?」
「だが、綺麗すぎる」
「え?」
「たしかにだれも死ななければいい。殺されたから殺してという連鎖なんかなければいい。でも実際はそんなに上手くいくものではないのだ。それにお前の考えは所詮殺さない人の立場でしか考えてない」
「人を殺す人間は全て悪いわけではない。護るべきの人のため、己が信念のため、散ってった仲間のため、そして生きるため戦っている。そして殺した人の思い、殺した罪も背負って生きているんだ」
「お前はそんな人間の立場を考えた事をあるのか? その事を考えてお前はその理想を言ってるのか? 今のお前は戦う覚悟無い様にしか見えない、ただに逃げてるだけだ」
ハクオロは国の皇である。
そのために戦争した事何回もある。
そしてそのたびに人が死ぬ。自分だって何人も殺した。
でも決して憎しみだけ殺してはいない。
兵士達も生きたい、国を護りたい。自分の大切な人を護りたい。
そんな思いで戦い殺している。
だから殺す人間の気持ちもわかることができた。
それ故に純一の理想はあくまで殺してない人間だから言えることでハクオロからしてみればその考えはとても綺麗すぎた。
「……でも、それでも、俺は殺す事を認める事なんか出来ない!」
でも純一はそれを認めることはできなかった。
認めたら信念がガラガラと音を立てて崩れるような気がして。
きぬが純一の手を握る。
「純一、大丈夫かよ?」
きぬはどこか怯えた様子の純一が心配だった。
だがハクオロは純一の必死の言葉にさらに反論し
「純一、お前の理想も正しい。だがもう少し現実を知った方がいいな」
「え?」
ハクオロが言葉を紡ごうとする。
きぬにはそれがなんだか怖かった。
「なら純一教えよう。お前の恋人、音夢といったな? 誰が殺したかわかるか?」
「い、いや」
純一が震えた。
これから続く言葉を聞きたくなかった。
「そいつを殺したのは私だ」
「「「「!?」」」」
ハクオロ以外の4人が驚く。
純一はのどが渇いてくのが判った。
震える声で
「どうして……なんで?」
「襲われたからさ。殺すしかなかったんだよ」
純一は必死に抑えた。
信念が砕けそうで。
音夢が乗っていたのも知っていた。死んだという事は誰かに殺されたんだろう。
それがまさか目の前の男だとは思わなかった。
憎い。
そう思ったが信念のためおさえた。
が、ハクオロはそれすらも打ち砕いた。
「まあ、殺す前に楽しませてもらったよ。中々よかった」
その言葉で純一は何かが弾けた。
ただ浮かぶのは憎悪。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い、憎いっ!!
きぬの手を乱暴に解き
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ハクオロに向かって突進した。
この男を殺す。
ただそれしか考えられなくて。
信念なんか考えられなかった。
ハクオロはそんな純一の攻撃を避け投げ飛ばした。
「所詮お前はそんなものなのか、純一? 言葉に惑わされ、憎悪のために理想を捨てたのか? お前の理想はそんなものか?」
純一は倒れたまま言った
「どういう……事だ?」
ハクオロは純一に向け
「悪いが試してもらった。お前の覚悟がどんなものかを。その信念を。」
「ため……す?」
「ああ、私はお前の恋人を犯してなんかいない。襲われたのは事実だが。仕方がなかった。仲間を助けるにはそれしかなかった。すまない」
ハクオロはそういい頭を下げた。
純一はクリーンな思考で考えた。
違ったのだ。
自分は憎しみにとらわれて信念を捨てた。
そう思った瞬間
「あ、ああああ……うああああああああああああああああああ!!!」
感じるのは絶望。
結局口だけだった。
自分には覚悟など無かった。
その理想を謳うには相当の覚悟が必要だったというのに。
それがなかった。
ただ憎しみにとらわれて。
「俺は、俺は、畜生ーーーーーーーーーーーー!!!!」
もう何も考えらなかった。
ハクオロが
「お前の覚悟、理想はそんなものなのか? 諦めるのか? 私はお前がどうなるか楽しみにしている」
そう言い放ち
「あゆ、行くぞ」
「あ、ああ。判ったさ」
あゆと共に去っていた。
残されたのは
「俺は、俺は何をしてたんだよ! 俺は! 俺は!」
絶望した少年と
「純一……」
迷う少女と
「何てことだ……」
惑う鳥のみ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「なあ? ハクオロ、あれでよかったのかい?」
あゆは釈然としない思いを伝えた。
「正直、あんたの態度、きつすぎだよ。それに襲われて殺したのも嘘だろ?」
「ああ」
「なら、なんでさね?」
ハクオロは一息ついて
「そうだな。予防線って所だ」
「予防線?」
「ああ、もし純一が音夢を殺した人に会う可能性があった。もしそれでさっきみたいになったらどうする? 確実な死だ」
「それなら私が恨みを買った方がいい。私を憎めばその危険は無くなる」
あゆは嘆息した。
(何て、甘い、いや大きい人だね)
「そう、でもその前にあの男潰れないかい? あのままじゃきっと」
そんなあゆの当然の質問に
「ああきっと大丈夫だ」
「何故さ?」
「それは彼は独りではないからだ。傍に居たじゃないか。誰よりも彼を、彼の信念を信じ、付き添っていたパートナーが」
ハクオロは笑顔でそう言った
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「畜生! 俺は今まで何をやってたんだよ! 俺は! 俺はぁぁぁぁぁぁ!!」
純一は拳を地面に打ち付けていた、ずっと。
まるで壊れた人形みたいに。
激しい絶望。
信念を打ち砕かれどうしようもなかった。
(純一……ボクはどうすればいい? このままみてる? いや違うね。ボクはこんな純一を黙ってみてられない。ならやる事は一つ)
(ボクが純一を戻す。恋人がいたって事で知ったこの想い。 諦めるのか? 違うね。絶対諦めない)
(ボクが惚れた純一はこんなじゃない。理想掲げ進む純一だ。だから絶対戻す!)
きぬは思った。
こんな純一は見たくない。
好きになったのは愚直なまでに進む純一。
だからやろう。
自分にできる事。
きぬはそっと純一に近づいた。
そしてきぬが後ろから抱きしめた。
「蟹沢!?」
土永さんが驚いた風に声を上げた。
そして言葉を紡ぐ。
「おい、純一。やめろよ。そんな事したって何にもなんねーぞ」
純一は拳を打ち付けるのをやめ
「……蟹沢、俺は何やってたんだろうな……覚悟もなかった、感情に任せて俺は……結局、無駄だったのか、俺がやってきた事は」
弱弱しく純一は答えた。
きぬは少し怒って
「無駄なんかじゃねーよ! 純一が居たおかげで今のボクがいる。土永さんだっている。だから諦めらめんなよ!」
「……でも俺はもう無理だよ。信念は砕けたんだ。今の俺は絶望だけだ」
そう純一は言い放った。
それから2人は無言だった。
だが唐突に純一の首筋に冷たいものが当たった。
純一が振り向くとそこには涙を沢山溜めたきぬの顔があった。
そして
「こ……の、ヘタレ!……一人で抱え込むんじゃねーよ……ボクには純一の絶望なんかわかんない……どんだけ苦しいかもわかんねーよ」
きぬが抱きしめるのを強めた。
きぬがぼろぼろ泣いていた。
何故かそれが純一にとって温かった。
「ボクには……その音夢って人を失った悲しみもわかんねーけど……でも、ボクは解りたい……純一の事……苦しみも……悲しみも……憎しみも」
「それに……まだ信念は無くなってねーよ……純一」
「……え?」
きぬは一際強い声で
「覚悟が無いんだったら……すればいいいだろ……信念が砕けたなら……もう一度集めればいいだろ……お前が諦めなきゃ叶うだろ! 純一!」
「お前が……苦しかった時……悲しかった時……辛い時……ボクが助けるから……その音夢の代わりになるかわかんねーけど」
「だから……諦めんなよ! 純一! ボクも傍にいる! お前を助けてやる! お前は最後まで進まなきゃ駄目だろ! 純一!」
「純一……お願いだから諦めんなよ……ボ……ク……こんな……純一……見るの……やだよ……」
そういいきってきぬは泣き出した。
この想い、純一に届けと。
(蟹沢……俺は……馬鹿だな……音夢にも怒られちまう……前に思っただろ信念は一人のものじゃないって)
(考えろ! 朝倉純一! 今泣いてるのは誰だ? 何で泣いてる? 俺が諦めたと思ってるから)
(諦めるな! 朝倉純一! 覚悟が無い? 今覚悟すればいい! 憎しみが溢れる? 大丈夫だ! 傍にこいつが居る!)
(進め! 朝倉純一! 自分の為に! 音夢やさくら、ことりや散ってった仲間の為に! そして今俺のために泣いてる少女の為に!)
そう純一は奮い立たせ
「蟹沢……ごめん……本当に……ごめん、そしてありがとう」
振り向ききぬの方に向き
「俺は独りじゃないんだよな。忘れてたよ。誰よりも信じてくれる奴が居る事を」
「ありがとな。俺はもう絶望なんかしない」
「俺はもう諦めない! どんなに言われても俺は信念を捨てない! 諦めない! 蟹沢の為にも!」
「だから見てろよ! 俺は進み続けてやる!」
そしてそう誓った。
諦めないと目の前の少女に
きぬがもう涙でぐしゃぐしゃになった顔で
「やっと……戻りやがったな純一! もう……心配させじゃねーぞ、この……この……この!」
純一に近づき抱きしめた。
純一は驚きつつも
「はは……ただいま、蟹沢」
笑顔でそれを迎えた。
もう大丈夫。
もう絶望しない。
どんなに土台がなくなってもこの無垢な少女がいるから、きっと大丈夫。
俺は進めるから。
だから見てろよ、皆。
諦めないから、俺。
「お楽しみの所、申し訳ないのだが」
土永さんがそう声をだした。
その瞬間2人は
「「わ!」」
さっと離れた。
2人は顔を真っ赤にしながら
「別に楽しんでたわけじゃないもんね!」
「そうだぜ!」
そう反論した。
土永さんは嘆息しつつも
「もしや、我輩を忘れたわけではあるまいな?」
そういった。
2人は心の中で
((あーごめん。居たの忘れてた。))
そう思っていた。
それを悟ったのか話題を変えた。
「もういい! とりあえずこれからどうする?」
純一は考えた。
信念を貫くならやる事は一つ。
「ハクオロ達を追いたい。みすみす、やらせる訳にはいかない」
ハクオロ達を止める。
もう迷わない。そう決めたから。
しかしきぬが反論した。
「でも、つぐみ達どうすんだよ? あのヘンテコ仮面が向かった先違うし」
元々病院で合流する予定だったつぐみ達の事だ。
確かに方向が違うし行き違いなるかもしれない。
「うーん、困ったな」
純一が迷ってる所に
「なに迷ってる純一。我輩を使えばいい。病院までいって、つぐみとやらに伝えればいいのだろう?」
土永さんがそういった。
確かに土永さんが行けば伝えられるだろう。
しかし
「お前、傷大丈夫なのか?」
「まあ、少し痛むが休み休み行けば大丈夫だ」
「でも無理をしない方が……」
「何を言ってる。我輩は少しでも純一の役に立ちたいのだ。これくらいはしたい」
それは土永さんの本心からの言葉。
だから純一はこういった。
「解った。任せる。つぐみ達の容姿は……」
そして土永さんにつぐみ達の容姿など教えた。
「よし、わかった。もし疑われたらどうすればいい?」
そんな土永さんの疑問に
きぬはこう言った。
それはつぐみに言えばすぐに自分達とわかる言葉。
「クラゲって言えよ。一発で解るからよ」
そうきぬがつぐみにつけた渾名。
これなら自分達とわかるはずとおもって。
土永さんは満足そうに
「解った。では行ってくる」
そういい飛び立った。
こうして凶報を伝えた凶鳥は、情報を伝える鳥へと変貌を遂げた。
土永さんを見送った後純一達も出発する準備を始め
「よし、そろそろボクたちも行こうぜ」
「ああ、その前に蟹沢」
「なんだ?」
「ありがとうな。色々とさ」
「べっ別に、惚れた相手だし」
「え、今なんて」
きぬは顔を真っ赤にして
「何でもない、何でもないよー! ほら先行くぞ」
駆け出した。
(蟹沢が俺を? 俺は蟹沢のことどう思ってんだろう? なんかモヤモヤするな。)
だがそれを振り切って
「おい、待てよ、蟹沢」
きぬを追いかけだした。
【E-6 平原(マップ下部)/2日目 朝】
【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:左翼には銃創(治療済み)、頭には多数のたんこぶ】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
0:純一の為に自分に出来ることを考える
1:つぐみ達を探し純一達が西に向かった事を教える。
【備考】
※小町つぐみ、高嶺悠人の情報を得ました。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ハクオロ達は山のほう向かってちょうどD−7に入った頃、背後から
「おーい! やっと追いついた!」
と聞いた事がある声が聞こえた。
それは純一達。
最初ハクオロは構えたが純一の目がしっかりしているのを見て構えを解き
「何の様だ? 純一」
そう答えた。
もっとも追ってきた時点で大体は解ってはいたのだが。
「止めに来た。俺が信じる信念の元に」
そう純一は言い放った。
もう迷いはなかった。
ハクオロは意外そうに
「ほう、あの時言葉に騙され理想を捨てたお前がか?」
「ああ、もうあの時とは違う! 覚悟も出来た! 綺麗事と言われたって構わない! 俺は進むのやめない! 蟹沢と約束した!」
「覚悟、か。お前は私が憎くないか?」
「憎くないといえば嘘になるけど、でも、俺はその憎しみですら力にしてみせる! 俺は独りじゃない、俺が辛い時助けてくれる仲間も居る」
ハクオロはそれを聞いて満足した。
どうやら自分が望んだようになったようだと。
純一の理想、それは綺麗すぎる。だがこの島ではこの上の無い武器。
だがあの時の純一にはそれを行う覚悟も無いように思えた。
だから試した。
そして今、純一は強くなった。
最後にもう一つ聴きたい事があった。
「最後に聴きたい事がある。お前は戦う覚悟があるか?」
「戦う覚悟?」
「ああ、もし説得不可能の相手がとあったらどうする?」
「……まだ、よく解らない」
ただと純一は付け加え隣に居るきぬを見て
「蟹沢だけは絶対守り通す。絶対に」
そういった。
まだ決められない。
でも自分の為に全力で尽くしたきぬだけは守り通したかった、絶対に。
それがどんな時でも。
ハクオロは頷き
「まあ、いいだろう」
そして
「勝手にするがいい。純一」
「ああ、勝手についてくるさ」
ハクオロは満足そうにしまた歩み始めようとした。
だが
「ちょっと待つさ! ハクオロ」
あゆがハクオロを止めむりやり自分の傍まで近づけた。
「どうした? あゆ」
「どうしたこうもないさね。あいつら連れてくってどういうつもりだい。まさか一ノ瀬を殺さないって言うのかい?」
「そんな訳が無い。ただお前もそうだろう?」
あゆが疑問に思い
「何が?」
「あんな甘い人間、ほっとけないだろ? お前、私にもそういっただろう?」
そう不適に笑いった。
「ああ、もう! そんな言い方されたら、無視できないさ、今回限りだよ」
あゆはしぶしぶ了承した。
(もっともそれだけではないのだがな。まあこれは伝えるわけにいかないな)
そうハクオロにはもう一つ意味があった。
もしことみとあった場合、ギクシャクして話し合いにならないだろう。
そしてお互いにすれ違いが多い。
だから客観的な視点が欲しかった。
そこに純一達を利用しようと考えたのである。
ただそんな事あゆに伝えれば憤慨するだろう。
だから伝えられなかった。
そして
「では行くか」
4人は進み始める。
己が信念の為に。
【E-6 平原(マップ下部)/2日目 早朝】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10 (3/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】
【所持品:予備弾丸10発・支給品一式 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】
【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志、左前腕打撲(しばらく物が握れないレベル)】
【思考・行動】
行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に逃さない。
1:一ノ瀬ことみを追う(当面の目的地は温泉)
2:二人を殺す為の作戦・手順を練る
3:ことみと良美を警戒
4:ハクオロをやや信用しつつもとりあえず利用する
5:純一達はとりあえずハクオロに任す
6:殺し合いに乗った人間を殺す
7;甘い人間を助けたい
【備考】
※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。
※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。
※支給品一式はランタンが欠品 。
※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど
※アセリアと瑞穂はことみに騙されていると判断しました。
※純一達についてはとりあえずハクオロに任す気です。
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:精神疲労、左肩脱臼、左肩損傷(処置済み)、背中に大きな痣、腹部に刺し傷(応急処置済み)】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。
1:ことみを追い、彼女が本当にゲームに乗った人間ならばあゆの代わりに手を汚す。
2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
3:瑛理子が心配
4:悠人の思考が若干心配。(精神状態が安定した事に気付いてない)
5:武、名雪(外見だけ)を強く警戒
6:純一に期待、それと保護
7;自衛のために武器がほしい
【備考】
※オボロの刀(×2)は大破。
※あゆを信頼しました。罪は赦すつもりです。
※純一達を信頼しました。
※ことみの事を疑っています。
※衛の死体は病院の正面入り口の脇に放置。
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:釘撃ち機(10/20)】
【所持品:支給品一式x4 大型レンチ エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残26/30)
ヘルメット、ツルハシ、果物ナイフ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄 虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:若干の精神疲労・強い決意・血が服についている、左腕と右足太ももに銃創(治療済み)、横なぎに服が切られてますが胸からの出血は止まっています】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
1:ハクオロについていきとめる
2:つぐみと蟹沢を守り通す
3:圭一、武の捜索
4:智代を説得したい
5:さくらをちゃんと埋葬したい
6:理想を貫き通す
7:きぬにたいする不思議な感情
【備考】
※純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
※つぐみとは音夢の死を通じて絆が深まりました。
※北川、梨花、風子をかなり信用しました。 悠人もそれなりに。
※蟹沢と絆が深まりました。それと不思議な感情を持ち始めました。
※自分自身をヘタレかと疑ってます。
※佐藤良美をマーダーとして警戒しています。
※盗聴されている事に気付きました
※雛見沢症候群、鷹野と東京についての話を、梨花から聞きました。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。
※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。
※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。
※悠人と情報交換を行いました
※ハクオロはそれなりに信頼。音夢を殺したと思ってます。
※あゆをそれなりに信頼。
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:拡声器】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス
支給品一式x3、投げナイフ一本、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、
麻酔薬入り注射器×2 H173入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】
【状態:強い決意、両肘と両膝に擦り傷、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、首に麻酔の跡】
【思考・行動】
基本:ゲームに乗らない人間を助ける。ただし乗っている相手はぶっ潰す。
1:純一についていく
2:圭一、武を探す
3:ゲームをぶっ潰す。
4:よっぴーへの怒り
5:純一への恋愛感情
【備考】
※仲間の死を乗り越えました
※アセリアに対する警戒は小さくなっています
※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。
※つぐみを完全に信用しました。つぐみを椰子(ロワ不参加)に似てると思ってます。
※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。
※純一と絆が深まりました。純一への恋愛感情に気付きます。
※ハクオロはそれなりに信頼。音夢を殺したと思ってます。
※あゆをそれなりに信頼。
―――――いいか、舞。答えがイエスなら『はちみつくまさん』、ノーなら『ぽんぽこたぬきさん』と言うんだ。
―――――あはは〜、ほら、舞〜、タコさんウィンナーですよ〜。
そんな日常が、かつてあった。
屋上での三人だけの食事。そんな温かい風景は確かに存在した。
―――――ほぉら、舞。牛丼だぞぉ、うまいぞ。
―――――佐祐理は舞のこと、好きですよ〜。
私は中空に浮いたまま、鏡を見ていた。
その向こう側には日常が広がっている。きっと、その中には入れれば温かなんだろう。
けれど鏡の中には入れない。当然だ、鏡とは写し合わせの虚構の世界。それを覗くことは出来ても、決して世界には入れない。
もう戻れない日常を映し出す鏡。
鏡の中では楽しい日々が当たり前のように回転している。歯車は決して狂わない。
私はその中には入れない。鏡を見ている私は檻の中、ただその光景を眺めているだけ。
―――――失いたいのかっ!! 佐祐理さんや俺や、一緒に作ってきた色んなものをっ……!
.
.
.
かつて、そんな叫びがあった。
かつてそう言われたこともあった。全てを失うだけだぞ、と。そんなことを伝えようとした人もいた。
―――――答えろっ、舞っ!!
だけど、それこそが虚しい。
だって、もうとっくに全部失ってしまったから。
だから私は檻の中、歯車はがらがら、音を立てて崩れていく。
いらない。
もう戻れない光景なんていらない。
私には佐祐理さえいればいい。失いかけた大切な人を護るためならば。
―――――砕けろ。
手に持っていた剣でその鏡を叩き割った。
ガラスが砕ける音もない、砕いた感触さえ残らない、ただ無音の世界が私に残された。
無常な静寂が耳を打つ。日常を失うとはそういうこと……私の手には剣と銃、非日常の象徴しか残らない。
それでも、私は佐祐理を取り戻したい。
その代償として失ったもの。
その結果が正しいなんてわからないまま……私は、この憧憬から立ち去るしかなかった。
.
◇ ◇ ◇ ◇
「……んっ……う……」
目が覚めたときには、既に明け方だった。
少し休憩を取るついでに仮眠をとったつもりだったのだが、数時間も意識を失ってしまったようだ。
この間に襲われなかったことは僥倖と言っていいだろう。おかげで体調は万全、疲労はほとんど取れてしまった。
舞は無表情のまま立ち上がる。
こんなところで休んでいる場合ではない。まだ自分は一人しか殺していないのだから。
誰の声ももはや届かない。
助けたい、と言った男の声も。あのときから出逢っていないことりの声も、そして夢の中に一瞬だけ現れた幻想も。
「…………」
あの銀髪の女の蹴りで受けた傷は回復したが、全身の至るところは軋んだ痛みを訴える。
関係ない、と舞は断ずる。一刻も早くゲームを終わらせて佐祐理を助けなくてはならないのだから。
そのためなら腕の一本、足の一本失うことだって躊躇いはない。ただ大切な親友が帰ってくるのなら、舞はこの非日常に浸り続ける。
地図を取り出して今後の方針を考える。
何時間も休眠を取っているのに、誰も接触してこない。それはつまり、この近辺には誰も参加者がいないことを如実に示していた。
現在地点は博物館の周辺。最後に千影と出逢ってから二時間以上が経過している。
参加者がいそうな場所といえば、この新市街の他にもいくつかある。
.
「ホテル……それから、病院」
そうだ、戦って傷ついた参加者はどんな思考を取るだろう。
自分のように休む場所を確保したいはず。もしくは病院で治療薬を求める可能性だって有り得る。
ならば禁止エリアを迂回し、山頂を超え、そしてホテルと病院を経由するほうがいいだろう。
決まれば、行動は早かった。
舞は荷物を纏めて立ち上がる。握る武器は永遠神剣『存在』、そして懐にはニューナンブM60を保険として。
◇ ◇ ◇ ◇
それは山を超え、ようやく下りに入っていた頃のことだった。
すでに時刻は早朝、太陽が二日目の朝を告げるとき、耳にノイズがかかる。
それが放送の合図だと悟り、舞は立ち止まった。禁止エリアによっては道を変える必要があるし、死者の数も知りたかった。
出来れば自分が労せずして、参加者には消えてもらいたい。
まだ参加者は自分を除けば20人、それらを一人で片付けることは至難の業だ。
こうして休んでいる間にどれほどの数が命を落としたのか。少し瓦礫やらが激しい地域であったにも関わらず、舞は岩に腰掛けた。
『それでは禁止エリアを伝える。聞き忘れた者、二度も言うつもりはない。聞き逃さないように。
8時より、E-5地点。10時より、B-5地点だ。
暗記したか? それでは続いて死亡者の発表に入る。第四回放送から今までの6時間、死亡した者は――――
,
衛
白河ことり
水瀬名雪
前原圭一
以上、4名。
やはり人数が落ちているが、それも詮無きこと。
参加者は見せしめに殺害した人間を含め、これで40名以上が命を落としたのだ。そう焦ることはない――――』
「…………………………」
人数はやはり、落ちていた。
前回の放送でも少ないとは思っていたが、今度はさらに少ない。理由は考えるまでもないだろう。
自分はこの時間帯でも一人も殺していない。そうした怠慢があったからこそ、ここに来て人数が落ち込んでいるのだ。
そう焦ることはない、という放送者の声も遠い。
舞はただ呆けているだけ。必要事項は聞き取れた、それ以上、主催者の言葉に耳を傾けることもないだろう。
問題は呼ばれた人物の名前。この島で初めて出逢い、友達とも呼んだ人物の死。
「…………ことり」
どこか、安堵している自分がいることに驚いた。
佐祐理のためなら誰であろうと殺す、と。そう誓ったはずなのに……どういうわけか、軽く息を吐いていた。
.
「……ああ」
ようやく舞は思い至る。自分は安心したのだ。
再びことりと出逢ったとき、この引き金を引けるのか、という不安から解放された。かつての友達を自分の手で殺さないで済んだ。
日常を捨てた彼女が考えたのは、たったそれだけ。かつての友人の死を伝え聞いても感慨深いものはその程度だった。
もう十分に少女は壊れていた。
この島は存在する全ての存在の人生を狂わせる。きっと少女もまた、檻に閉じ込められたままなのだ。
ただそれでも、どうやら僅かに……本当に僅かによぎった悔恨が、少女の内から湧き出していた。
「………………」
涙は流さない、表情すら変えない。
ただ一瞬、何も考えられなくなっただけ。たったそれだけ。友人の死は舞の思考を僅かに絡め取ったに過ぎない。
それこそが致命的な隙だった。
からん……
「…………」
最初の異変に気づけなかった。
これに異常を感じていれば、きっと避けられただろうが。結果的に彼女は気づかなかった。
からん……からん、からん……がたたたっ……!
.
「…………?」
ここでようやく、音に気がつく。
小石が転がってくる音だけではない。ごろごろと轟音のような唸り声が舞の耳に届いた。
(えっ……!?)
それはまったくの偶然だった。
ただ山頂の岩盤に脆いところがあって、それがちょっとした衝撃で一部が崩れてしまっただけ。
それが坂道を転がり、真っ直ぐに舞に襲い掛かってきたのだ。気づいたときには、すでに瓦礫は目の前へと近づいてきていた。
もしも直撃すれば無事ではすまない。もしも頭に当たれば致命傷だって有り得るだろう。
がらんっ、がらん……がらがらがらがらっ!!
回避は―――不可能。ここで横っ飛びに避けても、本当に僅かな時間が足りない。直撃する。
反撃は―――不可能。キャリバーを持ち出す時間もなければ、銃を撃つような暇さえない。素人に早撃ちなど出来ない。
もっとも、銃による弾丸程度では意味がない。そんなことで瓦礫は止まらない、と分かっている。
諦める気は―――もちろん、皆無だった。
彼女の手には剣がある。ずっとこれに頼って生きてきたのだ。
これも持たない舞は弱い、と自分自身が思っている。逆に考えれば……これさえあれば、舞は最強の一人となれる。
「……!」
舞は『存在』を構えてから、その心強さに気づいた。
この剣に何か秘密があるのは手に取ったときから気づいていた。千影の反応からその想いは強くなっていた。
そして今、ようやくその意味が分かった。やっとその繋がりに気づいた。
忌むべきあの力、誰もが恐れた自分の異能……その流れが剣と連結している。そうすることで剣は頼もしさを強くしていく。
.
.
「……つぁぁあッ!!」
ウォーターシールド。
舞は『存在』を振り下ろしながら叫ぶ。
魔法は剣が教えてくれる、そんな感覚が舞のなかにもあった。それを迷うことなく行使する。
身体から流れる喪失感と同時に、瓦礫と自分の間に水の盾が現れた。それはまさに神秘と言える。
「―――――!」
だが、所詮は水で出来た代物。瓦礫はやすやすと破っていく。
これでは防げない、と舞は瞬時に判断した。
ならば、閉じ込めてしまえばいい。
自分と同じように、檻の中へと。そうすれば二度と動くことなど出来ないのだから。
舞の中に出来たイメージは牢獄。その形を躊躇うことなく解放した。
「っ……アイスバニッシャーッ!!」
叫んだ瞬間、氷の牢獄が瓦礫を包み込んだ。今度こそ確実に効果があった。
舞は横っ飛びに飛ぶ。これらの魔法は相手を仕留めるために存在するものではない、あくまで相手を一時的に拘束するもの。
ほんの数秒で氷の牢獄も砕かれた。それだけの時間があれば、舞も岩盤を避けるぐらい造作もない。
瓦礫は舞がさっきまでいた空間を押しつぶし、さらに転がっていく。
やがて乱暴な音を立てて、ホテルへと向かう道を存分に破壊し尽くして止まった。
.
「…………」
そんな災難にも舞は僅かに喜んだだけだった。
結果的に永遠神剣の意味が分かった。これは本当に素晴らしい武器だと内心では歓喜していた。
瓦礫を避けたときの、身の軽さ。身体能力の上昇をこの身で確かに感じ取った。これならば、この殺し合いでも勝ち残れる。
たとえ大人数を相手にしようとも、纏めて打ち倒せるほどの絶対的な力だ。ようやく舞はそのことを自覚した。
「これなら……」
佐祐理を助けることができる。
待ってて、と舞は呟いた。日常はもう帰ってこないけど、大切な親友は戻ってくる。そう一途に信じたまま。
◇ ◇ ◇ ◇
「……困った」
ホテルへと続く山道が瓦礫で埋まってしまっている。
狭い山道なだけに塞がれるのは困る。さっきまで転がっていた瓦礫の上を越えていくというのが気が引ける。
ハンドアックスか『存在』で破壊しようかとも考えたが、それで他の岩盤まで崩れてきてはたまらない。
改めて地図を広げる。
ホテルへの道が塞がれた以上、別のルートを使う必要がある。この山頂に昇っても参加者に会うことはなかった。
こうなればホテルは諦めるにしても、病院には行きたい。包帯や傷薬を手に入れたいし、他の参加者も周囲に集まっているだろうから。
.
.
「……吊り橋、か」
塞がれた東の道を諦め、南方にある吊り橋を渡るルートが残されている。
ホテルには辿り着けないが、段々畑の近くを経由して病院には行ける。この道なら参加者とも遭遇できるはずだ。
あくまで病院は目的地。参加者を見つけたら……この永遠神剣と銃撃の雨で始末する。
見敵必殺、サーチ&デストロイだ。
人にあっては人を斬る。神にあっても躊躇うことはない。それが佐祐理救出を阻むのであれば殺し尽くす。
「……行こう」
この手がいくら血に染まろうとも。
この身体がどれだけ傷つこうと、壊れようと。
虚無と偽りの牢獄に閉じ込められた少女は歩く。かつり、かつり、足音はガラスを踏みしめるかのような音に似た。
【C-6 /二日目 朝】
【川澄舞@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア−この大地の果てで−、学校指定制服(かなり短くなっています)】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾15、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾80)、ハンドアックス(長さは40cmほど)、ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 】
【状態:肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、魔力残量70%、深い喪失感】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
0:吊り橋を渡り、そこから病院を目指す。
1:優勝を目指すため、積極的に参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:全ての参加者を殺す。千影であろうと誰であろうと関係ない。
4:多人数も相手にしても勝ち残れる、という自信。
【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。
ど……どどどどどうしよう。
えーと、ととりあえず、こういうときはまず落ち着くことが重要だ。
そうだ、深呼吸して心を落ち着かせよう。
大きく息を吸ってー
吐いてー
…………うん、落ち着いた。
それじゃあ改めて、……………………どうしよう。
……まず、状況を整理してみよう。
私は、宮小路瑞穂。
……本名、鏑木瑞穂。 男。
お祖父様の遺言で女装して聖應女学院に通っており、エルダーシスターを勤めさせていただいている。
そうして理由はわからないけど、突然この島に連れて来られて、殺し合いに参加させられて、色々な事を経て、今は目の前の女の子“一ノ瀬ことみ”さんを保護して、当面の目的地である海の家に向かう途中。
で、そのことみさんに……僕が男だとバレた……。
うん、状況は把握できた。
それで、どうしよう。
1、男でもいいと称される瑞穂ちゃんは、身につけた立ち振る舞いを用いて誤魔化す事に成功する。
2、アセリアさんが追いついてうやむやになる
3、変態と罵られる、現実は非常である。
……僕が丸を付けたいのは2番だけど、そんなに都合良くいくとは思えない。
そうなると、やはり1ば
「……やっぱり……、感触がおかしいと思ったの」
答え、3
B、変態と罵られる、現実は非常である
.
…………終わった。
具体的に何がどう終わったのか上手く言えないけど、とにかく終わった。
自然に体から力が抜けて、顔が下を向き、地面に手と膝を付いた。
ああ、僕もここまでか。
アセリアさんをはじめとした仲間達にも変態と罵られる事だろう。
特に武さんなんて、僕が貴子さんと一緒に温泉に入った事まで知っているし。
武さん、いっそ…………はっ!
いや、僕は何も考えていない。
今は敵なのだからいっそのことなんて思ってもいない。
それに根本的な解決には至っていないし
「別に、責めようとか罵ろうとかそんな事は考えていないの」
その声に顔を上げる。
……えーと?
「隠していたことを聞いてごめんなさい、ただ知っておきたかっただけなの」
……助かった?
「えっと、その、……何も、言わないのですか?」
「服装は、個人の自由なの」
……助かってなかった。
明らかに変な趣味の人間と思われてるよ。
◇ ◇ ◇ ◇
.
……驚いた、の
見た目からでは絶対に気が付かなかったと思うの。
サラサラとして光に揺れる美しい髪、
大きくパッチリとした優しい瞳、
こんな島にいるのに傷一つない綺麗な肌、
何処から見ても美しい女の人にしか思えないの。
「あ、誤解しないで欲しいの、瑞穂さんがやっているなら、多分何か理由のある行為だと思うの」
瑞穂……さんは土下座に近い格好で蹲ってる。 ……心なし、周りが暗くなってスポットライトが当たってるようにも見えるけど気のせいなの。
あ、また顔を上げた
……出会った時の凛とした雰囲気も素敵だったけど、今の半泣きの表情もまた違った魅力で可愛いの。
やっぱり女の人にしか見えない、でも同時に男の人だと知ってなんだか少しホッとしたような気もするけど気のせいなの。
……あの時は、多分懐かしかったのだと思うの。
少し、違和感はあったの……でもそんな事どうでも良かった。
ただ、甘えたかった。
人の温かさに触れていたかった。
あの時感じたのは、幼い頃に感じたお母さんの温もりだった。
少ししたら恥ずかしくなってきた。
男の人に抱きしめられたのって……初めてなの。
だから、どうしても確かめておきたかった。
「何のために外見を装っているのかを知りたかった、ただそれだけなの」
それに、男の人だとしても、私なんかよりもとても美しい人なの。
見た目も、心も。
出会ったばかりの私を慰めて、信じてくれた。
仲間であるはずのハクオロに対しても、私の潔白を信じてくれた。
多分、私が居なければ、あそこでそのまま合流出来ていたと思うの。
でも、そんな事は考えてもいないみたい。
瑞穂さん、それにアセリアさんは、私のことを信じてくれた。
……だから、私には、それに答える義務があるの。
その後、私たちは近くの民家に上がりこんだの。
不法侵入みたいで気が引けたけど、放送が近いから話すなら落ち着いたところで、と瑞穂さんに言われたので、勝手に入ってしまった。
そこで、瑞穂さんの身の上話を聞きながら、私は渡された紙束を読んでいた。
瑞穂さんの目的は最初からこれだったみたいなの。
中にある情報は、とても価値のあるものだった。
ただ一つ、とても気になった情報があったの。
【この”首輪は禁止エリアに進入してから、30秒後に爆発する”という情報について詳しく教えて欲しいの】
瑞穂さんの話では、この情報をくれたのは二見瑛理子さんという人。
紙束の中にも名前があり、瑞穂さん達の中のブレーンで、……ハクオロと長く供に居た人らしいの。
……ハクオロの事は、今は考えないことにするの。
まず、気になったのはこの情報の真偽。
これは、余り疑う必要もないの。
罠を仕掛けるにはリスクが大きすぎるし、自分から禁止エリアに近づく人はいないの。
次に、どうやって調べたのか、これは瑞穂さんが聞いていたの。
ハクオロが自分で禁止エリアに浸入して調べたと。
侵入すると”30秒以内に出ないと爆発する”という警告が入る。
だから、まず間違いない情報。
でも、
何か、何かが気になっているの。
この情報から感じ取れる違和感。
30秒という時間の理由は、考えても仕方がないの。
数字には大して意味は無いと思うから。
時間の猶予については偶然などで死なれては困る、あるいは上手く使用しろ、という主催者側のメッセージ。
……主催者の意図には不自然な点はない。
でも、なら何が気になるの?
他には……
.
.
そうことみが考えた時、それを遮る声、放送が響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇
前原圭一
……そうか、
また、僕は何も出来なかったのか。
色々な要因が重なったとはいえ、結局僕は目的を果たせなかった。
「瑞穂さん……」
ことみさんが、心配そうな声を掛けてきた。
あの紙には、圭一さんの名前も書かれている。
だからだろう。
「……今は、悔やんでもどうにもなりません」
後悔はいつでも出来る。
恐らく、圭一さんの事を告げれば、ことみさんはまた自分を責めるだろう。
ことみさんに会うという選択肢を採らなければ、圭一さんを救えたかもしれない。
でも、それは結果論に過ぎない。
あの時点で、既に圭一さんが死んでいたかもしれないし、
ことみさんに会っていなくても、圭一さん達を見つけられ無かったかもしれない。
「今は、海の家に向かいましょう」
美凪さんやアセリアさんの事は心配だ。
でも、今から駆けつけたところで何も出来はしない。
それどころか、更なる混乱を招きかねない。
それに、ことみさんを一人には出来ない。
だから、何事も無かったかのように振舞う
……出来るなら、こんな技能は身に付けたくなかったな。
「……分かったの、海の家にあるトロッコが使えれば、非常に便利だし、そちらを優先するの」
「ええ、それを使えば、皆とも合流出来るかもしれませんし。
ただ、少し疑問なんです、アセリアさんは“強い相手のところへ行きたい”と告げたそうですが、贔屓目にみてもあの時の私たちは強かったとは言えません」
あの時襲ってきた少女、川澄舞は確かに強い相手だったけど、それなら彼女の所に出るはずだ。
なのに、アセリアさんは僕たちが目標であるかのように現れた。
「出口の数が限られているか、それとも希望がそのまま受け入れられはしないということなの?」
たまたま出口の近くに瑞穂達がいて、そこに現れた……とは考えにくい。
そうなると、後者の可能性が高くなる。
どんな仕組みなのかは実際に乗ってみないとわからない。
ただ、
「もし仮にその通りだとしたら、この島の地下にはどれだけのものがあるのでしょうね」
◇ ◇ ◇ ◇
水瀬名雪
……驚いたの。
病院では槍を持っていただけだったけど、彼女はパワーショベルを所持していたの。
そんな彼女が死んだことは、本来喜んではいけないことだけど、少し気が楽になること。
でも、同時に気になってしまう。
彼女はどんな死に方をしたのだろう?
あんまり考えたくないけど、もしかしたらパワーショベルごと殺されたという可能性もあるの。
.
不吉な予感を振り払うように、意識を切り替える。
……瑞穂さんは、間違いなく気にしているの。
多分、”前原圭一”という人の事を。
私に、気を使ってくれているのだと思うの。
だから、平静を装っている。
でも、何となくだけど、気付けてしまったの。
気付いたからこそ、気付いていないフリをすることにした。
(瑞穂さんは、外見以外を装うのは余り上手じゃないの。
というよりは、今の外見こそが自然になるような経験を積んだ、そういう事なの)
そうして、お互いがそらした話題は、
「もし仮にその通りだとしたら、この島の地下にはどれだけのものがあるのでしょうね」
そう締めくくられて終わった。
……それは、気になっていたの。
少なく見積もっても、エリアの数だけの出口はあるはずなの。
こんな普通の島にそれだけのものがあるとは考えにくいから、彼らが作ったと見ていいの。
でも、外見からはそんなものは全く見て取れない。
わざわざこんな普通の島を装うなんて、瑞穂さんみたいに何か理由があるのかもしれない……?
…………”装う?”
禁止エリア、30秒、地下、そして”装う”
「…………まさ、か」
でも、それなら全てに辻褄が合うの。
(確かめ、ないと)
そう思った瞬間、デイパックから地図を取り出して、確認する。
図らずも、今居る場所は検証には最適に近い位置。
後は、……覚悟があればいいの。
そうして、いきなり変な反応をした私に驚いている瑞穂さんに、一旦移動することを希望した。
(この島をどうにかして接収して、改造する。
でも、その割にこの島は自然すぎるの)
一見して女性にしか見えない瑞穂さんは、あくまで女装が上手いだけで、隠し事が上手いわけではないの。
だから、隠し事は見破りやすい。
女装が自然に見えるのは、日常的にその状態だから。
なら……。
◇ ◇ ◇ ◇
G-6と7
H-6と7
その真ん中付近。
細かい区分はわからないけど、今はまだギリギリG-6に居るはずなの。
そうして、禁止エリアの境界付近に立った。
……この先に進めば、殺し合いよりも簡単に殺されるの。
あの情報、30秒間は安全という情報が間違っていたら、死ぬの。
瑞穂さんには、何があってもあわてないようにお願いしたの。
ハクオロを信じられるかはまだ判らない、でも瑞穂さんは信じられるの。
だから、必要なのは決意。
私は、必ず生きてこの島から脱出してみせるの。
そう、決めたから、だから、恐れずに進むの。
朋也くん、恋太郎さん、亜沙さん、
私に、踏み出す勇気を下さい。
今度こそ、本当に仲間になれる勇気を下さい。
……少し進んで、電子音が鳴った。
同時に入る警告。
30秒以内に禁止エリアを出ないと爆発するという内容。
.
まずは、安堵の息を吐いた。
そうして、近くで瑞穂さんが心配しているので、一旦外に出る。
2歩下がったら電子音が止まった。
今度は少しずつすり足で進んでみる。
まもなく鳴る電子音、カウントはまた30秒から。
再び一歩下がる。
電子音が止まった。
大体の位置にビニール傘で線を引く。
その後、先程よりもゆっくりと進む。
そうして、境界線のギリギリに立つ。
そこで、お辞儀をした。
再び鳴る電子音。
体を起こす。
電子音が止まった。
そのまま回れ右をして後ろを向いた。
瑞穂さんが今にも泣きそうな顔で私のことを見ている。
少し心を痛めつつも、一歩下がる。
再び鳴る電子音。
お辞儀をする。
電子音が止まった。
そのまま、ゆっくりと体を起こす。
先程引いた線のギリギリまで体を起こす。
まだ、電子音は鳴らない。
.
まだ、
まだ、
まだ、
鳴った。
少し体を倒す。
止まった。
成る程、と一息ついて禁止エリアを出る。
そのまま瑞穂の方へ向かうと見せかけて、フェイントで一歩下がる。
電子音は鳴った。
そうして今度こそ、瑞穂さんの所に戻ったの。
「無事で、何よりです」
とても心配そうな顔で、瑞穂さんが声を掛けてきたの。
悪いことをしてしまったと思ったけど、未だ検証は終わっていない事を告げて、少し移動することにする。
そうして、今度は正確に4つのエリアの中心まで移動して、中心点を割り出してみた。
そこには予想通り、何も無かったの。
……これで、大分可能性は高まったの。
後は。
「瑞穂さん、心配掛けてごめんなさいなの」
【これから書くことは、突拍子もないし、明確な根拠もないの】
木陰に座り込んで、話かけた。
先ほどまでの私の行動は、当然主催者側に筒抜けのはず。
なので、殆どの部分を口にしながら、重要な部分だけを筆談で行うことにした。
「さっきの実験で、いくつかわかった事があるの。
まず、禁止エリアに関する首輪の管理は、機械で自動的に行われているの」
【でも覚えておいて欲しいの】
そう、禁止エリアというだけなら、監視をしつつ、侵入したら手動で爆破させればいい。
でも、30秒という猶予を与えるなら、誤差を出さない為に、電波による自動爆破が必要になる。
それで、先ほどの検証。
数センチ程度の誤差やフェイントにも完全に対応した。
つまり、自動的に行われている事は間違いない。
「……それが何か?」
うん、その疑問は最もなの。
私も、”装う”というキーワードが無ければ気付かなかったの。
でも、
「多分、禁止エリアの内部全域に特殊な信号が発せられているの。
でも、その信号は何処から発信されているの?」
そう、首輪に受信させるなら、当然発信機も必要になる。
「……禁止エリアの、中心ではないのですか?」
そんな事、本来は気にしても仕方が無いの。
でも、一度疑問に思えば明らかに不自然。
「その場合だと、禁止エリアは円の形にしかならないの。
幾つもの装置で補うにしても、垂直な直線は描けないの。
だから、綺麗な四角のエリアを作るには、あのエリア同士の境目に、何らかの装置が必要な筈なの。
でも、何も無かった。だから多分その装置は地下にあると思うの」
【でも、それらしいものを埋めたような跡は無かったの。 そして、実物を見てみなければわからないけど、恐らくは島の殆どの場所に移動可能なトロッコが存在している】
禁止エリアの装置や、トロッコが地下にあるにしては、この島は普通の島すぎるの。
後から、それらの施設を用意したとするなら、何処かに痕跡が残っていなければならないの。
そうなると、
「だから、例の移動手段と会わせて考えると、主催者の本拠地は多分地下だと思うの」
【この島自体が、人工的に作られた可能性があるの】
◇ ◇ ◇ ◇
一つの区切りは着いたけど、まだまだ問題は山のようにあるの。
大空寺あゆの事
彼女が、私のことを疑っていたのは知っていたの。
恋太郎さんの事で疑われていた事はわかってた。
亜沙さんが説得してくれたかはわからない。
亜沙さんにとって芙蓉楓は大事な後輩だったのだから。
それに、彼女は間違いなくその他にも私を憎んでいる理由があるの。
それが何なのかはわからない。
ハクオロの事
……全ては不幸な偶然だった、そんな事は信じたくはないの。
そうだとしたら、私は、私たちは何の為に行動していたのか分からなくなる。
けれど、もし本当にそうだったとして、その時にハクオロはどんな態度をとるのだろう?
首輪の事
殺し合いに乗った人物の事
主催者の事
先の道のりを考えると、挫けそうになる。
でもまずは一つ一つ全力で向き合っていこうと思うの。
瑞穂さん達の仲間として、共にある為に。
【H-7 左上(エリア境目付近)/二日目 早朝】
【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾0/15+)、バーベナ学園女子制服@SHUFFLE! ON THE STAGE、豊胸パットx2】
【所持品:支給品一式×3、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、
多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ3本、
フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、予備マガジンx3、情報を纏めた紙 】
【状態:強い決意】
【思考・行動】
基本:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
1:ことみを連れて海の家へ行きアセリアが来るのを待つ
2:圭一、武、美凪を救いに行けず後悔
3:瑛理子達にハクオロが大空寺あゆに騙されているかもしれないと伝える
4:川澄舞を警戒
【備考】
※一ノ瀬ことみに性別のことがバレました。
※他の参加者にどうするかはお任せします。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:ビニール傘、クマのぬいぐるみ@CLANNAD、支給品一式×3、予備マガジン(8)x3、スーパーで入手した品(日用品、医薬品多数)、タオル、i-pod、陽平のデイバック、分解された衛の首輪(NO.35)、情報を纏めた紙】
【所持品2:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)、ローラースケート@Sister Princess、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数、】
【状態:決意、肉体的疲労中、腹部に軽い打撲、精神的疲労小、後頭部に痛み、強い決意、全身に軽い打撲、左肩に槍で刺された跡(処置済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。必ず仲間と共にゲームから脱出する。
1:ハクオロとあゆに強い不信感、でもまず話してみる。
2:アセリアと瑞穂に付いて行く
3:首輪、トロッコ道ついて考察する
4:工場あるいは倉庫に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない)
5:鷹野の居場所を突き止める
6:ネリネとハクオロ、そして武と名雪(外見だけ)を強く警戒
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。(少し揺らいでいます。)
※首輪の盗聴に気付いています。
※魔法についての分析を始めました。
※あゆは自分にとっては危険人物。良美に不信感。
※良美のNGワードが『汚い』であると推測
※原作ことみシナリオ終了時から参戦。
※瑞穂とアセリアを完全に信用しました。
※瑞穂の性別を知りました。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
※i-podに入っていたプログラム、もしくは情報などは次の書き手におまかせ
※研究棟一階に瑞穂達との筆談を記した紙が放置。
黒が西に追いやられ、東から昇った赤と黄色の混じった色が空の色を変えていく。
長かった夜は終わりは告げ、万物が活動を始める朝がやってきた。
それはもちろんこの森の中でも例外ではなく、朝露にぬれた木々の葉が瑞々しさを感じさせ、木漏れ日から差す光が太陽が昇ってきたことを実感させる。
その森の中に一組の男女がいた。
本来、朝とは夜行性の生物でもない限り祝福されるもの。
生きとし生けるものは朝が来るからこそ己の生を実感でき、朝が来るからこそ一日が始まるのである。
しかし、この森の中にいる男女は朝が来たことを祝福しようという顔つきではなく、むしろ朝が来てしまったことを後悔しているような雰囲気だ。
それもそのはず、二人はつい数分前の放送を聞き、大切な友人の死を知ったからである。
「圭一、ついに貴方まで……」
大切な友人の死を力なく呟く少女は古手梨花。
この島に来る前からの友人、その最後の一人がとうとう死んでしまったのだ。
結局、彼女はこの島で知人に会うことは叶わなかった。
行方が知れたのは数多の世界と同じく雛見沢症候群を発症させたという竜宮レナのみ。
しかもそのレナでさえ、どうやって死んだかも知らないままに第一回放送後あっさりとその名前が呼ばれてしまった。
園崎詩音、大石蔵人、赤坂衛は手がかかりさえ掴めないまま死んだ。
だからこそ、だからこそなのだ。
ようやく知ることができた前原圭一の手がかりを梨花は捨ててしまった。
行こうと思えば、会おうと思えば会えたかもしれないのに。
自分からその可能性を捨ててしまったという事実が強く梨花を打ちのめしていた。
知らなければよかった、朝が来なければよかったとすら思ってしまうほどに、今の梨花はその精神を疲弊させていた。
「どうして、いつも私は間違ってばかりなの……」
涙を堪えた表情で呟く。
何度も友人が正気を失い狂っていく姿を目にした。
何度も友人の無残な死体を見た。
何度も無力な自分が殺されていった。
幾千の死と幾万の夜を越えて、彼女はそれでも諦めずに全てが上手くいく可能性を模索した。
それは広大な砂漠の中で髪の毛一本を探し当てるのに等しき行為。
何度も内なる心が己が行動の無意味さを説いてくる。
諦めてしまえばいっそどれだけ楽になるか、何度も冷たい霧のような忠告を甘んじて受け入れそうになった。
けれど古手梨花は諦めない。
救いを求めるある種の宗教の信者のように、愚かな行為だと知りつつも一縷の望みを捨てきれずに足掻き、もがいた。
精神だけはぬくぬくと育ちながらも、肉体がそれについていかないことに歯がゆい思いをしたのは一度や二度じゃない。
自身の身体能力の圧倒的な低さ故に不覚を取ったことも何度もある。
それでも古手梨花は頑張って、頑張って、頑張り抜いた。
けれど、現実はいつだって非情で梨花の期待と頑張りを裏切り、あざ笑うかのようにいつも最悪の方向に事態が転がっていく。
「梨花ちゃん……」
呟く北川潤の表情は梨花ほど悲痛なものではない。
同じく知人、水瀬名雪の名前が読み上げられはしたが、そこまでショックはなかった。
相沢祐一のときでさえ悲しい気持ちはあったものの泣くことはしなかったのだ。
祐一の方が付き合いも深かった。
だからだろうか、相沢祐一が死んだときほどのショックを感じなかった。
手がかり一つ杳として知れないまま死んでいった水瀬名雪に対する感想にしてはあまりにも無味乾燥。
あまりにも冷静で薄情すぎる反応。
それを自覚しつつも北川がそのことを嘆かなかった目の前にいる古手梨花のためである。
確かに水瀬名雪が死んだのは北川にとっても悲しむべき事実だが、目の前で悲しんでいる人物を放っておいて一人泣いているわけにはいかないのだ。
精神の方はどうあれ、北川の方が肉体的に優れた存在。
そして今梨花を精神的にも肉体的にも守れるのは北川潤ただ一人なのだから。
「梨花ちゃん、つらいのは分かってる。 けど俺たちに悲しんでいる暇はないんだ」
「ええ……分かってる。 分かってるわ、自分で言ったことだもの。 全部が終わってから泣くって……」
目をゴシゴシと拭いて、それでも溢れそうになる涙が止まらなくて何度も涙を拭う。
ようやく涙も止まってきたところで首をブンブンと左右に振って気分を一新。
次の瞬間には梨花はいつもの表情に戻った。
しかし、心の中ではそうもいかない。
(さっきまで泣きそうだったのにもう立ち直ってる。 本当に薄情ね……私)
今まで人の死に触れすぎて、悲しむ気持ちが鈍っていることを梨花はこの島に来る前から自覚していた。
誰かが死んでも悲しむ心が消えかけており、死を死という単なる情報としか認識できていない。
良く言えば前向き、悪く言えば薄情。
あまりにも切り替えが早くできた自分に梨花は一瞬自己嫌悪に陥ったのだが、北川には伝わることはなかった。
「そっか……じゃあ時間だしパソコンの新機能でも確認するか」
あえて明るい声で北川は言った。
北川とて梨花のほんの一瞬の自己嫌悪こそ読み取れなかったものの、梨花が完全に立ち直ったわけではないことぐらい分かっている。
それでも今ここで梨花を気遣っては梨花の決意を台無しにする行為なのだ。
だから、できるだけ明るく振舞うように努めてパソコンを立ち上げる作業に移った。
◇ ◇ ◇ ◇
このメッセージをよんでいるという事は、君はまだ生きているのだな。
素晴らしい、実に素晴らしい! もっと楽しませてくれ!
そんな君に、またまたまたまた、僕からのささやかなプレゼントだ。受け取りたまえ。
今回の追加機能もとても素晴らしいものだ。
と言えたらいいのだが、生憎今回のプレゼントは少々地味だと言わざるを得ない。
今までの追加機能に比べて役立たず、と言っても過言ではないと思う。
けれど僕は君が今回の追加機能を喜んでくれるということを確信している。
ああ、少々もったいぶってしまったが、今回のプレゼントの発表だ。
ズバリ、それは「殺害者ランキング」だ。
このゲームが始まってもう30時間が経過した。
参加者の数も大分減ってきたと思う。
そこで君は一度はこう思ったことがあるだろう。
「誰」が「誰」を殺したのか。
「誰」が「何人」殺したのか。
今回追加される「殺害者ランキング」はそんな君の疑問に答えてくれる素晴らしい機能さ。
しかもこのランキングはリアルタイムで更新される。
つまり君は次の放送を聞くまでもなく誰が死んだかも事前に知ることができるんだ。
この機能を使えば、例えば君の大切な人を殺した仇だってすぐさま分かる。
前回追加された現在地検索機能も併用して使えば……賢明な君ならこの先は言わなくても分かるだろう。
もう分かってくれたかな?
今までの追加機能が君を支援するものであるのなら、今回は君の好奇心や疑問に答えるものなのだ。
ああ、心配しなくてもまだまだ君を助ける機能は残されているよ。
今回のような機能の方がそれこそ珍しいものだしね。
もっとも、次回の放送時はどっちになるかは君の想像にお任せするとしよう。
それでは頑張ってくれたまえ。
また次の放送で会おう。
差出人:「&@;」。#
◇ ◇ ◇ ◇
二人はメッセージを閉じてから現れたファイルをすかさず開いた。
メッセージに書いてあったことは図星で、二人とも気になっていたことだからだ。
二人は座り込んで、狭いノートパソコンの画面を食い入るように注視していた。
「うおっ、すげーなこの国崎往人ってやつ。 五人も殺してるぞ」
「佐藤良美は三人殺してるわね……純一たちから聞いた情報もパソコンに録音されていた危険人物だっていう音声とも一致するわ」
ワイワイ言いながらひとしきりランキングを眺めていた二人だが、一段落してあらためてこの新しい情報の分析を行うことにした。
数分に及ぶ吟味の結果、議論の中心に挙げられたのが三人。
千影、倉成武、高嶺悠人である。
「まず一人殺した人間についての評価は保留だろうな。 自衛のためとか色々止むを得ない理由で殺してしまった人もいるだろうし」
「三人以上殺した人物は問答無用で警戒するとして……二人殺した悠人と倉成武と千影……この三人は別の意味で要注意ね」
一人殺した人間については北川も言ったとおり警戒するかどうかは、とりあえず接触してみてからにすることにした。
北川が口にした自衛のために殺した人間、そして北川が口にこそしなかったものの自身のように疑心暗鬼に囚われて殺してしまった者。
可能性としては様々なものが考えられる。
実際にそういった人物に会う段階になっても、レーダーとノートパソコンの機能を使えば接触するかどうかの権利は北川と梨花に優先的に与えられる。
しかし、二人殺した人間……これは非常に判断が難しい存在といえる。
殺し合いに積極的に参加している人間か、自衛のために殺したかの判別がつけ辛いからだ。
「倉成武ってつぐみが探してた人だよな?」
「そうよ」
前原圭一を殺した人物、倉成武。
小町つぐみから聞いた程度にしか知らない二人はこの人物に何の疑いもなく殺人者だと断定した。
小町つぐみは決して殺し合いに乗る人物ではないと言っていたが、それはあくまで常識の範囲内でこの島は常識の範囲外に位置する限りでの理論。
この島ではありえないこと――例えば信じていた人物が殺し合いを積極的に行っていた――などいくらあっても不思議ではない。
しかしここで不幸なことが一つ。
殺されたのが古手梨花の知り合いの前原圭一ではなく第三者、北川にも梨花にも関係ない人物ならもう少し冷静に判断できたかもしれない。
そうでなくとも竜宮レナと同じように、前原圭一も雛見沢症候群を発症し倉成武に襲い掛かった。
そして倉成武は自衛のために止むを得ずに殺した。
真実は違うものの、もう少し今の梨花と北川が冷静であったならそういう考えも浮かんだかもしれない。
倉成武は真っ黒という評価を即座に下さずに、グレー程度に留めておくこともできたかもしれない。
しかし表面こそ冷静に振舞っているものの、今の梨花は心の中では圭一の死により著しく取り乱していることに気がついていなかった。
無理やり押し隠した悲しみの心が梨花の目を曇らせたのだ。
そして梨花に聞かされた程度の知識しかない北川がここで「前原圭一が雛見沢症候群にかかった」と言い出す可能性も限りなく低い。
結局彼等は疑うことなく黒と決め付けた。
これが一つ目の不幸。
「つぐみには悪いけど彼はそういう人物だった、こう考えるべきね」
「そしてそのつぐみも悠人ってやつに殺された」
当初、二人がこの画面を眺めているときはそんな考えは思いもよらなかったであろう。
しかし、二人がこのランキングを見ていたとき、突如ファイルが更新されたのである。
月宮あゆが殺害ランキング二位に、そして高嶺悠人が小町つぐみを殺したという事実が発覚したのだ。
今回、パソコンのメッセージに書いてあったリアルタイムで更新されるという言葉を早速実感させられた形になる。
高嶺悠人と一緒に行動していたつぐみが殺された。
そして高嶺悠人の知り合いであるという千影もすでに二人殺している。
そしてそれだけの情報しか与えられてない二人がそこから導き出せる結論は悲しいことに一つしかない。
「高嶺悠人も、その知り合いだって言ってた千影も殺し合いを積極的にやっている、そういうことか」
「まだ確証は得られないけど、可能性は高いと思う」
これが二つ目の不幸。
前回の鷹野の言葉も、今回の殺害者ランキングも嘘偽りは一切入ってない。
しかし、人間とは情報一つでこんなにも愚かしく振り回される。
パソコンから送られる情報は全て真実であり、事実今まで微粒電磁波も現在地表示機能も説明されたとおりの機能を果たしてきた。
そして今の二人の状態こそ、かつて北川潤が伊吹風子に対して疑心を抱いたときと同じ状態。
パソコンの情報は全て真実。
そのことに固執するあまり、そこから先の推理や想像が適当なものになってしまってることに二人は気がついてなかった。
誤りが人を歪めるのではなく、真実が人を歪ませる原因になるとはなんとも皮肉なものである。
「行こう、梨花ちゃん。 純一たちが危ないことになる可能性がある」
「ええ」
「廃坑の隠し入り口は見つけ切れなかったし、俺たちのやってきたことは無駄だったのか……」
「裏門がないなら正門から行くって手もあるわ。 気を落とすのはまだ早いわよ」
「どっちにしても今は純一たちのほうを優先ってわけか……」
「そう。 隠し入り口を探すのはまた後でよ」
立ち上がり朝倉純一たちを探すべく行動を開始した二人。
レーダーを見て誰も周囲に誰もいないことを確認して北川は純一たちのいると思われる病院へ歩き出した。
ここで不幸かどうか分からないが彼等が見落としたことをもう一つ。
彼等は複数の人間を殺害した人物にばかり注意していて、とある人物が殺害した人物のことをすっかり見落としていた。
それは坂上智代の殺した人間、相沢祐一。
北川潤はすでに坂上智代が如何なる経緯で畜生道に堕ちたかを知っている。
そして北川は心の底から土永さんを赦すことができず、半ば逃げるように廃坑探索の役を買って出た。
殺した本人である坂上智代も祐一をけしかけた土永さん本人でさえも「相沢祐一」の名前を知らない。
本来なら誰にも知られることなく闇に埋もれるはずだった事実を知る機会を、北川潤は図らずも手に入れたのだ。
この見落としは今後どうなるか分からない。
もしかしたら永遠に知られることなく闇に埋もれるかもしれない。
けれどもし知ってしまったら、その先にどんな結末が待っているか……その先は北川本人しか知りえない。
そして最後に……三つ目の純然たる不幸。
北川が最後にレーダーを確認して数秒後、レーダーの表示が映らなくなったことである。
持ち主を変えつつ30時間もの間、常時使用されていた探知機の電池はとうとう寿命を迎えたのだ。
北川たちがそのことに気がつくのは今から五分後のこと。
しかし、レーダーに使用されている単二電池の予備は北川も梨花も持っていない。
首輪探知レーダーとノートパソコンの二つの機能の利益を今まで最大限に得ていたが、そのうちの片方を失ってしまったのだ。
今まで支給品の恩恵を十二分に受けていた彼等は、これから不安と勘違いとすれ違いを抱えたまま歩き出すことになるのである。
【C-6 マップ左下/2日目 朝】
【北花】
1:とりあえず朝倉純一の元へ行く
2:仲間を集めたい
3:廃坑の隠し入り口が見つからなかった場合、西口か南口から入ってみる
【備考】
※電線が張られていない事に気付きました。
※『廃坑』にまだ入り口があるのではないかと考えていますが、探しても見つからないので間違いの可能性も浮かんできています
※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。
※盗聴されている事に気付きました
※雛見沢症候群、鷹野と東京についての知識を得ました。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※塔の存在を知りました
※月宮あゆ、佐藤良美をマーダーと断定、警戒
※高嶺悠人、千影、倉成武をマーダーとして警戒(断定はしていない)
※当面は病院を目的地にしていますが変えてもいいです。
レーダーが使えなくなったので現在地検索機能を使って探す方法も考えています
【北川潤@Kanon】
【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー(現在使用不能)、車の鍵
【所持品】:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、
草刈り鎌、食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの
【状態:健康 疲労、左腕に銃創(応急処置済み、梨花の赤いハチマキを包帯代わりにしています)】
【思考・行動】
基本:殺し合いには乗らず、脱出に向けての方法を模索
1:梨花を守りながら信用できる仲間を集めこの島を脱出する
2:時間は有効に使いたい
【備考】
※チンゲラーメンを1個消費しました。
※梨花、純一、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが首輪を探知する。と言う事実には気付いておらず、未だ人間なのか首輪なのかで悩んでいます。
※「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※支給品リストは支給品の名前と組み合わせが記されています。
※留守番メッセージを聞く事ができます。
たまに鷹野のメッセージが増える事もあります。
風子に関しての情報はどこまで本当かは次の書き手様しだいです。
※「現在地検索機能」は検索した時点での対象の現在地が交点で表示されます。
放送ごとに参加者と支給品を一度ずつ検索出来ます。
次の放送まで参加者の検索は不可になりました。
なお、参加者の検索は首輪を対象にするため、音夢は検索不可、エスペリアと貴子は持ち主が表示されます。
※「殺害者ランキング」基本的にまとめwikiに収録されている死亡者リストを想像してくれればいいです
さすがに各キャラのスタンス(ステルスマーダーなど)は書いてないと思いますが。
※レーダーには単二電池が使用されており現在使ってる電池はもう使えません
電池が何本必要かなどは後続の書き手に任せます。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭 暗号文が書いてあるメモの写し
ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】
【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】
【状態:頭にこぶ二つ 軽い疲労、精神的疲労小】
【思考・行動】
基本:潤を守る。そのために出来る事をする。
1:潤と肩を並べたい
2:他の参加者から首輪を手に入れる
3:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を探す)
【備考】
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2
>>609参照)
※梨花、純一、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです
※ヒムカミの指輪について
ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
※梨花の服は風子の血で染まっています
【補足】
※北川たちの通ったルートでは通行が困難だったため、車はB−5の真ん中のあたりに放置しています。
戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついており、
さらに林間の無茶な運転で一見動くようには見えませんが、走行には影響ありません。
ガソリンは残り半分ほどで、車の鍵は北川が所持したままです。
「…………ハ、ハァ、ハァ、フ――――――」
広大な草原の中、アセリアは海の家を目指して走り続ける。
上空では轟々と大気が渦巻き、止め処も無く風が吹き荒れている。
決して平穏と云えぬその天候は、アセリアの心情を代弁しているかのようであった。
(私は……どうすれば良い……?)
どれだけ考えても答えが出ない。
永遠神剣を持った高嶺悠人に対抗し得るのは、永遠神剣で武装した自分だけ。
これは揺るぎ無い事実。
只の人間が何人束になって立ち向かおうとも、間違い無く悠人には敵わない。
ならば、自分が悠人を止めるしかない。
悠人もそれが分かっているからこそ、わざわざ自分を指名したのだろう。
だが、どうやって止めれば良い?
勿論、つぐみが云った通り、助けられるのならそれが最善だ。
自分だって出来る事ならそうしたい。
「でも……どうすれば助けられるか、分からない…………」
神剣に『心』を飲み込まれたスピリットは、幾度と無く見た事がある。
戦争の道具として戦い続けた末、殺戮機械と化してしまったスピリットは決して珍しく無い。
だが――再び『心』を取り戻したスピリットは、アセリアの知る限り存在しない。
一度神剣に意識を飲まれてしまったら、それで終わりだと云うのが、ファンタズマゴリアでの常識だった。
「じゃあ……殺すしか……無い……?」
.
恐らくは、そうなのだろう。
命を断ち切らない限り、悠人は決して止まらない。
そして今の悠人相手では、自分以外の誰も対抗しようが無い。
宮小路瑞穂も、一ノ瀬ことみも、小町つぐみも、他の仲間達も皆、等しく殺し尽くされてしまう筈。
それでは誰も救われない。
悠人本人も、自身の死すら上回る苦痛に苛まれるだろう。
しかし。
「嫌だ……嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ……っ!」
殺したくない。
戦いしか知らなかった自分に、生きる意味を説いてくれた、大切な人を失いたくない。
そのような事、感情を手に入れてしまった今の自分には耐えられない。
殺さなければならない――
殺したくない――
己に課された責務と、決して振り払えぬ想い。
その両者の鬩ぎ合いにより、アセリアの精神は酷く疲弊していた。
だからだろうか。
アセリアともあろう者が、前方を往く人影にすら気付かなかったのは。
「――――アセリアさん!」
投げ掛けられた声に、視線を向ける。
瞳に映るは、風に靡く金色の髪。
アセリアが顔を上げた先には、数時間前に別れたばかりの宮小路瑞穂と、一ノ瀬ことみが立っていた。
.
「――――ハア、ハ、ハァ……。ミズホ……私は……」
「……アセリアさん、どうしたの? 何があったの?」
異変を察した瑞穂が、その原因を探り出すべく問い掛ける。
半ば生気が抜けたアセリアの表情は、普段の彼女からは想像出来ぬ程に弱々しい。
その様子を見れば、何か深い悩みを抱えている事など一目瞭然だった。
アセリアは悲痛な表情を浮かべたまま、云い辛そうに口を噤んでいる。
「私は貴女の力になってあげたい。良かったら……話して貰えないかしら?」
出来る限り、優しく穏やかな声で再度訊ねる。
生死を共にした仲間の気遣いは、弱り切ったアセリアにとって救いの手に他ならないだろう。
だがアセリアは僅かばかり逡巡した後、ゆっくりと首を横に振った。
「駄目だ……やっぱり話せない……」
「え……?」
「今の私は弱い……。スピリットの責務を放棄した、価値の無い存在……。
そんな私の為に、ミズホを……危ない目に遭わせられない……!」
悠人の件について話せば、瑞穂は必ずアセリアに協力しようとするだろう。
しかしアセリアは思う――今の自分に、そんな価値はないと。
スピリットは本来、戦う為だけに存在する。
殺す事に迷いを覚えてしまっている自分は、只の欠陥品に過ぎぬ。
そんな自分の為に、瑞穂が余計なリスクを犯す事は無い。
だからこそアセリアは、瑞穂の助力を拒もうとしているのだ。
しかし――
「それは違うわ、アセリアさん」
「…………っ!?」
.
アセリアの肩が、ビクンと一度跳ね上がった。
瑞穂が、震えるアセリアの手を強く握り締めていた。
「私にとっては、一人で悩んでる貴女を見る方が、危ない目に遭う事なんかよりもずっと辛いの」
アセリアの瞳を真っ直ぐに見つめながら、瑞穂はゆっくりと言葉を紡ぐ。
自分の気持ちをちゃんと伝えられるよう、一言一言に想いを籠めて。
「だから頼って良いのよ……もう、一人で苦しむ必要なんて無いの。私は貴女の仲間なんですからね」
「ミズホ……」
自身の身など省みず、只仲間の事だけを気遣う心。
それはアセリアの自虐的な考えを改めさせるのに、十分過ぎるものだった。
「……ん、分かった。私はミズホを……頼る事にする」
そうしてアセリアは全てを語り始めた。
病院で起きた一連の出来事。
前原圭一の最期。
小町つぐみと倉成武の激闘、和解。
そして――永遠神剣に意識を乗っ取られ、悪鬼と化してしまった高嶺悠人について。
「まさか、そんな事になっていたなんて……」
伝えられた事実に、瑞穂は驚愕の表情を隠し切れなかった。
武の改心は間違いなく朗報だが、それ以上に悠人が変貌してしまった事への衝撃が大きかった。
これは、考え得る中でも最悪の事態。
アセリア以上の力を持つ悠人が敵になったという事は、あの川澄舞をも上回る最強の敵が誕生したという事に他ならないのだ。
機関車すらも屠り去る怪物が相手では、生身の人間など紙屑にも等しい。
.
「ミズホ……私はどうしたら良い? ユートを助けようとするべきなのか……殺すべきなのか……もう私には……分からない」
高嶺悠人を助けるべきか、殺すべきか。
言い換えれば、大切な人の命と、己に課された責務、どちらを優先すべきか。
その問いに対する正しい解答を、瑞穂は持ち合わせていない。
自分がアセリアと同じ状況に置かれたとしたら、きっと答えなんて見つけ出せない。
だから――瑞穂はじっとアセリアを見つめた後、逆に問い掛けた。
「アセリアさん……貴女はどうしたいの?」
「ん……私?」
「ええ。何が正解かなんて、どれだけ考えても分かりはしない……。
だったら、せめて後悔だけはしないように、自分の気持ちに従って行動した方が良いわ」
後悔先に立たず、と云う諺だってある。
どの道が正しいのか分からないなら、自分が一番進みたい道を往くべきように思えた。
静寂が続く事数秒。
やがてアセリアは意を決した表情となり、自身の気持ちをそのまま言葉に変えた。
「……助けたい。……私はユートを、助けたい!」
答えるアセリアの顔はもう、先程までの弱々しい少女のモノでは無い。
その事を確認した瑞穂は、にっこりと微笑んでから頷いた。
しかし当然の事ながら、これはあくまで始めの第一歩。
行動方針が定まったと云うだけで、問題の具体的な解決策は未だ浮かんでいない。
「でも……どうすれば、ユートを救える? それが分からないと……どうしようもない」
「うん、そうね。まずはそれから考えましょう」
.
。
瑞穂は顎に軽く左手を添えて、暫しの間思案を巡らせる。
細かい原理などはまるで分からないが、とにかく悠人は永遠神剣第三位『時詠』に意識を乗っ取られている。
これは間違いない。
そして口頭上での説得は、まるで効果を成さなかったとの事。
ならば、もっと別の方法を模索するしか無いだろう。
「何とかして、高嶺さんに『時詠』を手放させるのはどうかしら?」
「……無駄だと思う。永遠神剣の支配は……そんな事で解ける程、甘いモノじゃない」
「じゃあ高嶺さんを気絶させて、ロープか何かで当分の間拘束するのは?」
「それも……駄目。支配は半永久的に続くし、そもそも……今のユートを拘束するなんて、不可能だ」
幾つか提案してみたものの、アセリアの反応は芳しくない。
アセリアも瑞穂も必死に考えてはいるが、どうしても良い方法が思い浮かばない。
二人だけでは、悠人の救出方法を探り当てるまでには至らない。
だがこの場にはもう一人、彼女達の仲間が居る。
これまで静観していたことみが、唐突に口を開いた。
「癌の切除手術と同じなの。治せないなら……原因そのものを取り除いてしまえば良い」
「え……?」
瑞穂とアセリアの視線が、一斉にことみへと集中する。
ことみは一呼吸置いてから、続ける。
「原因の排除――つまり、『時詠』を破壊すれば良いと思うの」
「……成る程。確かに大元から断ってしまえば、高嶺さんを操る物は無くなりますね」
最初に肯定の意を示したのは、瑞穂の方だった。
永遠神剣が悠人を操っている以上、それを破壊してしまえば、確実に支配は解ける筈。
「『時詠』は……『存在』や『求め』よりも遥かに強い力を持っていた。破壊するのは……難しいと思う。
でも可能性は……ゼロじゃない。その方法なら、ユートを救えるかも知れない」
.
少し遅れて、アセリアも首を縦に振った。
悠人の猛攻に晒されながら、あの強大な魔剣を破壊する。
それがどれ程の困難であるか、想像するのは余りにも容易いが、他に方法など思い付かなかった。
「そうだ――ことみさんは如何なさいますか? これから私達がやろうとしている事は、極めて危険で……ッ!?」
瑞穂がことみに意思を訊ねようとしたが、それは途中で遮られる。
唐突にアセリアが、後方の茂みに向けて永遠神剣を構えたのだ。
「……アセリアさん? 一体何を――」
「ユートが……近付いて来てる!」
「えっ……!?」
その一言で、瑞穂の意識は半ば凍り付いた。
見ればアセリアの背中には、既にウイング・ハイロゥ――翼型の青い光源体――が展開されている。
自然と、視線が茂みに引き寄せられた。
「…………っ」
どくん、どくんと瑞穂の心臓が脈打った。
全身の細胞一つ一つまでもが、今すぐこの場を離れと叫んでいる。
迫り来る重圧、絶望的な予感に手足の先端までもが痺れてゆく。
揺らめく雑草の間、漆黒の闇から沸き上がるように、異形と化した高嶺悠人が現われた。
。
.
.
「敵を……殺……す。もっと……マナを……!!」
「――――高嶺、さん」
眼前の死神に気圧されて、瑞穂は無意識の内に後ずさる。
悠人の変貌は、瑞穂の予測を大幅に上回っていた。
血塗れの服装、黒く染まった永遠神剣第三位『時詠』。
異能を持たぬ瑞穂ですらも感じ取れる程の、圧倒的な力の波動。
こうして向かい合っているだけで、眉間に銃口を押し当てられているような錯覚すら覚える。
図らずして瑞穂の中で、一つの疑問が膨れ上がった。
――本当に、この怪物を止められるのか?
眼前の異形は、全てを喰らい尽くす巨大なブラックホールだ。
どれだけアセリアが永遠神剣の力を引き出しても、今の悠人に匹敵するとは考え難い。
全員が悠人を殺すつもりで戦ったとしても、勝機はほんの僅かだろう。
ましてや相手を救おうなどと云う甘い考えでは、戦いにすらならないのでは無いか。
「――ミズホ」
そこで、横から声が聞こえて来た。
緊張に震える、しかし確かな決意の籠もった声。
視線を向けると、アセリアが縋るような瞳でこちらを眺め見ていた。
「どうか……力を貸して欲しい。私は何としてでも、ユートを助けたい……!!」
「アセリアさん――」
それで、迷いが消えた。
アセリアが――何度も自分を救ってくれた少女が、力を貸してくれと云っているのだ。
何としてでも高嶺悠人を救いたいと、云っているのだ。
ならば、迷う事など無い。
今まで受けてきた恩に報いる為、向けられた信頼に応える為、全力でアセリアに協力する。
例えその結果命を落とす事になろうとも、後悔などしない。
。
.
。
「ええ、そうね……。皆で力を合わせて、絶対高嶺さんを救わなきゃね……!」
瑞穂は力強い声でそう云うと、ベレッタM92Fを深く構えた。
それに合わせる様にして、アセリアも永遠神剣第四位『求め』を握り締める。
絶対的な力を持った死神と、戦士達の視線が交錯する。
そして数秒後。
アセリアの雄叫びを合図として、決戦の火蓋は切って落とされた。
「てやああぁぁぁぁぁぁっ!!」
渦巻く突風、躍動する翼。
敵を――高嶺悠人を戦闘不能に追い込むべく、アセリアが全速力で疾駆する。
ウイング・ハイロゥによる推進力も付加された突撃は、病院の時とは比べ物にならぬ程凄まじい。
「スピリットォォ……!!」
迎え撃つは漆黒のオーラを纏いし死神。
悠人は左手で『時詠』を、右手で日本刀を握り締めて、二刀流の構えとなる。
短剣状の『時詠』だけでは接近戦に対応し切れぬ以上、この形こそが悠人の取り得る最善手だった。
そして、激突。
アセリアと悠人は、各々の得物を交差させ、鍔迫り合いの形で顔を突き合わせた。
「ユート……必ず、助けるっ…………!!」
.
至近距離でそう告げてから、アセリアは一旦悠人と距離を取った。
機動力と云う一点のみに関しては、翼を持つアセリアの方が優れている。
故にアセリアは一箇所に留まらず、縦横無尽に悠人の周囲を跳ね回る。
そのままの勢いで、様々な角度から連激を繰り出した。
横から一撃。
背後から一撃。
上空から一撃。
怒涛の如きその猛攻を前にしては、並のスピリットならば十秒と保たないだろう。
「…………っ」
だが、アセリアの放つ剣戟が標的に命中する事は無い。
悠人は悠然たる構えで『時詠』と日本刀を振るい、迫る連撃を確実に裁いてゆく。
大剣状である『求め』と、短剣状である『時詠』。
思う存分本来の戦い方が出来るアセリアと、不慣れな二刀流での戦いを強要される悠人。
純粋な近接戦闘に限定すれば、どちらが有利かなど考えるまでも無い。
それでも、互角。
永遠神剣を持ったアセリアですらも、一対一では倒し切れない。
だが、仲間の協力さえあれば話は別だ。
「…………そこっ!」
アセリアと悠人の間合いが離れた瞬間、瑞穂は立て続けにベレッタM92Fを撃ち放った。
それは死角に回り込んでからの銃撃だったが、悠人の防御を崩すには至らない。
精々、一時的に注意を引き付ける程度の効果しか得られなかった。
だが、戦いの天秤を傾けるにはそれで十分。
「――――今ッ!」
。
.
。
悠人の注意が逸れたのを見て取って、アセリアが一気に畳み掛ける。
ダンと大きく踏み込んで、全身全霊の力で『求め』を振り下ろした。
甲高い金属音と共に、悠人の手元から日本刀が弾き飛ばされる。
「ハアアアアァァァァッッ!!」
「グッ…………!」
尚もアセリアは攻める手を休めずに、次々と剣戟を打ち込んでゆく。
瀑布の如き荒々しい連撃に、得物が短剣一本となった悠人は対応し切れない。
一撃一撃を何とか受け止めてはいるものの、次第に『時詠』を握る腕が痺れ出してきた。
堪らず悠人は、一旦後退しようと大地を蹴った。
そこに追い縋る、青い影。
「…………逃がさないっ!」
後退する悠人を打ち倒すべく、アセリアは光り輝く羽を躍動させた。
生み出された加速力は、下がる悠人の速度を大幅に上回っている。
その勢いを保ったままアセリアは、天高く『求め』を振りかぶった。
大剣による渾身の一撃を、小振りの短剣如きで受け止めるのは困難を極める。
推進力も上乗せされた剣戟は、今度こそ悠人の防御を突き崩すだろう。
だが、アセリアが『求め』を振り下ろす寸前。
『時詠』の刀身が、黒い光を放った。
二つの永遠神剣が、磁力で引かれ合ったかのように衝突する。
.
「な――――黒い……『求め』っ……!?」
予想外の事態に、アセリアの目が大きく見開かれる。
『時詠』が――短剣状だった筈の武器が、『求め』と同じ形状に姿を変えていた。
永遠神剣は、その契約者に最も適した形状を取る。
そして今の悠人は、契約者と何ら変わらぬ程、心身共に『時詠』と一体化している。
ならば、高嶺悠人の操る永遠神剣が『求め』と同形になっても、何ら不思議では無かった。
「この――――」
「オオオォォォォォッ!!」
アセリアの『求め』と悠人の『時詠』。
同じ剣、同じ剣戟が、至近距離で何度も何度も交差する。
そして得物が互角ならば、実力で上回る悠人に分があった。
「くっ……あっ……!」
間断無く鳴り響く金属音。
剣戟の応酬を続けていたアセリアが、徐々に表情を歪めてゆく。
衝撃を殺し切れない。
アセリアの剣戟も驚嘆すべき威力を秘めているが、悠人は更に上をゆく。
殺意が違う。
あくまで相手を殺さぬよう戦っているアセリアに対し、悠人には何の躊躇も無い。
そもそも、実力が違う。
エトランジェの秘めたる戦闘能力は、スピリットすらも遥かに凌駕する。
。
.
「は――――く、あ――――!」
天空より降り注ぐ一撃を、アセリアは『求め』で必死に受け止める。
だが、防御ごと叩き潰せば良いだけだと云わんばかりに、二度三度と立て続けに『献身』が打ち込まれた。
後退する暇すら無い。
僅かでも余分な行動を取ろうとすれば、その瞬間に殺されてしまうだろう。
アセリアに許された行動は、終わりの無い嵐の中で只耐え凌ぐ事だけだった。
しかし仲間の劣勢を、瑞穂が黙って見過ごす筈も無い。
「ハ――――!!」
得物を斧に持ち替えた瑞穂が、背後から悠人に斬り掛かる。
スピリットには及ばないものの、十分過ぎる程の鋭さを伴った一撃。
そして瑞穂の攻撃に合わせて、アセリアも『求め』を横薙ぎに振るった。
だが二人掛かりの同時攻撃ですらも、今の悠人にはまるで通用しない。
「つあっ…………」
「ク――――」
悠人は振り向きざまに瑞穂の斧を弾き飛ばして、返す刀でアセリアの『求め』を受け止めた。
そのまま悠人とアセリアは鍔迫り合いの状態になったが、均衡は一秒足らずで崩れ去る。
「っ…………!」
押し負けたアセリアが、どすんと地面に尻餅を付いた。
純粋な膂力では、圧倒的に悠人が上回っていた。
だが悠人がアセリアに追い討ちを掛けるよりも早く、瑞穂は次の攻撃動作へと移行する。
瑞穂は悠人の後ろ手を掴み、間接を極めようとして――そこで脇腹に衝撃が奔った。
。
.
.
「あぐっ…………!」
裏拳を叩き込まれた瑞穂が、たたらを踏んで後退する。
その間に何とかアセリアは立ち上がったものの、直ぐ様悠人の剣戟が降り掛かってきて、呼吸を整える暇すら与えて貰えない。
徐々に傷付き、疲弊していくアセリアと瑞穂。
戦いの趨勢は少しずつ、だが確実に悠人の方へと傾いていた。
(どうすれば……良いの? 私は……また、何も出来ないの?)
戦いの一部始終を見守っていたことみは、只Mk.22を握り締める事しか出来なかった。
人間離れした動きを見せるアセリアは勿論として、瑞穂もまた相当な実力者だ。
加えてアセリアと瑞穂は、何年も共に戦ってきたの如く、息の合った動きを見せている。
屈指の実力者二人による、熾烈極まりない波状攻撃。
それでも、高嶺悠人には及ばない。
あの怪物は余りにも強過ぎる。
自分如きが近付けば、一瞬で只の肉塊にされてしまうだろう。
また、自分は何も出来ないのか?
また、大切な仲間を失ってしまうのか?
否――――今度こそ、仲間を救ってみせる。
近付けなくても、やれる事はある筈だ。
ことみはデイパックの中に手を伸ばした。
拳銃で遠距離から狙撃するという手もあったが、瑞穂達は乱戦状態で戦っている。
銃の扱いに慣れていない自分では、味方を撃ち抜いてしまう危険性が高かった。
ならば、別の手段で攻撃するしかない。
。
.
.
「お願い……当たって!」
ことみは鞄から取り出した物を、文字通り『走らせた』。
規則正しく鳴り響くモーター音が、悠人の足元へと迫ってゆく。
「……………………ッ!?」
異変を察知し、振り向いた悠人の瞳に映ったのは、カッター付きのラジコンカーだった。
それは衛と共にネリネを撃退した際、用いた物だ。
「あ…………」
衛との思い出が脳裏に呼び起こされ、悠人は呆然とした声を洩らし、一瞬動きを止めた。
その隙を見逃さず、瑞穂とアセリアが背後から斬り掛かる。
そこでようやく悠人が我に返って飛び退こうとしたが、態勢が悪く逃げ切れない。
「ユートッ…………!!」
「はあああああっ!!」
――倒せる。
悠人に向けて疾駆しながら、瑞穂とアセリアは同時に確信した。
どちらか一人の攻撃が止められても、もう片方の攻撃で悠人を捉えられる。
後は殺してしまわぬよう注意すれば、それで事は済む筈だった。
しかし瑞穂達が得物を振り下ろす寸前、悠人はポケットに手を伸ばした。
瑞穂達の足元に、何かが叩き付けられる。
「うあ――――!?」
「………………くッ!?」
。
.
.
凄まじい閃光と爆音が、瑞穂達へと襲い掛かる。
悠人が放った物体――それはスタングレネードだった。
瑞穂達はぎりぎりのタイミングで両目をガードしたものの、やはり数秒間は視界を奪われて、否応無しに後退を強要された。
そして経過する事、数秒。
目蓋を開けた瑞穂達の視界に映ったのは、悠然と直立する悠人と、粉々になったラジコンカーの姿だった。
「あっ……ああ……」
ことみの口から、本人の意思とは無関係に、弱々しい声が零れ落ちた。
高嶺悠人は強いだけでなく、咄嗟の機転にも優れていた。
もう、自分に打つ手は無い。
このまま瑞穂とアセリアが嬲り殺しにされるのを、黙って見ているしかない。
どうしようも無い程の絶望感が、ことみの心を覆い尽くす。
だがその時、近くから雑草を踏み締める音が聞こえてきた。
慌ててことみが振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
「あ、貴方は――――」
「……どうやら、引き返して来て正解だったみたいだな」
男はそう云うと、金属バット片手に駆け出した。
標的は、アセリア達に猛攻を仕掛けている最中の悠人だ。
異変を察知した悠人が咄嗟に『時詠』で防御しようとしたが、そんな物は関係無いと云わんばかりに、思い切りバットを叩き付ける。
「うらああああああっっ!!!」
「ガ――――ッ!?」
勢いの乗った一撃は、『時詠』ごと悠人を弾き飛ばした。
現われたのは、地獄の底から這い上がりし者。
悠人と同じく殺人鬼と化し、そして仲間に救われた男。
本当はずっとこうしたかった。
仲間と共に、力を合わせて生きたかった。
ようやく選び取れた正しき道に、万感の想いを籠めて男は叫ぶ。
。
.
.
「アセリア、瑞穂! お前達を――――助けに来たッッ!!」
「――――武さん!!」
突然現われた救援に、瑞穂が驚きの声を上げる。
見れば、倉成武の直ぐ近くには千影も立っていた。
瑞穂には知る由も無い事だが――武は本来ならばホテルに行く予定だった。
しかしどうしても悪い予感が消えなかった為、休憩後に海の家へと進路を変更したのだ。
「瑞穂……積もる話もあるだろうが、それは後回しだ。まずはアイツをぶっ倒すぞ」
「……待って下さい。私とアセリアさんは、高嶺さんを救う為に戦っています。
出来れば、殺さないようにして頂けませんか?」
「なっ…………正気か!?」
瑞穂の要請に、武は耳を疑いざるを得なかった。
悠人の強さは、病院で嫌という程思い知らされた。
あの怪物を殺さずに止めようだなんて、とても正気の沙汰とは思えない。
どうしたものか――
悩みながら横に視線を移すと、縋るような表情をしているアセリアと目が合った。
「タケシ……私からも頼む。私はユートを助けたい……どうか、力を貸してくれ。
『時詠』を壊せば……きっとユートは、元に戻る」
告げられた言葉には、悲痛な程の想いが籠められている。
アセリアの瞳を覗き込むと、強い決意と不安の色が見て取れた。
「……だーっ、分かったよ! そんな顔して頼まれちゃ、断れる訳ねえじゃねえか……!」
「私も……協力するよ。悠人くんがああなってしまったのは……私を助ける為だからね」
。
.
。
瑞穂とアセリアが取ろうとしている選択肢は、確実に自分達の生存確率を下げるものだ。
だと云うのに、武も千影もすぐさま肯定の意を示した。
エルダーシスター、宮小路瑞穂。
キュレイキャリア、倉成武。
魔法少女、千影。
そしてブルースピリット、アセリア。
広大な草原の中、数々の死地を潜り抜けし戦士達が、同じ目的の下で肩を並べる。
「悠人くん……行くよっ……!」
第一手を打ったのは千影だった。
千影はショットガンの照準を定め、一回、二回と素早く引き金を絞った。
俊敏な猛獣すらも仕留め切る散弾の群れが、一直線に悠人へと襲い掛かる。
だが悠人は生物の限界すらも凌駕した動きで、アッサリと銃撃から身を躱した。
そこに切り掛かる、二人の戦士。
「油断するなよ、瑞穂!」
「――分かっています!」
武はバットを、瑞穂はレザーソーを握り締めて、左右両側から悠人へと斬り掛かる。
絶え間無い剣戟の音。
前後左右、様々な方向から同時に繰り出される連撃は、筆舌に尽くし難い程の激しさだ。
いかな悠人といえど、その場に留まったままでは耐え切れず、後退を余儀無くされた。
だが後退する悠人を上回る速度で、青い疾風が吹き荒れる。
「たああああああああああああッッ!!」
裂帛の気合が籠められた雄叫びを上げて、アセリアは全力で突貫する。
万を持して放たれた攻撃は、リープアタック――ウィング・ハイロゥの加速力を利用した、強力な突撃技。
悠人は『時詠』を盾にしようとしたが、その程度では防ぎ切れない。
。
「ガアアアアアァァァァッ!?」
アセリアの振るう『求め』が、初めて悠人の身体を掠めた。
それは左肩から胸にかけて浅く斬り裂いただけの、とても勝負を決めるには至らない一撃。
しかし、攻め込むのには十分過ぎる好機。
悠人の動きが一瞬止まった隙に、アセリア達は更なる連激を繰り出してゆく。
「うぉおおおおりゃあぁぁぁ!」
武が大きく踏み込んで、横薙ぎにバットを振るった。
悠人はそれを漆黒の大剣で受け止め、鍔迫り合いの状態で武と顔を突き合わす。
「てめえ、いい加減に目を醒ましやがれ!!」
「…………」
守りたかった筈の仲間に牙を剥いたのは、嘗ての自分も同じ。
だからこそ武は必死に呼び掛けたものの、悠人は答えない。
競り合いの圧力に耐え切れず、次第に金属バットが折れ曲がってゆく。
だが直ぐに瑞穂とアセリアが加勢し、悠人を後退させた。
そして距離が開いたとしても、悠人に態勢を整える時間は与えられない。
「悠人くん……もう止めるんだ!」
「…………っ」
連続して千影のショットガンが撃ち放たれ、悠人に襲い掛かる。
普通ならば、迷わずに回避を選択する場面。
しかし悠人は敢えて、散弾の群れから身を躱そうとしなかった。
急所だけは『時詠』の刀身で覆い隠して、残りの露出部はオーラの力で防御を試みる。
「オオオオオオオオォォォォッッ!!」
「――――!?」
.
。
.
制限もあった所為で、銃弾を完全に無効化は出来なかったが、重大なダメージを負う事は避けられた。
悠人は猛獣の如き咆哮を上げて、驚きの表情を浮かべている千影に斬り掛かる。
防御に徹しているだけでは勝てない――それ故の、強引な突撃。
悠人の目論見は成功し、多少の損害と引き換えに、千影からマナを奪い尽くせる筈だった。
敵に、自身と同じ人外の存在さえ居なければ。
「やらせない……っ!!」
「――――ッ!」
上空より飛来したアセリアが、悠人の『時詠』を受け止める。
直ぐに瑞穂と武も駆け付けて来て、またも悠人は後退を強要された。
そして距離を開けるや否や、待ってましたと云わんばかりに飛来する、散弾の群れ。
悠人も銃火器は幾つか持っている。
しかし広範囲に渡る散弾の攻撃を凌ぎつつ、正確な銃撃を行うのは難しい。
だからといって、近接戦闘で武、瑞穂、アセリアの三人を相手するのは不可能だ。
遠い間合いでも、近場でも、今の状況で悠人に勝ち目は無い。
全力で戦う覚悟を固めたアセリア。
結束を強め、お互いがお互いをカバーし合っている武達。
つぐみとの決戦で、大幅に魔力を消耗した悠人。
病院での戦いの時とは、条件がまるで違う。
本能のみで動いている悠人にも、己が不利を実感する事が出来た。
だが悠人には、未だ奥の手が残されている。
それを使ってしまえば、殆どのマナを失ってしまうが、このまま戦い続けても敗北は必至。
だからこそ、自らの余命を大幅に縮めてでも発動させる――最大最強の力を。
「――――いけない、皆下がれっ!」
。
。
.
.
最初に異変を察知したのは、アセリアだった。
膨れ上がる絶望的な予感に、一も二もなく仲間達に退避を促す。
瑞穂達はその声に抗わず、悠人への追撃を中断した。
「アセリアさん、どうしたの?」
「『時詠』に……力が集まっている! 全てを吹き飛ばせるくらいの、恐ろしい力が……!」
「――――――――!?」
それで、全員の視線が悠人へと引き寄せられた。
そこでは信じられないような現象が起こっていた。
前方で繰り広げられている光景に、武が掠れた声を洩らす。
「おいおい、冗談だろっ…………!?」
武の目に映ったのは、膨大なエネルギーの塊。
悠人の周囲に黒いオーラが吸い寄せられてゆき、永遠神剣第三位『時詠』の刀身を禍々しく照らし上げる。
巻き起こる暴風に周囲の雑草が揺れ、ざわざわと耳障りな音を奏でていた。
「ぁ――――」
千影は、自身の身体が凍り付いたような錯覚を覚えた。
悠人から放たれる威圧感は、機関車を破壊した時すらも凌駕している。
魔力量を測るまでも無く、生物としての本能だけで、何をやっても殺されると理解出来た。
この場で悠人に対応し得るのは、只一人。
「皆、私の後ろに……!!」
そう叫ぶと、アセリアは仲間達を庇うような位置に移動した。
悠人が放とうとしているのは、恐らく放出系の攻撃。
あれだけ巨大なエネルギーの直撃を受けてしまえば、人間など一瞬にして蒸発してしまうだろう。
仲間達の命を繋ぐには、自分が受け止めるしかない。
.
.
。
「――――スピリットォォォォォォォ!!!!」
「ユートッ…………!!」
アセリアは手にした大剣を盾の如く構えて、全精神を集中させる。
第三位の神剣による全力攻撃など、本来ならば防ぎようが無いが、今の悠人は酷く消耗している。
この剣なら――永遠神剣第四位『求め』なら、耐え切るのも不可能では無い筈だ。
「オーラフォトン――――」
悠人が『時詠』を握り締める。
漆黒の恒星と化した『時詠』を、天高く振り上げて、
「――――ビィィィィム!!!!!」
全身全霊の力で振り下ろした。
巨大な漆黒の球体が、轟音と共に放たれる――――!!
「マナよ、オーラフォトンへと変われっ…………!」
迫り来る絶対の死を前にして、尚アセリアは引こうとしない。
自身が持ち得る全ての力を『求め』に集中させ、
「オーラフォトン・バリア――――!!!」
巨大なデルタ状のバリアを形成した。
304 :
f:2007/11/06(火) 18:26:07 ID:8cSwVSI7
.
。
.
。
破壊のオーラと守りのオーラが鬩ぎ合う。
眩い閃光が辺りを包み込み、生じた爆風は周囲一帯を蹂躙してゆく。
「ぐっ…………あああっ……………!」
アセリアの表情が、焦りと苦悶の色に歪んだ。
相当消耗している悠人に対して、アセリアは未だ五体満足の状態。
だと云うのに、勝負は完全に悠人が押していた。
黒いエネルギーの塊が、少しずつバリアを侵食してゆく。
「う、く、あ―――――!」
『求め』を構える両腕に、凄まじい程の負荷が掛けられる。
両腕の筋組織が少しずつ断裂してゆき、身体を支える足もガクガクと震えている。
それでもアセリアは何とか踏み留まり、迫る暴力を耐え凌いでいた。
(諦め……ないっ……!)
此処で諦めたら、全てが終わってしまう。
瑞穂達は消し飛んでしまうし、悠人だって救われない。
だからこそ最後の瞬間まで、絶対に諦めない。
そこでアセリアの下に駆け付ける、複数の人影。
「――――アセリアさん!」
「……ミズホッ!? それに、他の皆も……」
。
。
.
瑞穂、武、ことみはアセリアの身体を後ろから支えて、千影は魔力を注ぎ込むべく『求め』に手を添えた。
確かに高嶺悠人は最強だ。
アセリアが『求め』の力を引き出しても尚、悠人はその上をゆく。
だが今のアセリアには、頼りになる仲間達が居る。
ならば一人で戦う必要など、何処にも有りはしない。
個人の力で及ばぬと云うのならば、全員で力を合わせれば良いだけの事……!
「『求め』よ、力を貸してくれ……!!」
アセリアは叫ぶ。
精一杯の願いを籠めて。
大切な人を、何としてでも助けたい。
大事な仲間達を、何としてでも守りたい。
その想いに呼応したかのように、『求め』の刀身が光り輝き――
「ユートを助ける! ミズホ達を守る!! それが、私の『求め』だああああああああぁぁぁぁっ!!!!!」
迸る閃光。
肥大化したバリアが、黒い奔流を完全に掻き消した。
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それまでの喧騒が嘘かのように、辺りは静寂に包まれた。
アセリア達のすぐ前方には、大きなクレーターが形成されており、先程の衝突がどれだけ激しかったかを物語っている。
向こう側には、地に倒れ伏す悠人。
さしものエトランジェも、マナの殆どを使い果たしては、もう戦いを続行するなど不可能だった。
「――アセリアさん、『時詠』を」
「…………ん!」
瑞穂に促されて、アセリアは大きく頷いた。
先の戦いで大きくマナを消耗してしまったが、未だウイング・ハイロゥを展開するくらいの余力は残っている。
『求め』にマナを注ぎ込んでから、大地を思い切り蹴り飛ばした。
「ユート、今助けるっ…………!」
天高く舞い上がり、十分な助走距離を確保してから突貫する。
狙いは、悠人の傍に転がっている『時詠』だ。
全てを終わらせるべく、地上へと急降下する青い彗星。
「てぇやああああああぁぁぁぁっっ!!」
アセリアは全身全霊の力を以って、『求め』を思い切り振り下ろした。
周囲一帯にまで響き渡る轟音。
斬撃の余波で砂埃が舞い上がり、アセリアの視界を覆い隠す。
アセリアは大きく息を吐いた後、額に浮かんでいた汗を拭い取った。
これで、『時詠』は破壊出来た筈だと信じて。
。
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だが――視界が晴れた時、アセリアの目に飛び込んできたのは、余りにも非情な現実だった。
「そんなっ…………!?」
『時詠』は、破壊されていなかった。
それどころか、掠り傷一つ付いていない。
自身の全力を注ぎ込んで攻撃したのに、『時詠』にはまるで無意味だったのだ。
アセリアが呆然とする中、向こうの方から千影が駆け寄って来る。
「アセリアくん……此処は私が!」
千影はそう云って、ショットガンの銃口を『時詠』に向けた。
漆黒の大剣目掛けて、何ら躊躇無く散弾の群れを叩き付ける。
だが、結果は変わらない。
散弾は全て、虚しく弾き返されるだけだった。
「糞っ……ふざけんなよ!!」
激昂した武が、全力で金属バットを叩き付ける。
永遠神剣にそのような攻撃が通じる筈も無く、バットの方が大きくへし折れた。
瑞穂とことみも各々の銃を撃ち放ったが、只銃弾を浪費するだけだった。
何をやっても、どんな事をしても、まるで通じない。
その光景を目の当たりにしたアセリアは、ようやく一つの結論に思い至った。
「…………救え、ない?」
これだけの集中攻撃ですら意味を為さないのなら、最早『時詠』を破壊するのは不可能。
そして『時詠』を破壊出来ない以上、悠人を救う手立ては無い。
悠人をこのまま放置しておけば、島中の人間が危険に晒されるのは確実。
故に、救えないのならば殺すしかない。
そしてそれは、悠人本人から懇願された自分こそが、遂行すべき役目だろう。
理性では理解出来たが――感情が、その結論を否定した。
。
。
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「……アアアアアアアアアァァァァッッ!!!」
アセリアは叫びながら、『時詠』目掛けて『求め』を振り下ろした。
責務なんて関係無い――唯只、悠人を失いたくなかった。
無意味だと理解しつつも、何度も何度も『求め』を叩き付ける。
余りにも悲痛なその行動に、瑞穂も、ことみも、武も、声を掛けられない。
だがそこで、直ぐ傍からガチャリという音が聞こえてきた。
「――――チカゲ!?」
「……アセリアくんも、分かっている筈だよ。もう……こうするしかないって」
振り向いたアセリアの瞳には、ショットガンを構えている千影の姿が映った。
ショットガンの銃口は、倒れ伏す悠人へと向けられている。
「待って! 私はユートを……助けたい!」
「……悪いけど……そのお願いは聞けないな。……君に出来ないのなら……、私が悠人くんを止めないと……いけないからね……」
千影もアセリアと同様、悠人本人から懇願されている。
そして悠人の救出が不可能だと分かった今こそ、自分の役目を果たす時。
どれだけ辛かろうとも、此処で悲しみの連鎖を断ち切らねばならないのだ。
だからこそ千影は、悠人にトドメを刺そうとしていた。
しかしその行動を、アセリアが許す筈も無い。
アセリアは『求め』の切っ先を、スッと千影に向けた。
「……何のつもりかな……アセリアくん」
「……ユートを殺すつもりなら……いくらチカゲでも、容赦しない」
.
。
.
告げるアセリアの眼光は寒気を催す程に鋭く、先の発言が只の脅しなどでは無い事を物語っている。
向けられた殺気に応えて、千影もショットガンの銃口をアセリアへと向けた。
千影とアセリア。
過程は違えども、それぞれ厳しい道程を歩んできた二人の戦士が睨み合う。
息も出来ぬような緊張感が辺りを包み込む。
このまま放って置けば、本当に戦闘が始まってしまうかも知れなかった。
慌てて瑞穂が、制止の声を投げ掛けようとする。
「二人共、落ち着いて下さい! まずは話し合っ――――!?」
そこで、瑞穂は見た。
視界の隅で、何かがゆっくりと這っているのを。
瑞穂以外は未だ千影とアセリアに集中している為、誰も気付かない。
それは奇しくも、涼宮茜が倒された時と酷似している。
瑞穂が懸命に地面を蹴ったが、遅い。
「な――――」
驚きの声は、きっと瑞穂以外の全員が発した物だ。
ぽたぽた、と垂れ落ちる紅い血。
千影の腹部から、黒い刀身が生えていた。
刀身が引き抜かれると、支えを失った千影の身体は力無く地に倒れ伏した。
呆然とする一同の、視線の先には――『時詠』を握り締めた悠人が立っていた。
.
。
.
。
.
「――――オオオオオオオォォォォッッ!!」
千影を突き刺した事で、悠人は再びマナを手に入れた。
放たれた猛獣の如き咆哮が、周囲一体に響き渡る。
それは聞く者が聞けば、悠人の心から漏れ出る嗚咽のように聞こえたかも知れない。
悠人自身が一番恐れていた結末。
守りたかった筈の人を、自分の手で殺してしまった――
悠人に残された理性が、悲痛な言葉を紡ぎ出す。
「殺して、くれ……」
悠人の瞳からは、真っ赤な涙が零れ落ちていた。
紅く染まった、悲しみの雫が流れ落ちていた。
「頼むアセリア……俺を……殺してくれええええッ!!」
悠人本来の意思が、残された力を振り絞って必死に訴え掛ける。
だが、それで限界。
身体の自由までは取り戻せず、本人の意思に反して、悠人はアセリアからマナを奪取すべく歩き出した。
「ユー……ト…………」
アセリアは動けない。
『求め』は手元にあるものの、精神が完全に萎えてしまっている。
思考が真っ白に埋め尽くされて、もう何も考えられない。
「――――くそったれがあああああ!」
「アセリアさん、千影さん…………っ!!」
。
.
武と瑞穂が、各々の得物を手に悠人へと挑み掛かった。
だがアセリアの助力無しでは、二人掛かりであろうとも、悠人には対抗し得ない。
悠人は振り向きながら『時詠』を振るって、武のバットを受け止めた。
既にボロボロの状態だったバットは衝撃に耐え切れず、中央辺りから真っ二つに裂けた。
続けて悠人は空いてる方の手で、武の鳩尾に拳を打ち込んでゆく。
「ぐがっ……はっ……!」
苦悶の声と共に、武が地面へ崩れ落ちる。
悠人はそれ以上追撃を仕掛けようとせずに、くるりと身を横に半回転させた。
その直後、一秒前まで悠人が居た空間を、瑞穂の放った銃弾が切り裂いてゆく。
瑞穂が再度照準を定めようとするが、それを上回る速度で悠人は駆けた。
瞬く間に瑞穂の眼前まで詰め寄って、漆黒の大剣を横凪ぎに一閃する。
「っ……………!」
済んでの所で瑞穂は腰を低く落として、迫る死から身を躱した。
しかしそれは、悠人の予想通り。
悠人は素早く瑞穂の後ろ手を掴んで、そのまま背後へと放り投げた。
瑞穂が投げ飛ばされた先には、銃撃を開始しようとしていたことみの姿。
「あぐっ…………!!」
「つあああっ……!」
避けられる筈も無く、瑞穂とことみは正面から衝突する。
二人は縺れ合いながら地面を転がって、一時的な脳震盪の状態に陥った。
拳銃も取り落としてしまい、ぐったりと大地に倒れ伏す。
そうして、狂騒に包まれていた戦場が再び静まり返った。
.
。
武が攻撃を開始してから、僅か十秒足らず。
千影が倒された事による動揺、アセリアと云う主戦力を欠いていた等、様々な原因はあるが――
瑞穂達は、たった一人の男に敗北を喫した。
「あっ……ああ…………」
弱々しく震える声。
次々と仲間が倒れていった後も、アセリアは未だ動けないでいた。
疲弊し切った心で、ひたすらに現実を否定し続ける事しか出来ない。
そんなアセリアの眼前に、漆黒の大剣を携えた死神が歩み寄る。
「殺して……くれ……」
悠人は苦悶の声を洩らしながら、天高く『時詠』を振り上げた。
千影から奪い取った微量のマナだけでは、まだまだ足りなさ過ぎる。
永遠神剣の本能が、最高の相棒すらも喰い尽すべく、悠人の身体に攻撃を命じる。
空気を裂きながら、叩き落される漆黒の刀身。
だがそこで何者かが走って来て、アセリアの前に立ち塞がった。
ビシャリと、鮮血が舞い散る。
「フフ……運命とは……分からないものだね……」
「チ……カゲッ……!?」
済んでの所で駆け付けたのは、千影だった。
満身創痍の身体を奮い立たせて、死に往く運命にあったアセリアを庇ったのだ。
右肩から胸にかけて深く斬り裂かれ、もう完全に致命傷だった。
千影は皮肉げな笑みを浮かべながら、眼前の悠人に語り掛ける。
。
.
。
.
「最初は……仲間だった、悠人くんや……名雪くんが……敵になって……。
咲耶くんを殺した武くんが……仲間になるだなんて……本当に、可笑しいよ……」
衛は、仲間だった筈の水瀬名雪に殺されてしまった。
自分もまた、仲間だった悠人の手によって、間も無く命を落とすだろう。
それでも千影は恨み言一つ吐こうとせず、寧ろ逆の内容を口にする。
「悠人くん……どうか、余り自分を責めないで欲しい……。
君が居なければ……私も、衛くんも……もっと早くに命を落としていたんだから……」
悠人がどれだけ必死に自分達姉妹を守ってくれたか、千影は良く知っている。
自分達がどれだけ悠人に助けられたか、千影はちゃんと分かっている。
だから精一杯の想いを込めて、告げる。
「――ありがとう。私も……それに、きっと衛くんも……君に、感謝しているよ……」
そこまで伝えると、千影はアセリアの方へと振り返った。
呼吸器官より湧き上がる血液を飲み込んでから、静かに語る。
「アセリアくん……君は、これ以上悠人くんを……苦しませたいのかい?
悠人くんが今、どれ程苦しんでいるのかも、分からないのかい……?」
「…………」
アセリアは答えられない。
血涙まで流した悠人がどれ程苦しんでいるか、想像するのは余りにも容易い。
だが悠人を殺す気にはなれないのも、また事実。
アセリアは悲痛に表情を歪ませながらも、自身の想いを口にした。
「それでも……私は、ユートを助けたい……」
。
大切な人と共に、生き延びたい。
多くの人間が抱くであろう、当たり前の願い。
それを否定する権利など、誰にも有りはしない。
だけど、どれだけ強く追い求めても――常に願いが叶うとは、限らないのだ。
「助けたいのは、私だって同じだよ……。でも現実は何時だって残酷で……思い通りにはいかないものさ……。
自分の我侭を押し通して……全てを失ってしまっても……良いのかい……?」
千影がそう問い掛けると、アセリアは大きく横に首を振った。
全てを失って良い筈が無い。
瑞穂や他の仲間達まで失うなんて、絶対に受け入れられない。
「君は悠人くんに……何を、託された……? 自分の役目を……見失ってはいけない……。
このままじゃ、誰も……悠人くん自身だって、救われないよ……。だから――」
言葉が最後まで紡がれる事は無かった。
全生命力を使い果たした千影は、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
千影は自身の血で頬を濡らしながら、今は亡き二人に向けて問い掛けた。
(衛くん……トウカくん……これで……良かったのかい……?)
答えは返ってこない。
だけど、自分が正しい事をしたという自信はあった。
衛なら、自分と同じ状況になっても、きっと悠人に謝意を伝えた筈だ。
トウカなら、きっとアセリアを叱咤激励した筈だ。
己が責務は果たした。
だからこそ千影は、穏やかに微笑んで――
(兄くん……また……来世…………)
誇りを胸に、大切な人の顔を思い浮かべながら、逝く事が出来た。
.
.
。
.
◇ ◇ ◇ ◇
「ごめん……チカゲ。でも……もう私は迷わない」
最後まで聞かずとも、アセリアには千影の言葉の続きが理解出来た。
――君が殺してあげるんだ、と。
千影は、そう伝えようとしていた筈だった。
「ユート…………」
アセリアが立ち上がった時、悠人は大気中のマナを吸収している所だった。
それは千影が残した魔力の残滓だったが、悠人にとっては余りにも少量。
全てを食い尽くした所で、幾ばくか余命が伸びるに過ぎない。
「マナを……もっとマナを……!」」
満たされぬ腹を潤すべく、悠人がアセリアに向けて『時詠』を構える。
もう幾度と無く繰り返されて来た光景。
そして標的にされたアセリアが、悠人に殺意を向ける事は、これまで一度も無かった。
そう、これまでは。
現実から逃げているだけじゃ、誰も守れないから――アセリアは『求め』を構えて、ゆっくりと告げる。
「ユート……。お前を、倒す……!」
アセリアの背中に、エンジェル・ハイロゥが展開される。
それに応えるようにして、悠人の『時詠』が黒いオーラに包まれる。
青の妖精と、漆黒の死神。
日光が照りつける草原の中、嘗て肩を並べ合った二人の戦士達は、全く同じタイミングで駆け出した。
。
.
「タッ――――!!」
アセリアはすれ違い様に、素早く一度『求め』を振るった。
悠人の脇腹から、真っ赤な血が流れ落ちて、金色のマナと化してゆく。
何度か『時詠』による反撃が放たれたが、既にアセリアは射程外へと飛び去っている。
機動力という点では、翼を持つアセリアが大きく上回っていた。
そして力が衰えている今の悠人では、アセリアの動きに対応し切れない。
ヒットアンドアウェイ。
青の妖精は悠人の周囲を執拗に飛び回り、次々と斬撃を加えてゆく。
その度に、悠人の身体に新たな刀傷が刻み込まれる。
だが悠人も、このまま黙ってやられたりはしない。
アセリアさえ倒せばマナは補給出来るのだから、この場で全力を出し尽くしてしまっても問題無い。
「オオオオオオオォォォォッッ!」
「――――――ッ!?」
アセリアの顔が驚愕に大きく歪む。
咆哮と共に『時詠』を包むオーラの濃度が増し、悠人の動きが急速に早まった。
悠人は残る殆どのマナを使って、タイムアクセラレイト――自身の時間を加速させる技――を発動させたのだ。
スピリットやエトランジェが生命活動を行うには、最低限のマナが必須。
故に悠人の余命は、長くても後数分。
だがその数分間は、最強の死神がアセリアを襲い続ける。
.
「くあっ…………!」
叩き付けられた衝撃に、アセリアが苦悶の声を洩らす。
縦横無尽に飛び回るアセリアを、悠人の『時詠』が完全に捉えていた。
何とか『求め』を盾にして防いだものの、衝撃までは殺し切れない。
バランスを崩したアセリアは、飛行を中断して地面に降り立った。
そこに迫る黒い死神。
「ウオオォォッッ――――――!!」
巻き起こる旋風と共に、『時詠』による連撃が次々と繰り出される。
悠人が放つ剣戟は、一発一発が必殺たり得るだけの威力を秘めていた。
それ程の攻撃が、アセリアを遥かに上回る速度で繰り出される。
アセリアが一度『求め』を振るう間に、『時詠』は二度襲い掛かる。
「…………ッ」
胸に迫る閃光の如き刺突を、アセリアは間一髪のタイミングで横に跳ねて躱した。
直ぐ様次の剣戟が飛んで来たが、それは『求め』の刀身で受け止めた。
反撃する余裕は無い。
今の悠人は、力でも速度でもアセリアを凌いでいる。
それでもアセリアが耐え凌げているのは、積み重ねて来た修練のお陰だ。
アセリアは悠人よりも遥かに昔から、戦士として生きてきた。
純粋な剣術の技量なら、今でも悠人を上回っている。
その事実だけが、アセリアの命を繋ぎ止めていた。
。
.
「フ――――ク――――ハ――――」
三方向より襲い来る剣戟。
一秒足らずで放たれた連撃から、死に物狂いで逃れる。
少しでも掠ってしまえば、悠人に余分なマナを与えてしまう事になる。
そうなってはもう、勝ち目など欠片も無くなるだろう。
アセリアが勝利するには、完全な回避の遂行が絶対必須条件だった。
今の悠人は、燃え尽きる寸前の蝋燭だ。
これ程の異常な動きを、長い時間続けられる筈も無い。
そう信じてアセリアは、死神の攻撃を防ぐ事に全力を注ぎ込む。
そのまま耐え続ける事、一分少々。
アセリアの予想は、見事に的中する事となった。
「っ――――」
回避を続けていたアセリアの表情に、少しずつ余裕が戻って来る。
視認すら困難だった悠人の剣戟が、急激に速度を落としていた。
威力の方も大きく衰えて、単純な力勝負ですらアセリアが上回りつつある。
「マナが、足りない…………もっと……マナを…………!!」
苦しげに悠人が声を洩らす。
一発二発と、アセリアの両肩目掛けて『時詠』が振り下ろされたものの、遅い。
アセリアは事も無げに『時詠』を払い除け、直ぐ様反撃の剣戟を繰り出した。
必殺を期した一撃では無く、只の牽制攻撃。
だがその一撃すらも、悠人は防ぎ切れない。
。
.
.
「グ、ガッ…………!?」
『求め』を受け止めた悠人が、大きくバランスを崩した。
体格では大きく上回っていると云うのに、完全に力負けしていた。
最早誰の目から見ても、悠人が限界なのは明白。
マナ切れを起こした今の悠人は、常人に毛の生えた程度の身体能力しか持ち合わせていない。
そしてこの事態は、アセリアにとって最大の好機。
「――――ユートォォォォォッッッ!!!!」
自身の力を爆発させるかのように、アセリアは一気に攻め込んだ。
一発、二発、三発、四発、五発、六発。
決して大振りはせずに、鋭い剣戟を確実に決めてゆく。
悠人の身体中の至る所から、次々と真っ赤な血が噴出する。
それでもアセリアは攻撃を止めない。
情けを封印して、何処までも非情に、斬り、抉り、穿つ――――!
「グ―――ガ―――アアアアァァァッッ…………!!」
鮮血に塗れた悠人が、『時詠』を取り落として、よろよろと後退する。
最早完全に勝敗は決した。
今の高嶺悠人には、只の人間を相手する余力すらも残されていない。
スピリット相手に、勝ち目などある筈が無い。
それでも。
。
.
。
.
「ヤアアァァァァァァ――――ッ!!!」
アセリアは大地を蹴り飛ばして、一直線に疾駆した。
何も考えないように努めながら、手にした大剣を大きく振りかぶる。
眼前には、満身創痍となった大切な人。
その人の胸に狙いを定めて――――『求め』を突き刺した。
「…………ッ」
肉を深々と貫く感触。
アセリアが放った一撃は、確実に悠人の胸を刺し貫いていた。
これは分かり切っていった結果。
アセリアが本気で攻撃を放てば、今の悠人に逃れる術など存在しない。
「ア…………」
だと云うのに、アセリアの口からは呆然とした声が漏れ出ていた。
自分の心の中で、何か大切なモノが砕け散った。
「ア……アアァァァ…………」
握り締めた大剣の柄越しに、悠人の重量が伝わってきた。
大量の血液を失ったであろう悠人の身体は、思ったよりもずっと軽かった。
その事実は、悠人の余命が残り僅かであるという事を意味している。
どうしようもない程の喪失感が、胸の奥に広がってゆく。
。
.
.
。
.
そこで、アセリアの頬にそっと手が添えられた。
顔を上げると、悠人が澄んだ眼差しでこちらを眺め見ていた。
「ユート…………?」
「アセリア――戦う事以外の生きる意味は、見つかったか?」
投げ掛けられた問い。
この島に来る前なら、理解出来なかったであろう質問。
だけど、今なら分かるから――アセリアは全く迷わずに、告げた。
「私は……うん……見つけた」
その言葉は、決して虚言などでは無い。
瑞穂やアルルゥ、涼宮茜との出会いがアセリアを変えていった。
仲間を守りたい。
仲間と一緒に居たい。
戦う事以外の欲求だって、ちゃんとある。
だから、自信を持って答える事が出来た。
「――――そうか」
そう云って微笑んだ後、悠人は静かに目を閉じた。
アセリアは『求め』を引き抜いて、悠人の身体を強く抱き締める。
アセリアの胸の中で、確かな暖かさを感じながら。
悠人は金色のマナと化していった。
。
.
。
.
「千影さん……高嶺さん……逝ってしまわれたんですね……」
ダメージからようやく立ち直った瑞穂は、悠人が消滅する瞬間を目の当たりにしていた。
人が金色の霧になって消えてゆくという、俄かには信じ難い光景だったが、超常現象など既に何度も目撃している。
直ぐに現実として受け入れて、思考を切り替えた。
倒れ伏す武とことみを起こしてから、ゆっくりとアセリアに歩み寄る。
「ミズホ…………」
こちらに気付いたアセリアが、弱々しい声を上げた。
その口元は強く引き締められており、何かを堪えているのが一目で見て取れた。
「あのね、アセリアさん。我慢しなくても良いのよ」
「え――――?」
アセリアは、もう十分に頑張った筈だ。
今は、これ以上頑張らなくたって良い筈だ。
だから瑞穂は、アセリアの身体を優しく抱き締めた。
互いの吐息が感じ取れる程の距離で、告げる。
。
.
.
「こんな時は――泣いたって、良いのよ」
「……………ッ!!」
その言葉は、アセリアにとってこれ以上無い程の決定打だった。
アセリアは瑞穂を抱き返すと、我慢し切れずに泣き始めた。
「っ…………っく……ああ…………うわああああああぁぁぁぁっ…………」
アセリアの大きな瞳から、涙の雫が次々と零れ落ちる。
一度そうなってしまうと、もう抑えようが無かった。
「……私は……ユートをっ………ぁぁぁあああ、あああああああああぁぁぁっ…………!」
子供のように泣きじゃくるアセリア。
人生で初めて流す涙は、酷く痛みを伴うもの。
その事は瑞穂も良く分かっていた。
だから瑞穂は、しっかりとアセリアを抱き続けた。
少女の痛みを、僅かでも良いから和らげられるように。
少女の心に、少しでも多くの温もりを与えられるように――
◇ ◇ ◇ ◇
。
.
アセリアが泣き止むのを待ってから、一行は行動を開始する。
まずは大きな穴を掘って、その中に千影の死体を埋葬した。
血に塗れた千影の顔は――何故か、穏やかに微笑んでいた。
「結局……咲耶との約束は守れなかったか……」
誰にも聞こえぬ程の小さな声で、武はボソリと呟いた。
今更悔やんでも結果は変わらないし、こんな所で立ち止まるつもりもない。
それでも、在りし頃の咲耶や千影の顔を思い浮かべるると、胸の奥が焼け付くように痛んだ。
「武さん、今からどうなさいますか?」
「んー、そうだな……」
瑞穂から尋ねられて、武は暫しの間考え込んだ。
やるべき事は沢山あるが、自分にとって最優先事項は小町つぐみとの合流だ。
確かつぐみは、ホテルに朝倉純一達を待機させていた筈。
それならば、自分もホテルに向かえばつぐみと合流出来るだろう。
「やっぱつぐみと合流したいからな……まずはホテルに行くよ。瑞穂達はどうすんだ?」
「私達は少し調べたい事があるので、海の家に向かおうと思っています」
「海の家? そんな所に何かあんのか?」
武の疑問を受け、瑞穂は海の家のトロッコ通路について、詳しく説明した。
島内の、様々な場所に移動可能なトロッコ。
仕組みこそ未だ良く分からないものの、上手く使えるようになれば、今後確実に役立つだろう。
瑞穂の話が終わった頃を見計らって、今度はことみがipod片手に口を開く。
。
「皆、ちょっとコレを見て欲しいの」
「それは……病院の時に云っていた、ipodですか?」
瑞穂が尋ねると、ことみはコクリと縦に首を振った。
鞄から一枚の紙を取り出して、筆談の準備を整える。
【ipodの中には、こんなメッセージが入れてあったの。
『三つの神具を持って、廃坑の最果てを訪れよ。そうすれば、必ず道は開かれるだろう』】
全員が読み終えたのを確認してから、ことみはもう一枚紙を取り出して、素早く文字を書き綴った。
【だから、私は廃坑に行きたいの。罠の可能性もあるけど……凄く、大事な謎が秘められているかも知れない】
【でもことみさん……廃坑は、海の家とは反対側にあります。海の家から行くのは、かなり手間ですよ?】
瑞穂が距離的な問題を指摘する。
海の家から廃口入り口へと向かうには、禁止エリアも避けて動かねばならず、大きく時間が掛かるのは明らかだった。
そこで、これまで静観していた武が鉛筆を取り出した。
【だったら、トロッコを使えば良いんじゃないか? 折角便利なモンがあるんだから、使わない手は無いだろ。
そうだな……こういうのはどうだ?】
少し間を置いてから、更に文字を書き加える。
【俺はつぐみと合流してから、廃坑に向かう。瑞穂達は海の家を調べてから、トロッコで廃坑に向かう。
落ち合う場所は……廃坑南口の方にするか】
それは、トロッコの機動力に頼り切った作戦だ。
思い通りにトロッコが動くか分からない以上、確実性に欠けているが、現状では最善の案だろう。
その後も少し話し合ったが、結局武の案を採用する事になり、一行は話し合いを終えた。
。
.
いよいよ出発の時となり、武が最初に立ち上がった。
その手には黒い大剣――永遠神剣第三位『時詠』が握り締められている。
魔力を持たぬ武ならば、身体を乗っ取られる心配は無い筈だった。
武は一度千影の墓を眺め見てから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「良いか? 俺達は死んでいった仲間達のお陰で、今もこうして生きてられるんだ。
俺達の命は、もう自分だけの物じゃない……だから、絶対に死ぬんじゃねえぞ」
「……ん、大丈夫。私が絶対に……ミズホ達を守ってみせる」
アセリアは即答した後、『求め』を武の方へと突き出した。
武も『時詠』の刀身を動かして、アセリアの『求め』と交差させる。
――散っていった仲間達への想いを籠めて。
――どれだけ傷付いても、どれだけ苦しくても、絶対に諦めないという誓いを籠めて。
【千影@Sister Princess 死亡】
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで− 死亡】
【残り17人】
。
.
.
【H-7 左上/二日目 午前】
【新・女子三人】
1:海の家に行く。
2:トロッコを使って、廃坑南口に移動する。
【アセリア@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、情報を纏めた紙×2】
【状態:深い悲しみ、決意、肉体的疲労極大、魔力消費大、両腕に酷い筋肉痛、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ミズホとコトミを守る
2:無闇に人を殺さない(殺し合いに乗った襲撃者は殺す)
3:存在を探す
4:ハクオロの態度に違和感
5:川澄舞を強く警戒
【備考】
※永遠神剣第四位「求め」について
「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。
ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。
オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度だが、スピリットや高魔力の者が使った場合はこの限りでは無い)
。
【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾2/15+)、バーベナ学園女子制服@SHUFFLE! ON THE STAGE、豊胸パットx2】
【所持品1:支給品一式×9、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ3本、
フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、予備マガジンx2、情報を纏めた紙】
【所持品2:バニラアイス@Kanon(残り6/10)、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳、スタングレネード×1】
【所持品3:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+1)、懐中電灯】
【所持品4:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)、投げナイフ2本、ミニウージー(25/25)】
【所持品5:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】
【所持品6:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】
【状態:強い決意、肉体的疲労大、即頭部から軽い出血(悠人に投げ飛ばされた時の怪我)、脇腹打撲】
【思考・行動】
基本:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
1:ことみとアセリアを守る
2:瑛理子達にハクオロが大空寺あゆに騙されているかもしれないと伝える
3:川澄舞を警戒
【備考】
※一ノ瀬ことみに性別のことがバレました。
※他の参加者にどうするかはお任せします。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
※悠人のデイパックを回収しましたが、未だ中身は確認していません。
。
【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:Mk.22(3/8)】
【所持品:ビニール傘、クマのぬいぐるみ@CLANNAD、支給品一式×3、予備マガジン(8)x3、スーパーで入手した品(日用品、医薬品多数)、タオル、i-pod、
陽平のデイバック、分解された衛の首輪(NO.35)、情報を纏めた紙】
【所持品2:ローラースケート@Sister Princess、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数、】
【状態:決意、肉体的疲労中、精神的疲労小、後頭部に痛み、即頭部から軽い出血(瑞穂を投げつけられた時の怪我)、強い決意、全身に軽い打撲、
左肩に槍で刺された跡(処置済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。必ず仲間と共にゲームから脱出する。
1:ハクオロとあゆに強い不信感、でもまず話してみる。
2:アセリアと瑞穂に付いて行く
3:首輪、トロッコ道ついて考察する
4:工場あるいは倉庫に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない)
5:鷹野の居場所を突き止める
6:ハクオロを警戒
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。(少し揺らいでいます。)
※首輪の盗聴に気付いています。
※魔法についての分析を始めました。
※あゆは自分にとっては危険人物。良美に不信感。
※良美のNGワードが『汚い』であると推測
※原作ことみシナリオ終了時から参戦。
※瑞穂とアセリアを完全に信用しました。
※瑞穂の性別を知りました。
※この島が人工島かもしれない事を知りました。
※i-podに入っていたメッセージは『三つの神具を持って、廃坑の最果てを訪れよ。そうすれば、必ず道は開かれるだろう』というものです。
※研究棟一階に瑞穂達との筆談を記した紙が放置。
。
【H-7 左上/二日目 午前】
【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、スタングレネード×2、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
【所持品1:支給品一式x14、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×7と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、
大石のノート、情報を纏めた紙×4、ベネリM3(0/7)、12ゲージショットシェル85発、ゴルフクラブ】
【所持品3:九十七式自動砲の予備弾95発、S&W M37エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、
出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】
【所持品4:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品5:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、デザートイーグルの予備弾92発】
【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)、各種医薬品】
【所持品7:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、
顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【状態:肉体的に中度の疲労、L5緩和、頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)、脇腹と肩に銃傷、腹部に重度の打撲、女性ものの服着用】
【思考・行動】
基本方針:つぐみと合流し、ゲームを終わらせる
1:ホテルに向かい、つぐみと合流する
2:つぐみと合流後、廃坑南口に向かう
3:つぐみや美凪を心配
3:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
4:L5対策として、必要に応じて日常を演じる
5:ちゃんとした服がほしい
。
【備考】
※C120の投与とつぐみの説得により、L5は緩和されました。今はキュレイウィルスとC120で完全に押さえ込んでいる状態です。
定期的にアンプルを注射する必要があり、また強いストレスを感じると再び発祥する恐れがあります。キュレイの制限が解けるまでこの危険は付き纏います
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。
※永遠神剣第三位"時詠"は、黒く染まった『求め』の形状になっています。
※千影のデイパックを回収しましたが、未だ中身は調べていません
※海の家のトロッコについて、知りました。
※ipodに隠されたメッセージについて、知りました。
※武が瑞穂達から聞いた情報は、トロッコとipodについてのみです。
【備考】
※悟史のバット@ひぐらしのなく頃に祭は大破
※TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き)は大破
「――ッ!! また……」
鈴凛は思わず頭を抱えた。死亡者発生を報せるブザーが鳴り響く。
消えた。目の前で続けざまに二つのランプが光を失い灰色の硝子になった。
該当する番号は十四番と二十八番。
小町つぐみに二見瑛理子……よりによってこの二人が、と言わざるを得ない状況だ。
妹達は別として、親しくない他の参加者に優劣をつける事は卑しい行為だとは十分に自覚している。
だが、嘆かざるを得ない理由がある。
彼女達は二人とも長い間、それぞれ別の集団のリーダーの元で参謀役を務めていた類の人間だ。
しかも作戦の立案だけでなく、自ら首輪解除を目論んで行動していたのである。
首輪、このちっぽけな島に散らばった参加者を監視する唯一のシグナルであり檻であり剣であるもの。
島から脱出し、ディーの元に辿り着くためには必ず乗り越えなければならない、厚く高い壁だ。
「……ヤバイって……コレ」
鈴凛は頭をカリカリと掻きながら、残りの参加者の名前を眺めつつ唸った。
なにしろ、参加者の中で首輪を解除し得る能力を有している人間がついに、あと一人となってしまったのだから。
一ノ瀬ことみ――世界的に有名な科学者を両親に持ち、特に物理学に関する知識は他の追随を許さない。
おそらく何一つ制限が無ければ、彼女は簡単に首輪を解体出来る筈。
だが外殻の繋ぎ目に関する暗示、そして盗聴器に生存確認装置とソレを妨害するための機能は多々含まれている。
下手に首輪に手を出せば、鷹野の手によってすぐさま首輪が爆破される。
生きた人間の首輪を真っ向勝負で直に解除するのは、おそらく自分でも不可能――故に、支給品の中に紛れ込ませた数々の特殊機器が効果を発揮する。
ブラフも仕込んではあるが、当然本命も存在する。
それが例のゲームディスクである。
殺し合いの場とは明らかに不釣合いのアレが、連鎖式に動作する特殊プログラムの起動キーとなっている。
もちろん偽装目的で、当初から見せしめ役になる予定だった少年の名前を冠した恋愛アドベンチャーゲーム、という形を取っている。
ちなみに内容は丁度研究室にあった雑誌を参考にした。
タイトルは……何だったかな。確か少し美味しそうな名前だった気がする。
大雑把なストーリーを説明するとプレイヤーは女学生。
その学校は三つの女学園が隣接して、一つの学び舎を形成している。
そして各学校の三人の主人公のうち、一人を選択し友人や先輩、後輩と"友情"を深めていく訳だ。
当然、参考元からの多大なるインスパイアを受けて登場人物は全て女性である。
これは万が一ディスクの中身を鷹野達に検閲された時、その超設定で検査の手を緩める目的もある。
加えて、破棄される危険を最小限に少なくするため、彼の知り合いのデイパックの中にソレを忍ばせておいた。
彼の名前がついたコンドームが支給品に含まれているのも同じ理由。
関連性を強化し、ゲームディスクに何らかの力があるのでは無いかと思わせるためだ。
そして最後に、"アレ"の中に封入したディスクの効果を記した企画書。
この両者と分解のためのノウハウさえ揃えば、首輪を何とかする事は出来る筈。
だが、逆に――鷹野が仕組んだ"罠"も存在する。
例えば最たる例があのフロッピーディスクだ。
そもそも。ROMですらない辺りで怪しさ爆発ではあるのだが。
しかし、三枚セットのうち一枚だけ『パソコンだけではなくその利用者をも吹き飛ばす』効果を持ったフロッピーが含まれている。
情報自体は信憑性のあるものも多いのだが……。
「鈴凛」
「……ん、優さんか。どしたの?」
鈴凛が振り向いた先、そこに立っていたのは右腕で書類をまとめたバインダーを抱えた金髪の少女だった。
田中優美清春香菜。この科学技術班の副主任、ポスト的には右腕、という事になるのだろうか。
明らかに年上なので、さすがに"さん"を付けている。
ちなみにフルで名前を口にした記憶はさすがにない。他の人間も含めて皆、優と呼んでいる。
この第一件研究室の主任へと就任した際、鷹野が直属の部下にと付けて来た人間――つまり、監視役と言った所だろう。
「司令が呼んでる。司令室じゃなくて直接個人ラボに来るように、だって。大至急」
「……個人ラボ? あそこまで行くの? ……っとに、あの鬼婆。人使いが荒いんだよなぁ」
「ふふ、司令が聞いたら怒るよ」
「いやいや、大丈夫だって。ほら、私には"首輪"付いてないし」
そして二人で一笑。
実際に首輪を付けられている姉妹の事を考えれば、本来なら口が裂けても言えないような冗談だ。
ただ、これぐらいの腹芸が使えなければ鷹野を欺く事なんて出来ない。
心にもないブラックジョークくらい、存分に吐いても構わない。
んーでも、こうして普通に笑っている姿なんて、どう見ても普通の女の人なんだけどな。
優さんはどうして、鷹野の手先になんかなっているんだろう。
こんな綺麗な人でも腹の中では何を考えているか分からないって事なのかな。怖いね。
そう、今現在このLeMUに居る人間は大きく分けて二つに区別できる。
つまり鷹野三四が所属する秘密結社『東京』、そして直属の部隊『山狗』の人間。
そして鈴凛や優さん、ヒエンさんなどと言った外部の人間。
この外部の人間、というのが中々厄介だ。
例えば鷹野と意気投合し、殺し合いを嬉々として見物している者もいればその逆、渦巻く殺意の嵐の中で顔を顰めている者もいる。
優さんも時々、凄く悲しそうな顔をする。根っからの悪人にはとても見えない。
もしかして、自分のように誰か知り合いが参加しているのだろうか。
だとしたら……ゲームを転覆させる手伝いをして貰えるかもしれない。
たまにそんな考えが浮かぶけれど、毎回泡のようにパチンと消えてしまう。
危険、過ぎるのだ。
例えばある時急に山狗の隊長が変わっていたという事実。
軽い挨拶を交わす程度でほとんど話をした事は無いが、たまにここ第一研にやって来るあの男性――桑古木涼権と言ったか。
彼は、明らかに鷹野側の人間だ。
今も現在進行形で拷問を加えられている富竹ジロウがソレを身をもって証明してくれた。
彼と親しげに話す優さんを見れば、彼女を味方に引き入れるのは無理だと確信出来る。
「んー分かった、行って来る。あ……そうだ、優さん。ランキングの更新、頼んどいてもいいかな?」
「あの、二人?」
「そ。作った本人が言うのも何だけど、急造のプログラムだからって手動で更新しなきゃいけないなんてお笑い種だよねぇ」
「……分かったわ」
その反応に微妙な違和感を覚えた。
なんて言えば良いんだろう。優さんの表情に一瞬、影が差した……気がしたんだけど勘違い、かな?
眉間の辺りにキッて少しだけ、皺が寄ったような感じ。顔を顰めたと言えば、多分そうなんだろうけどよく分からない。
こちらの軽口にもまるで反応してくれなかったし。変なの。
「ん、うん? お願いね」
「ええ」
言葉にし難い微妙な予感を殴り捨てて、鈴凛は立ち上がる。
そして「バイバイ」と軽く胸元で優に手を振ると、第一研究室の入り口へと向かった。
優さんも手を振り返して合図をしてくれた。
だけど、私の中の神経を羽毛でくすぐっているようなソワソワする感覚はまるで消える事はなかった。
やっぱり、変だ。
■
「えーと、ここを右、か。はぁ……面倒過ぎ……」
鈴凛はPDAと睨めっこしながら、レムリア遺跡の巨大迷路を攻略していた。
ちなみに手に持っているこの携帯端末は"幹部クラス"にだけ支給されている特注品で、複雑極まりないLeMU内を移動する際には欠かせないアイテムである。
役職を持たない人間は大雑把な地図を使って頭を捻りながら行動しなければならない。
ソレぐらいこの基地の中は入り組んでいる。"迷路"などと言うアトラクションを抜きにしても、だ。
精密なマップや現在位置機能などを搭載した端末を持っている鈴凛ですらコレである。
まさに難攻不落の要塞……若干、設計者の趣味も入っているような気はするが。
海底の地下三階『ドリット・シュトック』に、司令室などの主な施設は建設されている。
悪の秘密基地的に考えれば、重要な建物ほど下の階層に在るべきなのだろう。
つまり地下二階に位置している我が第一研究室は扱いが適当である、という訳だ。
鷹野直属の第二研究室や個人ラボはこの階層にある訳で、待遇の差、露骨な差別を感じずにはいられない。
「あれ、ヒエンさんと……ッ!!」
「いやぁ、鈴凛じゃないか! こんな所で会うなんて奇遇だねぇ!」
鈴凛は奥歯をギリッと噛み締めた。
迷路の曲がり角から漏れた暖かな光。そこから見知った二人組が顔を覗かせたのだ。
そして、その剥き出しの敵意はヒエンと呼ばれた気の良さそうな青年、ではなくてもう片方の人間にだけ注がれている。
「ハウエンクア…………」
ハウエンクアは白い髪に尖った耳、明らかに人以外の何かであると即断出来る青年だ。
この殺し合いを誰よりも楽しんで観ている者の一人。鈴凛はこの男に露骨なまでに嫌悪の感情を持っていた。
「相変わらず、君は僕を見る度に凄く不快そうな眼をするねぇ。
くくく、もしも僕が客分の立場じゃなけりゃ、バラバラに切り裂いてあげたい所だよ!
ああ、もしかして、そんなに君の妹達が死んだ時に大笑いしていたのが気に障ったかい?」
「何の……事?」
「とぼけなくてもいいんだよ、鈴凛。この基地の人間は誰だって知っている話じゃないか。
君が自分の身可愛さに、身内の命を差し出したって事さ!!」
「ッッ!! あなた、そんな口から出任せ――」
思わず頭にカッと血が昇りかける。
まさに大人と子供程の体格差がある相手に向けて鈴凛は詰め寄り、キッと彼を睨みつけた。真っ直ぐに、弓で射るように。
その視線をハウエンクアは口元に残忍な笑みを浮かべながら受け止める。
20cm近い身長差がそのまま余裕の差なのだろうか。彼の微笑は消えない。
「――ハウエンクア、止めておけ。口が過ぎるぞ」
「……はぁ、ヒエン。君は本当に良い子ちゃんだねぇ。……まったく、戦場での姿とは大違いさ」
「黙れ」
ヒエンさんが一歩前に出て、ハウエンクアを眼で嗜める。
ハウエンクアはさもつまらなさそうな表情を浮かべながら、額に手を当て大げさなポーズを取った。
興を削がれたのか、フッと彼が今の今まで放っていた黒い殺意が消滅する。鈴凛も少しだけ、肩の力を抜く。
この二人、服装や身体的特徴から察するに同じ国の出身なのだろう。
そして部外者である自分の眼から見ても分かり易いくらい険呑な関係だ。
だが、契約者だ。
鷹野の目的はおそらくゲームの完遂、一方でこちらの役割は鷹野の監視。そして彼ら二人の役目は鷹野の護衛、らしい。
しかしある程度の実力者であるとは思うが、彼ら自身に高い戦闘能力があるようには思えない。
第二研によく出入りしているようだが、そこに力の秘密があるのだろうか……。
。
「鈴凛殿。その、護衛の者も付けずに一人でどちらへ?」
「…………鷹野のラボ」
「ああ、そういう事。"君も"かい」
「君、も?」
「そう、鷹野が凄く面白い話を聞かせてくれる筈さ。期待しているといいよ」
ニヤニヤしながらハウエンクアがさも楽しそうに話す。
どうやら、同じように鷹野に呼び出されていたらしい。
……それにしてもムカつく笑顔だ。コイツの顔面運動に対して『笑』というある種、良い意味を持つ文字を使う事さえ躊躇する。
第四放送の後、鷹野に"客"だと紹介されてからの短い付き合いではある。
とはいえ、他の人間がコイツに感じているのと同じかそれ以上の不快感は当然、私も覚えている。
ここまで嬉々としてゲームを肯定する人間を好きになれという方が難しい。
「……そう。じゃあ、私は急ぐから」
「そうかい? ひゃはははははっ、それじゃあね、鈴凛。君の妹の健闘を祈っているよ!」
もう一度大笑いしながらハウエンクアは鈴凛と擦れ違い通路の奥に消えた。
それに続くのがヒエンさん。
ペコリと小さく鈴凛に会釈して、彼もハウエンクアに続いた。
小さくなっていく二人の影を見送る。
あの人は、あんなに辛そうな顔をしているのに。鈴凛はぼんやりと思った。
ヒエンさんは鷹野やこのゲームに対して疑問を抱いていないのかなぁ、と。
彼は明らかにハウエンクアや鷹野とは違った種類の人間だ。
なのにやっている事は大して変わらない。鈴凛ならばおそらく何が何でも拒否するであろう、放送をさっきやった。
何故、何故、何故?
契約者だから無理なのだろうか。
。
契約者が自らの契約内容を他人にバラしたり、命に背いたりするのはご法度。
もしもそんな事をしてしまえば、瞬間本人の命が砕け散ってしまうだろう。
例えば私が参加者に対して過剰なまでの接触を試みた場合、などがソレに該当する。
本部からの強制的な首輪の解除や、塔の破壊などだろうか。
あくまで、脱出は彼ら自身の手で行われるべきであって、私はサポートに徹する事しか出来ない。
ヒエンさんは契約者。
もしやその契約内容は『鷹野に従うこと』なのかもしれない。
ソレならば、彼が彼女の命令を反故に出来ない理由も分かる。
そう言えば……何故、鷹野はこんな殺し合いを計画しようとしたのだろう。
そんな疑問がふと頭に浮かんだ。
■
カビ臭い部屋の前でふいに足が止まった。
奥には例の暗い色のツナギを来た山狗の人間が二人いる。
鉄格子と叩き付けのコンクリートに聴覚を俄かに支配する水の零れる音。
煌びやかなアトラクションの裏側に隠されたこのLeMUの暗部とも言うべき牢獄だ。
基本的にはこの空間は在るだけで、ほとんど使われる用途はなかったように思える。
なぜなら明確に反逆の意思を持つものが発見された場合、ここでは投獄ではなくて一気に"処理"されるためだ。
殺し合いはどんなに長くなっても三日目でケリが付くと当初から予定されていた。
故に、謀反者を捕らえておく必要など全くない。
時間や手間が掛けられたのは主に準備期間であり、本番が始まってしまえばそれは一瞬の閃光のようにあっという間に駆け抜けるのだから。
だから今現在この牢屋を使用している男は例外中の例外と言ってもいいだろう。
男、富竹ジロウが参加者に対して故意に情報を流したにも関わらず、死を免れているのは一概に鷹野三四の個人的な気紛れに過ぎない。
困った事になったと思う。
私の目的はあくまで『一人でも多くの参加者を脱出させる事』なのだ。
その過程で鷹野といざこざを抱えている富竹の力を借りられたのは僥倖だったが、その後の経過がマズイ。
確かに彼が捕まった結果として、桑古木涼権の危険性が浮き彫りにはなった。
最悪、彼からこちらの名前が出ないとも限らないし、基地側の人間の中に明確な反乱分子の集団が存在する事が知られてしまったのは失態だった。
「ん、珍しいな」
「……部隊長、お久しぶりです」
噂をすれば何とやら、という奴か。暗闇の更に奥の奥から一人の男が姿を現した。桑古木涼権、その人だ。
私は思わず顔面に出掛かった驚愕を表す筋肉運動を必死で塞き止める。
そう、ビクビクする必要性などこれぽっちもないのだ。
表立っての彼と私の関係は、山狗の部隊長と第一研の主任。何もやましい事はない。
「優は上手くやってるか?」
「あはは、そりゃあもう! 周りが男の人ばかりなんで、優さんがいてくれるだけで大分違います」
「そうか、それにしても……」
桑古木はグルッと辺りを見回し、少しだけ厳しい眼をして鈴凛に問い掛けた。
「何故こんな所に? 女の子が一人で出歩くような場所じゃないだろう?」
――来た。
まるで鷹のような、獲物を見定めるような厳しい視線だ。
私は心の中に出掛かった台詞、つまり「富竹ジロウの様子が少し気になったんだ」という括弧の中身を丸ごと封殺し、予め用意しておいた当たり障りのない台詞と入れ替える。
「いえ、その司令にラボに来るようにと」
「……ああ、通り道だからな」
。
鈴凛の回答を聞いて、彼は一瞬向けた疑惑の表情を弛緩させた。
それはそうだ。理由がなければこんな場所にやって来る筈がない。
「あの……奥の人は?」
「安心しろ、"死んではいない"さ。正直、君のような子に見せられるような光景じゃないんだけどな」
「そう、ですか……」
鈴凛達の視線はここからは警備の人間の爪先しか見えない闇の闇へと向けられた。
耳を澄ませば男の荒い息が聞こえてきそうな気もする。
だがどう見ても警備は厳重だ。中の反抗勢力だけでこの状況を打破するのは難しいかもしれない。
「あ、それじゃあ私はそろそろ。あんまり遅れるとまた怒られちゃうんで」
「……一人が不安なら部屋の前まで付いて行こうか?」
桑古木が懐から懐中電灯を取り出しながら尋ねる。
警戒、しているのだろうか。それとも本心なのか。正直どちらとも取れる言葉だ。故に判断が難しい。
真面目な回答はNGだろう。直感的に悟る。
「いえ、遠慮しておきます。大体、そんな事言っちゃっていいんですか?
女の子を暗がりに連れ込むなんて褒められた事じゃないです。それ、聞いたら優さん怒りますよ」
「参ったな……そんなつもりは更々無いんだが。そもそも、告げ口するのは誰になる?」
「もちろん私です」
バーンと後ろに効果音でも出ている気分で、胸を張り堂々と言ってのける。
桑近木は思ったとおりと言うか何と言うか、口元を少しだけ歪ませた。どう見ても苦笑している。
ワン、ツー、スリー。
軽く三秒数えてポーズを解除。そして小さく笑う。
「冗談です」
「……冗談じゃなかったら困る。じゃあな、気をつけろよ」
。
やれやれ、と言う感じで桑古木はぴらぴらと鈴凛に向かってぶっきら棒に手を振って去っていった。
悟られてないよね。大丈夫、だよね? そうだね、と相槌を打ってくれる人物はもういない。
暗い牢獄の方を一瞥し、今更ながらそんな事を感じた。
私は、今、孤独だ。
■
「……で、何の用。わざわざこんな薄暗い場所まで呼び寄せて」
「くすくす、ごきげんよう。やぁねぇ、そんな怖い顔しちゃ、せっかくの可愛いらしい顔が台無しよ?」
鷹野のラボに通された鈴凛は仏頂面でそう問い掛ける。
対照的に部屋の主は飄々としたもので、いつも通りの含み笑い。人を小馬鹿にしたような態度が健在だ。
正直、胸糞が悪くて仕方がない。
だがこれも仕事。我慢我慢と鈴凛は自分に言い聞かせる。
個人的な部屋、という事でいつも鷹野の周りをガードしている山狗は一人も見えない。
もしも私が銃などを持ち込んでいたらどうしたのだろう?
あの高そうな机の裏側に怪しげなボタンでもあって、押した瞬間に本棚と実験器具の隙間にある壁が回転扉として作動。
その先から警備兵が雪崩れ込んで来たりするのかなぁ。
うん、やろうと思えば簡単に出来る。そういう愉快な仕掛けなら私も喜んで作るのに。
「私、忙しいんだよね。大した用事じゃないなら帰らせて貰いたいなぁ。
"司令"が色々仕事回すから、やる事だって沢山――」
「五人目」
「え?」
「五人目が現れたの」
五人……目?
何が五人目だと言うのだろう。いや、そもそも今までは四人だったと言う事か?
基地の中にいる外部の幹部の数、違う。これは私が知る限りで既に五人。他にも居るかもしれないが、増える事はあれ、減る事はない。
いや――
「……まさかッ!!!」
「ご名答、かしら?」
「誰が……いや、誰から?」
「あら、アタリみたいねぇ。でもそりゃあ、ね。もちろん『名前を言ってはいけないあの人』に決まっているでしょう?」
名前を言ってはいけないあの人。
言葉通りの意味。業と、そして力と、契約を強いた者――ディー。
彼について詳しい情報を話す事は禁止されている。
だが、それが契約者同士の会話においても有効なのか。名前を口にした瞬間、命が弾け飛ぶのか。鈴凛は知らない。
だけど契約者の間では"彼"の名前はこうやってぼかして呼ばれるのが常だった。
契約者に対する伝言などは全て、鷹野を通して行われる。
故に鈴凛は彼とはここに召喚された時に一度だけ会ったきりである。
氷のような瞳と白い羽根。
この世の中に本当に天使が存在するのならばきっとこういう姿をしているのだろう、心の底から思った。
しかし、ソレは仮初の姿。彼はこの空間、この島に眠るあらゆる殺意や混沌の生みの親とも言える存在なのだから。
「やっぱり、驚いているようね」
「そりゃあ……で、誰なの? 部隊長? 優さん? まさか、富竹ジロウとかいうオチはないでしょうね?」
「ジロウさん? ……ふふふ、それも悪くないわねぇ。
『鷹野三四に服従する』という内容で契約させるよう、あの人に頼んでみようかしら。
でも、きっと私に協力するくらいならジロウさんは自分の喉を掻っ切って自決する事を選ぶんでしょうねぇ……」
「……?」
。
一瞬鷹野が見せた遠い視線、自らの台詞を反芻するような動作は何だったのだろう。
しかし訝しげに見つめる鈴凛に対して、鷹野はすぐさま微笑を塗りたくった憎らしい顔を取り戻す。
「ゴメンなさいね。ふふふ、少しだけぼんやりしていたみたい。で……"契約者"の事だけど」
「うん」
「――月宮あゆ」
「え?」
「だから、月宮あゆよ。ほんの一日前まではただ、うぐうぐ言って他人の足を引っ張る事しか出来なかった、あの弱虫さん」
「さ、参加者!? 嘘っ!?」
鷹野は小さく頷いた。鈴凛は言葉を失った。しかしソレは至極まともな反応である。
なぜなら、新しい契約者が誕生したと言う事はディーが接触したという事の裏付けでもあるのだから。
全く姿を見せない自分達の親玉が見知らぬ所で、事もあろうにゲームの参加者とコンタクトを取っていたと聞いて驚かずにいられるだろうか。
そして、コレで皮肉な事に全ての糸が一本に繋がるのだ。
月宮あゆの行動、そして存在自体にまで及ぶ奇怪なストーリーにようやく注釈が付く。
海の家における短距離移動による確定的な盗聴器の故障――もちろん、何故ああなってしまったのかはまるで不明なのだ。
というか故意に仕掛けるのならば、生存確認装置か信管に付けるだろう。盗聴器などと言う半端な事はしない。
そもそも、参加者側にそのルールを逆手に取られて、海の家でワープされまくる、という展開にはまずなりようがない。
そう、おかしい。
神社の境内、祭具殿の更に奥の方だろうか。そう、朝倉音夢が丁度命を落とした博物館に若干近いポイントかもしれない。
意識して足を運ばなければ確実に気付かないような場所にあの"桜"は植わっている。
初音島の枯れない桜――禁止エリアに隠されるようにひっそりと咲き誇る花。
参加者に制限を掛け、あらゆる特殊な移動や幻覚に関する制御を行っているもう一人の管理者だ。
。
そして、その桜が妙なのだ。
きっかけはおそらく芳乃さくらの死だったと思う。
彼女の命が失われた前後から、微妙なブレが散在するようになった。
小町つぐみが例の"塔"の存在に気付いたのもソレが原因かもしれないし、高嶺悠人が永遠神剣の力をコチラの予想以上に引き出している事もそうなのかもしれない。
盗聴器に関する問題もおそらくそうだろう。
そしてその故障ゆえ、大空寺あゆとの接触した以降の足取りが掴めていなかった。
衛星のトラブルで映像もなく、ようやくカメラが発見した時にはなんと国崎往人を殺害するシーンだったのだから驚きだ。
その後彼女は二見瑛理子を殺害し、現在はゲーム開始時から積極的に暴れ回っている佐藤良美と共同戦線を組んでいる。
鉄乙女の足に縋り付き、彼女が毒殺される遠因を作った時の面影は既に皆無。
「つまり……『あの人』が月宮あゆの傷を治したって事……?」
「まぁ、そうでしょうねぇ。理由も特にないそうよ、あえて言うのならば"気まぐれ"ですって」
「気まぐれ……」
人一人の命を復活させる事が心の遊びとでも言うのか。
実際、自分達の事なんて虫けら程度にしか思っていないのだろう、ディーは。
ソレが痛いほど分かっているから逆に口惜しい。
その内情に一糸の揺らぎもなく、清々しいほどの本音に違いないのだから。
「どうしたのかしら、鈴凛。もしかして、いっそ治すのならば自分の妹を――」
「違う!!」
「ふふふ、そうよねぇ。例えどの子を生き返したとしても、月宮あゆのように上手くやる事は出来なかったでしょうしねぇ。
一番上の姉はともかくとして他の二人は搾取されるだけだろうし、咲耶さんにしても、もう少しやり様はあった筈だもの」
「く……っ!!」
姉妹に対する暴言。鈴凛は鷹野の顔面に一発パンチをお見舞いしてやりたい強い衝動に駆られた。
だけど……我慢だ。耐えろ耐えろ耐えるんだ、私。
握り締めた拳をゆっくりと戻し、指の力を慎重に抜く。
何で? どうして、私こんな気持ちになっているんだろう?
ああ、そうか慣れたんだ。この訳が分からない島の空気に汚染されたんだ。
情けなくて死んでしまいたい。でも無理。だって、当たり前でしょ?
私には責任があるんだ。そう簡単に死ねる訳がない。楽に死ねる訳が……ない。
「ふふ、小町つぐみが死んだのは少し残念だったけど、まだまだ面白くなるわ。あなたの"最後"の妹もきっと綺麗に踊ってくれる。
楽しみましょう……ね? この史上最悪の"祭"を」
「まつ……り? まさか、降誕祭とか収穫祭でもやっているつもりじゃないよね」
鷹野の"祭"と言う表現に鈴凛は思わず、怒りも忘れて口を挟んだ。
なぜなら、あまりにもその言葉は不釣合いだったから。
鷹野が放送などで口にする『ゲーム』と言う単語さえ、鈴凛にとっては不愉快だった。
そして言うに事欠いて祭。正直失笑ものだ。
だが、
「――神は降りるわ」
「は?」
返って来た返答は至極真面目で、そして確信に満ちた一言だった。
鷹野は大きく息を吸い込み、滑るように絶妙なスピードで言葉を吐き出す。
「いいえ、違うわ――私が、私達がこの世界の神となるの!!
一二三お祖父ちゃんが成し遂げた成果を刻み付けるの。この国の歴史に、無能揃いの馬鹿共に思い知らせてやる!」
「ちょ……鷹野」
。
鈴凛は口をあんぐり開けて急変した鷹野を見つめる事しか出来なかった。
その様子はまるで自らの言葉に陶酔している狂信者にしか見えない。
鷹野の言葉は終わらない。
まるで全てを終焉に向かわせるための聖書が頭の中に組み込まれているかのように、空で言葉を紡ぐ。
「そして私達は生き続ける――
歴史の歯車の中において、雛見沢症候群の真実は世界を揺るがすわ……。
そしてお祖父ちゃんの論文を食い入るように見つめるの。
誰もが感じるはずよ。『確かに神はこの中にいる』ってね! あははははははははっ!!」
え、て言うか……ど、どういう事? 何? 壊れた? 過労で鷹野がついにどこかオカシクなった……?
確かにずっと司令室にいたもんね。まだ一日とちょっと、とはいえ疲れが溜まっていたんだろうし。
だって、私の中の鷹野はこんな意味分からない事言わないもの。もっと……うん、薄気味悪い感じだ。
イメージが崩壊したって言うか……その、何だろう。気味は悪い、凄く……怖い。
「その瞬間、人は神をイメージする。そして絶対的な存在として確固たる具象となるの。
鷹野一二三と、そして私鷹野三四の名前が永世永劫この世で命を持ち続ける時は、もうすぐそこまで来ている!!」
あ……れ。
何だろう、この違和感。
まるで鷹野の言葉が身体をスーッと通り抜けて、他の誰かに向けられているような不思議な感覚だ。
困惑した鈴凛はサッと後ろを振り返るが、そこにあるのは重厚なドアのみ。
この部屋の中に存在する"人間"が自分と鷹野だけであるという事実は疑いようがない。
では、何故?
。
「この世界には、自分の命より大事にしなきゃいけないものだってあるわ。
馬鹿には分からない崇高な理念よ……自分を壊しても信じていた人間に裏切られても、貫き通さなければならない意地。心の強さ。
私はソレを持っている!!
どんな運命にだって打ち勝って見せる!!」
そうだ。分かった。
この違和感の原因がようやくおぼろげながら理解出来た気がする。
つまり、そう……簡単な事だ。
――鷹野の言葉は私じゃなくて、まるで別の誰かに向けられているみたいだったんだ。
「…………あら、あなたまだいたの?」
「"まだ"って言うか……」
大演説大会を開催していた彼女を、しっかりと見守っていた鈴凛に対して鷹野がぶつけた言葉はあまりにも適当なものだった。
いきなり陶酔モードに入って喋りだしちゃったのは一体誰なのさ、と心の中で突っ込みを入れる。
「もう用事は済んだから帰っていいわよ……くすくす」
「ったく、分かったよ……あ、そうだ。ねぇ、鷹野」
「何、かしら」
ふと鈴凛は思い出した。
自分が何故、鷹野がこんな殺し合いを開催しようと思ったのかについて、疑問に感じていた事を。
そもそもこのゲームの発端は鷹野がディーに参加者を集めるように頼んだ、と聞いている。
その大半が自分とは全く関係のない人間だ。つまり、彼女には何か他に目的がある、という事になる。
「まさかとは思うけど。今のって……マジ?
ほら、参加者を集めた理由がさ……その、神とか……冗談、だよね?」
。
鈴凛は半分冗談混じりに尋ねた。
鷹野の反応は明らかに妙だ。ゾクッとするような不気味な表情のまま「うふふふふ」と笑うばかり。
楽しいから笑うのか、こちらをからかっているのか。それさえも分からない。
数秒間、彼女の笑い声が窮屈な部屋を支配した。
そして――
「マ・ジ」
私の言葉をなぞるように放たれたその単語。鷹野の流れるような金髪がサラサラと揺れた。
言葉とは真逆だった。鷹野はその時――全く笑っていなかった。
■
「もう……勘弁してよ」
鈴凛はようやく研究室の自分専用の個室に帰り着き、デスクに突っ伏してグッタリしながらブー垂れていた。
もちろん台詞を口に出したりはしない。
心の中でブツブツと文句だけを重ねる。
は? マジで? この馬鹿げたゲーム……鷹野の言葉を借りるなら"祭"の目的が、自らを神にする事だって言う訳?
ねーよwwwwって心の底から叫びたいけど、あの眼を見てしまったら一笑に切って捨てる事も不可能だ。
いやいや、でもなぁ。確かに似たような事、前にも言ってたんだよね。
えーと、二回目の放送だったかな。大神だとか、神の眷属とか……。もう、意味が分からない。
。
「鷹野は……嘘を言ってはいないのです」
「やっぱり? だよねぇ」
「彼女の意志は強い。強い意志は運命を強固にするのです」
「運命……か。自信満々に自画自賛するくらいだし――」
――へ?
鈴凛は普段の自分からは考えれられない程のスピードで辺りを見回した。
漫画的な効果音を足すならばバッ、バッ、バッ、であろうか。だが、収穫は何もない。
眼に入って来るのはさすがに見慣れてしまった白い壁と数々の設備と書類の山ぐらいのものだ。
そう、誰もいない。
では『今、私と会話していたのは一体誰』なのだろう。
気のせい? 幻聴? はっ!! もしかして……死者の声――ッ!?
確かに私が死んでいった人間の対象となっている事は揺らぎようのない事実だ。
彼らを拘束している首輪の製作者は何を隠そうこの私、鈴凛なのだから。
ディーや桜と言った超常現象の塊のような連中がこの事件の黒幕である。
つまり、ゴーストやスピリット(もちろん赤とか緑色の人達の事ではない)のような具象が現れてもおかしくないのではないか。
「ボクは……お化けではないのですよ」
「――!? あ、あ、あ……」
鈴凛は椅子から滑り落ち、床に尻餅を付いたまま、突然目の前に現れた"何か"を指差しながらカタカタと震えた。
やっぱり、いたんだ。
。
現れたのは――見たこともない少女の霊だった。
薄紫色のゆったりとした髪から動物の山羊のような可愛らしい角が顔を覗かせている。
そして非常に可愛らしい。おそらく十歳くらいの年頃で亡くなったのだろう。
第二次性徴を迎える寸前の少女、ソレ特有の一種のフェチズムに満ち溢れている。
服装は多分、巫女装束という奴である。
そしておそらく今、島で佐藤良美が来ているような緋袴には間違いない。
しかし何故か肩の部分が大胆にカットされ、ノースリーブ状態となっている。つまり腋が丸見えなのだ。腋巫女、とでも呼べばいいのか。
これが最近のトレンドなのだろうか。いや、既に死んでいるんだから一昔前の流行なのか?
……ダメだ、頭がこんがらがって来た。
「あの……その……あぅあぅ」
しかし――若干、冷静になってみると、彼女は本当に幽霊なのだろうか。
確かに透明だ。だが足はある。
そもそも彼女は参加者ではない。という事は、鈴凛に対して恨みを持っている人間ではない筈だ。
それに、この「あぅあぅ」という声が例の五人目の契約者『月宮あゆ』っぽい気もするが、多分気のせいだ。まさか生霊でもないだろう。あと……少し、咲耶ちゃんとも似ている気がする。
「力を……ボクに力を貸して欲しいのですよ!」
「ち……から?」
鈴凛は本日何回目になるか分からない、驚きの表情を浮かべた。
■
。
「『大神への道』……? ああ、プールのパソコンに入っていたらしい変なデータの事?」
「そうなのです。オオアリクイのヌイグルミ、天使の人形、国崎最高ボタンという至宝を集める事でこのLeMUへの道が開かれるのです!」
「何でそんな変なものばかり……」
「可愛いか――気まぐれ、なのです!」
「……ホント気分屋が多いね、この基地には」
『いきなり妙な巫女の姿をした幽霊が現れたと思ったら、実はソイツは神様だった』
催眠術や超スピードは置いておくとして、もう意味が分からない。
でもその口から"ディー"という単語を出されては信用するしかないだろう。
んで、その妙に可愛らしい萌系神様は今、優さんがこの前差し入れてくれたシュークリームをがっついている。
ずっと透明な訳ではなく、部分的に実体化は可能らしい。器用な奴だ。
「んで、羽入。私にどうしろと? パソコン弄って参加者の簡単なサポートするぐらいの力しかないんだよ?」
「それは大丈夫なのです。私の力があれば鷹野の監視の眼を誤魔化すのは何とかなるのです」
「へぇ……」
「だけど……今、ディーさんの監視下にある私の力はこの基地内、そして姿や言葉は似た波長を持つ契約者の方にしか伝わりません。
鈴凛さんに頼みたい事はただ一つ。梨花達がこの暗号文に近づけるよう手助けをして欲しいのです」
口の周りをクリームだらけにしながら言われても説得力ないんだけど、と鈴凛は突っ込みたいのを必死で我慢する。
しかし、彼女の提案は中々魅力的だ。
首輪の制限を解除するまでは、自分の用意した道具が最大限使用されれば何とかなる。
だが、その後このLeMUへと乗り込み、鷹野を倒し、あまつさえディーと接触する手段にはアテがなかった。
弱体化し、ほとんどの時間をディーが休息に当てている今だからこそ、彼女が姿を現す事が出来た訳だ。
「そうだね。私としても――ッ!!!! あ…………」
「……どうしたのです、鈴凛? どこを見て……」
突如、けたたましい音が突然、鈴凛のパソコンの横に置いてあった機械から響いた。
二人の瞳はポツポツと点灯を繰り返し、そして消えたランプに注がれる。
「ち……かげ」
彼女の呟きはゆっくりと沈み、地面に吸い込まれていった。
消えた光は十番――高嶺悠人と、そして三十七番――千影。
それは非情な報せだった。
そう、全滅したのだ。
最後の姉妹は今、この瞬間に、命を落としたのだから。
鈴凛の頬から一筋、涙が零れた。
【LeMU 地下二階『ツヴァイト・シュトック』第一研究室/二日目 午前】
【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:なし】
【状態:健康、深い悲しみ、契約中】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※鈴凛の契約内容は"参加者が脱出できる最低限の可能性を残す"こと。
ただノートパソコンの機能拡張以外の接触は原則的には禁止されています。
※参加者の能力はD-4 神社の奥に植えられている枯れない桜の力によって制限されています。
【羽入@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、困惑】
【思考・行動】
1:???
【備考】
※『大神への道』の3つの道具を集めて、廃鉱の最果てに持っていく事で羽入がLeMUへの道を開きます。
※ディーの力の影響を受けているため、雛見沢症候群の感染者ではなくても契約者ならば姿を見る事が出来ます。
。
。
。
。
。
。
。
。
―――三分間。
秒にして180秒。
カップラーメンが出来る時間と同じ。
これはその長いとも短い時間の中で、苦しみもがいて、それでも思いを貫いた少年と悲しみ絶望して、それでも勇気を持った少女の物語。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「参ったわね……」
「ああ……まさか使えなくなるとは」
潤達が純一達の元へいく為出発の準備をし、道具の確認をして時に気付いた事。
首輪探知レーダーが使えなくなったのだ。電池切れなのは確かなのだが、肝心の電池を2人とも持っていなかったのだ。
それは二人にとって大きな不安だった。
今までこのレーダーがあったお陰で、なんども危険からの予防や対処する事ができた。
それが無くなったのだ。即ちそれは自らで常に周りに警戒しなければならない事。
とはいえ潤達はレーダーに頼りすぎてしまっていた。
故に自分自身で出来るかが不安だった。
しかしそんな事ばかり考えてれられない。
「行こう。ぐずぐずしてなんかいられない。梨花ちゃん、地図お願いできるか?」
「ええ、わかったわ」
今は自分たちがすべきことしよう、そう考えて2人を行動を始めた。
とりあえず廃坑の別入り口が見つからなかったので病院に向かう事にした。
そのためにもう一度地図を確認して場所を確かめようとしてのだが
「あ、あれ? これは?」
「これ、風子がラクガキしたやつじゃないか」
梨花が取り出したのは風子が作った人生ゲームだった。
梨花が焦って間違えて取り出してしまったようだ。
「懐かしいな、これ」
「ええ、ほら見て潤。このマス、『貴方はヒトデに埋め尽くされました。幸せなので一回休み』ですって。風子らしいわね……」
潤と梨花は楽しそうにそれを見ていた。
思い浮かぶのはあの楽しい時。
まるで自分達が殺し合いの場所に居ないような錯覚がして。
そんな事を思い懐かしんでいた。
だが
「え……?」
突然梨花の顔が驚きに変わった。
信じられないという様な感じをしながらあるマスを示して。
そこは地図で言うとC−5。
書かれていたのは
『ここにはなんと廃坑の別入り口がありました。三マス進む』
廃坑の別入り口を示すものだった。
潤も気付き
「お、おいこれってどういうことだ? どうして風子が?」
「私だってわかんないわよ! 何故なの」
珍しく梨花が戸惑っていた。
それも当然だった。何故風子が解っているのだろうと。
混乱の極み達しようとしてた時梨花は、その裏になにやら文章が書かれたことにきづいた
「潤! これって!」
「風子が? どうして」
それは風子が書いた文章だった。
その中身は
『どうも風子です。北川さん、梨花ちゃん、元気ですか? これを見てるということは私はしんでいるのですね。残念です。
これは第4回放送後に書いたものです。これは脱出をする為にはとても重要な事だと思います。本当は直接言いたかったのですが。地図のマスにも書いておきました。
私が伝えれなければいけないのは廃坑の別入り口の事です。北口だけですがわかりました。これは死んでも伝えなければならないことです。
心してきいてください。おそらくC−5、もしくは付近にあります。確証はありませんがおそらくそうだと思います。
何故私がそう思ったかと言うとですね、私は思ったんです。何で最初に山頂に向かわなかったんだろう、と。
これは伝えたくなんかありませんが私は前に似たようなものに参加せられたんです。この島とは別ですが、その時山頂へ皆向かったんです。そこでは惨劇が多く沢山の命がなくなりました
なのに今回は向かおうとしなかった。私だけではありません。北川さんも、梨花ちゃんも、朝倉さん、小町さんまで。何故でしょう。全部を把握するには山頂向かったほうが早いのに。
その時思ったんです。暗示とかで山頂に行かせない様にする事をして、何かを隠しておきたいのではないかと。即ち別入り口。
C−5と思ったもう一つの理由は、少しずつですが、回りのエリアが禁止エリアになってるんです。最初は気にも留めませんでした。
しかしここに別入り口があるとすると、話は別です。私が前に参加してる時同じような事がありました。脱出の糸口を掴んだのに周りが禁止エリアに囲まれいけなくったのです。そう自然に指定されて気付かなかったんです
そう前と同じような事が起きてるんです。C−5も少しずつですが確実に囲まれて来てます。ここを禁止エリアにすれば早いんですが、ここを封じると移動に困るので多分しばらくはしないです。
そして確信しました。ここにあるんじゃないかと。南口からの方向もあってますし。
間違いかもしれません。でもここに確かに何かがあるんです。
お願いです。手遅れになる前に。調べてください。
北川さんたちが無事に脱出してくれる事を祈ってます。
風子より』
そう締めくくられ終わっていた。
「……風子、俺達なんかよりも調べていたんだな」
「ええ、まったくだわ」
風子はきっと誰よりも先に脱出の手がかりを探していたのだろう。手遅れになる前に。
そしてやっと見つけたのだ。いくつかのヒントで。
でもいつ自分が死ぬか分からない。
そう思いこれに残したのだろう。
そして風子が託した遺産は確かに潤達に伝わった。
「でもこれって純一達が言ったのと一緒じゃ……」
梨花が思ったのは純一が言った「塔」の事だった。
それは位置、状況、共に純一達が見つけた事と似ていた。
だが潤は
「違うさ。風子が頑張って見つけたんだ。きっとそこにある。たまたま一緒になっただけさ」
それを否定した。
潤には確信があった。
そこに別入り口があるということを。
風子がどうしてもこれを伝えたくて死ぬことを予期してまで書いた。
そんな風子の頑張りを否定したくなかった。
だから潤はここにあると半ば本能的に感じていた。
「……そうね、風子頑張ったわね。それを信じましょう」
梨花はそんな潤の気持ちを察しそう言った。
2人の間に笑顔が溢れた。
探していたものを見つけたのだ。
自然と笑顔になった。
だが、それで油断したのが悪かった。
もしくはレーダーが動いてたらこんな事にならなかったかもしれない。
そして突如潤たちの背後から爆音が聞こえてきた。
その音を出したのはこの島に存在する最悪の凶剣―ブラウニング M2 “キャリバー.50ー。
そう川澄舞の襲撃だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(……この剣、凄い……不思議な力)
つり橋を渡り病院目指していた舞はその道中のなか、自らが持つ剣に驚いていた。
この剣『存在』が見せた強力な力。
この剣がなければ自分はあの瓦礫を退ける事が出来ず大怪我を覆っていただろう。
だがこの剣を使った時に何かを失ったような喪失感。
沢山使えば自分も平気ではないだろう。
重要な場面で使おうと考えた時、舞はある発見した。
それは少しはなれた先に2人いたのだ。
見る限り少年と幼女。
二人は何か夢中で周囲の警戒を怠っていた。
舞が思い浮かぶのは唯一つ。
殺すという事。
やっと獲物を見つけたという事、ただそれだけだった。
(……どうしよう? 接近する? いや気付かれる……なら)
出来る限り2人まとめて殺したい。
そう考え舞はある武器を取り出した。
それは凶剣―ブラウニング M2 “キャリバー.50ー。
これならまとめて殺せるはず。
そう思い2人組みに狙いをつけ
(……さよなら……佐佑理の為に死んでっ!)
最悪の凶剣が咆哮した。
潤がそれに気付いたのは発射される寸前だった。
「梨花ちゃん! ごめん!」
「えっ!? きゃ!?」
潤は一旦梨花を突き飛ばし飛び退いた。
瞬間、潤たちがいた所に銃弾が走った。
間一髪だった。
だがこれで終わるわけが無い。
直ぐに第二射が始まった。
潤は直ぐに
「梨花ちゃん! 逃げるぞ!」
「ええ! って、潤何するの!?」
潤は梨花を抱きかかえ、梨花が銃弾にあたらない様にし、駆け出した。
梨花は守りたい、その一心だった。
「なるべく遠く、隠れられる場所に!」
そして目指したのは少し遠くにある樹が覆う繁み。
樹や草がもっと沢山有る所なら狙い撃ちはされないだろうと考えたからだ。
銃弾を迫り来る中、潤は必死に繁みに向かった。
「何であんなもん支給されてんだよ!」
潤はただ驚いていた。
まさかあんなものまで支給されているとは思わなかった。
しかもそれが殺し合いに乗った人間に渡っているとは最悪だった。
とはいえ潤もここでくたばるわけには行かなかった。
梨花を守る。
そのために必死に銃弾から逃げていた。
「……この! ちょこまかと!」
舞は少し焦っていた。
一発で終わると思っていたのに終わらなかった。
無駄に弾を使いたくなかったが逃がすわけにはいかなかった。
せめて1発でも当たればいい。
普通の銃と違いこの一発は致命的だ。
「そう、簡単に当たってたまるか!」
だが当たらない。
潤は細かく動き射程から外れていた。
繁みまで距離が無い。
潤が逃げられるのも目前だった。
(……逃すものか……佐佑理……お願い、力を貸して!)
舞を動かすのは佐佑理のため。
ただそれだけ。
「……絶対殺さなきゃ……佐佑理が……佐佑理が! 佐佑理が! 佐佑理が! 佐佑理がああああ!!」
その必死の願いは
「があぁぁ!!」
「潤!?」
「……大丈夫……掠っただけだ」
遂に届いた。
舞が放った弾は潤を掠ったらしい。
だがそれでいい。
掠っただけでも高威力なのはとっくに舞は知っていた。
それでも潤は足を引きずり繁みに辿り着きを身を隠した。
だが舞は焦らなかった。
後はあの男が流した血の跡をたどれば追いつけるはず。
そう思いキャリバーをバックに仕舞いニューナンブを取り出した。
そして辿ろうとした時繁みの中から
「佐佑理?……あんた、川澄舞か?」
「……そうだけど……それが?」
「いや……別に何でもない」
舞が疑問に思った瞬間、
「!?」
突然息が出来なくなるような感覚が体を襲い地に伏せた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
繁みに隠れた潤はすぐさまパソコンを取り出し準備を始めた。
「微粒電磁波」を使う為に。
そして名前の目星はついていた。
彼女は着ていた制服は自分と同じ所のものだ。あんなに短くはなかったが。
そして叫んだ佐佑理と言う名前。
だが確認の為、潤は尋ねて見た。
「佐佑理?……あんた、川澄舞か?」
「……そうだけど……それが?」
「いや……別に何でもない」
そう舞が肯定した瞬間迷い無くボタンを押した。
そして聞こえる人が倒れるような音。
彼女はおそらく3分間は動けないだろう。
だが3分間したら動き出すだろう。
そう、3分間。
「さあ、逃げましょう。潤」
梨花はそう言い駆け出そうとした。
しかし潤は動かなかった。
いや動けなかったのだ。
舞が放った銃弾は掠ったのではなく潤の右足と脇腹を貫いていた。
足はもう走るのことはおろか歩く事すら困難なほどに。
ここまでたどり着いたのが奇跡とまで言えるほどだった。
脇腹も致命傷といっていいほどだった。
普通の銃だったらここまでにはならなかっただろう。
「……悪い、梨花ちゃん……俺は付いていけない……こんな怪我じゃ無理だ……梨花ちゃんだけでも逃げてくれ……俺はここまでみたいだ」
「そんな!? 掠っただけって言ったじゃない!? 嫌よ! 潤をおいていけない!」
――残り2分50秒。
潤は諦めた様に笑みを浮かべ
「いや駄目だ……梨花ちゃん……後3分間もある……十分だ……その間に伝える事、伝えるから」
「嫌よ!……たった3分しかないなんて……そんな……やっと手がかりを見つけたというのに……なんで」
3分間、それは潤にとって十分な時間で梨花には短すぎた。
梨花は怖かった。圭一を失ったばかりだというのに、潤まで失いたくなった。
生きる勇気がなくなりそうで。
それほどまで潤の存在は梨花の中で大きくなっていた。
潤は自分の荷物から二つの道具を取り出し、残りを梨花の前に突き出し
「これ……俺の荷物……銃もパソコンもある……本当は……梨花ちゃんに銃なんか……使わせたくなかったんけどな」
「嫌……潤……お願いだがら……一緒に来てよぉ……失いたくない……」
梨花は潤の言葉を聞かずただ震えていた。
ただ恐怖が心をしめた。
――残り2分20秒。
潤はそんな梨花の手を握り締め梨花の顔を見つめ
「梨花ちゃん……ごめん……でも俺は梨花ちゃんに生きて欲しい……どんな辛い事があったとしても……生き延びて欲しい」
「でも! 私は潤をおいて逃げられない!」
「梨花ちゃん! ここで留まったりしたら……風子の願いはどうなる……あいつ、最後まで生きてほしいといっていた……そんな俺と風子の思いを無駄にするのか」
潤は強くそう言った。
たとえそれが梨花を突き放す言葉と解っていても。意地悪の返答だとわかっていても。
ただ梨花を勇気付けたいと思って。独りで生きていける勇気を。
――残り2分。
梨花は震えるのをやめ潤の方を向いた。
梨花の顔には涙がいっぱいだった。
「潤の馬鹿……馬鹿……馬鹿ぁ! そんな事言われちゃ反論できないじゃない! ずるい、ずるい、ずるいわ!」
そう言い潤の体をぽかぽかと叩いた。
そして梨花は解ってしまった。
潤ともう一緒に行けないという事。
でも悔しくて、悔しくて仕方なかった。潤と一緒にいきたかったのに何も自分は潤にはできなくて
そんな梨花に潤は
「ごめん……ごめんな……本当にごめん」
そっと抱きしめた。
できる事ならずっとこうして居たかった。
でも時は流れていく。それは変わり様もなかった。
――残り1分30秒。
そして潤は改めて梨花の方を向き
「聞いて欲しいんだ、梨花ちゃん。風子の残した情報はきっと役に立つ。だから他の仲間に伝えて欲しい。朝倉達がいいけど無理なら、そうだな独りも殺してない奴がいい」
「一人も?」
「そうだ、もうこんな時間に経ってるのにまだ誰も殺してないってことは殺し合いに乗ってない可能性のほうが高いから」
「……解ったわ」
「なら……行って……梨花ちゃん……もう全部伝えたから……手遅れになる前に」
そういく様に諭した。
――残り1分。
だが梨花は留まっていて
「潤は怖くないの……もうすぐ死んじゃうのよ」
「怖いさ……怖い……」
「なら……なんでそう言えるのよ! 私は潤が死ぬが怖い! 潤をおいていく勇気なんか私は無い!」
梨花はそれでも怖かった。
どんなに潤が生きろといっても、潤が死ぬほうが怖かった。
――残り40秒。
――残り40秒。
そんな梨花に潤は笑顔を浮かべ
「しょうがないな……なら……勇気……あげるよ」
「え?」
潤は顔を真っ赤にしながら
「いいか俺は、ロリでも、ぺドでもないからな! 絶対に……たぶん……きっと……そうだと願いたい」
そういいきって梨花を潤の方によせ
「!?」
キスをした。
それはとてもしょっぱくて温かいものだった。
――残り30秒。
「勇気でただろ?」
梨花も顔を真っ赤にしこう言った
「……変態」
「あーそんな事言うなよ! やらなければよかった」
「嘘よ……ありがとう」
梨花は笑いながら言った。
潤のその行動が梨花に勇気を与えてくれたのは確かだった。
潤はそんな梨花に
「……俺も死ぬは怖い……でも梨花ちゃんを守れた……生きてくれる……そう思ったら勇気がでるんだ……だから……梨花ちゃん……生きろよ……俺と風子の分まで」
「ええ……ええ、解ったわ……解ったわ」
梨花は自分に言い聞かせるように言った。
――残り十秒。
潤は梨花に
「行って! もう時間がない! 出来るだけ遠くに!」
そう言った。
別れの時は来た。
梨花は少し戸惑うもやがて
「潤! ボク、頑張るのですよー!」
そういい涙たっぷりの笑顔を向け駆け出した。
最後の最後で自分を偽った。
今に悲しみや絶望で溢れそうな心を抑える為に。
伝えたかった事が沢山有ったのに。
もう潤に会えないという悔しさ
でも潤のキスが勇気をくれた。
だからどんなに辛くても駆け出せた。
潤の思いを無駄にしない為に。
そして3分が過ぎた。いろいろなものを残して。
(梨花ちゃん……頑張れよ……応援してるからな)
潤はそう去っていった梨花を前に思った。
(俺も簡単にくたばる訳には行かない! せめて一泡吹かせてやる!)
潤もこのまま簡単に死ぬわけにはいかない。
せめて舞に一泡吹かせたかった。
そのために二つの道具を用意した。
でも少し不安になり
(俺に……出来るのか? こんな満身創痍で?)
そう思った瞬間
どこからか懐かしい声が聞こえた。
(諦めるのか! 北川? お前はそんな男だったのか! 違うだろ!)
(北川さん、頑張ってください。最後まで諦めないでいください!)
そうなき親友と風子の声が。
幻聴かもしれない。
でもそれは北川に勇気をくれた。
(そうだよな2人とも。頑張ってやるさ!)
そして足跡が聞こえてくる。
舞の足音だろう。
そして潤は準備を始めた。
文字通り最後の足掻きの為に。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(……何? あれ? 動けなくなった)
舞は3分経ってやっと動けるようになった。
未だに少し苦しい。
逃げられたかとも思ったが攻撃は当たったのだ。
取り敢えずは動けなくなっているだろう。
そう判断し男が流した血の跡を辿っていった。
そして辿りたついた先には
(もう……死んでる)
樹にもたれ全く動かなかった男がいた。
そこには血溜まりが出来ていた。
(女……何処行ったんだろう?)
そう思い一旦視線を逸らした。
だがそれがいけなかった。
「うおおおおおおお!!!」
そう死体がいきなり動き出し何かを投げた。
途端舞の視界を黒くてもじゃもじゃしたのが覆った。
そう潤は死んではなくフリをしただけ。
そして投げたのはあのチンゲラーメン。
「……うっとうしい!」
舞がすぐにチンゲを振り落とすと目の前には、かまを持って襲い掛かろうとする潤がいた。
潤の攻撃が首に当たる刹那
「……まだ……死ねない」
舞は手に持った銃を撃った。
「ぐっ!?」
弾は潤の右胸に当たり、潤はそのまま崩れ落ちそうになった。
(俺は何も出来ないも死ぬのか? 違うだろ!)
そして潤の頭に浮かぶのは
@ハンサムで幼女にモテモテなクールガイ、北川は諦めないで最後の一発を食らわす。
A仲間が助けに来てくれる
B殺される。現実は非情である
あの三択だった。
当然、潤の答えは
「@に決まってるだろうおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
決まっていた。
そして持ち直し
「食らえええええええええ!!」
鎌を舞の右目に突き刺した。
「……痛!」
舞に強烈な痛みが襲った。
右目が熱い。
だが目よりも先にやる事がった。
「……いい加減しんでっ!」
そう言い放って潤に向かってもう一度銃を撃った。
今度は左胸に当たり遂に
「り……か……ちゃ……ん。が……ん……ば…………れ」
潤は倒れ今度こそ二度と動かなくなった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
私はただ走っていた。ただ今は遠くに。
潤が私に思いを託したんだ。
ここでへこたれてたら潤の思いを無駄にする事になる。
だから一生懸命走っていた。
でもそんな私の耳に聞こえた二つの音。
それは銃声。
それを聞いた瞬間足に力が入らなくなってしまった。
「嘘……ああ……潤……潤!」
彼が持っていた銃は私に託された。
つまりあの銃声は私達を襲った人間――舞だったか――が出した音だろう。
そう潤は死んだのだ。
「あ、あああああああぁぁぁぁ!!!」
堪らなくなり涙が出てきた。
悔しかった。
やっと一緒に肩を並べて行けると思ったのに。
これからだったのに。
たった3分しかなかった。
まだ伝えたい事沢山有ったのに。
全然伝えられなかった。
挫けそうになる。
もうここで諦めようか?
そう思った矢先
こんな声が聞こえてきた。
――梨花ちゃん! 頑張れよ! 応援してるからな!――
ただの思い違いかもしれない。
潤の声がきこえるなんて。
でも元気が出た。
彼の声はいつでも私を元気付ける。
だから
「行きましょう。まだはしれるわ。潤から勇気も元気ももらった。まだ辛いけど大丈夫。うん、大丈夫」
私はまた走り出した。
今度は止まらない。
絶対、風子が残し潤が託したこの希望を届ける、諦めない。
潤ありがとう。
貴方からキスしてもらった勇気、絶対なくさない。
孤独と絶望に胸を締め付けられ心が壊れそうになるけれど
思い出に残るあなたの笑顔が私を励ましてくれる。
だから私は生きていきます。
ね? 潤。
【C-6 マップ左下/2日目 午前】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭 暗号文が書いてあるメモの写し
ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】
【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】
【所持品2:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、
食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの 、コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー(現在使用不能)、車の鍵
【状態:頭にこぶ二つ 軽い疲労、精神的疲労大 深い悲しみ】
【思考・行動】
基本:潤と風子の願いを継ぐ。
1:別入り口の場所を伝える
2:他の参加者から首輪を手に入れる
3:とりあえず朝倉純一の元へ行く
4:仲間を集めたい
5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を探す)
【備考】
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2
>>609参照)
※純一、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです
※ヒムカミの指輪について
ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
※梨花の服は風子の血で染まっています
※チンゲラーメンを2個消費しました。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが首輪を探知する。と言う事実には気付いておらず、未だ人間なのか首輪なのかで悩んでいます。
※「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※支給品リストは支給品の名前と組み合わせが記されています。
※留守番メッセージを聞く事ができます。
たまに鷹野のメッセージが増える事もあります。
風子に関しての情報はどこまで本当かは次の書き手様しだいです。
※「現在地検索機能」は検索した時点での対象の現在地が交点で表示されます。
放送ごとに参加者と支給品を一度ずつ検索出来ます。
次の放送まで参加者の検索は不可になりました。
なお、参加者の検索は首輪を対象にするため、音夢は検索不可、エスペリアと貴子は持ち主が表示されます。
※「殺害者ランキング」基本的にまとめwikiに収録されている死亡者リストを想像してくれればいいです
さすがに各キャラのスタンス(ステルスマーダーなど)は書いてないと思いますが。
※レーダーには単二電池が使用されており現在使ってる電池はもう使えません
※電線が張られていない事に気付きました。
※『廃坑』の別入り口はc−5にあると認識してます。
※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。
※盗聴されている事に気付きました
※雛見沢症候群、鷹野と東京についての知識を得ました。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※塔の存在を知りました
※月宮あゆ、佐藤良美をマーダーと断定、警戒
※高嶺悠人、千影、倉成武をマーダーとして警戒(断定はしていない)
※当面は病院を目的地にしていますが変えてもいいです。
レーダーが使えなくなったので現在地検索機能を使って探す方法も考えています
電池が何本必要かなどは後続の書き手に任せます
【補足】
※北川たちの通ったルートでは通行が困難だったため、車はB−5の真ん中のあたりに放置しています。
戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついており、
さらに林間の無茶な運転で一見動くようには見えませんが、走行には影響ありません。
ガソリンは残り半分ほどで、車の鍵は梨花が持ってます。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(……くっ……右目が無くなった)
潤を殺し終わった後舞は直ぐに鎌を引き抜いた。
だが鎌には右目が突き刺さっておりそして舞は右の方がよく見えなかった。
当然だ。右目がなくなったのだから。
(……関係無い。私は佐佑理が無事ならそれでいい)
だが舞はそれすらも関係なかった。
全ては佐佑理の為。
当然来る右目を失った痛みをすら無視して。
舞は殺した男を見た。
どこかで見たことあると思った人間だと思った。祐一の友達だったか。
でもそんなの舞には関係なく
(……行こう)
そこから立ち去ろうとした。
だが
「……っ!?」
何も無い所でこけてしまった。
どうやら右目を失った事で距離感覚や平衡感覚がおかしくなってしまったらしい。
(……治療した方がいいか……病院に行こう)
そう舞は思い今度足元を気をつけて改めて出発した。
(……佐佑理……待ってて)
全ては佐佑理の為。
だがその佐佑理はいないことに未だに気付いてはいない悲しき隻眼の剣士の行く末はどうなるのだろう?
【C-6 左下/二日目 午前】
【川澄舞@Kanon】
【装備:草刈り鎌、学校指定制服(かなり短くなっています) ニューナンブM60(.38スペシャル弾3/5)】
【所持品:支給品一式 永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア−この大地の果てで−、ニューナンブM60の予備弾15、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾80)、ハンドアックス(長さは40cmほど) 】
【状態:右目喪失、肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、魔力残量70%、深い喪失感】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
0:病院を目指し治療。
1:優勝を目指すため、積極的に参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:全ての参加者を殺す。千影であろうと誰であろうと関係ない。
4:多人数も相手にしても勝ち残れる、という自信。
【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
結局童貞のまましんじまったよ……俺。
俺は風子を殺した罪を償えたのかな?
そんな俺の耳に懐かしい声が聞こえた。
「まったく、北川さんを向かいにいく役目なんてぷち最悪です」
「風子!」
風子の声だった。
俺は風子に気になったことを聞いた。
「俺は罪を償えたのかな? 風子?」
「解りません。でも北川さんは頑張りました、十分に。それでいいんじゃないですか?」
風子は笑顔でいった。
「そうか、ならいいや、うん、いいんだ」
「なら行きましょう。相沢さんって人も待ってますよ」
最後に俺は振り返り生きてる梨花ちゃんにエールを送った。
伝わるといいけど。
「梨花ちゃん! 頑張れよ! 応援してるからな!」
【北川潤@Kanon 死亡】
「む……?」
赤い、色?
今しがた視界に入った色に、僅かに意識を向けた。
現在地は良くはわからないが、この辺りに赤い色が見えるようなものは、
……否、この島で赤い色というと心当たりは一つしかない。
だがそれは、このように遠くから見えるようなものでは無い、と考えたところで、漸くそれの正体が理解出来、同時に我輩は手近な木の枝へと降下した。
そうして羽を休めながら、その考えが間違っていないことが確認できた。
「炎……だと?」
この距離でも、僅かに揺らめいて見える赤。
そこから薄く立ち上る黒い煙。
そして、その根元に見え隠れする白い建物。
此処からでは判別出来ないが、何らかの施設、で火事が起こっているのだろう。
そのこと自体は別にどうでもいい。
いや、良くはないが、別段気にかける必要の無い現象だ、少なくとも鳥である自分にとっては。
だが、今この状況でそれが起こると言う事は、必然的にあの場所である事が起きている事を連想させる。
すなわち、殺し合い。
最低でも二人以上の人間が、あの場所で戦っている。
或いは一方的に襲われているという事になる。
「……確かめておく、必要があるな」
この場所は、蟹沢達と別れた地点からそう遠くは無い。
そうなるとあの場所に居る、或いは居た人物が蟹沢達と接触する可能性は、それなりに高い。
いや、それ以前に、炎を目にした蟹沢達が、自らあの施設に向かう可能性だってある。
そして、戦いが起こっている以上、あの場所に居る人間の片方、或いは両方とも、殺し合いに乗っている可能性は高い。
このまま放っておけば、純一や蟹沢が危険に晒される恐れがある。
だが、我輩ならどうか?
我輩の事を参加者だと知っている人間は少ない。
出会ったことの無い相手ならば、恐らく皆無だろう。
だから、我輩がまずあの施設、及びその周辺にいる相手を観察し、その結果を蟹沢達に知らせれば、彼女らの危険はそれだけ減る。
問題があるとするなら、病院へ向かうという当面の目標を変更しなければならない事だが……。
「……病院に向かった者は、手練と聞いている。
まずは、危険度の高い方を優先するべきだな」
病院に向かったメンバーの聞いた範囲の能力と、少し前に別れた蟹沢達の能力。
同じ危険に見舞われたときに、どちらがより危険かは考えるまでも無い。
そして病院と違い、今眼前には明確な危険が存在している。
ならば、そちらを優先するべきだ。
「ふむ、それにいい機会だ。
この機に我輩の有り難さを奴らに、そう、特に蟹沢に思い知らせてやろうではないか」
そう、言葉を残し、進む道を選んだ鳥、土永さんは炎に揺れる施設を目指し、飛び立った。
その言葉の中に秘められた『ある』感情に、彼は気付いていたのだろうか。
『郷愁』
恐らくその表現が最も近しいその感情。
一度は修羅の道を選んだ彼だが、否、だからこそ、その心に秘めた望郷の念は大きなものとなっていた。
それ故、自分と同じ時間、空間を過ごしてきた存在、蟹沢きぬとの再会は、彼の心の中で大きな比重を占めていた。
故に、彼は無意識の範囲で、蟹沢きぬの安全を優先していた。
・・・…その事に大した意味は無い。
ただ、それにより一つの結果が生まれた。
それだけのこと。
訪れる未来を知る術など無い鳥は、ただ、飛んでゆく。
その先に、もう一つの、……悲しい再会がある事など知らずに、ただ、飛んでゆく。
◇ ◇ ◇ ◇
(……信じられる筈が、無いよね)
少しずつ高くなる日差しを受けながら、二人の少女が森の中の開けた場所に座り、何事かを話し合っていた。
ボロボロの衣服を纏い、槍を携えた少女、月宮あゆ。
所々血に染まった巫女服を纏い、謎の気ぐるみを手にしている少女、佐藤良美。
彼女達は、火勢の収まらない農協の施設を離れ、少し南の地点に居た。
談笑しながら情報を交換している、様に見えるが、この2人の関係を知っている人間ならば、とてもそれが真実とは思わないだろう。
言うまでもなく、お互いを知っている少女達がそんなことを信じる筈がなかった。
(死にたくない、っていうのは多分本心だと思うけど、私に含む事が無いなんてことはあり得ない)
かつて、そう、丁度一日前、良美が絶望に突き落とした相手、月宮あゆ。
良美に言わせれば、あきれるほどに考えなしで、役立たずだった少女ではあるが、だからと言って今でもそのままとは限らない。
否、先ほどの行動を見る限り、そのままである筈が、無い。
その彼女は会話を初めて直ぐに『死にたくない』と言い、良美に殺されない為なら協力するとまで言った。
或いは、お互いが一人の時に再会したのであれば、その言葉を信じられたかもしれない。(最も、その場合は持ち物をくれる事に感謝しつつ、適当に捨て駒として利用するのだろうが)
だが、あゆは『死にたくない』と、共にいた仲間から離れ、良美の下へと来た。
これは、役立たずの発想では無い。
以前のあゆならば、何もせずに蹲っているのが関の山だった筈だ。
結果的にその行動が自らの危機を招いていたあたり、考え無しであることには変わりはないようだけど。
(そう……、だけど、間違いなく前に会った時のあゆちゃんとは違うよね)
あの時、瑛理子という少女に向けた酷薄な言葉。
何の躊躇いもなく向けた銃口。
躊躇せずに、瑛理子の命を奪った行動力。
全て、以前のあゆからは考えられないものだ。
それが、良美に警戒を与える。
以前とは違う、唯の無力なだけの少女では無い。
良美を疑いもせず、あっさりと思惑通りに踊ってくれるような相手では、無い。
それどころか、
(気を抜けば、私を殺そうとするかも……
ううん、間違いなく、いつか殺しに来る)
そもそも、殺し合いを肯定する人間同士が手を組んだ場合、行き着く先は一つ、最後にどちらが生き残るかを決める事だ。
簡単に利用出来る『駒』では無く、隙を見せれば襲い掛かってくる可能性のある『敵』
今の彼女は、そう認識しなければならない、危険……な相手だ。
(だからいつか殺さないといけないんだけど、そのいつか、を、いつ、にするかが問題なんだよね。
……正直、今のあゆちゃんとはあんまり一緒に居たくないな)
農協での遭遇時、あゆの言葉は歓迎出来る物だった。
けど、その後の行動を一つ一つ検証してみると、彼女は手を組むべき相手じゃない。
理由があれば、さっきまで一緒にいた人間を簡単に殺す。
かつて手駒にした倉成武と違って、自分が健在な事以外に、襲い掛かって来ない理由が無い。
いや、そもそも健全な状況でも、何もしてこない保障なんて無い。
彼女は良美に恨みを抱いている可能性が高いのだから。
そして非常に不愉快だけど、恐らく今の良美よりも、あゆの方が『強い』
――まず、あゆの話では、生き残りの内、半数近くが徒党を組んでいるらしい。
あゆが実際に会ったのは数人だが、聞いた範囲では10人近い数だとか。
そして、
(そいつらに、私の顔を覚えられているんだよね
しかも、その中に純一君達やことみちゃん、凶暴な方のあゆちゃんは含まれていない……)
つまり、既に良美に利用されてくれるような人間は殆ど残っていない。
いや、それどころか皆無かもしれない。
それに対して、あゆは沙羅以外の相手には危険とは認識されていない。
その沙羅から危険が広まるだろうけど、それでも利用出来る相手は良美よりも圧倒的に多い。
――そう、まず採り得る選択肢の点で、あゆは良美よりも遥かに『強い』。
――次に、あの時あゆが見せた戦闘能力。
(さっきの凄い力は、…・・・あの槍の力だよね)
あゆの手にある槍に視線を向ける。
あゆに高い身体能力を与え、燃え盛る炎を押し返した力。
良美の持つハリセンや、指輪よりも遥かに強大な力を持つ槍。
……どうにかして、手に入れたい槍。
――今の戦闘力の面でも、あゆは恐らく良美よりも『強い』
――そして、あゆは良美の本性を十分に理解している。
これが、最も重要な事柄。
どれだけ強くても、仲間が居ても、皆良美の言葉にコロリと騙されてくれた。
けど、一度騙されたあゆは、易々と良美の言葉に騙されてくれない。
それどころか、当然こちらを騙そうとしてくる。
それに対して、良美は今のあゆについてあまり把握出来ていない。
――互いの情報について、あゆは僅かに良美よりも『強い』
以上の点から考えると、明らかに良美よりもあゆの方が優位に立っている。
あゆがその優位をどこまで認識しているのかはわからないけど、今の良美は立場で言えば、利用される側の存在になってしまっている。
……面白い筈が無い。
何時だって良美は利用する側だった。
利用して、捨ててきた。
あゆだってその一人だ。
なのに、そのあゆに何時捨てられるかと警戒しておかなければいけないなんて。
(なるべく、早く、それもこちらから先に仕掛けるべきだよね)
今すぐにでは無い。
だが、そう遠くない未来、
殺される前に、あゆを殺すことを良美は心に誓った。
■
……上手く、騙せてるかな?
良美さんを恨んでいない、と言ったけど、そんな事は多分信じないよね。
実際に恨んでいる訳だし。
だから、どこまで騙せているかなんだけど、そこは良くわからないや。
ボクとしては、
『恨んでないはずはないけど、死にたくないからそう言っている』
くらいに認識されているのが理想なんだけど。
どうかなぁ。
まあ、今のボクには『力』がある。
その気になれば、今すぐにでも良美さんを殺せるだけの力が。
だから、あんまり焦る必要は無い。
今は、良美さんを利用していればいいんだから。
ただ、全てを知らせる訳にはいかない。
だから、例の紙は渡していない。
あれには少しだけどこの『力』、永遠神剣の事が書いてあるから。
ボクは使う事が出来たけど、ボク自身には特別な使える条件があるとかは思いつけない。
強いて言うならディーさんとの契約だけど、ボクはまだ工場に行っていない。
工場にも永遠神剣があって、それを使える力を貰ったって可能性もあるけど、確認なんて出来ないし。
だから、もしかしたら、良美さんだってこの神剣を使う事が出来るかもしれない。
そう考えると、必要以上の情報は与えられない。
それに、あの着ぐるみの事も少し気になった。
もしかしたら、あれを着て沙羅さん達のグループに潜り込む、なんて事を考えるかもしれない。
その他にも、疑いだすと切りが無い。
だから、疑われない程度の情報だけ口にしておいた。
それで、今は良美さんの情報を聞いている。
……純一君、か。
それなりの人数の集団。
そして、沙羅さん達と同じような目的を持っている。
つまり、利用出来る相手かもしれない。
(良美さんが使えなくなったら、その人達を頼ってみるのもいいかも)
■
あゆちゃんと、情報を交換しながら考える。
私はもうこの島の殆どの人間から危険視されている。
あの着ぐるみを使えばいくらかはマシになるかもしれないけど、あれを使う場合は偽名が必要になる。
ここまで人数が減ってしまうと、かなりの確立で相手の知り合いの名前を言ってしまうかもしれない。
正直、道は険しい。
でも、
(絶対に偽善者達は殺し尽くしてあげないと)
圭一君は死んでしまったけど、まだ沙羅ちゃんは生きている。
美凪さんだって生きている。
他にも、純一君達のような偽善者共はまだまだこの島には沢山居る。
そう、偽善者、今のあゆちゃんや死んでしまった名雪ちゃんを見れば一目瞭然。
口では綺麗事を言いながら、自分の命が危ないとなれば本性を見せる。
そこまで考えてから、ふと気になった。
(そういえば、名雪ちゃんはどうして死んだのかな?
あんな物に乗っていて、死ぬなんて事あり得るの?)
あの時に見たアレは、そもそも人間がどうにか出来るようなものじゃない。
相手を威圧する、重厚なボディ
銃弾をまるで相手にしない、鋼鉄の車体。
普通の列車の速度を維持しながら、小回りの聞く機動性。
どう考えても、生身の人間がどうにか出来る相手ではない。
。
。
。
。
(それに……)
そもそも、今回の放送で、悠人君と千影ちゃんの名前は呼ばれなかった。
だから、あの後二人は名雪ちゃんから逃げ延びたという事になるんだけど、
(……あの怪我で?)
無理。
どう考えても無理。
一人が犠牲になってもう一人を逃がすのが精々。
でも、現実に二人とも生き残っている。
(そうなると……)
あの二人、だけでは流石に無理だろうから、あの後誰か、それも多分偽善者の部類の人間があの場所にやってきて、そして、そして、考えたくないけど、機関車に乗っていた名雪を殺した。
そういう結論しか出ない。
名雪ちゃんが、あの直後に、或いは上手く逃げ延びた二人を探し回っている間に、失血死やらショック死で死んだ、という可能性もあるけど、それらは否定した。
どちらかと言えばそちらの方が常識的な判断だけど、そんなに都合の良い偶然が訪れる筈が無い。
あの二人にだけそんな偶然が訪れるなんて認めない。
だから、あの機関車を破壊するだけの力は確かに存在している。
それも、自分の敵の側に。
しかも、
(あゆちゃんの話だと、圭一君は病院で死んだ筈、ことりちゃんは私が殺した、そして、千影ちゃんの話からすると、衛っていう子はあの時点で既に死んでいた)
つまり、犠牲者ゼロ。
一人の犠牲も出さずにアレを破壊した。
……思わず震えてしまいそうな程の脅威。
そんなものに、正面から戦いを挑むなんて馬鹿な真似は出来ない。
やはり、後ろからだまし討ちをするしか無いかな。
そうなると……、
。
「うん、それじゃあこれからの方針を言うね」
■
良美さんの作戦は簡単だった。
まず、大体の居場所が分かっている純一君達と接触する。
この時はボク一人で。
そして、少ししたら着ぐるみを着た良美さんも合流する。
ボクの知り合いとして。
そうすれば、少なくとも一度は名前を間違えられる。
それで、後は沙羅さん達のグループとの対立を煽る。
これだけ。
でも、単純だけどいい作戦かも。
けど同時に、良美さんに都合のいい作戦でもある。
もしその純一君が、先に沙羅さんと遭遇していたら、ボクは危険になる。
良美さんが合流するときも、やっぱりボクが危険に晒されるかもしれない。
ただ、先に合流して、そのままボクが良美さんの危険を訴えるという行動も取れる。
だから、明確に反対する理由も無いんだけど。
「うぐぅ、でも、そんなの汚いよ」
一応、演技として反対はした。
良美さんの油断を誘う為に。
だから、こんな結果は予想して無かった。
「うぐぅ、苦しい……よ」
いきなり、首を絞められるなんて結果は。
■
気が付いたら、あゆちゃんの首を絞めていた。
「うぐぅ、苦しい……よ」
あゆちゃんが何か言ってる。
でも、耳に入らない。
『汚い』
「よしみ、さん、離して、よ」
「……………………ない」
「はな…して……」
「私は汚くなんてないッ!!」
止まらない、
ギリギリと、あゆちゃんの首を絞める。
あゆちゃんは、あろうことか槍から手を離して、両手で私の手を外そうとしている。
しばらくして、あゆちゃんの手から力が抜けてきた。
なので、そこらへんに放り投げた。
ゴホゴホと喉を押さえて咳き込むあゆちゃん。
でも、そんな事は気にせず、槍を拾ってあゆちゃんの顔の横に突き刺した。
「ひぅ…」
「ねえ、あゆちゃん」
勤めて優しい声を掛ける。
あゆを、そして自分自身を刺激しないように。
「何か、勘違いしていない?
私たちには、そんな事言っていられる程の余裕は無いんだよ」
意識的に、その単語に触れないように心掛けながら、話す。
あゆちゃんは、怯えながら私を見ている。
その視線で少し落ち着きを取り戻して、再び声を掛けようとして、
瞬間、視界が反転した。
■
殺される、
殺される、殺される、
殺される、殺される、殺される、
殺される。
ボクの方が強い?
どうにかなる?
そんな考え、一瞬で吹き飛んでしまった。
突き立った槍に目を向ける。
ボクの『力』
あっさりと手放してしまった『力』に
殺される。
ボクは、ボクは、ここで殺される。
良美さんが何か言っているけど、耳に入らない。
殺される、やだ、死にたくない、でも力が無い、だから、殺される、死にたくない、殺される、死にたくない。
死にたくない、殺される、殺されない為には、『力』がいる。
だから、縋った。
すぐ傍にあった『力』に。
■
地面に叩きつけられて、漸く私は投げ飛ばされた事に気が付いた。
息が苦しい。
思わず咳き込んで。
その光景を目にした。
槍を構えて突っ込んでくるあゆちゃんの姿を。
その瞬間、感じた感覚は、熱かった。
「うっ、あああああああ!!」
左肩に槍の先端が刺さって、
違う、
槍が左肩を貫通していた。
「あゆ、…ちゃん!」
とっさに、右手に嵌めた指輪を使って、
何も、起こらなかった。
「え……?」
何で?
何で?
何でこんな時に?
こんな最も大事な時に?
そう、呆けていると、
「ぎ、ああああああ」
再び襲って来る痛み。
力任せに押し込まれる槍による痛み。
「あああああああ!!」
がむしゃらに、右手で殴りつけた。
あゆちゃんは簡単に吹き飛んで、同時に槍も抜けた。
それで尋常じゃない痛みが襲ってきたけど、かまっていられない。
再び、突撃してくるあゆちゃん。
横っ飛びにかわしながら、デイパックに手を突っ込む。
武器を選んでいる時間は無い。
掴んだ物がハリセンであることを確認して、一息付く。
三度、突撃してくるあゆに、ハリセンを叩きつけて、
次の瞬間、右腿を貫かれた。
「ああああああああああああああああ!!」
何で?
電撃は?
見ると、ハリセンは無残に破かれていた。
ふざ、けないで
思わず、毒付いて、
そんな事を考えている場合で無いと考えた瞬間。
右腕を貫かれた。
■
「ハァ、ハァ」
漸く、落ち着いた。
良美さんは、木に寄りかかって座り込んでいる。
両手と右足が、血に染まっている。
やっ、た?
ボクは、自分の力で、良美さんを退けた?
……なんだ。
こんなに簡単だったんだ。
こんなに簡単に、良美さんを倒せたんだ。
あの、良美さんを。
今の良美さんは、もう前とは違う。
ただの、無力な存在。
奪われるだけの人間。
ひどく、気分が良かった。
だから、槍を良美さんの手に突き立てた。
「うあっ!!」
悲鳴を上げた。
「……良美さん、痛いの?」
何も答えない、ただ睨みつけてくる。
でも、その目が何よりも雄弁に語っていた。
だから再び、今度は足に突き立てる。
「あっ…………!!」
再び悲鳴。
それを聞いて、ボクは叫び出した。
そして、槍を突く。
「痛いよね!
苦しいよね!
でも、ボクはもっともっと痛かった!! 苦しかった!!
みんな、みんな良美さんのせいだよ!!」
叫びながら、休まずに足に槍を突きたて続ける。
間違いない。
これは、『憎しみ』
ボクをこんな風にした良美さんへの憎しみ。
それが、ボクの体を突き動かす。
ボクに休む事を許さない。
「ほら!みっともなく泣き喚いて、命乞いしてみなよ!
『死にたくない』って!
もしかした止めてあげるかもしれないよ!!
ボクの時みたいに、あの人が助けてくれるかもしれないよ!!」
。
そうだ、もっと苦しんで、苦しんで、苦しんでくれないと。
大石さんや、乙女さんの分も。
ボクの絶望の分も。
もっと、もっと。
そう、考えていたら、
「……あはは」
水を差された。
「……あはははははは」
何故?
何故、良美さんは笑っているの?
何故?
何が?
「何が、可笑しいの?」
「あははははははははははは!!」
答えない。
それどころか笑い声は大きくなっていく。
……カンに触る。
「何が!可笑しいのって聞いているんだから!答えなよ!!」
「可笑、しいよ。
だって、あゆちゃん、本気で生き残れるなんて思っているの?」
…………え?
「あゆちゃんごときが、最後まで生き残れるなんて、有り得ないよ。
だって、あゆちゃん、自分から何も出来ていないもの」
何を
「瑛理子さんに狙われた時、
炎に包まれた時、
そしてさっき私が襲った時。
どれも、ただ運が良かっただけだもの」
黙れ
「たまたま、その槍があったから、
たまたま、私にはその槍が使えなかったから。
たまたま、『あの時』あゆちゃんは利用した方が効果的だったから」
「……黙れ」
槍を突く、
でも止まらない。
「あゆちゃんは、ただ運がいいだけだよ。
現実も、状況も、上手く理解せずに、ただ右往左往しているだけ。
『生きたい』っていう理想だけ掲げて、ただ流されているだけの弱者だよ」
「……この、黙れ! 黙れ!!」
「今も、ただ、私が憎いから、そんな理由で短絡的に私を殺そうとしている。
これからどうするのか明確な考えも無しに。」
。
。
。
いくら痛めつけても、良美さんの言葉は止まらない。
「ハァ、ハァ、
……じゃ、じゃあ、じゃあ良美さんはどうなのさ!
そうだよ、そんな事を言っている良美さんは何なの!?
今の良美さんは、その、弱者に、狩られるだけの、無力な、存在でしかないよ!!」
「ええ、けど、私は、選んだ…もの。
自分の、意思で、自分の、…道を、戦…を、
戦かって、抗って、負けたから、私はここにいる。
何もせずに、流れ着いただけの、あゆちゃんとは違う」
「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!黙れーーー!!!」
止まらない、
だから、足ではなくて腹
お腹に槍を突き立てる。
「うう、ん、違、わない、…かも、ね、あゆ…ちゃんも、その内、私みたいに、なる」
「黙れ、黙れ、黙れ、黙って、黙ってよ!!」
でも止まらない。
だから何度も何度も突き刺した。
■
しばらくして、良美が反応しなくなった頃、ようやくあゆは手を止めた。
「……これで、何も言えないね」
動かない良美に声を掛ける。
無論、反応は無い。
けれど、気にせずに続ける。
「ボクは、死なないって事、分かってくれた、でしょ」
反応は無い、
未だに胸は僅かに上下しているものの、
今の良美に答える力など無い。
筈だった。
「む…ぃ……だよ」
思わず、あゆは槍を取り落とした。
すぐさま拾い上げて、突きつける。
だが、その手は遠目でもわかるくらいに震えていた。
「ぅ……ぁ……」
あゆが、震えながら口を開こうとしたとき。
「おい! てめー、よっぴーに何してやがるんだ!!」
「えっ!?」
突如、背後から声がした。
(見ら……れた?)
すぐさま振り返るが、人の姿は無い。
だが、
「おい! 純一、この先に危険な奴がいるぞーー!!」
再び、今度は先ほどよりも小さい声。
確実に、この近辺に第三者、それも恐らくは複数が居る。
そう、理解したあゆは、すぐさま声の反対方向に駆け出した。
(見つかるわけにはいかない!!)
全力で、わき目も振らずに駆け出す。
戦うという選択は、取れなかった。
あゆは、恐怖していた。
良美の言葉に。
(死、ぬ?
ボクが?)
拭えぬ恐怖から逃げる為に、わき目も振らず、あゆは逃げ出した。
そして、その場には良美だけが残された。
もはや死を待つのみの人間。
だが、その少し前方に、何かが降り立った。
■
エリーの声がした。
……褒めてくれた。
対馬君の声がした。
……お疲れ様って言ってくれた。
とても、嬉しかった。
うん、痛いのも、苦しいのも、少し薄くなった。
死ぬ間際になって、少し、救われた。
こんな、
こんな、奇跡が与えられるなんて、
「ふざけ…ないで」
信じられる筈が、無かった。
「私にだけ…こんな、都合の、い、い、奇跡…、訪れる筈、無い
エリーを、対馬君を…汚さ…いで、土永…さん」
さっき、あゆちゃんを驚かせた声は、カニっちの物だった。
そして、このタイミングで聞こえる、死んだ二人の声。
そういう事が出来る相手に、心当たりがあった。
「うん、そうだ、よ、エリーも、…馬君も、褒め、て、ゲフッ、ゲフッ…ない。
絶対に、怒…、そうじゃ…きゃ、二人じゃ無い。
…も、怒ら……って、嫌われたって、後、悔なんか、していない」
絶対に、二人と帰るって誓った。
二人が死んで、二人を殺した相手を絶対に殺すって決めた。
他人を欺いて、利用して、捨てて、殺して。
褒められる事なんて一つも無い、蔑まれるだけの行為。
でも、一つも後悔なんてしていない。
何時の選択も、私が決めた、私だけの物だ。
それを、
「鳥……ごと、きの安…ぽい哀れ、みで、ゴホッ、…私を、私の、道を、決意を、穢さないで!!」
叩きつけて、それで、本当に最後が訪れた。
後悔はしていないけど、悔いは残ってる。
でも、私は選んだ道を貫いた。
もし、仮に、次なんてものがあるとしたら、私はまた同じ道を選ぶ。
だから、その道を最後まで貫いた、その事だけを胸に抱こう。
私は、私であり続けた。
その事だけを、誇りに思って、
…………そうして、私の戦いは終わった。
■
叩きつけるような叫びを最後に、良美は動かなくなった。
「……我輩、は」
安っぽい哀れみ。
否定は……出来ない。
助からない傷を見て、せめて安らかな死を迎えられる事を祈っただけだ。
……エリカの死は、我輩の責任であるらしい。
ならば彼女に依存していた、良美の死も我輩の責任に含まれるのだろう。
だから、その罪を償いたいと思ったのかもしれない。
そうして、与えられたのは、拒絶であった。
「我輩……は……」
この殺し合いが初めてで無い事を知り、蟹沢達と共に仕組みを終わらせる道を選んだ。
だが、だからと言って、我輩の罪が消える筈も無い。
一度、殺し合いを肯定した存在に、赦しなど与えられないのかもしれない。
我輩の、偽りの赦しを、良美は拒絶した。
我輩の、償いは、拒絶された。
これが、結果だというのだろうか。
罪は、永遠に、赦されないのだろうか。
我輩に対して、明確な殺意を抱く存在、……智代とかいう名前であったか。
あの者が、我輩を赦す事など、
いや、智代だけでは無い、
我輩が騙してきた人間達が、我輩を赦す事など、有り得ないのかもしれない。
ならば、我輩は、どうすればよいのだろうか?
良美は、赦しなど求めずに、誇りを抱いて死んだ。
だが我輩に、抱ける誇りなどあろう筈が無い。
結局、犯した罪に震え続ける事しか、我輩には赦されないのであろうか?
罪の無い、蟹沢達を危険に晒しながら、生き続ける事しか、出来ないのだろうか?
……答えを見出せぬまま、鳥は飛び立った。
悲しみと、失望、或いは絶望、を齎した再会を経て、仲間の下へと向かう。
知りえた危険を知らせる為に。
【佐藤良美@つよきす 死亡】
【E-6上部 /1日目 朝】
【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:左翼には銃創(治療済み)、頭には多数のたんこぶ】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
0:我輩は……
1:純一達にあゆの事を伝える。
2:つぐみ達を探し純一達が西に向かった事を教える。
【備考】
※小町つぐみ、高嶺悠人の情報を得ました。
※月宮あゆ(外見のみ)を危険と判断しました。
【今日子のハリセン@永遠のアセリア、破壊】
良美の死体の傍に、所持品が放置されています。
「あっ……―――――!!?」
死亡者発生を報せるブザーが鳴り響く。
それは認識した瞬間、私は頭が真っ白になってしまった。
三十七番、千影のランプから光が消滅した。それが意味することはひとつしかない。
千影は死んだ。殺された。
この非情な島で最期を遂げた。誰か、他の参加者に殺されたことを示している。
それは分かる、分かっている。
私は表面上、無機質にパソコンのキーボードに打ち込む。送信されてきたデータは中央管制室から。
誰が、誰を殺したのか。それを無機質に伝えるだけの伝言。
そこには高嶺悠人が千影を、そしてアセリアが高嶺悠人を殺害した、ということだけ。
(なんで……)
なんで、よりによって千影を殺したのが高嶺悠人なのだろう。
衛は、あの子は彼を慕っていた。信頼していた。観測していた自分にも分かる、衛は高嶺悠人に恋をしていた。
だから私は複雑ながらも応援していた。
衛が死んで、やっぱりその恋は絵空物語なんだ、と感づいたときも、私は高嶺悠人を気に入っていた。
衛を長い間、助けてくれた人物。そして千影を救うために暴走し、結果的に衛の仇を討った。
姉妹を除く参加者の中で、彼にはある種の好感を持っていた。期待とも言えるし、希望とも言えた。それほどの人物だったのに。
結局、彼は自分の手で千影を殺した。
そして直後、同じく彼に好意を抱いていたアセリアによって、その生涯は閉ざされた。
(なんで、こんなに理不尽なのよ)
誰が殺した、なんて考えるまでもない。
私が殺した。私が死に追いやったのだ。千影も、衛も、咲耶ちゃんも、四葉も……あんなに苦しみ抜いて死んだというのに。
ねえ、どうして私だけがこうしてのうのうと生きているの?
そんなことを自身に問いかけるも、答えなんて出ない。
無事なところから腹芸でもして笑っている残酷な女が何を今更ほざくと言うのか。
「…………あぅあぅ……鈴凛……」
「……なに?」
「泣いて……いるのです……」
言われて初めて気がつく。
頬に当てた手が瞳から零れた滴を拾う。悔しくて、悲しくて涙が流れた。
だけど、ごしごしと目元を拭う。泣くなんて許されない、私は大切な姉妹すら死に追いやった罪人の一人なのだから。
「……っ……ごめん。それで教えてくれるかな、羽入。あなた、どんなことができるの?」
「て、手伝ってくれるのですか?」
「そ。私としても、断る理由はないよ。こうなったら負けない……私は最後まで完遂してみせる」
自分の契約内容と、それに違法となるギリギリのところまで。
もう姉妹は誰も帰ってこない。このままゲームが終わっても、姉妹やアニキのいる日常になんて戻れない。きっと罪悪感に潰されるから。
だから命だって張る。もう私だって主催者に相対する人間の一人として。うまく内通してみせる。
そのために必要なのがこの萌系神様の羽入。
神様はいない、ってのをあっさりと吹き飛ばしてくれた彼女は、ある意味私たちのジョーカーだ。
契約者にしか接触できない、という話だが……そこのところ、もう少し融通が利いたりはしないのだろうか。
「梨花、って言ってたわよね。それって参加者の一人の古手梨花のことでしょ? その子と接触することは?」
「…………初めは、試してみようと思いました。初期こそディーさんの力がまだ強くて、参加者に近寄ることすらできなかったのですが……」
「んー確か、今になってあの人が休眠状態になってるから、出られるようになったのよね?」
「はい……それ以前から、私は参加者に頑張って接触しようとしてみました。大体、第五回定時放送の前ぐらいからです」
羽入の表情から推測するに、あまり成果は芳しくなかったのだろう。
それ以前にどうして梨花とは接触しなかったのだろうか。逢って間もないが、彼女の性格を考えるに自由となった途端、逢いにいきそうだが。
「ですが、私を認識できたのは一人だけ……梨花にはまだ逢えません。下手をすれば首輪が爆破されてしまいます、です」
「そうか、盗聴器……さすがにいないと思われていた知り合いに逢えば、梨花って子だって騒ぐ。そうしたら羽入が暗躍していることがバレるかも……」
「鷹野は恐らく気づいています。ですが、私がインゼル・ヌルに自由に行けるとまでは断定できないはずです」
契約者なら羽入の姿を認識はできる。
だけど参加者のいる場所……インゼル・ヌルからの情報は首輪からの盗聴器からだけだ。
つまり声を出さなければ誰にもバレない。ここで知り合いに羽入の名前を出されては水の泡。
鷹野はできる限り参加者に介入はしないだろうが、朝倉純一を葬りかけた事例もある。
目の前で知り合いを殺されるなど、きっとこの子も見たくないのだろう。神様とはいえ、見た目は10歳ほどの女の子だ。
「でもさ、このままじゃジリ貧だよ。鷹野を打倒するにしても、それなりの戦力が必要になる。私は正直、戦力外だよ?」
「あぅ、あぅあぅあぅ……」」
「接触できた人物って? 月宮あゆ、じゃあないと思いたいんだけど……誰?」
「それは……」
そこまで言った後、羽入は不自然に言葉を区切った。
瞳が驚きか困惑に見開かれる。感覚で何かを感じ取ったような様子に、私は嫌な予感がした。それも飛び切りに。
「あっ……あぅあぅ、あぅあぅあぅ……っ……!」
慌てふためく羽入の様子に、私は自然とパソコンのキーボードを叩く。
中央管制室に送られているインゼル・ヌルの音声資料。そこからあちこちを傍受して会話を盗み聞く。
そしてようやく当たりを引いた。それは獣の咆哮、憎悪に塗れた青年の絶叫。
『貴様ァァァアアァァアァァアアッ!!!!』
◇ ◇ ◇ ◇
「ふん……あれから参加者の誰にも逢えないな」
太陽の光に照らされて、坂上智代は歩いている。
佐藤良美や白鐘沙羅と交戦し、そして退却した彼女が向かった先は病院だ。
そこなら憎むべき怨敵、ハクオロがいる可能性が高い。ハクオロがいなくとも彼らに組する参加者ぐらいはいるだろう。
そんな考えで病院に来てみたものの、時既に遅し。病院は半壊し、ボロボロになっている。戦闘の後があちこちに残っていた。
智代はデザートイーグルを構え、警戒しながら病院内を探索するも成果はなし。
舌打ちをひとつしたが、いないものはしょうがない。とにあえず包帯やらの医療品を回収してその場から出た。
ここで参加者を待ち伏せにするのも悪くない。こちらには九十七式自動砲という兵器もある。これで狙撃していくのも悪くない。
だが。
智代は敢えて病院を放棄することを選んだ。
理由は二つ。ひとつはこの病院がいつ倒壊してもおかしくない、ということ。瓦礫に巻き込まれては堪らない。
もうひとつはズバリ、復讐の相手を追うためだ。智代がここにいる間に、別の誰かによって安楽に殺されたりなどされたくない。
生き地獄をじっくりと味わわせてやる。煉獄の炎のような復讐心が智代の心を真っ黒に染め上げていた。
そうして。
智代は病院より東へと進路を取っていた。
遠く、海の家の方角で爆発音を聞いたのだ。まるでクレーターでも見つけそうなほどの、そんな轟音を。
「……いる。ハクオロか土永かは分からないが……参加者が」
くつくつ、と。自然と口元から笑みが漏れた。
正しさを主張した春原が死に、欺瞞と偽善者の仮面を被ったハクオロが生き残るなど絶対に許さない。
恋人の朋也を殺害した誰かがのうのうと生きている可能性を考えると、吐き気がする。
自分の手すら汚さずに人を欺き、声真似によって自分の手を汚させた土永など、どんな責めを持っても許してなどやれない。
「殺してやる……」
どうせ大切な日常など帰ってこない。
この身は既に復讐者(アヴェンジャー)―――――生きるために殺すのではなく、殺すために生きる悪鬼だ。
故に自分は人ですらない。これほどの怨嗟はどうすれば晴らすことができるのだろうか……決まってる、皆、みんな殺してしまえばそれでいい。
「殺してやる、殺してやる、殺してやるぞっ……!!」
復讐は虚しいという言葉をかつて聴いたことがある。それはどこのテレビドラマだったか。
ならば虚しいと訴える全ての偽善者に伝えよう。
復讐を果たしたその瞬間の快楽、達成感はきっと―――――何者にも換えられないほど甘美なものなのだ、と。
そうして、東へとしばらく歩いていた頃だろうか。
少し遠くのほうで叫び声を聞いた。それは絶望に満ちたものに聞こえて、智代は瞳を光らせる。
「見つけた……」
智代はついに獲物を発見した。しばらくぶりの敵に体が高揚する。
そこには一人の青年が蹲っていた。
その背中は酷く小さく感じた。智代にとって彼の第一印象は、搾取されるだけの弱者だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「…………おい、なんでだよ」
智代と出遭う数刻前。いや、時間にすれば半刻もない短い時間だった。
黒い大剣を構えた青年、倉成武は呆然とそれを見下ろしていた。分けが分からないと首を振っていた。
「……分けわかんねえよ」
彼の行動方針は最愛の妻であるつぐみと合流するため、ホテルへと向かうことだった。
そして廃坑南口を仲間と共に調べ、主催者がいる道へと辿り着くつもりだった。
自分の行動になんの迷いもない。もはや躊躇はないし、それに色々な覚悟を済ませたつもりだった。ただ、その覚悟だけはしていなかった。
「つぐみ……」
ホテルに向かうことなく、つぐみとは合流できた。
ただ、その二人には愕然とするような区切りがあった。生者か死者か、というものが。
まるでボロ雑巾のように道端に投棄されている亡骸を、最初は武も認識できなかった。分けも分からず首を振っていた。
ガリ……
正直なところ、想像することすらしなかった。
つぐみが死ぬなんて有り得ない。いかに完璧から離れたキュレイウィルスとはいえ、純キュレイ種である彼女なら大丈夫だ、と。
いや、そもそも。
つぐみに全幅の信頼を寄せていた武は、彼女がキュレイなど無しにしても死ぬはずがない、と信じ込んでいた。疑いすらしなかった。
ガリ……
「嘘だろ……つぐ……み……」
右手に握ったままの『時詠』の感覚が遠い。眩暈がした。有り得ない、と理性が必死に拒絶した。
想像以上の過負荷が武に圧し掛かる。そしてその左手は――――かつてのときの悪夢の再現のように、喉元へと手を伸ばしている。
「つぐみが死ぬはずない……だって……これからだったじゃねえか……」
ドサリ、と武は足に力が入らないまま蹲る。
まるで裁きを受ける前の罪人のように。それは真実、武への罰なのかも知れない。
結果的につぐみは死んだ。殺されたのだ。
「生きてる限り、生きろって言ったじゃねえかよぉ……」
ガリ……
「そうだ、つぐみが死ぬはずない……死んだのは偽者の、偽者のつぐみ……本物はまだ何処かで、まだ……」
ゴツッ!!
そう呟いた瞬間、地面に頭を思い切りぶつけた。
脳が揺れる。額を切るが、きっと一時間もしないで完治する。ただそれでも、一瞬でもそう口走った自分を殺したくなった。
「違う、ふざけるな……つぐみを、俺自身が否定するなっ……!!!」
それだけはしてはいけなかった。
つぐみの亡骸の前でつぐみを否定する……そんなことはどんな理由があろうと、許されなかった。
それはつぐみを冒涜することになる。だから一瞬でも心の弱さに負けかけた自分を、今までで一番殺してやりたくなった。
ガリ……
そんなときだった。
彼女が、新たな標的として武を見定めたのは。
「見つけた……」
武ももちろん、その声に気づく。既に背後に立たれている以上、その時点で武は絶体絶命の危機にある。
智代はデザートイーグルを構えながら、武に近づいていく。
簡単に殺してやることはできるが、ハクオロや土永といった面々が何処にいるのかを聞き出した後だ。
だが、智代が質問する暇もなく、武はつぐみの亡骸を呆然と見据えたまま、背後の襲撃者へと問いかける。
「名前は……?」
「……坂上智代。お前の名前は?」
「倉成武だ……早速だけど」
一呼吸。それで全ての準備が整った。
ふつふつ、と沸いて出た疑念が再び武の心を黒く染め上げていく。新たに降って沸いた疑念は―――即ち。
「殺したのは―――――お前か?」
「私は知らん。……だが、どの道……私がその手で殺していただろうな」
答える言葉は嘲りに近い。弁解をするつもりも更々ない。
その態度、その言葉が。
ガリ、ガリ……ガリガリガリ!
押してはいけなかった武の最後のスイッチを、指ではなくハンマーで強引に押してしまっていた。
「貴様ァァァアアァァアァァアアッ!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ……あぅあぅ、また再発したのです〜……!」
悲鳴のような羽入の声。
私はただ事ではないとは思っていたが、ここに来てこれは非常にまずい、ということは理解できた。
倉成武は大切な姉妹である咲耶ちゃんを殺した、ある意味仇とも言える人物。
衛も千影も彼に襲われた経験がある。だが、それでも主催者に対抗するための貴重な戦力の一人だった。
そんな彼が再び暴走することになれば、厄介にも程がある。幸いにもパソコンには元凶の薬物、H173についての詳細データが残っている。
「羽入の反応から見て、接近できた人物ってのは彼だよね? 羽入にはどうにか出来ないの?」
「……行っても、ボクにはどうすることもできないのです……」
「そんなの、やって見なくちゃわかんないでしょ。喋れなくても、姿が見れるのなら何とか手段ぐらい考えれば……」
鷹野に悟らせずに、倉成武を説得する。
実のところ不可能に近い。彼の説得には前原圭一と小町つぐみが命懸けで行い、ようやく成功させたのだ。
それをこんな何処ぞの巫女ルックな可愛らしい神様が止められるぐらいなら、最初から物語はもう少しマシに機能しているのだ。
それを承知の上で、私は羽入に彼の説得を頼んだ。
この最初から諦めているような態度が気に入らない。
私は覚悟を決めたのだから、これから相棒になる彼女にも心を決めてもらわなければ。
「羽入。私に協力を要請する以上、ちゃんと覚悟決めてもらうよ」
「…………あぅあぅ」
「私たちがやろうとしていることは、絶対的に不利な状況からの大逆転。文字通り不可能を可能にすること。だからさ―――」
この程度の不可能、凌駕してこい、と。
そうでなければどうしようもない。羽入は言っていた、絶対の意思が運命を強固にする、と。
ならば一枚噛ませてもらおう。要するに、私が鷹野の意思を凌駕してやればいいのだから。この悪魔のシナリオを破壊してやればいいのだから。
「わ、分かりましたのです……何処までできるか分かりませんが、なんとか!」
「その意気。確か倉成武は暗号解読のアイテムをひとつを持っているはず。ここで暴走なんてされちゃ堪らないっての!」
「それでは、僕は行ってくるのです。しばらく援護はできませんので、気をつけてくださいなのです」
すうー、と幽霊のように羽入が消える。
なるほど、透過とかそんな類か。それとも瞬間移動でもできるのか。どの道、神様というのは便利な存在だ。
鷹野の言う神様ってのも、あんなことができるのか。だとしたら少し厄介な話になってしまう。
ピーーーー! ピーーーー!
「……佐藤良美と北川潤」
パソコンを打つと、すでに佐藤良美は朝の時点で落命していたことを知らせていた。
どうやら首輪の誤作動らしい。高嶺悠人や千影たちが死ぬよりも前に彼女が死んでいる、とデータには残されている。
首輪の誤作動……どうやら、2034年技術の急ごしらえで作ったコレも、万能には程遠いらしい。こういうのは優さんに任せれば良かったのに。
それにしてもこの二人が退場か。
佐藤良美の死は言っては悪いが、こちらにとっては朗報だ。彼女は最初期から殺し合いを肯定した。私にとっては頭痛の種の一つ。
北川潤は予定外。確か羽入の知り合いである古手梨花と行動を共にしていたはず。羽入がこれを聞けば真っ先に飛んでいくのだろう。
「それにしても、この時間帯だけで六人……初期は十人越えてびっくりしたけど、ようやく落ち着いてきたと思ってたのにね」
「きっと、それが終盤を知らせる合図ってことなんじゃないかしら?」
身体が、凍る。
時間が止まってしまったかのような悪夢。
落ち着け、冷静になれ。深呼吸は心の中で。あくまで自然に振り向かなければいけない。
「や、優さん。せめてノックはしてほしいかな」
「ふふ、ごめんなさい。ちょっと気になることがあってね、ここまで来させてもらったの。……パソコンの更新は?」
「これから。まったく、首輪もしっかりと作動してもらわないと管理が大変なんだけど……まだシステムに穴があったっぽい。優さんが作ればよかったのに」
「私は考古学専攻よ? お父さんは機械に詳しかったけど……実現するには貴女の力が必要だったの」
どうやら、気づかれてはいないらしい。
ほっと息を吐くと、パソコンに死者の名前と殺害者の名前を入れ込む。
その間に優さんは私の隣に近づき、ひとしきりパソコンを眺めると……やがて、退出するつもりなのか、ドアのほうへと足を運ぶ。
「なに、優さん。気になることの謎は解けたの?」
「いえ、それはこれからだけど……ねえ、鈴凛」
「なに?」
考え込むかのような優さんの疑問。
問いかけてくる視線を背中に受けたまま、私はパソコンに北川潤の名前を打ち込み、エンターキーを押す。
その直後。
「羽入さんって誰かしら?」
「―――――――っ!!!」
瞬間、呼吸が死んだ。
背後へと振り向けば、そこには凛々しい表情に無の感情を込めた優さんの姿。
その右手は突き出され、そして握られているのは……黒い凶器。人を一撃で葬り去る、銃という名の悪魔だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「らぁあああああっ!!!」
「つぁ……っ……!?」
初撃は智代のデザートイーグルではなく、武の求めの一撃だった。
速い、と智代は冷や汗を流す。身体能力においては絶対の自信を持っていた。どれだけの不良を相手にしても叩きのめした自負があった。
だが、武の背後を取ったことに油断があった。その自信が慢心に繋がっていた。故に……智代は必殺の間合いを失った。
「な――――めるな!」
引き金を引く。こちらは銃で相手は剣、接近戦ではなく遠距離から戦うのが安全策だ。
その常人からは遠く離れた脚力を持って、武から距離を離す。もちろん、銃は標的を捉えたまま。
だが、武は臆することなく接近してくる。
銃に直進で向かってくる蛮勇にも驚いたが、自分の脚力に付いてこれる敵の身体能力にも驚愕した。
武の振るった黒い大剣が、一秒前に智代のいた空間を切り裂いた。
デザートイーグルで狙いをつけ、発砲する。パァン、パァンと二度の銃撃。
だが、武はその銃弾をひとつは身を逸らして避け、残るひとつの『時詠』を盾にすることによって弾いた。
「ちい―――――!」
智代は状況を冷静に判断する。このままでは武の一撃によって自分は倒される。
まるで獰猛な獣のようだった。比喩ではなく、本当に智代はそんな印象を受けた。何発銃弾をぶち込めば倒れるか、と思うほどに。
智代にはデイパックを漁る猶予すらない。出来ることといえば、それは―――――デイパックそのものを投げつけるだけ。
「ぬっ……!?」
突如、目の前に飛来した物体を『時詠』で切り飛ばす。
裂けるデイパックと、同時にその中身が飛び出した。質量を無視して乱舞する支給品は目くらまし、などというものではない。
中には九十七式自動砲やサバイバルナイフなどが入っている。後退するが、打撲や切り傷は避けられない。
「ぐあっ……!?」
「もらったっ!!」
必勝を確信し、デザートイーグルを構える。
怯んでいる隙に乱射すれば、最悪でも重傷を負わせることが出来る。そうすればこちらの勝利は目前だ。
指に力を入れようとする、その直前。
「うぉおおおりゃぁああああああっ!!!!」
パァン、パァンッ―――――ガァンッ!
武は『時詠』を投擲し、智代は目を見開いて回転し飛翔する黒い大剣を避けた。
その一瞬の隙をついて、武が距離を詰める。気づいた智代は改めて標的に銃を向けるが、遅い。
武の回し蹴りが右手で掴んでいたデザートイーグルに直撃した。ガァン、と音を立てて銃が弾け飛ぶ。智代は武器を失った。
もらった、と武はデイパックから取り出した包丁で智代の首を狙う。
必死、とも取れる一秒の邂逅。刹那の攻防は―――――結局、武ではなく智代に軍配が上がった。
「はああぁぁああああああああっ!!!!!」
「なっ……がぁぁあああああっ!!!?」
ダダダダダダダダダダダダダッ!!!
蹴り、蹴り、蹴り、蹴り。ただ無骨に、愚直に浴びせる足蹴の雨。
銃を主力にしていようと、本質はこれが智代の切り札だ。
いくらキュレイキャリアの武と言えども、一秒で数十発を叩き込む攻撃に耐えられるはずがない。
「っ……だあああっ!!!」
「ぐふっ……があ!?」
最後の一撃で宙を舞う。
何処に飛ばされるかは分からないが、このままでは殺されると本能が伝えていた。
頭こそガードしたものの、全身が痛い。デイパックは……まだ抱えているし、武器もまだある。まだ諦めるには程遠い。
意識を一瞬だけ失うその直前。
武は懐から残ったスタングレネード二つを取り出すと、智代目掛けて投げつけた。
「なっ……ぐぁぁぁぁあああっ!!?」
武には見えなかったが、どうやら効果は合ったらしい。
さて、武が意識を回復するのと智代が視界を回復させるのは―――――果たして、どちらが先なのだろう?
◇ ◇ ◇ ◇
「優さん……何の真似?」
「質問に質問で返すのは、あんまり関心されないわよ?」
冷や汗を流すしかない。状況は最悪だ。
優さんはふうっと息を吐くと、パソコンの端末を指差して少し笑う。あんまり楽しそうな笑いじゃないし、私もこれは楽しくない。
とりあえず無抵抗を装うために手を上げる。正直、所有物はゴーグルだけな私は無力以外の何者でもない。
「……無駄はお互い、省きましょう? 以前貴女に頼まれてランキングを更新したことがあったわよね。数時間前よ」
「………………」
ああ、そういうこと。
さすが監視役、といったところか。まさか盗聴器を仕掛けてくれるなんて。
それでもまだ王手じゃない。こんなところで発覚なんてされて堪るもんか。まだ、私たちの計画は発動したばかりなのだから。
「だから、もう一度訊くわね。……羽入さんって、誰?」
「……ねえ、優さん。神様って信じる……?」
「信じない。私が信じる超常現象は精々が魔法と……それに、第三視点ってところかしら」
第三視点……確か富竹さんが名乗った名前か。確かブリック・ヴィンケル。
とにかく、こちらは真実と虚構を混ぜ合わせた回答をしてやらなければ。そうでなければ、内通することすら出来なくなる。
考えないと。細くなった優さんの瞳には恐怖を覚えるが、これが私の戦いだ。絶対に退いてなんてやらない。
「さっきね、神様に逢ったの。優さんも盗聴器を仕掛けたなら声は届いたでしょ?」
「……貴女が何を言ってるのか、分からないけど……聞こえてきた声は、貴女が羽入という人物に一方的に話しかけ、会話する様子だけ」
「えっ……!?」
驚愕する、ふりをする。
なるほど、契約者でなければ声も聞こえない、と。
だからパソコンに近寄るついでに、部屋を見渡していたわけか。
「嘘……だよね? 私、見たよ? 羽入って名乗ってた、神様って言ってた……」
「私が聞いたのは、誰もいない何処かに話しかける貴女の声。私が見たのはそんな姿だけ、なんだけど」
「……じゃあ、なに。幻でも見たって言うの、優さん……?」
幸いにも、私の精神状態はリアルタイムで危うい。
姉妹は全滅し、悲嘆にくれている。情緒不安定な姿を演出する。いくら可哀想な人、みたいな目で見られてもいい。
嘘に本当を混ぜれば、それは自然に受け入れられる。優さんは契約者じゃないのだし、羽入もこの場にいない。いても見えない。
だから状況が理解できない優さんには、決してバレるはずがない。
確かに苦しい言い訳だけど、現実にここには私以外の誰もいない。
誰かに見られていたとしても、私は虚空に向かって話しかける可哀想な女の子。
違和感は感じられるかもしれないが、さすがに証拠は見つからない。その証拠は契約者ではない優さんには決して観測出来ないのだから。
「ごめん……少し自暴自棄になっちゃってた。姉妹は皆、死んだ。私が殺したようなもんだから、さ」
「…………」
「夢想してた。ゲームで誰か一人でもこっちに来て、それで私を叱ってくれるっての……そんな、ことを」
これは真実。本当に千影だけにでもここに来て欲しかった。
もう私には罪を償うことすら赦されない。謝ることだって出来ない。それが酷く悲しい。
「だから有りもしない神様に救いを求めた……うん、そっか。そうなんだ……」
「鈴凛……」
優さんが銃をおろす。ここで安心は出来ない。
そんなとき、唐突に優さんはパソコンを注視し始める。首をかしげて、パソコンのほうを見ると……まだ、音声が残っていた。
優さんは椅子を持ってくると、そこに腰を下ろした。……ていうか、もしかして。
「優さん……? その、見学でもするの?」
「ええ。インゼル・ヌルの様子は私も気になるもの。さっきはごめんなさいね」
「……いや、それはいいけど……監視って気分悪いよ、やっぱ。それに見学するなら中央管制室のほうが……」
「あの鬼婆とやらの高笑いを聞くのは、いい加減に面倒なのよ」
クス、と笑いかけられる。
困った。向こうには羽入が行っている……どんな展開になるのか分かんないけど、まだ優さんからの疑いは晴れてないと思ったほうがいい。
これで羽入がしくじれば、私も終わりってことかなぁ……出逢って数十分の神様に命運を託されたわけか。
(参ったな……)
私は心中で溜息を吐きつつ、耳を傾ける。
戦いはどうやら膠着状態か、それとも終わってしまったのか……呻き声と呟きだけが、私の耳に届いてくるのみだった。
◇ ◇ ◇ ◇
(また、お前か)
巫女服に身を包んだ少女の姿に、思わず溜息を吐く。
こいつが見えているとき、俺は調子が悪かったり酷い状態になっている。しかもハッキリ見えているとなれば最悪だ。
そいつはただ悲しそうな顔をしていたが、いつものように疑問を投げかけたり謝罪を繰り返すようではない。
ガリ、ガリ……
まるで喋ることを許されていないのか、ゆっくりと二つの支給品を指差している。
注射器&アンプルと、そして子供向けの人形だ。
無視して立ち上がろうとすると、両手を広げて通せんぼしてきた。どうやら邪魔するつもりらしい。
(……?)
ちゃりん、とそいつは俺に何かを手渡してきた。
どうやら物に触れることも出来るらしい。ふと、渡された物体を見て……俺はそれに郷愁に近いものを覚えた。
つぐみのホログラムペンダント。
俺の荷物の中になかったことを考えると、どうやら相手の荷物に紛れ込んでいたらしい。
それがまた莫迦を仕出かそうとした俺に対する、つぐみの文句のようにも見えて。
(…………あー、くそ)
頭から血が出てる。キュレイの力なら二時間程度で完治しそうな程度だ。
だが、おかげでスッキリしたらしい。どうやら冷静に物事を考えられるらしい……注射器を引っ掴んだまま、立ち上がった。
そうだ、思い出せ。何度も繰り返すな。
「……ありがとよ。血が抜けて、少しばかりマシになったらしい……」
腕にアンプルを打つ。途端に意識が鮮明になってきた。
坂上智代はまだ瞳を押さえている。周りを見渡すが、もう巫女の少女の姿はない。ただ、僅かながらの感謝を送った。
この命はつぐみが、圭一が救ってくれた命だ。こんな簡単に失っていいもんでも、こんな易々と自分を失ってもいけないもんなんだ。
落ち着け、俺自身が落ち着け。
つぐみの死因は斬殺。見たところ体中を切り裂かれていた。要するに相手は刃物、それも刀か剣の類だ。
奴は銃と反則的な身体能力しか持っていなかった。つまり、智代の言った通り、つぐみを殺したのは智代じゃない。
「そうだ……これを訊いてなかったな」
俺はようやく視界を回復させた智代を真正面に見据える。
武器を隠し持っていない限り、お互いは安全だと言い聞かせて。
「坂上智代……お前はどうして、殺し合いになんか乗っているんだ?」
◇ ◇ ◇ ◇
ふと、問いかけられて私は強い違和感を得た。
さっきまでの獰猛そうな獣性は成りを潜め、今度は比較的冷静に私に問いかけてくる。
情緒不安定、などという言葉があるが、そんなものだろうか。武とか言う奴は真っ直ぐに、私を睨み付けている。
「復讐だ」
答えてやった。この激情を何処かに八つ当たりしてやりたかった。
大儀がある、なんて考えていない。ただ私はこの憤怒を発散させているだけ。
男の瞳が細くなる。私の戦う理由に共感するつもりはない、とでも言いたげだが……結構だ。私に理解者などいらない。
「私はこの島で大切な人を失ったっ!!」
朋也はもういない。付き合うからには不幸になんてなってたまるか、と笑い合った日々は帰ってこない。
大切な人だった。大好きな人だった。一途に好きだと信じられた。
憎い。朋也を殺した誰かが憎い。何処かでまだ生きているのなら、生き地獄にあわせて殺してやりたい。
「私の奮戦もむなしく、目の前で友人を斬り殺されたっ!!」
春原は私の目の前で殺された。臓物が地面に垂れるあの光景には悪寒すらした。
護れなかった。まだやり直せた。決して間違いは言っていなかった。臆病なのは罪なのか、それは違うと思いたい。
憎い。春原を殺す要因になったハクオロが。そしてそのハクオロに組する奴らが許せない。絶対に殺してやる。
「私はっ……私は、私を助けようとしてくれた人を……撃ち殺してしまった……っ!!」
名も知らない少年。勘違いとは言え、エリカを殺害し……そして私もそれを勘違いして殺してしまった。
人を殺してしまった。それも恐らく、かつての自分と同じように正義を心の中に秘めていた人を。この手で引き金を引き、殺した。
憎い、憎い、憎い。
全ては土永の陰謀。殺し合わせようと画策したあの女の策謀だ。生きていいはずがない、そんな外道が生きて朋也や春原が死ぬなんて許さない。
「許さない……誰も許さない、何もかも許さない。
私の大切な人や、仲間を殺したこの島の参加者も、こんなふざけたゲームとやらを企画した主催者も!
憎い、憎い、憎い。ハクオロや土永も、それに組する奴らも……こんな道を選んだ私自身ですら許さないっ!!!」
そうだ、何もかもが憎い。
理性では正しいことと間違っていることぐらい把握できる。だが、私はこの道を選んだ。
許してなどやるものか。
もしも私までが奴らを許してしまったら、奪われた仲間の無念は何処に行けばいいのだろう、そう思うと私だけでもこの道を選ぶ。
だが、男はそれを否定しなかった。
最初は驚いた顔をして、それから納得したかのようにひとつ頷いた。
分けが分からない、と思った矢先。
「俺だってそうなんだよっ!!」
そんな絶叫に、私は瞳を丸くした。
◇ ◇ ◇ ◇
(……僕の出番はここまでなのです)
ふわふわ、と浮かびながら羽入は西を目指していた。
鈴凛には鈴凛の役目を頼んだ。後は自分が行動していく必要がある。鈴凛に活を入れられ、かつてを思い出した。
自分も一緒に戦わなければ、鷹野の強固な意志を打ち破ることは出来ない。だから、自分もまた動くのだ。
(僕が出来ることは……僕に接触できる人に伝えていくこと)
倉成武に接近できるのは今ので恐らく最後だ。
雛見沢症候群に感染している武だが、羽入の姿が認識できたのは発症している間ぐらい。
それでは意味がない。ちゃんと話を聞いてくれる参加者……やはり、梨花に会わなければ。
鈴凛の話も鑑みて話を進めると、鷹野は音声のみを拾っている。
どうせ人知れず暗躍しようとして考えていることには気づいているのかも知れない。
けれど羽入は、今はまだ鷹野には気づかれていないだろうと思っていた。何故ならディーは参加者の脱出も肯定している。
まあ、さすがに羽入が直接動くのはルール違反かもしれない。
しかし、羽入には契約の縛りも首輪もないのだ。精々が鷹野への密告だが、ディーが休眠中の今なら観測されない。
(ディーさんがお休みしている間に……梨花と接触を取るのです)
何処まで出来るかわからないし、今この瞬間にもディーが再起する可能性だってある。
ぐずぐずしてはいられない。ただ廃坑で暗号のアイテムを待つだけの存在にされる前に、梨花たちと接触しておきたい。
そうしてディーに捕捉された後は、皆を信じて待つ。梨花や鈴凛や他の参加者を信じ、自分の力が必要になるときまで。
(あ、でもその前に……鈴凛に許可ぐらい、取りに行くべきでしょうか……?)
ふと、思い浮かんだ疑問は自身の単独行動について。
あぅあぅあぅ、と呟きながら悩み始める。果たして、羽入が選んだ行動はどちらか。
【G-5 マップ中央/二日目 昼】
【羽入@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、困惑】
【思考・行動】
1:ディーが再び行動する前に梨花を探し出す
2:梨花、鈴凛、武を心配
【備考】
※『大神への道』の3つの道具を集めて、廃鉱の最果てに持っていく事で羽入がLeMUへの道を開きます。
※ディーの力の影響を受けているため、雛見沢症候群の感染者ではなくても契約者ならば姿を見る事が出来ます。
※もう一度鈴凛の元に帰るか、それともこのまま西進するかは次の書き手さんにお任せします。
◇ ◇ ◇ ◇
「俺だってそうなんだよっ!!」
叫ぶしかなかった。俺だってアンタと同じなのだと知らせてやりたかった。
そうか、こいつは俺と同じなんだ。まったく同じなんだ。まるで鏡合わせのような存在、表裏一体とも言える姿なのだ。
だったら叫ぶしかない。この激情は全て吐き出してしまえ。
「この島で殺されたんだよ、俺の大切な人がっ!!」
つぐみ……今でも信じられねえよ。俺はお前に何一つしてやることができなかった。
自分の命よりも大切な人だった。今まで不幸だったなら、その百倍幸せにならないと嘘だって思ったんだ。
だけど、俺が不甲斐ないせいで殺された。殺したのは他の誰かじゃない、これは俺の罪だ。
「俺が死に物狂いで戦ってもダメだった! 目の前で仲間が殺されたっ! 俺は約束を護ることすら出来なかったっ!!」
俺が自分の意思で殺した咲耶。命を奪ったからには背負おうと思った。
一方的な約束だったが、結局護れなかった。千影は目の前で殺された。俺自身、その仇を討つことさえ出来なかった。
俺が弱かったからだ。アセリアにも辛い役目を押し付けた。もっと強ければよかった。
そして、なにより。
これだけは俺の中で大きな罪状となって胸に残る。これは楔だ……決して外れることのない、鉄の楔。
「俺を助けようと手を差し伸べてくれた奴を……俺は殺したんだ」
そうだ、その気持ちを忘れるな。この罪を永遠に刻み込め。
倉成武は、仲間である前原圭一を殺した。これは最悪の罪、恐らく生涯をかけて償わなければならない。
これを忘れない限り、心に留めている限り。俺は決して、間違わない。もう絶対に他人を疑ったりなどできない。
「なあ、俺とアンタはまったく同じだ。それなのにどうして道を違えてしまってるんだろうな」
「………………」
「アンタもこっち側に来れるはずだ。だって結局のところ、アンタは……『誰かのために憤ることが出来る奴』なんだから」
息を呑む音が聞こえた。
確かに馬鹿馬鹿しい話だ。この状況において説得なんて下策。
だけど、坂上智代はかつての俺と同じだと知った。知ってしまったからには……救ってやりたくなった。
だって嬉しかったんだ。
あれほど救いようのない状況。何度も諦めてしまいたくなる状況。それでもつぐみや圭一は手を伸ばしてくれた。
高嶺悠人を思い出す。アセリアが子供のように泣きじゃくる姿を思い出す。本来なら、俺は悠人と同じ立場に立っているはずだった。
きっと、智代の叫びに全てが集約されているんだろう。
人の話なんて聞かないに違いない。頑固そうな印象を受ける。俺の叫びなんて届かないのかも知れない。
だが、その定石全てを打ち落としてでも。
俺は救ってやりたいと思った。かつてのつぐみや圭一がしてくれたように、かつての俺に手を差し伸べてやりたかった。
「無理だ……」
ぽつり、智代が呟く。
俯いたままの顔はよく見えない。心で葛藤しているのか、それとも新たな激情を燃やしているのかは把握できない。
「無理なんだ……私はもう、戻れない……」
「無理なんかじゃねえ……勝手に諦めてんじゃねえよっ!!」
まだ戻れるはずだ。
人は襲っただろうが、殺した奴は勘違いの末の一人のみ。
力なく首を振る姿が痛々しい。それもまた、かつての俺がやったことだ。むしろ俺よりまだ戻れる。
手を差し伸べてやる。こいつはただ怒りを意志に変え、鉄の鎧に身を包んでいるだけ。
その強い意志が間違った方向へと進んでいるだけ。
――――だから俺は、こいつの頑なな意志を完膚無きまでに砕いてやればいい。
「私はこの手で人を殺した! この意志で人を襲ったのだぞっ!? 今更戻れるものかっ!」
「俺もこの手で人を殺したよ、二人もっ!! それからしばらく疑心暗鬼に駆られて、無抵抗な奴だって殺そうともしたっ!!」
まだ間に合う。もうダメだ、なんて言わせない。
手を伸ばせ、と懇願する。俺は莫迦だから理論で説得することなんて出来ない。そんな器用な男じゃない。
俺に出来ることは、この感情を叩きつけてやることだけ。
智代が感情のままに暴れているのだと言うのなら。
俺もまた感情のままに言葉を叩きつけてやる。所詮、莫迦な俺にはそれしか出来ないし……それだけで十分すぎる。
「うるさい……」
それが奴の琴線を刺激したらしい。
苛立つような、憤るような声はまるで地獄の底から聞こえてきそうなほど、恐ろしい。
「うるさいっ……うるさい、うるさい、うるさいっ!! 善人ぶるな、この偽善者っ!!」
感情に感情を叩きつける。お互いが剥き出しの激情に流されたまま、俺たちは再び戦い始めた。
俺の手には『時詠』はなく、智代の手にも銃はない。互いのデイパックも遠い地面の向こう側。
即ち、俺たちはそれぞれ徒手空拳。なるほど、公平にも程があるというもんだ。
接近する。智代の蹴りは速い、そして重い。とても視認なんて出来ない。
関係ない。もう決めてやった。
俺が坂上智代を救う、と決めた以上……あらゆる障害なんて全部凌駕し尽くしてやる。
「私の覚悟は揺らがないっ!! そんな言葉で易々と収まるような怒りじゃないんだっ!!!」
「覚悟を履き違えてんじゃねぇよっ!!!」
神速の蹴撃を右手で受け止める。
腕は痺れたが、関係ない。そのまま俺は智代の胸倉を掴むと、顔を近寄らせて直接怒鳴りつけた。
「復讐に生きる覚悟だとっ!? 自己陶酔も大概にしておけよ、バカヤロウッ!!!」
智代の端正な顔が歪む。……と同時に、智代は跳躍。俺の顔面に回し蹴りを繰り出そうとする。
蹴りの角度を見定めて肘で受け止めた。ガツッ、という音で智代の顔が苦痛に歪む。
女を殴るのは趣味じゃないが、その顔面に拳を見舞う。さすがにそれは受け止められるが、俺は叫ぶ。
「そうやって誰も彼も殺すのか!? もしかしたらアンタの大切な人の友達だっているかもしれねえのにっ!?
皆殺しにして、優勝してどうするんだよ……っ……死んだ奴らに顔向けできるのかよ!?
言えるのか? 『私はあなたの仇を取るために、他の人たちを皆殺しにしてきました。褒めてください』……ってか!?」
「貴様ァァアアッ!!!」
怒りに任せた足蹴。単調で、何の細工もない乱暴な力。
とはいえ、それも神速を極めれば単純に最強だ。視認できない以上、軌道はさっきと違って読めない。
頭は確実にガードしつつ、そのまま一気に吹っ飛ばされた。その間も俺はただ叫ぶ。ただ伝える。
「言えねえだろ? 顔向けできねぇだろ!? なのに何でそんな道を選びやがったっ!!
その道を誇れるか? 誰かに自慢できるか? 出来ねぇだろ、そんなことっ!! 自分でも許せねえって言ってたじゃねえかっ!!!」
もう一度、今度は俺の腕ごと粉砕せんと智代の足が迫る。
身を屈めて避けてやった。俺の声が智代に届いているかどうかは分からない。だが、激情に任せた大振り攻撃は迂闊だった。
そのまま懐に潜り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。
かは、と空気の漏れる音に手応えを感じたのも束の間、俺は側面から迫るローキックに対応できずに、蹴り飛ばされた。
「はあっ……はあっ……はっ……」
「かはっ……はっ、はっ、はっ……」
お互いに距離を取る。息は荒れ、全身が打ち身になったかのように痛い。
キュレイキャリアとここまでやり合えるなんて、とも思うがどうでもいい。今、俺が考えることは……この勘違い野郎をどうにかすることだけ。
ゆっくり、と。智代は息を大きく吐いて、そして語りかけてきた。
「なら……訊いてやる。お前は、私と同じ立場にいた、と言ってたな……」
「……ああ、かつてな」
頷いて、気づく。なるほどおもしれぇ、俺を論破しようってのか。
生憎と俺は今の自分には絶対の自信を持っている。間違ったことは言っていないと、そう思っている。
「そうか――――なら」
一呼吸、置く。
続いて呟かれた言葉は小さく、そしてか細いが……確かに俺の耳へと届けてきた。
「お前に『仲間』だのを語る資格なんてあるのか?」
「――――!」
その言葉で本当に呼吸が停止してしまった、と錯覚した。
心臓を握り潰されたかのような苦痛。
人の罪の意識の根幹を、あろうことか土足で踏みあがってきた。それもあまりにも乱暴な手段を持って。
「仲間、殺したんだろ?」
殺した。圭一をこの手で殺した。疑念に押し潰され、そうして仲間を自らの手で殺した。
血塗れの身体、真っ赤に染まった手が告げていた。
お前は大罪人だ、と。圭一は俺を決して許しはしないし、赦されたところで罪が消えるはずがないのだ、と。
「仲間、護れなかったんだろ?」
護れなかった。千影は俺の目の前で殺された。
約束は果たせなかった。それどころか襲った。それは過去の俺だが、決して消えない烙印のようなもの。
グサリ、グサリと言葉が刃となって俺を貫く。それは十字架に貼り付けられた罪人を刺す、槍のように。
「大切な人がそこに転がってるんだろ?」
そう、そして護りたい人を失った。
結局、俺は何も出来なかったのだ。悠人と戦ったときは嬉しかった。ずっとこうして仲間を護って戦いたかった。
だけど、結果的には何もしていない。何も為せていない。
「結局、お前は何を為せたんだ? お前みたいな奴が理想を謡えるほど、この島は優しく出来ていない。そんなの分かってるんだろ?」
この島は優しく出来ちゃいない、なんて今更すぎる。
無常じゃなければ、貴子はあんな酷い死に方をしなかった。アセリアが悠人を殺す、なんて酷いこともなかった。
そしてつぐみも、死ぬはずがない。理想を謡うつもりはないけど、それでもその言葉が心に重く圧し掛かる。
「訊かせてくれ、偽善者。……お前にそんなことを言う資格があるのか?」
そうだ、こいつの言うことは正しい。
圭一を殺しておきながら、何を戯けたことを言っているのか、と。
どんな偽善も詭弁も理想も決意も、それだけで許されるような免罪符にはなりえない。
奴の言うことは正しい。全く持って正論だ。認めざるを得ない。
「くだらねえことに固執するんだな」
そして、その全てを、一笑に付してやった。
「『資格』って何だ? お前の逃げ道か何かか?」
並大抵の言葉じゃ俺の意志は砕けない。
それを今ここで証明してやる。
少なくとも復讐に走って逃避してしまうような奴相手に、俺の意志が挫けるなんて有り得ない。
「仲間を殺した奴が、仲間を護っちゃいけねえなんて誰が決めたんだよ」
それを後悔している。
その罪を償いたい、清算したいと思ってる。
だけどそれについて、うじうじと悩むことはしちゃいけない。そんなことに時間を取れるほどの余裕なんてない。
「少なくとも『資格』だのなんだのを言い訳にした挙句に、あーだこーだのって後悔するなんて俺はゴメンだねっ!!」
苦虫を噛み潰した顔をする智代に、ニヤリと笑いつけてやる。
一度殺し合いに乗った奴が、もう戻れないなんて誰が決めるわけでもない。
智代はわなわなと肩を震わせている。最後の激突は近い、とお互いが感じているだろう。奴の叫びに俺の叫びを上乗せする。
「黙れ、偽善者っ!!」
「聞けよ、偽悪者っ!!」
同時に接近する。互いに無手、武器は己の肉体のみ。
智代の蹴りによる連撃を、両手両足を使って打ち落とす。俺の身体を全て使っての守備と、智代の右足ひとつによる攻撃。
それが全くの互角なのだから笑えない。いったい、どれほどの修練を積めばこれほど強くなれるのか。
「優勝してどうするんだ? 主催者のクソ野郎どもに尻尾ふるつもりじゃねえよな」
「当然だっ!!」
戦いの間際にも俺は叫ぶ。
この頑固者はただものじゃない。つくづく、融通の利かない連中に縁があると思った。
両者、混信をこめたハイキックが重なる。反動で俺も、智代も吹っ飛ばされたが、その間だって叫び続けた。
「参加者同様、皆殺しか? 首輪さえ外せば全員殺せるとでも思ってるのか? お前一人で全てが片付くとでも思ってるのか!?」
智代が走る。前にではなく、後ろに。
その先には俺が投擲した『時詠』が地面に刺さっている。渡せば恐らく、俺の敗北は決定したようなもの。
地面に落ちていたサバイバルナイフを掴み、『時詠』めがけて投げつける。
更なる追撃を恐れたのか、もう一度俺に向き直る。再度の接近と同時、智代が迎え撃つように繰り出した前蹴りを、左腕で受け止めた。
「だったら、どうした!?」
「お笑い種だ!」
それこそ不可能なのは目に見えている。
たった一人でどうにかなる、って思ってる時点で傲慢だ。それこそ、智代が言うように……そんなに優しい世界じゃない。
俺と互角、所詮その程度だ。アセリアよりも弱い。その時点でこいつの行き着く先は非業の死だ。
そんなことは看過してやれない。
過去の俺を救ってやりたい。ただ、かつての圭一と同じような気持ちに突き動かされて。
「うるさいっ……うるさいっ!! お前は、お前は何をしたいんだっ!!?」
突如、智代が姿勢を下げる。
いや、違う。武器を拾った。智代の腕に収まろうとしている黒い物体を見て、俺は顔をしかめてしまう。
デザートイーグル。あいつが最初に持っていた人殺しの銃。ここに来て、あいつに武器を渡す暇を与えてしまった。
自分も対抗する武器を探さなければ、とは思った。
だが、直感が伝える。そんな猶予はない。視線を足元に向ける暇すら、もう俺には与えられない。
だったら、できることはただ一つ。
真っ直ぐに、奴が銃を構えるよりも早く、俺が拳を奴に叩き込む。それしか、生き残る道はない。
「そんなの……」
奴よりも早く銃を叩き落す。
そんなこと、普通に考えたらできないかも知れない。
だけど違う、出来るとか出来ないの問題じゃなく、やるしかない。俺は智代に手を伸ばしたまま突撃した。
「お前を助けたいだけに決まってんだろうがあっ!!!」
この手を掴め。
きっと後悔なんてさせないから。
パァンッ!!
「が……は……?」
結局のところ。
突撃を選ぼうと、逃亡を選ぼうと結果は同じだった。俺は間に合わなかった。
たった、それだけのお話だった。
放たれた銃弾は滑り込むように疾走し、凶弾は俺の左胸へと吸い込まれていった。
「くっ……そっ……たれっ……!」
無意識に俺は手を伸ばす。
救うと決めたかつての自分に届け、と。この手を掴んでくれ、と。
智代は俺の手を取らなかった。ただ、どういうわけか酷く信じられないと言いたげな表情のまま、智代は銃を構えていた。
少女を助けようとした手は、掴まれることなく空を切る。
これはたったそれだけのお話だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ……」
ゆっくりと倒れようとしているあの男が、スローモーションに見える。
この手で、この意志で殺そうとした。
そうして、私は撃った。ギリギリのタイミングだった。躊躇していれば、逆にやられていたかも知れない。
心臓が裏返りそうだった。
苦しい。心が軋むような痛みだった。これはただ、単純に人を殺したからでは決してない。
「ああ……っ……」
そうだ、この感覚は前にも経験したことがある。
あの男は、武は、私を殺そうとしていたわけじゃない。その事実はあの光景と重なる。
私は無我夢中に近い状態で、男の心臓を撃ち貫いた。それもまた、あの光景と同じだ。
『危ないところだったな』
私のトラウマ、精神的外傷。
私を助けようとしてくれた男を撃ち殺した。あのときの少年然り、目の前の男然り。
『お前を助けたいだけに決まってんだろうがあっ!!!』
ドサリ。
武が地面に倒れ伏す音。もう、取り返しのつかない合図。
構うことはないはず。私は全ての参加者の皆殺しを誓った。第一歩を遂行した、これはそれだけのこと、なのに。
銃を力なく下ろす。手に力が全く入らなくて、ポトリと地面に落としてしまった。
「あああああ……っ……!」
そうだ、これはあの時の焼き増しだ。
数え切れないほどの後悔と、炎のように燃え滾った復讐心を得た、あの時と。
だけど、あの時とは違うものがある。
手に入れたのは同じくらいの悔恨と……そして、冷水のように冷たい虚無感だけ。
人を殺しても、充実感なんて得られなかった。
甘美なものなんて何一つなかった。復讐を捜し求めた私は、いつしか復讐そのものを免罪符にしていた。
目的を履き違えて、私は今、何をした?
「わ、たしは……わたし、は……」
あの男や朝倉という少年は、私を救おうとしていた。
本当は心の何処かでは嬉しかった。だけど、その言葉に頷いちゃいけないと思ったんだ。
だって、私があいつらの無念を覚えていなければ、失われた想いは何処に行ってしまうというんだろう。
誰の言葉も受け入れない、と叫んだ。
自分の行動理念だけを信じた。信じていた。そのはずだ、そのはずなんだ。
それにこの怒りは私の唯一の原動力。それまで失ってはもう動けない。
だから、だから必死に否定して、拒絶して、その挙句に、こうしてあの少年のように殺してしまった。
「またっ……間違えた……のか?」
がくり、と膝を突いた。
心が冷え切ってしまっている。復讐の炎に、後悔の冷水を浴びせられたかのように。
手を伸ばされたのに、その手を振り払った。何度も、何度も間違え続けて、そしてようやく。
取り返しのつかない罪をもう一度犯して、やっと自分の行動に疑問を覚える時間が与えられたのだ、と気づいた。
◇ ◇ ◇ ◇
「倉……成……っ……」
銃声を最後に、優さんは顔を俯かせた。
私には優さんの表情は見えないけど、それでもその様子から漠然と理解することができた。
優さんの知り合いもこのゲームに参加させられている。私と同じように。
倉成武と小町つぐみ。
優さんがどうして鷹野の悪趣味に従っているのか、分からない。
あの人と契約しているわけでもないのに、どうして。そんなことを思ったが、今はどうでもいいことだった。
「優さん……」
「……ごめん、貴女も同じ目にあったのにね」
この言葉に全てが集約されている。
思わず、私がいることも忘れて泣き出しかけるほど、大切な人たちだったに違いない。
私だって四葉や咲耶ちゃんが死んだときは、一人になって泣き叫んだ。衛のときには涙が枯れ果てかけてた時だった。
「やっぱり……私は間違えてた……取り返しのつかない、間違いだった……」
「…………」
「倉成なら……つぐみなら……絶対に負けないって、そんな幻想抱いて、罪を重ねて……」
やっぱり、優さんは私と同じだった。
腹の底では何考えてるか分からなかったけど……やっと少し分かった、共感した。
この人は裁いてほしかったんだ。
自分の侵した罪、重ねた罪ってやつを断罪してほしかった。自分の好きな人たちに止めてほしかった。
それはきっと、私と同じ。
私は彼女に、優さんに……親近感にも近い何かを覚えた。
(…………あれ?)
そういえば、違和感がある。
優さんの態度にじゃない。私と同じように全てを失った彼女のそれは、演技や腹芸なんかでは決してない。
そうじゃなくて、何かが足りない。決定的な何かが、まだない。
「え、あれ……?」
パソコンのキーボードに打ち込む。
おかしい。死亡者を告げるブザーが鳴らない。また佐藤良美のときのような誤作動か?
困惑しながらのエンターキー。そして調べ上げた答えは……未だ、倉成武の生体反応を示す文字。
まさか、と思ったその直後。
「間違ったなら、やり直せばいい」
盗聴器の向こう側から、絶対の意志に溢れた言葉が返ってきた。
◇ ◇ ◇ ◇
「間違ったなら、やり直せばいい」
「っ……!?」
耳を疑った。私は五感全てがおかしくなってしまったかと思った。
だって狙ったのは心臓だ。考えるまでもなく、即死のはず。
いくら素人の扱いで狙いが逸れたといっても、確かにこの目で胸を銃弾が貫く光景を確認した。致命傷のはずだ。
「罪を犯したのなら、償えばいい」
目を疑った。私は都合の良い幻覚を見ているのかと思った。
あの男は、武はゆっくりと身を起こす。
それは緩慢な動作だ。自然、胸に目が行った。左胸の部分に穴が開いた服、やはり間違いなく当たっているのに。
「ど……して……?」
「知らねえよ。お前がどんなに悩んで、苦しんでその道を選んだのか、ってのは」
違う、聞きたいことはそうじゃなくて。
いや、それ以前に私は何を聞こうとしているんだろう。分からない、何もかもが分からなくなった。
「どうして生きてるか、なんて問題じゃねえだろ。ただ、俺が言えるのは……」
「言える……のは?」
「今回は、取り返しのつく間違いでよかったな?」
ニカッと笑って見せられた。
分けが分からない。どうして胸を貫かれて生きているというのか。
どうして、殺そうとした相手に……笑いかけてやれるのか?
まだ、手元にはデザートイーグルが残っている。
武はゆっくりと立ち上がり、私からそれを取り上げようとしていた。
抵抗するのは簡単だった。
ただ、抵抗しなかった。色々な疑問に思考が押し潰されてしまって、何もできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
もう、大丈夫だろう。
俺は安堵のため息をつきながら、膝を突く智代を見下ろした。
没収したデザートイーグルはそこら辺に捨てる。今は少し、こいつに考える時間をやらないと。
(ありがとう……)
正気に戻してくれた、あの巫女服の少女に感謝の意を。
もう俺には見ることはできないが、あいつがいなければ自分を見失っていたかも知れないから。
(ありがとう……ありがとう……)
智代を止めようと思ったのは、圭一たちの生き様を見てこれたから。
犯した罪は消えない。でも、償う気持ちは大事なはずだから。たとえ許されようと、許されまいと。
この罪が胸に刻まれている限り、決して間違いなんて、犯さないはずなんだから。
(本当に、ありがとう……)
目を閉じて黙祷した。
胸に空いた服の穴から、ガラスの破片がこぼれた。
どれだけの偶然かは分からない。だけど、過去に戻れない以上、必然以外の何者でもない。
つぐみのホログラムペンダント。
銃弾で貫かれたそれを左胸のポケットから取り出した。もう、原型すら留めていない。
だけど、心の底からありがとう。
つぐみが俺を護ってくれた。誰がなんて言おうと、これは俺にとって絶対の真実だ。
「教えてくれ……」
跪いたまま、智代がつぶやく。
きっと葛藤しているに違いない。ああ、なんだ、と小さく問いただした。
「私の怒りは……あいつらへの想いは……こんなことで消えてしまうほど、弱いものだったのか……?」
それは俺が答えられるものじゃなかった。
智代の怒りも悲しみも、死んでいった奴らへの想いも、智代だけのものだから。
俺は莫迦だから、うまいことは言えない。ただ、思ったことを口にする。
「それは、お前にしか分からん。だから、俺にはその質問には答えられん」
「……………………」
「だけど、な」
俺の言葉に智代が力なく、顔を上げる。
その瞳は迷いに揺れていた。支えがなければ吹き飛ばされてしまいそうな儚さがある。
「アンタの友達が止めてくれたんじゃないのか?」
「えっ……?」
「お前や俺が止めたんじゃない。お前が想ってやってる大切な人たちってのが……もう、やめろって叫んだんじゃないのか?」
こんな一途な奴が大切に想ってる奴らだ。
きっと気持ちのいい連中に違いない。そんな奴らが、智代にこんなことを望むはずがない。
それは間違いじゃないと想うから。
「これからは、そいつらが望んでいたことをやればいい」
「望んでいた……こと?」
「ああ。きっと、今までよりずっと……気分がいいと思うぞ」
ずっと、仲間を護って戦いたかった。
あの時の感動は俺の宝だ。そんな新しい大切なものを、智代にも手に入れてもらいたい。
こいつと俺はよく似ているから。
つぐみや圭一、美凪に千影、貴子や瑞穂やアセリア……様々な出逢いと別れを経験した。
どうにもならないことがあった。手遅れがあった。何度だって後悔した。
だけど今回は悠人のときのように、どうしようもなかったわけじゃない。だから救ってやりたかった、それだけだ。
「智代、手伝ってくれんか?」
俺は呆然とする智代に話しかけながら、移動する。
しばらく放っておいてしまった、大切な人。
いい加減、体を休ませてやらないとな。どんなに辛くても、苦しくても、悲しくても……俺がこの手で送ってやらないと。
「大切な人を、埋葬したいんだ」
智代はしばらく、沈黙を護っていた。
俺もまた、智代の返事をジッと待っていた。
観念したのか、それとも呆れてしまったのか……やがて、智代は小さく、首を縦に振ってくれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「………………」
その言葉を、私は確かに聴いた。
罪は償えばいい。間違えたら、やり直したらいい、と。
あの人は私が好きだった真っ直ぐな頃のまま、見えない私を叱咤していた。
「優さん、今のさ……」
鈴凛の顔を見る。何か言いたそうな、でもどうしようか迷っている。そんな様子。
正直、言ってはなんだが私のほうが腹黒い。何しろ年季が違う。彼女の演技も、狙いも、目的も大体の予測はついている。
本当なら即座に司令に報告しなければならなかったんだけど。私は報告することなく、ここに来てしまった。
つぐみが死に、倉成の名前が出た途端、居ても立ってもいられなくなった。
武が死んだと錯覚したとき、全部終わってしまったような気がした。
そして武が生きていると分かったとき、そんな資格なんてあるはずないのに喜んでしまった。
『少なくとも『資格』だのなんだのを言い訳にした挙句に、あーだこーだのって後悔するなんて俺はゴメンだねっ!!』
そんな言葉が重い。
『間違ったなら、やり直せばいい』
私はそんなに強くいられない。
『罪を犯したなら、償えばいい』
この場に倉成はいないのに、実際に会って叱られた気がした。
頭がうまく働かないまま、席を立つ。
ふらふらと、それに近いくらい不安定な足取りで、私は逃げるように部屋を後にする。
「優さんっ!!」
呼び止めようとする鈴凛に、口元に手を当てる仕草を見せた。
それ以上のことを言ってはならないんだ、って。
「その盗聴器と銃はあげるわね。貴女は……そう、真面目に仕事してただけ」
「逃げるんだ……?」
「ええ、そうかもしれない。鈴凛……貴女が何を考えていようと、私を誘うのは止めなさい」
それは裏切りだ。私の意志は子供たちのために。
鈴凛が何をしているかは分かってる。そのための監視役なのだから。私自身が手を貸すことなんてできない。
桑古木はココのために自分を殺し、私も私の全てとも言える娘のために自分を殺した。
私だけが倉成の言葉に従って、彼を裏切ることはできない。かつての私を裏切ることもできない。
私たちはあのとき、二人で決めたのだ。
二人で地獄に落ちよう、と。たとえ何を犠牲にしようと、業火に身を焼かれ続けようと、決して裏切らない誓い。
睨み付ける鈴凛の視線を受け流し、私はその場から退出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「分からず屋……」
私はパソコンに仕込まれていた盗聴器を回収しながら、ポツリと呟いた。
優さんは本当に莫迦だ。頑固だ、呆れるほどに分からず屋だ。
倉成武は生きている。まだ間に合う。私のように姉妹を全部失ったわけじゃない。私のような悲しみは味わうことはない。
どうして、分かってくれないのかな。
さっきまで後悔していたのに。生きているのが分かった途端に、あの様だなんて。
本当に贅沢すぎる。羨ましい、妬ましい。ああ、もうっ……考えがまとまらない!
(こうなったら……倉成武に直接、怒ってもらうしかないよね)
彼がこのLeMUに辿り着けるかどうかは分からない。
だけど、私のやることはただひとつ。数多くの参加者の脱出の手助けだ。
とりあえず、パソコンの拡張機能に今回の暗号について、参加者たちにリークすることに決めた。
私のやることは今までと変わらない、だから。
(覚悟してなよ、優さん……!)
私はもう一度、パソコンに向き直った。
本格的に脱出への策を講じるために。羽入から貰った情報を最大限に引き出すために。
【LeMU 地下二階『ツヴァイト・シュトック』第一研究室/二日目 昼】
【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:ベレッタM1951(8/8)+1】
【状態:健康、強い決意、契約中】
【思考・行動】
1:参加者に暗号文の件を伝達する
【備考】
※鈴凛の契約内容は"参加者が脱出できる最低限の可能性を残す"こと。
ただノートパソコンの機能拡張以外の接触は原則的には禁止されています。
※参加者の能力はD-4 神社の奥に植えられている枯れない桜の力によって制限されています。
【田中優美清春香菜@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、やるせない想い、決意】
【思考・行動】
1:ゲームを遂行する
◇ ◇ ◇ ◇
(つぐみ……)
華奢な身体、もうボロボロになってしまった大切な人を抱える。
どうしてか分からないけど、その顔はとても満ち足りた笑みを浮かべていた。
貴子のように立派な最期だったのだろうか。潔く散っていったのだろうか、そうだとしたら……やっぱり、バカヤロウ、だ。
もっと、生きていてほしかった。
本来、与えられるべきだった17年間の幸福を取り戻させてやりたかった。
「ん……?」
つぐみの手に何かが握られていたことに気づく。
まるで大切な宝物のように抱えられているそれが、俺のPDAだと気づいて、枯れたはずの涙が流れかけた。
こいつは最期の最後まで俺を求めた。それにこの傷を見れば分かる。決して、最後まで諦めなかったことを。頑張ってきたことを。
見たかよ、つぐみ。
俺もやってやったぞ。俺と同じような奴を救ってやることが出来た。
圭一の意志も、お前の意志もここに受け継いだ。それを証明してみせた。ようやく、初めの一歩を成し遂げたぞ。
「先に行ってろ、つぐみ……」
そういえば、つぐみに好きだという言葉を使ったことがなかったっけ。
俺も、つぐみも、互いのことを好きだの、愛してるだの、そういう言葉を相手に伝えることがなかった。
そんなことを確認しなくても、お互いを絶対的に信じてきた。愛してきたから。
捻くれた夫婦だったのかも知れない。素直じゃなかったかも知れない。
なら最後まで、俺たちは互いを信じ合った頃のまま、こうして一時のお別れをしよう。
しばらく逢える予定はない。やることは山積みで、託された使命も想いも盛りだくさん。数十年は待ってもらわないとな。
「また、待たせることになっちまう……悪いな」
冷たくなったつぐみの遺体を抱きしめ、そして智代と協力して掘った穴に埋葬した。
つぐみの手は胸の前で組ませ、手には二つのものを握らせた。俺のPDAと、つぐみのホログラムペンダント。
これが俺から出来る精一杯の手向け。守ってくれてありがとう、と。数え切れないほどの感謝を込めて。
「俺は、まだ死ねない」
そっと、つぐみに別れを告げた。
◇ ◇ ◇ ◇
「これから、どうする?」
「分からない……」
私は武の手伝いをした後は、そのまましゃがみ込んで事の成り行きを見守ることしか出来なかった。
武に問いかけられて、ようやく我に返ったほどの体たらくだ。
今まで復讐だけしか考えられなかった。それ以外のことを考えようとしても、何も出てこなかった。
生きる目的を失った、という表現は大げさだろうか。
復讐を諦めたつもりはない。ハクオロも土永も、この手で殺してやりたいと思う心はまだ燻っている。
「あいつらは……私に、何を望んでるんだろうな」
「……さあなぁ」
朋也も春原も、私がこの選択をしたことをどう思っているんだろうか。
あいつらは私にどうしてほしいと思っているんだろうか。
復讐はやめろ、って言ってくれるだろうか。頭が混乱している私には、その判断すらなかなか付かなかった。
「なんだ、お前の友達ってやつは……お前に人を殺すことを望むようなクズだったのか?」
「っ……み、見くびるなっ!!! 朋也も春原も、そんな奴らじゃないっ!!」
「じゃあ、それでいいじゃねえか」
あっさり、と。
私が悩んでも出せなかった答えを、こんなにも簡単に提示されてしまった。
まるで年長に諭されるような。いや、確かに見た目から言っても僅かに向こうが年長だとは思うが。
「お、まえ……年齢のサバ読んでるんじゃないだろうな……」
「…………こう見えても、年齢上はお前の倍以上だからな」
なにやら意味不明な言葉を呟いて、武はゴロンと横になる。
もう私なんて警戒していないと言わんばかりの無防備さ。私は思わず呆れてしまうが、殺す気なら前からそうしていただろうし。
「た……倉成」
「今度は何だよ?」
「私はまだ許せない。ハクオロも、土永もだ」
武と呼び捨てにするのが、どうしてか躊躇われて苗字で呼んだ。
あの卑劣な奴らを許す気にはなれない。それについても、答えがもらえるかもしれないと思った。
だけど、答えは素っ気無かった。ただ『それでいいんじゃないか』とだけ。
「許してやれとは言えねえよ……お前が、自分で納得できるまで、無理して許さなくていいんだ」
武はデイパックを開くと、いくつかの支給品を私に手渡してきた。
銃の弾と、なにやら情報をまとめた紙。
「なんか、それに詳しいことが書いてるらしいから、目を通しとけよ」
武はそれだけ言うと、ぐったりと横になったまま空を見上げたまま動かなくなった。
少しゆっくりと休みたいらしい。私は言われたとおり、紙を黙読し始める。
太陽は一番上に。じりじりと刺す日差しを身体に浴びながら、この島に来て久しぶりの安らぎを感じていた。
◇ ◇ ◇ ◇
疲れたな。身体中がズキズキ痛む。
周囲には誰もいない。誰かが来る様子もない。ここなら安全だろう。
とにかく今は休養だ。放送まであと30分ってところだろう。それまで、疲れを取ってからホテルに行かないと。
(それにしても……)
元、殺し合いに乗ってしまっていた男と、たった今殺し合いを放棄した女。
周りには俺たちの認識は悪いようにしか見えない。
まあ、それも因果応報であるため何とも言えないが、ただ分かっていることがひとつだけ。
(前途多難、だよなぁ……)
苦笑したそのとき、一陣の風が吹いた。
涼しくて気持ちがよかった。つぐみたちが、俺の背中を押してくれるような、そんな心地よさを感じたまま。
俺の意識は睡魔に呑まれ、そのまま沈んでいくのだった。
【G-6 左上/二日目 昼】
【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
【所持品1:支給品一式x14、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×6と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、
大石のノート、情報を纏めた紙×4、ベネリM3(0/7)、12ゲージショットシェル85発、ゴルフクラブ】
【所持品3:、S&W M37エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭】
【所持品4:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品5:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】
【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)、各種医薬品】
【所持品7:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、
顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【状態:肉体的疲労大、L5緩和、頭から出血(二時間で完治)、脇腹と肩に銃傷、腹部に重度の打撲、智代に蹴られたダメージ、女性ものの服着用】
【思考・行動】
基本方針:仲間と力を合わせ、ゲームを終わらせる
0:放送の時間まで身体を休める
1:智代と共にホテルに向かい、つぐみの仲間と合流する
2:合流後、廃坑南口に向かう
3:美凪や瑞穂たちを心配
4:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
5:L5対策として、必要に応じて日常を演じる
6:ちゃんとした服がほしい
【備考】
※C120の投与とつぐみの説得により、L5は緩和されました。今はキュレイウィルスとC120で完全に押さえ込んでいる状態です。
定期的にアンプルを注射する必要があり、また強いストレスを感じると再び発祥する恐れがあります。キュレイの制限が解けるまでこの危険は付き纏います
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。
※永遠神剣第三位"時詠"は、黒く染まった『求め』の形状になっています。
※千影のデイパックを回収しましたが、未だ詳しく中身は調べていません
※海の家のトロッコについて、知りました。
※ipodに隠されたメッセージについて、知りました。
※武が瑞穂達から聞いた情報は、トロッコとipodについてのみです。
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:IMI デザートイーグル 10/10+1】
【所持品:支給品一式×3、 IMI デザートイーグル の予備マガジン7
サバイバルナイフ、トランシーバー×2、多機能ボイス レコーダー(ラジオ付き)、十徳工具@うたわれるもの、スタンガン、 九十七式自動砲 弾数7/7】
【所持品2:九十七式自動砲の予備弾91発、デザートイーグルの予備弾84発、情報を纏めた紙×2】
【状態:肉体的疲労大、血塗れ、左胸に軽度の打撲、右肩刺し傷(動かすと激しく痛む・応急処置済み)、左耳朶損失、右肩に酷い銃創】
【思考・行動】
基本方針:武と行動を共にする
0:情報をまとめた紙に目を通す
1:自分のこれからの目標を探し、実行する
【備考】
※『声真似』の技能を使えるのが土永さんと断定しました。
※土永さん=古手梨花と勘違いをしています。
※トウカからトゥスクルとハクオロの人となりについてを聞いています。
※ハクオロや土永さんを許したわけではありません。ただ、無闇に殺す気持ちは消失しました。
ホログラムペンダント@Ever17 -the out of infinity-、破壊
それは本当に偶然だった。
佐藤良美の最期を看取った後、我輩はひとまずこれまでの情報を持ち帰るべく帰路に着いていた。
その矢先だった。
銃声。
怒号。
悲鳴。
我輩の後方よりその音が聞こえてきた。
「……我輩にどうしろと」
何者かが襲われているのは間違いは無い。
だから我輩はどうしろと――?
「くそ……っ」
これは様子を見に行くだけ、
そこから先は我輩の出る幕では無い……
そう自分に言い聞かせ我輩は音がした方向に飛んで行った。
そしてほどなく我輩の眼下に広がる光景、
槍を振り上げた少女。
大地に蹲る少女。
槍を持った少女はつい先ほど佐藤良美を殺害した者。
襲われている者は灰色がかった茶髪の少女。この島で初めて見る顔。
我輩の役目は槍の少女についての情報を蟹沢達に伝えることだけ。
我輩は鳥、人間のように道具を使う術は持たない。
鳥風情が武器を持った人間に敵うわけが無い。
――だから見捨てろ。
もう一人の自分がそう語りかける。
鳥であるお前に何ができるのだ。
お前に眼下の少女を救うことができるのか?
できないのならお前にできることはただ一つ、その女の情報を持ち帰れ。
他に目をくれるな。ここでお前が死んだら何のための偵察役だ。
偵察役はいかに多くの情報を味方に伝えること、死ぬことは許されない。
「ふざ……けるなぁ……!」
ここであの少女を見捨てる?
我輩は決めたのではないか。
この傷ついた翼を少しでも役立てようと! だから我輩はあの正義バカの朝倉純一と行動を共にしたのではないか!
罪の意識に怯え何もしないままの卑怯者になるぐらいなら我輩は愚直な莫迦を選ぶッ!
莫迦になれ土永!
武器が持てない? 何を言ってるんだお前は。
武器ならあるぞ。我輩に与えられた、人間が持ちえぬこの両の翼をな!
「風を友とし雲を寝床とす大空の眷属を舐めるなぁッ!」
我輩は翼を広げ槍の少女に向かって急降下して行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※
。
「瑛理子……あんたバカよ……バカバカバカ!」
私は涙で顔をくしゃくしゃにしながらも走り続ける。
安全な所へ、仲間の下へ。
あの傷で瑛理子が助からないのはわかっていた。
だから彼女は私を送り出し、私に希望を託した。
わかってるよそんなこと……でもね……
「あんた頭良いのになぜわからないのよ! 残された私達の気持ちを……!」
いつしか私は川の岸辺まで走ってきていた。
島を南北に分ける川、左手遠くに鉄橋が見える。
圭一は死んでしまったが他の仲間が病院に残っているはず。
私はそう思って南の病院に向かおうとしていたが、その実逆方向の南西方向に進んでいたのだった。
「どうする……橋無しで向こう岸には渡れない、でも橋はあんなに遠く……」
今から鉄橋に向かうとかなりの時間を消費してしまう。
もし、あゆと良美が無事で進路を南に取った場合高確率であの近辺で遭遇する可能性がある。
「私は瑛理子を信じるわ」
命を賭して囮となった瑛理子。
彼女がケリを付けてくれていることを祈りながら、私は鉄橋に足を進めた。
幸いにも私は無事に鉄橋から島の南部へと渡ることができた。
森を貫く廃線路の上を私は歩く。
極度の緊張から若干解放されたのか全身の筋肉が弛緩する。
まだ休むには早い、仲間と合流するまでは緊張を保っていないと。
やわらかな日差しが辺りを包む。
こんな状況で無かったら寝転んでしまいたいほど穏やかな午前の光。
私は線路を外れ東に向かって歩みを進める。
そこで私は見てしまった。
木々が多い繁る森の開けた場所、その中央に横たわるもの。
鮮血で真っ赤に染まった巫女服を身に纏い、
大地を紅く染めているそれ――
「う……そでしょ……?」
信じられない、目の前の光景が信じられなかった。
私達の前に何度も立ちふさがり、その謀略をもって数々の人間を欺いてきた悪魔、
佐藤良美の無残な死体が転がっていた。
「なんで……」
彼女の腕、肩、脚、胴体。
顔以外のありとあらゆる所をメッタ刺しにされて良美は絶命していた。
彼女の真っ赤に染まったお腹からは何本もの細長い物体が飛び出している。
ああ、そういえば魚を捌いた時こんな物が出てくるよね。
濃厚な血の臭い、内臓の臭い。
それらが混じり合った死臭が鼻に突き……
「う、ぐ……ぉぇ……」
私は胃の内容物を全て吐き出してしまった。
「はぁっ……はぁ……」
胃液ばかりの吐瀉物が地面を汚す。
口の中いっぱいに広がる酸っぱい胃液の味。
情けない……私は双葉探偵事務所の美人助手だというのに……
私はむかつく胸を押さえ、肉の塊と化した佐藤良美の身体に触れる。
……まだ温かい、ということはまだ死んでそれほど時間が経っていないということ。
誰が彼女を殺害したか? おそらくここにはいないもう一人の人物。
月宮あゆ。
その名前を呼んで私は気がつく、良美の死体の衝撃に忘れていたもう一つの事実。
『此処であゆを倒す――それが私の役目。手負いの私に出来る、最後の役目』
瑛理子の賭けは実らなかった。
その事実を突き付けられ私の目に涙が溢れる。
「なによ……あんだけ啖呵切っといて……それでこれなら、あんた何のために死んだのよ……だから一緒に逃げようと行ったのに」
違う、瑛理子は勝った。
瑛理子の目的は私を逃がすこと、
私がこうして無事でいることが彼女の勝利の印。
だから泣いては駄目、瑛理子の死を無駄にしないためにも。
私は立ち上がり、死体の側に放置されたデイパックの中身を探る。
相手が相手とはいえ、死人の持ち物を漁るのは気持ちの良いものでは無いがそうも言ってられない。
まずは武器になりそうな物を――彼女の荷物には一振りの刀と二挺の拳銃が収められていた。
「何よ……ほとんど弾入ってないじゃない」
二挺の内、一挺は八発装填式のリボルバー。しかしその弾は弾倉に収められておらず、予備弾は三発しか残っていなかった。
もう一つは五発装填式のリボルバー。弾倉には全て弾が入っていたが予備弾は無かった。
さらにディパックを探ると予備弾が出てきたがどちらの銃にも使えない物だった。
結局私は刀と五発装填のリボルバー銃だけを持っていくことにした。
あとは……熊の着ぐるみのような物があったが特に役に立ちそうも無いので置いておくことにした。
「これでよし……と」
私は良美の方へ身体を向ける。
見下ろした私の視線の先に目を見開いたまま絶命している良美の顔を見る。
数多の人間を欺き利用してきた女。
結局彼女もまた自分を利用する者に殺されその最期を遂げた。
私は彼女の見開かれた目を閉じてやる。
「私は絶対に生き延びてやるわ……あなたとは逆の方法でね」
私は彼女にそう言い残し、その場を立ち去った。
※ ※ ※ ※ ※ ※
。
木漏れ日が差し込む森の中を私は歩いている。
落ち葉と土の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
ふう、と息を付く。
私の頭から良美のことが放れない。
頑なまでに仲間を信じて協力するという行為を拒否し、憎悪してきた彼女。
結局最後までその理由はわからなかった。
彼女は今際の際に何を想ったのか、ひたすら世界を呪いつつ逝ったのか。
自分がやってきた行いをやり返されたことが世界の摂理だと歓喜に打ち震え逝ったのか。
今の私には知る由も無かった。
ふいに空気が変わったような気がした。
どこが、と尋ねられても答えようがないがとにかく場の空気が一変したように感じられた。
もちろん私に不思議な力が宿っているわけでも無い、私はいたって普通の探偵事務所の美人助手。
そんな一般人である私でも肌で感じる空気。
怖気。
ざあっと静かな森を吹き抜ける凶つ風。
それは幽鬼のように私の眼前にたたずむ赤い影。
その身に返り血を浴びて真っ赤に染まった人間。
幼い少女の姿をした死神が立っていた。
「月宮……あゆ」
やはり彼女は生きていた。
片手に一振りの槍を携え、宙を見つめている少女。
初めて会った時のようなアールグレイの紅茶のように澄んだ紅い瞳はもはやそこに無く、
ドス黒く濁った血のように赤い虚ろな瞳。
その双眸が私の姿を捉える。
「ああ……沙羅さんじゃないか」
まるで久しぶりに出会った友人のように語り掛けるあゆ。
いつでも撃てるように私はデイパックの中の拳銃を握り締める。
「あんた……生きてたの……?」
「うん、ボクはこのとおりピンピンしてるよ。とは言ってもさすがにあの時は危なかったけどね」
「瑛理子は……どうしたのよ」
「決まってるじゃないかそんなこと、ボクが殺した。その胸を貫いて、その喉を貫いて。その時の瑛理子さんの表情知ってるかな?」
「し、知ってるわけないでしょ!」
「絶望」
彼女は心底可笑しそうに、愉悦を交えた口調でその二文字を言った。
「命を賭けた瑛理子さんの策、切り札は見事に失敗しちゃった。瑛理子さんにもう少しだけ運があったら、ボクがもう少しだけ運が無かったら決まっていた切り札
くすくすと唇を歪め哂う死神。
気圧されるな、私。
気をしっかり持て。
「ボクは『力』を手に入れた。『力』が無くて他人を利用することしか出来なかった人の末路を知ってるかな」
「佐藤……良美……」
「見ちゃったんだ。哀れな人だよね良美さんは。いきなり暴れだしたんで殺しちゃったよ。でもね、殺して正解だよ
あの人の言葉は人の心を縛る。いくら聞く耳を持たなくても言葉を耳にしたらそれは作用する、まるで魔法使いの言葉だよ。
ありがたくも良美さんは最期にボクに呪いをかけた。さすがだよ良美さんは……死んでもボクを苛立たせる
だから証明する。ボクはボクの意志でここにいる! 口先の魔術で人を惑わすしか能の無い良美さんとボクは違う!」
その刹那、あゆの殺気が膨れ上がった。
槍を構え一気に私に距離を詰める。
駄目、この距離では銃よりもあゆの一撃のほうが早い!
あゆが跳び大上段から槍を振り下ろす。
私は咄嗟にさっき手に入れた刀を構えて一撃を受け止める。
ガキィンと金属と金属がぶつかり合う音が響き火花を散らす。
「くぅ……!」
「苦しそうだね沙羅さん、じゃあボクが楽にしてあげるよ!」
「バカねあゆ、槍を使ってるくせにここまで距離を詰めてどうするつもりよ!」
私は鍔迫り合いをしているあゆの腹目掛けて渾身の蹴りを放つ。
「ぐぅ……!」
リーチの長い槍を使っているあゆは防御も回避も出来ずまともに私の蹴りを喰らい吹き飛ぶ。
やはりあゆは槍の扱いについては殆ど素人同然。
すぐさま私は武器を銃に持ち替え立ち上がろうとするあゆに狙いを定める。
相手はもはや人間じゃない。此方にいながら彼方へ行ってしまった者。彼岸の住人。
引き金を引こうとした瞬間、あゆの周囲に光の粒子が渦巻くのが見えた。
あれは何?
そんなこと気にするな目の前の目標を狙え!
この距離で外すものか!
森に一発の銃声が轟いた。
「なんで……?」
探偵事務所の助手をやっている私はそれなりに銃器の扱いを心得ている。
狙うは被弾面積の一番多い胴体。
そこを狙ったはずだった。
「外した……!? 違う、避けられた!?」
銃の射線を見切って避けたとでもいうの!?
そんな反射神経人間が持ちえるわけが――
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あゆが跳んだ。
先ほどよりも段違いのスピードで私に向かって突進してくる。
さらに銃弾を放つが超反応で回避される。
今度は横薙ぎの一撃。
初撃とは比べ物にならないほどの速さ。
回避は間に合わない!
私は刀で防御しようとした。
「なっ……きゃあああああああああ!!!」
段違いなのはスピードだけではなかった。そのパワー、重さは桁外れの威力。
素人に毛が生えた程度の私が受け止められるレベルを遥かに超えていた。
刀は弾き飛ばされ私の身体は宙に舞い、そのまま横に吹き飛び大木に叩きつけられる。
口の中一杯に鉄の味が広がる。
私は身を起こそうとするが……
。
「くぁ……」
激痛が脇腹を刺す。
まずい……これは肋骨にヒビが入ってる。下手すると折れてるかも。
そんなことはどうでもいい、私は刀を探す。
刀は幸いにも私のすぐそばの地面に突き刺さっていた。
私は地面を這うようにそれを拾い上げようとするが――
「ひっ……」
喉元に突きつけられる冷たい金属の感触。
見上げたそこには哂う死神の姿。
「見た? 沙羅さん、これがボクの『力』だよ」
「それは……永遠神剣……! でもなんであゆが――」
「コレを扱えるかって? さあねボクも知らないよ。使えるものは使えるんだからしょうがないよ。
ボクはドラマみたいにぐだぐだ喋って殺す相手に隙をあげるつもりは無いよ。だから――」
バイバイ――
あゆが槍を振り上げる。
私にはそれがスローモーションのようにゆっくり見えた。
(ごめん……恋太郎……双樹)
私は目を閉じ、訪れる死を待った。
「ぬぅぅぅぅおぉぉぉるぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
。
声がした。
野太い男の声。
小さな緑色の影が高速であゆに迫る。
「―――――!!!」
それはまともにあゆの脇腹に激突し、あゆはもんどりうって吹き飛ぶ。
「こっちだ娘よ!」
私はその声に導かれ刀を拾い駆ける。
今やるべきことは唯一つ、出来るだけ遠くに、あゆの下から逃げ出すこと。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「よし……この辺でいいだろう、だが追いつかれるのも時間の問題か……」
ある程度あゆから距離を離した私の頭上で声がした。
そしてそれは翼を羽ばたかせ私の前に舞い降りた。
「なっ鳥……? インコ……?」
「インコではないオウムだ」
何がなんだかわからない。
私を助けてくれたのは鳥……人の言葉を理解して……首輪もついている。
これも参加者だというの???
「娘、名は?」
「え、あ……? 白鐘沙羅」
「祈には敵わんが良い名だ。我輩の名は土永、近しい物からは『土永さん』と呼ばれている」
「は、はあ……」
「詳しい説明をしている暇は無い。沙羅、西へ向かえ」
西へ向かえ。
彼は言った。でも西に何があるというの?
「西には我輩達の仲間、蟹沢きぬと朝倉純一がいるそこへ行け」
初めて聞く名前、それが彼の仲間……?
その人達は私と同じ目的を持っているの!?
「決して振り返らずにまっすぐ行け、我輩もすぐに後を追う」
。
「後を追う……って、あんたどうする気なの」
「少し、あの娘の相手をしてやる。お前が逃げるまでの時間稼ぎをしてやる」
「はあ!? あんた何いってんの! あんた鳥でしょ武器も持てないのにどうするつもりよ!」
いくら空が飛べて人並みの知能があるか知らないけど、所詮は鳥。
武器を持った人間に敵うわけがない。
だが彼は私の心配をよそに自身に満ち溢れた声で言った。
「我輩を舐めて貰っては困るな。我らを何と心得る。我らは鳥類、一億年もの昔大空を舞い、大地を闊歩しこの星を支配した暴君の末裔ぞ。
我らが祖の陰に怯えて生きるしかなかった哺乳類、しかもたかが数万年の歴史しか持たぬヒトに我輩が遅れを取るとでも?」
彼は自身たっぷりに言い切った。
それは翼を持ってこの大空を舞う鳥としての誇り。
人間には図り知ることのできない想い。
「……危なくなったら逃げなさい。わかったわね!」
「言うに及ばず」
私が駆け出そうとした時、ふいに声がした。声の主はもちろん土永さん。
「少し……話を聞いてくれ」
「そんな事してる暇なんてあるの? ……もしかして愛の告白?」
「我輩が人間の雌に欲情するものか。まあ告白であることは変わりはないがな」
土永さんが語った話。それは彼が犯してしまった罪の告白。
彼はこの島で生き延びるために多くの人間を惑わし、間接的に死に至らしめてきたこと。
一人の少女を復讐鬼と変えてしまったこと。
そして彼の罪を受け入れてくれた少年の話。
「何で…そんな事を今更……。あんたがそそのかした坂上智代のせいで……間接的にだけど瑛理子は……私の仲間は死んだ」
「今更赦してもらおうなんて思っていない……だが……」
「ここであんたを責めた所でどうにもならないことぐらいわかってる……だから待ってる。
朝倉純一と一緒に待ってる。そこで山ほどあんたの謝罪の言葉を聞いてあげるわ。殴って欲しいのならいくらでも引っ叩いてあげる。
だから絶対生きて戻ってくるのよ。約束よ! 破ったら承知しないから!」
「すまない……」
「生きて罪を償うのよ!」
私はそう言って走り出す。
まだこの島で懸命に足掻いている仲間達がいる。
命を呈して私を逃がしてくれた瑛理子に報いるためにも、
複雑な想いはあるけど危険を顧みず殿を引き受けてくれた土永さんのためにも、
私は絶対に生き延びなければならない。
だから――希望に向かって走れ白鐘沙羅!
【E-6/二日目 午前】
【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備: ワルサー P99 (15/16)】
【所持品1:フロッピーディスク二枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン5 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本】
【所持品2:支給品一式×2、ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭、空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE、往人の人形】
【所持品3:『バトル・ロワイアル』という題名の本、エスペリアの首輪、映画館にあったメモ、家庭用工具セット、情報を纏めた紙×12、ロープ】
【所持品4:爆弾作成方法を載せたメモ、肥料、缶(中身はガソリン)、信管】
【所持品5:地獄蝶々@つよきす、S&W M36(5/5)】
【状態:疲労大・肋骨にひび・強い決意・若干の血の汚れ・両腕に軽い捻挫】
【思考・行動】
基本行動方針:一人でも多くの人間が助かるように行動する
0:純一達と合流する
1:土永さんに複雑な想い
2:状況が落ち着いたら、爆弾を作成する
3:状況が落ち着いたら、フロッピーディスクをもう一度調べる
4:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
5:情報端末を探す。
6:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護。
7:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす
【備考】
※国崎最高ボタンについて、何か秘密があるのでは無いかと考えています。
※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
※紙に書かれた事以外にも情報があるかもしれません。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。
※図書館のパソコンにある動画ファイルは不定期配信されます。現在、『開催!!.avi』と『第三視点からの報告』が存在します。
※肥料、ガソリン、信管を組み合わせる事で、爆弾が作れます(威力の程度は、後続の書き手さん任せ)。
※月宮あゆ、坂上智代が殺し合いに乗っている事を知りました。
※坂上智代マーダー化の原因が土永さんにあることを知りました。
※沙羅が持っていった良美の荷物は地獄蝶々とS&W M36だけです。他の荷物は良美の死体の側に放置しています。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて、そろそろ来る頃合か……」
我輩は木の枝に止まり、辺りの様子を探る。
凄まじい殺気が森を覆いつくす。
狩りの邪魔をされた獣の怒り。
ただの人間には感じ取ることは出来ないだろうが我輩は鳥、動物として本能がその気配を捉える。
ただの鳥ならばこの殺気を感じただけで逃げ出してしまうだろう。
鳥としての本能が訴える恐怖なんぞ我が理性が消し去ってくれよう。
我輩はただの鳥に非ず。ただのオウムに非ず。
「我は――土永なり」
そして我輩は獣の前に舞い降りた。
「残念だがこの先は通行止めだ。ここから先は貴様のような下郎が進むべき場所じゃない。わかったらさっさと帰れ」
我輩は娘と対峙する。
圧倒的な殺気、翼が震える。
白鐘沙羅はこんなモノと戦っていたのか。
いや鈍感な人間だからこそ戦えるのだろう。
「誰がボクの邪魔をしたと想っていたら……あはははは! こんなモノがボクの邪魔を!」
娘は哂う、けたけたと腹を抱えて哂う。
「そうだこんなモノに貴様は邪魔をされたのだ。ふはははははは」
「あははははは!」
「ふははははは!」
「あっはははははは!」
「ふはははははは!」
「あははははは……この鳥風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
娘は槍を我輩に向かって振り下ろす。
なるほど……なかなか良い速さだ。
だがしかし、ヒト以上の反射速度を持つ我輩に避けきれぬ速さではない。
我輩は翼を広げ空を舞う。
その横を槍が通り抜ける。
「たかが鳥、されど鳥……我輩に翼があることを知らないのか?」
我輩は槍の届かない高さまで羽ばたき彼女の上空を旋回する。
仮に銃を持っていたとしても常に移動する目標に正確に当てることは難しい。
こうしていれば沙羅が逃げるまでの時間を稼ぐのは容易だ。
だがそれだけでは駄目だ。
この娘は危険すぎる。少しでも手傷を負わせなければ。
我輩が狙うのは彼女の眼、その一点にこの嘴を突き立て喰らう。
我輩は勢いを付けるためさらに高く上がる。
森の木々よりも高く我輩は昇る。
眼下に広がる深緑の森、青い空、青い海。
その美しい光景を一望した後、我輩は翼を広げ一気に急降下した。
この速さにヒトは反応できまい!
我輩は見た。
右手に槍を持った娘の姿。
娘を包む淡い光。
左手に構えられた銃を――
「が、ぁぁぁッ……!」
左翼に広がる凄まじい痛み。娘の放った銃弾は片翼を貫いていた。
駄目だ体勢が維持できない……!
我輩はそのまま地面に落下した。
「ぬぐぅ……たかが小娘如きに……」
翼を動かそうとするが激痛に邪魔をされてまともに動かせない。
「まさか鳥相手にこの力を使うことになるなんてね……」
力――? あの娘は何をした……
「これがボクが手に入れた『力』だよ」
娘は槍を掲げ高らかに声を上げる。
それは勝利の雄叫び。
敗北者には死をもたらす死神の姿。
死が鎌首をもたげ我輩に迫る。
「哀れな姿……飛べない鳥に意味があるのかなあ」
この娘は何を言っている。
我輩は一言も飛べなくなったとは言ってはいないぞ。
たかが片翼に穴が開いただけではないか――
「ふ、ふははははははッ!!!」
「何が可笑しいのっ」
「これが笑わずにいられるか人間! 片方の翼に穴を開けたぐらいで何をいい気になっている!」
「何……」
「貴様は知らんのか? 片翼を失ってもなお飛び続け、無事に帰還した『鷲』の名を冠した翼をなあ! ヒトの造りし翼に出来て、我輩に出来ぬはずが無い!」
まだ翼は動く。動く限り我輩は空を目指せる。
左の翼がもげそうになる痛みをこらえ必死に翼を羽ばたかせる。
「ぐぉ……」
普段の我輩にとって翼を動かし空を飛ぶことは当たり前の行為。
ヒトが手足を動かすことと同じ。
それが今や耐え難い苦痛となって我が身を襲う。
ふわりと身体が浮いた。
飛べた! 我輩はまだ飛べる!
さあもっと高く! 高く飛べ! 高く空へ!
そして我輩は一気に降下する。
もっと速く、さらに速く! 風よりも速く!
「馬鹿な鳥……」
「地べたを這いつくばる人間には解るまい……! 空を手にした者の誇りをなぁッ!!!」
娘が銃を構える。
祈――我輩に力を――
※ ※ ※ ※ ※ ※
一発の銃声が再び森に木霊した。
銃を構えた少女、その足元に転がる両の翼を撃ち抜かれた一匹のオウム。
あゆは無言で、土の上に倒れ付す土永さんに銃を向ける。
さら乾いた銃声が二つ、土永さんの両の翼に穴が穿たれる。
「くっ、ふふふふふ。怖いか? 我輩が再び空を舞うことがそんなに怖いか」
「うるさい……」
「安心しろ人間、我輩は二度と飛べぬわ」
あゆは不機嫌だった。
オウム如きに神剣の力を使ってしまったこと、そして何よりも。
「どうして見ず知らずの人間を……沙羅さんを助けたの……!」
「仲間だからだ……と言ったらどうする?」
「ふざけるなぁッ!」
あゆはさらに土永さんの翼に銃を撃ち込んだ。
衝撃で土永さんの小さな身体がビクンと跳ねる。
「鳥ごときにまでが仲間仲間仲間仲間!!! 下らないよッそんな言葉!」
「ぐふっ……じゃあ言い方を変えてやろう……あの娘が貴様に襲われていた。それだけだ」
「それだけのために……そんなちっぽけな正義のために……ッ。どうしてこの島のルールを理解しない理解しようともしない!
どうしてどうしてッ! 奪う側か奪われる側、それがこの世界の現実、だからボクは奪う側に回った! なぜみんなその現実から目を背けるの!」
あゆは感情を爆発させ一方的にまくしたてる。
土永さんはあゆを冷ややかな目線で見上げていた。
「哀れだな……人間。万物の霊長と自負する者が出した結論がそれか、変わらんなこれでは」
「何が変わらない……!」
「世界の定めた摂理に従い自らが生き残るために他者を喰らう……まるで獣と変わらんな」
「黙れ……」
「何より滑稽なのが仲間を守るという鳥風情でも理解できる感情が人間の貴様に解らんとはな……これを滑稽と言わず何と言う? ふ、ふはは、ふははは――」
ごりっと、肉と骨が砕かれる嫌な音がした。
あゆの手にした槍の穂先が土永さんの胴体に深く食い込む。
血塗られた魔槍を何度も何度も何度もその身に突き刺す。
虹色の羽根が辺りに舞い散った。
「黙っててと言ってるでしょ……次喋ったら焼き鳥に――ああ、もう死んじゃったか」
あゆは穂先に突き刺さってる土永さんだった物を引き抜き、無造作に放り投げた。
「なに鳥ごときにムキになってるんだろボク……バカバカしい……」
気にすることはない、所詮は畜生の戯言。
ボクはボクの信じた道を進めばいいだけ。
「はあ……沙羅さんに逃げられたのは痛かったなあ……ボクのことを他の人に喋られちゃうよ」
まあいいや、とあゆは大きく深呼吸をした。
良美さんとは違って誰かを利用して姑息に生き延びる弱い人間じゃない。
皆殺し。
それが力を得たボクの簡単な生き残るための方法。
【土永さん@つよきす−Mighty Heart− 死亡】
【E-6/二日目 朝】
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"献身"、背中と腕がボロボロで血まみれの服】
【所持品:支給品一式x3、コルトM1917の予備弾25、コルトM1917(残り2/6発)、情報を纏めた紙×2、トカレフTT33 0/8+1、ライター】
【状態:服と槍に返り血、魔力消費中程度、肉体的疲労中程度、ディーと契約、満腹、首に痣、背中に浅い切り傷、明確な殺意、生への異常な渇望、眠気は皆無】
【思考・行動】
行動方針:全ての参加者を皆殺しにして生き残る
0:死にたくない
1:生き残るため皆殺し
2:可能ならば工場に行く(北上)
【備考】
※契約によって傷は完治。 契約内容はディーの下にたどり着くこと。
※悲劇のきっかけが佐藤良美だと思い込んでいます
※契約によって、あゆが工場にたどり着いた場合、何らかの力が手に入る。
(アブ・カムゥと考えていますが、変えていただいてかまいません)
※ディーとの契約について
契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死)
※あゆの付けていた時計(自動巻き、十時を刻んだまま停止中)はトロッコの側に落ちています。
※次の目的地は他の書き手さんに任せます。
川澄舞は病院を目指して山の中を歩いていた。
先の戦闘で、戦果を挙げる代償として奪われた右目の治療をするためにだ。
(失敗した……)
山の中、道ならぬ道を歩きながら痛む右目を押さえて己の失敗を叱責する。
最強の武器、キャリバーで致命傷を負わせたと思っていた相手に手痛い反撃を受けてしまった。
窮鼠猫をかむという諺があるが、今回の戦いはそのとおりの結末になってしまった。
右目、すなわち視界の半分を奪われてしまったということだ。
単純な戦闘力は半分程度に落ちてしまったと言っても過言ではない。
万全を期すならもう一度キャリバーか永遠神剣を使えばよかったのだが、あれは極力温存したかったのだ。
キャリバーは言うまでもなく残った弾数の問題、そして永遠神剣は自身の体調の問題である。
先ほど永遠神剣の力を発揮したとき、体の中の何かが吸われていくような感覚はすでに舞も経験済みだ。
その何かの正体は分からないが、生命、あるいは精神的なエネルギー、どちらにせよ内に秘められた命の力のようなものだと舞にも推測はついている。
強すぎる力の代償、何一つ捨てることなく強力な力を得られるほど世の中は甘くないのだ。
だが、その消費を惜しんだことで致命的な負傷をしてしまったのだから洒落にもならない。
あと19人、放送時は20人だったが、一人殺したことにより自分を除いてあと19人もの標的が残っている。
全員を自らの手で殺すつもりではないが、今の舞には19人という数字が重くのしかかっていた。
(これじゃあ……佐祐理を助けられない)
ふらつきながら歩く最中も、考えるのはかけがえのない親友倉田佐祐理のこと。
たった一人の無二の親友、倉田佐祐理。
闇の中にとらわれていた川澄舞に光を与えてくれた少女。
相沢祐一が現れてから彼女を取り巻く周囲の環境は少し変わったけれど、佐祐理との友情は変わらないまま。
川澄舞は倉田佐祐理が大好きで、倉田佐祐理は川澄舞が大好きだった。
生きているとはいえ今も捕らわれたままの彼女の身を案じる。
助けなくては、救い出さなければ。
一縷の望みにすがって、忌むべきこの殺し合いを開催した鷹野の言葉を盲目に信じて、川澄舞は戦い続ける。
何故佐祐理だけ生かしたまま主催者に捕らわれているか、その疑問は常時舞の頭の中を駆け巡っていた。
しかし、舞はそれ以上考えることはしなかった。
助かる可能性が1%でも残されているならその可能性に全てを賭けるだけ。
それに、考えれば考えるほど悪い予感しか浮かんでこないから。
(あれは……)
舞の視界に映るのはかつて自分が足を踏み入れた段々畑を移動する総勢四人の大所帯。
構成は男が二人、女が二人。
強く握り締めていたニューナンブにジワリと汗が滲むを感じる。
向こうの集団は川澄舞の存在に気づいておらず、西へ西へと向かっている。
ここで舞の頭の中に一つの葛藤が生まれた。
即ち、襲撃するか否か。
冷静に考えれば襲撃はすべきではない。
無茶と無謀はまったくの別物。
無茶をする覚悟はあるが、無謀な突貫は好ましくはない。
――いや、ここで襲撃するのは無謀ではなく無茶の範疇。
無茶の一つや二つ乗り越えてみせなくてどうやって大事な人を助けるつもりか。
さっきは半ば反則に近い行為で動きを止められただけで、現実的に考えればあんなに強力な武器はいくつもないはず。
自身の怪我を省みるべきだ。
――いや、怪我はしているが、病院に行けば目が見えるようなるという訳でもない。
治らぬ傷のことを気にかける必要がどこにあろうか。
それに川澄舞の肉体と魂はすべて倉田佐祐理へ捧げられた。
目の痛みと視界のブレなど道端の小石を避けるか避けないかという程度の些細な問題。
痛みなら気づかないフリをすればいい。
視界のブレなど、川澄舞の視界は生まれたときからブレている、そう思い込んでしまえ。
究極的に言えば、倉田佐祐理の体さえ五体満足ならば、川澄舞の肉体などどうなってもいいのだ。
人数が違いすぎる。
――いや、人数の問題なら川澄舞は戦力比を覆す兵器を二つも持ってる。
そして仲間を作って集団で行動するような輩が撤退しようとする自分を積極的に追撃するような行為は考えにくい。
基本的にヒットアンドウェイでやっていけば、そこまで危険な行為ではないはず。
確かにその二つの強力な武器を持っているが、それを以ってしてもやはり人数の比は大きい。
――いや、自身の怪我と所持している武器の冷静に分析した結果、一度に何人の相手ができるかのラインを見定めている。
4人、それ以上の人数は奇跡の類でも起こらない限り勝つのは不可能。
そして件の集団も都合がいいことに四人。
ここで逃せば、別の徒党を組んでいる連中と合流して更に人数が膨れ上がってしまう可能性がある。
そうすれば単独で行動をしている自身にはもう手の出しようがない。
次に出会った時、この集団の人数が倍になっていない保証はないのだ。
一つ一つ襲撃する上でのデメリットを論破していき、ついに舞は襲撃を決意した。
半ば願望の交じり合った都合のいい論理だが関係ない。
ここで四人減らすことができれば一気に佐祐理との距離が縮まる。
上手く全員殺せば、残った五分の一の人数が消え失せることになるのだ。
佐祐理の笑顔がもう一度見られる、そう考えただけ舞の体に力が漲ってくるような気がする。
己を奮い立たせることに成功した舞のとるべき行動はもはや一つ。
戦場で死を撒き散らす暴風となることだけだ。
(もう少し、もう少しだから……待ってて、佐祐理)
かけがえのない親友の顔を思い浮かべ、舞は絶好の襲撃ポイントで待ち受けるべく西の方向へ先回りすることにした。
牢獄の剣士がこれから襲い掛かる集団は未だ舞の存在に気付くことなく平和を保っている。
◇ ◇ ◇ ◇
「ハクオロ、ちょっといいかい?」
前を歩いていたハクオロに、大空寺あゆは後ろから歩いてくる朝倉純一と蟹沢きぬに気付かれないように声をかけた。
朝倉純一と蟹沢きぬが同行することが決定したあと、一行は簡単な情報交換と武器の配分を行うために段々畑で休憩も兼ねて座っていたのだ。
そして滞りなく全ての準備を整えたあと、再び深い山の中へと繰り出した。
今は再び山の中に入って五分程度、道ならぬ道に苦戦しながらも敵の襲撃もないまま平穏な道のりを歩いているところだ。
そんな折、機を見つけてあゆはかねてからハクオロに聞きたかったことを聞くことにしたのである。
ハクオロはあゆの方へ振り返らず、前を見ながら前進しつつ応えた。
「なんだ?」
「……その傷薬は本当に効いてんのかい?」
「……心配してくれるのか?」
「あ? 脳みそに蛆でも湧いたか? でないとそんなおめでたい解釈できそうにないわね」
右手で転がすように持っていた傷薬を見ながらハクオロは苦笑する。
短い付き合いとはいえ、大空寺あゆの口から発せられる遠慮ない罵倒にももう慣れてきていた。
これがあゆの普段の口調であって、口汚い修飾語を取り除いていけば彼女の言いたいことも大体は察することができる。
むしろ、こうも語彙が尽きずに次から次へと罵倒が出てくることに感心すらしてた。
「まぁ効果は私の体が保証する。 エルルゥの傷薬に助けられたことは一度や二度じゃないからな」
朝倉純一が持っていた傷薬は偶然にも記憶を失って目覚めてから家族同然に過ごしてきたエルルゥの物だ。
もう会えない存在、そのエルルゥが今もこうして自身を守ってくれている。
加えて蟹沢きぬは自身の愛用してた武器である鉄扇も所持していたのでありがたく頂戴したのだ。
もうエルルゥもアルルゥもオボロもカルラもトウカもいない。
なのに、ここにきて在りし日を思い出させる道具に出会ったことにハクオロは郷愁にも似た感情を抱いていた。
「それで?」
「それでって何が?」
「本当に聞きたいのはそんなことじゃないだろう?」
胸の内に抱いていた感情はひとまず置いといて、ハクオロは声を一段低くして鋭い口調で大空寺あゆの心の内側に切り込んだ。
くだらない会話は大空寺あゆの最も嫌いとするところ。
その彼女がこうやって意味のない会話を振ってくるからには何か訳アリだろうとハクオロは踏んでいた。
どうやらその推測は当たりのようで、ハクオロは背中越しにではあるが、あゆが明らかな動揺を見せたのをはっきりと感じていた。
「……さすがに今のは気付くか」
「ああ、話の振り方も誤魔化し方も下手だったな」
「私も焼きが回ったもんだね。 ハクオロごときにこんなに簡単に悟られるとは」
「それで、実際は何が聞きたかったんだ?」
「一ノ瀬と朝倉のこと」
あゆが少し後方からついてくる朝倉純一と蟹沢きぬを指差す。
固まっていては強力な武器で一網打尽にされる危険がある。
だからある程度距離を離して二人ずつで移動をしているのだ。
多分会話を聞き取られることはないだろうが、それでも念のため音量は下げている。
あゆはさらに神妙な面持ちで続けた。
「もし本当に一ノ瀬の糞虫と会えたとしたら……どうするよ?」
「……」
「私が一ノ瀬を殺そうとして、朝倉が止めに入ったら……アンタはどっちにつくんだい?」
「……」
「先に言っておくけど、あたしは止まるつもりはない」
強い口調で迷いなく言うあゆの表情を彩るのは憎しみの色。
甘い人間、その代表格にも挙げることができるであろう時雨亜沙を殺した憎き仇、一ノ瀬ことみ。
人のいい人間を騙して、背後から襲い掛かるような輩にかける慈悲など一粒の砂ほどもない。
あの人物を殺すためなら、例えその過程でもう一人の甘い人物、朝倉純一と対立しようが構わなかった。
「確かにこのまま一ノ瀬と会えば、お前と純一は一ノ瀬の処遇を巡って対立する可能性があるだろうな」
「……」
「純一はあの性格というか、曲げれない信条、理念があるだろうし、お前にも譲れないものがある。
真っ向から対立する二つの主張を無理に束ねようとしても空中で分解するのは目に見えている」
「そこまで分かってるなら……分かってんだろうね。 あたしは最悪、アンタらから離れて行動させてもらうよ」
「ああ、分かっている」
「それともう一つ、朝倉と蟹沢のこと」
「何だ?」
「あたしには気になることが一つあるんだけどね」
首を傾げ、しばし考え込むような仕草を見せるハクオロ。
「まぁ……大方の予想はつくが、言ってみろ」
「アンタは蟹沢がいるかぎり朝倉は大丈夫だって言ってたろ?」
「……やはりその話か」
「あたしは逆だと思うんだけど」
「それは蟹沢が死ぬと純一が危ないということ……ん? 全員伏せろ!」
先頭を歩いていたハクオロが全員に向かって叫ぶが、ハクオロの指示通りに反応できた者は一人としていなかった。
天が割れんばかりの轟音が響き、弾丸の嵐が同時にハクオロたちの周辺の植物を根こそぎ蹂躙していく。
特に重点的に被害を受けた一本の木がメキメキと悲鳴を上げながら倒れていった。
訓練を受けた兵士ならともかく、平和な国に住んでいた朝倉純一や蟹沢きぬが警告に従って即座に反応できる可能性は低い。
だから今の隙は致命的。
誰か一人とは言わず、状況を把握して瞬時にその場に伏せたハクオロ以外は全てその餌食となっていたかもしれないのだ。
しかし、運が良かったのか誰一人かすり傷負うことなくすんでいた。
「散開!」
誰一人怪我をしなかった運のよさを天に感謝しながら、ハクオロの一軍の指揮官としての本能が次なる指示を無意識に口からすべらせる。
あゆも純一もきぬも今起こった状況の認識に頭を働かせることが精一杯。
だが、ここにきてようやく頭が追いついてきたのか各々が木陰などの障害物に身を隠した。
しかし、その行動は気休めにもならないだろう。
それだけの威力を持った超兵器を襲撃者は持っているのだから。
亡骸と化して倒れた一本の木がハクオロたちの行動の無意味さを説くように無残な姿を晒している。
「なんだありゃ?」
問答無用で攻撃しようとした無礼で無粋な襲撃者の顔を見てやろうときぬが木陰から様子を伺うと、そこには信じがたい物体を構えた少女がいた。
山の中で若干日光が阻害されているため見えづらいが、西の方向、つまり自分たちの進行方向に立ちふさがるように鉄塊と形容するに相応しき兵器が鎮座している。
冷たい瞳を覗かせる少女は川澄舞、そしてその手に携えしは無数の弾丸を吐き出す最悪の兵器、ブラウニング M2 “キャリバー.50”。
傍目から見てもあれはかなりの重量、威力を持っていること、そして今のきぬたちの装備では到底太刀打ちできないことが理解できた。
ハクオロたちも一応銃器を所持してはいるが、あれを前にしてはそこら辺の銃など豆鉄砲と称されても仕方がない。
「逃げるぞ!」
状況の悪さを把握したハクオロが撤退の選択肢を選ぶ。
全員が示し合わせたようにもと来た道へと逃げ出した。
朝倉純一の信念は殺し合いに乗った人間を止め、殺し合いと憎しみの連鎖を止めること。
しかし、あの少女を前にしてはそんな選択肢は即座に吹っ飛んだ。
片目を失い、制服が血に塗れたその姿はまさに修羅と呼ぶに相応しい。
年齢は純一とそう変わらないだろうが、人間を捨てた、そう表現しても差し支えないほどの威圧感を少女は放っている。
あれは間違いなく人を数人殺している証拠に違いないと純一は考えていた。
それでも、それだけなら純一にも譲れない思いがあるため無謀とも言える説得を行っていただろう。
純一が説得を諦めて撤退を選択したのは偏に少女の武装の強力さがある。
武装が違いすぎる、たった一つの理由それだけが少女と純一の間に絶望的な距離を生み出していた。
もし今の状況で「殺し合いなんかやめて俺たちと仲間になろう」なんて言い出した日にはどうなるか。
元々耳を貸してもらえる可能性のほうが低いし、最悪の場合、圧倒的な武装の違いに恐れて命乞いをしていると受けとられかねない。
純一はままならぬ現実に舌打ちをしながら、きぬの手を引いて東の方向に逃げ出した。
◇ ◇ ◇ ◇
やはり平衡感覚が失われている。
川澄舞が最初の銃撃を終えて最初に思ったのがそれだった。
キャリバーの反動の強さもさることながら先ほど潰された右目の後遺症は思ったよりも深かったようだ。
山の中という地形の悪さも多分に関係したのだろうが、殺意の嵐とも言える弾丸は誰一人傷つけることはできなかった。
乱戦の最中でこの超重量の兵器を振りかざすことは難しいので、基本的にこの武器は初撃にしか使えないのが難点。
一人だと思って甘く見られないように、最初に強力な武器を見せ付けてプレッシャー与えるつもりだったがそれは逆効果になっていたようだ。
わずかな抵抗も見せることなく逃げ出し始めた臆病者の獲物を見ながら追撃を選択する。
貴重なキャリバーを消費して戦果はゼロでした、なんてお粗末な話は通じない。
遠距離戦ができないのなら接近戦を選択すればいいだけの話。
すぐに慣れる、そう無理に言い聞かせて川澄舞は永遠神剣『存在』を手に身体能力を強化して走り出した。
走っている途中、いきなり見えざる視界から木が顔に襲い掛かってくる。
いや、正確には舞が自分から木にぶつかって行ったのだが、舞はそんなとこにいる木の方が悪いとばかりに八つ当たり気味に木の太い幹を『存在』で両断した。
音を立てて崩れる木を見て、舞は幾分か鬱憤が晴れると同時に、改めてこの『存在』が如何に強力な武器であるか確認する。
しばし無駄な時間を消費したが、わずか二、三秒のタイムロスなど今の舞には問題外。
距離にしてすでに150mはあるであろうハクオロたちへの追撃をやめる選択肢を蹴り飛ばした。
この距離でも自分なら易々と追いつける。
絶対的な自信とその根拠である武器を手に再び舞は走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
追う者と追われる者、精神的にどちらが優位に立てるかは比べるまでもない。
ニューナンブで時折銃撃しながらも圧倒的な身体能力で追いかける川澄舞という存在はハクオロたちにとってこれ以上ない脅威だった。
いや、そもそも追いかけっことはある程度追う者と追われるものの身体能力が拮抗してないと成り立たない。
故に、徐々に距離を詰められていくこの状況は追いかけっこではなく一方的な虐殺にも等しいのだ。
あゆの目にもきぬの顔にも徐々に追い詰められて行くことに対する恐怖が湧き出ている。
もうこれ以上は危険。
銃声を轟かせながら大人数で移動するこの集団が目立たないはずがない。
あまり長丁場を繰り広げているとここで第三者が介入くる可能性も高いのだ。
その第三者が正義感溢れる人物ならともかく殺人鬼ならこの先に待っている結末は問答無用のゲームオーバー。
先ほどとは逆に殿を務めているハクオロが下策にすぎないと承知しながらも最後の選択肢を選んだ。
「ここは私がくい止める。 お前たちは先に行け!」
「で――」
「でもも糞もない! 反論する暇があるならその足を動かせ!」
足を止めて純一が反論しようとするが、その答えを先読みしていたハクオロはあらかじめ用意しておいた言葉を口にする。
答えを見透かされていたことに狼狽する純一の手をあゆが強引につかんで再び走り出した。
もしもお互いが生きていたらどこで落ち合うか、など決める時間もない。
それほどまでに舞の接近を許してしまっているのだ。
下手に大声を出して合流する場所を決めようものなら舞にまで聞かれる心配がある。
「ハクオロ、死んだら許さないよ!」
「ああ、分かっている」
だからあゆが口にしたのはそれだけ。
今自身ができる最大の声援を送ることだけだ。
ハクオロもその一言であゆの言いたいことの全てを理解し、背中越しに手を振る。
あゆが最後にもう一度振り返ってみると、そこには鉄扇で舞の大剣を受け流すハクオロの姿があった。
あゆも純一もきぬもハクオロの無事を祈って今はただ走り続けることを選ぶ。
ハクオロが無事生きていられる確率などほとんどないことを悟りながらも。
◇ ◇ ◇ ◇
「ぬぅっ……」
ハクオロが苦しそうな声を挙げて今一度舞の大剣を鉄扇で受け流す。
まともに受けてるわけでもないのに鉄扇を激しい衝撃が襲い、鉄扇を伝わってハクオの右腕にも重いが衝撃が響く。
ハクオロが満身創痍とも言える体を無理やり動かして、舞に果敢に立ち向かって行く。
純一たちが十分な距離を稼げるまで舞には是が非でも付き合ってもらわないとならないのだ。
身体能力に関しては永遠神剣の恩恵を受けている舞の方が圧倒的に有利。
だが、ハクオロは使い慣れた愛用の武器と数々の戦場を潜り抜けた経験を生かして舞と互角に戦っていた。
舞とて真夜中の学校で魔物を相手に戦い続けていた経験があるが、今回の相手は自分と同じ血肉の通った人間。
人間を相手にして戦うという経験の面では舞は決定的にハクオロよりも不足している。
そして今の勝負を互角にさせているもう一つの要因が今二人が戦っている地形であった。
山の中、斜面の多いこの地形は平地でしか戦うことのない人間には思わぬ足かせとなる。
今回の場合、舞がその負の恩恵を受けていた。
慣れない足場で時折足を滑らせた瞬間をハクオロは見逃さず的確に突いてくる。
対照的にハクオロはヤマユラで過ごしていた時期にサルに似た生物、キママゥを退治するためなどで山間での戦闘は幾分か慣れている。
「はあっ!」
気合の入った声とともに左斜め上から繰り出された舞の袈裟斬りの軌跡にそっと鉄扇を重ね合わせ、ハクオロは少しだけその力のベクトルの向きを変える。
必殺に等しい一撃をまたもや受け流され舞の表情に驚愕が走る。
脱臼してもはや使い物にならない左肩は使わず右手のみで器用に鉄扇を操り、なおも続く舞の繰り出す強力かつ素早い攻撃をまるで舞踊を舞うように一つずつ捌いていく。
舞の使う永遠神剣とハクオロの使う鉄扇では武器としての性能は格段に永遠神剣の方が上。
しかしそれは攻撃力に限った話で、こと防御力に関してはハクオロの操る鉄扇のほうが段違いに優れている。
ハクオロが先ほどから使用しているように攻撃を受け流すのも簡単だし、扇を広げれば降り注ぐ矢の雨もある程度防げることも可能。
なによりも自身の身の安全を考えねばならない一軍の指揮官の武器として、ハクオロの使う鉄扇は非常に優れているのだ。
「……」
「……」
両者一旦仕切りなおしで舞はハクオロと距離を取り、今までとは違う目でハクオロを見据える。
その瞳に驕りや油断はもう一切入っていない。
満身創痍だからと甘く見ていた感情を捨てて、舞はハクオロを警戒するに値する脅威だと認めたのだ。
甘く見ていては自分が死ぬ、舞は自分にそう強く言い聞かせた。
そして舞の行動はハクオロにとっても好都合。
少しでも時間を稼ぎ純一たちを逃がすことが目的であるハクオロにとって、この休憩もまた純一が遠くへ逃げる時間が増えることになる。
「一つ聞こう。 お前はもう戻れないのか? 皆と手を取り合うという選択肢は残されてないのか?」
「……」
この会話でさえもハクオロの時間稼ぎの一環だが今回は通用しなかった。
ハクオロの問いに対して舞は沈黙と突進という二つの行動で答える。
舞の狙いは全ての行動の起点となるハクオロの足。
『存在』の長い柄を振り回し、舞がハクオロの大腿部を切り裂かんと襲い掛かる。
ハクオロは一瞬で舞の狙いを見切り紙一重でかわそうとするが、その瞬間、足に襲い掛かる筈だった『存在』が跳ね上る。
それは舞のフェイントではなくハクオロの反応を見たあとで無意識のうちに上半身へと狙いを変えたもの。
まさに永遠神剣を扱える者ならではのデタラメすぎる超反応を活かした一撃だった。
ハクオロの顔に焦りが生まれる。
「簡単に……死ねんのだ!」
足元からすくい上げるような動きをする舞の一撃をハクオロは無理やり右手を振り上げ、鉄扇を大剣の迎撃に使う。
甲高い金属音が辺り一帯に鳴り響く。
結果はまたしてもハクオロの受け流しが成功、また両者が離れる。
数合に渡る斬り合いの末、お互いの体につけた傷が未だ一つたりとも無いというのはある意味異常であった。
その証拠にハクオロと川澄舞、両者の顔に浮かぶ表情は驚愕と焦り。
そして十分な休憩を取っていた舞と違ってハクオロのみに限って言えば、更に深い疲労が加わる。
互いに全力を出しながら決定打を見出せないままの状況に苛立っている。
舞は一刻も早く目の前の男を葬って追撃に移りたい、ハクオロはなんとか打開策を見つけてそろそろ撤退したい。
開けたくとも開けられない鍵のかかった扉を前にして状況を打開する方法は二つ。
それは無理やり扉をこじ開けるのか、それとも鍵を持った人物の登場を待つか、二人が選んだのは前者だった。
「往くぞ……」
誰にとも無く、いや、おそらくは自分自身に向かって言い聞かせるようにハクオロが呟く。
その瞳に映すは目の前の脅威、川澄舞ではなくトゥスクルで過ごした平穏な日々とここに来てからの凄惨な日々。
ここに来てからの自身の行動を振り返ると、とても一国の皇とは言えぬ失態続きに歯噛みせざるを得ない。
エルルゥやアルルゥ、その他トゥスクルの者には結局誰一人会うことができずに死んで逝った。
そしてこの島で出会った観鈴や衛といった自身を守る力の無い弱き者。
そういった存在を傍においておきながらも守れることはできずにその若い命の火を散らせていった。
挙句の果てに無実の罪を着せられる始末。
なんて情けない、他国に賢皇として知られた男のやることにはあまりにも程遠い。
目の前の人物一人救えぬ皇が一体どうやって視界に入りきらないほどいる国民全員を守れるというのか。
「これ以上エルルゥたちに笑われてたまるか!!」
ハクオロが今回初めて自分から仕掛けて行き、合わせて舞も向かって行く。
発せられる言葉の端からも十分な決意が受け取れるハクオロだが、強い決意をしているのは舞とて同じ。
ただ、その言葉を外に出すか胸のうちに呟くかの違いしかない。
故に、その思いの強さは互角。
あとは互いの戦士としての力量のどちらが優れているかが問題だ。
「はあああぁぁぁぁ!」
「せぇい!」
振り上げて降ろされたハクオロの鉄扇と横薙ぎに振るわれた舞の大剣が十字に交差する。
再度、激突――!
◇ ◇ ◇ ◇
違う、何かが違う。
ある程度距離も離れ、ようやく落ち着ける場所に座って、朝倉純一が一番最初に思ったのがそれだった。
「はあっ、はぁっ、ん……ここまでくりゃ大丈夫だろ」
きぬがデイパックからペットボトルを取り出し喉の渇きを潤す。
全員が一様に暗い顔をしていた。
ハクオロを捨て駒にする形で逃げてきたのだから当然だ。
しかし、朝倉純一に限って言えばもう一つ、彼の表情に暗い影を落としている事情があった。
(守られて、逃げて、守られて、逃げて……俺のやっていることは何だ?)
理想、彼には叶えたい理想があった。
それは理想と呼ぶにふさわしい厳しく険しい道のり。
彼の命と人生を賭けるに値するもの。
聞けば誰もが無理だと言うだろう。
説明されるまでもなく誰もが無謀だと言うだろう。
誰もが夢を見るのは程ほどにしておけと言うだろう。
しかし、朝倉順一は求めた。
盲目に、熱病に浮かされた病人のように。
しかし、しかし……何かが違うと純一の心に疑問が生まれる。
(俺がやったのは理想理想と喚き散らして、その癖ちょっと揺さぶりをかけられただけで理想を捨てるなんて言って……
簡単に挫折して、簡単に蟹沢やつぐみの言葉で立ち直って……危ないから逃げろと言われて逃げて)
僕には殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出するという理想があります。
紆余曲折を経て、鷹野の言葉を聞いてすぐに理想を捨てようとしましたが、その十分後にはきぬの言葉で立ち直りました。
ハクオロの言葉を聞いて怒りに身を任せて理想を捨ててしまいそうになりましたが、その十分後にはまたきぬの言葉で立ち直りました。
そして今はハクオロさんを見捨てて逃げてきました。
詳しい事情を省いて今の純一の状況を大まかに説明をするとこうなる。
この話を聞いて、それでもなお純一の理想に共感しようという輩などどこにいようか。
十中八九誰一人として賛同する人などいないだろう。
極端な話、「理想」という言葉に酔ってきぬと「理想ごっこ」をしているだけだと言われても仕方ない。
(違う、違う、違う! こんなんじゃ、これじゃあ、誰も救えない、救われない、救いようがない!)
純一の苦悩など知ったことかと言わんばかりにそのとき一発だけ銃声が鳴り響き全員が音のした方角へ向かう。
方角、距離から明らかにハクオロの戦っている場所に違いない。
これは向こうで戦っているハクオロと舞の戦いの決着を告げる狼煙なのか、新たな戦いの始まりを告げる鐘なのか三人には分からない。
が、三人に身の危険は迫ってないはず。
ただまっすぐ逃げるだけでは芸がないので、逃げる進路を真東から若干北よりの北東に向けていたからだ。
ここなら川澄舞の脅威はないはず、それが三人の共通認識だった。
今の三人にできることはハクオロの元へ駆けつけて彼の決意を無駄にすることではなく彼の無事を祈り、下手に動かないこと。
だから三人とも動こうとはせずその場で休憩していた。
「しまった……おい、もう一回逃げるよ」
あゆが唐突に立ち上がり、そんなことを言い出した。
純一ときぬが何を言い出すのかと聞き返そうとするが、あゆは二人の方を見ておらずハクオロたちのいる方向を見ている。
いや、正確には自分たちが通ってきた道を見ていた。
そこで純一ときぬがあゆの見ているものが何か、何故あんなことを言ったのかようやく分かった。
俗に言う獣道、それが純一たちの通ってきた道に形成されている。
山の中、木々や植物の生い茂る中を掻き分けてを走ってきた結果が今の三人の眼前に広がっていた。
まっすぐ進むだけではすぐに見つかるかもしれないという可能性は考慮にいれることはできても、この獣道に関しては全くの予想外。
「急ぐよ! 出ないとハクオロの努力が無駄に――!」
あゆの警告をあざ笑うかのように、無駄になってしまったことを告げる銃声が響く。
着弾点はきぬのわずか30センチメートルほど手前の地面。
銃弾で抉られた土がきぬの足に少しだけかかるが、それを気に留める余裕などきぬにはない。
もう視界に入る位置に、川澄舞は制服に新たな返り血を浴びた姿で佇んでいたのだから。
「そんな……」
声に出したのは純一のみだが気持ちは三人とも共通していた。
川澄舞の制服についた新たな返り血を見てハクオロの生存を信じていられるほど三人は楽観的ではない。
ハクオロの努力を完全に無駄にしてしまったことになる。
三人の姿を認めた舞が何かを純一たちの方へ投げてきた。
「これは……」
あゆが投げられたものを手に取る。
それは血のついたハクオロの鉄扇。
ハクオロの所持していた武器はただ一つ、この鉄扇のみ。
それが血のついた形で舞の手にあったということは結果は川澄舞に問い質すまでもない。
つまり、ハクオロは殺されたのだ。
一方、舞は純一たちの顔に生まれた絶望を見て、己のとった作戦が功を奏したのを確信した。。
わざわざ貴重な武器を敵に渡したのは鉄扇という癖の強い武器が要らなかったというのもある。
だが、最大の目的は血の付いた武器を見せて敵の戦意喪失を図ってのこと。
それが予想以上に効果をもたらしたようだ。
自身の身の危険も省みず、勇敢にも敵の足止め役を買って出た人間の末路を見せ付けられたショックは大きい。
戦意喪失という効果を望むのなら首を切り取って見せ付けたりすればいいのだろうが、人一人の首を切断するのは思ったより時間がかかる。
なにより舞にそこまでするような悪趣味はない。
そこまでしなくとも舞の目の前の三人はもう十分に戦意を喪失していた。
さぁ、あとは戦意を喪失した三人の命を残らず刈り取って行くだけ。
舞がそう思ってゆっくりと近づこうとしていた次の瞬間、三人のうち唯一の男に変化が訪れたのを見た。
さっきまでの人物とは完全に別人かと見紛うほどの変貌。
初めは他の二人と同様に絶望を色濃く見せていた瞳がやがて決意を帯びたまっすぐなものに変わる。
その次は曲げられていた膝を伸ばし、背筋をピンと張り、純一を纏っていた雰囲気が明らかに変わる。
そうして何かを考えるような仕草を見せた後、純一はゆっくりと喋りだした。
◇ ◇ ◇ ◇
「違う、違うよな……こんなのは逃げてるだけなんだよ。
戦わないと、戦わないと……戦わないといけないんだ」
誰一人殺さず、誰一人殺されず、その言葉にこだわるばかりで俺は何も分かっちゃいなかった。
「もっと早くに気がつくべきだったんだ。 人を殺さないことと戦わないこととは全く別の問題なんだ」
情けないよな、ハクオロさんを見捨てる形になった今ようやくこんな当たり前のことに気が付くだなんて。
危ないからって言い訳して、二人いてもしょうがないからって、ハクオロさんの言うとおりに逃げてきた結果が今の状況。
きっとハクオロさんに言われたことも、俺の選んだ「ハクオロさんの言うとおりに三人で逃げる」という選択肢も間違ってはいないんだ。
むしろ一番合理的で被害も少ない選択肢かもしれない。
けど、そんなの俺の唱えてる理想という点から見れば最低の選択肢だ。
危ない局面は仲間に任せて、安全になったら偉そうに理想を語る。
なんて傲慢、なんて愚かしいんだ。
危ないからなんて最もな理由をつけるなら理想なんて捨ててしまえ。
「今俺がするのは逃げることでもない、理想を語ることでもない。 戦うことなんだ」
ハクオロさんの鉄扇をあゆから受け取って構える。
本当に理想を吐くならハクオロさんと一緒に残ればよかったんだよ。
俺は我を通すだけで周りへの影響をまるで考えていなかったんだ。
坂上智代だってあんな反則に近い行為で黙らせても憎しみが倍増するだけだ。
そして土永さんは俺が説得したんじゃない。
土永さん自身を取り巻く状況、怪我をして動けないということと、風子の優勝してももう一度参加させられるという情報があったからだ。
極端な話、俺じゃなくても土永さんは説得できたんだよ。
それだけじゃない。俺が理想を吐いてる陰で誰かが俺の代わりに手を汚している。
俺が手を汚さないってことはその分、他の人間が手を汚さないといけないんだ。
例えば佐藤良美のようなどうしようもない外道。
何を言ってもあの人間には通じなかったし、これからも通用しないだろう。
次に出会ったときは誰かがあいつを殺さないといけない。
もし会うことになったらたぶんつぐみ辺りがその役目を背負うんだろう。
つぐみはそういうやつだ。
そんなことも分かっちゃいなかった。
俺は脱出手段を探すっていう大義名分を掲げて安全な場所を巡り続けて逃げていただけだ。
「俺も他の人間も手を汚したくない、汚させたくないだって?
だったら俺はいつも戦場のど真ん中にいないといけなかったんだよ!」
誰かに向けて言ってるわけじゃない。
けど叫ばずに入られなかった。
何が理想だ! 俺は、俺は、俺は何もわかっていない。
そんなんだから俺はいつも他人の言葉に左右されてばかりだ。
だったら捨てようぜ朝倉純一……そんな理想は、そんな薄っぺらい言葉は。
俺は理想なんかを語れる器じゃなかったんだ。
特別な存在でも、選ばれた人間でもない、そんな俺のすることはただ一つじゃないか。
それは目の前の人間と戦ってあゆも蟹沢も守ること。
「蟹沢!」
「お、おう」
「あゆ!」
「何さ?」
蟹沢……俺にとって不思議な存在、この胸の内に浮かぶ暖かくて奇妙な感情。
いや、奇妙なんかじゃなくて俺はこの感情の正体を知っている。
これはこの島に連れてこられる前日、義妹である朝倉音夢に対して抱いた感情と同じものだから。
けど、この気持ちを俺は蟹沢に伝える気はなかった。
昨日まで義妹が好きでしたけど、今は蟹沢のこと好きです。付き合ってください。
そんなことを言われてうれしくなる女の子がどこにいようか。
そんな気持ちが本物だと言われて信用する人間がどこにいようか。
自分自身でさえ信じられぬというのに。
だから伝えるのは愛の告白ではなく別れの挨拶。
これが蟹沢が生き延びる確率の高い選択肢。
「何度も迷ってすまない。 何度も迷惑かけて悪いと思ってる。
でも、これからも俺たちはお前に迷惑をかけ続けると思うんだ。
お前たちもそんなのはいやだろう? だから今度は俺がここを受け持つから二人で生き延びてくれ」
これでいい、これでいいんだ。
これから俺がやろうとしているのは損得も勘定もないただの無謀で馬鹿な行為。
それに蟹沢たちをを付き合わせる必要はない。
けど、蟹沢は動こうともせず、泣きそうな顔で言い返してきた。
「……かけろよ!」
……なにを?
……なにをだ?
「迷惑かけろよ! ボクたちは仲間だろ!? パートナーだろ!?
純一にとってのパートナーって何だよ? 楽しいことだけ分かち合うのがパートナーじゃないだろ!?
迷惑かけろよ! パートナーだと思うんならさぁ!」
ああ、俺はやっぱり何も分かっていなかった。
「迷惑かけない方が怒るんだよぉ!」
未熟で何も知らない俺とは違う。
やっぱりこいつは俺に無い熱いものをもった最高のパートナーだ。
「あゆは……」
「甘い、甘いさねぇ……まぁでもそんな甘い人間に酔狂にも手を貸すつもりになったあたしはもっと甘いんだろうけどさ」
「すまない……」
「礼なら時雨に言ってくれ。 あたしを甘い人間にした時雨にね」
あゆも口は悪くてもやっぱりいいやつだった。
こんな俺を支えてくれてありがとう。
俺は本当にいい仲間に恵まれている。
◇ ◇ ◇ ◇
しばらく三人の様子を見ていた舞だが三人の結束が固まってきたのを見て目を細める。
見るからにお涙頂戴劇のやり取りだが舞には逆にうれしい出来事だ。
いつものように視界に入った敵は殺すだけ。
それにまた逃げられてはかなわないと思っていたところだ。
そうでないとわざわざ走って追いかけてきた意味が無い。
三人が相手だろうがこの手に握られし永遠神剣があれば問題ない。
「アンタはどうして人を殺す!」
純一が叫びながら舞に向かって突っ込んで行く。
舞は接近戦をしてくれるならその方が好都合だとばかりに永遠神剣に力を注ぎ込む。
爆発的に身体能力を向上させて舞もまた純一たちのほうへ向かって行く。
舞の狙いは先頭を走ってくる純一。
まずは一発、舞が純一に向かって『存在』を振り下ろそうとするが、あゆの銃ときぬのクロスボウが舞の進行を阻むように己が武器を撃ちだす。
永遠神剣によって得られた脅威の動体視力と反射神経でバックステップ。
舞は難なく襲い掛かる二つの攻撃を避ける。
「俺はアンタを救ってみせる!」
理屈じゃない何かが純一を強く、熱く動かす。
純一の胸には今もこの殺し合いを止めたいという心がある。
理想という綺麗な言葉で飾るのはもうやめたが今もそれは変わらない。
極力銃やクロスボウなどの強力な武器で傷つけるのは避けたかった。
だから極力頼るのは純一の持つ鉄扇のみ。
果物ナイフや投げナイフはあるがあゆときぬに接近戦をさせるつもりは純一には毛頭ない。
純一が畳まれていた鉄扇を広げて真一文字に振るう。
それすらも舞にはなんの脅威にもならない。
再びバックステップで紙一重で避けようとするがその瞬間脅威の出来事が起こった。
鉄扇から音も無く刃が飛び出し舞の頬を掠める。
「ツッ!!」
舞の頬に一筋の赤い線が生まれ、そこから赤い滴が流れる。
仕込み刃、ハクオロとの勝負の時には出てこなかった隠された武器が今効果を発揮した。
元々ハクオロの鉄扇は朝倉純一に支給されたものだから、仕込み刃の存在は純一も知っている。
しかし、それはあくまで一発限りの隠し球でもう舞には通じない。
「純一が強い決意をしたのなら分かってるはず」
舞が頬の怪我に親指を添えて血を軽く拭って喋る。
そしてすぐに純一に斬りかかっていく。
舞の見たところ女二人は遠距離戦用の武器しか持ってない。
ならば唯一接近戦用の武器を持っていると思われる純一と接近戦をすれば必然的にきぬとあゆは援護の方法が失われる。
「今の純一のように強い決意をした人間の道を変える方法は無い」
敢えて手加減した一撃を斜め上から袈裟の要領で切りかかり純一に再び畳まれた鉄扇で受けさせる。
舞の推測どおりあゆときぬは援護する方法を失い、その場に立つだけ。
正確にはあゆもきぬも近接戦用の武器は持っているが、純一の方針で接近戦をしようとしてないだけだが。
鍔迫り合いの形になってはいるが、舞はすぐに止めを刺さずしばらく会話に興じることにした。
「動けばすぐに純一を殺す」
舞があゆときぬの二人に警告する。
そしてそれが冗談ではないことは二人は知っている。
永遠神剣の恐ろしさはハクオロを殺したことと、銃弾とクロスボウの二つをあっさりかわした実績が証明済みだ。
あゆときぬが無言で頷いたのを見て舞は純一の方へ視線を向ける。
舞もあの白河ことりの探していた朝倉純一に少しだけ興味が湧いたのだ。
飽きれば永遠神剣の一撃で殺せばいいだけ。
純一の方もこの圧倒的に不利な状況を打開する方法が思いつかないし、話を聞いてくれるのなら願ったり叶ったりだ。
「純一が私に何か言われたら……純一は道を変える?」
「ありえない!」
絶対の信念を以って純一は答える。
純一の腕にも自然と力が入った。
そんな純一の答えを舞はやっぱり、という表情で聞いていた。
「純一と同じで……私もそう」
「無理なんて思うな! 自分の世界を狭くしちゃ駄目だ! 必ずどこかに他の道が、みんなが笑っていられる未来があるはずなんだ!」
「無理」
「そんな間違ったやり方で得られるものって何だ!? 目を覚ますんだ! こんなことをして喜ぶ人間なんて誰もいない!」
「間違ったやり方?」
舞の耳がピクンと反応し、俄かにその表情に怒りが宿り始める。
今度は舞の手にギリギリと力が入り始める。
両手にかかる負担が倍増したのを感じて、ようやく純一は自分の言った台詞の何かが舞の怒りに触れたのだと悟った。
「間違ったやり方なんて知らない」
地獄の底から響いてくるような声色で舞が喋る。
状況の悪さを悟ったあゆときぬが警告を無視して武器を手に舞たちの元へ走っていく。
「世の中には三つのやり方がある。 私が選んだのは三番目のやり方」
三人もの襲撃を同時に防ぐ方法などない。
普通なら舞はこのままよくて一人二人を迎撃できても三人目にやられるはずだった。
しかし、舞の手にあるの人数の違いをものともしなくすることができる武器。
それだけの戦力比を覆すポテンシャルを永遠神剣は秘めている。
舞は一瞬で状況を悟り四発もの斬撃を一発ずつ三人に繰り出してきた。
一瞬にして近寄ってきたあゆの果物ナイフ、純一の鉄扇、きぬの投げナイフが破壊される。
そして最後の一発は――朝倉純一の胴体。
「正しいやり方、間違ったやり方、そして――」
何事をなすにもやり方は三つある。
正しいやり方……倫理、道徳、法律、正義などに従ってやる誰もが認めてくれるやり方。
間違ったやり方……倫理、道徳、法律、正義などあらゆる正の価値観に反して行われる常軌を逸したやり方。
ならば三番目のやり方とは?
正しくも無い間違っても無いやり方などこの世にあるのか?
いや、ある。 あるのだ。 この世には三番目のやり方が。
正しくもなく、間違ってもいない、そんなやり方が。
それはおそらく全世界の大半の人々が意識せず選んでいるやり方。
どんな善人でもどんな悪人でも結局のところ突き詰めていけば三番目の選択肢を選んでいる。
人は大抵そのやり方が世間でいうところの正しいやり方に当て嵌まっているだけなのだ。
人は正しいやり方を選んでいるのではない。
選んだやり方が最終的に正しいだけなのだ。
ではその三番目の選択肢とは一体何か?
それは? それは……それは!
「自分のやり方!」
その言葉と同時に舞は寸分違わず純一の上半身と下半身を生き別れにする。
純一の上半身が支えを失って地面に落下していくのをきぬとあゆはスローモーションで見ていた。
あまりにも有り得ない現象、普通は人間の上半身と下半身が綺麗に別れるなんて有り得ないのだ。
「だから、私は自分のやり方で佐祐理を助けてみせる!」
あゆもきぬもその光景を信じることができなかった。
下半身と上半身の継ぎ目だった場所から血がドバドバと出ている光景と純一の目から急速に光が失われているのをうまく認識できずにいる。
故に動けたのは舞のみ、そしてその隙を舞が逃すはずが無い。
「ッうっおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
いや、もう一人いた。
その怪我を見ればもう誰一人彼が助かるとは思うまい、誰一人動けるとは思うまい。
しかし彼は動いた。
それは消え逝く命が発する末期の咆哮か、あるいは耐えがたい苦痛を誤魔化すための雄たけびか。
消えかかった瞳に再び火が灯り、朝倉純一が残された上半身のみで動き麻酔を取り出し、舞の体に向けて突き刺す。
死に体だと思っていた男が動いたことに驚き、次の瞬間には舞の体に何かが腕に刺さる痛みと耐え難い睡眠欲が襲ってくるのを感じた。
「それは麻酔だ! 早く逃げないと大イビキをかいて俺たちの前で寝ることになるぞ!」
舞が純一の警告に真偽を確かめることもせず慌てて離脱を始める。
真偽など確かめなくとも頭の奥に霞がかかっていくような感覚と、全身を襲う気だるさがなによりの証拠。
舞は永遠神剣に残された全ての力をつぎ込んで全速力で逃げていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「すぐに……寝るかゴホッ……と、思ったけど……効果にガッ、ハッ……個人差があるのかな」
その一言でようやくあゆときぬが金縛りが解かれたように動きを取り戻す。
二人が純一の上半身に駆け寄ってしゃがんだ。
純一は切り裂かれた腹部と口の両方から血を流し続けており、生存を望める状態ではないことは明らかであった。
「おい、純一! 純一ぃ!」
きぬが純一の肩をつかんで揺さぶろうとするがあゆがすぐに止める。
きぬもそれ以上は抵抗しようとはせず割れ物を扱うかのように慎重に純一の体に触った。
純一の体も流れ出る血もまだ暖かい。
それがこれから徐々に冷たくなって行くのかという予感が一層きぬを悲しくさせた。
「蟹沢……行くんだ」
「どこへだよ! どこへ行けばいいんだよ! 純一が死にそうなのに……どこへ行けって言うんだよぉ!」
目にありったけの涙を湛えて泣き叫ぶきぬ
その涙を純一が優しく拭った。
「いいか、俺はもうゴハッ……死ぬ。 だから……あいつがまた……来る可能性もあるんだ」
舞に打たれた麻酔薬はどの程度効くか分からないし、そもそも効いてないかもしれない。
だから今とるべき行動は純一の死に際に立ち会うことではなく一刻も早くここから離れることなのだ。
「いやだ! いやだ! いやだ!」
「おい、いい加減にしろや!」
あくまで純一から離れようとしないきぬをあゆが強引に引き離して襟をつかんだ。
なおも純一の体にすがろうとするきぬを一発ひっぱたいて自分の顔をきぬに近づけた。
「テメェは一体何様だ! いいか、こいつはもう死ぬ、死ぬんだよ! 医者じゃないあたしにも分かるくらいひどいザマなのさ!
その死人寸前の人間にまで優しくされて生きてる自分は駄々をこねるだ!? 冗談じゃないさ! どれだけ甘えてんだよこの糞チビ虫が!」
「うるさい! お前に何が分かるんだよ! お前にボクと純一の何が分かるんだよ!」
「……ああ、そう。 それじゃ、ご自由に」
あまりにもあっさりと手を離してくれたことに若干戸惑うものの、きぬはまた純一の方へ駆け寄っていった。
純一の体はもう声を聞き取るのも難しく純一の口元まで耳を寄せている。
きぬは相変わらずいやだいやだと言うばかりであゆにも純一がどんなことを言っているかが想像できた。
夢の時間が終わったことを告げる鐘の音を鳴らすためにあゆは無慈悲に準備を進めていた。
純一のデイパックから探している物を発見、速やかにデイパックから取り出してきぬの背後に迫る。
そしてきぬの首に刺した。
残る一つの麻酔薬の針を。
「すま……ない……な」
舞と違ってすぐに眠りこけたきぬの背中を見つめて純一が呟く。
やはりあの薬は個人によってある程度効力が違ったようだ。
きぬはあゆの背中に抱えられてスヤスヤと眠っていた。
もうあゆは純一に背中を向けており出発の準備を整えている
「最後になにか言うことは?」
背中越しにあゆが言う。
その声の調子に幾分か涙が混じっていた気がするのは純一の気のせいではなかった。
短い時間とはいえ純一の優しさと芯の強さに触れたあゆの目にもまた僅かではあるが涙が滲んでいる。
「生きろ……そう、伝えてくれ」
「ああ、確かに伝えとく。 じゃあな、朝倉!」
その一言ともにあゆはきぬを背負って駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇
体中の細胞の一つ一つが死んでいくのを実感する。
ああ、これが死なんだなと何故か俺は穏やかに受け入れることができた。
もうどうしようもないという状況が逆に功を奏したのだろうか。
もし助かるか助からないかの微妙な怪我をしていたら痛みに苦しみ、這い寄る死の感覚に恐怖したかもしれない。
走り去っていくあゆの背中を見て、俺はもうやり残したことが何一つなくなってしまったことに気が付いた。
今も襲い掛かるこの苦しみをなんとかしたのだが、それをなんとかするということは即ち自殺ぐらいしかない。
自殺、それはちょっとやだな。
(頼むぞ、蟹沢、あゆ)
となれば残ったのは残された人を思うことくらいか。
女二人で生き抜くには難しいだろうが頑張ってほしいと思う。
(それで……それで……あれ?)
脳細胞が死んでいき、思考能力までも奪い取ろうとしているだろうか。
残された蟹沢やあゆのことを思ったとき、頭の中に浮かんだのはありきたりすぎる思考の羅列でしかなかった。
(じゃあ……どうしようもないか)
せめて悔いの一つも見つければそれをやり遂げようと行動していたのだろうが、生憎、大切な仲間も守れて脅威もある程度遠ざけることができた。
もう本当に何一つやることがないのだな、と思って座して死を待つことを決めた瞬間、俺の目に何かが飛び込んだ。
茂みの向こうほんの数メートル先、草が一番深く生い茂った場所にキラリと光を反射する何かがあった。
なんだろう、あれは。
そう思ってしまったからには行動あるのみ。
決めた。 あれを確かめるのが俺の最期の望み。
匍匐前進をしながらそこに近づくことにした。
一歩、という表現が相応しいかは俺には分からないがそれでも少しずつ進んで行く。
土が痛い。 草が痛い。
這いずる度に激痛が走るが、痛みを感じるって言うことは俺はまだ生きている証拠。
そんな前向きな考えで進むことができる。
「はぁっ……これ……はぁっ……ならっ……がふっ、もう少し蟹沢と喋っててもよかったか……な」
声もまだ出せる。
俺の体力も馬鹿にできたもんじゃないな。
上半身だけでこんなに生きてられるなんて。
ほら、そんなことを考えているうちにあと1メートルだ。
這って……
あと70センチ。
這って……
あと50センチ。
また這って……
あと30センチ
ほら、あともう少し
あと10センチ
さあ、届いた。
これは……ビニール袋と水……か?
とりあえずビニール袋と液体が入っているのは間違いない。
そしてその中に入っているものは何だ?
死にぞこないでなかったらビニールの口を開けて中身を取り出すところだけど今の俺にはそんな力はない。
この液体の中に浮いている栗色の細くて長いものは髪……髪の毛か!
でもなんで髪の毛が……いや待て、俺は勘違いをしてないか?
早鐘を打っていた心臓がさらに早鐘を打っている。
俺は知っている……知っている? 何をだ?
これは裏なんじゃ……裏って何だよ? 俺は何をさっきから考えている。
このビニールの中に入っているのは何らかの液体とおびただしい数の髪の毛。
髪の毛? 髪の毛ってことはこの髪は何らかの生き物の髪の毛なんだ。
駄目だ、駄目だ、駄目だ。
やっちゃいけない、このままくたばるのが最善なんだ。
そう分かっていても手が止まらない。
好奇心が俺を殺そうと襲ってくる。
抑えがたい衝動を前にして俺は……ついにこのビニール袋の向きを反対にしてしまった。
「なんだ……」
視界に広がったのは肉の塊。
少ししてようやくそれが人の首を切り取ったもの、いわば生首であるのが分かった。
このぐらいでは驚かない、だって俺は生首もビックリな上半身だけの男だから。
ブラック過ぎるジョークを考えて自己嫌悪に陥るがどうせもう死ぬ身、言いたい放題だ。
少し気分がハイテンションになってるな、脳内麻薬みたいなのが分泌されてるんだろうか。
改めてこの生首の検証をすることにした。
ビニール中に抜け落ちた栗色の髪の毛はほぼ根こそぎ抜け落ちている。
そして首に付いた黒のチョーカー……え?
栗色の髪の毛と黒のチョーカーってまさか……ああ、まさか……。
まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか
「音……夢」
その言葉を呟いたとたん頭の中でパズルのピースが嵌ったように全ての答えが得られていく
つまり、これは人の生首で、黒いチョーカーをつけてる人間なんてそうそういなくて、でも俺はそんな知り合いに心当たりがある。
瞳に当たると思われる部分と眼があった。
抉られて空洞になってしまった部分が奈落の底のような印象を受ける。
それは俺の最愛の義妹。
二日前淡い口付けを交わした少女。
そう――
朝 倉 音 夢 の 生 首
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
【朝倉純一@D.C.P.S. 死亡】
◇ ◇ ◇ ◇
「何だ……純一の声!?」
朝倉純一の声を一人の男が聞きつけた。
トゥスクルの皇、ハクオロはまだ生きていたのだ。
舞に左肩から腰のあたりまでバッサリと着られ、着物の帯は破れ、血がとめどなく流れている。
さらに舞は銃弾をハクオロの額に撃ったのだが、これは決定打とならなかった。
ハクオロが記憶を取り戻した時からつけている仮面が銃弾を弾いたのだ。
この仮面はとある男の右ストレートを受けても傷一つ付くことなく、それどころか逆に男の指を折るほどの硬度。
ハクオロは軽い脳震盪を起こすだけですんだのだ。
その前に受けた永遠神剣『存在』による一撃はしっかりと受けていたが。
舞もちゃんと息の根を止めたかも確認せずに、急いで純一たち追いかけていったのが皮肉にもハクオロの命の糸をつないでいたのだ。
持っていたエルルゥの傷薬での治療もほどほどにしてハクオロ今体を引きずって歩いていた
「何が起こっているのか分からぬが……皆、死ぬなよ」
ふらつきながら歩いて、舞や純一の通った道であろう獣道を通る。
その先に待ち受けているものを知らずに。
◇ ◇ ◇ ◇
(なんでしょう……)
そしてここにもう一人声を聞きつけた人物がいた。
その人物の名は遠野美凪。
農協で佐藤良美と、何故かその佐藤良美と同行している月宮あゆを発見してからは逃げるようにホテルへ行った。
本来なら相手が佐藤良美であろうとあゆを救い出すために立ち上がるつもりだったが、美凪はあゆを見た瞬間、なにかがおかしいと感じた。
あゆの目が出会ったころと全くの別物に見えたのだ。
あの目はそう、いうなれば佐藤良美と同じ光を発していた。
だからあゆがなぜ良美と同行しているかは知らないが、結局声をかけることができなかったのだ。
ならばと西に行って当初の予定通り朝倉純一と合流しようと思ったのだが、これも空振り。
朝倉純一はおろか人っ子一人見つからないのだ。
しかたなくアセリアの言っていた海の家に行こうとして農協を避けるようにまず南下をして歩いている途中に気付いた。
ずっと千影のデイパックに入っていた生首も持ってきてしまっていたのだ。
千影のことは怪しいが、だからといって自分がこんなものを持ち続けていてはこれから出会うかもしれない見知らぬ人物に誤解されるかもしれない。
そう思って人目につかぬ場所に捨てていたのだ。
(声のした方に行ってみましょうか? それともこのまま海の家に行きましょうか?
遠野美凪の行動は間違っていない。
彼女はごく普通の選択肢をしただけ。
生首を持っていては怪しまれるから人目につかぬ場所に捨てた。
彼女の行動に非難されるべき点は存在しない。
生首を持っているのは正気の沙汰ではないし、だからといって手厚く葬る義理も時間もない。
そう、遠野美凪は正しい、遠野美凪に罪はない。
だから美凪の選んだ選択肢の延長線上で不幸なことが起こっても、それは美凪のせいではない。
【D-6 森/2日目 昼】
【川澄舞@Kanon】
【装備:草刈り鎌、学校指定制服(かなり短くなっています) ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5)】
【所持品:支給品一式 永遠神剣第七位"存在"@永遠のアセリア−この大地の果てで−、ニューナンブM60の予備弾8、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾30)、ハンドアックス(長さは40cmほど) 】
【状態:右目喪失、肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、頬に薄い切り傷(すぐ治ります)魔力残量50%、深い喪失感、】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
0:とりあえず純一たちから離れる
1:優勝を目指すため、積極的に参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:全ての参加者を殺す。千影であろうと誰であろうと関係ない。
4:多人数も相手にしても勝ち残れる、という自信。
【備考】
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。舞は神剣の力を使用可能。
アイスバニッシャー…氷の牢獄を展開させ、相手を数秒間閉じ込める。人が対象ならさらに短くなる。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
他のスキルの運用については不明。
※永遠神剣の反応を探る範囲はネリネより大分狭いです。同じエリアにいればもしかしたら、程度。
※麻酔薬が打たれており、もう少しで寝てしまいます。
※どっちに向かったのかは次の書き手さん任せです
【D-6 森/2日目 昼】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10 (6/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】
【所持品:予備弾丸6発・支給品一式x5 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】
釘撃ち機(10/20) 、大型レンチ オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残25/30)
ヘルメット、ツルハシ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄 虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志、左前腕打撲(多少は物も握れるようになってます】
【思考・行動】
行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に逃さない。
0:とりあえず純一たちから離れる
1:一ノ瀬ことみを追う(当面の目的地は温泉)
2:二人を殺す為の作戦・手順を練る
3:ことみと良美を警戒
4:ハクオロをやや信用しつつもとりあえず利用する
5:殺し合いに乗った人間を殺す
6;甘い人間を助けたい
7:川澄舞に対する憎しみ
【備考】
※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。
※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。
※支給品一式はランタンが欠品 。
※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど
※アセリアと瑞穂はことみに騙されていると判断しました。
※どこに向かったかは次の書き手さん任せです
※ハクオロが死んだと思ってます。
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:拡声器】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス
支給品一式x3、麻酔薬入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】
【状態:強い決意、両肘と両膝に擦り傷、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、睡眠中】
【思考・行動】
基本:ゲームに乗らない人間を助ける。ただし乗っている相手はぶっ潰す。
0:睡眠中
1:???
2:武を探す
3:ゲームをぶっ潰す。
4:よっぴーと川澄舞に対する怒り
【備考】
※アセリアに対する警戒は小さくなっています
※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。
※ハクオロはそれなりに信頼。音夢を殺したと思ってます。
※あゆをそれなりに信頼。
※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。
※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。
※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※ハクオロが死んだと思ってます
【D-6 森/2日目 昼】
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:エルルゥの傷薬@うたわれるもの】
【状態:精神疲労、左肩脱臼、左肩損傷(処置済み)、背中に大きな痣、腹部に刺し傷(応急処置済み)、
左肩から右腰にかけての斬り傷(早急に治療の必要あり)、着物の帯が破れています】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。
0:声のした方角へ行ってみる
1:ことみを追い、彼女が本当にゲームに乗った人間ならばあゆの代わりに手を汚す。
2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
3:瑛理子が心配
4:悠人の思考が若干心配。(精神状態が安定した事に気付いてない)
5:武、名雪(外見だけ)を強く警戒
6:純一に期待、それと保護
7;自衛のために武器がほしい
8:できればはやいところ傷の治療がしたい
【備考】
※あゆときぬを信頼しました。あゆの罪は赦すつもりです。
※ことみの事を疑っています。
※衛の死体は病院の正面入り口の脇に放置。
※朝倉音夢の生首(左目損失・ラム酒漬け)が純一の死体の傍に転がっています
【D-6 森/2日目 昼】
【遠野美凪@AIR】
【状態:腹部打撲、背中に血の跡、疲労極大、悲しみ、髪の毛ボサボサ、疑心暗鬼】
【装備:ベレッタ M93R(15/21)】
【所持品1:支給品一式、ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に、情報を纏めた紙x1、可憐のロケット@Sister Princess、首輪(厳島貴子)、鍵】
【所持品2:朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】
1:海の家に行くか、声のした方に行くか決める
2:千影さんが……まさか……?
3:祭具殿の鍵について確かめる
4:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感
【備考】
※所持品2の入ったデイパックだけ別に持っています。
※圭一の死はかろうじて乗り越えました。
※富竹のカメラは普通のカメラです(以外と上物)フラッシュは上手く使えば目潰しになるかも
※所有している鍵は祭具殿のものと考えていますが別の物への鍵にしても構いません
994 :
名無しくん、、、好きです。。。:
◆4JreXf579k 氏、スレが落ちる前にタイトル教えてください。
お願いします。