【基本ルール】 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。 勝者のみ元の世界に帰ることができる。 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。 【スタート時の持ち物】 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。 「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。 【禁止エリアについて】 放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。 禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。 【放送について】 0:00、6:00、12:00、18:00 以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。 基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
【舞台】
http://www29.atwiki.jp/galgerowa?cmd=upload&act=open&pageid=68&file=MAP.png 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
【予約】
したらばの予約専用スレにて予約後(
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8775/1173505670/l50 )、三日間以内に投下すること。
但し3作以上採用された書き手は、2日間の延長を申請出来る。
また、5作以上採用された書き手は、予約時に予め5日間と申請すろことが出来る。
この場合、申請すれば更に1日の延長が可能となる。
(予め5日間と申請した場合のみ。3日+2日+1日というのは不可)
1/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】 ○ハクオロ/●エルルゥ/●アルルゥ/●オボロ/●トウカ/●カルラ 1/3【AIR】 ●国崎往人/●神尾観鈴/○遠野美凪 2/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】 ○高嶺悠人/○アセリア/●エスペリア 2/2【Ever17 -the out of infinity-】 ○倉成武/○小町つぐみ 1/2【乙女はお姉さまに恋してる】 ○宮小路瑞穂/●厳島貴子 4/6【Kanon】 ●相沢祐一/○月宮あゆ/○水瀬名雪/○川澄舞/●倉田佐祐理/○北川潤 1/4【君が望む永遠】 ●鳴海孝之/●涼宮遙/●涼宮茜/○大空寺あゆ 1/2【キミキス】 ●水澤摩央/○二見瑛理子 2/6【CLANNAD】 ●岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/●伊吹風子/●藤林杏/●春原陽平 1/4【Sister Princess】 ●衛/●咲耶/○千影/●四葉 0/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】 ●土見稟/●ネリネ/●芙蓉楓/●時雨亜沙 1/5【D.C.P.S.】 ○朝倉純一/●朝倉音夢/●芳乃さくら/●白河ことり/●杉並 3/7【つよきす -Mighty Heart-】 ●対馬レオ/●鉄乙女/○蟹沢きぬ/●霧夜エリカ/○佐藤良美/●伊達スバル/○土永さん 2/6【ひぐらしのなく頃に 祭】 ○前原圭一/●竜宮レナ/○古手梨花/●園崎詩音/●大石蔵人/●赤坂衛 1/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】 ●双葉恋太郎/○白鐘沙羅/●白鐘双樹 【残り23/63名】 (○=生存 ●=死亡)
草木も眠る丑三つ時。 水瀬名雪は、とある作業を終えた所だった。 そう、『最強の機械』を手に入れる為の作業だ。 実際にやってみるまでは、単純な試行錯誤の繰り返しで、どうにかなると思っていた。 だが『最強の機械』は、ショベルカー程容易には動いてくれなかった。 見掛けとは裏腹に、動力部は最新技術が結集されており、車輪に該当する部分も、より幅広い環境で用いれる特殊なものだった。 運転席の周りには幾つかモニターが取り付けられており、周囲の景色を眺め見れるようになっている。 それ程高度な機械を、只の女子高生である名雪が、自身の持つ知識だけで扱える筈も無い。 そこで名雪は『最強の機械』内部をくまなく探索し、操作マニュアルと思われる本を見つけ出した。 そして―― 「あはっ……あはははははっ! やったよ、遂に動かせたよ! アハハハハハハハハハッッ!!」 名雪は周囲を警戒しようともせず、声を張り上げて哂う。 敵を誘き寄せてしまう可能性もあったが、そんなモノ今の名雪にとっては、何の脅威にも成り得ない。 そう――名雪は『最強の機械』を操る事に成功したのだ。 最早どのような敵が現われようとも、負ける可能性など皆無。 例え自分と同じように、パワーショベルカーを入手した敵が現われたとしても、造作も無く粉砕出来るだろう。 とは云え機械である以上、燃料が尽きてしまえばそれまでだ。 余程の強敵が現われない限りは、パワーショベルカーを中心に戦うべきかも知れない。 名雪はそう考えて、『最強の機械』をデイパックに仕舞い、代わりにパワーショベルカーを取り出した。 「さああゆちゃん、早く出てきてよ! ボロボロにしてあげる! グシャグシャにしてあげる! 一杯……いーっぱい、苦しめてあげるんだからあああああああああ!!!」 闇夜に響き渡る雄叫び。 運命に翻弄され、狂気に飲み込まれ、そして究極の力を手に入れた少女が、再び動き出す――――
◇ ◇ ◇ ◇ 舞台は移り変わる。 広大な森の中、切り開かれた円形状の平野に聳え立つ、一際巨大な建造物。 ホテルの玄関で、朝倉純一とその仲間達は話し込んでいた。 純一は外に広がる暗闇を一瞥した後、不安げな表情で問い掛ける。 「なあ悠人、どうしても行くのか? せめて明るくなるまで待った方が、安全じゃないか?」 「そういう訳にも行かないさ……合流予定時刻はもう過ぎてしまってるんだ。 千影の無事も確認したいし、衛達だって病院で待ってる」 情報交換を行った後、高嶺悠人は純一達と別行動を取り、病院に向かおうとしていた。 この殺人遊戯に於いて戦力の分断は下策であるし、暗闇の中の行軍は危険極まりない。 そう云った理由から、純一は悠人に制止を呼び掛けている。 だが病院での待ち合わせ時刻は既に過ぎており、これ以上悠長にはしていられない。 次の放送で病院が禁止エリアに指定され、合流出来なくなる危険性だってあるのだ。 それに、今の悠人には頼もしき同行者が付いている。 「大丈夫よ純一。私が一緒に行くんだから、問題無いわ」 悠人と共に行動する事になった小町つぐみが、自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。 何故つぐみが同行するのか、理由は簡単だ。 純キュレイ種であるつぐみは、赤外線を視覚で捉える事が可能な為、暗闇での行動を得意とする。 それに加え、純一や蟹沢きぬと違い、つぐみには『武を探す』という大きな目的もある。 人を探すのなら、一箇所に留まるよりも、動き回った方が遥かに効率的。 だからこそつぐみは悠人と共に病院へ向かい、その間純一と蟹沢きぬは、ホテルで待機する事になったのだ。
そして悠人とつぐみが玄関を潜り抜け、ホテルを後にしようとした時、後ろからきぬの躊躇いがちな声が聞こえてきた。 「……ちょっと待て、クラゲ」 「何よ?」 「変なトコでくたばんなよ。オメーみてえな奴でも、死なれたら気分悪いからよ」 「当然よ、武を残して死ねる訳無いじゃない。貴女の方こそ、精々純一の足を引っ張らないよう注意する事ね」 辛辣な言葉の交換は、別れの挨拶としては相応しくないようにも聞こえる。 だがつぐみも、きぬも、内心では分かっている。 お互いの言葉には、仲間を気遣う想いがちゃんと籠められているという事を。 悠人とつぐみは、純一達に見送られながらホテルを後にした。 そして、数十分後。 「つぐみ、前方の様子はどうだ?」 「大丈夫。少なくとも私の見える範囲内で、誰かが隠れてる様子は無いわ」 戦力的に劣る純一達の事を考えて、車をホテルに置いてきた為、二人は徒歩で林の中を進んでいた。 周囲に居場所を悟られぬよう、照明器具は一切用いずに、悠人は暗視ゴーグルを装備し、つぐみは己が赤外線視力を頼りとしている。 この方法だとどうしても移動速度は遅くなってしまうが、慎重を期すに越した事は無いだろう。 悠人と同じように暗視ゴーグルを装備した殺戮者が、突然奇襲を仕掛けてくる可能性だってあるのだ。 「…………」 悠人は複雑な表情で、つぐみの背中を眺め見る。 頭の中に引っ掛かっているのは、佐藤良美が逃げ際に放った言葉。 ――『武さんはね、殺し合いに乗ったよ!』
11 :
名無しくん、、、好きです。。。 :2007/10/10(水) 20:43:29 ID:DG6B30tJ
自分がつぐみと共に行動した時間は、未だそれ程長くない。 それでもつぐみが、倉成武に対して非常に強い愛情を抱いているのは分かる。 良美の言葉が事実だったとしたら、そして武の説得に失敗したとしたら、つぐみはどのような行動を取るのだろうか。 諦めずに、何度でも説得を試みようとするだろうか。 それとも―― 悠人がそこまで考えた所で、前方を進んでいたつぐみがピタリと立ち止まった。 「――ねえ、何が音がしない?」 「……え?」 云われて耳を澄ましてみると、確かに何かの音がしているようだった。 音は遠くから聞こえて来ているが、段々とこちらの方へと近付いてくる。 「悠人、此処は一旦――」 「ああっ!」 悠人とつぐみは頷き合い、瞬く間に茂みの中へと身を隠した。 音は益々近付いてきており、最早騒音と云える程の音量になっている。 そのまま待っていると、やがて林道の向こう側から、音源と思われるモノがやって来た。 (な……あんな物まで支給されてるのか!?) 悠人は驚愕の声を上げたい気分だった。 現われたのは、一般的にはパワーショベルカーと呼ばれている代物だったのだ。 無骨なフォルムや圧倒的な大きさもさる事ながら、その走行速度も馬鹿にならない。 少なくとも、常人の全力疾走に比べればずっと速い。 いかな悠人とて、正面からやり合えば苦戦は免れないだろう。 だが幸いショベルカーの運転手は悠人達に気付いていないようで、真っ直ぐに林道を突き進んでいる。
(……あの方向は) パワーショベルカーが走り去ろうとしている方角、それは北だった。 自分の記憶に間違いが無ければ、北には学校や住宅街がある筈。 そしてそれらは、衛が病院に向かう道中で、立ち寄る予定の場所だ。 とは云え、普通に考えれば問題など無いだろう。 病院への集合予定時刻は既に過ぎている。 衛はもう、病院に到着していると判断するのが妥当。 だが悠人の脳裏には、とある不安がこびり付いて離れなかった。 (もし……衛も、俺と同じだったとしたら――) 自分と同じように、移動が大幅に遅れていたら? 何かのトラブルに巻き込まれて、相方とはぐれてしまっていたら? そして――衛が一人で、あのショベルカーと遭遇してしまったら? ……結末は考えるまでもないだろう。 普通の少女である衛が、あんなモノから逃げ切れる筈も無い。 そう判断した悠人は、ショベルカーの姿が消えるや否や、鞄からランタンを取り出した。 「……悪い、病院にはつぐみ一人で行ってくれ」 「え?」 「ちょっと気になる事があるんだ――俺はあのショベルカーを追い掛ける」 悠人がそう伝えると、途端につぐみは呆れ気味の表情となった。 わざわざ危険に飛び込もうと云うのだから、その反応も当然の事だろう。 「貴方、何考えてるの? まさか生身で、あんなモノとやり合うつもり?」 「ああ、必要ならな」 「……そう、分かったわ」
つぐみはそれ以上、何も云わなかった。 その場で悠人と別れて、目的地である病院に向かって突き進む。 つぐみにとって悠人は、あくまで出会って間も無い人間。 朝倉純一や蟹沢きぬのように、仲間として認めた訳では無い。 無謀な行動を諌めたり、一緒になって戦う義理など、有りはしないのだ。 武が対主催者同盟の一員となって、病院に滞在している可能性もあるし、ホテルでは純一達が自分の帰りを待っているだろう。 ならば今は悠人の愚かな行動に関与するよりも、逸早く病院に向かうべきだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 再び場所は移り変わり、地図上で云えばE-4とE-5の境目に位置する平原。 傷の手当てと短い睡眠を終えた佐藤良美は、小屋を出発して北へと向かっていた。 「まさか、この島でこんなモノを使う事になるなんてね……」 良美はデイパックを開き、中に入れてあった目覚まし時計を複雑な表情で眺め見た。 商店街で入手した目覚まし時計があったからこそ、自身の睡眠時間をコントロール出来た。 もっと長時間眠ろうかとも考えたが、単独行動の自分がそんな事をすれば、睡眠中の所を襲われかねないのだ。 眠ったのは一時間程度、それでも以前に比べれば、体調は大幅に回復している。 手の傷は未だ激しく痛むものの、両腕を用いれば銃撃は可能な筈。 当分の間、行動に支障が出たりはしないだろう。 そうして良美が歩き続けていると、前方にある茂みの辺りから物音が聞こえてきた。 姿こそ見えぬものの、誰かがこちらに向かって歩いて来ているのは確実。 「……………っ」 瞬間、良美は選択を強いられた。 無力な少女を演じるべきか、若しくは正体を露にして交戦すべきか、である。 出来れば上手く騙して利用したい所だが、もう自分の悪評は相当に広まっている筈。 此処は素直に交戦すべきか――そう考え、S&W M627PCカスタムを構えようとしたのだが。
。
「……待つんだ。私は……殺し合いに、乗っていない……」 茂みの中から現われた少女――千影が、制止の声を投げ掛けてきた。 だが当然、その言葉を素直に信じ込む程良美は莫迦でない。 相手の右手には、しっかりと銃――恐らくはショットガンの類――が握り締められている。 相手は良美の正体に気付きながらも、敢えて何も知らぬ風を装い、隙を突こうとしているかも知れないのだ。 「ふうん……。じゃあまずは、その銃を放してくれないかな? 私だって殺し合いに乗っていないけど、そんなの持たれてたら怖いよ」 「それは……無理だね。これは最低限の……護身道具さ……」 そして千影もまた、相手をアッサリと信用したりはしない。 この殺人遊戯に於いて、安易に他人を信じる事は即命取りとなる。 無闇矢鱈に交戦する気など無いが、必要最低限の警戒は維持しておかねばならないだろう。 死んでいった姉妹達やトウカの為にも、下らぬミスで命を落とす訳にはいかないのだ。 「……そう。困ったねえ、それじゃ貴女を信じてあげられないよ」 「…………」 二人の間に漂う緊張感が、少しずつ高まって行く。 二人は未だ銃口を向け合っていないものの、何時でも回避動作に移れるよう、腰を低く落した態勢になっている。 「でも、一応聞いておくよ。貴女の名前は?」 「……私の名前は……千影」 「――――っ」 良美の眉がピクリと持ち上げられる。 告げられた名前には聞き覚えがあった。 千影――自分の記憶に間違いが無ければ、少し前まで高嶺悠人と共に行動していた少女。 悠人が自分の正体を知らなかった以上、千影も同様である可能性が非常に高い。
。
「貴女が千影さん……か。うん、悠人君から話は聞いてるよ。 ――私は佐藤良美。ごめんね、疑っちゃって」 「……いや……構わない。それよりも良美くん、君は……悠人くんと会ったのかい?」 「うん、そうだよ」 念の為に自身の名前を告げてみたが、千影の表情に翳りは見られない。 寧ろ悠人と出会ったという言葉の方に、興味を惹かれているようだった。 自分の悪評は伝わっていないと判断して、ほぼ間違いない筈。 ならば此処は攻撃を仕掛けるよりも、懐柔を試みるのが最善手だろう。 良美は表情を緩めると、デイパックにS&W M627PCカスタムを仕舞い込んだ。 千影もそれを見て、ショットガンをデイパックに戻そうとして―― 「「――――――――ッ!!」」 後方で鳴り響く爆音。 二人が同時に振り返ると、巨大なショベルカーが一直線に突っ込んで来ていた。 良美も千影も数々の修羅場を経験しているが、流石にこの事態には驚愕を隠し切れなかった。 「アハハ、千影ちゃんに佐藤さんだ! アハハハハハハハハハハハッ!!」 ショベルカーの運転手――水瀬名雪の哄笑が拡声器で増幅されて、周囲一帯に響き渡る。 哂う名雪の肉体は、正視に耐えぬ程にボロボロだ。 右眼球は破裂し、頭蓋骨には皹が刻み込まれ、右肩にも大量の出血が見られる。 だがどれだけ自らの肉体が傷付こうとも、今の名雪は止まったりしない。 けろぴーさえ動かせれば、狩猟を続ける事は可能なのだ。 名雪が駆るショベルカーは、点在する木々を薙ぎ倒しながら疾駆してゆく。 しかし千影と良美は、名雪と面識がある。 ならば二人は、説得を試みようとするのだろうか。 「なゆ……き……くん……」
。
。
千影はぐっと息を呑んでから、擦れた声を絞り出した。 ショベルカーから聞こえてきた声は、間違い無く水瀬名雪のもの。 そして今もショベルカーは、千影達の方へと突っ込んで来ている。 言動からして、明らかに千影や良美の姿を視認しているにも関わらず、だ。 つまり―― 「そうか……君は殺し合いに乗ったんだね」 ショットガンの銃口を持ち上げて、叫ぶ。 「やっぱり君が、衛くんを殺したんだね……っ!!」 瞬間、千影はショットガンのトリガーを引き絞った。 憎しみに身を任せ、何度も何度も。 そしてそれとほぼ同時に、良美もまた銃を構えた。 「いけないなあ、名雪ちゃん。折角千影さんとお話してたのに、邪魔しないでよ」 見境無く襲い掛かってくる狂人など、只の邪魔者でしかない。 良美の構えたS&W M627PCカスタムが、続けざまに火花を吹く。 千影と良美の放った銃弾の群れは、ショベルカーの胴体部へと吸い込まれていった。 相手が生身の人間ならば、完膚無きまでに葬り去れるであろう集中放火。 だがショベルカーの前には、その程度の攻撃など無意味。 「――そんな攻撃、けろぴーに効くもんかあ!」 カンカンッ、と甲高い金属音が連続して鳴り響く。 ショベルカーを覆う鋼鉄の装甲は、造作も無く弾丸を弾き返した。 そのまま名雪は機体を前進させ、哀れな獲物達を踏み潰そうとする。 ショベルカーと千影達の距離は、もうごく僅かだ。
。
。
。
。
。
「行け、けろぴー! 二人纏めて潰しちゃええええええ!!」 「くっ…………」 「この――」 迫り来る危険から身を躱すべく、良美は左方向へ、千影は右方向へと飛び退いた。 周囲に点在した木々のお陰で、ショベルカーの勢いが若干削がれたのもあり、どうにか回避が間に合った。 千影と良美の間にある空間を、鋼鉄の車体が通過してゆく。 必然的に千影と良美は、ショベルカーの背後を取る形となった。 「良美くん……此処は一つ……共同戦線を張らないかい?」 「私もそれが良いと思うな。でも、どうやってあんなのを倒すつもり?」 「正面からじゃ分が悪い……左右から、挟み撃ちの形で……窓ガラスを狙おう」 千影は未だ良美を完全に信用してなどいないし、良美も千影の利用価値を測っている最中だ。 それでもこの場に於ける最優先事項は、問答無用で攻撃してくる名雪への対処に他ならない。 直ぐ様二人は走り出し、ショベルカーを挟み込むような位置取りとなった。 ショベルカーがスピードを緩め、Uターンするその瞬間を狙って、銃の照準を窓ガラスに合わせる。 「名雪くん……残念だけど――」 「――死ぬのは貴女一人だけだよ!」 良美と千影は同時にトリガーを引き絞って、各々に銃撃を行った。 未だ方向転換を終えていない名雪に、迫り来る銃弾の群れを回避する術は無い。 そして窓ガラスの耐久力は、鋼鉄で覆われた胴体部に比べ大きく劣っている筈。 そこを狙っての一斉射撃。 千影と良美が取り得る戦術の中で、最も効率が良いであろう攻撃方法。 だが名雪を守る防弾ガラスは、永遠神剣による連撃すらも防ぎ切る代物だ。 放たれた銃弾は全て、防弾性の窓ガラスに虚しく弾き返されるだけだった。 「それで終わり? 下らない……下らない下らない下らないっ! 私のけろぴーには、何をやっても勝てる訳ないんだよ!!」
。
『けろぴー』を駆る名雪にとっては、銃撃など警戒に値しない。 名雪は一方的な狩猟を行うべく、狙いを千影一人に絞って、ショベルカーを全速力で走らせた。 千影の眼前にまで詰め寄ってから、鋼鉄の牙――所謂シャベルを、勢い良く振り下ろす。 「くぅ――――」 千影は横に転がり込んで、迫るショベルから何とか身を躱した。 それまで千影が居た辺りの地面が、ショベルによって大きく削り取られる。 速度こそ大した事が無いものの、凄まじいまでの破壊力を伴った一撃。 直撃してしまえば――否、掠っただけでも致命傷になりかねない。 「あはっ、よく避けたね――でも次は絶対外さないよ。 じっくりと追い詰めて、カトンボのように踏み潰してあげるんだから!!」 「……名雪くん」 何とか難を逃れた千影は、近距離でガラス越しに名雪の顔を眺め見た。 血塗れで笑顔を浮かべる名雪の姿は、言葉では言い表せぬ程に禍々しい。 片方しかない瞳は狂気の色に染まり切っており、口元は歪に吊り上げられている。 それで、名雪は殺し合いに乗ったと云うよりも寧ろ、狂気に飲み込まれただけなのだと分かった。 「でも……私がやるべき事は、変わらない……」 原因がどうであれ、名雪が善良な人間達にとって有害であると云う事実は、そして衛の仇であると云う事実は変わらない。 ならば千影にとって名雪は、何としてでも打倒しなければならない怨敵だ。 千影はショットガンに予備弾を装填しながら、ショベルカーの側面へと回り込む。 続けて走る足は止めぬまま、再度銃撃を試みた。 だが結果は同じ。 ショットガンから放たれた散弾の群れは、堅固な防弾ガラスによって一つ残らず阻まれた。 只でさえ残り少ない千影の体力だけが、徐々に削り取られてゆく。
。
。
そんな中、良美は目立たぬ位置へと身を隠してから、冷静に戦況を分析していた。 「……これはちょっと、不味いね」 先程の斉射が通じなかった以上、並大抵の攻撃では名雪を倒せないだろう。 相手は小回りが効かぬのだから、耐え凌ぐだけなら十分に可能だが、それも長くは保たない。 戦いが長引けば、いずれこちらの疲労が限界に達して、無様に殺されてしまうだけだ。 銃撃戦に固執せず、ショベルカーの車体に飛び乗ってしまえば勝機はあるが、それは相当のリスクを伴う筈。 そういった予測を踏まえると、自然に一つの選択肢が浮かび上がってくる。 (勿体無いけど……此処は引いた方が良いかな?) 幸い、名雪の攻撃は千影一人に集中している。 今なら、大した苦労も無く逃げ果せられるだろう。 だが一方で、このまま千影を見捨てるのは惜しい気もする。 時間が経過すればする程情報は拡散していくのだから、今後は益々状況が悪化していくに決まっている。 多くの人間に警戒されている自分が、手駒を入手する好機は、今回が最後かも知れないのだ。 どうするべきか、良美は迅速に思考を巡らせる。 だが良美が結論を下すよりも早く、決定的な転機が到来した。 「――――千影ぇぇッ!!」 「…………悠人、くんっ!?」 現われたのは、ショベルカーの後を追い掛けていた高嶺悠人だ。 悠人は状況を把握すべく全体を見渡し、最初に千影の姿を発見した。 見れば千影は、息を切らしながらも懸命に、巨大なショベルカーと戦っている。 「ク――待ってろ千影、今助ける!!」
。
再会を祝っている暇など無い。 一も二も無く悠人は疾走し、ショベルカー目掛けてベレッタM92Fを撃ち放った。 だが当然の如く銃弾は防弾ガラスに弾き飛ばされ、大した戦果を挙げぬまま無力化した。 驚きの表情を浮かべる悠人に、千影が警告を投げ掛ける。 「悠人くん、駄目だっ……! あの機械に銃は効かない!」 「分かった!」 悠人は直ぐにベレッタM92Fをデイパックへと戻し、代わりに日本刀――トウカが愛用していた物――を取り出した。 元々悠人の得意とする戦法は剣を用いての近接戦、銃弾が効かぬと分かった以上、拳銃に頼る意味など無い。 悠人はまるで臆する事無く走り続け、ショベルカーとの間合いを縮めてゆく。 「――カトンボが一匹増えたくらいで!!」 新たなる敵対者の存在を認めた名雪が、即座に攻撃目標を変更し、横薙ぎにシャベルを振るった。 広範囲に渡るその攻撃は、正しく死の旋風と呼ぶに相応しい。 しかし悠人は天高く跳躍する事で、迫る一撃を空転させた。 「ハアアアアアァッ!!」 空中に浮いたまま、ショベルカーの防弾ガラスに狙いを定めて、思い切り日本刀で斬り付ける。 悠人の攻撃動作はアセリアに比べると少々稚拙だが、一発一発の威力だけで見れば間違い無く最強だ。 その威力は、いかな防弾ガラスと云えども完全に防ぎ切れるものでは無い。 「えっ…………け、けろぴーが!?」 この戦いに於いて初めて、名雪の表情が狼狽の色に染まった。 悠人が放った剣戟は、防弾ガラスに刻み込まれていた皹を肥大化させていた。 それを好機と取った悠人は、連続して剣戟を繰り出し、その度に皹がより一層広がってゆく。 誰の目から見ても、耐久力の限界が近いのは明らかだった。
。
。
。
「う、あ、このっ……!!」 不利を悟った名雪は、堪らず操縦用のレバーを動かして、一旦悠人から距離を離そうとする。 しかしながら悠人が、後退しようとする敵を黙って見逃す筈も無い。 一気に勝負を決めるべく、大地を蹴り飛ばして疾走する。 だがそこで鳴り響く、一発の銃声。 悠人は脇腹に焼け付くような痛みを感じ、もんどり打って転倒した。 「あぐっ……が……!?」 「――ふふ、また会ったね悠人君」 「ぐ……お前は……!」 悠人が身体を起こし、銃声のした方へ振り向くと、そこには数時間前に交戦した佐藤良美が立っていた。 良美は心底可笑しげに微笑みながら、悠人に向けてS&W M627PCカスタムを構えている。 とどのつまりは、良美が悠人を狙撃したのだ。 未だ良美の正体を知らぬ千影が、訝しげに眉間へ皺を寄せた。 「良美くん……、一体何のつもりだい……?」 「一々説明しないと分からないのかな? 見ての通りだよ」 「……つまり君は、殺し合いに……乗っているという訳か」 千影の質問に、良美は笑みを深める事で応えた。 良美はもう正体を隠すつもりも、この場から逃亡するつもりも無かった。 自分の正体を知る悠人が出現した事で、千影を騙すのはほぼ不可能になった。 だからこそ逸早く思考を切り替えて、この場に居る人間全ての排除を目標にしたのだ。 平時であれば、殺し合いに乗った自分は、人数的に不利な戦いを強いられる。 しかし名雪という無差別殺人者が居る今ならば、立ち回り方次第で、悠人と千影の両方を始末出来る筈だった。 「糞っ――良美! お前どうして、そこまで楽しそうに人を襲えるんだよ! ことりみたいな良い子を殺して、心は痛まないのかよ!?」 「……ちょっと待ってくれ、悠人くん。ことりくんが……死んだ、だって……?」
。
千影が聞き返すと、悠人は表情を深く曇らせた。 「ああ。ことりは良美と戦って、それで……」 「……ことりくん。君まで……逝ってしまったのか……」 また一人知り合いが死んでしまったと分かり、千影は悲しげな声を洩らした。 白河ことりとは少し会話しただけの仲だったが、彼女が善良な人間であったのは分かる。 こんな所で殺される謂れなど、ある筈も無い。 一方千影と対照的に、良美は何時も以上の笑顔を湛えていた。 苦渋を舐めさせられた怨敵が死んだと聞いて、上機嫌になっているのだ。 「そっかあ、やっぱりことりちゃんは死んだんだね。うん良いよ、折角だから質問に答えてあげる。 心が痛む? そんな訳無いじゃない。お人好しが一人減って、寧ろせいせいするよ」 「っ……コイツ、何処までも腐り切ってやがる……!」 三者三様の表情を見せる三人。 悠人は怒りの表情を、良美は愉悦の表情を、そして千影は悲嘆の表情を露としている。 だがそれも、長くは続かない。 ルール無用の殺人遊戯に、開戦の合図など不要。 良美は唐突に腕を持ち上げて、S&W M627PCカスタムのトリガーを引き絞った。 千影が直感に身を任せて跳ねるのとほぼ同時、唸りを上げる357マグナム弾が、彼女の頬を掠めた。 「――遅いよっ!」 良美の攻撃はそれだけに留まらず、立て続けに銃弾が放たれてゆく。 後手に回ってしまった千影と悠人は、否応無く回避を強要される。 疲弊した千影と脇腹を撃ち抜かれた悠人にとって、それは決して楽な作業で無かった。 「っ…………!」
。
業を煮やした千影が、苦し紛れにショットガンを撃ち放ったが、散弾は狙った位置から大きく逸れてしまった。 回避しながらでは、照準を合わせる余裕など無かったのだ。 そして無理な反撃を行った千影は、良美にとって格好の標的に他ならない。 しかし良美は千影に銃撃を浴びせようとせず、突然横方向へと飛び退いた。 その直後、良美の傍を巨大な物体が通過してゆく。 「――あははははははっ、一人残らずペチャンコにしてやるぅうううう!!」 ショベルカーに搭載された拡声器から、狂った笑い声が放たれる。 獲物達同士で交戦し始めたのを見て取り、名雪はここぞとばかりに攻めに転じた。 上手く奇襲を躱した良美にはもう目もくれず、前方に残る二人の標的へと意識を集中させる。 名雪の駆るショベルカーが、一直線に悠人達の方へと向かってゆく。 それを迎え撃つ形で、悠人もまた勢い良く駆け出した。 徐々に明るみを帯び始めた大空の下、鋼鉄の怪物と鍛え抜かれた戦士が衝突する。 「っ…………く、そ――――」 悠人の動きには、先程までのようなキレが無い。 乱暴に振り下ろされたシャベルを、サイドステップで躱したものの、そこから反撃に転じれない。 撃ち抜かれた脇腹の怪我が原因で、行動一つ一つの速度が大幅に低下しているのだ。 間合いを詰め切る前に、ショベルによる第二撃が飛んで来て、悠人は後退を余儀無くされる。 今の身体で接近戦を挑むのは、分が悪いと云わざるを得なかった。 「でも……それならそれで、やりようはある!」 ならばと、悠人はデイパックからベレッタM92Fを取り出した。 これならば無理に間合いを詰めなくても、離れたままで攻撃出来る筈。 シャベルの射程外で、悠人は弾切れまでトリガーを引き絞る。
。
しかし名雪も、大人しく銃撃を受け止めたりはしない。 防弾ガラスの損傷が深まっている今となっては、銃弾一つ一つが致命的な損害に繋がりかねない。 素早くレバーを操作して、ショベルカーの車体をジグザグに揺らす事で、被弾部位をズラそうと試みる。 それでも銃弾の幾つかは防弾ガラスに命中したが、破壊し切るには至らない。 そして銃弾を再装填する暇など与えんと云わんばかりに、ショベルカーが再び接近して来て、悠人は守勢に回る事となった。 「チィ――――」 「逃げろ逃げろ! 虫ケラみたいに醜く逃げ惑え!!」 傷付いた身体に鞭打って戦う悠人と、限界の近い機体を酷使する名雪。 両者の戦いは、互角と云っても差し支えないだろう。 そんな二人から少し離れた場所では、千影と良美が苛烈な銃撃戦を繰り広げていた。 「――千影さん、もっと頑張らないと当たっちゃうよ?」 「…………くっ」 轟く銃声、忙しい足音。 千影のすぐ傍の空間を、猛り狂う銃弾が切り裂いてゆく。 済んでの所で命を繋いだ千影は、散弾銃の照準を合わせようとする。 だがそれを遮るような形で、良美の構えたS&W M627PCカスタムが火を吹いた。 「――つ、あ……!」 千影は即座に銃撃を中断し、ぎりぎりのタイミングで上体を捻った。 真っ直ぐに迫り来る銃弾は、千影の右肩を軽く掠めていった。 千影は激痛を噛み殺して反撃しようとするが、それも良美の銃撃によって阻まれる。
。
古いタイプの回転式拳銃を用いている良美と、高性能の散弾銃を用いてる千影。 武器だけ見れば、どう考えても千影に分がある。 しかし休憩を取ったばかりの良美と違い、千影は未だ疲労困憊の状態だ。 故に良美は行動一つ一つの速度で千影を上回り、常に先手を取る形となっていた。 「ハァ――フ――、ハ―――」 呼吸を荒く乱しながら、千影は回避に専念し続ける。 秀でた動体視力など持たぬ千影が銃弾を避けるには、照準を合わされぬよう常に走り続けるしかない。 苦し紛れの反撃すらも許されない、余りにも一方的な展開。 それでも千影の瞳には、諦めの色など微塵も浮かんではいなかった。 (まだだ……絶対に好機は来る。トウカくんなら……絶対に、諦めない……!) 生きている限り、そして自分から勝負を捨てない限り、勝敗の行方は分からない。 桁外れの実力を誇ったネリネ相手ですら、トウカは最後まで希望を捨てず、そして絶対的な劣勢を覆したのだ。 だから、自分も諦めない。 どれだけ見苦しかろうとも、死を迎えるその瞬間まで諦めず、一縷の勝機が到来するのを待ち続ける。 「く――――は、――――あ――――!」 身体の限界を感じつつも、千影は懸命に良美の猛攻を耐え凌ぐ。 絶えず跳んだり跳ね回ったりして、敵の銃撃を躱してゆく。 そして千影が思っていたよりも早く、反撃の時は訪れた。 「…………?」 千影は激しく動き回りながらも、一抹の疑問を感じ始めていた。 それまで絶えず降り注いでいた銃弾の雨が、急に飛んで来なくなったのだ。 見れば良美は、鞄の中に片手を突っ込んだまま、狼狽の表情を浮かべている。 まさか――千影の推測を肯定するように、良美の口から焦りの言葉が零れ落ちた。
・
。
「――た、弾切れっ……!」 つまりは、そういう事だ。 あれだけ一方的に攻め立てれば、何時銃弾が尽きてしまっても可笑しくは無い。 その事実を正しく認識した瞬間、直ぐ様千影は攻めに転じた。 右手にショットガンを握り締めたまま、左手で鞄から永遠神剣第三位"時詠"を取り出す。 唯一無二の好機をモノにすべく、自身の全戦力を揃えた上で敵目掛けて疾駆する。 「……ことりくんの仇、取らせて貰うよ――!」 「ち、かげ――――さん――――!!」 千影は走りながら一発、二発とショットガンを撃ち放った。 片手での、そして動き回りながらの射撃が命中する筈も無いが、十分牽制にはなる。 今は当たらなくても良い、良美の後退を防げればそれで構わない。 焦らずとも、近距離まで詰め寄ってしまえば、広範囲に渡るショットガンの攻撃は確実に命中する筈だった。 前に進む足は決して止めぬまま、良美の後退を遮るような形で、何度も何度も引き金を絞る。 そのまま狙い通りに間合いを縮め切って、ゆっくりとショットガンの照準を定めようとして――瞬間、良美の顔に冷笑が浮かんだ。 「……莫迦だなあ、千影さん。本当に弾切れだったら、わざわざ報せてあげないよ」 「――――ッ!?」 千影が照準を定めるよりも早く、良美のS&W M627PCカスタムが水平に構えられた。 咄嗟の判断で千影が"時詠"に魔力を注ぎ込むのとほぼ同時、一発の銃声が鳴り響いた。
。
「……へぇ。まさか、今のを避けるなんてね」 「あ……ぐ…………」 結果から云えば、銃弾が千影の身体を捉える事は無かった。 千影はタイムアクセラレイト――自分自身の時間を加速する技――を発動させて、間一髪の所で難を逃れたのだ。 だがその代償として、残る全ての魔力と体力を消耗してしまった。 手足の先端にまで痺れるような感覚が奔り、喉はカラカラに乾き切っている。 最早、銃撃戦を続けられるような状態では無い。 千影と良美の距離は約15メートル。 苦しげな表情を浮かべる千影に、S&W M627PCカスタムの銃口が向けられる。 「どうやって躱したのか教えて欲しいけど……どうせ断るよね?」 「……ああ。君みたいな人間に……手を貸すつもりは無い」 「そう。それじゃ、今すぐ殺し――――!?」 そこで、良美の背後から、巨大なエンジン音が聞こえて来た。 「死ねっ死ねっ!! 佐藤さんも千影ちゃんも、皆死んじゃええええええええええッ!!」 悠人との戦闘を中断した名雪が、良美と千影を一纏めに始末すべく突撃する。 良美は死に物狂いで横に転がり込んで、迫る脅威から紙一重のタイミングで逃れた。 しかし未だ体力に余裕のある良美とは違い、千影にはもう何の力も残されていない。 「アハハハハハハハハッ、バイバイ千影さん!!」 「う、く、ァ――――――」 シャベルが容赦無く振り下ろされる。 千影は懸命に真横へ逃れようとするが、明らかに速度不足。 どう考えても避け切れない。 だが千影の危機を前にして、悠人が大人しく手を拱いている筈も無い。
「――させるかあああああああっ!!」 悠人は恐るべき勢いで駆け付けると、千影の身体を抱きかかえて跳躍した。 天より降り注ぐ鋼鉄の牙が、悠人達のすぐ真横の地面を大きく抉り取る。 「こ……の……カトンボがあああぁぁぁ!!」 「遅い――――!」 激昂した名雪がシャベルを横に払おうとするが、それは無駄だろう。 悠人は既に後方へ下がり始めており、このままショベルの射程範囲から逃れ切る筈。 横薙ぎに振るわれる鋼鉄の牙が、獲物に噛み付く事は無い。 そう――空気を引き裂く、一発の銃弾さえ無かったのなら。 「――惜しかったね、悠人君」 「…………ガアアアッ!?」 苦悶の声が木霊する。 良美の放った銃弾が、悠人の右太腿を完璧に貫いていた。 グラリ、と大きく悠人の身体がバランスを崩す。 悠人は一瞬の判断で、それまで抱き抱えていた千影を、安全圏へと突き飛ばした。 その、直後。 「あ――――――」 今度は、呻き声を上げる余裕すら無かった。 ショベルカーに搭載された鋼鉄の牙が、悠人の身体を正確に捉えていた。 悠人はゴミのように吹き飛ばされ、少し離れた地面に背中から衝突した。
。
「がはっ――――ぐ、ごふっ……!」 「ゆ、悠人くん……!!」 倒れたまま咳き込んだ悠人の吐息には、紅い血液が混じっていた。 手足の感覚は消え失せて、全身が砕け散ったような錯覚すら覚える。 圧倒的な衝撃で、内臓は酷く痛め付けられた。 肋骨の内数本は折れ、かろうじ骨折を免れた部位にも皹が入っている。 「づ……あ……ぐ……」 悠人は必死に立ち上がろうとするが、身体が反応してくれない。 どれだけ必死に命令を送っても、腕や足が思うように動かない。 それだけのダメージを、受けてしまった。 「フ――ハハ――――アハハハハハハハハハハハハッッ!! 醜く地面を這いずり回って、カトンボにお似合いの姿だね!」 とうとう獲物を捕らえた名雪は、余裕綽々たる面持ちでショベルカーを停車させて、高々と哄笑を上げていた。 這い蹲るカトンボを天からじっくりと見下ろすのは、名雪にとってこの上無い快感だ。 「どうだどうだっ、やっぱりけろぴーは無敵なんだよ! 私は無敵なんだよ! あはっ、あははははははははっ!!」 気分が高揚し切った名雪は、すぐにトドメを刺そうとはせず、唯只哂い続ける。 だが名雪は少し横に視線を移し、大きな違和感を覚えた。 悠人同様に絶体絶命である筈の千影が、こちらを見ていないのだ。 単に余所見していると云う訳では無い。 千影の視線は、名雪よりも更に上方の位置へと寄せられていた。
。
「…………?」 疑問を解消すべく、名雪が頭上に視線を送ると、そこには―― 「――良く頑張ったね、名雪ちゃん。お陰で悠人君達を殺せそうだよ」 「え……ひ、あ、ひああああっ!?」 嘗ての倉成武と同じように、佐藤良美がショベルカーの天井に張り付いていた。 「でもね、これでもう名雪ちゃんは用済みなの。だから――そろそろ死んでよ」 良美はS&W M627PCカスタムを取り出すと、防弾ガラス上の皹が密集した部分に狙いを定めて、思い切りトリガーを引いた。 至近距離から何度も何度も銃弾が吐き出され、同じ箇所に叩き付けられてゆく。 ピンポイントを狙ったその銃撃に耐え切れず、とうとう防弾ガラスの一部が砕け散った。 すかさず良美は、その開いた穴から片腕を侵入させる。 「ヒッ――は、はああ、ひううっ……、嫌だ、助けて、死にたくない…………っ!!」 良美を振り落とすべく、名雪が必死に機体を前進させようとするが、遅い。 良美は怯える名雪の姿を、何処までも愉しげに眺め見た後―― 「さて、何が起きるかな?」 右人差し指に嵌めたフムカミの指輪を使用した。 瞬間、良美が指を向けた先――即ち、名雪に向かって幾重ものカマイタチが放たれる。 「ひぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああッッ!!!」 名雪の喉から、獣の如き悲鳴が吐き出された。 荒れ狂う風の刃は、容赦無く名雪の身体を蹂躙してゆく。 服を裂き、肌を裂き、酷い箇所では血管すらも断ち切られている。 舞い散る鮮血により、防弾ガラスが真っ赤に染め上げられた。
。
「ぎっ……がっ……ごああ……ガァァァアアア!!」 凄まじい激痛から意識を逸らすように、名雪は操縦用のレバーを滅茶苦茶に動かした。 それは何か明確な狙いがあった訳では無い、只の苦し紛れに過ぎぬ行動だ。 だがその行動こそが、名雪の命を薄皮一枚の所で繋ぐ結果に繋がった。 まるで操縦者の苦悶に反応するかのように、ショベルカーが不規則な動きで走り出す。 「……っ、くあ、無茶苦茶、だね……!」 良美は慌てて攻撃を中断して、転げ落ちぬよう態勢を安定させる事に専念した。 ショベルカーは慌しく左右に方向転換し、その度に良美の身体を衝撃が襲う。 まるでロデオ。 暴れ狂う馬に乗っているかのような感覚。 結局このまま張り付いていては危険と判断し、良美はショベルカーから飛び降りた。 「あぐ、あうっ、ぐ……よくもよくもぉ! 殺すッ、絶対に皆殺してやるぅぅぅぅぅぅう!!!」 名雪が駆るショベルカーはそのまま、明後日の方向へと走り去って行った。 スピーカーから、苦悶と憎悪の声を撒き散らしながら。 そして地面に降り立った良美は、逃亡するショベルカーを追い掛けたりしない。 フムカミの指輪が巻き起こした現象は驚愕に値するが、そのような事に意識を取られている暇も無い。 今は生死を賭した激戦の最中であり、全員が敵対者を仕留めるべく動いているのだ。 ならば次に何が起こるなど、考えるまでもない事だろう。 良美は大地を蹴って、素早くその場から退避した。 次の瞬間、それまで良美が居た空間を散弾の群れが引き裂く。 「甘いよ千影さん。悠人君を囮にするくらいじゃないと、私の裏は掻けないよ?」 「――――っ」
。
散弾を放った張本人である千影が、焦りを隠し切れぬ顔付きになる。 良美の背後に回り込み、照準をしっかりと絞り込んでの奇襲。 千載一遇の好機だった筈なのに、それすらも読み切られてしまった。 良美はS&W M627PCカスタムに銃弾を詰め込みながら、千影をじっくりと眺め見る。 「千影さんもなかなか頑張ったと思うけど、そろそろ限界みたいだね」 その言葉に、千影は反論を返せない。 何とか自分の足で立ってはいるものの、それで殆ど限界だった。 時詠を介しての魔術はもう使えぬし、銃撃から身を躱すような動きも望めない。 度重なる連戦によって、魔力も体力も完全に底を突いているのだ。 対する良美も、万全の状態であるとは云い難い。 左手の小指は消失してしまっているし、右手にも軽くない傷を負っている。 体力も、一時間程度の睡眠では回復し切れていない。 それでも良美には未だ、動き回るだけの余力が十分にある。 とうに限界を越えている千影と比べれば、どちらが有利かなど明白だ。 両者が戦えば、一分も経たない内に決着が着くだろう。 だが、決して失念してはいけない――この場には、もう一人戦士が居る事を。 「ぐ――う――やらせる……かよっ……!」 「――悠人くん!?」 驚きの声は、千影のものだ。 満身創痍の風体を晒しながらも、悠人が懸命に起き上がろうとしていた。 口元にこびり付いた血を拭おうともせず、トウカの刀を杖代わりに用いて。 慌てて千影は、悠人の無謀な行いを制止しようとする。
。
「悠人くん、無茶だ……! 此処は私が――」 「駄目だ。ことりは最後までコイツに立ち向かった……腹を撃たれても戦い続けて、一矢報いたんだ。 それなのに、俺だけ逃げる訳にはいかないさ」 それに、と悠人は続ける。 「俺は衛やお前を守るって決めたんだ! お前達を何としてでも守ってみせるって、約束したんだ! だから絶対、コイツに勝ってみせる!!」 そう云って悠人は、日本刀を深く構えた。 その瞳には、警戒に値するだけの強い光が宿っている。 肋骨の幾つかが折れ、内臓も酷く傷付けられているにも関わらず、良美に立ち向かおうと云うのだ。 通常ならば、まず考えられない状況。 だが良美は、目の前で繰り広げられた光景に対して、驚きなど感じていなかった。 「……やっぱりね」 良美にとって、この事態は予想の範疇。 自分は既に、過去何度も同じような経験をしている。 前原圭一も白河ことりも、追い詰めれば追い詰める程、驚異的な底力を発揮した。 そして――その度に、苦渋を舐めさせられてきた。 「私、分かったんだ。悠人君みたいなタイプの人は、どれだけ痛め付けても止まらない。 どれだけ絶望させようとしても、奇麗事を吐き続ける」 もう、嫌という程思い知った。 こういった類の相手と戦う際には、一瞬の油断が命取りとなる。 相手がどれだけ傷付いていようとも、腹部を撃ち抜こうとも、気を抜けばその瞬間に負ける。 余分な思考は、只の足枷にしか成り得ない。
。
そう――必要なのは、純然たる殺意のみ。 相手の想いを上回る、圧倒的な憎悪のみ。 そこで良美がS&W M627PCカスタムの銃口を持ち上げ、構え終えた時にはもう銃弾が発射されていた。 三発。 群れを成した銃弾が、悠人目掛けて襲い掛かる。 悠人は上体を捻って避けようとしたが、今の身体で全てを凌ぎ切る事は不可能だった。 放たれた銃弾の一発が、悠人の左肩に突き刺さる。 「俺は……守ってみせる」 それでも、悠人は止まらない。 ことりは止まらなかったのに、自分だけが止まれる筈も無い。 トウカの刀を握り締めて、傷付いた足で一直線に駆け続ける。 「私は……憎い」 そして良美もまた、一歩も引き下がろうとはしない。 人を信じる、人を守ると云った悠人達の生き方は、絶対に認められない。 傷だらけの両手で、何度も何度も銃を撃ち放つ。 「衛を――そしてアイツの姉妹を、絶対に守ってみせる! もう衛が悲しむ所なんて見たくない!!」 悠人は良美の銃撃を、左右にステップする事で掻い潜った。 ――これまで自分を支え続けてくれた少女、衛。 これ以上彼女が悲しむ所なんて見たくない。
。
「圭一君が――そして悠人君のような、偽善者達が憎い! 私の全てを奪った世界そのものが憎い!!」 良美は弾の尽きた拳銃を仕舞い込んで、鞄から名刀"地獄蝶々"を取り出した。 ――自分にとって最も大事な存在だった、霧夜エリカと対馬レオ。 彼女達を奪った世界そのものが憎い。 「だから俺は――」 「だから私は――」 二人は、互いの剣が届く位置にまで踏み込んだ。 良美は地獄蝶々を、悠人はトウカの刀を振り上げて、 「「絶対に負けられないんだぁぁぁぁあああああああ!!!」」 己が想いを思い切り叩き付ける――!!
。
二本の刀が鬩ぎ合う。 絶対に譲れぬ想いと想いが衝突する。 だが、それはほんの一瞬。 あっという間に均衡は破られた。 「くぅ――――!?」 甲高い金属音と共に、良美の手から地獄蝶々が弾き飛ばされる。 いかに満身創痍と云えども、高嶺悠人はラキオスのエトランジェ。 只の一般人である、そして左小指を失った良美が、斬り合いで勝てる道理など無い。 「貰ったぁぁぁぁああああ!!」 得物を失った良美目掛けて、悠人が日本刀を振り下ろそうとする。 至近距離から放たれる剣戟を、今の良美が防御する方法は存在しない。 されど――良美とて覚悟を決めし修羅。 どんな極限状態であろうとも、諦めたりしない。 守れぬと云うなら、攻撃に全力を注ぎ込むだけの事……! 「まだ、だよ…………っ!!」 「ッ――――!?」 手を伸ばせば届く程の至近距離で、良美はフムカミの指輪を使用した。 猛り狂うカマイタチが、悠人の身体を次々に切り裂いてゆく。 だが、どれも致命傷に至るようなものでは無い。 その程度の攻撃で、悠人は怯んだりしない。
。
「ク……オオオオォォォォォ――――!!」 悠人は風圧で吹き飛ばされながらも、刀を最後まで振り下ろした。 しかし距離を離されてしまった所為で、刀の先端しか届かない。 放たれた剣戟は、良美の左肩を浅く切り裂くに留まった。 二人はよろよろと後退して、十メートル程の間合いを置いた状態となる。 「グ、ガアァッ…………」 「あ、くうっ…………」 悠人と良美は揃って呻き声を洩らす。 最早悠人は、自力で立てているのが不思議な程の状態だ。 対する良美も相当のダメージを負っているものの、悠人に比べればまだ浅手。 身体の状態ならば良美が、素の実力ならば悠人が大きく上回っている。 故に、両者の戦いは互角。 このまま戦い続ければ、どちらが勝つか全く分からない。 だがそんな二人の戦いは、第三者の手によって終止符を打たれようとしていた。 (悠人くん、悪いけど……横槍を入れさせて貰うよ。 君を……此処で死なせる訳には、いかないからね……) ショットガンに銃弾を詰め終えた千影が、良美の横顔に照準を合わせる。 先程までは悠人を巻き込む可能性もあった為、狙撃する事が出来なかった。 しかし両者の間に十分な距離がある今ならば、確実に良美だけを仕留められる筈。 一騎打ちの邪魔をするのは少々気が引けるが、今は悠人の命を守るのが一番重要だ。 千影は引き金を絞ろうとして――そこで、絶望的な何かが近付いて来るのを感じ取った。
。
「な――――」 思わず千影は言葉を失った。 良美も悠人も戦いを中断して、迫り来る物体に視線を寄せている。 黒光りしているボディ、特徴的な煙突。 ショベルカーを遥かに凌駕する圧倒的スケール、スピード。 見間違う筈が無い。 木々を薙ぎ倒して疾駆するソレは、蒸気機関車と呼ばれている代物だった。 「っ…………!!」 良美の判断は素早かった。 ショベルカーならばともかく、あんなモノが相手では犬死にするだけだ。 燃え盛るような憎しみを抑え込んで、直ぐ様逃亡を開始した。 先程弾き飛ばされた地獄蝶々を拾い上げて、即座にデイパックに押し込もうとする。 慌てていたのもあり、デイパックから何かを落としてしまったが、そんな些事に構ってはいられない。 一分一秒でも早くこの場を離れるのが、生き延びる為の絶対条件。 そのまま良美は脇目も振らずに、全速力で戦場から離脱した。 「――ハ、――ハァ――フ――」 斬られた左肩がじくじくと痛む。 銃撃の反動を押さえ続けた所為で、両手は感覚が無くなり掛けている。 悠人と千影には十分な損害を与える事が出来たし、後は放っておいても、あの機関車が始末してくれる筈。 だが今回のような戦い方をずっと続けていては、とても身体が保たないだろう。 ……いい加減、限界だ。 敵は大抵徒党を組んでいるのだから、こちらも集団化しなければ、余りにも不利過ぎる。
。
「なら――狙い目は、殺し合いに乗った人だね」 恐らくもう自分の悪評は広まり切ってしまっただろうが、殺人遊戯を肯定した者相手ならば、未だ交渉の余地はある。 自分と同じく、人数的な不利を痛感している殺戮者は多い筈なのだ。 交渉に成功したとしても、勝ち残れるのは一人だけである以上、信頼の伴わぬ一時的な協力関係に過ぎない。 だが、それで十分。 勝ち残れる確率が1%でも上がるのなら、何であろうと構わない。 「私は負けない……。どんな手を使ってでも、絶対に偽善者達を根絶やしにしてやる……っ!」 何処までも昏い声で紡がれる独白。 傷だらけになって尚、少女は全てを憎み続ける。 ◇ ◇ ◇ ◇ 佐藤良美が逃亡した後も、未だ戦場の緊張感は薄れていない。 千影と悠人は肩を並べて、眼前の絶望を只眺めていた。 「不味いな……」 「ああ……まさか……あんな物まで持ち出してくるとはね……」 逸早く逃亡した良美と違い、千影と悠人は未だその場に留まっている。 千影の体力は底を突いているし、悠人は右足を撃ち抜かれているのだから、逃げようとしても無駄だろう。 機動力。 その一点に於いて、千影達は絶望的な苦境に立たされていた。 機関車は悠人達の前方100メートル程の所まで来ると、その動きを止めた。
。
「フフフフ……アハハハハハハハハハハハッ!!!」 「名雪くん……」 機関車に取り付けられた拡声器から、水瀬名雪の笑い声が放たれる。 名雪が手に入れた『最強の機械』とは、殺人遊戯の開始直後に発見した、機関車の事だったのだ。 千影にとっても見覚えのあるソレは、二つの客車を切り離し、機関車本体のみの状態になっていた。 線路が無くとも運用出来る仕組みになっているこの特殊機関車は、走る殺戮兵器と云っても過言では無いだろう。 「もう許してあげないよ。凄く痛かったんだから……凄く恐かったんだからあ!! 千影ちゃん達も佐藤さんも、グチャグチャにしてやるぅぅぅぅっ!!!」 名雪はそう云って、機関車を発進させた。 点在する木々など、足止めにすらならない。 助走距離が短かった為に速度こそ緩慢だが、生身の人間に止められるような代物では無い。 圧倒的質量を誇る車体が、容赦無く千影達に襲い掛かる。 「クソッ、こんなの反則だろっ!」 悠人は毒付きながらも、傷付いた右足に鞭打って、迫る驚異から身を躱した。 直ぐ様ベレッタM92Fに予備マガジンを詰め込んで、射撃態勢へと移行する。 千影もまたショットガンを構え、二人は同時に斉射を行った。 だが、そんな抵抗など無意味だろう。 蟻がいくら噛み付いた所で、巨像を倒す事など不可能なのだから。 「っ……やっぱり駄目か」
。
悠人が苦々しげに奥歯を噛み締める。 機関車を護る装甲は、造作も無く銃弾を弾き飛ばした。 恐らくは刀で殴り掛かろうとも、同じ結末に終わるだろう。 あのショベルカーには窓ガラスという弱点があったが、この殺戮兵器にはそんなモノ存在しない。 爆発物でも無い限り、アレを破壊するのは不可能だ。 機関車は少し離れた場所で旋回し、休憩の時間など与えぬと云わんばかりに突撃を再開した。 迫る狂風。 「くあっ……」 「…………っ」 悠人達は今の自分達が出し得る全速力で跳躍したが、それでも間一髪の回避だった。 突風の煽りを受けて、ごろごろと地面に転がり込んでしまう。 明らかに前よりも、回避に余裕が無くなっている。 「それそれっ、どんどんいくよおおおおぉぉぉ!!」 名雪が駆る機関車は少しずつ助走距離を延ばし、それと同時に速度も上げてゆく。 周囲に生えていた木という木は根こそぎ踏み潰され、残るは平らな荒地だけだ。 名雪は自らの手により創り上げた処刑場で、小さき敵対者達を断罪する。 巨大な彗星と化した機関車は、またも突撃の余波だけで悠人達を薙ぎ倒した。 「あぐっ――く、ハァ――ハ……。千影……平気か?」 「は――あ、ふぅ……平気なように……見えるかい?」 悠人と千影は疲弊した身体を叱り付けて、よろよろと立ち上がった。 何とか直撃だけは避けているものの、少しずつだが確実に追い詰められている。 敵の突撃はどんどん鋭さを増してゆくし、自分達の体力も削られてゆく。 このままではどう考えてもジリ貧だ。 守りに徹していても道が開かぬと云うのなら――玉砕覚悟で、攻撃を仕掛けるしかない。
。
「――悠人くん……これを……使ってくれ」 「……時詠か」 千影が差し出したのは、永遠神剣第三位"時詠"だった。 銃撃が全く通じぬ以上、もう永遠神剣を使用するしか無いと判断したのだ。 千影はもう魔力が尽きてしまったが、悠人は未だ魔力を消費していない。 ならば唯一の打開策である時詠を、使用可能な者の手に渡すのは当然だろう。 敵が強大な機関車であるとは云え、以前悠人が見せた大砲の如き破壊力ならば、僅かながら勝機はある筈だった。 しかし、時詠を受け取った悠人の表情は苦悩に歪んでいた。 (……どうすれば良いんだ? 俺はコレを……使うしかないのか?) 千影には知る由も無い事だが――悠人は時詠を完全に使いこなす事が出来る。 自身の持ち得る全てのマナを時詠に注ぎ込めば、敵が戦闘機であろうとも負ける気はしない。 ましてや攻撃手段が体当たりのみの機関車など、相手にもならない。 だが時詠の使用には、余りにも致命的なリスクが伴うのだ。 強力な奇跡を起こすには、それだけの代償が必要。 悠人が力を引き出そうとする限り、時詠は代償としてマナを要求し続けるだろう。 悠人自身がマナ切れを起こした場合は、外部からの搾取を命じる筈。 そして身体がマナで構成されている悠人は、その命令に抗えない。 もしマナ切れを起こしてしまえば、悠人は無差別に人を襲い続けるだけの悪鬼と化してしまうのだ。 今時詠を使わなければ、確実に自分も千影も殺される。 かと云って時詠を使ってしまえば、島の人間全てに危険が及ぶかも知れない。 究極の二択。 だが――考えている暇など無い。 現に今も、狂人に操られし暴走機関車が、悠人達を押し潰すべく迫っているのだから。
。
(大丈夫……マナさえ切らさなければ良いんだ!) 強引にそう結論付けて、思考を中断させる。 そうして悠人は、自身が秘めたるマナの一部を、時詠へと送り込んだ。 瞬間、身体中の隅々にまで力が溢れて来る。 全身の細胞一つ一つまでもが活性化してるような感覚。 撃ち抜かれた右足の痛みすらも、今この瞬間だけは気にならない。 「よし……これなら………!」 機関車に向かって、凄まじい勢いで駆け出す。 マナを全力で注ぎ込んだ訳では無いのだから、正面から機関車に対抗するのは不可能だ。 だが、わざわざ正面勝負を挑む必要などない。 巨大な機械を打倒する方法ならば、先程佐藤良美が示したばかりだ。 「アハハハハハハッ、カトンボが自分から潰されに来たよ!! けろぴーに勝てるとでも思ってるの!?」 「…………」 名雪が見下すような言葉を投げ掛けてきたが、悠人は答えない。 時詠を何度も使えば、確実に身体を乗っ取られてしまう。 チャンスは多く見積もっても二回。 故に全神経を、この衝突に集中させる。 「……ここだッ!」 「――――――えっ!?」 機関車が前方10メートル程まで迫った所で、悠人はタイムアクセラレイトにより自身の時間を加速させた。 続けてジェット気流の如き速度で、機関車の真横にまで回りこんで併走する。 狙いは只一つ、機関車本体に飛び移って内部へと侵入し、操縦者を直接叩く事だ。 悠人はその目論見を成功させるべく、機関車の屋根に向かって跳躍する。 だが、その刹那――突如機関車が方向転換した。
。
「やらせないよおおおおっ!!」 「――――ッ!?」 名雪とて莫迦では無い。 そう何度も何度も、同じ手を喰らったりはしない。 名雪は悠人から見て反対側へと機関車をカーブさせて、飛び移られるのを未然に防いだ。 舌打ちしながら着地する悠人を尻目に、名雪が駆りし機関車はその場を離れてゆく。 勝負は仕切り直し。 そして今度は名雪も、すぐに突撃を仕掛けるような真似はしない。 「アハ……もう遊んであげないよ」 悠人が見せた怪物じみた動きは、名雪の警戒心を最大限にまで引き上げていた。 もう、無闇矢鱈に中途半端な突撃を繰り返したりはしない。 放つべきは、必殺にして最強の一撃のみ。 「あはっ……あははっ……私は行くんだよ……皆を殺して!!」 距離にして600メートル以上。 機関車は、先程までの数倍に値する助走距離を取った。 続けて大きく方向転換して、先端を悠人の方へと向ける。 そのまま真っ直ぐに、動力部をフル稼働させつつ疾駆した。 「祐一が待ってる黄金卿へ行くんだよ、アハハハハハハハハハハハッ!!!」 巻き起こる暴風。 機関車はあっと云う間に加速して、時速100キロを突破した。 超高速で駆ける巨大な質量は、ミサイルにも匹敵する破壊力を秘めている。
。
「時詠よ、俺に力を貸してくれ…………!」 本気を出した敵に呼応するように、悠人は前以上のマナを時詠に注ぎ込んだ。 激しい頭痛に襲われたが、未だ身体を乗っ取られる程では無い。 自分の身体能力が大幅に向上しているのが分かる。 今度こそ、外さない。 何としてでも機関車に取り付いて、そして激闘に終止符を打ってみせる。 「――行くぞ!!」 悠人は吹き抜ける旋風と化し、敵を打ち破るべく疾駆する。 機関車とは比べるべくも無いが、悠人の駆ける速度もまた、人間の限界を大幅に上回っていた。 数百メートルあった両者の距離は、あっと云う間に縮まってゆく。 だがそこで予想外の事態が起き、悠人は大きく目を見開いた。 「まずは……千影ちゃんからだよおおおおぉぉ!!」 「な――っ…………!?」 名雪はハンドルを大きく切って、機関車の進行方向を転換させた。 馬鹿正直に悠人ばかり狙ってやる必要などない。 戦力的に劣る者から倒して行くのが、兵法の定石だ。 横から駆け寄る悠人など気にも留めず、千影目掛けて突撃する――! 「く――――」
。
千影は回避を試みるどころか、逆にショットガンを構えていた。 機関車がこちらに向きを変えた瞬間、何をやっても躱せないと理解出来てしまった。 防御が不可能である以上、無意味と知りつつも、奇跡に期待して攻撃するしかないのだ。 機関車の車輪に狙いを絞って、弾切れまでショットガンを連打する。 しかし案の定、機関車の勢いが止まる事は無かった。 打つ手の無くなった千影へと、落雷の如く機関車が迫る。 回避も反撃も不可能、完全なるチェックメイト。 そして悠人は、そんな光景を前にして―― 「千影ぇぇぇぇぇ――――!!」 機関車の後を追い、全身全霊の力で走る。 タイムアクセラレイトを発動させて、身体能力も強化させて。 右足の傷口から噴き出す鮮血など、まるで気にせずに。 それでも、間に合わない。 千影を抱き抱えて退避する程の時間は、とても生み出せない。 力が、足りない。 「…………っ」 悠人の左手には、唯一千影を救い得る短剣が握り締められている。 怖い。 コレを全力で使えば、確実に自分が自分でなくなってしまう。 島の人間全てに牙を剥く、只の悪鬼と化してしまう。 自分の手で、仲間の命を奪ってしまうかも知れない。 それは、自分自身の死などより余程恐ろしい。
。
「それでも、俺は――」 そうだ、自分は誰と約束した。 何を誓った。 ――『君達二人は俺が守ってやるよ』 自分は、衛と出会った時に約束した。 なら、守らないと。 自分がどうなってしまおうと、守らないと。 ――『悠人さんも千影ちゃんを守ってあげて!』 自分は、衛と別れた時に約束した。 なら、何を引き換えにしてでも、守らないと。 ……例えこの身が、悪鬼と化そうとも。 「――俺はっ……! 衛を……千影を……守りたいんだああああああああああああッッ!!!!」 瞬間、時詠の刀身から激しい光が噴出した。 信じられない程の力が、止め処も無く溢れ出して来る。 即座に悠人は、視認すら困難な速度で大地を駆け抜けた。 弾丸かと見紛おうその速度は、先程までの比では無い。
。
「ハ――――ア――――!」 続けてタイムアクセラレイトを用いて、自身の時間を最大限に加速させ、それと同時にデイパックへと片手を伸ばした。 取り出したるはカルラの剣。 優に二メートルを超える、強力無比な大剣だ。 悠人は機関車の真横に並び掛けて、右手一本で大剣を振り上げた。 桁外れの巨重を、人間離れした力で思い切り叩き落す。 「ウォォオオオオオオオオ――――――!!!」 「ひああああああああああああッッ!?」 爆撃の如き剣戟が、次々に機関車の側壁へと打ち込まれる。 その度に機関車全体が大きく揺れ、少しずつ歪に変形してゆく。 名雪の悲鳴と悠人の咆哮、そして大気を振動させる轟音が響き渡る。 「ひ、あ、う、ああああああああああああああああっ…………!」 放たれた剣戟は実に二十発以上。 攻撃開始から決着まで要した時間は、ほんの僅か。 凄惨にひしゃげた機関車が、衝撃に耐え切れなくなって横転した事で、決戦の幕は下ろされた。 「――悠人、くん」 殺戮兵器は完全に破壊され、千影の視界には、悠人の背中だけが映っている。 千影は眼前で繰り広げられた光景を前にして、只立ち尽くす事しか出来なかった。 自分が時詠を使用した時とは、比べ物にすらならない。 時詠を持った悠人は、正しく無敵の存在だった。
。
しかし何故悠人は、嘗て時詠の力を試した時に、制御出来ないなどと云ったのだろうか。 どう考えても、完璧に使いこなしてるようにしか思えない。 湧き上がった疑問を解消すべく、千影は悠人に歩み寄ろうとする。 だがその動きは、突如放たれた怒声によって遮られた。 「――来るなっ!!」 「…………え?」 背中を向けたまま、悠人が拒絶の声を発していた。 良く見ると、悠人の背中は小刻みに震えている。 酷い違和感が、千影の脳裏に沸き上がる。 「頼む――今すぐ、……ぐっ、此処から……離れてくれ……!!」 「…………っ!? 悠人くん……一体、どうしたんだい……?」 苦しげな声を洩らす悠人に、千影は動揺を隠し切れない。 何かが、決定的に不味い。 背筋はおろか、身体全体が凍り付くような感覚。 ネリネが力を解放したあの時と同様、絶望的な予感が膨れ上がってゆく。 そしてその予感は、次に悠人が放った言葉で現実となった。 「俺はマナを、使い過ぎた、んだっ……! ……俺の身体は……もう直ぐ、乗っ取られるッ……!! 全ての人を殺し尽くして、マナを奪うだけの……、ぐうぅぅっ、……悪魔になってしまう……!!」 「な――――っ……!?」 余りにも衝撃的な告白。 そこで、千影は気付いた。 時詠から放たれている光が、徐々に黒く変色している事に。 悠人から感じられる魔力の波動が、どんどん邪悪な物へと変貌していっている事に。 千影が二の句を告げぬ中、悠人は言葉を続ける。
。
「だからっ……早く、……ぐああっ……逃げるんだ! このままじゃ俺は……お前を、殺してしまうっ……!!」 悠人を中心に、荒れ狂う暴風が渦巻き始めた。 肥大化してゆく殺気は、悠人の言葉が決して嘘偽りでないと証明している。 それでようやく千影は、何故悠人が時詠を持とうとしなかったのか、その理由に思い至った。 恐らく悠人は、この事態を予め予測していたのだ。 マナを使い過ぎてしまえば、その反動で自分がどうなってしまうか、理解していたのだ。 「け……けど、君を放ってなんて……」 「良いから、……があああっ、行けっ……! 衛を守れるのは……もう、お前しか居ないんだから……ッ!!」 「――――っ」 千影は俯いたまま、ぎゅっと唇を噛んだ。 そうだ――悠人は未だ、衛が死んでしまったと云う事実を知らないのだ。 見れば悠人は、滝のような汗を流しながらも、必死に衛の事を気遣っている。 その様子を見ているだけでも、悠人と衛がどれだけ深い絆を培ってきたのか、容易に推し量る事が出来た。 「頼むから……逃げて、……俺の代わりに、お前が……衛を守ってくれ……! 悪魔と化した高嶺悠人を……倒してくれ……!!」 「でも、悠人くん…………」 真実を伝えなければならない。 衛がもう死んでしまったと、教えてあげなければならない。 意を決した千影は、衛の死を伝えようとする。
。
「衛くんは――――、っ…………」 だが、最後まで云い切る事は出来なかった。 ……云えない。 高嶺悠人という人格は、程無くして消滅するだろう。 最後の最後に知るのが、守りたかった者の死だなんて、余りにも残酷過ぎる。 だから千影は、一つだけ嘘を吐く事にした。 「分かったよ、悠人くん……。衛くんは……絶対に私が守ってみせるから……安心してくれ……」 悠人はもう答えない。 自我を保つのに必死なのか、唯只苦悶の声を上げ続けているだけだ。 それでも千影には、悠人の背中が少しだけ微笑んだように見えた。 「また……来世……」 最後にそれだけ告げると、千影は素早く行動を開始した。 地面に落ちていたタロットカードを拾い上げて、デイパックへと放り込む。 他に使えそうな物が落ちていない事を確認してから、一目散に走り出した。 「っ――――う、は――――」
。
千影は疲弊し切った体を酷使して、何とか安全圏まで離脱した。 近くに生えていた木に、力無く持たれ掛かる。 もう、何が何だか分からない。 この島は何もかもが異常過ぎるのだ。 四人居た姉妹は、もう自分一人だけになってしまった。 そして、第一回放送までに出会った三人の人間。 水瀬名雪は狂人と化して、激闘の末に死んだ。 直接確認した訳では無いが、あの状況で生きているとはとても思えない。 白河ことりも死んだ。 川澄舞は、何が原因かは分からないが、殺し合いに乗ってしまった。 この分では、どれだけの仲間が無事に病院へ辿り着けているか分からない。 高嶺悠人も、恐らくは殺人鬼へと変貌を遂げてしまっただろう。 もう、辞めたい。 全てを諦めて、只闇に融けていたい。 「けど……私は、未だ生きている。未だ……戦えるんだ」 そうして、千影は再び立ち上がった。 病院を目指して、一歩一歩進み始める。 此処で生きる意志を放棄するのは、散っていった仲間達への裏切り行為に他ならないから。 どれだけ傷付こうとも、最後まで足掻き続けよう。 ◇ ◇ ◇ ◇
。
「あ……ぐぅ……ううっ……く、っそぉぉ……!」 朝日の降り注ぐ平原の中を、名雪は懸命に這い進んでいた。 機関車が横転した際、何とか一命を取りとめはしたが、その時に負った怪我は重い。 砕け散った鉄片が、脇腹に深々と突き刺さっている。 左足の骨は粉々に砕け散って、最早まともに動かす事は不可能だろう。 それでも尚、名雪は瞳に執念を宿して、安全な場所まで逃れようとする。 「嫌、だ……。あゆちゃんを……、皆を殺すまで……死んで、堪るもんかあぁぁぁ……!!」 月宮あゆへの、そして全参加者への殺意。 それが、満身創痍の名雪の身体を突き動かしていた。 感覚の麻痺し始めた両腕を使って、少しずつ地面を進む。 まだだ。 まだ終わらない。 傷は相当深いものの、致命的なレベルにまでは達していない。 しっかりとした治療を行えば、十分に命を繋げるだろう。 そして生きている限りは、まだパワーショベルカーを動かせるのだが―― 「駄目……ショベルカーじゃ足りないよ……。もっと強い、けろぴーを……見つけないとっ……」 蒸気機関車を使っても、自分は敗北を喫してしまった。 パワーショベルカー如きで、これから先の戦いを勝ち抜ける筈が無い。 更に強力な機械――例えば戦闘機や戦艦の類等を、見つけねばならない。 まずは治療、そして次に新しいけろぴーを探すのだ。 今後の方針を固めた名雪は、前方に広がる森を目指して、更に進もうとする。
。
「…………?」 だがそこで、名雪は右足に妙な感触を覚えた。 妙に熱い。 例えるのなら、ホッカホカのカイロを押し付けられたような感じ。 違和感の正体を確かめるべく名雪が振り返ると――右足から、短剣が生えていた。 「いぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 途端に激痛が脳へと伝達され、名雪は壮絶な叫び声を上げた。 顔を上げると、先程機関車を破壊したあの男――高嶺悠人が立っていた。 悠人は、ゾッとするくらい冷たい目を湛えている。 そして、悠人の手に握り締められた時詠が、再び名雪の身体へと突き立てられた。 「あああああああああああ」 時詠の刀身が、根元までずぶっと名雪の左腕に沈み込んだ。 冗談のような量の鮮血が、地面に生い茂る草々を紅く染め上げる。 想像を絶する苦痛は、徐々に名雪の理性を奪い去ってゆく。 「やめてッ、たすけてッ、ホント痛いの――――ひぎいいいいぃぃっっ!」 あれ程根深かった筈の憎しみすら捨てて、必死に助命を懇願したが聞き入れられない。 悠人は何処までも無慈悲に、時詠を何度も何度も振り下ろし続ける。
名雪の目に、 肩に、 腕に、 手に、 腹に、 足に、 冷たい刃が突き刺さる。 悠人がようやく手の動きを止めた時、彼の眼下には只の肉塊が転がっているだけだった。 狂気に取り憑かれた少女――水瀬名雪は、地獄のような責め苦の中で死を迎えた。 「マナ……を……」 息絶えた獲物にはもう見向きもせずに、悠人は落ちていたデイパックだけを回収する。 今の彼を突き動かすのは、只一つの衝動。 意思を封じられた永遠神剣に、唯一残されていた本能。 即ち、生けとし生ける全ての存在から、マナを搾取する事だけである。 「もっと……マナを…………!」 だから、悠人は戦い続ける。 満身創痍の身体を酷使して、目に付くモノ全てを抹殺しようとする。 守ると誓った仲間達にさえ、容赦無く牙を剥く。 ひゅうひゅうと吹き荒れる風の音。 それはまるで、彼の泣き声であるかのようだった。
。
【水瀬名雪@kanon 死亡】 【D-5 ホテル/2日目 黎明】 【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】 【装備:拡声器】 【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス 支給品一式x3、投げナイフ一本、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、 麻酔薬入り注射器×2 H173入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】 【状態:強い決意、両肘と両膝に擦り傷、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、首に麻酔の跡】 【思考・行動】 基本:ゲームに乗らない人間を助ける。ただし乗っている相手はぶっ潰す。 0:つぐみ達の帰りを待つ 1:純一についていく 2:圭一、武を探す 3:ゲームをぶっ潰す。 4:よっぴーへの怒り 5:純一への不思議な感情 【備考】 ※仲間の死を乗り越えました ※アセリアに対する警戒は小さくなっています ※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。 ※つぐみを完全に信用しました。つぐみを椰子(ロワ不参加)に似てると思ってます。 ※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。 ※純一と絆が深まりました。純一への不思議な感情を持ち始めました。 ※悠人と情報交換を行いました
。
【朝倉純一@D.C.P.S.】 【装備:釘撃ち機(16/20)、大型レンチ】 【所持品:支給品一式x4 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残26/30) ヘルメット、ツルハシ、果物ナイフ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】 【状態:若干の精神疲労・強い決意・血が服についている、顔がボコボコ、口の中から出血、頬に青痣、左腕と右足太ももに銃創(治療済み)】 【思考・行動】 基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出 0:つぐみ達の帰りを待つ 1:北川をホテルで待つ 2:つぐみと蟹沢で武を探す 3:つぐみと蟹沢を守り通す 4:圭一を探す 5:さくらとことりをちゃんと埋葬したい 6:理想を貫き通す 【備考】 ※純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。 ※つぐみとは音夢の死を通じて絆が深まりました。 ※北川、梨花、風子をかなり信用しました。 悠人もそれなりに。 ※蟹沢と絆が深まりました。 ※自分自身をヘタレかと疑ってます。 ※佐藤良美をマーダーとして警戒しています。 鳥も参加してる事も知りました。 ※盗聴されている事に気付きました ※雛見沢症候群、鷹野と東京についての話を、梨花から聞きました。 ※鷹野を操る黒幕がいると推測しています ※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました ※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。 ※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。 ※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。 ※悠人と情報交換を行いました
。
【E-5 下部/2日目 黎明】 【小町つぐみ@Ever17 -the out of infinity-】 【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に祭、スタングレネード×6、ミニウージー(6/25)】 【所持品:支給品一式x3、ベレッタ M93R(18/21)、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、 バナナ(台湾産)(3房)、倉成武のPDA@Ever17-the out of infinity-、倉田佐祐理の死体の写真】 【状態:健康、肉体的疲労小】 【思考・行動】 基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。 ゲームを終わらせる。 0:まずは病院に向かう 1:病院に到着後、協力者を連れてホテルに戻る 2:武を探す、武を信じる 3:ゲームに進んで乗らないが、自分達と武を襲う者は容赦しない 4:圭一を探す(見つければ梨花達の事を教える) 5:四姉妹の話が真実か確かめる 【備考】 赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。 参加時期はEver17グランドフィナーレ後。 ※純一 とは音夢の死を通じて絆が深まりました。 ※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。 ※北川、梨花をある程度信用しました。 ※投票サイトの順位は信憑性に欠けると判断しました。 ※きぬを完全に信用しました。 ※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。 ※倉田佐祐理の死体の写真は額の銃痕が髪の毛で隠れた綺麗な姿。撮影時間(一日目夕方)も一緒に写っています。 ※悠人と情報交換を行いました
【F-4下部 /2日目 早朝】 【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】 【装備:フムカミの指輪(残使用回数0回)@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、破邪の巫女さんセット(巫女服のみ)】 【所持品:支給品一式×3、S&W M627PCカスタム(0/8)、S&W M36(5/5)、 錐、食料・水x4、目覚まし時計、今日子のハリセン@永遠のアセリア(残り使用回数0回)、 大石のデイパック、地獄蝶々@つよきす、S&W M627PCカスタムの予備弾3、.357マグナム弾(40発)、肉まん×5@Kanon、オペラグラス、医療品一式】 【状態:疲労大、左肩に銃創と穴(治療済み)、重度の疑心暗鬼、巫女服の肩の辺りに赤い染み、右手に穴・左手小指損失(応急処置済み)、左肩に浅い刀傷】 【思考・行動】 基本方針:あらゆる手段を用いて、優勝する。 1:ゲームに乗った者と共闘関係を築く(行き先は次の書き手さん任せ) 2:魔法、魔術品を他にも手に入れておきたい 3:あらゆるもの、人を利用して優勝を目指す 4:いつか圭一とその仲間を自分の手で殺してやりたい 【備考】 ※ハクオロを危険人物と認識。(詳細は聞いていない) ※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ) ※大空寺あゆ、ことみのいずれも信用していません。 ※大石の支給品は鍵とフムカミの指輪です。 現在鍵は倉成武が所有 ※商店街で医療品とその他色々なものを入手しました。 具体的に何を手に入れたかは後続書き手任せ。ただし武器は無い) ※襲撃者(舞)の外見的特長を知りました。
【E-5下部 /2日目 早朝】 【千影@Sister Princess】 【装備:トウカのロングコート、ベネリM3(0/7)、12ゲージショットシェル103発】 【所持品1:支給品一式×7、九十七式自動砲の予備弾95発、S&W M37 エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、 出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】 【所持品2:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】 【所持品3:朝倉音夢の生首(左目損失・ラム酒漬け) 朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】 【所持品4:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、デザートイーグルの予備弾92発】 【所持品5:C120入りのアンプル×8と注射器@ひぐらしのなく頃に、ゴルフクラブ、各種医薬品】 【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房) 】 【状態:洋服の上から、トウカのロングコートを羽織っている。右肩軽傷、 両手首に重度の擦り傷、左肩重傷(治療済み)、魔力残量皆無、肉体的疲労極大、深い深い悲しみ】 【思考・行動】 基本行動方針:罪無き人々を救い、殺し合いに乗った者は倒す。 1:病院へと向かう(疲労のため進行速度遅め) 2:悠人への対処法を考える 3:また会う事があれば智代を倒す 4:永遠神剣に興味 5:北川潤、月宮あゆ、朝倉純一の捜索 6:舞を何とかしたい ※四葉とオボロの事は悠人には話してません ※千影は原作義妹エンド後から参戦。 ※ハクオロを強く信頼。 ※所持品3の入ったデイパックだけ別に持っています。
。
【E-4・5境界線 /2日目 早朝】 【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】 【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-】 【所持品1:支給品一式×5、バニラアイス@Kanon(残り6/10)、予備マガジン×2、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳】 【所持品2:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾0/15+1)、懐中電灯】 【所持品3:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)、発火装置】 【所持品4:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】 【所持品5:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、乙女のデイパック、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】 【状態:疲労大、魔力消費極大、手足に軽い火傷(行動に支障なし)、左肩と脇腹に銃創、肋骨数本骨折、数本に皹、内臓にダメージ、 左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)、全身に浅い切り傷、暴走】 【思考・行動】 1:全ての生物を殺して、マナを奪い尽くす 【備考】 ※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。 ※悠人の身体は、永遠神剣の本能に支配されています ※悠人本人の意識が残っているかどうかは不明 ※パワーショベルカーの窓ガラスは、一部破損しています 【備考】 ※機関車『トミー』は大破 ※E-4・E-5境界線周辺の木々は、軒並み薙ぎ倒されています
――結論から言えば、彼女は対象を見誤り、自らの答えを最後まで疑っていなかった。 三人の少女が居た。 一人は偽りを抱いていた 一人は憂いを抱いていた 一人は疑心を抱いていた この場において、疑心とは、偽りに対するもの、 故に、 その疑心が、確信に変わった時、 「……貴女が、往人を殺したのね」 少女はその手に凶器を掲げていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ そもそも始めから、偽りは破綻しかけていた。 絶望に満ちた国崎往人の死に顔。 額の弾痕以外はまるで変化の無い遺体。 何故か月宮あゆの手にあった往人の腕時計。 一度しか鳴り響かなかった銃声。 にも関わらず、良美は銃を所持していたとあゆは述べた。
加えて質問を続けるにつれて、徐々にだがあゆの態度も変化を見せた。 最初はただ恐怖に怯えていただけといった様相であったが、 時計のことを指摘され、言いよどみ、 良美の武器について聞いても、慌てたように答えた。 そう、あゆが見せた感情は、特定の相手に対する恐怖とは僅かにことなるもの、 それは、何らかの隠し事、決して明かしてはならない秘密に触れられる事による恐怖 であった。 その変化に対して、瑛理子は気が付かないフリをしていた。 ただ、何度か沙羅と僅かにうなずきあい、互いが感じている違和感について確認しあっていた。 ……それは本来、瑛理子が取る行動では無い。 彼女は疑わしい相手とは行動したりはしない。 そう、それは、疑いを相手に悟られない為に行う行動。 相手を安心させ、決定的なその一瞬まで警戒を抱かせないようにするためのもの。 相手の罪を、自分自身の手で確実に断罪するための行動だった。 ここに一つ、三人にとって重要でありながら、誰一人まるで気が付かなかった事実があった。 白鐘沙羅は探偵助手である。 それ故に、彼女はこのような、対象に感知されないように疑う行為には慣れがあった。 その為、彼女はごく自然に瑛理子に合わせた。 そして、彼女は二見瑛理子と出会ってから、僅かな時間しか共にいなかった。 それ故に、彼女は瑛理子の行動が普通と異なっていることには気が付けなかったのであった。 そして当然、月宮あゆがそんなことを知っているはずも無かった。
その慎重さ、復讐心と言い換えることも出来るものは、 僅かに、 だが確実に 瑛理子の知性を鈍らせていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ ――銃口は僅かに震えていた。―― 確かな証拠は存在してはいなかった。 だが、数々の疑惑は、相手を疑うには十分なものだった。 そもそも疑わしい相手であるなら、共に行動するべきではなかったのだ。 ただ、彼女には共に行動するに値する理由があった。 だから、疑いを隠し、相手を冷静に観察した。 決定的な、その瞬間を逃さない為に。 ――ただ、付け加えるなら、行動を起こしたその時が、真に“その時”であったのかは、彼女自身にも、他の二人にも最後までわからなかった。 今となっては意味の無い事ではあるが、“その時”と呼べるものが存在していたとするなら、 あるいは結果は違ったものだったかもしれない。 だが、訪れたその時に齎された結果こそが唯一の結末であったことは疑いようがない。 ◇ ◇ ◇ ◇
彼女は、同行者である二人の少女と共に、病院を目指して歩いていた。 すぐに、疑問を抱いた。 自分達の間に流れる空気に、不穏な匂いが混じっていることについてだった。 それは、ほどなくして疑惑へと変わり、確信へと変化した。 彼女が、疑いを抱いている事を理解した為に。 そうして、理解してしまえば簡単だった。 自分達の間に存在する疑いなんて一つしかない。 だから、彼女は自分が疑いを理解したことを、相手に隠した。 その疑いが確信に変わり、決定的な瞬間がくるその時まで、彼女は待ち続けるつもりだった。 おそらく、間違っていたのはその行動。 結果として、“その時”彼女は出遅れた。 「……貴女が、往人を殺したのね」 瑛理子がその言葉を発するのを、ただ見ている事しか出来なかった。 ――結論から言えば、白鐘沙羅は二見瑛理子を見誤り、自らの答えを最後まで疑っていなかった。 瑛理子が内に秘めた激情に気付かずに、彼女が短絡的と言っていい行動をとることを予想していなかった。 それ故に、沙羅はあゆに銃を向ける瑛理子を、ただ見ている事しか出来なかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 疑惑は、最初からあった。 けれども、それだけでは動けなかった。
……訂正しよう。 動かなかった。 彼女には、確信があった。 この場の疑いではない、ある確信。 それ故に、彼女は待つことにした。 ただ、主導権を握らせるつもりはなかった。 あくまで、“その時”がくれば自分から動くつもりだった。 だから、向けられた銃口を見たとき、自分の判断が間違っていた事に気付いた。 ――結論から言えば、月宮あゆは二見瑛理子を見誤り、自らの答えを最後まで疑っていなかった。 国崎往人の荷物の中に、数枚のコピー用紙が存在していた。 表紙には警告、中には様々な情報があった。 その中に、往人の仲間達の情報もあった。 あゆが知っている人間、知らない人物、いずれにしても、その仲間達ならば、あゆの事を受け入れてくれる可能性があった。 あゆの思考は、非常に冴えていた。 彼女が死の淵をさまよっていた事を知っている人間は、たった一人だけ。 他の相手、圭一達でさえ、あゆが動けない程の重症を負っていたことは知らない。 なら、そのことは隠してしまえばいい。 それまでに負っていた怪我も治っているが、治療道具が上手く隠してくれている。 圭一達と別れた後、あゆが襲われたのは事実。 その時に服がボロボロになったのも事実。 ただ、服を赤く染めている血が、あゆのものでない事にすればいい。
かつて、あゆは大石蔵人と鉄乙女を殺した。 その時は圭一に激しく詰問され、倉成武に止められた。 恐らくは、武が止めなくても、美凪が止めたに違いない。 この島にいる全員が、そんな行動をとるわけはないが、かつて殺す側だった往人を仲間と認めた者達、情報によれば圭一達も含まれているような人間達なら、秘めるべき事があっても受け入れてくれるのではないか、と考えた。 そうして、あゆはシナリオを練った。 圭一達の下から逃げ出した後、明らかにおかしい男に襲われた。 ただ、男はあゆに襲い掛かったものの、元々重症であったため、必死の抵抗であっさりと死んだ事にした。 ……その時に、主に別な意味で襲われた事にすれば、話がおかしくても通じる可能性は高いとも踏んだ。 それなら、今のあゆの状態も、何かを隠している態度も納得がいくだろう。 その後は近くをさまよっていて、往人に会った。 そうして、以前に襲われた相手から逃げ出した。 ここは事実なので、変える必要はない。 問題はこの後にあった。 佐藤良美に襲われて、往人はあゆを逃がし、死んだ。 これは、完全な嘘であるから、見破られる可能性があった。 彼らと良美は既に敵対関係にあるとはいえ、良美本人の口から異なる答えが語られれば、あゆに疑いが向くことになる。 だから、そのときの為に手段は用意してある、筈だった。 そう、だから―――― ◇ ◇ ◇ ◇
「……貴女が、往人を殺したのね」 私が彼女に向けている銃口は、僅かに震えていた。 ただ、その言葉は、ひどくあっさりと口に出来た。 ……確証は、無かった。 いえ、訂正するなら、今も確証はない。 ただ、確信だけがあった。 あるいはそれは、願望と言い換えてもいいのかもしれない。 それで、気付いた。 私は、多分彼の事が好きだったのだろう。 だから、闇雲に彼の敵を求めただけなのかもしれない。 私らしくも無い、感情のままの行動。 月宮あゆに対して向けられた銃口。 呆けたような顔を向ける、あゆと沙羅。 全てが、なんだか可笑しかった。 「ひっ」 そうして、一瞬の後、彼女は怯えた声を上げた。 「ご、ごめんな、ごめんなさい! ごめんなさい! ボクは、ボクは、ボボクはそんなつもりは、その、なかったんです!! 往人さんは、優しくしてくれたのに、それなのに、ボク、ボクも、とっても安心できたのにでもでも、でもボクはそんな、殺すなんて、そんなの、まるで、その、信じて下さい!! ボクは、ボクは、その、ただ、こわ、こわかっただけなんです!!」 必死に、涙を流しながら訴える。 途中から鼻水まで流してる。 ……なんだ、こんなに簡単なら、もっと早く言えば良かったかな。
「ボクは、そんなつもりなんて、でも、ただ、こわく、気がついたら、ゆきとさんが」 何のことは無い、ただの偶然らしい。 判ってた、こういう結果があり得ることぐらいは。 それにしても、何でこんなに怯えているのかしら? ……ああ、そういえば私が銃を向けているのだったっけ。 少し、煩いかな。 それで、黙りなさいと言ったら静かになった。 「貴女が往人を殺した、それは事実なのね」 「は、はい、でっでもボクは「質問にだけ答えなさい」」 また煩くなりそうなので、黙らせる。 さて、とりあえず、彼女はどうしようか。 そう考えようとしたら。 「ちょっと、瑛理子さん」 沙羅が話しかけてきた。 ああ、 「ごめんね、沙羅。 少し、焦ったみたい。 でも、結果的には正解だったみたいね」 そういえば、先走って行動してしまったのだっけ。 「いや、まあ、それはいいんだけど、その、 ……銃を向けながら話すのはどうかなと」 銃を向けながら、……ああ、 「月宮あゆ、貴女往人の銃を持ってるのよね。 ……出しなさい」 それを忘れていた。 隣で、そのことを思い出したのか、沙羅が慌ててあゆに銃を向けた。 しばらくして、ゆっくりとあゆはこちらに銃を放り投げ、それを沙羅が回収した。
さて、どうしようか。 あゆはまた色々とわめいている。 ……往人が彼女を殺そうとした事は聞いている。 だから、自業自得といえばそれまでなんだけど、 だけど、 だけど、 私は、彼女をどうしたいのだろう。 無力な、泣き喚くだけの少女。 私たちの仲間を殺した、けれど、私たちはそういう事もあり得ると理解していた。 彼が犯した罪は深い、だから、いつかはこうなる事も予想できた。 本来なら、彼女は保護されてしかるべき相手だ。 でも、多分、ここで私が彼女を殺しても、問題はない。 皆は私の事を責めるだろうけど、多分それでおしまい。 少し空気がぎこちなくなるだろうけど、それ以上は問題はない。 既に過去のことになってしまっているのだから。
そうして、銃声は鳴り響いた。 「あ、あ」 うん、だからここで問題があるなら、 あゆを殺したら、多分往人が悲しむということだけ。 「月宮あゆ、貴女は往人を殺した」 淡々と告げる。 「往人が死んだのは、唯の自業自得。 でも、彼の仲間だった私には、貴女を撃つ理由がある」 感情を見せないように 「でも、往人は貴方の事を助けようとしていた。 ……だから、だから、彼の仲間だった私には、貴方を助ける義務がある」 理性から導かれた結論であると信じるために。 「だから、私たちは貴女を守る。 仲間として、一緒にこの島から生きて帰る」 自身の感情出さないように伝えて、 「ただ忘れないで、貴女が往人の死を無駄にするなら、その時は私が貴女を殺すわ」 あふれ出た感情に負けた。 うん、多分これでいいのよね。 往人、貴方が守ろうとしたこの子は、私が守るわ。 ◇ ◇ ◇ ◇
187 :
代理 :2007/10/13(土) 17:56:59 ID:6cL2tNj9
――――だから、時と相手を選んで、自分が往人を殺した事を告白する、という選択肢を用意しておいた。 ほとんどは事実の通り、往人はあゆに追いつき、殺し合いをやめた事を告げ、あゆを安心させる為、銃を渡した。 往人はあゆにこれまでの経過を告げ、たいやきを渡し、あゆも安らぎを得た。 この時に、情報を纏めた紙も見た事にした。 ただ、その後、 あゆも往人を信頼し、共に行動しようとする直前。 あゆは往人の人形を目にし、以前の恐怖が蘇り、とっさに往人を撃ってしまった。 全ては不幸な偶然。 ある意味では往人の因果応報。 あゆには殺意は無く、ただ恐怖からの行動で往人を殺してしまい、その恐怖におののいて逃げ出した後、騒ぎの下に戻って来た。 そうして、往人の仲間に対して、自分の罪を隠して、良美のせいにした。 これならば、少なくとも美凪と、後の何人かは自分をかばう可能性がある、あゆはそう結論付けた。 そうして、瑛理子達と合流して程なくして、あゆは自分が疑われている事に気がついた。 だから、装った。 無力な、隠し事を秘め、暴かれる事を恐れる「月宮あゆ」を装った。 瑛理子の名前は往人から聞いていたし、顔も写真で確認済みだった。 だから、いずれバレたとしても、2、3発殴られる程度だろうと考えていた。 みっともなく命乞いをして、ただ罪と恐怖に怯え、涙に歪んだ顔でただ謝り続ける。 そんな相手を殺そうとはしないとふんでいた。
188 :
代理 :2007/10/13(土) 17:57:47 ID:6cL2tNj9
だから、いきなり銃を向けられるとは思ってもいなかった。 なので、装った。 無力な自分を、先ほどまでの自分を。 装うと考えなくてもそれは自然に出来た。 なぜなら、それは多分本心だったから。 そう、あの時、間違いなく自分は恐怖していた。 だから、演技でもなんでもなくて、命乞いをした。 月宮あゆは二見瑛理子の理性を見誤っていた。 だが、結果として、彼女の感情に救われた。 ――結論から言えば、二見瑛理子は自身の心を見誤り、自らの答えを最後まで疑っていなかった。 (銃をとられちゃったけど、しょうがないかな) 当然というかあゆの銃は没収された。 ただし、瑛理子たちには完全に受け入れられた。 対価としては十分だろう。 (それに、一緒に首輪を外してもらうというのも、いいかも) ディーは言っていた、いかなる手段でもいいと 彼女達と協力して鷹野達を倒す、それでもいいのだろう。 可能か不可能なんてどうでもいい、ただ共にいれば、いつでも寝首はかける。 可能なら、共に鷹野を倒す。 不可能なら、予定通りだまし討ちにする。 選択肢は多いほうがいい。 (うぐぅ、とにかくボクがあの人の所にいけるように頑張ってね)
189 :
代理 :2007/10/13(土) 17:58:37 ID:6cL2tNj9
【F-5 住宅街/2日目 黎明】 【天才少女と探偵少女と契約者】 1:病院に向かう 2:必要があるようなら、その他の施設にも寄り道する 【月宮あゆ@Kanon】 【装備:背中と腕がボロボロで血まみれの服】 【所持品:支給品一式x3、コルトM1917の予備弾31、情報を纏めた紙×2】 【状態:健康体、ディーと契約、満腹、明確な殺意、生への異常な渇望、眠気は皆無】 【思考・行動】 行動方針:他の参加者を利用してでも、生き残る 0:人を殺してでも、どんな事をしてでも生き残る 1:生き延びる為に、瑛理子と沙羅を利用する 2:利用できる内は、瑛理子たちの仲間でいる。 3:可能ならば工場に行く(北上) 4:死にたくない 【備考】 ※契約によって傷は完治。 契約内容はディーの下にたどり着くこと。 ※悲劇のきっかけが佐藤良美だと思い込んでいます ※契約によって、あゆが工場にたどり着いた場合、何らかの力が手に入る。 (アブ・カムゥと考えていますが、変えていただいてかまいません) ※ディーとの契約について 契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死) ※情報を纏めた紙にはまだ眼を通していません。 ※あゆの付けていた時計(自動巻き、十時を刻んだまま停止中)はトロッコの側に落ちています。
191 :
代理 :2007/10/13(土) 17:59:29 ID:6cL2tNj9
【二見瑛理子@キミキス】 【装備:トカレフTT33 6/8+1】 【所持品:支給品一式、ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭、空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE 往人の人形、エスペリアの首輪、映画館にあったメモ、家庭用工具セット情報を纏めた紙×10】 【状態:強い決意、左肩打撲、左足首捻挫(処置済み)】 【思考・行動】 基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。 0:これでいいのよね…往人 1:あゆを守る。 2:錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。 【備考】 ※鳴海孝之に対して僅かに罪悪感を抱いています。 ※パソコンで挙がっていた人物は、この殺し合いで有益な力を持っているのでは? と考えています。 ※首輪が爆発しなかった理由について、 1:監視体制は完全ではない 2:筆談も監視されている(方法は不明) のどちらかだと思っています。 ※家庭用工具セットについて 観鈴が衛から受け取った日用品の一つです。 ドライバー、ニッパー、ペンチ、ピンセットなどの基本的な工具の詰め合わせである。 なお全体的に小型なので武器には向いていないと思われます。
193 :
代理 :2007/10/13(土) 18:00:12 ID:6cL2tNj9
【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】 【装備: ワルサー P99 (8/16)】 【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本、 コルトM1917(残り6/6発)、 情報を纏めた紙×2、『バトル・ロワイアル』という題名の本】 【状態:軽度の疲労・強い決意・若干の血の汚れ】 【思考・行動】 基本行動方針:一人でも多くの人間が助かるように行動する 0:良かったの、かしら? 1:H173の治療法を探す 2:状況が落ち着いたら、瑛理子と共にフロッピーディスクをもう一度調べる 3:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す 4:情報端末を探す。 5:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護。 6:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす 【備考】 ※国崎最高ボタンについて、何か秘密があるのでは無いかと考えています。 ※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。 ※紙に書かれた事以外にも情報があるかもしれません。 ※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。 ※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。 ※図書館のパソコンにある動画ファイルは不定期配信されます。現在、『開催!!.avi』と『第三視点からの報告』が存在します。
病院の敷地内に建つ研究棟―― 大空寺あゆはそこに至る道を一人歩み続けている。 右手にはS&W M10、左手には催涙弾を握りしめて。 (待ってろや一ノ瀬、もうすぐお前に地獄を見せてやるからな……) 今、あゆの心にあるのはことみへのこれ以上にない殺意、憎悪、怨念、憤怒。 そして、ことみに殺された者達に対する同情、哀悼、弔意……。 これらが入り混じって暴風の如く彼女の心の中で荒れ狂っていた。 (時雨だけに飽き足らず、あんな子供まで惨たらしく殺すとは思いもしなかったさ……糞虫が!!) あゆは少し前にハクオロと共に病院へ辿り着き、そこで見た惨状を思い出す。 あれこそが一ノ瀬ことみという人間の本性を最もよく表したモノに違いないとすら思う。 (ああ、できれば二度と思い出したくない光景さ) ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ここで時間は少し前に戻る―― 「こいつはひどいね……こんな殺し方をするとはな……」 「なんということだ……衛、すまん……」 あれから程なくして病院に到着した二人――あゆとハクオロ――は、衛の遺体と対面していた。 半壊寸前まで破壊された病院の外観に思わず茫然とした二人だったが、気を取り直すと危険を冒して病院内への進入を図った。 だが、正面で入り口に貼られたことみの書置きには気づかなかった。
というよりも、正面からの進入はここまでの経験から「何かある」と考えた二人の意見が一致した結果として 最初から近づこうとせず結果として気づかぬままだったというわけだ。 そして裏口から病院内に入り、1階のホールでかなり前に死亡したと思われる女性の遺体を発見した後、 次に見つけた廊下に残されていた血痕を辿って2階へ上がり、そこでシーツに覆われた衛の遺体を発見するに至った というのがここまでの経緯である。 遺体のあまりにも酷い状態を前してに二人が思わず目を背けたくなったのは言うまでもない。 衛の遺体は一言で表現するなら「滅茶苦茶」としか言いようが無かった。 首から上は切断され、上半身は鋭利な刃物でも用いたのだろうズタズタに切り刻まれて骨が露出している。 腹部にも大きな傷があり、派手に出血し衣服を赤く染めていた。 切り離された頭部も胴体と大差なかった。 こちらもやはり刃物で切り刻まれていてどこが目か鼻かの区別も付かないぐらいに損壊している。 これでは身内でも身元の判別は難しいだろうとあゆは思った。 (あのトロッコに入っていた遺体もひどかったけどさ、これはまだ小学生ぐらいの子供じゃないか。 なんてことしやがる!) あゆはハクオロから衛がことみと病院へ向かったと聞いた時点で、最悪の結果は予想していた。 だが、この様な殺し方はさすがに想像の埒外だった。 (時雨や恋太郎って奴だけに飽き足らず、こんな子供をここまでむごたらしく殺すとはな……とことん腐ってやがるな一ノ瀬!) あゆの中でことみへの怒りが爆発的に増幅していく。 一方のハクオロは、変わり果てた衛の前で膝をつき無念さを顕わにする。 口元を歪め、拳を震わせるその姿からあゆも彼の心情を察した。
(衛、すまない。私は君を守ってやることができなかった。これでは千影や悠人に会わせる顔がないな……。 そしてことみ……やはり君は大空寺の言うとおり殺し合いに乗り、私を騙したのか?) 「言ったとおりだろ。あんたは一ノ瀬にまんまと騙されたのさ。その結果がこれだ」 彼の思考を中断させたのはあゆの一言だった。 ハクオロが彼女を方を振り返ると、その瞳には殺された衛への同情と彼女を殺したことみに対する 怒りが半々ずつ含まれている。 「だが、本当にことみが衛を殺したのか?もしかしたら他の誰かがやったとは考えられないか、大空寺?」 それでも、ハクオロはまだことみが殺し合いに乗ったと断定し切れなかった。 学校で彼女の口から放たれた叫びが演技によるものとはどうしても思えなかった。 「はあ……、あんたも甘いね。それならなんで銃を持っていた一ノ瀬がここにいなくてこの衛って子の 死体だけが転がっているのさ?確かにあんたの言う様に他の誰かに襲われたというのもあるかもしれない。 だけどな、あの糞虫は弱いフリをして人を殺して回っているのさ!事実あたしの仲間は、時雨はあいつを信用して そして殺されたんだからな!」 そこでいったん言葉を切ったあゆは軽く一息つくと再び口を開く。 「それに、殺し合いに乗ってないならどうして今あたし達がこうやって話している所へ出てきて弁明しない? あんたはどうか知らないけどさ、世間じゃ黙っているというのは認めたのと同じことなんだからな」 「む……」 あゆの言葉を聴いていたハクオロは反論するでもなくそのまま黙ってしまった。 彼女の口調は乱暴なところもあったが、その内容には確かに納得が行った。 同時にハクオロの心の中でも少しずつ「やはり自分はことみに騙されたのか」という一種の失望にも似た感情が 生まれつつあった。
「まぁ、この場にいない奴の事はいいとして、その子はどうするのさ?あんたの仲間だった子 だろう?そこまで酷い殺され方をしてほったらかしにされていたのをそのままにしておく気か?」 「わかっている。せめて埋葬ぐらいはしてやらねばあまりにも衛が可哀相だ……。大空寺、手伝ってくれるか?」 「こっちもそのつもりさ」 ハクオロへ返事をしながらあゆは改めて思う。 やはりこの男は甘く優しい。だが、それは自分も同じだと。 そして、その甘さも優しさも決して悪いものじゃないものだとも。 同時にハクオロが殺し合いに乗ってないという事を改めて確認するとともに、ことみや佐藤良美が言っていた 「ハクオロは殺し合いに乗った」という情報が彼女たちの流したデマであるとも確信したのである。 大体、普通考えてみれば殺し合いに乗った人間が、証拠隠滅の為死体を隠すことはあっても死んだ仲間を埋葬したりなど するだろうか? それに、彼が乗っている側ならば自分はここに来る間に死んでいるはずだから。 (そういえば時雨、あたしはあんたを看取ってやることも弔ってやることもできなかったね……) あゆはこの島で出会った今は亡きかけがえのない仲間、いや友人の事を思い出す。 あれだけの深手を負いながらも泣き言ひとつ口に出さずそれどころか自分の命と引き換えにしてまで 体の傷を癒してくれた彼女のことを……。 (だからさ時雨。あんたの死後を見届けられなかった分の思いも込めて衛って子を弔ってやるさ。それでいいかい?) 二人はすぐ衛の遺体をシーツで包みなおし、病院の外へ運び出すこととした。 建物がいつ倒壊するかわからないという状況から一度来た裏口へ戻るのではなく、正面の出入り口へ向かう二人。
なぜか掛けられていた出入り口の鍵を開錠し、建物の外へ出たとき二人はそこでようやく気がついた。 『隣の研究棟まで来て下さい。話があります。 一ノ瀬ことみ』と書かれた張り紙に。 二人はしばらくそれを眺めてたが、あゆはそれを破り取った。 手の中にあるそれを見てあからさまに顔をしかめるあゆ。 (中にいないと思ったら別の建物にいたってことかい……。それもご丁寧に自分の居場所を書くとはね) だが、おかげで合点がいったとあゆは思う。 何の合点か?それは「なぜ、正面の出入り口に鍵が掛けられていたか」ということだ。 普通ならば正面に鍵がかかっていれば大概の人間は皆、入ることを諦め張り紙の通りに行動しようとするだろう。 そして、建物内には惨殺された衛の遺体があったという事実。 おそらくことみは、衛の死を隠し研究棟とやらにハクオロや他の参加者を誘導し殺害するつもりなのだと、あゆはそう判断した。 (とことん腐っているね一ノ瀬、正面から入ろうとしてたら危なかったかもしれないな) 罠だろう、と思う。 研究棟に行ってみたら居なかったという可能性もあるだろう。 だが、自分の仲間を殺したその片割れの居場所を知る数少ない手がかりだ。 だとしたらここは敢えて一ノ瀬の罠に突っ込んでやるというのも一つの手かもしれない。 そうとなったら、こっちから乗り込んでやる――。 あゆは、衛の遺体を抱きかかえたままのハクオロの方へ向き直り、自分がことみの元へ向かうことを告げる。 「ああ言っておいて悪いけどさ、あたしは暫くあんたと別行動をとらせれもらうさ」 「……ことみの所へ行くのか?」 「そうさ、あたしはこれ以上あいつのせいで死人が増えるのはまっぴらなのさ。思えばあたしがあの時 一ノ瀬を殺しておけば犠牲者は恋太郎ってやつ一人で済んだんだけどさ……とんだ邪魔がはいってな」
そう、一ノ瀬がゲームに乗ったと判断し銃口を彼女へ向けたあの時だ。 思えばあれが一ノ瀬を殺せる最大のチャンスだったにも関わらず佐藤が背後から撃ってきた為に殺しそこなってしまった。 あの場は機転を効かせて時雨と共に逃げることが出来たが、まさかすぐにあの二人がホテルで襲ってくるとは……。 当時のことを思い出しながらあゆはS&M M10の残弾数を確認し、研究棟の方を向く。 本棟より小ぶりな2階建ての建物は外観からして無傷であるのがわかる。 「だからさ、その子の埋葬はあんた一人でやってくれないか。あたしはその間に一ノ瀬を始末してくる」 「やめろと言って、やめてくれる筈もないな……」 「ああ、無理だ。これはあたしがやらなきゃならんことだからさ」 やめるつもりは無い、とまるつもりも無い。 そう、時雨の仇をとると決めた以上はあの二人を地獄に送り込んでやる。 優勝も脱出もさせるつもりは全く無い。 「じゃあな」 そう言ってあゆは研究棟を目指して歩き出す。 そして再び現在。 研究棟の出入り口前に着いたあゆは、そのまま中に入ろうとはせずに建物をぐるりと一周し、周囲に ことみが隠れてはいないかと確認する。 予想に反して彼女の姿は見られなかった。 (やはり中にいるってことか。ならホテルの時にあたし達をフロントまでおびき寄せたように炙り出してやるさ一ノ瀬……)
窓際に近づいたあゆは、そのまま手にした催涙弾をガラス窓へ叩きつける。 直後、派手な音を立ててガラスが砕け投げ込んだ催涙弾が催涙ガスを放出する。 これであとはことみが飛び出してくるのを待つだけだ。 だが、相手は子どもですら惨殺するような奴である。 油断は出来ない。 (さぁ、さっさと出てこいや一ノ瀬……) 茂みに身を伏せたあゆはことみが飛び出してくるのをじっと待つ。 建物から彼女が飛び出してきたらその時が最後だ。 【F-6 病院・研究棟前/1日目 深夜】 【大空寺あゆ@君が望む永遠】 【装備:S&W M10 (6/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】 【所持品:予備弾丸10発・支給品一式 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】 【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志】 【思考・行動】 行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に殺す。 0:一ノ瀬、さっさと出てこいや! 1:ことみが出てきた所を殺す 2:二人を殺す為の作戦・手順を練る 3:ことみと良美を警戒 4:ハクオロをやや信用しつつもとりあえず利用する 5:殺し合いに乗った人間を殺す 6:甘い人間を助けたい
【備考】 ※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。 ※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。 ※魔法の存在を信じました。 ※支給品一式はランタンが欠品 。 ※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど ※催涙弾は研究棟内に投げ込まれました。 【ハクオロ@うたわれるもの】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:精神疲労、左肩脱臼、左肩損傷(処置済み)、背中に大きな痣、腹部に刺し傷(応急処置済み)】 【思考・行動】 基本方針:ゲームには乗らない。 0:ことみ、やはり君は…… 1:衛を埋葬する。 2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す 3:瑛理子が心配 4:悠人の思考が若干心配。(精神状態が安定した事に気付いてない) 5:ことみからの疑いを晴らしたい? 6:武、名雪(外見だけ)を強く警戒 7:自衛のために武器がほしい 【備考】 ※校舎の周辺の地形とレジャービルの内部状況を把握済み。 ※オボロの刀(×2)は大破。 ※あゆを信頼しました。罪は赦すつもりです。 ※シーツに包まれた衛の遺体を担いでます。 ※ことみの事を疑い始めてます。
「……ん、ううん? ここは?」 美凪が起きた時、自分に何が起きたかよく把握できなかった。 確か自分は武に襲われてそのまま気を失ったはず。 なのにどうして室内にいて床に寝ている? そんな疑問を吹き飛ばすかのように声をかけてきた者がいた。 「起きたか、美凪」 「え……倉成さん?」 それは武だった。 剣を持ち圧倒的な存在感を出し美凪の前に立っていた。 「……ここは何処ですか? そして私がどうしてここに? 殺さなかったんですか?」 美凪が今、自分のおかれている状況を武に求めた。 あまりに状況が変わりすぎて美凪には理解が出来なかった。 そんな美凪に武が 「ここは病院だ。俺達が始めてあった場所だ、そして全てが決まる場所……まあそれはいい、美凪。今お前は人質ってことだ」 「人質?」 「ああ、あの後、圭一たちが来たんだ、お前を助ける為に。そして圭一とどちらが正しいか決める為に決闘する事にした、ここでな。お前は圭一が一人で来るための人質さ。俺は圭一と決着がつけたいからな」 「そんな!?」 美凪の顔が驚きに変わった。 自分が気絶してる間にそんな事が起きているとは思わなかったからだ。
そんな美凪を見ながら武は話を続けた。 「俺はどうしても信じられない。圭一が言った事が。仲間といった事や信じるといった事が。たとえ殺し合いに乗っていない事が真実だとしても」 「俺は信じない。認めない。信じちまったら、俺は何をしてきた? 裏切り、騙され、弱い少女にまでこの剣を向けた。信じちまったら、俺は自分が忌み嫌ってた者になってしまう」 「だから俺は信じる事なんかできやしないのさ! 俺は間違っていなんかない!」 それはもうほとんど武の独白に近いものだった。 武は迷っていた。 疑心暗鬼になっても一度疑問に思ってしまった事は中々消えない。 だから圭一のことが正しいのではないか思ってしまった。 でも信じてしまったら自分は最悪なものになってしまう。 だから信じるわけにはいかなかった。 武の呟きを静かに聴いていた美凪が武に話し始めた。 「……よかった、武さんも私達と同じく弱い人ですね」 「……俺が弱いだと?」 「ええ、たとえ病気に罹っていて疑心暗鬼になっていても本質は変わりません」 「武さんは前と変わらない仲間思いで優しい人です。そして後悔もする普通の人です」 「武さん、信じてください。今、貴方は自分やった事を後悔してます。皆、そうです。でも皆それを乗り越えていくんです、その後悔から。だから今なら乗り越えられるはずです」 「お願いです。前原さんを信じてください」 そう武に懇願するように諭した。 が、武は 「……ふん、俺が少しでもよくなったらそう懐柔するのか? ふざけるなっ! そうやって善人ぶるなよ! 俺は信じない!」 そう叫び「求め」を美凪の首筋に当てた。 美凪は驚き説得が失敗した事を思いながら押し黙った。
「ふん、まあいい。圭一が来れば決着が付く。どっちが正しいかがな」 「まあ負ける訳がない。圭一を殺した後お前も殺してやるよ」 武には自信があった。 キュレイである時点で圭一と差がついてること。 この「求め」がある事に起因していた。 がそれを美凪が否定した。 「違います! 前原さんが貴方に負ける訳がありません!」 美凪にしては大声で叫んだ。 「何だと……!? 何処にそんな自信があるんだよ!」 「それは前原さんにあってあなたにはない力あるからです」 「何だよ、それは!」 美凪には解っていた。 圭一の強さが。 「信じる力です」 そうそれは信じる力。 「信じる力だと?」 「そう信じる力です。仲間、信念、希望。そう全てを彼は信じているんです! どんな状況でも彼は信じることを止めません! 信じる全てを否定する貴方になんか負けるわけありません!」 美凪はそんな圭一の信じる力を誰よりも知っていた。 だから圧倒的に武が有利な状況でも圭一の勝利を信じていた。 「ははは!! 何を言うかと思えば! そんなのが力だって? はっ! そんなの決して力じゃない! それを示してやるよ!」 だがそれでも武は信じる事を否定した。
,
,
,
そしてその時 「武さん! 遠野さん!」 遂に圭一が走って来た。 「来たか。圭一!」 武は楽しそうに圭一を見た。 信じる者、前原圭一。 信じない者、倉成武。 役者は揃った。 舞台は病院。 2人が出会った場所。 そして決着の地。 そして必要なのは戦いを始める鐘だけ―― 「武さん! 遠野さんには何もしてないんだろうな?」 圭一は息を整えながら武に聞いた。 武は美凪の首筋に「求め」を当てつつ 「ああ、俺はお前みたいな卑怯者とは違う。何もしてないさ」 圭一は美凪が大丈夫そうなのを見てほっとした。 そして彼が武と決闘する前に話さなければならないことがあった
。
たとえ無駄だとしても呼びかけなければならない。 そう圭一は思った。 「なあ、武さん、聞いてくれ。武さんはH173に犯されてるんだけなんだ。だからきっと治せる。いや、俺が治してみせる! そうすれば前みたいに仲間を守ろうとする人間に戻れるんだ」 「だから、俺を信じてくれ、武さん、必ず助ける!」 圭一の悲痛の叫び。 「……信じられる? 信じられるものか! 俺は何も変わってない! 変わったのは圭一。お前だろうが!」 だがそれは武に届く訳もなく、 そして 「いい加減にしようぜ、もう戦うしかないんだ、圭一。どっち正しいか決めよう」 「もう言葉なんか要らない。後は互いの力をぶつけるだけ。始めよう」 戦いを告げる鐘が鳴り始めた
(結局、戦うしかないのかよ……畜生) 圭一は少し落胆しつつも (でも、俺が武さんを救う。そう決めたんだ!) その揺るがない決意を持って 「ああ、解った。俺は負けない! 遠野さんも救い、武さんも救ってみせる! ここで負ける訳にはいかない! 必ず救う!」 「冥加」を鞘から引き抜き鞘を投げ捨てた。 そして「冥加」を構えた。 しかし向けたのは刀の峰。 これは武を殺すのではなく救うという意思表示。 そんな圭一を見つつ 「ふん……最後まで善人ぶるのかよ。まあいい。俺は負けない! お前を殺し俺が正しいのを認める! 圭一! 必ず殺してやる!」 武は美凪に向けた「求め」を圭一に向けなおした。
,
。
そして武は美凪のほうを見て 「美凪、お前は離れてろ。これから圭一とさしで戦う。決して邪魔するな。これは俺達の戦いだ」 美凪は2人の決闘を邪魔する事は無理だと判断し 「……わかりました」 被害の及ばない所に向かおうとしていた。 2人の決闘を見届けるために。 自分には何も出来ない歯痒さ。 漠然とした大きな不安。 そんな事を思っていた時だった。 「遠野さん! 勝って必ず助けるから! 約束する! 待ってってくれ! 安心してくれ! 武さん救って、遠野さん助けるから!」 圭一の声が聞こえ来たのは。 その瞬間美凪の心から不安は無くなった (……どうして、どうしてでしょうか? あの人の声を聞いただけでこんな安らげるなんて……温かい) そして圭一のほうをもう一度向き 「信じてますから……信じてますから! 必ず勝ってください! 前原さん! 信じてます!」 そう答えた。 今、美凪が圭一のためにできる事は圭一を信じる事。 それが圭一の力になる。 そう思ったから。
圭一は満足そうに 「ああ、必ず勝つ!」 美凪に答えた。 美凪は満足そうに微笑みながら離れていった。 そして圭一と武は向かい合い剣を向け合った。 「やっと決着がつく。初めて会ったこの場所で。圭一、覚悟はいいか?」 2人が出会って色々あった。 その原点の場所で。 「ああとっくに出来てる。いくぜ! 武さん!」 2人の決着が付く。 2人は構え 「必ず助ける!」 「必ず殺す!」 相手に己が信念ぶつける為疾駆した。 そして遂に始まった。 2人の信念をぶつけるための戦いが。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
。
,
「おらおら! どうしたよ! 圭一! この程度じゃないだろ!」 「くっ……ああ、まだだ! こんな所で諦めるか!」 決戦が始まってから何合か切り結んだ頃、戦況は武の方が優利だった。 2人にトウカやアセリアのような剣の技術はない。 そして二人の持つ剣は形は違うとも武器としての質はほとんど一緒。 なら差が付くのは一つだけ。 そう身体能力。 キュレイで身体能力が上がっている武が普通の学生である圭一を凌駕するのも当然だった。 「はあああぁ!!」 「ぐああぁぁ!」 そして優利にたっている武が繰り出した高速の突き。 圭一は避けようとするも間に合わなくわき腹を掠めた。 たまらず圭一は距離をとった。 「くっ、流石だな武さん。すげー剣が早いや」 「ふん、なら諦めたらどうだ。何もないお前が勝てる要素なんてない」 「悪い冗談だ。諦めるなんて。それに負ける気もない!」 そう言いきって圭一は改めて武に向かって疾駆した。 剣を上段に構え武の頭に振りおろそうとした。
,
「そんなわかりきった攻撃がきくか!」 武は余裕を持って求めで受けようとした。 しかし圭一の狙いは頭ではなかった。 振り下ろされるその刹那、振り下ろすのをやめ狙いをかえた。 狙いはわき腹。 そう上段からの振り下ろしはただのフェイントでしかなかった。 武は対応しきれず 「がっ!?」 直撃した。 圭一が峰打ちでなかったら確実に命を奪っていただろう。 武は少しはなれ打たれた所を押さえつつ 「畜生! 油断した!」 「俺は武さんみたいに力はないからな。少しでも工夫しなきゃ勝てないからさ。俺は負けるわけにはいかないんだ! 信じて待ってくれる仲間がいるから!」 圭一が言い切った。 武は苛立っていた。 圭一から思わない一撃を喰らった事。 未だ圭一が仲間を信じるといっている事。 すべてに苛立っていた。 首を掻いてる事に気がつかずに 「信じるだと……仲間だと! ふざけんなぁ! 俺を散々利用して裏切ったお前が言うのか! 信じるか! 認めるもんかぁ!!」 「違う! 利用なんかしてない! 裏切ってなんかしてない!」 「違ってない! 皆俺を利用するだけなんだろ!」 「そんな訳無い! 武さんは俺を仲間だといってくれた。信じてくれたじゃないか! 俺はその事を忘れない! だから武さんも大切な仲間で俺も信じることができたんだ! 俺は今でも信じてる! だから武さん助けたい!」 圭一はそう言い切った。 圭一の変わらぬ決意。 それを伝えた。
。
(仲間……俺は確かにそう思っていた。何故それを変えた? 解らない。でも認めらない。認めたら俺は俺でいられなくなる) 武は少しだけでも圭一を信じ始めてきた。 でも感情がそれ否定していた。 認めたら自分が自分で入られなくなる気がして。 だから感情に任せ 「違う! 違う! 俺は認めねぇぇぇぇぇぇ!! 俺は信じねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 全てを否定し圭一に向かい疾駆した。 圭一を殺せば全てが終わる。そう思って。 「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 「くっ!? お、重い!?」 袈裟、逆袈裟、唐竹、横一文字。なぎ払い。 圭一に全ての力をこめてあらん限りの斬撃を放った。 武の身体能力全てをこめた斬撃は圭一には重く受けるので精一杯だった。 「信じるものか!」 武の一撃一撃には否定の重いが重なっていた。 「認めるものか!」 信じない。認めない。 圭一の全てを拒絶しようとした。 そして 「俺は絶対お前を認めねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 その拒絶の思いは力となって圭一に振り下ろされた。 圧倒的な振り下ろし。
。
圭一は受けたが 「がっ!? しまった!?」 圧倒的ない力に耐えられなくて「冥加」を落としてしまった 圭一が取ろうとするも、 「させねぇよ!」 武の斬撃に阻まれた。 そして 「これで終わりだな、圭一。お前の武器は無い」 武に「冥加」を拾われてしまった。 完璧に流れは武の方になっていた。 圭一にもう攻撃手段は無い。 「冥加」はもう武によってしまわれてた。 「諦めたらどうだ? もう無理だろ」 絶体絶命。 だが圭一は 「俺は絶対諦めない! こんな所で諦めてたまるか!」 諦めていなかった。 「ふん! ならさっさと殺してやるよ!」 武はそういって剣を振った。 圭一はそれを紙一重でかわした。 「ちっ、そう避けてばっかいるなよ!」 あれから圭一は武の攻撃避けつつ後退していった。
「はぁ!」 武はまた剣を振るう。 圭一はそれをも避けそして 「遠野さん!」 美凪の名を呼んだ。 美凪はそれに答える様に駆け出し始めた。 武はそれを見て 「何だ、美凪を逃がすため避け続けたのか。ふん、無駄だ。お前殺したすぐ追っかけて殺してやるよ。諦めな」 圭一は美凪が逃げられるように避け続けたのだと思った。 今の攻撃で圭一は壁際まで追い詰められておりもう避けるのを続けるのも不可能になっていた。 だが圭一は不敵に笑い 「諦める……? はっ! 勝ちを確信したのさ!」 そう言い放った。 「勝つだと? 馬鹿言ってんじゃねえ! お前には武器も無い! そしてもう逃げ場も無い! この状況を覆す事なんか無理だ!」 武は驚きそう言った。 「まだ一つだけ力はあるさ。それが俺の一番の力だ!」 「力? まあいい、圭一。楽しかったぜ。今すぐ殺してやるよ!」 武は疑問に思いつつも横一文字に剣を振るった。 圭一に迫る確実な死。
。
が、圭一は 「俺は! ぜってー諦めねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」 「なっ!? 馬鹿な!?」 武が振るった「求め」。それに跳躍して飛び乗った。 「求め」に重さに耐え切れず地面に付く瞬間、圭一はさらに飛んだ。 武は衝撃で剣を落とした 武は驚愕した。 「そんな飛んだ所で! 逃げるだけ……」 が、さらに驚く事があった。 「前原さぁぁぁん!!!」 逃げたと思ったはずの美凪が跳んだ圭一に向かって何かを投げた。 (な!? にげたんじゃないのか!? それにもう武器は無いはず!?) そして圭一がそれを受け取った。 それは鞘。 そう、圭一が最初に投げ捨てた「冥加」の鞘。 美凪は逃げたのではなく鞘を取りにいったのだった。
,
。
そして圭一が空中で 「これが! 俺の信じる力だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 がら空きの武の背中に鞘で全力で叩いた。 「がはっ!? こんな事が!?」 武はその衝撃に耐えらなくなりひざを付いた。 動こうにも体が動かない。 ダメージは予想以上にでかかった。 「見たか! 武さん! これが俺に残された信じる力だ!」 武の目の前に地面に降り立った圭一がいた。美凪も武が落とした「求め」を回収して傍に来ていた。 明らかな形勢逆転。 そしてチェックメイト。 先ほどと違い武にはもう動く力が乗っていない。 武の負けだった。 「どうしてだ? 圭一。どうして美凪が逃げないと思った? 美凪、どうして逃げなかった?」 武は疑問に思っていた事を口にした。 「信じてたからさ! 美凪さんならこうしてくれるってそう信じたから! 美凪さんを信じてたからこそ俺は諦めなかった!」 「信じてたからです! 前原さんは絶対に諦めないって! 勝つって! 私を助けると約束したから! だから私はあの時前原さんが言った事を理解できたんです! できる事しようと思ったんです! 信じられたんです!」 そう二人が言った。 互いに信じてたから。 だから動けた。
。
「これが信じる力だ! 武さん! お願いだ。信じてくれ。この前原圭一を!」 「武は今病気に犯されてるだけだ! 治ればきっと元に戻れる! 仲間思いの武さんに!」 「絶対助ける! だから信じてくれ! 武さん!」 圭一の悲痛の叫び。 今しかなかった。武を説得できるのは。 「なあ、圭一? お前は何でここまで俺を救おうとする? ほっといてもいいだろう?」 武の疑問。 どうしてここまでするのか解らなかった。 圭一は 「それは武さんが仲間だから! 大切な信じてる仲間だから! 武さん! あんたを信じてるから! 今でも信じてるから!」 それが圭一の想い。 その想いこそが圭一を動かしていた。 (俺は圭一たちを信じることをやめた。けど圭一はそれを止めなかった。それだけの事か。だがそれだけの事で俺は負けた)
,
そしてついに 「いいだろう、圭一。俺はお前に負けた。好きにすればいい」 「もし俺が病魔に罹っているのなら、そのせいでおかしいのなら」 「俺を救え。圭一。お前の信じる力で俺を救ってみろ。出来るか? 前原圭一!」 「ああ! 必ず! 必ず! 救う!」 武は微笑み、途端に意識があやふやになり 「ふん……お前を……信じる……圭……一……」 そのまま気絶した。 最後には圭一を信じて。 これで2人の決闘は終わりを告げた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
。
「大丈夫ですか? 前原さん?」 「ああ、大丈夫だよ、美凪さん」 決闘が終わった後、美凪は圭一の傷を治療していた。 「……美凪さん、無事でよかった。助けられてよかった」 治療している美凪に圭一がそういい始めた。 「俺、美凪さんが連れ去られた時、凄く怖かった。このまま居なくなっちまうって」 「だから助けられて本当に嬉しいんだ。これからも傍にいて欲しい。いいかな?」 美凪は笑顔で 「ええ、いいですよ。前原さん。後さっきから名前で呼んでますよ?」 「え!? 本当か!?」 圭一は顔が赤くなり恥ずかしくなりながら 「……これから、そう呼んでいいかな?」 「いいですよ」 圭一はさらに真っ赤になって 「ありがとう、美凪さん」 そう言った。 「ちょっと眠くなったよ。寝ていいかな」 「はい、どうぞ」 美凪の返答にきかないうちに圭一は寝始めた。 きっと疲れたのだろう。
そんな圭一の寝顔を見つつ 「お礼を言わないといけないのはこっちです。私を助けるのにこんなに命がけになってくれて……」 美凪の知らないうちに涙が出始めた。 「貴方を信じてよかった。もう無理しないでくださいね?」 もう一度圭一の顔を見た。 途端に愛おしくなり 「頑張ったで賞を贈呈……」 そっと抱きしめキスをした。 「ありがとうございます。ありがとう、前原さん……いえ……圭一さん」 美凪は圭一の頭を撫でて始めた。 出来るのなら圭一が起きるその時まで。 美凪の心に表れたとても愛おしいもの、無くしたくないものを想いつつ ずっと頭を撫でていた。 【F-6 病院一階/2日目 深夜】
,
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】 【状態:精神安定、右拳軽傷、体全体に軽度の打撲と無数の切り傷、左肩刺し傷(左腕を動かすと、大きな痛みを伴う)、わき腹切り傷(治療済み)】 【装備:永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで− 】 【所持品:支給品一式×2、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、大石のノート、情報を纏めた紙×2】 【思考・行動】 基本方針:仲間を集めてロワからの脱出、殺し合いには乗らない、人を信じる 0:睡眠中 1:武を救う 2:知り合いとの合流、または合流手段の模索 3:あゆについては態度保留、但し大石を殺したことを許す気は今のところない。 4:良美を警戒 5:ハクオロに対しては一応警戒。 6:いつか祭具殿の中へ入りたい 【備考】 ※大石のノートは一応、最後まで読みました。ただ、ノートの何処かに別の考察を書いている可能性はあります ※二見瑛理子、宮小路瑞穂、アセリアを信頼 ※春原陽平、小町つぐみの情報を得ました
【遠野美凪@AIR】 【状態:腹部打撲】 【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア】 【所持品:支給品一式×2、包丁、救急箱、人形(詳細不明)、服(詳細不明)、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)情報を纏めた紙×2】 1:しばらく待機 2:知り合いと合流する 3:佐藤良美を警戒 【備考】 ※春原陽平、小町つぐみの情報を得ました ※武がH173に感染していることに気が付きました ※永遠神剣第四位「求め」について 「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。 ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。 オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度) ※キュレイにより少しづつですが傷の治療が行われています。
【倉成武@Ever17】 【装備:投げナイフ2本、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】 【所持品:支給品一式 ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に、永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ナポリタンの帽子@永遠のアセリア、可憐のロケット@Sister Princess、首輪(厳島貴子)、鍵】 【状態:L5侵蝕中。中度の疑心暗鬼。強い迷い。 頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)。頬と口内裂傷(ほぼ回復)。頚部に痒み。脇腹と肩に銃傷。刀傷が無数。服に返り血、気絶】 【思考・行動】 基本方針:??? 0:気絶中 1:??? 【備考】 ※キュレイウィルスにより、L5の侵蝕が遅れています、現在はL3相当の状態で、症状は弱まっていますが、疑心や強いストレスによって進行する恐れがあります。 ※自分が雛見沢症候群に犯されている可能性を、自覚しました ※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。 ※富竹のカメラは普通のカメラです(以外と上物)フラッシュは上手く使えば目潰しになるかも ※所有している鍵は祭具殿のものと考えていますが別の物への鍵にしても構いません ※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料はごく僅かです。何時燃料切れを起こしても、可笑しくありません。 ※キュレイにより少しづつですが傷の治療が行われています。 ※スピリットの場合、冥加の使用には、普段の数倍の負担がかかります。 ※神剣魔法は以上の技が使用可能です。 アイアンメイデン 補助魔法。影からの奇襲によって、相手の手足を串刺す。 ダークインパクト 攻撃魔法。闇の力を借りた衝撃波で攻撃する。 ブラッドラスト 補助魔法。血をマナに変換し、身体能力を増強する。
200 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:29:36 ID:tR8wiaMM 森の中を疾走する影が一つ。 拳銃を片手に鬼のような形相で走るその影は坂上智代と呼ばれた少女だった。 だが怒りに支配されたその表情は昔の面影など最早残ってはおらず、知人でも一瞬では彼女とわからないほどであった。 ハクオロを殺す為、その仲間を殺す為、彼女はひた走る。 目的はそれだけ、他に考えることは何もない。 だが気持ちとは裏腹に全身を痛みが襲う。 自分が思っている以上に走るだけで体力が消費されていくのがわかった。 (もうじき夜が明けるな) 先急いでこの疲労が溜まっているところに、夜に休息を取った人間が現れたら自分の不利は否めない。 少しでも休息を取るか――と考え足を止めようとしたその時、智代の視界に一つの建物の姿が見えた。 すぐさまバックを広げる、おそらく位置と外見から察するにホテルであろう事がわかった。 (――休めという神の啓示だろうか?) 考えながら智代は自嘲しながら首を振る。 馬鹿馬鹿しい、神なんかいない。 いたとしても自分をこんな所に送り込んだ神なんて崇めやしない。 しかし事実休息を取ろうかと思った矢先に利便な場所に辿り着けたのは幸運なことだ。 同じように考えている人間がいるかもしれないが、見つけたら殺せばいいだけだ。 周囲を確認しながらホテルへとゆっくりと近づいていく。 あたりに人の気配はしない。少なくとも外には誰もいないようだ。 そのまま警戒しながら玄関を潜ろうとして破損が激しいことに気付く。 (これは戦闘跡か……?) とりあえずは注意深く玄関を潜る。 柱に隠れながらホール全体を見渡すが、人の気配は感じられないほど静まり返っていた。 そしてフロントのすぐ横に『STAFF ONLY』と書かれた扉があることに気付く。 その扉の前に立つと銃口は扉に向けたままドアノブを軽く捻り――扉は静かに開かれた。 中には誰もいない。 どうやら事務所として使われている部屋のようだったが、横たわれそうなソファーも置かれていた。 扉は内側から施錠出来るようになっており、小さいが窓もある。
201 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:30:22 ID:tR8wiaMM これなら突然襲われる可能性も低い上何かがあっても窓から逃げることも可能であろう。 何から何まで至れり尽くせりな環境に智代は微笑を浮かべると、ソファーへと身体を横たえる。 ハクオロへの怒りをその身に宿したまま、幼き殺人者は一時の休息に身を委ね静かに目を閉じた―― ・ ・ ・ ・ ・ ・ 森に入ってからもうかなりの時間が経過していた。 地図に間違いがなければとうの昔に目的地であるホテルに着いてもおかしくないほどの距離を歩いたはずだ。 目の前はランタンの光がか細く照らすのみの暗闇。 山中と言う悪条件が延々と続いている足場。 背中に背負った伊吹風子の亡骸。 そして今までの出来事による精神的疲労。 これら全ての条件が重なり、蓄積した疲労が全身に押しかかり北川の動きを鈍らせていた。 北川自身はまったく気付いていないのだろうが、その歩みの速度は這っているのと遜色ないほど落ちていた。 「――潤、大丈夫? 少し休憩しない?」 隣を歩く梨花が心配そうに眉をひそめながら尋ねる。 梨花の目から見た北川の顔は汗が噴出し、今にも倒れそうなほどに蒼白だった。 「……なんてことねえさ」 体勢を整える様に風子の身体を担ぎなおしながら北川は答えると、平静を装うように歩む速度を速める。 だがその直後、思いついたかのように足をピタリと止めると後ろを振り向きながらはにかみながら言った。 「俺のことは良いから、梨花ちゃんがきつくなったらすぐに言ってくれ。 急ぎたいのは山々だけどそれで倒れでもしたらしょうがないしな」 なんて事を言うのだろう、と北川の表情に梨花は一瞬ドキリとさせられてしまっていた。 「……わかったわ。先を急ぎましょう」 なんとかそう答えながら北川に並ぶように歩幅を合わせ駆け出していた。 幾ら男性で幾ら年上とは言え、今までの事で疲れが出ていないわけがない。 風子を背負っているのだから尚更だ。 自分がこれだけきついのだから北川の疲労はその遙か上を行ってるに違いないはず。 そう思ったからこその発言だったのだが……まさか自分が逆に言われるとは思いもしなかった。
202 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:30:54 ID:tR8wiaMM (強がっちゃって……) 梨花の思いも当然のことで。 歩く速度が上がったのはほんの一瞬で、北川自身は気付いていないだろうが速度はまた先程と同じまでに落ちていた。 だが、これ以上は梨花は何も言えなかった。 北川はあくまで梨花を守る立場だと考えている。 自分が弱みを見せてはいけない、安心させてやらなければいけない。 そんな事を考えていると言うことが一瞬でわかる微笑みだった。 彼は似ているのだ。 時折見せる行動がかけがえのない仲間である前原圭一の姿とかぶって見える。 思い返してみれば北川の発言はいつもそうだった。 自分に対しても風子に対しても、自分で全てを背負うと言った傾向が多く取れる。 それはやはり子供として見られているせいだからかもしれない。 だが、もう少し自分を頼ってくれても良いじゃないか。 守られる立場……それはこの島ではどんなに有利なことだろう。 だがわけもわからずこの島に来たときとはもう状況が二点も三点も変わってしまってきている。 守られるんじゃない。肩を並べたい、助けたい。 喜びも、苦しみも、目の前の彼と共有したい。 そんな事を考えながら……それでも北川に対して反論することが出来なかった自分が情けなかった。 ジレンマを抱えながら手に持ったレーダーに視線を移す……と、レーダーの範囲ギリギリに表示された五つの光点の姿が目に映った。 「潤! 止まって!!」 叫びながら反対側の手に持ったランタンの光を消す。 かろうじて見えていた景色が一瞬で闇に染まる。 「反応か?」 「……五つあるわ」 両手のふさがった北川に見えるようにレーダーを彼の顔へと近づけ、そして続けるように言った。 「多分距離的にホテルだと思う。そのうち二つは純一達。残り三つは増えた仲間……って考えるのは楽観的かしらね」 「それだったらどんなに良い事だろうけど……ホテルでもなければ純一たちでもない。まったく知らない奴らが戦闘中って可能性もあるな」 「……よね」 「とは言え俺らには進むしか道はないよな」
203 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:31:27 ID:tR8wiaMM 北川の言葉に梨花は肯定を示すようにこくりと頷く。 不鮮明な足場を手探りで進みながら一歩一歩進んで行くと、木々の隙間から何か建物らしきものがかすかに見えた。 「梨花ちゃん、あれ!」 「ええ、ホテルで間違いないようね」 言いながら再び光点を見やるが、誰も動いたりしている様子はなさそうで最初の場所から動いてはいない。 ホテルのほうからも戦闘らしき音が聞こえてくることもなく、耳には風の音のみが届いていた。 おそらくは戦闘は起こってないだろう……だがこの光が生命反応でない可能性もあることが、自分らの位置に四つの光があることで示されている。 「パソコン使うか?」 「ダメよ。仮にあの中に純一がいても安全かどうかの百パーセントの保証なんて出来ない。 だったら制限回数があるものを私達だけの判断で使うのはもったいないわ」 自分達にとって最良の賽の目。 それは勿論あそこにいるのが純一たちで残りの三つはその仲間であること。 逆に最悪なのは、四人が殺され殺人者が一人ホテルにいると言う可能性。 パソコンで一人の名前がわかったところでどちらとも言えないのだ。 ここで考えているだけではどうしようもないのもわかっていたから……梨花は小さく声を出した。 「潤。私が中の様子を見てくるわ。安全だとわかるまでここで休んでいて」 「……え?」 梨花の突然の言葉に北川が目を丸くしながら間の抜けた声を上げる。 「何を言ってるんだ、一人じゃ危ないだろ?」 「……そんな身体で、もし誰かに襲われたらなんとかなる? 風子を背負いながら?」 「俺が行くよ。梨花ちゃんはここで風子と一緒に待っててくれ」 きっぱりと告げた北川の提案を否定するように梨花は首を振った。 「私より――」 その先を言うのは思わず躊躇われた。 続けるのは北川の心意気を無駄にしてしまう行為。 だがいつまで私は守られなければいけないのか。 そう思ったら自然と口が開いていた。 「――私より、危ないのはあなたよ……潤」 「……俺?」
204 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:32:03 ID:tR8wiaMM 「どう見たってふらふらじゃない。そんなんじゃもし襲われたらひとたまりもないに決まってる」 「そんなことないって言ってるだろ?」 「そんなことあるのよ!」 「ないよ!」 「ふらふらな潤が行くより、まだ走れる私が行くほうがいいに決まってる。 もしもの時は武器だってある!」 スプレーと指にはめたヒムイカミの指輪を差し出しながら、怒気を隠そうともせず梨花は言い放っていた。 「私を仲間だと思ってくれるなら……少しは力にならせて」 泣き出しそうな悲しげな表情で訴える梨花に、北川は思わず口ごもってしまう。 「……わかった。甘えるよ」 そう言うと北川は風子の身体を地面に横たえると、自身も地面へと座り込んだ。 「ただし、だ――レーダーは梨花ちゃんが持って行くこと。十分たっても戻ってこなければ俺はすぐ後を追って中に入る。 これは絶対に譲れない条件だ」 「……わかったわ。ありがとう、潤」 ◆ 梨花はそう言い残すと、すぐ戻るし身軽のほうが良いからと自身のバックは潤の元へと置いたまま駆け出していった。 残された北川は風子の顔を撫でながらボンヤリと考えていた。 「仲間だと思ってくれるなら――か」 梨花ちゃんの事を仲間じゃないなんて思ったことは無い。 仲間だからこそ守りたいと考えていた。 でも結果的にそれは梨花との誓いを一方的に履行しているのとなんら変わりないのだと言うことに気付いた。 「あの誓いは俺だけじゃなく梨花ちゃんが俺に対してってのも含まれていたんだよな。 自分だけの力で何とかしようなんて仲間を信用してない証拠じゃないか。 何度同じ間違いを繰り返せばいいんだろうな俺は……」 すれ違い続ける梨花との仲間意識の違いに北川は項垂れていた。
205 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:32:39 ID:tR8wiaMM 梨花ちゃんを信じよう、仲間の好意に甘えよう。 十分だけ、十分だけ休んだらすぐ行動開始だ。 あの世で見てろよ風子。 俺が本気を出したらどうなるか、驚きのあまり声も出ないこと間違い無しだぜ。 そう考えながら風子の頬を撫でる手がだんだんとゆっくりとなり、気だるさに身を任せるように北川の意識は闇のまた闇へと落ちて行くのだった。 ・ ・ ・ ・ 梨花が北川と別れホテルへと向かった頃、ホテルの裏口では小さな音が断続的に響いていた。 音の震源地にはスコップを持つ純一ときぬの姿。 疲れた身体をも厭わずに、二人は無言のまま地面を掘り返していた。 すでに人一人分ぐらいは余裕で入りそうな穴が一つ。 その傍らには先程の戦闘で純一を庇い死んだことり。 一見すればただ眠っているような安らかな表情をしている。 それでも彼女は二度と目覚めることはない。 その眠りを邪魔されることがないように静かに埋葬させたい。 そう考えた純一はホテルに置いてあったスコップを探し出し、きぬにそう提案して今に至っていた。 「なあ純一……」 終始無言だったきぬがぽつりと口を開く。 「ん?」 土を掘り返す手を止め、何事かときぬへと純一は振り返る。 だが呼びかけた当の本人は二の句を告げるのを躊躇していた。 「どうした?」 純一は不思議そうにきぬの顔を見つめるが、きぬは目を合わそうとせず視線は泳がせたままだ。
206 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:33:40 ID:tR8wiaMM 「呼んでみただけとかだったら続けるぞ?」 そう言って純一は再びスコップを握り締め―― 「あーあーあー、待った待った」 きぬが両手をばたつかせながら純一に駆け寄り、その手を慌てて押さえる。 「えーと……だ。なんだ……その……」 言葉は続けようとしているのだろうが俯き口ごもったままきぬは要領を得ない。 「うん?」 「んと……言いたくなかったり言うのがきつかったら答えなくていいからな」 「わかった」 「その……ことりって純一の事好きだったよな?」 「そう……なのか?」 思いもよらないきぬの質問に純一はポリポリと頭をかきながらお茶を濁すように答える。 「ぜってーそうだって。じゃなきゃ最後にあんな嬉しそうに笑ったり出来ねえって」 「そうか……」 純一は思わずことりのほうに顔を向けていた。 今でも鮮明に思い出されることりの姿。最後の言葉。最後の笑顔。 流しつくしたと思っていた涙が再び押し寄せてきたのがわかった。 だがそこで純一は握られた手がギリギリと締め付けられるのに気付き、意識は目の前の少女へと戻される。 身体を震わせながら……きぬが言葉を続けた。 「純一は……純一は……ことりの事好きだったか?」 「なんだよ急に」 「いいから!」 その強い口調に適当にお茶を濁すような返事は出来ない義務感に駆られる。 何故いきなりこんな質問を投げかけられているのかはわからないが真面目に答えなければいけないように感じた。。 「ああ、好きだったよ」 「――!」 「大事な……大好きな友達だった」 「そ、そか、Likeか。そっかそっか」 「それがどうかしたか?」 「いやなんでもねー、なんでもねーよ!」
207 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:34:17 ID:tR8wiaMM いいながら反射的に純一の顔を見やり、当たり前のように二人の視線が交差した。 瞬間、きぬは顔を真っ赤にしながら後ろを振り返ってしまう。 「蟹沢……?」 「ほらあれだ。ボクってば純一の昔の生活の事なんて聞いたことなかったじゃないか。 だからどんなんだろうってちょっと気になっただけ! そんだけだよ! 純一が誰を好きだって関係ないし、それになんも深い意味なんかないんだかんね!! ほら、さっさと続き続き! 早く埋めてやろうぜ!」 きぬは息継ぎもせずにまくしたてたかと思うと、再びスコップを手に取り土を掘り返しだした。 それ以上純一に何かを聞かれるのを拒むようにきぬは一心不乱に土を掬う。 「蟹沢、一つ良いか?」 きぬの勢いに思わず放心状態に陥りながらも、すぐさま我に返りゆっくりその背中へと歩み寄る。 「俺の友達はみんな死んじまった。もう誰もいない。 でも俺は一人じゃない。仲間が出来た。この場にはいないけれど道を同じくしてくれるつぐみや悠人、北川や梨花ちゃんがいる。 そして隣には蟹沢、お前がいる。だから俺は戦える。理想を理想で終わらせるつもりなんかねえ」 そしてきぬの頭に軽く手を乗せて…… 「だから……ありがとうな」 優しい口調で微笑みながらそう告げていた――が 「……くせえ、くせえんだよっ! なんだその歯が浮くような寒い台詞は!? やばい薬でもやってんじゃねーのか!?」 「な……俺はなんとなく元気がないように見えたから励まそうと――」 「あー、うるさいうるさい。聞こえない。ヘタレの声なんて何にも聞こえないもんねー。しっしっ、寄るなヘタレ菌がうつるわっ!」 と顔を真っ赤にしながら暴れていた。
◆ 「――あの様子だと敵ではないようね……そして死体が一つにこの場にいないつぐみで四つ……か」 純一ときぬの会話の一部始終を見ていた梨花は、レーダーを見ながら隠れるように状況を整理する。 勿論隠れているのにも正当な理由があった。 と言うより最初純一の姿を見かけた瞬間すぐ声をかけるつもりではあったのだ。 だがいざ声をかけようとした瞬間、なにやら二人の間に重い空気が漂い始めたのを感じつい出そびれてしまったのだ。 そして途中から出て行くことも叶わず覗きのような真似をしながら今に至る……と言うわけである。
208 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:34:47 ID:tR8wiaMM 「あの二人間違いなく状況わかってないわよね……はあ」 あたりを警戒する様子も無く、傍目からはただじゃれあってるようにしか見えないバカップル……。 本当に純一を信じて大丈夫なのかと疑ってしまいそうになりながら、梨花は愚痴をこぼしつつも二人へと声をかけるのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ 暗闇の中で我輩は考え続ける。 我輩を捕まえてこんなところに押し込んだ二人組はどうやら別行動を取ったらしい。 それを聞いた時は好機かとも思ったがなにやら十分で合流するとか言っておる。 一人になったとしてもたった十分しかない。 ならば無理をして今動いて怪しまれるよりまたしばらく機を伺うか。 そう考えた直後だ。 なにやら外から重苦しい音が聞こえてくる。 グガー……と耳に届くそれは教室でよく聞いたあれと同じだ。 そう、我輩の予想が正しければ外にいる人間は豪快にいびきまで掻いて眠っておる。 何が十分たったら後を追う――か。 まあよほど疲れていたのであろう。それについては是非を問うまい。 それよりもこれは間違いなく千載一遇の好機である。 外には一人、しかも快適に眠っておると見て間違いない。 我輩を邪魔するものは今はいないということだ。 だがあと十分で先程別れた者が帰ってくるであろう、いやホテルが安全だとすぐにわかればそれより早いやもしれん。 なればこそいち早くの行動を。 そうだ、支給品リストを奪いこの場から去るのだ。 そう思った我輩は逸る気持ちを抑えながらバックの入り口と思わしき部分に嘴を寄せる。 待っていてくれ祈よ。 今こそ我輩はこの島から飛び立てる望みを得ることが出来たのだ―― 「む?」
209 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:35:30 ID:tR8wiaMM ここではないのか。それでは―― 「……ちょっと待つのだ」 考えたくは無い現実から目を逸らそうと我輩は嘴で内側から突きまくった。 「………………」 数十回それを繰り返し、我輩の中で結論が出た。 認めたくはない。 だがこれが現実なのだから敢えて受け入れよう。 「中からは開かんのか……」 ・ ・ ・ ・ ・ 「梨花ちゃん……無事で良かった」 「純一、あなたもね……でも、つぐみは?」 「ああ、つぐみは今もう一人増えた仲間と別行動を取ってるけどあいつも無事だ」 「そう、本当に良かったわ」 他にも仲間が増えた。 これで五つの光点の正体がはっきりとわかり、梨花はようやく緊張を解く。 「それより――」 そこで梨花が一人でいるという事実に純一は焦りの表情を浮かべながら尋ねる。 「まさか、風子だけじゃなく北川もなのか?」 「潤は大丈夫、無茶しすぎだったからすぐそこで無理やり休ませて私がホテルの様子を見に来たの。でも風子は……」 「……い」 「ああ、放送は聞いた。一体あれから何があった?」 よく見れば別れるまで綺麗だった梨花の服は真っ赤な血で染まっている。 「それは……」 「……おーい」 本人にそのつもりは毛頭無いのだろうが、言いづらそうに口ごもる梨花を助けるようにきぬが不機嫌そうな顔で声を上げていた。 「シカトすんなよなー、純一」
210 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:36:05 ID:tR8wiaMM 「ん、ああ、なんだよ」 「これが前話してた古手梨花か?」 そう尋ねるきぬの言葉に、梨花も思わず尋ね返す。 「そう言えば……彼女は?」 「ああこいつは蟹沢きぬ。梨花ちゃん達と別れてすぐ出会ったんだ。色々合って一緒に行動してる」 「そう。本当に信じても大丈夫? ってあの様子じゃ大丈夫そうだけどね」 「ああ、俺が保障する」 「…ら」 「……こっちも色々合ったわ。この場で一言じゃ語れないことが……」 「……話すのが辛いのはわかってる。でも俺達はお互いに話さなきゃいけないんだ。前に進むために」 「勿論、話さないつもりは無いわ。とりあえずここが安全なら潤を連れて来たいんだけど大丈夫かしら?」 「ああ、と言うか俺も一緒に行くよ。ことり御免、ちょっとだけ待っててくれ」 と、純一が横たわることりに顔を向けた瞬間臀部に衝撃が走る。 「……だーかーらー、ボクをシカトするなってーの!!」 痛みに腰が砕けそうになりながら視線を戻すと、きぬが片足を上げながら憤慨していた。 ◆ 「ボク知らなかったねー。純一が真性のロリコンだったなんてさー」 「だからちげーって」 「ボクの相手するより梨花ちゃんみたいな幼女相手してるほうが楽しいんだろー。もう隠さなくてもいいんじゃね? だいじょぶ、ボクそう言うの偏見無いからさ。あ、でも半径三メートル以内には近づくなよ?」 「蟹沢っ!」 「おーこわっ、梨花ちゃーん。純一が怖いんだよ。なんとか言ってやってくれよ」 「純一。ボクにもちょっと近づかれると困るのですよ。にぱー☆」 「梨花ちゃんまで……」 彼らの能天気さは一体どこから来るのか。 梨花は頭を抱えたくなるのを必死に抑えながら二人を北川の場所へと案内していた。 思わず現実逃避に『古手梨花』を使ってしまうぐらいに。
211 : ◆sXlrbA8FIo:2007/10/16(火) 20:36:37 ID:tR8wiaMM (でも百貨店での私達もこんな感じだったけどね……) 風子の事が思い出される。 あの頃は本当に平和だった、楽しかった。 殺し合いなんか偽りだと感じるほどのように。 ならばこれはこれでいいのかもしれない。 また何かしらの要因ですぐにでも壊れてしまう儚いものだけど。 それを今度こそ壊さないように皆で守っていこう。 梨花はそう心に誓う。 「――なのに」 目の前の光景にたった今立てた誓いがガラガラと崩されていきそうになる。 「なにが十分で絶対後を追う、よ!!!」 いびきまで掻きながら気持ちよさそうに眠り続ける北川の姿を見て、梨花はその場にへたり込むしか出来なかった……。 ◆ 一向はホテルに戻り、梨花は今まで自分たちの身に起こったことを全て話した。 純一ときぬは聞きながら、やるせない感情に襲われる。 「もう彼にはあの事で立ち止まって欲しくないから。 潤自身の口から話す事で再び後悔の念に駆られる姿なんて見たくなかったから。 お願い二人とも……潤を責めないで欲しいの」 風子の遺体はもうここにはない。 北川に黙って埋めることに抵抗も覚えたが、いつまた危険になるともわからない事を考え ことりの遺体と一緒に純一たちが掘った穴へと埋めてきたのだった。 三人の傍らで未だ夢の世界に旅立っている北川を梨花は悲しげに見つめながら言った。 「責めれねえよ……くそっ!」 夢で見た少女の姿。 少し幼い印象を受けたが梨花の話と照らし合わせると確かにあれは風子に思える。 そして風子の独白と確かに一致していた――だから純一はそれを信じられる。 それはすなわち鷹野の卑劣さへと繋がるのだ。
志村ー、感想スレ感想スレ! まだ修正待ちの状態だと思う
スマン。自粛する
風子は確かに優勝していた。 仲間が一人、また一人と自分の為に死んでいく望まぬ結果。 あの絶望の絶叫を忘れることなんか出来やしない。 純一の心に沸くのは鷹野に対する激しい憎悪。 (この会話もどうせ聞いてるんだろう、鷹野?) 山頂での件といい、どこまで自分達を弄べば気が済むのか。 思わず後ろにあった壁を殴りつけていた。 「――――なんだ!?」 その音に驚きの声を上げながら北川がようやく永い眠りから目を覚ましていた。 ◆ ((塔?)) (ああ) 北川も交え純一達の行動を聞く中、出てきたキーワードに北川と梨花の顔がクエスチョンマークに変わる。 (それを見つけた瞬間俺の首輪が点滅を始めた。正直もうダメだとは思ったよ) 鉛筆を走らせる純一の姿を続けて目で追う。 あの山頂での警告を真に取るのであれば口頭で説明していることがバレれば今度こそ爆破されるだろう。 四人は他愛の無い雑談をしてる振りを装いながら現状整理の筆談を進めていた。 (俺らが来るときはそんなもの無かったぞ) (ああ、仕組みはわからないが"見えない"ようになっているらしい。俺らが見つけれたのも鷹野にしてみれば想定外だったんだろうな) (怪しいな……) (ええ警告だったにしろ、それだけで首輪を爆発させようとするなんて何かあるわね、やっぱり) 地図に表示されてない何か、それがやはり存在することが純一たちの話ではっきりとした。 となれば廃坑の入り口もどこかに隠されているのは最早間違いないだろう。 机に広げられている純一の地図をそっと指差し、なぞりながら梨花は言っていた。 「首輪で思い出したけど……風子の死体を埋めたんなら首輪を調べるのはどうするつもりだ?」 唐突に北川が梨花へと尋ねる。
「ああ、あれね……嘘よ。」 「う、うそぉ?」 「潤の覚悟を知りたかっただけ、だってほら首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが」 いきなりすっとんきょうな声を上げる北川に驚きながら二人に耳を向け、 「鳥!?」 その後に出てきた単語にきぬは驚きを隠せず叫んだ。 「鳥ってまさか……」 同じように純一もその単語へと反応を示している。 「ちょ、ちょっとそれ見せてくれ。ボクの知り合いかもしんねー。」 「知り合いって……鳥が?」 「あー、うん、鳥なんだけど。なんちゅーか、ある意味人間に近いって言うか。 まあ見りゃわかるって!」 「いや見ても鳥だったんだけど……」 意味も良くわからずながらも梨花は自身のバックをきぬへと渡す。 きぬはそのバックを勢いよく開け放ち中へ手を伸ばした―― ◆ 我輩は焦っていた。 蟹沢がいるのは非常に拙い。 自分が無害な畜生であると装う事が、我輩に取っての最大の"あどばんてーじ"である事なのに。 これではばれてしまうではないか。 この状況で引っ張り出されたらもはや喋れると言う事を隠し通すのも不可能であろう。 どうすれば良いのだ、祈よ。 動けない状況では流れに身を任せるしかない。 土永さんはただ不安に怯えながら外の会話を聞き漏らさぬように意識を集中させていた。 だが、聞こえてきた恐るべき発言に土永さんの身は凍りついてしまう。 『――首輪ならあるじゃない。鳥の首についてたのが』
我輩の首輪を取るだと……? それだけはだめだ、なんとか逃げなければ。 でもどうやって。 鞄が開かれた瞬間に飛び立てば……この痛む翼で飛べるのであろうか? 否、無理でも羽ばたかせなければいけない。 外では何かが騒がしいが最早それを聞いていられるほどの余裕は我輩には無かった。 そうしているうちに目の前に眩しい光が押し寄せる。 鞄が開いた――とそう認識したと同時に何者かの手が我輩の身体をがっしりと掴んでしまっている。 そして我輩は間髪いれずにバックの中へと引きずり出されてしまっていた。 急激な光に目の前が真っ白になり、前が良く見えない。 「やっぱり土永さんかよ」 かろうじて耳に届いた蟹沢の声。 つまりこれは蟹沢の手と言うことか……。 我輩は前が見えないのも構わず嘴を勢いよく振り落とした。 「――いてっ!」 我輩の嘴は上手く蟹沢の手に刺さったようだ。 我輩を掴む手から力が抜けたのを確認すると身体を暴れさせ、その手から脱出しようと試みる。 「いてーじゃねーか、なにすんだよっ!」 ボンッと頭を軽い強い衝撃を襲う。 まったく……この娘は加減と言うものを知らんのか。 思わずもう一撃お見舞いしてやろうと嘴を振り上げようとしたところで、我輩の頭に冷たいものが落ちるのを覚えた。 毛並みをたどって嘴まで零れ落ちてきた液体――涙? 曇る視界の中おぼろげに見えた蟹沢の顔からは涙の線が一滴たれ流れていた。 傍らにいるほかの三名は何がなんだかとわからないような表情でそれを眺めていた。 「なんでかなー。わかんないけど涙が出てくんだよね。 鳥相手になにボクってばこんなに喜んじゃってんだろうね、あはは」 「蟹沢……」 もう蟹沢の仲間であったものが佐藤良美を除いて全員死んでいることは知っていた。
しかしまさかそんな事を言われるとは思っても見なかった。 感涙までもされるとも思っていなかった。 土永さんは呆然と目の前の旧友(?)の顔を見つめながら呟いていた。 ◆ 「喋れる鳥とはなあ……わかっちゃいたけどますます俺らの世界とは違うってのが実感できるぜ」 北川が土永さんをまじまじと眺めながら口火を切る。 「ボクたちのとこだって喋れるのなんか土永さんぐらいのもんだよ」 「鳥鳥と、お前ら我輩を馬鹿にしすぎではないのか?」 怒りを示すようにばたつかせる羽根には、北川達が百貨店から持ち出したハンカチが巻かれている。 目の前の鳥が人間の言葉を理解し、話せると言うこと。 そしてきぬとは旧知の仲であると言う事を聞かされた北川と梨花は 撃ってしまったこと、そして首輪を外そうと画策していた事に関して謝罪を入れる。 尤も、鳥相手と言うこともあって訝しげな表情を浮かべたままではあったのだが……。 今までどうしていたと言うきぬの質問に対して土永さんは「どうして良いかわからずただ飛び回って逃げていた」とだけ嘘をついた。 その発言を「まあ鳥だからしょうがないよな」とあっさりと信じられた時は納得がいかない憤りを感じたが (ちと不安ではあるがしばしの盾兼目晦ましな存在にはなってくれるであろう) 無害を装えるのであればそれでいい、と土永さんはそこは触れずに流すことにした。 (話はそれたけど……) と純一が再び鉛筆を握り紙を手に取る。 (ともあれこれからどうするか……だ) (まずパソコンで探したい人物の場所が検索出来るのは大きい。 仲間を集めるのに大いに有利だ。だったらまだ見つかってない知り合いを探すのに良いんじゃないかと思う) (確かに俺も梨花ちゃんも探したい知り合いはいるさ。 でもこれをこんな所で使ってしまっていいのかって疑問が出た。 見つけたいのは山々だ。今この瞬間にも危険な目にあっているかもしれないんだからな。 それでも長い目で見たらまずお前らと合流してから、と言う結論に達した)
(……俺も蟹沢も探したい知り合いはすでにこの世にはいない。 こんな辛い思いを経験したから言えるのかもしれないが、使える物は先に使っておくべきだと考えるぜ。 後悔はしてからじゃ遅いんだからな……) (だな、それに俺の方は別に後で構わない) (グダグダ言ってねーでその前原圭一ってのを探しちゃっていいんじゃねーの?) (でもつぐみさんは? 彼女だって武さんを探し出したいはずじゃ――) 「――大事な話の中申し訳ないのだが……我輩とても暇なのである」 土永さんのその発言で四人は思わず目を丸くした。 筆談に集中するあまりカモフラージュの雑談すらするのを忘れていたからだ。 これでは無言の中で土永さんの台詞が不自然に鷹野に聞こえた可能性もある。 「あーあー、そうだな、よしボクとなんかダベってようぜ」 「いや、蟹沢はみなと……」 その先を喋れぬようにきぬは土永さんの口を押さえ込むと乱雑に鉛筆を走らせる。 (だから盗聴されてんだってば! ばれるようなこと言うなっての!) きぬの剣幕に慌てて首を縦に振ると、ようやく手がそこで離された。 「ダベると言っても何を話すと言うのだ?」 「んなことなんでもいいぜ。ってかいつも五月蝿いぐらい喋り捲ってるのに今日の土永さんおとなしすぎるんじゃね?」 「五月蝿いとは失礼な。我輩はお前らの小さな脳みそでも理解できるように、ありがたい説法を聞かせてやっているだけだと言うのに」 「なんだとー!」 「――そんなに怒んなよ、カニ」 「がー、レオの声でそんなこと言うんじゃねえ! ぶち殺すぞこの鳥公!」 人間と鳥の漫才。 呆れた表情を浮かべながら三人はその様子を見つめていたが (あっちは蟹沢に任せてよう。いいカモフラージュだ。俺らも適当に相槌を打っておけばいいさ) 北川の言葉に頷きながら純一も続ける。 (それよりも前原圭一の場所を確認だ。つぐみだってそこまで目くじら立てて怒ることはしないさ) (そうかしら……せめて戻ってからでも……) 悩む梨花の背を押すように北川がパソコンを立ち上げ『現在地検索機能』を起動する。 羅列された名前の一覧の中にあった前原圭一の文字。 それを一回クリックするとカタカタとパソコンが稼動音を上げ、画面には検索中の文字が表示された。
中央のバーが五%、十%と進行情報を示してくれている。 これが百になれば圭一の場所が表示されるんだと直感した梨花の顔に僅かな笑みが浮かんでいた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「人の声――!」 智代は唐突に目を覚ました。 どれくらい眠っていたのかはわからないが、疲れはあまり抜けている様子は無い。 さもすればほんの僅かな時間だったのだろうと考える。 本調子とは到底言えないが、燻る意識の中で自分自身に活を入れながら立ち上がる。 「何者であろうと……この場に居合わせたからには殺す!」 耳障りな笑い声が智代の耳に響く。 何を話しているか内容まではさっぱりわからなかったがその楽しそうな声に苛立ちは隠すことも出来なかった。 誰が何人いるかもわからない状況の中、声のする方角へと慎重に歩を進める。 薄暗いロビーの中、一つの扉の隙間から光が漏れているのがわかった。 そろりと扉に近づくと中の様子を探ろうと耳を当てる。 何人かの声がする。 内容を聞き取ろうと耳に意識を集中させた直後、智代の脳に届いた言葉に持っていた銃を取り落としそうになっていた。 『レオの声でそんなこと言うんじゃねえ』 (今なんと言った? レオ? いや対馬レオはもう死んでいるはずだ。 そうじゃない、その先を思い出せ。中の人間はレオの声だと言った。 土永と呼ばれたと人間がレオの声を使ったと。どう言うことだ? そうだ、それは――) 喜びに身が打ち震え、笑い声が漏れそうになるのを智代は必死に抑える。 自分をこのように変えてしまった原因の一端を担ったもの。
口真似を操る殺人者。 中の会話が本当ならそれが土永と言う者でほぼ間違いは無いだろう。 だが智代にはその名前には聞き覚えがあった。 そう、それはまだ自分がここに来た当初の話。 同じ志を持った一人の少女から知り合いの者の名前を聞いた――その中にいたはずだ。 (それでは何か? 彼女は自身の知る者によってその命を散らされたということなのか?) ――憎い。 (土永ぁぁぁぁぁぁぁっ!) ――憎い憎い憎い。 間髪いれずに湧き上がる不の感情。 ハクオロと比でるほども出来ないほどの憎しみ。 (ただ殺しはしない、今まで生きていたことを後悔するように苦しめてから殺してやる!) その感情に流されるように智代は扉を蹴りつけ、轟音とともに扉が開けはなれた。 ◆ 「土永はどいつだ!」 けたたましい音とともに開かれた扉と、そしてそこには銃を携える少女の姿。 襲撃されたと理解したものの体勢を構えるまもなく目の前の少女は叫んでいた。 「なんだお前――」 俺の言葉が一発の銃声によってかき消される。 それは俺の頬をかすめ壁へと突き刺さっていた。 「ぐ……」 「質問しているのは私だ、勘違いするな。それともお前が土永か?」 くそっ、完全に油断していた。 不穏な動きはこの女は見逃さないだろう。 動かそうとする心を簡単にへし折ろれるだけの殺気がひしひしと伝わってくる。 銃を抜くチャンスを伺ってはいるがそんな隙をまったく見せようとしない。 純一も同じようで机の上に置かれた釘撃ち機を恨めしそうに見ていた。
って言うかなんでだ、レーダーに変わったところなんてないのに。 しかも今度は人間で目の前にいる上、目の前のレーダーの数は変わっていなかった。 「なんでだ。数が合わねえじゃねえかよ」 「純一……つぐみともう一人の人はどこ? まさか別行動ってホテルの中にいるんじゃなくて……」 「……二人はここにはいない。病院に向かったんだ……ごめん」 再びの銃声――それは今度は外れる事無く北川の左腕を貫通し初弾と同じように壁に突き刺さっていた。 「ぐあああっ!」 「潤っ!」 「無駄話をしろといった覚えはない。さあ、土永はどいつだ。正直に答えないと命に関わるぞ」 北川に駆け寄ろうとする梨花の身体を智代が制していた。 悠長などせずこの場にいる全員を殺してしまえば確かに土永は殺せる。 だが土永が誰かもわからず殺してしまっては自分の憎しみはけして消えない。 まずは土永が誰かをはっきりさせる。 そうしたらそれ以外の三人は殺し、最後に絶望と苦痛の中で土永を殺す。 だからまだ誰も殺せない。それでも不穏な動きは何一つ許さない。 智代は四人を睨み回しながら銃口を一人一人へと向ける。 「お前ら……土永をかばって喋らないようだが、仲間意識もほどほどにしたほうがいいぞ。 知っているか? この島には残忍な嘘で他人をかどわかす殺人鬼が何人もいる。 ハクオロと言う男然り、そしてお前らが庇っている土永も然りだ!」 「……はぁ?」 きぬが信じられないと言った間の抜けた声を上げていた。 「おい、蟹沢っ」 「いやだってこいつ何言ってんだって思わね?」 「蟹沢だと?」 またもや出て来た聞き覚えのある名前に智代は驚きを隠せない。 「お前が蟹沢きぬ、か?」 「そうだけど?」 「これはどんな偶然か――土永の罠にはまったものがこの場に居合わせるとはな」 「だからなんだよ、それ!」
「信じないというならそれでもいい好きにしろ。だが事実エリカはその為に殺されてしまった」 「んなっ、エリカ!?」 「それに蟹沢、お前も土永の嘘によって殺人者の烙印を押されようとしていた事を知ってもまだ土永を庇えるのか?」 唐突な宣告に思わず土永さんへと振り返ると、視線から逃げるように目を逸らしていた。 「おい、本当なのかよ。土永さん!?」 「誰に向かって喋っているんだ?」 (まあこいつが蟹沢と言うならばもう用はない……) 言いながら智代は銃口をきぬへと向けその引き金を絞ろうと指に力を込めようと―― 「なあ、あんた。もう止めようぜ。なんでこんな馬鹿な真似をする」 「莫迦――だと?」 「ああそうだ、俺達が争ったって鷹野が喜ぶだけなんだぜ? なんであんな奴の思い通りになろうとする。力を合わせて手を取りあえばいいじゃねえか。なんでそれに気付けないんだ」 「……懐かしいな」 「何がだ?」 「エリカとまったく同じ事を言っているよ、お前は。 だがそんな彼女は殺された。何故かわかるか? 土永によって彼女が殺人者と勘違いさせられた少年がいた。 彼は私を助けようとしたのだろう。エリカを……殺した。 だが私はそんな事は知らない。目の前に現れたのがただの殺人者と勘違いをしてその少年を……殺してしまった」 向けられた純一への銃口。 「再び問う。土永は誰だ? もっともらしい理屈を並べ語り続ける貴様か?」 話したくてもとてもそんな状況ではない。せめて一瞬でも隙を作れれば―― 純一がそう考えた瞬間、室内にピーと電子音が鳴り響きパソコンの画面に『検索終了』の文字が示しだされた。 「なんだっ!?」 瞬間銃口がパソコンへと向けられる。 「いまだっ!」
その機を北川も純一もそして梨花も見逃さず、示し合わせていたかのように三人はそれぞれの行動へと移っていた。 北川が腰から抜いたコルトパイソンを間髪いれずに智代へと向け、そして引き金を引いていた。 それは智代に当たりこそしなかったが身を怯ませるのには効果的であった。 同時に純一は床を飛びはね釘撃ち機を手に構え、きぬと土永さんの身体を庇うように立つ。 そして梨花は指にはめたヒムカミの指輪に念を入れ……智代の頭上へと向かって炎の渦が巻き起こる。 「んなっ!」 怯む智代の隙を付き、四人は智代の横をすり抜けるように部屋を飛び出した。 だが智代もそれを黙って許しはしない。 突如現れた炎の渦から逃げるように智代は後退しながら銃弾を一発二発と放ち続ける。 だが服に飛び火した熱が焦りを誘い、狙いも定まらず明後日の方向へと飛んでいくばかり。 走りながら純一は北川に小さく耳打ちをする。 「んなっ!?」 「頼む北川、お前ならわかるだろう? いや、お前だからこそだ」 北川が訝しげな表情を浮かべながらもしぶしぶと言った表情でで頷くのを確認すると一人進路を変え、二階への階段を上り始めた。 そして―― 「土永は俺だよっ!」 遅れ部屋から飛び出した智代に向かって駆け出しながら叫びつけた。 ◆ 智代の眼に映るのは純一の姿のみ。 他の三人はどこへ行ったのか。 いや、今は他の三人のことなどどうでも良い。 自らを土永を名乗った純一を追い、智代は走る。 照準を合わせ銃弾を放つたびに純一の身体は廊下の角へと消え、二度、三度とそれが続くたびに苛立ちが募っていく。
智代は純一の身体に真っ直ぐ銃口を向けると引き金を引いたところで――カチリと弾切れの音を感じた。 「くっ――逃げるな土永!」 そう叫び、再び廊下の角を曲がる。 ……そこに純一は立っていた。 「――良い度胸だ。それともさすがに観念したか?」 弾切れの銃を鞄に仕舞いこむと、代わりにその手には永遠神剣第七位『存在』が握り締められる。 「いや? 俺はあんたと二人っきりで話がしたかっただけだ。他のみんなを危険な目に合わせたくは無いからな」 「何を話すと言う? 命乞いでもするのか? そんな事をしたところで許すつもりは毛頭ないが……なっ!」 振り下ろされる刃をすんでの所で交わし 「やめろ! 俺はあんたと仲間になりたいだけだ」 そう叫びながら釘を弾き出す。 威嚇とは言え、そうとは知らない智代は間合いを計るように純一と距離を取る。 「下らん! 誰が貴様などと!」 そして上段に振り構えたかと思うと再び一線に振り下ろす。 虚空を裂きながらも、それは壁に小さな傷跡を残していた。 逃げ回る純一をギロリと睨みつける――その瞳はまともに合わせるだけでも背筋が凍るほど冷たく光っていた。 にも関わらず、そんな事はお構い無しと言わんばかりに純一は笑いながら言った。 「悪いな、俺は土永さんじゃ無いんだ。騙して悪かった」 「今更――そんな事をっ!」 「良いから聞けよっ!」 地を蹴ろうとした智代の足を、今までに無いほどの剣幕で純一は心の底から叫んでいた。 その勢いに意識もしてはいなかったが智代の身体は静止していた。 「土永さんがなにをやったかはわかったよ。……でもよ、もうこんなの終わりにしようぜ」 「何故……奴をそこまで庇う! 奴に何を言われた? 何を吹き込まれたっ!?」
「んー……庇ってるわけじゃないさ。実際出会って三十分も立ってないしな」 「ならばなおの事だ!」 「わかんねーか!? 殺されたから殺して、殺したから殺されて。それで一体何になるって言うんだ! 許せとは言わねえ、憎んでたって良い! でもよ、俺達が倒さなきゃいけないのは鷹野達なんだ! そうしないとあんたみたいな思いをする奴がまた出てくる! それでもいいのかよ! 俺達が争ってるのは間違いなんだっ!」 「――お前とエリカは、出会えていれば良い友になれたのかもしれないな……。 共に鷹野達に立ち向かい、きっとこの島から脱出するという夢をかなえてくれていたのかもしれん」 純一の言葉を聞いた智代の表情が、初めて見る優しい笑顔へと変わっていた。 懐かしむような、そんな印象を受ける。 「まだ間に合うさ、みんなで力を合わせれば――」 その表情に純一は温かいものを感じた。 彼女は根っからの殺人者ではない。 きっと戻ってこれる、戻すことが出来る。 そう考えながらゆっくりと手を伸ばし――場の空気が冷たく変わるのを感じた。 直感で伸ばした手を引いた瞬間、『存在』の刃が薙いでいた。 もしも手が伸ばしきられていたらなら間違いなく純一の手は今頃落ちていたであろう。 智代は顔を下に向け、長い髪がその顔を隠しているためその表情を伺い見ることは出来なかった。 隙間から僅かに見える悲しみとも恨みとも取れる瞳が純一を睨みつけ、顔も上げる事無く智代は叫んだ。 「だがな、もう現に彼女はいないのだ。愚劣な者達のせいで! 他人を騙し、傀儡とし、そして甘い汁をすすろうとする奴らの為に! 許せるか!? 信じられるか!? 私は鷹野以上にそいつらが憎い! だから私は自分自身を捨てた。打倒主催を誓い立ち上がった坂上智代と言う存在はもういない。 彼女の無念を晴らすために私はそいつらを何があろうと殺す! それに懐柔された者たちも同じだ!」 止めたいと願う純一の心も、怒りに支配された智代の心には届かない。 智代はそれ以上言葉を聞く事を拒否するように全力で駆け出し、怒りのままに『存在』を振り上げ――
「私はもう誰の言葉も信じない!」 奥底から搾り出された叫びと共に、力のままに振り下ろされた『存在』。 「信ずるのは自分で決めた行動理念だけだ!」 紙一重でそれを交わす純一を追いかけるように下から斜めへと跳ね上げる。 「それが悪鬼と呼ばれようとも二度と揺るぎない信念だ!」 純一の胸の皮を服ごと薄く切り裂き、その痛みに純一が尻餅をつく。 『存在』はなおも止まらない。 体勢を崩した純一に向けて柄を握りなおし小さく息をつくと、そのまま重力のままに全身に体重をかけ踏み込み―― そのまま僅かな呻き声を上げ地面へと崩れ落ちていった。 ◆ 「――もう良いよな、朝倉」 静かな呟きと共に北川が廊下の角から姿を現した。 手にしたパソコンの画面には微粒電磁波の操作画面が表示されている。 「いや、まだだ、まだ俺は――」 先程純一が北川に耳打ちしたのはこうだ。 なんとか彼女を説得したいからみんなを安全なところに連れて行って欲しい。 何があっても手出しはしないでくれ――と。 「お前の気持ちはわかる。でも今は一旦引こう。梨花ちゃんや蟹沢が心配だ」 「北川……」 純一は物憂げな表情を浮かべながら
「――俺は諦めない、諦めないからな!」 はっきりとそう告げると北川と共にその場から駆け出していった。 身体が痙攣し、思い通りに動かすことも出来ずに、智代はただ背中を口惜しそうに睨み続けるしか出来なかった。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「わりい、待たせた」 ホテルの裏口より少し離れた位置――そこに身を潜めていたきぬと梨花と土永さんの前に、全身汗だくになりながら純一と北川は唐突に姿を現した。 「心配したわよ、もう……」 いきなり叫んで消えた純一と、彼女達をここに促し消えた北川。 純一が囮になったのはすぐにわかったし、北川が援護に向かったのもすぐにわかった。 梨花も後を追いたい衝動に駆られたが、隣で土永さんを問い詰めているきぬをなだめるのに必死であった。 その剣幕と言えば恐らくほおって置けば間違いなく焼き鳥にでもされてしまいそうなほどに。 そして土永さんはと言えば、きぬの執拗な折檻で頭にこぶを何個も作りながら目を回している。 北川がレーダーを覗き込み、智代の様子を探る。 効果時間である三分は経過したが少なくともこっちへ追って来る反応はない。 ようやくほっと一息着いた所で、純一は土永さんの顔を覗きこみながら真剣な眼差しを見せ声をかけていた。 「土永さん、一つ聞かせてくれ」 「あ、あのような事。う、嘘に決まっておる。紳士で通ってる我輩がそんな卑劣な真似を――」 そう言いながらも土永さんは智代に言われたときにピンと来ていた。 ボイスレコーダーに仕掛けた罠に上手く嵌ってくれたのだと。 だがそれを知るのがまさかこんな最悪な形であるとは思いもよらなかった。 これでこのチームに溶け込むことすら不可能だろう。 せめてきぬに問質された時に凛とした姿勢を見せていれば少しは状況は違ったのだろうがそんな事を言ってももう後の祭り。 きぬの態度が土永さんへの疑心を如実に表していた。 「我輩は祈の元へただ帰りたい……ただそれだけであった」
全てを諦めたように土永さんは饒舌に語りだした。 「……だが現実とはなんとも非常なことか。 我が身の事を愚弄したくも無いが所詮は鳥の身。 我輩には人間と真っ向から戦う力などありはしないのだ。 あっという間に食料にされるのが正しい現実と言うものだ。 力を持たぬならこの頭脳で勝負するしかないではないか。 ああそうだ、我輩は何人もの人間を唆し扇動した。 あの者も我輩のかけた罠にはまったのであろう。 だが我輩の所業もこうしてばれ、傷つき、そして捕まってしまった。 もう本当にどうすることも出来ん」 その瞳は諦めの色で染まっている。 だが純一はそんな告白を気にもしないとばかりに言い放った。 「あんたが今まで何をして来たかなんて今は関係ねえ! 大事なのは土永さんがこれからどうしたいかだ。 俺達は生きてこの島から脱出するために今こうやって戦っている。 土永さんはどうだ? 優勝したいのか? それとも脱出したいのか?」 「我輩にとってはどちらも大差は無い。祈の元へ帰ることが至上目的なのだ」 「優勝したって帰れる保障はねえぜ」 「なに?」 「俺が殺しちまった仲間――同じような殺し合いに前回も参加させられてたんだよ。 優勝者だ……でもまた参加させられている。この意味がわかるか?」 「……なんと」 「北川の言うとおりだ。俺の見た夢、風子の言葉、この殺し合いが今回が初めてじゃないのは間違いない。 でもこんなことをしようなんて考えるやつが何人も何人もいるはずがねえ。 だから俺達はそいつらを何とかして脱出しなければいけないんだ。 何度でも言うぜ、敵はこの島にいる参加者じゃない。鷹野達なんだよ! 俺達が争っていても何も変えられないんだよ!」 「しかし……我輩は……もう……」 口ごもる土永さんに純一はゆっくりと自身の手を伸ばし、 「帰ろうぜ、一緒に、自分達の住む世界へ――」 伸ばされた手に戸惑いながらきぬの、北川の、梨花の顔をまじまじと見つめた。
「土永さんのしたことは許せねーけどよ……純一が良いって言うんならしょうがねーよな。 ボクはこいつの理想についていくって決めたんだしよ」 「俺は純一と同意見だな。過ぎた過去を悔いたってどうにもなりゃしないんだ」 「潤と同じね。重要なのはこれからどうするか、どうしたいのか……それだけよ」 「みんなの意見は一緒だ。さあ、どうする? どうしたい?」 「我輩は……」 優勝しても帰ることが出来ない可能性のほうが高い。 そんな事を言われては今更同じやり方を貫き通すなどと言う考えは我輩の脳には浮かばなかった。 だが脱出など出来るのか? 非力な我輩が主催者達を倒すことなど出来るのか? 目を逸らすな、前を見るのだ。 我輩の望む未来へと一番近い道筋へと目の前の彼らは手を差し伸べてくれている。 拒む理由などあるものか。 我輩は肯定の意味を込めて無言のまま純一の手のひらへと飛び乗った。 彼らに賭けてみよう。 この傷ついた翼でも彼らのためなら力の限り飛んでみせる。 もう我輩に出来るのはそれしかないのだから。 この島に不幸をまき続けた凶鳥がようやく翼を休めた。 代わりに彼は希望を運ぶ為に動き始める。 新しい宿り木と共に。 ・ ・ ・ ・ ・ ・
純一達が飛び出した三分後――身体の痺れからようやく開放された智代は、気だるさに襲われながら息を荒げていた。 (蟹沢、朝倉、北川。 彼らはそう呼ばれていた。 だとすれば残りは一人――あの一番幼く見えた少女か。 まったくやってくれる……あんな子供にしてやられていたとはな。 情けなくてもう笑うしかないではないか。 だがもう良い、これで土永が誰なのかもはっきりとした。 次会った時は二度と間違うまい……) そう考えながら手元のデイバックを開く。 それは純一達がいた部屋に忘れられていた梨花のものだった。 中を開ける……残念ながら武器になりそうなものはない。 だが明らかに異質なものが智代の前に姿を現す。 桃色の大きな熊のぬいぐるみのような物体。 同時に零れ落ちた説明書を取り読み、智代は思案に刈られる。 (外道と同じ手を使おうとする私も最早外道か……いや、それでも構うものか。 自分達たちの取った行動が以下に醜悪か、因果応報と言うものを思い知らせてやる) そして一分後、坂上智代であった少女はまったくの別人へと姿を変えていた。 古手梨花へと支給されていたイメージコンバータ付きの着ぐるみ型宇宙服はこの島で最も渡ってはまずい存在――殺人者へと渡ってしまったのだ。 土永を追うか―― 予定通り病院を目指すか―― どこへ逃げたかもわからない土永を探し追うよりは当初の予定通り病院を目指したほうが良いとは思う。 だが土永達にまた会えると言う保障も無い。 他の誰にも殺されて欲しくは無い、止めを指すのは自分なのだから。 そしてそれはハクオロに関しても全く同じ事が言えた。 (私に会うまで二人とも殺されるなよ――!)
支援
【D-5 ホテル/二日目 早朝】 【坂上智代@CLANNAD】 【装備:永遠神剣第七位"献身" IMI デザートイーグル 10/10+1、紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.】 【所持品:支給品一式×3、 IMI デザートイーグル の予備マガジン9 サバイバルナイフ、トランシーバー×2、多機能ボイス レコーダー(ラジオ付き)、十徳工具@うたわれるもの、スタンガン、 ホログラムペンダント@Ever17 -the out of infinity-、九十七式自動砲 弾数6/7】 【状態:疲労大、血塗れ、左胸に軽度の打撲、右肩刺し傷(動かすと激しく痛む・応急処置済み)、 左耳朶損失、全ての参加者に対する強い殺意、右肩に酷い銃創】 【思考・行動】 基本方針:全ての参加者を殺害する。 1:何としてでもハクオロと土永さんを生き地獄を味合わせた上で殺害する。 2:ハクオロに組し得る者、即ち全ての参加者を殺害する。 3:土永さんを探しに向かったか、ハクオロを求め病院へ南下したかは後続へお任せします 【備考】 ※『声真似』の技能を使えるのが土永さんと断定しました。 ※純一の説得に心は微塵も傾いていません。 ※土永さん=古手梨花と勘違いをしています。 ※トウカからトゥスクルとハクオロの人となりについてを聞いています。 ※紫和泉子の宇宙服のを着用、イメージコンバータ機能をONにしています。
※紫和泉子の宇宙服 紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。 ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。 水に濡れると故障する危険性が高いです。 イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。 (この際D.C.キャラのうち音夢と杉並は、偽装体をクラスメイトの紫和泉子と認識すると思われます) 純一とさくらにはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。 またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。 (うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします) 宇宙服データ 身長:170cm 体重:不明 3サイズ:110/92/123 偽装体データ スレンダーで黒髪が美しく長い美人 身長:158cm 体重:不明 3サイズ:79/54/80
。
※永遠神剣第七位“献身”は制限を受けて、以下のような性能となっています。 永遠神剣の自我は消し去られている。 魔力を送れば送る程、所有者の身体能力を強化する(但し、原作程圧倒的な強化はほぼ不可能)。 魔力持ちの敵に突き刺せば、ある程度魔力を奪い取れる。 以下の魔法が使えます。 尚、使える、といってもウインドウィスパー以外は、実際に使った訳では無いので、どの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。 アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。 ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、僅かな間だけ防御力を高める。 強度は使用者の魔力に依存。 ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。 ソニックストライク 音速を突破する速度で繰り出される槍技。但し余程強大な魔力が無ければ、使用不可能。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「圭一の反応は病院ね」 表示された画面には、検索から少し時間がたってしまったものの圭一の現在地が未だに指し示されていた。 奇しくもそれはつぐみと悠人が向かった病院。 その奇妙な偶然に皆の顔に笑みがほころぶ。 まるで自分達に向かい風が吹いているかのように感じられた。 「あっ!」 「どうした梨花ちゃん?」 「慌てて逃げたから自分の分のバック置いてきちゃったみたい……」 手元にあるのは元風子に支給されたバックのみ。 「まあ今戻るのは危険だし、とりあえずは一個あれば困ることは無いんじゃないか」 「それもそうね」 「それじゃ俺達も病院へ行くとするか」 純一の言葉にきぬと梨花、土永さんが頷く。 が、北川のみが真剣な眼差しで純一の顔を見つめていた。 「――悪いけど俺はまた別行動を取る」 その言葉に一番驚きを隠せなかったのは梨花だった。 「……何を言っているの?」
。
。
「梨花ちゃんは純一達と一緒に病院へ行ってくれ。圭一がいるんだ、会えるんだよ」 「だったらあなたも一緒に!」 「俺は廃坑を探してみる。確かに別れるリスクは高いけれど一緒に行動するリスクだって高いんだ。 禁止エリア次第では移動すら困難になる可能性がある。 風子の時のがそうだったろ? だから動けるときに動いておく必要があるんだ。 合流しようと思えばパソコンもある。だから――」 北川の言葉に純一は黙って頷き、 「わかった……梨花ちゃんは任せろ」 「純一まで!」 それだけを聞くと北川は満足そうに背を向けゆっくりと歩き出した。 「潤、待ってよ潤! 私納得したわけじゃない!」 梨花の呼び声に振り返ることも無く、大きく手を振ると北川の姿は森の中へと消えていった。 潤の背中を見つめながら私は呆然と立ち尽くしていた。 まただ、潤はまたそうやって私のことを第一に考えて動いた。 病院に行けば圭一に会えるから。 自分の進む道は危険だとわかっているから。 だから潤は私を置いていった。 仲間だから、守りたいから、一番安全な可能性を――。 (ふざけないでよっ!) あまりにも腹立たしくて思わず地団太を踏んでしまった。 潤の行動はここまで来ると天然なんだろう。 多分自分の行動で私がどう考えてるかなんて意識していない。 だったらもう良い、私も勝手にする。 仲間だと一人で思い込んでた私が莫迦みたい。 「行こう、梨花ちゃん」 純一たちはすでに身支度を整え終わっていた。
「――純一」 私は純一に向かって真っ直ぐその瞳を見据えると 「圭一の事よろしくお願いしますなのですよ。にぱー☆」 全力で笑って走り出した。 私を仲間だと言ったあの言葉を嘘になんかさせない。 だから私は潤と行く。 圭一の所へは純一が向かってくれるから。 生きて一緒にこの島を出るなら必ずまた会えるから。 私は潤が消えた方向へと一心不乱に走り続けた。 逃げれるわけなんて無い、ほら、もう反応が出た。 私は光点を目指しひた走る。 そして見えたのは潤のボサボサとした黄色い頭。 私はさらに走る速度を上げ――そこでようやく潤が気付いたのかこちらに振り返った。 「り。梨花ちゃん!」 ダメよ、何を言っても許さない。 これは私からのお仕置き。 十分に勢いをつけた加速状態のまま、私は潤の腰へと思いっきり跳び蹴りを放つ。 衝撃に潤の身体が倒れこむのを見てくすくすと笑い続けていた。
【D-5 ホテル/二日目 早朝】 【北花】 1:廃坑の隠し入り口の捜索 2:仲間を集めたい 【備考】 ※電線が張られていない事に気付きました。 ※『廃坑』にまだ入り口があるのではないかと考えています。 ※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。 ※盗聴されている事に気付きました ※雛見沢症候群、鷹野と東京についての知識を得ました。 ※鷹野を操る黒幕がいると推測しています ※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました ※塔の存在を知りました 【北川潤@Kanon】 【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー、車の鍵 【所持品】:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本) ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、 草刈り鎌、食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの 【状態:健康 疲労、腰が痛い、左腕に銃創(動かすと激痛)】 【思考・行動】 基本:殺し合いには乗らず、脱出に向けての方法を模索 0:腰が……腰が…… 1:梨花を守りながら信用できる仲間を集めこの島を脱出する 2:時間は有効に使いたい 【備考】 ※チンゲラーメンを1個消費しました。
※梨花、純一、つぐみ、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです ※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。 ※首輪探知レーダーが首輪を探知する。と言う事実には気付いておらず、未だ人間なのか首輪なのかで悩んでいます。 ※「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。 また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。 ※支給品リストは支給品の名前と組み合わせが記されています。 ※留守番メッセージを聞く事ができます。 たまに鷹野のメッセージが増える事もあります。 風子に関しての情報はどこまで本当かは次の書き手様しだいです。 ※「現在地検索機能」は検索した時点での対象の現在地が交点で表示されます。 放送ごとに参加者と支給品を一度ずつ検索出来ます。 次の放送まで参加者の検索は不可になりました。 なお、参加者の検索は首輪を対象にするため、音夢は検索不可、エスペリアと貴子は持ち主が表示されます。 【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】 【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭 暗号文が書いてあるメモの写し ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】 【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】 【状態:頭にこぶ二つ 軽い疲労】 【思考・行動】 基本:潤を守る。そのために出来る事をする。 1:潤と肩を並べたい 2:他の参加者から首輪を手に入れる、どうしても不可能な場合は風子の首輪を取る 3:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を探す)
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2
>>609 参照)
※探したい人間は圭一です。
※梨花、純一、つぐみ、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです
※ヒムカミの指輪について
ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※梨花の服は風子の血で染まっています
【補足】
※北川たちの通ったルートでは通行が困難だったため、車はB−5の真ん中のあたりに放置しています。
戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついており、
さらに林間の無茶な運転で一見動くようには見えませんが、走行には影響ありません。
ガソリンは残り半分ほどで、車の鍵は北川が所持したままです。
※空は月を覆うように雲が覆いはじめました。
雨に変わるのか、晴れるのかは後続の方にお任せします。
◆
【カニと暫定ヘタレと非常食】 1:病院に向かいつぐみ・悠人と合流 2:病院に反応があった圭一を探す 3:脱出のための手段を模索し、仲間を増やす 【D-5 ホテル/2日目 早朝】 【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:左翼には銃創、頭には多数のたんこぶ】 【思考・行動】 基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る 0:純一の為に自分に出来ることを考える 1:純一達と協力してこの島から脱出したい
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】 【装備:拡声器】 【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス 支給品一式x3、投げナイフ一本、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、 麻酔薬入り注射器×2 H173入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】 【状態:強い決意、両肘と両膝に擦り傷、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、首に麻酔の跡】 【思考・行動】 基本:ゲームに乗らない人間を助ける。ただし乗っている相手はぶっ潰す。 1:純一についていく 2:圭一、武を探す 3:ゲームをぶっ潰す。 4:よっぴーへの怒り 5:純一への不思議な感情 【備考】 ※仲間の死を乗り越えました ※アセリアに対する警戒は小さくなっています ※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。 ※つぐみを完全に信用しました。つぐみを椰子(ロワ不参加)に似てると思ってます。 ※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。 ※純一と絆が深まりました。純一への不思議な感情を持ち始めました。 ※悠人と情報交換を行いました 【朝倉純一@D.C.P.S.】 【装備:釘撃ち機(10/20)】 【所持品:支給品一式x4 大型レンチ エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残26/30) ヘルメット、ツルハシ、果物ナイフ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄 虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】 【状態:若干の精神疲労・強い決意・血が服についている、顔がボコボコ、口の中から出血、頬に青痣、左腕と右足太ももに銃創(治療済み)、横なぎに服が切られてますが胸からの出血は止まっています】
【思考・行動】 基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出 1:つぐみ、悠人との合流 2:つぐみと蟹沢を守り通す 3:圭一、武の捜索 4:智代を説得したい 5:さくらをちゃんと埋葬したい 6:理想を貫き通す 【備考】 ※純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。 ※つぐみとは音夢の死を通じて絆が深まりました。 ※北川、梨花、風子をかなり信用しました。 悠人もそれなりに。 ※蟹沢と絆が深まりました。 ※自分自身をヘタレかと疑ってます。 ※佐藤良美をマーダーとして警戒しています。 ※盗聴されている事に気付きました ※雛見沢症候群、鷹野と東京についての話を、梨花から聞きました。 ※鷹野を操る黒幕がいると推測しています ※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました ※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。 ※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。 ※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。 ※悠人と情報交換を行いました
「でもなあ……やっぱ簡単に割り切られるもんじゃねえよなあ……」 朝倉達と別れ、俺は一人森の中を歩いていた。 理由は廃坑の隠し入り口を見つけるため、それは偽りの無い事実。 だが俺にはもう一つ理由があった。 朝倉のことだ。 アイツはひたすら仲間を信じて、仲間を集めてこの島から脱出しようと考えている。 ついさっきまで殺し合いを行っていた連中さえも。 復讐のため殺し合いの中へ身を投じた坂上智代。 自らが生き残るため数々の人間を煽動し、坂上智代がああなる原因を作った土永。 朝倉はそんな連中さえも赦し、その手を差し伸べていた。 「あいつ……俺と風子の事も知ってるんだよな……きっと」 放送で風子が死んでいることはすでに知っているはず。 普通ならその時、何があったのかを聞くはず。 なのに朝倉は何も聞こうとはしなかった。 おそらくオレが眠っている間に梨花ちゃんが話していたのだろう。 鷹野の言葉に惑わされ疑心暗鬼の末、風子を殺してしまったことを―― 無論、それはいずれ打ち明けなければならないことで、 梨花ちゃんが俺を気遣って代わりに打ち明けてくれたのだろう。 そして朝倉のことだ、それで俺を責めることなんて絶対にしないだろう。あいつはそういう奴だからな。 だから重たい。 むしろ口汚く罵ってくれたほうがいくぶん楽だろうか。 「殺されたから殺して、殺したから殺されて。それで一体何になる、か……あいつらしいよな」 朝倉の言うことは正しいよ、そう正しすぎる。 だけどオレはあいつみたいに割り切って考えられない。 坂上や土永に何の憎しみを抱くことなく手を差し伸べることはできそうに無い。 そして朝倉と一緒にいると、自分の犯した罪を丸裸にされて槍を突き刺されるように思えてくる。 でも、この痛みに耐えなきゃならないのはわかってる。 頭じゃあわかっていても俺の心はその痛みに耐えられるほど強くないんだ。
だから半分逃げるように俺はここにいた。 たったったったった 「ん?」 足音がした。 それも誰かが走ってくる音が背後から。 俺は振り返る。 「り。梨花ちゃん!」 振り返った目に映った光景は純一達と一緒にいるはずの梨花ちゃんが、 俺に目掛けて跳び蹴りを放つ瞬間だった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「うおぁぇぁ……こっ腰がぁぁ……」 腰を押さえ悶絶する俺を尻目に梨花ちゃんは『してやったり』の表情でくすくすと笑う。 「私を置いていった罰よ、潤」 「なんで……朝倉と行かなかったんだ。ようやく圭一と会えるんだろ?」 「生きてさえいればまた会えるわ、それより潤を一人で行かすことのほうがよっぽど危険ね。それに――」 梨花ちゃんは蹲る俺を真っ直ぐと見つめ言った。 「潤が無茶しないか心配だもの。おおかた風子のことで純一に負い目を持って居づらかったのでしょ」 「うぐ……」 見事に俺の心中を言い当てられてたじろぐ俺。 「ほら図星。そんな人間をほっとけるわけないじゃない。私達、『仲間』でしょ」 クールな梨花ちゃんの瞳に宿る優しさの感情。 そうだ、俺は一人じゃない。 こうして信頼できる仲間がいるんだ。
「ほら立ちなさい、廃坑の隠し入り口を探すんでしょう? 私も手伝うわよ。嫌だと言ってもついて行くから」 「ちぇ……わかったよ」 俺に向かって手を差し伸べる梨花ちゃん。 俺はその手を掴み、立ち上がろうとした。 「へっ――?」 その瞬間梨花ちゃんの身体が浮いた。 それもそのはず俺は高校生で梨花ちゃんは小学生。その体重差は歴然。 俺は無意識に梨花ちゃんの手に全体重をかけて立とうとしてしまったのだ。 当然梨花ちゃんは踏ん張れるわけもなく前につんのめり。 俺はその反動で仰向けに転んでしまい―― ぼふっ 俺と梨花ちゃんは折り重なるように地面に転んでしまったのである。 「ご、ごめん梨花ちゃん……」 俺は梨花ちゃんの様子を見る。 梨花ちゃんは俺の胸に顔を埋めるように倒れていた。 そして梨花ちゃんの長い髪の毛が俺の顔にふわりと…… どきっ ちょっ、ちょっと待て俺! 今の『どきっ』て何なんだよッ! わかってるのか北川潤、いくらクールで大人びた口調とはいえ小学生だぞ小学生! いわゆるょぅι゛ょだぞ! お互いの同意があっても犯罪行為で逮捕されるんだぞ! つか俺は何を言ってるんだ。クールだクールになれ北川潤! こういう時は――
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、 われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による―― そう憲法前文を暗唱するんだ! 「ちょっと潤……気をつけなさいよ……」 混乱する俺を気にも止めず立ち上がり服に付いた埃を払う梨花ちゃん。 (日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの――) よし、俺も落ち着きを取り戻してきたぞ! さすが憲法前文! 俺も立ち上がり服の汚れを軽く払う。 「どうしたの潤……顔が赤いわよ?」 「あ、いや、何でも、何でもねえぜ。あはははは」 「?」 不思議そうに首を傾げる梨花ちゃんを見て俺は胸を撫で下ろすのだった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ちょっと染みるけど我慢して」 梨花ちゃんは俺の腕の傷に水をかけて傷の汚れを落としていた。 水が傷口にかかる度に刺すような激痛が走る。 「ぐぅ……」 俺は思わず声を漏らす。 「弾は抜けているようだから大丈夫よ。包帯の代わりはこのハチマキするわ」 「まあハチマキでも贅沢言えねえわな。止血と消毒が出来れば十分だぜ」 野外での怪我でもっとも気をつけることは破傷風対策だ。 戦場では戦死した人間よりも、負傷した人間が破傷風に感染して死亡する数のほうが多いと聞いたことがある。 常に傷口を清潔に保つことが重要なのだ。 「潤……」 「どうした梨花ちゃん?」 「無理はしないで。それだけがお願い」 「ああ……わかってる」 「風子のことで負い目を持ってるのはわかるわ、でも私達は仲間よ。一人で抱え込まないで」 「なあ梨花ちゃん……朝倉に話したか? 風子のこと……俺が風子を殺したこと……」 「………………」 梨花ちゃんは答えない、沈黙が場を支配する。 ややあって、梨花ちゃんは口を開いた。 「ごめんなさい……潤が眠ってる間に話したわ」 「そうか……気にするな梨花ちゃん、いずれ話さないといけないことだ。朝倉と再会したときに俺の口からもう一度伝えるよ」 「そう……」 「朝倉は何て言ってた? まああいつのことだからな……俺を責めることなんて無いんだろ?」 「ええ……」 「だよな〜あいつ、ホントいい奴だぜ、ほんと……」 俺はやや自嘲めいた口調で語る。
「だから――苦しいんだ」 「潤……」 「むしろ口汚く罵声を浴びせてくれたほうが気が楽なんだよ。でも朝倉は俺を責めず、俺の罪を受け入れてくれた。 友達が殺されているのに、泣き言一つ言わなかった。自分を殺そうとする人間にもその手を差し伸べた。 悲しみも怒りも憎しみもあいつはその器に取り込んで、まっすぐに前を向いている。 俺はそこまで強くねえ……あそこまで覚悟決められねえんだ」 「そうね……私も純一のように強い人間じゃない。だからこそ私は純一の強さが心配なの」 「え……」 「純一はその愚直なまでの正義感で自己を維持している。 仲間を信じ、仲間を集めてこの島から脱出しようとする強い志。悲しみや怒りや憎しみから潰れてしまわないよう心を支える一本の柱。 しかしそれは、しっかりとした土台の上に立てられたものでは無いあやふやな物。 だからそれがちょっとした弾みで折れて、倒れてしまわないか……それがすごく怖い」 俺は思う。 もし俺のようにその手を汚してしまった時、朝倉はどうなってしまうのか。 それでも―― 「そんな時のために俺達がいるんだろ?」 「潤……」 「俺達は一人じゃないんだ。折れそうになったら補強すればいい、倒れてしまったらまた立て直せばいい。 支える柱は一本だけじゃない、何本も立てて支えようぜ。俺達はそのための『仲間』だろ」 「ふふふ……そうね、潤の言うとおりだわ」 俺は空を見上げる。すでに夜は明けていた。 この島で見る二回目の朝日。 そう、明けない夜なんてないんだ。 俺には俺の、朝倉には朝倉の役目がある。 生きてさえいれば必ず会える。 「行こうぜ、梨花ちゃん!」 「ええ!」
風子の死を乗り越えるにはまだ時間がかかりそうだけど、 それでも俺達は希望へ向かって歩き出す。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ かくして少年は己の罪と向き合うための旅路へと出る。 だが少年はまだ知らない、友を――相沢祐一を殺害したのが坂上智代であり、その契機となったのが土永さんによることを。 その事実を知ってしまった時、彼はどうなってしまうのだろうか。 北川潤と朝倉純一。 罪と迷いに戸惑いながらも己の正義と信念を模索する少年と、 悲しみも憎しみも全て己の正義と信念の糧とする少年。 二人の少年はこの過酷な現実でどのように立ち振る舞っていくのだろうか。
【D-5 森/二日目 早朝】 【北花】 1:廃坑の隠し入り口の捜索 2:仲間を集めたい 【備考】 ※電線が張られていない事に気付きました。 ※『廃坑』にまだ入り口があるのではないかと考えています。 ※禁止エリアは、何かをカモフラージュする為と考えています。 ※盗聴されている事に気付きました ※雛見沢症候群、鷹野と東京についての知識を得ました。 ※鷹野を操る黒幕がいると推測しています ※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました ※塔の存在を知りました 【北川潤@Kanon】 【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾2/6)、首輪探知レーダー、車の鍵 【所持品】:支給品一式×2(地図は風子のバックの中)、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本) ノートパソコン、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7、出刃包丁、 草刈り鎌、食料品、ドライバーやペンチなどの工具、他百貨店で見つけたもの 【状態:健康 疲労、左腕に銃創(応急処置済み、梨花の赤いハチマキを包帯代わりにしています)】 【思考・行動】 基本:殺し合いには乗らず、脱出に向けての方法を模索 1:梨花を守りながら信用できる仲間を集めこの島を脱出する 2:時間は有効に使いたい
【備考】 ※チンゲラーメンを1個消費しました。 ※梨花、純一、つぐみ、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです ※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。 ※首輪探知レーダーが首輪を探知する。と言う事実には気付いておらず、未だ人間なのか首輪なのかで悩んでいます。 ※「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。 また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。 ※支給品リストは支給品の名前と組み合わせが記されています。 ※留守番メッセージを聞く事ができます。 たまに鷹野のメッセージが増える事もあります。 風子に関しての情報はどこまで本当かは次の書き手様しだいです。 ※「現在地検索機能」は検索した時点での対象の現在地が交点で表示されます。 放送ごとに参加者と支給品を一度ずつ検索出来ます。 次の放送まで参加者の検索は不可になりました。 なお、参加者の検索は首輪を対象にするため、音夢は検索不可、エスペリアと貴子は持ち主が表示されます。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭 暗号文が書いてあるメモの写し
ヒムカミの指輪(残り1回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄 】
【所持品:風子の支給品一式(大きいヒトデの人形 猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、風子特製人生ゲーム(元北川の地図) 百貨店で見つけたもの)】
【状態:頭にこぶ二つ 軽い疲労】
【思考・行動】
基本:潤を守る。そのために出来る事をする。
1:潤と肩を並べたい
2:他の参加者から首輪を手に入れる、どうしても不可能な場合は風子の首輪を取る
3:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を探す)
【備考】
※皆殺し編終了直後の転生。鷹野に殺されたという記憶はありません。(詳細はギャルゲ・ロワイアル感想雑談スレ2
>>609 参照)
※探したい人間は圭一です。
※梨花、純一、つぐみ、きぬをかなり信用しています。土永さんに関しては信用と言うより純一と一緒ならほっといても大丈夫だろうという感情のほうが大きいです
※ヒムカミの指輪について
ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
※梨花の服は風子の血で染まっています
【補足】
※北川たちの通ったルートでは通行が困難だったため、車はB−5の真ん中のあたりに放置しています。
戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついており、
さらに林間の無茶な運転で一見動くようには見えませんが、走行には影響ありません。
ガソリンは残り半分ほどで、車の鍵は北川が所持したままです。
「……ミズホ、大丈夫?」 「平気です、アセリアさん。それよりも――」 「……ああ。先回りしてケイイチの手助けをする。それが……一番」 ミズホは小さく一度、こくりと頷いた。 彼女、ミズホは……凄いと思う。 相当スピードを出しているにも関わらず、しっかりと私に付いて来るし疲れた表情もまるで見せない。 同じ女、しかも彼女はスピリットでもない筈なのに一体どうしてなのだろう。 私は不思議だった。 「ここが……病院?」 「そのようですね、建物自体は二つあるようですけど……」 私達はそんな事を話しながら、周囲に気を配った。 タケシは確実に私達より早くこの病院という建物にやって来ているはず。 二人が初めて会った場所――その表現では厳密な位置は断定出来ない。 病院の屋上かもしれないし、そこの広場かもしれない。具体的にタケシが何処にいるかは分からないのだ。 「とりあえず、院内……と考えるのが妥当でしょうか――あれ?」 「ミズホ、どうした……? む」 傍目から見てもグチャグチャになっている病院、とりあえず私達は大きい方の建物に入ってる見る事にした。 だが、先を歩くミズホの足が止まった。 横顔を一瞥すると、その視線は入り口の辺り、丁度水平方向に注がれている。 「『隣の研究棟まで来て下さい。話があります。 一ノ瀬ことみ』? 一ノ瀬ことみ……」
大きなガラスの扉に貼られた張り紙を読み上げるミズホ。 その後ドアを開けようと入り口に近付くも、どうやら鍵が掛かっているらしかった。 イチノセ……コトミ? …………とりあえず聞き覚えは無い。 おそらく出会っていない参加者のうちの一人。名前を聞いた時に湧き出る感想はプラスもマイナスも全くなしのゼロ。 それは多分、ミズホも同じなのだろう。考え込むような表情がその事実を証明している。 ――迷っている。 それに関して言葉を交わした訳ではないけれど、見るだけで分かる。どこか、そういう雰囲気だ。 研究棟に向かう事、タケシやケイイチを探す事。二つに一つ。 「……行こう」 「アセリア、さん?」 「ミズホも……知らない名前。……なら、会って見ないと……分からない。それに……ここは、危険」 多分、私が何も言わなくてもミズホは同じ結論を出したと思う。 だけど自分の名前と居場所を晒して、何か話したいと言う人間を放っておく事なんて出来ない。 このメッセージが誰に当てたものなのかは分からない。 ただ研究棟に人が、しかも戦いに乗っていない人間がいるのならば会わない訳には行かない。 これからこの病院では二つの力がぶつかり合う。 最悪、この文章を見たクラナリタケシが彼女を殺しに向かっている可能性もある。 「――そうですね、行きましょう。アセリアさん」 「……ん。行こう」 ■
「誰も……いない?」 「……ミズホ、気をつけて」 足を踏み入れた研究棟は嘘のようにひっそりとした空気を放っていた。 ヒンヤリとした独特の雰囲気、微かに鼻腔を刺激する薬の匂い。 無音だ。全く人の気配は――いや一つだけ、何か動く物体の存在を感じる。 ケイイチから預かったバットを持った私が先、そのすぐ後ろに銃を持ったミズホ。 私達は周囲に気を張り巡らせながら、前進する。 おそらくイチノセコトミがいると思われるのは……一階のあの部屋だ。 「アセリアさん」 それは多分、「私が先に」という意味を込めた言葉だと思う。 ミズホが寄せた視線はそう言っているように感じた。私も小さく頷く。 コン、コン。 思った通り、ミズホは私の一歩前に出ると問題の部屋の扉を軽くノックした。 中から感じる、人間の動く気配が大きくなる。 私は突然の奇襲に備え武器を構えた。背筋に緊張が走る。 「はい。待ってたの、ハク――……ッ!?」 「一ノ瀬……ことみさん、ですか?」 部屋の中から小さな人影が顔を出す。 現れた人間を確認した瞬間、私の中を張り巡っていた緊張の糸が解けた。 出て来たのは名前で判断した通り、女だった。 薄黄色の制服を赤い血液で染め、若干青みの掛かった髪を頭部で二つに纏めた少女。
「あなた……達は?」 彼女、イチノセコトミは気弱そうな眼をした仔犬のような佇まいを浮かべる。 "仔犬"なんて言い得て妙だと、我ながら思った。 不安と疑惑に濡れた眼。あらゆる人間から疑われ、何もかもを失い、雨に打たれて震える捨て犬。 そんなイメージと彼女は見事なまでにリンクして見えた。 こういう時、どんな風に声を掛ければいいんだろう。私には分からなかった。 彼女は酷く脅えていた。全く予想外の人間が現れて戸惑っている。 いますぐ逃げ出してしまいたい、そんな表情をしている。 その時、ミズホがもう一歩、前へ出た。その距離は一メートルにも満たない。 コトミはビクっと肩を震わせる。形容し難い感情をその顔面に刻む。足はガクガクと震え始める。 ミズホは更に距離を詰め、そして―― 「え……」 「心配しなくても大丈夫です。私達はことみさんを――襲ったりしませんから」 コトミを優しく、そして強く抱き締めた。 やっぱり、ミズホは凄い。私は改めて思った。 周りの世界から脅え、全てを疑い、心に大きな傷を負った少女。 同じ事をミズホも彼女から感じ取っていたのだろう。 でも信号をキャッチして、それからが大事だ。何もしないで見ているのは誰にだって出来る。 だけど、そこから本当に相手の事を考えて行動出来る人間なんてほとんど存在しないと思う。だってそれは凄く勇気が要る事だから。
でも、息をするみたいに自然とミズホはコトミを抱き締めた。 コトミも最初何か妙な事に気付き、驚いたような表情を浮かべたがすぐにミズホの胸に顔を埋めた。 言葉じゃなくて、態度で示した。こればかりは思っていも中々出来る行動じゃない。 「あ、あ、あ、あ……」 ミズホは無言のまま、更にギュッとコトミを抱き締める力を強める。 コトミの口から漏れるのは意味を成さない母音の集合体。 だけど震える喉が紡ぎ出すその叫びは小さくて、弱々しくて、でも――打ち震えんばかりの悦びに満ちていた。 「ああああああああああああっ!!」 コトミの瞳から涙がぽろぽろと零れた。声は更に大きくなり、小さな喘ぎは泣き声に変わる。 コトミもミズホの胸に強く顔を押し付ける。 チカゲから貰った胸部に大きなリボンの付いたミズホの制服が涙と鼻水と涎でグチャグチャになった。 それでもミズホは柔らかな顔付きのまま、目の前で泣きじゃくる少女の頭をぽんぽんと軽く叩く。 その光景は子供をあやす母親が行う仕草に似ていた。 時はコマ送りになり、流れ去る時間は矢のように世界を横切る。 超一流の画家であれば、この一コマを見るやいなや、すぐさま絵筆を取るだろう事を確信出来る。 そんな、光景だった。 そんな、幸せな光景だった。 ■
,
「これは……!!」 「瑞穂さん!!【ここから先は筆談でお願いするの】」 「あ、ご、ごめんなさい、大きな声を出してしまって。【分かりました】」 泣き止んだコトミに室内へ通された際、その中は物凄いことになっていた。 窓は完全に締め切られ、黒いカーテンが降ろされている。そして室内の机や本棚と言った備品は片付けられ、それらにもシーツが被されていたのだ。 そして最も私達を驚かせたのは――部屋の中央の机に置かれたバラバラになった首輪の存在だった。 【ことみさん、これって……】 【順を追って説明するの。その、信じてもらえないかもしれないけど、だけど信じて欲しいの】 【……はい】 瑞穂が頷く。私は半ば確信していた。 おそらくその話の中に何一つ、嘘偽りが無いだろうという事を。 そもそも首輪を分析するだけの能力を有し、その結果を惜しげもなく私達に開示している時点で彼女が怪しい人物であるという疑惑は吹き飛んでしまった訳だが。 それから先、コトミが始めたのはとても悲惨な話だった。 親しくなった人間はほとんど死んでしまった。 よく分からない誤解で他の参加者に命を狙われ、ボロボロになりながらここまで逃げて来たらしい。 自嘲気味に自らを"疫病神"と呼んだ時のコトミの表情はまるで何もかもに絶望した廃人のような印象さえ受けた。 会話の最後の辺りで"ハクオロ"と"マモル"の名前が出た。 そして――コトミが分解した首輪の持ち主がマモルであるという事実も一緒に伝えられた。 下手人は青い髪と制服の女。多分それは水瀬名雪、という人物だ。確かケイイチ達がその名前を出していた気がする。 サトウヨシミ、サクヤなどと言った人間と戦った際に、敵側に回った人間。だけど明確に戦いに乗っているとは断定出来ないグレーな人物。
,
【でもことみさん……首輪を分解なんかして、その大丈夫なんですか?】 【それは多分、大丈夫なの。盗聴はもちろん外部からの盗撮も警戒して、室内には準備を整えたの。 首輪の反応が消えている事もここのレントゲン装置でしっかりと調べたの】 【それじゃあ私達の首輪も……?】 コトミはミズホのその文字を見た後、悲しそうに左右に首を小さく振った。 それは否定。ミズホも「そうですか」と残念そうに呟く。 首輪、か。この銀色の輪っかは一体どういう構造になっているのだろう。 微妙に力が抑えられている感じがするのも、コレの力なのだろうか。 【対策無しじゃ生きている人間の首輪を外すのは流石に無理。作業もし難いし、確実に察知されるの】 【なるほど……】 ちなみにコトミと筆談をしているのはミズホ一人。私は隣で見ているだけ。 私が何もしなくてもおそらく、ミズホが意見は代弁してくれる筈。 それに加わっても話の腰を折るだけの気がする。 ああ、あのボタンを押して遊んでいるというのは――いや、ダメだ。そんな事をしていてはミズホに怒られてしまう。 【でもいくつか分かった事があるの。例えば首輪の構造】 コトミはバラバラになった首輪をこちらに見せながら、その中身を詳しく解説する。 数十分間、二人の会話が続いた。私は椅子に座り、足をブラブラさせながらぼんやりしていた。 いや、せざるを得なかった。 ……よく分からない。 目の前に紙には細かい文字で色々書かれている。
,
・首輪は主に六つのメインパーツ、【外殻】【生存確認装置】【盗聴器】【信管(爆弾部分)】【発信機】で構成される。 ・生存確認装置は熱、脈拍、その他各種人体信号を処理し、これによって正式な"死"を判断する。 ・外殻は一人で外す事はほぼ不可能だが、"何故か"溶接されていたりする訳ではなく、技術を持った者ならば首輪機能を維持したまま取り外しが可能。だが盗聴器の存在ゆえ、確実にバレて首輪を爆破されるだろう。 ……ふう。 他にも色々あるけど……頭が痛くなりそうだったので、私は考えるのをやめた。 うん、ミズホに任せよう。 【でも首輪を解体なんてして大丈夫だったんですか?】 【ううん、それがね……衛ちゃんの首輪は初めから壊れていたの】 【というと?】 ぼんやりと二人の筆談を眺める。 ミズホの字は凄く綺麗だ。カチカチッと整っているというよりも、どことなく女性的な丸みを帯びた文字。 だけどその傾向が極端な訳ではなく、絶妙なバランスが保たれている。 【水瀬名雪が執拗に衝撃を加えたせいか、ボロボロになっていたの。信管自体はほとんど無事だったけれど。 後から確認したんだけど、首輪に使われているのは衝撃式の爆弾じゃなくて、遠隔起爆専用の近接信管に似たものだと思うの。 これは乱暴に扱っても滅多な事では爆破しない優れもの。 多分鷹野の『衝撃を与えれば爆破する』という言葉も、あちらからの操作があっての話だと思う。 今回はゲームに乗っている彼女の奇行だけに多分、鷹野達も止める事が出来なかったような気がするの】 コトミの字は凄く小さい。それに何かナナメだ。 まるで何か立派な文章にサインする時の文字みたい。 そういう事をするのはもっと歳を取った男のイメージがあるのだけど。
【衛さんの首輪はどの程度無事だったんですか?】 【とりあえず発信機と盗聴器は完全に壊れてて……それに造りが荒いと言うか……。 ああ、そうだコレを見て欲しいの】 【首輪に……番号?】 コトミが差し出したマモルの首輪、丁度喉仏に当たる部分だろうか。 そこに金属の文字で消えないように"35"とナンバリングされていた。 【他の首輪も見てみないと分からないけど……この三十五番というのは名簿の順番と一致するの】 【あの支給された名簿ですね】 番号か。ん……番号。そういえば……どこかで……。 ……ああ。そうだ、あの時だ。 隣に座っているミズホの肩をトントンと叩く。そしてその指先に握られたペンを指差した。 ミズホは数秒の逡巡の後、口元に微笑を浮かべながらそれを私に手渡した。 私は少し緊張しながら紙に文字を書く。 【その、私は……"なんばーいれぶん"らしい】 【……どういう事なの?】 コトミが不思議そうな顔をしてコチラを眺める。ミズホもだ。 こう注目を浴びると若干照れてしまうが、仕方ない。 思い出した事について、二人にまだ話していない事があったのだ。 【海の家に……なんか変な人形がいた。そいつが私を"なんばーいれぶん"と呼んだんだ】 【アセリアさんは……確かに名簿では十一番目なの。 やっぱり私達の管理は名簿の順番どおりの番号で行われていると考えるのが妥当。でも……トロッコ?】 【海の家のトロッコ通路の事ですね】 【……詳しくお願いするの】
,
何処かから書くものを探して来たミズホがフォローしてくれる。 そして私の後を引き継いで海の家の通路について代わりに説明してくれた。 【それは……海の家の中に地下へと繋がる隠し通路があるって事?】 【多分、そうでしょう。管理しているロボットと言うのも気になりますが……】 【ん、違う】 二人が同時に「え?」という顔付きでこちらを見た。そう二人とも、ミズホも含めてだ。 言ってなかったっけ……。 ……えーと、あれ。もしかして……言い忘れてた? 私はポリポリと頬を掻いた。少しだけ冷や汗が額を伝う。 どうしよう……また、怒られるかもしれない。 でも黙っている訳にはいかない。とりあえず伝えておかなければ。 【その、強い者に会いたいと言ったら……目の前がピカッと光ってトロッコ道に飛ばされた】 【アセリアさん、あなた――】 【出る時も……地上に向かう道はいくつか枝分かれはしていたが、光が漏れていたのは私が飛ばされた道だけだった】 【つまり……ただのトロッコ通路ではないという事……?】 コトミが私の話を聞くや否や眉を顰めた。 ミズホは何か言いたい事がありそうな目でこちらを見ている。 状況が状況だけに声を出して怒れないのがもどかしい、という感じだろうか。 【そういえばことみさん、もう一つ分かった事と言うのは?】 【ああ、まずこのi-podを――】 そして――その瞬間だった。 隣の部屋から凄まじい轟音、つまりガラスの叩き割れる音が響いたのは。
,
■ 私はスッと立ち上がる。 近い。そしてガラリと変わった周囲の空気。つまりコレは―― 「ミズホ」 「……ええ。ことみさん、急いでここから離れる準備をして下さい」 「わ、分かったの」 コトミはその大きな瞳を更に丸くして驚愕の表情を浮かべた。 だがすぐに我に返ると、"ぱそこん"という機械の箱に繋いであった白い板のようなものを自分のデイパックにケーブルごと放り込む。 次に分解した首輪、机の上に置いてあったクマのぬいぐるみと次々道具を回収して行く。 私もケイイチのバッドを握り締め、力を込める。 隣の部屋から突然聞こえた音……どう考えても襲撃者と考えるのが妥当。 ここにはハクオロがやって来ると聞いていたが、それより先に襲撃者に居場所を嗅ぎ付けられてしまったらしい。 「ミズホ……私が敵を引き付ける。コトミを連れて逃げて」 「……一人で、大丈夫なんですか?」 「ん、平気。無理はしない」 私の言葉にミズホは数秒考えた後大きく一度、首を縦に振った。 そして「集合場所は海の家で」とコトミにも聞こえる声で口にする。 私達は頷いた。
,
役目は……切り込み隊長。ドアの前、バットを正眼に構え思索する。 誰よりも早く、そして確実に襲撃者を発見し二人が逃亡するための時間を稼ぐ。 窓が割れたという事は考えられる可能性は二つ。 つまり投擲か打撃。 何かを投げ込んでこちらをおびき出す、もしくは牽制するパターンとガラス窓を叩き割って直接乗り込んでくるかの二択だ。 だが、一番考えなければならないのは相手が"銃"を持っているか否か。この一点である。 あの武器は厄介だ。射線軸は直線で、変化は無い。発射時に凄まじい爆音を発する為、自らの居場所を特定される。 そんな弱点を容易く補うほどの破壊力と、そして使い手を選ばない、という利点を持つ。 何故敵の初撃が『明らかに外れた』のだろうか。それは敵は私達の居場所を確実に知っていた訳では無いという事。 そして―― 「ん……変な匂いがする」 「……もしかして毒ガス?」 「微量ながら眼に独特の刺激……? 塩化フェナシル……クロロベンジリデンマロノ……ッ!! ダメなの、眼を塞いで!!」 コトミの小さな叫び。 敵に位置を知らせないため、最小のボリュームでありながらそれは最大の勧告であった。 訳の分からないまま私とミズホは眼を瞑る。 一面の黒、コトミの言葉が聞こえる。 「多分、CNガス・CSガスに該当する催涙剤……だと思うの。 皮膚吸収に加え眼に入ったら最後、痛みで一時的に失明する可能性もあるの」 「それでは……」 「うん、ドアの先は多分ガスで溢れてるの。この部屋の中もすぐに……!! 出口が……」 「……いや、出口は他にもある」
,
確信めいた一言。発言者はもちろん、私。 コトミが何を言っているのかは分からないが、ドアの外に気持ち悪い空気が溢れているのは感じる。 とりあえず――相手が乗り込んで来る訳ではないのは分かった。 ならば……こちらから出向くまで。 「ミズホ、頼みがある」 □ 私、ハクオロが背後から凄まじい音、要するにガラスの割れる音を聞いたのは衛の死体を埋葬するために体の良い土を探している最中だった。 その方向は院内とは全くの逆――つまり研究棟の方向。 タイミングからして確実に奏者は大空寺あゆだろう。つまり彼女の"復讐"がついに始まったという事になる。 地面を撫でる手が止まる。そして思案。 このままで、いいのだろうか。 あゆが心に秘めた筆舌し難い憎悪、その感情の受け水となった少女、一ノ瀬ことみ。 本当に彼女が衛を殺したのか。 弱者の振りをして、多数の人間を殺し回っている。 彼女が涙を流し、震え、必死で言葉を紡ぎ出した仕草。それら何もかもが演技だというのだろうか。 ……分からない。 私達、そして仲間達がここ病院には多数やってくるであろう事は衛から聞いていたはずだ。 それなのに病院の中で衛を殺害し、死体を隠蔽もせず、なおかつ施設の中に留まるとは考え難い。 いや、そこまでしても我々を殺害出来ると言う自身の表れかもしれない。
,
駄目だ、一度じっくりと話し合って見た方がいい。 あゆとことみの言っている内容はまるで正反対。そしてどちらも嘘を付いているようには見えなかった。 一度二人を同じ席に、同じ話し合いの席に立たせなければ。 それが年長者としての務め、人の上に立つ人間が尽力しなければならない命題のように思えた。 ……衛、少しだけ待っていてくれ。 私は変わり果てた衛の死体を本棟の正面入り口近くの木陰に隠し、研究棟へと足を向けた。 ■ 噴水のある広場を抜け、少しだけ走ると背の低い、どちらかと言えば平べったい印象を受ける建物が見えてきた。 正面の入り口は閉まったまま、どこかから煙が出ているという雰囲気も無い。 何とか間に合ったのだろうか、私はどこか安堵の色を含む溜息を漏らした。 更に研究棟へと近付くと近くの茂みに体勢を低くした金色の影が見えた。 おそらくあゆだろう。良かった、まだ二人は接触していなかったのか。 「あゆ――」 「アセリアさん、行って!!」 私の声を遮るようにして、再度ガラスの割れる音、それに加えて強烈な銃撃音が木霊した。 同時に女の声が聞こえたような気もしたが、一体何を喋っていたのかは分からない。 だが唯一つ分かる事は…… 棟のガラスを室内から何者かが銃で撃ち抜き、そこから青色の影が飛び出して来た事だ。 青い影は天高く飛翔。高い、そして――非常識だ。 ただ上に飛び上がっただけではない。研究棟のコンクリートの壁をその影は"蹴って登っている"のだから。 一メートル、二メートル、三メートル、四メートル……そして到達した。
――辺り一面が空から見渡せる高度まで。 「ちッ!!」 そして室内からは周りの茂みに向けて、所構わず放たれる弾丸の雨。 縦と横、完全に息の合ったコンビネーションだ。 茂みの中のあゆも空を舞う物体に対して対空射撃を試みるが――影は手に持った銀色の獲物で、その銃撃を全て弾き返した。 だが問題はそんな事では無い。 掃射に耐え切れず、また空に向けて射撃を行った事であゆの居場所が空襲者に知られてしまった事―― 「づぅッ!!!」 そして影はあゆを一刀両断――では無い、どうも持っていた武器が鈍器だったらしい。 "必殺"の信念の元、真っ直ぐ振り下ろされたその打撃をあゆは左腕を犠牲にする事で何とか回避した。 だが全力で振り下ろした鈍器の破壊力は格別だ。 あゆは衝撃に耐え切れず、右手に持った銃を取り落とし、地面に膝を付く。 待て――影? そういえば私は少し前にも似たような経験をした覚えがある。 そうだ。数時間前、私は壁を蹴って非常識な攻撃を行う戦士に、"青い戦士"に出会っていたのではなかったか。 「アセリアッ!!!!」 「ん?」 私は大声で思いついた名前を叫んだ。 しかし、その瞬間"知り合い"を発見したのは私だけではなかった。 「ハクオロさん!?」
,
ガラスが全て撃ち抜かれた窓枠から地面へと降り立つ一人の女性。 アセリアと同時に行動していた宮小路瑞穂の姿がそこにはあった。 だが、その背後に隠れるように小さな少女が立っている事に"私達"は気付いた。 「やっと、やっと……会えた……」 三名の叫び声が空間に響き渡る。 そして一拍遅れて紡がれる脅えた、声。 宮小路瑞穂の背中から顔を出し、こちらを見る一人の少女。 「一ノ瀬ことみッ!!!!」 「大空寺……あゆ」 ■ 地面に膝を付き、ことみを睨み付けるあゆ。 その隣、あゆが不自然な行動を取ればいつでもその命を奪いに行ける位置にアセリア。 二人から若干南、離れた場所にことみの前に立つ宮小路瑞穂。その背後に一ノ瀬ことみ。 そして正反対の方向、アセリア達の北側に私、ハクオロ。 「くくく……あはははははっ!! またかい、一ノ瀬ことみ。また新しいお仲間を見つけたって訳。 このゴミ虫が……そうやって他人に寄生してさぞかし楽しいだろうねぇ?」 「あなたは……何を言っているの……。まるで……意味が分からないの」
,
あゆはケラケラと笑った。それはまるで金色の髪を振り翳す――鬼のようだった。 青眼を狂気で染め、ことみを睨み付けるあゆの姿は私を殺す事が出来なかった無力な女のそれでは無い。 これっぽちの迷いも存在しない純粋な殺意の塊。 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い、ただ徒然と重なる憎悪の連鎖。 「私にもあなたに聞きたいことがあるの!! 亜沙さんは……亜沙さんは一体……」 「――その口で時雨の名前を呼ぶな」 闇夜に瞬く猫の瞳、まるで獲物を狙う狩人のような眼光がことみを射抜いた。 その一言には一切の笑いや嘲りのニュアンスを含まない、清々しいまでに澄み切った怒りが込められていた。 敵意は刃となり、言葉を鼓膜を通過し脳を揺らす。 「時雨を殺した薄汚い売女が何を抜け抜けと……あの時佐藤じゃなくてアンタを先に狙っておくべきだったかぁ」 「ば、売女って……!!」 「ああ、売女じゃ上品過ぎたって事。罵られて濡れるタイプかい、アンタ?」 「あゆッ!!」 舌戦となると露骨なまであゆに軍配が上がる。 彼女の口が悪いのは理解していたが、私に対してはほとんど侮蔑の言葉を使いはしなかった。だがコレは……。 無害な人間、甘い人間、それが彼女の殺人のボーダーを決めるラインなのかもしれない。 あゆを見て私はそう感じていた。 彼女は積極的に殺し合いに乗るつもりは無いと言った。 そう"佐藤良美"と"一ノ瀬ことみ"を除いた人間に関しては。 本来のあゆは初対面の、そして無抵抗の私を殺すのさえ躊躇う――優しい人間なのだと思う。 そんな彼女にここまで血走った眼を、心の無い言葉を吐かせる一ノ瀬ことみ。 詳しい事情を聞いた訳では無いが、私の中ではやはりあゆの言葉が正しいのではないか、という思いが強くなって来ていた。
,
「……ミズホ」 「駄目です、アセリアさん……まだ」 アセリアが怒りに満ちた眼で瑞穂を一瞥するが、彼女は小さく首を振って否定する。 おそらく彼女の世界に『売女』のような、あゆが使った罵倒語は存在しないはず。 だがソレでも、彼女が使った言葉が醜悪な意味を持った単語であると理解しているように見える。 それは多分「あゆを攻撃して良いか?」という了解を得ようとしたのだと思う。 彼女は怒っていた。明らかに一ノ瀬ことみを侮辱された事によって、あゆに対して負の感情を抱いている。 瑞穂に関してもおそらく同じ。 両手を左右に広げ、ことみを庇うように立ちはだかる彼女の表情を見れば、アセリアと同等、いやそれ以上の憤りを感じている事は用意に推測出来た。 つまり――瑞穂とアセリアは一ノ瀬ことみを完全に信じているらしい、と分かる。 数時間前、一方的に怒鳴りつけられ喧嘩別れをした私達(主に悠人とアセリアが、ではあるが)だ。 二人がどういう経緯でここまでやって来たのかは分からないが、こちらに対しても良いイメージは持っていないだろう。 心拍のスピードが一段階ギアを上げたような気がした。状況は、芳しくない。 「ハクオロ」 「……何だ、アセリア」 「ダイクウジアユは……コトミに妙な疑いを掛けた相手だと聞いた」 私に向けられたアセリアの瞳は……疑惑で濡れていた。 そしてその台詞に反応し、あゆが不適な笑みを浮かべる。 「へぇ……やっぱりやる事はしっかりやってる訳か」 「違うッ!! 私はそんなつもりじゃ――」 「じゃあどういうつもりだったのさ、一ノ瀬ッ!!」
,
木々がざわめく。一ノ瀬ことみに向けられた腹から搾り出された全身全霊の叫び。 側に立つバットを構えたアセリアが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 地に膝を付く者と、大地に立つ者。両者の立場は明確だ。 どう考えてもあゆの状況は劣悪と言わざるを得ない。これだけ吼えれば――いつ殺されても可笑しくないのだから。 しかし、あゆの眼は死んではいなかった。爛々と燃える、黒い太陽のような歪な輝きを見せる。 「ハクオロさん、説明して下さい。あなたと……その、大空寺さんの関係を。このままじゃ……埒が明かないでしょう」 ここで瑞穂がこちらに向けて話を振って来た。 タイミングとしては最高だろう。 考えてみればそもそも私の目的はあゆとことみを同じ話し合いの席に付ける事だ。 そして困った事にあゆが殺され、私も攻撃の矛先を向けられるという破滅のシナリオに片足を突っ込んでいる状態だ。 怒りで頬を染めているものの、瑞穂は十分に話の通じる相手の筈。まだ、何とかなる。 「……ああ、そうだな。だが先に一つだけ聞かせてくれ。お前達は――」 気になる事がある。 それは最悪の可能性であり、最低の結末を招きかねない要素を多大に秘めている。 "一ノ瀬ことみではなく、大空寺あゆを信じる"のならば、この予想は多大な危険を私達にもたらす事になる。 そう、アセリアや瑞穂に対しても、だ。 故に私はこの台詞を言わずにはいられなかった。 結果として彼女達が怒りにその拳を振るわせる未来が訪れようと、二人の安全を望むのならば絶対に無視して通る事が出来ない問題がある。 頭から他人を信用してしまうのは危険、つまり―― 「一ノ瀬ことみを疑っていないのか?」
,
□ ハクオロさんの台詞は私の脳天を一直線に貫き、落雷となって脊髄へと到達した。 そして神経を伝い、筋肉に電気信号が流れる。 鳴動。紡ぎ出された筋運動は両手両足に不自然なまでの震えを引き起こした。 元々、私とアセリアさんの心の中に、ハクオロさんを疑う気持ちはほとんど無かったと言ってもいい。 国崎往人、二見瑛理子との出会い。 そして戦いの末に分かち合った心は決して偽りなどでは無かったと確信出来るから。 そんな二人が心から信頼する男、ハクオロ。 いかに外見が怪しいとはいえ、彼がゲームに乗った人間だとは思っていない。 だから目の前に彼が現れた時、最初はホッとしたのだ。 『ああ、きっとこれで上手くこの場が収まる筈』と。 だけど……違ったのはハクオロさんが"大空寺あゆ"と行動を共にしていた、という事。 それはことみさんの説明に出て来た彼女に妙な疑いを掛けて攻撃しようとして来た人物の名前。 加えて私達に対して、明確な殺意を持って攻撃に及んだ人物でもあった。 まずことみさんを疑っているかと聞かれれば答えはノーだ。 私はこの島に来てから何十人もの見知らぬ人と出会い、戦い、言葉を交わして来た。 でも彼女ほど自らの背中に何一つの希望を持たず、悲しい横顔をした人間とは出会った事は無かった。 何度も殺し合いに乗った人間に襲われ、信頼出来る知り合いも誰一人生きていない。 ボロボロになりながら、それでも安息の時が来るのを待たずには居られない弱い、でもとても強い女の子。 だから――私は思った。彼女は何が何でも自分が守ってやらなければならない、と。 それがエルダー・シスター宮小路瑞穂として務め。 そしてそれは……多分、アセリアさんも同じ事を感じてくれたんだと思う。
故にことみさんに対して心の無い言葉を、口にするのも憚られるような単語を当たり前のように使う大空寺あゆに……私達は強い怒りの感情を覚えた。 そして逆にこうも考える事が出来た。 つまり『ハクオロさんは大空寺あゆの口車に乗せられている』のでは無いだろうか、と。 彼女が罵詈雑言以外の分野でもおそらく巧みな話術を誇っている事は容易に推測出来る。 ハクオロさんは優しい人柄だと、国崎さん達も言っていた。 故にあっさりと彼女の言葉を真に受けてしまっているのではないか。 完全に口から出任せだけで、ことみさんを悪人に仕立て上げるのは難しい。 だが自分の境遇をそのまま相手に擦り付けたのだとすれば――? 上手く辻褄が合うのではないか。 「ハクオロでも……コトミを馬鹿にするのは許さない」 「あはははははっ、本当に頼もしい仲間が出来て良かったなぁ、一ノ瀬ッ!」 「あゆ、自暴自棄になるな! アセリアも武器を収めてくれ!」 口論になる三人。私は傍観。背後でことみさんは震えている。 この仮説が正しいとすれば、大空寺あゆの行動は演技、と考えるのが自然。 つまり彼女はこの状況を打破すべく、ハクオロさんにこの場を一度納めさせようとするはず。 それは危険な展開だろう。 彼女とことみさんが同じテーブルについて話をするという未来、それは確実に血塗られた道を暗示している。 ならば―― 「アセリアさん、この場は――任せてもいいですか」 「……ん、ミズホが言うならそうする」 「ありがとうございます。頃合を見て、例の場所へ来て下さい」
,
アセリアさんは頷くとと同時に立ち位置を若干調整し、私達の前へ移動してくれた。 それはつまり『時間を稼いで欲しい』という事。 私も彼女を危険には晒したくない。だけど三人でこのまま逃亡するのはリスクが大き過ぎる。 そして何よりもことみさんを守らなければならないのだから。 「瑞穂!! 待ってくれ、一度話し合いを――!!」 「……その誘いには乗れません。ハクオロさんは……彼女に騙されている可能性があります。 アセリアさんも……気をつけて下さい」 「くくく、そっちのお嬢さんも完全に一ノ瀬に言いように懐柔されているようで……」 「――ッ!! 行きましょう、ことみさん」 「う、うん……」 大空寺あゆとハクオロさん、どちらも追って来ない事を確認してから私はことみさんの手を引いて走り出した。 目的地は海の家。アセリアさんの足ならば無傷で順当に追いついて来るはず。 間違った判断ではない。 しかし……マズイ展開になった。 本来ならば倉成武と前原さんの決闘を何とかするのが目的だったはずなのに……。 結果は二人に加え連れて行かれた遠野さんに出会う事も出来ず、病院から撤退するという結末。 加えてハクオロさんに関して、二見さん達にも伝えておかなければならない。 だけど前原さんの力では武さんに勝つのは難しい。 でも大空寺あゆを殺して強行突破する、という選択肢を取る事は私には出来なかった。 祈るしかないのだろうか、前原さんの勝利を。 なんて――無力。 しばらく走った後、私達はなんとか無事に病院のあるエリアから出る事が出来た。 後はアセリアさんがやって来るのを期待しながら海の家へ向かうまで。
,
「あの……瑞穂さん」 「え、は、はい。どうしましたか、ことみさん。少し速かったでしょうか?」 「ううん、違うの。そうじゃなくて……」 走る速度が速すぎたのかと思ったが違うようだ。 隣のことみさんは非常に言い難そうな仕草で視線を辺りに散らす。 どうしたのだろう。まるで……見当がつかない。 「そ、その大して大事な話じゃないとは分かっているのっ。でも……その、瑞穂さんって……!!」 「は……はい」 「男の……人?」 "僕"は、思わず立ち止まった。そして固まった。 こちらを見つめることみさんの恥らうような視線は、まるで恋する乙女の――いや、違う。 その瞳は"僕の胸"を見つめている。 ――あの時だ。 ことみさんを思わず抱き締めた時、彼女が見せた一瞬の戸惑い。 それはつまり……豊胸パットの材質であるシリコン特有の感触に対する違和感だったのだ。 この島では最後まで、エルダー・シスター宮小路瑞穂として行動する決意を固めたんだ。 だから一番近くに居たアセリアさんにも僕が男である事実は伝えていないし、そうする意思も無かった。 でも……これはもしかして……もっと、マズイ展開になったのかも……しれない。
【G-6 平原(マップ東)/二日目 早朝】 【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】 【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾0/15+)、バーベナ学園女子制服@SHUFFLE! ON THE STAGE、豊胸パットx2】 【所持品:支給品一式×3、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ3本、 フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、予備マガジンx3、情報を纏めた紙×2 】 【状態:強い決意】 【思考・行動】 基本:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める) 0;ど……どどどどどうしよう 1:ことみを連れて海の家へ行きアセリアが来るのを待つ 2:圭一、武、美凪を救いに行けず後悔 3:瑛理子達にハクオロが大空寺あゆに騙されているかもしれないと伝える 4:川澄舞を警戒 【備考】 ※参加者全員に性別のことは隠し続けることにしました。 【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】 【装備:Mk.22(7/8)】 【所持品:ビニール傘、クマのぬいぐるみ@CLANNAD、支給品一式×3、予備マガジン(8)x3、スーパーで入手した品(日用品、医薬品多数)、タオル、i-pod、陽平のデイバック、分解された衛の首輪(NO.35)】 【所持品2:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)、ローラースケート@Sister Princess、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数、】 【状態:肉体的疲労大、腹部に軽い打撲、精神的疲労小、後頭部に痛み、強い決意、全身に軽い打撲、左肩に槍で刺された跡(処置済み)】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない。必ずゲームから脱出する。
,
0:瑞穂さんってやっぱり…… 1:ハクオロとあゆに強い不信感 2:アセリアと瑞穂に付いて行く 3:首輪、トロッコ道ついて考察する 4:工場あるいは倉庫に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない) 5:鷹野の居場所を突き止める 6:ネリネとハクオロ、そして武と名雪(外見だけ)を強く警戒 ※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。(ほぼ確信しています) ※首輪の盗聴に気付いています。 ※魔法についての分析を始めました。 ※あゆは自分にとっては危険人物。良美に不信感。 ※良美のNGワードが『汚い』であると推測 ※原作ことみシナリオ終了時から参戦。 ※瑞穂とアセリアを完全に信用しました。 ※i-podに入っていたプログラム、もしくは情報などは次の書き手におまかせ ※研究棟一階に瑞穂達との筆談を記した紙が放置。 □ 「さてと……お姫様二人は行っちまった。あんたはどうするさ?」 「…………」 目の前でバットを構え、こちらを威嚇する青髪の少女に向けてあたしは憎まれ口を叩いた。 ――強い。
,
間違いなく、彼女は今までこの島で戦った相手の中でも別格の強さだ。 明らかに戦士と言えるその威圧感。戦いに特化したその存在。 バットでぶっ叩かれた左腕は紫色に晴れ上がって、酷い熱を発している。 こりゃあ、しばらく使えないなと半ば確信。見事なまでに実直な一撃だった。 さてと、状況は最悪。 後ろにいるハクオロがこのアセリアとかいう奴をどうにか出来るとは到底思えない。 そもそも初めから知り合いだったらしい。つまりはハクオロがコイツに攻撃する可能性は極めて低い。 ならば説得? この場は武器を降ろし、あたし達が一ノ瀬を追う了承を得る――馬鹿か。 無理だな。この女も明らかに一ノ瀬に言い包められてる。 要するに奴は自分の罪をあたしに押し付ける策に出たのだろう。 人の心を動かすのは信頼。牙の無いウサギの顔をしながら他人に自分を信用させるのは奴の専売特許だ。 もしくは拳銃を拾い、戦闘を続行するか? ……それも無理。あたしが不穏な行動を取った瞬間、奴の獲物はあたしの頭蓋骨を叩き割るだろう。 きっかけが欲しい。少しだけ、銃を拾って逃げ出せるだけの余裕が……。 「アセリア、何故こんな事をする!! 私があゆに騙されているなど……」 「……どうして、止めなかった」 「何を――」 「私達がいなければ……コトミは殺されていた」 「!!!」 アセリアの眼光は鋭く、ハクオロを真っ直ぐ見つめていた。 ハクオロは……とんでもない衝撃、多分自分の中の価値観が崩壊するような類のショックを受けたのだろう。 仮面で覆われていない顔からサーッと血の気が消えていった。 ただアセリアの視線は強烈な怒気を孕んだまま、ハクオロを貫く。正直、仲間に向けて示す目付きには到底見えない。
,
でも、そりゃあお嬢ちゃん、アレだよ。 コイツはあたしが研究棟に乗り込むって宣言した時、頭の中で納得しちまったのさ。 『一ノ瀬ことみは殺されても仕方が無い』ってな。 一度芽生えた疑心暗鬼の種は駆逐出来ない。根を張り、木となり、延々と宿主に食らいつく。 裏切られた、騙された。 聖人君子みたいな綺麗事ばかり並べるコイツだって人間なんだ。 人の本性に触れたとき、誰だって冷酷になる時があるって訳さ。 一ノ瀬ことみは最低最悪の殺人鬼。ウサギの皮を被ったオオカミ、その事実を認識したんだろう。 「私は……ハクオロに酷い事を言った。ずっと……謝りたいと……思っていた」 ポツリ、ポツリとアセリアの独白が始まる。 「でも、今のハクオロ違う。どこかおかしい。 ……敵、それなら倒すだけ。だけど……アルルゥ言ってた。無闇に人を殺すのは駄目だって」 たどたどしい少女の言葉。 普段、こんな風に話すのに慣れていないのだろう。言葉は途切れ途切れで非常に聞き難い。 「ハクオロは……そいつの言う事は信じるのに、何で……コトミの言う事は信じない? 何が違う?」 「そ……れは……」 あたしは頭の中で舌打ちをした。駄目だ、完全に騙されている。 しかもこの女、相当に天然なのだろう。人を疑う事を知らないようなその眼、顔付き。 ……それが既に一ノ瀬の毒牙に犯されてしまっている訳か。若干、やり切れない気持ちになる。 そして明らかにハクオロの表情に変化が生まれた。 狼狽し、取り乱すだけだった奴に芽生えた――もう一つの迷い。
,
しかし―― 「アセリアさん――!!!!!!」 「ミナギ――なッ!! 」 あたし達の背後から女のものと思われる絶叫が聞こえた。あたしは思わず振り返った。 だがその時、既にアセリアはこちらを完全に無視し、隣を駆け抜けていた。 そう、そこにいたのは、一人の背の高くて髪の長い女と彼女に背負われた少年。 そして―― 無防備な背中を晒す二人に襲い掛かる、剣を持った青年の姿だった。 ■ 青の少女は疾走する。 だがいかに彼女の身体能力があたしの常識の範疇からこれでもか、というぐらいはみ出しているとはいえ、物には限度と言うものがある。 ガウスだとかケプラーだとかドルトンだとかアンペールだとか、明らかに関係ないものばかりだがソレはどうでもいい。 無から有を生み出すのも、有を無に還すのも不可能。とりあえずコレだけは覚えておけ。 つまり数十メートル先で襲われかかっている連中を救うにはどれだけ全力で走っても間に合わない。 無駄な事はするもんじゃないさ。OK? だから生まれた。これで――絶対的な隙が。
,
「ハクオロッ!!」 「あゆ?」 予想通り、ハクオロは事態を掴めていなかった。 とはいえアセリアを追って髪の長い女の所へ走って行こうとしていたのは流石と言うべきか。 見知らぬ人間だろうと困っていれば助ける。そんな甘い人間だから今こうして一緒に居るんだろが。 大体考えても見ろ。 まず、小競り合いしている所へ変な男に襲われている少女と少年が現れたと仮定する。 ここで口論していた連中はどんな行動を取るだろう。 普通は何も出来ない。突然の状況の変化に手足がブルったり、頭が回らなかったり、とにかく色々だ。ボンヤリとその"異常"に飲み込まれる。 だがあの女やハクオロのような人間ならば、助けるという選択肢もあるかもしれない。 それじゃあ、あたしはどうするか。そんなの――決まっている。 「……逃げるさ、ハクオロ」 「な……あゆ、何を言っているんだ!?」 「いいから、ほら来いや!!」 すぐさま地面に転がった拳銃を回収し、未だ収まりの付かないハクオロを引っ張って一ノ瀬達が消えた道に向かう。 ハクオロはもちろん抵抗するが、あたしはそんな意思汲み取る気はまるで無い。強引なまでに腕を掴んで全力で駆ける。 遥か遠くにいるアセリアが私達が逃げ出そうとしている事に気付いたようだが、時既に遅し。どちらかと言えば、襲われている青年達の方が彼女の立ち位置ならば近いぐらい。 そう、つまり最高の好機だったのだ。
「……どういうつもりだ」 「……そう目くじら立てるんじゃないさ。あたしも少し強引過ぎたとは思ってるよ」 ハクオロを引きずって病院のあるエリアの下部、左右に別れる道を右に――つまり山側へと少し進んだ地点であたし達はようやく足を止めた。 左か右、二人がどちらに逃げたのかは分からない。 だが、奴の行動パターンからして禁止エリアによって極端に移動が制限される海側は無いと読んだ。 「一度お前とことみは話し合うべきだ。確かに、一ノ瀬ことみには不可解な点が多い。とはいえ……」 「そうさね……でも、多分……ちと難しいかなぁ」 「……何故だ?」 ハクオロは尋ねた。 「もしも、もしもさ……あたし達が同じテーブルに着いたとしても。 あたしは多分、眼を合わせた途端アイツを攻撃しちまうさ」 何気なく言った。 和解……ね。ハクオロのこちらを見つめる視線が少しばかり痛い。 仲間と離れ、ついさっき知り合ったばかりの小娘に良い様に連れ回されてる現状をこの男はどう考えるのだろうか。 おそらく……このままあたしを見捨てて、仲間達と合流するかどうか思案していると見た。 まぁソレが自然な思考。あの二人組は完全に一ノ瀬に騙されている。故に大空寺あゆという存在と同行していたハクオロに対しても嫌疑の眼を向けたのだと思う。 あの状況下で一ノ瀬ことみを否定する材料があたしの発言しか無い以上、逆にこちらが嘘を言っていると思っても仕方ない。 しかし、どうしたもんかね。 やっぱり一人でも何とかするしか無いのか……。
,
「おい」 「……あ?」 「何をしている……ことみを追うんだろう? ならば、こんな所でグズグズしている暇は無いんじゃないか?」 「……馬鹿? アンタ、あたしを見捨てようとか思わない訳?」 あたしは呆れた。目の前のお人よしは事もあろうに、こちらに手を差し出したのだから。 それは握手。つまりこの歪な関係をそのまま続行する、という意思表明。 「――信じる、と言ったはずだ。それに一ノ瀬ことみも佐藤良美も殺させる訳には行かないからな」 「殺させないって……じゃあ、何か!? あいつらを目の前にして、あたしに黙ってろとでも言う訳かい? そんなの真っ平御免だね!! 裁かれるだけの事をした下衆を生かしておく理由なんて無い!!」 あたしは怒りに満ちた声と共にハクオロの言葉を切り捨てた。 殺すな? コイツ頭の中に蟲でも湧いてるんじゃ無いだろうか。 「違う」 「…………」 「本当に、本当に彼女達が殺しに乗った罪人だと言うのならば……」 ハクオロは自らの右手を数秒の間じっと見つめ、そして、強く握り締めた。 「その時は――私がお前の代わりにこの手を汚す、と言う意味だ」
,
それは何かを決意した人間の眼だったのかもしれない。 強く、そして揺るぎのない美しさ。 あたしはしばらくハクオロの瞳を見つめそして――小さく笑った。 本当にこいつは、底なしのお人よしで甘ちゃんで……それ以上に大きな男だった。 【E-6 平原(マップ下部)/2日目 早朝】 【大空寺あゆ@君が望む永遠】 【装備:S&W M10 (3/6) 防弾チョッキ 生理用品、洋服】 【所持品:予備弾丸10発・支給品一式 ホテル最上階の客室キー(全室分) ライター 懐中電灯】 【状態:生理(軽度)、肋骨左右各1本亀裂骨折、強い意志】 【思考・行動】 行動方針:殺し合いに乗るつもりは無い。しかし、亜沙を殺した一ノ瀬ことみと佐藤良美は絶対に逃さない。 1:一ノ瀬ことみを追う(当面の目的地は温泉) 2:二人を殺す為の作戦・手順を練る 3:ことみと良美を警戒 4:ハクオロをやや信用しつつもとりあえず利用する 5:殺し合いに乗った人間を殺す 6:甘い人間を助けたい 【備考】 ※ことみが人殺しと断定しました。良美も危険人物として警戒。二人が手を組んで人を殺して回っていると判断しています。 ※ハクオロの事は徐々に信頼しつつあります。多少の罪の意識があります。 ※支給品一式はランタンが欠品 。 ※生理はそれほど重くありません。ただ無理をすると体調が悪化します。例は発熱、腹痛、体のだるさなど ※アセリアと瑞穂はことみに騙されていると判断しました。
【ハクオロ@うたわれるもの】 【装備:なし】 【所持品:なし】 【状態:精神疲労、左肩脱臼、左肩損傷(処置済み)、背中に大きな痣、腹部に刺し傷(応急処置済み)】 【思考・行動】 基本方針:ゲームには乗らない。 1:ことみを追い、彼女が本当にゲームに乗った人間ならばあゆの代わりに手を汚す。 2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す 3:瑛理子が心配 4:悠人の思考が若干心配。(精神状態が安定した事に気付いてない) 5:武、名雪(外見だけ)を強く警戒 6:自衛のために武器がほしい 【備考】 ※オボロの刀(×2)は大破。 ※あゆを信頼しました。罪は赦すつもりです。 ※シーツに包まれた衛の遺体を担いでます。 ※ことみの事を疑っています。 ※衛の死体は病院の正面入り口の脇に放置。 □ 夢。夢を見ていた。 それはほんの数日前の記憶のようで、それでいてどこか懐かしい、とりあえず良く分からない光景だった。
,
,
俺は前へ進んだ。 何も考えずただ真っ直ぐ、両足の思うままに。 いくつもの扉をくぐる。鉄、木、石、ガラス、宝石。 手触りは本物のようにざらついていたり、滑らかだったり。とにかく色々だ。 とにかく不思議な夢だった。 紙と木で出来た扉、その先に女がいた。 それは見知らぬ女だった。 それは美しい女だった。 それは素晴らしい女だった。 丸みを帯びた柔らかそうな身体も、口元の朗らかな笑顔も。 はっきりとその姿が見えた訳では無いのに、思わず心臓の鼓動が早くなる。 色素の薄い髪に、低い背。 十代半ばにも満たない少女でありながらどこか、不思議な存在感に満ち溢れていた。 俺は彼女に話し掛けた。 何を喋ったのかは分からない。ただ女はこちらを見つめたまま、ピクリとも動かない。 黙って俺を視線の海に沈めるだけだった。 どれくらいの時間が経ったのだろう。 俺はまるで反応を返さない女に多少の違和感を覚えつつも、それでも話し続けていた。 身振り手振りを交え、懸命に、彼女が振り向いてくれるように。 ただただ必死に言葉を紡いだ。 そして、俺がすっかり疲れ果て、絶望しかけたその時、彼女はついにその口を開いた。 俺は歓喜に打ち震えた。その薄紅色の唇が動く度に俺の中の何かが変わっていくような気がした。 だが、困った事に何を言っているのか。それがまるで分からなかった。 ああ、言語の問題ではない。 争点は純粋にボリューム。つまり、彼女の声が小さ過ぎて聞こえないのだ。
,
俺は耳を凝らした。 せっかく喋ってくれたのに、聞き取れないなんて間抜けな結末は無い。 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 必死に、 そして、ついに、彼女の言葉は……俺の脳内へと届いた。 ――どうして…… え? ――どうしてあなたはずっと……自分の喉を掻き毟っているのですか?
,
□ 「――ッ!!」 私、遠野美凪は突然の闇夜を切り裂くような火薬の爆発音に身体を竦ませた。 方向は……南。 気付いた時にはもう病院の中へと連れ込まれていたのだが、武さんと圭一さんが出会った時"私もそこにいた"のだ。 もちろん、病院を訪れるのも二回目。 つまり音の原因は南部に位置する研究棟付近。 ……どうしたらいいのでしょうか。 私は頭を悩ませるしかなかった。 なぜなら、今この空間において意識を保っている人間は遠野美凪ただ一人なのだから。 倉成さんは背中を強く殴打され、気絶。ん……でも若干手が動いている。もしかして彼も眠ってしまったのだろうか。 圭一さんはこれまでの疲れが祟ったのか、膝の上で可愛い寝顔を見せたまま眠っている。 今まで一緒に行動していたメンバー、つまり瑛理子さんや沙羅さんと言った皆さんはここには居ない。 この島にやって来てからずっと側にはリーダー代わりの人物がいた。 それは圭一さんであり、倉成さんであり、そして国崎さんでもあった。 私は沙羅さん達のように戦う力を持ってはいない。 同じ女でありながらその差は歴然。 つい今だって私にもう少しだけ力があったなら。倉成さんを倒すまで行かなくても何とか退けるだけの力があったなら。 事態がこんなに複雑化する事も無かった筈なのだ。
,
そして、今。私は自分で選択しなければならない状況に追い込まれた。 銃声、それはすなわりこのすぐ近くで戦闘が行われている証拠に他ならない。 最も適切な行動はおそらく、圭一さんを起こす事。だが決闘が終わってすぐに眠ってしまう程のダメージを彼は負っている。起こしてもすぐに適切な判断が出来る可能性は低い。 では――逆に倉成さんを起こす、というのはどうだろう? いや……それも難しい。彼は未だH173という未知のウィルスに感染している。 身体の自浄作用に期待する、それは所詮淡い希望でしかない。 C120というセットとになる抗生物質が無ければ完全な治癒は難しいのだろう。 でも確かにあの瞬間、私達三人の心は通じ合ったと思う。 信じる事。 それは少しむず痒いようで、それでいて何処か落ち着く不思議な響き。 倉成さんは最後の最後、気絶する直前に確かに元の彼に戻ったんだと思う。 意志の力。 信じる力。 ソレさえあればどんな逆境が迫ってきても何とか出来る。 私はそんな奇跡をほんの数刻前に実際にこの眼で見た。 治せる、絶対に何とかなる。絶対に――助ける事が出来る筈なのだ。 「う……」 「……圭一さん?」 「美……凪さん?」 彼が、目を覚ました。 別に私が何かをした訳でもないのに、圭一さんが突然パチリと目を開いた。 膝上、どうしてこうなっているのか把握できないのだろう。ゆっくりと身体を起こす。
,
「俺……」 「はいっ、圭一さんは……勝ったんですよ。倉成さんを――」 私は嬉しくなった。言葉が自然と唇から漏れる。 だから思わず圭一さんを抱き締めようとした、その時だった。 ――彼が目覚めたのは。 ■ 「武さん……?」 圭一さんが意外そうな、唸りにも似た声で彼の名前を呟く。 彼は私達から二、三メートル離れた地点、ゆっくりとまるで夢遊病者のような足取りで立ち上がった。 ……おかしい。 だって倉成さんは圭一さんと違って"気絶"していたはずなのだから。 気を失うにしてもその理由は色々とある。脳震盪から不整脈、衝撃による失神など様々。 でも相当深い傷を負っていた事だけは確か。その証拠に圭一さんは今も行きも絶え絶えだ。 いくら何でも……回復が早過ぎる。 それに彼の様子が変なのだ。 そう、まるで何かに取りつかれている憑り付かれているような―― 「……圭一、一つ言っておきたい事がある」 「武さん、元に――」 「……いいから聞け」
,
口を開いた倉成さんはこちらが戸惑うくらい饒舌だった。 いや、言葉尻がしっかりしていたと言うべきか。 本当にまるで、私達と出会った時の彼のようだった。 だけど、変だ。何かが違う。 だって指が、倉成さんの指が―― まるで身体の中から肉を掻き出すように喉を穿り返していたのだから。 それは異常な光景だった。 気持ち悪い。思わず胃の中の消化物が込みあがってくるような、そんな感覚さえ覚えた。 倉成さんの右手の爪はもうほとんどが剥がれ落ち、肉と骨だけになった五指は赤い軌跡を描きながら尚も蠢く。 蟲、そう蟲だ。 真っ赤に染まり、闇の中をゆっくりと這いずり回る醜い幼虫。ぶよぶよの身体を揺らす芋虫。 もはや私にとって、彼の指は紅色の蟲にしか見えなくなっていた。 奏でる皮と肉と骨の摩擦、聴覚を支配する生々しい神経を引き千切る音。 「俺は……言った。『お前の信じる力で俺を救ってみろ』と」 「ああ、確かに……言ったぜ。そして俺はそのために全力を尽くす、その言葉に嘘偽りは無い!」 圭一さんは、それでも臆さない。疲れ果てているはずの身体をゆっくりと起こし立ち上がり、私の前に立つ。 倉成さんの奇行が眼に入っていない訳が無い。 思わず目を逸らしてしまうような凄惨な光景にも関わらず、真っ直ぐと彼を見る。 「少しだけ……遅かったんだろうな」 「武……さん」 「"逃げるんだ"」 「え?」 「すまんな、二人とも。もう、俺は、」
,
台詞の途中、倉成さんの身体が突然震え出した。 両手を喉にあて、何かに縋るように強く、強く、それを握り締める。 自傷なんて段階じゃない。 もはや……これは……。 「あ、あ、あ、あ、あ、――ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」 閃光が走った。 倉成さんは懐から数十センチ程の小さなナイフを取り出し、真っ直ぐ――投げつける。 そして一直線に投擲されたそれは、完全な狙いで圭一さんの首元に突き刺さる。 ほんの一、二秒の間に行われた動作。 だけど、それでも、私達の間で培われた全てを打ち壊すには……それは十分過ぎる一撃だった。 ■ 赤い鮮血。地面に倒れ行く圭一さん。狂ったように叫び声をあげる倉成さん。 全ての時間がゆっくりと進行して見えた。 私は思った。きっと倉成さんの言う通りだったのだ、と。 彼がH173に感染したのはおそらく、私達と出会う前。 しばらくの潜伏期間を置いて、そのウィルスは倉成さんの身体を蝕み、そして発症した。 だけど今のこの惨状を見れば、今までの不信な言動さえ可愛く見える。 そう、まだアレはこの病気にとっては"軽度の症状"だったのだ。 おそらく今のこれが末期症状……。理性の喪失、凶暴化、喉を引っ掻き続ける奇行。
,
そして――時は進み始める。 「あああああああ!! 圭一ぃいいいいいいいいいい!!!!!」 倉成さんは叫び続ける。 ガリガリと喉に爪の無くなった指を這わせ、締め付けながら。 地面に膝を付き、這いずり、必死に私達から遠ざかろうとする。 私はその光景に恐怖した。 恐ろしくて一人で逃げてしまいたくなった。 だけど、そんな事出来る訳が無い。 目の前で苦しむ圭一さんを置いて自分だけ助かろうなんて到底無理な話だ。 言葉にし難い、したとしてもどこか恥ずかしいそんな感情が裏側に無いとは言えない。 私自身も上手く消化できない複雑でモヤモヤした意識が胸の中で渦巻いている事は認める。 だけどそれ以前に、"倉成さんに殺される"という気持ちよりもずっと――"圭一さんを失う事"の方が怖かった。 倉成さんは"逃げろ"と言った。それはつまり、そういう事だ。 もう自分に自らを抑える力がほとんど残っていないという意思表示。 私は圭一さんの腕を取り……駄目だ。身体から完全に力が抜けてしまっている。 これでは肩を貸す形で移動するのも困難。それならばいっそ背負ってしまった方がいい。 元々、私の方が圭一さんより数センチ背が高い。 それ程筋肉質、という訳でもない彼の身体は思った以上に軽く、容易く背中に乗せる事が出来た。 一歩を踏み出す。二歩目、三歩目、小走り程度の速度なら移動は可能だ。
,
数十メートル離れ、もう病院の三階の端と端に位置する辺りまで移動した時。 背後から絶え間なく聞こえていた倉成さんの叫び声がピタリと止んだ。 私は思わず背後に視線を送る。そしてそこで――倉成さんが私達を見ていた。 そして彼は傍らに落ちていた"冥加"を掴み、コチラを見据え口元に恐ろしい笑みを浮かべる。 ニヤリ、ニマリ、ニタリ……どれとも違う。それは、狂気と殺欲に染まった、殺人鬼の微笑だった。 □ 病院に向かう足が無意識に速くなる。 駄目だ……焦ってはいけない。急いては事を仕損じるというではないか。 悠人と別れてから私は一路病院を目指していた。 武がゲームに乗っている、という佐藤良美の台詞は苦し紛れにしてはあまりにも陳腐。 口から出任せを言うにしてももう少しマトモな発想は無かったものかと失笑を隠し得ない。 例えば武が積極的に殺し合いに乗る、と仮定すればその理由は何だろうか。 恐怖に脅え、ただ生き残る為に周りの人間を攻撃する? 私を生き残らせる為に他の人間を皆殺しにする? 馬鹿馬鹿しい。どちらも在り得ない。彼に限ってなら100%、という冠詞を付けても構わない。 武はそんな臆病な人間でもないし、私と彼の関係も一方的な依存から成る薄っぺらいものではないのだ。 互いに相手の力を認め、全幅の信頼で結ばれているのだから。
,
病院への道の途中、一つアクシデントが発生した。 エリアで言うとE-6に差し掛かった辺りで耳に入った凄まじい轟音、北側から聞こえて来た何かが崩壊する音が聞こえたのだ。 その方向とは高嶺悠人が向かった方角。あのショベルカーが移動していった方向だ。 当然私は逡巡した。ここまであからさまな異常が発生したのだ。何か……策を打つべきではないか、と。 特に情を感じる関係に無いとはいえ、あそこまでの爆音を無視しろ、と言うのは逆に不可能に近い。 しばらく私はその場で立ち尽くしていた。 どうするべきだ、どうする―― 「……はぁっ……ひ……と?」 ■ 「……悠人……が?」 「……ああ。出来れば……少しでも多くの人に、この事を……伝えて欲しい」 彼女、いや現れた少女の身体はボロボロだった。 いや、外傷自体はおそらく大したことは無い。 私基準ではあるが、肩に銃を一発貰っているだけだ。とはいえ、弾丸は貫通しているし、適切な応急処置も施してある。 問題はそれ以上に疲労。 何度も無理やり戦いに狩り出された兵士のように、体中の筋肉が悲鳴を上げている事が簡単に分かった。 加えて心的な疲労も相当なものらしく、心だけが彼女を支えていた。 彼女は私と出会ってすぐ、高嶺悠人に関する話を始めた。 そう、つまりは、彼が凄まじい力を持つ剣に身体を乗っ取られてしまった、という類の、だ。 確かにあの電撃を発するハリセンなど、島内に摩訶不思議な力を持つ道具が存在する事は実際この眼で目撃している。
,
,
,
,
,
,
けえいちいいいいいいい
472 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:55:43 ID:QuncIT3z
これを聞いた私はもちろん驚いた。 "永遠神剣"が"永遠神剣の使い手"に渡る事の恐ろしさを説明する彼女は真剣そのもの。 加えて北上したパワーショベルや高嶺悠人、佐藤良美の存在などありとあらゆる情報が、私の持っている情報と一致する。 彼女は――嘘を付いていない。 「分かったわ。私はこのまますぐに病院へ向かう。あなたも――気をつけて」 「ああ……悪いね。そうだ、コレを……」 そう呟くと彼女はデイパックの中から銃器の予備弾を取り出して私に押し付ける。 それはウージーの予備マガジンだった。 私がゲームに乗っていないのを見て、気を回してくれたようだ。 「ありがとう……そうだ。私は小町つぐみ、あなたの名前は?」 「ああ……忘れる所だったよ。……千影だ」 「……え?」 千影。それは忘れたくても忘れられない、だけど実際に出会った経験は無い名前の一つだった。 鷹野三四の話の中で登場した四姉妹。その生き残りのうちの片方。 彼女の台詞がフラッシュバックする。 『彼女達の一番上の姉に火を付けて殺したのが、あなたの大切な人――倉成武だと知ったらどう思う?』 「あなたは捕まった方? それとも、誰かに恋をしている方?」 「…………意味が分からないが……私達姉妹の事を言っているのならば……捕まった方だよ。それに、もう衛くんは……」
,
474 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:56:36 ID:QuncIT3z
"千影"は目を伏せる。そして――私は衝撃を受けた。 『恋をしている方』という曖昧な質問で、彼女はそれを"衛"と結び付けた。 つまり彼女の証言と合わせて、鷹野の四姉妹の記述は間違いではなかった、という事実に繋がる訳だ。 「もう一つ、聞いてもいい?」 「?」 「あなたの一番上のお姉さんの名前を……教えて貰えるかしら」 「!! ……咲……耶だ。でも……何故?」 千影は酷く悲しそうな表情を浮かべた。 その中には明らかに不可解だ、というニュアンスも込められている。 咲耶、という人物が死亡したのは丁度十二時間程前。今更、彼女が争点に挙がるのは珍しい事だろう。 「……それだけ。聞ければ十分だわ。 ごめんなさい……もしかしたら、もう一回謝らなければならなくなるかもしれないけど」 私はそれ以上彼女の顔を見ていられなかった。 それはつまり業。 武が人殺しをしただなんて信じられない。 咲耶、その名前が願わくば武の口から出ない未来を私は祈る事しか出来なかった。 ■ 私が病院に到着した時、もう空は明るく太陽が半ば顔を出していた。 二日目の早朝、もうゲームが開始してから三十時間近く経過した訳か。 病院には悠人達の仲間が集まっていると聞いた。 それはつまり、誰もが鷹野三四を妥当する意志があるもの、という意味だ。 主に島の北部から西部で行動をしていた私と純一にとって、未だ出会った事の無い参加者が多数存在する。 早いうちに彼らとコンタクトを取っておくのは非常に重要な事だろう。
,
476 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:57:23 ID:QuncIT3z
でも可笑しいわね。何人もの人間が集まっている割には静か過ぎるような気もするし。 もしかしてまだ誰も到着していない、とか? ……まさかね。 そんな冗談にもならない事を考えつつ、私は大きな方の建物を目指してその途中にある広場へ足を踏み入れた。 中央に設置された噴水が非常に綺麗だ。この島がとんでもない状況にある事を忘れさせてくれる。 ――ん? 丁度広場の中央辺りに誰かがいる。私は百メートル程先までじっと目を凝らす。 そこにいたのは……髪の長い少女だ。身長も多分170近くあるのではないだろうか。 背中に背負った少年が小さく見える。 そして北と南から走ってくる二つの影。 南から駆けて来るのは青い閃光。 旗のように棚引く長髪と金属の煌き。 まるで足に車輪でも付いているような非常識なスピードの……少女!? 一方北から迫って来るのは―― 「嘘……」 私は思わず持っていたミニウージーを取り落としてしまった。 目の前の光景はそれ程衝撃的で、それ程……信じられない光景だった。 だって、北から刀を上段に構え、中央の少年少女を今にも切り殺そうとしている男は……紛れもなく倉成武その人。 ずっと探し続けていた最愛の人の変わり果てた姿だったのだから。
,
478 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:58:07 ID:QuncIT3z
そして私は目撃してしまった。 スクリーンに映し出される古い映画のワンシーンのような光景。 コマ送りのように時間が流れる。 それはカメラでシャッターを連続で切っているのに似た世界だった。 青髪の少女は走る。だが、間に合わない。 黒髪の少女は声を振り絞り、叫ぶ。足はフラフラで今にも倒れてしまいそうだ。 最初に二人組の少年少女に追いついたのは、武だった。 武は刀を振り翳す。 そして無防備な背中を晒す少年を、明確な殺意で持って―― 切り伏せた。 ■ 衝撃で少女は前のめりに倒れる。 背負われていた少年は真っ赤な血を背中から噴出し、そしてずり落ちる。 更に一歩踏み込み、武は少女に追撃を加えようとする――が。 「タケルッ!!!!」 ここでついに、青の少女が追い付いた。 地面を蹴り、数メートルの高さまで上昇。そして全体重を掛けて手にしたバットを武に叩き付ける。 しかしその攻撃は通らない。 すぐさま少女の接近に気付いた武は迎撃体制を取り、刀でソレを受け止める。
,
480 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:58:51 ID:QuncIT3z
「アセリアぁああああああああ!!!! お前も俺を殺そうってのか!!」 「黙れ……ッ!!!」 そして乱激戦。キン、キンと二つの金属が早朝の空気に乾いた音を響かせる。 だが――刀とバットという圧倒的な獲物の差は大きかった。 力量では遥かに武を凌駕するであろう少女は何故か、"武器を両断される"と言う可能性を考えて戦っているようなのだ。 これは少し不思議な考えだった。 金属バットの材質はジュラルミン。刀は……おそらく鋼鉄だろう。 だが純粋な打ち合いになった場合、壊れるのは刀。刀は切り裂くものであり、衝撃自体には非常に脆い。 私は戸惑っていた。 普通に考えれば武に加勢するべきなのだろう。 だが武は今目の前で、中学生程度の少年を切り捨てたのである。 ソレは佐藤良美や鷹野三四が言っていた台詞をそのまま肯定する行動ではないだろうか。 しかも戦っている人間はアセリアというらしい。それは悠人が言い残した信頼出来る仲間の名前。おそらく、ゲームに乗っていない人間だ。 これらから導き出せる結論はつまり――倉成武はゲームに乗っている、これ以外に無くなってしまったのだ。 私は信じたくなかった。 心の底からその過程を拭い去ってしまいたかった。だから――居ても立ってもいられなくなった。 「クソッ……!!!」 「おいおいおいおい!? その程度か、アセリアッ!!! この前より弱くなってるんじゃないかぁ!?」 「武ッッッッッッッッ!!!!!!!」
481 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 01:59:32 ID:QuncIT3z
剣撃がぶつかり合う音を掻き消す――銃声。 地面に落としてしまったミニウージーを拾い上げ、それを天に向けて発砲した。 その場にいた人間、全ての視線が集まる。 「つぐ……みか?」 ■ 戦闘は一時中断。"意識のある人間は"全員が私を見ていた。 鉈とウージーを構えつつ、ゆっくりと歩を進める。 目前、十メートル程先にアセリアと武。 切り結んでいた二人は一度距離を取り、睨み合っている。 そんな二人から離れた所に黒髪の少女と学生服を自らの血で真っ赤に染めた少年。 そして、見た限り……少年の方は事切れている。 「武……どうして……」 私は不安だった。何故彼がこんな事をするのか分からなかったから。 本当にゲームに乗ってしまったのだろうか。 だとしたらその理由は? そしてそれはあんな少年を殺してしまう程、立派なものなのか。 「やっと会えたか……つぐみ。いやぁ、丁度良かった。手を貸してくれ」 「……? どういう……こと?」 「簡単な事さ――今から、こいつら全員皆殺しにする」 「な……ッ!!!
482 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:00:06 ID:QuncIT3z
期待は、脆くも打ち砕かれた。 『こいつら全員皆殺しにする』 それは純然たる殺意の表れ。しかもソレを私にまで手伝わせようと言うのか。可笑しい変だ間違っている。 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……嘘だ。 「嘘……」 「ん?」 「嘘だって……言ってよ、武!! 冗談なんでしょう? 皆殺しなんて、どうして――ッ!!」 「どうしてって…………妙な事を――ああ、そうか」 彼は少しだけ、考えるような仕草を見せ、数秒後ニヤっと笑った。 「お前、偽者か」 意味が、分からなかった。 偽者、偽者って何? 私はここにいる。月海つぐみは今ちゃんと倉成武の目の前にいるのに。 どうしてそんな事を言うの? 何で? どうして? 「……そうか。何だ、佐藤良美の言った通りだった訳ね。"本物"はどこかに捕らえられてるって事か」 彼は自分の中で何かに納得したのだろうか。 うんうんと数回頷くとペロリと唇の周りを一度嘗め回した。 そしてもう一度私の方を向いた。
483 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:00:43 ID:QuncIT3z
「お前、いらないよ」 「え……」 「目障りだ、不愉快だ。つぐみの姿で現れるなんて、そんな子供騙しが俺に通用するとでも思ったのか? 無駄無駄無駄無駄、もう少し頭を使うべきだったな。 俺とつぐみは深い深い深い深い絆で結ばれているんだぜ? 見た目だけじゃない。心で、な。 俺達は信じあっているんだ。アイツが殺せと言えば、俺も殺す。俺が殺すんならアイツも殺す。 そういう関係だ。最高の女なんだ、アイツは。だから、アレだ、そうだ、うん――お前は、死ね」 ■ 武は刀を私に向け、軽く振り下ろす仕草をした。幼い不良がやるような不快な挑発。 だけど私は堪らなく悲しくなった。苦しくなった。 そして一歩、また一歩とこちらに向かって歩いてくる。 「おい、アセリア。ちょっと待っててくれ、先にこっちを片付けるから」 「…………」 「駄目……下がってッ……彼は……はぁッ……危険、です!!」 黒髪少女が声を振り絞って危険を促す。ゲームに乗った人間には到底見えない。 それは純粋に私の身の危険を案じた、真摯な叫びだったように思う。 私は、どうすればいいのだろう。 ああ、分かり易い言葉が簡単に頭の中に湧いて出た。『絶望』だ。 ずっと探していたはずの武にいとも簡単に自分の存在を否定された。 だけどその姿形は紛れもなく、彼本人。 考えたくも無いが恐怖か何かで頭がイカレてしまったとしか思えない。
,
,
486 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:01:25 ID:QuncIT3z
このまま、素直に彼に殺されてしまおうか。 ……それもいい気がする。そうだ、もうどうでもいい。全部無くなってしまえばいいんだ。 でも――私の身体はそうは思わなかったらしい。自然と銃を彼に向けていた。 どうしてだろう? 疑問に思った。 しばらく考えて分かった。 つまり私は武を愛していた、という事だ。 彼が人を殺す姿はこれ以上見たくないし、誰かに殺される姿も見たくない。 何だろう、この妙な独占欲は。うん、そうだ。こんな……変わり果てた彼を見ていたくない。 「――あなた達には関係ないわ。部外者は口を出さないで」 「えッ……!!」 だから、私はその申し出を断った。 これは二人の問題。いかにこの島で出来た仲間とはいえ、絶対に譲れない領域がある。 「……仲間を殺されて黙っている訳にはいかない」
,
488 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:02:08 ID:QuncIT3z
青の少女が一歩前に出た。どうもコチラに加勢、いや自分が戦おうと言うつもりらしい 小柄な体躯。鎧、青髪。悠人が言っていた同じ世界から呼び出された最後の仲間。 卓越した剣技と強い心を持つ戦士。 仲間を想う心。そんな純粋な感情が今の私には苦痛だった、羨ましかった。 彼の身に何が起こったのかは分からない。 だけど彼はゲームに乗った。それは事実、それは真実。 彼は――変わってしまった。 「アセリア……さん? ゴメンなさい、でもこれだけは私がけじめを付けなきゃならない問題だから」 彼女は不思議そうな顔をしてコチラを見る。 そして数秒後「ユート」と呟いた。私は小さく頷く。 「あなたは……一体……?」 黙ってしまった少女、ではなく腹部に傷を負った背の高い少女が尋ねる。 「……分かり易く言えば」 私は軽く髪の毛を掻き揚げ、武へと向き合った。 彼はそんな私を見て、何故かニヤッと笑った。 それは今まで見た事も無い、邪悪で醜悪で心臓を磔にするような笑顔だった。 私の中の武はそんな風に笑わない。 私の中の武はそんな顔をしない。 目頭が熱くなった。でも涙はまだ溢れない。だって……やらなければならない事があるから。
,
490 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:02:45 ID:QuncIT3z
「子供も……いるくらいの関係。しかも二人。これなら納得する?」 「!? いくら何でもそれは――」 「……普通よ。それに私、四十のおばさんだもの」 目の前の少女達に向けて軽く冗談交じりで一言。 返って来た反応は絶句。 ああ絶対に信じてないな、と確信出来る表情を顔面に刻んでいる。 まぁ、普通信じられないだろう。誰が聞いてもおかしいと思うに違いない。 言葉では極めて説明し難い。そんな……関係なのだから、私と武は。 「だから……これは殺し合いなんかじゃないの。ね、武」 「その話、つぐみから聞き出したのか? 良く知っているな。 俺は今からお前を殺す。お前を殺して俺は本物のつぐみを探しに行く――それだけの関係だ。 それに殺し合いじゃないなら、今から俺達がするのは何だって言うんだ?」 次の言葉は武に向けて。だけど返って来た言葉は酷く無常なものだった。 彼が一息に吐き出されたその台詞は私の心を何度も突き刺した。 熟した果実がグチャグチャに潰されて、見るに耐えない物体に変わっていくような、そんな心象風景を垣間見たかもしれない。 「そうね、言うなれば……」 瞬間、耳にノイズが走った。 ああ、もう放送の時間なのかと頭の中の冷静な部分が察知する。 丁度良い、タイミングだ。 だってあと少し遅かったなら、私か武の名前をその場で聞かされる羽目になったかもしれないから。
,
492 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:03:22 ID:QuncIT3z
左手に大鉈、右手にウージー。 対する武は一本の綺麗な装飾を施した刀。 私はほぼ無傷。彼は全身傷だらけ。 鬼が出るか蛇が出るか、厳密には心の柔らかい部分はその結末を予言しているような気もするけれど。 多分、私が死神に憑り付かれてその手を血で染めたとしても、彼は易々と殺されるような選択は絶対にしないだろう。 彼もきっとこうすると思う。だから私もそうする。うん、それでいい。 一歩、足を前へ踏み出す。 そしてどこか虚ろげに、そして、何かを噛み締めるように呟いた。 「単なる――夫婦喧嘩かしら」
,
494 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:04:12 ID:QuncIT3z
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 祭 死亡】 【F-6 病院(広場)/2日目 早朝 放送直前】 【小町つぐみ@Ever17 -the out of infinity-】 【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に祭、スタングレネード×6、ミニウージー(24/25)】 【所持品:支給品一式x3、ベレッタ M93R(18/21)、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、ミニウージーの予備マガジンx4、 バナナ(台湾産)(3房)、倉成武のPDA@Ever17-the out of infinity-、倉田佐祐理の死体の写真】 【状態:健康、肉体的疲労小】 【思考・行動】 基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。ゲームを終わらせる。 1:自らの手でけじめを付ける 2:病院に到着後、協力者を連れてホテルに戻る 3:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感 【備考】 赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。 参加時期はEver17グランドフィナーレ後。 ※純一 とは音夢の死を通じて絆が深まりました。 ※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。 ※北川、梨花をある程度信用しました。 ※投票サイトの順位は信憑性に欠けると判断しました。 ※きぬを完全に信用しました。 ※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。 ※悠人と情報交換を行いました ※千影と報交換を行いました ※武がH173に感染している事を全く知りません。
,
496 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:04:49 ID:QuncIT3z
【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】 【装備:永遠神剣第六位"冥加"@永遠のアセリア −この大地の果てで−、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】 【所持品:支給品一式 ジッポライター、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に、投げナイフ2本、ナポリタンの帽子@永遠のアセリア、可憐のロケット@Sister Princess、首輪(厳島貴子)、鍵】 【状態:L5発症、疑心暗鬼最高潮、頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)、頬と口内裂傷(ほぼ回復)、頚部に強い痒み、脇腹と肩に銃傷、刀傷が無数、服に返り血】 【思考・行動】 基本方針:??? 0:L5発症 1:目の前にいる小町つぐみの偽者を殺して本物を助けに行く 【備考】 ※キュレイウィルスにより、L5の侵蝕が遅れていましたが、H173投与後20時間が経過し、 戦闘のダメージ、及び気絶後緊張の糸が途切れたため一気に症状が進行し現在L5相当です。 キュレイの力が弱まる代わりに、雛見沢症候群によって身体能力が上昇しています(罪滅しのレナ状態) ※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。 ※富竹のカメラは普通のカメラです(以外と上物)フラッシュは上手く使えば目潰しになるかも ※所有している鍵は祭具殿のものと考えていますが別の物への鍵にしても構いません ※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料はごく僅かです。何時燃料切れを起こしても、可笑しくありません。 ※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。 ※スピリットの場合、冥加の使用には、普段の数倍の負担がかかります。 ※神剣魔法は以上の技が使用可能です。 アイアンメイデン 補助魔法。影からの奇襲によって、相手の手足を串刺す。 ダークインパクト 攻撃魔法。闇の力を借りた衝撃波で攻撃する。 ブラッドラスト 補助魔法。血をマナに変換し、身体能力を増強する。
,
,
499 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:05:49 ID:QuncIT3z
【アセリア@永遠のアセリア】 【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】 【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、ひぐらし@ひぐらしのなく頃に、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、情報を纏めた紙×2】 【状態:肉体的疲労中、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】 【思考・行動】 基本:ゲームには乗らない 1:二人の戦いを見守る。つぐみが危なくなったら戦いに割り込む。 2:頃合を見て瑞穂とことみとの合流地点(海の家)に向かう。 3:無闇に人を殺さない(但し、殺し合いに乗った襲撃者は殺す) 4:強者と戦う 5:存在を探す 6:ハクオロの態度に違和感 7:川澄舞を強く警戒 【遠野美凪@AIR】 【状態:腹部打撲、腹部に重度の刺し傷、疲労大】 【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア】 【所持品1:支給品一式×2、包丁、救急箱、人形(詳細不明)、服(詳細不明)、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)情報を纏めた紙×2、永遠神剣第六位冥加の鞘@永遠のアセリア −この大地の果てで−】 【所持品:支給品一式×2、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、大石のノート、情報を纏めた紙×2】 1:??? 【備考】 ※春原陽平、小町つぐみの情報を得ました ※武がH173に感染していることに気が付きました ※永遠神剣第四位「求め」について 「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。 ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。 オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度)
500 :
代理トウカ :2007/10/20(土) 02:06:22 ID:QuncIT3z
□ 「はぁっ……はぁっ……」 小町つぐみと別れてから少しの時間が経過。千影は疲労で震える身体を引き摺りながら病院を目指していた。 その心を濡らすのは仲間を想う心、そして一握の不安。 ――悪い予感がする。 今の自分には時詠は無く、明確な未来視を行う手助けとなる道具は存在しない。 元来持ち合わせているある程度の予言能力に頼るしかない。 ひとまずつぐみ君にはミニウージーの予備マガジンを渡しておいたが、逆にその行動が何か最悪の結末を呼び起こす引き金となってしまった気がしてならないのだ。 もしかして『他に何か渡すべきものがあった』のではないか。 そんな信憑性の無い予感が先程から拭い切れない。 一度落ち着いたら、タロットを使って占いをやっておくべきかもしれない。 この疑惑と硝煙の匂いに満ちた島で確信となり得る様子はごく僅かしか無い。 私達は迷う。 私達はもがく。 私達はそれでも必死に光を目指す。 たとえその先に待ち受けている未来がどれほど残酷なものだろうと。 最後に待ち受ける希望のため、歩みを止める訳には行かないのだから。
,
502 :
代理トウカ :
2007/10/20(土) 02:07:12 ID:QuncIT3z 【E-6上部 /2日目 早朝 放送直前】 【千影@Sister Princess】 【装備:トウカのロングコート、ベネリM3(7/7)、12ゲージショットシェル96発、ゴルフクラブ】 【所持品1:支給品一式×7、九十七式自動砲の予備弾95発、S&W M37 エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、 出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】 【所持品2:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】 【所持品3:朝倉音夢の生首(左目損失・ラム酒漬け) 朝倉音夢の制服 桜の花 びら コントロール室の鍵 ホテル内の見取り図ファイル】 【所持品4:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、デザートイーグルの予備弾92発】 【所持品5:C120入りのアンプル×8と注射器@ひぐらしのなく頃に、各種医薬品】 【所持品6:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房) 】 【状態:洋服の上から、トウカのロングコートを羽織っている。右肩軽傷、 両手首に重度の擦り傷、左肩重傷(治療済み)、魔力残量微量、肉体的疲労極大、深い深い悲しみ】 【思考・行動】 基本行動方針:罪無き人々を救い、殺し合いに乗った者は倒す。 1:病院へと向かう(疲労のため進行速度遅め) 2:アセリアと合流して、悠人への対処法を考える 3:また会う事があれば智代を倒す 4:永遠神剣に興味 5:北川潤、月宮あゆ、朝倉純一の捜索 6:舞を何とかしたい 7:つぐみを心配 【備考】 ※四葉とオボロの事は悠人には話してません ※千影は原作義妹エンド後から参戦。 ※ハクオロを強く信頼。 ※所持品3の入ったデイパックだけ別に持っています。 ※まともな体力が残っておらず、すぐにでも休憩した方が良い状態です。