2 :
ルール:2007/07/12(木) 00:49:24 ID:IU7typAw
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
3 :
ルール:2007/07/12(木) 00:50:25 ID:IU7typAw
【舞台】
http://www29.atwiki.jp/galgerowa?cmd=upload&act=open&pageid=68&file=MAP.png 【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
4 :
ルール:2007/07/12(木) 00:50:59 ID:IU7typAw
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
5 :
参加者名簿:2007/07/12(木) 00:53:09 ID:IU7typAw
3/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
○ハクオロ/●エルルゥ/●アルルゥ/○オボロ/○トウカ/●カルラ
3/3【AIR】
○国崎往人/○神尾観鈴/○遠野美凪
2/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
○高嶺悠人/○アセリア/●エスペリア
2/2【Ever17 -the out of infinity-】
○倉成武/○小町つぐみ
1/2【乙女はお姉さまに恋してる】
○宮小路瑞穂/●厳島貴子
4/6【Kanon】
●相沢祐一/○月宮あゆ/○水瀬名雪/○川澄舞/●倉田佐祐理/○北川潤
3/4【君が望む永遠】
○鳴海孝之/●涼宮遙/○涼宮茜/○大空寺あゆ
1/2【キミキス】
●水澤摩央/○二見瑛理子
4/6【CLANNAD】
●岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/○伊吹風子/●藤林杏/○春原陽平
3/4【Sister Princess】
○衛/○咲耶/○千影/●四葉
4/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
○土見稟/○ネリネ/○芙蓉楓/○時雨亜沙
2/5【D.C.P.S.】
○朝倉純一/●朝倉音夢/●芳乃さくら/○白河ことり/●杉並
3/7【つよきす -Mighty Heart-】
●対馬レオ/●鉄乙女/○蟹沢きぬ/●霧夜エリカ/○佐藤良美/●伊達スバル/○土永さん
3/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
○前原圭一/●竜宮レナ/○古手梨花/●園崎詩音/●大石蔵人/○赤坂衛
1/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
●双葉恋太郎/○白鐘沙羅/●白鐘双樹
【残り39/63名】 (○=生存 ●=死亡)
6 :
代理の代理:2007/07/12(木) 00:56:43 ID:IU7typAw
今まで出会った中で、ハクオロと並んで頼りになりそうな相手(高校生ぐらいなのに殺し合いの場に動じていなさそう)なので、できれば同行して欲しい相手だったのだが、二人の性格的にはそうなってしまうだろう。
そして場合によってはあの鳴海孝之を連れて合流という可能性もありうる。
しかし二人を止められそうな材料は瑛理子にはない。
(とは言え保険ぐらいはかけておくべきね)
と考え、
「私たちはこれからプール、レジャービルを経由して、工場に向かうつもりなの」
と言いながら
“恐らく盗聴されているから、紙に書くけど、そこでもしかしたら、この首輪を何とか出来るかもしれない”
そう紙に書いた。
その文字に驚いたようだったが、何とか返事を返してきた。
「じゃあ、孝之さんや他の探している相手を見つけたら、そっちに向かってもらうってことでいいのか」
“大丈夫なのか?”
「……ええ、そのことなんだけど、出来れば一度、そうね15時くらいには工場に来て欲しいの」
と言った。
“首輪の現物があるから、それを調べようと思ってるの”
「……何故だ?」
「工場のあるエリア一帯はマップの端っこで、しかも二箇所からしか入れないから、籠城するにはもってこいなの」
これは事前にハクオロと決めてあった事だ。
守りやすいのは事実だし、工場に篭る建前にもなる。
そして時間を区切れば、探している人間が見つかるまで来ないということはなくなる。
「……つまり俺たちは偵察隊ってところか」
「そう、だから次の放送だとさすがに時間が足りないから、その次の放送の前に、一度詳しい情報が欲しいの」
これは保険であると共に、本音だ。
どんな人間がいるのか、どこで誰が死んだか、そういった情報は非常に貴重だ。
そして
「じゃあ、俺たちも大体のルートを決めておいたほうがいいな」
悠人はその裏に秘められた意図を明確に理解して答えた。
そう、あらかじめルートが決まっていれば、……もし悠人たちが時間に工場に来れなかったとしても、そのこと自体が情報となる。
そう理解出来たからこそ、悠人はそう言ったのだ。
7 :
代理の代理:2007/07/12(木) 00:58:51 ID:IU7typAw
筆談と会話に瑛理子は手ごたえを感じていた。
だから、衛が筆談に参加してきたとき、起こりうる事態を完全に失念していた。
“その首輪ってどうしたの?”
首輪がある以上死んだ人間から奪ったに決まっている、その相手をどうしたのか、不安になったのだろう。
だから、眉唾な話ではあるが納得させるために
“エスペリアっていう
とまで書いた瞬間
「!! エスペリアが、どうしたって!!」
と悠人が叫ぶのを止められなかった。
(っしまっ!!)
考えてみれば、死んだ彼女に知り合いがいる可能性は高かった。
しかしその可能性を全く考えていなかったのだ。
そして、会話の流れと全く関係の無い叫びが上がってしまった。
「……エスペリアは映画館で」
とっさにハクオロが話の流れで叫んだようにつなげる。
そしてその後を観鈴が不自然にならないように捕捉する。
だがその間、瑛理子は生きた心地がしなかった。
やがて、5分ほどして、最もそう感じただけで実際には二分くらいだったかもしれないが、首輪に異常がないことに安堵しながら、ふーと息を吐いた。
(ごまかせたのかしら?)
悠人とハクオロの会話は続いている、
(それとも、全員を盗聴しているわけではないのかもしれない)
悠人はかなりのショックを受けているようだった、
(人数が多くて正確には聞き取れないという可能性は……低いわね)
しかし今はこの思考のほうが大事だった
(一番考えたくないけど、そもそも筆談をどうにかして見られている可能性もあるわね、でも結局は保留ね)
そう締めくくると、瑛理子は会話に戻っていった。
8 :
代理の代理:2007/07/12(木) 00:59:41 ID:IU7typAw
表面上は平静を取り戻した悠人に観鈴が、エスペリアの遺体が消えてしまった事を話すと、悠人からは驚くべき話が帰ってきた。
要約するとエスペリアは別の世界の人間ではない奴隷種族で、永遠神剣とかいう剣を使い、普通の人間では軍隊でも歯が立たない力を持ち、悠人は現代日本からその神剣とやらに、異世界ファンタズマゴリアに召喚されたらしい。
正直言ってハクオロの話以上に疑わしいのだが、エスペリアの遺体が消えてしまったのは事実だ。
そしてそのエスペリアのものだという永遠神剣「献身」らしいものを、博物館で悠人たちを襲撃した相手が持っていたというのだ。
(……認めたくはないけど、この会場には異世界の人間がいて、異世界の不思議なアイテムがある。
つまりこの島自体が異世界って可能性もあるわけね)
頭を抱えたくなりそうな情報だ。
だが、同時に大きな収穫でもある。
まず、悠人は現状でもかなり強そうだが、その神剣とやらがあれば桁違いに(悠人によれば龍さえも倒せるくらい)強くなるらしい。
それは悠人と同じ世界のアセリアという女性も同じようだ。
つまり、もし悠人達の剣があれば殺し合いに乗っている人間を、たやすく止められるということだ。
そして、悠人はその神剣の力で、異世界に移動したことが(2回も)あるらしい。
ならば、その神剣があればこの会場から脱出する事も可能かもしれない。
しかしそれは逆に言えば
(それだけの力を持った相手ですら主催者に連れて来られた……ということね)
という溜め息を付きたくなる結論もでてくるのだった。
9 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:00:47 ID:IU7typAw
その後の情報交換で
「そのカニという相手は知らないが、トウカがこのような殺し合いに乗るとは考えられない」
といった情報や
「つまり、その大石蔵人、赤坂衛、前原圭一、古手梨花の四人はあのタカノについて何か知っているかもしれないって事か」
という情報や
“ライフライン関係の施設は、この島の地下にあるんじゃないか”
といった情報が交わされた後。
「君はエスペリアを殺した相手を見つけたらどうするつもりだ?」
ハクオロは悠人にそう聞いた。
「……殺すなっていいたいのか?」
殺す、という単語に衛と観鈴がビクッとなるが、そもそも話を聞く限りでは悠人は望まない戦いであったにせよ、異世界で何人ものスピリットを殺していたらしい。ならば敵、それも憎い相手を殺しても不思議はないだろう。
「……ぶちのめして、ハリセンをくらわすぐらいの事はする。
けど、多分そいつを殺しても、エスペリアは喜ばない、だから、殺すつもりはない」
(一応な)
それで、話は終わった
彼らは知らない、エスペリアを殺したのは、観鈴の探している相手だということを。
十数分後
「じゃあ、そっちも気をつけてな」
五人はプラネタリウムの外にいた。
「我々よりも君たちのほうが恐らく危険は多いはずだ、くれぐれも無茶はするなよ」
予定通り、ハクオロ、観鈴、瑛理子の三人はレジャービル、プール、廃墟郡を経由して工場へ。
「大丈夫だよ、悠人さんにはボクがついてるんだから」
悠人と衛は映画館、学校、博物館、新市街、を通り参加者との接触や、情報を集めながら、15時までに工場へ。
「気をつけてくださいね」
共に脱出を誓う彼らは、しばしの別れを惜しむ。
「工場に入るときも、油断しないで」
再び彼らが再会出来るか、それは誰にもわからない。
10 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:02:01 ID:IU7typAw
【偵察チーム】
【時間:午前】
【現在地:プラネタリウム】
【思考、行動】
基本方針:映画館、学校、神社、新市街を経由して参加者の捜索、情報収集を行いながら15時までに工場へ。ただし時間の経過によっては何箇所か立ち寄らずに、時間までに工場に着くことを優先。
思考1: 有益な情報を集める、特にタカノの事を知ると思われる4人を重視。また、可能なら鳴海孝之が持っているというノートパソコンを入手。
【備考】
※ハクオロ、観鈴、瑛理子と協力状態。
※工場にハクオロ達が居ない可能性も考慮。その場合レジャービル、プラネタリウムの順に移動。
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
※禁止エリアについて学びました。(禁止エリアにいられるのは30秒のみ。最初は電子音が鳴り、後に機械音で警告を受けます。)
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、
予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾】
【状態:精神状態は表面的には普通、疲労軽程度、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:アセリアと合流
2:咲耶や千影を含む出来る限り多くの人を保護
3:ネリネをマーダーとして警戒(ただし、名前までは知らない)。また、彼女がなぜ永遠神剣第七位“献身”を持っていたのか気になって仕方が無い。
4:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……
5:エスペリアを殺した相手を積極的に探すつもりはない、但し出会ったら容赦するつもりはない
6:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
11 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:02:35 ID:IU7typAw
【備考】
※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
※上着は回収しました。
※レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
※遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
※ハクオロとの会話でトウカをマーダーでないと判断、蟹沢きぬについては保留
※エスペリアを殺した相手を殺すつもりは(一応)ない
※原作の四章、アセリアルートから連れてこられた、アセリアはハイロゥが黒く染まった(感情が無い)状態だと思っている
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)】
【所持品:支給品一式、ローラースケート、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:精神状態はほぼ正常、疲労軽程度】
【思考・行動】
基本方針1:死体を発見し遙や四葉の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
基本方針2:あにぃに会いたい
基本方針3:悠人さんが心配
1:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
2:咲耶と千影に早く会わなきゃと思う。
3:ネリネをマーダーとして警戒(ネリネの名前までは知らない)。
4:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える。
【備考】
※遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
※瑛理子から、鳴海孝之の情報を得ました。
※TVカメラ付きラジコンカーは一般家庭用のコンセントからでも充電可能です。充電すれば何度でも使えます。
※ラジコンカーには紐でカッターナイフがくくりつけられてます。
※スーパーで入手した食料品、飲み物は二日程度補給する必要はありません。
※医薬品は包帯、傷薬、消毒液、風邪薬など、一通りそろっています。軽症であればそれなりの人数、治療は可能です。
※日用品の詳細は次の書き手さんにまかせます。
12 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:03:15 ID:IU7typAw
【工場探索チーム】
【時間:午前】
【現在地:プラネタリウム】
【思考、行動】
基本方針1: レジャービル、プール、廃墟郡を経由して工場へ。(工場に危険があった場合、レジャービル、プラネタリウムの優先順位で移動)
基本方針2:首輪の解析をする。
1: 悠人と衛が心配
【備考】
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
※禁止エリアについて学びました。(禁止エリアにいられるのは30秒のみ。最初は電子音が鳴り、後に機械音で警告を受けます。)
※博物館で悠人たちを襲撃した相手(ネリネ)の外見と、その仲間と思われる相手の乗っている車について聞きました。
※悠人から、ファンタズマゴリア、永遠神剣、スピリットについて学びました。
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:Mk.22(7/8)、オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:精神をやや疲労】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない
1:アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
2:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
3:観鈴と瑛理子を守る。
4:トウカがマーダーに間違われるようなうっかりをしていないか不安
5:悠人の思考が若干心配
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。また、悠人達から狙撃についても聞きました。
※大石をまだ警戒しています
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※観鈴からMk.22を受け取りました
13 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:04:11 ID:IU7typAw
【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、予備マガジン(40/40)、食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:健康、元気一杯】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ハクオロと瑛理子と行動する。
2:往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識
※ハクオロにMk.22を預けました
※映画館に自分たちの行動を記したメモをおいていきました。
※衛から食料品、飲み物、日用品、医薬品(約半分)を受け取りました。
【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 8/8+1】
【所持品:支給品一式 ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【状態:左足首捻挫】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1:ハクオロと観鈴と共に工場に向かう。
2:仮に仲間を作り、行動を共にする場合、しっかりした状況判断が出来る者、冷静な行動が出来る者などと行動したい。
3:(2の追記)ただし、鳴海孝之のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。
4:鳴海孝之には出来れば二度と出会いたくない。
14 :
代理の代理:2007/07/12(木) 01:05:27 ID:IU7typAw
【備考】
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※ハクオロと神尾観鈴の知り合いの情報を得ました。
※パソコンで挙がっていた人物は、この殺し合いで有益な力を持っているのでは?と考えています。
※観鈴とハクオロを完全に信頼しました。
※悠人と衛も基本的には信頼しています。
※首輪が爆発しなかった理由について、
1:監視体制は完全ではない
2:筆談も監視されている(方法は不明)
のどちらかだと思っています。
「なあ風子……」
「はい。なんですか北川さん?」
「俺たち、こうして無事に百貨店まで戻ってこれたよな?」
「はい、そうですね。それがどうかしましたか?」
「ここまで来れたのって、はっきり言って俺が車を頑張って運転してきたからだよな? お前寝てたよな?」
「何ですか? 言いたいことがあるなら、回りくどいことは言わずハッキリ言ってください」
「そうか、なら言わせてもらうぞ。だからな風子――――」
「そいつを俺によこせえええええええええええええええええええええええええええっ!!」
百貨店の店内に北川のそんな叫び声が響き渡った。
■
少し時間を戻そう。あれから慣れない操縦で自動車を走らせていた北川は、なんとか無事に百貨店へと到着した。
「ふう……。しかし、さすがは文明の利器だな。歩いて行くより全然早いぜ」
北川はそう言って百貨店の前に車を駐車させてシートベルトを外すと、後部座席で未だに熟睡中の風子を起こすことにした。
支援
。
「おい風子、起きろ。百貨店に着いたぞ」
「むぅ……夜空からたくさんのヒトデが…………」
「それは多分星だ! というか早く夢から覚めろ!!」
少々力強く風子の肩を揺すり、ようやく彼女を夢の世界から生還させることに成功する北川。
「ふぁ……。ん……? 何ですかぁ北川さん……?」
「だから、百貨店に着いたんだよ。お前の荷物が残っているか確認するためにな。ほら行くぞ」
北川は自動車から降りると、先ほど手に入れた探知機で百貨店と周辺に自分たち以外の反応があるかを確かめる。
「よぉし、どうやらこの辺りと百貨店の中には今のところ誰もいないみたいだな」
「? 北川さん、何ですかソレは?」
「風子が寝ている間にちょっと手に入れたんだよ。どうやら、この殺し合いに参加している奴に反応する探知機みたいなんだ」
「そうですか。まあ風子は機械のことはあまり詳しくはないので別に興味ありませんが」
風子はそう言って探知機から目を離すと車から降りて一人で先に百貨店の方へと歩き始めた。
「あ、おいおい待てよ」
その後を追うため北川も自身のデイパックを手に取ると慌てて駈け出した。
百貨店に入ると早速二人はあの時レナに襲われた場所へと戻っていく。
「確かこのあたりのはずだが……」
「北川さん、北川さん」
「ん? なんだ?」
「コレはなんでしょう?」
そう言って風子が指さす先にあったモノを見た瞬間、北川は一瞬「げっ!?」という表情を浮かべる。
――そう。そこにあったのは、あの時北川がレナに食らわせたチンゲラーメンのカップであった。
よく見ると、その周辺には細くて黒いチヂレた『何か』が散乱している。
「あ……。あ〜……コレはだな……。と、とにかく、まずはお前の荷物を探すぞ!」
「?」
(……ていうか、お前もあの時コレ見ていただろ?)
「北川さん、ありましたっ! 明日を生き抜くために風子が与えられた貴重な糧がっ!」
それから風子のものと思われるデイパックは割とあっさり見つかった。どうやらレナはあの後これには目もくれずに他の場所へと移動したのだろう。
(ってことは……ロクもん入ってなかったんだろうな、きっと……)
目の前でデイパックを開ける風子と右手に持つ探知機の液晶を交互に見ながら北川はそう思った。
まあ、その北川の予想は見事に的中するわけなのだが。
――――――ある一つのものを除いて。
。
「ところで風子。お前その中身まだ確認してなかったのか?」
並べられている衣類などの商品を軽く一瞥しながら北川は風子に尋ねる。
「え? 言いませんでしたっけ?」
「ん……。聞いたような、聞いてないような……」
「やれやれ、北川さんはやっぱり変な人ですね。やはり大人である風子がちゃんと面倒を見てあげないと――あっ、北川さん見てください!」
「ん? どうした? もしかしてなんか便利そうなものでも入って――」
「はい。ネコミミです!」
そう言う風子の手には確かにネコミミが付いたヘアバンドが握られていた。
「んなモンぐらいでいちいち声をかけるなあぁっ!!」
「でも付属でシッポも付いていたんですよ?」
「それでもどう見たって役にはたたん!! ったく……」
気を取り直し、北川は周辺の商品棚から何か使えそうなものはないだろうかと思い、早速調べようとした。
すると再び風子の声がかかる。
「北川さん!」
「あん? 今度はなんだ?」
またしても振り返って風子のほうを見ると、そこには――
「はい。ハチマキが出てきました!」
真っ赤なハチマキ(それも結構長い)を握る風子がいた。
「だ・か・ら! そういういらんモンぐらいで声をかけるなっつーに!!」
「そうですか? よくわかりませんが北川さんには似合いそうだと思ったのですが……?」
「いらんわ! まったく……。くそっ、次は絶対に振り返らねえからな……」
いちいちツッコムのにも疲れてきたと思いながら北川は商品の物色を開始する。
すると、やはり『二度あることは三度ある』とばかりに背後から風子の声がした。
。
「北川さん、北川さん!」
「ああ、もう鬱陶しいな! 何か出てきたとしてもどうせロクなものじゃないんだろ?」
「いえ。今度は本当に凄いものです!」
「はっ! この流れからしてどうせフリーのカメラマンのカメラとかツンデレクイーンのメガネとか『それと便座カバー』って流れだろ?
そんなもんに興味なんかちっとも湧かないし、欲しくもねえ。風子のデイパックから出てきたんだから責任もって風子が持ってろ!」
「そうですか……最後に出てきたのは本当に凄いのに……」
後ろから風子のそんな残念そうな声が聞こえてくるが北川は気にすることなく物色を続ける。
「――あ。説明書も付いてました。え〜っと、なになに……
コルト・パイソン。1956年にコルト社が開発した『蛇シリーズ』最上級モデル。
その仕上げのよさから『リボルバーのロールスロイス』とも呼ばれる.357口径の大型リボルバーで…………」
「え?」
支給品の説明書を読んでいるらしい風子のその言葉を耳にした瞬間、北川の体がまるで瞬間冷却されたかのようにピタリと止まった。
「な、なあ風子……今何て……」
ギギギと音をたてるように北川の首がゆっくりと風子の方へと向いていく。
「? なんですか北川さん? 北川さんは銃には興味がないと言ってたじゃないですか?」
「なにぃ!? 銃だとお!?」
その言葉を聞くや否や、北川は一気に体ごと風子の方へ目を向けた。
するとそこには、確かにマグナムリボルバー、コルト・パイソンを持った風子の姿があった。
そして今に至る。
。
■
「――でも北川さんは風子の荷物に入っていたのだから風子が持っていろと……」
「あ、あれはちょっとした条件反射で……。と、とにかく! 譲ってくれ、頼む!!」
「しかし、これを北川さんに渡してしまったら風子は自分を守るための武器がなくなってしまいます。
そうなってしまったら風子はどうすればいいんですか? 風子の持つ大人の魅力でどうにかしろとおっしゃるんですか?」
「そんなちっこい体のどこが大人だ!?
あ……あ〜……。だったら、俺の持ってるチェーンソーと交換しないか!? 神すら殺せる武器だぞ!?」
そう言いながら北川は自身のデイパックからチェーンソーを取り出して風子に見せる。
だが、風子は――
「北川さんはそんな物騒なものをか弱い乙女である風子に持てとおっしゃるのですか?」
と言って頬を膨らませて怒る始末。
「待て、銃だって充分物騒だろうが!? というか、か弱い乙女ってもんは普通銃も武器も持たねーよ!!」
「だったら北川さんのその発言はさっき風子にチェーンソーを渡そうとしたことにすら矛盾すると思います!」
まるで漫才のようにギャーギャーと騒ぎ続ける二人。
そんな二人を止めたのは――――
ぐううううううううううううううううううううううっ……
「…………」
「…………」
息ぴったりとばかりに同時に鳴った二人の腹の虫であった。
。
支援
。
支援
「――北川さん」
「ああ、なんだ風子?」
「風子はお腹が空きました」
「奇遇だな。俺もだ……」
「…………」
「…………」
わずかばかりの沈黙。
そして――――
「ですから北川さん、なにか作ってください」
「Why?」
風子の突然とも言えるそんなお願いを聞き、北川は思わずそう口にしてしまった。
「聞こえなかったんですか? 風子はお腹が空いたので北川さんに何か料理を作ってほしいと……」
「 ち ょ っ と 待 て 。
なんで俺がお前のために飯を作らなければならんのだ? 第一、食べるものなら俺たち貰ってるだろ?」
そう言って自分のデイパックをパンパンと叩いてみせる北川。
だが、そんな北川に対して風子は珍しく真面目に答えた。
「でも、それは万一の時に備えてとっておくべきだと風子は思います。
お腹が空いて力が出ない、ピンチという時になにも食べ物がありませんでしたじゃ凄く格好悪いです」
「ム……」
確かにそれもそうだと北川は思った。
自分たちが最初に主催者――タカノから与えられたデイパックに入っている食料の量ははっきり言って限られている。せいぜい2、3日分だろう。
そんな貴重な食料を(少しとはいえ)果たして今消費して本当にいいのだろうか?
ちょうど、自分たちが今いる場所は百貨店だ。上の階にいけばレストラン街があるし、デパ地下だってある。
料理はともかく、食材や飲み物はそれなりの数が揃えてあるはずだ。
それなら、風子の言った通り与えられた食糧はおそらく保存も利くだろうから出来る限り最後までとっておくべきだ。(最後というのはいつかという疑問もあるが今は保留だ)
そうと決まれば、と北川は再び口を開く。
「――わかったよ。じゃあまずは上の階に行こう。レストランなら食材や調理器具が揃っているはずだしな」
「やれやれ。本当に北川さんは……。やはり風子がいないと駄目ですね」
「お、おまえな……」
自身に呆れ果てる風子に対して何か言い返そうと思った北川であったが――やめた。彼自身も相当腹が減っていたからだ。
「あ……。でも俺、料理なんてもちろんしたことはないぞ?」
「構いません。今はお腹を満たせればそれでいいんです。北川さんの作る料理がどんなにマズくても風子は大人ですから我慢してあげます」
「ああそうですか……」
レストラン街へ向かうためのエレベーターのボタンを押しながら北川は風子にそう答えた。
(俺だってカレーくらいなら作れるっつーの……多分……)
などと内心呟きながら……
――だから北川は気がつかなかった。
ポケットにしまった探知機が自分たち以外の別の参加者の反応を新たに捉えたということに――
。
支援
【A-3 百貨店店内/1日目 昼】
【北川潤@Kanon】
【装備】:首輪探知レーダー、車の鍵
【所持品】:支給品一式×2、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン(六時間/六時間)、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7
【状態】:至って健康。空腹
【思考・行動】
基本:殺し合いには乗らない。というかもう乗れねーつーの!
1:とりあえず腹が減ったからまずは食事だ
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)と信用できそうな人物の捜索
3:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える
4:鳴海孝之(名前は知らない)をマーダーと断定
【備考】
※チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明。
※チンゲラーメンを1個消費しました。
※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが人間そのものを探知するのか、首輪を探知するのかまだ判断がついてません。
※車は百貨店の出入り口の前に駐車してあります。(万一すぐに移動できるようにドアにロックはかけていません)
※車は外車で左ハンドル、燃料はガソリン。
※一連の戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついています。
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾6/6)
【所持品】:支給品一式、猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)
【状態】:健康。空腹
【思考・行動】
1:風子お腹が空きました
2:北川さんは風子がいないと本当に駄目ですね。やれやれです
【備考】
※状況をまだ完全には理解していません
※名簿に目を通していないので朋也たちも殺し合いに参加していることを知りません
■
昼間でありながらまったく人気のない市街を古手梨花は走っていた。
彼女が今いるのはA-3のやや北東部。B-3との境界線付近だ。
――確かに、彼女が先ほど一応の目的地と決めたD-2に行くならばB-1、C-1の方のルートから行く方が確かに早く着ける可能性はある。
しかし、C-2が禁止エリアとされており、なおかつ幼い体である自分の脚力では次の放送――新たな禁止エリアが発表される前にD-2にたどり着けない可能性もある。
それに、次の放送でC-1、D-1、D-2のいずれかのエリアが禁止エリアに指定されていたら自分は危うく袋の鼠と化していたかもしれない。
ゆえに、梨花は少々遠回りになるが、D-2までは少なくともB-1方面よりは自分の行動が制限される可能性が低いであろうA-3方面のルートからD-2へ向かうことにしたのだ。
『急がば回れ』――というわけである。
。
梨花は一度デイパックから時計を取り出して現在の時刻を確認する。
――時刻は間もなく正午。第2回の定期放送が流される時間が迫ってきていた。
(でもあの離れ小島とも言える場所からはなんとか抜け出すことが出来た……! それは間違いない……!)
自身にそう言い聞かせる梨花であったが、それでも彼女は焦っていた。
そう。放送が流れるということは、新たな禁止エリアが発表されるだけでなく、それまでに死んだ人間が発表されるということだ。
もしその死者たちの中に圭一や赤坂の名前が含まれていたら…………
「大丈夫……圭一や赤坂たちがそう簡単に死ぬような奴じゃない。そうかんたんに……」
――*サレルヨウナ奴ジャナイ……
「――――ッ!!」
『*す』、『*される』などという言葉が浮かぶたび、梨花の全身に悪寒が走る。
だが、それでも梨花は止まらない。いや、止まることは出来ない。
今自分がこうしている間にも圭一たちに危機が迫っているかもしれないのだ。ならば、のんびりしている暇など、休んでいる暇などないではない。
「!? あれは……」
しかし――ふと、ある建物が目に入った瞬間、梨花の足は止まった。
市街の一角で他の建物よりも明らかに高くそびえ建っているその場所。その場所の名は――――
「百貨店……」
思わず梨花はその名を口にしていた。
新市街一帯の名所の場所は移動するときに嫌でも地図を見て頭に叩き込んでおいた。
それに、自分が選んだこちらのルートのエリアではスクラップの山の次に現れる名所だ。忘れるわけがなかった。
「…………」
梨花はしばしの間、ただ黙って百貨店を眺めていた。
――が、ふと頭のなかにある憶測が浮かんだ。
支援
――――もしかしたら、あそこに圭一たちはいるのではないか、と。
「――いや……。その可能性はまずないわ。
圭一や赤坂のような人間なら間違いなく一か所の場所にとどまることよりも移動するなり何らかの行動を起こしているはず……
だから、そんなことはあるはずがない……!」
軽く頭を左右に振って頭に浮かんだくだらない考えを振り払おうとする梨花。
しかし、それはなかなか彼女の頭から離れてくれなかった。
考えてみれば、この殺し合いが始まって以降(確認してはいないが)彼女にとって信じられないことが数多く発生している。
異能者ではないはずなのに、あのホールから自分たちを魔法のように転移させた鷹野。未だに行方が分からない羽入の存在。レナと詩音の死――――
彼女がどこか『当たり前』と勝手に決めつけていた常識はこの島では次々と覆されているではないか。
「…………」
再び黙りこくってしまう梨花。
そんな彼女をあざ笑うかのように時は一秒、また一秒と過ぎ去っていく。
そして彼女は決断した。
「あくまでもこれは圭一たちがいるかどうかを確かめるだけ……。確かめるだけよ……」
そう呟くと、梨花は百貨店へ向けて全力で走りだしていた。
支援
。
支援
【A-3 北東部(百貨店周辺)/1日目 昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備】:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭
ヒムカミの指輪(残り3回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄
紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康、疑心暗鬼(中程度)
【思考・行動】
1:百貨店に行って圭一や赤坂たちがいるかいないかを確認する
2:確認後D-2へ移動
3:死にたくない
【備考】
※皆殺し編直後の転生。
※ネリネを危険人物と判断しました。
※疑心暗鬼に囚われはじめてます。雛見沢症候群の症状に酷似していますが、女王感染者の為、症状が現れる事はないはずです。(なんらかの外的要因か、症候群と無関係かは後続の書き手さんににおまかせします)
※探したい人間の優先順位は圭一→赤坂→大石の順番です。
支援
※ヒムカミの指輪について
・ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
・ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
・原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※紫和泉子の宇宙服について
・紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。
・ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。
・水に濡れると故障する危険性が高いです。
・イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。
・朝倉純一にはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。
・またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。
(うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします)
宇宙服データ
身長:170cm
体重:不明
3サイズ:110/92/123
偽装体データ
スレンダーで黒髪が美しく長い美人
身長:158cm
体重:不明
3サイズ:79/54/80
オボロは辺りの様子を窺いながら、慎重に森の中を歩いていた。
普通に進むのに比べて大幅に行軍速度が遅くなるが、それは必要経費だ。
千影の言っていた『銃』という道具は、弓矢を遥かに凌駕する恐るべき武器であるらしい。
実際に体験した訳では無いが、此処は出来る限り警戒しておくべきだろう。
どの方角から攻撃されるか分からない以上、極力物陰に身を隠し続けるのが重要だ。
聳え立つ木の影から、そっと頭を出す。
周囲の安全を確認した後、次の木の陰へと一目散に走り移る。
そしてまた近辺の状況を確認してから、次の木に移るという動作を繰り返す。
卓越した身のこなし、常人を大きく上回る身体能力。
疾風の如き速度で走り回るオボロを、正確に撃ち抜ける射手などこの世には存在しない。
だがオボロは一つ、大きな勘違いをしていた。
木を盾にしながら移動する――それは確かに、矢相手なら十分有効な行動だろう。
そう、あくまで矢が相手ならば。
事は、オボロが木の陰を飛び出した直後に起こった。
「…………っ!?」
鳴り響く銃声、轟く爆発音。
全身に伝わる凄まじい振動。
肌に叩きつけられる、飛散した木の破片。
オボロが震源に目を向けると、太さ1メートルはあろうかという木の幹が、無惨にも叩き折られていた。
支えを失った大木が力無く揺らぎ、重力に従って倒れてくる。
圧倒的な質量を伴ったソレが直撃すれば、いかなオボロとて無事では済まぬだろう。
「――くぅぅッ……!」
オボロは即座に数歩の助走を経て、大きく地面を蹴り飛ばした。
制限を受けてはいるものの、トゥスクル国随一と言えるその跳躍力は凄まじい。
僅か数秒足らずの内に危険地帯から離脱し、身体の降下が始まった時にはもう、現状を把握すべく思考を巡らせていた。
支援
銃声が鳴り響いた後に、近くにあった木が破壊されたのだから、自分が狙撃されたのだという事は分かる。
元々銃声がした方向に向かっていたのだから、これは十分に予測し得た事態だ。
だが、この恐ろしい破壊力だけは完全に想定外だ。
一撃で大木を破壊する程の遠隔攻撃など、少なくとも自分の常識では有り得ない。
これでは木を盾にしての移動など、敵に照準を合わせる猶予を与えてしまうだけだ。
迫り来る爆撃は易々と盾を貫通し、只の一撃で致命傷となるに違いないのだ。
「ク――――」
盾が意味を成さぬのなら、最早自力で全て回避し切るしかない。
オボロは血相を変えて、左右に、或いは上下に、縦横無尽に跳ね回る。
そこで再び銃声が鳴り響いて、すぐ近くにあった茂みが跡形も無く粉砕された。
そしてその銃声のお陰で、オボロは視認する事が出来た――右方約150メートル程の所に居る、狙撃手の姿を。
特徴的な青い長髪、そして自分と同じような長い耳を携えた少女が、地面に寝転んだ体勢で筒状の物体を構えていた。
恐らくは、あの少女が狙撃してきているのだろう。
クロスボウで反撃したい所だが、この距離から標的を捉えるのは難しい。
ならばと、オボロは距離を詰めるべく疾走し始めたが、そこで少女の構えた筒が火を噴く。
その一秒後には前方の小木が、呆気無く爆散していた。
直撃どころか掠ってすらいないというのに、その衝撃が自分の所にまで伝わってくる。
鼓膜を痛め付ける轟音が、オボロに一つの確信を齎す――――掠っただけで、間違いなく死ぬと。
このような状況で交戦を続けようとするのは、ただの自殺行為に過ぎぬだろう。
自分はまだ、四葉を殺した償いすら成し遂げれてはいない。
此処で血気に逸って死ぬ訳にはいかないのだ。
(……一旦引くしかないな)
くるりと踵を返す。
オボロは素早く決断を下し、狙撃手から距離を取るような方角に疾駆し始めた。
当然背後を狙われぬよう、不規則にフェイントを交えながらだ。
「……逃がしてしまいましたね」
冷静な狙撃手――ネリネは、遠ざかるオボロの背中を見送りながらそう呟いた。
銃を用いての遠距離狙撃は、予想以上に難易度が高かった。
確かに永遠神剣の身体能力強化を利用すれば、発砲の反動をある程度押さえ込む事は出来る。
動き回る獲物の一挙一動を、逃さず視認する事は出来る。
戦車をも破壊し得る九十七式自動砲ならば、敵が木の陰に隠れていようとも、その守りごと貫ける筈だった。
だが自分程度の射撃技術では、狙った箇所を正確に撃ち抜くのは困難だったのだ。
その所為で千載一遇の好機を逃してしまった。
とにかく、何時までも此処で休んではいられない。
ある程度の時間休息したお陰で、多少は体力・魔力共に回復した。
これからは移り変わる状況に対応して、的確な行動を取らねばならないだろう。
自分がこれまで見てきた限り、神社に向かった者は合計四人。
先程の男とその仲間が三人。
そしてもう一人は――
◇ ◇ ◇ ◇
舞台は神社の入り口付近に変わる。
突如鳴り響いた、鼓膜を奮わせる大きな銃声。
それは当然、トウカや千影の耳にも届いていた。
異変の正体を確かめるべく、千影が本殿から飛び出してくる。
「――トウカくん、今のは……?」
「某にも分かりませぬ。オボロが去った方向から聞こえ――――!?」
支援
支援
トウカはオボロが向かった方角を指差そうとして、大きく目を剥いた。
振り向いた先――左斜め前方より、巨大なナニかを構えた少女が、ゆっくりと歩いてきていた。
トウカには直感で分かった。
少女が持っているのは、恐らく銃、それも相当強力な部類に属するものだ。
「私は楓、芙蓉楓です。少々お尋ねしたい事があるんですが、宜しいでしょうか?」
突如現れた芙蓉楓が、重機関銃――ブラウニングM2“キャリバー.50”を保持しつつ、語り掛けてくる。
不快な音響を奏でる、酷く昏い声。
こちらを眺め見る、何処までも深い闇を湛えた瞳。
全身の様々な部位に付着した、紅い鮮血。
楓の身長とほぼ同じ大きさを誇る、最強の凶器。
あれだけの質量を持ち上げ続けるのは辛いだろうに、楓は決して銃を手放さない。
少女から伝わってくる尋常でない雰囲気が、巨大な重火器の存在が、トウカの警鐘をけたたましく打ち鳴らす。
(ク…………不味いな……)
全身の表面に鳥肌が立ち、手足を痺れさせる程の悪寒が湧き上がってくる。
トウカがちらりと横を眺め見ると、千影の顔にも焦りの色が浮かんでいた。
楓の構えたブラウニングM2“キャリバー.50”の銃口は、しっかりと自分達の方に向けられている。
自分一人ならまだ対応のしようもあるが、千影を連れて回避行動に移るのは難しい。
それにまだ楓が敵と決まっていない以上、此処は極力穏便に事を進めるべきだろう。
トウカは否応無く、楓との会話を行う羽目になった。
「……某の名はトウカ、エヴェンクルガの武士なり。お主の用件を伺おう」
「では聞かせて頂きます。稟くんが此処に来ている筈なんですけど……見かけませんでしたか?」
「すまぬが心当たりが無い。某達が此処に来てから出会ったのは、お主が始めてだ」
「そうですか……」
質問に対し嘘偽りの無い答えを返すと、楓の表情が落胆のソレへと変わった。
恐らくは探し人を見つけられなくて、落胆しているのだろう。
トウカは油断無く剣を構えたまま、冷静に思考を巡らせる。
……この殺し合いで人を探す場合には、二つのパターンが考えられる。
一つは、大切な人間を守る為に探し回っているというケース。
これなら全く問題は無い。
自分だってハクオロやアルルゥを護衛しようと、必死になって動き回っていたのだ。
止めるどころか寧ろ、暖かく見守ってやろうではないか。
だがもう一つは、特定の人物を殺す為に探し回っているというケース。
この場合は、易々と見過ごす訳にいかない。
幾ら相手が強力な武器を携えているとは言え、危険人物を放置など出来る筈が無い。
自分は正義を信念に戦う者。
誇り高きエヴェンクルガ族なのだから。
「楓殿といったか。お主は稟殿とやらと出会って、どうするつもりなのだ?」
「――決まっています、稟くんをお守りするんです。たとえこの身を犠牲にしてでも、絶対に最後まで守り通して差し上げるんです」
紡がれた返答には、一切の曇りも迷いも無い。
知略に長けているとは到底言えぬトウカですら、楓の言葉が本心であると確信出来た。
仲間を守る為に探し回るという行動原理は、トウカとなんら変わりない。
半ば正気を失っているように見えたが――もしや、楓の志は自分と同じではないのか? 仲間として、共に歩んでいけるのではないか?
そんな希望が、トウカの心に湧き上がる。
だがそこで一人の男が出現した事によって、状況は一変する。
「トウカ! 千影! これは一体……」
「――――オボロくん……」
逸早く気付いた千影が声を上げる。
現れたのは、ネリネの銃撃から逃げ延びたオボロだった。
そしてオボロの視点に立ってみれば、今の状態はトウカ達が追い詰められているようにしか見えない。
仲間が襲われているとなれば、やるべき行動など一つしか有り得ない。
支援
支援
「貴様、俺の仲間に何をやっている!!」
「オボロ、待――――」
トウカが制止の声を投げ掛けるが、それは余りにも遅い。
オボロは何の躊躇も無く、素早い動作で楓目掛けてボウガンを撃ち放った。
楓はすっと横に動いて矢を躱したが、それはオボロの狙い通りだった。
ボウガンは矢の再装填に時間が掛かり過ぎて、連続攻撃には不向きだ。
事実岡崎朋也との戦いでは、それが原因で逃げられてしまった。
少数戦に於いてボウガンが力を発揮するのは、最初の一発だけなのだ。
ボウガンのみで敵を仕留めるのは困難――ならば、連携の一環として組み込めば良いだけの事。
そう考えれば、最初の一発だけで十分。
敵を回避に回らせる事さえ出来れば、距離を詰める時間的猶予が生まれる。
「――――フッ!!」
疾風と化したオボロが、あっという間に楓の眼前まで走り寄る。
高重量の機関銃を装備している楓は、オボロのスピードにまるで対応出来ていない。
オボロは果物ナイフを振り下ろし、楓のブラウニングM2“キャリバー.50”を叩き落してた。
間髪置かずにブラウニングM2“キャリバー.50”を蹴り飛ばし、それと同時に楓の喉元へ白刃を突きつける。
「…………っ!」
「フン、ここまでだ曲者が。俺の仲間には指一本触れさせん」
その所業、正しく電光石火の如し。
オボロはその実力を余す所無く発揮し、一瞬で強敵を制圧してみせたのだ。
そしてこれは楓からすれば、孤立無援にして絶体絶命の危機。
此処で交渉を誤まれば、確実に殺されてしまうだろう。
だというのに――楓は凄惨に哂った。
支援
「フフ……貴方はこれまでもそうやって、人を襲い続けてきたんですか?
何もしていない人を、無慈悲に殺してきたんですか?」
告げられた一言。
それは『稟以外の男は全て絶対悪』と断ずる楓の思い込みが生んだ、つまらぬ疑念に過ぎぬ。
だがその言葉は、どんな攻撃よりも的確にオボロの心を射抜いていた。
オボロがよろよろと後退しながら、掠れた声を絞り出す。
「き、貴様何を言っている……?」
「だってそうでしょう。私はまだ何もしていないのに、一方的に襲い掛かってきたんですから。
トウカさん達に聞けば分かります。私はただ、質問をしていただけだと」
言われてオボロが視線を移すと、トウカがこくりと頷いた。
続けて楓が薄ら笑いを浮かべながら、話を続ける。
「ほら、ね。私は悪くないんです。なのにいきなり攻撃してくるなんて、おかしいです。怪しいです。
あ……分かりました。貴方が稟くんを襲った人なんだ、そうでしょ?」
何時の間にか楓の左手には、大鉈がしっかりと握り締められていた。
心なしか、瞳孔も大きく開いているような気がする。
追求を続けてゆく楓は、傍目から見ればとても愉しげだった。
その変貌に少々気圧されながらも、トウカはオボロを弁護しようとする。
「確かに楓殿の言うとおり、某達は危害を加えられてなどいない。だがオボロが殺し合いに乗っているというのは、楓殿の思い違いであろう。
オボロは清廉潔白なる武人。聖上の為に、国の為に、戦い続けてきた男。そんな男が悪の道に手を染めるなど、有り得ぬ事だ。
そうであろう、オボロ?」
「…………オボロくん。……君は、殺し合いに乗っていないんだよね? 信頼して……良いんだよね?」
支援
全員の視線を一心に受けながら、オボロは苦悩する。
此処で『殺し合いに乗っていない』とさえ言えば、全ては平穏無事に終わるだろう。
だがこちらを吟味するように眺め見る、千影の視線。
自分の所為で大切な存在を失ってしまった、少女の目。
世界に満ちた全ての悲しみを、漏らさず閉じ込めてしまったかのような瞳。
その瞳で見つめられると、胸が張り裂けそうなくらい痛む。
抑え切れぬ感情の奔流が、良心の呵責が、次々と押し寄せてくる。
理性では嘘をつくべきだと分かっているのに――気付いた時にはもう、言葉が溢れ出していた。
「……トウカ、千影、すまない」
「!? お主何を――――」
「俺はお前達が思ってるような男じゃないんだ! 俺は罪の無い者を――四葉を殺してしまったんだ!」
「「え…………」」
驚きの声は、トウカと千影のものだ。
衝撃的な告白に暫しの間、場が静寂に包まれる。
やがて千影が、確認するように言った。
とても、冷たい声で。
「オボロくん……それは本当かい?」
「ああ。兄者を守る為……少し前まで俺は殺し合いに乗っていたんだ」
「……それなら、私は君を許さないよ……必ず殺す……」
言い終えると、千影は鞄から短剣――永遠神剣第三位『時詠』を取り出した。
精一杯の憎しみを籠めて、オボロを思い切り睨み付ける。
やはりこの男は、確信犯の殺人鬼だったのだ。
あの時トウカを止めたのは、自分を欺く為だったのだろう。
この卑怯者によって、四葉は殺されてしまった。
自分にとっても兄にとっても大切な、可愛い妹は死んでしまったのだ。
オボロが何故正体を明かしたのかは分からないが、絶対に許せない。
止め処も無く滲み出る殺意のままに、千影は時詠を深く構える。
支援
。
支援
「――――待たれよっ!」
「……トウカくん、止めても無駄だよ。私は……オボロくんを殺す」
トウカはオボロと知り合いであったらしいから、止めようとするのは理解出来る。
それでも千影は、絶対にオボロを殺すつもりだった。
この島に兄は居ない――ならば自分が、報復を成し遂げなければならない。
だがトウカが発した言葉は、千影にとって予想外のものだった。
「……許さなくて結構、妹君を奪われた千影殿の苦しみは計り知れぬものでしょう。
ですがオボロの不始末は、仲間である某にも責任がある。ならば千影殿が手を汚す事など無い。
某がこの剣で以って、けじめをつけさせて頂く」
トウカはそう言って、ずいとオボロの前に踊り出た。
トウカの冷酷な双眸が、かつて仲間であった者の姿を眺め見る。
オボロは泣いているような、苦しんでいるような、そんな表情をしていた。
「オボロ……お主は武人として、決してやってはならぬ事をやってしまった。罪無き人の命を奪うなど、たとえ聖上の為であろうとも許されぬ。
何か申し開きする事はあるか?」
「……無い。千影が俺を殺すと云うのなら、その決断に従おう」
「そうか。ならば――此処でお主を斬るっ!」
正義を貫き通す為ならば、エヴェンクルガ族は何処までも冷徹になれる。
一切の容赦も躊躇も無く、トウカの剣が、オボロに向けて振り下ろされる。
奔る剣戟、飛び散る鮮血。
左肩から胸にかけて大きく斬られたオボロは、糸が切れた人形のように倒れ伏せた。
(聖上……。某は……某はっ…………!)
支援
。
。
支援
トウカの心を、形容しがたい激情が襲う。
手に伝わる肉を裂く感触、崩れ落ちる仲間の姿――今まで体験したどんな出来事よりも、心が痛かった。
オボロが死んだ事を知ってしまえば、ハクオロもユズハも酷く悲しむだろう。
何より自分自身だって、戦友の死は悲しい。
それでもトウカはどうにか感情を抑え込んで、千影の方へと首を向けた。
「千影殿……オボロの罪は清算しました。ですから何卒、怒りをお鎮め願いたい」
「…………うん、そうだね」
答える千影の表情は、酷く沈み込んでいる。
復讐を成し遂げた達成感など、微塵も見て取れなかった。
それも当然だろう――オボロが死んだところで、四葉は生き返ったりしないのだから。
残ったのは空しさと、深い悲しみだけだった。
トウカ達が悲しみに打ちひしがれていたその時、それまで黙りこくっていた楓が口を開く。
「これでまた一人、稟くんに害を成す人間が減りましたね。
ですが――この時間になっても稟くんが現れないという事は、私は春原さんに騙されたみたいですね」
「春原……確かあの時の……。楓殿、その話を詳しく聞かせてくれぬか?」
トウカが訊ねると、楓は事の顛末を語り始めた。
楓は春原陽平と名乗る人物の情報を信じて、土見稟と合流すべくこの神社を訪れた。
しかし未だ、稟が神社に現れる気配は無い。
楓が春原陽平と別れてから、もう半日近く経過しているのにだ。
トウカは春原と呼ばれていた男に、騙されそうになった経験がある。
同じようにして、楓も騙されたと考えるのが妥当だった。
トウカが苛立たしげに奥歯を噛み締める。
「春原……人を謀る悪漢め。何時の日か懲らしめねばならんな」
。
支援
春原という男は殺し合いにこそ乗っていなかったものの、適当な出任せを言う姿勢は戴けない。
次に出会う事があれば、きっちりとお灸を据えておくべきだろう。
まあ犯した罪は比較的軽いし、命を奪う必要は無いが。
それがトウカの結論だったのだが、そこで楓が口を挟んでくる。
「懲らしめる? 何甘い事を言ってるんですか」
「……む?」
「稟くんを襲ったのは男です。私を騙したのも男です。ですから――」
訳も分からず、楓の言葉に耳を傾けるトウカ。
千影もトウカに倣って、黙って話の続きを待とうとする。
だが次の瞬間二人の耳に飛び込んできたのは、おぞましいとも言える程の独白だった。
「稟くん以外の男なんてこの島には必要無いんです、消え去るべきなんです。
稟くん以外の男なんて生きたゴミなんです、稟くんを傷付けるだけのゴミなんです」
まるで歌うかのように、愉しげに放たれる言葉の数々。
少女の淀んだ瞳が、爛々と妖しく輝いている。
「だから私がゴミを全部片付けて、稟くんが傷付かない世界にするんです。私がずっとずっと稟くんをお守りして差し上げるんです。
十年後も、百年後も、未来永劫傍でお世話し続けるんです」
伝わってくる感情は三つ。
異常なまでの愛情と、過ぎた自己陶酔、そして――――稟以外の男に対する、圧倒的な殺意。
「私がこの島を浄化するんです、稟くんの為に浄化するんです。
浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです浄化するんです浄化するんです……」
矢継ぎ早に紡がれる異常な理論に、トウカも千影も口を挟めなかった。
オボロの乱入で有耶無耶となっていたが、最早疑いようも無い。
この少女、芙蓉楓は――完全に、『異常者』だ。
話し合って分かり合えるような相手では無い。
そしてトウカ達が硬直していたその時に、突如パチパチと拍手する音が聞こえてきた。
「――――流石楓さん、素晴らしいお考えです」
とても満足げな声が神社に響く。
それはとても甘美な、しかし粘りつくように重い音響だと感じられた。
トウカ達の視線が、右方にある林の辺りへと引き寄せられる。
そこには、青い長髪の少女――ネリネが屹立していた。
「な――――これは…………」
ネリネの姿を認識した千影は、背筋が寒くなる感覚を禁じ得なかった。
多少なりとも魔術を齧っている自分だからこそ、何とか理解出来る。
こうやって向かい合っているだけでも感じ取れる程の、凄まじい魔力。
人間では決して持ち得ない、桁外れの魔力。
実際には制限があるのだから、十分に対抗可能なのだが――千影からすればネリネは、桁違いの怪物のように感じられた。
そんな千影の狼狽を意に介す事無く、ネリネは楓に語り掛ける。
「ですが楓さん。男だけが稟さまを傷付けるというのは、楽観が過ぎますよ?」
「……リンちゃん、それはどういう事ですか?」
「考えてもみてください。女性の方だって、稟さまに危害を加えるかも知れないじゃないですか。
お優しい稟さまの事ですから、ひ弱な女性を保護しようとして、寝首を掻かれてしまう可能性もある――違いますか?」
言われて楓は僅かの間考え込んだ。
だがほんの数秒足らずで、すぐに結論が弾き出された。
楓は何の迷いも無く、首を縦に振る事で肯定の意を示す。
。
支援
支援
「そう……ですね、私が間違ってました。リンちゃんの言う通り、女性の方も殺しちゃわないといけませんね」
「ええ、では手始めにこのお二方から片付けましょう。稟さまを傷付ける存在など、二酸化炭素を撒き散らすだけの公害。
悪の権化です! 不必要です!」
ネリネが永遠神剣第七位“献身”を、楓がベレッタM93Rを取り出す。
二人の目に宿った明確な殺意が、最早説得など不可能であると報せていた。
千影はドクンドクンと踊り狂う心臓を必死に沈め、時詠を構え直した。
トウカの身体能力は並外れているものの、この二人を同時に相手する事は難しいだろう。
自分も戦うしかない。
焦る千影の横で、トウカの鋭い視線がネリネを射抜く。
「やるしかないようだな…………お主、名は何という」
「――私はネリネと申します。貴女は?」
「某はエヴェンクルガのトウカ、正義を貫く武士だ。……参るッ!」
叫び終えるとほぼ同時、トウカの足元が爆ぜる。
刃こぼれした西洋剣を左脇の辺りに構え、一人の武士が疾走する。
極限まで鍛え抜かれた脚力に裏付けされた、高速の突貫。
だが制限されているソレは、対応不可能な域にまで達してはいない。
「……抵抗するおつもりですか? やっぱり女性の方だからって、油断してはいけませんね。
危険です、野蛮です。一人残らず駆除しなければいけません」
迎え撃つは、絶対の殺意を湛えた少女。
楓の握り締めたベレッタM93Rから、破壊を齎す弾丸が放たれる。
トウカは戦場で培った直感に身を任せ、上体を大きく横に傾けた。
直後、頬を掠める突風、直接触れずとも伝わってくる衝撃。
(これが銃という武器かっ……!)
。
支援
予想以上の威力に、トウカは思わず唇を噛む。
矢を遥かに凌駕した武器だと聞いてはいたが、まさかここまでとは。
これでは弾丸を切り払うのは勿論として、見てから避けるのすらも不可能だろう。
銃口の向きから射線を予測して、予め身を躱すように動き続けるしかない。
「ほらほら、どんどん行きますよ?」
「――――――――っ」
距離さえ詰めてしまえば、敵が引き金を絞る前に切り伏せられるが、そうは問屋が卸さない。
第二、第三の銃弾が連続して撃ち放たれる。
迫り来る衝撃力の塊は、弓矢などとは比べ物にならぬ程の威力だろう。
たった一度の回避ミスが、そのまま致命傷に直結する。
まずはもう少し守りに専念して、感覚を慣らさねばならない。
トウカは楓を中心として円状に疾走し、一定距離を保ち続けようとする。
だがそこで横に忍び寄る、青い殺人者。
トウカの不意を突く形で、ネリネが槍を突き出してきた。
「――ヤアアアアアッ!」
「…………!」
トウカに迫り来る槍の刃先は、大した速度では無い。
ネリネは魔力を温存する為に、身体能力の強化を行ってはいないのだ。
だが――それでも不意を突かれたトウカには、防御方法が存在しない。
槍を払いのけても、若しくは強引に飛び退いたとしても、結末は同じ。
生じた隙を、楓が放つ銃弾により捉えられてしまうだろう。
しかし槍の刃先はトウカに届く前に、短剣によって受け止められていた。
自身の窮地を救ってくれた者の姿に、トウカは少なからず驚嘆の念を覚える。
「――――千影殿!?」
「……此処は私が、引き受けるよ。その間に……トウカくんは、……楓くんを倒してくれ」
「し、しかし――――」
。
守るべき対象を前線に立たせるなど、武人として避けなければならない行い。
トウカは千影に退避を促そうとするが、すぐにこちらを狙う狙撃手の存在に思い至り、断念する。
話し合っている暇など無い。
今は一刻も早く、楓を仕留めるのが肝要だ――そう判断したトウカは、千影に背を向けて走り出した。
トウカは再び銃撃の嵐へと身を投じ、ある時は身を屈め、ある時は跳躍する事によって、荒れ狂う銃弾を躱してゆく。
そんな中、千影はネリネと対峙する。
ネリネの手に握られた大きな槍からは、強大な魔力の波動が感じられる。
恐らくは自分の持っている時詠と同じく、永遠神剣の類であろう。
そんな千影の確信を裏付けるかのように、ネリネが語り掛けてくる。
「何か感じませんか?」
「え……?」
「私は感じます。この槍が……献身が……もっと魔力を欲しがっているのが。
貴女の永遠神剣もきっと、同じなのではないですか?」
「…………」
千影は答えないが、内心ではネリネの言葉を半分程肯定していた。
自分が『時の流れを加速』させた時、確かに魔力を多少消耗した。
その事から推察するに、永遠神剣は魔力を超常的な力へと変えている筈だ。
しかし自分が時詠の力を使用した際、もう一つ大きな変化があった。
あの時自分は、強い疲労と凄まじいまでの虚脱感に襲われたのだ。
ネリネの槍がどれ程の奇跡を起こせるかは分からぬが、時詠の力には遠く及ばないだろう。
より強い奇跡を起こす為には、より大きな代償が必要なのは自明の理。
恐らくこの時詠に限っては、魔力だけで無く、所持者の生命力そのものを吸い取るのでは無いか。
極力時詠の特殊能力には頼らず戦った方が良いだろう。
支援
支援
千影は地面を勢い良く蹴り、生まれた推進力と肉体の力だけで斬りかかろうとする。
だがすかさず献身が横一文字に振るわれて、千影は後退を強要される。
そして続けざまに、ネリネが槍を振り下ろしてくる。
「…………くうっ」
髪を舞い上げる旋風。
千影は済んでの所で横に方向転換し、槍の刃先から逃れていた。
だが勿論その程度で終わる筈が無い。
「は――――あ、く…………」
矢継ぎ早に献身の刃が奔り、千影は必死の思いで耐え凌ぐ。
幾ら後ろに下がろうとも、休憩は許されない。
右方向より襲い来る白刃を、懸命に時詠で受け流す。
生まれた僅かな時間を利用して後方に退こうとするが、すぐに距離を縮められる。
敵が一撃毎に踏み込んでくる所為で、延々と回避を強要される。
千影は永遠神剣による身体能力強化を行っていないが、対するネリネも魔力を温存している。
だがそれでも千影の不利は明白だった。
自分の得物は短剣、そしてネリネの得物は槍――故に反撃する余裕など無い。
剣で槍を制するには、相手の三倍の技量が必要だというが、千影は運動を得意としていない。
必然的に、戦いの天秤はネリネへと傾く。
そして、決して忘れてはいけない。
もう一人の敵は、遠隔攻撃が可能だという事を。
「――――――――!?」
。
突如千影の脳内に、胸を撃ち抜かれる自身の姿が浮かんだ。
所謂未来視というものだ。
斜め後方から楓に狙われているのが、手に取るように分かる。
前方からは今もネリネが、獲物を仕留めるべく迫ってきている。
自力でこの状況を逃れるのは不可能――もう、時詠の力を使うしかない。
千影は精神を集中させ、タイムアクセラレイト――自身の時間を加速させる技――を発動させた。
途端に全身を凄まじい疲労感が襲ったが、それでも身体の動きは速まった。
今の状態ならば、銃弾も槍撃も大した脅威では無い。
千影はコンマ数秒で4−5メートル後退し、絶望的だった状況をあっさりと覆す。
本当に一瞬の出来事だったが、その動きは生物の限界すらも超越していた。
連射された銃弾も、ネリネの振るった槍も、等しく空を裂くに留まった。
「そんな――――!?」
銃撃を躱された楓は、計らずして驚きの声を洩らしてしまった。
トウカの追撃を振り切って放った、最高の奇襲だったのに、恐ろしいまでの動きで回避された。
有り得ない現実を目の当たりにし、楓の思考が一瞬停止する。
そしてその狼狽は、先程から楓の隙を窺っていたトウカにとって、最高の好機。
神社の境内に、一陣の旋風が吹き荒れる。
「芙蓉楓――――その首貰い受ける!」
「…………っ!?」
疾風と化したトウカは、前進を続けながらスペツナズナイフの柄を投擲する。
投げられた柄は勢い良く宙を突き進み、楓の左手に命中した。
そのままトウカは、痛みに硬直する楓の懐へと潜り込んだ。
トウカの十八番にして、数多くある剣技の中でも最速の攻撃――居合い抜きが、満を持して放たれる。
常人では抗いようの無い剣戟が、寸分違える事無くベレッタM93Rの銃身を捉えた。
大きく響き渡る金属音。
支援
支援
「あぐっ…………」
楓の手元から、ベレッタM93Rが弾き飛ばされる。
空手となった楓の首に、トウカの振るう白刃が迫る。
先の居合い抜きには遠く及ばぬものの、十分な鋭さを伴った斬撃。
それは間違いなく勝負を決する一撃となる筈だった――千影の悲鳴さえ聞こえてこなければ。
「……くっ、ああああああ!」
「――――千影殿!?」
トウカが視線を移した先で展開されていたのは、絶望的な光景だった。
千影の左肩が、ネリネの握り締めた献身によって深く穿たれていた。
鮮血が花裂くように舞い散る中、千影の首元に白刃が突きつけられる。
そのままネリネは、トウカに向けて底意地の悪い笑みを浮かべた。
「惜しかったですねトウカさん。後数秒遅れていれば、私達の負けでした」
ネリネの言葉通り、本当にたった数秒の差だった。
トウカが楓を追い詰めている間、ネリネもまた千影に対し猛攻を仕掛けていたのだ。
そして激しい疲弊を抱えていた分、千影が敗れる方が僅かに早かった。
「……貴女には剣を捨てる義務があります。まあ千影さんの命が惜しくないというのなら、話は別ですが」
「おのれ……卑怯な!」
トウカは心底苛立たしげに舌打ちをするが、どうしようもない。
武器を捨てればどうなるか、末路を想像するのは余りにも容易いが、それでも投降するしか無いのだ。
誇り高きエヴェンクルガ族である自分が、人質を見捨てるなど有り得ぬ話だった。
トウカは手にした西洋剣を、ゆっくりと地面に放り投げる。
次の瞬間、トウカの即頭部に奔る衝撃。
。
支援
「がっ…………!」
「――――先程はよくもやってくれましたね」
楓は拾い上げたベレッタM93Rの銃身で、思い切りトウカを殴り付けていた。
予期し得ぬ攻撃に、トウカがもんどり打って転倒する。
楓はつかつかと足を進めて、倒れたままのトウカの腹部を踏みつけた。
――足を振り上げ、降ろす。
――足を振り上げ、降ろす。
同じ動作を何度も何度も、感触を確かめるかのように繰り返す。
その最中拳銃に新しいマガジンを詰めもしたが、責める足だけは決して止めない。
「うっ……がっ……はっ…………」
「アハハハハハハハ! あんたなんか、死んじゃえば良いんだああああっ!!」
「く……楓くん、止めてくれ……」
ベレッタM93Rの引き金を絞れば一瞬で終わるというのに、楓は敢えて拷問の続行を選択する。
土見稟を傷付ける可能性がある者――即ち『土見ラバーズ』以外の人間は、極力苦しめて殺したいからだ。
腹部を踏みつけるのに飽きたのか、次は狙う箇所を変える。
サッカーボールを蹴る要領で、トウカの腕を、足を、休む事無く蹴り続ける。
その度に、トウカの喉から掠れた声が絞り出される。
妄信に取り憑かれた狂人が繰り広げる、終わりの見えぬ責め苦。
千影が制止を懇願するが、楓の狂笑は止まらない。
人質を取られている限りトウカは戦えぬし、首元に刃を突きつけられている千影も動けない。
誰も楓を止められないであろう状況。
――だがそこで突然、猛獣の如き咆哮が響き渡った。
支援
。
「ウオオオオオオオッッ!!」
「え――――!?」
誰もが驚愕した。
オボロが――死んだと思われていたオボロが、ネリネの背中に当身を食らわせていた。
その衝撃でオボロの肩口から、益々激しく鮮血が噴出する。
それでもオボロは倒れずに、寧ろ勢いを増してネリネに殴りかかる。
盾のように突き出された献身の柄へ、次々と拳の連撃が打ち込まれる。
早鐘を打ち鳴らすような音が連続して鳴り響き、ネリネの腕に激しい衝撃が伝えられる。
そこでようやく、事態に取り残された形となっていた三人が動いた。
トウカは素早く起き上がって、地面に捨てた剣へと走り寄る。
千影もまた、ネリネとの戦いで取り落としてしまった時詠を拾い上げる。
そして楓は――オボロの無防備な背中に向けて、容赦無く発砲していた。
「鬱陶しいです……死に損ないが調子に乗らないで下さい」
背中に複数の穴を掘られ、オボロは前のめりに倒れ込んだ。
オボロの身体を中心として、円状の血溜りが形勢されてゆく。
今度こそ、紛れも無く致命傷だろう。
それでも、先程に比べて状況は大きく好転した。
トウカと千影の両者共がダメージを負っているとは言え、武器を取り戻し、再び戦闘態勢になれたのだ。
トウカは西洋剣を深く構えたまま、倒れ伏せるオボロに声を送る。
「オボロ……お主何故、某達を助けた? 某達は……某はお主を斬ったのに、何故だ?」
トウカは唯只、驚いていた。
いくら正義を貫く為とは言え、自分は仲間であったオボロを斬ったのだ。
恨まれこそすれ、助けて貰える道理など何処にも存在しない。
だというのにオボロは瀕死の身体に鞭打って、体勢を立て直すだけの時間を作ってくれた。
支援
「――俺は……償いたかったんだ……」
トウカの疑問に答えるべく、オボロは弱々しい声を絞り出した。
唇を強く噛み締めて、今にも飛んでしまいそうな意識をどうにか押し留める。
「俺は……償い、たかったんだ……。四葉を殺してしまった罪を……千影を苦しませた罪を……」
無抵抗にして善良な少女を殺した。
それは絶対に許されぬ罪。
トゥスクル国に仕える将軍として、決してやってはならぬ蛮行。
だからこそオボロは、千影とトウカによって下された死刑判決を甘んじて受け入れた。
罪人である自分に、生き方を選ぶ権利など無い。
それでも――残された僅かな命の残り火だけでも、自由に使えるのなら。
「許されるとは、……思っていない。それでも……俺は、償い……たかったんだッ……!
俺には妹が居る……だから千影の苦しみが、手に取るように分かるんだ……! 良いか千影……よく聞け……」
「……何だい?」
千影は血の漏れ出る左肩を押えながら、オボロへと視線を送る。
オボロは一度血を吐いた後、大きく息を吸い込んだ。
伝えたい想いを形に、言葉に変えてゆく。
「さっき言った通り、俺には……妹が居る。病弱な、けれど……何よりも大切な、妹が……。千影……、お前にも、妹が居るのだろう」
「…………そうだね」
「ならば、お前は……絶対に、死ぬな。俺が言うのも……おこがましいが、生き続け、て……妹を守ってやれ。
それが妹を……持つ者の、……義務だ」
「……分かったよ、オボロくん。私は衛を……そして、咲耶を守ってみせる……」
支援
支援
四葉を殺した事は、絶対に許せないし、許してはいけないだろう。
けれどただ憎しみに捉われているだけでは、誰も救えないから。
答える千影の声に、もう憎しみの感情は混じっていなかった。
あるのは強い決意の色だけだ。
「――トウカ、聞こえて……いるか?」
「……ああ、聞こえているぞ」
オボロはかつて刃を交え、そして長らく生死を共にした戦友へと語り掛ける。
もうカルラは死んでしまった。
ドリィもグラァも、この島には居ない。
この状況で全てを託せるのは、自分以上の実力を持つトウカしか有り得ない。
「俺はもう、此処で……終わるだろう。だから頼む……お前が兄者達を……ユズハを……。
そして、千影と……その姉妹達を……守ってやってくれ……!」
「――確か承った。某が、命に代えてもその役目を果たそう」
即座に力強い返答が返ってきて、オボロはようやく安堵する。
これで今の自分が出来る贖罪は、全て果たした。
思い残す事が無いと言えば嘘になる。
もっと利口に立ち回れていれば、此処まで悪い状況にはならなかっただろう。
それでも後は、残された者達の頑張り次第だ。
そしてハクオロなら、トウカなら、きっと何とかしてくれる筈だ。
だから最後にオボロは、純粋なる疑問をトウカにぶつける。
「なあトウカ、兄者が……俺の行動を、……聞いたら……どう思うんだろうな?
兄者を守ろうと考えて……四葉みたいな……子供を殺してしまって、こんな所で命を落として……それを知ったら、何て、言うんだろうな……?」
清廉潔白にして公明正大、冷静沈着にして勇猛果敢、自慢の主君であるハクオロ。
そんな彼にどう思われるかが、オボロは無性に気になっていた。
馬鹿な事を仕出かしたと、罵られるだろうか。
妹を置いて勝手に死ぬなと、叱られるだろうか。
だが返答を待ち侘びるオボロに対して、トウカはゆっくりと首を横に振った。
「……某は聖上ではござらん。聖上が何と仰られるかは分からぬ。故に、某自身の感想を語らせて貰う」
トウカは真っ直ぐにオボロを見据えて、嘘偽りの無い本心を告げる。
「胸を張れ――お主の死に様、トゥスクルの将軍に相応しいものであった」
凛としたその声は、弱まったオボロの聴覚にまで辿り着いていた。
トウカの放った尊敬の念は、間違いなくオボロにまで届いたのだ。
自然、オボロの顔に微笑みが浮かび上がる。
「そうか……」
それは誇り高き戦士の笑み。
暴走しがちだったけれど、重い罪を犯してしまったけれど、それでも己の信念に殉じた者の笑みだ。
トウカも千影も感情を噛み殺しながら、死に往くオボロを看取ろうとする。
だがそこで、全てを妨げる大きな銃声が鳴り響いた。
「な……に……?」
突然オボロの眉間に穴が開き、びしゃりと脳漿がばら撒かれる。
トウカが銃声のした方へと振り向くと、IMIデザートイーグルを握り締めたネリネの姿があった。
「折角邪魔しないで差し上げたのに…………下らない茶番劇でしたね、楓さん」
「全くです。償う? そんな暇があれば、大切な人をお守りするべきじゃないですか。
頼む? そんな人任せでどうするんですか。自分自身の手で最後までお守りして差し上げるのが、真の愛でしょう」
支援
。
この二人テラコワス支援
静まり返った神社の境内に、二人の少女の笑い声だけが木霊する。
ネリネはいかにも下らなさげな冷笑を浮かべながら、IMIデザートイーグルを鞄に戻した。
「本当に愚かな男でしたね。これではこんな所で野垂れ死ぬのも当然です」
「リンちゃんの言う通りです。稟くん以外の男なんて、全くの無価値なゴミに過ぎません」
何時終わるとも知れぬ、死者に向けられた罵倒の嵐。
オボロの生き様を、信念を、全てを馬鹿にしきった嘲笑。
それを遮ったのは、煮えたぎるような怒りに震える侍の一声だった。
「……そこまでだ。オボロは確かに罪を犯した……。それでも誇り高き武人として、立派な最期を遂げたのだ。
それを愚弄する貴様らは、決して生かしておけぬ」
楓から受けた拷問の所為で、身体のありとあらゆる箇所が痛むが、瞳に宿った炎は猛り続ける。
手にした剣の切っ先を討つべき敵に向け、トウカは戦叫を上げる。
「――エヴェンクルガの誇りに賭けて! 友・オボロの誇りに賭けて! このトウカが貴様らを斬るッ!!」
圧倒的な殺気と、ありったけの想いを籠めた宣告。
それを受けても尚、ネリネと楓の嘲笑が消える事は無い。
二人の目が語っていた――そんな満身創痍の身体で、何が出来るのかと。
トウカは視線を前に固定したまま、真横の千影に語り掛ける。
「千影殿……此処は某に任せてお逃げ下さい」
「で……でも……」
「申し訳ありませぬが、今の千影殿に戦う力は残されていない。残られても、足手纏いになるだけです。
第三回放送の時に、名雪殿と待ち合わせをしておられるのでしょう。お互い生きていれば、そこで合流致しましょう」
支援
支援
一人逃げる事を良しとしない千影を、トウカはぴしゃりと撥ね付ける。
自己犠牲だとか、自暴自棄になっただとか、そんなつもりは微塵も無い。
事実、今の千影では足手纏いにしか成り得ないのだ。
また人質に取られてしまえば、今度こそ二人共やられてしまうだろう。
怨敵を討つ為にも、千影を守る為にも、此処はトウカ一人で戦うのが最善だった。
「分かったよ……でも絶対に、死なないでくれ」
「ええ、ではまた後ほど」
こうなっては千影も、もうトウカの提案を受け入れるしかなかった。
千影は時詠をデイパックに戻し、脇目も振らずに駆け出した。
その背中を狙うべく、楓が銃口を向けようとするが、その時にはもうトウカが突撃し始めていた。
必然的に楓とネリネは、トウカとの交戦を開始する事になる。
(オボロくん……君の気持ちは、確かに受け取ったよ。トウカくん……どうか無事で……)
後ろから銃声が聞こえてきたが、それでも千影は止まらない。
神社に留まり敵を打ち倒すのが、トウカの役目。
そしてこの場から速やかに離脱するのが、今の自分に課された役目。
ならば余分な事をしている暇など、あろう筈も無い。
ネリネに刺された肩が痛む。
あの槍に突き刺された時、全身から魔力が抜けていくのを感じた。
それに全身が酷い疲労感に包まれている。
タイムアクセラレイトを用いたのは、やはり不味かった。
時を操るなどという神の如き能力、人の身で扱いきれる物では無いのだ。
人の魔力を、生命力を糧とする魔具、永遠神剣――恐るべき兵器だ。
身体の状態はこれ以上無い程に不調だったが、それでも千影は走り続ける。
自分の目的を、そしてオボロの遺言を果たす為に。
◇ ◇ ◇ ◇
奔る火花、轟く銃声。
二人掛かりの連携を前にして、トウカは苦戦を余儀なくされていた。
ネリネの槍撃が脅威となっている訳では無い。
未だ敵は、魔力を温存したままで戦い続けている。
その動きは常人のソレとなんら変わりなく、振るわれる槍を防ぐのは難しくない。
楓の銃撃に手間取っている訳では無い。
先程楓と戦った経験のお陰で、銃への対処法もあらかた身に付けた。
最早一対一なら、苦も無く斬り伏せる事が出来るだろう。
だが、二人による波状攻撃となれば話は別だった。
「てやああああっ!!」
戦神の如き叫びを上げて、トウカが駆ける。
迫る銃弾を不規則なステップで掻い潜り、狙撃手である楓目掛けて疾駆する。
このまま距離を詰めきってしまえば、トウカの勝利は確定するだろう。
だが楓の横に位置するネリネが、トウカの前進を阻むべく槍を一閃した。
「フ――――」
それを払い除ける事など、トウカにとっては余りにも容易。
だがしかし、そこまでだ。
いかなトウカであろうとも、槍を弾いてしまえば一瞬の硬直が生まれる。
そしてそれは、楓がベレッタM93Rの照準を合わせるのに十分な隙。
危険を察知したトウカは、一足でその場を飛び退く。
その一秒後にはそれまでトウカが居た空間を、鋭い銃弾が貫いていた。
「……く、ハア……フ、ハア……」
。
大きく間合いを離し、懸命に呼吸を整えるトウカ。
先程からずっと、トウカが接近を試み、それを阻まれるという光景が繰り返されている。
銃も槍も素人が扱う分には、そして単体ならば簡単に対処出来る。
しかし同時に運用されると一変、突破困難な城壁へと変貌する。
超高速の銃弾を避けるには、一秒たりとも足を止めずに動き続けるしかない。
多角度広範囲に振るわれる槍を防ぐには、剣で払い除ける必要がある。
銃弾を剣で弾くのは不可能だし、槍を体捌きだけで凌ぎ続けるのも難しい。
故に何度前進を試みても、剣が届く間合いまで踏み込めない。
ただ悪戯に、体力だけが削り取られてゆく。
「あらあら、お疲れのようですね。でも安心して下さい、すぐ楽にして差し上げますから」
余裕の笑みを浮かべるネリネ。
肩を並べるネリネと楓の顔からは、トウカ程の深刻な疲労は見て取れない。
それも当然だろう。
二人は両方共が、剣に比べて遥かにリーチの長い得物を持っている。
逃げ回る必要も、攻め続ける必要も無い。
リーチに勝る側の者達は、自分達の射程範囲に踏み込んでくる敵を迎撃するだけで良い。
常に前進を強要される側の人間と、ただ待ち構えるだけで事足りる側の人間。
どちらの消耗が激しいかなど、考えるまでも無い。
「――――まだまだぁぁっ!」
それでもトウカは、愚直に突撃を繰り返す。
傷付いた体に鞭打って、攻略困難な城塞に挑み掛かる。
だがその結果は、先程の衝突の焼き直しに過ぎない。
放たれる銃弾を、トウカが素早い動きで躱してゆく。
トウカはそのまま斬りかかろうとするが、ネリネの槍に妨げられる。
その直後向けられた銃口の前に、トウカは後退しざるを得なくなった。
トウカと楓達の間合いが、再び大きく開かれた。
無意味な突撃の所為で、益々深く疲弊したトウカ。
その瞳だけは未だ強い闘志を湛えているものの、勝敗の趨勢はほぼ決まったかのように思われた。
相変わらず余裕の表情を保ったまま、楓がゆっくりと口を開く。
「トウカさん。貴女は……千影さんと、元からの知り合いでしたか?」
「否、千影殿とはこの島で出会った間柄だ」
「では私達が千影さんを人質に取った時、どうして武器を捨てたんですか?
あの時千影さんを見殺しにしていれば、貴女は負けなかったでしょう」
あの時立場が逆ならば、楓は間違いなく人質を見殺しにしていただろう。
楓にとって稟以外の存在など等しく無意味、無価値。
死んでしまってはもう、稟を守れなくなる。
下らぬ情けに捉われて敗北を喫するなど、あってはならない事だ。
そんな楓だからこそ、トウカの行動に疑問を抱いたのだが、返ってきた回答は迷いの無いものだった。
「――笑止。某には何よりも優先すべき信念がある。某が弱きを見捨てるなど、有り得ない事だ。
それに某はまだ敗れていない。貴様達のような悪漢に、屈する訳にはいかぬ!」
向けられる純粋な想い、そして自分達の行動を悪漢と断じ見下す言葉。
それが楓にとっては不快でならなかった。
理想だけで人は生きていけない。
人の身で守りきれる範囲など、たかが知れている。
だからこそ自分は、己の優先順位に基いて行動しているだけだというのに――本当に、不愉快だ。
「フフフ……やっぱり貴女は負けますよ。私には稟くんさえ居れば良い。私は稟くんの傍でお世話が出来れば、他に何も望まない……」
。
支援
。
最早出し惜しみは無しだ。
楓はベレッタM93R特有の機能――3連射バーストをオンにする。
三連射される銃弾の殺傷力は、民間用の販売が規制されてしまう程。
イタリアの警察・軍の特殊部隊に配備されている程、強力なのだ。
そして楓の目が、凄惨に見開かれた。
「アレも守りたい、コレも守りたいなんて目移りばかりしてるアンタなんかに……負けるもんかああっ!!」
楓のベレッタM93Rが、けたたましい轟音と共に火を噴く。
放たれた銃弾は三つ、当然その脅威も今までの三倍となる。
だがトウカは銃弾の軌道を予測し、最低限の動きで身を躱してゆく。
既に何度も何度も受けてきた攻撃だ。
楓の狙う箇所が、手に取るように分かる。
「そうだ――某が守りたいものは多い……!」
トウカは前傾姿勢を取り、ジグザグの動きで前方に突き進む。
身体の節々が痛んでも、肺が限界を訴えても、トウカの動きに翳りは見られない。
満身創痍の身体を支える動力源は、子供のように純粋な想い。
「聖上を……仲間を……善良な者達を守りたいっ……!」
あっという間にトウカは、ネリネの槍が届く範囲まで潜り込んだ。
これまで一度も突破し得なかった槍撃が、再びトウカに向けて繰り出される。
放たれた攻撃は横凪ぎの一閃。
広範囲に渡るソレは、剣で受け止める以外に対処しようが無いだろう――――地上で戦う分には。
「某は誇りを守りたいっ……!」
「な――――!?」
ネリネの、楓の目が驚愕に大きく見開かれる。
トウカは跳躍し、ネリネの槍――――献身の上に飛び乗った。
加えられた重量に耐え切れず、槍の刃先が地面に落ちると同時、トウカは更に天高く跳ねる。
その衝撃で、ネリネの手元から槍が零れ落ちる。
再び楓が銃弾を三連射したが、それはトウカの身体を掠めもしない。
「某は、自分の――そしてオボロの誇りを、守りたいのだああああっ!!」
天より降り注ぐ、彗星。
叩きつけるは己と仲間の信念。
エヴェンクルガの剣が、誅すべき敵を斬り伏せる――――!
「お主の負けだ……芙蓉楓」
とたん、とトウカが大地に降り立つ。
次の瞬間、楓の首から鮮血が噴き出して、周囲一帯に飛散した。
真っ赤な血が、楓の服を、視界を、赤一色に染め上げる。
首をここまで傷付けられて、生きていられる人間など存在しない――確かめるまでも無く、致命傷だった。
。
(稟くん……稟くん……稟くん稟くん稟くん稟くん稟くん稟くん……!!)
だというのに楓は――土見稟に全てを捧げた少女は、倒れなかった。
楓の腕に力が込められ、ベレッタM93Rの銃口が持ち上げられる。
「何っ――――!?」
戦場ですら有り得ない事態に、目の前の死人に、トウカは戦慄する。
全力で、それこそ足の筋肉が千切れかねない勢いで、地面に転がり込む。
それと同時、楓の胴体目掛けて剣を投擲する。
矢さながらの白刃が、正確に楓の腹部へと吸い込まれた。
――守るんです。何を犠牲にしても。どれだけ血を流しても。
――私が、私達が代わりに、稟くんを嫌な気持ちにする人間を殺すんです。
――殺します。一遍の情けも、容赦も無く、骨の髄まで。
それでもドス黒い執念が、土見稟への偏愛が、楓の身体を突き動かす。
大量の血液を失っても、内臓が零れ落ちても尚、楓は戦おうとする。
筋肉の萎えかけた指が、ベレッタM93Rのトリガーを思い切り絞った。
3連射バーストにより高速で放たれる銃弾の群れ。
トウカの近くの地面が弾け飛び、立て続けに砂埃が巻き上がる。
銃弾の列が、未だ起き上がれていないトウカに迫る。
しかし列の先端がトウカに達する寸前、楓の身体がぐらりと揺れた。
スローモーションのように、糸が切れた人形のようにゆっくりと、楓は崩れ落ちる。
倒れた際の衝撃で鮮血が撒き散らされたが、その後はもうぴくりとも動かなかった。
僅か数秒間は死すら超越したものの――やはり生物である以上、限界があったのだ。
飛び散る血飛沫、ゾンビの如く踊り狂い死に吸い込まれた楓の姿。
トウカもネリネも、その凄まじい光景を呆然と眺めていた。
二人が硬直していたのは、一体どれ程の間か。
ほんの数秒かも知れない。
もしくは、一分以上動けないでいたかも知れない。
ともかくトウカとネリネは、ほぼ同じタイミングで動き始め、各々の得物を拾い上げた。
「さあ、後はお主だけだ」
「ク――――」
追い詰められた表情をしていたのは、ネリネの方だ。
目の前で楓が殺されてしまったが、それは何とか割り切れる。
どうせ最後には稟以外全て殺さなければいけないのだから、元より覚悟していた事だ。
これまで温存してきたお陰で、そして千影を突き刺したお陰で、魔力だって多少は回復している。
しかし目の前の存在は、残る魔力を全て注ぎ込んだ所で倒せる相手なのだろうか。
この相手はどれだけ痛め付けても、絶対に止まらない。
一撃で喉元を突き破らねば、殺されてしまうのはこちらの方だ。
本当に自分は勝てるのか――否、絶対に勝たねばならない。
何としてでも生き延びて、迫り来る脅威から稟を守らなければならない。
トウカを殺して、楓の仇を取らなければならない。
楓は敗れたものの、最期に凄まじいまでの執念を見せてくれた。
次は、自分の番だ。
ネリネがトウカとの決戦に臨むべく、秘めたる全魔力を解放しようとしたその時。
ザッと土を踏みしめる音が、二人の鼓膜に届いた。
「…………何奴ッ!?」
「――――――――!?」
現れたのは無表情の仮面を纏った、一人の少女。
少女の名は川澄舞。
その手あるのは、この場の誰もが存在を忘れていたブラウニング M2 “キャリバー.50”。
重量にして40キロ近い重機関銃を持ったまま、舞は駆けてくる。
その様子だけでも、舞がかなりの膂力を誇っている事は容易に推察出来る。
トウカも、ネリネも、一瞬で理解した――疲弊した今戦っても、勝ち目など無いと。
二人が駆け出した直後、このゲームで始めてブラウニング M2 “キャリバー.50”が火を噴いた。
放たれた12.7mm弾が次々と神社の境内に殺到し、巨大な破壊を齎す。
戦車すらも破壊し尽くす掃射が、大地を、神社の本殿を、あっという間に壊してゆく。
際限無く降り注ぐ破壊の雨は、何者にも抵抗を許さない。
防弾チョッキによる武装も、遮蔽物による防御も等しく無意味。
矢継ぎ早に繰り出される銃弾は、一発一発が必殺の破壊力を秘めている。
「――――っ」
巻き起こる嵐の中、トウカは一目散に森を目指して駆けていた。
自身の身体の状態を考えるに、今は逃げるしかないだろう。
そしてその為には、どれだけ距離を離せるかが重要だった。
連続して鳴り響く銃声から判断するに、襲撃者の持った巨大銃は高速連射型。
銃の知識が殆ど無い自分でも、あの掃射がどれだけ危険かは分かる。
恐らく近付かれれば、弾道を予測する暇も無く倒されてしまうだろう。
だが大丈夫、相手はあれだけの質量を抱えているのだから、走力勝負なら負けはしない――
支援
支援
トウカの斜め前方にあった木が、背後から聞こえてきた銃声と共に薙ぎ倒される。
倒れてくる木を掻い潜り、トウカは森に侵入する。
此処まで来れば、後もう少しで逃げ切れる筈。
生い茂る木々を利用して、地形に紛れるように身を隠してしまえば良い。
トウカは残る力を振り絞って、山道の凹凸を乗り越えてゆく。
前方に立ち塞がる細かな茂みを、一刀の元に斬り飛ばしてゆく。
……そろそろ完全に振り切った頃か。
トウカは確認の為、後ろを振り向き――――襲撃者の姿を目撃した。
(くっ、小癪な……追撃の為に武器を変えたか!)
襲撃者は何時の間にか武器を、小型の拳銃――ニューナンブM60――に持ち替えている。
あれなら装備したままでも、十分な速度で走り続けられるだろう。
とは云えもう、迎え撃つ余力などとても残っていない。
「――――フ、ハ……ハァ……」
度重なる過負荷の運動で、心臓が早鐘を打つ。
呼吸のペースが早まり過ぎて、もう満足に息を出来ているかどうかすら分からない。
背後でパンという銃声がして、トウカの右脇腹に強烈な衝撃が走った。
敵の放った銃弾が、脇腹の端を掠めていたのだ。
じわりと血が漏れ出て、生温かい感触が肌に伝わってくる。
全身のありとあらゆる部分が痛むし、脳は必死に酸欠を訴えてくる。
それでもトウカは、走り続けた。
立ち止まれば間違いなく殺される。
自分はこんな所で死ぬ訳にはいかない。
託された役目がある。
オボロとの約束がある。
トゥスクルの仲間達を、そして千影とその妹達を、守らなければならない。
身体を癒し、ネリネや背後の襲撃者を討たねばならない。
支援
「っ……あ、はあ………はあ……く……!」
走る、走る。
視界が朦朧としてきている。
もう自分が何処を走っているのかも分からない。
敵が未だ追ってきているのかも分からない。
光が遮られた薄暗い森の中、トウカは延々と走り続け――やがて、意識を失った。
◇ ◇ ◇ ◇
獲物を見失った舞は、地面に腰を落としていた。
強い疲労感が身体を襲っているが、休憩しようとしている訳では無い。
体力の回復如き、歩きながら済ませれば良いのだ。
今はただ、次に向かうべき場所が何処か考えているだけだ。
無理なく倒せる筈だった獲物を逃してしまったが、落胆している暇など無い。
強力な武器は手に入ったのだから、次こそ確実に仕留めれば良い。
高重量の物を振り回した所為で肩の傷が、走り回った所為で太股の傷が痛むが、どうでも良い。
これから数日間だけ機能してくれれば、後は動かせなくなったって構わない。
参加者名簿には相沢祐一の名前があったが、問題無い。
白河ことりとは友達になれたが、知った事では無い。
相手が誰であろうとも、出会う事があれば何の情けも掛けず、ただ機械的に殺す。
自分には全てに優先する目的がある。
こうしてる今だって、負傷した倉田佐祐理が苦しんでいる筈なのだ。
一秒でも早く全てを殺し尽くし、佐祐理を救うのだけが自分の至上目的。
殺す、殺す、全員殺す。
自分の血も、髪も、細胞も、心も、全ては佐祐理の為に在る。
【オボロ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄 死亡】
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE 死亡】
【c-4左下 森/1日目 昼】
【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、永遠神剣第七位『存在』@永遠のアセリア−この大地の果てで−】
【状態:全身打撲、右脇腹軽傷、肉体的疲労極大、精神的疲労、気絶】
【思考・行動】
基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る
1:???
※オボロからトゥスクルの者達、そして千影とその姉妹達を守るよう頼まれました。
※蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると疑っています
※舞の剣は少々刃こぼれしています
※銃についての大まかな知識を得ました
※ネリネに対し、非常に激しい怒りを覚えています
※春原陽平を嘘吐きであると判断しました
※ネリネと川澄舞(舞に関しては外見のみの情報)を危険人物として認識しました
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。
エターナル化は不可能。他のスキルの運用については不明。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
【D-4(細かい位置取りは、後続の書き手さん任せ) /1日目 昼】
【千影@Sister Princess】
【装備:永遠神剣第三位『時詠』@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 バーベナ学園の制服@SHUFFLE! ON THE STAGE
銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルトのみ残数80/100)、バナナ(フィリピン産)(2房)
倉成武のPDA@Ever17-the out of infinity-】
【状態:左肩重傷、肉体的疲労(極大)、魔力消費大、時詠使用による激しい虚脱感、スカートに裂け目、精神的疲労】
【思考・行動】
基本行動方針:ゲームには乗らないが、襲ってくるものには手加減しない。時詠の能力使用は極力控える
1:まずは逃げ延びる
2:衛、咲耶を探し出して守る
3:永遠神剣に興味
4:相沢祐一、北川潤、月宮あゆ、朝倉純一、朝倉音夢、芳乃さくら、杉並の捜索
5:相沢祐一に興味
6:魔力を持つ人間とコンタクトを取りたい
7:『時詠』を使って首輪が外せないか考える
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※トウカの事は確実に信用できると評価しました。
※時詠を使用すれば首輪を外せるんじゃないかと考えています(ただし可能性は低いと考えています)
※千影は『時詠』により以下のスキルが使用可能です。 但し魔力・体力の双方を消耗します。
タイムコンポーズ:最大効果を発揮する行動を選択して未来を再構成する。
タイムアクセラレイト…自分自身の時間を加速する。
他のスキルの運用は現時点では未知数です。
詳しくはwiki参照。
またエターナル化は何らかの力によって妨害されています。
※未来視は時詠の力ではありません。
※銃火器予備弾セットが支給されているため、千影は島にどんな銃火器があるのか全て把握しています。
見た目と名前だけなので銃器の詳しい能力などは知りません。
※倉成武のPDA
情報携帯端末。簡単に言えばネット通信機能搭載の超小型パソコン。携帯電話も内臓されている。
また、静電充電機能で身に着けて歩行などすれば充電可能。ちなみに完全防水である。
※ネリネと芙蓉楓を危険人物と認識しました
【D-4(細かい位置取りは、後続の書き手さん任せ)/1日目 時間 昼】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式 IMI デザートイーグル 9/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10】
【所持品2:支給品一式 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5、九十七式自動砲 弾数2/7】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 朝倉音夢の制服及び生首】
【状態:肉体的疲労大・魔力消費中、腹部に痣、左腕打撲、右耳に裂傷、左足首に切り傷、非常に強い意志】
【思考・行動】
基本:出会った人間は、稟以外殺す。魔力の無駄遣いは極力避ける。
0:まずは安全な所まで退避する
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し。知人であろうとも容赦無く殺す(出来る限り単独行動している者を狙う)
2:ハイリスク覚悟で魔力を一気に回復する為の方法、或いはアイテムを探す。
3:トウカを殺し、楓の仇を討つ
4:出来れば次の定時放送までに純一を見つけ出し、音夢の生首を見せつけ最大級の絶望を味あわせた後で殺す。
5:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
6:亜沙の一団と決着をつける
7:稟を守り通して自害。
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、 制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣第七位“献身”は制限を受けて、以下のような性能となっています。
永遠神剣の自我は消し去られている。
魔力を送れば送る程、所有者の身体能力を強化する(但し、原作程圧倒的な強化は不可能)。
魔力持ちの敵に突き刺せば、ある程度魔力を奪い取れる
以下の魔法が使えます。
尚、使える、といってもウインドウィスパー以外は、実際に使った訳では無いので、どの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、僅かな間だけ防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※魔力が極端に消耗する事と、回復にひどく時間がかかる(ネリネの魔力なら完全回復まで数日)という事に気が付きました。
※トウカと、川澄舞(舞に関しては外見の情報のみ)を危険人物と認識しました。
【C-4右下 森/1日目 昼】
【川澄舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾4/5) 学校指定制服(かなり短くなっています)】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾74 バナナ(フィリピン産)(3房)、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾165) 】
【状態:疲労極大。肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
1:佐祐理を救う
2:全ての参加者を殺す。祐一とことりも殺す
3:相手が強い場合、無理はしない
※神社は舞の掃射によって半壊しています
※楓の死体・オボロの死体は、神社の境内に放置
※ベレッタ M93R(2/21)、鉈@ひぐらしのなく頃に 祭、支給品一式x3、ベレッタ M93Rの残弾20、
レインボーパンwith謎ジャム(半分)@CLANNAD&KANON、昆虫図鑑、.357マグナム弾(40発)、 スペツナズナイフの柄
クロスボウ(ボルト残26/30)、カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、果物ナイフ、エルルゥのリボンは神社の境内に放置
「最初は……ボクとことみちゃん以外に恋太郎さん、それと四葉ちゃんって娘がいたんだ」
「四人、ですか」
時雨亜沙が力無く、一度だけ小さく頷いた。
さすがに人の生き死にの話ともなるとお得意の能天気さも発揮出来ないらしい。
無意味にイライラさせられない分だけ、ソレは望ましい展開だ。いっそこのまま永遠に黙っていればいいのに。
しかし、余計な人間が若干名存在するものの、この島に来てから探し続けていた人物の一人である一ノ瀬ことみと接触出来たのは幸いだった。
彼女は今も私の首周りを圧迫し続けている首輪を何とかする事の出来る可能性を持つ、いわばキーパーソン。
他にそんな能力を持った人間の情報が確認出来ない現在、能力的なヒエラルキーでも相当な上位に食い込む人間だ。
ひとまず彼女との仲を取り持ちつつ、エリーと合流する。コレが現在の最適解だろう。
そう考えるとやはり残りの二人、時雨亜沙と……先程から最前列を歩き、用心深そうにこちらを伺っている大空寺あゆが邪魔になる。
特にこの時雨亜沙の存在は厄介だ。
まず彼女は完全な怪我人であるという事。
左肩には何か巨大な刃物で切りつけられたと思しき裂傷が赤い傷口を露にしている。
出血こそ大してしていない様だが、本人の痛みは相当なものだろう。歩みを進める度に伝わってくる振動に何度も顔を顰めている。
加えてその疲労。先程まで眠っていたもののおそらく全身は満身創痍。
未だに足並みは覚束ず、そのため私達が移動する速度も極端にスローペースなものになってしまっている。
そして何よりも気に食わない、いや私にとってマイナス方向に働くのは、時雨亜沙に一ノ瀬ことみが肩を貸して歩行しているという事実だろう。
つまり彼女達の中に刻まれた"絆"という奴だ。
もちろん、出会ってからまだ数時間しか経っていないソレは、急ごしらえのプレハブ小屋のように脆い存在ではある。
とはいえ彼女達は話を聞くにゲーム開始時から今まで、ほとんどの時間を共に過ごして来たらしい。
初めは四人で行動していたものの、様々な逆境の中で一人、また一人と死に絶えていき、ついにその連環は二人を残すのみとなった。
コレが時雨亜沙と一ノ瀬ことみの関係だ。
『溺れる者は藁をも掴む』
急激な環境の変化、死との遭遇。
コレだけの非日常的要素が重なると普通の人間にとって、単身で自らを支え切る事など不可能。
当然の如く、周りにいる人間に依存したくなる心が芽生える。
幾つもの死線を越えた兵士達は絆を超えた何かで結ばれる、そんなものは陳腐な戦争映画の煽り文句に過ぎない。
今までならば一笑の元、切り捨ててしまうような下らないコピーとしか思えなかっただろう。
だが、今は違う。
特殊な状況で何よりも大切なものは柔軟性。
場面の変化と共に自らのスタンス、立ち位置を調節し上手く立ち回る事。
誰もが私のように『攻める人間』になる事が出来るとは限らない。
世の中にはその場で知り合ったような人間と、傷を舐め合うのを美徳とするような弱者だって大勢溢れているのだ。
そして今はその弱者が私にとっては必要。そう、レオ君の死を乗り越えた私にとってエリーとこの環境から脱出することは至上命題とも言える。
そのために一ノ瀬ことみの力は欠かせない。
だが、そのためには時雨亜沙を彼女から切り離さなければならない。
私には何も特別な力を持たない弱者を庇護する趣味は無いのだから。
だが彼女達が握り締めたその手を離す事は無いだろう。
そう"余程の事が無い限り"は。
何か……二人の間に亀裂が生じるような好機さえあれば良いのだが。
正直、そうそう何もかもが上手く行くとは思えない。
逆に『策士策に溺れる』とも言う言葉があるくらいだ。
「四葉ちゃんはハクオロという男に、恋太郎さんは……えと」
「あ、う、少し、少しね。恋太郎さんが私達から離れたの……多分、その間に」
一ノ瀬ことみがぼそぼそと言葉を濁らせる。
どこか途中で話の内容を考えるような仕草を取った気もしたが、まぁ特に問題無い。
おそらくは肩を貸している疲れと焦燥感が原因と言ったところか。
ソレよりも面白い名前を聞いた。
あの小太りの男、大石が口にした『危険人物』の名前だ。コレは使えるかもしれない。
「ハクオロ……それって奇妙な仮面を付けた……?」
「知っているんですか!?」
瞬間、時雨亜沙と一ノ瀬ことみの表情に陰が差す。
陰鬱で、何か思い出したくない事象を無理やり頭の前面に引っ張り出されたような、それでいて憎しみに満ちたそんな表情。
「ど、どこで会ったんですか!! ……もしかして何か……?」
先程のまでの疲れ切った顔付きとはまるで別物。
時雨亜沙が身を乗り出してこちらに質問して来る。
逆に一ノ瀬ことみは表情を顰めたまま。どちらかと言えば自らの中の闇と戦っているような印象を受ける。
おそらくまだ自分の中で仲間の死を整理出来ていないのだろう。
そう考えると彼女のどこか自責の念に満ちた重苦しい面構えも納得出来る。
「ええ、私も……仲間を殺されたの」
「「!!」」
二人の表情が凍り付く。
脇目で確認すると、前を行く大空寺あゆもコチラにチラチラと視線を送ってくる。
特に一ノ瀬ことみは"私が言った台詞"によほど衝撃を受けたのか、瞳を白黒させ、一気に落ち着きを無くしてしまった。
順調。おそらく誰もが騙されている。
私はハクオロが危険人物であるという情報こそ掴んでいるものの、実際に面識は無い。
彼がこの先、私の目の前に立ちふさがる可能性がある以上マイナスイメージを植えつけておく事は効果的だろう。
実際、既に何人かの人間をその手にかけているようだし。
それにおかしな話だ。
私にとってこの島にやって来てから、いや普段学校に通っている時でさえ、心の底から仲間と呼べる人間なんてほとんどいなかったのに。
「ご、ゴメンナサイ!! あの、そんな事……」
「いいの、もう大丈夫。自分の中でもそれなりに整理が付いたから。
それより早くこの辺りから離れる事の方が大切じゃないかな」
時雨亜沙がまた、小さく頷いた。そして下げた視線を自らの両足に向ける。
その後、凝視。若干の沈黙。僅かな逡巡の後、彼女は唇をキツク噛み締めた。
その通り。
この集団の移動速はあなたに合わせたモノ。
まだ全然大した距離を進めていないのも、全てあなたのせい。
少しは反省して貰いたい所。
……そういえば自分達はどこに向かっているのだろう。確か、時雨亜沙が寝ていた場所が……D-4だったか。
集団の先頭は完全に大空寺あゆに任せてしまった。
実際彼女は健康そのものであったし、語気も強く集団の中でアドバンテージを取るタイプに見えたからだ。
だが、彼女は危険だ。
ここまで殺し合いが始まって約十一時間。
それだけの時間、完全に一人で行動し続けて来たのも不思議だし、自分の事を話そうとしないのも不可解だ。
私のように嘘を交えて適当に場を誤魔化すなど、やり方はいくつもあるはずなのだから。
隙さえあれば弾丸の一発でもその背中にお見舞いしてやりたい所。
だが、いくら何でもそんな行動を取る訳には行かない。
「ちょっと待って」
支援
突然、大空寺あゆがその歩みを止める。
私達も言葉通り、その場で停止。
どうしたのだろうか。何か妙なものでも見つけたのか。
思わず、辺りを見回す。地図を頭に描く。
地図……? まさか。もしかしてこの場所は――。
「なんかさ、臭わない?」
■
『ええ、私も……仲間を殺されたの』
ことみはとんでもない衝撃を受けた。
酷い、デジャヴだ。
なにしろ彼女、佐藤良美が口にした台詞は数分前の自分のソレとまるで同じだったから。
そして引き合いに出した相手まで同じ人間。こんな偶然があっていいのだろうか。
あの時の後悔、葛藤、それら全てが蘇って来る。
関係の無い人間に罪を擦り付ける感覚。
可愛げのある、些細な嘘などではない、人の命を左右するような深刻なソレ。
何を悩む事があるのか。
確かに今の今まで、ハクオロが本当に人殺しであるか疑う自分は存在していた。
だが、良美の告白によってその可能性は木っ端微塵に砕け散ったはずだ。
『ハクオロは紛れも無い人殺し』
四葉ちゃんもカウントに入れるのならば、既に少なくとも二人の人間をその手に掛けた事になる。
そう、コレが共通認識。ソレが全て。
支援
「最初は……ボクとことみちゃん以外に恋太郎さん、それと四葉ちゃんって娘がいたんだ」
「四人、ですか」
時雨亜沙が力無く、一度だけ小さく頷いた。
さすがに人の生き死にの話ともなるとお得意の能天気さも発揮出来ないらしい。
無意味にイライラさせられない分だけ、ソレは望ましい展開。
いっそこのまま永遠に黙っていればいいのに。
余計な人間が若干名存在するものの、この島に来てから探し続けていた人物の一人である一ノ瀬ことみと接触出来たのは僥倖だった。
彼女はこの忌々しい首輪を何とかする事の出来る可能性を持つ、いわばキーパーソン。
他にそのような能力を持った人間が確認出来ない現在、能力的なヒエラルキーでも相当な上位に食い込む人間だ。
ひとまず彼女との仲を取り持ちつつ、エリーと合流する。コレが現在の最適解だろう。
しかし、そう考えるとやはり残りの二人、時雨亜沙と……先程から最前列を歩き、用心深そうにこちらを伺っている大空寺あゆが邪魔になって来る。
特にこの時雨亜沙の存在は厄介だ。
まず一点。彼女が完全な怪我人であるという事。
左肩には何か巨大な刃物で切りつけられたと思しき裂傷。
出血こそ大してしていない様だが、本人の痛みは相当なものだろう。歩みを進める度に伝わってくる振動に何度も顔を顰めている。
加えてその疲労。先程まで眠っていたとはいえ、身体への負担は相当なものだろう。
未だに足並みは覚束ず、そのため私達が移動する速度も極端にスローペースなものになってしまっている。
そして何よりも気に食わない、いや私にとってマイナス方向に働くのは、今も時雨亜沙に対して一ノ瀬ことみが積極的に肩を貸して歩行しているという事実。
つまり彼女達の中に刻まれた"絆"という奴だ。
先程も自分の方が遥かに小柄にも関わらず、一ノ瀬ことみは自ら時雨亜沙の身体を支える役割を買って出た。
逆に時雨亜沙も自分に支給されたマシンガンを予備のマガジンごと相手に預けるなど、全幅の信頼を寄せている。
もちろん、両者は出会ってからまだ数時間程度しか経ってはいないだろう。
そんな関係は急ごしらえのプレハブ小屋のように脆い存在ではある。
とはいえ彼女達は話を聞くに、ゲーム開始時から今まで、ほとんど全ての時間を共に過ごして来たらしい。
初めは四人で行動していたものの、様々な逆境の中で一人、また一人と死に絶えていき、ついにその連環は二人を残すのみとなった。
コレが時雨亜沙と一ノ瀬ことみの関係。
『溺れる者は藁をも掴む』
急激な環境の変化、死との遭遇。
コレだけの非日常的要素が重なれば普通の人間にとって単身で自らを支え切る事など不可能。
当然の如く、周りにいる人間に依存する心が芽生える。
幾つもの死線を越えた兵士達は絆を超えた何かで結ばれる、そんなものは陳腐な戦争映画の煽り文句に過ぎない。
今までならば一笑の元、切り捨ててしまうような下らないコピーとしか思えなかっただろう。
だが、今は違う。
特殊な状況で何よりも大切なものは柔軟性。
場面の変化と共に自らのスタンス、立ち位置を調節し上手く立ち回る事。
誰もが私のように『攻める人間』になる事が出来るとは限らない。
世の中にはその場で知り合ったような人間と、傷を舐め合うのを美徳とするような弱者だって大勢溢れているのだ。
そして今はその弱者が私にとっては必要。
そう、レオ君の死を乗り越えた私にとってエリーとこの環境から脱出することは至上命題とも言える。
そのために一ノ瀬ことみの力は欠かせない。
だが、そのためには時雨亜沙を彼女から切り離さなければならない。
私には何も特別な力を持たない弱者を庇護する趣味は無いのだから。
だが彼女達が握り締めたその手を離す事は無いだろう。
そう"余程の事が無い限り"は。
何か……二人の間に亀裂が生じるような好機さえあれば良いのだが。
正直、そうそう何もかもが上手く行くとは思えない。
逆に『策士策に溺れる』とも言う言葉があるくらいだ。
「四葉ちゃんはハクオロという男に、恋太郎さんは……えと」
「あ、う、少し、少しね。恋太郎さんが私達から離れたの……多分、その間に」
一ノ瀬ことみがぼそぼそと言葉を濁らせる。
どこか途中で話の内容を考えるような仕草を取った気もしたが、まぁ特に問題無い。
おそらくは肩を貸している疲れと焦燥感が原因と言ったところか。
ソレよりも面白い名前を聞いた。
あの小太りの男、大石が口にした『危険人物』の名前だ。コレは使えるかもしれない。
「ハクオロ……それって奇妙な仮面を付けた……?」
「知っているんですか!?」
瞬間、時雨亜沙と一ノ瀬ことみの表情に陰が差す。
陰鬱で、何か思い出したくない事象を無理やり頭の前面に引っ張り出されたような、それでいて憎しみに満ちたそんな表情。
「ど、どこで会ったんですか!! ……もしかして何か……?」
先程のまでの疲れ切った顔付きとはまるで別物。
時雨亜沙が身を乗り出してこちらに質問して来る。
逆に一ノ瀬ことみは表情を顰めたまま。どちらかと言えば自らの中の闇と戦っているような印象を受ける。
おそらくまだ自分の中で仲間の死を整理出来ていないのだろう。
そう考えると彼女のどこか自責の念に満ちた重苦しい面構えも納得出来る。
「ええ、私も……仲間を殺されたの」
「「!!」」
二人の表情が凍り付く。
脇目で確認すると、前を行く大空寺あゆもコチラにチラチラと視線を送ってくる。
特に一ノ瀬ことみは"私が言った台詞"によほど衝撃を受けたのか、瞳を白黒させ、一気に落ち着きを無くしてしまった。
順調。おそらく誰もが騙されている。
私はハクオロが危険人物であるという情報こそ掴んでいるものの、実際に面識は無い。
彼がこの先、私の目の前に立ちふさがる可能性がある以上マイナスイメージを植えつけておく事は効果的だろう。
実際、既に何人かの人間をその手にかけているようだし。
それにおかしな話だ。
私にとってこの島にやって来てから、いや普段学校に通っている時でさえ、心の底から仲間と呼べる人間なんてほとんどいなかったのに。
「ご、ゴメンナサイ!! あの、そんな事……」
「いいの、もう大丈夫。自分の中でもそれなりに整理が付いたから。
それより早くこの辺りから離れる事の方が大切じゃないかな」
時雨亜沙がまた、小さく頷いた。そして下げた視線を自らの両足に向ける。
その後、凝視。若干の沈黙。僅かな逡巡の後、彼女は唇をキツク噛み締めた。
その通り。
この集団の移動速はあなたに合わせたモノ。
まだ全然大した距離を進めていないのも、全てあなたのせい。
少しは反省して貰いたい所。
……そういえば自分達はどこに向かっているのだろう。
確か、時雨亜沙が寝ていた場所が……D-4だったか。
集団の先頭は完全に大空寺あゆに任せてしまった。
実際彼女は健康そのものであったし、語気も強く集団の中でアドバンテージを取るタイプに見えたからだ。
だが、彼女は危険だ。
ここまで殺し合いが始まって約十一時間。
それだけの時間、完全に一人で行動し続けて来たのも不思議だし、自分の事を話そうとしないのも不可解だ。
私のように嘘を交えて適当に場を誤魔化すなど、やり方はいくつもあるはずなのだから。
隙さえあれば弾丸の一発でもその背中にお見舞いしてやりたい所。
だが、いくら何でもそんな行動を取る訳には行かない。
「ちょっと待って」
突然、大空寺あゆがその歩みを止める。
私達も言葉通り、その場で停止。
どうしたのだろうか。何か妙なものでも見つけたのか。
思わず、辺りを見回す。地図を頭に描く。
地図……?
まさか、いやもしかしてこの場所は――。
「なんかさ、臭わない?」
■
『ええ、私も……仲間を殺されたの』
ことみはとんでもない衝撃を受けた。
酷い、デジャヴだ。
なにしろ彼女、佐藤良美が口にした台詞は数分前の自分のソレとまるで同じだったのだから。
そして引き合いに出した相手まで同じ人間。
こんな偶然があっていいのだろうか。
あの時の後悔、葛藤、それら全てが蘇って来る。
関係の無い人間に罪を擦り付ける感覚。
可愛げのある、些細な嘘などではない、人の命を左右するような深刻なソレ。
何を悩む事があるのか。
確かに今の今まで、ハクオロが本当に人殺しであるか疑う自分は存在していた。
だが、良美の告白によってその可能性は木っ端微塵に砕け散ったはずだ。
『ハクオロは紛れも無い人殺し』
四葉ちゃんもカウントに入れるのならば、既に少なくとも二人の人間をその手に掛けた事になる。
そう、コレが共通認識。ソレが全て。
だがもう一つ。腑に落ちない点もあるのだ。
それは――。
「ちょっと待って」
前を行くあゆさんの動きが止まる。
私と亜沙さんも停止。
同時に頭の中で展開されていた"ある可能性"についての分析をストップする。
もしもこの仮定が真実だとすれば、この場における人間関係に一瞬でとんでもない亀裂が生じる事になる。
隣を歩いていた良美ちゃんも怪訝そうな顔で前を見つめている。
あゆさんがこちらを振り向いた。
そして鼻を押さえながら一言。
「なんかさ、臭わない?」
■
臭い。
臭い……?
「あっ! 確かに何か臭うね。うーん、何か、すっぱい感じ……?」
場の空気を紛らわすために思わず大きな声を出してみた。だけど雰囲気は淀んだまま。
ボク、時雨亜沙がこの集団のマイナスファクターになっているのは純然たる事実。
だから少しだけでも、皆を明るくしたかった。結果は見事な空回りだったケド。
でも、確かにあゆちゃんの言う通りだった。
緑の芝生と背の高い木々。完全に昇った太陽の光が時折差し込む、気持ちの良い森林。
周囲にはマイナスイオンやら純度の高い酸素なら散らばっているかもしれないが、こんな悪臭の原因がそうそう転がっているとは思えない。
ボク以外の二人、ことみちゃんと良美ちゃんも臭いに気付いたみたい。
キョロキョロと辺りを見回している。
「あにさ、この臭い? プラスの何かじゃない事は分かるけど……。それにどこかで嗅いだ事があるような」
「うん、確かにそう……だね」
鼻に来る嫌な臭い。
しかも一種類だけではない。何か数種類のものがブレンドしたような感じだ。
何か硬質的な感じのものと生臭い感じのもの。
どちらかと言えば前者の臭いの方が全然強い。
何だろう、これは。
絶対自分はコレが何かを知っている、はずだ。
知って、いる?
「血……」
これは誰の台詞だったのだろう。
ボクの口から思わず零れ出てしまったような気もするし、他の誰かが言ったような気もする。
分からない、分からない。
でも分かる。うん、コレは血の匂いだ。
赤血球と白血球、そして少量の血小板によって構成された人間の身体を構築する最も大切な骨子。
その存在に気付いた途端、ボクの中の感覚が更にその鋭角を増した。
鼻に掛かる程度だった臭いが心を掻き乱す。
料理部の活動で使ったり、お母さんと一緒に料理をする時に軽く鼻腔をくぐる血の臭いなんかとは比べ物にならない。
濃くて、淀んだ何かが胸に込み上げて来るような臭気。
一瞬のサイレンス。静寂が辺りを支配する。
誰とも無しにボクらはまた歩き出した。何も考えずに。
いや、何かに導かれていたような気さえする。
肩を支えてくれていることみちゃんの身体が明らかに強張っている事が分かる。
先頭を行くあゆちゃんも前を向いているから表情を確認するのは不可能だが、周囲の雰囲気がピリピリしているのは確実だ。
良美ちゃんは……何だろう。顔が真っ青だし、目も虚ろ。
うん、もしかしてこの臭いに気分を悪くしたのかもしれない。
ボクが言える立場じゃないけど、出来るだけ気を遣ってあげなくちゃ。
ボクらは進む。一歩、また一歩と着実な歩みのまま。
静寂に包まれた森の中、道なき道をただガムシャラに。
もしも今が夜だったならば生い茂る木々の合間から月の光が覗いてさぞ綺麗だっただろう。
森が一瞬、開けた。
完全な平地と言うには少々物足りない。
それでも"何人かの人間が腰を落ち着かせる"のには絶好の場所。
少女が、太陽の光を浴びて、死んでいた。
■
唇が酸素を求める。
まるで世話のなっていない水槽に入れられた金魚のように、パクパクと開閉を繰り返す。
何も入ってこない。出ていかない。
瞳に飛び込んだのは光。
今まで歩いてきた道程と比べれば、確実に軍配が上がるであろう暖かな光の雨。
死。
明確で狂おしいまでの命の否定。
日常から遥かに乖離した生の終着点。
「杏……ちゃん?」
ことみちゃんが可哀想になるくらい、震えた声でそう呟いた。
ボクも何か喋らなくちゃ。
頭はどれだけそう命じても、言葉は出てこないし、何より全く口が回らない。
「杏ちゃん!!」
ちょっとだけ乱暴にボクの腕を振り払って、ことみちゃんが駆け出す。
身体が僅かだけどグラつく。倒れそうになる。
今まで完全に彼女に頼り切っていたせいで、バランスが上手く取れない。
近い。地面に、ぶつかる。
そう思い、眼をつぶった瞬間。あゆちゃんがギリギリでボクの身体を受け止めてくれた。
「あ、ありがと……」
「お礼はいいから。……一人で立てる?」
「う……うん」
「分かった。それと……今から少し黙っていて」
あゆちゃんの雰囲気に威圧されて思わずボクは一度、頷いた。
何か、凄く怖い顔をしていた。
どうしてだろう。まるで何かに怒っているような、そんな嫌な感情に満ちた面持ち。
もしかしてことみちゃんがボクを突き飛ばした事に腹を立てているのだろうか。
でも確かに少し危なかったとはいえ、その行動を責めるつもりは毛頭無かった。
だって――。
「杏ちゃん!! なんで……こんな、酷い……」
人が死んで我を忘れて、取り乱してしまう事に何の問題があるだろう。
大切な、自分に近い人間が亡くなって悲しくない人間なんているはずが無い。
ことみちゃんも勝手に流れてくる涙をこらえながら、必死でその死と相対しようとしているではないか。
そう、確かにボクらは知っていた。
第一回放送の時、死んでしまったのは恋太郎さんにとっての大切な人である双樹ちゃんだけじゃない。
ことみちゃんの友達である杏ちゃんと言う娘も命を落としていたのだ。
この涙はただ身近な人間の死を嘆くだけのモノじゃない。
だって、こんな死に方、あまりにも酷過ぎる。
ボクらが死体に出会ったのは一度だけ。いや、ことみちゃんは二回目……だったっけ。
でもボクが見た四葉ちゃんの死に姿は、決して苦痛や悲しみに塗れたものじゃなかった。
まるでずっと探していた大切な誰かと再会出来たみたいに、安らかな表情をしていたのだ。
でもこの杏ちゃんは違う。
その姿は血で出来たウォーターベッドに無理やり寝かせられていると言ってもいいくらい。
全身を赤い飛沫で濡らし、特に喉もとの出血具合は思わず目を背けたくなるような惨状だ。
表情も開き切った瞳孔、死の寸前まで何かを叫んでいたのかと思えるほど開かれた口蓋。
悲しみ、絶望、苦痛。そんな負の感情に満ちた最悪の最期。
気分が悪くなる。
一面、血、血、血、だ。
絶対的な朱。脳内を埋め尽くす紅。
このまま倒れてしまえば、こんな現実から逃げる事が出来るのだろうか。
そんな考えが頭に浮かぶ。
本当に人は精神が支えている生物だという事を改めて実感する。
だって、例えばこの自問自答にもしも『イエス』と答えてしまえば、その瞬間自分の身体が崩れ落ちる事に拠り所の無い確信が持てるからだ。
「……おい、アンタ」
「……え?」
「いい加減止めようや、そんなバレバレの芝居は」
心が挫けそうになる寸前、そんな意味が分からない言葉で一瞬で現実に引き戻された。
発言者はあゆちゃん。その言葉の矛先は……ことみ、ちゃん?
芝居? どうして?
ことみちゃんは杏ちゃんの死体を見かけて、それで、こんなに悲しんで。
本当に今、辛いはずの心を一生懸命奮い立たせているのに。
「あゆちゃん!!」
「時雨、黙ってろって言ったはずさ。話があるのはアンタよ、一ノ瀬ことみ」
「……いいの。ありがとう、亜沙さん」
杏ちゃんの側に屈み込んでいたことみちゃんがすくっと立ち上がり、コチラを振り返る。
赤。
乳白色の厚手のブレザーが、杏ちゃんの流した血で濡れていた。
あゆちゃんが一歩前に出る。
「その血、お似合いの姿ね」
「……あゆさんが何を言いたいか分からないの」
「へぇ、あくまで白を切るつもり? 懺悔は自分からするからこそ意味があるのよ」
流れる険悪なムード。睨み合う二人。
あゆちゃんの若干後方、少し離れた所にボク。
ボクらの大分後ろ、最後尾に良美ちゃん、という構図だ。
「ま、いいわ。さすがの私もアンタのその最悪な行動にもう耐えられないから」
「どんなつもりか知らないけど、多分あゆさんは何か、勘違いしているの。
私にそんな糾弾される謂れは無いはずだから」
ことみちゃんがハッキリとした口調でそう告げる。
瞳はまっすぐあゆちゃんを正視。
「あたし、さ。見たんだよね。双葉恋太郎が殺される所」
「!!」
「身体中から血を流して……死んでいた。しかも、この女の死体なんて生温いくらいに損壊して、ね。
ありゃあ、酷いもんさね。あんな死体間近で見たら、私も平然となんてしてられないね」
「…………」
突然の告白。あゆちゃんの語調はどんどん強くなる。
そんな話を聞くと、恋太郎さんと死のイメージが露骨に繋がってしまう。
嫌だ。嫌だ。気持ち、悪い。
「ダンマリか? まぁ構わないけどね。……でも変な話さ。
だって今、その女の死体を見てそれだけ動揺していたアンタが、恋太郎とかいう男の死体の前じゃ顔色一つ変えなかったんだから」
「う……」
「予想外の知り合いの死はショックだったけど、予定調和の死には耐性があった、って感じかね」
「そんな事は……」
「じゃあ説明してみろや! 何であの時、アンタはこれっぽちも取り乱さなかった?
生半可な答えじゃ私は納得しない。最悪……コレで、アンタを撃つ」
そう言うとあゆちゃんがデイパックから取り出しのは――黒光する鉄の凶器、拳銃だった。
思わず息を呑む。この場に一瞬で広がる動揺。数メートル先のことみちゃんも軽く身構える。
後ろにいる良美ちゃんは……駄目だ、分からない。こんな状況で背後を確認する事は出来ない。
「S&W(スミス&ウェッソン)M10……通称、ミリタリー&ポリス」
「正解、まさにリボルバーの代表格さ。さすがに人殺しは銃にも詳しい、って事?」
「……ご本で読んだの」
「どうだか。さてと、それじゃあ解答を聞こうか。もし、カバンの中のマシンガンに手を伸ばしたら……どうなるか分かるよね?」
駄目だ、止めなければ。
ことみちゃんが恋太郎さんを殺した? まさかそんな可能性は皆無に近い。
ボクらはずっと今まで一緒に困難を乗り越えてきた。
もしもことみちゃんにそんな隠された殺意があったとしたら、ソレを実行に移す、もっと確実な機会はゴロゴロしていたのだ。
有り得ない。どう考えても勘違いだ。
「あゆちゃん、こと――」
「恋太郎さんを殺したのは楓、芙蓉楓なの」
――え?
「……誰? もう少し詳しく」
「私達はあなた達と出会う少し前、襲撃にあったの。その結果、亜沙さんが倒れてしまった。
その……外傷とかじゃなくて"魔法"を使ったのが原因で」
「真面目に……答えろや」
――楓、楓が? 恋太郎さんを?
「至って大真面目なの。
私のデイパックの中に支給された『参加者の術、魔法一覧』というご本を見れば全て分かるの」
「……分かった。続けな」
「その後、気分が悪くなった恋太郎さんが少し私達から離れたの。その時、現れたのが芙蓉楓。
彼女は明らかにおかしかった。彼女こそ"本物の"殺し合いに乗った人間だったの」
――何? 何を言っているの、ことみちゃん?
「既に何人か殺してたって事?」
「確か……鉄乙女、という人間を殺したと言っていたの。でも私には彼女を止める事は出来なかった。
ただ……自分が殺されないように怯える事しか出来なかった」
「証拠は?」
――だって、楓、楓だよ? 虫一匹殺せないような、あの優しくて、すこし抜けてる所がある、あの楓だよ?
「最悪、恋太郎さんの死体を見れば分かるの。
死因は私が持ってるマシンガンの弾じゃない、ハンドガンの弾なの」
「……ソレが本当なら……人殺しはその芙蓉――」
「嘘、でしょ」
「え?」
今の間の抜けた声はどちらの声だったのだろう。分からない。
まぁ、いいか。
何かがボクの口の中から零れた。
二人がコチラを振り向いた。
凄く意外そうな、驚いた顔をしている。
ボクの胸が少しギュッと苦しくなった。
でも止まらなかった。
「もう、やだなーことみちゃんったら。そんな嘘言ってもお・見・通・しだぞ?
アハハ、楓が人殺しなんて……無い無い。
虫一匹殺すのだって躊躇うようないい娘なんだから。冗談キツ過ぎ」
「亜沙さん……」
ことみちゃんが何か変な眼でコチラを見つめている。
何で? どうして?
ボク、何か変な事言った? 間違ってる?
「それに……ことみちゃんも酷いよ。
シアちゃんも死んじゃって、リンちゃんが殺し合いに乗っていた。それだけでもボク、相当ショックだったのに。
オマケに楓まで人殺し? それが本当ならボク、周りの人間が誰も信じられなくなっちゃうよ……」
「……亜沙さん。信じたくないのは分かるの。
でもだからって真実から眼を背けちゃ……ダメなの」
ことみちゃんがコッチに近付いて来る。
真実って何だろう。つまり、楓が人殺しだって事?
それが本当だって、ことみちゃんは言いたいの?
確信を持って? 真実だって?
「……そこまでさフリーズだよ、一ノ瀬ことみ。胡散臭すぎさ、アンタ。もう我慢できない」
「な……」
「色々聞いてみたけど、そう簡単に人がぶっ壊れるかどうかなんて正直分からない。
それに……私にとってはアンタの言葉よりも時雨の言葉の方が信憑性がある」
「そんな……亜沙さん、何とか、何とか言って欲しいの」
再度拳銃が向けられる。
一方で、ボクの方を見つめてそう訴えることみちゃん。
あゆちゃんは銃を向けたまま、眼の前に立ちはだかるように直立。
ボクは、どうすれば……。
「みんな大切な事、忘れてるんじゃないかなぁ」
「ぐあああぁっぁ!!……ぅ……佐藤、あんた……!?」
この空間では今まで二つの銃が争点になっていた。
あゆちゃんが持っているS&W M10というリボルバー。
そして今はことみちゃんのデイパックの中にあるイングラムM10というマシンガン。
どちらもその存在と、威嚇だけで実際に発砲されてはいなかった。
一番最初に火を吹いたのはそのどちらでもなかった。
第三の銃。その持ち主は――。
「全く三人とも私を無視して話を進めちゃって。気に入らないなぁ」
佐藤良美。
ずっと黙り込んでいた彼女がついに、その重い口を開いた。
そう、一発の銃声と共に。
そしてその放たれた弾丸は――あゆちゃんの背中へと消えた。
あゆちゃんが激痛に耐えかねて地面に倒れ込む。
ギリギリ、完全に寝そべってしまうまでは行かない。
軽く状態を起こし、背中を良美ちゃんに向けて、きつく彼女を睨み付ける。
「ぐ……どういう……つもり?」
「分からないかなぁ。この集団の中でアナタだけが"異質"だって事」
「づぅぅあああ!!」
更に二発、銃声が轟く。
一発はまたしてもあゆちゃんの背中へ。もう一発は外れた。
いたぶるように、黒い服で覆われた背面に向けて弾丸を叩き込んでいく。
「S&W M36、通称……チーフスペシャル」
そうことみちゃんが呟いた。
チーフスペシャル。恋太郎さんが最初に持っていた銃と同じ名前だ。
一歩、一歩と良美ちゃんがあゆちゃんに近付く。右手の拳銃はしっかりと構えたまま。
一方で、ボクとことみちゃんは凍りついたままだ。動けない、動けるはずが無い。
リンちゃんが襲い掛かってきた時は、まだあちらの武器は刃物であって銃では無かった。
それに相手の意図が明確な分、対処もしやすかった。
だけど。彼女が何を考えているのか、ボクらにはまるで分からないのだ。
「だってそうでしょ?ことみちゃんに敵意を持っているのはアナタ、だけ。
私も亜沙さんもそんな意思、これっぽちも無いもの」
良美ちゃんはボクとことみちゃんに笑い掛けてきた。
物凄く良い笑顔のはずなのに……何だろう。このモヤモヤした気持ちは。
何故か彼女の濃い黄緑色の瞳の中に、全身に鳥肌が立ってしまいそうなくらいの濃密な暗黒が込められているように感じた。
「分かった?アナタが死ねば、全て丸く収まるの。
ことみちゃんを人殺しに仕立てあげたいみたいだけど……私から見たら、人殺しはどう見てもそっちの方」
良美ちゃんがあゆちゃんの目の前で立ち止まる。
拳銃をその額に合わせる。
「良美……ちゃん」
「黙って、亜沙さん。あなただってことみちゃんを殺されるのは嫌でしょう? それに……私が言うのも何だけど彼女、もう助からないわ」
「そりゃあ……でも、だからって、こんなの……酷いよ」
コレがボクの精一杯の反論。確かに良美ちゃんの言う通り。
あゆちゃんにもことみちゃんにも、勿論どちらにも死んで欲しくない。当たり前だ。
でも。
賽は既に投げられた。あゆちゃんの身体は既に弾丸を食らってボロボロ。
放っておいても出血多量で死んでしまうかもしれない。
そして逆に、このまま彼女にトドメが刺されなければ確実にその被害はことみちゃんと良美ちゃんに向く事になる。
嫌なのに。目の前で人が死ぬ事なんて、もう絶対に見たくないはずなのに。
……魔法さえ使えれば。
でも今はダメだ。もう魔力がこれっぽちも残っていない。こんな状態じゃ……人の命なんて救えない。
「フフ……最期に……一言いいかい?」
「遺言?どうしようかなぁ……。ま、別にいいよ。どちらにしろ長くない命だしね」
「っ……すまんね」
あゆちゃんが全身を震わせながらそう吐き出すように口に出した。
完全に満身創痍だ。
勿論拳銃は既に掌から零れ、どちらかと言えばボクの方が近い場所に投げ出されている。
背中は血液こそ流れ出してはいないものの、弾丸を二発も打ち込まれて平気な訳が無い。
語調も先程までの凛々しく、芯の通った喋り方ではなく、所々に喘ぎ声が混じる。
一瞬の間。
あゆちゃんは瞳をゆっくりと閉じる。
僅かながら顎をあげ、そして最後の一言を呟いた。
口元に、最高の笑顔を浮かべながら。
「死ねや、糞虫」
太陽が爆発した。
■
三人の声が入り混じる。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「せ、閃光弾ッ!?」
「っああああああ!!眼が……眼が……」
有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。有り得ない。
完全に追い詰めたはずだ。なのに。
大空寺あゆが口元を歪ませた瞬間、突然、彼女のスカートが爆発した。
いや、違う。爆発したのではない。
光。太陽の輝きと思しき、閃光が走ったのだ。
瞬間、瞳を閉じたため、光を直視はせずに済んだ。だが、その光は瞼さえ貫いた。
まともな視力ではいられない。瞼を抑えたまま、足がふら付く。
「こんな、こんな手で……私が……」
「死ねやぁぁ!!」
「つッ!!きゃぁぁぁぁぉぉぉ!!」
支援
バン。バン。バン。バン。
撃たれた。撃たれた。
咄嗟に銃の元へ走った大空寺あゆの弾丸が左肩を抉る。純白の巫女服が紅に染まる。
銃声は四発。しかし、命中したのはたったの一発。大丈夫、まだ何とかなる。
「糞ッ!!私まで……目の前がチカチカしやがる」
「随分……元気なのね。はぁ……拳銃が、効かないのかなぁ」
「そっちこそ。血、出てるじゃない。よく、見えないけど」
大空寺あゆと若干の距離をおいて対峙する。
とはいえ、私の視力は相当阻害されているようだ。ギリギリ彼女の姿が視認出来るレベルまで落ちている。
距離はどれくらいあるのだろう。遠近感が微妙だ。
あちらも間近であの閃光を見たに違いない。狙いがあやふやだ。
このまま戦う?いや、ソレはマズイ。
何故大空寺あゆが銃弾の影響を受けていないのか定かではないが、条件が悪いのはどう見ても自分。
……さて、ではどうする?
「ちッ……それにしても佐藤。とんだ策士だよ、アンタ」
「それはこっちの台詞だよ……。大体なんでそんなピンピンしてるのかな、普通アレだけ撃たれたら……」
「そりゃあ、"私は"撃たれてないからねぇ」
「?」
「防弾チョッキっつー便利なものが世の中にはあんのよ」
睨み合い。互いに情報を小出しにしながら相手を牽制する。
目の前はいまだ暗闇のまま。大空寺あゆの視力はどの程度まで回復している?
時雨亜沙と一ノ瀬ことみの場所は?
「ああ、だからか。なんか上半身だけ太くてスタイル悪いなぁ……って思ったんだ」
「まさか。豚じゃあるまいし、ブクブク太った醜い格好になるくらいなら自殺してる」
突破点は?
どうやって彼女を攻略する?
。
「大体アンタもアンタだろ?その巫女服、似合ってないさ」
「そうかな?純白の白。私にピッタリだと思わないかな?」
少し間が空いた。
僅かな逡巡の後、大空寺あゆがもう一度口を開いた。
「それ……本気で言ってるのか?」
「どうして?嘘なんていう訳無いじゃない」
「……アンタみたいなドブ川の腐った様な眼をした人間が巫女?笑わせるね。
一発で見抜けなかった私の眼力も落ちたもんだ。
私はアンタみたいに"汚い"目をした人間、久しぶりに見たよ」
『汚い』
あ……ダメだ。
ダメだよ。ダメ。抑えなきゃ、私。
そうだ。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。
私は、汚くなんて、ない。汚くなんて、ない?
本当に?
「き……」
「あ?」
「ききき……きた……き……汚く……汚くない……私は汚なくない……」
止まらない。ダメだ。止められない。
落ちる。
暴走する。
私が、変わってしまう。
「私は汚くなんてないッ!!」
■
「おい、時雨!!大丈夫か、まだ頑張れるな?」
「う、うん。あゆちゃん、大丈夫、大丈夫だから」
最後は酷くあっけない最後だった。
一体なにがキーワードになったかは分からないが突然、佐藤良美が暴走。
手にした銃を乱射し始めた。
半ば狂乱状態と言っても良かった。
言葉がまるで通用しない。見境無く銃を撃ちまくる。
もしも私が腕利きのスナイパーであれば。
もしも対象を掃射出来るマシンガンでも持っていれば。
彼女の息の根を止める事が出来たのに。
残念な事に、暴走した佐藤良美から逃げるため、そのマシンガンを持った一ノ瀬ことみは私達とは正反対の方向に逃げていったのを確認した。
おそらく彼女も逃げ果せたとは思うが……近くで棒立ちになっていた時雨の手を引っ張って逃げるのが精一杯。
とりあえず発煙筒を一発放り込んでおいたので、時間稼ぎにはなったと思う。
なんだかんだで私も奴を本気で殺すつもりは無かった……という事なのだろうか。
結局、一ノ瀬ことみが嘘をついていたのかは分からず仕舞。
だが彼女が危険な人物であると言う疑惑は晴れなかった。
時雨はおそらく、必死になって否定すると思うが。
「でも……どうしてあゆちゃん、そんな平気そうな顔してるの?
その、良美ちゃんにあれだけ撃たれたのに」
「ん? ああ、聞いてなかったか? コレだよ、コレ。防弾チョッキ。
お前らを見つける前から着込んでたのさ」
「防弾チョッキかぁ。へぇ……それじゃあ、いくら撃たれても平気なんだ」
「……馬鹿か。平気な訳ないさ。内臓は大丈夫だと思うが、骨は何本か逝っちまってる」
「ほ、骨って!! 大変じゃない、すぐ手当てしないと!」
支援
服の裏に着込んだ防弾チョッキを見せる。
だが、そんな私の行動よりも時雨の気を引いたのは『骨が折れている』という趣旨の発言だったらしい。
顔を真っ青にしてコチラを気遣う。
「私より、自分の身体の事を心配しな。いつまでもアンタがそのままでいる事の方がよっぽど迷惑さ」
「うん……ねぇ、ことみちゃん……逃げられたかな」
「……まだ、アイツの事信じてるのか?知り合いを人殺し扱いされたのに?」
「ボクにも分からない……。ことみちゃんが恋太郎さんを殺すはずは無いし、楓だって……」
走りながら、時雨は頭を左右に力無く振った。
長い緑色の綺麗な髪がつられて揺れる。
しかし顔色が悪い。どう見ても限界だ。正直、立っている事さえ辛いはずだ。
「大分、辛そうだな」
「へ、平気だよ!ボク、こう見えても体力には自信あるんだから」
そうは言うものの、時雨に合わせたこのペースでさえ完全に息が上がってしまっている。
元々、他人に肩を借りて歩行していたレベルの怪我人なのだ。
いくら何でも過度の負担を掛けるわけには行かない。
それにゲームが開始してもうすぐ十二時間。
疲労も溜まり、一休みしたくなる時間帯でもある。
「……やっぱりあそこしか無いか」
「はぁ……あそ、こ?」
「ホテル」
■
支援
支援
一ノ瀬ことみは一人で走っていた。
ここはどこだろう。
大分必死に逃げて来たはずなのだが。
突然、自分の身も省みずに暴れだした佐藤良美。
うわ言のように『汚い』という言葉を繰り返す彼女の表情はあの芙蓉楓のような、まるで鬼のような顔付きだった。
とりあえず、亜沙さんとあゆさんが別の方向に消えるのは脇目で捉えた。
それに私が無事なのだから、おそらく二人も無事なはず。大丈夫だ。
しかし問題は突然あんな奇行に出た良美さんの事。
キーワード……だろうか。
あの連呼していた『汚い』という言葉に何か関係があるかもしれない。
それに自分がいくら銃で撃たれそうだからとはいえ、いきなりその相手に向かって銃を発砲するなんて。
威嚇するならば空に向けて引き金を引くなど、やり方は色々あったはずなのに。
加えてあの表情もしこりが残る。
心の奥底に真っ黒な塊を抱えているような、そんな違和感。
しかし、問題はこれからの方針だ。
亜沙さんと合流したい所だが、あゆさんが一緒にいる限りそれは難しいかもしれない。
何とか自分の言い分が正しいと言う事を証明する、分かりやすい方法があればいいのだが。
また、それならばいっそ北上して工場を目指すというプランもある。これなら途中で他に、信用出来る人間と出会える可能性もある事だし。
まぁとりあえずは身体を休める事が先決だろう。
行き先や方針を決めるのは、それからでいい。
■
「弾……出ないなぁ」
支援
カチカチと乾いた音が辺りに響く。
もう視界はクッキリと晴れて見える。閃光弾の影響は消え失せたようだ。
最後に大空寺あゆが投下していった発煙筒の煙が少し臭うくらい。
それでも、藤林杏の死体が放つ血の臭いよりはマシだ。
時間を確認する。
現時刻は、十一時……面倒だ。後でいいか。
次に弾丸の残りを確認。……たったの三発しか残っていない。
確か先程まで、少なくとも十発以上はあったはずなのに。
とりあえず最後の三発を弾奏に込める。
「またやっちゃった……」
どうして自分はこうなのだろう。
アンティークドールのようにベッタリと地面に腰を降ろしながら考える。
『汚い』ただ一言言われただけでここまで取り乱してしまう。
どうしようもない悪癖だ。だが、コレばかりはどうする事も出来ない。
「藤林さん、私また帰って来ちゃった」
事切れた死体に話しかける自分が馬鹿ばかしく思える。
それでも何故か心は満たされた。
だって死んだ人間は裏切らないから。決して、裏切らないから。
良美は生い茂る木々の間から僅かに見える太陽を眺めて、ぼそっと呟いた。
「エリー……逢いたいよ。一緒に帰って、幸せになりたいよ」
【E-5 森(マップ左下)/1日目 昼】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10 (2/6) 防弾チョッキ】
【所持品:予備弾丸17発・支給品一式 閃光弾セット(発煙筒(白)x1 催涙弾x1)】
【状態:肋骨左三本骨折・右一本骨折、肉体的疲労軽度】
【思考・行動】
1:ホテルに向かい、亜沙を休ませる
2:神社から離れる
3:良美を警戒
4:一応殺し合いに乗るつもりはない
【備考】
※あゆは放送の一部を聞き漏らしています。 その為禁止エリアがC-2と言う事は知らず、Cのどこかであるとしかわかっていません。
※赤坂が遥を殺したかもしれないと疑っています(赤坂と遥の名前は知りません)
※ことみが恋太郎を殺害したと判断しています
※亜沙を信用。ことみには依然、人殺しの疑惑。良美も危険人物として警戒。
※ハクオロを危険人物と認識。
※閃光弾セット
発煙筒(白)二本と催涙弾一本、閃光弾一本のセット。
【時雨亜沙@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式、C120入りのアンプル×8と注射器@ひぐらしのなく頃に】
【所持品2:イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×4、ゴルフクラブ】
【状態:体力限界、精神的疲労大、魔力消費大。左肩軽傷。ロングヘアー】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:あゆと共にホテルに向かう
2:神社から離れる
3:ことみを心配
4:ネリネを止める
5:可能ならば稟や楓と合流
6:同志を集めてタカノたちを倒す
支援
。
【E-5 平原(マップ中央)/1日目 昼】
【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾17/32)】
【所持品:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、四葉のデイパック、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×4】
【状態:肉体的疲労中、腹部に軽い打撲、精神的疲労中】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:亜沙を心配
2:身体を休ませる
3:神社から離れる
4:楓に恐怖
5:工場に向かい爆弾の材料を入手する(但し知人の居場所に関する情報が手に入った場合は、この限りでない)
6:鷹野の居場所を突き止める
7:朋也たちが心配
8:ネリネとハクオロを強く警戒
9:ハクオロに微妙な罪悪感
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています。
※首輪の盗聴に気付いています。
※魔法についての分析を始めました。
※あゆは亜沙とっては危険ではない人物と判断。自分にとっては危険人物。
良美に不信感。
※良美のNGワードが『汚い』であると推測
支援
【E-5 森(マップ上)/1日目 昼】
【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(3/5)、破邪の巫女さんセット(巫女服のみ)】
【所持品:支給品一式×2、錐】
【状態:疲労中度、手首に軽い痛み、左肩に銃創(出血)重度の疑心暗鬼、巫女服の肩の辺りに赤い染み】
【思考・行動】
基本方針:エリカ以外を信用するつもりは皆無、確実にゲームに乗っていない者を殺す時は、バレないようにやる
利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:???
【備考】
※メイド服はエンジェルモートは想定。現在は【F-4】に放置されています。
※芙蓉楓を危険人物と判断(名前のみ)
※ハクオロを危険人物と認識。(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※ネリネを危険人物と判断しました(名前のみ)
※あゆ、ことみ、亜沙のいずれも信用していません。
※杏の死体の隣にいます。杏のS&W M36以外の支給品は不明。
『たとえ、愚かな考えだとしても』
時刻が正午に近づく中、春原陽平はひたすら東に逃げ続ける。
その状況は数時間前、鳴海孝之が二見瑛理子に手を引かれ、朝倉音夢の前から逃げた時の状況に似ていた。
「死にたくない」という生への渇望も、「誰かに守って欲しい」という願望も。
両者が異なるところを挙げるなら、彼には孝之の様に手を引いて逃げてくれる人間がいなかったことぐらいか。
「ハァ……ハァ……あ……あれは……」
何もかもを放り出して逃げ続けた陽平がたどり着いた先、そこは映画館――。
ここならば身を隠せる。そう思った陽平は映画館の入り口扉を開き中に侵入する。
フラつきながらもロビーを抜けて、座席の一つに腰をおろす。
「誰も……いないよな……。ここなら……少し休める」
自分しかいないガランとした映画館の中、陽平は呼吸を落ち着けながら、ここまでの事を思い出していた。
瑞穂との出会い、手錠で繋がってしまった茜との時間、博物館での国崎往人との遭遇……。
そして、仲間を見捨てての逃亡行――。
「僕は……」
回想の最中、陽平は呟く。
「なんで……僕はあの時逃げてきたんだ!」
死の恐怖から逃れ、落ち着いた今の陽平にあるのは仲間を見捨てた事に対する激しい後悔の念だった。
思えば、あの時自分以外の誰が逃げようとしただろうか。
茜もアルルゥも、そして瑞穂も死にたくなかったはずだ。
だが、自分を除く全員が、あの男――国崎往人――に立ち向かっていった。
今考えれば自分も立ち向かっていれば、皆と力を合わせていればあの男に勝てのかもしれない。
「だけど……もう手遅れだよな……今頃皆は……」
そう、あの男は銃を持っていた。
それに対して、こちらが持っていたのはせいぜい投げナイフとあの鉄パイプぐらい。
どうやっても勝てるはずが無いだろう。
今更博物館へ戻ったところで、瑞穂達は冷たい骸となって博物館の中に転がっているはずだ。
仮にあの男を撃退し、勝利していたとしてもそこへ戻れば白眼視されるのは分かりきっている。
だとすれば、自分だけ逃げたのも間違ってはないかもしれない。
何よりもうすぐ2回目の定時放送が流れる。
そうなれば全てはっきりするだろう。
誰が死に、誰が生き残ったかが……。
だが、そこまで考えた陽平の脳裏に嫌な考えが浮かぶ。
(もし、瑞穂さん達の名前が呼ばれて、そこに加えて岡崎の名前が呼ばれたら……そしたら僕はどうしたらいいんだ……)
瑞穂達が助からないのはほぼ確実だろう、だが友人である岡崎の名が呼ばれたなら自分は果たして耐えられるだろうか。
いや、恐らくは耐えられないだろう。
せっかくこの島で出来た仲間は自分から見捨ててしまった。
この上、ここへ連れて来られる以前からの友人が死んだなら、自分にあるのは孤独だけである。
(嫌だ……そんなの、僕は嫌だ……)
陽平は自然と身震いしていた。
恐ろしかった。
そう、この島で一人になるのはあまりにも恐ろしかった。
そして、いくらかの時間が経過した。
(疲れも少しは抜けたんだ。こんなとこ、さっさと出よう……)
入ったときは気にしなかったが、幾分落ち着いた今となっては誰もいない映画館に自分ひとりだけというのも不気味すぎる。
もし、あの男がここにやってきたら次こそ自分は助からないだろう。
陽平は隣の座席に放り出していたディパックを手にすると足早に映画館を後にしようとする。
「なんだ、このメモ?」
座席の間を抜けて、会場からロビーへ出た彼の目にあるメモが見えたのはその時だった。
立ち止まり、メモを手に取った陽平はその内容に目を通す。
メモには書いた人間の名前と、彼らの移動先と共に探している人物について書かれていた。
「『私たちと同じ意思を持つ人はどうか私たちを追ってきてください』か……。名前を書いているということは殺し合いに乗ってないということだよな」
この様なメモを残した人間がいる事、他にもまだ殺し合いに乗ってない人間がいるという事実に思わずホッとする。
メモに書かれている場所へ行けば、この3人と会えるかもしれない。
だが、もう一度メモを見た陽平は、その中に見覚えのある名前があることに気が付く。
「神尾観鈴に……国崎往人だってぇ!?」
思わず声をあげる陽平。
国崎往人は忘れもしない。
あの銀髪と目つきは忘れようにも忘れられるはずがないだろう。
奴は今の陽平にとって恐怖の対象だ。
そして神尾観鈴は、あの男が探している人間の名前。
これは要するに、互いがこの近くにいるというのを知らないという事だ。
少し前まで混乱していた陽平ですらその事は理解できた。
「そうか……そういう事か……それなら」
メモを握り締める陽平は、ある事を思いつく。
恐らく、このメモを残した三人は少なくとも国崎往人が殺し合いに乗っている事、そして神尾観鈴を探している事を知らないはず。
ならば自分が教えてやればいい、その事実を。
あの国崎往人がどのような理由で神尾観鈴を探しているのかは知らない。
見つけ出して保護しようとしているのか、博物館で自分が思った様に殺すつもりなのか。
だが、あの男がこのゲームに乗った事実を伝えるのは悪い事ではないだろう。
自分を守ってくれるかもしれない人間ならば、なおさらだ。
特に、国崎往人が探している神尾観鈴という人物がその後どんな反応をするか。
両者の関係など陽平は知らないし、知ろうとも思わない。
だが、彼女に国崎往人が殺し合いに乗っていることを知らせれば、彼女があの男を止めてくれるかもしれない。
「でも……卑怯な発想だよな……」
ポツリと呟く陽平。
この期に及んで、地力で何とかせずに他人を頼ろうとするのは腰抜けだし、卑怯かもしれない。
瑞穂が知ればあの時と同様に「恥を知りなさい!」と言うだろう。
「だけど……だけど僕は……死ぬほうがずっと怖い……」
そう、誰だって死ぬのは怖い。
ましてや、こんな何処とも分からない場所で死ぬのはまっぴらだ。
その為、誰かに依存する事の何が悪いのか。
陽平はそう思うことで自分の不甲斐なさを心の片隅に押しやった。
「それじゃ、もう行くか」
暫くして、メモをジーンズのポケットにねじ込んだ陽平は映画館を後にする。
メモの最後に「このメモはもっていかないでください」とあったが、あの男がこのメモを見たらどんな行動をとるか分かったものじゃない。
ならばこれを持っていって悪い理由は無い。
春原陽平の行動は酷く愚かで醜いものだ。
しかし、彼の「死にたくない」という感情を誰が否定できるのだろうか。
いや、恐らくは誰も否定できまい。
【C-4 映画館 /1日目 昼】
【春原陽平@CLANNAD】
【装備:投げナイフ2本、映画館にあったメモ】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも……?)】
【状態:肉体的には中度の疲労、精神的疲労中、恐怖と怯え、右手首に手錠、上はTシャツ、下はジーンズを着用】
【思考・行動】
基本:死にたくない
0:メモに書かれている場所へ移動し、メモを書いた3人に保護してもらう
1:神尾観鈴に国崎往人が殺し合いに乗っている事を知らせる。
2:岡崎を探し出して、助けて貰いたい
3:知り合いを探す
4:国崎往人に対する極度の恐怖
※メモに書かれている場所であるプラネタリウム、レジャービル、プール、工場へ移動します。
北上する1人の少女。その背には、バックが2つに少女が一人。
背負っている者の名は『白鐘沙羅』。気絶し、背負われる者の名を『水瀬名雪』。
名雪の頭には包帯が巻かれているが、所々から血が滲み出ており、その血は沙羅の肩を染め、なおかつその沙羅の美しい長髪をも汚しかけていた。
それでも、沙羅は歩むことを止めない。
沙羅にとって名雪は赤の他人だけどれども、目の前で苦しんでいる人を見捨てることができなかった。
それは生まれ持った性格のせいなのか、彼女の培ってきた探偵としての血が騒いだせいなのか沙羅自身もわからない。
(別にどっちだっていいじゃん、そんなこと!)
沙羅は唇をかみ締め、名雪の重さに耐えながら一歩ずつ踏みしめていく。
背負いながら歩くのは辛いが、それでもどこか沙羅は嬉しそうであった。
(やっと、やっと…人に出会えたんだ。これで突破口が開けたかも…)
ゲームが開始されてから約10時間。沙羅がようやく出会えた人物、それが名雪なのだ。
今までは一人で行動してきた沙羅にとって、仲間と呼べるであろう存在ができたのはとても心強かった。
名雪を一度持ち直して、沙羅は顔を上げる。
沙羅が目標としていた建物、『図書館』はほとんどもう目の前にあった。
「さぁ、ラストスパート!」
声を張り上げ、意気揚々と沙羅はその目標に向かって歩んでいった。
◇ ◇ ◇
夢、夢を見ていました。
夢の中の私は、祐一や香織、北川君と楽しそうに遊んでいました。
一緒に勉強したり、教室や外で騒いだり、家でご飯を食べたり……。
そんな平凡な毎日が私にとって宝物でした。
――――なのに。
「どうして、どうしてこんなことになったんだろ……?」
見知らぬ場所に連れてこられた挙句、殺し合いを迫られて……。
せっかくできた仲間もあの娘、『月宮あゆ』が皆を殺してしまった。
最初に彼女に会ったとき、彼女はその無垢な笑顔と性格で私たちを和ませてくれていた。
そんな彼女だからこそ祐一も魅かれたんだと思う。
でも今思うと、彼女の全てが『偽り』にしか考えられなくなってくる。
『うぐぅ、痛いよぉ』
やめて…
『祐一くん』
やめて、呼ばないでその名前を…
『祐一くん、大好きだよ』
「やめてぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!!」
どんなに叫んでも、彼女の声が脳内でリピートされる。
何度目かの彼女の声が聞こえたとき、私の意識はまた、どこかへ飛んでいってしまった……。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……。これでよしっと」
図書館についたあと沙羅は名雪を椅子に寝かせ、一息をついた。
沙羅は自分のバックから水を取り出し、一気に飲み干す。全身に水が行き渡り、動悸が落ち着いてきたところでようやく、自分の運んできた少女をしっかりと見つめる。
「一体、どうやったらこんな風になっちゃうんだよ……」
右目から頭部にかけて巻かれた包帯、いまだに止まらない血。見るも無残な姿。それが彼女に一番ふさわしい言葉であった。
沙羅はとりあえず、事務室から包帯やハサミなど医療道具を取ってきたのは良いものの、どうしたらいいかわからずその場で悩んでいた。
「看護とかは苦手なんだけどなぁ……」
ブツクサと呟きつつ、目に付いた包帯を頭部から巻き取る。
「…………うっ」
その余りにも痛々しい姿に、沙羅は内部から込み上げる異物をこらえられず、急いでトイレへと向かい、個室に入る。
沙羅は人目も憚らずそこで嘔吐した後、泣きそうになるのを堪えて、再び少女の下に戻った。
(私がやらなきゃ、私がやらなくちゃ……!!)
沙羅は震える手をどうにか押さえつけ、タオルを手に取る。
まずは、少女の右目から流れ出る血を丁寧にふき取り、次に包帯をできる限り丁寧に巻いていく。
「痛かったよね…。ごめん、私何もできなくて……」
未だ気絶している少女に向け、沙羅は謝罪をする。自分ができることはやった。あとは、少女の生命力にかけるしかなかった。
沙羅は包帯を巻き終え、再び少女を安静にさせて、自分はカウンターへと向かう。
これだけの本があるのだから、それを管理するパソコンがあるはずだと考えたからだ。
そして沙羅は自分のお目当てのモノを発見し、さっそくパソコンを起動させる。
画面にはいわゆるどこにでもある普通のOSが開き、デクストップが展開する。
沙羅は、その中から『ようこそ図書館へ』と書かれたフォルダをダブルクリックする。
中から出てきたのは、『図書館について』・『???』と書かれたファイルとフォルダであった。
(『???』ってのも気になるけど、また爆発とかしたら大変だしなぁ…)
沙羅は多少迷いつつ、『図書館について』を見ることにした。
【図書館について】
この文章を見ているということは、図書館にきているということですね。
おめでとうございます。よく今まで生きていましたね。これからも頑張って!
そうそう、この図書館だけど、収録されている冊数は約30000冊。まっ、一般的な書籍数かしらね。
その中には、もちろんこのゲームに役立つ本もあるし、童話や小説なんでもあるわ。
本を読んですごすのも良し、さっさとこんな場所から立ち去るのも良し、それはこれを読んでいるあなたの判断に任せるわ。
この隣にあったフォルダはまぁ見たければ見てくださいって感じね。
あなたにとって+になるか−になるか、それはあなた自身によるわ。
それでは、この文章はお終い。
そうだ、最後に一つ良いことを教えてあげる。
――――隠しフォルダってのがこの世には存在するのよ。
そこまで読んで、沙羅はその文章を閉じる。
得た情報は少ないが、気になることはあった。まずは、隠しフォルダについて。
残念ながら、沙羅はそこまでパソコンに詳しいわけではないので、このフォルダを探すことはできなかった。
そしてもう一つ。フォルダ『???』について。
自身にとってどんな影響があるのかわからない、それをあの文章は繰り返していた。
(でも、虎の子を得るためには虎の穴にも入らなきゃだし……)
沙羅はそう決断して、『???』を開く。
中から出てきたのは、『開催!!.avi』というファイル。
沙羅がそれをダブルクリックすると、WMPが開かれ、動画が再生され始める。
(これは…………)
――――とある部屋に集められた人たち。
その中に私の姿もはっきりと映っていた。もちろんあの憎い鷹野も……。
(そうだ…これは、あの時のだ……)
自分たちが最初に集められた場所で行われた惨劇。ゲームの開始を宣言する様子。
そのすべてがこの動画に映っていた。
その開会式と呼ばれるものが終わると、画面上に一人の男性が映る。
『やぁ、僕の名前は富竹。フリーのカメラマンさ。本来は、写真にしてこのフォルダに収めておきたかったんだけどね……。
三四さんの命令だから逆らえないんだよ。だからこうしてビデオで記録を収めているんだ。まぁ僕はこうしてビデオを撮ってるから、このフォルダには次第に動画が増えていくと思うよ。
まぁ、不定期配信というやつかな。それじゃあ、富竹ジロウの次回作品を是非、期待していてくれ。』
そこまで言うと、体格のいい男は動画の終わりと共に画面から消えていく。
動画の一部始終を見て、沙羅はどうしようもない怒りが込み上げていた。
「どうしてこんな風にできるの!? 人が死んでるのに……!!」
カウンターを叩き、怒りを露にする。
動画が更新されれば、確かに誰がどこで何をしていたかわかるかもしれない。だが、それは人が殺しあうその現場を見せられるかもしれないということだ。
いくら情報が欲しくても、沙羅にはそれが耐えられなかった。
気持ちを静め、沙羅はこれ以上調べる必要がない、と判断しパソコンの電源を切り、少女のほうを見つめる。
(この娘がおきない限り、こっから行動できないよね……)
そう思った沙羅は二階へと通じる階段を登り、文章に書いてあった『このゲームに役立ちそうな本』を探す。
右往左往しながらも、沙羅はようやく埃の被った一冊の本を手にとった。
――――『バトル・ロワイアル』
題名には確かにそう書いてあった。
沙羅が分厚い冊子の1ページ目を開こうとした、ちょうどその時だった。
この建物の中のスピーカーというスピーカーから放送が聞こえてきたのは……。
ようやく2回目となる放送。これが、果たしてどう響いてくるのだろうか……。
【F-3 図書館内部(1F)/1日目 昼】
【水瀬名雪@kanon.】
【装備:槍 学校指定制服(若干の汚れと血の雫)】
【所持品:支給品一式 破邪の巫女さんセット(弓矢のみ(10/10本))@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、大石のデイパック、乙女のデイパック】
【状態:疲労。出血。右目破裂(頭に包帯を巻いています)。頭蓋骨にひび。軽欝状態。強い決意】
【思考・行動】
0:気絶中
【備考】
※芙蓉楓を危険人物と判断
※名雪が持っている槍は、何の変哲もないただの槍で、振り回すのは困難です(長さは約二メートル)
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※前原圭一・古手梨花・赤坂衛の情報を得ました(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※乙女と大石のメモは目を通していません。
※頭の包帯が綺麗になりました。
【F-3 図書館内部(2F)/1日目 昼】
【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ワルサー P99 (16/16)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本】
【状態:健康・強い決意・若干の血の汚れ】
【思考・行動】
0:放送を聞き逃さない。
1:恋太郎を探す。
2:情報端末を探す。
3:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
4:前原を探して、タカノの素性を聞く。
5:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護 。
6:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす。
7:この場所から逃げ出す。
8:少女の介護をする。
【基本行動方針】
一人でも多くの人間が助かるように行動する
※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
下記の情報以外にも後続の書き手さんが追加してもOKです。
『皆さんに支給された重火器類の中には実は撃つと暴発しちゃうものがあります♪特に銃弾・マガジンなどが大量に支給された子は要注意だぞ☆』
『廃坑の入り口は実は地図に乗ってる所以外にもあったりなかったり(ぉ』
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
少なくともこの3文はあります。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。
※双葉恋太郎の銃“S&W M60 チーフスペシャル(5/5)”は暴発しました。
※港には中型クルーザーが停船していますが、エンジンは動きません。
※パソコンに情報端末をつなげるとエンジンが動くというのはあくまでも沙羅の推測です。
※図書館のパソコンにある動画ファイルは不定期配信されます。現在、『開催!!.avi』のみ存在します。
※図書館についてある程度把握しました。
※隠しフォルダの存在を知りました。実際にパソコン内にあるかどうかは書き手さんにおまかせ。
(これは…………)
――――とある部屋に集められた人たち。
その中に私の姿もはっきりと映っていた。もちろんあの憎い鷹野も……。
(そうだ…これは、あの時のだ……)
自分たちが最初に集められた場所で行われた惨劇。ゲームの開始を宣言する様子。
そのすべてがこの動画に映っていた。
その開会式と呼ばれるものが終わると、画面上に一人の女性が映る。
『ふふ……。やっぱり開いてしまったのね。私の名前は言わなくてもわかるわよね?
ふふ…あなたが怒っていそうな顔が目に浮かぶわ。 このフォルダには次第に動画が増えていくと思うわ。
不定期配信というやつね。それじゃあ、鷹野三四の次回作品を是非、期待していて欲しいわ。』
そこまで言うと、ゲームの主催者は動画の終わりと共に画面から消えていく。
動画の一部始終を見て、沙羅はどうしようもない怒りが込み上げていた。
「どうしてこんな風にできるの!? 人が死んでるのに……!!」
カウンターを叩き、怒りを露にする。
「おい! 大丈夫か!」
(…れ……)
「前原さん、先に傷の手当てしておきませんか」
「ああ、そうだな…………遠野さん、お願いしてもいいか」
「……えっちですね、前原さん」
(……だ……れ……)
「い、いや違う、違います! 俺は決してやましい事なんか考えてない!!」
「……冗談です、……それじゃあ向こう向いてて下さいね」
「って、全然冗談と思ってねえじゃねえかー!!」
ボク――月宮あゆが目を覚ましたとき、目の前には見知らぬ人達が居た。 目の前の二人――すぐ傍に居る女の人と、その横で首だけ変な方向に向けている男の子――はボクの肩の手当てをしてくれていて、目が覚めた事に気づいてはいないみたいだった。
「誰……なの」
「おっ、気がついたのか、っておわ!!」
ボクが目を覚ました事に気づいた男の子がこっちを向いた、けどすぐに元の方に首を向けた。
「前原さん……やっぱりえっちです」
「いや! 見てない! 俺は何も見てない! 何も見てなんかいないぞ!!」
その男の子――前原くんという名前らしい――に女の人が少し楽しそうに声を掛けて、前原くんが必死で弁解していた。ただ、その内容が少し気になった、ので少し顔を持ち上げて、
「……えっち……」
ボクの下着姿の上半身が目に入った瞬間、無意識に呟いた。
「だから違うって言ってんだろーがー!!」
前原くんは叫んで、
「前原……危険なんだから叫ぶな」
車の方からやってきた男の人に怒られていた。女の人はそれを楽しそうに眺めていた。
(楽しそうだなぁ)
それを見ながら何となく
(ボクたちも、さっきまでは……) 考えて、
「! ここ何処!? 」
思い出した。 ボクが今どんなところにいるのか ボクが何をしてしまったのか ボクが何をしたかったのかボクがどんなことを思っていたのか 全て思い出していた。
「な……何だいきなり」
「薬局はどっち!? 薬局は……良美さんは……何処なの」
「お、おい落ち着けよ。 薬局? 確か……」
「……良美さんって、もしかして佐藤良美さんですか?」
圭一の答えを遮って、美凪はあゆに問いかけた。
「! 良美さんの事を知っているの?」
その美凪の問いにあゆは反応を返したが、
「……その前に、何があったのか話してもらえないか」
その質問は武に遮られた。
「え……」
武さんの問いに女の子は明らかに怯えを見せた。
「ち……違う……の、ボクは、あんな、あんなこと……するつもりなんか……」
その言葉には明らかな恐怖が込められていた。
「……いったい何をやったんだ」
「武さん、そんなに怖い声はだめです」
武さんの質問を美凪さんがたしなめる。美凪さん、ぐーだ。
「ボクは、あんな、こ……殺し、たく、なんて、」
女の子の言葉で大体の事はわかった。
彼女は良美さんと同じような状況になってしまったんだろう。
(なら、励ましてやらないと)
――だが
「何で、乙女さん、大石さん、名雪さん、みんな、ボクが、なんで」
その一言で圭一の思考は吹き飛んでしまった。――
「!? 大石さん!? 大石さんがどうしたって!!?」
無意識のうちに女の子の肩をつかんで、そう叫んでいた。
「え、お……大石さんのこと……知ってるの?」
「ああ! 知ってる! けどそんなことはどうだっていい! 大石さんが、大石さんをどうしたって!?」
(この子は今なんて言った? 大石さんが死んでしま……いや、この子が■した?)
女の子の体を激しく揺さぶる、その言葉が何かの間違いだと願いながら。
だが
「ご……ごめ……ごめんな……さい。 ボクは……ボクが……大石さん達を、……痛い!」
無意識のうちに力が入り、女の子が痛みを訴える
「大石さんを……殺したのか!!」
がそんなものを気にせずに続けた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ボクは殺したくなんかなかったんです! 殺す気なんか無かったんです! ボクは、どうして、ごめんなさい、ごめんなさい!」
女の子が謝罪を繰り返す、だがソんなものは耳に入らない。
(大石さんが……死んだ?)
確かに、見た目は胡散臭い人かもしれない。
魅音たちに言わせれば、嫌な人だったのだろう。
自分も一度は憎らしく思った相手だ。
だが、その憎らしい態度は俺たちの事を思っての行動だった。
忘れはしない、大石さんが居なければ、沙都子は今頃無事ではなかったかもしれない。
(その……大石さんが……死ンだ)
自身というものをしっかりと持っており、安心できる社会的な地位を備えていて、この殺し合いの場所でも信頼できる相手。
あの時は確かに同じ目的の為に戦ってくれた仲間
その大石さんを
(コいツが……■した?)
そうして明確な――その感情を自覚せずに――■意を抱いた時
「前原くん、だめです。」
遠野さんの声が前原を止めた。
「だけどこいつは、大石さんを!」
「いや、そのぐらいにしておけ前原。 まだ聞かなきゃならん事がある」
気持ちはわからなくもないが、とは続けなかった。
「だけど!!」
「それとも、報復にその子を殺すのか?」
「え……?」
と、どうやら頭が冷えたようだ。
「殺し合いを止めるつもりなんだろ、そして殺すつもりはない。 だから俺たちは一緒に行動しているんだろ」
「武さん……その言い方はよくないです」
少し厳しく言ったら遠野さんにたしなめられてしまった。 だが、効果は十分だったようだ。 前原は女の子の肩から手を放し、少し離れたところへ移動した。
最も、平静とはほど遠い状況のようだったが。
(とりあえずはこれでいい)
前原は、冷静になれば人を殺す気はない……はずだ。 だが、
(何故だ、人を殺したと言っているこの子よりも、さっきの前原の方が遥かに危険な相手に見えた)
実際、明らかにひ弱な目の前の子よりは、男である前原のほうが強そうではある、しかし、先ほどの前原は……手当たり次第に人を殺しそうに見えた。
(一体どうしたんだ、俺は)
自分自身がどこかおかしいのではないか、その不安を武は感じていた。
前原さんは、しばらく離れていましたが、目の前の女の子――月宮あゆちゃんという名前だそうです――が少し落ち着いて、武さんがあゆちゃんに質問するころには戻ってきました。
その時に、
「ごめんな、美凪さん、武さん」
と言ってきました。
私は反省しましたで賞のお米券をあげました。
武さんも気にするなと言っていました、男の子の友情というやつですね。
そうして、私たちはあゆちゃんの話を聞くことにしました。
やっぱりというか、あゆちゃんは大石蔵人さん――前原さんのお知り合いの刑事さんだそうです――、鉄乙女さん、水瀬名雪さん――あゆちゃんの元々のお友達だそうです――を殺してもしまったそうです。
わかっていたけどやっぱりがーんです。
それで、怪我をしていた大石さんと乙女さんの為に薬を取りに行った、良美さんのところに行こうとして、途中で肩の傷のせいで倒れてしまったそうです。
そうそう、大石さんの怪我はハクオロという人、乙女さんの怪我は楓という人のせいだそうです。 確認の為に名簿で調べてみましたが、ハクオロという人は一度見たら多分忘れられません。
ところがです、あゆちゃんの話を聞いていると、少しおかしな所があるのです。
「……その、傷に良く効く薬ってのを、入れたんだな?」
そうなのです、血を吐いて死んでしまったという大石さんと、乙女さんの食事に、良美さんからもらったお薬を混ぜたらしいのです。
「え? じゃ、じゃあ、良美さんが……? そ、そんなはずないよ、だって、良美さんと乙女さんは、あんなに親しそうだったのに」
短い間でしたが、お友達だった人を疑いたくはありませんが、あのときの良美さんは……なんていうのか凄く、危険な感じのする人でした。 そして、知り合いだったらしい男の子も、躊躇わずに撃っていました。
「ただし、君の話を全て信じるなら……だ、そして弾みとはいえ、その名雪という子を殺したのは事実だ」
もちろんあゆちゃんが嘘をついている可能性もあります。でも、あんまり嘘がうまそうな子にも見えません。
「……とりあえず、薬局に行ってみよう。 そこに良美さんが居れば全てがはっきりする。……それに、もし良美さんが最初からそのつもりなら、薬局には行ってないことになる、
それなら」
はっきりすると、前原さんは言いました。
それで私たちはひとまず薬局によることにしました。
「ただ、その前に遠野さん、月宮さんが何か隠し持っていないか調べてくれないか。
それから月宮さん、君の荷物は水と食料以外は預からせてもらう」
「好きにして……いいよ」
でもその前に、あゆちゃんが危険じゃないか調べる必要があります。
私があゆちゃんを救急車の後部座席で調べている間、
「なんだ? この剣はいやに柄の部分が長いが、使い難くないのか?」
「なんつーか、えらく派手だな。 どっかの映画に出てきそうだ」
前原さんと武さんはあゆちゃんの荷物を調べていました。
◇ ◇ ◇
どうやら行ったみたいね。
救急車が移動した事を確認してから私――咲耶は民家の生垣から移動した。
求めていた情報はなかったが、それなりの収穫はあった、佐藤良美、芙蓉楓、ハクオロ、
殺し合いに乗っていると思われる危険な人間たち。 そして彼らの話を聞いて思いついたこと。
「薬とかは必要よね。」
傷薬、包帯、消毒液などの医療品は必要だろう、それに予備の食料や水、工夫すれば武器になりそうなものなど、丁度商店街にいるのだから集めておいて損はないはずだ。
できるなら、美凪とかいう女が持っていた名簿も欲しいが、奪うとなるとリスクが高すぎる。
彼らと同行して名簿だけ見せてもらう事も考えたのだが、あの武という男はかなり用心深いようだ、そしてなんとなくだが齟齬を感じた。結果として、咲耶は彼らの前に姿を見せなかった。
とりあえず、近くを周って必要なものを集めよう、その後は……やっぱり神社かしらね、多分道中で放送も流れるでしょう。
「薬とかが残ってるといいんだけどね」
【G-4 住宅街南/1日目 昼】
【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 食料・水x4、可憐のロケット@Sister Princess、タロットカード@Sister Princess
S&W M627PCカスタムの予備弾61、肉まん×5@Kanon、虎玉@shuffle、ナポリタンの帽子@永遠のアセリア、日本酒x3、工事用ダイナマイトx3、ポリタンク石油(10L)×3、発火装置、首輪(厳島貴子)】
【状態:身を隠しています。若干緊張】
【思考・行動】
基本方針:自分と姉妹達が死なないように行動する
0:商店街で必要なアイテムを探してから、放送を聞きがてら神社へ向かう。
1:衛、千影を探し守る。
2:首輪を解析する能力を持つ参加者を探して利用する
3:佐藤良美、芙蓉楓、ハクオロを危険な相手と認識
4:姉妹以外の参加者は確実に皆殺し
5:余裕がある時は姉妹の情報を得てから殺す
6:宮小路瑞穂に興味
【備考】
咲耶が商店街で得た品物については次の書き手さんにおまかせします。
◇ ◇ ◇
「う……そ」
武さん、前原さん、遠野さんと一緒にやってきた薬局、そこは商品が綺麗に並べられていた。つまり、良美さんはここには来てない、そういうこと。
「ここに……来る前に……何かあったのかも」
そんな……何で……何で……何で……
「それは否定しない、だが、疑わしいのも事実だ」
何で……ボク……ボク達……何かしたの?
乙女さんと……友達なんだよね?
あの薬は……ボク達の為にくれたんだよね?
大石さんや、乙女さんの為に……薬を……
「俺たちはこれから神社に向かう。 悪いがまだ君が完全に信用できる訳じゃない、一応同行してもらえるか」
「好き……にしていいよ……」
そうして車は走り出す、だが彼らは知らない。 あゆが殺してしまったと思っている相手の一人、名雪が生きている事を。そして彼らがそれを知るのはそう遠い話ではない。
【G-4 住宅街北/1日目 昼】
【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ジッポライター、貴子のリボン@乙女はお姉さまに恋してる、永遠神剣第三位「永遠」@永遠のアセリア、ネコ耳バンド】
【状態:L5侵蝕中。軽度の疲労。頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)。頬と口内裂傷(出血中)。頚部に痒み】
【思考・行動】
0:やはり俺の体はどこかおかしい……?
1:L5侵蝕中(軽度)
2:土見稟を追い神社へ、参加者殺害を防ぐ
3:知り合いを探す。つぐみを最優先
4:土見稟をマーダーと断定
5:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒
6:佐藤良美を警戒
7:ハクオロ、芙蓉楓を警戒
8:余裕があれば救急車の燃料を入れる。
【備考】
※キュレイウィルスにより、L5の侵蝕が遅れています、現在はL2相当の状態で強いストレスや、疑心に陥らない限りは進行はしません。
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料は残り2/3です。
※圭一に若干の不安を抱きました。
※あゆについてはまだ警戒しています。
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:精神安定、右拳軽傷、腹部に軽度の打撲、左肩刺し傷(左腕を動かすと、大きな痛みを伴う)】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式×2、キックボード(折り畳み式)、手榴弾(残4発)】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出、殺し合いには乗らない、人を信じる
0:大石さん……
1:美凪を守る
2:美凪や武と共に稟を止めるため神社に向かう
3:知り合いとの合流、または合流手段の模索
4:良美を警戒
5:あゆについては態度保留、但し大石を殺したことを許す気は今のところない。
6:土見稟を警戒
7:ハクオロ、芙蓉楓を警戒
【備考】
※倉成武を完全に信用しました
※宮小路瑞穂、春原陽平、涼宮茜、小町つぐみの情報を得ました
【遠野美凪@AIR】
【状態:健康】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:包丁、支給品一式×2、救急箱、人形(詳細不明)、服(詳細不明)、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する
2:佐藤良美を警戒
3:土見稟を警戒
※倉成武を完全に信用しました
※宮小路瑞穂、春原陽平、涼宮茜、小町つぐみの情報を得ました
※あゆのことは基本的には信用しています
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、】
【状態:疲労極めて大。混乱。恐怖。喉に紫の痣。左肩に抉り傷(治療済)(左腕に力が入らない)】
【思考・行動】
0:良美さん、そんな……
2:早く祐一と会いたい
3:往人を説得したい
【備考】
※名雪は死んだと思っています
※佐藤良美に疑いを抱きはじめています
※芙蓉楓を危険人物と判断
※前原圭一・古手梨花・赤坂衛の情報を得ました(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※月宮あゆ、水瀬名雪の通った後は、注意すれば血痕が残っているのが分かります。
※あゆの支給品は武のデイパックに入っています。
「ふぅ……やっと抜けられたようだな」
赤坂達と別れた智代はたった今、森をぬけB−5の北部に来ていた。
あの後からだいぶ経ったが、幸か不幸か誰にも遭遇する事は無かった。
(とりあえず……休憩しよう)
いくら智代が普通の女子高生と違うとはいえ、長い間森の中を歩き回って疲れないわけが無かった。
そのまま智代は地面に座り休憩を始めた。
(のんびりしてる暇はないんだが……仕方ないか……エリカ待っていろ、仇は必ず!)
体は休め、されど心は復讐に燃える阿修羅の如く。
修羅になった智代の心が休まる時はもう訪れる事は無い。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(そういえば……まだ残りの支給品を確認してなかったな)
休憩をしながら智代は残りの支給品確認していなかった事を思い出した。
一つ目の支給品「FNブローニングM1910」を確認してからエリカと遭遇したので、それから残りの物の確認する暇が無かったのである。
(何か役に立つものがあるかもしれないな)
そう思い智代は確認を始めた。
「1つ目は……」
智代が取り出したのは何の変哲も無いペンダントだった。
丸い鏡面を持った以外に他に特徴が無かった。
(はずれだな……こんな物、殺し合いに役に立つわけが無い。)
智代はため息をつき、だが気を取り直してもう1つの支給品を確かめた。
その二つ目とは
「これは……いい物だな。さっきと違い、殺傷力は無いが十分に役に立つ」
智代は支給されたものをポケットに仕舞った。
これはすぐに取り出せなければ意味が無いものだ。
(支給品も確認したし、そろそろ行くか……)
どこに行こうか思案している智代に近づいてくる者がいた。
それは智代がもっとも望んでいる殺人者であった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「さ〜とう〜さん〜♪ 出ておいで〜♪ おいしいハ〜ンバ〜グにしてあ〜げるよ〜♪」
森に向かっている孝之はずっとこんな感じである。
普通の人では耐えられない傷を負っているのに麻痺しているお陰で全く気にしてなかった。
そんな孝之を遠くから見ているのは
(あの人間……いつまで喚いている、すぐに誰かに見つかってしまうぞ)
土永さんだった。孝之を呆れながら見ていた。
その時、土永さんは誰かを見つけたようだった。
『おい、人間』
「なんですかぁ〜〜神様〜〜?」
『もう少し先に他の人間がいるぞ』
「へぇ〜殺しちゃっていいんですかぁ〜?」
『うむ、しかし、その前に色々聞きだしてからだな……』
「殺していいんだ、じゃあ行ってきますね! 待ってて、今、夢からさましてあげるから!」
『ちょ、ちょっと待て、我輩の話を聞け!』
土永さんの静止の声も聞かず、駆け出す孝之。
彼の頭にはその人間をどんな手段で殺すか、それしかなかった。
「何を使って殺してあげようかな〜? ハンマーで粉々に潰そうかぁ〜?それとも斧でかち割ってやろうか? ひゃは、どれも捨てがたいな〜」
そして孝之は一つの支給品を取り出し
「これに決めたぁ! ちゃちゃちゃん! ツル〜ハシ〜!!」
それはツルハシだった。
ツルハシを持ってさらに走るスピードあげた。
「これで夢から覚ましてあげる事できる! あ〜ひゃひゃひゃ!」
もう、智代を目視出来る所まで近づいていた。さらに加速し、そのまま智代に近づき、
「ひゃっは〜〜!死ね〜〜!」
ツルハシを振り下ろした。
だが智代は背後の襲撃者に気付いていた。
「甘い!」
瞬時に孝之の攻撃を避け、体勢を立てなおした。
「まさかいきなり襲撃されるとはな……だが都合がいい、殺し合いに乗ってる人間が近づいてくるとは」
「何で避けるんだい〜〜? 夢から覚ましてあげるにィィィ!」
「覚ます? 何を言ってるんだ、お前は?」
「だから夢から覚ましてあげるんだよおお〜殺してさ〜〜」
「狂ってる……だがその方が気が楽だ、容赦なく殺せる!」
智代は不敵に笑う。
これ以上に無いぐらい気持ちが高ぶっていた。
やっと殺人者を殺せるのだ。興奮しないわけが無かった。
智代は銃を構え、孝之と対峙した。
こうして阿修羅と狂人との戦いが幕を開けた。
――だが智代自身も気付いていない。
自分自身も狂っている事に。
尋常でない殺気を放ち、また殺し合いをする事を良しとしさらに高揚までしてるのだ。
その様はそう、まるで阿修羅の如く。
はたから見れば智代も狂っているようにしか見えなかった。
支援
さらにもう一つ、気付いてなかった事があった。
それは――
(やれやれ、勝手に戦闘を始めるとは……まあ仕方が無い。それにしてもあの女、なんというすさまじい殺気)
エリカ達を罠にはめた張本人、土永さんがすぐ近くにいる事だった。
「まあ、精々殺し合いをしてくれよ、人間ども」
土永さんは空の上でそう呟いた。
「この〜〜避けるなぁぁ〜」
「無駄だ、そんな攻撃、当たるわけがない」
戦いが始まってからと言うものの終始智代のペースだった。
孝之の単調な攻撃を智代が避けられない訳が無かった。
とはいうものの
(ちっ、距離がとれないな、隙が出来るまで待つしかないのか……)
そう孝之の攻撃が間髪無く襲ってくるのでなかなか距離が取れないのである。
智代は一旦距離を離したいのだが孝之がそれを許してくれない。
もうどれ位避け続けてたのだろうか。
ついに孝之の痺れが切れたのか、攻撃が大降りなった瞬間、
「いい加減、しんじゃないよおぉぉぉぉ!」
「甘い!」
その隙を突いて智代は屈み、強烈な足払いを放った。
孝之にその高速の蹴りが避け切れる訳も無く、その足に直撃した。
「あひゃぁあああ!!」
孝之はそのまま尻餅をついた。
「このぉぉお! なぁぁにするんだよおおお!」
孝之がすぐに立ち上がってにツルハシを持って智代向かい駆け出すが遅かった。
前を向くと少し離れた所に智代が銃を構え立っていた。
「終わりだ。」
そう短く告げ、銃を撃った。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
放たれた弾丸は孝之の右の太腿に当たった。
(腹を撃ったつもりのなのだが……上手くいかないものだな。まあ動きは止まってるだろう)
智代はそう思ったが甘かった。
「ちくしょうぅぅぅ! ゆるさないぞぉぉぉぉぉ! グッサグッサに刺してやるぅぅぅぅ! ひゃひゃひゃひゃゃ〜〜〜!」
「なっ!? 全く効いていないだと!?」
孝之は止まらずさらにスピードを上げ智代に向かっていった。
すぐに智代の傍まで近づきツルハシを振り下ろした。
油断した智代には瞬時に避けることができなかった。
結果、
「ひゃは〜〜〜〜しねぇぇぇぇぇぇ!」
「うがあああああああぁぁぁ!!」
右肩を貫かれた。
智代はすさまじい痛みに耐えることが出来なくて手に持った銃を落としてしまった。
「くっ、しまった。 銃を……」
「やらせな〜いよ〜〜ほ〜〜ら〜〜もう1発〜〜〜」
孝之は銃を取らせまいとツルハシを振るい続ける。
智代は取る暇なく孝之の攻撃を避け続けた。
次第に銃から2人は離れていった。
(くっ不味いな……銃がないと……それに肩が……!)
形勢逆転。
智代は攻撃する手段も無くなり、負傷した右肩も思ったより重傷のようだ。
今だ孝之は元気で、智代に向かって攻撃を続けている。
今はまだ避けているが、そんなに余裕は無い。
誰が見ても智代の不利である。
「はっはっは! 何やってもむ〜だ〜だよ〜!」
(何か、いい物……そうか! アレを使えば!)
孝之の攻撃を避け続けている智代が思い出した物。
それはさっき確認したもの。
ポケットからそれを取り出し、ツルハシを振っている孝之に向け
「ひゃは〜〜〜〜!」
「この! くらえ!」
発射した。
「あ〜がぁ〜!! あ〜あ〜目がぁ〜目がぁ〜!! あ〜あ〜目がぁ〜あ〜あ〜!!」
孝之は目を押さえ眼の異常を感じた。
孝之が受けたもの。それは
催涙スプレーだった。
殺傷能力は動きを封じるには便利な物。
30分ぐらいしか効かないらしいが十分だった。
支援
「よし!今なら!」
孝之は催涙スプレーを喰らい悶えツルハシをがむしゃらに振っていた。
そんな孝之をみて智代はすぐ銃を回収にしにいった。
銃を取りもう一度構えた智代は
「これで終わりだ!」
孝之に向け発砲した。
だが当たらない。
それは孝之が動き回っているのと右肩を負傷してるのが影響していた。
「ちっ、まだだ!」
もう1発発砲したが当たらない。
(どうする後2発しかない……近づくのは危ないし、あまり弾を無駄打ちしたくない。なにより右肩が限界だ。)
智代は肩がすぐに治療しなければならないレベルまで達しているのを感じた。
そして智代は苦渋の決断を下した。
「ここでお前は殺したいが、そうもいかなくなった。 次は必ず殺す!」
「待て〜〜〜逃げるなぁぁぁ〜〜! 貴様ぁぁ名前はぁ〜〜!」
「ふん、殺人者に名乗る名のなどない!」
そう、智代は言い残し森の方へ去っていった・
こうして阿修羅と狂人の戦いはひとまず終わりを告げた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ちょwwwwwテラムスカwwwww
「あの銀髪の女、ぜっっったいころっっす!! ミンチにしてぐちょぐちょにして! ばらばらに刻んで! ぶっ殺してやるるるううううう!!」
智代が去って30分ごろして後やっと孝之はやっと目が回復した。
孝之はかなり怒り狂っていた。そこに
『人間大丈夫だったか?』
「あ、神様ああああ!! あいつ殺してもいいですよねねね!」
『ああ、よいぞ』
「いやったあ、お墨付きもらたぞおおおお!! ぜったっいい許さないんだから。」
そういい孝之は荷物を纏め森へ向かっていった。
それを土永さんは空から見上げ
(あの男、本当にタフだな。……しかしあの女すさましい憎悪。利用できたら利用するか。)
そんな事考えつつ孝之の後に続いた。
これはタイトルが気になる……w
【B-5 北部 1日目 昼】
【鳴海孝之@君が望む永遠】
【装備:ツルハシ】
【所持品:支給品一式、多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、両手持ちの大型ハンマー、斧2本、レザーソー3本、フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)】
【状態:俺には神の啓示と加護がある!皆待ってろよ!!】
【思考・行動】
1:ぎゃわはははははははー!(森に入り、神の名の下に背徳者である生徒会メンバーを殺す+女は犯してから殺す。まずは佐藤良美とかからだ!!)
2:げへへへへへへっ!(殺したらミンチをこねてハンバーグだ!)
3:くっくっくくっくく!(銀髪の女、殺す!)
4:あひゃひゃひゃひゃ!(一人の相手には名前を聞いてから殺す)
5:ひゃっはーーーーーーーーー!(大勢の場合、無害を装って一人ずつ時間をかけて殺す)
6:あんなこ〜とイイなッ!で〜きたらイイなッ!
7:最後は茜をひ、ひひ、ひひひ、ひひいひひひひひひひひッッ!
【備考】
森に入ります。
森へ入った後、東に行くか南に行くか、はたまた西に進んで海にドボンするかは次の書き手次第。
孝之のスーツは全身が消化剤や自分の血等で汚れています。
自分が神の加護を受けていると思い込んでいるので、酷い出血も痛みもまったく気にしていません。
祈の棒キャンディーを消費しました。
レオを除く生徒会メンバーの名前を情報として知っています(良美については声、髪の色など土永さんが知る限りの情報を全て知ってます)。
【備考その2】
孝之の「実際の」状態は以下の通り
肉体…疲労は通常なら人間の限界点突破、後頭部より大量の出血、肋骨右3本&左1本骨折、右足首捻挫、右太腿負傷
奥歯1本へし折れ、全身擦過傷及び裂傷多数、脳内より大量のエンドルフィン分泌により痛覚完全に麻痺
精神…完全にハイモード及び絶賛発狂中
新しく入手した得物について
大型ハンマー:ミンチ作るのに向いてますね。でも、即死させるならこめかみへの一発だ!
ツルハシ:五寸釘のごとく胸に一発突き立ててやりましょう。
斧:スプラッタ映画みたいに脳天かち割りたいね!
レザーソー:マフラー巻いていても鎧袖一触、頚動脈を掻き切って鮮血の結末を!
フック付きワイヤーロープ:フックが体に突き刺さったら、すごく……痛いです。
【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:鳴海孝之@君が望む永遠】
【所持品:なし 】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
1:鳴海孝之(名前は知らない)を駒として操り、生徒会メンバーを皆殺しにする(孝之の前には姿を現さないように注意)。
2:自分でも扱える優秀な武器が欲しい、爆弾とか少量で効果を発揮する猛毒とか。
3:孝之が使えなくなったら、どこか一箇所留まったままマーダー的活動が出来る場所を探す
4:基本的に銃器を持った相手には孝之をぶつける
【備考】
鳴海孝之とは距離をおいて行動しています。
孝之の事は、信心深いくせに勘が鋭く、尚且つ驚異的にタフと思い込んでます(狂っていることに気づいてません)。
狂った孝之が、何かの拍子で自分の想像の斜め上を行く行動を取る可能性について考慮していません。
土永さんの生徒会メンバー警戒順位は以下の通り(レオを除く、放送後の死亡者についてはまだ知らない)
エリー>よっぴー>乙女さん>スバル>カニ
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫だろう」
孝之から逃げ出した智代はまた森の中へ逆戻りをしていた。
(やっと森から抜け出したのに逆戻りか……まあいい、とりあえず治療を)
智代が治療始めようとしたその時、少し先に人が倒れているのを見つけた。
智代はその人に近づいていき、まず生きているかを調べ始めた。
(脈はある……しかしなんて耳をしているんだ、しかも血まみれ・・・・・・)
倒れていた人間はトウカだった。
(どうする? 殺し合いに乗ってるかもしれない……)
智代はこの人をどうしようか、と考えている時、それは始まった。
そうそれは人の死を告げる放送。
それは生き残っている人間にどう影響をあたえるか。
まだ誰もわからない
【C-4 左下 森 1日目 昼】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 1+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式×3、サバイバルナイフ、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガン、催涙スプレー(残り4分の3)ホログラムペンダント@Ever17 -the out of infinity-】
【状態:軽度の疲労・血塗れ・右肩刺し傷(動かすと激しく痛む)・ゲームに乗った人間に対する深い憎悪】
【思考・行動】
基本方針:まずは殺し合いに乗っている人間を殲滅する。一応最終目標は主催者の打倒
0:この人、どうしようか
1:殺し合いに乗った人間を探し出して、殺害する。
【備考】
※智代は赤坂達から『蟹沢きぬ』に関する情報のみを入手しました。
※赤坂を露出狂だと判断しました。
※ホログラムペンダント
普通の人にはなんでもないペンダントですが、赤外線を見ること出来る人は火にかざす事でホログラムを見ることができます。
原作では武の顔でしたが、何がホログラムされているかは次の書き手しだいです。
【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、永遠神剣第七位『存在』@永遠のアセリア−この大地の果てで−】
【状態:全身打撲、右脇腹軽傷、肉体的疲労極大、精神的疲労、気絶】
【思考・行動】
基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る
1:???
※オボロからトゥスクルの者達、そして千影とその姉妹達を守るよう頼まれました。
※蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると疑っています
※舞の剣は少々刃こぼれしています
※銃についての大まかな知識を得ました
※ネリネに対し、非常に激しい怒りを覚えています
※春原陽平を嘘吐きであると判断しました
※ネリネと川澄舞(舞に関しては外見のみの情報)を危険人物として認識しました
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。
エターナル化は不可能。他のスキルの運用については不明。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
文字の誤字訂正で、
>>327 ×孝之がすぐに立ち上がってにツルハシを持って智代向かい駆け出すが遅かった。
○之がすぐに立ち上がってにツルハシを持って智代に向かい駆け出すが遅かった。
>>336 ×>そう、智代は言い残し森の方へ去っていった・
○そう、智代は言い残し森の方へ去っていった。
に訂正してください。wiki登録のさいは○の方に訂正してください
よろしくお願いします。
351 :
◆QJWUEHXtwM :2007/07/23(月) 21:04:06 ID:Tg/GnTuc
投下します。
いきなりストップしたら規制に引っ掛かったと思って下さい。
タイトル
『童貞男の乾坤一擲』
です。
ageてしまった…orz
気を取り直して。
-----------------------------------------------
「…」
「♪♪♪〜 ♪〜」
テテテッ
俺がパスタをゆでている間、風子はキッチンに入り何かを探していた。
「………」
「♪♪♪♪〜」
タタタッ
俺がピザを焼いている間、風子はキッチンを出て外でガチャガチャやっていた。
「………………」
「♪♪♪〜 ♪♪♪〜」
俺が皿を並べている間、風子はいつの間にか戻り、鼻歌交じりに眺めていた。
「………………出来た」
「わぁ、ようやくですか」
待ち遠しかったとばかりに飛びつこうとする風子に、当然の疑問を投げ掛ける。
「なぁ、何で俺一人で料理してんの?」
「お昼♪お昼♪」
聴いちゃいねぇよ。
まあ、俺も腹は減ってる事だし置いとくか。
「じゃあ、フロアに持ってくぞ」
そして俺と風子の分を持って行く。
今日のお昼は、
『ピザ(冷凍)』『ペペロンチーノ』
である。
(カレーにしようとしたら、風子に『カレーは夜。昼はパスタ』と駄々をこねられた。ずっとココに居座る気かよ、オイ)
* * *
「ほぅいえあさ」
「…北川さん。口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ」
「…」
モグモグモグ………ゴクン。
「そういえばさ、俺が料理作っている間、何かキッチン出入りしてたけど、
何かしてたのか?」
その質問をした途端、風子の眼が輝いた。
「聴きたいですか?」
「…」
この時点で見当はついた。
………ロクなことじゃないって事だけは。
「実はですね…」
「!」
その時だった。
探知機に一つの反応が現れたのは。
「その話は後だ!!!」
風子の話を遮り立ち上がる。
「?どうかしましたか?」
「誰かがこちらに近付いて来る。逃げるぞ」
そう言って、探知機を風子に見せる。
「…」
が、風子は動かない。
ったく、俊敏な動きの取れない奴だな。
「ホラ」
そう言って、風子を立たせようと手首を掴み、
「動かない方が良いです」
と、言われた。
「え?」
「北川さん。相手は一人、しかも階段を上って来ます」
「そうだが?」
まあ、エレベーターを使うアホはそう居ないだろう。
「さっき言いかけましたけど、北川さんが料理している間、階段口に罠を仕掛けておきました。だから問題無しです」
「罠?」
「中華ナベが降ってきます」
「…」
絶句。
こいつ、行動を共にすればするほど、天然っぷりに磨きが掛かってこないか?
「ふふん。驚くほどのものではないですよ」
と胸を張りつつ言う風子。
どうやら俺の無言を賞賛と受け取ったらしい。
「あのなぁ。そんな子供だましに引っ掛かるバカが居るわきゃないだろ?
そんな奴が居たらお目にかかりたい…」
ゴ ン ! ! ! ! ! !
「…」
ウソ。
「お目にかかります?」
「…はい」
そして俺は風子の後について行く。
得意気な表情で現場に向かう風子の後を、とぼとぼと。
何?この敗北感。
* * *
………………
………
…
「………ん」
目を覚ました時、私は寝かされていた。
確か私は、百貨店に入って、1階から順に調べて回って、7階まで来た時に…
「…くっ」
起きると同時に襲い掛かる頭痛。
どうやら私は、何者かに頭を殴打されたらしい。
そして、状況を把握しようとして驚いた。
まず、私はどこも拘束されていない。
デイバッグこそ辺りに無いものの、床の上にテーブルクロスを敷き、その上に横たえられていた。
そして、痛む頭には冷えたタオルが載せられている。
どうやら私は、誰かに看病してもらっているようだ。
そういえば、誰かの声が聴こえてくる。
「…だから、これは俺の分だっての!」
「今回のピンチを救った風子に、労りの1ピースをくれたって良いじゃないですか」
「いたいけのない子供に無差別攻撃を仕掛けただけだろうが!絶対謝れよ!」
(…)
何か、会話の内容がやたら緊張感が無い気がするけど、
多分、今会話中の人達が助けてくれたのだろう。
そして私に攻撃したのも彼らのようだ。
「という訳で、後の事は北側さんに任せます」
「何で俺なんだよ」
「風子には解るんです。北川さんでなくてはいけません」
「いや、だからその理由を知りたいんだけど」
「今回の書き手さんは風子を活躍させる気がありません」
「(…また電波かよ)」
「?何か言いました?」
「じゃあ何で中華ナベはあの子にクリーンヒットしたんだよ、って言ったの」
ちゅ、中華ナベ。
私はそんな原始的な罠に引っ掛かったの?
別の意味で頭が痛くなってきた。
「むむ。変態さんのクセに理路整然としてますね」
「こんな時だけ変態言うな!!!」
…何?この呑気な会話。
ここまでの会話を盗み聞きして、取り敢えず確定した事が一つ。
この二人、人畜無害。
いや、脳天に一撃喰らったようだけど、この人達に殺される可能性はゼロ。
だって、この緊張感の無さったら…。
そう考えた私は寝たふりを止め、二人に話し掛けた。
「あの…」
「「!!!」」
二人の内男の方は大袈裟に、女の方は眼を丸くする程度に驚いていた。
* * *
「本当にゴメンね。梨花ちゃん」
「ゴメンナサイ。人を選ばないトラップを仕掛けた風子が悪かったです。この通りです」
お互い自己紹介を終えて先ず潤と風焦がしてきたのは、私への謝罪。
私は
「ううん。生きるか死ぬかの瀬戸際では当然の事だと思うから気にしてない」
と答えた。
すると、二人して『はわ〜』ってなってる。
「…何か、へんな事言った?」
「いや、梨花ちゃんってずいぶん大人びてるね」
「しかも凄く難しい言葉も使って…。梨花ちゃんは天才さんです」
「そ、そう?」
まさかここで本当のことは言えない。
適当にはぐらかして…
って思ったら、
「天才さんに変態さん。風子の周りには一風変わった人が続々集まります」
「お前に言われたくねぇ!ってか、俺は変態じゃないっての!」
「立派な変態さんですよ。だって…」
「わあああぁぁぁ!!!言うなあああ!梨花ちゃんの教育上宜しくない!」
「それって、自分が変態だと認めているのと同じですよ?」
「…くっ」
あちらさんから勝手に軌道をずらしてくれた。
再度湧き上がる疑問。
何でこの二人はこんなに緊張感が無いのだろう。
殺人ゲームに強制参加させられているという自覚はあるのだろうか。
「………あ」
不意に“それ”に気付き、口元へ手をやる。
私の口は、自然に笑みを浮かべていた。
自覚がないのは私も同じか。
でも、嬉しい誤算だった。
こんな狂ったゲーム内でも、笑える場所はあるんだ。
それが本当に嬉しくて、潤達と話し込んでしまった。
(でも、この二人の隙は致命的ね。なら…)
そう考えた私は、突如風子の背後に回りこみ…
………腕をねじ上げた。
「…っ。梨花ちゃん、痛いですよ」
私が立ち上がっても二人とも警戒せず、腕をねじ上げても風子はまだのんきな事を言っていた。だが、
「梨花ちゃん、君はもしかして…」
流石に潤の方は気づいたようだ。
そう、それでなくては困る。
「このゲームに乗ってるのか?」
潤の疑問に私はこう答える。
「殺しなんてしたくないけど、それ以上に死にたくないから」
「だから優勝を狙う、と?」
「そう。だから二人とも、大人しくして」
* * *
まさか、こんなチビッ子がゲームに積極的に参加しているとは思わなかった。
が、現状は否が応でもその事実を突き付けてくる。
ち。またこの三択かよ。
@ハンサムでモテモテなクールガイ、北川は突如反撃のアイデアを思い付く
A仲間が助けに来てくれる
B殺される。現実は非情である
「風子と会う時の三択より、@が何気にグレードアップしてますね」
「…俺の聖域(※脳内)に進入するんじゃねえ」
ってか、お前自分の状況わかってんのかよ。
ま、現状を考えれば@しか選択肢は無い。
実際、梨花を取り抑えるのはそう困難な事じゃないと思う。
問題は、どうやって風子を救うかだが…。
まずいな。とっさには思い浮かばない。
が、ちんたらしていたら殺される。
そんな風に迷っている時、風子が突然質問して来た。
「北沢さん。チャーリー・ウィンステッドってご存知ですか?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろうが」
意味不明の質問に、俺は風子に現状認識させようと返事する。
案の定、梨花が制止してきた。
「喋らないで」
しかし、風子は口を閉ざさない。
「とっても、とっても大事な事です」
だから俺は、梨花の様子を窺いながら、打開案を考えながら、風子の質問に答えた。
「…ああ、知ってるよ。エリートにコンプレックスを持ってるツンデレジジィろ?」
「じゃあ、チャーリーさんがサリバンさんに教えた事知ってますよね?」
!!!
その一言で俺は風子の言わんとする事が理解出来た。
何だ、コイツただの天然じゃないみたいだ。
「…ああ、知ってるよ」
「喋らないでって言ってるでしょう」
再度の警告。
だが、俺の答を受けた風子は
「解りました。なら北川さんはこれの本当の使い方を知ってると信じます」
と言って…
ヒュッ!
俺に向かって懐のコルトバイソンを投げた。
「なっ!」
意表をつかれた様に一瞬硬直する梨花。
そして俺は銃をキャッチし
「風子!梨花を抑えろ!」
と叫ぶ。
「くっ」
俺の言葉に、慌てて風子の方を向く梨花。
そして風子は…
………ボーーーッとしていた。
が、そんな事は百も承知。
俺の狙いは、俺の言葉に反応した梨花が、一瞬でも風子に気を取られるようにすること。
そしてその隙を突いて、俺は…
ガ ァ ン ! ! !
* * *
駅からオフィスに向かう途中、私(サリバン)はエルパソでの一日に聞かされたウィンステッドについての恐るべき噂の数々を思い出していた。
私がアルバカーキに行くと聞いたとき、居合わせた捜査官は争って、私の新しい上司についての悪口を言い始めた。
彼が如何に気難しく、不愉快な変人であり、一緒に働く事が如何に不可能な事であるか、いくら言っても言い足りない風であった。
ウィンステッドは駆け出しの捜査官を嫌うし、大学出を嫌う。そして何よりも、東海岸から来た人間を嫌う。
…
「小僧、エルパソじゃ、俺の事をどう聞いてきたんだ」
「エルパソでは、貴方が老練な捜査官だけれど、事件をいっぱい抱えて弱っている、と言ってます」
「小僧、この嘘つきめ。連中がお前に何を吹き込んだか、俺が知らんとでも思っているのか」
ウィンステッドはそう言って、エルパソの捜査官の間に流布しているウィンステッド評を、殆どそのまま繰り返してみせた。
「知っているんなら、何故わざわざ訊くんですか」
私は勇気を奮い起こしてそう言った。
「お前がどんな受け答えをするか見たかったのさ。あんまり高い点数はやれねえな」
私を睨み続けながら、ウィンステッドは続けた。
「エルパソの連中が言ってた事は、全部本当だ。俺と一緒に働くつもりなら、それを忘れん事だ。
俺は意地悪で不愉快な年寄りだ」
…
「小僧、お前牛の事がわかるのか。東部の都会育ちなんだろう」
「私は田舎で生まれ、田舎で育ったんです。
毎日、学校まで十キロも歩いて通ったもんです。
ボールトンの町の中は勿論ですが、ボールトンまで来る交通機関も、公共の者は何もなかったからですからね。
電話も郵便も電気もなかったんですよ。
小さいときからずっと、牛や馬の世話をして育ったんです。
今思うと、田舎から出てきたのは大きな間違いだった気がします」
「牛や馬の世話をして育ったってか」
チャーリーは意外そうに繰り返した。
「何てこった。本部が次にどんなのを送ってよこすやら…。まあ、それもいいか」
チャーリーは哲学的な呟きを漏らした。
二人の間でそのことが話題になる事は二度となかったが、私に対するチャーリーの態度は一晩で変わった。
…
チャーリーは生まれつき旺盛な好奇心を持っており、情報をよく吸収して保持し、利用する事が出来た。
簡単に自分を明かす男ではなかったが、知る価値は十分にある男であった。
私たちは、あらゆる事を語った。
例えば、容疑者を逮捕するときは
「絶対に連中と取っ組み合いをしちゃいけねえ。
“銃身でこめかみを殴るんだ”。
簡単なもんさ」
と教えてくれた。
〜W・サリバン著 『FBI』〜
* * *
「大丈夫か?」
「風子は大丈夫です。それよりも梨花ちゃんは…」
まず敵の安否を確認する辺り、さすが風子。
「お前のアドバイス通り、後頭部殴って眠ってもらった。
んでも、正直女の子、しかもあんないたいけな少女に手を上げるのは後味悪いな」
「梨花ちゃんが起きたら、ちゃんと謝らなきゃダメですよ」
「ヘイヘイ」
ったく。底抜けにお人よしだな。
呆れると同時に何故か込み上げる笑いを抑え、俺は梨花の下へ向かう。
コテン。
後ろから何か聞こえたような気がした。
まあいい。まずは梨花だ。
「…」
眠る梨花の頭に手を添える。
ああ、頭の頂点と後頭部にこぶが出来てる。
「…冷やしてやらなきゃな」
そしてキッチンへ行ってタオルを濡らす。
そして梨花の元へ戻り、
「ごめんな…」
こぶの箇所にタオルを当て…
ゴオオオオ!!!
眼前が火にまみれた。
「え!?」
何が起こったのか解らずうろたえている所へ
ズドッ!
腹の衝撃に転ぶ。
起き上がると、そこには銃を手にした梨花が居た。
* * *
解ってない。
この二人、全然解ってない。
そして私も解らない。
何で頭を叩いた後縛り上げないの?(さすがに殺しはして欲しくないけど)
何で私が寝たふりしていると疑問に思わないの?(素人の一撃で昏睡する訳ないじゃない)
何で私の手当てを最初にしようとするの?(しかも謝りながら)
本当、この二人何も解っていない。
だから私は起き上がり、潤の不意をついた。
ちょうど、この怪しげな指輪も実験的に試す事が出来たし(予想以上の火力に驚いたけど)、
敵を放置しておくとどういう目に遭うか、潤達もいい勉強になったでしょう。
私は銃口を潤に向けた。
* * *
まな板の鯉。
かなりピンチ。
だけどまだ生きている。
まだ終わりじゃない。
この北川君も、梨花に銃を奪われ、しかも銃口を突きつけられているかなり絶体絶命の状況だけど、まだ諦める訳には行かない。
俺だけじゃない。風子の命もかかっている以上、最後の最後まで投げ出しちゃいけないんだ。
さて、ここで本日三度目の三択だ。
@控え目に言ってもミケランジェロの彫刻のようにハンサムな北川は、突如反撃のアイデアを思い付く
A仲間が助けに来てくれる
B殺される。現実は非情である
ってか、この三択の時点で、結論は出ている。
まずは状況把握だ。相手は銃を持ってこちらは手ぶら、体格差はこちらが有利。
この状況で逃げは無い。そんなことしたら背中を撃たれる。
ならば、気迫で相手を呑んで怯ませた所を、銃を奪うのがベストだな。
「おい、クソガキ」
何とか声を震わす事無く出せた。
そう。ビビってることがばれたら負けだ。
逆に、相手をビビらせたら光明が見える。
「何?」
「ジェノサイドかましてお前だけが生き残っても、ろくな大人にならねーぞ」
「…でも、そうしなきゃ死んじゃうじゃない」
どうやら俺の話を聴く耳はあるようだ。
「アホか。そんな事しなくても生き残る手段はあるだろうが」
「どんな方法があるっていうの?」
「この首輪を外す、主催者を打倒、ゲームを無効化、ゲームに死ななくて済むようになる特別ルールを設ける、色々ある」
「そのどれか一つでも、具体的な案はあるの?」
「…今は無い。けど見つけてやるさ。必ずな」
「…」
梨花は銃口を俺に向けたまま黙っている。
「もう一度訊く。お前はゲームに乗るのか?」
「何度訊かれても答えは同じ。私は死にたくない」
「そうか…」
「話は終わり?じゃあ二人とも大人しく敗北を認めて」
「やなこった。その前にやる事があるからな」
「?」
小首をかしげる少女。
状況が状況じゃなきゃ可愛いのに。
そう考えながら、俺は眼前に拳を掲げる。
「これ以上女の子を殴るのは勘弁したい所だが、躾がなってないなら仕方ない。灸を据えてやる」
「素手で銃に立ち向かうというの?」
「俺の拳は、お前みたいに寝ぼけた事言ってる奴の目を覚ますためにあるんだよ」
祐一が居たら馬鹿笑いされそうなセリフ。
だが、この時だけは、かなりマジ入ってた。
「その前に、銃弾が貴方の命の灯を消し去るわよ」
年不相応に眼を細める少女に向かって、精一杯のハッタリをかます。
「勝負に乗ってやろうじゃねえか。叩き込むのは命の灯を消し去る銃弾か、目を覚ます一撃か」
「…」
そして梨花と睨み合いながら、俺は風子に向かって告げる。
「おい、風子。お前はこの場を離れてろ。俺に何かあったら逃げ…」
そして風子の方を伺い…
「Zzzzzzz………」
「アホオオオォォォ!!!」
ガ ン ! ! !
…思いっっっ切り殴ってやった。
* * *
「…」
私は眼前の光景に絶句していた。
けど、それも仕方ない事じゃない。
シリアスなバトルフィールドが、何故か漫才の舞台と化していたのだから。
「痛っ!…北川さん。乙女の安らかなまどろみを邪魔するとは、紳士の風上にもおけません」
「不自然に静かだと思ったらそういう事か!
ってか、何でこの状況で眠れるんだ、お前は!?それ以前に、お前寝過ぎだ!
…って、ああああ!突っ込みどころ満載で、どこから突っ込んでいいのかわからねえええ!!!」
そこに、つい横槍を入れてしまう私。
「なるほど。確かに目を覚ます一撃だわ」
呟き声は、しっかり潤の耳に届いていたらしい。
振り返りざま、私に弁解してくる。
「ちょ、違う!そういう意味じゃねえ!もう一度やり直しだ!!!」
「テイク2ですか。風子がもう一度寝るところから始めるんですね。おやすみなさい…」
「寝るなあああぁぁぁ!!!」
「そんなこと言っても、食後は眠いんですよ」
「食後はいつも寝るのか!?お前は!」
「そんなこと無いですけど、今日は食べ過ぎておなかが重くて…」
「ま、まさか…」
そう言いながら潤が見上げる先にあるのは、テーブルの上に置かれた空の皿群。
「あああぁぁぁ!!!俺のピザ!!!」
「北川さんのお昼、おいしかったです。褒めてあげます」
「それは俺の分だあああぁぁぁ!!!吐け!もどせぇ!!!」
「風子がもどしたピザを食べたいんですか?北川さん、やっぱり変態…」
「違ぁぁぁう!!!」
「………あの」
黙って見てる限り、永久にこの漫才は終わりそうに無いので、口を挟ませて貰った。
不毛な言い合いをしていた二人は、同時にこちらを向く。
「今、貴方達が何とかしなくちゃいけない相手って誰だっけ」
私の質問に、二人は無言で指差す。
潤は風子を、風子は潤を。
「………」
あ、頭痛い…、やっぱり別の意味で。
こりゃ、私がどうにか出来るもんじゃないわね。
そう考えた私は、銃を放り投げた。
「「???」」
私の行動の真意を測りかねている二人に向かって、私は告げた。
「降参。貴方達の勝ちよ」
* * *
突然降参する梨花に、俺は唖然とした。
ちなみに風子は、
「やった♪風子達の快進撃は止まる所を知りません」
とか言ってる。
それは無視するとして、どういう事だ?
何故あの状況で降参する?
俺達を殺そうとするのなら、降参どころかこれほどやりやすい状況は無い…
「って、ああああああ!!!俺達殺されかけてんじゃん!」
今思い出した。
ヤバイ、知らず知らずの内に、俺も風子ののほほんブレーンに染められている。
案の定、梨花に
「…今頃思い出したの?」
と溜め息を吐かれた。
返す言葉もありません。
にしても、このタイミングで俺達を殺さない梨花は、ゲームに乗っている人間とは到底思えない。
だから俺は確認をする。
「なあ。お前、ゲームに乗ってないだろ」
「…」
「何で嘘をついた?」
沈黙を守る梨花。
まあ、どうしても言いたくないのなら無理して聞く話でもない。
だが、聴けるのなら聴きたいのも事実。
だから俺は、梨花が口を開くのを待った。
「………から」
「?」
梨花がポツリと呟いた言葉を聞き逃した。
「悪い。もう一回言ってくれ」
俺の言葉を受け、梨花は顔を上げてはっきりと告げる。
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
* * *
「貴方達なら、口だけじゃなくて本当に生き残る手段を見つけてくれそうだから」
私のこの言葉はウソ。
私が潤たちに降参した理由は一つ。
そして私が彼等に立ちはだかった理由も一つ。
彼等に危機感を抱いて欲しかったからだった。
目を覚ました時から思ってた。ここは居心地が良い。
この場が殺し合いの舞台である事を忘れさせてくれる。
疑心暗鬼に陥ってた私がバカに思えるくらい。
打倒主催者の為、一致団結するチームもあるだろう。
外敵から身を守る為に互いを信じるチームもあるだろう。
だが、ここ以上に“日常に近いチームがあるだろうか”。
主催者を倒し元の世界に戻るためには、打倒主催者チームは必須だろう。
でも、私はこう考える。
“元の世界に戻った後、この凄惨なゲームに縛られずに日常へ戻るには、この二人のような人たちが必要だ”と。
だからこの二人に願う。
敵に襲われない時はさっきのようなテンションで良い。
でも、敵と思われる人間が居る時は無防備で居て欲しくない。
でないと、いつか死んでしまう。
だから、
@私が勝利し、潤達を配下にしつつ、彼等に緊張感を与える
A私は敗北し、潤たちの配下になり、潤達は今回のトラブルから学んで緊張感を得る
どちらかの結果がえられると考え彼らに襲い掛かったり銃を向けたりしたのだけど、
結果は“私じゃこの雰囲気は壊せない”というもの。
だから私は降参した。
彼らに緊張感を植え付け、気を引き締めてゲームに向かわせる事を諦めた。
その代わり…
「だから、私を仲間にして下さい」
潤達に守って貰おうという内容のお願い。
でも私の心の内は全く逆。
私に出来る事は少ないけど、このチームを外敵から守るため、私に出来る可能な限りの事をしよう。
それが私の下した決断だった。
* * *
俺は今、改めて仲間になった梨花と相談をしている。
(ちなみに相談に入る前にこっぴどく叱られた。
『銃を手にしている敵を前に漫才を始める奴がいるか!』って。
まあ、色々と勉強になったよ、うん。)
「じゃあ、出入り口に車を置いてたら何か仕掛けられるかも知れないから、駐車場に入れておいた方が良いのか」
「そう思う。で、
“道具材料豊かな百貨店に陣取っている”“店内に潤達以外の人間はゼロ”
こんな恵まれた状況なら、下手に動かずにいた方が良さそうね」
「ああ。トラップとか仕掛けてここをホームにする事で、戦闘になっても俺達を有利に働かせる事が出来るからな」
「トラップは、風子にも手伝ってもらった方が良いわね」
「あいつが!?ただ糸張って、引っ掛かったら落ちる仕掛けだろ?」
「いくら私でも、そんなのには引っ掛からないわよ。あの子、意外に器用よ。
さっきの罠も、タイル目に合わせて糸を3つ位張り、どれかを踏むと落下すると言う仕掛け。
予め知っていないと見切るのは難しいんじゃないかしら」
「そうか…。なら梨花の言う通りにしよう」
「でも、第二放送がもうすぐ始まるから、それを聴き終えてからにしましょうか」
「いや、先に車だけでも入れとくよ。第二放送が終わって俺が戻ったら風子も含めて一緒に始めよう。
後、百貨店では得られないものをどうするか考えないと」
「銃とか?」
梨花の疑問に俺は肯く。
「あぁ。俺等の装備じゃ、マシンガンやバズーカ持ってる相手に何とかなると思えないし。
それに仲間もどうにかして見つけないと」
「そうね」
そして暫く沈黙が下りた。
「そういえば、一つ気になってるんだけど…」
「言うな」
言わないでくれ、梨花の訊きたい事も、その答えも解り過ぎるくらい解ってるんだから。
「ってなわけで、俺が車入れてる間、梨花は第二放送と“そちら”を頼む」
「えぇ」
そう、何で俺と梨花だけで打ち合わせしてるのか。そしてその理由は…。
―――家具ルーム
「Zzzzzz…」
【A-3 百貨店店内/1日目 昼】
【北川潤@Kanon】
【装備】:コルトパイソン(.357マグナム弾6/6)、首輪探知レーダー、車の鍵
【所持品】:支給品一式×2、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)
ノートパソコン(六時間/六時間)、 ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×7
【状態】:至って健康
【思考・行動】
基本:殺し合いには乗らない。というかもう乗れねーつーの!
1:車を駐車場へ移し、百貨店内の探索&トラップ
2:第二放送後は梨花たちと合流して1を続ける
3:百貨店を拠点とし、風子と梨花を守る
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)と信用できそうな人物を捜索したいんだけど、二人(風子達)をわざわざ危険に晒すわけにもいかないからなぁ
3:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える
4:鳴海孝之(名前は知らない)をマーダーと断定
5:てかさ、いい加減俺のタイトル『童貞男』にするの止めて欲しいんだけど
【備考】
※チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明。
※チンゲラーメンを1個消費しました。
※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、3時間に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、6時間使用しなかったからと言って、2回連続で使えるわけではありません。それと死人にも使用できます。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※首輪探知レーダーが人間そのものを探知するのか、首輪を探知するのかまだ判断がついてません。
※車は百貨店の出入り口の前に駐車してあります。(万一すぐに移動できるようにドアにロックはかけていません)
※車は外車で左ハンドル、燃料はガソリン。
※一連の戦闘で車の助手席側窓ガラスは割れ、右側面及び天井が酷く傷ついています。
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備】:無し(コルトパイソンは潤に預けたまま)
【所持品】:支給品一式、猫耳&シッポ@ひぐらしのなく頃に祭、赤いハチマキ(結構長い)
【状態】:健康。満腹
【思考・行動】
1:Zzzzzz…
2:北川さんは風子がいないと本当に駄目ですね。やれやれです
【備考】
※状況をまだ完全には理解していません
※名簿に目を通していないので朋也たちも殺し合いに参加していることを知りません
【A-3 北東部(百貨店店内)/1日目 昼】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備】:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に 祭
ヒムカミの指輪(残り2回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄
紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康…と言いたい所だけど、頭にこぶ二つ
【思考・行動】
基本:潤と風子を守る。そのために出来る事をする
1:幸せそうな子ね(風子の眠るベッド脇に腰掛けながら)
2:第二放送を聴く。その後、風子を起こして捜索、トラップ仕掛けを潤と一緒に始める(風子のトラップ技術を評価)
3:取り敢えずは潤達と一緒に居る
4:もしも(別の仲間が入る等して)自分がいなくても潤達が安全だと判断出来たら、一人で圭一達を探しに行く(D-2へ)
5:死にたくない(優勝以外の生き残る方法を見付けたい)
【備考】
※皆殺し編直後の転生。
※ネリネを危険人物と判断しました。
※探したい人間の優先順位は圭一→赤坂→大石の順番です。
※ヒムカミの指輪について
・ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
・ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
・原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※紫和泉子の宇宙服について
・紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。
・ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。
・水に濡れると故障する危険性が高いです。
・イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。
・朝倉純一にはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。
・またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。
(うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします)
宇宙服データ
身長:170cm
体重:不明
3サイズ:110/92/123
偽装体データ
スレンダーで黒髪が美しく長い美人
身長:158cm
体重:不明
3サイズ:79/54/80
投下完了です。
有難う御座いました。
投下乙
すまんが一応本スレで投下宣言してから投下、ってのがルールだから一言書いてきてもらえるかい
感想とかも本スレに書くものだし
>>307の修正
【G-4 住宅街北/1日目 昼】
【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ジッポライター、貴子のリボン@乙女はお姉さまに恋してる、永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア、富竹のカメラ&フィルム4本@ひぐらしのなく頃に】
【状態:L5侵蝕中。軽度の疲労。頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)。頬と口内裂傷(出血中)。頚部に痒み】
【思考・行動】
0:やはり俺の体はどこかおかしい……?
1:L5侵蝕中(軽度)
2:土見稟を追い神社へ、参加者殺害を防ぐ
3:知り合いを探す。つぐみを最優先
4:土見稟をマーダーと断定
5:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒
6:佐藤良美を警戒
7:ハクオロ、芙蓉楓を警戒
8:余裕があれば救急車の燃料を入れる。
【備考】
※キュレイウィルスにより、L5の侵蝕が遅れています、現在はL2相当の状態で強いストレスや、疑心に陥らない限りは進行はしません。
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料は残り2/3です。
※圭一に若干の不安を抱きました。
※あゆについてはまだ警戒しています。
※富竹のカメラは普通のカメラです(以外と上物)フラッシュは上手く使えば目潰しになるかも
※永遠神剣第四位「求め」について
「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。
ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。
オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度)
※フィルムは未使用2本、撮影済み2本。何が写っているかは不明
人っ子一人いない新市街を悠人と衛は歩き続ける。
プラネタリウムでハクオロ達と離れて以降、悠人の足取りは酷く重いものだった。
(エスペリア……)
彼女の死を知ってから、悠人はずっと彼女の事を考えていた。
エスペリアは共に戦った仲間であり、そしてラキオス王国におけるスピリット達のまとめ役でもあった。
思えば、ファンタズマゴリアに飛ばされて最初に目が覚めた時、傍にいてくれたのは彼女だった。
妹――佳織――を人質に取られ、戦う事を強要された自分が頑張ってこれたのは彼女の助力に拠るところも大きい。
(アセリアと合流して、ファンタズマゴリアへ帰ることが出来たとしても、もうエスペリアはいない……)
そう、もはや彼女の淹れてくれるお茶を飲む事も、甲斐甲斐しく世話をしてくれるその姿を見ることももう叶わないのだ。
だから悠人は思う。
エスペリアを殺した奴はどんな事があろうと許す事は出来ないと。
別れ際、ハクオロに「会ったら殺すのか?」と問われた時その事を否定した悠人だが、
やはり心の奥底では彼女を殺した当事者への怒りが燻り続け、暗い感情が渦巻いている。
今はまだ「一応」相手を殺すつもりは無いが、出会った時は容赦しない。
(いや、気を抜けばこちらが殺されるな……)
永遠神剣抜きでもエスペリアはラキオスにおける屈指のスピリットだった。
その彼女を倒すというのは余程の実力者ということになる。
しかもその人物は、この殺人遊戯に「乗ってしまっている」という事実。
もし対峙した時、手加減すれば自分が殺されかねない。
悠人の視線は、自然と2丁の銃と刀が入ったディパックへと向く。
(やはり使うしかないのか、これを……)
博物館で襲撃者を退けた時ですら、最後まで手をつけなかった武器。
だが、いつまでも今日子のハリセンが電撃を放つ事は出来ないだろう。
そうなったらおのずと手をつけざるを得ない。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
(今の悠人さん、なんだか怖い……)
悠人がプラネタリウムを出てから一言も口をきいてくれない事に対して、衛は不安を感じていた。
思えば、エスペリアという悠人の知り合いが死んだという事を知ってから、悠人の雰囲気が変わった様に思える。
ハクオロや瑛理子、観鈴と分かれる際に「ボクがついているから大丈夫」とは言ったが、正直なところ衛は不安だった。
今の悠人は、足取りが衛にもハッキリ分かるほど重く、どこか暗い雰囲気を漂わせている。
それは、初めて出会ってからプラネタリウムに入った時までの悠人にはなかったものだ。
もしかしたら、悠人はこの殺し合いに乗ってしまうのではないか。そんな不安が衛の心をよぎる。
ぎゅっ
そう思ったから、衛は次の瞬間悠人の背に抱きついていた。
「衛?」
衛の思わぬ行動に、悠人は後ろを振り返る。
「驚かせてごめんね。でも、こうしないと悠人さんが遠くに行ってしまいそうだったから……」
「どうしたんだ衛?何を言って……?」
「だって……だって、今の悠人さんとても怖い顔しているよ。それに、悠人さんさっきから一言も口きいてくれないから……。
だからボク、とても不安で……」
「そうか……衛、すまない」
やはり顔に出ていたか。と悠人は思う。
その一方で、衛に今の心情を伝えておいた方がいいだろうとも思った。
やがて悠人はそのままの状態で、自分の本心を語りだした。
「正直に言って、俺は許せないんだ。エスペリアを殺した奴の事が」
「うん……」
「彼女は俺にとってかけがえの無い仲間だった。それに、こんなところで彼女が死ぬなんて思えなかった……」
「うん……」
「あの時は『殺すつもりは無い』と言ったけど、本当のところ出会ったら容赦はしない」
「エスペリアさんを殺した人、見つけたら殺すの?」
「それは、そいつと実際に会ってみるまで分からない。だけど、その時は全力で立ち向かうつもりだから場合によっては……」
自分の本心を語り終えて悠人は黙り込む。
もしかして衛を怖がらせたかもしれないとも思う。
それから暫くして、衛が口を開いた。
「ありがとう悠人さん。本音を聞かせてくれて……」
「でも……でもね。そんな事思わないでほしい……」
自然と悠人に抱きついたままの衛の手に力がこもる。
「衛……」
「ボクは悠人さんみたいに上手く言えないけど、ボクだって遙あねぇや四葉ちゃんが死んだって知った時とても悲しかったから、
エスペリアさんが死んだって知った今の悠人さんがどれだけ悲しんでいるかわかるよ……」
「ああ、そうだよな……」
衛の言葉に悠人はそう呟く。
そう、衛だって自分と同じだ。
自分だけではないのは分かっていたはずなのに。
「だけどね……お願いだから、一人で悩んだり悲しんだりしないで欲しい……それに、エスペリアさんを殺した人が憎いのはわかるけど、
簡単に殺すとか思わないで欲しいよ……」
「済まない……気を使わせて……」
「うん……だけど、今はまだボクの話を聞いて」
「ああ、ちゃんと聞いているよ」
衛は自分の事を心配してくれている――
その事は悠人にも痛いほどよくわかった。
だから、そのまま衛の言葉に耳を傾ける。
「遙あねぇを埋葬した後、休憩していたときのこと覚えてる?」
「覚えている、忘れもしないさ……」
最初に見つけた二つの遺体と、その後すぐに発見した涼宮遙の無残な遺体。
そしてその遺体を埋葬した時の事。
血まみれになりながらも穏やかな死に顔だった遙――。
最後に「頼んだぜ」と言い残して逝った対馬レオ(第一回放送で彼の名を知った)――。
首から下が血で染まったまま苦悶の表情を浮かべて死んでいた少女――。
多分、一生忘れられない光景だろう。
「ボクね、あの時聞いたんだ。悠人さんが『畜生……』って呟くの……。その時、思ったんだよ『悠人さんも辛いんだ』って……」
「あの時の……聞いてたのか……」
「うん……。だから、ボクその時決めたんだ『悠人さんの足手まといにはなりたくない』って、それから『もう泣かない』ってね……」
悠人は嬉しかった。
自分の事を、衛が想像以上に心配してくれている事を。
それと共に心の奥にあった暗い感情が薄らいでいくのが分かった。
「でもね……」
そのまま衛は言葉を続ける。
「その後、四葉ちゃんが死んだのを知ってまた泣いて、プラネタリウムでも夢で遙あねぇと四葉ちゃんに会った後にも泣いて……」
「でもその度に悠人さんはボクを慰めて、励ましてくれた。だから……」
そこで一度言葉を切り、衛は再び口を開く。
「今度は……ううん、これからはボクも悠人さんの支えになってあげたい」
「ボクも悠人さんの事が心配だから……それにボクの事を励ましてくれるのに一人で悩んでいる悠人さんを見るのはつらいから……」
「励ましてあげたりするのは悠人さんみたいに上手じゃないけど、悩み事ぐらいは黙って聞いてあげたいから……」
「衛……本当にありがとう……」
悠人はそう言って、自分を抱きしめる衛の手に自分の手を重ねる。
衛とは出会ってまだ10時間程度の仲だが、ここまでの一連の出来事は二人の絆を強いものとしていた。
「それにね……」
「なんだい?」
「もし、エスペリアさんを殺した人と会った時に『仕返しに殺す』なんてやったら、他の殺し合いに乗った人と変わらないよ……」
「悠人さんは遙あねぇや四葉ちゃん、エスペリアさんを殺した人たちと同じようになりたいの?そんなのボク嫌だよ……」
「ああ、そうだな……その通りだ……」
悠人は衛の方へ向き直り、衛がそうしてくれたように今度は自分が衛を抱きしめてやる。
衛の言うとおりだった。
本当に許されないのは、こんな馬鹿げた殺人遊戯を主催するタカノをはじめとした人間のはず。
仲間を、エスペリアを失った悲しみは消えないが、彼女を殺した相手と会った時の事にとらわれては主催者の思う壺だ。
何よりエスペリア一人を失った自分と違い、衛は姉妹と知人の二人――死者の数で全てを語っていいわけではないが――を失っているのだ。
今の自分は衛と同じ位置に立っている筈なのに。
その衛が自身を見失ってないのに、ここで自分が悲しみにとらわれていてどうするのか。という気持ちが悠人の中に湧き上がってくる。
(そうさ、本当に大事なのは殺し合いに乗らないこと。そして、アセリアや衛の残る姉妹と合流する事だ。最初の目的を忘れてどうするんだ)
改めて悠人はそう思う。
悠人は衛の頭をなでてやると、衛の顔を見ながら言った。
「ありがとう、衛。確かにエスペリアを殺した相手を復讐の為に殺すなんて愚劣だよな」
「それに、心配かけてすまなかった……衛がそう言ってくれなかったら、多分俺は復讐の為そのまま殺し合いに乗っていたかもしれない」
「でも、もう大丈夫だよ。衛に余計な心配をかけないためにも、復讐するなんて考えるのはやめるよ」
「悠人さん……」
確固たる意思を込めた悠人の言葉を聞いて安心したのか、衛の表情はほころぶ。
そのまま悠人は真剣な眼差しのまま言葉を続ける。
「だけど、衛も忘れないでくれ。時にはどうしても武器をとって戦わなければならないときがあるって」
「エスペリアを殺した奴以外にもこのゲームに乗った人間は確かにいるんだ。そう、話の通じない人間が」
「そういった奴と出会ったときは全力で戦わないといけない。その事を忘れないで欲しい」
「きっとそういった人間はまず俺より衛を狙ってくるだろうから、だから俺は衛や他の乗ってない人を守る為に全力で戦うという事を」
「うん、わかったよ。悠人さん……」
「それじゃ、行こうか。まずは、映画館だ」
(これでいいんだよな……エスペリア)
最後に心の中で亡き仲間へ呟いた悠人は衛と共に映画館へ向かって歩き出す。
本音をぶつけ合った二人に、もう迷いはなかった。
そんな時だった。
二人の耳に車の走る音が聞こえてきたのは。
「悠人さん!この音って……!」
「ああ、拙いな……。衛、隠れるぞ!」
すぐさま二人は、狙撃による攻撃を受けた時と同じように大通りから雑居ビルの間に入り、路地裏に身を隠した。
衛をかばいつつ物陰から様子を伺う悠人。
暫くして、大通りをあの時の車が走り去って行った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「つぐみ、本当にプラネタリウムとレジャービルは無視していいのか?」
「ええ、時間的に考えると、もうプラネタリウムを出てレジャービルに向かっている筈よ。あるいは到着していると思うわ」
すぐ近くに数時間前、音夢とネリネが襲撃した二人が隠れている事も知らない二人――小町つぐみと朝倉純一――は車で北を目指していた。
ちなみにプラネタリウムとレジャービルを無視してプールを目指そうと言い出したのはつぐみである。
純一は一度プラネタリウムに人がいないか調べてからの方が良いと思っていたが、つぐみはメモの内容を思い出しつつそれを否定した。
「あのメモに書かれていた時刻は午前8時、現在の時刻から逆算すると二時間と少し経過しているわ」
「それにここは道路の整備された市街地よ。徒歩でも映画館からプラネタリウムまでは徒歩でも30分強で到着できるはず」
「つまり、そこで探索と休憩に時間を潰してから出発したとしても、まだ1時間ぐらい残る事になる、か……」
助手席では地図を拡げた純一が、映画館からプラネタリウムを、そこからレジャービル、プール、工場
(更にプールと工場の間に存在する廃墟群も)を鉛筆で引いた線により結んでいる。
大まかな地図なので各ポイントの具体的な距離は分からないが、地図を見る限りプラネタリウムからレジャービルを経由してプールに向かう
場合よりプラネタリウムから直接プールへむかう方が時間短縮となるのは確かだった。
「そういうことよ。ならば最初の二つを無視してプールで先回りする方が時間短縮にもなるし、効率もいいわ」
「なるほど、そういう事なら納得だ。 ……あ、だけど」
「どうしたの純一?」
「いや、今思ったんだけどさ。あのメモが手の込んだ罠という可能性はないのか?」
「そうね……名前を書いている以上ゲームに乗っている可能性は低いと思うけど、用心に越した事はないわ」
純一の指摘はもっともだったが、つぐみはその可能性を極めて低いものと見ていた。
根拠となるのは、やはり名前を記入しているという事だったが、もう一つは「ゲームに乗った者が徒党を組む可能性は低い」という事だった。
ゲームに乗っている以上、基本的に優勝目的が前提だ(ネリネの様に他者への奉仕という形でゲームに乗ることもあるが)。
そうなると他の人間は厄介者にしかならない。
もっとも、つぐみ自身は音夢とネリネというゲームに乗った二人と「信頼関係抜き・一時的に利用しあう関係」という形で行動を
共にしていたが、そういったケースは極めてレアなものだ。
そういった事を考慮すると、彼らが乗っている可能性は低いといえる。
。
(でも、あのメモを見た人間が私達だけとは限らない……もし、あのメモを見た人間の中に殺し合いに乗った人間がいたとしたら……)
(そういった人間と鉢合わせになった時、一戦交える可能性も十分起こりえる事だわ……)
だが、ハンドルを握ったまま純一の言葉を頭の中でリピートしながら、つぐみはしばし思案する。
「(ここはやはり保険をかけたほうがいいわね……)純一、万一の事もあるからあなたの銃、ディパックの一番上に放り込んでおいた方がいいわよ」
「え?……ああ、分かった」
「それから、あなた銃の腕は素人でしょ?だったらセレクターはセミオートにしておいた方がいいわ。フルオートだったら撃ちつくすのに5秒もかからないわよ、それ」
「ありがとう、そこまで気を使ってくれて」
(思えば、音夢やネリネにはこんなアドバイスしなかったわね……)
つぐみは、そんな事を思いつつプールに向けて車を走らせる。
そして純一との間に生まれたもの――音夢やネリネと組んだときには無かった信頼関係――を心に巡らせながら。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
車が走り去った後、悠人と衛は路地裏から姿を現した。
そのまま北に走り去ったみたいで、車が戻ってくる様子は微塵も無い。
「行ったみたいだな……」
「うん、だけどあの方向そのまま行ったら……」
「ああ、判っているさ衛。これは大変な事になったぞ……」
二人は顔を見合わせ互いに不安な顔つきになる。
先ほどの車は間違いなく、博物館で自分達を襲撃した少女二人を乗せていた車と同じものだ。
窓ガラスが閉まっていたのでよく判らなかったが、少なくとも運転席と助手席に計2名は確実に乗っているのは確かだった。
。
(この位置からじゃ連中が何処に行くのかさっぱり判らないな。3人に連絡しようにも、ここから歩いたところで絶対に追いつく事はできない)
悠人は、今頃おそらくはレジャービルを目指している3人にどうにかして連絡する手段を考える。
いっそのこと、彼らの様に車に乗って移動することも考えたが運転に自信が無いし、そんな状況で衛を同乗させるとなればリスクが大きすぎる。
「……さん、悠人さんっ!」
やはりこのまま探索を続行するべきか、すぐに車を追うべきか悠人は悩んでいたが、衛の声で現実に引き戻された。
「どうした、衛?」
「確かここって電気が通じているんでしょ?それなら電話とかかけられない?」
衛が指差す方向を見ると、そこには電話ボックスが鎮座していた。
「電話か……確かに盲点だったな。ありがとう衛、すぐかけてみる!」
悠人は、早速電話の受話器を取ったものの大事な事に気が付いた。
肝心の小銭をまったく持ってなかったのだ……。
だが、受話器に耳を当てると電話機独特の電子音がする。
つまりこれは小銭さえ入れられたら通話可能ということだ。
(小銭を調達している暇は無いな……それなら)
悠人は電話ボックスから電話帳だけを持ち出すと、衛と共にオフィスビルの一つへ裏口から入っていった。
幸い、オフィスビルの事務所内にある電話もつながるらしく、悠人はすぐに電話帳を開いてレジャービルの電話番号を探し出す。
電話帳には、索引が無い為探すのに苦労するかと思ったが、意外な方法で探すページを絞り込む事が出来た。
電話帳の五十音順の目次代わりに振られている「A−1」「A−2」の番号。
それは支給品の地図に振られたエリアの番号らしかった。
これに注目した悠人と衛はさっそくレジャービルのある「D−1」の項をしらみつぶしに調べていく。
。
調べ始めて数分後、D−1項の最後のページをめくった時、そこには
「○○レジャービル……***-****-****」
と電話番号が記されていた。
「よし!これだっ!」
「やったぁっ!!」
思わずガッツポーズを作る悠人と親指を立てる衛。
だが、電話をかけた先にあの3人がいてくれなくては意味が無い。
なによりあの襲撃者が電話を取られるても困る。
(その時は速攻で電話を切るだけだ)
3人がもうレジャービルに到着している事を祈りつつ悠人はレジャービルの電話番号を打ち込む。
番号を打ち終えるとすぐにコール音が響きだした。
PRRRR、PRRRR……
(まだか?まだでてくれないのか?)
(お願い、誰でもいいから早く出てよ……!)
二人は祈るような気持ちで電話に誰かが出るのをひたすら待つ。
しかし、まだコール音がむなしく響くだけである。
。
PRRRR、PRRRR、PRRR……
5回、6回……コール音がむなしく繰り返されていく。
(やはりダメか……仕方が無い……)
コール音は既に10回を超えて20回に達しようとしている。
そのコール音が30回に達し、もう二人が諦めようとしたその時……。
PRRRR、PRRRR、PRRRR……ガチャ
『もしもし、こちら二見……』
電話が繋がった。
「二見さんか?俺だ、高嶺だ!」
声のトーンから瑛理子であるのはすぐにわかった。
悠人はそのまま用件を伝え始める。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
。
。
一方、瑛理子は正直驚いていた。
少し前にレジャービルへ到着したものの、捻挫した足の痛みから探索はハクオロと観鈴に任せ、
彼女自身はカウンター奥の事務室にあるソファーで横になっていたのだ。
丁度眠くなってきていたところでカウンターの電話が鳴ったのだが、とっさの事ではすぐ電話に出られるはずがない。
なんとか周囲を警戒しつつ、カウンターまで出てきたものの、この電話をとっていいものか悩んだのもすぐ電話へ出なかった理由のひとつである。
そして、意を決して受話器をとったところ電話をかけてきたのがプラネタリウムで情報交換の後、別れた高嶺悠人だったというわけだ。
「高嶺さん?電話が通じるって、これ一体どこからかけているの!?」
『プラネタリウムを出て南へ下ったオフィスビルの一角からだ。とりあえず重要な用件があって駄目もとで電話したということなんだ』
「(どちらにしても電話が通じるとわかった以上これは有効に活用できそうね……盗聴されている可能性もあるけど、重要な内容はこの二人に限っては話さないでしょうし)そう、わかったわ。
ところで重要な用件って何?」
『その前にハクオロと神尾さんは近くにいないのか?』
「二人ともこの建物内を探索中よ。ここ、思ったより広くて時間がかかるみたいなのよ」
『判った……。とりあえず二人が戻ったら伝えて、いや、すぐに荷物をまとめてそこから移動してくれ』
「どういうこと?まさか……」
『話が早くて助かる。実は俺達を襲撃した連中がさっき車で北に向かったんだ』
「なんですって……!」
その言葉に思わず絶句する瑛理子。
車で移動しているということはそれだけ早くこちらに向かってくるという事になるのは必然。
瑛理子はガラス張りのドアの向こう側に見える敷へに目を向けながらそのまま会話を続ける。
。
。
。
「それで、相手の人数は?」
『人数は窓ガラスでハッキリ分からなかったけど、少なくとも運転席と助手席には人影が見えたのは確認しているから最低でも二名だ。
ただ、博物館で俺達が閉じ込めた一人と合流している可能性と車のサイズから3〜4名の可能性もあると思う』
「(最悪3〜4名……それだけの相手をするぐらいなら逃げるが勝ちね)そう、車の移動先は分かる?」
『無理だ。俺と衛のいる場所からでは、どこにいくのか見当がつかなかった』
「(そうなると、ここに来る可能性もあるわね……それも短時間のうちに)分かったわ。二人が戻ったらすぐここから出る事にするから」
『俺達はどうすればいい?』
電話の向こうにいる悠人と衛は、出来れば共に行動して欲しい相手だ。
恐らくは、二度と会いたくない相手であり、二人が探している男――鳴海孝之――とも会ってはいないだろう。
あのノートパソコンは惜しい(孝之についてはどうでもいい)が、万一の戦闘という事態を考えればこの先二人の協力が不可欠になる……。
瑛理子はそう考えると、車の相手がこちらに向かってきた理由として思い当たる一つの要因を消去する事を決め、再び口を開く。
「分かれてすぐだけど、探索はキャンセルしてこちらと合流して。その前に、一つだけ映画館に行ってやって欲しい事があるの」
『映画館?』
「実は、あそこのロビーに私たちの名前と行き先を書いたメモを置いてきたのよ。車の連中はそれを見た可能性が高いわ」
『な、なんでそんなものを!?』
受話器の向こうにいる悠人の声がすっとんきょうなモノになる。
恐らく相当驚いているだろう事は容易に想像がついた。
。
。
「志を同じくする人を集めたかったのよ。リスクは覚悟していたわ、だけどよりによってこんなに早く乗った相手が、
それも車で移動する人間が来るなんて思わなかった……」
『つまり、そのメモを処分すればいいんだな?』
「そうよ。でも丸めてゴミ箱に捨てるだけじゃまた見つかる可能性があるから、出来れば焼き捨てて欲しいの」
『分かった……無かった時は彼らが持ち去ったと考えていいか?』
「ええ、それから合流地点だけど、次の合流地点は……」
『とりあえず、映画館に移動したら丁度次の放送が始まる時刻ぐらいだ。放送を聞いて、その後もう一度プラネタリウムで合流というのはどうだ?』
「それは……危険すぎると思うの。最悪、車の連中に遭遇したら大変よ」
襲撃者が長時間プラネタリウム一箇所にとどまるとも思えないが、やはりメモに記した場所へ行くのは出発点の映画館を除くと危険すぎる。
すると、悠人がもう一つ提案を出してきた。
『そうだな……。それなら映画館と同じエリアにある公園でどうだ?』
「(なるほど、あの公園なら広いし、隠れるところもあるから大丈夫ね)それでいいわ。メモの行き先にも含んでないし、映画館からの距離も近くなるから」
その後二人は更に「万一公園のエリアが禁止エリアになった時は映画館、衛と悠人が隠れたスーパーマーケットで合流しよう」と打ち合わせをした。
『分かった、ならばもう切るよ。あとは二人にも気をつけるよう宜しく言っておいてくれ』
「ええ、あなた達も気をつけて。距離が近いといっても何が起こるか分からないから」
『ああ、それじゃあ……』
そう言って、二人はほぼ同時に受話器を置いた。
直後、ハクオロと観鈴の足音が聞こえてくる。
通話時間を考えると丁度戻ってくるにはいい時間帯だ。
(とにかく二人には知らせないといけないわね……)
瑛理子は、プラネタリウムで衛から貰った日用品の一つであるビニール傘を杖代わりにすると、二人の方へ歩いていく。
。
「瑛理子、今この建物を調べてきたのだがどうやら他に人は……どうした、そんなに慌てて?」
「え、瑛理子さん!疲れているなら無茶しちゃだめだよ!」
「それどころじゃないのよ。大変なことになったわ……」
「大変な事!?瑛理子、それは一体何が……?」
「実は、ついさっきね……」
ハクオロは先に探索の結果を言おうとしたが、瑛理子はそれを制すると先ほどの電話の事を話し始めた。
こちらに危険人物が向かっている事。
最悪、この建物へやってきた場合は複数人を相手にする可能性があること。
そして悠人と衛の二人に探索を中断してすぐ合流する事等を説明していく。
説明を聞き終えた二人の反応は瑛理子の予想通りだった。
ハクオロの視線は緊張感を帯びた鋭いものとなり、観鈴は「殺し合いに乗った人間が来る」という事実を前にそれまでの元気さは吹き飛び
急にどこか怯えた感じの雰囲気になった。
もっとも、一度映画館近くで襲撃者を撃退したと思ったら新しい襲撃者、それも複数がこちらに来るというのだから無理も無いだろう。
「それで、二人との合流地点は決めているのか?」
「そっちについては大丈夫よ。電話であらかじめ打ち合わせしてあるから」
「分かった。ならばすぐ此処を出よう」
三人は荷物をまとめると足早にレジャービルを後にする。
プラネタリウムで情報交換をしたときに聞いた話によると、車に乗った一段は狙撃という方法で二人を奇襲したらしい。
そうなると、開けた場所を移動するのは危険すぎる。
瑛理子は「開けた表通りを歩かず、細く狭い通りを移動したほうが安全よ」と二人に告げ、ハクオロと観鈴もそれに同意した。
。
。
その一方で瑛理子は本来の目的地である工場に襲撃者がいた場合は最悪、戦闘も覚悟する事を考えている。
首輪の解析には工場にある様々な機器・工具類が必要不可欠だからだ。
(よりによってこんな事態になるなんて……。拙いわね)
移動する中、そう心の中で呟きつつ瑛理子は更に、万一工場が次の放送で禁止エリアに指定された場合の事を考え始めていた。
しかし、三人は知らない。
車で移動している二人――つぐみと純一――がレジャービルには向かってない事には。
そして彼らが殺し合いに乗っていない、むしろその逆の立場に立っているという事実に。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
同じ頃、悠人と衛も荷物をまとめるとすぐさまオフィスビルを後にして南への道を目指していた。
「ハクオロさん達、大丈夫かな?」
「ああ、襲撃者してきた連中の事を考えると危険が大きいのはあの二人の方だからな」
映画館へ目指す途中、二人も先の三人同様に大通りを避けて路地裏を進んでいた。
そんな中、悠人は(メモを残したなんて大事な事をあの時言ってくれなかったんだ!)と泣きたい気分になる。
余計な事をしたとは言わない。
こういう状況では一人でも仲間が多いほうが心強いものだ。
しかし、あまりにもリスクが大きすぎる。
。
「とにかく今は映画館を目指そう、衛」
「うん、分かってるよ悠人さん」
二人はあの時の事――大通りを歩いていていきなり狙撃された事――を思い出しつつ路地裏を移動する。
しかし、この時二人は大きなミスを犯してた。
二人が路地裏を歩いていた同じ頃、大通りの方ではあのメモを手にした春原陽平が丁度北に向かって歩いていたのだ。
もしここで陽平からメモを見せられていれば、二人がハクオロ達三人と合流するまでの時間も大幅に短縮されたはずだろう。
だが、現実は往々にして上手くいかないのであった。
そして、二人は知らない。
車で北に向かった二人――つぐみと純一――が殺し合いに乗ってないという事実に。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「着いたわね……」
「ああ、本当にここに来るのかな……」
そしてまた同時刻、つぐみと純一もプールに到着していた。
どうやら自分たちが真っ先に到着したらしく、プール前のゲートは閉じられたままだ。
「俺達が一番乗りみたいだな。早速中に入って待つ事にしようか?」
「待って、焦りは禁物よ。それにもう中に誰かがいる可能性もあるから気をつけて」
。
この時つぐみの頭をよぎったのは、博物館での出来事だった。
結局自分は中に入らなかったものの、博物館の車両用通用門は閉じられている一方で人間用の通用門は開かれており、
あたかも自分たちを誘っているみたいだった。
博物館に入った二人――音夢とネリネ――がどうなったかは知らないが、場合によっては罠に嵌められた可能性も高い。
あの後の二人がどうなったかは次の放送で確認するとして、つぐみはあの時と同じ事を思ったのである。
しかも今度は自分も建物内に入るのだ。
罠でも仕掛けられていらたまったものではない。
「そうだな、その時は情報交換なり、説得なりするだけさ……」
「ええ、でも相手が先制攻撃を仕掛けてくる場合もあるから、純一にはこれを渡しておくわね」
つぐみはそう言って、純一に金物屋で調達した工具の中でバールに次ぐサイズの大型レンチを渡す。
それは万一、弾切れの時になった時はこれで戦えという事だった。
「ありがとう、つぐみ。それじゃ行こうか」
「それなら純一が先に入ってくれる?フェンスを越えたらゲートへ回って内側から鍵をあけて欲しいの」
「任せたよ。それじゃお先に」
そう言って純一はゲート横のフェンスを登り始める。
一方でつぐみは純一が誰かに狙われぬ様、電動釘撃ち機を手に周囲を警戒する。
だが、二人は知らない。
自分達がゲームに乗っていると目的の人物達から勘違いされている事に。
そして、今二人のいるプールには目当ての人間が来ないという事実に。
それぞれが互いの視点でモノを見る故に生じた過ち、彼らがそれに気付くのはいつの事なのか。
少なくともハッキリ言えるのは、それは今ではないという事だろう。
。
【偵察チーム】
【D-2 南側・裏通り移動中/1日目 昼】
【思考、行動】
基本方針1:襲撃者の北上につき急遽予定変更。映画館へ立ち寄ったあと、北上しD-2エリアの公園に移動し首輪チームと合流。
基本方針2:映画館、学校、神社、新市街を経由して参加者の捜索、情報収集を行いながら15時までに工場へ。
ただし時間の経過によっては何箇所か立ち寄らずに、時間までに工場に着くことを優先。
思考1:とりあえず映画館に移動し、三人が残したメモを処分する。そこで殺し合いに乗ってない人間がいれば情報交換あるいは共に行動する。
思考2:有益な情報を集める、特にタカノの事を知ると思われる4人を重視。また、可能なら鳴海孝之が持っているというノートパソコンを入手。
【備考】
※ハクオロ、観鈴、瑛理子と協力状態。
※北へ向かった車の襲撃者を警戒。探索はキャンセルし、映画館でメモの件を終えたら再度北上してD-2の公園にて三人と合流。
※D-2が禁止エリアに指定された場合は映画館、C-3北のスーパーで合流。
※工場にハクオロ達が居ない可能性も考慮。その場合レジャービル、プラネタリウムの順に移動。
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
※禁止エリアについて学びました。(禁止エリアにいられるのは30秒のみ。最初は電子音が鳴り、後に機械音で警告を受けます。)
※島内部の電話が使える事を知りました(現在、レジャービルの電話番号を知ってます)。
※車の一団はゲームに乗った者が徒党を組んでいると思ってます。
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、
予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾、電話帳】
【状態:精神状態は安定、疲労軽程度、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:北上した襲撃者を警戒。三人が心配。
2:アセリアと合流
3:咲耶や千影を含む出来る限り多くの人を保護
4:ゲームに乗った人間と遭遇したときは、衛や弱い立場の人間を守るためにも全力で戦う。割り切って容赦しない。
5:ネリネをマーダーとして警戒(ただし、名前までは知らない)。また、彼女がなぜ永遠神剣第七位“献身”を持っていたのか気になって仕方が無い。
6:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……
7:エスペリアを殺した相手を積極的に探すつもりはない、但し出会ったら容赦するつもりはない
8:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
【備考】
※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
※衛と本音をぶつけあったことで絆が強くなり、心のわだかまりが解けました。
※上着は回収しました。
※レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
※遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
※ハクオロとの会話でトウカをマーダーでないと判断、蟹沢きぬについては保留
※エスペリアを殺した相手を殺すつもりは(一応)ない
※原作の四章、アセリアルートから連れてこられた、アセリアはハイロゥが黒く染まった(感情が無い)状態だと思っている
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)】
【所持品:支給品一式、ローラースケート、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:精神状態は正常・安定、疲労軽程度】
【思考・行動】
基本方針1:死体を発見し遙や四葉の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
基本方針2:あにぃに会いたい
基本方針3:これからは自分も悠人さんの支えになってあげたい
1:プラネタリウムで別れた三人が心配。
2:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
3:咲耶と千影に早く会わなきゃと思う。
4:ネリネをマーダーとして警戒(ネリネの名前までは知らない)。
5:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える。
【備考】
※悠人の本音を聞いた事と互いの気持ちをぶつけた事で絆が深まりました。
※遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
※瑛理子から、鳴海孝之の情報を得ました。
※TVカメラ付きラジコンカーは一般家庭用のコンセントからでも充電可能です。充電すれば何度でも使えます。
※ラジコンカーには紐でカッターナイフがくくりつけられてます。
※スーパーで入手した食料品、飲み物は二日程度補給する必要はありません。
※医薬品は包帯、傷薬、消毒液、風邪薬など、一通りそろっています。軽症であればそれなりの人数、治療は可能です。
※日用品の詳細は次の書き手さんにまかせます。
■
【工場探索チーム】
【D-1 レジャービル近くの裏通り/1日目 昼】
【思考、行動】
基本方針1:車に乗った襲撃者の一団を警戒。現在はレジャービルを出てD-2の公園に移動し、偵察チームと合流。
基本方針2:レジャービル、プール、廃墟郡を経由して工場へ。(工場に危険があった場合、レジャービル、プラネタリウムの優先順位で移動)
基本方針3:首輪の解析をする。
思考1: 悠人と衛が心配
思考2: 車に乗った襲撃者の一団との戦闘も想定。
【備考】
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
※禁止エリアについて学びました。(禁止エリアにいられるのは30秒のみ。最初は電子音が鳴り、後に機械音で警告を受けます。)
※博物館で悠人たちを襲撃した相手(ネリネ)の外見と、その仲間と思われる相手の乗っている車について聞きました。
※悠人から、ファンタズマゴリア、永遠神剣、スピリットについて学びました。
※島内部の電話が使えることを知りました。
※車の一団はゲームに乗った者が徒党を組んでいると思ってます。
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:Mk.22(7/8)、オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:精神をやや疲労、緊張状態及び警戒中】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない
1:ゲームに乗った人間を警戒中
2:アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4:観鈴と瑛理子を守る。
5:トウカがマーダーに間違われるようなうっかりをしていないか不安
6:悠人の思考が若干心配(精神状態が安定した事に気付いてない)
【備考】
※レジャービルを探索した事で内部の状況を把握済み
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。また、悠人達から狙撃についても聞きました。
※大石をまだ警戒しています
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※観鈴からMk.22を受け取りました
。
【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、予備マガジン(40/40)、食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:健康、緊張及び若干の恐怖】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:殺し合いに乗った人が来るというのが怖い。
2:ハクオロと瑛理子と行動する。
3:往人と合流したい
【備考】
※レジャービルを探索した事で内部の状況を把握済み
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識
※ハクオロにMk.22を預けました
※映画館に自分たちの行動を記したメモをおいていきました。
※衛から食料品、飲み物、日用品、医薬品(約半分)を受け取りました。
【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 8/8+1、杖代わりのビニール傘】
【所持品:支給品一式 ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【状態:左足首捻挫】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1:とりあえずは南下してD-2の公園を目指す。
2:車に乗った襲撃者の一団が工場に陣取った時、或いは工場が禁止エリアに指定された時の首輪解析方法を思案中。
3:ハクオロと観鈴と共に工場に向かう。
4:仮に仲間を作り、行動を共にする場合、しっかりした状況判断が出来る者、冷静な行動が出来る者などと行動したい。
5:(2の追記)ただし、鳴海孝之のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。
6:鳴海孝之には出来れば二度と出会いたくない。
【備考】
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※ハクオロと神尾観鈴の知り合いの情報を得ました。
※パソコンで挙がっていた人物は、この殺し合いで有益な力を持っているのでは?と考えています。
※観鈴とハクオロを完全に信頼しました。
※悠人と衛も基本的には信頼しています。
※首輪が爆発しなかった理由について、
1:監視体制は完全ではない
2:筆談も監視されている(方法は不明)
のどちらかだと思っています。
※電話についても盗聴されている可能性を考えています
※杖代わりのビニール傘は観鈴が衛から受け取った日用品の一つです。
【電話についての備考】
※基本的には島内の全ての電話機が通話可能です。
※電話帳は各エリアの公衆電話に設置されています。
※電話は基本的に地上の建物やポイントでしか通話できません(間違っても主催者の居場所に繋がることはありません)。
※電話の内容は主催者に盗聴されている可能性があります(盗聴されているか否かは次の書き手さん任せ)。
※公衆電話からかけるときは当然お金がかかります。
※電話が設置されていても、電話帳には番号が載ってない場所も存在します。
■
【プール探索チーム】
【C-1 プール正面ゲート前/1日目 昼】
【思考、行動】
1:メモを残した三人と会い、知り合いや首輪の事を聞く。
2:待ってみて現れないようなら正午までには博物館へ戻る。
3:内部に他の人間がいないか警戒しつつ探索する。
【備考】
※現在プールへの侵入中。正面のゲートは閉じられています(内側から開錠可能)
※自分たちがゲームに乗っているとメモの三人や悠人達が勘違いされている事に気付いていません。
※正面ゲート前に二人が乗ってきた車が停車しています。
※車はキーがささっていません。燃料は軽油で、現在は4分の1消費した状態です。
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25) 大型レンチ】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
1:つぐみと共にプール内を調べる。
2:つぐみと共に武を探す。(正午には戻るようにする。)
3:音夢を説得する
4:ことり、杉並を探す。
5:殺し合いからの脱出方法を考える
6:さくらをちゃんと埋葬したい。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
※つぐみを信用しました。
※つぐみとは年が近いと思ってます
【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9】
【所持品:支給品一式 天使の人形@Kanon、釘撃ち機(20/20)、バール、工具一式】
【状態:健康(肩の傷は完治)】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
1:純一と共にプール内を調べる。
2:純一と共に武を探す。(正午には戻るようにする。ただし見つかった場合この限りではない)
3:ゲームに進んで乗らないが自分と武を襲う者は容赦しない
4:稟も一応探す。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。
※純一を信用しました。
※音夢と純一の関係に疑問を持ってます。
※純一には博物館の戦闘を話していません。
戦艦のブリッジのようにも、何かの研究室のようにも見える、広大で薄暗い部屋。
部屋の至る所に設置されたモニターとスピーカーは、参加者達に関する情報を絶え間無く示し続けていた。
映し出される阿鼻驚嘆の図、響き渡る断末魔の叫び声。
まだ年端もいかぬ少年少女達が、次々に若い命を散らせてゆく。
それはとても正視に耐えぬ程、悲惨且つ残酷な光景。
僅かでも良心を持った者ならば、この場に居るだけでも精神を削り取られてしまうだろう。
事実オペレーターとおぼしき男達は、一目で分かる程に疲弊した顔付きとなっている。
だがそんな中、凄惨に口元を吊り上げ哂い続ける女が一人。
美しく艶やかな金色の髪、妖しい色気を帯びた切れ長の瞳。
見目麗しき妙齢の女性であるにも関わらず、その瞳の奥には底知れぬ闇が見え隠れしている。
「――フフ、そろそろかしらね」
謡うかのような甘い音響で言葉を紡ぎ、女は立ち上がった。
周囲の喧騒を気にも留めず、落ち着いた足取りでマイクの前まで突き進む。
女の名前は鷹野三四――この殺人遊戯の管理者にして、工作部隊『山狗』の指揮権を持つ人物でもある。
心底愉しげなその姿は余りにも異様、余りにも不気味。
それを見かねたのか、オペレーターの一人が恐る恐る声を発する。
「……ご機嫌ですね」
「ええ、最高に気分が良いわよ。これはただの殺し合いなんかじゃない。
神の命により行われし儀式なのだから……貴方には分からないでしょうけどね。くすくすくす……」
「は、はあ……」
オペレーターはまるで理解出来ないといった様子で、困惑気味に眉を顰めるばかり。
それも当然だろう。
現状では、余りにも情報が不足し過ぎているのだ。
此度の殺人遊戯がどのような目的で行われたか、オペレーター達は全く知らされていない。
オペレーター達が請け負っている任務は、あくまでも常識の範囲で考え得るものに過ぎない。
異能者達に対する能力制限も、参加者達の転送も、自分達では無い何者かが行っている事だった。
オペレーターの困惑をよそに、鷹野は言葉を続けてゆく。
「この儀式を経て、私は人の身を放棄するの。儀式に協力した褒美として、神の眷族にして貰うの」
「……神の眷族、でありますか」
「ええ、そうよ! 神の眷族、即ち神族!」
死に往く者達の断末魔を背景曲に、何も知らぬ愚かな凡人達を観客として。
鷹野は手を振るい始める――まるで、オーケストラの指揮者のように。
「今の世界に祟る神が何人いる? 世界を統べ得る神が何人いる? ……1人もいやしない! でも、私に力を貸してくれた『大神』は違う!
『大神』は全てを凌駕する力と、人の身では決して及ばぬ叡智を兼ね備えた存在……」
紡がれるは狂気の独白。
常人では決して理解し得ぬ、歓喜に満ちた言霊達。
「そして、私もまた人間を凌駕する! 有名無実の神などとは違う、人を超越せし存在になる!
アハハハハハ、ハハハハ、アッハハハハハハハハハハハハハ!」
全ての人間を見下し、多くの神々すらも罵倒し、鷹野は哂う。
オペレーター達の誰もが口を開けぬ中、鷹野の狂笑だけが響き渡る。
それでも、時計の針は確実に進んでゆき――そして、第二回放送の刻が訪れた。
◇ ◇ ◇ ◇
『――参加者の皆さん、ご機嫌如何かしら?
正面からの殺し合いも、水面下での腹の探り合いも、殆どの人が初体験でしょ?
相手の生命を奪い尽くす快感!
相手を騙し切った時の達成感!
日常ではまず体験出来ないであろう、スリルに満ちた殺人ゲーム!
そろそろ楽しく思えてきた頃じゃないかしら。
……と、無駄話が過ぎたわね。
今回も私、鷹野三四が放送を担当させて貰うわ。
――まず禁止エリアは十四時からB-4、十六時からE-3。
禁止エリア付近でこそこそと実験してた人達もいるみたいだけど、そんなの無駄よ。
やろうと思えば、私達は何時でも首輪を爆発させる事が出来るのだから。
貴方達の生殺与奪は、こちらが完全に掌握しているの。
首輪を外すなんて絶対に無理よ、くすくすくす……。
――続いて、お待ちかねの死亡者発表よ。
第一回放送から今までの六時間で、脱落した人間は、
アルルゥ
オボロ
エスペリア
厳島貴子
相沢祐一
岡崎朋也
芙蓉楓
朝倉音夢
芳乃さくら
杉並
鉄乙女
霧夜エリカ
伊達スバル
大石蔵人
双葉恋太郎
以上、十五名よ。
あらあら、随分とペースアップしてるじゃない。
皆そんなに殺し合いがしたいのかしら、くすくすくす……。
殺し合いを否定していた人達も、これでいい加減目が醒めたわよね?
甘い夢に縋り付こうとした所で、無惨に殺されてしまうだけ。
死んだ人と同じ数だけ、覚悟を決めた狩猟者がいる。
人を殺す覚悟と強力な凶器を併せ持った、冷酷な狩猟者がね……。
――では、今回の放送はここまでよ。
次の放送は今から六時間後、十八時に行われるわ。
一切の躊躇も情けも必要無い。
この島には法律なんて存在しないのだから、思う存分殺し合いなさい』
◇ ◇ ◇ ◇
「さて……貴方達も精一杯働きなさい。参加者達の動向を逃さず把握して、この儀式を成功させるのよ。
そうすれば、貴方達も神の眷族にして貰えるかも知れないわよ?」
放送を終えた鷹野は、何処までも愉しげに命令を下す。
残虐なる殺人遊戯を完遂させよと、悪事への加担を強要する。
「……いよいよなの。もうじきなの。私の……ずっと見続けてきた夢が、もうすぐ叶えられるのよ。フフフ……」
神罰を下すかの如く、無慈悲に殺人遊戯を推し進める女。
それはきっと、人の姿をした怪物。
「…」
「♪♪♪〜 ♪〜」
テテテッ
俺がパスタをゆでている間、風子はキッチンに入り何かを探していた。
「………」
「♪♪♪♪〜」
タタタッ
俺がピザを焼いている間、風子はキッチンを出て外でガチャガチャやっていた。
「………………」
「♪♪♪〜 ♪♪♪〜」
俺が皿を並べている間、風子はいつの間にか戻り、鼻歌交じりに眺めていた。
「………………出来た」
「わぁ、ようやくですか」
待ち遠しかったとばかりに飛びつこうとする風子に、当然の疑問を投げ掛ける。
「なぁ、何で俺一人で料理してんの?」
「お昼♪お昼♪」
聴いちゃいねぇよ。
まあ、俺も腹は減ってる事だし深くは追求しないでおくか。
「じゃあ、フロアに持ってくぞ」
そして俺と風子の分を持って行く。
今日のお昼は、
『ピザ(冷凍)』『ペペロンチーノ』
である。
(カレーにしようとしたら、風子に『カレーは夜。昼はパスタ』と駄々をこねられた。ずっとココに居座る気かよ、オイ)
* * *
「ほぅいえあさ」
「…北川さん。口に物を入れながら喋るのはお行儀が悪いですよ」
「…」
モグモグモグ………ゴクン。
「そういえばさ、俺が料理作っている間キッチン出入りしてたけど、何かしてたのか?」
その質問をした途端、風子の眼が輝いた。
「聴きたいですか?」
「…」
この時点で見当はついた。
………ロクなことじゃないって事だけは。
が、風子は話したいオーラを全身から放っている。
こりゃ、とめる事は出来ないか。やぶ蛇だったなぁ。
そう思いながら、何気なく探知機を懐から出す。
「実はですね…」
「!」
その時に気付いた。探知機に一つの反応が現れていたのに。
しまった。何でもっと早く気付かなかったんだ。
「その話は後だ!!!」
風子の話を遮り立ち上がる。
「?どうかしましたか?」
「誰かがこっちに近付いて来る。逃げるぞ」
そう言って、探知機を風子に見せる。
「…」
が、風子は動かない。
ったく、俊敏な動きの取れない奴だな。
支援
しえn
「ホラ」
そう言って風子を立たせようと手首を掴み、風子に
「動かない方が良いです」
と、言われた。
「え?」
「北川さん。相手は一人、しかも階段を上って来ます」
「そうだが?」
まあ、エレベーターを使うアホはそう居ないだろう。
「さっき言いかけましたけど、北川さんが料理している間、階段口に罠を仕掛けておきました。だから問題無しです」
「罠?」
「糸に引っ掛かると中華ナベが降ってきます」
「…」
絶句。
こいつ、行動を共にすればするほど、天然っぷりに磨きが掛かってこないか?
「ふふん。驚くほどのものではないですよ」
と胸を張りつつ言う風子。
どうやら俺の無言を感心して二の句が告げないと受け取ったらしい。
「あのなぁ。そんな子供だましに引っ掛かるバカが居るわきゃないだろ?
そんな奴が居たらお目にかかりたい…」
ゴ ン ! ! ! ! ! !
「…」
ウソ。
「お目にかかります?」
「…はい」
そして二人して立ち上がり、罠に引っ掛かった人間を調べる為、俺は風子の後について行った。
得意気な表情で現場に向かう風子の後を、とぼとぼと。
何?この敗北感。
* * *
………………
………
…
「………ん」
目を覚ました時、私は寝かされていた。
確か私は、百貨店に入って、圭一たちに会った時の事を考え宇宙服を脱いだ。
そして1階から順に調べて回って、7階まで来た時に…
「…くっ」
起きようとすると同時に襲い掛かる頭痛。
どうやら私は、何者かに頭を殴打されたらしい。
そして、状況を把握しようとして驚いた。
まず、私はどこも拘束されていない。
デイバッグこそ辺りに無いものの、床の上にテーブルクロスを敷き、その上に横たえられていた。
そして、痛む頭には冷えたタオルが載せられている。
どうやら私は、誰かに看病してもらっているようだ。
そういえば、誰かの声が聴こえてくる。
私は寝たふりをして聞き耳を立てた。
「…だから、これは俺の分だっての!」
「今回のピンチを救った風子に、労りの1ピースをくれたって良いじゃないですか」
「いたいけな子供に無差別攻撃を仕掛けただけだろうが!絶対謝れよ!」
(…)
何か、会話の内容がやたら緊張感が無い気がするけど、
多分、今会話中の人達が助けてくれたのだろう。
そして私に攻撃したのも彼らのようだ。
「という訳で、後の事は北側さんに任せます」
「何で俺なんだよ」
「風子には解るんです。今回の書き手さんは風子を活躍させる気がありません」
「(…ついにリアルに干渉しやがったよ、こいつの電波)」
「?何か言いました?」
「じゃあ何で中華ナベはあの子にクリーンヒットしたんだよ、って言ったの」
ちゅ、中華ナベ。
私はそんな原始的な罠に引っ掛かったの?
別の意味で頭が痛くなってきた。
「むむ。変態さんのクセに理路整然としてますね」
「こんな時だけ変態言うな!!!」
…何?この呑気な会話。
ここまでの会話を盗み聞きして、取り敢えず確定した事が一つ。
この二人、人畜無害。
いや、脳天に一撃喰らったようだけど、この人達に殺される可能性はゼロ。
だって、この緊張感の無さったら…。
そう考えた私は寝たふりを止め、起き上がった。
「あ…」
女の人は、私が起きた事にすぐに気付いた。
「ん?どうした」
「あの子、起きたようです」
そう言って、女の人が私を指し、男の人が振り返った。
* * *
「本当にゴメンな。梨花ちゃん」
「ゴメンナサイ。人を選ばないトラップを仕掛けた風子が悪かったです。この通りです」
俺達の所為で頭に怪我した少女に自己紹介をして、名前を聞いた後に先ず俺達がやった事。
それは謝罪。
梨花ちゃんは
「へいきなのです」
とだけ答えた。
口数の少ない子だな。
まあ、俺達の事を警戒しているのかも知れない。
「ところで、今まで一人で居たの?」
梨花ちゃんの不安を少しでも和らげるよう、俺は出来る限り優しい声で訊いた。
俺の質問に、梨花ちゃんは肯く。
「じゃあさ、俺達と一緒に居ない?一人で居るよりずっと安全だからさ」
「…」
俺の言葉に、キョロキョロと俺達を見比べる梨花ちゃん。
やはり警戒しているのだろう。梨花ちゃんにとって、俺達は得体の知れない人間なのだから。
「その方が良いですよ、梨花ちゃん」
そこに入る風子のフォロー。
そうだな。この場合は俺みたいな男より、女の方が説得しやすいだろう。
幸い、今の風子は電波を受信していそうじゃない…
「ココで風子達と別れると、梨花ちゃんは空気になっちゃいますよ」
アンテナ立ってたあああぁぁぁ!!!
しかも受信してるの、よりによってリア電(※『リアルへ干渉する電波』の略)かよ!!!
さっき開花させた能力をもう使いこなしてやがる!
「おま、訳わかんない事言うな!」
「そうそう、北川さんだって、風子がいないとひどい扱いを受ける所だったんですから」
俺の制止を受け流す風子。
更に何気に酷い事言われた。
「どこがだ!」
「立ち絵が一枚しか無い北川さんは…」
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
言わないで!俺の深層意識のトラウマ!
おのれリア電。
ただでさえ“天然”+“電波”という相乗効果を持つ風子の凶悪性を助長しやがって。
「って、そりゃ原作の話だろうが!今は関係ねぇ!
それに俺達みたいな立場の人間は、お前らよりも少なくなるのは仕方が無いんだよ!!!」
言い返す俺の声は涙声になっていた。
目じりに溜まる涙が零れ落ちないよう必死に堪える。
大丈夫、俺泣かないよ。だって男の子だもん。
「でも、一枚というのは稀に見るほどの雑な扱い…」
「うわあああぁぁぁん!!!!!!」
決意は2秒後に崩れていた。
男のプライド完全に叩き折られちまった。
ひどいよ、ひどいよぅ。
そして、さめざめと泣く俺の頭を…
ポフポフ
誰かが撫でていた。
「?」
ふと頭を上げると、梨花ちゃんが俺の頭を撫でていた。
「かわいそかわいそ」
この時の俺の心情を正直に言おう。
俺は梨花ちゃんが天使に見えた。
惨めだと笑いたい奴は笑うが良いさ。
とにかく俺は梨花ちゃんに救われたんだよ。
………グスン。
―――数分後。
泣き止んだ俺は、梨花ちゃんに改めてお願いする。
「なぁ、梨花ちゃん。俺達の仲間になってくれないか?」
この、心優しい少女を守るために。
護る人間が増えると、それだけ難しくなるのは百も承知。
でも、俺は梨花ちゃんを見捨てる事は出来ない。
どう考えても、この子を一人にするのは危険だ。
というか、今まで生きてこれた事自体が奇跡なくらいだ。
だから俺は梨花ちゃんを護ろうと心に決め、一緒に居ようと持ちかけた。
そして、俺の提案に梨花ちゃんは
「にぱぁ☆」
と、笑ってくれた。
* * *
「お前に言われたくねぇ!ってか、俺は変態じゃないっての!」
「立派な変態さんですよ。だって…」
「わあああぁぁぁ!!!言うなあああ!梨花ちゃんの教育上宜しくない!」
「それって、自分が変態だと認めているのと同じですよ?」
「…くっ」
私が仲間入りしてから、暫くは情報交換を行なっていた。
が、この二人と話していると、すぐに脱線してしまう。
(因みに上の会話も潤が『祐一と名雪を捜している』という話から脱線してこうなった)
何でこの二人はこんなに緊張感が無いのだろう。
殺人ゲームに強制参加させられているという自覚はあるのだろうか。
「………あ」
不意に“それ”に気付き、口元へ手をやる。
私の口は、自然に笑みを浮かべていた。
上辺だけではない、本当に自然に浮かび上がる笑み。
自覚がないのは私も同じか。
でも、嬉しい誤算だった。
こんな狂ったゲーム内でも、笑える場所はあるんだ。
それが本当に嬉しくて、つい私も、潤達のやり取りを楽しみながら話し込んでしまった。
(でも、この二人の隙は致命的ね。なら…)
そう考えた私は、突如風子の背後に回りこみ…
………腕をねじ上げた。
「…っ。梨花ちゃん、痛いですよ」
私が立ち上がっても二人とも警戒せず、腕をねじ上げても風子はまだのんきな事を言っていた。だが、
「梨花ちゃん、君はもしかして…」
流石に潤の方は気づいたようだ。
そう、それでなくては困る。
「このゲームに乗ってるのか?」
潤の疑問に私はこう答える。
「殺しなんてしたくないけど、それ以上に死にたくないから」
「だから優勝を狙う、と?」
「そう。だから二人とも、大人しくして」
――初めて人を殺した。
それがほんの十二時間前のことだとは到底思えない。
俺がこの手で罪の無い命を散らしてから、もう数え切れないくらいの時間が立っているような気分だ。
この一二時間で幾つの命を奪ったのだろう、思い出す。
ゲームが始まってすぐに出会った少女、エルルゥ。
心の底から幸せになるような、気持ちの良い笑顔が印象的だった。
今も公園のベンチで永遠の眠りについているのだろうか、倉田佐祐理。
最後まで、その命燃え尽きる最期の一瞬まで俺を許そうとしていた。
そして笑ってくれた。
エスペリア。誰よりも苦しい死に方をさせてしまった事に偽善と分かっていながらも心が痛む。
真っ向からの勝負では完全に敗北していた。しかも銃と木刀という圧倒的な戦力差を物ともせずに彼女は勝った。
俺にトドメを刺さなかったのも全部観鈴のためだと言った。
胸に突き刺さる、そんな深い慈愛の心を持った少女だった。
その小さな身体で、細い腕で、それでも必死に守ろうとした。
自分の大切な人の命を守るために、その身を投げ出した……アルルゥ。
他の三人と違って、その死の瞬間を見届けた訳ではない。
それでも、彼女がもうこの世にいない事は十分に分かっている。あの悪魔、鷹野三四の定時報告で先程名前を呼ばれたのだから。
いや……俺も悪魔か。
四人。もう四人の人間の命に終止符を打った人間の台詞とは思えない。
一人や二人ではない、そして過失でも無い。
全て、俺が、自分の意志でやった事。紛れも無い真実。
でも、俺は何て身勝手なのだろう。こんなに生まれて来てから自分自身に嫌悪感を抱いた事は無かった。
なぜなら『本物』の大量殺人者に羨望の気持ちを抱いているのだから。
彼らは人を殺す時、微塵の迷いや後悔をする事も無く、その手を朱い血で染める事が出来るのだろうか。
ナイフで肉を突き破る感触。
拳銃で穿つブラックホールのように、深い空洞。
僅かな喘ぎ声を漏らすことしか出来ない、か細い喉笛を絞め殺した時の筋肉の震え。、
そのどれにも躊躇すること無く、眉一つ動かさずに遂行出来るのだろうか。
だけど。
辞書に載っている全ての殺し方を網羅したとしても、決して俺の心は折れてはならない。
他人を殺して味わう罪悪感も、恐怖も、絶望も。
全てこの背中に背負って行くと決めたのだから。
最後まで、俺はマトモなまま、最悪の殺人犯にならなければならない。
観鈴をこのゲームの終幕まで守り通し、そして生かすため。
ただでさえ、人として最低な、醜い姿をアイツに晒すことになるのだ。
出来るだけ、アイツにとっての"国崎往人"のイメージを壊したくは無かった。
そして、それよりも自分の犯した罪に押し潰されて狂ってしまうことが"逃避"にしか過ぎない事も分かっていたから。
狂ってしまう事、全てを本能に任せる事はとても簡単。
だけどそれを俺はあえてしない。いや、してはならない。
一人の女を、愛した女を生かすために他の参加者を皆殺しにすると決めた。
誰に何を言われようと、罵られようと構わない。
――最悪、アイツに説得されたとしても俺はこの意志を曲げるつもりは無い。
優勝して最後の一人になる事がこの先アイツがまともな生活に戻るための唯一の手段ならば、喜んで俺は自分の手を汚す。
そして殺した人間の人生、願いを全て背負って最期に俺は逝く。
これで、いい。
■
今、あの鷹野という女の二回目の定時放送が終わった。
言葉に出来ない程の恐怖が血液を凄まじい速さで回転させていた。
――神尾観鈴。
アイツの名前を聞くのがこんなに恐ろしいなんて。そんな事、今まで考えた事も無かった。
一回目の時も激しい動悸に襲われた。そして二回目も変わらず、コレだ。
もし名前が呼ばれていたとしたら、俺はどうなっていたか分からない。
見知った人間もちらほらと名前が呼ばれ出した。
俺を撃退したあの鉄乙女という女も死んだらしい。一緒に居たはずの月宮あゆの名前は呼ばれなかった。
そして美凪の名前もまだ放送では流れていない。どうやらまだ生きていてくれたらしい。
美凪のことは……あまり考えたくは無い。その場で知り合った相手を殺すのとは訳が違う。
エルルゥや佐祐理でさえ、アレだけの葛藤が俺の中に芽生えたのだ。
目の前に美凪がいて、そしてさぁ殺せ、と脳髄に命令された時、本当にそれが可能なのかは判断が付かない。
……駄目だな、俺は。
とりあえず言えることは出来るだけ早く観鈴を保護しなければならない、ということぐらい。
放送の度にアイツの死の可能性に怯えるのは耐えられない。
だから今は、情報を、観鈴に繋がる糸を探し出すしかないのかもしれない。
つくづくエスペリアを殺してしまった事を悔やむ気持ちが大きくなる。
「とはいえ……ぅ……随分、派手にやられたものだな」
だが、今すぐ観鈴を助けに行きたくても行けない、そんな現状がそこにはあった。
支援
先ほどの戦いで俺の身体はもう限界寸前とも言うべき、ダメージを受けている。
どうすればコレだけ大規模な傷を負う事が出来るのか、という程の酷さだ。
全身至る所に出来た青痣や打撲の跡などは可愛いもの。
強烈なのが左腕上腕部の粉砕骨折、そして脇腹に感じる不思議な感触――おそらくここも折れている。
精神論や意志が鎮痛剤になれば良いのだが、さすがにそんな都合よくはいかない。
裂傷や疲労などならともかく、骨が折れてしまっている以上、動かないものは動かない。
これだけの事をやったのが二人掛かりとはいえ両方とも、女だった事には正直戸惑いを感じている。
確か、瑞穂とアセリアとか言ったか。
それに銃を持った俺に向けて、何の迷いもせず突っ込んで来た女もいた。
彼女も、強い。仲間を深く信頼していなければあんな行動は決して取れない。
そしてもう一人、絶対に忘れてはならない存在。仲間を庇う為に進んでその身を投げ出した少女、アルルゥ。
あのグループは本当に心の奥底で結ばれていた、そんな気がする。
もっとも仲間の少女達を置き去りにして逃げて行った無様な男を除いてだが。
あんな、人間もいるのか。それが素直な感想だった。
今まで自分が出会ったのは仮面を付けたハクオロという男以外は全てが女だった。
名簿を眺めてみても名前だけで判断するに男は全体の1/3程度しか存在していない。
故にグループを組んだ際少数の男と複数の女、という構成になるのは珍しい事ではないだろう。
もしも観鈴が女を盾にして逃げるような、下劣な男と一緒にいるとしたら――?
可能性としては無くは無い。そしてソレは最悪のパターンだ。
だが逆にハクオロのような、ある種のリーダーシップを持った人間と同行している可能性も高い。
闇雲に気持ちを動転させる利点は無い。
最優先するべきは身体を休める事。そして傷の手当だ。
完全に逝ってしまった左腕はどうしようも無い。
銃を撃つ支えくらいならば何とかなるかもしれないが、何発も撃てば必ず限界が来る。
出血がほとんど無いのは不幸中の幸いと言っていいかもしれない。
ひとまずは折れた骨の部分を安定させる必要がある。
この博物館に足を踏み入れた時に、ある程度の全体図は入り口の館内案内で確認していた。
だから俺は傷を負った身体を引きずってまで、階段を昇っているのだ。
目的地は二階の奥。
展示場からは若干離れた場所にある係員用の宿直室。
この建物の中では最も傷の手当に向いた場所。
■
俺は宿直室のドアを開いた。
目に入ったのは簡易ベッドが二つとガラス張りの戸棚。
そして灰色のいかにも事務的なデスク。
「なんだ……これは?」
机の上に無地のノートがぽつんと置かれていた
未使用だろうか……いや違う、表紙に男の文字で『大石蔵人』と書かれている。
大石と言えば、確か参加者の一人。しかも先程名前を呼ばれたばかりの。
注意深く、俺はそのノートに手を伸ばした。
『もしこのノートを見ている方がいましたら、今から書く事をしっかりと頭に入れて置いて頂きたい。
ああ、もしかして、何故こんな場所にノートを残していったか気になりますか?
書置きを残すにしても下の事務室の方が人の目に触れるんじゃないか、とか。
まぁそれはコチラにも事情がありましてですね。
結構な時間をこの文章、及び考察を書くのに費やすつもりなので出来れば二階の奥の方の部屋の方が安心だった訳です。
それにこの部屋が私のスタート地点でして。縁のようなものも感じていたりもするんですよ、はい』
コレは……口述筆記か?
いや、どう見ても直筆ではあるが。わざわざこんな砕けた口調で文章を書く理由が何かあるのだろうか。
不特定の誰かに向けた手紙、という事でいいのだろうか。
続きに目を移す。
『さてまず二つ、前提として知っていて貰いたい事があります。
まず一つ、我々の首に付けられてるこの首輪。
おそらくコレには様々な機能が付いていると思われます。
遠隔爆破装置とあとはまぁ盗聴器と言った所ですか。
あとカメラは無いですね。ええ、コレばかりはしっかりと確認しました。
わざわざ首輪に仕込んでも簡単に妨害出来ますから、付ける理由も無いでしょうが。
少し考えにくいですが居場所を本部に送るシステムが組み込まれている可能性もあります。
そして、もしも既に大石蔵人という名前が放送とやらで呼ばれていた場合、コレを私の遺書だと思って頂いて構いません。
私は××県警興宮警察署に勤務する刑事です。
ああ、もちろん殺し合いには乗っていませんよ。刑事ですから。
実はこんな文章を残したのは、ある仮説を建てて私が行動しているからでして。
まず先に一つ重要な事を記しておきます。
あの鷹野三四が使った言葉を拝借して使わせていただきますが、このゲームには存在してはならない人間が数名登場しているのです。
これを読んでいるあなた。良いですか、笑わないで下さいよ。
「死んだ人間が生き返る」なんて事、考えられますかね?
ふふふ、笑ったでしょう。分かりますよ、何しろ刑事ですから。
まぁ、ですから死体も見慣れていまして。
この目で死体を確認した人間が"四名"、このゲームに参加していることには流石に驚きましたがね。
その名前は『前原圭一』『古手梨花』『園崎詩音』そしてあの『鷹野三四』の四名。
ちなみに文章ですから、鷹野三四の名前を出せる訳でして。
彼女が死人だなんて口外したら、私の頭が爆発しかねませんからね。
もしも既に私に会っている方がコレを読んでいる場合、鷹野三四の名前だけ聞いていなかったとしても恨まないで下さいよ?
死んだはずの人間がゲームに参加している事も気掛かりですが、一番気になるのは彼女、鷹野三四の事です。
まず断言しておきますが、彼女に人間を瞬間移動させるような超能力はもちろん備わっていません。
ですが、我々はこの島にそのような方法で飛ばされて来た。これは揺るぎない事実です。
二つ仮説を立てました。
つまり彼女の背後に誰か、糸を引いている人物が居るのではないかという事。
もう一つがこの8x8四方に区切られた島に、何らかの秘密があるのではないかという事。
私もESPだとかサイキックだなんて言葉は信じたくはありませんよ。
パワースポットやらストーンヘンジみたいな歴史的な名所でさえ、胡散臭く思っているんですから。
まぁ一度死んだはすの鷹野三四が息をしてピンピンしている以上、何か不思議な力が働いているのでしょう。
私の荷物の中にも不思議なものが入っていましたしね……』
ノートの一枚目はそこで終わっていた。
もう少し読み進めようかとも思ったが、身体が言う事を聞かない。ひとまずデイパックに放り込む。
それより先に、休息を取るべきだと判断。
だが無防備にベッドで横になる訳にもいかない。
結局、寝台の上に腰を降ろし、壁に寄り掛かった状態で落ち着いた。
ひとまず休息の形が出来上がって、少し気持ちが安定する。
一息、腹の底から吐き出すような溜息をつく。
しかし、この記述によると、彼はスタートしてからしばらくの間この博物館に滞在していたようだ。
死亡したのが一回目の放送ではない事を考えるに、どこかココとは少し離れた場所で殺されたのかもしれない。
だが鷹野三四の後ろに他の人間がいるというこの仮説は驚くべきものだった。
なぜなら俺は『異能力』を持った人間が存在する事を、十分過ぎる程知っているからだ。
確かにあのホールのような空間から、スタート地点まで飛ばされたのは彼女の能力だと思っていた。
『法術』という概念を俺が把握している以上、他に摩訶不思議な能力を持つ人間の存在を否定するつもりも更々無いからだ。
だがこの大石のノートによると、鷹野三四は普通の人間だと言うではないか。
ならば彼女を動かしている人間が居るのもまた道理。
それではその人物とは一体?
……分からないな。大体、俺にそんな事を考える必要があるのかも疑問だ。
なぜなら、主催者が誰であろうと俺がやるべき事は変わらないから。
観鈴を生かすため、やらなければならない事はただ一つだけ。
【C-3 博物館(2F 宿直室)/1日目 日中】
【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾40、木刀、たいやき(3/3)@KANNON、大石のノート】
【状態:精神的疲労・肉体疲労中。右腕と左膝を打撲・右手の甲に水脹れ・左腕上腕部粉砕骨折・左肩軽傷・脇腹に亀裂骨折一本・全身の至る所に打撲】
【思考・行動】
0:しばらく休憩・手当てをする
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害、説得に応じるつもりも無い
3:朝倉音夢・仮面の男(ハクオロ)・長髪の少女(二見瑛理子)・青い瞳と水色の髪の少女(アセリア)を危険人物と認識
4:状況が許せば観鈴の情報を得てから殺す
【備考】
※大石のノートを途中までしか読んでいません。
先には大石なりの更なる考察が書かれています。
全身を優しく包み込む、柔らかく暖かい感触。
瞼に染み込む光が視覚神経を刺激し、ゆっくりと意識を引き戻される。
目を開いたトウカが最初に見たのは、少し古ぼけた木製の天井だった。
掛けられていた布団を押しのけて、未だ疲労感の残る上半身を起こす。
首を回して辺りを眺め見ると、周囲四方は壁で囲まれていた。
それでトウカはようやく、今自分は建物の中におり、先程までベッドで眠っていたのだと理解した。
「…………此処は一体? 某は何故このような所にいるのだ?」
トウカが疑問の声を上げるのも、至極当然の事だろう。
自分は神社で謎の襲撃者に襲われてしまい、必死になって逃走していた筈なのだ。
だというのに、気付いたら見知らぬ場所で眠っていた。
逃亡中に意識を失ったのだろうという事は推測出来るが、こんな場所に辿り着いた覚えは無い。
理解し得ぬ現状に困惑している最中、突如横から聞き覚えの無い声がした。
「……やっと起きたみたいだな」
「――――!?」
半ば反射的に声のした方へ振り向くと、見知らぬ少女が部屋の片隅に座り込んでいた。
特徴的な銀髪、包帯で覆われた右肩、左腕に握り締められた黒い拳銃――そして、血塗れの制服。
包帯にこびり付いた血が、少女の全身を彩る紅が、否応無しにあの芙蓉楓を連想させる。
この少女も楓と同じく殺し合いに乗っているのでは無いかと、そんな疑念が沸き上がってくる。
「ク――――」
すぐさまトウカは腰に手を伸ばしたが、いつものような硬い感触は返ってこない。
つまり腰に掛けていた筈の剣は、何時の間にか奪い取られてしまったのだ。
その事実に気付いた直後、見知らぬ少女が銃を握り締めたまま語り掛けてくる。
「ああ、武器なら眠ってる間に預からせて貰ったぞ。こんな殺し合いの最中なんだ、当然だろう?」
「おのれ、卑怯な……!」
トウカは苦々しげに表情を歪めたが、状況を打開し得るような策は何も思いつかなかった。
どう考えても絶体絶命だ。
相手は肩を負傷しているようだが、こちらとしても得物が無くては満足な反撃も出来ぬ。
それに何より、ベッドに座り込んでいる今の体勢では、銃撃から逃れようが無い。
少女――坂上智代の鋭い視線が、焦りの様子を隠し切れぬトウカへと突き刺さる。
「一つ質問がある。お前は殺し合いに乗っているのか?」
「な――――莫迦な事をっ! 某は誇り高きエヴェンクルガ! 某が無差別に人を襲うなど、絶対に有り得ぬ事だ」
「……それは本当か? 」
「ああ、無論だ」
答えるトウカの瞳は一切の曇りが無い、何処までも純粋で透き通ったものだった。
智代の直感が報せる――この女の言葉は、紛れも無く真実であると。
智代は幾分か警戒を緩め、軽く頭を下げた。
尤も、万が一という事態も考えられる為、その手はまだ銃を握ったままであったが。
「そうか。疑って悪かったな……私は坂上智代という者だ。殺し合いには乗っていない」
「某はエヴェンクルガ族のトウカ。智代殿、何故このような事になっているのか聞かせてくれぬか?」
双方共に殺人遊戯を否定しているのならば、此処で戦う意味など無いだろう。
智代に合わせるようにして、トウカもまた臨戦態勢を解いていた。
そして、智代は事の経緯を簡潔に説明した。
「……成る程。では智代殿は気絶していた某を見つけ、此処で介抱してくれたのだな?」
「そうなるな。すぐ近くに山小屋があって幸いだったぞ」
「かたじけない。智代殿は命の恩人だ――この恩、いずれ必ず返させて頂こう」
すくっと立ち上がり、仰々しくお辞儀をするトウカ。
だが智代はまるで気にしていないといった風に、軽く左手を振った。
「何、礼には及ばないさ。私も右肩の治療をしなければいけなかったし、そのついでだ」
それよりも、と智代が続ける。
「トウカさん……だったか。第二回放送の内容を聞いておかなくて良いのか?
トウカさんは放送があった時、まだ眠っていただろう」
「ハッ……そうであった!」
トウカは大きく口を開け、しまったという表情を浮かべる。
この殺し合いに於いて情報の有無は生死に直結するのだから、放送の内容は絶対に把握しておかねばならない事だ。
トウカが頷くのを確認してから、智代は放送の内容を語り始めた。
語られたのは新たに追加された禁止エリア、全てを見下した鷹野の嘲笑。
そして――
「ア、アルルゥ殿が……?」
新たなる死亡者達の情報を知り、トウカの喉奥から掠れた声が絞り出される。
アルルゥが死んでしまったと云う事実は、トウカに大きな衝撃を与えていた。
「アルルゥ殿が……死んだ……」
カルラやエルルゥの時とは、決定的に違う。
自分は一度アルルゥを保護したにも関わらず、眠っている間に見失ってしまった。
アルルゥは――妹のような少女は、間違いなく自分の不始末が原因で死んだのだ。
「某の所為で……某が至らぬ所為で……アルルゥ殿が……っ」
トウカはがっくりと項垂れて、震える目蓋を力無く閉じた。
思い出の数々が、アルルゥと一緒に紡いだ記憶が、次々と頭の中に浮かんでくる。
形容し難い程の後悔と、度し難い自責の念が膨れ上がってゆく。
こんな時、エヴェンクルガ族の責任の取り方は一つ。
自刃だ。
自ら命を断つ事で、少しでも罪を償うのだ。
この島に来る前のトウカならば、迷わずそうしただろう。
だが――かつてハクオロは言った。
『罪の意識を感じるのなら、死んで償うより生きて償うべきだ』
――オボロは言った。
『頼む……お前が兄者達を……ユズハを……。そして、千影と……その姉妹達を……守ってやってくれ……!』
――ネリネは吐き捨てた。
『本当に愚かな男でしたね。これではこんな所で野垂れ死ぬのも当然です』
……死ねない。
安易な死を選び、罪の意識から逃げる事など許される筈も無い。
自分が死んだ所でアルルゥは生き返らないし、誰も救われたりしないだろう。
どれだけ罪の意識に苛まれようとも、自分は生きてオボロとの約束を果たさなければならない。
まだ生きている仲間達を、一人でも多く守り抜く事こそが贖罪に繋がるのだ。
怨敵であるネリネを討ち倒してこそ、オボロの死に報いる事が出来るのだ。
(アルルゥ殿……聖上……真に申し訳ございませぬ。ですが某に課された役目だけは、必ずや果たしてみせます……!)
心の中でそう誓いを立て、トウカは顔を上げた。
胸の内に秘めたるは、揺ぎ無い決意と戦友に託されし想い。
その瞳には深い哀しみの色と――これまで以上の、とても強い意志の光が宿っていた。
「……落ち着いたみたいだな。じゃあ、これを受け取ってくれ――預かっていた荷物だ」
トウカの動揺が収まるのを待っていたかのようなタイミングで、智代が鞄を差し出してくる。
鞄を受け取ると、その中には西洋剣や永遠神剣第七位『存在』が入れてあった。
「次はこちらが質問したいんだが、良いか?」
「勿論。某が知る範囲であれば幾らでも答えよう」
「トウカさんが気絶する前、何があったか教えてくれ。多分誰かに襲われたんだろう?
それ以外にも殺し合いに乗っている奴について知っていたら、全部教えて欲しい」
智代からすればこの質問こそが、一番重要なものであった。
まさか独りでに気絶するという事はないだろうから、トウカが何者かに襲われたのは確実。
そして復讐鬼と化した智代は、そういった襲撃者に関する情報を何よりも必要としているのだ。
「では順を追って説明しよう。某が一度目に襲撃されたのは、蟹沢きぬという娘に……」
「ああ、その事についてなら知っている。蟹沢きぬらしき奴に襲われたんだろう?」
「いかにも。レオ殿は有り得ないと言っておられたが、あの声は紛れも無く蟹沢きぬのものだ」
……それで間違いない筈だった。
エヴェンクルガ族はただ武術に秀でているだけでは無く、身体能力そのものも凄まじい。
この島に来てから体調が優れぬとはいえ、常人に倍する視聴覚能力を備えているのだから、聞き間違えたりはしないだろう。
だがトウカの言葉を否定するように、智代が一つの推論を口にした。
「そうとも限らないぞ……『声色』を真似ている奴がいる可能性もある」
「真似……でござるか?」
「そうだ。私は『対馬レオの声色』を真似た罠に嵌められたんだ」
そして智代は語り出す。
ボイスレコーダーを用いた狡猾な罠について。
用意周到に張り巡らされた罠によって、相棒であった霧夜エリカが殺されてしまった事について。
そして自分が犯してしまった取り返しのつかぬ失敗について、深い憎しみの籠もった声で語っていった。
。
「くっ……なんと卑劣な! 人の命を弄ぶその行為、タカノとなんら変わらぬではないか!」
話を聞き終えたトウカが、怒りのままにベッドを殴りつける。
自分がこれまで戦ってきた相手――ネリネや芙蓉楓は堂々と正面から挑んできた。
倒すべき敵ではあるものの、少なくとも彼女達は自らの手を汚して戦っていた。
だが声真似による罠を仕掛けた人物は違う。
無実の少年少女達を利用し、自身は戦わずして殺し合いを加速させたのだ。
「ああ、本当に卑怯なやり方だ……。トウカさんも、『声色』を真似た罠には気をつけた方が良いぞ」
「あい分かった……そのような悪漢の思い通りにさせる訳にはいかぬ。某も万全の注意を払おう」
「うん。では、殺人鬼に関する話の続きを聞かせてくれ」
智代に促され、トウカは神社で行った死闘の顛末を語り始めた。
殺し合いに乗っていた芙蓉楓は何とか倒したものの、戦友のオボロが犠牲になってしまい、同行者だった千影とも離れ離れになってしまった。
また頑強な意思の力を秘めたネリネや、強烈な重火器で武装している黒髪の少女は未だ健在であり、今後脅威となってくるだろう。
トウカが再戦に備え気を引き締めている最中、確認するように智代が問い掛けてくる。
「じゃあ神社の付近は今も危険かも知れないんだな?」
「左様でござる。某達の状態はとても万全とは言えぬ故、暫くは近付かぬが無難であろう」
トウカの言葉は正しい。
智代は右肩を負傷しているし、出血の影響か顔色も優れない。
トウカ自身も未だ疲労が抜けきっておらず、身体の節々に打撲跡も残っている。
そのような状態で激戦地帯に飛び込むのは、自殺行為であると言わざるを得ないだろう。
だがそんな現実を前にしているにも関わらず、智代は何の迷いも無く言い放った。
「いや、私は神社に向かう事にする。殺人鬼共が未だ居るかも知れないし、一気に殲滅する好機だ」
「なっ――無茶だ! 智代殿は肩を負傷しているではないか!」
「もう止血処置は済ませてあるし問題無いさ。まだ銃に弾は残っている……まだ戦える。
トウカさんとは此処でお別れだ」
。
智代はそう言い残すと、くるりと踵を返して歩き出した。
木製の扉を押し開けて、FNブローニングM1910片手に山小屋を発つ。
トウカはベッドに座り込んだまま硬直していたが、すぐに慌てて立ち上がった。
「智代殿、待たれよっ! 早まった真似は止すのだ!」
身体はまだまだ休息を欲しているが、この状況で暢気に休んでいられる筈も無い。
大急ぎで山小屋を飛び出し、智代の背中へと声を投げ掛けるトウカ。
そんなトウカに向けられたのは――
「……智代……殿?」
「頼むから邪魔をしないでくれ。じゃないと私は、トウカさんを撃たないといけなくなる」
俄かには信じ難い現実に、トウカの目が大きく見開かれる。
殺し合いに乗っていない筈の智代が、FNブローニングM1910の冷たい銃口を向けてきていたのだ。
冷たい山風が木々を揺らし、トウカの身体に吹き付ける。
「……一体どういう事でござるか?」
「私は殺人鬼共を許さない……絶対にだ。どんな代償を支払ってでも、皆殺しにしてみせる。
その邪魔をするというのなら、誰が相手でも容赦しない」
語る智代の形相は、正しく阿修羅と呼ぶに相応しいものだった。
眉は大きく吊り上がり、瞳は深い憎しみの色に染まり切っている。
全身から放たれる殺気は、数多の戦場を潜り抜けたトウカですらも圧倒される程だ。
尋常で無い智代の様子を受け、トウカが静かに問い掛ける。
「お主は戦慣れしているようには見えぬ。何がお主をそこまで駆り立てるのだ?」
「…………」
「エリカ殿か? エリカ殿が殺された所為で、お主は憎しみに囚われてしまったのか?」
。
。
エリカが殺された話をしている時、智代は憎しみを隠し切れぬ様子だった。
罠に嵌められた智代が、それを理由に復讐に走るのは十分考えられる事。
そう判断したトウカだったが、智代はゆっくりと首を横に振った。
「確かにあの出来事が発端だったが、それだけじゃない。さっきの放送で呼ばれた中に……あったんだ」
「……あったとは?」
「私の好きだった人の名前が、あったんだ」
「――――――!!」
トウカには知る由も無い事だが――第二回定時放送で、智代の想い人である岡崎朋也が呼ばれたのだ。
ただでさえ阿修羅と化しかけていた少女に、伝えられた凶報。
それは智代を暗い闇の底に突き落とし、完全なる阿修羅へと変貌させてしまうものだった。
智代は落ち着いた口調で、しかし明確な怒りの籠もった声で告げる。
「殺し合いに乗った輩がいるから、朋也は殺されてしまったんだ。そしてトウカさんを襲った連中のどちらかが、その犯人かも知れない。
だから私は今すぐ神社に行かなければいけないんだ。もう一度だけ言う――私の邪魔をするな」
それは紛れも無い最後通牒だった。
断れば、膨れ上がった殺意がトウカへと降り注ぐだろう。
殺し合いに乗ってない者同士で戦うなど、余りにも愚かな行為。
だというのに――トウカは揺るぎ無い視線を送り返した。
「断る。智代殿は命の恩人。恩人が殺されに行くのを黙って見過ごすなど、某には出来ぬ。
憎しみに囚われているというのなら、解放して差し上げねばならぬ」
「その結果、私と戦う事になってもか?」
「当然、それも覚悟の上でござる」
「そうか……なら、これ以上の会話は時間の無駄だな」
。
お互いに一歩も引かず、臨戦態勢へと移行する。
トウカは鞘に収めた西洋剣を腰に携え、智代は無事な左腕でFNブローニングM1910を握り締める。
十メートル程の距離を置いて睨み合ったまま、一瞬にも永遠にも思える時が流れた。
そして先手を打ったのは、智代の方だった。
トウカはFNブローニングM1910の銃口のみに注意を払っていたが、それは判断ミスだ。
「――――何っ!?」
トウカが驚愕に声を洩らす。
智代は拳銃を用いようとせず、真っ直ぐにこちらへと突っ込んできたのだ。
相手の武器は拳銃なのだから、遠距離射撃を中心に攻めてくると考えるのが普通だ。
しかしこと智代に限っては、そのような常識など適用されない。
秀でた身体能力を活かした肉弾戦こそが、智代の得意分野であり真骨頂。
虚を突かれたトウカの懷に、銀髪の阿修羅が潜り込む――!
「くぅぅぅっ!」
トウカが上体を後ろに反らすとほぼ同時、頭上の空間を凄まじい上段蹴りが切り裂いた。
耳に届く轟音が、今の蹴撃の威力を如実に物語っていた。
予想外の一撃に動揺を隠し切れぬトウカだったが、ともかく回避には成功した。
そして智代の蹴り足は未だ宙に上がったままで、大きな隙を晒している。
「フッ――――」
大振りの隙をモノにすべく、トウカは素早く腕を伸ばす。
狙いは智代の蹴り足を掴み取っての間接技だ。
上手く決まれば、智代を傷付けずに制止する事が出来る。
だがトウカの手が目標に届く寸前、智代の蹴り足がぴくりと揺れた。
咄嗟の判断で、トウカは両腕を顔面の防御へと回す。
次の瞬間、両腕に奔る衝撃。
。
。
「がっ…………!」
智代は蹴り足を引き戻さぬまま、最小限の動作で第二の蹴撃を放っていた。
トウカの反応が後一秒遅れていれば、雷光のような一撃が急所に決まっていただろう。
そして、智代の攻撃が二発程度で終わる筈も無い。
「せやあああああっ!!」
「ッ――グ、この……」
智代は矢継ぎ早に、嵐のような蹴撃を繰り出してゆく。
速度を重視した連撃である為に威力こそ低いが、トウカに反撃する猶予は与えられない。
一方的に攻め立てる智代と、それを懸命に防ぐトウカという構図が続く。
(く……どうすれば良いのだ!?)
トウカは焦りを隠せぬ面持ちで、迫る蹴撃を凌いでいた。
智代の実力は予想を大きく上回るものだった。
これでは間接技で制止するなど、ほぼ不可能だろう。
剣を用いれば倒す事は可能だが、それでは大怪我を負わせてしまうかも知れない。
どうすれば良い?
どうすれば――
良い打開策が見当たらず、激しい焦燥感に駆られるトウカ。
その焦りが決定的な隙を招く原因となる。
それまで上段蹴りを主軸としていた智代が、何の前触れも無く腰を落とした。
「そこだっ!」
「しま――――!?」
。
上半身の防御に集中していたトウカは、突然の智代の行動に対応し切れない。
智代の鋭い足払いが突き刺さり、トウカは後方に転倒しそうになる。
そうなる事を予測していた智代は、満を持してFNブローニングM1910の銃口を持ち上げる。
先程までのラッシュも、全てはこの瞬間の為。
銃の扱いに熟達していない自分でもモノに出来る程の、絶対的な好機を生み出す為なのだ。
「く――――まだだっ!!」
だがトウカとて拳銃の危険性は熟知しているのだから、そのまま撃ち抜かれたりはしない。
本来回避不可能な筈の体勢から、全身のバネを活かして動力を生み出す。
後方に倒れ込む勢いを後押しするように、強く地面を蹴り飛ばし、バック転の要領でその場を飛び退く。
放たれた銃弾は、誰も居なくなった空間を虚しく切り裂くにとどまった。
必殺の筈の銃撃を回避され、智代は歯軋りしながらトウカを睨み付ける。
「……よく躱したな。今のは殺すつもりで撃ったんだがな」
威圧するような、低く重苦しい声。
だがそれは同時に、何処か愉しげな音響も含んでいた――まるで強敵と出会えた事を喜んでいるかのように。
それを逃さず見て取ったトウカが、心の中に湧き上がった疑問を口にする。
「智代殿……お主は手段と目的を履き違えているのではないか?」
「……何だと?」
ぴくりと智代の眉が動き、訝しむような表情となるが、構わずトウカは言葉を続ける。
「傷付いた体で無理をして、犬死にするのがお主の目的か? 倒すべき敵以外にも銃を向けるのが、お主の目的か?」
「……何が言いたいのか分からないな」
トウカが何を言わんとしているか、まるで理解出来ていない智代。
元より回りくどい言い回しが得意でないトウカは、自身の確信をそのまま告げる。
。
「結論を言おう――今のお主は、『戦う事』そのものを目的としてしまっている。
大切な者を奪った悪漢共が憎くて! 救えなかった自分自身が憎くて! 悪戯に憎しみを発散しようとしているだけだ!」
「――――――ッッ!!!」
初めて智代の顔に、明らかな動揺の色が浮かび上がった。
トウカの言葉通り、今の智代には戦いそのものを求めている部分があったのだ。
ツルハシの狂人――鳴海孝之――と戦っている時に感じた高揚感が、それを証明している。
多少の差異はあるものの、自分もまた殺し合いに乗ってしまっていたのだ。
考えてみれば、制止を振り切ってまで神社に向かおうとするのが、そもそもの間違いだ。
今の身体、今の装備で死地に飛び込んでも、生還が望めぬのはほぼ確実。
死んでしまっては目的を果たせぬというのに、敵討ちを言い訳として憎しみのままに動くのは、ただの自己満足に過ぎぬ。
智代がその事実を正しく認識した瞬間、トウカの足元が爆ぜた。
トウカは凄まじい勢いで前方へと疾駆する。
一瞬で零距離にまで詰め寄り、智代の顔面に照準を定めて、鋭い正拳突きを放つ。
智代は刹那のタイミングで横に跳ねて、その一撃を空転させた。
だがすぐさまトウカは、下がる智代に追い縋る。
「ハアアアアアアァァァッッ!!」
雄叫びを上げながら、次々と拳を繰り出してゆくトウカ。
剣による戦いこそがトウカの本分であるが、武に生きるエヴェンクルガ族は、徒手空拳での戦い方も一通り身に付けている。
放たれる拳の一撃一撃が、強烈な威力と驚嘆すべき速度を兼ね備えている。
展開されるのは、先程までとは全く逆の構図。
怒涛のラッシュを受けた智代は、ただひたすらに防御を強いられる。
左腕一本で耐え凌いでいる姿は見事と言う他無いが、いかんせん限界というものは存在する。
拳打の衝撃を受け続けてきた左腕が、次第に痺れ始めてくる。
このまま受けに回り続けていれば、確実に敗れてしまうだろう。
多少被弾してでも反撃せねばならぬと判断し、智代は己が足を奔らせる。
「………………っ!」
。
結果は相打ち。
トウカの拳は、智代の左胸の辺りを。
智代の右膝は、トウカの腹部を正確に打ち抜いていた。
そして相打ちならば、元より重傷を負っている智代の方が被害は大きい。
胸部を痛打され、たたらを踏んで後退してゆく智代。
トウカは一気に勝負を決すべく、一足で智代の懐へと潜り込む。
続いて腰の西洋剣へと手を伸ばし――すぐにそれを中断する。
此処でのトウカの目的は、あくまで智代の制止であって、殺す事では無いのだ。
剣を用いてしまえば、些細な間違いから取り返しのつかない事態になりかねない。
だからこそ素手による拳打を放とうとしたのだが――
その寸前、智代の冷たい視線がトウカを射抜いた。
「――――吹き飛べ」
一瞬の躊躇は、智代に体勢を整える時間を与えてしまった。
トウカの拳が命中するよりも早く、智代の身体がくるりと半回転する。
次の瞬間智代の回し蹴りが、トウカの胸を蹴り飛ばしていた。
これまで多用していた速度重視の連撃とはまるで違う、正真正銘渾身の一撃。
「ぐっ――――――!」
大きく弾き飛ばされ、トウカは背中から地面に落ちた。
胸に衝撃を受けた所為で満足に呼吸出来ず、思わず咳き込んでしまいそうになる。
それでも敵は拳銃を持っているのだから、倒れている暇などあろう筈も無い。
膝に手を付き、何とか体を奮い立たせる。
そんなトウカの視界に映ったのは、冷ややかな視線を送ってくる智代の姿だった。
。
「トウカさん……貴女の言い分は正しいかも知れない。だが、それはどういう事だ?」
そう言って智代が指差したのは、鞘に収められたままの――未だ一度も振るわれていない西洋剣だった。
「トウカさんは私を諭したいらしいが、さっきからずっと手加減しているじゃないか。
だが生温いやり方で止められる程、私の決意は脆くないぞ。
私にとってエリカや朋也の死は……そんなに軽いものじゃないんだ!」
それが包み隠さぬ智代の本心だった。
自身の内に巣食う狂気を認識したものの、殺人鬼達に対する怒りが消えた訳では無い。
死んでしまったエリカや朋也の分まで、命を賭して戦い続けようという決意が揺らいだ訳では無いのだ。
それなのに手心を加えられてしまっては、自身の決意を軽視されているようにしか思えない。
未だ手加減されているという事実が、智代にとっては堪らなく不快だった。
トウカは暫しの間呆然としていたが、やがて凛とした面持ちとなった。
「そうだな――失礼した。全力には全力を以って答えるのが、礼儀でござるな」
仲間の死によって決意を固めたのは、トウカも同じ。
自分だってその決意を軽んじられれば、確実に激昂するだろう。
だからこそトウカは、もう躊躇わずに腰の西洋剣へと手を添えた。
それを見た智代は、満足げにFNブローニングM1910を構え直した。
二人共、薄々は気付いている筈だ。
トウカの目的――智代の制止は既に成し遂げられている。
自身が暴走していたと自覚した智代は、もう勝ち目の見出せぬまま死地へ飛び込んだりはしないだろう。
だというのに何故戦いを続けようとするのか。
それはきっと智代もトウカも、どうしようもない位に不器用だからだ。
両方共が不器用過ぎる所為で、全力で衝突せねば分かり合えないのだ。
「エヴェンクルガのトウカ――参るッ!!」
「ああ、来いっ!!」
。
走り寄るはエヴェンクルガ族の武人、迎え撃つは復讐者。
間合いに入ったトウカの即頭部目掛けて、智代の鋭い上段蹴りが放たれる。
トウカは一瞬の判断で左腕を上げ、迫る一撃を受け止めようとする。
だがそれは智代の目論見通り。
渾身の蹴撃であるように『見せかけて』、トウカに防御を強要させる事こそが、智代の狙い――!
「…………っ!?」
予想外の光景にトウカが困惑する。
先の蹴撃はフェイントに過ぎぬ。
智代は攻撃を途中で止め、すぐさま蹴り足を引き戻した。
両足を大地にしっかりと付け、万全の体勢でFNブローニングM1910の照準を合わせる。
狙いはトウカの左肩――その部位ならば命を奪う事無く、無力化出来る筈だった。
虚を突かれたトウカの動きは止まっている。
(…………勝った!)
智代は勝利を確信しながら、引き金に指をかける。
だが次の瞬間――閃光が奔った。
「な――――」
甲高い金属音の後、FNブローニングM1910の銃身が宙を舞う。
眼前には、初めて剣を抜き放ったトウカの姿。
その剣速、正しく彗星の如し。
最速を誇る居合い切りが、智代の銃撃よりも早く放たれて、拳銃を弾き飛ばしたのだ。
FNブローニングM1910が、数メートル程離れた地面に落ちていった。
残ったのは未だ西洋剣を携えているトウカと、得物を失った智代のみ。
熟達した剣士と徒手空拳の怪我人が戦った所で、結果は分かり切っている。
ここに、勝負は決した。
。
「……参ったな。ツルハシの殺人鬼は倒せなかったし、トウカさんには負けてしまうし、これじゃ格好がつかないぞ」
困ったような口調で、溜息混じりに呟く智代。
だが自身の内に蓄積していた鬱憤を、全力勝負という形で発散出来たお陰だろうか。
言葉とは裏腹に、智代の顔は何処か晴れ晴れとしていた。
「否……智代殿は強い。肩の怪我さえ無ければ、敗れていたのは某かも知れぬ」
そう言いながらトウカは、西洋剣を鞘へと仕舞いこんだ。
その頬には冷たい汗が浮かび上がっている。
勝負は何とか制したものの、何度も危ない橋を渡らなければならない程に追い詰められた。
智代の体調が万全ならば、結果が逆になっていても可笑しくは無かった。
「とにかく負けたのは私だし、怪我をしているという事実も変わらない。
トウカさんの言い分に従って、無謀な真似は出来るだけ避けるようにするよ」
「智代殿、それならば別々に動く意味も無いであろう。もし良ければ某と一緒に……」
「――悪いがそれは断る」
「む……?」
素直に負けを認め、譲歩の姿勢を見せた智代だったが、トウカの申し出はぴしゃりと撥ね付けられる。
疑問の視線を向けるトウカに対し、智代は言葉を続けてゆく。
「私は行動方針を変えるつもりは無い。この殺し合いを止める為にも、死んだ朋也やエリカの為にも、悪鬼達を倒さなければいけないんだ。
傍にトウカさんのような甘い人が居たら、目標の達成に支障をきたすかも知れない」
いざ戦闘となってしまった時、単騎よりも複数で戦った方が有利ではある。
もう少し体調が回復するまでは、トウカと共に動いた方が安全ではあるかも知れない。
しかし智代の視点に立ってみれば、いかんせんトウカは冷酷さが足りないように見えるのだ。
先程も最後の唯一度しか剣を抜こうとしなかった。
そのような事ではいくら優れた実力を持っていようとも、敵にトドメを刺す際に妨げとなるのは明白だ。
この島で敵に情けを掛ける事は即、命取りとなる。
だがトウカは、智代の不安を吹き飛ばすかのような澄んだ声で告げる。
「心配無用――先程はお主が悪人で無い故、命を奪わなかっただけの事。
殺し合いに乗った悪漢が相手ならば、容赦などせぬ」
真っ直ぐに智代を射抜く視線は、寒気を催す程に鋭い。
トウカの双眸には、幾多もの戦場を潜り抜けた者だけが持ち得る、紅蓮の炎が宿っている。
それはトウカの言葉が嘘偽りでない事を、何よりも雄弁に物語っていた。
「……分かった。貴女の技量と覚悟を信頼しよう」
そう言うと智代は肩の力を抜き、固かった表情を緩めた。
顔に浮かび上がるは、年相応の驚く程穏やかな笑顔。
山の上方より吹き付けてくる風が、智代の銀髪を揺らしている。
そんな智代の姿を目の当たりにし、トウカは自然に言葉を洩らした。
「……笑えるではないか」
「――――え?」
智代がきょとん、と目を見開く。
トウカは智代をはっきりと見据えたまま、静かに願いを伝えてゆく。
「そのような顔が出来る智代殿は、復讐だけに生きるべきではござらぬ。
願わくばご自愛下され」
「――――っ」
。
途端に智代の表情が、固いものへと逆戻りする。
トウカが何を求めているかは分かるが、自分の最優先目標が殺人鬼達の殲滅である以上、即答など出来る筈も無い。
仲間達を殺された無念は晴らせていないのだから、少なくとも今はまだ道を変えられない。
「…………考えておこう」
僅かばかりの逡巡の後、智代はそう答えていた。
トウカもすぐに良い返事が貰えるとは思っていなかったので、それ以上を求めたりはしない。
二人は唯只、曇りの無い瞳で見つめあう。
また風が吹いて、二人の頬を優しく撫でた。
「じゃあまずは情報交換しながら、何処か別の場所に移動しようか。
銃声は辺り一帯に響き渡っただろうし、いつまでも此処に留まっているのは不味い」
静寂を打ち破りそう切り出したのは、智代の方だった。
智代もトウカも、とても万全と言えぬ体調なのだから、もう少し山小屋で休んでゆきたい所ではある。
だが先の戦いで放った銃声は、周囲一帯に響き渡っているだろう。
この場所に留まり続ければ、予期せぬ急襲を受けてしまう可能性が高いのだ。
トウカは静かに頷いて、自らが弾き飛ばしたFNブローニングM1910を回収しようとする。
背中を丸め、地面に落ちていたFNブローニングM1910に手を伸ばす。
だがその刹那、ぴくりとトウカの動きが止まった。
「え……、あ……、う……、ななななっ……!」
「ん、どうした?」
プルプルと背中を震わせながら、訳の分からぬ声を洩らすトウカ。
その様子を不思議に思った智代が、トウカの背中越しに地面を覗き込む。
そこには――見事に銃身の折れ曲がった、FNブローニングM1910の成れの果てがあった。
それは先程の勝負を決した、居合い切りが原因。
トウカは貴重な武器である拳銃を、完膚無きまでに破壊してしまったのだ。
。
「――そ、某としたことがああぁぁぁっ!」
頭を抱え、己の失敗を嘆くトウカ。
その取り乱しようは尋常でない。
戦闘時のあの凛々しい武人と同一人物とは、とても思えない。
抱いていたイメージが一変するのを感じつつ、智代は苦笑した。
【FNブローニングM1910 大破確認】
【C-4 左下 森・山小屋付近 1日目 日中】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:無し】
【所持品@:支給品一式×3、サバイバルナイフ、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガン、
催涙スプレー(残り4分の3)ホログラムペンダント@Ever17 -the out of infinity-】
【状態:中度の疲労・血塗れ・左胸に軽度の打撲・右肩刺し傷(動かすと激しく痛む・応急処置済み)・多少血を失っている・ゲームに乗った人間に対する深い憎悪】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗っている人間を殲滅する(無謀な行為は極力避ける)。一応最終目標は主催者の打倒
0:まずはトウカと情報交換しながら移動する(移動先は後続の書き手さん任せ)
1:殺し合いに乗った人間を探し出して、殺害する。
2:体調が回復するまでは、トウカと行動を共にする(回復後は不明)
3:自身の基本方針に、僅かながら迷いがある
。
【備考】
※智代は赤坂達から『蟹沢きぬ』に関する情報のみを入手しました。
※赤坂を露出狂だと判断しました。
※ネリネと川澄舞(舞に関しては外見のみの情報)を危険人物として認識しました
※『声真似』の技能を持った殺人鬼がいると判断しました。
※ホログラムペンダント
普通の人にはなんでもないペンダントですが、赤外線を見ること出来る人は火にかざす事でホログラムを見ることができます。
原作では武の顔でしたが、何がホログラムされているかは次の書き手しだいです。
【トウカ@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
【装備:舞の剣@Kanon】
【所持品:支給品一式、永遠神剣第七位『存在』@永遠のアセリア−この大地の果てで−】
【状態:全身に軽い打撲、胸に中度の打撲、右脇腹軽傷(応急処置済み)、中度の肉体的疲労】
【思考・行動】
基本:殺し合いはしないが、襲ってくる者は容赦せず斬る
0:まずは智代と情報交換しながら移動する
1:ハクオロと千影、千影の姉妹達を探し出して守る
2:ネリネを討つ
3:命の恩人である智代を守る
4:可能ならば赤坂と合流
5:次に蟹沢きぬと出会ったら真偽を問いただす
。
※『声真似』の技能を持った殺人鬼がいると判断しました。
※蟹沢きぬが殺し合いに乗っていると疑っていますが、疑惑は薄れています。
※舞の剣は少々刃こぼれしています
※銃についての大まかな知識を得ました
※ネリネに対し、非常に激しい怒りを覚えています
※春原陽平を嘘吐きであると判断しました
※ネリネと川澄舞(舞に関しては外見のみの情報)を危険人物として認識しました
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※永遠神剣第七位"存在"
アセリア・ブルースピリットが元の持ち主。両刃の大剣。
魔力を持つ者は水の力を行使できる。
エターナル化は不可能。他のスキルの運用については不明。
ウォーターシールド…水の壁を作り出し、敵の攻撃を受け止める。
フローズンアーマー…周囲の温度を急激に低下させ、水分を凍結させ鎧とする。
「来ないな……」
「そうね……」
あれからプールに難なく入れた純一とつぐみはプール内に誰も居ない確認し、少し探索してハクオロ達をロビーで待っていた。
しかし未だに訪れるものはいなかった。2人は同時にため息をついた。
「なあ……あのメモ、実は何かの罠とかじゃないのか? 待っていてもきそうもないしさ」
ずっと待ちぼうけを食らってやや機嫌が悪い純一はそうつぐみに疑問に思ったことを言った。
「たぶん、それは違うと思うわ。罠だとしてもあそこまで細かく書く必要もないし、第一これから行くルート書いてこなきゃ意味ないじゃない」
「そうだな……しかし本当に暇だな……」
「そうね……」
二人また同時にため息をついた。
だが二人は知らない。
自分達が待っているハクオロ達が絶対に来ないことを。
そして自分達がゲームに乗っていると勘違いされている事も。
そのすれ違いがこれからどう影響するかはまだ誰にも分からない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「なあ、よろっと出発しないか? 今出発しないと正午にまにわないぜ。正直ちょっと名残惜しいけどな」
あれから30分くらい経ったころ経った頃純一は時計を確認してそう言った。
純一にとってハクオロ達に会うことより、音夢にあうことが優先事項だった。
そんな純一の気持ちを察してか、つぐみはこういった。
「じゃあ行きましょうか。あの人達に会うのは、音夢と合流した後でもいいわ」
「ああ……それにしても、なんで来なかったんだ?」
「さあ? 殺人者に遭遇したとかで来る事が出来なくなった、もしくはここを行くのを飛ばしたとかそんな理由じゃない?」
つぐみはそう言い、一枚の紙を取り出した。
「結局、収穫はこれだけ……か」
そこに記されていたのは暗号文だった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
つぐみがそれを見つけたのは、少し前、純一と別れプール内を探索していた時まで遡る――
つぐみはプール内の事務室を探索することになりた探索をしていたのだが、
(誰も居ないし……目ぼしいはないか……あれはパソコン? 調べてみる価値はあるわね)
そしてパソコンを立ち上げたみたが、そこには普通のデスクトップ画面しかなかった。
そこには役に立つものがなさそうに見えたが
(……ん? ゴミ箱に何か入っている?)
つぐみはゴミ箱の空けるのだが、つぐみはその中身に若干恐怖を憶えた。
その中身は、
(なにこれ? No1からNo100までのフォルダが入っている……少し奇妙で怖いわ……)
そこにはNo1からNo100までのフォルダが入っていた。
つぐみはまずNO1のフォルダをあけてみたが空だった。
続いて2、3、4と調べていくのだが全て空だった。
(何でこんなにフォルダが……全部空って事は無さそうだし、とりあえず適当に調べてみるか)
いくつか適当な数字のフォルダを開いてみたが、いずれも空だった。
そこでつぐみはある数字のフォルダを開いた。
それはつぐみとってもっとも因縁のある数字。
17だった。
そのフォルダの中にあるのは、
(当たり! テキストが入ってる。『大神への道』? 何かしら?)
つぐみはテキスト開けて見るとそこにはよく分からない文があった。
「大神への道」
これを見てくれている事を私は幸運に思う。
まず私これを書くまでに至った経緯を知って欲しい。
私達がいた時代に大神と呼ばれるものがいた。
人々はその神をあがめ、敬っていた。
しかしその神が突如、邪神と成り果て世界を破壊していった。
そこで私は二人の仲間と共に神を討つことにした。
その仲間は正義を持つ虫と神の使いだった者だった。
私達は神を倒すことが出来なかったものの封印することが出来た。
それから何十年も経ち、封印が解けそうになった。
また封印するために神の下に行くには3人の力が必要だ。
しかし虫は魔物に破れ喰われてしまったらしい。
神の使いも力尽き、羽に力を残したらしい。
そして私も力尽きようとしている。
そこで私の力を最高の至宝に残した。
その至宝は使うだけで一つの国を裂く事ができるほどの力である。
その宝を私は名もない島に隠した。
出来ることならこれ見てくれる者に神を封印してほしい。
虫を助け、羽と至宝を見つけ出してくれ。
それを封印した場所に持って行け。
さすれば神の道は開かれよう。
神は宝を隠した島に封印されている。
神の封印が解けると大変なことになる。
頼む。神を封印してくれ。
そこで文章は終わっていた。つぐみは唖然としていた。
(何これ……神なんている訳ないけど、もしかしてこれ暗号文? だとしたらどうしてここに置いてある? 分からないわ)
つぐみがそんなことを考えていると、
「つぐみ、こっちは終わったぞ……って何やってんだ?」
他の探索を終えた純一が帰ってきた。
つぐみは純一にこの文を見せた。
「なんじゃこりゃ? 暗号か?」
「たぶんね」
「だったら何で暗号が?」
純一が疑問に思うのも不思議ではない。しかしその謎はつぐみにも分からなかった。
「わからないわ。でももしかたら、脱出などのカギとなるかもしれないわ」
「そうか……暗号なら探すべきものは3つか」
「そうね、正義を持つ虫を食べた魔物、神の使いの羽、国を裂く事ができる最高の至宝。この3つね。」
暗号を要約するとキーワードは3つ。それを見つければ何かが起きるらしい。
「たぶんそれに値するものがこの島にあるわ。きっと何かのカギとなるはず」
「そうだな、でもこの暗号わかるか?」
「さっぱり。最初二つは何か思い出せそうな気もするけど、3つ目が何言ってるかはまったく分からないわ」
「俺もだ。とりあえずこれメモっておこうぜ。後でかんがえようぜ」
「そうね」
そう言いつぐみ達はメモをし、事務室を去った。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「なあ、暗号なんか思いついたか?」
暗号の書いた紙を出したつぐみに純一そう聞いた。
「そうね、たぶん、神の使いってのは天使だわ。これは一番分かりやすいわ。」
「天使って事は、天使の羽か?」
「たぶんね。たぶん天使を模した物の羽になにかあるはず。ちなみに私も天使の人形持っているけど……」
そう言ってつぐみは天使の人形を取り出した。
純一は慌てて、
「なにかあったのか!?」
といった。
つぐみは残念そうに、
「いや、何もなかったわ。たぶん違うものだと思う。」
「そうか……まあいいか。とりあえずそれは置いて博物館に行こうぜ」
つぐみは少し思案し純一に自分の考えを言った。
「ねえ、純一。博物館行くのに工場を経由して行かない? もしかしたらメモに書いてある人達が居るかも知れない。、正午に間に合うか微妙になるけど。」
つぐみは少しでも誰かと接触して武のことが聞きたかった。そのため居る可能性が少しでもあるならそれ行いたかった。
純一は少し困った顔をしたがすぐに笑顔になり、
「俺は真っ直ぐ行きたいけど……でもつぐみがそう考えるなら、そうしよう」
「ありがとうね」
「別にどうってことないさ。さあいこう」
「ええ」
つぐみと純一はこの短時間でお互いを尊重し信じあえるまでの仲までになっていた。
きっとお互いの波長が合ったのかもしれない。
そうして二人はプールを離れ博物館に向かった。
そしてまた二人は気付いていなかった。
暗号の一つ「正義を持つ虫を食べた魔物」をもう持っていたことを。
正義を持つ虫はアリである。
アリを漢字すると蟻。
そう漢字に義を持っている。とても簡単ななぞなぞだった。
それ食べる魔物、いや動物と言ったほうがいいか。
そうオオアリクイである。
そのぬいぐるみを純一は持っている。
そのことに純一たちが気付くのは何時だろう?
それはまだだれもわからない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「結構、時間かかったわね……」
「ああ、これじゃ正午には間に合わないな……」
工場についた二人はすぐに探索を始めたが、思ったよりも広く時間が掛かってしまった。
探索も結果は上がらなかった。
今は工場の入り口にいる。
「どうする? 放送まであと20分も無いぞ」
「ここで放送を待ちましょう。それから博物館に」
「わかった」
そう言い、二人は腰を下ろした。
二人は放送が始まるまで口数も少なかった。
思うのは
(音夢……ことり……杉並……無事でいてくれ)
(武……あなたなら……大丈夫……よね)
ただ大切な人の無事だけ。
そして放送が始まった。
人の死を告げる放送が。
(お願いだ……呼ばれるな……)
そんな純一の願いも届かず
『―――朝倉音夢―――杉並―――』
もっとも大切な人が呼ばれてしまった。
「…………え?…………う……そ……だろ?……なあ!」
「まだこれからじゃないかよ……なんで……なんで!」
純一は激しく動揺した。
護りたかった人はもういない。
その事実に絶望した。
(武は無事だった……でも今は純一が!)
つぐみは武は無事に安心するも純一のことが心配だった。
恋人を失い平気であるはずがない。
そう想い純一に駆け寄った。
だが純一は
「つぐみ、武って人、無事だったんだろ? ならまた探しに行こう」
と平気そうなかおして言ってのけた。
つぐみはそんな純一に驚き
「あなた、何言ってるの!? 音夢死んじゃったのよ! どうして平気そうなのよ!?」
つぐみを声を荒げ言った。
純一は怒り、悲しみなどが同居したような複雑な顔をし
「平気なんかじゃない! 平気なわけ無いだろ! 音夢が死んだんだ! 大切な妹で恋人である音夢が……平気なわけ無いだろ……」
でも、と純一は言葉を続け、
「ここで耐えなきゃ、俺は音夢を殺した人を許せなくなる……泣いてしまったら、悲しみに押し潰されてしまう……願いが果たせなくなる……」
「純一、あなた……」
純一は強くなった。
でも今は唯一つの願いだけで立っている。
殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出。
その願い一つが純一を立っていさせる力になっている。
本当は立っていられないのに。
「だから、俺は……止まれない! 音夢のためにも! もう後悔しないためにも! 俺は進むしかないんだ! 俺は絶対殺し合いを止める!」
そして純一は再び告げた。その決意を。
もう止まることできない。
(強い子ね……でも本当に危うい)
つぐみが純一のことをそう思った。願い1つで立っている危うさを。
つぐみが純一に話しかけようとした時、
「なあ、つぐみ。ちょっと待っていてくれ、気持ちの整理をするからさ」
「え?」
そして純一は
「うがあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮した。
決意を揺るがせないためにも泣けなかった。
だから吼えた。
すべての感情をのせて。
音夢を失った悲しみ。
音夢を助けられなかった後悔。
音夢を殺した者への怒り。
何も出来なかった自分の無力さ。
全てをその咆哮に乗せて。
「ふう、悪いな驚かせて」
「いえ、別に……」
咆哮を終えた純一につぐみは圧倒されていた。
そんなつぐみに純一は質問をした。
「気持ちの整理がついたからもう大丈夫。最後に一つだけ聞きたいんだけど」
「何?」
「俺があの時、すぐに音夢の所に行かないでつぐみと一緒に行った事、間違いじゃんないよな?」
つぐみはその質問の答えを深く考えた。
これは肯定も否定もしてはいけない。
だからつぐみは素直な気持ちで答えた。
「そうね、私あの時一緒に行ってくれて嬉しかったわよ、純一」
「……そうか、ならいいんだ……うん、いいんだ、よかった」
純一はなきそうだがそれでも笑顔で返した。
(本当に強い子ね。でもただ進み続けることだけいい事ではないのよ)
つぐみそう思い
「純一、ちょっとこっちに来なさい」
「何だ?」
純一がつぐみに近づいてきた。
その瞬間、
「え? ちょ、ちょっとつぐみ!?」
そっとつぐみが純一を抱きしめた。
そして優しく言葉を紡ぐ。
「泣きたい時は我慢しなくていいのよ。全てを吐き出して泣きなさい。胸を貸してあげるわ」
純一は困惑しきった顔で
「でも! 泣いたら決意が揺るいでしまうよ……」
「いいから。ただ進み続けることだけいい事ではないのよ、時には休むことも大切よ」
「でも!」
反論する純一につぐみは
「大丈夫。あなたは独りじゃないから、私が傍にいるから。だから思いっきり泣きなさい」
そういったつぐみを純一は母親のような温かさを感じて
「つ……ぐみ、俺……ほん……とうは……」
心の枷が外れ、
「うあ……あ……ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ…………!!」
まるで幼子のように泣きじゃくった。
「俺……もう一度音夢に会って……色々話したかった……俺が護りたかった……!」
「それだけじゃない……もっと……もっとずっと一緒にいて一生笑いあって生きていきたかったに……」
「どうして……どうして先に……逝っちまうんだよぉ……」
純一は心に隠し通そうとした思いを全て語った。
そんな純一をつぐみは抱き締めるのを強くし、まるで母親のように髪を優しく撫でた。
「本当は……まだ音夢を殺した奴を許していない、いや許すわけがない……」
「でも……いつか許すことが出来るはず、だってみんな普通の人間なんだから……」
「俺に、殺人者を止める事なんてできるかな……?」
「できるわ、必ず。あなたはとても優しい人なんだから……」
「そっか……悪い、もう少し泣く……」
「ええ、いいわよ」
そうして純一はもう一度泣き始めた。
そんな純一を抱き締めるの強くした。
まるで自分の子供のように。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ありがとうな、つぐみ」
泣き始めて20分ぐらい経った後純一は泣き終えた。
純一は赤くなった目をこすりながら、お礼を言った。
「別に、大したことではないわ。パートナーだもの」
「そっか、でもつぐみのお陰で助かったよ」
そういった純一にはもう危うさがなかった。
さらに純一は言葉を続け
「つぐみがいなかったら、きっとおかしくなってた。」
「つぐみのお陰で迷わず進むことが出来そうだ。本当にありがとう」
「だから俺は何があってもつぐみを守るよ。絶対つぐみを死なせない」
「あ……ありがとう。」
純一の言葉に少し照れつつもすぐにわれに返り
「と、ともかくこれからどうするの? 博物館に行く?」
これからの方針を決めることにした。
「いや、もう行かなくていいよ、ここであいつら待つか?」
「うーん、それもいいけど、百貨店行かない?」
「百貨店?」
純一は首を傾げた
「そう百貨店。そこに暗号に関する物が有るかもしれないし、誰かいるかもしれない」
「分かった。じゃあ、そこに行ってみるか」
「ええ」
そうして純一たちは百貨店に向かい始めた。
純一はもう止まらない。
殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
ただその願いだけが純一を走らせる力になる。
【A-1 工場前/1日目 日中】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25) 大型レンチ】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
1:つぐみと共に百貨店に行く
2:つぐみと共に武を探す。
3:つぐみを守り通す
4:暗号を解読する。
5:ことりを探す。
6:殺し合いからの脱出方法を考える
7:さくらをちゃんと埋葬したい。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
※つぐみとは音夢の死を通じて絆が深まりました。
※つぐみとは年が近いと思ってます
【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9】
【所持品:支給品一式 天使の人形@Kanon、釘撃ち機(20/20)、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ】
【状態:健康(肩の傷は完治)】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
1:純一と共に百貨店に行く
2:純一と共に武を探す。
3:暗号を解読する
4:ゲームに進んで乗らないが自分と武を襲う者は容赦しない
5:稟も一応探す。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。
※純一 とは音夢の死を通じて絆が深まりました。
※音夢と純一の関係に疑問を持ってます。
※純一には博物館の戦闘を話していません。
※暗号について
暗号に書かれている3つ集めると主催者達への道がつうじると考えていますが、他の書き手の皆さんが変えてもかまいません。
正義を持つ虫を食べた魔物=オオアリクイのヌイグルミ@Kanon
神の使いの羽=天使の人形@Kanonか羽リュック@Kanonと考えていますが他の書き手の皆さんが変えてもかまいません。
国を裂く事ができる最高の至宝=国崎最高ボタン
と全体的には考えていますが、他の書き手の皆さんが変えてもかまいません。
※プール内のパソコンについて。
ゴミ箱の中にNO1からNO100のフォルダがあります。
NO17のフォルダにテキスト「大神への道」が入ってます。
他のフォルダに何か入ってるかどうかは他の書き手しだいです。
新市街の一角の小さな公園、普段ならば付近の住人達の憩いの場となる場所に、三人の少女(?)が居た。短い間ではあったが、共に過ごした仲間の少女――アルルゥのお墓を作ってあげたいと茜が提案し、瑞穂もアセリアも反対しなかった。
危険人物がいる博物館へと向かっている少女――蟹沢きぬのことが気にならない訳ではなかったが、病院を経由してから博物館に来るのではまだ時間がかかると判断し、先にアルルゥを葬り、その後蟹沢きぬが博物館に入る前に合流する方法を考えるという方針になった。
丁度定時放送も近く、考えたくはないが最悪の可能性――彼女の死――という場合もあり得たためである。
近くの民家でスコップを手に入れ、色々考えて土の軟らかい公園の花壇に埋めることにした。疲労の激しいアセリアには休んでいた方がとも提案したのだが、彼女は聞き入れなかった。
そうしてアルルゥを埋葬し終え、花壇の花――あいにく名前はわからなかったが、寄り添って咲く小さくて綺麗な花をその上に添えた。
アルルゥのデイパックは、アセリアが持つことになった。
彼女が蜂の巣をハクオロに渡すと言い出した為である。
そうして、アルルゥとのお別れが終わった頃、定時放送の時間が、来て、しまった。
僕には想像力が欠けていたのかもしれない。
よく言われる、「自分だけは大丈夫」という考えがあったのかもしれない。
こんな殺し合いの只中にあって、何故疑いも無く再会できると信じていたのだろうか。
僕は、何をしていたのだ?
僕は、一度再会しておきながら、何をやっていたのだ?
僕は、生涯をかけて彼女を愛すると誓ったのではなかったのか?
「貴子……さん」
そう、僕は彼女を、「厳島貴子」を守る――はずだった。
なのに、何故、彼女の名前が呼ばれた?
考えるまでも無い、考えたくも無い、彼女は――貴子さんは、死んでしまった。
僕は、彼女との誓いを果たせなかったのだ。
僕は、彼女を、守れなかったのだ。
「瑞穂さん……」
例の定期放送とやらが流れてから、ミズホは立ち尽くしていた。よくわからないけど、多分、大切な人の名前が呼ばれたのだろう。アカネは何かを知っているのか、ミズホに心配そうに声をかけていた。
その光景を見ながら、私は別のことを考えていた。
「エスペリア」
先ほどの放送で、確かにその名前が呼ばれていた。
多分、私の知っているエスペリアの事なのだろう。ミズホやアカネ、アルルゥやカニっちに知り合いがいて、私の知り合いがいないというのは、考えにくい。
なら、私の仲間「献身」のエスペリアが私と同じように、ここに呼ばれて、そして死んだ。いや、殺されたのだろう。
「……」
正直なところ、私はその事についてどう思っているのだろうか。
今の私は、アルルゥが死んだ時と同じような気持ちを抱いている。
私は、私達はスピリット――戦うための道具だ。
だから、戦うのは当然の事だし、力が足りなければ殺される。それだけの存在だ。
エスペリアが殺されたのは、単純に負けたというだけのこと、それだけの事実でしかありえない。
けれど、私はエスペリアが死んで、何かを感じている。
もう一度、エスペリアに会いたいと思っている。
エスペリアを殺した相手を――殺したいと思っている。
だから、今、私が感じているのはきっと、「悲しい」という感情なのだろう。
「……」
瑞穂さんは何の反応も返さなかった。
でも、無理も無いと思う。
先ほどの放送で呼ばれた名前、「厳島貴子」。詳しい関係は知らないけど、多分瑞穂さんとは親友だったんだろう。短い時間、温泉で出会っただけだけど、彼女達にはとても深い絆を感じた。
だから、無理も無いのだろう。
そして、アセリアさんも何か考えている。
彼女の知り合いの話は聞いていないけど、多分今の放送で呼ばれてしまったんだろう。
それから、孝之さんの名前は呼ばれなかった。
もう会いたくないと思っているのに、私は多分彼が死んでいないことに安堵しているのだと思う。だから、少しだけ無事を祈っておいた。
そうして、私達はしばらく無言で立ち尽くしていた。
そよ風が心地の良い公園だけど、このままここに居続けるわけにはいかない。
本当なら決めなければいけないことがいくつかあるのだけど、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。
それでも意を決して話し出そうとしたとき、顔面蒼白で立ち尽くしていた瑞穂さんが、いきなりふらふらと歩き出した。私達には目もくれず、ただふらふらと公園の出口に向かっていた。
「……瑞穂さん?」
その行動に、当然わたしは声をかけた。
「……」
けれど、瑞穂さんは何の反応も返さずに、歩き続けていた。
その反応に、何かを感じて、私は瑞穂さんの進もうとする先に立って
「瑞穂さん!」
と強い調子で声をかけた。
すると、瑞穂さんはようやく反応を返してきたけど、
「……どいていただきませんか、茜さん」
という、反応だった。
私も馬鹿じゃない、だから瑞穂さんの反応がどういうことなのかはわかる。
でも、だからこそ退くわけにはいかなかった。
「何処に行くの、瑞穂さん」
反応は大体予想できるけど、私は質問した。
「……貴子さんに、会いに、行きます」
そして予想通りの返事が返ってきた。
「……会ってどうする気ですか」
「…………謝らないと、いけませんね」
その後の質問には、予想以上の答えが返ってきた。
「貴子さんに、会ってあげないと。謝らないと。僕は、貴子さんを、愛するって、守るって、誓ったのに。
僕は、貴子さんを生涯かけて愛すると誓ったのに」
そして、堰を切ったように続けた。
「だから、もう何の意味も無い僕の人生で、せめて最後に貴子さんに会わないと」
そう、言い切った。
,
「最後……ってどういうこと」
「最後は最後です。意味がないなら、終わりにしないと」
その言葉の意味が、しばらく理解できない、いえ、理解したくなかった。
「だから、僕は行かないといけません」
そうして、瑞穂さんは私の横を通りすぎていく。
それに何か言おうとして、
「ミズホは、意味がある」
と、アセリアさんが話かけてきた。
「……どういうことですか?」
その言葉に瑞穂さんが反応する。
「ん、ミズホは私には意味がある。アルルゥにも、アカネにも、カニっちにも、多分タカコにも、ミズホは意味がある」
アセリアさんが答えた。
「ミズホには意味がある、だから最後でない」
その言葉は、私が言おうとしたことと、ほとんど同じだった。
だから、次の言葉は完全に不意打ちだった。
「だから、私とアカネもミズホと行く」
「え?」
私の驚きに、アセリアさんが不思議そうにこちらを向いた。
「アカネは、行かないのか?」
「いや、そうじゃなくて、なんでそうなるの?」
私の疑問は最もだと思うのだが、
「私は、ミズホに意味がある」
「うん」
「アカネも、ミズホに意味がある」
「うん」
「ミズホはタカコに会いに行く、だから私達は一緒に行く」
「う、うん。そ、そうだね」
と筋が通ってしまった。
「……僕が一緒に行く理由がないのですが」
瑞穂さんが言ったのだが、
「ん、私達には理由がある」
と一蹴されてしまった。
「それに、一人よりもタカコを探しやすい」
そして筋の通った事まで言われてしまった。
「それで、タカコは何処にいる?」
「えーと、温泉から住宅街のほうに行ったはずだけど」
まだ話をしていなかった私達の予定をアセリアさんに告げた。
「ん、それじゃあ博物館を迂回して、神社、学校を見ながら住宅街、でカニっちが向かった病院にいく」
「……勝手に決めないでもらえますか」
「どうせ何のあてもない、ならそのタケシに会いそうな道を行く」
「……」
再び筋が通ってしまった。どうもアセリアさんは以外と鋭い人なのかもしれない。
「それじゃあ行く、でもその前に、」
そしていざ出発、の前にアセリアが何か言い出した。
「アルルゥにお別れ言ってからにしよう」
そしてその言葉には反対意見など出なかった。
そうして、彼女(?)達は今度こそアルルゥの眠る場所から立ち去った。
その後に残るのは盛りあがった土と、その上にある小さな花のみ。
,
【B-3 公園 /1日目 昼】
【女子三人】
1:蟹沢きぬ、倉成武を探しながら貴子の亡骸を探す。
2:博物館を迂回して、神社→学校→住宅街→病院に向かう。(施設に立ち寄るかはそのときの判断による。状況によりルートは変化)
【涼宮茜@君が望む永遠】
【装備:国崎最高ボタン、投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式、手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)、左手首に手錠】
【状態:若干の不安、腹部打撲】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:そういえば瑞穂さん、僕って?
1:アセリア、瑞穂と共に行動する
2:諦めずに、必ず生き残る
3:鳴海さんとは二度と会いたくない
4:国崎往人を強く警戒
【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:鉄パイプ(頑丈だがかなり重い、長さ二メートル程、太さは手で握れるくらい)】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、ひぐらし@ひぐらしのなく頃に、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:悲しい、肉体的疲労大。右耳損失(応急手当済み)。軽い頭痛。ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)。殴られたことによる打撲】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:エスペリア以外にも知り合いがいるかも
1:仲間を守る
2:無闇に人を殺さない(但し、クニサキユキトとエスペリアを殺した相手と襲撃者は殺す)
3:ハクオロに蜂の巣を届ける
4:ハクオロと戦う(ただし殺さない)
5:強者と戦う
6:永遠神剣を探す
7:もっと使い勝手の良い武器を手に入れる
※フカヒレのコンドーム
アレでナニをする時に使う道具。12個入り。
パッケージの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してある。
レオがエリカルートの屋上でフカヒレから手渡された思い出の品。
薄型がウリでフィット感が凄い、らしい。
※ひぐらし
雛見沢に生息するひぐらしを瓶に無理やり詰め込んだもの。
全て生きています。
【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ1本】
【所持品:支給品一式、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、爆弾付きの首輪(朝倉音夢が装着させられていた物)】
【状態:深い悲しみ、ほぼ自失状態、中度の肉体的疲労】
【思考・行動】
1:貴子を探す
2:アセリア、茜と一緒に行動する
【備考】
※陽平には男であることを隠し続けることにしました。
※アルルゥにも男性であることは話していません。
※蟹沢きぬにも男性であることは話していません。
※アセリアにも男性であることは話していません。他の人にどうするかはお任せ
※アセリアに対する警戒は完全に消えました
※貴子の死体を見つけたあとどうするかは後続の書き手さんにおまかせします。(死ぬ気は納まっている)
※フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
神社へ行くはずの救急車は停止していた。
救急車が停止した原因、それは先ほどの鷹野三四の放送。
読み上げられた死者の中にあるべき名前が入ってなかったからのだ。
その人物の名前は水瀬名雪。
「ウソ……名雪さん……生きてるの?」
あゆは思わず両手を口元に当てて驚きの声を上げる。
あゆは瞳にメスを突き立て殺してしまったと思い込んでいたが実際のところは生きていた。
片目を失明という重傷を負っているものの白鐘沙羅に保護され、現在も存命中である。
「遠野さん……これって……」
「ええ」
「………………俺は一人で神社に行く。 お前等は道を引き返して名雪を見つけろ」
顔を見合わせ喜ぶ圭一と美凪。
しかし武は二人とは変わって神妙な面持ちでここで別れることを提案した。
もちろん圭一等も神社に行って土見稟を阻止するチームと名雪を捜索、保護するチームとに分割するのだということは分かっている。
しかし何故二人ずつに別れるのではなく三人と一人なのかということが分からなかった。
「どうして武さんだけ一人なんですか?」
「まず、あゆは当事者だから当然名雪の捜索に回ってもらう。 圭一、お前は大石って刑事のこともあるだろうから一緒に行ってやれ。
それに途中誰かに襲われる可能性もあるから二人のお守りも兼ねてもらう」
「私は……どうしてででしょう?」
。
あゆと圭一に関しては三人とも容易に予測がついた。
しかしなぜここで美凪までも名雪捜索のチームに組み込まれるのかは三人には理解ができなかった。
人数配分を逆にしているのではないかとさえ思う。
道中誰かに襲われる『可能性のある』名雪捜索チーム。
神社で土見稟との戦闘が起こることが『ほぼ確定している』神社チーム。
常識的に考えて神社では稟との対決は避けられない以上神社に行くチームに人手を多く割くべきなのだ。
だから神社に行くチームの方が三人ならまだ納得行くかもしれなかった。
しかし武が提案したのは全く逆の人数配分。
提案した武本人以外は一様に首をかしげている。
「俺一人の方が身軽でいい。 いざって時に逃げるなら一人の方が楽だからな」
「私……足手纏いですか?」
「……有り体に言えばな。 お前やあゆのような非戦闘員は邪魔になる。 かといってお前にバット持って戦えって言うわけにもいかない」」
「武さん、その言い草はあんまりだ」
「いいんです、前原さん。 武さんも本気で言っている訳ではないでしょう」
美凪は武が言外に含んだ意図を察知しおとなしく引き下がることにした。
たとえ実際に戦場に立つことは無くとも自分を危険な目に合わせたくないのだろうという気持ちはひしひしと伝わってきた。
危険な役目は全て自分に任せろ。
仲間が傷つくくらいなら自分が傷ついた方がマシ。
それはとても倉成武という人間らしい考え方であった。
倉成武という人間を知るものに聞けば、誰もがあいつならそう言うと口をそろえるだろう。
しかし武の本音――自分でも気付いてないが――は別のところにある。
率直に言えば怖いのだ。
圭一が、美凪が、あゆが、いつか裏切って自分に牙を剥いて襲ってくる妄想が先ほどから武の頭を離れない。
それは土見稟に打たれたH173によるもの。
雛見沢症候群と呼ばれる雛見沢独特の風土病を病院での稟との戦闘時に発症させられたのだ。
雛見沢症候群、それを端的に説明するなら他人が信用できなくなり、最後には自身の喉を掻き毟って死んでしまうおそろしいもの、と言える。
無論武とてそのことを忘れていたわけではない。
病院で倒れていた稟を保護したとき荷物の検査はしたし、その中に麻酔銃や麻酔薬、H173という見たことも聞いたことのないものも見つけた。
あのとき稟に打たれたが麻酔であるかH173であるかは武には分からなかったものの、どちらを打たれたにせよキュレイの免疫能力を信じていたので放っておくことにした。
武は致死率85%以上のウイルス、ティーフ・ブラウをも瞬く間に治すキュレイウイルスのキャリアだ。
キュレイ、それは人類の永遠の命題である不老不死を体現するもの。
人間の寿命を司るテロメアを永遠に回復させ続け、同時に各種身体能力、再生能力、免疫能力を異常なまでに高める。
たとえH173、そして雛見沢症候群がウイルス性だろうが細菌性によるものだろうが関係ない。
キュレイは体内の異常の全てを飲み込み全てを喰らい尽くす。
そのはずであった。
しかし、この島ではキュレイウイルスの影響は著しく制限されている。
そのためH173の侵攻を許してしまっていることに武本人は気づいてない。
これはキュレイの力を過信した武のミス。
この島ではキュレイもH173の症状を浅い程度に留めておくことしかできないのだ。
「ですから前原さん、私たちは一刻も早く水瀬さんを探して武さんの援軍に駆けつけましょう」
「……分かった。 武さん、すぐに駆けつける。 あゆ、いいな?」
「う、うん……」
。
どこか歯切れの悪い返事をするあゆは複雑な気分であった。
名雪は生きていた。
それはいいことだ。
けれど他人の差し金とはいえ大石、乙女の両名の命を奪ったのは紛れも無く自分なのだ。
そして名雪にも死んだと思っていたほどの重傷を負わせていたのである。
死んだ大石と乙女の遺体に会って、生きていた名雪に会って、どうすればいいのか悩む。
謝って、許してくれるだろうか。
いや、許しはしないだろう。
何故ならあゆが大石や乙女や名雪の立場なら決して許したいとは思わないからだ。
そして大石の知人である圭一も許しはしないといっていた。
死ね、地獄の業火に焼かれろ、あの世で詫び続けろ、あゆの想像の中の名雪等が次々とあゆに罵声を浴びせる。
そしてあゆはそれにじっと耐えるしかないのだ。
ホイホイ人を信じた自分が馬鹿だったから、騙された自分が悪いのだから謝ることはできても許されることは無い。
あの三人のことを考えると悪い考えしか思い浮かばない
いっそこのまま死んでしまいたい。
それがあゆの本音である。
けれど自分には自殺する勇気はないし、誰かの手にかかるのもまた怖かった。
自分を守ってくれた乙女、一見怖そうな人だったけど実は優しかった大石、二人を殺した事実はあゆにとって耐え難いものとなっている。
そんなあゆの内なる心の領域を読み取ったのか美凪は優しく声をかけた。
「あゆちゃん、怖いの?」
「え…………うん」
。
武たちは知らない。
土見稟は神社へ向かってないことを。
水瀬名雪はすでに白鐘沙羅に保護されていることを。
彼等の会話のほとんどが無駄なものになっていることを。
むしろ心配するなら自分等の身の回りであることを。
「怖くても逃げちゃ駄目。 一番怖いのは罪から目をそらして生き続けることだから。」
「……」
「逃げるのは簡単。 けど今逃げたら後で一生後悔する」
武たちは気づいていない。
近くに自分等を襲う機会を窺っている狼がいることを。
狼が武器を片手に少しづつ接近していることを。
そして今、狼が4人への攻撃を開始したことを。
「だからあゆちゃん。 あなたは――」
美凪が全ての言葉を言い切ることはできなかった。
投げられたダイナマイトが爆発したのだ。
爆発したのは救急車の助手席の2メートルほど手前。
凄まじい火炎と爆風が救急車の助手席側の窓ガラスを激しく叩きつける。
幸い距離が離れていたため爆風が窓ガラスを割ることは無かった。
しかし、窓ガラスに叩きつけられた爆風と救急車のすぐ近くであがっている炎は車内の人間を混乱させるには十分だった。
「ひ……うわあああああああ」
「あ、バカ!?」
圭一の警告を聞かずに真っ先に車からあゆが飛び出した。
それを見逃す襲撃者ではない。
元々ダイナマイトは車の真下に投げ入れ車内の人間の一網打尽を狙ったのだが力加減を誤ったのだ。
だが襲撃者は自らの失敗にくよくよせずにすぐに次の作戦に切り替える。
近くでダイナマイトが爆発すれば中に乗っている人物が驚くのは明白。
ならば慌てて車外に出てくる人間が必ずいるはず。
そんな人間を木陰から銃で狙い撃ちすることに決めたのだ。
すぐに救急車を発進させてこの場を離脱する可能性も考えられたが顔も見られてないし、ダイナマイトの損失一本で済むので安いものである。
結果は見てのとおり。
救急車の後部からあゆが出てきたの見て笑いながら銃を撃った。
狙いを定めて一発であゆの右足を打ち抜くことに成功。
引き金を引いた瞬間、あゆの右足に穴が開き血が吹き出るのを見て、女は笑みをこぼした。
襲撃者は咲耶。
咲耶は商店街で医療品などの物資の補充を手早く済ませ移動した。
武器は手に入らなかったがあくまで目的の品は手に入らなかったのでそれは良しとした。
そして千影や衛ら残った姉妹も全員健在でいることに喜びつつ、軽い足取りで新たな獲物を探すべく島の中央部へと向かっていたのだ。
そこで見つけた救急車。
救急車なんてけったいな車に乗っている人間などそうそういない。
咲耶は車に乗っているのが先ほどの4人に間違いないと思っていた。
そして何故こんなところで車を止めているかは分からないが、これは絶好の襲撃のチャンスだと判断したのだ。
。
「うあああああああああああああ! 痛い、痛いよぉ!!」
地べたに這いつくばり、足を掴みながら叫び声を上げるあゆ。
咲耶はそんなあゆを追撃することはしなかった。
救急車に少なくとも四人の人間が乗っていることは咲耶も知っている。
だからこそこのままあゆののたうち回る姿を眺めるだけにしているのだ。
「あゆ!!」
なぜならこのようにあゆを助けようと、新たな人間が車内から出てくるのは容易に想像が付くからだ。
圭一が足を押さえて暴れるあゆ助けるべく救急車から飛び出す。
しかしそんな圭一の行動も全て咲耶の予想済み。
あまりに予想通りに物事が進むことに笑いを噛み殺すのに必死だった。
今度は圭一へと銃の照準を向けた。
もう一人くらい炙り出すために急所は避けて撃つことにするか。
そう考えた咲耶は今度も足を狙うべく引き金を引く。
轟音と共に放たれた銃弾は圭一の足を貫くことは無く後方の木を穿つだけにとどまった。
狙いが外れたことに安堵しつつ、圭一はあゆを抱える。
咲耶もそのまま救急車の中へとお持ち帰りになるのを許すはずは無い。
更なる銃弾を繰り出すべく再び圭一に狙いをつける。
今度は外さないよう面積の広い上半身へ狙いをつけた。
轟音とともに再び放たれた銃弾。
咲耶のS&W M627PCカスタムから発射された弾丸は圭一の肩へ命中した。
皮膚を抉り筋肉を引き裂く痛みに堪えつつ、それでも圭一はあゆを抱えて救急車へと入ることに成功する。
再び救急車の中へと入られてしまったが咲耶にはなんの問題も無い。
それならダイナマイトをもう一度使用すればいい。
デイパックから新たなダイナマイトを取り出す咲耶。
。
それを見ていた美凪が咲耶の行動を察知して咲耶のいる方向へ手榴弾を投げた。
咲耶のすぐ近くに転がる手榴弾。
その武器は映画でも何度も見たことあるし、ダイナマイトという似たような爆破系の武器を持っているので咲耶はそれがなんなのかすぐに分かった。
黒いパイナップルから慌てて遠ざかる。
もし一瞬でも判断が遅ければ、蛋白質の塊が一つできあがるところだ。
ほどなくして爆発する手榴弾。
新たな木陰に隠れつつ、爆風で暴れる髪の毛を抑えて咲耶は苛立たしげに舌を打つ。
(やってくれるじゃない)
咲耶はダイナマイトを取り出しつつもこれ以上の戦闘の継続は危険だと判断した。
もとより数の上では不利なのは明らかだったし、件の集団からは必要なことは聞きだしてる。
敵に手傷を負わせることにも成功したし、これ以上戦闘を継続するメリットはない。
最後にもう一発ダイナマイトをかまして撤退することに決めて導火線に着火しようとする。
しかし、導火線に火をつける動作は途中で中断せざるを得なかった。。
いつの間にか咲耶の左斜め前方に男が立っていることに気づいたためである
男は自らの獲物である永遠神剣『求め』を鞘から抜き放ち、咲耶目掛けて突進している。
(銃は……間に合わない! ダイナマイト……近すぎる!)
すでに銃でもダイナマイトでも危険なほど近距離に接近していた男に対応すべく、咲耶もダイナマイトをデイパックに入れ、地獄蝶々を構えた。
男――武は圭一があゆのために飛び出るよりも前に咲耶の死角、救急車の運転席側から密かに車外へ脱出していた。
そして美凪の投げた手榴弾の爆発と同時に一気に咲耶へと距離をつめていたのである。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
裂ぱくの気合とともに放たれた倉成武の袈裟斬りを咲耶はなんとか受け流すことに成功する。
男と女、加えて年齢の差は身体能力の絶対的な違いをもたらす。
咲耶がまともに刀で受けるのは明らかに危険だ。
距離を開けて銃やダイナマイトで戦うべきなのだが武もそれは重々承知している。
なんとかして距離を取ろうとする咲耶に対し、果敢に接近戦を仕掛けていく。
「前原さん、あゆちゃん!」
「ぐっ……俺は大丈夫だ。 先にそっちを見てやってくれ」
「はい。 あゆちゃん、治療しますからおとなしくしていてください」
「うぐぅ……痛い、痛い、痛いよ。 足が、足がぁぁぁ」
「ちょっと傷を見せて……これなら大丈夫です。 二人とも弾丸は完全に貫通しています」
武が咲耶と戦っている間、救急車に戻った圭一等は怪我の治療を始めていた。
幸い救急車の中なので必要な道具はほぼ全て揃っている
弾丸が完全に貫通していることを確認して美凪はまずあゆの治療からすることにした。
今も武と咲耶は戦い続けているのだろう。
外からは剣戟の音が時折聞こえてくる。
出血の止まらないあゆの足を些か乱暴に止血したあと、消毒をする。
あゆはさらに痛そうな顔をするものの途中で止めるわけにはいかないので申し訳ないと思いつつ消毒を続けた。
消毒が終わったあとはこの状況では考えられないような正確さと丁寧さと速さであゆの足に包帯を巻く。
最後に痛み止めの薬を飲んでもらった。
。
「終わりました。 薬を飲んだから眠くなるかもしれないけど我慢してくださいね」
「う、うん……ありがとう」
「次は前原さんを――」
「遠野さん、こっちは自分でやっといた」
「……痛みに堪えて頑張ったで賞」
「い、いやこの状況でお米券は……」
「はい、冗談です。 とにかくここから出てしまいしょう。 幸い武さんが足止めしてくれてますから」
「そうだな。 またダイナマイトなんか投げられたらたまらないからな」
3人は何の障害もなく車外に出ることができた。
安全な場所に美凪たちを誘導しつつ、ふと圭一は武が戦っている方向に目をやると戦いはまだ続いていた。
『地獄蝶々』と『求め』、二つの世界でも指折りの銘刀と銘剣は二つの剣が斬り合うたびに火花を散らせ美しく輝く。
真上に上った日輪の光を受け、雄々しく光を放つ『地獄蝶々』。
一太刀ごとに星のきらめきを連想させる『求め』。
本来なら相見えるはずのなかった異世界の二つの剣は負けじと互いの体をぶつけ合う。
圭一たちは二人の戦いに魅了されるのを抑えることができなかった。
もしもこの戦いがルール無用の殺し合いでなくルールに則った試合なら圭一たちは惜しげもなく二人に拍手を送っていたであろう。
しかしながら武器の強度に関しては完全に互角の戦いであった戦いは、持ち手の身体能力によって大きく左右されていた。
斬り合いが何合か続けられていた今、勝負の行く末は武に完全に傾いていた。
先に述べた身体能力の差、そして離れて距離をとることを考え続けている咲耶と前へ前へと進むことしか考えていない武。
気持ちの上でも消極的になってる咲耶に勝利の女神が微笑むはずはないのである。
咲耶がこれまで持ちこたえていたのは運がいいとしか言いようがない。
「はあっ!」
気合いの入った武の声。
真上に大きく剣を振り上げ、そして十分な溜めの後振り下ろす。
今までの攻撃とは明らかに違う気迫。
繰り出される大振りの一撃、それは真向唐竹割りだ。
これが決まればまず間違いなく標的を真っ二つにすることができるであろう。
使い手は素人といえど永遠神剣の名は伊達ではない。
咲耶もそれはわかっているのだろう。
あれほどの勢いをつけられた一撃を刀で受けることも受け流そうとすることも自殺行為に等しい。
刀を構えることもなく回避することのみに全身全霊を費やす。
これだけ大振りの一撃なら間違いなく攻撃の後に隙が生まれる。
最大の隙とは最大の攻撃の後に生まれるものだ。
その隙を叩けばいい。
当たれば武の勝ち、外せば逆に咲耶最大のチャンスが訪れる。
神速の斬撃が咲耶の正中線をなぞる様な軌道を描く。
剣を振り下ろす武。
避ける咲耶。
一瞬、世界が光に包まれる!
「くっ!?」
それはどちらの声であったのか。
必殺の一撃は必殺とはなりえず空気と地面を切り裂いただけであった。
武の攻撃は外れたのだ。
。
外れたと言ってもそれはまさに紙一重。
咲耶は背筋が凍るのを抑えられない。
あと米粒一つほど距離が詰まっていれば間違いなく剣線は咲耶の体に届いていただろう。
そして振り下ろされた一撃の威力を物語るように土が舞い上がり咲耶の頬を剣風が吹き付ける。
しかし今ここで咲耶に最大のチャンス――待ちに待っていた最高の機会が訪れた。
「もらったわ!」
あれだけ大振りの一撃をから即座に体勢を立て直すことなどいかに達人であろうと難しい。
刀をそのまま横薙ぎに振るう。
咲耶の逆転勝ち、そう思われたその瞬間武は次の行動に移った。
武は躊躇うこともなく剣を両手から離し、肩を咲耶に向かって突き出す。
それはあらかじめ武が考えていた次善の策。
もしも先の一撃が外れた場合、そのまま速やかにタックルへと移行するという策。
振り下ろした剣の勢いをそのままタックルへの一撃へと変換して体重移動を行う。
これを避けられたら武にはもう次の手はない。
だから、全身の筋肉をただそれだけを為すためにフル稼働した。
咲耶の攻撃よりも早く武の渾身のタックルが咲耶の体に吸い込まれる!
「あああああああああああああああ!」
咲耶が吹き飛ばされるような勢いで後方の木に叩きつけられる。
いや、ような、ではない。
咲耶は吹き飛ばされた瞬間、間違いなく空を飛んでいた。
「がはっ!?」
。
全身がバラバラになりそうな激痛が咲耶を襲う。
意識が持って行かれそうになるのを必死にこらえながら、咲耶はそれでも刀を構え防御の姿勢をとる。
しかし武は追撃することなく咲耶から離れていく。
回収した『求め』とあるものを肩に担いで。
武の肩に担がれたそれを見た瞬間、咲耶の顔面は蒼白になる。
武が担いでるもの、それは咲耶のデイパックであった。
咲耶は吹き飛ばされた瞬間、手からデイパックが離れていたことにようやく気づく。
銃と刀、主な武器は今も咲耶の手にある。
しかし、銃を撃つのに必要な予備の弾やダイナマイトなどはあの中だ。
咲耶にとってあれを奪われることは事実上の戦力の半減。
ここで弾を惜しんでは元も子もない。
咲耶は銃を構え、必中を心掛けて二連射した。
「ぐおっ!?」
一発の銃弾が武の脇腹を捉えた。
しかし武の走る勢いは止まらない。
そのまま近くの木陰に身を隠し、まんまと咲耶のデイパックを奪取することに成功した。
「武さん!」
さらに美凪とあゆを安全な場所に比較的安全な場所においてきた圭一までもが加勢に加わろうとしている。
咲耶は撤退を選択せざるを得ない状況に追い込まれる。
しかし、タックルのダメージも抜けていない今は撤退すらも難しい。
咲耶はまさに絶体絶命の窮地に追い込まれた。
。
■
「頑張ったほうだけど、これで終わりかな」
戦いの一部始終を覗いていた良美はそう思った。
実は咲耶が救急車に乗った一団を襲撃する前から佐藤良美は救急車のすぐ近くにいたのだ。
といってもどうしてここにいるのかと聞かれれば良美は上手く答えることができない。
良美が覚えている最後の記憶は放送で霧夜エリカの名前が呼ばれたこと。
自分がそのことについてひどく悲しんでいたこと、それだけであった。
それからのことは良美も覚えていない。
気がつけば良美は藤林杏の死体のすぐそばではなくこんなところにいた。
ただ、放送からある程度時間が経っていることから、良美本人が瞬間移動したわけではないようだ。
おそらく悲しみのあまり自暴自棄になって走り回ったのだろう。
脳がそれを覚えていないのは対馬レオと霧夜エリカの死に耐えられなかったから、と良美は考えていた。
それはともかく、良美は圭一等のすぐ近くで戦いの様子を最初期から窺っていた。
戦っているのが圭一であることには若干驚いたが、それでも良美のやることは変わらない。
いつものように役に立つ人間や集団には無害を装って溶け込み、必要ない人間や自分にとって都合の悪い人間は排除するだけ。
今回は圭一たちがいる以上もちろん後者だ。
咲耶が最初にダイナマイトで武たちを襲撃したとき、当然良美は漁夫の利を狙っていた。
しかし今現在の良美の武器は残り3発しか入ってない銃と錐のみ。
仮に運良く弾丸一発につき一人を仕留めることができたとしても殺せるのは3人のみ。
残った二人と戦うのに錐は有効な武器とは言えない。
かといって迂闊に出ていくこともあまりにも頭の悪い考えだ。
咲耶が頑張って頭数を減らしてくれることに期待したのだがこれは期待外れの結果になった。
結果は見ての通りだ。
咲耶はデイパックを奪われるという最大の愚を犯した揚句、窮地に陥っている。
仕方なく今回は静観を決め込むことにした方が賢いと判断した。
しかし、こうもおいしいシチュエーションを逃すのは良美にとってあまり気分のいい話ではない。
もしも咲耶がもう少し頑張って敵の一人や二人仕留めてくれれば、あるいは良美の装備がもう少しマトモであったならば、良美はすぐにでも戦いに参入していたであろう。
ちょうど今良美が身を潜めている場所は咲耶と共に武たちを挟撃することが可能な位置なのだ。
正反対の位置から同時に襲撃されてはいかに人数がいようと恐れることはない。
そう、良美にとってこれは絶好のチャンスなのだ。
しかし――
(せめてあと一つ、状況を決定的に変える何かが欲しいんだけど)
そう、良美には武器が足りない。
咲耶は今にもやられそうな雰囲気。
これでは望み通りの戦果を得ることなど夢のまた夢。
あと一押し、良美が戦いに参入する理由となり得る最後のピースが足りないのだ。
やはり静観するのがベストか、良美がそう思ったとき――最後のピースとなりうる存在が現れた。
「あゆちゃん! 見つけた!」
普段の彼女を知る者なら決してそれは彼女の声だとは思わないであろう。
何故なら、それほどまでに彼女の声は毒々しく、怨嗟の色に染め上げられていたのだから。
「な、名雪さん!」
。
あゆは新たな二人の登場に驚きを隠せなかった。
現われたのは水瀬名雪と白鐘沙羅。
撤退を決めていた咲耶はもちろん武と圭一も思わぬ人物の登場に立ち止まる。
なぜ図書館にいたはずの二人がこの場にいるのか?
答えはやはりと言うべきか先ほどの放送だった。
沙羅は放送で恋太郎の死を知った。
双樹に続き恋太郎もまた失ったのである。
その悲しみはいくら言葉を重ねようと表現できるものではない。
三人はいつも一緒。
三人で一人。
三人で幸せになろう。
そう誓い合った二人が死に、沙羅はこの世に一人ぼっちになったのである。
できるなら世界が終わるまで恋太郎の死を悲しんでいたかった。
遺体でもいいから二人にもう一度会いたい。
だが、沙羅に悲しむ暇はなかった。
水瀬名雪の後を追うのに夢中だったからである。
名雪は放送の直前に目を覚まし、放送を一字一句違えずに聞いた。
放送を聴き終えた名雪はしばらく呆けた顔をしていたものの、
「あゆちゃん、あゆちゃん……!」
そう言うとともに突然外へ飛び出したのである。
恋太郎の死を悲しんでいたいが、重傷を負った名雪を放っておくこともできない。
それにやっと出会った初めての人間と別れたくない気持ちもあった。
結局、沙羅には名雪を追いかける以外の選択肢はなかったのだ。
そして名雪から気絶していた理由、怪我をした経緯などを聞きつつ、当てもなくあゆを探す名雪について行くことにしたのである。
。
それは良美の願いを叶えるために現れたのだろうか。
はたまた単なる偶然なのか。
どちらにせよ良美が願っていた決定的に状況を変えるものがこの場に出現した。
特に手がかりがあるわけでもなかったあゆの捜索はこうも短時間でターゲットを見つけることに成功したのだ。
「名雪さん、ごめんね……名雪さん。 謝っても許してもらえるなんて思ってないよ。 だけど、ごめん……」
「謝る? 今さら何を謝るの? 大石さんと乙女さんを殺したこと!? 私も殺そうとしたこと!?」
「……」
あゆは何も言い返すことができない。
佐藤良美の差し金とはいえ大石と乙女の二人を殺したこと、名雪を傷付けたことは事実なのだ。
あのときの記憶が思い出したくもないのに色鮮やかに蘇る。
槍を構えながらゆっくりとあゆ達の方へ歩みを勧める名雪。
沙羅もまた銃を取り出しいつでも撃てるよう構えた。
「謝る必要なんてないんだよ……。 許すつもりなんかないんだからね!!」
「ひうっ!」
その一言とともに一直線に突撃をしてくる名雪。
体格に合わない槍を装備した上半身はいささか不安定だが、それでも抱えて走るだけなら何の不都合もない。
「沙羅ちゃんも手伝って!」
「ええ!? ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!? 本当にあの子がみんなを殺したの?」
「ああああああああああああああああああああ!!」
。
沙羅にはあゆのような臆病そうな少女が人殺しをしたとは信じられなかった。
また咄嗟のことなので手伝ってといわれても瞬時に対応することなどできない。
念のために銃を構えておいたがそれでも撃つつもりは全くと言っていいほどなかった。
だが、沙羅の反応も無視して名雪はひたすらあゆを目指して走り出す。
「名雪ちゃん!」
「さ、佐藤さん!?」
名雪を呼び止めたのはこのイレギュラーを待ち望んでいた佐藤良美。
名雪は横から呼ばれたことに驚くものの、それが佐藤良美であることに気付き、安心した。
良美はあゆと名雪の会話のやり取りを聞いて、あることを思いついたのだ。
二人の会話と態度から察するに、名雪はあゆが大石と乙女を殺したと思い込んでいるのだと勘違いしている。
その答えは半分正解で半分間違い。
確かに毒を飲ませたのはあゆ本人だが、飲ませるよう指図したのは良美本人だ。
しかし、名雪に真実を教えてやる必要はない。
「小屋に戻ったら大石さん達が……あゆちゃんがやったの?」
「そうだよ、佐藤さん! あゆちゃんは私の目の前で二人を殺して、私も殺そうとしたんだよ!」
「許せない……名雪ちゃん、あゆちゃんを殺すのを手伝って!」
「うん!」
「私は他の人を抑えておくから、名雪ちゃんはあゆちゃんを!」
「分かったよ!」
。
こうして哀れな操り人形が一体完成した。
手駒にするには少し時間がかかるかと思ったが、名雪は良美本人も拍子抜けするほど簡単に良美を信じてくれた。
それほどまでに名雪のあゆに対する憎しみは強い。
他人を信じることの難しいこの島において、無条件に信頼できるこの島に来る前からの友達という存在。
その友達に裏切られた。
信じれる仲間や祐一を失った今、名雪の心にあるのはあゆへの復讐のみ。
強く信じていた分だけ裏切られた憎しみもまた大きいのである。
「違います」
静かな、けれど芯の通った美凪の声が辺り一帯の空間に心地よく響く。
震えるあゆを抱きかかえながら美凪は事の顛末を説明する。
誰もが足を止めて美凪の声に耳を傾けた。
「大石さんと鉄さんを殺したのはあゆちゃんじゃないです。 犯人は佐藤さんです」
。
。
そう言って佐藤良美を指差す。
これも良美の想定の範囲内、そして越えるべき最大の難所だ。
名雪やあゆのような当事者があの状況を正しく理解するにはよほど頭が切れないと難しい。
しかし、第三者が客観的に起こった出来事について分析すれば簡単に真実にたどり着ける。
「嘘よ! あの場にいない佐藤さんがどうやって二人を殺せるの!?」
名雪の心は揺るがない。
名雪は確かに大石や乙女の断末魔の表情を見た。
そしてその場にいたのは佐藤良美ではなく月宮あゆ。
名雪に重傷を負わせたのもあゆだ。
佐藤良美はあのときあの場にいなかった。
名雪はあゆこそが犯人であるという絶対的な確信がある。
だから美凪の声は名雪の凍てついた心に何の影響も及ばなかった。
しかし、次の声には名雪も動揺せざるを得ない。
「毒だ! 大石さんと鉄さんが食べた食べ物か飲み物に毒が入ってれば説明がつく」
今度は圭一が叫ぶ。
あゆを許すつもりはまだ毛頭無いが、佐藤良美というある意味圭一が一番出会いたくなかった脅威がそこにいる。
まだ猫をかぶっていた時の良美の言葉を思い出す。
対馬レオと霧夜エリカという人物を探していることを。
そしてレオは前回の放送時に、エリカは今回の放送時に死んだことを。
人を殺してまで二人を守ろうとしていた人間が守るべき対象を全て失ったとき、その人間はどうする?
今まで何をしていたのかと人を殺したことを悔やむ?
そのまま人を殺し続ける?
自暴自棄になって自殺する?
答えは良美の目を見れば分かる。
良美の目は絶望に染まっているか? ――否。
後悔の念に囚われているか? ――否。
良美は天使の微笑を見せていた。
そう、それはとてもとても素敵な笑み。
大切な人が殺されたとは思えないような、むしろこれから何かめでたいことがあるかのような笑みを浮かべている。
あれはきっとまだ良からぬことを企んでいる証拠に違いない。
圭一はそう思っていた。
「そ、それは……」
名雪は良美の目にもはっきりと分かるほど動揺していた。
同伴している沙羅も例外ではない。
毒――犯人が現場にいなくても人を殺せる魔法の道具。
確かに毒を用いれば良美にも大石たちを殺すことが可能だし、飲み物を飲んだ瞬間に血を吐いたことにも説明がつく。
名雪が信じていたものがまた一つ崩壊する。
名雪は恐る恐る良美のほうを見た。
「さ、佐藤さん……」
「ち、違うよ! 私毒なんて飲ませてないし、持ってもいないよ!」
殺すのを手伝って……まさにバトルロワイアルw
。
良美は突然犯人扱いされたことに驚き、必死で否定する。
もちろんそれは演技。
声を荒げてそれは違うと反論するより、こういう態度のほうが人は信じてくれる。
しかし名雪も良美の言葉を鵜呑みせず、疑わしい視線をぶつけてくる。
(ここからは正念場ね……)
造られた表情とは裏腹に良美の頭はフル回転していた。
いかに圭一たちを論破して名雪の自分への信頼を固いものにするか。
今この場にいる全ての人物の注目が良美に注がれている。
生半可な理屈ではこの場にいるあゆを除いた六人もの人間を騙し通すことはできない。
迷えば迷うほど状況は良美に不利に傾く。
できるだけ早く、そして完璧な理論を構築しないといけない。
先ほどのあゆと名雪の会話のやり取りから少しでも多くの情報を拾い出す。
「第一、名雪ちゃんのその怪我はどうしたの? あゆちゃんがやったんじゃないの?」
大石と乙女のことはおいて、確定している事実を名雪に突きつける。
名雪は包帯の巻かれた自分の顔に手をやった。
再び名雪の心が揺れ動いたのを確認して、そのまま良美は畳み掛けるように続けた。
「私が毒を飲ませた? そうね、毒なら私にもできるかもね。 でも現実を見て! 名雪ちゃんを傷つけたのは誰?」
「騙されるな! 佐藤さんは同じ学校の生徒だって平気で殺す人間なんだよ!」
。
。
名雪は何がなんだか分からなかった。
今も続いている良美と圭一の舌戦はもはや名雪の耳には入っていない。
良美の言うことにも、圭一の言うことにも納得できるものができる。
それ故に何が正しくて何が間違いなのか分からない。
一体何を基準に信じればいいのか。
名雪の心はメトロノームのようにせわしなく揺れている。
名雪の視線もまた名雪の心と同じようにせわしなく辺りをキョロキョロと見回す。
そして名雪は『真実』を見つけた。
「咲耶……ちゃん?」
「え?」
今まで蚊帳の外にいた人物に急に視線が集まることになる。
名雪の目に留まったのは咲耶。
この殺し合いが始まって名雪が初めて出会った人物である千影。
その千影が探していた人物の外見に合致する人物が今まさにこの場にいるのだ。
「咲耶ちゃんだよね?」
「……ええ、そうだけど?」
咲耶は一つの希望を抱いた。
この島で自分の名前を知っている人物は限られている。
厳島貴子を殺したときに第三者に聞かれていたか、愛する姉妹から聞いたかのどちらかしかない。
そして厳島貴子を殺したとき、周りには誰もいなかった。
ならば、答えは一つしかない。
。
「私、千影ちゃんに会ったよ!」
「本当に! いつ? どこで?」
「千影ちゃんとはこの次の放送の時間に神社で会う約束をしているよ!」
ついに探していた姉妹の情報を得ることに成功した咲耶は、この島に来て初めて心の底から笑うことができた。
「でも咲耶ちゃん、その怪我は……」
「え、こ、これは……」
痛いところに気付かれた咲耶は焦りを感じるとともにこの場を潜り抜ける嘘を考える。
姉妹を守るためとはいえ、人を殺していたことを知られたくはない。
そして半ば返り討ちに近い形となっているとはいえ、今も人を襲っていた真っ最中なのだ。
だが、咲耶の焦りとは裏腹に名雪は自力でその答えにたどり着いた。
「みんなに、あゆちゃんたちに襲われたのね!」
「………………え? そ、そう! 襲われていたのよ。 危ないときに来てくれてありがとう」
名雪は『真実』にたどりついた。
今まで名雪はあゆが圭一らを騙し、まんまと集団に紛れ込んでいるのだと思っていた。
だがそれは間違いだったのだ。
あゆがみんなを騙しているのではなく、あゆとその仲間は元からグル。
そう考えれば全てのことに説明がいく。
佐藤良美に罪を擦り付けようとしたことも、咲耶が四人に襲われていたことも、あゆがなんの弁解もせずに黙っていることも。
あゆたちは親友である名雪等を裏切って四人で残り全ての参加者を殺すつもりなのだ。
あるときはあゆのように無害を装って、またあるときは咲耶を襲っているように集団で殺す。
『真実』という名の『虚構』を名雪は手にしたのだ。
。
「ざけんな! その女はなぁ、いきなり俺等にダイナマイト投げてきやがったんだよ!」
いきなり殺人者に間違えられた武の怒りはもっともだ。
脇腹から流れる血を押さえつけながら武は反論する。
しかしもう名雪は迷わない。
彼女は絶対的な『真実』を手に入れたのだから。
殺意が、恨みが、怒りが名雪の心を黒く染めていく。
「誰が信じるもんか! 佐藤さん、咲耶ちゃん、沙羅ちゃん、あいつらをやっつけよう!」
「うん」
「ええ」
「……」
「佐藤さん……これを使って!」
そう言って名雪はデイパックからハンドアックスを取り出して良美に手渡す。
それは名雪の支給品ではなく、亡き大石の遺した遺品である。
「これは?」
「大石さんの持っていた武器だよ。 あゆちゃんに殺された大石さんと乙女さんの武器で、あゆちゃんを殺そう!」
咲耶と良美は無言のうちに同盟を交わしていた。
二人ともお互いの氏素性も知れぬ身だ。
しかし、このようなおいしいシチュエーションを前にわざわざ争う理由は無い。
二人は獲物を仲良く分かち合うことに決めた。
良美と名雪は各々の武器をを振りかざしあゆへ、咲耶は地獄蝶々を構え武のもとへ切りかかっていく。
良美と名雪の進路に圭一が立ちふさがり刀を構える。
。
咲耶、良美、名雪、。
圭一たちを襲う悪魔の包囲網が今完成した。
良美と名雪が同時に襲いかかっているのを見て圭一は肝が冷える。
思わず武に助けを求めようとするが、武は武で咲耶の相手をするのに手一杯といった感じである。
まさかあゆと美凪に戦えと言うわけにもいかず、圧倒的な人数の不利に晒されることとなった。
こうなったら美凪とあゆだけでも救急車に乗って逃げてもらうしかない。
圭一はそう判断した。
「遠野さん。 あゆをつれて救急車で逃げてくれ!」
今ならまだ良美と名雪との距離は離れている。
ここをおいては脱出の機会は二度と訪れない。
そう、今こそが千載一遇のチャンスなのだ。
しかし美凪は圭一の声を無視して、デイパックから金属バットを取り出し圭一の横に並んだ。
「いくら前原さんたちでも四対二は危険ですよ」
「危険なのは分かってる! でもそうするしかないんだ!」
「ダメですよ。 だって私、車の運転できないですから」
そういって圭一の方を見ながら笑う。
母なる深い海を思わせるどこまでも優しい瞳。
この状況でも笑うことのできる強さに、圭一も勇気付けられる。
「分かった。 俺は佐藤さんをやる。 遠野さんは名雪を!」
「はい。 あゆちゃん、そこで待っていて下さいね」
「佐藤さん、こっちだ! こっちに来い!」
圭一は良美を挑発しつつ、名雪と美凪から離れていく。
良美もまたそれを望んでいたのか素直に圭一についていった。
二対二をするより一対一を二つする方が各々の相手に専念できるし、イレギュラーも少なくなる。
なによりも圭一にとって佐藤良美はこの島で最も警戒せねばならない人物。
守るべき人物である美凪から少しでも離れているところに誘導するにこしたことはない。
一方、沙羅は未だに結論がだせないでいた。
良美たちか圭一たちか、どちらが嘘をついているのは明白。
しかし、どちらが本当のことを言っているのかが分からない。
名雪は咲耶の存在により答えを得ることができたが、沙羅は千影がどのような人物かは知り得ない。
そのため千影が信用に足る人物かは判断できないのだ。
事態の推移を静観するわけにはいかない。
もう戦いは始まっており刀が、剣が、槍が、華々しく火花を散らせている。
結果が出てから、全てが終わってからどっち正しいかを知っても意味がないのだ。
この戦いが終わったとき、死人の一人や二人出てもおかしくはないのだから。
(どうすればいいの。 どうすればいいのよ!)
思考の迷路に陥りながら、沙羅は未だ動くことができなかった。
■
。
今、上空からこの場を見下ろすことができたなら、月宮あゆを中心にきれいな正三角形を作っていることが分かるだろう。
佐藤良美と前原圭一。
倉成武と咲耶。
遠野美凪と水瀬名雪。
あゆを中心として三つの戦いがこれから繰り広げられる。
結論を出せない沙羅は三角形の外にいる。
「久しぶりだね、圭一君」
「佐藤さん、アンタはどこまで人を弄べば気が済むんだ」
まるで懐かしい友に出会えたかのように笑いながら喋りかけてくる良美。
握手でもしませんか、そんなことを言いそうな社交的な笑みだった。
「弄ぶなんて心外だなあ。 名雪ちゃんには私の役に立ってもらうだけなんだから」
「それが弄ぶって言うんだ。 人の心を弄ぶようなやつは最低のクズだって分からないのか?」
良美の笑顔に惑わされることなく圭一は油断なく刀を構える。
前回の佐藤良美との対決、先ほどの咲耶との対戦でいずれも左肩に穴が開けられており、動かすだけで痛みが走る。
左手は気休め程度に添えているだけである。
前回以上にキツイ戦いを強いられるのは他ならぬ圭一自身が一番よく分かっている。
「ねえ、圭一君。 私、圭一君のことが羨ましくてしょうがないの。 対馬君もエリーも死んだのに、なんで圭一君はまだ遠野さんと一緒にいるの?
なんでまた新しい仲間と一緒にいるの。 なんでまだ他人を信じているの?」
。
良美は圭一の言葉を無視してひたすら言葉を叩きつける。
良美は圭一と美凪の存在が憎くて堪らなかった。
大切な人が全て死んだ良美と未だ平和に行動を共にする圭一と美凪。
唯一信じることのできた友人が死んだ今、良美には誰一人信用することはできない。
なのに圭一たちはまだのほほんと人を信用して新たな仲間を得ている。
良美には圭一の存在すべてが良美という存在へのアンチテーゼに思えてきたのだ。
だからなんとかしてこの二人を引き裂いてやりたかった。
逆恨みに等しいのは良美にも分かっている。
だが、心の奥に灯った恨みの炎は消えることなく良美を叩きつける
「圭一君には何の罪もないのは分かってるよ。 私も圭一君のこと、嫌いじゃなかったしね。
でもね、今は圭一君のことが無性に憎くてしょうがないんだ。 だから……死んで!」
そう言って良美は天高く斧を振り上げ圭一に襲いかかった。
■
武と咲耶の戦いは再び形勢が逆転していた。
咲耶がデイパックを奪われた際放たれた銃弾は武の脇腹を貫いていた。
それでも良美や名雪の出現がなければ圭一あたりに戦いを任せ、武は治療に専念できていたであろう。
しかし、事実はそうならず武は脇腹の傷を治療せずに戦いをせざるを得ない。
そこを咲耶が漬け込まない理由はない。
さっきとは逆に咲耶の方が果敢に接近戦を仕掛けていく。
武は咲耶の刀を受けるたびに、激痛が走り腹からは血がぼたぼたと流れ出る。
武は腹筋が悲鳴を上げ、力が入らなくなる体を叱り付け無理やり動かしている状態だ。
。
。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
咲耶は果敢に武を攻め立てていく。
咲耶も武のタックルを受け多大なダメージを受けたが、名雪等が現れたときのゴタゴタで体力は回復していた。
しかし銃で撃たれた傷がそうやすやすと治りはしない。
咲耶の細腕から繰り出される一撃を受けるたびに武は激痛に顔を歪ませる。
しかしここでようやく武は距離を離すことができた。
咲耶の追撃を阻止するためダイナマイトに火を点け咲耶の足元に投げる。
咲耶も慌てて後ろに下がり数秒後、爆発した。
「はあっ、はあっ、ぐ……くそっ、痛ぇな」
武は脇腹を押さえつける。
血が今も吹きだし、足が情けないほどにプルプル震える。
更なるダイナマイトを警戒してか咲耶は迂闊に近づくことはせずに様子を伺っている。
ちょうどいいので武は咲耶のデイパックの中身を確かめることにした。
医療品を見つける……が、残念ながらこの状況で傷の治療はできそうにない。
ダイナマイトは残り一本、予備の銃弾多数、肉まん、日本酒、使えるものから使えないものまで所狭しと入ってる。
その中で武はそれを見つけた。
血に塗れた首輪。
咲耶の首にはきちんと首輪がかけられている。
それの意味するところは咲耶は他人を殺してこの首輪を奪い取ったということである。
武の頭にある一つの可能性が浮かび上がる。
建物を爆破可能なダイナマイト。
人の首を切断することの可能な日本刀。
デイパックに入っていた他人の首輪。
全ての状況がそうだと言っている。
武は半ば確信しながら咲耶に問いかけた。
「お前か? 貴子を殺したのはお前か?」
「へえ、貴子の知り合い?」
咲耶は悪びれもせず、それどころか嬉しそうな顔で答える。
「なぜ殺した?」
「ねえ、それよりも瑞穂って人はどこにいるの?」
「瑞穂の居場所?」
「そう。 会ってみたいのよ。 貴子をあんな風に変えた瑞穂って人に」
「変えた?」
「そう! すごいのよ! それまで片腕なくしてピーピー泣いてたのに瑞穂の名前を聞いた途端に変わったのよ。
貴子ったら暴力に怯えずに戦うんだ〜とか言っちゃって。 私感動しちゃった! 人間って強いのね。
それで首輪欲しいのって言ったら一瞬怖がったけどすぐに冷静に受け入れて……見せてあげたかったわ」
。
咲耶は人を殺したのにまるで昨日見たテレビ番組のことについて語るように嬉々とした表情で語っている。
そんな咲耶の態度に武ははらわたが煮えくり返るという言葉の意味を初めて理解できた気がした。
「……そうか……あいつは潔く死んだのか……」
「そう、褒めてあげなさいよ。 普通片腕吹っ飛ばされてもあんなこと言える人間はそうそういないわよ」
そこでようやく気がついた。
咲耶の声が瑞穂と瓜二つであることに。
だが今の武にとってそれは瑣末なことでしかない。
貴子との出会いから最後に別れる直前までのことを思い出す。
貴子との始めての出会い、温泉での平和なやり取り、病院に行く道中に聞いた貴子の身の回りのこと。
後方では今も圭一等が激しく立ち居地を変えながら戦っているのに武たちだけは静かに止まっている。
典型的な箱入りお嬢様、それが武の貴子に対する第一印象。
けれど貴子は武の考えているようなお嬢様ではなかったことを知る。
愛する人のために敢えて別離を選ぶ勇気のある女だった。
厳島貴子は一人の戦士だった。
「……………バカヤロウ」
だが、褒めるわけでもなく、賞賛するわけでもなく、武が口にしたのはその一言だけであった。
これにはいけしゃあしゃあと言っていた咲耶の方が目を丸くして驚く。
。
「馬鹿って……褒めてあげなさいよ。 立派な死に方だったのよ?」
「立派? ……立派じゃなくていいじゃねぇか。 情けなくっていいじゃねぇか。
情けなく逃げ回ったって、土下座して命乞いしたって、靴の裏舐めたって寿命が延びるんならそれでいいじゃねぇか。
立派に死ぬよりも、情けなく生きることの方が遥かにえらいんだよ。 死んだら……死んだらもう、瑞穂にもみんなにも会えないんだよ」
「ふふふ……貴方何も分かってないのね。 世の中にはね、情けなく生きるより自分の信念に殉じて死ぬ方がマシって人間がいるのよ。
自分の生きたいように生きて死ねたのなら本望よ。 貴方の言っていることは貴子の信念、生き方を侮辱しているわ」
「……そうだな。 俺はきっと貴子を侮辱しているんだろうな。 けど、俺はそれでも、結果が変わらなくても貴子に最後まで生きる努力をしてほしかったよ。 お前はそうは思わないか?
お前はこの島で誰か大切な奴は死んだか? そいつには泥水すすっても生きて欲しいとは思わなかったか? 信念を曲げてでも生きて欲しいとは思わなかったか?」
「……」
ふと咲耶の胸中に今は亡き四葉のことが浮かぶ。
今はもういない大切な姉妹の一人。
立派に死んだ四葉と情けなくも生きている四葉。
自分はどちらの四葉でいることを望んでいただろう。
だが、そこまで考えて咲耶は首を振る。
もう四葉は死んでしまった以上それは感傷にすぎない。
「お喋りはここまでよ。 瑞穂はどこにいるのか、もう一度聞くわ」
返事の代わりに咲耶のもとへ何かが飛来してくる。
咲耶は反射的にそれを銃で撃ってしまった。
銃弾はそれを打ち砕き中身をぶちまける。
武が投げた物、それは咲耶のデイパックに入っていた日本酒だ。
点での攻撃ならともかく面での攻撃を避けるのは至難の業。
砕けた瓶の破片の一部と中の酒が咲耶の顔を中心に襲いかかる。
瓶の破片が目に入らないように目のあたりを重点的に防御するのがやっとで日本酒が盛大に咲耶の顔と服にかかった。
。
「それが返事? いい度胸ね」
お気に入りの服に酒がかかってきたことに怒りつつ日本刀を構えた。
酒の度数はかなり高いようで匂いを嗅いだだけで酔いそうな気がしてくる。
初めて嗅ぐ日本酒の匂いに鼻を刺激されつつも武に再び斬りかかった。
■
美凪と名雪の戦いの勝敗は明らかであった。
剣道三倍段という言葉がある。
竹刀や木刀を持った剣道の有段者に空手家などが勝つには少なくともその三倍の段位が必要とされている。
剣対槍の戦いにもほぼ同じことが言える。
美凪が持っているのは剣ではなく鉄バットなのだがリーチに関してはほぼ同じだ
鉄バットを持った美凪は単純に計算して名雪の三倍の技量が必要とされる。
しかし、美凪は武道の達人ではないごく普通の女の子だ。
当然名雪の猛攻を受けきることはできずに徐々に後退するしかない。
名雪が突きを繰り出すたびに一歩一歩あゆの方へと押し込まれていく
「落ち着いてください、私の言うことを聞いてください」
。
美凪の説得に耳を傾けようともせず、名雪はひたすら美凪を攻め立てる。
突き出される槍は美凪を傷つけることにいっぺんの躊躇も無い。
槍と金属バットでは絶望的なリーチの差がある。
間合いの広さを活かした攻撃に美凪はついに金属バットを手放した。
そのまま横凪に振るわれた槍が美凪を吹き飛ばす
状況ははやくも動いた。
美凪をそのまま無視してあゆへと一直線に突っ込む名雪。
名雪が願ってやまなかった敵討ちがようやくできるのだ。
「これで! ようやく! あゆちゃんを殺せる!」
万感の思いをこめ、あゆに槍を振り下ろす。
「うわああああああああ! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!」
恐怖のあまり失禁したことにも気づかず、あゆは泣き叫びながら名雪の槍から逃れる。
■
圭一もまた良美との戦いに劣勢を強いられる。
武器のリーチは圭一の方が長いのだが、良美は巧みに間合いを制して圭一の懐に潜っていく。
圭一は視界の端に美凪が吹き飛ばされるのを視認した。
「遠野さん! あゆ! ぐはっ!?」
「圭一君。 余所見はいけないよ」
一瞬の隙をついた良美のヒザ蹴りが圭一の腹部に命中していた。
追撃とばかりに圭一の脳天に斧を振り下ろすがこれは避けられる。
「くそっ、クソッ、クソッ!」
圭一は半ば自棄に近い形で良美に攻撃を仕掛ける。
しかしあっさりと返される。
圭一は片手のみしか満足に使えない。
両手で使わねばならない刀を無理して片手で繰り出す。
そんな一撃の重さなどたかが知れたものだ。
対する良美の斧は片手で運用することが可能なほどコンパクトなサイズだ。
片手同士で繰り出される攻撃は互角。
しかし残った片手が使える良美と使えない圭一では圧倒的に圭一が不利だ。
良美はある時は拳を、ある時は足を使い果敢に攻撃してくる。
鍔迫り合いになった。
良美を力ずくで吹き飛ばしチャンスとばかりにあゆと美凪の元へ駆けつける。
しかしすぐに体勢を整えた良美の持っていたS&W M36が火を吹いた。
「ダメだよ、圭一君。 私、嫉妬深いんだからちゃんと私の相手をしてくれないと」
ニヤニヤしながら言い放つ良美だが圭一の体には銃は命中していない。
何を言っているのかと一瞬首を傾げたが、後方の武がうめき声を上げながら肩を抑えるのを見つけた。
。
「圭一君が相手してくれないと、私、他の人に浮気しちゃうよ?」
「……クッ!?」
歯軋りしながら、圭一は再び良美へと向かっていった。
■
「ほらっ、さっきの勢いはどうしたの」
楽しそうに刀を振り下ろす咲耶に対し、武は苦痛に顔を歪め受ける。
武も咲耶の猛攻を受けるだけで精一杯である。
圧倒的な優位に、咲耶は貴子を殺したときと同種の愉悦を味わっていた。
しかもその相手が貴子の知り合いなのだから悦びは二倍だ。
ちょっと小競り合いを仕掛けるだけで苦しそうな顔をするのがまたたまらない。
お気に入りの玩具を手に入れた気分だ。
鋼のような重さだった武の剣も今は羽のように軽く感じられる。
そんな武が思ってもいなかった方向からの攻撃を受ける。
佐藤良美からの銃弾を肩に受けたのだ。
お気に入りの玩具が傷つけられたことに少し怒りながらも咲耶は激痛に顔を歪める武に切りかかる。
舞い落ちる木の葉を巻き込みながら迫る刀を、武は衣服を切り裂かれながらも横に回避することに成功する。
ここで少し小休止とばかりに両者は距離をとった。
。
「圭一ぃ! あゆを援護しろ!」
「わかった!」
その言葉と同時に二人は投げナイフと手榴弾をあゆと名雪のいる方向に向かって投げた。
いまだちょこまかと逃げ回るあゆを捕捉しきれない名雪は思わぬ邪魔に足を止める。
手榴弾が爆発し、ちょうど良く倒れていた美凪もあゆのもとへ駆けつけることに成功する。
状況が再び元に戻ったことを確認して、武は自身の怪我の状況を観察した。
肩と脇腹、双方ともに命に関わる怪我ではないがこのまま戦闘を継続するのは難しい。
この出血量ではそうそう遠くないうちに武の意識を奪い去るだろう。
武はそう判断して一気に勝負をかけることにした。
咲耶のデイパックの中に入っていたポリタンクを取り出し、フタを開けてから2つ適当な場所に投げておいた。
転がったポリタンクは中に入っていた石油を惜しげもなく溢す。
「見え透いた手ね! 私に火でもつけるつもり!?」
「そうさ、どうやって火をつけるかは見てのお楽しみだ」
「バカらしい……どうせダイナマイトでも使うんでしょ? 安直過ぎるわね」
「へっ、バカにはバカなりの戦い方があるんだよ。 後で後悔するなよ」
口では武をバカにしながらも咲耶は期待に胸を膨らませていた。
武はあのときの貴子と同じ目をしている。
それは覚悟を決めた戦士の眼差し。
それは最後の悪あがきなのか、本当に咲耶を殺せると思っているのか。
どちらにせよ咲耶の楽しみが一つ増えた。
強い決意をした戦士を無惨に葬ってやるのもまた一興。
殺す対象の決意が強ければ強いほど咲耶の悦びも増す。
咲耶も首輪を外すための調査に予備の首輪が欲しいと思っていたところだし丁度いい生贄だ。
「そう、楽しみね……。 貴方といい貴子と強い人の多いこと。 私そういう人、嫌いじゃないわよ。 そう、嫌いじゃないわ。
殺してやりたくなるくらいにね!」
目をカッっと見開き、S&W M627PCカスタムを撃ちながら咲耶は武の方へ走り出す。
武も咲耶の方へ走り出し、剣を振るった。
■
状況は元に戻ったものの美凪の不利はやはり変わることは無い。
同じシーンを繰り返すかのように美凪のバットが再度吹き飛ばされる。
名雪はあゆの方へと走り出しはせず、美凪の首筋へ槍の穂先を突きつけた。
「今度は邪魔はさせないからね。 まず貴女を殺すことに決めたから」
勝ち誇った笑みを浮かべて名雪は美凪の殺害を宣言する。
名雪にとって美凪もあゆと同じ人殺しの仲間なのだ。
ここで美凪を殺すことに躊躇いのような感情を抱くことは有り得ない。
。
「そうだ!」
何か良いことを思いついたのか名雪の頭に電球が光る。
そして悪魔の言葉を紡ぎ出した。
さすがの美凪もこれから名雪の言うことには恐怖する。
「私、あゆちゃんを殺すのに夢中でこの傷のお礼をするのを忘れてたよ。 いきなり本番は難しいからまず貴女で練習するね」
名雪はそう言って片手で顔の包帯に手をやった。
見習い看護士の注射の練習とはレベルが違う。
ましてや常人のする所業でもない。
それがどういう意味か分からないほど名雪は狂ってるわけでもない。
それでも名雪は良心の呵責を感じることなく平然と言い切る。
名雪は恐怖した美凪の心配を和らげるために慰めをした。
だがそれは全くの見当違いの方向だ。
「大丈夫、練習できたら貴女に用は無いからすぐに殺してあげる。 あゆちゃんにはその後もっと良いことをしてあげるね
「良い……こと?」
その先は絶対に聞いてはいけない、それはあゆにも分かっていた。
しかし、好奇心と名雪の改心を期待した心が聞いてしまった。
聞いてくれて嬉しそうな顔をした名雪は歌うように口ずさんだ。
頭の中で練られた最高で最低の復讐プランを。
。
「まず、私と同じ怪我をしてもらって、腹を切り裂いて腸をミンチにしてあげる。
それから頭に穴を開けて硫酸を流し込んであげたいけど……硫酸は無いからどうしようかな。
そうだ、学校の理科室なら硫酸あるよね、きっと。 でもそうすると学校まで足は切っちゃいけないね。
私あゆちゃんを抱えて運ぶなんて死んでもいやだし……。
あ、言っておくけど全部生きたままやるんだからね。 簡単には死なせてあげないんだから」
五秒。 あゆと美凪が名雪の言っているのを全部理解するのにそれだけの時間がかかった。
聞いているだけで腹が痛くなるようなことを平気で言う名雪。
ターゲットのあゆはもちろん美凪までもがどうしようもない恐怖に包まれる。
あゆとその仲間を殺すことだけに全てをかける名雪に常識や倫理といったものは一切通用しない。
止めるものがないあゆの復讐心は黒く醜く肥大し続けていく。
「じゃあ、練習させてもらうね。 動かないでね」
言いたいことを言い終えた名雪は美凪の瞳に槍の穂先を向けた。
あゆは目を閉じて耳も塞いで外界の一切の情報を遮断する。
自分を助けてくれる人が死にそうになっても動けないことにあゆの良心が痛む。
けれど死に対する絶対的な恐怖が良心に打ち勝ち動けない。
美凪もいよいよ自分が死ぬときだと覚悟した。
辞世の句でも考えるか、そう思ったとき、それは来た。
ついに白鐘沙羅が動き、名雪の槍を受けていたのである。
。
。
。
。
。
「もう大丈夫のようですね……」
ネリネは樹木の陰から背後を見る。
うっそうと茂る森には鳥の囀る音、木々がざわめく音以外は人の気配は無い。
それを確認するとネリネは木を背にして座り込んだ。
あのままトウカと戦っていれば間違いなく負けていただろう。
いくら永遠神剣の力で肉体を強化したとしてもトウカの身体能力や技量を超えるとは思えなかった。
あの女の身体能力は異常だ。魔族や神族ならあの身体能力の高さは理解できるがトウカは決してそれらの種族に思えない。
が、ただの人間とも思えない。
あの耳――猛禽類の翼を思わせる奇異な耳、あのような耳を持つ者は魔界にも神界にもいない、無論人間界にも――
「……どうでもいいですかそんなこと」
ネリネはこれ以上トウカの素性について詮索はしなかった。
確実に言えることは一対一で正面切って戦うのは不可能な相手である。
「しかし……とんだ邪魔が入りましたね……いや、この場合はラッキーというべきでしょうか」
対峙するトウカとネリネの前に現れた新たな人物。
数十キロはあろう重機関銃を軽々と扱う黒髪の少女。
彼女は一切表情を変えることなく、淡々と二人のいた場所に弾丸の嵐を叩き込んでいった。
ただそのおかげでトウカの下から逃げることができたのは全く僥倖であった。
「そろそろ……ですか」
太陽が中天に達しようとしている。
二回目の放送が近い。
ややあって、ひび割れたノイズ交じりの女の声があたりに響き渡る
『――参加者の皆さん、ご機嫌如何かしら?――』
二回目の放送が始まる。
ネリネは祈る、凛の名が呼ばれない事を願って。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ネリネはほっと胸を撫で下ろす。
幸いにも稟の名前はまだ呼ばれていなかった。
「稟さまが無事でなによりです……」
メモ用紙に次の禁止エリアを書きとめながらネリネは呟いた。
ふと楓を思い出す。
自分と同じく土見ラバーズのひとり。
彼女はトウカとの戦いの末死んだ。
ネリネは後悔する。
首から噴水のように鮮血を撒き散らし、穿たれた腹部から内臓が零れ落ちながらも、トウカに向かって逝った最期。
その時自分は何をしていたか?
――何もできなかった。
その壮絶な光景を前にして身体は完全に硬直していた。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
「私もまだまだ未熟ですね……稟さまへの想いは」
――私は稟くんのお世話をするのが生きがいですから
いつか楓が言った言葉、その言葉に秘められた稟への病的なまでの想い。
依存、執着、偏愛。
何が彼女を稟に執着させるのか?
ネリネは知らない。幼い日、廃人寸前となった楓を救うため稟がついた嘘。
その言葉は結果的に楓を救う事になるが、後に嘘に秘められた真実を楓が知った時、それは呪いとなって楓の心を歪に変容させていった。
許されたいけどけど許されてはいけない。
愛しても愛されてはいけない。
稟への贖罪と奉仕を自己の存在理由とし、楓の想いは歪んだ形に形成されていった。
だが、どんな形であれ楓の想いは稟という男へ向けられた愛情であることに変わりはない。
愛に形の違いなんてない。
肉体が朽ち果ててもなおトウカに向かっていった楓。
あの時のネリネは楓の想いに圧倒されていた。
「少し妬いちゃいますね……でも」
今だけは楓の稟への愛情に嫉妬することなく敬意を払おう。
ネリネは目を閉じて静かに楓に黙祷を捧げた。
黙祷を済ませた後、ネリネはこの島で出会った人間を思い出す。
催涙スプレーを吹き付けた幼女。
博物館で襲った男女二人組み。
亜沙と行動を共にしていた男と女。
神社に乱入した女。
そして――
小町つぐみ
倉成武
朝倉音夢
朝倉純一
トウカ
オボロ
千影
名前の判明している七人、直接の面識が無い倉成武と朝倉純一を除けば、五人の人間。
「っ……」
ネリネは軽い歯軋りをした。
たった二人、二人しか始末できなかった。
ディパックの中の音夢は失神しているところに止めをさしただけ。
オボロは死に損なっているところを頭を吹き飛ばして殺しただけ。
自分の身体能力の低さがひどく恨めしい。
献身による身体強化は強力な反面、一瞬にして精神力の枯渇を招く諸刃の剣。
接近戦での使用は切り札として温存するしかない。
献身は遠距離で九十七式自動砲を撃つために使ったほうが良いだろう。
全長2m、重量約60kg、口径20mm。
それはライフルというにはあまりにも大きすぎた。――まさに鉄塊。
そもそもこれは銃座に据えつけて撃つものであり、腕に抱えて撃つことは想定されていない。
もっとも献身を使えば抱えて撃つことはできるが、腕に抱える状況に陥ったらそのままそれで殴ったほうが早い。
60kg近い鉄塊から振り下ろされる一撃はさぞかし強力だろう。
だがあくまで献身は撃った後の反動による照準のぶれを押さえ込むために使用するのに留めよう。
ネリネはデイパックから九十七式自動砲の予備弾薬を手に取りそれを眺める。
通常の拳銃の弾丸とは遥かに超えるサイズを持つ20mm弾。
その銃口から発射される銃弾は装甲車程度ならいともたやすく貫通する威力を持っている。
人に向かって撃てばどこに当たろうと確実にひき肉になるだろう。
ネリネは木に立てかけてある献身に視線を移す。
永遠神剣と呼ばれる魔力を持った武器。
七位の位階を冠する『献身』以外にも永遠神剣は存在している。
神社で交戦した千影が持っていた剣もそうだ。
古代の儀式用の短剣にも思えるそれにネリネは献身を遥かに凌ぐ魔力を感じていた。
そうあの時――楓の銃弾とネリネの一撃は確実に千影を捉えていた。
トウカのように銃口からの射線を見切って回避したとは思えない――
いや、あのタイミングではどんな身体能力を持った者でも回避できない間合いだった。
だがあの瞬間千影は一瞬の内に数メートルを移動した。
ありえない……あの動きはありえない。
『千影を確実に仕留めたと思ったらいつのまにか避けられていた』
こう表現するより他に無い。
他人が聞いたら何を言ってるかわからないだろう、ネリネ自身あの瞬間何が起こったのかわからなかった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなものでは断じて違う。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったのである。
恐らくは――あれが千影の持つ永遠神剣の力。
それから感じる魔力の波動は献身よりも高位の位階を持ったものだろう。
「だけど……人の身でどこまで扱えるものでしょうか?」
千影は並外れた魔力を持っているがそれは人という範疇の中でのこと、
魔王の娘たるネリネとは魔力の総量に絶対的な開きがある。
あの不可思議な力の連発は確実に寿命を縮めるだろう。
「まあ私とて魔力が封じられている今では条件は同じだろうでしょうが」
あの戦いの最中、気がついたことがある。
献身を千影の肩口に突き刺した時、僅かであるが自身の魔力が回復したのである。
そして千影の神剣の魔力を求める献身――ここで導き出せる仮説。
魔力を持った人間及び永遠神剣の所有者を献身で殺すことで魔力の回復が計れるのではないか?
そして献身を通して流れ込む永遠神剣の気配、おぼろげに感じる四つの気配。
一つは千影が所持している永遠神剣のものだから、あと三つの神剣が存在することになる。
「永遠神剣を持った相手に献身で白兵戦を挑むのはいささかハイリスクですが……やってみる価値はありそうですね」
※ ※ ※ ※ ※ ※
小町つぐみ――トウカと共にネリネが復讐すべき人間の一人。
トウカと違った意味で苦戦しそうな相手である。
身体能力は常人よりも少し上と言ったところだろうが真に厄介なのは冷静さと機転の良さ。
あの女は殺し合いに乗った二人を前にして、臆することなく行動を共にしようと言ってのけた。
博物館でもネリネと音夢だけで行動させるように誘導していた。
もし、あの時自分が罠に嵌っていたら確実に音夢に殺されていただろう。
きっと彼女にとって襲撃にトラブルあった際、仲間割れを起こしてどちらかが死ぬことは織り込み済みだったのだ。
外見とは裏腹に短絡的で直情的な音夢はつぐみの思惑に気づくはずもなく、
そしてネリネ自身、動けなくなった音夢を見て好機とばかり止めをさした。
完全につぐみの手の平で踊らされていた。
「はじめてですよ……この私をここまでコケにした人は……まさかこんな結果になろうとは思いませんでした。許しません……絶対に許しません人間風情が……」
真紅の瞳に憎悪の炎をたぎらせ呪いの言葉を吐く。
「落ち着いてネリネ……冷静にクールにです……そう水でも飲んで落ち着きましょう」
昂ぶった感情を抑えるため水分を補給しよう、そう思いネリネはデイパックを開ける。
デイパックから白い半透明のビニール袋が顔を覗かせていた。
「――少し、臭いますね」
半透明の白いビニール袋に収められた丸い物体。
ネリネはビニール袋を外に出す。西瓜のようにずしりとした重みが手に伝わる。
袋の隙間からほんのりと腐敗臭を漂わせ、朝倉音夢が顔を覗かせていた。
「よいしょ……っと」
袋から音夢を取り出して両手に抱え、眼前に持ってくる。
紫がかった土気色の肌、だらしなく半開きととなった口、白く濁った眼、ドス黒く変色した切断面。
「私もあなたもまんまと乗せられてしまいました。どうですか今の気分は?」
頬を持ち、キスをするぐらい近い距離に音夢を近づけそっと語りかける。
「人の心はなかなか見えないものです。音夢さんは何か見えますか?」
体積が十分の一以下になってしまった音夢は何も答えず焦点の合わない瞳でネリネをじっと見る。
「うふふ、その目では何も見えるわけありませんよね」
意地悪なサディスティックな笑みを浮かべ、ネリネは嘲笑う。
「だから――見えないものを『視る』方法を教えてあげましょう」
くちゅ
ネリネの陶磁器のような白く細い人差し指が音夢の左目に突き入れられる。
指は眼球と眼窩の骨の間を滑り、眼底部に達する。
ぷるぷるとした触感が指に伝わる。
「古代の巫女やシャーマンは神や悪魔などこの世ならざるもの、そして人の心を見るために左目を潰すという風習があったそうです」
眼窩の骨に沿って円を描くようにネリネはゆっくりと指を回す。
「残された右目で現世を覗き、失くした左目で幽世を覗く……」
くちゅ
くちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅ
指をリズミカルにグラインドさせ音夢の眼孔を犯す。
音夢の眼球がネリネの指の動きに沿ってくるくるまわる。
くるくる、くるくるとまわる。
くるくる、くるくる
「どうして『左目』を潰す必要があるのか、なぜ『右目』ではなく『左目』なのか」
くちゅくちゅくちゅくちゅ……ぶつっ
ネリネはさらに中指を突き入れる。
中指を入れた拍子にぷちぷちとなにかが千切れたような音がした。
「いまとなってはそれを確かめる術はありませんが――」
ぶつっ……
そして親指。
「とりあえず古代の儀式に則り、『徴』を刻むとしましょう」
ぶちっ……ぶちっ……ぶち……
親指と人差し指と中指で白い眼球をつかむ。
視神経がぷちぷちとちぎれる感触を指に感じながらゆっくりと引き抜く。
真っ暗な眼孔から白い筋を引かせ、ピンポン球ほど大きさの眼球が露になる。
「どうですか音夢さん、何か見えますか?」
音夢は答えない。
「その眼で人の心は見えますか?」
音夢は何も答えることなくぽっかりと空いた穴でネリネを見つめていた。
「死んでからもこうして辱めを受ける気分はいかがですか?」
当然音夢は答えない、虚しい。
「はぁ……興が削がれました。もういいです」
ネリネは無造作に白い塊を茂みの中に投げ捨てた。
もう一度音夢の顔を見る。
「…………?」
ふと、半開きとなった音夢の口の奥に何か見えた。
ネリネは指を使って口をこじ開け舌の上に乗っているそれをつまみ出す。
「花びら……ですか?」
ひとひらの淡いピンク色の花弁。
しかし――
「桜の花びら……? でも桜なんてどこにも……」
この島にやって来てから桜の木は見かけていない、にもかかわらず桜の花びらがここに存在する。
そしてもう一つ不審な点、この花びらから僅かであるが魔力が感じられた。
これは一体何を意味するのだろうか?
「ここで考えてもしょうがないですね。さて……休憩もここまでとしましょうか」
ネリネは桜の花びらについて考えることをやめ、音夢を再びビニール袋に包みデイパックに戻した。
※ ※ ※ ※ ※ ※
移動する準備を終えてネリネは立ち上がり、大きく背伸びをする。
花びらは気になるので一応持っておくことにした。
相変わらず切った足首や右耳、打撲したところは痛むが行動に支障をきたすほどでは無い。
「これからどうしますか……」
禁止エリアはB-4とE-3、現在地はD-4とD-5の境あたりのはずだ。
博物館に戻るべきか?
つぐみが生きている以上、音夢が死んだことは放送で把握しているはず。
つぐみが博物館に戻る可能性はゼロではないが低いだろう。
結局、放送前に朝倉純一に絶望を味合わせることはできなかったがまあいい、どうせ殺すことには変わりは無い。
「一旦博物館まで戻るかそれとも……」
地図を開き次の目的地を考える。
近くに参加者が潜伏していそうな施設は二つ、ホテルと学校。
だが博物館につぐみが戻っている可能性も捨てがたい。
「うーん……迷いますね」
ネリネは次なる獲物を求め再び歩みを進める。
全ては愛する稟のために。
【D-4 南部 /1日目 昼】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式 IMI デザートイーグル 9/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10】
【所持品2:支給品一式 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5、九十七式自動砲 弾数2/7】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 朝倉音夢の制服及び生首(左目損失) 桜の花びら】
【状態:肉体的疲労小・魔力消費中、腹部に痣、左腕打撲、右耳に裂傷、左足首に切り傷、非常に強い意志】
【思考・行動】
1:博物館、ホテル、学校のどれかに移動する(行き先は次の書き手に任せます)
2:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し。知人であろうとも容赦無く殺す(出来る限り単独行動している者を狙う)
3:ハイリスク覚悟で魔力を一気に回復する為の方法、或いはアイテムを探す
4:トウカを殺し、楓の仇を討つ
5:純一に音夢の生首を見せつけ殺す
6:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
7:亜沙の一団と決着をつける
8:桜の花びらが気になる
9:稟を守り通して自害
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、 制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣第七位“献身”は制限を受けて、以下のような性能となっています。
永遠神剣の自我は消し去られている。
魔力を送れば送る程、所有者の身体能力を強化する(但し、原作程圧倒的な強化は不可能)。
魔力持ちの敵に突き刺せば、ある程度魔力を奪い取れる
以下の魔法が使えます。
尚、使える、といってもウインドウィスパー以外は、実際に使った訳では無いので、どの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、僅かな間だけ防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※魔力が極端に消耗する事と、回復にひどく時間がかかる(ネリネの魔力なら完全回復まで数日)という事に気が付きました。
※トウカと、川澄舞(舞に関しては外見の情報のみ)を危険人物と認識しました。
※千影の“時詠”を警戒。ただし“時詠”の能力までは把握していません。
※魔力持ち及び永遠神剣の持ち主を献身で殺せばさらに魔力が回復する仮説を思いつきました。
※ある程度他の永遠神剣の気配を感じ取れます。
※桜の花びらは管理者の一人である魔法の桜のものです。
病院に到着した土見稟は蟹沢の姿が見えないことに失望していた。
自分が病院を出ている間にすれ違ったのだろうか?
分かれてからかなり時間がたっていたし、病院に来る気があればもう到着しているはずだろう。
それとも───最初から病院に来る気なんて無かったんじゃないか?
ガリッ
彼は無意識に首を掻きながら考える、
そもそも何故俺はいきなり病院で襲われたんだ?
ガリッ
咽から血が出るのも構わずに掻き毟る。
もしかして奴等は誰かに唆されて?
ガリッ
誰に?俺が病院に居ることを知ってる人間は蟹沢しか…
…ッ!俺は何を考えてた?蟹沢がそんなことする筈無いじゃないか。
ガリッ
もしかしたら彼女は今頃神社で楓やネリネ、亜沙先輩を殺してるんじゃ───?
俺はやっぱり神社に向かうべきだったんじゃ…
分からない、首の痒みが思考を妨げ、ただ疑心のみが募る。
(もう考えるな!とにかく放送を待ってから行動だ!)
そう自分に言い聞かせるが、一度生まれた疑心は消えてくれなかった。
それでも時は経ち、放送が流れ始める。
芙蓉楓の名が呼ばれ、蟹沢きぬの名は呼ばれなかった。
学校で道具をそろえた蟹沢きぬは今度こそ病院に向かって急いでいた。
結局彼女が見つけたのは地図と時計、コンパス、それに自衛用の金属バットだった。
道具を探している途中、彼女の大切な友人達、伊達スバル、鉄乙女、霧夜エリカ、アルルゥの死を知ったが、それでも彼女は泣かなかった。
───少なくとも本人は泣いていないつもりだった。
「泣いてない、泣いてないもんね…」
誰に聞かれるとも無く呟く彼女の頬には透明の滴が伝っていたが、それでも彼女は泣いてないもんね、と繰り返し呟いていた。
涙をぬぐい立ち上がった彼女は止まらない。
もしかしたら稟はもう病院には居ないかもしれない。
少し休んで体力を取り戻してから向かっても遅くは無いのかもしれない。
それでも彼女は疲れた体に鞭を打って病院へと向かう。
稟も、アセリアも、瑞穂もよっぴーも…ついでに土永さんもまだ生きているのだ。
失ってしまったものはとても大きかったから、もう二度と後悔しないように、彼女はバットを引き摺りつつも病院への道を急ぐ。
放送を聞いた稟は何も考えまいと原付に跨り、アクセルを全開にして走り出していた。
「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」
楓が死んだ?楓が、殺された?
『ずっと一緒に居てね』
幼い頃の約束も
『稟君が幸せなら、私はそれでいいんです』
自分に向けてくれる笑顔も全て───失ってしまった。
にもかかわらず、蟹沢の名は呼ばれなかった。
やはり蟹沢が…?
いや、誰かに襲われて、怪我をして動けなかった可能性もある。
はっきりと分かることは一つ、自分は病院に戻るべきではなかったのだ。
せめて蟹沢と合流できれば意味はあった。
だが蟹沢は現れず、ただ時間を浪費しただけだった。
楓を失ったことへの悲しみ、自分への怒り、蟹沢への疑心。
全てを抱え込みがむしゃらに疾走していた稟は、血塗れのバーベナ学園の制服を抱え、金属バットを引き摺っている蟹沢を見つけた。
そしてその瞬間。
神王にも魔王にも凡人にも成れたはずの男は───鬼に成った。
【F-5 住宅街 北/1日目 日中】
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:投げナイフ1本、金属バット】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス】
【状態:精神高揚。両肘と両膝に擦り傷。左手指先に切り傷。数箇所ほど蜂に刺された形跡。疲労極大。】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:土見は何に怒ってんだ?
2:稟と合流後、博物館へ急ぐ(宮小路瑞穂達と合流)
3:ゲームをぶっ潰す
4:よっぴーと合流したい。
【備考】
※仲間の死を乗り越えました
※アセリアに対する警戒は小さくなっています。
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:麻酔銃(IMI ジェリコ941型-麻酔薬装填)】
【所持品:支給品一式x2、投げナイフ一本、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、拡声器、
麻酔薬入り注射器×3 H173入り注射器×2、炭酸飲料水、食料品沢山(刺激物多し)】
【状態:L5発症。背中に軽い打撲。頚部にかなりの痒み(出血中)。腕に痺れ。酷い頭痛】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。 但し殺人者は例外。
1:L5発症
2:蟹沢きぬに対する怒り
3:第一回放送の内容を知りたい
4:神社へ向かう(ネリネ、亜沙がいれば救出)
5:ネリネ、亜沙の捜索
6:もう誰も悲しませない
【備考】
※シアルートEnd後からやってきました。
※L5発症しました。
※倉成武を危険人物と断定
※稟の乗っている原付車の燃料は残り僅かです。
※稟は第一回放送を聞き逃しています
神社へ行くはずの救急車は停止していた。
それはさほど珍しい光景ではない。
今この時間は島のいたる所で悲しみの声が上がっているのだろう。
無論この救急車に乗っている集団にも悲しみの知らせは届いていた。
相沢祐一と大石倉人の両名が死んだのだ。
しかし、それだけなら問題なく救急車は動いていたであろう。
彼らには神社へ急いで行かねばならない理由があるのだから。
だが、今回のケースは少しばかり勝手が違う。
読み上げられた死者の中にあるべき名前が入ってなかったからのだ。
その人物の名前は水瀬名雪。
「ウソ……名雪さん……生きてるの?」
あゆは思わず両手を口元に当てて驚きの声を上げる。
あゆは瞳にメスを突き立て殺してしまったと思い込んでいたが実際のところは生きていた。
片目を失明という重傷を負っているものの白鐘沙羅に保護され、現在も存命中である。
「遠野さん……これって……」
「ええ」
「………………俺は一人で神社に行く。 お前等は道を引き返して名雪を見つけろ」
顔を見合わせ喜ぶ圭一と美凪。
しかし武は二人とは変わって神妙な面持ちでここで別れることを提案した。
もちろん圭一等も神社に行って土見稟を阻止するチームと名雪を捜索、保護するチームとに分割するのだということは分かっている。
しかし何故二人ずつに別れるのではなく三人と一人なのかということが分からなかった。
「どうして武さんだけ一人なんですか?」
「まず、あゆは当事者だから当然名雪の捜索に回ってもらう。 圭一、お前は大石って刑事のこともあるだろうから一緒に行ってやれ。
それに途中誰かに襲われる可能性もあるから二人のお守りも兼ねてもらう」
「私は……どうしてででしょう?」
あゆと圭一に関しては三人とも容易に予測がついた。
しかしなぜここで美凪までも名雪捜索のチームに組み込まれるのかは三人には理解ができなかった。
人数配分を逆にしているのではないかとさえ思う。
道中誰かに襲われる『可能性のある』名雪捜索チーム。
神社で土見稟との戦闘が起こることが『ほぼ確定している』神社チーム。
常識的に考えて神社では稟との対決は避けられない以上神社に行くチームに人手を多く割くべきなのだ。
だから神社に行くチームの方が三人ならまだ納得行くかもしれなかった。
しかし武が提案したのは全く逆の人数配分。
提案した武本人以外は一様に首をかしげている。
「俺一人の方が身軽でいい。 いざって時に逃げるなら一人の方が楽だからな」
「私……足手纏いですか?」
「……有り体に言えばな。 お前やあゆのような非戦闘員は邪魔になる。 かといってお前にバット持って戦えって言うわけにもいかない」」
「武さん、その言い草はあんまりだ」
「いいんです、前原さん。 武さんも本気で言っている訳ではないでしょう」
美凪は武が言外に含んだ意図を察知しおとなしく引き下がることにした。
たとえ実際に戦場に立つことは無くとも自分を危険な目に合わせたくないのだろうという気持ちはひしひしと伝わってきた。
危険な役目は全て自分に任せろ。
仲間が傷つくくらいなら自分が傷ついた方がマシ。
それはとても倉成武という人間らしい考え方であった。
倉成武という人間を知るものに聞けば、誰もがあいつならそう言うと口をそろえるだろう。
しかし武の本音――自分でも気付いてないが――は別のところにある。
率直に言えば怖いのだ。
圭一が、美凪が、あゆが、いつか裏切って自分に牙を剥いて襲ってくる妄想が先ほどから武の頭を離れない。
それは土見稟に打たれたH173によるもの。
雛見沢症候群と呼ばれる雛見沢独特の風土病を病院での稟との戦闘時に発症させられたのだ。
雛見沢症候群、それを端的に説明するなら他人が信用できなくなり、最後には自身の喉を掻き毟って死んでしまうおそろしいもの、と言える。
無論武とてそのことを忘れていたわけではない。
病院で倒れていた稟を保護したとき荷物の検査はしたし、その中に麻酔銃や麻酔薬、H173という見たことも聞いたことのないものも見つけた。
あのとき稟に打たれたが麻酔であるかH173であるかは武には分からなかったものの、どちらを打たれたにせよキュレイの免疫能力を信じていたので放っておくことにした。
武は致死率85%以上のウイルス、ティーフ・ブラウをも瞬く間に治すキュレイウイルスのキャリアだ。
キュレイ、それは人類の永遠の命題である不老不死を体現するもの。
人間の寿命を司るテロメアを永遠に回復させ続け、同時に各種身体能力、再生能力、免疫能力を異常なまでに高める。
たとえH173、そして雛見沢症候群がウイルス性だろうが細菌性によるものだろうが関係ない。
キュレイは体内の異常の全てを飲み込み全てを喰らい尽くす。
そのはずであった。
しかし、この島ではキュレイウイルスの影響は著しく制限されている。
そのためH173の侵攻を許してしまっていることに武本人は気づいてない。
これはキュレイの力を過信した武のミス。
この島ではキュレイもH173の症状を浅い程度に留めておくことしかできないのだ。
「ですから前原さん、私たちは一刻も早く水瀬さんを探して武さんの援軍に駆けつけましょう」
「……分かった。 武さん、すぐに駆けつける。 あゆ、いいな?」
「う、うん……」
どこか歯切れの悪い返事をするあゆは複雑な気分であった。
相沢祐一は、大切な人は死んでしまったけどもう一人の大切な人は生きていた、それはいいことだ。
けれど他人の差し金とはいえ大石、乙女の両名の命を奪ったのは紛れも無く自分。
そして名雪にも死んだと思っていたほどの重傷を負わせていたのである。
死んだ大石と乙女の遺体に会って、生きていた名雪に会って、どうすればいいのか悩む。
謝って、許してくれるだろうか。
いや、許しはしないだろう。
何故ならあゆが大石や乙女や名雪の立場なら決して許したいとは思わないからだ。
そして大石の知人である圭一も許しはしないといっていた。
死ね、地獄の業火に焼かれろ、あの世で詫び続けろ、あゆの想像の中の名雪等が次々とあゆに罵声を浴びせる。
そしてあゆはそれにじっと耐えるしかないのだ。
ホイホイ人を信じた自分が馬鹿だったから、騙された自分が悪いのだから謝ることはできても許されることは無い。
もしも相沢祐一が生きてこの場にいれば、どういう行動を取っていただろう。
あゆを庇ってくれただろうか、それとも名雪と一緒にあゆを責めていただろうか、分からない。
けれどあの三人と祐一のことを考えると悪い考えしか思い浮かばないのだ。
いっそこのまま死んでしまいたい。
それがあゆの本音である。
けれど自分には自殺する勇気はないし、誰かの手にかかるのもまた怖かった。
自分を守ってくれた乙女、一見怖そうな人だったけど実は優しかった大石、二人を殺した事実はあゆにとって耐え難いものとなっている。
そんなあゆの内なる心の領域を読み取ったのか美凪は優しく声をかけた。
「あゆちゃん、怖いの?」
「え…………うん」
武たちは知らない。
土見稟は神社へ向かってないことを。
水瀬名雪はすでに白鐘沙羅に保護されていることを。
彼等の会話のほとんどが無駄なものになっていることを。
むしろ心配するなら自分等の身の回りであることを。
「怖くても逃げちゃ駄目。 一番怖いのは罪から目をそらして生き続けることだから。」
「……」
「逃げるのは簡単。 けど今逃げたら後で一生後悔する」
武たちは気づいていない。
近くに自分等を襲う機会を窺っている狼がいることを。
狼が武器を片手に少しづつ接近していることを。
そして今、狼が4人への攻撃を開始したことを。
「だからあゆちゃん。 あなたは――」
美凪が全ての言葉を言い切ることはできなかった。
投げられたダイナマイトが爆発したのだ。
爆発したのは救急車の助手席の2メートルほど手前。
凄まじい火炎と爆風が救急車の助手席側の窓ガラスを激しく叩きつける。
幸い距離が離れていたため爆風が窓ガラスを割ることは無かった。
しかし、窓ガラスに叩きつけられた爆風と救急車のすぐ近くであがっている炎は車内の人間を混乱させるには十分だった。
「ひ……うわあああああああ」
「あ、バカ!?」
圭一の警告を聞かずに真っ先に車からあゆが飛び出した。
それを見逃す襲撃者ではない。
元々ダイナマイトは車の真下に投げ入れ車内の人間の一網打尽を狙ったのだが力加減を誤ったのだ。
だが襲撃者は自らの失敗にくよくよせずにすぐに次の作戦に切り替える。
近くでダイナマイトが爆発すれば中に乗っている人物が驚くのは明白。
ならば慌てて車外に出てくる人間が必ずいるはず。
そんな人間を木陰から銃で狙い撃ちすることに決めたのだ。
すぐに救急車を発進させてこの場を離脱する可能性も考えられたが顔も見られてないし、ダイナマイトの損失も一本で済むので安いものである。
結果は見てのとおり。
救急車の後部からあゆが出てきたの見て笑いながら銃を撃った。
狙いを定めて一発であゆの右足を打ち抜くことに成功。
引き金を引いた瞬間、あゆの右足に穴が開き血が吹き出るのを見て、女は笑みをこぼした。
襲撃者は咲耶。
咲耶は商店街で医療品などの物資の補充を手早く済ませ移動した。
武器は手に入らなかったがあくまで目的の品は手に入ったのでそれは良しとした。
そして千影や衛ら残った姉妹も全員健在でいることに喜びつつ、軽い足取りで新たな獲物を探すべく島の中央部へと向かっていたのだ。
そこで見つけた救急車。
救急車なんてけったいな車に乗っている人間などそうそういない。
咲耶は車に乗っているのが先ほどの四人に間違いないと思っていた。
そして何故こんなところで車を止めているかは分からないが、これは絶好の襲撃のチャンスだと判断したのだ。
「うあああああああああああああ! 痛い、痛いよぉ!!」
地べたに這いつくばり、足を掴みながら叫び声を上げるあゆ。
咲耶はそんなあゆを追撃することはしなかった。
救急車に少なくとも四人の人間が乗っていることは咲耶も知っている。
だからこそこのままあゆののたうち回る姿を眺めるだけにしているのだ。
「あゆ!!」
何故なら、このようにあゆを助けようと新たな人間が車内から出てくるのは容易に想像が付くからだ。
圭一が足を押さえて暴れるあゆ助けるべく救急車から飛び出す。
しかしそんな圭一の行動も全て咲耶の予想済み。
あまりに予想通りに物事が進むことに笑いを噛み殺すのに必死だった。
今度は圭一へと銃の照準を向けた。
もう一人くらい炙り出すために急所は避けて撃つことにするか。
そう考えた咲耶は今度も足を狙うべく引き金を引く。
轟音と共に放たれた銃弾は圭一の足を貫くことは無く後方の木を穿つだけにとどまった。
狙いが外れたことに安堵しつつ、圭一はあゆを抱える。
咲耶もそのまま救急車の中へとお持ち帰りになるのを許すはずは無い。
更なる銃弾を繰り出すべく再び圭一に狙いをつける。
今度は外さないよう面積の広い上半身へ狙いをつけた。
轟音とともに再び放たれた銃弾。
咲耶のS&W M627PCカスタムから発射された弾丸は圭一の肩へ命中した。
皮膚を抉り筋肉を引き裂く痛みに堪えつつ、それでも圭一はあゆを抱えて救急車へと入ることに成功する。
再び救急車の中へと入られてしまったが、咲耶にはなんの問題も無い。
それならダイナマイトをもう一度使用すればいい。
デイパックから新たなダイナマイトを取り出す咲耶。
それを見ていた美凪が咲耶の行動を察知して咲耶のいる方向へ手榴弾を投げた。
咲耶のすぐ近くに転がる手榴弾。
その武器は映画でも何度も見たことあるし、ダイナマイトという似たような爆破系の武器を持っているので咲耶はそれがなんなのかすぐに分かった。
黒いパイナップルから慌てて遠ざかる。
もし一瞬でも判断が遅ければ、蛋白質の塊が一つできあがるところだ。
ほどなくして爆発する手榴弾。
新たな木陰に隠れつつ、爆風で暴れる髪の毛を抑えて咲耶は苛立たしげに舌を打った。
(やってくれるじゃない)
咲耶はダイナマイトを取り出しつつも、これ以上の戦闘の継続は危険だと判断した。
もとより数の上では不利なのは明らかだったし、件の集団からは必要なことは聞きだしてる。
敵に手傷を負わせることにも成功したし、これ以上戦闘を継続するメリットはない。
最後にもう一発ダイナマイトをかまして撤退することに決めて導火線に着火しようとする。
しかし、導火線に火をつける動作は途中で中断せざるを得なかった。
いつの間にか咲耶の左斜め前方に男が立っていることに気付いたためである。
男は自らの獲物である永遠神剣『求め』を鞘から抜き放ち、咲耶目掛けて突進している。
(銃は……間に合わない! ダイナマイト……近すぎる!)
すでに銃でもダイナマイトでも危険なほど近距離に接近していた男に対応すべく、咲耶もダイナマイトをデイパックに入れ、地獄蝶々を構えた。
男――武は圭一があゆのために飛び出るよりも前に、咲耶の死角である救急車の運転席側から密かに車外へ脱出していた。
そして美凪の投げた手榴弾の爆発と同時に一気に咲耶へと距離を詰めていたのである。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
裂帛の気合とともに放たれた倉成武の袈裟斬りを咲耶はなんとか受け流すことに成功する。
男と女、加えて年齢の差は身体能力の絶対的な違いをもたらす。
咲耶がまともに刀で受けるのは明らかに危険だ。
距離を開けて銃やダイナマイトで戦うべきなのだが、武もそれは重々承知している。
なんとかして距離を取ろうとする咲耶に対し、果敢に接近戦を仕掛けていく。
「前原さん、あゆちゃん!」
「ぐっ……俺は大丈夫だ。 先にそっちを見てやってくれ」
「はい。 あゆちゃん、治療しますからおとなしくしていてください」
「うぐぅ……痛い、痛い、痛いよ。 足が、足がぁぁぁ」
「ちょっと傷を見せて……これなら大丈夫です。 二人とも弾丸は完全に貫通しています」
武が咲耶と戦っている間、救急車に戻った圭一等は怪我の治療を始めていた。
幸い救急車の中なので必要な道具はほぼ全て揃っている
弾丸が完全に貫通していることを確認して美凪はまずあゆの治療からすることにした。
今も武と咲耶は戦い続けているのだろう。
外からは剣戟の音が時折聞こえてくる。
出血の止まらないあゆの足を些か乱暴に止血したあと、消毒をする。
あゆはさらに痛そうな顔をするものの、途中で止めるわけにはいかないので申し訳ないと思いつつ消毒を続けた。
消毒が終わったあとはこの状況では考えられないような正確さと丁寧さと速さであゆの足に包帯を巻く。
最後に痛み止めの薬を飲んでもらった。
「終わりました。 薬を飲んだから眠くなるかもしれないけど我慢してくださいね」
「う、うん……ありがとう」
「次は前原さんを――」
「遠野さん、こっちは自分でやっといた」
「……痛みに堪えて頑張ったで賞」
「い、いやこの状況でお米券は……」
「はい、冗談です。 それではここから出てしまいしょう。 幸い武さんが足止めしてくれてますから」
「そうだな。 またダイナマイトなんか投げられたらたまらないからな」
3人は何の障害もなく車外に出ることができた。
安全な場所に美凪たちを誘導しつつ、ふと圭一は武が戦っている方向に目をやると戦いはまだ続いていた。
『地獄蝶々』と『求め』、二つの世界でも指折りの銘刀と銘剣は二つの剣が斬り合うたびに火花を散らせ美しく輝く。
真上に上った日輪の光を受け、雄々しく光を放つ『地獄蝶々』。
一太刀ごとに星のきらめきを連想させる『求め』。
本来なら相見えるはずのなかった異世界の二つの剣は負けじと互いの体をぶつけ合う。
圭一たちは二人の戦いに魅了されるのを抑えることができなかった。
もしもこの戦いがルール無用の殺し合いでなく正式なルールに則った試合なら圭一たちは惜しげもなく二人に拍手を送っていたであろう。
しかしながら武器の強度に関しては完全に互角の戦いであった戦いは、持ち手の身体能力によって大きく左右されていた。
斬り合いが何合か続けられていた今、勝負の行く末は武に完全に傾いている。
先に述べた身体能力の差、そして離れて距離をとることを考え続けている咲耶と前へ前へと進むことしか考えていない武。
気持ちの上でも消極的になってる咲耶に勝利の女神が微笑むはずはないのである。
咲耶がこれまで持ち堪えていたのは運が良いとしか言いようがない。
「はあっ!」
気合いの入った武の声。
真上に大きく剣を振り上げ、そして十分な溜めの後に振り下ろす。
今までの攻撃とは明らかに違う気迫。
繰り出される大振りの一撃、それは真向唐竹割りだ。
これが決まればまず間違いなく標的を真っ二つにすることができるであろう。
使い手は素人といえど永遠神剣の名は伊達ではない。
咲耶もそれは分かっているのだろう。
あれほどの勢いをつけられた一撃は刀で受けることも受け流そうとすることも自殺行為に等しい。
刀を構えることもなく回避することのみに全身全霊を費やす。
これだけ大振りの一撃ならまず間違いなく攻撃の後に隙が生まれる。
最大の隙とは最大の攻撃の後に生まれるものだ。
その隙を叩けばいい。
当たれば武の勝ち、外せば逆に咲耶最大のチャンスが訪れる。
神速の斬撃が咲耶の正中線をなぞる様な軌道を描く。
剣を振り下ろす武。
避ける咲耶。
一瞬、世界が光に包まれる!
「くっ!?」
それはどちらの声であったのか。
必殺の一撃は必殺とは成り得ず、空気と地面を切り裂いただけであった。
武の攻撃は外れたのだ。
外れたと言ってもそれはまさに紙一重。
咲耶は背筋が凍るのを抑えられない。
あと米粒一つほど距離が詰まっていれば間違いなく剣線は咲耶の体に届いていただろう。
そして振り下ろされた一撃の威力を物語るように、土が舞い上がり咲耶の頬を剣風が吹き付ける。
しかし今ここで咲耶に最大のチャンス――待ちに待っていた最高の機会が訪れた。
「もらったわ!」
あれだけ大振りの一撃をから即座に体勢を立て直すことなど如何に達人であろうと難しい。
刀をそのまま横薙ぎに振るう。
咲耶の逆転勝ち、そう思われたその瞬間、武は次の行動に移った。
武は躊躇うこともなく剣を両手から離し、肩を咲耶に向かって突き出す。
それはあらかじめ武が考えていた次善の策。
もしも先の一撃が外れた場合、そのまま速やかにタックルへと移行するという策。
振り下ろした剣の勢いをそのままタックルへの一撃へと変換して体重移動を行う。
これを避けられたら武にはもう次の手はない。
だから、全身の筋肉をただそれだけを為すためにフル稼働した。
咲耶の攻撃よりも早く武の渾身のタックルが咲耶の体に吸い込まれる!
「あああああああああああああああ!」
咲耶が吹き飛ばされるような勢いで後方の木に叩きつけられる。
いや、ような、ではない。
咲耶は吹き飛ばされた瞬間、間違いなく空を飛んでいた。
「がはっ!?」
全身がバラバラになりそうな激痛が咲耶を襲う。
意識が持って行かれそうになるのを必死にこらえながら、咲耶はそれでも刀を構え防御の姿勢をとる。
しかし武は追撃することなく咲耶から離れていった。
回収した『求め』とあるものを肩に担いで。
武の肩に担がれたそれを見た瞬間、咲耶の顔面は蒼白になる。
武が担いでるもの、それは咲耶のデイパックであった。
咲耶は吹き飛ばされた瞬間、手からデイパックが離れていたことにようやく気づく。
銃と刀、主な武器は今も咲耶の手にある。
しかし、銃を撃つのに必要な予備の弾やダイナマイトなどはあの中だ。
咲耶にとってあれを奪われることは事実上の戦力の半減。
ここで弾を惜しんでは元も子もない。
咲耶は銃を構え、必中を心掛けて二連射した。
「ぐおっ!?」
一発の銃弾が武の脇腹を捉えた。
しかし武の走る勢いは止まらない。
そのまま近くの木陰に身を隠し、まんまと咲耶のデイパックを奪取することに成功した。
「武さん!」
さらに美凪とあゆを比較的安全な場所においてきた圭一までもが加勢に加わろうとしている。
咲耶は撤退を選択せざるを得ない状況に追い込まれる。
しかし、タックルのダメージも抜けていない今は撤退すらも難しい。
咲耶はまさに絶体絶命の窮地に追い込まれた。
■
「頑張った方だけど、これで終わりかな」
戦いの一部始終を覗いていた良美はそう思った。
実は咲耶が救急車に乗った一団を襲撃する前から佐藤良美は救急車のすぐ近くにいたのだ。
といってもどうしてここにいるのかと聞かれれば良美は上手く答えることができない。
良美が覚えている最後の記憶は放送で霧夜エリカの名前が呼ばれたこと。
自分がそのことについてひどく悲しんでいたこと、それだけであった。
それからのことは良美も覚えていない。
気がつけば良美は藤林杏の死体のすぐそばではなくこんなところにいた。
ただ、放送からある程度時間が経っていることから、良美本人が瞬間移動したわけではないようだ。
頬には涙を流した感触が残っている。
おそらく悲しみのあまり自暴自棄になって走り回ったのだろう。
脳がそれを覚えていないのは対馬レオと霧夜エリカの死に耐えられなかったから、と良美は考えていた。
それはともかく、良美は圭一等のすぐ近くで戦いの様子を最初期から窺っていた。
戦っているのが因縁ある圭一であることには若干驚いたが、それでも良美のやることは変わらない。
いつものように役に立つ人間や集団には無害を装って溶け込み、必要ない人間や自分にとって都合の悪い人間は排除するだけ。
今回は圭一たちがいる以上もちろん後者だ。
咲耶が最初にダイナマイトで武たちを襲撃したとき、当然良美は漁夫の利を狙っていた。
しかし今現在の良美の武器は残り3発しか入ってない銃と錐のみ。
仮に運良く弾丸一発につき一人を仕留めることができたとしても殺せるのは三人。
残った二人と戦うのに錐は有効な武器とは言えない。
かといって迂闊に出ていくことはあまりにも頭の悪い考えだ。
咲耶が頑張って頭数を減らしてくれることに期待したのだがこれは期待外れの結果になった。
結果は見ての通りだ。
咲耶はデイパックを奪われるという最大の愚を犯した揚句、窮地に陥っている。
仕方なく今回は静観を決め込むことにした方が賢いと判断した。
しかし、こうもおいしいシチュエーションを逃すのは良美にとってあまり気分のいい話ではない。
もしも咲耶がもう少し頑張って敵の一人や二人仕留めてくれれば、あるいは良美の装備がもう少しマトモであったならば、良美はすぐにでも戦いに参入していたであろう。
ちょうど今良美が身を潜めている場所は咲耶と共に武たちを挟撃することが可能な位置なのだ。
正反対の位置から同時に襲撃されてはいかに人数がいようと恐れることはない。
そう、良美にとってこれは絶好のチャンスなのだ。
しかし――
(せめてあと一つ、状況を決定的に変える何かが欲しいんだけど)
そう、良美には武器が足りない。
咲耶は今にもやられそうな雰囲気。
これでは望み通りの戦果を得ることなど夢のまた夢。
あと一押し、良美が戦いに参入する理由となり得る最後のピースが足りないのだ。
やはり静観するのがベストか、良美がそう思ったとき――最後のピースとなり得る存在が現れた。
「あゆちゃん! 見つけた!」
普段の彼女を知る者なら決してそれは彼女の声だとは思わないであろう。
何故なら、それほどまでに彼女の声は毒々しく、怨嗟の色に染め上げられていたのだから。
「な、名雪さん!」
あゆは新たな二人の登場に驚きを隠せなかった。
現われたのは水瀬名雪と白鐘沙羅。
撤退を決めていた咲耶はもちろん武と圭一も思わぬ人物の登場に立ち止まる。
なぜ図書館にいたはずの二人がこの場にいるのか?
答えはやはりと言うべきか先ほどの放送だった。
沙羅は放送で恋太郎の死を知った。
双樹に続き恋太郎もまた失ったのである。
その悲しみはいくら言葉を重ねようと表現できるものではない。
三人はいつも一緒。
三人で一人。
三人で幸せになろう。
そう誓い合った二人が死に、沙羅はこの世に一人ぼっちになったのである。
できるなら世界が終わるまで恋太郎の死を悲しんでいたかった。
遺体でもいいから二人にもう一度会いたい。
だが、沙羅に悲しむ暇はなかった。
水瀬名雪の後を追うのに夢中だったからである。
名雪も放送の直前に目を覚まし、放送を一字一句違えずに聞いていた。
放送を聴き終えた名雪はしばらく呆けた顔をしていたものの、
「あゆちゃん、あゆちゃん……!」
そう言うとともに突然外へ飛び出したのである。
恋太郎の死を悲しんではいたいが、重傷を負った名雪を放っておくこともできない。
それにやっと出会った初めての人間と別れたくない気持ちもあった。
結局、沙羅には名雪を追いかける以外の選択肢はなかったのだ。
そして名雪から気絶していた理由、怪我をした経緯などを聞きつつ、当てもなくあゆを探す名雪について行くことにしたのである。
それは良美の願いを叶えるために現れたのだろうか。
はたまた単なる偶然なのか。
どちらにせよ良美が願っていた決定的に状況を変えるものがこの場に出現した。
特に手がかりがあるわけでもなかった名雪のあゆ捜索はこうも短時間でターゲットを見つけることに成功したのだ。
「ごめんね……名雪さん。 謝っても許してもらえるなんて思ってないよ。 だけど、ごめん……」
「謝る? 今さら何を謝るの? 大石さんと乙女さんを殺したこと!? 私も殺そうとしたこと!?」
「……」
あゆは何も言い返すことができない。
佐藤良美の差し金とはいえ大石と乙女の二人を殺したこと、名雪を傷付けたことは事実なのだ。
あのときの記憶が思い出したくもないのに色鮮やかに蘇る。
槍を構えながらゆっくりとあゆ達の方へ歩みを勧める名雪。
沙羅もまた銃を取り出しいつでも撃てるよう構えた。
「謝る必要なんてないんだよ……。 許すつもりなんかないんだからね!!」
「ひうっ!」
その一言とともに一直線に突撃をしてくる名雪。
体格に合わない槍を装備した上半身はいささか不安定だが、それでも抱えて走るだけなら何の不都合もない。
「沙羅ちゃんも手伝って!」
「ええ!? ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!? 本当にあの子がみんなを殺したの?」
「死んじゃえええええええええええええええええ!!」
沙羅にはあゆのような臆病そうな少女が人殺しをしたとは信じられなかった。
また咄嗟のことなので手伝ってといわれても瞬時に対応することができない。
念のために銃を構えておいたが、それでも撃つつもりは全くと言っていいほどなかった。
だが、沙羅の反応も無視して名雪はあゆを目指してひたすら走り出す。
「名雪ちゃん!」
「さ、佐藤さん!?」
名雪を呼び止めたのはこのイレギュラーを待ち望んでいた佐藤良美。
名雪は横から呼ばれたことに驚くものの、それが佐藤良美であることに気付き、安心した。
良美はあゆと名雪の会話のやり取りを聞いて、あることを思いついたのだ。
二人の会話と態度から察するに、名雪はあゆが大石と乙女を殺したのだと勘違いしている。
その答えは半分正解で半分間違い。
確かに毒を飲ませたのはあゆ本人だが、飲ませるよう指図したのは良美本人だ。
しかし、名雪に真実を教えてやる必要はない。
「小屋に戻ったら大石さん達が……あゆちゃんがやったの?」
「そうだよ、佐藤さん! あゆちゃんは私の目の前で二人を殺して、私も殺そうとしたんだよ!」
「乙女先輩をよくも……許せない……名雪ちゃん、あゆちゃんを殺すのを手伝って!」
「うん!」
「私は他の人を抑えておくから、名雪ちゃんはあゆちゃんを!」
「分かったよ!」
こうして哀れな操り人形が一体完成した。
手駒にするには少し時間がかかるかと思ったが、名雪は良美本人も拍子抜けするほど簡単に良美を信じてくれた。
それほどまでに名雪のあゆに対する憎しみは強い。
他人を信じることの難しいこの島において、無条件に信頼できるこの島に来る前からの友達という存在。
その友達に裏切られた。
信じれる仲間や祐一を失った今、名雪の心にあるのはあゆへの復讐のみ。
強く信じていた分だけ裏切られた憎しみもまた大きいのである。
「違います」
静かな、けれど芯の通った美凪の声が辺り一帯の空間に心地よく響く。
震えるあゆを抱きかかえながら美凪は事の顛末を説明する。
誰もが足を止めて美凪の声に耳を傾けた。
「大石さんと鉄さんを殺したのはあゆちゃんじゃないです。 犯人は佐藤さんです」
そう言って佐藤良美を指差す。
これも良美の想定の範囲内、そして越えるべき最大の難所だ。
名雪やあゆのような当事者があの状況を正しく理解するにはよほど頭が切れないと難しい。
しかし、第三者が客観的に起こった出来事について分析すれば簡単に真実にたどり着ける。
「嘘よ! あの場にいない佐藤さんがどうやって二人を殺せるの!?」
名雪の心は揺るがない。
名雪は確かに大石や乙女の断末魔の表情を見た。
そしてその場にいたのは佐藤良美ではなく月宮あゆ。
名雪に重傷を負わせたのもあゆだ。
佐藤良美はあのときあの場にいなかった。
名雪はあゆこそが犯人であるという絶対的な確信がある。
だから美凪の声は名雪の凍てついた心に何の影響も及ばなかった。
しかし、次の声には名雪も動揺せざるを得ない。
「毒だ! 大石さんと鉄さんが食べた食べ物か飲み物に毒が入ってれば説明がつく」
今度は圭一が叫ぶ。
あゆを許すつもりはまだ毛頭無いが、佐藤良美というある意味圭一が一番出会いたくなかった脅威がそこにいる。
まだ猫をかぶっていた時の良美の言葉を思い出す。
対馬レオと霧夜エリカという人物を探していることを。
そしてレオは前回の放送時に、エリカは今回の放送時に死んだことを。
人を殺してまで二人を守ろうとしていた人間が守るべき対象を全て失ったとき、その人間はどうする?
今まで何をしていたのかと人を殺したことを悔やむ?
そのまま人を殺し続ける?
自暴自棄になって自殺する?
答えは良美の目を見れば分かる。
良美の目は絶望に染まっているか? ――否。
後悔の念に囚われているか? ――否。
良美は天使の微笑を見せていた。
そう、それはとてもとても素敵な笑み。
大切な人が殺されたとは思えないような、むしろこれから何かめでたいことがあるかのような笑みを浮かべている。
あれはきっとまだ良からぬことを企んでいる証拠に違いない。
圭一はそう思っていた。
「そ、それは……」
名雪は良美の目にもはっきりと分かるほど動揺していた。
同伴している沙羅も例外ではない。
毒――犯人が現場にいなくても人を殺せる魔法の道具。
確かに毒を用いれば良美にも大石たちを殺すことが可能だし、飲み物を飲んだ瞬間に血を吐いたことにも説明がつく。
名雪が信じていたものがまた一つ崩壊する。
名雪は恐る恐る良美のほうを見た。
「さ、佐藤さん……」
「ち、違うよ! 私毒なんて飲ませてないし、持ってもいないよ!」
良美は突然犯人扱いされたことに驚き、必死で否定する。
もちろんそれは演技。
声を荒げてそれは違うと反論するより、こういう態度のほうが人は信じてくれる。
しかし名雪も良美の言葉を鵜呑みせず、疑わしい視線をぶつけてくる。
(ここからは正念場ね……)
造られた表情とは裏腹に良美の頭はフル回転していた。
いかに圭一たちを論破して名雪の自分への信頼を固いものにするか。
今この場にいる全ての人物の注目が良美に注がれている。
生半可な理屈ではこの場にいるあゆを除いた六人もの人間を騙し通すことはできない。
迷えば迷うほど状況は良美に不利に傾く。
できるだけ早く、そして完璧な理論を構築しないといけない。
先ほどのあゆと名雪の会話のやり取りから少しでも多くの情報を拾い出す。
「第一、名雪ちゃんのその怪我はどうしたの? あゆちゃんがやったんじゃないの?」
大石と乙女のことはおいて、確定している事実を名雪に突きつける。
名雪は包帯の巻かれた自分の顔に手をやった。
再び名雪の心が揺れ動いたのを確認して、そのまま良美は畳み掛けるように続けた。
「私が毒を飲ませた? そうね、毒なら私にもできるかもね。 でも現実を見て! 名雪ちゃんを傷つけたのは誰?」
「騙されるな! 佐藤さんは同じ学校の生徒だって平気で殺す人間なんだよ!」
名雪は何がなんだか分からなかった。
今も続いている良美と圭一の舌戦はもはや名雪の耳には入っていない。
良美の言うことにも、圭一の言うことにも納得できるものができる。
それ故に何が正しくて何が間違いなのか分からない。
一体何を基準に信じればいいのか。
名雪の心はメトロノームのようにせわしなく揺れている。
名雪の視線もまた名雪の心と同じようにせわしなく辺りをキョロキョロと見回す。
そして名雪は『真実』を見つけた。
「咲耶……ちゃん?」
「え?」
今まで蚊帳の外にいた人物に急に視線が集まることになる。
名雪の目に留まったのは咲耶。
この殺し合いが始まって名雪が初めて出会った人物である千影。
その千影が探していた人物の外見に合致する人物が今まさにこの場にいるのだ。
「咲耶ちゃんだよね?」
「……ええ、そうだけど?」
咲耶は一つの希望を抱いた。
この島で自分の名前を知っている人物は限られている。
厳島貴子を殺したときに第三者に聞かれていたか、愛する姉妹から聞いたかのどちらかしかない。
そして厳島貴子を殺したとき、周りには誰もいなかった。
ならば、答えは一つしかない。
「私、千影ちゃんに会ったよ!」
「本当に! いつ? どこで?」
「千影ちゃんとはこの次の放送の時間に神社で会う約束をしているよ!」
ついに探していた姉妹の情報を得ることに成功した咲耶は、この島に来て初めて心の底から笑うことができた。
ああ、すいません
編集中にサプライズド・T・アタック(前編)
を二つ作ってしまいました
wiki管理人様、いらっしゃいましたらサプライズド・T・アタック(前編) の方を削除していただけますでしょうか?
(前編)の片方の()が半角になってる方を削除してください
分かりにくいかもしれませんがよろしくお願いします
誤爆しちゃった
がお
800
_/ /`` 、 ヽ\
, ´ ′ 、 ヽ ヽ,ヘ
. / | ,ト7lヘ、 } ,!リ、|
. ,イ/ \,.-l i. l: / ト,イ゙リ V/ハ
// )ヘ. ', トハ. /jハ /'ー┐
. / '/ー-', ヽ \ `¨,,´ _ノ
{. //,/`ー-ゝ(`i丶 _\ ,ハゝ
\ ,' /\ __ 1 i { ____,/い.ヾ,._
. / ヽ/ ) `ヽw'| ト、 ゝj r'/ /,ノ } ' ,
( { / ノ | | _ゝ.,ゝ┴ヽlJ i | ', アニメはありません
ヽ. V /ヽ / l | ヽ l ',
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ヽY /, ' リ h.\ ;
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/ヽ、/ i.:.:ト、 -‐ /:/ヽ/}.
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l::.. ::. . `k:. V 'YV" Y /::::ハ
l:: __:.___:', | :{: . . l.::レ'  ̄ ̄l
〈゚:f'´ __〕>― 、,ィニ二ゝ=―イ 大体つよきすキャラは不遇過ぎる
{{ヽ_ィ≦ '"´ ̄ ̄ ̄ ..::::〉 私だってもっと活躍したかった
〉(〃, _/-―― - ___ ;イ
〈//ヽ/r'"´ _,ィ'"´ ヽt=ソ
/フ7 火-‐‐r― '"´:::::l:: .:::l
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イ;│;;;;《;;;;;;;;;;i;;;;;;;;;;;;ハ从;;;;;;;;i;;;|;;;!
! ;;イ;;;; 从(({;;;;/ 二ヾヽヾ;;;;;i;;|;;r
|{'ト;;;; ゞ!ラ (;|! '´_ヒソ7 ヾ;;|`);;i;;;|
ヽヾ 、 ,.ヽj ´ イ;;;ン;;;;i;;;;;| 鉄先輩なんてまだマシな方です
};;; ` /;;;;;;;i;;;;; | 私なんて鳥に負けたんですよ?
ソ;;;;ゝ ー' /;/;;;;ソ;;;;;; |
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从;;;;;;/!;;; ノ |ソ;;/l イゞ; |
,.r'´イ|从r{ゝ /;;;'-! ,} ` ヾ、
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| イ ,! !i.l .| ! ! .l .N |│.ヾ !ヘ ヽヾ \ N まぁまぁ二人とも
. |.N .| .!|.| i | iヽ. ll、l.| .!.| h.ヽヽ .!.;,ヾ ` ,rー-、. {| その分カニが無念を晴らしてくれるって
. ||│! |.| l i | /ヽ.lヽ1. !.l. 〔_>ヾ;;. `+ゝ\'ヽ、 X~ 、゙、.|.|
| |. !. ||. !.! | b N;ヾ;, .l Tン,,タ,,;i`!!!!!!ア ^| ,、 !丿彳 | i
.レ| | | | ! i_>,iiii;;,,ヽ、 〈^l. !, '" ゞ‐ノ .` .|l. | | ノ丿,/
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ヽ ヽ ヘ、'、 i, i `゙ j | .| .!、
`ヘl `1ゝ.:、 .< !.l , l /i丶
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'1i;, ヽ Tーイ / ヽ /ノ1 1 // \\ \\_
'l〉llゝ 1 ,,〃´ 丿 ノ │l イノノ 」f ,,//′ / r'''^^''''‐ー丶ヘ- 、
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名無しくん、、、好きです。。。:
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i´ l ヽ ヽ、_,ゝヽ ヾfy fy`○、,
{ ヽ ヽx''´,.,ィニ‐ヾヽl`fy,ヽ○、``
'、 l '、',xヽ \ヽ, トノ::)`i`リ i`y!ヾ` (ボク今にも死にそうなんだけど……)
l ヽヾ、{fうヾ‐ヾ `~(つl l リl○、
ヽ、ヽヽヽ-' 、 ,.、 /l リ !ヾ
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