2 :
ルール:2007/06/07(木) 23:19:28 ID:8w1Hq69p
【基本ルール】
全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
勝者のみ元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
「地図」 → 舞台である島の地図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。
【禁止エリアについて】
放送から2時間後、4時間後に1エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。
3 :
ルール:2007/06/07(木) 23:20:33 ID:8w1Hq69p
【舞台】
http://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/clip/img/94.png(暫定)
【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述する。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。
4 :
ルール:2007/06/07(木) 23:21:48 ID:8w1Hq69p
【首輪】
参加者には生存判定用のセンサーがついた『首輪』が付けられる。
この首輪には爆弾が内蔵されており、着用者が禁止された行動を取る、
または運営者が遠隔操作型の手動起爆装置を押すことで爆破される。
24時間以内に死亡者が一人も出なかった場合、全員の首輪が爆発する。
実は盗聴機能があり音声は開催者側に筒抜けである。
放送時に発表される『禁止エリア』に入ってしまうと、爆発する。
無理に外そうとしたり、首輪を外そうとしたことが運営側にバレても(盗聴されても)爆発する。
なお、どんな魔法や爆発に巻き込まれようと、誘爆は絶対にしない。
たとえ首輪を外しても会場からは脱出できない。
【デイパック】
魔法のデイパックであるため、支給品がもの凄く大きかったりしても質量を無視して無限に入れることができる。
そこらの石や町で集めた雑貨、形見なども同様に入れることができる。
ただし水・土など不定形のもの、建物や大木など常識はずれのもの、参加者は入らない。
【支給品】
参加作品か、もしくは現実のアイテムの中から選ばれた1〜3つのアイテム。
基本的に通常以上の力を持つものは能力制限がかかり、あまりに強力なアイテムは制限が難しいため出すべきではない。
また、自分の意思を持ち自立行動ができるものはただの参加者の水増しにしかならないので支給品にするのは禁止。
5 :
参加者リスト:2007/06/07(木) 23:25:50 ID:8w1Hq69p
4/6【うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄】
○ハクオロ/●エルルゥ/○アルルゥ/○オボロ/○トウカ/●カルラ
3/3【AIR】
○国崎往人/○神尾観鈴/○遠野美凪
3/3【永遠のアセリア −この大地の果てで−】
○高嶺悠人/○アセリア/○エスペリア
2/2【Ever17 -the out of infinity-】
○倉成武/○小町つぐみ
2/2【乙女はお姉さまに恋してる】
○宮小路瑞穂/○厳島貴子
5/6【Kanon】
○相沢祐一/○月宮あゆ/○水瀬名雪/○川澄舞/●倉田佐祐理/○北川潤
3/4【君が望む永遠】
○鳴海孝之/●涼宮遙/○涼宮茜/○大空寺あゆ
1/2【キミキス】
●水澤摩央/○二見瑛理子
5/6【CLANNAD】
○岡崎朋也/○一ノ瀬ことみ/○坂上智代/○伊吹風子/●藤林杏/○春原陽平
3/4【Sister Princess】
○衛/○咲耶/○千影/●四葉
4/4【SHUFFLE! ON THE STAGE】
○土見稟/○ネリネ/○芙蓉楓/○時雨亜沙
5/5【D.C.P.S.】
○朝倉純一/○朝倉音夢/○芳乃さくら/○白河ことり/○杉並
6/7【つよきす -Mighty Heart-】
●対馬レオ/○鉄乙女/○蟹沢きぬ/○霧夜エリカ/○佐藤良美/○伊達スバル/○土永さん
4/6【ひぐらしのなく頃に 祭】
○前原圭一/●竜宮レナ/○古手梨花/●園崎詩音/○大石蔵人/○赤坂衛
2/3【フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
○双葉恋太郎/○白鐘沙羅/●白鐘双樹
【残り52/63名】 (○=生存 ●=死亡)
「それでは……私は新市街に行くよ。
……それと名雪くんと決めたんだが、三回目の放送の時に一度、私達は神社に集まるつもりなんだ。……丁度今から十二時間後だね。
禁止エリアが絡んできた場合は……こう……スライドする予定さ。
君達も……出来れば……来て欲しい」
千影は指で地図上の基点となる建造物を指し示し、二人に集合時の目的地を教える。
ホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順番だ。どれも場所は島の中部。
人が集まるのには持って来いのポイントである。
「うん、分かった。それじゃあ、千影も頑張って。妹さん達、見つかるといいね!!」
「……ありがとう、ことりくん。君の知り合いも探しておこう」
「……ばいばい」
無言で千影は二人に手を振り、そして背を向けた。
二人もそれに倣って手を振ってくれている。
ことりと舞。彼女達も共に知り合いを探して動いている。
自分の名簿の中にも捜索対象となる人物が相当に増えた。
今度こそ、そのうちの誰かと出会えれば良いのだが。
「また……来世」
いつも兄に向けてだけ使っていた言葉がぼそりと口元から飛び出して来た。
この時ばかりは自分のこの口癖が、縁起でも無い台詞だな、と苦笑するしかなかった。
定時放送が終わるまで、二人と一緒にいても良かったのかもしれない。
もしかしたらその結果次第で目的地や目標に変化が生まれた可能性もある。
だが、千影はそんな気分にはまるでなれなかった。
これは一体どういう意味なのだろう。
普段、自分は行動方針などをタロットカードを使った占いで決定することが多い。
故に自らに備わった野性的な直感で行動する機会はほとんど無かった。
しかし、今回だけは。
虫の知らせという奴だろうか。
彼女達と、放送の時に一緒にいない方が良いような気がした。
【D-6 森/1日目 早朝】
【千影@Sister Princess】
【装備:永遠神剣第三位『時詠』@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【所持品:支給品一式 バーベナ学園の制服@SHUFFLE! ON THE STAGE 銃火器予備弾セット各100発 バナナ(フィリピン産)(2房)】
【状態:疲労(小)】
【思考・行動】
1:衛、咲耶、四葉の捜索
2:相沢祐一、北川潤、月宮あゆ、倉田佐祐理の捜索
3:朝倉純一、朝倉音夢、芳乃さくら、杉並の捜索
4:相沢祐一に興味
5:魔力を持つ人間とコンタクトを取りたい
6:1と2と3のために新市街に向かう
基本行動方針
ゲームには乗らないが、襲ってくるものには手加減しない。
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
【備考】
千影は『時詠』により以下のスキルが使用可能です。
ビジョンズ:攻撃力をアップさせるスキル
タイムコンポーズ:攻撃力を大幅アップさせるスキル。防御力が大幅に下がる
他のスキルの運用は現時点では未知数です。
またエターナル化は何らかの力によって妨害されています。
銃火器予備弾セットが支給されているため、千影は島にどんな銃火器があるのか全て把握しています。
見た目と名前だけなので銃器の詳しい能力などは知りません。
【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀 風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式 バナナ(台湾産)(4房)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。最終的な目標は島からの脱出。
1:舞と一緒に行動する。
2:仲間になってくれる人を見つける。
3:朝倉君たちと舞の友達を探す。
4:千影の姉妹を探す。
5:教会のあるほうへと進む。
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに大方気付き、『触らないと読み取れない』という制限についてはまだ気づいていません。
千影には触れていません。
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
【川澄 舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 学校指定制服】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾99 バナナ(フィリピン産)(3房)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。佐祐理を探す。
1)バナナ……少し減った。
2)ことりと一緒に行動する。
3)ことりの友達と佐祐理たちを探す。
4)千影の姉妹を探す。
5)教会へ向かう。
【備考】
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
――惨劇の後には更なる悲劇が待っていた――とでも言うべきだろうか。
二つの遺体を発見した悠人と衛が涼宮遙の変わり果てた姿を発見したのはそれから5分程後のことだった。
「遙あねぇ!どうしてこんなことに!」
遙の遺体を見るや衛は思わずそう叫び、手を握っていた悠人も絶句した。
まさか立て続けに三つもの遺体を発見する事となり、そのうち一人が衛の知り合いだったという事に。
だが、ここは先ほどの現場から歩いて5分とかからない場所である。
思えばあの銃声を聴き、更に遺体を発見した段階で衛の知り合いも
こうなっているという最悪の結果を予想してしかるべきだった。
(こうなっているという予想はできた筈なのに……畜生!)
悠人は後悔の念をにじませながら隣にいる衛を見る。
衛は立ちつくし、うつむいたまま体を震わせている。
無理もない、目の前で死んでいるのが自分の知り合いなら誰でもこうなるだろう。
だが、最初に遺体を発見した時と様子が違う。
体を震わせているだけでなくブツブツと独り言を呟いている。
「ボクが……ボクが遙あねぇを一人にしたから、殺されちゃったんだ……」
「何を言っているんだ、衛?」
思わず聞き返す悠人。
しかし、衛はそのまま独り言を続ける。
「……あのとき遙あねぇを車椅子に乗せてあげられたらこんなことにはならなかったのに……」
「衛、それは違う」
「衛が遙さんの傍を離れたのは孝之さんという人を探す為だよな?」
「別に殺されそうになった遙さんを見捨てて逃げたわけじゃないならそれは衛の責任じゃない」
「衛はただ頼まれた事を引き受けただけ。悪いのは遙さんを殺した奴だ」
暫しの沈黙、そして。
「あ……」
言葉の意味を十分理解したのだろう、衛の眼に光が戻る。
それを見て「大丈夫だ」と確信した悠人はそのまま衛を自分の方へ抱き寄せる。
衛は声をあげて泣かなかった。
悠人の胸の中で言いようの無い悲しみに耐えて声を押し殺し、すがり付くだけだった。
また悠人も、それ以上声をかけず衛の体を強く抱きしめていた。
しかし、悠人もそのまま無防備だったわけではない。
衛を抱きしめている間も耳をすまし、周囲の様子に気を配る。
聞こえてくるのは草木の揺れる音だけ。
気配は感じられない。
どうやらこの周辺に自分たち以外の人間がいないと判断した悠人は衛を抱く腕の力を緩める。
同時に衛が自分のシャツを掴む手が離れているのも分かった。
そして、落ち着きを取り戻した衛に告げる。
「遙さんを埋葬する。手伝ってくれないか」
「え?……う、うん……」
二人は手頃な木の棒を拾うと、それをシャベル代わりにして遙の隣に墓穴を掘り始める。
どうやらこの森の地面は土が柔らかいらしく、短時間で人一人が納まるぐらいの穴を掘る事が出来た。
その間、悠人は穴を掘る一方で隣に転がる遙の遺体を横目で観察する。
支援
(酷い殺し方だ……)
遺体を見て悠人はそう思う。
先ほど発見した2遺体もそうだったが、遙の遺体も先ほどの遺体とそれほど大差ない惨状だった。
うつ伏せになっている為、表情をうかがい知る事は出来ないが体の方は全身血まみれ、
そして大方銃器でも使用したのだろうか服の所々に穴が開いているのがわかる。
致命傷になったのは背中から心臓の辺りへ撃ち込まれた一発だと判断できた。
墓穴を掘り終えた二人は遙の遺体を仰向けにする。
予想に反してその死に顔は穏やかなものだった。
遺体の惨状を見た時とは予想しなかったその表情に悠人はどこか違和感を感じる。
しかし今は弔う事が先であり、悠人はその違和感を心の片隅に追いやりながら遙の遺体を墓穴に納めた。
胸の上に手を組ませ遺体に土をかけようとした時、衛が「これも一緒に」と手にしたあるものを墓穴に納める。
それは、遙がずっと捜し求めていた「マヤウルのおくりもの」だった。
最後にうつ伏せ状態で乱れていた遙の前髪を手で整えた二人は遺体に土をかけていく。
暫くしてそこに盛り土が出来上がった。
二人は短い黙祷をささげ、遙との別れを告げる。
(さよなら、遙あねぇ)
衛は心の中で別れの言葉を呟く。
結局、遙を孝之という人に逢わせてあげることは出来なかった。
そう思うと衛の心は痛んだ。
だが、遙の安らかな死に顔を見たとき少しだけどこか救われた気がしたのも事実だった。
やがて、悠人が「もう行こうか」と声をかけてきた。
そう、いつまでも悲しみに浸ってここに留まっていることは出来ない。
衛は首を縦に振るとディパックを拾い上げ、盛り土に背を向け悠人と手をつなぎ歩き出す。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
暫くして二人は最初に発見した2遺体の前に戻っていた。
余裕があればあの二人も埋葬してやりたいというのが悠人の考えであり、衛もそれに異を唱えなかったからだ。
遙の時と同じように墓穴を掘る悠人と衛。
やがて、先ほどより大き目の墓穴を掘り終え遺体を並べて納め、土をかけていく。
最後に盛り土をしたのも遙の時と同じだった。
「?」
そこから立ち去ろうとした時、衛は何か落ちているのに気が付く。
それは園崎詩音の支給品である――当然、衛がそれを知る由も無いが――ベレッタであった。
思わずそれを拾い上げる。
その重みと金属の感触、それはこの銃が人殺しの道具である事を伝えてくる。
どこか怖くなった衛は拾い上げたベレッタを悠人に手渡した。
「衛、これは?」
「すぐそこに落ちていたよ。多分……あの人たちのものだと思う」
「そうか、さっきは気が付かなかったな」
悠人はそのベレッタをディパックに入れた後、もう一度二人が倒れていた場所の周囲をよく見る。
果たして、草むらの中に隠れるような形でさらにもう一丁の銃と2つのディパックが転がっている。
ディパックの中身を確認すると、そこには自分たちと同じ支給品に加えて拳銃のマガジンが複数入っていた。
ただ、もう一つのディパックに入っていたマガジンはどう見ても拾った拳銃には使えそうに無かったが、
それでも何かの役に立つかもしれないと思いもう一丁の拳銃ともども回収する。
遺体を埋葬し、供養したところでどうしようかと悠人は思う。
衛に「どうしたい?」と聞こうとした時、先に衛が口を開いた。
「悠人さん、これからどうしよう?」
「そうだな……とりあえずここを離れて体を休めよう」
――色々考えたいこともあるから――と心の中で付け加えて悠人は衛と共にその場を離れる。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
しえん
そして更に時間が経過し、二人は北に――丁度、元来た道を戻る形で――移動しハイキングコースから
外れた森の中で体を休める事にした。
彼ら二人は地図上に記されたエリア「C−4」から「C−3」の境目に移動しているはずだった。
「少し横になって休んだほうがいい、俺が見張りをしているから」
そう告げた悠人は、衛が横になったのを確認すると地図と名簿を拡げて今後の事を考える。
(とりあえずは、もう一度「新市街」に行ってみるか……)
最初に調べた時は映画館、博物館いずれも無人だったが時間が経てば人がやって来る可能性がある。
なによりまだ調べてない建物もあり、そこに人がいるかもしれない。
上手くいけば情報収集や主催者に敵対する他の人間と会えるだろう。
それに、衛を連れている以上、うっかり危険人物に遭遇し戦闘に突入する危険性を考慮するなら拓けた
新市街と鬱蒼とした森の中、移動する上でどちらのリスクが低いか比べれば断然新市街の方が「安全」といえる。
(衛が眼を覚ましたらこの事を教えてやらないと)
あと、市街地でローラースケートを使うのは音が大きすぎる事も言ってやったほうがいいな、とも思う。
昼間であっても、この静かな島であの音をたてるのは確実に周囲の人間に気づかれるし危険がありすぎる。
とりあえず、今後の移動先が決まったところで悠人は名簿の方へ目を移し、鉛筆で「トウカ」「蟹沢きぬ」の部分に丸を付けた。
(男が遺した言葉からするとこの二人は確実に危険だ)
あの凄惨な殺し方からするとこの二人は人殺しを楽しんでいるのではないかとすら思えた。
加えて現場近くに落ちていた2丁の銃。
恐らくはあの二人の持ち物だったのだろうが、このような武器を持っていてもあのような
殺され方をしたと考えると相手は相当の手練れと考えていいかもしれない。
遺体を発見した時に名前の二人と遭遇しなかったのは僥倖と言うほか無い。
(そして更に二人、気になる人物がいる…)
悠人は続いて「鳴海孝之」と「涼宮茜」の名前に三角の印をつけた。
衛が涼宮遙に頼まれて探していた「孝之さん」と思われる「鳴海孝之」、遙と同じ苗字の「涼宮茜」という人物。
そして、遙の安らかで穏やかな死に顔……。
一見すると全くつながりの無いように思えるこれらの情報を前に悠人はある推測をしてみた。
(そう、遙さんの殺され方は最初に見つけた二つの遺体と同じぐらい酷い殺され方だった。
なのに、その表情はとても穏やかだった……)
(普通、どんな人間でもあんな殺され方をしたらもっと苦しそうな表情を浮かべるはず)
(にも関わらず遙さんは違った……)
悠人が遙の死に顔を見たとき感じた違和感はまさにこれだった。
先に二つの遺体を発見してから遙の遺体を発見した為、最初は悠人も
「最初の二人と遙さんを殺したのは同一人物」と思っていた。
しかし、遙の死に顔を見て違和感を感じた悠人は遙を埋葬し、その後二つの遺体を
埋葬している間も(遙さんを殺したのは誰なんだ?)という疑問を持ち続けていた。
(確かに、あの男が言い残した名前の二人「蟹沢きぬ」「トウカ」が遙さんを殺した可能性も十分ある)
(しかし本当にそうだろうか?だとすると遙さんの死に顔と最初に見つけた二人のそれにギャップが有り過ぎる)
もし、遙が男の口にした名前の人物に殺されたのならその死に顔は先に殺された男と女の子の様に
もっと苦悶や恐怖といった負の感情を浮かべていたはずだ。
犯人が遙だけ殺害後にその表情を変えたという想像が浮かんだが、それは話が飛躍しすぎている。
(やはりあの二人と遙さんはそれぞれ別の人間に殺されたと見るべきか……)
(そうなるとやはり怪しいのはこの「孝之さん」とおぼしき「鳴海孝之」と遙さんの肉親らしい「涼宮茜」になるな……)
そこまで考えて悠人は記憶の糸を辿る。
(最初に衛と出会った時、衛が探していたのは遙さんから探すのを頼まれた「孝之さん」だった)
(茜という人の名前は衛の口から出てなかった……という事は要するに遙さんと茜という人物は
それほど親しい仲じゃないということか?)
(同じ苗字だから肉親かもしれないけれど、こうやって考えると遠縁という可能性もある……)
(もっとも肉親だから必ず仲がいいとは限らない。そうなるとあの安らかな死に顔にどうしてもつながらない)
ここはやはり「孝之さん」らしき人物「鳴海孝之」が怪しいと見るべきだろうと悠人は改めて考えてみる。
(「鳴海孝之=孝之さん」である事を前提にして考えると怪しいのはやはりこの人物だ)
(遙さんの直接の知人なら彼女が身動きの取れない体というのも事前に知っているだろうし、
殺し合いに乗ってなくとも移動する上で足手まといになるから殺すという可能性も十分にあるうる話だ)
(そして、遙さんはその申し出を喜んで受け入れて殺された……穏やかな表情を浮かべて……)
遙の死に顔を思い出し、想像を巡らせる悠人。
だが、ここ彼は再び疑問に思う。
(それなら何故、あんなになるまで銃で撃つ必要があったんだ?)
もし、先ほどの様な推理なら心臓なり頭を一発で撃ち抜いて苦しまぬ様に殺すはずだ。
だが発見した遙の遺体は全身血まみれであり、わざと苦しむ様にして殺したみたいに思える。
心臓を撃ち抜いてから全身を撃った可能性もあるが、わざわざ弾の無駄になるような事を
普通するだろうか?
そう考えて悠人はもう一つの推論にたどり着く。
できる事ならたどり着きたくなかった推論に。
s
(まさか、鳴海孝之という人物は、この島へ集められる前から遙さんを殺すつもりだったんじゃないのか?)
(殺し合いに乗った上で事前に彼女の身動きが取れないことを知っているわけだからこれほど殺しやすい標的も他に無い)
(衛が離れている間に甘い顔をして遙さんに近づいた鳴海孝之はそのまま彼女を油断させて射殺した……)
(だからあの表情で遙さんは死んでいたと考えれば辻褄が合う)
(全身血まみれになるまで銃で撃った点についてもそれで説明がついてしまう)
もちろんこれらは悠人の推測に過ぎない。
しかし、あの惨劇の場にあまりにも似つかわしくない「涼宮遙の穏やかな死に顔」
から生じた疑問について考えた結果彼がたどり着いた結論がこれだった。
(もちろん全部推測だってことは分かっている、だけど事実だとすればなんて話だ……)
悠人は自分の導き出した推論を前に気分が悪くなる。
推測通りならば鳴海孝之はこのゲームに乗った上、自分に逢いたがっていた足の不自由な
遙を嬲り殺しにした非道な人物ということになる。
正直吐き気とめまいすら覚える。
もっとも、その吐き気とめまいは推論の中の「鳴海孝之」に対するものであり、
そんな推論を導き出した自分にも向けられたものだった。
だが、例え推論が外れたとしてもこのふざけたゲームの参加者に歩く事も出来ない弱者を
嬲り殺しにする残虐非道な人間がいるのは間違いない。
そして、3名の犠牲者を救えなかった自分の無力さ、そしてこのゲームに乗った人間と
主催者である「タカノ」という女性へこれ以上に無い怒りを覚える。
「畜生……」
思わずそう呟いていた。
そこで思わず頭を振り、考え直す。
支援
(愚痴をこぼしても仕方が無い。今は、衛を守ってやることが大事だ)
(そうなったら、衛を「鳴海孝之」という人に会わせるのは危険かもしれない)
(衛が眼を覚ましたらこのことを伝えるべきかどうか……)
そんな事を考えながら悠人は時計を見る。
時刻は05:55を示していた。
もうすぐ第一回目の定時放送が始まる。
【C-3とC-4の境界線 森/1日目 時間 早朝】
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾】
【状態:精神状態は回復傾向、背中に軽い打ち身、若干疲労】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:休養後、衛と共に新市街へ
2:アセリアとエスペリアと合流
3:出来る限り多くの人を保護
4:蟹沢きぬとトウカをマーダーとして警戒。加えて相当の手練れとも判断。
5:鳴海孝之についてもマーダーの可能性があると推測
6:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
7:マーダー二人については衛にも教えてやるとして、孝之と茜についてを話すべきかどうかは保留。
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
上着は回収しました。
レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
s
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「畜生……」
悠人がそう呟くのを横になっていた衛はハッキリと聞いた。
衛も横になったもののすぐ眠る事が出来たわけで無い。
(悠人さんも、辛いんだ……)
「畜生」という呟きが何を意味するのかわからないけど、その言い方からボクはそう思った。
初めて会ったとき、頼りになるあにぃの様な人だと感じた。
そして死体を見つけたときも遙あねぇが死んだときも自分をやさしく抱きしめてくれた。
それだけじゃなくて、遙あねぇのお墓を作るのも手伝ってくれた。
だから思ったんだ。
悠人さんは優しくて頼りになるだけじゃない、とても強い人なんだって。
そんな悠人さんが口にした辛そうで、悔しそうな呟き声。
それを聞いてボクは遙あねぇが死んだ事を思い出した。
あんなにきれいで優しそうな人が殺されるなんてまちがってるよ……。
そう思うとまた悲しくなった。
だけど、泣いたらきっと遙あねぇも悲しむと思う。
だからもう泣かない……。
そして、そしてボクも悠人さんの足手まといにならないようにしなくちゃいけないと思った。
(遙あねぇ、ボクがんばるから天国で見守っていてね)
誰かに言うでもなく衛は心の中でそう強く誓った。
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:ロ―ラ―スケ―ト】
【所持品:支給品一式、未確認支給武器(1)】
【状態:精神状態は回復傾向、若干疲労】
【思考・行動】
基本方針:死体を発見し遙の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
思考:あにぃに会いたい
1:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
2:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える(どんな人物か情報はなし)。
3:できれば知り合いにも会いたいが、無理に探そうとは思っていない(咲耶、千影、四葉)
【備考】
遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
【備考】
涼宮遙の遺体は「マヤウルのおくりもの」と共にC-4のどこかに埋葬されました。
対馬レオ、園崎詩音の遺体は一緒にC-4のどこかに埋葬されました。
C-4のハイキングコースにFN P90が、遙の遺体埋葬地点の近くに遙のディパック、薬瓶、車椅子が放置されてます。
>>11末尾と
>>12冒頭部分の間に以下の文章が入ります。
衛が遙の死に責任を感じているのはその口調と声のトーンから理解できた。
だから、悠人は言葉を返すや衛の両肩を掴み、衛を自分の方へと向かせる。
そして出来るだけ優しい口調で言った。
小さい少女を逃したネリネは、同じ失敗をするまいと心に決めていた。
次に見つけた相手が稟でなければ、誰であろうと問答無用で殺す。
そう、例え芙蓉楓や時雨亜沙だとしても、例外は無い。
魔法で殺すのは可能だが、不安定で制御が出来ないので頼り過ぎるのは危険である。
出来るだけ支給された槍でどうにかするしかない。
だが、覚悟をしたもののそんな「殺し合い」とは無縁に生きてきたネリネの決意はまだ揺らいでいた。
周囲が明るくなり、太陽が昇り始めてきた。時間的にはそろそろ早朝となる。
それは、あのシアを殺した女が最後に言った定時放送が流れる事を意味する。
恐怖していた。もし稟が死んでいたとしたら。その名が呼ばれる事が怖い。
その恐怖を打ち払うため、ネリネに出来る事は一つしかない。
(とにかく、誰であろうと見つけ次第殺します――)
◇ ◇ ◇ ◇
新市街地から西に向かっていた音夢は、閉じていたブティックをこじ開け品定めを始めていた。
一方同行していたつぐみは、隣にあった金物屋の窓を叩き割り目当ての品物をデイパックに詰め込んでいた。
特に、十二分に武器にとなる「釘撃ち機」が手に入ったのはありがたい。
銃よりも数段劣るが、上手く使えば致命傷を与えられる。もっとも、狙いが安定しないのが難だが。
「とりあえず、これぐらいでいいかしら」
音夢とは利害一致で行動を共にする事にしたが、絶対に気を許す事はしない。
おそらくは相手もそう思っているだろうが、二人は決して『仲間』などではないのだ。
デイパックを担ぐと、つぐみは音夢の元に戻った。
ブティックでは、キャミソールにワンピースを重ねてファッションチェックをしていた。
支援?
「終わったかしら」
「ええ。白を基調に選んでみました」
白が意味するは純白。普段はともかく、二人も殺した人間をイメージするには難しい色だ。
そんな事も構わず、音夢は嬉しそうな笑顔を浮かべると、デイパックから銃を取り出した。
「じゃ、行きましょ。今度は返り血を浴びても大丈夫なように、替えの服を持ちましたから」
可愛げに舌を出す音夢。何も知らない男が見たら、心ときめかせたかもしれない。
だが、つぐみの目には人間の皮を被った化け物としか映らない。
それでも、恐れる必要は無い。音夢が化け物ならば、つぐみとて化け物なのだから。
「ところで、行く当てはあるのかしら?」
「う〜ん」
ブティックを出て、二人は死体があった場所まで戻る事にした。
つぐみの話では、そこに動かせそうな車があるというので、それを移動手段に使おうというのだ。
音夢としては兄を探したいが、その前に処理したい泥棒猫である芳乃さくらを探すほうが重要だ。
だが、この島でさくらがどこにいるかなど皆目見当が付かない。
泥棒猫の予備軍である白河ことりならば、教会で震えている可能性はあるが、いなければ無駄足になる。
残るは学校や住宅街など人が集まりそうな場所。新市街はこれだけ騒いで誰も現れないのだがら除外。
とすれば、学校を経由しつつ住宅街に向かうのが理想的だろう。
「なるべく人の集まりそうな……学校や住宅街なんてどうでしょう」
「そうね。弱い人間なんかは群れるために人の多そうな場所に行くかもしれないわね。ただ――」
喋るのをやめ、つぐみと音夢は建物の陰に隠れた。そして、デイパックからバールを取り出し息を潜める。
音夢も、銃を構えて建物の影から目標を見定める。
「そういった場所には殺し合いに乗った人間が現れるって事よ。貴女みたいにね」
「失礼ですね。私は邪魔だから殺しただけで、無差別じゃないですよ〜だ」
「あら。じゃああのお嬢さんはどうするの? あれだけ殺気立ってるけれど」
「そんなの、殺すに決まってるじゃないですか。あ〜あ、せっかく着替えたばかりなのに」
殺す事への嫌悪感よりも、着替えたばかりの服が汚れる事が嫌であるらしい。
「なら、ちょっと試してみたい事がるのよ」
「えぇ?」
「無駄だったら私が責任持つわ。いらなくなれば殺してしまって構わないし」
そう言って、つぐみは音夢だけに聞こえるように計画の内容を語り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
スクラップ場から南下していたネリネは、立ち寄った新市街でガラスの割れるような音を聞いた。
(誰か居る!?)
辺りを警戒し、慎重に足を進める。掴んだ槍を持ち直し、誰が出てきてもすぐ攻撃できるよう準備する。
一歩一歩前に進む。震える足を必死で立たせ、ネリネは二つの死体が転がる場所に辿り着いた。
「ひッ」
肉の塊となり、無造作に転がる二つの死体はネリネを睨んでいるように思えた。
その光景に、思わず足が滑り転倒する。尻餅をついた拍子に、ぬかるんだ部分に手を突いてしまう。
そのぬかるんだ土は、茶色でなく赤黒く粘々していた。
「いやッ、やァっ」
手を払い必死で泥を落とす。制服で必死に手を拭うが、気持ち悪い感触は拭いきれない。
あれだけの覚悟を胸に誓ったものの、それは現実に存在する死体の前に霞んでしまう。
首の無くなったシアの姿が脳裏に浮かぶ。そして、嗚咽を漏らしてしまう。
「稟さま……助けて下さい」
地面に顔を伏していたネリネは、こみ上げてくるものを必死で抑えていた。
そんな時、転んだときに落とした槍に手が触れる。その硬い感触で心が静まる。
(そうです。助けてもらうのは私じゃない――私が稟さまをお助けするんです)
触れた槍を握り締める。今度こそ覚悟を決める。ネリネは今までの恐怖を払拭した。
それと同時に、ネリネは密かに近付く足音を感じ取った。数は一人。
振り向き立ち上がると同時に、ネリネは相手に槍を突きつける。
「誰です!!」
「ちっ」
振り返った視線の先には、白いワンピースを着た少女がナイフを構えて立っていた。
「もう少し沈んでいれば良かったのに」
残念そうに呟くと、少女はデイパックにナイフをしまい、換わりに銃を取り出した。
「あんまり無駄弾を使いたくないんですけど、しょうがないか」
言うよりも先に、二発の銃弾がネリネに迫る。
一発は腕を掠ったが、本能が痛みを押さえ込んだ。もう一発も直撃をギリギリで回避し、体制を整え突撃する。
「やぁぁ!」
「っく」
支援。
繰り出された槍の一閃をなんとか横に回避して距離をとる。
避けられたのは、掠った方の腕の痛みが攻撃に支障をきたしたからだろう。
焼けるような痛みで泣きたくなるネリネだが、そこは唇を噛んで堪えた。
銃を構える少女とネリネの距離は5m前後。突撃可能な射程圏内である。
一方の少女は、銃を構えたまま動かなかった。
(弾切れ? でも、ブラフの可能性もありますね)
だがそれよりも、少女の顔がずっと余裕なのが不気味だった。
見ようによっては、こちらを誘っているようにも見える。
だが、実際には弾はもう無く、こちらが攻撃した隙を突いてくるかもしれない。
仕掛けるか仕掛けないか、一瞬ではあるがネリネは集中を途切れさせてしまった。
それはすなわち、ネリネの敗北を意味していた。
「動いちゃ駄目よ」
背中から銃口を突きつけるもう一人に気付かなかったのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
「槍とデイパックはあっちに投げてくれるかしら」
つぐみの言葉に、耳の長い少女はしぶしぶ従う。デイパックを投げ捨て、槍を放った。
「音夢。槍を私のデイパックに入れておいてくれるかしら」
「え〜。ま、私は槍なんか使えないから良いですけどね」
愚痴を言いながらも、音夢はつぐみのデイパックに槍をしまう。
「さて、次にお名前を宜しいかしら。あ、私は小町つぐみ。彼女は朝倉音夢よ」
少女に向かって優しく語り掛けるつぐみ。だが、少女は口を閉ざしていた。
そんなネリネの耳に、音夢が銃口を押し込める。
「痛い!」
「わっ。偽者かと思ったけど、本物の耳なんですね〜」
面白そうに耳を触りながら、銃をさらに押し込んでいった。
「もう、鼓膜破れると聞こえづらくなりますよ」
「やッ、ぁ」
徐々に少女の耳に銃身が埋まっていく。その度に、少女の顔が痛みで引きつる。
「ネリネ――です」
「そう。もういいわ音夢」
「命令しないで下さい。全く偉そうなんだから」
そう言いつつも銃を引っこ抜く。ネリネの耳から血が流れるが誰も気にしない。
痛みに堪えながらも、ネリネは音夢を睨んだ。そのネリネを音夢は見下したように笑う。
「さて、ネリネはどうして攻撃してきたのかしら」
「あれは! 貴女方が先に――」
「ああもう! うるさいなぁ」
罵り声を挙げる前に、ネリネの腹部に蹴りを捻じ込む音夢。
「うげぇッ」
「あれだけ、殺気立って、近付けっ……ば! 馬鹿でもない限り! 気付きます……よ!」
言葉の合間に蹴りを放つ。つぐみに命令された苛立ちもあって自然と力が篭る。
再度支援
私怨
「やめなさい音夢」
つぐみの強い口調に、舌打ちを打ちながらも音夢は蹴る事をやめた。
「げほっげほッごっ」
「大丈夫? でも、私達は殺気立った貴女が怖くて警戒してただけよ。ね」
優しくネリネの背中をさする。そんな様子を、音夢は冷めた目で見下さしていた。
(いずれは殺す相手に……たいした役者ですね。ホント)
そんな視線を気にせず、つぐみは言葉を続けた。
「貴女はどうして私達を殺そうとしたのかしら」
「……さまを」
喋りだしたネリネの言葉に耳を傾ける。
「稟さまを、生きて返すため……です」
「ふぅ〜ん。それってさっき泣いて呟いてた名前ですね。男の人? 自分が死んでその人を一人にするんだ」
「それが……なんなのです?」
「ええ。実は私は人を探しているだけでね。邪魔をしないなら殺し合いはしないつもりなのよ」
聞いていた二人は聞き逃したが、つぐみはこの部分だけ『私達』でなく『私』と言い分けた。
だが、そんな些細な事よりもネリネは話の本題に注意を向けていた。
「え?」
「ま、言いたい事は簡単。私達と組まない?」
全てはこの一言のため、つぐみは音夢と一芝居打っていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
死焔
支援
つぐみの言葉を聞いたネリネは、どういう顔をして言いか解からなかった。
そんなネリネに、畳み掛けるように言葉が飛んでくる。
「もちろん。私達は『仲間』になる訳じゃない。お互いの利害が一致する間利用しあうのよ」
その言葉に、ネリネは慎重になる。
「おっしゃっている意味が、まだ良く分からないんですが……私は全員殺すつもりなんですよ?」
「だから、私達は探したい人間がいるだけなのよ。探し人に会えるまで、私達と殺し合いをして欲しくないだけ」
「見つかった後はどうなさるんですか?」
「さぁ、その時はその時ね」
気にする事でもないと言いたげに、つぐみは肩をすくめた。
「……お二人の探している方々は?」
「私は倉成武って男を探している。音夢は――」
「私も兄の朝倉純一って人を探してるの。あと、芳乃さくらと白河ことりって泥棒猫を探して殺すだけ」
「ね、少なくとも貴女の探す稟を殺す事は無いわ」
優しそうな言葉でつぐみは語り続ける。だが、その作った笑顔の裏の蔑む様な目はネリネをしっかり捕らえていた。
「女が三人でいれば、群れたがる人間は警戒を緩めて寄ってくるし、奇襲もしにくいと思うのよ……もちろん、人探しも楽になるわ」
「私はこれ以上人数が増えるのは困るんだけどな〜」
つぐみの言葉に、横槍を入れる音夢。
「そうね。だから三人が限界。これ以上は増やす必要は無いわ……どう?」
解答権をネリネに与えてはいるが、背中に突きつけた銃口らしきものは外されていない。
ネリネに選択の余地は無かった。
(でも、これはチャンスかもしれません)
つぐみの言うように女三人組ならば、ある程度警戒を緩められるかもしれないし、なにより手札として使える。
さっきは失態を招いたが、今後はもっと冷静になって二人を利用すればいい。
そして、稟を保護できたら同行し、四人になったら稟以外を殺せばいいのだ。
「わかりました。仲間ではなくお互い利用しあうと」
「ええ。そういう事」
「良いでしょう。ただ、条件があります」
「何かしら」
「槍は返してください」
「……いいわ。ただし――」
「大丈夫です。その時は遠慮なく撃って下さいな」
背中越しに睨みあうネリネとつぐみ。やがて先に折れたつぐみがデイパックから槍を取り出す。
そして、銃口らしきものを背中から外すとネリネに槍を突き出した。
「どうぞ。よろしくネリネ」
「こちらこそ、頑張って下さいねつぐみさん。朝倉さん」
「音夢で構いません。じゃ、無駄死にしないように努力してねネリネさん」
「ええ。そちらこそ」
三人は本音を織り交ぜながら挨拶を交わす。今度は握手すらない。
その事に気付いた音夢は、気付かれないように笑う。
その中には、友情や友愛など微塵も存在するはずがなかった。
「じゃあ、さっそく移動しましょう」
そう言って、つぐみは工具箱を取り出し車に細工を施す。
数分後、見事車のエンジンがかかる。どうやら車は動くようだ。
だが、出発しようとする二人をネリネは止めた。
「私、服が汚れてしまって。血とか泥とか臭います」
「なんです? 私に対する当てつけ?」
わざわざ音夢の顔を見て文句を言うネリネに対し、すました顔で非難する音夢。
それは、少し前のつぐみが音夢に指摘した内容とほとんど同じだった。
うんざりした顔で、つぐみは手を払う。
「分かった。そこの角にブティックがあるからいってらっしゃい」
「ええ。少々失礼しますね」
つぐみの言葉に従い、音夢と二人でブティックに入るネリネ。
音夢はアクセサリーを選んではネリネに勧めていたが、それを丁重に断った。
先程のつぐみは攻撃しなかっただけでまだマシなのだが、音夢は違う。
面白がるように耳に銃口を捻じ込み、腹部に何度も蹴りを見舞ってくれたのだ。
何着か選び、試着室で着替える。カーテンを閉め、汚れた自分を見て憎しみが湧き上がるのが分かった。
(よくも……よくもこんな)
カーテンの向こうで笑っている音夢、そして見下すような目をしていたつぐみの顔を思い出す。
あの状況下での二人は、ネリネには人間の皮を被った化け物に感じられた。
大切な稟にあんな化け物に会わせたくはない。だが、今すぐ殺すのは非常に難しい。
それに彼女達を殺すのは、自分が味わった以上の苦痛や絶望を与えてやりたい。
(そうだ)
制服を脱ぎ捨て、痣となった腹部を優しく撫でる。
体の痛みはいつか癒えるが、心の痛みはそう簡単に癒えない。
(二人の探し人を私が保護して、それを二人の目の前で……うふふ)
履いていた下着も脱ぎ捨て、店にあった黒い下着に脚を通す。
幸いにも、普段着ていた服と同じものが見つかったのはありがたかった。
(それには、いつでも二人を拘束できるように準備しないといけませんね)
着替え終わったネリネは、カーテンを開け入り口で待つ音夢のもとへ向かう。
「お待たせしました」
「へぇ〜。似合ってるじゃないですか」
先程のやりとりが嘘のように、お互い笑顔で言葉を交わす。
そして数分後、着替えてきたネリネを含む三人を乗せた車は音を立てて動き出す。
「あ、そう言えばそろそろ定時放送ですね」
「私は運転しているから、音夢とネリネでチェック入れて頂戴」
「分かりました」
◇ ◇ ◇ ◇
支援
一人車の準備をしていたつぐみは、計画が思惑通り進んだのに呆れていた。
(二人ともおバカさんね)
ネリネもそうだが、音夢もまんまと自分の考えに乗った事がそう思わせた。
あの状況で殺されてしまうくらいならこちらの言葉に従うであろうネリネと違い、音夢には何の制約も無かったはずなのだ。
疑問なのは、音夢がこの計画にあっさり同意した事だ。彼女にメリットなどないはず。
だが、音夢は特に異を唱えるでもなく、つぐみの計画を邪魔せずに、むしろ事が進みやすいよう芝居をうった。
たんなる気まぐれか、それとも意図的なものか……その真意は解からない。
(それが解かっていて、わざわざ踊ったのかもしれないわね)
どちらにせよ、油断する気にはならない。二人の関係は仲間ではないのだから。
そう、ネリネを引き入れた最大の要因は音夢に対する牽制、可能ならば抑止力にするためだ。
音夢の武器もさることながら、あれでなかなか頭の回転もいい。捨てるには勿体無い。
だが、利害が一致しているからといって、音夢に背中を見せるのは危険である。
いつ気が変わって撃ち殺されるかも分からないのだ。可能性は捨てきれない。
数発程度ならば死ぬ事は無いだろうが、だからと言って的の様に撃たれる筋合いは無い。
そこでネリネを上手く操作して、危険だと判断したら上手く誘導し、ネリネに矛先を向けてもらう。
上手くいけば双方潰しあってくれるし、それが駄目でも逃げる時間は十分確保できる。
だからこそ悪役は音夢に任せて、ネリネとは握手をしなかった。
(やっぱり仲間では無いと言っても、自分より下の存在がいると思えば嬉しいみたいね)
握手をしなかった時の、ネリネを見下す音夢の瞳。
蹴りを入れられた時の、音夢を憎む気持ちを隠さないネリネの瞳。
互いが互いを牽制し、憎んでくれるだけでいいのだ。
そのために、つぐみのすることは徹底して裏方に回り、二人の矛先を自分以外に向ける事。
(さて、今まで以上に気を引き締めないといけないわね)
一呼吸置いて、つぐみは胸に手を当てた。
(必ず見つけるからね……武)
◇ ◇ ◇ ◇
支援
私怨(・з・)
(せいぜい利用させてもらいますよ二人とも。どうせ最後には兄さんと私以外残さず殺すんだから)
(この二人を殺す時は、それぞれの会いたい人間を先に確保して……目の前で殺すのが効果的)
(ま、二人とも武に逢えるまで上手く踊って頂戴ね)
――顔は穏やかに、口は優しく、瞳は儚げに……そうやって、心に潜む本音を巧みに隠す。
――ああ、淑女の嗜みとはかくも醜くおぞましい。
【B-3 新市街中心部 1日目 早朝】
【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9】
【所持品:支給品一式 天使の人形@Kanon、釘撃ち機(20/20)、バール、工具一式】
【状態:健康(肩の傷は完治)】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
1:ゲームに進んで乗らないが、自分と武を襲う者は容赦しない(音夢とネリネの殺人は黙認)
2:音夢とネリネを利用する(朝倉純一と土見稟の捜索に協力)
3:音夢とネリネが利用できなくなったら捨てる。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
【朝倉音夢@D.C】
【装備:S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5】
【所持品1:支給品一式 MI デザートイーグル 10/7+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10】
【所持品2:出刃包丁 コンバットナイフ 九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる。
1.何としてでも泥棒猫のさくらを殺す
2.犯罪者予備軍であることりも殺す
3.純一に危害を加えるであろう者も殺す
4.兄さん(朝倉純一)と合流する
5.殺すことでメリットがあれば殺すことに躊躇は無い
6.つぐみとネリネを利用する(倉成武と土見稟の捜索に協力)
7.頃合を見てつぐみとネリネを殺す
【備考】
白いワンピースに着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
音夢の参加時期は、さくらルートの卒業パーティー直後の時期に設定。
今のところつぐみとネリネを殺すつもりはありません。
支援
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品:支給品一式】
【状態:肉体疲労・精神疲労。腹部に痣。右耳に裂傷】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(朝倉純一、倉成武は保留)
2:いつか音夢の前で純一を、つぐみの前で武を殺して、その後二人も殺す
3:稟を守り通して自害。
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、
制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※三人はそれぞれの知り合いの情報を交換しました。
※車はキーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は満タンです。
百貨店を出た北川と風子は、誰とも遭遇する事無く役場に到着する事が出来た。
外から見た限りでは、役場は意外と狭く、どこか古めかしい印象を受ける。
駐輪場は近くにあったが、自転車が置いてある様子はない。
先客が居るかもしれないので、用心のため裏口から入ろうとしたが、鍵がかかっているため諦める事にした。
建物を半周し改めて玄関の前に戻ってくる。開いてない場合を想定するも、今度はいとも簡単にドアが開いた。
「なんだよ、こっちは開いてるのか」
役場内はシンと静まり返っていて、人の気配は感じない。
案内所に掛けられた振り子時計の音だけが静かに響いている。
その案内板を下から順に眺めていると、二階の案内部分に望みの場所を発見した。
「仮眠室とはありがたいぜ。喜べ風子、布団で眠れるぞ」
「くー」
「……って、すでに寝てたのかよ!?」
ため息を交えつつ、北川は風子を起こさない様にゆっくり二階へと足を運んだ。
来客のために小奇麗にされていた一階とは違い、二階は職員専用といった感じで無機質だった。
北川の足音が二階全体に響き渡る中、一番奥にお目当ての部屋を発見する。
だが、ドアノブに手を掛けた所でガックリとうなだれる。
(鍵が閉まってやがる。せっかく二階まで来たのに)
そんな北川の目に、壁に貼り付けられたメモ書きが飛び込んでくる。
【各部屋の合鍵は、一階の事務室にあります。使用する場合は、申請書に〜】
支援
どうやら入れない訳ではないらしい。風子を床に下ろすと、一階の事務室を目指した。
相変わらず静まり返っているが、逆に言えば周囲に誰も居ない事の証明になる。
協力的な人間ならば会いたいが、百貨店で襲ってきた少女のような人間はお断りだ。
だから、誰も居ないというのはありがたい事でもあった。
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にかドアの立ち並ぶ廊下まで来ていたらしい。
一番手間のドアには『市長室』と書かれた質素なプレートが掛けられている。
その二つ隣に、探していた『事務室』のプレートが掛けられたドアがあった。
ここで最悪の事態も考えられたが、取り越し苦労だったようでドアはすんなり開いた。
部屋を見渡すと、机の上にモニターやらワープロらしきものが並べてある。
それらを無視して、北川は壁に掛けられていた鍵のガラスケースに近寄る。
「仮眠室、仮眠室は……っと。これか」
小さな役場にしてはやけに多い鍵の中から、仮眠室の鍵だけを抜き取る。
そして、急ぎ足で風子のもとへと走っていった。
仮眠室の前まで来た北川を待っていたのは、頬を膨らませた風子だった。
寝ていたから置いていったのだが、一人にさせたのは事実なので潔く謝罪する。
「っと、一人にさせて悪かったな」
「もがもが」
寂しくて頬を膨らませていたと思った北川は、子供じみた自己主張をする風子を笑う。
だが、よくよく近付いてみるとその頬の膨らみの不自然さに気付く。
空気を入れたにしては、やけにデコボコしている。
「なあ」
「んぐむぐ」
「ひょっとして」
「ん、んぐ」
「俺の……食料」
「けぷぅ……馳走様でした。風子としては、もっと栄養のある食事がしたいですが我慢します」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
この日、北川は何度目かの絶叫をあげる事となった。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
支給品であった食料は、あろう事か全て風子の腹の中に収まっていた。
満足気な風子とは対照的に、北川は廊下で崩れ落ちていた。
仮に最後まで生き残ったとしても、空腹では満足に動けなくなる。
こうなると、食料を確保したいところだが、再び百貨店に戻るのは気が引ける。
他に食料が確保できそうなのは、新市街や商店街などだろう。
そんな重要な問題が発生していたとも知らず、風子はのんびりしていた。
「ところで、風子を床に投げ捨ててどこに行ってたんですか? 探検でもしてたんですか?」
「あ、そだった」
崩れていても始まらない。北川はポケットから鍵を取り出すと、手早く鍵を差し込んで仮眠室のドアを開けた。
中は色あせた畳が敷き詰められており、ご丁寧に布団が敷いてある。広さとしては六畳半といった所だろう。
特に北川の目を引いたのは、小さな冷蔵庫と一台のパソコンだった。
一方の風子は、靴を脱ぐと一目散に布団の中に潜り込み、数秒後には寝息を立てていた。
「おいおい。また寝るのかよ」
恨み晴らしに叩き起こしたいが、そんな事をするより先に冷蔵庫の中身を確認するのが大事だ。
電気も通っていて、室内を冷やしているのが静かに伝わってくる。
食料品が入っているのを願いつつ、冷蔵庫の扉をゆっくりと開けてみた。
……だが、北川の願いは即座に裏切られる事となる。
【ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml)】
冷蔵庫の中には、見たことも聞いたことも無いジュースがぎっしりと詰められていた。
数にして十本程度。どれもみな同じ名前が記されている。
どう考えても外れです。本当にありがとうございました。
(ゲルルンジュースってなんだよオイ)
試しに一本手にとってみるが、ジュースにしてはずっしりと重く感じる。
支援
支援
意味不明な名前の下には「缶をぎゅっと握れば出てきます」と注意書きがなされている。
別にそこまで空腹ではないが、風子に全て食べられた事を思い出すと、自分も何か食べたくなる。
とりあえず、腹に入れば構わないのだ。味見のするためプルトップに手を掛ける。が、開かない。
穴に指を掛け力一杯引っ張る。だが、どんなに引いても普通のスチール缶のように軽快な音を立てる事は無い。
「ふぬぅーーーーー! むぉおおおおお! ぬわぁぁぁぁぁああああッ!」
顔を真っ赤にして、最大限の力を振り絞る。指がぷるぷると震え、顔が引き攣り始め所で変化が起きた。
ようやくプルトップが引き剥がされたのだ。数分間の死闘の末、ようやく中身とのご対面となる。
普段するように開いた飲み口に唇を近づけて、缶を斜めに持ち上げる。だが、いくら傾けても中身は一滴も落ちてこない。
「って、缶を握るとか書いてあったな」
だが、スチール缶は想像以上に硬く、握っても握っても中身が出てくる気配がない。
何度か挑戦するが、数分後には缶は床に放置され、隣ではまたも北川が崩れ落ちていた。
「残るはアレか……」
支給品の中で眠るアレを取り出し、北川は真剣に悩んでいた。
「食料なんだよな。ラーメンだし……うん」
だが、百貨店で襲ってきた少女にぶちまけたのは、まさしくちぢれた黒いアレ。
その強烈なイメージが、食べる事を拒否していた。
「最悪の事態に陥ったら……そこまで来たら……食べ……」
宣言してしまえば楽になる。だが、その代償は色々と大きい。
結局、ゲルルンジュースを3本拝借して、しばらくは水だけで過ごす事を決意した。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
支援
次に北川が注目したのは、部屋に置かれたデスクトップだった。
詳しいわけではないが、簡単な操作くらいは可能である。北川は電源を付けてみた。
しばらくすると、見た事の無いOSが起動する。
某ゲ○ツのOSとリンゴのOSしか知らない北川には、違いが良く分からなかった。
チェックが済んで、デスクトップらしきものがモニターに映し出される。
そこには、一つのフォルダとどこかで見たことがあるアイコンしか存在していない。
「あれ、メニューバーとかスタートボタンとか無いのか?」
ネットも繋がっている様子が無い。配線を見ても、モニターと本体しかコンセントに刺さっていない。
「とりあえず、フォルダの方を」
クリックして中身を見ると、プログラムらしきアイコンが画面一杯に敷き詰められた。
一般人程度の知識しかない北川には、この中身が何なのかは判別できない。
そのフォルダを下手にいじる事はせず、デスクトップまで戻る。
「もう一つは……どっかで見たことあるんだよな?」
アイコン自体は、デフォルメされた女の子の顔だ。そこでピンときた。
「あ、そうだ! ちょっと前に発売されてすぐ回収騒ぎになったギャルゲーだ!」
クラスの誰かが、ネットで高額取引されているのを手に入れたと自慢していた。
だが、なぜそのゲームがこのパソコンに入っているか分からない。
定時放送まで少し時間があるので、試しにゲームを起動してみる。
「ありゃ?」
≪警告:ゲームディスクを挿入してください≫
ゲームは起動せず、そのメッセージだけが画面に表記された。
「ゲームディスクって言われてもなぁ」
部屋を見渡すが、それらしきCDは見当たらない。
もしやと思ってゴミ箱の中ものぞいたが、中は綺麗に掃除されていた。
「ま、ゲームやりたい訳でもないし別にいいか」
床に大の字になって倒れる。隣では、風子が体を丸くして寝息を立てていた。
(あ〜。こう見ると普通に可愛いんだがなぁ)
支援
って、自分は何を言っているんだorz
支援
だがその中身は、とことんマイペースで勘違いしまくりで、挙句の果てには食料を食い尽くすひどい奴だ。
そんな風子が寝返りをうって背中を見せた瞬間、北川は思わず生唾を飲んでしまう。
視線の先は、布団から飛び出した黒タイツとスカートに守られた小さな尻だった。
「うひょ!」
風子が呼吸をするたびスカートが擦れ、中身を見せるか見せないかのギリギリのラインを保つ。
黒いタイツが細い足を色っぽくさせ、扇情的なふとももは誘惑するかのように妖しく見える。
自然と、北川の両手がその秘境の先に伸びていた。
(は! いかんいかん!)
慌てて手を引っ込める。そして、反応した下半身を誤魔化すために、両手で股間を抑えながら腹筋を始めた。
(煩悩退散! 煩悩退散! これは超常現象だ! まやかしだ!)
頭の中から風子の顔や脚、タイツやスカートを必死で追い出す。
だが、視線は未だに風子の尻をロックオンしたまま外れない。
(っぐわ! ……くそ! ……また暴れだしやがった……)
股間を押さえつつ、腹筋の速度を上げる。だが、本能は全く収まる気配をみせない。
そんな北川に気付かず、風子は依然布団の中で寝息を立てていた。
そんな時、北川の脳が逆転の発想を閃く。
(逆に考えるんだ、スケベで最低と思われてもいいやと考えるん――いやいやいや! もっと駄目だろ)
あまり使えない閃きだった。
(ちくしょう……ちくしょぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぅぃ!!)
人生始まって以来、今日ほど体が崩れ落ちた日はそうは無いなと、心の何処かでそう思った。
――定時放送まであと数分。北川は我慢できるだろうか……それはまた、別の話。
支援
【B-2 役場の二階の仮眠室/1日目 時間 早朝】
【北川潤@Kanon】
【所持品:支給品一式、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)】
【状態:至って健康。悶々としている】
【思考・行動】
1:定時放送まで仮眠室で待機。そのあとで役場内を探索
2:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)の捜索。
3:あの娘を見てしまった以上、殺し合いに乗る気にはなれない……
4:鎮まれ俺の煩悩!
【備考】チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明
チンゲラーメンを1個消費しました。
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
1:zzz
2:北川さん……お腹すいてます?
【備考】今のところ状況をあまり把握してません。
【備考】
※新市街での深夜から黎明に行われた戦闘は知りません。
※包丁の女の子(レナ)がまだ百貨店にいると思っています。
※役場の仮眠室の冷蔵庫には、ゲルルンジュース750mlが残り6本入っています。
「……鷹野様、もう少しで時間です」
「フフフ、分かってるわよ。急かさなくても大丈夫……。
最初の定時放送は私の仕事……忘れてないわよ」
巨大戦艦のブリッジのような場所に、多数のモニターとソレを監視するオペレーターが所狭しと動き回っている。
司令部は今まさに〆切寸前の雑誌の編集部のような有様だった。
通信関係の責任者から、防衛担当の長まで、各部門のトップがこの空間に集結している。
定時放送。
この殺し合いにおける、ターニングポイントとも言えるイベントが、刻一刻と迫っていた。
特に、参加者一人一人を追っているオペレーターの忙しさはピークに達していた。
首輪から送られてくる映像や音声は彼らの手によって選別され、司令部の中央に設置された巨大モニターに拡大して流される。
映像に関しては、特定の建造物や、重要なポイントにはカメラが設置されているものの、更に監視衛星の力を借りても死角が生まれてしまう。
そのためこの六時間の出来事にしても、全てを追うことは出来ていなかった。
それでも最初の放送の直前だけあって、各参加者の様子を十分に監視する必要があった。
そんな司令部の中心、大きな背もたれが付いた椅子に座していた鷹野が満を持して立ち上がる。
一歩、また一歩と放送用のマイクに向かって足を進める。
「準備は出来ているの?」
「はい、C-5を中心に全エリア、回線は良好。いつでも行けます」
メインオペレーターが鷹野の質問に応える。
鷹野はメインモニターの手前に設置されたマイクの近くで立ち止まった。
室内にいる、彼女を除いた全ての人間の視線が集中する。
無言。
彼女はモニターを見つめたまま何も言葉を発そうとはしない。
それは短いようで、とてつもなく長い空白だった。
支援
一人の傍らに控えていた部下が、沈黙に耐えられなくなったのか、彼女に声をかけようとした。瞬間。
六時を告げるベルが室内に鳴り響いた。
黙り込んでいた鷹野がようやくその重い口を開く。
「……六時になったわね。それじゃあ始めましょうか。
全チャンネル、開いて」
■
一日目、朝六時。
漆黒に染まっていた空は既に青く、日輪も半ば顔を出し、陽光が大地を照らしていた。
遥かなる大空はまだら雲さえ見えない完全な晴天。
あと数時間もすれば、真夏日のようにギラギラと熱い太陽がこの島を包み込むことだろう。
凄惨な殺し合いが行われているこの空間に、これほど似合わない天気があっていいものだろうか。
参加者に与えられた時計、それの短針が丁度文字盤を半周し、そして止まった。
島の中央、山頂部分に設置された電波塔から、各エリアに数台設置されたスピーカーへ連絡が回る。
奇妙なミミズが這い回っているかのように気味の悪いノイズが走った。
――放送が、始まる時間だ。
移動しているもの、眠っているもの、食事をしているもの、様相は人それぞれ。
だが意識のあるものは須らくその声に耳を傾ける。
そして祈った。
最愛の恋人、最良の友人、肉親。
その誰の名前を呼ばれないように、と。
支援
■
――皆、もう待ち切れないって感じね。
フフフ、あなたたちの顔、ちゃんと見えてるわ。
そんな怖い顔しないで……最初の定時放送の時間よ。
今回は私、鷹野三四が放送を担当させて貰うわ。
最初に説明した通り、禁止エリアとコレまでの死者数を、伝えるつもりよ。
忘れていた、じゃ洒落にならないわ。
しっかりとメモを取っておいた方がいいでしょうね。
まず禁止エリアは八時からC-2、十時からF-7。
エリアに踏み込んだ瞬間、首輪が爆発するわけじゃない、けど……安易に近づくのはお勧めできないわ。
最初に首輪が爆発したあの子みたいにはなりたくないでしょ?
こちらとしてもそんな無様な死に方は面白くないもの……。
……ちゃんと聞いていたかしら。
誰が死んだのか、気になるのは分かるわ。
だけど禁止エリアを蔑ろにするのは感心できないわね……フフフ。
――それじゃあ発表しましょう。
開始から今までの六時間の間、既に命を落としたのは、
エルルゥ
カルラ
倉田佐祐理
涼宮遙
水澤摩央
藤林杏
四葉
対馬レオ
竜宮レナ
園崎詩音
白鐘双樹
以上、十一名。
彼ら、いえ彼女ら、と言った方がいいのかしらね。
男の子の死亡者は一人しかいないのだもの。
……駄目じゃない、女の子はしっかりと守ってあげなくちゃ。
この中に知り合いの名前はあったかしら?
大嫌いな相手が早くも命を落として、喜んでいる人もいたりしてね……フフ。
いいわ、素晴らしいペースよ。
全参加者の二割近くがこの六時間で消えたんだから。
……未だに殺し合いを拒否しているあなた。
次に出会う人間が、既に何人も人を殺している殺人者だという可能性があること、忘れないで。
――さてと。
次の放送は今から六時間後、正午の時報代わりってことになるわ。
あなたたちのカンフル剤になるような結果が待っている……かもしれないわね。
それじゃあ、また。
次の放送で会えることを祈っているわ。
■
「……こんな感じかしら」
「鷹野様!!お疲れ様です」
「フフ、そんな大したことはしていないわ。
ああ、コレを聞いて影響が出そうな人物はリストアップしてあるでしょ?
彼らからは目を離さないこと。……これからが本番よ」
彼女は笑った。
その場にいる人間、全ての背筋を凍りつかせるような冷徹な笑みを顔面に浮かべて。
鷹野三四のゲームはまだ始まったばかり。
「もうすぐ、夜が明ける時間ね……」
薄く開かれた窓から星空を見上げながら、私は小さく呟く。
淡い月明かりに照らされた、真っ赤な椅子に身を委ねながら軽く一息。
ごみ山での襲撃からはすでに数時間が経っていた。
耳の長い少女から逃げ果せた後、島の最北西エリアへと移動した私は、すぐに仲間達の探索を再開したのだが……
所詮は小娘の体と言うべきなのだろうか、想像以上の疲労に限界を感じ、工場の一角で休息を取っていた。
おそらくは事務所なんだろう、机や棚の立ち並ぶ小部屋。その窓辺にあった長椅子に体を預け、私は一息を吐く。
これでワインがあれば言う事無しなのだが、それはさすがに贅沢という物だろう。
襲撃と全力疾走とで疲れ果てた頭と体を休ませながらも、私はこれからの事について考え始めていた。
もちろん、最優先は仲間達との合流だろう。
彼等が末期症状へと陥り、暴走の末に死亡する可能性を消すという目的もそうだが、
あの槍を持った少女のような、殺し合いに乗った危険人物に対処するためにも信頼できる仲間で集まったほうがいい。
それから、羽入の事もある。この島に来てから一度も姿を見せない彼女も探さなければならない。
(けど、焦っては駄目ね。死んでしまっては元も子もないもの)
そう、自分が死んでは意味がないのだ。
羽入が姿を現さない以上、ループはできない可能性が高い。
むしろ、やり直しは効かないと考えるべきだろう。犀は常に最悪の方向に転がるのだから。
チャンスは一回だけ。何の予備知識もなし。だからこそ、慎重に行動しなければならない。
(とりあえずは放送までは休憩ね……)
そして放送が終了した後に、仲間達を捜しながら、参加者が集まるだろう新市街へとC-1経由で移動する。
この計画の問題点は一つ。人が集まるということは、危険人物も集まるという事だ。
(身を守るための武器が必要ね)
殺し合いに乗った人間に対する自衛策が無ければ、非力な小娘に過ぎない自分は瞬く間に餌食となるだろう。
先程のように、相手が自分の外見に油断するとは限らないのだ。
「そういえば、あの二つも一応当たりって名目だったわね」
ふと残った自らの支給品へと思考が行き当たる。
一見、使えるようには見えない二つの物品。
しかし、説明書に書かれていた非現実的な説明が事実だとすると、それらは武器になりえる物なのだ。
(考えててもしょうがないわね。そもそも、私自身の人生が非現実的なわけだし……
それに、明らかに人じゃないのまで参加してるんだから、信じてみる価値もあるかもしれないじゃない)
そう自分に言い聞かせながら私は足元に置いていた鞄を開き、中から二つの物体を取り出した。
「ヒムカミの指輪、ねぇ……」
そのうちの一つ、紅い宝石の付いた指輪を私はしかめっ面で眺める。
なんでも、これを嵌めた者は三回だけ炎を放つ事――要は魔法を使う事ができるらしい。
……確かに、宝石の中に小さい炎のような物が見え、神秘的な指輪ではある。だが正直、どう考えても眉唾物だ。
湧き上がる疑心を押さえ込み、右手の人差し指に嵌める。
「まあ、嘘でも損はしないだろうしね」
小さく呟きながらもう一つの物へと目を向けた。
こんな物がどうやって入っていたのか……
などと、おそらく考えるだけ無駄であろう事を思いながら、私はそれをじっくりと観察する。
――それは、私よりも大きな、可愛らしい色の物体だった。
付属していた説明書によると、これは船外活動服――いわゆる宇宙服のような物らしい。
それにしては授業で聞いた月面着陸の話とは、あまりにもかけ離れている気もするが。
ともかく、この宇宙服にも信じられない機能があるらしい……説明書を見る限りでは。
「と……とりあえず、試してみようかしら?」
誰にとも無くそう呟いて、私はその桃色の物体に袖を通すことを決めた。
数分後、私の目の前には見知らぬ少女が立っていた。
白を基調にしたセーラー服に身を包んだ、長い黒髪の少女。
彼女は少し緊張したような驚いたような面持ちで、壁に吊られた鏡の向こうからこちらを覗きこんでいた。
「本当にこんな事ができるなんて」
分厚い服に全身を包みながら、私は思わず感嘆の声を漏らす。
これこそがピンク色をした宇宙服の力。
説明書にはイメージコンバータだの偽装体だの難しい言葉が使われていたが、それは俗に言う変身能力だった。
ただし、誰にでも変身できるわけでは無く、なれるのはこの姿のみのようだし、
精密機器であるがゆえ、水に濡れると故障する危険性が高いらしいのだが……
それでも、この服は充分に“当たり”だった。
「少し暑い気がするけどね」
呟きと共に宇宙服の変身機能を解除する。
私の目の前にピンク色の熊が現れると同時、耳障りな音が耳に届いた。
窓から外を眺めると、空はすでに青い色に変化している。
昇りきった太陽に照らされる赤いソファーに身を委ねて、私はあの女の言葉に耳を傾けた。
【A-1 工場事務室/1日目 早朝】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に祭】
【装備:催涙スプレー@ひぐらしのなく頃に祭、ヒムカミの指輪(残り3回)@うたわれるもの 散りゆく者への子守唄
紫和泉子の宇宙服@D.C.P.S.】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
1)放送を聞く
2)部活メンバー及び羽生の捜索とL5発症の阻止
3)赤坂・大石の捜索
4)2〜3のため、C-1経由で新市街へと向かう
【備考】
皆殺し編直後の転生
ネリネを危険人物と判断(容姿のみの情報)
※ヒムカミの指輪
ヒムカミの力が宿った指輪。近距離の敵単体に炎を放てる。
ビジュアルは赤い宝玉の付いた指輪で、宝玉の中では小さな炎が燃えています。
原作では戦闘中三回まで使用可能ですが、ロワ制限で戦闘関係無しに使用回数が3回までとなっています。
※紫和泉子の宇宙服
紫和泉子が普段から着用している着ぐるみ。
ピンク色をしたテディベアがD.C.の制服を着ているというビジュアル。
水に濡れると故障する危険性が高いです。
イメージコンバータを起動させると周囲の人間には普通の少女(偽装体)のように見えます。
(この際D.C.キャラのうち音夢と杉並は、偽装体をクラスメイトの紫和泉子と認識すると思われます)
純一とさくらにはイメージコンバータが効かず、熊のままで見えます。
またイメージコンバータは人間以外には効果が無いようなので、土永さんにも熊に見えると思われます。
(うたわれの亜人などの種族が人間では無いキャラクターに関して効果があるかは、後続の書き手さんにお任せします)
宇宙服データ
身長:170cm
体重:不明
3サイズ:110/92/123
偽装体データ
スレンダーで黒髪が美しく長い美人
身長:158cm
体重:不明
3サイズ:79/54/80
薄く白みがかった森の中に『少女』がそっと横たわっていた。
昇った太陽の光が木々の隙間から漏れ朝靄の中を通り、その姿を照らし続けている。
白く綺麗な肌と、それを包み隠す純白の衣服は、『少女』の身体から溢れ出た真っ赤な鮮血によって染められていた。
その『少女』を見つめる人間が一人――赤坂衛の姿がそこにあった。
レオを探そうと飛び出したはいいが、結局のところ追いつくことも出来ずに完全に見失ってしまっていた。
あまり鉄塔や神社から離れすぎてもまずい……と考えながら東に進路を向けた矢先の出会いだった。
うつ伏せに倒れこみながらも、最後の想いで掴もうとしたのであろうか。
その先には届くことのなかった『少女』の遺品でもある一冊の絵本が風に吹かれ、パラパラとページがめくられていた。
赤坂はその『少女』の姿から目を離す事が出来ず、悲しみに震える身体を抑えるように唇をかみ締めながら、その絵本を手に取る。
トンファーをバックにしまうと表紙についた埃を軽く手で払いながらぼそりとタイトルを読み上げる。
「マヤウルのおくりもの……か」
そのまま絵本を脇にはさむと、今度は『少女』の身体を両手で起こし仰向けに横たえ直す。
零れ落ちたのであろう涙の跡が、見開かれた瞳と相成って『少女』が如何にこれを大切にしていたのかが赤坂にもわかった。
右手を『少女』のまぶたに当て、優しく撫でながらその瞳を下ろすと、抱えた絵本を『少女』の手に握らせ、再び目を閉じ黙祷を捧げるのだった。
祈りを捧げる赤坂の集中が、ガサリとしたかすかな草を踏みつけたような音によって思わず遮断される。。
何事かと思って振り返る……があたりに人の姿は無い。
距離はわからないがそう遠くでもないように感じた。
(この子をこんな目に合わせた人間だろうか?)
是非はともあれ、もしそうであったらこうしているのもまずい。
そう考え顔を戻すとゆっくりとバックに手を伸ばし中からトンファーを取り出そうと――
「……動くなや!」
刹那、背中へと感じる突き刺すような殺気と共に耳に届いた声。
伸ばした赤坂は腕は、否、全身は怒気の篭ったその声によって動きを止められてしまっていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
相沢祐一と別行動を開始し、金色のツインテールをなびかせながら一路ホテルへと向かっていた大空寺あゆ。
木々に阻まれて視界は悪いが、遠くのほうに動くものが見えたように感じ、慎重に歩を進めていた。
万が一のためにS&W M10を握りしめながら、木に身を隠し足音を立てないように一歩一歩と近づいていく。
そして遠巻きながらもそれが人影であると確認出来たと同時に、あゆは目の前の光景に息を飲んだ。
(最悪さ……)
横たわる女性と思しき人間の姿。
それを見下ろすように立っているのは、がっしりとした体格の男だった。
目を凝らして良く見ると、女性の衣服は赤く染まっていた。
それが服の柄なのかどうなのかは判別できる距離ではなかったが、この状況で他の事を想像するほどあゆは楽観的でもなかった。
そう……あの男があの女を殺した。
あの状況を説明するのにはこれが一番わかりやすいではないか。
見つからないように小さい身体を木に隠し、ゆっくりと呼吸を整える。
(気づかれる前にさっさとおさらばさね……でもその前に)
長居は無用、自ら危機に足を踏み入れる必要もあるまい。
あゆはそう考えその場を後にしようとするも、思いついたようにゆっくりと木から身を乗り出し顔を覗かせていた。
立ち去る前に男の顔を確認しておきたいと考えた為だった――がそれが一番の失敗だった。
こめかみに力をこめ、なんとか顔を捕らえようと薄目を開き男の姿を凝視する。
だが注意深く観察しようとすればするほど、逆に視界がぼやけてしまい上手く確認することが出来ない。
苛立ちながら大きく身を乗り出していたあゆは身体がどんどん前のめりになっているのにも気づかず、木の幹で支えていた両手が朝露ですべり、そのまま地面へと激突してしまっていた。
(やばっ!)
気づかれてしまったののでは、と慌てて体勢を整えながら再び身を隠す。
地面に打ち付けた手が多少痛むのも気にせず、乱れる息を整えながら慎重に顔を覗かせ――そこで男がきょろきょろと周りを見渡しているのがわかった。
(場所までは気づかれて無いみたいだけど、ってまずっ!)
男が背を向けたかと思うとバックに手を伸ばしていた。
バレた? まさか武器を持ってる?
自分は銃を持ってる、相手の姿も見えている。
だがそれが絶対有利というわけでもない。
先ほどの祐一とのやり取りでわかったように、使いこなせる気はまったくしなかった。
相手の武器も力もわからないのだから、扱えない力を持っていたところで宝の持ち腐れでしかあるまい。
だからあくまでS&W M10は牽制用として握っているつもりだった。
そして今なら相手はきっと手ぶらなのだろう。
無作為に逃げて乱戦になってしまうぐらいなら……と覚悟を決めてあゆは叫んでいた。
「……動くなや!」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「……その子、お前が殺したん?」
続けざまに背後から声が聞こえる。
どこか幼さを残した、おそらくは女"の子"の声。
「ち、違う、僕じゃない!」
問題なのは最悪な勘違いをされているだろう、と言う事だ。
赤坂はそう直感し、どこに潜んでいるともわからない相手に向かって声を張り上げて答えた。
背後より向けられた殺気はそのままながら、答えはすぐ帰っては来なかった。
「……ま、そりゃそうさね。殺しました、なんて馬鹿正直に答えるわけないなんてわかってるさ」
「本当だ! 信じてくれ!!」
「残念だけど、どうすれば信じられるって言うのかしらね」
「僕が聞きたい! どうしたら信じてもらえる!?」
再び返って来ない返事に赤坂の首筋に冷たいものが零れ落ちた。
気が付くと首だけではない。背中からも汗が噴出し、じんわりと赤坂のシャツを濡らしていた。
支援
数秒の間――気が遠くなる想いに狩られながらも再び声が赤坂の耳に届いた。
「……そうね、それじゃまずそこで素っ裸になって大の字に寝転がるさ」
「なっ!?」
「そして両足を上げて汚いケツの穴でも見せてワンワン鳴いたら信じてあげてもいいわ」
発せられた侮蔑とも取れる言動に、赤坂の頭が真っ白になる。
始めは躊躇いがちだった口調が、何時の間にか見下したものへと変わっているのがわかった。
自分に逆らうことなど出来ないだろうと言う絶対的優位の立場を自覚した余裕を感じ取れた。
確かにこれは狩るものと狩られるもの。それも一方的な搾取と言っても過言ではない状況では合っただろう。
「……くく、出来るわけないわよね、そんな屈辱的なこと」
「……君が……この子を殺した犯人だと言う証拠も無い」
「お前脳みそ沸いてんじゃないの? もしあたしがそうならこんなグダグダしてる暇があったらさっさと同じようにしてるに決まってんじゃないのさ」
「……」
「で、どうするの? 脱ぐの? 脱がないの?」
「……それで信用してもらえるのか?」
「どうかしら? 少なくとも今あたしはそれが見たいだけなのさ」
笑いをかみ殺した声に耐えながら、赤坂は脳を回転させながら現状の立ち位置に思考を巡らせる。
(可能性としては……一つ、俺のことを誤解していて、虚勢を張った上での行動)
これならば然程問題はなかった。いや、かなり恥かしいという問題はあるが、少なくとも向こうには攻撃する意思が無いのだからやってのければ話ぐらいは聞いてもらえだろう。
(だが、俺を襲おうとしている場合……まず武器が極めて弱いから完全に無防備にしたいと考えている可能性だ)
そこでまた増える問題が、目の前の『少女』を殺した人間と同一人物か否かと言う事だ。
目の前の遺体にはいくつもの銃根が残っていた。
少なくとも銃が武器として配られているのは間違いないだろう。
(確かに言葉のとおり、銃を持っていればすぐさま撃つだろうからこの心配は無いのか……いやまて、残りの弾数が少ない可能性もある。
訓練された人間でもなければ思い通りに当てるなんて不可能だ。それを回避するためにまず自分の安全を確保してから近づいて撃つと言う可能性も……)
……考えれば考えるほどダメだった。
それは刑事ゆえの性か、殺人者であるかもしれないという疑念が消えない以上、今この場で相手の言いなりになるわけにはいかないと言う思考に陥らせる。
(こうなったら……いけるか……?)
木々に反響している為か、声の方向が完全には掴みきれない。
だが声の大きさと気配で大体の距離なら絞り込める。向こうの武器次第だが、向こうが絶対的有利と確信している今なら素手でも何とか押さえこめれるかもしれない――
「――相手は女だから、隙をつけば何とかなる、とでもそろそろ考えてるころかしらね」
その言葉に赤坂の身体は再び硬直していた。
意を決め、まさに振り返り駆け出そうとした直後なのだ。思い描いたことを言い当てられた赤坂の心の中には動揺が広がっていた。
「まあやる気ならそれはそれで構わないけど……一応忠告。襲ってくるって言うんならあたし容赦はしないわよ?」
「言ったろう? 僕は何もしていない。だから襲うつもりなんて無い」
「ったるいわね、んなら態度で示せや」
「……わかった」
交渉の余地は無い、と赤坂は判断する。
シャツのボタンに手をかけゆっくりと脱ぎ去ると、鍛えられた筋肉と幾多もの古傷が顔を覗かせる。
迷うことなく続けざまにベルトに手をかけると、カチャカチャと言った金属音と共にベルトは外され、ズボンをも下ろす。
純白のブリーフ一枚と言う下着姿になりながら、溜息を一つ付いて赤坂は背後へと声をかけた。
「これじゃ……だめかな?」
「同じことは二度も言わないさ」
「さすがに……恥かしいよ」
「信用して欲しいんじゃないけ?」
「……く」
「ん、まあいいさ。それじゃその最後の一枚取ったら考えてやるさ」
帰ってきた返答に言葉が詰まりながらも、それでも譲歩は貰う事が出来た。
これなら少なくとも寝転がっているよりは行動に余裕が出来る。
「わかった……これを下げたら信じてくれよ?」
――覚悟を決めた赤坂が下着に手をかけたその瞬間だった。
支援します
「――――皆、もう待ち切れないって感じね」
天から割れんような音量で、聞き覚えのある、いやどうしたところで忘れ様がない鷹野三四の声が響き渡り始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
いきなり流れ始めた放送に、あゆは時計をチラリと確認する。
針は違うことなくきっかりと6時を示していた。
「くっ、こんな時にっ!」
動揺を抑えながら放送を聞き漏らさぬよう注意をほんの少しだけ天に向けた――
だが、赤坂はその隙を見逃してはいなかった。
ほんの少しあゆが漏らした後悔の念。
そして同時に聞こえた草木を踏む音。
下着に入れかけた手を一瞬にして出すと、瞬く間も無く地を蹴って駆け出した。
あゆも遅れながら自分に向かって赤坂が走ってきていることに気づいた。
正確な場所はわかってるはずは無い。
だからあたしのほうが絶対有利なんだ!
……だが襲われるかもと言う恐怖があゆに冷静な判断をさせず、構えたままであったS&W M10のトリガーを勢いよく引き絞っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
支援します
走り出した赤坂の目に映ったのは、金色の長い髪を左右で縛り上げた小柄な体格の少女の姿。
(子供っ!?)
その外見に対して考える間も与えず重い音が響き渡り、同時に自分の数メートル隣の木に何かが当たるのを横目で追ってしまっていた。
目を逸らしたのはほんの一瞬だったものの、目の前にいた少女の姿は忽然と姿を消していた。
(逃げたのか? ……いや気配はある)
起こった事実に赤坂は一瞬で決断を下し、踵を返すと自分の元いた場所……『横たわる遺体のある場所』へと駆け出していた。
向かっては見たもののこの視界では居場所がばれている自分が不利なことは否めない。
とりあえずは戦況を立て直そうとバックを持ち衣服に手を伸ばそうと――そこで二発目の銃声が響き渡った。
(くそっ! やはり銃を……って事はあんな小さな女の子が!?)
銃弾は見当違いの方向に飛んでいったものの、その音に硬直した身体が体勢を崩し、伸ばした手は届かない。
悩んでる暇は無いと結論付けた赤坂は服をひとまず諦め、あゆのいる方向とは反対側へと駆けていった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ったく最悪な状況で放送が流れたわね……おかげでよく聞こえなかったじゃないのさ」
赤坂が逃げ去ってから数分後――あゆは周囲を警戒しながら脱ぎ捨てられた赤坂の衣服へと近づいていた。
「禁止エリア――って言ったっけ? F-7ってのはなんとか聞こえたけどCのどこだったのさ。ホント胸糞悪い」
苛立ちを覚えながら赤坂のシャツを全力で蹴りつけると、追い払った男の顔が目に浮かんできた。
「……あいつあんな格好でこれからどうするつもりなんさね」
苦笑しながら地図をしまいこむと、知らず知らずのうちに視線が『少女』の遺体へと向かっていた。
結局あの男がこの『少女』を殺したのかどうか定かではないが……それでも最後に自分へ向かってきた時の殺気を見ても警戒しておいたほうが良いのは間違いないだろう。
「まあ、あたしが何か言える義理も無いけど……おやすみ、とだけ言っておくさ――って、え?」
支援(・3・)
見下ろしているのは出会ったことも見たことも無い女性。
だが、その『少女』が手に抱えていたものには見覚えがあり、思わず凝視していた。
以前孝之が欲しがっていてプレゼントしたものに見え……間違いなかった。
孝之の顔が思わず浮かび上がる。
バイトの使えない同僚、ムカツクヘタレ虫、だが一緒にいると何故か心が落ち着くアホ面した男。
「すぐおっちんでそうだけどね」
少し寂しそうな笑みを浮かべ自重気味に笑う。
それでも放送に彼の名前が挙がらなかったことに安堵している自分がいて、どうしようもなく怒りが込み上げてきていた。
「くっ……なんか腹立つわね畜生」
言いながら『少女』の手に握られた絵本へと手を伸ばし、それを持ち上げようとして――やめた。
本を抱いて眠る顔がとても安らかで純粋に美しいと思った。
そのパーツを勝手に取り除いてしまうことが、とても罪深いように思えたのだ。
「まああの糞虫に会えたら一応この絵本のことだけでも教えてやるかね」
ずれた絵本を元の位置に戻すと、静かに目を閉じ、「じゃあね」と一言呟くとその場を後にしていった。
――あゆは知らない。
目の前の本が、自分がプレゼントした本であると言うことを。
目の前の『少女』が孝之の恋人である遥だと言うことを。
(・3・)
支援します
【C-4森下部 /1日目 朝】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(3/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式・ランダム支給品x2(あゆは確認済み)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:早めにホテルに移動(Cエリアからの脱出)
2:殺し合いに乗るつもりはない
3:基本的にチームを組むつもりは無い
【備考】
あゆは放送の一部を聞き漏らしています。
そのため禁止エリアがC-4と言う事は知らず、Cのどこかであるとしかわかっていません。
赤坂が遥を殺したかもしれないと疑っています(赤坂と遥の名前は知りません)
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(・3・)
しえん
紫苑さま
(・3・)
下着一枚と言う珍妙な格好で走りながら、赤坂は考えつづけていた。
放送で流れた死者の名前。
読み上げられた名前が真実かどうかは実際図りかねる。
適当に名前を羅列して、殺し合いを加速させようと目論んでいるのではないかとも考えた。
だが、実際に目の前で死人を見てしまった事からその考えは一瞬でかき消される。
少なくとも死人は出ているのだ……だったら嘘の情報を自分達に与える必要も無いはずだ。
だからきっとあの放送は真実だったのだろう。
「レオ君……ごめん……」
追っていた対馬レオの名前が呼ばれてしまった。
自分が彼を止めきっていれば、死ぬことは無かったのではないか。
後悔の念が赤坂の中を何度も襲う。
それは古手梨花を救えなかった事を知ったあの時と同じように――
その想いが赤坂を突き動かしていた。
「後悔してるだけじゃ、何も出来ない……だからっ!」
大石も、先ほど別れたトウカもアルルゥも放送を信じるならばまだ無事なはずだ。
そして古手梨花と言う名前も呼ばれていない。
ならば自分に出来ることは、そう考え出す。
まずは鉄塔に戻りトウカとアルルゥと合流、そしてすぐさま大石と古手梨花を探し出す。
残してきたトウカやアルルゥの事も心配ではあったが、トウカの強さは良く知っている。
「あのうっかりさえ無ければ……大丈夫だよな」
一抹の不安を抱えながらではありながらも、赤坂は南へと進路を変え足を動かし続けた。。
【C-4森上部 /1日目 朝】
【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷、ブリーフのみ着用】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:鉄塔に向かいトウカ・アルルゥと合流
2:大石さんと合流したい。
3:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
4:落ち着いたら服を取りに戻りたい
備考
赤坂の衣類はC-4の遥の遺体のそばに放置
あゆが遥を殺した人間である可能性を考えています(あゆと遥の名前は知りません)
予定された時間に流れた放送は、ハクオロと観鈴の心に衝撃を与えていた。
観鈴は、大勢の人間が死んでしまった事を嘆く。
一方のハクオロは、第一に探したかった女の名前と、頼りになる部下の名前に崩れかかる。
(エルルゥ……カルラ)
傷つき倒れていたハクオロを助けてくれた薬師のエルルゥ。家族として自分を支えてくれた彼女。
時に怒られたりもしたが、家族だからこそ叱ってくれたのは、痛いほど解かる。
その眩しい笑顔と、強い瞳に二度と視線を交わす事は出来ない……
大切な部下の一人で、奔放な言動と行動で何度も困らせてくれたカルラ。
彼女と契約しても、そのやりとりは変わらなかったが、彼女は常にハクオロを助けてくれた。
その強く美しい微笑と、高潔な瞳に二度と視線を交える事は出来ない……
出来れば、ハクオロは全てを投げ出したかった。何度迎えても身内の死は辛い。
だが、彼はその後ろ向きな迷いを振り払う。
(私が全てを投げ出したら、アルルゥや観鈴はどうなる)
まだこの地で踏み止まらなければならない。まだやるべき事はたくさんある。
「ハクオロさん……」
倒れそうになったハクオロを傍で支えながら、不安そうな目でハクオロを見上げる。
すぐそばまで来ているかもしれない死が、観鈴に恐怖を植え付けていた。
だが、その恐怖に必死で耐えながらも、ハクオロを一生懸命ささえ続けた。
(こんなに震えている観鈴にまで心配されるとは)
ハクオロは静かに心を落ち着かせ、観鈴の頭を撫でた。
「あ」
「大丈夫だ。ありがとう」
「ぁ、うん。よかった」
その言葉を聴いた途端、観鈴は目に涙を浮かべ座り込む。
そんな観鈴を、今度はハクオロが支え抱きかかえる。二度目のお姫様抱っこだ。
支援(・3・)
(私は観鈴と共に生き残る。そして、この主催者に償わせてみせる……それまでしばしのお別れだ)
脳裏に浮かぶ二人の影に別れを告げ、ハクオロは大地を踏みしめる。
「わ」
「あの建物で少し休もう。もしかしたら、誰か居るかもしれんしな」
二人は、映画館の入り口へと向かっていった。
入り口までの数分間、思考を切り替えたハクオロはある点について考えていた。
(カルラ程の戦士でも死んでしまう。まさか彼女よりさらに強い者がいるのか?)
それと同時に、もう一つの可能性を懸念していた。
(観鈴やあの学校に居た男女のような銃があればあるいは容易いか)
少なくとも、ハクオロ達のいた国ではあんな武器は見たことが無い。
その油断が、カルラの死を招いたのかもしれない。
(考えても解からないが、ともかく銃には十分警戒しなければ)
ようやく建物の扉が見えてきたところで、ハクオロは人の気配を感じ足を止めた。
「? ハクオロさん?」
「そこに居るのは誰だ!」
その呼びかけから暫くして、映画館の扉がゆっくりと開いてゆく。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
建物から出てきたのは、また見たことの無い服を着た女性だった。
◇ ◇ ◇ ◇
時間は少し遡る。
エスペリアは映画館に到着すると、その扉を開け中へと進んだ。
防音機能を備えた壁と絨毯が、彼女の足音を消し去る。
正面ロビーはそれなりに広く、傍には上の階に続く階段を発見した。
「ここは、どのような施設なのでしょうか」
映画の存在を知らないエスペリアにとって、映画館の存在は理解出来なかった。
気になるのは、壁に掛けられた大きな絵と、さらに奥がある事を示す扉の二点。
大きな絵が何を意味したものかは分からない。なので、まずは扉に手を掛けることにした。
通常より厚い扉を開けると、そこには綺麗に並べられた椅子と、一部色の違う壁があるだけだった。
細かい部分は違うが、似たような施設がファンンタズゴリアにあったことを思い出す。
「ここは、会議室の様な場所なのでしょうか?」
それならば、この椅子の多さにも納得がいくし、隣のロビーとこの部屋を隔てる厚い扉も頷ける。
室内を探索するが、他の通路に出る扉以外、特に気になるようなものは発見できなかった。
(あ)
着た道を戻るため向きを変えたエスペリアの目に、とある一室が映る。
この部屋を見渡せそうな窓に、見たことの無い黒い物体が置いてあるのが分かる。
とりあえず、次はあの部屋を調べようと、この部屋に入った扉の場所まで戻った。
ゆっくりと扉を開けロビーに出たエスペリアは、外から誰かが近付く気配を感じた。
数は分からないが、着実にこの場所を目指している。
(人間と戦う事は出来ません。ですが)
万が一襲い掛かってくるような事があれば身を守る。それを心に決めていた。
扉越しで待機していると、外から呼びかけるような声が聞こえる。
しばしの沈黙。敵か味方かは判断できないが、ここにいる事は知られているらしい。
相手は先程の呼びかけ以降、こちらが動くまで沈黙を守り続けている。
やがて意を決したエスペリアは、扉に手を掛け外へと足を踏み出す。
そこにいたのは仮面の男と、その男に抱きかかえられた少女の二人だった。
男も少女も、武器を構えている様子は無い。そこにきて、ようやくエスペリアは言葉を発した。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
二人の状態は、無意識のうちにエスペリアの警戒を緩める事となった。
なぜなら、抱きかかえていたのでは武器を握れないのだから。
自己支援
私怨
外で待っていた男女を招き入れ、エスペリアは改めて挨拶した。
「先程も申し上げましたが、私の名前はエスペリアと申します」
「あ、か、神尾観鈴です」
「ハクオロだ。怒鳴ったりしてすまなかった……君一人か?」
「はい。この建物に来てから、ずっと一人でいました」
「そうだったか」
「それと、すぐに姿を見せず申し訳ありませんでした」
「いや、君の判断は正しい。相手が分からない内は仕方ないさ」
「そう言って頂けると、助かります」
頭を下げると、ハクオロは笑って済ませた。
お互いに情報交換していたが、途中からハクオロは困ったような顔をし始めていた。
「ところで、ここはどういった場所なんだ?」
「それが……私にもハッキリとした答えは申し上げられないんです」
「と言う事は、エスペリアもこの世界の住人ではないんだな」
「はい。私のいた世界はファンンタズゴリアと言われ、そこではラキオスと言う国に所属していました」
「私はトゥスクルと言う国の皇を任されていた。どうにも説明が付かないな……」
「あ、あの!」
情報交換中、二人のやり取りを黙って聞いていた観鈴が口を開く。
「二人とも、映画館が何なのか分からないんですよね?」
その質問に、二人は同時に頷く。観鈴は知る限りの知識を語る事にした。
「えっと、この奥の部屋に椅子がたくさんあるんです。そこで映画を観るんです」
「確かに、椅子が並んでいましたね」
「ふむ」
「で、部屋の一番奥がスクリーン……じゃなくて、えっと、なんだったかな」
頭を叩いて必死で思い出す。だが、上手い言葉が出てこない。
支援
支援
「と、ともかく、そのスクリーンって場所に記録した風景とかを映せるんです」
「ほお」
「何やら不思議な技術ですね」
(そっか、そう言うのって私達の世界では機械でやってるから不思議じゃないんだ)
最後の「記録した風景が写せる」に反応したハクオロは、興味深そうに観鈴の話に耳を傾けていた。
彼のいた世界では、そのような便利なものはなかったからだ。
一方のエスペリアも、その夢のような技術に素直に驚いていた。
「それは、私達にも使えるものなのでしょうか?」
「あ……えっと、難しいかもしれないです。ただ、機械に詳しい人がいれば、その人が教えてくれるかも……」
「そうか。まぁ、聞く限りでは今の私達ではどうにもならんのだな」
「はい。ごめんなさい」
元気に語っていた観鈴の口調が段々と沈んでいく。
「いや、助かったよ観鈴」
「ええ。勉強になりましたよ」
「は、はい!」
そのうわべだけでない、真心のこもった礼を受けて、観鈴の顔は笑顔に戻った。
それに安心したハクオロは、居住まいを正してエスペリアに向き直った。
「私達は少し休憩したら新市街へ向かうつもりだ。良ければエスペリアも一緒にどうだ」
「そうですね……」
言葉を交わしたところ、数時間前に出会った大石と違い、この二人ならば十分に信頼できる。
最初はハクオロの仮面のせいで不審なイメージもあったが、逆に中身はしっかりとしていた。
それに、観鈴の中にある澄んだ瞳はエスペリアを強く惹いていた。
「はい。こちらこそ喜んで」
「にはは。ぶい」
「ああ。ぶい」
二人のやりとりに、エスペリアは思わず吹き出してしまった。それを慌てて咳払いで誤魔化す。
「それでは、出発前に少し周囲を見てきます。その間、お二人は休憩を取っていて下さい」
そう言って、彼女は扉の向こうへと消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
支援
自己支援
佐祐理を殺した往人は、放送が終わって安堵していた。
探していた観鈴の名前は呼ばれない。それだけが、彼を安心させていた。
(待ってろ観鈴……)
禁止エリアにチェックを入れた往人は、島の中心へと足を進めていた。
地図と自分の方向感覚が正しければ、現在地は北の方になる。
より多くの人間を殺すつもりだが、先程の銃声を聞いて近付いてくるものはいない。
もしかしたら、逆に銃声を警戒して遠くに避難した可能性もあるのだ。
とりあえず目立つ建物を経由しつつ、新市街へ向かうルートをとる事にした。
やがて、路面がアスファルトから土に変わり始めた頃、一つの建物が姿を現した。
「映画館か」
自分の人形劇と違い、その迫力は大したものなのだろう。
それでも、人形劇が劣るとは一度も思った事は無かった。
(いつか、観鈴を連れて映画館に行きたかったな)
そんな未練を振り払う。自分がするべき事は、そんな娯楽とは程遠い位置にあるのだ。
これから続けていくのは人殺しと言う、自分を主演にしたつまらない人形劇。
早足で建物に近付くと、そこにはエプロンを着用した女性がこちらを見据えて立っていた。
(何時から気付いてた)
映画館を発見した時にはいなかった。おそらく、往人が未練に惑わされていた時だろう。
お互い慎重に距離を詰めていく。その手にはコルトM1917を握り締めて。
「国崎往人だ。聞きたいことがある」
「エスペリアと申します。お聞きしましょう」
往人は舌打ちをした。未練を振り払うときに発した殺気はエスペリアを警戒させていた。
今までと違い、雑談をする雰囲気などどこにもない。だから、単刀直入に聞いた。
「神尾観鈴と言う少女を探している」
「……存じています。と言ったら」
その言葉を聞いた途端、往人はエスペリアの額に向けコルトM1917を構えた。
「どこで会った。いや、今どこに居る」
「……武器を向ける方に、喋ると思いますか?」
「言わないなら吐かせるだけだ」
冷たい声と共に照準をあわせ、コルトM1917から弾丸が飛び出す。
その高速で襲い掛かる塊をエスペリアはギリギリで回避する。
数秒後、エスペリアの白く美しい頬から焼けた様な臭いと、鮮やかな血が流れ落ちる。
至近距離で避けられた事に動揺するも、往人は続けてもう一発の弾丸を放つ。
だがそれより先に、エスペリアの持つ木刀が往人の腕を撃ち払う。
「ぉぐッ」
「させません!」
運が悪い事に銃は握った手から滑り落ち地面に投げ出された。
急いで拾おうとするものの、先に気付いたエスペリアに銃を蹴飛ばされる。
銃を手放した動揺と、痺れるような一撃は往人に隙を生んでいた。
「はぁぁ!」
「くっ」
その隙を狙い、エスペリアは木刀を突き出してきた。地に転がり、間一髪でその一撃を避ける。
突きを避けられたエスペリアの腹部に隙間が生まれる。急いで体勢を整える。
だがそれよりも早く、起き上がった往人が勢いを利用して、鋭い廻し蹴りをエスペリアに放った。
突然の蹴りが腹部に直撃するも、崩れ落ちる前に足目掛けて木刀を振り下ろす。
腹部のダメージで力は入らなかったが、振り下ろした場所は脛だったのが幸いした。
痺れるような痛みにしゃがみ込む往人。その頭上に、エスペリアは木刀を当てた。
「私の勝ちです」
「くっ」
◇ ◇ ◇ ◇
崩れ落ち、顔を地面に向ける往人を見つめながら、エスペリアは悟られないように安堵する。
映画館を出て行く前のハクオロの助言がなかったら最初の一発で自分は死んでいた。
観鈴に見せてもらったそれは、地面に転がるよう銃と形がほとんど似ていた。
最初はよく理解できなかった銃の説明も、身をもって体験すれば十分に理解できる。
(こんな恐ろしい武器があるなんて)
さらに恐ろしいのは、この銃を突きつけた男は観鈴を知らないかと聞いてたのだ。
警戒して建物で休んでいると伝えなかったが、どうやら正解だったようだ。
「今度はこちらからお聞きします。なぜ神尾観鈴を探しているのですか?」
「護るためだ」
「ならば、どうして私に銃を撃ったのですか?」
「簡単な事だ」
戦う直前と同じ、冷たくて悲しいような声で往人は呟く。
「観鈴を生かして返すため、他の全員を殺す。それだけだ」
「……それは、観鈴さんが望んでいる事ですか?」
「違う。俺が勝手にやっているだけだ。アイツにこんな風に汚れた事はさせられない」
「貴方が誰かを殺して、観鈴さんは喜ぶと思いますか? 観鈴さんは――」
「分かっている!!」
「!」
初めて聞く、往人の心の叫びだった。
怒りを込めつつも、辛そうな表情でエスペリアを睨みつける。
「きっとアイツは望まない。こんな事を望んじゃいない……けどな、憎まれ罵られる方がいいのさ」
「え?」
「観鈴が……死ぬくらいならな」
エスペリアの目には、往人の顔が泣いているように見えた。
彼の悲痛な思いは、エスペリアにも伝わっていた。
「それでも、私は観鈴さんが『どこに向かったか』教えられません」
「どうしてもか」
「はい。ただ、貴方を殺す事もしません」
「なんだと?」
「貴方を殺せば、観鈴さんが悲しむから。だから、考え直すまでどこかに閉じ込めてさせて頂きます」
自己支援
支援再び。
瞬間、支援重ねて。
溢れ出る慈愛の表情で、エスペリアは往人に諭した。
木刀を構えているものの、すでに彼女の心は戦闘態勢を解除していた。
「……分かった」
観念した顔で、往人は笑みを浮かべる。言いたい事が伝わり、エスペリアも胸を撫で下ろす。
「なら」
そして、ほんの一瞬だけ気を許したエスペリア目掛けて飛び出す何か。
「悪いが死んでもらう」
次の瞬間、エスペリアの喉から鮮血が乱れ飛び散っていく。出血場所は、貫通して空洞が出来た喉。
往人の手には、柄だけ残ったスペツナズナイフが握られている。
理解を得られたと思い込み、今だ燻っていた殺意に気付いたときには、全てが遅かった。
「かはっ」
「苦しいだろう。せめてもの情けだ」
地面に落ちていたコルトM1917をエスペリアの額に押し当てる。
「俺は見ての通り『良い人』じゃないんだ。じゃあ――」
「エスペリア!!」
コルトM1917がエスペリアの額を抉るのと、映画館から出てきた仮面の男の叫びは同時だった。
「まだいたのか……ッぅ」
痺れる腕と足が往人をよろめかせる。戦いのダメージがかなり残っている証拠だ。
(さすがに連戦は辛い。ひとまず逃げるか)
エスペリアの傍に投げ出された木刀を取り上げて、急ぎデイパックにしまう。
そして、迫ってくる仮面の男を注意しつつ、往人は懸命に足を動かしその場から立ち去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
扉の向こうから、銃声が聞こえたの事にハクオロだけが気付いた。
映画館をあらかた調べ、ロビーに戻っていたハクオロは、傍にいる観鈴にそっと語りかけた。
「観鈴、ここで待っていてくれ」
「は、ハクオロさんは?」
「私は外を見てくる……エスペリアが心配だ」
そう言うと、ハクオロは勢いよく扉を開け外に出る。
そこには、紅い小さな池の中で倒れるエスペリアと、こちらに気付いて逃げる男の姿があった。
「エスペリア!!」
男のほうも気になるが、まずはエスペリアのもとへと駆け寄った。
「しっかりしろエスペリア!」
必死に呼びかけるが、彼女の瞳は光を失いつつあった。
「喉が……なんて事だ」
薬師であるエルルゥならば良い知恵もあったかもしれないが、ハクオロにはそんな知識は無い。
やがて、その綺麗な瞳が鈍い色になるまで時間は掛からなかった。
エスペリアの亡骸を抱きかかえるハクオロの背後に誰かが立つ。
「エスペリア……さん?」
「観鈴! どうして――」
「ハクオロさんの叫び声が気になって。それで」
「そうか。エスペリアは……もう」
「うっ、ぐす、うぅ」
大粒の涙が、観鈴の瞳から紅く染まった池に滴り落ちる。
だが、どれだけ泣いても紅く染まった色は薄まる事は無かった。
ハクオロは静かにエスペリアを抱き上げ、立ち上がる。
「一度映画館まで戻ろう」
泣きながらも、観鈴は力一杯頷いた。泣いても泣いても涙が枯れる事は無い。
ようやく出会えた新しい仲間との別れは、あまりにも早すぎた。
それに、観鈴にとってはエスペリアの死が、この島で初めて直面する『死』だったのだ。
観鈴の心は徐々に、だが確実に押し潰されていく。
無言のまま映画館まで戻る。観鈴が扉に手を掛けたところで、遠くから銃声が鳴り響いた。
「あの方向は」
銃声の聞こえてきた方角は、先程の男が逃げた方向と一致する。
瞬時に考えをまとめると、ハクオロは強い口調で観鈴に問いかけた。
続・支援
自己支援
「少しの間、一人でいられるか?」
「え?」
「あの方向、エスペリアを撃った男が逃げた方向と一緒だ。
もしかしたらまた誰かが危険な目にあっているかもしれない。だから、助けに行きたい」
その真剣な口調に、泣き続けていた観鈴は驚く。
(そうだ。これ以上悲しい思いをしたくない)
決心した観鈴は、デイパックからMk.22を取り出しハクオロに差し出す。
「これは……」
「それで、困っているが助かるなら」
泣いていた時とは違い、小さな決意が秘められているのは言葉で解かった。
観鈴の手から、しっかりとMk.22を受け取る。
「ハクオロさん!」
「ん?」
「絶対! 絶対に帰って来て下さい!」
「ああ! 約束する!」
そう宣言すると、ハクオロは銃声のもとへと駆け出した。
そんな彼の背中を観鈴は手を振って送り出す。
それは、今の観鈴に出来る精一杯の空元気だった。
◇ ◇ ◇ ◇
博物館から東に歩いていた二見瑛理子は、ある程度歩いたところで足を止めた。
そして、念のため博物館から調達した道具で簡単な罠を仕掛けると、雑木林にもたれ掛かり地図にチェックを入れ始める。
先刻に流れた定時放送は腹立たしかったが、決して聞き逃しなどはしない。
怒りはあるが、そんなものに身を任せては破滅するだけなのだ。
それに、放送内容は妙な点が多く含まれていた。
(あの言い回し……私達をどこかで見ている可能性が高い)
一番最初に鷹野が発した言葉の中に「ちゃんと見えている」と言う内容が確かにあった。
また言葉の端々に、他の生存者の動向を諌める内容も気になる。
(この首輪に監視カメラ? いえ、それでは首輪をはめられた本人が記録できない)
となると、不特定の場所に監視カメラや監視衛星といったもので記録している可能性の方が高い。
ならば、監視カメラや衛星の届かない……例えば地下や監視カメラの死角などはどうだろう。
瑛理子は首にはめられた首輪に指を滑らせる。金属のようだが、判断するのはまだ早い。
(せめて鏡があればいいけど、触感だけでは構造の把握は出来ない)
だが、今までの考察が当たっているならば、確実な事が一つある。
(盗聴……されている)
こんな空から丸見えな位置ならともかく、密室や地下での詳細を知るのはかなり難しい。
そこで考えられるのが、首輪に盗聴器が埋め込まれている事だ。
映像が無くても、音声が拾えれば何をしているかが分かるし、不穏な行動をする者を見つけやすい。
(もし私の考えている通りならば、この首輪で主催者を欺ける)
そこまで考えて、瑛理子は咄嗟に身を隠した。そして、進行方向を覗き見る。
視線の端に、進行方向から誰かが走ってくるのが確認できたからだ。姿からしておそらく男だろう……数は一人。
(どうみても友好的には見えないわね)
走るその手には拳銃が握られ、黒い無地のシャツは返り血が付着していた。
その目は警戒しているだけか、それともただ単に緊張しているだけなのか、どちらにせよ目の奥が鋭く光っているのは事実。
あんな状態の人間に接触するほど、瑛理子は愚かではなかった。
段々とお互いの距離が縮まる中、トカレフTT33を握り締めた瑛理子はやり過ごすため息を潜める。
穏やかなだった空気が、一瞬にして豹変する。心なしか、風も強くなってきた。
そして、そのまま男が過ぎ去っていくのを堪えていた。男と瑛理子を隔てるのは、立ち並ぶ樹木のうちの一本。
瑛理子の緊張は、最大限に達していた。呼吸が苦しくなり、心臓の高鳴りが押さえられない。
どんな些細な音をたててもいけない。ただひたすらに息を殺し続けた。
そして、男は瑛理子に気付かぬままその場を去っていった。
自己支援
背を向けているからどこまで去ったのかは判断できない。だが、足音が聞こえなくなったのは確かだ。
緊張を解す様に、落ち着いて深呼吸を繰り返す。
「そこにいたか」
突然の声に、瑛理子心臓は潰れそうなくらいの衝撃を受ける。
振り返ると、銃口を向けた男がこちらを冷たい目で見据えていた。慌てて銃口を男に向ける。
二人とも並んで立っているのに、どう言う訳か男が巨大な姿に見えた。
「どうして私に……」
息を殺して、物音一つ立てずにやり過ごしたはずだ。自分に落ち度はない。
「俺も最初は気付かなかった。けど」
二人の間を突風が通り抜ける。
「目にゴミが入ってな。一度後ろを振り返ったんだが……その長い髪が致命的だったな」
その言葉に、瑛理子は偶然と外的要因を考慮できなかった事を後悔した。
「で、これからどうなるのかしら」
あくまで冷静に、そして毅然とした態度で男を睨み返す。もちろん銃口は男に向けたままだ。
「聞きたい事があるだけだ」
「それにしては、ずいぶん殺気立ってるじゃない。それに」
瑛理子は返り血を浴びた黒いシャツに目線を落とす。
「それはどういう状態でそうなったのかしら」
「……これは、傷ついた仲間を抱きかかえて――」
「嘘ね」
男の言い分を切り捨てる。瑛理子には、その血がどうなって男に飛び散ったか理解していた。
あれは抱きかかえて付いた血ではない、誰かを殺害して浴びた血なのだと。
「頭の回転がいいのは考えものだな」
男の発する言葉は、どれも息苦しくなるものばかりだ。
「聞きたい事もあったが、下手に騒がれると厄介だ。その前に死んでもらう」
「悪いけど、素直に殺される訳にはいかないのよ」
銃口を互いの額に合わせて、暫く睨みあう。先に口を開いたのは男だった。
「質問に答えたら見逃す……と言ったら?」
男の言葉を、瑛理子は脳内で何度も繰り返す。
支援。
(どう考えても、見逃す保障は無い)
こちらが先にトリガーを引く技術があれば良かったのだが、残念ながらそんな実力はない。
だが、このまま分の悪い戦いを始めても厳しい事に変わりはない。
(仕掛けた罠は一度きり)
幸いな事に、足元に這ってある幾つかの茶色のロープは感付かれていない。
「考えさせてくれる?」
ゆっくりと、男から距離を外す。それに気付いた男は、追い詰めるように瑛理子に近寄る。
「悪いが、逃げるつもりなら容赦なく撃たせてもらうぞ」
そしてまた一歩、二人の立ち位置がズレていく。
(まだ、あと少し)
徐々に男が自分の立っていた位置に接近する。銃口を構えた男からは気付いた様子はない。
(いまだ!)
男が瑛理子のいた位置に立った瞬間、しゃがみ込んで足元に這わせたロープを両手で引く。
すると、周囲に這っていた何本ものロープが複雑に絡み合い、男の足を絡めとる。
「なっ」
瑛理子が逃げるのだと勘違いしていた男は、勢いよく転倒してしまう。
その隙に、瑛理子は雑木林の中へと逃げ去っていった。
「待て!」
地に伏していながらも、男は冷静に銃を発砲してきた。
「あッ」
命中はしなかったものの、発砲音に気を取られ地面に隠れた根に足を取られてしまう。
すぐに立ち上がろうとしたが、転んだ拍子に足を捻ったらしく上手く立ち上がれない。
そんな事をしている間に、男はロープを解きこちらへと向かってきていた。
瑛理子は、なんとか立ち上がると必死に走り出す。
◇ ◇ ◇ ◇
女の罠にはめられたと気付いたが、怒りを覚えたりはしない。
相手がその気ならば、往人は相手を殺すだけだ。
今だ痺れる足に加え、転倒して痛めた膝が厄介だが、我慢できない痛みではない。
空となった薬莢を地面に捨て、弾を一発ずつ装填する。
女はまだ視界に小さく残っている。この距離ならばすぐに追い詰められる。
だが、無意識に罠を警戒してか全力で走る事は出来ない。
気持ちを落ち着かせ、あせらず距離を詰めていくことにした。
数分後、逃げる速度が急激に落ちた女を射程圏内に入れるため、往人は銃を構えて近付いた。
「鬼ごっこは終わりだ。死んでもらう」
警戒に警戒を重ねつつ、女との距離を再び詰める。肩で息をする女は、もう逃げようとはしなかった。
そして女も覚悟を決めたのか、荒い息を吐きつつ往人を睨みつけ銃を構えた。
(この距離ならば外さない)
目測して10m程だったが、往人には命中させる自信がある。
女の射撃の腕は知らないが、大丈夫だと自分の勘が告げていた。
「じゃあな」
そして、雑木林に乾いた音が響き渡る。
だが、火を噴いたのは往人のコルトM1917でも、女の銃でもなかった。
焼けるような痛みが手の甲に走るのを感じた往人は、慌てて周囲を確認する。
そして、雑木林の向こう側……遊歩道から銃を構える仮面の男を確認した。
あの仮面の男は、エスペリアを殺した時に外に出てきた男だ。
「そこまでだ」
仮面の男は銃をこちらに向けつつ、女を庇うように移動し往人と正面から対峙する。
自己支援
「エスペリアを殺したのはお前だな」
銃を構えたまま、仮面の男は静かに問いかける。
往人も素人ながら銃の扱いが上手かったが、この男も相当だった。
質問に答えない事を解答とみなしたのか、仮面の男は言葉を続けた。
「なぜ殺した」
怒りの篭った声が、往人の耳にしっかりと届く。
(そんな事を聞いてなんになる)
もはや、自分のすることが誰にも受け入れられないであろう事は理解していた。
だから、その胸に秘めた決意は語らないし、誰の訴えにも耳を貸さない。
「どうしても殺し合いを続けると言うならば」
沈黙したままの往人に向け、仮面の男は断言する。
「私はお前を――殺す」
◇ ◇ ◇ ◇
ハクオロは、目の前の男を注意深く警戒していた。
すでに乗っている人間なのだとしたら、何を仕掛けてくるか解からない。
だから、場合によっては相手を殺す事も決意していた。
死ぬわけにはいかない。なぜなら、観鈴と約束したのだから。
「探している奴がいる。そいつのために全員殺す」
黙っていた男が返してきた言葉は、予想以上の答えだった。
「お前は、その誰かのために人を殺すのか」
Let's支援
「ああ」
「それは、その誰かが望んでいる事なのか」
「いや、アイツは……はこんな事……はは」
自分自身に言い聞かせたのか、詳しい名前は聞き取れなかった。
ハクオロは男の奥底に眠る人間性に賭けてみる事にした。
「私達も人を探している。そして、この島から脱出するつもりだ」
ハクオロの言葉に、男と後ろの少女が驚きの声を挙げる。
「まだ仲間は私ともう一人だけだが、必ず生きて帰る」
「そんな事……」
「無理ではない。可能性はいくらでもある。だから、お前も殺し合いはやめろ。誰かを探すのは私も手伝う」
男はただ黙って、ハクオロを値踏みするように視線を動かす。
やがて、観念したように銃口を下げる。
「銃はしまう。探し人を教えるから、デイパックを開けて良いか?」
「……ああ」
男の態度に警戒しながらも安堵する。殺さないならそれに越した事はない。
約束通り銃をしまい、黙々とデイパックから名簿を探る男に、ハクオロは思わず声をかける。
「良ければ、私の名簿を――」
「喰らえッ!」
デイパックから取り出した木の塊をハクオロ目掛けて投げつける。
ヒトデの先端がハクオロの顔面に直撃し、その隙に男はこの場から急ぎ足で離脱していく。
「悪いが、そんな確証も無い事を信じるつもりはない!」
そう言い残して、男は去っていった。
残ったのは、地面に落ちた木彫りの塊とハクオロと少女だけだった。
「逃したか……」
憂いを残してしまうのは心配だったが、追いかけるより先にする事があった。
「大丈夫か」
後ろの少女に向き直り、警戒する少女に名前を名乗る。
「私の名前はハクオロ。良ければ名前を聞かせてくれないか」
「二見瑛理子よ。助けてくれた事、感謝しているわ」
まだ警戒は残っているが、敵意がある訳ではない。
少女の方も、こちらに敵意がないのは理解しているようではある。
(仮面は気になるけど、あんな危険を犯してまで私を助けたのは興味深いわね)
少女の注意が自分の仮面にあるのに気付いて、微笑みかける。
「この仮面は外れなくてな。気にしないでくれ」
「ええ。分かったわ」
「これから私は仲間のところに戻る。良ければ一緒に来ないか?」
「私は……痛ッ」
瑛理子は足を押さえてしゃがみ込む。無意識に、ハクオロは瑛理子の足に手をやった。
「ふむ……捻っていたのか。君が良ければ背負うのだが」
「平気よ。気にしないで」
だが、言葉とは裏腹にふらついており、目を離せば転んでしまいそうな危うさだった。
声をかけるよりも先に、瑛理子を背負うハクオロ。
「ちょっと」
「放って置くのも気が引けてな。悪いが一緒に来てもらうぞ」
文句を言われる前に、早口で捲し立てる。
「感謝するわ」
背中でそう呟く瑛理子の声は、どこか恥ずかしげだった。
◇ ◇ ◇ ◇
映画館に戻ったハクオロと瑛理子が扉を開けると、ロビーには観鈴が待ち構えていた。
「お帰りなさいハクオロさん!」
「ただいま観鈴」
ちゃんと戻ってきた事に安堵した表情を浮かべる観鈴。
そして、今度は背中にいる瑛理子に声をかける。
「あの、私は神尾観鈴って言います」
「二見瑛理子よ」
無愛想な瑛理子に怖がる観鈴だったが、それよりも伝えたい事があったため不安を飲み込んだ。
「それよりハクオロさん。これ!」
そう言って観鈴が差し出したのは、全員にはめられているはずの首輪。
それがなぜか、観鈴の手の中に存在している。一番に驚いたのは瑛理子だった。
「貸して!」
ハクオロの背中から降りて、観鈴から首輪を受け取る。そして、様々な角度から検証する。
だが突然周囲に視線を配り、小さく舌打ちをすると溜め息混じりに言葉を発した。
「とりあえず、どこか休める部屋に行きましょう」
それを見た観鈴は、映画館の地下にあった医務室へと、二人を案内した。
医務室に入った瑛理子は、足を引きずりながら部屋中を動き回る。
そして壁や床を叩いたり、棚を念入りに調べたりなど始めた。
その間、観鈴はハクオロに首輪を手に入れた詳細を説明していた。
観鈴の話では、死んだエスペリアの亡骸が霧となって消えて、首輪だけが残されたと言う。
詳しい事情は分からないが、観鈴の言葉が事実ならこの首輪はエスペリアのものでもある。
一方の瑛理子は、会話に混じらずに足の応急処置が終わり次第同じ様な事を続けていた。
「あの、瑛理子さん?」
「ちょっと待ってて」
観鈴の呼びかけも流し、瑛理子がそんな意味不明な行動を続けて数分後、ようやく瑛理子は椅子に座った。
そして、唖然としていたハクオロと観鈴を近くの席に座らせ、デイパックからにメモを取り出した。
訳が分からない観鈴だったが、ハクオロは何かに気付いたように自分もメモ用紙を取り出した。
支援gogo
自己支援
「ところで、二人は他の誰かと出会わなかった?」
『重要な話は筆談で。おそらく盗聴されている』
突然メモ紙に書かれた内容に、観鈴は「えっ」と驚きの声をあげてしまう。
それをフォローするため、ハクオロは会話を引き継いだ。
「ああ、私達は一人と会話して、二人を目撃した」
『それは確かなのか?』
棒読みではなく、感情の起伏をつけ、会話を続けているというの状態を疑わせない。
(へぇ、おかしな仮面着けてるけど、この状況下で頭の回転が早いのは確かだわ)
瑛理子と同じようにメモに筆を走らせながら言葉を紡ぐ。それに瑛理子は頷いた。
「私は五人を目撃したけど、二人はそのうちの一人に殺されてしまったわ」
『この首輪に盗聴器とセンサー……つまり、私達の居場所を特定する機能があるの』
エスペリアの残した首輪を指差しつつ、瑛理子は言葉を続けた。
「生きてる人間もいたけど、一緒にいると面倒だから逃げてきたのよ」
『定時放送でのタカノの言葉覚えてる? 監視と盗聴を前提にしないと成り立たないのよ』
その内容に、ハクオロは記憶を呼び覚ます。言われてみると確かにおかしい。
あの言い方はまるで、近くで見ている様な喋り方だった。
(戦場には慣れていないようだが、この状況下でこれだけ知恵が働くとは……凄いものだ)
「そうか。ともかく、私達は仲間を探している」
『と言う事は、この部屋も監視されているのか?』
だが、瑛理子は首を横に振った。
「そうね。私も仲間を探しているのよ」
『調べてみたけど、それらしい機械も装置も見当たらなかったわ。監視にも限界があるみたいね』
「あ、あの! 良かったら一緒に来てもらえませんか!?」
『この首輪って、他にどんな機能があるんですか?』
会話についていこうと、観鈴も必死で言葉を綴る。
その文字を見た途端、瑛理子は何かを思いついたのか、夢中で首輪を調べ始めた。
「……そうね、せっかく頼りになりそうな人を見つけたんだし。よろしく頼むわね」
会話を続けながらも、瑛理子は慎重に首輪の周囲を指でなぞり、小さな隙間に目を光らせたりした。
自己支援
(そうだ。首輪の機能はおそらくまだ他にある……よく気が付いたわね)
そして首輪をテーブルに置くと、メモに調べた結果を述べた。
「さて、じゃあまず今後の行き先を決めないといけないわね」
『駄目ね。詳しく調べるには機材が足りないのよ。おそらく、工場ならあるいは』
地図で最北西に位置する工場を指差す。だが、男が逃げたのもこの方向だ。
それに、首輪の調査と同時にアルルゥの探索もしなければならない。
だが、足を挫いた瑛理子を単独行動させるのも相当危険である。
暫く思案した後、ハクオロは意を決して結論を述べた。
「さっきの男と遭遇するのもまずいからな。北のプールとやらを経由して新市街を目指すのはどうだろう?」
「わ、私も大丈夫です!」
アルルゥの捜索が十分出来ないかもしれないが、もしかしたら北にいる可能性もあるのだ。
観鈴とて、往人を探したい気持ちはあるが、ハクオロに付いていくと決めた以上、一緒にいたい。
その可能性に賭けて、ハクオロと観鈴は瑛理子と同行する事を決意した。
「そうね。それなら時間差であの男と会わないで新市街にも入れるわ」
納得した表情で、瑛理子は出発の準備を整える。足は挫いたが、歩けないわけではない。
そんな彼女を、観鈴が隣に立って支える。ハクオロも、出発の準備をし始めた。
だがそんな空気を乱すように、腹の虫が三匹同時に声を揃えて鳴いた。
なんとなく、気まずい空気になってしまうなか、思い出したように観鈴はデイパックを開いた。
「これ……おはぎなんですが食べますか?」
三人の視線が、デイパックから飛び出てきたおはぎに注目する。
「頂くわ。こういった状況で糖分はありがたいし」
「じゃ、私お茶を用意しますね!」
「うむ、腹が減っては戦ができ……げほっげほ!」
先につまみ食いをしたハクオロが、一口でおはぎ飲み込んだ途端、苦悶の表情を浮かべ倒れる。
そして、喉を必死に押さえながら、床で痙攣し始めた。
「ハ、ハクオロさん!?」
「まさか毒!? ん、これって」
おはぎに付いていた紙切れを、二見瑛理子は取り上げて目を通す。
自己支援
注意書き:激辛タバスコ入りのおはぎが一つあります。注意してね。
「と、言う事みたい。つまみ食いなんかするからよ」
「に、にはは」
「まぁ、命に別状は無いみたいね」
「た、頼む……み、水をく、くれない……か」
悶絶するハクオロを他所に、二人は久し振りに気持ち良く笑う事が出来た。
最初は怖いと思っていた瑛理子も、笑えば普通の女の子だった。
その事実が、観鈴の心を安心させていた。
(私頑張るから……一緒に帰ろうね。往人さん)
◇ ◇ ◇ ◇
思わぬ追撃を受けた往人は、ゆっくりと新市街を目指していた。
もしエスペリアの言う事が真実だったのなら、観鈴はこちらにいる可能性が高い。
東から足を進めてきたが、それらしき影とは遭遇しなかった。
だが、映画館にいたエスペリアは出会ったと言い切ったのだ。
ならばおそらく、観鈴と出会ったのは西側の可能性が高い。
痺れる腕を押さえ、ひたすらに前を見て歩く。
まだ殺せる。どれだけ非難されても殺せる。全てはたった一人の少女のために。
恨まれようが、罵られようが、絶縁されようが、死んでしまう事に比べたらなんでもない。
(待ってろ観鈴。必ずお前を帰してやるからな)
次の標的と観鈴を探し、往人はただただ歩き続けていく。
朝陽で出来た彼の影は、ゆらゆらと揺れ彷徨っていた。
支援支援
【エスペリア@永遠のアセリア 死亡】
【D-3 映画館地下一階医務室/1日目 朝】
【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:Mk.22(7/8)、オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:精神疲労・肉体もやや疲労、喉がヒリヒリする】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:ふ、二人とも……水を、頼む
1:観鈴と瑛理子と工場へ向かう(北部を経由して)
2:アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4:観鈴と瑛理子を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※観鈴からMk.22を受け取りました
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
自己支援
【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、予備マガジン(40/40)】
【状態:健康、元気一杯】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ハクオロと瑛理子と行動する。
2:往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識
※ハクオロにMk.22を預けました
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。
【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 8/8+1】
【所持品:支給品一式 ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【状態:左足首捻挫】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1:ハクオロと観鈴と共に工場に向かう。
2:仮に仲間を作り、行動を共にする場合、しっかりした状況判断が出来る者、冷静な行動が出来る者などと行動したい。
3:(2の追記)ただし、鳴海孝之のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。
4:鳴海孝之には出来れば二度と出会いたくない。
【備考】
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を考えています。
【D-3 雑木林(D-3東部)/1日目 朝】
【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾49、木刀、たいやき(3/3)@KANNON】
【状態:精神的疲労・肉体疲労大。右腕と左膝を打撲・右手の甲に水脹れ】
【思考・行動】
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害
3:朝倉音夢・仮面の男(ハクオロ)・長髪の少女(二見瑛理子)を危険人物と認識
4:相手が無害そうなら観鈴の情報を得てから殺す
※木彫りのヒトデ@CLANNADは、雑木林(C-3とD-3の中間辺り)に放置されています。
「もう…ともりんったら、何も本気で蹴らなくても良いじゃない」
「う、うるさい!ああでもしなければ今頃私の貞操は…」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「へ、減るぞ!初めては大切な人に…って何言わせるんだ!」
「あ、ともりん初めてなんだ〜。大丈夫、私に任せてくれればめくるめく快楽の世界へ連れてって、あ・げ・る♪」
「や、やめろ!手をわきわきさせながら近づいてくるな!」
そんな心温まる?会話は鷹野の放送によって中断された。
『それじゃあ、また。 次の放送で会えることを祈っているわ』
放送が終わった後も二人の間に会話は戻らない。
藤林杏、対馬レオ───それぞれの知人の命が永遠に失われたのだから。
智代は唇に血を滲ませ、もし自らの未熟を呪い俯く。
エリカは淡々と死者の名前に線を引き、放送の内容を書き写していく。
その線は対馬レオの上をなぞる時も揺るがなかった。
そして数分後エリカは放送の内容を全て書き終えた。
「ここでグズグズしても仕方ないわ。ともりん、そろそろ行くわよ」
それでも智代は顔を上げない。
「何を…言ってるんだ?」
ともすれば聞き逃しそうになるほどの声でつぶやく。
「なんで…お前はそんな平然としてるんだ?11人も死んだんだぞ?私の友人の杏やお前の知り合いの対馬レオって人も死んだんだぞ!」
次第に感情が高ぶってきたのか声が大きくなり始める。
「ええ、そうね」
エリカは表情を崩さずに返す。
「私たちがのんきに遊んでる間にあいつらは死んだんだぞ!なのになんでそんな…」
智代は遂にはエリカに掴みかかり詰問する。
「うるさい!」
それまで無表情に徹していたエリカの表情が歪む。
「分かってる!分かってるわよそんなこと!」
「分かってない!」
エリカの言葉をさえぎり智代は叫ぶ。
「私が…!私が温泉に行こうなんて言い出さなかったら!お前と遊んでいなかったら!」
バシイッ
尚も続けようとした智代の頬をエリカが打った。
普段の智代なら、高校生の女子に打たれたところで倒れ臥すような無様は晒さなかっただろう。
だが今の智代は精神的に弱っていた、そして何よりも───霧夜エリカの平手打ちは、重かった。
それは日々のたゆまぬ努力で付いた重みであり、自身が背負ったフカヒレの、対馬レオの、顔も知らぬ10人の死者を背負った重みだった。
「分かってるわよ!私がうまく立ち回れていたら最初にフカヒレ君は死なずにすんだのかもしれない!」
倒れ臥した智代の上に馬乗りになり搾り出すような声で告げる。
「この島に連れて来られてからの立ち回り次第では誰か助けれたのかもしれない、でも私達は誰にも会えず、誰も救えなかった。それは事実」
少しの間を置いて、大きな声で宣誓する。
「だから私は糧にする!フカヒレ君も対馬君も藤林さんも、全員の死を成長する糧にして!乗り越えて!最後にはあのふざけた連中に思い知らせてやるわ!霧夜エリカを敵に回す事の恐ろしさをね!」
◇ ◇ ◇ ◇
「―――――!――――――――――――!」
エリカのビンタの所為で智代の耳は麻痺していた。
倒れた自分の上にのり何か言っているのはわかる。
智代はエリカの歪んだ顔を見て彼女もまた友の死を悼んでいたことを知った。
『なんで…お前はそんな平然としてるんだ?』
自分の頭の悪さに吐き気がする。なんて酷いことを言ってしまったのだろう。
「─―――――――――――!」
エリカはまだ何か言っているがまだうまく聞き取れない。
言葉を返さない私に業を煮やしたのか彼女が掴みかかってくる。
私としても謝りたかったが生憎と彼女の言葉がわからない。
だからせめて彼女に何をされても受け入れよう。
そう思い目を閉じる。
予想していた衝撃は来ず、ただ滴のみが智代の体を濡らした。
◇ ◇ ◇ ◇
彼―――――相沢祐一は焦燥していた
放送で倉田佐祐理の名前が呼ばれたことに。
放送で対馬レオの名前が呼ばれたことに。
立ち止まって泣き叫びたかった。
自分の無力さに怒りの雄たけびを挙げたかった。
だが、止まれない。
対馬レオが遺した遺品を無駄にしないために。
確実に近くに居るであろう霧夜エリカを止めるために。
メモを取ることも忘れ、自分の無力さへの怒りを、大切な先輩を失った悲しみを、この瞬間にも誰かが殺されているかもしれない恐れを、全てを走る力に変えて殺人鬼を探すために駆ける。
素人が森の中を全力疾走すれば転ぶのは必然である。
彼は木の根につまずき、地面に顔をに打ちつけ、一瞬意識が遠のく。
だが止まらない。
支援致します
支援
「だから私は糧にする!」
走る
「フカヒレ君も対馬君も藤林さんも」
奔る
「全員の死を成長する糧にして!」
疾る
「乗り越えて!最後にはあのふざけた連中に思い知らせてやるわ!」
辿り付いた先で彼が見たのは
「霧夜エリカを敵に回す事の恐ろしさをね!」
銀髪の少女の上にのり、今にも掴みかからんとする金髪の少女─霧夜エリカの姿だった。
支援致します
ラスト支援にして集中しに逝ってきますorz
支援致します
◇ ◇ ◇ ◇
もし、智代がもう少し強ければエリカが智代を押し倒し、馬乗りになることは無かったのだろう。
もし、エリカがもう少し弱ければ智代はエリカの事を誤解することは無かったのだろう。
もし、祐一がもう少し冷静であったなら、エリカが智代を殺そうとしていると誤解することは無かったのだろう
もしも土永さんの仕掛けたボイスレコーダーを祐一が見つけなかったら。
もしも祐一が智代とエリカの会話をもっとうまく聞き取れていたら。
もしも放送で祐一・智代・エリカの知人の名が呼ばれなかったら。
結果はもう少し違った物になったのかもしれない。
だが現実は非情で───相沢祐一は、霧夜エリカの事を殺人鬼と認識した。
走り寄ってくる祐一の姿に、智代は目を閉じていたが故に、エリカは背を向けていたが故に気づかない。
走り寄ってくる祐一の足音は、智代は耳がうまく聞こえなかったから、エリカは激昂していたので聞き逃した。
故に───祐一の刃がエリカの背に突き刺さることを止める者は居なかった。
支援!!
◇ ◇ ◇ ◇
体にのしかかって来る霧夜エリカだった物の重みに違和感を感じた智代が見たのは、死体からナイフを引き抜く祐一の姿だった。
「危ない所だったな」
そう言いつつ作られた祐一のぎこちない笑みは、智代には殺人鬼のそれにしか見えなかった。
こちらに向かって伸ばしてくる手は自分を押さえつけようとする悪魔の手にしか見えなかったし、語り掛けて来る言葉は狂人のそれにしか思えなかった。
さらには確実に失われていくエリカの体温が、智代から思考力を奪っていく。
結果として、倒れている智代に手を差し伸べようとした、唯それだけの、純粋なる善意の手が智代に触れる直前。
彼女の恐怖は頂点に達し、咄嗟に彼女に支給されていた銃の引き金を引いた。
智代の恐怖を殺人鬼に襲われていた余韻だとしか認識していなかった祐一に、その弾丸を避ける術は無かった。
傍らにある祐一とエリカの死体、智代に向けて飛び散った血と肉片、手に残る銃の反動と硝煙の香り。
それら全てが現実として智代に重く伸し掛かった。
支援致します
【霧夜エリカ@つよきす 死亡】
【相沢祐一@Kanon 死亡】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 5+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:茫然自失】
【思考・行動】
??????
※智代は体に血を浴びています。程度は後続の書き手に任せます。
※デイパック+支給品一式×2、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガンがB-6に放置されています。
支援致します
降り注ぐ光が徐々に強くなり、空は白みを帯び始めている。
海から流れてきた塩の香りが、輪郭を持たずに辺りを彷徨う。
川から程近い住宅街の一角で、朝日を受けて五つの長い影が伸びていた。
「よっぴー!」
全く予測だにしない方向から、大声で呼び掛けられる。
前原圭一とその仲間達は、一人の例外も無く弾かれたように振り返った。
見ると自分達と同じ年頃の少年――伊達スバルが、こちらに向かって駆け寄って来ていた。
その手にはしっかりとバットが握り締められている。
「――止まれ!」
「…………っと」
岡崎朋也はスバルの手元にある凶器を認め、迷う事無く制止の声を放った。
それを受けたスバルが、慌ててその場で足を止める。
朋也からすれば、見知らぬ男が突如凶器を持って現れたとしか取れぬ状況。
そして自分の武器は手榴弾だけしか無いのだから、まずは距離を詰められないようにせねばならなかった。
圭一や遠野美凪も、武器を携えた相手にどう対処すべきか即座出来ず、本能的に身構えていた。
スバルと圭一達は、20メートル程の距離を置いた状態で対峙する。
張り詰めた空気が辺りに漂い、重い緊張が落ちる。
だがそこで、佐藤良美が場の沈黙を打ち破った。
「ま、待って朋也君! あの人……私の知り合いなの」
「え?」
呆けた表情を浮かべる朋也をよそに、良美はつかつかとスバルの方へと歩み寄る。
隠し持った武器も構えず、警戒する素振りもまるで見せず、無造作に。
それを黙って見ている訳にもいかず、圭一達は慌てて良美の後を追うのだった。
* * *
「……じゃあスバルはまだ誰にも会ってないんだな?」
「ああ。オレが会ったのは、お前達が始めてだぜ。何処行っても誰もいねーし、参ってたトコだ」
良美のお陰で事無きを得た圭一達とスバルは、共に住宅街の中を歩きながら情報交換していた。
スバルは誰とも会っておらず、特に有益な情報は得られなかった。
だが、圭一は思う。
この調子でいけば、十分にこの殺人遊戯を破壊出来ると。
何しろ僅か6時間足らずで四人もの信頼出来る者達が、仲間となってくれた。
やはり殆どの人間は理不尽な殺し合いを拒絶し、他の道を模索すべく動いているのだ、
朋也の話によれば殺し合いに乗った人間もいるらしいが、それもごく僅かだろう。
「……お近づきの印に、進呈します」
「――へ?」
圭一が少し間考え込んでいると、美凪が白い封筒をスバルに渡していた。
スバルは意味が分からないといった様子で、目をパチクリさせるばかり。
最早おなじみとなった光景を眺め見ながら、圭一は柔らかい笑みを浮かべた。
大丈夫――今まで自分が会ったのは変わった者が多いけれど、皆善良な人間だ。
それに頼れる部活メンバーも、この島に来ている。
彼らも自分と同じように仲間を集め、今頃は大集団を結成している筈。
首輪へどう対処するか、この孤島からどのような移動手段で脱出するかという問題は残るが、きっと何とかなる。
絶対、皆と一緒に生き延びてみせる。
(鷹野さん……見てやがれ。こんな殺し合いは、俺達が絶対に食い止めてやるからな!)
◆
良美は話し込む圭一達の後ろに追従する形で、黙々と歩を進めていた。
スバルの登場は、自分にとって間違いなく僥倖だった。
対馬レオと蟹沢きぬが参加している此度の殺人遊戯で、スバルが殺し合いに乗ってしまう可能性は限りなく低い。
何しろルール通りにいけば生き残れるのは一人だけなのだから、大切な者と共に生き延びようと思ったら、主催者に抗う他ないのだ。
そう考えてゆけば、スバルは『駒』として信頼するに足る相手だと言える。
それに、利用価値という面から見ても満点に近い。
スバルなら知り合いである分信用を得るのは容易いし、思い通りに操るのも難しくないだろう。
加えてスバルの卓越した運動能力は、有事の際これ以上無い程頼りになる。
外敵が現れたとしてもスバルに任せれば、きっと上手く迎撃してくれる。
まだまだ幼い面が目立つ圭一や、怪我人である朋也などとはまるで比べ物にならぬ程、使い勝手が良い。
彼なら十分に役目を果たしてくれる筈。
自分の手駒としての、役目を。
後は――ちらりと、美凪の背中に視線を移す。
(……遠野さんを何時殺すか、だよね)
◆
――そして、六時。
圭一達が商店街の近辺まで歩いてきたその時。
この島で未だ生き残っている参加者全てにとっての、絶望の鐘が打ち鳴らされた。
支援。
「ちくしょぉぉぉっ!!」
圭一は道沿いに聳える塀を、力任せに殴り付けた。
右拳が痛み、血が滲み出たが、問題無い。
今感じている心の痛みに比べれば、まるで問題無い。
竜宮レナと園崎詩音が死んだという事実が、精神をじわじわと削り取ってゆく。
自分は今まで何一つ、現実を理解していなかった。
殺し合いに乗っている人間がいる事自体は知っていたが、実際に襲われた事が無い所為で実感は無かった。
押し付けられたルールに大人しく従う者など、ごく少数だと思っていた。
しかし――現実は違う。
僅か6時間の間に、11名もの人間が命を、希望を、人生そのものを奪われてしまった。
そしてその内の2名は自分の知り合いだ。
この殺人遊戯では、自分も、自分にとって大切な者達も、例外無く死の対象なのだ。
「クソックソっ……クソォッ……!!」
圭一は己の激情を拳に込め、ただひたすらに壁を殴り続ける。
何も感じなくて済むように、何も考えなくて済むように、一秒でも悲しみを忘れられるように、一秒でも現実から目を逸らせるように。
どうしてレナが、詩音が、死ななくてはいけなかった?
二人共とても良い奴だったのに、どうして?
どうして自分達がこんな理不尽な殺し合いを強要されなければならないのだ?
何もかもが、納得出来なかった。
圭一は少しでも気を紛らわすべく、今まで以上に大きく拳を振り上げる。
「……前原さん!」
「――――っ!?」
支援!
支援。
そこで、腕をがっしりと掴まれた。
振り返ると、これまで見た事の無いくらい真剣な顔で、美凪がこちらを見つめていた。
どこまでも広い、母なる海を思わせる瞳。
片言の言葉では言い表す事の出来ない思いが、美凪の瞳の奥に見え隠れしている。
その瞳を眺めていると、不思議と気分が落ち着いてゆく。
「お願いですから……そんな事は止めてください。……自分を傷付けても、何も変わりません」
「あ、ああ……すまない…………」
それは確かに美凪の言う通りで、ここで自虐行為を繰り返しても状況は改善しない。
まだ自分は生きているし、美凪のような心優しい仲間も傍にいてくれる。
――こんな時こそ……クールになれ、前原圭一!
圭一は美凪の方に向き直り、深々と頭を下げた。
「わりい、取り乱しちまった。殺し合いをぶっ壊してやるって言ったのに、これじゃザマあねえよな……」
「……気にしないで下さい。少なくとも私から見たら……前原さんは、頼りがいのある人です」
「…………サンキュ、少し楽になった」
美凪の優しさが、僅かながらに心の痛みを和らげてくれる。
圭一は大きく深呼吸をした後、現状を把握すべく他の仲間達に視線を移した。
すると朋也も良美も、まるでこの世の終わりが来たかのようにがっくりと項垂れていた。
彼らの探し人の中からも死者が出ていたのだから、無理も無いだろう。
寧ろ自分のように喚き散らさない分だけ、まだマシだと言える。
圭一は残る一人、即ちスバルの様子を確かめようとして――大きく目を見開いた。
考えるより先に、全力で大地を蹴り飛ばす。
「遠野さん、危ないっ!!」
「――――きゃっ!?」
圭一は美凪を抱き抱えて、スライディングするように地面へと滑り込んだ。
その直後、それまで美凪がいた空間をバットが切り裂いていた。
圭一は素早く身を起こし、凶行の犯人――スバルを思い切り睨み付けた。
支援じゃ!支援じゃ!
支援致します
支援。
「お、お前、いきなり何すんだよっ!」
先の攻撃は、まともに当たれば骨が砕けてしまうであろう一撃だった。
何故スバルが突然そのような蛮行に及んだのか、圭一には全く分からなかった。
圭一は早鐘を鳴らす心臓を懸命に鎮めながら、美凪を庇うような位置取りへと移動する。
その最中、スバルが凍り付くような顔で、こちらに視線を送ってきた。
「オレが甘かったぜ……こんな所でチンタラしてる暇なんか無かったんだ。有無を言わさず襲い掛かるべきだったんだ……」
スバルはバットを握り締める力を強め、続ける。
「聖域は崩壊して、レオまで死んじまった……。オレがもっと上手くやれてりゃ、死なずに済んだかも知れねえのに……」
スバルは自分の腑甲斐なさを、酷く悔やんでいた。
自分はこの六時間の間、誰一人殺せなかった。
ようやく獲物を見付けた後も、安全策を選んでしまった。
そうしてる間に、レオは殺されてしまった。
自分が空回りを続けてる間に、殺されてしまったのだ。
自分はフカヒレもレオも、守れなかった。
でもまだ一人、大切な人は残っている。
自分の想い人でもあり親友でもある蟹沢きぬは、未だこの島の何処かで生きている筈だから――
「だからオレはもう迷わねえ。どれだけ危ない目に会っても人を殺し続けて、カニだけでも守ってみせる!!」
「くっ――――!?」
叫ぶと同時、スバルが疾風と化した。
圭一は咄嗟の判断で刀を取り出し、振り下ろされたバットを受け止める。
スバルの怪力が刀越しに伝わり、圭一の腕は痛みにも似た痺れに襲われた。
連続支援!
支援致します
「ぐあぁっ……」
余りの衝撃に、圭一は思わず刀を取り落としてしまいそうになる。
その致命的な隙を、修羅場慣れしているスバルが見逃す筈も無い。
「……死ねっ!」
「しまっ――!?」
圭一が刀を構え直そうとするが、それは余りにも遅過ぎた。
スバルは既に、バットを天高く振り上げている。
唸りを上げる怒槌が、圭一の頭蓋骨を粉砕するべく振り下ろされ――その寸前、スバルの体が横に流された。
「――ガァッ!?」
朋也の鋭い中段蹴りが、スバルの腹部に突き刺さっていたのだ。
朋也は怒りの色に満ちた瞳で、後退するスバルを睨み付ける。
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ! お前みたいな奴がいたから杏はっ……!」
朋也の心は悲しみよりも寧ろ、烈火の如き怒りで満ちていた。
自分は理不尽な形でこの島に連れて来られ、理不尽な形で襲われ、理不尽な形で友人を失った。
そして今もまた、理不尽な形で裏切られたのだ。
主催者は当然として、殺し合いに乗った人間も同じくらい憎かった。
「おいおい、オレは杏なんて奴は知らないし、まだ誰も殺してないぜ?」
「うるせえ! 誰がてめえなんか信じるかよ!」
まだ支援物資は尽きちゃいない!
支援
まるで全ての元凶であるかのように言われ、スバルが反論を口にしたが、朋也はまるで取り合わない。
朋也からすれば、スバルの言は何一つ信用出来る要素が無い。
それにスバルが殺し合いに乗っているのは紛れも無い事実なのだから、何を言われようとも倒すべき敵なのだ。
完全に殺し合いに乗った者と、深い怒りに駆られた者――最早、対決は避けようが無い。
それを見て取った圭一が、即断を下す。
「遠野さん……佐藤さんを連れて逃げてくれ!」
「え……?」
「此処は俺と朋也が食い止める! 大丈夫、後でちゃんと俺達も行くから!」
必死に訴え掛けられ、美凪は困惑の表情を浮かべた。
急激な状況の変化に思考が追いつき切れていないが、仲間を死地に残して逃げるのが褒められた行動でない事くらいは分かる。
しかし……自分も良美も大した武器は持っていないし、此処に残っても足手纏いとなるだけだろう。
そう考えると圭一の言葉に従って退避するのが、最良の選択だと言わざるを得ない。
何より、迷ってる暇などない。
「おっけーです……前原さん、どうかご無事で。……佐藤さん、行きましょう」
「…………」
先の放送のショックからまだ立ち直っていないのか、良美の返事は無いが、悠長に待っている時間は与えられていない。
こんな状態の良美をこの場に残せば殺されてしまうに決まっているのだから、一刻も早くこの場を離れなければならない。
未だ地面に崩れ落ちたままだった良美の手を取り、強引に走り出す。
美凪は離れ際に一度だけ後ろを振り返り、圭一達の姿を眺め見た。
どうしてこんな事になってしまったのだろうか?
どうして殺し合いなどしなくてはいけないのだろうか?
分からないが――どうか、皆無事でいて欲しい。
勇気ある少年達の無事をひたすらに祈りながら、美凪は良美共々戦地と化した場から離脱した。
鳴り止まぬ支援
支援致します
少女達が走り去った後の戦場で、圭一とスバルは鋭い視線を送り合う。
スバルはどこか飄々とした様子で、刀を構える圭一に話し掛ける。
「女二人を先に逃がすとは余裕だねえ、圭一ちゃんよ」
「そう言うお前こそ随分余裕じゃないか。黙って遠野さん達を逃がすなんてな」
「よっぴー達はカニに危害を加えたりしないだろうし、後回しで良いんだよ。問題は武装してる連中だ。
お前はともかく……岡崎って奴はかなり曲者だぜ。何しろ今のドサクサに紛れて、ちゃっかり身を隠してるんだからな」
「――は?」
言われて圭一は、辺りをぐるりと見渡したが――自分とスバル以外、誰も居なかった。
あれだけ怒りを剥き出しにしていたにも関わらず、朋也は何時の間にか消えていたのだ。
その事実を正しく認識した途端、圭一の背に氷塊が落ちた。
自分が足止め役を買って出たのは、美凪達を守りたいという気持ちも勿論あったが、それ以上に確かな勝算があったからだ。
スバルは銃を持っていないし、朋也と二人掛かりなら十分に倒し得ると考えていた。
しかし頼みの綱である朋也が居ないとなれば、話は大きく変わってくる。
一対一の対決では、体格で大きく劣る自分に、勝ち目など欠片も無い――
「どうやらお前は見捨てられたみたいだな。つまりオレとお前は、今からタイマンを張らなきゃならねえって訳だ。
馬鹿みてえにホイホイ人を信じるからこんな事になるんだぜ?」
「く……」
狼狽に顔を引き攣らせる圭一とは対照的に、スバルの表情は余裕そのものだ。
勝つと分かりきっている勝負に、緊張や焦りなどある筈も無い。
加えて、スバルからしてみれば、刀という強力な武器を手に入れるまたと無いチャンス。
敵が二人なら分からないが、圭一1人ならば確実に殺害し、刀を奪い取れるだろう。
だからこそ良美達だけでなく、朋也の逃亡も敢えて許容したのだ。
まだまだ先は長い以上、まずは武器の入手を優先すべきだ。
此処で刀を入手してから、効率良く人を殺して回り、蟹沢きぬを守る。
それがスバルの作戦だった。
スバルは冷笑を浮かべ、告げた。
支援祭り
「さあ――始めようぜ。殺し合いをよっ!!」
言い終わるや否や、スバルはバットを深く構えて疾駆していた。
陸上部の脚力を存分に活かした突撃は、圭一との距離を一瞬で無にする。
続けて圭一の防御ごと打ち砕くくらいのつもりで、バットを思い切り振り下ろす。
「うぉぉぉぉぉ!!」
「やばっ…………!」
まともに受け止めれば、一撃で刀が弾き飛ばされてしまう以上、取るべき道は一つ。
裂帛の気合を込めて振り下ろされた戦槌を、圭一は刹那のサイドステップでやり過ごす。
間髪置かずに身体を捻り、横殴りに刀を振るったが、それはバットで受け止められた。
キンッと金属の衝突音が鳴り響き、二人は各々の得物越しに押し合ったが、腕力で大きく劣る圭一に勝ち目は無い。
圭一は呆気無く突き飛ばされ、どすんと地面に尻餅を付いた。
その決定的好機をものにするべく、スバルが強烈な一撃を放つ。
「うわ……うわぁぁああああっ!!」
圭一は形振り構わず全力で地面を転がり、迫る死から身を躱す。
直後大きな打撃音が聞こえ、圭一の真横、コンクリートで塗装された地面に――大きな罅が入っていた。
圭一はその光景を認めた途端、心臓を氷の刃で刺し貫かれたような感覚に襲われた。
スバルの腕力を以って振るわれる金属バットは、恐るべき威力を秘めていたのだ。
あんなモノが当たってしまえば、一撃で自分の身体は砕けてしまうだろう。
(こ……殺される――!)
支援
支援!
支援致します
それは予感などというレベルのものでは無く、絶対の確信。
全身の表面には鳥肌が立ち、喉は呼吸を忘れてしまったかのように動かない。
スバルの言う通り――自分のやってきた事は、間違いだったのか?
そんな疑問がふと、頭の中に浮かぶ。
人を信じ続け仲間を先に逃がした末路が、共闘すべき者に見捨てられた上での死だとしたら、余りにも酷い話である。
こんな事なら最初から、自分の安全だけを考えて動けばよかったのでは無いか。
圭一がそう考えた始めた時、何者かが駆けてくる足音が聞こえた。
「――すまん、遅くなった」
現れた人物は、逃げ出した筈の朋也だった。
肩で息を整える彼の手には、朝日を反射し輝く包丁が握られている。
「朋也、お前どうして……?」
「俺はまともな武器を持ってなかったからな。近くの家からちょっくら武器を拝借してきたんだ」
「そうだったのか……」
朋也は手榴弾という強力な切り札は持っているものの、今のような混戦状態で使える武器は持っていない。
いくら二人掛かりであるとは言え、バットを持った相手に対し素手で挑むのは自殺行為だ。
だからこそ一瞬の判断で戦場を離れ、得物の確保を優先したのだった。
「見ろよスバル、朋也は俺を見捨ててなんかいなかったんだ!」
「ちっ……」
朋也の出現は、萎えかけていた圭一の心に大きな活力を与えていた。
――自分の信じてきた道は、間違いじゃなかった。
そう考えると目の前の強敵に対する恐怖が薄れ、代わりに燃え盛る闘志が身体中に満ちてゆく。
圭一はぐっと膝に力を込め、堂々と立ち上がった。
「さあ、反撃開始だぜ!」
支援
支援支援支援支援!
* * *
「――――ハ、っ……ハァ……」
「…………」
その頃良美は、美凪に手を引かれて道をひたすら走っていた――否、走らされていた。
今の良美は、自分が何をしているのかすら碌に認識出来ていない。
レオが死んだという現実が、良美の精神を蝕んでゆく。
覚悟はしているつもりだった。
殺戮の場に置いて、お人好しであるレオでは生き延びるのが難しい事など、分かっていた。
自分と、エリカの三人の中では、レオが一番危ないのは明白だった。
だというのに、筆舌に尽くし難い感情が次から次へと湧き上がってくる。
指先は小刻みに震え、心臓はばくんばくんと猛り狂う。
頭の中は膨大な喪失感に覆い尽くされ、正常な思考を許さない。
自分はレオが好きだった。
レオと話しているだけで、内に秘めた昏い感情を忘れる事が出来た。
レオの姿を見ているだけで、心の傷が癒されていった。
レオが生徒会に入ってくれた時は、思わず飛び上がりたくなるくらい嬉しかった。
レオや他の仲間達と一緒に行った旅行は、人生で一番楽しかった。
どれも大切な思い出。
そしてどれも――最早永久に味わえぬ時間。
そう考えた瞬間足が止まり、溜まりに溜まった激情が叫びとなって迸っていた。
「ああああぁぁぁぁあああぁあああああああっ!!」
「……さ、佐藤さん……?」
「うわああああああああああああああああっ!!」
「あの……」
支援
美凪が訝しむような声を上げるが、良美は止まらない。
狂乱の雄叫びの前には、美凪の小声などあっさりと飲み込まれる。
燃え盛る火炎に対し水鉄砲を撃ち込んでも、何の効果も有りはしないのだ。
ならば――美凪はがっしりと良美の両肩を握り締めた。
良美の顔を引き寄せて、耳元で思い切り叫ぶ。
「……佐藤さんっ!!」
「――――っ!?」
びくんと大きく肩を震わせ、良美の咆哮が止まった。
良美の目に光が戻るのを確認してから、美凪は続ける。
「……大事な方を無くされた気持ち、お察しします……。けれどどうか、落ち着いて下さい。
今前原さん達は私達の為に戦ってくれています……。ですから自分が今なにをすべきか、よく考えて下さい……」
「落ち着いて……今なにをすべきか……考える?」
「……はい、そうです」
精神が疲弊しきった良美は、美凪の言うがままに思考を巡らせる。
まずは落ち着け……レオもいつも言っていたでは無いか。
『一時のテンションに流されるな』と。
美凪の言葉に従うのは癪に障るが、ここは確かに落ち着くべきなのだ。
落ち着いて今何をするべきか考えろ。
スバルが殺し合いに乗ってしまい、今自分達は逃亡中である。
このまま逃げ続ければ事無きを得られるだろうが――それは旨く無い。
拳銃を持っている自分はその気にさえなれば、いくらでも人を殺せるのだ。
よくよく考えれば、今までの自分は甘過ぎた。
波風立たせぬよう、などと考えているから、スバル程度の知能の人間に裏切られてしまうのだ。
今回はスバルのやり方が愚かだった為に助かったが、もっと頭の良い人間が相手なら殺されていた。
自分は九死に一生を得たに過ぎない。
ならば今度こそ、この騒動に乗じて、危険因子は一掃しておいた方が良いだろう。
ずっと俺の支援!
支援
支援致します
前原圭一……彼は大丈夫。超が付く程お人好しだし、『駒』として信頼出来るだろう。
遠野美凪……彼女もお人好しだが、妙に勘繰る部分が戴けない。急ぐ必要は無いが、いずれ始末しなければ。
伊達スバル……『駒』として頼りにしてたのに、裏切った。許せない、殺す。
岡崎朋也……彼は信用出来ない。単独行動を続けてた彼には、信用に足る程のものが見受けられない。裏切られる前に殺そう。
結論は出た――ならば、こんな所で突っ立っている場合では無い。
「……佐藤さん!?」
美凪は驚愕に声を漏らす。
良美が突然、元来た方向に向かって駆け出したのだ。
* * *
「朋也、行くぞっ!」
「――おう!」
圭一と朋也は声を掛け合ってから、同時に前方へと走り出す。
標的は一人、殺し合いに乗った伊達スバルだ。
圭一がだんと踏み込んで横薙ぎに払った日本刀を、スバルは上体を反らしてやり過ごす。
空振りで生み出された旋風が、スバルの前髪を舞い上げた。
支援の力!
支援
続けて朋也が大きく振りかぶって、スバルの腹部目掛けて包丁を突き出す。
上体を反らしたスバルの体勢では、非常に躱し辛い一撃。
だがスバルは攻撃の軌道を正確に見極め、金属バットを盾とする事で危険から逃れた。
スバルは右手に持ったバットで包丁を防いだまま、自由となった左腕を振るう。
「――――食らいやがれ!」
「あぐっ……」
スバルの放った裏拳は、寸分の狂い無く圭一の顎を捉えていた。
だが――軽い。
飛び抜けた身体能力を誇るスバルといえど、不十分な体勢からでは体重の乗った攻撃を放てないのだ。
その所為で、人間の急所である顎を打ち抜いたにも関わらず、圭一に大したダメージは与えられなかった。
そして近距離戦では、一度のミスが容易に致命傷となり得る。
スバルが横に目を移すと、朋也が第二撃を放つべく包丁を振り上げている所だった。
「調子に乗ってんじゃ――ねえよ!」
「まずっ……」
煌く白刃が、天より降り注ぐ。
スバルは何とか後方に退避すべく、全身のバネを総動員した。
だが不安定な体勢からでは、逃げ切るのに十分な動力を搾り出せない。
「――うぐあっ……」
美凪、にーげーてー!!
支援!
後ろに飛び退こうとしたスバルの胸を、鋭い刃が軽く切り裂いた。
身に纏った制服が裂け、その穴から赤い鮮血が滲み出す。
それでもスバルは退がる足を決して止めず、圭一達と一旦距離を取っていた。
スバルは苦痛に眉を顰めながら、苦々しげに歯を食い縛った。
自分は相当喧嘩の場数を踏んできたし、竜鳴館男子生徒の中では最強だという自信がある。
素手での喧嘩ならば、相手が二人いようが三人いようがまるで問題無い。
しかし、これは殺し合いであり、武器の使用も自由だ。
敵の一撃が即致命傷に繋がるし、強引な戦い方はまず出来ない。
そして自分は武器を使った戦闘にも、まだ慣れてはいない。
このような状況下で二人を同時に相手するのは、優れた運動能力を持つスバルでさえも困難だった。
いつまで経っても攻めて来ないスバルに対し、朋也が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「来ないのか? 来ないのならこっちから行くぜ」
「クソッ……」
先のせめぎ合いでスバルが不利を悟ったのと対照的に、朋也は確かな手応えを感じていた。
敵は並外れた身体能力を誇っており、自分一人ではとても歯が立たぬが、二人掛かりなら勝てる。
スバルがこちらを狙えば圭一がその隙を付くし、逆のパターンなら自分が攻撃すれば良い。
非常に単純明快な戦い方だが、これだけで十分に勝利し得るだろう。
となれば、眼前の殺人鬼を逃がす手は無い。
此処で確実に仕留め、杏のような哀しい犠牲者が二度と出ぬようにするべきだ。
朋也は圭一に目配せした後、一気に勝負を決すべく腰を低く落とす。
だがこれからというその時に、狂気の少女は現れた。
支援団!
支援
支援!
「朋也君、伊達君、見〜つけた」
「っ!?」
この戦場に余りにも不似合いである、愉しげな声。
圭一も、朋也も、スバルでさえもピタリと動きを止め、声の主に顔を向ける。
少女――佐藤良美は、全員の不可解な視線を一身に受けながら、口元を吊り上げた。
「佐藤さん、何で戻ってきたんだよ!」
「ごめんね。圭一君には悪いけど、少し用事を思い出しちゃったんだ」
「用事……?」
怪訝な表情を浮かべる圭一に構わず、良美は右腕を水平に伸ばした。
その手に握られている物は――S&W M36……即ち、小型回転式拳銃。
何の躊躇いも無く、それこそ呼吸するのと同じくらいの気軽さで、引き金を引く。
鳴り響く轟音。
「……つぅ!?」
猛り狂う銃弾は朋也の頬を掠め、後方の塀に小さな穴を造り出していた。
唐突過ぎる事態に、朋也の思考が一瞬停止する。
頬から流れ出る血、伝わる痛み、そして生まれて初めて感じた、圧倒的な悪寒。
つまり――自分は、良美に銃で狙われたのだ。
その事に気付いた瞬間怒りが膨れ上がり、朋也は声を張り上げ叫んでいた。
「てめえ……冗談じゃねえぞ! 一体どういうつもりなんだ!」
「――そんなの簡単じゃない。私は正しい事をしようとしてるだけだよ」
「正しい事……? 佐藤さん……何言ってんだよ……?」
支援
訳が分からなくなった圭一は、明らかに動揺しながらも問い掛ける。
すると良美はぽかんと口を開き、疑問の表情を浮かべた。
心底不思議がっているような、そんな顔だった。
「何って……圭一君は分からないの? 伊達君が裏切ったみたいに、朋也君だって裏切るかも知れない。
これまで単独行動だった朋也君が殺し合いに乗ってない保障なんて何処にも無いんだから、今の内に殺しちゃおうってだけだよ。
あ、心配しないでね? ちゃんと伊達君も殺してあげるし、圭一君だけは殺さないでおいてあげるからさ」
「な……」
矢継ぎ早に告げられた疑心暗鬼に過ぎる理論を受け、圭一は絶句する。
良美は嬉々とした顔で戦場に現れ、これまで行動を共にした朋也に向けて容赦無く発砲した。
この少女は、一体誰だ。
これは本当に、自分の知る佐藤良美と同一人物なのか?
そんな思いに駆られ、圭一は何も言えなくなってしまう。
スバルもまた、敵の仲間割れは好都合である為に沈黙を守っていた。
その一方で、謂れ無き批難を受けた朋也はこのまま黙っていられない。
的外れな誤解を解くべく、言葉を投げ掛けようとする。
「ちょっと待ってよ! 俺は別に……」
「――うるさいっ! 何言ったって、私は騙されてあげないんだから!」
正しく、一蹴。
良美は朋也の言葉を遮ると、素早い動作で銃を構えた。
先程朋也に撃った一撃は威嚇のつもりなど毛頭無かったのだが、外れてしまった。
故に今度は銃の照準をしっかりと合わせ、それから引き金を絞る。
本能的に危機を感じ取った朋也が飛び退くとほぼ同時、それまで彼が居た空間を弾丸が貫いていた。
それが発端となり、硬直状態に陥っていた場が動き出した。
支援だ!
支援!
支援
支援薄いよ!何やってんの!?
「ク――朋也はスバルを頼む! 俺は何とかして佐藤さんを止めるっ!」
良美の殺害対象で無い自分がやるしかない――圭一はそう判断し、良美に向かって疾走した。
手首を返し、刀を反転……所謂峰打ちの状態にして、斬り掛かる。
狙いは良美の手首。
危険極まり無い拳銃を奪い取り、それから朋也に加勢する。
相手は女の子である以上、武器を奪うのは難しい事で無いように思えたが――
「―――!!」
響いた金属音に、圭一は大きく目を見開いた。
横凪ぎに振るった刀は、S&W M36の銃身でしっかりと受け止められていたのだ。
圭一はちっと舌打ちした後、手早く刀を構え直した。
(くそ……本気でやらなきゃ駄目か!)
先程は良美に怪我をさせてしまわぬよう、力を加減して攻撃した。
それで十分制止し得ると考えていたのだが、その読みは大きく外されてしまった。
こうなってはもう、多少危険は伴うが本気でやるしかない。
何しろ此処で自分が食い止めなければ、朋也が撃たれてしまうのだから。
圭一は気を引き締めて、今度こそ良美の手首を強打すべく振りかった。
全身のバネを活かし、込めれるだけの力を乗せて、渾身の一撃を繰り出す。
十分な予備動作を取る余裕があった分、先のスバル戦を遥かに越える攻撃を放つ事が出来た。
し・え・ん!
「何ッ!?」
だがそれすらも、防がれた。
比較的長いリーチの刀による攻撃を、良美はS&W M36の短い銃身で完璧に防ぎ切っていたのだ。
すいと良美の身体が沈み込み、圭一の視界から消える。
直後、圭一の腹部に走る衝撃。
「――――シッ!」
「ぐぁぁ!」
地を這うように繰り出された良美のアッパーが、圭一の腹に突き刺さっていた。
予想外の攻撃、予想以上の威力に、圭一は堪らず後退した。
早く勝負を決めなければ、早く助けに行かねば――朋也がスバルに殺されてしまう。
だというのに目の前の少女は、全力を尽くしても制止し得る相手なのかどうか分からない。
心の奥底から沸き上がる焦燥感に、計らずして唇を噛む。
――圭一には知る由も無い事だが、良美はただの女子高生では無い。
霧夜エリカや鉄乙女などといった規格外の連中には劣るものの、良美は優れた運動神経を持っている。
その実力たるや、並の男子高校生を優に上回る程だ。
決して軽視して良い相手では、無かった。
* * *
「ガッ――――!」
脇腹を蹴られ、あっさりと弾き飛ばされる。
スバルを一人で相手する事となった朋也は、苦戦を強いられていた。
朋也とて自校では有名な不良であり、多少は喧嘩慣れしていたが、目の前の敵は桁が違う。
「く――このっ……」
朋也は何とか身体の勢いを押し止め、踏み込んだスバルの肩口に包丁を振り下ろす。
だがスバルはそれを難無く掻い潜り、そのまま朋也の胸部に当身を放った。
呼吸が一瞬停止し、朋也の身体から力が抜ける。
続けざまにスバルは、頑丈な金属バットを深く構えた。
「は、うああ…………!」
朋也は包丁で頭部だけはしっかりと守って、必死に後ろへと後退してゆく。
しかしスバルの素早い踏み込みは、折角開いた距離を一瞬で無に戻す。
そのままびゅんと空気を断ちつつバットが迫り、朋也の包丁に命中した。
朋也の腕は否応無しに電撃のような痺れに襲われ、次の行動への移行が大幅に遅れる。
そこに突き刺さる、高速の膝蹴り。
「ず……ぐはっ……」
蹴り飛ばされる度に、朋也の意識とは無関係に呻き声が洩れる。
敵のバットだけは何とか防いでいるものの、蹴撃にまでは対応しきれない。
先程からバットを防いだ直後の硬直に、凄まじい蹴りを叩き込まれるという展開が続いている。
息はとうに上がり、身体の節々がずきずきと痛む。
口の中は血の味で満ち、過度の運動を強要された心臓が休憩させろと喚き散らす。
朋也は死にたくない一心でスバルの猛攻を耐え凌いでいたが、最早勝負の趨勢は明らかだった。
支援
支援攻撃!
支援
「いい加減――くたばりやがれ!」
「ぐあっ……!」
今までより一際強い蹴りが、朋也の腹部を貫いていた。
朋也は大きく吹き飛ばされ、受身を取る事も出来ず地面に転がり込む。
スバルが追撃を掛けるべく追い縋り、バットを持つ手を天高く振り上げる。
地面に転がったままの朋也には防ぎようの無い一撃が、上空より迫る。
――そこで、銃声。
「――ぐ、がぁああああ!!」
「……いけないねえ伊達君、背中がお留守だよ?」
スバルの脇腹から鮮血が噴き出し、悲痛な叫びが辺り一帯に木霊する。
良美は圭一を上手くあしらいながら、この場で一番の強敵となるであろうスバルの隙を窺っていた。
そしてスバルの動きが止まった瞬間を見計らって、素早く銃弾を放ったのだ。
銃の扱いに慣れていない為致命傷を与えるには至らなかったが、スバルの戦力は間違いなく激減しただろう。
良美はスバルから視線を外し、圭一の方へと振り向き直す。
「今の見たでしょ圭一君。私はちゃんと殺し合いを止めようと思ってる。殺し合いに乗った人を倒して、皆と生き延びようと思ってる。
圭一君さぁ、この殺し合いを止めようと思ってるんだよね? 圭一君は殺し合いに乗るつもりなんて、無いんだよね?」
「……そりゃ勿論そうだよ。こんな下らない殺し合い、俺が絶対にぶっ壊してやる! 皆と協力して、絶対に生き延びてやる!」
「――だったら、私の邪魔をするの止めてよ」
短絡的な圭一の主張に頭を痛めながら、良美は心底不愉快そうに吐き捨てた。
良美からすれば、まず裏切らないであろう圭一は『駒』として信用に足る相手だが――それだけだ。
口では殺し合いを壊すなどと連呼しているが、その具体的方法を圭一は殆ど示していない。
それに皆と協力するなどと吐いているが、先程裏切られたばかりでは無いか。
だから良美は、きっと眉を吊り上げて告げる。
支援さぁ!
支援
支援
「圭一君は簡単に騙されちゃう馬鹿だから、わざわざ私が危険因子を排除してあげてるんだよ?
この島では安易に人を信用したら、あっさり寝首を掻かれちゃう。友達を二人も失ってまだ分からないの?
此処で行われてるのは殺し合い。理想を謳うのは結構だけど、もうちょっと現実を見た方が良いよ?」
この殺戮の島では、良美の言葉の方が正しい。
何を隠そう良美自身騙まし討ちで一人屠っているし、圭一達もスバルの裏切りを受けたばかりなのだから。
この島では人を信じるよりも、まずは疑ってかかるのが基本――
にも関わらず、圭一は拳を握り締めて叫んだ。
「違う!!」
真っ直ぐな瞳で良美を見据えて、続ける。
「こんな時だからこそ皆で協力し合わないといけないんだ! こんな時だからこそ信じる心を持ち続けなきゃいけないんだ!
佐藤さんみたいな考え方をしてたら、鷹野さんの思う壺じゃないか!」
言い切る圭一には、何の迷いも怯えも見られない。
圭一の言葉を受けた良美は、落胆の様子を露にし、ふうと大きく溜息をついた。
「はあ……もう良いよ。圭一君は何言っても分かってくれなさそうだしね」
「――――っ!?」
良美が向きを変え、再び朋也達に向かって発砲しようとする。
その光景を認めた圭一は素早く刀を仕舞い込み、思い切り地面を蹴り飛ばした。
まるきりヘッドスライディングの要領で、良美の胴体に飛び掛る。
「やめろぉぉぉぉっ!」
「きゃっ!?」
支援
支援致します
二人は縺れたまま、コンクリートで舗装された地面に転がり込んだ。
その拍子に良美の手の中から、S&W M36が零れ落ちた。
計らずして武器を捨てさせる事に成功した圭一は、転んだ体勢のまま銃に手を伸ばそうとする。
銃さえ確保してしまえば、良美の脅威は激減する筈。
途端、圭一の左肩に灼け斬れるような痛みが突き刺さった。
「があああああっ!?」
「……あんまりしつこいから、おしおきだよ」
冷たい光を灯した瞳で、圭一を見上げる良美。
その手に握り締められたナイフが、圭一の肩に深々と刺さっていた。
押さえつける力が一気に弱まった為に、良美は悠々と立ち上がり、ナイフを仕舞い込む。
続けてよろよろと腰を起こす圭一を尻目に、S&W M36を拾い上げた。
「圭一君、もう止めにしようよ、ね? これ以上邪魔されたら、圭一君も殺しちゃうかも知れないよ?
私圭一君の事は信用してるし、出来れば殺したくないの」
子供を諭すような調子で、しかしどこまでも冷たい声で語る良美。
良美が圭一を殺さないのは、『駒』として信用出来るだけでは無く、確実に殺し合いに乗らぬ人間を殺すのは不都合だというのもある。
お人好しの圭一を殺したという事実が知れ渡ってしまえば、自分に協力してくれる者など誰も居なくなってしまうだろう。
だからこそ殺しても問題が無い怪しい者以外は、極力殺したくなかった。
しかし仏の顔も三度という諺もあるように、我慢には限度がある。
これ以上の妨害を受ければ、殺意を抑え切れる自信など無かった。
良美の内心は表情にも表れており、その双眸には紅蓮の炎が宿っている。
吊り上げられた眉、一文字に引き結んだ唇は、彼女の我慢が限界に近い事を雄弁に物語っていた。
これ以上続ければ、圭一すらも攻撃対象となりかねない。
しかしそれを理解して尚、圭一は抗い続ける。
自分と正反対の考えを持った良美を、認める訳にはいかない。
此処で引いてしまえば自分が――これまで自分の信じてきた道が、全て否定されてしまう。
支援
支援男
「佐藤さん――アンタは間違ってる! 俺は絶対にアンタを止めてみせる!」
圭一は未だ無事な右腕で日本刀を取り出し、上体を屈めて疾駆する。
助走をつけて、良美の手首を狙い、峰打ちを放つ。
それは既に何度も繰り返した行為で、全て防がれてしまっている。
両腕を用いていた時でさえそれなのだから、片腕だけで通用する道理は何処にも存在しない。
良美は余裕綽々の表情でS&W M36を構え、来たる剣戟を迎え入れる。
しかし――
「――――なっ!?」
驚きの声は良美のものだった。
圭一の攻撃は、先程までよりも明らかに重くなっていたのだ。
衝撃に備え銃のグリップを両手で握り締めていたというのに、両腕が強く痺れる。
「俺は絶対に諦めない! 道を曲げないっ!」
圭一は、ますます威力を増した一撃を振り下ろす。
良美は何とかそれを受け止めたが、その額には冷や汗が浮かんでいる。
――圭一は自分のスタンスを変えるつもりなど、毛頭無かった。
昔の自分ならば良美の考えに同調し、人を信じなくなっていたかも知れない。
だが今の自分は違う。
支援致します
「友達は……仲間は……何よりも大切なんだ! だからっ……!」
今度は立て続けに二回、刀を振るった。
耐え切れなくなった良美が、たたらを踏んで後退する。
――雛見沢に引っ越して以来、圭一の生活は一変した。
雛見沢の人達との触れ合いを通して、自分は生きる事の楽しさを教えられた。
仲間の大切さを教えられた。
確かにレナや詩音は死んでしまった。
だけど自分にはまだ守るべき仲間が残っているし、まだ見ぬ善良な人間も沢山いるだろう。
だからこそ、絶対に人を信じる心は失わない。
「仲間を信じるのは、絶対に間違いなんかじゃねええええ!!」
それは圭一の魂から漏れ出る叫び。
圭一は驚くべき速度で間合いを詰めて、下から上へと刀を振り上げた。
かんと、甲高い音がしてS&W M36が宙に舞った。
すかさず圭一はそれを掴み取って、刀を切っ先を前方の良美に向けながら、告げる。
「ゲームオーバーだ、佐藤さん。朋也を殺すだとか、危険因子を排除するだとか、そんな莫迦な真似はもう止めるんだ!」
「…………っ!!」
支援さ!
支援
支援
良美はナイフを取り出しはしたものの、それ以上は何も出来ずただ奥歯を食い縛る。
こうなってしまっては、手詰まりだ。
ナイフ一本ではこの場を制圧するなど不可能だし、今の圭一から銃を奪い返すのも難しい。
かと言ってスバルのような殺人鬼は勿論として、朋也のような危険因子も放置しておく訳にはいかない。
そんな事をすれば遠からずして、寝首を掛かれてしまうだろう。
別行動を取ると言う選択肢もあるが、それでもこの島の何処かに危険因子が潜んでいるという状態は続く。
……どうすれば良い。
一体どうすれば――
いくら考えても打開策は浮かばない。
この勝負は完全に圭一の勝ちであり、良美は殺意の矛を収めるしか無かった。
――圭一の守るべき仲間が、駆けつけて来さえしなければ。
「……前原さん、佐藤さん!? 一体何を……」
到着した美凪には、眼前で繰り広げられている光景が理解出来なかった。
スバルと朋也が争っているのは、分かる。
スバルが殺し合いに乗ってしまった以上、それは仕方の無いだろう。
だが圭一と良美が、互いの得物を向け合っているのはどういう事か。
そしてその戸惑いが、命取り。
来訪者の姿を認めた良美は一目散に駆け、呆然と立ち尽くす美凪の背後へと回り込んだ。
美凪の首に手を絡め、鋭いナイフを突き付ける。
「遠野さんっ!」
「……形勢逆転、だねぇ」
狼狽に染まった圭一の叫びが、空しく木霊する。
突然の奇襲を受けた美凪もまた、困惑に表情を歪めていた。
そんな二人とは対照的に、良美は余裕を取り戻し、底意地の悪い笑みを浮かべている。
支援
支援支援!
「圭一君、その銃を返してくれるかな? もし断ったら……此処から先は言わなくても分かるよね?」
「く…………畜生っ!」
圭一は無念の面持ちで、思い切り地団駄を踏んだ。
今銃を渡してしまえばどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
良美は一片の情けも掛けず、躊躇いも見せず、スバルだけで無く朋也まで銃の標的とするだろう。
殺し合いに乗っていない朋也を見捨てる訳にはいかない。
しかし――美凪を見捨てる事もまた、出来る筈が無い。
圭一が選びようの無い二択に頭を抱えている最中、美凪が叫んだ。
「……駄目です、前原さん!」
「……え?」
「私ならへっちゃらですから……佐藤さんの言う事を聞いちゃ駄目です」
首を締め上げられて苦しかったが、それでも美凪は健気に笑みを形作る。
良美が取った蛮行のお陰で、美凪も今の状況が多少は理解出来ていた。
良美は殺し合いに乗ったか、若しくはそれに近いスタンスとなってしまった筈。
恐らくはそれを圭一が諫めようとして、争いになったのだろう。
今良美に銃を渡せば、恐ろしい事になってしまうと考え、美凪は圭一を制止した。
しかし美凪の献身的な行為は、この場では明らかに致命的。
鬱憤の溜まった良美は、躊躇い無く美凪を殺してしまうだろう。
それは圭一と美凪、両方にとっての共通認識。
だが二人の予想に反して、良美は表情を変えずに言った。
「仕方無いなあ。もう『大丈夫』みたいだから、圭一君はただそこを動かずにいてくれれば良いよ」
「…………?」
支援致します
支援
スクロールの指が痛てぇ…
だが支援!
支援
支援!
圭一は訳も分からず、疑問の表情を浮かべる他無かった。
良美は美凪の身体を捕まえたまま、つかつかと歩き始めたのだ。
美凪を抱き抱えたまま、ナイフ一本でスバルと朋也の戦いに飛び込むのは自殺行為。
良美がそれを理解していないとはとても思えないし、訳が分からない。
だが――良美が歩いていく方向の状態を視認した瞬間、圭一は戦慄した。
* * *
美凪が登場する数分前。
朋也とスバルは未だ苛烈な戦いを続けていたが、その攻守は完全に逆転していた。
良美の放った銃弾で重傷を負ったスバルでは、激しい戦闘に耐え切れなかったのだ。
朋也は戦いながら息を整える余裕もあり、体力は先程よりも回復している。
しかしスバルは大きく肩で息をしており、持ち前の運動能力もすっかり影を潜めていた。
「――ハッ!」
「くそっ……!」
朋也の振るった包丁を、ぎりぎりのタイミングでスバルは受け止めた。
朋也は攻める手を休ませず、二発三発と連続して白刃を繰り出してゆく。
それをバットで受け止める度にスバルの脇腹から血が噴き出し、身体から段々力が抜けていく。
万全の状態ならば簡単に捌けていた斬撃が、今のスバルにとっては逃れようの無い剛刃と化していた。
スバルは苦し紛れにバットを振り回したが、それは速度も迫力も伴わぬものだった。
包丁で受けるまでも無いと言わんばかりに、朋也は上体の捻りだけで身を躱す。
そのままじりじりと間合いを詰め――バットを握るスバルの手を掴み取った。
スバルの攻撃も防御も封じた状態で、包丁を一閃する。
スバルは手を取られながらも上体を反らそうとしたが、その程度では到底躱し切れない。
支援
支援!
支援致します
「ぐぅっ……が……ああぁぁああ!」
ぶしゃりという音がして、白刃がスバルの左肩を大きく切り裂いた。
肉の割ける感触に、跳ねるような激痛に、スバルは絶叫しバットを取り落とす。
傷口から噴き出した血が、朋也の顔にも降りかかった。
朋也は顔を顰めながらも動きは止めず、スバルを地面に押し倒す。
その勢いのままに馬乗りの形となって、包丁を振り上げた。
「――終わりだ、スバル。お前が殺し合いに乗ったのが悪いんだから、恨むなよ」
「…………っ!!」
迫る死を目前に控え、スバルは大きく息を呑んだ。
脇腹からは止め処も無く血が流れ落ち、先の一撃の所為で左腕も動かない。
武器も落としてしまったし、体勢も最悪だ。
この状況からの逆転は、普通に考えて不可能だろう。
終わる?
このまま誰一人として殺せず、誰一人として守れず?
フカヒレもレオも死んだ。
聖域の生き残りは最早、自分と蟹沢きぬだけなのだ。
ここで自分まで死んでしまえば、蟹沢きぬは孤立無援の状態となってしまうだろう。
それで良いのか?
皆の兄貴分であった自分が、このまま敗れてしまって良いのか――!?
「うおおおおおおおおっ!!」
「なっ――――!?」
最後の体力、最後の気力を振り絞り、スバルが吠えた。
唯一無事な右腕一本で、朋也の身体を跳ね飛ばす。
間髪入れずに朋也の上に飛び乗り、拳を振りかぶった。
支援の力だ!
支援
支援致します
「ぐっ! がっ! があっ! うああっ!」
テンポ良く放たれる悲鳴。
スバルは体力の残量など計算せずに、朋也の顔面目掛けて次々と鉄槌を叩き落す。
ここで一気に決めねば、確実にやられてしまう。
朋也の懸命な防御の隙間を縫うように、スバルは拳を間断無く繰り出す。
何度も何度も殴り付けるうちに拳は真っ赤に染まり、表面の皮はボロボロに破れてゆく。
次第に手に伝わる感触が肉を潰すようなものへと変わり、朋也の抵抗が弱まってゆく。
それをチャンスと取ったか。
スバルは殴る手をようやく止め、朋也の手から零れ落ちていた包丁を拾い上げた。
首に照準を合わせ――振り下ろす。
余り抵抗も無く、包丁はずぶずぶと朋也の身体に沈んでいった。
それを抜き取った瞬間、花火のように飛び散る鮮血。
朋也の身体はびくんびくんと痙攣していたが、やがてその勢いを失った。
……勝った。
大きな手傷を負い、体力も相当消耗してしまったが、とにかく勝った。
自分は、永きに渡った戦いを制したのだ。
スバルは酸素を補給するべく、大きく深呼吸を――しないまま、その場を素早く飛び退いた。
その直後、それまでスバルが居た空間を断つ白い刃物。
「……甘いぜよっぴー。二度同じ手は食わねえよ」
スバルの背後から忍び寄った良美が、右腕でナイフを突き出していた。
スバルはじりじりと後退し、4メートル程の距離を取って良美と対峙する。
良美は何故か、反対の腕で美凪を拘束している。
しかし人質などスバルにとっては、何の意味も持ち得る筈が無い。
何しろスバルは蟹沢きぬ以外の全ての人間を、一人残らず殺してしまうつもりなのだから。
スバルからすれば此処で美凪がどうなろうと、どうでも良かった。
支援
支援致します
支援重ね!
支援
ホント、携帯には地獄だぜ
支援
「オレとやるつもりか、よっぴー? 出来れば同じ学校の奴は殺したくねえんだけどな」
投げ掛けた質問に、真意は何一つ込められていない。
スバルとしては、少しでも時間を稼ぎたかった。
今の自分の身体では誰かと戦う事など出来ぬし、此処は逃亡するしかない。
もう少し息を整えた後――陸上部所属の脚力を以って、一気に離脱する。
そう考えていたスバルに対し、良美は言った。
とても、冷たい声で。
「……殺したくない? そんな事考える必要は無いよ。だって伊達君はもう――死んでるんだから」
「――――え?」
気付いた時には、全てが終わっていた。
良美の構えたナイフ――正式名称・スペツナズナイフは刃を弾丸のように撃ち出せる武器だ。
放たれた白刃は正確に、スバルの胸を刺し貫いていた。
スバルの身体の中に熱っぽい感覚が広がり、凄まじい激痛が体内で爆発した。
血液が呼吸器官から逆流し、血反吐となって口から吐き出される。
呻きは言葉とならず、喉の奥からひゅーひゅーと掠れた音が漏れ出るばかり。
全身から急激に力が抜け、前のめりに倒れ込む。
支援乱れ撃ち
支援
薄れゆく意識の中で、スバルは思う。
これまで自分は、何を成し遂げたというのだろうか。
殺したのは僅か一人。
しかも一応、殺し合いには乗っていない男だ。
蟹沢きぬの生還に役立ったとは、とても言えぬだろう。
自分はこの島で、何一つ立派な事は出来なかった。
――では一体どうすれば良かったのだろうか?
前原圭一のように、人を信じ、皆と手を取り合ってゆけば良かったのだろうか。
それとも殺し合いには乗らず、しかし見知らぬ人間とは組まず、ただレオと蟹沢きぬだけを探し続ければ良かったのだろうか。
どれだけ考えても、結論は出そうに無い。
もう自分が出来るのは一つだけ。
(カニ……すまねえ。オレはここまでみたいだけど……お前だけは絶対、生き残ってくれ……)
最後の最後まで蟹沢きぬの無事を祈りながら、スバルの意識は閉じていった。
「…………」
圭一は、スバルが殺される一部始終をただ黙って見守っていた。
人質を取られている以上下手な行動は取れぬし、殺し合いに乗ったスバルを救う義理は何処にも無い。
良美が動き出した時には、既に朋也は殺されてしまっていた。
自分が良美相手に手間取っている間に、スバルに殺されてしまっていたのだ。
良美が朋也を殺害するのは食い止めれたが、結果としては何も変わらない。
ただ実行犯が良美からスバルに変わっただけだ。
自分は仲間を――朋也を、救えなかったのだ。
がっくりと項垂れる圭一に向け、良美はにこりと笑い掛けた。
支援致します
支援
まだだ!まだ支援だ!
「さ、もう良いでしょ圭一君。危険因子は全部死んじゃったし、圭一君達には何もしないから銃を返してよ」
「……分かったよ」
良美は武器を錐に持ち替え、その先端を美凪の首元に突きつけている。
ここで逆らっても、美凪が無意味に殺されてしまうだけだ。
そう判断した圭一は、どこか投げやりな動作でS&W M36を良美に投げ渡した。
(さて、今からどうしようかな……)
良美は考える。
銃を回収した今、もう圭一にも美凪にも用は無い。
美凪は元より殺すつもりだったし、圭一もこうなってしまった今では『駒』として動いてくれない筈。
目撃者と成り得る他の人間は全て死に絶えたのだから、此処で圭一と美凪を射殺しても大丈夫だろう。
このまま美凪を拘束し続ければ圭一は易々と殺せるだろうし、その後で人質も殺せば良い。
しかし――圭一達を殺して得られるメリットは余りにも少ない。
圭一達は碌な武器を持っておらず、またこちらから手を出さぬ限り、自分やエリカに危害を加える事も無いだろう。
そう考えれば此処は平和的解決を選ぶのが最善といえる。
良美は手に込めた力を緩め、素直に美凪を解放した。
「遠野さんっ!」
弾かれたように美凪へと駆け寄る圭一。
二人は無言で手を握り合って、お互いの体温を感じ合った。
良美は興味が失せたと言わんばかりに、くるりと踵を返す。
その背中に向けて、圭一が声を投げ掛けた。
支援
「佐藤さん……これからどうするつもりなんだ?」
「流石にもう圭一君と一緒に行動出来るとは思わないから――私は行くよ。
それと一つだけ忠告……私は殺し合いに乗ってなんていないんだから、変な噂を流したりしたら怒るよ?
圭一君達だって無闇に事を荒立てたくは無いと思うから、大丈夫だろうけどね」
「…………っ」
圭一が息を呑むのを背中越しに感じ取りながら、良美はつかつかと足を進めていく。
結果的に危険人物達を二人排除する事が出来たが、今回は少々派手にやり過ぎた。
レオの死で冷静さを欠いていたとは言え、あそこまで直接的な手段を用いたのは不味かった。
こんな事を繰り返していれば、その内誰からも信用されなくなってしまうだろう。
危険因子を取り除く方法は幾らでもあるのだから、次からはもっと慎重にやらなければならない。
今度こそ優れた『駒』を手に入れて、方法を誤る事無く操りきってみせる。
* * *
良美が立ち去り、無残な死体が二つ転がるだけとなった戦場跡。
そこで圭一は、美凪と共に後始末を行っていた。
銃声を聞きつけた誰かが襲ってくる可能性も有る為、長居は出来ないが、それでも何もせずにはいられない。
朋也とスバルの死体――苦悶に満ちた死に顔の瞼を、そっと閉じる。
それから胸の前で両手を組ませてやった。
圭一と美凪は二つの遺体の前で、数秒間の黙祷を行う。
朋也と、殺し合いに乗ってしまったスバル、両方の冥福を祈って。
そうした後は使えそうな荷物を手早くかき集め、その場を後にした。
なんという支援
支援
支援致します
つい一時間程前までは五人居た仲間が、今では二人になってしまった。
向かうは商店街――まずは傷の治療をしなければならない。
どれだけ辛かろうとも自分達はまだ生きているのだから、現実に立ち向かっていかなければならない。
足を進めながら、圭一は沈んだ声で語り掛ける。
「なあ遠野さん……」
「……はい」
「俺は……頑張れてるのかな? 朋也を死なせちまって、佐藤さんも説得出来なかったけど……死んじまったレナや詩音の分も頑張れてるかな?」
語る圭一は、激しい苦痛に苛まれているような表情をしている。
美凪は白く美しい指を、そっと圭一の手に添えた。
長い髪を潮風に靡かせながら、ゆっくりと言葉を解放する。
「……私はレナさんや詩音さんがどういう方か知りませんが……きっとお二人共、前原さんの頑張っている姿を見て微笑んでいます。
天国から前原さんを応援してくれていると、思います」
「……ありがとう」
二人は肩を並べ、手を取り合って歩む。
深い悲しみに包まれた、殺戮の島を。
支援か!支援なんだな!
【G-5/住宅街/1日目 朝】
【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(2/5)、メイド服(圭一サイズ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、錐、毒入りとラベルが貼られた500ml非常用飲料水】
【状態:中度の疲労、手首に軽い痛み、重度の疑心暗鬼】
【思考・行動】
基本方針:エリカとレオ以外を信用するつもりは皆無、確実にゲームに乗っていない者を殺す時はバレないようにやる
利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:エリカ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:『駒』として利用出来る人間を探す
3:少しでも怪しい部分がある人間は殺す
4:まともな服が欲しい
【備考】
非常用飲料水の毒の有無は後の書き手に任せます。
メイド服はエンジェルモートを想定。
良美の血濡れのセーラー服はE-5に放置されています
支援致します
支援
支援
支援構え
【G-5/商店街付近の住宅街/1日目 朝】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:疲労大、右拳軽傷、腹部に軽度の打撲、左肩刺し傷(左腕を動かすと、大きな痛みを伴う)】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式×2、キックボード(折り畳み式)、手榴弾(残4発)】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出、殺し合いには乗らない、人を信じる
1:美凪を守る
2:怪我の治療に商店街の薬屋、無ければ学校の保健室を目指す
3:手掛かりを求め学校に向かう
4:知り合いとの合流、または合流手段の模索
5:良美を警戒
【備考】
良美が殺した人物(藤林杏)と朋也の関係には気付いていません
【遠野美凪@AIR】
【状態:軽度の疲労】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:包丁、支給品一式×2、人形(詳細不明)、服(詳細不明)、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する
2:良美を警戒
【備考】
病院のロビーに圭一のメモと顔写真が残されています。
良美が殺した人物(藤林杏)と朋也が同じ学校だとは気付いているが、その関係や誰なのかまでは知りません
【伊達スバル@つよきす〜Mighty Heart〜 死亡】
【岡崎朋也@CLANNAD 死亡】
※スペツナズナイフの柄と刃は現地に転がっています
※オボロとの戦闘の経緯や外見などは圭一・良美・美凪は聞いています
>>173-178の間に次のシーンを挿入してください。
「―――――!――――――――――――!」
目的も無く、ただがむしゃらに走る彼の耳に話し声が届く。
声は遠く、内容は分からない。
だが会話の内容が切迫しているのは分かる。
「─―――――――――――!」
もう誰も失わないために。
今にも失われんとする命を救うために、彼は全ての脚力を注ぎ込む。
【B-8 朝】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 5+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:茫然自失】
【思考・行動】
??????
※智代は体に血を浴びています。程度は後続の書き手に任せます。
※デイパック+支給品一式×2、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガンがB-6に放置されています。
【B-8】では無く【B-6】です重ね重ね申し訳ありません
状態表を以下のように修正お願いします
【G-5/住宅街/1日目 朝】
【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(2/5)、メイド服(圭一サイズ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、錐、毒入りとラベルが貼られた500ml非常用飲料水】
【状態:中度の疲労、手首に軽い痛み、重度の疑心暗鬼】
【思考・行動】
基本方針:エリカ以外を信用するつもりは皆無、確実にゲームに乗っていない者を殺す時は、バレないようにやる
利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:エリカ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:『駒』として利用出来る人間を探す
3:少しでも怪しい部分がある人間は殺す
4:まともな服が欲しい
【備考】
非常用飲料水の毒の有無は後の書き手に任せます。
メイド服はエンジェルモートを想定。
良美の血濡れのセーラー服はE-5に放置されています
【G-5/商店街付近の住宅街/1日目 朝】
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:疲労大、右拳軽傷、腹部に軽度の打撲、左肩刺し傷(左腕を動かすと、大きな痛みを伴う)】
【装備:柳也の刀@AIR】
【所持品:支給品一式×2、キックボード(折り畳み式)、手榴弾(残4発)】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出、殺し合いには乗らない、人を信じる
1:美凪を守る
2:怪我の治療に商店街の薬屋、無ければ学校の保健室を目指す
3:手掛かりを求め学校に向かう
4:知り合いとの合流、または合流手段の模索
5:良美を警戒
【遠野美凪@AIR】
【状態:軽度の疲労】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:包丁、支給品一式×2、人形(詳細不明)、服(詳細不明)、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)】
基本方針:圭一についていく
1:知り合いと合流する
2:良美を警戒
【備考】
病院のロビーに圭一のメモと顔写真が残されています。
【伊達スバル@つよきす〜Mighty Heart〜 死亡】
【岡崎朋也@CLANNAD 死亡】
※スペツナズナイフの柄と刃は現地に転がっています
「稟くん、本当にいったいどこにいるんですか……?」
暁に映える、オレンジの髪を持つ少女、『芙蓉楓』は、ただひたすらに『土見稟』を探し、森の中を彷徨い歩いていた。
春原という男の情報によれば、ほとぼりが冷めたら神社で稟に会えるはずなのだ。
ならば放送が終わった今、稟が神社に向かってやってくることも十分可能性がある。
幸い、禁止エリアに指定された場所から神社は程遠く、稟と話す時間もたっぷりできることだろう。
「稟くん、早く会いたいです……」
頬を赤らませながらポツリとつぶやく。客観的に見れば、ただの可愛らしい少女の像になっていたであろう。だが、彼女は既に人を殺す決意をしてしまった悪魔である。
天使の仮面をつけた、悪魔はどこまでも1人の男を愛していた。故にとってしまった獣道。
無垢がゆえに気付かぬ己の闇。その闇はどこまでも深く、光が指すことはなかった。
「稟くんに会えたら、まずは一緒にご飯を食べましょう。そしてそれから……」
稟に会った後のシュミレーションを脳内で再生する。その光景に浸ってるがあまり、
『――――――――ガサガサッ』
と、背後から草を踏み分ける音に飛び驚く。だが、
「誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!」
自分の妄想が邪魔されたことに腹立ち、音のした方向に銃を向ける。しばらくした後、木の後ろから現れたのは、意外な人物だった。
「楓……?」
「純一、くん……?」
そう、楓がこの島で最初に会った男『朝倉純一』がそこには立っていた。純一も純一でポカンとした表情でその場に立ち竦んでいた。
(純一くんは、稟くんほどじゃないけど信頼できますね。情報だけでも手に入れましょうか…)
銃口は地面へと向けつつあくまでも思考を回転させ、笑顔で何時間振りになるかわからない挨拶を純一に向かって言った。
「おはようございます、純一くん」
と………。
◆ ◆ ◆
銃声を聞きつけ、ひたすらその方向に走っていた『朝倉純一』は森の中を奔走していた。
「くそ…っ!! どこにいるんだよ、さくら、音夢!!」
純一は汗だくになりながらも二人を懸命に探していた。
そんな時だった…あの鷹野とかいう奴の定時放送とやらが始まったのは。純一は一端走るのを止め、その場に座り込む。
『禁止エリアは――――。既に命を落としたのは、――――以上、11名』
地図に禁止エリアを書き終えた純一は拳を地面へと打ちつける。
「たった、6時間で11人も死んだのかよ!? そんなに殺し合いがしたいのか!?」
地面を殴りつつも、どこか安心している自分に腹がたった。
「あぁ、俺は生きてるし、仲間も死んでない。でもそういうことじゃないだろ……」
顔も、性格も何もわからない者たちが死んでいった。今度死ぬのは自分かもしれない…。
そう思うと、怖くなるがなんとか自分を奮い立たせる。
「こんな状況、音夢やさくらやことりが耐えられるはずないだろ…」
そう、自分よりも弱き存在を守らなければ…と、腰を上げ音夢たちの捜索を再開する。
しっかりと大地を踏みしめ、一歩また一歩確実に進む。
そんな何気ない行為が彼を発見させられる要因となった。
『誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!』
誰だかわからない相手に先手をとられる。木の後ろに立って、瞬時に相手の様子を確認するが、銃口がこちらに向いているだけであとはよく判らなかった。
(どうする…? こんなところで時間を食ってる暇はないんだけどな…)
逃げるのも一手。向き合うのも一手―――――。
(信じろ…。必ずしも人殺しとは限らないだろ?)
純一は、意を決し銃を持つ者に姿を現すことにした。
―――開ける視界。その先に写るのは、自分がこの島で会った最初の人物、『芙蓉楓』その人だった。
「楓……?」
「純一くん……?」
お互いにポカンとした表情になるが、楓は銃を下げ笑顔で挨拶してくる。
楓が生きている、そのことが純一をホッとさせた。
「楓……良かった、無事で…」
「はい。なんとか…」
楓ははにかみながら答える。数時間経っても変わらない眩しい笑顔。いつみても天使みたいだな、と純一は思った。
「純一くんは私とはぐれてからどうしてました?」
楓が俯きながら質問する。
「あぁ、確か目覚めたときにはもう楓がいなくて、必死にその場を逃げてきたんだ」
「すいません、私は怖くて先に逃げてしまいました……」
「いや、あの状況だ。しかたないだろ」
目覚めたとき楓がいなかったのはそのせいか……と純一は記憶の補填をしつつ話を続ける。
「その後は、港で休んで……そうだ、朝倉音夢、芳乃さくらを見なかったか!?」
ハッと気付き楓に質問する。自分が共にいなかった時間、その間に会ったという可能性は否めない。
(頼む、少しでもいいんだ…。さくらと音夢の情報。それだけでもあれば…)
祈りながら質問する。だが、楓から返ってきた答えは酷であった。
「すいません、そのお二人にはお会いしてないです…」
その答えに純一はガクッとうなだれる。そこに、楓の冷たい声が純一に投げかけられる。
「純一くんは稟くんに会いました? 情報を手に入れましたか?」
「稟くん…あぁ、楓の探してる人か。すまない、まったく手がかりがない」
少なくとも自分がこの島に連れてこられたときから『稟』という言葉を聞いたのは楓の口からだけだった。
楓は満足いかない返答だったのかあきらかに落胆した表情を見せる。
「楓は俺とはぐれた後どうしてたんだ…?」
「私ですか…?私はまず春原さんにお会いしました。そして、次に鉄乙女さん、月宮あゆさんにお会いしました」
「いろんな人に会ってたんだな。その人たちはどうしたんだ?」
「春原さんは、稟くんが神社に向かってくれることを教えてくれました…」
「神社、か……」
呟き神社のあるであろう方角を見る。確かにこのまま行けば神社につくはずだろう。
「鉄さんと月宮さんは…?」
「月宮さんはどこかで生きてると思います。鉄さんは…」
「鉄さんはどうしたんだ…?」
まさか…と思い純一は楓を言及する。楓の顔は先程の落胆していた顔から打って変わり、笑顔になる。だがその顔は確実に狂気に染まっていた。
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支援
「鉄さんは…私が殺しちゃいました」
―――――楓が人を殺した……?
信じられない言葉に口が開いたままになる。こんな少女が人を殺す。そんなこと考えられないし、信じたくなかった。
「どうしてだよ、嘘だって言ってくれよ、楓!?」
純一はただ楓に向かって叫ぶ。楓が嘘をついているその可能性をただ信じて。
「嘘じゃないですよ…?鉄さんは稟くんの敵です。だから殺しました」
一点の曇りもない笑顔。それは自分が正しいと言ってる楓そのものの自信を表していた。
「春原さんが言うには、稟くんはもうそろそろ神社に着く頃なんです」
楓は笑顔のまま言葉を紡ぐ。純一にとって『稟くん』とやらがどこへ向かおうがもうどうでもよくなっていた。ただ友人だと思っていた少女が人を殺してしまった。その悲しさがただ胸をしめつけていた。
(稟くん以外はみんな敵か……。なら、俺も死ぬんだろうな…)
純一はそう予期していた。
「だから、こんな所で時間を食ってる場合じゃないんです」
楓の銃口が再び自分のほうへと向く。
「かったりぃ……」
自分は不甲斐ない男だった。そう自嘲する。妹と従兄妹、そして祖母との約束――――。
何一つ守れなかった。ごめんな、皆。俺は本当にダメ人間だった。でも皆はどうか生き残ってくれよ―――。
「痛いのは嫌だからな。一発で殺してくれよ?」
最後のつよがりを楓に見せる。
「大丈夫ですよ。鉄さんの時に練習しましたから」
「そうか、なら安心だ」
「えぇ、ではこれでお別れですね」
そう言うと楓は狙いを定め始める。
(音夢、さくら、ことり…。杉並…あとは頼んだぞ)
目を瞑り、最後の言葉を紡ぐ。
「バイバイ、純一くん」
楓がそう言いトリガーを引き始める。――――その時だった。
支援致します
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『――――――――』
声にならない叫びが上空から聞こえ、純一の前に立ちはだかる。
そして、楓がトリガーを引いたのも同時であった――――。
◇ ◇ ◇
自分の身体につく血。純一は初めそれが自分の体液だと思っていた。
だが、自分の目の前で血を出しながら倒れている少女を見て驚愕する。
「さくら――――っ!?」
「にゃはは…、良かったぁ。お兄ちゃん守れたよ」
笑顔で返答するさくら。だが、純一は困惑する一方だった。
「どうして!? どうしてさくらが俺を庇うんだよっ!?」
「僕はお兄ちゃんのプリンセスだからねぇ。そしてナイトでもあるからだよ」
純一はただただ涙が止まらなかった。これから死ぬであろうさくらの姿を見て、悔しさと共に悲しさが溢れ出る。
『誰だかわかりませんが急いでるんです。死んでもらえますか…?』
純一たちの会話を遮り、楓はもう一度銃口を二人に向ける。
純一は懸命にさくらを守ろうとするがさくらによって阻止される。
「むぅ…。せっかく良いところなんだから邪魔しないでくれるかなぁ?」
純一の手を振りほどきつつ、さくらは立ち上がり、持っていた銃を楓に向け発砲する。
銃声と共に発射された弾は確実に楓の腕を捕らえる。
「ヒィッ。稟くん、稟くーん!!」
楓は泣きながら森の中へと逃げ込む。
sien
支援致します
「待てっ!!お兄ちゃんを殺そうとした罪をここで償えー!!」
懸命に楓を追おうとするが、1歩進んだところで純一に抱きかかえられる。
「もういいんだ、もうやめてくれさくら……」
純一は泣きながらさくらを止める。
「うにゅ…。お兄ちゃんがそう言うならもういい、か、な……あ、れ?」
突如さくらの身体が崩れ落ちる。
「―――さくらっ!?」
「にゃははごめんね、お兄ちゃん。僕ここでお別れかも…」
「やめろ! 絶対にそんなこと言うなよ、さくら…。頼むから…」
純一の涙が頬を伝い、さくらの顔へと落ちる。
「良かったぁ。お兄ちゃん、僕のために泣いてくれるんだ…」
さくらは微笑みながら話しかける。
「僕ね、人を殺しちゃったんだ。一人だけだけどね…」
「いい、もうそんなことどうでもいいから喋らないでくれさくら。どこか治療できるところに運ぶからな!」
純一はさくらの話を中断させ、さくらを運ぼうとするが、これもまたさくらによって阻止される。
「いいんだよ、お兄ちゃん。僕、自分のことは自分が一番知ってるからね」
「―――ッ」
純一の目から見てもさくらの傷は重症だった。それでも純一はどうにかしたかった。
「お兄ちゃんは今は僕の話を聞いて欲しいな。僕の最後の言葉。お兄ちゃんだけへの言葉」
凛とした声でさくらは自分に投げかける。純一は涙をぬぐい、さくらの言葉を聴く。
「でね、僕、人を殺した後に思ったんだ。こんな手じゃお兄ちゃんには会えないなって。
でもね、僕環ちゃんから予言を授かってたの。お兄ちゃんが近日中に殺されるって予言」
さくらの言葉に、純一は戸惑っていた。
「俺が…殺される?」
「うん、僕の目の前でお兄ちゃんが殺されちゃう。そう環ちゃんは言ってた。
だからお兄ちゃんを見たときに他の何も考えずにお兄ちゃんを助けなきゃって思ったの。
僕はね、嬉しいんだよ、お兄ちゃん。好きな人を守れた事が。だからこれっぽちも後悔してないよ」
涙を流しながら純一はさくらに相槌を打つ。
支援
「本当は僕とお兄ちゃん。それに音夢ちゃんたち皆で生きて帰りたかったなぁ…」
さくらが咳きをする度に血が吹き出る。純一はもうさくらを直視できなかった。
けれどさくらの手が純一の顔を彼女の方向へと向けさせる。
「いい、ここが一番大事だよ…?」
さくらの声は段々と小さくなっていく。純一は聞き逃さないようにさくらの口に耳を近づける。
「僕は、お兄ちゃんのことが大好きだよ。死んでもそれは永遠。先にあっちで待ってるけどお兄ちゃんはまだ来ちゃダメだよ? 杉並くんと一緒ならお兄ちゃんは無敵なんだから。
それに音夢ちゃんたちもちゃんと守らなきゃだよ? じゃあ最後に…」
そこまで言うとさくらは、自分に口付けをする。
「バイバイ、お兄ちゃん。大好き、だ、よ……」
それ以降、さくらが喋ることはなかった。
「――――さくらっ!?………クッ……」
溢れ出す涙を抑えきれず、純一はさくらを抱えながら泣いた。
sien
◇ ◇ ◇
一通り泣いた後、純一はさくらを埋葬する作業に取り掛かった。
あいにく自分の手持ちに穴を掘れるモノはなく、それどころか持っていたはずの鉄扇すら消えていた。
ふぅ、と息を吐き穴を掘れそうなモノを探す。
「こんなもんしかない…か」
回りを見渡してもあるのは大きな石。木の枝。それのみだった。
そこで純一は穴を掘るのをやめ、簡単な墓石を作ることにした。大きな石でさくらのまわりを囲み、その上から木の枝をかぶせるというとても質素なものだった。
「さくら、ごめんな。ちゃんと埋葬してやるからな…」
さくらの墓に合掌し、決意を新たにする。
「音夢、ことり、杉並……。俺らは生きて帰らなきゃな」
さくらのミニウージーを片手に純一はその場を立ち去っていった―――――。
【芳乃さくら@D.C.P.S. 死亡】
支援致します
【E-3 森の中2日目 早朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25)】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.何としてでも音夢を探し出して守る。
2.ことり、杉並を探す。
3.殺し合いからの脱出方法を考える。
4.さくらをちゃんと埋葬したい。
5.水澤摩央を強く警戒
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/18)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:神社に向け逃走中 右腕に被弾】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(神社へ)
2:稟を襲った可能性があるので、男性の参加者は皆殺しにする
(岡崎朋也の話を信用しているので彼は除くが、朋也の顔は忘れているのであくまで『春原陽平』を信用している)
3:その男性に知人がいる場合、分かる範囲でその人物も殺す
(竜鳴館のセーラー服を着衣している者は殺す)
4:できればネリネや亜沙とも合流したい
5:朝倉純一、彼を守った少女を殺す。
【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒→男性の参加者は稟と朋也(春原)以外全員警戒
鉄乙女は死んだと判断する
月宮あゆは自分に敵対しないと信用する(興味がないため顔は忘れた)
【E-3 森の中2日目 早朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25)】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.何としてでも音夢を探し出して守る。
2.ことり、杉並を探す。
3.殺し合いからの脱出方法を考える。
4.さくらをちゃんと埋葬したい。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
薄く白みがかった森の中、昇った太陽の光が木々の隙間から漏れ朝靄の中を通り視界を軽く塞いでいる。
走り去った対馬レオを追うべく、赤坂衛は駆け続けていた。
(はあ……はあ……はあ……どこへ行ったんだレオ君)
一向に追いつけない姿に焦りを感じながら、地図とコンパスを広げ思案を巡らせる。
気づけば大分北にまで走ってしまったようだ。
レオがこっちに来たと言う保障もない中、さすがにこれ以上進むと鉄塔からも神社からもどんどん離れてしまう。
置いて来たトウカやアルルゥのことも心配だった事もあり、可能性にかけて赤坂は進路を南へと戻し再び地を蹴った。
数分後――もうかなりの時間走り続けた為か、傷を負った足が重く彼の走りを鈍らせていた。
顔面からも汗が噴出し、さすがに目に見えて赤坂の速度は落ちていた。
(――さすがに……はあ……少……し、休むか)
肩で息をしながら身を隠すように木陰に腰を下ろす。
身体を休める中でも周囲への警戒は消して怠らないよう、五感を集中させる――今のところ人の気配は無い。
そこで視界の隅に、少し盛り上がった地面に気づく。
(……なんだ?)
妙に気になったソレに、ゆっくりと立ち上がると一歩一歩近づいていく。
掘り返されたように色の変わった土に、申し訳なさそうに添えられた花が一輪。
所々に土が付着した木の棒もその傍らに置かれている。
赤坂は直感でこれが墓標ではないかと考え、そして最悪な想像が頭に浮かぶ。
――対馬レオのものではないか?
殺し合いなどど言う事をしている人間がいるなんて考えたくもない。
だが一度沸いた疑念は赤坂の心を捉えて離さなかった。
死者への冒涜とも考えながらも、赤坂は大きく頭を下げながら木の棒を手に取ると土を掘り返しだした。
もともと柔らかい成分の土だったことに加え、一度掘られたであろう土はたいした力もかからず寄せられていく。
掘り返され積み上げられる土の中、彼の手に土とも石とも違う固い感触が広がった。
土砂がかかり汚れてはしまっているものの、中から出て来たの一冊の本。
それを手に取り表紙を軽く手で払う――
「マヤウルのおくりもの……か」
書かれたタイトルを読み上げ手に取ると、その下から人の手らしきものが埋まっているのが見えた。
「!?」
丁寧に身体を覆う土を掻き分けていくと、そこには一人の『少女』の姿が現れた。
白く綺麗な肌、それを包み隠す純白の衣服。
生前の美しかったであろう姿は、土砂と『少女』の身体から溢れ出た真っ赤な鮮血によって汚されていた。
そのあまりにも無残な死体に赤坂は『少女』の姿から目を離す事が出来ず、
悲しみに震える身体を抑えるように唇をかみ締めながら、その絵本を少女の手へと再び握らせた。
目の前の少女に向かって小さく黙祷を捧げる。
埋まっているのは対馬レオのものではなかった。
だが安堵感よりも、目の前の『少女』の眠りを邪魔してしまったと言う罪悪感だけが赤坂を襲う。
「本当に……ごめん」
祈りを捧げる赤坂の集中が、ガサリとしたかすかな草を踏みつけたような音によって思わず遮断される。
何事かと思って振り返る……があたりに人の姿は無い。
距離はわからないがそう遠くでもないように感じた。
(この子を埋葬してくれた人間だろうか? それとも殺した……?)
是非はともあれ、もしも後者であるならば黙ってこうしているのもまずい。
ゆっくりとバックに手を伸ばし中からトンファーを取り出そうと――
「……動くなや!」
刹那、背中へと感じる突き刺すような殺気と共に耳に届いた声。
伸ばした赤坂は腕は、否、全身は怒気の篭ったその声によって動きを止められてしまっていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
相沢祐一と別行動を開始し、金色のツインテールをなびかせながら一路ホテルへと向かっていた大空寺あゆ。
木々に阻まれて視界は悪いが、遠くのほうに動くものが見えたように感じ、慎重に歩を進めていた。
万が一のためにS&W M10を握りしめながら、木に身を隠し足音を立てないように一歩一歩と近づいていく。
そして遠巻きながらもそれが人影であると確認したあゆはゆっくりと考える。
(どうしようさね……)
何をしているのかは遠すぎて詳しくまではわからなかったが、男の足元には掘ったのであろうか、土が盛り上がっていた。
先ほどは見つかってしまったゆえに多少の情報交換すらもしたが、
基本的に一人で行動している人間など、簡単に近づけるものではない。
相沢祐一のように能天気なお人よしならいいのだが、結局のところ見ただけではそんな事は量れるわけもないのだし
わざわざ自分から巣をつつく事もないだろう。
見つからないように小さい身体を木に隠し、ゆっくりと呼吸を整える。
(気づかれる前にさっさとおさらばさね……でもその前に)
長居は無用、自ら危機に足を踏み入れる必要もあるまい。
あゆはそう考えその場を後にしようとするも、思いついたようにゆっくりと木から身を乗り出し顔を覗かせていた。
立ち去る前に男の顔を確認しておきたいと考えた為だった――がそれが一番の失敗だった。
こめかみに力をこめ、なんとか顔を捕らえようと薄目を開き男の姿を凝視する。
だが注意深く観察しようとすればするほど、逆に視界がぼやけてしまい上手く確認することが出来ない。
苛立ちながら大きく身を乗り出していたあゆは身体がどんどん前のめりになっているのにも気づかず、木の幹で支えていた両手が朝露ですべり、そのまま地面へと激突してしまっていた。
(やばっ!)
気づかれてしまったののでは、と慌てて体勢を整えながら再び身を隠す。
地面に打ち付けた手が多少痛むのも気にせず、乱れる息を整えながら慎重に顔を覗かせ――そこで男がきょろきょろと周りを見渡しているのがわかった。
(場所までは気づかれて無いみたいだけど、ってまずっ!)
男が背を向けたかと思うとバックに手を伸ばしていた。
バレた? まさか武器を持ってる?
自分は銃を持ってる、相手の姿も見えている。
「本当だ! 信じてくれ!! 確かにこれは墓だが……僕は偶然これを見つけて、知り合いが埋まっているかもと思っただけだ!!」
「普通そこまでする……? 本当にしたって趣味が悪すぎて逆に笑えないさ。
そんなのどうすれば信じられるって言うのかしらね。で? 死体はどこ? もうその中?」
「ぐ……」
完全に不審に思われている。
しかもここに死体が埋まっている以上無いと嘘をつくのも自分の首を絞める結果にしかならない。
「……確かにここには死体が埋まっている。でも! それはけして僕が殺したわけじゃない! どうしたら信じてもらえる!?」
これはもう自分が無害であると訴えるしか方法が思い浮かばなかった。
再び返って来ない返事に赤坂の首筋に冷たいものが零れ落ちた。
気が付くと首だけではない。背中からも汗が噴出し、じんわりと赤坂のシャツを濡らしていた。
数秒の間――気が遠くなる想いに狩られながらも再び声が赤坂の耳に届いた。
「……そうね、それじゃまずそこで素っ裸になって大の字に寝転がるさ」
「なっ!?」
「そして両足を上げて汚いケツの穴でも見せてワンワン鳴いたら信じてあげてもいいわ」
発せられた侮蔑とも取れる言動に、赤坂の頭が真っ白になる。
始めは躊躇いがちだった口調が、何時の間にか見下したものへと変わっているのがわかった。
自分に逆らうことなど出来ないだろうと言う絶対的優位の立場を自覚した余裕を感じ取れた。
確かにこれは狩るものと狩られるもの。それも一方的な搾取と言っても過言ではない状況では合っただろう。
「……くく、出来るわけないわよね、そんな屈辱的なこと」
「……君が……僕を殺そうとしていない保証はどこにも無い」
「お前脳みそ沸いてんじゃないの? もしあたしがそうならこんなグダグダしてる暇があったら声なんかかけずに襲うに決まってんじゃないのさ」
「……」
「で、どうするの? 脱ぐの? 脱がないの?」
「……それで信用してもらえるのか?」
「どうかしら? 少なくとも今あたしはそれが見たいだけなのさ」
笑いをかみ殺した声に耐えながら、赤坂は脳を回転させながら現状の立ち位置に思考を巡らせる。
(可能性としては……一つ、俺のことを誤解していて、虚勢を張った上での行動)
支援!!
これならば然程問題はなかった。いや、かなり恥かしいという問題はあるが、少なくとも向こうには攻撃する意思が無いのだからやってのければ話ぐらいは聞いてもらえだろう。
(だが、俺を襲おうとしている場合……まず武器が極めて弱いから完全に無防備にしたいと考えている可能性だ)
そこでまた増える問題が、目の前の『少女』を殺した人間と同一人物か否かと言う事だ。
目の前の遺体にはいくつもの銃根が残っていた。
少なくとも銃が武器として配られているのは間違いないだろう。
(確かに言葉のとおり、銃を持っていればすぐさま撃つだろうからこの心配は無いのか……いやまて、残りの弾数が少ない可能性もある。
訓練された人間でもなければ思い通りに当てるなんて不可能だ。それを回避するためにまず自分の安全を確保してから近づいて撃つと言う可能性も……)
……考えれば考えるほどダメだった。
それは刑事ゆえの性か、殺人者であるかもしれないという疑念が消えない以上、今この場で相手の言いなりになるわけにはいかないと言う思考に陥らせる。
(こうなったら……いけるか……?)
木々に反響している為か、声の方向が完全には掴みきれない。
だが声の大きさと気配で大体の距離なら絞り込める。向こうの武器次第だが、向こうが絶対的有利と確信している今なら素手でも何とか押さえこめれるかもしれない――
「――相手は女だから、隙をつけば何とかなる。とでもそろそろ考えてるころかしらね」
その言葉に赤坂の身体は再び硬直していた。
意を決め、まさに振り返り駆け出そうとした直後なのだ。思い描いたことを言い当てられた赤坂の心の中には動揺が広がっていた。
「まあやる気ならそれはそれで構わないけど……一応忠告。襲ってくるって言うんならあたし容赦はしないわよ?」
「言ったろう? 僕は何もしていない。だから襲うつもりなんて無い」
「ったるいわね、んなら態度で示せや」
「……わかった」
交渉の余地は無い、と赤坂は判断する。
シャツのボタンに手をかけゆっくりと脱ぎ去ると、鍛えられた筋肉と幾多もの古傷が顔を覗かせる。
迷うことなく続けざまにベルトに手をかけると、カチャカチャと言った金属音と共にベルトは外され、ズボンをも下ろす。
純白のブリーフ一枚と言う下着姿になりながら、溜息を一つ付いて赤坂は背後へと声をかけた。
支援!!!
「これじゃ……だめかな?」
「同じことは二度も言わないさ」
「さすがに……恥かしいよ」
「信用して欲しいんじゃないけ?」
「……く」
「ん、まあいいさ。それじゃその最後の一枚取ったら考えてやるさ」
帰ってきた返答に言葉が詰まりながらも、それでも譲歩は貰う事が出来た。
これなら少なくとも寝転がっているよりは行動に余裕が出来る。
「わかった……これを下げたら信じてくれよ?」
――覚悟を決めた赤坂が下着に手をかけたその瞬間だった。
「――――皆、もう待ち切れないって感じね」
天から割れんような音量で、聞き覚えのある、いやどうしたところで忘れ様がない鷹野三四の声が響き渡り始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
いきなり流れ始めた放送に、あゆは時計をチラリと確認する。
針は違うことなくきっかりと6時を示していた。
「くっ、こんな時にっ!」
動揺を抑えながら放送を聞き漏らさぬよう注意をほんの少しだけ天に向けた――
支援!!!!
だが、赤坂はその隙を見逃してはいなかった。
ほんの少しあゆが漏らした後悔の念。
そして同時に聞こえた草木を踏む音。
下着に入れかけた手を一瞬にして出すと、瞬く間も無く地を蹴って駆け出した。
あゆも遅れながら自分に向かって赤坂が走ってきていることに気づいた。
正確な場所はわかってるはずは無い。
だからあたしのほうが絶対有利なんだ!
……だが襲われるかもと言う恐怖があゆに冷静な判断をさせず、構えたままであったS&W M10のトリガーを勢いよく引き絞っていた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
走り出した赤坂の目に映ったのは、金色の長い髪を左右で縛り上げた小柄な体格の少女の姿。
(子供っ!?)
その外見に対して考える間も与えず重い音が響き渡り、同時に自分の数メートル隣の木に何かが当たるのを横目で追ってしまっていた。
目を逸らしたのはほんの一瞬だったものの、目の前にいた少女の姿は忽然と姿を消していた。
(逃げたのか? ……いや気配はある)
起こった事実に赤坂は一瞬で決断を下し、踵を返すと自分の元いた場所……『横たわる遺体のある場所』へと駆け出していた。
向かっては見たもののこの視界では居場所がばれている自分が不利なことは否めない。
とりあえずは戦況を立て直そうとバックを持ち衣服に手を伸ばそうと――そこで二発目の銃声が響き渡った。
(くそっ! やはり銃を……って事はあんな小さな女の子が!?)
銃弾は見当違いの方向に飛んでいったものの、その音に硬直した身体が体勢を崩し、伸ばした手は届かない。
悩んでる暇は無いと結論付けた赤坂は服をひとまず諦め、あゆのいる方向とは反対側へと駆けていった。
支援!!!!!
支援するぜ
支援
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ったく最悪な状況で放送が流れたわね……おかげでよく聞こえなかったじゃないのさ」
赤坂が逃げ去ってから数分後――あゆは周囲を警戒しながら脱ぎ捨てられた赤坂の衣服へと近づいていた。
「禁止エリア――って言ったっけ? F-7ってのはなんとか聞こえたけどCのどこだったのさ。ホント胸糞悪い」
苛立ちを覚えながら赤坂のシャツを全力で蹴りつけると、追い払った男の顔が目に浮かんできた。
「……あいつあんな格好でこれからどうするつもりなんさね」
苦笑しながら地図をしまいこむと、知らず知らずのうちに視線が『赤坂の立っていた場所』へと向かっていた。
顔を覗かせた穴の中にあったモノ――それを見た瞬間身体が震え、あゆの身体に冷たい汗が流れ落ちる。
「……本当に……死体、か」
結局あの男がこの『少女』を殺したのかどうか定かではない。
彼が言うとおりにただ死体を発見し埋葬していただけなのかもしれない。
……それでも最後に自分へ向かってきた時の殺気を見ても警戒しておいたほうが良いのは間違いないだろう。
「まあ、あたしが何か言える義理も無いけど……おやすみ、とだけ言っておくさ――って、え?」
見下ろしているのは出会ったことも見たことも無い女性。
だが、その『少女』が手に抱えていたものには見覚えがあり、思わず凝視していた。
以前孝之が欲しがっていてプレゼントしたものに見え……間違いなかった。
孝之の顔が思わず浮かび上がる。
バイトの使えない同僚、ムカツクヘタレ虫、だが一緒にいると何故か心が落ち着くアホ面した男。
「すぐおっちんでそうだけどね」
少し寂しそうな笑みを浮かべ自重気味に笑う。
それでも放送に彼の名前が挙がらなかったことに安堵している自分がいて、どうしようもなく怒りが込み上げてきていた。
「くっ……なんか腹立つわね畜生」
支援です
言いながら『少女』の手に握られた絵本へと手を伸ばし、それを持ち上げようとして――やめた。
土砂にまみれながらも、本を抱いて眠る顔がとても安らかで純粋に美しいと思った。
そのパーツを勝手に取り除いてしまうことが、とても罪深いように思えたのだ。
「まああの糞虫に会えたら一応この絵本のことだけでも教えてやるかね」
ずれた絵本を元の位置に戻すとその上から全身に土をかぶせ、完全に埋まったことを確認すると
小さく目を閉じ「じゃあね」と一言呟きながらその場を後にしていった。
――あゆは知らない。
先ほどの本が、自分がプレゼントした本であると言うことを。
埋葬されていた『少女』が孝之の恋人である遥だと言うことを。
【C-4森東部 /1日目 朝】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(3/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式・ランダム支給品x2(あゆは確認済み)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:早めにホテルに移動(Cエリアからの脱出)
2:殺し合いに乗るつもりはない
3:基本的にチームを組むつもりは無い
【備考】
あゆは放送の一部を聞き漏らしています。
そのため禁止エリアがC-2と言う事は知らず、Cのどこかであるとしかわかっていません。
赤坂が遥を殺したかもしれないと疑っています(赤坂と遥の名前は知りません)
しえん
支援や!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
下着一枚と言う珍妙な格好で走りながら、赤坂は考えつづけていた。
放送で流れた死者の名前。
読み上げられた名前が真実かどうかは実際図りかねる。
適当に名前を羅列して、殺し合いを加速させようと目論んでいるのではないかとも考えた。
だが、実際に目の前で死人を見てしまった事からその考えは一瞬でかき消される。
少なくとも死人は出ているのだ……だったら嘘の情報を自分達に与える必要も無いはずだ。
だからきっとあの放送は真実だったのだろう。
「レオ君……ごめん……」
追っていた対馬レオの名前が呼ばれてしまった。
自分が彼を止めきっていれば、死ぬことは無かったのではないか。
後悔の念が赤坂の中を何度も襲う。
それは古手梨花を救えなかった事を知ったあの時と同じように――
その想いが赤坂を突き動かしていた。
「後悔してるだけじゃ、何も出来ない……だからっ!」
大石も、先ほど別れたトウカもアルルゥも放送を信じるならばまだ無事なはずだ。
そして古手梨花と言う名前も呼ばれていない。
ならば自分に出来ることは、そう考え出す。
まずは鉄塔に戻りトウカとアルルゥと合流、そしてすぐさま大石と古手梨花を探し出す。
残してきたトウカやアルルゥの事も心配ではあったが、トウカの強さは良く知っている。
「あのうっかりさえ無ければ……大丈夫だよな」
一抹の不安を抱えながらではありながらも、赤坂は南へと進路を変え足を動かし続けた。
429 :
代理投下:2007/06/14(木) 23:28:08 ID:dWzH7VEz
修正案 ◆sXlrbA8FIo:2007/06/14(木) 18:56:23 ID:yGBRvFZg
【C-4森西部 /1日目 朝】
【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷、ブリーフと靴のみ着用】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:鉄塔に向かいトウカ・アルルゥと合流
2:大石さんと合流したい。
3:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
4:落ち着いたら服を取りに戻りたい
備考
赤坂の衣類はC-4の遥の墓のそばに放置
あゆが遥を殺した人間である可能性を考えています(あゆと遥の名前は知りません)
「痛ッ……」
頬骨の辺りの強烈な痛みで私は眼を覚ました。
眠って……いたのだろうか。意識がハッキリしない、あやふやだ。
辺りを見回しても誰か他の人間がいるわけでもない。
少しだけ地肌が露出した草原、肉眼で確認できる距離には砂浜もある。
こんな場所にどうして私はいるのだろう。
「私は……誰だ?」
思い出せ。私の……名前は。
「アセリア……そうだ。アセリア・ブルースピリット。それが私の名だ」
次は身の上。どうしてこんな場所で自分は寝ているのだ。
爽やかな涼風というよりも塩の匂いが染み込んだ、潮風の存在が強く意識される場所。
水の精霊である自分にとって、水辺は特別な場所である。
とはいえ、こんな場所で意味も無く寝てしまうような悪癖は持っていない。
「なぜ、こんな……、ッ!?」
――敗北。
脳裏に浮かんだのはこの二文字。
昏倒し、眠りへと落ちて行った意識の中でも、この言葉だけははっきりと輪郭を保っていた。
そうだ、自分は戦って、そして。
「負けた……のか、私は」
敗けたのだ。しかも酷くアッサリと。
油断していたから、獲物が不慣れな武器だったから。そんな台詞は言い訳にもならない。
カルラ。そう名乗ったあの女は確かに強かった。
だが素手と剣だ。初めから私が圧倒的に有利な立場にいた。それでも、私は敗けた。
油断をしたわけでもない。
予想外のアクシデントが発生したわけでもない。
確実に、一度は勝利を確信さえした。
それなのに。
『私に勝ちたかったら、戦い以外の自分を見つけて出直してくることですわね』
あの女が最後に残した言葉の意味。
……戦い以外の自分?
――確かに私はひたすら戦いの中で生きて来た。
来る日も来る日も剣の鍛錬。
空き時間にすることも自分の永遠神剣を磨くことぐらい。
エスペリアやオルファリルが植物を育てたり、家事を楽しそうにやっている光景は何度も見たことがある。
ただ、それだけ。
「分からない、戦い以外……だと。スピリットは戦争の道具だ。
今は、戦うことが全て、他のものなど……必要ない」
"戦い以外の自分"か。
そんなものが本当に力となるのだろうか。
ただ、"殺す"ための非情な戦闘機械では足りないのか。
私には、分からない。
■
戦いに敗れ、倒れていた場所から立ち上がり、最初に足を向けたのはすぐ近くの砂浜だった。
理由は二つ。まず私が水のスピリットであること。
水は、海はいい。
潮の流れ、ぶつかり合う波音、磯の香り。全てが私の力になる。
そしてもう一つの理由が武器についてだ。
数分前。
支給されていた奇妙な形をした剣はカルラに持っていかれてしまったらしく、私は途方にくれていた。
幸いなことに、剣以外の、背負っていた支給のデイパックは完全に手付かずの状態だった。
しかしさすがにあの女のように素手で殺し合いに興じるのは自分には無理な所業だ。
最低でも何か、堅く、そしてある程度の長さの得物が必要になる。
未確認だった残りの支給品を確かめる。
「……なんだコレは……?奇妙な形をしたゴムと……。
……蟲!?」
思わず"その"支給品を地面に落としそうになる。
だが寸前で容器の口の部分を引っ掴む。危ない。
もう少しで中身を外にぶちまける所だった。
デイパックの中身が取り出されていないことに歓喜したのも束の間、結局訪れたのは絶望。ぬか喜びもいい所だ。
最初に引いた剣が当たりだとすれば、残りの二つは見事にハズレと言ってもいい。
一つは紙の箱に入った十二個の薄い、風船のようなゴム。
箱の正面に『コンドーム』とデカデカと書いてあるが、コレは一体何に使うものなのだろうか。
黒い文字で『鮫菅新一』と書かれているが、当然、知り合いのエトランジェにもそのような人物は存在しない。
そしてもう片方の支給品に至っては、私が持つ"道具"という概念からもはや完全にかけ離れていた。
虫。未だ明らかに生命活動を維持し続ける生きた虫が、何百匹も巨大な瓶に詰め込まれていた。
巨大な二枚の羽根と親指ほどはありそうな太い胴体。
それら全てがゴソゴソと蠢いている姿は、特に虫に特別な恐怖感など持っていない私でさえ、鳥肌が立ちそうになる。
一体こんなものを支給して、参加者に何をさせたいのだろうか。
ハズレを引かせることで、苦虫を噛み潰したような顔をする我々を見て楽しんでいるのだろうか。
ひとまず両者を明らかに役立たずの道具と判断し、デイパックの中に戻す。
先程から耳にこびり付いていた『カナカナ』という蟲の鳴き声が若干収まったような気がする。
それ故、私は武器を探して、一番近くの建造物である、この海の家へやって来た。
海、晴天、そして輝かんばかりに白い砂浜。
だが今、この場所にいるのはどうも私一人だけのようだ。
打ち寄せる波の音がやけにもの悲しく聞こえる。
数件、小さな屋台が見受けられたが、中には砂を被った鉄板やら銀色の光沢を帯びた金属製のデッキなど、備え付けの器具ばかりだ。
役に立ちそうなものは特に見つけられない。
そうなると、やはり一番大きな建物に自然と足が伸びる。
「ここが一番大きいな……何か武器になる物は……」
――ようこそ、いらっしゃいマセ。
「ッ!?」
私は思わず身構えた。
習慣からか右手は自然と剣を探してしまうが、残念ながら今の自分は丸腰。
突然の敵襲はまずい。
「海の家へようコソ。
認識コード照会…………ナンバーイレヴン、アセリアと確認。
ご要望をドウゾ」
だが、目の前に現れた"ソレ"は拍子抜けしてしまうような謎の存在だった。
腫れぼったいタラコ唇にドラム缶のような胴体。
そして金属のボディ。
頭部には毛髪を模したものと思われるカツラのようなものが付いているため、おそらく人型なのだろう。
全自動の……機械人形だろうか。
「……何だ、お前は」
「私はメカリンリン一号デス。この場所の管理と運営を任されていマス。
ご要望をどウゾ」
「……望み……。何を……求めてもいいのか?
それならば永遠神剣だ。私の永遠神剣『存在』をここに」
――怪しい。
全感覚、全神経がそう訴えている。
だが、ひとまず望みだけは伝えておく。相当に低い可能性だろうが、適当な願いとはいえ言ってみることに損は無い。
今最も重要視すべきはやはり武器の入手だ。
特に、永遠神剣さえ手に入れば私に一切の障害は無くなる。
だが丸腰のままではそもそも戦いにならない。
「申し訳ありまセン。現在は、エリア間の移動のみデス。
道具でしたら、そこの戸棚の中にあるものを自由に使用してくだサイ。
移動に関しては、ご希望のエリア、条件、相手などを指定してくだサイ」
機械人形が示した場所を調べると、確かに戸棚の奥に何か見たことの無い物が入っていた。
鉄製の巨大な針が数本と他に金属製のヘラやフライパン。
武器……とは到底言えるようなものではない。どう見ても台所用品だ。
とはいえ、この鉄製の針は中々使えるかもしれない。
長さは40cm程度のものから一番長いもので70cmほど。先端に鋭角部分があるのは僥倖だ。
適当な鉄のパイプを拾って使うよりは大分頼りになる。
「相手が、指定できるのか?
それではカルラだ。カルラという女のいる場所へ」
「カルラ……データ照合。…………ロスト。
位置情報が確認できまセン。条件を再指定してくだサイ」
――使えない。
思わず口に出してしまいそうになった台詞を寸前で飲み込む。
こんな機械に悪態をついても何の意味も無い。
「……それではハクオロ……いや、この際誰でもいい。
とにかく強者。戦う力、殺し合いに値する者と私を会わせてくれ」
ハクオロ。
カルラが自らの主、いや奴隷とまで評した人物だ。
アレだけの力を持つ戦士が飄々と"奴隷"と言ってのけるのだ。それだけの力関係があるに違いない。
そしてあの口ぶりである。この"ハクオロ"という人物もこの戦いに参加しているのだろう。それならば会って、戦ってみたいと思った。
「…………条件確認。輸送路、開きマス」
「なッ……!?」
突然、身体がどこか別の空間に転移して行く感覚を覚える。
そう、これは最初に集められたホールからあの鷹野という女の合図一つでワープさせられた時と似ている。
いや……これは同じ力を利用しているのかもしれない。
消えゆく身体と薄れゆく意識の中で、私はそんなことを考えていた。
■
支援……ッ!
「……ッ、ここは……!?」
気付くと真っ暗な、明らかに地上とは思えないような場所に立っていた。
これは地下道なのだろうか。ある程度の横幅と縦幅、頑強に補強されたトンネルが視界の限り延々と続いている。
あの機械人形は『輸送路』を開くと言った。
ならば、この道の先がどこか他の地点に繋がっているのだろうか。
そこまで考えた後で、私は自分の目の前に木と金属で出来た箱のようなものがあることに気付いた。これは……そういえば、文献などで見たことがある。
「トロッコ……か。こんなネットワークが張り巡らせてあったとはな」
もう一度辺りを見回す。
薄暗い洞窟の内部はぼんやりと光る電灯で照らせている。
そして、背後は完全な行き止まり。
確かに安易にこんな明らかに怪しい移動手段を使うのは気が引ける。
だが、現在の状況から考えてこのまま立ち止まっていても何も自体が進展しないと言うこともまた真理。
「……行くか」
結局、選択肢は一つしかないのだ。
前に進み、そして目の前に立ちふさがる者を切り伏せる。
戦えればそれでいい。そうだ『戦い』ソレが私の存在理由。
私はトロッコに乗り込んだ。
端側についているレバーを倒すと、ゆっくりとその箱は加速し始めた。
視界一杯に広がる闇が、一体どこまで続いているのか、もちろん私には皆目、見当も付かない。
【G-8 地下通路/1日目 朝】
【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:鉄串(長)】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x3 フカヒレのコンドーム(1ダース)@つよきす-Mighty Heart- ひぐらし@ひぐらしのなく頃に 祭】
【状態:移動中。ガラスの破片による裂傷。殴られたことによる打撲】
【思考・行動】
1:カルラと再戦する
2:ハクオロと戦う
3:強者と戦う
4:殺し合いを全うする
5:永遠神剣を探す
※戦闘に集中していたので拡声器の声は聞いていません。
※アセリアは第一回放送を聴いていないため禁止エリア、死者を把握していません。
※アセリアは次に「このゲームにおける弱者」がいるエリアに現れます。どのエリアかは次の書き手さんにお任せします。
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
海の家には完全自動のロボ・メカリンリン一号が配置されています。
彼女は島内の地下を通っている地下トロッコ道の管理を任されており「望んだ条件と正反対のエリア」へのルートを開放します。
トロッコで移動している際は禁止エリアによる制限は受けません。
(・3・)
※フカヒレのコンドーム
アレでナニをする時に使う道具。12個入り。
パッケージの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してある。
レオがエリカルートの屋上でフカヒレから手渡された思い出の品。
薄型がウリでフィット感が凄い、らしい。
※ひぐらし
雛見沢に生息するひぐらしを瓶に無理やり詰め込んだもの。
全て生きています。
■
――はぁっ、はぁ、っ……。
アレだ。あるはずだ。必ず、ここに。
土木関係の工事に使うのだろう、ショベルカーやダンプカー。
耕運機などの大型車両が何台もこの場所には放置されていた。
もっとも大半はキーが挿しっぱなしで、正直『放置』という言葉が当てはまるのかどうか疑問なのだけど。
それに勿論、免許なんて持っているわけが無いし、せめて普通の自動車ならばともかく、こんなに巨大な車を操るのは自分には無理だ。
そりゃあ、自由自在に操ることが出来れば、目の前にいる人間だろうが何だろうが思うがままに蹂躙出来るんだろうけど。
……そう、今の私に必要なのは、そんな不確かな力じゃなくて。
確実性。コレが何よりも大切な要素じゃないか。
100%、完璧に、完膚なきまで、目的を実行する力。
どんなに圧倒的な力を持っていようが、油断や慢心はどこからでも忍び寄ってくる。
自分の能力に酔いしれるあまり、事を仕損じるような失敗を犯す、そんなのまるで笑えない。
「……あった。でも五つだけ……か……」
嬉しさと悔しさが同時に湧き上がる。
確かに目的の品は発見できた。しかしこの五個という数は酷く微妙だ。
出来れば二桁ほどの数を確保しておきたかったのだが。
もう少し辺りを探してみたが、結局初めの五個以外に見つからなかった。
この倉庫を発見して、中をある程度確認した時に、必ず"コレ"があるはずだと思った。
何しろ明らかに凶悪な武器となる大型車両にキーを挿しっぱなしにして置く、そんな主催者なのだから。
彼らが私達に何を望んでいるかは分からない。
それでもある程度参加者を選りすぐっている以上、有力な候補のような存在は何人か目星が付いているはずだ。
そして島内にはある程度計画性を持って戦力を整えるための道具が、いくつか配置されている可能性が高い。
支給品は完全にランダムだが、参加者がどういった意志で行動するかは完全に自由である。
ただ銃で撃ち抜き、刀で切り殺すだけが全てではないのだ。
「……大丈夫よ、四葉。
あなたの仇は、必ず、私が討つから。
千影、衛。あなた達に怖い想いなんて、絶対にさせないから」
■
■
「へぇ……中々揃ってるじゃないか」
改めて院内に設置された売店に足を運ぶ。
目的は食料品や備品の確保。
支給品の食料だけで十分だとも思うが、備えあれば憂い無し、とも言う。
「……製造日、昨日かよ……。
このために準備したのか、いきなり人がいなくなったのか……どっちなんだろうな」
何となく手にした炭酸飲料水のボトルの側面のデータを見て、軽くため息をつく。
とはいえ、これは考えれば答えが見つかるような類の疑問では無い。結局、俺はデイパックの中に食料品を詰め込んでいく作業に戻った。
数分後、店内を一通り回り終えると、初めパンと水しか入っていなかった鞄が大分賑やかになっていた。
(そろそろあの男も起きてる頃だな。貴子にばかり苦労かけさせるわけにも行かないし……。 早めに戻るか。)
元々病院へは何か使える備品が無いか、という目的で立ち寄ったのだ。
診療所など、簡易的な医療施設ならば市街地に行けば存在しているかもしれないが、大規模な施設となるとここだけである。
知り合いを探して島内を巡り歩くことになるわけで、出来るだけの補給はここで済ませてしまいたかった。
故に俺は未だ目覚めぬ稟の世話を貴子に任せて、院内を巡って役に立つ道具を集めていた。
放送では自分達の知り合いは誰一人名前を呼ばれることは無かった。温泉で出会った連中も全員健在らしい。
しかし知らない人間とはいえ、既に十一人の死者が出た、その事実に変わりは無い。
直前に目を覚ましていた貴子はもう一度倒れてしまうのではないかと思うくらい、顔を青くさせて震えていた。
日常から非日常への突然の移行、そんな変化を当たり前のように受け流すことが出来るほど意志の強い人間なんて居るはずが無いのだから。
(しかし……あの男、いったいどうしてあんな所に倒れていたんだろうか。
やはりあの飛んで行った女の子が何か関係しているのか……?)
彼に対する疑問は考察を進めれば進めるほど増していく。
例えば、彼の衣服がまるで誰かに襲われた後のようにはだけていたこと。
まさか自分で脱いだとも思えないし、飛んで行った少女や死んだ少女が彼にそういう目的で襲い掛かったとは思えない。
(とりあえず、本人に聞いてみるしか無いか……)
――いやぁぁぁぁ!!は、離してください!!い、痛いっ!!んッ!……っぁあ……あ……。
ハッと我に返る。
脳内を揺らすような鋭い悲鳴。しかも声の主は明らかに貴子だ。
まずもしや先程の少女が帰ってきたのでは、という可能性が頭に浮かぶ。
彼女は確か手に機関銃を持っていたはずだ。あんなもので狙われでもしたら命が幾つあっても足りるはずが無い。
そしてもう一つの可能性。つまり、あの『気絶していた男』が貴子に遅い掛かろうとしているというラインだ。
現実的に考えてこちらの方が明らかに現実的だ。
もしこの予想が当たっていたとしたら彼女を一人で置いてきた自分の判断が明らかに間違っていたと言わざるを得ない。
「貴子ッ!!大丈夫か」
「た、武さん…………たすけ……て」
『未来の予想は常に最悪のケースを想定しろ』
よくある格言だが、人が常にそこまで対策を立てた行動・思考が出来るのかと言えば無理がある。
常に100%の結果を残せるのならば、それは既に人ではなく機械か何かに近いのだから。
しかし、それではその最悪な未来を想像さえしていなかったならば、どうなるだろう。
己の不備を、無能を、無力を呪い、やり様の無い怒りを握り締めるしか無いのか。
それともそんな状況からワーストをベストに変える、素晴らしい秘策が突如頭に浮かんだりするのだろうか。
答えは否。
そんな奇抜な閃きというか天の落し物は、どんなにハンサムでスマートな人間と言えど手に入りはしない。
つまりそんな間抜けな人間に残された選択肢はただ一つ。
ひたすら足掻いて足掻いて、裸一貫でその困難にぶち当たりに行くことだけだ。
そう。だから、まずは目の前で倒れていた男に首を絞められている貴子をどうにかしなければならない。
■
「何してやがる!!貴子を放せ!!」
叫びながら二人に駆け寄ろうとする。
ベッドで寝ていたはずの男は瞳を狂気で濡らしたまま、こちらを見ようともしない。
「糞ッ!!」
俺は食料や飲み物のボトルが詰まったデイパックの中身を男に向けてぶちまける。
ナイフがあったことにはデイパックの中身が空っぽになってから気付いた。
とはいえ、この状況で慣れない投げナイフなど何の武器にもならないことも悟る。
「づぁ!!ぐ……う……お前も、お前も俺を殺すつもりなのか!!」
「うるせぇ!!そっちが先に手を出したんだろうが!!」
男が怯んだ隙に、腹に一発蹴りを入れて貴子を解放する。
男は軽く吹っ飛び、ベッドの脚に身体をぶつけ、倒れた。
「武さん!!あの方がいきなり……私に」
「分かってる、少し荒っぽいことになりそうだ。
下で待っていてくれ」
「でも……」
「心配するな、アイツを黙らせたらすぐに行く」
貴子は一度だけ、大きく頷くと多少苦しそうな表情をしながら部屋から駆け出して行く。
荷物は一切持っていない。さすがにデイパックを回収していく余裕は無い。
貴子の背中が視界から消えるのを確認すると、俺は男の方に視線をやる。
「待たせたな」
「うる……さい!!うるさい!!うる、さい……」
男はうわ言のように『うるさい』と呟き続けるだけ。
ベッドに寄り掛かり気だるそうにしながら。初めは理知的なように感じたその表情も醜く歪んでいる。
――とりあえず時間を稼がないとな。
どうにかコイツを撒いて、貴子と合流しなければならない。
ひとまず貴子が安全な場所まで逃げられるだけの時間は必要だ。
「まぁ、そう熱くなるなよ。名前、何て言うんだ?」
「……名前?…………ハハハ」
「?」
「知ってるんだろ、分かってるんだろぉ!?
俺の名前?今更そんな事聞いて何になるんだ?
ハハハハハ、いいよ。
そんなに知りたきゃ教えてやる。稟、土見稟だ。
……そうだよ、俺は、土見稟だ」
稟、そう名乗った男は、今度は"自分の名前"をまるで自らに言い聞かせるかのように呟き続ける。
――まるで狂人か精神病患者のようだ。
明らかに常人とは違う。
生理的な、こう身体の芯から全身を駆け回るような気持ちの悪さを感じる。この異様な状況に気が触れてしまったのだろうか。
正直、一発ぶん殴ってやるぐらいのつもりだったが、相手が相手だ。
そんな意志が揺らいできている。
気の触れた人間は身体能力が異様に高い。脳内のストッパーが半ば外れかけているからだ。
常に"火事場の馬鹿力"のようなものらしい。
だが時間を……もう少しだけ、コイツをこの場所に引きとめておきたい。
そんな事を考えていた。
突然。
強烈な振動で、身体が宙に浮いたような気がした。
揺れる揺れる、大地が揺れる。
地震……とは違う。アレとは音がまるで別物だ。
これは、もしや。
「な、何だ……爆音だと!?」
爆発。もしや他の参加者の仕業だろうか。
――まずい。
貴子が一人だ。急いでこの場を切り抜けなければならない。
そう思ったのも束の間、もう一度、下の階から凄まじい爆発音が響いた。
「ククククク……はははっはははぁっは!!」
土見稟は今の状態がまるで気にならないのか、ケラケラと大声で笑っている。
もう完全に俺が視界に入っていないようだ。
(今だ!!)
俺は近くに落ちていたデイパックを掴むと貴子と合流するべく病室を飛び出した。
稟はまだ笑っている。
■
――なんで、どうして、こんな事になったのだろう。
私は今だ動悸が治まらないまま病院の廊下を駆けていた。
武さんから倒れていた男性を看ていてくれと頼まれて、それを承諾した。
特に問題は無いと思ったし、道具を集めてくるのならば男性である武さんの方がおそらく適任だと感じた判断も間違ってはいないと思う。
だけど。
目を覚ました男の方が奇妙な台詞をうわ言のように繰り返しながら、私に襲い掛かってきた。とても、恐ろしかった。
武さんが帰ってこなかったらおそらく、自分は殺されていただろう。
ひとまず一階の……見通しがいい場所、正面口辺りにいることにしよう。
武さんがやってきたらすぐに分かるし、万が一あの男が先にやってきた場合もすぐに逃げ出すことが出来る。
階段を降りて、もうすぐ玄関が見え……。
「……え?」
何かが、飛んで来た。
クルクルと縦に回転しながら、赤い、まるでリレーのバトンのような何かが。
丁度私の目の前を通り過ぎて、数メートル離れた柱に当たって、地面に落ちた。
何なのだろう、アレは。
眼を凝らす。
赤くて、太くて、円筒状の部分から……火の付いた一本の線が見える。
線?
もしかして、アレは……。
脳内のデータベースに一つ、ピタリと当てはまる物体がある。
でも、それは……。
もうその時点で私の思考は完全に停止したと言ってもいい。
覚えているのは眼の焼けるような閃光と鼓膜を破壊するような爆音。
それと、身体が弾け飛ぶような猛烈な熱。
■
「ぇあぁぁぁっ!!痛いっ痛いっ……、腕が、腕……私の腕が……!!」
「……中に人が居たの。一石二鳥ね……素敵」
倉庫から出て、病院が視界に入った途端、私は何故かこの施設が酷く憎らしく感じた。
――四葉は既に死んでいるのに。
他の人間の命を助けるために、この施設は未だ存在し続けている。
私はソレが許せなかった。
だから、倉庫で手に入れたダイナマイトを二つ投げ込んでみた。
明確な悪意を、敵意をこの真白なる建物に向けて。
結果は見ての通り、この病院もあと少しで倒壊するだろう。
しかも中にいた、他の参加者を巻き込むことが出来たのはまさに僥倖だった。
目の前には爆発で片腕を失い、瓦礫と共に地面に倒れ込み、肩口から滝のような血を流している女。
彼女を見て、口の中に生まれた笑みを隠すことが出来ず私はケラケラと笑ってみた。
クスクスでもニコニコでも無く、ケラケラだ。
いつの間に自分はこんな笑い方が出来るようになっていたのだろうと、何故か感心してしまった。
「ねぇ……貴女。私は咲耶。聞きたいことがあるのだけど……いいかしら?
千影と衛って娘に会わなかった?
ああ、それとついでに名前も教えて」
「痛い、痛い、痛い痛いぃぃぃ!!腕、腕腕、腕が!!血が、血が!!」
「……私が聞きたいのは断末魔の叫びでなくて、他の人間の話なのだけど」
ギャアギャアと喚いている目の前の女の腹を一度、思いっきり蹴飛ばしてみた。
虫か、蛙が、潰れるような声が響いた。
短く、そして低い声だった。
濁音と破裂音と呼吸音がごちゃ混ぜになったような汚らしい声だった。
私は人間も動物の一種だということを、ここで改めて理解した。
「千影と衛。知ってる?」
もう一度。同じような台詞を、声のトーンを一段低くして発する。
問い掛けながら腰に刺していた刀を鞘ごと女の肩の傷口に近付ける。
半ば半狂乱状態の女もその行動の意図を悟ったのか、残ったもう一本の腕で顔を隠すようにして竦み上がる。
「やめ、やめ、て……!!……ぁ……痛く、しないで、ちゃんと……喋る、から……」
「千影と、衛」
「し、知らないっ……ぅ。どっち、も……会って、ない」
支援
何なのだろう、この高揚感は。
地べたに這い蹲る彼女を蹴り飛ばす度に、
怯える小動物のような表情を見せる度に、
彼女がその美しい顔を涙と鼻汁と涎でグショグショに濡らす度に、
私の中で何か妙なものが蠢いているような感覚を覚える。
「次、名前」
肩口から這うように、塵と血液で汚れてしまった制服をなぞりながら、鎖骨、首筋へと鞘を動かす。
丁度キリリとラインの整った顎の下まで持って行き、少し強く押し上げた。
彼女の呼吸音が、喉を振るわせる感覚が、ダイレクトに私の中に流れ込んで来る。
何故だろう、凄く、楽しい。
「ひっ!!わた、私の、名前は……ぁ……厳島、貴、子」
「ふぅん、厳島ねぇ。仰々しい苗字だこと」
私の台詞から、数秒の間が空いた。
手負いの犬のような荒々しい呼吸音と瓦礫の軋む音、そして何かが燃えている拍手のような音だけが場を支配する。
「はぁっ……ぁっ……これ……で、ころ……さ、ない?」
上目遣いで、こちらの顔色を伺うような視線が、
頬に飛び散った血が、湿った瞳が、私をヘンにする。
いい、何と言うか、凄く、いい。
同情?
悲哀の気持ち?
そんな感情ではなくて、もっと暴力的で、真っ黒な気持ちが脳髄を侵食する。
「決めた」
「……え?」
「最初だし、完全に、確実に、骨の髄まで殺し尽くすつもりだったんだけど……。
今回はサービスよ。その顔、キレイなまま殺してあ・げ・る♪」
■
「貴子!!おい、貴子!!いないのか、いたら返事をしてくれ!!」
俺は貴子の名前を呼びながら崩れつつある病院の一階ホールを駆け回っていた。
なんとか貴子と合流しなければならない。
病院の倒壊は予想以上に早く、最も近い階段が崩れていたり、火が回っていたためここまで辿り着くのに予想外の時間が掛かってしまった。
しかし、明らかにこの惨状は外部から何かしらの攻撃を受けた証拠だ。
襲撃者はおそらく爆薬系の武器か、下手をすればロケットランチャーのような武器を持っている可能性が高い。
そんな危険な相手の近くに、彼女を一人にしておくわけにはいかない。
「くそっ、まさかもう外に?ん、貴……子!?な……」
それは異様な光景だった。
頭部。
胴体部。
右腕。
左腕だけが、無い。
貴子は、まるで腕の悪い人形師が造り上げたマリオネットのような、
球体関節をベースに組まれたどこぞの人形の素体のような、
凄まじい姿に変わり果てていた。
もう彼女は生きた人間では無くて、
首、右腕、そして胴体と、全身を三つのパーツに分断された死体でしかなかった。
血の池、という表現では物足りない気分になってしまいそうな、そんな有り得ない光景。
心臓や腹などは滅多刺しにされたのだろうか、内蔵がコレでもかというぐらいに飛び出ている。特に腹部の惨状は悲惨の一言だった。
見ようと思えば下の地面が身体を通しても見えてしまうのではないかと思うぐらい、丁寧に抉られている。
思わず、胃の中の物を戻しそうになった。
「……ぅ……く、糞ぉぉぉぉぉぉ!!なんで、誰が、こんなことッ!!」
こんな少しの間離れただけで、まさかこんなことになるなんて。
俺は白昼夢でも見ているのだろうか。
日常から非日常の階段を上ってしまったことは分かる。
それでも、それでも、こんな猟奇的な行為に及ぶ人間が居るなんて、思いもしなかった。
俺の選択は間違っていたのか。
もしも貴子を置いて道具を探しに行ったりしなければ。
もしも貴子と一緒に逃げていたならば。
もしももう少し早くあの男を黙らせていたならば。
貴子は死ななかったのかもしれない。
【厳島貴子@乙女はお姉さまに恋してる 死亡】
【F-6 病院 正面口/1日目 朝】
【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ジッポライター】
【状態:疲労】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す。つぐみを最優先
3:前原圭一と会ってみたい
4:土見稟をマーダーと断定
5:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒
※前原圭一と遠野美凪の顔と名前を知っています
■
「四葉……見た?私、頑張ったよ。
あなたとはそれ程長い付き合いがあったわけじゃない。
けど、それでも私、あなたのこと大切に思っていたんだから」
もしもこの場所にお兄様がいたとしたらどういう行動を取るだろうか。
考えるのもおぞましい、最悪の想像だが、何故かこんな妄想が頭に浮かんで来た。
お兄様はきっと私達姉妹を守るために率先して動いて下さるはず。
でも、私達のためとはいえ、人を手に掛けるようなことは絶対しないわ。
だって私のお兄様は優しくて、本当に素晴らしい人間なのだから。殺人なんてするわけが無いの。
でもただ逃げ回っているだけじゃ、いつか危険な目に合うかもしれない。
それは妹達にしたって同じ話。逃避するだけで、自分の身を守るのは難しい。
だから私が殺す。
もう躊躇はしない。
近寄ってくる人間ならば誰であろうと、必ず。
――四葉が死んだ。
この事実を知っても、不思議と涙は出なかった。
定時放送が始まってあの子の名前が呼ばれても、何故か私は酷く落ち着いたままだった。
もしも私が取り乱し、冷静さを失ってしまったらどうなるのか。
この島にお兄様はいない。私が最年長なのだ。千影にまとめ役を任せるわけには行かない。
呑気に『皆と仲良く脱出する方法を考えましょう』、そんな甘い考えに一瞬浸ってしまったことを強く後悔した。
気付けば十二人の姉妹は十一人になってしまったのだ。
脱出はする、だが姉妹で帰ることが出来なければ何の意味も無い。
そのために一応首輪も確保した。千影……一人では苦しいかな。鈴凛がいれば何か分かったかもしれないのに。
誰か首輪について詳しい人物を利用出来ればいいのだが。
――そうだ、忘れる所だった。
私は名簿を取り出すと一覧の中の『厳島貴子』の名前を黒く塗り潰した。
これで、二人目。
【F-6とE-6の境界線/1日目 朝】
支援
【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 食料・水x4 可憐のロケット@Sister Princess タロットカード@Sister Princess
S&W M627PCカスタムの予備弾61 肉まん×5@Kanon 虎玉@shuffle ナポリタンの帽子@永遠のアセリア 日本酒x3 工事用ダイナマイトx3 発火装置 首輪】
【状態:若干の疲労】
【思考・行動】
1:衛、千影を探し守る。
2:首輪を解析する能力を持つ人間を探して利用する
3:姉妹以外の人間は確実に皆殺し
4:余裕がある時は姉妹の情報を得てから殺す
基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する
※カルラの死体の近くに、羽リュック@Kanon、ボトルシップ@つよきす、
ケンタ君人形@ひぐらしのなく頃に 祭、が放置されています。
■
気付くと俺は建物が倒壊する音と、煙の中で笑っていた。
――おかしい。
俺はいったいどうしたんだ。
目の前に座っていた、大人しそうな少女がいきなり俺に襲い掛かってくる幻覚を見るなんて。
支援します
支援
いや、幻覚だけならまだマシだったかもしれない。
なぜなら俺はその後、恐怖のあまりその少女の首をこの、両手で思い切り絞めてしまったのだから。
もしもあの時、倉成武が病室に入ってこなければ、俺は確実に彼女を殺していた。
確か貴子とか呼ばれていたっけ。
とんでもない事をしてしまった。
強烈な自己嫌悪で死んでしまいたくる。
しかし……この後、自分はどうすればいいのだろうか。
先程の二人に謝りに行きたい気持ちもある。だが今更そんな事をしても信用してくれるわけが無い。自分はそれだけの罪を犯してしまったのだ。
記憶自体はシーツをロープ代わりにして、窓から放り投げようとした所で終わっている。
今は一体何時なんだろうか。
水澤真央はどこに行ってしまったのだろうか。
何も思い出せない。
煙がこの辺りまで上がってきた。
もう、長くは持たないだろう。
――ひとまずここから脱出しなければならない。
俺、土見稟は側に落ちていたデイパック、それと周りに落ちていた食料や飲料水を拾うと病院から出るための行動を開始した。
そう言えば、一つ気になる事が。
喉が少し痒いのだ。特に虫刺されなどは無いはずなのだが。
支援
【F-6 病院 /1日目 朝】
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:】
【所持品:麻酔銃(IMI ジェリコ941型)、拡声器、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、
麻酔薬入り注射器×3 H173入り注射器×3、炭酸飲料水、食料品沢山(刺激物多し)】
【状態:L5侵攻中・強烈な自己嫌悪 背中に軽い打撲 頚部に軽い痒み】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:俺の中の、何かがおかしい
2:ネリネ、楓、亜沙の捜索
3:水澤真央が気になる
4:もう誰も悲しませない
※シアルートEnd後からやってきました。
【備考】
H173が二本撃たれています。L5の発生時期は次の書き手さんにお任せします。
※病院は咲耶がダイナマイトを二つ爆発させたため、崩壊の危機。
現在一階が延焼中。遠くから見ても煙が上がっているため判断可能。
支援
支援します
トイレをせがむ春原を物理的に黙らせ、茜は始まった放送に耳を傾けていた。
死者の名前が読み上げられると、彼女は倒れるように地面に座り込む。
それに引きずられる様に、春原も中腰になってしまう。
「お、おいおい。ォォゥ……僕はトイレ行きたんだよ! 座るなよな」
「……」
「そっちだっとぇ、お、ここで、ァゥ、漏らすのは嫌だォォン!」
「……」
「ちょぉぉぉんん! へ、返事ぃいくらいぐぅ! しろヨン!」
がに股で踏ん張っていた春原に対し、茜は攻撃的な叫びを発する。
「黙れ!」
「!!」
その怒声にびびって、春原は尻餅をつく。が、尻に与えた衝撃でまた飛び上がる。
睨み返すと、茜は涙を流して睨んでいた。冗談ではなく、本当に怒っている表情で。
先程の放送で、藤林杏が死んだことを告げられたが、考える余裕はなかった。
それは生理現象というだけでなく、放送後しゃがみ込んだ茜が気になったからだ。
「だって瑞穂さんも、厳島さんも、倉成さんも生きてるし。あ、も、もしかして、知ってる奴が死んだ……とか?」
呻き声を必死で抑え、春原は遠慮がちに質問する。
すると、流していた涙の何倍もの雫が瞳から滝のように流れだす。
「うぁ、あ……ああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」
手で覆っても、指の隙間から涙が抜け落ちて地面へと落下する。
出会ってから強気だった茜が初めて泣いた事に、春原はどうしたら良いのか分からなくなっていた。
自分にとって藤林杏が泣くほどの存在じゃないとは言わないが、涙は流れたりはしない。
そんな春原からの慰める言葉も励ましの言葉も、今の茜にはどれも届かないだろう。
だが、春原とてここでただ立っている訳にもいかない。
臨界点はとっくに破られて、今は呼吸すら苦しい状況になっているのだ。
だから、相手が女だろうが泣いていようが、大切な人を亡くしたのだろうが叫ぶ。
「ほら、さっさとトイレに行くぞ。誰か変な奴に見つかって、トイレにも行けないまま死にたくないからな」
「こんな時にふざけた冗談言わないで!」
「ふざけてねぇよ! 俺は真剣だ! 真剣にトイレに行きたいんだよ!」
支援
「なっ!」
「だから、お前が歩いてくれなきゃ、僕は野糞垂れる羽目になっちゃうんだよ! へっ、そんなのお断りだね!」
「な――」
「僕は人間だ! ドカンと便器に腰を下ろして、我慢してるものを吐き出したい! だから一緒に来てくれ!」
顔を真っ赤にして自分の感情の全てをぶつける。これで動かなければ、もうどうしようもない。
「……春原さん、女の人にモテないでしょ」
「そ、そんな事ねーよ!」
「そうですね。泣いていたって始まらないですもんね」
「ま、泣くなとは言わないけどサハゥぇ!!」
本音も混じっていたが、今の叫びは春原なりのメッセージだった。
理由はどうあれ、ここで立ち止まっても仕方がないのだ。やるべき事はたくさんある。
春原に背を向け、涙に濡れた頬を袖で拭う。姉の死を受け止め、茜は笑顔を取り戻す。
「行きましょう。約束もありますしね――って、春原さん? ひッ」
振り返った茜が見たのは、目が完全に泳いで泡を吹き始めた気持ち悪い男だった。
「み、見える……なんか変なお花畑が……うひひ」
「ちょ、目を覚まして下さい! ほら、走って!」
不気味な動きで走る春原から目をそらし、茜は新市街を目指す。
(姉さん。そっちに行くの、もう少し遅くなるから)
そして、引っ張られるように蠢く春原は別のことを考えていた。
(あれ、岡崎に杏。なんで僕の夢に出てきてんの? なんだよ手招きして。気味が悪いな)
考えていたと言うより、生と死の狭間を彷徨っているだけだった。
◇ ◇ ◇ ◇
(・3・)
沙羅の死体のもとに戻った孝之は、死んだ沙羅を抱き起こし一生懸命話しかけていた。
「な、沙羅ちゃん。ここは危ないからあっちに行こうよ」
だが、死体が返事をする訳もなく、沙羅と呼ばれる死体は孝之にされるがままだった。
「ねぇ、早く起きてよ……沙羅ちゃん」
沙羅の開いた瞳孔には、さぞ滑稽に見えているだろう。
だが、孝之を苦しめる出来事はまだ終わっていなかった。
定時放送に時間となり、死者の名前が次々と挙げられていく。
そこには、ずっと好きだった一人の女性の名前があった。
「は、遙?」
意味もなく周囲を見渡す。沙羅の死体を投げ捨て頭を抱える。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 遙は死んじゃいない!」
誰もいない路地で、孝之はひたすらに喚き散らした。
彼の中では沙羅も死んでいない。だから、遙も死ぬ訳がないのだ。
ならば答えは一つしかない。放送なんて嘘で沙羅も遙も生きている。
「そ、そうだ! そうだよな!」
自分自身に言い聞かせ一安心する。誰も死んでいないなら悲しむ事はない。
参加者名簿に死者のチェックを入れず、地図の禁止エリアだけを記入した。
地図を戻そうとした時、デイパックの中で何か硬いものが指に当たる。
「いたっ」
取り出そうとしたところ、突然背中から声を掛けられる。
「鳴海……さん?」
振り返ってみると、そこには妹のように可愛がっていた少女と、全裸の男が立ち竦んでいた。
「あ、茜ちゃん!」
「止まって!」
近付こうとする孝之を怒鳴り声で制す。孝之にはなぜ叫んだか分からなかった。
「ど、どうしたのさ茜ちゃん」
「鳴海さん……その服、どうしたんですか?」
茜に指摘されて始めて気付いた。白いシャツには、知らぬ間に赤黒いペイントが施されていた。
支援
(・3・)
「し、知らないよ! ホントだよ!」
「なら、なんでその二人は死んでいて、鳴海さんの服は血で染まっているんですか!?」
茜の言葉が孝之を攻め立てる。せっかく心のどこかに葬った記憶が蘇ってくる。
「し、死んでないよ! 沙羅ちゃんは死んでないよ!」
茜に証明しようと、沙羅の首根っこを掴んで勢いよく突き出す。
その拍子に、沙羅の千切れかかっていた腕が重い音を立てて地面に落ちる。
「あ、腕取れちゃったね」
「な、ぁぁ――」
一生懸命に沙羅の腕を結合させようと頑張る孝之。それは、見るに耐えられない光景だった。
腕を押し付けては肉片や皮膚が零れ落ち、骨は徐々に剥き出しになっていく。
押し付けては離れ、また押し付けては離れ……その作業を、孝之は至極真面目な顔で続ける。
茜は込み上げて来るものを抑えきれず、地面に嘔吐する。
そんな様子を見た全裸の男が、顔面を真っ青にしながらも怒りの声をあげた。
「アンタ、いい加減にしろよ! 何考えてんだよ!」
「え?」
沙羅の死体から目を離し、二人の方を見て驚く。
「茜ちゃん。どうしたの? 大丈夫?」
「来るなよ!」
茜を庇うように、孝之と対峙する全裸の男。
「どけよ変態。俺は茜ちゃんと話しをしてたんだぞ」
「うるせぇ! 僕達……厳密に言うと、僕には行かなくちゃならない場所があるんだぼぶぅッ!」
最後まで喋る前に、全裸の男は茜に跳ね除けられた。そして、尻を突き出して痙攣を始める。
それを無視して立ち上がった茜は、孝之の真意を探るべくゆっくりと質問する。
「鳴海さん。さっきの放送は聞きましたか?」
「うん? 聞いたよ。ほら、地図もチェックしたし」
そう言って、デイパックから地図を取り出す。だが、名簿は取り出さない。
「なら聞いていたでしょう? 姉さん……死んじゃったんですよ」
悲痛な表情で事実を告げる茜に対し、孝之は自然な表情で返答した。
「何言ってるの茜ちゃん? 遙は死んでないよ?」
「え?」
「遙だけじゃない。この沙羅ちゃんだって、今は寝てるけど生きてるよ」
生きている事をアピールしたいのか、沙羅の死体を左右に振り回す。その度に、肉片が周囲に飛び散る。
その様子を見て茜は顔を背けた。そんな態度に気付く事無く、孝之は死体と踊り続けた。
やがて、心の内で重大な決断を決めた茜は、孝之に背を向け一言だけ告げる。
「分かりました……行きましょう春原さん。ここには、もう居たくありません」
「ォエ! と、トイレは!? 着替えは!?」
「トイレは博物館まで待ってください! 着替えは、これでもどうぞ!」
露店を構えていた婦人服店の籠から、適当なものを掴み取り春原に投げつけ歩き出す。
春原もそれを慌てて拾い、茜に従うように尻を押さえながら歩き始めた。
「ま、待ってよ! 茜ちゃん!」
「ついて来るな!!」
沙羅の死体と共に近寄ってきた孝之を拒絶する。
今まで見たことのない、悲しみと怒りと侮蔑を込めた顔だった。
「鳴海孝之。二度と私の前に現れないで下さい」
「ぁ、ぁぁぁ〜……」
力なく崩れ落ちる孝之。茜との距離は確実に広まっていく。
追いかければ間に合うが、拒絶された事実が孝之の心を奈落へと落としていた。
◇ ◇ ◇ ◇
黙々と歩き続ける茜は泣き続けていた。
自分が受け止めた事実を、よりにもよって姉の恋人は受け入れられなかったのだ。
ただ沈んでしまっていただけならば、茜も支えになってあげられたかもしれない。
だが、あそこまで狂気的に現実逃避した人間には何を言っても無駄だろう。
だからこれ以降、茜は自身の思い出から鳴海孝之を消し去る事に決めた。
支援
夜汽車から支援
でもって沙羅じゃなくて双樹だよぉぉぉっ!
(さようなら孝之さん。私の好きだった人……)
大切な姉と死に別れ、大好きだった人と決別し、茜の精神はボロボロだった。
それでも、足だけは博物館を目指して歩き続ける。
やがて市街地から離れたあたりで、茜の足は突然ストップする。
原因は、先程から片手で持った衣類を見つめ、もう片方の手で尻を押さえる春原だ。
何度か小言を呟きながら、唸り声を挙げている。いい加減腹が立ってくる。
「ほら、いい加減その服着ないさいよ! なんでまだ全裸でいるのよ!?」
「そ、そんな事言ったって」
色々な意味でモジモジしながら、春原は衣類を背中に隠す。
「分かった。私は後ろを向いてるから。早くしてよね!」
「き、着替えるよォォォィェィ」
背中越しに、衣類のこすれる音がする。数秒後にはシンと静まり、着替えは終了した。
茜は振り返ると、今までの鬱憤や怒りや悲しみを一瞬で忘れてしまった。
「ひ、あっはっはははははははははは……ゲホッゲホッ、はぁはぁ、な、なんて格好してるのよ!?」
「そりゃ僕が聞きたいよ! なんでこんなの掴んだんだよ!?」
春原の姿は、全裸に黒のガーターベルト(ラメ入り)に金メッキの網タイツ。そしてビチビチの紫のTバック姿だった。
もちろん、上半身は今まで通り裸のまま。もう、笑わせるつもりとしか思えない。
「なんで、ひぃーお腹痛い……じ、自分で、おかしー、駄目よ、目をあわせられない!!」
「選んだのも着替えろって言ったのもそっちだろ!?」
お互いに違い意味で涙を浮かべながら、ひたすら不毛なやりとりを繰り返していた。
そして数分後、思い出したように尻を押さえだした春原を見て茜は思い出す。
「ごめん。トイレ行けなかったね……」
市街地での事を思い出し、若干暗くなる。
「いーよ。俺だってあんな所じゃトイレって気分になれないさ」
そっぽを向いて励ますように言葉をかける。
そんな態度に感謝の気持ちを込めてありがとうと伝えるつもりだったが、どうしても笑ってしまう。
「ぷっくふふ……ぷぷ」
「だ・か・ら!! もう笑うなよ! 良いから、早く行くぞぉぉぉぉぉもほふぅ!」
太陽を背に受け身悶える春原は、誰がどう見ても変態であった。
支援
春原wwwww
◇ ◇ ◇ ◇
すぐ傍でを観察していた杉並は、死体を抱えた男を見て鳥肌を立てていた。
(平常な人間のする事じゃないな)
男を追ってみたものの、しているのは死体に話しかけたり周囲に喚き散らしなど。
おおよそ、情報の得られそうな状態では無かった。
(しかし、これは死体の反応も拾うのか)
三人いると思ってたが動いていたのは一人だけ、あとは動かぬ屍だ。
それだけは、ここに来て有益だと思えた情報だった。
あとは、この場から立ち去るだけだ。そう思った瞬間、反応が二つ増える。
(誰か来たのか)
とりあえず、もう少し様子を見るべく物陰に隠れる。
暫くすると、手錠をかけた女と全裸の男が、男に声をかけた。
(会話が聞き取れないな……もう少し近付くか)
幸い、男女三名は話に夢中で杉並の気配に気付く事はなかった。
気配を殺して、三人の会話に耳を傾け集中する。
「ま、待ってよ! 茜ちゃん!」
「ついて来るな!!」
数十秒後、少女の叫びと共に会話は打ち切られた、男女が遠ざかっていく。
一方の男は、デイパックを抱えブツブツと何かを呟いていた。
(潮時だな)
もうこれ以上この男を観察して得るものはない。次のターゲットは、あの二人組でいいだろう。
そう結論付けてゆっくりと男から離れ――杉並は地面に崩れた。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
茜に拒絶された孝之は、頭の中が真っ白になっていた。
(なんで茜ちゃんは俺にあんな事言ったんだ?)
理解できない。普段の茜ならばあんな顔はしない。
(茜ちゃん……どうしちゃったのかなぁ)
頭で必死に考えながら、意味もなくデイパックに手を突っ込む。
そこで先程取り出そうとしたノートパソコンが地面に置かれる。
だが、取り出した本人は別の事を考えていた。
(なんであんなあんなあんなあんなあんなあんな――あ)
そこで孝之に天啓が閃く。真っ白にしたからこそ得られた答えだった。
(これは夢なんだ、だから茜ちゃんは俺にあんな態度をとったんだ)
答えが解かれば茜の態度も頷ける。そう勝手に自分の中で結論付ける。
その後は、あれよあれよと思考が構築されていった。
(そうだ。これが俺の夢なら、死んだ人はつまり目が覚めただけなんだ)
ありえない理論も、孝之の中では平然と決定付けられていく。
(つまり、双樹ちゃんも遙も目が覚めたって事だよな。うん!)
何も心配する事は無かった。これは夢だから壊れても『蘇る』のだ。
(こんなおかしな世界にいたらみんな大変だよな。そうと分かれば話は早いぜ)
至極当然のように、孝之は誓いを立てる。
(みんなを『起こして』あげよう!)
そこで、ようやく勝手に起動していたノートパソコンに気付く。
「なんだコレ」
支援
≪6時間生存オメデトウ!≫
このメッセージを読んでいるという事は、君はまだ生きているのだな。
素晴らしい、実に素晴らしい! もっと楽しませてくれ!
そんな君に、僕からのささやかなプレゼントだ。受け取りたまえ。
今回の追加機能は、指定した参加者の首輪を通して電磁波を流せる機能だ。
これを喰らえば、どんな参加者とて3分程度は地面に這い蹲る。
そこをどうするかは、賢明な君なら理解してくれるだろう。
だが、一度使うと15分の充電時間が必要になるぞ。タイミングを見誤るなよ。
ああ、それとプレゼントは毎回6時間ごとに送ってあげよう。
有効に使ってくれる事を期待しているよ。
差出人:「&@;」。#
メッセージを読み終えると、画面が名前で埋め尽くされたものに切り替わる。
(おお! 面白そうだぜ!)
試してみたいが、近くには『起きた』双樹ともう一人の少女しかいない。
茜に使おうか考えるが、それは最後の楽しみに取っておく事にした。
(最初は……目に付いた名前でいいや。ん〜、これでいいや)
名前の部分をクリックしようとするが、手が滑って斜め上の人物をクリックしてしまう。
それと同時に、建物の陰で何かが倒れる音を聞いた。
ノートパソコンを片手におそるおそる近付いてみると、制服を着た男が痙攣して倒れていた。
「も、もしも〜し」
呼びかけてみるが反応は鈍い。近くに落ちていた鉄パイプで突っついてみる。
「ぁが」
「あ、もしかして間違ってクリックしちゃった人? おー、凄いなこれ」
ノートパソコンを安全なところに置くと、孝之は鉄パイプを男に突き刺した。
「うごッほッ」
「おいおい。夢なんだから一発で貫通ぐらいおまけしてくれよなぁ」
自分の夢に文句を言いながら、孝之は先程よりもさらに鋭い一撃を男の胸に撃ち込む。
支援
その瞬間、空気の破裂するような音と金属音が孝之の耳に届いた。
鉄パイプは見事に男の心臓部分に突き刺さっている。僅かな隙間から、空気の抜ける音が聞こえた。
一仕事終えた孝之は、気持ち良さそうに汗を拭った。
「ったく、もっと簡単にすませるものないかなぁ」
不気味に痙攣を続け、口笛を吹くような男の声を無視して、孝之は周囲を探索する。
そして、ある場所に目がとまると、昔観た映画を思い出した。
「え〜っと……おお、コレだコレだ!」
孝之が入ったのは金物屋。手に取ったのは、電動式のチェーンソーだった。
「一度やってみたかったんだよな。現実にやったら犯罪だけど、夢ならいいだろ」
備え付けの説明書を読み、難なく電源を入れる事に成功した。
風を切り刻む金属音が、孝之の心を昂らせる。
「よっと、意外と重いけど慣れればそうでもないかな……えっと」
金属音を響かせながら、名も知らぬ少女の腹部に刃を押し当てる。
すると、動かないはずの少女が地面でダンスを踊り始める。
ファンサービスとばかりに、血や肉片を辺り一面にばら撒いて。
「いいねぇ! こいつは下手なゲームよか楽しィィィィなぁ!」
嬉しさのあまり、自分で放り投げた双樹の顔に刃がめり込む。
眼球や鼻がミキシングされ、顔面は血という名のイチゴジャムだらけになっていた。
「あひゃひゃひゃひゃ! 双樹ちゃん顔が真っ赤だぁ! ごめんよぉ!」
散らばった鼻を顔だった中心に埋め込む。眼球はどちらも砕けていたため見つからなかった。
「ん〜。銃も撃ってみたいけど、この興奮はやめられれれれれれれれれれれれれれれ」
さえずりながら、最後に鉄パイプを突き刺した男のところまで行く。
既に事切れているのか、男は痙攣すらやめていた。
「じゃじゃーん! かっいったっいショーーーーーーーー!!」
チェーンソーを高々と振り上げると、男の頭上から股の部分まで一気に刃を引く。
左右バラバラに踊る男は、手足をばたつかせ徐々に切断されていった。
「うっひょ〜、半分にするのって、意外と簡単だぁ」
ようやくチェーンソーの電源を落とし、背伸びして笑い出す。
支援
「あはははははははっはっはっは……いやぁぁぁぁぁっはははははははははーーーーーー!」
人を切り刻む興奮を覚えた孝之は、今までの暗い気持ちから脱却していた。
(自由だ! ここではどんな悪い事しても大丈夫なんだ! だってこれは夢なんだから!)
そこで、孝之は男の傍に落ちていた小さな機械を拾い上げる。見てみると、白く光る点が四つ。
「これって」
試しに、孝之自身が移動してみる。すると白い点の一つが他の三つから離れていく。
「発見器……これ、夢の中の神様が俺に頑張れって応援してくれてる証拠だよなぁ!」
周囲の人間がどこに居るか分かる。相手の名前さえ知れば、電磁波を流せる。
パソコンの充電やチェーンソーの予備は忘れてはいけない。準備は完璧だ。
ならば、やりたい事は一つしかない。
「生きた人間にチェーンソーォォォォォォォォォぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおゥゥゥ!!」
欲求に逆らう必要は皆無。なぜならコレは、全て夢なのだから。
支援
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
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あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――
支援ッ……!
支援
【杉並@D.C.P.S.】死亡
【B-3 新市街東 /1日目 朝】
【春原陽平@CLANNAD】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ipod(岡崎のラップ以外にもなにか入ってるかも……?)】
【状態:別の意味で瀕死、瑞穂に一目惚れ、未だ生理現象緊急指令発令中】
【思考・行動】
0:どうみても限界突破です。本当にありがとうございました
1:手錠をどうにかしたい
2:今度こそまともな衣類を手に入れたい
3:博物館を目指し、脱出のための協力者を探す
4:瑞穂を守る。茜も守ってやるさ!
5:瑞穂と合流したい。
6:知り合いを探す
【備考】
※右手首に手錠がかかっており、茜とつながれています
※手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
※瑞穂が自分に好意を持ってると誤解
※現在靴を除いて全裸に黒のガーターベルト(ラメ入り)と金メッキの網タイツに紫のTバック(女性用)状態です
※さらに腹をくだしました
――――支援だ
【涼宮茜@君が望む永遠】
【装備:国崎最高ボタン、投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式、手製の廃坑内部の地図(全体の2〜3割ほど完成)】
【状態:健康、若干の苛立ち】
【思考・行動】
1:諦めずに、必ず生き残る
2:手錠をどうにかしたい
3:春原をトイレにぶち込みたい
4:博物館へ行き、瑞穂と合流
3:鳴海さんとは二度と会いたくない
【備考】
※左手首に手錠がかかっており、陽平とつながれています
※手錠の鎖は投げナイフ程度の刃物では切れない。銃ならたぶん大丈夫
【B-3 新市街中心 /1日目 朝】
【鳴海孝之@君が望む永遠】
【装備:首輪探知レーダー、電動式チェーンソー】
【所持品:支給品一式 ノートパソコン(六時間/六時間)、ハリセン、バッテリー×8、電動式チェーンソー×6】
【状態:元気百倍! 勇気満点! 精神崩壊! 嗚呼自由!】
【思考・行動】
1:あひゃひゃひゃひゃ!(一人の相手には名前を聞いてから殺す)
2:ひゃっはーーーーーーーーー!(大勢の場合、無害を装って一人ずつ時間をかけて殺す)
3:あんなこ〜とイイなッ!で〜きたらイイなッ!
4:最後は茜をひ、ひひ、ひひひ、ひひいひひひひひひひひッッ!
【備考】
※パソコンの新機能「微粒電磁波」は、15分に一回で効果は3分です。一度使用すると自動的に充電タイマー発動します。
また、2時間使用しなかったからと言って、4回連続で使えるわけではありません。死人にも使用できます。
※チェーンソのバッテリーは、エンジンをかけっ放しで2時間は持ちます。
※顔を洗い、服は綺麗なものに着替えました。着ていた服は【B-3】のゴミ箱に入っています。
痛む傷口を押さえ、静かに放送を確認していた乙女は、目の前の景色が歪むのを感じた。
肉低的な痛みなら堪えられるが、精神的な痛みは抑え切れるものではない。
だが、乙女は必死でそれを飲み込んだ。吐き出すのは容易いが、それは今すべき事ではない。
(レオ……)
仇をとろうとは思わない、自分の良く知る可愛い弟ならば、それは望まないだろう。
彼ならば、這い蹲ってでも自分で借りは返す。
(今考えるのは傷の治療とあゆを護る事だ)
そんな心の揺れに気付かないあゆは、一生懸命に乙女に肩を貸して歩き続けていた。
もちろんあゆとて殺し合いは怖いし、出来る事ならば誰もいない所で隠れていたい。
けれど、今はそんな後ろ向きな考えは捨てて病院を目指している。
あゆには乙女を助ける事と、往人を説得する責務があるのだ。
と、乙女があゆの肩から離れ、目の前の建物からあゆを庇うように立ち塞がる。
「っ、……そこにいる奴、私達は戦うつもりはない。出てきてくれると助かる」
「っくぅ、いや、あだだ、お見事ですね」
建物の陰から出てきたのは、青い顔をした小太りの男。
驚いたのは、右肘から先が無くなっており、血がゆっくりと零れ落ちている事だった。
「お、おじさんどうしたの!?」
「い、いやぁ〜、なははッぐゥ、ちょッと、は、められましてね」
駆け寄って心配するあゆに対し、小太りの男は苦笑いを浮かべた。
「そちら、さん、ぉがッ、も、ッゥ〜、ひ、酷いご様子……で」
「そちらも、な。私は鉄乙女。彼女は月宮あゆだ」
「こ、これはァ、はぁはぁッ、私、あ〜、お、大石蔵人です」
大石と名乗った男は、なぜか名前の前で少し躊躇ったが、二人はそれに気付かない。
「びょ、病院に、と、ぅごっふ、思ってるん、ですが」
咳き込みふらつく大石の言葉に、あゆが乙女の目を見る。あゆが何を言いたいのか乙女には解かった。
「大石さん! ボク達も病院に行くところなんです。良かったら一緒に行きませんか?」
「え?」
あゆの申し入れに困惑する大石。そして、遠慮するように言葉を返した。
「私が、っヅ、言うのもッ……はぁっはぁ、なん、ですが、こんな男、しんよ、う、なさるんで、すか?」
「だって――」
少し前のあゆだったら逃げ出していただろう、だが今はそんな事はしない。
「怪我してる人を放っておけないよ!」
一度乙女のもとに戻り彼女に肩を貸すと、反対側の肩で大石を支えた。
「ね」
その笑顔に、大石の青い顔が少しだけ赤みを取り戻した様に見えた。
◇ ◇ ◇ ◇
千影とまた会う約束を交わし、名雪は住宅街を目指していた。
だが、まだ他の人間と出会う事に抵抗のあるのか、病院を経由せず線路を渡って住宅街を目指していた。
確かに早く祐一に会いたいが、出会う人がみんな千影みたいな人だとは思っていなかった。
現に、定時放送で多くの死者の名が挙げられたのがそれを物語っている。
誰にも気付かれないように、けれど住宅街も探索できるように……そんな矛盾を抱えていた。
(祐一〜)
まだ眠い目を擦り、音を立てないように獣道を進んでいた。
鳥が囀ったり、木々がざわめくたびにメスを握り締め身構える。
警戒しながら歩き続ける事は、日常に漬かっていた名雪の精神を削り取っていく。
近くにあった小屋に気付かないまま、いよいよ住宅街の近くまで来たところで人影に気付く。
(あれは)
知らない男と女の間に挟まれているのは、良く知る少女その人だった。
この島に来て初めて知り合えた喜びは、警戒という名の壁を簡単に崩す。
駆け足で手を振りながら、三人のもとへと近付く。
「あゆちゃーーーん!」
「な、名雪さん!」
名雪の声に気付いたあゆは、嬉しさを前面に出して名雪の名を呼んだ。
再開を祝って手を取りたいが、あゆは男と女を支えていたためそれは出来なかった。
「無事でよかったよぉ〜」
「うぐぅ。名雪さんも〜」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、二人は再会を喜ぶ。
ある程度喜びを分かち合ったところで、知らない女性が咳払いをした。
「すまん。再開を喜ぶのはいいが、私達は怪我をしていてな」
改めてみると、男も女も顔色がよくない。男に至っては右腕が半分なくなっている。
「私は鉄乙女。良かったら名前を教えてくれ。ああ、すまんが歩きながら頼む」
凛とした声に、なぜか姿勢を正して一緒に歩き出してしまう。
「あ、はい。わ、私水瀬名雪です」
こうして、四人は情報交換を行う事となった。歩きながらお互いの事情を伝える。
良く知っているあゆに、頼りになりそうな乙女、男という事で頼りになりそうな大石。
名雪は一気に仲間が増えた事を素直に喜んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
支援
商店街から離れた良美は、早く新しい駒を見つけるため移動を開始していた。
あの殺し合いで飼い慣らせそうな手駒を捨てる事になったのはもったいないが仕方ない。
着実に人が減っているなか、次の駒を探すのは段々厳しくなっていく。
だから、次に目指したのは当初目標としていた学校だった。
(ある程度人数がいれば駒も揃いやすいし、駄目なら集団崩壊させればいいかな)
考えをまとめながら歩いていると、目の前から5人の集団が近付いてくるのが見えた。
向こうが気付かぬうちに物陰に隠れようとしたが、その中の一人に見覚えがあったので近寄る事にした。
「鉄先輩!」
声をかけ走り寄ると、乙女を除く四人が警戒の表情を顔に出す。
だが、乙女は四人に大丈夫だとアピールすると、腹部を抑えて歩み寄ってきた。
「良かった……鉄先輩に会えて」
「佐藤もよく生き残った。しかし、その格好は……」
「こ、これは」
恥じらいを装い、返答を濁す。下手に圭一達の情報を与えるつもりはない。
「く、鉄先輩こそ、その怪我はどうしたんですか?」
「これは、油断してな……だから、治療のため彼らと病院に向かうところだったんだ」
この位置からでは、川を挟んだ病院に向かうため商店街を経由する可能異性は高い。
だがら、五人を南下させるわけには行かなかった。万が一商店街を経由すれば二人と会ってしまう。
良美個人が会うだけなら問題はないが、乙女を引き合わせて良い事など一つもない。
意を決して、良美は嘘をついて進行を妨げた。
「私、病院から逃げてきたんです」
「なに!?」
岡崎をモデルにして、真実と嘘を織り交ぜつつ良美は病院から逃げてきた事をアピールした。
その事実に驚きを隠せない乙女。後ろの面々も、困ったような表情を浮かべていた。
「ならば、商店街にあるだろう薬局で何とかするしかないか」
「駄目ですよ! あの男がこっちに来ているかもしれません!」
「そ、そうだよ乙女さん!」
後ろの少女が、背中から乙女を押し留める。
振り払うわけにもいかず、乙女は薬局へ向かう勢いを静めた。
「でも、治療しないと乙女さんも大石さんも大変だよ?」
「そ、そうですね、はぁはぁ……そろそろ、私もマズ、いかも知れません」
もう一人の少女と小太りの男が、良美に意見する。
「はい。そこで私に考えがあります」
5人の注目を浴びて、良美は優しく微笑みかける。
「私が薬局まで行って薬を取ってきます」
その言葉に最初に驚いたのは乙女だった。
「いかん佐藤! お前一人では危険だ……ぐぅ」
力んで腹部の痛みが強くなったのか、乙女は顔をしかめる。
「だって、鉄先輩はそんな怪我だし……えっと」
チラッと後ろの面々を見る。
「あ、ああ。お、大石です」
「月宮あゆです!」
「み、水瀬名雪……」
名乗りを挙げた三人に微笑み返すと、考えていた内容を全員に告げる。
「佐藤良美です。鉄先輩と大石さんは怪我しているから除外、二人を見守る人間だからもう一人も除外」
「あれ、一人余るね?」
あゆと名乗った少女が首をかしげる。そこに、良美は言葉を続けた。
「もう一人にも怪我した二人を見守って欲しいの。一人だと何があるか分からないし……
それに、襲ってきた男の顔がわかるのは私だけ。だから、危ない時にはすぐ逃げられるよ」
支援
彼女達の手を握って安心である事と証明する。そんな良美に、乙女は頭を下げる。
それにつられて、あゆと名雪も頭を下げた。一人、大石だけは笑いながらこちらを見ていた。
「すまん佐藤……だが、無理はするなよ」
「大丈夫ですよ。それじゃあ、皆さんはあそこの民家で休んでいて下さい」
指差した民家は、ごく一般的な平屋の建物だった。
また別れる前に、四人から様々な情報を得る事も忘れない。最後に駄目でもともとな質問を投げかける。
「そう言えば、誰か服とか支給されませんでしたか?」
その疑問に名雪が手を挙げる。
「あ、私支給されたよ」
そう言ってデイパックから取り出したのは巫女服だった。
良美は苦笑いを浮かべるが、今の服よりもだいぶマシだ。遠慮がちに名雪にねだってみる。
「良ければ、私に譲って貰えないかな?」
「あ。うん。どうぞ」
疑問も持たず、名雪は良美に服を手渡す。それをデイパックに詰め込んだ。
「じゃあ佐藤。くれぐれも気をつけてな」
励ましの言葉を述べた乙女を先頭に、大石と名雪が民家へと向かう。
そして、一番最後に向かおうとしたあゆを良美は小声で呼び止める。
「月宮さん……で良いかな?」
「あ、うん。あゆで良いよ」
すっかり友好的なあゆに対し、良美は社交的な笑顔で言葉を続けた。
「呼び捨てだと何だから、あゆちゃんって呼ぶね。それであゆちゃん、渡しておきたいものがあるんだ」
「?」
良美はデイパックから透明な500ml非常用飲料水を取り出す。
あらかじめ、赤い警告の文字が入ったラベルをはがしておいた。
「私の支給品でね。疲労に効くって書いてあるから、みんなで飲んでね」
効力は分からないが、一応ばれない様に「お茶で薄めてね」と釘を刺した。
「ありがとう! 佐藤さんも気をつけてね!」
ペットボトルを自分のデイパックにしまい、3人のもとへと向かうある。
最後にこちらを向いて大きく餌を振ってきた。それを、笑いながら手を振り返す。
支援
げえ、よっぴーの毒飲料!
(ふふ。馬鹿な子)
本当の笑みを心に隠し、良美は商店街の方向に足を向けた。
だが、ある程度歩いたところで曲がり角を曲がり、来た方向に戻り始めた。
(残念ね。薬は永遠に届かないわよ……)
先程の場所を大きく迂回し、4人の入った民家を監視できる場所で待機する。
失敗するとは思わないが、念には念を込めておく。
◇ ◇ ◇ ◇
民家に上がりこんだ乙女と大石は、安堵したように居間の畳の上に座り込んだ。
相当我慢していたのか、二人ともゆっくりと寝息を立てる。
それを見たあゆは、デイパックを抱えて台所へと向かう。
「名雪さん。ボクお茶と朝食を用意するよ」
「あ、それじゃあ私は毛布とか探してくるね」
腕に自身はないので、冷凍食品があれば助かるところだ。
冷凍庫を開けると、ピザが一枚だけ入っていた。冷蔵庫には麦茶のボトルだけ。
デイパックにも食料があるが、可能な限り消費は控えたい。
あゆはレンジにピザを置いてスイッチを押すと、五人分のコップを用意した。
レンジの軽快な音と共に、チーズの焼ける美味しそうな匂いが台所に充満する。
ピザを皿に乗せ、コップに麦茶と良美から貰った飲料水を注ぐ。
(ボクは疲れてないし。乙女さんと大石さんに飲んでもらおう)
二人のコップに注ぎきると、あゆはお盆に載せて居間まで戻った。
チーズの匂いで目を覚ましたのか、乙女と大石も起きていた。
毛布を取りに行った名雪も、テーブルを拭いて待っていた。
支援
「冷凍品だけれど、食べようよ」
「そうだな。腹が減っては回復も遅れる」
「そうですねぇ、あつつ、熱いうちに頂きましょう」
名雪が施したのか、二人には包帯が巻かれていた。手馴れたものである。
眠そうな目を擦りながら、名雪は手を合わせる。
「じゃあ、頂きま〜す」
四人は合唱して食事の挨拶をする。
我先にと、乙女はピザを口に含んでいった。大石も、速いペースでピザを消化していった。
そして、二人がコップの中身を一気に流し込んだ事で異変が起こる。
何度か咳き込むと、二人は口を押さえてテーブルに倒れ伏した。
「乙女さん! 大石さん!」
あゆと名雪が二人を抱き起こすが、顔を上げた二人を見て驚く。
口から血と泡を吹き、舌がだらんと伸びきっていた。
「ひぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
先に悲鳴をあげたのは名雪だった。彼女は苦悶の表情を浮かべる大石を直視していられなかった。
あゆも、必死で乙女の名を叫ぶが返事は返ってこない。
あの凛々しかった表情が嘘のように、だらしない顔だけがあゆを見上げていた。
何が起こっているのか、全くわからない。
四人は民家に入って、良美が来るまで休む事にして、朝食を食べて……それからどうしただろう。
と、腕に鋭い痛みが突き刺さる。見ると、メスのようなものが服の上からあゆの腕に押し込まれていた。
「いたっ! いたいよぉ!」
突然の痛みに対して助けを求めようと名雪を見るが、彼女はメスを握ってあゆを睨んでいた。
支援
泥沼だw
支援
「どうして! なんでこんな事したの……人殺し!」
名雪の声に、あゆは怯えた表情を浮かべる。言っている意味が分からない。
刺さったメスを泣きながら抜き取ると、じんわりと腕から血が滲み出してきた。
痛くてその場にうずくまる。そんなあゆの近くに、名雪が寄ってくる。
「二人とも、あゆちゃんの持ってきたピザを食べて死んじゃったね。同時に!」
「ひぃ!」
持っていたメスをあゆの腕に突き刺す。
痛みと恐怖と混乱が、あゆの心を侵食する。
「し、知らないよ! ボクだって何も知らないんだよ! やめてよぉ!」
いつの間にかあゆに馬乗りになった名雪に、必死に弁明する。
「良かった。私まだお腹がすいてないし、怪我してる二人にピザをあげて……そのおかげで!」
「ぎゃぁ!」
メスを抜き去り、また別の場所に小さな刃を潜り込ませる。
恐怖のあまり、あゆは目の前の名雪が殺人鬼に見えた。
「こうして生きていられるんだから! この! このぉ! 信じてたのに! 裏切り者!」
抜いては刺し、抜いては刺しと、名雪は同じ行為を続けていた。
「やぁぁぁぁぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁああああああんんんん!!」
首を振り、必死で名雪を引き剥がそうとする。だが、名雪の押さえ込みは解けない。
「助けて! 祐一君助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「お前がその名前を呼ぶなぁぁぁ!!」
あゆの喉目掛けて、メスは振り下ろされようとしている。
バタついていたあゆは、手に触れた硬い棒を掴み取り、無我夢中で名雪に投げつけた。
「――」
馬乗りになっていた名雪に、何が起こったか分からなかった。
だが、あゆに対する攻撃は全くない。恐る恐る目を開く。
「ぁ、ぁぁ」
あゆの眼前には、馬乗りのまま額に槍が貫通した名雪が睨む様に見下ろしていた。
支援
何という阿鼻叫喚……
支援
「いやぁぁぁ! 名雪さぁぁぁぁぁん! やだやだやだやだやだやだァァァァァァァァ!!」
名雪のからの攻撃は、彼女の死をもって収まる事となった。
床を這い蹲り、あゆは部屋を見渡す。転がる死体は、全てあゆを見ているような気がした。
「あ、ぁぁ、ぅぁ、ぃゃ……」
デイパックを握り締めると、あゆは民家から飛び出した。
さきほどまで一緒だった乙女は死に、逞しそうな大石も死に、友達である名雪も死んだ。
誰が殺した? 答えは簡単だ。簡単な答えだからこそ、あゆは理解できない。
――自分が手に掛けたなどと認めたくないから
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart- 死亡】
【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【水瀬名雪@kanon 死亡】
【F-4 住宅街北部エリア/1日目 朝】
支援
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:槍】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテムの内容は不明】
【状態:混乱、恐怖】
【思考・行動】
1:どうしていいかわからない
2:早く祐一と会いたい
3:往人を説得したい
【備考】
※芙蓉楓を危険人物と判断
※あゆが持っている槍は、何の変哲もないただの槍で、振り回すのは困難です(長さは約二メートル)
※前原圭一・古手梨花・赤坂衛の情報を得ました(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
「うまくやってくれみたいだね」
四人と別れてから、良美は着替えつつ身を隠して休んでいた。
こちらを信じきったあゆならば、少なくとも乙女と大石には飲料水を飲ませる事が出来ただろう。
そうすれば、残っている二人が疑心暗鬼に陥るのも必然だ。
仮に良美を疑おうとしても、飲んでしまった証拠はどうしようもない。
毒の効果を確かめるため近くで監視しようとも考えたが、乙女に気取られては危険だ。
だから、離れた場所で悲鳴が聞こえてくるのを待っている事で妥協する。
結果として、四人が入った民家から泣き叫ぶ声と悲鳴が漏れてきた。
「無事ならともかく、怪我した鉄先輩なんてねぇ」
大石という男も、あの怪我では満足な『駒』にはなるまい。
第一、圭一の顔を知っている以上、生かす価値はない。
それでも、接触して有力な情報は手に入れられた。
「相沢祐一と赤坂衛……ね」
名簿を確認すると、良美は森の中へと消えていった。
【F-4 雑木林/1日目 朝】
【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(2/5)、破邪の巫女さんセット(巫女服のみ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、錐】
【状態:やや疲労、手首に軽い痛み、重度の疑心暗鬼】
【思考・行動】
基本方針:エリカ以外を信用するつもりは皆無、確実にゲームに乗っていない者を殺す時は、バレないようにやる
利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:エリカ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:『駒』として利用出来る人間を探す。優先順位は相沢祐一と赤坂衛
3:少しでも怪しい部分がある人間は殺す
4:もう少しまともな服が欲しい
【備考】
※メイド服はエンジェルモートは想定。現在は【F-4】に放置されています。
※良美の血濡れのセーラー服は【E-5】に放置されています
※芙蓉楓を危険人物と判断(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
「ぇあぁぁぁっ!!痛いっ痛いっ……、腕が、腕……私の腕が……!!」
「……中に人が居たの。一石二鳥ね……素敵」
倉庫から出て、病院が視界に入った途端、私は何故かこの施設が酷く憎らしく感じた。
――四葉は既に死んでいるのに。
他の人間の命を助けるために、この施設は未だ存在し続けている。
私はソレが許せなかった。
だから、倉庫で手に入れたダイナマイトを二つ投げ込んでみた。
明確な悪意を、敵意をこの真白なる建物に向けて。
結果は見ての通り、この病院もあと少しで倒壊するだろう。
しかも中にいた、他の参加者を巻き込むことが出来たのはまさに僥倖だった。
目の前には爆発で片腕を失い、瓦礫と共に地面に倒れ込み、肩口から滝のような血を流している女。
彼女を見て、口の中に生まれた笑みを隠すことが出来ず私はケラケラと笑ってみた。
クスクスでもニコニコでも無く、ケラケラだ。
いつの間に自分は、こんな笑い方が出来るようになっていたのだろうと、何故か感心してしまった。
「ねぇ……貴女。聞きたいことがあるのだけど……いいかしら?
千影と衛って娘に会わなかった?
ああ、それとついでに名前も教えて」
「痛い、痛い、痛い痛いぃぃぃ!!腕、腕腕、腕が!!血が、血が!!」
「……私が聞きたいのは断末魔の叫びでなくて、他の人間の話なのだけど」
ギャアギャアと喚いている目の前の女の腹を一度、思いっきり蹴飛ばしてみた。
虫か、蛙が、潰れるような声が響いた。
短く、そして低い声だった。
濁音と破裂音と呼吸音がごちゃ混ぜになったような汚らしい声だった。
私は人間も動物の一種だということを、ここで改めて理解した。
「千影と衛。知ってる?」
もう一度。同じような台詞を、声のトーンを一段低くして発する。
問い掛けながら腰に刺していた刀を鞘ごと女の肩の傷口に近付ける。
半ば半狂乱状態の女もその行動の意図を悟ったのか、残ったもう一本の腕で顔を隠すようにして竦み上がる。
「はぁっ……はぁっ……やめ、やめ、て……!!
……ぁ……痛く、しないで、ちゃんと……喋る、から……」
「千影と、衛」
「し、知らないっ……ぅ。どっち、も……会って、ない」
何なのだろう、この高揚感は。
地べたに這い蹲る彼女を蹴り飛ばす度に、
怯える小動物のような表情を見せる度に、
彼女がその美しい顔を涙と鼻汁と涎でグショグショに濡らす度に、
私の中で何か妙なものが蠢いているような感覚を覚える。
「次、名前」
肩口から這うように、塵と血液で汚れてしまった制服をなぞりながら、鎖骨、首筋へと鞘を動かす。
丁度キリリとラインの整った顎の下まで持って行き、少し強く押し上げた。
彼女の呼吸音が、喉を振るわせる感覚が、ダイレクトに私の中に流れ込んで来る。
何故だろう、凄く、楽しい。
「ひっ!!わた、私の、名前は……ぁ……厳島、貴、子」
「ふぅん、厳島ねぇ。仰々しい苗字だこと」
私の台詞から、数秒の間が空いた。
手負いの犬のような荒々しい呼吸音と瓦礫の軋む音、そして何かが燃えている拍手のような音だけが場を支配する。
「あ、あの……」
「何?」
「あなたは……み、瑞……穂さん?ち、違う?あな、あな、たは……ダレ?」
「……はぁ?誰のことよ。
私は咲耶。瑞穂なんて名前じゃないわ」
「……そ、そうよね……。瑞穂さんが、こんな、こと、するはずが無いもの」
瑞穂?誰のことだろうか。
後で名簿を確認しておく必要があるかもしれない。
だが、もう彼女から必要なことはある程度聞き出した。これ以上この場所に長居をするのも好ましく無いだろう。
厳島貴子を適当に殺してから、早めにここをお暇するべきだ。
――……ん?
厳島貴子の様子がおかしい。
違う。先程までの彼女とは何かが、違って見える。
『瑞穂』という言葉を発した途端、眠っていた彼女の先程まで恐怖と苦痛で濁っていた瞳が強く、そして澄んだ色に変わった。
私はそんな彼女の様子に多少の苛立ちを覚える。
「……へぇ、結構言うじゃない。貴女自分の立場、分かってるの。
ここは私に土下座でも何でもして、命乞いするシーンだとか思わない?」
――さぁ、跪きなさい。そして精一杯、その灯篭のような命に縋りつきなさい。
「い、え……。決め、たんです、私」
「?」
違う……なんて程度じゃない。
これは、既に完全な『変貌』だ。
痛みに心を揺らし、流れ出る血液に錯乱していた彼女とは既に、別人。
「わた、し……戦うって。暴力に……っ……怯えるだけじゃ……なくてっ!!
守りたいものを、最後まで守り通すって!!」
「――ッ!!」
息は荒く、頬は蒸気し、血の海の中で、
片腕を失った少女は、それでも強い意志を秘めた眼差しでそう叫んだ。
「……本当に貴女は純真なのね。羨ましいなぁ、私はもう、汚れちゃったから」
「…………」
「少し嫉妬しちゃうなぁ。本当は貴女の顔も、身体も、全部ズタズタに切り刻んであげるつもりだったのよ?
フフ、安心して。気が変わったから」
「咲……耶さ……」
「でも御免なさい。私は、私は立ち止まるわけにはいかないの。
妹達のため、そしてお兄様のためにも」
そう言って刀を鞘から抜き放つ。
切っ先が目指すは心臓、寸分違わず、ただその場所。
そして――
「首輪……欲しいの。
でも、大丈夫、それは、貴女がちゃんと死んでからのことだから」
彼女もその意味を悟ったのだろう。
一瞬、その恐怖に声を漏らしそうになった。
だが、必死でその悲鳴を堪える。
……そして小さく頷いた。
彼女は瞼を閉じ、一本だけになってしまった腕を、胸の上で握り締めた。
「瑞穂さん……さようなら」
その言葉と同時に、
私は彼女の心臓を貫いた。
支援入ります
■
「貴子!!おい、貴子!!いないのか、いたら返事をしてくれ!!」
俺は貴子の名前を呼びながら崩れつつある病院の一階ホールを駆け回っていた。
なんとか貴子と合流しなければならない。
病院の倒壊は予想以上に早く、最も近い階段が崩れていたり、火が回っていたためここまで辿り着くのに予想外の時間が掛かってしまった。
しかし、明らかにこの惨状は外部から何かしらの攻撃を受けた証拠だ。
襲撃者はおそらく爆薬系の武器か、下手をすればロケットランチャーのような武器を持っている可能性が高い。
そんな危険な相手の近くに、彼女を一人にしておくわけにはいかない。
「くそっ、まさかもう外に?ん、貴……子!?な……」
それは異様な光景だった。
頭部。
胴体部。
右腕。
左だけが、無い。
貴子は、死んでいた。
頭部と胴体を切り離されるという、非常に残酷な姿で。
頚部に切断された跡があるが、一見すると胴体と頭部が分離されているようには見えない。
こんな事をした人間は、いったい何を考えているのだろうか。
それでも。
彼女は笑っていた。
殺されそうになって、頭を切り離されて、どれだけの苦痛を味わったかも分からないのに。
「貴……子、なんで……。
……ぅ……く、糞ぉぉぉぉぉぉ!!なんで、誰が、こんなことッ!!」
こんな少しの間離れただけで、まさかこんなことになるなんて。
俺は白昼夢でも見ているのだろうか。
日常から非日常の階段を上ってしまったことは分かる。
それでも、それでも、こんなに早く身近な人間に死が訪れるなんて。
俺の選択は間違っていたのか。
もしも、貴子を置いて道具を探しに行ったりしなければ。
もしも、貴子と一緒に逃げていたならば。
もしも、もう少し早くあの男を黙らせていたならば。
貴子は、死ななかったのかもしれないのに。
【厳島貴子@乙女はお姉さまに恋してる 死亡】
■
「四葉……見た?私……。
あなたとはそれ程長い付き合いがあったわけじゃない。
けど、それでも私、あなたのこと大切に思っていたんだから」
もしもこの場所にお兄様がいたとしたらどういう行動を取るだろうか。
考えるのもおぞましい、最悪の想像だが、何故かこんな妄想が頭に浮かんで来た。
お兄様はきっと私達姉妹を守るために率先して動いて下さるはず。
でも、私達のためとはいえ、人を手に掛けるようなことは絶対しないわ。
だって私のお兄様は優しくて、本当に素晴らしい人間なのだから。殺人なんてするわけが無いの。
でもただ逃げ回っているだけじゃ、いつか危険な目に合うかもしれない。
それは妹達にしたって同じ話。逃避するだけで、自分の身を守るのは難しい。
だから私が殺す。
もう躊躇はしない。
近寄ってくる人間ならば誰であろうと、必ず。
――四葉が死んだ。
この事実を知っても、不思議と涙は出なかった。
定時放送が始まってあの子の名前が呼ばれても、何故か私は酷く落ち着いたままだった。
もしも私が取り乱し、冷静さを失ってしまったらどうなるのか。
この島にお兄様はいない。私が最年長なのだ。千影にまとめ役を任せるわけには行かない。
呑気に『皆と仲良く脱出する方法を考えましょう』、そんな甘い考えに一瞬浸ってしまったことを強く後悔した。
気付けば十二人の姉妹は十一人になってしまったのだ。
支援
脱出はする、だが姉妹で帰ることが出来なければ何の意味も無い。
そのために一応首輪も確保した。千影……一人では苦しいかな。鈴凛がいれば何か分かったかもしれないのに。
誰か首輪について詳しい人物を利用出来ればいいのだが。
――そうだ、忘れる所だった。
私は名簿を取り出すと一覧の中の『厳島貴子』の名前を黒く、黒く塗り潰した。
そしてその名前を私の心の中に深く刻み込む。
厳島貴子。
戦う力なんて一切持たないひ弱な人間。
それでも、それでも、彼女は戦士だった。
■
俺は建物が倒壊する音と、煙の中で笑っていた。
――おかしい。何なんだアイツらは。
俺は……眠っていた。
そして目覚めた。
隣には大人しそうな少女がいた。
だがそんな見た目だけの印象はまるで当てにならなかった。
彼女は俺を、酷く罵った。
人間がこんな表情が出来るのか、と思うほど邪悪な目をしながら。
だから、俺は彼女を×そうとした。
当然だ。そうしなければ俺が×されていた。
そこに入って来たのがあの男だ。倉成、倉成武と名乗っていた。
アイツも俺を酷く罵った。
しかも名前を聞いてきた。馬鹿にしているのか、アイツは。
俺が土見稟だということを、アイツは調べてとっくに知っているはずなのだ。
そして気付けば俺は一人になっていた。
目覚める前の記憶はシーツをロープ代わりにして、窓から放り投げようとした所で終わっている。
今は一体何時なんだろうか。
水澤真央はどこに行ってしまったのだろうか。
何も思い出せない。
――煙がこの辺りまで上がって来た。
もう、長くは持たないだろう。
ひとまずここから脱出しなければならない。
俺、土見稟は側に落ちていたデイパック、それと周りに落ちていた食料や飲料水を拾うと病院から出るための行動を開始した。
そう言えば、一つ気になる事が。
喉が少し痒い。特に虫刺されなどは無いはずなのだが。
何か、病気にでもかかったのだろうか。
【F-6 病院 正面口/1日目 朝】
【倉成武@Ever17】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式 ジッポライター】
【状態:疲労】
【思考・行動】
1:住宅街へ行き、脱出のための協力者を探す
2:知り合いを探す。つぐみを最優先
3:前原圭一と会ってみたい
4:土見稟をマーダーと断定
5:金髪の少女(芳乃さくら)をマーダーとして警戒
※前原圭一と遠野美凪の顔と名前を知っています
【F-6とE-6の境界線/1日目 朝】
【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 食料・水x4 可憐のロケット@Sister Princess タロットカード@Sister Princess
S&W M627PCカスタムの予備弾61 肉まん×5@Kanon 虎玉@shuffle
ナポリタンの帽子@永遠のアセリア 日本酒x3 工事用ダイナマイトx3 発火装置 首輪】
【状態:若干の疲労】
【思考・行動】
1:衛、千影を探し守る。
2:首輪を解析する能力を持つ人間を探して利用する
3:姉妹以外の人間は確実に皆殺し
4:余裕がある時は姉妹の情報を得てから殺す
5:宮小路瑞穂に興味
支援
基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する
※カルラの死体の近くに、羽リュック@Kanon、ボトルシップ@つよきす、
ケンタ君人形@ひぐらしのなく頃に 祭、が放置されています。
【F-6 病院 /1日目 朝】
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:】
【所持品:支給品一式x2 投げナイフ二本 麻酔銃(IMI ジェリコ941型)、拡声器、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、
麻酔薬入り注射器×3 H173入り注射器×3、炭酸飲料水、食料品沢山(刺激物多し)】
【状態:L5侵攻中・強烈な自己嫌悪 背中に軽い打撲 頚部に軽い痒み】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:俺の中の、何かがおかしい
2:ネリネ、楓、亜沙の捜索
3:水澤真央が気になる
4:もう誰も悲しませない
※シアルートEnd後からやってきました。
【備考】
H173が二本撃たれています。L5の発生時期は次の書き手さんにお任せします。
※病院は咲耶がダイナマイトを二つ爆発させたため、崩壊の危機。
現在一階が延焼中。遠くから見ても煙が上がっているため判断可能。
瑞穂とアルルゥが放送を聞いたのは、吊り橋を渡り終えて、近くの木陰で休憩しているときであった。
アルルゥがあまり喋らないので少し時間がかかり苦労をしたが、情報交換を終えた二人は放送を静かに聴く……。
(なんてことだ……)
瑞穂は禁止エリアをメモした後、次々と流れてくる死者の名前に胸を痛めていた。11人もの命がこんな馬鹿げたゲームで失ってしまったことを、彼女たちの命を奪った殺人者を、そして主催者である鷹野たちに対する激しい怒りが胸の中で渦巻いていた。
それに……
「おねーちゃん……カルラおねーちゃん……レオ……」
そうアルルゥが探していると言ったエルルゥ、カルラ、対馬レオの3人が呼ばれたのだ。
アルルゥは不安そうな顔をしながら、瑞穂に尋ねる。注意してみるとアルルゥの目が真っ赤になっているのに気づく。
「なんでおねーちゃんたちの名前呼ばれた……? ……おねーちゃんたちが……死んだ?」
「っ!!」
(そうだ。いくら幼いとはいっても言葉の理解できない歳でもないんだ……。このまま嘘をつくことは不可能じゃないが、いずれ分かることなんだ。だから僕には事実をアルルゥに伝える責任がある……)
1年前の瑞穂ならなんとかごまかして嘘を吐き通していただろう。
だが、おじいさんの遺言で聖央女学院に入ってからの瑞穂は変わった。
エルダーに選出され、それから1年弱、文化祭の演劇、ダンスパーティーなどエルダーとしての責務を果たすうちに、瑞穂自身も大きく成長したのだ。
だから瑞穂は両手でアルルゥの肩をつかみ、自分の目とアルルゥの目を合わせ、唇を噛みしめながら、辛い事実を伝える。
「そう。アルルゥのお姉さん、カルラさん、レオさん、いま名前を呼ばれた人はもう死んだの」
「!……」
アルルゥの目に涙が溜まっていくのが見える。
「じゃあ……もうおねーちゃんたちに会えない?」
アルルゥの問いに頷きをもって答える。
「うそだ……瑞穂おねえちゃんうそつくのダメ!」
縋りつくような目で瑞穂を見るアルルゥに、瑞穂は優しく、だがはっきりと伝える。
「アルルゥちゃん……ごめん。嘘じゃ……ないの」
その答えを聞き、限界まで溜まっていた涙が決壊する。
「やだ……やだぁ!! うそ……うそって言って!! ひっぐ……ぅぁ……ぅわああああん! 嫌ぁ! 嫌ぁっ!!」
泣き叫ぶアルルゥを瑞穂はぎゅっと優しく抱きしめる。その小さな体を感じながら、瑞穂はどんなことがあってもアルルゥのことを守り抜くと心に誓った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どれくらい抱きしめていただろう。
しばらく経つと泣き疲れたのか、アルルゥの泣き声もだんだん勢いを失い、しまいには聞こえなくなった。
アルルゥを見ると、目を真っ赤に腫らしながらもだいぶ落ち着いたようだ。今度はアルルゥのほうから瑞穂にぎゅっと抱きつき、瑞穂もそれを優しく抱きとめる。
そんなときだった。
アルルゥの耳がピクリと反応する。
アルルゥが顔を上げ、後ろに振り向いてじっと見つめる。
「どうしたの?」
疑問に思って瑞穂が尋ねると、アルルゥははっきりと声を返す。
「誰か……くる」
「え……。っ!!」
その答えを疑う間もなく、瑞穂もそれに気づいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
蟹沢きぬは放送を聴いてからずっと走り続けていた。
特に目的も理由もなくただただ自然に走り続けていた。
走るのをやめたら、自分がどうにかなってしまいそうで走り続けていた。
(レオのヘタレ! レオのビビリ! レオのチキン! レオの……バカ)
「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「ぅぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!」
声が近づいてきている。
先ほどアルルゥが泣き叫んでいたよりも大きな声だ。
こんな状況で走りながら大声で叫ぶなんて真似、普通ではできないだろう。
何か考えがあるのか、ただのバカなのか、その判断はひとまず保留にして、瑞穂はとりあえずアルルゥを連れて、太い木の木陰に体を隠した。
「ぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
その間も声の主は橋の向こう側からまっすぐかなりの速さで向かってきている。
やがて、吊り橋も猛スピードで渡りだし、その姿も確認できるようになった。 (女の子……それもたぶん僕より年下。中学生くらい?)
どうやら声の主である少女のほうは瑞穂たちに気づいているわけではなく、ただがむしゃらに走っているだけのように見えた。
少女を止めて声をかけるべきかどうか、迷っているうちに、もうすでに少女は勢いよく橋を渡り終えようとして……
「うおおおおおおおお……へ?」
最後の最後で足がもつれたのかつまずいて、ヘッドスライディングを決めるように滑って瑞穂たちの前を通り過ぎていった。
ポカーン
漫画ならそんな擬音が描かれる場面だが、瑞穂はそんな想像を振り払い、うつぶせのまま動かない少女の元へ向かった。アルルゥもそれを止めずに、瑞穂についていく。
「ぅぅ……ぐすっ」
近づいて気づいたが、少女は泣いているようだ。
「あの……大丈夫ですか?」
少女が瑞穂の声に反応して顔を上げる。
少女の顔は涙で濡れていた。
「ぐすっ……だれだおめえら?」
「私は宮小路瑞穂。こっちがアルルゥちゃんです」
「ん……」
アルルゥが肯定するように頷く。
「それよりこれを使って涙を拭いてください」
瑞穂がポケットからハンカチを取り出す。
「泣いてない、泣いてないもんねっ!」
瑞穂の幼馴染なら、「いや、どう見ても泣いてるじゃん」と無粋なツッコミを入れるだろうが、瑞穂はさすがにそんなことはせずに黙ってそっとハンカチを少女の手に載せる。
少女は瑞穂の顔をじっと見つめた後、
「ありがと」
と小さくつぶやいた。
【C-6森 吊り橋付近/1日目 朝】
【蟹沢きぬ@つよきす】
【装備:なし】
【所持品:フカヒレのギャルゲー@つよきす】
【状態:両肘と両膝に擦り傷。疲労困憊】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:レオのバカ……
2:瑞穂たちと情報交換。
3:病院に向かって稟と合流。
4:鷹野に対抗できる武器を探す。
5:スバル、乙女さん、姫、よっぴーのうち誰かと合流したい。
【備考】
フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:投げナイフ2本】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:目の前の少女に事情を聞く。
2:アルルゥを絶対に守る。
3:新市街へ行き、脱出のための協力者を探す。
4:ハクオロ・トウカ・オボロ・赤坂を探す。
5:知り合いを探す。
【備考】
陽平には男であることを隠し続けることにしました。
アルルゥにも男性であることは話していません。他の人にどうするかはお任せ
【アルルゥ@うたわれるもの】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式(コンパス、時計、ランタン以外)、ベネリM3の予備弾】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:瑞穂についていく。
2:おとーさんに会いたい。
3:知り合いと合流したい。
【備考】
エルルゥたちの死を理解しました。
高嶺悠人と衛は、新市街の細い裏路地をひたすらに走り続けていた。
途中で思わず転びそうになる衛の手を握りしめ悠人は思う。
(こんな事ならば衛にローラースケートを脱いだほういいなんて言わなければよかった)
だが、それを後悔しても仕方が無い。
今の二人は襲撃者から逃げる真っ最中なのだから。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
話は二人の逃避行から少しばかり前、定時放送の時にさかのぼる……。
「うそ……」
定時放送で死者の名前が呼ばれ終えた直後、衛は思わず体を起こした。
その顔は青ざめており、唖然とした表情を浮かべている。
「衛、どうした?まさか!?」
「今……四葉ちゃんの名前が呼ばれた……」
震える声で搾り出すように呟く衛。
悠人もそれが何を示すのかすぐに察したが、再度衛に問い直す。
「落ち着け衛!四葉ちゃんという子はお前の知り合いなんだな?」
「そう……だよぉ……」
「そうか……(違うな、衛の様子からして恐らくは親友あるいは姉妹なんだろう)」
そう言ったあと、衛はうなだれたまま悠人に体を預けてくる。
悠人にすがりつき涙を流す衛。
声を上げて泣いてもかまわないはずなのに、それでも耐えようとする衛の姿から「四葉」という子と衛の仲が親密なのは悠人でも予想がついた。
(考えてみれば衛の知り合いが参加していてもおかしくなかった……もっと早く気が付いていれば……)
思えば、アセリアやエスペリアの事は気にしていたものの四葉の知り合いについては衛の口から名前が出た涼宮遙ぐらいしか気にしてなかった。
しかし他に衛の知り合いがいるなら早く保護しなければならないだろう。
悠人は衛の頭をなでながら、少しでも落ち着かせようと話しかける。
「教えてくれ。その四葉ちゃんという子以外にも衛の知り合いが参加しているのかどうか」
「うっ……ううっ……咲耶ちゃんと……千影ちゃん……」
衛の口から出た名前を聞くや、悠人はまだ拡げていた名簿に目を走らせる。
(いた……「咲耶」と「千影」……これが衛の知り合いか)
(先ほどの死亡者に彼女たちの名前は含まれてなかったということはまだどこかで生きているわけだな)
二人の名前を確認した悠人は再び衛に話しかける。
「衛、今からでも遅くない。一刻も早くその咲耶ちゃんと千影ちゃんという子を探し出して保護しよう」
「ぐす…………えっ?」
「四葉ちゃんという子については遅すぎたと思う。だけど、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないから」
「悠人さん、ありがとう……」
悠人の言葉が多少は慰めにでもなったのだろうか、衛は涙を拭うと少しだけ笑ってみせた。
(強い子だな……普通ならもっと大声をあげて泣いても可笑しくないのに……)
無理して笑って見せようとする衛の姿を見て悠人は思わず胸が締め付けられそうになった。
しかし、衛の話を聞いた以上は此処を離れて当初の予定通り新市街へ向かわなければならない。
悠人と衛はすぐさまディパックを手にするとすぐにハイキングコースを下り始めた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
支援(・3・)
朝の新市街は真っ暗な中をランタン片手に歩き回った時と比べ、町の様子がハッキリと分かる。
あの時間帯では見えなかったり気付かなかったものが今はよく見えた。
(だからと言って何かが大きく変化したわけじゃないけどな……)
悠人は衛の手を握り、新市街の大通りを歩く。
猫の子一匹いない市街地は朝方とはいえ静まり返っており不気味なほどだった。
「衛、大丈夫か?」
そんな中、悠人は衛の様子を気にして声をかける。
既に精神的には落ち着いているみたいだが、その表情はどこか沈んでいる。
いや、だからこそ悠人も余計気になっていた。
「うん、大丈夫だよ悠人さん……(悠人さん、ボクの事気にしてくれてありがとう……)」
「そ、そうか。それならいいんだ(こりゃ早く衛を落ち着かせられる場所を探さないといけないな)」
他愛のない会話だが、今の二人にはそれだけで十分過ぎた。
衛は悠人の言葉に笑顔を作って応え、悠人にはその笑顔が自分に気をきかせて無理して笑っている様に感じられた。
そして、衛は強く思う。
(遙あねぇが死んだとき「もう泣かない」って決めたけど、四葉ちゃんが死んだって知った時泣いちゃった……)
(でも、悠人さんが咲耶ちゃんや千影ちゃんを探してくれると言ってくれた。悠人さんにも会いたい人がいるかもしれないのに)
(それに、四葉ちゃんが死んで一番悲しいのはきっとあにぃだから。今、ボクが泣いたらいけないんだ)
(決めた。二人と無事会えて無事に帰れたら、咲耶ちゃんや千影ちゃんと一緒にあにぃを慰めてあげよう。それが一番なんだ)
(そうだよね。遙あねぇ、四葉ちゃん……)
衛は心の中で今は亡き二人の顔を思い浮かべ、そしてもう一度「今はまだ泣かないんだ」と誓った。
何かが飛来する音がしたかと思ったら、衛の後ろから爆発音と衝撃が響いたのはその直後だった。
思わぬ出来事に衛は前へ躓き、地面へ倒れそうになったところを悠人に支えられる。
悠人の顔を見あげると、悠人も何が起こったのかという表情で爆発音の起きた場所を見ていた。
「い、一体何が……っ!!」
爆発の起きた箇所を見た悠人は思わず眼を見張った。
つい先ほどまで衛が歩いていた場所の後方、オフィスビルの壁面が爆発物でも叩きつけられたかの如く派手に壊されていた。
外壁表面のタイルはおろか、その下地であるコンクリートも破壊されて鉄筋が露出している。
それを見て悠人は自分たちが狙われた事を一瞬で悟った。
(俺達を狙った狙撃か!)
すぐさま衛を抱きかかえた悠人はオフィスビルの谷間である路地に駆け込んだ。
そして、自分の後方に衛を隠すと、身をかがめて様子を伺い自分たちを狙った相手を探す。
(あの壁の壊れ方からすると、相手はバズーカ砲かミサイルでも撃ってきたのか?どっちにしてもこのままじゃ危険だ)
(どこだ、どこから狙ってきた…………あれか!)
眼をこらした悠人は物体が飛んできた方向からおおよその見当をつけ、そして自分たちを狙った相手を遂に特定した。
大通りの中央分離帯、その植え込みを挟んだ反対車線――距離にして10数メートル程向こう――に停車する車が一台。
そのボンネットの上から不自然に突き出している一本の棒……。
いや、違う。
それは二脚に支えられたライフルの銃身だった。
そして、その向こう側にいたのは青い長髪の少女と栗色のショートカットの少女……。
(あの二人か、あの二人が狙ってきたのか……まずいっ!)
しかし、悠人に考える余裕与えられなかった。
相手もこっちに気が付いたのかその銃口をこちらにずらしてきたからだ。
すぐに危機を察知した悠人は衛のいる位置まで走って後退する。
直後、先ほどまで悠人のいた辺りから道路側へ出た辺りにライフルの弾が命中し、歩道の石畳を無残に吹き飛ばした。
「衛、逃げるぞ!」
「うん!」
悠人は衛の手をとると路地を走り、ビルの反対側を目指した。
圧倒的に不利な状況を打開するには一旦逃げるしかない。
それが最良の選択だった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
二度目の狙撃で歩道に生じた爆煙が薄れる頃、当の襲撃者たちは傍目から見ればにぎやかそうな
――その内面は煮詰まったヘドロの如くドロドロした感情がうずまく――会話をしていた。
「二発とも外れちゃいましたね。ネリネさん、言い出したからには一発目で殺してください」
「こんな大きな銃、私が扱えるわけがありません。音夢さんはその程度のこともお分かりになってなかったのですか?」
「ふ〜ん、でもネリネさんは『銃を貸して欲しい』って言っただけですよね。それならどの銃を貸りたいのか具体的に言えばよかったじゃないですか」
片や、射撃後の反動により痛みが残る右肩をさするネリネ。
片や、貸した九十七式自動砲をディパックにしまいながらネリネに言い返す朝倉音夢。
その会話を聞きつつ唯一車から降りなかった女性、小町つぐみは二人の行動に呆れながらも運転席で今後の事を考えていた。
(おバカさんと言ってもここまでバカとは思わなかったわ……それよりも、あの逃げた二人をどうするのかしら)
そもそも悠人と衛への襲撃は二人を発見したネリネが言い出した事であり、三人のスタンスの違いが生んだ結果でもあった。
定時放送のチェック後、新市街の大通りを車で走っていた時ネリネは遠方から通りを歩く悠人と衛を発見した。
こちらの様子に気が付く感じもなく、近寄ってくるわけでもない二人に今奇襲を仕掛ければ間違いなく殺れると
判断したのがネリネであり、それに乗ったのが音夢だった。
もともとネリネのスタンスは稟を探す途中で発見した人間は皆殺しにするというものであり、
音夢もまた殺す事でメリットが得られるなら殺人を躊躇しないというものだったから奇襲が
実行に移されたのもある意味当然だった。
一方でつぐみは二人の殺人を黙認していたからこそ何も言わなかった。
むしろ、殺人の成功より二人を牽制させる好機と捉えていたからこそ、何も言わなかったというのもある。
奇襲が成功すれば単に参加者が消えるだけであるからそれでよし、失敗したら失敗したで
二人が今以上にいがみ合えばそれで色々と立ち回りやすくもなる。
だからこそ、裏方に徹する事としていたつぐみは判断を二人に委ねた。
結果として大通りを歩く二人の移動地点を予想して先回りし、音夢がネリネに銃を貸したところまではよかったが、
奇襲は完全に失敗し逃げられたというわけだ。
もっとも、つぐみには「狙撃」という二人の銃の腕からすれば成功の見込みが薄い方法ではなく
「ギャング映画の如く、後方から車を寄せて近づき追い越しざまに拳銃を至近距離で乱射する」というプランを立てていたが、
敢えてその方法を二人に教えるつもりは無かった。
彼女達三人は目的の為に互いを「利用する」という立場にあるが、そこに「友情」や「信頼」という言葉は一切存在しない。
つぐみにすれば音夢もネリネも、いつ自分の寝首をかくか分からぬ人間である。
彼女にすればそんな人間に効率の良い人の殺し方をレクチャーしてやる気はさらさら無かった。
携帯支援……ッ!
だが、奇襲が失敗した以上自分達の事があの逃亡した二人から他の参加者へ伝わるのは確実であり、
放置すれば車内にいた自分はともかく、音夢とネリネにとっては色々と厄介なことになるのも事実だ。
だからこそ、つぐみは次の手を考え車外の二人に声をかけた。
「そんなことよりいいのかしら?逃げた二人を放って置いても?」
「「あ!」」
つぐみの一言を聞いて事の重大さに気が付いたのか同時に声をあげた音夢とネリネはすぐさま助手席と後部座席に乗り込む。
「すぐ追いかけて下さい!まだ兄さんを見つけてもないのに邪魔されたら!」
「あの二人は見つけ次第殺さないといけませんから、逃げた方向に向かってもらえますか」
「なら、東へ向かう事になるわね」
すぐに車は走りだした。
二人が逃げた「東」に向かって。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「どうやら行ったみたいだな」
車が東に向かって走り去り、そのエンジン音が徐々に小さくなるのを確認した悠人は先ほど逃げたビルの路地から衛と共に姿を現した。
「悠人さん、上手くいったみたいだね」
「ああ、でも戻ってくる可能性もあるからすぐここから移動した方がいいな……」
支援
二人は東に向かって逃げたが、実際には本当に東のエリアへ移動したわけではなかった。
ビルの路地を抜けて移動したのは事実だったが、路地を抜けたところでオフィスビルの裏口から
建物の中に進入してあたかも猛スピードで東へ移動したかの様に見せかけたのだ。
それに、悠人もあの車に乗っていた人間を騙しきれるとは思っていない。
時間稼ぎぐらいは出来るだろうけどそこまでだと考えていた。
(しかし、車を使う参加者がいるとは思わなかった。こりゃ気が付いたらこっちに戻ってくるのも時間の問題だ)
その場を離れつつ悠人はこれからの事を考える。
(あの時確認できたのは青い髪と栗色の髪の少女、あと窓ガラスでよくわからなかったが運転席にも一人乗っているみたいだったな……)
(そうなると最低でも襲撃者は三人か……。いや、あの車のサイズからして四、五人は乗っている可能性があるということか)
(最悪2対5という事になったら市街地を動き回るよりどこかに立てこもって戦う方がいいかもしれない。そうなったら)
ここから近く、それなりの広さがあり、加えて罠を仕掛けたりしやすい場所……。
そうなると選択肢は一つ――博物館――しかなかった。
「衛、博物館へ行くぞ。結構走らなきゃならないけどいいか?」
「うん!」
衛が頷くや悠人は衛の手を引いて一気に走り出す。
二人が目指すは博物館!
・
・
・
支援
博物館に到着するや二人は博物館の敷地へ入る北側の入り口である正門の鉄製扉を閉めて扉に付属していた南京錠をかけた。
これで襲撃者が車両ごと敷地内に進入することは不可能になったわけだがコレだけでは終わらない。
悠人は館内に入ると衛へ扉に鍵をかけ、窓のカーテンやブラインドを閉めるように言って、自分は館内を一通り見て回った。
博物館の中には自分たち二人しかいない事を確認した悠人は衛を手伝い、作業を終えると博物館1Fの一室
――職員用の事務室――へと入った。
(まさか、あの時の探索がこんな形で役に立つとは思わなかった)
悠人は薄暗い博物館の中、唯一照明の点灯している事務室で夜明け前の暗い博物館をランタン片手にくまなく歩き回った事を思い出す。
あの時の探索では誰とも会えなかったが、今ではあの行動も無駄にならなかったと言える。
一方、悠人の隣では衛がさすがに疲れたのか椅子に座ってへたり込んでいた。
そんな衛を見ながら悠人は襲撃者が来たときの事を考える。
(遅かれ早かれ連中がここに俺達がいる事に気づくのは間違いない。問題は襲撃してきた人間とどうやって戦うかだ)
(あれを使うしかないのか……)
思わず、森の中で回収した刀と拳銃2丁が入ったディパックに眼がいく。
予備の弾もあり、戦い方次第では自分と衛だけでも襲撃者を全滅あるいは戦闘不能に出来るかもしれない。
そこまで考えて悠人は頭を振る。
(ダメだ。相手が乗っているとはいえこっちが相手の土俵に上がるわけにはいかない。それに、衛に人殺しはさせたくない)
衛がこの島で起きている現実を見ても自分を見失わないのはいい。
しかし、乗って無くとも人殺しをさせていい理由などあるはずがない。
(一体どうすれば……ん、待てよ)
そこで悠人はある事に気づいた。
それは夜明け前に気が付かなかったことで、ごく当たり前だからこそつい先ほどまで気づかなかった事。
(考えてみればこの建物は電気が生きているんだ。だとしたら……)
悠人はすぐに事務室と繋がっている給湯室へ向かい、シンクの蛇口をひねる。
思ったとおり蛇口からは水が出た。
それを見た悠人の頭にあるアイデアが閃く。
上手くいけば相手を殺さず戦闘不能にする事が出来るかもしれない。
悠人は振り向くと、まだ休んでいる衛に声をかける。
「衛、疲れているところを悪いけどもう一働きしてくれないか」
「悠人さん?」
「いいアイデアを思いついたんだ。実は……」
悠人は衛にそのアイデアと必要な下準備を教えると、自分はそれに必要なものを作るため事務机の上にあったカッターナイフを手に取る。
それからまた暫くの時間が経過し、必要な準備が終わる頃建物の外から車の音が聞こえてきた。
「丁度いいタイミングで来たな」
悠人はそう呟き、博物館の二階へと駆け上がる。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
支援
(うわぁぁあああん、双樹、恋太郎―!!)
沙羅は心の中で叫びながらひたすら展望台へと走っていた。
先程放ってしまった銃声のせいで、常に誰かに見られている恐怖感が彼女を襲う。
(あそこまでいけば、きっと大丈夫だもん…!!)
根拠の無い理由だが、それでも沙羅は今、自分の考えを信じるしかなかった。
どのくらい時間が経ったかもわからない。だが、陽は既に昇り始め、展望台を輝き映し出していた。
「やっと着いた…。入り口は……?」
入り口を探し、中へと入り込む。中は上へと繋がる階段のほか、受付やトイレなどが配備されている他は一般的な施設となんら変わりなかった。沙羅は真っ先に階段を使い、頂上へと駆け上る。
「はぁっ…はぁっ…なんでこんなに長いのよー!?」
息を切らし、文句を言いながらも進むことを止めない。上ること約5分。ようやく頂上へとたどり着いた。
「うっわー。凄い綺麗……」
そこから見える景色は絶景そのものだった。朝日に照らされ各種施設や森が輝いて見える。
しばらくボーっと見とれていた沙羅だったが、
『――皆、もう待ち切れないって感じね。』
自分や双樹たちをこんな所に連れてきた鷹野の声が聞こえてくる。
「提示放送!? えっと…紙とペンは…」
ゴソゴソとデイバックを漁る。
『禁止エリアは八時からC-2、十時からF-7』
地図にメモしながら沙羅は黙って放送を聴く。流されるであろうあの情報のために――。
『開始から今までの六時間の間、既に命を落としたのは―――』
(きたっ!!)
沙羅の顔から大量の汗が流れるが、それを気にも留めずただひたすら双樹たちの名前が呼ばれないことを祈る。
『エルルゥ――――――園崎詩音』
「呼ばれるな、呼ばれるな、呼ばれるな……」
死亡者の名前をペンで消しながら呪詛のようにつぶやく。――――だが、沙羅の願いは儚くも崩れ去った。
博物館の正門前へつぐみ、音夢、ネリネの三人を乗せた車が到着したのは最初の襲撃からかなりの時間が経過してからだった。
ここまで時間を浪費したのは、音夢とネリネの二人が「嵌められた」と気づくのが遅れたことと、
一番最初に気づいていたつぐみが何も言わなかったことが大きな原因だった。
(それにしても思った通りね)
車から降りる二人には眼もくれず、閉じられた通用門を見てつぐみは思う。
思ったとおりというのは逃げた二人にハメられた事でもなければ博物館へ逃げ込んだ事でもない。
相手が思った以上に頭の回る――自分はともかく音夢やネリネ以上に――という事についてだった。
うすうす感づいてはいた。
あの時、逃走したとはいえ足で車の追跡を振り切れるはずがない。
そうなったら、むしろ一直線に逃げるより途中で車の進入できない脇道を通ってきた方向を引き返したと
考える方が正しく、まだ「C−3」エリアにとどまっていると考えてしかるべきだった。
加えてその逃走がただやみくもに逃げるだけのものでなくむしろ「戦術的撤退」だったのならば
逃げた側は自分たちが戦いやすい場所をあらかじめ設定しているともとれる。
そうして考えると、この博物館にあの二人が逃げ込むのは必然と言えた。
彼女が警戒したのは、車両用の通用門が閉じられているにも関わらず、その横にある小さな人間用の通用門が開いている事だった。
逃げ込んだ人間が逃走用に開けておいたとも考えられるが、この場合はむしろ「こちらを誘っている」とつぐみは考えた。
つまり、中にいる人間は建物内に入った者を撃退する策を持っていると考えるべきであり、迂闊に入っていいものではない。
にも関わらず、つぐみは音夢とネリネにその事を告げなかった。
自分たちが嵌められたと最初に気づいたときと同じように。
重ねて説明するが彼女たちは互いを利用するというだけの関係にあり、そこに「仲間への気遣い」なんてものは一切ない。
最初に嵌められたと気づいた時も彼女はただ二人の言うがままにハンドルを切っていただけである。
下手に気づいた事を言って双方から睨まれるより気づかなかった事で互いに罵り合ってくれた方が自分にとっても都合がいいからだ。
PC支援がさる規制食らった…
『――――白鐘双樹』
「えっ……?」
予想していない状況に沙羅の思考は定まらなかった。
「嘘でしょ…?あはは、そうだよ。きっと疲れてるから幻聴でも聞いてたんだ、うん」
そう自分に言い聞かせる。だが、沙羅の名簿表の『白鐘双樹』という文字には既に斜線がひかれてあった。
頭の中では認めたくなかったが、自然と身体は反応していた。もちろん、放送が嘘じゃないとういうことも沙羅はわかっていた。
双樹の名前の上にポタポタと雫が落ちる。次第に雫は大きくなり双樹の名前以外の場所も濡らし始める。
「双樹…双樹…うっ…うっ…」
嗚咽を漏らし、流れる涙を止めることもせずむせび泣く。
(双樹は…私と違っておしとやかで、家事ができて、可愛くて…守ってあげなきゃいけなかったのに……!!)
沙羅の頭の中に双樹との思い出がフィードバックされる。一緒に家出をしてきたこと。恋太郎に出会えたこと。3人でいろんなことをしたこと……。どれも沙羅にとって大切な記憶だった。双樹がいない今、恋太郎と3人で新しい思い出を作ることはできなくなってしまった。
「いっそのこと私も死んじゃおうかなぁ……」
焦点の定まらない瞳で手に持った銃を掲げる。沙羅にとって双樹のいない世界は全く意味のない世界だった。
銃口を頭のところまで持ってきたところで、ふいに後ろから双樹の声がした。
『ダメだよ沙羅ちゃん!! まだ恋太郎も生きてるんだよ? 誰があのダメ探偵を助けるの?』
その声にハッとし、後ろを振り向く。だがもちろん双樹の姿はそこにはなく、あるのは一面に広がる海だけだった。
「双樹…?」
支援
そして今、博物館に到着しこれから内部に侵入しようとする二人に忠告をしないのも同じこと。
二人が建物内にいるであろう逃走した二人によって返り討ちにあって消耗するか互いの感情をむき出しに殺しあってくれるのもよし。
少々早いが、いずれは機を見て捨てる事を考えればここで放り出すのも悪くはない。
(それに、顔が割れてないというのもあるわ)
そう、つぐみは三人の中で唯一逃走した二人に顔が割れてない。
だから自分も音夢やネリネと一緒に建物内へ入って一戦交えることへのメリットも感じてなかった。
「つぐみさんは入らないんですか?」
そんな彼女の思考を中断させたのは音夢の声だった。
しかし、ネリネは傍にいない。
「私は行かないわ。それよりネリネはどうしたのかしら?」
「ネリネさんならさっさと裏口の方へ回っていきましたよ」
そういえば裏口というものがあったわね、と正面の敷地全体図を見ながらつぐみは思う。
槍しか武器のないネリネの事、大方裏口から逃げようとする二人を狙うつもりなのだろう。
だが、こういう場でも協力いや互いを利用しようとしないところに音夢とネリネ双方の不仲がはっきりと分かる。
(もっとも、あれだけ最悪の出会い方をしたら別行動をとってもおかしくないわ。そのほうが私にも都合がいいんだけど)
「ところで、音夢はネリネと一緒に行かないのかしら?裏口へ」
「自分から殺すと言っておきながら失敗する人なんかと一緒に行動したくありませんね」
「そう、それならせいぜい彼女を囮なり弾除けにでもすることね」
自分が音夢と最初に出会ったときに言われた台詞を放つつぐみ。
それを聞いた音夢も「ええ、そのつもりですよ」とでも言わんばかりの表情を返すと、通用門の方へ向かおうとした。
が、そこで足を止めて振り返る。
キョロキョロと辺りを見回すが、当然のことながらそこに双樹の姿はなかった。
だが、きっと双樹が私を嗜めにきたんだ…と納得する。
「そうだよね…。恋太郎まだ生きてるんだもんね。…私は双葉探偵事務所の助手!! こんな所で諦めないよ。…でもね、でもね……」
沙羅は海を見つめながら、ポツリと言葉をつむぐ。
「私、頑張るから…。だから、今だけは泣いていいよね? ねっ?双樹……」
一瞬、水平線の向こうに双樹の笑顔が見えた気がした。その笑顔は沙羅を応援しているようで――――沙羅は声を押し殺すことなく泣いた。
◇ ◇ ◇
どのくらい泣いたかもうわからない程に沙羅の目は真っ赤に腫れ上がっていた。だが、その瞳には強い決意の炎が宿っていた。
(双樹…。私は絶対に双樹を殺した人を許さない。絶対に謝らせてやる!それと、恋太郎を探し出して絶対に脱出して見せるからね。だから、見守っててね!!)
そこまで言うと、今度は海に向かって叫ぶ。
『私は、双葉探偵事務所美人助手の一人、白鐘沙羅!!絶対に負けないんだからー!!』
沙羅の声は水平線の彼方へと吸い込まれる。朝日に照らされ輝く海が、沙羅を後押ししてくれている気がした。
そのまましばらく、海を眺めていると視界にあるモノが映った。
「あれ…なんだろ…?」
港のほうから出ている桟橋の先にある大きな『点』。それをよく見るために、沙羅は展望台に設置してあった望遠鏡を覗く。
(10円、10円と……)
ガサゴソとポッケの中を探し、取り出す。硬貨を規定の場所に入れると、ガチャンという音が鳴り、遠くの景色が見えるようになった。
支援
「中に入らないとしてつぐみさんはどうするんですか?」
「手持ち無沙汰になるのも何だから東に行くわ。車も手に入ったことだし」
「へ〜、逃げるんだ。いい身分ですね」
「何とでも言えばいいわ。でも、お兄さんを連れて来たら話は別でしょう?」
「それは、そうですけど……」
「安心なさい。次の定時放送にはここへ戻るわ。その頃にはここでの戦闘も終わっているでしょうし」
音夢も不満ありありながらも自分の主張を承諾した事を確認したつぐみは「ネリネにも伝えといて」と言い残して車を東に向けて走り去る。
それを見届けるまでもなく音夢もまた通用門をくぐって博物館の敷地に侵入した。
つぐみが戻った時に純一を連れて来ずに自分の探している武という人物やネリネの探している稟という人物だけ
連れてきた時は役立たずと判断して容赦なく撃ち殺すという感情を秘めて。
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一方、裏口へ回ったネリネは博物館の敷地の角を曲がったところでその歩みを遅くしていた。
音夢がそうであるように、彼女もまた最初から一緒に手を組んで戦うつもりなど更々なかった。
だが、ネリネはこれを一つのチャンスと考えていた。
(お二人が正面から入って苦戦すればいいのです。そして中の人間を排除して疲労したところを……)
(その為には同じタイミングで裏口から入って挟み撃ちにする必要はありませんね)
そう思うと、自分はわざと遅れて到着したほうが都合がいい。
当初の計画と多少変わってしまうが、そんなものは稟を助ける事からすれば瑣末なことに過ぎないのだから。
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支援
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(せいぜい頑張る事ね。お二人さん)
車のハンドルを握りながらつぐみは心の中でほくそ笑む。
「正午には戻る」と音夢には言ったもののそれは嘘と事実が半々に交じり合ったものだった。
確かに、二人が探している朝倉純一、土見稟の両名を発見したら博物館前に戻るのは事実だ。
しかし彼女が探す倉成武を最初に発見したときはこの限りではない。
武と合流すればあの二人に用はない。
いずれは切り捨てるのならそれが早かろうと遅かろうと同じ事。
それに自分たち三人は「互いを利用しあう」だけでありそこに「四六時中行動を共にする」などという取り決めはないし、
二人が切り捨てられた事に自分への殺意を露わにしても気にするつもりは無い。
(その時は容赦なく殺すけどね)
そこまで考えたつぐみはアクセルを踏み込むと更に東へ向かって車を走らせる。
とりあえずの目的地は住宅街、そして病院だ。
【C-3市街地東側 新市街/1日目 時間 朝】
【小町つぐみ@Ever17】
【装備:スタングレネード×9】
【所持品:支給品一式 天使の人形@Kanon、釘撃ち機(20/20)、バール、工具一式】
【状態:健康(肩の傷は完治)】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。
1:ゲームに進んで乗らないが、自分と武を襲う者は容赦しない(音夢とネリネの殺人は黙認)
2:車で東へ移動し武、朝倉純一、土見稟の捜索を行ない、これを発見したら保護して正午には
博物館前へ戻る(ただし、最初に倉成武と合流したときはこの限りにあらず)。
3:音夢とネリネを利用する(朝倉純一と土見稟の捜索に協力)
4:音夢とネリネが利用できなくなったら捨てる。
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。
※車はキーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は少し消費した状態です。
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支援
「一人が裏に回って……もう一人が正面から、車が走り去ったということは襲撃者は二人という事だな」
博物館の2F、悠人はその窓の一つから正面側の様子を伺っていた。
カーテンをわずかにまくって見たところ、どうやら車から降りたのは二人だけ。
そして一人が敷地の外から左側に回りこんだという事は裏口と正面の両方から攻めて来ると悠人は判断した。
走り去った車の移動先が気になるが、当面は攻めてきた襲撃者への対処が先だ。
そして、人数が二人だけというのは悠人を多少は安堵させた。
最悪5人を相手にすることも覚悟していたが、二人ならば1Fに仕掛けた罠で何とかなるかもしれなかった。
もっともその安堵も一時のもので油断したわけではない。
ここで気を引き締めなければならないからだ。
(万一の時は「あそこ」に退いて「保険」を使うしかないな。衛の持っていたアレも役に立つだろう)
そう考えているうちに表の襲撃者は通用門をくぐって敷地に侵入して来るのが見える。
すぐさま悠人は1Fに下りて衛と最後の打ち合わせをした後、あらかじめ準備しておいたポジションについた。
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(佐祐理さん、あなたもバカですね。私と一緒にいれば死なずに済んだんです)
博物館の正面玄関を目指す音夢は途中、第一回放送で呼ばれた死者の名前を思い出す。
兄である純一が生き残ったのはうれしかったが、反面殺そうと思っていた芳野さくら、白河ことりの名前が呼ばれなかったことに舌打ちしていた。
そして、倉田佐祐理。
自分は彼女へ泥棒猫である二人の殺害に協力するよう言っただけ。
にも関わらず彼女はこう言って自分のもとから逃げていった。
支援
「そうですか。なら佐祐理は――三つ目の選択肢を選びます!」
そう告げて――。
その後、彼女がどのような道をたどったかは音夢が知る由もない。
だが、三つ目の選択肢の果てが「死」だったとあっては笑うほかない。
彼女がどのような最後を遂げたかは知らないが、あの別れ際の言葉と「死」というギャップに音夢は冷笑を浮かべていた。
そうしているうちに、建物の正面玄関へとたどり着いた。
ドアノブを引いてみるが、どうやら鍵がかけられているらしくドアはびくともしない。
恐らく窓もや裏口も鍵がかかっていると判断した音夢はデザートイーグルをディパックから取り出し、両手で構えてドアノブへ向けて発砲した。
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建物の外から銃声が響くのを聞きながら悠人は所定のポジションについて待ち構えていた。
あの音からして、かなり大きい銃を使っているなと思いながら悠人は右手に今日子のハリセンを握り締め、左手のカッターナイフを握り直す。
しかし、これで襲撃者と正面から戦うわけではない。
これらは襲撃者を欺くための道具に過ぎない。
あとは自分の演技力とタイミングだけにかかっている。
(衛、うまくやってくれよ……)
悠人はここからは姿の見えない仲間に向かって心の中で呟く。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
支援
正面の扉を開き、続いて展示場へ通じる扉を開いた音夢は展示場へ踏み込んだ瞬間、盛大派手に足を滑らせて転んだ。
先ほどまでとは異なる床の感覚についてこれず、大きな音を立てて尻餅をつくハメになる。
「いたたたた……なんですかこれ〜」
痛む尻を押さえながら、音夢は床の冷たい感触に気づく。
館内が暗くて分からなかったが、自分はどうやら水に足をとられたらしい。
よく見ると展示場の入り口から奥に向かって延々と水が撒き散らされている。
それも相当の広範囲にわたってだ。
まさか、床掃除の途中で誰かが投げ出したわけでもあるまい。
音夢は訝しげに思いながらも取り落としたデザートイーグルを拾い上げて展示場の奥へ進む。
大理石の床の上へとぶちまけられた水に途中何度も足をとられながら奥へと進んでいくと、展示場の中心付近に人影があった。
デザートイーグルを構えなおしつつ、音夢は人影のある地点にまで近づく。
できればもう一丁の拳銃S&WM37を使いたいところだったが、残りの一発はさくらかことりに叩き込む為のものだ。
――それならば出来るだけ接近して撃つしかない。
そう考えた音夢はその人影に出来るだけ接近を試みる事とした。
(そうだ。そのままもっと接近しろ……)
悠人は姿勢を変えることなく正面から来る栗色の髪の少女を待ち構える。
先ほどからここに待機していたおかげで暗がりでも目が利き、相手がどのような格好なのかよくわかった。
白いワンピースに身を包み、肩から二つのディパックを下げ右手に大型の拳銃を手にした少女。
支援
支援
しかし、そんな彼女に美しいという感情は抱けない。
相手は最初の狙撃で自分ではなく衛を狙った。
最初の一発が衛の頭があったぐらいの高さでビルの壁面に命中した事からも明らかだった。
悠人にはむしろ彼女が人間の姿をした悪魔にすら思える。
そんなことを考えながら悠人は、少女がかなり近づいたのを確認し予定通り声をかけた。
「やあ、よくここまで来たね」
相手の姿を見て、更にその声を聞いた音夢は思わず拍子抜けした。
距離にして5メートルほど離れたところに立つ男は右手にハリセンを持ち、左手にはカッターナイフを握っている。
その貧弱な武器を見て思わず笑いそうになったが、それ以上に相手の第一声を聞いて気が抜けた。
まさか、殺し合いの場でここまで平凡な挨拶をする人間もいないだろう。
そう思った音夢は少しだけ相手のペースにあわせてやろうと思った。
「ええ、随分と苦労しましたよ。まさか、東に逃げたと思ったら逆方向、それもこんなところへ逃げ込んでいたとは思いもしませんでした」
「それは悪かったよ。こっちとしても殺されるわけにいかなくてね」
「それもここまでですね。私は今からあなたを殺しますから」
単純にそう言った直後、音夢は男に向かって発砲する。
直後、館内に派手な銃声が響く。
飛び出した銃弾は悠人の左太腿をかすめてそのまま直進し、床に当たって砕け散った。
支援
「痛ぅ……」
(やっぱこの距離なら当たるか……でも直撃じゃなくてよかった)
思わず、その激痛で仰向けに倒れこむ悠人。
倒れるとき左手のカッターナイフを床に落としたがこれは演技の内だ。
そして、冷静に自分の太腿を観察しその出血具合から致命傷ではないことを確認する。
悠人は知らないが、音夢の持つデザートイーグルは「ハンドキャノン」の異名を持つ大口径銃だ。
もし直撃していたなら悠人の左足は太腿から下が吹き飛んでいただろう。
思ったより手ごわい相手かもしれないという考えが脳裏をよぎる。
(両手で構えても、持て余すみたいですね。この銃は……)
一方、発砲した方の音夢は悠人が倒れた事に満足していたが一方で腕の痛みに顔をしかめていた。
銃の反動は、扉のドアノブを破壊する為何発か撃った事で確認済みだったが、いずれも1メートルを切る至近距離で発砲し命中させたものだ。
加えてここまで撃った反動の為に両手首がジンジン痛みを発している。
今の距離で撃っても外すだけだろう。
何より、先ほどの発砲でも反動で思わず足が滑って転びそうになった。
次に発砲する時、水に足を取られて転ぶのは勘弁だ。
(ですが既に手傷は負わせました。どうやら動けないみたいですね)
あるいは気絶したかもしれないと考えた音夢はデザートイーグルを右手に構えつつ左手でディパックからコンバットナイフを取り出す。
もし気絶しているのならば接近してあの最初に殺した二人みたくメッタ突きにしてしまえば済む事だ。
着替えたせっかくの服が再び血にまみれるのは嫌だが……。
(まったく動きませんね。本当に気絶しているのでしょうか)
これだけ自分が水音を立てて接近しても倒れた男は動く様子一つ無い。
そして、男が連れていたはずの子供の姿が何処にも見えない。
大方どこかに隠したのか逃がしたのかだろうが、攻撃を受ける可能性が無いことから無視してもいいだろう。
支援
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そんな事を考えているうちに音夢は水のついた床を抜けて男の手前に接近する。
念入りにデザートイーグルを構えつつ、男の直前まで近づく。
呼吸音を確認してみたが、半開きの口から音は聞こえていない。
(完全に気絶しているみたいですね。それなら……)
音夢はディパックヘデザートイーグルを放り込み、ナイフによるトドメをする為
コンバットナイフを両手で握り振りかぶる体勢に入ろうとする。
その時、閉じられていた悠人の眼がカッと見開かれた!
「えっ!?」
予想してなかった事態に思わず音夢の手が止まる。
悠人はそれを見逃さなかった。
「ふんっ!!」
上体を一気に起こし、音夢へ頭突きをお見舞いする悠人。
一瞬の出来事に物事が把握できなかった音夢はその一撃をモロに受けることとなる。
「うぶっ!!」
次の瞬間、打撃音と激痛が音夢を襲う。
突然喰らった鼻への一撃により音夢はナイフを取り落とし両手で鼻の辺りを押さえて二、三歩後ずさる。
それを見て悠人は音夢の手前の地面を右手に持っていたハリセンで叩き、すぐに床を転がりその場を離脱する。
その行動をようやく顔を上げた音夢が眼で追おうとした直後にそれ起こった。
支援
電撃が地面を走る!
直後に大理石製の床が爆発した。
そして――
音夢の聴覚は爆音に。
視覚は閃光と黒煙に。
味覚と嗅覚はホコリと煙の臭いに。
感覚は衝撃と体に直撃する大小の石片に制圧された。
「きゃああああああっ!!」
何が起きたか分からぬ音夢は衝撃で吹き飛ばされ、再び水つきの床へ――今度は仰向けに大の字の姿で――倒れこんだ。
それを確認した悠人はすぐさま声を上げる。
「衛、今だ!」
どこかからカチリという小さな音がする。
仰向けの姿勢からまだ何が起こったのかわからない音夢を先ほどとは比べ物にならない激痛が襲ったのはその直後である。
「い、一体何が……ッ!いやあああああああああああああああっ!!」
一瞬、音夢の体が透けて全身の骨が見えたのは気のせいだろうか?
悠人はわけも分からず体を痙攣さえながらもがき苦しむ音夢の様子を見ていたが、すぐに「もういいぞ」と声をあげた。
「衛、もう出てきていいぞ」
「悠人さん!うまくいったね……ええっ!」
隠れていた衛が悠人の前に駆け寄る。
衛の手には電気コード――片側がビニールの被覆を剥ぎ取られ銅線がむき出しになった――が握られていた。
だが、悠人の足の出血を見て衛は驚く。
「傷、大丈夫!?」
「ああ、まだ痛むけど大丈夫だ。その電気コード借りるよ」
衛から受け取った電気コードを傷口の上にくくりつけて止血しながら悠人は思う。
(成功してから言うのも何だけど、ここまでうまくいくとは思わなかった)
悠人が考えた作戦――それは、襲撃者を感電させて気絶させる――というものだった。
床に撒き散らした水は電気を通すための導体であり、悠人が持っていたカッターナイフはコードへ細工する為に使った物、元からの支給品とは当然異なる。
衛が隠れていたのはコードをコンセントに差し込む役を担当していたからであって、悠人が「裏口から逃がした」と言ったのも真っ赤な嘘である。
最後のライトニングブラストハリセンは襲撃者が水のついてない床まで抜けた時にそれを押し戻すために用意したものだった。
もっとも、悠人にすれば自分を囮にする必要があったわけだからかなりの危険があったが、相手に撃たれたこと以外はこっちの策に引っかかってくれたおかげで成功した。
周到な準備、あらかじめ予想しておいた通りの襲来、相手を欺く為の悠人の演技、そして絶妙のタイミングで電気を流した衛との連携プレー。
これら全部が揃ってこその勝利だった。
「その女の人、死んじゃったの……?」
ピクリとも動かない音夢の様子が気になったのか、衛はおそるおそる悠人に聞いてみる。
「ああ、確かめてみるけど……」
悠人は音夢に近づくと彼女を指先で軽くつついてみる。
「……っ……ぅぅ……」
小さなうめき声が聞こえ、胸がかすかに上下するのが分かる。
どうやら気絶しているだけみたいだ。
支援
「……気絶しているだけみたいだな」
「よかった〜。死んじゃったかと思ったよ」
悠人の言葉に思わず安心する衛。
それを見て悠人は少しだけ苦笑した。
(自分を襲った相手でも負傷すれば心配するというのは、悪い事じゃない)
だが、それもつかの間の事。
裏口に回った襲撃者がいつ現れるか分からない。
表から来た彼女と同じタイミングで現れるのではないかとも思ったが違ったみたいだ。
(どういうことだ?まあいい、それよりどこかに身を隠すべきだ)
そう思った悠人は衛を連れて保険として仕掛けを施した「地下1F」へ衛とともに向かった。
博物館の地下階は展示品の収蔵庫や資料室、物置になっている部屋が複数あり、その突き当たりに機械室がある。
その一室に二人は隠れた。
「あれ?悠人さん、すぐ逃げないの?」
「いや、まだもう一人来るかもしれないんだ」
「それじゃさっきみたいにまた電気でやっつけたら……」
「無理だな。一人あの様にした以上もう一人は警戒するだろうし、同じ手は二度も通用しない」
そうそう同じ手が通用するとは悠人も思っていない。
先ほどは銃について相手が多分素人だった事と、こっちの演技に騙された事で成功した部分も大きい。
何よりもう一人が銃に詳しければ次は完全にオダブツだ。
「じゃあ、ここでいなくなるまで隠れているの?」
「それもいいかもしれないけど、むしろここにおびき寄せたほうがいい。衛の持っていた『アレ』が役に立ちそうだからね」
そう話しているうちに、上から足音が響いてくる。
どうやら話していたもう一人が到着したらしい。
支援
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
どれぐらい気絶していたのだろうか、音夢を起こしたのは頬をつつく硬い感触だった。
「ぁぇ……ぇ……(誰……ですか……?)」
「お目覚めの気分はどうですか、音夢さん?」
視界に入ってきたのはネリネの姿だった。
その手には槍が握られている。
「ぅ……ぁぁ……ぉ(遅すぎ……ます……よ)」
「何をされたのか知りませんがマトモに口もきけないみたいですね。それにしても……」
そう、先ほどから音夢は口をきこうとしていたが、まともに言葉を発することが出来なかった。
それどころか体がまるで言う事をきかない。
指先一つ満足に動かす事ができなかった。
音夢には(加えて彼女を感電させた悠人や衛にも)分からなかったが、感電した時のショックで
全身の神経も筋肉もまともに機能しなくなっていたのだ。
そんな音夢を見て、ネリネは槍の穂先で音夢のワンピースをめくり上げ下着を露わにする。
「ぁぃ……ぅ……ぉ(何……する……の)」
「いい歳してお漏らしですか?それともおねしょ?どちらにしても恥ずかしいですね」
そう話すネリネの表情はサディスティックなものであり、「魔王の娘」と言われても誰もが納得するものだった。
一方、音夢は指摘されて初めて気が付いた。
かすかに漂うアンモニア臭。
そして、水に濡れたときとは明らかに異なる下着の生暖かい感触。
音夢は感電した時のショックにより失禁していたのだ。
支援
支援
「ぃぁ……(いやぁ……)」
「音夢さんの探している方、純一さんでしたか?その方が聞けばなんていうでしょうね」
ネリネの言葉が無形の刃となって音夢の心臓に突き刺さる。
人の口から自分の粗相を大好きな兄に言われるなど死んでもいやだった。
「ゃ……ぇ(やめ……てぇ)」
「安心なさって、私の口から言うつもりはありませんから……」
その言葉に音夢はホッっとする。
すぐにどこかで着替えなければ、と思いかけたときだった。
「でも、私は音夢さんの事が大嫌いですから。計画の順序は変わりますけどここで死んでもらおうと思います」
「ぇ……(え……)」
「さようなら、短いお付き合いでしたね」
次の瞬間、ネリネの槍が音夢の腹部を貫いた。
直後、床へ撒かれた水に朱が混ざる。
「っっ!……ぁ……っ!」
「可哀想な音夢さん。悲鳴もあげられないのですね……でも私にとっては都合がいいですわ」
「ぅっ……ぅぅ……ぃぁ……」
「ところで、なぜ私が音夢さんのお腹ばかり突き刺すのかお分かりですか?」
ネリネは槍を引き抜くと更に二度三度と槍を音夢の腹部「だけ」に突き立てる。
その度に音夢の腹部から鮮血が流れ出し、床を赤く染めていく。
「あなたが、私の腹部を、痣が出来るまで、何度も、蹴り飛ばした、から、ですよっ!」
「ぅぁぁっ!……ぁぅぃ…………ぅぅ……ぅぉ……ぅぇっ!」
支援
ようやく満足したのか、ネリネは音夢の腹部から槍を引き抜く。
最後の一撃とばかりに深く突き立てられた槍の穂先には腸だろうか?細長い物体が引っかかっていた。
一方の音夢は既に虫の息であり、眼の焦点はあわず口と鼻から血を垂れ流している。
皮肉な事に朝倉音夢は自分が最初に殺した竜宮レナ、白鐘双樹と同じ死に方をするはめになってしまった。
しかし、音夢の最後は彼女が殺した二人以上に残酷で悲惨なものだったと言えるだろう。
メッタ刺しにされて死んだ二人が気絶したまま殺された事も分からぬ内に死んだのに対して音夢本人は
意識があり、痛覚も存在する状況でネリネの憎悪と怨念を込めた刺突を柔らかな下腹に幾度も受けながら
苦しんで死ぬ事になったのだから……。
・
・
・
(ひどいな……同士討ちか?あの二人組んでいたんじゃないのか?)
その様子を地下へ通じる階段の入り口あたりから悠人は見ていた。
遠くからなのでよくわからないが、後から来た方が気絶している少女と何か話したかと思うとおもむろに槍をつきたてたのである。
それも一度だけではない、二度、三度いや、十数回は突き刺していた。
悠人が二人の少女の間にあった因縁を知るはずが無かったが、ただならぬ関係だったことは遠目から見ても推測ができた。
それより気になったのが、あの青い髪の少女が先ほどから倒れている少女に突き立てている槍の方だ。
(あれは、間違いない“献身”だ……)
薄暗い館内だが、間違いなくあの少女が持っているのはエスペリアの永遠神剣第七位“献身”……。
見間違えるはずがなかった。
一瞬、悠人の脳裏にエスペリアの顔が浮かぶ。
だがそれ以上に疑問なのは、なぜこの殺し合いの場に永遠神剣が存在するのかということだ。
支援
(見たところ、あの少女が“献身”を使いこなしているようには思えない)
思わず、もっと近づいて確認しようかという誘惑に駆られる。
だが、先ほどから何度も槍を突き立てる少女の表情を見て「あっちの方がはるかに危険かもしれない」と判断した悠人は彼女をおびき寄せる為
「わざと」大きな音を立てて地下1Fへの階段を駆け下りた。
その足音はネリネにもはっきり聞こえた。
槍を握りなおしたネリネは、もはや死の一歩手前にある音夢には眼もくれず、足音のした方向を目指した。
(地下に逃げ込んだということですか……)
階段の最後の一段を下りたネリネを待っていたのは薄暗い廊下とその両側についた観音開きの扉、
そして廊下の突き当たりにある「機械室」のプレートが貼られた扉だった。
突き当たりの扉は半開きになっており、そこに誰かが隠れているように思える。
一方、廊下の方には奥に人間一人が入れるぐらいの大きさのダンボール箱が置かれており、階段側にはミカン箱ぐらいの
ダンボール箱が置かれていた。
そして、時折響く水滴の落下音。
天井を見ると、給気ダクトの一つから水滴が落ちている。
(多分、あの大きいダンボールか突き当たりの扉に隠れているみたいですね……天井から落ちる雫は無視していいでしょう)
もし、地階に下りたのが音夢だったならこれらを全てブラフと考えて横の扉を手前から順に調べただろう。
単純に「そこに誰か隠れている」と考えたネリネの思考はある意味お姫様育ちの彼女らしいと言えばらしいと言える。
支援
一歩ずつ、奥の扉に向かって進むネリネ。
そして、彼女が最初の扉を超えた辺りでいきなりモーター音らしき音が響いた。
キィィィィィン!
「な、何!?」
急に後ろから聞こえた音に振り向いたネリネは足に鋭い痛みを感じる。
再び振り返ると、そこにあったのはカッターナイフを紐で車体に結びつけたラジコンカーだった。
よく見ると、ラジコンカーに結び付けられたカッターナイフに赤い液体が付着している。
そして、ネリネの足首からも切り裂かれた痕とともに血がにじんでいた。
(あの小さなダンボール箱にはラジコンカーが隠されていたのですね……ならば!)
ネリネは足の痛みを我慢しながら一気に奥へ走り、もう一つのダンボール箱へ槍を突き通す。
しかし、音夢を突き刺した時の様な手ごたえはまったくない。
そう、ダンボールのなかは空っぽだったのだ。
「いない!?それなら!」
ネリネはすぐに天井の給気口へ槍を突き立てる。
給気口のギャラリーが外れ、ダクトの内部が露わになる。
しかし、そこもまた無人だった。
「ここにもいない!?それならばやはり!!」
恐らくはここにあのラジコンを操縦していた――自分が狙っている人間――がいるはずと睨んだネリネは機械室の中を調べる。
機械室の内部は非常用発電機や火災時のスプリンクラー設備がところ狭しと並んでおり、人が隠れられそうな場所はいくらでもある。
ネリネはその一つ一つを見ながら、時には槍を突き刺しながら奥へと進んだ。
だが、一番奥へ到達したものの人の気配は全く無い。
支援
(ここを出て廊下の両側にある扉を調べた方がいいのかもしれません)
そう思い、扉の方へ向かおうとした時いきなり扉が大きな音をたてて閉じられた。
「!!」
すぐに駆け寄りドアを開けようとするネリネ。
しかし、押せど引けど扉はびくともしない。
扉の向こうでは「せーの!」という掛け声と何か重い物を引きずるような音が聞こえてくる。
おそらく、扉の向こうに重いものを置いて出られぬようにしたのだろう。
外から階段を駆け上っていく音が聞こえたとき、ネリネは自分が完全に閉じ込められた事を知った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あの人大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。時間が経てば出てくるんじゃないかな」
「だけど、ボクのこれがこんな形で役に立つなんて思わなかったな」
悠人と衛は階段を駆け上がり、1Fを目指す。
そして、悠人と衛が手にしているラジコンカーとコントローラー。
先ほど使用したのは衛の支給品で唯一未確認だった「TVカメラ付きラジコンカー」だったのだ。
ラジコンカーのTVカメラに写された映像はそのままコントローラーの液晶画面に表示されるようになっている。
これによりラジコンカーを直接目で見ることなく二人はドアの閉じられた部屋からラジコンカーを操縦し、ネリネをかく乱したのである。
そして、最後に一番奥の機械室へ侵入したのを見計らって機械室のドアを閉め、ドアの前に収蔵品を収めた重い木箱を置いて彼女を閉じ込めたのだ。
支援
いずれは出てくるかもしれないが、遠くへ逃げる間の時間稼ぎは出来るだろう。
そう考えながら悠人と衛は1Fへ駆け上がり、そして……。
「う!?」
そして見てしまった。
朝倉音夢の変わり果てた姿を。
彼女は既に息絶えていた。
死因は生命を維持するのに必要な量の限界を超えて体内から血液が流れ出してしまった事による失血死だった。
もはや、その目は濁り鼻と口からは血の流れた跡があり、表情は絶望と失望と苦痛が入り混じっている。
特に酷いのは腹部で、あの槍でメッタ突きにされた為による傷が多数あり、おまけに傷口からは内臓がはみ出していた。
「悠人さん、この人死んでる!」
「ああ、さっきの女に殺されたんだ……」
「ひどい……」
思わず口に手をあてて目をそむける衛。
しかし、最初に遺体を見つけたときと異なり怯えて小さく震える様子は無い。
悠人は音夢の目をそっと閉じてやると、そのまま事務室へ向かい置いていたディパックを回収する。
ついでに音夢のディパックも回収しようかと思ったが、血塗れになったディパックを回収する気にはなれなかった。
そして、悠人はもう一度音夢の遺体を見る。
支援
支援
(出来れば埋葬したいけど、流石に無理だろう)
顔をしかめつつ悠人はそう思う。
あの車がいつこちらに戻るか分からない状況ではのんびり埋葬などしていられるわけがない。
「衛、正門から北へ向かうぞ」
「だけど、あっちには車が止まってるんじゃないの?」
「いや、なぜか分からないけど、車は他のところに行ったんだ。だから戻ってくる前にここを出よう」
あのときの事を説明した悠人はそのまま衛と共に博物館の通用門を抜けて北を目指した。
・
・
・
暫くして、二人はC−3ポイントの北側にあるスーパーマーケットに身を隠した。
陳列されていた医薬品で傷口を消毒し、包帯を巻いて処置をした悠人は再び地図を拡げ、
菓子パンのひとつを頬張りコーヒーを飲みながら今後の事を考える。
一方、衛はディパックの中へスーパー店内の食料品、飲み物から医薬品や日用品を片っ端から詰め込んだ後、
今は隣で食事をしている。
(とりあえずは新市街を探索するとして、具体的にどうするかだ)
放送によるとC−2エリアは午前8時で禁止区域になるという。
それならC−2エリアを8時までに抜けて北へ行くというのはどうだろうか?
しかし、自分の足の怪我を考えると軽症といえど無理はできない。
だが、ここまで探索した建物は「プラネタリウム」「映画館」と先ほどの博物館であり、
北の方にはまだ探索していない「レジャービル」や「プール」が存在する。
どっちにしてもこのエリアにとどまっている理由が無い。
なにしろ同じエリアの博物館にはまだ襲撃者の一人を閉じ込めたままなのだ。
(そうだな、C−2エリアとの境界線ギリギリを通って東のD−3に移動して
そこから北のレジャービルとプールを探索するか)
悠人は決めた。
だが、今しばらくは休息が必要なのも確かだった。
もうしばらくは体力を回復するのに専念するしかない。
(腹が減っては戦は出来ぬと言うからな)
支援
そう思った悠人は菓子パンの残りを口に放り込み、コーヒーで流し込む。
しかし、あの遺体を見た後ではトマトジュースとトマトケチャップのかかった物体だけは口にしようと思えなかった。
(だけど、なぜ“献身”がここに……)
そして、悠人の頭から離れなかったのがあの“献身”の事である。
もしかして永遠神剣を模した模造品という気もしたが、それならばあのタカノをはじめとする主催者が
あらかじめ永遠神剣の形を知っていたという事に他ならない。
どうせならば、あの地下1Fでの作戦を変更して彼女を捕獲・永遠神剣についての話を聞きだせばよかったと後悔する。
まだ、あの機械室に彼女が閉じ込められたままならば扉を開けて話を聞く事も出来るかもしれないが、
さすがにそこまでやる気は悠人にも無かった。
「できる事なら聞き出したいところだけど……やはり無理か」
彼女と永遠神剣ついては別の機会にしようと考えて、悠人は別のことを考える。
博物館での戦闘で罠を張って襲撃者を撃退した後、ここまで逃げて落ち着き、ようやく気付いたことがあった。
それは今改めて地図を見てもハッキリ分かることであり、悠人にすればもしかしたら脱出のヒントになるかも知れないという事だった。
(地図を見て気が付いたけどこの地図には名称を振った施設がいくつもある。だけど――)
(そこに「発電所」や「貯水ダム」といったライフラインに関連する重要施設の名前が一切無い……)
(博物館やこのスーパー、そして夜に探索した映画館やプラネタリウムもそうだけど今思えば電気や水道が生きていた)
(よく考えれば新市街だけでもこれだけのオフィスビルやいくつもの建物が存在する)
(ならばそれを維持する電気、ガス、水道はどこから供給しているんだ?)
そう、悠人は今改めてこの地図が持つ不自然さというものに気が付いていた。
もしこの島に発電所や貯水池、ガスタンク等があるならそれらは重要施設として地図上にその名が記されて不思議ではない。
しかし、地図上にはそういった記載がなく、又どこから供給されているのかも明らかではない。
先ほどの戦場になった博物館には地下に非常用発電機が置かれていたが、あのようなもので全ての電力をまかなえるとは悠人も思っていない。
あるいは海底からケーブルやパイプラインを引いている可能性も考えてみたが、それならそのケーブル等はどこから引っ張っているのかという新しい疑問が生じる。
だがまてよ、と悠人は黙考する。
(もし、発電所などの重要施設を俺達参加者に侵入されてはならない理由があるとしたらどうだろう?)
(つまり、俺達参加者の戦闘で重要施設を破壊される事が主催者にとって都合の悪いことだとしたら……)
そこで悠人は上から見ていた地図をおもむろに横にしてみる。
だが、地図は何の変哲も無いただの薄っぺらな紙に過ぎない。
(俺達は地図を上から見ているがそれじゃ上から見えるものしか分からない。重要なのはこの「横からの視点」なんだ)
悠人の隣では衛が不思議そうな顔をしてその様子を見ている。
(この地図では横から見た島の様子は分からない。だけど実際には高低差があって建物の高さも異なっている)
(そして、この島は山があって谷があって市街地等があるけどライフラインに関連する重要施設はそこに無い)
(まだ可能性の段階だけど、本当に重要な施設は全て「地下」にあるんじゃないのか?)
恐らくそれは普通に島の地図を見ていただけでは思い浮かばない発想だったはずである。
支援
(そう、重要な施設は地下に置けば俺達参加者にとって必然的に見つけられないし手が届かなくなる)
(そして、そんなところに重要施設をおく理由はただ一つ……そう、この島の地下深くにあのタカノをはじめとする主催者の本拠地が有るということだ)
(本拠地へ乗り込めばこのゲームをつぶす事は可能だろう。問題は一体どこからそこへ侵入するかだ)
(だけど、その前にこの首輪を何とかしないと)
首にはまった銀色の首輪を手でいじくりながら悠人は思う。
(どういう方法か知らないけどタカノは最初に遠隔操作でこの首輪を爆破してみせた)
(仮に連中の本拠地が地下深くにあるとしてもそこへの入り口を見つけた時点で察知されてドカンだ)
(先にこの首輪をどうにかしない事には脱出も主催者の打倒も不可能だな……)
だが、主催者打倒に向けた糸口を見つける事が出来た悠人は少し希望が見えた気がした。
「さっきから何考えていたの?」
そんな悠人に声をかけたのは先ほどからその様子を見ていた衛だった。
「ああ、もしかしたら色々何とかなるんじゃないかと思ったんだ」
悠人もそう笑って応えてみせた。
【C-3北のスーパー 新市街/1日目 時間 朝】
支援
【高嶺悠人@永遠のアセリア −この大地の果てで−】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、
予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN−P90の予備弾】
【状態:精神状態は普通、疲労中程度、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:休養後、C−2との境界線ギリギリを抜けてD−3に移動し、更に北上して「プール」や「レジャービル」を探索。
2:アセリアとエスペリアと合流
3:咲耶や千影を含む出来る限り多くの人を保護
4:ネリネをマーダーとして警戒(ただし、名前までは知らない)。また、彼女がなぜ永遠神剣第七位“献身”を持っているのか気になって仕方が無い。
5:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……
6:蟹沢きぬとトウカをマーダーとして警戒。加えて相当の手練れとも判断。
7:鳴海孝之についてもマーダーの可能性があると推測
8:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
9:マーダー二人については衛にも教えてやるとして、孝之と茜についてを話すべきかどうかは保留。
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
上着は回収しました。
レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
紫苑
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)】
【所持品:支給品一式、ローラースケート、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:精神状態はまだ回復途中、疲労中程度】
【思考・行動】
基本方針:死体を発見し遙や四葉の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
思考:あにぃに会いたい
1:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
2:咲耶と千影に早く会わなきゃと思う。
3:ネリネをマーダーとして警戒(ネリネの名前までは知らない)。
4:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える(どんな人物か情報はなし)。
【備考】
遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
【備考】
・TVカメラ付きラジコンカーは一般家庭用のコンセントからでも充電可能です。
充電すれば何度でも使えます。
・ラジコンカーには紐でカッターナイフがくくりつけられてます。
・スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品の詳細は次の書き手の方に任せます。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
支援
詩音
(・3・)
悠人と衛がスーパーマッケットで休息を取っている頃、閉じ込められていたネリネはようやく脱出を果たしていた。
「はぁ、はぁ……ようやく出られましたわ……」
安心しているものの、ネリネの表情には疲労の色が大きい。
ドアの隙間に槍を突き刺し、梃子の原理で扉を少しずつ開いてようやく人一人が通れるぐらいの隙間を作って脱出したのだ。
歩くたびにラジコンカーの攻撃でうけた足首の傷がヒリヒリ痛む。
槍を杖代わりにして階段を昇り、ようやく1Fへたどり着く。
彼女が向かったのは音夢の倒れているところだった。
「音夢さん、死んだのですね……」
彼女の瞼が閉じているのと、その皮膚が血色を失っているのを見てネリネは呟いた。
音夢は死んだ。自分が殺したという一種の満足感がネリネの中から湧き上がる。
だが、ネリネは「まだ満足し足りない」という表情を浮かべ、床に落ちていたコンバットナイフを拾い上げる。
「あなたが死んで、多少気持ちが軽くなりましたけど」
「あのときの屈辱は忘れていませんから」
ネリネはコンバットナイフを握ったまま音夢の遺体に近づく。
・
・
・
それから更に暫くして、ネリネは一人北の通用門をくぐる。
来たときに止まっていたつぐみの車はどこかへ走り去ったのだろう、姿は無かった。
しかし、そのことで感傷的になるつもりは無い。
いずれは殺す相手なのだから、どこに行こうと今の自分にすれば知った事ではなかったからだ。
(・ ε ・)
( ・ 3 ・ )
それよりも重要なのはこれからどうやって稟を探すかだ。
稟の手がかりといってもそんなものはどこにもない。
しかし、絶対に見つけなければならない。
見つけて、守って守り抜いて最後に自分は自決するのだ。
(そして、できる事ならこっちの目的も果たしたいですね)
ネリネはそう考えて回収した音夢のディパックを見る。
そのうちの一つには、ビニール袋に音夢の制服と共にある「物」――音夢の生首――が詰められている。
しかし、ネリネはネクロフィリアではない。
そして、彼女の首を気に入ったから持ち去るのでもない。
ネリネがその様な行動をとる理由は一つ。
そう「朝倉純一を絶望の底に叩き落してから殺す」為――
「音夢さんはお兄さんに会いたがってましたよね……」
誰に言うでもなくネリネは呟く。
「そして、あなたみたいな妹を持った『純一さん』はさぞかし苦労されたことでしょう」
「あなたは死んでそれで終わりかもしれませんが、私はあなたとつぐみさんから受けた仕打ちを忘れてはいませんから」
「とりあえず、あなたのお兄さんには妹であるあなたの行なった迷惑への『後始末』をしていただかねばなりません」
そこまで言ってネリネは一度眼を閉じ息を大きく吸い込み、そして眼を見開く。
その瞳にもうあの時遺体を見て怯えた時のような弱さは無い。
「では、参りましょうか『音夢さん』……」
ディパックの一つを軽く叩いたネリネはそう行ったあと、そのまま東へと歩き出した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
戦場と化した博物館。
その薄暗い展示場の真ん中に大きな血溜まりと血塗れの死体がある。
しかし、その血溜まりの主の首はどこにもない。
そして鈍く光る首輪が一つ……。
【朝倉音夢@D.C.P.S 死亡】
【C-3博物館北門前 新市街/1日目 時間 朝】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式】
【所持品2:支給品一式 MI デザートイーグル 10/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 九十七式自動砲弾 数5/7(重いので鞄の中に入れています) 朝倉音夢の制服及び生首】
【状態:肉体疲労大・精神疲労は若干回復、腹部に痣、右耳に裂傷、左足首に切り傷、強い意志】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(現在東に向かって移動中)
2:出来れば次の定時放送までに純一を見つけ出し、音夢の生首を見せつけ最大級の絶望を味あわせた後で殺す。
3:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
4:稟を守り通して自害。
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、
制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※博物館の状況。
1:博物館北門(正門)の車両用通用門は閉じられてますが人間用の通用門は開いています。
2:博物館展示場は水がぶちまけられたため床が水浸しです。
3:博物館展示場の中央に音夢の首なし遺体及び首輪が放置されています。
4:ライトニングブラストハリセンにより音夢の遺体近く、大理石製の床がえぐれています。
5:職員用事務室と給湯室の電気がつきっぱなしです。
6:地下室はネリネが暴れた痕跡が放置されてます。
続けて支援いくぜ! みんな! ちゃんてついてこいよ!
(うわぁぁあああん、双樹、恋太郎―!!)
沙羅は心の中で叫びながらひたすら展望台へと走っていた。
先程放ってしまった銃声のせいで、常に誰かに見られている恐怖感が彼女を襲う。
(あそこまでいけば、きっと大丈夫だもん…!!)
根拠の無い理由だが、それでも沙羅は今、自分の考えを信じるしかなかった。
どのくらい時間が経ったかもわからない。だが、陽は既に昇り始め、展望台を輝き映し出していた。
「やっと着いた…。入り口は……?」
入り口を探し、中へと入り込む。中は上へと繋がる階段のほか、受付やトイレなどが配備されている他は一般的な施設となんら変わりなかった。沙羅は真っ先に階段を使い、頂上へと駆け上る。
「はぁっ…はぁっ…なんでこんなに長いのよー!?」
息を切らし、文句を言いながらも進むことを止めない。上ること約5分。ようやく頂上へとたどり着いた。
「うっわー。凄い綺麗……」
そこから見える景色は絶景そのものだった。朝日に照らされ各種施設や森が輝いて見える。
しばらくボーっと見とれていた沙羅だったが、
『――皆、もう待ち切れないって感じね。』
自分や双樹たちをこんな所に連れてきた鷹野の声が聞こえてくる。
「提示放送!? えっと…紙とペンは…」
ゴソゴソとデイバックを漁る。
『禁止エリアは八時からC-2、十時からF-7』
地図にメモしながら沙羅は黙って放送を聴く。流されるであろうあの情報のために――。
『開始から今までの六時間の間、既に命を落としたのは―――』
(きたっ!!)
沙羅の顔から大量の汗が流れるが、それを気にも留めずただひたすら双樹たちの名前が呼ばれないことを祈る。
『エルルゥ――――――園崎詩音』
「呼ばれるな、呼ばれるな、呼ばれるな……」
死亡者の名前をペンで消しながら呪詛のようにつぶやく。――――だが、沙羅の願いは儚くも崩れ去った。
『――――白鐘双樹』
「えっ……?」
予想していない状況に沙羅の思考は定まらなかった。
「嘘でしょ…?あはは、そうだよ。きっと疲れてるから幻聴でも聞いてたんだ、うん」
そう自分に言い聞かせる。だが、沙羅の名簿表の『白鐘双樹』という文字には既に斜線がひかれてあった。
頭の中では認めたくなかったが、自然と身体は反応していた。もちろん、放送が嘘じゃないとういうことも沙羅はわかっていた。
双樹の名前の上にポタポタと雫が落ちる。次第に雫は大きくなり双樹の名前以外の場所も濡らし始める。
「双樹…双樹…うっ…うっ…」
嗚咽を漏らし、流れる涙を止めることもせずむせび泣く。
(双樹は…私と違っておしとやかで、家事ができて、可愛くて…守ってあげなきゃいけなかったのに……!!)
沙羅の頭の中に双樹との思い出がフィードバックされる。一緒に家出をしてきたこと。恋太郎に出会えたこと。3人でいろんなことをしたこと……。どれも沙羅にとって大切な記憶だった。双樹がいない今、恋太郎と3人で新しい思い出を作ることはできなくなってしまった。
「いっそのこと私も死んじゃおうかなぁ……」
焦点の定まらない瞳で手に持った銃を掲げる。沙羅にとって双樹のいない世界は全く意味のない世界だった。
銃口を頭のところまで持ってきたところで、ふいに後ろから双樹の声がした。
『ダメだよ沙羅ちゃん!! まだ恋太郎も生きてるんだよ? 誰があのダメ探偵を助けるの?』
その声にハッとし、後ろを振り向く。だがもちろん双樹の姿はそこにはなく、あるのは一面に広がる海だけだった。
「双樹…?」
支援
支援
キョロキョロと辺りを見回すが、当然のことながらそこに双樹の姿はなかった。
だが、きっと双樹が私を嗜めにきたんだ…と納得する。
「そうだよね…。恋太郎まだ生きてるんだもんね。…私は双葉探偵事務所の助手!! こんな所で諦めないよ。…でもね、でもね……」
沙羅は海を見つめながら、ポツリと言葉をつむぐ。
「私、頑張るから…。だから、今だけは泣いていいよね? ねっ?双樹……」
一瞬、水平線の向こうに双樹の笑顔が見えた気がした。その笑顔は沙羅を応援しているようで――――沙羅は声を押し殺すことなく泣いた。
◇ ◇ ◇
どのくらい泣いたかもうわからない程に沙羅の目は真っ赤に腫れ上がっていた。だが、その瞳には強い決意の炎が宿っていた。
(双樹…。私は絶対に双樹を殺した人を許さない。絶対に謝らせてやる!それと、恋太郎を探し出して絶対に脱出して見せるからね。だから、見守っててね!!)
そこまで言うと、今度は海に向かって叫ぶ。
『私は、双葉探偵事務所美人助手の一人、白鐘沙羅!!絶対に負けないんだからー!!』
沙羅の声は水平線の彼方へと吸い込まれる。朝日に照らされ輝く海が、沙羅を後押ししてくれている気がした。
そのまましばらく、海を眺めていると視界にあるモノが映った。
「あれ…なんだろ…?」
港のほうから出ている桟橋の先にある大きな『点』。それをよく見るために、沙羅は展望台に設置してあった望遠鏡を覗く。
(10円、10円と……)
ガサゴソとポッケの中を探し、取り出す。硬貨を規定の場所に入れると、ガチャンという音が鳴り、遠くの景色が見えるようになった。
支援!!
支援
「どこだ、どこだー?―――――ってあれ船!?」
沙羅が見つけた『点』それは、いわゆる中型のクルーザーだった。
「あれ使えば、ここから脱出できるかも……」
そこまで考えたとき、ちょうど沙羅の視界が遮断される。
「もぉ…もうちょっと長くみせてくれたっていいじゃん、ケチ」
望遠鏡を軽く蹴り、文句を言う。だが、沙羅の目標は決まった。
まずは、ここから港へ向け出発すること。
そして、このフロッピーを解析すること。
何より、恋太郎を探し出し一緒に脱出すること。
「そうと決まれば、港へ向かわなくちゃね……」
荷物をまとめ、展望台を抜ける準備をする。
望遠鏡の近くには、『ご自由に使ってください。 白鐘沙羅』という紙と共に10円を何枚か置いておく。船のことを書かなかったのは、万が一ここに殺人者が来たとき自分の居場所を知らせないタメだ。
階段を駆け下り、出入り口の扉を開いて外に出る。2、3歩進んだところでもう一度展望台を見上げ、お別れの挨拶をする。
『じゃあね、双樹。行ってきます!』
◇ ◇ ◇
歩むことを止めることなくできるだけ人目の付かないように走ってきた沙羅は、誰にも会うことなく安全に港へとつくことができた。そのまま桟橋を渡り、船の内部へと進入する。
客室、ラウンジ、船長室。一般的な設備は一通りそろっているようだった。数ある設備の中から沙羅はまず非常食と医療セットを確保する。
「カンパンの缶が10個に飲料水が5本。これだけ集まったんだから大丈夫よね…」
それらをデイパックにしまいこみ、操縦室へと入る。
「やっぱエンジンはかからないかぁ……」
刺さるべき場所にあるキーは見当たらず、探し回るがどこにもない。
「やっぱ、あの鷹野っていう女が持ってるのね……あっあれは?」
落胆するが、すぐそばにあったパソコンに目がいく。沙羅はそのパソコンの電源を入れ、起動させる。
『パスワード [ ] ヒント:情報端末』
と、いう画面がでたきり全く動かなくなった。
「情報端末…?携帯とか、パソコンとか…?」
確かにパソコンからは、何本かケーブルが出ていてなにかと繋がれるようになっている。
「きっとこれに繋げば、何かしら動作するってことだよね…?エンジン動いたりとか…」
沙羅の瞳が輝きを増す。ようやく見つけた脱出の手掛かり。それは、とても大切なキーであった。
「探し物は……情報端末に双葉恋太郎!!」
パソコンの電源を切り、操縦室をでて桟橋へと向かう。
「さぁ、探偵の助手の見せ所だよね、双樹!!」
高らかに宣言し、森のほうへと駆け出した。
支援
◇ ◇ ◇
生命の意味も重さもすべてはわからないけど。
―――私は今を生きることしかできないけど…
誰かの為に願う心だけは確かにあって。
―――双樹や恋太郎のためにも……。
自由という言葉のほんとうの意味を誰か教えて。
―――ここから生きて脱出。それが自由であり願い。
迷わない日なんてないから信じることもできる。
―――だから今は自分の決めた道を走り続ける。
今はまだ傷む想いに1つずつ向き合うよ逃げ出さずに。
―――双樹の死だって乗り越える…。
ぼくたちの開いた瞳には矛盾だって絶望だって全部映るけど
―――わけのわからない世界に連れてこられたけど……。
泣かないでどんな答えも僕らなら大丈夫。
―――どんな場所にいたって、私は私。
力に変えてくから。
―――必ず生きてみせる。
支援
【F-4 森付近/2日目 朝】
【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア −この大地の果てで− ワルサー P99 (16/16)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル5本】
【状態:健康・強い決意】
【思考・行動】
1:恋太郎を探す。
2:情報端末を探す。
3:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
4:前原を探して、タカノの素性を聞く。
5:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護 。
6:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす。
7:この場所から逃げ出す。
基本行動方針
一人でも多くの人間が助かるように行動する
支援
※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
下記の情報以外にも後続の書き手さんが追加してもOKです。
『皆さんに支給された重火器類の中には実は撃つと暴発しちゃうものがあります♪特に銃弾・マガジンなどが大量に支給された子は要注意だぞ☆』
『廃坑の入り口は実は地図に乗ってる所以外にもあったりなかったり(ぉ』
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
少なくともこの3文はあります。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。
※双葉恋太郎の銃“S&W M60 チーフスペシャル(5/5)”は暴発しました。
※港には中型クルーザーが停船していますが、エンジンは動きません。
※パソコンに情報端末をつなげるとエンジンが動くというのはあくまでも沙羅の推測です。
「痛ッ……」
頬骨の辺りの強烈な痛みで私は眼を覚ました。
眠って……いたのだろうか。意識がハッキリしない、あやふやだ。
辺りを見回しても誰か他の人間がいるわけでもない。
少しだけ地肌が露出した草原、肉眼で確認できる距離には砂浜もある。
どうして私はこんな場所にいるのだろう。
そして、どうしてこんな場所で寝ていたのだろうか。
爽やかな涼風というよりも塩の匂いが染み込んだ、潮風の存在が強く意識される場所。
水の精霊である自分にとって、水辺は特別な場所である。
とはいえ、こんな場所で意味も無く寝てしまうような悪癖は持っていない。
「なぜ……こんな、場所で?
…………ああ」
――敗北。
脳裏に浮かんだのはこの二文字。
昏倒し、眠りへと落ちて行った意識の中でも、この言葉だけははっきりと輪郭を保っていた。そうだ、私は戦って、そして。
「負けた……のか」
敗けたのだ。しかも酷くアッサリと。
油断していたから、獲物が不慣れな武器だったから。そんな台詞は言い訳にもならない。
カルラ。そう名乗ったあの女は確かに強かった。
だが素手と剣だ。初めから私が圧倒的に有利な立場にいた。それでも、私は敗けた。
油断をしたわけでもない。
予想外のアクシデントが発生したわけでもない。
確実に、一度は勝利を確信さえした。
それなのに。
『私に勝ちたかったら、戦い以外の自分を見つけて出直してくることですわね』
あの女が最後に残した言葉の意味。
……戦い以外の自分か。正直、よく分からないというのが本音だ。
確かに私はひたすら戦いの中で生きて来た。
来る日も来る日も剣の鍛錬。
悠人が現れてから周りの状況も変わったとは思うが、イマイチピンと来ない。
「戦い以外……か。難しいな」
"戦い以外の自分"
そんなもので本当に力が高まるのだろうか。
よく分からない。
■
戦いに敗れ、倒れていた場所から立ち上がり、最初に足を向けたのは近くの砂浜だった。
理由は二つ。まず私が水のスピリットであること。
水は、海はいい。
潮の流れ、ぶつかり合う波音、磯の香り。全てが私の力になる。
そしてもう一つの理由が武器についてだ。
数分前。
支給の剣はカルラに持っていかれてしまったらしく、私は途方にくれていた。
幸いなことに、剣以外の、背負っていた支給のデイパックは完全に手付かずの状態だった。
しかしさすがにあの女のように素手で戦いに興じるのは難しい。
最低でも何か、堅く、そしてある程度の長さの得物が必要になる。
「おお、そうだ。そういえばまだ他にも武器が入っているかもしれない」
未確認だった残りの支給品を確かめることにする。
剣、とにかく剣が入っていることを祈って。
「なんだ、コレは?風船?
それと……虫の瓶詰め?しかも生きてるじゃないか」
デイパックの中身が取り出されていないことに喜んだのも束の間、結局入っていたのは良く分からない物体だった。
最初に引いた剣が当たりだとすれば、残りの二つはまぁハズレなのだろう。
一つは紙の箱に入った十二個の薄いゴム。
触れると少しヌルヌルしていた。そして少し臭い。
箱の正面に『コンドーム』とデカデカと書いてあるが、コレは何に使うものなのだろう。
黒い文字で『鮫菅新一』と書かれているが、これも知らない名前だ。
そしてもう片方の支給品は虫だった。
未だ明らかに生命活動を維持し続ける生きた虫が、何百匹も巨大な瓶に詰め込まれていた。
巨大な二枚の羽根と親指ほどはありそうな太い胴体。
それら全てがゴソゴソと蠢いている姿は、なんとも気味が悪い。
一体こんなものを支給して、参加者に何をさせたいのだろう。
非常食にでもすればいいのか。
……いや、さすがにコレを食べる、という姿は想像したくない。
ひとまず両者を明らかに役立たずの道具と判断し、デイパックの中に戻した。
先程から耳にこびり付いていた『カナカナ』という蟲の鳴き声が若干収まったような気がする。
そんなわけで、武器を探しに一番近くの建造物であるこの海の家へやって来たのだ。
海、晴天、そして輝かんばかりに白い砂浜。
だが今、この場所にいるのはどうも私一人だけのようだ。
打ち寄せる波の音がやけにもの悲しく聞こえる。
数件、小さな屋台が見受けられた。
中にあるのは砂を被った鉄板やら銀色の光沢を帯びた金属製のデッキなど、備え付けの器具ばかりだ。
役に立ちそうなものは特に見つけられない。
そうなると、やはり一番大きな建物に自然と足が伸びる。
「ここが一番大きいな……何か武器になる物は……」
――ようこそ、いらっしゃいマセ。
「ッ!?」
私は思わず身構えた。
習慣からか右手は自然と剣を探してしまうが、残念ながら今の自分は丸腰。
空を切る手が妙に虚しい。
「海の家へようコソ。
認識コード照会…………ナンバーイレヴン、アセリアと確認。
ご要望をドウゾ」
だが、目の前に現れた"ソレ"は拍子抜けしてしまうような謎の存在だった。
腫れぼったいタラコ唇にドラム缶のような胴体。
そして金属のボディ。
頭部には毛髪を模したものと思われるカツラのようなものが付いているため、おそらく人型なのだろう。
全自動の……機械人形だろうか。
「……何だ、お前は」
「私はメカリンリン一号デス。この場所の管理と運営を任されていマス。
ご要望をどウゾ」
「ん、望み……例えばこの島から脱出したいというのは?」
「それは流石に無理デス」
「じゃあ武器だ。私の永遠神剣をくれ」
――よく分からない。
全感覚、全神経がそう訴えている。
とりあえず見るからに弱そうなので警戒する必要は無いだろう。
今最も重要視すべきはやはり武器の入手だ。特に、永遠神剣さえ手に入れば百人力だ。
だが丸腰のままではそもそも戦いにならない。
「申し訳ありまセン。現在は、エリア間の移動のみデス。
道具でしたら、そこの戸棚の中にあるものを自由に使用してくだサイ。
移動に関しては、ご希望のエリア、条件、相手などを指定してくだサイ」
機械人形が示した場所を調べると、確かに戸棚の奥に何か見たことの無い物が入っていた。
鉄製の巨大な針が数本と他に金属製のヘラやフライパン。
武器……とは到底言えるようなものではない。どう見ても台所用品だ。
とはいえ、この鉄製の針は中々使えるかもしれない。
長さは40cm程度のものから一番長いもので70cmほど。これはいい。
「相手?ん……それではカルラ、かな。
動物のような耳が生えていて、髪の長い女だ」
「カルラ……データ照合。…………ロスト。
位置情報が確認できまセン。条件を再指定してくだサイ」
「え?う……」
――困ったな。
自分はカルラ以外に参加している人間を誰一人として知らない。
いや、そう言えば一人。カルラが名乗った時にその台詞の中で出てきた人物がいるのだった。
「……ハクオロという参加者は?」
「ハクオロ……データ照合。……確認。
ハクオロ、でよろしいデスカ?」
「ん、そう……だな……」
ハクオロ。
カルラが自らの主、いや奴隷とまで評した人物だ。
アレだけの力を持つ戦士が飄々と"奴隷"と言ってのけるのだ。それだけの力関係があるに違いない。
そしてあの口ぶりである。この"ハクオロ"という人物もこの戦いに参加しているのだろう。それならば会って、戦ってみたいと思った。
「いや、この際誰でもいい。
とにかく強者。戦う力を持った者と私を会わせてくれ」
ハクオロにも興味があったが、特に急ぐ必要は無いと思った。
なぜならかなりの実力者であろう彼とは、戦い続ければ確実にいつか出会えるはずであるからだ。
それならば、名前を聞いたことの無い者と戦ってみたい。
「…………条件確認。輸送路、開きマス」
「は……!?」
■
「……ッ、ここは……!?」
気付くと真っ暗な、明らかに地上とは思えないような場所に立っていた。
これは地下道なのだろうか。ある程度の横幅と縦幅、頑強に補強されたトンネルが視界の限り延々と続いている。
あの機械人形は『輸送路』を開くと言った。
ならば、この道の先がどこか他の地点に繋がっているのだろうか。
そこまで考えた後で、私は自分の目の前に木と金属で出来た箱のようなものがあることに気付いた。これは……そういえば、文献などで見たことがある。
「トロッコ……か。困ったな、こんなものに乗ったことはないぞ」
もう一度辺りを見回す。
薄暗い洞窟の内部はぼんやりと光る電灯で照らせている。
そして、背後は完全な行き止まり。
確かに安易にこんな明らかに怪しい移動手段を使うのは気が引ける。
だが、現在の状況から考えてこのまま立ち止まっていても何も自体が進展しないと言うこともまた真理。
「まぁ……いいか」
結局、選択肢はそれしかなかった。
前に進み、そして目の前に立ちふさがる者を切り伏せる。
とりあえずは戦えばいい。そうだ『戦い』ソレが私の存在理由。
私はトロッコに乗り込んだ。
端側についているレバーを倒すと、ゆっくりとその箱は加速し始める。
視界一杯に広がる闇が、一体どこまで続いているのか、もちろん私には皆目見当も付かない。
【H-7 地下通路/1日目 朝】
【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:鉄串(長)】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x3 フカヒレのコンドーム(1ダース)@つよきす-Mighty Heart- ひぐらし@ひぐらしのなく頃に 祭】
【状態:移動中。ガラスの破片による裂傷。殴られたことによる打撲】
【思考・行動】
1:カルラと再戦する
2:ハクオロと戦う
3:強者と戦う
4:殺し合いを全うする
5:永遠神剣を探す
※戦闘に集中していたので拡声器の声は聞いていません。
※アセリアは第一回放送を聴いていないため禁止エリア、死者を把握していません。
※アセリアは次に「このゲームにおける弱者」がいるエリアに現れます。どのエリアかは次の書き手さんにお任せします。
『海の家の屋台って微妙なもの多いよね〜』
海の家には完全自動のロボ・メカリンリン一号が配置されています。
彼女は島内の地下を通っている地下トロッコ道の管理を任されており「望んだ条件と正反対のエリア」へのルートを開放します。
トロッコで移動している際は禁止エリアによる制限は受けません。
※フカヒレのコンドーム
アレでナニをする時に使う道具。12個入り。
パッケージの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してある。
レオがエリカルートの屋上でフカヒレから手渡された思い出の品。
薄型がウリでフィット感が凄い、らしい。
※ひぐらし
雛見沢に生息するひぐらしを瓶に無理やり詰め込んだもの。
全て生きています。
【F-6 病院 /1日目 朝】
【土見稟@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:】
【所持品:支給品一式x2 投げナイフ二本 麻酔銃(IMI ジェリコ941型)、拡声器、
ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、麻酔薬入り注射器×3 H173入り注射器×3、炭酸飲料水、食料品沢山(刺激物多し)】
【状態:L5侵攻中 背中に軽い打撲 頚部に軽い痒み】
【思考・行動】
基本方針:参加者全員でゲームから脱出、人を傷つける気はない。
1:L5侵攻中
2:病院から脱出
2:ネリネ、楓、亜沙の捜索
3:水澤真央が気になる
4:もう誰も悲しませない
※シアルートEnd後からやってきました。
【備考】
H173が二本撃たれています。L5の発生時期は次の書き手さんにお任せします。
※病院は咲耶がダイナマイトを二つ爆発させたため、崩壊の危機。
現在一階が延焼中。遠くから見ても煙が上がっているため判断可能。
やあ、ようこそ北川劇場へ。
このチンゲラーメン100個分はサービスだから、まず頭から被ってチンゲまみれになってほしい。
うん、「まだあれから一分も経ってないんだ」
済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思わない。
でも、この話を読んだとき、君はきっと言葉では言い表せない「スカート一つで欲情する童貞」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐としたこのバトルロワイアルの中で、たまにはこんなほんわかした話があってもいい、そう思ってこの話を書いたんだ。
じゃあ、続きといこうか。
■ ■ ■ ■ ■ ■
まだか…………放送はまだか……放送はまだかぁ!!
腹筋することもやめて、股間を押さえてうずくまってる俺には今どれだけの時間が経過してるかも分からない。
壁に掛けられた時計に目をやるが…………まだあれから一分しか経ってないという事実に気付く。
(っぐわ! ……くそ! ……また暴れだしやがった……)
いかん……いかんですよ……このままじゃジリ貧だ。
このままでは俺の体の中のうちゅうのほうそくがみだれる。
放送まであと五分も戦い続ければならないのか……持つのか俺の理性。
いや、今の俺―――北川潤にとって五分とは永遠にも等しい長さだ。
このまま股間を押さえてうずくまってるだけじゃ今の俺の迸るリビドーを抑えることなどできるのか? いや、できるはずがない(反語表現)。
ならば根本的な問題の解決をするしかないというものだ。
よし、このまま風子に襲い掛かり問題の根本的解決に走る、そして伝説へ―――
ダメだダメだ!! ここまで頑張ってきた俺の努力が無駄になるじゃないか、魅力的な選択肢だけど。
この、けしからんふとももと尻め!! そんなに俺を惑わせたいのか!?
って今見えた!! 吹いてきた風が風子のスカートをふわっと微かに持ち上げてくれましたよ!! もちろんその奥も見えましたよ!!
見えた見えた!! 白だ純白の白だ!! いやっほーう、大自然の力万歳!! 天皇陛下万歳!!
よーしパパそんなもの見せられちゃ黙ってられないぞぉ。
ル○ンダイブのごとく一瞬でパンツ一丁になると、寝ている風子の前で腰に手を当て仁王立ちして、
「ところで風子……俺のパンツを見てくれ……こいつをどう思う?」
完璧だ………完璧すぎる。
腰に当てられた両手、開かれた両足の間隔、キッチリと伸ばされた背筋、キラリと光る白い歯。
全てが完璧すぎて思わず咽び泣いてしまいそうだ。
これがいわゆる会心の出来、というものだろう。
もし風子が起きていたら一もニもなくきっとこう言ってくれるさ。
「すごく……アフガニスタンです(パンツの柄が)」ってね。
そして二人は今日、三段飛ばしで大人への階段を駆け上がるのさ。
子供は二人、一姫二太郎の方向でいくか。
都会でも田舎でもないような、そんな平凡な住宅地に新居を構えよう。
お家の壁の色は白に決めた、で、暖炉もほしいところだな。
ペットには……セントバーナードでも飼ってみるか。
え? 猫? 俺は犬派なんだよ。
―――それはよく晴れた休日のこと。
庭には一面に敷き詰められた芝生の上、二人の子供とペットのセントバーナードが楽しそうに走り回って、
俺と風子はお茶でも飲みながらそんな子供たちの様子を微笑ましそうに見るんだ。
何も変わりない生活、何の変化のない日常、けれど俺にはその全てが幸せに感じられて…………って違う!!
危ねぇ……まさかパンツ一つでこの俺をビーストモードにトランスフォームさせたばかりか将来設計までさせるとは。
伊吹風子め……恐ろしい子!!
ならば……これでどうだ!?
奥義!! あさっての方向を向いて腕立て伏せ!!
説明しよう。 この奥義はあさっての方向を向くことにより、今まで視界から得られていた煩悩の元を断つとともに、
健全な運動をすることで欲望を昇華するという全米も真っ青な画期的方法だ。
悩める思春期の中高生を救う救世主になり得る方法として、現在先進国で先を争うように研究が始まっているとかいないとか。
とにかく健全な運動をしてれば邪悪な煩悩も消え去るはずだ。
そうと決まればオイッチニ、サンシ、悪霊退散、悪霊退散、煩悩退散、煩悩退散……ってしまったぁ!!
テントを張った股間がいちいち床に当たって集中できないじゃないか!!
のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「北川さん、変態さんだったんですか?」
いつの間にか起きていた風子が俺のほうを見て汚いもの、いやそれ以下の物を見るかのような目で話しかけてくる。
変態って……腕立て伏せしてるだけで変態扱いなら世のスポーツマンは須らく変態になるだろうよ。
と、そこまで考えていたところで今の自分の格好に気が付く。
そもそも腕立て伏せをする前はビーストモードにトランスフォームしていたわけで……ビーストモードの時何をしていたかというと……
うん、もう何も言わなくていいよ、問答無用の変態ですね。
……………………………………………………電波に変態って言われた。
俺の心の中の何かが激しく傷付いていくのを感じる。
思い出しても見ろ、百貨店での出会いから今までのこいつの言動の数々を。
出会って早々に「風子参上!」とかかまして、仮面ラ○ダーの変身ポーズをやりやがった。
その後もレナって子に襲われているときも、襲われている自覚がないかのような言動。
挙句の果てに人をタクシー扱いして役場までおんぶさせるわ、食料を全部食べるわ。
まさに電波、超弩級の電波じゃないか。
その電波ゆんゆんな少女に「変態」と罵られた俺の心の痛みが如何ばかりのものか、想像付く者はいないだろう。
このまま黙っていられるか。
俺の自尊心とプライドが、ん? 自尊心とプライドって同じ意味か? まあいい、とにかく俺のあれとかそれがこのままでは収まりが付かない。
「唐突だが風子、ナチスの総統は誰だと思う?」
「いきなりどうしたんですか、変態さん? ヒトデー総統に決まってるじゃないですか。 全世界にヒトデ王国を造ろうとして敗れてしまった人です。
風子があと半世紀程早く生まれていれば今頃全世界にヒトデ文化が根付いていたのに……惜しい人でした」
ああ見える、見えるよ……一面に広がるお花畑が。
うふふ、あはは、なんだか体の奥底から笑いがこみ上げてくるよ。
短い付き合いとはいえそろそろこの子の思考パターンも把握できていたつもりだった。 つもりだったんだ。
彼女のそれを理解してストライクゾーンをここまで広くしていたのに。
彼女がどんなに電波なことを言っても受け止めてあげて、その上でやっぱりこいつは電波だ、と蔑んで俺の精神の安定を図るつもりだったのに……
想定の範囲外ってレベルじゃねーよ。
おまけにこいつ北川さんから変態さんに変えやがったな。
「ところで変態さん、いつまでその格好をしているんですか?」
ああ、まだ半裸のままだったな、これは俺のほうが悪いな。
ところでふと気になったんだが電波と変態、どっちが人としてマシな方なんだろう?
■ ■ ■ ■ ■ ■
「それじゃあ、また。 次の放送であえることを祈っているわ」
そう言うと憎たらしい音声はそれっきり聞こえなくなった。
「竜宮レナと倉田佐祐理……か」
百貨店で俺を襲った女―――レナ―――が死んだとは……
あの狂気に彩られた顔と笑い声が今でも容易く脳裏に再生される。
あそこまで純粋な狂気はむしろ無邪気、と表現したほうがしっくりくるかもしれない。
この島はあんな危険な女でさえあっさりと脱落してしまうようなところなのか。
あの女を殺しうる存在……マシンガンのような強力な武器を持った人物か、はたまた武器がなくともその身一つで敵を殺せる屈強な戦士か、いずれにせよ危険な人物に変わりない。
そして倉田佐祐理。
直接面識はないが、相沢がよく言っていた佐祐理さんとはおそらく彼女のことだろう。
相沢の奴……大丈夫だろうか? 復讐に走ったりとか馬鹿なこと考えなきゃいいんだが……
いや、俺は相沢を信じている。 一時の激情に駆られるような男ではないはずだ。
相沢も水瀬も放送では呼ばれてない。
他人の死を喜ぶわけではないが、こうして知り合いが無事なのはいいことだ。
一刻も早くコイツらと、この二人じゃなくても信頼できる人間と合流するべきだ。
そう前向きになりかけた俺は、名簿を見てまた落胆してしまう。
「なんてこった……もう11人も死んでたのかよ……」
改めて名簿を見直すと、名簿につけられた×印の多さに危機を感じずにはいられない。
死者の名前を聞き取るのに精一杯で、何人死んだかまでは頭が回ってなかったようだ。
俺だって百貨店で一度は襲われてるし、この腐った殺し合いを歓迎している極悪非道な奴がいるのは分かってる。
最初からヤル気満々の者、この島で血の味を覚えてしまった者、他にも色々と人殺しをする理由はあるだろうさ。
しかし、この死人の数は俺の予想を大きく覆すものだ。
6時間で11人―――1時間におよそ二人がこの島で望まぬ生の終焉を迎えたことになる。
このままのペースで行くと単純計算で一日半―――36時間後には優勝者を除いた全参加者が死に絶えることになるだろう。
馬鹿げているとしか言いようがない。
昨日まで戦場なんて物騒な言葉とは無縁と言ってもいい者がほとんどのはずだ。
なのに、いざ火蓋が切られるとこうも簡単に人を殺せてしまうのか。
「クソッ……みんな……そんなに殺したり殺されたりしたいのかよ!」
持っていたペンを折ってしまい兼ねないほど強く拳を握り締める。
そういえば風子の方はどうなんだろう。
誰か知り合いが死んで悲しんだりしてないだろうか。
「おい風子、お前の知り合いは……ってまた寝てるのかよ!?」
「zzzzzzzzzzzzz……」
なんとも幸せそうな顔で寝てやがる。
つーかこれはあれか、全く自分の置かれた境遇を把握できてないのか。
初めて会ったときからそうなんじゃないかと思っていたが……一応確かめてみるか。
「おい風子、起きろ。 起きるんだ」
「う〜ん、どうしたんですか北川さん。 まだ起きるには早い時間ですよ」
眠そうな目をこすって不機嫌そうに言い放つ風子だがそんなことに構ってられない。
「あ〜風子。 ここに×印を付けられた人物でお前の知り合いはいるか?」
そう言って風子に俺の名簿を見せてやる。
「いませんけど……それがどうかしたんですか? それだけなら風子はまた眠らせてもらいます」
うわ、やっぱりだ。 まったく状況を理解できてない。。
説明しても……無駄だろうな。
あのタカノの説明を聞いて理解できないのに、俺ごときがいくら熱弁を奮って説明しても理解できるとは思えない。
支援。
支援
再び熟睡に入ろうとする風子を捕まえてもう別のことを聞く
「おいおい寝るのはまだ早いぞ。 そもそもお前の知り合いはいるのか?」
そういえば俺は風子のことを何も知らない。
襲われていたり、風子が寝ていたりで情報を交換する時間がなかったから仕方ないといえば仕方ないのだが。
「岡崎さんと、この人……」
「なるほど、岡崎朋也と春原陽平ね……」
名簿の二人の名前のところに○をつけておく。
「ちなみに俺の知り合いは相沢祐一と水瀬名雪だ」
その二人にも一応○をつけておく。
「いいか、よく覚えとけよ風子。 この二人が俺の知り合いの……ってまた寝たか」
「zzzzzzzzzzzzz……」
今度こそ長い長い熟睡モードに入った風子。
本当に幸せそうな寝顔だ。 こっちの苦労も知らずに。
まあいい。 考えようによっては寝ているときのほうが扱いやすいかもしれない。
今のやりとりにしたって風子がこっちの聞いてきたことにスラスラ答えてくれた。
まともに起きていたらこれだけのことをやるのに何倍、何十倍の労力がかかったか分からない。
(寝ている状態が一番扱いって子供の面倒見ているみたいだな……)
そう思いながら俺は物音を立てないようにして仮眠室を出て行くことにした。
さて、次にやるべきことはこの役場内の探索だ。
■ ■ ■ ■ ■ ■
役場の一階で俺は備え付けてあったイスに腰掛けていた。
役場内を探索して得られた成果はたった一つだった。
それはこの役場にはなにひとつ役に立ちそうな物が無い、ということ。
支援
まあ物は考えようだ。
何も見つからなかった、と落胆するより何も無いというということが分かったと考えた方が精神的にもダメージは少ない。
PCという唯一の成果と言えなくはないものもあるが、自分には専門的な知識など皆無なので宝の持ち腐れになってしまう。
漫画やアニメに出てくる探偵のごとく腕組みをしながらPCのことを考える。
見たこともないOS、用途不明のフォルダ、そしてなぜかギャルゲーのアイコン。
明らかに何者か――たぶんタカノたち――の何らかの意図を感じるものだ。
その意図が俺たちにとってプラスに働くかマイナスに働くかは分からないが、いずれ調べなくてはならないものだろう。
当面の目的は相沢たち、もしくは信用できそうな人物との合流。
そしてしかるべき知識を持った人物にこのPCのことを教える。
しかし、よくよく考えれば俺たちは今まで風子を除けばレナという女にしか出会ってない。
既に11人もの死者が出ているのにも関わらず、だ。
支給された地図を頭の中で思い浮かべてみる。
人が集まりそうなところは誰がどう見ても新市街と住宅街の二つ。
その片方の新市街に人がいないということはみんな住宅街のほうにいるのではないか。
どちらにせよここに居座る続けることは選択肢から除外。
そして気になったことがもう一つ。
(風子のデイパックは今どうなっているだろうか)
レナが死んだことによりあの百貨店に置き去りにされたデイパックが急に気になったのだ。
常識的に考えれば、レナに回収されたのが妥当だろうし、他の危険人物が百貨店に居座っている可能性も捨てきれない。
しかし、無性に気になって仕方がない。
住宅街に行くか、このまま新市街に留まるか。
もう一度百貨店に行ってみるか、行かないか。
(どっちにしろ風子と相談して決めるしかないか)
そう結論付けると俺は二階への階段を昇っていくのだった。
【B-2 役場の二階の仮眠室/1日目 時間 朝】
【北川潤@Kanon】
【所持品:支給品一式、チンゲラーメン(約3日分)、ゲルルンジュース(スチール缶入り750ml×3本)】
【状態:至って健康。なんとか落ち着いてきた】
【思考・行動】
1:知り合い(相沢祐一、水瀬名雪)と信用できそうな人物の捜索。
2:PCの専門知識を持った人物に役場のPCのことを教える
3:あの娘を見てしまった以上、殺し合いに乗る気にはなれない……
【備考】チンゲラーメンの具がアレかどうかは不明
チンゲラーメンを1個消費しました。
※住宅街に行くか、このまま新市街に留まるか。
もう一度百貨店に行ってみるか、行かないか。
以上を次の書き手さんに任せます
【伊吹風子@CLANNAD】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
1:zzz
2:北川さん……お腹すいてます?
3:北川さんって……変態さんですか?
【備考】今のところ状況をあまり把握してません。
【備考】
※新市街での深夜から黎明に行われた戦闘は知りません。
※役場の仮眠室の冷蔵庫には、ゲルルンジュース750mlが残り6本入っています。
だが、飛び掛ってくるはずの名雪は、あゆに触れる前に膝を突いて止まった。
一向にあゆに対する攻撃が来る気配はない。恐る恐る目を開く。
「ぁ、ぁぁ」
あゆの眼前には、名雪が畳にうつ伏せになり倒れていた。
頭の部分からは血を流し、そのすぐ傍に血の滴る槍が投げ出されて。
「いやぁぁぁ! 名雪さぁぁぁぁぁん! やだやだやだやだやだやだァァァァァァァァ!!」
名雪の最期は、偶然の重なりによってもたらされた。事故と言えば事故である。
床を這い蹲り、あゆは部屋を見渡す。転がる乙女と大石の死体は、あゆを見ているような気がした。
(何も心配はいらないぞ、私がお前を守ってやるからな)
(こんな男、しんよ、う、なさるんで、すか?)
(無事でよかったよぉ〜)
三人と交わした言葉が脳裏に浮かぶ。それは一つずつあゆの心を締め上げる。
「あ、ぁぁ、ぅぁ、ぃゃ……」
デイパックを握り締めると、あゆは民家から飛び出した。
頼もしくて優しい乙女は死に、逞しそうな大石も死に、友達である名雪も死んだ。
誰が殺した? 答えは簡単だ。簡単な答えだからこそ、あゆは理解できない。
――自分が手に掛けたなどと認めたくないから
【F-4 住宅街北部エリア/1日目 朝】
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテムの内容は不明】
【状態:右腕に7箇所の刺し傷(動かせないほど痛い)、喉に青い痣、混乱、恐怖】
【思考・行動】
1:どうしていいかわからない
2:早く祐一と会いたい
3:往人を説得したい
【備考】
※名雪は死んだと思っています
※芙蓉楓を危険人物と判断
※前原圭一・古手梨花・赤坂衛の情報を得ました(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
「うまくやってくれみたいだね」
四人と別れてから、良美は着替えつつ身を隠して休んでいた。
こちらを信じきったあゆならば、少なくとも乙女と大石には飲料水を飲ませる事が出来ただろう。
そうすれば、残っている二人が疑心暗鬼に陥るのも必然だ。
仮に良美を疑おうとしても、飲んでしまった証拠はどうしようもない。
毒の効果を確かめるため近くで監視しようとも考えたが、乙女に気取られては危険だ。
だから、離れた場所で悲鳴が聞こえてくるのを待っている事で妥協する。
結果として、四人が入った民家から泣き叫ぶ声と悲鳴が漏れてきた。
「無事ならともかく、怪我した鉄先輩なんてねぇ」
大石という男も、あの怪我では満足な『駒』にはなるまい。
第一、圭一の顔を知っている以上、生かす価値はない。
それでも、接触して有力な情報は手に入れられた。
「相沢祐一と赤坂衛……ね」
名簿を確認すると、良美は森の中へと消えていった。
【F-4 雑木林/1日目 朝】
【佐藤良美@つよきす -Mighty Heart-】
【装備:S&W M36(2/5)、破邪の巫女さんセット(巫女服のみ)】
【所持品:支給品一式×2、S&W M36の予備弾15、錐】
【状態:やや疲労、手首に軽い痛み、重度の疑心暗鬼】
【思考・行動】
基本方針:エリカ以外を信用するつもりは皆無、確実にゲームに乗っていない者を殺す時は、バレないようにやる
利用できそうな人間は利用し、怪しい者や足手纏い、襲ってくる人間は殺す。最悪の場合は優勝を目指す
1:エリカ、ことみを探して、ゲームの脱出方法を探る
2:『駒』として利用出来る人間を探す。優先順位は相沢祐一と赤坂衛
3:少しでも怪しい部分がある人間は殺す
4:もう少しまともな服が欲しい
【備考】
※メイド服はエンジェルモートは想定。現在は【F-4】に放置されています。
※良美の血濡れのセーラー服は【E-5】に放置されています
※芙蓉楓を危険人物と判断(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※名雪の第三回放送の時に神社に居るようようにするの情報を得ました
(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
あゆは誤解していた。最後に手に掛けたと思い込んだ名雪は生きていたのだ。
誰もいなくなった室内で一人、嗚咽を漏らし畳に爪を立てる。
涙を流しながらも、彼女は痛む額と右目を押さえ何とか立ち上がる。
顔を押さえる手から肘を伝い、赤い涙が途切れる事無く垂れ落ちる。
「あゆちゃん……祐一……」
信じていた友達は、無情にも名雪を殺そうとした。彼女はこの殺し合いに乗っていたのだ。
乙女や大石を引き連れていたのは、一気に殺すつもりだったからだろう。
そこに、名雪も居合わせたから一緒に殺されそうになったのだ。
この真実を、早く祐一に伝えなければならない。そうしないと、祐一があゆに殺されてしまう。
勇気を振り絞る。乙女と大石の治療の際に余った包帯をなんとか顔に巻きつける。
目の前の半分が暗闇となった今……誰よりも早く祐一を探して、優しく包んで欲しかった。
その甘い気持ちを無理矢理押さえ込み、しなければならない事を胸に誓う。
(乙女さん、大石さん。短い間でしたけど、ありがとう御座いました)
二人の死体を毛布で包み、頭を下げて部屋を出る。
傷口は歩くたび痛むし、包帯は既に赤く染まっていく。それでも、彼女は走り出した。
……早く、祐一を助けたいから。
【F-4 住宅街北部エリア/1日目 朝】
【水瀬名雪@kanon.】
【装備:槍 学校指定制服(若干の汚れと血の雫)】
【所持品:支給品一式 破邪の巫女さんセット(弓矢(10/10本))@D.C.P.S.、大石のデイパック、乙女のデイパック】
【状態:右目破裂。額に3cmの傷。軽欝状態】
【思考・行動】
1:早く祐一を探す
2:あゆちゃん……
3:衛と咲耶と四葉も探す
4:1〜3のために人のいる場所に向かう
【備考】
※芙蓉楓を危険人物と判断
※名雪が持っている槍は、何の変哲もないただの槍で、振り回すのは困難です(長さは約二メートル)
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
※前原圭一・古手梨花・赤坂衛の情報を得ました(名前のみ)
※ハクオロという人物を警戒(詳細は聞いていない)
※千影の姉妹の情報を得ました(名前のみ)
※【F-4】一面に悲鳴が響きました。隣接するマスに届いたかは不明。
※月宮あゆ、水瀬名雪がどこに向かったかは次の書き手さんにお任せします。
ただ二人の通った後は、注意すれば血痕が残っているのが分かります。
【鉄乙女@つよきす -Mighty Heart- 死亡】
【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に 死亡】
wikiの方色々更新しました
ラジオで画鋲氏が言っていたことを思い出して、ネタバレしてない参加者名簿が先に来るようにしました
不便ならば両方ともメニューから飛べるようにも出来ますので言って下さい
えーと死亡者リストとSSタイトル元ネタも更新
元ネタは書いてない奴とかあれば随時募集中
マーダーランキングは依然国崎最高がTOP
二位タイに咲耶、六位タイに脱サラしたネリネとドラえもん孝之が登場
ってな具合です
っと誤爆orz
「ッ!?」
「…………え?」
二人の反応は"名前が呼ばれた人物との関係"を考えれば、明らかにおかしかった。
"彼女"と直接的な面会をしたことも無いことりが、両手を口元に当てて驚きを露にする。
肩を大きく震わせて、目を大きく見開く。
まるで自分の親友が死んだ知らせを聞いたかのように。
一方で、"彼女"と無二の親友であるはずの舞にまるで変化が無かった。
一体何が起こっているのか分からない、そんな表情で虚空を見つめるだけ。
無。一切の無だ。
普段から寡黙な様相を浮かべる舞ではあるが、それはただ言葉を口にしないだけ。
身近な人間、例えば"彼女"や"彼"ならば舞の微妙な表情の変化にさえ気付くかもしれない。
だが、そんな空想観測的な事例を挙げても今回の舞はどこかおかしかった。
その瞳が何を見つめているのか、隣にいることりにはまるで判断が付かない。
「ま、舞……その」
「…………」
ことりは舞から佐祐里という人物の話を色々聞かされていた。
毎日一緒にお昼に彼女が作ってきたお弁当を食べること、
誕生日プレゼントにオオアリクイのぬいぐるみをプレゼントしてくれたこと、
言葉の端々から舞が彼女を本当に信頼していて、本当に大好きだということが伝わって来た。
それなのに、それなのに。
――倉田佐祐理は死んでしまった。
舞は、この現実を直視できるのか。いや、そう簡単に行く問題でも無いだろう。
自分だって例えば朝倉君が死んでいたとしたら……平静を保っていられるかと言われれば嘘になる。
何も言葉を発せなくなったり、目の前が真っ暗になったり……。
心神喪失状態に陥り、何も手に付かなくなってしまうかもしれない。
何とかして舞を励ましてあげたいと思うものの、適切な言葉が見つからない。
言葉、それだけでは無い。
こんな状況では明るく振舞うのが良いのか、それとも黙っている方がいいのか。
そんな基本的な接し方さえまるで分からないのだから。
「……こ……とり」
「舞?舞?大丈夫、しっかりして!!」
「ことり……は、教会に、行きたい?」
舞が顔を下げたまま、呟く。
どんよりとした雨雲のような無機質な声。
今すぐにでも何かが溢れ出しそうなくらい、脆くなった声。
「ううん、もうそれはいいの!!
舞が行きたい所なら何処にでも付いて行くよ!!
ね、だから元気出して」
確かに自分は教会に行きたいと言った。
だが、それは放送を聞く前の話だ。
少なからず『死』を連想させる場所である教会に、わざわざ舞を連れて行くなどという残酷な真似はもうするつもりは無い。
「ご……めん……少し、一人……に、させて」
「舞!!」
「一人にさせてッ!!」
絶叫。
永久の眠りも覚めるような、心の底からの叫び。
空気も、時間も何もかもがその鼓動を停止させたような錯覚を覚える。
ことりは舞を出来るだけ慰めようと、距離を詰めようとする。
「ごめ、ん……ことり。これ以上、近づか……ないで」
「どうして……舞、そん……な……」
独り言を呟くような、他人が聞き取るには酷く困難な全く張りの無い声。
エメラルドのようだった碧色の瞳はすっかりと輝きを失い、まるで濁った苔水のようで。
自分の目の前にいる人間は本当に今までと同じ人間なのだろうか。
もしかしたら、ことりは信じたくなかった、否定したかったのかもしれない。
ほんの数時間前まで一緒に、
笑いあって、
食事をして、
短い間でも本当に楽しい時間を過ごした。
そんな人間が自分に銃口を向けているのだから。
黒い、吸い込まれそうなくらいの漆黒に染まった黒鉄の凶器。
震える手に支えられた銃身が、それでも真っ直ぐと自分に合わせられている。
ぽっかりと明いた空洞はまるで全てを飲み込むブラックホールのようで、見つめているだけで吸い込まれてしまいそうな……そんな暗い、闇。
「教会へは……一人で、一人で行って。今の……私は何をするか……分からない、から」
「舞……!!」
「……バナナ、美味しかった」
最後に舞は少しだけ微笑んだような、そんな気がした。
だけど気が付けばその表情はまた辛そうな顔に戻っていた。
――何か、何か言わなければいけない。
このまま黙っていては舞はどこかに行ってしまうだろう。
それは駄目だ。
何がどう駄目なのか、上手く説明は出来ない。
けれど、このまま舞を一人にしてはいけない。
相手は舞なのだ。
"何をするか分からない"なんて台詞、冗談に決まっている。そう、普通に考えれば分かることだ。
舞が?自分に?……有り得ない。そんなことがある筈が無い。
頭の中でそんな自問自答がグルグルと回り出す。当然、概算速度はそれほど早くは無い。
漫画のようにスーパーコンピュータもビックリな状況分析を、コンマ何秒かで行えるような人間離れした技能は持っていない。
ならばどうすれば……。
――そうだ、忘れていた。
分からないのならば、"視ればいい"んだ。
この島にやって来てから急に復活したチカラ。
今までの自分のように、相手の心の中を覗いて一番適切な対応を取ればいい。
そうすれば必ず舞は立ち直ってくれる。
もう一度、笑ってくれる。こんな……悲しい顔をしないでもよくなる。
最高の解決策も、手段も全て揃っていた。
後は……もっと近くに。近くに行けば視えるかもしれない。
頭ではその事が痛いほど分かっている筈だった。
それなのに。
ことりの脚はその場に根でも生えてしまったかのようにピクリとも動かなかった。
否、動かせなかった。
どんなに脳が両脚に"前進せよ"という指令を出しても、全力でソレを"身体"が拒否する。
舞はどんどん離れて行く。
背中を見せ、多少の早歩き程度のスピードで進む彼女に追いつくことは至極簡単なはずだ。
ならば、どうして?
これじゃあ、まるで。
舞の"何をするか分からない"という台詞が、嘘じゃないことを認めているみたいだ。
■
――ここは何処だろう。
ことりと別れてから、大分歩いたような気がする。
いや、違う。
気が付けば走っていた。
彼女と別れてすぐの間は、まだ足取りは重かった。
でも進めば進むほど、心拍数が増し心臓の鼓動が早くなればなるほど、自然と歩く速度も上がり、いつの間にか、脚はただひたすら前へ前へ。
辿り着いたのは大きな鉄の塊。
ここに来るまでの間、何か大きな音を聞いたような気もしたが、今の自分にはそんな事は全く関心が無かった。
どうして、どうして、佐祐理が。
目の前には訳の分からない大きな塔。
入り口がどこにも見当たらないこの塔の外壁に手を付いて、そのまま縋りつくように顔を押し当てる。
溜め込んでいた想いが、ついに、決壊した。
「佐祐理…………佐祐理ぃぃぃ!!!!!」
舞は叫んだ。
腹の底から出せるだけ、今まで生きて来た中で一番の大声で。
出てくる言葉は意味の無い、文字の羅列だ。
意味のある言葉はきっと"佐祐理"という単語一つだけ。
それも涙と鼻水のせいで濁点交じりになってしまっている気がする。
だけど、それでも良かった。
名前を、名前を呼んでいる間だけは自分と佐祐理の中で何かが繋がっている気がしたから。
――死んでしまおうか。
ふと、手の中の拳銃を見てそんなことを思った。
もしも持っていたのが普通の刃物であったならば、こんな事は思わなかったかもしれない。
ただズッシリとその質量を誇示している物体の魔力は途轍もなかった。
誘惑。死への誘惑。
もう佐祐理がこの世にいないという事からの逃避。
今自分に圧し掛かる切なさ、苦しさからの解放。
全てが満たされる。ただこの引き金に少しばかり力を込めるだけで。
全てが、すべてが、スベテガ。
(佐祐理……守れなくて、ゴメン。私もすぐに、そっちに行くから)
銃口を喉元に押し付ける。
冷たい鉄の感触が全身に悪寒となって走った。
冷や汗が首筋を伝うように流れる。
もう少し、もう少しで。
『――あーもしもし?そこの貴女、聞こえてる?』
「……え?」
黄泉路へと向かう決心を固めた、その数秒後。その声は響いた。
だが、これは……いや有り得ない。
なぜならこの声の主は……。
『あ、やっと気付いてくれたのねぇ。良かった、自殺しちゃうのかと思ったわ……フフフ。
分かるでしょ?鷹野、鷹野三四よ』
「……どうして。今、まだ十二時じゃ……無い……」
忘れたくても忘れるはずが無い。
ほんの数分前に佐祐理の死を伝えた張本人。
そしてその原因を招いた、この島における絶対的な権力者・鷹野三四。
『フフ……特別なの、貴女は。いえ、貴女達は』
「……どういう……意味?」
……何を言っている?
『単刀直入に言うわ。実は倉田佐祐理さんはまだ死んでいないの』
……え?
『あら……驚いて声も出ないのかしら。フフフ、そりゃあそうよね。無理も無いわ』
「……本当、本当なの!?佐祐理は、佐祐理はまだ生きて……いるの!?」
『ほら、もう元気になった。クスクス、本当の話よ』
――佐祐理が生きている。
その台詞を聞いた瞬間、自分の中の何かが息を吹き返したような気がした。
止まっていた歯車が回り出す。血液が全身を循環し始める。
彼女の言っている事が本当だという保証は全く無い。
だが、主催者である彼女が自分にそんな嘘を付く必要性が見出せなかったのも事実だ。
それにわざわざ自分を選んだ理由も分かりかねる。
『ただ……ね、危ない所だったの少し。彼女少しだけ怪我をしちゃったのよ』
「……怪我?佐祐理が?……誰が、誰がそんな事を……」
佐祐理が怪我をした。
そう鷹野に告げられただけで、佐祐理を傷付けた見知らぬ人間に対して激しい憎悪の念が沸き起こる。
『ソレは私にも分からないわ。
でも、私が今、貴女に話しているのは一つだけお願いがあるからなの』
「…………お願い?」
『殺して欲しいの。あなたの眼に映った人間、全て。知り合いだろうが何だろうが、一人も残さずに』
「……な」
……殺す?
知り合いも含めてであった人間全てを?
祐一も、ことりも、あゆも、名雪も、千影も皆……?
『放送で死んだ人、結構いたでしょ?十一……人、そこから倉田佐祐理さんを抜いた丁度十人ね。
でもまだまだ足りないの。"ハンター"の役目に回る人間の数が』
「……拒否権は無い、ってこと?」
『クスクスあら、もちろん強制はしないわ。人を殺すには覚悟も度胸も力も全部必要だもの。
生半可な人間は必要ないですもの』
手の中のニューナンブM60を更に強く、握り締める。
さっきはバナナが減ってしまった事に、軽くショックを受けたが千影から銃の予備弾を貰った事がこんな風に役立つ時が来るなんて。
皮肉なものだ。
私は元々八発だけしか弾丸を持っていなかった。
なぜなら、八では……足りない。
「……や……て……」
『……?御免なさい、声が小さくて聞き取れなかったわ。もう少し大きな……』
「これだけは、約束して。
佐祐理を絶対、絶対死なせないってこと」
走馬灯のように今、この島にいる知り合いの顔が浮かんでは消える。
自分はコレから人として、もう戻れない段階に行くことになるだろう。
それでも。
自分にはこの選択肢しか無いことは分かっている。
心の中の記憶のアルバムを一枚一枚剥がして、そして燃やしていかなければならない。
真っ黒な灰が積もれば積もるほど、私の中の"人間"も消えていくのだろう。
銃と鉄と硝煙の匂いだけが支配する世界へ。
だけど、佐祐理のためならば。
どれだけ自分の手を汚しても構わない。
『――勿論。フフ、安心して。
貴女が最後の一人になったらちゃーんと合わせてあげるから』
「……約束」
それきり鷹野三四の声は全く聞こえなくなった。
舞は目の前の、鉄塔を見上げた。
この建造物に何か放送設備があったのかもしれない。
ダイレクトに私の場所を特定して、コンタクトを取ってきたのだろう。
アチラ側の意図は分からない。
それでも、私にはもう"鬼"になることしか出来ないのだ。
「佐祐理……必ず助けるから」
■
「行ったか……」
B-6エリア、鉄塔。
用途不明のこの鉄の建造物の丁度中ほどに彼は止まっていた。
眼下には厳しい表情のまま走り去る女の姿。
名前は……分からない。もっとも既に彼女に対する関心は無い。
彼が知っている事は彼女の口から出た『佐祐理』という名前だけ。
先の定時放送の内容から考えてそれが名簿に載っていた『倉田佐祐理』であることは分かった。
彼がこんな事ををしたのには大した理由は無い。
実際問題、彼女をあのまま放置していればおそらくそのまま拳銃で自分の頭を打ち抜いていただろう。
だが黒鉄の塊を彼女が自らの喉元に押し付けた時、ふと思ったのだ。
"もしかしたら使えるかもしれない"、と。
彼女がこのまま自殺したとしても、自分には到底扱えない拳銃と死亡者が一人出るだけ。
ならば、少しでも多くの参加者を道連れに彼女に逝って貰った方が得策ではないだろうか。
だから声真似をして話しかけた。
あの、忌々しい女の声で。
結果は上々だった。
女は見事に騙され、修羅の道を歩む事を選択した。
疑心暗鬼もそして愛情も突き詰めれば他者への強力な執着心に過ぎない。
そこを刺激してやれば人間を操ることなど容易いのだ。
定時報告で名前を呼ばれた人間が生きている、そんな事有り得るはずが無いと考えれば分かるはずなのに。
もしもそんなケースが存在していれば、この殺し合いを根底から揺るがすことになってしまう。
「……この場所にもう用は無いな」
土永さんはその翼を広げ、大空へと消えた。
その瞳が映すものは最後の一人、いや一羽になるまで勝ち続けること、ただそれだけ。
■
「……っ……はぁっ……はぁっ……!!」
ここは……どこだろう。
あの後、しばらく脚が全く動かなかった。
でもことりはなんとかココまで来る事が出来た。
舞がどの方向に行ったか、正直まるで見当が付かなかった。
彼女がこの場所にやって来れたのは全て偶然の産物なのだ。
「舞……どこなの?もう……会えないのかな」
そんな事を呟くことり。
見上げた空。輝く太陽。もう良い時間だ。何をするにも最高のはずの。
しかし、彼女の頭の中は今起きた事で一杯だった。
突然こんな場所に連れて来られて、そして人の死を沢山この目で、耳で味わって……。
だからか、ことりは思わず視線を下げた。
その場所にあったのは。
「これは……羽根?」
顔を出した太陽に照らされ、キラキラと光る羽根が落ちていた。
基本的な色合いは緑色だが、光の反射の関係で角度によっては虹色にも見える。
ことりはその羽根をしばらく見つめると、デイパックの中にそれを入れた。
【B-5 森中部/1日目 朝】
【川澄舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾5/5) 学校指定制服】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾99 バナナ(フィリピン産)(3房)】
【状態:不安定】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
1)佐祐理を救う
2)全ての参加者を殺す
【B-6 森/1日目 早朝】
【土永さん@つよきす−Mighty Heart−】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、祈の棒キャンディー@つよきす−Mighty Heart− 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き) 】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
1:自分でも扱える優秀な武器が欲しい
2:どこか一箇所留まったままマーダー的活動が出来る場所を探す
3:基本的に銃器を持った相手には近づかない
【B-6 鉄塔/1日目 朝】
【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀 風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式 バナナ(台湾産)(4房)虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:不安、疲労(小程度)】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。最終的な目標は島からの脱出。
1:舞がいなくって、どうしたら良いのか分からない
2:仲間になってくれる人を見つける。
3:朝倉君たちと舞の友達を探す。
4:千影の姉妹を探す。
※虹色の羽根
喋るオウム、土永さんの羽根。
この島内に唯一存在する動物、その証拠。
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに大方気付き、『触らないと読み取れない』という制限についてはまだ気づいていません。
第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化)
痛む傷口を押さえ、静かに放送を確認していた乙女は、目の前の景色が歪むのを感じた。
肉低的な痛みなら堪えられるが、精神的な痛みは抑え切れるものではない。
だが、乙女は必死でそれを飲み込んだ。吐き出すのは容易いが、それは今すべき事ではない。
(レオ……)
仇をとろうとは思わない、自分の良く知る可愛い弟ならば、それは望まないだろう。
彼ならば、這い蹲ってでも自分で借りは返す。
(今考えるのは傷の治療とあゆを護る事だ)
そんな心の揺れに気付かないあゆは、一生懸命に乙女に肩を貸して歩き続けていた。
もちろんあゆとて殺し合いは怖いし、出来る事ならば誰もいない所で隠れていたい。
けれど、今はそんな後ろ向きな考えは捨てて病院を目指している。
あゆには乙女を助ける事と、往人を説得する責務があるのだ。
と、乙女があゆの肩から離れ、目の前の建物からあゆを庇うように立ち塞がる。
「っ、……そこにいる奴、私達は戦うつもりはない。出てきてくれると助かる」
「っくぅ、いや、あだだ、お見事ですね」
建物の陰から出てきたのは、青い顔をした小太りの男。
驚いたのは、右肘から先が無くなっており、血がゆっくりと零れ落ちている事だった。
「お、おじさんどうしたの!?」
「い、いやぁ〜、なははッぐゥ、ちょッと、は、められましてね」
駆け寄って心配するあゆに対し、小太りの男は苦笑いを浮かべた。
「そちら、さん、ぉがッ、も、ッゥ〜、ひ、酷いご様子……で」
「そちらも、な。私は鉄乙女。彼女は月宮あゆだ」
「こ、これはァ、はぁはぁッ、私、あ〜、お、大石蔵人です」
大石と名乗った男は、なぜか名前の前で少し躊躇ったが、二人はそれに気付かない。
「びょ、病院に、と、ぅごっふ、思ってるん、ですが」
咳き込みふらつく大石の言葉に、あゆが乙女の目を見る。あゆが何を言いたいのか乙女には解かった。
「大石さん! ボク達も病院に行くところなんです。良かったら一緒に行きませんか?」
「え?」
支援
あゆの申し入れに困惑する大石。そして、遠慮するように言葉を返した。
「私が、っヅ、言うのもッ……はぁっはぁ、なん、ですが、こんな男、しんよ、う、なさるんで、すか?」
「だって――」
少し前のあゆだったら逃げ出していただろう、だが今はそんな事はしない。
「怪我してる人を放っておけないよ!」
一度乙女のもとに戻り彼女に肩を貸すと、反対側の肩で大石を支えた。
「ね」
その笑顔に、大石の青い顔が少しだけ赤みを取り戻した様に見えた。
「お嬢、さん、んッ」
「だ、大丈夫ですか?」
礼を言おうとした大石だったが、痛みで上手く呂律がまわらない。
ある程度警戒を解いた乙女は、大石の傷を見ながら質問を投げかけた。
「その傷……誰にやられた?」
言葉の中に、戦って出来た傷かそうでないかを探る匂いを漂わせて。
その真意を感じ取った大石は、弁明するでもなくただ事実を述べる事にした。
「いえ、ぐぅ……はめ、られた、ようです」
「なに?」
あまり予想していなかった答えに乙女の眉があがる。
真ん中に挟まれたあゆも、意味が分からず大石に答えを求める。
「島を探索、して、たんですが……はぁ、途中ハクオロって男に、ああ、会いましてね」
その時の状況を思い出して苦虫を潰した様な表情を浮かべる。
「銃を、わた、されたんです。暴発、するよう、しくっ……しくん、だ、銃をね」
「それじゃあ、そのハクオロって人はまさか」
怪我をした大石に同情してか、あゆはやるせない気持ちになる。
乙女も、戦場とは言えそういった卑怯な手口は好きではない。
「この殺し合いに乗っているのだろうな」
もしかしたら、レオを殺したのはその男かもしれない。
当っていても、外れていても嬉しくない可能性だった。
(レオ……お前の意思は私が引き継ごう)
涙は流さず、心の中で強く誓う。それがレオに対する乙女なりの手向けだから。
◇ ◇ ◇ ◇
千影とまた会う約束を交わし、名雪は住宅街を目指していた。
だが、まだ他の人間と出会う事に抵抗のあるのか、病院を経由せず線路を渡って住宅街を目指していた。
確かに早く祐一に会いたいが、出会う人がみんな千影みたいな人だとは思っていなかった。
現に、定時放送で多くの死者の名が挙げられたのがそれを物語っている。
みな手を取り合える人間ならば、死者など出ないはずなのに。
誰にも気付かれないように、けれど住宅街も探索できるように……そんな矛盾を抱えていた。
(祐一〜)
まだ眠い目を擦り、音を立てないように獣道を進んでいた。
鳥が囀ったり、木々がざわめくたびにメスを握り締め身構える。
警戒しながら歩き続ける事は、日常に漬かっていた名雪の精神を削り取っていく。
せめて誰か一緒にいればここまで神経質になる必要はない。
けれども、その相手がいつ自分を襲うかも判らないのだ。
そしてそれは、認めたくはないが自分の家族や友人にも全て当てはまる。
昔から好きだった祐一は、乗っていないと信じられる。
祐一を通じて仲良くなったあゆも、きっと大丈夫。
そして祐一の友達である北川も、殺し合いなどには乗らないだろう。
その信じる気持ちは、絶対とは言い切れないという本音が優しく囁く心を押さえ込む。
誰かに会いたいけれど、誰にも会いたくはない。
知り合いに会いたいけれど、知り合いを信じきれない。
そんな気持ちを何時間も抱えながら、過ごしてきた。
近くにあった小屋に気付かないまま、いよいよ住宅街の近くまで来たところで人影に気付く。
(あれは)
支援!!
知らない男と女の間に挟まれているのは、良く知る少女その人だった。
心のどこかで警報が鳴る。彼女はこの殺し合いに乗っていないだろうかと。
だが、この島に来て初めて知り合えた喜びは、警戒という名の壁を簡単に崩す。
少なくとも遠目から見れば、三人から伺える雰囲気は殺伐とはしていなかった。
意を決し、駆け足で手を振りながら三人のもとへと近付く。
「あゆちゃーーーん!」
「な、名雪さん!」
雑木林のほうから響く名雪の声に気付いたあゆは、嬉しさを前面に出して名雪の名を呼んだ。
嬉しそうに手を振り、こちらに駆け寄ってくる。出来れば今すぐこちらも走って行きたい。
「あゆ……あの少女が水瀬名雪か?」
「うん!」
声を聞いた時は、いつでも戦闘に移れるよう身構えていた乙女だが、取り越し苦労となった。
大石のほうも、あゆの態度を見て問題なしと判断したらしい。
三人の眼前まで来た名雪は、あゆの手を握ろうとしたが両側の二人を支えているのを見てやめた。
再開を祝って手を取りたいが、それは落ち着いてからすればいい。
「無事でよかったよぉ〜」
「うぐぅ。名雪さんも〜」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、二人は再会を喜ぶ。
ある程度喜びを分かち合ったところで、知らない女性が咳払いをした。
「すまん。再開を喜ぶのはいいが、私達は怪我をしていてな」
改めてみると、男も女も顔色がよくない。男に至っては右腕が半分なくなっている。
「私は鉄乙女。良かったら名前を教えてくれ。ああ、すまんが歩きながら頼む」
凛とした声に、なぜか姿勢を正して一緒に歩き出してしまう。
「あ、はい。わ、私水瀬名雪です」
こうして、四人は情報交換を行う事となった。歩きながらお互いの事情を伝える。
良く知っているあゆに、頼りになりそうな乙女、男という事で頼りになりそうな大石。
名雪は一気に仲間が増えた事を素直に喜んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
支援!!!
(・3・)!
商店街から離れた良美は、早く新しい駒を見つけるため移動を開始していた。
あの殺し合いで、飼い慣らせそうな手駒を捨てる事になったのはもったいないが仕方ない。
着実に人が減っているなか、次の駒を探すのは段々厳しくなっていく。
だから、次に目指したのは当初目標としていた学校だった。
(ある程度人数がいれば駒も揃いやすいし、駄目なら集団崩壊させればいいかな)
考えをまとめながら歩いていると、目の前から5人の集団が近付いてくるのが見えた。
向こうが気付かぬうちに物陰に隠れようとしたが、その中の一人に見覚えがあったので近寄る事にした。
「鉄先輩!」
声をかけ走り寄ると、乙女を除く三人が警戒の表情を顔に出す。
だが、乙女は三人に大丈夫だとアピールすると、腹部を抑えて歩み寄ってきた。
「良かった……鉄先輩に会えて」
「佐藤もよく生き残った。しかし、その格好は……」
「こ、これは」
恥じらいを装い返答を濁す。こうすれば、深く聞いては来ないと考えていた。
適当な会話なら良いが、下手に圭一達の情報を与えるつもりはない。
「く、鉄先輩こそ、その怪我はどうしたんですか?」
「これは、油断してな……だから、治療のため彼らと病院に向かうところだったんだ」
この位置からでは、川を挟んだ病院に向かうため商店街を経由する可能性は高い。
線路を下るルートなら問題ないが、住宅街にいる以上可能性は低い。
死体のある場所に、四人を南下させるわけには行かなかった。万が一商店街を経由すれば二人と会ってしまう。
良美個人が会うだけなら問題はないが、乙女を引き合わせて良い事など一つもない。
意を決して、良美は嘘をついて進行を妨げた。
「私、病院から逃げてきたんです」
「なに!?」
岡崎をモデルにして、真実と嘘を織り交ぜつつ良美は病院から逃げてきた事をアピールした。
その事実に驚きを隠せない乙女。後ろの面々も、困ったような表情を浮かべていた。
しえん
支援!?
「ならば、商店街にあるだろう薬局で何とかするしかないか」
「駄目ですよ! あの男がこっちに来ているかもしれません!」
「そ、そうだよ乙女さん!」
後ろの少女が、背中から乙女を押し留める。
振り払うわけにもいかず、乙女は薬局へ向かう勢いを静めた。
「でも、治療しないと乙女さんも大石さんも大変だよ?」
「そ、そうですね、はぁはぁ……そろそろ、私もマズ、いかも知れません」
もう一人の少女と小太りの男が、良美に意見する。
「はい。そこで私に考えがあります」
四人の注目を浴びて、良美は優しく微笑みかける。
「私が薬局まで行って薬を取ってきます」
その言葉に最初に驚いたのは乙女だった。
「いかん佐藤! お前一人では危険だ……ぐぅ」
力んで腹部の痛みが強くなったのか、乙女は顔をしかめる。
「だって、鉄先輩はそんな怪我だし……えっと」
チラッと後ろの面々を見る。
「あ、ああ。お、大石です」
「月宮あゆです!」
「み、水瀬名雪……」
名乗りを挙げた三人に微笑み返すと、考えていた内容を全員に告げる。
「佐藤良美です。鉄先輩と大石さんは怪我しているから除外、二人を見守る人間が必要だから、その人も除外」
「あれ、一人余るね?」
あゆと名乗った少女が首をかしげる。そこに、良美は言葉を続けた。
「もう一人にも怪我した二人を見守って欲しいの。一人だと何があるか分からないし……
それに、襲ってきた男の顔がわかるのは私だけ。だから、危ない時にはすぐ逃げられるよ」
彼女達の手を握って安心である事と証明する。そんな良美に、乙女は頭を下げる。
それにつられて、あゆと名雪も頭を下げた。一人、大石だけは笑いながらこちらを見ていた。
「すまん佐藤……だが、無理はするなよ」
「大丈夫ですよ。それじゃあ、皆さんはあそこの民家で休んでいて下さい」
指差した民家は、ごく一般的な平屋の建物だった。
確かに、路面で帰りを待つより建物で体を休めたほうが良いだろう。
「あと、もしかしたら商店街にみなさんの知り合いがいるかも知れません。良ければ教えていただけますか?」
支援
支援
良美の質問に、あゆと名雪は口を揃えて相沢祐一の名前を挙げる。話を聞く限り利用出来そうな男で喜ばしい。
そして驚いたのは、大石と名乗る中年と前原圭一が繋がっていた点だ。
(今から圭一君を消すのは無意味だけど、下手に合流されたら私の嘘がばれちゃうな)
大石の視線は、良美にとってあまり良いとは思わなかった。
あゆや名雪に向けている視線と違い、良美に向けられている視線はどこか気に入らない。
けれど、聞き出せた情報は中々に面白かった。
彼の話を真に受けるならば、赤坂衛という人物は大いに利用価値のある男となる。
そして最後に、ハクオロなる仮面の男。これだけは警戒しないと危険だ。
あらかた情報交換し終えると、最後に駄目でもともとな願いを投げかける。
「そう言えば、誰か服とか支給されませんでしたか?」
その疑問に名雪がゆっくりと手を挙げる。
「あ、私支給されたよ」
そう言ってデイパックから取り出したのは巫女服だった。
良美は苦笑いを浮かべるが、今の服よりもだいぶマシだ。遠慮がちに名雪にねだってみる。
「良ければ、私に譲って貰えないかな?」
「あ。うん。どうぞ」
疑問も持たず、名雪は良美に服を手渡す。今着替えるわけにもいかないので、それをデイパックに詰め込んだ。
「じゃあ佐藤。くれぐれも気をつけてな」
励ましの言葉を述べた乙女を先頭に、大石と名雪が民家へと向かう。
「あ、あ〜佐藤さん、私、苦いお薬、って、嫌いでし、てね……」
「大石さんは怪我人なんだから、好き嫌いは駄目ですよ〜」
大石は何か言いたげだったが、隣で支えていた名雪が促したため背を向けて去っていった。
そして、一番最後に残ったあゆを良美は小声で呼び止める。
「月宮さん……で良いかな?」
「あ、うん。あゆで良いよ」
すっかり友好的なあゆに対し、良美は社交的な笑顔で言葉を続けた。
「呼び捨てだと何だから、あゆちゃんって呼ぶね。それであゆちゃん、渡しておきたいものがあるんだ」
「?」
良美はデイパックから透明な500ml非常用飲料水を取り出す。
あらかじめ、赤い警告の文字が入ったラベルをはがしておいた。
「私の支給品でね。怪我に良く効くって書いてあるから、あの二人に飲ませてあげて」
しえん
私怨
しえん
「え、でもどうして?」
不思議そうに、なぜ最初から乙女に渡さなかったのかと言いたげな表情を見せる。
そんなあゆの耳に、こっそりと嘘を打ち明ける。
「乙女先輩って、臭いの強い飲み薬苦手なんだ。大石さんも、苦い薬は嫌だって言ってたでしょ」
「あ、うん」
「だから……ばれない様にこっそり。ね」
あゆの手を握り友達に用事を頼むように綺麗な声で止めを刺す。
このあゆならばともかく、大石という男がこのままコップに出して飲むかは不確定だ。
なら、臭いや違和感を消し去るお膳立てが必要だろう。
「血を失ってるなら、肉とか食べさせてあげると良いよ。その時に、お茶にでも混ぜて出してあげてね」
肉類はどう調理しても臭いが出る。それに、食事と一緒にコップが並んでも不自然ではない。
そんな細かい配慮を知らず、あゆは良美の手を元気一杯振るった。
「ありがとう! 佐藤さんも気をつけてね!」
ペットボトルを自分のデイパックにしまい、3人のもとへと向かう。
最後にこちらを向いて大きく餌を振ってきた。それを、笑いながら手を振り返す。
(ふふ。馬鹿な子)
あゆと結んだ手をハンカチでふき取り、本当の笑みを心に隠す。そして良美は商店街の方向に足を向けた。
だが、ある程度歩いたところで曲がり角を曲がり、来た方向に戻り始めた。
(残念ね。薬は永遠に届かないわよ……)
先程の場所を大きく迂回し、4人の入った民家を監視できる場所で待機する。
失敗するとは思わないが、念には念を込めておく。
◇ ◇ ◇ ◇
民家にあがり、名雪とあゆは初めに寝室らしき所を探し出した。
入ってみるとシングルベットが三つあり、大石も余裕で寝られる。そこに乙女と大石を慎重に運び込む。
一番奥に乙女、真ん中には大石を寝かせる事にした。頭側の壁にはコルクボードが掛かっている。
余った入り口付近のベットに、それぞれのデイパックや荷物を置いておく。
薬が届くまでやれる事はたくさんある。まずあゆは家に備えてあった救急セットを探した。
その間、名雪は洗面所で乾いたタオルと濡れタオルを何本かこしらえる。
持ってきた救急セットに入っていた痛み止めを飲ませ、包帯とガーゼで傷口を清潔にする。
二人とも酷い怪我のため、家に備えてあったガーゼや包帯はすぐにそこをつきてしまう。
そのため、名雪は近くの民家に行って包帯をかき集めてくると言い出した。
あゆは、心配そうな顔で玄関へ向かう名雪を見送る。
「うぐぅ……やっぱり危ないよぉ」
「へっちゃらだよ。あゆちゃんこそ、二人をよろしくね」
玄関の扉を開け、家から出て行く名雪。
先程までのあゆ達に会う前の、怯えた名雪からは想像も付かない状態の変化だった。
彼女を駆り立てるのは、乙女と大石を助けたいという気持ちから来ている。
千影以外に初めて出来た仲間達の存在は、それほど大きかったのだろう。
そんな名雪を送り出し、あゆは二人の休む寝室に戻る。
寝室では乙女と大石が今後の方針を打ち出していた。
その会話を邪魔しないように、乙女の汗を拭いたり大石の背中をさする。
そして、最後の包帯で大石の腕をしっかり巻き終えると、突然立ち上がった。
「乙女さん、大石さん。お腹すいてませんか?」
「……確かに、昨夜から何も食べていないからな」
「わ、わたしも、っぁ、歩きど、どおし、でした」
その言葉にあゆは顔を輝かせる。
「じゃあ、ボク何か用意してくるよ!」
「頼む。あ〜……あればで構わんから、優先的に肉類など探してくれないか」
「そ、そう、ですねぇ〜。血が、かなり、はぁ……無くなってますから」
乙女の腹部に巻かれた包帯も、大石の腕に巻いた包帯も真っ赤に滲んできている。
どちらも想像以上に出血しているのは、素人のあゆでも解かる。
「うん! 任せてよ!」
力強く頷いて、寝室から駆け出して出て行く。
なぜかデイパックを持って出て行ったが、慌てていたのだろうと乙女は納得した。
そんなあゆを送り出した乙女は、先程中断した話を再開させる。
「つまり、そのハクオロと言う男と一緒に居たのが」
「神尾、観鈴……です、ね」
大石との会話の要点をメモし終えた乙女は、それをテーブルの上に置く。
あゆに教えてやりたいが、そろそろ意識も朦朧としかけている。
だから、万が一の事を考えてメモを残す事にしたのだ。
≪オウムも参加者。念のため注意 ――鉄乙女≫
≪国崎往人の探す神尾観鈴は、ハクオロなる仮面の男と一緒 ――鉄乙女≫
≪赤坂衛は刑事。信頼できる数少ない男 ――大石蔵人≫
≪双葉恋太郎、一之瀬ことみ、時雨亜沙は殺し合いに乗っていない可能性あり ――大石蔵人≫
≪前原圭一と古手梨花は一度死んでいる ――大石蔵人≫
簡潔に書いたメモを、頭の上にあるコルクボードに貼り付けた。
「出来れば、口頭で伝えたいものだ」
「なはは」
お互いの顔色が青くなっているのに苦笑しながら、二人は体を休めるため横になった。
◇ ◇ ◇ ◇
しえん
台所の冷蔵庫を開けながら、あゆは素直に感心していた。
(佐藤さんって凄いなぁ〜。肉が食べたいって事まで当てちゃうんだもん)
寝室での二人の注文は、直前に良美から聞いていた内容とほぼ同一。
あゆの中で、良美の株はうなぎ登りだった。と、デイパックからペットボトルを取り出し冷蔵庫にしまう。
本当の中身を知らないあゆは、上機嫌に冷蔵庫の中を探った。
練習したものの、料理の腕はまだまだ半人前。それに、なるべく時間が掛かるものは避けたい。
冷蔵庫からハムを取り出すと、今度は冷凍庫を覗き見る。
「ピザに、焼き鳥にハンバーグだ! あ、鯛焼きは〜……うぐぅ」
頼まれた肉類は見つかったが、好物の鯛焼きはどこにも無かった。
「お米は無いけれど、これだけあれば十分だよね」
火に掛けて解凍できる物は水を張った鍋に、レンジが必要なものはまとめて放り込んだ。
その合間に、棚から水出し様の麦茶パックを取り出し麦茶を作る。
冷蔵庫から、冷やしておいたペットボトルを取り出す。
(あまり薄くしないほうがいいのかなぁ)
ボトルの蓋を開けるが、特に臭いなどする気配はない。
飲んでみたいが、せっかく良美がくれたものを味見するのも気が引ける。
だから、指示通り薬が乙女達に判からないよう、ボトルに折りたたんだ薄い麦茶のパックを詰め込む。
「これなら、薄めるわけじゃないし臭いとかも平気だよね」
やがて透明から茶色へと変わるのを確認すると、二つのコップに注ぎ込んだ。
同時にレンジも軽快な音を鳴らして、中の焼き鳥とピザが温まったのを告げる。チーズとタレの匂いが食欲をそそる。
また鍋も沸騰して、取り出した中のハンバーグが湯気を立て顔を出す。
それらを二枚の皿にまとめて、お盆に載せる。薬を入れたコップも忘れない。
こぼさないように、ゆっくり運ぶ。危なっかしい場面もあったが、なんとか寝室まで到着する。
「お待たせしました〜」
あゆの声に、横になっていた乙女と大石が、体を労わる様に起き上がる。
出血はまだあるようで、滲んだ血がベットにも付着していた。
「あ、二人ともベットにいて良いよ〜」
這い出てこようとした乙女をベットに戻し、その手に食べ物を盛った皿を渡す。