ギャルゲ・ロワイヤル 作品投下スレ2

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442名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:26:45 ID:Qcs/Q5oO
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443名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:27:55 ID:taIN2YXP
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444そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:28:36 ID:WaOcFjUl
四葉は、突然辺りが暗くなって驚いてしまった。前後の記憶の曖昧である。
意識が朦朧としていて、今時分が何をしているのか把握できていない。
と、すぐ傍で誰かが立っているような気がした。
「兄チャマ?」
「…………ああ」
呼びかけると、それは四葉の兄だった。
眠たいのか目が開けられず、聞こえてくる声も遠かったが、それでも大好きな『兄』だった。
「兄チャマごめんなさいデス。四葉、眠くて目が開けられないのデスよ〜」
「そうか」
「でも、せっかく兄チャマが一緒にいるのだから頑張って起きるデス」
「いや。そのままでいい」
「そうデスか? あ、そう言えば兄チャマにご報告があるのデス!」
「……」
「四葉、本物の探偵さんの生徒になったのデス。これで四葉も探偵に一歩近付きましたデスよ」
「ああ……ッ」
四葉の顔に、幾つかの雫が落ちる。
「兄チャマ大変デス。雨が降ってきましたデスよ」
「大丈夫……よ、四葉が濡れない様に俺が傘に……なる」
それでも、落ちる雫は止まらなかった。
「あ、久しぶりなのデス」
けれど、四葉は嬉しくて濡れる事など忘れて喜んだ。
「兄チャマが四葉の事を呼ぶのが……懐かしく……聞こえ……」
「すまない。すまない!」
何かを詫びる様な兄の声。その声を頼りに、四葉はそっと手を伸ばした。
そして、兄の頬に手を当てる。
「兄チャマ……も……風邪ひく……デス」
その頬に触れた手を兄は力強く握り返す。
「ゆっくり休むといい。おやすみ……四葉」
「お……やすみ……なさい……デス」
そして、四葉は二度と目覚めぬ眠りについた。
445そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:30:21 ID:WaOcFjUl




物言わなくなった四葉に、兄を名乗ったオボロは泣いていた。
額から矢を抜き取り、胸に手を組ませる。
もう引き返せない。大切な『妹』を手にかけ光ある場所に戻ろうとは思えない。
あとはただ進むだけである。進むしかない。
オボロの目指す先には、許される事の無い修羅の道しか見えないのだから。
ただ孤独のまま、オボロはここから去っていった。
目指すは西……ハクオロの声が聞こえた方向へ。


     ◇     ◇     ◇     ◇



校門から飛び出し、しばらく身を潜めていたハクオロと観鈴は北西を目指していた。
まずこの島の情報を得たいと提案したハクオロに対し、観鈴は博物館と役場を挙げた。
博物館をならば島にまつわる物が展示してあるだろうし、役場は資料が沢山あった。
それに、食料や安全区域を確保するためにも百貨店に行く必要がある。
最終的には博物館を経由し役場。その後百貨店へとの考えをまとめ、二人は走り続けていた。
だが、男であり大人であるハクオロと違い観鈴の体力は少ない。
しばらくは持っていたが、観鈴が苦しそうな表情になった所で走るのを止めた。
「大丈夫か観鈴」
問いかけるハクオロに対し、観鈴はVサインを作って答えた。
「にはは。大丈夫」
無理やり笑顔を作るが、どうみても疲れきっている様にしか見えなかった。
新市街まで距離はあるが、少なくともあの四人は巻いたはずである。
近くにあった平べったい岩に観鈴を座らせ、自身も適当な岩に腰を下ろした。
446名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:30:34 ID:kUkeDyIF
 
447名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:30:49 ID:taIN2YXP
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448名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:31:30 ID:kUkeDyIF
 
449そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:31:53 ID:WaOcFjUl
「少し休もう。実は私も疲れてしまってな」
実際にはまだ走れるが、休憩を取りたいのも事実だった。
そんなハクオロを見て、観鈴は頭を下げる。
「ごめんなさいハクオロさん」
「ん?」
「私のせいでこんな事になって」
しょぼくれる観鈴。だが、ハクオロは優しく諭した。
「いや、むしろ感謝している。こうやって志同じくする人間と会えたのだからな」
「が、がお……」
泣きそうな顔を伏せ、いつもの口癖を言ってしまう。だが、叩いてくれる者はそこにはいない。
「往人さん……無事かな」
「大丈夫だ。聞けばその青年、方々を巡って旅をしているらしいな。そんな男ならこの状況でも生きられるさ」
もちろん、その言葉に根拠は無い。それでも、観鈴を安心させる事がハクオロにとって大切なのだ。
「うん。私信じる……往人さんと、私を信じてくれたハクオロさんを」
「ありがとう。観す――誰だ!?」
何者かの気配を感じ、観鈴を庇うように立ち上がる。
すると、二人の向かっていた方向から一人の男が現れた。
「いや〜お邪魔でしたかな。んっふっふ」
男は笑いながら二人に近付く。
「何者だ?」
「ああ、警戒しないで下さい。私怪しい者ではありませんよ」
そう言って、警察手帳を取り出す。
「私……××県警興宮警察署の大石蔵人というものです」
エスペリアにしたように、大石はいつも通りに名乗った。
警察手帳が解からないハクオロだったが、観鈴はそれが何を意味するか解かっていた。
「警察官さん?」
「はい。そうですよお嬢さん」
「警察? 大丈夫なのか観鈴」
「はい。えっと、私の国では市民を守ってくれる人達です」
「民を守る……なるほど」
450名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:32:26 ID:taIN2YXP
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451そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:33:11 ID:WaOcFjUl
ハクオロが頷くのと同時に、大石は再び喋り始めた。
「ところで、よろしければお二人のお名前を聞かせていただきたいんですが」
即座にハクオロに目を向ける観鈴。しばらく考えたハクオロは、名乗る事を決めた。
「私はハクオロ。この少女は観鈴だ」
「神尾観鈴です」
「いやいや。これはご丁寧にど〜も」
顔こそ笑っているが、その視線はハクオロを強く刺したままだった。
いたたまれなくなった観鈴が、ハクオロの袖を掴む。
(とは言え、こう怯えている観鈴を前面に出す訳にはいかんな)
大石の視線から観鈴を遮るように、ハクオロが立ち塞がる。
「ところで……二、三お聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか」
「……内容によるな」
「あ〜、一つ目は赤坂衛という男性、または前原圭一と言う少年を探しているんですが。ご存知ですか?」
観鈴もハクオロも横に首を振る。もっとも、ハクオロは後者の名前に聞き覚えはあったがそれは伏せた。
(あのタカノと女性に向かって叫んだのが確か……)
だが、あれっきり前原圭一を見たことは無い。だから、これは嘘ではなかった。
「そうでしたか、んではもう一つ。あなた方、最初に飛ばされた場所はご存知で?」
「私は学校の近くだな」
「わ、私もです」
そう答えると、大石は地図に何か書き込み唸り声をあげる。
「なるほど〜。決して一マスにつき一人配置ではない……と」
「どう言う事だ?」
「あ〜いえ、この地図ご丁寧に64マスに区分けしてあるので、一マスに付き一人と思っていたんですがねぇ」
顎に手をやり考え込む。やがて地図をしまうと、再び喋り始める。
「こんな事を聞くのもなんですが、宜しいでしょうか?」
「手短に頼む」
どことなく気の置けない大石に対し、ハクオロは強く警戒していた。
「ええ、ではお聞きしますが……お二人は、死んだ人間が生き返るなんてことがあると思いますか?」
大石の唐突な質問に虚を突かれる。
「死んだ人間が」
「生き返る?」
二人は合わせた様に呟く。どちらも、言葉の真意を計りかねていた。
452名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:33:43 ID:taIN2YXP
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453名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:34:31 ID:kUkeDyIF
 
454そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:34:46 ID:WaOcFjUl
「いえ、実はこの島にいるんですよ。死んだはずの人間が」
「ッ!!」
「何を根拠にそんな事を」
怖がる観鈴を抱きとめ、ハクオロは大石を睨んだ。
「まぁまぁ、その人間ってのが、先程聞いた前原圭一なんですよ。他にも古手梨花、園崎詩音もそうですね」
言葉が出なかった。もし大石の言う事が事実なら、タカノに食い掛かった前原圭一は誰なのだろう。
「もし、お会いしましたら大石が探していたとお伝え下さい」
言い終わっても、大石の目線はハクオロから外れなかった。
「そうそう。追加でもう一つ宜しいですか?」
「何だ?」
「なぜ、お二人は急いでおられたのですか?」
「それは……」
正直に言うべきか言い淀む。そんなハクオロを見た観鈴は、前に出て喋りだした。
「私達、学校にいた他の人たちから逃げてきたんです」
「それはどうして?」
「あ、あの……それは」
「そこにいた四人が、この殺し合いに乗っているかもしれないからだ」
キッパリと言い切る。だが、大石は疑いの目を向けたままだった。
そう、この時点でようやくハクオロは気付いたのだ。大石の目が友好的でないことに。
「本当にそうなのですか? もしかして、貴方が先に何かなさったのでは?」
言葉を濁し「襲い掛かった」とは言わない。だがその目は語っていた。
大げさな大石の態度を流し、こちらも正面から相手を見据える。
「ちょっと見て来ましょうかね。現場を見ないことには分かりませんから。んっふっふ」
ハクオロは困っていた。もし大石が一緒に学校まで来てくれと言い出したら、逃げた意味が無い。
ついていくのを拒んではこちらが怪しまれるし、拒みきれても無駄な時間を消費してしまう。
かといってこの場から逃げ出したくても、観鈴が居ては逃げ切れない。
悩みに悩んだ末、ハクオロはある決心をした。
455そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:35:46 ID:WaOcFjUl
「私達は何もしていない。それが信じられないなら」
そう言って、デイパックから銃を取り出す。それを見た大石は、警戒して後ろに跳びさがった。
だが、ハクオロは銃を構えずに地面へと投げた。
「ぉ?」
「その銃を貸そう。確かめて、もし私の言っている事が嘘ならば、追いかけてきて撃つといい」
「……いいでしょう。貴方を信じます」
そう言って、銃を懐にしまう大石。
「ならば私達は行く。さ、観鈴」
「は、はい!」
「あ、最後にもう一つ……これからどちらへ?」
信じたものの、心のどこかでは信じ切れていないのが良く分かった。
「新市街地だ」
そう言って、ハクオロと観鈴は走り出した。
それを見送った大石は、二人の言った事を確かめるため学校を目指し歩き出した。



     ◇     ◇     ◇     ◇


456名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:36:58 ID:taIN2YXP
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457そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:37:18 ID:WaOcFjUl
校門を出た三人が見たのは、二度と目を覚ます事の無い四葉の遺体だった。
「四葉ちゃん!」
駆け寄った亜沙は、四葉を抱きかかえ必死で呼びかける。
「ねぇ! 返事して! 四葉ちゃん!!」
その横で、静かに震えることみ。目には、涙を浮かべていた。
恋太郎は、間に合わなかった事を悔いた。しかし涙は流さない。
「まだ、近くにいるかもしれない。ここは危険だ」
「……」
「とりあえず、一度校舎に戻ろう」
「……して」
「え?」
「どうして恋太郎さんは平気なの!? 四葉ちゃん、死んじゃったのよ!」
「分かってる」
「なら、どうしてそんなに冷静でいられるの!? おかしいよ!」
「俺だって悔しい!」
「!!」
「だがな、ここで俺達がすることは泣き続ける事じゃない」
四葉のデイパックを取り、校舎に戻る事を促す。
「これをやった奴……四葉の見た二人組を見つけて」
直情的になりそうな頭を必死で冷ます。短絡的な思考は危険である。
「見つけて……詫びを入れさせよう」
「ぐすッ……ぅぅ」
「亜沙さん」
泣き続ける亜沙をことみは強く抱きしめる。亜沙も、ただただことみを抱きしめるしかなかった。
一緒に居た時間は少ない。それでも、その死は衝撃的で悲しかった。



458名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:38:21 ID:taIN2YXP
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459そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:39:58 ID:WaOcFjUl
三人で用具室に戻り、スコップを片手に四葉の元に戻ってきた。そして、黙々と穴を掘り始める。
やがて、ひとが一人入る穴になると、三人は四葉をゆっくり持ち上げ、その中に埋めた。
その顔は、どこか安らかで笑顔を浮かべているように見えた。
最後に、近くにあった太い枝を盛った中心に刺し、近くにあった花を添えた。
その墓に黙祷を捧げる三人。だが各々の考えはまるで別々だった。
(四葉。悪かったな……先生として、探偵のイロハ教えられなかった)
(四葉ちゃん。ゆっくりお休みして欲しいの)
(ボク……仇を撃つからね。必ず!)
やがて黙祷を終え、立ち上がる三人の後ろから声がかかった。
「おや〜、聞いていたより一人少ないですね」
その声の主は、森の中からひょっこりと姿を現した。
「んっふっふ。こんな島で何度も人に会うのは珍しいですね」
その笑い方は、恋太郎や亜沙の神経を逆撫でる。
男は三人とは違い余裕の表情で歩み寄ってきた。
「どうして知っているの?」
最初に言葉を発したのはことみだった。
「どうしてことみ達が「四人」だって知ってたの?」
その言葉に身構える恋太郎と亜沙。双方に緊張が走る。
「ありゃ、失言でしたかな。しかし鋭いですねお嬢さん。もしかして探偵さんか何かですかな?」
「探偵は俺だ……」
噛み合っているようで噛み合わないやり取り。亜沙は、銃のトリガーに指をかけた。
「おおっと、撃たないで下さいね。二、三聞きたいことがあるだけなんですから」
と、顎に手をやった大石の腰の銃を、恋太郎は見逃さなかった。
(アレは――四葉が俺にくれたS&W M60か!)
これでほぼ確定だった。校庭から逃げ去り、四葉を殺したのはおそらくこの男である。
同じように銃に気付いたことみは、指示を仰ぐように恋太郎を見つめていた。
とりあえず男の隙を付いて銃を奪い返したかったが、どういう訳か隙が無かった。
ただ立っているのに、いつでも臨戦態勢をとれる状態なのだ。
無言の睨みあいが続くと思われたが、男の銃に気付いてしまった亜沙が最初に動いた。
亜沙はイングラムM10を大石に向けると、躊躇せず発砲した。
460名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:40:07 ID:taIN2YXP
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461そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:42:07 ID:WaOcFjUl
「四葉ちゃんの仇ぃぃ!!」
「やめろ亜沙!」
小気味いい音をたて銃口が火を噴く。だが、反動に耐え切れない亜沙は、地面に尻餅をついてしまう。
狙いも外れ、撃ったほとんどの弾があらぬ方向に飛び去っていく。
一方の男は、亜沙が撃ちなれていない事を見抜いたのか冷静にそれを避け亜沙に近付く。
亜沙の危険性を感じ取った恋太郎は、ことみから鉈を奪い取り大石に飛び掛る。
その攻撃を回避し、恋太郎の額に銃口を突きつける。
「いやはや。撃たれるとは思いませんでしたよ。なはは……あ、手は挙げてくださいね」
「くっ……」
余裕のある男と違い、恋太郎は背中から滝のような汗を流していた。
「俺達をどうするつもりだ」
「いえ、お話を聞きたかったんですが……どうやらそう言う訳にはいかないようですね」
尻餅をついていた亜沙は、今度こそ大石に狙いを定める。
だが、恋太郎を盾にするように立ち位置を変えるため発砲できない。
ことみも、動こうとすれば恋太郎が撃たれるのが分かっていたため動けない。
「先に聞かせろ」
「なんですか?」
「あの観鈴という女の子はどうした?」
「さぁて、どうして私に聞くんですかねぇ?」
「とぼけやがって」
「逆にお聞きしますが、もう一人はどこに行ったんですか?」
男の問いに違和感を感じる。
(まただ、何でこいつはこんな事を聞く? 殺したなら分かっているはず)
頭をフルで回転させる。必要なピースは揃っているはず。
(もしかして、殺したのはこの男じゃない?)
それならば、男の言動も辻褄が合う。試しに質問を投げかける。
「どこで四人だと知った?」
「ああ。貴方達から逃げる二人組からですよ」
462名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:42:51 ID:taIN2YXP
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463そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:45:36 ID:WaOcFjUl
(やはり)
今まで組み立てていた推理を一度崩す。恋太郎は慎重に切り出した。
「あんた騙されたな」
「は?」
「俺達の仲間を殺したのはそいつら……いや、男の方だ」
「……なんですって?」
その言葉に食いつく。僅かながら動揺しているのが分かる。
「さらに言えば、男か女の態度がおかしくなかったか?」
「むむ」
男は考え込む、こうなるのも恋太郎の考えのうちだった。この状況でこう言えば、大抵の人間は悩む。
さらに、恋太郎の中ではこの目の前の男はこちらを殺すつもりがないのも薄々感じ始めていた。
しばらく思案した男は質問を切り返す。だがそれも、恋太郎の計算の内だった。
「証拠は?」
「そのS&Wは俺が仲間から預かったものだ。弾もある」
そう言って、デイパックから予備の弾を取り出す。
「ふむ。確かに同じですね……これはまた」
そう言って、額に当てていた銃口を外し、差し出された弾を確認する。その瞬間を亜沙は見逃さなかった。
あと少しという所だったが、恋太郎の計算は仲間によって破られた。
「今だぁッッ!」
「駄目だ、やめ――」
亜沙を止めにかかるが、男にグリップで殴られ額が割れる。さらに、男は恋太郎を蹴り飛ばした。
恋太郎が離れた隙を狙ったつもりが、逆にまた男と亜沙の間に投げ出された恋太郎を見て躊躇してしまう。
男は、最初から恋太郎が隙を作るため喋っていたと判断していたのだ。
撃つに撃てない亜沙を尻目に、今度こそ男はトリガーを引いた。
だが、銃声は鈍い怒声を鳴り響かせ、次の瞬間には男の呻き声に変わっていた。
「ぐむぅ! むうぉう……」
「ぐおぉぉあああああ!!」
亜沙とことみが見たのは、二の腕から先が散ってしまった男と、目を押さえ地に伏す恋太郎だった。



     ◇     ◇     ◇     ◇
464名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:48:33 ID:taIN2YXP
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465そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:48:45 ID:WaOcFjUl



大石が発砲したのは、威嚇を意味してだった。
もともと当てるつもりはない。相手は素人なのだから、体一つで抑えられるはずだった。
だが、その結果は悲惨なものだった。
大石の片腕は半分吹き飛び、詰問していた男は目から血を流し気絶している。
二人の少女は、何が起きたのか分かっていない。どうしてこうなったか大石は気付いた。
(ぐぅ、っつぅ、暴発したみたいですね……)
そして、その怒りはハクオロに向いていた。
(道理で銃を手放すわけです。最初からこれが狙いでしたか)
確かにああすれば、大石の信頼も一時的にとれるし、何よりその場から離脱できる。
その後大石が発砲しようがしまいが、ハクオロには関係なかったのだ。
(よくよく考えてみりゃ、あのお嬢さんを喋らせないよう遮ったのも頷けるか)
目の前の男の情報と、大石の考えが同じ方向を示し始める。
血が流れ続ける片腕を抑え、大石は目の前の男に近付いた。
それを庇うように、銃を持って居なかった少女が立ち塞がる。
傷口を見て青くなりながらも、その場を引かない強い意志を瞳に宿していた。
どうやら、銃を持っていた少女は校舎に向かったらしい。
「なにも……しませんよ。む、むしろ、手当てして欲しいくらいです……っだだ」
「どうして撃ったの?」
「いえ、あつ、ぐぁ、い、威嚇のつもり……だったんですが、ぅつッ」
「原因は暴発?」
466そこには、もう誰もいない ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/04(月) 23:50:46 ID:WaOcFjUl
「よく、ご存知です……あー、あだッ、ねぇ」
「銃を貴方に渡したのは」
「貴方達が……ごふッ、追ってた男の方です。どうやら、ッ私はめられたみたい、ッです」
「名前と特徴は?」
「女の子が神尾観鈴さん……でしたかな。男の、ぐふん、方はハクオロ」
「ハクオロ……」
「仮面付けて着物、ごぶッ、みたいな姿で……新市街に行きましたっ、よ」
尋問されていたのに気付かず、大石は聞かれた事を全て話していた。
「ちょっと、私でも、辛い、はッ」
咳き込みつつも、手馴れた手つきで応急処置を施す。
そして無くなった腕の先を抑え、その場から去っていく。
「どこにいくの?」
「いえ、病院まで、はぁ、行くんですが……来て下さいますか?」
大石からの質問に、ことみは寂しそうに首を横に振る。
「そうですか。では、ッぁ、さ、さようなら」
「さようなら。あ、お名前聞いてなかったの」
「なはは。大石……蔵人ですよ、お嬢さん」
ゆったりした動きで、大石はふらふらと立ち去って入った。



     ◇     ◇     ◇     ◇


467名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:50:55 ID:taIN2YXP
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468名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:52:43 ID:kUkeDyIF
 
469名無しくん、、、好きです。。。:2007/06/04(月) 23:54:08 ID:kUkeDyIF
 
470そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:00:50 ID:StAWluI+
ことみの指示通り、亜沙は保健室に向かった。
そこで、保健室から持てるだけの包帯と消毒液、タライ、痛み止め、それと救急セットをデイパックに詰め込む。
最後に、給水室にあった薬缶に水を汲み、それもデイパックに詰めた。
恋太郎とことみの所に戻ると、先程の男は居なくなっていた。
「あの男は!?」
「歩いていっちゃったの。病院に行くって」
「そう」
安心したのか、亜沙は座り込んで恋太郎の目をタオルで拭く。
割れた額の止血はすんだが、目の方は素人の判断では難しかった。
「ん」
何度か目を拭いたところで、恋太郎は目を覚ました。
「ここは……ってぇ」
「あ。お薬どうぞなの」
「これ、お水」
そんな二人から水と薬を受け取ろうとしたが、目に違和感を感じる。
目は開けているつもりなのに、二人の姿がぼやけて見える。
「なあ、俺の目……開いてるか?」
質問の意味が分からない亜沙。逆にことみは俯いてしまう。
「おめめ、見えてない?」
ことみの言葉に、恋太郎は納得した。今、自分は目を開けているのだ。
恋太郎の目を近くで見たことりは、その事実を突きつけた。
「たぶん、網膜剥離だと思うの」
「え!?」
「ああ、やっぱりそうか」
先程の男が撃った銃の暴発で、目に何かが飛び込んできたのは分かった。
咄嗟に避けたつもりだったが、無事ではすまなかった。
「ど、どうするの?」
「参加者に医者がいればいいが、名簿だけじゃ分からないしな」
「知識はあるけど、治療は出来ないの」
「いや、ことみの応急処置には感謝してるさ。それより、あの男何か言ってなかったか?」
471そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:01:36 ID:StAWluI+
恋太郎の言葉に、ことみは先程のやりとりを聞かせる。
恋太郎の目に包帯を巻いていた亜沙は青くなり、自分の早とちりを後悔した。
「ごめん……ボクのせいだ」
「いや、亜沙は悪くないさ。そう自分を責めるな」
「でも――」
「それより、これからどうする?」
恋太郎の唐突な質問にキョトンとする。
「俺はそのハクオロって男を追う。観鈴って子も心配だし、四葉に詫びを入れさせたい」
「私も恋太郎といっしょ」
「ぼ、ボクは……」
亜沙は悩む。稟や楓など知り合いを探すべきか。だが、その考えはすぐに捨てた。
「ボクも一緒に行くよ!」
「そっか……じゃあ」
恋太郎はことみの手をかり、四葉の墓の前に立つ。
「いってくるぜ四葉」
「いってきますなの」
「待っててね。四葉ちゃん」
三人の顔を朝日が照らす。今、心は一つになった。




あれだけ騒がしかった学校……そこには、もう誰もない。





【四葉@Sister Princess 死亡】
472そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:03:58 ID:StAWluI+




【D-3 映画館の北側周辺/1日目 早朝】



【エスペリア@永遠のアセリア】
【装備:木刀】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。
基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。
1:大石との話が終わったので『映画館』という所に行ってみる。
2:悠人、アセリアと合流。
【備考】
大石の話した「死人がいる」という言葉をどう受け止めていいか迷っています。
473そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:04:54 ID:StAWluI+



【D-3 映画館の南側周辺/1日目 早朝】


【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:やや疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・観鈴と新市街へ向かう。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4・観鈴を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
474そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:05:48 ID:StAWluI+



【神尾観鈴@AIR】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】
【状態:疲労大】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと行動する。
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識



【D-4 神社付近/1日目 早朝】


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残8/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】
【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】
【思考・行動】
0:ハクオロの声の聞こえた方向(西)を目指す。
1:エルルゥを殺した犯人を殺す。
2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)
※四葉を殺した事を未だ後悔しています
475そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:06:35 ID:StAWluI+


【F-4 住宅街外れ/1日目 早朝】


【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:右肘から先を損失。疲労大】
【思考・行動】
基本:不明
1:治療のため病院へ。(厳しいなら商店街の薬局へ)
2:1の後、別の場所に行く。
3:赤坂衛、前原圭一と合流。
【備考】
※綿流し編終了後からの参加です。
※ハクオロを敵視。観鈴がどういう立ち位置かは考えていない
476そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:07:45 ID:StAWluI+



【E-4 校門の外/1日目 早朝】



【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、参加者の術、魔法一覧、.357マグナム弾(40発)、四葉のデイパック】
【状態:失明。額に傷。肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと観鈴を追う
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いや亜沙の知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません


【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎と共に二人を追う
2・恋太郎たちと行動を共にする
3・朋也たちが心配
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
477そこには、もう誰もいない ※代理投下:2007/06/05(火) 00:08:34 ID:StAWluI+


【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾25発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎やことみと共にハクオロと観鈴を追う
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す
【備考】
※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
478そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:22:57 ID:LlpVdYzs
あれだけ騒がしかった学校……そこには、もう誰もいない。





【四葉@Sister Princess 死亡】





【D-3 映画館の北側周辺/1日目 早朝】



【エスペリア@永遠のアセリア】
【装備:木刀】
【所持品:支給品一式、他ランダムアイテム不明】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本1:ゲームには乗らず、スピリットとして人間のために行動する。
基本2:人間と戦ったり、傷つけたくはないが、万一の場合は戦う。
1:大石との話が終わったので『映画館』という所に行ってみる。
2:悠人、アセリアと合流。
【備考】
大石の話した「死人がいる」という言葉をどう受け止めていいか迷っています。



479そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:24:20 ID:LlpVdYzs
【D-3 映画館の南側周辺/1日目 早朝】


【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:やや疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・観鈴と新市街へ向かう。
2・エルルゥ、アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3・仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4・観鈴を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
480そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:25:07 ID:LlpVdYzs


【神尾観鈴@AIR】
【装備:Mk.22(7/8)】
【所持品:支給品一式、おはぎ@ひぐらしのなく頃に(残り3つ)、Mk.22(7/8)・予備マガジン(40/40)】
【状態:疲労大】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと行動する。
2・往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識



【D-4 神社付近/1日目 早朝】


【オボロ@うたわれるもの】
【装備:クロスボウ(ボルト残8/10)】
【所持品:支給品一式(他は不明)、エルルゥのリボン】
【状態:全身に擦り傷・中程度の疲労】
【思考・行動】
0:ハクオロの声の聞こえた方向(西)を目指す。
1:エルルゥを殺した犯人を殺す。
2:ハクオロ、アルルゥ、トウカ、カルラなどといった例外を除いた参加者の排除。
3:ハクオロ、アルルゥと一度合流。(殺し合いに進んで参加していることは黙秘)
※四葉を殺した事を未だ後悔しています


481そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:26:11 ID:LlpVdYzs
【F-4 住宅街外れ/1日目 早朝】


【大石蔵人@ひぐらしのなく頃に】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:右肘から先を損失。疲労大】
【思考・行動】
基本:不明
1:治療のため病院へ。(厳しいなら商店街の薬局へ)
2:1の後、別の場所に行く。
3:赤坂衛、前原圭一と合流。
【備考】
※綿流し編終了後からの参加です。
※ハクオロを敵視。観鈴がどういう立ち位置かは考えていない


【E-4 校門の外/1日目 早朝】

【双葉恋太郎@フタコイ】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、昆虫図鑑、参加者の術、魔法一覧、.357マグナム弾(40発)、四葉のデイパック】
【状態:両目とも失明。額に傷。肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・ハクオロと観鈴を追う
2・沙羅と双樹、四葉の姉妹達、ことみの知り合いや亜沙の知り合いを探し出してみんなで悪の秘密結社(主催)を倒す
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています
※『参加者の術、魔法一覧』の内容は読んでいません
482そこには、誰もいない(改定) ◆Qz0e4gvs0s :2007/06/05(火) 09:27:22 ID:LlpVdYzs

【一ノ瀬ことみ@CLANNAD】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:レインボーパン@CLANNAD、謎ジャム@Kanon】
【状態:精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎と共にハクオロと観鈴を追う
2・恋太郎達と行動を共にする
3・朋也たちが心配
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています


【時雨亜沙@SHUFFLE!】
【装備:イングラムM10(9ミリパラベラム弾17/32)】
【所持品:支給品一式、イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×8、他ランダムアイテム不明】
【状態:肉体疲労・精神疲労】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1・恋太郎やことみと共にハクオロと観鈴を追う
2・稟、ネリネ、楓と合流
3・同志を集めてタカノたちを倒す
【備考】
※恋太郎たちは危険ではないと判断しました。
※ハクオロが四葉を殺害したと思っています


※四葉の遺体は【E-4】学校の校門前で埋葬されました。三つの花が手向けられています
483少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:49:06 ID:p5Ifwf4U
「兄くん……君は今何処で何をしているんだい……。私達は……いったいどうすればいいんだろうね」

そんな自嘲気味な呟きは普段の千影からは考えられないものだ。
千影は純粋に不安だった。
時刻はもうすぐ六時。
そう、一日に四度行われるという定期放送の時間が近いのだ。
これまで自分は特別、敵意を持った人間と遭遇することは一度も無かった。
出会ったのは名雪という少女一人だけ。
彼女が眠っていた電車に辿り着くまで、相当な距離を歩いてきたが、それまで誰とも出くわさなかった。
だがそんな幸福の方程式が誰にでも当てはまるとは思えない。
姉である咲耶はともかくとして、妹の衛と四葉は戦う力を一切持たない非力な少女に過ぎないのだ。
二人ともに、こんな過酷な舞台に無理やり上げられ、そして戦うことを強制されている。
しかも、こんな首輪まで付けられて。

この首輪に関しても分からないことだらけだ。
外見は明らかに金属。だが、鉄や鋼と言った普遍的な材料で作られているようには思えないのも気掛かりだ。
それに完全な機械、というわけでも無いように思える。
僅かだが魔術の波動が漏れている……ような気もする。
実際はまだ良く分からない、というのが本音である。
自分以外に魔力を持つ人物がこの島にいるのならば何か分かるのかもしれないのだが。

だが動力や構造がどうであれ、爆弾を首元にぶら下げていることに変わりは無い。
姉妹も同じような目にあっていることを思うと、胸がチリチリと痛い。
どうして自分達がこんな状況にいるのか、まるで意味が分からない。
484少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:49:48 ID:p5Ifwf4U

十二人姉妹に一人の兄。それが私達の正しい形。
確かに兄は大好きだ。いや、愛していると言ってもいい。
独り占めしたいと思ったことも何度もある。
それでも。
妹の笑顔を見る度に、
十三人で一緒に暮らす日々が積み重なる度に、
その度いつまでもこんな関係が続けばいいと思う自分が、そこにはいた。

「私が……守るよ。兄くんとそして、私達姉妹の領域を……」

また彼女にはある種の、確信めいた予感があった。
それは、この島のどこかにいるであろう咲耶もまた、自分と同じことを思っているに違いない、というものだ。
妹を守るのは年長者である自分達の役目。離れていもその想いは変わらない、はず。
これだけは分かる。

その時、声が聞こえた。

「……こっち」
「あ、ありがとう舞。そうだね、地図によると……もうすぐ線路が……」

「!?」

若い女の話し声だ。
遠くはない、近い。それもかなり。
方向は段々畑の横、丁度通行用に設けられた木製の階段の奥だ。丁度積み重なった土手が壁になってどんな人物が話しているかまでは分からない。
相手はおそらく二人組、一方でこちらは一人だ。
現在の局面、まさに蟲毒のような現状、それらから察するに、十二分に警戒する必要がある。だが。
そんな危機感に満ちた想像が全くの杞憂であることは千影には十分過ぎるほど分かっていた。
485少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:50:34 ID:p5Ifwf4U
「噂をすれば何とやら……か。フフ……そういえば占いをする暇も無かった……な」

積み重なった土の隆起の山、その向こうから聞こえてきたのは毎日のように顔を合わせていた姉妹の声。
千影は走った。
山道を移動するには不向きなブーツとロングスカートがこの時ばかりは酷く邪魔だ。
息が乱れる。
たかが数十メートルの距離なのに。
普段から部屋に閉じこもってばかりだったからだろうか。少しだけ後悔した。
土肌が半分露出した芝生、何も生えていない畑。
それらを脇目に捉えながらも、その眼光は鋭く、薄紫色の瞳はただ前だけを見ていた。
彼女に限って心配は無い。
とはいえ、やはり自分と歳も近く、正反対の性格ながら誰よりも付き合いの深い彼女には特別なものを感じる。

「咲耶!!」

早朝。
朝日が昇り、気温も僅かに上昇し始めた。
それでも流れる空気はまだ冷たく、そして音波は良く、響く。

この瞬間、二つの音がこの空間を支配した。
一つは人の声。大切な、本当に大切な姉妹を見つけた喜びに満ちた声。
一つは無機質な空気の振動。火薬が爆発する音。鼓膜を震わす凶悪な振動波。
それは拳銃の発射音。

甲高い二つの音に遅れて、何か重い物体が地面に倒れる音が木霊した。
ゴトン。
それは、どこか鈍い、線路を踏み鳴らす電車のような音。
486少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:51:15 ID:p5Ifwf4U





血に濡れたデイパックの奥、咲耶は先程自分が撃ち殺したカルラの所持品を物色していた。
しかし。
無駄に重い酒瓶やウサギを模したものだと思われる帽子。
羽根がくっ付いた悪趣味なリュックサック。
ガラスの大瓶に入った船の模型。
某大手FCショップのマスコット人形。
ボロボロになった灰色の猫のぬいぐるみなど、
場末のフリーマーケットかリサイクルショップの商品棚でしか見ないようなガラクタばかりだった。

咲耶は頭を抱えたい気分になった。
確かにこのデイパックは量も体積も自由自在である。何を中に入れようが自分への負担は一切無い。
とはいえ自分は、既に他の誰かと争いその結果疲弊していた相手を仕留めたのだ。
いわゆる漁夫の利の形になるわけだが、ソレにしては収穫が少な過ぎではないだろうか。
女の荷物には、少なく見積もっても三人分の食料と水が入っていた。
つまり二人。既に二人、他の参加者を仕留めている可能性が高い。
それなのにマトモな支給品は日本刀一本だけ。それ以外はまるで役に立ちそうな気配が無い。コレではあまりに報われない。

「酷すぎるわ、ホント。この女、よくぞここまでハズレを引きまくったって感じ。……ん。コレ……もしかして……」
487少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:51:56 ID:p5Ifwf4U

しかし、その中でただ一つ咲耶の目に止まる道具があった。
タロットカード。
とはいえ彼女にはこのカードを使って占いをしたり、浮遊させて武器に使うなどといった芸当は、勿論不可能だ。
それは彼女の妹の一人、……いや妹という枠組みを越え半ば親友とも言える、千影の得意分野だ。

「千影……あの子、今頃何処で何やっているのかしら」

千影。
姉妹の中で自分と一番年齢の近い妹。
いつも訳の分からない魔術の実験をしては、お兄様を危険な目に合わせる所謂トラブルメーカー的存在。
何を考えているのかも分からないし、協調性だって皆無。
それでも、雛子や亞里亞のような年少の妹の面倒見は良くて、何だかんだ言って何かにつけ影から姉妹を支えてくれる大黒柱的存在。

「……まあいいか。千影ならどこかで上手いことやってるはず。気の緩みや迷いもあの子に限ってありえないし」

それよりも他の妹、四葉と衛の方が気掛かりだ。
二人はいったいどのような状況に置かれているのだろうか。
本当に、心の底から信用出来る庇護者が傍にいてくれるのが一番いいのだが、そうそう幸運な巡り合わせばかりでも無いだろう。
既に危険な人物から命を狙われている可能性も十分に考えられる。

(だから、私が……やらなきゃ。
 妹に危害を加える者は誰であろうと許さない。
 そのためならどんな汚いことだってやってやる。
 それに……既に自分は人を一人殺しているのだから。
 もう、後には引けない))
488少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:52:46 ID:p5Ifwf4U
流れは上々なのだ。武器として大口径のマグナム、それに日本刀。
遠近共にこなせるバランスの良い組み合わせと言える。
ガラクタとしかいえない道具の数々は……持っていても明らかに邪魔なものくらいは捨てていこう。
とりあえずこの大瓶に入った船と羽根が付いたリュックサックは必要無い。
それと、この髭の生えた老人の人形も。
他はひとまずデイパックの中に突っ込んでおく。

「とりあえず……戦力の強化は欠かさずやっていかなくちゃ。倉庫。うん、次の目的地はここにしよう」


【G-81日目 早朝】

【咲耶@Sister Princess】
【装備:S&W M627PCカスタム(8/8)地獄蝶々@つよきす】
【所持品:支給品一式 食料・水x4 可憐のロケット@Sister Princess タロットカード@Sister Princess 
 S&W M627PCカスタムの予備弾61 肉まん×5@Kanon 虎玉@shuffle ナポリタンの帽子@永遠のアセリア 日本酒x3】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:四葉、衛、千影を探し守る。
2:姉妹を傷つける可能性をわずかでも持つ者を殺す
3:脱出を具体的に計画している人物は放置。
4:脱出の具体的計画がなくとも、100%姉妹を傷つけない確証が得られた場合は殺さない。
5:3の際に脱出が現実味を大きく帯びた場合のみ積極的に協力する。
6:倉庫へ向かい、使えそうな道具を探す

基本行動方針
自分と姉妹達が死なないように行動する

※カルラの死体の近くに、羽リュック@Kanon、ボトルシップ@つよきす、ケンタ君人形@ひぐらしのなく頃に 祭、が放置されています。

489少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:53:28 ID:p5Ifwf4U

「あの、す、すみません!!ほら、舞も謝って!!
「……ごめんなさい」
「……いや……いい。声があまりにも似ていたものだから……。驚かせてしまったな……でも本当に、本当に良く似ているんだ」

千影はことりに微笑を浮かべながら、噛み締めるように呟く。
そして二人の足元に落ちている、銀色の拳銃を一瞥。
銃口が自分に向いていなくて本当に良かったと思う。
いくら何でも飛んで来た銃弾を叩き落したり、回避したりすることは不可能だ。
もしも支給された儀礼刀の力を引き出すことが出来れば、それ以外の可能性も模索できるかもしれないが。

不思議な構図だ。違う高校の制服を着た二人の女性から一方的に謝られている。
自分は彼女達が階段を降りようとした所、いきなり目の前に飛び出してしまったらしい。
しかも二人にとっては全く見知らぬ単語を発しながら、だ。
結果、驚いた舞と呼ばれた少女が思わず右手に持っていた拳銃を発砲。
所謂、威嚇射撃という奴だ。
発射された弾丸は遥か上空、虚空の彼方へ消えたから良かったものの、その銃口が自分の方へ向けられていたら、と思うとゾッとする。
その後、彼女が弾丸を発射した衝撃で銃を取り落とした。
銃を撃つ反動とは想像以上のものらしい。
妹達が見ていた刑事もののドラマでも、片手で銃を発砲していたものは誰一人としていなかったことを、今更ながら思い出した。

「……?どうした、ええと舞くん?」
「……あなたは……美坂、香里?」
「……君も私を……香里と呼ぶのかい」

意外と声が似ている人間が多いことに驚いた。
咲耶とこの白河ことりという少女もまた、非常に似た声をしている。
そして自分の声も美坂香里という少女に似ているらしい。
まさか、この島には似たような声帯を持ったものが集められているのだろうか。
声だけでは個人を判断できないケースがこの先もあるかもしれない。
490少女連鎖 ◆tu4bghlMIw :2007/06/07(木) 21:54:21 ID:p5Ifwf4U



「え、それじゃあ千影さんは舞と同じ制服を着た女の子に会ったんですか!!」
「……千影、でいい。私は……まだ中学生だ。呼び捨てで、構わない」
「ちゅ、中学生ですか!?……とても、そうは見えません……」
「……よく言われるよ。ああ、舞くんと……同じ制服を着ていた女の子には確かに会ったよ。
 名前は水瀬名雪、聞き覚えはあるかい」
「……ある。よく祐一と、一緒にいた」
「そう、その祐一だ。
 ……名雪くんも彼を探していた」

何とも皮肉な話だ。
どうも水瀬名雪と川澄舞は同じ学校ではあるものの、直接的な交流自体は無いらしい。
更に言えば舞の方は名雪を知っているが、逆は成立しない。
二人を取り持つのは『相沢祐一』という存在のみ。
相沢祐一。いったいどのような男なのだろうか。少し興味が湧く。

「……佐祐理は?佐祐理には会った?」
「……佐祐理?」

これは初めて聞く名前だ。
かの『相沢祐一』を中心とした関係が作られており、その枝葉である彼女達はお互いのことを詳しくは知らないのかもしれない。

「あ、はい。ええと、佐祐理さんと言うのは舞の一番の親友らしいです」

どうも舞とは上手く話が繋がらない。
こう……何というか微妙にタイプが似ているからだろうか。
姉妹の中で、自分はポイントを抑えた箇所で会話をする機会が多かった。
自分が無口であるとは決して思わないが、勿論饒舌であるとは言い難い。だから、ことりがフォローに入ってくれたのは幸いだった。
491少女連鎖 ◆tu4bghlMIw
「……残念ながら出会っていない。私が今までに知り合った人間は、水瀬名雪ただ一人だ」
「……そう」
「逆に咲耶、衛、四葉という人物に会わなかったかい?彼女達は私の……大切な姉妹なんだ」

元々あまり期待はしていない。
なぜならおそらく、妹達も自分を探しているはずだからだ。
もしも出会っていれば、名乗った時になんらかの反応を示しただろう。
案の定、舞とことりは顔を見合わせ、すまなさそうに小さく首を横に振った。

「……気にすることは無い。そう簡単に見つかるとは……思っていない。
 そうだ、舞くん良い物がある。
 ……コレばかりは私が持っていてもまるで……役に立たない」
「……弾?」
「多分……それで合っているはずだ。
 私の支給品が……この島にある全ての銃火器の予備弾セットなんだ。
 ……気をつけたまえ。おそらく大多数の参加者に銃器が支給されている」

デイパックの中から舞が持っていた銃―ニューナンブM60―のものと思われる予備弾を取り出して彼女に手渡す。
予備弾などは、対応した銃本体が無ければまるで意味の無い支給品だ。
むしろ銃弾よりも予備弾に付属していた、他の参加者に支給されているらしい銃器全ての写真付きリストの方がよっぽど役に立つ。
航空母艦などに搭載されているような大型の機関銃から、
ロケットランチャーのような巨大な砲身の銃器など、とんでもない武器の数々がこの島には持ち込まれている。

「……ありがとう、千影。私も……コレ、あげる」
「……バナナ?フフ、ありがとう舞くん。有り難く受け取っておくよ」

結果的にバナナと銃弾をトレードしたことになる。
現実の世界ではおそらく、100%有り得ない非日常の出来事だ。
だが舞から渡されたバナナからは、どこか懐かしい日常の匂いがする気がした。